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【ガルパン】マタニティ・ウォー!【その1】

1:KASA 2016/09/07(水) 20:45:59.46ID:Nh7XoKz0O

みほ(生徒会室に呼び出しかぁ。『絶対に一人で来るように』って、いったい何だろう? まさかまた廃校とかじゃないよね……)


コンコン


みほ「あの、西住みほです。呼び出し放送を聞いて、来ました」

桃『ん、西住か。入ってくれ』

みほ「はい、失礼します」


キィィィィィ


杏「や、西住ちゃん」

柚子「ごめんね。お昼休み中に突然呼び出して」

みほ「いえ、えっとそれで、何でしょう? 戦車道のお話しですか?」

杏「まぁ、とりあえず、西住ちゃんもソファーに座ってよ」

柚子「冷たいお茶を用意するね」

みほ「あ、はい。ありがとうございます」

みほ(……なんだろ、お話し、長くなる感じなのかな)

杏「おーい、かーしま、例のFAX、持ってきてー」

桃「は」

みほ「FAXって、なんのFAXですか?」

杏「それがねぇ、なんと北米の戦車道連盟から」

みほ「北米って、アメリカの戦車道連盟ですか?」

杏「そ。まぁ厳密には、日本の戦車道連盟がまず受け取って、それを要約してうちの学校にも転送してくれたってわけ。……うちの学校だけじゃなくて、今ごろはすべての学校に、ね」

みほ「えと、いったい、どういうお話なんですか?」

杏「これがねぇ、ホント、冗談みたいな内容なんだよねぇ~」



2:KASA 2016/09/07(水) 20:46:32.32ID:Nh7XoKz0O

みほ「はぁ、そうなんですか」

杏「でもFAXが届くと同時に連盟から電話もかかってきてね。もう理事長のうろたえっぷりったら! 笑っちゃったよ」

みほ「はぁ」

杏「ま、おかげで、本当のことなんだなって認めるしかなくなっちゃったんだけどね。……ほんと、今でも冗談みたい」

みほ「……?」

桃「会長、お待たせしました。こちらです」

杏「うい、あんがと。ま、西住ちゃんも読んでもらえばわかると思うよ」

みほ「はぁ」

杏「……ただし」

みほ「はい?」

杏「今これから知ることは、まだ他の誰にも話さないでほしい」

みほ「え……」

杏「かーしま、このFAX最初にうちに来たのはいつだったっけ」

桃「四日前、ですね」

杏「そっか、四日も前か。西住ちゃん。私、皆にどう話したらいいのかって、すっごく悩んだ」

みほ「会長が」

杏「だけど、とにかくまずは西住ちゃんにって。そう思って、今日は西住ちゃんに来てもらったの」

みほ「は、はぁ」

杏「これを読んだら、西住ちゃんもすっごくショックを受けると思う。だから、覚悟をして読んでほしい。……ごめんね、脅かすような感じで」

柚子「西住さん。冷たい、お茶、持ってきたよ。……ここ、おいておくね」

みほ「あ、はい、ありがとうございます」

みほ(……皆の顔、なんだかすごくこわばってる感じがする……いったいなんなの? 会長の持ってるFAXに、いったい何が書いてあるの?)

杏「じゃあ、西住ちゃん、このFAXを渡すね」

みほ「あ、はい」

杏「時間をかけて、ゆっくり読んでくれたらいいからね。授業時間のことも気にしなくていい。私たちのことも、気にしなくていいから」

柚子「気がすむまで、読んでね」

桃「私たちも、お前が落ち着くまで黙っているから」

みほ「は、はい……」

みほ(うう、なんだか、どきどきしてきちゃった)

みほ(えっと、『戦車道関係者各位』、『緊急通達』……)

みほ「……え……?」

みほ「……『戦車道履修者における無性生殖的妊娠の可能性について指摘。および調査経過報告』……」

みほ(……な、なにこれ……!?)

桃「……」

柚子「……」

杏「……ほんと、これが冗談じゃないっていうのが、何よりの冗談だよ……」



3:KASA 2016/09/07(水) 20:47:03.61ID:Nh7XoKz0O

みほ(……戦車道を行っている10代の女子が、突然妊娠。その、エッチなこともしていないのに……つわり、あるいは生理不順をきっかけに状態を自覚……)

みほ(……当初は単独の異常事例だと思われていたものが、実は各州で発生……判明後すみやかに事象情報を収集、統計化、対応機関を設置……)

みほ(……当該少女の隔離。入院。遺伝子検査……受精卵から、ど、同性のチームメイトの遺伝子!? ……未妊婦戦車道履修者についても現時点で全員を隔離……)

みほ(……その後すみやかに各国へ情報共有。該当女子への速やかな注意喚起、心のケア、戦車道の一時廃止……連盟による産後社会保障の検討あるいは……早期堕胎の処置について!?)

みほ(なにこれ、なにこれ、なにこれ!? 現実!? 私も妊娠するかもしれない? なによそれ!)



<キーンコーンカーンコーン



みほ(あ……午後の授業が……)

みほ(授業……そうだよ、私はただの高校生なのに……妊娠って……何それ。妊娠したらどうするの? どうしたらいいの? いやそもそもありえないよ……頭がクラクラする……)

柚子「西住さん、大丈夫? ……大丈夫じゃないよね……。冷たいもの、飲むといいよ」

みほ「……あ、はい……」


……ゴクゴク……

コト……カタンッ

みほ「あう、すいませんコップが、倒れて……手が震えちゃって」

桃「いい。気にするな」

杏「誰だってそうなるよ」

柚子「桃ちゃんなんか、顔中真っ青になってたもんね」

桃「うるさい! と、叫ぶ気力もでない。この件に関してはな」

柚子「まぁ、そうだよね……」

みほ(……この人達は、何で当たり前のように受け入れて、話をしているの……?)

みほ「ま、待ってください! おかしいじゃないですかこんなの!!」

杏「だよねぇ」

みほ「だ、だよねえじゃないです! な、なにもしていないのに妊娠だなんて! しかも友達の遺伝子って、友達の子供ってことですか!?」

桃「……」

みほ「ありえません! ありえませんよ! 何もかもがありえませんよ! だってそうでしょう!? 何がどうしたらそうなるんですか!?」

柚子「西住さん……」



4:KASA 2016/09/07(水) 20:48:24.70ID:Nh7XoKz0O

杏「まぁ西住ちゃんの言う通りだよ。何もかもが、あまりにも非科学的だよねぇ。実際アメリカの方でも、いまだ完全には意見が統一されてないんだってさ」

みほ「じゃあやっぱり……何かの間違いなんじゃないんですか」

杏「普通に考えたらそうだよね。でもね、認めるしかないんだよ、目の前につきつけられた現実をね。それから目を背けちゃったら、それこそ非科学的なんじゃないかな」

桃「米国は宇宙人による誘拐の可能性も真剣に検討しているそうです。まぁ、事象があまりにぶっ飛んでいるのだから、推論も突飛にならざるを得ないのかもしれませんが」

みほ「う、うちゅーじん」

みほ(だめ、もう、頭がついていかない……お姉ちゃん……お母さん……あ!?)

みほ「あ、あの! 私のお母さんは!? これが本当の事なら、お母さんは戦車道の家元だから当然この事を知っていますよね!?」

杏「もちろん。っていうか……伝言を預かってるんだ。4日前、西住ちゃんのお母さんともしゃべったよ」

みほ「伝言……!?」

杏「この事を知ったら、とりあえず家に電話をしてほしいって」

みほ「電話、ですか」

杏「本音を言えば、今すぐ家に帰ってきてほしい、って感じだったけどね」

みほ「え……」

柚子「きっと、心配してるんだよ。こんな異常事態なんだもん」

みほ「お母さんが私のことを」

みほ(ああ……ってことは、これって、本当に本当のことなんだ……あはは、お母さんが心配してくれて嬉しいって思うよりも、そよりも、なんか、……ぼーぜんとしちゃう……)

桃「まぁこんな事になってしまったんだ。西住も、親元に帰りたいと思う気持があるだろう。だけどその前に一つ、私達に力を貸してほしい」

みほ「え?」

杏「私達はこれから少しづつ、戦車道を履修している皆に自体の告知を行おうと思う」

みほ「会長が、ですか。……だけど、こういう事でしたら、連盟の方達に説明してもらったほうがいいんじゃないでしょうか……」

柚子「うん。実際にそうしている学校もあるみたい。だけどうちは……」

杏「私の口から、皆に伝えたいんだ。私はこれを、人任せにしたくない。皆私の大事な、チームメイトなんだ」

桃「それに、そういったトップダウン的なやり方は、我が生徒会の前々からのやり方だ。それを踏襲すれば、わずかにでも皆の動揺を抑えられるかもしれない」

柚子「一番心配なのは、一年生の子達だよね」

桃「その通り。私達だってまだ動揺してるんだ。15歳の女の子が、簡単にこんなめちゃくちゃな現実を受け止められるはずがない」

杏「そこでだ、あんこうチームにはうさぎさんチームの動揺を受け止めてあげてほしい。だからまずは西住ちゃんからあんこうチームの皆に、こっそり伝えてほしいんだ」

みほ「私の口から、皆に……」

杏「無理っぽいなら、後日私の口から伝えるよ。だけど西住ちゃんにはその時までには心を落ち着けて、皆の動揺を助けてあげてほしい」

桃「パニックを防ぐためには、段階を踏んで情報を公表していくべきだと思う。情報統制を厳として、な」

みほ「……そう、ですね……そうかもしれません……」

みほ(三人とも、なんて立派なんだろう……)

みほ「……正直今でも頭が混乱してます。だけど……生徒会の皆さんがしっかりしてるところを見ると、ちょっぴり安心するっていうか、私もしっかりしなきゃって……思えます」

杏「ま、上がアタフタしてたら、まとまるものもまとまらないからね。私達だって、本当は強がってるだけなんだけどね、にひひ」

桃「強がってみせるのも、上の者の役目ですから」

柚子「ふふ、桃ちゃんがいうと、なんだか可笑しいね」

桃「うるさいっ」

みほ「そうですよね、私も隊長なんだから、しっかりしなきゃ。そ、それに、戦車道をやっているから必ず妊娠するって、決まったわけじゃないんですよね!」

桃「ん……まぁ、な」

柚子「そう、なんだけどね……」

杏「……」



5:KASA 2016/09/07(水) 20:49:32.09ID:Nh7XoKz0O

みほ「……?」

杏「……西住ちゃんには、言っておこうかな」

桃「えっ」

柚子「か、会長」

杏「……私はね……もう、妊娠してるみたいなだよ」

みほ「え!?」

桃「……この数日の間に、私達3人は学園艦内で検査を受けたんだ。データベースへ遺伝子情報の登録も、行った」

柚子「そしたら会長は、もう、すでに……」

みほ「そ、そんな……」

杏「まいっちゃうよねぇ……こーんなチンチクリンなのに、お母さんになっちゃうんだって、あはは」

みほ「ど、どうして笑っていられるんですか!? これからどうするつもりなですか!? ほ、本当に妊娠してるだなんて……!」

杏「……まだ、私にもわからないよ。この先どうしていいのかだなんて。だからそう声を荒げないでほしいなぁ」

みほ「……あ、すみません……」

杏「私だってわかんない。わかんないよ。でもね……この小さな私のおなかの中に、どうやら私の子供がいるらしい。それだけは現実らしいんだ。だから、それだけは、認めなくちゃいけない……」

みほ「……会長……」



6:KASA 2016/09/07(水) 20:50:04.41ID:Nh7XoKz0O

杏「私だって、今自分の身に何が起きているのかさっぱりわからないし、怖いよ。だけど……私は負けない」

柚子「西住さん。私たちも一緒に、会長と、戦うって決めたの、この目の前の現実と」

みほ「副会長……」

桃「お前にも、一緒に立ち向かってほしいと思う。……お前だけじゃない。戦車道チーム全員でだ!」

みほ「……!」

杏「ま、今すぐに元気を出してくれとは言わないよ。だけど、西住ちゃんなら絶対に私達の力になってくれるって、信じてる」

みほ「……はい。まだ、何が何だかさっぱりわかりません。だけど、私も、この学校と、みなさんと、チームの皆が大好きですから……」

杏「んっ! ……まぁ、今日は午後の授業なんていーからさ。生徒会室でゆっくりしてな。落ち着くまでね」

柚子「お茶、もう一杯いれるね」

桃「会長。会長も少し休んでください。おなかに子供がいるですから……」

杏「まだゴマ粒ほどの大きさもないはずだけどねぇ~。……へへ、ねぇ西住ちゃん。この子のパパがだれか、教えてあげよっか?」

みほ「パ、パパ!?」

杏「へへへー、実はね、この目の前にいる河嶋が、この子のパパなんだってさ!」

みほ「え、えええええええーーー!!!???」

桃「言わないでくださいよぅ……」

杏「遺伝子検査で分かったんだ。言っとくけど、私は河嶋とちゅーだってしてないからな?……ホント、不思議だよね。いったい私のおなかで、何が起こってるんだろう……」

みほ「もう、本当に、わけがわかりません……」

杏「だよねぇ、あはは」

桃「……会長!」

杏「んぁ?」

桃「会長と、会長のおなかの子供は、私が命を懸けて守りますから! 絶対に私が守りますから!」

杏「あはは、ありがとね~。んじゃそこのほしイモとって」

桃「はいっ!」

みほ(……この人達はどうして笑っていられるんだろう? もう笑うしかないのかなぁ?……ああ、もうだめだぁ、少し考えるのをやめよう。頭がどうにかなっちゃうよ……)



14:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/08(木) 20:08:40.55ID:AHqpspPBO

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

みほ(……ん……あ、私、寝ちゃってたんだ)

みほ(今何時だろう? ……まだ30分しかたってないんだ。もっとずっと寝てたような気がするのに)

みほ「ふぁぁ」

みほ(……あ、生徒会長と桃さんも、お休みしてる……)

みほ(ソファーで一緒に。桃さんが生徒会長を膝枕して、なんだか恋人同士みたい)

みほ(ううん、もう恋人どころじゃ、ないんだよね。生徒会長のおなかの中に、桃さんの子供が。でも、そんなことって……やっぱりとても信じられないよ……)

柚子「あ、西住さん、もう起きちゃったの?」

みほ「副会長。すみません、私いつの間にか眠ってしまって」

柚子「気にしないで。もっとゆっくり、寝ててもいいからね」

みほ「ありがとうございます。だけど、次の休み時間には教室に戻ります。皆、心配してると思うし」

柚子「西住さんは、大丈夫?」

みほ「えと、どうでしょう。あはは、自分でもよくわかりません……」

柚子「そうだよね……」

桃&杏「スー……スー……」

みほ「あのう、会長は本当に、本当に、妊娠しているんですか? 桃さんの子供を」

柚子「うん。お医者様は、間違いないって」

みほ「……なんだか、全部夢なんじゃないかって……そんな気がしてるんです」

柚子「私も、これって本当に現実なのかなって、時々ほっぺたをつねっちゃう」

みほ「ですよね……」



15:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/08(木) 20:10:02.62ID:AHqpspPBO

柚子「会長、気丈に振る舞ってはいるけれど、本当は、昨日も、一昨日も、あんまり眠れてないみたいなの」

みほ「……そうなんですか……」

柚子「会長を一人にはしておけないからって、桃ちゃんが一緒に添い寝してくれてるんだけど……会長、夜中に何度も目が覚めて……不安で体が震えてるって……」

みほ「……」

柚子「そのたびに桃ちゃん、会長をぎゅっと抱きしめてあげて……そうすると少しの間は落ち着くみたいだけど……でも、朝になるまで、それが何度も何度も……」

みほ「……みんな、どうなっちゃうんでしょう……」

柚子「そうだね。本当に、どうなっちゃうんだろうね……」

杏「……こ~ら、小山」

柚子「あっ、会長」

杏「ふぁぁ……あんまり西住ちゃんを不安にさせちゃだめだよ。それでなくても私達は西住ちゃんに頼りっきりなんだから。こんな時くらい、私達はもっと強がってなきゃ」

柚子「あ、そ、そうだよね、ごめんね、西住さん」

みほ「いえ、そんな。やっぱり皆さんも不安なんだなって、変な言い方だけど、それはそれでなんだか安心しちゃいました」

柚子「……西住さんってやっぱりすごい、ふふ」

みほ「そ、そうですか?」

杏「……ねぇ西住ちゃん、これからいったい何が起こるのか、今はまだ、世界中の誰にもわからないんだと思う」

みほ「……」

杏「だけど、私には小山も河嶋もいる。大洗の皆もいる。私は一人じゃない。だから、絶対につぶれないよ、私は」

みほ「会長……」

杏「にひひ、できれば西住ちゃんにも一緒にいてほしいけど、だけど、西住ちゃんは西住ちゃんで、自分の事を第一に考えなきゃ」

柚子「お母さまも、きっと、大変だと思うの」

みほ「え? お母さんが、ですか?」

杏「連盟は最前線で対応にあたる責務を負うだろうし、戦車道そのものだって、この先どうなるか。その家元が、何事もなくいられるかな」

みほ「たしかに、そうですね……」

杏「極端な話、『女子が戦車道をすると全員が無条件に妊娠します。だけど原因はわかりません』なんて結論になったら、もうホント、何がどうなるやら。それでなくても、戦車道を疑問視する団体は常々いるのに」

みほ「……戦車道、なくなっちゃうんでしょうか……世界中の戦車道が……」

柚子「会長……もうそれくらいで」

杏「へ? あ、あああ! 西住ちゃんごめん! 西住ちゃんを不安にさせちゃあダメだって、自分で言ったばっかりなのにねぇ……いやぁ、これがマタニティブルーってやつかな? どうもここ数日は、だめだなぁ、あははは……」

みほ「い、いえ、仕方ないですよ」

杏「とにかく、本当に、西住ちゃんは自分の事をまず第一に考えてよね」

柚子「そうだよ。会長の言う通り」

みほ「は、はぁ」



16:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/08(木) 20:11:03.39ID:AHqpspPBO

杏「それに私ね、お腹の子のパパが河嶋でよかったって、そう思ってるんだよ」

みほ「え……?」

杏「河嶋ってば、自分も遺伝的にはこの子の『親』なんだって知って以来、『絶対に二人を守る』って、もーホントうるさくってさぁ……馬鹿だよねぇ……だけどほんとは、それがすっごく嬉しくて……河嶋が側にいてくれなかったら、今頃私……なんちゃってね、にひひ」

柚子「会長! 私だって、会長と桃ちゃんの赤ちゃんなんだもん、絶対守ってあげなきゃって、思ってますから!」

杏「えへへ、あんがと。ほんとに……別の手段だって、無くはないのにね……」

柚子「……っ」

みほ(別の手段って……あっ……『堕胎』……)

杏「ま、とにかく、そーいうわけで私は一人じゃないっ、だから大丈夫! それと、私が今言ったことは、河嶋には秘密だぞっ」

柚子「ちゃんと伝えてあげれば、桃ちゃん、すごく喜ぶと思いますけど……」

杏「だーめ。だってこれ以上くっつかれたら、鬱陶しいんだもん」

柚子「もう、いまさら強がっったって、しかたないじゃないですか」

杏「と・に・か・く、かーしまには言っちゃ駄目だからね~」

みほ「あ、あはは……」

みほ(……そっか、分かった……皆、一人じゃないから、こうやって笑っていられるんだ……自分を支えてくれる人がいるから……)

みほ(……)

みほ(優花里さん、沙織さん、華さん、麻子さん)

みほ「……」

みほ(お姉ちゃんも、もう、知ってるのかな……他の学園の皆も……)

みほ(……お母さん……)



<キーンコーンカーンコーン



みほ「あ」

柚子「休み時間だね……どうする? 別に、いそいで教室に戻ることはないと思うけど……」

みほ「……いえ、戻ります。もどって、放課後になったら、皆に」

杏「無理は、しなくていいからね。西住ちゃんが言えなければ、私が言えばいいんだし」

みほ「はい。も、もしかしたら、お願いするかもしれませんけど……でも、皆、仲間ですから。だから私が、いわなきゃ」

みほ(……皆、どんな顔をするだろう……やっぱりビックリするよね……)



17:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/08(木) 20:11:50.89ID:AHqpspPBO

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

みほ(あぁ、そろそろ教室についちゃう、皆に何て言おう。何もしていないのに妊娠するかもしれないだなんて、信じてくれるかなぁ……)

沙織「あ-! みぽりん帰ってきた!!」

みほ「あ……み、皆……」

麻子「やっと戻ってきたか」

華「みほさん、あれからずっと生徒会室にいたのですか?」

優花里「あんまりにも遅いから、これから皆で生徒会室に突撃しようかって相談をしていたんですよ!」

みほ「あぅ、ごめんね、心配かけて」

沙織「先生に聞いても、みぽりんは生徒会室で用事がある、としか答えてくれないし」

みほ「え……」

みほ(もしかして……先生達にはもう、話は伝わっているのかな)

沙織「私みぽりんの事が心配で心配で……ちっとも授業に集中できなかったんだから!」

麻子「それはいつもの事じゃないのか」

沙織「麻子ひどい!」

みほ「……あはは」

みほ(あぁ、皆といると、こんな時でもやっぱり気持が落ち着く……)

華「それにしてもみほさん。本当にいったい、何のお話しだったのです?」

優花里「ま、まさかまた大洗が廃校に!?」

みほ「あはは、やっぱりそれ、考えちゃうよね……でも、違うの」

麻子「じゃあ、なんなんだ」

みほ「えっと、それは、えっと」

麻子「?」

みほ「うぅ……ちょっとややこしい話で、まだ、私の中でもうまく言葉がまとまってなくて……ほ、放課後! 放課後にゆっくり、皆にお話しするから! それまで待って! お願い!」

沙織「え、えぇ~、じらさないでよー……なんだかすっごく不安になるんだけど……」

華「みほさんがそういうのなら、仕方ありませんが……」

優花里「あの、西住殿、大丈夫ですか? なんだかすっごく顔が強張ってますが」

麻子「言い辛い事なら、なおのことさっさと話してしまったほうが、楽になれる」

みほ「うぅ……」



18:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/08(木) 20:12:32.63ID:AHqpspPBO

<キーンコーンカーンコーン


優花里「あ……じゃあ私は教室に戻りますけど……西住殿、ほんとに大丈夫ですか?」

みほ「う、うん。じゃあ、放課後にね?」

優花里「むぅ、わかりました」


<タッタッタッタ……


沙織「ねぇみぽりん、なんだか汗かいてる」

麻子「脂汗じゃないのか、これ」

華「みほさん……」

みほ「皆、ほんとにごめんね、私は、大丈夫だから……」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



みほ(……授業内容、全然頭に入らないや……)

みほ(……。)

みほ(普通に学校に登校して、普通に授業を受けて……当たり前の生活を送ってるのに……)

みほ(なんでこんな事になったんだろう。会長、大丈夫かな……)

みほ(……私も、妊娠しちゃうのかな……)

……ゾクッ……

みほ(妊娠したら、どうしよう)

みほ(産むのかな。産まなきゃいけないのかな。だって、赤ちゃんを殺すだなんて、できないよ……だけどどうしたらいいの!? わからない、わからないよ)

みほ(何もわからないのに……もし、本当妊娠したら……『どうしたらいいの?』なんてもう言ってられないんだ……)

……ゾゾゾゾゾッ……

みほ(そんなのって無いよ! 赤ちゃんを抱えて、私、どうやって生きていけばいいの!?)



19:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/08(木) 20:13:27.85ID:AHqpspPBO

みほ(お金もいっぱいいるし、住むところだって、お仕事もしなきゃ……でも、赤ちゃんを育てながらどうやってお仕事したらいいの? 連盟が助けてくれるの!?)

みほ(……お母さんは、助けてくれるかな、私のこと、本当に心配してくれてるのかな……)

みほ(もし……もしも万が一だれも助けてくれなかったら、私と赤ちゃんと、どうやって生きていくの!?)

みほ(私は、会長みたいに強くない!!!)

みほ(なんで!? ねぇなんで!? なんで私が妊娠しなきゃいけないの!?)

みほ(お姉ちゃん!!! こわいよお姉ちゃん!!! 助けて!!!)

……ガクガクガクガク……



……シズミサン?……にしずみさん!?……



先生1「──西住さん!!」

みほ「あ!? は、はい!?」

先生1「西住さん、どうしたの? 具合が悪いの?」

みほ「え……あ……」

沙織「ちょっとみぽりん! すごい汗だよっ!?」

華「体が震えてるし、私達の声も聞こえていなかったようですし……」

みほ「す、すみません! 考え事を……」

先生1「……。西住さん」

みほ「は、はい」

先生1「保険室で休んでらっしゃい。それと、沙織さん、華さん、それに冷泉さんも、三人で一緒に保健室までみほさん支えてあげて」

麻子「わかりました」

みほ(あ……そっか、先生は、やっぱりもう……知ってるんだ)

沙織「みぽりん、早く行こ!」

華「一度汗をふかないと、本当に風邪をひいてしまいます」

みほ「皆、ありがとう……」

麻子「肩につかまれ」

先生1「三人とも、保健室ではついててあげなさ……ん?」


ダダダダダ……



20:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/08(木) 20:14:08.41ID:AHqpspPBO

先生1「もう、授業中に廊下をドタドタ廊下を走って、一体誰!?」


ツカツカツカツカ

ガラッ!


先生1「こら! 一体どこのクラスの生徒!? ……ってわあああああ!? ちょっとあなた達!?」



ドタドタドタドタ!!!



梓「ふえええええん! 隊長ぉ~~~~~~!!」

みほ「梓ちゃん!?」

優季「沙織せんぱぁぁぁい!!! うぇえええええん!!!」

沙織「優季ちゃん! ていうか、うさぎさんチーム全員!? み、皆一体どうしたのよ!?」

麻子「うお、どうして全員泣いてるんだ」

華「まぁ沙希さんまで、どうしたんです? よしよし」

紗希「……(;;)」

みほ(も、もしかして皆、例の話を知って……そんな、どうして!? なんで話が伝わってるの!?)

梓「隊長! 本当なんですか!? 私たち全員にんし--」

みほ「わああ梓ちゃん待って!」

梓「もが!?」

みほ(ダメだ! こんなところで騒いでちゃいけない! 話がどんどん広がっちゃう!)

みほ「せ、先生! この子達みんな戦車道の一年生です!」

先生1「あ……! わ、わかったわ、皆、全員で保健室へ---じゃなくて、戦車倉庫へ行きなさい! 特別のミーティングがあるのよね!? そうよね!?」

沙織「へ!?」

みほ「そ、そうなんです! ウサギさんチーム、あんこうチームのみんな、行きます!」

麻子「なんだ西住さん、元気じゃないか」

華「ほんとですねぇ」

みほ「早く! 皆急いでください! はいフォー! フォーです! パンツァーフォーッ!!!」

沙織「ええええええ? ちょっとみぽりん!?」

うさぎさんチーム『ふえええええん!』



ドタドタドタドタドタ!!!!



21:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/08(木) 20:14:39.90ID:AHqpspPBO

みほ(だけどどうしよう! どうしたら!? あんこうチームの皆にもまだ話をしてないのに!)

沙織『なになに、いったいなんなのぉ???』

華『さぁ……?』

うさぎさんチーム『ふぇぇぇ……』

みほ(……!! しっかりしなきゃ! 私は隊長なんだから!! 私が泣いてちゃいけない!!! そうだ、会長だって決して強いわけじゃない、必死に、強くあろうとしてるだけ!)



<ガラッ!



みほ(あっ、別のクラスの先生かな……!? うるさいって怒られるのかな!?)


<モジャッ


優花里「あれ!? やっぱり皆さんじゃないですか!!」

みほ「優花里さん!」

優花里「み、皆して一体どうしたのであります?」

みほ「優花里さんも一緒にきて!」 

優花里「ふぇ!?」

先生2「こら! お前らなんだ!? 何をしてる!?」

みほ「あのっ、私達戦車道の生徒です! 緊急です!」

先生2「んおッ、そ、そうか……秋山! 緊急の戦車道ミーティングだそうだ! 行ってこい!」

優花里「へ!?」

みほ「優花里さん早く!」

優花里「りょ、了解であります???」

みほ(先生達にはもうちゃんと話が伝わってるんだ、私達の知らない間に。だけど、なんでそこまでしっかり情報統制していながら、うさぎさんチームにどうして話が漏れたんだろう???)

優花里『いったい何が始まるんです?』

麻子『さっぱりわからない』

うさぎさんチーム『ふぇぇぇ……』

みほ「くっ……ボコ! お願いボコ! ボコの勇気を私に貸して! ボコボコボコボコー!! 私もボコになるんだぁーーー!!! わぁーーーーー!!!」

沙織「み、みぽりんが壊れちゃった!?」

華「あら~」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



33:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/09(金) 19:16:40.12ID:2HAIa3LzO

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



うさぎさんチーム『うぇぇぇぇん!! いやだよお! こわいよおおおお!!!』

沙織「ねぇ! 皆どうしたの!? 何で泣いてるの!? 何がそんなに怖いの!?」

みほ「っ……」

みほ(戦車倉庫に来たはいいけど、ど、どうしたらいいの!? どうする!? 考えて! 考えて!!!)

みほ(まずはアンコウチームの皆に説明して、なんとかいそいで理解してもらって、それから皆でウサギさんチームを慰めて──)

桂利奈「うわあああああん! 私、ママになんかなれないよおおおおお! お母さぁぁぁん!」

優花里「マ、ママ!? 皆いったい何を言っているの!?」

みほ(──いやそれじゃだめ! 今すぐウサギさんチームの皆を今すぐ落ち着かせてあげないと! 怖いよね! 皆怖いよね! いつまでもこんな気持ちでいたら、皆、頭がおかしくなっちゃう!)

あゆみ「やぁぁぁ! 妊娠なんてしたくなぃぃぃ!」

華「にんし……!? ま、まさか……だれかに、ひどい事されたんですか!?」エロドウジンミタイニ!

沙織「は!? ちょ、ちょっとまってよ! 何よそれ!? まさか……そんな……!!」ワナワナ

麻子「皆! お願いだから落ち着いてくれ! 何があったのか教えてくれ!!」

ウサギさんチーム『わあああああああん!!!』

沙織「やめっ、皆泣かないで! 泣いてちゃ……グスッ、泣いてちゃわかんないよおおお!」

ウサギさんチーム『わああああああああああああああああああああん!!!!』

みほ(ああっ……ボコ……お姉ちゃん……私に勇気を……!)




みほ「──皆! 静かにして!! 口を閉じてください!!!」




あんこう『ッ!?』

うさぎ『……ふぇ……?』



34:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/09(金) 19:17:55.66ID:2HAIa3LzO


みほ「お願いです! 私の話を聞いてください。私の話だけを聞いてください!」

沙織「みぽりん……」

みほ「私は、私だけは全部、わかってますから!」

優花里「え……?」

みほ「今ここで何が起こってるのか、なぜウサギさんチームが泣いてるのか、あんこうチームの皆が何を知らないのかも、私だけは全部わかってます!! だから私に全部まかせてください!」

みほ(本当は私にだって何もわからないよ……でも、私が皆を守らなきゃ!)

沙織「だったら早く説明してよ! 私もう何がなんだか──」

みほ「沙織さん黙って!!」

沙織「え……っ」

みほ「乱暴に言って、ごめんね。でも、どうか、お願いだから」

沙織「……」

華「……皆さん、ここはみほさんを信じましょう」

優花里「そうですね、そうしましょう!」

麻子「沙織、一緒に深呼吸だ」

沙織「う、うん……すぅーはぁー……」

ウサギさんチーム『……うう……隊長……』

みほ(まずはこれでいい、よね、ボコ、お姉ちゃん……っ)



35:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/09(金) 19:18:50.52ID:2HAIa3LzO

みほ「では皆さんそれぞれチーム毎に戦車に乗り込んでください」

沙織「え……」

華「沙織さん、とにかく、みほさんの指示に従いましょう」

沙織「わ、わかったわよ……」

みほ「全員が乗車した後、私はまずM3リーに乗り込みます。そこでちゃんとウサギさんチームの皆さんとお話をします。……ね、だからみんな、落ち着いて」

あや「西住隊長……」

桂利奈「あ、あい……」

梓「わかりました……」

みほ「ウサギさんチームとのお話が終わったら、次は4号に移ります。それから、何が起こっているのか、ちゃんとすべて、あんこうチームの皆さんにも説明します」

優花里「りょ、了解」

みほ「ただ、先にこれだけは言っておきます。……誰かに乱暴をされたとか、そういう話じゃないから、それだけは安心してください」

沙織「……ほんとに? 絶対?」

みほ「うん。絶対だよ、沙織さん」

沙織「……あぁ……よかった……よかったよぉ……」

みほ「──それでは改めて、全員、乗車!」


全員『は、はい……』


……カン、カン……カン、カン……


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


みほ(……全員、乗車完了……)

みほ「……ハァ……ッ」

みほ(……だめ! へたりこんじゃダメ……そしたらきっと、もう二度と立ち上がれない)

みほ(……今すぐここから逃げ出したい……熊本に帰って、お姉ちゃんに会いたい……お姉ちゃん! 皆にいったいどう説明したらいいの? どうしたら皆を安心させられるの? 私だって、こんなに混乱しているのに……)

みほ(……でも、今、皆を支えられるのは……私だけなんだよね……そうだよね、ボコ……!)

みほ「私、頑張る、今だけは頑張る。だから……これが終わったら、皆も私を、支えてくれるかな……」

みほ(……すぅっ……はぁっ……)


みほ「──西住みほ、M3リー、乗車しますっ」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



37:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/09(金) 19:19:36.30ID:2HAIa3LzO

……キィ……


……カタン……





みほ「皆……」

ウサギさんチーム『……』

みほ(皆、涙で顔がぐちゃぐちゃ……ごめんね、ごめんね……!)

梓「西住隊長……」

みほ「梓ちゃん、おいでっ」

梓「隊長……!」


ぎゅっ


みほ「よしよし、怖いよね、怖かったよね……」

あや「隊長ぉぉぉ!」

みほ「あやちゃんも、さ、おいで。皆おいで! 皆で一緒に、くっつこ? そうすればきっと少しだけ安心できるから!」

優季「うあああん!」

桂利奈「たいちょー!」

あゆみ「ふぇぇ……」

みほ「ほら、沙希さんも」

紗希「……っ(;;)」


ぎゅうー……


みほ「よしよし……皆あったかいね。ほんとにウサギさんみたい……」

みほ(ああ、こんなにかわいい子達なのに……! なんで!? どうして皆がこんな思いしなきゃけないの!?)



38:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/09(金) 19:20:57.74ID:2HAIa3LzO

梓「隊長……」

みほ「ん?」

梓「私達、ほんとうに妊娠しちゃうんですか!? 戦車道をやってる女の子は、妊娠しちゃうんですか!?」

みほ「……それは……」

みほ(落ち着け、落ち着け! すぅー……はぁー……)

みほ「梓ちゃん、ごめんね、その話を、いったい誰から聞いたの?」

あや「あの、私です」

みほ「へ?」

あや「私が、アリサさんから聞いたんです……」

みほ「アリサさん!?」

あや「私、アリサさんとはよく連絡をとってって、それで……」

みほ「二人は、連絡をとりあってたんだ……」

あや「大学選抜戦の後連絡先を交換して、それから……」

みほ「そっか……」


みほ(……)ギリッ


みほ(アリサさん……アリサさんはいったい、何をやってるんですか!? この子達をこんなに怯えさせて!!)


あや「で、でも! アリサさんは悪くないんです!」

みほ「……?」

あや「アリサさんは、私達の事を心配して、連絡してきてくれたんです。……はじめはアリサさん、私達がこのことを知ってるかどうかそれとなく探ってて……もちろんその時の私は、何の事かは分かってなかったけど、とにかく知ってるふりをして、喋ってたんです……だからアリサさんは、私達がもう知ってるんだと思って……」

優季「ふぇぇん……あやちゃん、ホントそういうの得意だもんね」

桂利奈「えぐえぐ……ほんとそーゆーとこやらしーよね、あやちゃんって……ぐすっ」

みほ「そ、そう、だったんだね……だけど、それにしたって……」

あや「アリサさん……妊娠してるそうです……」

みほ「……!!!!!」



39:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/09(金) 19:21:42.38ID:2HAIa3LzO

あや「『告白もしてないのに』って、自分で笑ってました……たぶん、空元気で……」

みほ(……アリサさん……)

あや「それから、『あんたたちは大丈夫? 怖くて泣いてない?』って、『いろいろ不安だろうけど、難しいことは大人がきっとなんとかしてくれるから、あんまり心配するなって』……」

梓「あやからその話を聞いたのが、お昼休みの時です……ひっく。でも私達、訳が分からなくって、放課後、隊長に聞きに行こうって皆で話してて……」

あゆみ「だけど、授業中ずっとその事が頭から離れなくて、なんだかすっごく不安で、怖くて、私、涙が止まらなくなっちゃって……」

優季「あゆみちゃんが泣いてるのをみてたら、私も我慢できなくなっちゃって……」

みほ「そっか……それで結局、みんなが泣きだしちゃって、もうどうしようもなくなっちゃったんだね」

梓「そうなんですぅ! 私、私は車長なんだから泣いちゃだめだって、頑張ったんですけど、でもでも……わあああああん! どうしても我慢できなくてえええ!! うえええん!」

紗希「……(;;)」

桂利奈「皆泣かないでよぅ! 泣かな……ふええええん!」

みほ「……我慢しなくていいんだよ。皆で一緒に泣こ? 怖かったね。怖かったよね。私だって……考えてると、不安で体が震えるもの……」

梓「隊長も……じ、じゃあ、アリサさんの話は、本当なんですね……!?」

みほ「……うん、本当だよ」

あや「……! ひ、ひっく、うええええん!」

優季「彼氏もいないのに、なんで妊娠するのぉぉぉぉ……!?」

みほ「そうだね、ほんとだね、訳が分からないよね……」

ウサギさチーム『うわああああああん!』

みほ「よしよし……」

みほ(……アリサさんが、妊娠……! ああもう、頭がおかしくなる! 会長だけじゃない、誰が妊娠するか本当にわからないんだ! ……私も、妊娠するかもしれないんだ……)

……ブルッ……

みほ「……っ」

みほ(……だから泣いちゃだめっ! この子達の前では絶対にダメっ!)

みほ(……だけど、ほんとうに、どうしたらいいの? ……こんな事、私達にはどうしようも……)

みほ「……あ……」



40:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/09(金) 19:26:00.06ID:2HAIa3LzO


──いろいろ不安だろうけど、難しいことは大人がきっとなんとかしてくれるから──



──連盟による産後社会保障の検討あるいは──




みほ「……」

梓「……? 隊長?」

みほ(……そうだよ、本当にどうしようもないんだ。私達にどうにかできることじゃないんだ)

みほ(だって、何もしていないのに妊娠するだなんて、そもそも対処できるはずがないよ)

みほ(それをどうにかしようって考えるほうが、間違ってる)

みほ「……」

梓「隊長、お願いです、何か言ってください。私……怖いんです……」

みほ「あ……ごめんね、そうだよね、怖いよね」

あゆみ「私達これから、どうしたらいいんですか」

みほ「……。皆聞いて」

あゆみ「……?」

みほ「私達にはもう、どうしようもないんだと思う」

あや「え……」

優季「そ、そんな、じゃあどうしたら」

みほ「だめ! どうにかしようって、考えちゃだめ!」

桂利奈「ふぇ!?」

みほ「私達でどうにかしようなんて、絶対に考えちゃだめ! だれかを頼るの!」

梓「頼るって、誰を」

みほ「誰でもいい。お父さんでも、お母さんでも、先生でも、戦車道連盟の人でも、私達先輩もでも、友達でも! とにかく絶対に一人で、自分達だけで、考えちゃダメ!」

みほ「不安な事、怖い事、心配な事、全部だれかに話すの。話して、いろんな人達でなんとかするの。私達だけで抱えないようにするの」

みほ「こんな不条理な事、どうしようもないよ! だから皆に力を貸してもらう。そうするしか、ないと思う」

梓「……」

みほ「もちろん、それでもやっぱり、怖いし、不安だし、泣きたくなると思う。そういう時は、こうやって、皆で泣くの。 暗い部屋で一人きりにじゃなくて、広い場所で一緒に、皆で!」



41:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/09(金) 19:28:00.31ID:2HAIa3LzO

梓「……隊長」

みほ「うん?」

梓「私……少しだけ、隊長の言ってること、理解できるような気がします」

優季「私よくわかんなぁい……ひっく」

桂利奈「私も……うう」

あゆみ「……」

あゆみ「……たぶん、こういう事、なのかな」


ぎゅっ


優季「ふぇ? あゆみ……? ……あ……そーやってぎゅっとしてくれると、ちょっとだけ落ち着くかも……」

あや「……そっか。それだよ」


ぎゅっ


桂利奈「あやちゃん……あったかい……」

紗希「……」


ぎゅっ


梓「紗希……ありがと……」

みほ「そう、そうだよ皆。いつも誰かといなきゃだめ」

みほ「……この先、私達の誰かが、妊娠するかもしれない。ううん、すでに妊娠してるかもしれない……」

優季「……ひっく……」

みほ「だけど、どうやって子育てをしようとか、どうやって生きていこうとか、そんな事は今は考えない」

みほ「どうしたらいいですか? って、まずは身の回りのあらゆる人に頼るの。そして皆で考えてもらうの。いい? 絶対だよ! 約束して! ……返事は!?」

ウサギさんチーム『は、はい!』



42:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/09(金) 19:28:31.53ID:2HAIa3LzO

みほ「……そう、これでいいはず……うん、あんこうチームの皆にも……」

桂利奈「あ……たいちょう、いっちゃうんですか……?」

みほ「うん、ごめんね……あのね……あんこうチームの皆は、まだこの事を何もを知らないの」

梓「え!?」

あゆみ「そうなんですか!?」

みほ「というより、戦車道を履修しているほとんどの皆が、まだ何も知らないの。本当は、あなたたちにこの話を伝えるのも、もう少し後になるはずだったの……」

あや「あ……そうか……私がアリサさんから聞いちゃったから……」

みほ「あはは、まぁ、ね……」

あや「あ、あの、アリサさんのこと怒らないでください! アリサさん、いじわるだし、ちょっと嫌味なとこもあるけど、ほんとに私達のことを心配してくれて……」

みほ「わかった。……はじめはちょっぴり怒ってたけどね。だけど、悪気はなかったんだもんね……」

梓「……ちょっぴりって雰囲気じゃ、なかったどね……」

あや「あはは……」

みほ「じゃあ、行ってくるね。また後で、こんどはアンコウチームの皆も一緒に、話そ!」

梓「……! あ、あの!」

みほ「ん?」

梓「私も、一緒に行っていいですか!?」

みほ「え……!?」

優季「あ……それ、ナイスアイデアかも~」

梓「先輩たちも、きっと、ショックを受けると思います。だから、先に知ってる私達がいたほうが、なにか、力になれるかも……」

みほ「だ、だけど皆は大丈夫なの? 皆だってまだ……」

あゆみ「まだまだいっぱい不安です……で、でも、隊長のおかげで、ちょっとだけ、元気はでましたっ」

あや「西住隊長がいなくなっちゃたら不安だし……それに、どうせ泣くなら、先輩と一緒に皆で泣けばいいかも……ね、桂利奈ちゃん」

桂利奈「そだね、そうかもっ」

みほ(……この子達は……!)

みほ「……み、みんなぁっ……」



ぎゅうううううううう!!



優季「ぎゃあ」

梓「く、くるしい」

あゆみ「むぎゅう」

あや「もみくちゃあ~」

みほ「みんな、本当にえらいよ……私、あなた達の事が、大好き……!」

紗希「……♥」



43:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/09(金) 19:29:14.22ID:2HAIa3LzO

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



梓「西住隊長。ウサギさんチーム、全員降車、完了しました。」

みほ「うん。それじゃ、アンコウチームの皆にも、外に出てきてもらうね」

梓「そっか、全員は入れないですもんね」

あや「またもみくちゃになっちゃう~」

桂利奈「わたしは気持いかったけどね~」

みほ「あはは…………うっ!?」

みほ(え、何!? 急に吐き気が──)

梓「え、隊長──?」



みほ「オェ! ォロゲェェェェッ!!」



ビチャアッ!!



優季「ひゃあああ!?」

梓「隊長!?」

みほ「……かはぁっ! ォェッ! ……はぁっ……はぁっ……ご、ごめんね、皆、かからなかった……?」

あゆみ「そ、そんなことよりも! 大丈夫ですか!?」

みほ「う、うん……はぁ、はぁ……なんだろう……」

みほ(なんで? まさか食中毒? ……うぷ! またすごい吐き気が!)

みほ「み、皆はなれ──ゲロぱァァァァァッ!!」



パシャァッ!!



あや「わあああ! ど、どうしようどうしよう!?」

梓「み、皆落ち着いて!」

みほ(ハァ、ハァ……なんで!? なんで!? ……あ……! これって、まさか……)

桂利奈「わああ! せ、先輩! 沙織先輩! 華先輩! 早くでてきてください! 西住隊長がぁー!」


ガンガンガン!



44:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/09(金) 19:30:44.27ID:2HAIa3LzO

……バタン!


沙織「何!? どうしたの……ってわあああ!? みぽりん!?」

華「どうされたんです!?」

優花里「に、西住殿大丈夫ですか!?」

麻子「ちび達、水だ! 水をもってこい!」

桂利奈「あ、あいぃぃ!!」

みほ(……はぁ……はぁ……これ……これって……つわり!?)

みほ(……ああ、そんな……心のどこかで、私はもしかしたら妊娠しないかもって、そう思ってた……そう思いたかった……お姉ちゃん、やっぱり怖いよ……お母さん……助けてお母さん……!)

梓「……あれ? 紗希、どうしたの? やだ、紗希も気持悪いの!?」

みほ(え──)

紗希「……」

紗希「オロゲェッ」


ビチャビチャァ!



華「!?」

麻子「!?」

優花里「!?」

沙織「きゃあああ!? 紗希ちゃんも!? 何よ、何なのよおお!?」



みほ(あ、あ、あああ……うそ……うそ……)



みほ(あああああ……神様……!!!)



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



51:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/10(土) 13:11:03.69ID:WOWfM8TsO

みほ(……頭が、くらくらする……目も、チカチカする……)


みほ「──はぁっ──はぁっ──」


みほ(息が、できない……苦しい、怖い、だれか助けて……)


みほ「──はぁっ──っ、……ああ……ああああ……!」


みほ(妊娠したんだ! 赤ちゃんが、いるんだ! 私のおなかの中に! 私の子供が!)

みほ(どうして!? 誰の!? なんで!?)

みほ(『出産』『子育て』『お母さん』──え!?)

みほ(どうするの!? 産むの!? ……産めるの!? 誰が育てるの!? 私!? 私が育てるの!? どうやって!?) 

みほ「──どうしよう──どうしよう──どうしたらいいの──お姉ちゃん、お母さん──」

みほ(……ああ! だめ! 今は考えちゃダメ!……)

みほ(──簡単に言わないで! 私のおなかの中に子供がいるんだよ!? 考えちゃだめだなんて、そんな簡単にいわないでよ!!! そんな事できるわけないよ!!! 考えちゃうにきまってるよ!!!)



……ポリン……みぽりん……みぽりん!!


みほ「──あ……」

沙織「聞こえる!? 私の声、聞こえてる……!?」

みほ「……沙織さん」

沙織「ああよかった……やっと、答えてくれた……ねぇ、いったいどうしちゃったの!?」

優花里「西住殿、これ、水、飲めますか」

みほ(私、いつのまにか座り込んで……う、口の中が、気持ち悪い……そっか嘔吐しちゃったから……)

みほ(……あっ)

みほ「二人とも! 紗季さん、紗季さんは!?」

優花里「大丈夫ですよ! 華さんと冷泉殿と、他の皆も一緒に、あちらで見てくれてますから」

みほ「よかった……」

沙織「これ、口の周りふいて」

みほ「だけど、ハンカチが汚れちゃう」

沙織「そんなことどうだっていいから!」


グシグシ……



52:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/10(土) 13:12:30.51ID:WOWfM8TsO

優花里「さぁ、口をゆすいでください」

みほ「うん、……」


ごくごく……


みほ「──ハァ、……二人ともありがとう、少しだけ、楽になった」

優花里「気分はどうです? まだ吐き気はありますか?」

みほ「うん、でも、大丈夫」

みほ(……体中が震えてる……胸の奥が、まるで凍ってるみたいに冷たい……だけど、紗季さんっ)


グッ


沙織「あ……大丈夫なの!? 座ってなよ!」

みほ「ううん、立つ……立たなきゃ」

優花里「けど、これ、もしかして集団食虫毒じゃないですか? 紗季さんも吐いてしまってます。やばいですよこれは……」

沙織「早く、皆で病院にいこう!」

みほ(……違う……たぶん、違うの……)

みほ(紗季さん──)

沙織「ちょ……ね、ねぇ、みぽりんってば!」


とた、とた、とた……


あや「紗季、ほら、お水だよ。座ったままでいいから、少しづつ飲んで……」

紗季「……」コクコク

華「紗季さん。寒くはありませんか? 頭痛は」

麻子「少し、体が震えてるな……顔色も悪い……」

みほ「──紗季さんっ」

紗季「……!」

梓「あ、隊長……!」

華「みほさん、立ち上がって大丈夫ですか?」

優花里「少し、足元がふらついています……」

麻子「二人とも、とにかく早く病院へ行くべきだ」

沙織「そうだよっ」

みほ(……)

梓「……あの、隊長……まさか紗季も……隊長も……」

みほ「……わからない。けど……かも、しれない……」

優希「!」

あゆみ「うそ……」

桂利奈「さきぃ……」

みほ「……紗季さん、顔、良く見せて」

紗季「……」カタカタ

みほ「っ! 紗季、さん……!」


ぎゅうううっ



53:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/10(土) 13:13:24.86ID:WOWfM8TsO

みほ(こんなに震えて……怖いよね! 怖いよね!! 私も、怖いよっ)

紗季「……っ」ポロポロ

みほ(なんで!? なんでこの子なの!? 神様なんで、どうしてなんですか!? 意地悪をするならせめて私だけにしてください! なぜこんな小さな子に……!!)

みほ(あ……だめっ涙がっ……)

みほ(でも、もう、止められないよぉ……!)

みほ「……くっ、う、ううっ、……ううっ、ううううううっ」

桂利奈「あ、……た、たいちょう……やだぁ、隊長泣かないで下さいよぅ……」

優希「ふぇ、うぇぇぇ、ふえええ……」

あゆみ「た、たいちょう、ひっぐ……」

梓「……っ」

優花里「み、みんな……」

沙織「ちょ、ちょっと、本当にどうしちゃったのよ!? みぽりんまで……! もういや! お願いだからだれか説明してよお!」

麻子「沙織っ」

華「沙織さん、落ち着いてください!」

沙織「だって、みぽりんが泣いてるんだよ!? 皆が泣いてるんだよ!? こんなの普通じゃないよ!! 皆どうしちゃったのよお! 誰か教えてよおおお!!」

みほ(……っ、泣いてちゃだめなのに! 私がなんとかしなきゃいけないのにっ)

みほ(止まって! 止まって! これ以上泣いてられないの!)

みほ「──はぁッ、ぐっ、ひっぐ……うぅっ──ううううっ」

みほ(どうして止まってくれないの!? 泣いてちゃいけないのにっ お願いだから止まってよお……! そうしなきゃだめなの!

沙織「やだ、もうやだ! こんなのいやああああああああ!」

麻子「沙織!!」

みほ(そうしないと、皆が、皆が! どうかお願い止まって──────)





────ドガァァァァァァァァン!!!!!!!





全員『──────ッ!?』





パラ……パラパラ……

──ひゅぅぅぅ──



優花里「へ、ヘッツァーが……とつぜん発砲して、そ、倉庫の壁をぶち抜きました……」

みほ(ヘッツァー──)

みほ(──会長!?)



54:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/10(土) 13:15:09.16ID:WOWfM8TsO

……かっぱん……

ひょこっ


杏「や、皆……びっくりさせてごめんね。とりあえず……落ちついてもらえたかな」

全員『……』


ひょこっ

柚子「実弾を打つ必要は、あったんでしょうか……」


ひょこっ

桃「ま、まぁ、緊急事態だ。学校側への説明はなんとでもなる……たぶん……」

杏「今はどーでもいいんだよ、そんなこと。……よいしょっっ」


すたっ! すたたたたた……

杏「西住ちゃん……」

みほ「……会長! 会長……!!」

杏「西住ちゃん、ごめんね……きっとまた、一番しんどい所を、西住ちゃん一人に支えてもらっちゃったんだね……」

みほ「会長、どうしてここに」

桃「サンダースから緊急連絡があった」

みほ「サンダース……?」

杏「おケイがエッライ剣幕でね~、『うちのバカがやらかしたかもしれない! 今すぐウサギさん達の様子を確認して!』ってね」

みほ「……あっ……!」

みほ(そっか! アリサさん、あやちゃんの様子が何かおかしいって、ちゃんと気づいてくれたんだ! それでもしもを考えてケイさんに……)

柚子「急いで一年生の教室に行ってみたら、皆飛び出していったっていうし……それで先生達からの話を追って、慌ててここまできたの。そしたら皆、大泣きしてるから……」

あや「……あああっ!? 全然確認する余裕なかったけど、アリサさんからすっごいたくさん着信がきてる……メールやラインも……」

桃「ったく、余計な事をしてくれた……」

柚子「ケイさんの声の感じ、あれは、アリサさんただの反省会じゃ、すまなさそうだね……」

あや「あのう、でも、アリサさんは悪くないんです……」

杏「でもバラしちゃったのは事実だしねぇ……ま、あやちゃんの方から、おケイに連絡してあげてよ。……もう遅いかもしれないけど」

みほ「あ、あはは……うっ……?」

みほ(──気が抜けたのかな、頭がすっごくクラクラする──でも……!)



55:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/10(土) 13:17:32.25ID:WOWfM8TsO

みほ「あの、会長……!」

杏「ん」

みほ「今すぐ、全員に話をすべきです」

杏「西住ちゃん」

桃「いや、しかしそれではパニックに……」

みほ「そもそも、パニックになるなというのが無理なんです。だから、こうなったら、皆で一緒にパニックになるんです。そのほうが、かえって皆が気持を共有できるはずです」

桃「い、言ってることが無茶苦茶だぞ!?」

みほ「会長もわかると思いますけど、こんな事、どうしたって一人じゃ抱えきれません。冷静でなんか、いられません……だから、皆で一緒にパニックになるしか、ないと思います」

杏「……ふむ……」

桃「し、しかしなぁ」

梓「……あ、あの! 私も西住隊長に賛成です!」

桂利奈「です!」

柚子「あなたたち……」

梓「西住隊長のおかげで、私達、もう、全部ちゃんと理解してます! こんなこと……泣かなきゃやってられませんよっ!」

杏「……全員でパニックになったほうが結局は冷静でいられる、か……その通りかもしれないね……よし! 決めた! 小山! 非常呼集だ! 授業中だろうが何だろうが、戦車道履修者は全員ここに集合!」

柚子「はい!」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



<キンコーンカンコーン『非常呼集! 非常呼集! 戦車道履修者は、全員ただちに戦車倉庫に集合してください! 繰り返します──』



杏「西住ちゃん、ごめんね……そもそも最初から、こうすべきだったのかもしれない」

みほ「会長……」

杏「やっぱり駄目だね。どうにも、判断が鈍ってる。でも、たとえどんな状態でも、弱音を吐いてる場合じゃない……」

みほ「……こんな事になって、冷静でいられるはずがありません……私もよく、それが実感できました」

杏「……え?」

みほ「私、さっき、嘔吐しちゃったんです。紗季さんも」

杏「……!」

みほ「たぶん、二人とも、もう……」

杏「……西住ちゃんっ!! 紗季ちゃんっ!!」


ぎゅっ!!!


杏「頑張ろうね! 皆で一緒に、頑張ろうね……!」

みほ「会長……うぇっ、ひっく……」

紗季「……(;;)」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


優花里「なんだか私達、完全に置いてけぼりですねぇ……」

華「あら、沙織さんったら、完全に白目むいて固まっちゃって……」

麻子「ほっとけ。正確な情報が伝わってくるまで、そのほうが静かでいい」

沙織「」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



62:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/12(月) 18:50:22.40ID:V9Q4yMR4O

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ざわざわ……


桃「各チーム、全員そろっているか?」

ホシノ「レオポン、オッケーで~す」

そど子「ちょっと! 授業中に呼び出すなんて、いくら生徒会でも横暴よっ」

典子「せっかく体育バレーの時間だったのに~」

エルヴィン「非常呼集とはいったい何事」

左衛門座「まさか、また大洗廃校か!?」

優花里「あぁ、やっぱりそれ、考えちゃいますよね~」

ねこにゃー「むむむ、もしや例の役人がどこぞに潜みおるのではあるまいにゃ!?」

ももがー「それは聞き捨てならんもも!」

ぴよたん「あぶりだして袋だたきにしてやるぴよー!」


<アワワワワワワワワッ


麻子「……あの役人、二度とこの学園の敷居をまたげないな」

華「小指を詰めるだけでは、これはもうおさまりませんねぇ」

みほ「……」

優花里「西住殿、西住殿……」

みほ「……あ、ごめん、何?」

優花里「顔色、やっぱり悪いですよ、保健室か、それか、ちゃんと病院に……」

みほ「ううん、大丈夫。……ここにいる」

優花里「そう、ですか……」

みほ「……」

紗希「……」

みほ「紗希さん、ううん、紗希ちゃん。手……つなご?」

紗希「……」コクン

ギュッ

みほ(はぁ……駄目だ。考えちゃだめって思えば思うほど……考えちゃうよ……)



桃「よーし、全員、こちらに注目しろ」

杏「あー……みんなごめんね、授業中に突然呼び出したりして、すまない」

杏「けれど、どうしても皆に伝えなくちゃならない大切な話があるんだ」


……ざわざわ……やっぱり廃校……



63:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/12(月) 18:51:30.65ID:V9Q4yMR4O

杏「学園や戦車道についての話では、ないんだ」

杏「これから皆に聞いてもらう話は……ここにいる全員の、私達の、各々の人生そのものに深刻な影響を及ぼす、とても重大な話なんだ」

杏「いきなり、ごめんね。でも、これは脅しじゃないんだ……全員、心して聞いてほしい」


……しーん………


杏「じゃあ、後は……お願いね」

梓「ーーはいっ!」


ゾロゾロゾロゾロ

……ざわざわ……


あけび「ウサギさんチーム……?」

妙子「……あれ? 紗希ちゃんは?」

麻子「こっちにいる」

華「紗希さん、少し体調が優れなくて……というか、みほさんもですが……」

優花里「二人ともどこかで休んでいてほしいのですが……どうしてもここにいるって……」

みほ(……だって、皆と、一緒にいたい。静かなところになんか、とてもいられないよ……)

あや「う~、最初の挨拶は私かぁ。緊張するなぁ」

梓「落ち着いて、あや。ゆっくり、一つ一つ話せばいいの」

あや「そ、そうだね……」

桃「……」

桃「な、なぁ、お前達……」

あゆみ「?」

桃「……やっぱり、ダメだっ。 お前達にこんな役目を負わせるなんてできるか! こんな事は、私や会長がやるべきだ!」

優希「えぇ? もぉ~、いまさらですかぁ~? さっきちゃんと話あったじゃないですかぁ」

桃「しかし……」

柚子「桃ちゃん、気持ちは分かるけど、今はこの子達を信じよう?」

梓「そうですよ先輩。私達に任せてください!」

桃「……。……わかった……すまないが……お前達に、託す。どうか……頑張ってくれ」

桂利奈「あい! やったりまぁすっ!」



64:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/12(月) 18:52:14.92ID:V9Q4yMR4O

みほ「……みんな……」

杏「西住ちゃん」

みほ「……会長」

杏「『私達が発表します!』、か……まさかあの子達が、自分からそんな事を言ってくれるなんてね」

みほ「でも、確かに、とっても良いアイデアだと思います」

杏「そりゃあそうかも、しれないけどねぇ……」

みほ「みんなこれから、すぐには立ち直れないくらいの大きなショックを受けます。この後、確実に……それはもう、防ぎようがありません……。だけどそれでも、あの子達が、あんなに小さな子達が、くじけず健気に頑張ってる姿を見せてくれたなら……きっとそれは、みんなの励みになるはずです」

杏「それはわかるよ。だけど私……なんだか不甲斐無くてねぇ」

みほ「だけど、これはあの子達だからこそ可能な戦術です。あの子達に、ゆだねましょう」

杏「……。さすがだよ、西住ちゃんは。こんな時でもそんな事を考えられるんだ。強いね……」

みほ(……。)

みほ(会長。違うんです私は……最低の人間です。少しも強くなんかないんです)

みほ(私のお腹に子供がいるかもって、考えれば考えるほど怖くなってきて……もう、今、どうしようもないんです……考えちゃダメってわかってるのに……)

みほ(だから、だから……)

みほ(はやく皆にも、このおかしな現実を知ってほしいんです。)

みほ(皆にもこの恐怖を、知ってほしいです。一人でも多く、一緒に苦しんでくれる仲間がほしいんです。できるだけ大勢の人に、私が今どんなに恐ろしい気持ちでいるのかを、理解してほしいんです。……もう、一人では耐えられません……)

みほ(それでも一応、ちょっぴりみんなには申し訳ないなぁっていう気持ちもあって。そしたら、なんだか、罪滅ぼしのつもりなのかな……頭の別に一部では、妙に冷静に、どうしたらいいかなぁっ考えることもできてしまって……ふふ、人間って、不思議ですね……)

みほ(……)

みほ(私だけが妊娠して、それで他の皆が助かるのならそれで構わないって……私、さっき、どうしてそんな事を、一瞬でも考えることができたんだろう。どこに……そんな勇気があったんだろう。それとも私……自分でも気が付かないくらいの、嘘つきなのかな……)

みほ(……)

みほ(なんでこれが、現実なんだろう?)

みほ(どうしてこんな夢みたいな悪夢が、現実なんだろう?)

みほ(……って思った次の瞬間、はっと目が覚めて……そこはいつものベッドの上で……。ほっと胸をなでおろして、ああ夢でよかったって……だけどまだ心臓はドキドキしてて……きっと身体もパジャマも汗でびっしょりだから、シャワーも浴びなきゃ。それからいつも通りに学校へいって、みんなにこの夢のことを話すの。そしたら、『バカな夢だね』って皆が笑ってくれて……どうしてそれが、夢なの……? ちょっと意地悪が、すぎませんか……?)

みほ(……)

みほ(……ごめんね。あなたのお母さん、もっと立派な人だったらいいのにね。ウサギさんチームのあの子達みたいな……)

みほ(……ね、そうだよね)

みほ(……どうせならあの子達の内のだれかの赤ちゃんに、なれたらよかったのにね……えっとね、そうだなぁ、梓ちゃんとか、おすすめだよ……?)

みほ(……)

みほ(……っ!!!!!)

みほ(私、今、何を……なんて事を……)

みほ(最低だ……ああ……私……ほんとに最低だ……ああっ……)



65:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/12(月) 18:53:44.12ID:V9Q4yMR4O

みほ「……ッ……ッ」ガタガタガタ…

紗希「……」ギュッ

みほ「……あ、紗希、ちゃん?」

紗希「……?」

みほ「う、ううん、なんでもなの。……なんでもない……ありがとう……ごめんね……」

杏「ね、紗季ちゃん。私とも、手を繋いでくれる?」

紗希「……」コクン

ぎゅっ……

杏「……にひひ。ありがとね。紗希ちゃんんの手は暖かいねぇ……」

みほ「……」

みほ(会長。私も、そんな風に笑いたいです。私のお腹の中の、この子の『親』が誰かわかれば……一緒にこの重荷を支えてくれる人がいたら……私もまた会長みたいに、笑えますか?)



あや「……で、では皆さん、まず私から、え、えーと……どうぞご清聴をお願いします……」

あや「えー……あのー……」

あや「……じ、実は私達……に、妊っ娠っ、しちゃうかもしれませんっ!!!」

杏「ぶっ」

そど子「は、はあああああ!?」

左衛門座「な、なんだと……」

おりょう「事案発生ぜよ……」

梓「ちょ、ちょっと、そんな言い方じゃあちゃんと理解してもらえるわけないでしょ!? 会長からもらったFAX!あれ読んで!」

あや「あわわわ……ど、どれだっけ……!?」

あゆみ「これだよ!」

パゾ美「ねぇ、これ、もしかして、風紀案件……?」

そど子「ちょっと貴方たち!? 一体どーゆーこと!? ことによっては懲罰ものよ!?」

ゴモ代「その前に、ちょっとくらいはあの子達を心配してあげたら?」

そど子「そ、それもそうね……で、でもとにかくもっとちゃんと説明しなさい! 尋問よ!」

桂利奈「わぁぁ、静かに、みんな静かにしてくださいぃぃ~」

優希「どうか落ち着いてぇ~」

杏「……あははは。いやぁ、やっぱりみんな、可愛いねぇ。」

みほ(……)

杏「けどさぁ、あのの子のいった事、少しも間違ってないんだよねぇ。やっぱりたちの悪い冗談だよ。何もかもが……」

みほ(あ……会長の苦しそうな表情……なんだか少し……ほっとしちゃう。そうですよね。会長も、辛いんですよね。……なんで忘れてたんだろ……もう、よく、わかんないよ……)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



72:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/14(水) 21:31:05.84ID:iyWyPbY9O


梓「────明日、皆で一緒に検査機関へ行けたらと思います。あの、皆さん、すぐには信じられないかもしれないけど……全部事実なんです。皆で、励まし合って、助け合って……一緒に頑張りましょう!」

桂里奈「がんばろー!」

梓「で、では、これで、終わります」

あや「ご清聴、ありがとうございましたぁ」


──シィン──

……ぱちぱちぱちぱちッ!


柚子「も、桃ちゃん!? 拍手するような場面じゃないよ! 皆呆然としてるんだよっ!?」

桃「だからこそ私達が拍手するんだ! 一年生がこんなに頑張ったんだぞ! 私がやらずして一体誰がやる! お前達! 立派だったぞおおお!!!」

あゆみ「か、河嶋先輩、いいですからやめてください……」

優希「河嶋先輩って、意外と親ばかになりそぉ」

桃「うぉー、貴様らは我が校の誇りだぁー!」

みほ(……)

みほ「紗季ちゃん、ほら、見て、みんなが……」

紗季「……?」

みほ(みんな、どういうことなのか理解できないって顔してる。当たり前だよね……。だけど、理解できてもでいなくても、関係ないんだよね。信じても、信じなくても、現実はただ目の前にあって……どんなにそれから逃げ出したくっても、もう、自分達にはどうすることもできない……。以前の私は、まだ、黒森峰から逃げ出すことができた。だけど、今、私達は、いったいどこに逃げたらいんだろうね……)

杏「……さぁて、ちょーっとだけ、気合いれよっかな」

みほ「会長?」

スタスタスタスタ……

杏「皆、話はいま聞いた通りだ。……ただ、当たり前だけど、こんな話すぐには信じられないよね」

全員『……』

杏「だからまず、今の話が嘘じゃないって、皆に証拠を示そうと思う」

全員『……?』

杏「私は、妊娠してる」

全員『!?』

……ざわざわ、どよどよ……



73:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/14(水) 21:31:47.13ID:iyWyPbY9O

優花里「……ど……どうするつもりなんです……? う、産むんですか……?」

杏「……。一つ、はっきりと知らせておくけど、戦車道連盟は私達を見捨てはしない。それは理事長からも確約を得ている。……まだ、口約束だけどね。だから、それだけは安心してほしい。皆に何がおこっても、また皆がどんな決断を行おうとも、今回の件で、皆の人生が破滅するようなことだけは、絶対にさせない。それだけは約束する」

優花里「……」

杏「とにかく、今はゆっくり時間を取って、各自落ち着こう。気になることや心配なことは、私に聞いてよ。できる限り答える」

そど子「こんなのって、こんなのって……不純異性交遊……じゃなくて、不純……何!? いったい何なのよお!?」

エルヴィン「まるで、聖母マリアの処女受胎……」

典子「うぁー……子供ができたら、しばらくバレーは無理……かなぁ……」

華「……沙織さんを、このままにしておいて、よかったです……きっと大騒ぎでした……」

優花里「私達が説明しなきゃいけないんですけどね……」

華「う、胃が」

沙織「」

みほ(うまくいった、かな。これで皆で、一緒に……)

麻子「……」

麻子「……ちょっと待てくれ……皆、今の話を、本当に信じてるのか?」

みほ(……麻子さん!)

そど子「え?」

華「麻子さん……?」

麻子「会長が妊娠してるというが、その証拠はいったいどこにある」

柚子「……この知らせを私達が受け取ったのは、実はもう数日前のことなの。私達はすでに、検査を受けたわ」

麻子「だから、それのどこが、『証拠』なんだっ」

麻子「妊娠した、検査を受けた、そんな事は口先で何とでもいえる! そんなもの証拠でもなんでもない。そもそも、こんなバカな話……生徒会のいつもの悪ふざけに、決まってるだろっ! 一年生まで利用して! こんな大騒ぎまでこしらえて!」

梓「そんな!? 違います! 私達は嘘なんか……」

麻子「うるさい!」

梓「……っ!」

みほ(……いつも冷静な麻子さんが……どうして? 少し、意外……)

桃「冷泉。私達はちゃんと病院の診断書類を持っている。それに、なんだったら連盟の理事長に確認をしてくれてもいい。すべて……本当の事だ」

麻子「書類なんて、いくらでも偽造できる! 連盟の理事長だって……生徒会長の悪だくみに乗らされてるだけだっ!」

優花里「れ、冷泉殿、少し、落ち着きましょう、気持はわかりますが……」

麻子「落ち着いていられるか! 皆こんな話を信じてるのか!? なら皆、大馬鹿者だ! 今まで何を勉強してきたんだ! 戦車にのってるだけで妊娠……!? 冗談はいいかげんいしてくれ! 言って良い冗談と悪い冗談の区別もつかなくなったのか! あんたら生徒会は!」

梓「麻子先輩……」



74:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/14(水) 21:32:39.47ID:iyWyPbY9O


杏「……」

杏「わかった」

杏「じゃあ、お金を渡すから、妊娠検査薬を買ってきてよ」

麻子「え……?」

杏「他にも、信じられない人は今ここで申し出て。全員にお金を渡すから、各自、どこかで……できるだけ、バラバラのお店で、妊娠検査薬を買ってきてほしい」

杏「そしたら私が……ちゃんと皆の見てる前で、それにオシッコ、するから」

そど子「うぇぇ!?」

桃「会長っ!? やめてください! そこまでしなくても!」

杏「皆の理解の助けになるなら、それくらい安いもんだよ」

桃「で、でも、だからって!」

麻子「っ……そ、そんな事しても、証拠になんかなるもんかっ!」

柚子「冷泉さん!?」

麻子「それで分かるのは会長が妊娠してるってことだけだ! 彼氏か誰かの子供を妊娠して、それを都合よくはったりに利用してるだけだ!」

みほ(……えっ……!?)

華「麻子さん!!!!???」

そど子「ちょっとあなた!?」

優花里「冷泉殿いけません! それはいけませんよ!!」

杏「……そこまで、信用してもらえてないとは、ちょっと……予想してなかった、かな……あはは、参っちゃうね……」

桃「れ、冷泉!! 貴様ぁッ!」

柚子「桃ちゃん、だめっ!」

みほ(まずい……ダメ、こんなのダメだよ! 皆が、バラバラになってく……! そんなの、絶対にダメ! 皆で助け合うために、お話ししてるのに!)

みほ「あ、あの、麻子さん!」

みほ「麻子さんがショックを受けてるのはわかります。でも、どうして、そこまでかたくなに……ちょっと、変です!」

麻子「……。そういえば西住さん。さっき、吐いてたよね……」

麻子「あれ、もしかして……つわり?」」

華「あっ……!?」

優花里「に、西住殿、西住殿も、まさか……!」

麻子「そうか、やっぱり……つわりのつもりなんだな」

華「え……?」

麻子「……西住さんも、会長とグルなんだ……」

みほ「麻子……さん……」

優花里「冷泉殿ッ! あんなに苦しそうにしてたのに、演技なわけ、ないじゃないですか!? 冷泉殿……ちょっとひどすぎますよ!?」



75:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/14(水) 21:33:19.54ID:iyWyPbY9O



みほ(……違う! しかたがないんだ! 麻子さんは、こわくて混乱してるんだ! だってその気持ちは、怖さは、私にもわかるもん! 私だって、ひどい事いっぱい考えちゃったもん! 麻子さんを責めることなんて、できない!)

みほ「待ってください! みなさんも、麻子さんも、落ち着いてください、皆、普通じゃないんです! 今は、いったん、冷静になりましょうよ!」

みほ(失敗……かもしれない、一度にみんなに話したのは……! 私の判断ミスだ! 麻子さんが、こんなにで取り乱すなんて! でも、どうして麻子さんはこんなに……)

麻子「……西住さんが演技なら、じゃあ……」

みほ「え……」

麻子「……紗季ちゃんも……」

紗季「……え……?」

麻子「紗季ちゃんも、演技だったのか……?」



みほ(──────!!!)




みほ「ま……麻子さんッッッ!!」

優花里「あ!?」




──パァンッ!!




全員「──!?」



麻子「──……っ」

みほ「あ──……わ、私……カッとなって……麻子さん、ごめん……」

麻子「……」

みほ「だけど、麻子さん──私になら、いくらでも、どんな事でも、言ってかまいません。全部、受け止めます。だけど、紗季さんは、すごく怯えてるんです。だから……それだけは……やめてください」

華「……紗季さん、紗季さんも……!?」

優花里「……私……もう膝の力が、抜けそうです……」



麻子「……信じてたまるか……! 信じてたまるかあああああああああああ!!!」



みほ「ま、麻子……さん……?」

麻子「皆はいいよね……皆はお母さんもお父さんもいるから、いいよね!!!

麻子「ちゃんと、お父さんとお母さんが助けてくれるから、いいよね!!!」

みほ(……あ……!)

麻子「けど、けど私には、おばあしかいないんだ!!」

麻子「おばあだって、いつまでも元気じゃないのに……」

麻子「こんな事になるなら、こんな目に合うなら……」

麻子「……っ」

麻子「私、戦車道なんて──やるんじゃなかった!!!」



76:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/14(水) 21:34:28.20ID:iyWyPbY9O

みほ(──!!!)

みほ「それは違います! そんな事いわないでください! 戦車道のおかげで私は皆と出会えたんです! 麻子さんとだって……!」 

麻子「その戦車道のおかげで、私は今こんな目にあってるんだ!! 皆だってそう思ってるだろ!? 戦車道にさえのってなきゃ、こんなことには……!!」

そど子「……っ、ちょっとあんた!、偉そうに、なにを悲劇にヒロインぶってるのよ!」

麻子「なんだと!?」

そど子「あなたなんか、自分一人じゃ勉強以外何にもできないくせに! 戦車道をやってなかたら、あんたなんかそのうち留年して退学してただの引きこもりになってるわよ! あんた、皆に助けられて、それでやっと今ここにいるんでしょ!?」

麻子「……っ」

そど子「一年生の子達も言ってたじゃない。皆で頑張ろうって! あんた……自分は一人だけだ! みたいな顔して、勝手に悲劇の主人公ぶるんじゃないわよ!」

みほ「麻子さん、私達、ずっと一緒に頑張ってきたじゃないですか」

優花里「皆の言う通りです。これからだって

麻子「……学園生活や戦車道の話と……一緒にしないでくれっ」

麻子「……皆のことは、もちろん信じてる……」

麻子「……だけど……」

麻子「この怖さは……私にしかわからない! 私にはお父さんやお母さんがいないんだ! 自分の生活や命を犠牲にしてでも私を助けてくれる……そういう人が、私にはもういないんだ!」

優花里「そんな事はありません! 私達だって、冷泉殿のためなら、なんだってできます! 仲間じゃないですか!」

麻子「そういってくれるのは、ほんとにうれしい……でも、もし皆に自分の子供がいたとして、それでもなお、私のために自分を犠牲にできるか? 自分の子供をほっておいて」

優花里「そ、それは……いや、そんな極端な例え、意地悪ですよ!」

麻子「……秋山さんのお母さんやお父さんは、秋山さんのためならなだってするだろう、親って、そういうもんなんだ。そういう人が……私にはいないんだ!」

みほ「麻子さん……」

みほ(あ、う……黙ってちゃダメ! 黙ってちゃだめだ! でも……何て言ってあげればいいの!?)

麻子「……ごめん、私、今日はもう……家に帰る」

みほ「……!」



77:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/14(水) 21:35:03.10ID:iyWyPbY9O

みほ「麻子さん、駄目! 今一人になったら、こんな気持ちを一人で抱えていたら、気がくるっちゃう! 皆と一緒にいなきゃ!」

麻子「そうかもね。だけど──これ以上、皆に、嫌われたくない」

みほ「……! そ、そんな事、ない!誰も麻子さんを嫌いになんか……」

麻子「お願いだから! 今は一人にしてくれ。少し、頭を冷やしたいから……」

みほ「だからっ、一人でいても落ち着くことなんて、できな──」

杏「西住ちゃん!」

みほ「会長……」

杏「今は、一人にしてあげようよ」

みほ「でも!」

杏「西住ちゃんの言う通り、ずっと一人で考えてもいいことなんかない。でも、一人で考える時間もまた、必要だと思うよ」

みほ「それは……そうかもしれないけど……」

麻子「じゃあ、ごめん。皆……さよなら」


と、と、と、と……──。


そど子「……。……っ! 私、冷泉さんにもう一言だけ、言ってくる!」


たったったったっ……。


華「……」

優花里「……」

梓「あの、私達、これでよかったんでしょうか……」

杏「皆、本当によく頑張ってくれたよ。ありがとね。えらいえらい……」

みほ(もう……頭が、ぐちゃぐちゃだ……)

みほ(……そういえば、会長、お母さんに電話しろって……)

みほ(……でも、ただでさえお母さんとしゃべるのは緊張するのに、今みたいな気持で私、お母さんとちゃんと話しができるのかな……電話はまた今度にしようかな……)


──自分の生活や命を犠牲にしてでも私を助けてくれる……そういう人が、私にはもういないんだ!──


みほ(……そうだった……私だって、少しくらいは、その気持を理解してるつもりだよ……麻子さん……)

みほ(けど、私にはお姉ちゃんがいる……お姉ちゃんなら、きっと私のためになんだって……)

みほ(けど、待って……もし、お姉ちゃんに子供ができていたら? そしたら、お姉ちゃんは……)

……ゾクッ……

みほ「あぁ……これなんだね。この感じなんだね……麻子さんっ……」






沙織「……。ハッ。あれ? 皆、どうしたの……? ていうか、私はいつから……」

優花里「……」

華「……」

沙織「わっ、ていうかていうか、戦車道全員集合してるじゃん! いつの間に!? ……あれ? 麻子は?」

華「……沙織さんなら、もう少し麻子さんに言葉をかけてあげられたのでしょうか……」

優花里「……でも、よけいに大騒ぎになってた気もしますねぇ……」

華「そうですねぇ……」

沙織「な、なによ……一体なんなのよぉ!?」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



97:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/16(金) 22:45:18.24ID:AVJNjYl5O

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優花里「園殿、もどってきませんね……もう、夜になってしまいましたが……」

みほ「ずっと、麻子さんと一緒にいるのかな……」

優花里「かえって来ないということは、おそらく……」

みほ(麻子さん、そど子さん……)

華「今晩は皆さんで一緒に戦車倉庫に泊って、明日の朝に皆で保健施設へ行く──という話は、みどり子さんにもちゃんと伝わっているのですよね?」

優花里「ええ、風紀のお二人がメールをしてくれてます。ただ、返信は無いし。電話にも、出ないって……。冷泉殿には、今はちょっと、連絡しずらいですし……」

みほ(麻子さん、明日、ちゃんとここへ戻ってきてくれるかな……)

みほ(私も、麻子さんのところへ行きたい。麻子さんの気持ち私にもわかるよって、伝えたい。だけど今は、私の声、麻子さんには届かないのかもしれない……)

みほ(お願いです、そど子さん、もしも麻子さんと一緒にいるのなら、どうか、麻子さんの事を……)

優花里「武部殿の様子は、どうです?」

華「……沙織さん? 沙織さん?」

沙織「……。うう、……ううぅ……シングルマザーなんていやあ……」

華「まだ、だめですねぇ」

優花里「華さんの肩に顔をうずめて、ずーっと寄りかかったままで……よほどショックだったんですねぇ」

華「髪の毛が垂れて顔が全くみえません。沙織さん、貞子さんみたいになってますよ? それに、ずっと倉庫の床に座っているせいで、さすがに足がしびれてきました……」

みほ「あの……優花里さんと華さんは、思ったりよりも落ち着いてるんだね。二人が冷静でいてくれて、本当によかった」

優花里「いやぁ、私だってもちろん、何が何だかって感じではありますが」

華「ある意味、冷泉さんと沙織さんのおかげかもしれません」

みほ「……?」

優花里「あ、私もそれ、わかります。身近な人がパニックになってると、なんだかかえって自分は落ち着けるんですよね」

優花里「それに、西住殿も、会長も、そして紗希ちゃんも……私の理解できない何かと、戦ってるんだなって、思うと」

華「もちろん、にわかには信じられません。妊娠、だなんて。でも、みなさんの真剣な様子をみていると、とても嘘や冗談だとは」

優花里「冗談であって、ほしいんですけどね」

みほ「……」




98:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/16(金) 22:46:50.03ID:AVJNjYl5O


みほ(会長。順番に公表していくっていう会長の目論見は、やっぱり正しかったんだと思います。皆で一緒にパニックに、だなんて、私の考えは、ごめんなさい、甘かった……。麻子さんとだって、本当ならもっと落ち着いて、私達だけで話せたはずだった)

みほ「ねぇ、優花里さん、華さん」

優花里「はい?」

みほ「二人も、戦車道なんか、やるんじゃなかったって……やっぱり思った?」

優花里「……。」

華「……。それは……」

みほ「私、麻子さんの言ってたこと、認めたくない。でも、そう考えてしまっても当然だって、そうも思うの……」

優花里「……もしも……この先、例えば子供を抱えながら人生に絶望するような事になてしまったら、その時はやっぱり私も、そういう風に考えてしまうのかもしれません」

みほ「……」

優花里「ですが、今はまだ、そんな風には思いませんし、やっぱり……思えませんよ」

みほ「……本当?」

優花里「本当ですよ。私だって、戦車道のおかげで、こうして皆と仲良くなれたんです。西住殿と気持ちは同じです。だから、冷泉殿の言葉は……やっぱり少し、悲しいです」

華「麻子さんも、動揺してしまっていただけですよ。きっと」

優花里「私もそう思います。ただ、お父さんとお母さんの話は……私、何も言えませんでした」

みほ「……」

華「もちろん、誰しも少なからずは、麻子さんと同じ事を考えてしまうと思います。けれど、決してその気持ちだけが全てでは無いはずです。……私だって、そうですから」

優花里「そう、ですよね」

沙織「──麻子、そんな事を言ったんだ」

みほ「沙織さん」

沙織「みぽりん、私ね……私は……」

華「──沙織、さん。いいんです」


 ぎゅっ


華「今は、何も言わなくていいんですよ。考えなくていいんです。ずっと私が、こうして沙織さんの側にいます。だから、何も言わずに、ね?」

沙織「……。ありがと、華。……グス……ひっく……たまごクラブはまだ早いよぅ……」

華「よしよし」

みほ(ありがとう、二人とも、本当にありがとう……二人のおかげで……私も頑張らなきゃって、また、思える)

みほ「……。ごめんね皆、私ちょっと、電話してくる」

優花里「電話、ですか?」

みほ「うん。実は……お母さんが、電話しろって」

優花里「あぁ……、私も、もう少しいろんな事がはっきりわかったら、お父さんとお母さんに、話さなきゃ……。でも、私は連盟の人に、同席してもらおうかなぁ」

華「お母様、きっとまた卒倒してしまいます」

みほ「私も本当は、まだちょっと、電話しようかどうしようか迷ってるんだけど……でも、とにかくちょっと、外に行ってくるね」

優花里「あの、西住殿も、あまり根をつめないでくださいね。その……西住殿だって、もしかするとお腹に……」

みほ「うん……心配してくれてありがとう」

沙織「……早く帰ってきてねみぽりん……すん、すん……」

華「よしよし」




 たったったった……




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99:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/16(金) 22:47:32.93ID:AVJNjYl5O

みほ「紗希ちゃん、皆、ちょっと様子を見に来たんだけど……って、えええ!? みんな、いったい何をしてるの……?」

梓「あ、西住隊長!」

桂利奈「今、皆で紗希ちゃんの子宮を皆であっためてます!」

みほ「し、子宮!?」

あや「ネットで調べたんだけど。とっても効果あるらしいですよっ」

みほ「えと、何に?」

優希「さぁ~?」

あゆみ「でも、こーやって、オヘソの下あたりをてのひらでクルクル~ってなでられると、暖かくて気持ちいいんだよねっ、紗希!」

沙希「……」コクン

みほ(あ……紗希ちゃん笑ってる……よくわからないけど、よかった……)





 ……カッパン……

みほ「こんばんは、会長、みなさん……別に用事はないんですけど、どうしてるかなって」

杏「やぁ、こっちはいつも通りだよ。今夜もこーやって、河嶋と添い寝だ」

桃「しかし、どうしてヘッツァーの中で……狭い」

杏「だって、私がウンウンうなされてるのを目の当たりにしたら、皆まで不安になっちゃうでしょ?」

桃「……っ。会長! 私が、私が一緒にいますから!」

 ぎゅっ

柚子「……ずるい! ねぇ桃ちゃん、やっぱり、私も、ヘッツァーの中に入りたいよっ」

桃「だめだっ、万が一妊娠したらどうする!?」

柚子「桃ちゃんか会長かとの子供なら、私頑張って育てるもん!」

桃「はぁ!?」

杏「あははは、そんときゃみんなで、一緒に赤ちゃんそだてよーね~」

桃「二人とも、冗談が黒すぎます!」

みほ「はは、ははは……」

みほ(すごいなぁ。三人とも、一緒にいれば、どんな時でも元気でいられるんですね……)



100:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/16(金) 22:48:59.95ID:AVJNjYl5O

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みほ(夜の校庭って、静かだなぁ。明かりがついてるのは、戦車の倉庫だけ。……皆あそこにいるんだって思うと、なんだか、安心する……。あ、星がいっぱい。今、太平洋のどのあたりを航行してるのかな……)

みほ(……)

みほ(麻子さん、戦車道をしなければよかったなんて、やっぱり、私には思えないよ。戦車道も、みんなも、そのどちらが欠けても、今の私にはたどりつけないんだもの)

みほ(……。)

みほ(お母さん、戦車道は、どうなってしまうんですか? お母さんは今……何をしてるんですか……?)

みほ(……お母さん……)


 ごそごそ

 ピッ、ピッ、


みほ「最後にお母さんと話しをしたの、いつだろう。履歴には……もちろん残ってないよね。えと、電話帳」

みほ「……あ……」

みほ(──アンチョビさん、お姉ちゃん、カチューシャさん、ケイさん、ダージリンさん、西さん、それに、直接の連絡先は知らないけれど、ミカさん達も……。皆、どうしてるだろう。皆も今、大変なのかな。もう少し落ち着いたら、連絡してみよう……)


 ピッ、ピッ、

 ->『お母さん』


みほ「……。」

みほ(だけど、電話をして、お母さんと、いったい何を話すの?)

みほ(……ううん、話をするために、電話をするんじゃない。私の知らないことを教えてもらうために、電話するの。戦車道の事や、それに……お姉ちゃんの事)

みほ「……。」

みほ「よし、電話……するっ」

みほ「──すぅ、はぁ──えいっ!」ピ


 ツ、ツ、ツ──プルルルルルルル! プルルルルルルルル!


みほ(心臓が、すごくドキドキいってる……そうだよ、お母さんと最後に話したのって、私がまだ熊本にいたころなんだ……私が戦車道から、逃げ出した頃……)


 ──プルルルルルルルル! プルルルルルルルル!


みほ(……もしかして、お仕事中なのかな……やっぱり、また今度に──)


 プルルルルルルル! プルルル、ぷっ、



『──はい』



みほ(──!)



101:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/16(金) 22:50:27.65ID:AVJNjYl5O


みほ「あ、も……もしもし、お母、さん……?」

しほ『……みほ』



 ──ドクン──!



みほ(あ……名前、呼ばれたの、久しぶりだ……お母さんが……私の名前を……み、ほ……)



しほ『みほ? 聞こえてるの?』

みほ「……っ、ご、ごめんなさい。あの……久しぶり、です」

しほ『そうね、ずいぶんと、久しぶりね』

みほ「そ、そうだね」



みほ(……えと、なんだけっ、そ、そうだ、まずは戦車道のことだっ。お姉ちゃんのことは、まだちょっと、聞くのが怖い……)


みほ「あ、あの──」

しほ『──それで、例の話は、聞いたわね?』

みほ「──へ? ……う、うん……」


みほ(……。)

みほ(……あはは……お母さんらしいや。単刀直入)

みほ(……そっか、そうだよね……)

みほ(お母さんだって、私と無駄話をしようとは、思ってないよ。そうだよね……お互い、必要な確認をするだけなんだよね……うん、ちょっとだけ、落ち着いた……)

みほ(……すぅ……はぁ……)



みほ「あのね、お母さん」

しほ『ええ』

みほ「戦車道、これから、どうなっちゃうのかな」

しほ『……え?』

みほ「お母さんも今大変だと思うけど、何か知ってたら教えてほしいの。戦車道がこれから、どうなっていくのか……。戦車道連盟は、どうするつもりなのかとか……」

しほ『……。みほ? もう一度確認するけど、あなた、例の話、本当にちゃんと聞いたの?』

みほ「? うん。私達が妊娠するかもっていう、話だよね……?」

しほ『……妊娠検査は、もう、受けたの?』

みほ「ううん。明日、皆で病院に行くことになると思うけど……」

しほ『……そう……』

みほ「……?」



みほ(なんだろう? まるで、お母さん、なんだか少し、戸惑ってるみたいな……)



102:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/16(金) 22:51:48.19ID:AVJNjYl5O



しほ『……まぁ、いいわ。知りたいのなら、答えましょう』

みほ「え?」

しほ『まず──戦車道そのものがこの先どうなるかについて、現時点では明確に言える事は何もありません。次に、戦車道連盟がどうするつもりか、という質問。その質問はすでに無意味ね。この件についての主導は、すでにWHOや各国の研究機関に移りはじめてる。人道問題調整事務所も動きはじめていてそれが少々厄介だけれど……とにかく戦車道連盟は、いまや執行機関の一つにすぎない。たまたま当事者になっただけの、ね』

みほ「へ!? ちょ、えと……だぶるえいちおー? って……なんだっけ……」

しほ『……。みほ、戦車道以外の事も、もう少し勉強なさい。あなた、学校の成績は大丈夫なの?』

みほ「ふぇ!? が、学校の成績!? それは、えと、はい……ごめんなさい……頑張ります……」

しほ『……ふ』



みほ(え……お母さん、今、笑った……?)


しほ『……本当に、少し、意外ね』

みほ「……?」

しほ『今回の事で、もっと取り乱しているかと思ったのだけれど』

みほ「あ……うん、それはもちろん、びっくりしたし……いろいろあったけど……ていうか今も、色々あるんだけど、まぁ、なんとか……」

しほ『それに、イの一番に戦車道がどうのと、おかしな子』

みほ「そ、そんなに、変かな」

しほ『戦車道はイヤだと泣いて、黒森峰から──西住流から逃げ出したのは、あなたでしょう』

みほ「うっ、それは、そうだけど……お母さんってば、エ……逸見さんみたい」

しほ『逸見? ……あぁ、あの子……』



みほ(……? 何だろう、今の、含んだ感じ……)



しほ『まぁいいわ、みほ』

みほ「っあ、は、はい」

しほ『とにかくあなた──熊本に戻ってきなさい』



みほ(──え?)



しほ『万が一あなたも身ごもっているのだとしたら、大洗に一人でいるわけにはいかないでしょう』

みほ「……えと、それって……ほんとに言ってるの……?」

しほ『……? 何? 変なことを、言ったつもりはないけれど』

みほ「だって……いいの?」

しほ『いいの、とは?』

みほ「だってお母さんさっき、私は、黒森峰から──ううん、西住流から逃げ出したって……」

しほ『……そうね。あなたを破門することも、一度は考えたけれど』

みほ「じ、じゃあ、なおさらどうして……戻れ、だなんて……お母さんがそんな事を、言ってくれるなんて……思わなかった」

しほ『……。みほ』



みほ(あ、今……なんだか少し、お母さんの声が、怒った……)



103:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/16(金) 22:53:24.58ID:AVJNjYl5O



しほ『では、あなたは今後いったいどうするつもりなの?』

みほ「え?」

しほ『仮に妊娠していたとして、あなたはいったいどうやって生活をしていくの?』

みほ「え、えっと、それは……その、いろいろと頑張って──」

しほ「──ツワリに、訳の分からないイライラに、どんどん重くになる体に、定期健診や社会保障の手続きや妊娠からくるその他もろもろのあらゆる多種多様な不都合面倒事それら全てに、いったいどうやって対応していくつもりなの。あなた、ひとりで』

みほ「ひ、一人じゃないよ! その……みんなで、力を合わせて……」

しほ『……ハァ……みんなとはいったい誰。そのアテを、今ここで私に聞かせなさい』

みほ「え、えと、えと、生徒会ちょ──」

しほ『──まさか、大洗の学生だなどと言わないでしょうね』

みほ「──ひぁぅっ!?」

しほ『経済的にも生活能力的にも社会的にも貴方とそう大差のない能力しかなく、しかもそれぞれが重大な身体的精神的負担を抱えた未成年の友人が貴方の言う『みんな』だなんて、もちろん言わないでしょうね。そうよね? みほ』

みほ「あ、う、え……そ、その、戦車道連盟の、人、とか、先生、にも、いっぱい相談して……その……」

みほ(うああ!? ……な、なんだろう!? 私いま、すごく恥ずかしい! み、みんなで頑張ろうって、そんなに間違ってないはずのことなのにっ!?)

しほ『……ハァ……』

みほ(なんで!? 私、今、自分がすっごくバカみたいだよぅ! なんでこんなに、情けない気持になるの……!?)

みほ「だ、だって!! しかたないよ!! だって……私はもう、自分でなんとかしなきゃって、思って……」

しほ『自分で、ねぇ……』

みほ「う……」

しほ『……もっとも、そうさせたのは私の責任でも、あるのでしょうけれどね』

みほ「え……?」

しほ『みほ、聞きなさい』

みほ「は、はい」

しほ『私は鬼のような母親でしょうけれど、鬼ではないわ』

みほ「……う、うん……」

しほ『実の娘がこんな理不尽な目にあっているというのに、それを捨ておく親が、いったいどこに戦車道にありますか』

みほ「じ、じゃあ、お母さんは、私を……助けてくれるの……?」

しほ『……あなた、自分が自立しているとでも思っているの? 思いあがるものではないわね。あなたの学費をいったい誰が払っているのか、よく考えてごらんなさい』

しほ『それに……親子の縁を切った覚えもない』

みほ「で、でも……! お母さんは、もう、私のことなんて……興味ないんだって、私は……」

しほ『……。あなたもしつこいわね』

しほ『……みほ、一度しか言わない』

みほ「……?」

しほ『大会決勝と、大学選抜戦と、みなの先頭に立ってよく戦いぬいた。……立派だった』

みほ「──っ!?」

みほ「……っ、ちょ、……ちょっと、待って」

しほ『何』

みほ「……いきなりそんなの……ずるいよ……」

しほ『あなたがいう事を聞かないからでしょう。とにかく、わかったら、熊本へかえってらっしゃい。何もかも、今までとはもう状況が違うのだから』




104:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/16(金) 22:58:15.99ID:AVJNjYl5O

みほ「……」

みほ「あの、お母さん」

しほ「何?」

みほ「私、どうしても、今すぐには帰れません。大洗には、私の仲間と戦車道が、あるから……ごめんなさい」

しほ「……そう……。……わかりました。では、そうね……明日、検査だと言ったわね。なら、一週間以内にはに結果がでるでしょう。それから、また連絡をするように。いいわね? 必ずよ」

みほ「うん」

しほ「じゃあ、切るわね」

みほ「。あの、お母さん」

しほ「なに?」

みほ「ありがとう」

しほ「……。何かあったら、いつでも連絡をしなさい。……みほ、切るわよ?」

みほ「うん。ばいばい、お母さん」



 ……プツ……ツー、ツー、ツー



みほ「……。」


みほ(お姉ちゃんの事、聞けなかった)


みほ「……っ。……っ」


みほ(戦車道の事も、もっと、よく確認したかった)

みほ(それに、ツワリの事も、もしかしたらって事も、伝えられなかった……だって……私、もう、……我慢、できなくて……っ)



みほ「……ひっ……はぁっ……ひっく……」


──皆はいいよね……皆はお母さんもお父さんもいるから、いいよね!!!──

──ちゃんと、お父さんとお母さんが助けてくれるから、いいよね!!!──


みほ(……麻子さん、……っ)


──親って、そういうもんなんだ。そういう人が……私にはもういないんだ!──


みほ「ああっ……うぁぁっ……ああああっ」

みほ(麻子さん、ごめん、ごめんね……私、お母さん、いたよ。私、お母さん、ちゃんと、まだいてくれたよ。ごめんね、ごめんね、私だけ、ごめんね……)

みほ(見ててくれた)

みほ(私の事、ほめてくれた)

みほ(すごく嬉しかった。麻子さん、お母さんがほめてくれるって、こんなにうれしいんだ……!)

みほ(それなのに、麻子さんにはもう、お母さんいない……)

 ……ゾク……

みほ「ああ……あああっ……うぁっ……ひぐぅ……っはぁっ……ぐす……ひっく……おがぁ、ざぁん……おかぁさんのばか……あぁぁ……」

みほ(麻子さんになんて言ってあげればいいのか、私には、もう、ぜんぜん分からない……)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



125:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/22(木) 14:16:13.13ID:2mg/JtFUO

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……リー、リー……リー……


華「……スー……スー……」

優花里「……ムニャムニャー……」

沙織「……くぅー……くぅ……うぅ、華やめて子どもできちゃうよぉ……くぅー……」


みほ(……。)

みほ(ぜんぜん眠れない……)

みほ(麻子さんの事が、頭の中でぐるぐるグルグル)

みほ(麻子さん、もしかしてこのまま戦車道やめちゃうのかな……妊娠を絶対に避けようとするのならそれしか……けど今の時点で妊娠していないのなら今のところは今後も大丈夫なはずだって……だったらどっちみち今更戦車道をやめてももう……かといって100%安全ってわけじゃ……でもでも……)

みほ(ああ、もう、あたまがグチャグチャ……)

みほ「……うっ!?」

みほ(また吐き気っ……だめっ!、ここで吐いたら、眠ってる皆に迷惑が……)


 だだだ……


みほ「うぇッ、ぐ、せめて手洗い場までがまんを……あッ、駄目ッ、……オゥイエッ! オゲェェェェェェ!!!!」


 プシャアアアアアア!!!

 ……ぽと、ぽと……


みほ「うぅ、なんとか倉庫の外にはでたけど……口元を手でぐっと塞いでたせいで、お汁が飛び散っちゃった……うぅ、パジャマも顔も……べちゃべちゃ……汚いよぅ……」

みほ(あぁ、やっぱり、どう考えても私、妊娠……っ……)

みほ「っ……っ……もぉぉぉぉ……っ!!!!」

みほ「パジャマも、臭いしっ! 顔も、臭いしっ!、頭の中は、グっチャグチャだしっ!、なにもかもどうにもならないしっ! もうっ、やだぁっ!! どうして私が!!……うぅ……ぐすっ……なんでこんなに惨めな思いをしなきゃいけないの……?」

みほ(眠ろうとしても瞼の裏で嫌な考えがグルグルまわりだしちゃうし起きててもいろんな心配事が頭の中でぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるッ!!!……もう疲れたよ……何これ、妊娠ってこんなに辛いの……?」 

みほ(ていうか……まだ一日目!? 妊娠って、何か月も続くんだよ!? しかもそのうちお腹が大きくなりはじめて……? あは、ははは……うそだ……。私、お母さんだなんて、絶対無理だ……)

みほ「そりゃ麻子さんだって絶対妊娠したくないって思うよ……でも、戦車道の事はやっぱり……って、あああもおおおお! また!? ぐるぐるぐるぐる同じ事ばかり!!!! そんなの今考えどうするの!!?? どうにもならないって言ってるでしょ!!!??? もう嫌っ!! 誰か、助けてっ──」


 ──何かあったら、いつでも連絡をしなさい──


みほ(……ッ!)

みほ(……いやいや、駄目にきまってるよ……何を考えてるの……?)

みほ(だって、何時間か前に、わたし今は大洗で頑張りますって電話をきったばっかりだよ!? それに今、真夜中だよ……?)



126:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/22(木) 14:16:41.51ID:2mg/JtFUO


みほ(……。)


 ごそごそ

 ……ピ

 ->『お母さん』


みほ「……お母さん……」

みほ(あ、ディスプレイにお汁がついちゃった……まぁどうでもいいや……自分の吐いたものだし……)

みほ(……。)

みほ(……。)

みほ「……ぐすっ……お母さんの声、もう一度聞きたい……。だって、あんなに優しくしてもらえるだなんて、思ってなかった……お母さん……」

みほ「でも、絶対怒られる……せっかく褒めてもらえたのに、また呆れられちゃう……でも、でも……」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



しほ『……。』

みほ「……。」


みほ(電話、しちゃった……)



127:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/22(木) 14:17:24.05ID:2mg/JtFUO

しほ『……みほ』

みほ(ぁ……お母さんの声だ……)

みほ「お、お母さんっ」

しほ『……。たしかに母は、いつでも電話しなさい、と、みほに言いました。……6時間ほど前に』

みほ「……はぃ」

みほ(うぅ、すっごく不機嫌そう……当たり前だけど……)

しほ『私は、鬼ではありません。ただし、鬼のような母親ではある。貴方はそれを忘れるべきではないわね』

みほ「……ごめんなさい……」

しほ『今、何時だと思ってるの』

みほ「えと、その、午前3──」

しほ『答えろとは誰も言っていません』

みほ「──ひぅっ……すみません……」

しほ『ハァ……少しはシャンとしたかと思ったのだけれど、買いかぶりだったのかしらね』

みほ「……うぅ……」

みほ(やっぱりすっごく怒られた。なのに……やっぱりお母さんの声をきいたら、ホッとしちゃって……あ、だめ、涙が……)

みほ「……ぐす、ひぐ……うぅ……」

みほ(あぁぁぁ、だめ、だめ、さっきはせっかく我慢してたのに……でも、もう……胸のおくから嗚咽が溢れてきちゃって、とめられないよぅ……)

みほ「……えぐっ……ごべんなざぃ、でも、お母さんにどうしても相談したいことがあって、ひぐっ、私、頭がもうグチャグチャで、どうしていいのかわからなくて……ぐすっ……もう、どうしようもなくて……」

しほ『……。貴方はそれでも西住の女ですか……と、本来ならば叱りつけなければならないわね。けれど、まぁ今回は……あなたたちの特殊事情をかんがみて、特別に不問とします』

みほ「……ぐす……」

しほ『みほ……妊娠について、もちろん不安な事はあるでしょう。言ってみなさい。母が聞きます』

みほ「うぅ、ありがとう……実は、戦車道のことで……」

しほ『……はあ?』


みほ(……わ、お母さんもこんなすっとんきょうな声をだすんだ……)


しほ『……。転校させたのがかえって良かったのかしら』

みほ「……?」

しほ『まぁいいわ。で、何ですって?』

みほ「私の友達が、もう戦車道をやりたくないって……」

しほ『……ああ、やっぱりみほだったわね』

みほ「???」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



128:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/22(木) 14:22:47.93ID:2mg/JtFUO

みほ「──という事なの。だから、妊娠なんか絶対にしたくないって……。お母さん、私、どうしたらいいのかな……」

しほ『……おおよその事は理解できた。けれどそれなら、悩むまでもなくい、簡単な話でしょう?』

みほ「え、ええ……?」

しほ『妊娠をどうしても避けたいのなら、戦車道にかかわるのを止めてあなたたちともいったんは距離を置く、それで解決する話です』

みほ「え……」

しほ『もちろん、検査の結果妊娠していなければ、だけど』

みほ「も、もしも、麻子さんが妊娠していたら……?」

しほ『……幸い、おばあ様は比較的元気なのね? なら、学園艦を降りておばあ様と同居するか、あるいはおばあ様に乗船してもらって同居……どちらにせよ、親族と同居、という形でなければ、文科省は許可しないでしょうね』

みほ「も、文科省……!?」

みほ(……うぅっ、あの眼鏡の人の嫌な顔が……あぅ、また気分が悪くなりそう……)

しほ『あるいはもしかすると──』

みほ「……?」

しほ『いえ、まぁいい。それよりも、みほ。いま聞いた限りだと……そもそもあなたが騒ぎ立てなければ、まったくもめるような話ではなかったはずよ? それは分かっているの?』

みほ「……え?」

しほ『……まぁ、それに気付いていればこんな事にはならないものね。……みほ、もしもその子が、妊娠はしたくないから戦車道はやめる、と言ったら、あなたはどうするの? 感情的な事は捨て置いて、判断してみなさい』

みほ「……。それはもちろん、麻子さんがそういうのなら、しかたないって、思うけど……」

しほ『では、あなたは昨日、その子……麻子さんの、何を責めたの?』

みほ「え? それは、『戦車道なんかやるんじゃなかったって』って言われて、そんな事をいわれたのがショックで」

しほ『貴方らしいわね。ところで、麻子さんは、貴方や戦車を嫌いになったから、そんな事を言ったのかしら』

みほ「……ううん、そうじゃなくて、麻子さんは妊娠が怖くて怖くて、たまらなかったから……」

しほ「おそらくはそうでしょう。それなのに……みほ。あなたはその時、麻子さんの言葉を、違うふうに受け取ったのではないの?』

みほ「……? 違うふうに……?」

みほ(……。)

みほ(あの時、私は……。)


 ──戦車道なんて、やるんじゃなかった!!!──


みほ(麻子さんのその言葉が、まるで私達の友情をないがしろにしているように感じられて、それに反発して……)


 ──それは違います! そんな事いわないでください! 戦車道のおかげで私は皆と出会えたんです! 麻子さんとだって……!──


みほ「……あれ?」

みほ(……麻子さんは感情的になって口走ってしまっただけで、その言葉が本心の全てだったわけじゃない。にもかかわらず、あの時私は、自分も感情的になって、麻子さんの言葉を大声で責め立てて……)

みほ(……。)

みほ「……あ……!?」

しほ「……。」

みほ(私が……そうやって叫んだから!? そのせいで、まるで、麻子さんが混乱して間違った考えにとらわれているんだ、みたいな印象を与えてしまって、それがみんなにも伝わって──!?)


 ──ちょっとあんた!、偉そうに、なにを悲劇にヒロインぶってるのよ!──

 ──麻子さん、私達、ずっと一緒に頑張ってきたじゃないですか──


みほ(……麻子さんは妊娠が怖かっただけ! それなのに、みんなで麻子さんを裏切り者みたいに責め立てて……!!!)

みほ(……え!? 私、私……麻子さんにすごくヒドイことをしてしまった!?)

みほ「……ど、どうしよう、私……私……!」

みほ(麻子さんが、会長や紗希ちゃんを嘘つき呼ばわりして、私、麻子さんを責めてたんだ! そしてその気持ちのまま、麻子さんの発言を大声で責めて……ああ! 私! ……なんてことを!!)

みほ「……あ、あやまらなきゃ、麻子さんに、謝らなきゃ……!」



129:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/22(木) 14:24:51.66ID:2mg/JtFUO

しほ『……。みほっ! ……落ち着きなさい。みっともない』

みほ「っ!?」

しほ『そうやって感情的になるから、おかしな事になったんです。また繰り返す気ですか?』

みほ「……あ……は、はい……すみません……」


みほ(……。)

みほ(あはは、は……やっぱりお母さんに怒鳴られると……バケツ一杯の冷たい凍りみずを浴びせかけられたみたいな気になる……)

みほ(……でも、おかげでちょっぴり、頭が冷えた……)


みほ「……お母さん」

しほ『なに』

みほ「ありがとう、どうしたらいいのか、少しだけ、わかってきた気がする」

しほ「あなたがどうにかする話では、そもそもなかったのよ。……まぁ、身から出た錆です。あとは自分で考えて、自分でなんとかなさい」

みほ「……うん!」

しほ『それにしても……貴方の甘えた発言一つで、そこまで揉められるとは、大洗らしいわね。黒森峰では、まず起こり得ない話です』

みほ「……う……」

しほ『そもそも西住流にとっては、どのような理由であれ戦車道をやる気の無い者などはもはや論外。もとより思慮に値しません』

みほ「……。」

しほ『と、そんな小言を、これまでならばあなたに言ったのでしょうけれど』

みほ「え?」

しほ『みほ』

みほ「は、はい?」

しほ『貴方は自分なりに戦車道に向き合っている、それは前の電話のおりにも感じました。それについては母として評価します。』

みほ「あ、ありがとうございます……」

みほ(嬉しい……)



130:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/22(木) 14:28:01.72ID:2mg/JtFUO

しほ『けれどね』

みほ「え?」

しほ「貴方はもう、戦車道や友人をの問題を、生活の中心に据えて考えてはいられないのよ? ……それが分かる?」

みほ「あ……。妊娠……してるかもしれないから……?」

しほ『そう。万が一本当に妊娠していたなら、貴方の生活はこれからどんどん変化していく。どうしようもなく変わらざるをえない。これからの日々においては、自分にとって何が大切なことなのか、何を大事にすべきなのか……それをちゃんと意識しておきなさい。あなたは今、それを考えなくてはならない時期にさしかかっているのよ』

みほ「……はい。お母さん……」

みほ(……。)

みほ(つわりの事……言っておこうかな……)

みほ「……。……あの、おかあ、……さん」

しほ『なに?』

みほ「……わたし……」

みほ「……。」

みほ「……ううん、なんでもない」

しほ『……そう』

みほ(……。結果がはっきりしてから、ちゃんと伝えよう……勘違いの可能性だって、まだあるもんね、そうだよ、きっと、勘違いかもしれないよ……)

しほ『……。ところでみほ。まほの、事だけれど』

みほ「……!」

しほ『あの子は元気にしている。だから、心配しなくていいわ』

みほ「お姉ちゃんは……妊娠……大丈夫……?」

しほ『……。ええ、大丈夫』

みほ「そうなんだ……! そっか! よかった……!」

しほ『……。あなたは、今はまず自分の身体のことを一番に考えなさい。いいわね』

みほ「うん……ありがとう」

しほ『……あぁ、それともう一点』

みほ「……?」

しほ『深夜の電話は、なるべくひかえてちょうだい。絶対にするなとは、言わないけれど』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ……ピ


みほ「……。」

みほ(私、麻子さんに、ひどい事をしてしまったんだ)

みほ(麻子さんの気持ちを、ないがしろにしてしまったんだ)

みほ(……黒森峰にいたころ、お母さんが、私にそうしたように……)

みほ(でも、今は、そのお母さんのおかげで、私……うんっ)

みほ(私、まだまだ頑張れるよ。ありがとう、お母さん)

みほ(夜が明けたら、皆で……麻子さんの家に行こう。そして、ごめんねって、麻子さんの気持ちを大事にするよって……)

みほ「……ふぁぁ……」

みほ(……なんだか少し、眠くなってきちゃった……よかった、これでやっと、眠れそう……)

みほ「……あ、パジャマ、体操服に着替えなきゃ……手と体も拭いて……ふぁぁ……」


 ……リー、リー……リー……


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



135:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/25(日) 10:54:32.67ID:27jkCpvxO

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 ちゅん、ちゅん……ちゅん……



華「──つまり、私達は麻子さんを不必要に追い込んでしまったと、みほさんはそうおっしゃりたいのですか……?」

みほ「そうです。全部、私のせいです」

優花里「いや、まぁ……仮に西住殿の話の通りだったとしても、別に西住殿一人のせいでは……」

柚子「そうだよ、だって誰も、そんな風には思わなかったんだし……」

梓「私達だって……ねぇ皆」

あや「えっとー……」

優希「ていうか、難しくてよくわかんない……」

あゆみ「私も……」

杏「まぁまぁ、今は誰のせいだとか、そういう事はどうでもいいじゃない。西住ちゃんは、どうしなきゃいけないと思うの?」

みほ「はい。麻子さんの家にいって、とにかく、ちゃんとお話しをしようと思います。皆で、と思ってはいましたが、ここは私が一人で……」

桃「ふむ」

みほ「ただ……その前に一つ、皆の気持ちを確認しておきたいことがあります」

柚子「私達の気持ち……?」

みは「はい。もしも……麻子さんが、ちゃんと考えたうえで『やっぱりもう戦車道はやりたくない、問題が解決するまでは皆とも会わない』と思うのなら、皆さんはどうしますか?」

杏「ん……ま、必ずそういう場面はくると、思ってたけどね……」

優花里「で、でもっ……麻子さんが、本当にそんな事をいうでしょうか……」

みほ「残念だけど、麻子さんだけではありません。やはり、他にもそう思う人がいて、当たり前だと思います。そうなったとき、私達は……どうするのか」

梓「西住隊長は、どう考えているんですか……?」

みほ「私は……できればその気持ちを、素直に受け入れてあげたいなって。今は思っています」

梓「……。そう、ですか……」

杏「ま、誰だって、こんな形で妊娠するのは、嫌だからねぇ……」

紗希「……」コクン

優花里「私は、やっぱり、認めたくありませんよ……」

華「優花里さん……」



136:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/25(日) 10:55:04.94ID:27jkCpvxO

優花里「もちろん、『お前が妊娠するかどうかなんてしったことか! 戦車道をやれー!』なんて事言えません……」

優花里「でも……戦車道は……私に人生を変えてくれたんです。大げさじゃなく、そう思います。……だから簡単には、認めたくありません……」

杏「けれど、どのみちしばらく、戦車道は活動できないからね……」

優花里「……」

みほ「優花里さんの気持ちは、私にもよくわかります。戦車道が私達に与えてくれたものは、あまりにも、かけがえのないものです。……だから……」

みほ(だからこそ……私は昨日、判断を間違えてしまったんだ……)

みほ「……。戦車道は、やめてもいつかまた、始めればいいんです」

優花里「……? また始める……?」

みほ「そうです。黒森峰で戦車道を捨てたはずの私だって、今こうして、大洗で戦車道をやっているんですから。それに、今回のことでやめる人達がいたとしても、戦車道を嫌いになって止めるわけじゃあないんです。だったら、皆の気持ちさえつながっているほうが、大事です」

優花里「それは……そうですが……」

華「私達の心がけしだいなのだと、そうおっしゃっているのなら……私には、少しだけ、わかります。」

優花里「……」

みほ「皆、賛成して……もらえますか?」

梓「ウサギチーム、賛成です。……ね?」

桂利奈「う、うん……」

紗希「……」コクン

杏「うちも異議なしだよ」

優花里「……ハァ……五十鈴殿、あとでちょっぴり愚痴、聞いてもらってもいいですか?」

華「ええ、いくらでも」

優花里「では、私も賛成です……うぅ」

みほ「……ありがとうございますっ」

みほ(……揉める必要なんて、本当に、どこにもなかったんだ……)

みほ「……。」

みほ「はぁぁぁ……」

優花里「西住殿? どうしたんです……すごい溜息……」

みほ「昨日のことは全部、何もかも、ただの茶番だったんだなぁって……」

優花里「茶番、ですか……?」

みほ「昨日麻子さんと言い争いをしたことも、いっぱいいっぱい悩んだことーんぶぜ必要なくて、何かがずれてたんだなって……、そう思うと、もう……なんだか私、自分が情けなくて……」

みほ「はぁぁぁぁぁぁぁ……。じゃあ……とにかく……麻子さんのとこへ行ってきますね……皆さん、朝早くからすみませんでした……」

杏「眠ってる皆には私から話をしておこうよ。まぁ、皆も賛同してくれるでしょ」

優花里「そういえば、武部殿もまだお休み中ですね」

華「昨日、ちょっぴり、うなされていましたね……」

優花里「武部殿にもまだ少し時間が、必要ですねぇ」

沙織「──皆、もう、起きてたんだね。……」

華「あら、話をすれば……」

沙織「あのね、今、そど子さんから電話があったよ……麻子の携帯から……」

優花里「へ!?」



137:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/25(日) 10:56:11.15ID:27jkCpvxO

みほ「そ、そど子さん、なんて言ってました!? 麻子さんと一緒にいるんですか!?」

沙織「う、うん……寝起きだったから、あんまり詳しくは聞いてないけど……とにかく、今から学校へくるって言ってたよ……?」

みほ「麻子さんは1?、麻子さんも一緒ですか!?」

沙織「えと、うん、麻子も一緒にって言ってたけど……」

みほ「……!!」

優花里「よ……よかったじゃないですか西住殿!」

華「麻子さん、やっぱり本気なんかじゃなかったんですよ! それとも、そど子さんが説得してくださったのか……」

みほ「うん、そっか……よかった……よかった! ……って、あれ……?」

華「? みほさん……?」

みほ(……。)

優花里「どうしたんでしょう、なんだか顔が赤いし……あ、それに顔が小刻みに震えてます……」

みほ(……あれ……? なに、もしかして……全部、私の考えすぎ? 早とちり? あれ? あれ……? じゃあ、何? 本当に何もかも、全部まったく私の一人相撲……?)

みほ(……だと、したら……)


わたし『麻子さん、戦車道をしなければよかったなんて、やっぱり、私には思えないよ』キリッ

わたし『戦車道も、みんなも、そのどちらが欠けても、今の私にはたどりつけないんだもの』キリリッ

わたし『私、麻子さんの言ってたこと、認めたくない。でも、そう考えてしまっても当然だって、そうも思うの……』キリリリッ


みほ(だとしたら、なんか、これって……すっごく恥ずかしい……!?)

みほ「うぁ……ぁぁああぁぁぁあああっ!?」


優花里「わああ!? 西住殿!? 急に頭を抱えてどうしました!?」

杏「ありゃ……西住ちゃんも、ホルモンバランス、くずれてきちゃったかなぁ……」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



優花里「もうそろそろお二人が到着するはずですね。……ねぇ西住殿、元気だしてくださいよぉ。朝ごはん食べましょ。レーション、おいしいですよ?」

みほ「うぅぅぅう……」

華「例え勘違いや早とちりだったとしても、色々と話し合いもできたし、ちゃんと意味はあったと思いますよ?」

みほ「……はぁぁぁ……」

沙織「みぽりん元気だしてよ……みぽりんが元気だしてくれないとなんだか私まで……はぁ……妊娠かぁ……」

優花里「あらら…沙織さんまで」

華「さぁさぁ沙織さん。ちゃんとご飯を食べないと、出るはずの元気だって引っ込んでしまいますよ? はい、レーション、あーん」

沙織「むぐ……」もそもそ



138:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/25(日) 10:57:09.55ID:27jkCpvxO

優花里「けど、なぜ園殿は、麻子さんの携帯から電話を……ご自分の携帯はどうされたのでしょう?」

沙織「後で説明するっていってたと思う……」もそもそ

華「お二人にも、色々とあったのかもしれませんねぇ」

優花里「そうですねぇ。……あっ」

華「どうかしましたか……? ……あっ。……みほさん、みほさん」


 とんとん


みほ「……ふぇ? 何? 華さん」

華「向こうの入り口、帰ってきましたよ。──麻子さん。そど子さんも」

みほ「え──」



 ──キィィィ……



麻子「……。あ……。」

みほ(……!)

みほ「ま──……っ」

みほ(……あ……あれ……私、どうして、こんなに……)

みほ「ま、こ……っ」

みほ(早とちりだったのかなって、さっきはあんなに恥ずかしかったのに……それなのに……私、麻子さんが、すごく嬉しい……麻子さんの顔をみれて、すごく嬉しい……!)

みほ「……麻子さん……麻子さんっ……!」



 たたたたっ……!



麻子「……西住さん」

みほ「麻子さん」

みほ(……あ……どうしよう、言葉がいっぱい、喉につっかえて、いっぱいすぎて……でてこない)

みほ「麻子さん、私、昨日……本当に、……っ」

みほ(ごめんなさい、怒っていませんか、戻ってくれてありがとう、会えてうれしいです、何があったんですか、どうしてもどってきてくれたんですか、……麻子さんは今、何を思っているんですか……ああっ……どれから口にすればいいの!?)

そど子「……ほら、冷泉さん。さっさと言いなさいよ。またおばあ様に、叱られるわよ」

麻子「……っ、邪魔をするなそど子っ。私だって、怖いんだ……。……。……あの……西住さん」

みほ「……。はい」

麻子「昨日は……昨日は、本当に申し訳なかった、と思ってる……すまなかった」

みほ(……!!)

麻子「すごく、後悔してる。……皆にも、会長にも紗季ちゃんにも、謝らせてほしい。そして、許してもらえるなら……皆と一緒に……また──うぷっ!?」

みほ「……麻子さんっ! 麻子さん……っ!」

みほ(はやとちりでもなんでもいい! とにかく麻子さんが戻ってきてくれて……本当によかった……!)

麻子「あの……許して……くれるのか……」

みほ「……私の方こそ! もう、きっと麻子さんは戻ってこないんだって……だけどそれはしかたないんだって……でも本当は……すごく寂しかったんです……」

麻子「よく、意味が分からない……でも、そうか、許してもらえるんだ……そうか、よかった……はは……は……」



139:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/25(日) 10:57:48.23ID:27jkCpvxO

そど子「ほらみなさい? だから言ったでしょ、心配する必要なんてどこにも……、……ごめん、邪魔ね。じゃ、先戻ってるから……」


 と、と、と……


<華『みどり子さん、お帰りなさい……心配をしていたんですよ』

<優花里『そうでありますよ、電話をしてくれればよかったのに』

<そど子『ごめんね。なんていうか……いろいろあったのよねぇ』



みほ「麻子さん……麻子さん……っ」

麻子「……もう、戻れないかもと、思ったんだ……私は、本当に一人になってしまうのかもって……そう考えたら……ひぐっ……はぁっ……すごく怖かった……えぐっ……」

みほ「麻子さんも、意外と早とちりなんですね……あは、は……ひぐぅっ……うぇっ……そんなわけ、ないじゃないですかっ……よかったです、本当に、早とちりで……よかった……」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



沙織「──お、おばあちゃんに電話したの!? 妊娠するかもって!?」

優花里「お、思い切ったことをしましたね……」

麻子「そど子にさせられたんだ。……私は話したくなかったのに」

そど子「そのおかげで冷泉さんは今ここにいるんだからね。感謝しなさい。おばあさまにも、電話をさせた私にもっ」

麻子「……。そど子」

そど子「な、なによ」

麻子「そど子の言う通りだ……感謝してる」

そど子「っ!? ……き、急にやめてよ、調子狂うじゃない……気持の悪い……」

麻子「っ、そっちが感謝しろっていったんだぞっ」

みほ「ま、まぁまぁ……」


<杏『お話し中すみません、みなさ~ん』、


みほ「……?」

そど子「何かしら」


<杏『えー次はー、ウェルシア前ー、ウェルシア前でーす……にひひぃ、バスの車内放送、一度やってみたかったんだよねぇ』

<柚子『会長っこんな時にふざけないでください!』

<杏『いいじゃん貸し切りなんだし。せっかく、全員そろったんだしさっ。明るくいこうよ』

<桃『……あ、いえ、運転手さん。気にせず大学病院まで直行してください』


そど子「……。」

みほ「あ、あはは……」

優花里「元気ですねぇ、生徒会の皆さんは……」

華「心強いじゃないですか。それに会長も嬉しいんですよ」

優花里「他のチームのみなさんも、とりあえず一人もかけることなく、一緒にこのバスにのれましたもんね。私も……嬉しいです……」

沙織「……ていうかさ、ていうかさ! 麻子のおばあちゃん、いきなりそんな話を聞いて、びっくりしなかった……? 大丈夫、心臓とまらなかった?」

麻子「最初は絶句してた。……心臓、止まっててもおかしくない雰囲気だったな」

そど子「やめなさい、縁起でもない」

みほ「麻子さん、それで……?」

麻子「ん……。ほんとうは私、戦車道をやめようかと思ってた。学校も……しばらく休むつもりでいた。おばあに電話するまでは……」



140:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/25(日) 10:58:46.24ID:27jkCpvxO






みほ「……!」

華「……。みほさんの、言う通りだったのですね……」

麻子「……? どういう意味だ……?」

みほ「はい。私……麻子さんの気持ちを考えたら、そうなってもおかしくないなって……すごく、悲しいけど、でもそれは覚悟をしておかなきゃって……」

麻子「そんな風に、思っててくれてたのか……」

みほ「……」

沙織「だ、だけど……せめて相談してよ! なんで一人でそういうこと決めちゃうの!? 私達友達でしょ!?」

麻子「……。相談して、解決するならいくらだって相談してる。だけど、こんな事どうしようもない……と思った」

沙織「そうかもしれないけど……なんか置いてきぼりにされるみたいで、寂しいよ……」

麻子「……。謝る……」

みほ「だけど麻子さん、そう考えていたのなら……どうして私達のところへ戻ってきてくれたの? 妊娠……怖くないんですか……?」

麻子「もちろん怖い。おばけよりも怖い。だけど……」

みほ「……?」

そど子「おばあさまに、すっごく叱られたのよね」

麻子「っ、なんでそど子が言うんだっ」

そど子「ふんっ。……昨日からずっとやきもきさせられたんだから……」

麻子「む……」

そど子「おばあ様には迷惑をかけられないから、絶対に妊娠なんかできない……冷泉さんがそう考えるのは当然だって、私も思った。だから正直私だって、しかたないかなって諦めてた」

麻子「……」

そど子「ただ、おばあ様にだけは絶対に連絡させなきゃって、ちゃんと私の見てる前で……」

麻子「……あの時はすごく腹がたった。なんでそど子にそんな事言われなくちゃならないんだって」

そど子「だって、そうでもしないと貴方、どうせずっとおばあさまにも黙ってたでしょう。心配をかけないようにって」

沙織「あー……絶対そうだ」

そど子「しかももし本当に妊娠してたら、この子はどうなっちゃうんだろう。なかなかおばあさまにも言い出せず、私達とも会わず……そんなの絶対にだめだって」

麻子「ぬぅ……」

そど子「だいたい……どうせ學校を休むくらいなら、いっそ、学園艦を降りておばあさまのところへ行ったほうがいいもの」

優花里「おぉ……園殿、意外と大人な判断するんですねぇ……」

そど子「意外ってなによっ。私が三年なの、忘れてない?」

麻子「私は忘れてた。……まぁ、それで結局無理やり電話させられて……妊娠の事とか、学校もしばらくはいかない、って話をした。そしたら……」

みほ「そうしたら……?」

麻子「死ぬほど怒られた」

みほ「ええ……?」

優花里「怒ることではないと思いますが……」

麻子「それはだな……むぅ、説明は下手だから、おばあに叱られた事を、話す……」

そど子「……冷泉さん。別に、何もかもを話す必要は、ないと思うけど……」

麻子「いや、皆には、聞いてほしい……」

沙織「……?」

麻子「……私が小学校のころ、私のお母さんとお父さんが事故で死んで……その時はすごく後悔したって、おばあは言ってた」

沙織「ちょ、、麻子……!?」

麻子「関係のある話なんだ。聞いてくれ」

沙織「そ、そう……」



141:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/25(日) 10:59:34.98ID:27jkCpvxO



麻子「私だけが、生き残ってしまって……おばあはそれが不憫で、毎日毎日後悔ばかりしていたそうだ。どうしてお父さんとお母さんがでかけるのを止めなかったんだろうとか、雨で予定がつぶれれば良かったのにとか、自分が病気になって引き止めればよかっただとか……とにかく、毎日毎日後悔をしてた……らしい」

みほ「……。」

麻子「自分が死んだらこの子はどうなるんだろう。いったい誰がこの子を守ってくれるんだろうって……すごく不安になって、育児施設に勤めている知り合いに話を聞いたり、保護施設に連絡をとってたりもしてたそうだ。そんな時に……テレビで、交通事故のニュースをやってたのを見て……」

華「……。」

麻子「可哀想な事故だったそうだ親も子供も、一家全員……。でも、おばあはそれを見て、ふと。……こう思って……。……。こう……」

優花里「……冷泉殿?」

麻子「……。ごめん、少しだけ……待ってくれ。今、しゃべると、まずい……。……。……ちょっと、だめだ。……。」

みほ(……。気付いてますか。麻子さんって、泣いてしまいそうな時、必死に無表情でいようとするんです。でも、唇がきゅっと固くなって、そんなの全部わかっちゃうんですよ……。なんだかちょっぴり、麻子さんらしいです)

そど子「無理、するんじゃないわよ……」

華「そうですよ、無理にお話しすることは、ないんですよ。麻子さんが戻ってきてくれたのなら、私達はそれで、いいんですから」

麻子「いや……。そど子……代わりに話してくれ」

そど子「いいの? 私が話して……」

麻子「いい」

そど子「……せめてこういう時くらい、名前で呼びなさいよね。ほら、外でも眺めてなさい。これ、ティッシュ」

麻子「……っ」


 ……ずびー……


そど子「えっとね……おばあさま、すこし気持ちが疲れてしまっていたみたいで、事故のニュースをみて、ふと思ってしまったのですって、その……」

そど子「この子も──つまり、冷泉さんも……お父様やお母様と一緒に……その、事故にあってしまっていたほうが……もしかして冷泉さんにとっては幸せだったのかなって……一人で残されるよりは……」

みほ「……!」

優花里「そんな……」

沙織「おばあちゃんが、本当にそんな事を言ったんですか……!?」

そど子「ええ、私も、横で聞いてた」

華「信じられません……」

そど子「きっと精神的にまいってたのよ……おばあさま自身、そんな事を一瞬でも考えてしまった自分に愕然としたって……」

みほ「……。」

そど子「すっごく自己嫌悪して、すっごく苦しんだそうよ」

冷泉「……ずび」

そど子「だけど、おばあさまってすごいのね、その時にちゃんと気づいたの。私にはまだこの子がいるんだ。起きてしまった事や、もう取り返しのつかない事を悔やんで、目の前にいるこの子まで失うわけにはいかない。この子のために、頑張らなきゃって」

沙織「……そうだよっ、それでこそ麻子のおばあだよ……!」

そど子「だからね、妊娠するかもしれないとか、したらどうしようとか、なるかどうかわからない事を心配して、目の前の友達を失うような事はするなって。あんたにはこの先一生もうできないような、すぎた友達なんだから、って。たぶん、昔の自分に麻子さんをかさねて、だからすごく怒ったのね」

優花里「いやっ、でも……すみません話の腰をおるようですが……だけど、それで本当に妊娠してしまったら……どうするんですか……?」



142:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/25(日) 11:00:20.40ID:27jkCpvxO


そど子「……あー、ここからはちょっと、めちゃくちゃだったんだけどねー……」

みほ「?」

そど子「えっと……『だいたい子供なんてどうせそのうちできるんだから、びくびくするんじゃないよ!』 とか」

みほ「ふぇ!? そ、そういう問題じゃないと思う……」

そど子「あとは『勝手に私を殺すんじゃないよ! 最近の平均寿命がいくつだか知ってるのかい! 現代医療の力をなめるんじゃないよ!?』とか……」

華「あらあら……」

そど子「でも一番感心しちゃったのが、『あんたのために結構な額の生命保険を私にかけてある、もしものことがあっても、それで食いつなぎながらなんとか頑張れ』だって。子供はできて当たり前、苦労してあたりまえ、みたいに思ってるみたい。すごいのね、昔の人って」

沙織「ええー……それでいいのかな……」

そど子「ま、でもね、最後の最後に……『とにかく、ひ孫の世話ぐらい私が見てやるから余計な心配するなって』って、その言葉が、冷泉さん一番うれしそうだったわね」

麻子「ずびーっ……言ってくれることはすごくありがたいんだけどな……結局おばあって、どこかしらが根性論なんだ……死んだらどうするんだ、ほんとに……」

そど子「やめなさいっ。だいたい、あなたもそれで考えが変わったのなら、冷泉さんだって根性論じゃない」

麻子「まぁ、昨日の様子だと、おばあ、まだまだ死にそうにないし……」

そど子「だからやめなさいってばっ」

麻子「……だけど、おばあがそういってくれて、本当にすごく安心したんだ。そしたら……もしかして私は、失わずにすんだはずのものを、失おうとしてるのかもしれないって、すごく怖くなって……」

優花里「冷泉殿……」

みほ「……。私達って、結局まだまだ子供なんだと思います」

麻子「……?」

みほ「家族が守ってくれてるんだって思うと、それだけですごく安心しちゃいます。何も解決していなくても。……私、昨日、お母さんとお話ししたんです……」

麻子「……。そか。それは、よかった……お母さんと話しができて……」

みほ「麻子さんも、おばあさんと話してくれて……本当によかった……」

そど子「……。ほんとそうよ……」

華「そど子さんの、おかげですね」

優花里「ええ」

そど子「……べ、べつに……先輩として当たり前のことをしただけよ」

優花里「だけど、それならそれで、連絡をしてくださったらよかったのに……ごもよ殿やぱぞ美どのも、心配してたでしょ?」

沙織「そういえば、なんで麻子の携帯から電話をかけてきたんですか……? そど子さんの携帯は……?」

そど子「あぁ……水没して壊れちゃった。……冷泉さんに用水路へ突き落とされちゃって」

みほ「ふぇ!?」

沙織「な、なにしてんの麻子!?」

麻子「わ、わざとじゃない……学校を出た後、そど子がぐちぐちうるさいから、むっときてドンって押したら……ちょうどあぜ道の側に……」

華「あぁ……あそこですか……」

そど子「小さな用水路なんだけどね、でも制服はべちゃべちゃだし、身体はどぶ臭いし……だけど、これはチャンスだと思って」

優花里「チャンス?」

そど子「冷泉さんに押されてこうなったんだから、家で洗濯とお風呂させなさい!って。これは人として断れないでしょ」

優花里「おお~」

華「そど子さん……麻子さんのために、必死に頑張ってくださったのですね……!」

そど子「だから、その言い方は、なんか嫌っ」

みほ(……。)

みほ(本当に、それぞれいろいろあったんですね……)



143:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/25(日) 11:01:57.15ID:27jkCpvxO

<杏『はいはーい。皆、ちゅうもーく』


麻子「またか……」

そど子「こんどは何……」


<桃『あと5分ほどで病院に到着だ』


みほ「……!」

優花里「とうとう……やだなぁ」


<桃『検査はみっちり午後までかかる。皆、心しておくように』

<柚子『お昼は病院の食堂を使わせてもらってね。食事の時間は皆バラバラになると思うけど、あとで全員に食券を配布します』

<典子「あの! 注射とか、痛いのはあるんですかー?」

<杏『残念だけど、注射は何度かあるね~』

<桂利奈「うぅ、何度もあるんだ……」

<杏『ま、注射以上の痛い検査はないから、それは安心していーよ』

<桃『カウンセラーの方と話しをする時間もある。とても優しい女医さんだった。みんなも、いろいろ聞いてみると言い』

<ホシノ「はーい」


みほ(……あ。雨だ……やだなぁ。)

みほ(……。)

みほ(朝食を食べた後、また一度吐いた……)

みほ(それにレーション、前までは好きな味だったのに、なんだか今日は、どうしても味が受け付けなかった……)

みほ(……。)

みほ「やっぱり私……妊娠してるのかな……」



 ……ぶろろろろろろろ……


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



150:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/26(月) 21:45:21.35ID:1QVIhyAfO

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

みほ(うぅ……病棟の廊下って、やだなぁ。人気も少ないし、シーンとしてるし……なんだか私だけ、日常からどんどん切り離されていくみたい……)


 きゅっ……きゅっ……きゅっ……


みほ「皆それぞれ回る順番が違って独りぼっちだし……大学病院、広すぎだよ……」

看護士「? 何かお困りですか?」

みほ「っ!? い、いえ、何でもないです……」


 ……とととととっ……


みほ(声にでちゃってたんだ。恥ずかしい!)

みほ「だけど、はぁ……ほんのちょっぴりでいいから、誰かとお喋りしたいよぅ……」

みほ「……あっ」

みほ(隣の病棟の廊下、紗希ちゃんが一人で歩いてる! おーい、おーい)


 ぱたぱた


みほ「手をふっても気づかないなぁ。おーい、さきちゃーん……」

みほ(……)

おりょう「……何をしとるぜよ?」

みほ「ひゃぁっ!? お、おりょうさん」

おりょう「どこに向かって手をふって……お、紗希ちゃん。あの子、一人でちゃんと周れているのか……?」

みほ「あはは、ちょっぴり心配だよね。……おりょうさんはどう? 順調?」

おりょう「それが、内科の問診が長引いて、やっといまから昼メシぜよ……というわけですまぬ、先を急ぐっ。また後でな~」

みほ「あ、うん。また後でね。……。」

おりょう(いっちゃった……。でも、ちょっとだけ、ほっとした……)

みほ「……あ」

みほ(今度は、廊下の向こうに……)


<あけび「先に全部周り終わったほうが勝ちよっ」

<妙子「私はあと3つかな」

<あけび「うそっ!? はやっ!」


みほ「ふふ、バレー部の皆さん、病院なのに元気だなぁ……」

みほ(でも、そっか。姿は見えなくても、みんなが病院のあちこちにいるんだよね。そう思えば、ちょっとだけ寂しくない……かな……?)

みほ「また誰かに会えるといいな」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



151:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/26(月) 21:47:21.86ID:1QVIhyAfO

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みほ「あ、優花里さんだ!」

優花里「わあ! 西住殿ー!」

みほ「優花里さんも、泌尿器科の診察待ち?」

優花里「です! 西住殿もなんですね!」

みほ「うん。よかったぁ、優花里さんにあえて!」

優花里「私もですー!」

みほ「ねー! 他の皆、どうしてるかなぁ」

優花里「武部殿にはさっき内科で会いましたよ」

みほ「沙織さんどうだった? まだ、あんまり元気なかった……?」

優花里「いやぁそれが……今度こそ本当にお嫁にいけなくなっちゃった、って、すっごい嘆いてましたよ……」

みほ「?」

優花里「ほら、産婦人科で……」

みほ「産婦人科……?」

優花里「あ、もしかして西住殿……産婦人科はまだです?」

みほ「え? う、うん。まだだけど……」

優花里「そうですかぁ……あの、ちょっと、耳を貸してください……」

みほ「……?」

優花里「……ゴニョゴニョ……」

みほ(……!?)

みほ「……うそっ、そんな所まで検査するの!?」

優花里「すっごく恥ずかしかったですよぅ……足のせるとこ、めちゃくちゃ開くんですよ、あれ……」

みほ「えぇぇぇぇ……あっ、どうしよう、私、さっきお手洗にいっちゃった……」

優花里「いやまぁ、問題ないんだと思いますよ。何も注意は受けてないですし……」

みほ「うぅ、せめてウォシュレットのある所に入ればよかった……。……あっ!? 診察する先生は女医さんだよね!? まさか、男の先生じゃ……」

優花里「大丈夫です。さすがにそこは女医さんでした」

みほ「よかった……」


<看護士『秋山、優花里さまー。秋山、優花里さまー』


みほ「あ……呼ばれちゃったね……」

優花里「じゃあ、お先です。……またどこかで会えるといいですねっ」

みほ「うん! 診察頑張ってね!」

優花里「西住殿もっ」


 ……からからから……ぱたん……


みほ「……。産婦人科かぁ、やだなぁ……」

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152:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/26(月) 21:48:05.74ID:1QVIhyAfO

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そど子「あら、西住さん……『コウノトリはどこから赤ちゃんを運んでくるのか』? なにそれ。」

みほ「わー、そど子さんに会えた」

そど子「園みどり──もういいわ。西住さんは、もうすべての検査が終わったの?」

みほ「ううん。少し、喉が乾いてしまって。休憩所なら、自販機もソファーもあったなって」

そど子「私もいいかげんに歩き疲れてきちゃった。ところで……それって、妊婦さん用のパンフレット……?」

みほ「そうなんですよ。私、こういうこと何も知らないんだなって思って……。それに、理科とかの勉強もあんまりだから、……『無性生殖』なんかも、それってそもそも何だっけて感じで、えへへ……」

そど子「冷泉さんに聞けば、色々と教えてくれるんじゃないかしら。あの子、勉強できるんだから」

みほ「そうですねー。……あ、そういえば。……。」

そど子「なに? ……ちょっと、ほんとに何よ、横目でちらちらこっち見て……」

みほ「あのぅ、そど子さんて……」

そど子「だから、何……」

みほ「麻子さんと……仲良し、なんですか……?」

そど子「……はぁっ!?」

みほ「ひぅっ……!? だ、だって、昨日だって……本当に一生懸命に……」

そど子「ぬ……」

みほ「……。」

そど子「べ、別に……少し、ほっとけないっていうか……。頭いいのにもったいないし……まぁ、私がしょげてる時は、引っ張ってくれたこともあるし……? だから、今度は私がなんとかしてあげなきゃって……」

みほ「はぁ、なるほど」

そど子「……あぁもぅっ、そんな事はどうでもいいでしょっ! 休憩しにきたのなら、黙って休憩してなさいよっ!」

みほ「ひっ……すみません……」

そど子「ふんっ」

みほ(……。)

みほ(そど子さんって、ちょっぴりダメな男の人とかと、恋人になりそうかも……)

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153:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/26(月) 21:48:51.82ID:1QVIhyAfO

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みほ「やっとこれで最後。でも、カウンセリング……? 何か質問をされるの……? 不安……」

みほ(……黒森峰にいたころ、お母さんからうけた尋問みたいなのを思い出しちゃう……)

みほ「……うぅ」


<看護士『西住、みほ様ー。1番へお入りくださいー』


みほ「あ、はいー……うぅ、今後のことをどう考えているのかとか、いろいろ聞かれるのかなぁ……やだなぁ。」



 ……カラカラカラ……パタン……



みほ「……失礼しまぁす……」

女医「はいこんにちわ。西住みほさん、ね?」

みほ「は、はい、西住みほです」

女医「さぁ、座って。あっちこっち回らされて、ずいぶん疲れたでしょう?」

みほ「あ、はい……」


みほ(……思ったより歳のいってる人だ、60歳くらいかなぁ。見た目は優しそうな人……)


女医「西住さんは……あらまぁ、ご実家は熊本。随分遠くから来てるのねぇ」

みほ「はぁ。まぁ」

女医「今は一人で住んでるの? それともご家族のうちの誰かと?」

みほ「えと、一人で、です」

女医「まぁまぁまぁ! それは立派ねぇ……」

みほ「はぁ」


(な、なんだろ、近所のおばさんと世間話をしてるみたい……)


女医「大変ねぇ熊本から……あぁ、なんだったかしら……熊本にいる、黒い熊みたいな……」

みほ「あ、くまもん……」

女医「あぁくまもんね、そうそう」


みほ(……あはは……やっぱり、他県の人の熊本イメージって、それくらいなんだ……)


女医「まぁ、くまもんはどうでもいいのよ」


みほ(へ?)


女医「実はこっちにもにもくまのキャラクターがいるのよ。妙にケガをしている熊で──」


みほ(……!?)



154:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/26(月) 21:49:57.56ID:1QVIhyAfO

みほ「あ、あー……もしかして、ボコ、とかでしたっけ」

女医「……あら、貴方も知ってるの? ボコちゃん」

みほ「えと、はい、ちょっとだけ……」

みほ(ボコちゃん……)

女医「うちの孫が本当に大好きでねぇ。包帯を巻いているところが可愛のかしら……」

みほ「あ、えと……可愛いというか、ボコは、ぼこぼこにされても負けないから、そういうのが、いいのかも……」

女医「あぁわかった、ボコは負けず嫌いなのね?」

みほ「そうです、やられてもやられてもボコは負けません」

女医「なるほどなるほど、ボコはとても根性があるのね。じゃあ、特訓なんかもしたり?」

みほ「あ、そういう事はしないんです、例え力は弱くても、ボコボコにされても、絶対にあきらめないっていうのがボコの魅力ですから」

女医「粘り強いのねぇ、うん、うちの孫にもそういう所を見習ってもらわないと。……そういえばボコランドっていう遊園地? があって」

みほ「あ! はい! 知ってますっ、私も行きましたっ」

女医「それはよかった、実は孫に連れて行ってってせがまれているんだけど、6歳の子どもでも楽しめると思う……?」

みほ「ぜんっぜん大丈夫だと思います! 小さい子向けのアトラクションもいっぱいありますし、私も友達といったけれどすごく楽しかったです。それに小さい子供なら──」



 ……………………。



女医「──ありがとう。孫に喜んでもらえる良い話を教えてもらた」

みほ「いえいえっ」

女医「けれど、あらまぁ、ごめんなさいね。わたしが聞いてばかりで……」

みほ「いえ、とっても楽しかったです!」

女医「みほさんも、何かきになる事があれば、私にも聞いて頂戴? もちろん、私の孫の事なら、なんでも教えてあげる」

みほ「ふふふ、そうですね、お孫さんの事、いろいろ聞いてみたいです。……あぁ、でも……」

女医「……なぁに?」

みほ「……誰かに、どうしても教えてほしいことがあって……」

女医「なんでもどうぞ。実は私、お医者様なの」

みほ「あはは……。……あの……」

女医「うん」

みほ「私達、どうして妊娠してしまうんでしょう……」

女医「……。そうねぇ」

みほ「これは夢なんじゃないかって、何度も何度も考えてしまいます。だって、こんなの、それぐらいしか、説明がつかないじゃないですか……」

女医「そうね……」

みほ「私達が、いったい何をしたっていうんでしょう。何か、悪い事したのかな……」

女医「……。ここは、おとぎの国ではないものね」

みほ「え……?」

女医「だから、この世界に起こるすべての現象には必ず何らかの仕組みがある。一つの例外もあり得ない。医者も科学者のはしくれだもの、それだけは100%信じているわ」

みほ「……」



155:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/26(月) 21:51:12.00ID:1QVIhyAfO

女医「貴方たちがなぜ妊娠していくのか、今はまだその仕組みはわからないわ。けれどそれは、私達がまだ理解していないだけ。未知の原理が、必ずどこかに隠れてる。今、何がおきているのか、世界中の大人たちが、必死になてそれを探っている。だからみほさん、どうか、私達大人に、もう少し時間を頂戴」

みほ「こちらこそ、どうか、よろしくお願いします……」

女医「ええ、ありがとう。それともう一つ」

みほ「はい……?」

女医「貴方たちには何の罪もない、それもまた私達は確信してる。自分が何か悪い事をしたのかなだなんて、決して考えてはいけないわ」

みほ「……」

女医「ただ、もしかすると……時には悪意によってねじ曲げられた、愚かな意見を耳にすることもあるかもしれない」

みほ「え……?」

女医「アメリカでね、この異常現象が観測されはじめたのは3週間ほど前なのだけど……初めのころは、集団違法薬物接種だとか、不誠実な行為の結果であるとか……短絡的で恥ずべき見方が、少なからずあった」

みほ「……っ」

女医「けれど、今はもう決してそうではないと立証されてる。だからもし、そんなバカな事をいう者があったなら、すぐに連盟や、それか私達に教えて。あなたたちの誠実は私達が保障する。酷い現実だと私も思うけれど、どうか、負けてはだめよ。慰めになるかは分からないけれど……世界中に今、あなたたちと同じ境遇で戦っている仲間が、たくさんいる」

みほ「……はい! お話しをきかせてもらえて、本当に嬉しかったです」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



156:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/26(月) 21:52:11.31ID:1QVIhyAfO

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ぶろろろろろろろ……


<桃『皆、長時間の検査、お疲れであった』


<エルヴィン「DNAを削りとられてしまった……」

<左衛門座「口の中に綿棒をつっこんだだけだろう」

<典子「MRIがあんなに怖いものだったなんて……」


 ワイワイガヤガヤ……


華「沙織さん、大丈夫です?」

沙織「……うぅ、……華ぁ、華ぁ……私、汚れちゃったよ……」

華「大丈夫、沙織さんはちゃんと可愛い女の子ですよ」

沙織「うぅぅ……」

みほ「産婦人科……いやだったね……」

優花里「注射よりもなによりも、あれが一番の山場でした」

華「しかたがないですよ。私達のお母さまも、通ってきた道です」

沙織「ちょ、だめっ、変な事いわないで!」

優花里「あんまり考えたくないです……」

みほ(……。うぅ、想像しちゃった……。……。はあわわ、お姉ちゃんも……うぅ)

華「あの、ところで、麻子さんは? 先ほどから姿も声も……」

<そど子「こっちよ。出発と同時に寝ちゃった。昨日はあまり寝てないし、しかたないわね」

みほ「あ、そど子さんと一緒に座ってたんですね」

優花里「今となってはもう、冷泉殿の事は園殿にお任せですねぇ」

そど子「じ、冗談じゃないわ! 子守を押し付けないで!」


<杏『はいはーい、ちょっと聞いてね。今回の検査結果は、検出方法が通常とは違う上、人数も多いってことで、五日後まで分からないんだけど……さぁて、どうやって皆に告知しようかな?』

<スズキ「どうやって、っていうと……?」

<柚子『事態が事態だから、該当者への告知は『寄港後に両親を交えて』という形も考えてはいるのだけれど』

<ホシノ「うーん……? ちょっと面倒じゃない……? それに、なるべく早く知りたいし」

<カエサル「いつものように、戦車倉庫前に全員集まって発表……ではだめなのか?」

<典子「それでいいんじゃない?」

<梓「うちも皆それでいーって言ってまーす」

<柚子『み、みんな本当にそれでいいの……?』


みほ「……ふふふ」



157:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/26(月) 21:55:20.17ID:1QVIhyAfO

優花里「西住殿……?」

みほ「こんな時なのに、皆、のんきだなぁって.なんだか可笑しくって」

優花里「あぁ……あはは。たしかにそうですね。けど、暗いよりもこっちのほうがいいですよ」

みほ「そうだね」

優花里「実は私……本当はずっと現実感がなかったんです。バタバタしてたっていうのも、あるかもしれませんが」

みほ「そうだったんだ」

優花里「でも……」

みほ「でも……?」

優花里「今日、病院の廊下を一人であるいている時にですね、ふと、気が付いたんです。『あ、これ、本当に現実なんだな』って。えへへ、実は脳みそが私も事態に追いついてなかったのかも……。自分も妊娠してるかもしれないんだって、初めて実感がわいたんです……そしたら、すごく怖くて、心細くなって……」

みほ「……」

優花里「だから、神経内科の待合室で西住殿と会えたといは、ほんとにホッとしました。そういう事もあったから……やっぱりこうやって、ガイガイワヤワヤしてるほうが、私はいいですよ。気がまぎれます」

みほ「……。ね、優花里さん……」

優花里「はい?」

みほ「今日は、私の家に泊まりにきてほしいな」

優花里「え?」

みほ「今日は皆家に帰るみたいだし……私も一人だと、いろいろ考えちゃうし……それに、寂しいし……だから、一緒にいてほしいなぁって……」

優花里「あ……はい! ぜひぜひ、泊りに行きます!」

みほ「うん! ありがとう」

沙織「……こらー、ずるーい」

みほ「沙織さん……?」

沙織「私もみぽりんち泊りにいくー」

華「あぁ、それでしたら、私も」

みほ「ふぇ? あ……うん、もちろん! 皆で一緒に!」

優花里「ちぇー……せっかく西住殿と二人きりだと思ったんですが……とは言うものの、私もやっぱり賑やかなほうがいいです! 皆でお泊りかいしましょー!」

沙織「じゃあ、きまりだね! ……診察の愚痴も、聞いてほしいしね……よよよ」

みほ「あはは……!」



158:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/26(月) 21:55:50.35ID:1QVIhyAfO

 ……ちょんちょん、


みほ「……?」

桂利奈「……あの、たいちょ」

みほ「あ、桂利奈ちゃん? どうしたの……?」

桂利奈「私と紗希も」

みほ「え?」

桂利奈「私と紗希も、泊りたいです。隊長の家に」

紗希「……」コクン

あや「ねー、何話してるの? ……え? 隊長の家にとまるの!? あ、じゃあ私達もー!泊まりたいですー!」

みほ「え!? 皆も!?」

梓「ちょっと……隊長に迷惑だよ!?」

沙織「ていうか、みぽりんの家、そんなに人はいんないよ!?」

華「あらあら……」

優花里「……んーていうかそれなら……」

みほ「結局、今日も倉庫で……かな?」

沙織「そうだねぇ……」

優花里「じゃ、みんな、今日も倉庫でお泊りだー!」

あゆみ「はーい!」

優希「家から着替えもってこなきゃ~」

みほ(あはは……やっぱりみんなでいると楽しいなぁ)



<杏『はいはいではー、ということで、5日後の発表は放課後に戦車道倉庫前、ということでいいかなー?』



<『異議ナーシ!』



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



212:KASA 2016/10/04(火) 00:02:49.19ID:UhsUjAsEO

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


先生『──この出来事の後──の影響が広まり──』


みほ(いつも通りに授業を受けていたら、『偉いね』って先生に褒められちゃった。偉い事なんて、私は何もしていないのに)

みほ(みんなと同じように、授業を受けているだけなのにね)

みほ(だけど、ぼーっと窓の外を眺めていても、先生に少しも怒られなくなった。それはちょっとだけ、ラッキーかな)

みほ(……。)

みほ(お天気いいなぁ、青空がすごく綺麗)


 …………。


先生『──この動きは──なので──』

みほ(黒板に書いてあることも、先生が言っていることも、ぜんぜん頭に入らないや)

みほ(それでも、やっぱり授業にだけは出ていたくて。なんだか可笑しいね)

先生『──さん次のページ、読んで──』

生徒『はーい』

みほ「……。」


 ごそごそ


みほ(携帯をコッソリみてても、やっぱり怒られない。先生には、きっとバレてるのに。少しくらいは、皆と同じように、注意してほしいなぁ)

みほ(って言いながら、見ちゃうんだけどね)


 すっ、すっ、


みほ(他の学校の人達はからは、一度も連絡がこない)

みほ(……。)

みほ(皆、気を使ってくれてるんだ)

みほ(ありがとうございます。私も、今はまだ、せめて明日までは、大洗の皆のことだけを、考えていたいです、ごめんなさい)

みほ(今になってみると、アリサさんの事、ちょっぴり尊敬しちゃうなぁ)


 ……キーンコーンカーンコーン……ざわざわざわ、ね~帰りにケーキ食べていこーよー……


みほ(……。)

みほ(明日の放課後、検査結果が分かる)

華「みほさん、今日も、優花里さんや麻子さんも一緒に、皆で帰りましょう?」

みほ(明後日の私達は、どうんなふうにすごしてるだろう? こんな風に学校で、皆と一緒にいられているのかな?)

みほ「──うん! 一緒に帰ろ!」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



213:KASA 2016/10/04(火) 00:03:18.03ID:UhsUjAsEO

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


沙織「──ねぇ皆、わたし決心したよ! 私、もしも子供ができてても、ぜったい素敵なママになってみせるから!」

優花里「おおー」

華「あら~」

みほ「よかったぁ。沙織さんがやっと元気になってくれて」

沙織「……。皆、あのね、ちょーっとリアクションが薄いんじゃないかなぁ」

麻子「どうすればよかったんだ」

沙織「『えぇ!? ど、どうしたの急に!? どういう事!?』とかさぁっ。もっとこう、あるじゃん」

優花里「コホン。……えぇ? どうしたんですかぁ、急に。どゆことです?」

沙織「なんか違うっ」

麻子「面倒だな」

沙織「なによーっ」

みほ「まぁまぁ、私達沙織さんが元気になってくれたのなら、なんだっていいもん」

華「みほさんのおっしゃる通りです」

優花里「武部殿が笑顔でいてくれないと、やっぱり私達も寂しいですから」

沙織「そ、そぉ? そういってくれるなら、まぁ」


 ……たたたたたっ


桂利奈「せんぱーい! また明日でーす! さよなら~!」

沙織「わわ、そんなに急いでどこに行くのー?」

  < 桂利奈「これから紗希の家に集合して、皆で一緒にDVDで勉強するんでーす!

っさおりべん?

 『14才の母』ってゆードラマです!」


ええ?

麻子「なんだそれは」

華「少し前に放送されていた、テレビドラマですね」

麻子「なるほど」

みほ「桂利奈ちゃん、ばいば~い」


  < 桂利奈「は~い!」


優花里「みんな、たくましいですねぇ」

みほ「うん。皆、とっても立派だよ。すごい」

華「他のチームの皆さんは、今頃どうされているのでしょうか」

麻子「アリクイさん達は、家に帰って一緒に狩りをするとか言ってたな」

優花里「バレー部の皆さんはさっき体育館に走っていきましたし、自動車部の方々は車のレストアで忙しいみたいですよ」

みほ「会長達もいつも通りに生徒会のお仕事で、エルヴィンさん達は一緒に図書館だって」

麻子「あと、そど子、風紀の仕事があるって言ってたな」

優花里「冷泉殿は、そど子さんのスケジュールに随分と詳しいのですね」

麻子「……なんでニヤニヤしてる」



214:KASA 2016/10/04(火) 00:03:44.95ID:UhsUjAsEO

優花里「いえいえなんでもないですよ~」

麻子「……っ」

みほ「あはは。じゃあ皆、いつも通りの放課後なんだね」

華「きっと、それが一番ですよ」

みほ「……。そうだね。」

みほ(本当は皆、いつも通りでなんか、いられるわけがない。でも、だからこそ、いつも通りに笑って、いつも通りに過ごそうって、皆と一緒に)

沙織「ねぇねぇ! アイス食べにいこーよ!」

華「それは名案ですねぇ」

みほ「うん! 行こ!」

麻子「私もいく」

優花里「そういえば、新作の味がでてるはずですよ! 皆で手分けして、全食チェックしましょ!」

沙織「きまりだねっ! ……でね? でね? 聞いて? 一人くらい子供がいてもさ、それでもかまわないよっていってくれる男の人ならさ……それってむしろ包容力があって素敵だと思わない!?」

華「沙織さんが笑顔さえ忘れなければ、沙織さんの事を大切に思ってくれる男性が、きっといつかあらわれます」

沙織「だよね、だよね!」

華「ええ、私が保障します」

沙織「華ったらやだもー! あんまり私のことおだてないでー!?」バンバンッ

華「痛いです」

麻子「しばらく静かだった分、余計にやかましい」

優花里「まぁまぁ、武部殿はこうでなくちゃ」

みほ「そうだね、あはは……。」

みほ(……。)

優花里「? 西住殿?」

みほ「ん……」

優花里「どうかしましたか?」

みほ「ううん、ただ、とうとう、ほんとうに明日なんだなぁって……ふっと頭に浮かんじゃって」

優花里「……。そうですね。明日、なんですね……」

みほ「うん、明日……」

みほ(……。)


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



193:KASA 2016/10/03(月) 23:06:08.17ID:3cfCWOF9O

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ……ちゅん、ちゅん……ちゅん……


みほ(あんまり眠れなかった)

みほ(今日の、放課後、結果を知らされる……やっぱり怖い……)

みほ「……。」

みほ「……ん?」

 
 ……バラララララ……


みほ(ヘリのローター音?)


 …………。


みほ(……? 空耳、だったのかな……?)

みほ「……ふぁぁ……起きよ」

華「すぅ……すぅ……」

麻子「くぅー……すぅー……」

みほ「ふふ、かわいい寝顔だなぁ……二人とも、家に泊まってくれて、本当にありがとう」

みほ「んしょっ、と……」


 ギシッ……
 
 ……とっ、とっ、とっ

 シャッ……


みほ「っ、まぶしい。い~お天気ー」


 カラカラカラ


みほ「んーっ、ぷはぁ。冷たい風が気持ち良いなぁー」

みほ「はぁ~」

みほ「……。」

みほ(優花里さんと沙織さん、お母さんやお父さんと楽しくすごせたかな。結果発表の前の、最後の夜だもん)

みほ(……今日の夜は、どうなっているか、分からないし……)

みほ「……。」

みほ「……あ」


 ……バララララララララララ……


みほ(ヘリコプター……やっぱり聞き間違えじゃなかったんだ)

みほ(だけど、ああいうツインローターのヘリ、この学園艦では初めて見る……もしかして、船の外から飛んできたのかな)

みほ(……どこから飛んできたんだろう。航行中の学園艦にどうしてわざわざ)


 ……バロロロロロロ……


みほ「あれ、あっちの方向って……」

みほ「……学校……?」

みほ(……。)

みほ(なんだろう、すごく嫌な感じがする……)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



194:KASA 2016/10/03(月) 23:06:55.13ID:3cfCWOF9O

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 てく、てく、てく、てく、


みほ(……。)

みほ(皆でこんなに静かに通学するの、初めて)

沙織「……。」

優花里「……。」

華「……。」

麻子「……。」

みほ(皆、不安なんだ……)


 てく、てく、てく、てく


みほ「ね……緊張、するね」

優花里「あ、はい……そうですね……」

沙織「緊張っていうか、怖いっていうか……」

優花里「このまま何も聞かずにすむのなら、そのほうがいいかもだなんて、思っちゃいます」

麻子「……。私達が知らないだけで、検査結果はもう出てる」

沙織「……。」

麻子「どこかの誰かは、私達の誰が妊娠していて誰がそうでないのかを知ってる。……妙な気分だ」

華「知らぬが仏、ですね。まさに」

みほ「ほんとだね」

みほ(……今朝は吐かなかった……。ただ、そもそもつわりにしては時期が早すぎるって病院の先生は言っていたけど……とは言え、元々ありえない事が起こっているのだから、確実な事は今のところ何も分からない、とも……)

みほ「……。そういえば、優花里さんと沙織さんは、今朝ヘリが飛んでいたの気がついた?」

沙織「ううん、気がつかなかったけど」

優花里「私も」

みほ「そっか」

みほ「……。」

みほ(気にしすぎ、なのかもしれないけど……)


 てく、てく、てく、てく……


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


そど子「貴方たち、おはよ」

みほ「おはようございます」

そど子「冷泉さんも、今日はちゃんと遅刻しなかったわね」

麻子「偉いなそど子。こんな日でも遅刻の取り締まりか」

そど子「何よそれ……皮肉?」

麻子「そうじゃない。素直に感心したんだ」

そど子「別に……こうしてるほうが、気がまぎれるだけよ」

麻子「……。なら、遅刻してやればよかった」

そど子「……。ふん、バカな事いってないで、さっさと行きなさい。私は忙しいんだから邪魔しないでよね。……じゃあね、放課後」

麻子「ん……放課後」


 てく、てく、てく、てく……

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



195:KASA 2016/10/03(月) 23:07:23.23ID:3cfCWOF9O

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ……オハヨー……ガヤガヤ……ハヨー……


 てく、てく、てく、てく……


みほ「あ」

沙織「? どしたの?」

華「ん……学校ののヘリポートに、ヘリがとまっていますね」

沙織「そういえばみぽりん、さっきヘリがどうのって言ってたっけ」

優花里「あのう、あれって確か、戦車道連盟が所有しているヘリですよ」

みほ「そうなの?」

優花里「ええ、連盟のパンフレットで紹介されてました」

麻子「そんなところまでチェックしてるのか」

優花里「えへへ」

みほ(……。じゃあ、戦車道連盟の人が……?)


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


先生『……このXを代入すると~……』


みほ(……。)

みほ(妊娠検査の結果が発表されるこの日の朝に、戦車道連盟の誰かが、学園艦に来た)

みほ(誰だろう。理事長? 蝶野教官?)

みほ(……。)

みほ(……。)

みほ(……おかあさん……?)

みほ(……やだな、何を考えてるんだろう、私ったら……わざわざ熊本からここまで、そんなわけないよね、なんだか恥ずかしい、バカみたい)

みほ(けど、とにかく今、この学園内のどこかに、外から来た誰かがいる)

みほ(……。)

みほ(ザワザワする……)


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



196:KASA 2016/10/03(月) 23:08:12.96ID:3cfCWOF9O

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 キーンコーンカーンコーン……


沙織「ね、お昼ご飯は屋上で食べよ」

みほ「うん、そうだね」

華「では優花里さんと麻子さんにも──」




 ジジ……ジ────




みほ(あ──)

みほ(──スピーカが鳴る直前のノイズ──)

みほ(お昼休みになったばかりなのに──?)



 ──ピンポンパンポ~ン……ジ……ジジ……

 ──…………。



みほ「……。あれ……?」

沙織「何も流れないね」

華「誤放送でしょうか?」

沙織「ま、いっか、じゃあ早く行こ──」



『──生徒の呼び出しを、告げる』



 ──ドクン──
 
 
 
『当学園において戦車道を履修している学生諸君は、至急、戦車倉庫内に集合していただきたい。繰り返す、当学園において──』



みほ(……!? えッ……!?)



 ──ドクン、ドクン──



沙織「ね、ねぇ……? わたし聞覚えがあるよ? この男の人の声……」



 ──ドクン、ドクン、ドクン──



華「そんな……まさか……」



 ──ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン──!



みほ(どうして──)

みほ(どうして、この船に、この学園に──)

みほ(──どうしてあの人がいるの!?)



197:KASA 2016/10/03(月) 23:09:04.30ID:3cfCWOF9O

 ガラガラッ!!



優花里「皆さん! い、今の放送を聞きましたか!?」

沙織「ゆかりん、麻子!」

麻子「今の声、間違いないぞ。あの男が……学園内にいる!」

みほ(……っ)

みほ(朝のヘリ……!)

みほ(あのヘリには、この人が乗ってたんだ!)

みほ(この男の人が乗っているヘリを、私は眺めていたんだ!)

みほ(私の見ている前で、あの人はこの学園艦にやってきたんだ!)

みほ(……何をするために!?)







 ──この学園を廃校とする──







 ゾクッ……

みほ「──ぅぁぁあッ!!」

沙織「みぽりん!?」



 ──キィィィィィィィィィィィィンッ──



みほ「ぅッ!?」

沙織「ちょ、ちょっと、大丈夫……!?」

みほ(耳鳴りだっ、すごく嫌な事が起こった時の……!)



 ──キィィィィィィイイイイイイィィィィイイイイイィィィィィィィ──

 ──ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ──



みほ「ああああぁぁ……ッ!」

華「みほさん!?」

みほ「──だめっ! そんな事、絶対に──ぉえッ」

優花里「……!? 西住殿、顔が青いですよ!?」

みほ「……はぁっ、はぁっ……!」


 ──ドクン! ドクン!! ドクン!!!──





198:KASA 2016/10/03(月) 23:09:52.29ID:3cfCWOF9O

沙織「ちょ……どうしちゃったの!?」

みほ(胸がムカムカする、それに痛いっ、耳鳴りで頭が、いたいっ……──うぷっ!?)

みほ「──ごめんどいて!」


 どんっ


優花里「わっ……!?」



 だだだだだだっ!

 カラカラカラ!!



みほ「──オゲロァァーーっ! ……かはッ」


 
 <……ばしゃばしゃっ

 <『きゃぁぁあっ!? なんか降ってきたー!?』



みほ「っ……下の人すみませっ……オェッ」

沙織「やだやだ、どうしよう!?」

みほ「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」

華「保健室へ行きましょう!」

優花里「そ、そうです、倉庫の方には私達が──」

みほ「だめっ!」

優花里「!?」

みほ「お願い、私も、一緒に!」

沙織「だけどみぽりん!」

みほ「絶対に、行く!」

優花里「西住殿!?」

麻子「……。」

麻子「西住さん」

麻子「私の肩に、つかまれ。」

沙織「麻子!?」

みほ「……!」

優花里「……っ、ああもうっ、わたしの肩も! どうぞ! つかまってくださぁい!」

みほ「二人とも、ありがとう」

華「……しかたがありません、ゆっくり歩いて、皆で行きましょう」

沙織「ほ、ほんとに大丈夫?」

みほ「……させない、絶対に、そんなこと……させない……」

沙織「み、みほ……」

優花里「西住殿、さぁ、深呼吸をしてください」

みほ「……すぅー……はぁ……おぇっ……」

みほ(……ッ)

みほ(ボコ、お願いボコ! 今度こそ、ボコの勇気を私に……頂戴!!)


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



199:KASA 2016/10/03(月) 23:11:04.38ID:3cfCWOF9O

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ざっ。ざっ、ざっ、

みほ「二人とも、ありがとう、ごめんね、もう落ち着いた」

優花里「無理、してませんか?」

みほ「うん、平気だよ」

みほ(少しまだ胸はむかむかするけど、耳鳴りは、もう麻痺しちゃった……)

沙織「ねぇ、倉庫の前には、誰もいないけど……」

華「きっとみなさん、中にいるんでしょう。放送でもたしか、『倉庫内に』と」

麻子「人には聞かれたくない話、か」

みほ「……もし、本当にあの人だったなら……」

沙織「みぽりん……」

みほ「……。」

沙織「ねぇ、やだよ、そんな怖い顔、やめてよ……」

みほ「……。行こう、皆」

沙織「……みぽりん……」



 ──ギィィィィ……



梓「──あ、隊長達!」

みほ「梓ちゃん。皆さん」

そど子「遅かったわね」

麻子「遅刻したか」

エルヴィン「いや、まだ私達生徒以外には誰も来ていない」

典子「生徒会の3人もまだみたいだけど……」

みほ(会長さん達も?)

ホシノ「もー……レストア、この昼休みで終わらせたかったんだけどな……」

梓「……あの、隊長……」

みほ「ん?」

梓「さっきの放送、あれ、あの人なんじゃないんですか」

みほ「……。」

忍「やっぱり、あの眼鏡の人の声だよね……」

梓「……っ、どうして今日、この日にっ、あの人がこの学園にいるんですか!?」

みほ「梓ちゃん」

梓「私、嫌です……怖いです!」

優希「梓……」

桂利奈「梓ぁ……」

みほ(……。)

ねこにゃー「もしも本当にきゃつが現れたら、鍛えあげた我らの拳でもって必殺の猫パンチをお見舞いしてやるのだにゃあっ

典子「必殺、スパイクっ……!」

あけび「キャプテン……!」

妙子「み、皆、落ち着こうよぉ……」

みほ(……。)

みほ(妊娠の事だけで、心配事はもう沢山なのに……!)



200:KASA 2016/10/03(月) 23:11:42.11ID:3cfCWOF9O

……ぎゅっ



みほ「あ……?」

紗希「……」ギュッ

みほ「紗希ちゃん……?」

紗希「……」カタカタ

みほ「……! 紗希ちゃんっ」



 ぎゅぅぅぅ……



みほ(落ち着け。落ち着くの。)



 ──そうやって感情的になるから、おかしな事になったんです。また繰り返す気ですか──

 ──どうか、私達大人に、もう少し時間を頂戴──



みほ(私は、落ちついていなきゃ。)



 ────ギィィィィ



そど子「あ、かいちょ──………え?」

麻子「……あ!」

紗希「……!!」

みほ(? 誰──?)





「──きみたち」


 

 ──キィィィィィン──


みほ「……ッ」

優希「……でたぁ……」

みほ(……逆光……っ)

みほ(でも、間違いない)

みほ(この声、この背格好……!)

みほ(やっぱり間違いない!)

みほ(文科省の、偉そうな役人さん……!)



201:KASA 2016/10/03(月) 23:12:12.99ID:3cfCWOF9O

役人「……。」


優花里「あ、あ、ああ……」

華「……ノコノコと……っ」

麻子「何をしにきた……!」

役人「……。」


 ツカ、ツカ、ツカ……


役人「──遅れてもうしわけない。急な電話があったものでね」

ねこにゃー「……フゥーッ、フゥーッ……!」

妙子「猫田さん、抑えて……!」

左衛門座「獅子身中の、虫……っ!」

梓「やだ、やだ」

スズキ「まじか……」

パゾ美「遅刻……っ」

みほ(……。)

みほ(皆が……)

紗希「……たいちょ……」フルフル

みほ(……!)

 ぎゅっ……!

みほ「……っ」




 ──キィィィィイイィィィィィィィィィイイイイイイイッ!!!




みほ(……どうして、今なんです……)

みほ(どうして今……! 私達の前に姿をあらわしたんですか……!)

みほ(私達どんな思いで今ここにいるか、あなたには分からないんですか──!!)

みほ(私達の誰が妊娠しようが貴方には、どうでもいいんですか──!!!)

みほ(……そんなに私達の学校が──)

みほ(私達の事が──)

みほ(邪魔なんですかっ!!!)




202:KASA 2016/10/03(月) 23:13:02.04ID:3cfCWOF9O

ツカ、ツカ、ツカ……



役人「さて、全員、そろっているようですね」

みほ「……!」

みほ「まだですっ、生徒会の人達が、まだじゃないですかっ。会長の事、覚えて……ないんですか……!?」

役人「ん……あぁ、問題ありませんn」

みほ「……! ……っ!!」

役人「さて、あまり時間がないのだが……」

役人「一言だけ」

役人「心中、お察し申し上げる。君たちには、うむ……心から同情している」

みほ「」

みほ「」

みほ「」








 ────────ぷつん







みほ「……ふ……」

みほ「ふ、ふ……」

みほ「ふふふ、あはは……」

優花里「西住、殿……?」

沙織「みぽりん……?」

みほ「あはははははははは!」

梓「た、隊長……!?」

紗希「……!? ……!?」

みほ「っぁあーーー!! わあぁぁああーーーーーーーーーーっ!!!」

華「み、ほ……さん……」

みほ「──だったらどうして!!! なんで私達をそっとしておいてくれないんですか!!! どうして私達の前にあらわれたんですか!!!!!!!!」


 だんっだんっ!!!


みほ「妊婦は! とっても!! 情緒不安定なんですっ!!!!!!!!!!」


 だんっだんっだんっ!!!!


役人「……どうか冷静になって、話を聞いていただきたい」

みほ「れい、せいに……!? よくそんな事が言えますね!!!???」


 だんっだんっだんっだんっ!!!



203:KASA 2016/10/03(月) 23:14:06.08ID:3cfCWOF9O

みほ(──ごめんなさいお母さん)

みほ(──ごめんなさいカウンセリングの先生)

みほ(わたし、もう、我慢できません)

みほ(この人だって、本当はこんな事はしたくないのかもしれない)

みほ(いろんな事情があるのかもしれない)

みほ(──だったら尚のこと!!)

みほ(私もこの学校の生徒として、隊長として!!!!)

みほ(何かを背負った一人の人間として!!!)

みほ(抵抗します!!!!!!!!)

みほ「すぅ──ッ」

みほ「……っ」





みほ「やーってや~る~ やーってや~る~ やーってやーるぜッ、いーやなあーいつッをッ、ボーコボッコに~~~!!!!!」



優花里「!? に、西住殿!?」



みほ「ケ~ンカは売ーるものどーうどうとぉおぉぉぉーーー!!!」



梓「たい……ちょう……」



みほ(──ボコ、ごめんなさいボコ、ボコの勇気をこんな風に使ってしまって)

みほ(だけど、相手は男の人だもん、きっと私にはかなわない)

みほ(──だからボコ! どうかボコ、お願い! 今だけは、私をボコに!!)



みほ「かぁーたっでっ か~ぜきっりっ、たーんかっきーるぅ~~~~~!」


 
 ダンッ、だっだっだっだっだっ!!



204:KASA 2016/10/03(月) 23:14:43.76ID:3cfCWOF9O

そど子「!? 西住さん!? 何をするつもり!?」

麻子「! やめろ西住さん!!」

役人「……!?」


みほ「っ、わぁあぁぁっーーーーー!!」


みほ(皆の恨みは私が全部持っていきます!!)

みほ(罰を受けるなら私だけでいいんです!!!)

みほ(これが最後のボコボコ作戦!!)

みほ(開始、しますッ!!!)


みほ「ッ、わあああああああああああーーーー!!!」


優花里「いけません西住殿!!」

沙織「みほ駄目っ!」

華「みほさん!!!」

役人「待っ……!!!」


みほ「ああああああぁああああああぁぁぁああぁぁああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」











『まったぁーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!』










みほ「──────!?」

みほ(あ──前にもこんな事が──おねえ、ちゃん……!?)


   ……ばたばたばたばた!

   <杏「西住ちゃん!」

   <桃「なんだ、何がどうなってる!?」

   <柚子「間に合った、のかな……!?」



典子「会長達!」



205:KASA 2016/10/03(月) 23:15:09.98ID:3cfCWOF9O

みほ(会長──?)

あけび「──と、誰……? あの女の人──」

みほ(え──)


優花里「……あ!!」

優花里「あの人、西住流の」

優花里「西住殿の──!!」



みほ(え──?)



優花里「西住殿のお母さん!?」




みほ(──!!!)




 ……かつ、かつ、かつ……
 



しほ「……。」

みほ「……お、……かぁ……?」

しほ「……。なんたる無様な……。」

みほ「え……」

 
 ツカ、ツカ、ツカ


役人「先生」

しほ「……私達が病院から戻るまで、どうかお待ちくださいと、申し上げたはずです……」

しほ「いえ、とにかく」

しほ「愚娘の非礼を、心からお詫びいたします」

みほ「おかあ、さん……?」

役人「まぁ、少しばかり肝が冷えましたが──」



206:KASA 2016/10/03(月) 23:15:38.88ID:3cfCWOF9O

役人「母子そろって、大した胆力をお持ちです」

しほ「恐縮です」

役人「……皮肉ですよ」

しほ「理解しております」

役人「……。ハァ……」

みほ(……。)


 かつっ……


しほ「みほ」

みほ「え──」




 ──パァンッ!!!




沙織「ひっ……!」

優花里「あわわ……」


みほ「──……。」

しほ「貴方には、言う言葉がみつかりません。」

みほ「……。」

 
 かつ……


しほ「重ね重ね、真にもうしわけありません。どうか、娘の無礼をお許しくださいますよう」

みほ「……。」

しほ「何をしているの、あなたも、頭をさげなさい」

 
 グィッ 


みほ「……っ」



207:KASA 2016/10/03(月) 23:16:07.10ID:3cfCWOF9O

役人「まぁ、頭をおあげください。恨まれるのも仕事のうちでしょう」

しほ「その様におっしゃっていただけると」

役人「それよりも、電話でお伝えした通りスケジュールが押していましてね。私は夕刻までに、次の学園艦に移らなくては」

しほ「承知しました。では……。みほ、行くわよ」

 ぐっ……

みほ「あっ……」

 
 かつ、かつ、かつ、

 た、とた……とたた……とた……


みほ(……。)

みほ(お母さんに手、熱い……)

みほ(……え?)

みほ(この手、お母さんの手……?)

みほ(私を引っ張ってる人、お母さん……だ……)

みほ(……どうしてここに、お母さんが?)

みほ(……。だめだ、頭が動かない……)

みほ(ほっぺたを叩かれて、いろんな感情と一緒に、頭の中が、ぜんぶとんでっちゃった)

みほ(……。)

みほ(……私、あんな風に……誰かを憎いと、思えるんだ……)

みほ(知らなかった……)


 かつ、かつ、かつ
 
 とた、た……た、た、た……


沙織「あ、みほ……」

華「あの、みほさんのお母様なのですね。お初にお目にかかります」

しほ「あなたたちは確か。……娘が、情けない姿を見せました」

優花里「い、いえ……」

杏「……西住ちゃん!」

みほ「……会長……」

杏「私また西住ちゃんに……ごめん……本当に……ごめん……」

みほ「……いえ……」



208:KASA 2016/10/03(月) 23:16:57.66ID:3cfCWOF9O

桃「西住」

みほ「河嶋先輩」

桃「あの人は……廃校を告げに来たわけじゃない。だから、安心してくれ」

みお「え……」

柚子「まず私達からちゃんと事情を説明して、とは思っていたのだけど、ごめんね……」

杏「忙しいのは分かるけど、無茶をしないでほしいよ」

沙織「でも、じゃあ、あの人は、何をしに……」

しほ「国からの正式な通達です」

華「国からの……?」

しほ「政府としての、貴方たちへの包括的な対応計画……」

しほ「みほ。あなたは熊本に戻らなくて正解だったわね」

みほ「……。」

優花里「あ、あの、西住どのはきっと私達のために……どうか、そう怒らないであげてください……」

しほ「……? ああ……そういう意味ではなくて、戻ってきていたら二度手間になるところだった、という意味です」

しほ「──もっとも、家の敷居をまたぐ許しを与えるかどうか、たしかにもう一度検討が必要なようだけれど」

みほ「……。」






役人「前例のない事態であるため、対応計画の策定に遅れが生じております。その点については深くお詫びを申し上げる」

役人「正式な通達文書についてはすでに学校に配付済みです。この場では手短に直近の概要を申し上げる」

役人「受胎生徒および染色体共有者においては、5日間の観察入院をお願いしたい。当然、費用についての負担をいただく事はありません」

役人「観察入院は全国五か所にて計画されております」

役人「関東および東北南部に所在する学校は──つまり大洗女子学園もこれに含まれるわけですが──つくば研究学園都市にて観察入院を予定しており──」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



233:KASA 2016/10/10(月) 19:24:29.75ID:mfTSmTnIO

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


・当該生徒の社会権はいかなる場合においても実際的な保護の対象となりうる。

・妊娠期間中の定期院経過観察、及び産後母子への多角的な科学的観測、継続的にそれらが行われる期間において、当該母子に対し十分な社会保障を行う。

・また、政府要請による入院観察等を原因とする学業活動や就職活動の遅延の発生については、一切の不利益が排除されるよう政府として責任を果たす。


あや「ねぇねぇ、あの人が何を言ってるのか、よくわかんないんですけど……」

桂利奈「私もー」

しほ「……分かりやすいように言いかえてあげます」

あや「ありがとうございますー」

しほ「簡単に言えば、貴方たちが政府のお願いに協力してくれるのなら、お金や生活の面倒は国が助けてくれる」

あゆみ「協力……? 私達が、何かするんですか」

しほ「検査や入院をお願いすることが沢山ある、ということね。貴方達やその子供に対して。それに同意してくれるのなら、見返りとして、国はあなたたちの生活を守る」

梓「えと、とにかくあんまり心配しなくていいって事ですか」

しほ「まぁそうね。少なくとも経済的な面での心配は不要です。妊娠期間中の諸費用や、出産費用、そして育児の費用もね」

桂利奈「じゃあ、お父さんやお母さんに、迷惑をかけなくてすむのかなぁ」

しほ「……。」

しほ「……それに、入院や検査のために休学や留年をしてしまったとしても、進学や就職に不利になったりはしない」


・ただし、本件は生物学的にも人類学的にも非常に重要な事象であることはいうまでもなく、それゆえに、生まれてきた新生児においてはその基本的人権を国際的な管理下のもと包括的に保護してゆく事を希望する。



麻子「……!」

華「それって、つまり……」

麻子「そういう事だと思う」

沙織「ほえ?」

しほ「生まれてくる子供は、不自由のない環境と十分な教育を保証される。漠然とした意味での『自由』と、引き換えにではあるけれど」

沙織「あの、よく意味がわからないんですけど」

麻子「生まれた子供は国の養育施設か何かで育てる、そういう事だ」

沙織「!? 赤ちゃんとられちゃうの!?」

しほ「親権はもちろんあなたたちにある。けれど、家族と同じ屋根の下で暮らす時間は、あまり多くはないでしょうね。お正月をあなたたちの家で過ごしたり、施設で会うことは許されるでしょう。けれど、一般母子のように、いつも一緒にいられるということは、できなくなる」

沙織「……そんな……」

杏「でもね……きっと、そのほうが、子供のためでもあるんだよ」

沙織「会長」

杏「考えても見なよ。正真正銘の処女受胎。本当にちゃんとした赤ちゃんが生まれてきてくれるのかな」、

杏「生まれてくれたとしても、この子はちゃんと大人に成長してくれるのかな」

杏「障害を持っていたらどうしよう」

杏「病気を持っていたらどうしよう」

杏「他の子と何かが違っていたらどうしよう」

杏「私は、そんな事ばかり考えてる。怖くてたまらなくなる……」

桃「……。」

杏「正直に言うとさ、例え河嶋がずっと一緒にいてくれたとしても、自分の力だけでこの子を守ってあげられる自信、私にはあんまりないんだ……情けないけどさ……」

沙織「……それは……」




234:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/10(月) 19:26:21.14ID:mfTSmTnIO

しほ「……。」

しほ「貴方たちは、少し意識をを変える必要があるわね」

杏「え……?」

しほ「今世界中で何が起こっているのか、大人でさえもまだ理解できない」

しほ「それなのに、ただの子供でしかないあなたたちが、自分の力でどうこうなどと。」

しほ「思いあがりもはなはだしい。」

しほ「育児というのは、そもそもからして大変なのです。その苦労を実知する母親の一人として、忠告をしておきます。自分でどうにかしようだなんて、甘い考えは捨てなさい」

杏「……。」

みほ(……お母さん……。)

役人「詳しくは、各員に後ほど要綱が配付される。また学園にはそれぞれカウンセラーが常駐する予定でもあります。私からは──以上です」

そど子「……。少なくとも、おばあさまの負担をかけることはなさそうじゃない」

麻子「まぁ……ほんの少しだけ、気が楽になった……」

スズキ「子供を抱えて路頭に迷ったりは、心配しなくていいんだね」

梓「ちゃんと大人の人が助けてくれる……」

紗希「……。」



 ざわざわ……


 
役人「……。」

役人「少々、個人的な私信を付け加えるが……」

おりょう「私信?」

役人「君たちは、国の大切な資産である」

ももがー「……シミュレーションゲームみたいに、言わないでほしいもも……」

ぴよたん「そうだぴよ」

役人「その君たちを、国家が見捨てるようなことは決してあってはならない」

役人「我が国は決してそのような国ではない。この国に奉じる一人の人間として、それだけは断言しておく」

役人「君たちには何の罪もない。それだけは伝えておく」

みほ「……」

妙子「……えっと……」

パゾ美「……何よ、この前は私達の学校をつぶそうとしたくせに……」

ねこにゃー「そ、そうだにゃあ」

役人「……君たちの学園に恨みがあったわけではない。より多くの学生に適切な教育を施すためには必要な処置であると、総合的に判断したのです」

エルヴィン「ふん、犠牲にしようとした学校にいながら、よく言えたものだ……」

役人「どう思ってくれても結構だが、私は君達若者の健やかな成長を本心から望んでいるし、その為にこそ私はこの職についている。建前ではなく。……まぁ、ともあれこれで失礼させていただく。次の学園艦へ移らなくてはならないのでね」


 ツカ、ツカ、ツカ



235:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/10(月) 19:27:01.89ID:mfTSmTnIO

役人「では、先生」

しほ「ええ」

役人「連盟のヘリをお借りいたします。」

しほ「はい。道中、お気をつけて」

みほ(……? お母さんは一緒にいかないの?)

しほ「娘の非行、改めてお詫び申し上げます」

役人「いえ……しかし、はは、先生があのように大きな声で叫ばれるとは、少々驚きました」

しほ「お恥ずかしい限りです。年甲斐もなく、娘の真似事などをを」

役人「……? まぁ、ともあれまた後日、会議の場で」

しほ「ええ、また近々」

役人「では」


 ツカ、ツカ、ツカ……


沙織「なんかさ……自分の言いたいことだけ言って、さっさと帰っちゃったって感じ……」

杏「まぁ、メンドクサイね、お役人ってのはさ」

カエサル「彼の者、敵にはあらず。しかして全くの味方にもあらず……か?」

柚子「会長、それよりも」

杏「ん? ……ああ、そうだね」

杏「おーい、皆」

杏「発表は放課後っていってたけどさぁ……もう、ここいらで、いいかな?」

妙子「結果、もうわかってるんですか」

杏「うん。さっき病院で先生方と話してきた。……検査結果用紙も、ほら、ちゃんと全員分ここにある」

あけび「……!」

典子「その紙に、書いてあるんですね。ここにいる誰が妊娠して、誰が妊娠していないのか……」

忍「……っ」

ナカジマ「はは……ちょっとだけ心臓が、キュッてした」

桃「さきに昼食にしてもかまわないが」

左衛門座「いやいや……飯どころじゃあるまいて……」

杏「じゃ、いいね。会長権限で、午後の授業なんかどーでもいいからさ。今から発表、やっちゃおっか?」


全員『オッケーでーす!』


優花里「いよいよ、でありますか……うぁぁ……緊張するであります……」

華「妊娠していないのなら、それに越した事はありませんが……」


 ざわざわ……



236:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/10(月) 19:27:45.10ID:mfTSmTnIO

みほ「……。」

みほ「あの……お母、さん……」

しほ「なに」

みほ「えと、その……お久ぶり、です」

しほ「そういえば、直接顔を合わせるのは久しぶりになるのね」

みほ「はい、えと……はい」

しほ「試合会場のモニター越しに、何度かあなたの顔を見ていたから、大して久しくは感じていなかったわ。数日まえには女々しい電話もあったものだから」

みほ「う……ごめんなさい……」

みほ(……試合、見にきてくれてたんだ……)

みほ「でも、どうしてお母さんが、ここに」

しほ「霞ケ関や筑波で、これからの事についての協議に参加していました。関東まで出てきたのなら、もう少し足を延ばして娘の顔を見に来ても、おかしなことはないでしょう。こんな時なのだから」

みほ(じゃあ、私に会いに来てくれたと思っていいのかな)

みほ(……。)

みほ(……会いに来てくれた……)

しほ「もっとも、あんなみっともない姿を見せられるとは、思っていなかったけれど」

みほ「っ……あぅ……ご、ごめんなさい。私のせいで、何度も謝ってくれて……」

しほ「それについては、また後で話をしましょう」

みほ「う……」

みほ(お母さん、やっぱり怖いや……。)

みほ(……でも……。)

みほ(やっぱり……嬉しい……)

しほ「そんなことよりも、みほ」

みほ「は、はい」

しほ「発表を、よく聞いておきなさい」

みほ「あ、う、うん……」

杏「じゃーねー、ヘッツァーの上から、失礼するよ」


全員『……』



237:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/10(月) 19:28:57.55ID:mfTSmTnIO

杏「チームごとに、該当のメンバーを読み上げる」

杏「……」

杏「皆、さっき聞いた通り、たとえ妊娠してても何の心配もいらないんだ」

杏「だから、落ち着いて、事実を受け止めようじゃないか」

杏「もちろん妊娠っていう事実は軽くは──」

桃「あ、あの会長っ、皆早く結果を聞きたいんですから……」

杏「──ほぇ?」

沙織「もー! じらさないで早く言ってくださーい!」

スズキ「そーだー!」

杏「むむ……あはは……そっかそっか、緊張しちゃってるのは私のほうこそだね。ごめんごめん」

杏「ほいじゃ、いくよー!」

みほ「……っ」

みほ(これから会長の言葉で、ここにいる誰かの人生が決定的に変わる……)

みほ(でも、そんな時に、私だけ、隣にお母さんがいてくれてる)

みほ(……)

みほ(私……恵まれてるんだ……)

麻子「西住さん」チョンチョン

みほ「麻子さん?」

麻子「……。」ニコ

みほ「……!」

みほ「……うんっ」コクン

みほ(麻子さん……ありがとう)

杏「じゃあまずは……やっぱりあんこうチームから、いい?」

優花里「ふ、ふふ、隊長チームですから、と、と、当然ですねっ」

沙織「うぅ、私達の誰かが、妊娠してるんだ……」

杏「該当者は──」

杏「二人いる」

麻子「……っ」

華「心静かに、とは……いきませんね、やはり……」

みほ「路頭に迷う心配はない、お金の心配もない、育児は大人の人が支援してくれる……すぅー……はぁー……」

みほ「お、お……お願いします!」

杏「あー……。は、は、私も声が震えちゃうよ」

杏「まず、一人目はね」





杏「……西住ちゃん」

杏「やっぱり、西住ちゃんだった」



238:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/10(月) 19:29:38.67ID:mfTSmTnIO



みほ「……。」

みほ「……。」

みほ「……。」

みほ「……そう、ですか……」

みほ(……。)

みほ「ぁ……」ぐらっ

沙織「みぽり──!」

しほ「っ」


 がしっ 


みほ「あ……お母さん……」

しほ「しっかりなさい」

みほ「……はい……」

みほ(……。)

みほ(妊娠。妊娠かぁ……)

みほ「……あはは」

優花里「西住殿」

みほ「ん、大丈夫。ただ……なんだかびっくりしすぎて、よくわからなくて……急に身体から力が抜けちゃって……そのわりに妙に、なんだか可笑しくて……へ、へんな気分。あはは……」

杏「……。」

杏「そうだね、笑うしかないよね……ふふふ……」

柚子「か、会長」

みほ「そうですよ……ふふ、ふふふ、笑ってくれたほうが、私も嬉しいよ。そうだね、笑うしか、ないもん……あははは」

杏「くっくっく……」

沙織「み、みほ……大丈夫……?」

みほ「えっと、頭が?」

優花里「ふふッ……!」

沙織「ゆかりん!?」

優花里「ちょ……やめてくださいよ西住殿。まだ発表、これからなんですから……私も妊娠してるかもしれないんですから……あははは」

みほ「ふふふふ」

華「……くす」

沙織「華まで!?」

華「くすくす……だって、みほさん、妊娠してるのに笑ってらっしゃって……おかしいじゃないですか……ふふ、うふふふ……」

杏「おーい、西住ちゃ~ん。」

みほ「あはは、何ですか? ふふふ」

杏「妊娠」

杏「おめでと~」

ツチヤ「ブフッ!」

ホシノ「うわっ、うちにも移った!」



239:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/10(月) 19:31:13.13ID:mfTSmTnIO

桃「会長! しゃれになってませんからそれ!」

杏「いや~。だって」

柚子「……っ、……ふふっ……」

桃「ゆずちゃんまで笑ってるー!?」

典子「くひっ、ちょっとぉ……こんな時まで漫才しないでくださいよ……」

桃「漫才ではない!」

紗希「……」クスクス

梓「紗希が」

桂利奈「笑ってる!」

エルヴィン「うーん、はたから見るとショックでおかしくなったようにしか見えないが……ふふ、まぁ、いいのかな?」

左衛門座「いいんじゃないか? ふふ」

ねこにゃー「謎の一体感……ふひひ」

しほ「……。」

しほ「黒森峰がここに負けただなんて、信じたくないわね……」

沙織「くすっ」

しほ「……。」

沙織「ひっ、す、すみません……。でも確かにお母さんの言う通りだなって……あんなに真面目そうな人達が、こんな変な人達に負けちゃったんだなって……ぷっ……あだめだ、あははっ」

しほ「……。ハァ……」

みほ(あ~あ、なんだか涙がでてきっちゃったよ」

みほ(私って本当に恵まれてるんだ)

みほ「ふふふふ……」

杏「西住ちゃんがいい空気にしてくれたねぇ……じゃあ、二人目、いっとこっか」

桃「お酒じゃないんですから」

杏「じゃあ、二人目いくね」



杏「もう一人はね」

杏「……」

杏「……五十部ちゃん」

杏「五十部ちゃんなんだ。」



華「……っ」

華「……。」

華「ふー……」

華「……。」

華「私、ですか。……そう、ですか……」

沙織「華」

華「ん……ありがとうございます、ちょっとだけ、このまま肩をお借りしますね」

麻子「……」

優花里「……」

みほ(華さん……)



杏「それと、五十部ちゃんのパパなんだけど」

杏「……武部ちゃん」



240:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/10(月) 19:31:50.19ID:mfTSmTnIO

沙織「へ?」

杏「武部ちゃんが、遺伝学上のもう一人の親になるんだ」

沙織「!!??」

沙織「わ……」

沙織「私!?」

杏「染色体共有者っていうんだけどね……皆、病院で検査を受けた時に産婦人科で子宮頚部を調べられたでしょ?」

杏「あれってさ、このための検査なんだ。経験則だからまだ仕組みの解明されていないらしけど、とにかく、妊娠してる場合相手の遺伝子情報がその周辺の組織から見つかるんだって」

杏「で……間違いなく、武部ちゃんのDNAが検収されてるらしい」

沙織「」

沙織「」

沙織「」

沙織「ぅぁ……」クラッ

華「!」

優花里「っ」

麻子「沙織!」



 がしっ
 がしっ



沙織「あ……ご、ごめんね皆……」

華「沙織さん、気をしっかり」

沙織「う、うん……」

沙織「でも……え? 私、ママじゃなくてパパになっちゃうの……? ええー……」

沙織「そ……それはちょっと考えてなかったなぁ、でも、そうよね、その可能性もあったよね……」

沙織「そっか、パパかぁ……あはは、みぽりん、ほんとだね、もう笑うしかないね……あはは……」

優花里「た、武部殿の場合は、ちょっぴり心配です……」

沙織「いや、うん、大丈夫だから、笑って笑って……あはは……」

麻子「笑えない……」

華「沙織さん、深呼吸をしましょう? すぅー……はぁー……」

沙織「……うう、華ぁ……」

華「大丈夫、大丈夫ですよ。……ふふ、妊娠しているのは私なんですよ? 沙織さんったら……」

沙織「華ぁ、ごめんねぇ~……」

みほ「あ、あの、会長!!」

杏「……ん」

みほ「私の、私の相手はいったい誰なんですか!? まだ、聞いてませんよ!?」

梓「あ! そ、そうですよ!」

みほ(優花里さん? 麻子さん? とにかく私も、あんな風にお互いを支えあえる相手が、ほしい……)

杏「それなんだけどね」

みほ「……。」



241:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/10(月) 19:32:35.29ID:mfTSmTnIO



杏「……。西住ちゃんのパパはね、」

杏「……分からないんだ」




みほ「……!?」

みほ「わからないって、どういう事ですか!?」

みほ「私のお腹に赤ちゃんがいるんですよね!? じゃあ、いったいこの子は誰の子なんですか!?」

しほ「……みほ、気持ちは分かるけれど、落ち着きなさい」

みほ「でも……っ」

杏「解析方法がまだ完璧ではないから、という事も原因のらしいんだけど……世界中でほんの何人か、どうしても相手を特定できない子がいるらしいんだ」

杏「日本では、西住ちゃんが、その一人っていうことらしいんだ」

みほ「……世界中でほんの数人……」

みほ「私がその一人……」

杏「本人のものでないDNAは見つかっている。ただ、それが誰のものなのかが……どうしても特定できない。」

みほ「特定、できないって」

みほ(じゃあ私のお腹の子供は……いったい誰の子供なの?)

みほ(誰の子供かわからない何かが、今、私のお腹の中に……いるの……!?)


 ……ゾくッ……


みほ(……っ)

みほ(……怖いっ……)

優花里「西住殿っ」

優花里「きっとその子は、私の子ですっ」

みほ「え?」

優花里「誰の子かどうかはハッキリしなくても、西住殿のお腹に赤ちゃんがいるのは間違いないんです!」

優花里「だったら私はその気でいればいいんです。私がお父さんなんだって! 西住殿も、そう思ってくれたらいいんです!」

みほ「優花里さん……」

梓「私も……隊長の赤ちゃんのパパに、なりたいなー……」

あや「梓は戦車が違うでしょー」

みほ(……二人とも……)

みほ「本当にありがとう……」



杏「……。」

杏「じゃあ、次のチーム、行くね」

杏「カモさんチーム、いいかな」



242:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/10(月) 19:33:47.85ID:mfTSmTnIO


そど子「……!」

パゾ美「うちにも、いるんだね」

ゴモヨ「無事でいられとしても誰か一人だけ、かぁ」

杏「該当者は……」

杏「一人」

そど子「二人とも、恨みっこ無しだからねっ」

パゾ美「恨みはしないけどさぁ」

ゴモヨ「ママもパパも、できれば嫌だなぁ……」



杏「じゃあ、いくよ」

杏「妊娠しているのは……」

杏「……。」

杏「……園、みどり子」



そど子「……!!」

そど子「……。」

そど子「私、かぁ……。」

そど子「……。」

そど子「……あ~あ。いつか、まじめな旦那さんと結婚して、子供を産みたいなって思ってたけど……はは、予定が狂っちゃた……」

麻子「大丈夫か、そど子。……立っていられるか」

そど子「……ありがと。なんとかね……」

麻子「無理はするな」

そど子「……うん……」




杏「でね、パパについてなんだけど……」

パゾ美「……。」

ゴモヨ「……。」


杏「……。」

杏「冷泉麻子」




243:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/10(月) 19:35:08.58ID:mfTSmTnIO


パゾ美「へ!?」

ゴモヨ「!?」

麻子「……は?」

杏「冷泉ちゃん、あなたがパパなんだ」

麻子「……そど子の、お腹の子供の?」

杏「そう」

そど子「!? ……!?」

麻子「お、おかしいだろう! 私とそど子は、乗ってる戦車が違う!」

しほ「……。たしかに、パートナーの9割は同乗者間で成立する。だけど……」

杏「100%じゃあないんだ。」

麻子「100%じゃ、ない……?」

杏「各学園に一人か二人の割合で、他戦車間でのパートナーも成立してる……」

桃「うちの学園では、お前達二人が、それに該当する」

麻子「……っ」

麻子「な……なんで、私なんだ!」

麻子「なんで……!」

麻子「……。」

麻子「さっき、うちのチームの発表が終わった後、私は違ったんだって……本当は心のどこかでほっとしてた……そのバチが当たったかな……」

優花里「……。冷泉殿、気持ちはわかりますが……」

麻子「え……。……あっ!」

そど子「……」

麻子「ご、ごめんっ!!! 私、また……ヒドイことを言ってしまった……私、最低だ……」

そど子「……。」

そど子「……はぁ……」

そど子「泣きべそ、かかないでよね」

麻子「……。」

そど子「アンタがどれだけ真剣に悩んでたかは、あの夜一緒にいた私が、一番良く知ってる。だから……今のは許してあげる」

麻子「……めんぼくない……」

そど子「けど、はーあ……まじめな旦那さんかぁ……夢のまた夢になっちゃった……」

麻子「……。」

麻子「……そど子」

そど子「……何?」

麻子「……。」

麻子「ちゃんと私も覚悟を決める」

そど子「……」



244:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/10(月) 19:35:38.29ID:mfTSmTnIO

麻子「あの夜、そど子が一緒にいてくれたこと、おばあに電話をしろっていってくれたこと、すごく感謝してる」

麻子「だから……」

麻子「……」

そど子「……。」

そど子「名前」

麻子「え……?」

そど子「私のこと、ちゃんと名前でよんで」

麻子「む……」

麻子「み、」

麻子「みどり子、……さん」

そど子「……。」

そど子「気持ち悪っ」

麻子「なっ」

そど子「やっぱり、いつも通りでいいから」

麻子「こ、このっ……。……むぅ、わかった」

麻子「……そど子」

そど子「ん、よろしい」

みほ(そど子さんって……)

みほ(尻にしいちゃう方だったんだ!)

みほ(……大人だぁ……)



260:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/17(月) 20:48:58.76ID:u16yxKbxO

杏「次はね」

杏「ウサギさんチーム」



みほ(……っ)

みほ(やっぱり)

みほ(紗希ちゃんなのかな)

あや「私達、かぁ」

優希「やだぁ~」

紗希「……」

梓「皆」

梓「分かってるよねっ」

桂利奈「お、おうよ!」

あゆみ「わかってる!」

みほ(?)



杏「妊娠してるのは」

杏「一人」



梓「六分の一」

梓「……ううん、違う、そんなの関係ないっ」

紗希「……」


杏「伝えるね」

杏「妊娠してるのはね」

杏「……。」

杏「紗希ちゃん」



紗希「……!」

桂利奈「……紗希ぃ」

紗希「……」

紗希「わたしの」

紗希「あかちゃん」

みほ(……。)

みほ(思ったよりも、動揺はしてないみたいだけど)

みほ(覚悟を、していたのかな。あんな小さな子が)






杏「で、お父さんだけど──」





261:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/17(月) 20:49:48.75ID:u16yxKbxO

梓「あ、あのっ」

杏「ん?」

梓「それは、言わなくていいですっ」

杏「言わなくていい……?」

梓「そうです、誰がパパだろうと、関係ありません」

梓「誰かが妊娠してるなら、全員でその子のパパになろうって、私達、皆で決めたんです!」

優希「だから、誰がお父さんだろうが、関係ないもんね」

杏「……。」

杏「そっか」

杏「皆……偉いぞ!」

梓「紗希! 私達皆、紗希のお腹の子供の、パパだから!」

桂利奈「そうだーっ」

 ぎゅー

紗希「♡」





みほ(……。)

みほ(もし、この先もずっと戦車道が続いていくのなら)

みほ(きっと梓ちゃんは、いつか大洗の隊長になっちゃうよ)

みほ(大洗の戦車道が、私の望むカタチである限り)

みほ「……」

みほ(一年生だったころ、私はあんな風にふるまえたかな)

みほ(私が一ん年生だったころ……)

みほ(お姉ちゃんの背中にもたれ掛かって、エリカさんに肩を支えられて……かろうじて踏ん張っていただけ……)

みほ(……。)

みほ(エリカさん)

みほ「あの、お母さん」

しほ「何?」

みほ「黒森峰も、もう結果は出てるんだよね?」

しほ「……。ええ」

みほ「じゃあ、エリカさんは? 妊娠……してますか……?」



262:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/17(月) 20:50:35.13ID:u16yxKbxO

しほ「……。」

しほ「……。」

みほ「……? あの、お母さん……?」

しほ「みほ」

みほ「……はい」

しほ「また夜に、話しましょう」

みほ「え……」

みほ「……」

みほ「はい」

みほ(……。)

みほ(妊娠、してるんだ、きっと)





杏「けど、水を差すようで悪いんだけどさ……」

梓「え?」

杏「検査入院の関係で、パパが誰かなのかは、やっぱり伝えておかなきゃいけないんだよねぇ」

梓「あ……そっか……」

杏「ごめんね」

梓「そ、そんな、私達のほうこそ、勢いだけで」

優希「ま、聞くだけただだもんね、それで誰なんですかー?」

あや「私かなー?」




杏「お父さんはね……」

梓「桂利奈ちゃんだ」

桂利奈「お、おおー、私かぁ」

桂利奈「……うひゃー……」モジモジ

桂利奈「……」チラッ

紗希「……」

紗希「……♡」ニコッ

桂利奈「……!」

桂利奈「えへへー」

紗希「……」チョンチョン

桂利奈「ん? なぁに?」

紗希「うちにきて」

桂利奈「え?」

紗希「おとうさんにほうこく」

桂利奈「……へぇあっ!? 」

梓「あー、じゃ、みんなで行こっか。お金や病院の心配はいらないって、ちゃんと伝えないとね。生まれた後の事とかも」

紗希「……」コクン



263:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/17(月) 20:51:06.44ID:u16yxKbxO

桂利奈「み、みんな一緒なんだね、よかったー……」

あや「だけど、私達みたいな子供ばかりで、ちゃんと紗希のお父さんんに納得してもらえるかなぁ」

しほ「貴方たち」

梓「わ……な、なんでしょうか?」

しほ「その子の家に行くときは、私も同席して構わないかしら」

梓「え!?」

みほ「お母さん!?」

しほ「本当はこういった説明も彼の役目なのだけれどね。この艦では、私が代理を務めます」

みほ「そっか、そういう仕事もあって、お母さんはこの船に……」

しほ「こんな事態の時に、戦車道の家元が何の責務も背負わずに、自由に動けるわけがないでしょう」

みほ「そ、そうだよね」





杏「さて……」

杏「実はね」

杏「次が、最後のチームなんだ」





典子「え」

ねこにゃ「なんと」

ナカジマ「チーム毎に必ず妊娠するわけじゃないんだ……」

桃「妊娠の規則性は、今だに解明されていない」

柚子「おぼろげには、パターンがあるみたいなんだけどね」

麻子「私やそど子は例外パターンなのか、あるいはもっと深い部分の規則性に従っているのか……どっちだ」

杏「それを探るための入院でもあるし、妊娠していない生徒にもいろいろなヒアリングが計画されているみたいだね」

杏「ともかく……」

杏「最後の発表、いくよ」







杏「該当チームは」

杏「……レオポンさんチーム」


つちや「!」

ホシノ「マジか……」

スズキ「卒業前に、えらいことになったなぁ」

ナカジマ「まあ……やきもきしててもはじまらない。会長、妊娠してるメンバーとそのお父さん、スパッといっちゃって!」

杏「おっけー。じゃ、言っちゃうよ」



264:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/17(月) 20:51:35.31ID:u16yxKbxO

杏「妊娠してるのは……つちやちゃん」

つちや「え……」

杏「お父さんは、ホシノ、きみだ」

ホシノ「!」

ホシノ「たまげた……」

ナカジマ「つちやが妊娠、かぁ」

スズキ「色恋には縁のな部だと思ってたけど……とんだショートカットだよ……」

つちや「……」

つちや「あの」

つちや「私、妊娠しちゃって、なんかすみません」

ホシノ「あん?」

つちや「ホシノ先輩まで、まきこんじゃって……」

ナカジマ「何だそりゃ」

スズキ「別に、つちやが何かしたわけじゃないだろ」

つちや「でも……ホシノ先輩、筑波のサーキット場に就職できそうなんでしょ? それなのに、なんかややこしいことにしちゃって……」

ホシノ「……ふ。なんだ、以外と意地らしいとこあるじゃないか」

つちや「ちゃ、ちゃかさないでよ!」

ホシノ「茶化してなんかないって」ポンポン

ホシノ「んー……会長ー」

杏「ん?」

ホシノ「今回のことで、学業や就職活動に影響がでても、不利にはならないんだね?」

杏「だね」

ホシノ「それって、妊娠してる本人だけじゃなくて、お父さん役の子もちゃんと守ってもらえるの?」

杏「もちろん。ていうか、戦車道にかかわる皆全員がその対象だよ」

ホシノ「そっか。ならワタシ、就職を一年延ばして、来年もこの船に残ろうと思うんだけど」

つちや「え!?」

杏「……。理由しだい、かな?」

ホシノ「妊娠してるつちやを一人にはしとけないし」

つちや「い、いやいや! だめだよ! 就職きまってたのに・・・」

ホシノ「だけど、つちやは以外と寂しがり屋だからなぁ。来年になって私達三年が卒業しちまったら……一人で寂しくて、鬱になっちゃうかもよ?」

つちや「はぁ!?」

杏「んー、それは困るねぇ」

つちや「ちょっと!」

ホシノ「そんな感じで、偉い人に掛け合ってもらえないかなぁ」

杏「おっけーおっけー、まかせてよ。それに来年も戦車の整備をしてもらえるのなら、願ったりだよー。ま、戦車道が続いてれば、だけどね」

ナカジマ「私達も残る?」

スズキ「それもいいかもねぇ」

つちや「!!!」



265:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/17(月) 20:52:01.38ID:u16yxKbxO

杏「妊娠してるのは……つちやちゃん」

つちや「え……」

杏「お父さんは、ホシノ、きみだ」

ホシノ「!」

ホシノ「たまげた……」

ナカジマ「つちやが妊娠、かぁ」

スズキ「色恋には縁のな部だと思ってたけど……とんだショートカットだよ……」

つちや「……」

つちや「あの」

つちや「私、妊娠しちゃって、なんかすみません」

ホシノ「あん?」

つちや「ホシノ先輩まで、まきこんじゃって……」

ナカジマ「何だそりゃ」

スズキ「別に、つちやが何かしたわけじゃないだろ」

つちや「でも……ホシノ先輩、筑波のサーキット場に就職できそうなんでしょ? それなのに、なんかややこしいことにしちゃって……」

ホシノ「……ふ。なんだ、以外と意地らしいとこあるじゃないか」

つちや「ちゃ、ちゃかさないでよ!」

ホシノ「茶化してなんかないって」ポンポン

ホシノ「んー……会長ー」

杏「ん?」

ホシノ「今回のことで、学業や就職活動に影響がでても、不利にはならないんだね?」

杏「だね」

ホシノ「それって、妊娠してる本人だけじゃなくて、お父さん役の子もちゃんと守ってもらえるの?」

杏「もちろん。ていうか、戦車道にかかわる皆全員がその対象だよ」

ホシノ「そっか。ならワタシ、就職を一年延ばして、来年もこの船に残ろうと思うんだけど」

つちや「え!?」

杏「……。理由しだい、かな?」

ホシノ「妊娠してるつちやを一人にはしとけないし」

つちや「い、いやいや! だめだよ! 就職きまってたのに・・・」

ホシノ「だけど、つちやは以外と寂しがり屋だからなぁ。来年になって私達三年が卒業しちまったら……一人で寂しくて、鬱になっちゃうかもよ?」

つちや「はぁ!?」

杏「んー、それは困るねぇ」

つちや「ちょっと!」

ホシノ「そんな感じで、偉い人に掛け合ってもらえないかなぁ」

杏「おっけーおっけー、まかせてよ。それに来年も戦車の整備をしてもらえるのなら、願ったりだよー。ま、戦車道が続いてれば、だけどね」

ナカジマ「私達も残る?」

スズキ「それもいいかもねぇ」

つちや「!!!」



281:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/24(月) 20:42:34.42ID:/r6Jkh/sO

つちや「い──」

つちや「いいかげんにしてよ! そんな大事な事を簡単にほいほい、何かってに決めてんの!?」

ホシノ「即断即決はドライバーにとって大切な資質だぞ」

つちや「だから、ふざけないでよ!!! ほんとに怒るよ!?」

ホシノ「……。ふざけてないって、言ってるだろ」

つちよ「な、なにさっ、すごまないでよっ」

ホシノ「つちや、お前は──」

ホシノ「妊娠したんだ」

つちや「……っ」

ホシノ「そんなお前を、ほっておけるわけないだろ」

つちや「……」

つちや「……グスッ」

スズキ「およ」

ナカジマ「……ほらみろ、ほんとは泣くほどうれしいクセに。素直じゃないねぇ」

つちや「う、うるさい、うるさいですよぉ!!!!」 ポカポカポカ

ナカジマ「おいおいー先輩を殴るなよー」

スズキ「子供の教育にもよくないぞー?」

ホシノ「そうだぞ。私の子供でもあるんだ。もっと大切にしてくれよ」

つちや「うがー!!!」



みほ(……)

みほ(いいなぁ)

みほ(いいなぁ!!)

みほ(私も、私を大切にしてくれるパパがほしいよぅ!!)

みほ(一緒に悩んで、一緒に頑張って、一緒に笑ってくれる、そういう人が、私にはいない……)

みほ(どうして私だけ)

みほ(うう)

みほ(シングルマザーって。こんなに寂しい気持ちになんだ……)



282:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/24(月) 20:43:09.35ID:/r6Jkh/sO

杏「よぉーし、じゃあ発表はこれで終わりだ」

杏「……もっと混乱するかと思ってた。みんな、よく落ち着いて聞いてくれた。本当にありがとう」

そど子「ふふん、うちのパパは、そうでもなかったみたいだけどね」

優花里「あはは、言われちゃってますよ、冷泉殿」

麻子「ぐぬ……だから謝ったじゃないか……」

杏「そいでね、これからの予定についてなんだけど」

杏「まず、妊娠組とそのお父さん組」

杏「つまり私や、かーしまもなんだけど」

杏「私達は三日後の寄港のタイミングで下船する」

杏「んで、みんなで一緒に筑波へ行くよ。そこで検査入院だ」

沙織「また病院かぁ……やだなぁ……しかも五日間……」

杏「けど、この検査入院はそこそこ賑やかなことになるんじゃないかな」

華「どういう事です?」

杏「関東圏の学園が皆集まるわけだからさ、ざっと思い出すだけでも……」

杏「まず、聖グ口リアーナ女学院でしょ」

杏「それにアンツィオ高校もだし」

杏「あとは知波単学園も関東だね」

杏「私達と関わりのあった学校だけでもこれだけあるんだ。それ以外の学校もいれたら結構な人数になるはずだよ」

杏「ちょっとした同窓会みたいになるかもね」


 ざわざわ……


華「ダージリンさん達も……!」

典子「福田ちゃんたち、どうしてるかなぁ」

梓「そうだよね、あの人達も、妊娠してるかもしれないんだよね……」

みほ「……」

みほ「あの、会長」

杏「ん?」

みほ「もしかして、別の学校の誰が妊娠してるのか、会長はもう知ってるんじゃ……?」



283:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/24(月) 20:44:51.17ID:/r6Jkh/sO

おりょう「なぬ?」

杏「あー……んにゃ、実は私も、ほとんど何も知らないんだ」

みほ「そうなんですか……?」

杏「うん。この件についてはね、お上のほうで少しずつ法案がまとまり始めてるんだけど、情報については特に厳しく管理されるみたいなんだ」

優希「えっと、どーいう事ですか?」

杏「簡単にいうと、この件を誰かに口外すると、法律違反になっちゃうってことだね」

あや「法律違反……警察につかまっちゃうってことですか?」

桃「まぁ、そんな感じだ」

カエサル「げっ! じゃあ、これって……やばい?」

杏「?」

エルヴィン「どうしたんだ?」

カエサル「今、ヒナちゃんに、『私は妊娠してなかったよー』って、メールしたんだけど……」

左衛門座「……おいおいたかちゃん」

おりょう「さっそく幕府に御用か……」

カエサル「え、ええー……」

桂利奈「……あれ? だったら、アリサさんも逮捕されちゃうんじゃ」

あゆみ「ほんとだー!」

しほ「……」

しほ「ちょっと、いいかしら」

柚子「あ、みほさんのお母さん」

しほ「貴方たち、妙な心配はしなくてけっこうです」

桂利奈「逮捕、されないんですか……?」

しほ「これらの一連の機密保護法は、貴方たちを第三者の目から守ったり、政府が情報統制を行いやすくするための法案です」

しほ「この件に全く関係のない第三者に何かしらの見返りを目的として情報を漏らしたりしないかぎりは、余計な心配は無用です」

しほ「だから、当事者同士のやりとりで、貴方たちをどうこうという事はありえません」

杏「……なるほどなるほど、いやぁ、みほさんのお母さんがいてくれて、助かるねぇ」

みほ(……えへへ)

沙織「ふふ、みぽりん、なんだか嬉しそうだねぇ」

みほ「へぁ……!?///」

杏「そいで、他の入院しない子達。君たちはとりあえずはいつも通りに生活を送ってね」

あけび「いつも通りに」

ねこにゃー「なんだかちょっぴり、申し訳ないにゃー」

優花里「そうですね……それに、皆さんが入院している間、私は一人ぼっちになっちゃうんですねぇ。寂しいなぁ……」

みほ「あ、そっか。あんこうチームだと、優花里さんだけは船に残るんだね……」

優花里「うう、そうですよう」

梓「優花里先輩! 私達と一緒にお昼とか食べませんか!」

優花里「……! うん!」

杏「まぁ妊娠してない子達も、検査入院をする機会はこれからちょくちょく出てくるし、いろんなヒアリングや検査を受けてもらうことにはなるんだ」

杏「とりあえずはこんなところか……あ、そうだ、入院する子もしない子も、寄港の日までは自由に過ごしてくれていいからね」



284:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/24(月) 20:45:42.45ID:/r6Jkh/sO

華「自由、ですか?」

杏「うん。学校は休んでもいいってこと。皆好きにすごしてくれていいよ」

柚子「これからは、チームメイトがばらばらになることも、多くなるかもしれないから……」

あや「あ……そっか……」

紗希「……」

桂利奈「じゃあ、明日はみんなで、どこかへ遊びにいく……?」

梓「……」

梓「私は、いつも通りに、学校に登校していたいな」

あゆみ「え?」

梓「いつも通りに、みんなで一緒に学校に登校して、授業をうけて、お昼ご飯を食べて、一緒に下校して……いつも通りに……」

桂利奈「……」

優希「……ちょっぴり、その気持ちわかるかも……」

あや「私も……」

みほ(……。)

杏「もちろん、いつも通りに授業を受けるのもいいさ。言ったでしょ。何もかも、自由だっ」

杏「よーし、じゃあ今日はもうおしまい! あとは好きに過ごしていーよー!」




 ……ざわざわ……ざわざわ…… 




そど子「どーしよっか、とりあえず、おばあ様に連絡する?」

麻子「そうだな。おばあ、結果を心配してると思うし」

麻子「しかし、なんて言われるだろう……」

そど子「別に怒られたりはしないでしょ」

麻子「いや、これからはもっとしっかりしろだとか、小言をいっぱい言われる気がする」

そど子「ふふ、いーじゃない。いっぱい言ってもらいなさいな。」

麻子「ぬぅ」

そど子「けど、私も一応、改めておばあさまにご挨拶しておこうかしら……」

麻子「……ん」

麻子「静かな所へ、移動しよう」

そど子「そうね」

みほ(……。)

みほ(麻子さんとそど子さん、いっちゃった……)



285:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/24(月) 20:46:09.50ID:/r6Jkh/sO

沙織「……はぁー……」

華「沙織さん?」

沙織「なんだか、いまだに現実感がないっていうかさぁ」

華「……。そうですね私もです」

華「自分が、妊娠、してるだなんて」

沙織「華のお母さん、びっくりするかなぁ」

華「これ以上ないほど、びっくりすると思います……」

沙織「それにさ、華の子供なら、跡継ぎの問題とか、そういう事にもなるのかなぁ」

華「そうですね、そういう話にも、なるかも……」

沙織「……」

沙織「なんかいろいろ、大変そうだよね……」

華「……」

沙織「……」

沙織「でも、華」

華「はい?」

沙織「一緒に、頑張ろうね」

華「……!」

華「ええ、頑張りましょう!」

みほ(……。)

みほ(やっぱり自然と、子供のいる二人どうしで、一緒になるよね)

みほ(……。)

みほ(いいなぁ……いいなぁ……!)

みほ(私もあんなふうに、誰かとおしゃべりしたい……)

優花里「……西住殿? 大丈夫ですか?」

みほ「え、あ、う、うん」

みほ(……。)

みほ(優花里さん)

みほ(優花里さんなら、私と一緒にいてくれるかな)

みほ(私の不安や泣き言、全部、受け止めてくれるかな)

みほ(……優花里さんなら……)

みほ「……あの、優花里さん」

優花里「はい?」

みほ「よかったら、今晩、家に泊まりに来てくれないかな」

優花里「もちろん、いいですよ! じゃあ、みんなも──」

みほ「あ、ううん!」

優花里「へ?」

みほ「……今日は、優花里さん一人で……」



286:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/24(月) 20:47:49.30ID:/r6Jkh/sO

優花里「え」

みほ「優花里さんと二人だけで、ゆっくりと色んなお話しがしたくて……だめ、かな」

優花里「……! い、いやいや! 不肖この秋山優花里、喜んで西住殿と──」

しほ「──みほ、ちょっといいかしら」

優花里「おっと」

みほ「お母さん?」

しほ「私はこれから、丸山さんのお宅にお邪魔することになりました」

みほ「あ、今日、さっそく、お話ししにいくんだ」

しほ「ええ、ちょうど今日はお父様が在宅だそうだし」

みほ「……」

みほ「あの、お母さん、紗希ちゃんのこと、よろしくお願いします」

しほ「もちろん。それが私の責務です」

しほ「そういうわけだから──」

しほ「恐らく、夕方には貴方の家に戻るでしょう」

みほ「……え?」

しほ「晩御飯は、母が作りましょう。材料はスーパーで買って帰ります」

みほ「……へ?」

しほ「一応確認しておくけれど、基本的な調味料くらいは、あなたの家にもそろっているでしょうね?」

みほ「……え、う、うん、そろってるけど……」

みほ「えと、今日、私の家でご飯を食べるの……?」

しほ「夜に話をしましょうと、言ったでしょう」

みほ「あ……そ、そっか」

しほ「それと、寝具はタオルケットか何かがあればいいわ。一晩だけのことなのだし」

みほ「? 寝具って──」

みほ「──!?」

みほ「お、お母さん、もうしかして今日、うちに泊まるの!?」

しほ「そうよ」

みほ「そうよ、って……そんな急に……」

しほ「何か不都合な事でもあるのですか?」

みほ「え、えと」チラチラ

優花里「……。」

優花里「ほえ?」

優花里「あ、私はもちろん今日は遠慮しますよ? だって、せっかくお母さんと一緒なんですから」

みほ「……。」

みほ「ありがとう……」

しほ「では丸山さんのお宅を出たくらいで、また連絡をします。また後で」

しほ「……ああ、ご飯を二合、炊いておいてちょうだい。忘れないでね」

みほ「は、はい」



すたすたすた……



287:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/24(月) 20:50:55.48ID:/r6Jkh/sO

優花里「やぁ西住殿、よかったですねぇ。お母さん、とても優しくしてくれるじゃないですか」

みほ「う、うん……」

優花里「ほっぺたを叩いた時は、ドキドキしましたが……あれもきっと、お役人さんへのケジメなのではないでしょうか」

みほ「そう、かもね」

みほ(……。)

みほ(お母さんと二人きりで、一緒にご飯を食べて、一緒に寝る)

みほ(か、考えた事もなかった)

みほ(私、今回のことでお母さんにはとても感謝してる)

みほ(……でも……)

みほ(やっぱりまだ、緊張しちゃうよう……)

みほ(……。)

みほ(だけど、エリカさんの話、これでゆっくり、聞かせてもらえるんだ)

みほ(……エリカさん……)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



296:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/31(月) 19:34:57.55ID:jFXm9n4vO

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 しゃり、しゃり、しゃり


みほ(お米が二合、なんだかとぎ汁がいつもより濃厚な感じ)


 しゃり、しゃり、しゃり


みほ「何をしゃべろっかな」

みほ「お母さんと」

みほ(でも、よく考えてみたら)

みほ(聞いてみたいこと、いっぱいあるんだよね)

みほ(エリカさんの事もそうだし)

みほ(自分が妊娠した時、びっくりした? とか)

みほ(私やお姉ちゃんを生むとき、痛かった? とか)

みほ「そういう話、全然してくれないんだもん」

みほ「いつも戦車道のことばっかりで」

みほ「……」

みほ「今なら、聞かせてもらえるかな」

みほ「……」

みほ(ちょっとだけ、楽しみになってきちゃった)

みほ(……あはは、なんだか私って、すっごく気まぐだよね)

みほ(ころころ気分がかわってる)

みほ(これも、妊娠のせいなのかなぁ)


<テーブルの上の携帯『やってやーるー♪  やってやーるー♪』


みほ「あ、きっとお母さんだ」


 <『いーやなあーいつをぼーこぼっこに~♪』


みほ「手をふかなきゃ」


 ごしごし

 とっとっとっと……


みほ「今でますー、よっと」




 
 着信:ダージリンさん 





みほ「……」

みほ「え!?」



297:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/31(月) 19:35:31.48ID:jFXm9n4vO

みほ「わわわっ!?」

みほ「ダージリンさん!? これ、ダージリンさんから電話!?」

みほ「わ、わ」

みほ(お、落ち着け、私!)

みほ(はやく出ないと)

みほ(でもでも、すごくドキドキする! 手が震えちゃう!)

みほ(だって、今度のことがあって以来で、初めて他校の人から……)

みほ(すー、はー)



 ──ぴっ



みほ「も、もしもし」



ダージリン『みほさん?』



みほ「──!」

みほ「ダージリンさん、ですよね?」

ダージリン『ええ。ごきげんよう』

みほ「こ、こんにちわ、あ、もうこんばんわ、かな、えと、えと──」

みほ(……あっ)

みほ(なんでだろう)

みほ(急に、いろんな思い出が──)

みほ(グ口リアーナとの試合)

みほ(大洗の初陣)

みほ(チームワークはバラバラ)

みほ(でも一生懸命に戦って)

みほ(ダージリンさんがティーカップをくれて)

みほ(そのあとも、ダージリンさんは、いつも応援にきてくれて)

みほ(決勝戦の時も)

みほ(大学選抜の時は一緒に戦ってくれて)

みほ(あぁ! どうしてだろう、戦車道の思い出がいっぱい!)

みほ(何もかもが懐かしくて)

みほ(なんだかとっても)

みほ(切ない)



298:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/31(月) 19:35:57.58ID:jFXm9n4vO

みほ「ダージリンさん!」

みほ「ダージリンさんっ!!」

ダージリン『み、みほさん? 思っていたよりも元気そうですわね』

みほ「だって、ダージリンさんの声を聞けて、私、すごく嬉しいです!」

ダージリン『そ、そう?』

ダージリン『……ふふ』

ダージリン『相変わらず、おもしろい人』

ダージリン『……。』

ダージリン『初めてよ』

みほ「え?」

ダージリン『おもいきって電話をしてよかったって』

ダージリン『こんなに早く思わされたのは』

ダージリン『初めて』

みほ「……ダージリンさん……」

みほ(なんでだろう)

みほ(今まで、薄暗くて狭い部屋の中を、ずっと一人でウロウロしていた)

みほ(だけど今、その暗い部屋が突然に消え去って、青空とお日様の光であたりが輝いてるみたい)

みほ「あ、あのっ」

ダージリン『なぁに?』

みほ「お元気、ですか」

ダージリン『ええ、それなりに、ね』

ダージリン『あなたは? お元気でいらして?』

みほ「私も、そうですね、それなりに、です」

ダージリン『そう』

ダージリン『結構なことですわ。今はそれで御の字だもの、ね? ふふ』

みほ「そうですね……えへへ」

ダージリン「うふふ」

みほ「あはは」

みほ(……あぁ)

みほ(いいなぁ)

みほ(このまま、事件のことなんて何にも忘れて、ダージリンさんとおしゃべりをしていたい)

みほ(……。)

みほ(でも)

みほ(まずは、お話しをしておかなきゃ)

みほ「あの、ダージリンさん」

ダージリン『ん?』

みほ「私は、してました」

みほ「──妊娠」



299:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/31(月) 19:37:31.45ID:jFXm9n4vO

ダージリン『……』

ダージリン『……そう……』

みほ(だけど、話さえしてしまえば)

みほ(その後は)

みほ(同じ問題を抱えている者同士)

みほ(気軽におしゃべりができるような)

みほ(そんな風に、なれるんじゃないかなって……)

ダージリン『みほさん』

みほ「はい」

ダージリン『私は』

ダージリン『していなかったの、妊娠』

みほ「……!」

みほ「そう……ですか……」

ダージリン『ごめんなさいね』

みほ「い、いえ、そんなことはっ、そんな事、は」

みほ「……」

みほ「すみません、私ホントは」

みほ「ダージリンさんも妊娠してたら、ダージリンさんが私と一緒の問題を抱えてくれたら、とても心強いなって、そう思ってました」

ダージリン『……』

みほ「勝手ですよね、私、ごめんなさい」



みほ(……だけど、妊娠しているからこそ電話をくれたんだって、そう思ったんだけどな……)



ダージリン『貴方にそんな風に思ってもらえているのなら、光栄よ』

ダージリン『それに』

ダージリン『数日後に検査入院があるでしょう?』

みほ「はい」

ダージリン『私も、参加いたしいますの』

みほ「え!」

みほ「じゃ、じゃあ、ダージリンさんは」

みほ「誰かのパパなんですか!?」

ダージリン『パパ……?』

みほ「は、はい、お父さん」

ダージリン『……あぁ、パートナーという事ね』

ダージリン『大洗では、パートナーの事を「パパ」と呼ぶのね』

ダージリン『おもしろいことですわね、ふふ』

みほ「まぁ、な、なんとなくですけど」

ダージリン『なかなか良い呼び名ではなくて?』

みほ「は、はぁ」



300:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/31(月) 19:38:07.08ID:jFXm9n4vO

ダージリン『そういうことなら、そうね、私は──』

ダージリン『ペコの子供のパパ』

ダージリン『ということになるのね』

みほ「!!!」

みほ「オ、オレンジペコさんが妊娠! ですか!」

ダージリン『えぇ、そうなってしまったわ』

みほ「そう、ですか、ペコさんが」

みほ(ああ……)

みほ(誰かが妊娠したっていう知らせ)

みほ(何度聞いても慣れることは無いや)

みほ「オレンジペコさん、大丈夫ですか? ショックとか、受けてませんか?」

ダージリン『ん……』

ダージリン『あの子は、私が思っていたよりも、ずっと強い子だった』

ダージリン『いえ、あるいは、そうではなくて』

みほ「?」

ダージリン『私が情けないから、元気でいようとしてくれているのかもね』

みほ「……?」

みほ(なんだか、ダージリンさんの声が弱弱しくなった)

みほ(ううん、そういえば)

みほ(私、舞い上がってて深く考えなかったけど、ダージリンさんの声、はじめからずっと、いつもよりハリが無かったような)

みほ「あの、ダージリンさん、なんだか少し、元気がありませんか……?」

ダージリン『……』

ダージリン『お恥ずかしいけれど、私、今回の事で、少し動揺してしまって』

みほ「動揺?」

ダージリン『だって、女性の一生にとって、取返しのつかない出来事でしょう?』

ダージリン『それなのに、どうして私は無事で、あの子達だけが、って』

みほ「そんな風に考えることは、ないと思いますけど……」

ダージリン『みんなそういってくれるけれど、なかなかね』

みほ「……」

みほ「……でも、そうですよね」

みほ「私、ダージリンさんの気持ち、わかります」



301:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/31(月) 19:38:40.45ID:jFXm9n4vO

ダージリン『……わかって、くださるの?』

みほ「もし、私が妊娠していなかったら」

みほ(──どうして紗希ちゃんなんだろう、どうして私じゃないんだろうって──)

みほ「ダージリンさんと同じように、きっと私も、考えたと思います」

ダージリン『みほさん……』

みほ「だって私達は」

みほ「隊長なんですから」

ダージリン『……っ』

ダージリン『みほさんならって、そう思っていましたのよ。』

ダージリン『きっと、わかってくださるって……』

ダージリン『……』

ダージリン『……すんっ……』

みほ(……。)

みほ(ダージリンさん……)

みほ(ダージリンさんも、きっといっぱい大変だったんだ)

みほ(気づいてないふり、しなきゃね)

みほ「あのう、ダージリンさん、今『あの子達』って」

みほ「やっぱり、グ口リアーナの皆さんも、何人も?」

ダージリン『……ずびっ……え、ええ……そうなのよ』

みほ「やっぱりそうですか」

みほ「私達大洗の生徒も、何人も」

みほ「実は、華さんも妊娠してるんです」

ダージリン『まぁ! 華さんも……!』

ダージリン『グ口リアーナも実は、そうねぇ』

ダージリン『みほさんは、ローズヒップの事は、御存じだったかしら?』

みほ「赤毛の、元気な子ですよね? クルセイダーに乗っている」

みほ「……ということは、もしかして」

ダージリン『えぇ。ローズヒップに赤ちゃんができた』

ダージリン『アッサムの子よ』

みほ「!」

みほ「そうでしたか……」

ダージリン『……』

ダージリン『ふふ』



302:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/31(月) 19:39:11.42ID:jFXm9n4vO

みほ(え?)

みほ(ダージリンさん……笑ってる……?)

ダージリン『失礼、ごめんなさい』

ダージリン『不謹慎よね』

ダージリン『けれど、だってあの子』

ダージリン『自分が妊娠したってわかってから、借りてきた猫みたいに大人しくなってしまって』

ダージリン『それでアッサムも、随分と戸惑ってしまってね……くすくす……』

みほ「???」

みほ「落ち込んでる、っていうのとは、違うんですか?」

ダージリン『ええ、それとは違うの』

ダージリン『あの子はね、むしろ、妊娠を肯定的に受け取ってる』

みほ「それは……すごいですね」

ダージリン『そうでしょう? 私も関心してしまったわ』

ダージリン『あの子は、本当にすごい』

ダージリン『ただ、なんていうのかしら……くすくす、とにかく可笑しいのよ』

ダージリン『まぁ、みほさん達とは、つくばで会えるでしょう』

ダージリン『そうすれば、みほさんにもわかると思いますわ、ふふ』

みほ「は、はぁ」

ダージリン『ともあれ、みほさんも、いろいろと大変な思いをなさっているのでしょうね』

みほ「ん……そうですね、本当にいろいろ、あったと思います。思い返せばキリがないくらい」

ダージリン『皆、同じね』

みほ「ですね……」

ダージリン『これからも、様々な事が起るのだわ』

みほ「そうだと思います」

ダージリン『あぁ、そういえばみほさん』

みほ「はい?」

ダージリン『みほさんのパートナーをお聞きしてもよろしくて?』

みほ「えっと……うぅ、それが実は──」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



303:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/31(月) 19:39:39.80ID:jFXm9n4vO

ダージリン『──あら、ずいぶんと話し込んでしまいましたわね』

みほ「わ、もう一時間近く」

みほ「……あっ」

ダージリン『? 何か、ご迷惑をおかけしてしまったかしら』

みほ「う、ううん」

みほ(お母さんから着信きてたかも)

みほ(ま、まぁ、大丈夫だよね、別に特別な連絡じゃないし)

みほ「なんでもないです。平気です」

ダージリン『そう?』

ダージリン『けれど、ごめんなさいね』

みほ「?」

ダージリン『他校との連絡は、一応みんな自粛しているのだけれど』

みほ「あ、やっぱり、そんな感じだったんですね」

ダージリン『えぇ、それぞれの学校が、どんな状況なのか、わからないもの』

みほ(確かに……例えば麻子さんとケンカをしてしまった日)

みほ(あの時にこうして連絡がきていたら)

みほ(とても落ち着いて話はできなかった)

ダージリン『けれど私、みほさんやカチューシャとは、どうしてお話しがしたくて』

ダージリン『だから角谷さんに、お願いをしていたの』

ダージリン『皆さんが落ち着いたら、教えてくださる?って』

みほ「ダージリンさん……」

みほ「ありがとうございます。私もダージリンさんとお話しできて」

みほ「とっても元気がでました」

ダージリン『そう。それなら、よかった』

みほ「あの、カチューシャさんとも、もうお話しはしたんですか……?」

ダージリン『ええ。』

ダージリン『……』

ダージリン『みほさん』

ダージリン『カチューシャは──』

ダージリン『妊娠をしているわ』



304:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/31(月) 19:40:07.14ID:jFXm9n4vO

みほ「……!!」

みほ「カッ……!」

みほ「……っ」

みほ「……そ、そうでしたか……」

みほ「カチューシャさんが……」

みほ「けど」

みほ「失礼かもしれないけど」

みほ「カチューシャさん」

みほ「子供を産むの、大変なんじゃないでしょうか」

ダージリン『あの子自身が、子供みたいだものね』

みほ「し、身長の話ですよ」

ダージリン『ふふ。わかっているわ』

ダージリン『ただ……そうなの、みほさんのおっしゃる通り、とても心配なの』

ダージリン『あの子……』

ダージリン『通常の分娩はおそらく望めないって、お医者様に言われたそうなの』

ダージリン『そもそも、通常の妊娠でもカチューシャの身体にとっては相当な負担』

ダージリン『だというのに、今度の妊娠は、それに輪をかけて、何が起こるかわからない……』

ダージリン『母体の事を考えるのなら』

ダージリン『今回の場合は、早いうちに非常の処置を、ということになるのかもしれないそうなの……』

みほ「……それって……。」

みほ(……堕胎……)

みほ(……っ)

ダージリン『あの子も、ちょっと今は、ナイーブになっているわ』

ダージリン『しばらくは、そっとしておいてあげたほうがいいのかもしれないわね』

みほ「……。」

みほ「私いま、カチューシャさんの事をとっても抱きしめてあげたいって」

みほ「そう言ったら、カチューシャさん、やっぱり怒っちゃいますよね……」

ダージリン『どうかしらね……ただ、カチューシャの側にいる誰かさんは、嫉妬をするかもね』

みほ(ノンナさん)

みほ「あの、カチューシャさんのパパは……」

ダージリン『……ええ』

ダージリン『みほさんの、考えている通りよ』

みほ「……。」



305:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/31(月) 19:40:46.37ID:jFXm9n4vO

ダージリン『でも、カチューシャは必ず、立ち直る』

ダージリン『だって、カチューシャは一人ではありませんもの。彼女にも大勢の仲間がいる』

ダージリン『私たちが、そうであるようにね』

みほ「そう、ですよね……」

ダージリン『ええ。』

ダージリン『……』

ダージリン『みほさん』

みほ「はい?」

ダージリン『私はね、信じているのよ』

みほ「え?」

ダージリン『いつか何年も時間がたった後で──』
 
ダージリン『今を振り返って、あの頃は大変だったねって、皆で笑いあえる日がいつかきっと必ず来るって』

ダージリン『私はそう信じてる』

ダージリン『だから今は、支えあって、くじけずに頑張ろうって』

ダージリン『そう思っていますのよ』

みほ「ダージリンさん……」

ダージリン『ごめんなさいね、自分が妊娠しているわけでもないのに、偉そうに』

みほ「……いえ、ダージリンさんも一緒に戦う仲間です」

みほ「ダージリンさんが一緒に悩んでくれるんだって思うと」

みほ「やっぱり、安心します」

みほ「おかしな言い方ですけど、ダージリンさんも巻き込まれてくれて……本当によかった……」

ダージリン『みほさん』

ダージリン『……。』

ダージリン『ありがとう……』

ダージリン『……』

ダージリン『あの子が──ペコがね』

みほ「?」

ダージリン『こんな格言を私に教えてくれた』

ダージリン『「案ずるより産むが易しですよ?」……ってね』

みほ「……あぁ……!」

ダージリン『もちろん、私の口から言うべき言葉ではない』

ダージリン『ただ、あの子がそう言ってくれた事で』

ダージリン『私はとても、救われたの……』



306:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/31(月) 19:41:19.21ID:jFXm9n4vO

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ──ピッ



 [ 通話終了 ]



みほ「……。」

みほ(ペコさん、ローズヒップさん)

みほ(……カチューシャさん……!)

みほ「……皆さん……っ」




 ──ぴんぽ~ん




みほ「ん」

みほ「誰だろう」

みほ(今はちょっと、一人で静かにいさせてほしいなぁ……)

みほ「はーい」




 とたとたとた




 ──ガチャ

 キィィ……




しほ「……」




みほ「あっ!!??」

しほ「ちゃんと家にいたのね」

みほ「あ、え」

しほ「何度電話をしても、話中だったから」

みほ「ごめんなさい、ちょっと電話をしてて」

しほ「長電話は関心しないわね」

みほ「あの、その……」

しほ「まぁいいわ」

しほ「買い物はすましてきました。入るわよ?」

みほ「あ、ど、どうぞ……えと、買い物袋、持つね……」

しほ「ありがとう。キッチンに運んでちょうだい」



 キィィィ……バタン

 とたとたとた……



307:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/31(月) 19:41:52.70ID:jFXm9n4vO

みほ「お母さん、紗希ちゃんのお父さんとのお話しは、上手くいった?」

しほ「えぇ。父子家庭ということでいろいろと考えるところはあるでしょうけれど。」

しほ「とりあえず、訴訟に発展するような懸念は──」

しほ「……。」

しほ「みほ」

みほ「ふぇ?」

しほ「お米を二合炊くようにと、あなたに頼んでおいたはずだけれど」

みほ「え? う、うん、ちゃんと──」

みほ「……あ!」

みほ(そうだ! ダージリンさんから電話がかかってきて)

みほ(そのまま置きっぱなしだった!!)

しほ「米つぶが爪で割れる……いったい何十分、つけおきをしているの」

みほ「ご、ご、ごめんなさい! と、途中で電話が! え、えと……早炊きをすれば30分で炊けるから!」

しほ「……」

しほ「普通炊きと間違えないように」

みほ「は、はい」



 がちゃんっ

 ピ、ピ、ピ、ピ



しほ「みほ」

しほ「あなたも母親になろうというのですからね」

しほ「一つ一つの物事に、もっと落ち着いてしっかりと──」

みほ「わ、わかってるよう!」

みほ(うぅ……お母さんて、私が何か失敗をしてたりみっともない事になってると時にかぎって、現れるんだもん……)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



308:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/31(月) 19:42:31.73ID:jFXm9n4vO

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 しゅる……


みほ(……お母さんのエプロン姿だ……変な感じ)

みほ(いつぶりだろう)

みほ(熊本にいたころも、お母さんは、ずっとお仕事だった)

みほ「あの、お母さん」

しほ「なに?」

みほ「ご飯、何を、つくってくれるのかなって」

しほ「……。」

しほ「手羽先の」

しほ「煮しめよ」

みほ(……!)

みほ「私、手羽先の煮しめ、好き」

しほ「そうね、子供のころから、好きだったわね」

みほ「……うん」

みほ(……。)

みほ(私が好きな料理)

みほ(私が好きな料理だから、作ってくれるんだ)

みほ(……だけど)

みほ(その事を、なんて、伝えればいいのかな)

みほ(……はぁ)

みほ(もしも、私にもっと勇気があれば)

みほ(もっと素直に、今の気持ちを伝えられるのかなぁ……)

しほ「……。」

みほ「……。」



 トントントン 



みほ「……。」

みほ「あの、お母さん」

しほ「なに?」

みほ「……手伝っても、いいかな」



309:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/31(月) 19:43:13.86ID:jFXm9n4vO

しほ「慣れているから、一人の方が、早いのだけれどもね」

みほ「あ……そ、そか……」

みほ(……お母さんって、こういう所があるんだもん……)

みほ(……でも……)

みほ「だ、だけどっ」

みほ「私もその料理、覚えたくてっ」

しほ「……。そうですか」

しほ「ならまず、濃い口醤油と、みりん、だしの素を出して頂戴、それと佐藤も」

みほ「……!」

みほ「う、うん!」




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




みほ「いただきます」

しほ「いただきます」


 かちゃかちゃ……


みほ「ごめんなさい、小さなテーブルしかなくて」

しほ「二人なら、ちょうどいいわ」

みほ「そ、そうだね」

みほ(友達も時々きてくれるようになったし……もう一回り大きいテーブル、買おうかなぁ)

みほ(それにしても)

みほ(お母さんが……)

みほ(近い!)

みほ(うぅ、なんとなく目のやり場が……)

みほ「て、手羽先、どうかなぁ……」



 はむ



みほ(あ、懐かしい味)



310:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/31(月) 19:43:57.07ID:jFXm9n4vO

みほ(けど)

みほ「少し、味が濃かったかも……」

しほ「そうね。つけ置きで味をしみ込ませるのなら、丁度よかったのでしょうけれど」

しほ「揉みこむ時は、もう少し醤油と砂糖を薄くするといいわね」

しほ「次作る時は調整してみなさい」

みほ「うん」

みほ「けど……でも、おいしい」

しほ「そう」


みほ「……」

しほ「……」


 もぐもぐ、カチャ……


みほ「……あの」

しほ「ん?」

みほ「……」

みほ「お母さんが妊娠した時って……大変だった?」

しほ「まぁ……人なみに大変ではあったけれど」

しほ「ただ、まほも、あなたも、今なら都合いいなと思った時分に当ててもらったから」

しほ「タイミングは良かったわね」

みほ(あ、当てる……)

みほ(戦車道の人なんだなぁ)

みほ「そ、そうなんだ」

しほ「夫婦ともに、比較的仕事の落ち着いた時期でもあったし」

しほ「西住流にゆくゆく専念することご考えれば」

しほ「今ごろに産まれてくれれば、一番重要な時に二人とも手が掛からなくなるだろうと」

しほ「そういう逆算からも、ちょうど良かったわね」

みほ「そっか……」

みほ(……)

みほ(私の聞きたかった事とはちょっぴり違うけど)

みほ(でも)

みほ(ちゃんとお話しをしてくれる)

みほ「お母さんは……男の子もほしかった?」



311:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/31(月) 19:45:24.04ID:jFXm9n4vO

しほ「ん……」

しほ「常夫さんは、男の子も欲しかったと言っていたけれど」

しほ「私はとくに、こだわりはなかったわね」

みほ「そうなんだ」

しほ「ただ」

みほ「?」

しほ「貴方が女の子だと聞いて──」

みほ「う、うん」

しほ「姉妹で一緒に戦車道をやってくれればいいなと、思ったわね」

みほ「……そっか……」

みほ(……)

みほ「……じゃあ」

しほ「?」

みほ「私が黒森峰を止めた時は」

みほ「がっかりした?」

しほ「……」

しほ「失望は、したわね」

みほ「……」

しほ「それに、あなたが西住流らしからぬふるまいの数々」

しほ「家元たる私の期待を、ずいぶんと裏切ってくれた」

みほ「……」

みほ「……っ」

みほ(そりゃ、聞いたのは私だけど……)

みほ(今、そういう事を言わなくたって……)

みほ(……。)

みほ(違う。私が、調子にのってしまったんだ。)

みほ(調子にのって、聞かなくていいことを、聞いたから……)

みほ(私、お母さんとは、やっぱり)

みほ(せっかく仲直り……)

みほ(……っ)

みほ(泣かない)

みほ(お母さんの前で、絶対、泣てなんか、やらない……っ)



312:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/31(月) 19:46:01.82ID:jFXm9n4vO

しほ「……」

しほ「ですが」

みほ「……」

しほ「戦車乗りとしては、まずまずよくやっている」

みほ「……え……」

しほ「貴方は間違いなく」

しほ「──私の娘ね」

みほ「──!!!」

しほ「貴方たちがどのような戦車道をたどるのか」

しほ「多少は楽しみにしていたのだけれど」

しほ「……。」

しほ「何がおこるか、分からないものね」

みほ「……っ」

みほ(だから)

みほ(お母さんは……なんで、いっつもそう)

みほ(いきなりすぎるよっ)

みほ「……お母さん」

しほ「?」

みほ「ちょっと、トイレ」

しほ「食事中に……タイミングの悪い子ねぇ」

みほ「……っ」



 だだだだだっ

 ……バタンっ



みほ「……っ」

みほ「っひ、……うぇっ」

みほ「……っ」

みほ(泣かないっ)

みほ(お母さんの前では、ぜーったい泣かないって、決めたばっかりだもん!)

みほ「ひぃ……」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



313:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/31(月) 19:46:46.33ID:jFXm9n4vO

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 じゃー


みほ「うぅ、目が赤い」

みほ「……ゴミが入って、目を洗ったっことにしよう」



 てく、てく、てく



みほ「……戻りました」

しほ「おかえり」

しほ「……?」

しほ「……。」

しほ「早く食べなさい。覚めるわよ」

みほ「……う、うん」

みほ「……。」

みほ(お……お母さんの……意地悪っ)

みほ(私の目が赤いの、気付いてるくせにっ)

みほ(お母さんが何もいってくれなきゃ)

みほ(い、言い訳できないよっ)

みほ(……うぅ……)

しほ「話は変わるけれど、みほ」

みほ「……はい」

しほ「あなた、逸見さんの事を、どう思っているの?」

みほ「へ? エリカさん?」

しほ「ええ」

みほ「ど、どうして?」

しほ「まだ決まったわけではありませんが──」

しほ「私と、まほは」

しほ「あの子を西住家の養子に迎えてはどうかと、考えています」

みほ「……」

みほ「へ!?」

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



334:KASA 2016/11/06(日) 21:05:30.60ID:fPxkmovMO

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

みほ「よ、養子!?」

みほ「エリカさんを養子!?」

みほ「ど、どうして──」

みほ「……あ……」



 ──麻子さん──



みほ「まさか」

みほ「まさか、エリカさんのお父さんやお母さんに、何か」

しほ「いいえ。そうではありません」

みほ「じ、じゃあ……」

しほ「みほ」

しほ「今日は話さなければならない事が、たくさんある」

しほ「一つ一つ、順を追っていかなくてはね」

みほ「順……」

しほ「だから、みほ」

みほ「は、はい」

しほ「まずは……」

みほ「……。」

しほ「食べなさい」

みほ「……へ?」

しほ「ご飯も、おかずも、まだ残っているでしょう」

しほ「一口一口、良く噛んで」

みほ「そ……そんな事よりも今はっ」

しほ「貴方は」

しほ「そそっかしいのだから」

しほ「一噛み一噛み」

しほ「ゆっくりと、味をたしかめて」

しほ「しっかりと飲み込みなさい」

みほ「そそかっしいとか、今はそういう問題じゃ……」

しほ「みほ」

しほ「母の言う事を」

しほ「聞きなさい」

みほ「……っ」

みほ(こ、こんな間近で)

みほ(そんな目力で)

みほ(う、うぅ……「みほ」、「みほ」、って、お母さんの声が耳に残る……)

みほ「……分かりました……」



335:KASA 2016/11/06(日) 21:06:36.10ID:fPxkmovMO

 ……はむ

 もしょもしょ……



みほ(やっぱり、ちょっと味が濃い)

みほ(けど)

みほ(そのおかげで、こんな時でも、ちゃんと味が分かる)

みほ(……おいし……)



 もぐもぐ……



しほ「みほ」

みほ「な、なに?」

しほ「私は今日、あなたと話をするために、ここにきた」

みほ「う、うん」

しほ「だから、焦る必要はないの」

しほ「時間は十分に用意してあります」

みほ「……。」

みほ(……お母さんは)

みほ(勝手だよっ)

みほ「だ、だったら……それなら……」

しほ「? 何です」

みほ「エリカさんを養子に、だなんて、いきなり言わないでください……順を追うって、言ったくせに……」

しほ「……」

みほ(そうだよっ)

みほ(お母さんがびっくりすることを言うのが)

みほ(悪いのにっ)

みほ(ほんと、お母さんって)

みほ(自分こそ)

みほ(いきなりばっかりのくせして!)

しほ「……。」

しほ「そうは言っても」

しほ「めそめそされると、見苦しいもの」



336:KASA 2016/11/06(日) 21:07:08.06ID:fPxkmovMO

みほ「え?」

みほ(めそめそ……?)

みほ「……あっ」

みほ(あ……あっ)(///)

みほ(ああっ)

みほ(ああああっ)

みほ(お、)

みほ(お、)

みほ(お母さんって、ほんっとに……意地悪っ!!!)

みほ「たっ……」

みほ「食べますっ」

みほ「食べたら、ちゃんと、聞かせてくださいっ」



 ばくばくばくばくっ



しほ「みほ」

しほ「だから落ち着いてたべなさい」

しほ「まったく、何度言わせるのですか」

みほ(も……もぉぉぉーっ!!)

みほ(お母さん)

みほ(嫌いっ!)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



337:KASA 2016/11/06(日) 21:07:46.08ID:fPxkmovMO

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

しほ「ごちそうさま」

みほ「ごちそうさま……」

みほ(うぅ、意地になって食べすぎちゃった……)

みほ(今、つわり?が来たら、大惨事だよぅ)

しほ「さて、みほ」

みほ「う、うん」

しほ「あなたは『すかいぷ』」

しほ「というものを知ってる?」

みほ「スカイプ……?」

みほ「う、うん。知ってる。使ったことはないけど」

しほ「そうですか」

みほ「それが、どうかしたの……?」

しほ「まほが」

しほ「貴方と話をしたがっているわ」

みほ「!」

しほ「お互いの顔を見ながら、話をしたいと」

みほ「わ、私も……」

みほ「私も、お姉ちゃんと、お話ししたいです」

しほ「そうでしょうね」

しほ「だから」

しほ「私のノートパソコンに設定をしてもらいました」

しほ「とりあえず、お皿を洗ってしまいなさい」

しほ「その間に、準備をしておくから」

みほ「う、うん……!」



 かちゃかちゃっ

 たったったっ!

 ジャー!

 きゅっきゅっ



みほ(お姉ちゃん!)

みほ(お姉ちゃん……!)

みほ(私の妊娠の事は、もう知ってるはず)

みほ(きっと、心配してくれてるよね)

みほ(お姉ちゃんは妊娠してないって、お母さん言ってた)

みほ(だったら、いっぱいいっぱい、私の事を心配してくれてるはず!)

みほ(早く……早くお皿を洗ってしまおう!)


 きゅっきゅっ、かちゃかちゃ


みほ(あ、だけど……)


 かちゃ……



338:KASA 2016/11/06(日) 21:08:32.70ID:fPxkmovMO



みほ(だけど)

みほ(ダージリンさんがそうだったように)

みほ(お姉ちゃんが誰かのお父さんだったら……?)

みほ(……。)

みほ(……エリカさん……)

みほ(お母さんの口ぶり)

みほ(エリカさんは、多分、妊娠してる)

みほ(だとしたら、エリカさんのお父さんは……)

みほ(大洗も、グ口リアーナも、プラウダも、仲の良い人達同志で妊娠してる)

みほ(エリカさんとお姉ちゃん)

みほ(仲が良い、といのとはまた少し違うかもしれないけど)

みほ(でも)

みほ(赤ちゃんができても、不思議じゃない気がする)

みほ「……。」

みほ「もし、本当にそうだったなら……」

みほ「私、今度こそ本当に」

みほ「エリカさんにお姉ちゃんとられちゃうんだ……」

みほ「……。」

みほ(……もしかして)

みほ(エリカさんがお姉ちゃんの子供を妊娠しているから)

みほ(エリカさんを養子に?)

みほ(お姉ちゃんの子供なら、西住流の跡継ぎって事だよね……?)

みほ(流派の事とか、よくわからないけど)

みほ(きっと、そういう事が絡んでるんだ)

みほ(でも、エリカさんのお父さんとお母さんは)

みほ(それでいいのかな……)

みほ「西住……かぁ……」

みほ「おうちの名前が……そんなに大事なのかな……」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



339:KASA 2016/11/06(日) 21:09:37.75ID:fPxkmovMO

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

みほ「お皿洗い、洗った……」

しほ「そう。こちらも準備は──」

しほ「……?」

しほ「みほ、どうかした?」

みほ「え……」

しほ「『気』が抜けているわね」

みほ「べ、別に……なんでもない、です」

しほ「……そうですか」

しほ「座りなさい。もういつでも繋げられるわよ」

みほ「!」

みほ「は、はい」

しほ「たしか……ここをクリックすればよかったはずね」

みほ(テーブルの角にノートパソコンを置いて)

みほ(私とお母さんが、同時に映るようになってるんだ)




 ->コール『西住まほ』




しほ「これでつながるはずです」

みほ「……っ」

みほ(わー……この画面の向こうに、お姉ちゃんが)



 ────。

 ────ぱっ



まほ『……ん』

みほ「あっ!」



まほ『あ……これ、もう、見えてるのか?』

みほ「わ!」

みほ「わ!」

みほ「すごいっ、お姉ちゃんだ!」

まほ『ええと、そちらからも、見えてますか?』

みほ「う、うん! 聞こえてる、見えてるよ」

まほ『うん、そうか』

まほ『みほ』

みほ「お姉ちゃん」

みほ(後ろ、お姉ちゃんの部屋だ)

みほ(お姉ちゃん、元気そう、よかった……)

まほ『みほ、大丈夫だったか?』



340:KASA 2016/11/06(日) 21:10:24.11ID:fPxkmovMO

みほ(……っ)

みほ「うんっ……うんっ!」

みほ「大変だけど、大丈夫!」

みほ(やっぱり私のこと、心配してくれる……!)

まほ『そうか』

まほ『けれど、しかし……ふふっ』

みほ「?」

まほ『いや、すまない』

まほ『ただ』

まほ『お母様と、みほが、画面の向こうで、一緒に並んでいる』

まほ『なにか、可笑しな感じがするな』

みほ「あ……えへへ、そうかもね……」

しほ「……。」

みほ「あっ……ご、ごめんなさい」

しほ「……何についてを謝ったの?」

みほ「え、いや、えと……えと……」

しほ「私は」

しほ「子供の会話にいちいち口出しをする程、暇な親ではありません」

しほ「好きに話をしなさい」

みほ「は、はい……」

みほ(……じゃあしばらく席を外して、っていたら、さすがに怒られるかなぁ)

まほ『ふふ……お母さま、ありがとうございます』

しほ「ええ。」

まほ『みほ』

みほ「う、うん」

まほ『体はどう? 辛いことはないか?』

みほ「えと、時々吐いちゃうことはあるけど……」

まほ『そうか……』

みほ「でも、他は今のところ、大丈夫、かな?」

みほ「お姉ちゃんは?」

まほ『ん』

みほ「お姉ちゃんは、大丈夫? 大変なことは、なかった?」

みほ(……ううん、遠回りじゃだめ)

みほ(思い切ってきいてしまおう)

みほ「お、お姉ちゃんっ」

みほ「えと、お姉ちゃんは、エリカさんの──」



341:KASA 2016/11/06(日) 21:10:50.02ID:fPxkmovMO

まほ『──みほ』

みほ「え?」

まほ『……』

まほ『お母さま』

しほ「……ええ」

しほ「まだ私は、何も伝えていない」

まほ『……ありがとうございます……』

みほ(……?)

みほ(……なに……?)

まほ『みほ、聞いてくれ』

みほ「え……」

まほ『私は、大丈夫だ』

まほ『大丈夫ではあるが──』




まほ『──私も妊娠を、している』




みほ「……え?」

みほ「は? え?」

みほ「……!?」

みほ「!!!? !?? !!??」

みほ「お──」

みほ「お母さん!?」

しほ「……」

みほ「妊娠してないって、大丈夫だって、お母さんは──!」

みほ「う」

みほ「嘘を言ったの!? お母さん!?」

しほ「……」

みほ「お、おかあ──」

まほ『みほ』

まほ『聞いてくれ、みほ』

みほ「お姉ちゃん」

まほ『お母様を責めるな』

まほ『お母様は、私のお願いを、聞いてくれたんだ』

みほ「え……」

しほ「本来であれば──」

しほ「このような詭弁を、許すつもりはありません」

しほ「姑息です」

しほ「……ですが」

しほ「身ごもった娘の、たっての願い」

しほ「さらに」

しほ「深夜に泣きべそをかきながら電話をかけてくる、みほの取り乱し様」

みほ(……っ)



342:KASA 2016/11/06(日) 21:11:38.81ID:fPxkmovMO

しほ「貴方の姉は、この母よりも、貴方を理解している」

しほ「それくらいの事は理解しています」

まほ『私の妊娠のことは』

まほ『もう少し、みほ自身に時間をおいてから』

まほ『こうして直接、私の大丈夫な姿を見せながら、伝えたかった』

まほ『それまでは、みほに余計な心配をさせたくないと』

まほ『私がお母さまに、そうお願いをしたんだ』

しほ「そして私は、まほの言う事にも一理あるのかもしれない……そう、判断をしました」

みほ「……。」

しほ「みほ」

しほ「何にせよ、私が貴方に詭弁を弄したことは、事実です」

しほ「それについては──」

しほ「謝罪をします」

みほ「……!」

みほ(お母さんが、私に、謝罪……)

みほ(……。)



 ──みほ「お姉ちゃんは……妊娠……大丈夫……?」──

 ──しほ『……。ええ、大丈夫』──

 ──みほ「そうなんだ……! そっか! よかった……!」──

 ──しほ『……。あなたは、今はまず自分の身体のことを一番に考えなさい。いいわね』──



みほ(……。)

みほ(あぁ、お母さんは、『妊娠してない』とは、一言も言ってなかったんだ……)

みほ(ずるいよ、お母さん)

みほ(卑怯だよ、西住流のくせに……)

まほ『みほ』

みほ「……。」

まほ『私はみほを、傷つけてしまったかな』

みほ「え……」

まほ『お母さまの言う通り、私のやり方は、間違っていたのかな』

みほ「……。」

みほ「わからない」

みほ「ただ」

みほ「ショック、だった」

みほ「いろんなことが」

まほ『……』



343:KASA 2016/11/06(日) 21:12:09.69ID:fPxkmovMO

みほ「でも」

みほ「お姉ちゃんの言う通り、数日前のあの頃にお姉ちゃんの妊娠を知っていたら」

みほ「私、もっと、頭がグチャグチャだったと思う」

みほ「だから」

みほ「……怒れないの……」

まほ『みほ……』

みほ「……。」

みほ「お姉ちゃん」

まほ『ん』

みほ「ほんとに大丈夫、なの? お姉ちゃんは、妊娠して……」

まほ『……うん、大丈夫だよ、みほ』

みほ「ほんと? でも、妊娠なんだよ……?」

まほ『もちろん、最初は戸惑った』

まほ『けれどな』

まほ『考えてみたら』

まほ『私にとっては、大したことではないんだ』

みほ「た、大したことじゃないって……」

まほ『予定が数年早まった、それだけのことだよ』

みほ「予定?」

まほ『私はいずれお母様から西住流を継ぐだろう』

まほ『そして、私もまたいずれ子を産み──』

まほ『その子が家元の器に見合うのなら、今度は私がその子に西住流を紡ぐ』

まほ『私が西住であるならば』

まほ『それがさだめだ』

まほ『その流れが、少し早くなっただけ……』

まほ『それだけのことなんだ』

まほ『と、そう気づいたんだよ』

みほ「……ほ、」

みほ「本当に、それで、納得してるの……?」

まほ『うん、本当だ』

まほ『だから私は、大丈夫だ』

みほ「あ……」

みほ(……開いた口が、ふさがらない……)

みほ(ど、どうして?)

みほ(どうして、そんな風に考えられるの?)

みほ(お姉ちゃんは、それで、いいの……?)



344:KASA 2016/11/06(日) 21:12:36.52ID:fPxkmovMO

みほ(でも)

みほ(画面のむこうのお姉ちゃんは、たしかに笑ってる)

みほ(私の尊敬する、いつもどおりのお姉ちゃん)

みほ(落ち着いてて、自身に満ちてて、頼りになるお姉ちゃん)

みほ(そんなお姉ちゃんの、笑み……)

しほ「まほ」

しほ「あなたがそこまで腹のうちを据えているとは」

しほ「私ですら思っていなかった」

しほ「ですが、まほ」

まほ『はい』

しほ「そんな貴方だから」

しほ「貴方のわがままを、今回は許したのです」

まほ『ありがとうございます、お母さま』

みほ「……」

まほ『みほ』

まほ『今度のことで、私は色々な覚悟を決められた気がする』

みほ「……」

まほ『それに──』

まほ『私にはみほがいる』

みほ「……え?」

まほ『私の知らない世界は、みほが教えてくれるだろう』

まほ『だから、頼むぞ』

まほ『これからも』

まほ『みほの戦車道を、私に見せてくれ』

みほ「……お姉ちゃん……」





しほ「……。」







345:KASA 2016/11/06(日) 21:13:07.20ID:fPxkmovMO




みほ(私は)

みほ(お姉ちゃんをとられちゃう、とか)

みほ(私の事だけを心配してくれてるはず、とか)

みほ(そんな事ばかり考えてた)

みほ(それなのに、お姉ちゃんは)

みほ(……。)

みほ(私、きっと、お姉ちゃんには一生かなわないよ……)

みほ(でも、どうしてだろう)

みほ(それが)

みほ(とっても嬉しい。)

みほ(私の尊敬する)

みほ(自慢のお姉ちゃん……)

みほ(……。)

みほ(……?)

みほ「あれ?」

みほ「じゃあ……エリカさんは?」

みほ「エリカさんは、どうして西住の家の養子に?」

みほ「あっ、エリカさんがお姉ちゃんのパパ……なの?」

みほ「それだけでも、やっぱり養子にならなきゃいけないの……?」

まほ『む……』

まほ『お母さま、エリカの事、みほに話をしていたのですね』

しほ「少し、ね」

しほ「ただ、詳しい事は何も話てはいません」

しほ「……みほ」

みほ「は、はい」

しほ「少し、落ち着く時間が必要かしら?」

みほ「え……」

みほ「……ううん、構いません」

みほ「はやく、エリカさんの事を、聞きたいです」

しほ「そうですか」

しほ「なら」

しほ「……」

しほ「まず、」

しほ「貴方の言う通り、彼女、逸見エリカは」

しほ「まほの染色体共有者です」

みほ「……っ」

みほ「う……うん、やっぱり、そうなんだね」


しほ「で、あると同時に──」


みほ「え?」



346:KASA 2016/11/06(日) 21:13:36.99ID:fPxkmovMO



しほ「彼女自身もまた、妊娠をしています」


みほ「……!!??」

みほ「そ……え? エリカさんも!?」

みほ(エリカさんはお姉ちゃんのパパなのに?)

みほ(エリカさん自身も、ママ??)

みほ(パパなのにママ??)

みほ(え? へ? ええ?)



しほ「それでね、みほ」

しほ「逸見エリカの染色体共有者は──」



みほ「え」

みほ「──。」

 ゾワッッ

みほ(まさか──)



しほ「まほ」

しほ「まほが、彼女の染色体共有者よ」



みほ「ちょ、え」

みほ「ふぇ!? ふぇぇえ!?」

みほ(エリカさんがパパで、お姉ちゃんもパパで──)

みほ(でも二人ともお腹の中には自分の赤ちゃんがいて)

みほ(!!??)



まほ『それとな、みほ』

まほ『私とエリカの子供は──』


みほ(──まだ何かあるの!?)


まほ『遺伝的な双子……だそうだ』


みほ「」



しほ「複胎性二卵性双生児」

しほ「常識的にはありえないことね」

しほ「母体の血中成分による関節的検査、それゆえ100%ではないのだけれど」

しほ「二人の胎児の遺伝子は、かなりの確率で」

しほ「同一だそうよ」

しほ「驚いた、としか言いようがないわね」

まほ『お医者様、仕組みを解明できればノーベル賞は間違いないと、すごく興奮していました』

しほ「他人事だと思って、呑気なものね」



347:KASA 2016/11/06(日) 21:14:10.79ID:fPxkmovMO

みほ「ま……」

みほ「まって!」

みほ「……まってください……!」

しほ「あぁ、みほ、大丈夫?」

みほ「だ、大丈夫なわけないです……」

みほ「私……もう、だめ……」

みほ「頭がどうにかなっちゃう……」

しほ「無理もないわね」

しほ「では少し、休憩をしましょう」

まほ『そうですね』

しほ「みほ」

みほ「はい……」

しほ「しばらく横になっていなさい」

みほ「うん……そうする……」



 ごそ……ぱた



みほ(はぁぁぁ……頭が)

みほ(くらくらする……)

みほ(お姉ちゃんと、エリカさん、二人はお互いに)

みほ(二人はママで)

みほ(二人はパパで)

みほ(しかも、ふ、双子)

みほ(あぅ)

みほ(もう、わけがわからないよぅ……)



 まほ『ところでお母さま』

 しほ「何です」

 まほ『晩御飯、みほと一緒に食べたのですか?』

 しほ「ええ」

 まほ「そうですか。料理は、お母さまが?」

 しほ「ええ」

 しほ「みほにも、煮しめの作り方を教えたわ」

 まほ『みほは、ちゃんと作れていましたか?』

 しほ「改善すべき点は多々あるけれど、まずまずね」

 まほ『そうですか……ふふ』



みほ(……。)

みほ(ふ、二人こそ呑気すぎだよぅ……)



348:KASA 2016/11/06(日) 21:15:02.60ID:fPxkmovMO

みほ(……あ。)

みほ(前にもこんなことが、あったような)

みほ(あぁ、そうだ)

みほ(初めて今回の事を知らされた時だ)

みほ(あの時、会長達は、当たり前のように妊娠の話をしていて)

みほ(……。)

みほ(あの日、あの生徒会室から)

みほ(色々な事がおかしくなって)

みほ(あれからもう何日もたって、少しはこの状況に慣れたつもりだったけど……)

みほ(うぅ、今回はちょっときついよぅ)

みほ(だって、私のお姉ちゃんなんだもん……)

みほ(……)

みほ(まぁ、だけど、とにかく)

みほ(お姉ちゃんを取られちゃう、とか)

みほ(もう、そんな泣き言)

みほ(ホントに、言ってる場合じゃ、なくなっちゃった)

みほ(……はぁ……)

みほ(目の前で起こったことを、ありのままに、認める)

みほ(へんな事だけ、得意になっていってる気がするよ……)

みほ(……。)

みほ(……ねぇ、エリカさん……)

みほ(エリカさんは、大丈夫ですか……?)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



375:KASA 2016/11/14(月) 20:33:24.38ID:uN97+PtSO

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



みほ(……。)



 ──あーあ、いづれは私が隊長になるつもりだったのに。

 ──どうせ、次の隊長はあんたでしょうね。

 ──羨ましいわね。あんた、妹だもんね。西住隊長の。あぁ、あんたも西住か。

 ──ほんと、羨ましいわねぇ……。

 ──……。

 ──ま、いいいわ。

 ──しかたがない。あんたが隊長なら……私は副隊長をやってあげる。

 ──だからもう少し、堂々としてなさいよ。

 ──ちゃんと私より強いくせに、ムカつくわねぇ。

 ──……。

 ──は、はぁ!? ば……ばっかじゃない!
 
 ──あんたが隊長になるっぽいから、

 ──し、しかたなくご機嫌とてやってんのよっ!

 ──ふんっ……家元のお嬢様には理解できない苦労でしょうねっ!

 
みほ(もしかしてエリカさん、養子になることを喜んでたり、するのかな……)

みほ(でも、私、エリカさんと……)

 

 ──本気で、止めるつもり……?

 ──……。

 ──……っ。

 ──……。

 ──勝手にしなさいよ、バカ!

 ──裏切りもの。

 ──絶交。

 ──絶交よ。

 ──……。
 
 ──ま、待ちなさいっ!

 ──……。

 ──私、

 ──もう二度と、あんたの事、

 ──名前で呼ばないから!

 ──いいわね!



376:KASA 2016/11/14(月) 20:33:51.67ID:uN97+PtSO

みほ(……。)

みほ(どうせ絶交するのなら)

みほ(二度と名前で呼ばないからとか、あんまり関係ないですよね?)

みほ(わざわざ呼び止めて、宣言なんかしなくてもね?)

みほ(エリカさんて、血が上るとすぐに頭がクチャクチャになるんだもん)

みほ(でも)

みほ(頭に血が上るくらい、本気で怒ってくてれたんだ)

みほ(……って、今ならそんな風に思えるけど)

みほ(あの時は、本当に悲しかった)

みほ(……はぁ)

みほ(……)

みほ(エリカさんのばか)

みほ(あの時、エリカさんがもっと優しく慰めてくれてたなら)

みほ(エリカさんが元気づけてくれたなら)

みほ(もしかしたら私、黒森峰をやめなかったかもしれないのに)

みほ(……。)

みほ(だけど)

みほ(そうしたら、大洗のみんなとは出会えなかったんだよね)

みほ(それに、きっと私、今でも、戦車道は嫌いなままだった)

みほ(……。)

みほ(何が良かったのかなんて、ちっともわかんないよ)

みほ(……。)

みほ(……。)

みほ(だけど、とにかく)

みほ(ぼーっとしてても、何もわからない……)

みほ(それだけは、間違いない)



377:KASA 2016/11/14(月) 20:34:24.31ID:uN97+PtSO

 ……のそ



みほ「お母さん、お姉ちゃん」

みほ「聞かせてください」

みほ「エリカさんの事。」

しほ「もういいの?」

まほ『みほ、焦ることはない。時間はあるんだ』

みほ「大丈夫」

みほ「だから、お願いします」

まほ『……。そうか』

みほ「エリカさんは」

みほ「今、どうしてますか……?」

まほ『ん……』

まほ『まぁ、元気になってきてはいる、な』

まほ『だが、もう一押し、というところだ』

みほ「??」

みほ「落ち込んでたけど、だんだん元気になってきた」

みほ「ていうこと?」

まほ『うん。そんなところだ』

みほ(……。)

みほ(含んだ言い方、やだな。しかたないのかもしれないけど)

みほ(不安になっちゃうよ……)

まほ『……。』

まほ『なぁ、みほ』

みほ「?」

まほ『みほは、エリカの事を、どう思っている?』

みほ「え?」

まほ『エリカの養子の件』

まほ『お母さまから聞いたんだろう』

みほ「う、うん」

まほ『エリカが西住家の養子になるということは──』

まほ『エリカが私達の家族になる』

まほ『という事だ』

みほ(エリカさんが、私の家族)

みほ(……。)



378:KASA 2016/11/14(月) 20:35:41.64ID:uN97+PtSO

まほ『みほは、』

まほ『それをどう思う?』

みほ「どう、って……」

まほ『賛成とか反対とか、そういう意味ではなく』

まほ『みほが今、何をどう感じているか』

まほ『それを聞かせてほしい』

みほ「……。」

みほ「エリカさんの事は、大嫌いです」

みほ「って……もしも私がそう答えたなら、養子の話はなくなるの?」

しほ「……。」

しほ「娘の意見として、考慮はします」

みほ「考慮……?」

しほ「みほ」

しほ「彼女を養子に迎えようかという理由は、大きくは二つある」

しほ「うち一つは」

しほ「貴方にとっては気に入らない理由でしょう」

みほ「気に入らない……?」

しほ「しかしながら──」

しほ「貴方にとってどうあれ、これは非常に重要な問題なのです」

しほ「仮に貴方が、彼女を受け入れられないのだとしても」

しほ「それで直ちに養子の件が白紙になるとは、約束できない」

みほ「……。」

しほ「これは、個人の問題ではないの」

しほ「もっと巨大なもの……『家』、『流派』の問題なのです」

みほ「……。」

みほ(私の気に入らない、っていう意味)

みほ(ちょっとだけ分かったような気がする)

みほ(エリカさんの心配じゃなくて、)

みほ(家の、心配なんだもん……)

まほ『みほ』

まほ『エリカの事が』

まほ『嫌いなのか?』

みほ「……。」

まほ『たしかにエリカは、皮肉が多いし、意地っ張りな所もあるが……』

みほ(……。)

みほ(エリカさんが、家族に)

みほ(……。)



379:KASA 2016/11/14(月) 20:36:10.65ID:uN97+PtSO

みほ「不安、かな」

まほ『不安……?』

みほ「……。」

みほ「エリカさんは、私にとって……」

みほ「黒森峰にいた頃の、一番のお友達」

まほ「……。」

みほ「あ……お友達っていと、エリカさんは怒るんだけどね」

みほ「だから、一緒に戦う、大切な仲間、とかって、感じかな……」

まほ『私は、みほとエリカを、よく同じ戦車に乗せていた』

まほ『そしてエリカはいつも、みほに車長をさせようとしていたな』

みほ「うん。でもそのくせ、練習が終わると、あれが駄目だこれが駄目だって」

みほ「エリカさん、意地悪だよ」

まほ『しかし、二人は、楽しそうだったよ』

みほ「……。」

みほ「私ね、時々エリカさんの事」

みほ「もう一人のお姉ちゃんみたいに」

みほ「思ってた」

まほ『……そうか。』

まほ『みほも、そうだったのか』

みほ「え?」

まほ『私も』

まほ『時々、エリカを──』

まほ『もう一人の妹のように、感じていた』

みほ「……そうなんだ。」

みほ(ちょっぴり、嫉妬しちゃうかな)

みほ「……エリカさんは、私なんかよりもずっと戦車道に真剣で」

みほ「頑張り屋さんで」

みほ「だけど、頑張り屋さんな分」

みほ「一人で落ち込んじゃうこともたくさんあって」

みほ「そういう時は私が慰めてあげて……」

みほ「ああ、そういえばそんなときは逆に」

みほ「私がお姉ちゃんになったような気分で……なんだか、可笑しくて」

まほ『そうか』

みほ(……あぁ、ダメだ)

みほ(エリカさんとの思いでがいっぱいで……どんどん脱線しちゃう)

みほ「……だけど」

まほ『うん』

みほ「私が黒森峰を止めるとき」

みほ「一番怒ってたのも、やっぱりエリカさんで……」

まほ『……。』



380:KASA 2016/11/14(月) 20:36:40.66ID:uN97+PtSO

みほ「大会で久しぶりに会ったときも、意地悪ばっかり言うし」

みほ「……ほんとに、一度も名前で呼んでくれないし……」

みほ「あっ、だけど、選抜戦にお姉ちゃんと一緒に駆けつけてくれた時は、本当に嬉しかった」

みほ「……でも」

みほ「その時もやっぱり、ちくちく意地悪なことしか言ってくれなかったし……」

みほ「あの時は私も必死だったから、結局ほとんどお話しできなかったし」

みほ「私が黒森峰を訪問した時も、なんだか、他人行儀だったし」

まほ『む』

みほ「まぁ、でも、だからとにかく」

みほ「いきなり家族って言われると、不安……かな」

まほ『なるほどな』

まほ『そうか……』

みほ「……。」

みほ「ね、ねぇ、お姉ちゃん」

まほ『ん?』

みほ「私、ちゃんと答えたよ、だから、次はエリカさんの事」

みほ「聞かせてよ」

まほ『……みほは、エリカの事が心配か』

みほ「当たり前だよ!」

まほ『しかし、今の話を聞く限り』

まほ『二人は仲たがいをしているのだろう』

みほ「それはそうけど」

みほ「でも、心配なものは心配だよっ」

まほ『……だ、そうだぞ』

みほ「え?」



381:KASA 2016/11/14(月) 20:37:09.71ID:uN97+PtSO

まほ『聞いた通りだ』



まほ『よし、席を変われ』


   
  <『え……ちょ、いきなりですか!?』



みほ「え」



みほ(今の、声って──)



まほ『さぁ早く、みほに顔を見せてやれ』



まほ『──エリカ』



みほ「──!?」




 ……ぎしっ




エリカ『……。』




みほ「っ!!!」

みほ「エ、エリカさん!」

エリカ『……』

エリカ『い──』

エリカ『意地悪ばっかりで』

エリカ『悪かったわね』

みほ「……!」

みほ(エリカさん!)

みほ(エリカさん……!!)

エリカ『だ、だけどそもそも、貴方が黒森峰を──』

みほ「──エリカさんっ!!!」



382:KASA 2016/11/14(月) 20:37:41.17ID:uN97+PtSO

エリカ『!?』

エリカ『な、』

エリカ『なによ』

みほ「エリカさん、少し」

みほ「痩せたんじゃないですか……?」

エリカ『……っ』

エリカ『な、なんで気付くのよ』

エリカ『気持ち悪いわねぇ』

  <まほ『……こら』


 コツンッ


エリカ『あいたっ!?』

みほ(わ、画面の外からお姉ちゃんの声と、手が)

みほ(なんか面白い……)


<まほ『そんな風に言うな』

<まほ『誰にでもわかるくらいに、痩せたんだよ、エリカは』


エリカ『……。』

エリカ『お、大げさなんです、隊長も、隊のみんなも……』


 コツンッ


エリカ『あいたぁ! ぽ、ポカポカ叩かないでくださいよ!』


<まほ『皆の心配を、無碍にするな』

<まほ『あまり意地をはるのなら』

<まほ『さすがに私も、怒るぞ』


エリカ『わ、わかりましたよ……すみませんでしたよ……』

みほ(そうだよ、絶対エリカさん、痩せたよ……)

みほ(妊娠したっていうのに)

みほ「エ、エリカさん、大丈夫ですか? 体、おかしいところ、無いですか……?」

エリカ『べ、別に……大丈夫よ』

みほ「だ、だけど、そんなに痩せて……」

エリカ『だ、大丈夫だって、いってるでしょっ、細かいことうるさいわねぇっ』

<まほ『こら、エリカ──』

みほ(……っ!)

みほ「い──」

みほ「意地をはらないでください!」

エリカ『!?』

<まほ『む』



383:KASA 2016/11/14(月) 20:38:17.61ID:uN97+PtSO

みほ「エリカさん、私達、妊娠してるんですよ……!」

みほ「子供ができたんですよ……!?」

みほ「お腹の中に、赤ちゃんがいるんですよ!?」

みほ「それなのにそんな、目に見えるくらいに痩せて……!」

みほ「だ、大丈夫なわけ、ないじゃないですか!」

エリカ『……っ』

みほ「こ、こんな時くらい、昔みたいに……ちゃんとお話し聞かせてくださいっ!」

エリカ『……』

エリカ『つ──』

エリカ『都合のいいこといってんじゃないわよ!』

エリカ『勝手に戦車道を捨てて、黒森峰から逃げだしたくせに!』

エリカ『……あっ』

エリカ『す、すみません師範……つい、カッとなって』

エリカ『すみません……』

みほ「あ」

みほ(そうだ、私の隣にはお母さんが)

みほ(エリカさんの痩せ方にびっくりして、忘れてた)

しほ「……ん?」

しほ「あぁ、何も気にする必要はありません」

しほ「思うがままに話しなさい」

エリカ『は、はぁ、ありがとうございます……。』

エリカ『……。』

みほ「……。」

しほ「……?」

<まほ『……あの、お母さま』

しほ「?」

<まほ『一度、画面から外れてもらったほうが……』

  <まほ『さすがに、みほの隣にお母さまの顔が見えていると』

<まほ『エリカが、話をしづらいです』

しほ「……あぁ」

エリカ『も、申し訳ありません』

しほ「かまわないわ」

 
 ずりずり……


みほ「……。」

みほ(お母さんが、カーペットの上でお尻をくぃくぃ横に滑らせる姿……)

みほ(初めて見た……)

エリカ『……』

みほ「……」

みほ(……な、なんの話だったっけ……)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



384:KASA 2016/11/14(月) 20:39:10.28ID:uN97+PtSO

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

まほ『……うむ』

まほ『やはりラチがあかなかったか』

まほ『エリカ、ちょっと横にずれてくれ。私も画面に入る。椅子を置くぞ』

エリカ『え……はい』


 ずりずり。

 ガタン。


まほ『どうだ、みほ。私も見えているか』

みほ「う、うん」

みほ「二人とも、ちゃんと見えるよ』

まほ『そうか』

エリカ『……。あの、隊長』

まほ『なんだ?』

エリカ『なんか、面白がってませんか』

まほ『そうか?』

エリカ『そうですよ』

まほ『まぁ、3人で話すのは、久しぶりだからな』

みほ(そういえば、そっか……)

エリカ『……。』

まほ『エリカの教えてくれたこの、なんだ、「すかいぷ」か。便利なものだ』

エリカ『はぁ、どうも』

まほ『エリカはインターネットが得意だからな』

しほ「私のノートPCに設定してくれたのも」

しほ「彼女です」

みほ「あ、そうなんだ……」

みほ(……。)

みほ(エリカさんがお母さんのノートPCに設定をして)

みほ(そのノートPCをもってお母さんが会いに来てくれて)

みほ(おかげで私はお姉ちゃんとも話ができて)

みほ(今、こうしてエリカさんとも……)

みほ(なんか……)

みほ(色々つながってるって、感じがする……)



385:KASA 2016/11/14(月) 20:39:43.95ID:uN97+PtSO

みほ(……。)

みほ「だけど、じゃあエリカさん、ずっと盗み聞きしてたんですね」

みほ(エリカさんを、お姉ちゃんみたいって)

みほ(恥ずかしい事きかれちゃった……)

みほ(まだ何も言ってこないけれど、絶対聞こえてたはずだよ……)

エリカ『ぐっ……た、隊長が、聞いてろって言ったのよ』

まほ『そうだぞ。私の指示だ。だからエリカを悪く言うな』

みほ「なんだか……」

みほ「さっきからずっと、西住流らしくない事ばかりだね」

みほ「お姉ちゃんの妊娠を秘密にしてたことも、エリカさんの盗み聞きのことも」

まほ『……まぁ、な』

まほ『だが、今回限りだ』

まほ『どうしてもエリカに』

まほ『みほの気持ちを聞かせたかった』

みほ「……。」

まほ『こうでもしないと、エリカは意地っ張りなうえに』

まほ『ふふ……捻くれ者だからな』

エリカ「……っ」

まほ『とにかく、もしも、本当に私達が家族になるのなら』

まほ『必要なことなんだと、思う』

みほ「……。」

みほ「とにかく──」

みほ「まずは、養子の事、エリカさんの激やせこと、ちゃんと、説明してください」

エリカ『……。』

まほ『……エリカ?』

エリカ『……すみません、隊長、お願いします』

まほ『ん、そうか』

エリカ『やっぱりどうしても、この子の顔を見ると……』

エリカ『素直になれません』

みほ「……。」

まほ『まぁ、いいさ。無理をするな』


 ぽん、ぽん……


エリカ「あ……」



386:KASA 2016/11/14(月) 20:40:20.20ID:uN97+PtSO


みほ(……!)

みほ(な、なに、今の、すごく優しいお姉ちゃんの手つき)

みほ(昔、私がしてもらっていたみたいな……)

みほ(ぐぅ)



まほ『養子の件』

まほ『理由は二つあるといったろう』

みほ「え、う、うん」

まほ『もう一つの大きな理由は──』

まほ『エリカのためだ』

みほ「エリカさんのため……?」

まほ『エリカは、今回のことで』

まほ『随分と病んでしまってな』

みほ「え……」

エリカ『……。』

まほ『皆の妊娠がわかって、まだ間もないころだ』

まほ『まだ私自身も、妊娠に戸惑っていた頃だな』

まほ『あの頃は……大変だった。あれは、本当にまいった……』

みほ「お、お姉ちゃん……」

みほ(こんな疲れはてた感じの表情、初めて見る……)

エリカ『すみません、本当に……すみません……』

みほ(エリカさんがこんなにしょんぼりしてるのも、見た事ない)

みほ(……。)

みほ(やっぱり黒森峰も、お姉ちゃん達も、辛かったんだなぁ……)

みほ「えと、それで、エリカさんが病んでたって、どういうこと……?」

まほ『ん……』

まほ『エリカ……いいんだな?』

エリカ『……はい』

エリカ『これは』

エリカ『私の……』

エリカ『罪です』

エリカ『隠すことなんて、許されません』

まほ『……。』

まほ『エリカ、何度も言うが──』

まほ『……まぁ、今はいい』

みほ「……?」

まほ『お互いの妊娠が分かった次の日から、エリカは様子がおかしかったんだが』

まほ『私はそれが心配で、そのまた次の日の夜、自室にエリカを呼んだんだ』

まほ『まぁ、私自身、話し相手がほしかったからな……』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



387:KASA 2016/11/14(月) 20:42:51.49ID:uN97+PtSO

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

まほ「──エリカ、急に呼び出して、すまないな」

エリカ「いえ……」

まほ「私もまだ、戸惑っている。一人ではどうにも落ち着かなくてな」

まほ「何か飲むか?」

エリカ「いえ……」

まほ「……。」

まほ(エリカ。私と目を合わせようとしないな)

まほ(というより、そもそも心ここにあらず)

まほ(今日もずっと自室にこもっていたようだ)

まほ(俯いて、顔をしかめて……どうした?)

まほ(……いや、どうしたもこうしたも、ないか。無理もない)

まほ(私だって、心のうちは似たようなものだ)

まほ「エリカ、まぁ、座れ」

エリカ「……はい……」

まほ「ふぅ……。」

エリカ「……。」

まほ「しかし、今だに信じられないな?」

まほ「私達は──妊娠しているそうじゃないか」

まほ「しかも私とエリカは──」

まほ「はは……」

まほ「いったい何なのだろうな。夫婦、と言うわけにもいくまい」

まほ「まったく、本当に……なんなんだろうなぁ」

エリカ「……。」

エリカ「……。」

エリカ「……隊長」

まほ「うん。どうした?」

エリカ「…………………………ごめんなさい」

まほ「え?」

エリカ「……。」

まほ「エリカ……?」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



388:KASA 2016/11/14(月) 20:43:30.37ID:uN97+PtSO

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

まほ『……で、エリカはそれっきり一言もしゃべらず、部屋へ戻って行った』

みほ「え……」

みほ「えと、エリカさん」

みほ「ごめんなさいって、いうのは……」

エリカ『……なんていうか……』

エリカ『……隊長』

まほ『うん?』

エリカ『今だから言いますが──』

エリカ『「夫婦」っていう隊長の言葉、あれが最後の引き金でした』

まほ『えっ』

まほ『そうだったのか……』

エリカ『まぁ、遅かれはやかれ何かをきっかけに爆発はしてたと思いますけど……』

みほ「……えと、あの」


 ──とん、とん


みほ「? お母さん……?」

しほ(……。)

みほ(え? 口元で人差し指をたてて……『しー』……?)

しほ(せかすものではないわ。ゆっくり、話をさせてあげなさい)

みほ(……。)

みほ(はい。お母さん)




まほ『……それでな』

みほ「うん」

まほ『その次の夜の深夜だ』

まほ『眠っていると、どうも、部屋のドアが開いたような気配がしてな』

みほ「鍵は……?」

まほ『女子寮だ。あえて鍵をする必要もない』

まほ『でだ、気のせいかと思っていたんだが、ベッドの脇に目をやると──』

まほ『人の影がたっていてな』

みほ「へ!?」

まほ『飛び起きて部屋の明かりをつけると──』

まほ『エリカが立っていた』

みほ(こ、怖い……けど、茶化すみたいで言えない……)

まほ『でだ、エリカは、泣きはらして、顔は涙でぐちゃぐちゃだし、髪は乱れているし……うむ、すごかった』

エリカ『本当に、申し訳ありません……』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



389:KASA 2016/11/14(月) 20:44:04.30ID:uN97+PtSO

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

まほ「──エ、エリカか!?」

まほ「な……なんだ!? 驚かすな! どうして私の部屋に」

エリカ「……ぐすっ、ひぐぅ、うぇええ、隊長ぉ……」

まほ「どうしたんだ……とりあえず、座れ。いったいどうしたんだ」

エリカ「……ぐぅ、っひぃ……」

エリカ「隊長、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」

まほ「いいから、とにかくベッドに座れ」

エリカ「ごめんなさい」

エリカ「ごめんなさい」

エリカ「ごめんなさい……」

まほ「むぅ……」

まほ「どうした、何をそんなに謝るんだ……」

エリカ「だって、私……」

エリカ「西住流を、めちゃくちゃにしてしまった」

エリカ「隊長の人生を」

エリカ「隊長は、西住流を受け継ぐ人なのに」

エリカ「結婚して、子供を産んで、それなのに」

エリカ「私のせいで西住流が、隊長が……」

まほ「何……?」

エリカ「あぁ……」

エリカ「ああああああ」

エリカ「うあああああ」

エリカ「私、どうしたら……」

まほ「エ、エリカ……」

まほ(マタニティ・ブルー……というやつか?)

まほ(勉強を始めたばかりでまだよくわからないが)

まほ(だがこんなに早く始まるものなのか?)

まほ(いや、こんな異常事態なのだ)

まほ(エリカも、怖くてたまらないんだろう……)

まほ「エリカ、何をバカなことをいってるんだ」

まほ「不安なんだな。わかるぞ」

まほ「私も不安だ」

まほ「不安なもの同士だ、今日は私の部屋で寝て行け」

まほ「だから落ち着け。さぁ、泣く事はないんだから、ほら……」

エリカ「ああああ」

エリカ「ぐぅううう」

まほ「エリカ……」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



390:KASA 2016/11/14(月) 20:44:30.18ID:uN97+PtSO

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

みほ「……。」

みほ「エリカさん」

みほ「この話、私、聞いていいの……?」

エリカ『……。』

みほ「無理に、話すことはないよ……?」

まほ『いや、聞いてやってくれ』

みほ「お姉ちゃん……?」

まほ『みほに話をすると決めたのは……』

まほ『エリカなんだ』

みほ「……!?」

みほ「エリカさん……?」

エリカ『……。』

みほ(エリカさん……)

みほ「……。」

みほ「分かりました。」

みほ「最後まで……聞きます」

まほ『頼む』




 ──とん、とん




しほ(?)

みほ(あの、お母さんはこの話を、知っていたの?)

しほ(貴方には悪いけど、知っていたわ)

みほ(そう……)

しほ(というよりも、この後、私も直接二人の話にかかわります)

みほ(え……)



みほ(……)

みほ(じゃあ、お母さんはもしかして)

みほ(お姉ちゃんやエリカさんの問題を抱えながら)

みほ(全然それを表に出さず)

みほ(私の恥ずかしい泣き虫な電話の相手を、してくれてたのかな……)

みほ(……。)

みほ(……お母さん……)



391:KASA 2016/11/14(月) 20:46:37.59ID:uN97+PtSO

まほ『──私は、エリカの取り乱しようは、一時的なものだと思っていたんだ』

まほ『それが、甘かったんだ』

まほ『エリカは、本当に心から悩んでいた』

まほ『エリカの戦車道への、西住流への思いの強さは、私も知っていたはずなのに』

まほ『私はそれを忘れていたんだ』

まほ『私自身混乱していたから、というのは言い訳でしかない』

まほ『……。』

まほ『……実は、これはお母さまにも今まで内緒にしていたですが……』

しほ「……?」

まほ『それから数日たった日』

まほ『あの日』

まほ『私がエリカを連れて、学園艦から熊本に飛んだあの日です』

まほ『あの日の夜……熊本の自室で、私も泣いてしましました』

エリカ『……!』

まほ『エリカの苦しみに気付いてやれなかったこと、こんな事になってしまったこと……』

まほ『はは、いろいろ考えていたら、私もたまらなくなってしまってな』

エリカ『……隊長……』

しほ「……。」

まほ『本当に久しぶりだった……あんなに泣いたのは』

まほ『……うん』

まほ『本当に、あの日は大変だった』


まほ『あの日──』


まほ『学校の屋上で』


まほ『赤い夕方だった』


まほ『エリカが』


まほ『泣きじゃくりながら私に土下座をしたんだ』



みほ「……え……」



まほ『そして──』



まほ『どうかお願いですから』



まほ『二人で一緒に、中絶をしてくださいと』



まほ『と、』



まほ『悲鳴のような懇願を──』



みほ(────!!!!!!!!!!!!)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



413:KASA 2016/11/20(日) 20:36:11.23ID:wvytgVrvO

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ──キーンコーン……カーンコーン……



まほ(……。)

まほ(エリカ)

まほ(どうしたというんだ)

まほ(今日も)

まほ(学校にきていないそうじゃないか)

まほ(だというのに──)



 ごそっ……

 ぴ、ぴ


 『隊長へ:お願いがあります。

放課後、部活棟の屋上へ来ていただけないでしょうか』


まほ(……。)

まほ(どういう事だ)

まほ(……。)

まほ(妊娠がわかって以来)

まほ(エリカの様子がおかしい)

まほ(西住流がどうのと……)

まほ(……)

まほ(……跡継ぎ、か……)

まほ(たしかに、エリカの懸念はもっともなのかもしれない)

まほ(だが……それは、私達にどうこうできる話ではない)

まほ(それは、西住流の頭領たるお母様にゆだねるべき問題だ)

まほ(それに、エリカ……)

まほ(お前に──)

まほ(いったい何の罪がある?)



414:KASA 2016/11/20(日) 20:36:37.34ID:wvytgVrvO


 ──ごめんなさい──


まほ「……やめてくれ」

まほ(そんな顔)

まほ(しないでくれ)

まほ(分を超えた心配は、無意味だ)

まほ(西住の教えにも反している)

まほ(お前は、お前自身の心配を、第一にすべきなんだ)

まほ(……と、言い聞かせてはいるが……)

まほ(……。)

まほ(無理もないか)

まほ(妊娠、だからな……)

まほ(動揺してあたりまえだ)

まほ(他のメンバーも)

まほ(かく言う、私も)

まほ(……。)

まほ「みほ」

まほ(みほは……)

まほ(どうしているだろう)

まほ(連盟の話では──)

まほ(大洗はまだ)

まほ(履修生徒への告知を完了していないらしい)

まほ(妊娠検査も、まだなのだろうな)

まほ(みほ)

まほ(せめてお前は、無事であってくれ)

まほ(……。)

まほ「だめだ、心が、乱れている……な」

まほ「……。」

まほ「戦車道の事だけを考えていられたころが」

まほ「今となっては懐かしい」



 つか、つか、つか……



415:KASA 2016/11/20(日) 20:37:06.13ID:wvytgVrvO

まほ「んっ……」

まほ「まぶしいな」

まほ「もう夕焼けか」

まほ「早くなったな」

まほ「……」

まほ(赤い夕焼けだ)

まほ(なんという真っ赤な夕日だ)

まほ(夕日とは、こんなにもギラギラと、光るものだったろうか)

まほ「廊下が、燃えているようだ……」

まほ(……。)

まほ(静かだな)

まほ(放課後の廊下というものは。)

まほ(エリカめ)


まほ「……寂しいじゃないか」


まほ(お前は──)

まほ(幼いころのみほの様に)

まほ(いつも私の後をついてまわる)

まほ(気の利いた冗談も言えない)

まほ(優しい励ましの言葉もかけてやれない)

まほ(お母様に似てしまった、不器用なこの私の側に)

まほ(当たり前のように、誰かが隣にいてくれる)

まほ(それがどれだけ)

まほ(私にとって心地がよかったか)

まほ(そして、こんな時こそ)

まほ(私はお前をあてにしているんだ)

まほ「……それなのに」

まほ「……。」

まほ「突然に私を」

まほ「一人にしないでくれ」

まほ「……。」

まほ「屋上に、いるのだな」

まほ「エリカ」

まほ「待っていろ」

まほ「すぐにいくぞ」



 たったったった……

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



416:KASA 2016/11/20(日) 20:37:42.04ID:wvytgVrvO

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 キィ……


  ひゅうぅぅ……



まほ(寒いな)

まほ(風が冷たい)

まほ(もう一枚、羽織ってくるのだった)

まほ(いや、それよりも──)



まほ「エリカ」

まほ「どこだ」

まほ「こんなところにいたら」

まほ「凍えてしまうぞ」



 つか、つか、つか、



まほ(広いからな、屋上は)

まほ(屋上のどのあたりにいる、とは書いていなかったが……)


まほ「──む」


まほ(いた。)

まほ(距離はあるが、あの背中は間違いない)

まほ「おい、エリカ!」

まほ「……。」

まほ(聞こえてないか)

まほ(手すりにもたれかかって)

まほ(夕日をじっと眺めているのか)

まほ「おーい、エリカっ!」

まほ「……。」

まほ(いま、行くぞ)


 たったったったった……


まほ(……。)

まほ(エリカの背中)

まほ(屋上の端の手すりにもたれ掛かって)

まほ(ただじっと、手すりの向こうを……)

まほ(赤い空を……)

まほ(まるで──)



 ……ザワッ……



417:KASA 2016/11/20(日) 20:38:21.63ID:wvytgVrvO


まほ(……!?)

まほ(なんだ)

まほ(どうして鳥肌が、急に)

まほ(……)

まほ(……っ)

まほ(……っっ)

まほ(……なんだっ)

まほ(なんだというんだ!)

まほ(……エリカ!)


まほ「──おい、エリカッ」

まほ「エリカッ!」

まほ「聞こえないのか!!」


まほ(頼む、こっちを振り向いてくれ!!)

まほ(私がいくまで──)

まほ(絶対に)

まほ(絶対に──)

まほ(そこを動くなよ!!!)



 だだだだだだだだ!



まほ(動くな)

まほ(頼むから)

まほ(動くな!)



 だだだだだだだだ!



まほ(よし、つかまえ──た!)



 がしっ



まほ「はぁ、はぁ、……」

まほ「エリカ、聞こえているんだろう」

まほ「返事をしろ!」




 ぐぃっ 



418:KASA 2016/11/20(日) 20:38:49.11ID:wvytgVrvO

エリカ「……あ」

エリカ「……隊長……」

まほ(な──)

まほ「なんだ、エリカ、お前……」


エリカ「……」


まほ(……ひどい顔じゃないか……)

まほ(なんだその大きなクマは)

まほ(それに頬が)

まほ(こけて、いるのか……?)

まほ(髪もぼさぼさじゃないか)


まほ「……お前……」

まほ「寝間着じゃないか」

まほ「その恰好でここまできたのか?」


まほ(……早く)


まほ「まったく、人に見られたら、物笑いの種だぞ」

まほ「お前は黒森峰の次期隊長」

まほ「それが、そんな格好で」


まほ(早くエリカを)

まほ(手すりから引き離すんだ)


まほ「こんなに寒いのに」

まほ「風邪を引いたらどうする」

まほ「……それに」

まほ「あまり、お腹を冷やすな。」

まほ「……わかるだろう?」

エリカ「……っ」

まほ「ほら、私の制服を羽織れ」


 
 ふぁさ



まほ「むぅ……お前のせいで寒くてたまらないぞ」

まほ「私こそ凍えてしまう」

まほ「早く校舎の中に入ろう」


まほ(早く……早くっ)



419:KASA 2016/11/20(日) 20:39:43.27ID:wvytgVrvO

 ぐっ



まほ(……っ)

まほ(エリカの手)

まほ(こんなに冷たいじゃないか)

まほ(いったいいつからここにいた?)



まほ「さぁ、行くぞ──」

エリカ「──嫌っ!」



 バッ



まほ「……!?」

エリカ「あ……す、すみませ……」

まほ「……。」

まほ「……エリカ」


まほ(落ち着け)


まほ「すまない」

あほ「強く手を握りすぎたか?」


まほ(落ち着くんだ)


まほ「痛かったろう」

まほ「すまなかった」

まほ「とにかく──」


まほ(早くここから──)

まほ(エリカを──)


エリカ「……隊長」


まほ(……っ)


まほ「……なんだ?」


エリカ「隊長……」

エリカ「この通りです」

まほ「……?」



420:KASA 2016/11/20(日) 20:40:15.35ID:wvytgVrvO

エリカ「隊長」

エリカ「本当に」


 ざっ……


エリカ「本当に……」

エリカ「申し訳」

エリカ「ありません」


 ざっ……


まほ(!?)

まほ(……!?)

まほ(土下座……!?)


まほ「や──」

まほ「止めろエリカ!」

まほ「何をしているんだ!?」


エリカ「……。」


まほ(なんだ)

まほ(なんなのだこれは)

まほ(無防備にさらしだされた)

まほ(エリカのうなじに、ぼさぼさの髪)

まほ(怯えた様にちじこまった)

まほ(情けない背中。)

まほ(だらしなく突き出された)

まほ(下着の線のすけた、尻……っ)

あほ(……っ)

まほ「立て!」

まほ「立つんだエリカ!」

まほ(どうしてお前が)

まほ(そんな惨めな姿を)

まほ(しなきゃならない!)

エリカ「立てません」

まほ「なぜだ!」

エリカ「私もう」

エリカ「駄目なんです」

まほ「何が駄目なんだ!?」

まほ「いいから立て!」

まほ「そんな姿を、私に見せるな!」



421:KASA 2016/11/20(日) 20:40:50.02ID:wvytgVrvO

エリカ「──だって、私」

エリカ「もう」

エリカ「隊長の顔を見られません」

エリカ「……。」

エリカ「……私……」

エリカ「どうしようもなく」

エリカ「この子が──」

エリカ「憎くて、憎くて──」

エリカ「憎くてたまらなくて──」

エリカ「『ア』──」

エリカ「『アンタさえいなければ』って──」


まほ「……!?」


エリカ「隊長」

エリカ「私」

エリカ「私、は」

エリカ「人間じゃ、ないんです」

エリカ「もう」

エリカ「涙もでません」

エリカ「だから隊長」

エリカ「どうかお願いします」

エリカ「……。」



エリカ「一緒に」

エリカ「中絶をしてください」

エリカ「そうして」

エリカ「私のことはもう」

エリカ「忘れてください」

エリカ「どうか」

エリカ「お願いですから……」


まほ(……。)


 ……ゾッ……


まほ(……。)

まほ(……。)

まほ(……あ、息が、できていない、な、私いま)

まほ(だが、困ったな)

まほ(息って)

まほ(どうやって吸うのだったかな)

まほ(……まぁ、いい、今は、そんなこと──)



422:KASA 2016/11/20(日) 20:41:19.43ID:wvytgVrvO

まほ「エリカ」


まほ(私は──)

まほ(恐ろしい過ちを──)

まほ(犯してしまったのではないか)

まほ(エリカを)

まほ(絶対に一人にしてはいけない時に)

まほ(エリカを)

まほ(一人にさせてしまったのでは──)





 ……ィィィィィィィィイイイイイイイイインッ──





まほ(……っ)

まほ(耳鳴り)

まほ(ああ、この感覚──)

まほ(みほには戦車道を止めさせると)

まほ(お母様から告げられた時の──)

まほ(懐かしいな)

まほ(辛かったな)

まほ(私の人生から)

まほ(みほがいなくなってしまうと──)





まほ(──!!!!!!)





まほ「た──」


まほ「立て!!」


まほ「エリカッ!!」


まほ「立てぇッッッ!!」


まほ「命令だ!!」


まほ「聞こえないのか!!」


エリカ「……。」


まほ「立てといっているだろうが、エリカッ!」


 グィッ



423:KASA 2016/11/20(日) 20:42:08.71ID:wvytgVrvO

エリカ「! 痛っ……!!」

まほ「何が痛いだバカ者!!」

まほ「ほらぁッ、立てと、言ってるんだっ」

エリカ「やめてっ」

エリカ「離してくださいっ」

エリカ「……見ないでください!」

エリカ「──離せぇ!!!」



 ドンッ!



まは「ぐっ──!」

エリカ「あっ……!?」


 ぐら……


まほ(あ、ばかっ)

まほ(無理に私を押すから、エリカの足、ふらついて──)

まほ(ああ!)

まほ(駄目だ!)

まほ(手すりの方に──)

まほ(倒れるんじゃない!!)

まほ(そっちに)

まほ(いくなエリカ!!)

まほ「──おおおおお!!!!」


 だっ!


 ──がばぁっ!


エリカ「……っ!?」 

まほ「このぉっ……!」

エリカ「あ、たいちょ──」

まほ「──エリカァッ!」



 ぎゅううううう!!



エリカ「っ、ぐぇっ、隊長、苦しい……っ」



まほ「このバカ者!」

まほ「バカ者が!」

エリカ「……っ」

まほ「エリカ、聞け!」

まほ「よく聞け!」




424:KASA 2016/11/20(日) 20:43:22.54ID:wvytgVrvO

エリカ「っ!?」

エリカ「耳元で、叫ばないでくださいっ!」

エリカ「いいから離してください!」

まほ「煩い!」

まほ「知ったことか!」


まほ(──、だめだ、もう感情が──抑えられない──)


──進む姿は──

──乱れなし──


まほ(──お母様)

まほ(申し訳ありません──)

まほ(私は、とても……)


まほ「いいか──」

まほ「これは絶対命令だ!」

まほ「今から」

まほ「絶対に」

まほ「私の側を離れるな!」

まほ「常に私の側にいろ!」

まほ「一人になることは許さん!!!」


エリカ「……!?」


まほ「トイレだろうが」

まほ「風呂だろうが」

まほ「絶対に一人は許さんッ!!」


エリカ「な……」


まほ「どうしてもという時は」

まほ「私に許可を得ろ!」

まほ「居場所はつねに連絡しろ!」

まほ「もし、もしも約束を破ったら──」

まほ「ぬぅ……ええと……」

まほ「榴弾装填100発っ」

まほ「学園艦マラソン100周っ」

まほ「地獄の特訓、黒森スペシャル100セットッ」

まほ「それだけじゃないぞ」

まほ「尻叩きも100発だッ」

まほ「わかったかッ!!」

まほ「返事は──」

まほ「どうした!?」

まほ「エリカァッ!!!!!!」



430:KASA 2016/11/20(日) 23:25:50.16ID:wvytgVrvO

エリカ「……っ」

エリカ「……。」

エリカ「……。」

エリカ「……わかりました……」


まほ「!」

まほ(エリカ……!)


エリカ「全部──」

エリカ「やります」

まほ「!?」


エリカ「何発だろうと装填します」

エリカ「何百キロだろうが、走ります」

エリカ「お尻も、隊長の好きなだけ叩いてくれて、結構です」

エリカ「だから──」

エリカ「一緒に──」


まほ「……っ」

まほ「なぜだ!?」

まほ「お前は、そこまでして」

まほ「自分の子供を」

まほ「私達の子を──」

まほ「殺したいのか!?」


エリカ「……!!」

エリカ「そ──」

エリカ「……っ」

エリカ「……ぐぎぅっ」

エリカ「隊長は」

エリカ「隊長は!」

エリカ「ひぐっ……うぁ……どうして」

エリカ「どうして、隊長は」

エリカ「わかってくれないんですか……ぐぅ……ひぎ……」

エリカ「私にはもう」

エリカ「母親になる資格」

エリカ「ないんですよ!!」


まほ「……エリカァ!」


 ぎゅううううう!!!

エリカ「ぎぃ……止めてください」

エリカ「私なんかに」

エリカ「触れちゃダメなんです」



431:KASA 2016/11/20(日) 23:26:34.52ID:wvytgVrvO

まほ(エリカ……!)

まほ「お前は、泣いている」

まほ「ちゃんと、泣いているんだぞ!」


 ぎゅむううううううううう!!!


エリカ「グェッ……ひぃ、ひぐぅっ」

まほ「……くそっ……」


まほ(エリカの身体が)

まほ(何でこんなに細い)

まほ(お前を抱くのは初めてだ)

まほ(だが、こんなはずはない)

まほ(お前)

まほ(ご飯、少しも食べていなかったんだろう)

まほ(風呂にも、入っていないな)

まほ(お前の髪が)

まほ(こんなにギトギトで、油の匂いがずるはずはないんだ)

まほ(そうだろう、エリカ!?)

まほ(くそっ!)

まほ(くそ……!)

まほ(くそおおおお!!!)

まほ(遅すぎた)

まほ(気づくのが、遅すぎた!)

まほ(まただ!!)

まほ(私は何をやっていたんだ!?)

まほ(エリカが一人で)

まほ(苦しんでいる時に!)

まほ(……やめろ、そうじゃないだろう!)

まほ(今は後悔をしている場合では、ないだろう!)

まほ(そうだろう、西住まほ!)



432:KASA 2016/11/20(日) 23:27:20.34ID:wvytgVrvO

 ……ごそっ

 ぴ、ぴ、ぴ

 とぅるるるるるる、とぅるるるるる──



エリカ「……え?」

エリカ「隊長……?」


 
 とぅるるるるる、とぅるるるるる──



エリカ「隊長……!?」

エリカ「何を、」

エリカ「何をしてるんですか!?」

エリカ「ねぇ、隊長!!??」



 とぅるるる──プッ



?『──はい』

まほ「菊代っ」

まほ「お母さまは、いるか!?」



エリカ「……!?」



菊代『あいにく……。』

菊代『ですが、夜までには』

菊代『お戻りになると』

まほ「そうか」

まほ「なら、伝言を頼む」

菊代『かしこまりました』



エリカ「た、隊長!」

エリカ「隊長!?」

エリカ「何をしてるんです!」

エリカ「なぜご実家に電話をしてるんですか!?」

まほ「静かにしていろエリカ」

まほ「お前を──」

まほ「お母様のところへつれていく」

エリカ「!?」



433:KASA 2016/11/20(日) 23:30:58.82ID:wvytgVrvO

まほ(私の言葉は届かなくても、)

まほ(西住流そのものたるお母様の言葉ならば)

まほ(エリカの不安を砕いてくれる!)

まほ「お前が」

まほ「私のいう事を聞かないのなら」

まほ「お母様に──」

まほ「言って聞かせてもらうまでだ!」



エリカ「ひ……」

エリカ「いやだ──ダメ、ダメです!」


 バタバタバタ!!


まほ「!?」

まほ「エリカ!? 暴れるな!」

菊代『お嬢様……? どうされました?』

まほ「いや、なんでも……ぐっ」



 ばたばたばた!!!



エリカ「駄目!」

エリカ「駄目ぇ!」

エリカ「会えません!」

エリカ「いやあああああ!!」

エリカ「私、師範に会う事なんか」

エリカ「できません!」

エリカ「会えるわけがない!」

エリカ「やめてください!」

エリカ「許してください!!」

エリカ「隊長っ」

エリカ「隊長!!」

エリカ「あああああああああ!!!!!」


まほ「ぐっ……」

まほ(離さないぞ……!)

まほ(絶対に離さないぞ!)

まほ(エリカ!)

まほ(私とお前はもう──)

まほ(子宮と子宮とで)

まほ(つながっているんだからな!)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



451:KASA 2016/11/27(日) 21:53:54.86ID:3PWFwr71O

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ばばばばばばば……


まほ『赤星、聞こえるか』

赤星『ええ、ヘッドセット、感度良好です』

赤星『よく聞こえますよ』

まほ『うん』

まほ『突然呼び出したうえ』

まほ『熊本までヘリの操縦を頼んでしまった』

まほ『本当にすまないと思っている』

赤星『いいですよ、気にしないでください』

赤星『……それよりも、隊長』

赤星『あの』

赤星『副隊長、大丈夫ですか……?』

まほ『……うむ……』


エリカ「……」


まほ(なんとかヘリには乗せたが……。)

まほ(俯いて、顔をこわばらせて)

まほ(ヘッドセットをつけもせず)

まほ(口も耳も閉ざしてしまっている……)

まほ(それに体が震えているな)

まほ(怯えているのだろうか)

まほ(お母様に会う事を、それほどにまでも)

まほ(……怯える必要など、まったくないというのに……)



452:KASA 2016/11/27(日) 21:54:21.42ID:3PWFwr71O

まほ『赤星』

赤星『はい?』

まほ『この事、他の者には黙っていてくれ』

赤星『ええ、もちろん……』

まほ『それと、すまない、あまりこちら(後部座席)を』

まほ『振り返らないでやってくれるか?』

まほ『おそらくエリカは、恥じているだろうから……』

赤星『ああ……』

赤星『……。』

赤星『あのう、やっぱり、副隊長は妊娠の事で?』

まほ『そうだな……色々と、考えすぎてしまった』

まほ『そんなところだろうか』

赤星『そうですか……』

赤星『でも、しかたないですよ』

赤星『私だって』

赤星『もしも妊娠をしていたら』

赤星『とても冷静ではいられなかったと思います』

赤星『泣いて実家に帰ってたかもしれないですよ』

まほ『ん……』

まほ『だが、それは困る、な』

赤星『え?』

まほ『エリカだけではなく、赤星までも』

まほ『そうなってしまった時──』

まほ『いったい私は、誰を頼ればいい』

まほ『私だって』

まほ『怖いし、心細いんだ』

赤星『……。』

赤星『隊長』

赤星『今の言葉も』

赤星『皆には秘密にしておきます』

まほ『ん……すまん』

赤星『隊長には、こんな時こそいつもの隊長でいてもらわなきゃ』

まほ『そう……だな』

まほ『うん、そうだった』

まほ『それが私の、責務、だな』

赤星『副隊長の肩』

赤星『しっかり抱いててあげてくださいよ』

まほ『ああ、わかっている』

まほ『……ありがとう、赤星』

赤星『いえいえっ』

赤星『では、急ぎます、スピードあげますよっ』

まほ『了解だ』



453:KASA 2016/11/27(日) 21:55:25.09ID:3PWFwr71O

 ばばばばばばばばばばばばっ!



まほ「……。」

まほ「エリカ」


 ぎゅっ


まほ「エリカ、大丈夫か?」

まほ「ヘッドセットをしなければ」

まほ「ローターがうるさいだろう」

エリカ「……。」

まほ(……。)


まほ(なぁエリカ)

まほ(どうして)

まほ(どうしてそんな風になるまで)

まほ(私に何も言ってくれなかったんだ?)

まほ(……。)

まほ(いや……違う、そうではない)

まほ(エリカは、明確にシグナルをだしていた)

まほ(私がそれに)

まほ(気付いてやれなかったんだ……)

まほ(エリカだから)

まほ(きっと大丈夫だろうと)

まほ(そうやって理由をつけて)

まほ(自分の事にばかりかまけて……)


まほ「……。」

まほ(何か)

まほ(何か、なんでもいい)

まほ(なんでもいいから)

まほ(例え今更でっても)

まほ(何か言葉を、かけてやらなければ……)



まほ「エリカ、聞け」

まほ「聞いてくれ」

まほ「……。」

まほ「……。」



454:KASA 2016/11/27(日) 21:55:59.80ID:3PWFwr71O

まほ(……何を言えばいい)

まほ(私は)

まほ(口が上手くないんだ)

まほ(お前も知っているだろう、エリカ)


まほ「……っ」


まほ(……甘えるな!)

まほ(わからないのなら)

まほ(浮かんだままを言うしかないだろう)

まほ(耳元で叫べば、ローターの騒音の中でも、きっと)



 ばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば



まほ「エリカ!」

まほ「私も、こんな事になってしまって」

まほ「妊娠をしてしまって」

まほ「怖い!」

エリカ「……。」


 ばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば


まほ「だが、それでも」

まほ「せめて相手がエリカでよかったと」

まほ「私はそう思っているんだ!」

まほ「本当だぞ!」

エリカ「……。」


 ばばばばばばばばばばばばばばばばばばば


まほ「エリカは今までも、ずっと私を助けてくれた」

まほ「これからも」

まほ「ずっと私の側に、」

まほ「いや──」

まほ「私達の側に!」

まほ「一緒にいてほしいと思っている」

まほ「心から思っている!」

まほ「4人で、一緒にいたいと、そう思っているんだ!」

エリカ「……っ」

まほ(──!)

まほ(一瞬、瞳が、揺らいだか?)



455:KASA 2016/11/27(日) 21:56:29.89ID:3PWFwr71O

 ばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば 


まほ「……頼む!」

まほ「私達を」

まほ「二人だけにしないでくれ」

まほ「私にとって」

まほ「この道は」

まほ「4人でないと進めない道なんだ」

まほ「そして私達はもう」

まほ「後戻りはできないんだ!」

まほ「だから、頼む!」

まほ「エリカ!」

エリカ「……。」


 ばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば


まほ(エリカ)

まほ(聞いてくれたろうか……)

まほ(それにしても)

まほ(……はは……)

まほ(こんな歯の浮くような言葉を)

まほ(私は言えたんだな)

まほ(……。)

まほ(だったら)

まほ(だったら、どうしてもっと早く)

まほ(エリカに言葉をかけてやらなかった)

まほ(もしも──)

まほ(もしも私がもっと早くにこうしていれば)

まほ(あるいは、こんな事にならなかったのではないか)

まほ(そう思うのは)

まほ(私の思い上がりなのか?)

まほ(教えてくれ)

まほ(エリカ)


 ぎゅううううう


エリカ「……。」



456:KASA 2016/11/27(日) 21:57:44.77ID:3PWFwr71O

まほ(……。)

まほ(エリカ)

まほ(こうしてみると)

まほ(よくわかる。)

まほ(お前の耳の穴の中)

まほ(耳アカだらけじゃあないか)

まほ(風呂にも入らず)

まほ(悶々としていたのだな)

まほ(きっと、どこもかしこも、汚れているのだろう)

まほ(お前の耳アカが)

まほ(こうしていると)

まほ(私の唇についてしまいそうだ)

まほ(だが、気にすることはないのだぞ)

まほ(口につこうが)

まほ(食べてしまおうが)
 
まほ(私はいっこうに構わん)

まほ(エリカ)

まほ(私がお前を綺麗にしてやる)

まほ(落ち着いたら)

まほ(耳かきをしてやるぞエリカ)

まほ(『百発百睡』とみほに讃えられた私の腕前)

まほ(見くびってもらっては困る!)


 ばばばばばばばばばばばばば……
 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



470:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/12/05(月) 22:02:35.90ID:y0iOCsL4O

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


赤星改め小梅『隊長、ご実家が見えてきましたよ』

まほ『そうか、早いな』


 ばらららららららららららら


まほ(……変わらないな)

まほ(ここ田園風景は。)

まほ(こんな時であっても)

まほ(昔と、何一つ変わらない。)

まほ(あのあぜ道、よく駆けた。)

まほ(みほと、一緒に。手をつないで……)

まほ(……。)


まほ「……エリカ、見てみろ」

まほ「田んぼの真ん中の、大きな──」

まほ「あれが私の実家だ」

まほ「お前を連れてくるのは、初めてだったな」


エリカ「……っ」


まほ「……。」

まほ「エリカ、不安なのはわかる」

まほ「だが、お母様は、少しも怒ってなどいないんだ」

まほ「お前の事を、心配している」

まほ(……きっと、そのはずだ)

エリカ「……。」


まほ(怒るような人ではない)

まほ(お母様は、そのような人ではない)

まほ(戦車道にひたむきなエリカを)

まほ(お母様も評価していたじゃないか)

まほ(いくら家の問題があるとはいえ)

まほ(妊娠のことで)

まほ(エリカを疎んじるような人ではない)

まほ(そう、思うのだが……。)

まほ(……。)

まほ(いかん、しっかりしろ)

まほ(エリカの不安に、私までひきずられてどうする)



471:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/12/05(月) 22:03:29.86ID:y0iOCsL4O

小梅『隊長、着陸場所は──』

まほ『あぁ、敷地内の西側に、広い庭が見えているだろう。そこに直接降りてくれて構わない』

小梅『ひゃあ、お庭に、ですか。さすがは家元のお宅』

まほ『時々、下手なパイロットが、庭側の廊下の障子を吹き飛ばすんだ』

小梅『わ、わぁ』

小梅『師範のお家だけあって、プレッシャーをかけてきますねぇ……』

まほ『小梅なら大丈夫だ。私も心配はしていない』

小梅『うぅ、緊張しちゃうなぁ……』


 ばららららららららららら


まほ「エリカ、ほら」

まほ「東側の二階の、手すりのついた窓、あそこが私の部屋だ」

エリカ「……。」

まほ「その隣の、小さな塔のような。あそこは、みほの──」


まほ(──む)

まほ(お母様は、もう帰ってきているようだな)

まほ(駐車場に、お母様の車がとまっている)

まほ(……ん?)

まほ(だが、その隣に停まっている車。)

まほ(家の車ではないな……)

まほ(お客様だろうか)

まほ(あまり、間が良くないな……)


小梅『隊長』

まほ『どうした?』

小梅『降下を始めます』

小梅『手順に従って、ヘッドセットマイク、フルオープンでお願いします』

まほ『あぁ、了解した』


 ばららららららららら


エリカ「……。」

エリカ「……あれ?」

まほ『……?』

まほ『エリカ、降下中だぞ』

まほ『ちゃんと真直ぐに座っていろ』

エリカ「……。」

まほ『おい、エリカ?』

まほ(どうした? 窓に顔を寄せて、下をじっと──)



472:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/12/05(月) 22:04:25.93ID:y0iOCsL4O

エリカ「……?」

エリカ「……!?」

エリカ「え……!?」


 バンッ


まほ『!?』

まほ『おいエリカ!? 急に立ち上がるな!』

エリカ「ま──」

エリカ「いや、やっぱり」

エリカ「な……なんで!!」

エリカ「どうして!? なんで!?」

まほ『エリカ座れ! 危ないだろう!』

小梅『……!?』

小梅『隊長、問題ですか?』

小梅『降下、中止しますか?』

まほ『あ、いや──』

エリカ「……だ、め……!」

エリカ「だめ……だめっ!!!」


エリカ「──小梅ッ!!」


 だっ


まほ『な──』


エリカ「小梅!」

 
 ガシッ


小梅『きゃっ!?』

エリカ「小梅、降りないで!」

小梅『わあああ!?』

小梅『ちょっと!? 着陸作業中ですよ!?』


 グラッ!


小梅『だめ!』

小梅『操縦桿に触れないでください!!』

小梅『危険です!!!』


 グラグラッ!


まほ『わああ!?』

まほ『おいエリカ! お前何をしているんだ!?』

エリカ「いやだ!」

エリカ「降りないで!!」



473:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/12/05(月) 22:05:09.24ID:y0iOCsL4O

エリカ「お願い!」

エリカ「戻って!」

小梅『はい!?』

エリカ「艦に戻って!!」

エリカ「お願いよぉ!!!」



 グラグラグラツ!


小梅『わあああ! た、隊長ーっ! 何とかしてください!』

まほ『このっ……エリカぁー!』


 がしっ

 ぐぃーっ


エリカ「あう……!?」

まほ『この──バカもの!!』

まほ『墜落したらどうする!?』

まほ『どういうつもりだ!?』

エリカ「……っ!! 駄目!!」

エリカ「駄目、駄目!! 降りるなー!!」

まほ『……っ、エリカ!!! しっかりしろ! 私の目を見ろ!!』

 
 ぐぃっ


エリカ「あ、う……」

エリカ「隊長……」

まほ『エリカ、いったい、どうした? どうしたんだ!?』

エリカ「だって」

エリカ「私の家の、車が」

まほ『……なに?』

エリカ「下に、停まっているのは、」

エリカ「私の親の車なんですよ!?」

まほ『なに……?』

まほ(!)

まほ(……あの見覚えの無い車か!)


エリカ「私の両親が」

エリカ「ここに来てるってことじゃないですか!?」

エリカ「ど……どうしてなんですか!?」

エリカ「どうして私の親が!」

エリカ「隊長の家にいるんですか!!」

エリカ「た……隊長が呼んだんですか!?!?」

まほ『い、いや、私は──』


まほ(お母様が呼んだのか?)

まほ(お母様が連絡をしたのか?)



474:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/12/05(月) 22:05:39.58ID:y0iOCsL4O

エリカ「──とにかく、嫌です!」

エリカ「私、会えません!」

エリカ「会いたくない!」

エリカ「会っちゃいけないんです! 私はもう、お母さんやお父さんに──」


まほ(ぐっ……何がどうなってる!?)


小梅『──あ、あの! 隊長!?』

小梅『そっち、もう大丈夫ですか!?』

小梅『降りていいんですか!?』

小梅『それとも止めますか!? 待機ですか!?』


まほ「……っ」

まほ(ええいっ!)

まほ(落ち着いて考えている暇などあるか!)

まほ(とにかく、エリカを、早く!)


まほ『だ──大丈夫だ!』

まほ『降りてくれ!』


小梅『りょ、了解!!』

小梅『あぁもぉっ、お、落ち着け、落ち着けっ……しょ、障子を吹き飛ばしても怒らないでくださいよー!?』


エリカ「だめ、だめぇ……!」


まほ『……っ』

まほ『よく聞け!』

まほ『私が側にいる!!』

まほ『一緒にいる!』

まほ『だから安心しろ!』

まほ『わたしが絶対にお前を守る!』

まほ『だから、お前は心配しなくていいんだ!』


小梅『ふぇっ!?』

小梅『は、はい! ありがとうございますぅー!?』


まほ『!?』

まほ『あっ、いやっ、今のはっ──』


 ばろろろろろろろろろ……。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



475:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/12/05(月) 22:07:07.27ID:y0iOCsL4O

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ……きゅんきゅんきゅんきゅん……


小梅『……ぶ、無事に、着陸完了です……』

まほ『ご、ご苦労だった……』

小梅『家の障子、飛んでないですかね……』

まほ『見ていないが……多分無事だろう……』

小梅『あぁー……怖かったぁ……』

小梅『けどこれ、国交省に知れたら』

小梅『飛行禁止処分モノですよ……』

まほ『うむ……すまない。エリカは、きつく叱っておく』

まほ『だから今は、何も言わないでやってくれないか』

小梅『まぁ、隊長がそういうんでしたら……』

小梅『……』

小梅『……副隊長には、もちろん同情をしています』

小梅『でも、さっきの行動は』

小梅『お二人の命をあずかるパイロットとして』

小梅『さすがに、許容できません……』

まほ『……分かっている』

小梅『「守ってあげる」、だけではだめですよ!?』

小梅『叱る時ははちゃんと叱らないと!』

まほ『う、うむ、小梅の言う通りだ』

まほ(こんなに怒っている小梅は初めてだな……)

まほ(だがまぁ、怒って当然だ)

小梅『はぁぁぁ、まだ心臓がドキドキなってますよ……。』

まほ『そうだな、私もだ……。』

小梅『……。』

小梅『隊長の言葉にも、ちょっとだけ、ドキドキしましたよ』

まほ『……頼む、皆には黙っていてくれ。』

小梅『いいですけど、でもホント、ちゃんと副隊長を叱ってくださ……あ』

まほ『ん?』

小梅『師範が、縁側にたってます』

まほ『……ああ、本当だな』

小梅『ヘリの挙動、みられちゃったかなぁ……』

まほ『まぁ……だとしても、私からきちんと事情は……』


まほ(縁側に立っているのは、お母様と菊代と──)

まほ(それと……誰だ)

まほ(お母様の、その隣)

まほ(男性と、女性が)

まほ(……エリカのご両親、か?)

まほ「エリカ」

エリカ「……。」

エリカ「……っ!」



476:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/12/05(月) 22:08:12.56ID:y0iOCsL4O

まほ(横目で一瞬、あの二人を見たようだが)

まほ(うつむいて、両の拳を握りしめてしまった)

まほ(ご両親で間違いないようだな……)

まほ(しかし)

まほ(今すぐの対面は、無理だな……)

まほ(エリカは、己を恥じているのだろう)





 ──私にはもう、母親の資格、ないんですよ!──


まほ(だからこそ、ご両親に顔を合わせずらいのだ)

まほ(やはりまずは、私とお母様の三人で話を……)

まほ(そうすればエリカをそんな風に考えさせた思い違いも、無くなるはずだ)


まほ「……。」

まほ「よし。エリカは、ここで少し待っていろ」

エリカ「え……」

まほ「私が先に、挨拶をしてくる」

まほ「小梅も、すまない、もう少しだけヘリで待機していてくれ」

まほ「そのあとは、うちに泊って行っていくか、あるいは──」

小梅「そうですね、けれどまぁ、私の事は、今は気にしないでください、それよりも……」

まほ「ん、すまん」

まほ「……エリカ。心配をするな。」


まほ(心配をするな心配をするなと、そればかりだな)


まほ「……同じようなことしか言ってやれなくて、すまない」

エリカ「……。」

まほ「とにかく、待っていろ」

エリカ「……あ……」


 ガチャッ


 ……すたっ


まほ「ふぅ……」

まほ(地面だ)

まほ(さすがにあのあとでは、地に足がつくと安心してしまうな……)



477:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/12/05(月) 22:08:43.84ID:y0iOCsL4O

まほ(……。)

まほ(実家の、香りだ)

まほ(庭であっても、他所とはどこか、匂いが違うのだな)

まほ(……。)

まほ(さぁ、行くか)





 ざっざっざっざっ




まほ(エリカのご両親、か)

まほ(どのような人だろう)

まほ(エリカはあまり両親の事を話さない)


 ざっざっざっざっ


まほ(妊娠の件は、すでに知っているのだろうか……)

まほ(エリカが妊娠してしまった事を、どう思っているのだろう)

まほ(それに)

まほ(私のお腹の子供……)

まほ(あの人達にとっての──)

まほ(孫でもあるのか……)

まほ(……。)

まほ(私にとっても、あの人達は──)

まほ(……何なのだろうな)

まほ(お義父さん、お義母さん、というのも妙だ)

まほ(親戚、になるのかな……)



 ざっ、ざっ、ざっ……



しほ「──まほ」

まほ「お母様」



478:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/12/05(月) 22:09:26.73ID:y0iOCsL4O

まほ(久しぶり……というわけでもないが)

まほ(妊娠していらい、直接会うのは初めてか)

まほ(……。)

まほ(私、今、少し)

まほ(ほっとしているな……)


まほ「お母様。突然に申し訳ありません」

しほ「構いません」

しほ「逸見さんは?」

まほ「まだヘリの中です」

まほ「実は、その……少し、緊張してしまっていて」

しほ「……そうですか」

まほ「……。」

まほ「ところで、あの、お母様」

まほ「お客様……でしたか……?」

しほ「ええ」

しほ「──まほも、ご挨拶なさい」

しほ「こちらのお二人は」

しほ「逸見さんの、ご両親です」


まほ(……っ)


エリパパ「初めまして」

エリパパ「逸見エリカの……父です」


エリママ「……。」

エリママ「初めまして」


まほ(あぁ、そうか──エリカは、母親によく似たのだな──)

まほ(──面影だけじゃない。たたずまいや雰囲気も、どことなく──)

まほ(──いや、そんなことよりもまず──)


まほ(最敬礼を、しなければな)


 ぐぐ……


まほ「お初にお目にかかります。西住、まほです」


エリパパ「ああ、いや、そんなかしこまらずとも……」

エリママ「……。」


しほ「妊娠の件」

しほ「お二人には」

しほ「すでにお伝えしてあります」



479:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/12/05(月) 22:09:52.18ID:y0iOCsL4O

まほ「……!」

まほ「そうですか」

まほ「……。」


まほ(では──)

まほ(この人達も理解している)


まほ(私のお腹の中には)

まほ(この人達の)

まほ(『孫』が)

まほ(いる。)


まほ(そして、エリカのお腹の中には)

まほ(……私との子供が……)


エリママ「……。」


まほ(……。)

まほ(向けられる視線に、戸惑ってしまう、な)

まほ(外行きの顔を見せる以外に)

まほ(どうしたらいいのか、今はわからないな……)


まほ「お二人とも、エリカさんの事を、さぞ心配をしておられたでしょう」

まほ「今回の件」

まほ「黒森峰の隊長として──」

まほ「私も、重く受け止めています」


エリパパ「むむむ……いや、こちらが参ってしまう。なんとも、しっかりしていらっしゃる」

しほ「恐縮です」

エリパパ「うちのエリカとは、大違いだ、なぁ、母さん」

エリママ「……そうね」

まほ「いえ、とんでもありません」

まほ「私こそ、エリカさんに、いつも助けられています」

エリママ「……。」

エリママ「貴方の話は、エリカから良く聞かされていました」

エリママ「……あなたの方こそ、大変でしょうね」

まほ「ありがとうございます」

エリママ「……。」

まほ「……。」



480:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/12/05(月) 22:10:21.23ID:y0iOCsL4O

まほ(少し、トゲらしいものを感じるな……)

まほ(が、こういう時は、女親のほうが、そういうものなのかもしれないな……)


エリママ「……。」


まほ(エリカは、初対面の者に、何となく圧力感を与えるらしい)

まほ(なるほど、こういう感じなのかな)

まほ(だが……その点では、うちのお母様だって負けてはいない)

まほ(本人達に悪気はないのだ)

まほ(この人は、エリカの事が、心配なのだ)

まほ(気にすることはない……)


まほ「──それで、エリカの事なのですが」


まほ(あ、『さん』をつけ忘れた……)

まほ(……ええい、そんな細かいこと、今はどうでもいいっ)


まほ「エリカは今、とても、動揺をしていて」

まほ「その動揺の原因が、戦車道や私の家に深くかかわることで……」

エリママ「……?」

しほ「……。」


まほ「ですから……」

まほ「その、まずは──」

まほ「私と母との、3人で、お話しをさせて頂けないでしょうか」


エリママ「……。」

エリママ「……私達と会う前に──」

エリママ「貴方たち、三人で?」

まほ「……っ」

まほ「そ、そうです」

まほ「とても失礼な申し出だと、存じているのですが」


エリママ「……。」

エリママ「……。」


まほ(……お、おお……)

まほ(『不愉快』、とはこういう表情を言うんだな)

まほ(やはり、エリカによく似ている……)


エリママ「……」

エリママ「あの子が、私達に会いたくないと?」

まほ「えっ」

まほ「……ええと、お母様にというよりも」

まほ「正確にはむしろ、『誰にも』というか……」



481:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/12/05(月) 22:10:49.34ID:y0iOCsL4O

エリママ「……。」

エリママ「……ハァ」

エリママ「あの子、相変わらずね」

まほ「え?」

エリママ「やっと人見知りがマシになったと思っていたら……」

まほ「え!? い、いえ、人見知りだとかそういう話ではなくて──」


エリパパ「──いやいや、お母さん。エリカは頑張っているよ」

エリママ「お父さんは甘いのっ」

まほ「い、いや、あのっ」

エリママ「しほさん。ちょっと草履を貸していただける?」

しほ「ええ、どうぞ」


 ずちゃっ


 ……ざっ、ざっ、ざっ


まほ「ちょ、ちょ!?」

まほ「あの、ま、待ってください!」

エリママ「何でしょう」

まほ「どうかお願いですから、少しだけ!」

まほ「少しだけ待ってやってください!!」

エリママ「……。」


まほ(お母様と話をすれば、きっとエリカは落ち着くはずなんだ!)


エリママ「待たないわ」

まほ「えっ」

エリママ「私は」

エリママ「あの子の」

エリママ「母親ですっ」


 ずん、ずん、ずん!


まほ「い──いや! あの、あの!」


まほ(こ、この意地の強さ、間違いなくエリカの母親だ……!)


まほ(あっ!)

まほ(エリカが、ヘリの中からこっちを見ている)

まほ(ふ、不安そうな顔をしているな……)

まほ(き、気張るんだっ、私よ!)


まほ「──ど、どうかお願いですからっ!」

まほ「待ってください!」

まほ「お母様!」


 がしッ……!



482:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/12/05(月) 22:11:15.76ID:y0iOCsL4O

エリママ「……!?」


まほ(いきなり腕をつかんでしまった)

まほ(なんという無礼だ!)

まほ(だ、だがっ、しかしっ)


まほ「は──母親だからこそなのです!」

エリママ「……?」

まほ「相手がお母様だからこそ、エリカにとっては、素直に言えないことで──」

エリママ「……」

まほ「どうか、私達に、時間をください……」

まほ「……。」

エリママ「……まほさん」

エリママ「あの子が素直でないのは」

エリママ「貴方に言われなくても」

エリママ「この私が」

エリママ「誰よりも、理解しています」

エリママ「あの子は」

エリママ「私の」

エリママ「娘です」

まほ「……っ」


まほ(す……)

まほ(凄い目力が強い……!)


エリママ「だから──」

エリママ「この手を」

エリママ「離しなさい」


まほ「ぐ、ぬっ」

まほ「で、ですがエリカは──」


しほ「──まほっ」


まほ「っ!?」


しほ「だだをこねていないで」

しほ「いい加減にその手を離しなさい」

しほ「逸見さんに失礼でしょう」



483:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/12/05(月) 22:12:15.99ID:y0iOCsL4O

まほ「だ……駄々などではありません!」

まほ「わ、私は、」

まほ「私は、エリカを──」

エリママ「──まほさん」

エリママ「貴方は、エリカの事を本当に心配してくれているのね」

エリママ「けれど、」

エリママ「今だけは」

エリママ「私と娘の」

エリママ「邪魔をしないでちょうだい」

まほ「……!」

まほ(邪魔……)

まほ(私がエリカの、邪魔……っ!?)

まほ「……ぐ……」

まほ(エリカ……)


エリカ「……。」


まほ(……。)

まほ(私に)

まほ(お母様の邪魔をする権利があるのか──)

まほ(……。)

まほ(……無い……。)

まほ(有るわけが無い……)


 ……すっ……


まほ「……申し訳」

まほ「ありません……」


エリママ「……謝ることはないわ」

まほ「……。」


 ずんっ、ずんっ、ずんっ、ずんっ、ずんっ……


まほ「……。」

まほ(……すまん、エリカ……)

まほ(お前のための、意地を通せなかった……)


エリパパ「すみませんね、どうも昔から……言い出すと聞かなくて」

しほ「こちらこそ、娘の非礼を、お詫びいたします」

エリパパ「いやいや」


まほ「……。」

しほ「まほ」



484:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/12/05(月) 22:13:09.57ID:y0iOCsL4O


まほ「……はい」

まほ「……。」


まほ(今、叱られたら)

まほ(口答えをしてしまいそうだ……)


しほ「保険証は」

しほ「持っている?」

まほ「……。」

まほ「え?」


しほ「保険証です」

しほ「病院の、保険証」

しほ「無ければ無いで、構わないけれど」


まほ「??」

まほ「あ、えと」

まほ「財布に、携帯していますが……」

しほ「そうですか」


まほ「でも、どうして保険証が……」

しほ「これから皆で、病院へ行きます」


まほ「……は!?」

まほ「びょ、病院?」

まほ(!?)

まほ(お、お母様は、菊代から話を聞いていないのか??)


まほ「い──いやそれよりもまずっ」

まほ「お母様、とにかく一度、エリカと話をしてやってください!」

まほ「私はそのために、エリカを……!」


しほ「まほ」


まほ「は、はい」

しほ「菊代から伝言は聞いています」

まほ「で、では!」

しほ「まほ、聞きなさい」

しほ「私はカウンセラーではないわ」

まほ「そういう事ではなくて!」

まほ「エリカは西住の事で悩んでいるんです!」

まほ「お母様が、心配ないと言ってくれればエリカは──」


しほ「──本当に?」

まほ「……え?」

しほ「本当に、彼女の抱える不安は、それだけですか?」



485:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/12/05(月) 22:13:54.76ID:y0iOCsL4O

しほ「もっと、様々な問題が」

しほ「あるいは、もっと心の深い部分に巣くう不安が」

しほ「彼女を動揺させているのかもしれない」

しほ「そうではないと、貴方に言い切れる?」

まほ「……そ、」

まほ「それは、わかりませんが……」

しほ「そうでしょう」

しほ「私にも、分からないわ」

しほ「だから、病院に行くんです」

しほ「だからこそ、プロの手が必要なのです」

まほ「で、ですが」

まほ「そんな事を大げさにしなくても」

まほ「……エリカが」

まほ「エリカが怯えてしまいます……」

しほ「……。」

しほ「まほ」

しほ「冷静になりなさい」

しほ「初手でもって」

しほ「打てる手立ては全て撃つ」

しほ「一段一段、手立てを探っていられるような場合ではないの」

しほ「状況を見誤ってはなりません」

しほ「いいわね」

まほ「……。」

まほ「ですが……」

まほ「……っ」

まほ「……。」

まほ「……はい……わかりました……」

まほ「……。」

まほ「あの……エリカのご両親には」

まほ「お母様が連絡を?」

しほ「そうです」

まほ「……。」

しほ「もっとも、近況をお伝えするため、もともと、お二人とアポイントを取っていた」

しほ「ということでもあるのだけれど」

まほ「……そう、ですか」


まほ(……。)

まほ(本当に、これでいいのか──)

まほ(エリカを)

まほ(余計に追い込んでしまうのでは)

まほ(ないだろうか……)



486:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/12/05(月) 22:15:40.89ID:y0iOCsL4O


 ──わああぁああん!! ああああん!!



まほ(!?)

まほ「エ、エリカ……!?」


まほ(なんだ、どうなった!?)

まほ(まさか)

まほ(嫌がるエリカを無理やりにヘリから──)

まほ(……あっ)

まほ(……違う……)

まほ(いつの間にかエリカが、ヘリから降りて……)

まほ(……お母様の胸に、抱きついている、のか……?)



 ──お母さんっ!

 ──あああっ

 ──ごめんなさい、ごめんなさい!!

 ──私……うああああっ!



まほ(……。)

まほ(エリカ、お前……)

まほ(ご両親には、会いたくないって)

まほ(あんなに……)

まほ(嫌がっていたじゃないか……)

まほ(それなのに)

まほ(お前は今)

まほ(一生懸命にお母様にしがみついて)

まほ(赤子のように泣いているじゃないか)

まほ(……。)

まほ(本当は、お母様に会いたかったのか?)

まほ(……)

まほ(は、は……そんな事だろうと思った)

まほ(どうせまた、そんなことだろうと)

まほ(やはりお前は、素直じゃないんだ)

まほ(それ見たことか)

まほ(……。)

まほ(……。)

まほ(バカか、私は)



487:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/12/05(月) 22:16:31.37ID:y0iOCsL4O

まほ(結果だけを見て、何を知った風な事を言っている)

まほ(何を後から、分かったような口を聞いている)

まほ(私は)

まほ(エリカのお母様がエリカに会おうとするのを)

まほ(本気で邪魔しようとしていたんだぞ)

まほ(そんなお前が)

まほ(いったいどの口で言う)


まほ(そもそも)

まほ(私がもっとしっかりしていれば)

まほ(エリカはあんな風に泣かずに、すんだのではないのか?)

まほ(あるいはせめて、私が)

まほ(ああやってエリカを、泣かせてやれたのではないのか?)

まほ(……。)

まほ(つまるところ私は)

まほ(少しも、エリカを理解してやれていないのではないのか……)



 ──私が側にいる──

 ──だから安心しろ──

 ──わたしがお前を守る──



まほ(……っ)

まほ(なんという恥知らずだ、私は)

まほ(何一つわかっていないくせに)

まほ(エリカが私を必要としていた時に)

まほ(少しも気づいてやれなかったくせに!)

まほ(口先ばかり!)

まほ(自分の気持ちばかりを)

まほ(一方的にエリカに押し付けて!)

まほ(寂しいのは──)

まほ(甘えたいのは──)

まほ(私のほうではないのか!?)


まほ「……ぐ……っ」


しほ「……?」


まほ(──小梅!)

まほ(頼むから忘れてくれ!)

まほ(どうかお願いだから)

まほ(聞かなかったことにしてくれ!)

まほ(恥ずかしくて、情けなくて)

まほ(私はもう顔から火がでそうだ……!)

まほ(泣きたい!)



488:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/12/05(月) 22:17:50.67ID:y0iOCsL4O

まほ(私も泣いてしまいたい!)

まほ(なのに、)

まほ(涙が蒸発して、泣くことさえできない!)

まほ(くそっ)

まほ(くそっ──)



まほ「──うぷっ!?」

まほ「ううっ!!??」


しほ「……!?」


まほ「オゲッ」

まほ「オゲエエエエエエエエっ!!」


 びしゃびしゃびしゃぁ!!


菊代「お、お嬢様!?」


まほ「か、はっ……」

まほ「はぁっ、はぁっ……」


菊代「大丈夫ですか!?」

しほ「菊代。水をお願い」

菊代「は、はい!」


 だだだだだだ……


まほ「はぁ、はぁ、うぅ……おぷっ……」

しほ「悪阻……にしては早すぎるけれど」

しほ「けれどそれでも、やはり悪阻なのでしょうね」

しほ「まほ。腰を下ろしていなさい」

まほ「はぁ、はぁ……。」

まほ「いえ、構いません」

しほ「……?」

まほ「いいんです」

まほ「私は」

まほ「いいんです……」

しほ「……。」

しほ「そうですか」

しほ「ともかく、水分はとっておきなさい」

しほ「体によくないから」

まほ「……。はい、お母様」

菊代「お、お嬢様、お水ですぅーっ」


 ……とととととっ

 
 ──わあああああああん……わああああああん……


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



498:KASA 2016/12/13(火) 20:48:30.75ID:yldPfngnO

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



しほ「では、私が病院まで車で先導します」

しほ「逸見さん方は、私の車の後を、ご家族と一緒に」

エリパパ「ええ、よろしくお願いします」

エリパパ「ただ……熊本医療センターといえばたしか、随分な大病院でしたね」

エリパパ「紹介状の類が必要なのでは……?」

しほ「ご心配はありませんよ」

エリパパ「そうなのですか?」

しほ「こんな家業をやっていると」

しほ「多少のコネはできてしまうものです。お恥ずかしながら。」

エリパパ「あぁ、なるほど……いやはや、ありがたい」

しほ「お気になさらず」



まほ(……。)

まほ(エリカは、縁側に腰をおろして)

まほ(お母様に寄り添われている)

まほ(泣きはらした顔をしているが、少しは落ち着いたろうか。)

まほ(……声をかけてやりたいが……)

まほ(私がでしゃばっても邪魔なだけ、か……)

まほ(……。)

まほ(そうだ、声をかけてやると言えば、小梅)



 ……ざっざっざっ



しほ「まほ、どこへ行くの?」

まほ「小梅──ヘリを飛ばしてくれた仲間です──に話をしてきます」

まほ「今日は、家に泊っていくようにと。」

まほ「構わないでしょう?」

しほ「ええ」

しほ「菊代に世話を言いつけなさい」

まほ「ありがとうございます」


 ……ざっざっざっ


 ……ざっ……



499:KASA 2016/12/13(火) 20:49:11.98ID:yldPfngnO

(クルッ)


まほ「……。」

まほ「……不思議な眺めだな」


まほ(私の家の縁側で)

まほ(私のお母様と、エリカのお母様とお父様と、エリカが)

まほ(一つの景色に収まっている)

まほ(……考えもしなかった眺めだ)

まほ(……。)

まほ「本当に、何なのだろうな、私達」


 (クルッ)


 ざっざっざっ……


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ガチャンッ


小梅「あ、隊長……」

まほ「小梅、ほったらかしにしてしまってすまない」

小梅「いえいえ。気にしないでください」

小梅「それに、特等席でレアなものを見せてもらいましたし……」

まほ「? ……ああ、エリカの事か」

小梅「びっくりしました。副隊長のあんな感じ、初めてで……」

まほ「うん。私も驚いた」

まほ「それにしても……」

まほ「はい?」

まほ「本当によく似ているな、エリカと、お母様は」

小梅「あ、ですよねっ、ほんと、びっくりびっくりです」

小梅「副隊長が大人になったら」

小梅「あんな感じなのかなぁって……」

まほ「同感だ」

まほ「ところで、この後の話だが」

小梅「あ、はい」

まほ「私達はエリカを連れて病院へ行く」

まほ「そうなのですか」

まほ「小梅は」

まほ「家に泊まって、ゆっくりしていくといい」

まほ「今から帰艦するのは、骨だろう」

小梅「あー……それなのですが」

まほ「?」

小梅「お誘いは有り難いのですけど」

小梅「私は、艦に戻ろうかなぁって……」



500:KASA 2016/12/13(火) 20:49:38.70ID:yldPfngnO

まほ「気を使う事はないんだぞ」

まほ「部屋はたくさんあるんだ」

小梅「いやぁですが」

小梅「さすがに今日は……場違いかなと」

まほ「……む……」

まほ「そうか……小梅としても、いづらいモノがあるか」

小梅「うぇっと……すみません、正直なところ、チョッピリ」

まほ「いや、謝ることは無い。私のほうこそ、鈍感だった」

小梅「い、いえそんな」

小梅「……。」

小梅「あの、隊長」

小梅「返ってくるときは、連絡をくださいね」

まほ「うん?」

小梅「私、また、」

小梅「迎えに来ます。」

小梅「隊長の事も、副隊長の事も……」

まほ「……ありがとう。そうだな、帰る時は、また小梅に操縦を頼む」

小梅「はいっ……」

小梅「……さて、と、では、一言師範に挨拶をして、艦に戻ります」

まほ「うん」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ──ばらららららららららららら……



しほ「……。あの子、離陸はしっかりしてるのね」

まほ「え?」

しほ「着陸の時、随分と危なげな操縦をしていたけれど」

まほ「あ、いえ、あれは……ちょっとしたイレギュラーで」

まほ「小梅は、良いパイロットです」

まほ「でなければ、フライトを任せはしません」

しほ「そう」

しほ「──お待たせしました、では、行きましょうか」

エリパパ「ええ、よろしくお願いします」

エリパパ「母さんは、エリカと一緒に後部座席に座ってやって」

エリママ「ええ、そうね、さぁ、乗りましょ」

エリカ「……」



501:KASA 2016/12/13(火) 20:50:07.43ID:yldPfngnO

まほ(……。)

まほ(エリカは、家族と一緒の車、か)

まほ(まぁ……当然か。)



 ばたん



しほ「まほ、気分はどう?」

まほ「もう、平気です」

しほ「もしもの時は、ダッシュボードにビニル袋があるから。」

まほ「ありがとうございます」



まほ(……。)

まほ(エリカと、一緒に車に乗ってやりたかったな)

まほ(……。)


しほ「市内はきっと、渋滞しているわね」

まほ「そうですね、この時間は……」


まほ(……。)

まほ(乗って「やりたかった」、ではないだろう)

まほ(いいかげんに……認めたらどうだ)

まほ(私が、)

まほ(エリカと一緒に、いたいのだ)

まほ(エリカの世話を、していたいのだ)

まほ(エリカに──頼られたいのだ)

まほ(そうしていると、私は落ち着くんだ……)



しほ「……あちら様も準備できたようね」

しほ「出るわよ」

まほ「あ、はい」



まほ(……。)

まほ(私は、誰かに依存されていたいのだろうか……)

まほ(理解している、と思わせてくれる相手がほしい……?)

まほ(……)

まほ(むぅ、もしや私って、ちょっぴり歪んでいるのだろうか……)



ぶろろろろろろろろ……



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



502:KASA 2016/12/13(火) 20:50:39.51ID:yldPfngnO


 ──ちっかっ、ちっかっ、ちっかっ


しほ「……交差点一つ曲がるのに、何分かかるのかしら」
 
まほ「そうですね」



まほ(考えてみれば)

まほ(エリカといる間、私は随分と気が楽なのだな)

まほ(私が何か言葉を述べれば、エリカはそれにのってくれる)

まほ(何の話をしようかなどと、意識する必要もなかった)

まほ(まぁ、話題がなければ戦車道の話をすればいいのだし)

まほ(おそらく私は、時々何かすっとんきょうな事を言っているのだろうが)

まほ(エリカはそれを咎めず聞いてくれる)

まほ(私としても、エリカが何を考えているのかは、意識せずともおおよそ検討はつく)

まほ(だから余計に、話しがしやすい……)

まほ(しかし、そういう相手を、欲しているつもりはなかったのだが)

まほ(……。)

まほ(そうか)

まほ(みほだ)

まほ(以前までは、みほがいたからだ)

まほ(たいていのことはみほが、私を満足させてくれていたのか……)

まほ(……。)

まほ(もしや私はシスコンとかいう気があるのか?)

まほ(それで今は)

まほ(エリカを……?)

まほ(……むむむ……)



しほ「本当に、戦車でくればよかった」

まほ「ええ」



まほ(ものすごい人の数で、車の数だ)

まほ(けれど)

まほ(かれらが何を考えているのかなんて、私にはさっぱりわからない)

まほ(それぞれに人生があって、それぞれに多種多様な思いがあるのだろう)

まほ(それでもやはり、私にとって、かれらは他人……)


まほ(……。)

まほ(エリカ達の車は……二台後ろ、か)



503:KASA 2016/12/13(火) 20:51:07.70ID:yldPfngnO

しほ「そういえば、まほ」

まほ「……はい?」

しほ「これから行く熊本センター病院だけれど」

まほ「はい」

しほ「貴方とみほの、産まれた病院よ」

まほ「あ……そうでしたか……」

しほ「ええ」

まほ「……。」

まほ「……では」

まほ「私も、産むのでしょうか。そこで……」

しほ「……かもしれないわね」

まほ「そう、ですか」

まほ「……」

まほ「エリカも、一緒に産めますか?」

しほ「……。それは──」

しほ「あちらのご家族が、決めることね」

まほ「あぁ、そうか、そうですね……」

しほ「ただ、臨月以降は国の研究機関へ入る可能性もある。まぁ、今はまだなんとも──」

まほ「……。」


まほ(まぁ、どこでもかまわないが、産むときは、なるべくエリカと一緒に産みたいものだ)

まほ(……という風にい思うのも、べったりすぎだろうか……)


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ぶろろろろろろろろん……



しほ「やっと病院にたどり着いたと思ったら」

しほ「なかなか駐車場の空きが無いわね……」

まほ「熊本中の車が集まっているみたいです」

しほ「いいかげん、時間がもったいないわね……」

しほ「……まほ」

まほ「はい?」

しほ「先に降りて、受付をしてきなさい」

まほ「あ、はい」

しほ「この書類を提出すれば」

しほ「とりあえず、私が到着したことが上に伝わるでしょう」



504:KASA 2016/12/13(火) 20:51:36.42ID:yldPfngnO


まほ「わかりました」

まほ「では、後ろのエリカ達にも、同じように……」

しほ「そうね」

しほ「二台とも、車を止めるのにしばらく時間がかかるでしょうから」

しほ「あちらのお母様と、あの子と──」

しほ「一人で、大丈夫ね?」

まほ「ええ、大丈夫でしょう」

まほ「では、先に行きます」

しほ「……よろしく」


 がちゃっ


 ──ごぉぉおおぉおおぉぉお……──


まほ(む……)

まほ(都会の喧騒……というやつか)

まほ(なんの音かはわからないが、とにかくごぅごぅと、風もないのに唸っている)

まほ(それに、アスファルトの匂い、とでもいうのだろうか)

まほ(油とはまた違う、都会独特の臭いだな……)


まほ「……まぁ、そんなものはすぐに気にならなくなるんだ」

まほ「それよりも」


 た、た、た

 
 ──こんこん


エリパパ『はいはい』


 ウィーン──


まほ「運転、お疲れ様です」

エリパパ「いやぁ、これは車を止めるのに時間がかかりそうだ」

まほ「そうなんです、ですから、私だけ先に降りて、受付を済ませてしまおうかと」

エリパパ「そんな話になるのではと思っていたところだよ」

まほ「それで、エリカ達も、一緒に先に行きませんかと思って……」

エリパパ「あぁそうだね、お母さん達、先におりてようか」

エリママ「えっと、それはいいのだけれど……」

エリパパ「ん?」

エリママ「この子の着替えをもってきていなくて……失敗しちゃった」


まほ「……あ」

まほ(そうか、しまったな、寝間着のままヘリに押し込んで、そのままだった……)


エリパパ「でも病院だろう。寝間着で担ぎ込まれることなんて、珍しくもないよ」

エリママ「そういう問題じゃないのよ」

エリパパ「?」

エリママ「だってこの子、そういう所はすごく気にしぃなんだもの」



505:KASA 2016/12/13(火) 20:52:04.10ID:yldPfngnO

エリパパ「気にしぃって……お母さんはエリカに甘いなぁ。なんだかんだで」

エリママ「だから、そういうことじゃないの」

エリママ「私が後でメンドクサイのよ、この子。あれが恥ずかしかったこれが恥ずかしかったって」

エリママ「ぶちぶちうるさいんだから」

エリカ「ちょ、、ちょっと……」

エリカ「……やめてよっ」

エリカ「それは子供のころの話でしょっ……」

エリママ「今だって子供でしょう」

エリカ「とにかく、人前ではやめてよっ」

まほ「……。」

まほ「あの、良ければ私の上着を犯ししますが。……それでいいだろう、エリカ」

エリカ「……っ……」


まほ(……ん?)

まほ(なんだろう。エリカ、私の視線から目をそらしているような……)


エリママ「だけど、それでは貴方が寒いでしょう」

まほ「大丈夫ですよ、院内に入れば、暖房も効いているでしょう」


 ごそごそ


まほ「では……これを」

エリママ「……。ありがとうね、まほさん」

まほ「いえ」

エリママ「さぁ、エリカ。お礼はどうしたの」

エリカ「あ、う、うん……」

エリカ「……ありがとうございます」

まほ「……いや……」

まほ(……。)

まほ(やはり、なんとなく、他人行儀だな)


 のそのそ



506:KASA 2016/12/13(火) 20:52:34.86ID:yldPfngnO

エリママ「ほら、降りるわよ」

エリカ「う、うん……」


 がちゃっ


 ……とた、とた


エリカ「……。」


まほ(……。)

まほ(病院の駐車場で)

まほ(都会の眺めに囲まれながら)

まほ(そこにたたずむ半分寝間着の逸見エリカ)

まほ(……。)

まほ(写真に収めておきたい気がするな)

まほ(この先二度と見られないだろう)

まほ「……では、いきましょうか」

エリママ「ええと、受付は、普通の受付でいいのかしら……?」

まほ「母から聞いていますので、私にまかせてください」

エリママ「そうなのね、ありがとう」




 ……とた、とた、とた、とた



まほ「……。」

エリカ「……。」

エリママ「……。」


まほ(沈黙が、耳につくな)

まほ(これもまた、エリカといた時は、気にならなかったことだな……)


まほ「……。」チラ

エリカ「……っ」


まほ(……エリカめ、なんで、お母様の後ろに隠れる)

まほ(むぅ……なんだか、すごく嫌だ)


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【ガルパン】マタニティ・ウォー!【その2】



元スレ
【ガルパン】マタニティ・ウォー!
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1473248759/
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