【シャドバ】ルナ「ルナのお友達になってくれる?」八幡「や、その友達とか良くわからないんで」【俺ガイル】

1:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/26(金) 01:46:14.94 ID:SZHC4siA0

シャドウバースと俺ガイルのssです
本編のストーリーと世界観がよく分からないのでガバガバ進行です
ご注意ください



本格対戦型デジタルTCG【Shadowverse シャドウバース】公式プロモーション映像 第一弾


2:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/26(金) 01:48:49.03 ID:SZHC4siA0

ここは名もなき森。

鬱蒼とした木々に覆われ、昼間だというのにこの場所の空気は墓場のようによどんでいる。

その沈黙を破ったのは、突如として宙に現れた魔方陣だった。

ぴかっ!

一瞬、森に棲む穢れた生物を照らし出すほどの光を放ったそれは、一体のフォロワーを召喚した。

ずべしゃっ!

頭から地面に激突したそれは、そのまま動かなくなった。

哀れ、その者は気絶してしまったようだ。

この森で無防備な姿を晒して、生き残れる生物は少ない。

大抵の者は、ブラッドウルフの胃袋の中に収められる。

この男も、例外ではない。

既に周囲の藪が不自然に蠢いているのに、彼は気づいただろうか。

藪からのぞく、血に濡れた赤い瞳に気づいただろうか。

白目を剥きながらでは、到底不可能だろう。

それからすぐ、絹を裂くような断末魔が辺りに響き渡り、やがてもとの静寂を取り戻した



3:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/26(金) 01:51:55.67 ID:SZHC4siA0

とある屋敷の寝室

八幡「zzzzz」

ルナ「この人、怖い顔をしてる。お友達になってくれるかな?パパ」

ルナ「うん!わたしが助けたって教えてあげるの。喜んでくれるかな?ママ」

ルナ「ありがとう!」

八幡「精神状態おかしい……zzzz」

ルナ「うん、分かった。ちょっと、服についた『汚れ』を落としに行ってくる」テクテク

バタン!

八幡「」ぱち!

八幡「ようやく行ったか。俺の眠ったふりも捨てたものじゃないな」

八幡「勘違いしてほしくないので言っておこう、別に嫌がらせで寝たふりをしたわけではない」

八幡「目が覚めたら、隣に幼女がいて、知らない天井だったからな。

下手に口を聞こうものなら、借金のかたに執事として雇われる展開まである」

八幡「あるよな?材木座」

遠い星にいる旧友を思い出した。

そう、異世界に飛ばすならアイツが向いてるってあんなに推薦したのに、どうして俺なんだ。

俺は陽乃さんの異世界探査装置の乗組員に選ばれたことを改めて呪った。

選ばれた理由は、頭脳が明晰であるとか、いなくなっても社会的影響が少ないだとか、いくらでも付けられるが

一番の理由はおそらく…俺が嫌がっていたからだ。



4:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/26(金) 01:56:50.08 ID:SZHC4siA0

陽乃さんがじきじきに俺を指名するまでは

現実に居場所がない材木座はもちろんのこと、あの雪ノ下ですら「頼まれれば行かないでもないのよ」というかの有名なツンデレ状態だったわけだし

葉山ならば今までどおり、期待に応えただろう。

そうした中、由比ヶ浜と俺だけが行かないことを表明していたが

俺が連れ出されるいなや、由比ヶ浜も行くと言いだした。

相変わらず、群集心理の権化のような女である。

ただ、ほかの連中が思った以上に俺に対してドライだったことを考えると、彼女なりの優しさだったのだと思えた。

最愛の妹である小町はお土産買ってきてねと一言であったし

雪ノ下は科学には犠牲がつきものだという話をし、陽乃さんは比企谷君ならなんとかなるよ。悪運は強いでしょ、と太鼓判を押した。

家族から突き放され、敵(雪ノ下家)にも認められたことが存外に腹立たしかったので

もう帰ってこれないかもしれないと弱音を吐いてみせたが

肝心の彼女らは素知らぬふりをし、由比ヶ浜が泣きはじめたので慌ててやめた。

泣く子と地頭には勝てぬとはこのことか。

俺はいつの日か、一揆をおこすことを胸に誓って陽乃さんが用意した探査機に乗り込み、

100万円相当の商品券を手に、異世界へ飛びたったのだ。



5:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/26(金) 02:02:12.95 ID:SZHC4siA0

そう、俺は雪ノ下家の小汚い策略にはまり

たかだか100万、されど高校生にとっては目が飛び出るような金額につられてしまったのだ。

雪ノ下はそんな俺の様子を見て眉をひそめていたが、やがて得心がいったように手のひらを叩いた。

「比企谷君は、自分の命の価値が100万円相当しかないと思っているのね」

とんでもないことを言いだす女だ。

「せいぜいその命、失わないようにしなさい。何度も言うようだけれど、異世界で最も大切なのは、コミュニケーションよ。いつものように不審な動きをしていたら、どんな目にあうか分からないわ」

いつも不審な動きをしているのなら、それは不審な動きではない。

と思ったが、彼女のいつにもまして真剣な表情に気づいた俺は適当な相槌を打った。

まぁ、現時点ですでにコミュニケーションを拒否しているので、馬の耳に念仏だったのだろう。

だが、馬の言葉で念仏を唱えてくれれば、馬も信じたかもしれない。

と、思うのは俺だけだろうか。

思うに、元の世界の人々には優しさが足りない。

だから、こっちの世界はかくやと期待している部分があった。だが第一村人は…

八幡「独り言の多い子だったな。きっと会話ができないタイプのスタンド使いと見た」

八幡「なるほど、俺と同じタイプのスタンド使いか」

八幡「…期待したらだめだろう、常識的に考えて」

俺は布団から跳ね起き、あたりを見回した。

古い調度品が棚に乱雑に並べられていて、上にいくほど整理が行き届いていない。

シャンデリアがぶら下がっている天井には幾重にも蜘蛛の巣が張っている。

どこぞの使用されていなかった客室だろうか。元の世界にあってもおかしくはない。

八幡「異世界と言っても並行世界だから、元の世界とそこまでずれてない、と」

八幡「よく考えたら、あの幼女の言葉もわかっていたしな」

八幡「となれば、俺の乗ってきた探査機をとっとと探して早く帰ろう。報告書はまた今度でいい」

俺は、この屋敷の探索を開始した。

比較的冷静だったこの頃に誤算があったとすれば

ここは幽霊屋敷と呼ばれていて、そこに棲む少女が正真正銘のネクロマンサーだったことだ。

だからここでの最善手は、一刻も早くここから逃げ出すことだったのだが、当時の俺は知る由もなかった。



9:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/26(金) 17:11:39.86 ID:SZHC4siA0

八幡「それにしても妙な屋敷だな…もしやメイドを雇っていないのか」

俺はドアノブにかぶさった埃を人差し指でそっとぬぐい、ふっと吹いた。

八幡「俺がメイドだったら、ぜったいに見逃さないんだけどな……」

俺はどこか切ない気持ちで、これで7度目の挑戦をすることにした。

ドアノブを回して、ゆっくりと押す。

ギィイイイイイイイイ

名探偵コナンのCM前後での扉を開けるSEは、この屋敷でとられたものだと俺は確信した。



10:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/26(金) 17:16:04.76 ID:SZHC4siA0

開けた瞬間、部屋のなかに溜まっていた埃が一斉に襲い掛かってきた。

八幡「ふ、ひ、ぶぇくしょい!もう俺埃くせぇよ……」

八幡「あーもうたまらん。ズビ……ここもはずれか」

ざっと見回すと部屋の中にあるのは、ソファが二点に、本棚が一点だけ。

異世界探査機の影も形もない。

俺は、あの幼女が俺を「助けた」らしいことはこっそり聞いたので

てっきり異世界探査機も幼女が持っていると思ったのだが…一向に見つからない。

八幡「こんなに屋敷が広いとは予想外だった。いっそのこと、あの幼女に聞いたほうが早い説あるな」

八幡「だが話は通じるのだろうか。異世界探査機と言っても分からないだろうし、そもそもエア会話を体得した幼女と俺が交差したとき一体どんな物語が生まれ
るんだ……?」

とても残念な物語が待っていることだろう。俺は即座に答えを見つけることができた。


ぴちょん…。


八幡「!!!」

どこかで、液体が滴る音がした。

八幡「そういえばあの子、洋服の汚れを落とすと言っていたな。この近くに洗面所でもあるのか?」

八幡「…」

八幡(さて、どうしようか)

一 ここは部屋に戻って、待機しよう

二 なんだか嫌な予感がするが、音のする方向へ向かう



15:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/26(金) 22:20:34.94 ID:SZHC4siA0

八幡「物は試しにちょっと行ってみるか」

あの幼女がちょっとぼっちをこじらせていたからといって、俺に敵うわけではあるまい。

なにせあの頃には、13人いる神のうち最強にして、ふだんは最弱の怠惰なる神という設定で生きていたわけだから

エア会話ぐらいどうということはない。

むしろ、普通といえる。

ならば、話を聞きに行こう。

水音を頼りに、薄暗い廊下を歩き始めた。



16:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/26(金) 22:22:56.56 ID:SZHC4siA0

八幡「ここか」

数分後、水音の発生源とみられる部屋の前に到着した。

ざぱーざぱーと断続的に音は続いている。

八幡「お風呂でも入っているのか」

八幡「……声をかけたら、驚かせてしまうよな」

ルナ「どうしたの?パパ、ママ」

八幡「!?」

ルナ「なにか物音が聞こえたって?。私は聞こえなかったけど……」

八幡(パパとママと一緒に風呂入ってるのか?広い風呂だ。ってそうじゃなくて)

ルナ「さっきの人、かな?」ガラッ

八幡「……なっ!?」

ルナ「……?」

真っ先に目に飛び込んできたのは、幼女の青い果実のような肢体がどす黒い血で染まった光景だった。

素っ裸であるがゆえに、衝撃も大きい。

薄目だから気が付かなかったが彼女は、こんなにひどい怪我を負っていたのか?

思わず、まじまじと見ると

幼女はさきほどまで束ねていた髪を下しており、その金色すらも血によって穢されていることに気が付いた。

血の海にでも、身を投じたとしか考えられない状況だ。

だが、そんなことはお構いなしに、彼女は笑った。

腹を抱えて、俺が心底おかしいというふうに、笑った。

ルナ「お兄さん、いま変な顔してる!ぷふっ!」

八幡「そんなことよりお前、大丈夫なのかよ!血が、こんなにでて……」

ルナ「ん?これのこと?」

少女は自身の身体を改めて、見た。

ルナ「うん。この汚れって、なかなか落ちないの」

八幡「あ、よごれ?」

ルナ「そう!今、お洋服についた血を洗い流してるの!見てみて」

少女は、洗面所の奥へと姿を消したかと思うと、両手になにかを抱きかかえてやってきた。

ルナ「これ、パパとママが誕生日にくれたお洋服なの。似合う?」

少女は可愛らしく笑いかけながら、「お洋服」を広げて見せたが

控えめに言ってその血垢まみれの「それ」が似合う人物は、ちょうど人の首筋をかみちぎった吸血鬼くらいだろう。

八幡「に、にあう」

ルナ「えへへっ!お兄さんとならお友達なれそう!」

ああ、目が腐っていて本当によかった。

危うく似合わないなんて、イウトコロダッタ……。



20:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/26(金) 23:46:14.79 ID:SZHC4siA0

八幡「」バタッ

ルナ「また倒れてる」

八幡「」

母「きっと、疲れているのよ。ほらこんなに険しい顔をしているわ」

ルナ「それはもとからだよママ」

父「かわいそうに、かわいそうに」

ルナ「うん、きっとつらい目にあったんだよねパパ」

父「優しくしておあげ」

母「そうすれば、ルナに優しくしてくれるわ」

ルナ「……優しく、するよ」

母「いい子ね。ルナ」

父「自慢の娘だよ。ルナ」

ルナ「わたし、パパ、ママのことが大好き、だからずっと一緒にいて…」

父「もちろんだとも」

母「ずっと一緒よ。ルナ」

ルナ「うん。ずっと……ずっとだよ」



22:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/27(土) 01:44:07.39 ID:RrjbpKlh0

八幡「う、うーん」

八幡「はっ」

八幡「……今度は知ってる天井だ。ついさっきばかりの知識なのが、悔やまれる」

八幡「体に異常はない」

八幡「血まみれの少女がいないことを除けば、振り出しに戻ったのか」

それでは、彼女はいずこへ?

八幡「……とにかく、ここにはいられないな。あの子はどこかおかしいんだ」

???「ふん、ここは幽霊屋敷。死者は踊り、生者は眠りにつく。生者にとっての安息は夢にしか存在しないのよ」

八幡「だれだ」

ラビ「私はラビットネクロマンサー。不幸なことに、ご主人様に弱―いあんたを守るように命じられているわ」

部屋の片隅の影に溶け込むようにして立っていた空色の髪の少女は、頬を膨らませた。



24:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/27(土) 12:11:41.42 ID:RrjbpKlh0

八幡「ラビットネクロマンサーが名前なのか」

ラビ「そんなわけがないでしょう。これはただの通り名よ」

八幡「ここで通り名ときたか」

ラビ「あんたにもあるんでしょ?名乗りなさいよ!」

八幡「ふ……え?」

八幡(いや、普通の人は通り名なんて持ってねえよ。

確かに小学生のころ比企谷菌と周囲に呼ばれれたことはあるけどな!

あれを通り名って呼んでいいのか。

俺が通るだけで囁かれたけど、あれでいいのか。

いや、それはよくない。主に俺がよくない。

ここは現時点で俺に付けられた、たった一つのあだ名を信じてみよう)

八幡「ヒッキーだ」

ラビ「ふーん。あんたに似合わないくらい、いかした名前ね」

八幡「……そうか」

ラビ「なに暗い顔してるのよ。そりゃあ、ちょっとひどいこと言ったかもしれないけど

そんなに落ち込まないでよ!なんだか謝らなきゃいけないのかなって思うじゃない!」

八幡「そういえば、この世界でのヒッキーってどういう意味なんだ?」

ラビ「?意味なんてないわよ。ご、語感がいいから、悔しくて言っただけ!

あんたに似合わないって言って悪かったわね!似合ってるわよ!」

八幡「分かった。もうわかったからこの話題はやめよう。

とりあえず、ご主人様から受けた命令というのが気になるんだが。

そもそもラビットさんのご主人様は誰なんだ?」

ラビ「あんたも会ったことがあるのでしょう?。この屋敷のご息女、ルナ様よ」



27:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/27(土) 18:28:16.77 ID:RrjbpKlh0

八幡「そのルナ様ってもしかして、あの血みどろ金髪幼女のことか?」

ラビ「なにを勝手に血みどろにしてくれてるわけ?でも、あんたが想像している人物であってると思うわ。兎さんみたいでかわいいでしょ?」

八幡「…いや、その例えはわからん。兎要素あったか?」」

ラビ「寂しがりなところがあるじゃない、なんで分からないのよ!」

ラビットさんはその場で地団太を踏んだ。

同意してほしかったらしい。

しかし、俺はそのルナ様とまともに会話したことがないので、賛同はできない。

八幡「まぁ、それは置いといてそのルナ様が俺を守るように命令したんだよな」

ラビ「そう」

八幡「なんでだ?」

ラビ「さぁ、ルナ様のお考えは私には分からないわ。でも、今までの経験から言うと、友達になりたいんじゃないかしら」

八幡「友 達」

ラビ「なんであんたがそんな不機嫌になるかはしらないけれど、きっとそうよ。ルナ様の友達になってあげなさいよね、ヒッキー」

八幡「こんな得体のしれない男でいいのかよ。俺はよくないと思う」

ラビ「いーえ。あたしは構わないと思うわ。ルナ様は心が壊れるほど孤独だった。

ルナ様も今更そんなこと、気にしないでしょうね」

八幡「…いま、ものすごく重いワードが飛び出た気がするんだが」

ラビ「口が滑ったわね!忘れなさい!」

八幡「それで忘れられるなら、どれだけましなんだ」



28:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/27(土) 19:20:44.06 ID:RrjbpKlh0

ラビ「さて、あんたも起きたところだし、挨拶しにいかなくちゃ」

八幡「?」

ラビ「何をぼさっとしてるのよ。あんたも一緒に決まっているでしょうが!」

八幡「いてて、腕を引っ張るな。ちなみに誰のもとへ行くんだ?」

ラビ「もちろん、ルナ様よ」

八幡「……」

八幡(ここで行かなければ、俺は相当の評価を受けるだろう。それは恐らく、異世界探査機を見つける確率にも影響してくる)

八幡「行くか」

ラビ「意外と呑み込みがいいのね。ルナ様も喜ぶわ」

八幡(この人は、ルナ様のことをとても大事に思っているようだ)

八幡「一つだけ聞いておきたいんだが」

ラビ「なに?」

八幡「ラビットさんは、ルナ様の友達なのか?」

ラビ「…違うわ。わたしはルナ様と契約を結んでいるから協力しているにすぎない」

八幡「でも、向こうはそう思っているかもしれないだろう」

ラビ「それはありえないわ。だって私はルナ様の友達になることを拒否したから」

八幡「なん…だと…?」

ラビ「ああ、あんたと話していると要らないことまで話してしまう。

私こそがさみしがりの兎かもしれないわね」

雑談はもうおしまい。ラビットさんはそう言って、俺に手招きをした。

これから、俺たちはあの幼女に会いに行く。



33:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/30(火) 02:55:33.37 ID:3ihOtevd0

螺旋階段をぐるりと一周して降り、かつては豪奢であったことを匂わせる広間へ出た。

俺はラビットさんに気づかれないように、目を走らせた。

壁にいくつも掛けられた肖像画はどれも判別できないくらい。ぼやけている。

暖炉には長い間使われた形跡がない。

ここも二階と同じく、ほとんど手入れがされていないようだ。

そして、今から会うルナという幼女。

孤独のために心を壊したのだとラビさんは言った。

また、一向にその姿を見せないパパとママとのエア会話をし続けている。

これらのことは、一本の直線でつながっているように思う。

つまり、彼女の両親は他界している可能性が、高い。

もちろんこれはあくまで可能性の話だ。これが勘違いで、生きていることだって絶対ある。

むしろそうであってくれ。俺は学生で、セラピストではない。

両親を失った子と急に友達になれと言われても、むりだ。

なにせ、俺にも今まで友達ができたことは、ないんだからな。

嘘をつくなって?

嘘じゃない。誰一人として友達はいない。

材木座は、都合のいい時に集まる同類。

雪ノ下と由比ヶ浜は、同じ部活に所属している仲間。

協力し合うのは、共通する目的があるからで、友達だからではない。

陽乃さんと葉山に至っては、敵だか知り合いだか分からない始末。

さらに言えば

俺を好いてくれている人よりも、俺のことを嫌っている連中のほうが遥かに数が多い。

俺が好きな人よりも、俺が嫌っている連中のほうが遥かに数が多い。

そんな奴が両親を失った子と友達になる?

孤独でおかしくなった子がそれで喜ぶ?

想像しただけで、気持ちが悪い。



34:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/30(火) 02:57:27.36 ID:3ihOtevd0

コンコン ハーイ 

ラビ「ルナ様、例の客人を連れてまいりました」

ルナ「入っていいよ」

八幡「ども」

部屋の中は、台風がここに直撃したのか、と思えるほど荒れ果れていた。

かつては美しい幾何学模様を描いていたと思われる壁紙は刃物で切られたのか鋭く裂けており

床には大小さまざまな人形が散乱していた。

それでも例の幼女は華美な洋服を着て、客の到来に純粋な喜びを示していた。

ルナ「ここには本当は、パパとママ以外の人は入っちゃダメなんだよ!

お兄さんは特別なんだからっ」

彼女は頬を朱に染めて言った。

八幡「とくべつ?」

ルナ「うん。お兄さんの命を助けたのはルナ!だから特別なの!」

八幡(わからん)

八幡「そうだったのか?」

ルナ「そーだよっ。森の中で倒れてたのを助けたの!

もしルナがいなかったらワンワンに食われてたんだよ……ん?」

八幡「どうした」

ルナ「……あれ、それでもよかったのかな?バラバラでも友達には、なれるし…!」ギリッ

八幡「なんでちょっと悔しそうなんだ」

八幡「もし、俺がそのワンワンに食われたら、友達になれないだろう?」

ルナ「ぅ…ワンワンから取り出すのはちょっとやだ。でも死なないと、友達にはなれないよ?」

八幡「えっ」

ルナ「えぇっ!」





八幡(もしや俺は今まで、この世界での友達という単語の意味を誤解していた…?)







八幡「……」

ルナ「お兄さん、どうかしたの?」

ラビ(今までの人より、ルナ様の言う友達の意味に気づくのがすこし早かったわね、やるじゃない!)

ラビ「さてと、私は用事を思い出したから、ちょっと席を外すわね」

八幡「ラビットさん!」

ラビ「なによ」

八幡「友達ってなんだ?」

ラビ「なんでも聞いたら教えてもらえると思わないことね!頭が兎になるわよ!」ピュー!

八幡「おい…おいっ」

ルナ「お兄さんと友達になれるかな、パパ、ママ」ドキドキ

八幡(それってつまり、ころすってことじゃないよな?)ドキドキ



39:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/04(日) 22:41:37.69 ID:29h6qHXd0

ルナ「お兄さん」←キラキラした純粋な眼差し

八幡「うっ」

ルナ「ルナのお友達になってくれる?」

八幡(初対面同然の人にそれを言えちゃうあたり、この子の異常性が分かるというものだ。

あ、でも俺も雪ノ下に言おうとしてたな、てへ。

言う前に却下したあたり雪ノ下の手際の良さが伺われる。ああ、俺もそうすればよかった……)

ルナ「……」ワクワク

八幡「あー」

ルナ「いいの?」

八幡「食いつくな、服を掴むな」

ルナ「うん」ワクワク

八幡「あー」キョロキョロ

八幡(出口は、さっき入ってきた扉とベッドの傍に備え付けられた窓だけか)

ルナ「ねえ、ルナの話聞いてる?」ゴゴゴゴゴゴ

八幡「あー」

ルナ「これが最後だよ」スッ

八幡(あれ、なんかルナ様カードを構えたぞ。

ちょっと待て、もしかしてあれか?

カードバトルか?そして、弟を取り戻しに決闘を挑むも敗北して、カードの中に魂を閉じ込められたりするの?

やだ、俺やだ!)



40:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/04(日) 22:43:07.27 ID:29h6qHXd0

ルナ「ルナの、お友達になってくれる?」

八幡「出会ったばかりだ。だから、友達の一歩手前でどうだ?」

ルナ「お友達がいい」

八幡「なら―――お前とは付き合いきれねえっ」

俺は扉に向かって駆けだした。

だが、そんな俺を見て幼女はせせら笑った。

ルナ「ぷふっ!いまさら、逃げようとしたってもう遅いんだから」

ルナ様が手に持ったカードは一瞬光ったと思うと、バラバラに砕け散った。

そして、俺の目指す扉の前には、

巨大な骸骨が立ちふさがっていた。

モル「いざ、尋常に」

八幡「うおっ!」

急停止。そして思わずじっとみるみる。

骸骨は黒色の襤褸をまとい、俺の身長と同じくらいの鎌を構えている。

嫌なことに、鎌の刃はギザギザに欠けていて、それまで屠っててきた獲物の数を表しているようだった

それから、骸骨はその手に持った鎌を軽く振ったように見えた。

ばひゅんっ!

その速さについていけなかった空気がつぶれる音がした。

とんでもない力の持ち主だ、コイツ!

モル「終わらぬ決闘の続きを、はじめよう」

八幡「くそっ!コイツも話通じない系のスタンド使いか!」

ルナ「ぅ……ぁ……」ハァハァ

ルナ様はコイツの召喚に力を使ったのか、いつの間にかベッドの上に力なく倒れ込んでいた。

だが、その目だけはこっちを食い入るように見ている。

ルナ「モル、お人形をころしたらダメだよ。お兄さんだけをころして」ハァハァ

モル「御意」

八幡(なにか、なにか手はないのか……?)

ルナ「聞いて。ルナね、お兄さんと会ってからずっとお友達になりたかったんだよ。でも、我慢して優しくしたの。

だから、優しいお兄さんはいまのわがままも許してくれるんだって。パパとママが言ってた」ハァハァ

八幡「誰が許すか!あと、そんな親を信じるなよ!」

それを聞くと、ルナ様はびくりと震えてから、目尻に涙をじわっと浮かべた。。

ルナ「ルナは信じるよ。だって、パパとママはルナに優しくしてくれた、ふたりだけの家族だもん!」ハァハァ

それを合図に、骸骨が獰猛な唸り声をあげて躍りかかってきた。



41:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/04(日) 23:05:22.50 ID:29h6qHXd0

八幡「人形ガードっ!」

目前に迫った鎌が、俺が突き出した人形の手前でピタリと止まった。

モルと呼ばれた骸骨は、じっとそれを見つめている。

八幡(やはり、そうか。コイツはルナ様に召喚された。だから、その命令にはきっと逆らえない……ぐっ!?)

骸骨は、俺の突き出した手を鎌を持ってないほうの手で掴み、自身を軸に、弧を描くようにして俺を勢いよく壁に叩きつけた。

壁からの衝撃で肺から空気が押し出され、息が止まる。

モル「小賢しい鼠だ」

八幡(……なんつー馬鹿力だよ。これを何度も喰らったら、死ぬ前に意識が飛んでしまう。

だが、いい感じに扉の近くに吹き飛ばしてくれた。

あとは隙を見て、逃げるしかない。

もしできなかったら、おわりだ)



46:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/05(月) 00:42:42.70 ID:Y21FLAEe0

骸骨は一歩で、間合いを詰めてきた。

そして、当たれば必殺の袈裟斬りを繰り出してくる。

八幡「くっ!」

俺は残ったチカラを振り絞って、壁に沿うようにして、避けた。

いや、避けようとした。

なんだこれ。左足が、燃えるように痛い。

夥しい量の血が、足から流れ出ていた。

まるで現実味のない光景だ。俺にこんなにも血が通っていたのか?

八幡「ぁ……く…」

モル「……」

骸骨は、俺を見下していた。

赤い液体が、頬にかかった。

それが、自分の血液だと分かるまでにしばらく時間がかかった。

それから振り上げられた剣を見つめることしか、俺にはできなった。

命乞いくらいしておけばと思ったが

彼女らが俺を生かしおくメリットが見つからなかった。

時間をかければ、思いつけたのだろうか。

なぜだか悔しくて、たまらない。

そして突然、静寂が訪れた。

誰もが、その呼吸をとめたのだ。

生きるものが潰える様を、見る為に。

例外を一人除いて、だが。

ラビ「兎さんが入れる扉はどこにでもあるのよ!いくら塞いでもむだなんだから!」

八幡「?」

謎の声と共に、俺のすぐ横の壁が爆発した。

現れたのは、これまた巨大なピンク色の兎と、それに埋もれるようにしてしがみつき、こちらに微笑んでいる少女だった。

ラビ「友達にはなれなかったのね」

八幡「……そうだよ。俺にはできないんだ。これからもずっとな」

ラビ「…ちょっと同情したわ!」

八幡「うるせぇ」

会話が一段落すると骸骨が剣を少女らに向けた。

意外と律儀だ。

モル「消えろ、子兎。貴様に用はない」

ラビ「この子が子兎?いいえ、くっつけばこんなにも大きくなるのよ!」

彼女が破壊した穴から、続々と大小さまざまな兎が飛び込んできた。

そして、この部屋にいたでかい兎と融合し、その体積を大きくしていく。

モル「……」

ラビ「さぁ、せいぜい目を閉じて、耳を塞ぎなさい!今夜限りの大爆発なんだから!」

八幡「ちょっと待て。何する気だ」

ラビ「あんたを助けるのよ!」

一瞬後、部屋は閃光と熱風で溢れかえり、中にあるものを破壊しつくした



51:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/06(火) 01:31:01.96 ID:IFnuVDdh0

一瞬、意識が飛んだが、俺は爆発の寸前に廊下へ引きずりだされたようだ。

そうでなければ、あの爆発で生きていられるわけがない。

爆発の衝撃で、頭がぼんやりする。

そのせいか、目の前がピンク色だ。

しかも、もぞもぞ動いてる……。

あ、これ兎だ。

ラビットさんが待機させていたと思われる巨大兎が、目の前にいた。

しかし、凶悪な面構えだ。某海賊王のごとく、傷跡が目元にある。

どこか親近感を覚えたので笑いかけたが、兎が一歩離れただけだった。

なんだか、裏切られた気分。

ラビ「なーに怖がらせてるのよ。ヒッキー」

見上げると、ラビットさんが兎の上に乗っていた。

ラビ「後はこの兎さんに乗って外に出るだけよ。急ぎなさい!」

ラビットさんは俺に手を伸ばした。

この手は、俺を助けようとしてくれているのだろうか。

俺は戸惑いながらその手をつかんだ。

ラビ「私の腰に手を回して、離さないで。兎さんは早いけどとっても揺れるのよ」

八幡「ああ」ギュッ

ラビ「……っ」カアア ←恥ずかしくなってきた

八幡「?どうしたんだ」

ラビ「二人乗りは初めてだから、慣れてないの!ほんとにそれだけよ!」

八幡「な、ならいいんだが。嫌なら、違う所で掴まるぞ」

ラビ「どこに掴まる気なのよ」

八幡「この兎の毛とか」

ラビ「十中八九、毛ごと振り落とされるわね」

八幡「なら、これしかないか」

ラビ「」コクコク

八幡(無口なラビットさん、こええ)

ラビ「いざとなったらこの廊下がバージンロードよね」

八幡(平塚先生も学校の廊下でよく言っていたが、それはありえない。幻覚だぞ)



52:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/06(火) 02:46:35.81 ID:IFnuVDdh0

それから屋敷を突破するのに、時間は掛からなかった。

というのは、単純に乗り込んだその兎が恐ろしく速かったからだ。

たしかに、元の世界でも時速70kmはでるとかいう噂を聞いたが、この世界でも適用されるようだ。

もう二度と、乗りたくないというのが本音である。

といっても、道中ゾンビ、骸骨が現れたとき、通り過ぎるか踏み越えるかして、どうにか潜り抜けることができたのは、かの兎のおかげであるのも事実だ。

そこで、感謝の証に撫でてやろうとしたが、危うくその手を噛まれかけた。

ここに宣言しよう。兎とは害獣である。

同意してくれるものはまだいないが、今度由比ヶ浜あたりに吹き込んでおこう。

聞いたら怒るかもしれないが、こんな荒唐無稽な物語も信じてくれる数少ない生物の一つだと思っている。

こういう奴がいなければ、世界は面白くない。

舌のすべりもよくなってきたところで、現状を報告しよう。

ラビットさん、俺、兎は屋敷をでたあと、森の中へ入っていった。

陰鬱な雰囲気を醸し出しているその場所は、なぜだか心休まる場所だった。

一方、ラビットさん、兎はこれまで以上に気を尖らせていた。

話によると、ブラッドウルフと呼ばれる獣が出るらしい。

一度は俺もその危機に晒されていたと聞いて、驚いた。

ルナ様の話に出てきた「ワンワン」がブラッドウルフと誰が予想できようか。

幼女、恐るべし。彼女の前では、あらゆる生物は可愛らしくなってしまう。

いつか、材木座を連れてきてやりたいものだと、切に思った。

ここでならあいつも、ゆるきゃらとして生きていけるかもしれない。

おっと、話を戻そう。

それから俺たちは、屋敷から距離をとりつつも野宿できる場所を探している。

樹の「うろ」が寝床としては良いのだと、ラビットさんは言った。

それを見つけてから、これからのことを話し合いましょう。

ラビットさんは言外にそう伝えていた。

だが、俺はただ眠りたかった。

左足の傷から流れ出た血が、比企谷八幡という存在を薄めつつあった。



55:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/07(水) 00:55:55.37 ID:wORFMiB30

小ネタ投下します
オトヒメシャマヲオマモリイタシマス!



56:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/07(水) 00:58:17.49 ID:wORFMiB30

八幡「zzzzz」

ラビ「起きなさい!寝床を見つけたのよ、私が!褒めてもいいのよ!」ユサユサ

八幡(瞼動かすのめんどくせ。寝たふりだ、寝たふり。ほれ、いびきだ)

八幡「ンゴー……」

ラビ「……」

八幡「ンゴゴッ」

ラビ「あ、もしかしてそれゴーレム語?私知らないから、ちゃんと話して」

八幡「どんな言語だよ。気になって目が覚めたぞ」パチッ

ラビ「ンとゴとツだけで会話すると言われてるわね。最も習得難易度の低い言語の一つとして、よく挙げられるわ」

八幡「難易度の割に、すごく不便そうだ」



57:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/07(水) 00:59:43.70 ID:wORFMiB30

ラビ「ゴーレム語じゃないのに、あなたと会話するには苦労したわ」ハァ

八幡「雪ノ下式いつでも比企谷君バスターならやめてくれ。前なんて、○ーウィンが来た!の番組放送の話題から、真剣にスラウェシメガネザルと俺、どちらが優れているか議論したんだからな」

ラビ「へぇ、サルね。ちなみにどっちに軍配が上がったのよ」

八幡「惜しくも、スラウェシメガネザル君だ。一日あたりの食事量が少なかったところが決定的だった」

ラビ「……」

八幡「そういえば、今度のダーウィンはダンゴムシだったはずだが、アイツは予約すると言っていたな……」

ラビ「ヨヤク?ときどきあんたの言ってる意味が良く分からないわね」

八幡「その辺の話も後でしたほうがいいっぽいな」



58:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/07(水) 01:01:10.96 ID:wORFMiB30

ラビ「とにかく、そのユキノシタっていう人はきっとあんたのことが好きで素直になれないのよ!それか殺したいほど憎んでるわね!」

八幡「まじか」

ラビ「これはマジだと思うわ。私を信じなさい!」

八幡「なら、もう転校するしかないな」

ラビ「後者の可能性しか考えられないって、いったい何やらかしたのよ……」

八幡「簡単に言えば、言葉のすれ違いってやつだ」

ラビ「ふーん。いっそのこと、ゴーレム語でも習ったら?」

八幡「考えとく。その場合は、雪ノ下にも「ンゴゴッ!」を言わせなければならないのが問題だ。多分、無理だろうな」

ラビ(ユキノシタって人、頭がプーなのかしら?)



60:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/07(水) 01:09:18.72 ID:wORFMiB30

今夜は終わりです
ルナ関連の話をどうまとめるか、苦しんでるので小ネタが続くと思います
おやすみなさい



63:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/07(水) 22:42:16.24 ID:wORFMiB30


兎から降り、ラビットさんが指差す方を見ると、そこには朽ちた巨木があった。

そして、根本のあたりにぽっかりと空洞があいている。

あれが、「うろ」か。

ラビ「兎さんには、出口の見張りをお願いするから、私たちは入りましょう」

八幡「が……兎がブラッドウルフとやらに喰われることはないのか?」

ラビ「だいじょうぶ、霊を喰う狼なんて聞いたことがないわ」

八幡「?」

ラビ「あら、あんた気づいてなかったの?これ兎さんの霊よ。乗っているときは実体化していたけど、幽体化もできるから、いつでも逃げられるし安心ね」

八幡「……」

ラビ「私を信じてないわね」

八幡「まあな」

ラビ「ま、あんたとは仲が良いわけでもないし。仕方ないわね」

ラビットさんと俺はくだらない話をして、うろに向かった。



62:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/07(水) 21:55:32.31 ID:wORFMiB30

八幡「うろの内部って意外と広いんだな……」

あの害獣といい、この世界ではこのサイズがデフォなのだろうか

うろの入り口を潜り抜けると、人二人が大の字になれるくらいのスペースがあった。

その中央には、ついさっきまで兎に取り付けていたカンテラが置いてあった。

ラビ「この森に長居はできないから、今夜はこれで十分よね」

ラビットさんは、俺と反対側に座り背中を壁に預けた。

「あんたも座りなさいよ。楽になれるわ」

ラビットさんの視線は、俺の左足に注がれていた。

森に入ってから、ハンカチを巻くだけの応急処置はしたので、出血は止まりつつある。

できれば消毒もするべきなのだろうが、この状況では望むべくもない。

俺は、左脚に体重をかけないように慎重に座り込んだ。

顔を上げると、ラビットさんと目があった。

見ていると、吸い込まれそうほど深い藍色の瞳。

ここにきて俺は、ラビットさんが自分とは違う人種なのだと気づいた。

彼女は、どでかい兎を操り、それを爆発させた。

元の世界からみれば、化物に該当する。

だけど、思惑はどうあれ自分を助けてくれた。

もし、彼女がいなければ、死んでいただろう。

彼女になんて、話しかけたらいい。

今まで何を考えて、この人と話していた。

答えは出ている。何も考えていなかった。

彼女との関係なんて、どうでもよかった。

とっととこの世界から消える予定だったから。

でも、今は違う。

この人に助けられてしまった。

この人に感謝をしている。

それは照れくさくて、どこか懐かしい感情であり、弱い自分の象徴だった。

今だけは、これに縋ろう。

八幡「ラビットさん、ありがとう」

ラビ「どういたしまして」

これが自分の見せる最後の弱みだ。

もう二度と、こんな失態はおかすまい。



65:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/10(土) 15:18:59.54 ID:kYcr0J5X0

ラビットさんはその場で大きく伸びをして、小さな声で呻いた。

ラビ「ふぅ。ま、私も今回のことで助けられたから、ヒッキーはそこまで気にしなくてもいいわ」

八幡「どういうことだよ。俺は迷惑しかかけていないはずだが」

ラビ「なによその自信、もっと申し訳なさそうに言いなさい。

   確かに迷惑だったけれど、私に与えられた命令はあんたを守れ、だったから、こうなるより他なかったと思うわ。
   
   つまり、これは約束された迷惑だってこと!」

八幡「なるほど。だけど、命令だからってルナ様を…ころしたのはまずいんじゃないか」

ラビ「ころしてなんかない!ちゃんとモルが庇うのをみてから爆発させたんだから!」

ラビ「それにそれに、アレ以外の方法はなかったはず!モルとまともにぶつかって勝てる見込みなんてないもの。あんたを助けるには奇襲しかなかったの!」

八幡「……それなら、ルナ様と会う前に逃げるように言ってくれたらよかったんじゃないか」

ラビ「あんな早いタイミングでルナ様が友達になろうとするなんて思ってなかったのよ。
   
   で、でも気づいてからはちゃんと助ける準備に入ったじゃない!怒らないでよ」

八幡「……」ジーッ

ラビ「助けたのに責められるなんて憂鬱。どうしたらいいのよ。

   私がなにをすれば許してくれるのよ。あんたも契約を結べって言ってくるの?
   
   ええ、ルナ様と同じように酷い契約を結べばいいのよ!
   
   どうせラビットネクロマンサーなんて、これからも兎さん以外に話す相手がいない暗い青春を過ごすに決まってるわ。

   それくらいなら、契約して都合よくこき使われながらも、ふとした拍子に会話ができる喜びをかみしめる人生を選ぶんだから…」ガリガリ

八幡「…わるかった。だから冗談でも、地面に魔方陣的ななにかを書くのはやめてくれ」

ラビ「これが冗談にみえる?」

八幡(san値が下がりそうな魔方陣だと思いましたまる)

……。



66:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/10(土) 15:24:49.79 ID:kYcr0J5X0

ラビ「すぅ、はぁ」

八幡「口を大きく開いて、息をすって、はいて」

ラビ「すぅ。はぁー」

八幡「よし、もうあと1000回深呼吸な」

ラビ「もう落ち着いたわよ!何回やらせる気!?」

八幡「ようやくつっこんでくれたな」

ラビ「?」

八幡「すでに100回強は深呼吸をしてたんだぞ」

ラビ「239回だと思ったんだけど、違ったかしら?」

八幡「俺は途中で数えるのをやめたからな…。とにかく話を戻そう」

ラビ「なんの話だっけ?」

八幡「いや、命令のために、ルナ様の身を危険に晒したことだよ。ラビットさんみたいな従者にとって、命令はそんなに大切なのか?」

ラビ「大切じゃない、まず逆らうことはできないと知りなさい。

   私に下されたのは、ただの「命令」じゃない。ルナ様と契約を結んだうえで、発令されたモノだもの。破れば、その魂は引き裂かれ、肉体はドロドロに崩れてしまうのよ。

   ……それでも、カードに閉じ込められていたあの地獄にくらべれば、さっさとそうなるべきだったと思うけどね」

ラビットさんは俺から目線を外し、外の暗闇を眺めた。

黒色以外何もない世界を見て、彼女は何を思っているのだろうか。

八幡「できたらでいい。その『契約』について教えてくれないか?」

ラビ「その質問をするということは、ヒッキーは契約を結んだことがないのね」

八幡「ああ」

ラビ「なら、教えてあげる。一応言っておくけど、あまり気分のいい話じゃないわよ」

ラビットさんは深いため息をついた。



75:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/13(火) 23:23:49.03 ID:fQoJpN3Z0

ラビットさんは、地面に書かれた魔方陣を一瞥した。

ラビ「この契約の魔法陣がいつ編み出されたのかは分からないけれど

私が物心ついたときには、すでにあったわ。

それはおそらく、母が「ラビットネクロマンサー」で、契約を頻繁に行っていたからでしょうね。

母は、契約した兎さんの霊を手足のように操っていた。

それを見ると、私はとても誇らしかったし、羨ましかった。

あんなふうに兎さんの霊を言うことを聞かせたいと、ずっと思ってた。

小さな頃から、私は兎さんとその霊と遊んでいたから、いっそうね。

そしてある日、母が兎さんの霊と契約するところを見せてあげると、言ってくれたの。

母は「契約さえできるようになれば、あなたも意のままに従わせることできるようになります」と言ったわ。

私は喜んでそれを見に行くことにした。

そして、それを見てから、私は母を恐れるようになったわ。

なぜって?母が、兎さんを殺したのをみてしまったからよ

あのとき母は、私を家の地下室に案内した。

そこは普段鍵がかかっていてね、私にとって、初めての場所だった。

でも、そんなにいい場所でもなかった。

蝋燭の火だけだから薄暗くて、入ってすぐに糞と獣の臭いが鼻をついたわ。

目を凝らしてみると

部屋の両側にちいさな檻がたくさんあってね。兎さんが一匹、一匹、入っていた。

そして、中央にはこの魔方陣があったの。

母は私に見ているように促してから、檻の中で閉じ込めていた兎さんを一匹、魔方陣の真ん中に持っていったわ。

それから私の目の前で、兎さんに跨るようにして覆いかぶさってから、兎さんの首を両手でゆっくりと絞めはじめたの。

目を疑ったわ。でも、怖くて声がかけられなかった。

そうしている間に兎さんも暴れたんだけど、数分も経ったら動かなくなったわ。

でも、時々足がぴくりと動いてね

私は母に泣きついて助けるように言ったんだけど、聞き入れてもらえなかった。

後で分かったけれど、もう既に兎さんは死んでいたの。

それから、母が呪文を唱えると、魔方陣に兎さんの霊が現れた。

兎さんは母を見たとたん、目を見開いて一目散に逃げようとしていた。

けど、母が優しく話しかけるのよ。

『私は、あなたを傷つけないわ。契約を結んでくれさえすればね』

『ねえ、兎さん。

もう二度とあんな目には遭いたくないでしょう?

窒息して死んだのは、なによりも苦しかったはずでしょう?

なら契約を結びなさい。

私はラビットネクロマンサー。あなたの死後も、私のモノなの』



76:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/13(火) 23:27:27.09 ID:fQoJpN3Z0

兎さんが、逃げても無駄だと悟るまで、そして契約すれば安全が確保されると思うまでそれは続いたわ。

気が付いたら、兎さんの霊は魔方陣から消えていた。

そのかわり、母の手には一枚のカードが握られていたわ。

そしてそのカードには兎さんが映っていた。

母は、呆然としていた私にこう言ったわ。

『この兎の霊は『私から危害を加えない』という条件で契約を結んだ。

契約によって、このカードに閉じ込めた兎の霊に、『命令できるのは一度きり』。

命令が出されるまで、この兎の霊はカードの中で過ごすことになる。

だが。命令をだせば、カードは砕け、兎の霊は命を果たすために召喚される。

『兎の霊よ、私の娘と遊んであげて。娘の悲しみが晴れるまで』」

母の言葉と共に召喚された兎さんはすぐに私に甘えてきた。

私の周りをぐるぐる回りはじめて、鼻をこすりつけてきた。

そのとき、私は気づいてしまった。

今まで、仲良く遊んでいたと思っていた相手は、全部お母さんの命令で仕方なくだったって」

それからラビットさんは、急に声を張り上げた

ラビ「大体、分かったかしら!契約を結ぶ際の条件は相手によってさまざまで、主

人様の生命力だの、召喚時は決闘させろだの、自由だわ。

大抵は主人様のほうが、力が強いから、最低限の条件の場合が多いけどね。

一方、主人様はその条件を満たしさえすれば、なんでも命令できる。

これさえ覚えていれば大丈夫なんだから」

八幡「契約については分かった。ラビットさん」

八幡「あと一つ質問があるんだが……契約するには、殺さないとだめなのか?」

ラビ「いいえ。母は、殺すほどの恐怖を与えたほうが、契約を結びやすいから、殺していたの。それに霊になったほうが、いろんな事ができるから…」

ラビットさんは歯切れ悪く言った。

ラビ「ねえ…ヒッキーはわたしを軽蔑したかしら?」

八幡「ラビットさんもその母と同じように兎を殺しているのか?」

ラビ「ちがうっ!私は老衰や怪我で死んだ子と、契約してる…」

八幡「なら、それでいい」

八幡「俺はラビットさんがどんなふうに兎と契約を結んでいるかは知らない。

知りたいとも、思わない。ラビットさんもさっき言っていただろう。

俺たちは仲が良いわけじゃない。そこまで分かり合う必要は、ないだろ……」

ラビットさんは、一瞬なにかを口走りかけたが、諦めたように口をつぐんだ。



77:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/13(火) 23:33:01.57 ID:fQoJpN3Z0

八幡(ラビットさんの話が正しいとすれば、ルナ様があのモルと呼ばれた骸骨やゾンビ軍団を動員できていたメカニズムが分かる。

   ルナ様が、それら全員をカードから呼び出していたんだ)

八幡(ルナ様、どんだけカード持ってるんだよ。異世界の海馬社長か)

八幡「ちなみに契約ってのは、いくらでも結べるのか?」

ラビ「ええ、でもお勧めはしないわね」

八幡「契約なんてしねえよ、どこぞの魔法少女じゃないからな。…その理由はなんだ?」

ラビ「この契約の魔法自体の規模が大きくて、主人様の生命力を激しく消費するからよ。

考えてもみなさい、対象をカード化して疑似的に亜空間に閉じ込めて、再度、亜空間から召喚しているの。こんなのを乱発していたら命を縮めるわ」

八幡「ということは、ルナ様もまずいんじゃないか」

ラビ「ルナ様は年に不相応なほど、強大な力を持っている。

でも、泉がいつか枯れるように、ルナ様のそれも水底が見え始めていることは間違いないわね。」

八幡「胸糞が悪い話だな。そのことをルナ様は知ってるのか?」

ラビ「気づいていないわけがない。でも、それ以上に欲しいものがあるのではないかしら」

八幡(友達…か)

八幡「いや、待てよ。契約した相手に友達になれと命令すればいいじゃないか」

ラビ「あんた、ルナ様がだした契約の相手(フォロワー)みた?ゾンビと骸骨よ。

   もう友達よ、死んでいるもの」

八幡(そういえば、そうだった)
   
八幡「その中でラビットさんはよく生き残れたな…」

ラビ「あんたのおかげで助かったって、さっきから言ったでしょう。それは命令で『友達』になって、と言われずに済んだからってこと」

八幡「なるほど。思った以上に危なかったんだなぁ」シミジミ

ラビ「モル達に追われている今も、相当危険な状況なのを忘れてないかしら?」

八幡「え」

ラビ「あいつら、昼夜問わず追って来るはずよ。ヒッキーをころす、その命令を達成するまでね」

八幡「」



78:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/13(火) 23:35:20.84 ID:fQoJpN3Z0

八幡「」

ラビ「え、えっと。私が守ってあげるから安心しなさいよ!逃げる速さなら負ける気がしないわ!」

八幡「どこまで逃げればいいんだ?」

ラビ「ゾンビはタフだし、とくにモルは不死身だから。死ぬまでずっとになるかしら」

八幡「」

八幡「ほかに方法はないのか!?」

この年から逃亡生活はさすがに堪えた。いや、いつでも辛いだろうけど、まだ高校生だぞ。

ラビ「あるにはあるけど、とんでもなく難易度が高いわね」

八幡「なに?」

ラビ「彼らと契約して、命令を上書きするのよ」

八幡「俺を殺しにかかってるやつと契約なんてできるのか」

ラビ「ええ、でもヒッキーにその力はないでしょうね。もちろん、私も」

八幡「だめじゃねえか…」

ラビ「モルを筆頭に、あれだけのゾンビたちと契約できるのは、私の知る限り一人しかいない」

八幡「だれだ、頭でもなんでも下げるから、教えてくれ!」

ラビ「ルナ様」

八幡「……」

ラビ「黙って泣かないでよ!難易度が高いっていったでしょ!」



81:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/26(月) 01:08:48.83 ID:SgZzowOK0

八幡「…グスッ」

八幡(……いや、待てよ。幾らゾンビでも元の世界までは追っかけてこられないだろ。

つまり、異世界探査機さえ見つけてしまえば、俺は集団ストーカーから解放される)

八幡(だが、肝心の異世界探査機はどこだ)

八幡「なあ、ラビットさん。変な聞き方だが、最近『不審なもの』を見なかったか?特に…でかい鉄の卵みたいな物体だ」

長径4m、短径2mの長楕円形の異世界探査機である。

それが、気が付いたら煙のようになくなっていた。

ラビ「ん、急にどうしたの?それってあんたの大切なもの?」

八幡「いや、それさえあれば、この事態を切り抜けられるはずなんだ」

ラビ「―へぇ、詳しく聞かせてもらってもいいかしら」

ラビットさんの表情が一瞬、固まった。

そのときの俺は、驚いたからだと思っていた。

その予想はまったく、外れていた。



82:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/26(月) 01:10:29.02 ID:SgZzowOK0

八幡「かくかくしかじかで。つまるところ、俺は異世界の漂流者で、その陽乃という女に騙されてここに来たんだ。そのために使ったのが、鉄の卵の形をした機械というわけだ」

ラビ「」

八幡(やっぱり、こういう反応だよな。まるで古文を聞いているときの由比ヶ浜みたいだ。目が虚ろになっている)

ラビ「ねぇ」

ラビ「あなたは、信じてほしいのかしら」

ラビットさんはぽつりと言った。

それを聞くと、むず痒くなるようないらだちが沸き上がった。

八幡「別に信じてほしいわけじゃない。ただ話しただけだ」

ラビ「それでいいの?」

八幡「いいも悪いもないだろ。それは」

ラビ「私の決めることだから」

八幡「……」

ラビ「あんたって、友達すくないでしょ」

当たっているが、分かったような口をきくな。

急に、ラビットさんが説教臭く感じた。

八幡「そんなことより、その機械を見たかどうかを教えろ」

ラビ「残念だけど、見たことはないわ。でも、私がカードから解放されたのはついさっきだから気が付かなかっただけかもしれないわね」

ラビ「あんたを見つけたのはルナ様だから、知っていてもおかしくない。もしかしたら、隠し持っているかも」

八幡「それを聞く前に、襲われたからな」

ラビ「残された選択肢は二つね。私と一緒に逃げて、追いつかれるまで生きるか。それとも、ルナ様と対話して、契約を上書きするなり、その「いせかいたんさき」の居所を尋ねるか」

ラビ「私は、あんたを助けろという命令を受けた。どちらの選択があんたを助けることになるかは判断できない」

あんたが決めなさい、とその藍色の瞳が言っていた。

それから目をそらして、左の足に巻かれたハンカチを眺めた。

赤黒い血が、ハンカチ全体に広がっている。

今度、あの骸骨に会ったら、これでは済まないだろう。

なんせ、俺を殺すんだから。

滅茶苦茶、痛いはずだ。

ああ、死にたくない。

考えると、元の世界はなんて安全なところだろうか。

孤独がなんだ。

鬱屈した毎日がなんだ。

そんなことを考えて過ごすこと自体が幸せだったのだと、いまは思える。

そんな元の世界に、俺は帰りたい。



91:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/29(木) 23:59:55.15 ID:QKc4bByV0

八幡「戻りてぇ」

八幡「こんな世界で死ぬなんてごめんだ」

ラビ「逃げた方が、長生きはできると思うわよ」

八幡「それはそうだが」

ラビ「逃げるのがかっこ悪いだなんて、思っているわけじゃないでしょうね!

逃げて、逃げて、それでも幸せなことだってあると思うわ」

八幡「今まで逃げて、幸せになれたことはねーよ。ずっと心のどこかで引きずっていくことになるんだぜ。これ以上背負うのはごめんだ」

八幡「それに、この世界は色々と生き難い」

ラビ「…そんな理由なの」

八幡「あん?」

ラビ「だって、それだって逃げじゃない。あんたはこれまで一度も元の世界に未練があると言っていない。ただのこの世界が厳しいから、もっと自分に優しい

場所に戻るだけ。ちがうかしら?」

八幡「...」

ラビ「一応言っておくけど、私としては一緒に逃げてくれたほうがいいのよ。もしモル達と再び相対したら、きっとあんたと一緒に殺されるから。

   それでも私が案を出したのはあんたのためだけど、そんなくだらない理由で心中するつもりだとは思っていなかったわ」

八幡「心中…だと?」

ラビ「うふふ、私、これでもあんたに同情してしまっているのよ。
   
   ルナ様と出会ってしまった時点で、人生最大の危機だけれど
   
   あそこまで執着されているんだもの。救いようがないわ。
   
   聞けば、異世界からやってきて、その癖どこにも友達もいないんでしょう?
   
   呆れたけど、笑えなかったわ」

ラビ「…カードに閉じ込められていた、私も一緒だから」

ラビ「だから、あんたに夢を持たせてあげようと思ったのよ。
   
   それであんたが希望を持てるなら、いいと思った。
   
   それを見て、暗い喜びを感じられるから。

   でも、こんな『逃げ』は許さない」

ラビ「すぐ死ぬなら、眩しくなるような希望を持ちなさい。そうしたら、私がいてあげるわよ」

八幡「狂ってる…」

ラビ「そうかもね。でも、あんたも永遠とも思える時間を暗くて狭い牢獄で過ごしてみなさい。

   狂わない人の方がどうかしているわ」

ラビ「ねえ、今日、ルナ様から命令を与えられたとき、私は心の底から喜んだわ
   
   実を言うとそれは、牢獄から解放されたからじゃないの。
   
   ようやく私が、必要とされたからなの。これも、あんたからしてみればおかしいのよね」

八幡「…」

ラビ「もう無視しないでよ!

   …それでも、あんたの最期の瞬間まで、私は一緒にいるけどね。

   せめて明日は、最初に出会ったあの時みたいに希望に満ち溢れた姿を見せてよ」

   それは間違っているはずだ。
   
   俺は、あのときも希望に満ちてなんかいなかった。彼女にある種の期待を寄せてていたのは、事実であるが。

ラビ「今日は、久しぶりに体を動かしたから、もう休ませてもらうわ。どうするかは、明日聞かせてもらうから」

それからラビットさんは有無も言わさず、その場で腕を枕にして横たわった。

一方で、俺は突き付けられた課題に悩むこととなる。



94:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/09(日) 00:06:23.07 ID:lYsBhlWJ0

どこで生き方を間違えたのだろう。

この問いは黒歴史と呼んでいる暗黒時代を、

地べたを這いつくばるようにして必死に生きていたころ

どうにもならぬことに涙を流しながら幾度となく自身に投げかけたものだ。

さりとて、答えはでなかった。

あのとき、はやる恋心を押さえつけていればクラス中の笑いものにならずにすんだのか。

いや、告白したことで笑われるという時点で、生き方を間違っていた。

ならば、入学当初、周りに上手く溶け込めなかったことが悪かったのだ。

しかし、その原因は死んだ目と、厨二に片足つっこんでいたからである。

つまり、父母の遺伝子と漫画が悪い。

ここまで考えてから、過去の俺は慌てて思考を打ち切った。

それなりに育んでくれた家族を否定することは、『いけないこと』だと思っていたのだ。

また、漫画は孤独を紛らわすために買ったものだ。そのお金は親から出ている。

それを恨むことは、できない。

なら生き方の責任の所在は自分にあるのだと、考えるようになった。

八幡「なら、こんな結末になったのも俺の責任か」

八幡「…」

八幡「ラビットさんは希望をもてと言っていたが、どうすればいい。

死ぬことに、メリットでも見いだせって言うのか」

もし、メリットがあるとすれば、それは現世の重荷から解放されることだろう。

嫌悪も好意も怒りも憎悪すら向けられても、何一つとして責任を負うことはない。

死が、すべてを無へと帰すのだ。

八幡「だけど、死ぬために、これまで生きてきたつもりはなかったんだけどな」

死ぬ

死ぬ

死ぬ

言葉が脳内に響き渡ると、目の前の景色が急に遠くなっていった。

今の自分の意識は頭のてっぺんから、目玉の奥を通り、首をゆっくりと下り、心臓にいた。

自分の鼓動が痛いほどに、早くなるのを感じる。

死が近づいていることを、肉体も認識した。

恐怖が胃からせり上がって、幾度かこらえきれずに吐いた。

だが吐いても吐いても、それが収まる様子はない。

半ば自棄になり、手首を爪でかきむしったとき、滲んできた血をみると少し落ち着いた。

まだ、生きているのだと、安心できたのだった。



96:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/19(水) 01:57:11.18 ID:NHJJd6q40

数分後

うろの出口付近

八幡(手首がやたらと痛む)

八幡(かきむしったときは何も感じなかったのに、変だな)

八幡(まぁ正気にかえっただけかもしれないが)

???「てめぇ、くっせえ血の匂いなんざぷんぷんさせてなんのつもりだぁ?そんなに糞狼どもの餌に志願したいのか。なら、森の奥まで案内してやるぜ」

八幡「そういえば、ブラッドウルフがいるんだったな…って」

大兎「あんだよ」

気が付くと、隣にあの人相の悪い巨大兎が座り込んでいた。

やつは耳をぴょんと立てて顔はまっすぐ前を向いている。

だが、その赤い瞳はこちらをのぞき込んでいるのだった。

八幡「まさか、今しゃべったのってお前…?」

大兎「たりめーよ、ほかに誰がいるっつうんだ」

隣の巨大兎が口をもごもごと動かした。

八幡「兎ががががが、しゃべった」ボリボリボリザクッ

大兎「腕を掻くのやめろ糞人間!本当に狼の群れにぶち込むぞゴラぁ!」

八幡「あ、悪い。ストレスを感じたら血を見ると、安心することについさっき気づいたんだ」

大兎「きんもちわりぃ性癖だなぁ…」

八幡「自分の排せつ物を食う兎に言われる日が来るとは俺も落ちたもんだ」

大兎「あ``?」

八幡「な、なんでもないです」

八幡(こいつ、嫌いだ。喋り方が中学生の頃、隣の席だった田中くんを思い出す。

その平凡な名前から繰り出される、赤と金の縞々模様のモヒカンである超絶DQNスタイルにはクラスの誰もが一度は心中でつっこんだ、多分)



97:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/19(水) 01:57:40.24 ID:NHJJd6q40

大兎「ふん、とにかくくっせぇから木に戻って、ご主人様と仲良くしとけや。こちとらお前のせいで、迷惑してんだ」

八幡「べつにラピッドさんとは仲良くねえよ…です」

大兎「仲良くねえ、だと?だけどもちろん、一発くらいヤッたことはあるよな?」

八幡「ねえよ!」

大兎「そうなのか…」

八幡(出会って一日で合体とかは万年発情期の兎だけなんですぅ)

八幡「それではこれで」

大兎「あー、ちょっと待ちな」

八幡「…なんすか」

大兎「今夜はどうせ暇なんだ。なぁ糞人間、その傷を塞いだらまたここにこいよ。

てめえみたいな奴と話すのも数年ぶりだから、楽しいかも知れねえ」

大兎が頬にできた凶悪な傷跡を歪ませて、吐き捨てるように言った。

まったく、言行が一致していないのだが、それをつっこめるほど俺はこの大兎に慣れていなかった。

八幡「…憶えていたら、来ます」

もちろん、来るつもりはさらさらない。

真夜中化け物兎と話すくらいなら、忘れてそのまま眠ってしまうのが吉だ。

大兎「もし来なかったら、明日ひどい目にあうぜ」ゲヘヘ

そういえば、移動手段はコイツだった。

ひどい目というには途中で振り落とすくらいはやるかもしれない。

あんなスピードで、地面と接触したら間違いなく重傷を負う。

つまり、行くしかなくなった。

八幡(この世界に来てから、俺、手玉に取られまくりだな。

元の世界では、陽乃さん以外にはある程度は抵抗できていたのに)

これは決して、自身が無力であるからではない。

周りがすべて陽乃さんクラスの変人なのだ。

ルナ様然り、ラピッドさん然り、この害獣然り。

これを陽乃さんに聞かれたら怒られそうだが、今はそれすらもいとおしいと思える。

やっぱり、今日の俺は変だ。



98:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/23(日) 22:48:37.66 ID:+kpOyDdV0

うろの中

八幡「ハンカチはもう使ってしまったし、さてどうやって傷を塞ごうか」

声に出してみたが、答えは返ってこない。

ラビ「すーすー」

ラビットさんの方を一瞥したが、彼女は気持ちよさそうに寝息を立てていた。

スカートがめくれて、黒のスパッツで薄く覆われた太腿が露わになっている。

もし、屈みこめばスカートのなかも見えるだろう。

そういえば、女性の下着を最後に見たのはいつだろうか。

確か、、黒のレースさんに一年前に出会ったきりだ。

被害者の名前は、川崎沙希。三年生になってからは、違うクラスになってしまったが同じ塾なので立ち話程度はしていた。

あいつ、今でも勉強頑張ってるんだろうな。

夜中まで勉強をして、眠いって愚痴を漏らしたときもあったし。

俺がいなくなっても、あいつは頑張るだろう。

でも、それで少しでもショックを受けるようなことがあれば、ウレシイと思ってしまうのは俺が屑だからだろう。



99:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/23(日) 22:50:45.39 ID:+kpOyDdV0

八幡「眠っているところ悪いんだが、ラビットさん」

ラビ「…ん」

八幡「怪我してしまった。できれば、ハンカチかティッシュ的なものをくれ」

ラビ「てぃしゅ?」

八幡「あと、お宅の兎が俺に用があると言ってるんだがどうにかしてくれ。

間違いなく焼きを入れる気だ。田中君にやられたことがあるからわかるんだ。」

ラビ「私の可愛い友達がそんなことするはずないじゃない」

八幡「いやあの顔と言葉遣いは確実にする気だったな。

俺の事、最初から糞人間扱いだったもの。脅しから話が始まったもの」

ラビ「それってほんとうなの?あの子、いつも甘えてくるし、そんな乱暴な言葉遣いじゃないわ」

八幡(あの害獣、ラビットさんの前では猫をかぶっているのか)

一色といい害獣と言い、なぜ猫を被ったままでいてくれないのか。

そういえば、遠い昔に一色にそれを尋ねたら

『先輩が、それがいいって言ったんじゃないですかぁ』と拗ねられた。

『先輩は、礼儀正しくてあほ可愛い私が好きなんですか?』

べつに。

『なら、それでいいじゃないですか。先輩の前だと、私も羽を伸ばせて楽なんですよ』

俺は、その羽の体積だけ窮屈しているぞ。

『先輩も負けじと羽を伸ばしたらどうですか。このままだと退化してペンギンになりますよ、足みじかいし』

足が短いのは関係ないだろ。だが南極よりも過酷な世界で生きるには、ペンギンにならざるをえない。

『はぁ、人間の先輩にはいつ出会えるんでしょうか』

一色は、小さくため息をついた。

ラビ「ヒッキー、急にぼーっとしないで」

八幡「あ、ああ」

ラビットさんの言葉が、俺を現実へ引き戻した。



101: ◆SqZQSXA.b2 2016/11/14(月) 02:18:00.40 ID:GN3hBxkT0

ラビ「それでも私は、あんたに会いに行ってあげてほしいわ」

八幡(遠回しに死ねって言ってるんですかね。いやラビットさんだけにそれはないか)

ラビ「だって、私の友達だもの」

ラビットさんが持ってないものを振りかざしているようで、腹が立った。

ラビットさんに友達がいかに言葉だけの空虚で、あっけないものかを刻み込んでやりたい。

それは、子供に残酷な現実を突きつけるような、下卑た快感をもたらしてくれるだろう。

八幡「友達、友達、さっきからその言葉を言ってるけど、本当にラビットさんはあの兎と友達なのか」

ラビ「えっ?」

八幡「あの兎は、ラビさんと契約を結んでるんだよな。そのせいで仕方なく、仲良くしてるんじゃないか。

   それが俺が見たあいつの姿と、ラビットさんが友達だと思っている姿だと俺は思うんだが」

ラビ「なにを、言いたいのかしら」

ラビットさんの唇は、わなわなと震えていた。

罪悪感が胸を衝いたが、もう引けない。

八幡「どっちが、本当のあいつなんだろうな。ラビットさんが今まで見たのは、全部…」

頬に衝撃が走った。一瞬後、自分が平手を食らったのだと気づいた。

ラビットさんは目端にこぼれんばかりの涙をためていた。

ラビ「ばかっ」

ラビットさんは、うろから飛び出した。

こうなると、わかっていたんだ。

それでも、やってしまった。

俺は、今起きた光景にどこか既視感を覚えていた。

同時にけだるい絶望が、森の暗闇の底から俺を覗いているのを強く感じた。



102: ◆SqZQSXA.b2 2016/11/15(火) 01:31:20.27 ID:6e8KD6U20

ぼんやりと外の暗闇を眺めていると、やがて視界の端からあの人相の悪い兎が現れた。

八幡「どうしたんですか」

大兎「ご主人様が飛び出してくるのが見えたんで、様子を見に来たんだ」

八幡「ご覧のとおり、俺は傷だらけですけど」

大兎「げへへ、そういじけるなよ。どんなに金玉でかいやつだって若い頃には失敗をするもんだ」

八幡「はぁ」

八幡(なんで急に慰めモード、もしやラビットさんとの話を聞かれていたか?)

大兎「夜這いにゃあ、ちょっぴりお月様が明るすぎたな」

八幡「…」

大兎「おいおい、少しでも気を楽にしてやろうという、俺様の気づかいだぜ?これだから糞人間は」

八幡「ぐっ」

八幡(兎に気遣われる自分が腹立たしいやら情けないやらで、涙がでてきた)

大兎「いくら感動したからって泣くなよ…話は変わるが、腹減ってるならこれをやろうか?糞うめえぞ」

大兎が差し出したのは、見る限り雑草だった。

いくらかの押し問答の末、一口だけ食べてみて、吐いた。

善意の押しつけほど、手に負えないものはない。




八幡「用は済んだろ。俺より、外に出たラビットさんの方が心配じゃないのか」

大兎「洞察力が足りねえなぁ。俺をよく見ろ、何か気づかないか?」

改めて見ると、サイズが一回り小さくなっているのに気が付いた。

だいたい軽乗用車から自転車くらいのモデルチェンジ。

八幡「縮んだ?」

大兎「少し違うな、二つに分裂したんだよ。もう一方はご主人様についていて、ちゃんと見守っている」

こうすれば向こうの様子も伝わってくる、と言って大兎はぴんと耳を立てた。

大兎「なになに、ご主人様は泣いてるみたいだな。声をかけても一人にしてくれとさ」ジロリ

八幡「…そうかよ」

大兎「げはははははっ、雌は声をあげて泣くが、雄は心の中で泣くってのはこのことか。ご主人様がお前に同情した理由も分かったぜ」

大兎は口を大きく開けて、大きく笑った。

となりのトトロみたいな口の裂け方を見て、軽くちびった。

こいつ、草食動物だよな?

ある意味では肉食のようだけれど。



106: ◆SqZQSXA.b2 2016/11/27(日) 00:23:33.19 ID:3gn6bS6N0

八幡「前から疑問だったんですけど、本当に兎なんですか?」

大兎「元をたどれば兎だが、実際には魔兎と呼ばれているな。そもそもお前、天兎は知ってるか」

八幡「まったく」

大兎はしゃあねえなと面倒くさそうに鼻をかきながら、言った。

大兎「受け売りだが、ざっと教えてやるよ。

『天兎は、あの大きいお月様に住む兎のこと。

その中でも、いつも陽光が降り注ぐ温かい場所に暮らしていたやつといつも暗くて寒い場所に暮らしていた兎がいた

魔兎はそれをひっくり返そうと反乱起こしてたけれど、負けてしまいこの地球に堕落させられた兎のこと。

天兎と魔兎、二つは限りなく近い存在だが、限りなく遠く離れた場所に住む双子。

魔兎はかつての故郷である月を想い、何度も飛び跳ねては地上に叩き付けられ、死んでいく。

天兎は魔兎を忘れ、故郷で暮らすことの幸福をも忘れ、死にゆく大地とともに腐っていく

やがて、あらゆる場所で兎は滅ぶことになる』(裏声)

ってなもんで。よぅく、アルミラ様が言ってた」

八幡「話し方から察するに、昔話ですか」

大兎「昔っていうほどでもねえ。俺様にとっちゃつい最近の話よ。

あと、これには教訓が含まれているんだ。おら糞人間、分かるかぁ?」

八幡「…故郷を大切にしろということですか」

大兎「それは天兎の視点だな。

大切なのは魔兎の方だ。俺らは故郷を想ってばかりで、新しく降り立った地球を見ていなかったから死んだんだ

だが、アルミラ様だけは違った。

虹花海岸の美しい景観と夜景に輝く月を見て地上の美しさをはじめて悟り

月への妄執を捨てて地上で一生を終えることを誓ったんだと。

だから、魔兎の唯一の生き残りになっちまった。他は俺様も含めてみんな死んじまった」

八幡「…」

大兎「ここまで話してやったからには、お前にも腹を割って話してもらおう。

哀れにも故郷に捨てられたお前という兎は、どうするんだ?届かない故郷を目指して、死ぬか?それとも…生きるか?」



108: ◆SqZQSXA.b2 2016/12/21(水) 01:42:47.72 ID:rd8tN3g30

ここで生きることを決めたら俺は俺じゃなくなるだろう。

これまで自分の築いてきたアイデンティティを全て失い、まっさらな白紙の状態から始めるのだ。

今、人生をやり直すことができる選択肢を与えられている。

きっと一生で、一度だけの機会だ。

元の世界の吐き気を催すような虚構と矛盾を見ることはない。

口では友達といいながらも、裏で相手が裏切らないか互いに腹を探りあう喜劇も

劣った者を友達に据え置き、優越感に浸る哀れな奴も

それに気づいていながらも、捨てられないか不安で媚びを売る奴も

すべて、目の前から消える。

でも、この兎が言いたいことはそういうことじゃないのだろう。

きっとこの世界にも、そういうことはある。

だけど、『良いこと』も同時に存在するのだ。

俺が知らないだけで。

…いや、知っていたな。

俺は、二度も命を助けられたんだ。

一度目は、あの屋敷に住むルナ様。

二度目は、ラビットさん。

どちらも善意からではなかったみたいだけど、二人がいなければ俺は死んでいた。

悪いこともあった。

ルナ様に友達になってほしいからって、殺されかけた。その理屈は未だに不明だ。

ラビットさんは、お節介で、煩わしいところがある。

たった一日で、これだ。

残りの人生を費やせば、どれほどのものが得られるだろうか?

ここで骨を埋めても、良い気がする。



109: ◆SqZQSXA.b2 2016/12/21(水) 01:44:01.21 ID:rd8tN3g30

しかし、俺は元の世界をどれほど知っていたのだろうか・

最も、近かった雪ノ下と由比ヶ浜のことを。

例えば、雪ノ下は私情にとらわれない、理の通った考えができるやつだ。

最初は、その凛然とした姿に憧れの情すら抱いた。

でも、それは誰かを頼って、目標にして、真似をしてきた末の姿だった。

それに気づいたとき雪ノ下は、比企谷八幡という男を目標にしようとしていた。あれは決して恋愛感情などではない。単により魅力的なヤドリギを求めていた

に過ぎない。

だから俺が雪ノ下の告白を断ったとき、彼女は耳朶を真っ赤に染めながらも微笑むことができたのだろう。

『私の知っている比企谷君で、良かったわ』

以来、俺と雪ノ下はずるずるとこれまでの関係を引きずっている。

結局、雪ノ下の目標は、誰なのか。雪ノ下は真の意味で自立することができたのあ。

一方、由比ヶ浜は持ち前の愛嬌のよさで、場を和やかにすることができるやつだった。

でも、それは周りとの繋がりを失わないための、強欲さゆえだった。

強欲な彼女は、友情と恋愛のどちらかを失うことに耐えられなかった。

だから、雪ノ下と勝負をした。

ある男に告白をして、受け入れられた方の望む通りにする。

なんて、幼稚で純粋な願いだろう。

そして、彼女自身、勝敗が決まらないことを薄々感じ取っていたようだ。

それからの三人の状況は、彼女の思い通りなのだろうか。

奉仕部で時折見せる、仮面のように冷めた表情は何を意味しているのか。

八幡「知ろうとしていなかったんだ」



111: ◆SqZQSXA.b2 2016/12/26(月) 17:06:40.58 ID:nJyhm/tE0

八幡(はぁぁ、思わずため息が口から衝いてでてしまった)

八幡(どれだけ、時間を無駄にしてきたのだろう)

八幡(だが目をそらし続けていた代償だと思えば、安いものだろう。こいつに言われなきゃ、死ぬまで気づけなかっただろうから)チラッ

大兎「ん?決まったか」

八幡「決まった」

大兎「その答えが、俺様とお前との関係をぶち壊さないといいよな。互いによう」ジリ…ジリ

大兎はその場で、地面を掻いた。よほど強い力で掘ったのか、そこには深い爪跡ができていた。

脅迫めいたことをするほど、この大兎は、俺に生きることを選んでほしいらしい。

おそらくは、ラビットさんのことを想ってのことなのだろうが。

だが安心してくれ。望み通りの答えを返すよ。

八幡「俺は、生きる。そのためにあんたの力を借りたい」

大兎「げっ、げっ、…げっげっはっははははっ!構わねえよ。ご主人様とお前をどこまでも連れてってやるぜ。俺がこの世界に満足するまでな!」

八幡「いいや、これから行くところは俺とあんただけだ」

大兎の声に不安がにじんだ。

大兎「どういうこった?」

八幡「俺たちが向かうのは、ルナ様の屋敷だ。

ラビットさんは、事が終わるまでここにいてもらう。お前の半身ならできるだろう?」

大兎は、石像にでもなったかのようにその場で立ち尽くした。

俺はすかさず、畳みかける。

八幡「ラビットさんを危険に晒さずにすむし、俺のような厄介な奴を露払いできる一手だ。

この案に乗らなきゃ、俺は明日ラビットさんと共に屋敷へ向かう」

大兎は鋭くとがった白牙をチラリと口から覗かせた。

自分の腕ほどの大きさのそれは、いともたやすく人の頭蓋を粉砕するだろう。

大兎「…俺様の話は、糞人間には無駄だったか」

調子に乗りすぎた、と思った。

背筋をぞくりと冷たいものが伝った。

ここで大兎を怒らせて交渉決裂するわけにはいかない。

俺にはこの件にラビットさんを巻き込む気は毛頭ないのだから。



112: ◆SqZQSXA.b2 2016/12/26(月) 17:10:35.56 ID:nJyhm/tE0

八幡「いいや、意味ならあったんだ」

大兎「ねえから、死にに行くんだろうがよォ」

八幡「死ぬ気なんてない。あんたのおかげでどうしても元の世界で知りたいことができたから、ルナ様へ会いにいく必要ができたんだ」

大兎「じゃあ、なにか。せっかく話しやったのに全くの逆効果だったってか!?」

八幡「…そうなるな」

大兎は耳をぺたっと伏せ、悶々とし始めた。

コイツがラビットさんの従者であり、ラビットさんの護衛対象が俺である以上、立場的には有利なはずだ。

それにコイツが本当にラビットさんのことが友達なら、断る理由はない、はず。

大兎「くぉおぉぉおおおおっ!」ダンダン!←地面に頭突き

八幡「うるせぇ!ラビットさんに気づかれるぞ」

大兎「…お前、ご主人様に気づかれたくないのかぁ?」

うわっ、なんだこのうざい絡み方…。

大兎「そうだよな、あんな可愛い美少女そうはいねえ

なぁ、すべて忘れて、ご主人様とすっぽりしっぽり仲良くしちまえよ」

げすい。今までの流れをすべて台無しにするくらい、げすい。

コイツは危険な橋はわたりたくないのだろうが、『逃げは許さない』。

八幡「俺の意思は変わらねえ。あんたが、そのご主人様の命を守るかどうかだ」

大兎「クソがぁ!」ダンダン!

八幡「」

それから大兎がその場でひとしきり転げまわって暴れた。

まるで俺が黒歴史を思い出したときのように。

やがて、落ち着いたのかその場に横たわった大兎が

夜空に向かってぼそりとつぶやいた。

大兎「分かった…わぁったよ。俺様はやばくなったら、てめぇをほっぽり出してさっさと退散するぜ。それでいいなら乗ってやるよ」

八幡「それはこちらからお願いするところだった。ぼっちをこじらせたラビットさんがあんたを失ったところなんて、見たくもないからな」

大兎「てめえがそれを見ることは、どう転んでもないだろ」

返す言葉もない。



113: ◆SqZQSXA.b2 2017/01/03(火) 21:44:43.90 ID:ApwQH9MY0

大兎から手渡されたベルトを腰に固定し、俺は大兎に跨った。

屋敷から脱出したときは、ラビットさんの背中しか見えてなかったが今は違う。

八幡(思ったより高くて、前方の視界は開けている)

八幡(だが一歩脇を見ればこんもりとした茂みが群生していて、なにが潜んでいるか検討もつかない)

手持ちにあった大兎の毛を、力をこめて掴む。

大兎「そっちの準備はいいか」

八幡「ああ、いつでも出発してくれ」

大兎「出る前に一つだけ言っておく」

八幡「?」

大兎「怖いのは分かるが、股であんまり強くはさむな」

八幡「こわくねーし。毛並みのあまりの良さにスリスリしただけだし」

大兎「げぇ….」

大兎はなにか悲鳴のようなものを上げたが、俺は無視することにした。

それを恨んだのか、大兎のとった移動方法は、搭乗者にとってあまり気分のよいものではなかった。

頻繁に全速力、停止、聴音を繰り返したのだ。

大兎の全速力は前述したとおり、乗用車並みのスピードがでる。

並大抵の生物はもちろん、ゾンビや骸骨は追いつけないだろう。

大兎が考える最大の危険は、待ち伏せされて何重にも取り囲まれることらしいが、敵が動くわずかな音を聴くことで回避するのだという。

なるほど、一見理屈は通っている。

だが、屋敷につく前にグロッキーにされるのは、勘弁してほしいところだ。

ヒッキーだけに。ヒッキーだけに。



114: ◆SqZQSXA.b2 2017/01/03(火) 22:23:58.37 ID:ApwQH9MY0

大兎「お前はあのガキと会ってどうするつもりなんだ。真正面から言っても殺されるだけだぜ」ズダダダッツ

八幡「まず、あの屋敷で両親について調べてみようと思う。彼女のおかしい行動の原因は両親の影を追っていることだ。

目には見えないのに、いると思いこんでる」

木々が好き放題に伸ばした枝が手足を掠めていく。もろに激突して持っていかれるわけにはいかない。できるだけ身を縮めて、大兎に張り付く。

そういえば、この大兎は死んでいるんだったっけ。

八幡「…もしかして、目には見えないけれど存在する『幽霊』ってこの世界だとアリなのか?」

大兎「もちろんアリだ。つうか俺様もそうだ。てめえ、ご主人様から聞いてなかったか?」

八幡「…忘れていた」

大兎「一言に幽霊っても様々なやつがいる。俺様みたいに降霊術で呼び出されたり、この世への執着のあまり場所や人に憑りつく地縛霊みたいなもんまでいる

ぜ」

八幡「もし話しかけたら、会話に応じてくれると思うか?」

大兎「よほど大らかなやつじゃないと、だめだな。この世への未練で頭がいっぱいな奴が大半だ」

八幡(さりげなく、自分を褒めていくスタイルはやめろ)

大兎「だから俺様に出会えたことを感謝しろ」

八幡(と、思ったら直球で褒めることを要求してきやがった)

八幡「例え感謝していても、いやだ」

大兎「ひねくれてんなぁ…」

八幡「話を戻すが、その両親がルナ様に憑りついてる可能性はあると思うか?」

大兎「可能性はある。だが憑りついたものを引きはがすなんて、教会にでも頼らないと無理だぜ」

八幡「そうか。ところで今から、教会に行かないか?」

大兎「もう遅い。着いちまった」

例の屋敷が闇の底からゆっくりと現れた。



116: ◆SqZQSXA.b2 2017/01/06(金) 03:01:53.37 ID:3sgDevko0

大兎「それに、俺様達がいないことをご主人様に気づかれた。今から教会へ行ったら確実に追いつかれる。てめえはもうご主人様と会いたくないんだろ?」

八幡(ご名答。それがお互いのためだと信じている)

八幡「ラビットさんはこっちに向かっているのか」

大兎「あの場から離れてしまった後悔か、てめえに対する怒りかしらねえが、あのご主人様が無言で俺様をこっちへ走らせてるぜ」

八幡「できるだけゆっくりラビットさんを運んでくれると、助かる」

大兎「言われなくてもそうしてる」

八幡「…そうか」

大兎は屋敷を取り囲む柵を飛び越えると、降りるように促した。

固い地面に着地した俺は、真っ先に屋敷を注視する。ゾンビや骸骨が獲物がホイホイやってきたことに気づいていないだろうか。

しかし、屋敷にはめ込まれた窓は暗く、なにかが蠢いている様子もない。

一安心した俺はベルトを外し、大兎に投げ渡すと、大兎はそれをどこか遠い目で見つめた。

大兎「老婆心ながら警告してやろうか、ガキの放ったゾンビ共もてめえが移動したことにはもう気づいている。数時間後には、ここに大挙してやってくるだろう」

大兎「それ以前に、この屋敷に入ったらてめえは間違いなく死ぬよな。それでも、元の世界の住人は何も知らないままだ。てめえが死んでも、何も思わない」

八幡「...」

大兎「それが原因で地縛霊にでもなられたら、ご主人様と俺様が困る。

だから、最後に泣き言の一つくらいは聞いてやる。言えよ」

大兎は、力なく言った。

前から薄々感づいていたが、俺と話すとき、大兎は自死したときの記憶を思い出しているのではないか?

そして、現在の状況を自分が死んだときと重ね合わせている。

だとしたら、それはとんだ誤解なのだと教えてやらねばならない。

八幡「ならはっきりさせておこう。俺は、お前とは違う」

大兎「うぇ?」

八幡「お前みたいに下ネタ好きじゃないし、いかつい顔もしてない。

大体。妙に馴れ馴れしいお前のことが嫌いだったし、理解不能だった」

それに地縛霊になるなら、自分の部屋を選ぶからこの世界には留まらねーよ」

大兎「」

八幡「お前とは根っこからの部分から違う。だから勝手に同情するな、気持ち悪い」

大兎「…分かったから、さっさと屋敷に入れっ、この野郎!

さもないとこれで頭をかち割ってやる!」ギラッ

八幡「ひぇっ」

こうして、鋭牙を剥き出しにした大兎に急き立てられるようにして、俺は屋敷へと向かった。



117: ◆SqZQSXA.b2 2017/01/09(月) 16:48:30.42 ID:AzL2DYGH0

屋敷へ侵入すること自体は、非常に容易だった。

先刻の屋敷から脱走する際に、玄関の扉を大兎が粉砕したからである。

堂々と正面から入るのも躊躇われたが、贅沢は言っていられない。

化物がいないことを再三確認してから、ゆっくりとお邪魔した。

幼女の一人暮らしにしては不用心だと思ったが、この屋敷に入ったら最後お友達にすることを考えると、あえて門番はつけていないのかもしれない。

あるいは、それができないほど衰弱しているか。

後者だと数時間後に詰む。

八幡(うろうろせず、自分の部屋で養生していてくれ…)

と、願いつつ廊下を抜き足差し足で進む。

ルナ様の両親について知るには、日記かアルバムを見るのが一番だろう。

すでに一度探索したので、本棚がある部屋や、書斎らしきの場所は知っている。

そこで探して、もしなければ第二番目の計画に移行することになる。

すなわち、異世界探査機を見つけるというものだ。

俺は確かにこの屋敷で探し回ったが。一つだけ確実に見つけられていない場所がある。

それは、ルナ様が契約する場所である。

ラビットさんから聞いた話では、なんらかの魔方陣が描かれていて、秘匿されるべき場所のようだ。

ラビットさんと同じく地下室か、それとも隠し部屋があるのか。

この屋敷で異世界探査機があるとすれば、そこぐらいではなかろうか。

しかし、それを独力で見つけ出すのは至難の業だろう。

だから最後の計画が肝になる。

つまり、ルナ様と対話することだ。第一の計画がうまくいけば、説得できるかもしれない。

もし、上手くいかなければ。自然と暴力的になるだろう。もちろん言葉の暴力だ。

ルナ様を直接どうこうするのは、できそうもない。

主に小町が原因で、幼女に手をあげるのはかなり抵抗がある。

八幡「だけど、殴った手が痛まないというだけで暴力ということには変わらない。最低だな」

俺はルナ様の両親がなにかを残していることを祈りながら、扉を開いた



118: ◆SqZQSXA.b2 2017/01/09(月) 17:42:52.77 ID:AzL2DYGH0

音を立てないように、本棚や机を漁るという行為は思った以上に神経をつかった。

加えて廊下から差し込むシャンデリアのわずかな光を頼りに読むのは、困難を極めた。

それに加えて、本の内容がかなり偏っているのだ。

死者の復活、生者から魂を抜く方法、魂の解放と定着、などオカルトチックなものが目白押しである。

八幡「だから、アルバムが手の届きやすい位置にあったのは救いだな」

俺は一冊のアルバムを想定していたよりも早くに発見することができた。

phote bookとそっけなく印字されたタイトルの下に、三人の名前が書いてある。

そのうち上二人分の名前は達筆だが、一人はミミズののったくったような文字で、でかでかとルナと書いてあった。

八幡「悪いな」

誰かに聞かれているわけでもないが、一言謝ってから本を開いた。



120: ◆SqZQSXA.b2 2017/01/09(月) 18:12:13.19 ID:AzL2DYGH0

アルバムを読み始めて、数分もたたないうちに

このアルバムは、ルナ様の歴史なのだ、と気づいた。

赤ちゃんとして生を受けたときから、あやされてニコッと笑う様子、

お気に入りのがらがらを振っていること、

はいはいができるようになったことなどが、写真の下に小さく説明されている。

ルナ様が成長にしていくと、お気に入りの人形(おそらく今、持ち歩いている奴と同じだ)を抱くように眠っている様子や

『父』と『母』と共に誕生日を迎え、楽しそうに笑う彼女がいた。

だけど彼女のそばで、つねに両親のどちらかが体を支えていた。

また外に出かけた写真は、一枚もない。

ページをめくるにつれて、それは顕著になる。

ベッドの上で新しい人形と共に微笑む彼女、ベッドの上で折り紙を並べて作業をする彼女、

『調子が良くなり』廊下で心配そうな父と手をつなぎ、立つ彼女。

そして、最後の数ページは、彼女の部屋での様子しか写されていない―――――



121: ◆SqZQSXA.b2 2017/01/09(月) 18:34:54.96 ID:AzL2DYGH0

八幡「ルナ様の両親に関する手がかりは、ほとんどないか」

一つあるとすれば、アルバムの最後に写ったルナ様の写真は、現在の姿と変わらないことだ。

だから、その時から時間は何年も経っていないと思われる。

ならば、その短い間に両親が急死して、ルナ様が歪んだのだ。

きっかけはこの本棚にあった書物だろう。

これを読み、両親の霊を召還した。

そして、それだけでは物足りなくなった彼女は、友達を求めるようになる。

...あまりにもできすぎていると、思った。

しかし、否定する根拠はない。

八幡「もう少し、手がかりを探すか」

アルバムを本棚に戻した瞬間、甲高い悲鳴が廊下から聞こえた。

この屋敷に住む人間は、一人しか知らない

同時に、獰猛な獣の咆哮が屋敷全体をびりびりと震わせた。

思わず耳を塞ぎ、蹲る。

この屋敷で、なにかが起きつつあった.



123: ◆SqZQSXA.b2 2017/01/19(木) 02:24:38.36 ID:eYOPuovu0

八幡「なんだ…?」

扉から顔だけをゆっくり出す。

悲鳴と恐ろしい雄たけびはもう聞こえないが、廊下の奥から何かが砕ける嫌な音が続いていた。

記憶が正しければ、あちらにはルナ様の部屋があったはずだ

嫌な予感しかしないとは、こういうときをさすのだろう。

だがあの悲鳴がルナ様のものであれば、彼女の身になにかがあったということ。

彼女に死なれると、いろいろと詰んでしまうので、助けに向かう必要があるだろう。

といっても俺が助けられるかどうかは、また別問題だ。

異世界へ移動するラノベでよくある、唯一無二であり絶対なる力を得るイベントはまだ起きていない。

パンピーがこの世界の獣の類いと戦うことは、死を意味するだろう。

実際あの大兎に徒手空拳で挑むことを想像すると、寒気が走った。

そうだ、悲鳴の主が屋敷に迷い込んだ哀れな羊のものであれば、出向く必要はない。

残酷だが、自分の命には代えられない。

ルナ「……パパっ……ママっ……助けてよぉ!……出てきてよぉ!……」

今度は、焦燥と悲しみの入りまじった声がしっかりと聞こえた。

行かなければならない。

それになにより、俺はこういう声が大嫌いだ。

独りが、周囲に排他され、孤独に怯え、みすぼらしく助けを求める。

過去はいつだって、俺の前に立っている。



124: ◆SqZQSXA.b2 2017/01/19(木) 03:34:43.94 ID:eYOPuovu0

シャンデリアが儚く照らす廊下を走り、ルナ様の部屋へ向かう。

近づくにつれて重い物同士がぶつかり合う音も混ざり始め、部屋の前に到達するころには全力疾走をしていた。

八幡「……っ!」

足を止めて息を整えてから、部屋の中を覗く。

ルナ様の部屋の扉は大きく開かれており、中の様子を簡単に知ることができた。

ルナ様は部屋のベッドの上で、布団を頭から被り、泣いていた。

それを守るように、ゾンビ犬が懸命に唸り声を上げている。

しかし、ゾンビ犬と相対する存在は、あまりにも非現実的であった。

一見、その姿は人のように見える。

だが、幾度も黒色の絵具を重ね合わせたような滑らかな体毛が全身を覆い、白く発光した『中身』を隠しているのだった。

虚の影「ゴォオオオオオオオオオオオオオオ!」

化け物が叫ぶたびに屋敷が揺れ、あと小心者の心臓が縮こまる。

八幡(予想以上の化け物がいて、ハチマンびっくりだよ。書斎から拝借したペーパーナイフ一本でどうにかなるような相手じゃないわ。これ)

八幡(かっこつけてすみませんでした。とりあえず神様、俺にチート能力ください)。

さっそく心が折れかかっていた。



128: ◆SqZQSXA.b2 2017/01/22(日) 00:14:20.79 ID:mFQJon5M0

俺が手をこまねいているうちに、その化け物はすっと手を掲げた。

その手に握られているのは、一枚のカードだ。

このカードの意味を俺はよく知っている。

八幡「嘘だろう…?」

カードが砕けると同時に、化け物の前に一人の女戦士が出現した。

天使の翼を象った兜に、うねりをあげる金色の髪、そして銀色に鈍く輝く甲冑が

彼女は聖なる騎士なのだと証明している。

天剣の乙女「ふむ、ここには死と破滅の匂いが漂っているな。だが、問題はない。

      主より与えられた使命の下、この大地を照らして見せよう」

彼女はそう言って、ゾンビ犬を見据えた。

天剣の乙女「引かねば、切り捨てる」

しかし迷いもなくゾンビ犬は、勢いよく女戦士に飛び掛かる。

ゾンビ犬「グオォォァァ!」

天剣の乙女「ふっ!」

彼女の持つ両刃の剣が煌めくと同時に、ゾンビ犬は一刀両断された。

天剣の乙女「仮初の命の代わりに、記憶を失った哀れなる獣よ。黄泉の世界にて、お前のご主人様に抱きしめてもらうといい」

彼女は胸の前で十字を切り、厳壮なる祈りを捧げ始める。

それを、化け物は歯痒そうに眺めていた。

八幡(助けに行くなら、今だ。行けよ、俺)

しかし脚の痛みが、今になってジンジンと表われ始めた。

八幡(びびるなよ、ルナ様を抱えて、窓から飛び出るだけだ。きっと、だいじょうぶ)

でも、もしミスったらあの剣で斬られる。

ルナ様を抱えたまま、避けれるわけがない。

考えれば考えるほど、頭の中が白くなっていく。

女戦士が目をきっと開けた。

八幡「行 け っ!」

ルナ様に向かって、俺は走り出した。

それに気づいた化け物の怒号も、慌てて剣を構える女戦士もすべて遠いことのように思える。

ルナ様だけを見ていた。



129: ◆SqZQSXA.b2 2017/01/22(日) 02:36:25.71 ID:mFQJon5M0

八幡「ルナっ!逃げるから布団から出ろ!」

布団がばっと持ち上がる。

ルナ「パパっ!」

八幡(違うけどな)

俺を見て表情が凍りついたルナ様の右手を左手でとり、彼女の股に自分の右肩を当てる。

ルナ「え、えっ!?」

八幡「身体の力を抜いてくれ」

ルナ様のへそが首の真後の付け根にくるように担ぎあげ、立ち上がる。

自分の右手を彼女の両足の間から出して、彼女の右ももを抱え込み固定する。

ルナ「うわわわわっ!」

八幡「よし」

ちなみにこの技、ファイヤーマンズキャリーというらしい。火災現場で消防士が怪我人を運び出すために使われることからこの名がついたそうな。

人を運ぶ技術でもあり、格闘技の一種でもあるこれを

国語の教師にかけられた生徒は俺だけでいい。

八幡(あとは逃げるだけだ)

天剣の乙女「動くな。もし動けば、背中の其れごと斬る」

気づけば、鼻先に剣を突きつけられていた。剣の柄を握る女戦士の目に、迷いはない。

八幡「」

八幡(うっ、動けねえ…)

天剣の乙女「何が目的だ?ここはお前のような生者がいるべき場所ではない」

八幡「…」

天剣の乙女「答えろ。私は気の長い方ではない」

剣が頬を静かに撫でる。ちくり、ちくりと痛みが奔る。

八幡「背中の奴を、助けにきた」

天剣の乙女「馬鹿なことを…。それはもう終わっているぞ」

八幡「?」

ルナ「…お兄さん、ルナをちゃんと助けてね」ボソッ

耳元でルナがそう呟くのが聞こえた。

それからバキンと何かかが砕ける音が響き、女戦士の立つ床に魔方陣が広がった。

魔方陣からは鋭い嘶きと蹄の音が聞こえる。そして、がむしゃらに暴れるような風が、あふれだす。

天剣の乙女「これは…!?」

女戦士が飛び退り、頑健な盾を構える。

一方で風はどんどん勢いを増し、もはや息もできないほどだ。

八幡(よく分からないが、これは逃げ出すチャンスか)

ラビットさんがやらかした爆発で窓ガラスのない窓から、外に向かって跳躍した。

目の端にちらりと映ったのは、ちょうど馬に乗った骸骨が魔方陣から飛び出したところだった。

そいつから放たれる邪な風の刃は部屋の中にあるものを片っ端から切り刻んでいく。

それでもあの人型の化け物は、俺を見ていた。

喉を締め付けるような悪意が全身から俺にむかって放射されているのが分かる。

逃げなければ、ならない。あの化け物はきっと追ってくる。



130: ◆SqZQSXA.b2 2017/01/22(日) 02:49:40.17 ID:mFQJon5M0

補足
ここで使われたカードは腐の嵐です
今日の夜で終わりにしたいです



133: ◆SqZQSXA.b2 2017/01/23(月) 00:30:17.73 ID:QLBnjXJE0

ルナ「はぁ…はぁ…」

背中の上でルナ様はひどく息切れをしていて、俺にすっかり身体を預けていた。

やはり、さっきの風は彼女が引き起こしたのだろうか。だが、今はそれを尋ねている余裕はない。

八幡「疲れているところに悪いが、隠れなければだめだ。なにかいい場所を知らないか?」

ルナ「…ううん…わからない」

八幡「例えば、ルナ様が契約する場所はどうだ」

ルナ「そのことを。誰から聞いたの?」

八幡「誰からも聞いてない。推理しただけだ」

そう嘯いてみせると、彼女は不満ありげに鼻を鳴らした。

ルナ「ルナは分かってるよ。一緒に逃げたお姉さんから聞いたんだよね」

八幡「え…あ」

ルナ「泥棒兎のお姉さん、きらい!あの人とはもう友達になってあげないもん」

八幡「と、とにかくその場所をだな」

それから土下座する勢いで懇願すると。彼女は渋々、契約の場所を教えてくれた。

八幡「裏口に置いてある樽の下が、地下通路に繋がる入口ね…」

ルナ「そうだよ。…あ、そろそろルナの『腐の嵐』もおさまっちゃう」

八幡「なら急ぐぞ。しっかり捕まっててくれ」

ルナ「うん!」ギュ

ルナ様は、屈託のない笑顔を俺に向けた。

こうしてみると、年頃の箸が転んでもおかしい年頃の女の子にみえる。

一体、彼女の身になにが起きたのだろうか…。

俺はかぶりを振って、彼女を背負って屋敷の裏口へ向かった。



134: ◆SqZQSXA.b2 2017/01/23(月) 00:54:26.15 ID:QLBnjXJE0

裏口

八幡「一回、降ろすぞ」

ルナ「ゆっくりね、ゆっくり!」

八幡「分かった、分かった」

ルナ様は背中をゆっくりと滑るように、地面に降り立った。

で、思い切り腰をうっていた。

ルナ「いたいっ!」

八幡「大丈夫か?」

ルナ「ゆっくりって言ったのに…」ゴゴゴ

すっかり機嫌を損ねたらしい彼女は、俺にそっぽを向いた。

さっきはあんなにもはしゃいでいたのに。

八幡「じゃあルナ様は、奴らが来ないか見張っていてくれ」

ルナ「…ルナはルナだよ」

八幡「?」

ルナ「様はいらない」

彼女はそう言って、どこからもなく取り出した人形を抱きしめた。

八幡「分かった、ルナ」

俺は中身の入っていない樽を動かし、正方形に区切られた蓋を開けた。

灰色の梯子が、闇へと?がっている。



135: ◆SqZQSXA.b2 2017/01/23(月) 01:21:40.71 ID:QLBnjXJE0

あの女戦士は、死と破滅の匂いが漂っていると言った。

それはおそらく、何年も積もった埃とすっかり溶けてしまった蝋燭の焼け付く匂いに違いない。

この地下室は、そういう場所だ。

ルナを先頭に梯子を下ると、小さな礼拝堂にでた。

手前には長椅子が何列も並べられており、何者かがここで集会を開くことも可能だろう。

そうして彼らは、正面に雄々しく起つ世にも恐ろしい姿をした像に向かって、一斉に祈りを捧げるのだ。

その悪魔像は、その内に何よりも深い憎しみと、吹き荒れるような狂気をはらみながら。逆十字の十字架で一人の男の胸を刺す。

ああ、これだけ見せられれば俺だって分かる。

ここは、悪魔崇拝した者の為の、礼拝堂なのだ。

八幡(あの人達が、こんなことをするのか)

アルバムに載っていた、ルナの家族を思い出す。

ルナの手を繋いでいたあの『父』が、ルナに折り紙を教えていた『母』が、その裏で悪魔に魂を売っていた。

怖い、怖い、怖い、怖い。

身体の震えが、収まらない。



136: ◆SqZQSXA.b2 2017/01/23(月) 02:04:13.41 ID:QLBnjXJE0

ルナ「お兄さん?」

ルナは振り返って、俺がついて来るのを待っている。

八幡「今、行く」

一歩、一歩、底なし沼に足を取られないように進む。

ルナ「お兄さんは、この場所はきらい?」

八幡「好きじゃ、ないな」

ルナ「じゃあ、ルナと同じだね

ルナも、この場所は嫌いだよ。何度来ても、胸がいたくなるから」

彼女は人形を抱きしめ、顔を隠す。

八幡「なんで、痛くなるんだ?」

ルナ「それはここにも、パパと、ママがいるから。

いままで会話した記憶、パパとママの温かさに触れた記憶が一度に流れ込んできて、パンクする。それで胸がいたくなって、頭がかーっと熱くなるんだよ」

ルナは人形を俺に向けて、喋らせる。

豚のようなそれは、両手で掴まれ、まるで怒っているかのような表情を浮かべている。

ルナ「ルナといつも一緒にいてくれたパパとママは、二回消えちゃった。一度目はすぐ会えたけど、今度は分からない。

でも、ここなら絶対会える。だから、お兄さんにこの場所に運んでもらったの」

八幡「なんだ。俺を利用したのか」

ルナ「ここは本当に秘密の場所なんだよ。教えたのがばれたら、ルナだって消されちゃう。」

八幡「誰に消されるんだ?」

豚の人形は答えない。



137: ◆SqZQSXA.b2 2017/01/23(月) 02:49:42.26 ID:QLBnjXJE0

ルナは祭壇をのぼり、その奥にある暗闇を見ている。

ルナ「ほら、パパとママがいた!」

彼女は人形を放り投げ、その奥へ姿を消した。

八幡「待てよっ」

俺は、ルナの後を追った。

悪魔像のそばを通り抜け、祭壇を上る。

八幡「なんてことだ」

目の目には、三つの棺が並べてあった。

川の字に並べてあるそれは、人骨がそれぞれ納められている。

そして、中央の棺には一回り小さい骸骨と、ルナが重なりあうように入っていた。

八幡「お前…最初に会ったときから、死んでいたのか?」

ルナ「例え死んでも、ルナはルナだよ。『お前』だなんて言葉で、遠ざけようとしないで」

八幡「…」

ルナ「ヒッキーは、幽霊のこときらいなんだ」

八幡「そんなこと、ない」

ルナ「ううん、分かるよ。同じ存在じゃないと、人は友達になれないんだよ。どうしても、自分と比べるから」

ルナ「でも、ルナはそれ以上にヒッキーのことすきだよ。ルナのことを助けてくれたから」

ルナ「もしかしたら、絵本に出てくる白馬の王子さまはヒッキーのことかもしれないと思ったくらい。運び方も降ろし方もだめだけど、すごくかっこよかった」

ルナ「恥ずかしいけど、これはルナの本当の気持ちだよ」

ルナ「ねえ、ヒッキー」

八幡「なんだ」

ルナ「ルナのお友達になってくれる?」



138: ◆SqZQSXA.b2 2017/01/23(月) 03:51:30.94 ID:QLBnjXJE0

八幡「...もし断ったら」

ルナ「仕方ないから殺すよ。幽霊になったら、きっと考えも変わるよ」

八幡「万が一、受け入れたら」

ルナ「喜んで殺すよ。ルナはこっちのほうがいいな」

八幡(…積んだ。いや、まだルナには聞いていないことがある。それで、時間を稼ごう)

何のために時間を稼ぐのか、それすらも分からないが。

多分、一秒でも長く生きるためだ。

八幡「俺は、あまりルナのことを知らない。だから、それを聞いて、判断したい」

ルナ「どっちにしても、殺すよ」

八幡「いや、俺は殺されたらすごく根に持つぞ。例え、幽霊になっても友達にはならない可能性だってある」

ルナ「ぷふっ!」

八幡「笑うようなことか...」

ルナ「だって、契約するときに条件を加えれば、友達にできるんだよ。

ルナはあまりしたくないけど、ヒッキーがなってくれないなら、迷いなくするよ」

八幡「せめて、ルナが幽霊になった経緯を教えてくれ。それを聞いたら、幽霊になる決心がつく気がする」

ルナ「本当?このナイフで、切腹してくれる?」チャキ

八幡「いつの間にペーパーナイフなんて持っていたんだ」

ルナ「ヒッキーのポケットに入ってたよ」

八幡「それは白馬の王子の聖剣だ。可及的速やかに返せ。返してください」

ルナ「ルナが幽霊になったのはね」

八幡「お、おぅ」

ルナ「パパとママが、ルナを殺してくれたからだよ」



143: ◆SqZQSXA.b2 2017/01/24(火) 23:17:47.89 ID:r/xR+iwi0

ルナ「ルナの病気が重くなって瞼しか動かなくなったときにね、パパとママが銀色の液体が入った注射器を持ってきたの。

二人とも何度か刺そうとしたんだけどうまく刺さらなくて、失敗してた。

そして、そのたびに私の手を握って謝っていたんだ。

あたまの中に鉛が詰まっているみたいに重かったから、何を言っているのか分からなかった。でも、パパとママが泣くのをみるのは初めてじゃなかったから、

それが収まるまで待っていたよ。ルナにはそれを止めることができないのは、分かっていたから。

その間にも意識が沈んでは浮かんで、ゆらゆらと境界を彷徨うんだ。

本で読んだすごく大きな湖に浮かぶ、一本のボトルの気分かな。

でもルナは運よく、最期に浮かぶことができた。

気づいたら、ルナはとっても暖かい場所にいたよ。

真っ暗だけど、誰かがいるの。

ルナを抱きしめてくれる人がいる。

それだけで、安心したんだよ」

彼女は、目を細めて微笑む。

ルナ「それで、ルナはしんだみたい。気が付いたら、ルナは自分の亡骸の前に立っていたから。周りを見たら、パパとママも亡くなっていたんだ。

ルナと一緒に、死んじゃったんだって。

最初は寂しかったよ。でも、代わりに死神さんがいてくれたんだ」

八幡(『死神さん』だと?ここにきてよく分からないやつがでてきたな)



144: ◆SqZQSXA.b2 2017/01/24(火) 23:21:28.30 ID:r/xR+iwi0

ルナ「死神さんは、魂を集めるのが仕事なんだって。本当はパパとママの魂も回収しなきゃだめだけど、ルナがかわいそうだから交換条件をくれたの」

八幡「交換条件ってなんだ?」

ルナ「100の命を奪えば、パパとママの魂を返してくれる。

そう言ったんだ。それから、ルナはころしてころしてころしてころして殺しまわって、特別強い人とは契約を結んで、それでさらに殺したんだ」

八幡「」

ルナ「それでやっとパパとママと会えたのに、今度はあの化け物に、パパとママは消されちゃった」

ルナ「また、死神さんに聞かなきゃ。今度は何人殺せば、パパとママを返してくるんだろう」

ルナ「今度は、ヒッキーも手伝ってね。ルナ、もう独りはいやだよ」

彼女はその棺の中で背中をまげて丸くなった。それから自身の白く細い指で握りこぶしをつくった。

ルナ「まずは、あの化け物を殺すよ。明日には、きっと力も戻っている。それにカードはまだまだ残ってるもん」

八幡「…ちなみに、その死神さんってどういうやつなんだ」

ルナ「死神さんについては、何も教えられない。これは死神さんとの約束だから」

八幡(死神さんは、いやに用心深い奴だな。

あと、100人ころしたら二人分の魂を返すって、どういう理屈だ。

仕事が増えて大変そうに見えるのは、俺だけなの?専業主婦志望だからわからない)



145: ◆SqZQSXA.b2 2017/01/25(水) 00:21:42.71 ID:XXxqAX6B0

ルナ「もういいかな。お話しするのもつかれちゃった」

八幡「最後にこれだけは、聞かせてくれ。いちばん最初に俺を助けたのは、何のためだ?

そのとき、ルナの『父』と『母』はもう、お前の元にいたんだろう。

俺と友達になる必要なんて、なかったんじゃないか?」

ルナ「…生きていたころ、ルナに友達はいなかった。

死んでからも、ルナを契約なしに助けてくれる人なんていなかった。

それに誰もパパとママが見えないから、みんなルナを見くびるの。

それが許せなかったからだよ」

八幡「つまり、ステータスってことか」

ルナ「でも、今のヒッキーは、ルナの大切なお友達なんだよ。

ルナのことを守ってくれる、大切な」

八幡「兵隊であり、寂しさを紛らわす人形だな」

ルナは、きょとんとして、まじまじと俺を見ている。

ああ、友達がどういうものか、彼女も分かっていないんだ。

むろん、俺も分かってはいない。

これまで正しい友達なんて、作ったこともない。

だけど、間違い続けたからこそ、言えることはあるのだ。



147: ◆SqZQSXA.b2 2017/02/16(木) 01:13:21.01 ID:5VEgu2O40

八幡「俺の知っている友達はな、ルナの為に命をかけて守ったりしない。

いいところ、安全な場所から応援するだけだ。お前が言っているそれは『友達』じゃなくて、家族だ」

ルナ「か、ぞく」

八幡「仲がいいから、気が合うからといって命を懸けるやつがいるとしたら大馬鹿野郎だと、俺は思う。

あるいは、一般的に尊いとされる行為に突き動かされた、哀れな奴だ」

それが悪いとは思わない。ただその自己完結した行為をみる人が、苦しむだけで。

ルナ「ルナを助けてくれたのは、ヒッキーがばかで哀れだからなの?それとも…」

八幡「そのどれでもない。俺は賢いから助けたんだ。

お前を助けたら、感謝されるだろう。それに乗じて、契約を上書きしてもらおうと画策していた。

お前が好きだからだとか、大切だからだとか、そういう感情は一切、なかった」

ルナ「ルナを利用する気だった…」

八幡「そのとおり。お前の身体が弱っていることも知っていたし、両親を失ったことも知っていた。

だけど、俺はお前の命をすり減らしてでも、生きたかったんだ」

我ながら、最低の発言だと思う。だけど、真実はいつも一つで、醜いものだ。

例えば、彼女の亡骸のように。

八幡「いざとなったら、そのナイフでお前を殺そうと思っていた。

でも幽霊じゃあ、殺せない。至極残念なことに、寺生まれじゃないんだ」

俺はルナの元へにじり寄っていく。

ルナは敵意と恐怖の混ざった目を見開いた。

ルナ「こないで!」

八幡「俺を友達にするんじゃなかったのか」

ルナ「こんな意地悪な人、いらないっ!」

俺は足をぴたりと止めた。彼女へのこけ脅しは、功を奏したようだ。



148: ◆SqZQSXA.b2 2017/02/16(木) 01:14:52.27 ID:5VEgu2O40

八幡「自分勝手だな。…お前が質問に答えるなら、もう近づかない。いいか」

ルナはこくりと頷く。

八幡「俺を発見したとき、周りになにか見慣れないものはなかったか?

どんな小さなものでもいい」

ルナは口元に手を当てて、考え込む。

ルナ「ワンワンのこと?」

八幡「それ以外だ」

ルナは眉をひそめて、唸る。

ルナ「なかったと、おもう」

八幡「…そうか」

できるだけ無表情を装ったが落胆の色は隠せなかったらしく、ルナが心配そうに尋ねる。

ルナ「落とし物をしたの?」

俺は答えない。答えても、無駄だから。

もはや、残された手段は二つだけ。

一つ、契約を上書きするようルナを脅し、自由の身になる、

一つ、万が一の可能性に懸けて、ここから脱出。ラビットさんと奇跡的に合流し、この世界で生きていく。

一連のやり取りでルナが『友達』にするべく俺を殺す可能性は排除したはずなので、ここに留まることも可能だ。

しかし、それは選べない。

ラビットさんがゾンビと、あるいはあの化け物と鉢合わせする事態が起こりうるからだ。

ラビットさんに危険が及ばないようにすることが、現時点における優先事項であり、崩れかけた精神を支えてくれる目標となっていた。

俺は、哀れな大馬鹿野郎なのだろうか?



152:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/16(木) 23:27:13.54 ID:5VEgu2O40

それでも構わない。

できることは、もう少ないのだから。

八幡「で、だ。お前に契約を上書きする余力は残っているのか」

ルナ「ううん、もう一滴だって残ってない。あの化け物のせいで、力を使い果たしちゃった…」

彼女のよわよわしい声音を聞くと、演技しているようには思えなかった。

八幡「それなら、俺がここにいる意味もないな」

俺は踵を返して、礼拝堂の出口へ向かう。

ルナ「……明日になれば、できるかもしれないんだよ」

八幡「くっ」ザク

俺としたことが彼女の提案に、笑顔がこぼれそうになる。腕を引き裂いて、ぎりぎりこらえたが。

八幡「ルナは案外正直なんだな。でも、それだと遅いんだ」

ルナ「え?」

八幡「それに、お前は無闇に力を使わないほうがいいらしいぞ。

いつか枯渇してしまうんだと、ラビットさんが言っていた」

ルナ「…ルナの心配するなんて、意地悪なのにおかしいよ」

八幡「心配とは大げさだな。ただの世間話だ」

それに、人生の最期くらい善行をしておけば、神様も慈悲をかけてくれるかもしれない。

カンダタだって、人生に一度だけクモを助けて糸を垂らしてもらえた。

....なんだかんだで、結局地獄には堕ちてしまうのだけども。

蜘蛛の糸ならぬ、梯子に手をかけたところでルナが声をかけた。

ルナ「ヒッキーが死んだら、契約してあげてもいいよっ

へんなことを考えないように、ルナの『家族』にするもん」

八幡「そいつはどうも。だけど、今から新しく家族になるには、結婚でもしないと無理だ」

ルナ「ケッコンってパパとママがしていたやつだ」

八幡「そうそれ。親父曰く、この世で最も危険で陰湿な牢獄に閉じ込められることを意味するらしいぞ」

ルナ「うー、パパとママは幸せそうだったよ」

八幡「それは稀な例だな。ちなみに、離婚率は増加傾向にあるらしい」

ルナ「ヒッキーとなら大丈夫だよ。ルナ、頑張れるもんっ」

確かに、専業主婦として生きていくには、彼女は格好の夫かもしれない。

なにせ、この大きい屋敷のご令嬢だし。幽霊だから食事用意しなくていいし。

幽霊になったら実はすごい節約だよなーって。何を考えてんだ、馬鹿らしい。



153:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/16(木) 23:28:03.66 ID:5VEgu2O40

八幡「…そうだ。もう一つ聞いておきたいことができた」

ルナ「ん?」

八幡「もし俺が死んだら、ラビットさんの契約はどうなるんだ。守るべき対象がいなくなるんだから、取り消しか?」

ルナ「そうだよ。でも、幽霊になったら継続するよ。幽霊でもヒッキーはヒッキーだから」

八幡「ほう、そうなのか」

その返答を聞いて、俺はある種の決意を固めた。

八幡「やはり、俺が死んでも契約はしないでくれ」

ルナ「なんで?」

八幡「ラビットさんと永遠に喧嘩しそうだから。いつか口論の末に刺されるまである」

俺は、梯子を駆け上った。

ルナ(…兎のお姉さんが、いるからだめなんだ)

ルナ「ルナ、頑張るよ」グッ

八幡「?。いや、頑張るな。俺は死んだらそのままがいいんだ」

ルナ「うんっ!」

八幡「分かってるのか?」

ルナ「分かってるってば。早く死んで来てね」

八幡「」



160: ◆SqZQSXA.b2 2017/02/19(日) 02:21:56.31 ID:fW/h3SGm0

蓋を押し上げて、地獄からはい出た。

天国とはほど遠い場所だが、新鮮な空気があるだけで人心地がついた。

裏口の扉によりかかって、息を整える。

八幡「…『早くしんできてね』、なんて嫌な送り言葉だよ。戦地に向かう若者にでもなった気分だ」

既に死亡しているルナにとって、何気のない言葉だったのだろう。

だけど、死に直面している人にとってはあまりに重く、冷たい言葉だ。

八幡「行こう」

それでも動けたのは、このままでは奴等にラビットさんが殺されるという、恐怖からだった。

燃えるような勇気ではなく、身が竦むような恐怖で。

まっすぐな正義ではなく、良心の呵責で初めて、誰かを救える。

どこに行っても、自分は変われない。

それでも行動の結果は同じことが、唯一の救いだ。

俺は、裏口からよろめくように出て、死を求めた。

もちろん自[ピーーー]る勇気なんてものは、これっぽっちも持ち合わせてはいなかった。



161: ◆SqZQSXA.b2 2017/02/19(日) 02:24:15.83 ID:fW/h3SGm0

訂正

蓋を押し上げて、地獄からはい出た。

天国とはほど遠い場所だが、新鮮な空気があるだけで人心地がついた。

裏口の扉によりかかって、息を整える。

八幡「…『早くしんできてね』、なんて嫌な送り言葉だ。戦地に向かう若者にでもなった気分だ」

既に死亡しているルナにとって、何気のない言葉だったのだろう。

だけど、死に直面している人にとってはあまりに重く、冷たい言葉だ。

八幡「行こう」

それでも動けたのは、このままでは奴等にラビットさんが殺されるという、恐怖からだった。

燃えるような勇気ではなく、身が竦む恐怖で。

まっすぐな正義ではなく、良心の呵責で初めて、誰かを救える。

どこに行っても、自分は変われない。

それでも行動の結果は同じことが、唯一の救いだ。

俺は、裏口からよろめくように出て、死を求めた。

もちろん、自殺する勇気なんてものは、これっぽっちも持ち合わせてはいなかった。



162:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 02:06:03.91 ID:yla5SyRF0

化け物達と再び遭遇するのにさほど時間はかからなかった。

向こうはこちらを探していたようで、屋敷の周りをうろついていた自分に気が付くと同時に疾駆してきた。

地面を滑るように移動する化け物のおぞましさに、思わず一歩後ずさった。

が、そこで留まったのは、俺は大馬鹿野郎だからだ。

それから俺に襲い掛かろうとした化け物を、女戦士がなだめたのは不幸のつき始めだった。

女戦士は、俺にうつ伏せに寝かせたかと思うと、両足の健を剣で手際よく傷つけたのだ。

それから堪えずに周囲に響き渡った絶叫をかき消すように、静かに宣言した。

天剣の乙女「これで、お前はまともに歩行することは叶わない。さきほどのようにはいかないと思え」

痛みで悶絶しているときでも、その言葉は自分の心に深い影をおとした。

すぐに、ことを済ませる気はないのか。

せいぜい、ありったけの憎しみをこめて女戦士を睨みつける。

すると、彼女は憐憫の表情を浮かべた。

天剣の乙女「あのまま逃げてしまえば、私たちはきっと見つけることはできなかった。

なのに、どうして出てきた」

八幡「答えると、思うか」

天剣の乙女「いいや、無意味な問いだ。だが、問わずにはいられなかった。

この短時間で、お前をそこまで絶望させたものを知りたくなる」

女戦士は、そこでふっと思いついたように尋ねた。

天剣の乙女「あの子は、どこに置いてきた?」

八幡「……。」

天剣の乙女「フッ。お前も真実を知って、怖気づいたか。

たとえそうだとしても、私は責めたりしない。助けるという行為は、自らを強いと信じている連中がすることだ。

お前の助けなんて必要ないくらい、あの子は強く、かつ狂っていただろう?」



163:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 03:41:05.27 ID:T46TJ1p90

助けることは強者の驕りだと、彼女は言っている。

しかしそんな理屈は、自分に通用しない。

なぜなら、俺は弱者だからこそルナを助けた。

そして、命を投げ出すような行為までしている。

これが、強者のすることなんて、とてもとても言えない。

八幡「アンタはまるで、見てきたように言うんだな。だが、大外れだ。

そんなたいそうな理由で、ルナを置いてきたわけじゃない」

歯を食いしばって、低い声で凄むと彼女は眉をひそめた。

一瞬、視線が交錯してから、彼女は剣を下して肩をすくめてみせた。

天剣の乙女「非礼を詫びよう。どうやら、私が間違っていたようだ」

あっけからんとした謝罪に、呆然とする。

彼女は首元に飾られたロザリオを、掌に載せてみせた。

天剣の乙女「私は、生まれたときより主と共にあった。

それから毎日欠かさず主を信奉し、主の教えを守り、無垢なる純潔を守り、神の兵となることを希望した」

彼女は物憂げな瞳でそれを眺める。

天剣の乙女「これまでの日々で、邪悪を感じとる力はつけたが、とうとうなにか尊くて守るべきものを得ることはなかった。

最近は特に、そう感じているよ」

八幡「お、おう」

目の前で自分の世界に没入されると、居場所がない。

あと、この人マイペースだな。横から化け物が、じりじりと忍び寄っていることに気づいてないのだろうか。

ホラー映画だったら間違いなく、数秒後にはスプラッターな場面になっている。頂けないことに、今回の被害者は自分だが。

天剣の乙女「だからこそ、救いを求める。すべての人間が個人であり、自由であり、それぞれが望む世界を開く。

…私は、過去を全くないものにしたいわけではない。

だが、私にも愛されて生まれた子として生きる権利はあると思うのだ。

そもそも自身の幸福なしに、全世界の幸福なぞありえぬだろう?」

なかなか直線的な考え方をするんだな、この子。実際、喋り方のせいで大人びてみえるが、いいところ陽乃さんくらいの年齢だ。

八幡「それが、今の俺と何の関係があるんすか。宗教の勧誘なら、お金、もっていないですけど」



164:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 03:43:36.18 ID:T46TJ1p90

天剣の乙女「お前たちは、その為の礎となれ。

世界を開く門をつくるには、まず穴をあける必要がある。莫大なエネルギーが必要なのだ。

例えば、大量の魂を消滅させたときのような」

脳裏に呼び覚ましたものは、ラビットさんが屋敷で兎を爆発させたときのことだ。

あれをもっと、大規模に起こしたらどうなるのか。

確かに、空に亀裂が入るくらいには激しい爆風と熱をまき散らすだろう。

そのための燃料代わりが俺たちね。

八幡「わざわざ、ご説明してくれて助かる。なら、そろそろ介錯して魂ごと消滅させてくれるか」

半ば本気で尋ねると、彼女は重々しく口を開いた。

天剣の乙女「恨め。お前を殺したのは私だ」

それは罪の告白であり、彼女がそれでも進むことの意思表明だった。

また、こんなバカげたことのために彼女は数分の間俺を生かしたのだ。

なんて不器用な生き方だ。

八幡「お前は、一生、幸せにはなれないと思うぞ」

彼女の持つ剣の先は怯えるように震えた。

それでも、一人の男の頸動脈を掻き切ったことは、某かの幸せを呼び込むはずのものだった。俺も、そう信じていた。



165: ◆SqZQSXA.b2 2017/03/06(月) 02:42:13.71 ID:Qxs8pp7y0

死んだあと、人はどうなるのか。

その問いは、死んだあと帰ってくるものがいないかぎり永遠の謎である。

しかし、俺はこの謎を解いてしまった。

すなわち、一つの光の粒子となって、黒く覆われた世界を血液が如く巡るのである。

周りには、似たような粒子がいくつもあり、それぞれが異なる色と形状をしている。

青や赤、色鮮やかな原色が重なり合い、万華鏡のような様相を呈しているのに対して

俺は、薄汚れた灰色である。なぜだ、とは問うまい。

さりとて居心地も悪いのも事実、徐々に本流から外れて末端も末端、最も粒子の少ない場所に居座った。

そして、現時点の状況を考える。

俺は、死んだはずだ。

あの女戦士に毒を吐いてから、もの見事に一撃で命を絶たれた。

思わず首に手が伸びるが、果たして、どこが首で手なのかさっぱり分からない。

特にすることもなく、その場でぐるりと一回転する。

すると視界の大部分を黒色の毛で埋め尽くされていたが、その向こうに銀色に輝く物体が見つけた。

はて、どこかで見かけたような気がする。

果てしなく重い毛に体を押し付けるようにして、その正体を見極める。

それはどこからどう見ても…女戦士の甲冑だった。

そして、奇妙な低い音色がどこからともなく響き、女戦士がそれに答える。

女戦士「さっきの相手は…だった。今度は、あの子を探し出し…魂を…抜く」

今度は満足気に鼻をならすような音色が心地よく流れる。

それからは、ずん、ずん、と軽い振動が下から伝わってくる。

まるで、歩いているような…。

そのとき、自分の腕があれば精神を安定させるために、えぐっていただろう。

なぜならここが天国ではないとしたら

あの化け物の身体の中かもしれないという予感が、その灰色の粒子をますます暗くさせたからだ。



168:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/12(日) 18:39:43.57 ID:Y7T4lx8w0

死が終わりと同意義ではないのなら、日本の自殺者は減るだろう。

記憶や思考能力がそのままで、姿はどういうわけか光の玉になる。

失ったものは、外界へ干渉する力だ。

声は出ないし、何かを押すほどの力も重さもない。

鋼鉄の虫かごで這い回る蟻になったような、焦燥と無力感が襲う。

これは、地獄だ。

なまじ、外界を観測できることが苦痛になる。

化け物と女戦士は、なんらかの確信を持って屋敷内を荒らしはじめた。

恐らく、俺が見つかったせいで近くにルナがいると思われたのだろう。

死ぬことに夢中になっていた、自分のせいだ。

ルナに対する親しみや同情はほとんどないが、自分のせいで危険な目に遭うのは、違う。

臆病者の正義に、反している。



169:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/12(日) 19:12:12.80 ID:Y7T4lx8w0

自分を裏切った罪を、これから背負うことになるだろう。

死でも、償えないものができてしまったと思った。

俺の意思とは無関係に屋敷内の家具が、音を立てて破壊されていく。

化け物の馬鹿力によって、居間の三人掛けのソファは無残にもひしゃげて趣味の悪いオブジェクトへ変貌した。

書斎に置かれた本棚は乱暴に倒され拍子に、内臓をぶちまける。

例の簡素なアルバムは、念入りに踏みにじられ、千々に破かれる。

そのたびに、化け物は征服感に満たされる。そして、咆哮を上げることで、どこかに隠れている獲物を挑発する。

この惨状を見たら、ルナは嘆き苦しむだろう。

幸せな思い出を他人に穢されて、平気でいられる人間はいない。

まして霊は言うに及ばず。

その姿を想像するのは、怖くてできなかった。

理不尽に虐げられた子供の泣く姿をみると、人は傷つく。

過去の自分と重ねてしまうからだと、思っている。

だから、自分の放つ光が増々濁っていくのを感じながら、それをただ見ていた。



172:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/12(日) 21:26:41.04 ID:Y7T4lx8w0

長い時間が経った。

広い屋敷の大半を破壊したところで、安息じみた沈黙が訪れた。

暴れまわっていた化け物が、ぴたりと動きを止め

居間の暖炉を調べていた女戦士が、顔あげて慎重に剣を引き抜く。

何事かと目をこらすと

彼らの視線の先には、お世辞にも可愛らしいとは言えない顔立ちの、普通の大きさの兎が窓の前に立っていた。

兎は、耳が萎えさせて言う。

「あぁ今日は糞日だ。一発で見つけちまうなんて、この優秀すぎる耳が憎いぜ」

それから、窓から外へ飛び出した。

それを見て、化け物は狼のようにしなやかに跳躍し、後を追う。

圧倒的な加速によって、景色がぼやけて見える。やはり、彼らの体のつくりは人間のそれとは異なるのだろう。

兎以上の速さまで加速した化け物はあっという間に兎の背後に迫り、その手を伸ばす。

兎「早ぇな!?」

気づいた兎は進路を変えようとするが、時すでに遅し。

化け物は、跳躍の為の隙を見逃さなかった。

兎の縮められた脚を掴んだ瞬間

兎「かかったな。糞人間」

厭味ったらしい言葉と共に膨れ上がったと思うと、今まで圧縮されてきた紅蓮の炎波と目も眩むような極光が中から一斉に放たれる。

思わぬ反撃を食らった化け物は、たまらずけたたましい悲鳴をあげて転げまわった。

目の前が二転三転し、滅茶苦茶に叩き付けられる。

だけどその間に、声を聴いたのだ。

ラビ「ちゃんと手加減はしたわね?」

大兎「あのサイズでは、したくなくてもそれと同じ結果になります。

しかし、あれが本当にあの男なのですか?見た目がよりおぞましくなっております」

ラビ「微かだけど、彼の魂をあれから感じるのよ。契約の効力も途切れていない」

大兎「けっ肉体は失ったようですが、しぶとい」

ラビ「…でも、よかった。終わってなかったのよ」

最悪だ。終わっていたほうがまだましだった。



175:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/13(月) 01:39:05.30 ID:M6LHkDP50

ここまで上手くいかないことなんて、これまであっただろうか。

いや、割と思い当たるのが憎い。

だけど、これだけは上手くいってほしかった。

失敗したときはそう思うのだが、それでもだ。

きっと、誰かの命を守りたいと願うなんて、初めてだからだろう。

願いとは裏腹に、化け物は態勢を立て直し、叢から現れた彼女と一匹を睥睨する。

獲物ではなく、殺すべき敵だと認識したのだ。

同時に、背後から甲冑が鳴る音が聞こえた、

天剣の乙女「兎の霊を操る能力からして、あの子だと思ったのだが。日に二度もネクロマンサーと会うとは思わなかったぞ」

ラビ「ねえ、ぶっ飛ばされたくなかったらあの毛むくじゃらに閉じ込められてるヒッ、ある男の魂を返してよ」

天剣の乙女「お前は自分の立場をまるで分かっていないな。並みのネクロマンサーが、私たちに太刀打ちできるとでも?

      今すぐ、逃げるべきだぞ。これが、それを許すかはまた別だろうが」

大兎「けけっそんな傷だらけの姿で言われても、説得力がないです。逃げたいのはそちらでしょう?」

正に売り言葉に買い文句で、一触即発の状態だ。

逃げなければ本当に、殺されるのだと、ラビットさんに伝えたい。

俺の為に、傷ついたり、死んだりするのは間違っていると伝えたい。

俺がこんな姿になったのは、ラビットさんを巻き込まないためだったのだと伝えたい

それで納得してくれれば、彼女は逃げてくれる。

なのにどうして、言葉がでない。



179:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/16(木) 22:32:16.04 ID:v/io6kpG0

激しい感情は全身を駆け巡り、出口を求める。

だけど、それまでだ。

目を閉じることも、声にだして発散することもできない。

感情は蓄積し、沸きかえり、無理やり押し込まれる。

だめだと思っても、ラビットさんに目線を釘付けにされる。

そして、気づいてしまった。

彼女は、一見落ち着きを払っているようで、足が震えていたのだ。

身も凍えるような悪意を放つこの化け物に怯えているのか、それとも実際に人を殺した女戦士に対してか、あるいはその両方だ。

俺が、彼女に勝ち目がないと悟った瞬間、化け物は動いた。

その爆発的な加速と共にまっすぐ彼女たちに向かうのではなく、あえて弧を描くようにして駆ける。

大兎「この野郎ォ!」

大兎は場を圧するように吠えると、彼もまた化け物に向かって突進する。

二つの生き物が凄まじい勢いで、ぶつかり合った。

そして、運動量の法則によって、両者ともに弾き飛ばされる。

しかし、化け物はすぐに立ち上がり息をつく間もなく、襲い掛かる。

まるで磁石のようにお互いに引き寄せられるように、幾度もなくぶつかるが

化け物は決して取っ組み合おうとはしない。

あの爆発を、警戒しているのだろう。

もし女戦士の言う通り、魂を消費して爆発させるなら

大兎は慎重に機会を伺う必要があるのだろう。

もし失敗すれば、ラビットさんは一人で化け物と女戦士の相手をしなくてはならなくなる。

それは、死を意味していた。



180:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/16(木) 22:56:40.64 ID:v/io6kpG0

一方で、女戦士は卓越した剣術と盾さばきで、ラビットさんと悠々と渡り合っていた。

ラビットさんが四方八方から繰り出す兎は、爆発する前に剣の錆になるか、早く爆発してしまい盾で防がれている。

そして、ラビットさんの攻勢が弱まるのを辛抱強く待っている。

その時が訪れれば、一瞬で勝負はつくとみているのだ。

なのでラビットさんは、手を弱めるわけにはいかない。

彼女は注意深く後退しながら、距離を置こうとしている。

また時折、化け物と大兎の戦闘を盗み見ている。

その隙を狙われ、危うく剣を躱し、兎を放って反撃をする。

彼女がなにかを狙っているのは、明らかだった。



181:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/16(木) 23:33:31.94 ID:v/io6kpG0

大兎と化け物の衝突の回数が、両手両足では足りなくなったところで

ラビットさんは、決心したように女戦士に向かって言った。

ラビット「友達とすこし話があるから、離れてもらうわ」

その手には、四十枚余りのカードが束になっていった。

ラビット『この敵を、私に近づけないで』

一瞬の後にカードはすべて砕け、現れた兎の一群がラビットさんを守るように陣をしく。

女戦士「私を相手にこれほどの余力を残していたとは、賞賛に値するぞ。…次はないようだが」

ラビットさんは、女戦士を大きく後方へ退かせたことを確認してから、肩で大きく息をする。

彼女は短距離を全速力で走ったかのように、初めてこの戦闘で疲弊を見せた。

それでも、彼女はするべきことがあるのだ。

彼女は深呼吸をして息を整えてから、大兎に向かって窘めるように語りかけた。

ラビット「もういいわ。力づくでは、その毛むくじゃらを倒せないのが分かったから」

母親のように柔らかい声は、殺伐としたこの場にふさわしくない。

女戦士は怪訝な表情で、ラビットさんを見る。

しかし、肝心の大兎は見向きもせず

大兎「まだ分からねえ!」

と怒り心頭といった様子で叫び返した。



182:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/17(金) 00:12:22.21 ID:Wqbfw8DD0

ラビットさんは、彼の勇ましい言葉に口元を綻ばせる。

ラビ「そう。あなたなら、きっと倒していたと心から思う。

あなた、負けたことがないものね」

大兎「なら、そこで見てろ!こんな野郎は、すぐにぶったおす!」

敬語もなにもない、荒々しい獣性を露わにし目の前の敵を押しつぶさんばかりに突撃をする。ラビットさんは、その様子をじっと眺める。

ラビ「だって、賢いものね。勝てない相手が現れたときは、私を背負って逃げてくれた。

魔女狩りに襲われたとき、置いていこうとはしなかった」

大兎は返答しない。化け物を倒すことが、答えになるからだ。

ラビ「あなたが私をどう思っているかは、分からない。

   いつも親しげに話しかけてくれるのが、嘘かもしれないと疑ったときもあった。

本当はあなたが私をどう思っているのか、尋ねようと思った時もあった。

でも、しなかった。あなたを疑ったことを知られるのが、怖かったから」

ラビ「だから、ヒッキーに指摘されたとき、『周りからみたら、そうなんだ』と納得してしまったの」

大兎「あの糞人間めっ」大兎は悲鳴ともつかぬ罵声をあげる。

ラビ「でも、ごめんなさい」

ラビ「……わたしはあなたを好きよ」



183:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/17(金) 00:35:17.41 ID:Wqbfw8DD0

ラビ「いつも私を助けてくれたあなたが好き。でも、あなたは知らないでしょうけど

   私だってタスケテ欲しくないときはあったのよ。

   両親が火刑に処されて、村の真ん中で焼かれたとき、私も家族と一緒に死にたかった。

   独りで、こんな世界に生きたくなかったの」

大兎「……。」

ラビ「同じ過ちを、繰り返したくない。

   はっきり言うわ。あなたに助けられた今までの人生に価値なんて、なかった。

    自分にはどうしようもないような苦しくて、嫌なことばかりだったし、相手にも同じ思いをさせた」

ラビ「だから、わたしのことを想ってくれるのが本当なら、力を貸して。私でも、他人の役に立てるところを見せたいの



184:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/17(金) 01:34:07.76 ID:Wqbfw8DD0

大兎はぼそりと、言った。

大兎「分かった、分かったよ。やれば、いいんだろう……ご主人様も立派な糞人間だ。俺様の気持ちなんざ、一つも考えやしねえ」

大兎は了解したことを告げると、化け物から離れて女戦士に向かって今までみたこともないような勢いで迫る。

今まで、兎たちの群れを切り払ってきた女戦士といえど、それを躱すのは不可能だった。

盾を構え、衝撃に備える。

それは、つまり足を止めてしまったということだ。

一方、大兎はみるみるその速度を落としていく。

女戦士(突進してくるわけではないのか?)

盾越しに大兎を覗き見て、串刺しにせんと剣を構える。

大兎は、呆れたように笑った。

大兎「まんまと接近を許すんじゃねーよ、糞人間。盛大にフラれた今の気持ちくらい、考えろ」

その言葉にカウンターするように女戦士の剣が、大兎の喉を一突きした。

そして、頭頂部から飛び出た剣が、へにゃりと歪んだ。

熱によって、剣が鉄の融解温度に達したのだ。

刹那、音速を超える伝播速度の炎が、触れるものすべてを破壊するだけの威力をもった衝撃波を生む。

一言でいうなら、目の前の世界がすべて紅くなったのだ。

それは血と炎で彩られた、美しい世界だった。



187:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/20(月) 01:15:41.77 ID:eD2l9gkH0

その景色に見惚れるのも、一瞬だ。

凄まじい衝撃波が化け物を襲い、木っ端のごとく吹き飛ばしたのだ。

運の悪い大樹にぶち当たるまで、目測にして十数メートルは飛んだだろう。

さしもの化け物も、これには堪えたらしく、その場から動けないようだった。

また体毛が炎によって焦がされ、黒く焼き付いている。

しかし、生きている。

よりその憎悪と怒りを増幅させながら、回復するのを待っているのだ。

それは、誰に対するものなのか。

爆心地に視線を向けると、そこには薙ぎ倒された樹木と土埃が舞うばかりで

生存者は見当たらない。

あれほどの熱量と衝撃波を直に食らって、生きていられる生物はいないだろう。

しかも、アイツは爆発の直前にあきらかな致命傷を負った。

だけど、それで終わりだとは思えない。

今にも、あの生意気な声が聞こえてくるか、無駄に大きい躰がひょっこり出てくる気がした。

だって、幽霊なんだろう。

どんな苦難だって、すり抜けられるのがアイツなんだろう。

こんなところで、終わるなんて、理不尽だ。



188:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/20(月) 01:56:55.06 ID:eD2l9gkH0

時間は悪戯に過ぎていく。

木がパチパチと音を立てて爆ぜている。

その間、化け物は躰を動かそうとしていた。

右手の人差し指から始まり、右手の5本の指、それから右手首とゆっくりと力を伝える。

動作は緩慢ではあるが、これといった不具合はないようだ。

化け物は、復活しつつあった。

そして、誰かに復讐を果たそうとしている。

化け物がようやく立ち上がったところで、俺にもその相手を見つけることができた。

洋服の大半が焼き焦げ、至る所に火傷を負ったラビットさんを。

白くきめ細かい肌は、赤く水ぶくれを起こし、ひどいところでは黒く変色していた。

目を覆いたくなるような、惨状だ。

そして、彼女の表情は苦悶に満ちていて、それでも動けないでいた。

彼女は、化け物より確実に深い傷を負い、そして弱っている。

その彼女を化け物は殺そうとしていた。



189:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/20(月) 02:18:28.94 ID:eD2l9gkH0

化け物は、一歩一歩距離を詰めていく。

ラビットさんは、そこでようやく気が付いたようだった。

しかし、うごけない。

ただ、その場で倒れ伏したまま、化け物がやって来るのを眺める。

だが、彼女の深い藍色の瞳は、じっと化け物の中の自分を見ている気がした。

責めているわけでもなく、止めてくれと懇願するわけでもない。

『もう少し、我慢していてね』と、優しく語りかけていた。

俺は戸惑い、そして混乱した。

彼女は、なにかを狙っている。

だが、自分にはそれが分からない。

このままだと、殺されるのは彼女なのに、どうしてそんなに落ち着いていられる。

なぜ、微笑んでいられるのだ。

言いようのない悪寒が、全身を駆け巡った。

彼女は、まるで、死を望んでいるようだ...。



190:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/20(月) 02:54:06.91 ID:eD2l9gkH0

化け物が、とうとう彼女の前に立った。

化け物がもう威嚇のために咆哮することはない。

それほどに、両者の差は開いている。

化け物の体格は、ラビットさんの二倍近くあり、動けない彼女は化け物にとって

餌も同然だった。

化け物は、仰向けに倒れていた彼女に、乱暴に覆いかぶさった。

彼女はその衝撃にこらえられず、小さく呻く。

だけど、抵抗する素振りは見せない。

化け物は、そのほっそりとした首すじへとゆっくり手を伸ばした。

その直前に彼女は、囁いた。

ラビ『私は、あのとき、幸せになる権利を失ったのね』

それが、彼女のラストワードだった。

独りの兎は、首を絞められて、しんだ。



193: ◆SqZQSXA.b2 2017/03/21(火) 01:10:09.83 ID:qmsQDqXq0

目の前で、ぼきりと嫌な音を立てて、彼女の首が折れたのだ。

終わってしまったと、おもった。

彼女は、もうこの世界に戻ってこない。

もう、二度と話すことはない。

その事実が周りを取り囲んで、苛む。

殺した奴が憎いだとか、何を彼女は狙っていたのかとか、そういう理性的なことはどこかへ吹き飛んでしまった。

漠然とした悲しみが胸の奥から溢れて、心を溺れさせる。

呼吸をするのが、苦しい。

どうして、彼女は死んで、自分はこんなふざけた姿になってまで生きているのか。

これは、間違っているじゃないか。

俺が望んだ物語は、『自分は惜しくも死んだが、彼女は契約という縛りから解放されて、自由に生きていく』というものだったのに。

あぁ、すべてがどうでもよくて、無関心だ。

誰も、彼女を助けようとはしなかった。

彼女自身すら、それを否定したのだから当然と言えば当然。

だけど、それを受け止めることは、今の自分にはできそうもない。



194: ◆SqZQSXA.b2 2017/03/21(火) 03:24:53.94 ID:qmsQDqXq0

自分の、この世界での物語は、ここで終わっていた。

簡単にいえば、バッドエンド。

主人公含めて、誰も救われない最低の終わり方だ。

これからのことは、蛇足であり、後味を良くするために陽乃さんが用意したものに過ぎないと思っている。

本来は報告書に書くほどのことでもない。

しかし、自分への戒めと、忘却への恐れから続きを書こうと思う。

まず、化け物は、長く生きられなかった。

ラビットさんの呪い、というよりはネクロマンサーの呪いが化け物を殺した。

ネクロマンサーを殺さば、穴二つとは、あの世界の諺である。

なぜ、こんなことになったのか。

それはネクロマンサーの成り立ちから書く必要があるだろう。

もともとネクロマンサーとは、黄泉の国から死者を呼び起こすものだ。

特筆すべき点として、死者はそれ自体が悪なのではなく、最後の日には呼び戻されて審判を受け

永遠の生命を与えられる者と地獄へ墜ちる者とに分けるという復活の思想があることだ。魔女狩りで火刑にされるのは、そういう側面がる。

そして、ネクロマンサーは悪魔の力を借りて、復活させると信じられていた。

これは、神に対する冒涜であり、決して許してはならないものだった。

ゆえに彼女らは迫害され、それに対する対抗策も講じている。

それが、化け物を殺した呪いである。

殺したものを、殺す。

単純であるが、効果はあった。



195: ◆SqZQSXA.b2 2017/03/21(火) 03:44:17.44 ID:qmsQDqXq0

ラビットさんがこの方法を選んだことは、二つの理由があると思う。

一つ目に、あの大兎の爆発はあまりに強力で、そして不安定だった。

化け物といえど、あれを至近距離で食らえば、蒸発していた可能性がある。

自分もろとも、だ。それは彼女の契約に反していて、選べない。

だから、最初に力づくで抑えようとしていたのではないだろうか。

女戦士と化け物が強くなければ、また別の道があったと思う。

二つ目に、彼女自身が、終わりを望んでいたことだ。

間の悪いことに俺は、彼女を拒絶し、深く関わろうとしなかった。

そして悪戯に彼女の傷を広げた。

この点において、陽乃さんの期待を裏切らなかった自分が、悲しい。

このまま鉛筆を置いて、身を投げたい気分だ。もちろん、布団にだが。



198: ◆SqZQSXA.b2 2017/03/21(火) 22:43:24.22 ID:qmsQDqXq0

さて、化け物がやられたところまでは書いた。

それからどうなったというと、化け物が死んですぐに頭上からえらく露出度の高い生き物がやってきたのだ。

葡萄色のビキニアーマーに、背中には黒翼が忙しなく動いていて、首元からはふさふさの羽毛が生えている。

一応、頭は耽美な女性の顔だがこれを人間と呼ぶのは憚れる。

彼女は化け物の死体を一瞥してから、どこからともなく取り出した大鎌で化け物の首を切り落とした。

魂が吹きこぼれるのを、手で押さえながら二人の名前を幾度も呼ぶ。

どこかで聞いた名前だと思ったら、アルバムに載っていたルナの両親の名前が混ざっていた。

恐らくは、彼らの通り名ではなく、フルネーム。

なにかしらの強制力を感じる声によって、二つの魂が化け物の身体を通って出ていった。

彼女は、それを大切そうに胸の谷間に押し込んだ。

彼女は用が済んだととばかりに、化け物を軽々と担ぎ上げると、そのまま屋敷へ向かった。

そのときの自分は化け物の身体の中から、ぼんやりとそれを眺めていた。

ラビットさんが死んで、全てがどうでもよく思えたからだ。

見ると、その女はルナの屋敷に精通しているらしく、屋敷の裏口へ回り隠し通路をいともたやすく見つけ、降りて行った。

そして、待っていたと言わんばかりに駆け寄ってきたルナに、化け物の身体を渡したのだった。

???「きっと、この中に貴方の望む男がいるわ」

ルナは、右手にペーパーナイフを握りしめて、お礼を言う。

ルナ「死神さん、拾ってきてくれて、ありがとう!」

それから、いそいそと化け物を解体し始める。

体毛を取り除き、閉じ込められていた魂をひとつひとつ検分していく。

お目当ての魂が見つからないらしく

あれでもない、これでもない、と言ってぽいぽいと魂を放り捨てる。

その魂たちは、まるで見えない引力に引っ張られるようにして悪魔像の口へと吸い込まれていった。



199: ◆SqZQSXA.b2 2017/03/21(火) 22:44:59.21 ID:qmsQDqXq0

やがて、ルナは俺をその柔らかい手でつかむと、歓声をあげた。

ルナ「ヒッキー、みぃつけた!」

彼女は、俺を担ぎ上げて、その場でくるくると回る。

それに飽きてやめたかと思うと、俺をじっと見つめはじめた。

ルナ「なんかヒッキーの魂って変な色をしてる。ぷふふっ」

余計なお世話だ、ほうっておいてくれ。

ルナ「この姿は、いや?」

別に、どうでもいい。

ルナ「ルナはいや。形はあった方が、好きなの」

ルナ「ヒッキーは、特別にルナの人形に入れてあげる」

どうでもいいどうでもいいどうでもいいどうでもいいどうでもいいどうでもいい。

ルナ「あとはパパとママを返してもらえば、家族がそろうんだよ。

  その為にはまた百の命を奪えば、いいんだって」

ルナの後ろで、女が妖艶な笑みを浮かべる。

ルナ「これからはつらい時も、たのしい時も思いを共有して、分かちあうの。

   それって、すごく幸せなことなんだよ。

   今のルナの存在する理由は、その幸せが欲しいだけ」

ルナは、その濡れた瞳をこすりながら、自分に尋ねる。

ルナ「ねえ、ヒッキー」

ルナ「ルナの家族になってくれる?」



そこまでいったところで俺は、晴れてゲームオーバーになった。



200: ◆SqZQSXA.b2 2017/03/21(火) 23:06:26.26 ID:qmsQDqXq0

気づけば、俺は病院の白いベッドで寝かされていた。

そばには看護婦が付いており、彼女は患者の意識の覚醒を確認すると、部屋から出ていった。

ぽけーっとその場で待っていると次は医師がバインダーを持ってやってきた。

医師は自分の名前やら誕生日やらを聞いてきたので、意味も分からず答える。

それをひととおり聞くと、壮年の医師はにっこりと笑った。

医師「よかった。脳に影響はないようですね」

はて、今の質問で分かるのだろうか。

普段の俺だったら、クラスの誰に聞かれても答えるか怪しいのだが。

疑問もさておき、医師は、俺の身体をさわり始めた。

これはさきほどより、不快だった。

患者の脚を親指で思いっきり押しておいて、痛いですか?なんてふざけた質問だ。

問われる前にギブです、と言ってしまった男の気持ちを考えてほしい。至極、みじめだ。



201: ◆SqZQSXA.b2 2017/03/21(火) 23:27:11.53 ID:qmsQDqXq0

それなりに満足したらしい医師が去ったあと、自分がなぜここにいるのかを考え始めた。

俺は異世界で調査という名の遭難していたはずで、こんな現代社会に舞い戻ってしまうような出来事はなかった。

しかも、自分の姿は手も足もない光の玉になっていたはずだ。

ルナと話した後、自分の身に一体なにが起きたんだ。

混乱が極まってきたところで、病室の扉が静かに開かれた。

陽乃「ひゃっはろー。なんて、今の状況には合わないか」

彼女は自嘲気味に挨拶をすると、俺に小さく手を振った。

陽乃「比企谷君、お医者様から聞いたよ。

ひとまずは、無事でよかった」

八幡「……雪ノ下さん」

陽乃「大丈夫。比企谷君の抱いているであろう疑問は、全て解決してあげる。

   わたしはそのためにやって来たんだから。それと、謝罪もしなきゃね」

陽乃さんが表情を曇らせて言った。



203: ◆SqZQSXA.b2 2017/03/21(火) 23:54:09.47 ID:qmsQDqXq0

陽乃「そもそもの話をすると、比企谷君は異世界に行ってないの」

八幡「は?」

陽乃「異世界に見えるような、映像を脳に送り込んだだけ。

   異世界にあるものに触れたとき、その刺激を脳に与えただけ。

   比企谷君は、この世界にずっと存在していたし、それを私たちは観察していた。

あのとき、比企谷君が乗ったのは異世界探査機じゃない。

あれはね、とある企業とうちの大学が共同で開発したゲームの試作機なんだよ」

八幡「つまり、俺は実験動物だったわけですか?」

陽乃「動物でテストする段階はとっくに終わっている。

これは最終段階、人間でしないと意味がないものなの」

陽乃さんは出来の悪い生徒を愛しそうに微笑みかける。

陽乃「それに人間による実験もこれまで何千回としてきた。

比企谷君が、不幸なことになる確率は非常に低かったよ」

八幡「じゃあその延長で、俺は無作為に選ばれたということですか」

陽乃「ううん。比企谷君はね、いちばん過酷な条件で挑んでもらったの。

比企谷君の会った子たちを、覚えてる?彼女らは、心に傷を負っているたでしょう。

そういった子と関わって、さらにひどい目にあうようなストーリーを選んだの。

彼女らと共感しやすい人間を主人公に据え置くことで、どのくらいのストレスが発生して、どのような影響がでるのか、調べる必要が私たちにはあった」

八幡「なんのためにですか」

沸き上がってきた怒りを懸命に抑えながら、尋ねる。



204: ◆SqZQSXA.b2 2017/03/22(水) 00:13:45.97 ID:D32HDkJJ0

陽乃「比企谷君は、耐久試験を知ってるかな。

自動車とか、そういった人間の命に関わるようなものには必ずそれをするの。

自動車が衝突したとき、どれくらいの圧力が発生して、どれくらい破壊されるのか。

気温が零度のとき、あるいは40度を超えるような猛暑のとき、エンジンはしっかりと回るのか。そういったことを調べるのが耐久試験。

でもね、これには一つ大きな欠点があるの。分かる?」

八幡「……いくら調べても、きりがないってことですか」

陽乃「さすがだね。確かにありとあらゆる条件を調べれば、その分安全性は増すよ。

だけど、時間とお金がかかり過ぎる。

とくに現代社会の歩みは、そんなことを待ってくれない。

企業が生き残るには、実際の生産までいかに早くたどり着けるかがとても大切。

こういうときの常とう手段が、極限な状態での試験なの。

より速い速度で、衝突して安全を確保できるか

より低い気温、あるいはより高い気温下でエンジンが回るか。

現実的ではないけれど、安全を証明してくれる一つの方法。

それが比企谷君が選ばれた理由、納得してくれたかな」




205: ◆SqZQSXA.b2 2017/03/22(水) 00:36:02.40 ID:D32HDkJJ0

八幡「つまり、俺が精神的に脆弱だから、選ばれたわけですね」

刺々しく言い放つと、陽乃さんはさらりとかわした。

陽乃「あれ、言ってなかった?。比企谷君は強かったよ」

八幡「え?」

陽乃「途中まではいい感じに絶望していたんだけど、急にルナ様の屋敷へ向かうーだなんて言い出してから、ハイになってさ。

それからは意図的に状況がまずくなるようにしたんだけど、やりたい放題だったもんねー。

その後、あの子が死んだとき、君は強いストレスを感じたけれど、あれは私も同じくらいの値を示したからやはり正常だね」

八幡「陽乃さんも、したんですか」

陽乃「もちろん。私の場合、あの子を改心させたところまではよかったんだけど

目の前で骸骨にばっさりやられてね。あれはきつかったなー」

八幡(それで、ストレスが同じ値かよ。

俺の心が硝子でできているなら、陽乃さんの心はミスリルでできているな。現実のものでは推し量れないという意味で)



207: ◆SqZQSXA.b2 2017/03/22(水) 01:08:14.85 ID:D32HDkJJ0

陽乃「だから、今回の実験は、データとして企業に提出できるかは微妙なラインだね。

   これから、また実験をしなければいけない」

八幡「またいたいけな少年少女を毒牙にかけるんですか」

陽乃「ひどいなぁ、私だって、好きで嘘をついたわけじゃないよ。

   実験する前に情報を与えたかったけど、それでストレスが軽減されるようなことがあればデータに全く意味がなくなる。

   実際、私は研究に着手していたから、私の冒険データは認められない。

   すべて消去されて、記憶の中にしか残らないんだよ」

八幡「…そういえば、それが異世界探査機という偽の説明は雪ノ下から聞きましたね」

ワームホール理論だの宇宙ひも理論だの持ち出して理論で俺をねじ伏せた、雪ノ下の辣腕たるやまさにユキペディアの称号にふさわしい。

もちろん、多少の嘘が含まれたもっともらしい事実、と言う意味でだ。

陽乃「比企谷君は、雪乃ちゃんを信用しているようだったから、私からお願いしたんだよ。

   何度も泣きついて断られて、交渉に交渉を重ねた末のものだから、責めないであげてね」

八幡(まあ、陽乃さんの本気の交渉にかかれば、俺にもカラスは白いと言わせることができるだろう。というか、カラスにスプレーをかけて染めるまである)

陽乃「さて、大体説明したかな。比企谷君」

陽乃さんは、ぴしりと姿勢を正して俺を見る。



208: ◆SqZQSXA.b2 2017/03/22(水) 01:39:05.68 ID:D32HDkJJ0

陽乃「このたびは実験の件でご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございませんでした。

私の認識不足で、比企谷様を危険に晒したことは弁解の余地もありません。

今後は二度とこのようなミスがないよう、最新の注意を払う所存でございます。

何卒ご容赦のほどお願い申し上げます」

陽乃さんは、両手を重ねて、頭を下げた。

年上の女性に、ここまで真摯に謝られたことのなかった俺は、正直面食らってしまった。

そしてすこしだけいいなと、思ってしまう。

あの陽乃さんが俺に謝るなんて、もう望めないだろう。

俺は数秒間、勝者の余韻を味わってから、頭を上げるよう伝えた。

八幡「分かりました。もう、俺にちょっかいをださないでくださいね」

陽乃「比企谷様とは、末永くお付き合いしていただきたく存じます」

彼女は自然に筋肉がゆるむような笑顔で言った。それを見たら、俺はなにも言えなくなってしまう。

けっして、美人に弱いわけではない。

好意から発せられる本音に弱いのだ。



209: ◆SqZQSXA.b2 2017/03/22(水) 02:12:06.67 ID:D32HDkJJ0

それから陽乃さんは、立ち去ろうとしていた。

時刻をみると、すでに夕方だった。

彼女が病室のドアに手をかけたところで、不吉な言葉を放つ。

陽乃「そういえば、比企谷君が意識を失ってから雪乃ちゃんと、ガハマちゃんがすっかり気落ちしちゃったんだよね。

ガハマちゃんなんて、後から説明したのに、私を止められなかった責任を感じているみたい」

おもむろに額に手をあてて、物憂げなため息をついてみせる陽乃さんは、諸悪の根源である。

八幡「雪ノ下さんが、なんとかしてください」

陽乃「もちろん、私からもフォローするよ。でも、あの子たちが欲しいのは、私からの言葉じゃないんだよねえ」

そう言い終わらない内に、陽乃さんの携帯端末が唸る。

陽乃「比企谷君のことを知らせたから、もうすぐ来るんじゃないかな」

彼女は端末を開きもせずに、言った。

……陽乃さんが俺を精神的に成長させるために、今回の件を仕組んだとしたらと疑ってしまう。

だけど、それでも感謝はしよう。陽乃さんと、俺を変えてくれたら物語と登場人物に。

八幡「雪ノ下さんに、一つだけお願いがあります」

陽乃「ん?なにかな。珍しいね、わたしにお願いなんて」

八幡「あの子たちが幸せになれるエンドを、作ってほしい。

   もし、一般人があれを売り出しても、ヒットしないと思います」

陽乃さんは、真顔でくるりと振り替えた。

陽乃「私も企業に掛け合っているところ。

プロデューサーがなかなかの難物で時間はかかるけれど、きっと作ってみせる」

自信に満ち溢れたその言葉に、安心した。

彼女なら、きっと叶えるだろう。

それが雪ノ下陽乃という、女性なのだから。

彼女が去った病室は、静かでほの暗かった。

だけど、これから夜にかけては、きっと騒がしくなるだろう。

比企谷八幡が、雪ノ下雪乃と由比ヶ浜由衣に話したいことはたくさんあって

彼女らもまたそれを貯めこんでいるだろうから。

やはり俺の青春ラブコメは間違っている。それが分かったのだから、今回の物語に意味があったと、強く思う。




おわり



元スレ
ルナ「ルナのお友達になってくれる?」八幡「や、その友達とか良くわからないんで」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1472143574/
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         コメント一覧 (22)

          • 1. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年03月22日 14:21
          • ※2産業で説明頼む
          • 2. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年03月22日 14:33
          • 文章は読みやすいが長く
            八幡が原作以上に痛々しいので
            とても読みきれないSS
          • 3. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年03月22日 15:55
          • うーん、ゴミ!w
          • 4. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年03月22日 16:04
          • ただの陰キャが過大評価されすぎやろ
          • 5. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年03月22日 16:51
          • 他のラノベじゃモブ程度が主人公にしたら陰キャに当たっただけの勘違い主人公(笑)
          • 6. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年03月22日 17:38
          • ※3とまったく同意見だわ。
            書いた人は頭良いのかもしれないけど、ところどころ描写が難しくて途中で飽きそうになった
          • 7. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年03月22日 17:39
          • 俺ガイルssってとこだけは評価したい。
          • 8. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年03月22日 18:00
          • 読み終わったけど、うーん
            なんか化け物になったとこから頭ぽかーんだった
          • 9. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年03月22日 20:32
          • これで描写が難しいってマジで言ってんのか……。

            バッドエンドというかビターエンドというかなので後味悪いのは確かだけどそのあたりは好みだな。よく書けてるSSだとおもったわ。自分は好きじゃないが。雪ノ下やラビーさんといちゃいちゃしてほしかったんです。

            まぁ間違ってもゴミみたいな感想書かれる出来じゃないよ。
          • 10. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年03月22日 20:38
          • 陰キャにはこの痛々しいコミュ障高2病患者が主人公ってだけで受けるんだろ。
          • 11. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年03月22日 21:07
          • お前に負けるなら悔いはないさ・・・
          • 12. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年03月22日 22:18
          • ルナのカムラだよ

            はいライブラ

            ルナの負けだよ
          • 13. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年03月22日 23:17
          • とりあえずBAD辛いんですがええ。
            いやまぁまだ事情聞けたしマシなんだろうけどさ。
          • 14. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年03月22日 23:17
          • 文章はうまいけどネタがインキャくさくて読めたもんじゃないっていってんだろ。
          • 15. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年03月23日 01:41
          • ストーリーと世界観わからないのに書こうと思うとかすごいな
          • 16. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年03月23日 01:59
          • 予防線だろ。そのくらい察しろ
          • 17. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年03月23日 02:28
          • 全部読んだ
            ストーリーも世界観も別にそこまでズレてないと思うよ
            俺はすんげー好きだった
            ネクロ側のキャラがだいたい低耐久で心配になるから父性強めの人は読み入るんじゃねーかな
            ラビットネクロマンサーかわいいなぁからの鬱展開の連発でダメージがデカい
            ラビットさんが全身に火傷を負って身動きをとれぬ間に首を折られるのはさすがにキツい

            わりかし古いssだけどこれのHAPPY ENDルートも書いてくんねーかなぁ...
          • 18. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年03月23日 03:27
          • 2 ルナの負けだよ
          • 19. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年03月23日 03:31
          • これが最近SS界隈で小耳に挟むハチマンによるクロス先レ◯プってやつか
          • 20. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年03月23日 03:32
          • 酷評されるほど悪くない。むしろ良い。
            ただ、求めてた物とは少し違っただけ。
            案の定イキ杉田ホモ和沸いてて草
          • 21. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年03月24日 13:50
          • SS読んでこんな所に書き込んでる人間がさも自分は陰キャじゃないかのような感想持ってるのが笑えるわ
            ※欄に陰キャ以外がいるわけねーだろ
          • 22. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年04月02日 10:29
          • 写真あるのか…ssはよかったと思います

        はじめに

        コメント、はてブなどなど
        ありがとうございます(`・ω・´)

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