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ドッペルゲンガーと人生を交換した話

1:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 20:17:04.34 ID:EjVEnkhT.net

ドッペルゲンガーって知ってる?
そうそう、自分とそっくりで見たら死ぬってやつ。
見たんだそれを。ドッペルゲンガーを。
ついさっきのことなんだけど。



3:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 20:18:02.51 ID:EjVEnkhT.net

二時間くらい前、学校が終わって家に帰る時だ。
いつも通り電車に乗って、駅から家に向かって歩いていた。
それで、十分くらい歩いた頃かな、狭い路地だったんだけど、目の前に俺がいたんだ。
いや、ふざけてるわけじゃなくてさ、本当に俺なんだよ、目の前にいたそいつは。何から何まで俺にそっくりなんだ。顔も体型も全部。
あまりにも似ているから驚いちゃってさ。何もできないで立ってたんだけど、そしたらそいつはニコッと笑ったあと、路地の角を曲がっていった。
追いかけたんだけど、もうどこにもいなくてさ。それからはもう本当、大変だったよ。俺は走って家に帰って、自分の部屋で布団をかぶって震えてたんだ。本当に怖かったからね。



4:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 20:18:35.59 ID:EjVEnkhT.net

ここで終われば少し怖い話で済んだんだけど、
もっとも、俺にとってはとても怖い話だけどな。
それでさ、布団の中にいたら突然インターフォンが鳴る音が聞こえたんだ。
心臓が止まるかと思ったよ。
というのも俺はなんでか音の主があのドッペルゲンガーだって確信してたんだ。
もう本当に怖かったよ。
俺で自家発電できるくらい震えてたんじゃないかな。
本当だったらそんな怪しげな来客は無視して、家族が帰ってくるまで布団をかぶっているはずの場面なんだ、いつもの俺ならね。
だけど、なんでか俺はあのドッペルゲンガーに興味が湧いたんだ。
もちろんすごく怖いんだけど、あいつと話してみたいと思ったんだ。自分でも訳がわからなかったけどね。



5:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 20:21:06.08 ID:EjVEnkhT.net

それで俺は玄関に行って、恐怖を押し殺してドアを開けた。そしたらやっぱりそこにいたのはドッペルゲンガーだった。
それで、あいつはとても自然に、普通に家に入ってきたんだ。まるで俺であるかのように。
本当、家族が出かけてて良かったと思うよ。どっちが俺だかわからなくなっちゃうからね。
それくらい似ているんだ。俺が制服であいつは私服。違いはそれくらいしかないんじゃないかな。



7:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 20:21:38.60 ID:EjVEnkhT.net

そして、今に至るわけなんだけど。
今俺は、同じ顔したやつと、自分の部屋で向かい合っているんだ。
本当おかしくなっちゃいそうだよ。
「こんにちは」
また心臓が止まるかと思った。
こいつが何を考えているのかわからない。何故、突然挨拶をしてきたんだ。それにこいつ声も俺とそっくりだ。こんなに似ているなら、もうそっくりというより、一緒と言った方が正しいな。



9:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 20:22:12.59 ID:EjVEnkhT.net

正直今すぐここから逃げ出したい。だけど、そういうわけにもいかない。ここで逃げたら、ずっとこいつに怯えて暮らすことになるからな。
だから俺は声を振り絞って聞いた。
「お前は何者だ」
こんな映画みたいなセリフ、まさか俺が言うことになるとはな。本当、恥ずかしいよ。



11:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 20:23:14.48 ID:EjVEnkhT.net

「僕は貴方です」
こいつは何を言っているんだ。
どういう意味だ。ふざけてるのか?
「はは、冗談ですよ。僕は貴方じゃありません」
なんなんだこいつは。
わからないことだらけだけど、一つだけわかったことがある。
俺はこいつが嫌いだ。こういう軽いやつが、俺は大嫌いなんだ。



12:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 20:23:45.98 ID:EjVEnkhT.net

だから俺は、苛立ちを隠さずに聞いた。
「いい加減にしろよ。お前はいったいなんなんだ。ドッペルゲンガーかなにかなのか? 俺は死ぬのか?」
「違うと思いますよ」
「違う?」
「ドッペルゲンガーではないと思います」
「ならお前はなんなんだ。なんでそんなに俺に似ているんだ」
「というより貴方は、勘違いをしてますね」
「勘違い?」
「そもそも、僕が貴方を知ったのはつい最近なんですよ。始めてみたときは驚きましたよ。僕が目の前にいたんですからね。それで貴方が何者か調べようと思って、貴方を尾行してたんです」



13:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 20:24:30.94 ID:EjVEnkhT.net

どうやら彼の話をまとめると、三日前彼は駅で俺を見かけたらしい。
それで俺に興味を持ってずっと尾行していた。
そして俺のことが大体わかってきたから、話しかけることにしたそうで、ドッペルゲンガーとかではないみたいだ。
「もっとも、こんなに似ているんですから、ドッペルゲンガーや生き別れの双子とかの方が納得できますけどね。僕は」
彼はそう言ったが、俺も正直同感だ。そんな理由がないと説明がつかないくらい俺達は似ている。



14:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 20:25:14.39 ID:EjVEnkhT.net

そんなことを考えていると、一つ疑問が頭をよぎった。
「ならどうして路地で逃げたんだ。あそこで俺に話しかければ良かっただろ?」
俺はその疑問をすぐ彼に投げかけた。
「それは、簡単なことです。退屈だったからですよ」
「は?」
「尾行というのはほとんどが待つ時間なんですよ。学校の外で貴方を待ったり、コンビニの、外で待ったり、あれほど退屈な時間はないですね。それに僕は、わざわざ高校を休んでまで貴方を尾行してました。だから、少し驚かせたら面白いかなと思って」
ふざけるなよ。そんなことのために俺は、恐怖体験をさせられたのか。
やっぱり俺はこいつが嫌いだ。



15:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 20:25:49.14 ID:EjVEnkhT.net

「それでここからが本題です」
彼は急に真剣な顔になった。俺はこういう顔に弱いんだ。相手が真剣なら自分も真剣にならなきゃいけない。非常に面倒くさいことに。
仕方がないから俺も真剣な顔になる。
すると彼はその本題とやらを話し始めた。
「僕と入れ替わりませんか?」
「は?」
思わず間抜けな声を出してしまった。今日だけで何回めだろう。いったい俺は何回驚けばいいんだろうか。
このまま話を終わらせるわけにもいかないので、声を整えて、俺は聞き返す。
「どういうことだ?」
「よくある話ですよ。主人公と王子様が入れ替わって一日すごすとか。そういうやつです」
「それをなんで俺達がやらなきゃいけない?」
「そんなのわかってるでしょ。顔が似ているからですよ」
やっぱりこいつはふざけているんだろうか。
本当に嫌なやつだな。



16:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 20:27:08.76 ID:EjVEnkhT.net

「僕はこの三日間、貴方を尾行していました」
「それはさっき聞いた」
「では、その感想なんですが」
「感想?」
「そう、感想です。失礼ですが言わせてもらうと、貴方は本当につまらない人生を送っている。つけている僕が飽きてくるくらいにね」
「本当に失礼だな」
俺はそう返したが、正直こいつが言ったことは
本当のことだ。俺はつまらない毎日をただなんとなく生きている。
「貴方もそう思っているのではないですか?」
心の中を見透かされているみたいな彼の問いは、俺の心をキツく抉った。
「そうだな、確かに俺はつまらない人間だ。毎日、ただなんとなく高校に通って、特に親しい友人もいないし、部活で綺麗な汗を流すこともない」



18:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 20:29:34.91 ID:EjVEnkhT.net

「そうでしょう」
「なら、どうしてお前は俺と入れ替わろうとするんだ? お前になんのメリットもないだろ。それとも、お前は俺よりも酷い高校生活を送っているのか?」
これ以上、俺の高校生活の話をしても、惨めな気持ちなるだけなので、話を元に戻した。
「いいえ。自分で言うのもなんですが、僕は客観的に見ても素晴らしい高校生活を送っています。
僕も部活には入ってませんが、放課後は大体、友人との予定で埋まっていますし、この三日間学校を休んだら、心配する連絡がたくさん送られてきました。どこからどう見ても、僕は充実した生活を送る高校生でしょうね」



19:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 20:30:09.99 ID:EjVEnkhT.net

「なら、どうして?」
「飽きちゃったんですよ」
「飽きた?」
「そうです。充実したスクールライフに飽きちゃったんです。毎日楽しいですよ。でも心のどこかに、何か違和感があるんですよ。
僕が思ったように、全てがうまくいく世界にどこか違和感を覚えたんです。
そんな時、僕と同じ顔なのに、本当に酷い生活をしている貴方を見つけました。
そんな貴方を見て、思ったんですよ。この人の生活を変えてみたいと。
うまくいかない人生を変えていって、思い通りにする。こんなに面白いことはないんじゃないかってね。
それなら、僕が貴方になって、好感度を上げていけばいい。要するに人生ゲームですよ。リアル人生ゲーム。面白そうでしょ?」



20:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 20:30:52.70 ID:EjVEnkhT.net

「ふざけるなよ。人の人生をなんだと思っているんだ。なんでお前のゲームに俺が協力しなきゃいけないんだ」
「そう怒らないでくださいよ。それに、これは貴方に取ってもいいことなんですよ。僕と入れ替われば、貴方に待っているのは楽しいスクールライフです」
「だからなんだっていうんだ。それに俺はこんなに人生でも、今まで自分なりに生きてきたんだ。それを捨てようとは思わない」
これは本当のことだ。確かにゴミのような人生だけど、それでも俺にとっては、やっぱり大切な人生なんだ。



21:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 20:31:41.40 ID:EjVEnkhT.net

「ちょっと待ってください。別に永遠に入れ替わろうなんて言ってません。
僕はただ貴方の生活を良いものする過程を楽しみたいだけです。その後はどうでもいい。
そうですね、二週間。二週間僕と入れ替わってくられば貴方の生活を良いものにしましょう。
これなら貴方に取っても良いことだらけだ。二週間は楽しいスクールライフが送れるし、それが終わった後も、好感度を上がった状態で生活できる。」
「だけど……」
苛立ちは少しおさまったが、俺はやっぱり踏み切れない。そんなに簡単なことなのだろうか。



22:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 20:32:32.78 ID:EjVEnkhT.net

「それに、貴方だってこのままの状態でいいとは思ってないですよね?もっと良い高校生活を送りたいとは思いませんか?僕ならそのお手伝いができます」
こいつの話を聞いていると、本当に入れ替わった方がいいように思えてくる。俺を騙しているんだろうか? いや、俺を騙していいことなんかこいつには一つもない。こいつは本当にゲームを楽しみたいだけなんだろう。
「どうですか、僕と入れ替わりませんか?」
「わかった。やってみよう」
いろいろ考えた後、俺は返事をした。
とりあえず試してみようと思ったからだ。
あまり好きな言葉ではないが、こんなに似ているんだ、入れ替わるのは運命なのかもしれない。
「良かった。それじゃあとりあえず、今後の計画を練りましょうか。安心してください、必ず良い結果になりますよ」
こうして俺達は入れ替わることになった。



24:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 20:33:23.42 ID:EjVEnkhT.net

それで、とりあえず彼の家に向かうことにした。もちろん別々に。
どうやら彼は、一人暮らしをしているらしい。アニメの主人公みたいだな。という言葉を押し殺して、彼の家に向かった。



25:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 20:33:49.55 ID:EjVEnkhT.net

家に到着して、俺達は話し合い
・お互いの不利益になることはしない。
・一日の終わりに電話で大体のことを報告する。
という二つのルールを決めた。
それから、お互い知っとかなければいけないことを教えあった。



26:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 20:34:52.37 ID:EjVEnkhT.net

「それじゃあ、わからないことがあったら、連絡してください。僕もそうしますので」
「ああ、わかった」
「後、携帯は周りには壊れたということにしておきましょう。その方が都合がいい」
「そうだな」
まぁ、俺に連絡してくる奴は片手に収まるくらいだけどな。



28:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 20:35:56.19 ID:EjVEnkhT.net

「そういえば、まだ名前を言ってませんでしたね。椿 圭介です。よろしく」
「俺は、柊 京介だ」
「知ってますよ。尾行してましたから。それにしても名前も似てますよね」
「黙れ、ストーカー」
「はは。それじゃあ、そろそろ僕は行きます。まぁ、お互いうまくやりましょう」
「ああ」



29:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 20:36:22.66 ID:EjVEnkhT.net

しかし、これで良かったんだろうか。
まぁ、考えても仕方がない。こうなった以上、やるしかないんだ。そう考えているうちにドアが閉まる音が聞こえた。どうやら椿は帰ったようだ。俺の家に。
俺はこれからどうしたらいいんだろうか?とりあえず、面倒なことは考えないで、明日に備えて寝ることにした。



30:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 20:36:47.19 ID:jOa4dxbL.net

朝起きると、目に映ったのは知らない天井だった。
そうだ入れ替わることにしたんだったな。
昨日はいろんなことがありすぎた。未だに混乱しているが、とりあえず俺は学校に向かうことにした。
あいつの話では、学校は近くにあるから、家を出たら同じ制服の奴らについていけばいいってことだったな。



31:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 20:37:22.52 ID:jOa4dxbL.net

「おっす、久しぶりじゃん。風邪治ったのか?」
家を出て少し歩いたくらいのところで、突然後ろから、誰かが話しかけてきた。
昨日見せられた、写真と目の前の顔を一致させていくと、確かこいつは同じクラスの桐島だったはずだ。椿はわりと仲の良い友人だと言っていた。
「ああ、もう良くなったよ。心配かけたな」
椿の口調と合うように心がけて、俺は返事をした。
「そっか、良かったな。お前がいなくて暇だったんだぞ。LINEも無視するしさ」
「悪いな。携帯、落として壊しちゃったんだ」
「ふーん。まぁ、あんまり無理するなよ」
「ああ、ありがとう」
「おうっ」



32:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 20:37:48.70 ID:jOa4dxbL.net

椿の言う通り、典型的ないい奴って感じだな。
しかし、俺が椿じゃないって全然ばれないな。まぁ、こんなに似ているんだから当たり前か。
桐島と話しているうちに、学校に着いた。教室に入ると、何人かから声をかけられた。内容は桐島と同じで、体調を心配するようなものだ。
授業が始まると、近くの席の人達が、休んでいる間のノートを見せてくれた。授業は俺が通っていた高校より進んでないみたいだったので、そんなに必要はなかったが、椿の代わりに写しておいた。



33:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 20:38:15.87 ID:EjVEnkhT.net

そんな感じで午前の授業が終わり、昼休みは桐島と学食に行った。午後の授業も、午前と同じ感じで、ノートを写して大体が過ぎ、とりあえず入れ替わり一日目の学校は終わった。
桐島達に放課後、カラオケに誘われたが、まだ少し調子が悪いと言って帰ってきた。
まだわからないことも多いし、これが得策だったはずだ。



34:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 20:38:57.28 ID:EjVEnkhT.net

家に帰ると、一日気を張って過ごしたせいか、疲れていたみたいで気づくと眠りに落ちていた。
目が覚めたのはもう夜、携帯が鳴る音でだった。
「こんばんは、どうでしたか僕の生活は」
電話に出ると聞こえたのは椿の声だった。
当たり前か。携帯は壊れたことにしているしな。
「ああ、お前の言う通り充実したスクールライフだったな。お前が普段どれだけ学校生活を満喫しているか、よくわかったよ。一体お前はこれの何が不満なんだか、ますますわからないな」
「それはもう言ったじゃないですか。飽きちゃったんですよ。それより、貴方にもわりと親しい人いるじゃないですか。七瀬さん、昨日聞いたよりもずいぶん関係は深いようですが」



35:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 20:39:42.89 ID:EjVEnkhT.net

突然出てきた、七瀬という名前に俺の心はざわついた。
「あいつはそんなんじゃないさ。ただ昔から知っているだけだ」
「とてもそんな風には思えませんでしたけどね」
椿の口調が少し強くなっていた。七瀬のことを黙っていたのを怒っているんだろうか?
「本当に違うんだ。まぁ、黙っていたのは悪かった。言う必要はないと思ってたんだ。最近はそんなに話してなかったしな。それより七瀬の名前が出るってことは、あいつと何かあったのか」
「いえ、別に、特に何かあったわけではないんですが、ただ昨日の貴方の話では、今日僕が学校に行っても、誰にも話しかけられないと思っていたんで、七瀬さんの方から話しかけられて、少しびっくりしただけです」
七瀬から話しかけた、か。一体七瀬はどんな話をしたんだろうか。
すごく気になったが、それを椿に聞くのは少し癪だったので、聞かないことにした。



36:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 20:40:09.76 ID:EjVEnkhT.net

「そうか、悪かったな。詳しく話しておかなくて」
「でも、彼女ってわけではないんですよね?」
「当たり前だ。そんな関係の奴がいたら、入れ替わったりなんかしないさ」
「それもそうですね。それでも、一応聞いておいてもいいですか。七瀬さんのこと。今日もギリギリだったんですよ。バレないように話すの」
「ああ、そうだな、七瀬は……」



37:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 20:42:07.21 ID:EjVEnkhT.net

「それじゃあ、明日も頑張りましょう」
七瀬の話も終わり、椿が電話を切る合図の言葉を発した。
「ああ、じゃあな」
俺もそう言って電話を切った。
それから夕飯を食べて、今はもう寝るところだ。
「七瀬か……」
通話が終わってから、ずっと七瀬のことを考えていたせいか、そんな独り言が自然に口から出ていた。
帰ってきてから少し寝たため、全然眠くないので仕方なく、椿に話したことを思い出しながら、七瀬のことを考えることにした。



38:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 20:42:36.67 ID:EjVEnkhT.net

七瀬を、七瀬 千由を初めて意識したのは、小五の夏、教室でのことだった。
あの日俺は日直で、いつもより早く学校に行った。
誰もいないだろうなと思いながら教室に入ると、そこには七瀬がいた。
七瀬はその一ヶ月くらい前に、アメリカから転校してきたばっかで、俺は話したこともなかった。
ただ、その頃の俺はまだ、今よりはほんの少しだけ社交的だったんだな、教室にいた七瀬におはようと挨拶をしたんだ。今の俺からは考えられないな。
でも、返事は返ってこなかった。椅子に座っていた七瀬は、むすっとした顔で表情を変えずに、黙っていた。



39:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 20:44:08.09 ID:EjVEnkhT.net

あの頃の七瀬は少しクラスで浮いていた。
アメリカから来た帰国子女だ、それは小学生の俺たちには、異質なものだったんだと思う。
それに加えて七瀬には近寄りがたい雰囲気があった。それが一層、七瀬の孤立を深めんだろう。
いじめというわけではなかったが、七瀬 千由はとりあえず浮いていた。それで七瀬がとった行動が、あのむすっとした表情だったんだろう。
他人に弱みを見せないための盾。
そしてその顔に、少しだけ社交的な僕は意地になったんだろうな、その日から俺は七瀬にはしつこく話しかけた。七瀬をクラスに馴染ませようと思ったんだ。重ね重ね今の僕からは考えられないけどね。



40:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 20:44:40.17 ID:EjVEnkhT.net

そしてとある事件があって、俺は初めて七瀬とちゃんとした会話を交わすことに成功した。
それどころかあの時、七瀬は俺に笑いかけたんだ。あの顔は一生忘れないと思う。この世の綺麗を全部集めたような顔だった。
それからは、元々は明るい性格だったんだろうな、七瀬はクラスに馴染んでいった。
聡明で、気が強くて、でも本当は寂しがりやで、七瀬 千由はそんな少女だった。



41:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 20:47:15.84 ID:EjVEnkhT.net

その後小学校を卒業するまで、七瀬と俺はわりとよく一緒に行動したんだ。
でも、中学生になって学校が離れて、最初の頃はたまに会ってたけど、徐々にそれも少なくなって、疎遠になった。



42:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 20:47:45.39 ID:EjVEnkhT.net

それで、社交的な俺が段々消えていって今の俺になった頃、俺は七瀬と再会した。
二ヶ月前のことだ。高校の入学式で七瀬は久しぶりと言って、俺に話しかけてきた。
面食らったよ、もう七瀬には会うことはないと思ってたからね。
正直、嬉しかった。七瀬とまた会えたのが。
だけど同時に俺は怖かったんだ。変わってしまった自分を見られるのが。
だから俺は七瀬と距離を置いた。



43:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 20:48:53.92 ID:EjVEnkhT.net

それからはすれ違ったら挨拶をするくらいで、特に話すことはなかった。
それで一ヶ月くらい過ぎた頃かな、下校中同じ制服を着た奴が他校の生徒に絡まれてるなと思ったら、七瀬だった。
いつもの俺なら無視して立ち去るんだけど、何故か俺は、七瀬の手を掴んで走っていた。ヒーローになったつもりだったんだろうか。
違うな、七瀬だけが俺を特別にするんだ。



44:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 20:49:48.34 ID:EjVEnkhT.net

その後、お礼を言われて、また少しだけ話す関係に戻った。
昔みたいにはいかなかったけど、たまに話して、それが俺にとってはとても楽しいことだったんだ。と、一部分だけを話すと、まるで俺がドラマチックに生きている主人公みたいだが、そんなことはない。椿に話した時も、
「十分、主人公みたいなことしてるじゃないですか」
と言われたが、全くもって的外れだ。
こんなのは、多かれ少なかれ、誰にだってあるようなことだと思う。
みんなそれに気づいてないだけで、同じようなドラマを持っているだろう。
むしろ、俺がみんなと同じように、ドラマチックな経験をしていることが、奇跡なくらいだ。
それに、今の俺の高校生活が、地味で暗いものということには変わりないしな。



45:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 20:50:45.15 ID:EjVEnkhT.net

そんなことを考えていると、もう深夜だった。明日も俺は椿として学校に行く。
本当にこれで良かったのだろうか。考えても仕方がないので俺は寝ることにした。
入れ替わり二日目の学校も特に問題なく終わった。
大体の人間関係がわかったのと、椿が元々良い友人関係を築いていたからだろう。



46:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 20:51:41.80 ID:EjVEnkhT.net

そして、今日は放課後、桐島達とボウリングに行くことになった。俺が桐島達のノリについていけるか不安だったが、心配はいらなかった。
どうやったかは知らないが、本物の椿も、社交的ながら、わりと静かな方だったらしい。
そのおかげであまり喋らなくても、特に怪しまれることはなかった。



47:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 20:52:38.82 ID:EjVEnkhT.net

俺は友人とボウリングに行くなんて初めてのことだったが、桐島達の良い人柄もあって、正直楽しかった。
こんな毎日を過ごしているなんて、椿が本当うらやましいよ。
夜の電話で椿に同じようなことを言ったら、
「貴方の生活もじきにそうなりますよ」
と言われた。向こうも順調らしいが、本当なのだろうか。
まぁ、椿の今までの人間関係を見るに、本当にうまくいってるんだろうな。
素直に尊敬するよ、俺に対しての好感度を上げるなんて、相当難しいだろうからね。



48:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 20:53:03.56 ID:EjVEnkhT.net

それと、この二日で感じたことなんだけど、俺と椿はどうやら性格も似ているらしい。
表面的には、社交的な椿と内向的な俺は別人に見えるだろう。
ただ根本的なものは同じみたいなんだ。
この二日俺は、椿を演じることに違和感を感じなかった。
これはつまり、俺にも椿みたいに可能性があったってことなのかもしれないな。
だとしたら、俺と椿を決定的に違う存在にしたのは何なのだろう。
一人の少女の顔が浮かんだがそれは忘れることにして、目を閉じた。
入れ替わり二日目はこんな感じで終わった。



49:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 20:53:46.68 ID:EjVEnkhT.net

それから五日間、特に問題は起きなかった。
俺も椿として学校に馴染めていたと思うし、何より桐島達といるのは楽しかった。
椿も話を聞く限りでは、うまくやっているようだ。
そして、入れ替わってから七日目、学校が終わり、今俺は、椿の家からも俺の家からも離れた公園に向かっていた。俺の家と椿の家は三駅離れているが、そこからさらに二駅超えたところにある寂れた公園だ。
ここで椿と会う約束になっている。同じ顔が二人いると目立つので、人気のない公園にしたと椿は言っていた。
まぁ、最悪人がいても、双子ってことにすればいいわけだが。



50:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 20:54:12.07 ID:EjVEnkhT.net

公園に着くと椿はブランコの周りの柵に腰掛けていた。
「こんにちは。久しぶりですね」
俺も隣に腰をかけて返事をした。
「ああ、いつ見てもやっぱりそっくりだな」
「そうですね」
ここ何日かで俺の、椿に対する敵対心はなりを潜めていた。
それは椿になってみて、椿が今までどんな人間関係を築いてきたかで、椿の人柄の良さがわかったからだろうか。
とにかく椿に対する嫌悪感はほぼなくなっていた。



52:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 20:55:28.05 ID:EjVEnkhT.net

「それでどうですか、僕の生活は」
「ああ、電話でも話したと思うが正直、楽しいよ。クラスメイトはいい奴ばっかで、あいつらと遊ぶのも楽しい」
「それは良かった」
「お前の方はどうなんだ」
俺になるのが楽しいとは、とても思えないが。
「僕も楽しいですよ。段々みんなからの好感度も上がってきています。後一週間で必ず成功させてみせますよ」
「それは楽しみだ」



53:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 20:55:55.53 ID:EjVEnkhT.net

俺の心は段々、椿に肯定的になっていた。
こいつにだったら、すべてを任せられるという気持ちがあった。
「それで提案なんですけど、七瀬さんに告白しませんか」
突然でできた名前に、俺の心はまたざわついた。
「どうして」
つい反射的に、強い口調で聞き返す。
「どうしてって、彼女を作っておいた方が、より幸福な人生に近づくのではないかなと思いまして」
「それはダメだ」
「どうしてですか?」
「とにかくダメだ」
「わかりました。不利益になることはしないって約束ですしね」
「ああ、悪いな」



54:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 20:56:17.64 ID:EjVEnkhT.net

それから少し話をして、俺たちは別れた。
帰り道、さっきのことがずっと引っかかっていた。
どうして俺は七瀬のことであんなにムキになったんだ。
入れ替わっているとはいえ、椿に七瀬を取られたくなかったのか。
いや、そんなはずはない。そもそも、取られるとか、元々俺のものってわけでもないのに。



55:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 20:57:37.62 ID:EjVEnkhT.net

ダメだこれ以上考えても、自分が嫌になるだけだな。やっぱり七瀬だけが俺を、どうしようもなく特別にさせるんだ。一度考え出すともう止まらない。俺は自分の燻んだ感情をおさえることがで
「危ない!」
突然背後から声が聞こえた。立ち止まって振り返ると、今度は前方からとても大きな、ガシャンという音が聞こえた。



56:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 20:57:58.02 ID:EjVEnkhT.net

「大丈夫ですか」
先ほどの声の主が、俺に慌てて話しかけてきた。
ただ俺はその問いに応えることができなかった。
俺のすぐ目の前には、上から落ちてきた看板があった。あと一歩でも前に進んでいたら、俺はこれに潰されていただろう。
「すっ、すみません。ありがとうございます」
俺は、目の前の男性に、震えた声で礼を言った。
この人がいなかったら俺は看板と一体化するとこだった。



57:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 20:59:11.86 ID:EjVEnkhT.net

「いえ、大丈夫ですか。怪我は?」
「大丈夫です。貴方の声で立ち止まったので、潰されずに済みました、本当にありがとうございました」
「良かった。看板、老朽化してたんですかね。それとも…… 何か心当たりありますか」
「いえ、特には」
心当たりなんてあるわけない。
そもそも俺は誰かに恨まれるほど、深く人と関わってないんだ。



58:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 20:59:28.09 ID:EjVEnkhT.net

「そうですか。どうします警察とか呼びますか?」
警察か。もし警察を呼んだら、事情聴取とかがあるだろう。
椿と入れ替わっている身としては、それはさけたい。
幸いここは人気のない、裏通りだ。この人さえ説得すれば何とかなる。
「いえ、あまり警察とか面倒なのは」
「それもそうですね。じゃあ、看板ははじに避けておきましょうか」
「そうしてもらえると助かります」
物分りのいい人で良かった。



59:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:02:12.38 ID:EjVEnkhT.net

看板をはじに避けるとその人は、
「じゃあ私はここら辺で」
と言って去ろうとした。
「あ、待ってください、何かお礼を」
「そんなの大丈夫ですよ」
「しかし」
俺がそう言うと。その人は、
「そうですね、じゃあ、私の名前は磯崎と言います。もし貴方が同じ磯崎という名前の人に会ったら、親切にしてあげてください。
その人が、もしかしたら僕の家族かもしれないし、恋人かもしれない。もちろん何の関係もない別人の可能性だってある。どちらにしろ、これって素敵なことだと思うんです。それでどうですか?」
と言った。



61:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:03:04.84 ID:EjVEnkhT.net

「わかりました。貴方、面白い人ですね」
俺はいつの間にかそう返事をしていた。俺の口からこんな言葉がまさか出るとはな。椿になって気が大きくなっているんだろうか。
「はは、よく言われます。それじゃあ」
そう言って今度こそ、磯崎さんは去って行った。



62:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:04:54.34 ID:EjVEnkhT.net

変わった人もいるもんだなと思いながら、俺はさっきのことを思い出していた。
よくよく考えると、恨まれる心当たりはないと言ったが、それは俺のことだ。椿がどうかなんてわからない。
一瞬そう思ったが、椿が恨まれるなんてもっと想像がつかないな。
この一週間で椿の人柄はよくわかった。絵に描いたいい奴だ。ちょっと変わってるけどな。それこそ磯崎さんみたいに。
まぁ、逆恨みって線もあるが、考えすぎだろう。そうしてただの老朽化だと結論付けて、俺は帰って眠りについた。



63:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:06:41.62 ID:EjVEnkhT.net

目が覚めたのは深夜二時だった。
このままもう一度寝てもよかったんだが、少し小腹がすいていたので、近所のコンビニに行くことにした。
家を出て、コンビニに入ってカップラーメンを買って、帰ろうとした時、俺は今一番会いたくない人に会ってしまった。
目の前にいたのは七瀬だった。



64:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:08:11.12 ID:EjVEnkhT.net

「柊?」
「ひ、ひさ……」
久しぶり、そう言おうとして、口を止めた。
椿が、俺として毎日七瀬とは会ってるんだ。久しぶりじゃおかしいな。
「ひさ?」
「いや、何でもない。それよりどうしたんだ、こんな時間に」
七瀬には夜遊びの癖はなかったと記憶している。それにそういうことをする奴でもないはずだ。



65:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:08:45.49 ID:EjVEnkhT.net

「柊こそ、何でこんな場所にいるの? あんたの家ここら辺じゃなかったよね」
「いや、ちょっと知り合いと会ってて遅くなったんだ。それでこの時間だと家族も寝てるから、ご飯でも買っておこうかと思って」
我ながら苦しい言い訳だ。俺にこんな時間まで一緒いる知り合いなんているんだろうか?



66:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:09:25.29 ID:EjVEnkhT.net

「ふーん」
七瀬は納得してないようだったが、俺は話を無理やり元に戻した。
「それより、七瀬は何で?」
「私は、その……」
七瀬は歯切れが悪そうに口ごもった。
「どうしたんだ?」
「家出したの。親とケンカしちゃってさ、家はこの近くだから、こっそり抜け出してきた」
「ケンカ?何で?」
「それはいいじゃん。それよりさ、少し話さない?」
いいわけがなかったが、このままではらちがあかないので、コンビニの裏の道の縁石に座って、少し話をすることにした。



67:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:11:00.20 ID:EjVEnkhT.net

「最近あんたさ、無理してない?」
七瀬から聞かれたその言葉に俺はドキッとした。
まさか椿との入れ替わりがバレたのか? 
「無理?」
俺はできるだけ平静を装って聞き返した。
「うん、無理…… 一ヶ月前さ私が絡まれてる時、助けてくれたじゃん。あの時さ、すごい嬉しかったんだよね。だってさ二ヶ月前、せっかくまた会えたのに、柊はそっけなくてさ。私のことなんてもうどうでもよくなっちゃったのかなって悲しかったんだ。
だから柊が、また私を助けてくれて本当に嬉しかった。やっぱり柊は変わってないんだなって。
でも、最近のあんたはなんか無理してる気がする。この一週間くらいあんたはよく私に話しかけてくれるようになったけどさ、なんか別人みたいで、もしかして私のこと鬱陶しく思ってないかなって不安で……」
「そんなことないさ」
俺はいつの間にか、七瀬の言葉を遮って返事をしていた。



68:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:11:46.03 ID:EjVEnkhT.net

「俺は七瀬とまた話せて嬉しいよ」
これは本当の気持ちだ。この一週間、椿がどう思って七瀬に接していたかはわからない。
けど、少なくとも俺はまた七瀬に会えて嬉しかった。同時に怖くもあったけど。
「そっか……それならいいけど……」
「それより、何で家出したのか話してくれないか。こんな時間に外にいたら危ないし、もし家に帰りたくないなら、俺の家に……」
そう言いながら俺は口ごもる。今、俺の家には椿がいるんだ。



69:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:12:34.06 ID:EjVEnkhT.net

「うん、ありがと……わかった、大丈夫だから。今日は家に帰るよ。柊と話したら少し楽になった。ケンカの理由は今は言えないけど、いつか話すから」
「そうか、なら良かった。話してくれるまで待ってるよ」
「やっぱ変わんないね、柊は」
「そんなことないさ」
「そんなことあるよ。おせっかいで、優しくて、いつも私を助けてくれる」
「七瀬の力になれたのなら嬉しいよ。それに、さっき言ったことも、本当のことだから」
いつもなら言えないはずの言葉が自然と口から出た。
椿と入れ替わって人と話すのに慣れたからだろうか。それとも相手が七瀬だからか。多分後者だ。



70:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:13:35.56 ID:EjVEnkhT.net

「送るよ」
「うん」
そこから、七瀬の家まで俺たちはあまり言葉を交わさなかった。
多分言葉はいらなかったんだと思う。
「じゃあ、今日はありがと。また明日ね」
「ああ、また明日」
明日、その明日七瀬に会うのは俺じゃなくて椿なんだよな。



71:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:14:37.10 ID:EjVEnkhT.net

七瀬と別れてから、俺は一つ決心をした。
というより、さっき七瀬が「変わってないね」と言ってくれた時から、とっくに心は決まっていた。
七瀬は俺と入れ替わった椿のことを、別人だと言ってくれた、とても悲しそうな顔で。
七瀬のあんな顔はもう見たくない。
もう、やめにしよう。
入れ替わりはもう終わりだ。



73:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:15:42.65 ID:EjVEnkhT.net

自分のやるべきことがわかると、人は強くなるという。
多分それは本当だろう。
現に今、自分がこの夜の街の帝王にでもなったかのように、俺の心は自信に満ちていた。
つまらない人生でもいい、掃き溜めのような暗い人生でもいい、七瀬のあんな悲しい顔を見るくらいなら、あの顔を笑顔に変える力になれるなら、椿のピカピカ光る人生よりも、俺はそっちを選ぶ。
その日の夜は久しぶりにぐっすり眠れた。



75:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:17:21.96 ID:EjVEnkhT.net

朝起きてすぐ、椿に電話をした。
「昨日の公園に来てくれないか、今すぐ」
そう言うと椿は、少し驚いていたが、
「わかりました」
と、了承した。



76:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:17:50.95 ID:EjVEnkhT.net

公園までの道、俺はずっと昨日看板が落ちてきた時のことを考えていた。
よくよく考えれば、あれはおかしいんだ。
あの建物は古くは寂れていたが、看板は比較的新しかった。多分古いビルを利用して、別の店の看板を取り付けたんだろう。
だとすると、老朽化なんてしてるはずがないんだ。



77:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:18:51.35 ID:EjVEnkhT.net

俺がここ数日間ずっと抱いていた疑問、椿はどうして俺と入れ替わろうと思った? 
あんな、充実した人生を送る奴が、なんで俺みたいなやつと入れ替ろうと思ったんだ。
あいつは、飽きたからと言った。本当にそうなのか?違う理由があるんじゃないか?
もう俺の疑念は確信に変わっていた。



78:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:19:16.90 ID:EjVEnkhT.net

公園に着くと、椿は昨日と同じように、ブランコの柵に腰掛けていた。
「それで、どうしたんですか。学校サボっちゃダメですよ。まぁ、三日間、貴方をつけるために学校サボった僕が言えることじゃないですけど」
「ああ、単刀直入に言う。入れ替わりを辞めたい」
俺はできるだけ落ち着いて、余裕を持つよう心がけて話した。



79:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:20:33.74 ID:EjVEnkhT.net

「なるほど、まぁ、そうでしょうね。こんな早くに呼び出すってことは、そういうことでしょう。それで、理由は?」
「理由は二つある。一つは言うつもりはない。もう一つは……」
もう俺の、椿に対する印象は決していいものではなくなっていた。
今、椿にある感情は、むしろ最初に会った頃の、よくわからないものに対する不気味という感情だ。



80:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:21:42.72 ID:EjVEnkhT.net

だから、俺は糾弾するように、努めて冷静に、さっき確信したことを口にした。
「お前、命を狙われてるだろ」
「どういうことですか?」
「昨日、俺が歩いていると上から看板が落ちてきた。あと一歩でも前にいたら、俺はここにいなかっただろうな。最初は老朽化か何かだと思った。でも違う、老朽化するような古い看板じゃなかったんだ」
「それで僕が命を狙われていると? それは少し短絡的すぎませんか」
「そもそもおかしいんだ。お前みたいな幸せな奴が、俺と入れ替わったことが。普通に生きてたら俺になりたいなんて思わないはずだ。飽きた? そんなわけがない。そんなふざけた理由じゃなくて、もっと大きな理由があるはずなんだ。
それでやっと合点がいった。お前は俺と入れ替わって、俺を殺させようとしたんだ。お前の命を狙っているやつに。そして自分は俺として、柊 京介として生きていくつもりだったんだ」



81:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:23:07.55 ID:EjVEnkhT.net

俺は自分の考えを、まくしたてるようにすべて話した。椿はずっと黙ったままなので、俺は続ける。
「これですべて辻褄が合うんだ。今後、俺として生きていくつもりなら、少しでもいい人生にしようともするだろう。どうなんだ?」
俺は自分の推測が正しいのか、椿に返事を求めた。



82:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:24:19.68 ID:EjVEnkhT.net

「…………」
しかし椿は、なお押し黙ったままだ。仕方がないので、また俺が話す。
「なんでお前が命を狙われているのかはわからない。でも、こんなことをしなくても、俺はお前に協力したいと思ってる。
この一週間、お前として過ごしてわかったんだ。お前は、周りのみんなから愛されている。そんなお前が本当に悪いやつなわけがない。なぁ、話してくれ。なんでお前が命を狙われているのか」
多分一週間前まで、いや昨日までの俺なら、椿に協力したいとは思わなかっただろう。
でも昨日七瀬と話したからかな、俺は本当に椿の助けにもなりたいと思っていた。



83:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:24:58.60 ID:EjVEnkhT.net

「ーーククク、フゥーハハハ」
突然、ずっと黙っていた椿が、今までの椿からは想像もつかないような、笑い声を発した。
「お、おいどうしたんだ」
俺は、椿の豹変ぶりに狼狽えながら、聞いた。
「いやいや、これが笑わずにいられますか?だって、まるっきり的外れだ」
椿は笑い声を挟みながらそう言った。
「的外れ?どういうことだ。いったい何が的外れなんだ?」
俺がそう聞くと、
「何って、僕が命を狙われているとか、いやー本当におかしい。本当に貴方は馬鹿ですね」
椿の豹変と、明らかに悪意を込めた言葉に、俺は言葉を発することができなかった。



84:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:25:40.81 ID:EjVEnkhT.net

「そもそも貴方は疑問に思うところを間違っている。貴方が疑問に思わなきゃいけないところは、僕がどうして入れ替わろうと思ったとかじゃない、僕達がどうしてこんなに似ているかだ」
そんなのに理由があるのか? 偶然じゃないのか?俺は答えがわからなくて、そのまま口に出す。
「そんなの、たまたまじゃ」
「そんなわけないでしょう。こんなに似てるんですよ。たまたまで済むわけがない」
椿は間髪入れずに、ぼくの答えを否定した。



85:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:26:42.24 ID:EjVEnkhT.net

「なら、なんで?」
「…………」
また椿が黙り出した。いったいこいつは、何を考えているんだ? どういう意味だ? 俺とこいつが似ている理由、そんなものがあるのか?
「おい、答えろよ」
「…………」
俺が何を言っても、椿は黙ったままだった。
静寂が場を支配する。



86:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:27:45.91 ID:EjVEnkhT.net

静寂を崩したのは、俺でも椿でもなかった。
その人の登場に、俺の心はまたざわついた。
どうしてあいつがここにいるんだ?
「今の話……どういうこと?」
公園の入り口から七瀬が入ってきた。
「な、なんでここにいるんだ」
「学校に行く途中、駅のホームで柊を見かけた。あんたは学校に行くのに電車は使わないはずなのに。
それに最近の柊なんかおかしかったから、なんかちょっと心配で、それでつけてきたら、この公園に入って、そしたら…… ねぇ、どういうことなの、誰なのその人? 入れ替わりって何?」
「それは……」



87:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:28:40.26 ID:EjVEnkhT.net

俺が答えられずにいると、椿が急に話し出した。
「入れ替わってたんですよ、この一週間、そこの人と僕が」
さっきまでの豹変ぶりとうってかわって、その声はいたって冷静だった。
「どういうこと?じゃあ昨日の夜あったのも柊じゃなくて、貴方なの?」
「それは俺だ」
それだけは否定しなくてはならない。
昨日七瀬 千由とあったのは、間違いなく俺だ。
「そっか……」
七瀬の顔はよくわからない表情だった。
「昨日の夜ですか、まぁ、僕にはわかりませんが、大方それが入れ替わりをやめようと言った原因でしょうね。まったく、勝手だ」
椿の声には少し、熱がこもっているように感じた。



88:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:29:45.71 ID:EjVEnkhT.net

「どうして、なんで入れ替わりなんかしたの?」
七瀬が冷静さを欠いた声で、俺に聞いた。
本当は答えたくない。
でも、俺は答えなくてはいけない。
七瀬に嘘はつきたくない。



89:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:30:51.65 ID:EjVEnkhT.net

「嫌だったんだ。変わってしまった自分が。七瀬と昔のように話したいのに、変わってしまった自分を見られるのが怖くて話せない自分が。
そんな時、椿に出会った。椿は、俺に入れ替わりを持ちかけてきた。それで、椿が俺になれば、なんとかしてくれるんじゃないかと思った。
だから入れ替わりを受け入れた。
だけど、多分心のどこかでは、七瀬との問題を椿に任せるのが嫌だったんだろうな。俺は椿に七瀬のことを教えなかった。そんな矛盾をもったまま入れ替わりを続けてたんだ、俺は。
でも昨日七瀬と話して、やっと気づいた。俺は七瀬の力になりたい。そしてそれは、椿になんとかしてもらった柊 京介じゃなくて、俺が、俺自身がなんとかしたいって……」
俺は全部を話した。自分が思っていること、全部を。



90:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:31:19.09 ID:EjVEnkhT.net

「……バカ」
七瀬のその言葉に、棘はなかった。
「そんのことしなくたったって……私は……」
その声はとても優しくて、俺を包み込んでくれるような暖かいものだった。



91:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:31:55.97 ID:EjVEnkhT.net

「あのー、甘い雰囲気出すのやめてもらっていいですか?」
椿の言葉で、俺は現実に戻った。
「そろそろ、話を戻しましょうか。何故、貴方と僕が似ているか」
「ああ、教えろ。偶然じゃないのか?」
「何度も言わせないでくださいよ。本当に馬鹿なんですか?」
「いい加減にしろよ。早く話せ」
もう俺の椿に対する感情は、嫌悪感しかなくなっていた。



92:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:32:32.49 ID:EjVEnkhT.net

「そうですね、まぁ、その前に貴方さっき、僕が命を狙われていると言いましたね」
「あぁ、俺は、だから俺を身代わりにするために、入れ替わりを持ちかけたと思っていた」
「それですね、まず、それ、さっきも言いましたが、完全に的外れ、見当違いもいいところだ。むしろ命を狙われているのは貴方の方ですよ」
「俺? なんで俺が?」
「昨日のその看板、落とした人は僕ではなく、貴方が柊 京介だと認識した上で、貴方を殺そうとした」
「だからどうして?」
この前も言ったが、俺に命を狙われる心当たりなんて一つも……
「それじゃあ話しましょうか。僕と貴方が似ている理由」



93:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:33:06.04 ID:EjVEnkhT.net

こいつは何がしたいんだ?
どんどん疑問を増やされる。
それでも、俺はただ聞くしかないこいつの話を。
そしてそれは七瀬も同じのようだった。
二つの視線が椿に集まる。



94:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:34:06.54 ID:EjVEnkhT.net

「僕は一週目の貴方です」
「は?」
こいつは何を言っているんだ。
どういう意味だ。ふざけてるのか?
「はは、冗談ですよ」
「と言うとでも思いました? 冗談じゃないですよ、何度でも言いましょうか? 僕は一週目の貴方です、柊 京介」



95:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:35:21.08 ID:EjVEnkhT.net

意味がわからない。話が見えてこない。
「最初に会った時も言ったでしょ、僕は貴方ですって。僕、あんまり嘘つかない方なんですよ」
駄目だやっぱりわからない。
何を聞いたらいいかもわからない。
一週目ってなんだ。
俺の頭の中は、疑問符で埋め尽くされていた。
それをおかまいなしに椿は話し始めた。
一週目とやらのことを。



96:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:38:28.25 ID:EjVEnkhT.net

僕は独りだった。
小学生の頃はまだよかった。たまに、友達と遊んだりした記憶もあるし、少しは社交的だったと思う。
けど中学生になってからは全然駄目だった。
人との喋り方がわからなくなっちゃたんだ。



97:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:39:31.96 ID:EjVEnkhT.net

中学生の頃の僕は本当、酷かったと思うよ。学校では毎日、ずっと時計を見て、早く時間が過ぎないかなと思ってた。
学校っていうのはさ、友達がいない人のためにできてないんだ。
友達がいない人はどうやったって、不幸になる仕組みなんだよ。



98:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:39:51.89 ID:EjVEnkhT.net

そしてそれは、高校生になっても一緒だった。
中学の時点で、僕の性格はほぼ固まってしまったからね。人と話すのが苦手になってたんだ。
それが高校生になった途端、急になおるなんてことはありえなかった。
僕はずっと独りだったよ。そう、いつでも。



99:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:40:38.18 ID:EjVEnkhT.net

さぁ、ここで、一人の女の子の話をしておこうかな。その子は僕が小学生の時、転校してきたんだけどさ、一目見た瞬間に、僕はその子のことしか考えられなくなるくらい、彼女に惹かれていた。
一目惚れってああいうことを言うんだろうね。



100:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:41:04.34 ID:EjVEnkhT.net

その子は、いつまでもクラスに馴染めなかった。
彼女は少しは異質だったからね、小学生の僕達はその異質な少女を、受け入れることができなかったんだ。
それは、僕も例外ではなかった。僕は彼女に話しかけることができなかった。何回かチャンスはあったと思う。でも話せなかった。
小学生の仲間意識って怖いんだよ。僕が彼女に話しかけてたら、僕も異質として扱われてただろうね。
僕はそれを恐れた。彼女と話して、自分も異質になる勇気がなかったんだ。



101:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:42:26.95 ID:EjVEnkhT.net

そのまま僕は彼女と一度も話せないまま、僕は小学校を卒業した。
中学校も別々だったから、それから彼女に会うこともなかった。



102:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:42:48.60 ID:EjVEnkhT.net

そろそろ話を戻そうか。
えーと、そう高校の話だ。
高校生の僕は相変わらず独りだった。
それで、その高校で僕は運命の再会を果たしたんだ。



103:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:43:25.82 ID:EjVEnkhT.net

入学式でその子に再会したんだ。そして驚くことに、彼女は僕のことを覚えててくれたんだ。
それからはたまに彼女に会うと、少し話をするようになった。
クラスは違かったから、あんまり会う機会はなかったけどね。
でも、僕にはそれだけで十分だった。クラスでは相変わらず独りだったけど、たまに彼女と話せるのが本当に楽しかったんだ。



104:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:44:55.63 ID:EjVEnkhT.net

それなのに僕は、やってはいけないことをやってしまったんだ。
彼女と再会してから一ヶ月たったころかな、下校中同じ制服を着た奴が他校の生徒に絡まれてるなと思ったら、その子だった。
かっこいいヒーローだったら、ここで彼女の手を引いて駆け出すんだろうね、きっと。



105:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:46:01.68 ID:EjVEnkhT.net

でも、僕はヒーロにはなれなかった。逃げたんだ、僕は。走って、独りで逃げた。去り際彼女と目があったんだ。その目はすごく悲しそうだった。



106:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:46:21.04 ID:EjVEnkhT.net

次の日から僕は学校に行かなくなった。
ずっと部屋に引きこもってたんだ。
それで、一ヶ月くらい過ぎたころかな、なんかもう全部がどうでもよくなっちゃってさ、僕は久しぶりに学校に行った。
親は喜んでたよ、笑っちゃうよね、僕が何のために学校に行くかも知らないでさ。



108:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:47:12.31 ID:EjVEnkhT.net

次の日から僕は学校に行かなくなった。
ずっと部屋に引きこもってたんだ。
それで、一ヶ月くらい過ぎたころかな、なんかもう全部がどうでもよくなっちゃってさ、僕は久しぶりに学校に行った。
親は喜んでたよ、笑っちゃうよね、僕が何のために学校に行くかも知らないでさ。



109:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:48:34.92 ID:EjVEnkhT.net

学校に着いたら僕はすぐ屋上に行った。なんかさ、決着をつけるならここだ、って思ったんだよね。
ずっと僕を苦しめてきた空間。ここしかないなって思ったんだ。
人生に決着をつけるならさ。
僕は屋上から飛び降りた。
そして死んだ……



110:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:49:51.57 ID:EjVEnkhT.net

はずだった。
気付いたら僕は体が縮んでーー
いや、ごめん冗談だよ。うん、でもあながち冗談でもないんだ。
気付いたら赤ちゃんになってた



111:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:50:16.48 ID:EjVEnkhT.net

本当に驚いたよ、だって赤ちゃんだよ、さっきまで高校生だったのに。
それで親なんだけどさ、変わってたんだ。高校生の時の僕の親じゃなかった。
それに、その後知ることになるんだけど、僕の名前も変わってた。いったい何が起こったのかと思ったよ。
夢かとも思った。でも夢じゃなかった。
いや、もしかしたら夢かもしれないよ。だけどもうこれだけ時間が経ってるんだ、たとえ夢だとしても僕にとってはこれが現実だ。



112:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:50:42.00 ID:EjVEnkhT.net

まぁ、いいや。それで、最初は驚いたんだけどさ、段々、これはチャンスだと思うようになったんだ。
一から人生をやり直すね。
ほら、よくあるだろ、子供のころに戻って人生をやり直すとかさ。
まぁ、僕の場合は全くの別人になったわけだけど。



113:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:50:59.77 ID:EjVEnkhT.net

とにかく僕は人生をやり直すことにした。それは苦痛を伴うものでもあったけどね、考えても見てよ、高校生が幼稚園とかにかようんだよ。
あんまり突出した天才になるわけにもいかないからね、周りより少しできる程度に抑えなくちゃいけなかった。



114:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:51:52.05 ID:EjVEnkhT.net

でも、中学生くらいになるとわりと楽しかったよ。一週目とは違う、とても楽しい学校生活だったからね。
それに一週目の記憶のおかげで、周りよりも優位に立てた。
勉強とかは忘れてしまったものも多かったけど、それでも周りよりはハンデがあった。
加えて、僕は真剣に生きたんだ。前の記憶があるからってそれに胡座をかいたりせず、真面目に授業も受けたし、真面目にみんなに馴染もうとした。



115:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:52:13.22 ID:EjVEnkhT.net

そのおかげで僕は、一週目とは似ても似つかない、絵に描いたような人気者になれた。
まぁ、成長していくうちにわかったことだけど、顔は一週目と同じだったんだけどね。
なんでだろうね、名前も親も住んでる場所も全く違う別人になったのにさ、顔だけは一緒だった。
まぁ、別にそれで困ることもなかったけどね。上京して、高校に入ってからも、それは変わらなかった。



116:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:52:41.44 ID:EjVEnkhT.net

そのおかげで僕は、一週目とは似ても似つかない、絵に描いたような人気者になれた。
まぁ、成長していくうちにわかったことだけど、顔は一週目と同じだったんだけどね。
なんでだろうね、名前も親も住んでる場所も全く違う別人になったのにさ、顔だけは一緒だった。
まぁ、別にそれで困ることもなかったけどね。上京して、高校に入ってからも、それは変わらなかった。



117:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:53:25.85 ID:EjVEnkhT.net

そんな感じで楽しく生きてたんだけどさ、一つだけ嫌なことがあった。
たまになんだけどさ、一週目の夢を見るんだ。
あの時、絡まれてる彼女を見捨てた時の夢を。
僕がヒーローになれなかった時の夢を。
あの時の彼女の悲しそうな顔が、脳裏に焼き付いて離れないんだ。
でも、それを除けば本当に楽しく生きてたよ、あの日までは。



118:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:54:33.97 ID:EjVEnkhT.net

高校に入って半月くらいしたころかな、僕をみたんだ。
正確には僕と同じ顔をした何か。
本当に驚いたよ。やっぱりこの世界は夢なのかなとも思った。
でも、とりあえずこの世界で生きている以上、夢とか夢じゃないとかはどうでもよかった。
それで、そいつを尾行してみた。そしたらまた驚くことにさ、そいつはおぼろげながら残っている、僕の記憶の中の、僕が一週目に住んでいたであろう家に、入っていった



119:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:55:00.62 ID:EjVEnkhT.net

次の日もそいつの家の近くで待ち伏せして、つけてみた。
そしてら、今度ははっきり覚えている、一週目、僕が通っていた学校にそいつは通っていた。
あの忌まわしき空間に。
でもさ、正直もうどうでもよかったんだ、一週目の僕のことなんて。僕は今、楽しく暮らしている。それだけ十分だった。だから、特にそれから何かをしようという気にはならなかった。
あれを目撃するまでは。



120:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:56:12.67 ID:EjVEnkhT.net

あの日はたまたま、一週目で僕が住んでいた場所の近くに来ていた。
友人と遊ぶ約束だったんだけどさ、そいつが来られなくなっちゃって、仕方ないから帰ろうと駅に向かってたんだ。
そしたらまた会った。でも今度は運命の再会なんかじゃなかった。呪いの、悪夢の再会。そこに彼女はいた。一週目と同じように、他校の生徒、いや、今回は他校じゃなかった、僕が今通っている学校の生徒に絡まれて、そこにいた。
七瀬 千由はそこにいた。



121:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:56:32.60 ID:EjVEnkhT.net

僕を、人生をやり直した僕を、運命は許さなかった。
僕はどうすればよかったんだろうか?ただ、その時の僕は頭が真っ白になって、何もできずに物陰から、それを見ていた。



122:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:57:40.24 ID:EjVEnkhT.net

それは、一瞬の出来事だった。
本当に一瞬。
気付いたら、いつの間にかあらわれた、僕のドッペルゲンガーが、七瀬の手を掴んで、走り去って、いなくなっていた。
あいつが、まるでヒーローみたいに七瀬を助けた。
柊 京介が七瀬 千由を助けた。
僕は、椿 圭介はただそれを物陰からただ見ていた。



123:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:58:17.95 ID:EjVEnkhT.net

一瞬、何が起きたのかわからなかった。
一体どういうことだ。
僕が、柊 京介が七瀬を助けた。なんで。
僕は一週目七瀬を見捨てた。なんで。
僕が知っている一週目とは別のことが起きている。なんで。
柊 京介がヒーローになっている。なんで。



124:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:59:24.98 ID:EjVEnkhT.net

どうして、どうして僕じゃないんだって何度も思った。なんで七瀬を助けたのが僕じゃないんだって。どうして、
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで。



125:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 21:59:51.48 ID:EjVEnkhT.net

その日、僕はある計画を思いついた。
それを実行するために、その日からたまに、学校を休んで、ドッペルゲンガーを尾行した。
そして念密に入念に計画を練って行った。
七瀬を助けたのがあいつなんて認めない。
あいつが、柊 京介だなんて認めない。
絶対に認めない。



126:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 22:00:48.62 ID:EjVEnkhT.net

そして一ヶ月後、僕はドッペルゲンガーに話しかけた。僕が、柊 京介になるために。



127:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 22:01:48.59 ID:EjVEnkhT.net

「これが僕の人生です。どうですか?面白かったですか?」
俺はしばらく声を出せなかった。
何を言っていいのかわからなかった。



128:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 22:02:39.60 ID:EjVEnkhT.net

「嘘だ」
やっと出た言葉は、とても小さい声で、聞こえるか、聞こえないかくらいのものだった。
「嘘じゃないですよ。逆に他に何か思いつくんですか、僕達が似ている理由」
「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ」
「ちょっと、落ち着いて、柊」
そういった七瀬の声も震えていた。



129:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 22:03:01.10 ID:EjVEnkhT.net

「落ち着けるわけないだろ。こんなの、嘘だ……」
つい声を上げる。
「何回も言わせないでくださいよ。これは真実です。さっき言ったでしょ、僕はあんまり嘘をつかないって」
「こんなの、嘘だろ。なんで、じゃあ俺が生きてきた、十五年はなんだったんだ。お前の模倣なのか。お前が、生きてきた道をただ、たどってきただけなのか」
それは、あまりにも残酷なことだった。



130:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 22:03:35.44 ID:EjVEnkhT.net

「そうなんじゃないですか。所詮あなたはコピーなんですよ、僕の。貴方初めて会った時言いましたよね、お前はドッペルゲンガーなのか?って。
その時僕言いましたよね、違います、と。繰り返し言いますけど、僕は嘘をあまりつかない。僕がドッペルゲンガーなんじゃない、貴方がドッペルゲンガーなんですよ、僕の。
だから僕は生き残るために貴方を消さなくてはいけない。自分を証明するために」
「じゃあ、まさかあの看板は」
「そうですよ、僕が落としました。貴方を殺すために」
「なっ……」
「まぁ、失敗しましたけどね。貴方も運がいいですよね。まさかあんな寂れた所に、人が通りかかるとは。あっ、知ってますか? 自分の顔をしたやつを殺そうとするのって、結構神経すり減るんですよ」



131:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 22:03:56.03 ID:EjVEnkhT.net

「どうして……どうしてそんな……」
「どうしてって、許せないからですよ、貴方が柊 京介でいることが、その席に座るべきなのは僕だ」
「そうか……もういいよ……疲れた。勝手にすればいい。どうせ俺はコピーなんだろ。ドッペルゲンガーなんだろ。確かに、消えるべきは俺だ」
もう俺はなにも考えたくなかった。俺の十五年は。全部決められたコピーだったんだ。そこに俺の意思はなかった。俺に存在する意味はなかったんだ。



132:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 22:04:22.38 ID:EjVEnkhT.net

「そうですか、よかった、思ったより物分かりいいですね。その通り、貴方はコピーなん……」
「そんなことない!」
椿の言葉を遮ったのは七瀬だった。
「あんたは、柊はコピーなんかじゃない。だった、あんたは私を助けてくれた、何回も、何回も。ねぇ、覚えてる? 私の名前。あんたが意味をもたせてくれた、私の名前」
名前……クリスティーナ……



133:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 22:04:41.31 ID:EjVEnkhT.net

七瀬クリスティーナ千由。
これが私の名前。アメリカで生まれた私には、クリスティーナというミドルネームがあった。
両親はどっちも日本人だったけど、アメリカで暮らすのに不自由がないようにと、つけられた名前だった。



134:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 22:05:38.05 ID:EjVEnkhT.net

アメリカではみんな、クリスと私を呼んだ。
この名前は別に嫌いじゃなかった。でも、日本に来てこの名前は枷になった。
日本の学校に転校して、その時も私は、このクリスティーナという名前を特に隠すことはしなかった。
でも、この名前は日本では普通ではないらしく、私はからかわれた。変なの、と。
それから私はこの名前が嫌いになった。



135:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 22:06:02.68 ID:EjVEnkhT.net

その後も、私は学校に馴染めなかった。
それも当然か、名前をからかわれた日から、私はずっとむすっとした顔で、誰とも話さなかった。誰に話しかけられても、先生も、学級委員の子も、私にしつこく話しかけてくる男の子にも。
本当に可愛くない子供だったと思う。



136:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 22:06:56.73 ID:EjVEnkhT.net

ある日、また名前をからかわれることがあった。
確か相手は隣のクラスの子達で、アメリカからきた珍しい私を見に来たとかだった気がする。
それで、その子達に、変な名前と言われた。
私は多分、泣きそうな顔をしてたと思う。
でも、それを必死に隠すように、むすっとした顔をしていたんだろう。
あと少しで本当に泣いてたかもしれない。
でも、私が泣くことはなかった。私が泣く前に、私のヒーローが私を助けてくれた。



137:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 22:07:20.10 ID:EjVEnkhT.net

「変じゃないよ。かっこいいじゃん。クリスティーナ」
彼はそう言った。私にしつこく話しかけ続けてた男の子、柊 京介。
ずっと無視してたのに、それなのに彼は私を助けてくれた。
私の名前をかっこいいと言ってくれた。
この日自分のクリスティーナという名前を、私は大好きになった。
そしてその日から彼が私のヒーローになった。



138:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 22:07:55.34 ID:EjVEnkhT.net

「ねぇ、覚えてるでしょ、私の名前。クリスティーナ。あの日、私はあんたのおかげで、この名前をまた好きになることができた。それは、あんただからできたこと、あんたにしかできなかったこと。だからあんたは、絶対にコピーなんかじゃない」
「七瀬……」
忘れるわけがない。
俺と七瀬をつなげてくれた名前。



139:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 22:08:18.25 ID:EjVEnkhT.net

「いやー面白いですね。クリスティーナ、そんな名前でしたね。僕も呼びますよ、クリスティーナ」
椿が笑いながら言った。
「違う、貴方じゃない。この名前を好きにさせてくれたのは、貴方じゃない。好きにさせてくれたのは柊 京介よ」
「だから、言ってるでしょ。僕も柊 京介だったんですよ。いや、僕が柊 京介なんだ。そいつはただのコピーだ」
「違う、コピーなんかじゃない。私にとっての柊 京介は貴方じゃない」



140:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 22:09:00.92 ID:EjVEnkhT.net

「そうですか、わかりました。じゃあ、ゲームをしましょうか」
「ゲームだと、この状況でお前はふざけてるのか」
何を言っているんだこいつは、わけがわからなくて、つい聞き返してしまった。
「いえ、真剣ですよ。ふざけるわけがないでしょう。僕は今、ムカついているんですよ。僕の席にお前が座っていることが。許せない。だからゲームをするんだよ。僕かお前か、どっちが柊 京介かを決めるゲームを」
その声は俺が聞いてきた中で一番真剣で、一番怒りがこもった声だった。



141:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 22:10:02.69 ID:EjVEnkhT.net

「ちょうどいいことに、今、僕と貴方の格好は一緒です。制服のワイシャツもズボンも僕達のは完全に同じだ。だから七瀬さんに決めてもらいましょう。どっちが柊 京介か」
「どうやって?」
椿が何をしたいのかがわからなかった。



142:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 22:10:46.40 ID:EjVEnkhT.net

「簡単なことですよ。今から五回連続、七瀬さんにはどっちが貴方かを当ててもらいます。もちろん一言も喋らずに、見た目だけで。できますよね、こいつが柊 京介だと言うのなら」
そんなのできるわけがない。俺達の見た目は完全に一緒だ。それを見分けるなんて不可能だ。
「いいよ」
七瀬は涼しそうにそう言った。



143:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 22:11:05.75 ID:EjVEnkhT.net

「なっ……」
「じゃあ始めましょうか」
「待て! できるわけがないだろう、そんなこと。無理に決まってる」
「柊、信じて私を。私はわかる、絶対に」
七瀬は俺の目を真っ直ぐ見て、そう言った。
そんな目で見られたら、言い返すことはできない。



144:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 22:11:33.45 ID:EjVEnkhT.net

でも……それでも七瀬にそんなことをさせたくはなかった。だから俺は止めるように声を出した。
「でも……」
「大丈夫だから、ね」
七瀬にそんな顔をされたら、了承するしかなかった。
「わかった」
「決まりですね、じゃあ、少し後ろを向いていてください」
そう言われて、七瀬は後ろを向いた。



145:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 22:11:56.72 ID:EjVEnkhT.net

「じゃあ始めましょうか」
俺達は横並びになった。どっからどう見ても、同じ人間が二人いるようにしか見えないだろう。これを見分けるなんて……
「右」
七瀬は振り向いてすぐにそう言った。正解だった。



146:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 22:12:21.14 ID:EjVEnkhT.net

「当たりですね。まぁ、一回目ですからね。じゃあ、もう一度後ろを向いてください」
椿は飄々とした顔でそう言った。
そうだ、まだ一回目だ。でも今ので俺の心はもう決まっていた。七瀬が俺に信じてと言ったんだ。それなら俺はただ七瀬を信じるだけだ。たとえ結果がどうなろうと。



147:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 22:12:45.68 ID:EjVEnkhT.net

「じゃあ二回目、どうぞ」
「右」
また即答だった。正解だ。
「当たりです。偶然ってすごいですね。それでは、また後ろを向いてください」
椿の顔にはまだ余裕が感じられた。



148:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 22:13:36.49 ID:EjVEnkhT.net

「三回目、どうぞ」
「左」
「なっ……」
椿の顔に焦りが見え始めていた。
「その反応ってことは、正解みたいね。じゃあ次やりましょう」
七瀬はいつも通りの表情で余裕を持っていた。
「くっ……」
反面、椿にはもう余裕はなさそうだった。



149:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 22:14:00.73 ID:EjVEnkhT.net

「四回目、どうぞ」
「右」
また正解だ。七瀬は本当に俺がどっちだかわかるのか?どうして?
「…………」
椿はもう何も言えないようだった。
「正解みたいね。じゃあ最後やりましょうか」
そう言って七瀬は後ろを向いた。



150:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 22:15:07.28 ID:EjVEnkhT.net

「五回目、どうぞ」
椿の声は震えていた。
七瀬は振り向くと、少しの間、黙って動かなかった。やっぱり、わからないのだろうか。
俺がそんな風に思っていると、七瀬は前に進んできた。



151:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 22:15:36.74 ID:EjVEnkhT.net

そして、俺達の目の前までくると、少し止まって、そのあと、俺にキスをした。



152:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 22:16:31.12 ID:EjVEnkhT.net

時間が止まっているようだった。一秒が無限に感じられた。



154:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 22:16:49.54 ID:EjVEnkhT.net

「なっ、どうして、なんでわかった」
椿が焦りを隠さない声で、叫んでいるのが聞こえた。
「私の勝ちみたいね。だから言ったでしょわかるって」
七瀬は俺から離れると、まるで当然の結果のようにそう言った。



155:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 22:17:25.64 ID:EjVEnkhT.net

「なんで、わかるはずがない、どっからどう見ても一緒のはずだ」
椿が叫ぶ。
「違う、一緒じゃない。この世に柊 京介は一人しかいない。わからないわけがない。ちょっと顔が似ているくらいで、わからなくなるわけないでしょ。優しくていつも私を助けてくれる、私が大好きな柊 京介はあんたよ」
俺の方を見て、七瀬はしっかりとした声で言った。



156:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 22:18:47.50 ID:EjVEnkhT.net

「七瀬……」
「ねぇ、柊、あんたはコピーなんかじゃない。私の名前を大切なものにしてくれたのも、私の手を引いてくれたのも、全部あんた。この世で一人だけの、あんたなの。私が大好きなのはあんたなの。
それでもまだ不安なら、私が証明する、どこにいても何をしていても、あんたはあんただって、私が証明する。あんたの存在を私が証明し続ける。これでもまだ不満?」



157:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 22:20:04.46 ID:EjVEnkhT.net

七瀬がここまで言ってくれたんだ、不満なわけがなかった。十分すぎるくらいだ。
「いや、ありがとう……七瀬」
そうだ俺はここにいる。ここにいる俺の、七瀬が好きという気持ちは、俺だけのものだ。七瀬が証明してくれたことを、誰にも否定なんかさせない。



158:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 22:20:28.79 ID:EjVEnkhT.net

「そんな……どうして……」
椿が枯れたような小さい声で呟いた
「どうして、どうして僕じゃないんだ。なんでお前なんだ。何が違うんだよ。お前と僕の。どうして……」
そう叫んだ椿の体が、徐々に透明になっていた。



159:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 22:21:22.72 ID:EjVEnkhT.net

「お、おいどうしたんだ、その体」
俺が聞くと、
「なるほど、僕は消えるわけか」
途端、椿は急に落ち着いた声になった。
「消えるって、どういうことだよ」
「さぁ、でもどう見てもそうでしょ、僕は消えるんですよ。まぁ、ドッペルゲンガーに会っちゃいましたからね、この世に同じ人間は二人いらないんじゃないですか。
それに、実は今日は一週目の僕が自殺した日なんですよ。だから僕は今日までに、貴方を殺して柊京介にならなくてはいけなかった。しかし僕は失敗し、貴方が柊京介だと証明されてしまった。だから消えちゃうんですよ、きっと」



160:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 22:21:43.03 ID:EjVEnkhT.net

「何か方法はないのか、何かあるだろ、助かる方法が」
「ないんじゃないですか。あったとしてまわかりませんし」
「そんな……」
「それに、なんで貴方がそんな焦るんですか。別にいいでしょ僕が消えたって。そもそも僕は貴方を殺そうとしてたんですよ」
椿がどんな人間だとしても、俺を殺そうとしてたとしても、この一週間椿として過ごした俺は、椿が消えるのを受け入れられなかった。



161:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 22:22:32.96 ID:EjVEnkhT.net

「それでも、この一週間お前を見てきて、お前として過ごして来た俺には、やっぱりお前が悪い人間には思えない」
「なんですかそれ。やっぱ、僕達似てないですね。僕はそんなお人好しじゃないですから。まぁ、そんな貴方だからヒーローになれるんでしょうね」
椿の体はどんどん薄くなっていた。



162:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 22:22:56.26 ID:EjVEnkhT.net

「それでも、この一週間お前を見てきて、お前として過ごして来た俺には、やっぱりお前が悪い人間には思えない」
「なんですかそれ。やっぱ、僕達似てないですね。僕はそんなお人好しじゃないですから。まぁ、そんな貴方だからヒーローになれるんでしょうね」
椿の体はどんどん薄くなっていた。



163:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 22:24:53.07 ID:EjVEnkhT.net

「おい、待てよ。まだ何か方法が」
「もういいですよ。僕には柊 京介でいる資格はないみたいですね。そもそも僕は本当だったら、一週目の時点で死んでいる人間ですから、当たり前かもしれませんね。僕は一度、柊 京介を諦めたんですから」
「そんな……」
「それじゃあ、いろいろすみませんでした。頑張ってくださいね、これからいろいろ……柊 京介さん」



164:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 22:26:03.40 ID:EjVEnkhT.net

そう言った椿の体はもうほとんど消えていた。
俺はなぜかこの顔を、俺と同じ顔をしたやつが消えていく姿を、忘れちゃいけないと思った。
絶対に。



165:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 22:27:34.08 ID:EjVEnkhT.net

気づくと椿はもういなかった、
「消えちゃったの?」
七瀬の声はとても小さかった。
「みたいだな……」
多分俺の声もそんな感じなんだろう。
「そっか……悲しいね」
「そうだな……」
「行こっか」
そう言うと七瀬は俺の手をひいて、公園の出口へと向かった。



166:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 22:28:09.37 ID:EjVEnkhT.net

後日調べてみると、椿 圭介という存在は、最初からいなかったことになっており、覚えているのは俺と七瀬だけだった。



167:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 22:28:58.30 ID:EjVEnkhT.net

椿が消えてから三日後、俺と七瀬はあの公園に来ていた



168:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 22:29:18.15 ID:EjVEnkhT.net

「ねぇ、柊」
「何?」
「その……この前ケンカしたって言ったじゃん、親と」
「ああ、そうだったな」
「その理由なんだけどさ、私、またアメリカに行かなきゃいけなくなったの。親がアメリカに戻るんだって」
そんな理由だったのか。また七瀬と離れなくちゃいけないのか。



169:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 22:30:39.79 ID:EjVEnkhT.net

「そっか……」
「そっかって悲しくないの?私いなくなっちゃうんだよ?」
「悲しくないわけないだろ。俺だってできるなら行かないでほしいさ」
やっと、七瀬と一緒に居られるようになったんだ。また離れるなんて嫌だった。
「だったらさ……」
七瀬の声が急に小さくなる。
「どうした?」
「だったらさ、助けてよ。私を止めて。アメリカに行かなくていいようにして。……いいかな? 私のヒーロー」



170:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 22:31:02.46 ID:EjVEnkhT.net

「ハハハ……フゥーハハハ」
あの時の椿みたいな笑い声が、俺の口から出ていた。
「何、急にどうしたの?」
七瀬はその笑い声に面食らったみたいだ。狼狽えている。
「わかった」
「えっ」
「わかったよ。俺が止める。アメリカになんか行くな。俺と一緒に居てくれ」
とても無責任な言葉だ。でも七瀬が望むなら、俺は無責任でもそうしたかった。いや、どんな無責任な発言にも、責任を持ちたかった。
「うん、ありがと」
七瀬の返事は単純で、真っ直ぐで、俺はそれがただただ嬉しかった。



171:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 22:32:03.36 ID:EjVEnkhT.net

まだまだ問題は山積みだ。俺の学校生活は結局暗いままだし、七瀬のアメリカ行きを止める方法もわからない。それでも七瀬が隣にいてくれるなら、俺の存在を証明してくれるなら、それだけいい。それさえあれば、俺が自分の存在を不安に思うことはない。



172:名も無き被検体774号+@\(^o^)/ 2016/02/27(土) 22:32:26.24 ID:EjVEnkhT.net

「ねぇ、じゃあ名前で呼んでよ」
「名前? クリスティーナか?」
「違うそっちじゃない」
俺の未来は希望に満ちている。こっから先は誰にもわからない、椿も経験していない新しい未来だ。その第一歩に、俺は一番大切な人の名前を呼んだ。
「行くか、千由」
「うん、京介」



元スレ
ドッペルゲンガーと人生を交換した話
http://hayabusa3.2ch.sc/test/read.cgi/news4viptasu/1456571824/
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      • 1. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
      • 2017年03月16日 16:30
      • ながい
        だれか 3ぎょうで
        たのむ
      • 2. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
      • 2017年03月16日 16:51
      • ※1

        ラノベ展開
        主人公勝利
        おっぱい
      • 3. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
      • 2017年03月16日 21:32
      • ほんのり
        かおる
        シュタゲ臭
      • 4. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
      • 2017年03月17日 02:44
      • なんだろう
        物語としては締まっていない訳じゃないんだけど、途中までのワクワク感からの尻すぼみ感
      • 5. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
      • 2017年03月18日 13:50
      • 始めてみたときは驚きましたよ。

        ん、何を始めた?
      • 6. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
      • 2017年03月19日 21:57
      • 最後の締めが弱い

    はじめに

    コメント、はてブなどなど
    ありがとうございます(`・ω・´)

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