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無尽合体キサラギ【後半】

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無尽合体キサラギ【後半】






348:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/07(火) 20:28:47.43 ID:+kV6KPaeo




ミキ「あっ、居た居た! アミ、マミー!」

賑やかな食堂の中でもはっきりと聞こえた声に釣られるように、
アミたちも表情を明るくして、ミキミキ、と同時に名前を呼び返す。
手を振って駆け寄ったミキは空いた席に着くなり、
打って変わって気の抜けた声を出しながらぐってりとテーブルに崩れ落ちた。

ミキ「ふえ~~~疲れたぁ~~~~!
   リッチェーンまだ直ったばっかりなのに、いきなり飛ばしすぎだって思うな!
   ぐわぁーんとかばびゅーんとかやらされて、もうヘロヘロってカンジ!」

マミ「お疲れ、ミキミキ。なんか分かんないけど、めっちゃ大変だったんだね」

アミ「リッチェーンはミキミキが自力で操縦してるんだもんねぇ」

ミキ「本当、大変だったの!
   ミキ的にはもうちょっと段階を踏んでからリハビリして欲しいの!」



349:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/07(火) 20:30:12.47 ID:+kV6KPaeo

マミ「でもミキミキのことだから、いきなりでもちゃんと完璧にできたんでしょ?」

アミ「うんうん。なんせ防衛軍のエース・オブ・エースだもんね」

ミキ「むー……。確かにできたけど、それとこれとは話が違うの!」

可愛らしくむくれるミキの様子にアミとマミはケタケタと笑い、
ミキもまた、少し疲れた表情ながらも顔をほころばせた。

ミキ「でも二人が元気そうで良かったの。
   さっき見た時、なんだかあんまり元気じゃなさそうだったから」

えっ、思わず声を揃えるアミとマミ。
唐突なミキの言葉にどう返答するか、少し言いよどんだ二人だが、
ミキは薄く笑ったまま続けた。

ミキ「もしかして、この間のハルシュタイン軍の人のこと? イオリ、だっけ?」

マミ「……うん」

アミ「あのイオリって子が悪者で、私たちの敵っていうのは分かってるんだよ。
   でも……やっぱり、目の前で死なれちゃったらショックが大きいっていうか」



350:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/07(火) 20:31:06.13 ID:+kV6KPaeo

マミ「別にマミたちのせいじゃないって、他のみんなは言ってくれてるんだけど……」

ミキ「ミキもみんなの言う通りだって思うな。
   口の中に隠した毒なんて絶対気付くわけないの。
   だからアミもマミも、そんなの全然気にする必要なんてないよ」

アミ「うん……。だからアミたちも、自殺を止められなかったことについては
   あんまり気にしないようにしようとは思ってるんだ。
   でも……もう一つ、どうしても考えちゃうことがあって……」

ミキ「考えちゃうこと?」

マミ「……なんで、あのハルシュタインって奴のためにそこまでできるのかな、ってさ」

イオリの、ハルシュタインに対する徹底した忠誠心。
それは情報を与えぬための自害の他にも見て取れた。
残された怪ロボット、アズサイズは防衛軍の戦力として利用されぬよう、
アミたちやキサラギが近付けば自動的に攻撃するようプログラムされていたのだ。

当然、防衛軍の技術者たちは全力を尽くしてプログラムの消去を試みているが、
幾重にも施されたプロテクトを突破するのは困難を極め、未だ解決の兆しすら見えていない。
そこにアミとマミはイオリの執念を感じ、
最後にイオリが見せた笑みがいつまで経っても瞼の裏から消えずに残っているのである。



351:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/07(火) 20:32:51.68 ID:+kV6KPaeo

マミ「それってやっぱ、自分が死んででも夢を叶えてあげたいくらい
   ハルシュタインのことが大好きだったってことでしょ?
   だからなんていうのかな……敵ながらすごいな、って」

視線を手元に落としながらも、複雑そうな笑顔を作るマミ。
アミもまた同様の表情を浮かべ、
もう中身も僅かなコップを握り締める両手に力が入っているのが分かる。
ミキはそんな二人の様子を少しの間だけじっと見つめた後、すっと目を閉じた。

ミキ「そうかもしれないね。でも、ミキはイオリじゃないからよく分からないの。
   それに……もしそうだったとしても、それはミキたちだって同じでしょ?」

アミ「……私たちも、同じ?」

ミキ「あいつらはハルシュタインの夢を叶えたいのかも知れないけど、
   ミキたちは、地球のみんなの夢を叶えたいの。みんなの未来を守りたいの。
   だから、戦ってやっつけるしかないんだよ。あいつらはそれを壊そうとしてるんだから」

ミキの瞳は瞼に覆われていて見えない。
しかしその声の響きからははっきりと熱い意志が伝わってきた。
ミキの持つエースパイロットの素養の一つが天性の操縦技術であることは言うまでもないが、
もう一つがこの、敵と認めた者に対して抱く闘志。
これこそがミキを防衛軍のエースたらしめている大きな要素である。



352:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/07(火) 20:34:24.91 ID:+kV6KPaeo

アミたちは時折ミキが放つ闘志を頼もしく感じ、同時に少し怖くも感じる時もあった。
しかしこの時ばかりは、ミキの言葉は二人の心に火を灯すことに成功した。

アミ「……そうだよね。私たちにだって、守りたいものはあるんだ」

マミ「この町を、地球を――ここに住むみんなを、守らなきゃいけないんだ」

忘れていたわけでは、当然ない。
しかし敢えて確認するように、アミとマミは自分の意志を口に出す。

マミ「あの子を止められなかったのは悲しいし、
  次に同じようなことがあったら、その時は絶対に止めたい。
  でも、終わったことでもう悩んだりしない!」

アミ「悩んでたら力なんか出ないし、私たちらしくないもんね!」

マミ「うん、元気出てきた! ありがとう、ミキミキ!」

ミキ「……ミキは何もしてないの」

そう言ってあふぅ、とあくびをしたかと思えば、ミキはそのままの体勢で寝息を立て始めた。
アミとマミは顔を見合わせて苦笑いした後、
決意を新たにするようにぐっと笑顔を引き締めて、互いの拳をこつんと合わせた。



353:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/07(火) 20:38:00.18 ID:+kV6KPaeo

それからどれほどの時間が経ったろうか。
窓から差し込む暖かな陽の光と気持ちよさそうなミキの寝息に誘われるように、
アミとマミもまた、椅子に腰掛けたままうつらうつらと船を漕ぎ始めている。

――けたたましい警報が食堂の空気を一変させたのはちょうどその頃だった。
アミとマミは椅子から跳ねるように立ち上がり、
ミキも今日は珍しくすぐに目を開けた。
また怪ロボットか、と構えたアミたちであったが、
警報とともに流れたアナウンスは、これまで聞いたことのないものだった。

未確認飛行物体を二体確認。総員第二種戦闘配備。

アミ「未確認飛行物体? 怪ロボットじゃないの?」

マミ「しかも二体って……」

ミキ「なんか、ただ事じゃないってカンジだね」

未確認とアナウンスは告げているが、これがハルシュタインと無関係であるとは到底思えない。
初めての事態に三人は怪訝な表情を浮かべつつも、
自らの持ち場へと足早に駆けていった。



354:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/07(火) 20:41:20.97 ID:+kV6KPaeo




地表の大半が水に覆われた星、地球。
アニマを緑の惑星と称するならば、青の惑星となるであろうその星だが、
二つの飛行物体は上手く陸地へと降り立った。

いや、二つのうち小型の方に限っては、降り立ったというよりは不時着に近い。
黒煙を上げて木々にぶつかりながらも
辛うじて大破を免れたその機体から、小柄な影がよろよろと這うようにして出てくる。
小さくうめき声を上げるその少女の見上げる先から、
大きな円盤が悠然と後下してきた。

タカネ『さて、そろそろ希照石とやらを引き渡す気になっていただけましたか?』

ヒビキ「……っ」

静かに響き渡る声に少女は――ヒビキは歯噛みし、踵を返して走り出す。
しかしその足取りは、アニマの自然の中を
自由に駆ける本来の姿が見る影もないほどに重い。
不時着のための姿勢制御に要した神経と体力、
また全身を襲った衝撃は並大抵のものでなく、ヒビキは完全に疲弊しきってしまっていた。



355:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/07(火) 20:44:32.60 ID:+kV6KPaeo

ちょうど地球の大気圏へと突入しようという頃、
それまで一定の距離を置いて追跡してきていた巨大な宇宙船が突然攻撃してきた。
その場で機体がバラバラにされるような
強力な攻撃ではなかったが、恐らくそれも敵の計算の内。
広大な宇宙空間や地球上空で機体を爆散させれば、
目的の希照石を探すのが多少面倒になる。
そうなるよりは、不時着させて所有者本人から奪い取る方が確実と、
敵はそう考えたのだろうとヒビキは推察した。

今にも膝から崩れ落ちてしまいそうな体に鞭打ちながら、ヒビキは更に考える。
希照石の声を信じるならば、この星のどこかに希煌石を持つ戦士がいるはず。
一刻も早くその者に合わなければならない。
可能な限りのコントロールはしたものの、
不時着したこの場所は、希照石に導かれ向かっていた位置よりかなり外れてしまっている。
宇宙船が破壊されてしまった以上、自分が走らなければ――

しかしそんなヒビキの懸命な抵抗を嘲笑うかのように、
揺れた地面が彼女の足を取り転倒させた。



356:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/07(火) 20:49:09.77 ID:+kV6KPaeo

それはアニマを襲った怪ロボット、
ユキドリルが、円盤から地表に降り立った振動であった。
ドリルが起こす地震にも等しい揺れに比べれば些細なものであったが、
今のヒビキにはそれすらも耐えることができない。

絶望を突きつけるように、ユキドリルが一歩足を踏み出すごとに、
体の芯まで響くような振動がヒビキを襲う。
しかし巨大な影が目の前に迫ってなお、ヒビキはその目の抵抗の炎を絶やすことはなかった。

タカネ「私は無益な殺生は好みません。
    大人しく宝を渡して頂けるなら、命までは取るつもりはないのですが……」

そこでタカネはひと呼吸置いて自分を睨みつけるヒビキの瞳を見つめ返し、
浅くため息をついた。

タカネ「どうやら、これ以上言っても無駄なようですね」

ヒビキ「どうして……どうしてお前は、そこまでして希照石を狙うんだ」

タカネ「言ったはずです。ハルシュタインがそれを欲している、と」



357:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/07(火) 20:51:21.46 ID:+kV6KPaeo

ヒビキ「それはお前の意志じゃないだろ!?
   なんでタカネは、ハルシュタインとかいうやつに従ってるんだよ!」

タカネ「……命乞い、ではなさそうですね。では時間稼ぎでしょうか。
   “希煌石”とやらがあるこの星に、助けを期待しているのですか?」

希煌石を知っているのか、とヒビキは僅かながら驚く。
それが表情に出ていたのかは分からないが、
タカネはヒビキが言葉を発する前に続けた。

タカネ「貴女の問いに答える理由はありませんし、助けなど期待しても無意味ですよ。
   いずれにせよ、希煌石もハルシュタインの手中に収めるべきもの。
   仮にその持ち主が助けに来たとすれば、それはそれで――」

瞬間、突如として聞こえた空気を切り裂く音がタカネの言を遮った。
間髪入れず、金属同士がぶつかり合う轟音が大気を揺らし、
その音と風圧に思わずヒビキは頭を伏せるようにして身を縮める。
そして恐る恐る顔を上げたその先には、
鎖に繋がった巨大な鉄球を受け止めたユキドリルの姿があった。

タカネ「――好都合、というものです」



358:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/07(火) 20:56:09.43 ID:+kV6KPaeo

アミ「怪ロボット確認! 一般人が襲われてる!」

マミ「どうしよう、ミキミキ! 先にあの子を逃がしてあげた方がいいかな!?」

飛翔するキサラギのステアに掴まり、アミたちはミキに判断を仰いだ。
同じくロケットエンジンを噴射して飛んでいたリッチェーンは、
伸ばした鎖をぐっと掴み、砂塵を巻き上げて地面に降り立つ。
それに倣い、キサラギもリッチェーンの隣に降り立った。

ミキ『そうだね。じゃあミキが怪ロボットの相手をするから、二人はあの子を……』

しかしミキが言いかけた言葉は、喉元で止まった。
瞳は大きく見開かれ前方に釘付けになっている。
その先に居たのは、リッチェーンの攻撃を受け止めた怪ロボット。
ハンマーを防ぐために掲げられた巨大なドリルがゆっくりと下げられ……
その頭頂部に立つ者の姿が見えた瞬間、ミキの本能が警笛を鳴らした。



359:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/07(火) 20:58:49.54 ID:+kV6KPaeo

ミキは鎖を引いてリッチェーンのハンマーを回収し、
直後、膝を曲げて着地した姿勢そのままに、上半身を大きく捻る。
そして遠心力に任せて巨大なハンマーを振りかざし、
怪ロボット、ユキドリルへ向けて真横に振り抜いた。
ユキドリルはまたも両腕のドリルでハンマーを受け止めてみせたが、
勢いは止まらずにそのまま数百メートルほど押される。
だがその攻撃に驚いたのは、何よりすぐ隣で見ていたアミとマミである。

アミ「ミ、ミキミキ!? そんないきなり……!」

ミキ『ごめん、そこの人! ミキたちが戦ってる隙に自力で逃げて!』

マミ「ちょ、ちょっとミキミキ!?」

ヒビキに向けて発された無責任とも取れる言葉に、
二人は困惑の表情でミキの名を呼ぶ。
だがミキは一点、怪ロボットのみを見据えたまま、
ミキらしからぬ切迫した声で、唸るように言った。



360:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/07(火) 21:00:52.55 ID:+kV6KPaeo

ミキ『……ダメなの。あいつは、二人で戦わないとダメ……!』

それは天才であるがゆえの勘であろうか。
理屈を超えた野生の獣のような直感が、ミキに告げていた。
この敵は桁外れに強い、と。

ミキ『うおおおおーーーーーーーーっ!』

渾身の叫びを上げ、ミキはもう一つ残されたハンマーを
先ほどと同じようにユキドリルへ向けて振り抜く。
その衝撃を受け、ユキドリルは更に数百メートル後退した。

ミキ『アミたちも手伝って! 早く!』

この時になってようやくアミたちは、
ミキが怪ロボットと一般人の距離を離そうとしていることに気が付いた。



361:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/07(火) 21:03:48.50 ID:+kV6KPaeo

ようやく、とは言っても決して遅すぎたわけではない。
寧ろ言葉にしていないミキの意図をこの段階で読み取っただけでも、
コンビネーションとしては十分だと言える。
しかしそれでも、遅かった。

ミキ『っあ……!?』

了解、とアミたちが返事をするより一瞬早く、リッチェーンの巨体がふわりと浮き上がる。
ユキドリルが両腕のドリルを器用に使い、
リッチェーンのハンマーに連なる鎖を思い切り引き寄せたのだ。
キサラギやリッチェーンと同じような細身の機体からは想像もできないパワーにより、
引き寄せられるようにユキドリルへと向かい飛んでいくリッチェーン。

アミマミ「ミキミキ!」

だが、ミキの表情が驚愕に彩られたのは束の間、
瞬時にミキは目にも止まらぬ速さで手元を操作し、崩れた体勢を空中で整えた。
そして引かれた勢いに落下のエネルギーを乗せ
巨大ロボとは思えぬ見事な動きで放たれた回し蹴りは、
その勢いの衰えないままに轟音を立ててユキドリルに向けて振り抜かれた。



362:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/07(火) 21:06:42.46 ID:+kV6KPaeo

リッチェーンの回し蹴りはユキドリルの機体を、
防御のために上げられた腕ごと吹き飛ばすはずであった。
しかし……

アミ「え……!?」

マミ「な、何!? なんで……!?」

直後に地面に叩きつけられたのは、ユキドリルではなくリッチェーン。
蹴りの勢いを増幅されたかのごとく、
リッチェーンは山を削りながらおよそ数km以上も転がされた。
何が起こったのか理解できず混乱するアミたちの頭に、タカネの冷たい声が響く。

タカネ『なるほど、頂いた情報に違わぬ見事な操縦技術……。
   まだ若いでしょうに、素晴らしき才能を持っているようです』

さて、とここで言葉を切り、
タカネは彼方まで吹き飛ばされたリッチェーンからキサラギへと視線を移す。

タカネ『貴女方はどうでしょうか。
    キサラギとそのパイロット、アミとマミ。
    希煌石によって動くその機体は、さぞ見事な動きを見せてくれるのでしょうね』



363:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/07(火) 21:08:00.02 ID:+kV6KPaeo

タカネ『順番が変わってしまいましたが、
    まずは貴女方の持つ希煌石から奪うことと致します。
    その後に予定通り希照石を奪い、二つ揃ってハルシュタインへの手土産としましょう』

マミ「希照石《テラジェム》……!?
   じゃあさっき女の子を襲ってたのは、それが狙い!?」

アミ「そんなこと、させると思う!?」

タカネ『そちらがどう思おうと関係ありません。
    すべては高貴なるハルシュタインの意志のままに実現されるのです』

ミキ『……実現なんて、されないの。
   ハルシュタインの意志なんか、ミキたちが打ち砕いてやるんだから!』

起き上がったリッチェーンから発せられたミキの言葉が、力強く空気を震わせる。
アミとマミはその振動を肌で感じ、
また共鳴するように自分たちの鼓動が早まるのを感じた。
自分に向けられる熱のこもった視線を受けたタカネは、やはり冷たく言い放つ。

タカネ『良いでしょう……。ではかかっておいでなさい。
    ただし時間はかけたくありません。二体揃ってお願いします』



367:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/09(木) 19:51:13.72 ID:rDINdejMo

マミ「そうやって余裕ぶっていられるのも今のうちだよ!
   私たちのコンビネーションをなめないでよね!」

アミ「行くよミキミキ、キサラギ!」

   『くっ……!』

ミキ『ラジャーなの!』

アミの合図でキサラギとリッチェーンは関節を唸らせ、
悠然と構えるユキドリルに向けて駆け出した。
それぞれ異なる方向から疾走する二体はユキドリルへと全く同時に到達し、
キサラギは拳を、リッチェーンはハンマーを振り抜く。
そのタイミングも全くの同時であり、
合図を発することなくここまで息を合わせられるのは
マミの言った通り見事なコンビネーションと言う他ない。

しかしタカネは、二方向から同時に襲い来る一撃必倒の攻撃に微塵も臆することなく、
ユキドリルのドリルをすっと掲げた。



368:ちょっと修正します 2017/02/09(木) 19:55:01.33 ID:rDINdejMo

マミ「そうやって余裕ぶっていられるのも今のうちだよ!
   私たちのコンビネーションをなめないでよね!」

アミ「行くよミキミキ、キサラギ!」

   『くっ……!』

ミキ『ラジャーなの!』

キサラギとリッチェーンは関節を唸らせ、
悠然と構えるユキドリルに向けて駆け出した。
それぞれ異なる方向から疾走する二体はユキドリルへと全く同時に到達し、
キサラギは拳を、リッチェーンはハンマーを振り抜く。
そのタイミングも全くの同時であり、
合図を発することなくここまで息を合わせられるのは
マミの言った通り見事なコンビネーションと言う他ない。

しかしタカネは、二方向から同時に襲い来る一撃必倒の攻撃に微塵も臆することなく、
ユキドリルのドリルをすっと掲げた。



369:ちょっと修正します 2017/02/09(木) 19:56:02.42 ID:rDINdejMo

一度目は何をされたか理解できなかったミキだが、
今度ははっきりと見ることができた。
またアミたちもスター・ツインズの動体視力を以てようやく理解する。

タカネはアミたちの攻撃がドリルに触れた瞬間、その速度に合わせてドリルを回転させた。
同時に僅かにドリルをずらして攻撃の軌道を逸らし、勢いとドリルの回転を利用して――
次の瞬間には、アミたちの視界は反転し、
浮遊感を感じる暇もなく地面に叩きつけられていた。

言葉で説明すれば単純ではあるが、一朝一夕で再現できるものであるはずもない。
アミとマミは衝撃によって明滅する視界の中、
いつか読んだ格闘漫画に登場する合気道の達人の姿を思い起こしていた。
流麗な舞のごとき動きはまさに達人のそれであり、
仰向けに倒れたキサラギとリッチェーンを振り返ることもなく
凛として佇むその背は神々しくさえ見えた。
それが自分たちへの脅威となるものでなければ、アミたちは歓声すら上げたであろう。

だが現実はそうではない。
抱きかけた憧憬にも近い思いを振り払うようにアミとマミが上げた叫びは
図らずもミキと重なり、二機は地に倒れたまま今一度ユキドリルへの攻撃を試みた。



370:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/09(木) 19:57:46.97 ID:rDINdejMo

ミキ『まだまだぁーーーーーっ!』

アミマミ「やれ! キサラギィーーーーー!」

キサラギはユキドリルの足元へ、リッチェーンは頭部へ、
上下への同時攻撃を放った。
が、タカネはそれを肩ごしにチラと振り返ったかと思えば表情一つ変えることなく、
大きく弧を描くようにドリルを動かし、
キサラギの足とリッチェーンのハンマーをまたも受け流した。
しかも今度はただ受け流しただけでなく、

ミキ『うあぁっ!?』

アミマミ「ぶ、ぶつか……!」

二機の巨大ロボは浮き上がり、空中で衝突する。
タカネは、受け流す方向までもコントロールしてみせたのである。
折り重なって地面に落下するキサラギとリッチェーンを
冷徹な眼差しで見下すタカネは静かに口を開き、やはり冷たい声色で告げた。

タカネ『希煌石による運動性能も、
    純粋な技術でそれに並ぶことのできる才能も、大したものです。
    しかし修練が足りません。貴女方が私の力をどう見積もっていたのかは知りませんが……
    “なめるな”と言いたいのはこちらの方です』



371:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/09(木) 20:00:50.97 ID:rDINdejMo

アミたちは、その静かではあったが重く響く声色の奥に、微かに灯る焔を感じ取った。
それは赤く激しく燃え盛る炎ではなく、青く、しかし何より熱く燃える炎。

タカネ『二体揃ってかかって来いと言ったはずです。
   お見せなさい。キサラギの――希煌石の、本領を。
   このままでは私の眉一つ動かすことすら叶いませんよ』

それは挑発か、宇宙最高位に立つべき者としての矜持か。
だがいずれにせよアミたちにはそれ以外の道は残されていない。
この圧倒的な力の差を埋める方法はただ一つ――

アミ「わかったよ……そこまで言うならやってやろうじゃないの!」

マミ「行くよミキミキ!」

ミキ『もちろん、準備オッケーなの!』

アミマミ「無尽合体! ハイパーキサラギ!」



372:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/09(木) 20:02:21.39 ID:rDINdejMo

揃った声を合図に、キサラギとリッチェーンの体が展開する。
瞬く間に二機の巨大ロボは合体していき完成したその姿は、
黒い月本体に攻め入ったスターキサラギとほぼ同じ。
違いはただ飛行怪ロボットの翼が無いという点のみで、
並み居る怪ロボット達を蹴散らした最強の武器はそのままに再現されている。

手加減は無用。
ハイパーキサラギはユキドリルに向けて両手を構え、

アミマミ「ハイパーリッチェーンハンマーーーーーー!」

タカネ「――っ!」

超高速で放たれた強化ダブルモーニングスターに、
タカネの表情が初めて色を変える。
先程までと同じように攻撃を受け流そうと、ドリルを掲げるタカネ。
だがハンマーに触れたドリルは次の瞬間、凄まじい音を立てて弾かれた。



373:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/09(木) 20:03:04.15 ID:rDINdejMo

マミ「やった……! 今度は効いてる!」

アミ「どうだ見たか! これが私たちの本当の力だ!」

ミキ『今のうちにどんどん追撃するの!』

放たれたハンマーを回収し、再び攻撃を繰り出すハイパーキサラギ。
タカネは瞬時に反応し辛うじてそれを防いだが、
またも威力を殺しきれずに大きく体勢を崩す。
速度、威力ともに跳ね上がったダブルモーニングスターの猛攻撃に、
もはやタカネは防戦一方であった。

だがアミたちは気付いていた。
タカネの瞳に燃える炎は消えていない。
どころか更に熱く燃え、逆転した戦況を再び覆す機を伺っている。
それを分かっているからこそここで一気に勝負を決めるべく、
アミとマミは攻撃を絶やすことなく追撃し続けた。



374:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/09(木) 20:05:01.64 ID:rDINdejMo

しかししばらく攻撃を続けるうちにアミたちは違和感を覚え始めた。
確かに敵は今や防戦一方であり、それに違いはない。
が――終わらないのだ。

何度強力な攻撃を浴びせようと、どれだけ体勢を崩そうと、クリーンヒットは一つもない。
敵はこちらの攻撃の威力を殺しきれていないとは言っても、
致命的な隙を生む一歩手前で踏みとどまってギリギリのところですべて捌かれている。

そして決めきれない焦りからか、
少しずつアミたちの攻撃が雑になってきていることにミキは気付いた。
それはミキの鋭い感覚がなければ気付けないほど僅かではあったものの、
決して無視することのできない変化。
だからミキはそれをアミたちに忠告しようとした。

しかしその直前、
ユキドリルがこれまでで最も大きく体勢を崩し、初めて膝をついた。

アミ「! 今だ! 食らえーーーーっ!」



375:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/09(木) 20:07:50.40 ID:rDINdejMo

マミ「これでトドメだぁーーーーー!」

この機を逃すわけにはいかないと、キサラギは一際大きく足を踏み込む。
そしてユキドリルの頭部目掛け勢いよくハンマーが振り下ろされた刹那、
キサラギの腹部に組み込まれたコクピットから、ミキは見た。
上から見下ろすアミとマミからは死角になって見えていないであろうタカネの目が、
飛び込んできた獲物を捕捉するようにギラリと光っているのを。

ミキ『待って二人共――』

だがその声がアミたちに届くよりも、ユキドリルが動く方が先だった。
ユキドリルは片方のドリルを回転させ、それまでと同じようにハンマーの軌道上に掲げる。
直後、ハンマーが触れ……今度はドリルが弾かれることはなかった。

アミマミ「っ……!?」

がくん、とハイパーキサラギの上体が揺れて前のめりに傾く。
そして攻撃を受け流されたのだとアミとマミが理解した時には既に、
もう片方のドリルがハイパーキサラギの胸部目掛けて振り抜かれていた。



376:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/09(木) 20:13:00.26 ID:rDINdejMo

やられた――
アミたちはカウンター気味に食らうであろう衝撃を覚悟し、咄嗟にステアを握り締める。
だがそのドリルの切っ先は、胸部の装甲に触れる直前で止まった。
見ればハイパーキサラギの両手がドリルをがっちりと押さえ込むように掴んでいる。
それはアミたちのコマンドではなく、ハイパーキサラギが自動で防御したものでもない。

ミキ『なんとか、間に合ったの……!』

アミマミ「ミキミキ!」

あの切迫した状況で即座にマニュアルに切り替えたミキの判断力、
そして瞬時に防御をやってのける操縦技術にアミとマミは歓声を上げた。
そんな彼女たちに、拡声された声が届く。

タカネ『……真、素晴らしき才能です。
   無尽合体の力も、私の想像を遥かに超えておりました。
   既にあれほどの力を持つハルシュタインが何故、
   希煌石などという石一つにこだわるのか理解できた気がします』



377:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/09(木) 20:14:24.19 ID:rDINdejMo

その言葉は心からの賞賛、あるいは降伏しているようにも聞こえた。
しかしアミたちは次の瞬間、ほんの一瞬でも気を抜いたことを後悔する。

タカネ『惜しいものです。もし貴女方があと数年早くこの力を手にし、
    更なる修練を積んでいれば、それを失うこともなかったでしょうに』

瞬間、ユキドリルの、ハイパーキサラギに抑えられていない方の腕が大きく挙動する。
そしてアミたちがそれに気を取られた瞬間、
抑えていたドリルが高速で回転を始めた。
その回転速度は、これまでのドリルがまるで
子供の玩具であったかと思うほどに桁外れであり、
両掌との摩擦で激しく散る火花を見てミキは呻き声を漏らした。

ミキ『ダメ……マニュアル操作じゃ抑えきれない! アミ、マミ! お願い!』

アミ「わ、わかった!」

マミ「キサラギ、ドリルを抑えろ! 全力を振り絞って!」

  『くっ……!』



378:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/09(木) 20:16:30.90 ID:rDINdejMo

キラブレが光り、希煌石の力をフルに使ってハイパーキサラギはドリルを抑え込む。
すると徐々に飛び散る火花は少なくなり、ドリルの回転速度は目に見えて落ちていった。
ドリルよりもハイパーキサラギのパワーが上だ、これなら行ける。
アミたちはそう思い、またそれは間違いなく事実であった。
だが、彼女たちは失念していた。
ユキドリルの――タカネの恐ろしさは、パワーなどではないということを。

決して警戒を怠っていたわけではない。
今必死に抑えているものの他、もう一つドリルは残されており、
そちらがきっともう間もなく攻撃に使われる。

だからそのドリルがこちらに向かって振りかざされた時、反応はできた。
右手で一方のドリルを抑えつつ、左手でもう一方のドリルを掴むことができた。
しかしその直後、アミたちは、
目の前の景色が真横にぶれるのを見た。
同時に体がステアから引き剥がされそうになるのを感じ、
声を上げる暇すらなく全身全霊でしがみつく。

何が起こったのか一瞬遅れて気が付いた。
ハイパーキサラギの巨体が空中で、
強制的に宙返りでもさせられているかのごとく高速回転しているのだ。



379:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/09(木) 20:19:49.19 ID:rDINdejMo

それは時間にすれば数秒にも満たない僅かなものであっただろう。
だがその僅かな時間に何度天地が入れ替わっただろうか。
スター・ツインズとなり強化された身体能力で
辛うじて吹き飛ばされずに済んでいるアミとマミであったが、
解体されんばかりの勢いで高速回転する機体はやがて地面へ落着、衝突する。
その瞬間に加わった衝撃と慣性は、
アミの身体をステアから引き剥がすのに十分以上の威力を発揮した。

アミ「きゃああああーーーーーーーーーっ!!」

マミ「アミ!」

大地を揺るがす轟音に混ざって遠ざかっていく悲鳴を聞き、マミは妹の名を叫ぶ。
悲鳴の先に目をやると、くらむ視界の中に空高く放り出されたアミの姿が見えた。
直後、未だに覚束無いマミの五感のうち、聴覚がはっきりと覚醒する。

タカネ『……まずは、一人』

またも回転を始めたドリルの音と共に発せられたその声に、
マミは心臓が跳ね上がり、同時に血液が一気に冷えるのを感じた。



384:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/12(日) 19:45:22.34 ID:NhytkIqso

だがタカネはマミの様子など意に介さず、
冷たい視線は無防備に宙を舞うアミに固定されている。

アミは空中で身動きの取れない中、巨大な武器が自分に向けられているのを見た。
強化された肉体とは言え、あんなものを食らえばひとたまりもない。
痛みを感じる間もなくこの体は塵と消えるであろう。
アミは覚悟を決めたようにぎゅっと目を瞑る。

……が、目を閉じたアミは次の瞬間、
ドリルとは全く違う衝撃を感じて思わず声を上げて目を開ける。
大きく見開かれた瞳に映ったのは、迫る巨大ドリル、
そして――ドリルに背を向けて力強く自分を抱きしめる、マミの姿であった。

アミ「マミ!? なんで……!」

自分を庇う姉の姿にアミが驚いたのは言うまでもない。
しかしこの時、アミ以上に表情を変えた者が一人。
アミを始末するためにドリルを構えていたタカネの目が、
驚愕に……いや、それ以上の感情に見開かれていた。



385:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/12(日) 19:49:59.95 ID:NhytkIqso

タカネ「っ、あ……」

薄く開かれた唇から、吐息とも喘ぎともつかない声が漏れ出す。
地球はもちろんアニマでも見せたことのなかった表情を浮かべたタカネは、
ユキドリルにドリルを構えさせたまま、
ピッタリと動きを止めている。

しかしそれも一瞬のこと。
タカネは唇を噛み、眉根を寄せて全身に力を入れる。
苦痛に呻くようなその顔は、今にも泣き出しそうにも見えた。

直後、アミたちは何かを振り払うような叫びを聞いた気がしたが、
それはユキドリルの機体が再び駆動した音にかき消される。
だが悲鳴のような唸りを上げて改めてアミたちに迫ったドリルは次の瞬間、
真上から振り下ろされた巨大ハンマーにより地面へと叩きつけられた。

ハンマーに連なる鎖の先に居たのは、立ち上がったハイパーキサラギ。
直前の回転によりコクピットの中で激しく叩きつけられたせいで
一時的に意識が混濁していたミキが今、目を覚ましたのだ。



386:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/12(日) 19:52:39.36 ID:NhytkIqso

ミキ『そうは、させない……!』

タカネ「ぐっ……この……!」

ユキドリルの腕は地中深くめり込み、膝をついている。
だがすぐさまドリルを回転させて周囲の土を削り、
数秒も経たずにめり込んだ腕を引き抜くことに成功した。
そしてその引き抜いた勢いのままに、
リッチェーンハンマーの鎖へ切断すべくドリルを振りかぶる。

しかしその時、タカネは俄かに背筋が粟立つのを感じた。
反射的に動きを止め、再びハイパーキサラギへと顔を向ける。

厳密に言えば、タカネが見たのはハイパーキサラギではない。
その腹部に組み込まれたコクピット……
そこに座る、一人の少女であった。



387:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/12(日) 19:59:13.11 ID:NhytkIqso

瞬間、残されたもう一方のハンマーがユキドリルへと襲いかかる。
タカネは迫るハンマーを見据え、
もはや完全に合わせられたタイミングで見事ハンマーの軌道を逸らした
――はずであった。

タカネ「……!?」

ユキドリルの腕はハンマーに触れた途端、
それまで聞いたことのないような音を立て大きく弾かれたのだ。
そしてリッチェーンハンマーは、そのままガラ空きの胴体へ向けて直進する。

直撃。
タカネの脳裏をすら一瞬よぎったその言葉であったが、
紙一重で左腕でのガードが間に合った。
当然それまでのように威力を殺すことはできずに宙を舞うユキドリルの巨体。
しかしユキドリルは吹き飛ばされる瞬間に脚を蹴り出し、
相討ちのような形でハイパーキサラギの頭部へと蹴りを食らわせる。

その後タカネは空中でバランスを立て直し、なんとかユキドリルを両の足で着地させた。
対して、カウンター気味に蹴りを食らったリッチェーンは、
バランスを崩してよろめき、尻餅をつくようにして倒れる。

が、そんなリッチェーンへ向けられたタカネの表情は、驚愕に彩られていた。



388:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/12(日) 20:04:06.20 ID:NhytkIqso

なぜ、自分は今の攻撃を受け流すことができなかったのか。
タカネにはその理由が分かっていた。
分かっていたからこそ、驚いていた。

ミキはつまり、ドリルの回転と逆方向に、ハンマーに回転を加えていたのだ。
そして逆回転だから、弾かれたのだ。
……言葉にすれば実に単純な理屈である。
しかしそれでもミキがそれをやってのけたという現実は、タカネの理解の範疇の外であった。

あれは、そのような単純な理屈で実現できるものではない。
ドリルの回転速度や、ハンマーとドリルが触れる角度など、
あらゆる要素を完璧に計算しなければ実現し得ないはずだ。
“計算しなければ”?
否、計算などできるはずがない。
つまりこれは、本能、直感……そういった天賦の才によるものに他ならない。

自分は、このミキという少女の才能は認めていた。
ハルシュタインから受け取ったデータから分かっていたことだし、
実際にリッチェーンの動きをこの目で見ても、
確かに紛うことなき天才であると、そう認めていたのだ。



389:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/12(日) 20:06:04.83 ID:NhytkIqso

だが、今の技術はなんだ。
この距離から感じる鮮烈な気配はなんだ。
天才という言葉ですら表現しきれない何か別種の力が、
間違いなくこのミキという少女の体の中には秘められている。

タカネ「……あなたは、もしや……」

脳裏を一つの可能性がよぎり、操縦桿を握る手に力が入る。
もし本当に『そう』だとすれば、この少女は近いうちに必ず、
より大きな障害となって自分の目の前に立ちふさがる。
放っておくわけには行かない。
今ならまだ自分の方が実力は上。
ならば今ここで確実に――

しかしそこに考えが至ったと同時、タカネは背後にまた別の気配を感じた。
ユキドリルの機体に何かぶつかるような音が連続して聞こえ、
ふっと差した影に振り向くと、そこには――

ヒビキ「希照石開放! でぇりゃぁぁぁぁーーーーーー!」



390:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/12(日) 20:10:21.22 ID:NhytkIqso

高く跳躍し、蹴りを放とうとするヒビキの姿が、見開かれたタカネの瞳に映る。
タカネは意表を突かれ一瞬身を固くした。
が、生身であっても並外れた身のこなしを持つタカネである。
一直線に振り抜かれたヒビキの脚は、一瞬前までタカネが居た場所をただ通過した。
そして空振りした直後のヒビキの体に
しなやかな手がそっとあてがわれたかと思えば、
次の瞬間にはヒビキは思い切り、ユキドリルの機体に背中から叩きつけられていた。

ヒビキ「が、はっ……!」

受身を取ることもできずに直に受けた衝撃は肺に達し、
一時的な呼吸困難に陥ったヒビキは敢え無く横たわる。
その胸元からは見覚えのある光が漏れ出しているのが見えた。
巨大なユキドリルの機体を生身で駆け上った身体能力が、
希照石の力によるものだったことは明らかである。
だが自身の求めた宝を前にして、タカネはそこから視線を逸らさずにはいられなかった。

ミキ『ハイパーリッチェーンハンマー……ダブルインパクトーーーーーー!!』

こちらに向けて放たれた巨大なトゲ付きダブルモーニングスターを、
タカネはまっすぐに睨みつける。
その表情にはもはや冷徹さなど欠片も残されていない。



391:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/12(日) 20:16:10.96 ID:NhytkIqso

しかし闘志を顕にし、ドリルを構えようとしたタカネの顔は
先ほどとはまた違う驚愕に彩られた。
手に力を入れた途端、
二つある操縦桿のうちの一つが音を立てて真っ二つに折れたのだ。

タカネ「まさか……!」

タカネが足元に目線を落とすと、
そこに倒れたヒビキの口元が、苦痛を堪えつつもニヤリと笑っているのが見えた。

あの蹴りは、初めから自分を狙ったものでなかった――。
歯を食いしばり、タカネはもう一度前を見据える。
ユキドリルはキサラギと同じく、ある程度の自立した行動と言語による操作が可能である。
しかしそこにタカネの操縦技術が加わってこそ、ユキドリルの本領は発揮されるのだ。
操縦桿が折られた今、ハイパーキサラギに勝つ見込みなどあるはずもない。
しかしタカネは全身に力を入れ、
すべての仮面を脱ぎ捨てて声の限り叫んだ。



392:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/12(日) 20:20:43.74 ID:NhytkIqso

タカネ「絶対に……諦めて堪るものかぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!」

タカネの叫びに呼応し、ユキドリルが大きく挙動する。
そして、ハンマーとドリル、全力を込めた攻撃同士が正面からぶつかり、
周囲一帯に衝撃波が広がった。

アミ「うあっ!?」

マミ「っ、ミキミキ……!」

少し離れた位置に着地した後、急いで駆け付けようとしていたアミとマミは、
枝葉が折れ大きく揺れる木々に囲まれ、吹き飛ばされぬよう互いを支え合う。

やがて衝撃波が収まり、辺りには静寂が戻った。
ミキは息を荒げ、コクピット内からユキドリルの様子を注視する。
巻き上がった砂塵の晴れた先に見えたのは、操縦桿が完全に破壊されたユキドリル。
その頭頂部で気を失い、ヒビキに抱きかかえられたタカネの姿。

透き通るように白いタカネの頬は、閉じられた瞳から流れる一筋の雫に濡れていた。



393:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/12(日) 20:25:34.61 ID:NhytkIqso




――目を開けると、真っ先に青い空が目に入ってきた。
同時に記憶が蘇る。
タカネはゆっくりと上体を起こし、
自分を見つめる四人に向けて静かに言った。

タカネ「……私の隙を突いた、見事な連携でした。真、天晴れです。
    どうか誇ってください。そうすれば私も、少しは浮かばれますから……」

どこか悲しそうな、浮かない表情のアミたちに、タカネは穏やかに微笑む。
だがアミはそれに微笑みを返すことなく、口を開いた。

アミ「どうして……あの時、攻撃を止めたの?
   もし止めてなかったら今頃アミは……」

タカネ「済んだことを話しても、詮無きことですよ」



394:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/12(日) 20:28:52.45 ID:NhytkIqso

タカネ「貴女方は勝ち、私は負けた。
    結果がすべて……それで良いではありませんか」

これ以上何も答えることはないというように、タカネは目を伏せる。
しかしその肩が、ヒビキの言葉でぴくりと動いた。

ヒビキ「もしかして、キミがさっきうわ言で言ってた名前と関係あるの?」

タカネ「……はて、なんのことでしょう」

ヒビキ「誤魔化さないで欲しいんだ。
    『ごめんなさい』『もう一度会いたい』って……。
    何度も、何度も繰り返してた。
    もしかしたら、それがハルシュタインなんかに従ってる理由じゃないのか……?」

タカネ「だとしたら何だと言うのです。
    仮に今貴女が想像しているような理由があったとして、
    私が貴女の星を焼き、仲間を破壊した仇であることには変わりありません。
    それとも、理由を話せば私を許すとでも?」



395:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/12(日) 20:33:09.77 ID:NhytkIqso

早口気味に発せられたタカネの言葉には、明らかな拒絶の意思があった。
だがヒビキには、それは『許される』こと自体を拒絶しているように聞こえた。

ヒビキ「……理由を聞いたからって、許せるかどうかは分からない。
   でも、知りたいんだ! だって、眠っている時のタカネはずっと泣いて……」

タカネ「関係のないことです。さあ、早く私を防衛軍とやらへ連れて行ってください。
   私は地球を侵略せんとするハルシュタインの一味。受けるべき罰があるはずです」

ヒビキから視線を外し、タカネはアミたちの目を見てはっきりとそう言った。
その視線に、勝者であるはずのアミとマミは思わずたじろいでしまう。
しかしミキはその視線を真っ直ぐに見つめ返す。

ミキ「もちろん連れて行くけど、ミキ的には早く理由を話して欲しいってカンジ。
  っていうか別に話さなくても、どっちにしろ軍の人たちに色々調べられちゃうと思うよ。
  だから早く喋っちゃった方が気が楽だって思うな」

アミ「ちょ、ちょっと、ミキミキ……」

ミキ「だって本当のことでしょ?
  自分で言ってる通りタカネは地球の敵だったんだから、
  宇宙船の中とかもぜーんぶ調べられちゃうの」



396:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/12(日) 20:39:23.94 ID:NhytkIqso

マミ「それは……そうかもだけど……」

ミキ「それにミキだって、
   タカネが困ってるんだったら助けてあげたいって思ってるんだよ?
   まあ、もし本当に悪い人じゃなかったら、だけど」

ミキはそう言って、じっと品定めするような視線をタカネに注ぐ。
その視線からタカネは、敵意や警戒心に近いものを感じた。
同情心のようなものとはかけ離れたその感情はしかし、
逆にタカネの表情を和らげたようだった。

タカネ「敗者には隠しだてをする権利もなし、ということですね」

目を閉じて呟いたタカネに、そんなつもりじゃ、とアミたちは慌てる。
そして純粋に心配する気持ちを伝え直そうとしたが、
タカネはそれを遮るようにして続けた。

タカネ「残された唯一の肉親である妹と再会するため……。
    そのために私は、ハルシュタインへ従うことを誓ったのです」



397:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/12(日) 20:43:19.51 ID:NhytkIqso

それからタカネはポツリポツリと語り始める。
自分の故郷がハルシュタインによって滅ぼされたこと。
最後まで抵抗を続けた自分に付き添い、ギリギリまで星に残り続けた妹が居たこと。
そして彼女が乗り込んだ脱出艇がハルシュタイン軍の追撃を受け、
宇宙の闇の中へと消えていったこと……。

タカネ「……まさに、絶望でした。私はすべてを失ったのです。
   銀河聖帝を継ぐ者としての誇りを守るため、
   ハルシュタインの狙う我が星の軍事力を守るため……
   そうして戦った結果、失わずに済んだはずの妹まで……。
   私は憎みました。ハルシュタインを、ではありません。
   誇りだの、軍事力だの、そんなものを守るために本当に大切な物が何であるかも忘れ、
   失ってから初めて気付いた愚かな私自身を……殺してしまいたいほどに、憎みました」

この時ヒビキの脳裏に蘇ったのは、アニマで自分が見たタカネの表情と言葉。
そして気付く。
殺意と憎悪に満ちたあの目は、ヒビキを通してタカネ自身に向けられていたのだと。

タカネ「しかしそんな折に、ハルシュタインは囁いたのです。
   『私に従い私が望むものをすべて得られれば、妹と再会させてやろう』、と」



398:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/12(日) 20:47:13.83 ID:NhytkIqso

タカネ「ハルシュタインの持つ、時空と時間を超越する力……。
    それが完成されればまさに全知全能、それこそ神の如き力となり得るでしょう。
    『死者をも蘇らせることができる』とさえ、彼女は言ってのけました。
    その言が真か、それとも私を従わせるための嘘かは、わかりません。
    それでも私には……すがり付くしか、道はありませんでした。
    妹に会いたい、せめて一言謝りたい、
    愚かな私のために死んでしまったのなら、蘇らせたい……。
    そんな身勝手な願いを叶えるために私は、泡沫のような可能性に賭けるしかなかったのです」

話す内容はあまりに酷であったが、
それとは裏腹にタカネの表情は穏やかに微笑みをたたえている。

タカネ「ですがその可能性も、露と消えました。
    ハルシュタインは二度と私に会おうとはしないでしょう。
    でも、それで良かったのかも知れません。
    ただ愚かであるばかりか悪に手を染め、罪を償うために罪を重ね続けた私には、
    家族との再会を願う権利などありはしないでしょうから……」

どこか吹っ切れたような、憑き物の取れたようなその顔が、
恐らくは本来のタカネに近いものなのだろう。
しかしその場に居た者は皆、
その穏やかな表情の裏に秘められているであろう悲哀を想い、
口を閉じて目を伏せることしかできなかった。
ただ……一人を除いて。



399:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/12(日) 20:50:59.01 ID:NhytkIqso

ヒビキ「なんでっ……なんで言ってくれなかったんだよ!」

タカネの隣についた膝の上で、ヒビキは拳を握って叫んだ。
その両目には涙が溢れ、強い怒りに歪んでいる。

ヒビキ「初めてアニマに来た時に言ってくれれば……
    あんな、酷いことする前に!
    もっと早く言ってくれれば、あんな思いをすることもなかったのに……!」

タカネ「……申し訳ありません。貴女には本当に辛い思いをさせました。
   貴女の仲間と星にしてしまったこと、貴女に与えた苦痛。
   それはこれから先、どれだけの年月をかけても償いきれるものでは……」

犯した罪を責めるヒビキの言葉に、
タカネはほんの一瞬だけ苦痛を堪えるように表情を歪め、
その表情を隠すように、顔を伏せて謝罪の言葉を口にする。
だが、続くヒビキの言葉はそんなタカネの謝罪を遮った。

ヒビキ「違う! 自分のことじゃない、タカネのことを言ってるんだよ!
   タカネは、あんな辛い思いをする必要なんて絶対になかったんだ!」

予想しなかったその言葉にもう一度ヒビキの方へ向いたタカネの顔。
しかし今度は反対に、ヒビキが顔を伏せてしまう。
ヒビキは握った拳にボロボロと大粒の涙を落とし、嗚咽を漏らしている。

タカネ「やりたくもないことをやらされて、タカネはすごく、辛い思いをっ……!」



400:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/12(日) 20:57:15.28 ID:NhytkIqso

それは、アニマの巫女であるヒビキだから感じ取ることのできた、タカネの感情。
冷徹な仮面の下で自らを苛み続けた思い――
仇に従属しなければならない苦痛や
罪のない者を傷つける度に感じた胸を掻き毟られるような罪悪感。
タカネが堪えてきた感情が希照石を介してヒビキに伝わり、
そのすべてを今、ヒビキは自分自身のことのように感じていた。
そしてそれは、実直なヒビキにはほんの僅かも
堪えることすらできないほど深い悲哀に満ちていたのだ。

タカネ「……貴女は、心優しき方なのですね。
   仇であるはずの私のために涙を流すなど……」

涙を流し嗚咽を漏らすヒビキに、タカネは微笑みを向ける。
しかしそこにはやはり、ある種の諦観めいた感情があった。

タカネ「ですが貴女に話したところで……何も変わりはしなかったでしょう
   貴女方や多くの無辜の民を傷付け、ハルシュタインに従い続けていたでしょう。
   私は身勝手で愚かな女です。それが悲願を叶える唯一の方法である以上、やはり私は……」

すべてを諦めた、もうどうしようもないという
悲しい薄氷のような笑みが、タカネの表情には張り付いている。
だが次の瞬間、素顔を覆い隠すその笑みが初めて、ほころびを見せた。



401:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/12(日) 21:00:51.32 ID:NhytkIqso

ヒビキ「違う! 方法はあるんだよ! 自分ならできるんだ!」

タカネ「……え?」

聞き間違いではないか。
あるいは、何か自分が勘違いしているのではないか。
そんな考えが渦巻くタカネの頭に、ヒビキの心からの叫びが、再び割って入る。

ヒビキ「自分なら、タカネの妹を探すことができる!
    もし……もし死んじゃってても、魂を呼んで話をさせてあげられる!
    色々と難しい条件はあるけど、できるんだ! それがアニマの巫女の力なんだから!」

タカネ「本当、に……?」

掠れた、ほとんど吐息のような声を漏らしたタカネ。
しかし直後、自らを戒めるように唇を引き結び目を伏せる。

タカネ「……おやめなさい、ヒビキ。私が、貴女にしたことを……思い出すのです。
   仮に……仮にそれが真であっても……私は、貴女に……」

だが、ヒビキの意志は変わらない。
呟くようなタカネの言葉を、強い意志のこもった叫びが遮った。

ヒビキ「関係ない! 確かにタカネは酷いことをした!
   その罪は償わなくちゃいけない! でも、それとこれとは話が別だ!」



402:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/12(日) 21:06:48.67 ID:NhytkIqso

ヒビキ「タカネはすごく苦しんでるし、反省してる!
    罰だって受けようとしてる! だから自分はもう、タカネを責めない!
    苦しんで、罰を受けたら、今度は救われたっていいはずでしょ!?」

侵略者から秘宝を守ろうとした時と同じように、
一度守ると決めたものに対しては絶対に諦めないのが、ヒビキという人間であった。
そしてヒビキは今、決めたのだ。
自分がこのタカネという少女の心を、絶対に救うのだと。

ヒビキ「今の自分はタカネのことを助けたいって思ってる!
    だから、タカネ……! もう二度と、あんな悲しそうな顔しないでよ!
    自分にタカネのこと、助けさせてよ!」

懸命なヒビキの訴え。
それにタカネが返事をすることはなかった。

返事の代わりに聞こえたのは……泣きじゃくる声。
顔を覆った両手の隙間から大きな泣き声が涙と共に溢れ出す。
ただただ子供のように、ひたすら声を上げて泣き続ける。

そこに居たのはハルシュタインに付き従う従属者でもなく、
宝を奪う侵略者でもなく、高貴なる銀河聖帝でもない、
ただ一人の、家族を想う少女であった。



406:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/17(金) 19:45:22.45 ID:daQ+pOgwo




タカネの身柄は到着した地球防衛軍により確保され、
この度のキサラギとリッチェーンとの交戦について裁定が下された。
亜美たちの懸命な訴えにより幾分か罪は軽くなったものの、
それでもハルシュタインの仲間として希煌石を奪おうとした事実が消えることはない。
また本人が防衛軍への協力を拒否したこともあり、しばらくは牢で生活することが決定した。

アミ「――ねーお姫ちん、どうしてもダメ?」

マミ「一緒に戦うって約束すれば今からでも出してあげられるかもって、
   偉い人たちは言ってるんだよ……?」

タカネ「……真、申し訳ありません」

タカネの処分が決まってから少しばかりの時を経て、
アミたちはガラス越しではあるがタカネとの面会が叶った。
ミキは一歩引いた位置で後ろ手に手を組んで立ち、
アミとマミは顔がつきそうなほどにガラスに顔を寄せている。



407:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/17(金) 19:46:57.36 ID:daQ+pOgwo

マミ「ヒビキンが妹のこと探してくれるんだったら、
  もうハルシュタインの言うことなんか聞かなくていいでしょ?」

アミ「だからさ、私たちと一緒に戦おうよ。ね!」

アミとマミは先の戦いでタカネの強さを身を以て知り、
また性根が悪からは程遠いということを知った。
だからこそ二人は、タカネを仲間に勧誘することに一生懸命になっているのだ。
しかしタカネの答えは変わらない。

タカネ「本意ではなかったとは言え、一度は彼女に従属を誓った身ですから……。
    私にできるのは、ユキドリルを戦力として提供するところまで。
    それ以上約束を違えて裏切るような真似は、相手がハルシュタインであろうと致しかねます。
    何より私は罪人……。犯した罪に相応しい罰は、必要です」

アミ「そんなぁー……」

ミキ「ふーん……なんだかよく分かんないけど、タカネって真面目なんだね」

マミ「マジメ過ぎるよー。せっかく味方が増えたと思ったのにー!」



408:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/17(金) 19:48:31.78 ID:daQ+pOgwo

タカネ「そう気を落とさないでください。ユキドリルは我が星の最高戦力……
    ハルシュタインの万の軍勢を相手にほぼ無傷で戦い抜いた、素晴らしき機体です。
    それに、私がユキドリルに搭乗して戦うよりも、
    無尽合体の相手として使っていただいた方が、戦力としては上でしょうから」

アミ「そういうことじゃないんだよー!
  仲間と一緒に戦えるっていうのがアミ的には嬉しいの!」

タカネ「……仲間、ですか。身に余る言葉です」

アミとマミに対するタカネの様子は、
まるでダダをこねる子供をなだめる母親のように見える。
牢の中にあっても失われることのない気品や、
本来の心根である慈しみに溢れた表情が、タカネをそう見せるのだろう。
そんなタカネを相手にしてアミとマミは、
共に戦えず残念に思う気持ちの裏で密かに、
自分もこんな大人になりたい、と憧れを抱くのだった。

このまま何もなければ、恐らくアミとマミは10分でも20分でも、
タカネの勧誘を続けていたであろう。
しかし、ミキの口から不意に発せられた問いが空気を一変させた。



409:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/17(金) 19:50:11.87 ID:daQ+pOgwo

ミキ「ねぇ、ちょっと気になったんだけど……。
   なんでタカネ、ハルシュタインに負けちゃったの?」

アミ「えっ……? ちょ、ちょっとミキミキ!」

マミ「いきなりそんなこと聞いちゃう!?」

突然タカネの古傷を抉るような質問を投げるミキを
アミたちは顔を青くして止めようとしたが、
当のミキはそれを無視し、真剣な顔で続けた。

ミキ「さっき言ってたよね?
  ハルシュタイン軍を相手にほとんど無傷で戦った、って。
  タカネがすっごく強いのはミキも知ってるし、
  そのことは全然不思議に思わないんだけど……なのに、なんで負けちゃったの?」

このミキの表情を見てアミとマミはその胸中を察し、また共感した。
あれほどの強さを持っていたタカネが、なぜ負けてしまったのか。
それは聞きづらいことではあったが、知っておかなければならないことでもあるのだ。
ハルシュタインは、いずれ自分たちの戦う相手なのだから。

アミ「そ、そんなの、ハルシュタインがヒキョーな手を使ったに決まってるよ!」

マミ「そーだそーだ! 普通に戦ったんじゃ敵わないからって、ずるい奴!」



410:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/17(金) 19:52:36.51 ID:daQ+pOgwo

そう言って怒りをあらわにするアミとマミ。
しかしそんな二人のガラスを挟んだ向かい側で、タカネは唇を噛み、目を伏せた。

タカネ「いえ……。ハルシュタインは、卑怯な手など一切使ってはおりません。
    寧ろその逆――彼女は自軍の兵が私に敵わぬと見るや、
    その軍勢を退けさせ、私との一騎打ちを申し出ました」

その言葉に、三人は驚いてタカネに目を向けた。
今まさに彼女の脳裏には、焼き付けられた当時の映像が再生されているのだろう……
伏せられたタカネの目には、畏怖の念が浮かんでいる。

 巨大な飛行艇の開くハッチ。
 その隙間から覗く明らかに異質な怪ロボット。
 ぎらりと光るゴーグルの先に見えるハルシュタイン達の姿。
 笑顔と形容するのも憚られるほどのおぞましい表情……。

  『畏れ、ひれ伏し……崇め奉りなさい!』

その言葉が、自分が敵として聞いたハルシュタインの最後の言葉だった。
タカネは鼓動を抑えるようにゆっくりと呼吸し、微かに震える手を胸元で握る。
そして顔を伏せたまま呻くように言った言葉は、
アミたちが無意識に抱いていた期待を無残にも打ち砕いた。

タカネ「そして私は彼女との一騎打ちを受け……為すすべもなく、敗北したのです」



411:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/17(金) 19:58:03.21 ID:daQ+pOgwo

アミ「う……嘘。だってお姫ちん、あんなに強いのに……?」

マミ「私たち、ハイパーキサラギでもお姫ちんにかなわなかったんだよ!?
   勝ったって言っても、実力はお姫ちんの方が私たちよりずっと上でしょ!? なのに……!」

タカネは俯いたまま答えない。
だがその沈黙こそがタカネの言葉にこれ以上ない説得力を持たせた。
リッチェーンと無尽合体したキサラギですら及ばなかったタカネ。
しかしそのタカネが、ハルシュタインには惨敗したのだという。
今タカネを襲っているであろう畏怖の念が、アミたちにも伝播し始める。
が、それを断ち切ったのは、タカネ本人であった。

タカネ「ハルシュタインは、遥か高みに居ます。私よりも……今の貴女たちよりも。
    しかし私は、貴女たちが勝てないとは思いません」

そう言ってタカネは、ゆっくりと顔を上げる。
そして、一点をじっと見つめた。
アミとマミの背後に立つ、ミキの顔を。



412:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/17(金) 20:01:52.88 ID:daQ+pOgwo

ミキ「……もしかして、ミキなら勝てるって言いたいの?」

タカネの視線を追ってアミたちが振り向いた先で、
ミキは怪訝な表情を浮かべてタカネに質問を投げた。

ミキ「タカネだってわかってるよね? ミキもまだまだ、タカネより弱いんだよ?」

タカネ「しかしハルシュタインを倒す切り札になりうるとすれば、
   それは恐らく星井ミキ、貴女です」

と、不意にタカネはミキから視線を外す。

タカネ「……アミ、マミ。申し訳ありませんが、
    少し彼女と二人にしてはもらえませんか? 伺いたいことがあるのです」

唐突な申し出にアミとマミは顔を見合わせ、そして再びミキを見る。
ミキは三人の視線を受け、暫時沈黙した後、アミとマミに向けて言った。

ミキ「二人とも先に訓練場に行ってて。ミキもすぐに行くから」



413:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/17(金) 20:04:41.33 ID:daQ+pOgwo

初めはやはり困惑の色を浮かべていたアミたち。
しかしミキの目を見て、次第に表情が引き締まっていく。

マミ「……わかった。行こ、アミ」

マミは短く答えそれ以上は何も聞かず、アミも黙って頷く。

アミ「じゃあねお姫ちん。またお話しにくるからね」

タカネ「ええ、お待ちしております」

マミ「ミキミキも、またあとでね」

ミキ「うん、またね」

簡潔に別れの挨拶を交わし、アミとマミは面会室を出て行った。
ミキは扉に向けて手を振った後、タカネに向き直る。

ミキ「それで、何の話なの? あんまり長い話だと、ミキ寝ちゃうかもよ」

タカネ「では単刀直入にお伺いします。
    星井ミキ、貴女は……“アルテミス”という星に聞き覚えはありませんか?」



414:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/17(金) 20:06:53.30 ID:daQ+pOgwo




訓練場にぽつんと一つ佇む巨大な影。
その巨大ロボの肩に、操縦者である双子は並んでいた。

アミ「ミキミキ、どんな話したか教えてくれるかな?」

ブラブラと所在無げに動かす足に視線を落としてアミは呟いた。
隣のマミは後ろに手をつき、斜め上の空を見上げている。

マミ「どうだろ……わかんない」

アミ「こういうのって、聞いたりしない方がいいのかなぁ。
  わざわざ二人で話すってことは、内緒にしたいってことだよね?」

マミ「そりゃ、あんまりしつこく聞くのもダメっぽいけど、
  でも全然聞かないっていうのもなんか変な気がするよね……」



415:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/17(金) 20:08:27.19 ID:daQ+pOgwo

これが日常の中の出来事であれば、
アミもマミもここまで頭を悩ませることはなく、
話を終えて帰ってきた相手に気軽に質問していただろう。

だが状況が状況である。
話の内容は恐らく地球の運命に関わるものであり、
にもかかわらずタカネは、キサラギのパイロットである自分たちにそれを伏せたという事実。
しかも「ミキと二人で話したい」とはっきり告げられたこともあって、
そのことがアミたちを悩ませるのだった。
しかしそんな二人の悩みは、そう長く続くことはなかった。

ミキ『アミ、マミ、お待たせなのー!』

ぷつっ、とどこかに繋がった音がインカムから聞こえたと思えば、
次いでいつもと変わらぬミキの明るい声が流れ出てきた。
間を開けず、格納庫の扉からリッチェーンが歩み出てくる。
そうしてリッチェーンはそのままキサラギの正面まで歩み寄り、コクピットのハッチが開いた。



416:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/17(金) 20:15:29.35 ID:daQ+pOgwo

ミキ「ごめんね、待たせちゃって!」

マミ「ミキミキ! もういいの? お姫ちんとの話は?」

ミキ「うん、終わったよ。でもなんかよく分かんない話だったの」

このミキの言葉にアミとマミは小首をかしげ、
ミキは二人が抱いているであろう疑問に答えるべく続けた。

ミキ「昔ハルシュタインに滅ぼされたっていう星のこととか、そこに住んでた人たちのこととか。
   なんでミキにその話するの? って聞いたんだけど、教えてくれなかったの」

マミ「ハルシュタインに滅ぼされた星の話……。
  それが、ハルシュタインを倒す手がかりになるっていうことなのかな?」

ミキ「ミキもそうなのかなって思って色々考えたんだけど……。
   でも、やっぱりよくわからなかったの。
   タカネも、“分からないなら分からないままでもいい”とか言っちゃうし」



417:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/17(金) 20:17:54.77 ID:daQ+pOgwo

先程まで頭を悩ませていたことが嘘のように、
ミキの口からすんなりと、タカネとの会話の内容を教えてもらえた。
しかしそのことが逆に新たな謎を生んでしまったようだ。
またそれはつまり、今アミたちが抱える最も大きな悩みも、
解決には至らなかったということでもあった。

マミ「それじゃあ、ハルシュタインに勝つ方法は、
   やっぱり自分たちでなんとかしなきゃダメってことだよね……」

アミ「そう……だね。あのお姫ちんより
   ずっと強いハルシュタインに、勝たなきゃいけないんだ」

ミキ「ミキ的には、強くなるしかないって思うな。
   ハルシュタインが来るまでいっぱいいっぱい特訓して、
   それで今のミキたちよりもずっと、ずーっと強くなるの!」

マミ「……うん、そうだよね!」

アミ「ここまで来たらもう、頑張るしかないよね!」

ミキのあくまでポジティブな姿勢に、アミたちは暗くなりかけた心が晴れるのを感じた。
だがこの時、二人に向けた明るい顔の下で
ミキが汗を閉じ込めるように拳を握っていたのを、
アミもマミも気付いてはいなかった。



420:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/18(土) 20:25:02.75 ID:kk6jit6So




ミキ「はあっ、はあっ、はあっ……!」

駄目だ。
こんなんじゃ、まだまだ足りない。
速さも精度も、もっと、もっと上げないと。

あの時みたいに……タカネのドリルを弾いたあの時みたいに、
もっともっと感覚を研ぎ澄まして、
考えなくても動けるくらいじゃないと駄目なんだ。

あの時はすごかった。
目はタカネの髪の毛一本一本が見えるくらいによく見えて、
耳は息遣いが聞こえるくらいによく聞こえて、
何をどうすればいいのか全部わかって、体が勝手に動くみたいだった。



421:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/18(土) 20:25:29.95 ID:kk6jit6So

でも分からない。
どうして自分があの時、あんなことができたのか……。
どうやったのか、全然思い出せない。
それにもしハルシュタインとの戦いで
もう一回あの力を発揮できたとしても……多分、勝てない。

じゃあ、もう無理なんじゃないか。
ハルシュタインに勝つことなんて初めから無理だったんじゃないか。

そうかも知れない。
でも……関係ない。
無理でも、無駄でも、やるしかないんだ。
ハルシュタインに勝たなきゃ、地球は終わりなんだ。
勝たないと地球のみんなを守れない。
大好きな人たちを、守れない。

今、何時だろう?
……何時だっていい。
もっと、練習しなきゃ。
もっと、もっと、もっと……。



422:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/18(土) 20:26:57.00 ID:kk6jit6So




ミキ『――まだまだ! もう一回行くの! せーのっ……』

アミ「ちょ、ちょっと待ってミキミキ! ストップ!」

マミ「そ、そろそろ終わりにしようよ! 
   もう時間も遅いし、マミたちの体力も限界だよ……!」

訓練場でリッチェーンに向かい合って立つキサラギの頬で、
アミとマミは必死にインカムに向かって叫ぶ。
ここでようやくミキは、滝のような汗を流しながら肩で息をする二人の姿に気が付いた。

ミキ『ん……そうだね。終わろっか』

そうして格納庫へと向かって歩いて行くリッチェーンの背を見て、
アミたちはふうと安堵の吐息をつき、同じように歩き出した。



423:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/18(土) 20:28:03.06 ID:kk6jit6So

タカネとの面会以降、アミたちは訓練の時間を大幅に増やした。

自分たちはタカネと戦った時、キサラギとリッチェーンの二体がかりでも全く敵わなかった。
無尽合体後も一時は優勢に立ったものの、結局はあちらが一枚上手。
タカネが攻撃の手を止めなければまず間違いなく敗北していた。
しかしそんなタカネが、ハルシュタインには手も足も出なかったという。

現時点では、自分たちよりハルシュタインの方が圧倒的に力が上。
タカネの言葉の通りであるならば、無尽合体を使ったとしてもまるで歯が立たないだろう。
この力の差を少しでも埋めるためには、訓練しかないのだ。
次にハルシュタイン軍が攻めてくるのがいつになるか分からない以上は、
アミたちは必要最低限な時間を残して一日の大半を訓練に費やさざるを得なかった。

そんな長時間に渡る訓練の終了を申し出るのは、いつもアミとマミが先であった。
だがそれは決して二人のやる気が足りないということではなく、
いつ敵が襲って来るか分からないからこそ、
その時のための体力は残しておかなければならないとアミたちなりに考えてのこと。
寧ろ現状においては、明らかなオーバーワークを続けようとしているミキの方が、
平静さ、適切さを欠いているのだ。



424:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/18(土) 20:29:26.38 ID:kk6jit6So

マミ「ミキミキ、もしかしてこの後もまた一人で……?」

ミキ「うん、練習するよ。まだスピードが足りないから、
   もっと早く動けるようにならなきゃいけないの」

食堂でおにぎりを頬張りながら、ミキはマミと視線を合わせることなく答えた。
その頭の中では既に次の特訓のシミュレーションが始まっているのかも知れない。
そんなミキを見て、アミとマミは不安げな表情を浮かべる。

アミ「ねぇミキミキ、本当に大丈夫なの?」

アミ「焦る気持ちはアミたちもわかるけど、でも無理しちゃダメだよ。
  最近寝る時間も少なくなってるでしょ……?」

ミキ「……ちょっとくらい大変でも関係ないの。
   ミキはずっと前から、地球を守るためにやれることは全部やるって決めてるんだから。
   これでもまだまだ足りないくらいなの」

ミキはアミたちとの合同訓練以外にも、
朝は早朝から、夜は深夜まで、一人で訓練を続けている。
それこそ食事と睡眠以外の時間はすべて訓練に費やしていると言っても過言ではない。



425:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/18(土) 20:30:41.01 ID:kk6jit6So

自分たちとハルシュタインとの実力差はそうやすやすと埋まるものではない。
それに敵はハルシュタインだけではなく、
少なくともヤヨイと、恐らくは更に数人の実力者が居るだろう。
タカネに匹敵するレベルの者も居るかも知れない。

いくら訓練しても足りない……。
それはアミとマミも重々承知している。
だがそれでも、近頃のミキの様子は痛々しくさえ見えた。

マミ「やっぱり……ダメだよミキミキ。このままじゃきっと、いつか倒れちゃうよ」

アミ「夜中とか朝とかの練習に私たちを誘わないのって、
   ミキミキもそれがすごく大変だって思ってるからでしょ?」

マミ「ミキミキが私たちに無理して欲しくないって思ってるのと一緒で、
   私たちだって、ミキミキに無理して欲しくないんだよ……」

ミキ「……あはっ☆ 二人共、とっても優しいの」



426:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/18(土) 20:34:02.39 ID:kk6jit6So

茶化すようなミキの態度に、
アミたちは改めて真剣に自分たちの思いを言葉にしようとする。
しかしミキは微笑み、

ミキ「じゃあ今日は、ご飯食べてお風呂に入ったらすぐ寝ちゃうね。
  明日も久しぶりに、朝はちょっとだけゆっくりするの」

これを聞いて二人はパッと顔を明るくする。
と、それと同時に同じく明るい声が、聞き慣れない挨拶と共に聞こえてきた。

ヒビキ「はいさーい! 三人とも何してるんだ?」

マミ「あっ、ヒビキン!」

聞き慣れない挨拶に笑顔を携えてにひょっこりと現れたのは
“怪ロボットに襲われている一般人”として先日出会った少女、ヒビキ。
ヒビキはテーブルまで駆け寄って、空いた席に座った。
まだ出会って数日ではあるが、そこは流石アミたちである。
もう既に、気兼ねなく話せる友人として四人は打ち解けていた。

アミ「なんか久しぶりじゃない? 確か最後に会ったのって、
  私たちがお姫ちんとお話する前の日だったよね?」



427:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/18(土) 20:42:54.86 ID:kk6jit6So

ヒビキ「お姫ちん……ああ、タカネか。あははっ!
    最初に聞いた時も思ったけど、結構面白いあだ名考えるよね。
    自分そのセンス結構好きだぞ!
    ……ってそれより、なんで最近全然居なかったの?
    自分も取り調べとか事情聴取とかであんまり自由な時間なかったけど、
    それにしたって会えなさすぎだぞ!」

ケタケタと笑ったかと思えば、次の瞬間には頬を膨らませてぷりぷりと怒り出すヒビキ。
表情がコロコロ変わってなんだか面白い、とミキは思った。

アミ「あー、ごめんごめん。最近はずっと訓練場の方に居たからねぇ」

ヒビキ「えっ、そうだったの? 道理で会えないはずだぞ。
    自分、そっちの方には行っちゃダメだって言われてるからなー……。
    でも大変だね。ほとんど一日中訓練してるんじゃないか? いつもこんな感じなの?」

マミ「そういうわけじゃないんだけど……。
   ハルシュタインに勝つにはやっぱり訓練しかないかなって」

ヒビキ「そっか、ハルシュタインに勝つために……。
    でも、キサラギには無尽合体っていう必殺技があるんでしょ?
    この前はリッチェーンだけだったけど、今はタカネのユキドリルだってあるんだし、
    いっぱい合体すればハルシュタインもやっつけられるよね!」



428:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/18(土) 20:44:50.93 ID:kk6jit6So

目を輝かせてそう言ったヒビキだが、
対してアミとマミが返した顔は意外にも苦笑いだった。
そんな二人の反応に首をかしげるヒビキに、少し困ったようにミキが答えた。

ミキ「ミキだってそうだったらいーなって思ったよ。
  でもそう簡単にいかないから、頑張って特訓してるの」

ヒビキ「えっと……それって、合体してもまだまだハルシュタインの方が強いってこと?」

マミ「それはわからないけど……。
   キサラギが合体できるロボの数って、実は限られてるんだよ」

ヒビキ「へっ……?」

マミの言葉はヒビキにとってあまりに意外で、思わず間の抜けた声を出してしまう。
“無尽合体”と言うからには制限なくいくらでも合体できるものと、
そう思い込んでいたのだ。
そんなヒビキの胸中を察したか、マミたちは続ける。

マミ「正確には、『やろうと思えばできるけどやったらヤバイ』って感じかな?」

アミ「キサラギを作った私たちのじいちゃんに聞いてみたことがあるんだ。
   百体とか二百体とかの怪ロボットと無尽合体すれば超超ちょー最強になれるんじゃないかって。
   そしたら教えてくれたんだけど――」



429:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/18(土) 20:46:52.92 ID:kk6jit6So




   「――“オーバーマスター”?」

   『そうだ。キサラギの限界を超えた無尽合体を、わしはそう呼んでおる』

何体目かの怪ロボットを倒した後の町中で、
同時に復唱されたその言葉に、蒼い鳥の姿をした祖父は答えた。

   『無尽合体とはその名の通り、合体の対象を選ぶことはなく、数にも限りがない。
   数が増えれば増えるほどその力は増し、お前たちの言う通り、
   その気になれば全宇宙の何物にも負けることのない、まさに最強の力を得ることも可能だろう』

アミ「だったらやっぱ、合体しまくった方がお得じゃん!」

マミ「なのになんであんまり合体しちゃダメなの?」

   『それを制御するだけの力が、キサラギには無いということだ。
   一時的には最強の存在となり得るだろうが、それが最後。
   限界を超えたキサラギの機体は崩壊を始め、やがては完全に崩れ去り、
   もう二度とこの世に蘇ることはない』



430:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/18(土) 20:49:18.86 ID:kk6jit6So

アミ「え……! そ、そんな!」

   『だがそれでもまだいい方だと言えよう。
   最悪の場合、まともに力を発揮する前に崩壊してしまうかもしれん。
   だからアミ、マミ。無尽合体を行う際にはそのことをゆめゆめ忘れぬことだ』

マミ「そういうことはもっと早く言ってよ!
  もし言われる前にやっちゃってたらどうするの!
  大事なことに限って言うのが遅いんだから!」

アミ「そーだそーだ! っていうか制限ありだったら全然“無尽”合体じゃないじゃん!」

   『もしやろうとしていたらその前に止めておったわい。
   それにやろうと思えばやれるのだから“無尽”には違いなかろう』

アミ「ぶーぶー! ヘリクツだ!」

マミ「じゃあ結局、何体まで合体していいの!?」

   『有象無象の怪ロボットであれば、十体程度は問題ない。
   だが、仮にキサラギと同等の性能を持つ怪ロボットが相手となれば、
   恐らくは二体が限度だろう』



431:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/18(土) 20:51:11.82 ID:kk6jit6So

   『しかしそれでも相当な負担になる。合体する相手によっては、
   崩壊とはいかないまでも大きな傷を追ってしまうかもしれん。
   余程のことがない限り、強力なロボットとの無尽合体は一体までにしておくべきだ』

マミ「一体まで、かぁ……。なんか全然無尽って感じしないね」

アミ「でも、キサラギが壊れちゃうのは嫌だし……しょうがないよね」

祖父から知らされた思いもよらない真実に、
アミとマミは一応の納得の姿勢は見せたものの落ち込む表情は隠せない。
そんな二人を見かねてか、祖父は呟くように言った。

   『……オーバーマスターに耐える方法が、無いこともないのだがな』

えっ? とアミたちは同時に、蒼い鳥に目を向ける。

   『実はキサラギは、今が完成した姿ではない。更なる進化の可能性を秘めておる。
   キサラギの力を目覚めさせるもの……それが“三希石”だ』



432:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/18(土) 20:52:21.15 ID:kk6jit6So

マミ「三希石……」

アミ「それって何なの、じいちゃん!」

   『お前たちの持つ希煌石《キラジェム》の他に、
   希照石《テラジェム》、希魂石《スピリジェム》と呼ばれる神秘の石が、
   この宇宙のどこかにある。その三つが揃った時、キサラギは真の力を発揮し、
   いかなる強力な無尽合体にも耐えうる無敵の力を手にすることができるのだ』

どうしてそういうことを今まで黙っていたのか。
だったらすぐに探そう。
そう言いかけたアミとマミを制するように、
強めの語気で、だが、と祖父は続ける

   『探そうと思って見つけられるものではない。
   それに見つけたところで……お前たちが手に入れられるとは限らんしな』

アミ「? どういうこと……? 猛獣の巣の中だったり、熱々のマグマの中にあるとか?」

   『いずれ分かる時が来る。しかし案ずることはない。
   希石の力は正義の力。お前たちが諦めず戦い続ける限り、
   三希石は自ずとお前たちの元に集うだろう――』



433:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/18(土) 20:53:27.91 ID:kk6jit6So




アミ「――ってわけで、今はまだ二体以上の無尽合体、オーバーマスターは使えないんだ」

マミ「でもヒビキンが来てくれたおかげで、一歩近付いたんだよ!」

ヒビキ「……そっか。そうだったんだね……」

胸元から取り出した希照石を見つめて呟くヒビキ。
今は光を放っておらずただの宝石のように見えるその石を
しばらく見つめたのち、ヒビキは顔を上げた。

ヒビキ「実は自分も、三希石を揃えなきゃいけないんだ。
    巫女の力でタカネの妹を探すためには、希照石だけじゃ足りないから……。
    今は希煌石と希照石の二つが揃ったけど、
    希石の本当の力を発揮するには三つ揃えないといけない……そうだよね?」

アミ「うん、じいちゃんもそう言ってた。二つだけだと、一つの時とほとんど変わらないって」



434:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/18(土) 20:56:17.91 ID:kk6jit6So

ヒビキ「うちに伝わる書物にもそう書いてあったから、多分それは本当なんだと思う。
    だから自分、探してみるよ! 三希石の最後の一つ、希魂石を!
    みんなは特訓で忙しいだろうから、自分に任せて!」

マミ「えっ……? でも探すってどうやって?」

アミ「じいちゃんは、探そうと思って探せるものじゃないって……」

ヒビキ「まあ、占いみたいなものだから絶対できるとは言い切れないんだけど……。
    でもやってみせる! 実は、自分をアミたちのところに導いてくれたのは希照石なんだ!
    たぶん希照石も、希煌石や希魂石に会いたがってるんだと思う。
    だから今ならきっと、希照石もたくさん声を聞かせてくれるはずだぞ!」

それを聞き、アミたちの目に希望が宿る。
希照石はたまたま見つけられたものの、
祖父の言葉から、最後の一つ希魂石をこちらから探すのは不可能なのだろうだと半ば諦めていた。
しかしヒビキの言葉が本当であるなら、
これも祖父の言う通り、悪を打ち倒すために三希石が集ってきてくれるのかもしれない。
そうなればあのハルシュタインに勝てる希望が出てくる。



435:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/18(土) 20:58:31.37 ID:kk6jit6So

と、ここでヒビキが、ふと表情を改めて右手をすっと前へ差し出した。
その手には希照石が握られ、ヒビキは真っ直ぐに三人を見つめて言った。

ヒビキ「でもそのために、キミたちにお願いがあるんだ……。
    自分がここに居る間、希照石を預かっててもらえないか?
    他の希石の近くに置いてた方が、声もよく聞こえると思うから」

マミ「え……でもこれ、大事なものなんでしょ?」

アミ「そ、そうだよ。ヒビキンの星の、大事な宝物だって……。
   そんなの、私たちが持ってていいの?」

ヒビキ「なんくるないさー! 自分はロボットも飛行機も操縦できないし、
    三人に持っててもらったほうがきっと安全だぞ!
    声を聞くだけなら直接持ってる必要はないし……だからお願い!
    しばらくの間だけ、自分の代わりに希照石を守っててくれ!」

しかしアミとマミは差し出された希照石を前に、まだ少し迷っているようだった。
ヒビキが希照石を、文字通り命懸けで守ろうとしていたことは知っている。
それゆえに、はいわかりましたと易々と受け取ることはできないでいるのだ。



436:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/18(土) 20:59:55.52 ID:kk6jit6So

だがそんな二人の背中を押すように、
あるいは宝を託すヒビキの思いを汲むように、
ミキはヒビキの手を取ってはっきりとした声で言った。

ミキ「わかった、預かっておくの。
  ちゃーんと守ってあげるから、安心して!」

それからミキは、
驚いたように目を丸くしているアミとマミに視線を移す。

ミキ「希照石と希煌石は近くに置いてた方がいいってヒビキも言ってるし、
   ミキ的には、アミたちが持ってた方がいいと思うんだけど……。
   どうする? ミキはどっちでもいいよ」

その言葉を聞き、アミとマミは呆けたような表情を同時にぐっと引き締めた。
そしてミキに向かって、二人重ねた手のひらを上に向けて差し出し、

マミ「ううん、大丈夫……。どっちにしろキサラギのパワーアップには必要なんだから、
   私たちがちゃんと責任持って預かるよ!」

アミ「それにその方がヒビキンが希魂石を見つけられる可能性が高いっていうんなら、
   私たちが持ってるしかないでしょ!」



437:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/18(土) 21:00:59.61 ID:kk6jit6So

ミキ「あはっ☆ それでこそアミとマミなの!」

アミ「その代わりヒビキン、きっと希魂石を見つけてよね!」

ヒビキ「もちろんさー! 見つかったらすぐに教えるから、楽しみにしててよね!」

四人はテーブルを囲み、気合の入った笑顔を向け合う。

果たして訓練だけでハルシュタインに勝てるのか。
希照石は見つかったものの、希魂石は見つかるのだろうか……。
そんな不安は、少し前までには確かにあった。
だがそれも今の彼女たちの瞳からは微塵も感じ取れない。
輝く八つの瞳は、未来への希望に満ち満ちている。

ミキ「それじゃ、お願いね二人共!」

そう言ってミキは、アミとマミの手のひらに希照石を乗せる。
二人の手に希照石と、ミキの指先が触れた。

……その時だった。



438:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/18(土) 21:02:14.43 ID:kk6jit6So

  「――っ!?」

四人は同時に、息を呑んで目を見開く。
それは本当に突然のことだった。
希照石が、そしてアミとマミの持つ希煌石が、
眩いばかりの光を放ち、四人を飲み込んだのだ。

アミ「なっ、え……!?」

マミ「な、何これ、どうなってんの!?」

突然のその現象に、アミとマミはただ目を白黒させるばかり。
光は周囲のものすべてを覆い尽くすほど強烈であるにもかかわらず、
なぜか希石本体ははっきりとその存在を瞳に映し続け、
眩しさに目を眩ませることもなくただただ輝き続けている。

が、始まりがそうであったように終わりもまた唐突であった。
何が何だか分からないうちに強烈な光は消え、
希照石と希煌石は再び、綺麗な宝石としてそこにあった。



439:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/18(土) 21:03:22.36 ID:kk6jit6So

アミ「……なんだったの、今の……?」

マミ「わ、わかんない……」

二人はキョロキョロと辺りを見回すが、そうしたところで謎が解決するはずもない。
それどころか、食堂に居た他の人間たちは、
ほんの二、三人がきょとんとした顔でアミたちを見ているが
他の者は何事もなかったかのように食事や談笑を続けており、
更なる不可思議さを増すばかりであった。

マミ「もしかして今の光、マミたちにしか見えてなかったの……?」

アミ「そうみたい……。ねぇ、ミキミキとヒビキンには見えた?」

と、アミは今の現象についてミキとヒビキに確認を取る。
しかし、ミキたちはその問いに答えを返さなかった。
まるでアミの声自体が聞こえていないかのように、
呆然とした表情で、テーブルの上をじっと見続けている。



440:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/18(土) 21:05:01.64 ID:kk6jit6So

マミ「ミキミキ、ヒビキン……?」

アミ「ねぇってば! ちょっと、二人共!」

ミキ「あっ……え、ご、ごめんなさいなの。な、何……?」

マミ「何って、さっきの光だよ! 二人には見えた? 見えたよね?」

ヒビキ「あ……あぁ、うん……。見えた……けど」

アミの呼びかけにようやく顔を上げ返答したものの、
ミキとヒビキの様子は明らかにおかしい。
しかしアミたちがそのことについて更に質問する前に、唐突にミキが立ち上がった。

ミキ「ごめん……ミキ、もう寝るね。ちょっと疲れちゃって……」

アミ「え? ミキミキ……?」

マミ「どうしたの? もしかして、さっきの光が何か……」

ミキ「なんでもないの。本当に疲れちゃっただけだから。
   ……おやすみなさいなの」



441:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/18(土) 21:09:57.94 ID:kk6jit6So

マミ「ま……待って、ミキミキ!」

立ち去るミキの背を見たアミたちの脳裏によぎったのは、かつてのヤヨイの姿。
あの時のヤヨイも様子がおかしく、そして突然、行ってしまった。
それが友人としてのヤヨイの最後の姿だったのだ。
ミキも同じように自分たちの敵になるとは考えたくないが、
それでもアミとマミは、去っていくミキを追うために立ち上がらざるを得なかった。
しかしそんな二人の肩が、背後から強い力で押さえつけられる。

ヒビキ「ダメだ……今は、そっとしておいてあげて」

どうして、と言う前に、ヒビキは二人の前に回り込む。
そして優しく微笑んで言った。

ヒビキ「自分が人の感情とかが分かるの、知ってるでしょ?
    ミキは今、本当にすごく疲れてるんだ。
    たぶんさっきの光でびっくりして、溜まってた疲れが吹き出たんだと思う」

アミ「え……そ、そうなの?」

ヒビキ「うん。でも本当にそれだけで、他には何も心配いらないぞ。
   だから今は放っておいて、ゆっくり休ませてあげて」



442:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/18(土) 21:12:17.34 ID:kk6jit6So

アミとマミはそれ以上何も言うことはなかった。
ヒビキが感情を読み取る力を持っているのは事実だし、
またミキが疲れを溜めているのも恐らくは事実。
少し引っかかるところはあったものの、
今はヒビキの言うことを信じることにした。
ヒビキは二人が納得してくれたと見て、にっこりと笑う。

ヒビキ「それじゃ、自分ももう戻るね。
    さっきの光についてはまたミキと一緒に考えようよ。
    それまで自分も、考えておくからさ」

アミ「……うん」

マミ「本当に……本当にミキミキ、大丈夫だよね?
  明日にはいつものミキミキになってるよね?」

ヒビキ「もちろんさー! だから二人も早く寝て、しっかり疲れを取らなきゃダメだぞ!
    寝不足だったり疲れてたりしたら、ミキに笑われちゃうからね!」

それじゃあおやすみ、と言い残し、ヒビキは二人に手を振りながら食堂を出て行き、
アミとマミも笑顔を作り、手を振ってそれを見送った。



443:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/18(土) 21:17:57.23 ID:kk6jit6So




食堂を出たヒビキは、アミとマミの姿が見えなくなったのを確認して走り出す。
向かう先は、自分に与えられた部屋ではない。
少し駆けて曲がり角に出た時、ヒビキは目的の人物の名前を呼んだ。

ヒビキ「ミキ!」

その声に立ち止まり振り向いたミキに、
ヒビキは駆け寄るが早いか、真剣な顔で言った。

ヒビキ「一つだけ、確認させて欲しいんだ……。希魂石のことについて」

ミキ「……やっぱり、ヒビキも聞こえたんだね」

それを聞いてヒビキは確信した。
自分と同じようにミキもあの光の中で希石の“声”を聞き、
そして――希魂石の正体を知ったのだと。

ヒビキ「っ……ごめん、ミキ。自分も、知らなくて……。
   まさか希魂石が、こんな……!」

ミキ「どうしてヒビキが謝るの? ヒビキは何も悪くないの」



444:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/18(土) 21:19:18.31 ID:kk6jit6So

ヒビキ「だ、だって自分、あんなに張り切って、
    希魂石を見つけ出すだなんて言っちゃって……!」

ミキ「……全然、悪くないよ。だってヒビキは、
  ミキたちのために一生懸命になってくれてたんだから」

ミキの声は、涙声のヒビキとは対照的に落ち着いている。
なぜそんな風に冷静でいられるのかヒビキは分からず、伏せていた顔を上げた。
だがそんなヒビキの目に映ったのは……

ミキ「ミキね、嬉しいんだよ。だって自分が、地球のみんなを守れるかも知れないんだもん。
  今までなんかよりずっと、アミたちの力になれるかも知れないんだもん……。
  そのことはすごく嬉しいの。だけどね……」

閉じられた瞼から、一筋の雫が流れ落ちる。
それは微笑みを伝い、床に落ちた。

ミキ「やっぱり、怖いの。ちょっとだけ……怖いの。
  だから一晩だけ……心の整理をさせて。そしたらミキ、もう大丈夫だから。
  みんなのために、地球のために……これ、あげられるから」

そう言って、震える両手を胸の中心で握り締めるミキに、
ヒビキは何も言うことはできず、ただ俯いて涙を流すことしかできなかった。



447:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/19(日) 20:02:34.60 ID:slU/EFQUo




タカネ『――星井ミキ、貴女は……“アルテミス”という星に聞き覚えはありませんか?』

聞いたことがない。
そう思ったけど、念の為に記憶を探ってみた。
わざわざアミとマミを追い払ってまで話すからには、
きっと大事な話なんだと思って。
だけど、やっぱり結果は変わらなかった。

ミキ『何それ? ミキ、そんなの聞いたことないよ』

タカネ『かつてハルシュタインに滅ぼされた数多の星のうちの一つです。
   そしてその星と共に滅ぼされたのが、ナノ族という民族でした』

ミキ『ナノ族……?』

よく分からない。
どうしてタカネはそんな、
どこかの星のどこかの民族の話なんかを始めたんだろう。



448:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/19(日) 20:03:49.35 ID:slU/EFQUo

タカネ『私の故郷とアルテミスとは親交があり、
    ナノ族とも数度お会いしたことがあります。
    彼らは戦闘に長け、少数民族ゆえに他の星々から狙われることもあったようですが、
    そのたびに敵を退けるうちに、畏れられ敬われるようになりました』

ミキ『……それで、ハルシュタインに狙われちゃったってこと?
  ナノ族は戦いが強くて邪魔になるから?』

タカネ『それもあるかも知れません。
    しかし恐らくハルシュタインには別の狙いがあったのです。
    ナノ族の……生命に宿る、神秘の力を手に入れるという狙いが』

ミキ『生命に宿る……? どういうこと?』

やっぱり分からない。
タカネが何を言いたいのか、このことを話してどうするつもりなのか。
このまま聞いていれば分かるのだろうか。
でもタカネは不意に黙って目を閉じて、それから少し間を置いて、

タカネ『……これ以上は、やめにしましょう。
   私にそれを提案する資格も強要する権利も、ありはしないのですから」



449:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/19(日) 20:06:28.14 ID:slU/EFQUo

ミキ『え……? 話って、もう終わり? ミキ、まだ何もわかってないんだけど』

タカネ『分からないなら分からないままで良いのです。
    私の思い過ごしならそれまで。
    それに分かったところで、事態が好転するとも限りません』

ミキ『じゃあなんで、ミキにこの話したの?』

タカネ『……一種の、賭けのようなものですよ』

ミキ『……?』

本当に何も分からない。
なんだか話せば話すほど分からないことが増えるような気がする。
だからってわけじゃないと思うけど、
タカネは目を開けて薄く笑って、

タカネ『さ、話はもうおしまいです。付き合っていただき、ありがとうございました。
    もう行ってください。友人たちが、貴女の帰りを待っているはずです』

ほとんど無理矢理に話を終わらせて、それ以上は何も言ってくれなかった。



450:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/19(日) 20:08:05.77 ID:slU/EFQUo




いつの間にか、カーテンの隙間から太陽の光が差し込んでる。
結局ほとんど眠れなかった。
意外だったのは、昔の思い出なんかはあんまり浮かんでこなかったこと。
こういう時って、家族だったり友達だったり、
そういう今までの人生のことを思い出すものだと思ってた。

でもそうじゃなかった。
思い出したのは、タカネとの会話の内容くらい。
それ以外に頭の中でずっとぐるぐる回ってたのは、これからのことばっかりだった。
あの子達になんて説明しようかな、とか
きっとすごくびっくりして泣いちゃうんだろうな、とか
その後のみんなは、どんな風になっていくんだろうな、とか。

そういうことをずっと考えてたら、不思議と楽になった。
そうだ、自分が考えなきゃいけないのは過去のことじゃない。
未来のことを考えるんだ。
今までの自分は、これからの未来のためにある。
みんなの未来のためにある。
だから、最初に決めたんだ。
その気持ちは今も変わらない。

だから会いに行こう。
優しくて元気な、あの子達に。
そして話すんだ……ミキのこと、ミキが知ったこと、全部。



451:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/19(日) 20:09:12.75 ID:slU/EFQUo

マミ「――ミキミキ、大丈夫かな?」

アミ「ちゃんと来てくれるよね……?」

いつもの待ち合わせ場所に立つアミとマミは、
不安な表情を隠すことなく廊下の曲がり角へと何度も視線をやる。

約束していた訓練の時間まではまだ少しある。
普段はもっと時間ギリギリに来る双子だが、
今日はやはり気が急いて、いつもよりもずっと早く到着してしまった。
ただ待っているだけだと、この待ち時間が余計にもどかしい。
いっそ迎えに行ってしまおうかとも思ったが、
行ってもし居なければと考えると怖くてそれもできなかった。

だが、きっともうすぐだ。
もうすぐあの曲がり角から、ひょっこりとミキが現れ元気な笑顔を見せてくれるに違いない。
そう信じていたアミたちであったが、
突然鳴ったアラームにその肩が大きく跳ね上がった。

マミ「うあっ!? び、びっくりした……!」

アミ「な、何いきなり!」



452:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/19(日) 20:10:11.61 ID:slU/EFQUo

心臓の鼓動を抑えつつ、まだアラームが鳴り続けている端末を
怒り混じりに取り出した二人ではあるが、次の瞬間、表情が変わる。

マミ「緊急呼び出し……!? 何かあったんだ! すぐ行かなきゃ!」

アミ「で、でもミキミキが……」

マミ「ミキミキも多分呼び出されてるよ! だから早く!」

アミ「っ……うん!」

二人は急いで駆け出し、呼び出しのあった司令室へと全速力で向かった。
緊急の出動要請なら今まで幾度となくあったが、
司令室への呼び出しなど少なくとも記憶にない。
何かは分からないが、怪ロボットの出現とはまた別の異常事態が発生したのだ。

やがて二人は司令室へ着き、自動ドアが左右に開く。
息を切らせて駆け込んだ二人の目に初めに映ったのは、
同じように息を切らせたミキの姿だった。



453:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/19(日) 20:12:16.61 ID:slU/EFQUo

ミキミキ! と思わず叫んだ二人を振り向き、ミキもアミたちの名を呼ぶ。
そんな三人に歩み寄ったのは、地球防衛軍総本部の本部長。
以前アミたちが通っていた学園が黒き月の一団に占拠された際、
エージェントスノーと電話と通してやり取りをした、その人である。
挨拶もそこそこに本部長は、まずはこれを見て欲しい、とモニターを指し示す。
数秒後、誘導されるままに視線を向けた先に現れた人影を見て、三人は同時に声を上げた。

  「ハルシュタイン!」

そこに居たのはまさしく、地球侵略を目論む悪の元締め、ハルシュタイン。
直後、玉座に座り笑みを浮かべるハルシュタインの声が司令室に響き渡る。

ハルシュタイン『……ご機嫌よう、地球の諸君。私のことは覚えてくれているだろうか』

アミ「忘れたくても忘れられないよ!」

マミ「何の用!? こっちにはお前と話すことなんて何もない!」

ミキ「っ……アミ、マミ。これ、多分録画だよ。話しかけても意味ないの……」



454:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/19(日) 20:13:52.22 ID:slU/EFQUo

アミたちは一瞬だけミキを振り向いたが、
すぐにまた悔しそうな怒りの表情でモニターを見つめる。
するとハルシュタインはこちらの反応を予想しきっていたように、
マミの言葉に対する返答を口にした。

ハルシュタイン『残念だが、貴様らに用があるのは私ではない。
     私が地球に着く前に、どうしても用事を済ませておきたいという者が居てな』

その言葉にアミたちは怪訝そうに眉根をひそめる。
すると、ハルシュタインの背後の闇からおもむろに人影が歩み出てきた。
ハルシュタインと比べても小柄なその人物の顔がモニターに映った途端、
アミとマミは思わず息を呑んだ。

ヤヨイ『うっうー! 防衛軍の皆さーん! 
    私のこと、覚えてくれてますかー? お久しぶりですー!』

服装こそ違えどその姿はまさしく、アミたちの知っている高槻ヤヨイであった。
屈託のない満面の笑みに、二人はかつてのヤヨイと過ごした時を思い出す。
しかし独特のお辞儀で勢いよく下げられた頭が上がった時には、
既にその顔から“高槻ヤヨイ”は姿を消していた。



455:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/19(日) 20:16:45.90 ID:slU/EFQUo

ヤヨイ『間抜けなお前らのおかげで、たーくさんキサラギの情報を集められたんですよー?
    クククッ……本当にありがとうございまーっす!
    で、時間がもったいないから早速本題に入らせてもらいますけど……。
    キサラギのパイロット、今そこに居ますかー?」

アミ「え……?」

ヤヨイ『えーっと、名前は確か……よく覚えてないですけど、
    私そいつらに用事があるんで、居なかったらさっさと呼んできてくださーい』

アミとマミの頭はもはや、この状況に追いつけているかどうかも怪しかった。
ヤヨイが現れたこと、そのヤヨイが自分たちに用事があると言っていること……。
飛び込んできたあらゆる情報に対し、
アミたちの脳はどういった感情を選択すればいいのか混乱してしまっていた。
だが映像の中のヤヨイはそんなことなど気にかけず、
歪んだ笑みを浮かべたまま続ける。

ヤヨイ『聞こえるかい、甘ちゃん達? 要件だけ伝えるからよーく聞きな。
    お前らと私だけで話をしようじゃないか。そっちだって私に会いたいんだろ?
    ならこの映像が届いた日のちょうど日没の時間に、キサラギに乗って二人だけで来るんだ。
    場所はどこでもいいけど……じゃあお前らがイオリ司令と戦った町にでもしようか』



456:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/19(日) 20:19:01.92 ID:slU/EFQUo

ヤヨイ『いいか? くれぐれもキサラギとお前ら二人だけで来るんだよ。
    もし他の奴らが一人でも居ればその時点で私は帰るからね。
    約束……守ってくれるよね?』

有無を言わさぬ笑顔でそう締めくくったヤヨイの言を、
うすら笑いを浮かべたハルシュタインが継ぐ。

ハルシュタイン『……とのことだ。まあ、来なかったところでいずれにせよ、
     私はあと一週間ほどで地球に到着する。その時にはヤヨイとも会うことになるだろう。
     尤も、会話ができるかは知らないがな。
     では地球の諸君、また一週間後に会おう』

そこで映像は途切れ、司令室には静寂が流れる。
そんな中、ぽつりと呟いたのはミキだった。

ミキ「……こんなの、罠に決まってるの。
  話をするのにキサラギに乗ってこいなんて、おかしいもん……」

アミ「ミキミキ……」

ミキ「行くことないよ、二人共!
   それよりミキと一緒に、ヤヨイのことやっつけちゃおう!
   話なら捕まえたあとでもできるでしょ? 絶対そっちの方がいいの!」



457:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/19(日) 20:21:42.22 ID:slU/EFQUo

懸命に話すミキの言葉は至極もっともであり、
こんな誘いに易々と乗る方がどうかしているのは、
アミとマミを含むその場の全員が理解している。
しかし二人は俯いたまま、ミキと目を合わせなかった。

マミ「……でも、それじゃ約束を破ることになっちゃう……」

ミキ「約束って……あんなの、ヤヨイが勝手に言ってるだけなの!
   全然約束なんかじゃ……」

マミ「わかってるよ! だけどこれがヤヨイっちと話せる最後のチャンスかも知れないんだよ!
   マミたちだけで行かないと、きっともう、二度と……!」

アミ「ごめん、ミキミキ……ごめんみんな……!
   私たちを行かせて……。ヤヨイっちのところに、二人だけで行かせて!」

ミキ「ア……アミ、マミ……」

アミとマミは、深く頭を下げて懇願する。
ミキはそんな二人を見て、アミたちの中でどれほどヤヨイの存在が大きいかを改めて知った。
微かに震えるアミたちの体を、頭を、ミキはただ泣きそうな顔で見つめ、
それ以上何も言うことはできなかった。



458:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/19(日) 20:24:57.97 ID:slU/EFQUo

その後すぐ、アミたち三人を含めて緊急会議が開かれた。
そうして出た結論は、
リッチェーンなど他の戦力の戦闘配備を完了させた状態で、
キサラギを単機で向かわせるというもの。
つまり、敵の要求を飲んだということだ。

この結論に至ったのにはアミとマミの強い要望も影響したが、
何より要求に応じなかった場合、
以前地球に大きな爪痕を残したあの大規模攻撃が来るのではという懸念が大きかった。
もちろん、本気でそうするつもりなら初めからそう言っているだろうが、
万が一の可能性も捨てきれない。
その“万が一”が起きた時は、地球が終わる時なのだ。

よってここは相手の要求を飲み、十中八九そうであろうが罠だった場合、
増援の到着までキサラギに持ちこたえてもらう、
ということに落ち着かざるを得なかった。

時は刻々と流れ、やがて日没が近づく。
ヤヨイの指定した付近は既に無人となっており、あとは出動を待つばかりとなった。

アミ「それじゃあ、行ってくるよ」

マミ「ミキミキも、そろそろ配置に付かなきゃ。
   ま、話をするだけなんだから別に必要ないとは思うんだけど一応ね!」



459:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/19(日) 20:27:36.42 ID:slU/EFQUo

そう言ってマミが浮かべた表情が作り笑いであることはすぐわかった。
同じ表情を作っているアミをちらと見て、ミキは静かに言った。

ミキ「危ないと思ったらすぐ行くから。
   ちゃんとそれまで持ち堪えられるようにアミたちも頑張らないとダメだよ」

マミ「うん。ありがと、ミキミキ。でも本当に大丈夫だよ」

アミ「そうそう。ちょっと話をするだけなんだからさ」

あくまで自分たちはヤヨイと対話しに行くのだと、
アミたちは自らに言い聞かせるように繰り返しそう口にする。
ミキは彼女たちの心情を慮り、それを否定するようなことはもう言わなかった。
その代わり二人の目を見つめ、

ミキ「帰ってきたら、ミキも二人に話したいことがあるの。
   だから、ちゃんと無事に帰ってきてね」

アミ「……わかった、ちゃんと無事に帰ってくる」

マミ「それじゃ、またあとでね!」

そう言って笑顔を残し、アミとマミはキサラギの待つ格納庫へと消えていった。



462:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/20(月) 20:36:46.17 ID:LDCgdf66o




まだ傷跡の残る町に巨大な影が伸びる。
だがそれもやがて、大きな闇にとっぷりと飲み込まれた。

日は沈んだ。
微かに残る夕日の残滓を山際に見ながら、アミはぽつりと呟く。

アミ「プレゼント……置いてきちゃったね」

マミ「……仕方ないよ。取りに戻る暇なんてなかったんだから」

以前、ヤヨイにと買った二つの髪飾りは、
可愛らしく包装されたままアミたちの部屋に置かれている。

マミ「今からちゃんと話をして、それから渡そう。
  それでまた、もう一度、ちゃんと友達になろうよ」

アミ「……うん」



463:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/20(月) 20:38:25.10 ID:LDCgdf66o

それから経過した時間は、
アミたちにとっては数時間にもあるいは数分程度にも感じた。
明かりの消えた町中では、星がよく見える。
空を見上げながら、二人は合宿所でヤヨイと共に見た星空を回想した。

と、その時、星が点滅した。
消えては光り、光っては消えるいくつかの星。
しかしアミたちはすぐに気が付いた。
星たちは点滅しているのではなく、巨大な飛行体の影に見え隠れしているのだと。

アミマミ「ヤヨイっち!」

飛行する怪ロボットを認めた瞬間、反射的に二人は叫ぶ。
人型とは違う、シンプルな構造をした怪ロボット。
見たことのない機体だったが、そこにヤヨイが居るのだと確信していた。
そしてこの確信はまさに的中していた。

ヤヨイ『クク……アッハハハハハハハハハ! まさか本当にお前らだけで来るなんてね!
    あまりに甘ちゃん過ぎて笑いが止まらないよ! アハハハハハハッ!』



464:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/20(月) 20:39:23.71 ID:LDCgdf66o

拡声され町中に響き渡るヤヨイの笑い声に、二人の心は酷く締め付けられる。
しかしアミもマミも、目を背けることはしなかった。

マミ「ヤヨイっち! 私たち、ちゃんと約束守ったでしょ!?」

アミ「キサラギには乗ってきたけど、戦ったりなんかしないよ! だから話を……」

ヤヨイ『ああ、だろうね! お前らは私とは戦わない……
    そう思ったから、わざわざキサラギに乗ってくるように指示したんだよ!
    お前らごとキサラギをぶっ潰すためにねぇ!』

アミ「ッ……! キサラギ、避けて!」

   『くっ……!』

アミたちの言葉を遮るように、あるいは嘲るように、
怪ロボットの機体からキサラギに向けて火炎が噴射された。
辛うじてキサラギはそれを躱したが、炎が止まることはない。
怪ロボットは照準を変え、避けたキサラギを追うように炎を噴き続けた。



465:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/20(月) 20:40:57.01 ID:LDCgdf66o

ヤヨイ『アハハハハ! いいねぇ面白いよ! 逃げな逃げな!
    でもそうやって逃げれば逃げるほど町は燃えていくわけだけど、それでいいんだ!?』

ヤヨイの言うとおり、キサラギが通った軌道に沿って町が焼かれていく。
だがそれに対しアミたちが対応を考えるよりも先に、ヤヨイは火炎の噴射を止めた。

ヤヨイ『なーんて、もう遅いけどね。ほら、周りを見な! とっくに町は火の海だよ』

マミ「っ……!」

燃え盛る町が二人の瞳に映る。
人間こそ居ないが、そこに住んでいた人々の大切な思い出が残されているであろう町が
焼き尽くされていくその光景に、アミたちは泣き出しそうな表情を浮かべた。

アミ「ヤヨイっち、なんで……なんでこんな……!」

ヤヨイ『チッ……うっさいなぁ。そのふざけた名前で呼ぶなって言わなかったっけ?』

マミ「呼ぶよ! 何回でも呼ぶ! 
  ヤヨイっち、私たちと話をしに来てくれたんでしょ!?
  だってそうじゃないと、ヤヨイっちだってここに一人で来たりなんかしないもん!」



466:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/20(月) 20:43:10.43 ID:LDCgdf66o

アミ「そうだよ……話そうよヤヨイっち! いっぱい話して、また友達になろうよ!
  お昼ご飯一緒に食べたり、休みの日はお出かけしたり……!」

マミ「すごく楽しかったじゃない! 思い出してよ! またそうやって遊ぼう!?
  あのね、私たちの部屋にプレゼントがあるの! だから……!」

怪ロボットのコクピット内に向かって、アミたちは涙ながらに必死に訴え続ける。
思い出して、と何度も何度も叫ぶ。
だが、違うのだ。
ヤヨイはアミたちとの思い出を忘れているわけではない。
初めて出会った日から共に過ごした日々を、はっきりと自分の記憶として認識している。
そしてだからこそヤヨイは今、ここに居るのだ。

ヤヨイ『……さっきから聞いていれば、バカなことをさえずりやがって……。
   そっちが勝手に思ってるだけで、
   私はお前らみたいな最低生物と友達になった覚えなんかねぇんだよ!
   ここへ来たのは、お前らをぶっ潰すため……。それから確認と精算のためさ!』

アミ「確認と、精算……? ど、どういうこと?」

マミ「ヤヨイっち、何を……」

ヤヨイ『ここ最近、ずーっと最悪な気分だったよ!
   こんな辺境の星なんかで一年以上も過ごしたせいでね!』



467:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/20(月) 20:45:20.90 ID:LDCgdf66o

ヤヨイ『特に最悪なのは、お前らのムカツク顔が頭にチラつく時さ!
    バカみたいなマヌケ面で私の名前を呼びやがって……!
    初めは滑稽で笑えたけど、今じゃただただイラつくだけだ!』

アミ「……ヤヨイっち……」

ヤヨイ『だからそれを終わらせに来たんだ!
    お前らを潰せばこの胸糞悪さも消えるはずだ、ってね……。
    そしたら……思ったとおりだったよ!
    さっきお前らをいたぶってる時は、サイコーな気分だった!
    逃げ回るお前らの姿は本当に笑えたよ! アハハハハハハッ!」

マミ「や……やだよ、信じない……。そんなの、絶対……!」

ヤヨイ『じゃあ勝手に思い込んでな! けど事実だ!
    いいか、私はお前らの友達なんかじゃないし、話をしに来たわけでもない!
    ただ残ってるゴミを片付けに来ただけなのさ!』

その時、ヤヨイの乗る怪ロボットが挙動し、
機体の一部から何か巨大な飛来物がこちらに向けて射出されたのをアミたちは見た。
それはキサラギの腕ほどもある巨大なニードル。
咄嗟にガードしたキサラギであったが、
その威力にバランスを崩して尻餅をつくように後ろに倒れてしまう。



468:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/20(月) 20:51:26.28 ID:LDCgdf66o

ヤヨイ『このまま遊んでやってもいいんだけど、
    そろそろお仲間が駆けつける頃だろ? さっさと掃除を終わらせなきゃね!』

今度こそトドメを刺すため、キサラギに再び照準が向けられた。
だがキサラギは地面に座り込み力なくうなだれたまま動こうとはしない。
反撃はおろか、回避も防御も今のアミとマミの頭にはなかった。

アミ「だってあの時、ヤヨイっちも友達になれて嬉しいって……。
   それなのに……! 嘘だと言ってよ! ヤヨイっち!」

マミ「マミたちのこと忘れちゃったの!?」

ヤヨイ『あれは希煌石を奪うために作ったニセの人格だって言ったろ!』

それは何度もヤヨイが言っていたこと。
今のヤヨイが記憶を失っているのではなく、
寧ろあの時のヤヨイが本来の記憶を失っていたのだと、アミもマミも頭では理解している。
だが二人は叫ばずにはいられなかった。
それでも自分たちは友達だった、思い出して欲しい。
交わした会話を、過ごした毎日を、三人で作った、最高の思い出を……

マミ「合宿所で一緒に作ったカレーの味……」

アミ「思い出してよーーーーーッ!」



469:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/20(月) 20:53:08.46 ID:LDCgdf66o

――気が付いたのは、アミとマミが先だった。
ヤヨイと直接対話をするため、希煌石の力をフルに使って強化した視力で、
常にヤヨイの顔を正面から見つめ続けた二人だったから、気が付いた。

遅れてヤヨイが気付く。
初めは頬に何かゴミでも付いたのかと思った。
顔に何かが触れる……いや、伝う感触に、それを払おうと手を伸ばした。
だが、その指が触れたのはゴミではなかった。

ヤヨイ「え……? 何コレ……」

雫が、頬を伝っていた。
次いでその雫が自分の目から流れ落ちていることに気が付く。
謎の現象にヤヨイの笑みは消え、眉根を寄せて困惑する。
止まらない。
自分の意思とは関係なく溢れ出す雫に、ヤヨイはただただ戸惑う。

……まさか、いや、そんなはずはない。
私はハルシュタイン近衛隊、
裏切りと策謀の闇の天使、ヤヨイだ。
その私が……まさか……



470:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/20(月) 20:55:04.00 ID:LDCgdf66o

マミ「ヤヨイっち……! 思い出してくれたの!? そうでしょ!?」

アミ「ほ、ほら! アミがニンジン切って、マミがじゃがいもを……」

ヤヨイ『うるさいっ……! うるさいうるさいうるさぁぁぁぁいっ!
   お前らはここで死ぬんだよぉぉぉぉーーーーーー!』

ヤヨイは頭に浮かんだ考えを振り払うように叫び、引き金にかけた指に力を入れた。
だが動かない。
まるで金縛りにでもあったかのように、ヤヨイの指はぴくりとも動かなかった。

ヤヨイ「っ……なんで……! 違う、私は……そんな……!」

その時、戸惑いに表情を歪めるヤヨイの耳に、異質な音が届いた。
大気を震わせるその音に目をやると、
そこには猛然と駆けてくる巨大ロボ、リッチェーンの姿があった。

ミキ『アミ! マミーーーーーっ!
  このぉっ……! 二人から離れるのぉーーーーーーーー!』

リッチェーンはモーニングスターの鎖を掴み、
走る勢いそのままに体を回転させて、鉄球をヤヨイに向けて放った。
だがヤヨイは、少し前まで動かなかったとは思えない速度で手を動かし、
辛うじてその鉄球を躱す。
そしてそのまま背を向けて、夜の闇へと消えていった。



471:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/20(月) 20:56:28.77 ID:LDCgdf66o




報告を終えアミたち三人は廊下へ出る。
いつもなら、あの時の技がどうだったとか、
次はもっとこうしようだとか、わいわいと反省会をしながら食堂へ向かっているところだろう。
だが今日は、三人とも一言も話さない。
ミキが一人先頭を行き、アミとマミが並んでその後ろをついて歩く。
重苦しい沈黙の中、足音だけが廊下に響いている。
その後しばらく続くと思われた沈黙であったが、
振り返ることなくミキが発した短い言葉で、それは終わった。

ミキ「まさか、『邪魔した』なんて言わないよね?」

二人はぴくりと肩を震わせる。
その後、小さな声で答えた。

マミ「言わないよ、そんなこと……。ミキミキが来なかったら、危なかったと思うから……」

アミ「その……ありがとう、ミキミキ」

ミキ「……だったらいいの」



472:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/20(月) 20:57:34.88 ID:LDCgdf66o

それからまたミキは黙ってしまう。
そんなミキの背中に、マミが恐る恐る声をかけた。

マミ「……やっぱり、怒ってる?」

ここでようやくミキは足を止め、二人も慌てて立ち止まる。
そして少しの間を空け、ミキはやはり前を向いたまま言った。

ミキ「怒ってないよ。怒ったってしょうがないことだもん。
  でも、次は気を付けて欲しいの。ヤヨイと戦いたくない気持ちは分かるけど……」

アミ「ご……ごめんね。アミたち、
  ちゃんと持ちこたえられるように頑張るって、そう言ってたのに……」

と、ここで不意にミキが振り返り、アミは謝罪の言葉を中断した。
振り返ったミキは、優しい笑顔をにっこりと浮かべていた。

ミキ「もー、だから怒ってないってば。ちょっと色々考え事してただけなの!
  ミキの方こそ、なんか怖がらせちゃってごめんね。あはっ☆」



473:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/20(月) 21:00:11.09 ID:LDCgdf66o

マミ「そ、そうなの? 本当に怒ってない?」

ミキ「怒ってないよ。怒ってるように見える?」

アミ「……見えないけど……。じゃあ、考え事って……?」

ミキ「もちろん、これからの特訓のことなの。
   ハルシュタインが攻めて来るのは一週間後だって分かったんだから、
   色々と計画も立てやすくなったでしょ?
   あと一週間でできるだけ力を付けるためにはどんな特訓がいいかなーって考えてたの。
   というわけで、今から一緒に考えるの! 食堂、行こ!」

そうしてミキはアミたちの手を取って走り出した。
二人は驚きに声を上げたが、引かれるままにミキについて走る。

マミ「えっと、それじゃミキミキ、出動前に言ってた話したいことっていうのは……」

ミキ「それももちろん、このことなの!
   あ、もしかして昨日の、石が光ったこととか、
   その後ミキがすぐ帰っちゃったこととかの話だと思ってた?」



474:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/20(月) 21:01:08.35 ID:LDCgdf66o

アミ「そ、そりゃあそう思うよ。特に後半部分!」

マミ「私たち、心配したんだよ? ミキミキに何かあったのかなって……」

ミキ「そっか……やっぱり二人とも優しいの☆
  でも昨日は本当に疲れちゃってただけだから心配ないよ。
  それに光のことは、ミキたちが考えたってわかりっこないの。
  多分、三希石が二つ揃ったから光ったとか、そんなカンジだって思うな!」

これを聞き、事実“光”についてはアミとマミも
似たような結論しか出せていなかったこともあり、それ以上言及することはなかった。
が、妙に明るいミキの様子は恐らく空元気であろうと、
口に出すことはなかったが二人とも考えていた。
ハルシュタイン本人の襲来まで、考えていたよりずっと時間がない。
残り一週間で出来ることなどたかがしれているはずだ。

しかしミキは諦めていない。
あの時と同じだ。
無理だと分かっていても、無駄だと分かっていても、やるだけのことはやる。
それがミキなのだ。

だからアミもマミも何も言わず、
それから遅くまで食堂でミキと共に一週間の訓練予定を考えた。
ヤヨイのこともこの時間だけは努めて考えないようにし、
僅かな希望に賭けて、行動を始めることにした。



475:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/20(月) 21:02:43.22 ID:LDCgdf66o




ミキ「――じゃあね、二人とも! 明日寝坊しちゃダメだよー!」

アミ「えー? ミキミキがそれ言うー?」

マミ「ミキミキこそ、寝坊しないようにねー!」

笑顔で手を振り、アミたちと別れた。
寄り道せず真っ直ぐに自分の部屋へと戻る。

部屋に着き、電気を付けてまず洗面所へ向かう。
鏡を見る。

……少し、わざとらしかったかも知れない。
だけどそのおかげで上手く誤魔化せた。
わざとらしいくらいに明るくしないと、多分隠せなかった。
アミもマミも、作り笑顔には気付いてて、合わせてくれてたんだと思う。
でも、本当のところは、ちゃんと誤魔化せたはずだ。



476:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/20(月) 21:06:34.25 ID:LDCgdf66o

  あの二人は、優しすぎる。

堪えていた感情が吹き出す。
自分の顔を見たくなくて、ごつん、と鏡に頭をぶつけて下を向く。

ヤヨイと対峙するアミとマミの様子を見て確信してしまった。
あの子達は、友達に対して“優しすぎる”んだ。
一度でも気を許してしまえば、その相手からどんなに酷い言葉を投げられようと、
どんなに酷く傷つけられようと、敵として見ることができない。
相手のいいとこばかりを見て、信じようとしてしまう。
だから一度だって、ヤヨイに攻撃することはなかった。
そしてそれは多分……自分に対しても同じだ。

駄目だ。
そんな二人にあの話を――『頼みごと』をしたところで意味なんてない。
あの『頼みごと』を聞いて実行してくれるには、アミとマミは優しすぎる。
ならどうする。
諦めてたかだか一週間の訓練にすべてを賭けるか?
いや、そんなわけにはいかない。
考えるんだ。
なんでもいい、何か別の方法を……!



477:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/20(月) 21:08:05.05 ID:LDCgdf66o




ヤヨイ「あ、あの! ごめんなさい、ハルシュタイン閣下!
    私、今度は絶対、ちゃんとやりますから!
    ですから、次も私を出撃させてください! お願いします!」

ハルシュタインの足元にすがるように、ヤヨイは謝罪と懇願を繰り返す。
ハルシュタインはそんなヤヨイをしばらく見下ろし、一言呟いた。

ハルシュタイン「……マコト」

名を呼ばれ、マコトはハルシュタインの隣より歩み出る。
そしてヤヨイの腕を掴み、強引に引き起こした。

マコト「こっちへ来るんだ、ヤヨイ。いつまでも閣下の足にすがり付くなど、無礼だろう」

ヤヨイ「わ、私っ……! ごめんなさい! でも、でも……!
    ハルシュタイン閣下ぁーーーーっ!」

引きずられるようにして部屋の外へ連れ出されるヤヨイが最後に目にしたのは、
退屈そうにため息をつくハルシュタインの顔だった。



478:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/20(月) 21:09:49.48 ID:LDCgdf66o

ヤヨイ「――……もう離してください。逃げたりなんかしませんから」

廊下を少し歩いたところで、ヤヨイは顔を伏せたまま唸るように言った。
しかしマコトはそれを無視して歩き続け、
やがてヤヨイの自室の前に到着してから掴んでいた腕を解放した。

マコト「しばらく中で休むといい。いつものキミに戻るまでね」

ヤヨイ「『いつもの私』……!? あんたまで何を言ってるんだよ!
    私はいつも通りだ! 意味のわからないことを言うんじゃねぇよ!」

静かに囁いたマコトの声に、ヤヨイは食ってかかるように怒鳴った。
今にも掴みかからんばかりのその勢いに、
マコトは眉一つ動かすことなく応じる。

マコト「そうかな。いつものキミなら笑って受け流すところだと思うけどね」

ヤヨイ「っ……あなたが、あいつらみたいなことを言うからですよ。
    ほんっとーにムカツクなぁもう……!」



479:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/20(月) 21:11:09.17 ID:LDCgdf66o

マコト「『あいつら』……キサラギのパイロットのことかい?
    どうもキミは彼女たちのことになると熱くなるようだ」

ヤヨイ「イライラしてるんです……。
    本当なら今すぐもう一度出撃して、今度こそ宇宙のゴミにしてやりたいくらいですよ」

マコト「できるのかい?」

ヤヨイ「できます! さっきは、ちょっと失敗しちゃっただけです!」

マコト「……そうか。ならそのつもりでいなさい。一週間後に備えてね」

その途端、ヤヨイの目がらんと輝く。
あと一歩でキサラギを破壊できるというところまでいきながら失敗してしまった自分に、
ハルシュタインは完全に失望したのだと思っていたからだ。

マコト「もとより閣下は、キミが一人でキサラギを倒せるとはお思いではなかったようだよ。
   思いのほか上手くいきそうで、寧ろ驚かれていたくらいだ」

ヤヨイ「つまり……最初から期待はされてなかったってことですね。
   それでもいいです。次のチャンスで、絶対にやってみせますから……!」



480:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/20(月) 21:14:42.33 ID:LDCgdf66o

マコト「ああ、そうなることを僕も願ってるよ。ただし、次は僕も同行するけどね」

ヤヨイ「なっ……! 必要ないです! 私一人で十分ですから!」

マコト「そうは行かないよ。同行し、その上で僕の指揮に従ってもらう。
    これが二度目のチャンスを与える条件だ。
    拒否するなら、キミにはキサラギとまったく関係のない地域に出動してもらう。
    ハルシュタイン閣下もそういうことで納得してくださっている」

ハルシュタインの名を出されヤヨイはぐっと言葉を飲み込む。
下げた腕の先で拳を握り締め、渋々頷いた。

ヤヨイ「わかりました……。じゃあ、おとなしく従います。
    でもマコト団長が行くんじゃ、あいつらもいよいよおしまいですね。
    団長、私の仕事まで取らないでくださいよ?」

吐き捨てるように言い残してヤヨイは自室へ入り、扉が閉まった。
マコトはその扉をしばらく見つめた後に呟く。

マコト「……貴女はどこまで見通しておいでなのですか、ハルシュタイン閣下。
   僕には分かりません。ヤヨイの心も……貴女の御心も」



484:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/23(木) 19:59:00.08 ID:dsh5nH4HO




ハルシュタインからの宣戦布告を受け、地球防衛軍はあらゆる対策を練った。
恐らくはこれが地球の存亡をかけた正真正銘の最終決戦となる。
ハルシュタインの言葉を信じるなら、運命の日までに残された猶予は僅か一週間。
この期間にできることは限られているがしかし、
防衛軍はできる限りの手を尽くして決戦に備えた。

勝つための作戦、戦力の増強、想定しうる限りの場面に対するシミュレーション……。
地球を守るためあらゆる方策が練られたが、
当然その全ては地球最大の戦力を要に据えられたものである。
IMR―765―S キサラギ、そしてIMR―765―N リッチェーン。
地球の命運はこの二つの巨大ロボに……
つまりはそのパイロットである10代の少女たちに託されたと言っても過言ではない。

そのことは、少女たちも自覚している。
だからもちろん努力した。
寝る間も惜しんで少しでも自分たちの力を上げるために体を使い、頭を使い、
この一週間、地球上の誰よりも努力した。

だが、僅か一週間である。
七日間という期間で埋められた彼女たちとハルシュタイン軍との力の差は当然、
それ相応のものでしかなかった。



485:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/23(木) 20:00:34.89 ID:dsh5nH4HO

――少女は目を開け、ゆっくりと体を起こす。
気だるさはなく、頭も冴えている。
顔を洗い鏡を見ると血色も良い。
体調は万全だ。
だから、あとは覚悟だけ。

目を閉じて今まで繰り返した思考を、至った結論を、反芻する。
大丈夫、自分ならやれる。
上手くいくかはきっと賭けになるだろう。
不自然かも知れないし、無理もあるかも知れない。
だけどやるしかない。

自分は決めたんだ。
無理だとわかっていても、無駄だとわかっていても、絶対に諦めない。
やれることは全部やるって、決めたんだ。
でも、信じてる。
これは決して無駄なことなんかじゃない。

  「……行ってきます」

少女は一人、誰もいない部屋に向かって呟いた。
そして歩き出す。
自分が守るべき景色を……最後になるであろう景色を、目に焼き付けながら。



486:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/23(木) 20:02:13.42 ID:dsh5nH4HO

ヒビキ「――ごめんね。結局自分、なんの役にも立てなくて……」

出動の直前、見送りに立ったヒビキは消え入りそうな声でそう言った。
だがそれに対してアミとマミはにっこりと満面の笑みを返す。

アミ「そんなことないよ! ヒビキンだってずっと頑張っててくれたじゃん!」

マミ「そうそう。なんか分かんないけど、
  部屋にこもって祈ったりとか儀式っぽいことやってたりしたの知ってるんだからね!」

ヒビキ「それは……そうだけど、でも自分……」

チラと、ヒビキは俯き気味にミキに視線をやる。
その視線の意味をアミとマミが考え始めるよりも先に、ミキは薄く笑って言った。

ミキ「アミたちの言う通りなの。ヒビキは頑張ってくれたんだから、気にしちゃダメ。
  それよりミキ的には、そんな暗い顔で見送られたらテンション下がっちゃうってカンジ」

ヒビキはそのミキの目を少しの間じっと見て、
そして、悲しげながらもなんとかして笑顔を作った。



487:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/23(木) 20:03:30.36 ID:dsh5nH4HO

ヒビキ「そう、だよね。悪かったさー。
    自分は戦えないけど、でもここから応援してる!
    だから三人も頑張るんだぞ! 希照石も預けたままにしとくから、
    全部終わったらちゃんと返してよね! 約束だぞ!」

マミ「もちろんだよ! 借りたものはちゃんと返さなきゃね!」

アミ「ヒビキンに負けないくらい、私たちも頑張るよ!」

そう言ってアミたちは笑い合い、笑顔を残して出発した。
ヒビキは三人の姿が見えなくなるまで手を降り続ける。
そして廊下に一人残されたヒビキは、

ヒビキ「……短い付き合いだったけど、自分絶対に忘れないから……。
   だからミキ……頑張って」

伝えたくて伝えられなかった言葉を、
一筋の涙と共にぽつりと呟いた。



488:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/23(木) 20:06:07.07 ID:dsh5nH4HO




  『――衛星軌道上、怪ロボット多数確認。
  総員直ちに出撃し怪ロボットの迎撃を開始せよ』

  『キサラギとリッチェーンは現場にて待機。作戦を続行』

  『巨大宇宙船接近。大気圏突入まで、残り10分。
  繰り返す。巨大宇宙船接近。大気圏突入まで、残り10分――』

夕日が赤く照らす無人の町中で聞こえるのは、インカムから流れるアナウンスのみ。
慌ただしく伝わる報告や指示はまさに、
ついに最終決戦が始まったことの証であるとアミたちは実感した。

アミ「いよいよ、だね」

マミ「……やれるだけのことはやったよね。あとは、最後まで諦めずに頑張るだけ……」

キサラギの頬から空を見上げる二人の顔は緊張で強ばってはいたが、
その中にある種の達観のような感情も垣間見える。



489:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/23(木) 20:10:29.31 ID:dsh5nH4HO

防衛軍の通常戦力は各地に出現した怪ロボットへ対応。
キサラギとリッチェーンは、敵の本艦が大気圏へ突入したと同時に直接攻撃を仕掛ける。
それが作戦の一つであり、そのためにアミたちはこうして、予測地点で待機している。
そしていよいよ、出発の時が近付いてきた。

アミ「大丈夫、あんなに練習したんだもん。
  コンビネーションだってもう完璧だし! ね、ミキミキ?」

ミキ『うん……そうだね』

マミ「ちょっとちょっと、ミキミキ暗いよー!
  正義のヒーローは元気でいなくちゃダメなんだよ!」

アミ「そうそう! さっき自分でヒビキンに言ってたじゃん!
  戦いの前はグーンとテンション上げていかなくちゃ!」

不自然なほどに明るい二人の声と表情は、
緊張や不安を吹き飛ばそうとしているものであろう。
やれるだけのことはやったという自負は確かにあるが、
だからと言って不安を感じないほど能天気なアミとマミではない。
当然ミキもそのことはわかっているし、
今までのミキなら二人の心情を慮って話を合わせていただろう。

だが、明るく笑うアミとマミの声にインカムを通して返ってくるのは沈黙のみ。
二人はそんな沈黙に対して、少し困ったような笑顔を浮かべた。



490:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/23(木) 20:13:04.14 ID:dsh5nH4HO

マミ「ミキミキ……朝からすっごく真剣な顔だったよね。
  ミキミキがこの戦いのために一番頑張ってたから
  真剣な気持ちもわかるし、私たちだってもちろん真剣だよ……」

アミ「でも、あんまり思いつめちゃダメだよ。
  練習通りの力を出すには、リラックスして……」

ミキはきっと思いつめすぎて固くなっているんだろう。
そう思ったアミたちは緊張をほぐすために声をかける。
が、その言葉を遮るように、ミキの声がインカムから発せられた。

ミキ『ねぇ、一回基地に戻らない? ミキ、もうちょっと練習したいことがあるの』

まったく想定外だったその言葉に、
思わずアミとマミは同時に呆けたような声を出す。
しかしすぐに我に返り、

マミ「れ、練習したいこと? でももう行かなきゃ作戦通りに攻撃できないよ」

アミ「そうだよミキミキ……。練習って、ここでやっちゃダメなの?」

ミキ『ダメ。ここじゃ敵に見られるかも知れないから一回戻って練習したいの』



491:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/23(木) 20:14:18.25 ID:dsh5nH4HO

この期に及んでのミキの言葉に、アミたちは今度ははっきりと困惑した表情を浮かべた。
不安を残したまま戦いに赴くというのは確かに出来る限り避けたいが、
戻って練習する時間など無いに等しいのも事実。
二機揃って基地に戻りなどすれば、
まず間違いなくハルシュタインの大気圏突入に間に合わなくなってしまうだろう。

アミ「や……やっぱり無理だよ。
  少なくともキサラギかリッチェーンのどっちかはここに居ないと」

マミ「どうしても不安だったら、私たちが先に行ってなんとか時間を稼ぐから、
  その間にミキミキは練習する……くらいがギリギリだよ」

ミキ『……』

インカムの向こうのミキの表情は分からない。
これはかなりの譲歩案なのだが、それでもミキは納得していない……。
アミたちはそう思い、続けて声をかけようとした。
しかしそれは再び遮られる。

ミキ『そっか……じゃあ、仕方ないね』



492:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/23(木) 20:16:25.12 ID:dsh5nH4HO

良かった、わかってくれた――
しかしアミたちがそう表情を緩めたその刹那、

アミマミ「っ!?」

強い衝撃が二人の体を襲った。
次いで全身を襲った浮遊感に、二人は慌ててステアにしがみつく。
アミもマミも、何が起きたのか理解できなかった。
一瞬遅れ、再びの強い衝撃でキサラギが地面に倒されたのだと気付いてから、
ようやく理解した。
キサラギは足をすくわれて後方に倒されたのであり、
その元凶となったのが……リッチェーンであるということを。

マミ「ミキミキ、どうして……!?」

当然発せられたその問いに対し、リッチェーンは――
ミキは、これが答えだと言うようにキサラギに馬乗りに伸し掛かる。
そしてインカム越しに、ミキの叫びが聞こえてきた。

ミキ『先に行くなら、このミキを! 倒してから行くのーーーーっ!!』



493:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/23(木) 20:17:56.76 ID:dsh5nH4HO

理解が追い付かない。
ミキは何を言っているのか、なぜキサラギを転倒させたのか、
何がなんだかさっぱり分からない。
分からないまま、ミキは考える時間すら与えてくれなかった。

言葉を言い終わらないうちにミキは、
リッチェーンのダブルモーニングスターを左右から何度も打ち付ける。
キサラギの両手はがっちりとホールドされており、
馬乗りの状態から振り下ろされる二つの巨大な鉄球は、
アミとマミに当たりはしていないもののキサラギの頭部を何度も直撃する。
その衝撃にアミとマミは必死に耐えるが、このままではいつまで経っても埓があかない。

アミ「キ、キサラギ、脱出だ!」

   『くっ……!』

キサラギはうめき声を漏らし、リッチェーンに掴まれた手をぐいと横に振る。
それに伴ってリッチェーンの体は傾き、
何度目かの直撃へ向けて振られた鉄球はキサラギの鼻先を通過した。
勢いのままにリッチェーンの頭部も大きく揺れ、僅かにバランスを崩す。



494:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/23(木) 20:19:26.83 ID:dsh5nH4HO

その隙にキサラギは転がるようにして距離を取り、
片膝を付いてリッチェーンに向き直った。

ミキ『あの状態から抜け出すなんて……流石だね、アミ、マミ』

リッチェーンは挙動して戦闘の構えを取る。
明らかに自分たちと戦う意思を持っているミキに対し、アミとマミは慌てて叫んだ。

マミ「ま、待ってよミキミキ! なんでこんなことするの!?
  ミキミキを倒せって、どういうこと!?」

アミ「も、もしかして、ミキミキもヤヨイっちと同じなの……!?
  本当はハルシュタインの仲間だったの!?」

ミキ『違うよ。ハルシュタインなんかの仲間なわけないの。
  ミキは今でも、ハルシュタインを倒すために戦おうとしてるよ』

アミ「じゃあどうして……!」

ミキ『“だから”だよ。ハルシュタインを倒すために、アミとマミと戦うしかないの。
  だって気づいちゃったんだもん。二人には、本気であいつを倒す気なんかないんだって』



495:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/23(木) 20:20:41.10 ID:dsh5nH4HO

マミ「なに、言ってるの……? そんなことないよ! 私たちだってミキミキと一緒だよ!」

アミ「なんでそんなこと言うの!? ミキミキ!」

ミキ『だって倒すつもりなら、あの時ヤヨイと戦ってはずだよね?』

マミ「それはっ……。で、でも、今はあの時とは違うよ!
  ヤヨイっちとは仲直りしたいけど、でもちゃんと戦う!」

ミキ『それだけじゃないの。
  二人とも……本当に今のミキたちが、ハルシュタインに勝てると思ってる?』

静かなこの問いに、アミとマミは返答に詰まってしまう。
だがその僅かな沈黙がまさに二人の答えだった。

ミキ『だよね……そんなはずないの。
  はっきり言って、タカネにだってまだ勝てるかどうか分からない。
  それなのに戦ったって、意味なんてないよ。絶対に無駄なの』



496:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/23(木) 20:23:06.87 ID:dsh5nH4HO

アミ「そんな……! ミキミキ言ってたじゃん!
  無理とか無駄とか、やってから言うのとやる前に言うのとじゃ意味が違うって!」

マミ「私たち、あの時のミキミキの言葉があったからこの一週間がんばれたんだよ!?
  確かに勝てないかも知れないけど、それでも諦めずに戦うって!」

ミキ『でも、本気で勝てると思ってないなら諦めてるのと同じなの。
  “負けるかもしれないけど、精一杯やろう”“やるだけのことはやったから”って……。
  まだ、やれることはあるのに』

アミ「え……?」

“まだやれることはある”。
ミキの言葉は、混乱と困惑にかき乱されたアミたちの頭にもすっと入ってきた。
自分たちはこの一週間でやれることはすべてやった……
逆に言えば、もうやれることはないと、
ミキの言うとおり確かにある意味では諦めに近い感情を持っていたのかもしれない。
だがミキはまだやれることがあるのだと言う。
二人は黙して、ミキの言葉を待った。
しかし次いでインカムから聞こえた言葉は、アミたちの心をより強くかき乱した。

ミキ『少なくともあと一週間……。基地の地下に隠れて、特訓を続けるの』



497:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/23(木) 20:24:21.44 ID:dsh5nH4HO

ミキ『そうすればきっと、ミキたちはもっと強くなれる。
  あと一週間あれば……』

マミ「ま……待って! 一週間地下に隠れるって、じゃあその間はどうするの!?」

アミ「ハルシュタインたち、もうすぐそこまで来てるんだよ!?
  今から一週間も放ったらかしにしたら、地球のみんなが……!」

ミキ『仕方ないの。確かにたくさんの人が傷つくだろうし、
  地球もボロボロになっちゃうと思う……。
  でもハルシュタインを倒すにはもうこれしかないの』

この瞬間、アミとマミは今まで経験したことのない心のざわつきを覚えた。
インカム越しに聞こえる落ち着き払ったミキの声と対照的に、震えた声でマミは問う。

マミ「それって……地球の人たちを、犠牲にするってこと?
  地球を守ることをやめて、ハルシュタインを倒すことだけ考えるって……。
  ミキミキ、そう言ってるの?」

ミキ『そうだよ。だってもう、それしかないよね?』



498:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/23(木) 20:25:25.09 ID:dsh5nH4HO

アミ「……そんなの、できるはずない」

ぽつりと呟いた声は、ミキに届いただろうか。
だがミキはそれ以上は何も言わなかった。
アミとマミの意思を確認するように黙っている。
そして二人はそれに応えるように、はっきりとインカムに向かって叫んだ。

アミ「地球のみんなを見殺しにするようなこと、できるはずないよ!」

マミ「ミキミキは間違ってる! 私たちは絶対に、そんなことやりたくない!」

ミキ『……そういうと思ったよ。実にあなたたちらしいの』

言い終わるが早いか、リッチェーンは上体を大きく捻った。
それを見たアミとマミは咄嗟にコマンドを出し、キサラギに腕を上げさせる。
瞬間、伸長した鎖に連なる鉄球が、その腕に轟音を上げて激突した。

アミ「っ……ミキミキ……!」

ミキ『どうしても今ハルシュタインと戦いたかったら、ミキを倒してから行くの!
  その代わり、ミキが勝ったら一緒に地下に逃げてもらうから!!』



499:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/23(木) 20:27:20.13 ID:dsh5nH4HO




マコト「我々を誘い出すための罠……というわけではなさそうですね。
   いかがいたしましょう、ハルシュタイン閣下」

冷然として尋ねるマコトと同じようにハルシュタインもまた、
一切の感情を読み取れない暗い瞳でモニターを眺めている。
そこに映っているのは、衛星から届いたキサラギとリッチェーンが戦う姿。

ヤヨイ「そんなの決まってます! 仲間割れしてるんだったら
    どう考えたって今がチャンスじゃないですか! すぐ出撃しましょう、マコト団長!」

マコト「キミは僕に指示できる立場ではないはずだよ、ヤヨイ。わきまえなさい」

ヤヨイ「っ、でも……!」

冷たく見下すような視線と言葉に、ヤヨイは歯噛みする。
ハルシュタインはそんな二人のやり取りを一瞥した後
もう一度モニターへと視線を戻し、言った。



500:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/23(木) 20:28:15.32 ID:dsh5nH4HO

ハルシュタイン「いずれにせよ、結果は同じだ……。
      今すぐ出撃しようとこのまま見物しようと、な」

それは意見を求めた自分に対し、お前が決めろと暗に言っているのだとマコトは受け取った。
しばらくモニターを見つめた後、マコトはハルシュタインに向き直り敬礼した。

マコト「ヤヨイと共に出撃します。
   閣下はもうしばらく、ここで悠然とお待ちになっていてください」

そう言って踵を返して歩き出し、
ヤヨイは俄かに目を輝かせてその後を追う。
マコトの後ろを足早について歩きながら、ヤヨイは拳に力が入るのを感じた。
この一週間、アミとマミのことがずっと頭から離れなかった。
幻影のように浮かぶ二人の姿は目を閉じても瞼の裏に焼き付くようにして消えることはない。
ヤヨイは、今度こそ精算したかった。
闇の天使ヤヨイとしての自分を取り戻すため、
忌々しい辺境民族を、この宇宙から記憶ごと消し去ってしまうのだ。

一週間前のあれは、何かの間違いだったんだ。
敬愛する主人から得ていた信頼も半ば失いかけてしまっている。
それを今から取り返そう。
ハルシュタイン近衛隊としてのヤヨイを、証明しよう。
あいつらを消すことで、かつての自分を、閣下の信頼を、取り戻すんだ。



504:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/26(日) 21:09:49.00 ID:05yusEqno




アミ「お願い! やめてよミキミキ!」

マミ「こんなことしてる場合じゃないよ! ハルシュタインがもうすぐ――」

金属と金属のぶつかり合う音が、マミの言葉を遮る。
アミとマミは必死に説得し、それを妨げるようにミキが攻撃する。
もう何度繰り返したか分からない。

ミキ『だったら本気で攻撃して!
   守ってばっかり、避けてばっかりじゃいつまで経っても終わらないよ!』

アミ「で、できないよそんなの! ミキミキに攻撃なんて……!」

ミキ『ほらやっぱり! アミもマミもハルシュタインを倒す気なんてないんだ!
   本気で倒すつもりなら、それを邪魔するミキのことだって倒せるはずでしょ!?』

マミ「ミキミキ、なんでっ……!」



505:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/26(日) 21:14:42.41 ID:05yusEqno

先程から何度も警報が鳴り、ハルシュタイン軍の乗る巨大な宇宙船の接近を知らせている。
だがミキはそれを完全に無視して、
アミたちへの攻撃を僅かも止めようとはしなかった。
もう二人もとっくに分かっている。
ミキは、本気だ。
本気で自分たちを倒そうと襲ってきているのだ。
今まで怪ロボットに向けられていた敵意が今、自分たちに向けられている。

アミとマミはどうすればいいのか分からずに、
今にも泣き出しそうな顔でミキの猛攻をひたすらに凌ぎ続けることしかできない。
だがそれも、永遠には続かない。
それまで鳴っていたものとはまた別のアラームが三人の耳に入る。

アミ「!? これ、もしかして……!」

ミキ『っ……』

それは怪ロボットの接近を知らせる警報。
見れば巨大宇宙船に先んじて、一機の飛行怪ロボットがこちらに向かって接近している。
まずい、とアミとマミは焦りに満ちた視線を互いに交わした。
敵は間違いなく自分たちの仲違いに気付いている。
だからこそ、その隙を討つために怪ロボットを出撃させたのだ。



506:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/26(日) 21:17:29.25 ID:05yusEqno

  「ミキミキ――」

怪ロボットを迎え撃たなくては、とどちらからともなく発された言葉はしかし、
それまでと同じように轟音によって中断された。
視線を戻したアミとマミの視界に入ったのは、迫り来る巨大な鉄球。
体勢を崩しつつも辛うじてガードしたアミたちの耳に飛び込んできた言葉は、
アミとマミの表情を更に酷く歪めた。

ミキ『ほら、もう時間がないよ! 決着をつけるの!』

アミ「なん、で……!? ミキミキ、本当にどうしちゃったの!?」

すぐそこに怪ロボットが迫っているにも関わらず、
戦いは何事もなかったかのように再開された。
いや、寧ろそれまでよりも更にミキの攻撃は激しさを増している。

おかしい、絶対におかしい、ワケが分からない。
このミキは本当にミキなのか?
何者かに操られているのか?

襲い来るミキの猛撃と、迫り来る怪ロボットによる焦燥。
板挟みになったアミたちの頭と心はより強くかき乱される。



507:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/26(日) 21:20:39.82 ID:05yusEqno

その混乱のせいだろうか、
あるいは危機がいよいよ差し迫ったからであろうか。
ここで初めてキサラギは、それまで見せたことのない動きを見せた。

マミ「お、お願い、止まってよ! ミキミキーーーーーっ!」

ミキ『……!』

リッチェーンが遠心力をフルに使って蹴りを放った、その瞬間。
それまで防御にしか使われなかったキサラギの腕の拳が握られ、
向かってくるリッチェーンの脚へと振り抜かれた。
瞬間、轟音と衝撃が大気を震わせる。
それはキサラギが初めて味方へ向けた拳であった。

が、それでも。

ミキ『……やっと反撃したと思ったら、その程度? こんなのじゃ、全っ然足りないの!!』

ぶつかりあったまま止まっていたリッチェーンの脚が加速し、
拳を弾かれたキサラギはバランスを崩す。
そこへ一回転したリッチェーンの蹴りが追撃し、
あえなくキサラギは背中から転倒した。



508:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/26(日) 21:22:01.98 ID:05yusEqno

初めの不意打ちから数えて、二度目のキサラギの転倒。
これを高みから直接見下ろしていたのが、マコトとヤヨイである。
アミたちの争う様子をしばらく静観していたマコトだが、
倒れたキサラギにリッチェーンが再び馬乗りになろうとしたところで、
初めてヤヨイに指示を出した。

マコト『今だ、ヤヨイ』

ヤヨイ「わかってます!」

聞くが早いか、待ちかねたとばかりに急降下を始めるヤヨイ。

どちらかが明らかに優勢になったと同時に劣勢になった側の機体を破壊し、
直後にもう一体も破壊する。
無尽合体の猶予を与えないよう手早く、徹底的に……。

そう予定していた計画を遂行すべく、ヤヨイは今動き出した。
この機を逃す手はない。
できればキサラギを先に破壊したいと思っていた自分たちにとって、
これは好都合以外の何ものでもないのだから。



509:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/26(日) 21:25:02.54 ID:05yusEqno

みるみるうちに地上との距離は狭まり、
キサラギとリッチェーンはあっという間にヤヨイの操る怪ロボットの射程圏内に入った。
既にリッチェーンはいわゆるマウントポジションに入っており、
仰向けに横たわるキサラギを見下ろしている。

ヤヨイはリッチェーンの背後から、キサラギの頭部へと照準を定める。
大丈夫、自分はいつもの自分だ。
引き金を引けないことなど、もう二度とあるはずはない。
無意識下ではあったが、ヤヨイはそう言い聞かせて引き金に指をかけた。
しかし、ぐっと力を入れようとしたその瞬間。

ミキ『邪魔しないで!!』

拡声されたミキの声が、ヤヨイの指を止めた。
そしてそれに対しヤヨイが何か反応を返す前に、

ミキ『攻撃するのは決着がついてからでいいでしょ!?
  今はミキが戦ってるんだから、お前たちはただ見てればいいの!』



510:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/26(日) 21:30:59.86 ID:05yusEqno

言い終わると、ミキはまるでヤヨイたちなど居ないかのように、
キサラギに対しての攻撃を開始した。

その様子をマコトは微かに眉根を寄せて見下ろす。
アミたちだけではない、マコトにとってもミキの意図するところは不明であった。
それは当然ヤヨイも同様である。

しかし、ミキの言動を受けてヤヨイが抱いたものは疑問だけではない。
言いようのない何かが胸の奥底をじわりと締め付けたのを、ヤヨイは感じた。

ヤヨイ『おい、無視してんじゃねぇよ! 大体どういう意味だ!?
   邪魔するなだと!? そんな指示を受けるいわれはないね!』

ミキ『いいから邪魔しないで! ミキがアミとマミの相手をしてるんだから!』

まるで口喧嘩のように言い合っているこの間にも、
ミキはキサラギへの攻撃を止めようとはしない。
そして自分を全く相手にしようとしないミキの態度を見て、
ヤヨイの感じる締めつけは更に強まっていく。



511:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/26(日) 21:36:49.88 ID:05yusEqno

自分を無視しようとする相手への苛立ち。
それは確かにあった。
しかしかつてのヤヨイであれば、ミキの言葉など無視して直ちに攻撃していただろう。
そして相手の愚かさを笑っただろう。

が、今のヤヨイの頭にはその選択肢そのものが無かった。
何か黒く複雑なものが、胸の中央からヤヨイの内蔵を圧迫する。
ただ当のヤヨイはその感覚と単なる苛立ちとの違いには気付かずに、
昂ぶる感情のままに言い合いを続けようとする。

ヤヨイ『ハン! 何を馬鹿なことを言ってんだ!
    勝手に仲間割れを始めたお前に、こっちは親切にも力を貸してやろうと……』

しかし次の瞬間――
ヤヨイの言葉を遮って発せられたミキの声が聞こえた瞬間。
酷く濁った、酷く純粋な感情が、ヤヨイのすべてを飲み込んだ。

ミキ『ヤヨイの力なんか必要ない! だからすっこんでて!』



512:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/26(日) 21:39:54.41 ID:05yusEqno

   “お前は必要ない”

ミキの口から出たこの言葉は、
一瞬の間にヤヨイの頭の中を何度も、何度も駆け巡った。

   『でも、新型機を乗りこなした上に武器の強化案まで考えてるなんてすごいよね!』

   『ミキミキって、リッチェーンの開発時からパイロットやってたの?』

   『ううん、アミたちと一緒だよ。今日会ったのが初めて』

頭が痛い、気分が悪い、吐き気がする。

   『今日初めて乗ったのに、あんな上手にキサラギを受け止められたの!?』

   『上手じゃないの。お昼寝の最中じゃなかったら、もっと早く対応できてたって思うな』

ミキは初めて乗った機体をあんなにも完璧に乗りこなした。
さすがは期待のエースだ、本当にすごい。
もうすぐにでも十分以上にアミたちの手助けができるだろう。
きっとアミとマミも、ミキの助けを必要としてる。
そう、ミキの力を、みんな必要としてる。
でも、それじゃあ…………

    “お前は必要ない”

――ぷつりと、何かが切れる音がした。



513:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/26(日) 21:42:04.62 ID:05yusEqno

ミキ「っあ……!?」

瞬間、異常音と同時に激しい衝撃がリッチェーンを襲った。
コクピット内の計器が光と音を発し、危険を知らせる。
だが知らされるまでもなく、ミキはその目ではっきりと見た。
リッチェーンの胸部の突き出た巨大な二本のニードルを。
それは背後から突き刺さり、そして装甲を貫いたものであった。

アミマミ「ミ……ミキミキ!」

目の前でその瞬間を見たアミたちは同時にミキの名を呼ぶ。
しかしミキがその呼びかけに反応するより先に、
あらゆる負の感情に満ちた叫び声が大気を震わせた。

ヤヨイ『……っざけるなぁぁぁぁぁぁぁ!!』

直後にリッチェーンは、真横から凄まじい勢いで吹き飛ばされた。
それが怪ロボットの体当たりによるものだと、アミとマミは遅れて気付く。
そしてビルを破壊しながら転がり力なく横たわるリッチェーンを、
元凶たる怪ロボットは全身から唸り声のような駆動音を響かせて見下ろしていた。



514:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/26(日) 21:43:25.84 ID:05yusEqno

ヤヨイ『私が必要ないだと!? ふざけるんじゃねぇよ!
    私の方が上だ! 上なんだよ! お前なんかより私の方が上なんだ!
    誰がお前なんかにっ……お前なんかに負けてたまるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

我を忘れたように絶叫しながら、ヤヨイは倒れたリッチェーンに向けて火炎を撒き散らす。
あまりに単調な攻撃であったが、リッチェーンは僅かに体を起こすばかりで、
その場から動くこともできずに炎の熱に耐えることしかできない。
それを見てアミとマミは、胸部を貫くニードルによって
リッチェーンの機体のうち駆動を司る部分が大きく損傷してしまっていることを知った。

マミ「ヤ……ヤヨイっち、やめて!」

アミ「助けに行かなきゃ……! キサラギ!」

   『くっ……!』

先ほどまでの争いなどなかったかのように、アミたちは友人を助けに向かおうとする。
しかし起き上がったキサラギが一歩踏み出した直後にマミが叫んだ。

マミ「!? キサラギ、止まって!」



515:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/26(日) 21:49:05.19 ID:05yusEqno

マミがキサラギを止めた理由を、アミは聞かなかった。
聞くまでもなく気付いたからだ。
キサラギが踏み出した足から前方数十メートルの地点に、誰か居る。
すっと背筋を伸ばして佇む姿。
美しく整った涼やかな顔立ち。
そして全身に纏う雰囲気に、
アミたちは一目見てそれが逃げ遅れた一般人などではないことに気付いた。

マミ「誰!? ハルシュタインの仲間!?」

アミ「そうでもそうじゃなくても、そこをどいて! 踏み潰されても知らないよ!」

こうしている間にも、ミキはヤヨイによって痛めつけられている。
だが焦りを隠さないアミたちに対して、その麗人は、静かに口を開いた。

マコト「どくわけにはいかないよ。無尽合体でもされれば面倒だからね」

やはりハルシュタインの仲間だった。
アミたちは眼下に立つ美しい少女に、改めて敵意を込めた瞳を向ける。
すると少女はその敵意に応えるように、

マコト「ハルシュタイン近衛師団長、マコト。
   君たちの相手は僕が引き受けさせてもらう」

そう言って片足をすっと引き、格闘家のような構えを取った。



516:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/26(日) 21:50:08.14 ID:05yusEqno

アミとマミは、そんなマコトに眉をひそめて怪訝な表情を向ける。
この敵は何をしているんだ?
どう見ても生身だし、武器を持っているようにも見えない。
見た目にはただの人間だ。
にもかかわらず、巨大ロボに対して格闘の構えを見せるなど、ふざけているとしか思えない。

マミ「どかないならまたいで行っちゃうからね!」

アミ「私たちを止めたいなら怪ロボットに乗って出直してきて!」

二人の意思を受けて、キサラギはマコトの頭上を越えようと大股に脚を踏み出す。
しかし次の瞬間、
踏み出した足裏に強い衝撃を受けて弾かれ、キサラギの体がぐらりと揺れた。
思わず声を上げてステアにしがみついたアミたちの目に、信じがたい光景が映る。

アミマミ「え……!?」

ちょうどキサラギの脚が弾かれた辺りに、マコトが片足を上げて浮遊している。
いや、正確には浮遊というよりは、跳躍したその名残で宙に留まっていたのだ。
まるで、自らを踏み越えようとしたキサラギの脚を蹴り上げたかのように。

だが直後にアミたちは、その“まるで”が現実であったことを知る。



517:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/26(日) 21:52:47.77 ID:05yusEqno

落下し始めたマコトは空中で姿勢を変えたかと思えば、後方へと脚を蹴り出した。
すると、大地を蹴ったかの如くマコトの体がキサラギに向かって急加速した。

アミ「!? キ、キサラギ!」

   『くっ……!』

咄嗟にアミはキサラギにガードの体勢を取らせる。
同時に凄まじい音と衝撃がアミたちを襲い、キサラギの巨体は宙を舞って地面に激突した。
マコトの二度目の蹴りが、キサラギを吹き飛ばしたのだ。

マコト「……戦場で僕の姿を見た者の反応は、二種類に分かれる。
   武器を持たない僕に油断するか、君たちのように怪訝に思うか。
   だけど今まで一度だって、僕が生身で居る理由を初見で見抜いた者は居ない」

軽やかに着地したマコトは燃え盛る街並みを背にして、
仰向けに倒れたキサラギと、アミたち向けて歩みを進める。
これまで戦ったどの敵よりも小さいその姿から、
しかしどの敵よりも恐ろしい威圧感をアミたちは感じ取った。

マコト「僕が武器も持たず怪ロボットにも乗らない理由はただ一つ……。
    こうして僕自身が戦った方が強いからだよ」



518:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/26(日) 21:56:31.10 ID:05yusEqno

マコト「さて、念のため聞いておこう。キサラギのパイロット、アミとマミ。
   今ので力の差が分からないほど君たちは愚かではないはずだ。
   大人しく希煌石と希照石を渡してはくれないか?
   もうこうなった以上、『命だけは助けてやる』なんてわけにはいかないけど、
   抵抗をやめるなら安らかに眠らせてあげることを約束しよう。
   女の子が苦しむ姿を見るのは、あまり好きじゃないんだ」

マコトの言うとおり、
これまで積み重ねてきた戦いの経験がアミたちに教えていた。
この敵はまず間違いなく、キサラギ単機で勝てる相手ではない。
タカネを柔とするならばマコトは剛、
戦い方は違えど、強さの度合いのみをはかるなら恐らくタカネと同格……。
いや、タカネをすら上回るかも知れない。

自身が戦い、そして勝つことでその地位まで上り詰めたであろう実力を、
アミたちはたった二発の蹴りで十全に理解した。
だが、それでも……二人の瞳に灯った炎が消えることはない。

マミ「敵のくせに、なかなかカッコイイ台詞、言ってくれるじゃない……」

アミ「でもそっちだって、私たちの返事が分からないほどバカじゃないよね……!」



519:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/26(日) 21:58:22.99 ID:05yusEqno

マコト「……そうだね。君たちがもう少し賢いことを願っていたけれど……残念だよ」

マミ「希石は渡さないし、私たちはヤヨイっちを止めなきゃいけないんだ!」

アミ「お前のこともハルシュタインのことも、私たちが倒してやる!
  それで、全部終わらせる! これが最後の戦いだ!」

やはり涼やかな表情を崩さないマコトを睨みつけ、二人は体に力を入れる。
それに呼応するように、キサラギが挙動する。

アミ「希煌石全開!」

マミ「行っけぇぇぇぇぇぇ!」

アミマミ「キサラギィーーーーーーーー!!」

   『くっ……!』

キラブレを掲げた二人の叫びを引き連れ、キサラギは立ち上がる。
そして握りこんだ拳をマコトに向けて、力の限り振り下ろした。



520:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/26(日) 22:01:50.23 ID:05yusEqno

それを見て、マコトは初めて表情に戦意を宿す。
希煌石の輝きを見、迫る拳を見……
マコトがキサラギを “敵”として認識した瞬間であった。

マコト「はああああっ!」

悠然と構えた先ほどとは違う、
空気の震えがアミたちにまで伝播するほどの掛け声と共にマコトは半身を引いて拳を握る。
そして自身に迫り来る巨大なキサラギの拳に向けて真正面から正拳を突いた。

瞬間、衝撃は周囲の大気が瓦礫を吹き飛ばし砂塵を巻き上げる。
だがキサラギの挙動はそれだけで終わらない。
間髪入れずもう一方の拳を振り上げ、

マミ「吹き飛べぇーーーーーーっ!!」

衝撃の止まぬ内に、横殴りにマコトの体を打ち付ける。
そうして、瞬きする間もなくマコトは数10メートルの距離を飛び、
既に外壁の崩れたビルへと勢いよく突っ込んだ。



521:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/26(日) 22:06:16.06 ID:05yusEqno

アミ「今だ!」

直後にキサラギは、ミキとヤヨイのもとへ駆け出した。
奇跡的にマコトの隙を付けたが、あれで決着がついたはずもない。
全力の拳が直撃した以上ダメージはあるだろうが、まだ敵は動けるはずだ。
そして間違いなく、もう二度とこう上手くはいかない。
これが二人のもとへ駆けつける最初で最後のチャンス。
ヤヨイを止めてミキを助け、リッチェーンと無尽合体をしなければ。

……二人は決して油断していたつもりなどない。
マコトの実力を認めていたからこそ、ミキたちの元へ向かうことを優先したのだ。
だがその直後にアミたちは思い知る。
その判断こそがまさに、“油断”であったのだと。

  「――っ!?」

マコトから視線を外し僅か数歩を踏み出した直後、
キサラギの体はまたしても宙を舞った。
自ら飛翔したわけでは、もちろんない。
胸部の装甲がひしゃげ、ひびが入る音を聞きながら、
アミたちはキサラギと共にまたも地面に激突した。



522:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/26(日) 22:12:01.03 ID:05yusEqno

マコト「なるほど……確かにイオリから受け取ったデータの通りだ。
   キサラギの出せるパワーは、操者の精神状態で大きく変動するらしい」

肩についた埃を払いながら話すその姿を見て、アミたちは愕然とした。
マコトはまだ動けるどころか、ダメージらしいダメージをほとんど受けていなかったのだ。
と、表情から二人の心情を察したか、マコトは淡々と続ける。

マコト「ああ、自信を失うことはないよ。
   希煌石の力は我が主君でさえ認めている素晴らしい力だ。
   それに正直に言ってパワーの振れ幅は予想以上だった。
   仮に直撃していたなら僕も無傷というわけにはいかなかっただろう」

……つまり、キサラギの拳は直撃などしていなかった。
完全に不意をついたと思った攻撃も、対処されていたのだ。
目に見えぬほどの速さで防御したか、それとも自ら跳んで威力を殺したのか……
何をされたのかは分からないが、ただ一つはっきり言えることがある。

マコト「君たちは、吹き飛んだ僕に追い打ちをかけるべきだった。
   そうすればまだ、万が一にも僕に勝てる可能性はあったかも知れない。
   だけどたった今……その僅かな可能性も消えた」

絶望が具象化したかのような漆黒のオーラを身に纏ったマコトの姿。
それが、アミとマミが鮮明に覚えている彼女の最後の姿となった。



525:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/28(火) 19:40:45.97 ID:8KHAwi4Wo




ヤヨイ「――はあ、はあ、はあ……! ククッ、アハハハハハ……!」

呼吸を整えようともせずヤヨイは笑い声を漏らす。
その視線の見下ろす先にあるのは、燃える町に横たわるリッチェーン。

ヤヨイ『ざまぁみろ……! どうだよ、ホラ! 私の方が上じゃないか!
    何が防衛軍期待のエースだ、笑わせてくれるよ!』

戦いという名の一方的な蹂躙のさなかずっと続いていた
ヤヨイの挑発じみた叫びは、今もまだ終わることはない。
心の中に蓄積された毒をすべて吐き出すように、ヤヨイは叫び続けている。

ヤヨイ『ちやほやされて調子に乗りやがって!
    でもこれでわかったろ!? 私の方が――』

ミキ『やっぱり……ミキの、思ってた通りなの』



526:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/28(火) 19:41:53.33 ID:8KHAwi4Wo

ヤヨイ『……あン?』

消え入りそうなミキの声であったが、それははっきりとヤヨイの耳に届いた。
この状況に似つかわしくない、
まるでこうなることを見透かしていたとでも言うようなミキの発言に、ヤヨイは眉根を寄せる。
だが発言の意味を問おうとしたヤヨイを遮るようにミキは続けた。

ミキ『ヤヨイは、ミキのことが嫌いなんだよね?
  でも、どうしてそんなに嫌いなの……?』

ヤヨイ『ハッ、何を言うかと思えば……。さっきから言ってるだろ!
   エースパイロットだかなんだか知らないが、
   お前が私より上の立場で居るつもりなのが気に食わないんだよ!』

ミキ『どうしてミキより上で居たいの?
   ミキよりも強かったら、どんないいことがあるの?』

ヤヨイ『はぁ? そんなの……』



527:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/28(火) 19:43:28.20 ID:8KHAwi4Wo

そこでヤヨイの口はぴたりと止まった。
そうだ……どうして自分はこれほどまで、ミキよりも強いことに固執しているんだ?

敵対する相手よりも強くありたいという気持ちは、これまでも当然あった。
しかし今の自分の感情はそれとはまた違う。
『敵より強い』ことを望んでいるんじゃない。
『星井ミキより強い』ことを、今の私は望んでいるんだ。
どうして?
ミキより強いことに何の意味がある?
どうしてミキへの対抗心をこれほどまでに燃やしているんだ?

ミキ『……ほらね。ミキの思った通りだったの』

ヤヨイ『何、を……』

ミキ『でもね、ミキだって負けてないよ。負けるつもりなんてないの』

ヤヨイ『は……はぁ!? な、何言って……まだ自分の方が強いって言いたいのか!?
   どう考えたって私の勝ちだろうが!?』



528:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/28(火) 19:45:09.85 ID:8KHAwi4Wo

ミキが言っているのはそういうことではない。
そのことはヤヨイも分かってる。

ヤヨイは……既に気付いていた。
ミキが言おうとしていること。
自分の胸を締め付ける感情の正体。
全て気付いていた。

ヤヨイ『い、意味がわからないね! お前が何を言ってるのかさっぱりだ!
   勝負は私の勝ちさ! 今更お前が何を張り合ってるのか、さっぱりわからないよ!』

だがそれでも気付かないふりをヤヨイは続ける。
認めたくないからだ。
それを認めてしまえば、それまでの自分を捨ててしまうことになる。
ハルシュタイン近衛隊としての自分、裏切りと策謀の闇の天使としての自分を、
捨て去ってしまうことになる。

だからヤヨイは気付かないふりをする。
しかし、次いで静かに紡がれたミキの言葉は、
決してそれを許しはしなかった。

ミキ『ミキ、負けないよ。だってミキもヤヨイと同じくらい、
   ううん、それよりもっともっと――』



529:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/28(火) 19:46:47.90 ID:8KHAwi4Wo

――ミキの言葉を聞き、目を見開いて硬直するヤヨイ。
しかし直後、その耳に破壊音が届いた。
ヤヨイは反射的に背後を振り向いて音の正体を確認する。

それは、キサラギが打ち倒された音だった。
まず瞳に映ったのは仰向けに横たわるキサラギの姿。
そしてそれを踏みつけるようにしてヒビの入った装甲の上に立つ人影。
その人影は両腕に何か大きなものを持ち、掲げていた。
自分の体ほどもある大きなそれは……

アミ「あ、ぐぅ……」

マミ「……っ、ぁ……!」

喉元を掴まれて持ち上げられたアミとマミ。
スター・ツインズとして超人的な身体能力を手にしたはずの二人が
まるで赤ん坊のように完全に無力化されている。
そんな目を疑うような光景を実現しているのが、
他でもない、ハルシュタイン近衛師団長マコトであった。

マコト「チェックメイトだ……終わらせよう」

そう呟いてマコトはアミとマミの体を軽々と空中へ放り、
なすすべなく落下する二人を見据えて構える。
痛みを感じる間もなく絶命させられるほどの一撃を放つために。



530:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/28(火) 19:51:59.68 ID:8KHAwi4Wo

……しかし、その一撃が双子の命を絶つことはなかった。

マコト「っ!?」

マコトの体が一瞬で姿を消し、
誰も居ないキサラギの装甲の上に、アミとマミはただ落着した。
直後二人の耳に、ただでさえ曖昧な意識をさらに遠のかせるほどの、
頭が割れそうな轟音が響き渡る。
だが実際にはその音はアミたちの意識を遠のかせることはなく、はっきりと覚醒させた。

アミ「えっ、な、なに……!?」

しかしそれでも二人には状況が理解できなかった。
ぼんやりとした意識の中で見たあの瞬間が見間違いでないならば……
いや、見間違いではない。
現に今、それを証明する光景が目に映っているのだから。

マミ「ヤ、ヤヨイっち!? 何を……!」

そこにあったのは、ニードルを連射するヤヨイの姿。
そう、つまりマコトを吹き飛ばしたのはヤヨイの射出したニードルであり、
ヤヨイは今もマコトに猛追をかけているのである。



531:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/28(火) 19:53:21.34 ID:8KHAwi4Wo

時間にすれば僅か数秒の出来事ではあったが、
その間に発射されたニードルの数は数え切れない。
やがて全ての弾を撃ち尽くしたか、
ヤヨイの乗る怪ロボットは宙に浮いたまま沈黙し、周囲を束の間の静寂が包んだ。

マミ「ヤ……ヤヨイっち、もしかして助け……」

ヤヨイ『ぼさっとしてんじゃねぇよ! 目が覚めたならさっさとキサラギを起こしな!』

アミ「えっ……?」

ヤヨイ『いいから早くしろ! マコトがあの程度で――』

瞬間、砂塵の中から小さな影が飛び出し、
今度はヤヨイの機体を真横に吹き飛ばした。

マコト「……どういうつもりだい、ヤヨイ。言い訳は用意してるかな?」

吹き飛ぶ機体に取り付き、
穏やかな声と表情の中に怒りを宿して問いかけるマコト。
そんな彼女に対し、ヤヨイは不敵に表情を歪めた。

ヤヨイ「おかしなことを聞くね……!
   私は裏切りと策謀の闇の天使! 言い訳なんてそれで十分だろ!」



532:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/28(火) 19:54:37.03 ID:8KHAwi4Wo

マコト「そうか……。なら、閣下に裁定を下してもらう必要はないな」

長らく宙を舞っていたヤヨイの機体はやがて建造物をなぎ倒しつつ地面に落着した。
マコトはハッチを踏みつけて足元のヤヨイを見下ろす。
対するヤヨイはコクピット内からマコトを見上げたまま、不敵な笑みを崩すことなく言い放った。

ヤヨイ「ハン……! 無理するんじゃねぇよ、団長様。
   お前の強さはよく知ってるけど、私のニードルだってそう安くはない。
   外面は相変わらずキレイなままだが、中身はそうはいかないはずだよ!」

マコト「……そこまで分かっているなら、
   現状キミが僕に勝てる可能性がどれほどかも分かってるんじゃないかな?」

次の瞬間、マコトの貫手がハッチのガラス部分を貫いた。
そして金属が擦れ合い砕ける嫌な音と共にハッチが機体から引き剥がされ、
コクピットが外気にさらされる。

マコト「弾を撃ち尽くした怪ロボットに乗った裏切り者一人、
   今の僕でも屠るのは容易いよ」



533:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/28(火) 19:55:36.46 ID:8KHAwi4Wo

今や両者の間に隔てるものは何もない。
マコトはむき出しとなったヤヨイの体に向けて、拳を握り込んだ。
遠くから、アミたちの叫びとキサラギの足音が聞こえる。
だが双方、互いから目を離すことはない。
この後の未来はもはや確定しており、
そこにアミとマミの介入する余地はないと知っているからだ。

かつてヤヨイは、マコトと互角以上の力を有していたこともある。
だがそれは過去の話。
近衛師団長としての地位を築き上げたマコトの力は既にヤヨイの遥か上を行き、
そんなマコトの拳が今、振り抜かれようとしている。
それはまさしく、はっきりと形を持って現れた“死”であった。

だが、そんな脅威を目の当たりにしてもヤヨイの表情はピクリとも動かない。
ただただ不敵な笑みを浮かべ、マコトを見続けている。
この表情を見て、マコトは察した。
自分と相手が思い描いている未来が違うということを。

マコト「……まさか」

その一言は、爆発にも似た怪ロボットの駆動音にかき消された。



534:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/28(火) 19:57:06.04 ID:8KHAwi4Wo

地表のすべてを置き去りにし、
ヤヨイの乗る怪ロボットは凄まじい速度で上昇を始める。
その勢いに然しものマコトも体勢を崩し、
機体に片手をかけて振り落ととされぬようしがみついた。

ヤヨイ「さすが……! 私の狙いに気付いたみたいだね!」

マコト「ヤヨイ、キミは……!」

ヤヨイ「ああそうさ! このまま本艦に突っ込んで自爆してやる!
   巻き添えが嫌なら逃げな! 別にお前の命が目的じゃないからね!
   それに私を殺しても無駄だよ! もう誰にも止められやしない!」

しかしヤヨイは、マコトが決して逃げないことを知っていた。
なぜなら自分の目的は、本艦の格納庫。
つまりハルシュタインの専用機“ハルカイザー”の破壊であるからだ。

一度ハルシュタインが搭乗すれば無敵の機体となる巨大ロボも
無人のままではただの鉄の塊となんら変わりなく、
ヤヨイの自爆による破壊は可能である。
そしてマコトはそれに気付いているからこそ、絶対に逃げない。



535:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/28(火) 19:58:33.54 ID:8KHAwi4Wo

ヤヨイ「ごめんなさい、閣下……。今回は、今回だけは……地球を諦めてください」

呟いたヤヨイの声は、ハルシュタインに届くことはない。
同じくマコトにも、ハルシュタインが今ハルカイザーに搭乗しているか、
自爆による攻撃を防ぐ手段はあるか、確認する手段は無い。

いや、仮にあったとしても、
文字通りすべてのエネルギーを燃やし尽くしながら推進するヤヨイの機体は、
本艦への激突までにそんな僅かばかりの猶予すら与えなかった。
ヤヨイの目的が成るまでの秒数を数えるのに、今や片手の指すら余る。

ハルカイザーが破壊されたからと言って、そのまま敗北につながるわけではない。
それ以外にも無人怪ロボットの軍勢を率いているし、
そうでなくとも一度退いて機体を作り直しさえすれば地球侵攻の継続は可能である。

だが、マコトの忠誠心はハルシュタインの勝利に傷が付くことを許さなかった。
主の分身とも言える愛機が破壊されることを知りながら、
我が身可愛さに背を向けて逃げ出すことを、決して許しはしなかった。



536:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/28(火) 20:02:19.96 ID:8KHAwi4Wo

マコト「そうは……させるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

凛とした涼やかさという仮面の下に潜んでいた激情が、
主君の誇りが傷付けられようとしている現実に際し、吹き出した。
急上昇により全身にのしかかる重力を振り払うようにマコトは立ち上がる。
そしてヤヨイの機体に向け、横側から全力の蹴りを放った。

ヤヨイ「うあっ……!」

その衝撃に、ヤヨイの体は大きく揺さぶられる。
だがそれで終わりではない。

マコト「はああああああああああああっ!!」

二発、三発、四発と、次々と蹴りが繰り出され、
その威力は全エネルギーを以て突き進む巨大ロボの軌道を、少しずつ変えていった。
しかし、巨大ロボの片翼が折れ、本体にヒビが入り、
もはや破壊直前となった頃……マコトの表情が苦痛に歪んだ。
いつからか、口の端からは血が流れ始めている。
そしてその僅かな隙を、闇の天使は見逃さなかった。



537:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/02/28(火) 20:03:21.98 ID:8KHAwi4Wo

ヤヨイは機体に残されたもう一つの翼を操り、
マコトの体を抱きかかえるようにして捕捉する。

ヤヨイ「どうやら私が思ってたより、ダメージは大きかったみたいだね……!」

そして二人はそのまま、怪ロボットごと本艦の外壁へと激突した。
衝撃を受けてコクピット内に体を打ち付けられ、
マコトと同じように痛みに顔を歪めるヤヨイであったが、それでも口角が下がることはない。

ヤヨイ「元々の軌道からはかなりそれちゃったけど、まぁいいや……。
    お前を道連れにできるんなら、悪くない」

マコトの目に映ったその笑顔は今まで彼女が見せたことのないものだった。
それは目の前に居るマコトではなく、
遠く離れた誰かに向けられているような、そんな笑顔で、

ヤヨイ「……じゃあね」

その一言を最後に、ヤヨイの笑顔は光と爆炎に包まれた。



541:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 20:34:17.81 ID:XOtx5OrXo

飛翔したキサラギよりなお高い遥か上空での爆発が、
大きく見開かれたアミとマミの瞳に映った。
遅れて爆音が耳に届く。
その時になって、二人はあの爆発の意味するところを理解した。

間に合わなかったのだ。
多分……いや間違いなく、ヤヨイは自分たちのことを助けてくれた。
だからすぐに、マコトに反撃されたヤヨイを助けに行こうとした。
でも、間に合わなかった。

ヤヨイの自爆は格納庫の破壊には至らなかったものの、一定以上の効果は上げていた。
巨大な宇宙船は黒煙を上げながら高度を下げていく。
地表へと侵攻すべく自ら降下していた先ほどまでとは違う、
明らかに飛行機能を失っての墜落であった。

だが今のアミとマミには、それを喜べるはずもない。
ヤヨイを救えなかった自らの無力に、
アミはステアに額を押し付けて涙を流し、
マミはただ呆然と爆煙を眺め続けることしかできなかった。

しかしその時、マミが声を上げた。



542:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 20:35:22.99 ID:XOtx5OrXo

マミ「ア……アミ! あれ!」

ただならぬ声色がアミの顔を上げさせる。
するとマミの視線と指の指し示す方を見たアミの表情が、がらりと変わった。
崩落する宇宙船の外壁に混じって何かが落下している。
二人はそれが小型の脱出艇であると一目見て理解した。
あの黒煙から現れた脱出艇に乗っている人物と言えば、一人しかいない。

アミマミ「ヤヨイっち……!」

同時に叫んだ二人は、互いの意思を確認する必要すらなかった。

アミ「キサラギ! すぐにあそこに行って!」

マミ「ヤヨイっちを助けるんだ!」

   『くっ……!』



543:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 20:36:06.04 ID:XOtx5OrXo

空中で静止していたキサラギは、コマンドを受けて猛然と飛翔する。
小型艇はただ落下するばかりで、
搭乗者が少なくとも操縦可能な状態にはないことは明らかである。

キサラギと小型艇、両者の距離はみるみる縮まり、
接触の直前でキサラギは空中でブレーキを踏むように急停止した。
そして落ちてきた小型艇を、衝撃を加えぬようそっと両手で掴み取る。
見ればハッチは開け放たれており、
コクピットにぐったりと座り込んでいた人物はまさしく、ヤヨイであった。

マミ「ヤ……ヤヨイっち! 大丈夫!?」

アミ「怪我してる……! 待っててね、今救助隊の人たちを呼ぶから!」

キサラギをゆっくりと下降させつつ、
アミとマミはヤヨイをコクピットの外へと運び出す。
ヤヨイは、爆炎による火傷や
飛び散った破片による傷を負ってはいたものの、いずれも軽微。
気を失っているようだが呼吸は落ち着いており、
素人目には命に別状はないように見えた。



544:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 20:37:13.80 ID:XOtx5OrXo

奇跡的に脱出が間に合ったのか、
それとも本当に奇跡が起きて偶然助かったのかは分からない。
だがとにかくヤヨイは生きていた。
ヤヨイの生存を確認したマミは、次いでインカムに向けて話しかける。

マミ「ミキミキは大丈夫!? 怪我してない!?」

ミキ『……うん、平気だよ』

アミ「良かった……! すぐ行くから、もうちょっとだけ待っててね!」

ヤヨイもミキも、無事であった。
その事実にアミとマミは嬉し涙を滲ませて顔を見合わせる。

やがてキサラギはゆっくりと地面に降り立つ。
ちょうどそれと同時に、アミからの救助要請を受けた防衛軍の非戦闘機が現着した。

マミ「救助隊のみんなにはマミが説明しとくから、
  アミはキサラギと一緒にミキミキの様子を見てきて!」

アミ「わかった! 行くよ、キサラギ!」

  『くっ……!』



545:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 20:40:56.05 ID:XOtx5OrXo

キサラギがミキのもとへ走り去るのを見送るマミの背後から、
担架を持って下りてきた隊員たちが駆け寄る。
そして要救助者の顔を見て、隊員たちは目を見開いた。
そこに居たのはかつて自分たちを騙した、ハルシュタイン軍の一員だったからだ。

そんな隊員たちにマミは必死な表情で、
ヤヨイが敵に歯向かって自分たちの命を救ってくれたことを訴える。
だが隊員たちの反応は、マミの予想の外であった。
彼らは訴えを最後まで聞くことなく、ヤヨイを担架に乗せ始めた。
つまり、敵であるヤヨイの救護へと即座に動き出したのだ。

それは敵であろうと救える命は救いたいという救助隊員としての使命からかも知れないし、
ヤヨイに捕虜としての価値を見出したのかも知れない。
細かな心情や理由は分かりかねるが、
ともかくも隊員たちがヤヨイを治療してくれることを知り、マミは安堵の表情を浮かべる。
しかし当然安心している場合などではない。
事態は今も進行中なのである。

マミ「アミ、ミキミキはどんな――」

緩みかけた表情を引き締め、インカム越しに状況を問おうとした。
が、マミの言葉は、その続きが出ることはなかった。



546:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 20:43:01.49 ID:XOtx5OrXo

マミ「っ!? うそ、なんで……!?」

マミを襲ったのは突然の衝撃と轟音。
思わず閉じた目を開いた先に居たのは、地面に倒れ伏したキサラギの姿であった。
そして……離れた距離に立っているリッチェーン。
キサラギがリッチェーンによって吹き飛ばされたのだとマミが理解するまで、
多くの時間は要さなかった。

マミ「み……みんな、早く行って! ここはマミたちがなんとかするから!」

マミは救助隊員たちを振り返って叫び、
隊員たちが駆け出したのを確認したのち、倒れたキサラギに向けて跳躍する。
そしてステアに掴まり、リッチェーンを見据え続けるアミに問いかけた。

マミ「アミ、どういうこと!? ミキミキ、まだおかしなままなの!?
  っていうか、リッチェーンはもう動けないんじゃなかったの!?」

アミ「そんなのアミだって聞きたいよ!
  近付いた途端、いきなり立ち上がって攻撃されて……!」

マミと全く同じ混乱の色を浮かべるアミ。
と、インカム越しにミキの声がぽつりと聞こえた。



547:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 20:43:49.24 ID:XOtx5OrXo

ミキ『……なんで、あの子のこと助けたの?』

マミ「え……? あ、あの子って、ヤヨイっちのこと?」

ミキ『ヤヨイはハルシュタインの仲間なんだよ? 人類の敵なんだよ?
  ミキだって、こんな酷い目に遭わされたのに……なんで助けたりなんかしたの?』

アミ「で、でも、もう違うよ! ヤヨイっちは、もう人類の敵じゃないんだよ!」

ミキ『まだそんなこと言ってるの!? 前だってそう言って裏切られたのに!?』

マミ「今度こそ本当だよ! ミキミキだって見てたでしょ!?
  ヤヨイっちは私たちのことを助けてくれたじゃない!」

ミキ『そんなの、信用できないよ……!
  防衛軍を油断させるための作戦かも知れないし、また裏切るかも知れないの!』

アミ「そんなことない! ヤヨイっちはもう、私たちを裏切ったりなんかしないよ!」



548:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 20:45:02.19 ID:XOtx5OrXo

侃々諤々、両者は互いに一歩も譲らずに激しく主張をぶつけあう。
だが、次にアミたちのインカムから流れたのは、
唐突に消沈したような、呟くようなミキの声だった。

ミキ『……そっか、わかったの』

一瞬、アミたちはミキが理解してくれたのだと思った。
しかし次の瞬間に、それはあまりに楽観的な思い込みであったのだと、
二人は考えを改めることとなる。

ミキ『アミも、マミも……人類の敵だったんだね』

マミ「ちっ……違うよ! お願いミキミキ! 私たちを信じて!」

アミ「ヤヨイっちも私たちも、敵なんかじゃ……」

と、アミの言葉は詰まった。
不意にリッチェーンの顔が、アミたちから視線を外すように動いたのだ。



549:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 20:46:09.79 ID:XOtx5OrXo

二人は反射的にその視線を追う。
するとその先にあったのは――ヤヨイを乗せて飛び去るヘリだった。

ミキ『……人類の敵は、みんなまとめてミキが倒すの』

聞こえたその声に、二人は全身の産毛を逆立たせてミキを振り向く。
見れば、いつの間にかリッチェーンの巨体が見たことのない光に包まれていた。
そしてそれは徐々に、リッチェーンが構えたモーニングスターへと集約されていく。

アミ「な、何……? 何をする気なの、ミキミキ!?」

その声にミキは答えない。
だが答えずとも、アミもマミも既に理解していた。
リッチェーンは伸長した鎖を掴み、その先に連なる巨大鉄球を揺らす。
振り子のように揺れる鉄球はやがて、唸り声のような轟音を立てて回転を始めた。
眼前に立ちはだかる敵と、逃げ去る敵を打ち砕くために。

マミ「ま……待ってよミキミキ! あそこには防衛軍の人も居るんだよ!?」



550:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 20:47:27.34 ID:XOtx5OrXo

アミ「今攻撃したらあの人たちまで巻き添えになっちゃうよ! ねぇミキミキ!!」

しかしやはりミキは答えない。
どころか回転はますます勢いを増し、光は強度を増していく。
このパワーが攻撃として放たれた時、
ハンマーはキサラギの体を粉砕し、そのまま後方を飛ぶヘリもまとめて破壊してしまうだろう。
この時、アミとマミの脳裏に、ミキの言い放った言葉が蘇った。

   『少なくともあと一週間……。基地の地下に隠れて、特訓を続けるの。
   そうすればきっと、ミキたちはもっと強くなれる』

   『仕方ないの。確かにたくさんの人が傷つくだろうし、
   地球もボロボロになっちゃうと思う……。
   でもハルシュタインを倒すにはもうこれしかないの』

ミキは、ハルシュタインを倒すためには人類の犠牲も厭わないと言った。
そして今その言葉通りに、罪のない隊員も搭乗するヘリを、
自分たちごと撃墜しようとしている。
ハルシュタイン軍の一員である、ヤヨイを始末するため……。



551:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 20:48:51.23 ID:XOtx5OrXo

それはアミたちからすれば、あまりにも歪んだ正義感。
かつて地球を守るためハルシュタインに命をかけて立ち向かったミキの姿とは
似ても似つかないその姿に、二人は胸を強く締め付けられる。

宇宙を支配せんとするハルシュタインを倒すために、
有象無象の惑星の一つに過ぎない地球を犠牲にするのはやむを得ないと言う考えもあるかも知れない。
しかしいつだったかミキは言った。
自分は地球のみんなを守りたいのだと。
みんなの未来を守り、夢を守りたいのだと。
そう言ったミキの瞳は熱く燃え、そこに宿るミキの正義は、
何よりも強く気高く、格好よく見えた。

だがその正義が今、歪に形を変え、敵ではない者にまで振りかざされようとしている。
これがなされてしまえばもう、取り返しがつかない。
かつて自分たちに勇気を与えてくれたあの時の正義が、
友人や罪のない人の命と共に、消え去ってしまう。

ミキ『じゃあね……。バイバイ、みんな』

光をまとった鉄球が、キサラギと、ヘリへと向けて放たれた。



552:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 20:51:34.43 ID:XOtx5OrXo

マミ「やめて……! やめてよミキミキーーーーーーっ!!」

アミ「関係ない人たちを……ヤヨイっちを傷付けないでーーーーーーーっ!!」

瞬間、泣き声にも似た二人の叫びが響き渡る。
だがそれは決して泣き声などではなかった。
叫びに呼応して、キサラギは大きく挙動した。
唸りをあげて全身を捻り、そして……鉄球へ向けて拳を振り放ったのだ。

ミキ「っ……!」

それを見て、ミキは目を見開いた。
キサラギの放った拳は、彼女が今まで見たどんな一撃よりも、
速く、重く、強い意志の込められた一撃であった。
罪のない人を守るため、自分たちを救ってくれた友を守るため、
そして、共に戦った親友の正義を守るため。
キサラギは――アミとマミはこの時初めて、
仲間に対して全身全霊で拳を振るったのだ。

アミとマミは来たる衝撃に備え身を固くする。
が、拳と鉄球が触れ合ったその刹那……
リッチェーンの発する光が衝撃ごと三人を飲み込んだ。



553:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 20:54:13.96 ID:XOtx5OrXo




ミキ『――全部、わかったよ。タカネが言ってたこと。
  なんでミキにあの話をしたのかも、全部……』

タカネ『……そうですか』

ミキ『ミキはナノ族の生き残り。
  そして、ミキの中に宿ってるのが……希魂石《スピリジェム》」

タカネ『……』

ミキ『タカネは、知ってたんだね。だからそのことを教えようとして……。
  でも、教えられなかったんだね。希魂石を使うっていうことは、
  ミキの命を使うっていうことだから。……タカネって、優しいんだね』

タカネ『優しい、などと……そのようなことはありません。
    忘れているのならあわよくば思い出しはしないかと……
    そんな打算のもとに、私はアルテミスの話を持ち出したのですから』

ミキ『でも、タカネがミキのことを心配してくれたことには変わりないの。
   ありがとう、タカネ』



554:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 20:55:08.33 ID:XOtx5OrXo

タカネ『星井ミキ、貴女は……』

ミキ『大丈夫。もう覚悟は決まったから。ううん……本当は最初から決まってたの。
  だってミキは、地球を守るために命をかけるって、決めてたんだもん。
  だから怖くなんかないよ。
  それにミキはこれからも希魂石として、ずっとアミたちと一緒に居られる。
  そうやって考えたら、ただ戦って死んじゃうよりずっといいの』

タカネ『……真、強き方です。私は貴女のことを心より、尊敬いたします』

ミキ『あはっ☆ ありがとうなの。ただ……できれば、祈ってて欲しいな。
  ミキ、これから色々アミとマミに酷いことしちゃうと思うから……。
  演技とか、ちゃんとできるように祈ってて』

タカネ『はい……。精一杯、祈らせていただきます』

ミキ『うん。……それじゃ、もう行くね。さよならなの』



555:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 20:57:45.35 ID:XOtx5OrXo




光は、目を焼き尽くさんばかりの強烈さと、暖かく体を包み込む優しさを以て、
アミたちの視界を覆い尽くした。
それはあの時と同じ……食堂で希煌石と希照石が発したものと同じ光だった。
だが今回は、あの時とは違った。

アミとマミは、すべて理解した。
この光の正体を。
ミキがこれまで抱え続けていた想いのすべてが、
光の中から直接、二人の意識の中へと染み入ってきた。

やがて光は収束を始め、アミたちの眼前へと光球となって浮遊する。
二人の腕に装着された希煌石は淡く煌き、
マミが懐から取り出した希照石は、辺りを優しく照らし出す。
そして彼女たちの眼前に浮かぶ光球は二つに分かれ、
アミとマミの胸の内へ吸い込まれるように入っていった。

抱えきれなかった光が漏れ出すかのように、二人の体がぼんやりと光る。
しかしやがてその光は徐々に薄れ、そして消えた。
いや、消えたのではない。
光は今や、アミとマミのものになり、彼女らの内側に完全に収まったのだ。



556:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 20:58:48.69 ID:XOtx5OrXo

ミキ『……やっぱり、二人とも優しいね』

その声に我に返り、二人は目の前のリッチェーンへと目を向ける。
インカムから聞こえた声は消え入りそうな、
しかし二人のよく知るミキの声であった。

ミキ『誰かをやっつけるためじゃなくて、
  誰かを守るために、本気を出せる……。実に、アミとマミらしいの』

ぐらりと、リッチェーンの体が揺れた。
そして力尽きたように腰から崩れ落ち、
尻餅をついてそのまま背中から地面に倒れた。

アミマミ「ミキミキ!」

コクピットを覗き込むように、キサラギはリッチェーンの横に膝をつく。
眼鏡を模したパーツの向こう側にミキの姿が見える。
体のあちこちに擦過傷を作り、衣服も破れてボロボロになったミキは、
それでも優しい笑みを、アミとマミに返した。



557:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 21:00:03.98 ID:XOtx5OrXo

ミキ「ごめんね……。ミキ、考えるのってあんまり得意じゃないから、
  こんな方法しか思いつかなくて……本当に、ごめんね……」

謝るミキに、アミもマミも何も返すことはできない。
問いかけることもできない。
すべて理解していたから。
ミキのこれまでのすべてを、理解していたから。

ミキ「三希石最後の一つ希魂石はミキの命そのもの……。
  これでキサラギは真の力を発揮できるの……」

……希魂石は、希石同士のぶつかり合いを経て具現化される。
希魂石の力を用いるには、全力で力をぶつけ合う必要があった。
だが、優しいアミとマミは、自分に対して本気で攻撃することなどできない。
ならばどうするか。

演じるのだ。
悪を、敵を、狂気を、全力で演じ、アミとマミにぶつけるのだ。
そうでもしなければ、この力を二人に授けることはできない。
そうでもしなければ、二人を守れない。
そうでもしなければ……ミキの大好きなものを、守れない。

ミキ「……あなたたちに地球の運命は……託したの……」



558:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/03(金) 21:01:10.68 ID:XOtx5OrXo

いつしかキサラギはリッチェーンを抱き抱えていた。
アミとマミはコクピット内に入り、ミキの手を握っている。

ミキはもう、動かなかった。
優しさと強さをたたえた笑みを浮かべたまま、
ともに戦った相棒の中で眠っていた。

相棒とは、リッチェーン。
そして、アミと、マミ。
二人は今確かに、自身の中にミキを感じていた。
そしてそのことが厳然たる事実として伝えていた。
ミキが文字通り命をかけて、自分たちにすべてを託したことを。

きっとミキなら、自分など放っておいてすぐに戦いに行くべきだと言うだろう。
悲しんでいる暇などないと急かすだろう。
でも、今この時だけは。

アミとマミは親友の手を握り、名を叫んだ。
両眼から溢れる涙を止めることなく、一切の感傷を吐き出すように。



561:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:03:51.65 ID:CuzMnpulO




天井や壁は崩落を始め、どこか遠くから、近くから、爆発音が聞こえる。
周りを囲むすべてが激しく揺れ動き、
もはや墜落が時間の問題であることは火を見るより明らかである。

そんな巨大宇宙船内部を、点々と赤い雫を残しながら歩く人影があった。
脇腹を抑え、脚を引きずり、それでも彼女は歩みを止めない。
そうしてたどり着いた先に、黒衣の少女は立っていた。
色のない表情でモニターを眺める黒衣の少女は、背後の気配にゆっくりと振り返る。

二人は目が合い、崩落の音をすら上塗りするほどの沈黙が流れる。
だがその沈黙を、黒衣の少女の静かな一言が破った。

ハルシュタイン「マコト……イオリ……。お前たちの忠誠に敬意をもって応えよう」



562:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:07:01.63 ID:CuzMnpulO

マコト「ハルシュタイン閣下……」

この場に居ないイオリの名を出したのは、自身が口にした通り敬意の表れであったのか。
しかし変わらず表情らしい表情を見せないハルシュタインと向き合い、
対するマコトの表情は色を変えた。
それは懺悔とも、後悔とも見える、どこか穏やかな顔。
だがその顔はハルシュタインにはほんの一瞬しか見えず、

マコト「唯一の心残りは、宇宙の闇より深いあなたの孤独を……
    癒せなかった……こと……」

片膝をつき、視線を落としたマコトは、そう言い残して倒れ伏した。
じわじわと広がっていく血だまりを、ハルシュタインは一言も発さずに見下ろし続ける。

ハルシュタインは、何を考えているのだろう。
これも彼女の見通した通りであったのか。
ヤヨイとマコトを出撃させなければ、この結果は訪れなかったのだろうか。

  『いずれにせよ、結果は同じだ』

あの時ハルシュタインが言い放った言葉の真意は、今となってはもはや知る由もない。



563:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:08:29.82 ID:CuzMnpulO

イオリの放った使者は捕らえられ、イオリ自身は自害した。
タカネも敗れ、ヤヨイは裏切り、マコトもたった今、絶命した。
この本艦もそう長い時を経ずに墜落する。
今や自分に残されたのは怪ロボットの軍勢と、愛機ハルカイザーのみ。

――充分だ。

倒れたマコトから目を逸らし、踵を返したハルシュタイン。
その口元は、笑っていた。

何も変わりはしない。
宇宙を支配すれば、全てが我が手中に収まるのだ。
戦力をいくらか失ったところでさしたる問題ではない。
そうだ、私は全宇宙の神となるべき存在、ハルシュタイン。
私以外の存在など、取るに足らぬ有象無象に過ぎないのだ。

だがそんな私でも希石は欲しい。
私の目的を前にして立ちふさがることは、何人たりとも許さない。
だからこそ、何度でも言おう。

ハルシュタイン「芥の如き地球人どもよ……。
      畏れ、ひれ伏し、崇め奉りなさい!」



564:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:11:34.26 ID:CuzMnpulO

――拡声されたハルシュタインの声は、地表の二人の少女にはっきりと届いた。
そして同時に、巨大宇宙船の一部が爆発を起こし、
中から大量の飛行怪ロボットが放たれる。
その数は十や二十では済まされない。
幾百もの軍勢が今、あらん限りの破壊を尽くそうと空を覆い尽くそうとしていた。

地上は荒れ、空は赤く燃え上がり、
圧倒的な戦力を見せつけられた終末の光景……。
そこに響き渡る支配者の声。
そして、それを見上げる双子の姿。

以前にも似た光景があったかも知れない。
だが、その時とは明らかに異なるものが一つ。
二人の見上げているものが黒い月ではなく、怪ロボットの軍勢であること?
違う。
金髪のエースパイロットとその愛機が居ないこと?
違う。

以前訪れた終末の光景との最も大きな違い、それは……
見上げる戦士たちの表情であった。



567:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:20:44.78 ID:CuzMnpulO

アミ「……待っててね、ミキミキ。
  すぐ戻って、もっと綺麗でのんびりできるところでお休みさせてあげるから」

マミ「だからそれまで……ここで私たちの戦い、見ててね」

そう言い残して、二人は地面に横たわるミキの元を離れた。
跳躍し、瓦礫の上へと着地する。
そのすぐ背後にはビルに背を預けて腰を下ろすキサラギの姿があり、

マミ「……また、泣いてるんだね」

ゴーグルの隙間から、あの時と同様に液体が流れていた。
その液体の色は、炎の色を反射してか赤く染まっているように見える。

アミ「今度は私たちにも分かるよ……。悔しいんだよね。
  あいつらに好き勝手にされて、悔しくて泣いてるんだよね……!」

マミ「勝ちたいよね、キサラギ……!」



565:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:18:14.97 ID:CuzMnpulO

  風は天を翔けてく
  光は地を照らしてく
  人は夢を抱く
  そう名付けた物語
  行こう arcadia・・・

語りかける二人にキサラギが返したのは、“歌”だった。
かつて涙を流した時と同じように、キサラギの口から歌が流れ出てくる。
だが以前のような悲しげな歌ではない。
二人の……否、三人の想いに応える、熱く、烈しい歌。
アミとマミは天空を仰ぎ見て、怪ロボットの軍勢を睨みつけた。

アミ「受け取ったよ、ミキミキ……。これが、ミキミキが感じてた想いだったんだ」

悲しみはもう無い。
あるのはただ一つ、闘志のみ。
大切なものを守る優しさだけではなく、
大切なものを傷つける敵を打ち倒す、強い意志。
心の奥底から燃え上がる熱情を、アミとマミは今確かに感じていた。

マミ「でも分かってるよね、アミ……このままじゃ勝てないって」

アミ「マミだって分かってるよね? じゃあどうすればいいかって」

マミ「わかってるよ……。ミキミキは、そのために私たちに力を託してくれたんだ!」



568:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:22:55.68 ID:CuzMnpulO

二人は顔を見合わせ、頷き合う。
そしてキラブレを掲げて叫ぶ。

マミ「あいつらを倒す方法はただ一つ……! オーバーマスターしかない!」

アミ「見せつけてやる! 私たちの力を……地球の力を!」

地響きが轟いてきたのはその直後であった。
二体の巨大ロボがこちらへ向けて真っ直ぐに駆けてくる。
基地のある方向から迫るそのロボは、アズサイズとユキドリル。
全力のキサラギすら上回りかねないほどの速度であったが、
距離を考えれば、基地を発ったのはもっと前だろう。
恐らくは三希石が揃い、アミとマミの心に闘志が灯った頃には既に、
二機はキサラギの元へと駆け出していたのだ。
希石の力と、アミたちの意志に引き寄せられるように。

アミとマミは同時に瓦礫の上から跳び、向かい合わせに降り立つ。
そして二つのキラブレを合わせるように互いに手を取り、

アミ「これが……」

マミ「キサラギの……!」

アミマミ「最終形態ぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」



569:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:24:50.52 ID:CuzMnpulO

キサラギのゴーグルがぎらりと光り、
アミとマミを持ち上げるように地面ごとすくい上げる。
その挙動に同調するように、リッチェーンが立ち上がった。
巨大な機体が瞬時に展開され、互いのパーツ同士が組み合わされる。
一瞬後に完成したのは、
かつてのハイパーキサラギとはまた異なった形状のキサラギであった。

だがそれも今は途中経過に過ぎない。
次いで肉薄するのはアズサイズ。
イオリの残したプログラムにより、
怪ロボットであるにも関わらず敵意を顕にした表情でこちらへ向かってくるアズサイズに、
キサラギは勢いよく片手を伸ばす。
また同様にもう一方の手をユキドリルに向けて伸ばし、
それぞれの手が触れた瞬間、勢いよく展開され、組み合わされる。
敵だったもの、味方だったもの、全てを自らの糧としていく。

――これこそが無尽合体。
三希石によりキサラギの真の力が今、解放される。
右肩に全てを貫くドリルを、左肩に全てを切り裂くサイズを、
そして両腰に、全てを打ち砕くハンマーを。
最強の力を得た“オーバーマスター・キサラギ”が今、完成した。



570:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:28:35.65 ID:CuzMnpulO

アミ「希煌石! 希照石! 希魂石! 全ッ! 開ッ!」

マミ「いっけぇぇぇぇ! キサラギィーーーーーーーー!」

瞬間、キサラギの左肩から生えるように突き出た複数の刃が音を立てて射出される。
天に向かって放たれたその攻撃、
標的はもちろん、今まさに破壊活動を始めた飛行怪ロボットの軍勢である。

そして……その瞬間を、ハルシュタインは目撃していた。
自分の周囲を飛ぶ怪ロボット達が回転する刃によって両断され、一気に爆散した瞬間を。

ハルシュタイン「!」

同時にハルシュタインにも刃が襲いかかるが、
ハルシュタインの搭乗する怪ロボット“ハルカイザー”は、
空中で体を捻り紙一重でそれを躱した。
躱された刃は弧を描いて、主の元へと帰還する。

全ては僅か数秒の出来事。
幾百もの怪ロボットの軍勢は既になく、
そこにはただ二機の巨大ロボが相対するのみとなっていた。



571:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:36:07.43 ID:CuzMnpulO

ハルシュタイン「ククッ……フハハハハハハ……!」

だが、自軍を壊滅させられたハルシュタインの表情は
これ以上ない愉悦に歪んでいた。
堪えきれないというように喉奥から漏れ出した笑い声は、
標的である希石が揃って目の前に現れたことへの喜びゆえか、
それとも本気で戦うことのできる相手を見つけたことへの高揚ゆえか。

ハルシュタイン『素晴らしい……待っていたぞ、キサラギ!
      三希石の常軌を逸したその力……! それがもうすぐ私の手に入るのだ!』

マミ「馬鹿言わないで! この力は、正義の力だ!
  みんなが託してくれた、大切なものを守るための力だ!」

アミ「お前なんかが使っていい力じゃない!
  私たちは、この力でお前を倒す! ハルシュタイン!!」

ハルシュタイン『クククッ……そうでなくては面白くない。では、戦いの準備と行こう……!』



572:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:37:36.96 ID:CuzMnpulO

言い終わると、ハルカイザーは背中の両翼を勢いよく広げる。
攻撃が来る、とアミたちは身構えたが、
次いで聞こえたのは意外な言葉だった。

ハルシュタイン『慌てるな、“準備”と言ったろう? 場所を移そうじゃないか。
      この星が傷つくことを気にしてはお前たちも本気が出せまい」

これを聞き、アミとマミは思わず眉根を寄せる。
罠か、あるいは侮られているのか、その両方か。
いずれにせよ、この提案に素直に従ってよいものか、アミたちははかりかねた

ハルシュタイン『罠ではないし、お前たちを侮っているわけでもない。
      寧ろ逆だ……尊敬しているんだよ。ゆえに、私は本気のお前たちと戦いたい。
      当然今ここに居る私も幻影などではない、私自身だ。
      全身全霊、全てをかけて戦うことを私は望んでいる』

まるで心を読んだかのようなハルシュタインの言葉に、
アミたちは驚いて目を見開いた。
しかしすぐに表情を改め、最大の警戒心を込めた声色で答える。

マミ「……それ、信じられると思ってるの?」

ハルシュタイン『信じられないというのならそれでいい。
      その時は我々の戦いに巻き込まれ地球が破壊されるだけだ。
      尤も、お前たちが敗北すればいずれにせよ破壊は免れんがな』



573:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:39:24.05 ID:CuzMnpulO

ハルシュタイン「さぁどうする、キサラギのパイロットよ。
      この私が最大限の敬意を表したのだ。そろそろ答えを聞かせてもらうぞ」

待ちきれないというように返答を促すハルシュタイン。
アミとマミはちらと互いに目配せする。

確かにハルシュタインの言う通り、ここで戦えば地球そのものが巻き込まれてしまう。
たとえ罠であったとしても、今はハルシュタインの言葉に従わざるを得ない。
しかし根拠はないが、ハルシュタインが今発した言葉は全て本心であると、
二人の判断は共通していた。

マミ「わかった、信じるよ。場所を移そう……私たちが、本気で戦える場所に」

ハルシュタイン『ああ、それでいい……』

満足気な声が響き、同時にハルカイザーは急上昇を始める。
それは巨大宇宙船へ向けて突進するヤヨイに匹敵する速度であったが、
今のキサラギは容易にハルカイザーの後ろへ付け、同じ速度で上昇していった。



574:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:40:53.76 ID:CuzMnpulO

二機の巨大ロボはあっという間に大気圏を突破し、地球の重力を脱出した。
コクピット内のアミとマミは、モニターに映し出された地球の姿を見る。
赤く燃えていた終末の光景がまるで夢の中のものであったかのように、
地球は青々と美しくそこにあった。

だが、夢ではない。
この地球の一部には今もなおあの光景が広がっている。
そして自分たちがハルシュタインに負ければ、
それがこの美しい星を覆い尽くしてしまうのだ。

マミ「ハルシュタイン……一つだけ聞かせて。
  お前はどうして全宇宙の神なんかになりたいの?
  宇宙を支配して、どうしたいって言うの?」

アミ「たくさんの人を傷付けてまで、そんなことをしなきゃいけない理由があるの?」

対峙するハルカイザーに向かってアミとマミは静かに問いかける。
これは、二人にとってのラストチャンス。
争わず平和的に事態を解決するための、最後の機会。
この機を逃せば、後に残されるのは戦闘による解決のみである。
ゆえにアミたちは、最後の最後に僅かな希望をかけて問いかけた。



575:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:42:55.41 ID:CuzMnpulO

だが、それで解決できるのなら事態はここに至ってはいない。
インカム越しに聞こえたのは当然、アミたちの言葉を嘲笑う声であった。

ハルシュタイン『今になってそんな瑣末なことを知ってどうする?
      しかしまあ、教えてやらないでもない。私に勝てば……な』

キサラギは地球を、ハルカイザーは月を、それぞれ背にして対峙する。
宇宙の無重力空間内においてはもはや上下など無いに等しいが、
それでもハルシュタインは愉悦に歪んだ笑みを浮かべ、キサラギを見下ろしている。
そんなハルシュタインを見上げ、アミとマミは最後の覚悟を決めた。

アミ「わかった……。じゃあ、お前を倒してゆっくり聞かせてもらうことにするよ!」

マミ「行くよキサラギ……! 希煌石全開!!」

  『くっ……!』

宇宙空間にあっても、キサラギの“声”は二人の意志を受け止めて力強く響き渡った。
希石が輝きを増したのを見、ハルシュタインは歓喜に打ち震える。

ハルシュタイン『さあ、始めようか……。宇宙の命運をかけた闘いを!』

そうしてハルカイザーは光剣を出現させ、
それを合図に戦いの火蓋が今、切って落とされた。



576:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:45:14.73 ID:CuzMnpulO




ヤヨイ「……」

初めに目に映ったのは真っ白な天井。
視線を横にずらすと、白い壁。
大きな窓と、その向こうの部屋。

体を起こすとふと手首辺りに違和感を覚える。
視線を落とした先にあったのは、
何かベルトのようなものが付けられた自分の手首。
ベルトの先はベッドに繋がっている。

この辺りで、ようやく事情が掴めた。
自分はどういうわけかあの自爆から生還し、
そして地球防衛軍に保護されたのだ。
多分そこには、あの二人が一枚噛んでいるに違いない。
自分を助けたか、防衛軍に自分の保護を要請したか、あるいはその両方か。



577:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:47:22.57 ID:CuzMnpulO

しかし、ということは自分は目標を達成できたわけだ。
取り敢えずマコトの手からアミとマミは逃れることができ、生存したのだ。
その事実にあからさまに安堵してしまう自分が居る。
だがもう否定しない。
自分はあの二人を助け、そして、助けられたことに喜んでいる。

  『……ほらね。ミキの思った通りだったの』

ミキの言葉が蘇る。

  『でもね、ミキだって負けてないよ。負けるつもりなんてないの』

  『ミキもヤヨイと同じくらい、ううん、それよりもっともっと――』

あの時のミキが何を言っていたのか。
ああ認めるよ、否定のしようがない。
そうさ、お前の言うとおりだ。
私は……

  『アミとマミのことが大好き。一番の親友で居たいって、思ってるの』



578:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/05(日) 22:48:56.35 ID:CuzMnpulO

と、視線の端に何かが見えた。
無機質な机の上に置いてあったそれはあまりにもこの場に不似合い。
カラフルな装飾に彩られた小さめの紙袋が、ぽつんと置いてある。
その横には小さな、メッセージカードが二つ。

  “ヤヨイっちへ”

丸みを帯びた文字が目に入り、それが何なのか察した。
大方、防衛軍の誰かに頼んでここへ届けさせたんだろう。
目が覚めた自分がすぐ見つけられるように。
少しでも早く、これを自分に届けられるように。

ヤヨイ「……ほんと、笑えてくるよ」

誰へともなく呟き、ヤヨイは目を閉じる。
それからゆっくりと開かれた瞳には、静かな炎が灯っていた。

こんなところで休んでいる場合じゃない。
命があるならやれることがある。
やるべきことが、自分にはまだあるのだ。



581:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/10(金) 21:09:03.14 ID:VlmQnypho




マミ「――いっけぇぇぇぇ! ハイパーユキドリル・ストリーーーーーーーム!」

アミ「まだまだぁ! ハイパーアズサイズ・サイクローーーーーーーン!」

  『くっ……!』

二人のコマンドを受け、キサラギは双肩からドリルと刃を射出する。
ドリルの回転は竜巻のごときエネルギーを発生させ、
その奔流にアズサイズの巨大鎌を複数乗せて放たれる複合技――
一度飲み込まれれば粉微塵に切り裂かれる暴風はうねりを上げてハルカイザーへと向かっていった。
しかしハルカイザーはそれを、まるで初めからわかっていたかのように易々と躱し、
かと思えば凄まじい機動でキサラギへと斬りかかる。
そしてその斬撃を、キサラギも即座に防ぐ。

もはや何度繰り返されたか分からない攻撃の応酬に歯噛みするアミとマミ。
対してそんな二人の耳には、興奮を隠そうともしないハルシュタインの声が聞こえ続けている。

ハルシュタイン『素晴らしい、素晴らしいよキサラギ……。
      我がシュタインソードをこれほどまでに受けきった者は初めてだ……!」



582:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/10(金) 21:10:14.69 ID:VlmQnypho

ハルシュタイン『これこそが希石の力……! これがどれほどのことか理解しているか、地球人よ!
      三希石が揃えばこの私に匹敵することができるのだ。
      だからこそ、全力を以て求める価値もあるというもの……!』

しかし昂揚するハルシュタインに対し、アミとマミの表情は強ばっていた。
機体の力では間違いなくこちらの方が上。
であるにもかかわらず、有効な攻撃を一度たりとも与えられていない。
いやそれどころかこの戦いの中でアミたちの攻撃はハルカイザーに、
全く、かすりさえしていなかった。

ハルシュタイン『フ……攻撃が当たらないのがもどかしいか?』

アミマミ「……!」

ハルシュタイン『当然だろう。今のキサラギの攻撃は
      ハルカイザーの防御をすらいとも容易く打ち破る。避ける以外に手はあるまい。
      つまり、貴様らは誇るべきなのだ。この私に回避という選択を取らせていることをな』

やはり高みからキサラギを見下ろし続けるハルシュタインではあるが、
アミたちにはそれを気にする余裕はない。
少し前から浮かび上がり始めた一つの懸念が、今まさに確信に変わりつつあった。



583:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/10(金) 21:11:48.63 ID:VlmQnypho

口に出していない自分たちの心情にハルシュタインが反応するのは、これが初めてではない。
そして、今やハルカイザーを凌ぐスピードを持つはずの
キサラギの攻撃がまるで当たらないという事実。
このことから考えられる可能性、それは……

マミ「多分、間違いないよアミ……。ハルシュタインは……人の心が読めるんだ」

アミ「っ……だから、攻撃も全部よけられるってこと……!?
  そうなの、ハルシュタイン!?」

ハルシュタイン『さあ、どうだろうな。それを知ったところで何か変わるのか?』

アミマミ「ッ! キサラギ!」

と、ハルシュタインは言葉を言い終わらないうちに突如挙動し、
超高速でキサラギに肉迫して斬りかかる。
だがそれにアミたちは対応し、リッチェーンハンマーで斬撃を受け止め、弾いた。

ハルシュタイン『そう……何も変わりはしない。私はお前たちの攻撃を全て躱し、
      お前たちは私の攻撃を全て防ぐ。その繰り返しだ」



584:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/10(金) 21:12:57.93 ID:VlmQnypho

ハルシュタイン『だがこれで理解しただろう……今お前たちが手にしている力の素晴らしさを!
      この私と互角に戦えていることが、どれほどのことなのか!』

ハルシュタインの言う通り、アミとマミは改めて、
三希石によって目覚めたキサラギの力を実感していた。
ハルシュタインが読心能力を持っていたとして、
それを最大限に生かす操縦技術と機体性能を、彼女とハルカイザーは備えている。
そんなハルシュタインと対等に戦えているのは、
希石とキサラギの力のおかげと言う他ない。
そしてその実感は、これはハルシュタインが意図したことだろうか――
アミとマミの闘志を、更に激しく燃やすこととなった。

マミ「……そうだね、よく分かったよ。
  私たちは、ますます絶対に負けられないっていうことが……!」

アミ「じいちゃんがくれたキサラギと希煌石、
  ヒビキンが預けてくれた希照石、ミキミキが託してくれた希魂石……!
  みんなの力のおかげで、今の私たちがあるんだ!」

マミ「だから負けない……! 私たちは、絶対に負けたりなんかしない!!」



585:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/10(金) 21:13:49.99 ID:VlmQnypho

アミ「お前が心を読めるって言うんなら、読めないようなことをしてやる!
   読まれたって反応できない攻撃をしてやる!」

アミ「今は互角だって言うんなら、私たちはその上を行く!
   どれだけ時間をかけても、絶対にお前を倒す!」

ハルシュタイン『ククッ、ハハハハハハハハ! そうか、ならば超えてみせろ!
      この私の力を……お前たちの全てを懸けてな!』

次の瞬間、ハルカイザーが今までにない動きを見せた。
光剣シュタインソードを消失させ、
力を込めるように空いた両腕を胸の前で交差させる。

アミ「何……? 何をする気!?」

マミ「わかんない! でも気を付けて!」

何らかの攻撃に備え、アミとマミはハルカイザーを凝視する。
するとハルカイザーは交差させていた両腕を勢いよく開き、
同時に胸元辺りから、漆黒の球体が飛び出てきた。



586:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/10(金) 21:14:40.34 ID:VlmQnypho

アミ「……黒い、月……?」

自分たちとハルカイザーとの間に浮かぶ、
全てを飲み込む黒さと完全なる球形を持ったそれは、
かつての“黒き月”や“月の涙”を彷彿とさせた。
しかしサイズはそのどちらとも明らかに異なり、ハルカイザーの頭部ほどしかない。
ハルカイザーよりふた回り以上大きい今のキサラギからすれば更に小さく感じる。

ハルシュタイン『――行け』

と、その黒球が突如動いた。
キサラギの頭上を越え、少し離れた背後でぴたりと止まる。
つまりキサラギは、ハルカイザーと黒球に挟まれる形となった。

マミ「アミ!」

アミ「わかってる!」

マミの合図で、アミは手元を操作すると同時に視線をモニターに向ける。
そうして、マミはハルカイザーを、アミは黒球を、
それぞれ分担して注視し続けた。



587:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/10(金) 21:16:08.13 ID:VlmQnypho

だがそんな二人に届いたのは、やはり意外な言葉。

ハルシュタイン『心配せずとも私はもう何もしない……。
      お前たちは、あの黒き球にのみ気を付ければ良いのだ』

マミ「何……?」

ハルシュタイン『“どれだけ時間をかけても倒す”とお前たちは言ったな。
      しかし生憎、私はあまり気の長い方ではない……。
      いつだったかと同じだよ。加速度的な展開を望ませてもらおう』

先ほどまでと違う、微かにではあるが息を切らしたようなハルシュタインの声に、
アミとマミは様子を伺うように目を細めて眉を潜める。
しかしそれも束の間。
二人の目は驚愕に大きく見開かれた。

アミ「!? なっ……!」

マミ「なに、これ……!?」



588:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/10(金) 21:18:16.60 ID:VlmQnypho

黒球が、突然膨張した。
人型怪ロボットの頭部ほどの大きさであったそれは、
一瞬のうちにオーバーマスター版キサラギすら軽く超えるほどのサイズに膨らんだのだ。
アミたちの目には、まるで宇宙空間内にぽっかりと巨大な穴が空いたように見えた。
だが二人が真に驚いたのはその膨張にではない。
膨張の直後、キサラギの機体が大きく揺れ、
真っ黒な穴に吸い込まれるように動き始めたのだ。

ハルシュタイン『そう、まさしく“穴”だよ……!
      その空間は私とハルカイザーの全エネルギーを以て生み出した、
      一度飲み込まれれば私自身でさえ脱出のかなわない重力のるつぼだ!』

キサラギごと引きずり込まれる二人の耳に、
これまでで最大の昂揚を見せるハルシュタインの声が響く。
モニターに映し出された空間の内部では、
黒より更に深い闇を纏った数多の奔流が触手の如く、獲物を捕らえようとおぞましく蠢いていた。

ハルシュタイン『キサラギの機体が重力の奔流に引き裂かれた時、私は空間を解除しよう。
      そうして、残された希石をお前たち諸共回収させてもらおう!
      だがもし脱出が叶った時は、それはお前たちが私を上回った時……!
      さあキサラギ、脱出してみるが良い! 私の力を超えるのだろう!?』



589:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/10(金) 21:19:28.55 ID:VlmQnypho

ハルシュタインが全精力を注ぎ込み作り出した、闇の渦巻く空間。
光をすら捻じ曲げるというブラックホールの如き深淵。
そのあまりに深い闇はアミたちだけでなく、地球からも確認できるほどであった。
目で、または全身の感覚で、地表の者は闇の出現を感じ取り、上空を見上げる。
そしてその闇が今、地球の希望を飲み込もうとしていた。

マミ「キ……キサラギ! 脱出だ!」

アミ「希煌石全開!!」

   『くっ……!』

コマンドと共にアミたちは操縦桿を倒し、全力で闇の重力から逃れようともがく。
だが、止まらない。
ほんの僅かに減速するばかりで、キサラギの機体は後退を続ける。
渦巻く闇が、怨嗟の声を上げてキサラギを取り囲もうとしていた。

空間内部では、重力そのものが具象化したのだと感じるほどの
エネルギーの塊がうねり、猛っている。
それは直接触れても居ないのに常軌を逸した力でキサラギを空間の中心へと引きずり込んでいく。
直接触れ、捕まってしまえば、ハルシュタインの言う通り、
荒波に飲まれた小舟さながらに引き裂かれてしまうだろう。
アミたちは声を上げて必死に力を振り絞った。
しかしついに、キサラギの大きく突き出た両肩の先、
つまりアズサイズとユキドリルによって主に構成された部分が、奔流の一部に捉えられた。



590:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/10(金) 21:21:10.61 ID:VlmQnypho

がくん、と機体が大きく揺れる。
同時に危険を知らせる警報がコクピット内に響き渡った。

アミ「こ、このっ! 離せ! 動け……!」

マミ「駄目っ……このままじゃバラバラになっちゃう!
  無尽合体を解除するしかないよ! アズサイズとユキドリルを切り離そう!」

アミ「え!? で、でもそれじゃ、キサラギのパワーが……!」

マミ「このまま解体されちゃうよりはずっといいよ!」

こうしている今も、キサラギの両肩、またそれに連なる腕はミシミシと悲鳴をあげている。
マミの言う通り、このままでは解体は必至であった。

アミ「っ……キサラギ! 無尽合体解除! リッチェーンだけを残して!」

   『くっ……!』

キサラギが“声”を上げ、機体が展開する。
そしてそれと同時に、猛獣の群れに放たれた餌のように、
解放されたアズサイズとユキドリルの巨体は重力の波に飲まれ、闇へと消えていった。



591:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/10(金) 21:22:50.06 ID:VlmQnypho

こうしてキサラギは、リッチェーンと無尽合体した姿であるハイパーキサラギの形態となり、
アミとマミはリッチェーンのコクピット内に収まる形となった。
大きく突出した部分を切り離したことで、うねる奔流に捕まりづらくはなっている。
だが当然ではあるが、アミが懸念した通りパワー自体はぐっと落ちることとなる。
ハイパーキサラギはそれまでを上回る速度で、空間の深奥へと引きずり込まれ始めた。

パワーの落ちたキサラギがこのまま闇への飲み込まれるのはもはや必定。
外から眺めるハルシュタインでなくとも、誰しもがそう思うであろう。
しかし、アミたちは諦めなかった。
眉間に皺を寄せ、歯を食いしばり、
激しく揺れる機体の中、ただ真っ直ぐに前方のみを見据え続けている。

マミ「私たちは負けられないんだ……! このまま飲まれたりなんか、するもんか!」

アミ「諦めない! 絶対にっ……!」

だがそれでも、ただ諦めないだけでなんとかなる状況では、既にない。
こうしているうちにもハイパーキサラギは後退を続け、確実に終焉へと向かっている。
もはや周囲に光はほぼなく、完全なる闇に囲まれつつあった。



592:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/10(金) 21:25:14.06 ID:VlmQnypho

しかし、その時。

アミマミ「え……!?」

マミの体が強い輝きを放った。
いや正確には、その輝きはマミの懐から放たれていた。
それは、希照石の光。
そのことに気付いたと同時に、アミとマミの頭に、“声”が届いた。

 ヒビキ『お願いだ、希照石……。アミたちに、力を貸してあげて……!』

それは、希望を託してくれた者の声。

 タカネ『どうか、お願い致します。
    地球に勝利を……彼女の覚悟に見合う成果を、どうか……』

かつて敵であった者の祈る声。

ヒビキやタカネだけではない、
これまでアミたちが出会った者や、会ったことのない者まで、
地球人類たちの全ての“声”が、二人の頭に、心に響く。
そして希照石の光は二人の体を包み、キサラギの機体を包み込んだ。



593:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/10(金) 21:27:56.32 ID:VlmQnypho

希照石は、声を伝える希石。
その神秘の力がアニマの巫女ヒビキの祈りを受け、
他の希石と共鳴して力を増幅させていった。
力とは地球人類たちの声であり、想いであり、夢であり、未来であり、希望である。

希照石の放つ眩い希望の光は周囲の闇すらも照らし、
空間を抜けてハルシュタインの目にまで届いた。
光を目にした彼女の表情に浮かんだ色は、如何なるものであったか。
しかし今のアミとマミはそのようなことは気にも留めていない。
希照石の光に包まれた二人の心にあったのは、ただただ希望と、感謝の一念であった。

アミ「ありがとうヒビキン……ありがとうみんな……!」

マミ「希照石も、ありがとう……! 私たち、力出てきたよ!」

アミ「行けるよね、キサラギ! これで百人力……ううん、百億人力だ!」

   『くっ……!』

アミマミ「希照石全開!! 進めぇぇぇぇ!! キサラギィーーーーーーーー!!」



594:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/10(金) 21:29:31.93 ID:VlmQnypho

光を纏ったハイパーキサラギの後退の速度が、見る見るうちに現象していく。
抗うことすらできないと思われた凶悪な重力から、アミたちは確かに逃れ始めていた。
そうして遂にハイパーキサラギの機体はぴたりと静止し、
それから徐々に、前進を始めた。

ハルシュタイン「……希照石が、他の希石の力を引き上げている……」

空間の外で、誰へともなく呟くハルシュタイン。
先ほどのように重力の渦に捕らわれれば容易く止められてしまうような、
そんな辛うじての前進であったが、
ハルシュタインはハイパーキサラギから一瞬たりとも目を離そうとはしなかった。
ユキドリルとアズサイズを失ったキサラギが、
そうであるにもかかわらず、失う前以上のパワーを発揮しているのだから。

アミ「これが私たちの、力だ……! 地球のみんなの力だ!」

マミ「そこで待ってろ、ハルシュタイン! 
   こんな空間、すぐに抜け出してやる……! そうなれば、私たちの勝ちだ!」



595:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/10(金) 21:31:19.61 ID:VlmQnypho

少しずつ、しかし確実に、
空間の出口までの距離と共に勝利へと近付きつつある。
目前の勝利へと手を伸ばすように
アミとマミはハルシュタインに向けて言葉を投げた。

……が、その時。

アミマミ「っ……!!」

ハイパーキサラギの機体が揺れた。
伸ばした手が背後から掴まれたような感覚に、アミたちは息を呑む。
咄嗟にモニターを確認すると、
そこに映っていた光景は二人の表情を強く歪めさせた。
ハイパーキサラギの下半身――
リッチェーンの機体が組み込まれている部分が、
脱出目前というところでまたも重力の触手に捕らえられてしまったのだ。

ハルシュタイン「勝利を口にするには……少し早かったな」

ぐんと機体が引かれ、ハルシュタインとの距離が再び遠のいた。



596:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/10(金) 21:33:38.61 ID:VlmQnypho

アミ「そんな……!? せっかくここまで来たのに……!」

マミ「このままじゃ、また引きずり込まれちゃう……!」

オーバーマスター版のキサラギを以てして逃れ得なかった、重力の触手。
希照石により力が増したとは言え、直接捕らわれてしまえばやはり抗いようはない。
逃れるためにはただ一つ、ユキドリルやアズサイズと同様に、
リッチェーンも切り離してしまうより他に方法はない。
だが、一度目には即座に決断したアミとマミは、苦悩に顔を歪ませた。

二人は迷っていた。
リッチェーンは、キサラギと共に戦い続けた言わば戦友であり、相棒である。
何よりミキの亡き今、彼女が地球のために戦ったことの証明であり、象徴でもある。
そんなリッチェーンを捨石のように切り離すことに、
アミとマミは強い抵抗を感じていた。

迷っている暇などない。
切り離すのなら今切り離さなければ、キサラギが引き裂かれてしまう。
だが、コクピット内が警告灯の明かりと警報で満たされる中、
二人は未だ決断できずにいた。



597:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/10(金) 21:52:06.63 ID:VlmQnypho

アミ「嫌だ……! できないよ、リッチェーンを捨てるなんて!
  そんなの、ミキミキを捨てちゃうみたいなものだもん……!」

マミ「お願い、頑張ってキサラギ! なんとか脱出して!
  ミキミキのためにリッチェーンを守って! お願い……!」

ミキを失った悲しみを一度は乗り越えたアミたちではある。
しかし今の二人にとって、リッチェーンを失うことは
もう一度ミキを失ってしまうこととほとんど変わりはなかった。
だから彼女たちは、リッチェーンを捨てようとはしない。
なんとしてもリッチェーンを地球に返すのだと、必死に抗った。

しかしそんな二人の祈りを嘲笑うかのように、
触手の如き重力の奔流はずるずるとキサラギの機体を空間深奥へと引きずり込む。
いや、その前に他の触手に捕まり、無残に解体されてしまうだろう。
もはや希照石の放つ光も虚しく、闇の中へと葬り去られようとしていた。

――“声”が聞こえたのは、その時だった。



598:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/10(金) 21:52:46.81 ID:VlmQnypho

  《大丈夫。ミキならもう、あなたたちと一緒に居るわ》

アミマミ「え……?」

静かであったが、警報にかき消されることなく聞こえた。
それは、聞いたことのない声。
二人は始め、また先ほどと同じように、
地球の誰かの声が希照石を介して伝わってきたのかと思った。
だがそれともまた違う、
どこかすぐ近くから囁いてくるかのような、そんな声であった。
そして次の瞬間、アミとマミは困惑と驚愕の色を浮かべる。

アミ「っ!? え……!?」

マミ「ま、待って! なんで……!?」

コマンドを出しておらず手元の操作も一切行っていないにもかかわらず、
ひとりでに、キサラギが無尽合体を解除したのだ。



599:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/10(金) 21:54:01.47 ID:VlmQnypho

アミとマミは、単体となったキサラギのステアに掴まり、
後方のリッチェーンを振り返りつつ困惑する。
希石の光が体を包み込み、地球外での生存を可能にしていたようではあったが、
今の二人にはそれすらも気にする余裕はなかった。

突然の声と、まるで自ら意思を持ってなされたかのような、
キサラギとリッチェーンの合体解除。
全くの謎の現象に二人の頭は混乱で満たされていたが、
その時、ふと一筋の光のような直感がアミたちの脳裏をよぎった。

二人は目を見開き、一方向を見つめる。
視線の先にあったのは、脚を闇に捕らわれながらも
支えるようにキサラギに手を添えた、リッチェーンの姿。
リッチェーンの顔は目の部分が眼鏡のようなパーツで覆われており、
普段は表情のようなものを見せたことはない。
しかしこの時……その口元が優しく微笑んでいるように見えた。

まさか、いや、そんなはずは……
よぎった直感に、アミたちは半信半疑であった。
だがそんな二人の耳に、もう一度、はっきりと聞こえた。

  《ほら、行きなさい。背中は押してあげるから》



600:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/10(金) 21:55:48.94 ID:VlmQnypho

パイロットが不在のはずのリッチェーンの腕の関節が曲がり始める。
いや、パイロットは居るのだ。
“彼女”の言う通り、今確かに、この場に共に居るのだ。

アミマミ「……っ」

それは幻聴だったのだろうか。
あるいは希照石が届けてくれた声だったのだろうか。
だがアミとマミは既に確信していた。

二人は、ただ黙って前方へと向き直った。
もう決して後ろを振り向きはしなかった。
滲みかける涙を堪え、言葉を胸にただ真っ直ぐに前を見据える。
そして受け取った全てに報いるために全力で、力の限り叫ぶ。

アミマミ「希魂石!! 全ッ! 開ぁぁぁぁぁぁいッ!!」

瞬間、キサラギは力強く前へ進む。
キサラギの力、希石の力、自分たちを支え、後押ししてくれる全ての力――。
今や彼女たちの周りに闇はなかった。
希望の光が周囲を照らし、闇をかき消す。
それでもなお逃すまいとうねる渦の隙間を縫い、猛然と突き進む。



601:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/10(金) 21:56:54.96 ID:VlmQnypho

そうしてとうとうキサラギの頭部が、ハルシュタインの作り出した空間を抜ける。
次いで胴体、脚部が抜ける。
全貌を顕にした希望の光が太陽光の如く地球に注ぐ。

間近に迫る光に目を細めるハルシュタインの表情は、
苦痛を堪えるようにも見え、笑っているようにも見えた。
だが決して目を離そうとはしなかった。

それこそが、ハルシュタインの矜持であり敬意。
ハルシュタインは目に焼き付けた。
自らが求めてやまなかった希石の光を。
如何なる困難にも屈することなく力を証明し続けたキサラギを。
そして――
自分に敗北をもたらした、勝者たちの姿を。

アミマミ「行っっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! キサラギぃーーーーーーーーー!!」

ハルシュタイン「……見事だ」

光を纏ったキサラギの全身が、ハルカイザーの機体を貫き砕いた。



605:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 21:37:10.54 ID:kHht+3Bto

数秒後、アミとマミは衝突の瞬間に思わず閉じていた目を開き、
ハルカイザーの姿を確認する。
圧倒的強者として高みに立っていたハルカイザーは既になく、
上半身、それも頭部と右半身のみを残して、
機体の四分の三近くは修復不可能なほどバラバラに砕かれていた。
そして自分たちを苦しめた闇の空間も急速に収縮を始め、やがて元の漆黒の球体へと戻った。

アミ「……勝っ、た? 私たち、勝ったの……?」

少し前までは必死さが勝り、ひたすら無我夢中であったアミたちだが、
唐突に訪れた静寂がそんな二人を現実感のない現実に引き戻す。
と、インカムからノイズ混じりに聞こえた声が、
ぼんやりとしたアミたちの意識をはっきりさせた。

ハルシュタイン『何を呆けている……誇るがよい。お前たちの勝ちだ、地球人よ』

マミ「……ハルシュタイン……」

ハルシュタイン『さて、約束だったな。
      お前たちが勝てば、私が宇宙の支配を目論んだ理由を話すと』



606:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 21:39:41.42 ID:kHht+3Bto

アミ「! そ、そうだ、教えてよ!」

マミ「どうしてお前は、宇宙の神なんかになりたかったの!?」

あまりに必死で忘れかけていたのであろうか、
二人はたった今思い出したかのように慌てて問い直す。
対してハルシュタインは、ふっと息を吐いて静かに答えた。

ハルシュタイン『とは言っても……特に目的があって始めたわけではない。
      支配とはさだめ。力を持つ者の、宿命だ……。
      だから支配しようとした。それだけのことさ』

マミ「さだめ……? 宿命って……な、何それ?」

アミ「そんなの、わかんないよ……。
  宿命だからって、いろんな人を傷付けたっていうの!?」

マミ「辛い思いや苦しい思いをさせるのが、宿命って……。
  ハルシュタインは、そのことがおかしいとは思わなかったの!?」



607:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 21:41:05.60 ID:kHht+3Bto

理解できないことへの困惑と、怒りと、悲しみ。
様々な感情が、勝者であるはずのアミとマミの心をかき乱し、
取り乱したようにハルシュタインに言葉をぶつけさせる。
しかしやはりハルシュタインは、ボロボロの機体の中で落ち着いた様子を崩さない。

ハルシュタイン『思わなかったな。そう思うには、私は多くのことを知りすぎた』

マミ「何……どういうこと?」

ハルシュタイン『……その前にもう一つ、お前たちの質問に答えておこう。
     心が読めるのか、とお前たちは私に聞いたな』

アミ「聞いたけど、それが何……!?」

ハルシュタイン『私はそんな力は持っていない。あれは単なる予測と洞察だ。
      ただし、人の及ばぬ尋常ならざる量の経験と知識によって精度は上がっているがな』

今になって明かされた事実に、アミとマミは目を丸くして驚く。
ハルシュタインが読心能力を持っていなかったこともだが、
何より、“人の及ばぬ量の経験”という言葉が、二人に驚愕と疑問を与えた。



608:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 21:43:41.35 ID:kHht+3Bto

それが時空と時間を超えるハルシュタインの能力によるものなのか、
あるいはまた別の要因によるものなのか、それは分からない。
その疑問を口にしようとしたアミたちであったが、
それをまたも洞察したか、制するようにハルシュタインは続けた。

ハルシュタイン『さあ、ここで一つ今度は私から聞いてみよう、キサラギのパイロットよ。
     予知の如き予測と読心の如き洞察を可能にするほどの経験は、
     果たして何を生み出すと思う?』

唐突なハルシュタインからの質問に、アミとマミは眉をひそめて顔を見合わせる。
そんなことを想像したこともなければ、
しろと言われてできるようなものでもなく、答えられるはずもなかった。
しかしハルシュタインはそれも分かっていたように、
数秒の間を空けたのち、

ハルシュタイン『……絶望だよ。私は理解したのだ。希望とは“無知”の中にこそ宿るものだと。
     全てを知り尽くした私は、この世界そのものに、絶望した。
     如何なる奇跡も宇宙的事象から見れば些事に過ぎず、
     世界の全ては取るに足らぬ、路端の石とまるで変わりはないのだとな』



609:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 21:45:08.11 ID:kHht+3Bto

アミ「そ……そんなことないよ! 世界に絶望しかないだなんて、そんな……」

ハルシュタイン『ああ、お前たちにとってはそうだろう。地球人の寿命は長くても百年程度。
      その程度の寿命であれば、お前たちの生は最後まで無知に満ちたままだ。
      だが私は違う。長きを生きるうちに、私はいつしか色を失った。
      今にして思えば……私は、色を探していたのかもしれんな』

マミ「色……?」

ハルシュタイン『色とは、混ぜすぎれば行き着く果てはただの“黒”。
      多くを知りすぎた私の生はまさしく黒一色に染め上げられていた。
      だが、もし宇宙の全てを支配し、この手中に収めることができたならば、
      黒すら塗り替える色に出会うことも可能だったかも知れない。
      ……などと、今となってはそれも夢物語だがな』

自嘲するように吐息混じりに聞こえた言葉に、アミとマミは何も言えなくなる。
仮にこのハルシュタインの心情が戦いの前に吐露されていたならば、
自分たちに何かできただろうか。
ハルシュタインの言う『絶望』を塗り替えることができただろうか。



610:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 21:47:45.90 ID:kHht+3Bto

ハルシュタイン『まあ……それでも考えようによっては、目的を全く果たせなかったわけではない。
      動機が“色”の追求だとするならば、確かに出会うことができたのだからな。
      希石という、私の予測を超えた神秘の力に』

と、ハルシュタインがそれまでと変わらぬ調子で話を続ける中、
アミとマミは目を見開いた。
収縮したまま静止していた黒球が、突然移動を始めたのだ。

マミ「ハルシュタイン、何を……!」

思わず声を上げたマミを無視するように、
黒球は移動を続け、そして、ハルカイザーの背後でぴたりと止まる。

ハルシュタイン『感謝しよう、キサラギのパイロットよ。
      お前たちは、一部ではあるが“黒”に彩りを加えてくれた。
      希煌石の発見から始まり、覚醒したキサラギとの戦いまで……心躍ったよ。
      敗北した以上満足とは言えないが、楽しかった。
      僅かでも色の残っているうちに、私はこの生に終止符を打たせてもらう』

その言葉の意味をアミとマミが理解するより先に、
ハルカイザーの背後に、あの空間が再び口を開けた。



611:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 21:49:00.45 ID:kHht+3Bto

ハルカイザーの機体が空間へと吸い込まれ始めるのを見て、
アミとマミの理解はようやく追いついた。
ハルシュタインはあの闇に飲み込まれることで、自らを葬り去るつもりなのだと。

ハルシュタイン『案ずるな。私が消――ば、この空間も自然と消滅――。
      お前たちや地球――害を及ぼすこ――ない』

重力の影響か、ノイズに混じって途切れ途切れとなった
ハルシュタインの声がインカムから流れる。
そのことがまた、二人にハルシュタインという存在の消滅を強く実感させた。
ハルカイザーの砕けた部分は既に空間に飲まれ、闇に消えている。
ハルシュタイン本人が同じ道をたどるまで、残り数十秒もないだろう。

アミマミ「っ、……!」

そんな自ら死ぬゆく敵の姿を見て、アミとマミの脳裏にかつての出来事が蘇った。
それは、目の前で自害したイオリの姿。
そしてその後に決意した自分たちの想いを、アミたちは思い出した。



612:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 21:51:45.85 ID:kHht+3Bto

アミマミ「ハルシュタイン!!」

二人は同時に叫び、それに呼応してキサラギが動く。
空間に吸い込まれていくハルカイザーに向かって。

ハルシュタイン「……!」

こちらに手を伸ばしながら接近するキサラギを見て、
ハルシュタインはその表情に初めて見せる感情を浮かべる。
目を見開いたのち、眉根を寄せ、そして叫んだ。

ハルシュタイン「この私に情けをかけるつもりか……!?
     下がれ! 不愉快だ! 敵に救われることなど私は求めていない!」

ノイズにまみれた怒りの言葉は、アミたちに届いたであろうか。
しかし届いていても、いなくても、二人の心は変わらない。

アミ「お前がどう思おうと関係ない……! 私たちが決めたんだ!」

マミ「あの時……! もし次に同じようなことがあったら、絶対に助けるって!
  だからお前のことも助ける! こっちに来い、ハルシュタイン!」



613:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 21:53:50.22 ID:kHht+3Bto

もはやハルカイザーには、如何なる抵抗の力も残されてはいない。
闇の重力には引かれるがままであり、
またキサラギに腕を掴まれれば、それもまた引かれるがままであっただろう。
が、キサラギにとってそれはあまりに危険であった。

ハルカイザーの頑強な機体を打ち砕くほどの突進は、
希石の力に強化されていたとは言えキサラギ本体にも相応のダメージを与えていた。
また、今やコクピットに守られておらずステアに掴まるのみのアミとマミである。
そんな状態で再び重力のるつぼに飛び込んでいって、
無事で居られると断言できるはずもない。
更に、キサラギ単体が脱出するのと、
ハルカイザーを連れて脱出するのでは、それもまた大きく異なる。

つまり最悪の場合、アミたちはここでハルシュタインと共に心中してしまう。
いや、寧ろその危険性の方が高かった。

しかし二人は構わずに前進を続ける。
危険など考えなかった。
ただ、自身が決めた覚悟を裏切りたくない一心で、
敵対者であるハルシュタインに向けて手を差し伸べ続けた。
ハルカイザーの全身は既に空間内部に完全に取り込まれている。
キサラギもあと数秒もすれば突入してしまうだろう。



614:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 21:56:14.08 ID:kHht+3Bto

だが、次の瞬間。

アミマミ「ぅあっ!?」

突然キサラギの機体が強い衝撃を受け、前進の軌道が大きく逸らされた。
二人は声を上げてステアに掴まり、その衝撃の正体を確認する。
それは、複数の怪ロボットであった。
どこからか現れた怪ロボットたちが、キサラギに取り付いて進行を阻んでいるのだ。

マミ「な、何、これ!? どいてよ、邪魔しないで!」

アミ「キサラギ! 全部壊し……」

しかし次の瞬間、アミたちの口がぴたりと止まった。
インカムから聞こえた声に、
邪魔された怒りと焦りで乱れた心すら一瞬、静まり返った。

ヤヨイ『……つくづく甘ちゃんだよね。
    ここまで来ると笑いを通り越して呆れてくるよ』



615:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 21:58:12.95 ID:kHht+3Bto

そこにはヤヨイが居た。
姿は見えない。
しかし確かに、今キサラギに取り付いている怪ロボットのうちいずれかに、
ヤヨイが搭乗しているのだ。

アミ「ヤ……ヤヨイっち!?」

マミ「なんで!? どうして……!?」

ヤヨイ『ハッ……この私を誰だと思ってるんだ?
   あの程度の監視と拘束を抜け出すことも、
   怪ロボットのプログラムを弄って操作することも、朝飯前なのさ!』

マミ「違うよ! そうじゃなくて……!」

アミたちが問うたのはそういうことではないと、ヤヨイもわかっている。
だが答えなかった。
答える時間をヤヨイは、目的を成すための行動に使った。
キサラギの胴体に組み付いていた怪ロボットの背後から小型艇が飛び出す。
そしてその小型艇は真っ直ぐに、
ハルカイザーを飲み込んだ空間へと飛んでいった。



616:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 22:00:07.92 ID:kHht+3Bto

アミ「!? ま、待ってよヤヨイっち! 何を……」

ヤヨイ『決まってるだろ? 私は閣下と共に行く。
   せっかく助けてくれたけど、お前たちとはここでお別れだ』

マミ「そんな……! どうして!? そんなの嫌だよ!」

アミ「キ……キサラギ! 怪ロボットを壊して! 早く!!」

しかし怪ロボットたちは巧みにキサラギの四肢に絡みつき、易々と破壊させてくれない。
数秒の猶予すらないこの状況では、
ヤヨイとハルシュタインの救出が叶う可能性はもはや絶望的であった。

ヤヨイ『無駄さ。悪あが――やめな。もう間に合わ――』

インカム越しのヤヨイの音声にノイズが混じり始める。
それはまさしく、ヤヨイの死が形を持って現れたことに他ならない。

マミ「や……やだ! 待ってヤヨイっち!! お願い!!」

アミ「離してよ……! 離せ、離せぇぇぇぇ!!」



617:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 22:01:25.33 ID:kHht+3Bto

アミたちは焦燥から目に涙すら浮かべ、
自らも怪ロボットを殴り、蹴り、必死で引き剥がそうとする。
ノイズの混ざったヤヨイの声を聞きたくないとばかりに、抵抗の叫びを上げ続ける。

しかし、その叫びと抵抗を、静かな短い言葉が止めた。
もはや聞き取ることすら困難なほど雑音にまみれた言葉が、
それでもアミとマミの耳に、心に、一瞬にして深く深く届いた。

ヤヨイ『……アミ、マミ』

二人の名を呼んだ、それはまさしく“ヤヨイ”の声。
共に笑い、幸せを共有し、裏切られ、戦い、そして救われた、
他の何者でもない、本当のヤヨイの声。
アミとマミは、時が止まったかのように静止する。
そしてノイズすら掻き消えたかのような静寂の中、

ヤヨイ『野菜くらい……ちゃんと切れるようになりなよ?』

その言葉を最後に、もう二度と、
インカムから音声が流れてくることはなかった。
闇の蠢く空間はハルシュタインとヤヨイを飲み込み、
そして、消滅した。



618:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 22:05:42.27 ID:kHht+3Bto




ハルシュタイン「……裏切り者が、なんのつもりだ」

重力のるつぼを抜けた先、
一切何もない闇の中で低い声が静かに響く。
そして間近から、幼さを感じさせる声が返る。

ヤヨイ「ごめんなさい、閣下……。でも、このままで居させてください」

ヤヨイは、ハルシュタインに正面からしがみついていた。
どちらかと言えば抱きついていたという方が正しいかも知れない。
ハルシュタインの胸元に顔をうずめるようにして、
子が親に甘えるように、ぴったりとくっついて離れようとしなかった。

ハルシュタイン「なんのつもりだ、と私は聞いたのだ。答えろ。
      この私を裏切り、かと思えばこうして心中しようとする……。
      答えなければ、今ここで私自らお前を始末してやろう」



619:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 22:07:29.85 ID:kHht+3Bto

平常のヤヨイであれば、この言葉に身を震わせ、
必死に弁明を始めていたところであろう。
しかし今のヤヨイは全く動じない。
ハルシュタインに抱きついたまま、落ち着いて答え始めた。

ヤヨイ「裏切ったのは……アミとマミを、あの場で死なせたくなかったからです。
   地球の侵攻をあと何十年か遅らせて欲しくて、裏切りました……ごめんなさい」

ハルシュタインは黙って続きを待つ。
裏切った理由については分かっていた。
記憶を失わせたことでアミたちに情が沸いてしまったのだと、察しはついていた。
だがそこから先が理解できなかった。
なぜヤヨイは自分を追ってこの闇の中へ飛び込んだのか……

ヤヨイ「私が閣下に付いてきた理由は……貴女が負けたからです」

ハルシュタイン「何……?」

ヤヨイ「私、決めたんです。閣下がアミとマミに勝てば、
    私は合わせる顔がないからもう会わないでおこうって。
    でももし閣下が負けたら……私も一緒に居ようって」



620:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 22:09:22.10 ID:kHht+3Bto

ヤヨイの話した内容を聞きハルシュタインは眉をひそめた。
理由を聞いてはみたものの、やはり分からなかった。

ハルシュタイン「理解できんな……。
      勝者に擦り寄るなら分かるが、なぜ死を待つばかりの敗者に付く必要がある?
      そんなことをしても得るものはない」

ヤヨイ「そうかも知れません。でも私……閣下に、一人で死んで欲しくなかったんです」

ハルシュタイン「……なんだと?」

ヤヨイ「勝ったら、閣下にはたくさん仲間ができると思います。
   でも負けちゃったら、閣下は一人です。それは私、嫌なんです」

そう言ったヤヨイの腕が更に強く自分の体を抱き、
顔が強く押し付けられるのをハルシュタインは感じた。
そしてヤヨイはそのまま、

ヤヨイ「だって私、ハルシュタイン閣下のこと、大好きですから」



621:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 22:13:27.38 ID:kHht+3Bto

  “敬愛するハルシュタイン閣下”
  “親愛なるハルシュタイン閣下”

そんな言葉は今まで幾度となく聞いてきた。
しかしそれはどれも、勝者としての自分に向けられる言葉だった。
自分の力を畏れ、寄り添うことで自らの平穏を得ようと、
そうやって口にされる“愛”は、これまで飽きるほど聞いた。

……だが、今のは違う。
確かにヤヨイはこれまでも“大好き”などと言ったことはあったかも知れない。
だが、違うのだ。
この者は今、敗者である自分に、この言葉をかけたのだ。

何度も聞いたはずの言葉が、まるで初めて聞いたことのように響き、染み入ってくる。
言葉だけではない。
全身に感じる感触から、体温から、体中に行き渡る感覚さえ覚える。

ヤヨイ「大好きだから、一緒に居たいんです。私だけじゃありません……。
    マコトとイオリも、閣下のことが大好きでした。
    だから、ずっと一緒に居ようとしたんです」



622:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 22:17:33.60 ID:kHht+3Bto

瞬間、ハルシュタインの脳裏に蘇る。
散っていった二人が残した言葉、そして表情……。
それまで何の感慨もなく素通りしていたものが今、
改めて自身の体を巡っていく。

   『――例え敗北なさったとしても、私の貴女への気持ちは変わりません』
  
   『僕たちは、ずっと閣下の御側にいましょう。
   貴女の孤独が癒えるまで……いえ、それからもずっと』

それは、闇が生み出した幻であったのだろうか。
しかし確かに、ハルシュタインは感じていた。
長らく忘れていた感情と、感覚を。
それはなんと呼ばれるものだったか……もう忘れてしまった。
だがそれが今ここにある。

敗北して初めて気付くことができた。
そう……“色”はあったのだ。
自分が見ていなかっただけ、見ようとしていなかっただけで、常にすぐそばに……。



623:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 22:18:43.54 ID:kHht+3Bto

ヤヨイ「ですから、閣下。ずっと一緒に居てもいいですか?」

ヤヨイの問いに、ハルシュタインは答えなかった。
沈黙が続き、ヤヨイは顔を上げて改めて声をかけようとする。
しかし、それは叶わなかった。

ハルシュタイン「……好きにしろ」

その言葉と共に、ヤヨイの頭は押さえつけられる。
静かに発せられた声から伝わる感情と、
後頭部に触れる手の感触と、
顔に伝わるぬくもりと、
そして少しばかりの息苦しさを感じながら、

ヤヨイ「はい、ハルシュタイン閣下」

優しく答え、ヤヨイは目を閉じる。
そうしてハルシュタインたちは、暖かな闇の中へと深く、深く沈み込んでいった。



624:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 22:21:54.63 ID:kHht+3Bto




ハルシュタインは消えた。
怪ロボットたちも、動きを止めた。
地球に脅威をもたらしたものが全て、今この瞬間に、力を失った。
ハルシュタイン軍の脅威は完全に消え去った。
人類たちがそれを確信するのはもう少し先のことであろう。
だが、確かな事実。
地球は勝利したのだ。

希煌石《キラジェム》、希照石《テラジェム》、希魂石《スピリジェム》という、
神秘の力を持つ三つの石。
多くの怪ロボットを打倒した、キサラギとリッチェーン。
そのパイロットであるアミ、マミ、ミキ。
そして、彼女らをサポートした地球防衛軍と協力者たち。

彼らのことを地球人類たちは決して忘れないだろう。
ハルシュタインを倒した双子のことを忘れないだろう。
アミとマミは今日この日、英雄となったのだ。

だが、地球へ帰還し、多くの人々に賛辞を送られる二人の笑顔、
その奥底に秘められた心情に気付いた者が果たして何人居るか、それは定かではない。



625:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 22:25:51.51 ID:kHht+3Bto

  「――ただいま」

自室に帰ったアミとマミは、誰も居ない部屋に向かって呟く。
マミの手には、小さな紙袋が端を摘まれるように持たれていた。
それを無造作に机の上に置き、二人は同時にベッドに倒れ込む。
アミはうつ伏せに枕に顔をうずめ、マミは仰向けにぼんやりと天井を眺める。
そのまましばらく経った後、マミがぽつりと言った。

マミ「……これ、どうしよっか」

その声に、アミは首を少し動かして横目に紙袋を見る。
そして目を逸らし、

アミ「知らない……。ヤヨイっちが居ないんじゃ、もう意味ないもん」

そのまま再びまくらに伏せてしまった。
マミはそんなアミを一瞥し、紙袋に視線を戻す。

基地に帰還し、自室に戻ろうとする二人にその紙袋は――
ヤヨイへのプレゼントは手渡された。
開封されておらず、
感じる質量から考えて中の髪飾りは恐らく入ったまま。
ヤヨイへ届けてもらう前から変わらない状態でそれは戻ってきたのだ。



626:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 22:27:57.44 ID:kHht+3Bto

結局ヤヨイにはプレゼントを受け取ってもらえなかった。
しかしそのことを知った二人は、特に気を落とすことはなかった。
と言うより、気持ちが上下するような精神状態ですらなかった。

地球を救えた喜び、ハルシュタインやヤヨイを救えなかった悲しみ、
そういった感情ですら、今の二人の心をほとんど揺さぶりはしない。
全てが夢の中の出来事であったかのような、
今も夢を見続けているような、
そんなぼんやりとした中に二人の気持ちは覚束無く浮いていた。

だがその時、紙袋を眺めていたマミはふと違和感を覚えた。
ゆっくり体を起こし、手に取ってみる。
そして、寝ぼけているようだったマミの目が、大きく開いた。

マミ「アミ……アミ!」

アミ「……何? どうかした?」

名前を呼ばれ、アミは気だるそうながらも体を起こしてマミの隣へ移る。
しかし次の瞬間、マミと同じように目を見開いた。



627:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 22:32:04.42 ID:kHht+3Bto

マミ「これ見て! シールを剥がした跡がある!」

アミ「ほんとだ……。じゃあ、一回剥がして、貼り直したってこと……!?」

マミ「多分そうだよ! ヤヨイっち、開けてくれたんだ!」

アミ「でも……中身、入ったままだよね? それじゃあ結局……」

確かにマミの言う通り、紙袋に封をしていたシールは端が僅かに折れており、
一度剥がして封をし直した痕跡があった。
だが、これもまたアミの言う通り、中身は入ったままであり、
ヤヨイがプレゼントを受け取らなかったことには変わりはない。
ただしそれは……『中身がヤヨイへのプレゼントのままであれば』の話だ。

マミ「……開けて、確かめよう」

宣言するように呟き、マミはシールに爪を立てる。
引っ張ると、やはり一度剥がされていたらしく、あっさりと剥がれた。
そして折られた口を開き、二人は中身を見た。



628:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 22:34:15.40 ID:kHht+3Bto

そこにあったのは、二つの髪飾りであった。
しかし、アミとマミがヤヨイのために買ったものとは、違うものだった。
黒い、すこし大人びた雰囲気を放つそれをマミは取り出し、片方をアミに手渡す。
二人はその髪飾りに見覚えがあった。

それは、ヤヨイが着けていたもの。
記憶がなかった頃のヤヨイではなく、
記憶を取り戻してハルシュタイン軍へと帰ったヤヨイが着けていた、髪飾りであった。

アミたちが贈った髪飾りが無く、
代わりにヤヨイが身に着けていたものが入っていたということ。
それは、何を意味しているのか。

アミ「……ヤヨイっち、プレゼント受け取ってくれたんだ」

マミ「うん……」

アミ「喜んでくれたかな? ヤヨイっち、喜んでくれたのかな……?」

マミ「……うん……」



629:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 22:37:27.77 ID:kHht+3Bto

アミはベッドに腰掛け、髪飾りを両手で握り締める。
マミはそんなアミの肩を、優しく抱きしめる。

アミ「仲直り、できたんだよね……? 私たち、もう一回友達になれたんだよね……?」

マミ「うん、うん……!」

アミ「友達で居てくれたんだよね……!
  最後まで……最後まで、ヤヨイっち……ぅああぁ、うあぁあぁあぁああぁあん!!」

表出することのなかった感情が、堰を切って溢れ出す。
喜びが、悲しみが、全てが涙と泣き声になってとめどなく溢れ出す。
アミは髪飾りを抱いて泣いた。
マミはアミを抱いて泣いた。
泣いて、泣いて、そして二人は手を繋いで眠った。
繋がれた手には、ヤヨイの髪飾りがしっかりと握られていた。

二人は同じ夢を見ていた。
実現しそうで、実現し得なかった夢。
四人でテーブルを囲み、楽しく笑い合う、そんな夢を。

目覚めた時にその夢がもたらすのは、実現しなかったことへの悲しさだろうか。
それもあるだろう。
だが決してそれだけはなく、そこにはあるのは――



630:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 22:42:05.98 ID:kHht+3Bto




タカネ「……おや、もう時間ですか」

足元から聞こえた鳴き声に、タカネは額に浮かぶ汗を拭って答える。
そうして、走り去る鳴き声の主を追うように歩き出した。
やがてその先から漂ってきた香りが鼻腔をくすぐる。
初めて嗅いだ匂いであったが、タカネは口内に唾液が溢れるのを感じた。

ヒビキ「あっ、来た来た。ほら座って、準備はできてるぞ!」

タカネ「ええ、ありがとうございます」

ヒビキ「ハム蔵も、タカネを呼んで来てくれてありがとね!」

ぢゅっ、とハム蔵は誇らしげに敬礼を返し、自分の餌のある場所に移動する。
他のアニマルロボたちは既に自分の席についており、
ヒビキはそれを確認して、号令をかけた。

ヒビキ「よしっ。それじゃあいただきまーす!」



631:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 22:48:05.56 ID:kHht+3Bto

地球から遠く離れた緑の惑星、アニマ。
その一画で今、賑やかな食事が始まった。
星を襲撃したもの、されたもの。
機体を破壊したもの、されたもの。
全てが一様に同じ食卓を囲むこの光景には、
見る者によっては違和感を覚えるだろう。

破壊されたアニマルロボの機体は、
地球とタカネの星の持つ技術によって修復された。
そしてアニマルロボたちの記憶は、全て希照石に残されていた。
その記憶をヒビキの巫女としての力で機体に与え、
無事にアニマルロボたちは復活を遂げたのだ。

また、タカネがこの星へ移り住み労働を始めてから、一週間が経つ。
焼いた土地を再生させるため、せめてもの償いのためにと、
一生をアニマで過ごす心づもりで自ら望んでのことだった。
そんな彼女を、アニマルロボたちは恨もうとはしなかった。
主人と同じように、タカネという存在を皆受け入れたのだ。



632:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 22:49:30.39 ID:kHht+3Bto

ヒビキ「そう言えば、タカネがここに来てから今日で一週間だよね。
    妹のこと、本当にいいのか? 自分は別に、無理して居てもらわなくても……」

タカネ「ヒビキ。そのことについては、もう散々話し合ったはず。
    元気にやっていることさえ分かれば、今はそれでよいのです」

ヒビキ「ん……でも、会いたい気持ちには変わりないんでしょ?」

タカネ「それはもちろんその通りです。ですが今はまだ会えません。
    いつしか私が、胸を張って会える日が来るまでは。
    それにそうでないと、叱られてしまいますから」

ヒビキ「……そっか。タカネの妹って、怖い子なんだな」

にっこりと笑うヒビキに、タカネも微笑みを返す。
と、ここでタカネは視線を落とし、話題を変えた。

タカネ「ところでヒビキ……。この料理は、なんというのですか?」



633:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 22:52:48.28 ID:kHht+3Bto

らぁめんとは全く異なった料理。
わかるのは米と野菜と肉で、
白い米とコントラストなす半液体状の何か。
まだ数口食しただけであるが、辛味の中に内包された豊かな味わいに、
タカネはもうすっかりこの料理が気に入ってしまっていた。

ヒビキ「ああ、これ? 実は自分も初めて作ってみたんだけど、
    『カレー』っていうらしいぞ。アミとマミに教えてもらったんだ」

タカネ「かれぇ、ですか。ヒビキも知らなかったということは、
    地球の料理ということになるのでしょうね」

ヒビキ「うん。それでアミたちが言うには、
    この『ニンジン』はゴロゴロに大きく切って、
    こっちの『ジャガイモ』は溶けちゃうくらい小さく切るのが美味しく作るコツ……
    らしいんだけど、よく分からなかったからこれは食べやすい大きさで切ったんだよね」

タカネ「ふむ……なるほど」

ヒビキ「っていうか、多分こっちの方が美味しいと思うんだけどなぁ。
   アミとマミって実はちょっと変わった味覚してたりするのかな?」



634:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 22:56:12.16 ID:kHht+3Bto

タカネ「……食とは文化であり、人を表すものでもあります。
   その人の経験や思い出によって、美味と感じる味は変わってきますから……。
   きっとアミとマミにとっては、大きなにんじんと小さいじゃがいもが、
   彼女たちの人生の中に大切なものとして刻まれているのでしょう」

ヒビキ「そういうものなのかな……。まあ、そういうものなのかもね。
    あ、そうそう。カレーもいいけど、こっちの『サラダ』もちゃんと食べてね。
    カレーにはこういう生の野菜が合うんだって。どれもアニマで採れた……」

と、ここでヒビキはふいに言葉を切る。
疑問に思ったタカネが小首をかしげると同時に、
いたずらっぽくヒビキは笑った。

ヒビキ「あー、でもタカネ、前に言ってたよね。
    『この星にあるものはみんな……』なんだっけ?」

その言葉にタカネは、少しの間を空けたあと困ったように笑う。
そしてヒビキを見つめ、優しく微笑んで言った。

タカネ「この星にあるものはみんな新鮮で瑞々しく、食欲をそそるものばかりですよ」

その答えにヒビキは吹き出し、タカネも釣られるように肩を揺らして笑いあった。



635:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 23:02:09.65 ID:kHht+3Bto




マミ「ほらアミ、早く走って! 急がないとお昼休み終わっちゃうよ!」

アミ「うあうあー! 待ってよマミー!」

マミ「おのれー、鬼教官めー!
   ちょっと冗談言ったくらいであんなに怒んなくたっていいじゃんか!」

アミ「そーだそーだ! いっつも怒ったような顔してるから、
  笑わせてあげようと思ったのに!」

賑やかに駆けていく双子に、
すれ違う者、追い抜かれる者、皆例外なくにこやかな視線を送る。
地球を救った英雄とは思えないほどに無邪気でハツラツとした姿は、
復興を目指す人々にとって何よりの活力であった。



636:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 23:03:43.28 ID:kHht+3Bto

そうして、なんとか休憩の終わりまでにいつもの昼食場所に着いたアミとマミ。
そこで二人は包みを広げて弁当箱を取り出し、元気よく手を合わせた。

アミマミ「いっただきまーす!」

おにぎりにかぶりついたマミも、
もやしの豚肉炒めを口に入れたアミも、幸せそうな笑顔を浮かべて頬張る。
口の中のものを飲み込んだあとは互いの顔を見て、

マミ「んっふっふ~。なかなか腕を上げましたなアミさん。
  このおにぎり、絶妙な塩加減よ」

アミ「マミさんこそ、もやしのシャキシャキ具合が見事ですなぁ」

にやりと笑った後、耐え切れないというように同時に吹き出す。
それから双子は腹ごしらえを済ませて、
背負ったカバンに弁当箱をしまい込んで立ち上がった。



637:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 23:05:45.86 ID:kHht+3Bto

アミ「さて、と」

マミ「今日も行きますか!」

そう言って取り出したのは、煌く石を携えた腕輪。
装着すると石は輝き、二人の服装が変化した。
腕にはキラブレと呼ばれる、ヒーローの装飾品のような腕輪。
衣服はステージ衣装のような可愛らしい青とピンクの装い。
髪を束ねるのは、少し大人びたお気に入りの黒い髪飾り。

手作りの弁当で体に力はみなぎり、気力も充実している。
いつも通りの絶好調だ。
ステアに掴まり、二人は天を見上げた。
晴れ渡り、天気もまさに絶好のパトロール日和。
二人はもう一度笑顔を見合わせて、空に拳を掲げる。

アミ「今日も元気に、希煌石全開!」

マミ「行っくよー! キサラギーーーー!」

   『くっ……!』

“声”を響かせ、アミとマミ、そしてキサラギは、
今日も勢いよく空へと飛び立った。



638:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/03/11(土) 23:06:45.73 ID:kHht+3Bto

これで終わりです。
付き合ってくれた人ありがとう、お疲れ様でした。



元スレ
無尽合体キサラギ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1484913718/
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    コメント一覧

      • 1. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
      • 2017年03月12日 22:06
      • 大長編だな…!かなり読み応えありそうで楽しみだ…!
        昨日のビーフシチューに今日はワインをつけて読むとするか
      • 2. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
      • 2017年03月12日 22:25
      • まさかキサラギが期間限定とはいえスパロボに参戦するとはなあ……
        最近は気合の入った長編が多くていいわw
      • 3. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
      • 2017年03月12日 22:34
      • 特別ゲストとして如月千歳とコラボしねぇかなー
      • 4. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
      • 2017年03月13日 01:42
      • 5 素晴らしかった
        作者お疲れ様



        としか言葉が出ないくらいに満たされておる
      • 5. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
      • 2017年03月13日 18:56
      • 長そうだからとりあえずコメントみて考えるかと思ったらこれは見るしかねぇなぁ。
        ......時間あるときに腰を落ち着けてじっくり読むか。
      • 6. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
      • 2017年03月14日 05:45
      • 読み切ったあ!
        マコトつぇ…
      • 7. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
      • 2017年03月14日 12:49
      • 不覚にも目から汗が出る作品でした
      • 8. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
      • 2017年03月14日 12:55
      • ワイ花粉症、目が痒くなった理由が判然としない。

    はじめに

    コメント、はてブなどなど
    ありがとうございます(`・ω・´)

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