勇者「魔王を倒しに行くよ!」母「行かせるかァッ!!!」
勇者「おはよう、母さん」
母「あら、おはよう」
勇者「母さん、話があるんだ」
母「なあに?」
勇者「俺……魔王を倒しに行くよ!」
母「…………」
母「お腹を痛めて産んだ……可愛い子を……魔王退治になど……」
母「行かせるかァッ!!!」
ビュオッ!
母の放った突きが、勇者の頬を切り裂いた。
かわしていなければ、勇者の顔面は陥没していただろう。
勇者「母さん!?」
母「我が子に危険な旅に出すくらいなら……いっそ死なせてやるのが親心!」
母「ゆくぞ……」
母「シェアアアアッ!!!」
母親のローキックが勇者の足にめり込んだ。勇者の表情が歪む。
母「山をも倒壊させる我がローを受け、まだ立っているとは驚きだ!」
母「だが、戦いはこれからが本番!」
ビュオッ! ビュバババッ!
母親の突きの連打(ラッシュ)を、必死の形相でかわす勇者。
勇者(一撃一撃にとてつもない威力が込められている……!)
勇者(一撃必殺、どころか、かわしても避け方が悪ければ風圧で即死しかねない……!)
勇者はついに見つけた。
絶命弾の嵐の中にある、コンマ数秒のスキを。
母「シィィィッ!」
母親が蹴り技から、突き技を繰り出そうとする一瞬――
勇者「ここだァッ!」シュッ
ガシュッ!
勇者の右ストレートが、母親の顎を打ち抜いた。
母「あ……?」ガクンッ
勇者(好機ッ!)
勇者は全体重を乗せた渾身のヒザ蹴りを、母親の顔面に叩き込んだ。
グチャアッ!!!
母「ぐふっ……みごと……」ドサッ…
母「あ~~~……こりゃしばらく立てんわ……」
母「強くなったわね、勇者……」
母「行きなさい……魔王を倒す旅に!」
勇者「ありがとう、母さん」
勇者「!」
父「どこへ行く気だ」
勇者「無論、魔王を倒しに……」
父「ふん、この父を差し置いて勇者気取りとは、いい気なものだ」
勇者「いい気になるのは若者の特権だからね」
父「ひよっ子が……!」
父「ならばその思い上がり……叩き潰してくれるッ!」ジャキンッ
父親は両手に爪を装備した。
ザンッ……!
鋭い爪が勇者の肩肉をえぐる。
勇者「ぐ……!」ブシュゥゥゥゥゥ…
父「この爪にはな、最強の竜エンペラードラゴンをも0.001mgで絶命させる猛毒『ドラゴンコ口リ』が塗ってある」
父「父に歯向かった愚かさを悔いながら、地獄に落ちるがよい!」
勇者「…………」
父「!?」
父(なんと!? 切られた箇所を剣で削ぎ落とした!?)
父(『ドラゴンコ口リ』は猛毒だが、毒が回るのは少々遅い……その性質を見切ったか!)
勇者(0.5mgほど心臓や脳に毒が回ったか……まあ問題ない量だ)
勇者「続きだ、父さん!」
父「続きだと……? ハッ、すぐに終わらせてやるぞ、小僧ッ!」
爪と剣、父と息子、二つの正義がぶつかり合う!
――ガキィンッ!
秒間1000以上の攻防を重ねる父子。
父(息子よ、そろそろ俺の攻撃に目が慣れてきた頃だろう)
父(だが、俺は今まで八割程度のスピードしか出してはおらん)
父(今、そのギアを最大限にまで引き上げる!)
父(『ドラゴンコ口リ』で仕留めようとは思わぬ)
父(頸動脈を切り裂いて、父を超えようなどという愚かな野心ともども血の海に沈めてくれるわ!)
ギュオッ!!!
父親はこれまでにないスピードで、勇者の背後に回った。
スカッ
父「消え……ッ!?」
父(どこへ!?)(不覚)(瞬間移動!?)(策士策に溺れる)(危険)
勇者「MAXスピードで戦ってなかったのは、俺も同じだよ」
父「しまっ――」
ザシュゥッ!!!
勇者「父さん……」
父「ゆけ、勇者! 必ず魔王を倒してこい!」
父「ただし、村を出る前に幼馴染ちゃんと村長には会うようにしておけよ」
勇者「分かってるよ、父さん!」
勇者「やぁ、ポチ。行ってくるよ」
犬「ガルルルル……」
勇者「そうか、お前も俺を通すつもりはないんだな」
勇者「いいだろう、かかってこい!」
犬「ガルルルァッ!!!」
勇者(キャリアどころか、ウイルスを支配しているといっていい)
勇者(噛まれれば、ウイルスによって一瞬で肉体が破裂し、魂までも消滅する……)
勇者(だが!)
犬「ガルァッ!」
ガブッ!!!
ポチの牙が、勇者の腕に食い込んだ。
犬「…………」ニィィ…
ウィルスを支配しているから仕方ない
勇者の自己治癒力は、超狂犬病を体内から駆逐してしまった。
犬「ガルッ!?」
勇者「お前の十八番(ウイルス)は通用しなかったなァ……さぁどうする?」
愚問である。
超狂犬病ウイルスなど、ポチのサブウェポンに過ぎない。
真の武器は、己の肉体!
犬「ガアァァァァッ!!!」
ズバァッ!!!
勇者の剣は、ポチを鮮やかに切り裂いた。
犬「グブッ……!」
勇者「いい試合ができた……ポチ、行ってくるよ」ナデナデ
犬「クゥ~ン」フリフリ
切られた箇所を再生すると、ポチは犬小屋に戻っていった。
飼い主の強さに安心したのだろう。
勇者(さて、幼馴染の家に行って、別れの挨拶をしないとな)
弱い者ならば家に近づいただけで、肉も骨も溶けてしまう。
勇者「おーい」
幼馴染「なによ」
勇者「魔王を倒しに行くことにしたから、挨拶しようと思って」
幼馴染「あたしも連れてって!」
勇者「ダメだ、俺一人で行く」
幼馴染「ならば……ここで滅してくれるわ!!!」
右手からは100万度の炎を、左手からは絶対零度を更に下回る冷気を、勇者めがけて発射する。
ゴォォォォォッ! ビュオァァァァァッ!
しかし、勇者の肉体には傷一つ負わせることができない。
勇者「無駄だ……この程度じゃ火傷も凍傷も出来ないぜ」
幼馴染「しばらく見ない間に腕を上げたわね……」
幼馴染が呪文を唱えると、直径50メートルはあろうかという隕石が何百何千個と勇者に降り注いだ。
ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!
幼馴染「アハハハハッ! ど~お? あたしが最近開発した新魔法“特大メテオ乱舞”の味は!?」
幼馴染「あたしを村に置いていこうとした罰が当たったのよ!」
勇者の全身にはアザができていたが、致命傷には至らなかった。
幼馴染「なん……ですって……!」
勇者「君は……この村で待ってて欲しい」
ギュッ……
勇者は幼馴染の体をそっと抱き寄せると、
バキボキメキベキメキ……!
その腕力で、幼馴染の肋骨や背骨などを念入りに粉砕した。
幼馴染「あたたた! ギブ、ギブ!」
勇者「ありがとう」ニコッ
この程度の骨折なら回復魔法を用いて数秒で全快できる幼馴染であるが、負けは負け。
勇者は先を急ぐ。
すると、村人が話しかけてきた。
農作業と三度のメシを愛するごく平凡な村人である。
村人「やぁ! どこ行くんだい?」
勇者「魔王退治さ!」
村人「へぇ~、頑張ってくれよ!」
ボンッ!!!
村人の筋肉が隆起し、全身がまるで樹齢何千年の巨木のような太さになった。
村人「どうだ、この筋肉! 勇者、てめえを紙クズみてえに引きちぎってバラバラにしてやるぜェ!」
勇者「……来い!」
村人「はあああああああ!!!」ガシッ
勇者「むんっ!」ガシッ
グググググッ……!
組み合ってからの力比べ。わずかに村人の方が上のようだ。
ブオンッ!!!
砲丸投げのフォームで、村人が勇者を投げ飛ばす。
勇者(凄まじいスピード! どこまで飛ぶんだ!?)
音が裸足で逃げ出すほどの速度で、景色がめまぐるしく移り変わる。
やがて――
勇者「あれは俺の村だ……まさか!?」
村人「ようやく、この惑星を一周してきたようだな……」ニヤ…
グシャンッ!!!
村人は星を一周してきた勇者にカカト落としを決め、地面に叩きつけた。
マグニチュード100級の地震とともに、勇者の頭蓋骨が砕けた。
村人「伝わってきたぞ……お前の頭が砕ける感触が」
村人「バカな奴め……村を出ようなどと考えなきゃ、死なずに済んだものを……」
村人「バカな!? オレのカカト落としはお前の頭蓋骨と脳を粉砕したはず!」
勇者「俺は勇者だからな……それぐらいじゃ死なんさ」
村人「なるほど!」
村人「ならば、今度は宇宙の果てまで投げ飛ばしてやるッ!」ムキキッ…
村人の筋肉がさらに盛り上がる。
ガシッ!
再び投げようとするが――
村人「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!?」
勇者は村人を逆に投げ返し――
ズボォッ!!!
地中に叩き込んだ。
星の裏側まで突き抜けてしまった村人は、どうにか穴から出てくると笑顔で言った。
村人「さすがだ……君になら世界の命運を託せる!」
勇者「ありがとう!」
村長宅周辺には暗黒の瘴気が漂い、毒のマグマが噴き出し、絶えず雷が鳴り響いている。
勇者「やっとここまで来た……」
勇者「村長! 出てこい!」
村長は後ろにいた。
村長「なんじゃい?」
勇者「!」ゾクッ
勇者(いつの間に……!?)
村長「ほっほっほ、なるほど」
村長「おぬしは勇者じゃからな。好きにするがよい」
村長「だが、おぬしは勇者であると同時に、この村の代表でもあるのじゃ」
村長「代表に恥じぬ実力があるかどうか……見極めさせてもらうぞ!」
勇者「望むところ!」
勇者と同じく、村長も剣の使い手である。
勇者(剣を持った瞬間、村長の存在感が10倍以上に膨れ上がった!)
村長「つああっ!」ブオンッ
ズシャアアッ!
村長の剣で大地が割れた。
勇者(いや、これは――惑星ごと斬れているな!)
村長「おっとと……元に戻さんとな」ヒョイッ
ゆえに防御は不可能。
村長の踏み込みで地震が起き、
村長が息継ぎすると台風が起き、
村長が笑えば体力が全回復する。
まさに“村長”の肩書きに恥じぬ実力者!!!
勇者「だああっ!」バキッ
母親のようなローキック。
勇者「シャッ!」シュバッ
父親のような切り裂き。
勇者「ガアアアッ!」ガブッ
ポチのような噛みつき。
勇者「隕石よ、降れ!」ズドドドドッ
幼馴染のように隕石を降らせる。
勇者「うおおおおおおっ!」バキィッ
村人のような力任せパンチが村長をふっ飛ばす。
勇者の心身には、これまでに戦った強敵(ライバル)たちの力が詰まっていた。
村長「ほっほっほ、そうこなくてはならん」
村長「我が最大奥義にて、おぬしを全宇宙ごと滅ぼしてやろうぞ!」
村長の剣に、凝縮された“村気”が溜まる。
全宇宙を消滅させられるほどのエネルギーを纏い、村長が叫ぶ。
村長「村・長・斬ーッ!!!」
勇者「受けて立つぞ、村長ォォォォォッ!!!」
勇者は逃げない。
剣を構え、村長の一撃に立ち向かう!
ザシュゥッ!!!
会心の一撃だった。
勇者の剣は、村長の一撃を打ち破り、村長の体に一太刀浴びせていた。
村長「ぐふぉぉっ……!」ガクッ
勇者「いえ、紙一重の勝負でした」
村長「ゆくがよい。おぬしには勇者の資格がある」
村長「魔王を倒し、必ずやこの世を救うてくれい!」
勇者「はいっ!」
父「気をつけてな」
犬「ワン!」フリフリ…
幼馴染「魔王なんかに負けたら承知しないんだから!」
村人「無理そうだったら、いつでも村に帰ってこいよ! 代わりにオレが戦ってやる!」
村長「村のみんなでおぬしの勝利を祈っておるよ」
勇者「行ってきます!!!」
勇者(魔王はきっとものすごく強いんだろうな……頑張るぞ!)
………………
…………
……
王「勇者よ、こんな短期間で魔王を倒してくれるとは、驚いたぞ!」
勇者「……はい」
王「短い旅ではあったが、一番辛かった時の思い出を教えてもらえるか?」
勇者「村を出る時……ですかね」
王「ほう……やはり勇者といえど、家族や友人との別れは辛かったと?」
勇者「まあ……そういうことにしておきます」
王(なぜだ? なぜ勇者はこんなにも寂しそうな表情をしているのだ?)
王(まるで、世界にはもっと強い奴が沢山いると思っていた、といわんばかりに……)
― 完 ―
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コメント一覧 (19)
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