【ごちうさ】ギフト【チノココ】
- 2017年01月25日 21:10
- SS、ご注文はうさぎですか?
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クリスマスはあまり好きじゃない。
チキンもそこまで好きじゃない。
家族連れや恋人同士の中に入っていくのが嫌。
できれば、その日はお仕事だけをしておきたい。
どうせ、今年のクリスマスもサンタは来ないし、欲しいものは手に入らないから。
今は、お店。
閉店間際に来たお客さんのお会計を済ませる所。
ココアさんは裏で食器を片づけている。
リゼさんは今日は何かパーティーがあるみたい。
ドレスを着ないといけない、と震え声で先に上がらせてくれと帰って行った。
「お釣り120円になります。お確かめください」
「はい……あの」
「?」
「ホットココアいますか?」
「えっと、追加のオーダーですか? 生憎、ラストオーダーが」
「あ、違いますよ。ほ、と、こ、こ、あ、いますか?」
ココアいますか?
目の前の男性がドリンクを注文した訳ではないことだけは確かだった。
お釣りを渡した手を前に突き出して、
「少々、お待ちください」
奥に引っ込んだココアさんの元へ向かう。
「コ、ココアさん」
「なあに、チノちゃん」
「あの、最後に来たお客さん、ココアさんに用があるみたいです」
私の驚いた様子に、ココアさんも首を傾げた。
「私に? えー、帽子被ってた人だよね? よく見てなかったなあ。誰だろ」
素早く手の水気を拭きとって、ホールの方へ向かう。
よく見ると頬に泡がついていた。
そんな醜態をお客さんの前で晒すつもりなのか、と私も慌ててココアさんの後に続く。
「あの、ココアさん待ってくだ……わッ」
ココアさんの背中が鼻先で弾んだ。
「っとっと……」
なんでそこで立ち止まったのだろうか。
全くココアさんは。
悪態を吐こうとした瞬間、ココアさんが叫んだ。
「あー!」
そしてウサギのようにぴょんぴょん飛び跳ねながら、男性に抱きつく。
とても親し気に。
私は鼻を抑えながら、とっさに扉の後ろに隠れた。
(はッ、つい隠れてしまった……)
男性がココアさんの頭を撫でながら、大きな包み紙を渡していた。
ココアさんがキャーキャー大声で叫ぶものだから、男性の声は全く聞こえない。
恐らく、プレゼントか何かだと思う。
ココアさんが嬉しそうに、男性に抱きついている。
今日、この日になぜ。
なぜ。
そして、どうして私は隠れてるのだろう。
二人きりにした方がいいのかな。
そんな気を利かせないといけない相手なのだろうか。
ココアさんの嬉しそうな声。
なんでだろう。聞いていたくない。
気持ち悪い。
私は汚いものを見ないように、壁に背をつけずるずると蹲って、男性が早く帰ればいいのにと願った。
あの後、ココアさんが私の事を呼ぶので、反射的に奥に引っ込んでしまった。
「え、あ、お手洗いに」
「もー、呼んだのに。時間ないって急いで帰っちゃったよ」
両手からこぼれそうな紙袋をカウンターの上に置く。
「それ、クリスマスプレゼントですか?」
「そうだよ。本当に、びっくりしちゃった」
父はエリートで兄二人はエリートの卵、姉は完璧超人とかいう天才家族
すごい設定だわ
あんなに子供みたいにはしゃぐココアさんを見たことがない。
一体先程の人は誰なのか。
頬を緩ませるココアさんが憎らしくて聞けない。
「あのね、さっきのは」
「すみません。父が呼んでて、ちょっと後片付けお願いします」
言葉をさえぎって私は小走りに逃げ出す。
「チノちゃん?」
賢そうな人だった。背も高くて。目鼻立ちも整っていて。
女性が好みそうなタイプ。ココアさんも例外ではなくて。
それから、プレゼントもとても立派だ。
昼間にいつものメンバーで行ったプレゼント交換で私が用意した豪華客船のパズルよりも。
ずっと、ずっと大きい。
大きさじゃないけれど。
私のプレゼントが渡った時のココアさんの喜んだ姿を思い出してしまう。
どうだったろう。
少なくとも、あんなに飛び跳ねるように喜んではいなかった。
それがどうしてか辛かった。
憂鬱な気分を何度も物置に吐き出してから、私は店仕舞いに戻った。
「あの、ココアさん」
「なあに、チノちゃん」
椅子に座って宿題をしていた私はすぐ後ろのココアさんの頭に手を乗せる。
「どうしてここでしてるんでしょうか」
「チノちゃんのもらったパズルをチノちゃんの部屋でやらずにどこでやるの?」
「その理屈はよく分かりませんが」
見ると、2000ピースパズルが着々とイラストに近づいていた。
「そう言えば、前に私のパズルを勝手に完成させちゃったことありましたよね」
「あー、あったね。あの時は良かれと思ってやったんだけど、でもチノちゃんの楽しみを奪っちゃったんだよね。ごめんね」
「もし、今私がこっそりそれを完成させたら」
「凹みます」
「もうしないでくださいね」
「はいッ。ごめんね! チノちゃんがこんなに執念深かったなんて知らなかったよ! お願い、完成させないで!」
「ココアさんじゃないんだから、しませんよ」
パズルを覆うようにココアさんが四つん這いになる。
その態勢が可笑しくて笑ってしまった。
と、不意の質問に私は固まった。
「別に怒ってなんか」
「チノちゃんが私にいつもツンツンなのはそれはそれで美味しいけど、お店終わった後くらいからずっと気になってたの」
突っ込んだ方がいい所もあったけれど、そこはスルーする。
「あれは、ココアさんが顔に泡をつけたままお客様の対応をするから呆れてしまったんです」
「え、うそッ!? 言ってよ、チノちゃん!」
「言おうとしたんですけど、ココアさんが凄くはしゃいでたから……」
言おうにも、言えなかった。
「わー、もお! 絶対に見られたッ! 恥ずかしいよお!」
私のベッドに顔を埋める。
ココアさん自体が恥ずかしいんですから、気にしないでください。
なんてフォローにもならない言葉が浮かぶ。
私、今、人を傷つける言葉しか出てこない。
最低だ。
本当に。
父やおじいちゃんだったら、必死に冷静な表情を取り繕うこともないのに。
目の前のココアさんに抱きついて、この寂しい気持ちをさっさと伝えられない。
一人でボトルシップを作って、クリスマスにお父さんにプレゼントしたことがあった。
その時の自分なら、どうだっただろう。
父に喜んで欲しいと思っていただろうか。
あれは、自分の満足のためだったのかもしれない。
今は。
ココアさんを喜ばせる人が嫌い。
こんなにも笑顔にさせる人が大嫌いだ。
今も同じ。
私に振り向いて欲しいから。
だから、贈る。
そんな贈り物誰もいらないと思う。
ココアさんだってそうだと思う。
「してません。それと、そんなパズルよりさっきもらったプレゼントはどうされたんですか? ずいぶんと大きいようでしたけど」
「あ、気になるー? ふふふっ」
「まあ」
「えっとね、うさぎのモコモコパジャマと、抱き枕と、漫画で分かる六法全書」
「3つ? しかも、プレゼントらしからぬものが……」
「お兄ちゃんが紛れ込ませたんだと思う。私が、国際バリスタ弁護士になれるプレゼントって手紙に書いたから」
「なんでそんなことを……え?」
「うん?」
ココアさん、今、お兄ちゃんて。
「お兄さん、ですか?」
「お兄ちゃん二人と、お姉ちゃんからプレゼントだよ」
「じゃあ、夕方に来られたのは……お兄さん?」
「そうだよー。チノちゃんもしかして彼氏だと思っちゃった?」
「まさか、いるわけないよー。やだな、チノちゃん」
あの反応は間違ってもおかしくないと思う。
でも、そっか。
家族からの贈り物。
ココアさんの一番を知ってる人達。
「なんだ……」
「チノちゃん、そうだ、今日は一緒に抱き枕使おう! ね! さっき抱っこしてみたけどもっふもふだったから今日はぐっすり眠れるよ」
「遠慮します」
「冷たいっ」
ココアさんがよろよろと私にしがみついてくる。
もっと早くに、強がることなく聞いておけば良かったな。
足元で目を潤ませるココアさんの頭を撫でる。
無邪気に笑う。
そこに、何のやましさもない。
私のことを、少しでも特別と思っていてくれていたらいいけれど。
それはまだ高望みだろうか。
去年のクリスマスみたいに、私のために部屋で寝落ちするココアさんを期待してる。
もう、プレゼントはもらったから、そんなことあるわけないって分かっているけど。
他の人のプレゼントではしゃぐ彼女を見たいわけじゃない。
私には与えることができないと言われているようだから。
私はきっとサンタクロースにはなれない。
「チノちゃん、私ね、プレゼントはもちろん嬉しいけどそうやって拗ねてるチノちゃんが見れるのも嬉しいよ」
「な、何を言ってるんですかっ。別に、私は拗ねてません。勘違いしないでください」
「素直にならないと一緒に寝てあげないよー?」
「何を言ってるんだか……」
「ほれほれ」
「う……」
「こしょこしょこしょ!」
「やめてください」
急に脇をくすぐり始める意味が分からないココアさんの頬っぺたを両手で押しつぶす。
「ごめんにゃさいっ、わしゃしが一緒にねひゃいだけですぅっ」
また、ココアさんに言わせてしまった。
椅子から立ち上がってココアさんの背中に張り付く。
「どーしたの?」
後ろ手で私の背中を撫でた。
「あの……私」
小さく拳を握る。
一言が言えない。
背中に回されていた手が、私の拳を包む。
「よしよし」
よしよしって。
「意地悪してごめんね。チノちゃんの前だと……私、ついついお姉ちゃんぶっちゃって」
あ、ちょっと落ち込ませてしまった。
「わ、私は……そういうココアさんしか知りませんから、それでかまいません」
深呼吸して、
「ココアお姉ちゃん……」
ココアさんに抱きついた。
私だって、彼女の前では腑抜け野郎だ。
それが、妹と呼ばれる存在なのかな。
よく分からない。
ああだったら良かったのに、こうだったら良かったのにと言い合って。
お互いの一番のギフトを贈れるようになりたい。
いつかは。
「チノちゃんが、お姉ちゃんって、また呼んでくれた!!」
ココアさんが身悶える。
凄い喜びよう。
あれ、意外と簡単かも。
笑ってしまった。
「しょうがないココアさんです」
顔を見られないように、私はさらにココアさんを抱きしめた。
温かくて、良い匂いがした。
終わり
読んでくれてありがと
元スレ
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