美希「デスノート」【その4】

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美希「デスノート」【その4】






428:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/17(日) 19:53:47.17 ID:8iz8XaoV0

【都内某カフェ】


海砂「少し長い話になるけど……いい?」

美希「うん」

海砂「これはまだ美希ちゃんには話してなかったことなんだけど……あ、でももしかしたらもう知ってるかもね。ネットとかでは普通に出てる情報だし」

美希「…………」

海砂「今から一年半前の冬……私の両親は強盗に殺されたの」

美希「! …………」

海砂「その顔……やっぱり知ってた?」

美希「あー……うん。海砂ちゃんのファンの人のサイトに書いてあったから……」

海砂「そっか。うん。別にいいよ。あえて隠すような事でもないしね」

美希「…………」

海砂「その当時、私は高校三年生で……一応、地元の短大に進むつもりでいたんだけど……たった一日で、全てが狂った」

海砂「まるで心の中が空っぽになったみたいに、何も考えられなくなった。学校にも行かなくなって、ずっと家でふさぎ込んでいた」

海砂「当然、受験なんてできる精神状態じゃなかったから……結局、高校を卒業した後も、進学も就職もしないまま、ずっと家に閉じこもっていたの」

美希「…………」

海砂「そのうえ、両親を殺した犯人の裁判は長引き、冤罪の見方まで出始めた」

海砂「正直言って、もういっそ死んでしまいたいとさえ思ったわ」

美希「! …………」

海砂「そんな中、私の両親が殺された年の翌年……つまり、去年の夏」

海砂「中学からの友達で、家に引きこもったままの私をずっと気にかけてくれていた友達が……私をあるイベントに誘ってくれたの」

美希「あるイベント?」

海砂「うん。それが……美希ちゃん達が出演していた、765プロのファーストライブだったの」

美希「!」

海砂「その友達、元々すごく多趣味でね。ホラーとかオカルトとかも好きだったんだけど、アイドルにも興味があったみたいで。あ、もちろん応援する側でだけどね」

海砂「当時、私は関西にいて……ただでさえ家から出る気になれなかったのに、ましてや関東のイベントなんて……って思ってたんだけど、その友達があんまりしつこく誘ってくるもんだから、結局最後はその熱意に負けて……はるばる関東まで足を運んだの」

美希「そうだったんだ」

海砂「その友達としては、あえて地元から連れ出すことで、私の気持ちを少しでも切り替えさせようとしてくれてたみたいだけどね」

美希「そうなんだ。良い友達だね」

海砂「うん。今でもしょっちゅう電話してるよ」



429:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/17(日) 20:13:19.81 ID:8iz8XaoV0

海砂「でも私自身は元々、アイドルに特に興味も無かったし、さっきも言ったけど、何よりその頃の心境としてはもう自殺寸前くらいにまで落ち込んでいたから……正直言って、会場にまでは来たものの、ライブに参加することについては全然前向きな気持ちじゃなかったんだ」

海砂「それに当時はまだ、美希ちゃん達765プロのことも何も知らなかったしね」

海砂「そんな中、肝心のライブが始まったんだけど……」

美希「…………」

海砂「自分でも不思議だったよ。最初は本当にどうでもいい、って感じで冷めた目で見ていたのに……セトリが進むうちに、いつの間にか、美希ちゃん達765プロの皆を真剣に応援するようになってる自分がいたの」

美希「海砂ちゃん」

海砂「それで気が付いたら、友達が持って来てたサイリウムを借りて、見よう見まねで振ったりしてて……」

海砂「そのとき、実感したの。『ああ。私は今、楽しいんだ』って」

海砂「それまで私は、自分の事を世界一不幸な人間だと思っていたけど……そんな自分でも、まだこんな風に何かを『楽しむ』ことができるんだって思うと……それが素直に嬉しかった」

美希「……海砂ちゃん……」

海砂「そしてそんな中……私はさらなる衝撃に襲われた」

美希「さらなる衝撃?」

海砂「うん。セトリの後半……美希ちゃんの連続ソロ曲」

美希「! それって」

海砂「そう。『Day of the future』と『マリオネットの心』という……あのダンサブルな2曲の連続ソロ」

美希「ああ……懐かしいの」

海砂「もうね。私……このときの美希ちゃんのパフォーマンスがあまりに衝撃的過ぎて……正直、これより後の曲についてはほとんど覚えてないの。遅れてきた竜宮小町の水瀬伊織ちゃん達には悪いんだけど……」

海砂「それでね。ライブが終わった後……まだ夢見心地のまま、私は何も疑わずにこう思ったの。『自分も美希ちゃんみたいなアイドルになりたい』って」

美希「……そうだったんだ」

海砂「そして私は、もう一度生きてみようと思った。もちろん、殺されてしまった私の両親はもう二度と戻ってはこないけど……それでも、せっかく今、自分が持っているこの命を捨てるなんて、絶対にするべきじゃない……いや、したくないって思った」

海砂「私より五つも年下の美希ちゃんが、こんなに一生懸命頑張ってキラキラしてるのに……このまま何もしないで死ぬなんて嫌だって、そう思ったの」

海砂「だから美希ちゃんは……私が最初に憧れたアイドルなんだよ」

美希「……海砂ちゃん……」

リューク「キラだけにキラキラってか。ククッ」

美希(黙ってろなの死神)



430:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/17(日) 20:30:23.31 ID:8iz8XaoV0

海砂「それでその後、関西に戻った私は、すぐに髪を金色に染めたの。なんでかわかる?」

美希「もしかして……ミキの影響、ってこと?」

海砂「そ! まずは形からって思ってね」

美希「そうだったの」

海砂「それからは、とにかく目に付いたアイドル事務所に片っ端から応募して……美希ちゃん達のライブを観に行ってから、一か月後くらいだったかな? 私は今の事務所……ヨシダプロに採用されたの」

海砂「あ、もちろん765プロにも出したんだけどね。あえなく書類で落とされちゃって」

美希「あー……うちは人手少ないからね。そう簡単にはアイドルの数を増やせないの」

美希(それにその頃はまだ前のプロデューサーがいたはずだから、とてもじゃないけどそれどころじゃなかっただろうし……)

海砂「それで、私も正式にアイドルとして活動することになったから、事務所のある関東に引っ越してきて……それが去年の10月頃かな」

海砂「正直、その頃はまだ自分でも信じられなかったよ。ほんの少し前まで、人生に絶望して死ぬことすら考えていた私が、まさかこんな風になるだなんて」

海砂「それも全部……あの日、あのとき、あのライブで美希ちゃんと出会えたからこそ」

海砂「だから美希ちゃんは、私が最初に憧れたアイドルであると同時に……私に生きる希望を与えてくれた恩人でもあるんだよ」

美希「海砂ちゃん……」

海砂「なんて……まるで竜崎さんが春香ちゃんに言ってた話みたいだけど」

美希「…………」

海砂「ね、覚えてる? 初めて会ったときのこと」

美希「えっと……○×ピザのCMの件で、ミキがプロデューサーと一緒に海砂ちゃんの事務所に行ったとき?」

海砂「そう。今からもう半年くらい前になるかな?」

美希「うん。それはもちろん覚えてるの」

海砂「あの日、私……最初に美希ちゃんに会ったとき、めちゃくちゃ興奮してたでしょ?」

美希「うん。なんかすごかったの」

海砂「あのときはまさに、ずっと憧れていたアイドルが、今自分の目の前に! ……って感じだったからね。私としては」

海砂「もう色んな想いが込み上げて来て……正直、抑えられなかったの」

美希「そうだったんだ」



431:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/17(日) 20:48:00.14 ID:8iz8XaoV0

海砂「あと……これはそのときより少し前……去年の11月の事なんだけどね」

美希「うん」

海砂「実は……私の両親を殺した強盗が、キラに裁かれたの」

美希「!」

海砂「さっきも言ったけど、裁判では冤罪の見方まで出始めていたところだったから……正直言って、もう、天にも昇る心地だった」

美希「…………」

海砂「やっぱり、罰されるべき人には、ちゃんと罰が下るんだなって」

海砂「神様はちゃんと見てるんだなって……そう思った」

美希「…………」

海砂「でね。私は、このことも……美希ちゃんのお陰だなって思ってるんだ」

美希「!」

リューク「ウホッ」

美希「え、い、いや……流石にそれはキラがやったことで、ミキは全然関係無いって思うんだけど……」

海砂「うん。それはもちろんそうなんだけど……でももしライブで美希ちゃんに出会ってなかったら、私……そう遠くないうちに自殺してたと思うし。もしそうなってたら、キラの裁きを見届けることもなかっただろうなって思うから」

美希「あ、あー……そういうことね」

リューク「ククッ。なるほどな」

海砂「だから、それも含めて……美希ちゃんにはすごく感謝してるんだ」

美希「…………」

海砂「それで、最初の話に戻るんだけど……最近、またすっごくいいことがあってね」

海砂「これもやっぱり、私がこうして生きていたからこそ起こったことだと思うの。だから、美希ちゃん」

海砂「あの日、あのライブで私に生きる希望を与えてくれて、本当に……」

海砂「ありがとう」

美希「……海砂ちゃん……」

海砂「そしてこれからも、よろしくね」

海砂「ミサの憧れのアイドルの先輩として……そしてもちろん、友達として!」

美希「……うん! もちろんなの!」



432:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/17(日) 21:01:54.58 ID:8iz8XaoV0

(海砂と別れた後、家路を歩いている美希)

リューク「ククッ。まさかミサにとっての憧れのアイドルがミキだったとはな」

美希「…………」

リューク「それにやっぱりキラに対しても恩を感じているみたいだし……なあ、ミキ」

美希「何? リューク」

リューク「前にも言ったが……ミサになら、自分がキラだって教えてやってもいいんじゃないか?」

美希「…………」

リューク「きっとミサならお前がキラだと知っても受け入れてくれる……どころか、むしろ喜ぶと思うぞ」

リューク「自分の憧れのアイドルと、両親の仇を討ってくれた恩人が同一人物だったなんて分かったら……」

美希「…………」

リューク「そうしたら、『自分にも裁きを手伝わせてくれ』くらいのことは言い出してもおかしくないし……ハルカとももう知り合いになってるから、そういう意味でも都合が良い」

美希「……リューク」

リューク「おう」

美希「前にも言ったけど……海砂ちゃんはミキのアイドル仲間で友達。それ以外の何者でもないの」

リューク「……ちぇっ。最近ハルカが大人しいから、そろそろまた新しいキラの仲間が増えたら面白いと思ったんだがな」

美希「言っとくけど、別にミキはリュークを楽しませるために裁きをやってるわけじゃないの」

美希「ミキが裁きをしているのは、皆が笑って過ごせる、楽しく生きていける世界をつくるため」

美希「ミキの目的は、ただそれだけなんだから」

リューク「……はいはい。それはもう耳にタコができるほど聞いたぜ」

美希「あっ」

リューク「ん?」

美希「春香といえば……確か今日……」



433:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/17(日) 21:10:26.44 ID:8iz8XaoV0

【同日(美希が海砂とカフェで会っていた頃)・春香の自宅】


春香「これで、後はオーブンで焼いたらお手製クッキーの出来上がりです!」

清美「ありがとうございます。天海さん。急な申し出だったのに、快くお家に呼んでいただいたばかりか、クッキーの作り方も一から教えていただいて」

春香「いえいえ、そんな。私も楽しかったですし。それにこうやって高田さんと仲良くなれて良かったです」

清美「そう言ってもらえると嬉しいです。天海さん」

春香「えへへ……でも正直なところ、結構疲れませんでした?」

清美「そうですね……確かに、思ったより重労働に感じました。お菓子作りって大変なんですね」

春香「あはは。やっぱりそうですよね。でもしんどい思いをした分、出来上がったお菓子を頬張る瞬間は至福のひとときですよ」

清美「確かに。手間を掛けた分だけ、味わい深いクッキーになりそうです」

春香「そうなんですよ! 市販のとはまた違った良さがあるんです。ところで高田さん……あっ」

清美「?」

春香「えっと、今更なんですけど……『清美さん』って呼んでもいいですか?」

清美「えっ?」

春香「あっ、その……その方が今よりもっと仲良くなれそうかなって……だめでしょうか?」

清美「いえ、駄目なんてことあるわけないです。是非そう呼んで下さい」

春香「よかった! あっ、じゃあ私のことも『春香』って呼んで下さい!」

清美「そうですか? えっと、じゃあ……春香……ちゃん? でいいですか?」

春香「はい! あっ、それと丁寧口調じゃなくていいですよ。私の方が年下ですし……」

清美「そうですか? じゃあ……こほん。改めてよろしくね。春香ちゃん」

春香「はい! よろしくお願いします! 清美さん!」

清美「ふふっ。あ、それとさっき、何か言いかけてなかった?」

春香「あ、はい。えっと……」

清美「?」

春香「その、清美さん。誰かにお菓子手作りしてあげるんですか? って」

清美「ええ、夜神くんに」

春香「えっ」

清美「あっ」

春香「…………」

清美「…………」



434:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/17(日) 21:35:19.12 ID:8iz8XaoV0

春香「清美さ」

清美「今のは無し」

春香「…………」

清美「…………」

春香「えっと」

清美「……まあ、いいわ」

春香「清美さん」

清美「別に隠すようなことでもないし」

春香「……好きなんですね。ライトさんの事」

清美「そうね。こんな気持ちは生まれて初めてだわ」

春香「…………」

清美「春香ちゃん?」

春香「ああ、いえ……そっか、そうだったんですね」

清美「隠すことでもないとは言ったけど……一応、他言無用で頼むわね。特に、海砂さんとかに知られたら面倒くさいことになりそうだし」

春香「あはは。大丈夫です。誰にも言いませんよ」

清美「ありがとう」

春香(清美さんがライトさんの事を……多少予想外ではあったけど、まあ同じ大学だし、この前の集まりのときも少し仲良さそうに見えたし……別におかしくはないよね。清美さんは相当な美人だけど、ライトさんのルックスならお似合いだし……)

春香(とすれば、これを上手く利用できないものか……清美さんを通じて、ライトさんに何らかの探りを入れてもらう……)

春香(まずは美希に相談……って、駄目だ。美希には、私がまだLの正体を探ろうとしてるってこと言ってないし……)

春香(……あ、そういえば美希に『今日清美さんと会う』ってことは言っちゃったけど……まあそれくらいなら大丈夫だよね)

春香(まさかそれだけで『私が清美さんを通じてライトさんに探りを入れようとしている』なんて思うわけないし)

清美「? どうかした?」

春香「ああ、いえ。なんでも。あ、じゃあクッキー焼き上がる前に片付けしちゃいますねっ!」

清美「私も手伝うわ」

春香「ありがとうございます。清美さん」

清美(これで夜神くんに手作りのクッキーを……ふふっ)

春香(うーん……正直、今すぐにはちょっと上手い方法が思いつかないな)

春香(まあいいか。とりあえず今日のところは清美さんとのパイプを作れたことを良しとしておこう)

春香(それになんといっても、来週はアリーナライブに向けての合宿ですよ! 合宿!)

春香(Lの正体を探ることも大事だけど……アイドル天海春香としては、今はこっちの方を優先しないとね)

春香(『目指す夢は、トップアイドル!』)

春香(……なーんてね。ふふっ)



441:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/23(土) 00:45:09.04 ID:/l2fvKSs0

【五日後・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


(765プロダクション合宿・一日目)

L「…………」

L(相沢と松田からの報告によれば、星井美希・天海春香の二人はいずれも朝7時には事務所に到着。その後、他のアイドル達と一緒に事務所の車で空港まで移動)

L(現在は飛行機の搭乗手続中……)

月「そろそろか? 竜崎」

L「そうですね。先ほど相沢さんから『765プロダクション一行が保安検査場に向かった』という連絡がありましたので……もうすぐかと」

総一郎「…………」

星井父「…………」

模木「…………」

L「! 相沢さんからです」ピッ

一同「!」

L「はい。……今ですか? 分かりました。はい。……はい」

L「……ありがとうございました。一応、二人の乗った飛行機が飛び立つまでは見届けて下さい。お疲れ様でした」ピッ

月「竜崎」

L「はい。つい先ほど、765プロダクション一行が保安検査場の手荷物検査を通過したそうです。全員が通過するまでの所要時間は10時10分からの約15分間」

L「そのうち、星井美希はA検査場を10時12分に、天海春香はB検査場を10時18分にそれぞれ通過したとのことです」

一同「!」

L「では夜神さん。早速お願いします」

総一郎「ああ、分かっている。すぐに空港に連絡を入れる」ピッ

総一郎「もしもし。警察庁の朝日です。先日お伝えしていた件ですが、10時00分以降、現在までに手荷物検査を通過した全乗客の――……」

星井父「…………」



442:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/23(土) 01:22:48.74 ID:/l2fvKSs0

(十数分後)

総一郎「竜崎。早速送られてきたぞ」

L「! 早く見てみましょう」

月「でも、どの画像が二人のものか特定できるのか? 竜崎」

L「それは大丈夫です。画像にはそれぞれの通過時刻が記載されていますので、候補となる画像は可能な限り絞り込めますし……相沢さんおよび松田さんからは本日尾行中に撮影してもらった星井美希と天海春香の写真も送ってもらっていますので、これと照合すればほぼ特定できます」

月「なるほど」

L「では候補となる画像と二人の写真をまとめて画面に出します」

(捜査本部内のPCに複数枚の画像と写真が映し出される)

月「星井美希のものとおぼしき画像の候補は5枚……天海春香の方は4枚か」

L「はい。そしてこのうち、二人の写真と見比べてそれらしきものは……」

月「外見上、違和感が無いのは……星井美希は左から二枚目、天海春香は一番右か?」

L「そうですね。形状からして、これらの画像は写真と見比べても違和感がありません。まず間違い無いでしょう」

総一郎「! とすると……この、星井美希の方の画像に映っている……“これ”は……」

L「……はい。何かに覆われているようで一見分かりにくいですが……おそらくそうでしょうね」

星井父「! …………」

月「そして天海春香の方にはそれらしきものは映っていない」

総一郎「うむ。とするとやはり星井美希か……」

L「もちろん、最終的に確定させるのは合宿の最終日にもう一度この『確認』を行った際となりますが……一旦はこちらの思惑通りとして、次の対応に移りましょう。模木さん」

模木「はい。報道機関への指示ですね」

L「はい。手筈通りによろしくお願いします。そして夜神さんは先ほどのものと同内容の指示を今後二時間おきに空港の方へお願いします」

総一郎「ああ。あくまでも犯罪の一般予防の見地からの乗客の所持品確認……ということにしているからな」

月「定期的に確認要請を出しておけば、特定の個人に的を絞った捜査とはまず思われない……ましてやこれがキラ捜査などと疑われるはずも無い」

L「今やどこから情報が漏洩するか分からない世の中ですからね。これくらいは当然です」

総一郎「そうだな。用心はしておくに越したことは無い」

月「これで後は合宿最終日も同様の結果なら……いよいよだな。竜崎」

L「はい。その際は速やかに『計画』を実行に移しますので、月くんにはすぐに動いてもらうことになります。今のうちから心の準備をしておいて下さい」

月「大丈夫だ。それならもう嫌というほどしてきた」

L「それは心強いですね。そして……」

星井父「…………」

L「……星井さんは合宿期間中、毎晩、娘さんにメールを送るのを忘れずにお願いします。送る時間と文面は私が指定します」

星井父「……ああ。分かっている」

星井父「…………」

星井父(……美希……)



444:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/23(土) 01:38:58.43 ID:/l2fvKSs0

【三時間後・765プロダクション合宿所(福井県内某民宿)前】


(プロデューサーの運転する車から降りるアイドル達)

春香「ん~。潮の香り~!」

千早「海が目の前なのね」

響「ねぇねぇ、後で浜辺まで降りてみようよ!」

真「響! 後ろに山もあるよ、山!」

律子「ほら、あんた達。遊びに来たんじゃないのよ?」

響・真「はーい」

春香「私達も行こっか」

千早「ええ」

雪歩「美希ちゃん、ねえ着いたよ? 美希ちゃ……?」

美希「……うん。わかってるの」

雪歩「み、美希ちゃんが起きてる!?」

美希「何なのそのリアクション」

雪歩「だ、だって移動中の車の中で寝てない美希ちゃんなんて……。私、悪い夢でも見てるのかなぁ……?」

美希「雪歩は何気に失礼って思うな」

伊織「……まるっきり陸の孤島じゃない。携帯の電波は届くみたいだけど……」

やよい「見て見て、伊織ちゃん! なんだか学校みたいでワクワクするね!」

伊織「やよい。もう、あんなにはしゃいじゃって」

P「風光明媚で運動場も完備。楽しい合宿になりそうじゃないか」

伊織「まあね」

春香「…………」

千早「? どうしたの? 春香」

春香「ううん。別に何も。ただ……やっとここまで来たんだな、って」

千早「ええ、そうね。空港から結構遠かったものね」

春香「ち、違うよぉ! この合宿そのもののことを言ってるの!」

千早「わかってるわ。今のは冗談よ。ふふっ」

春香「なっ……! も、もー! 千早ちゃんのバカ!」

千早「ふふっ。ごめんなさい。春香」

美希「…………」

雪歩「どうしたの美希ちゃん? やっぱり眠いの? ねぇ眠いんだよね? そうなんだよね?」

美希「雪歩はどれだけ睡魔にミキを襲わせたいの」



445:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/23(土) 01:55:14.08 ID:/l2fvKSs0

(民宿の玄関口)

女将「遠い所ようこそ」

アイドル一同「お世話になります!」

主人「何もないとこやさけえ、びっくりしたでしょう」

P「いえ、そんな……」

伊織「とても素敵なところですね~」

美希「……でこちゃん、さっきは『陸の孤島』とか言ってなかった?」ボソッ

伊織「何か言った? 美希?」ニコッ

美希「なんでもないのー」

春香「あはは……」




(アイドル一同の宿泊部屋)

響「なんか前の旅行を思い出すな~」

真「亜美と真美がまだ着いてないから、なんか静かだよね」

伊織「いいことじゃない。それにあの二人にはあずさを無事に連れて来るっていう使命があるしね」

雪歩「四条さんも遅れて来るんだよね?」

響「夕方には着くって言ってたぞ」

真「ボクと雪歩も一度途中抜けするし……この合宿組むだけでも、プロデューサーと律子は大変だったろうね」

やよい「さすがですよね」

律子「皆ー、ちょっと下に降りてきてー」

春香「? 何だろう?」

美希「あ、春香。今は階段でこけなくていいからね」

春香「こけないよ!? 何その私がこけるタイミングを常に伺っているかのような言い草!?」

千早「えっ、違ったの?」

春香「千早ちゃんも今日はやけに攻めてくるね!?」



446:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/23(土) 02:03:21.87 ID:/l2fvKSs0

(民宿内・ロビー)

(アイドル達の前に、緊張した面持ちの七人の少女が立っている)

七人の少女「…………」

P「ええっと……そ、そんなに緊張しなくていいからな? はは……」

律子「皆、本業は同じスクールに通うアイドル見習いだけど、今回は特別にダンサーとして協力してくれることになったの。はい、自己紹介」

美奈子「佐竹美奈子です」

奈緒「横山奈緒です」

百合子「な、七尾百合子です」

志保「北沢志保です」

星梨花「箱崎星梨花です」

杏奈「望月杏奈……です」

可奈「や、矢吹可奈です!」

ダンサー一同「よろしくお願いします!」

 パチパチパチパチ……

アイドル一同「よろしくお願いします!」

可奈「…………」ジーッ

(春香をじっと見つめる可奈)

春香「ん?」

可奈「!」

春香「ふふっ。よろしくね」

可奈「は、はい。が、頑張ります!」

美希「…………」

千早「美希?」

美希「えっ。ああ……うん。なんだか面白くなりそうだね」

千早「もしかしてまだ眠いの?」

美希「千早さんまでどれだけミキを眠くさせたいの」

P「よし。じゃあ顔合わせも済んだことだし、この後は早速レッスンの時間だ。皆、二十分後に隣にある市民会館に集合。いいな?」

アイドル・ダンサー一同「はい!」



447:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/23(土) 02:17:11.67 ID:/l2fvKSs0

(市民会館内・練習場)

(合宿用に作られた練習着に着替えたアイドル・ダンサー達)

P「お、早速着てきたな」

雪歩「プロデューサー。ふふっ、なんだか気が引き締まります」

やよい「皆でお揃いって、いいですよね!」

P「そう言ってもらえると、作った甲斐があるよ」

伊織「なかなか気が利いてるじゃない」

P「ま、レッスン自体は律子に任せきりだから、これくらいはな」

奈緒「私達も貰ってしもて、よかったんかな?」

美奈子「うん……」

P「よし。まだ全員揃ってはいないけど、皆で作った貴重な時間だ。有意義に使おう!」

アイドル・ダンサー一同「はい!」

律子「合宿中はビシバシいくから、覚悟しなさいね」

響「望むところだぞ」

伊織「あんたのしごきには慣れてるわよ」

律子「春香」

春香「え?」

律子「リーダーとして、一言お願い」

春香「は、はい」

真「よっ、頼んだよ。リーダー!」

雪歩「春香ちゃん。頑張って」

春香「じゃあ僭越ながら……」スッ

伊織「あれ、こけなかったわね」

春香「だから人をこける芸持ってる人みたいに言わないで! ていうか最近はもうほとんどこけてないでしょ!」

伊織「まあそれはそうなんだけど、つい、ね。にひひっ」

春香「もう。えっと……こほん」



448:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/23(土) 02:29:01.87 ID:/l2fvKSs0

春香「……まずこうして、みんなで協力して合宿を実現できたことが嬉しいです」

春香「今回のアリーナでのライブは、過去に経験したことが無い、大きな規模のライブだよ。私達にとって大きなステップアップになると思うし、大切な思い出にもなると思う」

春香「何より、応援してくれる多くのファンの人達のためにも、力を合わせて最高のライブにしよう!」

アイドル一同「おー!」

響「よーし、やるぞー!」

真「気合入るね!」

春香「皆ー! いつもの、いくよー!」

(素早く円の形になるアイドル達)

伊織「ほら、あんた達も!」

ダンサー一同「は、はい!」

春香「じゃ、いくよー? 765プロー!」

アイドル一同「ファイトー!」

ダンサー一同「ファ、ファイトー……」

美希「…………」

春香「ん? どうかした? 美希」

美希「……ううん。別に、何も」

春香「もしかして、まだねむ」

美希「だからそれはもういいの!」

 アハハ……

春香(いよいよ……いよいよなんだ!)

春香(私達765プロは……皆で一緒に、トップアイドルになるんだ!)

美希「…………」

美希(今の春香は……)

美希(なんだか、とっても眩しいの)



453:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/23(土) 23:47:51.40 ID:9ubtCWpu0

(同日夜・アイドル一同の宿泊部屋)

(テレビを観ながらくつろいでいるアイドル達)

真「ふぅ。ミーティングも終わって、ようやく一段落って感じだね」

貴音「真、疲れましたね」

響「いや、貴音は夕食前に来たとこなんだからそんなに疲れてないだろ……」

亜美「亜美達は結構本気で疲れたけどねー」

真美「あずさお姉ちゃんのせいで鳥取まで行っちゃったしー」

あずさ「ごめんね亜美ちゃん、真美ちゃん。今度アメちゃん買ってあげるから許してね」

亜美「あ、アメちゃんて……もういいよ、お饅頭奢ってもらったし」

真美「うんうん。『てぬぐいまんじゅう』チョー美味しかったよね!」

あずさ「そう? それならよかったわ」

(適当にTVのチャンネルを回す亜美)

亜美「さて、なんか面白い番組やってないかな~っと……あ、またキラ特番やってる」

真美「毎日毎日よくやるねぇ」

真「でも結構長くなるよね。キラ事件が始まってからさ」

雪歩「確か、前のプロデューサーが亡くなった頃からだったから……もう七か月くらい?」

真「うん。もうそれくらいにはなるね。でもこれってまだ犯人どころか、どうやって心臓麻痺で人を殺しているのかさえも解明されてないんだよね」

響「あとそういえば、うちの事務所に刑事さん達が来たこともあったよね」

亜美「あー、あったあった。結局あの一回だけだったけどね」

真美「あれってさ、やっぱり真美達もキラ容疑者に入ってたってことだったのかな?」

伊織「まさか。たまたまキラ事件と同じ時期に前のプロデューサーが心臓麻痺で亡くなったから、念の為に話を聞きに来たってだけでしょ。あの刑事達もそう言ってたじゃない」

やよい「でも、私はやっぱりちょっと怖かったかなーって。あの刑事さん達、ドラマで刑事役やってる役者さん達とは全然雰囲気違ったもん」

春香「そりゃまあ本職の刑事さんだからね……」

亜美「でもさー、正直な所、亜美はキラってそこまで悪いヤツって思えないんだよね」

真美「うんうん。本当にどうしようもなく悪い人しか殺してないもんね。キラは」

雪歩「で、でもどんな理由であれ人殺しは駄目だよぅ」

亜美「でもさー、もし亜美のパパやママや……真美が」

真美「!」

亜美「何の理由も無く殺されたりしたら……亜美だったら、その犯人を殺してやりたいって思うと思うし、もし亜美にそれができる力があったら絶対にその力を使うと思う」

真美「亜美……」

真「そりゃまあ、そういう場合は別かもしれないけどさ。でも流石に犯罪者を片っ端から殺していくっていうのは……」

あずさ「でも、その犯罪者に殺された人のご家族や大切な人たちなんかは、今亜美ちゃんが言ったような思いをきっと持ってるわよね」

真「それは……そうかもしれないですけど」

あずさ「そういう人達の中には、キラの『裁き』で救われた思いをした人だって、きっといるんじゃないかしら」

あずさ「……もちろん、だからといって人を殺すのが良いことだとは思えないけど」

貴音「あずさの言うとおりです。如何な理由があれど、人を殺した上での幸せなどありえません。憎しみが憎しみを紡ぎ、負の連鎖をもたらすだけです」



454:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/24(日) 00:11:30.30 ID:eS+A3bOW0

伊織「そりゃ良いか悪いかでいえば、悪いに決まってるわよ。でも時と場合によっては、悪いと分かっていてもやるしかないこともあるって話でしょ」

真美「おや? いおりんがキラ肯定派とは意外だね」

伊織「別に肯定はしてないわよ。ただ、まったく理解できないわけではないってこと」

真美「なるほどね。ミキミキはどう?」

美希「死ぬほどどうでもいいの。あふぅ」

真美「うん。安定のミキミキだね。やよいっちは?」

やよい「え? わ、私? 私は……うーん、やっぱりどんな理由があっても、人を殺すのは良くないって思うけど……」

真美「やっぱりやよいっちはキラ否定派かぁ。まあなんとなくそんな気はしてたけど。千早お姉ちゃんは?」

千早「肯定か否定か、と聞かれると……少なくとも肯定はできないわね。ただ、全てを否定するつもりもないけれど」

亜美「じゃあ正義か悪か、でいうと?」

千早「正義か悪かの二元論を述べることに意味は無いわ。キラを肯定し、認めている人からすればキラは正義。キラを否定し、認めまいとしている人からすればキラは悪。ただそれだけのことよ」

亜美「ほへー……」

真美「流石千早お姉ちゃん……何言ってるのかイマイチよく分かんないけど」

響「千早が言ってるのは、所詮正義か悪かなんて相対的な概念に過ぎないから、一義的には決められないってことさー」

亜美「ひびきんがなんか生意気なこと言ってる」

真美「ひびきんのくせに生意気」

響「何この扱いの差!?」

千早「ただ少なくとも……私なら、仮に自分がキラと同じ能力を持っていたとしても、よっぽどのこと……それこそ、さっき亜美が言っていたような状況にでもならない限りは……怖くて使えないと思うわ」

亜美「うん。それは亜美も同意見だよ」

真美「じゃあ逆に、そういう状況までいかなくても、キラキラの能力を使いそうな人は……」

春香「キラキラの能力って、そんなゴムゴムの能力みたいに」

真美「あ」

春香「えっ」

真美「はるるん」

春香「え? え?」

真美「……は、絶対使わないだろうね」

亜美「うんうん。はるるんが誰かを殺すなんて……ひびきんのエイプリルフールのウソに誰かが引っかかるくらいありえないっしょ」

響「!?」

春香「何そのたとえ!? いやまあ確かに響ちゃんのウソに引っかかる人がいるとは一ミリたりとも思えないけど……」

響「!?」

亜美「つまり絶対無いってことだよ」

春香「そ、そっか。あはは……」

響「も、もー! 二人ともひどいぞ! ていうかそもそも、この中にキラの能力を使いそうな人なんていないでしょ!」

雪歩「そ、そうだよぉ」

亜美「あっ」

雪歩「えっ」

亜美「ゆきぴょん……」

雪歩「えっ、な、何?」

亜美「ゆきぴょんって結構ヤンデレ? っぽい雰囲気あるし……」

雪歩「え、えぇっ!?」

亜美「なーんて。冗談だよー」

雪歩「も、もうっ! 亜美ちゃんのバカ!」



456:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/24(日) 00:29:17.41 ID:eS+A3bOW0

真「あ、ニュース速報だ」

(TV画面上部にニュース速報のテロップが流れる)

伊織「……何々、『本日21時15分頃、複数の犯罪者が心臓麻痺により死亡。警察はキラによる殺人とみて捜査を進めている。死亡した犯罪者は以下の五名……』」

亜美「キラ特番の放映中にキラの裁きのニュース速報って……」

真美「うーん、まさにキラキラな時代ですなあ」

春香「いや、キラキラな時代って……」

美希「………… !?」ガバッ

春香「美希? どうしたの? 急に起き上がって」

美希「いや……なんでもないの」

春香「?」

亜美「もー。何寝ぼけてんのさミキミキ! おりゃあ!」

(枕を美希に投げつける亜美)

美希「わぷっ」

亜美「あはは!」

美希「もー! やったの!」

亜美「ぎゃっ!」

真美「救援するぜい! 亜美!」

春香「ぷわっ! な、なんで私!?」

真美「近かったから!」

春香「理不尽!? もう怒りましたよ!」

真美「やるかーっ!」



458:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/24(日) 00:40:14.91 ID:eS+A3bOW0

あずさ「あらあら、じゃあ私も~」

真「ならボクも!」

響「自分もやるぞ!」

やよい「うっうー! 私もいきます~」

雪歩「ひぃい……」

伊織「もう、皆して何子どもみたいなこと……きゃうっ!」

美希「いえーい! でこちゃんにクリーンヒットなの!」

伊織「で、でこちゃんいうなーっ!」

 ギャー ギャー

 ガララッ

律子「あんた達! いい加減に――」

 ボフッ

アイドル一同「あ……」

律子「……いい度胸ね?」

アイドル一同「ひぃっ……」

律子「覚悟なさい! とりゃー!」

 ワー ワー ドタバタ……




(一階・ダンサー一同の宿泊部屋)

百合子「なんだか賑やかですね」

美奈子「夜でも元気なんて、すごいなぁ」

可奈「…………」

可奈(明日は、春香ちゃんともっとお話できたらいいな……)



459:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/24(日) 01:31:39.15 ID:eS+A3bOW0

(三十分後・民宿前の浜辺)

(二人きりで浜辺に佇んでいる美希と春香)

春香「う~っ。もう6月の下旬とはいえ、やっぱり夜はまだ寒いね。すぐそばに海があるからかもだけど……」

美希「…………」

春香「で? 美希。話って何? わざわざこんな所まで連れ出したってことは……キラ関係の話だろうとは思うけど」

美希「……うん。さっき、TVでニュース速報流れてたでしょ? キラの裁きの」

春香「ああ、うん。それがどうかしたの?」

美希「実は……今日ミキが裁いたはずなのに、その時に報道されなかった犯罪者がいたの」

春香「えっ。本当に?」

美希「うん。今日はミーティングの後に六人の犯罪者の名前を書いたんだけど……その中で一人だけ、報道されなかった」

春香「そうなの? 確かにさっきのニュース速報では『死亡した犯罪者は以下の五名』って出てたけど……」

美希「うん。テロップだったからミキの見間違いだったかも、って思って、後でスマホでも確認したんだけど……やっぱりその人だけ報道されてないの。どのニュースサイトを見ても」

春香「……でも、美希は確かに裁いたんだよね? その報道されてない人も」

美希「うん。ほら、これ。今日の分の犯罪者の名前を書いた切れ端」スッ

春香「あ、切れ端に書いてたんだ」

美希「流石に皆がいる部屋でノートは出せないからね。今は鞄ごとここに持って来てるけど」

春香「なるほどね。……うん。確かに六人分、名前書いてあるね」

美希「でしょ? あ、でもひょっとして……名前が間違って報道されたのかも? 前にも一回、そういうことあったし……春香、ちょっと死神の目で名前見てくれない? 今、スマホでその人の顔写真が載ってるニュースのページ出すの」

春香「うん。いいよ」

美希「……あった。この人なの」スッ

春香「! 美希」

美希「どう?」

春香「この人、もう死んでる」

美希「えっ」

春香「もう死んでる人は名前も寿命も見えないの。この人はどっちも見えない」

美希「そうなの? ってことは……」

春香「報道された名前は合っていて、だから美希が切れ端に名前を書いたのも当然有効で、それによって確かにこの人は死んだ……なのに、なぜかその事実が報道されていない……ってことになるね」

美希「一体なんで……?」

春香「さあ……。犯した罪の重さも、他の五人と比べて特に重いわけでもなければ軽いわけでもない……これまでのキラの裁きの基準から逸脱した犯罪者でもない……」

美希「…………」

春香「正直、ちょっと分からないけど……まあたまたま、警察に発見されるのが遅れてるだけなのかもしれないし……明日になったら、普通に報道されてるかもよ?」

美希「うーん……まあ、ね」

春香「さ、今日はもう遅いし、早く部屋に戻って寝よう? 明日も朝からレッスンだしさ」

美希「……うん。そうだね。……ん?」

春香「? どうしたの? 美希」

美希「……ううん。なんでもないの。すぐに行くから、春香は先に部屋に戻ってて」

春香「分かった。じゃあまた後でね」

美希「うん」

美希「…………」

美希(パパからメール……? こんな時間に……?)ピッ



967: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/06(土) 14:27:30.68 ID:jizsduFN0

美希(『合宿の調子はどうですか? あまり無理をし過ぎないように、健康第一で頑張って下さい』)

美希「…………」

美希(一見、ミキのことを心配しているだけの普通のメールに見えるけど……)

美希(今の時間は22時40分……普段のミキならもうとっくに寝ているはずの時間……)

美希(パパなら当然、ミキがもう寝ているだろうってことは分かるはず)

美希(それなのに、あえてこんな時間にメールを送ってきた……? 特に急ぐような内容でもないのに……)

美希(……なんか、引っかかるの)

美希(! もしかして……)

美希(このメールを送ったのは、パパの意思じゃない……?)

美希(もし誰かがパパに命令して、ミキ宛てにメールを送らせたんだとしたら……)

美希(……そんなの、キラ事件の捜査本部の人間以外には考えられない)

美希(リュークが言うには、ミキが福井に着いてからは尾行はついていない。東京の空港まではついていたらしいけど……)

美希(だからその代わりにパパからメールを送らせて、それに対する返信のタイミングからミキの行動を把握しようとしている……?)

美希(いや、でも……メールの返信だけで行動を把握するっていうのは少し無理がある気がするの)

美希(だったら、もっと別の……ミキがキラとして疑われている前提なら……)

美希(キラ……裁き……)

美希(! そうか。ミキは今まで、基本的にずっと裁きの時間は変えずにここまできた)

美希(でももしこの合宿期間中だけ裁きの時間が変わり、それに連動するようにミキの生活リズムも変わったとしたら……)

美希(ミキの容疑は一層深まる……ってことなの)

美希(でもお生憎様なの。合宿中も裁きの時間は変えてない。だからミキが普段より遅い時間まで起きていても何の関係も無いの)

美希(そうと決まれば……)

美希(……『パパ、メールありがとう。ミキは元気なの。今日は初日だったからばたばたしちゃって寝るの遅くなっちゃったの。でも流石にもう寝るね。おやすみなさいなの』……っと)ピッ

美希(これでいいの。合宿期間中も普段と全く生活リズムが変わらないっていうよりは、むしろこれくらいの方が自然だと思うし……)

美希(何より裁きの時間が変わらない限り、そこからミキへの疑いを強めることは絶対にできないの)

美希(捜査本部ではまだキラの殺しの方法が分かっていないから、『合宿中は普段と同じようには裁けないはず』って思われてるのかもしれないけど……実際は切れ端に名前を書くだけなんだから、ほんの数秒の隙さえあればいつでも殺せるの)

美希(こんな狡い手段でキラの尻尾を掴もうなんて笑止千万なの。おへそでお茶を沸かしちゃうの)

美希(……でも)

美希(実際のところ、捜査本部の中でパパにこんな命令を出せる人がいるとしたら……やっぱりL? それとも刑事局長の夜神総一郎?)

美希(あるいは竜崎? 夜神月?)

美希(…………)

美希(まあ、いいの。誰の意思であっても同じこと……ここからミキがボロを出すことは無い)

美希(それにとりあえず、これではっきりしたことがあるの)

美希(パパは今もまだ、キラ事件の捜査本部にいる……か、いないとしても、捜査本部に対して捜査協力をしている立場にある)

美希(キラを……いや、ミキを捕まえようとしている……捜査本部に対して)

美希「…………」

美希(そしてさっきの報道……普通に考えて、あれもキラ事件の捜査本部が仕組んだ報道操作である可能性が高いの)

美希(ただ、死亡したことが報道されなかった犯罪者はまだ一人だけ……だとしたら春香の言うように、単に情報が遅れてるだけの可能性もあるの。最終的な判断をするのはもう少し様子を見てから……)

美希(でも、もしこれが本当にキラ事件の捜査本部が仕組んだ報道操作だとしたら……?)

美希(一体、何のために……?)

美希「…………」



472:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/30(土) 20:49:30.37 ID:QAtHYyqI0

【翌日・市民会館内練習場】


(765プロダクション合宿・二日目)

(アイドル・ダンサー一同のダンスレッスン中)

律子「1、2、3、4、5、6、7、8! ほら、動きなまってるわよ! まだまだそんなもんじゃないでしょ!」

アイドル・ダンサー一同「…………!」

律子「もっとキレ良く! しなやかに! ……」

律子「……よし。じゃあこのへんで少し休憩にしましょう。水分補給はしっかりね」

アイドル・ダンサー一同「はい!」

雪歩「はぁ、はぁ……律子さんのコーチ、久しぶりだね」

伊織「まだまだこんなもんじゃないわよ」

響「へへっ。自分だってまだまだいけるぞ!」

律子「……ふむ……」

真「あと、ここなんだけどさ……」

千早「そのステップ、私もまだちょっと遅れてるかも……」

やよい「私もついもたついちゃいますー」

春香「難しいよねぇ」

律子「…………」チラッ

美希「…………」

美希(昨日一人だけ報道されなかった、例の犯罪者……)

美希(今朝になっても……やっぱり報道されていなかった)

美希(こんなことは今まで一度も無かった)

美希(やっぱりこれはもう……意図的に報道が操作されているとしか思えない)

美希(だとしたら、それをしているのはやはり……)

美希(……L……)

律子「美希。ちょっといい?」

美希「! な、何? 律子……さん」

律子「今のパート、踊ってみてくれる?」

美希「うん。いいよ」

美希(な、なんだ……びっくりしたの)

律子「はい皆、ちょっと注目。じゃあ美希、お願い」

美希「うん」

(自分でリズムを取りながらダンスの1パートを踊りきる美希)

美希「……どう?」

春香「すごい! 美希!」

雪歩「かっこいい!」

伊織「ま、まあまあね……ふんっ」

律子「皆。最低でも、今の美希のレベルに追いついてもらうわよ」

伊織「よし! やるわよ!」

春香「うん!」



473:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/30(土) 21:05:13.68 ID:QAtHYyqI0

(美希のダンスを遠巻きに観ていたダンサー一同)

百合子「す……凄かったね」

杏奈「うん……」

可奈「…………」

あずさ「はい。皆、水分補給はこまめにね」

百合子「あ、はい! ありがとうございます!」

やよい「はい、どうぞ!」

杏奈「あ……ありがとうございます……」

あずさ「はい」

可奈「あ……はい。ありがとうございます」

可奈「…………」

(あずさから受け取ったドリンクには口を付けずに、じっと体育座りをしたままの可奈)

春香「……可奈ちゃん? どうしたの? なんか元気無いみたいだけど……」

可奈「えっ! そ、そんなことないです! 元気です!」

春香「そう? ならいいんだけど」

可奈「あ、あはは……」

可奈「…………」

可奈(どうしよう)

可奈(今のままじゃ、私……)

可奈(とても、春香ちゃんのバックダンサーなんて……)




(同日夜・民宿内食堂)

律子「それじゃあ、真と雪歩を送っていきます」

P「ああ、頼む」

真「行ってきます!」

雪歩「明日のお昼には戻ってきます」

P「行ってらっしゃい。二人とも気を付けてな」

真・雪歩「はい!」

(律子、真、雪歩を見送った後、食事中の残りのメンバーの方に向き直るプロデューサー)

P「……皆。そのまま聞いてくれ。いよいよレッスンも佳境だが、明日は練習風景の取材が入る。だが特に意識せず、練習に集中してほしい」

アイドル・ダンサー一同「はい!」

可奈「…………」

春香(可奈ちゃん、やっぱり元気無いような……)

美希「…………」

美希(今日の裁きの対象となる犯罪者は全部で五人)

美希(名前を書く時間は昨日と同じくらい……21時を少し過ぎた頃にするの)

美希(それでもし、今日も……昨日みたいに、死んだことが報道されない犯罪者がいたら……)

美希(…………)



474:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/30(土) 21:18:02.46 ID:QAtHYyqI0

【翌日・市民会館内練習場】


(765プロダクション合宿・三日目)

取材スタッフ「これ、こちらでいいですか?」

P「あ、それはこっちでお願いします」

取材スタッフ「では次、我那覇さんよろしいでしょうか」

P「分かりました。響、次頼む」

響「分かったぞ!」

取材スタッフ「では、この位置でお願いします」

響「はい! よろしくお願いします!」

P「…………」

善澤「やあ。やってるねえ」

P「! 善澤さん。はるばるありがとうございます」

善澤「何、こちらから申し入れさせてもらった取材だからね。それにしても……」チラッ

(インタビューを受けているアイドル達を見る善澤)

美希「……ハリウッド? もちろん楽しみなの。でも、今はライブのことで頭がいっぱいってカンジかな」

千早「ええ。まるで自分の中から、音楽が溢れ出てくるような感じで……。ですから、今は早く舞台に立ちたいと……」

やよい「はい! もっといーっぱいレッスンして、ファンの皆に思いっきり楽しんでもらえるようなライブにしたいです!」

善澤「――なんだか、すっかり頼もしくなったね」

P「ええ、まあ」

善澤「……ああ、でも君がここに来た頃にはもう既にこんな感じだったかな?」

P「そうですね……でもやっぱり、俺がこの事務所に来た半年前と比べて……一層輝きが増しているような気がします」

善澤「はは、そうかい」



475:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/30(土) 21:20:44.58 ID:QAtHYyqI0

真「ただいま、戻りました! ……あれ?」

雪歩「な、なんか人がたくさん……?」

P「お、真と雪歩、戻ってきたな。ちょっとすみません」

善澤「ああ」

P「お帰り。真、雪歩」

真・雪歩「プロデューサー」

P「いきなりで悪いが、二人ともすぐに取材の準備をしてくれ」

真「あ、はい」

雪歩「分かりましたぁ」

善澤「…………」チラッ

(インタビューを受けている春香を見る善澤)

春香「――絶対楽しいライブになると思います! 期待していて下さい!」

取材スタッフ「はい。天海さん、どうもありがとうございました」

春香「ありがとうございました!」ペコリ

善澤「春香ちゃん。僕からも一ついいかい?」

春香「善澤さん。はい。是非よろしくお願いします」ペコリ

善澤「今回のアリーナライブのリーダーに抜擢された理由……自分ではどうしてだと思う?」

春香「理由……ですか? そうですね……」

善澤「…………」

春香「私が、765プロの皆のことが大好きだから……ですかね?」

善澤「あっはっは。春香ちゃんは時々面白いねぇ。うん。でも、そういうところが必要なこともあるよ」

春香「そ、そうですか? え、えへへ……」

美希「…………」

美希(……春香……)



476:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/30(土) 21:27:36.10 ID:QAtHYyqI0

(取材終了後・ダンサーチームだけのレッスン中(アイドル一同は別室で休憩中))

律子「1、2、3、4、5、6、7、8! 1、2、3、4……、はーい、ちょっとストップ! 全体を意識して! もう一回!」

ダンサー一同「は……はい!」

律子「1、2、3、4、5、6、7、8! 1、2、3、4、5、6、7、8! ……よし、じゃあ一旦休憩!」

ダンサー一同「はい!」

可奈「はぁっ……はぁっ……!」

奈緒「可奈、大丈夫か? ちょっと遅れてんで」

可奈「ご、ごめんなさい……」

志保「……ついてこれないようなら、早めに言った方がいいんじゃない。後で言われても迷惑になるし」

可奈「!」

奈緒「志保! 何でそんな言い方……!」

志保「今ならまだ、他の人と交代することもできると思っただけです。本番直前になって『やっぱり駄目でした』じゃシャレにならないでしょう?」

奈緒「そ、それは……」

可奈「……いいんです」

奈緒「! 可奈」

可奈「今の時点で、私が皆についていけていないのは……事実ですから」

奈緒「せ、せやかて……」

志保「今のうちによく考えておくことね。この合宿が終われば、本番のライブまでもう後一か月と少ししかないんだから」

可奈「…………」



477:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/30(土) 21:39:06.34 ID:QAtHYyqI0

(レッスン終了後・市民会館の裏手)

(お菓子の袋を抱えて、一人佇んでいる可奈)

可奈「……プチシューを、食べても食べても、踊れないー……踊れないー……」

可奈「……はぁ……」

(水場で顔を洗った後、裏手に回ってきた春香)

春香「? 可奈ちゃん?」

可奈「! は、春香ちゃ……天海先輩!」

春香「こんな所で何してるの? おやつ休憩?」

可奈「は、はい! あ、あの、よかったら……たくさんどうぞ!」ガサッ

(プチシューの入った袋を差し出す可奈)

春香「あはは、ありがとう。じゃあ一つ貰うね」スッ

可奈「…………」

春香「……ねぇ、可奈ちゃん」

可奈「は、はい」

春香「やっぱり何かあった? 昨日から元気無いみたいだけど」

可奈「…………」

春香「私でよければ……話くらい聞くよ?」

可奈「……ありがとうございます。実は、私……まだちゃんと踊れてないんです」

可奈「せっかく先輩と一緒の舞台に立てるのに、焦るばっかりで……」

春香「…………」

可奈「…………」



478:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/30(土) 21:53:57.33 ID:QAtHYyqI0

春香「……可奈ちゃん」

可奈「はい」

春香「大丈夫だよ」

可奈「天海先輩」

春香「私も、そうだったもん。すぐにできるようになる人も中にはいるけど、上達の早さは人それぞれだから。何事も一歩ずつ、だよ」

可奈「一歩ずつ……」

春香「うん。アイドルになりたいって思った憧れを忘れなければ、いつか絶対出来るようになるって思うんだ」

可奈「憧れ……ですか?」

春香「うん。だから、焦らずいこ?」

可奈「……でも……」

春香「可奈ちゃん?」

可奈「この合宿が終わったら、本番のライブまでもう後一か月と少ししかないですし……」

可奈「私、さっきも他の子から『ついてこれないようなら早めに言った方がいいんじゃないか』って言われちゃって……『後で言われても迷惑になるから』って……」

春香「! …………」

可奈「でも実際その通りだから、私、反論できなくて……」

春香「……可奈ちゃん……」

可奈「私一人のせいで先輩方に迷惑掛けちゃうくらいなら……その子の言うとおり、もういっそのこと……」

春香「可奈ちゃん!」

可奈「! は、はい」

春香「……ちょっと、ここで待ってて」

可奈「えっ?」

春香「いいから待ってて! 絶対だよ!」ダッ

可奈「は、春香ちゃ……天海先輩!? 一体どこへ……」

可奈「……行っちゃった」

可奈「…………」




(同時刻・市民会館入口)

(一人で入口前の階段に座り込んでいる美希)

美希「…………」

美希(昨日の夜、ミキが裁いた犯罪者は五人)

美希(その中の一人が、また)

美希(――間違い無く裁いたのに――死んだことが、報道されなかった)



479:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/30(土) 22:30:04.30 ID:QAtHYyqI0

美希「…………」

美希(一昨日に続いて、これで二日連続……)

美希(昨日も春香に死神の目で確認してもらったから、裁き自体ができていることは間違い無い)

美希(とするとやっぱり、これはLの仕組んだ報道操作……もうそう考えるしかないの)

美希(思えばLがリンド・L・テイラーを使って行った挑発もTVを使ってのものだったし、手段としてはよく似ているの)

美希(それに前にも、名前を間違えた犯罪者の報道や、二人の犯罪者の顔写真を取り違えた報道があった)

美希(もしあれらも、Lの仕組んだ報道操作だったとしたら……)

美希(前者の報道ではキラの殺しの条件として名前が必要なこと、後者の報道では同じく顔が必要なことが分かる)

美希(つまりどっちも、『キラの殺しの条件を特定するためにLが仕組んだ報道操作』だったと考えれば辻褄が合うの)

美希(でも今回のは……どういう目的で?)

美希(『犯罪者が死んだことを報道しない』……そうすることに何の意味があるの?)

美希(当然だけど、Lは春香の目のことは知らない……つまりミキが『犯罪者が本当に死んだかどうかを確認する方法』を持っていることは当然知らないし、また知りようが無いの)

美希(だとしたら、『殺したはずの犯罪者が死んでいない』と思ったミキに、その犯罪者に対してもう一度殺しの行為をさせ……それを観察することで、キラの殺しの方法を特定しようとしている?)

美希(……いや、でもそれならミキが今も毎日行っている裁きを観察するのと何も変わらない。わざわざ同じ犯罪者に対して二回も殺しの行為をさせる意味は無いの)

美希(それにそもそも、ミキが福井に着いてからは尾行もついていないわけだから、観察しようにも……)

美希「…………」

美希(そういえば、パパからのメールは昨日も来た……一昨日に来た時間は22時40分だったけど、昨日は21時10分……微妙に時間を変えて送り、返信があるかどうかを確認することでミキの生活リズムを見定めようとしている……これは多分間違い無い)

美希(そうだとしたら、これは裁きの時間をこれまでと変えないことで十分対応可能……)

美希「…………」

美希(あとは裁いた犯罪者の一部が報道されていない理由……これだけが……)

美希(このことは春香にも伝えてあるけど、今の春香はもうほとんどアリーナライブのことしか頭にない……『Lの仕組んだ報道操作かもしれない』なんて、思いついてすらいないの)

美希(まあ春香は暴走しがちなとこあるから、正直今はその方が良いけど)

美希(でも春香が何も気付かず、自分から動かなかったとしても……)

美希(既にこうしてLがミキ達に対して色々と仕掛けて来ている以上……早めに手を打たないとまずいの)

美希(他の誰でもない――春香を、守るために)



481:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/30(土) 22:53:36.41 ID:QAtHYyqI0

美希「…………」

美希(だとしたら……現時点で一番効果的な手段は……)

美希(そんなの、考えるまでもないの)

美希(キラ事件の捜査本部のメンバーを―――全て殺してしまうこと)

美希(それを実現するために一番確実な方法は……今現在、顔と名前が分かっている全ての捜査員の名前をノートに書き……その死の状況を『キラ事件の捜査本部に所属する者及びその関係者の全員の顔と名前を『キラを捕まえようとする反逆者達』としてインターネット上のサイトに掲載した後、○日後に心臓麻痺で死亡』とでも設定する……)

美希(インターネット上に捜査員全員の顔と名前が掲載された後は、そこで初めて顔と名前が明らかになった捜査員……つまりミキや春香がそれまで知らなかった捜査員についても、最初に操った捜査員達と同じ行動を取らせてから心臓麻痺で死ぬようにノートに書く)

美希(こうすれば捜査本部にいる全ての捜査員が、自分も含めた全ての捜査員の顔と名前をインターネット上に掲載した後、心臓麻痺で死亡することになる)

美希(インターネット上に捜査本部全員の顔と名前が掲載された後であればその情報は万人の知るところとなるから、その後にその全員が心臓麻痺で死亡したとしても、それは単に『反逆者達がキラによって裁かれた』ということにしかならず、ミキや春香だけが特別疑われるようなことにはならない)

美希(また全ての捜査員が同じ行動を取ってから死ぬことになるから、後で警察が調べたところで特定の捜査員の行動だけを疑うこともできない)

美希(仮に『捜査員全員がキラによって操られ、全く同じ行動を取ってから死亡した』と推理することはできても、それぞれの捜査員がインターネット上に全ての捜査員の顔と名前を掲載する日時、さらにはそれぞれの捜査員の死亡する日時までをもランダムに設定しておけば……最初にキラによって操られたのが誰だったのか、すなわち最初からキラに顔と名前を知られていたのが誰だったのかも分からなくなるから、そこから足がつくこともなくなる)

美希(つまりこうすることで……ミキや春香がキラとして特定されることもなく、捜査本部のメンバーを全て葬ることができるの)

美希(……でも、それはあくまで『捜査本部のメンバー全員が互いの顔と名前を知っていること』が前提になる)

美希(もし外から捜査本部を指揮している者で……いや、あるいは捜査本部内の者であっても……)

美希(『捜査本部内の誰にも顔と名前を知られていない者』が一人でもいたら……その者だけは生き残ってしまう)

美希(そしてもしそんな人物がいるとしたら……その人物がLである可能性が極めて高いの)

美希(パパも、キラ事件が始まってすぐの頃だけど、『本物のLは俺達警察の人間もまだ会ったことがない』って言ってたし……)

美希(もちろん、その後にLがパパ達の前に姿を現している可能性はあるし……既にミキが把握している捜査本部のメンバーの中の誰かがLである可能性だってあるけど……)

美希「…………」

美希(でももし仮にそうだとした場合……その中で一番Lである可能性が高いのは……)

美希(やっぱり竜崎……“ L Lawliet”……)

美希(でもリンド・L・テイラーの例もあるし……名前が“L”ってだけではまだ……)

美希(確かに、竜崎は既にパパの前に姿を現しているけど……でも姿を現しているからこそ、むしろ逆にLではない可能性の方が高いとも……)

美希(…………)

美希(……パパ……か)

美希(Lのことは別にしても、もしミキがこの作戦を実行したとしたら――……パパも)

美希(…………)



482:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/30(土) 23:54:40.97 ID:QAtHYyqI0

春香「……美希!」

美希「! 春香? どうしたの。そんなに走って」

春香「あのね、美希。ちょっとダンスを……」

美希「ダンス?」

春香「うん。ダンス……教えてくれない?」

美希「え? 春香に?」

春香「あ、じゃなくて……その、ダンサーの中で一人、ちょっとまだ皆についていけてない子がいて」

美希「…………」

春香「ほら、美希、昨日律子さんにダンス褒められてたし……実際、すごく上手かったし」

春香「だから、ね? ちょっとだけ、コツとか教えてあげてくれないかなって……」

美希「…………」

春香「ダメ、かな……?」

美希「…………」

美希(こんなときに、ダンサーの子の心配って……)

美希(……いや、違う)

美希(『こんなとき』じゃない)

美希(春香にとって……ミキが守ろうとしている春香にとって……一番大切なときが……『今』なんだ)

美希(春香はいつだって、誰よりもアイドルで)

美希(ずっとずっと前から、トップアイドル目指して頑張ってて)

美希(そして何より、765プロの皆のことが―――大好きで)

美希(……そうだよ。ミキが守りたかったのは……)

美希(765プロの皆のことが大好きで、765プロの皆と一緒にトップアイドルになることを心の底から願っている――……)

美希(そんな、春香なんだ)

美希(だから春香にとっては、バックダンサーの子達も、一緒にステージを作り上げていく大事な仲間で)

美希(きっと――ミキ達765プロの仲間と同じくらい――大切な存在なんだ)

美希「……まったく、もう」

春香「み、美希?」

美希「後輩にダンス一つ教えてあげられないなんて、本当に困ったリーダーなの」

春香「えぇっ! ち、違うよぉ! そりゃ私だって教えられないわけじゃないけど、でも、どうせなら私より上手い美希に教えてもらった方が……」

美希「はいはい。もうわかったからとっとと行くの。きょーそーなの!」ダッ

春香「あっ! 美希ずるい! フライングですよ! フライング!」ダッ

美希「あははっ」

春香「もーっ! 待ってよー! 美希ーっ!」

美希(でもね、春香)

美希(ミキも、そんな春香のことが大好きなんだよ)

美希(恥ずかしいから、口に出しては言わないけどね)



483:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/31(日) 00:04:28.02 ID:xoYoQNlx0

(市民会館の裏手)

春香「可奈ちゃーん。ダンスの先生、連れて来たよ!」

可奈「! 美希ちゃ……じゃない、星井先輩!?」

美希「ああ、えーっと……マナちゃんだっけ?」

可奈「か、可奈です! 矢吹可奈……」

美希「ああ、可奈ちゃんね。ごめんねなの」

可奈「いっ、いえ!」

春香「よし。じゃあ早速やろっか!」

美希「…………」

可奈「…………」

春香「ん?」チラッ

美希「えっ! もうミキのターンなの!?」

春香「そりゃそうだよ! そのために来てもらったんだから!」

美希「む、無茶ぶりにもほどがあるって思うな……まあいいや。えっと、可奈ちゃんはダンスが苦手なんだって?」

可奈「は、はい。先輩方からはもちろん、他のダンサーの子達からも遅れていて……」

美希「…………」

可奈「正直、このままどんどん置いていかれちゃうくらいなら、もう今のうちに他の人に代わってもらった方がいいんじゃないかな、とか……思ったりしてて……」

春香「可奈ちゃん……」

可奈「…………」

美希「可奈ちゃん。いや、可奈」

可奈「は、はい!」

美希「可奈はどうしたいの?」

可奈「……えっ?」

美希「ミキ達のバックダンサーやりたいの? それともやりたくないの?」

可奈「そ、それは……」

美希「…………」

春香「…………」

可奈「……やりたい、です、けど……」

美希「じゃあ、いいじゃん」

可奈「えっ」

美希「ミキ的には、どうしたいか、だけでいいって思うな」

可奈「……星井先輩……」



485:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/31(日) 00:11:03.61 ID:xoYoQNlx0

春香「美希の言うとおりだよ。可奈ちゃん」

可奈「天海先輩」

春香「大切なのは……どうしたいか、だけでいいんだよ」

美希「それ今ミキが言ったの」

春香「み、美希!」

可奈「…………」

春香「か、可奈ちゃん? えっと、あの……」

可奈「……ぷっ」

春香「!」

可奈「くくっ……くふふふっ」

美希「可奈」

可奈「あはははっ。そっか……そうですよね!」

可奈「私はやっぱり……天海先輩や星井先輩のバックダンサー……やりたいです!」

可奈「だから、だからそのために……一生懸命練習する」

可奈「それでもし、他の人と同じくらい練習しても足りなければ……他の人よりいっぱい練習すればいい。ただ、それだけのことだったんですね」

春香「可奈ちゃん……」

可奈「ただそれだけのことだったのに……私、何を悩んでたんだろう。バカみたい」

可奈「天海先輩! 星井先輩! さっきは弱音を吐いてすみませんでした!」

可奈「矢吹可奈、もう泣き言は言いません! だから……ダンスレッスン、どうかよろしくお願いします!」ペコリ

春香「可奈ちゃん……! うん! 一緒に頑張ろう!」

美希「…………」

春香「……美希?」チラッ

美希「あ、そこはやっぱりそうなんだ。まあいいけど……」

美希「じゃあ、可奈。まずは一通り踊ってみて?」

可奈「はい! よろしくお願いします!」



486:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/31(日) 00:25:22.74 ID:xoYoQNlx0

(一時間後)

美希「……うん。大体こんな感じかな? だいぶ良くなったと思うよ」

可奈「はぁっ……はぁっ……ほ、本当ですか?」

美希「うん。まあまだ色々粗いけど、最初の頃よりはすごくマシになったの」

可奈「あ、ありがとうございま……」フラッ

春香「っと!」ガシッ

可奈「す、すみません。天海先輩」

春香「あはは。いいって。じゃあ今日はもう終わりにしよっか」

可奈「はい。星井先輩、天海先輩。今日は本当に、本当に……ありがとうございました!」ペコリ

美希「別にいいの。これくらい」

春香「そうそう。一緒にステージを作り上げていく仲間同士……お互いに助け合うのは当たり前だよ」

美希「春香はもっぱら応援しかしてなかったけどね」

春香「う、うぐっ。で、でも応援だって大切……でしょう?」

可奈「はい! 天海先輩の応援、とても励みになりました!」

春香「ほらぁ!」

美希「可奈は良い子なの」

春香「わ、わた春香さんの応援……」

美希「はいはい。応援ありがとうなの。春香」

春香「えへへ」

可奈「では、私はお先に失礼しますね。お疲れ様でした!」ペコリ

春香「うん。お疲れ様!」

美希「お疲れなのー」

春香「…………」

美希「…………」

春香「……なんか、意外だったよ」

美希「え?」

春香「いや、頼んだ私が言うのもなんだけど……美希があんな風に誰かに教える所って、今まであんまり見たこと無かったからさ」

美希「あー……まあ、ね」

春香「? 美希?」

美希「多分、うつっちゃったの」

春香「うつったって……何が?」

美希「春香の……キラキラ病」

春香「キラキラ……? 何言ってんの? キラは美希でしょ?」

美希「そういう意味じゃないの」

春香「?」

美希「まあいいの。ミキ達も早く戻ろう? もうお腹ペコペコなの」

春香「そうだね。私もお腹空いちゃって……」

春香「…………」

美希「? どうしたの? 春香」



487:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/31(日) 00:40:19.09 ID:xoYoQNlx0

春香「いや……もし以前の私なら、って思って。あ、さっきの可奈ちゃんのことなんだけどね」

美希「うん」

春香「もし以前の私なら……多分、言葉で励ますだけで……その場で具体的な行動にまでは移さなかったんじゃないかな、って」

春香「でも今日の私は、『今、この瞬間に動かなきゃ』って思った……いや、思えたんだ」

春香「『今自分ができる、最大限のことをしよう』って、そう思えた」

美希「春香」

春香「やっぱりこれも……竜崎さんのおかげかな」

美希「……竜崎の? なんで?」

春香「私、竜崎さんと出会ってから……思い出せたような気がするんだ。『一人一人のファンと向き合う』っていう……アイドルとしての初心を」

美希「…………」

春香「可奈ちゃんはアイドル候補生だから、ちょっと違うかもしれないけど……でも多分、『アイドル』という存在そのものに憧れを持ってるっていう意味では……ファンの人達とそう変わらないんじゃないかなって」

春香「だからそんな可奈ちゃんを見てたら、無性に何かしてあげたくなって……気が付いたら、美希を探して走ってたんだ」

美希「……春香……」

春香「それで思ったよ。やっぱり私……アイドルやってて良かったなぁ、って」

美希「! …………」

春香「アイドルやってたから、美希や他の皆と出会えたし、竜崎さんみたいな熱烈なファンの人とも出会えた」

春香「そして可奈ちゃんみたいに、未来のアイドルを目指して頑張ってる子にも出会えた」

春香「だから私はきっと……幸せなんだ」

美希「春香」

春香「……美希」

美希「何? 春香」

春香「アリーナライブ、絶対成功させようね」

美希「! ……うん。もちろんなの」

春香「そしていつか、765プロの皆と一緒に――……」

美希・春香「トップアイドルになろう」

美希「…………」

春香「…………」

美希「あはっ」

春香「ふふっ」



499:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/06(土) 18:11:05.44 ID:T/E0dweU0

【翌日・市民会館内練習場】


(765プロダクション合宿・四日目)

律子「はーい、ストップストップ。……よし! だいぶ合ってきたわね。この合宿の成果が遺憾なく発揮されてるわ」

律子「じゃあ最後は765プロメンバーだけで合わせましょうか。ダンサーの皆はもう上がって……」

可奈「ま……待って下さい!」

律子「? 矢吹さん?」

可奈「もう一回……もう一回だけ、私達も込みで合わせてもらえませんか?」

志保「!」

律子「え、でも……」

可奈「お願いします! この合宿で出来ること……全部、やっておきたいんです!」

春香「可奈ちゃん」

美希「いいんじゃない? 律子……さん」

律子「美希」

美希「ミキ達ならまだゼンゼン余裕あるし。ね、皆?」

真「もっちろん!」

伊織「望むところじゃない」

響「もう一回どころか、もう十回でもいいぞ!」

可奈「皆さん……ありがとうございます!」ペコリ

奈緒「か、可奈? 一体どうしたん?」

可奈「私……決めたんです」

奈緒「? 何を?」

可奈「もう絶対に諦めたりなんかしない、って!」

奈緒「可奈……」

可奈「だから……皆も、もう一回だけ一緒に踊ってくれませんか?」

奈緒「……ま、どういう心境の変化があったんかは知らんけど……そういうことならしゃーないな」

美奈子「うん。私達も頑張るしかないよね!」

星梨花「はい! 皆で頑張りましょう!」

百合子「わ、私だって負けません!」

杏奈「杏奈も……頑張る……」

志保「…………」

奈緒「志保」

志保「一応、言っておくけど」

可奈「…………」

志保「今、無理して倒れたりするのだけはやめてよね。そんなことになったら本当に迷惑だから」

可奈「! …………」

志保「……本番のライブまで、もうあと一か月と少ししかないんだから……ね」

可奈「! 志保ちゃん。それって……」

志保「ほら。早く準備しなさいよ。もう一回合わせてもらうんでしょう?」

可奈「……うん!」

律子「よし。じゃあ全員、さっきの位置に戻って。……いくわよ!」

アイドル・ダンサー一同「はい!」



500:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/06(土) 18:22:21.06 ID:T/E0dweU0

(同日夜・民宿の外の庭では合宿打ち上げのバーベキューが催されており、アイドル・ダンサー一同が思い思いに歓談している)

(そんな喧騒から少し離れ、民宿の廊下で二人きりで向かい合っている春香と可奈)

春香「話って何? 可奈ちゃん」

可奈「あ、はい。えっと……」

春香「?」

可奈「実は……私がアイドルになろうと思ったきっかけは、春香ちゃ……じゃない! 天海先輩なんです!」

春香「え……えぇ!?」

可奈「だから、私にとっての憧れは……天海先輩なんです!」

春香「じゃ……じゃあ昨日、私、自分のことを……」

可奈「そ、それで、あの……一つお願いが……」

春香「な、何かな!?」

(小さなパンダのぬいぐるみを差し出す可奈)

可奈「こ、これにサインしてください!」




(一時間後・民宿前の浜辺)

(二人きりで浜辺に佇んでいる美希と春香)

春香「……ってことがあってさ」

美希「へぇ。まさか可奈の憧れのアイドルが春香だったなんて、びっくりなの」

春香「私もびっくりしたよ。昨日までそんなこと、全然言ってなかったから……」

美希「…………」

春香「? どうしたの? 美希」

美希「いや……今では春香が憧れられる立場になったんだなぁ、って思って」

春香「そ、そうだね。そう言われると、なんだか不思議な感じだね」

美希「…………」

春香「……ねぇ、美希」

美希「ん?」

春香「昨日も言ったけど……アリーナライブ、絶対に成功させようね」

美希「春香」

春香「私達765プロだけじゃない。ダンサーの皆はもちろん、最高のステージを作るために必死で頑張ってくれているスタッフの人達……」

春香「そして私達をずっと見守ってくれている、たくさんのファンの人達の為にも……絶対に」

美希「……もう、そんなに何回も言われなくてもわかってるって。リーダー」

春香「えへへ。ごめんごめん」

美希「心配しなくても――……」

春香「? 何か言った? 美希」

美希「ううん。なんでもないの」

美希「…………」

美希(今度のアリーナライブには……これまでの春香の願い、想い……その全てが詰まっている)

美希(だからこのライブだけは、何があっても絶対に成功させてみせるの)

美希(たとえ――……何を犠牲にしたとしても)

美希(…………)



501:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/06(土) 18:39:44.49 ID:T/E0dweU0

【翌日・民宿内食堂】


(765プロダクション合宿・五日目)

(朝食後、プロデューサーの話を聞いているアイドル・ダンサー一同)

P「……では、四泊五日にわたったこの合宿もこれにて終了だ。今日は家に帰ったらゆっくり身体を休めて――……」

春香「あ、あの! プロデューサーさん」

P「ん? どうした。春香」

春香「えっと、実は一つ提案がありまして……」

P「提案?」

春香「はい。今、言ってもいいですか?」

P「ああ。もちろん」

春香「あの、難しいかもしれないんですけど……ダンサーの皆を、これからライブが終わるまでの間……うちで預からせてもらうことってできないでしょうか?」

P「うちって……765プロで、ってことか?」

春香「はい。ライブまでもうあと一か月と少ししかないですし……限られた残りの時間、できる限り皆で時間を合わせてレッスンした方がいいと思うんです」

律子「あ、あのね春香。そういうことをするには、まず社長とスクールに話を通してからじゃないと……」

P「春香」

春香「は、はい」

P「そのことなら、今俺の方から説明しようと思ってたところだ」

春香「……え?」

律子「ぷ、プロデューサー?」

P「ああ、すまん。律子にもまだ言ってなかったな」

P「実は……俺なりに、この合宿中の皆の様子を見ていて……今春香が言ったように、もっとダンサー組と合わせる時間が必要だと感じたんだ」

P「それにどのみち、ダンサー組も自主練だけじゃ限界があるだろうしな」

P「だからライブまでの間、ダンサー組には……空いている時間は原則としてうちで使っているレッスンスタジオに通ってもらう」

P「そしてうちの皆も、空いている時間はなるべくそっちに行って、少しでも多くの時間……ダンサー組と合わせる練習をしてほしい」

律子「……プロデューサー。もしやその件、もう社長やスクールの方にも……?」

P「ああ。昨日のうちに話を通しておいて、了解済みだよ」

律子「……言ってくれたら手伝いましたのに」

P「何、律子はずっとレッスン頑張ってくれていたからな。この程度の事務仕事まで任せきりにしてしまったら、俺がこの事務所に来た意味が無いだろ」

律子「プロデューサー」

P「……ともかく、そういうわけだ。これからライブまでの間は大人数になって皆も大変だと思うが、時間を合わせてレッスンしていこう」

アイドル・ダンサー一同「はい!」

春香「プロデューサーさん……ありがとうございます!」

真「人知れずそんな動きをしていたなんて……流石は敏腕プロデューサーですね」

貴音「つくづく、優秀なお方です」

P「別にこれくらいどうってことないさ。お前達、皆の頑張りに比べたらな」

P「とにかく、そういうことだ。皆、明日からもよろしく頼むぞ!」

アイドル・ダンサー一同「はい!」

美希「…………」



502:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/06(土) 18:49:15.49 ID:T/E0dweU0

(一時間後・民宿前)

女将「じゃあ皆、頑張ってね」

主人「応援してるよ」

アイドル・ダンサー一同「はい! ありがとうございました!」

律子「私達は一足先に飛行機で帰るから、ここでお別れね」

ダンサー一同「ありがとうございました!」

P「さっきも言ったが、今後もできる限り練習は合わせてやっていきたいと思う。ハードなスケジュールになるかもしれないが、よろしくな」

ダンサー一同「はい!」

春香「可奈ちゃん」

可奈「! はい」

春香「良いライブにしようね」

可奈「は……はい! 天海先輩!」

美希「次に会う時、可奈のダンスがどれだけ上達してるか楽しみなの」

可奈「つ、次に会う時って……もしかして明日とかじゃないですか!?」

美希「あはっ。もちろん冗談なの」

可奈「もう! ひどいですよ! 星井先輩!」

美希「……ライブ、頑張ろうね。可奈」

可奈「はいっ!」

奈緒「ダンスはともかく……可奈はもうちょっとおやつ控えた方がええんとちゃうか? なんや、合宿前よりこのあたりの肉付きが少し……」ツンツン

可奈「ひゃあっ! じ、自覚してるから言わないでください! ちゃんと控えますから!」

志保「……ライブまでに衣装が入らなくなってしまう可能性を考えたら、今のうちに可奈の代役を探しておいた方がいいかもしれませんね?」

可奈「ひ、ひどいよ! 志保ちゃんまで!」

 アハハハ……

美希「…………」

美希(この合宿期間中……結局、パパからのメールは少しずつ時間をずらす形で毎晩来た)

美希(その目的はミキが考えたとおりでほぼ間違い無いはず)

美希(またLの報道操作により、死亡した事実が報道されなかった犯罪者は……この合宿期間中、毎日一人ずついた。つまり昨日までで四人)

美希(パパのメールの方はともかく……この報道操作の方は未だに目的が分からない)

美希「…………」

美希(それでも……ミキは前に進むしかない)

美希(――皆が、笑って過ごせる世界をつくるために)

美希(だからもう、後戻りはできないの)

美希(たとえこの先に……何が待ち受けていようとも)

美希(…………)



503:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/06(土) 19:05:12.13 ID:T/E0dweU0

【三時間後・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


総一郎「――竜崎。福井の空港から、頼んでいた画像が届いた」

L「!」

総一郎「空港の保安検査場で――765プロ一行が通過した時間帯に実施された手荷物検査の際に撮影された――X線写真だ」

L「分かりました。では早速、行きの時と同様の手順で確認しましょう」

総一郎「うむ」

月「さっき相沢さんと松田さんから連絡のあった、星井美希と天海春香の保安検査場の通過時刻……それに該当しうるものは……」

総一郎「星井美希のものとおぼしき画像の候補は6枚……天海春香の方は3枚だな」

月「これと、相沢さん達が今日空港で撮影した二人の写真……ここに写っている、それぞれが持っている鞄の形状とX線写真とを照合すると……」

L「星井美希の鞄は一番右、天海春香のは左から二番目でしょうね」

総一郎「ああ。いずれも行きの空港で撮影されたX線写真のうち、我々が二人のものと特定した写真に写っていた物と全く同じ形状だ。まず間違い無いだろう」

L「はい。とすれば、やはり……ありますね」

L「星井美希の物とおぼしき、鞄の中に」

月「ああ。これも、行きの時のX線写真に写っていた物と全く同じ形状だ」

総一郎「ビニール様の袋の中に入れられ……さらにカバーのようなものに覆われているが……」

L「はい。もう断定していいでしょう」

L「――ノートです」

L「そしてこれはほぼ間違い無く……あの日、南空ナオミが目撃した……『黒いノート』でしょう」

星井父「…………」



504:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/06(土) 19:28:19.46 ID:T/E0dweU0

L「もちろん、X線写真では色までは写りませんし、ノートの表紙や中身に何が書かれているのかまでは分かりません」

L「しかし普通に考えて、もしこれが『ただのノート』なら裸の状態で鞄に入れるか……せいぜいカバーを掛けるまででしょう」

L「カバーを掛けた上でビニール様の袋に入れ、その状態で鞄に入れている……これはもう、鞄の開閉の際等に第三者に偶然ノートそれ自体を見られてしまうことを防ぐための措置としか思えません」

L「ここまでの措置をしている以上、このノートは『ただのノート』……すなわち、アイドルとしての活動を記録したノートや、勉強関係のノートなどではないことは明らかです」

L「そのような類のものであれば、ここまで厳重に外装を施す理由が無いですから」

総一郎「うむ……」

L「とすれば、これに該当しそうな『ノート』は……星井美希が天海春香から受け取っていたとされる例の『黒いノート』……もうこれしかありません」

月「また相沢さんと松田さんの尾行捜査の結果から、星井美希は外出時は常にノート大の物が入る大きさの鞄を携帯していることも分かっている」

月「現に僕や竜崎と例の会合で会っている時も、彼女はその程度の大きさの鞄を所持していた」

L「さらに付け加えるなら、私と二人で会ったときもそうでしたし……その後私を自宅に招き、星井さんを含めてリビングで歓談している間も、終始鞄を膝の上に抱えていました」

L「……そうでしたよね? 星井さん」

星井父「……ああ」

模木「係長……」

星井父「…………」

L「以上の間接事実から、星井美希は『黒いノート』を今回の合宿中のみならず、外出時は常に携行しているものと推測できます」

総一郎「……うむ。合宿中だけ持ち出していた、というのは逆に不自然だしな」

L「その通りです。普段の外出時は自宅かどこかに隠しているのなら、あえて合宿中だけ持ってくる理由がありません」

月「一方、天海春香に対する尾行捜査の結果によると、彼女の外出時には必ずしも星井美希のような傾向はみられず、手ぶらで外出することもある。この前の会合の際も、彼女が所持していたのはポーチだけだった」

月「そして今回の合宿においても……行き帰りの手荷物検査時のいずれについても、天海春香の鞄の中身を写したX線写真にノートらしき物は写っていない」

L「はい。つまり『黒いノート』を持っている……いえ、持ち歩いているのは星井美希だけ、と言ってよさそうです」

総一郎「うむ。とすると……後はこの『黒いノート』が何であるか、だな。わざわざ合宿地にまで持ち込むほどだ。常に目の届く範囲に置いておかなければならないほどに重要な物、ということではあるのだろうが……」

L「そうですね。ただ前に推理したとおり、キラ容疑者の二人が、事務所の他の者に見つからないような場所で授受していた物である以上……『キラとしての活動に関係する何らかの物』であることはまず間違い無いと思われますが……」

星井父「…………」

L「……まあいずれにせよ、これで『確認』は予定通り終了しましたので……この続きは相沢さんと松田さんが福井から戻って来てからとしましょう。といっても、もう後数時間もしないうちに着くでしょうから、それまでは各自休憩ということでお願いします」

総一郎「分かった」

星井父「…………」

模木(係長……)

月(ノート……キラの活動……殺しの能力……)



505:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/06(土) 19:49:30.03 ID:T/E0dweU0

(二人だけで捜査本部内に残っているLと月(総一郎、星井父、模木の三人は別室で休憩中))

L「…………」

L(相沢と松田が尾行捜査を始めてから一か月半ほどになるが……この間、星井美希と天海春香が外でノートを授受していたことは一度も無い)

L(つまり星井美希は『黒いノート』を天海春香に渡すために持ち歩いているわけではない……?)

L(とするとこのノート……連絡用の媒体ではないということか?)

L(仮にこれが、キラの活動に関する何らかの情報を伝えるためのものだとしたら……少なくとも、この一か月半の間で一度くらいは両者の間で授受されていてもおかしくないはず)

L(あるいは尾行の及ばない範囲……たとえば事務所の中などで授受されていたとしても……一度星井美希から渡されれば、少なくともその後しばらくは天海春香が持つ期間があってもいいはずだが……これまでの尾行捜査の結果からはそのような様子もみられない)

L(それに前にも出た話だが……そもそも連絡用の道具ならもっと小さいメモ用紙等でも足りるはず。あえてかさばるノートを選ぶ理由が無い)

L(だとすれば……やはり『ノート』という媒体自体に意味があり、他の媒体では替えがきかない……?)

L(いや、というより……『連絡用の道具ではないが、常に持ち歩かなければならない物』……だとすれば)

L(『媒体』ですらなく……『ノート』それ自体が何らかの意味を持つ物……ということか?)

L(外出時に家に置いておくことができず、常に持ち歩き、自分の目の届く範囲に置いておかなければならない物……つまり、もし他人に見つかったら致命的なもの……)

L(星井美希がキラだとして……他人に見つかった場合に最も致命的なものは……)

L(一つしかない)

L(キラの殺しの――直接的な証拠)

L(つまり……『ノート』それ自体が犯罪者裁きに必要であり……キラの殺しの能力に直接関係している道具……ということか?)

L(しかし、ノートで一体何をする?)

L(ノート……通常の用途ならそこに何かを書く……だが……)

L(ノートに何かを書いて人を殺している……とでも言うのか?)

L(いや、キラの能力は『直接手を下さずに人を殺せる』というおよそ非科学的な能力……これまで『頭の中で念じるだけでも殺せる』という可能性すらも想定していたことを思えば、そこまで突拍子も無い話でもないといえるか……)

L(だが書くとしても何を……?)

L(それを書くことで人を殺せるのだとしたら……いや、むしろ逆に『それを書かなければ殺せない』のだとすれば……)

L(ノートに書く必要のある『それ』こそが……まさに『キラの殺しの条件』そのもの……ということになる)

L(以前、報道機関に指示して、名前を間違えた犯罪者の報道と、二人の犯罪者の顔写真を取り違えた報道をさせた時……名前を誤って報道された者、顔を取り違えて報道された者達はいずれもすぐには殺されず……後日、正しい名前と顔で報道された直後に殺された)

L(このことから、少なくともその時点では、キラ……星井美希が殺しの能力を使うには『顔と名前』の両方が必要だったと考えられる)

L(つまり、この当時のキラの殺しの条件は―――『顔と名前』)

L(もし仮に、そのうちのいずれかをノートに書くとしたら……)

L(普通に考えて……『名前』……)

L(! ……名前を書くと、書かれた人間が死ぬ……?)

L(…………)



506:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/06(土) 20:09:39.75 ID:T/E0dweU0

L(だが名前だけでは殺す対象として特定できない……同姓同名の者などいくらでもいる)

L(だとすれば……ここで考えるべきは、もう一つのキラの殺しの条件である『顔』……)

L(『名前を書くと、書かれた人間が死ぬノート』……これにこの『顔』という条件を付加するとすれば……)

L(……『顔を知っている人間の名前を書くことで、その人間を殺せるノート』……か)

L(このように考えれば、殺す対象としては特定できる……同時に、これまでのキラの裁きを合理的に説明することができる)

L(また星井美希が常にノートを持ち歩いている理由も理解できる。殺しの道具そのもの……家の中など、誰がいつ手に取るか分からない場所に無防備に置いておけるわけがない)

L(……だが……)

L(南空ナオミが目撃したのは、天海春香が星井美希にノートを渡していた場面だったとのこと)

L(ノートで人を殺せるとしても、それを使って犯罪者裁きをしていたのは星井美希のはずだが……何故それを天海春香から受け取る形に……?)

L(! 待てよ……南空ナオミが二人の間でのノートの授受を目撃したのは、星井美希の自宅から監視カメラを撤去してから二日後だった)

L(ノートを使って犯罪者を裁いていたのは星井美希だったとしても……もし彼女が何らかの方法でカメラの設置に気付き……監視期間中だけ天海春香にノートを貸し、裁きを代行させていたのだとしたら……?)

L(説明がつく……! 監視中に星井美希が全く報道を見ていない犯罪者が心臓麻痺で死んだこと……そして)

L(またも何らかの方法でカメラの撤去に気付いた星井美希が、そのことを天海春香に伝え、ノートを返してもらった……)

L(そしてその場面を、南空ナオミが目撃した……!)

L(そう考えれば、二人の間でのノートの授受が目撃されたのがその一度だけだったことも……そしてその後はずっと星井美希がノートを持ち歩いているということも……全て合理的に説明できる)

L(ただ、どうやって星井美希がカメラの設置や撤去に気付いたのか……そこだけは分からないが……)

L(まあ星井美希は天才的な嗅覚を持つアイドル……何らかの勘……いわば第六感のようなものが常人より強く働いたのかもしれない)

L(…………)



507:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/06(土) 20:23:14.48 ID:T/E0dweU0

L(ともあれ、『星井美希はノートを使って犯罪者裁きを行っていた』……このことを前提に考えるなら……)

L(星井美希が765プロダクションの前のプロデューサーを殺した時点では、天海春香とはまだ連携していなかったはず)

L(前にこの本部でも話したが……そうでなければ、天海春香が殺したと思われるアイドル事務所関係者と前のプロデューサーとの死因の違いが説明できないからだ)

L(だとすれば……『天海春香と連携することなく、星井美希は独断で前のプロデューサーを殺した』……つまり)

L(星井美希は、天海春香とは無関係に独自にノートを入手したということになる)

L(しかし一方で、天海春香は星井美希による犯罪者裁きが始まるより前に、既に複数のアイドル事務所関係者を殺していた)

L(よって、これらのことからすると……二人はそれぞれ、相互に無関係に別々のノートを入手し、所持している……ということが帰結される)

L(ならば星井美希が監視期間中、裁きを代行させるためにノートを天海春香に貸す理由は無い……? 天海春香も自分のノートを使って裁きができたはず……)

L(いや、『星井美希が監視カメラの設置に気付いていた』という前提なら……単純に、ノートを物理的に観られることを恐れ、念の為に天海春香に預けた……としても不自然ではない)

L(およそ女子中学生が好んで使うとは思えない『黒いノート』……むしろそれくらいの対策は当然に思いつくだろう)

L(また現在、星井美希がノートにカバーを掛け、さらにビニール様の袋に入れているのもそれと同じとみれば……一連の行動として矛盾は無い)

L(つまり、監視期間中はノート自体を絶対に観られないようにするために天海春香に預け……監視が終わり、天海春香からノートを返してもらってからも、自室に監視カメラまで設置されたという経緯を踏まえて警戒度を上げ、何らかの偶然で他人に見られることを防ぐためにカバーと袋という措置を施した……)

L(…………)



509:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/06(土) 20:51:09.25 ID:T/E0dweU0

L(いや……だがまだ疑問が残る)

L(少なくとも、名前を間違えた犯罪者の報道と、二人の犯罪者の顔写真を取り違えた報道をさせた時点では……星井美希が殺しの条件として『顔と名前』の両方を必要としていたことは間違い無い)

L(だが一方で、これまでの捜査結果から、『天海春香は顔だけでも殺せる』……このこともまた間違い無い)

L(しかし殺しの道具が『名前を書くと、書かれた人間が死ぬノート』であるとすれば、『名前が分からなくても殺せる』というのは明らかに矛盾する……?)

L(いや、そうじゃない。『顔さえ分かれば殺せる』ということと『名前が分からなくても殺せる』ということはイコールではない。だとすれば……)

L(…………)

L(考えるんだ……もはや科学的か非科学的かではなく、論理的か非論理的かで考えなければならない)

L(『名前を書くと、書かれた人間が死ぬノート』と『顔さえ分かれば殺せる能力』……この二つを論理的に整合させるなら……)

L(! もしも……顔が分かれば、名前も分かる……としたら……?)

L(つまり……)

L(天海春香が持っている能力は……『顔を見れば名前が分かる能力』)

L(そして星井美希は……少なくとも、件の誤った報道の時点まではこの能力を持っていなかった)

L(このような仮定に立てば……キラの裁き、その方法、そして天海春香が持っていると思われる能力についても、全て論理的に説明できる)

L(もっともこれは、既に天海春香に顔を知られている以上、私の本名も天海春香に……いや、天海春香と星井美希の両名に知られているということを意味するが……)

L(だが、私はこれまでも『天海春香は顔だけでも殺せる』という前提の下で推理をしてきた。その推理の内容が具体化したからといって、現状における殺されるリスクが増えたわけではない)

L(むしろもうここまできたら、必要なのはこの推理に確証を与えるための行動……すなわち『計画』を速やかに実行することだけ……)

L「…………」

月「竜崎」

L「はい。何でしょう。月くん」

月「今の状況から……僕なりに仮説を立ててみたんだが、少し聞いてもらってもいいか?」

L「ええ。もちろんです」

月「この『黒いノート』は……『顔を知っている人間の名前を書くことで、その人間を殺せるノート』なのかもしれない」

L「! …………」

月「もっとも天海春香は『顔だけでも殺せる』ようだが……それも『顔を見れば名前が分かる能力』を持っていると考えれば矛盾は無い」

L「…………」

月「言うまでもなく、どちらも極めて非科学的な内容の推理だが――……しかしそもそも、『直接手を下すことなく人を殺せる』なんてこと自体が十分非科学的――」

L「――月くん」

月「何だ? 竜崎」

L「やはり私が死んだら、継いでもらえませんか」

月「え?」

L「Lの名を」



534:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/12(金) 22:02:20.92 ID:BAYtr05R0

月「…………」

L「…………」

月「竜崎」

L「はい」

月「僕達はどちらも死なない。そして必ずキラを捕まえる」

月「それが僕の答えだ」

L「……月くんらしいですね」




(三時間後・相沢と松田が戻り、捜査員全員が揃った捜査本部)

(『黒いノート』およびキラの能力に関する推理を他のメンバーに話すLと月)

L「……というのが、現時点での私と月くんの推理です」

月「およそ非科学的な推理ではありますが……しかしその点さえ措けば、キラの裁きや殺しの能力を最も合理的かつ論理的に説明することができる推理だと思います」

総一郎「……名前を書いたら、書かれた人間が死ぬノート……」

相沢「そして『顔を見れば名前が分かる能力』……か」

松田「確かに非科学的ではありますけど……でも月くんの言うように、キラの裁きや殺しの能力については……」

総一郎「……うむ。極めて合理的、かつ論理的に説明できている」

月「ですが、これはあくまでもまだ『推理』でしかありません。この『推理』に『確証』を与えるには……」

相沢「ノートの現物を押さえて……検証するしかないってことか」

月「はい」

星井父「…………」

松田「で、でも……ノートの検証っていっても、具体的にはどうやるんですか?」

L「『ノートに名前を書かれた人間が死ぬかどうか』の検証ですから……当然、誰かの名前を書いてみるしかないでしょうね。一番分かりやすいのは……死刑の決まっている者の名前をノートに書き込むこととし、もし名前を書き込んでもその者が死ななければ死刑を免除する、という司法取引を交わさせる……などでしょうか」

総一郎「りゅ……竜崎! いくらなんでもそんなやり方は……」

L「……まあ、とりあえずは自白が優先です。もしノートにこれまでに裁いてきた犯罪者の名前が書かれていればまず言い逃れはできないでしょうし……書かれていないか、あるいは書かれていても認めないようであれば、こちらの推理内容を一通り聞かせた上で自白を促す……」

L「ただ、いずれにしてもノートの現物を押さえてからの話です。検証の方法はまたその後で考えましょう」

総一郎「う、うむ……」

月(上手くはぐらかしたな)



535:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/12(金) 22:18:26.40 ID:BAYtr05R0

相沢「竜崎。ちょっといいか?」

L「はい。何でしょう。相沢さん」

相沢「765プロの合宿期間中……係長が星井美希に送ったメールの件だが」

L「はい」

星井父「…………」

相沢「係長が送ったメールに対する星井美希の返信のタイミングから察するに……合宿中ということもあって、生活リズムは多少変動していたようだが……それでも毎日23時までには就寝していたと推測される」

L「そうですね。23時以前に送ったメールはその日のうちに返信がありましたが、23時以降のメールについては翌朝に返信が来ていました」

L「もちろん、起きていてもすぐには返信しなかったという可能性もありますから、あくまでも推測の域を出ませんが」

相沢「ああ。だが、合宿期間中のキラの裁きはそれ以前と同様……いずれの日も22時以前だった。よって星井美希の生活リズムの変動とキラの裁きの間に相関性は無い……」

L「はい。ですが、それは彼女がキラであるとする推理を強める根拠にはならないというだけで、弱める根拠にもなりません」

相沢「ああ、それは分かっている。俺が気になっているのは『合宿期間中も裁きの時間は変わらなかった』という点だ」

L「……と、言いますと?」

相沢「竜崎や月くんの推理を前提にすると……星井美希は合宿期間中も『黒いノート』に犯罪者の名前を書いていたということになる。そしてその時間は毎日22時以前……おそらくはまだ他のアイドル達も起きているであろう時間帯にだ」

L「……つまり、『他のアイドルに見つかるかもしれないのに、あえてそんなリスクを冒すか?』ということですか」

相沢「そうだ。どうせなら他のアイドルが寝静まってから……あるいは明け方など、安全な時間帯はいくらでもあったはずだ」

相沢「それにもかかわらず、あえてリスクを冒してまでそれまでと同じ時間帯に裁きを行ったというのは……正直、可能性として高いとはいえないのでは?」

L「そうですね……。まず考えられるのは、単純に他のアイドルを信頼していた……つまり万が一、ノートに犯罪者の名前を書いているところを見られたとしても……後でいくらでも誤魔化すことができ、また他のアイドルも自分の言うことを疑うはずが無いという確信があった……といったところでしょうか」

松田「な、なんか随分楽観的ですね……」

L「……それだけの強固な信頼関係が、765プロダクションのアイドル同士の間にはある……その点については私も否定しません」

松田「竜崎……はるるんのファンの振りをしているうちに、なんだか本当にファンになってません?」

相沢「松田」

松田「はい。すみません」

L「……あともう一つ考えられるとしたら……『あえて裁きの時間帯を変えなかった』という可能性です」

相沢「あえて……?」

L「はい。前にも言いましたが……おそらく星井美希は自分が“L”に疑われているということに気付いています」

L「だとしたら……自分が合宿に行っている間だけ裁きの時間帯が普段と違っていたら、自分に対する嫌疑がより強くなる……そこまで考えた上で、リスクを覚悟で従前と同じ時間帯において裁きを行った……」

L「私としては、むしろこの可能性の方が高いのではないかと思っています」

相沢「なるほど……」



536:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/12(金) 22:39:06.27 ID:BAYtr05R0

月「もしそうなら……合宿期間中に星井さんが送ったメールについても怪しまれている可能性はあるな。一応、今は星井さんはキラ事件の捜査本部から外れているということになっているが……それでも、以前捜査本部にいたということは知られているわけだから」

L「そうですね。その可能性は十分にあると思います」

星井父「…………」

総一郎「それなら……例の犯罪者裁きの報道操作についても、一日一人とはいえ、特定の犯罪者のみ裁きの結果が報道されていないという事実に気付き、いや、それのみならず……それが“L”によるものだということまで勘付いていてもおかしくはないな」

L「はい。これも星井美希および天海春香から怪しまれることのないように一日一人としましたが……もし、星井美希が星井さんからのメールを怪しむ程度にまで警戒心を強めていたとしたら……そこまで推測されている可能性は十分にあります」

松田「そ、そんな……じゃあこっちの思惑は全部筒抜けってことですか?」

L「いえ。それは大丈夫です」

松田「えっ」

L「まず、星井さんに送ってもらったメールですが……もしかしたら星井美希には、その目的……つまり『キラの裁きの時間帯と合宿中の星井美希の生活リズムとの相関性を調べる』ということには気付かれたかもしれません」

松田「! じゃあ……」

L「……ですが、それは今後、星井さんが星井美希に警戒されることにより、自ら探りを入れることが難しくなるという程度で、さしたる問題ではありません。元々、星井さんに行ってもらっていたのは家庭内における星井美希の動向の観察が主であり、彼女に対し積極的に探りを入れてもらっていたわけではありませんので」

星井父「…………」

総一郎「そもそも娘の心配をして父親がメールを送ることくらい、何らおかしなことではないからな」

月「父さんがいきなり粧裕にメールを送ったら確実に怪しまれるとは思うけどね」

総一郎「…………」

L「また、犯罪者裁きの報道操作の方も……仮に怪しまれたところで、その目的には絶対に気付けません」

L「むしろ、これらの方に星井美希の注意を向けさせることができたのだとすれば、それだけ本丸の作戦――行き帰りの空港におけるノートの『確認』――からは目を逸らさせることができたのではないかと思います」

月「確かに……行きも帰りも、手荷物検査には普通に鞄を通していたからな。僕達が既に『黒いノート』の存在を検知しており、それを持ち運んでいることの証拠を押さえようとしていたことなど……まず気付いてはいないだろう」

総一郎「うむ。仮にそのことに気付いていれば、無防備にノートの入った鞄を検査に通すはずがないからな」

L「そうですね。そしてそれはすなわち、我々が『黒いノート』の存在を検知するに至った最初の契機――『黒いノート』の授受の場面を南空ナオミが目撃していたこと――にも、やはり気付いてはいないだろうということを意味します」



537:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/12(金) 22:51:09.16 ID:BAYtr05R0

相沢「しかし……今にして思えば、随分上手くいったもんだな。南空ナオミの尾行捜査は」

L「そうですね。考えられる要因はいくつかありますが……そもそも、私が南空に尾行を頼んだのは、時期的にはキラ事件が始まってから二か月半ほどが経った頃でした」

L「キラ事件の開始時は、まだ星井美希と天海春香の二人は連携していなかったはずですから……おそらく、私が南空に尾行を頼んだ時は、二人が連携し始めてすぐの頃だったのではないかと思われます。ゆえにまだ色々と隙があり、外でもノートにカバーを掛けずに受け渡しをしていたのではないでしょうか」

L(もっとも実際は、監視カメラが撤去された直後で警戒心が緩んでいた、という理由が大きかったのだろうが……)

L「この点、我々としては外の公園よりも事務所内で渡された方がまずかったわけですが……二人は事務所内の他の人間に見られるリスクの方を回避したかったのだと思われます」

L「また南空の尾行捜査自体、彼女が私用で来日していたところを、私が無理を言って夜神さんの補佐として捜査協力してもらっていたに過ぎません。ゆえに尾行期間自体、数日間しか無かったですし……合間合間の時間を使っての捜査でしたから、尾行そのものに多くの時間は割けていなかったはずです」

L「それに加えて、当時は萩原雪歩をも含めた三人分の尾行を南空一人でしてもらっていました。必然、星井美希および天海春香に対する尾行の時間はそれだけ短くなっていたはずですから……これらの点も考慮すると、南空の尾行が二人に気付かれていた可能性は相当程度低かったものと考えられます」

松田「なるほど……って、じゃあ今、僕と相沢さんはもう一か月半以上、一日のうちのかなりの時間をミキミキとはるるんの尾行にあててるんですが……それも、マスクにサングラスっていうめちゃくちゃ怪しい恰好で……」

L「はい」
  
松田「(はいって……)これって、尾行自体がもう既に二人に気付かれている可能性もあるってことですか?」

相沢「だからマスクとサングラスなんだろ。顔さえ見られなければ殺されない」

松田「ああ、なるほど……って、いやいや!」



538:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/12(金) 23:21:40.85 ID:BAYtr05R0

相沢「しかし……殺しの道具がノートであり、キラ事件開始の当初……いや、より正確に言えば765プロの前のプロデューサーが死んだ時点では、星井美希と天海春香はまだ連携していなかった。そうだとすると、この二人はそれぞれ別個にノートを所持していた……いや、今もしている……ということになるのか?」

L「はい。そうですね」

相沢「そうだとすると……何故、天海春香は星井美希にノートを渡したんだ? 各々が一冊ずつ持っているのなら、一方が他方に貸したりする必要は無さそうだが……」

総一郎「! …………」

総一郎(そうか。監視カメラの件を知っているのは私と竜崎……と、竜崎が伝えたライトのみ。そのことを知らない相沢達に説明するには……)

L「そこはあまり気にしなくてもいいんじゃないでしょうか」

相沢「えっ」

L「二人が連携してまだ間も無い頃だとすると、互いが持っているノートの効力が同じかどうかなどを確かめる必要はあったでしょうし……また天海春香が持っていると思われる『顔を見れば名前が分かる能力』を手に入れるためには、天海春香の持つノートを一時的に所持しなければならないとか……何かそういう事情があったのかもしれません」

相沢「……なるほど。だから天海春香が星井美希に自分のノートを渡した、ということか」

L「はい。そしてその場面を南空によって目撃された……」

相沢「ふむ」

L「ですが、いずれにせよ推測の域を出ませんし……今この点を議論しても終局的な結論には至らないでしょう」

L「むしろこの二人のいずれかが『黒いノート』を外に出したのはこの一回だけだった……この事実自体が、このノートがキラの活動に関する単なる連絡用の道具などではないということの証左です」

L「もしこれが単なる連絡用の道具であれば、もっと頻繁に互いに交換なり授受なりを繰り返しているはずですから」

相沢「確かに……」

月(上手く誤魔化したな)



540:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/12(金) 23:49:21.69 ID:BAYtr05R0

L「また先ほどもご説明しましたが、この『黒いノート』がただの連絡用の道具ではないと推理できる根拠としては、星井美希がほとんど常にこれを自分の目の届く範囲に置いている、ということも挙げられます」

L「もっとも、だからといって24時間常にこれを身に着けているというわけではないでしょうし、またそんなことは物理的に不可能です」

相沢「それはまあ……そうだろうな」

松田「お風呂とかもありますもんね」

星井父「……………」

相沢「松田」

松田「す、すみません」

L「ただ、極力そのような状況が生じないように相当工夫を凝らしていることは事実です」

総一郎「というと?」

L「まず、外を歩いている時は常に鞄に入れて持ち運んでいるものとみて間違い無さそうですので……注意すべきは彼女がどこかに滞在している時です」

L「星井美希の滞在時間が最も長い場所は当然自宅ですが……星井さん」

星井父「! ……何だ?」

L「念の為に確認しますが……ご自宅の中で『黒いノート』らしき物を見かけたことはありませんね?」

星井父「ああ。前に言った通りだ。一度も無い」

L「そして……このことで特に美希さんの部屋の中を確認したりしたことも無い。そうですね?」

星井父「そうだ。俺がそれをしても意味が無いと、以前竜崎にも言われたからな」

L「そうでしたね。もっとも、ノート一冊くらいならいくらでも隠し場所はありそうですし……多少調べた程度ではすぐに見つかるとも思えません」

松田「しかしそうなら、外出時も持ち運ばずに、ずっと家の中に置いていてもいいのでは?」

星井父「まあ何かの偶然で……という可能性はあるからな。たとえば美希の姉の菜緒なんかは、物の貸し借りなどでちょくちょく美希の部屋に入っていてもおかしくない」

松田「なるほど」

L「そんなところでしょうね。逆に言えば、この『黒いノート』はその程度の可能性すらも無視できないほどに重要なものである、ということです」

星井父「…………」

L「次に星井美希がよく滞在しているのは765プロダクションの事務所ですが……こちらには個人別の鍵付きロッカーがありますので、事務所にいる間は普通にこれを使用し……この中に鞄ごとノートを入れているものとみてまず間違い無いと思われます」

月「個人別の鍵付きロッカー? そんな話、僕も天海春香から聞いたことが無かったが……よく分かったな」

L「事務所が休みの日にワタリに侵入して調べてもらいました。もちろん監視カメラ等に痕跡は何一つ残していません」

総一郎「いつの間に……」

L「また現在星井美希が通っている高校ですが……こちらでは、アイドルであり私物が盗まれたりするおそれがあるということを理由に……彼女は特別に鍵付きのロッカーを学校から借りている。そうですね? 星井さん」

星井父「! 確かにそうだが……話したか?」

L「これもワタリに調べてもらいました」

星井父「…………」

L「よって、学校にいる間はここにノートを入れているものとみてまず間違い無いでしょう。体育の時間など、どうしても物理的にノートから離れざるを得ない状況はあるはずですので」

月「なるほど。理由も説得的だし、それなら特に周囲から怪しまれることも無いだろうな」

L「はい。そして最後に、今回の765プロダクションの合宿所となった福井の民宿ですが……これについても、ワタリに事前に調べてもらいました」

松田「ワタリ凄いっすね……」

総一郎「うむ。普段はあまり姿を見かけないと思っていたが、裏でそんなに動いていたとは……」



543:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/13(土) 00:10:38.92 ID:YbU4bo7v0

L「具体的にどの民宿に泊まるのか、ということまでは私や月くんも知りませんでしたが、例の会合時に聞いた『隣に市民会館がある福井の民宿』という条件にあてはまるものは一つしかなく……特定は容易でした」

L「そしてワタリの調査の結果、この民宿は特にセキュリティが高いわけでもない、ごく普通の民宿だったことが分かりました」

L「765プロダクションのアイドル一行が宿泊していたのは一階または二階の大部屋と思われますが……そのいずれの部屋においても、中にあるのは共用の金庫だけです」

L「その中にはせいぜい財布や携帯電話を入れるのが関の山……いくら袋に入れた状態だとしても、そんな所にノートを入れていたとは思えません。他のアイドルに不審に思われるだけです」

L「また大きなホテルのフロントならまだしも……一介の民宿の主人にノートだけをわざわざ預けるとも思えません。そんな場面を他のアイドルに見られでもしたらやはり不審に思われますし、そもそも主人からも怪しまれるでしょう」

L「以上より、星井美希は……今回の合宿期間中、『黒いノート』については基本的に部屋の中に普通に置いていたのだろうと思われます」

L「我々がX線写真で確認したとおりの状態――すなわち、ノートにカバーを掛けてビニール様の袋に入れ、それを鞄の中に入れた状態で――です」

L「もちろん、流石に鞄のファスナーくらいは常に閉めるようにしていたのだろうと思いますし、それなりに長い時間、部屋を空けることがあれば鞄ごと外に持って行ったりもしていたのでしょうが……短い時間であれば、ノートを置いたまま部屋の外に出ていた、ということもおそらく何度もあったであろうと思われます」

L「鞄にせよ袋にせよ、常に何かしらを携帯した状態で行動していれば、それはそれでやはり怪しまれるでしょうから」

相沢「いや、だが……いくらなんでも無防備過ぎないか? 誰でもノートに触れる状態であったにもかかわらず、部屋の中にそれを置いたまま外出していたというのは……それこそ、今まで竜崎が説明してきた普段の注意深い行動と矛盾するようにも思えるが」

L「はい。確かに無防備です。……ですが、これは彼女の普段の行動と矛盾するわけではありません」

相沢「? どういうことだ?」

L「おそらく、星井美希には確信があったのでしょう」

相沢「確信?」

L「はい。『仮にノートを入れたままの鞄を部屋に放置したとしても、それが他のアイドル仲間に探られたりすることは絶対に無い』という確信が」

相沢「! …………」

L「もちろん、キラ事件の共犯である天海春香がその場にいたから、という理由もあるでしょうが……自分が部屋にいないときに天海春香が常にいるという保証はありません」

L「それにもかかわらず、星井美希がこの極めて無防備な状態を是としていたのは――……」

L「『信頼』があったからです」

総一郎「信頼……」

L「はい。765プロダクションのアイドル同士を強く結び付けている『信頼』……それがあったからこそ、星井美希は、およそ他の場面では考えられないくらいに無防備な状況であっても、それを受け入れ……ノートを置いたまま部屋を離れることができたのだと考えられます」

L「なので、もし仮に……我々が765プロダクションのアイドルの中の一人を事前に懐柔できていたとしたら、その者を使って……極めて容易にノートの現物を押さえることができたでしょうね」

星井父「…………」



544:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/13(土) 00:27:58.51 ID:YbU4bo7v0

L「また自宅でも、一時的であれば……たとえば風呂やトイレの時、一階に降りている時などは……おそらくノートは自分の部屋に置いたままでしょう。いくらなんでも家の中でも常に持ち歩いているとは思えませんし、それなら星井さんが一度も『黒いノート』を見ていないのはおかしい」

L「これもやはり、765プロダクションのアイドル同様……星井美希が自分の家族の事を『信頼』しているからだと思われます」

星井父「…………」

L「つまり星井美希は『信頼できる者』しかいないような場所であれば、ノートを置いたままにして一時的にその場を離れるなど……ある程度の危険は受容して行動しているものと考えられます」

L「なので私達はその『信頼』を利用し、そこにつけ込みます」

L「星井美希が『この状況でノートを奪われることは無い』と確信できるような状況を作出し、そこでノートを押さえます」

L「その為に必要なのは……『信頼できる者』を星井美希の傍に置き、その『信頼できる者』の手によってノートを押さえさせること……これしかありません」

L「その具体的な『計画』は以前皆さんにご説明したとおりです。もうこの後すぐにでも『計画』の第一段階の実行に移ります。……月くん」

月「ああ、分かっている。今日中に連絡を入れ……都合がつくようなら、明日にも実行する」

L「ありがとうございます。そして『実行』の際、月くんには例の超小型マイクを身に着けてもらいますので……夜神さんと模木さんはここで月くんの発言を聴き……適切なタイミングで報道機関に連絡し、指示を出してください」

総一郎「ああ、報道機関には既に話を通してある。大体『30分後』くらいにテロップを流すよう、指示を出す予定だ」

L「よろしくお願いします。そして相沢さんと松田さんは……ノートの『確認』が済んだ以上、もう当面の間の尾行は不要ですが……もし星井美希または天海春香が尾行に気付いていた場合、『合宿が終わった途端に尾行が無くなった』と思われてしまうとまずいのと、いずれにしても『計画』の最終段階では必ずまた尾行が必要になりますので……尾行自体はこれまで通りのペースで続けて下さい」

相沢「分かった」

松田「またマスクとサングラスか……はぁ」



545:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/13(土) 01:04:10.27 ID:YbU4bo7v0

L「そして、星井さんは……」

星井父「…………」

L「これまで通り、この捜査本部に居る時以外は常に超小型マイクを身に着けていて下さい。またこれまで同様、美希さんに積極的に探りを入れて頂く必要はありません」

L「先ほどもお話ししたように、合宿期間中の星井さんのメールが不審に思われていないとも限らないためです。今、下手に動くと藪蛇となるリスクがあります」

L「なのでむしろ、合宿中のメールが不自然に思われないように……これからは娘を思いやる父親として、今まで以上に愛情を持って美希さんに接して下さい」

星井父「! …………」

L「『合宿中は心配するようなメールを送っていたのに、合宿から帰って来た途端に素っ気ない態度になった』……これではあまりに怪しい……その態度のギャップから、合宿期間中のメールの真の意図に気付かれないとも限りません」

星井父「……ああ。分かった」

月「…………」

月(そういうことか……竜崎)

月(合宿期間中、星井さんから星井美希にメールを送らせた目的は『キラの裁きの時間帯と合宿中の星井美希の生活リズムとの相関性を調べること』にあった。そのこと自体は間違い無い)

月(だがこの目的が達せられると否とにかかわらず……竜崎にはもう一つの意図があった)

月(それは……星井さんに『星井美希が合宿期間中のメールを怪しんでいる可能性がある』と伝え……その対応策として、星井さんに今まで以上に父親としての愛情を持って星井美希に接するように指示すること)

月(まさに今、竜崎が星井さんに指示した内容がそれだ)

月(だがこの指示の真の意図は……『父親の愛情』を盾に、星井美希に自身の父親である星井さんを殺すことを躊躇させるということにある)

月(現状、星井美希に捜査本部のメンバーとして顔が割れているのは父さんと模木さんの二人だけ。だが星井美希がメールの件を訝しみ、星井さんが今もキラ事件の捜査に関与している可能性がある、と考えたとすれば……)

月(星井美希が自分の知る限りのキラ事件の捜査に関与している人物を殺そうと考えた場合……父さんや模木さんだけを殺し、自分の父親である星井さんだけは殺さない……などということはできない)

月(もしそんなことをすれば、自分がキラだと自白しているようなものだからだ)

月(つまり、星井美希がキラ事件の捜査に関与している人間を皆殺しにするなら……自身の父親もその対象に含めざるを得ない)

月(だがキラといえども人の子……ましてやまだ15歳の少女。赤の他人ならいざ知らず……自分の父親を殺すことに抵抗を覚えても不思議ではない)

月(その結果、星井美希が父親を殺せなければ、必然的に捜査本部の他のメンバーも殺せなくなる。竜崎が利用しようとしているのはまさにその点だ)

月(父親と娘が互いを想い合う気持ち――つまり、家族としての情愛――これを最大限に利用した策)

月(まったく、これではどっちが悪だか分かりゃしない)

月(だが、まあ――……)

L「それでは皆さん。あと一息です。頑張りましょう」

一同「はい!」

月(それは、僕も同じか)

月「…………」



968: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/06(土) 14:29:11.05 ID:jizsduFN0

【翌日・都内某駅前】


【アリーナライブまで、あと37日】


(手持ち無沙汰気味に、誰かが来るのを待っている様子の海砂と清美)

(二人の間に会話は無く、二人ともどこか落ち着かない様子で並んで立っている)

海砂「…………」

清美「…………」

月「やあ。二人とも。待たせてごめん」

海砂「! ライト」

清美「夜神くん」

月「詳しいことは後で話す。とりあえずついてきて」

海砂「……うん」

清美「…………」




(二十分後・駅近くのホテルの一室)

(部屋に入った月、海砂、清美)

月「…………」

海砂「…………」

清美「…………」

月「……さて」

海砂・清美「!」

月「ミサ」

海砂「! は、はい」

月「そして……高田さん」

清美「……はい」

月「昨日、二人にはそれぞれ、電話で伝えたが……今ここで、改めて言っておく」

海砂「…………」

清美「…………」

月「僕は―――キラだ」



553:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/14(日) 20:29:11.54 ID:8L23nMgQ0

【一日前・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


L「では早速お願いします。月くん」

月「ああ」ピッ

月「…………」

海砂『ライト?』

月「ミサ。今ちょっと話せるか?」

海砂『うん、いいよ! 今日は随分早いんだね』

月「まあね」

海砂『あっ! もしかして、もうミサの声が聞きたくて聞きたくて仕方無かったってカンジ?』

月「まあね」

海砂『もー。だったらもっといっぱい電話してきてくれてもいいのにー』

月「まあね」

相沢「……月くん、さっきから『まあね』しか言ってないが……」

松田「ミサミサと付き合うことになってから、毎日必ず電話してるそうっすけど……大体いつもこんな感じらしいっすよ」

相沢「……弥はいいのか? それで……」

松田「いいんじゃないっすか? イケメン大正義ってことで」

相沢「そういうもんなのか」

松田「そういうもんっすよ……はぁ」

海砂『……っていうか、ライト……』

月「ん? どうした? ミサ」

海砂『ミサ達が付き合ってから明日で二週間になるけど……まだ、会えないの……?』

月「ああ。今日はその事で電話したんだ」

海砂『! じゃあ……もう会えるようになったってこと?』

月「ああ」

海砂『! やったぁ! ねぇねぇ、じゃあいつ会えるの? もしかして今日?』

月「今日は無理だが……ミサの都合さえつくようなら、明日にでも会いたいと思ってる。どうかな?」

海砂『うん、もちろんオッケーだよ! ホントは今すぐにでも会いたいところだけど……でもきっと、ライトにも事情があるんだよね?』

月「ああ……すまない」

海砂『ううん。ミサ、平気だよ。二週間も我慢してたんだから、あと一日くらい何てことないって』

月「ありがとう。……ところで、ミサ」

海砂『? 何? ライト』

月「少し大事な話がある。驚かないで聞いてくれ」

海砂『えっ。ら、ライト……まさかもうプロポーズ? それはいくらなんでも気が早過ぎるような気がするけど……ううん。でも、ライトが望むならミサはいつでも……』

月「……そうじゃない。ミサ。今まで黙っていたが……僕は君の秘密を知っている」

海砂『え?』

月「君のご両親の事。そして……君がキラを崇拝している事をだ」

海砂『!』



554:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/14(日) 20:33:15.94 ID:8L23nMgQ0

海砂『……そっか。知ってたんだ』

月「ああ」

海砂『……まあ、秘密ってほどでもないけどね。両親の事なら普通にネットに出てるし……キラの事も、ミサ、たまにブログとかに書いてるし』

海砂『流石に大っぴらに書いちゃうとヨッシーに怒られるから、さりげなくだけどね』

月「…………」

海砂『でもライト、何で今になってその事を……?』

月「…………」

海砂『もしかして、ミサが今まで黙ってたから怒ってるの?』

月「違うよ」

海砂『じゃあ、ミサがキラを崇拝してることを良く思ってないとか……? ライトのお父さんは刑事さんだし、ライトの将来の夢も同じ……』

月「違うよ」

海砂『じゃあ』

月「それは僕がキラだからだ」

海砂『!?』

月「…………」

海砂『ら、ライト。今、何て……?』

月「僕がキラ。そう言ったんだ」

海砂『…………』

月「信じられないか? まあ無理も無い」

海砂『あ、いや……信じられないっていうか、その、ちょっとびっくりしたっていうか……』

月「…………」

海砂『えっと、冗談……じゃないんだよね?』

月「もちろん」

海砂『…………』

月「まあ、すぐに言われても信じられないのは仕方が無い。詳しい事は明日改めて伝えるよ。……高田さんと一緒に」

海砂『? 清美ちゃん? 何で?』

月「彼女もまたキラ崇拝者だからだ」

海砂『!』



555:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/14(日) 20:42:27.83 ID:8L23nMgQ0

海砂『清美ちゃんも、キラを……』

月「そうだ。そして今、僕がやろうとしている事にはキラの考えに同調してくれる仲間が必要なんだ」

海砂『! じゃあそれがミサと……清美ちゃんってこと?』

月「そうだ」

海砂『……じゃあ、ライトがその、ミサと……』

月「でも」

海砂『!』

月「君への気持ちは嘘じゃない」

海砂『! ……ライト……』

月「高田さんにも協力は依頼するが、それはあくまでもキラの仲間としてだけで、特別な感情は無い」

海砂『…………』

月「だがミサ。君は違う」

海砂『! …………』

月「君にもキラの仲間として協力してもらいたいのは事実だが……それ以上に、僕のパートナーとして……ずっと傍に居てほしい」

海砂『ライト……』

月「この気持ちは本当だ。僕がキラだということは今すぐに信じてくれなくてもいい。でも、この気持ちだけは……どうか信じてほしい」

海砂『……分かった』

月「ミサ」

海砂『正直、まだだいぶ混乱してるけど……でも、ライトがミサのことをすごく大切に想ってくれてるってこと……それだけは信じるよ』

月「ありがとう。ミサ。ただ僕との関係についてはまだ誰にも言わないでくれ。便宜上、高田さんには僕の方から伝えるが」

海砂『うん。分かったよ』

月「じゃあミサ。また明日。待ち合わせの時間と場所は後でメールする」

海砂『ありがとう。……ねぇ、ライト』

月「ん?」

海砂『たとえライトが何者でも、何をしようとしていても……ミサはライトのこと、ずっと大好きだからね』

月「……ああ。僕もだよ。ミサ」



556:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/14(日) 20:48:36.70 ID:8L23nMgQ0

月「…………」ピッ

月「……ふぅ」

L「お疲れ様です。月くん。では続けてお願いします」

月「……ああ。分かってるよ」ピッ

松田(竜崎、容赦無いな……)

清美『夜神くん?』

月「高田さん。急にごめんね。今ちょっといい?」

清美『え、ええ……いいけど。どうしたの?』

月「実は君に……確かめておきたいことがあって」

清美『? 何?』

月「高田さん。君は……キラを崇拝しているね?」

清美『! …………』

月「…………」

清美『……流石ね。夜神くん。この前、少しキラについて話しただけで……分かってしまったのね』

月「ということは、やはり……」

清美『ええ、そうよ。あなたの言うとおり……私はキラを崇拝しています』

月「……そうか」

清美『でも、どうしてわざわざそんなことを?』

月「…………」

清美『夜神くんは警察志望……そんな夜神くんからすればキラは悪。ゆえにキラに賛同している私の考えを正そうと?』

月「違う。そうじゃない」

清美『じゃあ』

月「いいかい。清美……僕がキラなんだ」

清美『!? 夜神くんが……キラ?』

月「そう。僕がキラ……ただそれだけの事だ」



557:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/14(日) 20:58:22.92 ID:8L23nMgQ0

清美『…………』

月「信じられないか?」

清美『い、いえ……ただ少し、驚いたというか……その、唐突だったから……理解が追いついていなくて』

月「そうだな。無理も無い。ただ口で言っただけで信じろというのも酷な話だ」

清美『…………』

月「だから清美。明日僕と会ってくれないか?」

清美『! あ……明日?』

月「ああ。明日直接会って……全てを君に話したい」

清美『……分かったわ』

月「ありがとう。それともう一つ、言っておくことがある」

清美『? 何?』

月「明日会うのは二人きりじゃない。弥海砂も一緒だ」

清美『えっ。み、海砂さん? ……何で?』

月「……僕は今、弥海砂と付き合う形を取っている」

清美『!? そ、それはどういう……?』

月「彼女もまたキラ崇拝者だからだ」

清美『! 海砂さんも……?』

月「そうだ。詳しい情報はネットにも出ているが……彼女は両親を強盗に殺されており、その強盗をキラが裁いたことからキラを崇拝している」

清美『……そうだったの……』

月「ああ。そして今、僕がやろうとしている事にはキラの考えに同調してくれる仲間が必要なんだ」

清美『それが私と……海砂さんということ?』

月「そうだ。僕が弥と付き合う形を取ったのはまさにそのためだ」

清美『! …………』

月「今から二週間ほど前、彼女は僕に告白をしてきた。正直言って、僕は彼女に特別な感情などは全く無かった。だが自分の目的を果たすためには、彼女の好意を無下にするわけにはいかなかったんだ」

清美『……じゃあ、夜神くんはその『やろうとしている事』のために海砂さんと付き合う形を取っているだけ……ということ?』

月「そうだ。そして……」

月「僕が本当に想っているのは君だ。清美」

清美『! …………』



559:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/14(日) 21:12:59.92 ID:8L23nMgQ0

月「今から一か月ほど前……君が僕に告白してくれたときは本当に嬉しかった」

月「だが僕は自分の目的のために弥に接触し、彼女と信頼関係を築いておく必要があった。だから君の告白を受けるわけにはいかなかったんだ」

清美『…………』

月「この気持ちは本当だ。僕がキラだということは今すぐに信じてくれなくてもいい。でも、この気持ちだけは……どうか信じてほしい」

清美『……分かったわ』

月「清美」

清美『正直、まだ完全には頭の整理ができていないけど……今話してくれた夜神くんの気持ち……これだけは信じるわ』

月「ありがとう。清美。だが今話したことは絶対に弥には秘密にしてくれ。また便宜上、これからは弥も含めて三人で会う時は弥のことを下の名前で、君のことはこれまで通り名字で呼ぶが許してほしい」

清美『分かったわ。海砂さんの前では、私とあなたはあくまでただの友人関係ということね』

月「その通りだ。流石は清美。理解が早くて助かるよ。ではまた明日。待ち合わせの時間と場所は後でメールする」

清美『あっ』

月「ん?」

清美『……夜神くん。私は全部あなたの言うことに従うわ。でもこれだけは約束してくれる?』

月「何だい? 清美」

清美『夜神くんの目的が全うされて、もう海砂さんと付き合う形を取る必要が無くなったときは……その……』

月「ああ。分かっている。そのときはちゃんと弥との関係にけじめをつけて……今度は僕の方から君に想いを伝えるよ」

清美『! 夜神くん……』

月「それでいいか? 清美」

清美『……はい』

清美『楽しみに待っています。その日が来るのを』

月「……ああ。僕もだよ。清美」



561:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/14(日) 21:24:58.39 ID:8L23nMgQ0

月「…………」ピッ

月「……ふぅ」

L「お疲れ様です。月くん」

月「ああ。ありがとう。竜崎」

松田「なんていうか……流石は月くんって感じっすね……。現役のアイドルとミス東大候補の二人を同時に相手取るなんて……」

相沢「二人に言ってる台詞ほとんど同じだったけどな……」

松田「いいんすよ、言ってる内容なんて何でも。結局はイケメン大正義なんすから」

相沢「お前それ、言ってて虚しくならないか?」

松田「……なります」

相沢「……すまん」

総一郎「しかし今更だが……やはりライトがキラを名乗るというのは……」

L「夜神さん。お気持ちは分かりますが、少なくともキラ崇拝者である二人に対して『キラを追う者』を名乗るよりは遥かに安全な策かと」

総一郎「それはまあ……そうだが」

L「それに何より、弥海砂と高田清美はどちらも月くんの虜……この二人が星井美希・天海春香の両名に月くんを売ることはまずありえません」

総一郎「そうだな……そもそも、私も事前に承諾していた策だ。もうこれ以上とやかくは言うまい」

L「ありがとうございます。では月くん。明日、よろしくお願いします」

月「……竜崎」

L「? はい。何でしょう」

月「……仮にキラを捕まえられても、僕がミサか高田に殺されるような気がするんだが」

L「月くんなら大丈夫です」

月「何を根拠に……まったく、そのときはお前も一緒に頭を下げてくれよ。場合によっては土下座でもだ」

L「もちろんです。地獄の果てまでお付き合いすることを約束します」

月「……それ結局死んでるだろ」



563:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/14(日) 21:50:35.61 ID:8L23nMgQ0

【現在・都内某駅近くのホテルの一室】


月「僕は―――キラだ」

月「いや、正確には……『キラだった者』……か」

海砂「……『だった』?」

月「ああ」

清美「どういうことなの? それは……」

月「簡単な事だ。僕はかつてキラとして活動し、犯罪者裁きをしていたが……今はそれをしていない」

月「なぜなら……今の僕は、キラとしての能力の大半を別の者に奪われてしまっているからだ」

海砂「!」

清美「能力を……奪われている?」

月「そうだ。では、もう少し詳細に説明しよう」

月「僕がキラの能力を得たのは……昨年の11月の半ば頃だった」

月「『直接手を下さずに心臓麻痺で人を殺せる』という超常的な力を得た僕は、その力を使って世にはびこる犯罪者達を一斉に裁き始めた」

海砂「…………」

清美「…………」

月「だが……今年の2月頃」

月「僕の能力が何者かによって奪われた」

海砂「!」

清美「…………」

月「より正確に言うと、僕が奪われたのは『能力の大部分』であり……キラとしての力を全く使えなくなってしまった、というわけではなかった」

月「だがそれまでと比べ、僕のキラとしての殺傷能力は大幅に制限されることになってしまった。そのため、以前のように……この世にはびこる凶悪犯を軒並み粛清する、などといったことはできなくなってしまったんだ」

月「僕は焦った。僕の理想とする、真面目で心の優しい人間だけの世界をつくること――すなわち、新世界の創世――が、道半ばにして頓挫してしまうのではないかと」

海砂「ライト……」

月「そして僕は考えた。自分に残された僅かな力をどう使っていくべきか……少なくとも、これまでと同じペースで犯罪者を裁き続けていくことなどはもうできない」

月「結局、当面の間の暫定措置として……既に起訴されており、僕が手を下さずとも裁判で有罪判決を受ける可能性が高い者などは見逃すことにした」

月「自分の手で犯罪者を裁けないことに対する悔しさはあったが、自身の置かれた状況を鑑みると仕方無かった」

月「……しかし」

清美「? しかし?」

月「そうやって、裁きの範囲に制約を掛けるようにした直後……『僕が裁いていない犯罪者』が心臓麻痺で死んだ」

海砂「!」

清美「それって……」

月「そう。そこで僕は気付いたんだ。『僕から能力を奪い、僕に代わって犯罪者裁きを行っている者がいる』ということに」

月「つまりその者が……今のキラだ」

海砂・清美「! …………」



564:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/14(日) 22:10:49.64 ID:8L23nMgQ0

月「二人とも……もう大体の事は飲み込めたか? 今日、君達にこんな話をしたのは……僕が今のキラから力を取り戻し、そしてもう一度、僕の手で犯罪者裁きを再開する……これを実現するための協力を頼みたいからだ」

海砂「! ……今のキラから力を取り戻す……」

清美「そして夜神くんが、犯罪者裁きを再開する……つまり……」

海砂「ライトがキラに……戻る」

月「そうだ」

海砂「で、でもそれ……もう誰か分かってるの? その……ライトからキラの力を奪った人……って」

月「ああ」

海砂「! だ……誰なの? それ……」

月「その話より先に……しておくべきことがある」

海砂「え?」

月「僕がキラであることの……いや、キラであったことの証明だ」

海砂・清美「!」

月「正直言って、二人とも……まだ半信半疑といったところだろう? 僕がキラの能力を持っている、ということについては」

海砂「そ、そんなこと……ミサはライトの事、信じてるし……」

清美「……私もよ。夜神くん」

月「ありがとう。ただ理性と感情は別だからね。君達が信じたいと思ってくれる気持ちは嬉しいが、やはり言葉だけでは完全に信じ切るのは難しいだろう」

月「だから、今からそれを証明する」

海砂「い、今から?」

月「そうだ。……高田さん」

清美「えっ。は、はい」

月「君は以前、言っていたね。将来アナウンサーになるための勉強の一環として、キラ事件についてのニュースを研究していると」

清美「え、ええ……そんなに大したことはできていないけど……」

月「では、そんな君の目から見て……最近のキラの裁きに何か不審な点は無かったか? どんな些細な事でもいい」

清美「最近? 最近……あっ」

海砂「? 何?」

清美「ここ数日の話だけど……本来ならキラが裁いているはずの凶悪犯が数名……何故か未だに裁かれていないわ」

月「! …………」

海砂「え? そうなの?」

清美「ええ。先週の水曜日から一昨日までの四日間で報道された犯罪者のうち……一日あたり一人ずつ、計四人の犯罪者が未だに裁かれていない」

清美「これまでキラは、遅くとも犯罪者の報道がされてから24時間以内には裁いていたわ。それがこの四人については、いずれも最初の報道時から既に24時間以上が経過している……これまでのキラの裁きの傾向を考えると明らかに不自然」

月「…………」



565:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/14(日) 22:23:27.02 ID:8L23nMgQ0

月「……正解だ。流石は高田さん」

清美「夜神くん」

月「ちなみに、以前にも同じようなことは無かった?」

清美「以前……ええ。そういえば以前にもあったわ。確か、名前を間違われて報道された犯罪者と、顔写真を取り違えられて報道された二人の犯罪者……この三人については、最初の報道の後には裁かれず、数日後、正しい名前と顔写真での訂正の報道がされた後に三人とも裁かれていたわ」

月「その通り。これも正解だ」

海砂「へー、そんなことあったんだ……全然知らなかった」

月「今、高田さんが説明してくれた間違った報道の件は、まだ僕がキラとして裁きをしていた頃の話だが……最初の報道の時に裁けなかったのは、殺すための条件が足りていなかったからだ」

清美「殺すための条件……誤っていた報道の内容を考えると……『名前』と『顔』?」

月「そうだ。キラの裁きにはその二つの条件が必要となる。だからそれらが間違って報道されていた犯罪者については、僕はすぐに裁くことができなかった」

海砂「へー」

清美「ということは……今回、まだ裁かれていない四人の犯罪者についても同じ……? つまり、名前や顔が間違って報道されている……?」

月「いや、この四人についてはそうではない。全員、顔も名前も報道された通りで合っている。特殊なルートで照会を掛けたから間違い無い」

海砂「特殊なルートって?」

月「それについては後で話すよ」

海砂「もー、ライトったらさっきからそればっかじゃん」

月「そう言うなよ、ミサ。物事の説明には順序ってものがあるんだ。……で、この四人の犯罪者については名前も顔も合っているのに、何故裁かれていないのか、ということだが……その理由は極めて単純なものだ」

清美「単純?」

月「そう。一言で言えば……単なる裁き漏れ」

海砂「えっ」

清美「裁き……漏れ?」



566:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/14(日) 22:31:37.99 ID:8L23nMgQ0

月「ああ。これも後でまとめて説明するが……先週の水曜日から一昨日までの四日間、キラは通常通りに裁きをできる状況にはなかったものと推定される。ゆえに本来裁くべき犯罪者を見逃してしまった」

海砂「見逃してしまった、って……」

清美「…………」

月「ともあれ、結果的にこの四人の犯罪者は今も生きている。これを利用して……僕は今から君達に証明する」

月「僕がキラの力を持っている、ということを」

海砂・清美「!」

月「さっきも言ったが……能力の大部分を奪われてしまったとはいえ、それでも力が完全に失われたわけではない」

月「四人程度なら造作も無い」

海砂「じゃ……じゃあライト、その、今から……」

清美「…………」

月「では、悪いが二人とも向こうを向き、そのまま目を閉じてくれ」

月「僕がいいと言うまで絶対に振り返らないように」

海砂「わ、分かった……」スッ

清美「…………」スッ

(月に背を向け、目を閉じる海砂と清美)

月「よし。では少しの間、そのままで」

海砂「…………」

清美「…………」

月「…………」

月(そろそろいいか)

月「いいよ。二人ともこっちを向いて」

海砂・清美「!」クルッ

月「――今、僕が例の四人の犯罪者を殺した」

海砂・清美「! …………」

月「おそらく一時間もしないうちに、ニュース速報のテロップが流れるだろう」ピッ

(部屋にあるTVをつける月)

月「悪いが、このままもう少しだけ待っていてくれ」

海砂「…………」

清美「…………」



567:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/14(日) 22:40:34.49 ID:8L23nMgQ0

【同時刻・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


月『――今、僕が例の四人の犯罪者を殺した』

月『おそらく一時間もしないうちに、ニュース速報のテロップが流れるだろう』

総一郎「模木。今の時間は」

模木「17時31分です」

総一郎「分かった」ピッ

総一郎「……もしもし。警察庁の朝日です。ええ。以前お伝えしていた件で……」

総一郎「そうです。四人まとめて……はい。死亡時刻は本日17時30分頃とし、速報のテロップは18時頃にお願いします」

総一郎「はい。ご協力感謝します。それでは」ピッ

総一郎(後は……)

総一郎「…………」ピッ

総一郎「朝日だ。捜査ご苦労。星井美希の動きはどうだ?」

松田『松井です。お疲れ様です。今日は仕事はオフだったようで、学校からまっすぐに帰宅しました。今は在宅です』

総一郎「分かった。今から30分後に例の報道を流すから、一応18時半……いや、19時頃までは張っておいてくれ。それまでに目立った動きが無ければ今日はそのまま直帰していい」

松田『分かりました。後、さっき相原さんから連絡がありまして、はるる……天海春香は、今日はロケでずっと新宿のスタジオにいるそうです』

総一郎「分かった。ではいつものように帰宅までは見届けるように伝えておいてくれ」

松田『分かりました』

総一郎「よろしく頼む。では」ピッ

模木「局長。1番から6番のモニターを各テレビ局の画面に切り替えました。月くん達がいる部屋の監視カメラの映像は7番のサブモニターに」

総一郎「分かった。さて……」

星井父「…………」



569:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/14(日) 23:06:21.37 ID:8L23nMgQ0

【三十分後・都内某駅近くのホテルの一室】


(無言でTVの画面を見つめ続けている月、海砂、清美)

月「…………」

海砂「…………」

清美「…………」

月「あっ」

海砂・清美「!」

(TV画面上部にニュース速報のテロップが流れる)

海砂「! ……『本日17時30分頃、複数の犯罪者が心臓麻痺により死亡』……」

清美「……『死亡した犯罪者は以下の四名』…… ! これ、さっき私達が話していた……」

海砂「ってことは、これ、今、ライトが……?」

月「もちろん、これで100%の証明になるというわけではないが……でもある程度は、信じてもらえたんじゃないかな」

海砂「……うん。信じる……信じるよ。ライトがキラなんだって」

清美「私も信じます。夜神くんが……キラなのだと」

月「ありがとう。二人とも。ただ正確には『キラだった』だけどね」

海砂「ううん。ライトはキラ……いや、キラはライトだよ」

月「えっ?」

海砂「だって、ミサの両親を殺した強盗を裁いてくれたのはライトでしょ? あれ、去年の11月だったから」

月「ああ。それは……そうだが」

海砂「だから、ミサにとってのキラは……ライトしかいないんだよ。初めからずっと……ね」

月「……ありがとう。ミサ」

清美「私も……」

月「高田さん」

清美「どんな事情があったにせよ、四人もの凶悪犯を裁き損ねるようなキラはキラとは呼べません。私の信じるキラはあなた一人よ。夜神くん」

月「……ああ。ありがとう。――ミサ。高田さん」

海砂「? 何? ライト」

清美「夜神くん?」

月「僕は今ここで、君達に約束しよう」

月「僕は必ず、今キラの力を行使している者から力を取り返し……再び自らの手で犯罪者を裁いていく。そして悪人のいない、心の優しい人間だけの世界をつくる」

月「それが僕の……キラの目指す理想の世界の創世」

海砂「ライト」

清美「夜神くん」

月「そして僕は……新世界の神となる」



969: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/06(土) 14:32:04.55 ID:jizsduFN0

【同時刻・美希の自室】


(所在無げにTVを見ている美希)

美希「…………」

リューク「ククッ。随分退屈そうにしてるな。ミキ」

美希「別に退屈なんてしてないの」

リューク「そうか?」

美希「考えることは山ほどあるの。リンゴ食べて寝るだけの死神風情と一緒にしないでほしいって思うな」

リューク「…………」

美希(今、ミキがすべきことは……)

美希(アリーナライブを絶対に成功させる事と……そして)

美希(Lから春香を守る事)

美希(……そのためには……)

(TV画面上部にニュース速報のテロップが流れる)

美希「? ニュース速報?」

美希「……『本日17時30分頃、複数の犯罪者が心臓麻痺により死亡』……!?」

美希「何で……? だってミキ、今日の分の裁きはまだ……」パラパラ

美希「! まさか春香が……? いや、でも春香がミキに何も言わずに勝手に裁きをするはずは……」

美希「……『死亡した犯罪者は以下の四名』…… ! これって……」

リューク「あれ? これ……合宿中にミキが裁いたのに報道されなかった、って奴らじゃないか?」

美希「…………」

リューク「何で今更になって報道されてるんだ? 警察が情報を隠してたってことか?」

美希「違う……」

リューク「え?」

美希「確かに今更になって報道されたのも気になるけど……一番注目しないといけないのはそこじゃないの」

美希「『本日17時30分頃』……今、テロップには確かにそう出ていた」

リューク「? それがどうかしたのか?」

美希「単に報道が遅れてされたってだけなら、まだ何か事情があったのかもしれないって思えるけど……」

美希「『犯罪者が死んだ日時』まで実際と違う日時にされてるのは……流石に意味が分からないの」

リューク「ああ、そういうことか」

美希「あの四人の犯罪者は、確実に合宿期間中にミキが裁いている……全員、裁いた後に春香に死神の目で死んでいる事を確認してもらったから間違い無いの」

美希「ということは……『実際は数日前に裁かれていた犯罪者を、今日裁かれたことにした』……そういう情報操作が――おそらくはLによって――されたってことなの」

リューク「でも、そんな面倒な事して……一体誰が得するんだ?」

美希「それが分かったら苦労しないの。黙ってて死神」

リューク「…………」

美希(分からない……分からないけど……)

美希(なんだか、とても嫌な予感がするの)

美希「…………」



573:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/15(月) 00:41:05.27 ID:/5aJEvQz0

【同時刻・都内某駅近くのホテルの一室】


海砂「ライトが、新世界の神に」

清美「夜神くんが」

月「そうだ。そして君達には……そのための協力をしてほしい」

月「……頼めるか?」

海砂「当たり前だよ。さっきも言ったけど、ミサにとってのキラはライトしかいないもん。ミサに出来ることなら何でもするよ」

月「ミサ」

海砂「それに何より、ミサは……誰よりもライトの事を愛してるからね」

月「ありがとう。ミサ。……高田さんは?」

清美「そうね。私は海砂さんとは違って、あくまでもお友達として、ですけど……夜神くんのことは尊敬していますし、私がキラの……夜神くんの考えに同調していることも事実です」

清美「だから私にとっても、キラである夜神くんの力になれるのならこの上なく嬉しいことだわ。喜んで協力させて頂きます」

月「ありがとう。高田さん」

清美(これでいいのよね。夜神くん。そして全てが終わった後には、海砂さんではなく、私と……)

月(そうだ。高田。それでいい……これならミサも疑わないだろう)

海砂(ライトが新世界の神になったら、ミサは女神になるのかな? 女神系アイドル……うん! なんかこれ売れそう!)

月「……では、二人とも僕をキラと信じ、協力してくれるということになったので……ここでもう一人、僕の協力者をこの場に呼びたいと思う」

海砂「えっ。もう一人?」

清美「他にも協力者がいたの?」

月「ああ。少し待っていてくれ」ピッ

月「……僕だ。ああ。二人とも協力してくれることになった。すぐに来てくれ」ピッ

月「別室に待機させていたから、すぐに来る」

海砂「…………」

清美「…………」

 ガチャッ

月「来たか」

海砂「! えっ」

清美「あなたは……」

L「どうも」

海砂「竜崎さん……? 何で? え? ってことは、まさか……」

清美「彼が……?」

月「そう。竜崎ルエ……彼は僕の最初の協力者であり……」

月「君達と同じく、キラ崇拝者だ」

海砂・清美「! …………」

L「…………」



582:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/27(土) 21:43:15.09 ID:gjdS66vN0

海砂「竜崎さんも、ライトの協力者で……」

清美「キラの崇拝者……ですって?」

L「はい」

海砂「全然知らなかった……てっきりただの春香ちゃんの大ファンの人だとばかり」

L「それは嘘です」

海砂「えっ」

清美「嘘?」

L「はい。私が今まで天海春香のファンだと言っていたのは嘘です」

海砂・清美「! …………」

L「それだけではありません。私の両親が交通事故で死んだということも、学校でいじめられていたということも、祖父の形見の面の話も、ずっと家にひきこもっていたということも、面を着けないと外出することもままならなかったということも、自殺しようと思っていたところを天海春香に救われたという感動的なエピソードも、そして月くんとオンラインゲーム上で出会ったということも……全て嘘です」

海砂「え……ええぇ!?」

清美「そ、それじゃあ……全部作り話だったってことですか? あの日……学祭の日に、私達に話したことは……」

L「はい。そうです」

海砂・清美「! …………」

月「二人とも……今まで騙していてすまなかった」

海砂「ライト」

清美「夜神くん」

月「…………」

海砂「……ライトは知ってたんだよね? 竜崎さんの話が……全部嘘だってこと」

月「ああ。勿論知っていた。知った上で……ずっと話を合わせていた」

海砂「…………」

清美「どうしてそんなことを……?」

月「簡単な事だ。竜崎は誰よりも早く僕に……キラに辿り着いた人間だったからだ」

海砂「キラに……辿り着いた?」

清美「どういうこと?」

月「その通りの意味さ。あれは……僕が今のキラに能力を奪われる一か月ほど前だった。竜崎はある日突然僕の前に現れ……こう言ったんだ」

月「『キラはあなたですね』と」

海砂・清美「!」

L「…………」



585:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/27(土) 22:05:11.29 ID:gjdS66vN0

月「流石に焦ったよ。報道された犯罪者しか殺していないはずなのに、何故僕がキラだと特定できたのか……」

月「だが竜崎の話を聞いて納得した……いや、せざるを得なかった」

月「実は僕は……キラの能力を得てすぐの頃に、能力を試す意味も込めて……近所のコンビニの前で若い女性に絡んでいた、バイクに乗った不良風の男をキラの能力を使って殺していたんだ」

海砂・清美「!」

月「そしてその結果を目の当たりにした僕は……自分の能力に確証を得て犯罪者裁きを始めた」

月「僕はすぐに世間から『キラ』と呼称されるようになった。君達も知っての通りだ」

月「しかしその一方で、竜崎は『キラ』による犯罪者裁きが始まる直前の『心臓麻痺による犯罪者以外の死亡者』を独自に調べていた」

月「『キラが犯罪者裁きを始める前に手近な人間で能力を試していた可能性』を疑っていたからだ」

月「結果、僕が殺したバイクの男まで竜崎は辿り着いた。そしてその時の目撃証言を洗い出して僕を特定した」

海砂「! すごっ」

清美「そんなことが……」

月「後は簡単だ。竜崎は僕の家に忍び込み、僕の部屋に監視カメラを仕掛け……僕が犯罪者裁きをする瞬間を証拠として押さえた上で、僕に声を掛けてきた」

海砂「ちょ、ちょっと……人の家に勝手に忍び込んだ上に監視カメラって……完全に犯罪じゃん」

L「そうですね」

海砂(そうですねって……)

月「そこまで話を聞き、さらに自分が裁きをしている瞬間の映像まで見せられ……僕はもう言い逃れができなくなった」

月「もうこの男を殺すしかない。そう思った」

清美「…………」

月「だが次の竜崎の言葉は、僕の予想だにしないものだった」

海砂「? 何て言ったの?」

月「『私はあなたを崇拝しています。どうかあなたの協力をさせて下さい』と」

清美「! じゃあ、それで……」

月「ああ。少し迷ったが……僕は竜崎の言葉を信用することにした」

月「何せ、竜崎は僕が犯罪者裁きを始めてからたった二か月ほどで僕をキラだと特定したほどの人物……味方につけても損は無いだろうと思ったし、そもそも僕を欺く気なら、わざわざ殺される危険を冒してまで僕の前に顔を出す必要は無かったからだ」

月「それこそ、匿名で僕宛てに監視カメラの映像を送れば……それで脅迫でも何でも自由にできたはずだからね」

海砂「確かに……」



586:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/27(土) 22:17:51.21 ID:gjdS66vN0

海砂「じゃあ結局何者なの? 竜崎さんって」

L「探偵です」

海砂「探偵?」

L「はい」

海砂「……って終わり!?」

L「探偵ですから探偵ですとしか言いようがありません」

海砂「いや、でももうちょっとなんかさー……」

月「まあ一口に探偵と言っても、竜崎の場合は普通の探偵というのとは少し違う。裏の世界のプロ、とでも言うのか……とにかく様々な業界に広く通じていて、僕も想像もつかないほどたくさんのネットワークを持っている」

海砂「へー、そうだったんだ。確かに普通の人っぽくないもんね。竜崎さんって」

L「…………」

月「それに二か月でキラの正体を突き止めたくらいだから腕も確かだしね」

清美「では、その裏の世界のプロの竜崎さんが何故キラである夜神くんの協力を?」

清美「それこそさっき夜神くんが言っていたように、夜神くんがキラである証拠を使えばいくらでも自分の得になることに使えそうな気がしますけど。ましてや色んな業界に顔が利くのなら尚の事」

L「それは月くんが言ったとおりの理由です」

海砂「キラを崇拝していたから……ってこと?」

L「はい。元々、私はずっと裏の世界で生きていました。人の闇も汚い部分も、数え切れないほど見てきました」

L「そんな人間の醜悪さに嫌気が差していた頃……世の中にはびこる凶悪な犯罪者を片っ端から裁いていく『キラ』が現れました」

L「私は思いました。これが正義だと。これが正義の行いなのだと」

L「腐り切った世の中を、もう一度正しい方向へ、あるべき姿へと導いていく事。それは私が心のどこかで憧れながらも追い切れなかった夢、希望でもありました」

L「私の心は決まりました。自分の持てるすべてを使って、必ずや『キラ』を見つけ出し……」

L「そして『キラ』にこの命を捧げようと」

海砂「…………」

清美「…………」



587:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/27(土) 22:29:02.73 ID:gjdS66vN0

月「――そういう経緯で、竜崎は僕の協力者として動いてくれることになった」

月「具体的には、探偵としてのネットワークを使って、世に報道されていない……『裏の世界』に棲む悪人達の情報を僕に渡してくれた」

月「ちなみにさっき言った『特殊なルートを使って行った、犯罪者の名前と顔が合っているかどうかの照会』というのも、竜崎のネットワークを使って行ったものだ」

海砂「ああ、なるほどね」

月「こうして僕は、従前よりもさらに裁きの範囲を広げることができるようになった……が、そう思ったのも束の間」

月「竜崎と出会ってから一か月ほどが経過した頃……僕はキラとしての能力の大半を何者かによって奪われた」

海砂「そこでそうつながるってわけね。で、誰なの? その何者かって」

月「ミサ。僕がさっき話したことを覚えているか?」

海砂「え?」

月「先週の水曜日から一昨日までの四日間、キラは通常通りに裁きをできる状況にはなかったものと推定され……ゆえに、本来裁くべき犯罪者を見逃してしまった、という話だ」

海砂「あ、ああ……それは覚えてるけど……」

月「何か思い当たることは無いか? 先週の水曜日から一昨日までの間にあった出来事について」

海砂「え? 先週の水曜から……土曜だよね。何かあったっけ? ちょうど、美希ちゃん達が合宿で福井に行ってた頃だと思うけど……」

月「…………」

海砂「え?」

清美「まさか……?」

月「普段と違う土地での合宿生活……生活リズムも大きく変わっていたとしても不思議ではない」

月「たとえば……『いつもは漏らさず裁いている犯罪者を、つい漏らしてしまった』としても……さほどおかしくはない」

海砂「! じゃあ」

月「そう。僕と竜崎が『僕からキラの能力を奪った者』――つまり『今のキラ』として特定している人物――は、765プロダクション所属のアイドル」

海砂・清美「!」

月「そして今現在、僕と竜崎が直接接触して探りを入れている人物だ」

清美「! それって……」

月「そう。―――星井美希および天海春香の二名だ」

海砂「!」

清美「嘘……」

月「この二人はいずれもキラの能力を持っており、今は互いに連携してキラの裁きを行っている」

月「つまり僕達が君達二人に頼みたいことは……この二人からキラの能力を取り返すことに対する協力だ」

海砂・清美「! …………」



588:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/27(土) 22:42:01.15 ID:gjdS66vN0

海砂「な……何でこの二人がキラって分かったの?」

L「詳しい方法は明かせませんが……私が月くんをキラだと特定したときと大体同じようなやり方です」

清美「ということは……天海さん達も、夜神くんのように能力を試すために犯罪者以外の人間を殺した……ということですか?」

L「ご想像にお任せします」

海砂・清美「…………」

月「とにかく、二人をキラとして特定した竜崎の推理は僕を納得させるに足るものだったし……何より竜崎自身、僕をキラとして特定して突き止めていたわけだから信用しない理由は無かった」

清美「じゃあ今、夜神くんと竜崎さんは……キラとして特定した上であの二人と接触し、直に探りを入れている状況……ということ?」

月「そうだ」

海砂「あ、じゃあ……」

月「何だ? ミサ」

海砂「確か、ライトって……私達と知り合うより前に、春香ちゃんの家庭教師を始めてたんだよね? それももしかして……」

月「いや、それは完全に偶然だよ。あれはあくまでも粧裕経由で頼まれた話だったし、その時はまだキラの能力を奪ったのが誰かは分かっていなかったからね」

海砂「そうなんだ」

清美「じゃああの日……学祭の日に、海砂さんのステージに夜神くんと竜崎さんが来ていたのは? そこで結果的に夜神くん達は私達や天海さん達と知り合ったわけだけど……それも偶然だったの?」

月「あの場で星井美希・天海春香と出会ったのは偶然だ。もちろん高田さんもね。……だが、僕達がミサのステージに来ていたこと自体は偶然ではない」

海砂「えっ。じゃあもしかして……ライトって元々私のファンだったの?」

月「違う」

海砂「そんなバッサリ」

月「僕と竜崎がミサのステージを観に来ていたのは……星井美希と親しい友人であるミサと接触するためだ」

海砂「!」

清美「海砂さんと……?」



589:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/27(土) 22:57:44.99 ID:gjdS66vN0

月「そうだ。僕達は星井美希と天海春香が現在キラの能力を保有していることの証拠をずっと探していた。そして遂に……その手がかりとなりうる物を一つだけ見つけた」

月「さらにその後、僕達は、二人のうち星井美希だけが『それ』をほとんど常に肌身離さず持ち歩いているということまで突き止めることができた」

月「つまり『それ』を押さえることで、星井美希と天海春香がキラであることの証拠を掴む……それが僕達の策」

月「だが見ず知らずの他人が肌身離さず持ち歩いている物を押さえるというのは容易な事ではない。ましてや相手は現キラだ。下手な動きを見せれば即殺される」

月「そこで……ミサ。僕達は君に協力を頼むことを思いついた」

海砂「! …………」

月「君と星井美希との間に交友関係があることについては既に竜崎が調べていた。そして星井美希と親しい友人である君なら、彼女が常に持ち歩いている『それ』を押さえることも容易だろうと考えたんだ」

月「それがあの日、僕と竜崎が君のステージを観ていた理由だ」

海砂「…………」

清美「で、でもそれ……海砂さんが殺されてしまう危険があるんじゃ……」

月「ああ。そうだ。いくら星井美希と親しい友人のミサといえど、絶対に殺されないという保証までは無い」

清美「!」

海砂「…………」

月「でもそれは……あくまで星井美希をキラとして捕まえようとするのであれば、の話だ」

清美「え?」

月「僕はさっき『二人からキラの能力を取り返す』と言った。その目的は、僕の手でもう一度犯罪者裁きを行えるようにするため……ただそれだけだ」

月「つまり僕は二人をキラとして捕まえようとか、警察に突き出そうなどとは微塵も考えていない」

月「そもそも形はどうあれ、今、あの二人がしていることはかつて僕がしていたことの模倣だ。よって彼女達もまた、僕……キラの理念や価値観に共感して行動しているものと考えられる」

月「君達と同じようにね」

海砂・清美「…………」

月「だから僕は……あの二人が今キラの力を行使していることの確証を得た後は、彼女達に接触して能力を僕に戻すよう働きかけ……それが叶った暁には、彼女達も僕の協力者として迎え入れようと思っている」

清美「! ということは……星井さんと天海さんも私達の仲間に……?」

月「ああ。そういうことになる」

海砂「…………」



590:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/27(土) 23:17:11.81 ID:gjdS66vN0

月「だがそれはあくまでも能力を全部僕に戻させてからの話だ。二人に接触するにしても、彼女達が能力を持っている状況下ではこちらの正体は絶対に明かせない」

月「もし彼女達が『自分達こそが真のキラだ』と考え、能力を『前のキラ』に戻す意思など微塵も持っていなければ……自分達の障害になると判断した場合、たとえそれが『前のキラ』であっても躊躇無く排除するものと考えられるからだ」

清美「じゃああくまでも夜神くんに完全に能力が戻るまでは……星井さん達の前ではこれまで通り、私達はキラの事など何も関係していないように振る舞うということね」

月「そうだ。それまでは絶対に、能力を取り返そうとしているのが僕達であるということを知られてはならない。二人に接触し能力を戻すよう働き掛ける際も、絶対に発信元が特定されないような手段を使って連絡を取る」

清美「できるの? そんなことが」

L「はい。できます」

清美「そ、それならいいですけど……」

海砂「…………」

月「ミサ」

海砂「ライト」

月「……どうだ? やっぱり怖いか?」

海砂「……ううん」

海砂「ミサ、やるよ。言ったでしょ。ミサはキラ……ライトの為なら何でもするって」

月「ミサ」

海砂「それに美希ちゃんは、ミサにとっても大事な友達だから……もしこれで美希ちゃんがキラの仲間になってくれるんなら、ますますミサが協力しない理由は無いよ」

月「……ミサ。ありがとう」

月「君が絶対に危険な目に遭うことが無いよう……僕達も全力でサポートするよ」

海砂「えへへ……ありがとう。ライト。心配してもらえてうれしい」

清美(海砂さん、本当に嬉しそう……。流石にちょっと罪悪感を覚えるわね……)



591:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/28(日) 00:00:11.97 ID:s0wFV0OC0

海砂「ところで、ライト」

月「何だ? ミサ」

海砂「その……美希ちゃんがいつも持ち歩いている物っていうのは一体何なの? キラが裁きをするのに必要な道具ってこと?」

月「ああ、そういえばまだ説明していなかったな。星井美希と天海春香の二人が連絡用に使っているノートだよ」

海砂「ノート? 連絡用の?」

月「ああ。そこには二人がキラとして裁きを行ってきたことに関する秘密の連絡内容が記されている。これまでの調査の結果から考えて間違いない」

海砂「じゃあ、そのノートさえ押さえてしまえば……それがそのまま二人がキラであることの証拠になるってこと?」

月「そうだ」

清美「そしてそれを押さえた上で、二人にキラとして特定していることを匿名で伝え、『前のキラ』に能力を戻すよう要求する……ということね」

月「そういうことだ。もし抵抗するようなら、『キラの正体をその証拠とともに世間に公表する』とでも言って脅せばいい」

海砂「なるほど……」

月「ということなので、要は二人がキラであることの証拠さえ押さえてしまえば後はどうとでもなるということだ」

月「能力を全部僕に返させ、こちらが殺される危険をゼロにした上で―――僕達も正体を明かし、二人を正式にキラの仲間として迎え入れればいい」

海砂「でも……具体的にどうやって美希ちゃんからそのノートを押さえるの? 美希ちゃんの家に侵入するの?」

月「ミサにそんな危ない橋を渡らせるわけないだろ。心配しなくてももっと安全な策を考えてある」

海砂「ライト……」

清美「ではどうするの?」

L「ミサさん。直近で星井美希と共演する仕事はありますか?」

海砂「? 美希ちゃんと? 今の所は別に無いけど」

L「じゃあ作りましょう」

海砂「えっ」

L「ミサさんの所属事務所に手を回し、星井美希と共演する仕事の場を作ってもらいます」

海砂「うちの事務所に手を回すって……そんなことできるの?」

L「できます。こう見えても私は芸能界にも顔が利くので」

海砂「マジで?」

L「マジです」

月「さっき言っただろ? 竜崎は様々な業界に広く通じている、って」

海砂「でもうちは良くても、美希ちゃんの事務所の方がオーケーするかどうかわかんないわよ。あっちは今や、うちなんかとは比べものにならないくらいの超人気アイドル事務所だし……」

L「それも大丈夫です」

海砂「マジで?」

L「マジです。ミサさんは何も心配せず、担当マネージャーから新しい仕事の話を聞くのを待っていて下さい」

海砂「まあそれなら任せるけど……じゃあミサは、そのお仕事のときに美希ちゃんの持っているノートを押さえればいいってことね?」

L「そういうことです。よろしくお願いします。作戦の詳細はまたおってご説明します」

海砂「分かった」



592:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/28(日) 00:19:01.33 ID:s0wFV0OC0

清美「夜神くん。私は特に何もしなくていいのかしら?」

月「いや、高田さんには……ミサが星井美希からノートを押さえるときに天海春香を見張っておいてほしい」

清美「天海さんを?」

月「ああ。天海春香もまたキラの力を持っている。ミサの動きに気付いた星井美希が咄嗟に天海春香に連絡を入れないとも限らない……動きを押さえておけるなら押さえておくに越したことは無い。やってくれるかい?」

清美「ええ、それは勿論。でも単に見張っておくだけでいいの?」

月「無論、可能であれば直接相対してほしいところではあるが……高田さんはまだそこまで天海春香と親しい間柄じゃないだろう? いきなり呼び出したりしてかえって怪しまれるのも良くないしね」

清美「それなら大丈夫よ。夜神くん。ついこの前、天海さんの家でお菓子作りを教えてもらったところだから」

月「えっ。そうなのか?」

清美「ええ」

海砂「えー何それ楽しそう! 私も呼んでくれたらよかったのに」

清美「では次は是非海砂さんもご一緒に」

海砂「やった」

月「でも、何でまたお菓子作りを?」

清美「特に深い理由は無いけど……前々から、趣味でも何でも、色んな分野に挑戦することで自分自身の幅を広げたいと思っていたの」

月「なるほど。流石は高田さん。向上心があるね」

清美(本当は夜神くんにお菓子を手作りしてあげたかったからだけど)

L「では、高田さんは既に天海春香とある程度親しくなっているということですか?」

清美「そうですね。お互いに下の名前で呼び合うほどには」

L「そうですか。ではこれで天海春香の動きも問題無く押さえられそうですね。どうかよろしくお願いします」

清美「分かりました」



593:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/28(日) 00:28:14.00 ID:s0wFV0OC0

海砂「でもこれで上手くいったら、美希ちゃんと春香ちゃんも晴れてミサ達キラ一味への仲間入りを果たすのね。まあ二人とも元々『竜ユカ』のメンバーだからあんまり新鮮さは無いけど……」

清美(キラ一味って……)

月「ああ、そのことなんだが……ミサ」

海砂「何? ライト」

月「そろそろまた会合の招集を頼んでもいいか?」

海砂「会合って……『竜ユカ』の?」

月「ああ。前に『765プロの合宿後にまた集まろう』という話になっていたからね。二人から不審に思われないためにも集まっておいた方が良い」

海砂「オッケー。じゃあ行き先はどうする? 確か、次はピクニックか遊園地か……って話だったと思うけど」

月「そうだな……あくまでカムフラージュのようなものだから、なんでもいいともいえるが……」

L「遊園地で良いんじゃないでしょうか」

月「竜崎?」

L「遊園地だと乗り物などで二人一組になったりしやすいですので……常に全員でまとまって行動するより、星井美希・天海春香の様子を観察しやすくなります」

月「なるほど……確かに」

L「まあ観察したからといって、その場でどうこうするということは無いですが……ただ、情報は少しでも多くあった方が良いですので」

月「それもそうだな。じゃあ具体的にどこの遊園地にするかは僕と竜崎の方で考えよう。決まったらミサに連絡するよ」

海砂「分かった。じゃあミサはそのライトからの連絡を受けて全員宛てにメールすればいいのね」

月「ああ、頼む。……では二人とも、僕達から指示があるまでは今までと変わりなく生活してくれ。星井美希・天海春香とも普通に連絡を取ってもらって構わない」
 
月「特にミサは……まあ今更心配は無いだろうが、星井美希と今まで通り良好な友人関係を維持しておいてくれ」

海砂「うん。それは大丈夫。ミサと美希ちゃん、本当に仲良しだからね」

月「そうか。助かるよ。ミサ」

海砂「えへへ……」



594:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/28(日) 00:38:44.71 ID:s0wFV0OC0

清美「でもあの二人もキラの理念に共感していたなんて……今まで全然気付かなかったわ」

海砂「あー、それはミサも思った」

L「まあ考えてみれば別に不思議でも何でもないですけどね……今やネット上じゃキラ支持派の方が圧倒的に多いですし」

海砂「でも共感や支持だけならともかく、あの二人が実際にキラとして裁きをやってたなんてね。本当に驚いちゃった。……あ、ていうか今更なんだけど……ライト」

月「? 何だ? ミサ」

海砂「結局の所……キラの能力ってどんななの?」

月「!」

海砂「しかも美希ちゃん達はそれをどうやってライトから奪ったの? それも全部じゃなくて一部だけ残してって……一体どうやって?」

月「……それは……」

海砂「なーんて、ね」

月「? ミサ?」

海砂「秘密なんでしょ? そのへんのことは」

月「……ああ。悪いが、いくら君達にでも教えられない」

海砂「だよねー。さっきライト、例の四人の犯罪者を裁く時、ミサ達に見えないようにしてたし」

清美「まあ仕方無いでしょうね。むしろ秘密を知る人間の数は必要最低限にしておいた方が良いと思います。どこから秘密が漏れるか分かりませんから」

海砂「一応言っておくけど、ミサはもしキラの秘密を知っても絶対に誰にも言わないよ。たとえ死んでも」

清美「それは私も同じ気持ちですけど……でも自白剤とかもあるでしょう?」

海砂「あー……確かに」

L「ポリグラフ……いわゆる嘘発見器などもありますしね。高田さんの仰るとおり、万が一の時に備えてリスクを極小化しておくための措置です」

月「そういうことだ。すまないが、どうか分かってほしい」

海砂「うん。大丈夫だよ。ミサは何があっても……ライトの事、信じてるから」

清美「私もです」

月「二人とも、ありがとう」

L「あの、一応私もいるんですが……」

海砂「うん。竜崎さんの事も信じてるよ。一応」

清美「私もです。一応」

L「……どうも」



595:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/28(日) 00:49:06.09 ID:s0wFV0OC0

海砂「あ、でも……竜崎さんが実は春香ちゃんのファンじゃなかった、っていうのは地味にショックだったなー。ミサ、あの話結構感動してたのに」

清美「確かに。私も同感です」

L「それはすみませんでした」

海砂「……っていうかさ、別にわざわざ『春香ちゃんのファン』なんて言う必要無かったんじゃないの? 竜崎さんの見た目的にも、単に引きこもりってことさえ言っておけば、実はキラの正体を探っている探偵だった、なんてまず疑われないと思うんだけど」

清美(見た目的にもって……)

L「……念の為です。もし何らかのきっかけにより私の素性を疑われかねないような状況が生じても、とりあえずファンだということにしておけば最悪殺されることはないだろうと考えました」

海砂「あー……まあアイドルにとってファンは一番大事にしないといけない存在だもんね」

L「はい。そういうことです」

海砂「あ、じゃあ美希ちゃんじゃなくて春香ちゃんのファンってことにしたのは何で? 単なる好み?」

L「いえ。単に天海春香が既に月くんと接点を持っていたため、信憑性のある話を捏造し易かったからです」

海砂「あー……なるほど」

清美「でもあの日、夜神くんと竜崎さんが天海さん達に出会ったのが偶然だったということは……あの竜崎さんの一連の身の上話は、全てあの場で……即興で作ったものだったということですか?」

L「はい。完全に即興……アドリブです。さっき月くんも言っていましたが、あの日はあくまでもミサさんへの接触が目的でしたので……まさか星井美希・天海春香の二人と一気に直接接触することになろうとは思いもしていませんでした」

海砂「それであのアドリブかあ。すごいよね。……あっ。でもさ、あの時の話が全部嘘なら、何でお面着けてたの?」

L「あれも念の為です。キラの殺しの条件は『顔』と『名前』ですから。いくら『名前』を知られない限りは殺されないといっても、キラがどこにいるか分からない以上、隠せるのであれば『顔』も隠しておいた方がいいだろうと思いました」

海砂「へー、随分慎重なのね」

L「ただ、とある事故の所為でキラ容疑者の前で素顔を晒す羽目になりましたので……その後はもう着けていませんが」

海砂「……その節は本当に申し訳ありませんでした」

L「いえ。そのことはもういいです。むしろ結果的に星井美希・天海春香の両名により近付くことができましたし……どのみち『名前』が知られない限りは殺されませんので」

海砂「あ、じゃあやっぱり『竜崎ルエ』は偽名なのね」

L「はい。あの日私がした話の中で、その名前が偽名だったということだけは本当です」

清美(ややこしい……)

L「そもそも殺される殺されない以前に……現状、私があの二人から何か疑われているということも無いでしょうから、特に心配はしていません」

海砂「それもそうね。さっきも言ったけど、ぶっちゃけた話、あなたはただの引きこもりにしか見えないし」

L「…………」



597:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/28(日) 01:00:59.93 ID:s0wFV0OC0

海砂「あっ」

月「? どうした? ミサ」

海砂「もしライトにキラの力が戻って、美希ちゃんと春香ちゃんも正式にキラの仲間としてメンバーに加わったら……」

清美「加わったら?」

海砂「このサークルの名前も変えないといけないわね! 『竜崎と愉快な仲間達』から『キラと愉快な仲間達』に!」

月・L・清美「…………」

海砂「あ、あれ? もしかして『キラキラの会』とかの方が良かった?」

月「いや、別に何でもいいが……」

L「とりあえずミサさんのセンスは相変わらず壊滅的であるということを再認識しました」

清美「同感です」

海砂「皆ひどい!」

月「まあ二人を仲間に入れるためにも、まずは彼女達がキラであることの証拠を押さえる事が先決だ」

海砂「うん。ノートね。ミサがんばる」

清美「そして私は天海さんの動きを見張っておく……」

月「そうだ。二人とも、大変かもしれないがよろしく頼む。そして今後、くれぐれも彼女達に勘付かれたりすることのないよう、慎重に行動してくれ」

海砂「大丈夫だよ。ライト。ミサ、こう見えて女優路線も狙ってるから」

清美「私はあまり演技には自信が無いけど……やれるだけのことはやってみるわ」

月「ああ。出来る範囲で構わない。そして出来ない部分はお互いに補い合っていこう」

L「チームワーク第一、ということですね」

月「そうだ。では今日はこのへんで。キラの理想の新世界……その実現の為に、皆で力を合わせて頑張ろう」

海砂・清美「はい!」



598:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/28(日) 01:22:05.59 ID:s0wFV0OC0

【翌日・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


【アリーナライブまで、あと36日】


L「皆さんにもご覧になって頂いていたとおりですが、昨日、無事に弥海砂および高田清美の協力を取り付けることに成功しました」

L「これをもって、『計画』は第二段階……星井美希の持つノートを弥に押さえさせるためのシチュエーション作りに入ります」

松田「あの……竜崎。ちょっといいですか?」

L「はい。何ですか? 松田さん」

松田「ミサミサも高田清美も、二人とも月くんに惚れているのみならずキラの崇拝者でもある……こんな二人にあんな報道操作までして月くんがキラって信じさせたんですから、協力を得られたのはある意味当然だと思いますけど……でもこれ、作戦としては結構危ないっすよね?」

L「そうですか?」

松田「え、だってミサミサに殺人の道具とおぼしきノートを押さえさせるわけじゃないっすか。直前になって『やっぱり怖い』って言い出したりとか……十分ありえる事だと思いますけど」

L「それは大丈夫です。そういう事態を防ぐために『ノートは連絡用の道具です』と説明したわけですから」

松田「あ、そういえばそうでしたね……。いや、でもやっぱりいざっていう段になると……」

L「もちろん100%の保証まではできないですが、それでも私は、シチュエーションさえ用意できれば弥がノートを押さえることはほぼ問題無く可能だろうと考えています」

L「理由として、まず第一に彼女は心底月くんに惚れています。つまり月くんの力になれることなら何だってする」

月「…………」

L「第二に、彼女は知っての通りのキラ崇拝者でもあります。今回はあくまでも『自分が崇拝していたキラである月くんにキラの能力を取り戻させるため』という目的の下での行動ですから、彼女がそれを躊躇する理由はありません」

L「逆に『キラである星井美希と天海春香を捕まえるため』という本来の目的を明かしていたら、いくら月くんの頼みといえど、松田さんの言うように、実行直前になって躊躇してしまっていた可能性はあったでしょうね。あの二人……特に星井美希は、弥にとって相当親しい友人ですから」

総一郎「しかしだからこそ、その親密な関係を利用して、星井美希に自然とノートから離れるほどの隙を作らせることができる……か」

L「その通りです。夜神さん。以前にも言いましたが……星井美希はほとんど常に肌身離さずノートを持ち歩いているほどの警戒心を持っているにもかかわらず……自身の家族や同じ事務所の仲間など、真に信頼している者達に対しては堂々と隙を見せています」

星井父「…………」

L「この点、星井美希と弥との間には、765プロダクションのアイドル同士の間におけるほどの強固な信頼関係まではまだ無いと考えられますが……それでも十分、互いに信頼し合っている友人同士と言っていい関係だと思います。またこれは私と月くんが例の会合の際に自らの目で確かめたことでもあります」

月「そうだな。その点については僕も異論は無い。よく二人で会っているようだしね」

L「はい。なので後は、自然と星井美希がノートを置いて場を離れることができるようなシチュエーションを作ることです。そしてそこを弥に押さえさせる」



599:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/28(日) 01:32:52.89 ID:s0wFV0OC0

相沢「だが……竜崎」

L「はい。何でしょう? 相沢さん」

相沢「我々の……というより、竜崎と月くんの推理通りなら……天海春香もまた、星井美希とは別に『黒いノート』を所持している……ということになるんだよな?」

L「そうですね」

相沢「そして星井美希とは違って、天海春香には常にノートを持ち歩いているような気配は無い。だとすれば、ノートは基本的に家に置きっぱなしにしてあるはず……押さえるなら、こちらの方が簡単なのでは?」

L「確かにその手もあります。ただその場合はこちらで隠し場所を捜さないといけないですし……必ずしも家にあるとも限りません」

相沢「? 家じゃないとすればどこに?」

L「それは分かりません。ただ、犯罪者裁き自体はノートが一冊あれば足りるでしょうから……極端な話、実際に裁きに使っているのは星井美希のノートのみで、天海春香のノートはどこかの山にでも埋めている可能性すらあります。もしそうならそちらのノートを押さえるのは極めて困難です」

総一郎「確かに。他に何らかの物的証拠があるなら、逮捕した上でノートの隠し場所を自白させるという手もあるところだが……」

L「はい。流石に何の物的証拠も無い現段階での逮捕は不可能です。また一か八かで家宅捜索を強行するという手もありますが、発見に手間取り勘付かれた場合、星井美希に連携され、即座にここにいるメンバーの何名かが殺されてしまう危険があります」

相沢「もし殺されるとすれば、現時点でキラ事件の捜査に関与している事が知られている者……つまり局長と模木……か。後は……」

星井父「俺もだろうな。例のメールの件が疑われているとすれば、だが」

模木「係長……」

L「まあそうですね。そういう理由からも、そこにあるかどうかも分からない天海春香のノートを押さえるよりは、確実にそこにあると分かっている星井美希のノートを押さえる方が簡単ですし、何より安全です」

相沢「ふむ……確かに状況さえ作り出せればその方が確実か……」

総一郎「また同じタイミングで高田清美に天海春香を見張らせておくから、仮に星井美希から連携がなされても天海春香がすぐに何らかの行動を起こすことはできない。その場でノートを所持されでもしていたら話は別だが、天海春香ならその心配も少ない。そのような点からも、今の作戦の方が安全性としては高いといえるな」

松田「ただ、作戦自体の安全性は保証されても、月くんの安全性は全く保証されてないっすけどね……真面目な話、月くん、キラ事件が終わったらしばらくの間は外国に高飛びでもしといた方がいいんじゃないっすか? じゃなきゃ、キラは捕まえられてもミサミサか高田清美に殺されちゃいますよ……」

L「その点については心配無用です。キラ事件が解決した翌日から、月くんには半年間の海外留学に行ってもらいますので」

松田「えっ。そんな手筈になっていたんですか。流石竜崎」

月「いや、僕も知らなかったが……そうなのか? 竜崎」

L「はい。月くんは将来の日本警察を背負って立つ人物……そう簡単に死なれては困りますので。もちろん、必要であれば私もお供します」

月「いや、それは別にいいが……ありがとう。竜崎。そういうことなら、心置きなく行かせてもらうよ」

L「はい。ただもちろん、生きてキラ事件を解決することが大前提ですけどね」

月「ああ。分かっている」



600:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/28(日) 01:43:15.53 ID:s0wFV0OC0

総一郎「後はいつ、この作戦を実行に移すか……か」

L「そうですね。ただ率直に言って、もうあまり時間は無いと思っています」

L「現状、星井美希と天海春香がどの程度“L”の存在に近付いているのかは分かりません。ですが、やはり星井美希が私と星井さんを対面させた件から考えると、少なくとも星井美希は私の……“竜崎ルエ”の素性をある程度は疑っている可能性があると考えるのが自然です」

相沢「疑っているというのは……竜崎がキラ事件の捜査に関与しているのではないか、というレベルでの話か?」

L「はい。そうです」

一同「!」

L「理由としては……以前にも言いましたが、天海春香はともかく、少なくとも星井美希は、自分が“L”に疑われているということに気付いていると考えられるからです」

L「つまりもし星井美希が、何らかのきっかけにより私の素性を疑い始めたのだとすれば……“L”にキラではないかと疑われている自分――その身近にいる怪しい人間――であるところの私を、『“L”または“L”の関係者』……すなわち『キラ事件の捜査に関与している可能性のある者』ではないかと疑うのは自然な思考の流れです」

一同「…………」

L「また同時に、私の素性が疑われることは、必然的に、月くんに対する疑念にもつながります」

L「月くんは、『キラ事件の捜査に関与している可能性のある者』である私と常に話を合わせていたということになりますから……私と同様に『キラ事件の捜査に関与している可能性のある者』ではないかとの疑いを掛けられることになると考えられます」

L「さらに、もし天海春香がこちらの推理通り、『顔を見れば名前が分かる能力』を持っていたと仮定した場合、彼女は事務所に聞き取り調査に来た夜神さんの顔を見ているため……夜神さんの本名を知っているということになります」

L「このことから、天海春香と星井美希の二人は、『あの時事務所に来た刑事は夜神月の父親だった』ということには既に気付いているということになります。『夜神』という珍しい名字の刑事がそう何人もいるとは通常考えにくいですから」

総一郎「うむ……」

L「この事実は、月くんが将来警察志望であるということもあわせて考えると、月くんが『キラ事件の捜査に関与している可能性のある者』ではないかという疑惑をさらに強めることとなる事情といえます」

L「なので現状、私と月くんはキラ事件の捜査関係者ではないかと……いえ、むしろ、私達のいずれかが“L”なのではないかとすら……疑われていたとしてもおかしくはありません」

月「もしそうなら、僕と竜崎が殺される候補の筆頭として一気に躍り出ることになるな」

L「そうですね。あまり名誉な事ではありませんが」

月「はは。まったくだ」

松田「いや、月くん。笑ってる場合じゃ……」



601:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/28(日) 02:01:07.91 ID:s0wFV0OC0

L「…………」

L(それにもし、天海春香の持つ能力が私の推理通りなら……私の本名も二人に知られているということになる)

L(それも情報として加味すれば……現状、“L”である可能性を最も強く疑われているのは私だろう)

L(にもかかわらず、まだ私が殺されていないのは……今殺すことで足がつくことを恐れているのか……)

L(あるいは……星井美希と天海春香との間では、まだ“L”の正体についての最終的な意見の一致はみられていない……?)

L(ありうる一つの可能性として、現在、私は二人の前では天海春香のファン――それも熱狂的な――を演じている)

L(星井美希が私を“L”ではないかと疑っているとしても……天海春香がまだ私の嘘を何ら疑わずに信じており、その点で二人の考えが相違している、とすれば……)

L(いや、だが仮にそうだとしても、その状態がいつまで続くかなど分からない……結局、少しでも早く決着をつけなければならないということに変わりはない)

L「…………」

相沢「竜崎? どうかしたか?」

L「ああ、いえ……何でもありません。後は……先ほどご自身でも言われていましたが、合宿中のメールの件が疑われているとすれば……星井さんも、『キラ事件の捜査に関与している可能性のある者』として疑われていてもおかしくないでしょうね」

星井父「…………」

松田「じゃあ結局、安全そうなのは僕と相沢さんだけってことですか」

相沢「俺達だって分からんさ。いくら尾行時にはマスクとサングラスを着けているとはいえ、絶対の保証ってもんでもないからな」

松田「それはまあ……そうっすね」

L「……以上のような状況ですので、あまり長く時間を掛けるのは危険です」

L「少しでも早くキラとしての証拠を挙げ、キラを捕まえる事……それが、私達が全員揃って生き残ることのできる唯一の策です」



602:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/28(日) 02:15:56.38 ID:s0wFV0OC0

松田「で……そのためにミキミキとミサミサが共演できる仕事の場を作るってことですね」

L「そういうことです。裏で我々が動いていることには絶対に気付かれないように作ります」

総一郎「しかし今回もまた我々が警察として動き、弥の所属事務所と765プロのそれぞれに捜査協力を要請するのだとすれば……前の空港の時のように、『犯罪の一般予防』という理由で通すのは難しいだろうな。絶対に極秘とすることを条件として、ある程度の事情は話さねば……」

相沢「そうですね。特定の個人の所持品を捜索するための協力を求めるわけですから……」

松田「でもミサミサの事務所……ヨシダプロはそれで良くても、765プロにそれをするのは危なくないっすか? 完全に身内なわけですし……情報が事前に本人達に伝わってしまう可能性も十分……」

相沢「確かに……いや、待てよ。ならヨシダプロにだけ事情を明かし、765プロにはヨシダプロから、あくまでも普通に仕事の話として持ち掛けてもらえばいいんじゃないか? それならあえて765プロ側に事情を伝える必要も無いだろう」

松田「でもその場合、ミサミサも言ってましたけど……765プロ側が仕事を受けないかもしれないじゃないすか。今や、ヨシダプロと765プロとじゃ所属アイドルの人気も売れ方も比べものになりませんし、ましてや765プロはアリーナライブも近い時期ですからね。ここでいきなり新規の仕事って言っても受けてくれるかどうかは……」

相沢「なるほど……それは確かにそうか……」

総一郎「そのあたりは一体どう考えているんだ? 竜崎」

L「……そういえば、まだ皆さんにはこのあたりの具体的な方法については説明していませんでしたね。月くんとは話していたのですが」

総一郎「ということは、もう何か具体的な策があるのか?」

L「はい。まず今回は皆さんに警察として動いてもらおうとは思っていません」

相沢「? じゃあ誰が動くんだ?」

L「私が直接“L”として動きます」

総一郎「! 竜崎が直接?」

L「はい。ただそれでも、今松田さんが仰ったように、ヨシダプロダクション側はともかく……765プロダクション側に事情を伝えるのは極めて危険です。星井美希達本人に伝えられてしまえばそれで終わりですから」

L「しかし、かといって事情を誰にも伝えなければ……これも松田さんの仰ったとおり、今度は765プロダクション側に普通に仕事を断られてしまう可能性があります」

L「さらにいえば、仮に仕事自体は受けてもらえたとしても、765プロダクション側の誰にも事情を伝えていなければ、いざという時の対処が困難となる場合がありえます。たとえば弥が星井美希の所持品を捜索している間は、当然、星井美希本人はその場から遠ざけておかなければなりませんが、それを確実に担保できる状況が作れなければリスクとして高過ぎます」

相沢「じゃあ……一体どうするんだ? その前提だと、どうやっても何らかのリスクが残るように思えるが……」

L「いえ。大丈夫です」



970: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/06(土) 14:35:13.72 ID:jizsduFN0

L「要は、765プロダクション側に事情を伝えても、そのことが星井美希や天海春香に伝わらなければいいわけです」

L「ただそうは言っても、765プロダクションは極めて強固な絆に支えられている組織体です。それはアイドル同士のみならず、社長その他従業員についても基本的には同じです。もしこの中の誰か一人にでも『星井美希と天海春香がキラとして疑われており、その捜査を目的とした仕事が入った』という情報が伝われば、その内容は即、星井美希および天海春香本人に伝わる可能性があるといえます」

松田「それじゃあ、結局無理ってことじゃないっすか。要は誰に伝えてもミキミキやはるるんに伝わっちゃうっていう……」

月「いや……一人だけ『例外』がいる」

松田「? 『例外』?」

L「はい。今私は『アイドル同士のみならず、社長その他従業員についても基本的には同じ』と言いましたが……文字通りそれは『基本的には』です」

L「月くんの言うとおり、ただ一人だけ……『例外』にあたる人物がいます」

相沢「? 一体誰なんだ? それは……」

L「それは……極めて強固な絆に支えられている765プロダクション……その組織体の中にいて唯一、『こちら側』に引き込むことのできる可能性のある者」

L「もちろん、その者も765プロダクションの絆の一つを構成しているであろうことは間違いありませんが……説得の仕方次第では十分『こちら側』に引き込めます」

総一郎「! ……そうか。『彼』か」

L「はい。キラ事件の開始当初から登場していながら、これまでその出自・属性ゆえにほとんど我々が着目することのなかった―――『彼』です」


















【二日後・961プロダクション本社ビル前】


【アリーナライブまで、あと34日】


P「それにしても、随分久しぶりだな」

P「―――ここに来るのも」



608:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/05(土) 09:07:54.85 ID:RMqBneGO0

【961プロダクション本社ビル内】


P「しかしあんま変わってないな……」

P「まあ俺が移籍してからまだ一年も経ってないし、そんなもんかもな」

961社員「……あれ? ○○さん?」

P「ん? おお。久しぶり」

961社員「な、何でこんなとこに……? あっ。もしかしてまたうちに戻って……?」

P「違う違う。一昨日、急に黒井社長に呼ばれたんだよ。何の用かは知らんけど」

961社員「えっ! それってもしかして……『もう一度私の下で働いてくれないか』的なやつっすか?」

P「いや、それは無いよ。俺の765への移籍自体、黒井社長が決めたんだから」

961社員「あー、それって確か、765プロのプロデューサーが急死しちゃったから○○さんを急遽移籍させることにしたっていう……」

P「そうそう。高木社長は黒井社長の昔馴染みだったからな。困ってるのを放っておけなかったんだろう」

961社員「でも……それって本当にそういう理由だったんすかね?」

P「? どういう意味だ?」

961社員「だって黒井社長、ずっと765プロの事目の敵にしてたじゃないすか。それなのに急に助けるって……なんか違和感ありますけど」

P「そりゃまあ昔は色々あったんだろうよ。でもやっぱりいざっていう時には見捨てられなかったって事だろ」

961社員「そういうもんなんすかねぇ」

P「あとアイドル業界全体を活性化させるため、っていう理由もあったんだろ。実際、俺が社長から直に言われた理由はそっちだったし」

961社員「あー、ありましたね。アイドル事務所の関係者ばかりが事故や自殺で次々と死んでいった怪事件」

P「そうそう。轡儀さんも亡くなったしな」

961社員「あの時の黒井社長の落ち込みっぷりったらなかったっすよね」

P「独立する前からずっと一緒に働いてたらしいからなぁ。うち……いや、961プロでも事実上の右腕だったし」

961社員「でも轡儀さんが亡くなった後も業績には影響出さなかったあたり流石っすよね。黒井社長」

P「ああ。961プロって一見社長のワンマンに見えるし、外でもよくそういう風に言ってるけど……実際は轡儀さんのサポート無くして今の地位は無かっただろうからなあ」

P「だから轡儀さんが亡くなった後も業績を維持してたのは……黒井社長がそれこそ死に物狂いで頑張ったからなんだろうな。多分」

961社員「多分って……○○さん、その頃まだうちにいましたよね?」

P「ああ。でもほら、俺はジュピターの活動報告の時くらいしか社長と話す機会無かったからさ」

961社員「そうなんすか。……あ、そういえば知ってます? ○○さんの後任のプロデューサー、××さんになったんすよ」

P「へー、あいつに。そうなのか。知らなかった」

961社員「あれ? もしかして○○さん、ジュピターのメンバーとはあんまり連絡とか取ってない感じすか?」

P「ああ。俺が移籍して以来、仕事でもかぶってないしな」

961社員「そうなんすか。なんか意外だなあ」

P「? そうか?」

961社員「ええ。だって○○さんとジュピターの三人って、すごく強い絆で結ばれてるように見えてましたから」

P「あー……まあ、な」

961社員「? なんかワケありな感じっすか?」

P「いや、別に何も無いよ。ただ中途半端な所でプロデュースやめちまったのと、急な話で碌に挨拶もできないまま別れちまったから……正直、後ろめたい気持ちはあるかな」

961社員「あー、なるほど。じゃあ折角ですし、会っていったらどうです? 今日は三人とも社内にいると思いますよ」

P「そうだな……まあ時間があればそうするよ」

961社員「今、結構忙しい感じすか?」

P「まあな。今日の黒井社長の件も『できるだけ早く来てほしい』って言うからスケジュール無理矢理割いて来たようなもんだし」

961社員「ははは。それはお疲れ様です」



609:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/05(土) 09:22:29.52 ID:RMqBneGO0

961社員「ところで、○○さんが移籍してもう半年以上になりますけど……実際どんな感じなんすか? 765プロって」

P「あー……まあ色んな意味で961とは全然違う感じかなあ。事務所の規模にしても社風にしても」

961社員「へー、やっぱそうなんすか」

P「ああ。あと社長の性格も全然違う」

961社員「はは。でも765プロのアイドルの躍進ぶりって半端無いっすよね。今やジュピターに勝るとも劣らない人気ぶり……」

961社員「それってやっぱり○○さんの功績っすよね?」

P「……別に俺は何もしてないさ。俺が入った時点であいつらはもうかなりの人気アイドルになってたからな」

961社員「いやいや、そんなことないっすよ。そりゃ元々の人気もあったでしょうけど、○○さんが入ってから、一層その勢いに拍車が掛かったっていうか……たとえばほら、765プロのアイドル二名が主役と準主役を務めた舞台『春の嵐』の大ヒットとか。あれって確か全国公演もやってましたよね?」

P「ああ。ちなみに夏からの追加公演も決まったよ。今日ちょうどここに来る前、そのインタビュー記事の取材があったから出演する二人に付き添ってきたところだ」

961社員「えぇ! またやるんすか? すごいなあ……」

P「まあでも今度は東京公演だけだけどな。8月頭にあるアリーナライブが終わった後、秋には美希……星井美希がハリウッドに行っちまうから、その間だけだ」

961社員「そうそう、それらもっすよ! アリーナライブにハリウッドって……本当、すごいっすよ○○さん」

P「いや、だからそれも別に俺の力じゃ……」

961社員「あとその『春の嵐』主演の天海春香のアイドルアワード受賞なんてのもありましたし……“歌姫”如月千早の二度にわたる海外レコーディングなんかも」

961社員「その他のアイドルもテレビや舞台に引っ張りだこ……今や街を歩いていて765のアイドルの顔を見ない日は無いっすからね」

961社員「それもこれも、やっぱり全部○○さんの功績っすよ! いやあ、本当にすごいなあ」

P「いや、だから」

961社員「っと! いっけね、もう会議の時間だ。じゃあ○○さん、また今度ゆっくり聞かせて下さいね。○○さんの武勇伝! それじゃ」ダッ

P「あ、おい……」

P「……言うだけ言って行っちまいやがった。まったく……」



610:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/05(土) 09:32:19.13 ID:RMqBneGO0

P「まあいいか。さっさと社長の所に……」

 ドンッ

P「わっ」

「っと」

P「すみません」ペコリ

冬馬「ああ、こちらこそ……ん?」

P「?」

冬馬「あ……あんた!」

P「! 冬馬」

冬馬「…………」

P「…………」

翔太「わぁ、びっくりした。○○ちゃん。なんでこんなとこにいんの?」

北斗「これはこれは……御無沙汰してます」

P「翔太。北斗。……何、ちょっと野暮用でな」

冬馬「…………」

翔太「? 冬馬君?」

北斗「おい、冬馬。久しぶりにお会いしたんだ。挨拶くらい……」

冬馬「――――!」

(突然、プロデューサーの頬を殴りつける冬馬)

P「ッ!」

翔太「ちょっ!」

北斗「冬馬!?」

P「……って……」

冬馬「…………」

翔太「何してんのさ冬馬君!」

北斗「お前!」

P「……いいよ。翔太。北斗」

翔太「! ○○ちゃん」

北斗「しかし……」

冬馬「…………」

P「いいんだ。これくらい……俺がお前らにした仕打ちを思えば当然の事だ」

P「お前らのプロデュース、まだ途中だったのに……いきなり辞めちまって悪かった」ペコリ

翔太「いや、でもそれは○○ちゃんのせいじゃ……」

北斗「そうですよ。黒井社長の指示でしょう?」

冬馬「…………」

P「だが最終的に決めたのは俺の意思だ。だから責任は全部俺にある」

翔太「○○ちゃん」

北斗「おい。冬馬。何か……」

冬馬「…………」



971: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/06(土) 14:37:30.71 ID:jizsduFN0

P「冬馬」

冬馬「……どんな理由があれ、あんたがいきなり俺達をほっぽり出したことには変わりねぇ」

冬馬「たとえそれが仕方の無い事だったとしても……俺は……」

P「…………」

冬馬「ああもう、くそっ! もっと色々言ってやりたいことがあったはずなのに……忘れちまった」

翔太「あんだけ思いっ切り殴っといてまだ文句があるの? 冬馬君」

北斗「いや……多分文句じゃないだろうな」

翔太「え?」

北斗「冬馬。本当はお前だって分かってるんだろ?」

冬馬「…………」

北斗「今、自分がこの人に……何を言う、いや、伝えるべきなのかを」

冬馬「…………ああ」

P「冬馬」

冬馬「……言っとくが、殴ったことについては謝らねぇぞ。あれはけじめみてぇなもんだからな」

P「ああ。分かってるよ」

冬馬「だから、それとは別に……まあその、なんだ」

P「…………」

冬馬「俺達の事、プロデュースしてくれて……ありがとな」

P「……冬馬……」

冬馬「……あーもう! 二度と言わねぇからな! こんなこと!」

翔太「なんだ、お礼を言いそびれたまま765プロに移籍されちゃったから怒ってたの?」

北斗「別に外国に行ったわけでもないし、会おうと思えばいつでも会えたのにな」

冬馬「うるせぇ!」

P「……冬馬」

冬馬「あぁ? 何だよ」

P「……それに北斗。翔太も」

北斗「はい」

翔太「うん」

P「俺の方こそ……ありがとう。お前らのプロデュースをさせてくれて」

P「長い間ではなかったけど、楽しかったよ」

冬馬「……ふん」

北斗「こちらこそ、未熟な俺達を高みに届かせて頂いたこと……感謝しています」

翔太「うん。やっぱり○○ちゃんがいないと今の僕達は無かったからね。どうもありがと!」

P「ああ。俺もお前ら三人のプロデューサーでいられて……本当に良かった」



612:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/05(土) 09:58:28.76 ID:RMqBneGO0

北斗「さて、では過去のわだかまりも解けたところで……○○さん。今日は一体、何の用でこちらへ?」

P「ああ。黒井社長に呼ばれたんだ。一昨日、急に電話が掛かってきてな」

冬馬「……おっさんが? 何だって今更……」

P「さあな。『用件は会ってから話す。とにかく少しでも早く来てほしい』って言うから、スケジュールの隙間を縫って来たよ」

翔太「ふぅん。一体何なんだろうね? まさかもう一度961プロに戻って来いとか、そういう話?」

P「さっきも聞かれたが……それは無いと思うがな」

冬馬「ふん。今更戻って来たって入れてやんねーよ」

北斗「お前は小学生か」

P「まあ何の用かは分からんが、黒井社長ともここを辞めて以来会ってなかったからな。昔話に花を咲かすにはちょうど良い機会だと思って来たよ」

冬馬「……別に言うほど昔じゃねーだろ」

北斗「まあ確かに、あなたがここを出られてからまだ一年も経ってないですしね」

P「でもお前らは……あれから一年も経っていないとは思えないほど成長したよな。この前出した最新のアルバム、流河旱樹を抑えてチャート1位だったし」

翔太「あっ。知ってくれてるんだ」

P「当たり前だろ。俺達765プロにとって、お前らは超えるべき存在……いわばライバルだからな」

冬馬「“俺達765プロ”……か」

P「冬馬」

冬馬「…………」

P「……そういや、俺の後任のプロデューサー、××になったんだってな。さっき聞いたよ」

冬馬「……ああ」

P「ちゃんと上手くやれてるか? 困らせたりしてないだろうな? あいつああ見えて結構繊細なところあるから……」

冬馬「ああもう! うるせーな! 別に何の問題もねぇよ」

P「そうか? ならいいんだが……」

翔太「まー冬馬君、時々愚痴ってるけどねー。『チッ……こんな時、あいつだったらもっと上手くやんのによ……!』とか」

冬馬「ば、バカ翔太! お前何言ってやがる! しかも何で妙に似てんだ!」

北斗「まあでも、概ね上手くやってますよ。これといって大きな不満もありませんしね」

P「……ああ。そうなんだろうな。今のお前らを見てるとそれがよく分かるよ」

冬馬「まるでもう自分には関係ねーっていう口ぶりだな」

P「!」

北斗「おい、冬馬」



613:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/05(土) 10:12:10.04 ID:RMqBneGO0

冬馬「まあ無理もねぇか。何せ“俺達765プロ”なんて言葉が自然と口を衝いて出てくるくらいだもんな」

北斗「冬馬!」

翔太「もうやめなって。せっかく良い感じになってたのに」

P「…………」

冬馬「……じゃあ、見せてもらおうじゃねーか」

P「えっ」

冬馬「あんたら765プロの……実力ってやつをよ」

P「!」

冬馬「今度……アリーナでライブするんだろ?」

P「ああ」

冬馬「あんたらが俺達に差を見せつけてやるっていうなら……挑戦状、受けて立ってやるよ」

P「! ……冬馬」

冬馬「ふん」

P「分かった。今度持ってくるよ」

P「……ライブのチケット」

翔太「お、通じた」

北斗「流石……と言うべきか。当然、と言うべきか」

P「いいんだろ? それで」

冬馬「……おう。ライブ、成功させろよ」

P「ああ。任せとけ。……っと、じゃあそろそろ行くわ。またな」

北斗「ええ。また是非近いうちに」

翔太「バイバイ、○○ちゃん」

冬馬「…………」

北斗「冬馬。それにしてもお前……本当にツンデレだな」

冬馬「は、はぁ!? 何で俺が! 気持ちわりぃこと言ってんじゃねぇ!」

翔太「あはは。でも良かったー」

冬馬「? 何がだよ。翔太」

翔太「だって○○ちゃんが移籍してから、冬馬君、ずっと無理してるように見えたから……これでようやく、吹っ切れたんじゃないかなって」

冬馬「なっ……。お、俺は別に無理なんか……!」

北斗「はいはいツンデレツンデレ」

冬馬「だから違うっつってんだろ!」



614:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/05(土) 10:25:22.43 ID:RMqBneGO0

【961プロダクション本社ビル内/社長室】


 コンコン

P「……黒井社長。○○ですが」

黒井「入りたまえ」

 ギィッ

P「失礼します」

黒井「……久しぶりだな」

P「ええ。俺がここを出た時以来……ですね」

黒井「ああ。実に久しい。またその節は苦労を掛けたな」

P「いえ。社長にもお考えがあっての事だったんでしょうし……俺は何とも思っていませんよ」

黒井「そうか」

P「はい」

黒井「ところで……その頬はどうした? 少し腫れているように見えるが」

P「ああ……実はついさっき、昔飼ってた……ちょっとやんちゃな子犬に噛み付かれちゃいまして」

黒井「ほう。それはまた災難だったな」

P「ええ、まあ。ははは……」

黒井「……で、上手く和解できたのかね? そのやんちゃな犬コロやらとは」

P「ええ。それはなんとか」

黒井「そうか。それは何よりだ」

P「はい」



615:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/05(土) 10:44:55.11 ID:RMqBneGO0

黒井「……で、本題の方だがな」

P「ええ。どういった御用向きでしょう」

黒井「まず先に詫びておこう。この度は急に呼び付けてすまなかった」

P「いえ」

黒井「そしてこれから私が話す事は……絶対に誰にも話さないでほしい」

P「? はい」

黒井「では早速だが……君は“エラルド=コイル”という人物を知っているかね?」

P「エラルド=コイル……? 海外の俳優か何かですか? 生憎、存じませんが」

黒井「そうか。では……」

P「…………」

黒井「“L”なる人物を知っているか?」

P「……L……?」

黒井「ああ」

P「……どこかで聞いたことがあるような気もしますが……すみません。少し記憶が……」

黒井「そうか。ならばいい。両者いずれも、表社会に名が知られているような者ではないからな。君が知らないのも無理は無い」

P「あの、社長。話が読めないのですが……」

黒井「ああ。そうだな。これ以上勿体ぶるのはやめておこう」

黒井「実は今……私の前にあるこのPCは外部の者と接続された状態になっている」

P「!」

黒井「黙っていてすまない。今からの話は主にその者からしてもらう」スッ

P「…………?」

(机上のPCのディスプレイをプロデューサーの方へ向ける黒井社長)

(そのディスプレイには『L』の文字が映し出されている)

P「……L……?」

PC『――はい。Lです』

P「!」



623:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/26(土) 23:03:52.45 ID:DmERnsz80

【二日前・961プロダクション本社ビル内/社長室】


黒井「…………」

黒井(キラから『“L”の写真を961プロのホームページに載せろ』と指示を受けてからもう四か月……)

黒井(あの時以降、キラから“L”の写真を載せるように指示されたページには、コイルの助言に従い、今日に至るまでずっと『只今更新中です。今しばらくお待ちください』という文章を掲載したままだが……あれ以来キラは私に対し、追加の指示はおろか何の連絡もしてきていない)

黒井(また一方コイルからも、“L”の正体に関する連絡は特に無い)

黒井(もっとも実際のところ、私にとっては『“L”の正体』などどうでもいい事……ゆえにもしキラが『黒井崇男からは“L”の情報を得られない』と判断し私に見切りをつけたのだとしても、それ自体は何の問題も無いが……)

黒井(……しかし……)

黒井(それならそれで、なぜキラはまだ私を殺さずにおいている……?)

黒井(キラは765プロの関係者……それはこれまでの私に対する脅迫内容から考えてまず間違い無いし、何よりも動機がある)

黒井(つまりそれは――……私が他のアイドル事務所をも巻き込んで行っていた“765プロ潰し”……これに対する“復讐”)

黒井(その首謀者が私であったことは少し調べればすぐに分かる事だろうし、また私としてもあえてこの事を隠そうとはしていなかった)

黒井(わが社が経営を支配している投資会社を通じて、765プロにスパイとして送り込んでいた前のプロデューサーの件にしても……いずれは気付かれるであろうことを承知の上でそうしていた)

黒井(もし仮にそこまで気付かれたとしても……当時はまだ弱小貧乏事務所でしかなかった奴らにとって、私が件の投資会社を通じて行っていた出資に頼らざるを得ない状況であったことに変わりはない。つまり奴らにとって、私に抗する選択肢など最初から無く……ただ私の圧倒的な力の前に屈服するしかないのだと……そう思っていたからだ)

黒井(それがまさか……こんな形で“復讐”を受けることになろうとはな)

黒井(……それにしても……)

黒井(果たして“キラ”は誰なのか……高木なのか、他の従業員なのか、または所属アイドルの中の誰かなのか)

黒井(あるいは……765プロ全体で一丸となって、私を追い詰めようとしているのか)

黒井(―――まあいい。いずれにせよ、“キラ”が765プロの中にいる誰かであることは間違い無い)

黒井(そしてその者……または組織体としての765プロが……私の右腕であった轡儀や、“765プロ潰し”に加担していた他のアイドル事務所の関係者達を軒並み殺し……さらには、私が765プロにスパイとして送り込んでいた前のプロデューサーまでをも殺した事)

黒井(加えて、わが社に関する違法・犯罪行為をネタに私を脅迫し、ジュピターの担当プロデューサーだった○○を765プロに移籍させるよう命じた事)

黒井(そして今まさに、私に対し『“L”の正体を明かせ』と命じてきている事……)

黒井(これらも全て間違い無い)

黒井「…………」



624:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/26(土) 23:18:01.24 ID:DmERnsz80

黒井(だが私としてもキラにいつ殺されるか分からない以上……この事は誰にも言うことはできない)

黒井(唯一、キラと同様の手法で私を脅迫してきたコイルに対してだけは、全てを話さざるを得なかったが……)

黒井(しかしコイルもなぜ、私を脅迫してまで……また、あれだけ拘っていた報酬の増額を諦めてまで……私が“L”捜しの依頼をしてきた本当の理由、背景……さらには真の依頼人がいるとすればそれは誰なのか、などという事まで知ろうとしたのか……)

黒井(いや、だがコイルにしてみれば仕事を請ける前に依頼人をはっきりさせるのは当たり前の事……)

黒井(とすれば当然、形式上の依頼人が私であることなどはすぐに突き止める。それができない様では探偵として無価値だし、ましてやコイルは人捜しで名高い)

黒井(そして形式上の依頼人が私だと分かれば次は私という人間を調べる。これも当然の事だ)

黒井(形式上の依頼人が株式会社961プロダクションの代表取締役社長……ただコイルはここで留まらなかった)

黒井(おそらくコイルは、エージェントを介さずに直接私に連絡を取った時点で――……私がキラと何らかの繋がりがある者、という事までは分かっていたのだろう)

黒井(だが私がキラと仲間として繋がっている者なのか、それとも単にキラに脅されているだけの者なのかまでは分からなかった)

黒井(だからコイルは、わが社に関する違法・犯罪行為をネタに私を脅迫し、私を嘘のつけない状況――犯罪者として報道されれば、キラの裁きの対象となり殺されてしまうかもしれない状況――に追い込んだ上で、私自身にその真相を語らせた)

黒井(そして私がキラと仲間として繋がっている者ではなく、あくまでもキラに脅されているだけの者だったと確認できたので……依頼を受けることにしたのだ)

黒井(もし私がキラと仲間として繋がっている者なら、私の依頼を受けることはキラから直接依頼を受けることと同じ……最終的に“L”の正体を掴めなければ、コイル自身も殺されてしまう危険が生じる)

黒井(ただそうは言っても、私がキラと仲間として繋がっていた場合なら、どのみち依頼を断った時点で殺されてしまう可能性が高かったともいえる……とすればこの場合でも、結局は私の依頼を受けざるをえなかっただろうともいえるか)

黒井「…………」



625:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/26(土) 23:34:13.03 ID:DmERnsz80

黒井(しかし……“L”……か)

黒井(名前も居場所も顔すら誰も知らないが……“エラルド=コイル”、“ドヌーヴ”と並び称される“世界の三大探偵”の一人であり……)

黒井(世界の迷宮入りの事件を解いてきたこの世界の影のトップ、最後の切り札……)

黒井(私は裏の世界にもよく通じていたから……前々からその存在は知っていた)

黒井(ゆえに、キラ事件の開始当初に“リンド・L・テイラー”と名乗る男が行った公開生中継……)

黒井(あれを見た時、私はすぐにピンと来た。『こいつは“L”の替え玉だ』と)

黒井(これまで誰も顔も名前も知らなかった“L”が、あんな風に全世界に自分の素顔を晒す筈がない)

黒井(つまりあれは、ああしてキラを挑発することで自分の身代わりの者を殺させ……それによってキラの存在を証明し、さらには殺しの手段をも特定しようとした“L”の策)

黒井(“L”を名乗る者が公の場に姿を晒したのはあの一回だけだったが……私のように元々“L”の存在を知っていた者にとってはそれだけで分かった)

黒井(もう既にあの時点から、“L”はキラを捕まえるための行動を起こしていたということが)

黒井(そしてまたキラも……そのことに気付いた)

黒井(だからこそ私をして――自分を捕まえようとしている――“L”の正体を明かさせようとした)

黒井(その役に私を選んだのは……単純に私に対する“復讐”という動機もあるのだろうが……おそらくはキラ自身が『自分の力では“L”の正体を掴むことはできない』と判断したからだろう)

黒井(だからこそ、金も権力も人脈も……自分より豊富に持っているであろう私を使うことを思いついた)

黒井(しかしそう考えると……キラは高木ではないということか? ……金や権力はともかく、あいつにもそれなりの人脈はあるはず……)

黒井(またあいつなら、あらゆる業界に広く通じている善澤とのつながりもある。わざわざ正体を知られるリスクを冒してまで私に頼るくらいなら、まずは善澤を使って“L”の正体を探ろうとする方が自然に思える)

黒井(それにキラ自身は別の者だとしても、765プロ全体が組織体として“キラ”としての活動を行っているのならば……やはり当然、高木の持つパイプを使うことはできるはず)

黒井(にもかかわらず……キラはあくまでも私をして“L”の正体を明かさせようとしている)

黒井(……とすれば、キラは高木以外の者であり……)

黒井(かつ、765プロが組織体として“キラ”としての活動を行っているわけでもない……ということか?)

黒井(もっとも、仮にそうだとしても……それ以上には絞り込みようがないが)

黒井「…………」

黒井(……まあいい)

黒井(キラが誰であろうと私には関係無い)

黒井(なぜなら、キラがこれまでに裁いてきた犯罪者の報道のされ方をみるに……キラの殺しに必要な条件は『顔』と『名前』)

黒井(この点、961プロダクションの代表取締役である私は、当然の事ながら『顔』も『名前』も広く一般に知られている)

黒井(つまりキラが765プロの誰であれ……私はいつ殺されてもおかしくない状況にあるといえるからだ)

黒井(ならば今、私にできることはただ一つ)

黒井(警察であれ“L”であれ、早くキラを捕まえてくれるようにと祈ること。……それだけだ)

黒井「…………」



626:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/26(土) 23:48:16.68 ID:DmERnsz80

黒井「…………」

 ピピピピッ

黒井「! 通知不可能」

黒井「……コイルか」ピッ

黒井「はい」

『株式会社961プロダクション代表取締役社長・黒井崇男さんですね』

黒井「? ああ……そうだが。お宅は?」

黒井(人工音声のようだが……コイルが使っていたものとは違う……?)

『私はLです』

黒井「!? え……Lだと?」

『はい。私はLです』

黒井「…………」

黒井(ば……馬鹿な。いくらなんでもこんなタイミングで……)

『あなたはキラに脅されて、探偵エラルド=コイルに私の正体を明かすよう依頼をしていますね』

黒井「! …………」

『ですが、あなたは絶対に私の正体を知ることはできません』

黒井「…………」

黒井(な、なんだこいつ……まさか本当に……)

『なぜなら、私はエラルド=コイルの動向を完全に把握しているからです』

黒井「!」

『探偵が最も用心する相手はマフィアでも殺し屋でもありません。自分の正体を探ろうとする同業者です』

『ゆえに私は、コイルやドヌーヴといった自分の同業者やその周囲の動きについては常に完璧に把握するようにしています』

『よって私は、あなたがコイルに依頼した内容、その際に話したことなど全て仔細に把握しています』

『したがって、あなたがこのままコイルからの報告を待っていても私の正体は永久に掴めません』

黒井「…………」

黒井(こんな話……素直に信じていいものかどうか……そもそもこいつ本当に“L”なのか?)

黒井(いや、今そんなことを考えていても真相が分かるわけではない……。とにかく現状、こいつは私がコイルに依頼している内容を全て把握しているとまで言ってきている……無視はできない……)

黒井(ならば今、私がこいつに聞くべきことは……)

黒井「……目的は何だ?」

『ご理解が早くて助かります』

『あなたはもう知っていると思いますが……私はキラを追っています』

黒井「…………」

『そして私はついに、キラをある個人に特定することができました』

黒井「! 何だと」

『ですがこの先、実際にキラを捕まえるには私一人の力では少し難しい』

『そこで黒井さん。どうかあなたの力を貸して頂きたい』

黒井「! …………」



627:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/27(日) 00:01:44.31 ID:VyoOPtTR0

『あなたの協力があれば、必ずやキラを捕まえることが出来ます』

黒井「…………」

『そしてまた……今現在キラに脅迫されているあなたにとっても、この話は渡りに船のはず』

黒井「! …………」

『キラも今は沈黙しているかもしれませんが、あなたがいつまで経っても“L”の……つまり私の正体を掴めなければ、いつか必ずあなたを殺すでしょう』

黒井「…………」

『しかし今、あなたが私に協力して頂ければキラを捕まえることが出来る。つまりあなたの命は助かる』

黒井「…………」

黒井(確かに、今の話が本当なら……この者が“L”かどうかは別にしても……キラにいつ殺されてもおかしくない状況にある私にとってはまさに渡りに船)

黒井(だが、もし私がこの自称“L”についたことがキラに分かったら……その時点で殺される)

黒井(しかし一方で、このまま何もしなければ、私はずっと『いつキラに殺されるか分からない』という不安に苛まれながら生きていくことになる……)

黒井(それならばいっそ……)

黒井「……分かった」

『! 黒井さん』

黒井「あなたが本当に“L”なのかどうか……それはこの際どうでもいい」

黒井「あなたが本当にキラを捕まえてくれるのなら、私がその申し出を断る理由は無い」

黒井「私にできることがあるのなら、協力させてもらう」

『ありがとうございます』



628:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/27(日) 00:09:13.82 ID:VyoOPtTR0

『では早速……一つ頼みたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?』

黒井「ああ。何だ?」

『半年ほど前まであなたの会社に在籍していた○○という者を、今日以降、できるだけ早くあなたの会社に呼んで下さい』

黒井「! ○○……だと?」

『はい。お願いできますか?』

黒井「可能ではあると思うが……何故だ?」

『理由は彼が来た時にお話しします』

黒井「……分かった。ではすぐに連絡しよう」

『ありがとうございます。なお、彼を呼ぶ場所は他の者が絶対に入って来れない所……そうですね。できればあなたの部屋……社長室にして下さい』

黒井「分かった」

『では彼が来る日程が決まったら、これから伝える番号に電話して下さい。番号は――』

黒井「――了解した。ではこれからすぐに連絡する」

『はい。よろしくお願いします。それでは』プツッ

黒井「…………」

黒井(ここで○○……か)

黒井(自称“L”の発言によれば、奴は私がコイルに話した内容を全て把握しているとのこと)

黒井(とすれば当然、○○がうちから765プロへ移籍した……いや“させられた”経緯についても知っているということになるが……)

黒井(しかしその上で○○をここに呼べ、というのは……?)

黒井「…………」

黒井(……まあいい)

黒井(奴の意図がどうあれ、今は言われたとおりにするだけだ)

黒井「…………」ピッ

黒井「……ああ、私だ。久しぶりだな」

黒井「いや、何。少し急用ができてな」

黒井「ああ……そうだ。本当に急ですまんが、今日以降、できるだけ早く来てもらえないか? ……ああ。うちの会社にだ」

黒井「……ああ。用件は会ってから話す。とにかく少しでも早く来てほしい」

黒井「……そうか。すまんな。では明後日の14時に」

黒井「ああ。よろしく頼む」ピッ

黒井「…………」

黒井(さて、どうなるか……)



629:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/27(日) 00:18:31.03 ID:VyoOPtTR0

【現在・961プロダクション本社ビル内/社長室】


(『L』の文字が映し出されているPCのディスプレイを凝視しているプロデューサー)

P「…………」

PC『この度は御足労頂き、誠にありがとうございました』

PC『今回、あなたをここに呼んでもらうよう黒井社長に頼んだのは私です』

P「…………」

PC『では早速、あなたをお呼びした理由のご説明からさせて頂こうと思いますが――……』

P「……ああ、そうか」

PC『? どうかされましたか?』

P「いや、今……思い出した」

P「キラ事件の開始直後、TVの生中継で“L”と名乗る男が現れ、“キラ”に対して挑発を行ったということがあった……あれがあんたなのか?」

PC『はい。ある意味そうです』

P「? ……ある意味?」

PC『はい。あの時TVに映っていた男は私ではありませんが、あの男が演じていた“L”は私ですので』

P「……演じていた?」

PC『はい』

P「……なるほど。つまり身代わりってわけか」

黒井「!」

P「あんたが“L”本人であり、あの男はその身代わり。そしてあの男は確か、TVで『“キラ”を必ず捕まえる』などと発言していた」

P「つまり“L”と名乗るあんたが何者なのかは分からんが……とにかくあんたはキラを捕まえようとしている何者かであり……」

P「キラを捕まえるという目的のため、TVを通じてキラを挑発して自分の身代わりを殺させ……」

P「キラの実在性と殺人の手段を証明しようとした……ってとこだろう」

PC『……ご明察です』

黒井「フン。相変わらず聡い男だ」

P「いやいや……ここまでヒント出されたら誰だって分かりますって」

P「で? そのキラを捕まえようとしている“L”とやらが俺に何の用なんだ?」

P「一応断っておくが、俺はキラじゃないぜ」

PC『はい。それは勿論分かっています』

PC『今回私があなたをお呼びした理由、そしてこれから先、あなたにお願いしたいこと……全てご説明させて頂きます』

P「…………」



630:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/27(日) 00:26:49.62 ID:VyoOPtTR0

PC『ではまず、前提の確認からですが……○○さん』

P「ああ」

PC『あなたの事は、ある程度事前に調べさせて頂きました』

P「…………」

PC『あなたは現在の職場である765プロダクションに来る前は、この会社……961プロダクションに勤めておられましたが……』

PC『961プロダクションの前にも……あなたはまた別の事務所でプロデューサーとして働いていた』

P「!」

黒井「…………」

PC『あなたは新卒で入ったその事務所でめきめきと頭角を現し、入社数年にして先輩社員達をごぼう抜きにするほどの卓越した成績を収めた』

PC『しかし妬み嫉みは人の常……あなたの躍進を妬んだ先輩社員達から、あなたは自身が全く関与していなかったプロジェクトの失敗の責任を強引になすり付けられた』

P「…………」

PC『その後も社内であなたを陥れようとする動きは続き……あなたは自分に落ち度の無い失敗ばかりをいくつも押し付けられた』

PC『最終的には、当時の社長までもがあなたを陥れようとする者達によって言いくるめられてしまい……あなたは、種々の失敗の責任を取って退職するよう勧告された』

PC『そしてあなたは、自主退職という形で事務所を去らざるを得なくなった』

P「…………」

PC『そうして職を失い、路頭に迷いかけていたあなたを救ったのが……黒井社長だった』

黒井・P「!」

PC『黒井社長は、かつて仕事で提携した際にあなたの働きぶりを目にしており、その能力を高く評価していた。隙あらばヘッドハンティングを持ち掛けようと思うほどに』

黒井「…………」

PC『そんな黒井社長にとって、いかなる事情があれど、あなたが前の事務所を離れたのは僥倖というほかなかった。黒井社長は、すぐにあなたを自分の事務所に来るように誘った』

PC『961プロダクションは、業界ナンバーワンといっても過言ではない地位にあるアイドル事務所……断る理由などあるはずもない』

PC『そしてあなたは961プロダクションに入社し、その後すぐに、当時結成されたばかりだった男性アイドルユニット『ジュピター』の担当プロデューサーに任じられた』

PC『その後の『ジュピター』の躍進ぶりについては……あえて今ここで語る必要は無いでしょう』

PC『―――とりあえずここまでで、何か事実相違等はありませんか?』

黒井・P「…………」



631:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/27(日) 00:40:03.96 ID:VyoOPtTR0

P「……黒井社長。今の……話してたんですか? この“L”に」

黒井「いや、話していない。この“L”には勿論、エラルド=コイルにもだ。私も今聞いて驚いている」

P「そうでしたか。……ん? エラルド=コイル? そういえばさっきもそんな名前……一体誰なんですか? それ」

黒井「ああ。それはだな……」

PC『……すみません。そのあたりは後でちゃんと私の方から説明しますので、今はここまでの事実確認をお願いします』

黒井「ああ、それなら私の方は特に認識相違は無い」

P「同じく」

PC『ありがとうございます。では次に、○○さんに二つほど質問をさせて頂きます」

P「質問?」

PC『はい。……○○さん。あなたは黒井社長に恩義を感じていますか?』

P「!」

黒井「…………」

P「……愚問だな」

PC『…………』

P「さっきあんたが言ったとおり……黒井社長が、あの時路頭に迷いかけていた俺を拾ってくれた」

P「今の俺があるのは黒井社長のおかげだ。恩義を感じていないわけがないだろう」

黒井「…………」

PC『ありがとうございます。では次の質問ですが……○○さん。たとえば、黒井社長に命の危険が迫っているとした場合……』

黒井「!」

P「?」

PC『もし自分がその助けになれるとしたら、あなたは迷わず協力することが出来ますか?』

P「……答えるまでもない。さっきも言ったが、俺にとって黒井社長は恩人だ。その黒井社長に命の危険が迫っている状況において、俺が協力しない理由なんてあるわけがないだろう」

P「たとえ他の全てを犠牲にすることになったとしても……俺は絶対に黒井社長を助ける。絶対にだ」

黒井「……お前……」

PC『ありがとうございます。その言葉が聞けて良かったです』

P「…………」

PC『では次に、今の質問の意図をお話ししたいと思います』

PC『二つ目の質問で、私は“たとえば”と前置きしましたが……実はこれはたとえ話でも何でもありません』

PC『現実に、今、黒井社長は命の危険に晒されています』

P「! 何だと?」

黒井「…………」

PC『では、前置きが長くなりましたが―――これから、あなた方二人に全てをお話しします』

PC『これまで私がしてきたこと。そして今、私がしようとしていること』

PC『その―――全てを』

黒井・P「…………」



632:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/27(日) 00:55:52.93 ID:VyoOPtTR0

(PCから流れる“L”と名乗る人工音声は、『自分がこれまでキラを追ってきた捜査の結果』として次の内容を二人に伝えた)

(現在、“L”がキラとして特定しているのは、765プロダクション所属アイドルの星井美希と天海春香の二名であること)

(そのように判断するに至った理由として、キラ事件の開始と同時期に、星井美希が765プロダクションの前のプロデューサーおよび昨年の自身のクラスメイト一名を殺害している可能性が高いこと)

(また昨年発生した『アイドル事務所関係者連続死亡事案』もキラと同じ能力を持つ者による犯行であると考えられ、それが天海春香によるものであった可能性が高いこと)

(さらにキラ事件の開始直後、天海春香はどこからか入手した情報により961プロダクションに関する違法・犯罪行為をネタに黒井社長を脅迫し、当時961プロダクションにプロデューサーとして在籍していた○○を765プロダクションに移籍させるように命じたこと)

(そして、当初はこのように別々に活動していたと思われる星井美希と天海春香の二名だが、今は互いに連携してキラとしての活動を行っていると考えられること)

(またキラの裁きとは別に、星井美希および天海春香の二人は黒井社長を脅迫する形で『“L”の正体を明かせ』とも命じており、そのため黒井社長は、人捜しで名高い“エラルド=コイル”という探偵に“L”の正体を明かすよう依頼をしていること)

(他方、“L”はキラを追う一方で、黒井社長が依頼した内容も含め、自分の同業者にあたる“エラルド=コイル”の動向は全て把握していること)

(そして“L”は、現在、星井美希および天海春香がキラであることの証拠を押さえるための作戦を遂行中であり、黒井社長とプロデューサーにはその協力を頼みたいということ)

PC『―――これが今、私があなた方に伝えられる全てです』

黒井「…………」

P「…………」

PC『今すぐに全てを信じ、また受け入れるのは難しいだろうと思います』

PC『しかし信じて頂きたい。信じた上で……私に協力して頂きたい』

PC『これが今日、あなた方にこの場に参集して頂いた目的です』

P「…………」

黒井「……私はこれまでの脅迫の内容から、キラが765プロの中にいるのであろうことは分かっていた。しかしまさか、もうここまで特定していたとは……」

P「美希と……春香が……キラ?」

黒井「…………」

P「は、ははっ……これは、流石に……ちょっときついな」

黒井「…………」

P「……一応聞きますが、黒井社長……これ、ドッキリとかじゃないですよね?」

黒井「……気持ちは分かるが、流石の私もそこまで悪趣味ではない」

P「は、はは……そう、ですよね……ははっ、そっか……」

黒井「…………」

P「そういえば今年の初め頃……二人組の刑事が、キラ事件の捜査でうちの事務所に来たことがあったっけ」

P「その後は特に何も無かったから、そんな事……今日まですっかり忘れていたけど」

P「それがまさか……俺達の知らないところで、こんな事になっていたなんて」

黒井「…………」

PC『……胸中には様々な思いが去来していることと思います。しかし、もうあまり時間が無いのも事実です』



972: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/06(土) 14:41:18.04 ID:jizsduFN0

PC『今、黒井社長がキラに殺されていないのは、黒井社長がキラにとって唯一の“L”……つまり私の正体を掴むための足掛かりとなっているからです』

PC『しかし、キラが最初に黒井社長に『“L”の正体を明かせ』と命じてからもう既に五か月ほどが経過し……未だに“L”の正体は掴めていない状況……』

PC『またそもそも、この先どれだけ時間が経とうが、コイルが私の正体を掴むような状況自体生じえません。よってキラが“L”の正体を掴むことは永久にできません』

PC『つまりはっきり言って、今後、いつキラが痺れを切らして黒井社長を殺害するか分からないという状況です』

PC『いくら脅迫によって口止めしているとはいえ、『765プロダクションの中にキラがいる』ということには確実に気付いている黒井社長をずっと生かしておくことはキラにとってもリスクですから』

PC『かといって、私も自分の命は惜しいですので……大変申し訳ありませんが、黒井社長の代わりに私の命を差し出すという事も出来ません』

黒井「…………」

P「身代わり、という手は使えないのか? 既にあんたは一度、TVを通じてそれをやったはずだ」

黒井「!」

PC『……あれはあなたが仰ったとおり、あくまでもキラの実在性と殺しの能力を証明するために取った手段です。もう既にキラの実在性と『直接手を下さずに人を殺せる』というキラの能力がほぼ確証されている現在の状況下においてなおそれをするのは、もはやただキラに生贄を差し出すだけの行為でしかありません』

PC『たとえ誰かの命を救うためであったとしても、そのために他の誰かの命を犠牲にしてもいいということには決してなりません。そのように生かすべき人間と死んでもいい人間とを選別するのであれば、それは神を気取って犯罪者を裁いているキラと同じ行いです』

P「…………」

PC『また仮にその手段を取ったところで、何らかのきっかけによりそれが身代わりであったこと……つまり“L”本人でなかったことに気付かれれば、どのみち黒井社長はキラに殺されてしまうでしょう』

PC『よってその点からもリスクとして高過ぎますので、いずれにしてもその案は採用できません』

P「じゃあそうなると……王道だが、黒井社長が殺される前にキラを……つまり、美希と春香を……捕まえるしかないってことか」

PC『はい。そういうことになります』

P「…………」



635:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/27(日) 01:38:22.51 ID:VyoOPtTR0

PC『……どうされますか? ○○さん』

P「…………」

PC『言うまでもない事ですが……現状、既に自身の命が危険に晒されている黒井社長はともかく、あなたの場合はそうではない……むしろ私に協力することで自分がキラに殺される危険が生じるだけともいえます』

P「…………」

PC『それに加えて、私が現在キラとして特定しているのは二名ともあなたの担当アイドルなのですから……協力を躊躇されるのも無理からぬことだと思います』

P「…………」

PC『ですので……やはり協力できない、ということであれば仕方ありません。黒井社長には申し訳無いですが、その場合は他の協力者をあたって……』

P「……いや、待ってくれ」

黒井「!」

PC『…………』

P「やるよ。“L”。協力……させてくれ」

黒井「! ……お前……」

P「黒井社長。さっき言ったとおりです。いかなる事情があれど、あなたに命の危険が迫っている状況において、俺があなたを助けるための協力をしない理由はありません」

P「たとえ他の全てを犠牲にすることになったとしても……俺は絶対にあなたを助けます」

P「……そう。たとえ自分の担当アイドルがキラとして捕まることになったとしても……ね」

黒井「! …………」

PC『……よろしいんですね?』

P「ああ。全て今言ったとおりだ。二言は無い」

PC『ありがとうございます。○○さん。それでは早速――……』

黒井「……すまん。少しだけ待ってくれ。“L”」

PC『? はい』

P「黒井社長?」

黒井「……考え直せ」

P「!」



636:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/27(日) 01:51:24.65 ID:VyoOPtTR0

黒井「さっき“L”も言っていたが、私はともかく……お前がこの件に協力したところで得られる利益は何も無い。むしろ自分の命が危険になるだけだ」

P「…………」

黒井「移籍の経緯はどうあれ……今、お前は765プロで十分に成功を収めている。ならばわざわざ、あえて今の自分を危険に晒す必要など――……」

P「黒井社長」

黒井「…………」

P「俺の身を案じてそう言ってくれていることは、本当にありがたく思います」

黒井「…………」

P「でも、俺の気持ちは変わりません」

黒井「! お前……」

P「……あなたは、俺が961プロにいる間……“765プロ潰し”の件も含め、961プロが裏で行っていた様々な悪事には俺を一切加担させようとしなかった。むしろそういった961プロの闇の部分から、意図的に俺を遠ざけていた……そうですよね?」

黒井「! 気付いていたのか」

P「ジュピターの活動報告をしに社長室を訪れた際、偶然にも、あなたと轡儀さんの会話を立ち聞きしてしまったことがありまして」

黒井「……そうだったのか」

P「あなたは……もし961プロに関する違法・犯罪行為が公になり、自分や轡儀さんが社内外から責任を問われる事態になったとしても、俺にだけは絶対に責任が及ばないようにしてくれていた」

黒井「…………」

P「あなたと轡儀さんは961のツートップ……二人が会社を追われるような事態になれば、社内の勢力図は大きく変わる」

P「また社内には、中途入社したばかりでいきなり新ユニットの担当プロデューサーを任された俺を疎んじるような向きも少なからずあった」

P「だからあなたは、もし自分と轡儀さんが急にいなくなったとしても……残った俺が誰からも何一つ言いがかりをつけられたりすることがないように……俺を961プロの“裏の顔”には一切関与させなかった」

黒井「…………」

P「あなたは、前の事務所で俺が退職に追い込まれた経緯を知っていたから……もう絶対に、俺を同じ状況には置かせまいと……考えうる限りの最善の措置を取ってくれていた」

P「全て俺のために」

黒井「…………」

P「そんなあなたが、俺のためにそこまでしてくれていたあなたが……今、命の危険に晒されているのに……」

P「それを黙って見ているなんてありえない」

P「それが、俺の答えです」

黒井「…………」



637:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/27(日) 02:22:51.75 ID:VyoOPtTR0

黒井「……いいんだな。本当に」

P「はい。それに……」

黒井「? それに?」

P「俺は765プロに対する私怨はありません。高木社長にしても、あなたとはかつて色々あったのかもしれませんが……俺から見れば人格者ですし、何の不満もありません」

P「それに何より……俺はうちのアイドル達が好きです。大好きです」

黒井「…………」

P「皆素直で、真面目で、良い子で……どこに出しても恥ずかしくない、自慢のアイドル達なんです」

P「だから俺は胸を張って言えます。今の俺は765プロのプロデューサーとして……うちのアイドル達を愛していると」

黒井「……そうか」

P「はい。だからこそ……本当に美希と春香にキラとしての疑いが掛かっているのなら……その検証に協力するのも、あいつらのプロデューサーである俺の役目だと思うんです」

黒井「…………」

P「プロデューサーとして、あいつらを愛しているからこそ……もしあいつらがキラでないのなら、俺はその疑いを晴らしてやりたい。だから俺にできることがあるなら、どんなことであっても協力したい。今はそう思っています」

P「もし“L”の推理が間違っていたことが分かれば、それはすなわち、美希と春香の潔白を証明することになるはずですから」

PC『…………』

P「しかし一方で、考えたくはありませんが……もし本当にあいつらがキラで、“L”が推理したとおりの罪を犯してきた、あるいは今も犯しているのなら……罪は罪として、それに見合う罰を受けさせなければならない。俺はそうも思うんです」

P「……轡儀さんの件もありますしね」

黒井「……確かにそうだな。死んでいった轡儀の為にも……我々には、真相の解明に協力する義務がある」

P「はい」

PC『……そうですね。かくいう私も、まだ100%の確証までは持っていません。だからこそ、それを確かめるためにこうしてお二人に協力を依頼しているわけですし……』

PC『また今○○さんが仰ったように、私の推理が間違っていて、星井美希および天海春香はキラではなかったのなら……それもまたこの検証によって明らかになります』

P「……ああ。なら俺はそれでいい。あいつらがキラではない可能性が1%でもあるのなら、俺はそれを信じたい」

P「だからそのためにも、あんたに協力させてくれ。……L」

PC『はい。ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします』

黒井「……○○」

P「? はい」

黒井「……恩に着る」ペコリ

P「や、やめて下さいよ。黒井社長。これくらい当然の事です。俺があなたにしてもらったことを思えば……」

黒井「……すまん」

PC『―――それではこれより、お二人に協力して頂く具体的な内容についてご説明します』

黒井「そういえばさっき、『星井美希と天海春香の二人がキラであることの証拠を押さえる』などと言っていたな」

P「つまりもう具体的な証拠のアテがあるってことか?」

PC『はい。その証拠とは……私がキラの殺しの能力そのものと考えているものです』

黒井「! キラの殺しの能力そのもの……だと?」

P「そんなものが……? 一体何なんだ? それは……」

PC『はい。それは―――『黒いノート』です』



657:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/10(日) 08:59:45.66 ID:N/DzeYj00

P「『黒いノート』……?」

黒井「それが『キラの殺しの能力そのもの』とは……一体どういう意味だ?」

PC『はい。今から全てご説明します。『黒いノート』に関する私の推理を――……』

(“L”は、PCのディスプレイ越しに『黒いノート』に関する次の推理を二人に伝えた)

(これまでの捜査結果から、“L”がキラの殺しの能力の正体として推理しているのは、星井美希と天海春香が各々一冊ずつ所持していると考えられる『黒いノート』であること)

(その『黒いノート』とは『顔を知っている人間の名前を書くことでその人間を殺せるノート』であると考えられること。特に星井美希は常にこれを持ち歩いているものと考えられるため、まずは彼女の持つ『黒いノート』を押さえることが当面の目標となること)

(他方、天海春香は『顔を見れば名前が分かる能力』を持っているものと考えられるため、キラを追う者は『顔を知られたら殺される』可能性があること)

PC『―――以上が、現在私が推理しているキラの殺しの能力の正体です』

黒井「名前を書くと、書かれた人間が死ぬノート……だと……」

P「常識では考え難いですが……でも確かに、今キラが行っている『裁き』については合理的に説明ができますね……」

黒井「うむ……。それに私も、これまでの犯罪者裁きの傾向から、キラの殺しには『顔』と『名前』の二つが必要なのだろうと考えていたが……何故キラは私に対し『“L”の顔写真だけでも入手してほしい』と言っていたのか、それがずっと気になっていた。だがそれも、天海春香が『顔を見れば名前が分かる能力』を持っていたのだと考えれば納得がいく」

P「それに……キラの能力の正体が『ノート』という物体そのものなのだとすると、今キラが“L”の正体を探ろうとしていることとも辻褄が合いますしね」

黒井「? どういうことだ?」

P「簡単な事ですよ。もしキラが何らの物的証拠を残すことなく――たとえば頭の中で念じるだけでなど――人を殺せるのなら、たとえ自分を追う者がいたとしてもその者を殺す必要は全く無い。いくら調べられても足がつくはずがないからです」

黒井「! …………」

P「だがキラは自分の正体を知られるリスクを冒してまで……黒井社長をして、自分を捕まえようとしている“L”の正体を明かさせ、殺そうとしている。それは捜査の手が迫ればキラだという証拠を見つけられ捕まるからということに他なりません」

P「逆に証拠が無いのならいくら捜査されても困らず、“L”を殺す必要も無いはず……だから証拠は必ずあるって事です」

黒井「……なるほどな」

黒井(こいつ、今聞いただけの説明でもうここまでの思考を……)

PC『そうですね。○○さんの仰る通りです』

PC『キラが“L”の……すなわち私の正体を探り、殺そうとしているということこそ……キラが能力を行使する際には必ず何らかの物的証拠が残る、ということの証左です』

P「……しかし、空港の所持品検査時のX線写真か……まさかあの合宿の時に、裏でそんな捜査がされていたとはな」

PC『はい。この事件の捜査は警察の力も借りていますから』

P「……ってことは、前にうちの事務所に聞き取りをしに来た二人組の刑事……あれもあんたの差し金か?」

PC『はい。あれもキラ事件の捜査の一環として私が指示して行かせたものです』

P「なるほどな。もうここまでくると……といっても、今日これまでに聞いた話からもうほとんど疑ってはいなかったが……やはりあんたが本物の“L”ってことで間違い無さそうだ」

黒井「そうだな。私も信じよう。この画面の向こうにいる……あなたこそが“L”なのだと」

PC『はい。最初に申し上げました通り―――私はLです』



658:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/10(日) 09:09:38.44 ID:N/DzeYj00

P「……で、L」

L『はい』

P「本題の、美希が持ち歩いている『黒いノート』を押さえるって話だが……具体的にはどうするんだ?」

P「一応先に言っておくが、いくら担当プロデューサーとはいえ……俺が押さえるのは多分無理だぜ」

P「うちの事務所ではアイドル達に個人別の鍵付きロッカーを貸している。勿論、事務所にはそのマスターキーもあるが……美希に限らず、アイドルがこのロッカーを使っているのはそのアイドル自身が事務所にいる間だけだ。外出中は当然、鞄を持って行っているからな」

P「だから、俺が美希のロッカーを探っているところを美希本人に見つかりでもしたらもうそれで終わりだし……そもそも美希本人でなくても、男の俺がアイドル専用のロッカースペースをうろうろしているところをアイドルの誰かに見られでもしたら確実に不審に思われる」

P「まあ同性の律子や音無さんに探ってもらうってのなら、まだ誤魔化しようもあるのかもしれないが……」

L『いえ。あなた以外の765プロの人間は駄目です』

P「! …………」

L『あなたにそれが無いという意味ではありませんが……アイドルと従業員の垣根を越えて、765プロ全体を強く結び付けている“絆”……そして互いの間にある強固な信頼関係から考えて、『星井美希と天海春香がキラかもしれない』などという推理自体、受け入れてもらえるとは思えません』

L『ゆえにそれを前提として行う捜査に協力してもらうことなどまず不可能です』

P「……確かにな。俺もショックではあったが……少なくとも今は『美希と春香がキラかもしれない』というLの推理自体は受け入れることができているつもりだ。そしてその上で、自分が取るべき最善の行動を選択できていると思う」

L『はい。私もそう思いますし、またあなたならそうしてくれるだろうと思っていました』

L『だからこそ私はあなたに全てを打ち明け、捜査協力をお願いすることにしたわけですから』

P「……ありがとう。L。確かにあんたの言う通り、俺以外の765プロのメンバーの場合はそうはいかないだろうと思う。そもそも皆、事務所のアイドルの人気が出始めてから移籍してきた俺とは違い、もうずっと以前からの付き合いだ。共に過ごした時間の長さが俺とは全然違うし、文字通り苦楽を共にしてきた仲でもある。それこそ美希や春香本人の自白でも無い限りは……二人がキラなどという考え自体、絶対に生まれないだろう」

L『そうですね。またもし仮にそれがあったとしても、『二人は真のキラに洗脳され操られている』などと考え、最後まで二人をキラとして疑うことはないものと思われます』

P「そうだろうな。……というか、さっきから気になっていたが……L」

L『? はい』

P「……あんた、妙にうちの事務所の事情に詳しいんだな」

L『捜査に必要な情報だと思ったので調べたまでです』

P「……なるほど。流石“世界の三大探偵”と言われるだけの事はあるな」

L『どうも』

黒井「しかし、○○も含め……765プロ関係者は使えないとなると……一体誰をして、星井美希の持つ『黒いノート』とやらを押さえさせる気だ?」

L『はい。それは――……○○さんが以前に会った事がある人物です』

P「!」

L『また黒井社長にとっては、その人物の所属事務所にかなり馴染みがあるはずです』

黒井「? 誰だ?」

L『―――ヨシダプロダクション所属アイドル・弥海砂です』

黒井・P「!」



659:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/10(日) 09:20:35.33 ID:N/DzeYj00

P「弥海砂……だと?」

L『はい。ずばり彼女を使って……星井美希が所持している『黒いノート』を押さえさせます』

P「! …………」

黒井「お前は知っているのか? その弥海砂とかいうアイドルを」

P「あ……ええ、はい。俺が961プロに居た頃、ヨシダプロの女性マネージャー……吉井氏といいますが、よく彼女と互いに仕事先を紹介しあったりしていたんです」

黒井「ほう」

P「そのツテを使って、俺が765プロに移籍してすぐの頃……今からもう半年以上も前になりますが……元々はヨシダプロの所属アイドルに来ていたCM撮影の仕事を、美希……星井美希も一緒に出演させてもらえないか、と吉井氏に頼んで企業側に推してもらい、無事共演を果たしたということがあったんです」

P「その時に、美希と共演したヨシダプロの所属アイドルというのが……弥海砂なんです」

黒井「なるほどな。とすると、お前と……星井美希も、その際にその弥海砂というアイドルと知り合っていたということか」

P「はい。ただ俺は、そのCM撮影以降は弥海砂との接点は特に無いですけどね。吉井氏とは今も定期的に連絡を取りあっていて、先月も映画『眠り姫』のチケットを何枚か渡したりしましたが」

P「ちなみに美希の方は、CM共演を機に弥海砂と仲良くなり、今ではプライベートでもちょくちょく会う仲だそうです」

黒井「そうだったか。しかしヨシダプロダクション……か。まさかこんなところでその名を聞くことになるとはな……」

P「あっ。そうか……黒井社長は確か、ヨシダプロの前の社長と……」

黒井「ああ。私はヨシダプロの前社長と懇意にしていた。だからこそ……彼も轡儀同様、キラによる“復讐”の対象となったわけだが……」

P「……“765プロ潰し”……ですか」

黒井「そうだ。もっともそれ以前から、彼とはよく共謀して弱小事務所を抑圧していた。裏で手を回して芸能企画のスポンサーから外したりな」

P「…………」

黒井「だが今にして思えば、それもキラの逆鱗に触れたのだろう。私宛てに来た最初の脅迫文書にも、確か……『自分の息のかかった事務所にも、これまでのように弱者をいたぶるような真似はさせず、自由で公平な競争をさせるように』などと書かれていた」

P「……黒井社長は、今のヨシダプロの社長とも親しいんですか?」

黒井「ああ。彼は前社長の時代には副社長を務めていたからよく知っているし……彼の方も、私と前社長が裏で共謀して行っていた数々の所業についてはよく知っている」

P「…………」

黒井「だが、件のアイドル事務所関係者連続死亡事案……いや、もうLに倣って『アイドル事務所関係者連続殺人事件』と呼んでおこうか。この事件によって、轡儀やヨシダプロの前社長を含めたアイドル事務所の関係者が三か月で八人も殺害された……そしてそのいずれもが“765プロ潰し”計画の主要人物だった」

黒井「世間的には、『複数のアイドル事務所関係者が短期間に相次いで死亡した不可解な出来事』といった程度の扱われ方だったが……“765プロ潰し”計画に関与していた者達だけは……私も含め、誰もがこう思った。『これは我々が765プロを陥れようとしたがために起きた“天罰”なのだ』と」

P「…………」

黒井「ゆえに、その後は私も765プロに対する妨害工作は行わないようにし、また他の事務所にもそのような指示を出すのはやめた。結果、“765プロ潰し”計画は事実上の終焉を迎えた」

黒井「しかし、キラの“復讐”はそれでは終わらなかった。その後、私がスパイとして送り込んでいた765プロの前のプロデューサーも殺され……また私もキラから直接脅迫を受けることとなった」

P「……で、その脅迫の結果、765プロへ移籍させられたのがこの俺……というわけですね」

黒井「そうだ。そしてその当時のヨシダプロの副社長……つまり今の社長は、そのような経緯も全て知っている。……私がキラに脅迫されてお前を移籍させたこと、そして今もキラから脅迫を受けているということ以外はな」

P「…………」



660:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/10(日) 09:41:21.27 ID:N/DzeYj00

L『……そういう意味においても、弥海砂は、星井美希が所持している『黒いノート』を押さえさせるにはうってつけです』

黒井「? どういうことだ?」

L『ある程度ヨシダプロ側に事情が伝わっていた方が、黒井社長から話を通して頂きやすいということです』

黒井「ということは……私がヨシダプロの社長に頼めばいい、ということか? 『“L”が行っているキラ事件の捜査の協力をしてほしい。ついては弥海砂にキラ容疑者の持つ『黒いノート』を押さえさせてほしい』と」

L『いえ。黒井社長からヨシダプロの社長に話をして頂きたいのはその通りですが、流石に全ての事情をヨシダプロ側に打ち明けるわけにはいきません』

L『今黒井社長が仰ったように、ヨシダプロの現社長は“765プロ潰し”計画の事を知っていたわけですから……おそらく今でも、自社の前社長も含め、“765プロ潰し”計画の主要人物達は次々と“天罰”により死んでいったと思っているはずです。とすれば、そんな人に『あれは“天罰”ではなくキラによる犯行だった。だからキラを捕まえることに協力してほしい』などと言ったところで、協力を得られるはずがありません。“天罰”だろうがキラだろうが、みすみす自分が殺される危険を負うはずがないからです』

黒井「……確かにな。ではどのように伝えれば?」

L『はい。それではこの計画の全体像を含めて、今からご説明させて頂きますが……』

L『まずそれに先立って、最初にあなた方にお伝えしておくことがあります』

黒井・P「?」

L『実は……私はもう弥海砂に直接接触しており、今は計画の概要を伝達した上でその承諾を得ているという状況です』

黒井「! 何?」

P「直接接触……だと?」

L『はい。あくまでもまだ概要ですが……『近日中に星井美希と共演する仕事の場を作るので、そこでノートを押さえてほしい』と伝えてあります』

黒井「星井美希と共演する仕事の場……? そこで押さえさせるだと?」

L『はい。考えうる中で最も成功率の高い作戦です』

L『これを実現するために……黒井社長には、キラ事件の捜査であることは伏せて、あくまでも『普通の仕事の紹介』という体でヨシダプロの社長に話をして頂きたい』

黒井「!」

P「……そうか。かつてヨシダプロの前社長と親交があり、また現社長の事もよく知っている黒井社長からの仕事の紹介なら何の不自然さも無い」

L『そういうことです。そしてその後、ヨシダプロから765プロへ、あくまでも『普通の仕事』として話を持ち掛けてもらいます。『うちの弥とお宅の星井美希を仕事で共演させてもらえないか』と』

黒井「なるほど……」

P「そこで予め美希の担当プロデューサーである俺にも話を通しておけば、765プロとしてもスムーズに応対できるってわけか」

L『その通りです』

P「……なるほど。確かに事務所間のやりとりはそれで何の問題も無いだろう……だが、L」

L『? はい』

P「何で弥海砂なんだ?」

L『…………』

P「あんたはさっき、『弥海砂はうってつけ』と言った。しかし黒井社長が……961プロが仕事を紹介しても不自然ではないアイドル事務所なら他にいくらでもある……何でヨシダプロの弥海砂を選んだんだ?」

L『……元々、ヨシダプロということ自体に大きな意味はありませんでした。私が先に着目したのはあくまでも弥海砂個人であり、結果、その所属事務所がたまたま黒井社長とつながりのある事務所だったので、今回の作戦を思いついたという次第です』

P「弥海砂個人に着目した……? それは一体どういうことだ?」

L『……私が弥海砂を選んだ理由は、大きく分けて二つあります』

L『まず一つ目は、『星井美希との間に親交があること』です』

P「!」

L『先ほど○○さんも仰っていましたが……弥海砂は星井美希とCM撮影で共演して以来、彼女とはプライベートでも親交のある仲です』

L『この関係を利用します』

P「! …………」



661:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/10(日) 09:54:05.81 ID:N/DzeYj00

黒井「関係を利用……とは、どういうことだ?」

P「……そういうことか」

黒井「! 分かるのか?」

P「ええ。おそらくですが……美希が常に持ち歩いているような私物……もしそれを押さえる隙があるとしたら、美希と相当親密な関係にある者でなければまず不可能……」

P「ゆえに、その役に一番うってつけなのは……一緒に暮らしている家族か、または同じ事務所のアイドル仲間などとなるが……さっきも言ったように、そんな者達に『美希がキラかもしれない』などと言ったところで受け入れられるはずもない」

黒井「うむ」

P「とすれば、次に考えるのは……そこまでの親密さは無くとも、美希がそれなりに信頼している者であり、ノートを押さえることのできる隙が生まれそうな者……」

P「そこでLが目を付けたのが……所属事務所こそ違うが、美希の親しい友人である“弥海砂”……ということなんでしょう」

黒井「! ……なるほどな」

L『ご理解が早くて助かります。○○さんの仰る通りです』

P「だが弥海砂にしたって、美希の親しい友人であることには変わりない……『美希がキラかもしれない』などという話をそう簡単に受け入れるとは思えないし、また仮に受け入れたとしても、『美希をキラとして捕まえる』ことに積極的に協力するとはとても思えない……だが、L」

L『…………』

P「あんたはさっき、『弥海砂からはもうこの計画の承諾を得ている』と言った。……一体どう説明したんだ? 弥海砂に」

L『はい。それは、私が弥海砂を選んだ理由の二つ目と大きく関係します』

P「…………」

L『実は彼女は……キラの崇拝者です』

黒井・P「!」

L「彼女は今から一年半ほど前に両親を強盗に殺されており……その強盗をキラが裁いたことからキラを崇拝しています」

P「! ……そうだったのか」

黒井「キラ崇拝者のアイドル……か」

P「いや、しかしそれなら……尚の事、『美希をキラとして捕まえる』などということには協力しないんじゃないか? キラ崇拝者がキラを捕まえようとするはずがない」

L『はい。ですので私も、キラの崇拝者を装って弥海砂に接触しました』

P「!」

黒井「キラの崇拝者を装った……だと?」

L『はい。私と共に捜査をしている別の者をキラと見せかけ、信じさせ……その上で、『今、星井美希と天海春香はこの者からキラの能力を奪い、キラとして犯罪者裁きを行っている』『ゆえにこの者が二人から能力を取り戻すことの協力を頼みたい』『それが無事に終わったら星井美希と天海春香も我々の、つまりキラの仲間に加える』……こう言って協力を求めました』

黒井「! …………」

P「……なるほど。『二人をキラとして捕まえるため』ではなく、あくまでも『元のキラに能力を戻させるため』という体にして協力を取り付けたのか」

L『はい』

黒井「……いや、だが待てよ。そうだとしても、『今は星井美希と天海春香の二人がキラとして裁きを行っている』と説明している以上、『今のキラから能力を取り戻す』という目的は、キラ崇拝者である弥の思想に適うといえるのか?」

P「多分ですが……弥が崇拝しているキラ――すなわち、弥の両親を殺した強盗を裁いたキラ――は、『今のキラ』ではなく、Lが仕立て上げた『前のキラ』だったということにしたんでしょう」

黒井「!」

P「つまりそうすることで、Lは『前のキラ』に弥の崇拝心を取り付けた」

L『…………』

P「それでも弥の心情としては、当然の事ながら、友人である美希をキラとして捕まえるとか、あるいは警察に突き出したりすることに対しては抵抗があるはず……だからLは『前のキラに能力を戻すことができれば、美希もキラの仲間に加える』と予め伝えておくことで、弥が安心してこの計画に協力することができるように取り計らった……」

P「そんなところじゃないのか? L」

L『……はい。その通りです』



662:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/10(日) 10:12:35.97 ID:N/DzeYj00

P「だが……『黒いノート』についてはどう説明したんだ? いくらアイドルといっても、その点を除けば普通の女子高生に過ぎない美希と春香が『前のキラ』からこれを奪ったとする説明はかなり無理があるように思えるが……」

P「また弥にしても、自分の手で殺人の道具そのものを押さえるというのは……美希がどうこう以前に、純粋な恐怖心から躊躇してもおかしくないと思うが」

L『それは大丈夫です。弥には『キラの能力とは何か、それがどう二人に奪われたのか』などの説明はぼかしてありますので。また『黒いノート』についても『キラとしての活動に関する連絡用の道具』としか説明していません』

L『これは万一の情報漏洩を防ぐためでもありますが……最大の目的は、今○○さんも仰ったように、いざノートを押さえる段になって躊躇されてしまうのを防ぐためです』

P「なるほど。つまり弥は『黒いノート』については『連絡用の道具』という認識しか持っていない……」

L『はい。目的はあくまでもノートを物理的に押さえさせることですので、それで何の問題もありません』

P「確かにな」

黒井「……で、そのために『弥海砂と星井美希が共演する仕事の場』というシチュエーションを用意する……ということか」

L『はい。そうです』

P「そして……さっきのおさらいになるが……黒井社長がその仕事をヨシダプロに紹介し、その紹介を受けたヨシダプロが、うち……つまり765プロに、『弥と美希の共演の話』を持ち掛けてくる……」

L『はい。弥は星井美希と一度CM撮影で共演していますし、前の時は765プロ側から共演の申入れをしているわけですから、今度はヨシダプロの方から同じ申入れをしても何らおかしくはないでしょう』

L『また建前上、ヨシダプロとしても、まだアイドルとしての知名度が高くはない弥をより効果的に売り出すために、今人気絶頂にある765プロのアイドルと共演させてその集客力を利用しようとする考えは商業戦略として極めて自然です。不審に思われる要素は微塵もありません』

P「確かに」

黒井「では、L。私は具体的にどのような仕事をヨシダプロに紹介すればいいんだ?」

L『そうですね。私としては……金庫のある控室やロッカールームなど、星井美希が安心して荷物を置き、その場を離れることができるようなスペースさえ確保できるのであれば、仕事の内容自体は何でもいいと思っています』

L『もちろん不審に思われないように、アイドルの仕事として相応しいものである必要はありますが』

黒井「なるほど。では期間としてはどの程度を考えている?」

L『そうですね。『黒いノート』を押さえることができ、かつそれが『星井美希と天海春香がキラとして殺しを行ってきたことの証拠』だと断定できれば、すぐにでも二人の逮捕に踏み切る予定ですが……たまたまその日に限ってノートを持って来ていなかった、という事態になる可能性も否定はできませんので……予備日を含め、少なくとも二日間は欲しいですね」

黒井「分かった。なら確か……ちょうどわが社の女性アイドルにオファーのあった、10~20代の女性向けのファッション誌の撮影の仕事があったはずだ。元々付き合いのある出版社からのオファーなので、回そうと思えばすぐにでもヨシダプロに回せる」

L『なるほど。撮影場所は屋内ですか?』

黒井「ああ。スタジオでの撮影と聞いている」

L『分かりました。それなら当然、衣装に着替えるための部屋もあるでしょうし、またその中にはロッカーか何かもあるはずです。それでいきましょう』

黒井「分かった。ではその仕事をヨシダプロに紹介する事とし……具体的な撮影期間については、スケジュール調整の際に出版社と765プロ、ヨシダプロの間で調整すれば良いだろう」

P「そうですね。ただヨシダプロ側には事情を説明できないので、出版社にはうちの方から調整の打診をすることになるでしょうが……幸いにも、今うちはアリーナライブを控えているのでその手の打診はしやすい。美希の方にも特に怪しまれることは無いでしょう」

L『ありがとうございます。ではそれでお願いいたします』



663:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/10(日) 10:48:46.35 ID:N/DzeYj00

P「……だが、L。『ノートを押さえる』というのは……具体的には、弥がノートに接触できた場合、そのままノートを持ち去らせるということか? もしそうなら、そのことが美希に気付かれた場合、弥が殺される危険があるのでは……」

黒井「? 殺しの道具そのものであるノートを持ち去る以上、仮にそのことに気付かれたとしても、もはや弥が星井美希に殺される危険は無いのではないか?」

P「……いえ。Lの推理を前提にすれば、美希だけではなく春香も同じノートを所持しているということになる。つまり美希の方のノートを持ち去っても……美希から春香に連絡されれば、春香の方のノートで殺されてしまう危険がある」

黒井「! そういうことか」

L『はい。そこは○○さんの仰る通りです。なので現段階の想定では、予定通り弥がノートに接触できたとしても、そのままその場から持ち去らせることはしません。弥にしてもらうのはその場でノートの外観、中身を全て写真に撮り、そのデータを私に送る事までです。またもちろんその部屋には予め監視カメラと盗聴器を付けておき、不測の事態が発生した場合にも備えます』

黒井「だがそれでも、弥がノートを手に取っているところを星井美希に見られたらアウトだな」

L『はい。ですから――……』

P「その間、美希の行動を見張っておき、その場に近付けないようにするのが俺の役目ってわけか」

L『……その通りです。○○さんは、何があっても星井美希をその場に近付けないようにしてください』

L『そして弥がノートを撮影し、元あった場所に戻した後は……星井美希から不審に思われないように気を付けながら、弥だけ先に現場から帰らせます』

L『他方、私の方では弥から送られてきたノートの写真のデータの検証を即時に行い……それが『星井美希と天海春香がキラとして殺しを行ってきた証拠である』と断定できた時点で、現場に警察を向かわせ―――星井美希を逮捕します』

P「! …………」

L『同時に、星井美希との共謀容疑で天海春香も逮捕します』

P「…………」

L『ですので○○さん。あなたは弥が帰った後も星井美希とともに現場に残って頂き……警察が着くまでの間、星井美希が外に出ないように見張っておいて頂きたい』

L『それがあなたに頼みたい最も重要な任務です』

P「……分かった」

L『もっとも、今もそうですが……当日も警察には星井美希の尾行をしてもらい、そのまま撮影スタジオの近くで待機しておいてもらうつもりですので……ノートが証拠だと断定できた時点で、ほとんど間を置かずに逮捕できるだろうとは思いますが』

P「なるほど。……というか、今もう既に警察に美希を尾行させているのか。ということは春香もか?」

L『はい。もう二か月近くになりますが……警察には、星井美希と天海春香の二名を尾行してもらっています』

P「……ということは当日、美希と同時に春香にも尾行を……」

L『はい。天海春香も星井美希と同時に逮捕しますから当然です。なお天海春香は一旦は星井美希との共謀容疑での逮捕となりますから、彼女が持つ方のノート……物的証拠の確保は後回しでもいいでしょう』

P「だが俺が直接見張ることのできる美希とは違い、春香の方は、いくら警察が尾行しているとはいえ……常にすぐ逮捕できる状況にあるとは限らないんじゃないか?」

L『大丈夫です。当日は弥とは別の協力者に天海春香と直接対面の上、彼女の動きを牽制してもらうよう頼んでいます』

P「! 別の協力者だと?」

黒井「ということは、その者も……」

L『はい。弥同様、キラ崇拝者です。名前は高田清美。東応大学の一年生で、天海春香とも既に友人になっています』

黒井・P「!」

L『天海春香は今年の4月から東大生の男子に家庭教師をしてもらっているようですので、どうやらそのつながりで知り合ったようですね』

P「ああ、そういえばそんな話を聞いたことがあったな。確か春香と……あとやよいが、東大の首席入学者に家庭教師をしてもらっていると……なるほど、そういうつながりか」

L『はい。また言うまでもありませんが、高田清美の存在をあなたが知っているのは不自然ですので、くれぐれも天海春香の前では……』

P「分かってる。当然言わないさ。しかしその高田清美とかいう人物も、あんた……Lが直接接触して協力を取り付けたのか?」

L『はい。そうです。高田清美もキラ崇拝者なので、弥と同じ理由を用いて協力を取り付けています』

P「なるほど。つまり『美希または春香と親交があり、かつキラの崇拝者』という条件で協力者のあたりをつけ……それに適合したのが弥海砂と高田清美だったという事か」

L『その通りです』



664:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/10(日) 11:02:19.11 ID:N/DzeYj00

L『では、まずは黒井社長。先ほどの仕事の件をヨシダプロの社長にお伝え頂けますか』

黒井「ああ。すぐに連絡しよう。……しかし……」

L『? どうかされましたか?』

黒井「いや、その……Lのやり方に異論を差し挟むつもりは毛頭無いのだが……たかだか、女子高生の持つノート一冊を押さえるのに随分大がかりだと思ってな」

黒井「もう既に警察も自由に動かせるような状況にあるのであれば……それこそ、任意での所持品検査などでも事足りそうに思えるが」

L『確かにそれができれば一番簡単ですが……任意は文字通り『任意』でしかないので拒否されたらそれまでですし……』

L『また仮に捜査令状を取り、意思制圧の上強制的に検査を行うとしても……『ノートが殺人の道具である』というのは、あくまでも現状における推理として、最も可能性が高いというものでしかありません」

L『つまり、実はノートはキラの殺しとは無関係で、本当は全く別の能力――それこそ、念じるだけでその場にいる人間を皆殺しにできるような能力――を持っている可能性だってあるわけです。『キラの殺しには顔と名前が必要』という推理も、あくまでも、これまでの捜査から得られた状況証拠を積み重ねた結果に過ぎません』

L『ゆえに……もし仮にそうだとすると、無理な捜査を強行することで捜査員の何人かが犠牲となってしまう可能性が高い。殺しの方法が完全に特定できていない状況で強硬策に踏み切るのは危険というわけです』

黒井「……なるほどな」

L『ただそうは言っても、先ほど○○さんが仰っていたように、キラが“L”を殺そうとしていることからすれば、キラの殺人に関しては何の証拠も残らない、という事はまず無いだろうとは思いますが』

P「……………」

L『まあいずれにせよ、まずは『黒いノート』が殺人の道具である事の確証を得ることです』

L『それさえ得られれば、後は強行突破で構いません。ノートに名前を書かれない限りは殺されないわけですから……ノートを所持していない事を確かめた上で、堂々と逮捕に踏み切ればいい』

黒井「うむ」



665:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/10(日) 11:27:14.09 ID:N/DzeYj00

L『そして、黒井社長にヨシダプロの社長に連絡を取って頂いた後は、先ほども言ったように、ヨシダプロから765プロに仕事の話を持ち掛けてもらう流れになりますが……その際には961プロ、いや……黒井社長の名前は765プロ側には伝わらないようにさせた方がいいでしょうね』

黒井「? どういうことだ?」

L『……黒井社長はキラに脅され、当時961プロに居たプロデューサー……つまり○○さんを765プロに移籍させたいとの話を高木社長に持ち掛けた際、その前提として“765プロ潰し”の件を謝罪しており、高木社長もこれを受け入れた……そうでしたね?』

黒井「ああ」

L『とすれば、建前上……“765プロ潰し”の件は黒井社長の謝罪という形で幕を引いている。その前提であれば、黒井社長がさらに贖罪の気持ちから仕事の斡旋をしたということが765プロ側に伝わっても、高木社長やその他従業員・所属アイドル達から何か疑われる、ということは基本的にはないでしょうが……』

P「……美希と春香については話が別、ということか」

黒井「!」

L『そういうことです。何と言っても、彼女らは今も黒井社長を脅迫している張本人……もし仮に彼女らが、高木社長経由で黒井社長が“765プロ潰し”の件について謝罪したことを聞いたとしても……当然、それは本意からのものではなく、あくまでも自分達が脅迫した結果に過ぎないと考えるでしょう』

黒井「…………」

L『加えて、彼女達にしても、これまでの脅迫の内容から、黒井社長が『キラは765プロの中にいる』と考えるであろうことは当然想定しています。そのような状況において、自分達が指示したわけでもないのに、黒井社長が『キラが内部にいる』と分かっているはずの765プロに対して何らかの働き掛けを行った、と知れば……間違いなく訝しみます』

L『たとえそれが、表向きはただの仕事の斡旋であったとしても』

黒井「…………」

L『もちろんそれだけで、即、黒井社長の背後に“L”である私がいること……また黒井社長の協力を通じて私がやろうとしていることに気付けるとは思えませんが……念の為です』

黒井「分かった。ではヨシダプロにはどう説明する? いっそもう一つ別の会社を挟み、そこからヨシダプロに紹介させるという形にしてもいいが……」

L『いえ。情報漏洩防止の観点からも、あまり関与する者の範囲が増えるのは好ましくありませんので……ヨシダプロの社長には黒井社長から直接話をして下さい。その際は『“765プロ潰し”の件については既に高木社長に謝罪をしており、その詫びの一環で仕事を斡旋することにした。765プロの現プロデューサーは自分の元部下でもあるのでもう先に話を通している』という形で説明して頂いて構いません』

L『その上で、自分からの紹介である事を765プロ側には伝えないよう、口止めを頼む理由としては……『既に一度謝罪している以上、さらに仕事の斡旋までするとなると、かえって高木社長が気を遣って仕事を断るかもしれない。でも自分としてはどうしても贖罪を尽くしておきたい』とでも言ってもらえればいいです。黒井社長は高木社長と旧知の仲でありその人となりもよく分かっているはずですから……そのような理由付けも不自然ではありません』

黒井「分かった。だがそうなると、ヨシダプロの他の従業員には別の説明を考えた方がいいな。“765プロ潰し”の件は社長以外の者は知らないはずだ」

L『では……そうですね。他の従業員には、単に『昔のツテで仕事を紹介してもらった』とだけ伝えてもらうよう、社長に言っておいて頂けますか? それで特に従業員から追及されるようなことも無いでしょう』

黒井「分かった」

L『それを受けての話ですが……○○さん』

P「ああ」

L『実際にヨシダプロが765プロに話を持ち掛ける際には、おそらく吉井氏から○○さんに連絡があると思われますが……今述べた理由から、吉井氏は何も事情を知らないことになりますので、あなたも、あくまでも普通に仕事の話を聞くという体で応対してください』

P「分かった」

L『また撮影当日はもちろん、事前の打ち合わせにおいても、あなたは吉井氏のみならず弥とも顔を合わせることになるでしょうが……私から指示のある場合を除いて、この件に関して弥に何か話したりはしないでください。弥にはあなたが事情を知っているということは伝えておきますが、そのことを星井美希に勘付かれたらまずいですので』

P「ああ。俺が弥と顔を合わせる時は必然的に美希もその場にいるだろうからな」

L『はい。ではそれでよろしくお願いします』



666:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/10(日) 11:44:16.24 ID:N/DzeYj00

P「じゃあ一旦、俺は吉井氏から来るであろう、件の仕事の連絡を待っておくだけでいいのか? 他にも何か備えておくべきことがあればやっておくが……」

L『そうですね……では一つだけ、質問をさせて頂いてもいいですか?』

P「質問? 別にいいが……何だ?」

L『○○さん。あなたは星井美希と天海春香のどちらとより親しいですか?』

P「? ……別にどちらと、という事もないが……。二人に限らず、アイドルに対しては全員平等に接しているつもりだ」

L『なるほど。では少し聞き方を変えます。二人のうち、あなたをより慕っている……またはあなたにより懐いていると思われるのはどちらですか?』

P「それなら……春香かな。強いて言えば、だが」

L『どのあたりからそう思われますか?』

P「……美希に限らず、他のアイドルと比較しても、相対的に声を掛けてくる回数が多いのと……あとよくお菓子を作って来てくれたりもするからな。クッキーとか」

L『なるほど。まあ元々、天海春香は仕事で一度面識があっただけのあなたの能力を高く評価し、黒井社長を脅迫してまで765プロに移籍させたくらいです。あなたに対する好感度は最初から相当程度高かったはずですので……それくらいの振る舞いは特に不自然ではないですね』

P「…………」

L『では……○○さん』

P「何だ?」

L『天海春香を、今以上にもっと……あなたを慕わせるようにできますか?』

P「? どういう意味だ?」

L『たとえば、あなたに恋愛感情を持つくらいに』

P「! …………」

黒井「…………」

L『…………』

P「……春香を俺に惚れさせて、少しでも“L”に対する意識を削がせる……ってことか?」

黒井「!」

L『……あなたは本当に頭の回転が速い方ですね。その通りです』

P「確かに、あんたの話が真実なら、春香は……いや、今は美希もそうだということになるのかもしれないが……“L”の正体を探り、殺すことに相当拘っているということになる……ならば自衛手段として講じることのできる策は全て講じておきたい、というのは十分理解できる。しかし……」

L『しかし?』

P「それは今の春香には無理な相談だ。あいつがキラかどうかにかかわらず……今の春香の頭の中はアリーナライブの事でいっぱいのはず……とても恋愛の事なんて考えている暇は無いだろう。相手が俺であろうとなかろうと関係無くな」

L『…………』

P「そしてそれは、L……あんたの言う、『春香がキラである』とする推理とも矛盾はしないはずだ」

L『……そうですね。私の推理では、彼女は765プロの利害に直結する形でキラの力を行使している。つまりその根底にあるのはアイドルとしての成功を望む極めて強い想い……ならば眼前のアリーナライブに注力するのは至極当然の事です』

P「そういうことだ。そしてそれは、春香の中で“L”に対する意識が相当程度薄らいでいるであろうことを推測させる。現にもう四か月もの間、黒井社長に対して何の指示も出していないという事実もそれを裏付けているといえる」

L『…………』

P「ならば今、俺が下手に動く必要は無い……どころか、むしろ俺が動くことで、かえって俺の行動自体に不信感を抱かれる可能性もあるんじゃないか?」

L『……確かにそうですね。現状を鑑みると、あなたから天海春香に対しては必要以上に接触しない方が良さそうですね』

P「ああ。その方が良い」



667:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/10(日) 12:08:53.79 ID:N/DzeYj00

L『……では、星井美希はどうですか? これまでに私が行ってきた捜査の結果からして、彼女のアイドルに対する思い入れは天海春香ほどには強くないものと考えられます。そういう意味では、むしろ星井美希の方が“L”に対する意識を削がせる必要性は高いともいえます』

L『また先ほどの話を前提にすると、星井美希は、天海春香ほどにはあなたに懐いていないのかもしれませんが……ただそうは言っても、全くの無関心というわけでもないのでしょう?』

P「まあ、そうだな。普通に慕ってくれてはいると思うが……やはり春香ほどの距離感ではないかな」

P「……ただ……」

L『? ただ?』

P「もしかしたらそれは……さっきあんたから聞いた、俺の前のプロデューサー……黒井社長がスパイとして765プロに送り込んでいた男による、セクハラ行為が原因なのかもしれない」

L『…………』

黒井「確かに。それにLの推理通りなら、星井美希はそれが理由で前のプロデューサーを殺していることになるしな」

P「そういうことです。その男からのセクハラ被害に継続的に遭っていた結果、男性恐怖症……とまではいかなくとも、年上の男性に対し、無意識のうちに距離を取るようになっていたとしても不思議ではない。ただまあ春香のような例もあるから、一概にどうとも言えないが……」

L『……確かにその可能性はありますね。ちなみに今更ながらの確認ですが……黒井社長」

黒井「? 何だ?」

L『765プロの前のプロデューサーが行っていたというアイドル達へのセクハラ行為は、あなたの指示だったのですか?』

黒井「いや、それは私の指示ではない。『765プロを内部から崩壊させろ』とは指示していたが、具体的な方法は奴に一任していたし、逐一具体的な報告もさせていなかったからな」

黒井「勿論、奴なりに考えた結果、『765プロを内部から崩壊させる』方法としてそれを実践していたという可能性も一応はあると思うが……それよりはむしろ、単にその機に乗じて自分の欲求を満たしていただけの可能性の方が高いと思う」

L『なるほど。……それと、私が少し気になっていたのは、彼……765プロの前のプロデューサーは、天海春香によってアイドル事務所関係者が軒並み殺害された後――つまり“765プロ潰し”計画が事実上終焉した後――も、アイドル達へのセクハラ行為や事務所内での適当な仕事ぶりは変わらなかったらしい、という点です』

L『なおこの事は、件の765プロ関係者に対して行った聞き取り調査によって裏付けられています』

P「…………」

L『黒井社長。あなたは“765プロ潰し”計画の終焉後、前のプロデューサーに対し……765プロ内での振る舞いを改めるように指示しなかったのですか?』

黒井「いや、それは当然指示していた。『今後、これ以上“天罰”による犠牲者を出さないためにも、当分の間、765プロ内で派手に動く事は控えるように』とな」

黒井「……しかし結果的に、奴の行動を制御することはできていなかったようだ。これはただの言い訳にしかならないが……当時は私としても、“765プロ潰し”計画の首謀者である以上……いつかは自分にも“天罰”が起こるのだろうと思っていたため、奴の行動をそこまで注視する余裕も無かった」

L『なるほど。ご事情は理解しました』

L『確かに、星井美希が前のプロデューサーを殺害したのは、彼から受けていたセクハラ行為がその直接的な理由であろうということを考慮すると……星井美希に対しても、○○さんが無理に距離を縮めようとはしない方が良いでしょうね』

P「ああ。俺もその方が良いと思う」

L『……では今後、○○さんは、星井美希・天海春香のいずれに対しても、特にこれまでと変わりなく接して頂き……件の弥との共演の仕事についても、その他の仕事と同じように進めてください。くれぐれも、星井美希から何か不審に思われたりすることがないように』

P「ああ。分かっている」

L『そして仕事の進捗状況については、都度私に報告するようにしてください。私の連絡先は既に黒井社長に伝えていますので』

P「分かった」

L『では早速……黒井社長はヨシダプロの社長への連絡をお願いします。話の伝え方は先ほどご説明した通りに』

黒井「ああ。任せてくれ」

L『それでは今日はこの辺で。また何かあれば連絡を――……』

P「……ちょっと待ってくれ。L」

L『? はい。何でしょう』

P「これはキラ事件の捜査には直接関係の無い事だが……一つだけ、ずっと気になっていた事があるんだ。今、それを確認させてもらってもいいか?」

L『? はい。どうぞ』

P「あんた……Lと、探偵“エラルド=コイル”……同一人物だろ?」

黒井「!」

P「そしておそらくは……“ドヌーヴ”も」

L『…………』



668:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/10(日) 12:29:39.52 ID:N/DzeYj00

L『……何故、そう思うのですか?』

P「いや、何故も何も……黒井社長はあんたにキラを捕まえてほしい一心でそこまで気が回らなかったのかもしれないが……客観的に考えて、そうとしか思えないだろ」

黒井「…………」

P「黒井社長が“エラルド=コイル”に話したことをあんたが全部知っている……あんたは『自分の同業者やその周囲の動きについては常に完璧に把握するようにしている』ということをその理由として挙げていたが、“エラルド=コイル”だって“世界の三大探偵”の一人なんだろ? そうやすやすと自分の情報……それも『依頼者との会話の内容』なんていう、探偵としては最も秘密性を守らないといけないような情報が、外部……それも同業者に全部ダダ漏れになっているような状況を許すか? “ドヌーヴ”についても同じだ」

L『…………』

P「もし本当にそんな状況を許しているのなら、コイルやドヌーヴは探偵としてあまりに無能過ぎるし……情報の無いドヌーヴの方は何とも言えないが……少なくともコイルは、黒井社長がエージェントを二人も介して依頼をしていたにもかかわらず、黒井社長が依頼人であったことをすぐに突き止め、さらには依頼があってから僅か二日で961プロに関する違法・犯罪行為を17件も洗い出している」

黒井「…………」

P「これほどの芸当ができる探偵“エラルド=コイル”が、自分と依頼者とのやり取りを同業者に筒抜けにさせるようなミスを犯す……いや、犯し続けているとは到底思えない」

P「それよりはむしろ、Lもコイルもドヌーヴも、皆、顔も名前も分からない者同士……ならば単純に、同じ人物が名義を使い分けているだけだと考えた方がこの状況を合理的に説明できるし……」

P「またこうしておけば、このうちの一人の正体を探ろうとした者が他の二者のいずれかにその旨の依頼をする、ということも必然的に起こりうる……つまり自分の正体を探ろうとしている者がすぐに分かる」

P「黒井社長がLの正体を探ろうとしてコイルに依頼をし、そのことがすぐにLに伝わっているのがまさにそれだ」

黒井「! …………」

P「これが、俺があんた……Lが、コイルやドヌーヴと同一人物だと考える根拠だ。……どうかな?」

L『……面白い考えだとは思いますが、私はコイルではありませんし、ましてやドヌーヴでもありません』

L『私がこの二人の動向を把握できている理由は既にご説明した通りです』

P「まあ……あんたの立場ならそう言うしかないよな。今ここで黒井社長の信用を失うわけにはいかない」

L『…………』

黒井「…………」



669:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/10(日) 12:45:11.24 ID:N/DzeYj00

P「でも安心してくれ。L。今のは本当に、俺が個人的に気になっていたから聞いてみただけで……別に俺にとってはどっちだっていいんだ。あんたがコイルであろうとドヌーヴであろうと……あんたが“L”であることに変わりはないからな」

L『…………』

P「それに当然、俺はあんたの立案した作戦に協力する方針も変える気は無い。だからもし不愉快なことを言ったのなら謝るよ。L。だが……」

L『? ……何ですか?』

P「美希と春香はキラではない」

L『…………』

P「やっぱり今でも俺はそう信じているし、またそのことを証明したいと思っている」

P「だから俺はあんたを信じて、協力する」

L『……ありがとうございます。私もあなたの事を信じています。でなければ、先ほども同じようなことを言いましたが……これまでの捜査状況と推理を全て打ち明けたりはしません』

P「そうだな。ここまで全て話してくれたことが信頼の証だ。互いに信じ合い、助け合うことで、互いの目的を果たそう」

L『そうですね。……私は星井美希と天海春香がキラであることを証明するために』

P「そうだ。そして俺は、美希と春香がキラではないことを証明するために」

L『はい』

P「……目的は真逆だが、俺達の利害は一致している」

L『そうですね。いずれにせよ、この作戦を遂行することでしか、いずれの証明も果たせない……』

P「ああ。だからこそ俺達は互いに裏切れないし、また裏切る意味も必要も無い」

L『はい。それは私も完全に同意見です』

P「だから改めて……これからもよろしく頼む。L」

L『はい。こちらこそよろしくお願いします』

黒井「…………」

L『黒井社長も、改めてよろしくお願いします』

黒井「……ああ。そうだな。よろしく頼む」



670:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/10(日) 13:00:48.59 ID:N/DzeYj00

L『――それでは、今日はこの辺で。また何かあればいつでも連絡してください』

P「ああ。とりあえず、例の仕事の話が俺の所まで来た段階でまた連絡するよ」

L『分かりました。お待ちしております。では』ブツッ

(Lとの接続が切れ、PCのディスプレイは真っ黒になった)

黒井「…………」

P「黒井社長」

黒井「ん? あ、ああ……何だ?」

P「これから忙しくなりそうですが、一緒に頑張っていきましょう」

黒井「ああ。そうだな」

P「それから、改めて言わせて頂きますが……」

黒井「? 何だ?」

P「あなたは絶対に死なせません」

黒井「! …………」

P「ついさっき、Lにも同じ事を言いましたが……俺は美希と春香がキラではないと信じています」

P「美希と春香がキラではないことを証明したうえで、さらに出来ることがあればLに協力し……本当のキラを捕まえることに貢献することで、あなたを助けたいと思っています」

P「だから一緒に……頑張りましょう」

黒井「……ああ。そうだな。共に頑張ろう」

P「はい。では、今日はこの辺で失礼させて頂きます。また何か動きがあれば連絡させて頂きますので」

黒井「ああ。ではすまんがよろしく頼む」

(社長室からプロデューサーが去り、黒井社長だけが残った)

黒井「…………」

黒井(相変わらずだったな。あの男の独特の勘の鋭さ……“野性”とでもいうのか……)

黒井(まさにあれこそが、私があの男を拾い上げた理由に他ならない)

黒井(そして、L……)

黒井(この際、Lがコイルと同一人物かどうかはどうでもいい。○○も言っていたように、あの画面の先にいた者が“L”であることは間違い無い)

黒井(これなら、星井美希と天海春香がキラであろうと、なかろうと……)

黒井(そう遠くないうちに、本当にキラを……)

黒井「…………」



671:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/10(日) 13:14:43.92 ID:N/DzeYj00

【同時間帯・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


(画面越しに黒井社長およびプロデューサーと通信しているL)

(Lの周囲では月達捜査本部のメンバーがその様子を見守っている)

P『――あんた……Lと、探偵“エラルド=コイル”……同一人物だろ?』

一同「!」

P『そしておそらくは……“ドヌーヴ”も』

L「……何故、そう思うのですか?」

P『いや、何故も何も……黒井社長はあんたにキラを捕まえてほしい一心でそこまで気が回らなかったのかもしれないが……客観的に考えて、そうとしか思えないだろ』

P『黒井社長が“エラルド=コイル”に話したことをあんたが全部知っている……あんたは『自分の同業者やその周囲の動きについては常に完璧に把握するようにしている』ということをその理由として挙げていたが、“エラルド=コイル”だって“世界の三大探偵”の一人なんだろ? そうやすやすと自分の情報……それも『依頼者との会話の内容』なんていう、探偵としては最も秘密性を守らないといけないような情報が、外部……それも同業者に全部ダダ漏れになっているような状況を許すか? “ドヌーヴ”についても同じだ』

L「…………」カチッ

(手元のマイクのスイッチをオフにするL)

総一郎「な、なんだ? この男……」

松田「さっきから思ってましたけど、なんか妙に鋭いっていうか……」

相沢「なんというか、竜崎の思考を先読みしているような感じがするな」

月「…………」

L「あまりこういう表現を使いたくはないですが……」

L「率直に言って、私や月くんに似たにおいを感じます」

月「! …………」

松田「そ、それって竜崎や月くん並の天才的な頭脳の持ち主……ってことですか?」

相沢「いや、まあ流石にそこまでではないにせよ……それに近い存在……ってところじゃないか」

総一郎「しかし、私と模木が765プロの事務所で対面し、聞き取りを行った際にはそこまで特別な印象は持たなかったが……。どう思う? 模木」

模木「そうですね……確かにあの時は特に印象に残るような応答はありませんでしたが……ただそもそもあの時は、聞き取りの内容自体が765プロの前のプロデューサーの事が中心で、彼が知っていた情報がほとんど無かったため、それはある意味当然かと……」

総一郎「うむ。確かに……」



672:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/10(日) 13:42:54.44 ID:N/DzeYj00

L「まあ、私も何か明確な根拠があって言っているわけではありません。ただ……今日の彼の一連の言動、そして今の発言からはそのように感じました」

月「…………」

L「月くんはどう思いますか?」

月「そうだな……自分に似ているかどうか、というところについてはなんともいえないが……少なくとも、常人離れした思考速度を持っているのは間違い無いだろう。彼にとってはほとんどの情報が今日聞いたばかりのもののはずなのに、この短時間で、ここまで思考を組み立てられているのは尋常ではない。それも竜崎と会話しながらだ。……もっとも、元々プロデューサーとしては優秀な能力を持っていたという話だったから、そこまで驚くことでもないのかもしれないが……」

L「そうですね。確かにそう考えれば、そこまで意外な事でもないのかもしれません」

相沢「それに、それならそれで……こちらとしても願ったり叶ったりだしな。こちらの協力者として動いてもらう以上、能力が高いに越したことはない」

松田「そう言われてみれば……そうっすね。彼が優秀であることは僕達にとってはむしろかなりの好都合……」

総一郎「うむ。あと、天海春香がジュピターと共演した番組の撮影現場で機材のトラブルがあった際、彼の的確な対応と現場スタッフへの助言により、ほとんどタイムロス無く収録を終えられた……などという話もあったな」

L「はい。おそらくはその件が、天海春香が彼を自分の事務所に移籍させることを決めた直接的な理由だと思われますし……またこれから我々が実行しようとしている『計画』においても、現場での的確な判断能力が何よりも求められる……そういう意味でも彼は適任です」

総一郎「うむ」

L「それにやはり彼は、自分の恩人である黒井氏を助けたいと思う一方で、自分の担当アイドルである星井美希と天海春香の容疑を晴らしたいとも思っています」

L「だからこそ、彼は“L”には協力せざるを得ない……いや、むしろ積極的に協力したいと思うはず」

L「またそうであるからこそ、我々としても彼を信用し、これまでの捜査状況についてもそのほとんど全てを包み隠さずに伝えることにしたわけですから」

月「ああ。それにこうして僕達と利害が一致している以上、最後の最後で裏をかくという事も無いだろう」

L「そうですね。もし彼が本当にそうする気なら、今ここでわざわざ“L”に警戒心を生じさせるような言動をする意味は無い。むしろ馬鹿を演じてやり過ごす方が得策でしょうし、彼ならそれができるだけの才覚があるように見えます」

月「そうだな。それにそもそも、そのような僅かな可能性まで逐一潰し込んでいては一向に先へは進めない。キラの逮捕など夢のまた夢だ」

L「その通りです。もうここまで来た以上、多少のリスクは覚悟の上で先へ進んで行くしかありません」

P『――黒井社長がLの正体を探ろうとしてコイルに依頼をし、そのことがすぐにLに伝わっているのがまさにそれだ』

P『これが、俺があんた……Lが、コイルやドヌーヴと同一人物だと考える根拠だ。……どうかな?』

L「…………」カチッ

(手元のマイクのスイッチをオンにするL)

L「……面白い考えだとは思いますが、私はコイルではありませんし、ましてやドヌーヴでもありません」

L「私がこの二人の動向を把握できている理由は既にご説明した通りです」

P『まあ……あんたの立場ならそう言うしかないよな。今ここで黒井社長の信用を失うわけにはいかない』

L「…………」



673:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/10(日) 13:59:01.72 ID:N/DzeYj00

(数分後・黒井社長およびプロデューサーとの通信を終え、二人との接続を切断したL)

L「……とりあえずここまでは思惑通り、といったところですね」

月「そうだな。これで『計画』の第二段階も無事終了……残すは遂に……」

L「はい。『計画』の第三段階としての『黒いノート』の検証。そして最終段階としての……」

月「星井美希および天海春香の逮捕……か」

L「はい。もうゴールはすぐそこです」

星井父「…………」

総一郎「しかし、竜崎。あのプロデューサーの過去……よくあそこまで詳細に調べられたな」

L「あの程度の情報、ワタリにかかればものの数時間で収集可能です。ワタリはあらゆる業界に詳しく、顔も少し利きますので」

松田「流石ワタリ……」

相沢「ある意味、竜崎以上に素性が知れない人物だな……」

L「――さて、皆さん。この『計画』が滞りなく進行し、『黒いノート』がこちらの推理通りに殺人の道具だったというところまで断定できれば、もう王手です」

L「その後速やかに、星井美希の所持する『黒いノート』を証拠として押収した上で、星井美希と天海春香の両名を逮捕……これで詰みです」

L「後は取調べにより自白を促し、並行して天海春香が所持している方のノートも押収する……こんなところでしょう」

L「ただ、いくら詰みまでの手順が見えていたとしても、一足飛びに王将を詰ませることはできません。着実に一手ずつ、駒を進めていきましょう」

月「では、まずはプロデューサーからの連絡を待ち……それがあり次第、『計画』の残りのスケジュールの詳細を決定し、速やかに実行……だな」

L「はい。頑張りましょう。そして必ず……勝ちましょう」

松田「勝つって……そんなゲームか何かみたいに」

L「ゲームですよ? ですが、これは命を懸けたデスゲーム……」

一同「…………」

L「キラが私達を殺すのが先か、私達がキラを死刑台に送るのが先か……これは最初からそういう戦いだったはずです」

松田「それはまあ……そうっすね」

相沢「ゲームというのは些か不謹慎だが……言ってることはその通りだな」

総一郎「うむ……」

星井父「…………」

総一郎「だが、竜崎。勝ち負けでいうなら……キラ容疑者の二人に顔を知られてしまったという事があなたにとってキラに負けた事にはなっていないか?」

L「そうです。二人に顔を知られてしまった事も、そして名前を知られてしまったかもしれないという事も……負けです」

総一郎「…………」

L「しかし……最後は勝ちます」

月「竜崎」

L「私も命を懸けた勝負は初めてです。ここに集った命懸けの人間で見せてやりましょうよ」

L「正義は必ず勝つという事を」



689:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/24(日) 08:05:00.73 ID:isRHMYzF0

【二時間前・都内某所】


(プロデューサー付き添いの下、『春の嵐』追加公演決定のインタビュー記事の取材を受けている美希と春香)

記者「――では、最後にファンの方に向けたメッセージをお一人ずつお願いします。まずは天海さんから」

春香「はい。季節はもう夏ですが、まだまだ『春の嵐』は吹き荒れます! 精一杯頑張りますので、劇場まで足を運んで頂けたら嬉しいです!」

記者「ありがとうございました。では、星井さんお願いします」

美希「はいなの。えっと、ミキも春香も、前の公演の時よりもっとも~っとパワーアップしてるから、ぜぇ~ったい、観に来ないと後悔しちゃうって思うな! だから、絶対ゼッタイ、皆で観に来てほしいの! よろしくね。あはっ」

記者「はい。ありがとうございました。それでは、インタビューは以上で終了です。どうもありがとうございました」

P・美希・春香「ありがとうございました(なの)!」

記者「では、ゲラが出来た段階で一度お送りいたしますのでご確認のほど、よろしくお願いします」

P「はい。よろしくお願いします」





(記者と別れ、建物の外に出たプロデューサー、美希、春香)


P「じゃあ俺は14時に人と会う約束があるから、一旦ここで別れよう」

美希「もしかしてデート? プロデューサー」

P「んなわけあるか。昔世話になった人と会うだけだ。それよりお前ら、もしこの後少し時間があるようなら――……」

春香「『レッスンスタジオでダンサー組とダンス合わせてやってくれないか』……ですよね?」

P「あれ? 俺言ってたっけか?」

春香「いえ。ただ14時から二時間、きっちり私と美希のスケジュール空けてもらってましたから、多分そういうことなんだろうなって」

美希「しかもこれまた都合の良いことに、ここからレッスンスタジオまでは歩いて行ける距離なの」

P「……あー」

春香「今のインタビューがあったレンタル会議室……出版社さんの方じゃなくて、プロデューサーさんの方で予約してくれてたんですよね? おそらくは、私達の移動の負担を少しでも減らすために……」

P「……ああ、そうだよ。ったく、そこまで見抜かれちゃってたらかっこつかないなあ。こういうのは相手に気付かれないようにさりげなくやっておくのが俺のポリシーなのに……」

美希「随分地味なポリシーなの」

P「地味ってお前……」

春香「プロデューサーさん! ドンマイですよ! ドンマイ!」

P「……ありがとう。春香の笑顔が眩しくて辛い」

春香「でも、こうやってお仕事の合間にダンサーの子達と合わせられるようにスケジュールを調整してもらえると、本当に助かります!」

美希「ミキ達だけじゃ、なかなかここまで上手く調整できないしね。流石は敏腕プロデューサーなの」

P「何、お前達とダンサー組との合同レッスン自体、元々は俺が言い出して始めたことだからな。これくらいは当然さ」

春香「プロデューサーさん……」

P「……って、やべ。もう行かなきゃ。じゃ、また後で事務所でな。春香。美希。レッスン頑張れよ」ダッ

春香「はい! 天海春香、精一杯頑張ります!」

美希「ミキもがんばるのー。あふぅ」

(去って行くプロデューサーの背中を見送る美希と春香)

春香「……うーん。やっぱりプロデューサーさんは流石だなぁ。こういう気遣いが出来る人って良いよね」

美希「あれ? もしかして春香、プロデューサーに気があったりするの?」

春香「いや、別にそういうんじゃないけど。ただプロデューサーさんは765プロに必要不可欠な人材だったなあって改めて思ってさ」

美希「ああ……それはまあ、そうだね。前のプロデューサーが酷過ぎたっていうのもあるけど……」

春香「まあね。でもやっぱり、黒井社長を脅迫してプロデューサーさんをうちに移籍させたのは正解でしたよ! 正解!」

美希「そんな溢れんばかりの笑顔で言われても反応に困るの」



690:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/24(日) 08:21:07.26 ID:isRHMYzF0

春香「そういえば、美希」

美希「何なの」

春香「黒井社長で思い出したんだけど……彼、もうそろそろ殺そうと思うんだけど、どうかな?」

美希「えっ」

春香「だって『Lの正体を明かせ』って最初に命じてから、もう五か月も経ってるんだよ? 『Lの顔写真を載せろ』って指定したページも、毎日チェックしてるけど、『只今更新中です。今しばらくお待ちください』っていう文章が掲載されたまま何の動きも無いし」

美希「…………」

春香「だからもうこれ以上待っても無駄だろうし、殺そうかなって」

美希「…………」

春香「まあ本当はもっと苦しめてからでもいいのかもしれないけど……彼も流石に『765プロの中にキラがいる』ってこと自体には気付いてるだろうから、あんまり長く生かしておくのもリスクあるしね」

美希「…………」

春香「あと、一連のアイドル事務所関係者殺しの件からももう一年近く経つし……今になって黒井社長が事故か何かで死んだところで、警察はおろか、Lにだって……その件と何らかの関連性があるとはまず疑われないはず」

美希「…………」

春香「それに元々、一連のアイドル事務所関係者殺しの件自体、キラ事件とは無関係のものとして扱われているだろうしね」

美希「……やっぱり春香的には、黒井社長は殺すしかないんだ?」

春香「え? 何言ってるの? 美希」

美希「…………」

春香「彼は私達765プロを陥れようとした張本人なんだよ? 死刑ですら生温いくらいだよ」

美希「…………」

春香「私にとって、765プロは人生の全てなの。だから私は、『高木社長との昔の因縁』なんていう下らない理由で私達765プロを陥れようとした黒井社長を絶対に許さない」

美希「…………」

春香「彼の犯した罪は、彼自身の死をもってしか贖えない」

春香「彼自身の死をもってしか、彼の“償い”は終わらないんだ」

美希「…………」

春香「それに、キラ的にも黒井社長は裁きの対象でしょ? 公になっていないだけで彼はいくつもの犯罪を犯してるんだし」

美希「……ミキは一応、悪意をもって人を殺した人しか裁いてないの」

春香「でも、美希。黒井社長のせいで……私達は事務所自体潰されていたかもしれないんだよ?」

美希「…………」

春香「『765プロの皆で一緒にトップアイドルになる』……その私達の理想の妨げをするなんて、殺人以上の重罪だよね? だから殺すしかないんだよ」

美希「…………」

春香「それに“765プロ潰し”計画に関与していた黒井社長以外の主要人物達は皆、去年軒並み殺したのに……首謀者の黒井社長だけは最後まで殺さないなんて、ちょっと不平等じゃない?」

美希「……それは、まあ……そうかもしれないけど……」

春香「でしょ? だからもう殺そうかなって。いいよね? 美希」

美希「……待った方がいい」

春香「え?」

美希「今はまだ、待った方がいいよ。春香」



691:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/24(日) 08:35:34.87 ID:isRHMYzF0

春香「……何で?」

美希「もしLが前のプロデューサーの事を調べていたとしたら……彼が黒井社長からスパイとしてうちに送り込まれていた事……それが“765プロ潰し”計画の一環だった事に気付いている可能性は十分あると思うの」

春香「…………」

美希「これらの事は、いくら名うての記者とはいえ、所詮一般人に過ぎない善澤さんでさえ調べられたような情報なんだから……“全世界の警察を動かせる”Lなら当然すぐに突き止める……」

美希「だとしたら、その“765プロ潰し”計画に関与していた主要人物達が、軒並み事故死や自殺で死んだ事にも……Lは間違いなく気付いてると思うの」

春香「…………」

美希「また一方、Lは、時期的な近接性から……前のプロデューサーを殺した人物と、今犯罪者裁きを行っている人物――つまり、キラ――は同一人物だと考えているはず……」

美希「これらの事を前提に、もしLが、キラによる前のプロデューサーの殺害と“765プロ潰し”計画に関与していた主要人物達の不審死との間に、何らかの関連性がある可能性を疑っているとしたら……」

春香「! ……もしかして、Lは『キラは心臓麻痺以外でも人を殺せる』ということに気付いている可能性がある……?」

美希「……うん。ミキ的にはむしろその可能性の方が高いって思うな」

春香「…………」

リューク「…………」

リューク(……なるほどな)

リューク(去年のファーストライブの日にハルカのファンが心臓麻痺で死んだ件から、そのほとんどすぐ後に発生した一連のアイドル事務所関係者殺しの件の話をすると……どうやっても、『Lがハルカをミキと同程度に疑っている可能性』について言及せざるを得なくなる……)

リューク(だがミキはハルカにその可能性を悟らせたくなかった……だからあえて別の角度から説明することで、『キラは心臓麻痺以外でも人を殺せる』ということにLが気付いている可能性が高い、という点のみを端的に伝えた)

リューク(ククッ。なかなかやるじゃないか……ミキ)

リューク(それでこそ『覚醒』した眠り姫だぜ)

春香「……じゃあ、やっぱり今はまだやめとこうか。ライブ前に下手に動いて、Lに勘付かれでもしたら厄介だしね」

美希「うん。それがいいの」

春香「これ以上、Lの美希に対する疑いを強めるわけにはいかないもんね」

美希「…………」

春香「それに今は何より、アリーナライブの成功が最優先……765プロの皆のためにも。ファンの皆のためにも」

春香「そして……ジェラスのためにも」

美希「…………」

春香「大体、その気になれば黒井社長なんていつでも殺せるわけだしね。ライブの前であろうと、後であろうと」

美希「……まあね」

春香「でも、美希」

美希「ん?」

春香「もし、また前の時みたいに……少しでも不安を感じるようなことがあったら、すぐに私に言ってね」

春香「何に代えても、私が美希を守ってあげるから」

美希「……うん。ありがとうなの。春香」

美希「…………」



692:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/24(日) 08:47:06.62 ID:isRHMYzF0

春香「……ん? メールだ」ピッ

美希「…………」

春香「海砂さんから? ……ああ、『竜ユカ』のお誘いか。美希にも来てるよ」

美希「…………」

春香「なんだかんだでこの集まりも定着しつつあるよね。どれどれ……へー、今度の行き先は遊園地だって。じゃあお弁当作って行かないとね」

美希「…………」

春香「……美希?」

美希「え?」

春香「大丈夫? なんかさっきからボーっとしてるけど……」

美希「あ、ああ……うん。ごめん。大丈夫なの。ただ、ライブも近いからスケジュール的にどうかなって思って」

春香「美希がスケジュールの心配だなんて……明日は銀河系最後の日かもね」

美希「たとえの規模デカ過ぎなの。春香はミキの事何だと思ってるの」

春香「あはは。冗談冗談。まあでも確かにライブ前だから……行くとしても、オフの日の昼頃から夕方くらいまでかな? いくらライブが近いっていっても適度な休息は必要だし、それくらいならむしろちょうどいい息抜きになりそう」

美希「うん。そうだね」

春香「で、海砂さんから都合の良い日程聞かれてるけど……今、私の方で美希の分もいっしょに返信しとこうか?」

美希「あー、ミキは後でいいや。事務所に戻ってスケジュール確認しないと」

春香「美希もいい加減手帳買ったら? あった方が絶対便利だよ」

美希「うーん。でもミキ、そういうのすぐ使わなくなっちゃいそうなの」

春香「じゃあいっそデスノートに予定書くようにするとか。美希、いつも持ち歩いてるんだし」

美希「……それ、うっかり会う予定の人の名前書いちゃったりしたらシャレにならないの」

春香「あはは。冗談ですよ。冗談。じゃあそろそろスタジオ行こっか」

美希「うん」

春香「ダンサー組は誰が来てるのかな? 私、合宿が終わってからダンサーの子達と合わせるの、今日が初めてなんだ。だからすっごく楽しみ。美希は?」

美希「ミキも、合宿後にダンサー組と合わせるのは今日が初めてなの。とりあえず可奈がいたらみっちりしごいてやるとするの」

春香「あはは。美希はすっかり可奈ちゃんの専属トレーナーだね」

美希「まあね」

美希「…………」



693:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/24(日) 08:58:46.43 ID:isRHMYzF0

【三時間後・765プロ事務所】


(ダンサー組との合同レッスンを終え、事務所に戻って来た美希と春香)

(二人は事務所の入口へと続くビル内の階段を並んで上っている)

春香「ん~っ。やっぱり二時間みっちりレッスンすると疲れるね~」

美希「うん。流石にミキもちょっとお疲れモードなの……あふぅ」

春香「でも、合宿が終わってからまだ四日しか経ってないのに、すごい気合の入りようだったね。ダンサー組の皆」

美希「そうだね。特に可奈に至っては正直暑苦しいくらいだったの」

春香「あはは。ま、それだけ合宿での美希の個別レッスンが効いたってことじゃない?」

美希「ああ、あの春香が応援以外特に何もしてなかったときのやつね」

春香「そっ、そういえばプロデューサーさん、もう事務所に戻ってるのかな!?」

美希「……この上なく下手な話の逸らし方なの」

春香「じゃ、じゃなくて! ちょっと聞きたいことがあるから」

美希「? 『昔お世話になった人に会うだけ』って言ってたから、もう戻ってるとは思うけど。聞きたいことって?」

春香「うん。さっきの練習中に皆で話した、全体曲のフォーメーションを一部変更した方がいいんじゃないかって話、プロデューサーさんにも意見を聞いてみた方がいいんじゃないかなって」

美希「ああ、間奏中の移動の話?」

春香「うん。今のままじゃ移動時間ギリギリになる場面が多いし、最悪、曲の再開までに所定の位置に戻れないこともあるかもしれない。それに戻れたとしても、移動中の余裕がほとんど無いから、見た目にも慌ただしげに見えちゃうし、何よりお客さんに対するアクションが全然できない。やっぱり間奏中とはいえ、お客さんを蔑ろにするような動きは避けた方がいいと思うんだ」

美希「…………」

春香「どうしたの? 美希」

美希「ああ、いや……なんか春香、まるでリーダーみたいだなって思って」

春香「いやリーダーですからね!? 正真正銘!」

美希「あはっ。冗談なの」

春香「もー……あっ、言ってる間に着いたね」

美希「なの」

 ガチャッ

春香「ただいま戻りました」

美希「ただいまなのー」

小鳥「お帰りなさい。春香ちゃん。美希ちゃん」

社長「レッスンご苦労だったね。二人とも」

春香「ありがとうございます。小鳥さん。社長さん」

P「……おう。お帰り。春香。美希」

春香「プロデューサーさん! 戻られてたんですね」

P「……ああ。少し前にな。……で、どうだった? レッスンの方は」

春香「はい! 今日は可奈ちゃんと志保ちゃん、それに杏奈ちゃんと百合子ちゃんが来てたんですけど、皆、とっても一生懸命でしたよ! 私もたっくさん刺激を受けて、ついつい張り切り過ぎちゃいました!」

P「…………」



694:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/24(日) 09:09:16.40 ID:isRHMYzF0

P「……そうか。それは何よりだったな。美希はどうだった?」

美希「んー。全体的にはまあまあ、ってカンジ? でも可奈はまだまだかな。気合だけはすごく伝わってきたけど」

P「……はは。手厳しいな。……あと、ダンサー同士はちゃんとコミュニケーション取れてたか?」

春香「はい。皆、活発に意見を言い合ったり、休憩中もお喋りしたりしてて、雰囲気はすごく良かったですよ。特に志保ちゃんが少し変わったかなって。自分から他の子にドリンク渡したりしてましたし」

美希「確かにあの子、合宿の時はずっと一人でいたもんね」

P「そういえば……お前らは休憩中で見てなかったと思うが、合宿の三日目だったか……練習中、志保が可奈を責めるようなやりとりがあったな」

春香「えっ。責めるような……ですか?」

P「ああ。確か……『ついてこれないようなら、早めに他の人に代わってもらった方がいいんじゃないか』とか言ってたな。激しく責め立てるってほどでもなかったから、その場では静観してたんだが」

春香「あ……そっか。それで……」

P「ん?」

春香「ああ、いえ。私、可奈ちゃんから……他の子からそういうこと言われたって話、聞いてたんで。……そっか。それ、志保ちゃんだったんですね」

P「ああ。でも最終日のレッスンの時、可奈が最後に『もう一度、自分達ダンサーチームも合わせて通してほしい』って律子に言っただろ? 多分あれで、志保も可奈の事を認めるようになったんじゃないかな」

美希「あー。あれね」

春香「なるほど……っていうか、プロデューサーさん、相変わらずすごい観察眼ですね……私達だけじゃなく、ダンサー組の子達の事まで、そこまで細かく観ていたなんて」

P「……まあ、俺にはそんなことくらいしか出来ないからな。お前らだけじゃなく、ダンサー組のレッスンにもつきっきりで指導してくれていた律子の方がよっぽどすごいよ」

美希「律子……さんも確かにすごいけど、プロデューサーのフォロー範囲もちょっと普通じゃないって思うな」

P「……別にそんな大層な事じゃないさ。お前らも、自分のレッスンもしながらで大変だとは思うが……これからもダンサー組の皆の事、できる限りフォローしてやってくれな」

春香・美希「はい(なの)!」

P「……ありがとう」

春香「あ、ところでプロデューサーさん。今ちょっといいですか?」

P「? 何だ? 春香」

春香「実は、ちょっとご意見を伺いたいことが――……」

 ピリリリッ

P「……ん? ああ、吉井さんか。悪い、春香。ちょっと待っててくれ」ピッ

P「はい。お世話になっております。○○です」



695:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/24(日) 09:28:10.29 ID:isRHMYzF0

美希「吉井さん……? ああ」

春香「? 美希、知ってるの?」

美希「うん。海砂ちゃんのマネージャーさん。ミキ、前に会った事あるよ。眼鏡掛けてて、ちょっと律子に似てる女の人なの」

春香「あ、そっか。美希は海砂さんと一緒にCM出てたもんね」

美希「そうなの」

P「……えっ。本当ですか?」

P「ええ。それは願ってもないお話です。……はい。……はい。ええ。もちろん、喜んで受けさせて頂きます」

春香「……どうやら、新しいお仕事のお話みたいだね」

美希「ってことは、また海砂ちゃんと一緒にやるお仕事なのかな?」

春香「そうかもね。もしそうなら今度は私がやりたいなあ」

美希「それはミキ達が決めることじゃないって思うな」

春香「それは分かってるけどさ。私だって海砂さんと一緒にお仕事したいもん」

P「……はい。……はい。では……そうですね。来週ですと……木曜の午後なら空いてますが……ええ、ありがとうございます。……はい。では、来週の木曜に」

P「はい。それでは失礼します」ピッ

P「……美希。新しい仕事が入ったぞ。またヨシダプロの弥さんとの共演だ」

美希「! またミキなの?」

P「ああ。先方からのご指名だ。何でも、前の“ミキミキ・ミサミサ”のダブルアイドルを売りにした○×ピザのコラボCMが好評だったから、また是非美希に弥さんと共演してもらえないか、だとさ」

春香「えーっ。美希ばっかりずるーい!」

P「そう言うな、春香。こればっかりは仕方ない」

春香「ぶー」

P「……社長。そういうことで、たった今、美希に新規の仕事が一件入りました。ただアリーナライブ前でもあるので、スケジュールは既存の予定を優先して調整します」

社長「うむ。よろしく頼むよ。それにしても、星井君は相変わらずモテモテだねぇ」

小鳥「ホント、色んなジャンルのお仕事で引っ張りだこですもんね。果てはハリウッドにまで行っちゃうし」

P「……はは。そうですね」

美希「あはっ」

春香「ちぇーっ。私だって海砂さんと一緒にお仕事したかったのに……」

P「……? 春香も、弥さんと面識があるのか?」

春香「はい。美希経由で仲良くなって、プライベートでもよく一緒に遊んだりしてるんです」

P「……へぇ。そうだったのか」

美希「ねぇ、プロデューサー。今度のお仕事もまた○×ピザのCMなの?」

P「いや、今度は10~20代の女性向けのファッション誌の撮影だそうだ」

美希「ふぅん。でも10代はともかく20代って、いいの? ミキまだ15歳だよ」

P「弥さんはもう20歳だろ」

美希「あ、そっか。海砂ちゃんって童顔だから忘れてたけど……そういえばそうだったの」

P「お前な……まあ、とりあえず来週の木曜に打ち合わせを入れたから、そこで今後のスケジュールの詳細を詰める予定だ。いいな?」

美希「はーいなの。……あっ。じゃあ早速、海砂ちゃんにこの事メールしとこうっと。レッスンの前に来てたメール、まだ返信してなかったからちょうど良かったの」

P「…………」



696:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/24(日) 09:46:25.50 ID:isRHMYzF0

春香「? どうかしました? プロデューサーさん」

P「……いや、なんでもないよ。早く春香にも指名の仕事来たらいいな」

春香「いや、結構来てますけどね!? その『早く春香も美希みたいに売れたらいいな』みたいな言い方やめてくれません!?」

P「ははは。冗談だよ。今や二人とも人気アイドルだもんな」

春香「……えへへ。それはプロデューサーさんのおかげですよ」

P「……いや、俺は何もしてないよ」

P「全部、お前達の実力さ」

春香「もー、またそんなこと言って」

社長「うむ。勿論、アイドル諸君の実力あっての事ではあるが……しかし君がいなければ、今の彼女達の輝きもまた無かっただろう」

P「社長」

社長「君はもっと自分を誇っていいんだよ。今やもう、君は我が765プロにとって掛け替えの無い存在となっているのだからな」

P「……ありがとうございます」

小鳥「あれ? もしかして泣いてます? プロデューサーさん」

P「! な、泣いてませんよ! 何言ってんですか音無さん!」

小鳥「えー? でも目が少し赤く……」

P「そ、そんなことより! 春香、さっき電話の前に俺に何か言い掛けてたよな? あれ、何だったんだ?」

春香「え? あ、ああ、はい。えっと……」

小鳥「あー! 話逸らしたー! ぶーぶー!」

P「あーあー、聞こえませーん」

小鳥「もー! ……なんてね、ふふっ」

社長「はっはっは。実に愉快だ」

春香「あはは……あ、すみません。プロデューサーさん。えっと、ライブの全体曲のフォーメーションの事なんですけど……」

P「…………」

春香「? プロデューサーさん?」

P「え? あ、ああ……すまん。全体曲のフォーメーションがどうかしたのか?」

春香「はい。あのですね、間奏中の移動時間の事とかを考えると――」

美希「…………」



697:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/24(日) 10:01:26.24 ID:isRHMYzF0

【三十分後・ヨシダプロダクション事務所】


(仕事先から戻って来た海砂)

海砂「ただいま戻りました~。あ~っ、疲れた~っ」

吉井「お疲れ様、ミサ。どうだった? ラジオ収録」

海砂「ヨッシー。うん、ばっちりだったよん。4月から始まってもう三か月になるから、だいぶ慣れてきたしね」

吉井「それは良かったわ。同行できなくてごめんね」

海砂「いーっていーって。ヨッシーも忙しいしね」

吉井「ありがとう。ところで今日、新しい仕事が入ったわよ」

海砂「本当? 何のお仕事?」

吉井「ファッション誌の撮影ね。社長の昔のツテで紹介してもらえたらしいわ」

海砂「へー。いいじゃん、いいじゃん」

吉井「でね、前の○×ピザのCMが好評だったから、また765プロの星井さんと共演してもらったらどうか、って提案が社長の方からあったのよ」

海砂「! …………」

吉井「もちろん、それが実現したらうちにとっては願っても無い話だけど……向こうはもうすぐアリーナライブがあるでしょ? そんな時期に新規のお仕事なんて受けてくれないんじゃないかと思ったんだけど……まあ社長の提案でもあるから、ついさっき、一応ダメ元で765プロのプロデューサー……ああ、あなたも前に会った事があったわね。彼に連絡してみたのよ」

海砂「…………」

吉井「そしたらね、なんと二つ返事でOKしてもらえたの。『喜んで受けさせて頂きます』って。それで早速、来週の木曜に打ち合わせをすることになったわ」

海砂「…………」

吉井「いやあ、本当に驚いたわ。てっきり断られるものとばかり思っていたから……言ってみるものね」

海砂「…………」

吉井「まあこれも、昔からのよしみってやつのおかげなのかもしれないけど……何にせよ良かったわ。これでまたミサの知名度も一気に……」

海砂「…………」

吉井「? どうしたの? ミサ」

海砂「え?」

吉井「ずっと押し黙っちゃって。嬉しくないの? 星井さんとの共演」

海砂「そ、そんなことないよ! 美希ちゃんとの共演でしょ? 嬉しいに決まってるじゃん! あ、そうだ。早速美希ちゃんにメールしようっと。……あっ、ちょうど美希ちゃんから来てる」

吉井「……本当に仲良くなったわね。あなた達」

海砂「うん。美希ちゃんはミサの憧れのアイドルであり、大の親友でもあるからね!」



698:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/24(日) 10:32:16.45 ID:isRHMYzF0

吉井「そういえば、あなた……うちのオーディションを受けに来たとき、言ってたわね。『憧れのアイドルは765プロの星井美希ちゃんです』って」

海砂「うん。よく覚えてるね。ヨッシー」

吉井「オーディションで、わざわざ他の事務所のアイドルの名前を出す子はあまりいないからね。それが印象に残ったからっていうのも選考理由の一つだし」

海砂「えっ! そうだったの?」

吉井「もちろん、それだけじゃないけどね。でもそれがあなたを採用する際の決め手の一つになったのは本当よ」

海砂「そうだったんだ……」

吉井「ところで、ミサ」

海砂「? 何?」

吉井「今まで聞いたことなかったけど……あなたが星井さんに憧れるようになったのって、何かきっかけとかあったりするの?」

海砂「あー……うん。実はね、私……友達に誘われて、去年の765プロのファーストライブに行ったの」

吉井「へぇ。そうだったの」

海砂「うん。でね、そこで美希ちゃんの桁外れのパフォーマンスを見て……『美希ちゃんみたいなアイドルになりたい』って思ったんだ」

吉井「なるほど。そういうことだったのね」

海砂「うん。……それにほら、その頃はさ、私……両親の件からまだ立ち直ってなかったから」

吉井「あ……」

海砂「だからね。美希ちゃんを見て、私も頑張って生きよう! って思えたの」

吉井「……そうだったのね」

海砂「うん。だから美希ちゃんは私が最初に憧れたアイドルで……一番の目標なんだ。今でもね」

吉井「……じゃあ、早くミサも星井さんみたいな人気アイドルにならないといけないわね」

海砂「うっ……それ言われると辛いけど……が、頑張ります……」

吉井「はい、よろしい」

海砂「……あははっ」

吉井「ふふっ」

海砂「…………」

海砂(本当に、美希ちゃんとの共演の仕事の話が来た……!)

海砂(しかも、あれからまだ三日しか経ってないのに)

海砂(一体何者なの? 竜崎って)

海砂(ライトは彼の事、『裏の世界のプロ』って言ってたけど……)

海砂(……まあ、いいか。とにかくこれで、ミサはライトの役に立つことができるわけだし)

海砂(それにこれは、美希ちゃんと春香ちゃんをキラの仲間に加えるための活動でもあるしね)

海砂(よし! 頑張ろうっと!)



699:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/24(日) 10:57:36.09 ID:isRHMYzF0

【三十分後・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


ワタリ『……竜崎。765プロのプロデューサーから着信です』

一同「!」

L「つないでくれ」

ワタリ『はい』

L「Lです」

P『ああ、俺だ。○○だ』

L「あなたから連絡があったということは、もう……?」

P『ああ。ついさっき、吉井氏から例の件で連絡があった』

L「! 随分早かったんですね。では……」

P『ああ。美希と弥の共演については二つ返事で快諾し……早速、来週の木曜に打ち合わせをすることになった。スケジュールの詳細はそこで決める』

L「分かりました。迅速にご対応頂きありがとうございます。ちなみに、星井美希本人にはもう伝えられましたか?」

P『ああ。ちょうど吉井氏からの連絡を受けた時に事務所にいたからその場で伝えたが……特に不審に思っているような様子も無かったよ。まあ表向きは普通の仕事の話なんだからある意味当たり前だが……』

L「そうですか。それなら良かったです」

P『で、相談なんだが……撮影日……もとい、作戦の実行日はいつ頃にすればいいんだ? 今日の話から、期間としては予備日を含めて二日間は確保するようにするつもりだが』

L「そうですね……早い方が良いのは勿論ですが、不自然に既存のスケジュールを変更したりして、星井美希に疑われては元も子もありませんから……あくまでも自然体で決めて頂いて構いません」

P『分かった。一応、俺の方でも『スケジュールは既存の予定を優先して調整する』とは言ってある』

L「ありがとうございます。ただ、一つだけ注文があるのですが……星井美希の撮影中は、天海春香に仕事の予定が入らないように上手く調整して頂けませんか?」

P『ああ。分かっている。高田清美とやらが、その間春香を見張れるようにするためだろう? もう既に、その条件を満たす候補日・時間を複数ピックアップしている』

L「……流石の対応力ですね。どうもありがとうございます」

P『別にこれくらい大したことじゃないさ。じゃあその中でできるだけ早い日、でいいな?』

L「はい。よろしくお願いいたします」

P『了解。ではまた日程が決まったら連絡する』

(プロデューサーとの通話を終えたL)

L「…………」

月「まさか、今日中にここまで進捗するとはな」

L「はい。やはり黒井氏とプロデューサーをこちら側に引き入れたのは正解でした」

総一郎「うむ。これで後は、星井美希に訝しまれないように気を付けながら着々と準備を進めるだけだな」

L「はい。ただ表向きはあくまでもただのファッション誌の撮影ですし、黒井氏の影も完全に消していますから……まず怪しまれることはないと言っていいでしょう」

相沢「しかしこのまま順調に進めば……今建設中という新しい捜査本部のビルは、一度も使うことの無いまま、キラ事件は終結を迎えるかもしれないな」

月「? 新しい捜査本部のビル? ああ、そういえば……僕が最初にこの捜査本部に来た日に竜崎がそんなことを言っていたな」

L「はい。まあ使わずに済むならそれに越したことはありません」

松田「個人的には、一度くらいハイテク設備の超高層ビルに勤務してみたかったっすけどね~」

相沢「松田。お前な……」

松田「じょ、冗談っすよ! 冗談!」

月「……ちなみに、いつ完成する予定なんだ? そのビルは」

L「はい。8月1日を予定しています」

月「! 8月1日……か」

L「…………」

総一郎「? 何かあるのか? その日に」

L「……ええ。ただの偶然に過ぎませんが、その日は―――765プロダクションのアリーナライブ開催の日です」



700:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/24(日) 11:30:03.64 ID:isRHMYzF0

【同日夜・春香の自室】


春香「……ねえ、レム。今度のアリーナライブの日って、8月1日でしょ?」

レム「ああ。そうだな」

春香「これってさ、偶然にしてはすごいと思わない?」

レム「? 何の話だ?」

春香「もう。レムったら忘れちゃったの? 一年前のこの日……8月1日は、私達765プロのファーストライブがあった日なんだよ」

レム「! ……そうか。そういえば、そうだったな」

春香「うん。つまり……私が本来死ぬはずだった日」

春香「そして……ジェラスに命をもらった日」

レム「…………」

春香「だから私にとっては……特別な日なんだ」

春香「もっとも、今年のライブも同じ日付になったのはただの偶然みたいだけどね」

レム「…………」

春香「でも、ただの偶然でも……私にとっては意味のある偶然だと思ってるの」

春香「だって、私がジェラスに命を救われて……もう一度、アイドル・天海春香として生きていけるようになった日……その一年後の同じ日に、一年前よりもっと大きな舞台でライブができるなんて……アイドルとして、こんなに幸せな事ってない」

春香「そう思わない? レム」

レム「……ああ。そうだな」

春香「確かに、Lの事は今でも気になるけど……現状、美希にはまだ何も仕掛けられていないみたいだし……」

春香「今日も美希には、少しでも不安を感じたらすぐに私に言うように伝えておいたしね」

レム「…………」

春香「大丈夫。美希は必ず私が守る。……いや、守ってみせる」

レム「ハルカ」

春香「それにもうここまで来たんだ。誰にも邪魔はさせない」

春香「私は、美希と、皆と……アリーナライブを成功させて、トップアイドルになるんだ」

春香「……必ず!」

レム「ああ。頑張れ……ハルカ」



385:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/01/21(土) 12:01:26.05 ID:BTrwrj0k0

【同時刻・美希の自室】


美希「…………」

リューク「なあ、ミキ」

美希「何? リューク」

リューク「やっぱり教えてやった方がいいんじゃないか? ハルカに」

美希「……春香もミキと同じくらいのレベルで、Lにキラとして疑われてる可能性が高い……って?」

リューク「ああ。だってあいつ、今日も、黒井って奴を殺すかどうかをお前と話してたとき、『Lのミキに対する疑いを強めるわけにはいかない』っていう言い方をしていたからな。多分、未だに自分に掛かってる容疑は『その他大勢』レベルとしか思ってないだろ」

美希「……いいの。リュークだって分かってるでしょ。今はアリーナライブ前の大事な時期……それが春香にとってどういう意味を持っているか」

リューク「…………」

美希「春香は春香らしく、トップアイドルを目指して走り続けてくれたらそれでいいの」

美希「春香は……誰よりもアイドルなんだから」

美希「だから今、春香がすべきことは全力でライブに取り組むこと……Lの相手なんかをしている暇は無いの」

リューク「……でも今、Lが色々と仕掛けてきているのは間違い無いんだろ? 合宿中のお前の父親のメールの件に、例の四人の犯罪者の不自然な報道の件……」

美希「まあね」

リューク「もっともハルカは、お前の父親のメールの件は知らないし……犯罪者の報道の方も特に気付いてはいなかったみたいだけどな」

美希「……春香は元々、犯罪者裁き自体にはそこまでの関心は無いからね。単にミキがやってるから色々協力してくれてるってだけで」

リューク「確かにそうだな。あいつはあくまでも765プロの全員でトップアイドルになれればそれでいいっていう考えだからな」

美希「うん。だから……」

リューク「だから?」

美希「Lの相手は……ミキ一人でするの」

リューク「ほう」

美希「元々、犯罪者裁きはミキが一人で始めたことだし……Lがキラを追い始めたのもそれが理由なの」

美希「つまり、これは最初から……Lとミキとの一対一の戦いだったの。だからミキ一人で決着をつけるのが筋なの」

リューク「ククッ。なるほどな」



702:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/24(日) 12:08:08.59 ID:isRHMYzF0

リューク「でも『決着をつける』ってことは……もうミキの中でも、Lは殺す対象として確定してるってことか?」

美希「そうだね」

リューク「ウホッ」

美希「何? その反応……」

リューク「いや、今までのミキに比べて、随分あっさり認めたと思ってな」

美希「もちろん、ミキ的には……やっぱり今でも犯罪者以外は殺したくない、っていうのが本音だけど……」

美希「でも、もうそんな悠長なことも言ってられないの。さっきリュークが言ってた、例の四人の犯罪者の報道の件にしても……目的は不明だけど、ミキ達が合宿に行っている間だけピンポイントで行われていた事からして……明らかにミキと春香を狙った動きなの」

リューク「? 何で合宿中だけピンポイントで……って分かるんだ?」

美希「だって合宿の後、今日までの間にミキが裁いた犯罪者は、皆、裁いた通りに普通に報道されていたの」

リューク「ああ、そういうことか」

美希「あと、これもさっきリュークが言ってたけど……合宿中のパパからのメールの件もあったしね」

リューク「ああ。合宿中のミキの生活時間を探ろうとしてたってやつな」

美希「そうなの。それに合宿から戻ったら戻ったで、尾行も復活したみたいだし」

リューク「……正直、あれはもう勘弁してほしいぜ。気持ち悪くって仕方がない。幸いにも今日はついていなかったようだが……」

美希「とにかく、今もLがこうして色々と仕掛けてきている以上、ミキはもちろんだけど……いつ春香にも危険が迫るか分からない」

美希「そんな状況で、呑気に静観なんてしてられないの」

リューク「それが……お前がLを殺す理由なのか? ミキ」

美希「そうだよ」

美希「ミキは死んでも春香を守る」

美希「ミキがLを殺す理由は、ただそれだけでいいの」

リューク「! ……なるほどな。でもLを殺すってことは、当然、捜査本部に居る他の奴らも一緒に殺すんだよな?」

美希「……ううん。色々考えたんだけど……ミキが殺すのはLだけにするの」

リューク「? 何でだ?」

美希「今の時点で、確実に捜査本部に居ると思われるのは……夜神総一郎と模木完造、そして竜崎と夜神月の四人」

美希「そしてパパは……キラ事件の捜査本部に居るか、居ないけど捜査本部に対して捜査協力をしている立場にあるか……のどっちかなの。いずれにしても合宿中のメールの件があるから、今は全くキラ事件の捜査に関わっていない……ってことはないはず」

リューク「ふむ」

美希「ただ、仮に今名前が挙がった人達を――パパも含めて――全員殺したとしても、まだ捜査本部内に他の捜査員が居たら……ミキか、または春香に対する疑いが強まるだけなの」

美希「そこにLが残っていようがいまいが関係無く……ね」

リューク「……いや、待てよ。なら死の前の行動を操ったらどうだ? 捜査本部に居る捜査員全員の情報を明かさせてから殺す……みたいな。前にハルカが似たようなことやってただろ」

美希「うん。それは当然ミキも考えたの。たとえば、既に顔と名前が分かっている捜査員の名前をノートに書き……捜査員全員の顔と名前をネットに掲載するように操ってから殺す……とかね」

美希「でもこの場合でも……やっぱり、『捜査本部内の誰にも顔と名前を知られていない者』が一人でも捜査本部の中に居たら……その人だけは生き残っちゃうの」

美希「また、仮にこのやり方で捜査本部の捜査員を全員殺せたとしても、既にキラ事件の捜査情報が捜査本部外に渡っていたら結局同じ事……どうやったって足がつくの」



703:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/24(日) 12:30:08.09 ID:isRHMYzF0

リューク「なるほどな。……でも、そう考えると……仮にLが誰なのかを特定して、そいつだけをピンポイントで殺したとしても……あんまり意味無くないか? その場合は言うまでもなく、L以外の奴らはそのまま生き残るわけだから……結局、ミキやハルカに対する疑いを強めるだけのように思えるが……」

美希「ううん。意味はあるよ。それが本当にLならね」

リューク「? どういうことだ?」

美希「もしミキがLを特定できたら、事故死か何か……少なくとも心臓麻痺以外の死因で殺すの」

リューク「まあ心臓麻痺じゃキラによる殺人って言うようなもんだからな。せめてものカモフラージュってことか」

美希「うん。ただ今日も春香と話したけど、Lは……つまり捜査本部は、『キラは心臓麻痺以外でも人を殺せる』ってことに気付いてる可能性があるの」

リューク「…………」

美希「でもそうは言っても、死因が心臓麻痺じゃなく、しかも死んだのも一人だけなら……それがキラの犯行であるという確証まではまず持てないはず」

美希「もちろん、その場にLが生き残っていたら……それをキラの犯行と断定してミキの、あるいは春香の逮捕を強行しようとするのかもしれないけど……」

リューク「Lを殺した後だから、それは無いってことか」

美希「そう。つまりLの死をキラの犯行だとする確証が無い以上、ミキや春香の逮捕に踏み切ることは基本的にはできない」

美希「ただそれでも、残った捜査員達は『Lはキラに迫ったがゆえに殺されたのかもしれない』と思うはず」

リューク「ふむ」

美希「つまり“全世界の警察を動かせる”ほどのLでさえ、キラに殺されたのかもしれない……そんな状況で、自分の命の危険を顧みず、捜査を続けられる人なんてそう多くはいないと思うの」

リューク「……なるほど。要するに、捜査本部で一番力を持っているであろうLのみをピンポイントで殺す事で……捜査本部全体の勢いを削いじまうってことか」

美希「そう。誰だって死ぬのは嫌だもん。『Lがキラに殺されたかもしれない以上、自分も殺されておかしくない』って普通の人間なら考えるはずだし……たとえ自分が死んでもキラ逮捕を、なんて思えるのは聖者か何かくらいなの」

美希「だからそうなれば、きっともう誰もキラの核心に迫るような捜査はしなくなる。結果、捜査本部は形骸化するの」

リューク「…………」

美希「そうすれば世界は一気にキラに傾く。悪人のいない、心優しい人間だけの……皆が笑って過ごすことのできる世界がつくれる」

美希「それがキラとしての完全。ミキが望んだ理想の世界なの」

リューク「……ククッ。なるほどな」



704:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/24(日) 12:58:33.81 ID:isRHMYzF0

リューク「……だがそのためには、Lが誰なのか、100%の確度で特定する必要があるってことだろ?」

美希「そうだね。下手に『Lっぽい人』を殺しちゃって、結果、『本物のL』からミキや春香がより疑われるようになっちゃったら何の意味も無いの」

リューク「でも、それって何気に相当ハードル高くないか? こっちは捜査本部の内情も全く分からないのに……」

美希「まあね。でもミキ的には……実はもう、Lが誰かのアタリはほとんどついてるの」

リューク「! ……ってことは、やっぱり……竜崎か?」

美希「うん。やっぱり本名が“ L Lawliet ”なのと……あとあまりにそつが無いところから……彼がLである可能性が一番高いって思うな」

リューク「そつ?」

美希「うん。リュークも知っての通り……竜崎は、ミキ達の前では『熱狂的な春香のファン』を演じている。その演技はあまりにも完璧過ぎて、とても演技とは思えないくらいなの」

リューク「…………」

美希「そしてまた、彼はうちでパパと対面した時にも完璧に演技をしていた。そこには何の不自然さも無かったの」

美希「もし仮に、『パパが竜崎の椅子の座り方を見たときにどんな反応をするか』ってとこまで対策されていたら……多分ミキも、それ以上には彼を疑えなかったと思うの」

リューク「そうなのか?」

美希「うん。ミキもよくお仕事で演技するから分かるんだけど……普通、演技をしてる時って、絶対に挙動や表情に何らかの変化が出るものなの」

リューク「ほう」

美希「だから今にして思えば、竜崎と対面した時のパパの様子も、いつもと少し違ったような気がするの。竜崎との会話の内容自体には何ら不自然な点は無かったけど、なんていうか……全体的な雰囲気とかがね」

リューク「へぇ。俺には全然分からなかったが……そういうもんなんだな」

美希「うん。でもその時の竜崎にはそういう要素が一切無かったし、今も無い」

美希「だから……竜崎が一番怪しいの」

美希「あまりにも完璧過ぎるし、あまりにもそつが無さ過ぎるから」

リューク「……なるほどな。じゃあ、あいつはどうなんだ? 夜神月。竜崎の演技が完璧過ぎて怪しいっていうなら、その竜崎と自然に演技を合わせている夜神月も大概怪しいといえるんじゃないか?」

美希「うん。確かにミキも、夜神月がLかも? って思ったこともあったけど……でも彼の場合、竜崎と違って素性がはっきりしてるからね。何より、少し前まで普通に高校生やってた人がLとはちょっと思えないの」

リューク「あー……まあそれはそうか」

美希「そうなの。それとあとは……」

リューク「あとは?」

美希「女の勘、かな」

リューク(勘かよ……)



705:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/04/24(日) 13:26:35.53 ID:isRHMYzF0

美希「あっ。リュークってば、なんかちょっと馬鹿にしたような顔になってるの」

リューク「いや、別に……」

美希「むー。こう見えても結構当たるって評判なんだよ? ミキの勘」

リューク「はいはい、分かったよ。……で、結局どうするんだ? 勘で竜崎を殺すのか?」

美希「ううん。流石にそこまで危ないことはしないの」

美希「竜崎が本当にLなら良いけど……もしそうじゃなかったら、Lにミキがキラだと言うようなものなの」

リューク「? お前だけか? ハルカは?」

美希「“キラ”としての疑いの程度はミキも春香も同じくらいだと思うけど……もし竜崎が死んだら、確実にミキの方が疑われると思うの」

リューク「? 何でだ?」

美希「ミキは竜崎をパパと対面させてるから。キラ事件の捜査本部に居る――か、居ないとしても、捜査本部に対して捜査協力をしている立場にあるであろう――パパと」

リューク「……ああ。そういうことか」

美希「それとあと、竜崎は『熱狂的な春香のファン』を演じてるからね。正直言って、春香がその竜崎の嘘を見抜いて殺すっていうのは、ちょっと想像し難いと思うの」

リューク「? そうか?」

美希「うん。だって春香は誰よりもアイドルで……また誰よりもファンの事を尊重し、大切に思ってるからね」

美希「そんな春香が、『自分の熱狂的なファン』である竜崎の事を疑えるはずがないし、ましてやその嘘を見抜けるはずがない。……実際、今も春香は竜崎の事、微塵も疑ってないしね」

美希「また竜崎にしたって、そうなるであろうことを見越して……春香のファンを演じることにしたんだと思うし」

リューク「なるほどな」

美希「だから……春香に竜崎は殺せない。Lが竜崎であれ、他の誰かであれ……きっとそう考えるはずなの」
   
リューク「じゃあ結局、竜崎がLである可能性が一番高いとしても……今はまだ殺せないってことか」

美希「……うん。今のままじゃ……ね」

リューク「ククッ。そりゃ残念だな」

美希「…………」

美希(そう。今はまだ竜崎を殺せない)

美希(だから今は確証……そう、確証が欲しい)

美希(竜崎がLであるとする、たったひとつの確証が)

美希「…………」


美希「デスノート」【その5】



元スレ
美希「デスノート」 2冊目
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1443343964/
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