女の子「ねぇおとうさま...とってもかなしいゆめをみたの。わたしとってもこわくて...」
- 2017年01月21日 18:10
- SS、神話・民話・不思議な話
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男「はいはい、今からご飯を持ってくるから、いい子にしてお椅子に座ろうね」
女の子「うんっ、すわるー」
男「えらいえらい」
女の子「えへへー」ニコ
男「本当にいい子だ。すぐ戻るから待っててね」ナデナデ
女の子「まってるー!」
彼女の知能は人間の5歳児程度しかない。
反面、背丈は15歳の少女と同じくらいだから端から見ると奇妙に思うだろう。
彼女は人間というよりは犬や猫のような睡眠、食事を基本とする本能的行動しか行わないが、そういう動物的知性とも少し違う。
言語を操る、創造的思考を行うなどいくつかの点で人間の脳と共通点を持つものの、そもそも人間の脳の持ち主ではない。
女の子「やったぁ!カレーすき!」
男「大切な人と食べるカレーは、幸せの味がするんだよ」
女の子「?」
男「まぁいいさ。じゃあ、いただきますしようか?」
女の子「むー」
僕は科学者だ。
科学者「だった」と言う方が正確かも知れない。
若き頃の情熱に燃えていた僕は汎用人工知能(つまり人間みたいな人工知能)をつくるという夢を持って、医学部へ進学し、そのまま院に進んで研究医になった。
脳について学ぶことが汎用人工知能をつくる一番近道と考えたからだ。
男「やっぱり人間がつくるとあんまり美味しくないな。今度からロボットにやらせよう」
女の子「またむずかしいこといってるー」
男「はは、亜理子(アリス)にはまだ分からないかもしれないな」
女の子「わからないけど、これからわかるようになるもん!」
人間の脳の仕組みは当時、どこがどう作用するのかといったその内実はほとんど理解されていた。
しかし、脳のシミュレーションが上手くいかないのだった。
脳の各部位をそれぞれ特化型人工知能に置き換えて試してみても駄目だった。
スーパーコンピュータの性能がいくら向上しても、従来のCPUでは根本的に汎用人工知能は実現不可能なのでは、とも言われていた。
女の子「あさはいっつもふってるねぇ」
男「そうなのか。よく見てるね。将来はきっと...」
男「あぁ...」
男「これじゃ散歩はできないな。本でも読もう。そうだ、絵本を読んであげるよ」
女の子「わぁい!えほんだいすき!」
人間よりも純粋で、醜くない存在を求める動機にただ突き動かされていた(しかし人間の姿をしていなければならない!)。
ときに理想主義者と揶揄されもしたが、僕は自分を信じて更に勉強、勉強、とにかく勉強した。
人工知能学、脳科学以外にも、認知心理学や神経科学、サイバネティックスなど有用と思える学問を研究の合間を縫って片っ端から吸収していった。
フランケンシュタイン博士に憧れていたから、誰の力も借りずに完成させたかった、そして実際それが出来たのだった。
女の子「わたし、このえほんがいちばんすきだから、おとうさまによんでほしいの!」
男「いいよ。かしてごらん」
男「それじゃ読むよ。『空色のあめ玉』」
男「むかしむかし、レンガでできた家ばかりがある街に、男の子と女の子が住んでいました」
男「ある日、二人はお母さんからおこづかいをもらって、お菓子を買いに出かけました」
自分が死んだ数十年後になって、ようやくその発明がなされるような途方もない事業に挑んでいたのだから、その代償としての苦労にしてはいささか小さすぎたとも感じるのだ。
着想を得て、設計してから完成(少なくともこのサイクルは、失敗作を含め数十回と繰り返してきたが)までの数年で計画は順調に進んだ。
男「女の子は中でも空色のあめ玉が気に入って、おこづかいのすべてをそのあめ玉に使ってしまいました」
男「女の子は透明な袋に空色の結晶がたっぷりと注がれていくのを、うっとり眺めました」
男「その帰り道、二人が話しながら歩いていると、向こうから手綱を持ったお婆さんと犬が歩いてきます」
なぜ彼女がそうなのか、そうなるように僕がつくったのか、という問いに対する答え。
それは、人間、動物、の醜さはすべて持って生まれた本能に端を発すると思ったからだ。
略奪、戦争、闘争、階級制度、あらゆる社会構造、そして友情や愛、人間関係におけるささいな仕草までもが。
生存欲求が著しく妨げられ動物の醜さ、すなわち窮地に陥ったとき相手を蹴落としてでも生き残るという利己精神。
これは究極的には、絶対に克服され得ないものだ。
死に対する恐怖、生存への欲求は最後の最後まで動物、人間という操り人形の操り手なのである。
男「犬はワンワン吠え始めました。すると女の子はびっくりして、気付くとあめ玉の入った袋を手からぱっと離してしまっていました」
男「袋は地面に落ちて、中身はあちこちに散らばっていきます。空色のあめ玉は全部、台無しになりました」
男「さぁそれから大変です。今度は女の子がわんわん泣くし、お婆さんと犬はそそくさとどこかに行ってしまい、男の子は困り果てて立ち尽くしていました」
ならば、人間の脳がどこまでも自律的本能で動く自律的機械なら、先にも述べた「他律的本能に基づく自律的機械」をつくることでそれを克服出来るのではないかと考えた。
それも人工物で、ほば永遠に全てが美しいままの存在。悲しみを一切生まない存在だ。
自我の対立も、傷付け合うこともない。
こういう風に、僕はその残酷なまでに呪われた人間同士の争いは必然だとある時悟って、目的の汎用人工知能が完成したら人里から離れようと決めた。
それは叶った。
男「『これ、少ないけどあげるよ』。それは空色のあめ玉でした」
男「女の子はきょとんとしていましたが、やがて顔をごしごしして、『...本当にいいの?』と聞きました」
男「男の子は言いました。『もちろん。でも、僕も一粒......」
学習のペースは非常に遅くしてあるし、記憶も基本的な事柄以外はそんなに覚えていられないようにした。
精神というのは賢すぎても愚かすぎても不具合がどこかで起こる。忘却曲線が意図するカオスの縁に留まるよう随分苦労したものだ。
おかげで彼女は永遠に無垢な精神を保ったまま生きられる。
悲しみを知ってしまわなければ悲しいと感じることもないだろう。
女の子「うん!そらいろのあめだま、たべてみたいなぁ」
男「あぁ、そうか...そうだね」
女の子「それと、おとこのこってやさしいんだね。おとうさまみたい!」
男「......」
女の子「??」
ただしどこに欠陥があったのか、僕の理論に誤りはなかったはずだが、彼女はあと10年あまりしか生きられないことが分かっている。
女の子「ねぇ、おさんぽしよ!」
男「いいよ。虹がでているかもね」
女の子「にじいろのあめだま!」
男「...」
男「虹色のあめ玉か...きっと...」
まぁ、僕の体ももうガタガタで余命僅かばかりだから、別にいい。
二人が死んだあと、掃除や埋葬は感情のないロボットがやってくれるだろう。
最後の日までは、一緒に本を読んだり、散歩したり、庭の花を慈しんだり、朝早く目覚めて朝焼けに見惚れたりしよう。
女の子「おとうさまーっ、はやくはやくー!」
僕はそれで満足だ。
元スレ
女の子「ねぇおとうさま...とってもかなしいゆめをみたの。わたしとってもこわくて...」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1484932972/
女の子「ねぇおとうさま...とってもかなしいゆめをみたの。わたしとってもこわくて...」
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コメント一覧 (13)
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- 2017年01月21日 18:25
- ええな。
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- 2017年01月21日 18:25
- ほんだ
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- 2017年01月21日 18:30
- きれいだ
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- 2017年01月21日 18:44
- やっぱり君は
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- 2017年01月21日 19:14
- つまらん
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- 2017年01月21日 19:17
- もんだいなんか
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- 2017年01月21日 19:47
- んーとね、、、むずかしくてよくわかんなかった!!
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- 2017年01月21日 20:30
- ファミチキください
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- 2017年01月21日 21:05
- やみつき鶏くだーたい❤
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- 2017年01月21日 21:18
- 結局のところ本能的に利己に走らないことが人間の醜さを消し去ることはできなかったって事か
他者を慮る心は他者の喪失に恐怖するし(こわいゆめ)、何よりもそれを望んだ科学者は被造物に「おとうさまの死」を叩きつける結果になるわけだ
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- 2017年01月22日 01:26
- 誰が至強か!?
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- 2017年01月22日 13:26
- ちょっと思想が浅いな
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- 2017年01月22日 13:45
- この思想をもとに一歩進めないとお話にならない