【モバマス】ちひろのスタドリ計画
雑踏の合間を縫うようにして少女――森久保乃々は足早に歩いていく。
客A「ふざけるな!どうしてスタドリが売り切れてるんだ!」
店員A「どうしてと言われましても…売り切れは売り切れですから…」
客A「子供が腹空かせて待ってるんだよ!」
客B「スタドリがないとティッシュペーパーも買えないじゃない!」
店員B「申し訳ございません、現在本社に在庫を確認しておりますので、入荷まで今しばらくお待ちください」
小さな兆候がなかった訳ではなかった。
ただ、はっきりと気づいた時には既に手遅れだった。
そして、あの人も。
彼女を止めなければならない。この事件の一番近くにいた者達として、自分達が。
…きっと、それがあの人のためでもあると思うから。
『美城芸能プロダクションビル』
この近辺で最も高いビル、その名を知らぬものは今の日本にはいない。
乃々はいつも通りにその中へと入っていく。ガードマンや受付は、顔パスか名前を言えば通してもらえる。
そのままエレベーターに乗り込み、最上階のボタンを押して。
乃々(……気合い入れましょう)
数字が増えていく階数表示を見ながらこれからの流れを考えていた。
ピンポーン
エレベーターを降り、正面の部屋。大会議室の扉を開ける。
壁は三面がガラス窓になっておりほぼ沈みかけの夕日と付き始めた街の明かりが一望できた。
そして、何も無い室内に浮かび上がるシルエットが一つ。
??「乃々ちゃん、待ちましたよ」
乃々「ちひろ…さん」
部屋のほぼ中央に陣取る千川ちひろ。
森久保は彼女と5メートル程の距離を取って止まる。
……やっぱり、プロデューサーさんのことですか?」
乃々「………」
ちひろ「……プロデューサーさんの事は、私も悲しく思っています。ですから、乃々ちゃんにも気持ちを整理する時間が必要だと思って、休暇を出したんですが」
乃々「………」
ちひろ「の、乃々ちゃん?」
ちひろ「え…?」
乃々「それが、『スタミナドリンク』、略してスタドリ、そうですよね?」
乃々「そして、このスタドリで、あなたはある計画を実行しました」
ちひろ「と、突然何を言い出すんですか?」
乃々「最後まで聞いてください……」
まず、ちひろはスタドリを美城プロダクションの全ての商品の特典に付けた。最初は彼女が事務員をしていたアイドル部門の商品からであった。
同時期に、そのドリンクを集めて賞品と交換するショップをオープンした。
ポイントを貯めて景品と交換する、よくあるポイントカードの亜種であった。
変化に戸惑う者もいたが、スタドリで交換する景品の相場は普通の市場より安かったため、大きな批判はなかった。
その頃には、スタドリで交換できる景品は、生鮮食品から土地などまで含めた、ありとあらゆるものに広がっていた。
そして、美城財閥は、スタドリの単品販売を始めた。
為替や株価も変化する中で、金の様な価値の変動のあまり無いものは富を貯蓄するには最適だ。
スタドリはまさにそうであった。
何が起ころうとその価値が変動しなかったのだ。
だから、自らの富をスタドリに変えて貯蓄する者が現れるのは当然であった。
給与をスタドリに変える会社も増え、世間的にもメジャーになっていく。
また、いざとなれば飲むことで非常食にもなるため、災害時にも役に立ったという経験談なども出、評判は上がる一方であった。
これは、一般の人が出した品を財閥仲介の元スタドリで購入出来るというサービスであった。
端的に言うと物々交換である。
このようなサービスは他でもあったが、美城財閥は全く仲介料を取らなかった。
大財閥が仲介をする信頼性と、あらゆる物が手に入る利便性、仲介料すら取らない姿勢。スタドリによるフリートレードが広まらないはずが無かった。
そして現在では、日本経済は円がほとんど意味をなさず、スタドリで回る社会になっている。
ちひろ「たしかに美城財閥はスタドリで成長しましたけど… それが何か?」
乃々「……スタドリで経済が回っているということは、美城財閥が経済を自由に動かせると言うことです」
乃々「実際、『異物混入したスタドリの自主回収』『在庫切れ』などで世に出回る本数を調整してますよね?」
ちひろ「それはちょっと疑いすぎでは?」
乃々「……ここに証拠となる資料もあります」
乃々「……だから私はここに来たんです」
ちひろ「なぜ私のところなんですか?
私と財閥にどういう関係が?」
乃々「知らばっくれても無駄です…」
乃々「最初にも言いましたが……五年前、商品にスタドリを特典に付けたのはあなたです」
乃々「そして、あなたこそがスタドリの製造元…そうでしょう?」
乃々「もちろん裏も取りました…
あなたが既に美城財閥の影の支配者となっている事も…」
森久保はちひろの顔を伺う。暗くてよく見えなかったが、彼女は全く動揺しておらず……むしろ微笑んでさえいた。
乃々「もうあなたの好きにはさせない、と言っているんですけど……」
ちひろ「……けれど、乃々ちゃんが言った通り、現在の法律では私は裁けませんよ?」
乃々「………」
ちひろ「返す言葉がありませんか… では私はこれで失礼しますね」
ちひろ「!?……いいえ」
乃々「プロデューサーさんの日記がありました…そこに先程までの資料が挟まれていました……」
乃々「あなたは、サスペンスで最もよくある罪で裁かれるんですけど…!」
乃々「……証拠ならあるんですけど」ポチッ
森久保が取り出したボイスレコーダーのスイッチを押すと、音声が流れ始める。
それはちひろの声であった。
ちひろ『全く問題はないでしょう。ええ、ええ……、それにしても、彼も知らなければ消されずに済んだのですけど…
有能だっただけに、残念です』
乃々「……これが証拠です」
乃々「それから、あなたが雇った実行犯もこちらで保護してあなたの関与を白状させました…」
乃々「もう言い逃れは出来ないんですけど……」
ちひろ「でも、私は捕まりませんよ?」パチンッ
ガッ!
彼女が指を鳴らすと、会議室の扉が開き、黒服の男が多数入ってくる。
彼らは森久保を取り囲み、手に持った銃を向けた。
乃々「まあ、そうですよね…」
ちひろ「プロデューサーさんの仇だと思うと耐えられなかったんですかね…
心中お察しします……」
ちひろ「ですがまあ、すぐに彼の元へ連れて行ってあげますよ」
ちひろ「な…?」
乃々「……こんなところに一人で来るとか…むーりぃーなんですけど」
ババババババババ
突然、窓の外から室内が照らされる。そこには1台のヘリコプターがあった。
輝子「大人しく投降するんだなぁ!ヒャッハァーーー!!!!」
ちひろ「いつの間に…?」
乃々「もりくぼみたいな弱いのが一人で来たと油断しましたね……」
ちひろ「まだです、証拠を隠滅すればまだ……」
乃々「……それが遅いと言っているんです」
そう言うと彼女は、自らの縦ロールから何かを取り出す。
ちひろ「それは……カメラ?」
乃々「このカメラは、私が来た段階からあなたの自白までしっかり記録しています…」
乃々「そしてそれは、この場にいないアイドル達によって全てのテレビ、ラジオで生放送されていたんですけど……」
ちひろ「こんな事で……私の計画が……」
その後、到着した警察によりちひろは逮捕された。
スタドリ製造元の逮捕。財閥の解体。それは社会に大きな混乱を引き起こした。
だが、それもやがて復興し、世界は元に戻っていった。
乃々(プロデューサーさん…)
ただ1人を除いては。
乃々(もりくぼ、頑張りますから……だから……、見守ってて欲しいんですけど……)
完
元スレ
【モバマス】ちひろのスタドリ計画
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1482503626/
【モバマス】ちひろのスタドリ計画
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1482503626/
「シンデレラガールズ」カテゴリのおすすめ
- 凛「フッ、私がプロデューサーの正妻という風潮……」
- 【モバマス短編集】「貴方がくれたもの」
- モバP「ちひろさんと寝たいなーなんて」
- 奈緒「良かれと思って! 良かれと思って!」
- 早坂美玲「ガオった!」
- 渋谷凛「卯月の笑顔が放送禁止になった」
- 三船美優「遥かな旋律、琥珀の夢」 【ウルトラマンオーブ×シンデレラガールズ】
- 紗枝「プロデューサーはんは胸の大きい女の子が好きなんどすかー」
- 安部菜々、プリキュアになる。
- モバP「智絵里、機嫌直してくれよ」 緒方智絵里「つーん」
- モバP「飛鳥が可愛い」
- モバP「飛鳥、誕生日おめでとう」
- モバP「パッションな昔馴染み」
- 【デレマスSS】乃々「部屋からPさんと着衣の乱れた美優さんが出てきたんですけど」
- モバP「アイドル達との日々」
- 高垣楓「『ラスト』クリスマス」
- 二宮飛鳥「あの頃のボクは痛いヤツだった」
- 池袋晶葉「世のため人のため雪美のため」
- モバP「14歳は合法だよな」
- 拓海「アイドルになって、10年が経った」
「ランダム」カテゴリのおすすめ
- モバP「天才発明家・池袋晶葉は揺らがない」
- 男「これより……貴様のケツをさわる」女「ほう……」
- 俺の工場での一日
- 岡部「紅莉栖を絶頂させる未来ガジェット…」
- おた「フヒヒ・・・まったく飽きない連中だ・・・」
- スネーク「こちらスネーク。鷹の爪団のアジトに到着した」
- 男「ハッタリで就職活動を乗り切る!」
- 千川ちひろ「プロデューサーさん、ちょっとこちらに来てくれますか」
- 朝倉「キョンく~ん、愛しの涼子が遊びに来たわよ」 キョン「帰れ」
- 冬馬「俺たちって……ジュピターっぽいことしたか?」
- 紅莉栖(91)「助手ってゆーな」
- 千鶴「心さん、また煙草ですか?」
- 「なんだかいやぁーーにムラムラするなぁ怖いなぁと思ってね?あたしね」
- 真人「安価で来ヶ谷に勝つ!!!」
- 京子「あかりに嘘発見器!」
- 奈緒「加蓮が拘束された……?」
- モバP「いつまでもこのままで」
- モバP「俺ってプロデューサーに向いてないのかな……」
- 魔王「魔王を倒そう」
- モバP「出来たぞ!時子が小さくなるビームライフルだ!」
コメント一覧 (14)
-
- 2016年12月24日 01:15
- 本田未央しね
-
- 2016年12月24日 01:27
- 本田未央が出ていないからアンチも安心して読めるよー(^^)v
-
- 2016年12月24日 01:28
- ちひろ様はこんなに分かりやすいことはしないよ。
真綿で首を絞めるように根を張っていくよ。
-
- 2016年12月24日 01:29
- プロデューサーにスタドリ飲ませれば全快するじゃん
-
- 2016年12月24日 01:34
- ※2
汚らわしい逆ギレ女の名前出すな。荒れるわ。
-
- 2016年12月24日 02:01
- ※1 ※5
順調に元気を無くしてるようで本気で嬉しいよ 首吊る日も近いな
もう義務感のようなものでやってるんだろ?
鬱は義務感で続けてるものがある時に、ある日突然やって来るから、本気で楽しみにしてるよ
-
- 2016年12月24日 02:06
- 高性能縦ロール
-
- 2016年12月24日 02:26
- 米1、2、5
自演ってそんなに楽しい?
-
- 2016年12月24日 02:40
- プロデューサーは何度死ぬのか
-
- 2016年12月24日 05:18
- 体積当たりの単価が低いから金の代わりにはならんだろ。
そもそもシステムが赤字過ぎて維持できない
-
- 2016年12月24日 05:19
- くそつまんなかった…ここまでつまらんSS書けるのも一種の才能なんだなって感心した
だけど読んで損したからその分の時間返せよksとも感じた
-
- 2016年12月24日 09:28
- 良い話だった
後は未央が主役だったら完璧だったのが惜しい
-
- 2016年12月24日 10:11
- エナドリ「たまには振り向いてほしい」
-
- 2016年12月24日 16:22
- くたばれエレ速、あ~それそれ
くたばれエレ速♪、くたばれエレ速♪