キモオタ「ティンカーベル殿!おとぎ話の世界に行きますぞwww」九冊目【前半】

1:◆oBwZbn5S8kKC 2016/03/21(月)00:05:13 ID:QOv

シンデレラの世界 魔法使いの屋敷

・・・

裸王「……と、以上が我が国にブリキが訪れてからの出来事だ。他に聞きたい事はあるかね?」マッスル

赤ずきん「ありがとう、でも大丈夫よ。そうなるとブリキにも話が聞きたいところね…アリス周辺の情報は多いに越した事がないから」メモメモ

裸王「うむ、情報とは力と言うからなっ!だが力の本質とは筋肉!その点赤ずきんは少々筋肉不足だ、少女でも無理の無いトレーニングメニューを組んでやろうではないか!」マッチョ

赤ずきん「気持ちだけ頂いておくわ。今は皆から聞いた情報をまとめて新たに得るものがないか考えてみないと……むぐっ」

ムギュッ

ラプンツェル「うんうんー、みんなから聞いた事をちゃんとメモしてて赤ずきんはえらいね!ラプお姉ちゃんが褒めてあげるよ~」ナデナデ

赤ずきん「…ラプンツェル、文字が歪んでしまうから抱きつかないで欲しいわ。それに偉くなんてないわ、私は出来る事をしているだけ」

ラプンツェル「けんそんなんかしちゃってー!赤ずきんはえらいよー?だって魔力を弱められた私の為に薬を貰ってきてくれたしさっ!」ニコニコ

ラプンツェル「赤ずきん達のおかげでもう魔力も髪の毛もすっかり元通りだよ~!髪の毛もうまく操れるようになったしさっ!ほら、こんな風に文字だってかけちゃう!」シュルルッ

赤ずきん「ちょっと、私のペンに髪の毛を巻きつけて何を…」グググッ スラスラスラ

『ラプお姉ちゃん大好き』

赤ずきん「私の手帳にラクガキを…」イラッ

ラプンツェル「もしも赤ずきんに何か困った事があったら次は私が助けてあげるよっ!私の方がお姉ちゃんだしねっ!だからラプお姉ちゃんの事、頼っていいからねっ!」フンスッ

赤ずきん「……」ビリッ

ラプンツェル「ああっ!?どーして破くのっ!?」ガーンッ



3:◆oBwZbn5S8kKC 2016/03/21(月)00:08:29 ID:QOv

過去スレ

シンデレラ編 裸の王様編
キモオタ「我輩がおとぎ話の世界に行くですとwww」ティンカーベル「そう」

泣いた赤鬼編
キモオタ「ティンカーベル殿!おとぎ話の世界に行きますぞwww」二冊目

マッチ売りの少女編
キモオタ「ティンカーベル殿!おとぎ話の世界に行きますぞwww」三冊目

桃太郎編
キモオタ「ティンカーベル殿!おとぎ話の世界に行きますぞwww」四冊目

ラプンツェルとアラビアンナイト編
キモオタ「ティンカーベル殿!おとぎ話の世界に行きますぞwww」五冊目

人魚姫編
キモオタ「ティンカーベル殿!おとぎ話の世界に行きますぞwww」六冊目

ヘンゼルとグレーテル。とある消滅したおとぎ話編
キモオタ「ティンカーベル殿!おとぎ話の世界に行きますぞwww」七冊目

かぐや姫とオズの魔法使い編
キモオタ「ティンカーベル殿!おとぎ話の世界に行きますぞwww」八冊目



これまでのあらすじ
我輩は現実世界に住むキモオタでござるwww
ある日、妖精のティンカーベル殿と出会い、おとぎ話の消滅を防ぐために様々なおとぎ話の世界を旅してるのですぞwww
詳しくは過去スレを読んで頂きたいwww



4:◆oBwZbn5S8kKC 2016/03/21(月)00:11:03 ID:QOv

ラプンツェル「うわーん、桃太郎ー!赤ずきんが酷いよー、私は仲良くしたいだけなのに…塔の外の世界にあるイジメってやつだよー!」ギューッ

桃太郎「抱きつくのは止してもらおう…しかし案ずるな、赤ずきんはイジメなどというな卑劣な真似をする少女では無い」

ラプンツェル「ホントに?赤ずきん、私の事嫌いとかそういうんじゃない?」チラッ

赤ずきん「えぇ、手帳に落書きされた事に少しストレスを感じただけよ、この程度で嫌ったりしないわ。あぁ、でも文字は綺麗に記したいから突然抱きついたりするのはもう二度t」

ラプンツェル「わーいっ!嫌われちゃったと思って心配しちゃったよ~!これから仲良くしようねっ!赤ずきんっ!」ムギューッ

赤ずきん「えぇ、あなたが私に抱きつかなければとても仲良くなれると思うわ……」グチャア

人魚姫の声『あっははは!赤ずきんちょー神経質なんですけど、いたずら書きくらい別にいーじゃん』ヘラヘラ

赤ずきん「自分の持ち物に悪戯をされるのは嫌なのよ」

人魚姫の声『そーなの?でもその割にはこないだ私がその頭巾に……あっ、やばいやばい。何でもない、今のは聞かなかった事にしといて』ヘラヘラ

赤ずきん「待ちなさい。私の頭巾に何をしたの?」ギロッ

人魚姫の声『まぁまぁ、そんなことは別に良いじゃん?それよりさ、ここのみんなってシンデレラって子の友達ばっかりなんでしょ?それにしちゃあんま心配してる感じじゃなくない?』

赤ずきん「…頭巾の件、二度目は無いと思っておきなさい。それに心配していないわけないでしょう、皆気持ちを表に出していないだけよ」

ラプンツェル「うーんっと、私には見えないけど確かそこには空気の精霊になった人魚の女の子が居るんだったよねっ!塔の外の世界ってやっぱり不思議だねぇ~」ニコニコ

桃太郎「そう言っていたな、拙者も人魚姫と再び言葉を交わしたいものだ。赤ずきんよ、彼女は何と申しているのだ?」

赤ずきん「ええ、友達が行方不明なのに皆心配してないように見えるって言ってるわ。落ち着きすぎだって言いたいのかもね」

桃太郎「うむ…確かにその様に見えるかもしれぬ、しかしそれは違う。皆目標の為に研鑽していた手を迷わず止め、シンデレラを救うべくここに集ったのだからな」



5:◆oBwZbn5S8kKC 2016/03/21(月)00:12:53 ID:QOv

ラプンツェル「うんうんっ!私もシェヘラザードにお勉強教えてもらってたけどすぐに来たよっ!友達やママの事が一番大切っ!」フンス

桃太郎「掛け替えの無い友が姿を消したのだ…心配せぬ者などおらぬ、例え気楽に構えているように見えても…な」

人魚姫の声『そっか…じゃああの二人すっごいだらけてるけど、実はちゃんとシンデレラの事心配してるって事でいいわけ?』

・・・

キモオタ「いやはやwwwこのミルクティーは絶品でござるなwwwこんなうまいミルクティー初めてですぞwww」グビグビグビ

ティンカーベル「本当にそうだよね!紅茶が美味しいとお菓子が進むよ!ミルクティーとビスケットのコンビネーションは鉄板だよ!」サクサクサク

キモオタ「まったくですなwwwあまりのうまさに我輩、既に平らげてしまいましたぞwww」カラッ

ティンカーベル「私もだよ!かぐやのとこでご飯食べ損ねちゃったから仕方ないよね!お腹すいてるから仕方ないよね!」サクサクサク

キモオタ「と、言うわけでwwwおかわりをお願いできますかなwww赤鬼殿www」コポォ

ティンカーベル「私もーっ!ホントにおいしいよこのミルクティー」

赤鬼「そうかっ!密かに練習したかいがあるってもんだ。心配してても腹は減る、しっかり食ってシンデレラをすぐにでも助けてやらねぇとな。そら、おかわりだ」ドサッ

ティンカーベル「うんうん、それにしても腕を上げたよね赤鬼!こんなおいしい紅茶入れられるなんておもてなしレベルマックスだよ!」サクサクサク

キモオタ「よっwwwこのおもてなし好きwww」コポォ

・・・

赤ずきん「……どうかしらね、彼等は心配していないかもしれないわ」ボソッ

桃太郎「ちょ、そんな事言うなよ赤ずきん、あいつらも心配してるはずだ……多分」



6:◆oBwZbn5S8kKC 2016/03/21(月)00:13:57 ID:QOv

キモオタ「ドゥフフwwwお主ら何を話しているのですかなwww心配してるとかしてないとか聞こえたでござるがwww」コポォ

ラプンツェル「あのねー、キモオタとティンクがあんまりダラダラしてるから本当はシンデレラの事心配して無いんじゃないの疑惑が発生してたところだよ~」ニコニコ

ティンカーベル「んんっ!ゲホゲホッ…ち、違うよ!ちょっと油断してだらだらしちゃってただけだよ!シンデレラの事心配に決まってるじゃん!」

赤ずきん「その割には二人とも随分といい食べっぷりだったじゃない?」フフッ

キモオタ「ちっちっちっwww我々がただお菓子をもさぼりダラダラしていたとでも思っているのでござるか?www」コポォ

赤鬼「違うのか?オイラにはものすごくくつろいでいるように見えたが…」

キモオタ「それが違うのでござるなぁ~wwwいいでござるか?シンデレラ殿が姿を消し、屋敷に集まった者たちは心配のあまり暗い雰囲気になってしまいがちでござる」

キモオタ「そこでwww我輩とティンカーベル殿がダラダラしている姿を見せることで皆の気持ちを和ませようという作戦でござるwww自ら道化を演じているというわけでござるなwww」

赤ずきん「人魚姫、よく見ておきなさい。これがキモオタが得意としている口からデマカセ作戦よ」

キモオタ「ちょwww何を吹き込んでいるでござるかwwwデマカセとは心外でござるなwwwブラフと言っていただきたいwww」コポォ

ガチャッ

魔法使い「なにがブラフじゃ、モノは言いようとはこの事じゃ。お前の場合はただ食い意地が張っているだけじゃろうが」

キモオタ「ちょwww魔法使い殿www開口一番突っ込まなくていいでござるwwwそれはさておきお久しぶりでござるなwww」コポォ

魔法使い「うむ、そうじゃな。しかしお主らにも都合があるだろうに急に呼びたててすまなかったな」

ティンカーベル「そんな事気にしないでよ!友達がピンチだっていうなら私達はいつだって駈けつけるよ!」

キモオタ「そうですぞwwwちなみにこれはブラフでもデマカセでも無いでござるwww」



9:◆oBwZbn5S8kKC 2016/03/21(月)00:17:56 ID:QOv

赤ずきん「おかえりなさい、魔法使い。用事は問題なく済ませる事ができたの?」

魔法使い「問題無く…と言っていいのかわからんが目的は果たせた。思ったよりも時間がかかってしまい折角集まってくれたお前達を待たせてしまう事になったのは心苦しいが…」

裸王「その様な事を気になさるなどナンセンスッ!魔法使い殿はシンデレラを救う為に奔走しておられる、我々がそれに文句を言う事などありはせんのです」マッチョ

桃太郎「うむ、それがシンデレラを救うための一手となりうるならば雑用を命じられようと拙者は一向に構わぬ」

魔法使い「お主等にそう言ってもらえると助かる。シンデレラは良い友を持ったもんじゃ」

ラプンツェル「ねぇねぇ、魔法使い!ママも一緒に出かけたんだったよね?ママは帰ってこなかったの?」

魔法使い「いや、帰ってきておるぞ。借りてきた書物を書斎に運んでくれるというから頼んだんじゃ、もうじき来るじゃろ」

赤鬼「荷物運びか?そういう力仕事はオイラに任せてくれりゃあいいんだぞ?魔法なんざ使えねぇけど力には自信あるからな」ガハハ

人魚姫の声『ひゅーっ、赤鬼ちょー紳士じゃーん!ねっねっ、私も何か出来る事あったら手伝うよって言ってよ、赤鬼!』

赤鬼「人魚姫も何か出来る事があれば言ってくれと言ってるぞ。折角来たんだ、なんでもやるからよ頼ってくれよ魔法使い」

魔法使い「うむ、本当にありがたいなお前達の気持ちは…じゃが感動している場合でもあるまい、キモオタ達も来た事じゃしそろそろ本題に入るとするかの」

ティンカーベル「本題っていうと…シンデレラが行方不明になった事だよね?とりあえず大まかな事は赤ずきんに聞いたけど…」

魔法使い「そうか、だが新たに得ることができた情報もある、良い知らせばかりではないがな…。とにかく、ラプンツェルは書斎にいるゴーテルを呼んできてくれ」

ラプンツェル「はーいっ!」トテトテトテ

魔法使い「赤ずきんは庭に居るヘンゼルとドロシーを呼んで来てくれるか?あの二人にも同席してもらいたい」

赤ずきん「わかったわ、少し待っていて頂戴」スタスタ

キモオタ「魔法使い殿、ドロシー殿が来ている事知っていたでござるかwww」

魔法使い「先ほど、庭の方から聞き慣れない声がしたので様子を見に行った際にな。軽く挨拶を交わしただけじゃがドロシーの事情は元々赤ずきんから聞いておったし…」

魔法使い「アリスに利用されていただけというのなら邪険に扱うのも可哀想だ。それに彼等も全くの無関係と言うわけでもない…望めるのならば協力を頼みたいでな」



10:◆oBwZbn5S8kKC 2016/03/21(月)00:21:50 ID:QOv

シンデレラの世界 魔法使いの屋敷 応接間

・・・

魔法使い「さて……皆、揃ったようじゃな。まずは各々忙しい中集まってくれたことに礼を言おう、ありがとう」スッ

魔法使い「今回集まって貰ったのは他でも無い、行方不明になったシンデレラについてじゃ。既に簡単には話を聞いているだろうが…改めてもう一度状況を整理しておく。まず…」

ドロシー「あ、あの……お話の腰を折っちゃうんですけど……少しいいですか?」オドオド

魔法使い「うむ、構わん。言ってみなさいドロシー」

ドロシー「あの、私…その、シンデレラさんと面識無いんですけど…この場に居てもいいんでしょうか?関係無い私がここに居て、お邪魔じゃないですか…?」

魔法使い「聞いた通りの心配性じゃな、もしもお主が邪魔ならとっくに追い出しておるわ。むしろ聞いて欲しいくらいだ、どうやらこの一件…やはりアリスが関係しているようじゃからな」

ドロシー「あっ、アリスちゃんが…」

キモオタ「やはりでござるか、ゴーテル殿から聞いた時はまだアリス殿の仕業か解らないとのことでござったが…その口ぶりだと確信に迫る情報を得たのでござるな?」

魔法使い「うむ、それに関しては順を追って説明する。ただ相手がアリスとなると一筋縄ではいかん、少しでも優位に立つ為には些細な情報でも見逃すわけにはいかんのじゃ」

魔法使い「お主にとってアリスと過ごした日々は悪夢のようなものじゃろう。だが…だからこそ知り得た情報や側に居たからこそ目にした記憶もあるはずだ…是非力を貸して欲しい」

ドロシー「あの、その…私、あまりお役にたてるかどうかわからないです…それでも、いいですか…?」

魔法使い「構わん。もっとも思い出すのが辛い記憶もあるじゃろうからな、協力するもせぬもお前の自由じゃ誰も無理強いなどせん。どうするかは自分自身で決めればよい」

ドロシー「あ、あの…だ、大丈夫です!私が知ってる事や見た事が何かの役に立つかもしれないなら…それは嬉しいです、だから協力させてくださいっ…!」

魔法使い「うむ、ならば助かる。では話を戻すとしようか」



11:◆oBwZbn5S8kKC 2016/03/21(月)00:22:30 ID:QOv

魔法使い「数日前、この屋敷に【一寸法師】の鬼が訪れた。シンデレラが行方不明になったという報を持ってな」

ティンカーベル「大鬼だ!シンデレラのお城で怪我を治してもらったから今は恩返しする為にいろいろお手伝いしてるんだったね」

魔法使い「そのようじゃな。大鬼が言うには…彼と国王とシンデレラの三人で雑談をしていたところ、突如としてシンデレラが姿を消した。と言う事だった」

魔法使い「ガラスの靴があるとはいえ話の途中で黙って去るような娘じゃない。不審に思った国王は彼女の自室、よく出入りしている協会や孤児院、例の実家等…シンデレラが訪れそうな場所を探したらしい、が…」

赤ずきん「でも結局彼女は見つからなかった…だからシンデレラの恩人であるあなたの屋敷に赴いたのね?」

魔法使い「うむ、結局それも徒労に終わったわけだ。しかし、そうなればもう…何者かに連れ去られたと考えるのが自然だ」

裸王「うむ確かに、シンデレラは魔法具の所有者でありおとぎ話の主人公。そしてなにより一国の王妃、連れさらわれる理由としては十分すぎるほどだ」ムキムキ

魔法使い「手を尽くしても見つける事が出来ず、国王は国内外に捜索網を敷いた。王妃が行方不明になったという報はたちまち国中に広がり真偽は別として多くの情報が集まったが…」

桃太郎「それでも結局、シンデレラを見つけ出すには至らなかった…か」

魔法使い「察しの通りじゃ。国王は諦めることなく寄せられた情報の真偽を確かめシンデレラの捜索を続けていたが……ワシには無意味に思えた」

赤鬼「シンデレラの誘拐は【シンデレラ】の世界とは別世界の人間の仕業…いや、アリスの仕業だと。魔法使いはそう考えたわけだな?」

魔法使い「うむ、だがアリスの仕業だという確証があるわけではなかった…別世界を一つ一つ調べて回るわけにもいかん。一人で【不思議の国のアリス】の世界へ乗り込むなど論外だ」

魔法使い「何らかの方法がないか調べに調べ書物を読み漁り…ワシはシンデレラの居場所を映し出す鏡の存在を思いだしたのだ」

人魚姫の声『鏡…?もしかして猛毒の魔女が持ってた、あの不思議な喋る鏡の事じゃね?あの人面白かったよねー…ん?人じゃないか』ヘラヘラ

赤ずきん「あれも確かに不思議な鏡だけど…違うでしょうね。魔法使い、その鏡ってもしかして【美女と野獣】に登場する…」

魔法使い「流石に詳しいなお主は。その通り【美女と野獣】の主人公ベルに与えられた『見たい相手の姿を映し出す鏡』だ」



12:◆oBwZbn5S8kKC 2016/03/21(月)00:23:50 ID:QOv


ヘンゼル「あぁ…あの魔法具か、人探しに特化しているからそこに頼ったのは正解かもね」

ドロシー「ヘンゼル君、その魔法具の事…知ってるの?」

ヘンゼル「昔、僕と妹のグレーテルは偶然別のおとぎ話に投げだされた事があって…その時に僕達を探し出す為に雪の女王がその鏡を借りたって聞いたよ」

ゴーテル「そうじゃったか…じゃから野獣の奴『冬を司る魔女に次いで千変万化を操る魔女か、私は随分と魔女に縁があるようだ』などと言っておったのか…」

ラプンツェル「えっ!?人間の言葉をしゃべる野獣…!すごいねすごいねっ!野獣なのに人間の言葉をしゃべれるなんて、塔の外の世界ってやっぱり不思議n」ワクワク

人魚姫の声『ちょっ!人間の言葉をしゃべる野獣っ!?なにそれ、そんな種族が居るなんてちょー興味有るんですけど!?陸の上の世界ってやっぱり不思議n』ワクワク

赤ずきん「人魚姫、今その事に興味を持ったら話が進まないわ。後にしましょう」

キモオタ「ラプンツェル殿もwww今はその好奇心しまっておいた方がいいのではwwwと言う事はつまり先ほどまで魔法使い殿達はその鏡を使わせてもらいにいっていたのでござるな?www」

魔法使い「うむ、ワシとゴーテルでその世界へ向かってな。野獣もベルも快く鏡を使わせてくれた。おかげでシンデレラの居場所を突き止めることができたのじゃ」

ティンカーベル「あれ…?でも魔法使いって、世界移動をする事が出来ないんじゃなったっけ?世界の移動は苦手な魔法だから魔力が暴走しちゃうとかなんとか言ってたじゃん?」

キモオタ「おぉwwwそう言えばそうでしたなwwwあの弱点は克服したのですかなwww」コポォ

魔法使い「……いや、克服したわけではない。まぁ、それはいいじゃろ」フイッ

ゴーテル「……」

魔法使い「とにかく、じゃ。ワシとゴーテルはその鏡を使った。すぐにその姿が映し出され我等は彼女の所在を突き止められたが…鏡に映る娘はワシの知るシンデレラとは様子が違った、まるで別人のようにな」



13:◆oBwZbn5S8kKC 2016/03/21(月)00:25:49 ID:QOv

ティンカーベル「別人って…もしかして酷い拷問とかされてボロボロになってたとか!?そんなのだったら許さないよ私!」ガタッ

魔法使い「いや、見たところ傷など負っておらんかったからその様な目にはあっておらんじゃろう。だが場合によってはそれよりもひどい、何故なら我々が見たシンデレラは……。……」クッ

キモオタ「魔法使い殿が言葉を濁すとは…一体何を見たのでござるか?シンデレラ殿は一体…」

ゴーテル「…代わりにワシが話そう」スッ

キモオタ「ゴーテル殿…」

ゴーテル「まず前提として…シンデレラが居る世界は間違いなく【不思議の国のアリス】の世界じゃ」

ヘンゼル「断定できるんだね。でも確かあの魔法具は見たい人物が居る場所を映し出すだけで声や音は聞こえない…映し出された風景だけで世界が特定できたの?」

ゴーテル「シンデレラは…懐中時計を手にした白ウサギと共に茶を飲んでいた。そこには大きなテーブルを囲む無数の椅子、そして数え切れないほどのティーセットと汚れたカップが並んでおった」

赤ずきん「無数の席と汚れたティーカップがそのまま…確かにそれは帽子屋と三月ウサギの狂ったお茶会の席の特徴ね。白ウサギが居たというの間違いないとみてもよさそうね」

人魚姫の声『っていうかさ、陸の上でお茶を飲んだ後ってそのティーカップ洗うんっしょ?なんでそのままにしてんの?面倒くさがり屋?』

赤ずきん「洗わないんじゃなくて洗えないのよ。あのお茶会は常にお茶の時間で時が止まっているから後片づけができない、だからカップが汚れたら順繰りに席を変わっていくの」

赤鬼「しかし妙だな、シンデレラはその白ウサギってやつと茶を飲んでたってぇんだろ?そりゃおかしな話だぞ」

ラプンツェル「私もおかしいって思う!だってウサギはニンジンとか草とか食べるのにお茶なんか飲むはずないm」

桃太郎「あぁ確かに妙だ…その白ウサギと言うのはアリスの仲間なのだろう?アリスにさらわれたというのに…なぜ敵方と悠長に茶など」

ゴーテル「簡単な話じゃ、敵ではないからじゃよ。アリスの仲間であるその白ウサギは今のシンデレラにとって敵では無い…そう言う事じゃろ」



14:◆oBwZbn5S8kKC 2016/03/21(月)00:27:50 ID:QOv

ラプンツェル「むー…どういう事ー?そのウサギはアリスの仲間だけどシンデレラの味方で私達にも味方してくれる良いウサギだってこと?」ムー…

ドロシー「確かに白ウサギさんは優しくて私にも良くしてくれました。でも…アリスさんには絶対の信頼と忠誠を誓っていました、私達の味方になる事は決して…無いと思います」

裸王「ならば何らかの理由でシンデレラは白ウサギの…いや、アリス側についていると考えて間違いあるまい。にわかに信じられぬがな」

ティンカーベル「ま、まってよ!シンデレラがアリスの味方しちゃってるって事!?私の友達があいつ等の仲間になっちゃったなんて、そんなことあるわけ…!」

キモオタ「忘れたでござるかティンカーベル殿…ドロシー殿が何故アリス殿の味方をしていたのか。ゴーテル殿もかつてアリス殿に性格を捻じ曲げられたでござるよ?」

キモオタ「同様に…シンデレラ殿の性格に手を加え、望まぬまま寝返らせることなど容易いのでござろう」

ティンカーベル「そっか魔法具!それじゃ…あの時のコショウ?ううん、あれからアリスはいろんな世界を消してるんだしもっと強力な魔法具かも…!」

ゴーテル「どちらにせよ精神に干渉する魔法具である事は違いあるまい、そうでなければ説明が付かん」

ヘンゼル「僕はシンデレラがどんな人物なのか知らないけど、魔法具のせいだって決めつけてもいいの?ただ単にシンデレラが君達を裏切った可能性だってあるんjy」

バッ

ティンカーベル「んなわけないでしょっ!シンデレラはそんなことしない!いくら大人が嫌いだからってよくもそんな事を言えたよね…!」グイッ

ヘンゼル「離してよティンカーベル。別に大人が嫌いだから言ってるんじゃないよ、シンデレラを悪く言うつもりはないけど…あり得る可能性は考えておいた方が良いって話だよ」

ティンカーベル「じゃあ考えなくていい事じゃん!シンデレラが私達を裏切るなんてありえないから!このひねくれシスコン!くたばれ!」

キモオタ「ちょ、ティンカーベル殿落ち着くでござる!我々で争っても何の意味も無いですぞ!」グイグイ

ヘンゼル「…気に障ったなら謝るよ。でも信頼している相手が自分達を裏切らないなんて保証は…残念だけど無いんだ。僕達の父親だった男のようにさ」



15:◆oBwZbn5S8kKC 2016/03/21(月)00:30:23 ID:QOv

ティンカーベル「……そっか、ヘンゼルは大好きだったお父さんに捨てられちゃったんだっけ」

ヘンゼル「あの男は必ず戻ってくるから待って居るように僕達に言いつけて…そしてそのまま森に置き去りにした。僕達が親を信じてるその気持ちを利用して、裏切った」

ヘンゼル「だから味方から裏切り者が出たとしたら…必ず君達が仲間を信頼しているその心に付け入る」

赤ずきん「彼女が私達を裏切るとは思わないけど、あなたが言いたいのは魔法具のせいだと決めつけるのは危険…と言う事よね?」

ヘンゼル「あぁ、そうだよ。自分に都合の良い可能性ばかり考えてたらもしもの時取り返しがつかない事になる…それに関しては僕も人の事言えないんだけどさ」

ティンカーベル「理由があって言ってたんだ…ごめん、なんか頭に血が上っちゃってた」

ヘンゼル「いいよ、むしろ当然の反応でしょ。僕だってグレーテルやお千代を同じように言われたら逆上するだろうし」

ヘンゼル「でもさ魔法使い、僕もこの席に招いたって事は…手も借りたいって事で良いんでしょ?」

魔法使い「…うむ、お主は雪の女王の家族だと聞く。それに冬を司る魔女が火打ち箱や小夜啼鳥を託したとなれば…お主に相応の見込みがあると判断しているのだろう」

ヘンゼル「どうかな…女王が甘いだけの様な気もするけど。でも僕の力が必要なら僕は手を貸すよ、キモオタお兄さん達にはまぁ…恩もあるから」

ヘンゼル「でも手を貸す以上…変な遠慮はしないよ、必要だと思った事は言わせてもらう。ただ僕は別にシンデレラを悪く言いたいわけじゃない、それだけは理解してよ」

ゴーテル「一見憎まれ口だが一理ある。シンデレラと親しいが故に我等は除外してしまいがちな可能性じゃが…こういった意見は確かに貴重じゃ。物事は多方向から見れるに出来るに越した事は無いしの」

赤鬼「三人寄れば何とやらじゃねぇが…これだけ人数が居るんだ、いろんな考えをぶつけた方が名案も浮かぶだろうって事だな」

ドロシー「あ、あの…ひとつ気が付いた事があるんですけど…いいですか?」

ゴーテル「なんじゃ?言ってみよ」

ドロシー「白ウサギさんが私達に味方する事は決してないです…ないですけど、でも優しい方なんです。だから誘拐されたシンデレラさんにお茶を振舞ってあげていただけかも…」



16:◆oBwZbn5S8kKC 2016/03/21(月)00:33:53 ID:QOv

キモオタ「なるほどwwwシンデレラ殿を誘拐した理由が人質にする為ならばあり得ますなwww人質は丁重に扱うべきでござるしwww」

赤ずきん「人質っていう線は無いんじゃない?ここに居る誰かにアリスから接触があったのかしら?」

裸王「うむ、人質を取るならば何らかの要求を突き付けてくるはず…それが無いというのはおかしな話だ」

赤鬼「アリスがシンデレラを誘拐した理由が人質じゃないとすると…こっちが手を出しにくくなるように盾として使うつもり…か?」

ゴーテル「……いや、その件じゃが」

魔法使い「…ゴーテル、それはワシが話そう。若者がシンデレラの為に知恵を巡らせているというのに魔女たるワシがが落ち込んでいるなどあり得んじゃろう」

魔法使い「アリスがシンデレラを誘拐した理由ははっきりしておる。それはシンデレラを自らの手駒として利用する為じゃ」

ティンカーベル「えっ?ど、どういうこと…?手駒として利用するって…?」

魔法使い「そのままの意味じゃ。事実、ワシはシンデレラが【不思議の国のアリス】の世界で戦っている姿を見た。目にも止まらぬ速度で相手を翻弄する様をな」

桃太郎「ガラスの靴は脚力と速度強化の魔法具、戦闘向けといえる…更に彼女は来たる戦いに備えて足技を体得している最中だったと聞く」

赤ずきん「アリスの世界で戦闘が起きていたという事は、私達以外にアリスに立ち向かっていったおとぎ話の住人が居るという事よね?そしてあなたはその姿を鏡越しに見た…そうね?」

魔法使い「【長靴を履いた猫】と【眠り姫】の姿は外見から推測出来たな、日ノ本の僧と勇ましい狼と狸…西洋の少年もおった。逃げている様子じゃったからおそらく捕えられていたのじゃろう」

魔法使い「そして彼等を負っていたのが白ウサギ、そして…シンデレラじゃ。速度を乗せた容赦の無い足技で軽々と捕えておったわ…」

キモオタ「なんという…アリス殿に立ち向かう為の力の備えを逆に利用されたという事でござるか…」

魔法使い「強要されたか自らの意思か、魔法具による精神干渉か…いずれにせよ今のシンデレラはアリスの味方として動き、その戦いぶりに躊躇や容赦は感じられんかった」

魔法使い「そしてそれは…例え我々が相手だとしても同じ。シンデレラは我等に躊躇することなく向かってくると…そう考えた方が良いじゃろうな」



17:◆oBwZbn5S8kKC 2016/03/21(月)00:37:36 ID:QOv

一同「……」

ティンカーベル「いやいやいや!いくらなんでもそれはないでしょ!っていうか私無理だよ?シンデレラと戦うとか」

赤ずきん「そんなのみんな無理よ。でも…彼女が操られているのだとしたらドロシーがそうだったように私達を殺すつもりで来るでしょうね」

人魚姫の声『でもさぁ、シンデレラってみんなの友達なんでしょ?操られてたんだとしても、なんとかならないわけ?』

赤鬼「どうだろうな…なぁ、ドロシー。少し聞くが…お前の時はどうだったんだ?あの性格の時、お前は内側からどうにかする事ができたのか?」

ドロシー「あ、あの…私も凶悪な性格になってる時は自分の意思でどうにかする事は出来なくて、だからこそ夢だと思ってて…なので、その…」

裸王「覚悟はしておくべき、と言う事か…むぅ、仲間を傷付けるというのは…我が筋肉を持ってしても酷な選択…」

ヘンゼル「そう考えると、アリスはこうなる事を予測してシンデレラを誘拐したのかもって思うね」

ラプンツェル「あっ、そっか!シンデレラは大切な友達だから戦うなんてみんな出来ないって思っちゃうもんね」

桃太郎「しかし戦わなければシンデレラに一方的な攻撃を許す事になる…相手に躊躇が無いのであればそれは我等の死を意味する」

キモオタ「シンデレラ殿を盾にするでも人質にするでもなく、我等と戦わせることでこっちの精神を乱しつつ痛手を与える…毎度ながらアリス殿はえげつないですな」

ゴーテル「だが…嘆いておっても仕方ない。シンデレラがアリス側に付き、そして今や戦う事に躊躇が無いという事は事実」

魔法使い「…これらを踏まえたうえで、お前達に問わせてもらおう…聞いての通り、シンデレラはアリスの元にいる。そしておそらく我らと戦う意思を持っている」

魔法使い「ワシはシンデレラを救いたいと考えている。お前達をここに呼んだのもその協力を求める為じゃ」

魔法使い「が…今の状況を考えればシンデレラを救い出すという事は【不思議の国のアリス】に向かうという事。それはすなわちアリス側の連中…あるいは本人と戦うと言う事になる」




魔法使い「そしてそれは…一筋縄ではいかん戦いだ。死を覚悟する必要もある厳しい戦いだ」



18:◆oBwZbn5S8kKC 2016/03/21(月)00:41:03 ID:QOv

ゴーテル「加えて言えばそもそもこれは罠の可能性もある。このタイミングでシンデレラを誘拐し、それを助けに来た我等をまんまと迎撃する…というな」

魔法使い「そうでなくとも…これは事実上の最終決戦ともなりうる。そしてもう一度言っておくが……命の保証は出来ん。アリスの世界に踏み込むのならばこれはただの救出劇では無く、もはや全面戦争となる」

一同「……」

魔法使い「無理強いは出来ん。おとぎ話の主人公とはいえお前達にはそれぞれの生活がある。しかし、それでも…危険を承知でシンデレラの救出を協力してくれるという者は…」

魔法使い「どうか、ワシに力を貸して欲しい。ワシとゴーテルだけでは…到底シンデレラを救う事など出来んのだ…頼む、この通りだ」ペコッ

赤ずきん「頭を下げる必要なんか無いわ魔法使い。シンデレラが誘拐された時点で、私には彼女を救わないなんて選択肢…存在しないもの。当然、私は救出に向かうわ」スッ

人魚姫の声『赤ずきんがそのつもりならトーゼン私だって協力するかんねっ!危険だからーって身捨てるなんてできるわけないっしょー!』

赤鬼「ああ、そうだな。アリスが強いってぇなら俺達も全力で挑むまでだ、その為の旅でもあったんだ。易々と負けるつもりもねぇしな」

桃太郎「拙者とて日ノ本一の侍と謳われた身、いかなる困難が待ち構えようと…友を救う為ならばいかなる壁をも斬り伏せて御覧にいれよう」

裸王「うむ、筋肉とは限界を超えてこそ成長するもの!そういった意味ではこの程度の障害、私にとっては良い筋トレ程度だっ!ハッハッハッ!」

ラプンツェル「私はむずかしーこと良くわかんないけどー、シンデレラとまたがーるずとーくとかしたいからねっ!頑張って助けちゃうよ!このラプンツェルに任せてよっ」フンス

ドロシー「あ、あの…私なんか何の役にも立たないかもですけど…で、でもシンデレラさんがもしも操られてるのならその辛さは解るから…お手伝い、したいです…っ」

ヘンゼル「まぁ手伝うと言った以上、投げ出すなんて出来ないしね。アリスを野放しにしてちゃ妹達に危害が加わりそうだし、僕も手を貸す」

キモオタ「いやはやwwwこうなる事は予想してましたがなwww当然我輩も手を貸しますぞwww友の危機を見過ごす豚はただの豚でござるwww」コポォ

ティンカーベル「もちろん私も頼まれるまでも無く助けに行くよ!そんなのあったりまえじゃん!」



19:◆oBwZbn5S8kKC 2016/03/21(月)00:43:17 ID:QOv


魔法使い「ありがとう…本当にお前達には何と礼を言えばいいのか…!」グスッ

ゴーテル「お主が泣いてどうするんじゃ。ほれ…そうと決まれば今後どうするか、決めた方が良いじゃろ」

魔法使い「うむ、そうじゃな…」

ラプンツェル「どうするも何も今から行こうよっ!ばばーっといってシュルシュルーってシンデレラを助けちゃおうっ!」

赤ずきん「【不思議の国のアリス】は完全にアリスの領域なのよ?無策で挑むなんて自殺行為よ」

ラプンツェル「えーっ?でも早くいかなきゃシンデレラが心配だよー?」

桃太郎「シンデレラに危害が及ぶ心配は今の段階では無いだろう。アリスが彼女を利用しているのならば危害を加える必要はないのだ」

裸王「うむ、早いに越した事は無いだろうが準備を整える時間が全くないというわけでもない。ならば万全な状態で挑む方がよかろう」

キモオタ「魔法使い殿、ゴーテル殿、お主達には何か策があるのですかな?」

ゴーテル「当然じゃ、我等は魔女…お前達にこんなことを頼んでいる以上策を用意してある」

魔法使い「うむ、とはいえ…我々が細かく策を命じるよりも各々の判断を交えた方が良いじゃろう。その方が急な対応もしやすい」

魔法使い「故に、我々が用意する手はひとつだけじゃ。その一手をお前達に託す」

キモオタ「ほうwww二人の魔女が協力して練った策とは一体www」

魔法使い「それはおいおい話そう。だが…それには少し時間が必要じゃ、余裕を持って三日というところか…」

ゴーテル「お前達も準備が必要じゃろうし、三日程度ならば…シンデレラの身に危険が及ぶ事も無かろう。心配ではあるのだが…な」

魔法使い「しかし、焦って事を成しても上手くいかねば意味がない…故に、ここは敢えて急がぬという選択を取る」



魔法使い「三日後。それが我々の作戦決行の時、シンデレラの救出…そしてアリスとの戦いのな」



65:◆oBwZbn5S8kKC 2016/03/28(月)00:35:42 ID:mG5

キモオタ「三日後…いよいよ【不思議の国のアリス】の世界へ向かうのでござるな。遂にこの時が来ましたな…」

ティンカーベル「そうだね、シンデレラを助けるのが今回の目的だけど…アリス達と戦う事は避けられないだろうし、気合い入れなきゃだね!」

赤ずきん「そうね、私達がシンデレラの奪還に来る事はアリスも予想しているでしょうし…迎え撃つ準備は万端に整えているはずよ」

ドロシー「ですよね…【不思議の国のアリス】は結末を迎えてますからハートの女王様や帽子屋さん…三月ウサギさんももう自由に動けます…。
それに加えてシンデレラさんやいろんな世界の魔法具…うぅ、大丈夫かな…三日しか猶予が無いんじゃ…返り討ちになっちゃうかも」ビクビク

赤鬼「悪い方に考えたって仕方ねぇぞ。アリスは強いかもしれねぇけどオイラ達だって何もしてこなかったわけじゃねぇんだ。気持ちで負けてちゃいけねぇぞ」

桃太郎「その通りだ。『三日しかない』と言えばそれまでだが…大切なのは限られた時間で何を成すかだ。どんなに僅かな時間であろうとも鍛錬は己の力に怠慢は己の枷となる」

裸王「うむっ、流石は国一の侍…良い事を言うではないか!とはいえ筋肉は一日にして成らず…三日間では完璧とはいかぬがこの裸王に任せておけばある程度の筋肉を約束しよう!どうかねドロシーよ?」マッチョ

ドロシー「えっ、あのっ、その…裸王様のお気持ちは嬉しいんですけど、その…私は…筋肉は付けなくてもいいかなぁ…なんて、思っちゃったりして…」オドオド

ヘンゼル「なんでオドオドしてるのさ、ちゃんと断らないと筋肉質にされるよ?」

ラプンツェル「私は欲しいけどなー筋肉!だってもっと力があったら髪の毛で引っ張れる力も強くなるもんねっ!そしたらシンデレラ取り戻すのもあっという間だよっ!」フンス

裸王「ほう…友の為に強さを求めるお主の筋肉欲しかと受け止めたっ!この裸王が責任を持ってお主を立派な筋肉淑女にしてみせようっ!」ムキムキ

ゴーテル「ええい何を血迷った事言っておるんじゃい!ワシは許さんぞォォ!女の子はのぉ…ちょっとか弱いくらいが可愛いんじゃいぃぃ!」ガタッ

魔法使い「ゴーテルよ、今はその娘愛は抑えてくれんか。ラプンツェルももう大人なのだから本人の好きに…」

ゴーテル「いくつになろうと無垢な天使を護るのが親の務めじゃい!よいか裸の王、健康的な肉体美の女性と言うのも魅力的だがそれはラプンツェルの持つ愛らしさとは対極にある。
そもそも女の子の可愛さと言うのは庇護欲をかきたてるどこか弱い部分を残すことで――」クドクドクドクド

魔法使い「…まぁよい、限られた時間でどのような備えをするかはそれぞれの判断に任せる。ワシが下手に入れ知恵するよりもその方が良いじゃろ」



67:◆oBwZbn5S8kKC 2016/03/28(月)00:39:23 ID:mG5


魔法使い「とにかく…三日後に皆はこの屋敷に再び集まってもらう、それまでは各々で準備を進めとくれ。無論、アリス達との戦いを意識した備えをな…」

キモオタ「了解しましたぞwwwとはいえ限られた時間で何をすべきか悩みますなwww」コポォ

魔法使い「方針が定まらんと言うなら助言はするのでな、必要ならば個々に声をかけてくれればよい。さてゴーテルよ、裸の王への講釈はその程度にして例の物を皆に配ってくれんか」

ゴーテル「むぅ、これからじゃというのに…まぁよい。全員に一つずつこの時計を渡しておく、肌身離さず持っておくようにするのじゃぞ」スッ

ヘンゼル「懐中時計…魔女のあんたが渡してくるってことはただの時計じゃないんだよね?魔法具か何かなの?コレ」

ゴーテル「一応魔法は掛けておるがほとんどただの時計じゃ、魔法具と言うほど上等なもんじゃありゃあせん」

ゴーテル「お主等はこれから別々の世界へ向かうじゃろ?おとぎ話の世界には時の流れが通常と違う世界、場所が存在する…時間に影響を与える能力や魔法もな」

ヘンゼル「あぁ、確かにそうだね…アリスは時間を止める能力を持っているみたいだし。女王の書庫で呼んだおとぎ話にもそういう魔法が登場する作品がいくつかあったっけ」

赤鬼「魔法かなんかで時間の流れを変えられちまったりすりゃあ『三日後』に集まるってのが危うくなるもんな、時計を配ったのはそれを防ぐためか」

ゴーテル「そうじゃな、この時計は魔力によって【シンデレラ】の世界の時間の流れに沿って時を刻む。これさえあればどんな時間の流れの中に居ても同じ時の流れを共有できるというわけじゃ」

人魚姫の声『なるほどねー、海底の魔女と違ってゴーテル達はちょー優しいし準備が良いよね。っていうかあたしはそれよりも時間の流れが違う場所があるって方にワクワクしてるんですけどー!』

赤ずきん「例えば【浦島太郎】というおとぎ話にはね竜宮城という場所が存在するの、そこは体感は数日なのに実際には数百年の時が経過してるという様な特殊な時の流れの中にあるの」

人魚姫の声『へーっ、初めて聞いたよ。陸の上にはまだまだ不思議なものがいっぱいあるな~』

赤ずきん「竜宮城は陸の上じゃなくて海底にあるのだけどね…でも随分と警戒しているのね?無用な備えだとは思わないけど…」

ゴーテル「まぁ用心するに越した事は無いじゃろ。アリスの襲撃はもとより、お主等が時の流れが異なる場所に赴いたり迷い込まないとも限らんじゃろ?」

魔法使い「【不思議の国のアリス】は完全にアリスの領域、そこに踏み込む以上は万全な状態でなければな。揃いの時計を手渡し足並みをそろえるのもその為の保険というわけだ」



69:◆oBwZbn5S8kKC 2016/03/28(月)00:42:37 ID:mG5

魔法使い「よいな?繰り返しになるが…決行は三日後じゃ。ワシ等の一手もその頃には形となるだろう」スッ

ラプンツェル「でもあれだよね!魔法使いやママが何か用意してくれてるんならもうシンデレラ助けたようなものだよね!なんたって私のママはすんごい魔女なわけだし!」フンス

ドロシー「そ、そうですよね…私が居た【オズの魔法使い】でも魔女さんはどの方も恐れられていましたし…わ、私みたいな足手まといが居ない方がずっと順調に事が運ぶんじゃ…」オドオド

ゴーテル「そんな事はありゃせんわい。魔女と言うても万能じゃありゃせんのじゃ、ワシら老いぼれに出来ることなど若者への助言と手助け程度じゃわい、のぉ?」

魔法使い「残念だがそうだな…。それぞれ予定や考えがあるだろう、ひとまずここで解散と言う事にしておく…が、最後にひとつだけ言わせてもらおう」

キモオタ「ほうwwwなんですかなwww」

魔法使い「お前達はシンデレラを救って欲しいというワシの頼みを迷うことなく引き受けてくれた。それには感謝してもしきれぬ程だ、だが…今回の試みが非常に危険だという事も事実」

魔法使い「本音を言えば…全員無傷というわけにはいかんと思っている。なにしろ相手はあのアリス…奴が抱える戦力は生半可な物ではなかろう。最悪、死者が出る事も覚悟した方が良い」

一同「……」

魔法使い「しかし、だ…お前達ならばこの厳しい戦いさえも乗り越えられるとワシは信じている。お前達は皆、おとぎ話の主人公…あらゆる逆境を乗り越えられる力を持った者達なのだからな」

キモオタ「あのwww我輩はwww我輩だけ違うのでござるけどwwwなんというか凄まじい場違い感がwww」コポォ

魔法使い「何を言っておる、異なるおとぎ話の主人公たちが集結するなど本来ならば考えられん事なのだぞ。だがお前達は出会い、友となり、シンデレラを救う為に心を一つにしておる…そのきっかけを作ったのは他でも無いお主じゃろう、キモオタよ」

キモオタ「いやいやwww我輩はティンカーベル殿と共におとぎ話を救う為に行動してただけですぞwwwこんなキモいオタクがきっかけとか無いでござるよwww」コポォ

魔法使い「何を言う、間違い無くきっかけはお前だ。確かにお前の容姿は醜悪で挙動も不審で端的に言えば気持ち悪い…だが不思議な魅力がある。だからこそこの様に多くの共に囲まれているのだ」

キモオタ「いやいやいや魅力とかあるわけないですぞwww我輩、現実世界に友人居ないでござるしwwwしかも周囲にキモがられてるでござるしwww
すれ違う人々は家畜を見るような眼で見るでござるしwwwことキモさにおいて右に出るものは居ないと自負しておりますぞwww」コポォ

魔法使い「それはそれで笑いごとじゃ無かろう。そうだな…例えるなら現実世界の大人には妖精の姿が見えない。
だからその存在を信じぬし気付けぬ…それと同じだ、お前の魅力は目には見えぬ、故にとても気付きにくい…。だが確かにそこにあるのだ、多くの大人に見えなくともティンカーベルが確かにそこに存在しているようにな」

キモオタ「買いかぶりすぎですぞwww我輩は単なる気持ちの悪いオタク、キモオタでござる。それ以上でも以下でも無いですぞwww」コポォ



71:◆oBwZbn5S8kKC 2016/03/28(月)00:45:31 ID:mG5

魔法使い「しかしだ、何の因果であろうともこうして集った仲間達が一人でも欠けてしまうというのは非常に悲しい事だ…まさに今そうであるようにな」

魔法使い「よいか?この戦いは皆にとって厳しく苦しいものになる。だがシンデレラを救いだして全てが終わったその時…」

魔法使い「もう一度、ここに皆で集まれる事をワシは切に願う。お前達もどうかその事を心に留め、決して己が身を犠牲にする様な事のないように…よいな?」

ティンカーベル「もちろんだよっ!絶対にみんな無事で帰って来るから安心しててよね!」

ラプンツェル「うんうんっ!シンデレラも絶対助けてみんなでまたお茶飲もっ!そしたら私、またお菓子作ってくるよ!」

赤鬼「そりゃあいいな、だったら茶を淹れるのはオイラに任せてもらおうか。とっておきの茶葉を使ってやるぞ」ガハハ

赤ずきん「ふふっ、あなた達は今からお茶の話なの?まぁ、なんにせよアリスには借りがあるものね…きっちり返させてもらうわ」

人魚姫の声『赤ずきんはなんかもう相変わらずなんですけど!まっ、今の私は空気の精霊なわけだし私にしかできない事もあるかもだしね、やっちゃうよ~!』

桃太郎「うむ…友を救いだすは当然、己が身も戦友も全て護る。それほどの気概が無くては誇り高き日ノ本一の侍を名乗れぬ」

ドロシー「せ、せめて足手まといにならないように頑張ります…!頑張って、戦います…!」オドオド

ヘンゼル「君は別に戦う必要無いでしょ。【不思議の国のアリス】の地理に詳しいのは君だけなんだし、君の役目はそういうサポートでしょ」

裸王「そうだぞドロシーよ!筋肉は確かにすばらしいがそこに知識や絆が加われば筋肉は何倍も美しき輝きを放つ!それを忘れてはならんっ!」ムキムキ

キモオタ「裸王殿の言い回しが独特過ぎて全ッ然理解できませんぞwwwしかしまぁなんといいますか魔法使い殿wwwどれだけアリス殿が強敵であろうとも我々は負けるつもりなど微塵も無いでござるよwww」

魔法使い「強敵を前に鼓舞が必要と思ったが…杞憂じゃったな。キモオタよ、その言葉で安心した。シンデレラの事、お主等に任せるぞ」



72:◆oBwZbn5S8kKC 2016/03/28(月)00:46:46 ID:mG5


・・・

赤ずきん「さぁ、そうと決まれば時間が惜しいわ。赤鬼、人魚姫、私達はそろそろ失礼しましょう。魔法使い、色々とありがとうそれじゃあまた三日後に」スッ

魔法使い「あぁよろしく頼む…だが不安だ。赤ずきんはどうも毎度毎度無茶をしているという印象があるのでな…くれぐれも無謀な行動に出ぬようにな?」

赤ずきん「大丈夫よ、アリスとの戦いを前に怪我でもしたら馬鹿馬鹿しいもの。今の私はそこまで子供では無いわ」

赤鬼「まぁこいつが何かしでかしそうになったらオイラが止めるから安心してくれ!」ガハハ

魔法使い「くれぐれも頼むぞ、赤鬼に人魚姫。赤ずきんの性格はお主等の方が理解しているだろう、皆まで言わずとも解るじゃろうが…な」

人魚姫の声『オッケーオッケー!っていうか…あはははっ、赤ずきん絶対無茶するって思われてんじゃん!ちょーウケるんですけど』アハハ

赤ずきん「…何だか納得いかないわね。何だか私が聞きわけの無い子供のような扱いなんだけど…」ムスッ

キモオタ「何だかんだ言って赤ずきん殿はまだまだ子供でござるからなwwwその点赤鬼殿は心身ともに大人でござるからwww赤鬼殿の方が信頼されるのは当然でござるよwww」

赤ずきん「えぇそうね、大人なあなた達と違って私は子供。だから子供の癇癪に巻き込まれてもあなたは文句なんて言わないわよね?」ガチャッ

キモオタ「ぶひぃっ!?ジョークでござるよ!ジョークでござるよ!まったく赤ずきん殿をからかうのは命懸けですなwww」コポォ

ティンカーベル「だったらやらなきゃいいのに…ところでさ、赤ずきんはこの三日間で何するの?何か考えてたりする?銃の訓練?」

赤ずきん「そうね…赤鬼と人魚姫の意見も聞いてみないといけないけれど、私の個人的な想いとしては行っておきたいおとぎ話の世界があるのよ。そこの主人公に話を聞いてみたいの」

キモオタ「ほうwww赤ずきん殿が興味を持つとはきっと立派な方なのでござろうwwwそれはどのような人ですかなwww」

赤ずきん「確かに立派だけど…人ではないわ、非力で小さなただのネズミよ。ただとても義理堅くて強い心を持っている…立派な主人公よ」



73:◆oBwZbn5S8kKC 2016/03/28(月)00:47:50 ID:mG5

ヘンゼル「義理堅いネズミが主人公…あぁ、もしかしてイソップ寓話の?」

赤ずきん「あら、ヘンゼル随分と詳しいのね?」

ヘンゼル「おとぎ話は雪の女王の書庫で浴びるように読んだからね」

赤ずきん「ずいぶんと記憶力がいいじゃない、あの女王に一目置かれているだけはあるみたいね」フフッ

キモオタ「いやはやwwwお二人ともおとぎ話に関する知識が豊富ですなwwwちなみに我輩はそのおとぎ話の事全く知りませんぞwww」コポォ

ヘンゼル「…でも君はどうしてそのおとぎ話に行こうと思ったの?射撃の腕を磨いたり戦う為の力を手に入れたいのなら、もっと適したおとぎ話があるだろうに」

赤ずきん「そうでしょうね、ただとても興味深い事を知り合いから聞いたのよ」

キモオタ「ちょwww二人とも我輩をガン無視www近頃の少年少女はドライですなwww恐い怖いwww」コポォ

赤ずきん「元々はその知り合い…ブレーメンの音楽隊から別世界でライブをやりたいから是非力を貸してくれって言われてね。以前お世話になったからお礼も兼ねて協力したのよ」

赤ずきん「それで登場人物が動物ばかりのおとぎ話にいくつか案内したの。そしたらあるおとぎ話の世界で勇ましいライオンとちっぽけなネズミが仲良さそうにしている姿を見たらしいのよ」

ティンカーベル「へーっ、ライオンとネズミが仲良くしてるなんてそんなことあるんだねー」

赤ずきん「彼等の話だとただ仲が良いだけじゃないみたいなの。その二匹は息ぴったりに連携を取って狩りをしたり人間が森に仕掛けた罠を壊したりしていたそうよ」

キモオタ「ほうwww我輩、動物の知り合いは少ないでござるがwwwそれは凄いでござるなwww何倍も身体の大きさが違う相手とそのように連携が取れるとはwww」コポォ

赤ずきん「そうね。異種族間の共存は私の友達二人にとって最終目標でもあるし、それに私の武器はマスケット…大勢で戦うとなれば私の役目は必然的に後方支援になるわ」

赤ずきん「そうなれば仲間との連携は必要不可欠…赤鬼達との連携ならともかく、他の皆とは共闘の経験も少ないし正直不安は残るわ」

赤ずきん「だからこそ、種族の違いや身体の大きさの違いをものともせず素晴らしい連携を取れているという彼等に話を聞きたいのよ」



74:◆oBwZbn5S8kKC 2016/03/28(月)00:49:42 ID:mG5


人魚姫の声『赤ずきん、赤鬼と息ぴったりだと思うんですけどー?皆と連携とれなくても赤鬼と一緒に戦えばいいだけじゃね?』

赤ずきん「それじゃ混戦に持ち込まれたらお手上げになってしまうわ。味方を攻撃してしまう事を恐れて銃を撃つ事も出来ない、それじゃ私はマスケットを握りしめてるだけの置物よ、そんなのは嫌」

赤鬼「俺も興味があるな、言っちまえば食う側と食われる側の二匹が共存してるってのはやっぱり気になるしな。人魚姫さえいいってなら次の目的地はそのおとぎ話にするか?」

人魚姫の声『私はもちろんオッケー!ネズミもライオンも海底には居ないし人魚と人間の共存を考えるわたしとしては異種族で仲が良いってのはやっぱり気になるしー』

赤ずきん「それなら決まりね。時間は限られてる、行くからには必ず何か新しいものを掴んでこなければね」スッ

桃太郎「己の役目を理解し、最善の行動ができる為の努力を行う…。いつもの事ながらお主の向上心の強さには目を瞠るものがあるな」

赤ずきん「あら、それを言うならあなたも相当よ?日ノ本で英雄とまで呼ばれているのに更に西洋の剣術まで学びたいだなんて言ってくるんだから」

桃太郎「振るえる刃は多い方が良い。それに此度の修行で理解した、日ノ本と西洋の剣術…型や思想の違いあれど根底にあるものにさほどの違いは無いのだとな、これもハインリヒ殿の手厚い指導の賜物だ。彼を紹介してくれたお前にも感謝せねば」

赤ずきん「いいのよ、それであなたの英雄としての働きに磨きがかかるのならね」

赤鬼「てぇことは桃太郎はこのあとまた【蛙の王子】の世界に行くのか?その西洋の剣術とやらの修行の為に」

桃太郎「そうしたいのだがな…ここに来る前にハインリヒ殿に言われたのだ『西洋の剣術の基礎は叩き込んだ。後は実戦で己と技を磨くのみ、実戦に勝る成長の場など無いのだ』…とな」

赤ずきん「彼ならそう言うでしょうね。どうせ修行中も『真剣勝負の中でのみ、剣士としての腕は磨かれる』みたいな事言ってたでしょう?そういう人だから」

桃太郎「言ってた言ってた、なんかもう口癖でさぁ……もとい、そう言っていたな。彼の言葉は一理ある、しかし大きな戦を前に下手に実戦を行うというのも…悩ましいところだ」



75:◆oBwZbn5S8kKC 2016/03/28(月)00:52:25 ID:mG5

桃太郎「アリスとの戦いを控えている今、無暗に強者に挑む事は控えるべきだ。それで手負いになれば後の戦いに支障が出るのだからな」

ティンカーベル「とかなんとか言って本当は戦うのが恐いだけなんじゃないのー?桃太郎はヘタレだからなぁ~」ニヤニヤ

桃太郎「拙者はヘタレに非ず。悪鬼を相手に大立ち回りを繰り広げた拙者が戦いを恐れているなど…笑えぬ冗談だなティンカーベルよ」

桃太郎「…というかティンクお前マジでやめろよそうやって茶化すの!みんな見てんだぞ!」ヒソヒソ

ティンカーベル「えーっ?でもぶっちゃけみんな知ってるって、気を使って知らないふりしてくれてるだけだよ。桃太郎最近皆の前でもちょいちょい素が出てるし…そもそも私達が教えたし」

桃太郎「何してんの!?もおぉぉー!実は皆に気を使われてたとかそんな事実知りたくなかったわ拙者!」ヒソヒソ

キモオタ「つまり成長の為には実戦に身を投じたいと考えるものの今そのリスクを背負うのはいかがなものかという事ですなwww」

桃太郎「そう言う事になるな…しかし実戦とは命の取り合い、命が危険に晒されぬ戦いなど存在しない」

キモオタ「強敵でありながらいい感じに手を抜いてくれるような敵が居ればいいでござるがwww」

桃太郎「手を抜いてくれる…というのは違うだろう。しかし、限りなく実戦で近い形で訓練をしたいというのは事実。しかしそんな都合のいい事が……」

魔法使い「…無いわけでもないぞ?」

桃太郎「えっ…そうなの?詳しく聞かせてはくれぬか?」

魔法使い「魔法で使役する魔獣や化物を相手に戦えばいいのだ。そういった者共は脅威から何かを護ったり、あるいは相手を脅かしたり殺す目的で生み出されている事も多い故、力量は十分」

魔法使い「ヘンゼルが持つ火打ち箱がその一つだ。なにしろ魔力で生み出された生物、相手にとって不足は無いだろうし…例えお前の命に危険が生じても魔法具の使用者が止めに入る事も可能」

桃太郎「それでいて使役されている怪物は手を抜く意思を持つわけではないからより実戦に近い戦いができるというわけか…!」



76:◆oBwZbn5S8kKC 2016/03/28(月)00:55:29 ID:mG5

ヘンゼル「でも、僕は協力できないよ?そうなれば桃太郎につきっきりになるでしょ、それは困る。僕自身も強くなりたいし…悪いけど」

桃太郎「むぅ、そうか…お主にも都合があるのは仕方の無い事。しかし、となると他にあては…」

赤ずきん「桃太郎、このおとぎ話に行ってみなさい」サラサラスッ

桃太郎「この紙切れは…?この世界に存在するというのか?火打ち箱のような強者を使役する魔法具が」

赤ずきん「えぇ、本来の用途は違うけれど…バケモノを呼び出す魔法具が存在する。その持ち主もあなたになら協力してくれるでしょう、同じ日ノ本のおとぎ話だしね」

桃太郎「おぉ…かたじけない!では拙者はこのおとぎ話に向かい、剣術に更なる磨きをかける…!」

赤ずきん「まぁ…怯えて逃げ出さないようにね。その魔法具、精神にも影響あるから」ボソッ

桃太郎「えっ…?あんまりよく聞こえなかったのだが…なにか言ったのか?」

赤ずきん「いいえ、その怪物と戦えばあなたはもっと強くなれるでしょうね。いい?メモにも書いたけど選ぶのは大きなつづらの方よ?」

桃太郎「うむ、必ずや新たなる力を身につけ…友を救いだして見せよう!」キリッ

ラプンツェル「うぅ~っ!なんだかあれだよねっ!みんな強くなる為に頑張ってるってなんだかワクワクするねっ!私も頑張るよーっ!」フンス

キモオタ「ほうwwwいやしかしwwwあの、なんといいますかwwwゴーテル殿が反対するのでは…?」

ゴーテル「既に許可しておるわい。ラプンツェルがこの後向かう気は既に決まっておるし、向こうにも話がついておるしな」

ティンカーベル「よく許したね…私達にラプンツェル任せてあんな事になったからまた塔に幽閉するってのもありかと思ってた」ヒソヒソ

キモオタ「そうですなwwwしかしやぶへびになっては事なので黙っておきますぞwwwところで向かう先はなんというおとぎ話ですかなwww」

ラプンツェル「みんなも良く知ってる【アラビアンナイト】の世界だよっ!シェヘラザードがいろいろ教えてくれる事になってるんだよー」ニコニコ



77:◆oBwZbn5S8kKC 2016/03/28(月)00:58:23 ID:mG5

キモオタ「シェヘラザード殿の所でござったかwwwラプンツェル殿はあの後も彼女と付き合いあったようでござるし、確かに知り合いの所であればゴーテル殿も安心ですなwww」

ゴーテル「当然、それもある。じゃが娘可愛さだけで安全な場所を選んだわけでは無いぞ?」

ティンカーベル「あの娘大好きなゴーテルがまさかラプンツェルが戦う事を許すなんてねー、ちょっとびっくりだよ」

ラプンツェル「私もいっぱいお願いしたからね!だって私だけシンデレラ助けるお手伝いできないとか嫌だもん!」

ゴーテル「戦わせたくないというのが本音じゃが…娘の友を想う気持ちは無下には出来ん。となるとラプンツェルの武器はその長い髪の毛だ」

ティンカーベル「でも魔力が宿ってると言っても髪の毛じゃあなんとなく頼りないイメージだよね?そんなこと無いのは知ってるけど…」

ゴーテル「それは否定できんな。じゃがワシの天使の髪の毛は見ての通りとてもとても長い、そのうえ自在に操る事も可能じゃ刃物に弱いという欠点はあるが…重い物を掴んだとしても耐えきれずちぎれる事などありはせん」

ゴーテル「そうなればもう自在に操る事の出来る鎖を無数に持つ事となんら変わらん。武器を投げれば攻撃も出来、前方に束ねれば壁となる、相手を拘束する事も自由を奪う事も可能…手数の多さでは他に引けを取らんぞ?」

ラプンツェル「でもその為には色々とお勉強しなきゃなんだよ~…どういう風に岩を投げたらどんな風に飛ぶとか、目的の場所に一番早く髪の毛を届けるにはどうやったらいいかとか…シェヘラザードは厳しいからお勉強も大変だよぉ~」

キモオタ「シェヘラザード殿、なんというか委員長気質みたいなとこありますからなwww」コポォ

ラプンツェル「でもでも新しい事いっぱい知れるのは楽しいよ!それにシェヘラパパがね、お勉強するのが楽しくなるようにってコレをプレゼントしてくれたんだよぉ~」ゴソゴソ

ゴーテル「むっ…大臣じゃな?何か貰ったなどワシは聞いておらんg」

スチャ

ラプンツェル「じゃじゃーん!だて眼鏡だよっ!どうどう?かしこく見えるでしょー?」フンスッ

ゴーテル「ふおぉぉっ…!?なんということじゃ…十六年近く共に過ごしていながら新たな魅力を見せつけられるとは!我が娘、その可愛さは底なしと言う事か…!」クッ…

キモオタ「ちょwwwゴーテルどのテンションおかしいでござろうwww」



78:◆oBwZbn5S8kKC 2016/03/28(月)01:00:21 ID:mG5

ラプンツェル「この眼鏡をかければぐーんとかしこい感じでしょ!普段の百万倍くらいっ!インテリラプンツェルだよっ!」フンス

キモオタ「その台詞がすでにもうかしこくないのでござるがwww」

ゴーテル「何を言うか!どっからどう見ても女教皇そのものじゃろうが!お主の目は節穴か!ワシがその曇った目玉を抉りだして洗ってやるわい!」

キモオタ「ちょwwwさらっと恐い事をwww誰かこのモンスターペアレントを止めてくだされwww」

裸王「うむ、しかし眼鏡と言うのは知性の象徴ともいえる。筋肉が力の象徴であるようにな」

ヘンゼル「裸王さんって何気なく話題を筋肉に関連付けるよね…」

ドロシー「で、でも私…裸王様の自分に自信がある所、凄いって思います。私、全然だから…」オドオド

ティンカーベル「裸王達は三人で【裸の王様】の世界に行くんだっけ?」

裸王「うむっ!ブリキのきこりとドロシーを再開させるという目的もある。それに、ヘンゼルの事もギリギリまで鍛えてやりたいのだ」マッチョ

ヘンゼル「火打ち箱があっても僕自身が何もしない理由にはならないしね。それに手に入るのなら何だってする、妹達を救う為の力…それはどれだけあっても得過ぎって事は無い」

ドロシー「ブリキ、私の為に無茶してたって聞いたから…私は大丈夫だよって所見せたいです…」

キモオタ「なるほどwww裸王殿の所ならばヘンゼル殿もドロシー殿も問題ないでござろうwww」

ティンカーベル「きっといい具合にしてくれるっていう確信があるよね。筋肉筋肉言ってるけど裸王って任せとけば大丈夫感あるよね」

キモオタ「あるあるwwwとりあえず何とかしてくれる感wwwさすがは王というところでござるなwww」

裸王「あまり褒めるな褒めるな!その様に褒めても筋肉しかでぬぞ?はーっはっはっはっ!」マッチョ

ドロシー(えっ、筋肉が出るってどういう…?)キョトン



79:◆oBwZbn5S8kKC 2016/03/28(月)01:02:36 ID:mG5


魔法使い「それぞれすべき事、行き先が大方決まったようじゃな」

赤ずきん「えぇ、それじゃあ私達はこれで。行きましょうか」

人魚姫の声『うんうん!よーしっ、頑張っちゃうかんねーっ!』

赤鬼「おう、じゃあ三日後に。お前達もあんまり無茶しねぇようにな?」

桃太郎「うむ、心得ている。だが次に出会う時はこの桃太郎の更なる力に括目する事になるだろう」

ラプンツェル「すんごく頭良くなってるラプンツェルにも期待してていいからねっ!」フンス

ゴーテル「うむ、ではひとまずワシは桃太郎とラプンツェルを送り届けてこようかの」

裸王「では我々も失礼して我が国へ戻るとしよう。頼めるかねヘンゼルよ?」

ヘンゼル「もちろん。でもその前に向かいたいところもあるんだよね…」

ドロシー「そ、それじゃあそこに行ってからにしましょう…ヘンゼル君の行きたいところに行ってからでも、私は大丈夫です」

ザワザワ… パタンッ

ティンカーベル「皆行っちゃったね~…すごいよね、みんなちゃんとした目的持っててさ」

キモオタ「そうでござるなwww我々も負けておれませんなwww」

魔法使い「……で、なんなんじゃ?お主等」

ティンカーベル「えっ?何が?」

魔法使い「皆を送り出した後もこの場に残ったのはワシに聞きたい事があるからだろう?そうだな、キモオタよ」

キモオタ「ちょwwwお見通しでござったかwwwさすがは魔法使い殿www」

魔法使い「これでも魔法使いを名乗っておったのだからな…ワシに何を聞きたい?言ってみよ」

キモオタ「【かぐや姫】の世界で我輩はひとつ知ってしまった事があるのでござる…それはティンカーベル殿の弱点、運命と言う方が正しいのでござろうか」

キモオタ「ピーターパンの世界の妖精は…ティンカーベル殿は存在を否定されると消滅するようなのでござるが……それを防ぐ手立てを教えていただきたいでござる」

ティンカーベル「キモオタ……」



107:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/04(月)00:22:13 ID:iho


魔法使い「確か…【ピーターパン】の世界の妖精は赤子が見せた初めての笑顔から生まれるのだったな?」

ティンカーベル「うん、そうだよ。人間の赤ちゃんが笑うと新しい妖精がネバーランドに誕生するの。っていやいやそれよりさぁ…」

魔法使い「なるほど…無垢な心が生まれると同時に生を受け、そしてその心が失われた時…その命も潰える、か」

キモオタ「そのようなのでござる、存在を否定された程度で消滅するなど…なんと理不尽な事でござろうか!しかもこの事をアリス殿は既に知っているのでござる!」

キモオタ「あの者の気まぐれか何らかの策があっての事か…とにかく今はまだ無事でござるが、アリス殿がその気になればティンカーベル殿はすぐにでも消滅してしまう事に…!早急に手を打たねば取り返しのつかない事になりますぞ!」

ティンカーベル「ねぇねぇキモオタ、とりあえず落ち着いてよ。あのさ、ちょっと聞いてよ」

キモオタ「ティンカーベル殿だって恐ろしいでござろう?今にも自分の存在が消されてしまうのかもしれないのですぞ?」

ティンカーベル「えっ?いや、まぁ…そりゃあ消えるとなったら恐いっちゃ恐いけど…っていうかそれよりm」

キモオタ「それは我輩も一緒なのでござるよ、お主が消えるなど…想像したくも無いですな。故に魔法使い殿、ティンカーベル殿を消滅させない為なら我輩何でもしますぞ!是非力を貸していただきたい!」

ティンカーベル「いや、だからちょっと私の話を聞いてっt」

魔法使い「ふーむ…事情は解った。しかし…別世界の妖精の性質そのものを変えるとなると簡単な話ではない。少なくともワシが使える魔法では…どうにもできん」

キモオタ「…っ!魔法使い殿の魔法を持ってしても無理ですと!?クッ…何か他に方法は無いのでござるか?我輩、どこの世界にでも行くでござるし魔法使い殿の要求する物を持ってくるでござる!どうか、どうか頼むでござる!我輩の初めての友人を助k」

ティンカーベル「もうっ!聞けぇ!私の話をっ!」ヒュン

パチーン!

キモオタ「おぶっ…な、何故顔面を蹴飛ばすのでござるかティンカーベル殿!」

ティンカーベル「うっさい!落ち着け!私の話を聞けっつってんでしょ!なんでキモオタが取り乱してんの!いいからちょっと落ち着いてよね!」



108:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/04(月)00:23:02 ID:iho


キモオタ「し、しかし…ティンカーベル殿の命が危険に晒されているというのに落ち着くなど…」

ティンカーベル「しかしもお菓子もないんだよ!なに?じゃあキモオタが取り乱したら私は消えずに済むわけ?どうなの?ほら答えて!」ゲシゲシ

キモオタ「ちょ、ちょ!蹴るのはやめていただきたい!それを言ってしまえば…我輩が取り乱したところで何かが変わるというわけでもないでござるが…」

ティンカーベル「そうだよ!意味無いでしょ!だったら落ち着く事!わかった!?」

キモオタ「お主がそう言うのならば…。魔法使い殿も申し訳なかったでござる、無様な姿をお見せしましたな…」

魔法使い「いや、ワシは構わん。お主の気持ちはよくわかるでな」

ティンカーベル「まったく…こうなるってわかってたからキモオタには言えなかったっていうのもあるんだからね!」プンスカ

キモオタ「と…いいますと?」

ティンカーベル「だーかーらー!キモオタの事だからこの事知ったら今みたいに必死になって私が消えないですむ方法探そうとするでしょ?そんなのお見通しなの!」

キモオタ「いやいや、そりゃそうでござろう?友が危険に晒されているというのなら助けたいと思うのは至極当然でござるよ!」

ティンカーベル「そりゃ気持ちはすんごく嬉しいよ?でもアリスとの戦いを控えた大切な時に私の事で余計な心配して欲しくないって気持ちがこっちにはあるの!」

キモオタ「余計な心配って…そんなことないでござろう。ティンカーベル殿、今にも消滅させられるかもしれないのですぞ?何故その様に平気な顔で…」

ティンカーベル「別に平気なんかじゃないよ、消えちゃうのはまぁ正直恐いしさ…」

ティンカーベル「でも恐いのは恐いけどそれでも妖精にとってこれは当たり前の事なんだよ。なんていうのかな…人間だっていつかは死んじゃうでしょ?それと同じだよ」



109:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/04(月)00:24:00 ID:iho

ティンカーベル「キモオタだってそうだよ、いつかはお爺さんになるでしょ?そんで病気になったりとか寿命が来たりとかするでしょ?それで……孤独死するわけじゃん?」

キモオタ「お主、ジョークを飛ばしている場合では……まぁそれはさておき、確かに歳を取れば我輩も死ぬでござるな。しかしそれは…」

ティンカーベル「でしょ?でもそれは当たり前の事なんだよ、人間は年をとるし寿命だってあるんだから。でも妖精には寿命なんか無いの、その代わり存在を否定されると消えちゃう。ただそれだけの違いだよ」

ティンカーベル「ネバーランドの他の妖精だって同じように消えちゃってるの何度も見てるしね、私だけ特別不幸なわけじゃないの!歳とっちゃって死ぬのと同じでフツーの事なの!」

キモオタ「しかし…寿命で死ぬ人間と違いお主はいつ存在を消されるかわからないのでござる。それはつまり常に恐怖におびえる事に…」

ティンカーベル「そんな事言いだしたらキモオタだって今ここで死んじゃってもおかしくないでしょ!アリスが来るかもしれないしおはなしウォッチが爆発するかもしれないし」

キモオタ「それはそうかもしれんでござるが…しかし、やはり我輩はティンカーベル殿の事が心配d」

ティンカーベル「もーっ、この話はめんどいからおしまい!魔法使いも言ってたでしょ、どうにも出来ないって。だからこの話はおしまい!しゅーりょーっ!」バンッ

キモオタ「ティンカーベル殿、しかし…!」ガタッ

ティンカーベル「ダメダメ、この話題は一切受け付けません!そんなことより私達がこの後どうするか決める方が大事じゃん!ほらほら、早く決めようよ!」

キモオタ「……わかったでござる。……方針を固めなければ動きようが、ありませんからな」

魔法使い「……。あぁ、そういえば話は全然変わってしまうのだが…ティンカーベルに頼みがあるのをすっかり忘れていた」

ティンカーベル「私に頼み?なになに?魔法使いが私に頼みなんて珍しいじゃん、いつもお世話になってるし何でも聞いてあげるよっ!」

魔法使い「うむ、実は長年使っておった鍋にとうとう穴があいてしまってな…お前に直してもらいたいのだが、ティンカーベル頼めるか?」



110:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/04(月)00:26:03 ID:iho

ティンカーベル「そういうことね、もちろんいいよ!お鍋の修理は私の十八番だからね!」フンス

キモオタ「そう言えば以前その様な事を言っておりましたな。壊れた鍋やらを修理する能力に長けていると、そもそもティンカーベル殿は確か……何の妖精でござったっけ?」

魔法使い「『金物修理の妖精』だ。現実世界では壊れた鍋なんぞ捨てて新しい鍋を買うのだろうが、ワシ等は修理をしてもう一度使う。物は大切にせんといかん」

ティンカーベル「私は腕のいい職人だからね~、なんたって鍋でもフライパンでも金属製のものだったらなんでも直せるからね!まさに究極のエコだよ!」ドヤァ

魔法使い「ワシは手になじんだ鍋を手放したくないだけだがな…では頼めるか?キッチンの勝手口に置いてあるのでな」

ティンカーベル「まっかせなさい!そんじゃあちゃちゃーっと直してくるからキモオタはここで待っててね?」

キモオタ「……承知しましたぞ」

ティンカーベル「お鍋見て見ないとどれくらい時間かかるかわかんないけど…ちょっとかかるかもだからキモオタは待ってる間この後どうするかちゃんと考えておいてね、約束だよ!」

キモオタ「…御意」

ピューッ パタン

魔法使い「自信満々で出て行きおったな、流石は『ティンカー・ベル』の名を冠するだけはある。余程金物修理の腕には自信があるようじゃな」

キモオタ「そうでござるな…。しかし…我輩は気が気でないですぞ……」

キモオタ「こうして僅かな時間離れている間にもティンカーベル殿は消え去り、もう二度と会えなくなるかも知れないというのに……」

魔法使い「まったく…なんという情けない顔をしておるんじゃ、ほれ元気を出さんかい。お前がそんなことでどうするんだ」



111:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/04(月)00:28:21 ID:iho


キモオタ「ティンカーベル殿や皆に心配をかけるわけにはいかない故、普段通りに振る舞ってはいたのでござるが…手立てが無いと聞いて動揺を隠せないというのが本音でござる」

キモオタ「しかしそれも魔法使い殿に相談するまでの辛抱だと…魔法使い殿に事情を話せば魔法で何とかしてくれると…そう思っていたのでござる。それだけに正直、ショックが大きいのでござる…」

魔法使い「それは悪い事をしたな。だが…人は魔法使いや魔女を万能のように言うがそんな事はない。出来んものは出来ん、ワシ等は神では無いのだからな」

キモオタ「…申し訳ない。そんなつもりはなかったのでござるが、なにやらお主を責めているような物言いでしたな。失言でござった…許していただきたい」

魔法使い「お前の言葉に傷ついたり腹を立てるようなワシではないわ。だがワシに手立てが無いという事は変わらん、そしてお前はどうするつもりだ?」

キモオタ「もちろん他の方法でティンカーベル殿を護りますぞ!魔法使い殿の魔法ではどうにもならないというのなら、他の者に頼むとか魔法具を貸してもらう等方法はいくらでもありますぞ」

魔法使い「方法はいくらでもある…か」スッ

キモオタ「魔法使い殿…?」

魔法使い「酷な事を言うようだがな、お前がやろうとしている事はお前が考えている以上に困難な事だ…三日間で成し遂げるなど到底不可能だ」

キモオタ「し、しかし…困難であろうとも方法が無いわけでは無いのでござろう?それならば…」

魔法使い「よいかキモオタ…人間は心臓が止まれば死ぬ。それは心臓が人間が生きる上でもっとも重要な臓器だからだ、それが機能しなければ生きてはいられない」

魔法使い「妖精にとって人間が持つ無垢な心は心臓も同然なのだ、妖精の存在を信じる心…それが妖精たちが生きるうえで最も重要な要素なのだ、理解できるな?」

キモオタ「…できますぞ。無垢な心こそがティンカーベル殿にとっての心臓…命の根幹、故にそれが失われるという事は我々で言う死と同義という事でござるな…」

魔法使い「その通り。つまり…その妖精の性質を覆そうというのは心臓の止まった人間を生きながらえさせようというのと同じなのだ…わかるな?キモオタよ」



112:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/04(月)00:29:14 ID:iho

キモオタ「…確かにそれは、困難な事ですな。所謂不老不死を求めるという事でござるからな…」

魔法使い「そうだ、確かにおとぎ話の世界には不老不死を与える魔法具も存在する、蘇生の奇跡が起きる物語もある。だがそれでも死者の蘇生や不老不死の力を扱える者はごくごく僅か…アリスの手によって多くの世界が消滅した今となっては更に限られた存在だけだ」

魔法使い「それこそ神の力を借りるか、【アラジンと魔法のランプ】の魔人を呼び出すランプのようにあらゆる願いを叶える魔法具にすがるしかあるまい」

キモオタ「……」

魔法使い「…神を探し協力を仰ぐなど雲を掴むような話だ。となると現実的なのはシェヘラザードに頼み、魔法のランプを借り受ける事だが…」

キモオタ「魔法使い殿はドSが過ぎますな…。それが不可能だという事は知っているはずでござろう、それとも我輩が先ほど失言を口にした事を…実は怒っているのでござるか?」

魔法使い「いいや、ワシは明確にしただけだ。お前が望んでいる事を成し遂げるのは限りなく不可能に近いという事をな」

キモオタ「……諦めるしかないというのでござるか」

魔法使い「お前が諦めきれないというのなら状況を変えられる魔法使いなり魔法具なり探せばいい事だ、それをワシが止めるという事はしない」

魔法使い「ただし、それはあまりにも勝率の低すぎる賭け…いいや賭けとすら呼べぬ代物だ。本音を言わせてもらうのならば…諦めた方が良い」

キモオタ「……」

魔法使い「……」

キモオタ「先ほど…ティンカーベル殿は我輩に気にするなと言ったでござる。真面目な話だと言うのに冗談を交えて煙にまいて…さも自分は消えても平気だと言うようにおどけて見せていたでござる」

キモオタ「しかし、この事実を【かぐや姫】の世界で知り…始めてこの事を我輩に告げる時、ティンカーベル殿は確かに影を背負っていたでござる」

キモオタ「彼女は確かに…死を恐れていたでござる。それなのに我輩が気に病まぬようにと…気丈に振る舞っていたのでござる」



113:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/04(月)00:30:46 ID:iho

キモオタ「あんな小さな妖精であるティンカーベル殿が死の恐怖を押さえつけて我輩のようなキモいオタクを気遣ってくれたのでござる。それだというのに我輩はティンカーベル殿の為に何もできず…!」

魔法使い「お前が気に病む事では無い。むしろそうならん為にティンクはあのように振舞ったのだぞ、それを理解しているのならその気持ちを汲んでやることだ」

キモオタ「ティンカーベル殿はずるいでござるなぁ…普段は我輩の事をキモいだの不細工だのアレだの散々な言いようでござるのに、真面目な時はこうして思いやってくれるのでござるから…」

キモオタ「あの者はいつもそうなんでござるよ…。普段は我輩がプリンを多く食べただの大きいほうのケンタッキーを食べただの言いがかりをつけてくるでござるし、暴言ばかり吐いてくるでござる。
好き勝手で自分勝手でその割を食う事も多いでござる、でも不思議と…ティンカーベル殿と過ごす時間に心の底から不満を感じた事など無いのでござるよ」

キモオタ「まぁそれは我輩が今までボッチだったからというのもあるでござるが…ただ単純に我輩はティンカーベル殿の事が好きなのでござろうな、大切な友として」

魔法使い「…だからこそ、ティンクの危機に何も出来ぬ自分が許せぬ…か?」

キモオタ「正直そうでござる。しかし我輩が僅かな可能性に賭けて彼女が消えない方法を探す事を…おそらくティンカーベル殿は喜ばないでござろう。悔いは残るでござるが…ここは諦めるでござる。
その代わり確実にアリス殿の企みを止めて【ピーターパン】の世界の復活につなげるでござる、おそらくそれが最善の策でござる」

魔法使い「うむ、それが良いだろう。ウジウジと悩んでいる姿などお前には似合わん、前を向いている方がお主等らしいわ」

キモオタ「ティンカーベル殿が恐怖を抑えて戦おうとしているのでござるから、我輩が気を入れなくてどうするって話でござるしな…無様な姿を見せて悪かったでござる。ここからは気持ち切り替えて行きますぞ!」フンッ

魔法使い「うむ、その意気だ。そもそもお前のように容姿が醜悪な男は笑っておる方が良い。顔が良ければ憂う表情もまた魅力的に映るが…お前の場合は苛立ちしかわかんのでな」クックックッ

キモオタ「ちょwwwそこまで言う必要は全くないでござろうwww」コポォ

魔法使い「そうと決まれば今後どうするか考えねばな、ティンクは腕のいい金物修理の妖精…もうじきドヤ顔で戻ってくるはずだr」

ピューッ バターンッ!!

ティンカーベル「魔法使いー!見て見てこれこれ!もうこれ新品以上の出来だよ!もう自分を褒めてあげたいくらいの修繕っぷりだよっ!まさに神業!」ドヤァァァァ!!

魔法使い「ふふっ、どうだキモオタ?言った通りだっただろう?」ククッ

キモオタ「ドゥフフwwwまったくその通りでしたなwww」コポォ



114:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/04(月)00:32:30 ID:iho

ティンカーベル「えっ、なになに?二人して何の話?あっ、それよりはいコレ、修繕したお鍋!これでいい?」ポイッ

魔法使い「…うむ、上等じゃ。ワシも魔法で穴をふさぐくらいは出来るが、やはり本職は違う…新品以上の出来じゃ」

ティンカーベル「まぁねっ!私、こういうの得意ですからっ!」ドヤァ

キモオタ「ティンカーベル殿wwwお主ドヤ顔が過ぎますぞwwwそんなに得意分野で活躍できたのが嬉しいのですかなwww」コポォ

ティンカーベル「そりゃあね?だって『金物修理の妖精』とかいってもさぁ…現実世界じゃ全然出番が無いしそもそもキモオタはそんなに料理しないしさー」

キモオタ「カップめんの湯を沸かす程度ですからなwww金属的なものが直せるのならスマホとかパソコンの調子悪い時に直していただきたいwww」

ティンカーベル「そういう精密機器は無理なの!金属で出来てるもっとあれだよ…アナログ的なものならいけるけどさ。っていうかそれより約束どおりちゃんと考えたの?このあと私達がどうするか!」

キモオタ「ところがどっこいwww全く違う話を魔法使い殿としてましてwww」コポォ

魔法使い「こやつ、今後の事など何も考えておらんぞ」

ティンカーベル「えーっ!?私が頑張ってお鍋直してる間に何してたの!?もーっ!そんなんじゃ困るよ!」プリプリ

キモオタ「面目ないwwwではティンカーベル殿の案をまず聞かせてもらうとしますかなwwwそうまでいうのなら何か考えてたのでござろうwww」

ティンカーベル「あのねぇ…金物修理は遊びじゃないんだよ?他の事考えてちゃダメなの、だって極限まで集中しなきゃお鍋の声が聞こえないでしょ?」

キモオタ「いやwww知らんでござるけどwww結局二人ともノープランと言うわけでござるかwww」コポォ

魔法使い「ところでティンカーベル…以前話したスリングショットの弾の話はどうなった?雪の女王から雪の結晶と鏡の破片…譲って貰えそうなのか?」

ティンカーベル「……あっ!」

魔法使い「なんじゃその忘れてたみたいな顔は…どうするんじゃ?今すぐにとは言わんが素材が手に入ったとしてあまりギリギリに渡されても間に合わんぞ?」



115:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/04(月)00:33:19 ID:iho

ティンカーベル「わ、忘れてたわけじゃないんだよ?なんていうか…ちょっと記憶から抜け落ちてただけで…」

キモオタ「それを人は忘れていたと言うのでござるけどwww」コポォ

ティンカーベル「違うよ!うっかりでしょこんなの!人のうっかりを責めるなんて良くないよ!えーっと、雪の女王に話だけはしてあるんだけど…催促するみたいでアレだけどちょっと聞きに行ってみる?」

キモオタ「構いませんぞwwwそれに雪の女王殿に助言をいただくと言うのも手ですなwwwヘンゼル殿の事も話してあげれば安心するでござろうwww」

ティンカーベル「うん、そうだね!もしかしたら氷の魔法を使ったいい感じの特訓とかしてくれるかも!」

キモオタ「ならばコートを持っていかねばwwwあの世界はめちゃくちゃ冷えますからなwww」

ティンカーベル「コート?そんなに脂肪があるなら無くても平気じゃない?」ヘラヘラ

キモオタ「ちょwww我輩の脂肪にそんな追加効果はありませんぞwww」コポォ

魔法使い「うむ、どうやら二人とも行く先が決まったようだな。雪の女王は若いが凄腕の魔女…ワシら老いぼれとは違った刺激を与えてくれることだろう」

キモオタ「そうと決まればさっそく行きますかなwwwティンカーベル殿www」コポォ

ティンカーベル「うんっ!じゃあ一度現実世界に戻ってコートをとって来てからだね!よーし、じゃあ早速~…!」

魔法使い「いや、ちょっと待て。なにやらゴーテルがお前達に話があるからすぐ帰るようだったら引き留めてくれと言われているのだ」

キモティン「……」ピタッ

魔法使い「…ん?どうかしたのか?目に見えて元気が無くなったが…」

キモオタ「おうふ…完ッ全に忘れてたでござるな…」

ティンカーベル「ホントだよ…うっかりしてた、私達に向けられた死へのカウントダウンは止まっていなかったよ…」



116:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/04(月)00:35:09 ID:iho

魔法使い「何を言って…死の?なんだって?お前らゴーテルに何かしたのか?」

ティンカーベル「私達はね…ゴーテルにとって絶対にしてはいけないことをしてしまったんだよ…」ガタガタ

キモオタ「ゴーテル殿の天使を危険な目に遭わせてしまったのでござるからな…」ブルブル

魔法使い「もしやお前たちラプンツェルが大怪我を負った事を言っているのか?」

キモオタ「そうでござる、ラプンツェル殿を守りきれなかった我々はゴーテル殿にとっては大罪人…故にゴーテル殿という処刑人からの死刑執行が待ちかまえているのでござる…」

魔法使い「何を大げさな…桃太郎が治癒しただろう、そもそもゴーテルは…」

ティンカーベル「そ、そうだ!私達には秘密兵器がいるんだった!ドロシーが一緒に謝ってくれれば流石のゴーテルもそこまで厳しく怒らないはz…あああぁーっ!ドロシーはもう裸王のとこじゃん!や、やばいよ!?」

キモオタ「恐らくドロシー殿も忘れてますな…我々は文句言えないでござるけどwww」

ティンカーベル「き、キモオタ!ここはゴーテルが帰ってくるまでにもう行こう!うっかり忘れてたってことにしてほとぼりが冷めるまで逃げよう!」

キモオタ「それが上策ですなwww三日間逃げ切れば流石に大丈夫でござr」

ガチャ

ゴーテル「なにやら楽しそうな相談をしておるな二人とも…?廊下まで丸聞こえじゃったぞ…?」

ゴゴゴゴゴ



117:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/04(月)00:41:23 ID:iho

・・・

ゴーテル「叱られるのが嫌で逃げ出そうなどと…子供かお前たちは!しかも無関係のドロシーを巻き込んで大目に見てもらおうなど…どうなっとんじゃいお前たちは!」ガミガミ

キモオタ「申し訳ござらん…つい死にたくない一心で……」

ティンカーベル「ごめんなさい…塵にはなりたくなかったから…」

ゴーテル「まったく…じゃがしかしワシが厳しく念押ししたせいでもあるのぉ。塵にするというのは少し言い過ぎたか…」

ティンカーベル「じゃ、じゃあ私達塵にされない!?」オドオド

ゴーテル「当たり前じゃろ!そんなもんお前たちを本気にさせるために言っただけじゃい。お前たちは娘の友人じゃしワシの恩人でもある、塵になんぞする訳ないじゃろ!」

キモオタ「それを聞いて安心しましたぞwww首の皮つながりましたなティンカーベル殿www」

ティンカーベル「そうだね!生きてるってこんなに嬉しいことなんだね…!」

ゴーテル「お前たち大げさすぎるじゃろ!ちょいと脅かした程度で人を極悪非道な魔女のように扱ってからに…ワシをなんだと思っておるんじゃ!」

ティンカーベル「何って…そりゃあ……」チラッ

キモオタ「娘煩悩なモンスターペアレンツだと思ってるでござるけどwww」コポォ

ゴーテル「親が子を愛するのは当然じゃろがい!人をバケモンのように言いおって…言っておくかがワシはキチンとラプンツェルも叱ったからの?むしろお前たちよりもキツく叱ったくらいじゃわい!」

キモオタ「ゴーテル殿がラプンツェル殿を…?またなんで…」



147:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/09(土)00:27:52 ID:MN1

ゴーテル「そもそも、ワシが何を理由にお前たちを叱りつけるのか、わかっておるのか?」

キモオタ「…それは解りきっていることでござる。例の廃墟にて我々はラプンツェル殿を守りきることが出来なかった、それが理由でござるよね?」

ティンカーベル「うん、それしかないよね。私達は側にいたのにラプンツェルがアリスに挑むのを止められなかった。そのせいでお腹刺されちゃって大怪我しちゃったんだもんね…」

キモオタ「ラプンツェル殿はゴーテル殿にとって何よりも大切な愛娘、我々が傍にいながら守れなかったことに腹を立てているのでござろう?」

ゴーテル「そうではない。お前たちはどうも誤解しておるようじゃがワシがいくら子煩悩だといえども我が子可愛さに責任の所在を他人に押しつけたりはせんわい」

ゴーテル「アリスに戦いを挑んだのはラプンツェルの意志、ならばその結果大怪我を負うことになってもその責任はラプンツェル自身にあるんじゃ。お前たちを責めてどうする」

キモオタ「なん……ですと……!?」ガタッ

ティンカーベル「……ねぇねぇキモオタ、どう思う?ゴーテルがなんだかラプンツェルに厳しいよ?普段なら私達を糾弾してでもラプンツェルは悪くないとか言いそうなのに…」ヒソヒソ

キモオタ「我が輩も同意見ですぞ、我々を許すだけならまだしもラプンツェル殿に責任があると言うなどあの甘々モンペのゴーテル殿に限ってあり得んことでござる」ヒソヒソ

キモオタ「おそらく油断して同調したところでそれを理由に我々を葬るつもりなのでござろう…」ヒソヒソ

ティンカーベル「なるほど…私たちを誘い出すための罠だね…!」ヒソヒソ

ゴーテル「聞こえとるぞ!そういうことはもっと隠れて相談せんかい!」



148:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/09(土)00:32:28 ID:MN1

キモオタ「しかしwww娘命のゴーテル殿がラプンツェル殿を叱るなど考えられないのでござるよwwwにわかには信じがたいwww」コポォ

ティンカーベル「そうだよ!信じられないよ!なんかゴーテルってラプンツェルがなにしても許しそうなんだもん!」

ゴーテル「そんな訳ないじゃろうが!おい魔法使い、お前も何とか言ってやれ」

魔法使い「悪いがワシもキモオタ達と同じ意見だ、どうもお主は娘に甘い」

ゴーテル「なんじゃい!揃いも揃ってお前たちは!ラプンツェルはワシの娘、そりゃあかわいい娘…あぁ間違えた世界一かわいい娘じゃから少々甘くもなるが…」

ゴーテル「ラプンツェルが…我が子が間違ったことをしたなら当然叱る。それが親というもんじゃろ、むしろ娘を愛しているからこその叱責じゃい」

キモオタ「それはそうなのでござるがwwwやはりイメージ的に考えられないというかwww」

ティンカーベル「あー…でもそれならなんでゴーテルがラプンツェル叱ったのか解ったよ。あれだよね、大怪我したのにゴーテルに内緒にしてたから…だよね?」

ゴーテル「そうじゃ、あろう事かラプンツェルは大怪我をしたことをワシに隠して自分たちで何とかしようとした。ワシに心配をかけぬようにとな」

キモオタ「確かにラプンツェル殿はゴーテル殿には黙っていてほしいと言っていたでござるし我々もそれに同意したでござるよ?でもそれはゴーテル殿に心配をかけぬためで…」

ゴーテル「何を言っておるんじゃい。子が怪我をして苦しい思いをしておるのに自分に心配をかけぬように黙っておるなど…そんなことで喜ぶ親は一人もおらんわ」



149:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/09(土)00:34:16 ID:MN1

ティンカーベル「でも…ラプンツェルはさ、自分がすごく愛されてるのを知ってるからこそ言えなかったんだと思うよ?自分が戦うことを選んだらママが悲しむから…それはイヤだから黙ってたんだと思う」

ティンカーベル「ラプンツェルもゴーテルのこと大好きだから心配かけたくなかったんだよ。ゴーテルを悲しませたくなかったっていうラプンツェルの気持ちは汲んであげてよ」

ゴーテル「そうかもしれんがな…ワシだって覚悟を決めておるんじゃ、ラプンツェルの選択を受け入れる心の準備はしておる」

ゴーテル「友が戦っておるのを見て力になりたいと思うのは当然、アリスに立ち向かいたいのならそうすればよい。ワシは止めん…」

ゴーテル「その挙げ句怪我をしてしまっても…まぁよい、ワシ個人としては心配じゃしやめてほしいというのが本音じゃが…ラプンツェルがそう決めたのならば好きにすればよい、あやつももう子供じゃないんじゃ」

ゴーテル「自分で決めて…その結果困ったことになったり辛い思いをしても、それは人生において必要なことじゃ。ワシの方から手をさしのべたりはせんと…決めた。それがラプンツェルの為じゃ」

ゴーテル「じゃが…生死が関わっているとなれば別じゃ。腹を割かれるなど大事じゃのに心配をかけたくないからと黙っていられるのは…そりゃあ無念なことじゃぞ?」

ゴーテル「例えその結果ラプンツェルが死んでしまったとしてもワシはそのことを知ることさえできんのじゃからな。そんなことになればワシは自分を許せん」

キモオタ「確かに気を使われたあげく何もできないどころかなにも知らない間に大切なも者を失うなど…考えたくもありませんな」

ゴーテル「よいかキモオタ、ティンカーベル。これはお前たちにも言えることじゃぞ?」

ゴーテル「仲間同士何を遠慮することがある?何を気を使うことがある?困ったことがあるなら困ったと言えばいい、辛いなら辛いと叫べばいい。だってそうじゃろ?」

ゴーテル「親子なんじゃから仲間なんじゃから一緒に悩んで苦しめばいいじゃろ、自分だけで何とかしようとなんかしなくていいんじゃ」



150:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/09(土)00:37:49 ID:MN1

ゴーテル「…そうじゃろ?ティンカーベルよ」

ティンカーベル「えっ?」

ゴーテル「何も心配いらんぞ、お前にはキモオタもおる。それになにより世界一かわいい娘が仲間におるんじゃからな」ホッホッホ

ティンカーベル「…うん、わかった」

ゴーテル「わかっておるならええわい。ワシからの説教は以上じゃ」

キモオタ「なんというかあっさり終わりましたなwwwもっとネチネチと叱られ続けられるのかとwww」コポォ

ゴーテル「理解しているというのならそれで十分じゃわい。しかしお前がそういう説教を望むのならワシはそれでも一向にかまわんのじゃぞ?」

キモオタ「ちょwww望んでないですぞwww」コポォ

ゴーテル「ほれ、話が終わったなら行った行った。ほかの連中はもう動き始めておるんじゃぞ?お前たちもさっさと行かんかい!」

キモオタ「ちょwwwそう追い出さなくてもwwwしかしぼさっとしておる時間はありませんからなwwwではティンカーベル殿www我々も行くとしますかなwww」

ティンカーベル「うん、それじゃあまたね魔法使い!ゴーテル!」

ゴーテル「うむ、もうワシに説教なんぞされることがないように」

魔法使い「うむ、健闘を祈っておるぞ」

ヒュンッ



151:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/09(土)00:40:52 ID:MN1

・・・

ゴーテル「ふぅ、やはり老いぼれ二人だけとなると静かじゃな」

魔法使い「お主は…ラプンツェルのことばかり考えておる親バカだと思っておったが違うようじゃな」

ゴーテル「なんじゃいきなり、悪いが喧嘩を買うような元気はありゃあせんぞ?なんとか覚悟を決めはしたが…それでもラプンツェルの事を考えるともう心配で心配で…胸が張り裂けそうじゃわい」

魔法使い「その割にはティンカーベルの事を気遣っておったじゃないか、説教と見せかけて二人のために諭してやっていたように見えたが」

ゴーテル「お前にはお見通しというわけじゃな、まぁ…あの二人はお互いにズケズケとものを言い合っているように見えて案外気を使いあっておるからな、その解決になればと思ったんじゃよ」

魔法使い「ティンカーベルの…妖精の運命を知っておったんじゃな、お主」

ゴーテル「ワシはワシで色々と調べておるんじゃ、老いぼれにできるのは知恵袋の披露と相場が決まっておるし」

魔法使い「まぁそうだ、で…お主はどう思う?ティンカーベルが未だ生かされていることについて。小さくともあやつは世界移動も使えるし妖精の粉もある、早々に消しておいてアリス側に損はないはずだというのに」

ゴーテル「十中八九、キモオタを無力化するために生かしておるんじゃろうな。アリスにとってキモオタの能力影響力は未知数…となればいざという時、精神的に大打撃を与えるすべを用意しておきたい」

魔法使い「…それがティンカーベルの消滅。というわけだな、長い時をともに過ごし親しくなった友人を消されてはキモオタも平常心ではおれまい…」

ゴーテル「おそらくアリスはそれを狙い、能力の計り知れないキモオタへの最後の切り札としてティンカーベルをあえて生かしている…」

魔法使い「えげつない娘だ、などというのも今更な気もするがな」

ゴーテル「なんにせよもうワシ等にできることはありゃせん、突如別れがきた時にどうするか…それはあの二人次第じゃろ」

魔法使い「そうだな、心配しても仕方あるまい。ワシ等は今自分達にできることをするだけじゃな…」



152:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/09(土)00:45:07 ID:MN1

裸の王様の世界 裸王の城 地下牢

シーンッ……

ブリキ(……今、何時頃だろうか。ヘンゼルと約束を交わしてからどれ程の時間が流れたのだろう…数時間?数日?あるいは数ヶ月…?)ギシッ

ブリキ(時計も無く太陽の傾きも見えないこの地下牢では…俺に時を知るすべはない、時に流れすらもあやふやだ)

ブリキ(……あぁあいつ等と離れ離れになってどれくらいの時が流れただろうか。ドロシー…かかしやライオンは無事だろうか、辛い思いをしていないだろうか)

ブリキ(いいや…あいつ等は俺の自分勝手な行動に巻き込まれたんだ、辛い思いをしていないはずがない。俺のことを恨んでいるだろう)

ブリキ(だがせめて無事でいて欲しい。かかしはしっかりしてるから平気だろうが…ライオンとドロシーが心配だ。誰か親切な奴に出会えていればいいが…雨風はしのげているだろうか?食事はとれているだろうか?気が弱い連中だから良いように利用されてないだろうか?それと……)

ブリキ(……よそう、あまりに不毛だ。どれだけ不安に思おうと心配しようとこの牢から動けない俺には何一つできない、実に情けない話だ)

ブリキ(仲間のことを他人任せにするなど無責任だが…それでも今の俺にはそうするしかない。ヘンゼルの言葉を信じて今はただ待つことしかできない)

ブリキ(自業自得とはいえこの暗い地下牢で身動きがとれず、ただ思索に耽り自問自答する日々。思えばこの状況は…あの頃と似ている)

ブリキ(昔、森の中で突然大雨に降られ…間接が錆び付いて長い間動けなかった事があった。あの時も自分ではどうすることもできず自問自答を繰り返していた)

ブリキ(あの時錆び付いた俺に声をかけてくれたのが…偶然通りがかったドロシーだったな。ずいぶんと昔の話だが、あいつとの出会いは今でも鮮明に思い出せる)



153:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/09(土)00:47:00 ID:MN1

ずっと昔…
オズの魔法使いの世界 ブリキの木こりが暮らす森

ドロシー「あ、あのっ…お願いされたとおり小屋に行ってみたんですけどオイルの缶ってどれかわからなくて…すいません、こういうの詳しくなくて…すいません」オドオド

かかし「とりあえずそれっぽい缶を全部持って来たゾ、錆びに効くオイルってのはどれダ?」ガラガラ

錆びブリキ「すまない。その右から二番目の缶がそうだ、悪いが右腕の関節に差してくれるか?利き腕が動けば後は自分でやれる」

かかし「悪いけどドロシーがやってくレ。ただでさえ燃えやすい俺の体にオイルが染み込んだらもしもの時ヤバいからナ」

ドロシー「あっ、そうですよね…じゃあ私がオイルを差しますね、えーっと…右から二番目の缶…これですよね?」ヒョイッ

ツルッ ドバー

かかし「ぬわーッ!?」ビッシャ-

ドロシー「あぁーっ!すいませんすいません!言ったそばから…す、すぐに拭き取ります…!」バッ

かかし「お、おい!この辺オイルまみれなんだぞゾ!あんまり慌てて近寄るとお前…」

ズルッ

ドロシー「きゃあぁっ!?」ガシャーン

かかし「おいーッ!持ってきたオイルが全部…!お前ドロシーちょっと落ち着ケ!大惨事じゃねぇカ!」ベタベタ

ドロシー「あぁぁ…!すいませんすいません!」ドロドロ

錆びブリキ(……頼む相手を間違えた)



155:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/09(土)00:49:50 ID:MN1

チューッ キュッキュッ

ドロシー「…はいっ、これでどうでしょうか。右腕、動かせそうですか…?」

ブリキ「…ああ、問題なく動く。助かった、長い間動くことができずに参っていたんでな」グルングルン

ドロシー「あっ、それはよかったです…あのっこのまま別の関節にもオイルを差しましょうか?」ソッ

ブリキ「いや、自分でやれる。オイルの缶を渡してくれ……次は落とさないように頼む」

かかし「本当に気をつけて渡せヨ?これ以上オイルまみれになるのは御免だゾ」ベタベタ

ドロシー「うぅ…すいません」ショボーン

ブリキ(なんだか随分と頼りない娘だ。相当気も弱そうだ…見たところ旅の途中のようだがこんなんでよくやっていけるもんだな)ジーッ

ドロシー「あ、あの…私何かしちゃいましたか?」オドオド

ブリキ「いいや、この辺りを人が通るのは珍しいんでな。見たところ旅の途中のようだが…どこを目指している?」

ドロシー「えっと、あの、エメラルドの都です。大魔法使いのオズ様にお会いするためにかかしさんと二人…あっ、トトも入れたら3人ですね、3人で旅してて…」

トト「わうんわうんっ」

ブリキ「エメラルドの都…話に聞いた程度だがここからだとずいぶんと遠い。その魔法使いに何の用事があるのか知らないが過酷な旅になるぞ」

かかし「それでも俺達は行かなきゃなんねぇんだヨ。俺はオズに頼んで脳みそを貰うんダ、知恵さえありゃあ畑のカラスどもにバカにされねぇで済むしナ」

ドロシー「私は…オズ様にお願いして故郷のカンザスへ帰る方法を教えてもらうんです。エム叔母さんも心配してるだろうから早く帰らなくちゃ…」



156:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/09(土)00:53:16 ID:MN1

ブリキ「そうか、家族が待ってるなら帰らないとな」

ドロシー「は、はい…頑張りますっ!」

ブリキ(…この先には猛獣が出る森もある。妙なかかしが一緒だとしてもこの気弱な小娘が遠いエメラルドの都までたどり着けるとは思えない)

ブリキ(まぁ俺には関係のないことだ。こいつのドジに巻き込まれる前に礼を言って去ろう)

ドロシー「あ、あの…私も一つ聞いてもいいですか…?」

ブリキ「…なんだ?」

ドロシー「ブリキさんはその…どうしてブリキの体なんですか…?」

かかし「ン…?何言ってんダ?そいつはブリキの体だからブリキの体なんだろウ。ン?自分でもなに言ってるのかわかんなくなっちまっタ」

ドロシー「その、なんというか…かかしさんもですけど人間のように動けてお話もできるのにブリキの体だなんて初めて見たので…あっ失礼だったらごめんなさい」ペコペコ

ブリキ(常に謝ってるなこいつ…下手に言い渋れば無駄に謝られそうだな、それも面倒だ。素直に話してやった方が面倒も少ないか)

ブリキ「愉快な話ではないが助けて貰った礼に…聞きたいなら話そう。そもそも俺はブリキの木こりとして作り出された人形じゃない。昔は…元々は人間だった」

ドロシー「そ、そうなんですか…?なんだかすごいお話ですね、元々は人間だったのに今は全身をブリキで覆われているだなんて…いったい何でそんなことに…」

ブリキ「ある魔女の呪いを受けてな、その果てにこんな姿になっちまったというわけだ…話せば長くなるが」



157:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/09(土)00:57:58 ID:MN1

ブリキ「昔、俺がまだ生身の人間だった頃の話だ。俺はしがない木こりだったが…そんな俺を愛してくれた女がいた。そして俺もまた彼女のことを愛していたんだ」

ドロシー「相思相愛の恋人同士だったんですね…すてきなお話です…!」キラキラ

ブリキ「…俺達は愛し合っていてやがて結婚の話がでた、俺は結婚資金をためるためにそれまで以上に精を出して働いた。が、彼女の母親に結婚を反対されてしまった」

かかし「ほウ…?なんでまタ…人間は愛し合った男女で結婚するもんなんだろウ?なにを反対する理由があるんダ?」

ブリキ「彼女は母親と二人で暮らしていたが炊事やら洗濯やら娘任せだったようでな、家を出られてはそれらを全部自分ですることになる。それが面倒だったんだろう、ずいぶんと怠け者な母親だったらしいからな」

ドロシー「そ、そんな理由で結婚に反対するなんて…お、おかしいと思います…」

ブリキ「とにかくだ母親にとって俺は邪魔な存在になった。そこで魔女に依頼して俺に呪いをかけたんだ、斧を振るうと自らの身体を切りつけちまうそんな呪いをな」

かかし「おおゥ…そりゃあ木こりにとっちゃ致命的な呪いじゃねぇカ。頭がいい奴ってのはおかしな事を考えるもんだナ」

ブリキ「最初に切り落としたのは左足だったな、だが知り合いのブリキ職人に頼んでブリキ製の左足をあてがってもらった。だが呪いは消えちゃいない、次は右足で次いで両腕そして頭…俺は生身の部分を少しずつ失っていった。だが…それでもめげなかった」

ドロシー「……」

ブリキ「愛する彼女と結婚したかったからな、多少の困難は苦にならなかった。だがそんな日々が続き俺の斧は遂に胴体を切り裂いた。そして胴体をブリキ製にしたとき俺の身体から生身の部分は無くなってしまった…その時だ、あれほど愛していた彼女のことがどうでもよくなった」

かかし「そりゃあどうしてダ…?」

ブリキ「完全にブリキ製の体になってしまった俺は心を失ってしまった。生身の体と一緒に愛する心もなくしてしまったのさ」



158:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/09(土)01:01:31 ID:MN1

かかし「そりゃあ酷い話だナ…生身の体も心も失っテ、愛した女とも一緒になれねぇとハ…」

ブリキ「運がなかったのさ。それにこの身体もそれほど悪いもんじゃない、飯も食わずに済む眠らなくても済む。オイルを差さないと錆び付いてしまうのが難点だがな」

ブリキ「と、まぁ俺がブリキの体になった理由ってのはこんなもんだ。彼女は俺が心を失ったことを知らないだろうから今も俺のことを待っているかもしれないが…それすらもどうでもいいと思っている」

ブリキ「何しろ俺は心が無いブリキの木こりだからな。だがそれよりお前…大丈夫か?」

ドロシー「うぅっ…わだしのことはいいんでずよぉ…!ブリキざんは何もわるぐないのに…えっぐえっぐ…ひどいですよぉ…」ボロボロ

かかし「お、おウ…気持ちはわかるがお前の顔の方がひどいことになってんゾ…とりあえず涙拭けっテ…」

ドロシー「愛し合っていだのにどうでもよくなっちゃうなんて…ぞんなのあんまりでずよおぉぉ~」ボロボロ

ブリキ「…何故お前がそこまで泣く?お前が辛い思いをしたわけじゃないだろう」

ドロシー「えっぐえっぐ…それはそうですけどぉ…悲しいじゃないですか…ブリキさんだって…本当は悲しいはずですよぉ…ぐすんぐすん」

ブリキ「……」

ブリキ(何故この娘がこうも悲しむ?いや、他人の不幸に悲しむ理由などないはずだ。これは同情あるいは哀れみ…そういった感情だ、そうでなければ他人のために涙する理由など…ありはしない)

ブリキ(俺にはこの娘が涙を流すのが理解できない。だが…俺に向けられている感情が同情や哀れみだというならば、何故俺は今…少し救われた気持ちになった?)

ブリキ(俺に心は無いはずなのに、何故この娘の涙をみると…空洞のはずの胸がざわつく…?)



159:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/09(土)01:04:31 ID:MN1

かかし「もういい加減泣き止めっテ、気持ちはわかるが逆にお前の方が心配になっちまう程だゾ」

ドロシー「ぐすんぐすん…う、うん…ごめんなさい…」

ブリキ「お前たちは……かかしはオズに脳みそを貰うと言っていたな?」

かかし「おウ、頭よくなるのが俺の夢なんでナ。オズは大魔法使いらしいからそれぐらいのことは容易いだろうヨ」

ブリキ「オズに頼めば…俺も心をもう一度手に入れられるだろうか?」

ブリキ(今更だ。もうあれから一年以上たっているというのに…今更なにをしても遅い、そんなことはわかっている)

ブリキ(だが…俺の境遇に涙するこの娘の姿を見ていると…)

ブリキ(名前も忘れてしまった彼女の泣き顔を思い出す。あいつもずいぶんなお人好しで、他人の不幸に涙を流せる女だった気がする)

ブリキ「お前たちに話したせいかな、今になって昔愛した女の事が気になっちまった。今更だが…一度は失った心ってものに興味が沸いて来ちまった」

ブリキ「俺もお前たちと共にエメラルドの都へ…オズの元へ向かう旅に同行してもかまわないか?」

ドロシー「ブリキさん…!大丈夫ですよ、きっと!きっとオズ様なら心を与えるなんて簡単です!一緒に行きましょうっ」パアァァ

かかし「おウ、旅の仲間は多い方がいいからナ!」

ブリキ「ならば俺もお前たちとともに向かおう、オズが住むエメラルドの都へ」



182:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/16(土)00:22:32 ID:z8G

現在
裸の王様の世界 裸王の城 地下牢

ブリキ(懐かしい話だ、俺の旅はあそこから始まった)

ブリキ(あの日、見ず知らずの俺のために涙を流すドロシーを見なかったら…もう一度心を手に入れたいなんて考えなかっただろう)

ブリキ(森の奥で錆び付き動けず、朽ちるのを待つだけだった俺に目的を与えてくれたのはドロシーだ)

ブリキ(あいつの純粋な心に振れたからこそ、俺はかつて愛した女の事を思い出せた…もう一度会いたいと思えた。ブリキの身体になってなお生きる意味が見つかった)

ブリキ(俺はあいつに救われた、俺にとってはそれが全てだった。だからあいつがアリスに利用されていると知った時…俺は他の何を犠牲にしてでもあいつを守り、助けようと誓った。だが……)

ブリキ(その結果が…これだ)ギシッ

ブリキ(すべての世界を敵にまわした挙げ句、何一つ救えなかった。二人の友を巻き込んで大切な仲間を傷付けただけだ。おそらくドロシーはきっと今も世界のどこかで泣いているだろう…)

ブリキ(だがそれはあの日のような優しい涙じゃない。脅威に怯え、孤独を恐れ、苦痛に耐えきれずこぼした涙)

ブリキ(俺がもっとうまくしていればあいつはそんな悲しい涙を流す必要はなかった。それだというのに不甲斐ない、俺は、俺は……!)ギシッ

カツンッ

ブリキ「……誰だ?」ギシッ

裸王「私だっ!我こそがこの国を統べる筋肉の伝道師…裸王なりっ!」マッスルポーズ



183:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/16(土)00:25:03 ID:z8G

ブリキ「…誰も見ていないこんな場所でポーズをとる必要があるのか?」

裸王「無論っ!真のマッチョマンはその肉体美を披露するのに時や場所を選ばぬものなのだからな」マッチョ

ブリキ「…何用でここへ来た?王のお前が直々に出向いたという事はそれなりの用なのだろう?」

裸王「うむっ!その通りだ!だが本題に入る前にその拘束を解こうじゃないか、お前にはもう必要あるまいっ!」マッチョ

ガチャガチャ ギィッ

ブリキ「それは助かるが…構わないのか?俺はお前の兵を傷つけた悪党だ、王とはいえ独断で拘束を解くなど許されまい」

裸王「ハッハッハッ!裸王ノープロブレム!被害を受けた兵たちには了承を得ている、何かあれば私がすべての責任を負うと説得した
!さて何はともあれこの鎖を…ふんっ!」バキィッ

ブリキ「何故引きちぎった。ただ解けばいいだけだろうに」

裸王「ポージングで引き出される肉体美は素晴らしいものだ。だが筋肉の本質とは躍動によって輝く美しさ…そうは思わんかね?」ムキムキッ

ブリキ「…お前は筋肉の話をするために俺の元に来たのか?ならばあいにくだが俺には心も筋肉も無い、期待には応えられないぞ」

裸王「ハッハッハッ!生身の身体を持たぬお前と筋肉トークか!それは非常に心惹かれるがいい加減に本題に入らねばヘンゼルに渋い顔をされてしまいそうだなっ!さて…まずこれを渡しておこう」スッ

ブリキ「こいつは……錆止めオイルか?何故お前がこんなものを俺に…」

裸王「それは私からの贈り物ではないのだ。お前が地下牢に拘束されていると聞いて錆び付いていないかと心配した娘に渡すよう頼まれたものだ」

裸王「私の城で友と再会できることを待ち望んでいる、お前の友人にな」マッスルッ



184:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/16(土)00:28:08 ID:z8G


ブリキ「ドロシー…!ヘンゼルはもうドロシーを捜し出したっていうのか!?あいつに託したあの時からそれ程月日は経っていないはずだぞ!?」ガタッ

ブリキ「いいや、ドロシーに会えるのならそんなことはどうだって構わない!王よ、今すぐに俺をお前の城へ案内してくれ!すぐにでもあいつに会いたい、これからは側にいてあいつを守ってやらないといけないんだ俺は…!」バッ

裸王「うむ、気持ちはわかるが落ち着きたまえ!そのようなボロボロの体でドロシーの前に出てどうする、恐らく彼女はお前のことを案じて心痛めるだろうっ!」マッチョ

ブリキ「…確かにそうだ、俺のひしゃげた体を見れば優しいあいつは自分に事のように悲しむ。それは…俺も嫌だ」

裸王「不甲斐ないことにお前の体を今すぐに直せる職人は…魔法の力をもつ鍛冶屋はこの国にはいないのだ」

裸王「だがこのマントを羽織ればいくらかは誤魔化せるだろうっ!これは私からの贈り物だ、少なくともボロボロになったお前の体を覆い隠すことはできるっ!」バサッ

ブリキ「気を使わせてしまって悪いな、使わせて貰おう」バサッ

裸王「ハッハッハッ!そのマントは友好国から送られた品なのだが、私は筋肉を衣類で隠すのが嫌なのでな!代わりに使ってくれれば無駄にならずにすんで私としても助かるのだ!」マッスル

ブリキ「そうか…肌触りなんざ俺には解らないが上等な品なんだろう、礼を言う。しかしヘンゼルの姿が見えないな…ドロシーは既に城にいるのだろう?ならばあいつは何を…」

裸王「ヘンゼルはライオンとかかしの両名に城に来て欲しいと頼みに行くと言ってた。【アラビアンナイト】と【桃太郎】の世界にいるという情報をラプンツェルと桃太郎から得ていたのでな!」マッチョ

ブリキ「ま、待て待て!まさかあいつらの居場所まで突き止めたのか!?この短時間で一体…」

裸王「うむ、全て偶然と言ってしまえばそれまでなのだがな。私とヘンゼルは別件で【シンデレラ】の世界を訪れていた、そこには目的を同じくするラプンツェルや桃太郎も居たのだ」

裸王「キモオタ達が来るのを待っていた我等はその間軽く情報のやりとりをしていた、その際に聞いたのだ。彼ら彼女らが偶然かかしやライオンと出会い、行動を共にしていることをな」

裸王「折角居場所が分かっているのだ、お前とドロシーだけでなく四人揃って居た方がいいのではないかと思い…ヘンゼルは彼らに直接来てくれと頼みに行ったのだ」

裸王「過去が原因とは言え大人に対する態度は少々目に余る部分もある、だが心根は実に優しい少年だ。この裸王、感心しっぱなしだっ!」マッスルポーズ



185:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/16(土)00:33:57 ID:z8G

裸王「ライオンは【蛙の王子】の世界で桃太郎と出会い戦いに備え訓練をしていたらしい。かかしは【アラビアンナイト】の世界で勉学に励んでいるとラプンツェルが自信満々で言っておった、何故彼女が誇
らしげなのかはわからんがな?ハッハッハ」マッスル

ブリキ「それじゃあ何か…?アリスは俺たちを別々の世界へ無作為に飛ばした。そして偶然にもその先々で俺を含めて全員が、お前たちやキモオタの仲間とゆかりのある世界へ飛ばされたって言うのか!?」

裸王「ふむ、しかしそう驚くことでもあるまい。アリスはおとぎ話を消滅させて回っているのだからおとぎ話の数は極端に減っているはずだろう?」

ブリキ「それは間違いない、一時期と比べれば相当減っているはずだ。それには他でもない俺も関わっていたからな」

裸王「一方でキモオタ達はそれを防いで回っていた、故に今もなお残っているおとぎ話がキモオタ達とゆかりのある世界だという可能性は必然に高くなると言うわけだ!ハッハッハ」マッチョ

ブリキ「なんという偶然か巡り合わせか…いいや喜ばしいことに変わりはない、こうも早くあいつらに会えるんだからな」

裸王「うむ、ではそろそろ行こうではないか。おそらくヘンゼルも二人を連れて城に戻っているだろうからなっ!」マッスル

ブリキ「…あぁ、そうだな」ギシッ

裸王「むっ?どうかしたかね?」

ブリキ「あいつらに一刻も早く会いたい。その気持ちはあるのだが、この事態を招いたのは俺の責任…今になってどのような顔で会えばいいのかと考えてしまった」

裸王「ハッハッハ!ドロシーも言っていたが…お前に心が無いというのはどうも信じられんな!ハッハッハ!」

ブリキ「そういわれてもな、実際俺には心が無い。ブリキの体に心など存在しないのだからな」

裸王「ハッハッハ!心配せずとも仲間達もお前の考えや行動を汲むくらいの心は持ち合わせているだろう?」

裸王「それにドロシーもお前に会いたがっていたぞ、おそらくは仲間達もだ。あれこれと考えるまでに会いに行った方が早いぞっ!」

裸王「多くを語らずとも親しい仲間ならば、顔を合わせるだけで伝えられることもあるだろう?案ずるより生むが易し!私も付き添うぞ!さぁ案内しようではないか、我が城を!」ハッハッハ



186:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/16(土)00:36:36 ID:z8G

同じ頃・・・

おとぎ話【ライオンとねずみ】の世界 森の奥地

人魚姫の声『何これ何これ!右も左も木、木、木!あと花!うぅ~見たこと無い光景にちょーテンション上がるんですけどぉー!』ウキウキ

赤ずきん「見慣れない風景にワクワクする気持ちは分かるけど少し落ち着いたら?あとでバテても知らないわよ?」フフッ

赤鬼「まぁいいじゃねぇか、俺達はそうでもねぇが人魚姫には珍しいんだろ。海の中に森はねぇからなぁ」ハッハッハ

人魚姫の声『そうそう!それにさ今の私は空気の精なわけじゃん?こういう空気のきれいな場所は過ごしやすいんだよねー」ヘラヘラ

赤ずきん「それは結構なことだけど、はしゃぎすぎて警戒を怠っては駄目よ?」

人魚姫の声『えー?警戒ー?こんなに静かで穏やかな森なのに何を警戒する必要があんのさー、海と違って凶暴な鮫も鯨もいないしさ~余裕余裕ー』ヘラヘラ

赤ずきん「あなたが知らないだけで森は危険だらけなのよ。凶暴な野生生物だっているかも知れない、例えば狼とかね」

人魚姫の声『オオカミ…?なんか聞いたことがあるようなないような…』ハテー?

赤鬼「狼ってのは森に住む獣だ、鋭い牙を持っていて獰猛な性格の奴が多い。おとぎ話の筋書きの中じゃ大抵悪役として出てきて主人公を食っちまったりするなぁ」

人魚姫の声『へーっ、森にも鮫みたいな凶暴な生き物がいるんだねー。聞いた感じヤバそうだけど、もしかしてかなり警戒した方がいい系?』

赤ずきん「そうよ、この世界の狼がどうかは知らないけど…【赤ずきん】の狼は人語を理解する知能があったし、元々の筋書きでは私を確実に食べるために狡猾な作戦まで練る…恐ろしい獣よ」

赤ずきん「基本的に群で行動するらしいから囲まれでもしたら厄介よ。各々きちんと警戒しながら進みましょう」



187:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/16(土)00:43:32 ID:z8G

赤鬼「おう、それに森の中ではぐれちまったら厄介だ。特にお前は俺達からでさえ姿が見えないんだから、注意してくれよ?」

人魚姫の声『はいはーい!でもさぁ、森が危険なことも油断しちゃだめなこともわかったけどさぁ、だからってずっとピリピリしてるってのもつまんなくない?楽しくいこうよせっかくだしさぁー』ヘラヘラ

赤ずきん「警戒しろって言った側からあなたは……けれどまぁ気持ちは分からなくもないわ」

人魚姫の声『そうっしょ?なんか楽しい話でもしながら進んだ方が楽しいって!』ヘラヘラ

赤鬼「しかし楽しい話っつってもなぁ……それよりも赤ずきん、なんつぅか聞きそびれちまってたんだけどな。この世界が舞台の【ライオンとねずみ】っておとぎ話、どんな内容なのかまだ聞いてなかったよな?」

赤ずきん「あら、言ってなかったかしら?」

人魚姫の声『あっ、ホントだ。あたしもまだその話聞いてないや、ちょうど良いから教えてほしいんですけどー?』

赤ずきん「そうね、きっともう結末は迎えているんでしょうけど…このおとぎ話がどんな内容なのかは知っておいた方がいいわね。それじゃあ少し聞いて貰おうかしらr」

グオォォォォッ!

赤鬼「なんだぁ!?森の奥の方から獣のうなり声が聞こえたぞ!?」

赤ずきん「…この鳴き声!」バッ

人魚姫の声『ちょ、ちょっと!どーしたっての赤ずきん!?』

赤ずきん「間違いない…この鳴き声は狼のものよ!きっと誰かが狼に襲われてる!助けにいってくる、悪いけれど話の続きは後よ…!」タタッ



188:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/16(土)00:46:13 ID:z8G

狼「グオオオォォォッ!!」ガルルルッ

狩人のおっさん「ひ、ひえぇ…!お助けぉぉー!」ジタバタ

狼2「ガアァァッ!」グワーッ

狩人のおっさん「ひえぇぇっ!くっ、もう弾丸も切れちまってる…!こんな事になるなら欲を出して森の中に入ったりするんじゃなかった!」

狩人のおっさん「この森に大層立派なライオンが住むって聞いたから毛皮を剥ごうと思って狩りに来たってのに…畜生!金に目が眩まなけりゃこんな事にはぁぁ!!」

狼3「グルルッ…グオオォォォッ!!」ババッ

狩人のおっさん「クゥッ、万事休すか…!」

ズダーン ズダーン ズダーン

狼達「ガウゥ…!ガルアァァ…!」ジタバタ

狩人のおっさん「な、なんだぁっ!?誰か助けてくれたってのか!?」

スタッ

赤ずきん「…1、2、3匹。狼の群にしては少ないわ。かといってアイツのように一匹狼ってわけでもなさそうね」ガチャッ

狩人のおっさん「女の…子供!?今の攻撃はおめぇがやったのか!?子供だってのになんて的確な射撃だ…!」

赤ずきん「誉めてくれるのはありがたいけれど、今のうちに逃げなさい。狼共は引き受けてあげるけれど…あなたの命の保証まではしかねるから」スッ



189:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/16(土)00:48:33 ID:z8G

狩人のおっさん「そ、そういうことなら…嬢ちゃんすまねぇが後は頼むぞ!」ドタバタ

赤ずきん「…さぁ、私が相手になってあげるわ。一発の弾丸で倒れるようなヤワな体じゃないでしょう?ほら、さっさと掛かってきなさいな」フゥ

狼1「ググッ…グルルラァァ!」バッ

赤ずきん「あらあら、随分と怒っているみたいね。私が食事の邪魔をしてしまったからかしら?」ズダーン

狼1「グ、グオォ…」ドサッ

赤ずきん「あと2匹…。もう人を襲わないなら見逃してあげる、私は狼に因縁があるけど…逃げる相手を追撃したりしないわ」

狼2&3「…グルオォォォッ!」ババッ

赤ずきん「逃げるつもりは無し…それよりもあのおじさんの代わりに私を食べようって事?やめておきなさい。私なんか食べたら…」ガチャッ

ズダーン ズダーン

狼達「グルルァ…」ドサドサッ

赤ずきん「お腹を壊してしまうわよ?あぁ…腹痛という意味じゃなくて物理的に、ね」スタッ



190:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/16(土)00:51:46 ID:z8G

赤ずきん「見知らぬ相手でも狼に襲われているとなると他人事とは思えないわね…。早く赤鬼達のところに戻りましょうか、本格的にはぐれては面倒だものね」スタスタ

・・・

ネズミお嬢「今の光景…ご覧になりまして?ライオンおじ様?」ガサガサ

ライオンの王「あぁ、勿論だとも。この森は危険だという噂が広がり、近頃では足を踏み入れる者も減ったと思っていたが…愚かな人間共は後を絶たないようだ」ガサッ

ネズミお嬢「そうですわね…それにあの赤いずきんの娘、可愛いなりをしていながら狼を攻撃する時は確実に狩る側の目をしていましたわ…少女といえども油断なりませんわよ?」

ライオンの王「勿論だとも、どのような相手だろうと侮ってはならないことはお前との一件で学習したのだ。決して油断してはならぬ、少女といえど猟銃を構えるというのならば…それは狩人に他ならない」

ネズミお嬢「…相手が狩人だというのならば、私達がとる手段はひとつですわね」

ライオンの王「うむ、我々も狩りはするが…それは生きる為食う為だ。道楽や自分たちの利益のために必要以上の命を奪う奴等とは本質が違う。黙って見過ごしてはおけん」

ネズミお嬢「でしたらいつものように返り討ち、ですわね?」

ライオンの王「うむ、この森には戦う手段を持たぬ者も多い、平和を脅かす余所者は我々が駆逐せねばならん。戦う覚悟と力を持った者がな」

ネズミお嬢「もちろんですとも!でしたらおじ様!いつもの奴をやりましょう!」

ライオンの王「戦いの誓いだな?いいだろう、では…」スッ

ネズミお嬢「私はすばしっこい小さな体と鋭利な前歯を武器に…!」

ライオンの王「我は鋭い牙と雄々しき体躯を武器に…!力の限り戦い、必ずやこの森の平和を守り、皆のための安寧を手に入れよう」

ネズミお嬢「必ずや愚かな狩人の娘を捕らえて血祭りにあげてやりますわっ!それではおじ様と私のゴールデンコンビ…森の平和を守るために出動ですわよっ!」ハイターッチ!

ライオンの王「うむ、この森は我々の領域。欲に溺れ足を踏み入れた愚かな狩人共に目にものみせてやろうではないか」ハイターッチ!



196:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/18(月)00:20:34 ID:bKA

赤鬼「狼の鳴き声はこっちから聞こえたと思ったが…どこだ?赤ずきんの奴急に飛び出していくもんだから見失っちまったぞ…」キョロキョロ

人魚姫の声『空から探そうにもこんなに木が多くちゃなぁ…あっ、赤鬼!あの赤いのそうじゃね?赤ずきーん、こっちなんですけどぉー!』

赤ずきん「あら、ここに居たのね」スタスタ

人魚姫の声『「ここに居たのね」じゃないんですけどー!急に飛び出して行ったらびっくりすんじゃん!』

赤ずきん「それは悪いことをしたわね。でも一歩遅れていれば一人の狩人が狼の餌になっていた…それを防ぐことは出来たのだから大目に見て頂戴」

人魚姫の声『それはいい事したと思うけどさぁー、狼は危険な獣だって聞いてたしこっちは心配すんじゃん!赤鬼だってそうっしょー?』

赤鬼「まぁそうだが、無事だったからいいじゃねぇか。その様子じゃどこも怪我なんかしてねぇんだろ?」

赤ずきん「狼に遅れなんかとらないわ。それよりもこのおとぎ話の主人公達を探しましょう、時間は無いのだし」

人魚姫の声『了解了解ー。でもちょーっとだけその狼達も可哀想だよねー、誰か襲わなきゃご飯にありつけないわけだしさー。あっ、別に赤ずきんを責めてるわけじゃないかんね?』

赤鬼「まぁ言いたいことはわかるぞ、自然界じゃ弱肉強食が基本だ。襲われる方が悪いと言えばそれまでだが…やっぱりこっちとしちゃあどうしても人間の味方をしちまうよな」

赤ずきん「狼にとっても生きるために必要な行動なのはわかってるわ。だけどそれは黙って食べられる理由になんかならない、牙を剥くなら迎え撃つだけ」

赤ずきん「たとえ見ず知らずの他人でも、狼に襲われているのなら当然助けに入る…私は故郷の村を狼に襲われたから特にそう思うのでしょうね」



197:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/18(月)00:22:13 ID:bKA

人魚姫の声『うんうん、海中じゃあ人魚も鮫には困ってたしねー』

赤鬼「鮫ってぇと確か鋭い牙を持った肉食の魚だったか?」

人魚姫の声『そうそう!人魚も魚も基本的にはお互いを食べないから共生出来てたけどさ、鮫は別だったなー。赤ずきんみたいに鮫に家族を食べられて恨んでる人魚は結構居たしさ』

赤ずきん「海も陸も変わらないのねそのあたりは。けれど当然よ、家族や村の仲間を奪われたのなら…どんな理由があろうとも納得なんかできないもの」

赤鬼「だがそう考えるとおいら達鬼は熊を捕って食ったりもするわけだ、そりゃやっぱ熊からは恨まれてんだろうななぁ…」

赤ずきん「そうかもね。でも私も野ウサギはよく口にしていたし、それを言ってしまうと……ね」

赤鬼「鬼と人間と共存とか言って他の動物は食ってるじゃねぇかって言われると、反論できねぇな……」

赤ずきん「……人間を襲う狼は駄目でウサギを食べる私達は大丈夫、なんて都合良すぎるものね」

二人「……」

人魚姫の声『あははっ!今更そんな事気にしたってしょうがなくない?昔姉ちゃん言ってたよー?生きるために何かを食べるときはその命に感謝しなさいって、それで良いじゃん!気にすることないってー』ヘラヘラ

赤ずきん「…私はたとえ狼が感謝していたとしても、家族を食べられたことを納得できないけどね」ボソッ

赤鬼「お、お前この流れでそれ言っちまうとどうしようもねぇじゃねぇか…」



198:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/18(月)00:24:02 ID:bKA

ライオンの王「いいや、お前の言葉は正しい。赤き頭巾の狩人よ」ザッ

人魚姫の声「あれってライオンじゃね…!あれライオンだよね?もしかしなくてもあたし達が探してる奴なんじゃね?喋ってるし」

赤鬼「おそらくな…だがいつの間に、あれだけの巨体が動けばそれなりに気配がするもんだぞ?」

赤ずきん「…どちらでもいいじゃない、些細な問題よ。出向いてくれて助かったじゃない探す手間が省けたのだし」

ライオンの王「ほぅ、人語を操る我を見て驚かぬ人間は初めてだ。大抵驚愕するか、珍しさから躍起になって捕らえようとするものだが」

赤ずきん「あぁ…私達は普通の人間じゃないのよ。それよりも出会えて嬉しいわ、私達はあなたのことを探していたの」

ライオンの王「そうであろうな、この森に足を踏み入れる人間は全て同じ目的だ」ザッ

赤ずきん「それ…どういう事かしら?」

ライオンの王「狩人の目的など知れている。我等、森に住む者達の捕縛あるいは殺戮…お前の目的もまた同様のものだろう?」

赤ずきん「待って頂戴、それは違うわ。私達はあなたに危害を加えるつもりはない、それに私は狩人なんかじゃないわ」

ライオンの王「ほう、狩人では無い?解せんな、罠で我等を騙し捕らえるお前たちにしては随分と稚拙な嘘だ……」ビュッ

赤鬼「マズい!あのデカさでなんて素早さだ…!赤ずきん!」バッ

ガバッ

赤ずきん「くっ…!」ズサーッ

ライオンの王「狩人では無いならばそのマスケットは何だ?それは我等を殺す道具、貴様が狩人であり…我々の敵である証拠ではないか」グワッ



199:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/18(月)00:26:59 ID:bKA

人魚姫の声『ちょ、それは誤解だっての!…あぁ、あたしの声は届かないんだった!赤鬼!』

赤鬼「あぁ!そいつぁ誤解だ!そいつは確かにマスケットを持っちゃいるが狩人なんかじゃねぇんだ!放してやっちゃくれねぇか!?」

ライオンの王「それは無理な相談だ、お前たちを逃がせばこの森に住むもの達は蹂躙され殺される。王として我は見過ごすわけにはいかぬ」

赤ずきん「くっ…私達はあなたたちを襲った人間とは違うの!だからお願いよ、話を聞いて頂戴!」

ライオンの王「命乞いに耳を貸すつもりは無い。お前たち狩人は仲間達の無念の叫びに耳を傾けたことがあるか?あるはずなかろう、我と違い皆は人語を操れぬからな」

ライオンの王「報いを受けよ赤き狩人よ。その身体、我等の血肉となるべく捧げろ」グワァァ!

赤鬼「クソォ!そっちが聞く耳もたねぇってぇなら仕方ねぇ!うおおぉ!」バッ

ビュオンッ

ライオンの王「本性を現したか狩人の仲間よ。それで良い、敵意が無いフリなどまどろっこしいだけだ」スッ

赤鬼「お前たち森の連中が狩人に酷い扱い受けたってのは同情するが、こいつは本当に狩人じゃねぇ!そこは信じてやれねぇか!?」

ライオンの王「今更そんなことを議論する必要はあるまい。我は牙を剥き、お前はそれに応じた…あとはどちらかが餌食となるだけだ」ビュッ

赤鬼「うおぉっ!だから話を聞いてくれ!」ガキン

人魚姫の声『あいつ今度は赤鬼に!あぁもう、何も出来ないとか…悔しい!赤ずきん!あいつなんとかしてくんない!?』

赤ずきん「そうね…でもマスケットを使えば彼らの疑心は深まるばかりよ、何か別の手段を…!」



200:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/18(月)00:29:05 ID:bKA

ビュンッ ガキィンッ

赤鬼「ぐぅっ!なんて力だ!これじゃいつまでもつかわかんねぇぞ…!」

ガアァ ビュバッ

ライオンの王「防戦を演じれば我の隙を誘えるとでも思っているのか?無駄だ、防ぐばかりで押されているではないか」ズバッ

赤鬼「くっ…!赤ずきん!これじゃあ埒があかねぇぞ!残念だがもう諦めたほうがよくねぇか!?」ガシィッ

赤ずきん「誤解を残したまま逃げるのは心残りだけど、そんな事は言ってられないわね。残念だけどここは…」

ライオンの王「逃すはずがなかろう。男よ、貴様は随分と頑丈なようだが…これで終いだ」ググッ

ドガッ

赤鬼「突進…!だがそれなら受け止めちまえば……うおぉっ!?」ズサーッ

人魚姫の声『えぇっ!?赤鬼が消えたんですけど!?どゆこと!?』

赤ずきん「落とし穴…!赤鬼を攻撃しながらそっちへ誘導していたのね!?」クッ

ライオンの王「以前訪れた狩人が仕掛けた卑劣な罠だ。この森にはまだいくつも存在する、今の我にとってはお前たちを捕らえる道具でしかないがな」グルルッ



201:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/18(月)00:31:02 ID:bKA

赤鬼「くっ…なんて深く掘りやがったんだ、出られねぇことは無さそうだが容易くは無ぇぞ!」

ライオンの王「お前たち狩人が我々に向けた悪意の深さだ、容易くは出られまい」

赤ずきん「…人魚姫、私の側へ。赤鬼を連れてすぐに別世界へ逃げr」

ライオンの王「言ったはずだが?逃がさんとな」バッ

赤ずきん「…退きなさい。私は彼と共にこの場から去る」

ライオンの王「やってみせよ、だが我はそれを必ず阻止する。狩人は一人たりとも帰さん」

赤ずきん「私は狩人じゃないわ、けれどあなたが私の大切な友人を帰さないというのなら…」

ガチャッ

赤ずきん「なってやろうじゃないの、狩人に」

ライオンの王「ふん…ようやく狩人らしくなったではないか、赤き狩人よ」

赤ずきん「後悔なさい、私は素人だけどこのマスケットは…ただの猟銃じゃないわよ?」



202:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/18(月)00:36:33 ID:bKA

ライオンの王「御託はいい、引き金を引け赤き狩人。銃弾を浴びれば我は倒れ、そうでなければ貴様に食らいつく…ただそれだけだ」

赤ずきん(気は進まないけど…赤鬼を助けることが優先だもの、せめて急所は外して……)

赤ずきん「いいわ、あなたを倒さなければ彼を救えないのなら私はそうするだけよ。……っ!?」ビクッ

ズダーン スカッ

人魚姫の声『えぇーっ!?ちょ、盛大に外してるんですけど!?赤ずきん一体どうして…』

赤ずきん「やられたわ…!服の中に何か潜り込んd…ひゃぅ!」ビクッ

人魚姫の声『いやいや何かってなんなの!?…あっ、もしかしてあのライオンがこのおとぎ話の主人公っていうなら、その相棒の…!』

赤ずきん「くっ…!いつまでも人の服の中に潜んでないで出て行きなさこの…!」グッ

スサササッ ガジッ

ネズミお嬢「あらあら、私のくすぐりに耐えるなんて随分と我慢強い娘さんですこと!でも、これならどうでして?」スサササッ

赤ずきん「ひゃう…!…こんな事で無力化されるなんて屈辱だわ…!これじゃあ狙いを定めるなんて…」クッ

ネズミお嬢「あいにくですけどおじ様は私にとって大切な方なのですわ!狩人の餌食になど決してさせませんわよ?」

ネズミお嬢「おじ様は恩人であり私のパートナー!指一本弾丸一発振れさせませんわよ!」



203:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/18(月)00:39:54 ID:bKA

ライオンの王「さて、では仕上げといこうか。お嬢、構わんな」ググッ

ネズミお嬢「いいですとも!」スサササッ

赤ずきん「くっ…!」

人魚姫の声『赤鬼の時と同じ突進の構えじゃんあれ!うぅっ、赤鬼!どうすんの!?空気の精の私じゃなんにも…!』

赤鬼「落ち着け、お前は悪かねぇ!だがすぐに出られそうにないんだ、赤ずきんは何とか耐えられねぇか!」ヨジヨジ

赤ずきん「そうは言ってもね…このネズミがそうさせてくれないのよ…!」スサササッ

ライオンの王「では赤き狩人よ、終いにしよう」ドガッ

赤ずきん「…っ!」ドサッ ビュンッ

バサーッ!

人魚姫の声『あぁ…!赤ずきんがなんか網で吊し上げられた!』

赤ずきん「くっ、身動きがとれない…!」

ネズミお嬢「そうでしょうとも!これは獲物を網で捕らえて吊す罠!自分の体重が掛かることで縄が体に食い込んで身動きがとれない、そういう代物でしてよ!」

ライオンの王「かつて我を苦しめた罠と同様のものだ。これでようやく気がついたか、赤き狩人よ」

ライオンの王「この森は我等の領域、ここでお前たちは狩る側ではなく、狩られる側だと言うことにな」



204:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/18(月)00:43:06 ID:bKA

ネズミお嬢「男は落とし穴に、そして狩人は網の罠!私達の勝利ですわ!おじ様、やりましたわね!」ハイターッチ!

ライオンの王「うむ、人間共が仕掛けた罠で捕らえられるとはいい気味だなお嬢よ」ハイターッチ!

ネズミお嬢「全くですわね!捕らえられた皆の恨み、思い知れですわ!」プークスクス

赤ずきん「あなた達のやってることは狩人のそれと何が違うのよ、お互い様に見えるけれどね。私には」

ネズミお嬢「なんとでも言えですわ!マスケットがなければお前なんてただの人間の娘、おいしく頂いてやりますわ!」

ライオンの王「さて、どうしてくれよう。とりあえず息の根を止めて…先ほど無念に倒れた狼達の家族に分け与えようか」

ネズミお嬢「いいですわね!そういえば西に住んでるキツネの奥さん出産が近いみたいですわよ、娘の方はそのお祝いにいたしましょう!」

ライオンの王「良い考えだ。では早速娘の方から息の根を…」

赤ずきん「…赤鬼、人魚姫。少し席を放すわ…悪いけれど待ってて頂戴、すぐに戻るから」

赤鬼「…あぁ、そういうことか。まかせろ!」

人魚姫「あっ、なーんだ、その手があったね普通に!オッケー、なんもできないけど待っとくー」ヘラヘラ

ネズミお嬢「余裕ぶるのも大概にするのですわ!その網の罠からは決して……」

赤ずきん「私が敵じゃないという証人を連れてくるわ。少し待っていて、彼に危害を加えたら…許さないわよ」ヒュンッ

バサッ



205:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/18(月)00:46:30 ID:bKA

ライオンの王「なんだと…赤き狩人が消えた!?」

ネズミお嬢「ど、どういうトリックですの!?」

赤鬼「別のおとぎ話の世界に行ったのさ、おそらく【ブレーメンの音楽隊】だろう」

ライオンの王「ぬぅ?お前たちもおとぎ話の世界の住人だったか…だが我等に仇なす狩人であることには変わりない」

ネズミお嬢「わざわざこのおとぎ話の世界へ来ておじ様を捕らえるつもりだったのですわよ!きっと!」

赤鬼「違うってのに…まぁもうじき信じるしかなくなると思うぞ、赤ずきんとブレーメンの音楽隊は顔見知りだ。実際…音楽隊の連中はこの世界に来たんだろ?」

ライオンの王「あの愉快な音楽隊なら我の仲間達を楽しませて満足そうに去っていったが…その手引きを赤き狩人がしたというのか?」

赤鬼「あぁ、以前世話になったお礼に演奏したがってるあいつらをこの世界へ送ったって言ってたからな」

ライオンの王「デマカセには聞こえんな…本当にあの音楽隊の仲間だというなら、狩人でないという言葉も…真実やもしれんぞ」ヒソヒソ

ネズミお嬢「そうですわね…でもまだそうと決まったわけではないですわよ!」ヒソヒソ

ライオンの王「うむ、もしも真実ならば我々がしたことは非常に無礼な振る舞い、謝罪が必要だ。だが…狡猾な嘘は人間の十八番、援軍を呼ぶための口実かもしれん、ここで下手に出るのは下策」ヒソヒソ

ネズミお嬢「ですわね、はっきりとした真実がわかるまで油断してはいけませんわ!よってまだ謝る必要もなし!ですわね!」



206:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/18(月)00:51:08 ID:bKA

・・・小一時間後

ライオンの王「まさかお主等が本当に狩人ではないとは…そうと知らずに申し訳ないことをした、すまない」ペコリ

ネズミお嬢「散々調子乗った事言って申し訳ありませんですわー!」ペコー

赤ずきん「いいのよ、わかってくれたなら。こうして赤鬼も解放してくれたんだし」

赤鬼「なりゆきとはいえ俺達も手を出しちまったしな…ここはひとつお互い様って事にしねぇか?恨みっこなしだ」

ライオンの王「おぉ、我々の勘違いで被害を被ったというのになんと懐の深い男だろうか…!」

ネズミお嬢「感謝感激ですわね!おじ様!」

赤鬼「いいってのに、それよりあんたたちに話が聞きたいんだ。どこか話ができそうな場所に案内しちゃくれないか?」

赤ずきん「……」フゥ

人魚姫の声『んー?ため息なんかついてどーしたわけ?大きな怪我もなくって皆無事で良かったじゃん!』ヘラヘラ

赤ずきん「また彼等に借りができてしまったと思ってね。ライオン達に説明して貰った後さっき元の世界へ送り届けたとき言われたわよ、また新しいライブの場を準備してくれって」

人魚姫の声『あははっ、足元見るねぇ』ヘラヘラ

赤ずきん「まぁいいんだけどね…世話になったのは事実だし」

人魚姫の声『そーいえば結局さ、この世界の【ライオンとネズミ】ってどんなおとぎ話なの?聞きそびれちゃってたしさ、教えてよ。あの二人があーなったのもそういう筋書きだからっしょ?』

赤ずきん「教えるのは良いけどもうこうなったら二人に直接聞いた方がいいんじゃないかしら?その方が詳しく聞けるでしょうし」

赤ずきん「【ライオンとネズミ】がどんなおとぎ話なのかをね」



229:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/24(日)00:47:05 ID:ruY

ライオンとねずみの世界 ライオン達の住処へ向かう道中

ライオンの王「ほう、我等のおとぎ話【ライオンとねずみ】の筋書きを聞きたいと?」ノシノシ

赤ずきん「えぇ。どうやら人魚姫が興味あるみたいなの、私が教えても良かったんだけど…本人がいるのだしどうせならあなた達に話して貰った方が良いと思ってね」スタスタ

ネズミお嬢「確か人魚姫っていう空気の精霊さんがその辺にふわふわしてるんでしたわね!私達のおとぎ話に興味を持ってもらえて嬉しいのですわ!」

人魚姫の声『おとぎ話自体にはそんな興味ある訳じゃないけどさー。まっ、人間と人魚が仲良くできるのを願う私としては気になっちゃうわけですよー、ライオン達の仲良しの秘密って奴がさー』ヘラヘラ

赤鬼「オイラからも頼む。是非お前たちのおとぎ話を聞かせてくれ、お前たちがあれほどの連携をこなせる秘訣って奴が気になるからな」

ライオンの王「うむ、よかろう。我等の住処まではもうしばらく歩くことになる、その道すがら話そうではないか」

ネズミお嬢「しっかし照れますわねー!このおとぎ話を語るということは必然的に私の活躍を語ることになりますもの!」

赤鬼「照れるなんて言ってる割には誇らしそうだな?」ガハハ

ネズミお嬢「もちろんですわ!照れはするものの誇らしいことに変わりはありませんもの!私の活躍に刮目せよ!」フフン

ライオンの王「さてどこから語るとするか…改めて思い起こせばもう随分昔の事のように感じるものだ。どちらにしろお嬢が今より多少は可愛げがあった頃の話になるだろうか」フフッ

ネズミお嬢「なっ!?今でも私は可愛らしいお嬢様でしてよ!?今も昔も変わりなく、ですわ!」ポカポカ

ライオンの王「ははっ、それは失礼。…と、今でこそ我等はこの様に冗談を言い合える仲だが…お互い初対面の印象が最悪だったことはよく覚えている、なぁお嬢?」

ネズミお嬢「えぇ!ぶっちゃけ殺されると思いましたわ!」

ライオンの王「あぁ、実際我はお嬢を殺すつもりだったのだ。見知らぬねずみの娘に眠りを妨げられたことに相当腹を立てていたからな」

赤鬼「おいおい、眠るのを邪魔されたくらいで…そりゃあやりすぎじゃねぇか?」

ライオンの王「あぁ、その通りだ。恥ずかしながらあの頃の我は未熟でな…そう思う事ができなかったのだ、自分自身がもっとも優れた王者だと思いこんでいたのでな…」



230:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/24(日)00:48:41 ID:ruY

随分と昔
ライオンとネズミの世界 森の中

ビュッ

ネズミ「うぐっ!」ガシッ

ライオンの王「百獣の王たる我の背を横切るとはいい度胸だ。当然、その命を置いていく覚悟あっての振る舞いであろうな…?」ギロリ

ネズミ「わーっ!すいません!ちょーっと慌ててて前をよく見てなかったんですぅ、悪気とかこれっぽっちもなかったんです!」

ライオンの王「故意かどうかなど我には関係の無いことだ。だが貴様のようなネズミ風情が王たる我の眠りを妨げたことは動かぬ事実…王者を軽んじるその行為、万死に値する」

ネズミ「いやだからうっかりなんですって!勘弁してくださいって!」

ライオンの王「貴様など喰らっても腹に足しにもならんが…我が尊厳に傷を付けた償いはして貰おう。その命、我が血肉となるべく捧げよ」グアッ

ネズミ「ちょ、ちょーっと待ってください!命だけは勘弁してください!あっ、そうだ!一つ提案させてください!」

ライオンの王「提案だと…?よかろう、言うだけ言ってみるがいい」

ネズミ「はい!私を逃がしてくれたら必ずライオン様に恩返しします!絶対です!」

ライオンの王「…恩返し?」

ネズミ「はい!私なんか食べでもすぐにお腹空くし意味ないですって!だからここは私を逃がして恩返しして貰う方がずっとお得ですよ!そうしましょう!ねっ?」



231:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/24(日)00:52:08 ID:ruY

ライオンの王「……ふっ」

ネズミ「?」

ライオンの王「フハハハッ!何を言うかと思えば恩返しだと?貴様のような小さなネズミの娘が!百獣の王である我に恩を返す?
ハッハッハッ!愉快なことを抜かす小娘よ!」

ネズミ「はい!それはもうバッチリ恩を返させてもr…うぐぅっ!」

ガッ

ライオンの王「この期に及んで我に舐めてかかる気概は認めてやろうだが…命惜しさに適当なことを抜かすなよ小娘?貴様に何ができる?我の爪の先ほどの身体しか持たぬちっぽけな貴様に」ギロリ

ネズミ「それは…今から考えます!」キリッ

ライオンの王「……愚か者が、冥界にて己の愚行を悔いていろ」グアァァ

ネズミ「うわー!すいませんでした本当すいませんでした!もう何でもするんで助けてください!まだ死にたくないんです!ご勘弁をご勘弁をー!うわー!誰かー!この哀れなネズミをお助けくださいー!ぎゃー!ぎゃー!おかーさーん!」ウワァァ

ライオンの王「……チッ、やかましい小娘が」ポイッ

ネズミ「べぶっ!ちょ、顔面打ちましたよ!?あっ、でも見逃してくれるって事ですよね?うわー、嬉しいです!ありがとうございます!」

ライオンの王「貴様の声は耳につく。ギャーギャーと怯えて喚く貴様の顔を見ているうちに食欲が失せた、それだけだ」フイッ

ネズミ「微妙に失礼な気がしますけど…でも助かりました!よっ!さすが王様!」

ライオンの王「次は無いと思え。王たる我に無礼を働いたことを悔い、その姿を二度と我の前に晒すな」ノシノシ



232:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/24(日)00:53:31 ID:ruY

それから数日後 同じく森の中

ギャーギャー

ライオンの王「フハハハッ!群れで挑めば適うとでも思ったか雑魚共ォ!」ズバーッ!

オオカミ1「グオオォォッ!なんて強さだ…手も足もでねぇ!」ズサーッ

オオカミ2「数の優位はこっちにあるってのに…!仕方ねぇ!撤退だテメェら!」ダダッ

ライオンの王「王者に刃向かっておきながら都合が悪くなれば引くなど…許されるはずなかろう」ヒュッ

オオカミ1「ま、回り込んだ!?あの距離を、この一瞬でだとぉ!?」ジリッ

オオカミ2「チィッ!散れ散れぇ!一カ所に固まってたら殺されちまうぞ!一匹でも多く縄張りまで戻れぇ!」ワオーン

ライオンの王「無駄だ、楯突く愚か者共を蹂躙できねば王など務まらん…さぁ覚悟を決めろ弱き者共よ」ガォォォ

ザシュッ

・・・

ライオンの王「…この辺りの狼は骨のある連中だと聞いていたが他愛もない。王たる我にかかれば稚児も同然よ」

ライオンの王「さてこの骸の山をどうするか、ひと暴れして空腹ではあるが…狼の肉は臭みが強く我好みでは無い。わざわざ我が口にせずともじきに朽ち果てるだろう」ノシノシ

ライオンの王「だがこの空腹感はいかんともしがたい。先の狼共との騒ぎで草を食う連中は遠くへ逃げただろう…が、狩りに出かけるのも面倒だ。近場に手頃な食料が転がっていないものか…ん?」ノシノシ

鹿の死体「」

ライオンの王「鹿の亡骸…か、脚を折って動けなくなったとみえる。丁度良い、どうやら先ほど死んだばかりでまだ新鮮だ、こいつを食らうとしよう」ノシノシ

ビュンッ

ライオンの王「ぬおぉっ!?何事か!?」バサーッ!



233:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/24(日)00:55:39 ID:ruY

ライオンの王「クッ…!我としたことが人間の仕掛けた罠にかかるなど…屈辱だ。空腹で思考が鈍ったか…」ブラーン

ライオンの王「だが案ずる必要など無い、我は王なのだ。この様な網など我が牙と爪をもってすれば……」ジタバタ

ライオンの王「なんたることだ…!網が体に食い込み身動きがとれん!爪も牙も届かぬ…!これでは罠から抜けられんではないか…!」ギリッ

ザッ

ライオンの王(何者かの足音…狩人か!?)

子狐「…あっ、うめき声が聞こえると思ったらライオンさんが人間の罠に!大丈夫ですか…?」トテトテ

ライオンの王「ぬぅ、無様なことこの上ないが…難儀している。貴様、この網を破ってはくれんか?我の爪は届きそうもないのだ」

子狐「うん、困ってるみたいだし助けてあg」

親狐「待ちなさい!目を離した隙にこんな所まで来て…余計なことをしては駄目よ!」タッタッタッ

子狐「えっ?どうして?ライオンさん困ってるしこのままじゃ狩人に…」

親狐「相手はライオンなのよ?きっと縄を解いた瞬間に私達に襲いかかってくるに違いないわよ、助けを求めていると見せかけてね」

ライオンの王「貴様…!我を愚弄するか!このライオン、そのような恥知らずな真似をする程落ちぶれておらぬわ!」グオォ!

親狐「ひ、ひぃぃ!ほらごらんなさい!早く逃げるわよ!」スタスタスタ

ライオンの王「ぐっ…しまった、助けを求めるはずが…!」



234:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/24(日)00:56:57 ID:ruY

数時間後

ライオンの王「……」ブラーン

ライオンの王(あれから誰も通らぬ…おそらくあの狐の親子が周囲に伝え回ったのだろう。奴等にとって我は天敵…仕方あるまい)

ザッザッ

コヨーテ後輩「ひょーっwww先輩ー!ライオンの奴マジで罠にかかってるッスわwww」マジウケル

コヨーテ先輩「狐が言って回ってたのはマジだって事かよwwwマジパネェwww」

ライオンの王「貴様らコヨーテの…我を笑い物にするために来たのか?暇な連中め」ギリッ

コヨーテ後輩「まぁそんな所ッスわwwwなんか狼の連中も死んでたし、これでようやく俺らの天下ッスね先輩www」

コヨーテ先輩「おうよwww長かったわー、王様ヅラしやがるライオンとクソ厄介な狼共が消えるまで長かったわーwww」

コヨーテ後輩「これからは先輩がこの森の支配者ッスよwwwキングッスよキングwww」

コヨーテ先輩「おいおいマジで?www俺マジで支配しちゃうよ?www」

アハハハハ スタスタ

ライオンの王「チンピラ共が…」チッ

ライオンの王(…だが当然か、我は今まで狐を食いコヨーテを虐げて生きてきた。当然恨みも買っている、我を救おうなどという酔狂な者などこの森には居はしない…皆、我が死す事で何らかの利があるのだからな)

ライオンの王「無様なものよ…王だ王だと言っておきながら危機を脱することもできず、この森には誰一人我の身を案ずるものなどいやしない…」

ライオンの王「この森の王だと思っていたのは我だけと言うわけか…」



235:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/24(日)01:01:05 ID:ruY

さらに数時間後

ホーホー…ホーホー…

ライオンの王(もう夜も更けた…だが以前状況は変わらぬまま…)

ライオンの王(おそらく夜が明け、陽が高くなれば狩人は罠の確認をするためにこの場に戻ってくる。その時が我の命尽きるときというわけか…)

ライオンの王(百獣の王が聞いて呆れる、あれだけ威張り散らして他の種族を見下し…その最期がこのような網の中なのだからな)

ライオンの王(我は…王などではなかった。ただの…狩人に捕らえられた無様な獣よ)

ライオンの王「だが…せめて散り際だけは威風堂々とあろう。無様に足掻いたりせず、不運に嘆いたりせず運命に身を任せ…素直に死を迎えよう」

ライオンの王「それだけが…今の我に出来る、王らしき振る舞いよ」

スタタタ

ネズミお嬢「諦めるのはまだ早いですわよ!ライオンのおじ様!」スタッ

ライオンの王「お前は…あの時、気まぐれで逃がしてやったネズミの娘か…?」

ネズミお嬢「そうですとも!遅くなって申し訳なかったですわ!少々町まで出かけてましたの。でも私が来たからにはもう大丈夫でしてよ!こんな網なんかカリカリかじってやりますわ!」

カリカリカリカリカリ ブチッ

ライオンの王「お前は…我を助けようというのか!?他の者共は我に見向きもしなかったというのに、何故だ…!」

ネズミお嬢「あら?もしかしておじ様お忘れですの?つい先日のことですのに」カリカリカリカリカリ ブチッ

ネズミお嬢「私、約束しましたわよ?必ずや恩返しをすると、今がまさにそのときなのですわ!」



236:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/24(日)01:04:27 ID:ruY

カリカリカリカリカリ カリカリカリカリカリ

ネズミお嬢「あーっ、アゴが疲れてきましたわ!でもこれで最後ですわよ!」カリカリカリカリカリ ブチッ

ドサッ

ライオンの王「…夢では無かろうか。もう絶望しかなかった、死を覚悟していたというのに…またこうして生きて大地の上に立つことができるとは…思わなかった!」スタッ

ネズミお嬢「それは良かったですわ!私もひとまず恩を返すことができて嬉しいのですわ!」フフン

ライオンの王「ネズミの娘よ…我はお前などとるに足らぬちっぽけな存在だと思っていた。お前を見逃し恩返しの約束をしたことすらも忘れていた、そんな事は不可能だと思っていたのでな…」

ライオンの王「だが…お前は我を救ってくれた。どうか礼を言わせてくれ、そして許してはくれんか…あの日お前を虐げたことを」ペコリ

ネズミお嬢「もう気にしてないのですわ!それより王様であるおじ様がペコペコしてちゃいけませんわよ!もっと威厳をこうガッと示して欲しいものですわ!」ガッ

ライオンの王「王…か、今となってはなんの意味もない言葉よ。我は王などではなかった、このような状況に陥ってようやくそのことに気づけたのだ」

ネズミお嬢「そうですの?」

ライオンの王「あぁ、我は自分がもっとも優れていると思っていたが…罠に捕らわれ何もできなかった。周囲の助けを得ることもできずに、王と呼ぶにはあまりにも無力だ」

ネズミお嬢「うーん、困りましたわね…私、そもそも恩返しをするためにおじ様の側近になろうと思っていたのですわ!そのためにわざわざ町の金持ちの家に行ってお嬢様言葉を学んできたのですわ!」

ネズミお嬢「なにしろ私、形からはいるタイプなのですわ」ドヤァ

ライオンの王「側近…か。気持ちはありがたいが我はもう恩を返して貰っている、それに何度もいうがもはや我は王では…」

ネズミお嬢「じゃあこうするのですわ!おじ様が王でないというのならば…いっそのこと本当に王様になっちゃいましょう!」

ライオンの王「王に…なるだと?この無様な我が、本当の意味での王に…?」



237:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/24(日)01:09:45 ID:ruY

ネズミお嬢「無様かどうかは知らないですけど、まぁそう言うことですわ!」

ネズミお嬢「私は全力でおじ様のサポートをしますわ!ですのでおじ様は全力で王になってくださいまし!全力で頑張れば何でもできる!ですわ!」

ライオンの王「……そうだな、今までの我は思い違いをしていた。だがそれに気づけた今、真の王者になることは可能か」

ネズミお嬢「そうですわ!おじ様がなりたい王様とはどんな姿なのかわかりませんけど、思い描く王様におじ様なら必ずなれますわ!」

ネズミお嬢「なにしろ私という側近がついているのですもの!」フフン

ライオンの王「一度は死を覚悟した身、死ぬ気で挑戦してみるのも一つの手か…だが、お前が我の側近になるというのは断らせて貰おう」

ネズミお嬢「ガーン!ここまで盛り上がっておきながら断るんですの!?」

ライオンの王「あぁ、側近は必要ない。ただ…お前さえよければ我が友として、王となる道を共に歩んではくれぬか?」

ネズミお嬢「もっちろん良いですとも!共にこの森の王様、目指しちゃいましょう!それでは誓いのハイターッチ!ですわ!」ハイターッチ

ライオンの王「うむ、よろしく頼むぞ小娘……いいや、お嬢よ」ハイターッチ



251:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/27(水)00:33:18 ID:WT7

・・・

ライオンの王「それからというもの、我は他の者を見下すのはやめた。体の大小や力の強弱は些細なこと、それに優劣を付けることなど愚かしいことだと悟った」

ライオンの王「とはいえ周囲から疎まれている我が本当の意味でこの森の王になるには長い時間と多くの苦労が必要だった…それでも森の皆の協力とお嬢の助力のおかげで我は名実ともに森の王になることができたのだ」

ネズミお嬢「そうですの!今となってはおじ様はこの森では誰もが認める王様でしてよ!」

ライオンの王「うむ、これが我々が経験してきた事柄。そしておとぎ話【ライオンとねずみ】の大まかな筋書きだ」

人魚の声『なるほどねぇ~、小さなねずみでも大きなライオンを助ける力があるって事かぁ、いいおとぎ話じゃーん!』

ライオンの王「我にとっては気まぐれで与えたちっぽけな恩だったが…それは巡り巡って自分自身の命を救う結果になったのだ。それが我々のおとぎ話の教訓といったところか」

赤鬼「情けは人の為ならず…か。絶体絶命の危機から脱して更に信頼できる仲間に出会えて森を統治して…どこでどうなるかわかんねぇな」

赤ずきん「そうね。それにやっぱり本人に聞くと細かい心情や事情が知れて良いわね、私がおばあちゃんから聞いたおとぎ話では王様云々のくだりはなかったもの」

人魚姫の声『そーなんだ?おとぎ話の筋書きは私達の運命そのものだと思ってたけど、細かいところまで物語になってるわけじゃないのかねー?』

赤ずきん「推測だけど…おとぎ話の『物語』は私達登場人物の『運命の一部分』でしかないのでしょう。私の物語は『お使いの途中に狼に騙された一日』だけど、私の人生はその一日だけじゃないもの」

赤ずきん「おとぎ話の【赤ずきん】では触れられていないけれどそれまでだって私は村で生活していたわけだし、狼を退治した後だって私は村で暮らしていったでしょうしね。
おとぎ話として語られている部分が全てではないのよ」

ライオンの王「うむ、おとぎ話の世界という存在は我々もよく知らぬ。何故、現実世界で記された物語でしかない我々の世界が異世界という形で存在するのか?など…わからぬ事は多い」

赤ずきん「確かにそうね、現実世界でおとぎ話が忘れ去られればその世界は消える。逆になんらかの干渉でおとぎ話の世界が消えれば現実世界からその物語は消える…それも考えてみればおかしな話よ
二つの世界は互いにその影響を受けている、それなのにほとんどの人間は異世界の存在を知らない」

ライオンの王「おとぎ話の世界はどこから来て、なんのために存在し…そしてどこへ向かおうとしているのか?
我を含め、その事になんらかの答えを導き出している者は多くいるだろうが…その答えが正解かどうかは誰にも解らぬ、そもそも正解などというものがあるかどうかすらな…」

人魚姫の声『なるほど。あたしの頭じゃ理解しきれないってことはわかった』キリッ

ネズミお嬢「小難しい話はめんどくさくなるからやめて欲しいのですわ!」

ライオンの王「うむ…少々話がそれてしまったな。考え出せばキリがない話題だ、ここまでにしておこうか」

赤鬼「まぁあれだ、オイラも難しいことはよくわからねぇが…おとぎ話の世界と現実世界の関係って奴はまだまだわからねぇことがあるって事でいいじゃねぇか。それよりも…オイラは感動したぞ!ライオンにお嬢!」



252:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/27(水)00:37:33 ID:WT7

赤鬼「ライオンはこの森の誰もが認める王だってお嬢言ってたよな?」

ネズミお嬢「言いましたわ!以前は恐れられていたおじ様も今ではすっかり皆に愛される王様でしてよ!」

赤鬼「そこだ、お嬢が言う森に住む連中ってのは…肉を食う動物も草を食う動物もひっくるめてって事でいいんだよな?」

ライオンの王「うむ、この森では草食の者も肉食の者も協力して暮らしているのだ。この森の肉食獣…我もオオカミもコヨーテもこの森の草食獣を食うことは無くなった」

赤鬼「聞いたか赤ずきん!人魚姫!これってすごいことだぞ!?」バッ

赤鬼「本来野生じゃあ肉食獣は草食獣を食って生き延びる、食う側と食われる側の関係だ。だがこの森の奴等は違う!本来相容れることのない種族が協力して平和に暮らしてるんだ、すごいことだと思わねぇか?」

人魚姫の声『思う思う!つまりあれじゃん!あたしや赤鬼が目指してる異種族のキョーゾンって奴をさ、ライオンは既に実現させてるって事じゃね!?』

ライオンの王「君達も異なる種族の共存を目指しているのか?」

赤鬼「あぁそうだ!オイラは鬼と人間の、人魚姫は人魚と人間の共存を目指してるんだ。それは一筋縄じゃいかねぇって思ってたが…あんた達が草食獣と肉食獣の共存を果たしたってなら、オイラ達の夢にも希望がもてるってもんだ!」

人魚姫の声『そゆことそゆこと!ねぇ赤鬼、ライオンに詳しく話し聞けばさ、私達の夢をぱぱっと叶えちゃうヒントが見つかるんじゃね?』ヘラヘラ

赤鬼「おっ、そうだな!何しろライオンは異種族共存を成功させた言わばオイラ達にとっちゃ先人なわけだからな!色々と聞かせて貰うぞ!」ガハハ

ヘラヘラ ガハハ

ネズミお嬢「どうしますの?おじ様…なんだか盛り上がってますわよ?」

ライオンの王「うむ、妙な期待を持たせてしまっているな…悪いことをした」

赤ずきん「……」



253:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/27(水)00:40:20 ID:WT7

赤ずきん「赤鬼、水を差すようで悪いけど…喜ぶのは早いんじゃない?」

赤鬼「ん?どういうことだ?二人が嘘をついてるとは思えねぇし、事実だと俺は思うぞ!」

赤ずきん「だったらこの森の肉食獣は何を食べてるの?肉を食べないなら一体何を?」

赤鬼「そりゃあ肉を食わなくなったなら魚とか…木の実とかを食うようになったんじゃねぇのか?どうなんだ?」

ライオンの王「いや、魚はともかく我等は木の実を食って生きていくことはできん。赤鬼よ…少々誤解を与えてしまったようだが我々は今も変わらず肉は食うぞ」

赤鬼「いやいや、なんだそりゃ。草食獣は食わねぇってさっき言っただろ?」

ネズミお嬢「えぇ、食べませんわよ?『この森に住む草食獣』は…ですけど」

赤鬼「いやいや待て待て…その言い回しだと森の外の連中は食うって事にならねぇか?」

ネズミお嬢「えぇそうですわよ?丘向こうを餌場にしてるヤギの群れとか…あとは近くの村の家畜とかを襲って食料にしてますの。そういう狩り系はコヨーテ組の仕事ですわね、ちゃらいコヨーテが二匹いるんですの!」

ライオンの王「彼等は少々軽薄でゲンキンだが狩りの腕は信頼できる。あとは森を荒らす狩人を捕らえたときはそれも食らう。君達の目に我等は家畜や人を襲う害獣に映るかもしれんが…しかし我は王、皆を飢えさせるわけにはいかないのでな」

赤鬼「そ、そうか…そりゃそうだよな、食わなきゃ死んじまうんだからな…」

人魚姫の声『なーんだぬか喜びかー…やっぱりそう簡単じゃないんだなぁ…うん、少し先走っちゃったっぽいね、反省しよ』

ライオンの王「我は肉食獣と草食獣の共存に成功してはいるが…それはあくまでこの森の中だけでの話だ。すまないな赤鬼、君の期待を裏切ったようだ」

赤鬼「いや、オイラが勝手に舞い上がって勘違いしただけだ。こっちこそすまん」

ライオンの王「だが君の気持ちは分かる。我もお嬢に助けられてからというもの異なる種族が手を取り合うことの大切さに気が付いた。だがそれを実行するとなるとあまりに多くの壁が立ちふさがる。習慣の違いや食べるものの違い…等な」

赤鬼「そうだよな。赤ずきんと旅してるだけでも習慣の違いの多さに気がつくのに…多くの種族をまとめるとなるとそうなるよな…やっぱり容易い事じゃねぇんだなオイラ達の望みは」



254:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/27(水)00:41:47 ID:WT7

赤ずきん「そうよね、習慣の違い多いわよね。私はあなたが未だに平気で生肉を口にしてそれでいて体調を崩さないのが不思議でならないわ」

赤鬼「まだそれを言うか…いい加減慣れてくれねぇか?それを言うならお前だって頑なに着物を自分で洗おうとするじゃねぇか、まとめて洗っちまえば楽だってのに」

赤ずきん「それは種族云々よりデリカシーの問題よ」フイッ

ネズミお嬢「あんたらは年頃の娘と父親か!ですわ!」

ライオンの王「ふむ…赤鬼よ、我は君に少々興味が沸いた。我と同じく異種族が手を取り合うことを目指している君の事がだ。よければ話を聞かせて貰えないか?」

赤鬼「大した話は出来ねぇんだが…それでも良いならお安いご用だ。だがその後にあんたの話もきかせて欲しい。森の中だけとは言うが…それでも十分すごいことだと思うぞ」

ライオンの王「勿論、我の経験が君の夢を叶える糧となるのなら喜んで話そう」ノシノシ

赤ずきん「……ねぇお嬢、少し聞くけどこの森には近頃狩人は訪れるの?」

ネズミお嬢「めっきり減りましたわねー、私達が狩人を根絶やしにしたからかも知れませんわ!」

赤ずきん「ねぇ、あなた達が狩人を取り逃がした事って…あるのかしら?」

ネズミお嬢「そうですわねぇ…初めの頃はおじ様との連携がうまくいかず取り逃がしたりもしましたけど、息をピッタリあわせられるようになってからはそんな事も無くなりましたわね!」

ネズミお嬢「あんまり私達が狩人を殺すものだからこの森の動物達は危険だ!なんて言われてたくさんの人間が私達を殺しに来たこともありましたわねー…」

ネズミお嬢「まっ、森の皆で協力してそいつらも返り討ちにしてやりましたわ!」

赤ずきん「そう…強いのね、あなた達は」

・・・



255:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/27(水)00:45:27 ID:WT7

ライオンとねずみの世界 森の奥地 ライオン達の住処

ネズミお嬢「さーて到着ですわ!ようこそ私たちの住処へ!その辺のテキトーな所に腰掛けたらいいですわー」チョコン

人魚姫の声『へぇーっ、かなり奥まで進んだと思ったけど森の中には日が射す場所もあるんだねー。なかなかいい感じの場所じゃーん?』フワッ

赤鬼「そうだな、それにここなら狩人にだって簡単には見つけられないだろう。辺りには食べ物も豊富そうだし絶好の住処というわけだ」ドスッ

赤ずきん「まさに森の中の一等地ね。でもライオンは百獣の王…王様だもの、そう考えればこの素敵な住処も当然かしら?」ストッ

ライオンの王「我は住処などどこでも良いのだが…お嬢が妙なこだわりをもっていてな、ここにしろとうるさいのだ」

ネズミお嬢「おじ様はこの森を統べる王様ですのよ!それなりに立派な場所を住処にしていただかないと皆に示しがつきませんわ!」ペチペチ

ライオンの王「世間体を気にするなど人間のようだなお嬢は…王の価値はそのようなもので決まりはせぬと、我は思うが」

ネズミお嬢「だとしても!イメージってもんがありますわ!決まった寝床も持たずにあっちにふらふらこっちにふらふらしていては王の威厳もクソもありませんわよ!」

ライオンの王「それ程に拘る必要がある事とは思えんがな…まぁなんにせよ客人の前でする話ではあるまい。今は彼らの話を聞くことが先決だと我は思うが」

ネズミお嬢「うまく話をすり替えられた気がしますわね…でもまぁいいですわ!彼らの話を聞くためにここに案内したのですし!つっても道中でたらふく話した感ありますけど!」

人魚姫の声『あはは、お嬢はライオン相手に容赦なくものを言うんだねー。なんだかどんな相手にでもズケズケ言いたいこと言っちゃう感じが赤ずきんに似てるっぽくね?赤鬼もそう思うっしょ?』ヘラヘラ

赤鬼「いや、それはまさにお前だと思うが…。というか言いにくいことを平気で振ってくるんじゃねぇよ、後で大変なんだぞ」

赤ずきん「あら否定してくれないのね…それって赤鬼は私がズケズケものをいう空気読めない娘だと思ってるって事よね?」スッ

赤ずきん「そ、そんなことないぞ?ほらおかしな事言ってないでもう本題に入るぞ!ここに来るまでにいろいろ話したが、肝心なことは話せてねぇんだ。アリスのことや…シンデレラの事とかな」



256:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/27(水)00:48:32 ID:WT7

・・・

ネズミお嬢「なるほど!だいたい理解しましたわ!【不思議の国のアリス】というおとぎ話の主人公が他の世界に危害を加えていて、あなた方とそのお仲間はそれに立ち向かっているというわけですわね!」

ライオンの王「そして今、友を救うために敵の本拠地に赴こうとしている…という事だな。ならば我々に元に訪れたのは何らかの協力を願っての事か?」

赤鬼「おぉ、察しがいいんだな。ライオンの言うとおりだ」

ライオンの王「やはりそうか、それで…君達は我々にどのような協力を求める?先に言っておくが…この世界を離れてアリスとの戦いに参じてくれという頼みには応じられんぞ」

ネズミお嬢「おじ様の言うとおりですわね。その戦いが世界の命運をかけたものだとしても私達はこの森を離れるわけにはいきませんもの!」

ライオンの王「我はこの森の王。森に住む皆の平和を守る事こそが我々の願いであり責務なのだ、我もお嬢もここを離れることはできん…それでも問題のないというのなら、話を聞こう」

赤ずきん「えぇ、問題ないわ。私達は援軍を頼みに来たわけではないの。あなた達二人はどうしてそんなに息があっているのか、私はその秘密を教えて欲しい」

ライオンの王「…むぅ?どういうことだ?」

赤ずきん「以前、ブレーメンの音楽隊に聞いたの、あなた達二人はとても息の合っているコンビだと。そしてそれが真実だという事はさっきあなた達と戦って思い知ったわ」

赤ずきん「認めるには悔しいけれど…私達は何もできないまま捕らえられたものね。地の利も当然あったと思う、けれどそれ以上にあなた達の息のあった連携と作戦が勝敗を分けたのよ」

赤ずきん「今思えば…最初にライオンが私に飛びついたとき既にねずみのお嬢は私の鞄かポケットにでも潜んで機会を伺っていたんでしょう?私が攻勢に出たときにすぐに無効化できるように」

ネズミお嬢「お察しの通りですわ!おじ様は力強いですし戦いの流れを動かす力もあるのですけど…体が大きな分、猟銃や弓矢…遠距離武器相手だとちょっぴり弱いですの。だから私がくすぐって妨害しましたのよ!」

ライオンの王「うむ、遠距離武器をお嬢が封じ…その隙に我は力押しで戦いの流れをこちらに傾ける。だが赤ずきんよ、お主が思うほどこれは特別なことではないぞ?適材適所、各々の能力にあった役割を分担してこなしているだけだ」



257:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/27(水)00:49:49 ID:WT7

ライオンの王「体が大きく力の強い我が敵の注意を引き、力押しで優位を掴む。体が小さなお嬢は我が苦手とする遠距離攻撃を行う相手を妨害する、目立たぬ彼女ならば隠密行動もお手の物だ」

ライオンの王「森の皆も同様だ。コヨーテやオオカミは借りをするが草を食う者だって働いている。魚を穫れるものは魚を、住処を作るものが得意なものは住処を、進んで狩人の気を引く囮をかってでる猛者もいる」

ネズミお嬢「みんなが各々やれることをやって協力してるのですわ!」

人魚姫の声『なるほどねー、でもそれはそれにしてもさっきの戦いはすごかったと私も思うけどなー』

赤鬼「ああ、戦い慣れしてたな。罠への誘導なんか自然だったから気がつかなかった」

ネズミお嬢「いままで大勢の狩人と戦ってきて学んだノウハウですわね、けれどおじ様が言うように私達はとりたてて特別なことをしているわけでもないですわよ?」

赤ずきん「言葉にするのは簡単だけど、それを実際に戦いに取り入れて結果を出しているというのはやっぱりすごいとおもうわ」

赤ずきん「特別なことはしてない…なんて言うけれど、なんの努力もしていないというわけではないのでしょう?」

ライオンの王「うむ、まぁ…それはそうではあるが」

ネズミお嬢「この森を守るために戦い方をいろいろ研究したり特訓したりもしてますものね!いかに連携をうまくとって勝利を掴むか、なにしろ相手は動物殺しのプロですものね!」

赤ずきん「そのプロ…狩人達をあなた達は追い返し続けた。それで、お嬢が言うには今はもうそんなに狩人は姿を見せないのよね?」

ネズミお嬢「えぇ、そうですわね」

ライオンの王「我等を捕らえることはもはやあきらめたのであろうな」

赤ずきん「平然と言ってるけど…それって相当よ?だってそれは、あなたたちが村や町の人間達に恐れられているってことでしょう?」



258:◆oBwZbn5S8kKC 2016/04/27(水)00:55:19 ID:WT7

人魚姫の声『そーいうもんなの?陸の上のことはよくわからないけど』

赤ずきん「森へ踏み行った狩人が帰ってこなければ当然騒ぎになるわ、そしてそれが何度も何度も続けば…その森に恐ろしい獣がいるってなって、討伐する流れなるのよ。普通はね」

赤鬼「まぁ…そうだな。オイラが生まれた鬼の村でも近くの山に相当凶暴な熊が出たって時は大勢で熊狩りをしたもんだ、ほっとけば被害が大きくなる一方だからな」

ライオンの王「あぁ、確かに以前大勢の人間が押し寄せてきたことがあったな?お嬢」

ネズミお嬢「ですわね、そのことは赤ずきんに話しましたわよ!」

赤ずきん「そしてそれさえもあなた達は追い払った…為すすべがなくなった人間達はもう諦めてこの森に近づかない事にしたのね」

赤鬼「そりゃあ罠も銃もかわして逆に狩人を捕らえるような連中、相手にするってのもなぁ…逆に被害がでかくなっちゃしかたねぇし、さわらぬ神に祟りなし。適わないなら寄らないようにしたほうがいい」

ネズミお嬢「まぁこの結果は当然ですわ!私とおじ様は最強のパートナーですもの!狩人なんかドス!ドシャッ!ザクッ!もぐもぐ!ですわ!」

ライオンの王「我等が力を合わせて戦った結果、狩人達をあきらめさせることが出来たのならば、そこは誇らしく思っても良いのだろうな」

赤ずきん「こういう言い方は良くないかも知れないけど…やっぱり野生の動物たちよりも銃を持った人間の方が基本的には優位よ」

赤ずきん「でもそれをものともせず戦い、あなたたちが勝利を収めることが出来たのは…やはり戦術と息のあった連携」

ライオンの王「なるほど、我には君が何を求めているのかわかったぞ赤ずきんよ」

ネズミお嬢「私もですわ!」

赤ずきん「それなら話が早いわ。あなた達の見事な戦略、そして息のあった連携プレー…特にその立ち回り、それを私に教えて欲しい」

赤ずきん「あなた達二人の阿吽の呼吸の秘密を…いいえ、あなた達がそこまでの連携をとるためにどのような努力をしたのか教えて欲しいの」

赤ずきん「アリス達を打ち倒し、シンデレラを救うために…私に必要なのはそういった力よ」



273:◆oBwZbn5S8kKC 2016/05/01(日)00:44:24 ID:2zx

ライオンの王「君が欲しているものは理解した。だが筋力や射撃の技術ではなく、敢えて連携を重要視する理由はなんなのだ?」

赤ずきん「知っての通り私の武器はマスケット。狩りに使うのならいざ知れず…戦いの場では銃口の先にいるのは敵だけではないのよ」

ライオンの王「ふむ、確かに…仲間と共闘するのならば銃を扱う君は必然的に後方支援の役割を担う。仲間と連携が取れねば援護射撃をしても十分な成果は得られぬだろう」

赤ずきん「成果を得られないならまだしも敵を狙った銃弾が仲間の背を貫くようなら…戦場に赴かない方がずっとマシよ、でもそういうわけにはいかない」

赤ずきん「私の仲間には力自慢の王様や日ノ本の侍のように接近戦を得意とする者が多いの、赤鬼もそう。だから遠距離から支援できる私がうまく立ち回れれば彼らはずっと優位に戦える」

赤ずきん「共闘の場だと私は自ら勝利を掴むよりも仲間の勝利を後押しする方が向いている。その役目を満足にこなすには筋力や技術よりも仲間との連携の方が必要だもの」

ライオンの王「うむ、いいだろう。君が自らの持ち味を理解し、それが最善だと考えるのならば我は君に力を貸s」

ネズミお嬢「ちぇぇーっい!!」バシッ

人魚姫の声『はぁっ!?お嬢がライオンの顔叩いた!?えっなに?どゆこと!?』

ライオンの王「ぬぅ、お嬢…いきなり何をするのだ」

ネズミお嬢「申し訳ないですけどちょっとだけ相談タイムを頂きますわよ!」

赤ずきん「えぇ、構わないわ。あなた達にも都合があるでしょうし」

ライオンの王「しかしお嬢、何も相談などする必要など…」

ネズミお嬢「何を気楽なことを!いいからちょっとあっちでお話ししますわよ!」

トテテテ



274:◆oBwZbn5S8kKC 2016/05/01(日)00:47:57 ID:2zx

・・・

ネズミお嬢「まったく!おじ様はこの森の王様ですのよ!?あんなふうに安請け合いされては困りますわ!」プンスカ

ライオンの王「何を言う、協力を求める者に手を貸すのに立場など関係あるまい。それに我には『所詮は少女の言うことだ』などと一蹴するなどできぬ、あの覚悟が宿った瞳を見ればな」

ネズミお嬢「御託はどーでもいいのですわ!私にだってあの子が本気だってことぐらいわかりましてよ!問題は何を優先するかですわ!」

ネズミお嬢「あの子達に協力するとなれば私達はそっちに手を取られますわ…そうなればこの森の防衛や家畜狩りが疎かになるのではなくて!?」

ライオンの王「その心配はあるまい。家畜狩りはコヨーテ達に任せて問題ないだろう、森の防衛もリスやウサギに見張りを強化して貰えば十分だ。それとも皆が信用できないと?」

ネズミお嬢「ぐぬぬ、おじ様はあくまであの子達に協力するつもりですのね!?」

ライオンの王「人間に心を許すつもりはないが、彼女等は我々と同様におとぎ話の主人公だ。協力する理由はそれで十分だろう、お嬢は…そうは思えないのか?」

ネズミお嬢「私の個人的な想いとしては…まぁ赤ずきんの気持ちはわかりますわ。私が非力なねずみであるように彼女も非力な女の子、それを覆すために努力をしている点は共通してますし…」

ネズミお嬢「本音を言えば協力はしたいですわ。けれど私が優先すべきはこの森の皆の幸せと安全な生活、彼女には悪いですけど皆を天秤に掛ければどちらが重いかなんて一目瞭然ですもの」

ライオンの王「それは我とて同じ。だが…思い出さんかお嬢?我とお前が協力して森を守ろうと決めた当初、それはもうひどい戦いぶりだったな。連携も何もあったものではなかった」フフッ

ネズミお嬢「あー…あの頃はお互い何度も死にかけましたわね。全ッ然息があわずに無駄に怪我とかしましたし、ぶっちゃけ『なんで私の考えわからねぇんですのこのおっさん!』とか思ってましたわ!まぁ多分お互い様ですけど」

ライオンの王「まぁ…否定はせぬ。だが今は違う、外の世界にまで評判が届くほど我等の息はあっているらしい」

ライオンの王「ならば手を貸そうではないか。彼等が歩む道は我々が歩んできた道だ、今の我等ならその手を引くことが出来るのだからな」

ライオンの王「我はこれまで多くの者に助けられ生きてきた。故に我が助ける立場に立ったとき、必ずや手を尽くすと決めているのだ。これはお前に助けられた経験で学んだことなのだ、お嬢よ」

ネズミお嬢「むぅ、まぁ…いいですわ!森の皆は守る、あの子達の協力もする…ちょっと大変そうですけどやってやりますわ!この私とおじ様のコンビに不可能などありませんもの!」



275:◆oBwZbn5S8kKC 2016/05/01(日)00:50:10 ID:2zx

・・・

ネズミお嬢「というわけで!協力して差し上げるということで意見がまとまりましたわ!」

赤ずきん「そう、断られたらどうしようかと思っていたわ。ありがとう、ライオンにお嬢」ニコッ

ネズミお嬢「今回は特別ですわ!本当は人間に手を貸したりなんかしないんですけど…おとぎ話の主人公のよしみですわ!感謝せよ!」

人魚姫の声『あはは、ドヤ顔じゃんお嬢ー。でもやったじゃん赤ずきん、これでシンデレラ救出に一歩近づいたくね?』ヘラヘラ

ライオンの王「ただし、誰とでも連携が取れるように…というのは難しい、時間が足りなすぎる。そもそも我等はそこまで器用ではない」

ライオンの王「故に赤ずきんと赤鬼、加えて人魚姫の連携を強化する事を重視する。それで構わないな?」

ネズミお嬢「つってもそこ完璧にしとけば赤鬼達以外の相手でもある程度の意志疎通は出来ると思うのですわ!」

赤ずきん「えぇ、異論はないわ。無理を言っているのはこっちだもの、それで十分よ」

赤鬼「となるとオイラも他人事じゃねぇなぁ。まぁハナからそのつもりではあったけどな」

ライオンの王「うむ、だが君にとって無駄なことではあるまい。人間との共存を望むのならば一人の人間とより深く付き合うというのは案外大切なことだと思うぞ」

赤鬼「あぁ、そいつぁ違いねぇ。よぉし、ひとつ気合い入れねぇとな!」

赤ずきん「えぇ、私は…私達は必ず新たな力を手にして戦いに臨む。時間は限られているけど、必ず結果を出してみせるわ」

人魚姫の声『ちょっと気負いすぎ気負いすぎー!まぁあたしに出来ることなんか知れてるけど、なんでもやってあげっからさ!あんま気負わずにいこーよ』ヘラヘラ

ネズミお嬢「そうと決まれば私のことは教官と呼んでいただきますわ!超絶スパルタでビシバシ鍛えてやるから覚悟しておけ!ですわ!」



276:◆oBwZbn5S8kKC 2016/05/01(日)00:52:28 ID:2zx

場面は変わり…
裸の王様の世界 裸王の城 客間

司書「うふふっ、ドロシーちゃんはとても髪の毛が綺麗だね。クシに絡まないし、お手入れが行き届いてるのかな」サラサラ スッスッ

ドロシー「そ、そんなことないです!本当に何もかも自己流ですし最近はちゃんとお手入れも出来てなかったしあの、その…!」アワアワ

グレーテル「……」ムシャムシャ ジーッ

司書「はいっ、出来上がり。こんな感じでどうかなドロシーちゃん?可愛く結えてると私は思うけど…どう?」スッ

ドロシー「じゅ、十分すぎるくらいです!カンザスを離れてから自分で結ってたけどうまくいかなくて…こんなに可愛く結って貰えて嬉しいですっ!」アワアワ

司書「うふふっ、それは良かった。久しぶりにお友達に会うんだからおしゃれしなきゃね、女の子だもの」フフッ

ドロシー「あわわ…あの、ごめんなさい、ヘンゼル君のお姉さんとは初対面なのに髪まで結って貰って…本当すいません」ペコペコ

グレーテル「……」モグモグ ジーッ

司書「もう、ドロシーちゃんは謝るようなことしてないんだから。申し訳なさそうにしてるより笑顔の方が優しいけど強い心を持った【オズの魔法使い】のドロシーちゃんらしいよ?」ウフフ

ドロシー「そ、そんな事無いです…!私なんかより、あの、お姉さんの方がずっと綺麗で…優しくて綺麗なお姉さんって憧れちゃいます!だから、あの、ヘンゼル君が羨ましいですっ!」

司書「なんだか照れるなぁ、でも私はヘンゼルのお姉ちゃんじゃ無いの。むしろ妹かな」クスクス

ドロシー「えっ、そ、そうなんですか…?でも、妹ってグレーテルちゃんだけじゃ…?」

グレーテル「……」パクパク ジーッ

司書「うふふっ、ちょっと複雑な事情があるというか…それよりグレーテルもこっちにおいで。髪の毛、可愛く結ってあげるから」

グレーテル「……私、いい。お千代ちゃんはその人の髪の毛弄ってればいいよ……」プイッ



277:◆oBwZbn5S8kKC 2016/05/01(日)00:56:16 ID:2zx

司書「もう、グレーテルったらどうして拗ねてるのー?」ウフフ

グレーテル「…拗ねてなんか無いよ…裸王様に貰ったお菓子食べるのが忙しいだけだよ…私のことなんかほっとけばいいんだよ…」サクサク

司書「もう、そんな事言って…もうすぐヘンゼルも帰ってくると思うよ?ご機嫌ななめのグレーテル見たらきっと心配すると思うけどなぁ?」

グレーテル「別に…少しは心配すればいいんだよ…。お兄ちゃんはもうちょっと私のことを気にするべきだよ…だからこれはやけ食いなんだよ…」プイッ モシャモシャ

司書(もぅ、兄妹の事になると強情になっちゃうのはヘンゼルと同じだなぁ…)

ドロシー「あ、あの…グレーテルちゃんなんだか機嫌悪いですね…わ、私のせいでしょうか…?」オドオド

司書「うーん…ドロシーちゃんが気にすること無いと思うなぁ、ちょっぴりやきもち焼いてるかもしれないけど」フフッ

ドロシー「わ、私がお姉さんに髪の毛を結って貰ったからですか?」

司書「それもあるかもだけど…ヘンゼルが自分に内緒で危ないことしようとしてることが原因の一つかもね…」

ドロシー「あっ…もしかしてヘンゼル君、アリスちゃんと戦うことをグレーテルちゃんに言ってなかったんですかね?」

司書「うん、私もグレーテルも…ヘンゼルがアリスちゃんと戦うってことは裸王様から聞いただけで、本人とは全然話せてないんだよ」

司書「何日か家を空けたと思ったら急に戻ってきて…それで半ば強引にこの世界へ一緒に来たけど、詳しいことは後で話すから待っていてって言ってまたすぐどこかへ行っちゃったし…」

ドロシー「あっ…それじゃお姉さんもグレーテルちゃんも心配ですよね、ヘンゼル君の事…」

司書「心配は心配だけど、ヘンゼルが自分で決めたことなら私はそれで良いと思ってる。自分を守るだけの魔力はあるし、どんな危険な戦いだとしても私達を残して死んじゃうような無茶は…しないと思うんだ」

ドロシー「そうなんですか…?」

司書「うん、ヘンゼルも知ってるから。死んでしまえば残された家族がどれだけ辛い思いをするかって事をね」



278:◆oBwZbn5S8kKC 2016/05/01(日)00:59:30 ID:2zx

司書「だから私は怒ったり不安になったりしないけど、グレーテルは特にお兄ちゃん子だからなぁ…」

司書「怒ってるっていうよりも、他の事ならともかくアリスちゃんと戦うなんてすごく重大なことなのにヘンゼルが自分に話してさえくれないっていうのが悲しいのかも。それと同時にお兄ちゃんの力になれない自分が許せないのかもね」

ドロシー「とってもお兄ちゃん想いなんですね…私よりも年下なのに立派だなぁ…」モゴモゴ

司書「うふふっ、でもいつもはここまでふてくされたりしないから…もしかしたらあんな風に拗ねてるのは他の原因かもしれないなぁ?」ウフフ

ドロシー「他の原因…ですか?」

司書「うん、大好きなお兄ちゃんが可愛いガールフレンドを連れてきたからやきもち妬いてるんだよ、きっとね」クスクス

ドロシー「えぇっ!?ち、違いますよ!私はヘンゼル君と知り合ったばかりで友達って呼べるほどでもないですし、あと可愛くもないですし!お姉さんが思ってるような感じじゃ…無いです!」アワアワ

司書「そうなの?ヘンゼルが女の子の友達連れてくるなんて今まで無かったから、私てっきりそういうことだと思っちゃったなぁ」ウフフ

ドロシー「あわわ…からかわないでくださいよぉ…!」

スタスタ

グレーテル「聞こえちゃったよ…お千代ちゃん…女王様みたいな事言ってるけど…そんな事あり得ないよ…」ゴゴゴゴ

司書「もぅ、グレーテルったら…ちょっとした冗談だよ。だからそんなに怖い顔しないで、ねっ?」

グレーテル「冗談にはね…言っていい冗談と駄目な冗談があるんだよ…」

グレーテル「その人がお兄ちゃんのガールフレンドだなんて…有り得ないよ。だからそれは…言っちゃ駄目な方の冗談だよ…」



279:◆oBwZbn5S8kKC 2016/05/01(日)01:01:25 ID:2zx

グレーテル「【オズの魔法使い】のドロシー…ちゃんだったっけ……?」

ドロシー「は、はいっ!そうです…!」ビクッ

グレーテル「今のお姉ちゃんの冗談……まさか本当だったり…しないよね…?」

ドロシー「し、しないよ!あ、あのね、グレーテルちゃん。私、ヘンゼル君とはそういうのじゃなくて…ただの仲間!仲間だよ!」

グレーテル「…知ってる。だってお兄ちゃんにガールフレンドなんか必要ないもん…」

グレーテル「…そんなのいらないんだよ…だってお兄ちゃんには私がいるもん。だからお兄ちゃんは私の側にいてくれればいいんだよ…友達なんか必要ないんだよ…」

ドロシー「あ、あの…えっと…」

グレーテル「絶対に…あり得ないことだけど……もしも私の大切なお兄ちゃんを奪うっていうなら…私は絶対にその人を許さないよ…?ドロシー…ちゃんもそうだよ?」

グレーテル「だから約束、してね?お兄ちゃんに手を出さないって…」

ドロシー「…う、うん。大丈夫…」

グレーテル「それならいいんだよ…でも、もし約束破ってお兄ちゃんのこと私から奪っちゃったりしたら……その時は」


グレーテル「かまど……だからね?」



280:◆oBwZbn5S8kKC 2016/05/01(日)01:02:45 ID:2zx

グレーテル「…言いたいことは…それだけだよ…」フイッ

スタスタ チョコン

グレーテル「……」モグモグ

司書「もう…ごめんねドロシーちゃん、ビックリしたよね。後でちゃんと話しておくから、グレーテルのこと嫌いにならないであげてね?」

ドロシー「だ、大丈夫です…ちょっとびっくりしましたけど…それだけお兄ちゃんに事好きって事ですから。あっ、でも…グレーテルちゃんが言ってた『かまど』ってどういう意味なんですか…?」

司書「……」スッ

ドロシー「えっ、えっ!?なんで目をそらすんですか!?そんなに恐ろしい意味があるんですか…?」

司書「……あのね、グレーテルがああいうときに使う『かまど』っていうのは…その、なんというか…言いにくいんだけど……『お前をかまどに押し込んで殺s」

コンコンッ

筋肉質兵士「失礼いたします!こちらにドロシー様はいらっしゃいますか?」マッチョ

ドロシー「あっ、はい!わ、私です!」

筋肉質兵士「ご友人が別室でお待ちです。準備が整い次第そちらへ向かって欲しいとの事!準備が整いましたら声をおかけください、私が部屋までご案内いたします!」マッチョ

ドロシー「あっ…そ、それならもうお願いします!準備できてますから!」アワアワ

筋肉質兵士「そうですか!ではこちらへどうぞ!」マッスル

ドロシー「あ、あのお姉さん!お話の途中なのにすいません!皆のこと気になっちゃって…すいません!それじゃあ…私、行ってきます!」ドタドタドタ

司書「うん、気にしないで。それじゃあまたね、ドロシーちゃん」ウフフ



281:◆oBwZbn5S8kKC 2016/05/01(日)01:07:12 ID:2zx

司書「…でもあんなに慌てて大丈夫かなドロシーちゃん、途中で転んだりしなきゃいいけど…。それより…」

スタスタ

司書「もう…グレーテル?あんな態度とっちゃ駄目でしょう?」

グレーテル「…知らない」プイッ

司書「こーらっ!いつまでも拗ねてないのっ!ほら、思ってること全部聞いてあげるよ。言ってみて?」ペチッ

グレーテル「…私はお兄ちゃんに側にいて欲しいだけなのにいっつも無茶してる…今回だって私に何も言ってくれないし…」

グレーテル「私は魔力もないし魔法使うと頭の中ふわふわしちゃうし…戦いに向いてないのはわかってるけど…話くらい聞けるのに、お兄ちゃんは私を頼ってくれない…それが悔しいよ」

グレーテル「お兄ちゃんが私のこと大切にしてくれてるの知ってる。でもそれは私だって同じなのに…私にはいっつも何もさせてくれない。私も一緒に戦う覚悟、出来てるのに…」

司書「うーん…私はどっちの気持ちも分かるからどっちかの味方はできないなぁ…」

司書「でもグレーテルがそう思ってるならヘンゼルに一度ちゃんと話そう?ヘンゼルが居ないところでいくら話しても伝わらないから」

グレーテル「そうする…いつもなんだかんだで私が思ってること、お兄ちゃんに伝えられてないから…」

司書「うん、ヘンゼルもきっとちゃんと話せば聞いてくれるよ。あとそれともう一つ……」

グレーテル「何かな…?」

司書「ヘンゼルのこと大好きなのはわかるけど、ドロシーちゃんちょっと怯えてたよ?もうあんな風に言っちゃ駄目っ!それにかまどっていうのも禁止!わかった?」

グレーテル「かまどはかまどだよ…私の大切なお兄ちゃんを奪う奴は誰であろうとかまどだよ…そこは譲れない…」

司書「もう…じゃあせめて口には出さないようにしよう?他の人は意味分からないと思うけど、私やヘンゼルからしたらただの殺意だってわかるんだからね?」

グレーテル「……一応、気をつける」フイッ



282:◆oBwZbn5S8kKC 2016/05/01(日)01:12:19 ID:2zx

裸王の城 応接間前の廊下

筋肉質兵士「ドロシー様、到着いたしました。ここでご友人がお待ちです」マッスル

ドロシー「あっ、ありがとうございました。案内していただいて」ペコペコ

筋肉質兵士「いいえ、任務ですから!では私はこれで!」マッスル

ドロシー「……スゥーハァー。うぅ、この扉の向こうに皆がいるのかな…どんな顔して会えばいいのかな?私のせいで皆離ればなれになっちゃったんだし…」

ドロシー「あぁ…どうしよう、何を話したらいいんだろう…まず謝って…かぐやさん達によくして貰ったから辛くなかったよって話して、不安がらせないようにしなきゃ、きっと心配してくれるから…」

ドロシー「それからえーっとえーっと…」オロオロ

ガチャッ

裸王「マーッスルッ!このようなところで何を悩んでいるのかね?ドロシーよ!」マッスル

ドロシー「あっ、裸王様…!あぁ、すいません!私ったらみんなを待たせてしまって…!」アタフタ

裸王「なぁに!気にすることはないぞ!声が聞こえたのでな、入りづらく思っているのではないかと心配して出向いただけだ!」ハッハッハ

ドロシー「うぅ…すいません、なんだかいざとなると勇気が出なくて…」

裸王「むぅ?おかしな事を言うのだなドロシーは?」マッスル

ドロシー「そ、そうですか?わ、わたし勇気無いから…」オドオド

裸王「そもそも友と会うのに勇気など必要あるまい!」

裸王「友に会うのに必要なのは笑顔だけだ!不安なら練習するかね?さぁ私に続いてドロシーもやって見たまえ!せーのっ、マッスルスマーイルッ!」ニカッ

ドロシー「は、はいっ!ま、まっするすまいるーっ…」ニコッ

裸王「うむ!良い笑顔だ!皆、君に会えるのを心待ちにしているぞ!さぁ行こうではないか!」

ガチャッ



314:◆oBwZbn5S8kKC 2016/05/09(月)00:43:31 ID:au0

裸の王様の世界 裸王の城 応接間

ライオン「うわあぁぁぁ!ドロシーちゃああぁぁん!」ガバッ

ドロシー「ひゃあっ!」ドテッ

ライオン「あぁ!ご、ごめん…!あんまり嬉しくてついつい飛び出しちゃった…そりゃ僕みたいに図体だけ無駄に大きな奴が突然出てきたらビックリするよね、ごめんね驚かせちゃって…大丈夫?」アセアセ

ドロシー「ううん。ちょっと驚いただけだから平気、それより元気そうで良かった…会いたかったよライオンっ!」ギューッ

ライオン「うん、うん…!僕もだよ、ドロシーちゃんにまた出会えて本当に良かったよぉ~。もう皆には二度と会えないかと思ってたもん」スリスリ

ドロシー「私もだよ…でもこうしてまたライオン達に会えたのはヘンゼル君のおかげだよ。後でたくさんお礼をしなきゃだね」グスングスン

ライオン「そうだよ、そうだよねぇ。ヘンゼル君が手を貸してくれなかったら僕、ここに来る方法無かったもん。感謝してもしきれないくらいだよぉ~、後で一緒に行こうね?」

かかし「おウ、ヘンゼルに礼をするってんなら俺もつきあうゾ。俺もあいつには世話になっちまったからナ」スタスタ

ドロシー「かかしっ!かかしも無事みたいで良かった…!」ウルッ

かかし「あァ、どうにかピンピンしてるゼ。お前こそ大きな怪我も無いみてぇだナ、まずは一安心ってところダ」

ドロシー「うぅ…良かった、良かったよぉ。実はかかしだけはもしかしたら無事でいられないかもって思ってて…」ボロボロ

かかし「泣くナ泣くナ!まぁブリキやライオンと違って俺は脆いからなァ、容易く壊せるし簡単に燃えちまウ。痛みも感じず疲れもしない身体だガ、実際は生身のドロシーよりもずっとずっと脆いからナ。なんたって俺はワラで出来たかかしダ」ハハハ

ドロシー「もぅ笑い事じゃないよ~…」グスングスン

かかし「まぁいいじゃねぇカ、結局こうして無事でいられたんダ。確かに災難だったけが俺やライオンは飛ばされた先に恵まれてタ、さほど苦労も無かったしナ」

ライオン「そうだねぇ、でも…僕達は無事だったけど…ブリキはちょっと無事とは言えないよねボロボロだし…僕、仲間なのに何もしてあげられなかったよ…」ショボーン

かかし「仕方ねぇヨ、気の毒には思うが…ありゃあほとんど自業自得ダ。だがドロシー、早くあいつに元気な顔見せてやりナ。お前のことを一番心配してたのはあいつだろうしナ」

ライオン「うんうん、こっちに来ないのは今回のことが自分のせいだって思ってるからじゃないかなぁ?そんな事気にしなくて良いのに…ドロシーちゃん言ってあげてよ、気にしなくていいよって」

ドロシー「う、うん!私、行ってくる!」タッタッタッ



315:◆oBwZbn5S8kKC 2016/05/09(月)00:45:17 ID:au0

ドロシー「ブリキっ!」タッタッタッ

ブリキ「ドロシー…悪かった、苦労をかけてしまった」ギシッ

ドロシー「い、いいよそんなの!ブリキも大変だったみたいだし…」

ドロシー「あうぅ…ヘンゼル君から聞いてはいたけどひどい怪我…!こんなになるまで無理しちゃ駄目だよ!もう誰もブリキのこと直せないんだよ?魔法の靴は奪われちゃったし…」

ブリキ「…問題ない、自分の意志でやったことだ。それにこれは怪我じゃない、破損…そう呼ぶのが適切だ。俺の身体は生身じゃないから怪我なんて言い方は適切じゃあない」ギシッ

ドロシー「またそんな事言って…いくら痛くなくて血も出ないって言ってもこんなにボロボロだったらそれはもう怪我だよ!」

ドロシー「聞いたよ?ブリキはなんとかして別世界へ渡ろうとしてたんだよね。その手段を見つけるために街で大暴れして…それでそんな怪我をしちゃったんだよね?私達を助けるために…」

ブリキ「…その通りだが、この破損は自業自得だ。今思えば…裸の王にも迷惑をかけてしまった、だがお前たちが心を痛める心配など一切ありはしない、全ては俺の責任だ」ギギッ

ドロシー「そ、それは裸王様達にちゃんと償いしなきゃだけど…でも私達を助けるためにやってくれたって事は本当でしょ?そんな言い方は寂しいよ…」

ブリキ「…これは俺の身勝手な行動の結果だ。アリスに利用されることを選んだのも俺ならば、薬に侵されたお前を放置していたのも俺だ。お前を救おうとした結果、ひどく傷つけてしまったのも俺だ」

ドロシー「で、でも…」

ブリキ「その結果、かかしやライオンを裏切り…お前に容易く拭えないほどの大きな汚名を着せた。挙げ句、アリスに見限られて皆が別々の世界へ飛ばされた。仲間を傷付け離散させた責任は全て俺にある」

ドロシー「そんなことないよ!私だって何にも気づかずに悪い夢だと思ってたし…ブリキ一人のせいなんかじゃないよ!」

ブリキ「…お前の言葉はいつだって優しい。長く厳しい旅の途中、それに救われたことも奮い立った事も数えきれない程だ。だが…」

ブリキ「今回ばかりはお前の優しさに甘えることは許されない。今の俺はお前に優しくして貰う資格などありはしない」



316:◆oBwZbn5S8kKC 2016/05/09(月)00:46:26 ID:au0

ドロシー「そんなことないよ!仲間でしょ!ブリキはちょっと方法を間違えてただけだよ、かかしもライオンもそれに私だって気にしてないよ!運が悪かっただけ、そうでしょ?」

ブリキ「運は確かに悪かった。だが俺がもっとうまくやっていれば…こんな事にはならなかった。俺が選択を間違えなければ…お前を苦しめずに済んだはずだ」

ドロシー「誰が悪いとか悪くないとかじゃないよ…ブリキの悪いところはいっつもそうやって自分独りで抱えるところだよ!昔っからそうだもん…そりゃあ私はあんまり頼りになんないけど…」

ブリキ「そうじゃない。問題を解決するにあたって苦痛な出来事があったとしても心の無い俺なら無傷で済む、それだけの話だ」

スタスタ

かかし「なんか穏やかじゃねぇナと思って来てみりゃあ案の定かヨ…」

ライオン「心配した通りだよぉ…皆がこうして揃ったんだから素直に喜んじゃ駄目なのかなぁ?僕は喜んでいいと思うんだけど…」

ドロシー「かかし、ライオン…!二人も何か言ってあげてよ、ブリキは全部自分が悪いって言ってて…でもそんなことないよね?」

ライオン「もちろんだよぉ、誰が悪いとか話したって仕方n」

かかし「何言ってんだドロシー、今回の件は全部ブリキのやり方が悪かっタ。それは間違いねぇだロ」

ドロシー「ちょ、ちょっとかかし…私が言って欲しかったのはそういう事じゃなくて…もっとフォローして欲しくてあの…」アワアワ

かかし「なんだフォローっテ、傷の舐め合いに意味なんかねぇヨ。俺達にも非はあったけどヨ、基本こいつが独りで解決しようとして失敗したせいでこんな事になっちまっタ。それは揺るぎない事実だろうガ


ドロシー「で、でも…私達ずっと一緒に旅してきた仲間なんだよ?ブリキだけを責めるなんて冷たいよ…そんなの友達のすることじゃないよ…」

かかし「俺はそうは思わないゾ?仲間だからこそ悪い事は悪いって言うべきだろうガ、ブリキが言うようにもっとうまク…そうだナ、俺やライオンに相談してくれりゃあもっとマシな結果になったかも知れねぇだロ?」

ブリキ「…お前の言うとおりだ。相談すべきだったな」ギシッ

かかし「なぁブリキ、俺達はこれからも旅を続ける仲間なんだからよォ。また独りで突っ走ってそのたびにこっちが割を食うのはごめんだゼ?」



317:◆oBwZbn5S8kKC 2016/05/09(月)00:48:02 ID:au0

ライオン「うんうん、僕達はこれからも一緒だもんねぇ。僕臆病すぎてアレだけど、相談くらいには乗れない気がしないでもないから次はちゃんと話してくれても大丈夫だよ、多分…」

ブリキ「…解った、今後はそうしよう」

かかし「まぁ俺ももう昔みてぇな無能じゃねぇからナ、頭数にはなれるゼ」

ドロシー「でも私びっくりしちゃった、かかしがあんまり冷たい言い方するからブリキのこと許さないのかと思っちゃったよ…」オドオド

かかし「まぁ色々と言いたいことはあるがナ。そもそも俺達は普通じゃない集まりなんだからイザコザがあって当たり前くらいに考えてた方がいいんだヨ」

ライオン「そうだねぇ、ブリキの身体の木こり、喋って動けるかかし、魔法の靴の女の子…今はその靴ないけど。あとライオンの癖に勇気がなくて臆病で役に立たない僕、確かに珍しい組み合わせだよねぇ」

ドロシー「そ、そんなに卑下しなくてもいいのに…」

ブリキ「そうか…しかし、構わないのか?俺はあれだけのことをしでかした、それでもお前たちは俺を仲間だと言ってくれるのか…?」

かかし「だからそう言ってるじゃねぇカ、前となんも変わりぁしねぇヨ。その代わり俺がなんかしでかした時は大目に見てくれヨ?」ハハハ

ライオン「あ、僕も…!一番僕がやらかしそうだから…その時は目をつぶって欲しいなぁ…」チラッ

ブリキ「あぁ、解った。だが…ドロシー、お前はどうだ?なにしろお前が一番の被害者だ…今でも俺を仲間だと呼んでくれるか?」

ドロシー「もうっ、そんな当たり前のこと聞かれても困っちゃうよ。何があってもみんなは私の大切な仲間だよ、そんなの当然だよっ」ニコッ

ブリキ「そうか…ヘンゼルに頼んでお前たちと再会できることになったものの、俺には合わせる顔がなかったからな…もう仲間だと思われなくても仕方ないと覚悟していたが」

ブリキ「お前たちの気持ちを聞いて……正直、安心した。俺に非があるとわかっていても、縁を切られたらどうしようかと、内心恐れていた」

ブリキ「俺には心が無いはずなのに…仲間を失うことを恐れるなんておかしい話だがな」



318:◆oBwZbn5S8kKC 2016/05/09(月)00:49:59 ID:au0

かかし「出たゾ、ブリキの心無い心無い詐欺!もうそれお前の持ちネタなんじゃねぇかと思ってるからな俺ハ!」

ドロシー「あははっ、持ちネタは言い過ぎだよ~。でもブリキにはもう絶対心あるよね」ウフフ

ライオン「だねぇ、実はそれ僕もずっと思ってた。じゃなきゃそもそも僕たちのためにあれこれしてくれたりしないもんね~、優しい心あるよねぇ」

ブリキ「そんなわけ無いだろう。誰がなんと言おうと俺に心は無い」

かかし「まだ言うかお前!なんでそこで意地はるんだヨ!」

ブリキ「心を手に入れるのは俺の最終目標だ。オズが詐欺師だとわかった今、心を手に入れる方法のあてはない。下手に妥協しない為にも心が無いという事実はしっかり胸に留めておかないといけない」

かかし「こいツ…面倒くせぇナ…」

ライオン「何か証明する方法があるといいんだけどねぇ~」

ドロシー「うーん…私には絶対ブリキには心あるって思うけど、そう言うってことはブリキは納得してないんだよね?」

ブリキ「当然だ、そもそも心なんて容易く手にはいるものじゃない。それを手にする方法すら知らない俺が手にしているはず等ないだろう」

ドロシー「じゃあさ、ブリキが納得するまで心を手に入れる旅…再開しようよ。前みたいに…心と知識と勇気、それを手に入れる旅にさっ」

かかし「そりゃあ構わないガ…それじゃあお前のカンザスへ帰るって願いが入ってねぇゾ?故郷へ帰るって目標はもういいのカ?」

ドロシー「うん、エムおばさんは心配してるかもだけど…カンザスへ帰るのはもうしばらく先でもいいかな…。その前に私にはやらなきゃいけないことがあるから、みんなと旅にでるのはその後になっちゃうけど…」

ブリキ「お前、前はあんなに故郷のカンザスへ帰りたがっていたのに。いいのか?」

ドロシー「うん。それにみんなともう少し一緒にいたいなっていうのは、ずっと前から思ってた…私の新しい願いなの。私、今はカンザスへ帰ることよりそっちの方を望んでるんだ」ニコッ



319:◆oBwZbn5S8kKC 2016/05/09(月)00:53:42 ID:au0

ワイワイガヤガヤ

裸王(ふむ、ドロシーは内気な面が目立ち、ブリキのあの様子だとせっかくの再会だというのに暗い雰囲気になってしまうのではないかと思っていたが…)

裸王(どうやら杞憂だったようだ。いざという時はこの裸王がマッスルジョークで場を沸かす事も視野に入れていたが…もう必要あるまい)スッ

裸王(さぁ、私も三日後に備えすべき事を…むっ?)

ヘンゼル「……あぁ、裸王さん。中に居たんだね」コソコソ

裸王「ヘンゼルではないか。部屋の前で何をしているのだ?」マッチョ

ヘンゼル「…別に大したことじゃないよ、ただかかしやライオンをここに連れてきたのは僕だ。最後まで見届けるのが筋かなって」スッ

裸王「気になって様子をうかがいに来たというわけだな。うむ、一時不安に思う場面もあったが…あの様子ならば問題なかろう!マッスルノープレブレム!」マッスル

ヘンゼル「そうなんだ。ドロシーは平気そうだった?なんだか彼女少し頼りないから、気になってね」

裸王「その点も心配あるまい。内気な普通の娘だと思っていたがやはりドロシーもおとぎ話の主人公。あの四人の中心となっているのは彼女なのだろう」マッスル

裸王「彼女には周囲を率い先導する手腕やリーダーシップがあるわけではないが…傍目に不揃いな集団である彼らの支柱となっているのは間違いなくドロシーだ。私の審美眼と上腕二頭筋がそう囁いているぞ!」ムキムキッ

ヘンゼル「そう、なんだか彼女…場の空気に流されそうな性格に見えてね。まぁ問題ないならいいんだけど」

裸王「ほう、随分と面倒見が良いのだなヘンゼルは。良い傾向だ、気配りの出来る男は男女問わず頼られるからなっ!」マッスル

ヘンゼル「なにそれ。僕は妹たちの面倒を見るのを優先したいから他人に頼られてもね…今回の事もあれだよ、気まぐれのようなものだよ」

裸王「うむ?そうなのか?それならば早々にグレーテルの所へ向かった方がいいのではないか?」

ヘンゼル「どうしてグレーテルの名前が出てくるの?」

裸王「君が別の世界へ飛んだ後、少しだけ妹君達と言葉を交わしたが…グレーテルは終始不機嫌そうだったぞ?あれはお主が原因なのではないか?お千代もそのようなことを口にしていたが…」

ヘンゼル「……」

裸王「今から君を誘って特訓を…と思ったが、どうするかね?」

ヘンゼル「……ごめん、先にグレーテルの所に行ってくる」スタスタ



321:◆oBwZbn5S8kKC 2016/05/09(月)01:01:35 ID:au0

しばらく後
裸の王様の世界 裸王の城 応接間

・・・

かかし「それで毎度毎度シンドバッドが邪魔しに来てなァ、そのたびにラプンツェルが城を抜け出して遊びに行くんダ。そんである時、シェヘラザードが遂にブチキレてなァ…」ハハハ

ライオン「ひぇぇ…シェヘラザードさんって【アラビアンナイト】で語られてるおとぎ話を作ったんだよね、たくさんのおとぎ話を作ったんだもん相当頭良いんだろうなぁ~。僕の経験上、頭がいい人怒らせるととんでもないことになるよぉ」

ドロシー「でもちょっと遊びに行くくらいいいかなって思うけど…ラプンツェルさん、外の世界珍しいだろうし…」

ブリキ「そうは言うがラプンツェルはかかしと同様にシェヘラザードから知恵を授かろうと彼女の教えを受けていたのだろ?その途中で遊びに行くようなら叱られるのは当然だ」

かかし「おゥ、お前と同じでシェヘラザードも相当頭が堅いからナ。流石によその世界のラプンツェルに手は上げてなかったガ、シンドバッドは丸坊主にさせられてたゾ」

ブリキ「遊び人にそりゃあキツい仕置きだな。自業自得だが」

ドロシー「で、でも突然坊主頭って…物語に影響出たりしないのかな…」

かかし「平気だロ、あいつターバン巻いてるシ。本人は死にそうな顔してたけどナ」

ライオン「でもなんだか平和そうでいいなぁかかしのとこ。あっ、別にかかしが大変じゃなかったって意味じゃなくてね?」

ドロシー「ライオンは桃太郎さんと一緒に居たんだよね?」

ライオン「そうそう、桃太郎さんカッコ良くて憧れちゃうよぉ」

ブリキ「日ノ本一の侍と意気投合するとはな、お前とは何か共通点があるというわけでもないだろうに」

ライオン「ううん、共通点あったんだよ。桃太郎さんの意外n…あっ、いやなんでもない!」

かかし「途中で言うのやめるなヨ!気になるだろがイ!」

ドロシー「……(きっとあの事だけど黙っておこう、桃太郎さんの名誉のためにも)」

ドロシー「も、桃太郎さんカッコいいよね…!」アワアワ

かかし「なんか今、取って付けたように誉めたナ…」



322:◆oBwZbn5S8kKC 2016/05/09(月)01:10:17 ID:au0

ブリキ「しかし、俺が牢で時間を無為に過ごしている間もお前たちは研鑽を積んでいたわけか。我ながら自分が情けない」

ドロシー「二人は偉いけどブリキがそんな風に思わなくたって大丈夫だよ、それに威張る事じゃないけど…私も特に何か出来た訳じゃなかったし…」モニョモニョ

かかし「お前はかぐや姫に世話になったんだったナ。まぁ俺とライオンは自分の目標をかなえるための努力がしやすい場所にいたってだけダ。シェヘラザードのおかげで俺もいくらかは知恵を得たしナ」

ライオン「ぼ、僕も桃太郎さんと一緒にいて少しは強くなれた気がしないでもないよぉ」

ブリキ「そうは言っても…そう言えばドロシー、お前さっき言っていたな?やらないといけないことがあると」

ドロシー「あっ、うん…えーっと、そうだよ」

ブリキ「何をするつもりだ?詳しく教えてくれ、力になれることがあれば協力する」

ドロシー「あっ、えっと、その…ちょっとブリキには言いにくいんだけど…」

ブリキ「なんだもったいぶって。お前は俺を受け入れてくれたんだ、俺に何を遠慮しているか知らないがお前が決めたことに反対したりしない。言って見ろ」

ドロシー「……うん、あのね、反対されちゃうかも知れないけど決めたの」

ドロシー「…私、アリスちゃんと戦う事にした。キモオタさんやヘンゼル君と一緒に…【不思議の国のアリス】の世界へ行くの」



357:◆oBwZbn5S8kKC 2016/05/28(土)00:58:27 ID:Bjf

ブリキ「お前がアリスと戦うだと?」ギシッ

ドロシー「う、うん。正確にはアリスちゃんと戦うみんなをお手伝いする感じになるのかな…私、今は戦う為の力持ってないから…」

ブリキ「そんなものは些細な問題だ、どっちにしろ危険であることに違いはない。直接戦わなければ安全というわけでも無いだろう…相手はあのアリスだぞ?」

ドロシー「そうだけど…でもきっと平気だよっ!ヘンゼル君も一緒だしキモオタさんも居る、私一人じゃないから大丈夫だよっ。だから心配なんかしなくてもいいんだよ?」

ブリキ「一人じゃないから心配するなと言われて、それで納得しろと言うのは無理な話だ。アリスがどれほどの戦力を持っていて、それが及ぼす影響を知った上でお前はアリスと戦うなんて事を口にしているのか?」

ドロシー「あうぅ…そ、そう言われちゃうと…でもっ」

ブリキ「でも、じゃあない。よく考えてみろ、知っているはずだぞ?かつて一緒に居たからといってお前に手加減するような娘じゃあないぞあいつは」

ドロシー「うぅ…それは、そうだけどぉ…。…やっぱり、納得してくれない?」

ブリキ「そんなこと聞くまでもないだろう。お前がアリスと戦うなんて事、俺はもちろんかかしやライオンだって当然納得なんかしない、反対するに決まっている。おい、黙っていないでお前たちも何とか言ってやれ」

かかし「んッ?何か問題あるのカ?俺は別に反対するつもりねぇけド」

ブリキ「お前…何を言っている!?この臆病なドロシーがあのアリスと戦うことに賛成だっていうのか?」ガタッ

ライオン「あ、あのぉ…ブリキには悪いけど僕も賛成だなぁ。ヘンゼル君は優しいしキモオタさんたちは仲間を大切にしそうだから、ドロシーちゃんはきっと大丈夫だよぉ……なんて思ったり思わなかったり…モニョモニョ」

ブリキ「……っ!?お前たち正気か…!」ギシッ



358:◆oBwZbn5S8kKC 2016/05/28(土)01:04:24 ID:Bjf

ライオン「あの、その、それに…言うの遅くなっちゃったんだけど……えっと、その…モニョモニョ」

かかし「何をモニョモニョ言ってんダ!よく聞こえねェ、はっきり喋レ!」

ライオン「ご、ごめん…あの、あのねぇ…実は僕もアリスちゃんと戦う事に決めたんだ…。桃太郎さんと一緒にシンデレラさんを助け出すんだ、あんまし力になれないかもだけど…」ボソボソ

ブリキ「なん…だと…!」ギシッ

かかし「おいおイ、マジでかお前!そりゃまた随分と思い切ったなァ、お前!」バシバシ

ライオン「え、えへへ…内心ドキドキなんだけどね…。でもね【蛙の王子】の世界で桃太郎さんと修行したり獣退治したりしてさ、思ったんだ。僕は臆病だけど…でも戦うための力は一応あるでしょ…?」

ドロシー「一応なんて謙遜だよ~、だってライオンは牙も爪もとても鋭いしさ。力もすっごく強いしとっても素早いし、実は力強いと私は思うよ?」

かかし「そうだよナ。まァ、臆病なせいでそれを全然生かせてねぇんだけどナ!」ハハハ

ライオン「う、うん…そうなんだよね…。で、でも臆病な気持ちをちょっと押さえ込んで…その力をアリスちゃんを止めたりシンデレラさんを助ける手助けに使えたらいいなって、僕は思ってて…」

ライオン「桃太郎さんは一緒にいるとき励ましてくれたりお世話になったし…。僕は臆病なライオンだけど…ちょっと頑張って見ようかなって…えへへ、でもこんなの僕らしくないよねぇ」

かかし「そうだそうダ!お前はもっとオドオドしてるイメージだからナ!…なんつっテ、でもいいんじゃねぇカ?よく決心したと思うゼ、頑張りナ」バシバシ

ライオン「え、えへへぇ…このあと桃太郎さんと合流して一緒に修行させて貰う事になってるんだ。確か【舌切り雀】の世界に行くって…僕、頑張るよぉ…!」フンス

ブリキ「……」



359:◆oBwZbn5S8kKC 2016/05/28(土)01:09:28 ID:Bjf

ドロシー「と言うことは、あれだねっ。私とライオンはアリスちゃんと戦うって決めた者同士かぁ…それじゃあ私達、おそろいだねっ」ニコニコ

かかし「おッ、そうだナ!ドロシーとおそろいたぁ羨ましいぞお前!コンチクショウ!プレイボーイ!」グイグイ

ライオン「そ、そうだねぇ…!なんだか嬉しいねぇ、僕達はよく臆病だー臆病だーってよく言われるけど、でも頑張るって決めたもんね。一緒に頑張ろうねドロシーちゃん!」

ドロシー「うんっ!ライオンは桃太郎さんと一緒、私は…きっと裸王さんやヘンゼル君と一緒に行動するからしばらくは別々だけど、頑張ろうねっ!」ニコニコ

かかし「くゥ~!俺も出来ることならアリスに一泡吹かせてやりてぇ
ところだガ…!でも俺は仲間内じゃ一番戦闘に向いてないからよォ、疲労も痛みも感じねぇつっても…コレじゃあナ」ワサワサ

ライオン「そ、そっか…かかしは身体が藁で出来てるから脆いもんねぇ…勇気はあるのにもったいないねぇ…」

ドロシー「でも無理して【青ひげ】の世界の時みたいに真っ二つにされたりしたら困るよ。直すためにたくさん藁持って行かなきゃいけなくなるし…それはそれで大変だよ」アワアワ

かかし「あァ、無理して足手まといになっちまうのは避けてェ。残念だが俺は留守番だナ。アリスをとっちめるのはお前たちに任せらァ」

ライオン「かかしって知識が欲しいって言ってる割には結構的確な作戦とか考えてくれるし、一緒にいてくれたらこころつよかったんだけどなぁ…も、もちろん無理させようとか考えてないよ?大丈夫だよ?」

かかし「そう言ってくれるのは嬉しいけどナ、まぁこの後はシェヘラザードの所に戻ってまた色々教えて貰うかナ…アリスを倒す大役は俺達の主人公様に譲ってやるヨ」ハハハ

ドロシー「ちょ、ちょっとそれやめてよぉ…私は主人公とかそういう柄じゃないし…皆でまとめて主人公って事でいいよぉ~」アワアワ

ライオン「で、でも【オズの魔法使い】の主人公は間違いなくドロシーちゃんなんだし…そこは自信持とうよぉ」

かかし「そうだゾ!前にアリスが言ってたじゃねぇカ、俺達のおとぎ話は現実世界じゃ本は勿論、舞台とかにもなってるんだロ?相当有名なおとぎ話だって話だぜェ?」

ドロシー「や、やめて…私の情けないエピソードが舞台で大勢の人に知られてるとか考えたら…う、うぅ…手先がふるえてくる…」オドオド

ライオン「ぼ、僕が言う事じゃないけどそれはさすがに気にしすぎだよぉ~」

かかし「ハハハ、違いねェ!」ハハハ

アハハハハ

ブリキ「いや…待て!なんなんだこれは?状況を分かっているのかお前たちは!何を笑っているんだ…!」バンッ!!



360:◆oBwZbn5S8kKC 2016/05/28(土)01:12:16 ID:Bjf

ライオン「え、ええぇ…なんでって…そんな事言われても…悲しい顔しなきゃいけない理由もないし…」

かかし「別にいいじゃねぇカ!仲間同士が些細なことで笑いあってもヨぉ!むしろお前はなんでそんなにノリが悪いんだヨ!空気読めよこのKY!」

ドロシー「か、かかしは言い過ぎだよっ!ブリキもそんな風に怒鳴らないでおこうよ、久しぶりに会えたんだし…ねっ?」

ブリキ「…俺にこんなことを言う権利がないことは分かっているがあえて言わせて貰う。お前たちはアリスと戦うという事がどれほど危険なことか理解しているのか?」

ブリキ「あいつと一緒にいた俺達なら解るだろ、あいつの持つ戦力の充実ぶりを…!」

ライオン「ま、魔法具は数え切れないほど持っていたよねぇ…ドロシーちゃんの靴も奪われちゃったし…」

かかし「それもだがよォ、やっぱり仲間だナ。あの世界の連中はほぼ全てがアリスの味方。そして帽子屋にハートの女王…一筋縄じゃいかない奴も大勢いル」

ドロシー「それにアリスちゃんが狙ってる魔法のランプはどんな願いも叶えられるって聞くし…手に入れちゃったらマズいよね…」

ブリキ「そこまで分かっていてお前たちはどうしてそんなに気楽に構えていられるんだ。ライオンもドロシーも…下手すれば死ぬ。それを分かっているのか?」

ライオン「そ、そりゃ死ぬのは怖いけど…でも僕は桃太郎さんの力になりたいんだ、だって桃太郎さんが一緒にいてくれなかったら僕怖くて何もできなかったと思うし…」

ブリキ「それはそれだ…感謝はすべきだし礼は尽くすべきだ、だがそれは戦いの場に赴かなくても出来る。お前が危険に身をさらす必要はないんだ…ライオンだけじゃなくドロシー、お前もだ」

ドロシー「…でもっ」

ブリキ「アリスは危険すぎる、そんな奴の所に大切な仲間を向かわせるわけにはいかない」

ブリキ「俺は断固反対だ。キモオタ達がアリスを止めるというのなら…奴らに任せるべきだ、臆病なお前たち二人が行って出来ることなんか知れている。むしろ的を増やすようなものだ」



361:◆oBwZbn5S8kKC 2016/05/28(土)01:22:09 ID:Bjf


ドロシー・ライオン「……」ショボーン

かかし「ブリキお前!んな言い方ねぇだロ!考えても見ろヨ、臆病なこいつらが戦いを選んだんだゾ?軽い気持ちで言ってんじゃねぇのはお前にだってわかるだロ?」

ブリキ「…俺の愚かな行動のせいで二人に必要のない覚悟をさせたことは悪いと思っている。だが…だからこそ俺は止める、こいつらが戦う必要はない」

ブリキ「お前たちの代わりに俺がアリスのもとへ向かう。お前たちは傷つかず、キモオタ達へ恩を返す事も出来る…これが最上の策だ」

ライオン「えぇぇっ!?ブリキはそんなにボロボロなんだよぉ!?無理無理!無理だってぇ!」

ドロシー「そ、そうだよっ!アリスちゃんが強いって言ったのはブリキだよ!?そんな体で勝てるわけ無いよっ!」

ブリキ「それでもお前たち二人が向かうよりずっと役に立てると思うがな。そもそも場数が違う、そして何より死なないと言うのは戦いにおいて大きすぎるアドバンテージだ」

かかし「同じ不死の身体を持つ奴としテ、同意したいところだガ…今のお前は言っちゃ悪いがデカいスクラップだゼ…。満足に戦えないって事はお前自身がよく分かってるんじゃないのカ?」

ブリキ「なにもこのままの状態で戦うとは言っていない、奴等には優秀な『鋳掛け屋』が居るだろう?協力するとなれば俺の体を直してくれるだろうしな」

ドロシー「えっ?そんな人居たっけ…?あっ、魔法使いさんの事かな…?」

かかし「…いヤ、【ピーターパン】のティンカーベルの事ダ。あいつは金物修理の妖精だからな」

ライオン「えぇっ?ティンカーベルちゃんにそんな能力があったのぉ?」

ドロシー「わ、私も知らなかった…会ってお話までしたのに…」オドオド

ブリキ「俺の体を直せる奴は多くない、だから知っていた。あいつの名『ティンカーベル』は『鋳掛け屋のベル』という意味だ、金物修理の妖精なら魔力が宿った俺の身体を修繕することも容易いだろう」

かかし「確かにそうだナ…万全な状態のお前が戦えるのならそれが一番望ましいガ…」

ブリキ「そうだろう。決まりだ、奴等への協力は俺が請け負った、お前たちは留守番だ。いいな?」ギシッ



362:◆oBwZbn5S8kKC 2016/05/28(土)01:25:14 ID:Bjf


ライオン「確かに…そうかもしれないけど…けどけどぉ…」ボソボソ

かかし「ブリキの言うことは理に適ってル…だガ、うーム……」

ブリキ「もう前回のような不甲斐ない姿は見せない。次こそ俺はお前たちを守ってみせる…お前たちは心配なんかせず、ただ待っていればいい」

ドロシー「……」

ブリキ「いいな?ドロシー。お前がキモオタ達に世話になったのならその礼は俺がきちんと尽くす。お前は何も心配せずこの城d」

ドロシー「いっ…嫌っ!私が行かなきゃ…ダメだよっ!」ガタッ

ブリキ「…その話は終わった筈だ、お前よりも俺が適任。アリスの元へ向かうのがお前である必要はない」

ドロシー「ううん、ブリキがなんて言っても…絶対に私が行く…!」

ブリキ「…今の話を聞いていただろう?何故、そうなる?」

ドロシー「私…約束したんだ。かぐやさんと」

ドロシー「私はたくさん悪いことをしてきた。それは意図してやった訳じゃないけど…でも、でも償いはしなきゃならない。ううん、私が償いたいんだ。今までしてきたことを」

ブリキ「話を蒸し返すつもりか?責任の所在はお前には無い、償う必要など…」

ドロシー「ううん、私は…アリスちゃんと一緒にたくさんのおとぎ話を消しちゃったし…大勢の人を殺した…。数え切れないほど…みんなの未来を奪ったんだ」

ドロシー「確かに私がアリスちゃんの世界へ行くって決めたきっかけは頼まれたからだけど…流されて仕方なくやるんじゃないよ、これは私の意志で決めたことなの」

ブリキ「……」

ドロシー「これは償いの為の一歩なんだ。怖くないっていったら嘘になっちゃうし、足手まといになっちゃうかもしれない…」

ドロシー「でもかぐやさんは大丈夫だって言ってくれた、ティンクちゃんや赤ずきんちゃんは私の罪を責めないでくれた、ヘンゼル君は初対面の私に優しくしてくれた…。罪人の私を突き放すことなんか簡単なのに、そうしなかったよ」

ドロシー「私に優しくしてくれた人達は…私が罪を償えるって信じて接してくれたんだ、だから私は…逃げない。ブリキ達や皆…信じてくれた皆の側で笑っていられるように、頑張るって決めたんだよ」



363:◆oBwZbn5S8kKC 2016/05/28(土)01:29:47 ID:Bjf

かかし「少し離れてる間ニ…お前の内面にも変化があったみたいだナ。そういうのは好きだゼ、俺はお前の意見に賛成ダ」

ライオン「ぼ、僕も!僕もだよぉ!」

ブリキ「……ドロシー、お前は普段は流されやすい癖にこういうときは強情だな」

ドロシー「それは…うん、なんていうか…お互い様だよっ。ブリキだってそうだよ?」ウフフ

ブリキ「そうだな…で、考えを変える気は?」

ドロシー「ごめんね、これは譲りたくない」フルフル

ブリキ「……ライオン、かかし。どうにかならないか?こいつは意見を変えないらしいが…俺もそのつもりはない。このままじゃ平行線だ」

ライオン「う、うーん…どうもこうもないとおもうなぁ…」

かかし「つーかお前は解ってて聞いてるんだロ?ブリキ、お前が折れるしかねぇヨ」

ブリキ「……だが、な。こいつの気持ちは理解した、だが強い思いで何とかなるほど現実ってのは甘くないだろう。どんな覚悟をしても死ぬときは死ぬ」

かかし「……なぁお前ラ、俺とドロシーとブリキが旅をすることになってしばらくしテ…ライオンと初めてあったときの事覚えてるカ?」

ドロシー「うん、覚えてる。ライオンはトトを捕まえて食べようとしてたんだよね」

ブリキ「そうだったな。しかし結局、トトはオズの宮殿に置き去りにして来ちまったが…。それはさておき、初めてあったときのライオンは相当な迫力だったな」

ライオン「う、うわぁ…その話はやめて欲しいよぉ…。僕にとっては思い出したくない過去なんだよぉ…」



364:◆oBwZbn5S8kKC 2016/05/28(土)01:32:05 ID:Bjf

かかし「あの時、トトを食おうとしたライオンに向かっていったのは俺でもブリキでも無かっタ。他でもないドロシーだったんだゼ?」

ブリキ「そうだったな。俺のブリキ製の身体は牙なんか通さないが…それでも一瞬躊躇してしまった、初対面ではライオンの性格を知らなかったからな」

ライオン「ぼ、ぼくもあの時は必死だったんだよぉ…凶暴なライオンだっていうイメージを守らなきゃ森にいられなくなっちゃうし…」

ドロシー「わ、わたしだってあの時は必死だったよっ!私が守らなきゃトトが食べられちゃうと思ったし…」

ブリキ「だが…かかし、お前は何がいいたいんだ?思い出話に花を咲かせようってわけじゃないんだろう?」

かかし「まぁ聞けヨ。それから長い間旅をしテ…俺達がオズに騙されてると知らずに受けた魔女退治…俺達が役に立たなくなってる間に魔女を倒したのは誰だっタ?」

ブリキ「…ドロシーだ」

かかし「なァ?こいつは確かに臆病だしオドオドしてるけどよォ、いざってときはなかなかどうして強さを見せつけてくるゼ?」

かかし「なぁブリキ、守ってやらなきゃいけないほど弱い娘が猛獣に躊躇なく飛び出せるカ?一人で悪い魔女に立ち向かえるカ?」

ブリキ「…必要ないとは思わない。だがそうして考えてみれば、ドロシーは案外俺が思っているほど弱い娘でも無いのかもしれないな」

ライオン「つまり…僕たちの中で一番強いのは…ドロシーちゃん?」

ドロシー「そ、そんなことないよ!重いものもてないし、うっかりミス多いし…ライオンの時も悪い魔女の時もただただ必死でやってただけで何があったかよく覚えてないし…」オドオド

かかし「そりゃあぶっちゃけ心配だゼ、俺はこいつのこと好きだしナ。アリスの所へ送り出しても傷付いて帰ってくるかもしれねェ、最悪帰ってこないかもナ」

かかし「でもよォ、カンザスへ帰るって事だけが旅の目的だったドロシーに新しい目標が出来たんダ、叶えさせてやりたいって俺は思うんだなァ」



365:◆oBwZbn5S8kKC 2016/05/28(土)01:35:16 ID:Bjf

ブリキ「……やれやれ、かかしはドロシーの味方か」ギシッ

かかし「そりゃあゴツいおっさんより可愛い女の子の味方するに決まってらァ」ハハハ

ライオン「ブリキはこう見えておじさんだからねぇ…あっ!違うよ!?あの、いい意味でおじさんって意味でね?でもドロシーちゃんが可愛いって意見には全面的に賛成だよぉ~」

ドロシー「な、なんで突然そんな話に…!私、別に可愛くないよ」アワアワ

ブリキ「…三対一じゃあ勝ち目は無い、今回は俺が折れよう。ドロシーがやりたいようにやればいい」

ドロシー「ブリキ…!わかってくれて嬉しい!」ギュー

ブリキ「だが、約束だドロシー」

ドロシー「…?」

ブリキ「必ず俺たちの所へ帰ってこい。俺をあの森から連れ出したのはお前だ、どこかへ行ってそのまま帰ってこないなんてのは許さないぞ、俺は」

ドロシー「うん、約束する。みんなでもう一度旅に行くって決めたし、トトも…【オズの魔法使い】の世界もいつかは取り戻したいしね」ニコッ

ブリキ「約束できるならそれでいい、言いたいことは山ほどあるが…お前が帰ってくればそれでいい」

かかし「もちろン!生きて帰ってくるんだゾ?お前が死んだりしたら今度は蘇生の魔法を探す旅が始まっちまうゼ」ハハハ

ライオン「ぶ、ブラックジョークが過ぎるよぉ!で、でも、もちろん僕も一緒だから…改めて頑張ろうね、ドロシーちゃん!」

ドロシー「うん…!必ずアリスちゃんの企みを止めてみんなの所へ帰ってくるよ。そしていつかまた…あの頃みたいにそれぞれの夢を追って旅しよう、約束っ!」ニコッ



383:◆oBwZbn5S8kKC 2016/06/06(月)00:51:01 ID:jqz

裸の王様の世界 裸王の城 廊下

タッタッタッタッ

ヘンゼル(とにかくグレーテルの所へ急ごう。裸王さんが言うようにグレーテルが不機嫌なら…それは間違いなく僕のせいだ)

ヘンゼル(あの魔女から逃げ出してからグレーテルは感情表現が少なくなってしまった、今では随分感情を表すようになったとは言っても…初対面の裸王さんの前でも不機嫌をあらわにするなんて事をグレーテルは普通、しない)

ヘンゼル「つまり…グレーテルは今、相当に不満を抱えてる。急がないと…」タッタッタッタッ

小夜啼鳥「だからと言って廊下を走るのは紳士としてどうですかね?ここはお城なんですからそれ相応のマナーを持たなければいけませんよ」ピチチチ

ヘンゼル「君は本当に神出鬼没だね、消えたと思ったら突然戻ってくる…でも僕は急いでるんだ、今は大目に見てよ」タッタッタッ

小夜啼鳥「まぁグレーテルちゃんが心配なのは分かりますよ。でもあなたの不躾な行動は周囲からの女王様への評価を貶める事にもなります、妹様方を見る目にも影響するでしょうね」

ヘンゼル「…分かったよ。君は僕を従わせる一番の言葉がそれだって知って言ってるよね、本当によく調べてるよ僕達のことを…ちょっと
憎らしいくらいだ」フゥ…

小夜啼鳥「それはどうも、賞賛として受け取っておきます」ピチチチ

ヘンゼル「…まぁいいけどさ、言ってることは正しいし。でも僕は妹が心配だ、僕に歩けと言うのなら君だけでも先に行ってグレーテル達の様子を見てきてくれないかな?」

小夜啼鳥「その必要はありませんよ、既にグレーテルちゃんとお千代さんの様子は伺ってきましたから。ヘンゼル君が気にしてると思ってずっと陰で様子を見てたんですよ、あなたが一番大切なのはあの二人ですもんね?」

ヘンゼル「…本当によく解ってるよね僕のこと、でも助かるよ。ありがとう」

小夜啼鳥「私はあなたのお目付役なんですから。それに見守るにしろ監視にしろスパイにしろ、かげから様子をうかがうのは鳥類の十八番ですよ」ピチチチ



384:◆oBwZbn5S8kKC 2016/06/06(月)00:53:13 ID:jqz

小夜啼鳥「とりあえず慌てて走っていくほどではないかと。とはいえ…まぁグレーテルちゃんは機嫌悪そうでしたね。ああもふくれっ面ばかりだとせっかくの可愛い顔が台無しです」ピチチチ

ヘンゼル「そうなんだ…でもグレーテルはふくれっ面でも可愛いと思うけど」スタスタ

小夜啼鳥「……」

ヘンゼル「何?」スタスタ

小夜啼鳥「いえ、別に」

ヘンゼル「でもグレーテルとお千代をこの世界へ連れてきたのは失敗だったかもね…。僕が君といる理由やアリスと戦うことになった事、色々と話さなきゃいけないから来て貰ったんだけど…」

ヘンゼル「でも僕はライオンやかかしを迎えに行かなきゃいけなかったから、グレーテル達をしばらくほったらかしにしちゃったし……事情も言わずにいきなり別世界に連れだしてほったらかしなんてそりゃあ機嫌も悪くなるよね、悪いことしちゃったな」

小夜啼鳥「確かに少々配慮には欠けてました、一言言うべきでしたね」

ヘンゼル「そうだね、相手が家族だから後で言えば大丈夫だなんて考えはちょっと良くなかったね」

小夜啼鳥「親しき仲にも礼儀ありと言いますからね。ですが…グレーテルちゃんが不機嫌なのは別の理由もあるでしょうね」

ヘンゼル「そうなの?僕、他にグレーテルが機嫌悪くするようなことしてないと思うけど…」

小夜啼鳥「…それならこれを期に自覚した方がいいかもしれませんね、ヘンゼル君」

ヘンゼル「自覚…?」

小夜啼鳥「えぇ、知っておくべきですよ。君がグレーテルちゃんを守るために一人きりで行動すればするほど…彼女の不満は募っていくという事を」



385:◆oBwZbn5S8kKC 2016/06/06(月)00:56:15 ID:jqz

ヘンゼル「……」

小夜啼鳥「まぁ君もその事を全く考えてない訳じゃないんでしょうけどね」

ヘンゼル「グレーテルは寂しがり屋だ、それにずっと僕と一緒にいたから…自分で言うのもなんだけど相当なお兄ちゃん子だ。それは解ってるよ」

小夜啼鳥「なら君と一緒にいられない事が、お兄ちゃんの側にいられないというのがどれだけグレーテルちゃんにとって苦痛かわかるはずでは?」

ヘンゼル「それは…わかってる。僕を慕ってくれるのはとても嬉しいし同時に悪いとも思ってるよ。でも…仕方がないことだよ」

小夜啼鳥「仕方がない、ですか」

ヘンゼル「おとぎ話の世界にも現実世界にも悪い奴は大勢いる。とくに現実世界のあの国ではグレーテルの容姿は良くも悪くも目立つ、悪い奴に目を付けられる可能性は高いんだ」

ヘンゼル「お千代は今は大人だから僕達を養ってくれるし守ってくれるよ、でも本来…妹を守るのは僕の役割なんだ。でも僕は子供だし二人を守るための力を十分には持っていない」

小夜啼鳥「そうですね、君は元々は自分を変え…そして強くなるためにこの世界へ来たのですしね」

ヘンゼル「グレーテルが寂しい思いをしているのもお千代に心配をかけてるのも悪いとは思うけど…今の僕じゃ二人を守れない、だからその力を付けるまでは少し我慢して貰わなきゃいけない」

ヘンゼル「今は辛いかもしれないけど…いつの日か僕がどんな悪意からでも二人を守れるようになったらその時はずっと一緒にいられる。だから…僕が強くなるまでの辛抱なんだ」

小夜啼鳥「なるほど…それがヘンゼル君の思いというわけですね」



386:◆oBwZbn5S8kKC 2016/06/06(月)00:58:22 ID:jqz

ヘンゼル「そうだね。それに…誰にも言わないで欲しいんだけど、僕だって二人の側にいられないのは辛い」

小夜啼鳥「でしょうね。ヘンゼル君ほどのシスコ…いえ、妹思いの少年が平気な訳ないですから、辛いのはお互い様というわけですか」

ヘンゼル「だからって僕は自分自身を正当化するつもりはないけど…でもやっぱり仕方がないことだよ。僕の旅にグレーテルを同行させるわけにも行かないし…」

小夜啼鳥「おや、どうしてですか?グレーテルちゃんと君が一緒に旅をすれば兄妹はお互いに会えない寂しさを感じず済むでしょう」

ヘンゼル「無茶だよ、そんな事考えられない」

小夜啼鳥「どうしてですか?」

ヘンゼル「言ったじゃないか、今の僕は二人を満足に守ることができない。火打ち箱だって完全に使いこなせているわけじゃない。この【裸の王様】の世界は平和で治安も良いけど、この次にいく世界が同じだとは限らない」

ヘンゼル「おとぎ話の世界には盗賊や殺人鬼が登場するような治安の悪い世界だってある、そんな所にはなるべく行かないようにはしたいけど…やむを得ないことだってあるかもしれない」

ヘンゼル「何が起きるか分からない旅先にグレーテルを連れていけないし連れて行きたくないんだ。僕が未熟なうちはね」

小夜啼鳥「私が思うにグレーテルちゃんは君に守って貰わなければいけないほど弱くはありませんよ、もう少し肩の力を抜いてもいいのでは」

ヘンゼル「弱くないだって?それはグレーテルが魔法を使うことが出来るから言ってるの?残念だけどグレーテルは魔法を使うことを禁止されているし僕も魔力を分けるつもりは…」

小夜啼鳥「違いますよ、魔法が使えるかどうかではなく…もっと精神的なことですね」



387:◆oBwZbn5S8kKC 2016/06/06(月)01:00:43 ID:jqz

ヘンゼル「精神的な…?」

小夜啼鳥「えぇ、君が妹を守りたいと考えているように…おそらくグレーテルちゃんもまたお兄ちゃんである君を守り手助けがしたいと思っている…思い当たる節、あるはずですよ」

ヘンゼル「……確かに、僕があの悪い魔女に捕まっているときグレーテルはあの魔女を殺してまで僕を助けてくれた」

小夜啼鳥「私はその件は正当防衛だと思いますしグレーテルちゃんを責めるつもりはありません。ですが…いくら辛くても幼い少女が殺しを選択するというのは余程の事です」

ヘンゼル「それだけあの魔女に虐げられた日々が辛かったって事だ…」

小夜啼鳥「それだけでしょうか?自分が助かるためだけではなく…君を助けるためにグレーテルちゃんは魔女を殺したと考える方が自然では?」

ヘンゼル「…そうかもしれない。でもだから何だって言うの?」

小夜啼鳥「グレーテルちゃんは何もできずに助けを待って泣いているだけの女の子ではないという事です。グレーテルちゃんは君を…大切なお兄ちゃんを助けるために悪い魔女と戦う覚悟を決めたんですから」

ヘンゼル「…それはこじつけだよ。追い詰められてやっただけかもしれないじゃないか」

小夜啼鳥「そうでしょうか?私はそうは思いませんし覚悟を決められるというのはある程度の精神の強さがなければ出来ませんよ」

ヘンゼル「……」

小夜啼鳥「ヘンゼル君は…立派なお兄ちゃんであろうとするあまりグレーテルちゃんの気持ちが見えていないんですよ」



388:◆oBwZbn5S8kKC 2016/06/06(月)01:04:05 ID:jqz

ヘンゼル「そんなはずないよ。僕は誰よりグレーテルのことを愛している、グレーテルの気持ちが見えていないなんて事…」

小夜啼鳥「君はさっき言いましたね、自分が強くなるまで離れ離れになるのは仕方がないと」

ヘンゼル「言ったよ。そうでしょ、今は辛くてもそれが将来のためになるんだから仕方ない」

小夜啼鳥「グレーテルちゃんは今…今この時に君と一緒にいられないのが辛いんです。将来を見据えるのは大切ですが…今現在を蔑ろにする理由にはならないでしょう?」

ヘンゼル「……」

小夜啼鳥「それにねヘンゼル君…どんな理由があろうと大切な人と会えないというのはそれはもう辛いものですよ。私にも経験あるので分かりますが」

ヘンゼル「…【小夜啼鳥】での出来事のこと?」

小夜啼鳥「えぇ、ご存じだとは思いますが…私の過去、おとぎ話【小夜啼鳥】の事を少し話しても?」

ヘンゼル「うん、構わないよ」

小夜啼鳥「では失礼して…私はとある国に住んでいました。その国は豊かで多くに旅人が訪れていたのですが…その旅人達は皆様口をそろえて私のさえずりが美しいと誉めてくださいました」

小夜啼鳥「それは素直に嬉しかったです。けれどもっと嬉しかったのは陛下が…その国の皇帝が私の声を気に入り、側に置いてくださったことです」

小夜啼鳥「宮廷での豪奢な暮らしに興味はありませんでしたし自由の利かない鳥籠での生活は息苦しくもありましたけど…けれど楽しそうに私のさえずりを聞いてくれる陛下のことを私は愛していましたし、一緒にいられることを幸せに思っておりました」

小夜啼鳥「しかし…陛下との楽しい生活はある日突然終わりを迎えました」



389:◆oBwZbn5S8kKC 2016/06/06(月)01:07:51 ID:jqz

ヘンゼル「確か…皇帝の元に外国から贈り物が届いたんだったかな?」

小夜啼鳥「えぇ、その贈り物…ゼンマイ仕掛けの細工鳥は立派なものでした。空を飛ぶ事は出来なくともその翼にはまばゆい宝石がちりばめられていました」

小夜啼鳥「それに何よりどんなときでもゼンマイを巻けば同じメロディを奏でるのです。その美しい音色に陛下は心を奪われ…その細工物の小鳥を大切になさいました」

ヘンゼル「そうだったね。その結果、君の居場所は…」

小夜啼鳥「なくなってしまいました。私はもう王宮にいることも出来ず…愛しい陛下と離れることを惜しみながらも空へ帰るしか無かったのです」

ヘンゼル「理不尽というか、君のおとぎ話もなかなかに辛い物があるよね…」

小夜啼鳥「もちろん陛下に捨てられてしまったことは悲しいことでした。ただ、それより何より愛する陛下のお側にいられないことがずっと辛かったです。それまではずっと一緒に食事をしたり楽しく過ごしていた相手と離ればなれになったんですから」

ヘンゼル「…そりゃあ、そうだね」

小夜啼鳥「それから数年経っても私の寂しさは癒えませんでした。そしてある時、陛下が病に倒れられたとの噂を聞きつけて私はこっそり宮殿へ向かったのです」

小夜啼鳥「陛下の寝室をのぞいて唖然としました。細工鳥はゼンマイを巻く者が居ないためさえずることはなく、息荒く横たわる陛下の傍らにいたのは死神だったのですから」

ヘンゼル「君の主…皇帝は死神に魅入られてしまったんだったね。そして側近や国の人はもう…陛下の命は短いと言って諦めていた」

小夜啼鳥「その先…この物語に結末がどうなったかヘンゼル君なら知って居るでしょう。ただ、死神に魅入られた陛下の姿を見て私は後悔しました」

小夜啼鳥「どうして言わなかったんだろう、私があのとき陛下のお側にいたいと言えば…そして一緒にいればこんなことにはならなかったのにと」



390:◆oBwZbn5S8kKC 2016/06/06(月)01:16:41 ID:jqz

小夜啼鳥「離れていても愛があれば想いは通じるとかそういう言葉を否定はしません。しませんが…側にいなければどうにもならないこともあります」

小夜啼鳥「グレーテルちゃんの身を案じるヘンゼル君の気持ちも理解できます。が…グレーテルちゃんがあなたと一緒に居たいというのならその気持ちを受け止めてあげて欲しいのです」

小夜啼鳥「あなたに何かあったとき…あなたに家族は皆涙を流すでしょう、しかしその時グレーテルちゃんの涙は悲しみだけではなく後悔も含むはずです」

小夜啼鳥「側にいられなかった事を悔いるはずです。自分を責めてしまうでしょう。大切な人を苦しめたのは自分だと…あんな思いをするのは私だけで十分です。ですから、どうか」

ヘンゼル「…分かった、グレーテルがもしも…僕と一緒に居たいと言うなら僕はグレーテルと一緒に居るよ。正直、怖いけどね…」

小夜啼鳥「それが良いです。もちろん私もヘンゼル君とグレーテルちゃんの身を守るために協力しますからご安心を」

ヘンゼル「頼むよやっぱり今の僕じゃ今一つ頼りないから」

小夜啼鳥「お任せください、私にはこのさえずりもあります。お目付役だけが私の役目でないことを証明して見せましょう」

ヘンゼル「そうだね、君の特別なさえずりはとても頼もしい能力だ。よろしく頼むよ、君がそうするよう薦めたんだからね?」フフッ

小夜啼鳥「えぇもちろん。あぁ…でも見たところグレーテルちゃんはとてもヤキモチを妬いていましたからそっちはご自分で何とかしてくださいね。私にはどうにもできませんから」

ヘンゼル「ヤキモチ…?なんでそんなものを?」

小夜啼鳥「なんでって…大好きなお兄ちゃんが突然同年代の可愛い女の子と一緒にいるからに決まってるでしょう」

ヘンゼル「それドロシーの事?いや、彼女はただの友達じゃないか。なんでグレーテルがヤキモチを妬く必要があるの?君の勘違いなんじゃない?」

小夜啼鳥「本当にヘンゼル君は相手の気持ちを汲み取る練習をすべきですね。……まぁ例え刺されても助けを呼ぶくらいはしますよ」ボソッ

ヘンゼル「だからたまに小声で物騒なこというのやめて欲しいんだけど…」

・・・



391:◆oBwZbn5S8kKC 2016/06/06(月)01:17:59 ID:jqz

現実世界 キモオタの部屋

ティンカーベル「えーっと、スリングショット持った。弾も大丈夫、ハンカチと着替え良し!イチゴジャムも良し!おやつはキモオタに任せて…うんうん!荷造り完了!」フンス

キモオタ「ティンカーベル殿www荷造りに気合いが入っておりますなwwwいつもは我輩のリュックに雑に突っ込むだけでござるのにwww」コポォ

ティンカーベル「今回は特別じゃん!作戦決行の三日後まで現実世界には戻ってこないつもりだからね。忘れ物して戻ってくるのも時間もったいないし、しっかり確認しなきゃね!」

キモオタ「まったくその通りですなwwwところがどっこい我輩の荷造りは遅々として進まないのでござるなぁwww」コポォ

ティンカーベル「『ござるなぁwww』じゃないでしょ!さっさと準備してくれなきゃ私まで出遅れちゃうんだからね!」プンスカ

キモオタ「面目ないwwwしっかし持って行きたいものが多すぎましてなwww必須アイテムとしてはおはなしウォッチとおはなしサイリウム…マッチ売り殿から頂いたマッチを始めとする魔法グッズなどでござるかねwww」

ティンカーベル「あと着替えと歯ブラシとおかしと…。っていうか…これなに?なんでリュックにポータブルDVDプレイヤーとか入ってるの?」

キモオタ「良いところに目を付けましたなwwwこれにはきちんとした理由があるのでござるよwww我々はこのあと雪の女王殿の宮殿に向かうでござろう?」

ティンカーベル「うん、悪魔の鏡の破片も譲って欲しいし女王なら何かいい感じの特訓してくれるかもしれないからそのお願いに行くんだよね?」

キモオタ「そうですぞwwwただ気になる点があるとすれば…我々は今ひとつ女王殿と打ち解けてないという事でござるな。せいぜい顔見知り程度の関係なのでござる…」

ティンカーベル「あー…確かにそれはあるかもね、こないだ結構お話しはしたけど、まだ仲良し!とは言えないもんね」

キモオタ「そうなのでござる。実際、おはなしサイリウムを振っても雪の女王殿の能力を使うことは出来ないでござるし、ウォッチで呼び出すことも当然出来ないでござるなぁ」

キモオタ「女王殿はそんな事関係なく我々に協力してくれるでござろうし、まぁ言ってしまえば特に問題はないのでござるが……とはいえ我々は目的を同じくする仲間、親睦を深めたいという気持ちが我輩にはあるのでござるなwww」



392:◆oBwZbn5S8kKC 2016/06/06(月)01:18:43 ID:jqz

ティンカーベル「うん、だよね!遊んでる時間はないけど…でも折角なんだから女王ともいろいろお話ししたいし、もっと仲良くなりたいよね。困ったときだけ協力して貰うだけの関係なんて寂しいもん」

キモオタ「我輩も同感でござるwwwそこで活躍するのがこのポータブルDVDプレイヤーですぞwww」コポォ

ティンカーベル「だからそれがわかんないんだよ、なんで?まさか…女王と一緒にアニメでも見るの?さすがにそんなわけないよn」

キモオタ「ドゥフフ御名答www雪の女王殿にちなんだディズニーの例のアレを見るのでござるwww一緒にアニメを見ることで仲間意識的なものが芽生え、更にアニメの感想に話題を持って行けば話も弾みますぞwwwこれぞキモオタ式交友術www」コポォ

ティンカーベル「……」ポイッ ガシャーン

キモオタ「ぬああぁー!我輩のポータブルDVDプレイヤーがより一層コンパクトにぃぃぃ!!」ガビーン

ティンカーベル「遊びに行くんじゃないんだからこんなのいらないでしょ!女王とは仲良くなりたいけど、もっと他の方法にしなさい!」プンスカ

キモオタ「ぬぅぅ無念…。しかし女王殿との距離を埋める手立てはこれだけではないですぞwww先程デパ地下で購入したこの総菜やスイーツの数々…!これを手土産にすれば我々は一目置かれること間違いなしwww親睦を深めるのにも大いに役立つでござろうwww」ドッサリ

ティンカーベル「いや、女王と仲良くなることが今回一番の目的じゃないからね?それにあの宮殿には女王とカイしかいないんじゃない?そんなに大量に持って行っても食べきれないよ!」

キモオタ「この料理には我々の分も含まれているのでござるよwww食卓を囲み同じ料理を食べることで親睦を深めていく…名付けて同じ釜の飯作戦ですぞwww」

ティンカーベル「うーん…ご馳走が私の口にも入るならその作戦には賛成だけど、でも一緒にご飯食べただけで仲良くなれるもんなのかなぁ?」

キモオタ「それは確実になれるでござろうwww我輩とお主は同じピザを分け合い、同じ唐揚げの山を崩し、共にバーガーをかじりながら今日まで過ごしてきたのでござるしなwww」

ティンカーベル「あはは、確かな実績があったね。まぁ色々おいしい物食べながら私達は仲良くなったんだねぇ…というかこっちでもおとぎ話の世界でも食べてばっかりで確実に前より体重増えた感あるんだけどね…」

キモオタ「体重計に乗らない覚悟。それこそがうまい飯を食べるための秘訣ですぞwww」



393:◆oBwZbn5S8kKC 2016/06/06(月)01:20:55 ID:jqz

・・・しばらくして

キモオタ「ドゥフフwww荷造りに思いの外時間がかかってしまいましたなwwwしかし時間をかけた分、計量でありながら充実した装備が実現できましたなwww我輩のこの完璧な旅支度を見るがいいですぞwww」

ティンカーベル「ふむふむ、魔法具にお菓子に…まぁキモオタにしては上出来だね。合格にしといてあげよう」フフン

キモオタ「ちょwww何故に上から目線wwwまぁ問題ないならいいでござるけどねwww」コポォ

ティンカーベル「それとこれも入れといたげるよ。今回は気が抜けない戦いになるかもだからね~、ティンクさんが特別に妖精の粉を瓶に詰めておいたよ!感謝せよ!」グイグイ

キモオタ「おおwwwそれはありがたいdちょwwwそれジャムの空き瓶でござろうwww妖精の粉、扱いがぞんざいすぎますぞwww」

ティンカーベル「いいんだよ!ちゃんと洗ってるんだから!ジャムとかの瓶もラベルを綺麗に剥がしたらオシャレな容器として使えるって昼間のテレビでやってたの!」

キモオタ「主婦でござるかお主はwwwとはいえありがたく頂戴しますぞwww」

ティンカーベル「そんじゃあ準備もバッチリだし出発しよう!あっ、その前に寒さ対策していかなきゃね!【雪の女王】の世界は極寒の地だし!」

キモオタ「ドゥフフwwwその点はぬかりありませんぞwww『ダッフルコート買ったったwww』というスレを立てたいが為に購入したこいつを纏えば防寒は完璧でござるwww」ファサ

ティンカーベル「……」

キモオタ「ちょwww何故無言wwwどうかしましたかなwww」

ティンカーベル「ううん、完璧ならいいや。んじゃポケットにホッカイロを入れて…と、私はそこに入っとくね!」ポイポイッ

キモオタ「低温やけどせぬように気をつけるのですぞwwwさて、出発ですぞ!ティンカーベル殿、お願いしますぞwww」コポォ

ティンカーベル「任せて!そんじゃ行くよ!【雪の女王】の世界へ!」

キィィィィィン



394:◆oBwZbn5S8kKC 2016/06/06(月)01:23:02 ID:jqz

雪の女王の世界 女王の宮殿前

ビュオオオォォォォォ

キモオタ「ブヒイィィイイイィィィ!?さささ寒いでごござるる…!げげ解せぬ…!すす数万したこここのコートのおかげでわわ我輩のののぼぼ防寒はかか完璧のはずず…」ガタガタガタ

ティンカーベル「まぁそうなるよね…日本の冬の寒さはしのげても女王の世界の寒さはしのげないよそのコートじゃあ。だってほら見てよオーロラ出てるし、自然をなめちゃ駄目だよ!」

キモオタ「ちょwwwそそそれ気がついてるならさささ先に言ってもももらいたかったですぞぞぞwww優しさがたりないいいwww」ドドドフゥフフ

ティンカーベル「そ、それは違うじゃん!言おうかなーって思ったけどキモオタが完璧だって言うから私はそれに賭けたんだよ!友達を信じてあえて言わなかったの!」

キモオタ「ちょwwwそんな言い方されるとと責められないいwwwとととにかく女王殿の宮殿はめめ目の前、ここはひとつ急いで向かいいい暖をとらせてもらうとしますぞぞぞwww」ザクザク

ティンカーベル「そだね、せっかくの手土産が凍っちゃったら台無しだもん。保温出来るかなと思って念のためにホッカイロ入れといたから少しは大丈夫だと思うけど」

キモオタ「ちょwwwか唐揚げへの気遣いの半分でも我輩に向けて欲しいのでござるがががwww」コポォ

ティンカーベル「ほら!コポコポ言ってないで急がなきゃ!もたもたしてたら凍え死んじゃうよ!」

キモオタ「そそそれは嫌ですなななwwwそそそれにお主だからぶっちゃけるでござるががが我輩、雪が若干トラウマなのでござるよよよwww実は精神と肉体の両方にダメージを受けているのでござるなwww」

ティンカーベル「雪がトラウマ?あー…マッチ売りちゃんの事があるから?」

キモオタ「そそそうなのでござるよ恥ずかしながらwwwただし女王殿や他の皆には内緒にしていただきたいwww特訓して貰おうというのに気を使わせては悪いですからなwww」

ティンカーベル「…そっか、わかった。仕方ないから私のホッカイロ一個使ってもいいよ!だから頑張って女王のとこ行こうね、おとぎ話の世界が平和になればマッチ売りちゃんもお空の上で喜んでくれるよ」スッ

キモオタ「そそそうだとしたら喜ばしいことですなwwwさぁ、弱音吐きタイムはここまでですぞwwwささぁ先を急ぎますかなななwww」コポォ



407:◆oBwZbn5S8kKC 2016/06/13(月)00:17:19 ID:xVI

雪の女王の世界 女王の宮殿 エントランス

ドンドンッ ドンドンッ

カイ「あーうっせぇな…わかってる!んなノックしなくても今開けるから待ってろ!ったく…女王が余計な事に首突っ込んでから客が来すぎなんだよ。毎度毎度俺が客の案内しなきゃなんねぇし…」スタスタ

カイ「何で俺の読書時間が奪われなきゃならねぇんだクソッ。せめて書庫をエントランス近くに移設するとかそういう配慮あるだろうがよぉ…」ブツブツ

ドンドンドンドンドンドンドンドンドンッ

カイ「うるせぇ!待てって言ってんだろうが!一体誰だっt」ガチャッ

キモオタ「ぶひいぃぃーっ!!やっと開いたでござるぅ!外寒すぎでござるぅぅ!!」ズサーゴロゴロゴロ

ティンカーベル「いやー、宮殿まであと一歩!ってところ急に吹雪いて来ちゃったもんねぇ、まいったまいった!…あっ、おじゃましまーす」ヒラヒラ

カイ「お、おう…お前等か」ヒキッ

キモオタ「おおっと、挨拶が遅れましたなwwwお久しぶりでござるカイ殿www扉開けていただいて助かりましたぞwww我輩、危うく冷やしラードになるとこでござったwww」コポォ

カイ「さほど久しくもねぇだろ。名前、覚えてるぜ。ヘンゼル達の連れ合いのティンカーベルと…キモオタだろ。しかしまた随分と軽装だな、追い剥ぎにでもあったのか?」

キモオタ「いやいやwwwそう言うわけではなくwwwちょっと自然をなめておりましてなwwwもっと厚着すべきでしたなwww」

カイ「まぁどうだっていいが…んなことより女王に用事があって来たんだろ?あいつなら自室だ、呼んできてやるからお前等は応接室に…」

カイ「いや、その様子じゃあ体を温めるのが先か。ついて来な、先に暖かい茶を淹れてやる、その方がいいだろ」スタスタ

キモオタ「おおおwwwそれは嬉しい気遣いですなwww我輩、サトウマシマシミルクオオメで頼みますぞwww」コポォ

ティンカーベル「あっ!じゃあ私はサトウマシマシマシマシ…」

カイ「増しすぎだろ。今は砂糖の備蓄がそんなにねぇんだ、グレーテルがいねぇからな。ちょい増しで我慢しろ」スタスタ



408:◆oBwZbn5S8kKC 2016/06/13(月)00:21:13 ID:xVI

女王の宮殿 ダイニング

キモオタ「くぅ~www吹雪で冷え切った体に温かい紅茶が染みますなぁwwwあっ、カイ殿www紅茶のおかわりを頂けますかなwww」コポォ

ティンカーベル「あっ、私もおかわり!あと何かお茶菓子があったら嬉しいよ!」

カイ「何しれっと要求してんだ。ったく、お前等みたいな図々しい客初めてだぜ…あいつらがいねぇから菓子っつってもラスクくらいしかねぇぞ」コトッ

キモオタ「かたじけないwwwしかし申し訳ありませんでしたなwww急に押し掛けた上にお茶までごちそうになってしまいwww」コポォ

カイ「まったくだ。お前等の相手をしなけりゃ俺はもっと読書に没頭できたはずなんだがなぁ…」

ティンカーベル「まぁまぁそう言わないでよー、今はこの広い宮殿にカイと女王の二人で住んでるんでしょ?たまにはお客さんが来た方が寂しくなくていいじゃん!」

カイ「必要ねぇな、俺は本さえありゃあそれで良い。しいていうなら…数学でも文学でも何でも構わねぇから心躍るような難題に挑戦出来りゃあ上々だな。一人が静かで良い、客だの家族など煩わしいだけだ」

キモオタ「ほうwwwそうは言いつつもお千代殿やヘンゼル殿にグレーテル殿達www家族が次々家を出て行ってしまって寂しいのではないですかなwww」コポォ

カイ「無いな。そもそもあいつらの居場所はここじゃねぇんだ、いつまでもこの宮殿にいる方が間違ってんだろ。所詮あいつらは余所者だからな」

ティンカーベル「ちょっと!家族なんでしょ?そんなひどい言い方しなくていいじゃん!」プリプリ

カイ「事実だろ、余所の世界のあいつらが目的も無くこの宮殿に残っても良いことなんざねぇよ。というかお前おとなしく待ってろ、もうじき女王も来るだろうしよ」ズズー

ティンカーベル「むむぅ…カイは薄情者だよ。ヘンゼルやグレーテルはカイの事ちゃんち家族だと思ってるみたいなのに。やっぱり悪魔の鏡の破片のせいで心が冷たくなっちゃってるのかな?」ヒソヒソ

キモオタ「だとしたら我々に茶を振る舞ったりせんでござろうwwwそれに口は悪いでござるが、ヘンゼル殿や女王殿と家族だということを否定しない辺り…まぁそう言うことでござろうなwww」ムシャムシャ

ティンカーベル「あー確かにそっか。こないだも急に戻ってきたヘンゼルに色々世話焼いてたしね」モグモグ

キモオタ「今だって我々をほったらかしにする事も出来るはずなのにこの場に残ってくれておりますしなwww素直になれないだけの思春期ボーイでござるよwww」コポォ

カイ「チッ…お前等聞こえてんだぞ、黙って待てねぇのか」



409:◆oBwZbn5S8kKC 2016/06/13(月)00:24:07 ID:xVI

ガチャッ

雪の女王「やぁ、キモオタにティンカーベル。待たせてしまってすまない、ようこそ私の宮殿へ。そんな軽装じゃあ外は寒かっただろう遠慮なくくつろいでくれ」フフッ

キモオタ「これはこれは女王殿www申し訳ありませんな忙しいときにアポ無しで押し掛けてしまってwww」コポォ

ティンカーベル「ごめんね!でも女王にお願いとか報告とか色々あってねー…あっ!キモオタ、例の物を渡すの忘れちゃ駄目だよ!」

キモオタ「もちろんですぞwww女王殿、これ冷えてしまいましたが手土産でござるwww現実世界のうまいものを色々と持ってきたのでカイ殿と食べてくだされwww」スッ

雪の女王「あぁ、ありがとう。そんな気を使わなくて良かったんだぞ?だがせっかくの好意だ、頂くよ。ほう、これは高島屋の地下の…なんとも美味しそうな物が揃っている」

キモオタ「ちょwwwなんで高島屋だってわかったでござるかwww」コポォ

ティンカーベル「まさかこの世界にも高島屋が……!?」

カイ「何言ってんだお前。そんなわけねぇだろ、お千代がこの宮殿に帰って来るときなんかによく手土産にしてんだよ」

雪の女王「実家に帰るのに手土産なんか必要ないというのに、律儀な娘だよ。しかしキモオタ、この料理は私とカイの分にしては多すぎるように思えるが…さては二人ともこの宮殿に滞在しようと言う考えだな?」フフッ

キモオタ「ドゥフフwwwバレてしまいましたなwww実は我々もご相伴に預かろうかと思っておりましてなwww」

ティンカーベル「実はね、私達は女王に特訓して貰いたいなって思ってるの!アリスとの戦いが近いからもっと強くなりたいんだ!」

キモオタ「魔力も豊富でこんな立派な宮殿を作り出してしまうほどの女王殿ならばなんかこう…いい感じの特訓をしてくれるのではないかと期待しておりましてwww」

ティンカーベル「他にも色々と用事はあるんだけどね、そういうことだからなんかいい感じの特訓して欲しいの!それでちょっとの間だけこの宮殿に泊めてくれるともっと助かるんだけど…」

カイ「いい感じってなんだよ、雑すぎんだろこいつら」

雪の女王「フフッ、随分と買いかぶられているようだ。そういうことならば協力しよう、私はこの世界から離れられないから特訓の相手をする時間も取れるだろう。部屋も貸そう、後で案内するよ」フフッ



410:◆oBwZbn5S8kKC 2016/06/13(月)00:27:19 ID:xVI

雪の女王「だが単なる思いつきや気まぐれで私の所へ来たわけではないんだろう?何か理由があって…近々アリスとの戦いを予感している、だからこそ急にやってきて私に協力を求めた。そうだろう?」

キモオタ「いやはや、まったくその通りでござるよwww我々には時間があまり無いのでござる、故に特訓するならば濃密な物にしたいのですぞ。そこで強力な魔力を持つ女王殿を頼ったわけでござる」

ティンカーベル「あのね、実は三日後に私達はみんなと一緒にアリスの世界に乗り込むことになってるんだ」

雪の女王「三日後とは随分と急だな」

カイ「アリスは今回の騒ぎの元凶なんだろ?【不思議の国のアリス】はアリスの領域、乗り込んでいくなんてのは危険過ぎやしねぇか?」

キモオタ「それは百も承知なのでござるが…我々にとっては避けられない戦いなのでござるよ」

雪の女王「何か事情があるというのだな。聞かせて貰おう、何故こうも急にアリスの世界への突入を決断したのかを。他にも私に用があると言うのならばそれも併せて聞いておこう」

ティンカーベル「うん、でもどっから話そうかな…ねぇキモオタ?」

キモオタ「女王殿もご存じの通り、我々はおとぎ話の世界に起きた異変をなんとかするべく…そして世界の消滅を防ぐべく様々な世界を旅しているでござる」

女王「あぁ、そしてその異変の元凶がアリスだと判明した今、彼女を止める事を目標にして動いている。君も、そして私もな」

キモオタ「そうですな、そして我々はその旅の途中で多くの人々と出会い、アリス殿の企みを阻止するという同じ目的を掲げる仲間と出会うことが出来たのでござる」

ティンカーベル「シンデレラの事は知ってるよね?シンデレラも私達の友達で一緒に戦ってくれるはずだったんだけど…今はアリスに連れ去られちゃって、あいつらの世界にいるんだ」

雪の女王「つまり人質ということか?」

キモオタ「なんと言えばいいのか…我々が得た情報によるとシンデレラ殿は以前とは別人のようだったらしいでござる。アリス殿の元で戦っている姿が確認されてましてな…それが強要されたのものなのか、あるいは」

キモオタ「何らかの魔法具による洗脳や精神操作…シンデレラ殿はそういった類の魔法の被害にあっていると我々は考えているのでござる」



411:◆oBwZbn5S8kKC 2016/06/13(月)00:29:29 ID:xVI

女王「……精神に干渉する魔法具、か」スッ

キモオタ「女王殿…?何か心当たりがあるのですかな?」

カイ「心当たりも何も…アリスに連れ去られたシンデレラが別人のようになっちまったってなら、間違いなく……」

女王「キモオタ、ティンカーベル。どうやら私は、君達に謝罪をしなければならないようだ」

ティンカーベル「えっ?女王が私達に?なんで?別に何もされてないよね?」

キモオタ「どう言うことですかな女王殿?理由を話していただきたいのでござるが…」

雪の女王「君達も存在は知っているはずだ。この【雪の女王】の世界にはある一つの魔法具が存在する。悪魔が作り出した鏡…砕け散って破片になった今でも魔法の力は失われていない、悪魔の鏡の破片だ」

ティンカーベル「あっ!そうそう思い出した!前に白鳥にも言ったけどさ、私ね魔法具の材料にするためにその悪魔の鏡の破片が欲しいの!なんか催促するみたいになっちゃうけど…それって今すぐ手には入らないかな?」

雪の女王「あぁ聞いている、そのことも君に言わなければいけないと思っていた。だが…今、この世界に悪魔の鏡の破片は存在しない。君に譲ることも当然出来ない」

ティンカーベル「えぇっ!?それって前はあったってことだよね!?」

雪の女王「あぁ、以前は存在した。悪魔とは言うが彼等はおとぎ話の事情を知る味方、強い力を持つ連中だから鏡に破片の保管も彼らに任していたが……私が留守にしている間アリスの襲撃にあった悪魔達は鏡の破片を奪われた」

キモオタ「なん…ですと…!悪魔の鏡の破片を奪われたですと…!」



412:◆oBwZbn5S8kKC 2016/06/13(月)00:33:20 ID:xVI

雪の女王「本来アリスは私を消すためにこの世界へ来たのだろう、だが不在だったため侵入者に気がついた悪魔達がアリスを迎え撃ったが……返り討ちにされてしまった」

雪の女王「何匹もの悪魔がやられ、一部の土地は彼女の攻撃の爪痕を残したままになっている。だが幸いなことに物語の筋に影響は無く、悪魔達の奮闘のおかげで物語が消滅することなく彼女を追い返した。だが…」

キモオタ「その時、いくつかに破片を奪われてしまったという事ですな…?」

雪の女王「その通りだ。アリスは去り際に彼等から悪魔の鏡の破片を奪っていった。それは決して…奪われても良いものではなかった」

雪の女王「同じ過ちを繰り返さないため、残った破片は私が処分した。同時に破片の奪還のために白鳥や親指姫に【不思議の国のアリス】の偵察を命じたが…それを取り返すことは適わなかった。予想以上に強固な守りだったからだ」

ティンカーベル「じゃあアリスは悪魔の鏡の破片を持っているって事だよね?あいつが強い魔力を持ってる破片を手放すわけ無いもん…」

雪の女王「…すまない、君たちには一番に伝えるべきだった。だが…余計な不安を与えることも避けたかった、だから私は君たちには伝えずこちらで解決しようと思っていたが…」

カイ「アリスにさらわれたシンデレラがどうやら精神に干渉されてるってなると…もうそんな事も言っていられないがな」

雪の女王「あぁ、悪魔の鏡の破片は…人間に使えば対象の精神に干渉し…性格をねじ曲げることが出来る恐ろしい魔法具だ。そしてシンデレラは恐らくその鏡の破片によって…性格を変化させられている。好戦的な性格にな」

キモオタ「なんという…!」

雪の女王「本当にすまない。全てに責任は私にある、鏡の破片の管理が行き届いていなかったこと…そしてあろうことかそれをアリスに奪われてしまったこと」

雪の女王「そしてその破片によって君たちの大切な仲間を危険にさらしてしまった事…悔やんでも悔やみきれない。私は許されざるミスを犯してしまった」



413:◆oBwZbn5S8kKC 2016/06/13(月)00:37:11 ID:xVI

雪の女王「実に情けない話だ。アリスの企みを阻止するなどと言っておきながら、隙をつかれて魔法具を奪われてしまうなど…」

ティンカーベル「確かにやばいしシンデレラが鏡の破片を使われちゃってるならすごく心配だけど…でも悪いのはアリスで女王は悪くないよ!気にすることないって!」

キモオタ「そうですな、それに済んだことですぞ。起きてしまった以上責任の所在などどうだっていいでござる、むしろシンデレラ殿の精神に干渉している魔法具が悪魔の鏡の破片だと断定できるのだとすれば対策も立てやすいでござるよ!」

ティンカーベル「確かにそだね!どうやったらシンデレラを元に戻せるのか分かるわけだし、ポジティブに行くしかないよ!気持ちで負けてたら勝てないし!」

キモオタ「そうですなwww対策さえ分かっていれば魔法具だろうがなんだろうがなんとでもなりますぞwww」コポォ

雪の女王「…君達は随分と前向きだな、悩んでいた私がバカバカしく思える程にな」フフッ

キモオタ「ドゥフフwwwトラブルと遊ぶヤンチャボーイですからな我々www悩んでも仕方ないことは悩まないwww」コポォ

カイ「ただ脳天気なだけだろお前等は」

ティンカーベル「私は違うよ、私はね!まぁキモオタは何にも考えてない脳天気マンだけど」

キモオタ「ちょwww自分ばっかりずるいですぞお主www」コポォ

雪の女王「フフッ、少々胸が軽くなった。だが不甲斐ない姿をさらした事へのケジメはつけるつもりだ、当然君たちへの協力は惜しまない。何でも言うといい」

キモオタ「そいつは助かりますなwwwでは早速シンデレラ殿を脅かしている悪魔の鏡の破片について詳しく聞きたいでござるwww」コポォ

雪の女王「あぁ、シンデレラを救う上で重要になってくるものな。そうだな、丁度ここに悪魔の鏡の破片の影響を受けている少年がいるわけだが…」

カイ「…んだよ俺を説明に使うんじゃねぇよ。ったく、俺も好きで魔法具の影響受けてる訳じゃねぇんだぞ」



414:◆oBwZbn5S8kKC 2016/06/13(月)00:42:22 ID:xVI

雪の女王「先ほど少し話したが悪魔の鏡の破片は対象の性格を変化させる魔法具だ」

キモオタ「ふむ、優しいシンデレラ殿が好戦的になってしまったように…でござるな」

ティンカーベル「じゃあ今は口が悪くてちょっと感じも悪いカイは元々は優しくて可愛らしい少年だったって事だね?」

カイ「感じ悪いとか言ってくるお前の方が感じ悪いけどな」

雪の女王「本質は歪んでモノを写す鏡だ。カイは頭が良いうえに控えめで優しく、他人を思いやれる少年だったからこそ、今はこんなに口が悪い」

カイ「テメェ…俺がキレねぇとでも思ってんのか」

雪の女王「だがカイに場合は元々持っていた知識も得る事への探求心も失っていないし思いやりの心も失っちゃいない、相当感じは悪いがな?」クスクス

カイ「面倒くせぇ…もう諦めた、好きにしやがれ」プイッ

雪の女王「鏡に破片がシンデレラにどこまでの影響を与えたのかは分からない。君達を今も仲間だと思っているかもしれないし思っていないかもしれない、優しい心が残っているかもしれないし完全に失われているのかもしれない。そのあたりは今は何とも言えない」

雪の女王「ただ一つだけ確実なのは鏡の破片は対象の肉体に残留する、という点だ」

ティンカーベル「破片がザンリューする…?それってつまり…どゆこと?」

キモオタ「シンデレラ殿の肉体のどこかに鏡の破片が埋まっている、ということでござるかね?」

雪の女王「あぁ、そう解釈してくれて構わない」



415:◆oBwZbn5S8kKC 2016/06/13(月)00:46:47 ID:xVI

雪の女王「カイの場合…突き刺さった鏡の破片は胸に残留している。彼を悪魔の鏡の魔法から解放するには胸にある破片を取り除く必要がある」

キモオタ「言うには簡単でござるが難しそうでござるな…破片ってごくごく小さな物でござろう?」

雪の女王「そうだな、視認できる大きさではあるが…肉体の中に潜り込んだそれを取り除くのは容易くはない」

キモオタ「ちなみにカイ殿に埋め込まれた鏡の破片は物語的にはどうなるのでござる?」

ティンカーベル「はいはい!私知ってるよ!カイは物語の最後で鏡の破片を取り除かれて元の性格に戻れるんだよね!」

カイ「そうみてぇだな、一応俺がこの先どうなるかは聞いてる」

キモオタ「ほうwwwちなみにどうやってカイ殿は破片を取り除いたのですかな?」

雪の女王「彼には幼なじみのゲルダという少女がいる。ゲルダは村を出て行ったカイを連れ戻すために旅をしているんだが…やがてこの宮殿にたどり着いたゲルダはカイの為に涙を流す」

雪の女王「その涙は冷え切った彼の心を溶かし、胸に残留していた悪魔の鏡の破片を洗い流すんだ。カイは優しくも勇敢なゲルダの愛によって魔法から解き放たれるんだ」

ティンカーベル「くぅ~!知ってたけど改めて聞くとすんごくロマンチックだよねぇ!私そう言うの大好きだよー!カイも隅に置けないよね!」

カイ「茶化すな。俺のことなんかほっときゃいいのにゲルダの奴無茶しやがって」

キモオタ「しかしおとぎ話に主人公はリア充が多いでござるなぁwww可愛い幼なじみがいる時点で勝ち組なのにしかも好かれているとかwwwカイ殿爆発しろwww」

カイ「しねぇよ。お前が爆散しろ」



416:◆oBwZbn5S8kKC 2016/06/13(月)00:53:32 ID:xVI

雪の女王「だがカイの場合、鏡の破片が洗い流されたのはゲルダに流した涙だったからだと考えるべきだ。シンデレラ同じ方法が通用するとは限らない」

キモオタ「むむう…しかし方法は問わずシンデレラ殿の肉体から破片を取り除けばいいのでござるよね?」

雪の女王「そうだ。だから今その方法を考えても実際の彼女の状況によってはその方法が使えなくなるかもしれない…闇雲に考えるよりも実際の状況を見て適切な手段を選ぶべきだな」

ティンカーベル「そっかぁ…まぁでもとにかく体のどっかにある破片を探して取り除く!これ分かってるだけでも違うよね!」

キモオタ「そうですなwwwこの情報は後ほど皆に伝えておくべきですなwww」

雪の女王「他のおとぎ話を読んでヒントになりそうな物を探すというのも手だな、書庫も自由に出入りしてくれ。役立つ本も多くおいてあるはずだ」

カイ「チッ…俺の安住の地にまた邪魔者が来るって事かよ…」

キモオタ「いやはやwww何から何まですいませんなぁwww助かりますぞwww」

雪の女王「だが折角だ、君達は私に特訓をして貰いたいと言っていたな?ならばまず君たちの力量を見ておきたい」

ティンカーベル「あっ、早速特訓開始!?よっし、頑張るぞ!」

キモオタ「我輩も気合い満タンですぞwwwでは早速頼みますぞwww」

雪の女王「あぁ、時間がないのなら少しでも早く取りかかった方がいいからな、今から特訓を開始する。カイ、すまないがその間に皆の食事の準備をしておいてくれるか?それと客間のベッドメイクもだ」

カイ「面倒だがまぁそれくらいはやってやるよ。つーか特訓するのは良いがよぉ…こいつらの事うっかり殺しちまうなよ?」

雪の女王「フフッ、それは彼ら次第だな。訓練ごときで私に殺されるようならそのときは……その程度だって事だ」

キモティン「えっ」



429:◆oBwZbn5S8kKC 2016/06/20(月)00:20:08 ID:bJm

ティンカーベル「あ、あはは!もーっ!二人してそんな物騒なこと言って、私達をビビらせようたってそうはいかないよ!」

キモオタ「まったくですぞwwwこんな場面でジョークをぶっこんでくるとは、女王殿はクールな外見に似合わず相当なジョーク好きのようですなwwwしかしジョークのクオリティにおいてはどうやら我々に分があるようですぞwww」コポォ

ティンカーベル「そうだよね!いくら女王がすんごい魔力持ってるからって特訓でうっかり私達を殺しちゃうなんて、ある訳ないじゃん!嘘っぽすぎてバレバレの冗談だよー!」

キモオタ「もっとリアリティのあるジョークでないと我々をビビらせることなど出来ませんぞwww」コポォ

雪の女王「…なぁカイ、私は今、何か冗談を口にしたか?」

カイ「いいや、冗談を言っているようには聞こえなかったが?」

雪の女王「あぁ、その通りだ。だが彼らの反応を見るにまさかとは思うが…『特訓なのだから命に危険が及ぶはず無い』などと考えているのではないだろうか?」

カイ「いくらなんでもそこまで浅はかじゃないだろう。実戦でないとはいえ『雪の女王』の名を冠するお前を相手に戦うということがどういうことか理解していると思うぞ?」

雪の女王「フフッ、そうだよな。自画自賛になってしまうが私の魔力はおとぎ話の世界でも屈指のものだ、相応の覚悟を持って挑んできていると考えるのは当然だ」フフッ

カイ「あぁ、こいつらも生半可な覚悟で挑んできてるわけねぇだろうぜ。『雪の女王』に挑むということは例えるならば冬を強引に夏に変えようとするようなもんだしな、それこそ命を失う覚悟なんざとっくに済ませてるはずだ」

ティンカーベル「…キモオタ、これ多分ガチの奴だよ!うっかりすると死ぬ奴だよ!?」ヒソヒソ

キモオタ「確かにこれはやばいでござるな…ある程度の覚悟はしていたでござるが、まさかこれほどとは…」

ティンカーベル「怖いけどこうなったらやるしかないよね!でもさ特訓だといっても二人対一人なんて卑怯だからまずはキモオタが犠牲n…じゃなかったキモオタが先陣を切っていく感じでいこう」ヒソヒソ

キモオタ「ずるいですぞwwwここはもう覚悟決めてお互いが死なないように立ち回るしかありますまいwww」ヒソヒソ



430:◆oBwZbn5S8kKC 2016/06/20(月)00:22:00 ID:bJm

雪の女王「…何かヒソヒソと相談しているようだが、どうする?やはり特訓は中止にするか?」

キモオタ「いやいやwww我々は力を付けねばならぬ理由があるのでwww故に特訓お願いしますぞwww」

雪の女王「死を覚悟しての選択、そう判断して構わないな?」

キモオタ「それは正直微妙なところでござるなwwwとはいえここで死を回避しても、弱いままならアリス殿に殺されるでござろうしなwwwまぁ死に物狂いでやれば大丈夫でござろうwww」

ティンカーベル「まぁぶっちゃけあんな言い方されたらすんごい怖いけどね!」

キモオタ「ちょwww直球wwwティンカーベル殿の魂の叫びがwww」

ティンカーベル「でも口ばっかりでいざ戦うとなったら怖いから止めますー、なんて言ってたらマッチ売りちゃんも草葉の陰で苦笑いだよ!っていうかいっとくけど私だってそう簡単にはやられないよ!」フンス

キモオタ「そうですなwwwと言うわけで女王殿、改めてよろしく頼むでござるwww」

雪の女王「いいだろう、とはいえこの宮殿には特訓に耐えうるような場所が存在しない。少し時間を貰おうか、今から戦いに相応しい場を生成しよう」

キモオタ「なんとwww専用の空間を造るとはwwwなんだか手を煩わせてしまって申し訳ないですなwww」

雪の女王「構わないよ、私も君たちの覚悟に応えねばな。そうだな…二十分後に宮殿の前に来てくれ、もちろん戦いの準備を済ませておくように。行くぞ、カイ」

カイ「あぁ。ティーセットはあとで片すからそのままにしておいて構わないぜ、せいぜい死なない準備をしておくんだな」フフッ

キモオタ「また不穏なことを言い残しておきましたなwwwとりあえず準備して行きますかなwww」コポォ

ティンカーベル「そだね、それに前向きに考えたらこれはむしろラッキーだよ!女王を相手に善戦できたらアリス相手でもそんなに苦戦しないって事の証明にもなるしさ!そう思うことにした!」

キモオタ「ほうwwwそれは確かにwwwならばここは是が非でも善戦して、アリス殿との決戦の前に箔をつけておきたいですなwww」



431:◆oBwZbn5S8kKC 2016/06/20(月)00:24:56 ID:bJm

女王の宮殿 宮殿前の雪原

雪の女王「この辺りにしよう。建造物クラスの大物を生成するのは久しぶりだ、シンプルで強度を重視したいところだが…さてどんなデザインにするかな」フフッ

パキパキ…ズゴゴゴゴ

カイ「良かったのか?あいつ等に本当のことを言わなくても」

女王「あぁ、別になんの問題もないだろう。嘘をついているわけでも騙しているわけでもないのだから」

カイ「まぁそうだけどよ…俺は解ってるんだぜ?さっきのはあいつ等を鼓舞するための虚言。俺もそれを察したからあいつ等をちょっとビビらせてやろうと口裏を合わせたんだしな」

雪の女王「まぁそうだな。甘えさせるつもりなど毛頭ないが私が本気を出せば…いや、半分の力でさえ二人とも一瞬で氷の欠片になる。あくまで特訓なんだから彼等を殺してしまっては何にもならない」

雪の女王「私は当然、適度に力のセーブをする。だがそれを前もって言ってしまうと…彼等に体は意識的にしろ無意識にしろ自分はどうせ死なないと慢心した動きになってしまう」

カイ「まぁ、そうかもな。んなことじゃあいくら特訓しても実戦で役に立てるとは思えねぇ」

雪の女王「だから少し、容赦のない女王を演じてみたのさ。彼等はブラフや話術に長けていると聞いていたから見破られるかとも思ったが私の演技もなかなかということだな」フフッ

カイ「調子に乗るんじゃねぇよ。でもよ…その、なんだ…」

雪の女王「どうした?何か気になることでもあるのか?」

カイ「それであいつ等は強くなれるかもしれねぇけど、お前の評判は悪くなるんじゃねぇか?少なくともあいつ等には容赦のない厳しい女だって思われるかもしれないんだぜ?」

雪の女王「なんだなんだ?私のことを心配してくれるのか?可愛い奴め、抱きしめてやるから近くに来なさい」フフッ

カイ「断る。デカい建物造るのは久しぶりなんだろ、集中しろ。それに心配なんかしてねぇよ、俺はヘンゼル達と違ってお前に懐いてるわけじゃねぇからな」

雪の女王「それは寂しいな。だが安心すると良い、君をさらったのは私なんだ。君に気苦労をかけるようなことはしないさ」

カイ「そうかよ。まぁお前のせいで俺が割を食う事になっても俺はどうとも思わねぇけどな。だからお前の好きにしろ」フイッ スタスタ

雪の女王「フフッ、まったく素直じゃないなカイは」クスクス



432:◆oBwZbn5S8kKC 2016/06/20(月)00:27:06 ID:bJm

二十分後
雪の女王の宮殿前

ドーンッ

キモオタ「ちょwww先程までだだっ広い雪原だったはずの空間にwww巨大な建物がwww」コポォ

ティンカーベル「わーっ…これはすごい。あれだね、現実世界の体育館?あんな感じだね、規模はこっちの方が全然おっきいけど」

キモオタ「これはもはや東京ドーム一個分ですぞwww我輩、スポーツ興味ない故に実物見たことも大きさも知らないでござるけどwww」コポォ

雪の女王「フフッ、お気に召したか?もう少し時間があれば装飾にもこだわりたかったがな。だが強度には自信がある、広さも十分だろう?」

キモオタ「十分すぎますなwwwこれだけ広ければコミケとか開催できますぞwww」コポォ

ティンカーベル「こんな凄い氷の建物、私達の特訓のためだけに造ってもらって悪いなぁ…」

雪の女王「君達が有効に活用してくれることが何よりの労いだ。くれぐれも私に瞬殺されないようにな?」ニコッ

キモオタ「ここまでしてくれる優しさを持ちつつも容赦ないwww女王殿はこういう場面だとスパルタでござるなぁwww」ヒソヒソ

ティンカーベル「優しいけど厳しいってヘンゼル達口を揃えて言ってたしね」ヒソヒソ

キモオタ「そう言えばそうでしたなwwwアメとムチというやつですなwww我輩としてはアメよりポテチがいいのでござるがwww」

雪の女王「さぁ、無駄口を叩いていないで始めるぞ。時間が惜しいんだろう?」



433:◆oBwZbn5S8kKC 2016/06/20(月)00:30:32 ID:bJm

女王の氷ドーム(仮称)内部

ティンカーベル「おぉーっ!中はあんまり寒くないね!」

キモオタ「というか外が寒すぎなのでござるよwww吹雪とかやばいでござるからなwww」

ティンカーベル「それにしても天井は高いしとにかく広いし…これが氷だけで出来ててしかも二十分くらいで造っちゃったとか圧巻だねぇ…」

キモオタ「宅配ピザが家に届くより早いですからなwww」コポォ

雪の女王「まずは君達の力量を計りたい。だから今回は遮蔽物を一切造っていない、今後必要ならば追加で設置していこう」スタスタ

キモオタ「力量を計るといっても…いったい何をするのでござるかな?」

雪の女王「難しいことじゃない。君たち二人で私を倒すつもりでかかってくればいいだけだ。どんな手段を使っても構わない」スタスタ

ティンカーベル「魔法具とか妖精の粉とか…なんでも?どうなったら終わりになるの?」

雪の女王「基本的には降参をするか意識を失ったらそこで終了だ。私に遠慮はいらないから全力出来てくれ。…っと、最初はこれくらい距離をとって対峙しようか」スタスタ

ティンカーベル「結構距離とったね…まぁ私はスリングショット使いだから距離はあった方がいいけど!」

キモオタ「ルールは分かりましたぞwwwとはいえ…本当に全力でもいいのでござるか?我輩のおはなしサイリウムの能力は攻撃特化も多いでござるし、女王殿を怪我させてしまう可能性もありますぞ?」

雪の女王「聞いていたとおり、君はキモいが優しい男だな。だが、手の内を晒すのは頂けない。私が全力で来いと言ったんだ、君は自分の持てる力を余すことなく使えばいい」

雪の女王「さぁ…それじゃあ特訓開始だ」スッ

キティンカーベル「ちょっと待って…!自惚れてもないし女王の凄さも分かってるけどさ、でもそれで女王に怪我なんかさせたら…」

雪の女王「私は『開始』だと言ったんだぞ。既に戦闘は始まっている」ヒュッ

ビュッ

キモオタ「ファッ!?…女王殿が一気に距離を詰めてきましたぞ!?」ブヒッ

雪の女王の声「さぁすぐに敵を見据えろ。相手の心配をしているほど、君達に余裕はないはずだぞ?」



435:◆oBwZbn5S8kKC 2016/06/20(月)00:32:31 ID:bJm

ティンカーベル「うわー!マズいよキモオタ!結構距離あったから安心してたけど、あのスピードだと一瞬で距離詰められちゃう!」

キモオタ「初っ端から距離を詰められるのは避けたいですな…。ここはシンデレラ殿との絆の力で一旦離れて距離を取り直しますぞ!」フリフリフリ

おはなしサイリウム「コード認識完了『シンデレラ』 魔法発現状態へ移行……モード『step』」

キモオタ「ここはガラスの靴の如き瞬足で一気に距離を取るでごz…ぶひぃぃぃっ!」ビターンッ!

ティンカーベル「あっ!キモオタが盛大に転んだ!もう!普段運動しないからこうなるんだよ!」プンスカ

キモオタ「いや、運動不足が原因ではないですぞ!?我輩の靴が…床に縫いつけられてるでござる!」パキパキパキ

ティンカーベル「本当だ!いつの間に…っていうかこんなに距離があるのに!」

雪の女王「状況分析も良いが打開策を生み出せなければ無駄に終わってしまうぞ?」パキパキパキ…スラッ

キモオタ「女王殿が氷の槍を生成しましたぞ…!あんなもので貫かれては一溜まりもありませんぞ!」

ティンカーベル「急いで氷を床ごと壊そう!赤鬼の金棒なら出来るでしょ!?」

キモオタ「しかし、破壊したところで床を移動していてはまた張り付けられてしまうのでは…んっ?これは…」

ティンカーベル「ぶつぶつ言ってないで早くなんとかしよ!じゃなきゃ動けないキモオタとかただの気持ち悪い的だよ!」

キモオタ「ティンカーベル殿!我輩に妖精の粉を!」

ティンカーベル「!? わかった!でも妖精の粉じゃ氷を壊せないよ!?」

ファサー

キモオタ「問題ありませんぞ!凍りつけられていたのは靴の部分のみ!靴を脱げばこの通り脱出可能ですぞぉぉ!」バッ



436:◆oBwZbn5S8kKC 2016/06/20(月)00:34:02 ID:bJm


雪の女王「危ないところだったなキモオタ。二人が随分と慌てているから私が凍らせているのが靴の部分だけだという事に気がつかないと思ったぞ」フフッ

キモオタ「間一髪でござったけどね、思ったより我輩の脳味噌は冷静だったでござる」フワフワ

ティンカーベル「でもラッキーだったね!女王がうっかりしてて!足ごと凍り付かせてたら完全にアウトだったもんね!」

キモオタ「いや…女王殿がそんなミスをしますかな?これはおそらく敢えて靴だけ凍らせたでござる、我々に対抗手段を残すために」ヒソヒソ

ティンカーベル「そっか、私達の力量を計るって言ってたし…冷静に対処できるかどうか見てたんだね!」ヒソヒソ

キモオタ「恐らく。あのまま氷を壊して逃げても床に面している以上同じ事の繰り返しでござるしな」ヒソヒソ

雪の女王「冷静でいたことは誉めてやろう。だが反撃の好機をお喋りで無為にするのは愚策だな。お前たちが空中に逃げることを私が予測していたとしたらどうする?」パキパキパキ

ティンカーベル「氷柱だ!女王の周りに氷柱!あれこっちに飛ばしてくる奴だよ!どうする!?」

キモオタ「回避か防御…ですぞ!しかし回避するにしてもあれがホーミングしてこないという確証はないでござるし、防御も方法を間違えれば不利に…なんとか戦いの流れを掴まねば…」

雪の女王「考えていても流れなど掴めないぞ?とにかく行動しなければな。さぁ…こっちは射出準備完了したことだし、アドバイスはここまでだ」スッ

ティンカーベル「キモオタ!どうすんの!?もっと高く飛んで届かないとこまで行く!?」

キモオタ「射程距離が分からない以上…ここは防御アンド作戦タイムですぞ!ティンカーベル殿、我輩の側へ!」フリフリフリ

雪の女王「回避は諦めて防御に徹するか?だがこの氷柱は生半可なものではないぞ?」フフッ

ビュビュビュビュッ



437:◆oBwZbn5S8kKC 2016/06/20(月)00:36:31 ID:bJm

おはなしサイリウム「コード認識完了『ラプンツェル』 魔法発現状態へ移行……モード『tower』」ドォォォォォッ

ガキガキガキィィンッ

雪の女王「【ラプンツェル】の塔か…護るべき者を覆う強固な壁、あの氷柱で打ち破れないところを見るに相当な強度のようだ」スッ

雪の女王「天井…全ての方向の壁どこをとっても隙がない。大方時間稼ぎをして作戦をたてようという算段だろうが…そうはさせない」

雪の女王「塔が一切の攻撃を寄せ付けないのなら…狙うべきは塔の根元、地面を抉ってやればいい」スッ

パキパキパキ…ズゴォッ!!

雪の女王「どの様な強固な建造物も崩れた地面に建ち続けることは出来ない。そして崩れゆく建物周辺で一番危険なのは…その内部だ」

パキパキパキズゴォッ! ゴゴゴゴゴ

雪の女王「塔が崩れるとなれば君達も逃げ出すしかない。そう、私の目の前にな」

ゴゴゴゴゴ ズゥゥゥン

雪の女王(容易く崩せた…?何か策があると考えたが買いかぶりだったか…?あるいは瓦礫に紛れて攻撃するつもりか?)

雪の女王「まぁ良い、まずは私の吹雪で瓦礫を一掃して……」

キモオタ「そおおぉぉい!ティンカーベル殿!今ですぞぉ!塔の崩壊に乗じた奇襲を受けて見ろでござるぅー!」シュッ

ティンカーベル「まっかせてぇぇー!奇襲からのゼロ距離射撃だよぉぉ!!」ピューン

雪の女王「やはり瓦礫の陰からの奇襲か。だがなティンカーベル、近距離から私を撃つというのは良い作戦だが…それをバラしてしまっては意味がない、君の動きを注視すれば容易く避けられるのだから」スッ

ティンカーベル「そうだよね!私のことをしっかり見てればいいと思うよ!」ニヤニヤ

シュッ

雪の女王「マッチ…!あぁやられたな、大声で作戦をバラしていたのは陽動。本命はマッチ売りの魔法具か」フフッ

ティンカーベル「私の動きを注意して見てたんなら絶対にマッチの炎が視界に入るもんね!これで戦いの流れを掴み取るよー!」



438:◆oBwZbn5S8kKC 2016/06/20(月)00:39:42 ID:bJm

キモオタ「ティンカーベル殿!グッジョブですぞwwwここまでは作戦通り、ブラフに煽りに嘘八百!それが我々のバトルスタイルですぞ!女王殿!」

ティンカーベル「きっとこの幻見たら女王は降参するよ!とんでもない地獄絵図だからね!」フンスッ

雪の女王「戦いの最中に勝利を確信する輩というのはほとんどの場合敗北するものだぞ?まぁ、良い…君私が見る幻覚は一体何なんだろうな、少々楽しみだ」クスクス

キモオタ「ドゥフフwwwこれは以前の戦いの場で失策だったものの再利用でござるが…今回はうまくいくでござろうなwww」コポォ

ワラワラワラワラワラワラ

キモオタ2「そうですなwww我々の渾身の策を受けてみよですぞwww」コポォ

キモオタ39「しかしこの人数www幻覚見せるってレベルじゃねぇぞwww」コポォ

キモオタ273「いやいやwww我輩はオタクじゃありませんぞwwwただのアニメファンでしてwww」

キモオタ485「貴様は~wwwだから2ちゃんねるでwwwバカにされるというのだwww」ドゥフコポォ

キモオタ873「ぐえぇぇwww悪霊退散www悪霊退散www」シュシュッ

コポォコポォドゥフドゥフ

雪の女王「キモオタ、ティンカーベル…これは何事だ?」

ティンカーベル「戦闘で適わないなら精神攻撃!マッチ売りちゃんのマッチのおかげで今ここは考え得る限り最悪な空間と化したんだからね!」フンスッ

キモオタ本体「ドゥフフwwwこれぞ雪の女王殿を打ち破る必殺の策略!約千人の我輩が溢れかえるキモい空間に耐えられますかなwww」コポォ

分身キモオタ(およそ1000人)「ちょwww自分でキモイとかwwwクッソワロタwww」ドゥフコポォ



439:◆oBwZbn5S8kKC 2016/06/20(月)00:41:16 ID:bJm

キモオタ本体「分身して攪乱というのは以前、対悟空殿戦でグレーテル殿が使った策略でござるwww幻覚といえど圧倒的な数の暴力は精神に圧迫感を与えると同時に本体がどれだか分からないという一度で二度おいしい策略www」

キモオタ本体「惜しくもグレーテル殿の時は相手の悟空殿がリアルな分身を出せてしまったため無効化されてしまいましたがな…しかし女王殿に分身能力はないですぞ!これでかつる!しかも失策の再利用でエコロジーwww」

キモオタ本体「一人でさえキモい我輩が千人居るとなればキモさは千倍!密集することでおよそ三千倍のキモさ!このえげつない精神攻撃に耐えられますかな!?…ところでティンカーベル殿はどうしてだまっているのですかな?www」

ティンカーベル「ごめん…思ったより気持ち悪くて吐きそう」ウゥー

キモオタ本体「なん…ですと…!まさか味方のティンカーベル殿に被害が及ぶとは大誤算ですぞ!し、しかしこの様子ならば雪の女王殿も相当な精神ダメージを受けているはず…!」チラッ

雪の女王「……」ビュンッビュオンビュオン

キモオタ46「ぶひいぃぃっ!」ボウンッ
キモオタ673「ちょwww美女の足蹴で消えるとかwww」ボウンッ
キモオタ912「むしろご褒美(キリッ」ボウンッ

キモオタ本体「ぶひいぃぃっ!無言で分身を殴るアンド蹴るしてらっしゃる!」

雪の女王「確かにキモいが幻覚ならこうすれば消滅すると相場が決まっている、千人は面倒だがな」ドゴッ

キモオタ本体「や、やめるですぞぉ!これ結構精神にクルものありますぞぉぉ!」



440:◆oBwZbn5S8kKC 2016/06/20(月)00:43:14 ID:bJm

雪の女王「ほぅ…ならばこういうのはどうだ?」ドゴォ

キモオタ235「ちょぶっwww顔面は無いですぞwww」ボウンッ

キモオタ本体「あああっ!我輩(分身)の顔面がさらに見るに耐えない姿にぃ!」

雪の女王「しかし一体ずつ消すのも面倒だな。凍りつけ、見るに耐えない分身共」フッ

パキパキパキパキパキィ

キモオタ本体「ぶひぃっ!?床の上に立っていた分身が動きを止められましたぞ!?ま、まさか女王殿…!」

女王殿「幻覚とはいえ醜い姿に生まれ無念だろう、最期くらいは美しく砕け散るが良い」ビュオッ パリーン

キモオタ本体「ぬああぁ!凍った我輩(分身)が砕けていくでござるぅー!」

雪の女王「……」ドゴォ パリーン ドゴォ パリーン

キモオタ本体「こ、股間とか顔面を重点的に蹴るのは止めてあげてほしいでござるぅ!」ウワアアア

ティンカーベル「うげー…げほげほっ」ゲロー

雪の女王「まったく…後先考えないからこうなるんだ、自分達が出した幻覚でダメージを受けるとは情けない、もう続行は不可能だな」フゥ

雪の女王「キモオタ、ティンカーベル。十五分休憩だ、その間に精神を落ち着けて…時間が来たら二戦目だ。次はしっかりとな」

キモオタ「うぅ…分かりましたぞ…」

ティンカーベル「わかった…それより冷たいお水ください…」

・・・



441:◆oBwZbn5S8kKC 2016/06/20(月)00:45:11 ID:bJm

その夜
雪の女王の宮殿 客間

ティンカーベル「……あー、死んじゃうと思った、女王スパルタすぎるよぉ」パサッ

キモオタ「ティンカーベル殿が速攻でベッドに墜落とは珍しいですな…そして我輩もダメでござるー」ドサァ

ティンカーベル「今日は疲れた…心身ともにね…」

キモオタ「食事もまだだというのにもう眠りたい勢いですなぁ…」

ティンカーベル「お腹すんごく空いてるのに食べる気にならない…」

キモオタ「ガッツリ泳いだり全力で走りまくったりすると逆に食べられなくなったりするらしいですぞ…まぁどうでもいい情報ですな」

ティンカーベル「みんなも頑張ってるんだし、もっとキリッとしなきゃなんだろうけどとにかく疲れた…」

キモオタ「赤ずきん殿赤鬼殿は別のおとぎ話へ、桃太郎殿も新たな地で修行、ヘンゼル殿ドロシー殿は裸王殿のとこ、ラプンツェル殿はシェヘラザード殿の所…おそらくそれぞれ頑張ってるのでござろう、我々だけ弱音を吐くわけにもいきますまい」

ティンカーベル「まぁね…それに大変だっただけあっていろいろ分かったこともあるし、女王との戦いも最期の方ではうまい具合に連携取れたと思うよ私達」

キモオタ「それでも一度も女王殿を倒せず降参もさせられずでしたがな…」

ティンカーベル「まぁそれは…うん、勝つことが目的じゃないからね。あした頑張ろ、うん、明日また頑張ろう」

キモオタ「そうですな…食事をいただいて早めに休むとするでござる。こんな情けない姿を女王殿に見せるわけにもいきませんからな、切り替えていかねばwww」

・・・



442:◆oBwZbn5S8kKC 2016/06/20(月)00:49:12 ID:bJm

同じ頃
アラビアンナイトの世界 王宮

ラプンツェル「ねーねー、シェヘラザード!お願いだってば~!私も皆みたいにしゅぎょーがしたいんだよぉー!」

シェヘラザード「ダメです。ラプンツェルさんは勉学の為にこの場に居るのでしょう?戦いを教えるために招いたのではありません」

ラプンツェル「そんな事言わないでさー、今日だって一日中大変なお勉強頑張ったんだからご褒美として!ねっ?」

シェヘラザード「だからダメです。数字の勉強や物理の勉強だってあなたに必要なものですよ。あなたの髪の毛は自在に操れますがあくまでそれはあなたの意志で動く、あなた自身が賢くなれば今よりも効率的に髪の毛を操れるのですよ。だから…」

ラプンツェル「えーっ!?絶対に実戦っぽくしたほうがいいってば!こう、悪いとーぞくとかをぐるぐるっと一網打尽にするとか!」ワクワク

シェヘラザード「絶対にダメです、私はあなたのお母様と約束しているのです。危険な目に遭わせない、無茶をさせないと、ですからあなたは三日間勉強付けです」

ラプンツェル「えーっ!?実戦の方がいい!体動かしてる方が楽しいもん!だから実戦実戦!とーぞくとか退治しーたーいー!」ジタバタ

シェヘラザード「駄々っ子ですかあなたは…何をしてもダメです。賢くなれば効率的な支援や援護を見極められます、あなたの特性はサポートで真価を発揮すると私は考えてます。戦陣切って戦うのはもっと適した方に…」

ラプンツェル「やだー!私もたたかいたいんだよ!仲間外れっぽいじゃんー!」

シェヘラザード「そんな事はありません。ですから明日も私と勉強です」

ラプンツェル「ぐぬぬ…シェヘラザードの馬鹿!けちんぼ!」

シェヘラザード「また子供のように…でも好きに言いなさい、私はそんな挑発には乗りません」

ラプンツェル「シェヘラザードのいじっぱり!おたんこなす!」

シェヘラザード「はいはい、そうですね。明日も早いのですから今日はもう休んd」

ラプンツェル「シェヘラザードのちび!ぺたんこお○ぱい!」

シェヘラザード「……ラプンツェルさん、こっちに来てください」

ラプンツェル「あっ、やっとお願い聞いてくれる気になった!?えへへっ、やったぁー…痛いっ!」ベチッ

シェヘラザード「他人の外見を蔑むなど最も卑劣な好意ですよ。明日、同じ時間から勉強の続きですからね」フイッ

ラプンツェル「むーっ…シェヘラザードのわからずや!もー私勝手にするからいいもんっ!」プンプン



465:◆oBwZbn5S8kKC 2016/06/27(月)00:31:07 ID:fWS

翌朝…キモオタ達の作戦決行まであと2日
アラビアンナイトの世界 王宮 

給仕「失礼いたします。国王様、食後のお茶はいかがなさいますか?」スッ

国王「貰おう。今日は特に濃いめの茶を頼む、眠気が覚めるようなものをな」

給仕「かしこまりました。すぐにお持ちいたします」ペコリ スタスタ

国王「さて、茶を済ませたら大臣と会談の打ち合わせだ。数年ぶりに設けられた隣国の王との会談…私自身の行動が招いた結果とはいえ、ほぼ断絶状態にある国交を回復させるまたとない好機だ」

国王「隣国との関係を以前のように良好なものにできれば物資の流通も人の行き来も盛んになる、そうすれば市場は賑わい景気向上に繋がる。経済が活性化すれば国民の生活も潤うだろう」

シェヘラザード「……」カチャカチャ

国王「疲弊したこの国を蘇らせるにはまずそこからだ。他国からの信用は地に落ち、国に若い女は一人としていない、高齢化と労働力の偏り、我が国が…私が抱える問題はあまりに多い」

シェヘラザード「……」カチャカチャ

国王「だが余所へ行くこともなくこの地に残った国民や、会談に応じた隣国の王、そしてお前のようにこの国がかつての輝きを取り戻せると信じて居るものも居る」

国王「疲弊したこの国を立て直したいと言ったお前をあの日の私は夢物語だと一蹴したが…威厳も尊厳も地に落ちた私をそれでも王と認める者が居るのならば、私はその夢物語を現実にせねばなるまい。近頃、そう思えるようになったのだ」

シェヘラザード「……」カチャカチャ

国王「それにこの国が滅びてしまえば、お前の話す愉快で心躍る物語の数々を聞くことも出来なくなる。それは非常に……」

シェヘラザード「……」カチャカチャ

国王「…シェヘラザード、お前は魚を刻んでいるのか朝食を摂っているのか、どちらだ?皿の上が悲惨な事になっているが」

シェヘラザード「あっ…申し訳ありません。悩みごとと言いますか、少し考え事をしていましたので…とはいえ食物を粗末にするような無作法な真似、王妃としてあるまじき行い。どのような処罰でも受け入れる覚悟はできております」

国王「いや、構わん。その様子では私の話も聞いていなかったのではないか?」

シェヘラザード「……恥ずかしながら。陛下のお言葉を聞き漏らすなど妻としてあってはならぬこと、どのような処罰でもなさってください」

国王「もう良い、大したことは語っていない。忘れろ」

国王「だが普段はしっかりしているお前がこんな醜態を晒すなど余程の事だ。話してみろ、お前は何をそんなに悩んでいるのだ?」



466:◆oBwZbn5S8kKC 2016/06/27(月)00:33:48 ID:fWS

シェヘラザード「いえ、陛下にお聞かせするような事ではございません。ごく個人的な他愛もないことですので」

国王「私にはそうは見えぬが?思えば昨夜も少々様子がおかしかったように思える」

シェヘラザード「いえ…私は平気です。それに本日は大切な会談の日、このようなことで陛下のお時間を浪費するわけにはいきません」

国王「問題ない。王妃とはいえお前はまだまだ小娘だ、悩み事などたかが知れている。それとも何か?この私に小娘の悩みを聞いてやるだけの余裕すら無いとでも思っているのか?」

シェヘラザード「いえ…滅相もありません。陛下がそう仰るのでしたら、少しだけ…聞いていただいてもよろしいですか?」

国王「構わん。私は夫婦の間に隠し事をするなど許さん、お前が悩んでいることは全て打ち明けよ」

シェヘラザード「でしたら…。実は昨日…その、ラプンツェルさんと口論になりまして…。いえ、口論というほど激しいものでは無いのかもしれませんが…」

国王「普段、お前はあの娘と随分と親しくしているではないか。何かお互いの主張が食い違うことでもあったのか?」

シェヘラザード「お察しの通りです…。どこから話したものか…以前陛下もお会いした事があるキモオタさん、覚えておられますか?」

国王「覚えている。あの強烈な容姿と言動…そうそう忘れられるものではない。妖精と旅をしている男だろう?あのどこか気持ちの悪い…」

シェヘラザード「えぇ、そうです。そのキモオタさんは旅をしながら様々な方を助けていて…近々、様々な場所で悪さをしている者との決戦を迎えているのです」

国王「ほう…あの男の旅先での話は実に興味深いものだったが、物見遊山の旅という訳ではないのだな。それで、それがお前とラプンツェルにどう関わってくる?」



467:◆oBwZbn5S8kKC 2016/06/27(月)00:37:13 ID:fWS

シェヘラザード「ラプンツェルさんも私もキモオタさんの事情は知っていましたから、決戦が迫っていると聞いて私達も協力する事に決めたのです」

国王「…話の腰を折るぞ。あの娘はともかく、お前は王妃だ。協力するなとは言わないが、その内容によっては私はそれを止めさせねばならないぞ」

シェヘラザード「ご安心を。私はこの世界から…いえこの国から出て行くことはできません。ですから戦いの場に赴くような事はありません、今までと同じように私は陛下のお側にいます」

シェヘラザード(この世界【アラビアンナイト】はまだ結末を迎えていない。私は物語の筋書き上、毎夜毎夜、陛下にお話を聞かせるという役目がある…それを放棄すればこの世界は消えてしまう)

シェヘラザード(私は皆さんのように、直接キモオタさんの協力をすることが出来ない…残念ですが、この世界が消えてしまえば元も子もありません)

シェヘラザード「しかしラプンツェルさんは違います。彼女はもう居ても立っても居られないようで…キモオタさん達とともに戦い、力になりたいんだと強く思っていました」

国王「あの娘はそうだろうな。良くも悪くもじっとして居なさそうだ」

シェヘラザード「そうなんです…それが今回言い争いになった原因といいますか…。私はラプンツェルさんにはもっと学問に力を入れて欲しいのです、友のために戦うという意志は立派だと思いますが彼女はその…なんと言いますか…」

国王「知恵が足らないようだからな、あの娘は。それを懸念しているのだろう?」

シェヘラザード「…端的に言えばそうです。十年以上世間から隔絶されていたラプンツェルさんは最低限の知識しか身に付けていません。それに精神面が幼すぎます、思慮浅い部分も目立ちます」

シェヘラザード「あの長い髪の毛を操る魔法…体術を駆使すれば強敵を相手取る事もきっと出来ます。ですがラプンツェルさんの場合、精神や思考がその力に対して不足しています」

シェヘラザード「あの長い髪の毛…投げ縄や鎖のような武器は使い手の思考に左右されます。強力な力はうまく使えば敵を苦しめますが判断を誤れば見方を窮地に追い込むことにも…」

シェヘラザード「だから私はラプンツェルさんにもっと知識を与えなければならないんです。彼女のお母様であるゴーテルさんと約束しましたから」

シェヘラザード「そしてそれは戦う力を持たない私が唯一出来る協力なのです」



468:◆oBwZbn5S8kKC 2016/06/27(月)00:40:37 ID:fWS

シェヘラザード「ですから私は実戦よりも知識面の強化を優先しました。ですがラプンツェルさんはもっと実戦的な訓練がしたいと考えていたのです」

国王「成る程な。そこで意見が分かれてしまったのか」

シェヘラザード「私はゴーテルさんから彼女をお預かりしている身。危険な目に遭わせるわけにはいきません。それなのに彼女は実戦的な訓練がしたいしたいと意見を曲げなくて…」

シェヘラザード「私は自分の考えに自信がありました、知識を固めることこそ必要であると。ですから聞く耳持たないつもりだったのですが…その、少し私の劣等感を刺激する悪口を言われたもので…手をあげてしまいました」

国王「お前が手をあげるとは…どのような言葉がお前の尊厳を傷付けたのかは知らないが、余程の暴言だったのだろうな」

シェヘラザード「おでこを叩いた程度ではあったのですが…暴力は暴力。意見が食い違い、少し悪口を言われたからと友人に暴力を振るうなど…王妃以前に人間として恥ずべき行い」

シェヘラザード「酷く後悔しました。この事はラプンツェルさんに謝るつもりです、ですが…彼女に会えばまた言い合いになる可能性もあります」

国王「ラプンツェルは考えを曲げない、お前も同様。ならば何度意見を交わそうとも平行線だな」

シェヘラザード「…陛下、私の考えは間違っているのでしょうか?ラプンツェルさんの言うように実戦的な特訓をするのが彼女のためなんでしょうか?」

国王「シェヘラザード、お前はどう思っているのだ?」

シェヘラザード「正直な気持ちを言うのなら、わからないというのが本音です。昨日までは自信を持っていた考えも、今は揺らいでしまっているのです…知識だ学問だと言っておきながら私がとった行動は異なる意見に対する暴力でしたから」

シェヘラザード「そして考えれば考えるほど、自分の意見を押し通して友人を失うのも、彼女の意見に合わせて友人が傷つくのも…今の私は両方共恐ろしいのです」



469:◆oBwZbn5S8kKC 2016/06/27(月)00:44:55 ID:fWS

国王「事情はだいたい理解した。そう難しい問題ではないだろう」

シェヘラザード「私にはそうは思えません…。よろしければ陛下のお考えをお聞かせください」

国王「私ならばラプンツェルに実戦的な特訓をさせる。それを中心としつつ知識を得る時間も必ず取らせる」

シェヘラザード「両方する、ということですよね…でもそれではどちらも中途半端な仕上がりになってしまうと思うのですが…」

国王「悪く言えばそうだな。だが完璧を求める必要があるのか?ラプンツェルは戦士ではない、両方ともそこそこ出来ると考えれば寧ろ上々だと思わないか?」

シェヘラザード「それも一理あると言えばそうですが…」

国王「お前は完璧主義すぎる、高水準を求めすぎだ。ラプンツェルが身につけなければいけないのは効率的な戦い方でも無ければ強敵を倒す力でもない」

国王「死なないことだ、それは座学では実感しにくい。あの娘が戦うことは死と隣り合わせだと理解するには戦うしかない、しかし決死の覚悟で戦えとはいわない。適度に戦いの役に立てばそれでいい、先ほども言ったがラプンツェルは戦士ではない、多くを求める必要などない」

国王「知略を百、戦術はゼロ。知略をゼロ、戦術を百にするより知略五十、戦術五十にしたほうが臨機応変な立ち回りが出来るだろう、と私は考える。それに……」

シェヘラザード「…?」

国王「ラプンツェルにやりたくもない学問をじっとして受けられると思うか?あの破天荒で我が道を行くワガママ娘が、だ」

シェヘラザード「ふふっ……いえ、恐らく途中で投げ出してしまうと思います」



470:◆oBwZbn5S8kKC 2016/06/27(月)00:48:25 ID:fWS

国王「なんだかんだ言ったところで全てはラプンツェル次第。頭を押さえつけて無理に勉強をさせても続かん。それなら『おまえの意見を飲んでやるから勉強もしろ』と諭す方がずっと懸命だ」

シェヘラザード「確かにそうですね…その方向に方針を変えてみます」

国王「あくまで私の考えだ、もっと良いやり方はあるかもしれないが…結局の所、この手の問題に正解など存在しない。あとはよく本人と話して決めるんだな」

シェヘラザード「わかりました。ありがとうございます、私一人では答えが出せずにいたので助かりました」

国王「小娘の悩み相談に乗る位は悪逆非道な国王と評判の私にでも容易いわ」

シェヘラザード「ふふっ、またその様なことを。近頃、国王様は変わったと皆さん口を揃えておっしゃっていますよ?」

国王「だとしたらそれはお前のおかげだ。お前という伴侶がいるから私は変わりつつあるのだろう。だから、あれだ…遠慮する必要は無いから悩みも思っていることも全て私に打ち明けよ、決して隠し事をしてくれるな」

国王「私はもう妻を疑いたくはない。妻を…お前を信じ続けていたいのだ」

シェヘラザード「ご安心ください。私は陛下を裏切るようなことは決していたしません、それだけは世界が滅ぼうと…有り得ないことです」

国王「…女の言うことは信じないと心に決めていた。だがお前の言葉は信じさせてもらうぞ」

シェヘラザード「はい、私も陛下がこの国を蘇らせることが出来ると信じております」

国王「うむ、任せよ。私が招いた事だ、始末は必ず付ける。だが今は…シェヘラザードよ、もう少し近くへ寄ってはくれぬか?」

シェヘラザード「はい、仰せのままに」スッ

・・・

給仕(やべぇ、お茶持ってきたけどめっちゃ入りづらい…)



471:◆oBwZbn5S8kKC 2016/06/27(月)00:50:43 ID:fWS

給仕「どーしよコレ…。国王様が過去のトラウマを乗り越えられるなら俺自身も嬉しいんだけど、お茶持って行かなかったらそれはそれで怒られそうだし…」

給仕「この雰囲気の中突入できる奴なんていないだろ。いたとしたらなんかこう…空気読めない感じの、脳味噌はいってない感じの奴だろ…」

スタスタスタ

かかし「すまン、ちょっと聞きたいんだガ…国王とシェヘラザードが朝飯食べてる部屋ってここカ?」

給仕「あ、あぁそうだけど…。今ちょっといい雰囲気だから入るの止めといた方g」

かかし「そうカ!この部屋であってたカ!国王ー!シェヘラザードー!帰ってきたから挨拶しに来たゾ!」ズカズカ

シェヘラザード「か、かかしさん!?戻ってたんですねっ、お疲れさまでした」アワアワ

かかし「いや別に疲れてねぇけド…何を慌ててるんダ?」

国王「かかし。確かに私はお前に城の出入りを許可したが…部屋に入る前の声かけくらい常識だ。お前に脳がないのは知っているがその辺りは配慮しろ」

かかし「あー…なるほド、そりゃあすまんナ。そうだよナ、二人は夫婦なんだからいろいろあるよナ!俺の配慮が足らなかっタ!俺は出て行くから続きをやってくレ」

シェヘラザード「無茶言わないでください!もう気にしなくて良いですから。むしろ今出て行かないでください、気まずいですから」

国王「お前は動揺しすぎだ。まぁ良い、久々に友と会ってきたのだろう?土産話を聞かせてもらおうか」

かかし「フーム?まぁそう言うならそうするがヨ。人間の大人の心理はいまいちわからねぇナ…」



給仕「あいつのメンタルすげぇ…」



472:◆oBwZbn5S8kKC 2016/06/27(月)00:53:35 ID:fWS

・・・

かかし「……っつーわけでナ、ドロシーとライオンの奴はキモオタ達と一緒に戦う事になっタ。俺とブリキはそれぞれ大人しくお留守番だナ!」

国王「成る程な。お前の共の話は以前聞いた。魔法の靴を履いた少女と臆病なライオン、ブリキの身体を持ったきこり…そしてかかしでありながら命が宿ったかかし…」

国王「お前達が出会って悪しき魔女を殺した話は実に心が躍った。そして今回、離れ離れになった仲間との奇跡の再会…そして少女ドロシーの決意!いやはや、やはり旅というものに憧れるな、私は」

かかし「国王はかわってるよナ、なんつーか冒険や旅の話好きすぎるっていうかヨ。俺みたいなかかしもすぐに受け入れてくれたしナ」

国王「私は昔から書物を読みや物語を聞くのが好きでな。シェヘラザードが話すおとぎ話も好きだがお前達のような旅人の実体験はそれとは違う心の高鳴りを感じるのだ」

シェヘラザード「陛下、どんなに疲れていても私のおとぎ話は必ず聞いてからお休みになられますものね」ウフフ

国王「お前の話は多忙な毎日を過ごす中で唯一の楽しみだ。しかし今回かかしは、以前キモオタの話にも出てきたあの半裸の国王の国に行ったと言うではないか!しかも以前聞いた話よりも国が栄えているように感じる」

国王「どういうことだ…国作りにはマニュアルも定石も存在しない、何が国家繁栄に繋がるかなど誰にも分からない。とはいえ半裸でありながら国をそこまで栄えさせるとは…」

かかし「興味あるなら裸王の国のこともっと話してやろうカ?後学のために色々と聞いてきたからナ、土産に貰った裸王マカロンもあるゾ」

国王「興味深い。興味深いが…もうあまり時間がない。だが続きが気になってしまうのは避けたい、また時間があるときに頼む」

かかし「そーかそーカ、じゃあまただナ。でもどうすっかナー、今日はシェヘラザードの勉強会無いんだロ?勉強会あるんだったらそっち行くけどナ、ちょっと街にでも行くカー」

シェヘラザード「大丈夫ですよかかしさん、今日もいつも通りの時間に勉強会やりますから。ラプンツェルさんにもお話ししてありますしね」

かかし「ン?どーゆうことダ?勉強会、今日はやらないってラプンツェルから聞いたゾ?」



473:◆oBwZbn5S8kKC 2016/06/27(月)00:56:28 ID:fWS

シェヘラザード「どういうことですか?私は確かに昨日ラプンツェルさんに…。まさか私が話を聞いてあげなかったから拗ねてしまったとか…」

かかし「なんかあったのカ?確かにちょっといつもと違う感じではあったがナー」

シェヘラザード「実はかくかくしかじかで…。いつもと違うとは、どの辺りがでしょうか?」

かかし「いやナ、実は俺早朝にはもうこの世界に帰ってきてたんダ。でもあんまり早くに城に行っても悪いなってなってサ、仕方ないからその辺の鳥と話でもしようとシェヘラザードの実家の辺り通ったんだガ」

かかし「なんかラプンツェルがコソコソ抜け出しててたんだヨ。あのねぼすけが早朝にだゾ?」

シェヘラザード「確かにそれはおかしいですね。それで、どうしたんです?」

かかし「どーしたんだこんな朝早くにーってこえかけたんダ。したらこう言ってたぞ『今日はお勉強会ないから!だからお城に行かなくても良いしシェヘラザードに会わなくても大丈夫だよ!私のことも言わなくてもいいからね!』ってナ」

シェヘラザード「……わかりやすすぎますね」

国王「詰めが甘い娘だな。どこに出かけたか知らないが目的はハッキリしているな」

シェヘラザード「昨日私が反対したからもう勝手に自分で特訓することにしたんですね…すぐに追いかけて話をしないと…」

シェヘラザード「しかしラプンツェルさんは世界移動の手段も持っていませんし…遠くに行っているとは思えませんが…一体どこへ…」

かかし「この辺りにそんな事できる場所ないだろウ?」

チカチカッ

国王「シェヘラザード、今お前の指輪が光ったように見えたが?」

シェヘラザード(別のおとぎ話との通信用の指輪が…。ラプンツェルさんが居なくなったこのタイミングで連絡、嫌な予感しかしませんね…)

シェヘラザード「私は少し席を外します、かかしさん、申し訳ありませんがやはり今日は勉強会は中止させてください。陛下は会談の方、そろそろお急ぎくださいね。成功を祈っております」ペコリ

タッタッタッタッ



474:◆oBwZbn5S8kKC 2016/06/27(月)00:58:48 ID:fWS

王宮 シェヘラザードの自室

チカチカッ

シェヘラザード「お待たせしてすいません、シェヘラザードです」スッ

???「ようやく通じたな。シェヘラザード!どうなっているんだこの状況は!」

シェヘラザード「まずは落ち着いてください。その声は【アリババと40人の盗賊】の世界のモルジアナですね?」

モルジアナ「あぁ、そうだよ!でもね、こっちは世界が消えちまうかもしれないってんだよ!落ち着いてなんか居られるかい!?」

シェヘラザード「世界が!?まさかアリスがそちらの世界へ…!」

モルジアナ「それならもっとわかりやすかったんだけどね。実はねこっちの世界で悪さをしている盗賊が何者かに退治されたんだよ」

シェヘラザード「あなたが退治するはずのあの盗賊団をですか!?だとしたらもう既に…!」

モルジアナ「あぁ、いや…あいつらとは別の盗賊団だ。こっちにはいくつもの盗賊団がしのぎを削ってるからな。今んとこ例の盗賊団は無事だ」

シェヘラザード「そうですか、それは一安心ですね…」

モルジアナ「だがな、そいつが例の盗賊団まで退治しちまったらアタシの出番が無くなっちまう!そうすりゃあ筋書きが変わってアタシもアリババもこの世界ごと消えちまうだろうが!」

シェヘラザード「それは避けねばなりません。何か手がかりはないのですか?盗賊団を捕まえたものがどこの誰で、どういった目的なのか」

モルジアナ「実はな、目星がついてるからお前に連絡したんだ。アタシの奴隷仲間がな、見たって言うんだよ。元々この世界には存在しない怪鳥をな」

モルジアナ「…それってよぉ、どうかんがえてもロック鳥だろ!あの軽率なクソゴミナンパ野郎が乗り回してる怪鳥のよぉ!」



475:◆oBwZbn5S8kKC 2016/06/27(月)01:06:39 ID:fWS

シェヘラザード「……」

モルジアナ「おい、聞いてんのか!?もしあのクソ野郎がアタシの世界を荒らしてるってなら許せねぇんだよ。おい、だから聞いてんのかシェヘラザード!」

シェヘラザード「……えぇ、聞いてますよ」ゴゴゴゴゴ

モルジアナ「お、おう。ならいいんだ、すまねぇ…(な、なんだこの指輪越しに伝わってくる気は…思わず謝っちまったじゃねぇか)」

シェヘラザード「……それで、ほかには?」

モルジアナ「お、おう。退治された盗賊団が妙なもんで縛られててよ…どうやら魔力が宿ってるみてぇなんだよ。ロープでも鎖でもなくてな。そいつはまるで…」

シェヘラザード「長い長い髪の毛…では?」

モルジアナ「そうなんだよ、よく分かったな。なにか心当たりでもあんのかい?あのクソゴミ以外でアタシの世界に進入してる奴にさ」

シェヘラザード「えぇ。私の友人です。そして彼女をそそのかしてそちらの世界へ行ったのはシンドバッドだという確信も持てました」

モルジアナ「そうかい、だったらなんとかしてくんねぇか?王子のアリなら空飛ぶ絨毯ですぐにこれるだろ?あいつが忙しいならイフリートでもいい、頼んでくれねぇか?」

シェヘラザード「いえ、その必要はありません。私が直接向かいます」

モルジアナ「いや待てよ!お前が軽々しく動いちゃなんねぇよ、【アラビアンナイト】が消えちまったらお前…アタシにゃ責任とれねぇしさ。あんたは母親みてぇなもんだからそうなっちまうのは嫌なんだ」

シェヘラザード「ご心配なく。これは私が直接動いた方が話が早いです、彼にそそのかされたであろうラプンツェルさんのことも気になりますし。どちらにしろ時間をかけるつもりはありません」

シェヘラザード「聞き分けのない息子を懲らしめるくらい、あっという間ですから」ゴゴゴゴゴ



490:◆oBwZbn5S8kKC 2016/07/04(月)00:19:07 ID:D89

アリババと40人の盗賊の世界 とある弱小盗賊団のアジト

ギャーギャー ワーワー

雑魚盗賊A「クソ!何が起こってるんだ!?別の盗賊団の奇襲か!?突然茂みからロープが伸びてきたと思ったら仲間が何人か捕らえられちまった!」

雑魚盗賊B「お前よく見ろ!ロープじゃあねぇよありゃ髪の毛だ!…えっ、髪の毛!?人間を縛れるほど長い髪の毛とかあんの!?なぁ、どうなの!?なぁおいいぃ!」

雑魚盗賊C「混乱するんじゃねぇ!少なくともあの女は長い髪の毛を自在に操る魔術だか妖術だかの使い手だ!気ぃ抜いたらもってかれるぞ!?」

盗賊頭領「一カ所に留まるのは危険だ!お前ら散れっ散れーっ!女の方だけじゃなくチャラチャラした男の方にも気を配れ!こいつらただ者じゃあねぇぞ!」

ワーワー

シンドバッド「よーし、奇襲が成功したな!こんな具合でうまーく不意を突いてやると相手はただ混乱するしかできねぇんだ、そうすりゃもうこっちのもんだぜ。じゃあ問題だ、ラプンツェル。ここでお前はどう動くべきか解るか?」

ラプンツェル「えーっとね、とーぞくが混乱してる間に攻撃する!」ドヤァ

シンドバッド「よし、正解だ!だが相手はお前の髪の毛を警戒してるからな、それに剣を抜いてっから正面から捕らえようとても髪を切られちまうぜ?さぁ、どーしたもんかねぇ?」

ラプンツェル「うーんとね、それじゃあこーするっ!」シュッ

シュルシュルシュルッ ガシッ

雑魚盗賊A「うおっ!?お、俺の足にあの女の髪の毛が絡みついて…ぬわーっ!?」ビターン

盗賊頭領「おい!大丈夫か!?あの女…足を引っ張ってこかせてくるぞ!お前ら気を付け…ぬおぉぉっ!」ビターン

雑魚盗賊B「へへっ、大丈夫ですぜ頭領!足を狙ってきてるってぇならこういう具合に飛び跳ねて避けりゃあ…!えっ、なんで避けたのに追いかけてきtぐわーっ!」ビターン

雑魚盗賊C「あの髪の毛、飛ばすだけじゃなく軌道さえも自在なのかよ!?この混乱の中であんなもん避けられるわけ…ぎゃーっ!」ビターン

ラプンツェル「ふふんっ!みんなを困らせる悪いとーぞくはこのラプンツェルがみーんな捕まえちゃうからね!ろーやの中で反省してるといいよっ!」フンス



491:◆oBwZbn5S8kKC 2016/07/04(月)00:21:32 ID:D89

シンドバッド「ひゅーっ、やるじゃねぇか!だがここで油断しちゃダメだぜ、転かしたら動けないうちに縛っちまえ!…っと、相手を縛るときに注意することはなんだ?さっき別の盗賊捕まえたときに教えた事、覚えてるよな?」

ラプンツェル「えっとね、刃物を持っていないか確認する!それか持ってても取り出せないように両手もぐるぐるに縛っちゃう!」

シンドバッド「よーし、その通りだ!こいつらが体勢立て直す前にとっとと縛っちまえ!」

ラプンツェル「わかった!みんなまとめて縛っちゃえーっ!」シュッ

シュルシュルシュルッ グルグルグルッ

「クソ、俺達盗賊がカタギの小娘に出し抜かれるなど…認めんぞぉ!」ジタバタ
「こんなむちゃくちゃに縛られてたんじゃナイフも取り出せねぇ…」ジタバタ
「追尾してくるとかズルいだろ!あんなもん初見で対処出来ねぇよ!」ジタバタ

シンドバッド「よし、一丁上がりだな!もうこいつらは動けねぇ、街に戻って番兵にでも伝えりゃあとは投獄なり処罰なりしてくれるだろうよ」

シンドバッド「しかしすげぇな!今回はほとんどお前一人で捕まえちまったぞ!俺はちょいと助言しただけだ、お前案外戦闘のセンスあるんじゃねぇか?」ハハハ

ラプンツェル「そうだよね!私センスあるよね!私もそう思う!だってすんごく余裕だったしね!あさごはんまえ!」フンス

シンドバッド「おいおい、誉めはしたがあんま調子に乗るんじゃねぇぞ?今回はうまいこといったけど毎回思い通りになるとは限らないんだぞ、確実に相手を無力化するまでは油断しちゃいけねぇ。じゃねぇと痛い目見るぜ?」

ラプンツェル「えへへっ、大丈夫!私の髪の毛は特別だからね!私が思った通りに動いてくれるし普通じゃ持てない物でも髪の毛使えばラクラクだもんっ!余裕だよよゆー!」ドヤァ

シンドバッド「いや、だからお前そういう慢心が真剣勝負の中じゃ命取りに…まぁいいか、確かにお前の髪の毛はすげぇしな!十分戦力として数えられると思うぜ!」ハハハ



492:◆oBwZbn5S8kKC 2016/07/04(月)00:23:53 ID:D89


ラプンツェル「私、シンドバッドに戦いのやり方教えてってお願いして良かったよ!こーして特訓できる場所にも連れてきてくれたし!ありがとね!」ニコニコ

シンドバッド「おう!まぁ、数え切れない程の冒険を繰り広げた俺に相談したってのは良い判断だったな!でもシェヘラザードにバレたらかなりヤベェからこの事は内緒な?」

ラプンツェル「わかった!私、絶対に言わないよー!」フンス

シンドバッド「それにしても嬉しいねぇ、お前には他に頼れそうな奴が大勢いるってのにその中で敢えて俺を選んでくれたんだからな。ラプンツェル、そんなに俺が好きなら俺の女になっちまうか?」ニッ

ラプンツェル「えへへ~、王子のほうがずっとカッコいいからやめとく!それにシンドバッドに相談したのもたまたまお城で会ったから話しただけなんだー」ニコニコ

シンドバッド「なんだよ…まっ、そーだよな。だが引き受けたからには手は抜かねぇぜ、バッチリ特訓してやるからよ!その代わり、約束した例のアレ…頼むぜ?」ヒソヒソ

ラプンツェル「うん!シンドバッドはすんごく頼りになってとっても強くてものすごくカッコいいって事を私の友達に伝えたらいいんだよね!」ニコニコ

シンドバッド「おっと、ちょっと間違ってるな。それを『可愛い女の子の友達』に伝えるんだ、男には別に言わなくても良いからな?どういう事かわかるだろ?」

ラプンツェル「わかってるわかってる!赤ずきんとかグレーテルとかシンデレラとか…あとシェヘラザードにもバッチリ伝えとくから、安心してね!」

シンドバッド「わかってねぇなお前!?子供とか人妻には伝えなくてもいいんだよ!いや人妻はありか…?つーかシェヘラザードには絶対に言うなよ?俺が言わせたってバレたらヤベェからな」

ラプンツェル「そーなの?それよりあれだね、シンドバッドはシェヘラザードにバレたらやばいことがいっぱいあるねぇ~」ニコニコ

シンドバッド「へへっ、まぁな。あいつは何かと口うるさいからよぉ…俺のこと思って言ってくれてるってのは解るが、全部に従ってたら窮屈で仕方ねぇぜ」

ラプンツェル「わかるわかる!私にも言ってくるもん!もうすぐお姫様になるんだから買い食いはやめなさいーとか!つまみ食いはやめなさいーとか!あと手が汚れたときとか裾で拭くのはやめなさいーとか言ってくるよ!」

シンドバッド「いや、それはハンカチとか使えよお前。ガキじゃねぇんだから」ハハハ



493:◆oBwZbn5S8kKC 2016/07/04(月)00:26:54 ID:D89

ラプンツェル「まーでもシェヘラザードがホントは良い子だって事は知ってるよ?国を良くするので忙しいはずなのに私やかかしにお勉強教えてくれるし!あとお菓子もくれるし!優しいし旦那さんの事すごく好きだし!」

シンドバッド「まぁ他人に厳しい分、自分にはもっと厳しいしな、あいつ。説教は多いし煩わしいこともあるけどまぁ…良い奴だよ、そうじゃなきゃ俺もわざわざ別の世界の警備なんかしねぇし」

ラプンツェル「うーん…そー考えるとお勉強会すっぽかして来た事、シェヘラザードに悪いことしちゃったなぁ…」

シンドバッド「おいおい、今更そんな事言っても仕方ねぇぜ?」

ラプンツェル「そーなんだけどさ、昨日はシェヘラザードが私のお話聞いてくれないからもーっ!てなっちゃって勝手にするって決めちゃったけど、やっぱりもっとお話しした方が良かったのかなぁ…」

シンドバッド「まぁそれが出来るなら一番良かっただろうがな、まーなんにせよお前は勉強より特訓を選んだんだ。シェヘラザードが思わず納得しちまうくらい強くなればいいんだ、あんまり気にすんなって」

ラプンツェル「そうだよね!もう決めちゃったんだし悩んでも仕方ないよね!特訓頑張るしかないよね!」ウンウン

シンドバッド「あぁ、そうだ。この調子でガンガン盗賊を退治していきゃお前は強くなれるし治安も良くなる!うまくすりゃあ逆に誉められるかもしれねぇぞ?」ニッ

ラプンツェル「そっか!悪者退治して街が平和になれば誉められるかもだね!あっ、でもさでもさ!確かこの世界はアリババって人が盗賊を退治するおとぎ話なんだよね?」

シンドバッド「まぁ正確にはアリババの召し使いのモルジアナっていう女が盗賊を退治するんだけどな。それがどーかしたか?」

ラプンツェル「もしもね?私達がうっかりモルジアナが退治するはずの盗賊をやっつけたら、このおとぎ話消えちゃうよね?それは私嫌なんだけど、大丈夫かな?このまま盗賊退治してても大丈夫?」

シンドバッド「ハッハッハ!意外と心配性だなラプンツェルは!確かに俺たちがうっかり例の『40人の盗賊団』を退治しちまったらモルジアナが連中を退治するってぇ筋書きが変わっちまってこのおとぎ話は消滅する。だがそんな事は絶対にねぇから安心しろ」

シンドバッド「なにしろこの世界には数十以上の盗賊団が溢れかえってるんだぜ?まさに大盗賊時代!そいつ等をうっかり倒しちまう可能性なんてかなり低いぜ、ざっくり五十分の一で計算してえーっと、何パーだ?…まぁとにかくありえねぇから心配すんなってこったな!」

ラプンツェル「そっか、それなら大丈夫だね!私達は安心して盗賊をやっつければいいんだね!」



シンドバッド「おう、俺が適当に標的として選んだ盗賊団がまさかあの『40人の盗賊団』だった!なんて事、絶対にありえねぇよ。ハッハッハ!」

・・・



494:◆oBwZbn5S8kKC 2016/07/04(月)00:29:38 ID:D89

とある盗賊団のアジト付近 茂み

ガサガサ

シンドバッド「よーし、ラプンツェル。次の標的はあの盗賊団だ、街で見かけた下っ端盗賊っぽい奴を尾行してたらまんまとアジトに到着だ!丁度良いから退治しとこうぜ」

ラプンツェル「わかった!でもなんだか沢山居るよ?大丈夫かなー?」

シンドバッド「いけるいける。お前さっきも余裕だったろ?確かに人数は多いが、ビビってしょぼい盗賊ばっかり相手にしててもなんにもならねぇだろ?」

シンドバッド「それに安心しな!もしもやべぇと思ったら俺も加勢する、いざとなったら上空を飛んでるロック鳥に奴らを襲わせるってのもありだ」

ラプンツェル「それなら安心だねっ!たくさん盗賊捕まえてもっと強くなってシェヘラザードに私がちゃんとしてるってところ見せたいもんね!」

シンドバッド「おう!お前が成長することはあいつにとっても嬉しいことのはずだ。しっかり頑張って認めてもらおうぜ」

ラプンツェル「うん、頑張る!」フンス

シンドバッド「で、今回の作戦だが…さっきと同じように奇襲をかける。だが今回は人数が多いからな、まずはお前の髪の毛を使ってあっちの方の茂みに石を投げ込め」

シンドバッド「そうすりゃ盗賊共はそっちに気を取られるだろうからその隙に一気に勝負を決める。それじゃあ適当な石を掴んで投げてみろ、気づかれないように高いとっから素早くな」

ラプンツェル「わかった!えーっと…じゃあこれにしよっ」ズシッ

シンドバッド「いやちょっと待て!ちょっと物音立てりゃあいいんだぞ?そんなデカい岩を使う必要なんかねぇって」

ラプンツェル「でも小さいよりおっきい方がいいと思う!よーし、じゃあちょっぴり重いけどこれを掴んであっちの茂みに投げるよ!せーのっ!」

ブンッ ズルッ

ラプンツェル「ありゃ?思ったより飛んでいかなかったなー…って言うか投げるときちょっとズルってなっちゃった。失敗失敗ー、えへへー」テヘペロ

シンドバッド「あーあー何やってんだ、無駄にデカい岩なんか投げるから飛距離足りてねぇぞアレ。お前これじゃあ向こうの茂みに届かねぇじゃねーか、ったく」

ヒューンッ



495:◆oBwZbn5S8kKC 2016/07/04(月)00:31:56 ID:D89

ラプンツェル達が標的にした盗賊のアジト

盗賊の親分「えぇい!アリババとかいう男の家はまだ突き止められねぇのか!お前には部下の指揮を任せてんだ、この不手際はテメェの責任だぞ、どうオトシマエ付けるつもりだぁ!?」バンッ

盗賊アニキ「す、すいやせん親分!どうやらアリババの野郎、随分と頭が切れる召使いを従えてるようで…そいつが俺たちを妨害してるようなんで」

盗賊の親分「だから何だってぇんだ!?頭がキレようが相当な手練れだろうと関係ねぇ!俺が殺せと命じたらテメェらはそれに従うだけだろうが!」ギロリ

盗賊アニキ「す、すいやせん!団員一同、血眼になって探してますんで…もう少しばかりお待ちくだせぇ!」

盗賊の親分「ったく、アリババの野郎…ただじゃおかねぇぞ!俺達が居ない間にアジトの洞窟に忍び込んで宝を盗んで行きやがって、素人に癖に盗賊から盗みを働こうなんざとんでもねぇ野郎だ!」

盗賊アニキ「まったくでさぁ。恐れ知らずなのか愚かなのか…どっちにしろ大胆とはこの事ですぜ。大した肝っ玉持ってますよアリババは」

盗賊の親分「何を感心してんだテメェは!いいかぁ!?盗賊ってのはメンツを潰されたらおしまいなんだよ!俺の40人の盗賊団がただに素人に出し抜かれたなんて他の盗賊団に知られたらどうなるかもわからねぇのか!?」

盗賊アニキ「い、いえ…この事が他の盗賊団に知れたらうちの盗賊団の名声は地に落ちちまいやす…!」

盗賊の親分「あぁそうだ、それだけは絶対に阻止すんだ!小さな盗賊団をようやくここまでデカくしたんだ、それを馬鹿な素人のせいで失うなんざ…間抜けすぎる!絶対にそんな事はさせねぇ!」

盗賊アニキ「へい、その通りでさぁ!」

盗賊の親分「いいか?俺はゆくゆくは世界を牛耳る盗賊…そう!盗賊王になる男だ!手下のテメェ等は命を賭けて俺の命令に従い、死に物狂いで俺ために働け!俺を盗賊王にのしあげるためになぁ!ガーッハッハッハー!!」ガハハハ

ヒューンッ ドゴォッ!!

盗賊の親分「ゲボアッ」ドサッ

盗賊アニキ「!? 突然岩が飛んで来やがった!?い、いやそれよりも!だ、大丈夫ですかい!?親分!?」ユサユサ

盗賊の親分「」

盗賊アニキ「し、死んでる…!お、親分が謎の奇襲でやられたァー!?」



496:◆oBwZbn5S8kKC 2016/07/04(月)00:34:11 ID:D89

盗賊アニキ「…テメェ等、辺りに気を配れ!親分を殺した奴はまだ近くにいるかもしれねぇ、探せ!探せ!このまま帰すんじゃねぇぞ!」

ワーワー サガセサガセー

盗賊「アニキ!俺、妙なことに気がついたんスけど…そっちの茂みからいい香りがしませんかい?なんか女の子の匂いっていうか…」スンスン

盗賊アニキ「馬鹿!お前、こんな時にお前馬鹿!ここは俺達盗賊のアジトだぞ!?女の子の匂いなんてするわきゃねぇだろふざけんなよお前……あ、マジだな。なんか花の匂いするわ」スンスン

盗賊「でしょ?俺、鼻はすごくいいんス!もしかして親分を殺した女の子がそこの茂みに潜んでいるとか…」

盗賊アニキ「馬鹿お前!親分は相当の手練れだったんだぞ!?こんなフローラルな香りさせてる女の子が親分を殺せるわけねぇだろ!もしそんなすごい娘居たら見てみたいわ!そしてその強さを褒めてやりたいくらいだわ!」

ラプンツェル「あっ、はいはーい!みんなの親分倒しちゃったの私だよ!すごいでしょ!」フンス

盗賊アニキ「!?」

シンドバッド「バッカお前何で出て行くんだよ!やべぇから逃げるぞって言ったろ!?」グイグイ

ラプンツェル「えっ、でも誉めてくれるって言ってたから…シンドバッドだって誉められると嬉しいでしょ?私は誉められるの好きー!」ニコニコ

シンドバッド「なこと言ってる場合か!早く逃げるぞ!」

盗賊アニキ「待て待て!このまま帰す訳にはいかねぇぞ!テメェ等この子らの周りを取り囲め!」

ザザザッ

ラプンツェル「ありゃー…囲まれちゃったね。ねぇシンドバッド、私知ってるよ!こういうのをぜったいぜつめいっていうんだよね!」ドヤァ

シンドバッド「…あぁ、物知りだよお前は。この人数じゃあ正面突破は無理だな。だったらお前を呼ぶしかねぇよな!ロック鳥!降りて来い!お前の見せ場がやってきたぜ!」



497:◆oBwZbn5S8kKC 2016/07/04(月)00:36:46 ID:D89

ロック鳥「ルオオオォォォォォォォッ!!」バサバサーッ

盗賊アニキ「なんだこの怪鳥は!あのチャラいのが呼んだのか…!まさか猛獣使いだったとは…いや、んな事言ってる場合じゃねぇ!待て待てお前らちょっと聞け!」

シンドバッド「ロック鳥!盗賊共を一蹴しろ!爪で裂こうが吹き飛ばそうが啄もうがお前の勝手だ!自由にしちまって構わねぇぞ!」

ロック鳥「ルオッ!ルオォォォォォック!!」バサバサーッ

盗賊アニキ「待て待て!そこのチャラいの!勘違いしないでくれ!俺達はあんたらと戦うつもりなんかねぇ!」

シンドバッド「やかましい!俺らを取り囲んでおきながらよくもそんな白々しい嘘がつけたもんだ!今更怖じ気づいてもおせぇ!ロック鳥やっちまえ!」

ラプンツェル「待って待ってー、ロック鳥ー。ちょっと待ってあげて!この人達戦うつもりないっていってるから攻撃しちゃかわいそうだよー」

シンドバッド「おいラプンツェルお前いい加減にしろ!こいつ等は盗賊だぞ!あんなの嘘に決まってる!ロック鳥、いいからやっちまえ!」

ロック鳥「ルォッ」フイッ

シンドバッド「あっ、お前!何、ラプンツェルの命令を優先してんだ!お前のマスターは俺だろうが、なにラプンツェルにすり寄ってんだ!」

ラプンツェル「ロック鳥はさっき自由にしていいって言ってたから好きなようにしてるだけだもんねー?」ナデナデ

ロック鳥「ルオッ!」スリスリ

シンドバッド「肝心なときにお前誰に似て……いやハッキリしてるよな。こうなりゃあ俺が一人で相手するしかねぇか…!」スラッ



498:◆oBwZbn5S8kKC 2016/07/04(月)00:42:26 ID:D89

盗賊アニキ「そりゃあ盗賊の言葉なんか信用できねぇか。しかもこの構え、やはりただ者じゃねぇ…!テメェ等、守りを固めろ!」

シンドバッド「この大人数を相手にするってぇのは相当分が悪いが、この程度の逆境には慣れっこだ。数多の海を駆け、いくつもの修羅場をくぐり抜けたシンドバッド様に切り開けねぇ道はねぇ!さぁテメェら覚悟しt…痛ってぇ!」ビターン

ラプンツェル「もーっ!盗賊のみんなが戦う気が無いって言うのはホントだよ、武器持ってないもん!よく見なきゃだよ!ねーっ、ロック鳥?」グルグルグルー

ロック鳥「ルォーッ」

シンドバッド「ラプンツェル!バカお前早くほどけ!そうやって油断させて隠したナイフでブスリといかれたりすんだよ!こいつ等は悪党なんだぞ!?世間知らずなお前には思いも寄らないような卑劣な手を使うんだぞ!」

ラプンツェル「えーっと、はじめまして!私の名前はラプンツェルだよ!こっちはロック鳥で、あのぐるぐる巻きになってるのがシンドバッド。よろしくね!」ニコニコ

シンドバッド「聞けお前!」ジタバタ

盗賊アニキ「俺はこの盗賊団の副団長。と言えば聞こえが良いがこいつ等にまとめ役、盗賊アニキなんて呼ばれてる。それより、俺は盗賊家業に着いて長いが…カタギに真っ正面から自己紹介されたのは初めてだ」

ラプンツェル「初めてあった人には自己紹介しなきゃなんだって!塔の外じゃ挨拶は特に大切だってママが言ってた」

盗賊アニキ「そうかい、だが俺が言う事じゃあないが盗賊相手にする事じゃあねぇ。そこの兄ちゃんが言うように盗賊は汚い手でも平気で使うんだぜ」

ラプンツェル「でもアニキは違うでしょ?さっき言ってたもん、戦うつもりなんか無いって、でしょ?」

盗賊アニキ「まぁ…そうだが、普通は盗賊の言うことなんか信じないもんだ」

ラプンツェル「どーして?」

盗賊アニキ「どうしてもだ。だが…今回俺達に戦う気が無いってのは本当だ。むしろあんたに感謝してんだ、親分を…いやあの男を倒してくれたんだからな」

盗賊アニキ「あんたは俺達の恩人だ、こいつ等を代表して礼を言わせてくれ。助かった、恩に着る。礼にもならねぇが宴に参加してくれねぇか?もちろん無理にとはいわねぇ」ペコッ

ラプンツェル「よくわかんないけど、どーいたしまして!そしてパーティーは大好きだから私もやるやる!」フンス

シンドバッド「…どうなってやがる?普通は親分を倒されたんなら仕返しするもんだ。そもそも戦う気がないってのは嘘じゃねぇのか?」

盗賊アニキ「よぉしテメェ等!宴の支度だぁ!恩人に出来る限りの礼を尽くせぇ!」



499:◆oBwZbn5S8kKC 2016/07/04(月)00:47:26 ID:D89

・・・

ラプンツェル「じゃああの親分はとっても酷い人だったって事ー?」モグモグ

盗賊アニキ「あぁ、俺達は盗賊だからあんたらカタギに人並みに扱って貰えねぇ事に不満なんざねぇよ。だがあの男は…団長でありながら俺達団員を人間として見てすらいなかった、宝物を奪い名声を高めるための道具としてしか見ちゃいなかったんだ」

盗賊アニキ「あいつは団員を駒としか思っちゃいなかった。命を落としかねない無茶な任務、明らかに人手が足りない状態での任務なんか当たり前で、自分のみを守るために部下を盾にする囮にするなんざしょっちゅうよ」

盗賊アニキ「精神的にも肉体的にも過酷な生活、それでいて休息なんざまともに取れやしねぇし全員に十分な飯が行き渡らないことも少なくなかった。ほとんど奴隷のようなもんだった」

ラプンツェル「むーっ、ひどいね!休憩できないのもご飯食べられないのも辛いよね!そんな盗賊団やめちゃえばよかったのに!」ムシャムシャ

盗賊アニキ「奴は傍若無人だったが…それを黙認させるほどの力があった。全員でかかれば勝機もあっただろうが、この大盗賊時代だ…親分を失った後、団をまとめられる器がある奴がいねぇと…別の盗賊団の食い物にされちまうだけだった」

ラプンツェル「アニキじゃだめだったの?」ガジガジ

盗賊アニキ「俺はそんな器じゃねぇよ。こいつらは慕ってくれてるが…学がねぇから、読み書きはかろうじて出来るが難しい事となるとなぁ。それで…」

ガヤガヤガヤガヤ

「ラプンツェルさん!ノンアルなんですよね!ぶどうジュースどうぞ!本当、ラプンツェルさんには感謝してるんですぜ、なぁ?」
「おう!あのおっさん無茶ばっかりだったからな。でもよそに行くあてもねぇから従うしかなくてなぁ…」
「でももう違うもんな!俺達はあのブラック盗賊団から解放された!ラプンツェルさん!乾杯しましょ乾杯!」

盗賊アニキ「お前ら!恩人に失礼だぞ!ちょっと下がってろ!」



500:◆oBwZbn5S8kKC 2016/07/04(月)00:49:40 ID:D89

「アニキばっかりズルいッスよ!俺達もラプンツェルさんとおしゃべりしたいッス!」
「そうッス!こちとら女の子と飯食うのなんて十数年振りっすよ!この喜びを噛み締めさせてくだせぇ!」

盗賊アニキ「お前ら…情けねぇ事言ってんじゃねぇ!この方はカタギなんだ、俺達とは住む世界が…」

ラプンツェル「もーっ、私あんまりラプンツェルさんとか言われるのイヤだなー、くすぐったいから!ラプちゃんでいいよー」ニコニコ

「うおぉー!ラプちゃんはなんて器がでかいんだ…つーか女の子を愛称で呼べる日が来るとか泣きそうだ俺…」
「泣くな泣くな!涙でラプちゃんの姿が拝めないなんて損だぞ!」
「うおぉー!ラプちゃんの髪の毛くんかくんかしてぇー!」

盗賊アニキ「誰だァ!今失礼なこと言った奴ー!…すいやせん、こいつらは気のいい連中なんですがどうも下品でならねぇ…気ぃ悪くしねぇでくれ」

ラプンツェル「いいよいいよぉ、口悪いお猿さんや妖精の友達とかいるし、あんまり気になんないよ」ニコニコ

盗賊アニキ「ラプンツェルさん、見かけによらず肝据わってんだな…」

シンドバッド「ラプンツェル、お前あんまりこいつ等と仲良くするんじゃねぇぞ。腹の中じゃ何考えてるのかわかんねぇんだ」グルグルマキ

シンドバッド「…あといい加減に髪の毛ほどいてくれねぇか?」

ラプンツェル「ダメ。シンドバッド、ひどいこというもん!みんなは戦うつもり無いのなんかもうとっくにわかってるくせにー!」



501:◆oBwZbn5S8kKC 2016/07/04(月)00:52:23 ID:D89

盗賊アニキ「いや、その兄ちゃんの言うとおりだ。あんまり俺達に情を持たない方がいい。俺から誘っておいてなんだがあんたは少々世間を知らなすぎる」

ラプンツェル「えーっ?そりゃ盗むのは悪いことだと思うけど、みんなは良い人だよ?私にも優しいし!もー友達だよ、私たち!」ニコニコ

盗賊アニキ「カタギがそんな事口にするもんじゃねぇ。優しいのはそりゃああんたが恩人だからだ、みんな感謝してるからな。だが結局俺たちは盗賊、悪党なんだ。今だって俺達はある一人の男を殺すために探してたんだしな、あんたらと同じカタギの男をな」

盗賊「そんな言い方…!ありゃああの男の命令で仕方なくやってたことじゃないですか!宝物を盗まれた報復にって…あの男が死んだ今、もうアリババを殺す必要も無いんd」

シンドバッド「ちょ、ちょっと待て。今なんて言った?その宝物を盗んだ男の名だ」

盗賊アニキ「どうしてそんな事を気にするんだ?まぁ今となっては隠す必要も無いけどよ…宝を盗んだのはアリババっていう男だ。俺達『40人の盗賊団』に宝物庫に忍び込んでな」

盗賊「盗賊から宝を盗むなんてトンデモねぇ!ってんであの親分だった男が怒っちゃって、でももう別にどうでもいいんですけどねアリババ殺さなくても…って大丈夫ですかい?兄ちゃん汗すっげぇけど…どっか痛いのか?」

シンドバッド「……」

シンドバッド(おいおいおい!こんな偶然ってあんのか!?この世界にいくつ盗賊団があると思ってる!?よりによってお前…やべぇ、完ッ全にやらかしちまった…!)

シンドバッド(どうすんだこれ…!親分が死んじまったら結末を迎えられなくなってこのおとぎ話が消えちまう!いや落ち着け、この盗賊の兄貴分を新しい親分に仕立て上げて…いやダメだ、こいつらにはもうアリババを殺す理由が無い!)

シンドバッド(とにかくここはシェヘラザードに報告してうまく改変してもらうのが一番の解決策だよな。だがそうするってなると必然的にあいつの耳に入れなきゃ何ねぇ訳で…)

シンドバッド(…駄目だ!どっちにしろシェヘラザードは魔神の如く怒る…防ぎようがねぇ!)



502:◆oBwZbn5S8kKC 2016/07/04(月)00:54:23 ID:D89

シンドバッド「あいつに知られずに…いやそうすると…するってぇと…いや無理か…」ブツブツ

盗賊「アニキ、大丈夫すかねこの兄ちゃん…急にブツブツ言ってるけど」

盗賊アニキ「大丈夫じゃねぇか?別に怪我してる訳じゃねぇ。…まぁそういう事だラプンツェルさん、所詮俺たちは盗賊、盗みも殺しもする悪党だ。だから盗賊なんかを友達だなんて言うもんじゃねぇ、冗談だとしてもな」

ラプンツェル「冗談じゃないよ?よくわかんないけど、だったらみんなもう盗賊やめたらいーじゃん、親分ももういないんだしさ!」

盗賊アニキ「そんな簡単なことじゃねぇんだ。こいつらは俺と同じで大体が孤児、身よりもなけりゃ学も金も無い、読み書きできない奴が大半だ。結局悪党に身を置くか奴隷に成り下がるか…そんくらいだ、末路はな」

ラプンツェル「お仕事が無いなら私が探すの手伝ってあげるよ!私、友達もいっぱいいるからお仕事無いか聞いてみる!パパ…あっ、王様なんだけどね、パパにお願いしたら働くところ見つけてくれるかも!」

盗賊アニキ「お、王!?ラプンツェルさん、姫君なのか!?い、いや…だったらなおさら俺たちと関わっちゃあ…」

ラプンツェル「あとは…シンデレラとかシェヘラザードに聞いたらお城のお仕事貰えないかなー。あっ、みんなマッチョだから裸王なら喜んでお仕事くれるかも!あとで聞いてみる!」

盗賊アニキ「…なぁラプンツェルさん、あんたがあの男を倒したのは偶然なんだよな?」

ラプンツェル「うん、そーだよ?」

盗賊アニキ「どうして俺達にそこまで肩入れするんだ?頭領を失った盗賊団の連中に仕事を探してやるなんて…どう考えても普通じゃあねぇぞ、何故そこまでする?ただ成り行きで杯を交わしただけだぞ、俺達は…」

ラプンツェル「一緒にご飯食べて飲み物飲んでお喋りしたらもうお友達だよ?盗賊とかかたぎ?とかよくわかんないけど、関係ないよ。だってもうみんなは私の友達だもん」

ラプンツェル「だから友達がお仕事無くて困ってるんなら私はお手伝いするよ!そんなの当たり前のことだよー」ニコニコ



503:◆oBwZbn5S8kKC 2016/07/04(月)00:58:53 ID:D89

その時、盗賊アニキの頬を伝ったのは涙であった。
物心付いた時には既に親は無く、他の孤児達と盗みをして食いつなぐ日々
社会の隅に追いやられ、他人から優しい言葉をかけられることなど…無かったのである

盗賊アニキ「あんたは…盗賊の俺達を友と呼んでくれるのか?散々盗みを働いた俺達を!」

ラプンツェル「だから最初っからそういってるのにー。それにもうみんなは盗賊じゃないでしょ?私がお仕事探してきてあげるからおーぶねに乗ったつもりでいてよね!」フンス

盗賊アニキ「ラプンツェルさん…!俺の心は今、喜びで満ちている。親分から解放されたからじゃねぇ、真っ当な仕事が見つかるかもしれないからでもねぇ!あんたのような心優しい人に出会えたことが、俺はとても嬉しい」

ラプンツェル「アニキが嬉しいなら私も嬉しいなー、でも出来ればラプンツェルさんはやめてよー。友達はそんな風に呼び合ったりしないよ?」ニコニコ

盗賊アニキ「あぁ、わかった…!よぉし、お前らぁ!親分から解放された今、俺達は盗賊団を捨てる!そして今ここに新たな団体を発足する!その名も『40人のラプちゃん親衛隊』だ!反対意見がある奴はいるか!?」

「みんな賛成ですぜアニキィィ!ナイスアイディア!」
「よっしゃあぁぁ!これからもラプちゃんと一緒だぁ!」
「ラプちゃんかわいいぃぃぃ!!ラプちゃんマジ天使ぃぃぃ!!くんかくんかぁー!」

盗賊アニキ「ラプちゃん、これから俺達はあんたに付き従う。だがそれは部下としてでも奴隷としてでもねぇ、友人として…そして親衛隊としてラプちゃんの力になる、構わねぇか?」

ラプンツェル「しんえーたい?とかよくわかんないけど、みんな仲良くできるって事だよね!それなら賛成賛成!」

盗賊アニキ「そうと決まればもう一度乾杯だラプちゃん!お前等ぁ!飲み物準備しろー!ラプちゃんはノンアルだぞノンアル!」

ワーワー ガヤガヤ

シンドバッド(や、やべぇ…名案が浮かばないうちに話がこじれて来やがった…!)



505:◆oBwZbn5S8kKC 2016/07/04(月)01:01:21 ID:D89

シンドバッド「な、なぁ…お前等さ、盗賊やめる事ねぇんじゃね?なんつってもプロなわけだしさ。ほら、もったいないだろ、技術がさ。だろ?」

ラプンツェル「もーっ!みんなが新しいお仕事探そうってしてるのに何でそんな事いうの?シンドバッドのイジワル!」プンスカ

「そうだぞお前!ちょっと顔が良いからって調子に乗ってんのか!?ふざけんなよハンサムが!」
「ちょっとモテそうだからって舐めんなよチャラ男が!くたばれ!」
「プンスカしてるラプちゃんもかわいいぃぃぃ!!」

シンドバッド「クソっ…なんだこの結束力…なんとかしてこいつら盗賊やめるの阻止しねぇと…!」

スタッ

???「おやおや、あなたにしては珍しく随分と余裕がなさそうですね…いつもは余裕ぶっていることが多いのに」スッ

シンドバッド「こんな状況で余裕ぶっていられるかってんだ!このままじゃ俺はお前に……ゲッ、シェヘラザード…!?」

シェヘラザード「ゲッとはなんですか。もう少し言葉を選びなさい、あなたはおとぎ話の主人公なんですからね。まぁ今は、それよりも……」

ゴゴゴゴゴ

シェヘラザード「何がどうなっているのか私に説明をしなさい、シンドバッド?」



520:◆oBwZbn5S8kKC 2016/07/11(月)00:24:03 ID:fIW

・・・

シンドバッド「──で、今に至るって訳だ…。あとは見ての通り俺は身動きがとれねぇしあいつ等は宴に夢中でこっちに気づいてすらいねぇ…ってな所だ。他に何か聞きたいこと、あるか?」

シェヘラザード「いいえ、大丈夫です。大体の状況は把握しましたから」

シンドバッド「話が早くて助かるぜ。いやぁ、お前はなんつっても俺達と違って頭の回転が速いからな!一度話しただけでぱぱっと状況把握しちまう、やっぱお前は聡明な女だ。流石は俺の作者だぜ」ハハハ

シェヘラザード「ありがとうございます。でもおだてたところでお説教を中止にしたりしませんよ?」

シンドバッド「ハハハ!お前何言ってんだよ、そんな下心なんて無ぇって!……なんで解ったんだ?」

シェヘラザード「当然です。あなたが突然誉めるのは何かやましいことがある時か、お説教回避のおべっかのどちらかなんですから」フイッ

シェヘラザード「まぁ色々と言いたいことはありますが…あなたの性格ではラプンツェルさんの頼みを断ることは出来ないでしょうし、友人として彼女の相談に乗るのは当然だと思います」

シンドバッド「だろっ?困ってる女を見過ごすなんて出来ねぇしそれがダチだってぇなら尚更だ。なんだなんだ、お前今日は妙に話がわかるじゃねぇか!」ヘラヘラ

シェヘラザード「で・す・が!その方法が最悪です!百歩譲って彼女の特訓に付き合うのはいいとしても、どうしてそれを【アリババと40人の盗賊】の世界でおこなうのですか!?」

シンドバッド「そ、そりゃお前…実戦に勝る特訓無しだからな。この世界には数え切れないほどの盗賊団が存在すんだからそいつ等を退治がてら特訓の相手にすりゃ街は平和になるわラプンツェルは強くなるわでwin-winだろ?ハハハ…」

シェヘラザード「何がwin-winですか!確かに物語と関連性のない盗賊団なら退治しても直接的な問題はないでしょう…ですが結果はどうです!?あなた達二人はあろうことか40人の盗賊団の親分を倒してしまっているではないですか!」キッ

シンドバッド「そ、そりゃあうっかりっていうか不可抗力っていうか…わざとじゃねぇんだって!結果的にそうなっちまっただけで俺達には悪気があった訳じゃねぇんだよ、な?」

シェヘラザード「悪気があろうと無かろうと同じです!彼が死んでしまった今…このままにしておけば物語が立ちゆかなくなり、この世界は消えてしまうんですよ!」

シェヘラザード「完結していないおとぎ話に不用意に干渉すればこうなってしまう危険性があることをあなたは知っていたはず。それなのによく考えもせず…いくらなんでも軽率過ぎます!それなのにあなたは言い逃れや言い訳ばかり…!」



521:◆oBwZbn5S8kKC 2016/07/11(月)00:25:10 ID:fIW

シンドバッド「わ、わかってるって…悪かった。ついいつもの癖で言い訳しちまったけどよ…流石に今回ばっかりは反省してる。いいや、猛省してる!見ての通りだ!」

シェヘラザード「とてもそうは見えませんけど…」ジーッ

シンドバッド「ぐっ…そうかよ、こういうとき普段の行いのツケが廻ってくるよな…」

シェヘラザード「分かっているなら普段からキチンとしなさい。まぁ…学んだこともあるようですし今回はあなたの言葉を信じます。それに、いつまでも拘束されているのは辛いでしょう」スパッ

シンドバッド「おぉ、流石はシェヘラザード!恩に着る!お前が作者で俺は幸せもんだぜー!」ヘラヘラ

シェヘラザード「言った側から軽口を叩くのですから困ったものです…。事態が落ち着いたらアリババやモルジアナにも謝罪しておくのですよ、特にモルジアナは激昂していましたから念入りに」

シンドバッド「おう、任せろ!にしてもお前がこの程度の説教で許してくれるなんて珍しいじゃねぇか。いつもだったら何時間もガミガミガミガミ…」

シェヘラザード「あら、お望みならば何時間でもガミガミしますけど?」

シンドバッド「そ、そういう意味じゃねぇよ!勘弁してくれ!」

シェヘラザード「まったく、あなたは一言多いのですから…。確かにあなたの行動に関してまだ言いたいことは山ほどありますが…」

シェヘラザード「今回はラプンツェルさんの気持ちを考えていなかった私にも非があります。ですからあなただけを糾弾するのは筋違いです、私も反省すべき所はしなければなりませんからね」

シンドバッド「まっ、そりゃあ一理あるな。お前があいつの話聞いてりゃこんな大事には…おっとやべぇ、また余計なことを言っちまうとこだったぜ」ヘラヘラ

シェヘラザード「……まぁいいです。今はこの状況をどうするか考えましょう。この世界が消滅してしまうという危機から、まだ脱していませんからね」



522:◆oBwZbn5S8kKC 2016/07/11(月)00:26:25 ID:fIW

シェヘラザード「このおとぎ話が本来の結末を迎える上での問題は二つ…ひとつはモルジアナが倒すはずの親分が死んでいること。そしてもう一つは…」

シンドバッド「盗賊団がどう言うわけかラプンツェルの親衛隊になっちまってることだな。あいつ等もう盗賊業どころかアリババへの仕返しなんかどうでもいいと思ってるぞ」

シェヘラザード「あなたの話だと彼等は元々親分に尽き従っていただけで根っからの悪人ではなかったのでしょう。とはいえ…この世界を守るためにアリババへの仕返しはしてもらわなければいけません」

シンドバッド「つーかよぉ、このおとぎ話の作者はお前なんだからどうにでもなるんじゃねぇの?ぱぱっとうまい具合に書き換えちまえば万事解決だろ?」

シェヘラザード「随分と簡単に言ってくれますね…。私なら書き換えは確かに出来ます、ですがここまで物語が進行している状態では大規模な改変は不可能です、つじつまを合わせることが出来なくなるので」

シンドバッド「なるほどな、作者の力も万能じゃねぇってか」

シェヘラザード「そもそも物語の改変は現実世界へ影響を及ぼしますからね…本来ならばあまり使いたくはありません」

シンドバッド「そうなのか?でも消えちまう訳じゃねぇし些細なもんだろ?」

シェヘラザード「とんでもない。大規模な改変はこの物語を気に入ってくださっている方、このおとぎ話を元に新たな物語を紡いだり作家を志してくれた方、その方達を裏切ることになりますからね」

シンドバッド「まぁ言い分はわかるけどよ、余所の世界の連中に気を使いすぎじゃねぇか?お前の物語の聞き手はあくまで国王だろ?」

シェヘラザード「確かに私は王に優しい心を取り戻してもらうために物語を紡ぎましたが…現実世界で私の物語が誰かの心を動かしているのなら、私はそれを大切にしたいのです」

シンドバッド「そうかい、頭の良い奴の考えることは良くわかんねぇけどよ。お前がそうしたいってならそれでいいんじゃねぇか」

シェヘラザード「えぇ。ですから、なるべく小さな改変で済むように…出来るだけ些細な変更で済む方法を考えましょう」



523:◆oBwZbn5S8kKC 2016/07/11(月)00:27:32 ID:fIW

シンドバッド「まぁ盗賊の連中はどうにか説得してアリババの所へ行かせるとしてもだ…問題は親分だよな。本人は死んじまってる、代役を立てようにも死んじまう役回りを無関係の奴にやらせるのもなぁ…」

シェヘラザード「そうですね。それにあれを見ていると盗賊団の皆さんの命を奪うというのも…」

・・・

ラプンツェル「あっ、アニキもうお酒無いよ?私がついできてあげるよー」ニコニコ

「ラプちゃんのお酌とかアニキズリィー!ラプちゃん俺も俺も!」
「大体さぁラプちゃんの隣占領するのズリィよアニキ!」
「アニキには俺がついで差し上げやす!だからラプちゃんこっち来てー!」

親衛隊アニキ「えぇい、ラプちゃんは俺についでくれるって言ってんだよ!お前等は後だ後!後で頼め後で!」

・・・

シンドバッド「まぁなぁ…あいつ等死んじまったらラプンツェルもショックだろうしな」

シェヘラザード「こうしましょう。物語は当初の筋書き通り進行させましょう、ただし…親分役もあの盗賊達もモルジアナに退治されるだけ。命までは失いません、それなら改変も僅かで済みます」

シンドバッド「そうすりゃ親分の代役も死なずに済むな。でもよ、俺には良くわかんねぇけど死ななくても大丈夫なのか?」

シェヘラザード「盗賊達の生死はこの物語で重要では無いですから、問題ないでしょう」

シェヘラザード「【マッチ売りの少女】のマッチ売りさんや【キジも鳴かずば】の弥平さんのように死ぬ事が物語に重大な影響を与える人物を生かしたままおとぎ話を存続させることは出来ませんが……彼等はそうではありませんから」

シンドバッド「良くわかんねぇけど大丈夫なら問題ねぇな。となるとあとは誰が親分の代役をするか、それとどうやって盗賊達をやる気にさせるかだが…」

シェヘラザード「それに関しては私に考えがあります」



524:◆oBwZbn5S8kKC 2016/07/11(月)00:29:09 ID:fIW

シンドバッド「そんじゃお前に任せてりゃいいな。どんな手か知らねぇけど俺が無い知恵絞るよりはずっといいしな」ハハッ

シェヘラザード「どちらにしろ、彼等と話さなければいけませんね。では行きましょうか」スッ

シンドバッド「待て待て!用心しろよシェヘラザード、あいつらラプンツェルにはゾッコンだが俺に対しては辛辣だしな…いきなり余所者のお前が顔を出すのはマズい」

シェヘラザード「そうでしょうか?私には彼らがそこまで悪人のように見えませんが」

シンドバッド「人は見かけによらないって言うだろ?用心するに越したことねぇよ。実際、俺はそうとう嫌われているようだしな…不用意に出て行かない方がいいぜ」

シェヘラザード「それはあなたが嫌われるようなことをしたのではないですか?大方、調子に乗ってヘラヘラしていたのでしょう」

シンドバッド「お前も大概辛辣だな…俺はこう見えておとぎ話の主人公、魅力はあるって自負してんだ。そもそも俺が他人に嫌われるような奴に見えるか!?」

シェヘラザード「あなたは良い人ですよ、相応の魅力もあります。ですがそれは初対面ではわかりにくいです、外見は相当チャラチャラしてますし。もう少し清潔感と誠実さをですね…」

シンドバッド「…あーっ、わかったわかった!もう行くぞ!これ以上話してたらこっちが傷ついちまうぜ、ったく」スタスタ

シェヘラザード「大丈夫ですよ、長くつきあっていれば魅力がわかるはずですから」ウフフ

シンドバッド「っつーかよ、結局親分の代わりは誰がやるんだ?つってもラプンツェルにさせるわけにもいかねぇし盗賊の兄貴分にやらせるのか?」

シェヘラザード「いいえ、親分の代役は盗賊団以外の人物でなければ39人になってしまいますからね。代役はシンドバッドに頼もうかと」スタスタ

シンドバッド「いやいやいや待てお前!何で俺なんだよ!?聞けお前!」



525:◆oBwZbn5S8kKC 2016/07/11(月)00:30:08 ID:fIW

ワイワイ ガヤガヤ ワイワイ ガヤガヤ

「いやー!しかしようやく盗賊から足を洗えるぜ。なぁ、お前はどんな仕事に就きたい?俺は騎士がいいな、白馬の騎士」
「白馬の騎士ってお前(笑)俺は独学だけど剣術くらいしか取り柄ないしなぁ、どっかの城で雇ってもらえりゃ御の字だな」
「俺は仕事はなんでもいいがとにかく彼女が欲しい」
「真顔はやめろよ切実すぎて笑えねぇ」

親衛隊アニキ(うんうん、ラプちゃんのおかげでこいつ等もまともな仕事に付けそうだ。昨日まで将来を語るなんて出来なかったのに、良い事だな)

スッ

シェヘラザード「盛り上がっているところ失礼いたします、少しお時間よろしいでしょうか」

親衛隊アニキ「なっ!?なんだぁ!?今日は次から次へと…!」ザワザワ ザワザワ

シェヘラザード「申し遅れました、私シェヘラザードと申します。シンドバッドとラプンツェルさんの友人なのですが、二人がお世話になったようなので…私もご挨拶をと思いまして」

親衛隊アニキ「ラプちゃんの友達か。俺はこいつ等盗賊の兄貴分…いや、ラプちゃん親衛隊のアニキだ。そんな事よりあんた、随分良い身なりしてるがこの辺は物騒だから気をつけろ…ラプちゃんもだがもっと危機感を持つべきだ」

シェヘラザード「ご忠告ありがとうございます、私には立派な護衛が居ますのでご心配なく。ところでラプンツェルさんはどちらに?」

親衛隊アニキ「おう、ラプちゃんならそこに……ラプちゃんなにしてんだ…?その前髪なんだ?一発芸か…?」

前髪がすげぇ長い人「わ、私ラプンツェルじゃないデース!人違いダヨー」コソコソ

親衛隊アニキ「なぁラプちゃん、あの嬢ちゃん友達なんだろ?何でそんな嘘t」

前髪がすげぇ長い人「う、嘘じゃないデース!シェヘラザードは友達だけど今私がここにいることバレたら怒られちゃうから内緒にしてて!…あっ、内緒にしててデース」



526:◆oBwZbn5S8kKC 2016/07/11(月)00:30:56 ID:fIW

シェヘラザード「そうですか。申し訳ありません、友人によく似ていたので」ペコリ

前髪がすげぇ長い人「気にしないでイイヨー。あとラプンツェルに会っても怒らないであげてネー?あっ、私はラプンツェルじゃないケドネ?」コソコソ

シェヘラザード「はい。しかし困りました、これ以上ラプンツェルさんの居場所がわからないとなるとゴーテルさんが心配しますね…きっと食事も喉を通らず夜も眠れない程に…お年を召されていますし寝込んでしまうかも…」

ラプンツェル「…!だ、ダメだよそんなの!ママに心配かけたくないもん!」バッ

シェヘラザード「おはようございます、ラプンツェルさん」ニコリ

前髪がすげぇ長い人「あっ、えっと…おはようデース…」バサッ

シェヘラザード「もうその小芝居は良いですよラプンツェルさん、私はあなたを叱りに来た訳じゃないんですから」

ラプンツェル「本当?シェヘラザード、怒ってない?」チラッ

シェヘラザード「そうですねぇ…怒ってないわけではないです」ウフフ

ラプンツェル「えーっ!?やっぱり叱りにきたんだ!」ガビーン

シェヘラザード「ですがそれは、あなたがかかしさんを巻き込んでまで嘘を付いたこととおとぎ話の世界の事情を知っていながらシンドバッドの誘いに乗ったことです」

シェヘラザード「ですから私の反対を押し切って戦うことを選んだことに関しては怒っていません。むしろ私が謝るべきです、昨日の私はラプンツェルさんの話を聞かずに自分の意見を押しつけてしまいました」



527:◆oBwZbn5S8kKC 2016/07/11(月)00:32:26 ID:fIW

シェヘラザード「今では後悔と反省をしています。それと…思わず叩いてしまったこと、本当に酷いことをしてしまいました。ごめんなさい」ペコリ

ラプンツェル「ううんっ、私も勝手なことする前にもっかい話した方が良かったよね…ごめんね!もう二度とぺたんこお○ぱいって言わないよ!気にしてるのにぺたんこお○ぱいって言ってごめんね!」

「あぁ…確かに…」
「あぁ、ぺたんこだな…」
「お前等!あんまりじろじろ見るんじゃねぇ!ぺたn嬢ちゃんに失礼だろうが!」

シェヘラザード「……。いえ、ラプンツェルさんがわかってくださったのならそれ以上は望みません。では仲直りのしるしに」スッ

ラプンツェル「うん!あくしゅ!なーかーなーおーりっ!はいっ!仲直りしたー!」ブンブン

シェヘラザード「はいっ。でもかかしさんとモルジアナには謝っておくんですよ?迷惑をかけていますからね」

ラプンツェル「うんっ!わかった!で、モルジアナって誰!」ニコニコ

親衛隊アニキ「なんだかよくわかんねぇが、仲直りしたってことは良いことだ。おい、嬢ちゃんにも何か飲み物を出してやれ!」

シェヘラザード「あっ、お気遣いなく。突然押し掛けたというのにもてなして貰っては…」

親衛隊「いいんだよ!ラプちゃんは俺らの友達!友達の友達は友達だからな!」

シンドバッド「そうだよな!いやぁ二人が仲直りできて良かったぜ。俺も二人の友達だから俺にも酒を頼むぜ」

親衛隊「シェヘラちゃんお待ちどうー!ノンアルでよかったかな?」ニコニコ

シンドバッド「おい無視はやめろ」



528:◆oBwZbn5S8kKC 2016/07/11(月)00:33:24 ID:fIW

・・・しばらくして

親衛隊アニキ「おいおい待て待て!?余所の王妃だぁ!?嬢ちゃん、案内付けてやるから今すぐ戻れ!そんな高貴な奴が居ていい場所じゃねぇぞここは!」

シェヘラザード「ご心配感謝します、ですが私はそんな大層なものではありませんよ。いざとなればシンドバッドも居ますし」

親衛隊アニキ「しかしなぁ…わざわざ治安の悪い場所にくるんじゃねぇよ。盗賊には女子供だろうと容赦ねぇ卑劣な奴も多いんだぞ」

シェヘラザード「説得力に欠けますね、それが真実ならば私は今頃拘束されているはずですよね?」

ラプンツェル「アニキやみんなはもうとーぞくじゃないから大丈夫!それにみんな優しいよ!」ニコニコ

親衛隊アニキ「ラプちゃんがそう言ってくれるのはありがてぇが…」

シェヘラザード「ところでラプンツェルさんは彼等に新しいお仕事を探してあげるのだと言っていましたね。あてはあるのですか?」

ラプンツェル「えーっとね、お友達みんなに聞いてみようかなって思ってるしパパにも相談してみる!あっ、シェヘラザードのお城でお仕事余ってない?みんな強いらしいからお城の兵士とか!」

親衛隊アニキ「ラプちゃん、気持ちはありがたいがいくらなんでも余所の国の盗賊団崩れを雇うような王族はいねぇよ。あんまり嬢ちゃんを困らせるようなこt」

シェヘラザード「そうですねぇ、陛下に相談してみましょうか?」

親衛隊アニキ「そんな簡単に決めて良いことじゃねぇだろ!?見ず知らずの連中をお前…」

ラプンツェル「うん、お願い!あとあとシェヘラザードは頭良いからみんなが新しいお仕事見つけるいい方法考えつくよね?なにかないかな?」

シェヘラザード「うーん…そうですねぇ…」

シェヘラザード「やはり新たな仕事に就くのなら盗賊時代の行為は清算しておくべきですね」



529:◆oBwZbn5S8kKC 2016/07/11(月)00:34:54 ID:fIW

ラプンツェル「とーぞくじだいのこーいをせーさん…?よくわかんない!」

親衛隊アニキ「シェヘラの嬢ちゃんは俺達に罪を償えって言ってるのさ、散々盗みも殺しもしてきた俺らが今更普通の暮らしを手に入れようなんて虫がいい話だからな」

シェヘラザード「どんな事情があったとはいえ窃盗は犯罪です。犯罪を犯せば償うのは当然です」

親衛隊アニキ「あぁ、それは当然の報いだ。だが…自首なんかすりゃいつ牢から出られるか…そもそも出られるかどうかも怪しい」

ラプンツェル「シェヘラザードー、何とかならない?みんなホントは良い人だからろーやはかわいそうだよ」

シェヘラザード「そう言われましてもこの国でも窃盗は罪なのですよね、なら法に則った罰を受けるべきです。ですが…この国から出て行けばもうこの国の法律に縛られることはありません」

ラプンツェル「そっか!別の国に逃げよう!」ポンッ

親衛隊アニキ「あんたら王族なのにとんでもねぇこと言い出すな…要するに高飛びじゃねぇか」

シェヘラザード「厳密には違います、罰からは逃げますが罪を捨てる訳ではないのです。法律ではなくあなた方が出来る方法で今までの罪を償えばいいのでは無いでしょうか?」

親衛隊アニキ「まぁ…そうするしかねぇけどな、この国じゃ働き口はみつからねぇだろうし捕まれば牢屋だしな」

ラプンツェル「じゃあきまり!みんなで別の国にお引っ越ししてそこから仕事探そう!」

シェヘラザード「ところでアニキさん、盗品はまだどこかに保管してあるのですか?」

親衛隊アニキ「あぁ…金はほとんど使っちまったが宝石やら何やらはまだ随分残ってる」

シェヘラザード「出来ればそれは元の持ち主に返しておきたいですね。それは可能ですか?」



530:◆oBwZbn5S8kKC 2016/07/11(月)00:35:41 ID:fIW

親衛隊アニキ「盗賊やめるなら盗んだ物は元の場所に…ってか。全てってわけにはいかねぇが…大体はどこから盗んだのかわかると思うぜ」

シェヘラザード「ならば返せるものだけでも返しましょう。返したからといって罪が消えるわけではないですが、その方がいいです」

親衛隊アニキ「そうだな、じゃあお前等!宴が済んだら早速お宝返却開始するぞ!」

親衛隊「へい!しかしアニキ…そうするとアレ、どうします?」

親衛隊アニキ「あぁ、アリババに奪われた宝物か…」

シェヘラザード「まぁ、何者かに宝物を奪われたのですね。ならばそれも取り返した上で元の持ち主に返却しましょう」

シンドバッド(なるほど、名目は違えど盗品を取り返すって部分は同じ。それなら自然にこいつ等をアリババの所へ誘導できるってわけか)

親衛隊アニキ「そうだな、それがいい。だがアリババには頭の切れる奴が付いててな、一筋縄じゃいかねぇだろう…親分もいねぇしな。嬢ちゃん、あんたも頭が良さそうだ。知恵を貸してくれねぇか?」

シェヘラザード「それならば亡くなった親分代わりにそちらのシンドバッドをお貸ししましょう。こう見えて機転も利いて戦いの腕も立ちますよ、皆さんの役に立つはずです」

シンドバッド「来た来た来やがった…はいはい!やりゃいいんだろ!こうなったのは俺のせいだし盗賊の親分でもなんでもやってやるよ!」

「は?お前が親分とかねぇわ」
「女の子ならいいけどよぉ、でもラプちゃんやシェヘラちゃんを危ない目にはあわせらんねぇし…」
「いくら罪滅ぼしのためだっていってもこんなチャラ男の下につくとか形式上だとしてもごめんだわ」

シンドバッド「こいつら…」



531:◆oBwZbn5S8kKC 2016/07/11(月)00:37:40 ID:fIW

シンドバッド「お前等俺を舐めるのも大概にしろよ!俺はあの怪鳥ロックを従える優秀な船乗りなんだからな!」

「それロック鳥がすげぇだけだろ、勘違いすんなよ」
「自分で優秀とか言う奴は大概雑魚だよな(笑)」
「つぅか丘の上で船乗りの経験とか生かせねぇだろ、結局一般人じゃねぇかこいつ」

シンドバッド「畜生…おいラプンツェル!こいつらに俺のすごさ教えてやれ!俺は気がすすまねぇが親分代わりはしねぇといけねぇんだ!」

ラプンツェル「うん!えーっとね、シンドバッドはね!女の子好きでいっつも女の子のことばっかり気にしてるけど強いし頭もちょっとだけ良いからみんなの親分の代わり出来ると思う!だから宝物返す間だけ親分にしてあげてよ、ねっ?」

「ラプちゃんがそう言うならもちろんだよー!なぁみんな!」
「おうよ!それに考えて見りゃ親分って目立つし命も狙われやすいから親しい奴より案外どうでもいいこいつのほうが適任かもな!」
「あぁ、確かに。こいつならうっかり別の盗賊に殺されようがどうでもいいしな!」

シンドバッド「……」

親衛隊アニキ「よし、じゃあ頼むぞ兄ちゃん。ありがとなシェヘラの嬢ちゃん、色々と知恵を貸してくれてよ」

シェヘラザード「いえいえ。ただ…あなた達が盗賊をやめようとしていることが周囲にバレては余計なトラブルを招くでしょう。あくまで内密に…盗みを働くふりをして返却した方がいいと思います」

親衛隊アニキ「そうか、そうだな!よし!ここが正念場だぞお前ら!きっちりケジメ付けてまともな生活送れるように頑張るぞ!」

オォォーッ!



532:◆oBwZbn5S8kKC 2016/07/11(月)00:39:46 ID:fIW

・・・

親衛隊アニキ「よし、じゃあ宴はここまでだ!ちゃっちゃと片付けて仕事に移るぞ!」ヘーイ!

ラプンツェル「あっ、じゃあ私もお手伝いするよ!」

シェヘラザード「私もお手伝いします。この量ですからね、手は多い方がいいでしょう」

親衛隊アニキ「いやいや、二人には世話になっちまったからな。座っててくれよ。それにシンドバッドの兄ちゃん、気ぃ悪くしねぇでやってくれな、こいつら暗い青春しか送ってねぇからあんたのようなモテそうな男に厳しいんだよ」

シンドバッド「ったく、何で俺がムサい盗賊どもの面倒を…」

ラプンツェル「あっ、違うよ!とーぞくじゃなくてしんえーたい!」

シンドバッド「あぁそうだったな。まぁ俺が代役してこの世界が消えないならそれで良いけどよぉ…もうちょっとなんとかなんねぇかなあいつら」

シェヘラザード「それじゃあシンドバッドに任せて私達は帰りましょうかラプンツェルさん。あなたの特訓をどうするかも考えなければいけませんし」

ラプンツェル「そうだった!じゃあ帰るねアニキ!また遊びに来るしみんなのお仕事ちゃんと探しとくからみんなにも頑張ってねって伝えといて!」

親衛隊アニキ「あぁ、俺たちなりの罪の償いを見つけて必ずそれをやり遂げてみせる。そしてラプちゃんの親衛隊として胸張れるようになるからよ、またいつでも来てくれ。みんな喜ぶ」

ラプンツェル「うん!みんな友達!友達はいつでも会えるんだよ!だからまたね!」

親衛隊アニキ「あぁ、あんたに会えて良かったよラプちゃん。そんじゃあまたな」

シェヘラザード「ふふっ、では行きましょうか。帰りは魔法の絨毯で空の旅です、だからといってあまりはしゃがないようにしてくださいね?」

ラプンツェル「はーい!よーし、次来るときはもっともっと強くなってるようにしよっ!」ニコニコ

・・・


キモオタ「ティンカーベル殿!おとぎ話の世界に行きますぞwww」九冊目【後半】



元スレ
キモオタ「ティンカーベル殿!おとぎ話の世界に行きますぞwww」九冊目
http://hayabusa.open2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1458486313/
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