葉隠「強くてニューゲーム……って、俺がだべ!?」【前半】
葉隠(なのに……)
葉隠が立っていたのは希望が峰学園の玄関。
視界内にはお互い初対面のような対応をしている仲間達。
葉隠(それに死んだはずの舞園っちや桑田っちまでいるべ)
それにどういうわけか仲間に殺されたかモノクマに処刑されたはずの仲間達も全員いる。
これではまるで……
葉隠「コロシアイ学園生活の最初に戻ったみたいだべ?」
――――――――――――――――
タイトル通り殺し合い学園生活二週目に突入した葉隠の物語です。
ラスボスの名前書いておいて今さらですが、ダンガンロンパのネタバレ含みます。
亀更新ですので暖かく見守っていただけると幸いです。
葉隠(けど夢とは思えないほどのリアル感を感じる……)
葉隠(となったら、こういうときは情報収集だべ。……十神っちや霧切っちは怖いから、苗木っちにまずは話を聞くべ)
葉隠「おーい、苗木っち」
苗木「ど、どうして僕の名前を知っているの?」ビクッ!
葉隠「何を言うんだべ、苗木っち。そんなの知ってて当然……」
葉隠(あれ、おかしいべ。苗木っちのビビり方が普通じゃないべ)
葉隠(まるで初対面のような……)
苗木(……? 僕の名前はネットには乗ってなかったような気がするけど……)
苗木「僕の名前は苗木誠だよ。よろしくね、葉隠くん」
葉隠(よろしく、だべ? ……やっぱり、この苗木っちと俺は初対面みたいだべ。つまり俺と同じようにコロシアイ学園生活を生き残った記憶を持っていないってことだべか……?)
葉隠「ま、まあよろしくだべ」
葉隠(苗木っちは前のコロシアイ学園生活の記憶を持ってなかったけど、十神っちならどうだべ)
葉隠「おーい、十神っち」
十神「……確かに俺は十神白夜だが、愚民風情にそう軽々と呼ばれるような名前ではないつもりだが」
葉隠(あっ、これは出会った頃のツンツンした十神っち二違いないべ)
葉隠「何でもないべ」
十神「自分から話しかけておいて、用事がないとは面白い庶民だな」
葉隠(この言動が最後には少しは丸くなったことを思うとやっぱり感慨深いべ)
葉隠(それはそうと十神っちも覚えてないみたいだべ。……他の生き残りメンバーにも話しかけるべ)
葉隠(霧切っちや朝比奈っち、腐川っちにも話しかけたが全員初対面のような対応をされた。どうやらコロシアイ学園生活を生き残った記憶はないようだ)
葉隠(もし死んだ仲間が前の記憶を持ってたら落ち着いていられるわけがないからその線も薄い)
葉隠(ということはどうやら、前のコロシアイ学園生活のことを覚えている生徒は俺だけみたいだべ)
葉隠「………………」
葉隠「何で俺だけが覚えているんだべ?」
キーン、コーン…… カーン、コーン……
モノクマ「あー、あー……! マイクテスッ、マイクテスッ! 校内放送、校内放送……!」
モノクマ「大丈夫? 聞こえてるよね? えーっ、ではでは……」
モノクマ「えー、新入生のみなさん、今から入学式を執り行いと思いますので」
モノクマ「至急、体育館までお集まりくださ~い」
モノクマ「……ってことで、ヨロシク!」
そこから希望ヶ峰学園で一生共同生活を送ることと卒業するためには人を殺すことなど、記憶にあるのと同じような説明がされてモノクマが退場した。
十神「……俺は1人で行くぞ」
葉隠(参ったべ。この状況、俺の直感はコロシアイ学園生活の最初に戻ったと告げているべ)
大和田「待てコラ……んな勝手なことは許さねえぞ……」
葉隠(俺は最初コロシアイ学園生活を希望ヶ峰学園のオリエンテーリングだと思って現実を受け入れられなかった……)
十神「……どけよ、プランクトン」
葉隠(今の状況も夢だと思っている自分がいるのも事実だべ……)
葉隠(……けど今の俺は直感を信じて生きるって決めたんだべ)
苗木「ちょ、ちょっと待ってよ。ケンカはまずいよ」
葉隠(だから現実から逃げずに、ここがコロシアイ学園生活二周目だって受け入れるべ)
それは葉隠がコロシアイ学園生活を生き延びて、江ノ島を倒して手に入れた強さであった。
ガンッ!! ガララララ! ナエギダイジョウブ!?
葉隠(だから周りには黙っておくとして、これからどう行動するべきか)
葉隠「………………」
葉隠(……一周目と同じように過ごしても意味ないべ)
葉隠(せっかくコロシアイ学園生活を一度経験しているんだから、その記憶を生かしてコロシアイを止めてみせるべ!)
葉隠(直感だけど、それこそ記憶を引き継いで二周目に来ている俺の役目なのかもしれないべ!)
葉隠(それに命を助ければ……)ポワンポワン
誰か(?)「命を助けてくださりありがとうございます、葉隠様!」
葉隠「それくらい気にすることないべ。お礼に少し金をくれればいいべ」
誰か(?)「はい! こんなはした金ですがもらってください」ドサドサ
葉隠「ハッハッハ。そんなにたくさんもいいべ。……まあもらっとくけど」
葉隠(……ってなるに違いないべ!)
それはコロシアイ学園生活を生き延びて、江ノ島を倒しても変わらない葉隠のゲスさであった。
C H A P T E R 1
? ? イ キ ル
(非)日常編
―――――――――――――――
葉隠が体育館を出てまず目に付いたのが模擬刀だ。
葉隠「これが桑田っちを守ったんだよなあ」
葉隠「…………」
葉隠「………………」スチャ
葉隠「模擬刀の先制攻撃だべ!」ブンッ!
葉隠「………………」
葉隠「……模擬刀の先制攻撃だべ!!!」ブンッ!
葉隠「…………………………」
葉隠「あぁぁぁーー模擬刀の先制攻撃だべ!!!!!」ブンッ! ガンッ!!!
葉隠「………………」
葉隠「……俺何やっているんだろう」
葉隠(建物の構造は把握しているとはいえ、一応探索するフリをしないとおかしく思われるか)
葉隠「面倒だけど行くべ」ポイッ
葉隠(俺も自分の個室に戻って、第一の殺人事件を防ぐ方法を考えてみるべ)
第一の事件。
モノクマによるDVDの動機が配られた後に起きた殺人事件。
超高校級のアイドル舞園さやかが、桑田レオンを殺そうとして返り討ちにあった事件だった。
葉隠(……って、えっとあの事件って正確にはどんな内容だったか?)
既に六回も学級裁判を経験しているため、忘れっぽい性格の葉隠は一回目の殺人事件の記憶も明瞭ではない。
葉隠(えっと、俺が止められそうなところは……)
それでも何とか記憶を引きずり出して、メモ帳にいつも意外だと言われる達筆な字で要点を整理し始めた。
第一の事件の止めるポイント。
一、舞園さやかが殺人を決意するのを思いとどまらせる。
二、舞園さやかが殺人を実行しようとするのを止めさせる。
三、桑田レオンが殺人を実行するのを止めさせる。
一、舞園さやかが殺人を決意するのを思いとどまらせる。
葉隠(桑田っちが殺人を犯したのは突発的だったから、事件前に説得するとしたら舞園っちだべ)
葉隠(えーっと、舞園っちが殺人事件を起こした理由は外に出たいからだった)
葉隠(そう思わせるのを防ぐためには……モノクマのあのDVD鑑賞をやめさせるしか方法はないが……)
葉隠(それは無理だべ。モノクマに逆らえるようならそもそもコロシアイ学園生活は成立しない)
葉隠(DVDを見た後に説得をする路線も無理だ。殺人事件を起こすほど思い詰めた舞園っちが、俺なんかの胡散臭い言葉で気持ちを変えるわけない)
葉隠「ハッハッハ……」
葉隠「……自分で言ってて悲しくなってきたべ。こういうとき占い師の言動に頼ったっておかしくないのに」
葉隠(結論、一の方法は無理だべ。殺人事件を直接防ぐ方法を考えるべ)
二、舞園さやかが殺人を実行しようとするのを止めさせる。
葉隠(犯行を止めさせる。それに一番いい方法は……)
葉隠「凶器をおさえることだべ」
葉隠(あのときの凶器は包丁だった)
葉隠(……確か犯行の夜、朝比奈っちとオーガが食堂で舞薗っちを見たはず)
葉隠(二人と一緒にいれば食堂にやってきた舞薗っちが包丁を持ち出すのを止めることができるはず……だが)
葉隠(何と言えば包丁を持ち出すのを止めることができるだろうか?)
葉隠「舞薗っち包丁を持ち出すのは危ないべ……とかか?」
葉隠「……持ち出す現場をおさえないと、それは言えないべ。なんで知っているのかと思われるし、どう考えてもはぐらかされるべ」
葉隠(かといって自然に一緒に厨房に行くのも難しいし)
葉隠「………………」
葉隠「…………!」ピカン!
葉隠(それにもっと大事なことに気付いたべ)
×舞薗 → ○舞園
葉隠(もし、舞園っちが包丁を持ち出すのを阻止できたとする)
葉隠(それでその日の犯行は防げるに違いない)
葉隠(けど、それで舞園っちが諦めるだろうか?)
葉隠「あきらめるわけないべ。そんなことで諦めるくらいだったら、そもそも殺人を犯そうと思わないべ」
葉隠(そうなったらどうするか。次の日に実行しようとするだろう)
葉隠(それを防げてもまた次の日、次の日、とキリがないべ)
葉隠(何らかのアクシデントから、一日でもミスったらパーになる)
葉隠(それに包丁を持ち出すのを諦めて、別の方法で殺人を犯そうと考えるかもしれない)
葉隠(一周目とは違う、俺の知らない方法で)
葉隠「そうなったら防ぎようがないべ」
葉隠(一周目の記憶というアドバンテージを生かすなら、ある程度前と同じように動いてもらったほうが確実だべ)
葉隠「ということは、二の方法も無しだべ」
三、桑田レオンが殺人を実行するのを止めさせる。
葉隠「結局この方法をとるしかないべ」
葉隠(といっても、桑田っちに舞園っちの部屋に行くなと言っても聞くはずがない)
葉隠(桑田っち舞園っちに惚れてるからなあ……)
葉隠「それに一周目とある程度同じに動いてもらわないと困るべ」
葉隠(だから、桑田っちには舞薗っちの部屋に行ってもらって)
葉隠(そして殺されかけてもらう)
葉隠(頭に血の上った桑田っちはその後舞園っちを殺そうとするけど)
葉隠(風呂場に逃げた舞園っちを追うために、一度部屋に工具セットを取りに帰るはず)
葉隠「その途中で俺の登場だべ!」
葉隠(桑田っちの方が苗木っちの部屋に近いのは残念だが、それでも好条件だべ)
葉隠(部屋は完全防音だから、ドアを少し開けておく)
葉隠(そうすれば音が聞こえて真夜中に歩き回っているのは誰だろう? って自然に廊下に出れるべ)
葉隠(それでとにかく桑田っちに話しかける)
葉隠「そこで俺の話術の出番だべ」
葉隠(何とかして桑田っちを落ち着かせて殺人を止めさせる)
葉隠(これで一件落着だべ)
葉隠「あとは殺人を犯そうとした舞園っちの処遇だけど」
葉隠「……まあ、そこら辺難しいところは霧切っちや苗木っちに任せるべ」
葉隠(これで第一の殺人は止められる)
葉隠(そうすれば命の恩人である俺に、桑田っちからも舞園っちからも謝礼がもらえるに違いない)
葉隠(超高校級の野球児ともなればお金持ってそうだし、舞園っちは国民級のアイドル。……言わずもがなだべ)
葉隠「いくらもらえるだろうか……」
捕らぬ狸の皮算用ということわざを知らない葉隠は、大量のお金に囲まれた自分を想像しながらその日は寝た。
モノクマの放送によって体育館に集められ、動機DVDの提示が行われた。
舞園「こんなの……こんなの……」ダッ!!
苗木「舞園さん!!」ガタッ!!
全員で視聴覚室で見た後、飛び出していった舞園を苗木が追いかける。
葉隠は自分のDVDを鼻で笑いながら見た。
葉隠(こんな嘘っぱちな映像を流して……)
葉隠(どうせ外の世界は荒廃しているっていうのに)
葉隠「………………」
葉隠(四日間観察して気づいたけど)
葉隠(やっぱりここまで俺の関わった行動以外は大体一周目と同じだべ)
葉隠(この様子なら、舞園っちが動くのも今夜のはず)
葉隠「………………」
葉隠(絶対に止めて見せるべ。大事な大事な…………)
葉隠(お金のためにも!)
仲間の命を守るために、と思わないあたりが葉隠らしかった。
葉隠(桑田っちや舞園っちと何か話すべきかとも思ったが)
葉隠(俺との会話のせいで、何らか心情が変わり)
葉隠(一周目とのズレが起きたら困るから結局何も話さなかった)
葉隠(現在は午前12時30分)
葉隠(舞園っちが殺されるのはモノクマファイルから午前1時30分ごろだと分かっている)
葉隠(つまり桑田っちが舞園っちの部屋を出る一時間後くらいのはずだべ)
葉隠「………………」
葉隠(桑田っちの説得をどうするかは考えていない)
葉隠(……先に考えておいてしゃべれるほど器用じゃないから当たって砕けろだべ)
葉隠「それにしても」
葉隠「後一時間何をして暇をつぶすか……」
水晶玉(ガラス製)を取り出す葉隠。
葉隠(俺は舞園っちを助けられるか……)
葉隠「………………」
葉隠「……見えたべ!! 助けられるべ!!」
葉隠(次はどれくらい謝礼をもらえるか……)
葉隠「………………」
葉隠「……見えたべ!! ……ってそんな額もくれるだべか!?」
葉隠(じゃあ次は…………)
………………。
………………。
………………。
一時間三十分後。
時計<午前二時だよー
葉隠「もう犯行時間過ぎてるべーー!?」
葉隠(えっ、もう桑田っち舞園っちを殺したのか……!?)
葉隠(ちょっとやばいべ、やばいべ!!)
葉隠「…………って……だけど」
葉隠「……何で廊下を走る音がしなかったべか?」
葉隠(舞園っちの部屋に行くときは、個室が完全防音と分かっていても人の心情として、夜中だからあまり音を立てないで行くはず)
葉隠(けど、工具セットを取りにくるときはそんな考える余裕がなくてドタバタと走るはずだべ)
葉隠(それくらいの音ならドアを少し開ければ聞こえるのは昼の内に試してある)
葉隠(いくら占いに集中していたとはいえ、その音を聞き逃したとは考えにくい)
葉隠「何か不足の事態が起きたに違いないべ」
葉隠(そして一周目と違うこの事態は俺が引き起こしたんだろう)
葉隠(自分ではそんなつもりはないけど、二周目ということで俺が一周目と違う行動になっていたのは事実だべ)
葉隠(蝶の羽ばたきが遠くで竜巻を発生させたっていう……あの……あの……)
葉隠(そうだべ! アゲハ蝶エフェクトだべ!!)
葉隠(……それのおかげで殺人が無くなったんだべ!!)
葉隠「ハッハッハ! 俺すげえべ!! 無意識の内に殺人を止めるなんて!!」
葉隠(そうともなれば今日はもう起きている必要もない)
葉隠「気分よく寝れそうだべ」
葉隠は自室のドアをきっちり閉めてから寝た。
葉隠はいつもと異なる起き方をした。
不二咲「葉隠くん、大丈夫!?」 バンッ!
葉隠「……う~ん……」 ムニャムニャ
葉隠「……どうしただべか不二咲っち……」 フワッ、ハァァー
不二咲「良かったあ~。無事だったんだ」 ホッ
葉隠(ホッと肩を下ろす仕草は女の子にしか見えない)
葉隠(これが男だとはやっぱり今でも信じられないべ)
葉隠「…………って」
葉隠「……あれ?」
葉隠「どうしてここに不二咲っちがいるべか……?」
何故だろうか、普段朝は貧血気味の葉隠だが動悸が激しくなってきた。
大神「朝というには遅すぎる時間帯だと思うが……」
どうやら不二咲と一緒に朝比奈と大神も一緒に部屋に入ってきていたようだ。
葉隠「今の時間……?」
時計<午前十時だよー
葉隠「あっ……昨日は遅くまで起きていたから、ついつい寝坊してしまったべ」
朝比奈「葉隠が寝坊するのはいつものことでしょ」
大神「強靭なる肉体は正しい生活習慣の下でしか身につかないぞ」
葉隠「規則正しくしてもオーガのようにはならないと思うけど…………」
葉隠「ってそうじゃないべ!!」
葉隠「どうして三人がここにいるべ!?」
葉隠「個室のドアはカギがなければ開かないはずだべ!!」
大神「モノクマが食堂に表れて言ったのだ……」
―――――――
モノクマ『おまいらなにのんびりしてるの?』
モノクマ『緊急事態が発生したっていうのに』
霧切『……それってどういうこと?』
モノクマ『さあ? 自分たちで調べてみなよ。個室のドアのカギは全部開けといたからさ』
―――――――
大神「……とな」
葉隠「…………どういうことだべ……?」
一周目と明らかに違う。そんなことモノクマが言った覚えは無い。
葉隠「困っていたって何だべ?」
不二咲「葉隠くんたちのことだよ」
不二咲「いつまで経っても食堂に来ないから心配していたんだよ」
葉隠「それは俺が悪か…………『たち』?」
頭の中で警鐘がガンガンと鳴る。
朝比奈「朝食会に来なかったのがもう一人いるの」
大神「だが、この様子だともう一人も寝坊だろうな……」
ピンポンパンポーン。
朝比奈「ん……? 何このアナウンス?」
葉隠「まさか……」
不二咲「おかしいね。これまでアナウンスは朝と夜にしかなったことが無いのに」
葉隠「まさか…………!」
大神「何か異変でも起きたのだろうか……」
葉隠「まさか………………!!??」
そして葉隠は聞く。
葉隠にとって七回目となるそのアナウンスを。
モノクマ『死体が発見されました。一定捜査時間の後、学級裁判を開きます!』
朝比奈「今のアナウンスってどういうこと?」
大神「誰かが殺されたということなのか……?」
葉隠(どういうことだべ……!?)
葉隠(もしかして俺が占いに集中していたから、足音を聞きのがしたのか!?)
葉隠(そんな……)
葉隠(救って見せるって決めたのに……)
葉隠「………………」
葉隠(……悔やんでいても状況は分からない)
葉隠(苗木っちはどんな絶望的な状況でも諦めずに前を見ていたべ)
葉隠(俺も見習って前に進まないと……)
葉隠「朝比奈っち……俺以外に朝食会に来なかったのって――」
朝比奈「え? ……そ、それは」
葉隠「舞園っちなのか?」
朝比奈「桑田くんだよ」
葉隠「………………」
葉隠「…………え?」
葉隠(もしかして桑田っちが殺されたのか……?)
葉隠(もう訳が分からんべ…………)
再び一周目と違う事態に戸惑う葉隠。
石丸「こ、これは一体どういうことなのだ!?」
江ノ島「ヤバいって。マジで人が死んでるっての」
十神「フン。ゲームの始まりか。待ちくたびれたぞ」
朝日奈「何か外が騒がしくなってきたね」
不二咲「状況確認のためにも声がした方に行ってみる?」
大神「そうだな……」
葉隠「………………」
葉隠(訳が分からないといって立ち止まっていても始まらない……)
葉隠(何か行動しないと……)
葉隠「俺もついていくべ」
朝日奈「どうしたの? 何が起きたの?」
不二咲「モノクマが死体とか言ってたけど……」
大神「もしかして本当なのか?」
霧切「……あまり中を見るのはオススメできないけど」
霧切「自分の目で見なければ現実だと認識できないということもあるし」
霧切「……ただ、見るなら覚悟をしてちょうだい」
朝日奈「……やっぱりさっきの放送って」
不二咲「本当だったの?」
大神「俄かには信じられないが……」
葉隠「見させてもらうべ」
すでに覚悟を決めていた葉隠はさっさと苗木の部屋を覗き込む。
葉隠「………………」
葉隠「……本当にどういうことだべ?」
そこで見つけたのは超高校級の野球選手、桑田怜恩の変わり果てた姿だった。
葉隠(単純に殺された人物が違うし)
葉隠(それ以外にも何点かあるべ)
葉隠(………………) キョロキョロ
葉隠(……その中でも特に)
葉隠「何で『あれ』が見当たらないんだ?」
モノクマ「ピンポンパンポーン。オマエラに連絡します。至急体育館に集まってください」
体育館前ホールについたところで葉隠はある物に気付いた。
葉隠「………………」
葉隠「ど、どうして……」
葉隠「どうしてこれがここにあるんだべ……!?」
葉隠(だとしたら、この一周目と違う状態は……全てこれのせいだということに……!?)
苗木「どうしたの葉隠くん?」
葉隠「苗木っち!! どうして模擬刀がここにあるんだべ!?」
葉隠「どうして自分の部屋に持って帰らなかったんだべ!?」
苗木「ちょ、ちょっと落ち着いてよ葉隠くん」
苗木(どうして僕が持って帰らなかったことを知っているんだろう……?)
苗木(……舞園さんと一緒にここに来たことを知られたのかな?)
苗木「確かに護身用にってその模擬刀を持って帰ろうかな、って思ったよ」
苗木「けど、それ――壊れているんだよ」
葉隠「壊れて……いる?」
苗木「うん。折れているんだ」
葉隠「………………」
葉隠(一周目ではそんなことなかった)
葉隠(これはどういう)
――――――――――――
葉隠「模擬刀の先制攻撃だべ!」ブンッ!
葉隠「………………」
葉隠「……模擬刀の先制攻撃だべ!!!」ブンッ!
葉隠「…………………………」
葉隠「あぁぁぁーー模擬刀の先制攻撃だべ!!!!!」ブンッ! ガンッ!!!
葉隠「………………」
――――――――――――
葉隠「――っ!?」
葉隠(そのあと乱暴に投げ捨てたのがトドメに……?)
葉隠「………………」
葉隠(それなら確かに一周目にはなかった行為だ)
葉隠(俺の関わった行動以外は一周目と同じという法則にも当てはまる)
葉隠(一周目と違って俺が模擬刀を壊した)
葉隠(そのせいで苗木が模擬刀を持って帰らなかった)
葉隠(だから桑田っちが舞園っちの襲撃を防げず殺された)
葉隠「………………」
葉隠「ということは……つまり……」
葉隠「俺が桑田っちを殺したも同然ってことだべか……?」
葉隠はそれに囚われてしまっていた。
葉隠「そんな……俺はそんなつもりは……」
モノクマによる学級裁判の説明も聞き流しながら、悔恨の念にかられる葉隠。
だから、この後に何が起きるのかもすっかり忘れていた。
モノクマ「召喚魔法を発動する! 助けて! グングニルの槍ッ!!」
葉隠(……っ!? そうだったべ!? そういえば一周目もこのタイミングで……!)
江ノ島「は?」グサッ!グサッ!グサッ!
葉隠「………………」
葉隠(……正直言ってどうすれば江ノ島……いや、むくろっちを助けられたのか分からない)
葉隠(それでも何か方法があったんじゃないか……?)
殺されると分かっていた人がいたのに何も行動をしなかった。
二つの絶望が葉隠を蝕むが――――それで終わりでなかった。
苗木(学級裁判……)
苗木(仲間の内に紛れた人殺しのクロを指摘する……)
苗木(見事当たればクロがおしおき……)
苗木(それができなければクロ以外全員おしおき……)
苗木(そんな重要なルールを後出しするなんて……)
苗木「モノクマ……」
苗木(……でも、僕にはクロが分かっている)
苗木(必死にいつも通り振る舞おうと頑張っているけど顔が青くなっていくのを隠しきれていない……)
苗木(舞園さん。――彼女がクロだ)
苗木(部屋交換をした僕の部屋で桑田くんが殺された以上、間違いない)
苗木(そうすれば僕は生き残れる)
苗木(……その代わり舞園さんは死ぬ)
苗木(僕はそれを良しとするのか……?)
――――――――――――
苗木『僕がキミをここから出して見せる! どんなことをしても絶対にだよ!!』
舞園『……その言葉……信じてもいいですか?』
苗木『え? ……もちろんだよ!』
舞園『信じられるのは苗木君だけなんです』
舞園『だから……お願い。苗木君だけは何があっても……ずっと私の味方でいて……』
――――――――――――
苗木「………………」
苗木(舞園さんは……僕に罪を押し付けようとした)
苗木(部屋交換をした場所で殺したということはそういうことだ)
苗木(それで自分だけ卒業しようとした……)
苗木(けど、舞園さんも学級裁判のルールは知らなかったんだ)
苗木(だから代わりに罪を被る僕に与えられる罰が死だなんて想像もしていなかった)
苗木(何の罰が与えられるのかは分からないけど……そう重いものと思っていなかったはずだ)
苗木(舞園さん……)チラッ
舞園「…………!」
苗木(舞園さんと目が合った)
苗木(彼女の眼は……もう諦めきっていて)
苗木(……それも当然だ。自分が死ぬと分かっていて人を庇う人間なんてそうそういない)
苗木(だから舞園さんは僕に罪を暴かれて死ぬだろうと思って……)
舞園「………………」ペコリ
苗木(舞園さんが僕に向かって小さくお辞儀をする)
苗木(何となく分かった)
苗木(『迷惑をかけてごめんなさいね、苗木君』と言いたいんだろう)
舞園「………………」 ニコリ
苗木「…………っ!」
苗木(舞園さんが僕に微笑んだ)
苗木(儚げなその微笑……)
苗木(それを見た瞬間僕は………………僕は……)
葉隠(それでも俺は前に進まないといけないべ)
葉隠(一周目のとき、苗木っちはどんなに絶望するような状況でも諦めなかった)
葉隠(江ノ島盾子に自分以外が絶望した時も、みんなを希望に奮い立たせた)
葉隠(俺はあんな強さが欲しいと思ったんだべ)
葉隠(だから……こんなところで諦めるわけにはいかない!!)
モノクマ「では後ほど、学級裁判でお会いしましょう!」
ちょうど学級裁判の説明が終わる。
葉隠(まずは差し当たり、この学級裁判だべ)
葉隠(一周目と同じだと考えるなら、舞園っちが桑田っちを殺したに違いない)
葉隠(答えが分かっている分楽勝――)
苗木「ねえ、モノクマ?」
モノクマ「ん? なになに、苗木君?」
苗木「学級裁判なんて行う必要あるの?」
葉隠(? 苗木っち何を考えて……。 一周目ではこんな行動してなかったはずなのに)
モノクマ「もう、苗木君。説明聞いてなかったの?」
モノクマ「君たちの中にいるクロを指摘しないと」
苗木「ああ、そういうことを言いたいんじゃないんだ」
苗木「僕がクロなのに学級裁判を行う必要があるのかな、って」
葉隠(苗木っち何を言って……)
霧切「……苗木君、今言ったのは本当のことかしら?」
苗木「本当も何も少し考えたら分かるでしょ」
苗木「桑田君は僕の部屋で殺されたんだよ?」
苗木「部屋にはいれるのはカギを持った本人のみ」
苗木「だったら、僕以外にあの殺人を犯せるはずがないじゃないか」
石丸「苗木君! 君は一体何を言っているのか分かっているのかね!」
苗木「分かっているに決まってるじゃないか」
苗木「……僕が桑田君を殺した。そう言っているんだよ」
苗木「石丸君はこんな簡単な日本語も分からないの?」
苗木「それは……失望したからだよ」
不二咲「……え?」
苗木「だって彼は超高校級の野球選手なんだよ」
苗木「それなのに……野球をやめてミュージシャンになりたいなんてふざけてるよ」
苗木「超高校級の才能はきちんと使われてこそだってのに」
苗木「それを桑田くんに問いただしたら、野球やっててもモテないからって」
苗木「……もう言っている意味が分からなかったよ」
苗木「こんな生徒のために希望が峰学園の学費を使うのも無駄だからね。殺してあげたんだよ」
大和田「ああん? だったら、おまえはそんな理由で人を殺したのか?」
苗木「そうだよ」
大和田「……あんまりぬかしたこと言ってると殺すぞ」
苗木「いいよ。殺してみなよ」
大和田「……あ?」
苗木「その場合、学級裁判の場で君がおしおきされるだろうけどね」
大和田「………………」
苗木「殺すなんて言葉、殺される覚悟もない人が口にしちゃいけないよ。大和田君」
苗木「家族が大変な目に合ったんだ。今すぐ真相を確かめたいと思うのは普通だろう?」
霧切「……あの映像は私たちの出たいという気持ちを煽ったものよ」
霧切「本当だとは思え」
苗木「だったら嘘だっていう確証はあるの?」
霧切「…………」
苗木「確かに本当だという根拠はない」
苗木「だけど、嘘だっていう確証だってない」
苗木「だから確かめるために卒業することにしたんだ」
苗木「まあそれも駄目になったみたいだけどね……」
苗木「ごめんね十神君。僕だって君をがっかりさせたくはなかったよ」
十神「……分からないことが一つだけある」
十神「おまえは卒業したかったはずなのに、諦めが早すぎやしないか?」
十神「カギを誰かに奪われた、とか言い訳はできたはずだろう」
十神「凡人は凡人なりにあがくべきじゃないのか?」
苗木「……それも一瞬考えたんだけどね」
苗木「学級裁判のルールを聞いて諦めたよ」
苗木「まさか卒業と同時に他のみんなが死ぬなんて聞いてもいなかったからね」
苗木「……ただ運しかない僕のためなんかに、超高校級の才能を持った君たちが死ぬなんて耐えられないよ」
苗木「だから諦めて、自分の死を選んだってわけさ」
十神「……よく分かった。おまえが狂っているということがな」
モノクマ「なんて絶望的なんでしょう」
モノクマ「……まあ、それはともかく学級裁判は行うからね」
苗木「無駄だって分かっているのに?」
モノクマ「様式美だよ苗木クン。様式美」
モノクマ「現実だってどんな凶悪犯でも裁判を受けてるでしょ」
モノクマ「つまりそういうことだよ」
苗木「ふーん。……まあ、いいけどね」
葉隠(苗木っち……)
葉隠(本当に苗木っちが桑田っちを……?)
葉隠「………………」 チラッ
舞園「…………苗木君……」
葉隠(舞園っちのあの表情……)
葉隠(どうみても人を殺した仲間を見ている人間の表情じゃない)
葉隠(『どうして自分をかばうのか……?』そう疑問に思っている顔)
葉隠(やっぱり一周目通り部屋の交換はあったはずだべ)
葉隠(俺はそう分かっているけどみんなはそんな事実知るはずがない)
葉隠(だからまずこれからしないといけないのは)
葉隠(クロを見つけるのではなく、クロでないことの証明)
葉隠(……確かに今まで学級裁判の前に疑われていた者のシロを証明することはあった)
葉隠(一周目の三回目の裁判で、ジャスティスロボに入っていた俺が疑われたように)
葉隠(けど、今回それとは少し違う)
葉隠(積極的にクロになろうとする者のシロの証明)
葉隠(……四回目の裁判で朝日奈っちが全員で死のうとしていたときと同じ状況だべ)
葉隠(あのときは十神っちでさえ騙されていた)
葉隠(それを俺がどうにかできるのか……?)
葉隠「………………」
葉隠(それでも生き残るにはやるしかないんだべ)
葉隠「…………見えたべ!!」
苗木「どうしたの、葉隠君。いきなり叫んで」
葉隠「天からのインスピレーションが降りてきたんだべ!!」
苗木「……へえ。超高校級の占い師がこのタイミングで受け取ったインスピレーション。……ぜひ聞いてみたいね」
葉隠「それじゃ今回は特別にタダで教えるべ。……実は苗木っちはクロじゃないんだべ!!」
一同「………………」
山田「……あの~、それはちょっと無理が」
大和田「お前話聞いてたのか? こいつは自分からクロだって言ってるんだぞ。馬鹿じゃないのか?」
石丸「そうだったのか! 苗木君は犯人じゃなかったのか!」
朝日奈「そんなわけないよ! だって苗木は自分から桑田を殺したって言っているんだよ!」
腐川「あ、あんたねえ……。自分が何を言っているのか分かっているの?」
大神「我も信じられぬが……」
不二咲「けど、葉隠君の占いって三割当たるんだよねえ」
セレス「たかが三割でしょう? そんな確立に命をベットするのは正気の沙汰だとは思えませんが」
舞園「………………」
霧切「……そうね、私も俄かには信じられないわ」
霧切「けれど、あらゆる可能性を考えてみるのはいいことだと思うわ」
霧切「せっかく学級裁判なんて場があるわけだから」
一周目でみんなを引っ張ってくれた、そして自分を希望に奮い立たせてくれた苗木が敵というこの状況。
葉隠(苗木っちはこれまで霧切っちや十神っちと一緒に裁判を引っ張ってきた)
葉隠(つまり弁論技術は相当な物だべ)
葉隠(対して俺は裁判でまともな発言をした覚えさえ無いべ)
葉隠(……それに苗木っちは自分がシロではなく、クロであることを証明する)
葉隠(その二つの違いは大きく違う)
葉隠(例えば痴漢冤罪とかからそのことは明らかだべ)
葉隠(やっていないということの証明は難しく)
葉隠(やったということは誰かが言っただけで信じられてしまう)
葉隠(そういう意味で苗木っちは有利……)
葉隠(事実、苗木っちが自らクロだと言ったのをみんな信じてるべ)
葉隠(だから占いを装って苗木っちがクロじゃないって言った)
葉隠(そうすることで、その可能性もあるかもしれないとみんなに気付かせるために)
葉隠「………………」
葉隠(……絶対、絶対苗木っちをロンパして見せるべ)
葉隠(そうすることが苗木っちの為にもなるんだべ)
葉隠(このままじゃ苗木っちも死んでしまうんだから……)
苗木「僕がクロじゃない……か」
苗木「……面白い、面白いね葉隠君!!」
苗木「だけどみんな君の占いに否定的だよ?」
苗木「それでも君は占いを信じるの?」
葉隠「……確かに俺の占いは三割しか当たらない」
葉隠「けど、俺の直感はこの占いが正しいって言っているんだべ!」
葉隠「だから俺は俺の占いを信じるべ!!」
苗木「……そうか」
苗木「じゃあ勝負だね、葉隠君」
苗木「僕がクロかそうでないか……」
葉隠「ああ、勝負だべ! 苗木っち!!」
葉隠康比呂二周目のコロシアイ学園生活。
その最初の裁判で葉隠は自らの恩人と争うことになった。
C H A P T E R 1
カ バ イ キ ル
非日常編
―――――――――――――――――
霧切「まず、見張り役を決めたいのだけど」
不二咲「見張り役?」
霧切「ええ。クロが証拠を消したりしないかを見張るためにね」
霧切「三人ほど欲しいわ」
葉隠(ん? 三人?)
大和田「それなら俺がやってもいいぜ。あんま考えるのは苦手だしな」
大和田「……まあ、そんなことをしなくてもクロは苗木だろうがな」
大神「それなら我もやろう」
朝日奈「さくらちゃんがやるなら私もやる!」
不二咲「一人で十分じゃないの?」
セレス「それではその一人がクロでしたら、証拠の消し放題でしょう?」
霧切「セレスさんの言う通りよ」
霧切「ということで部屋の見張りは二人……大神さんと朝日奈さんに頼むわ」
大和田「じゃあ俺は何をすればいいんだよ?」
霧切「大和田君にはそれ以上に重要な仕事」
霧切「現在クロ筆頭の苗木君の見張りを頼むわ」
苗木「……へえ」
大和田「……そういうことか」
苗木「そうだよ。往生際の悪い人間って見苦しいからね」
霧切「だったらあなたは捜査する必要がないわよね?」
苗木「自分の犯した殺人だよ? 方法なんて分かりきっているさ」
霧切「それなら大和田君と一緒に、どこかの教室にこもっててくれる?」
葉隠(これは霧切っち上手いべ)
葉隠(苗木っちは嘘のクロだから、今回の犯行の全容を知らない)
葉隠(このまま苗木っちが捜査もせずに学級裁判に参加してくれれば、簡単にボロが出るはず)
葉隠「………………」
葉隠(それにしてもこの追い込み方、苗木っちがクロじゃないって分かっているのか……?)
苗木「そうだけど、もう一度桑田君の死体を見てみたいからね」
苗木「ボクも捜査に参加させてよ」
葉隠(当然それじゃやばい苗木っちは反対する)
苗木「どうして?」
霧切「あなたが捜査時間中にもう一人殺さないって保証がどこにあるの?」
苗木以外「!?」
苗木「そんなことするわけないじゃないか。ボクが超高校級のみんなを殺して何の得になるのさ?」
苗木以外「………………」
苗木「……って言っても信じてくれないみたいだね」
霧切「あなたが出歩いているってだけで、みんなの捜査の足が鈍るの。だから、みんなのためにも教室に閉じこもってくれる?」
葉隠(話の持って行き方が上手いべ)
葉隠(みんなの恐怖を煽ることによって苗木っちの行動を縛る……)
葉隠(実際には大和田っちの前でそんなマネできるはず無いけど、それをあえて言わなかったのもポイントだべ)
葉隠(そしてこう言われれば超高校級の高校生を神聖視する今の苗木っちのキャラ………………) ピカン!
葉隠(……何かインスピレーションが降りてきたべ)
葉隠(今の苗木っちの状態を狛枝状態って言うことにするべ)
葉隠(その狛枝状態の苗木っちは従うしか無くなる)
苗木「分かっ……」
葉隠(裁判始まるまでもなく、俺の勝ちが決定したべ……)
モノクマ「ダメです!」
突然現れるモノクマ。
葉隠「……っ!?」
葉隠(そうだ。忘れていた……)
葉隠(モノクマは校則に触れない限りで、クロに協力をする……)
霧切「……ダメって何がダメなの?」
モノクマ「捜査を行うのは皆に平等に与えられた権利です」
モノクマ「それを不当に奪うことは禁じられています」
モノクマ「……ボクはクマ一倍権利に敏感だからね」
それだけ言って帰っていくモノクマ。
霧切「……そういうことみたいね」
霧切「なら苗木君も捜査に参加しても良いけど、行動するときは大和田君と一緒でお願い」
霧切「大和田君も苗木君が何か不審な行動をしたらやめさせて」
苗木「超高校級の暴走族の前でバカなマネはしないって」
大和田「絶対に見逃さねえからな」
霧切「というわけだからみんなも安心して捜査して」
葉隠「………………」
葉隠(霧切っちの狙いは失敗したけど最初に戻っただけだべ)
葉隠(やっぱり苗木っちを裁判で論破しなければ勝ちにはならないんだべ)
葉隠「そうと決まれば捜査がんばるべ!!」
霧切「すでに危険なものを持っていないか確かめるためにね」
大和田「そうだな。おい苗木、今からおまえのボディチェックを行う。逃げるんじゃねえぞ」
苗木「だから超高校級の暴走族相手に逆らうつもりは無いって」
霧切「私は先に捜査に行くわ」
葉隠(霧切っちが体育館を出ていく。……きっと苗木っちの部屋に向かったんだろう)
葉隠「俺も行動しないとな。……まずは捜査の基本、モノクマファイルを見るべ」
被害者は桑田怜恩。
死亡時刻は午前一時半頃。
死体発見現場は寄宿舎エリアの苗木誠の個室。現場にはカギがかかっていたためモノクマが開いた。
致命傷は刃物で刺された腹部の傷。
その他に外傷は無し。
葉隠(ほとんど一周目の舞園っちと同じだべ)
葉隠(違うところはやっぱり……)
『モノクマファイル』のコトダマを手に入れた。
葉隠「次は苗木っちの部屋に行くべ」
苗木の部屋にやってきた葉隠は、すぐに一周目との違いを見つける。
葉隠(一つ目は当然だが模擬刀が落ちていないこと)
葉隠(二つ目は争った形跡が無いこと……)
苗木の部屋はきれいなままだ。
葉隠(桑田っちには模擬刀という抵抗手段が今回無かった……)
葉隠(つまり舞園っちの最初の攻撃で殺されたということ……)
葉隠(そう考えれば争いの跡が無いのも納得できる)
葉隠(そして三つ目は苗木っちのカギが部屋の中に落ちていないこと)
葉隠(それはつまり……)
葉隠「どういうことだべ?」
『カギの行方』のコトダマを入手しました。
葉隠(前回舞園っちの死体はシャワールームにあった)
葉隠(けど、今回桑田っちの死体は普通に部屋の中央、どちらかというと入り口寄りの場所にある)
葉隠(これも前回は舞園っちは抵抗の末にシャワールームに逃げ込んだのであって)
葉隠(今回の桑田っちは抵抗する間もなく殺されたのだから当然だべ)
葉隠(それと同様に腕にも打撃痕がない)
葉隠(桑田っちが思いつかなかったのか、それとも残す余力が無かったのかダイイングメッセージも無い)
葉隠(……ん? ちょっと待つべ。今回呼び出された側の桑田っちが殺されたということは……)
朝日菜「葉隠よく死体をじろじろと見れるね?」
葉隠「え?」
朝日菜「私はちょっと……。部屋の見張りだってなるべく死体を視界に入れないようにしてるし」
大神「確かに見慣れているようだった。お主、死体をよく見るような環境にいたのか?」
葉隠「ま、まあ、職業上の理由だべ!!」
朝日菜「職業上の理由? けど葉隠って占い師じゃなかったの?」
葉隠「そ、それはその……」
葉隠(まずい、とっさの言い訳としては杜撰過ぎたべ)
葉隠(学級裁判を何回も通している俺は、嬉しくないことだが死体を見慣れてた)
葉隠(けど、みんなにとってはこれが初めての裁判)
葉隠(死体を初めて見るという人の方が多いはずだべ)
葉隠(本当のことを言うわけにはいかないし、これからどうすれば……)
大神「死人をよく見る……。つまり、裏の世界の占い師だったということか?」
葉隠「………………」
朝日菜「………………ぷっ。さ、さくらちゃん? 今のってダジャレ?」
大神「……」
大神「…………」
大神「………………! ま、待つのだ! 我はそういうつもりで言ったわけでは!」
朝日菜「裏の世界の占い師って、占い師で、裏がないのに裏の世界なんて……!」 プハッ!
大神「ご、誤解だ!!」
葉隠(……びっくりしたべ。あのオーガがダジャレを言うなんて……)
葉隠(まあ、本人の様子を見る限り、そういう意図があっての発言では無いと思うが……)
葉隠(まあ、何にしろ話も逸れたし捜査再開するべ!)
葉隠(……ん? 霧切っちはどうして膝をたたんだ姿勢で部屋の床をすみずみまで見てるんだべ?)
葉隠「霧切っち、何をしてるんだべ?」
霧切「何って捜査よ」
言いながら立ち上がる霧切。
霧切「あなたより先に死体は見終わったから、他の捜査をしていたのよ」
葉隠「……それで何か分かったのか?」
霧切「この部屋一本も髪の毛が落ちてないのよ」
霧切「どういうことかしら……苗木君?」
葉隠「……!」
苗木「僕がきれい好きだから掃除をした。ただそれだけだよ」
霧切「部屋中をくまなく?」
苗木「そうだよ」
葉隠(振り返ると苗木っちがいた)
葉隠(苗木っちも捜査をすることになったからこの部屋を訪れるのは当然とはいえ、いきなりのことに驚いた)
霧切「そう……。じゃあこの部屋は調べ終わったから、私は出ていくわ」
霧切について葉隠も出ようとして一つ思い出した。
葉隠(そういえば一周目のときはメモ帳を鉛筆でこすって文字を浮かび上がらせていたはずだべ)
葉隠(一周目では霧切っちがメモ帳を裁判場まで持って行ってた)
葉隠(だからてっきり今回も霧切っちが持って行ったのかと思ったが、まだ残っている)
葉隠「試してみるべ」
葉隠はメモ帳を鉛筆でこするが。
葉隠(何も浮かび上がらない……?)
葉隠(これはどういうこと……って、そうだ。今回は証拠隠滅したのは舞園っちだべ)
葉隠(桑田っちはこのメモ帳に気付かなかったけど、舞園っちは気づいて破いた)
葉隠(見た感じメモ帳に何枚か破いたあとがあるべ)
葉隠「…………ということは」
部屋の外に出て、扉を見る葉隠。
葉隠「やっぱり……」
そこにあったネームプレートにはナエギと書いてある。
葉隠(舞園っちが桑田っちを殺した後で入れ替えなおしたんだべ)
葉隠「証拠隠滅したクロが変わったということは……」
葉隠(ちょうどいいことに山田っちも廊下にいるべ)
葉隠「おーい、山田っち」
山田「むむ、なんですか、葉隠殿」
山田に事情を説明してトラッシュルームに入る葉隠。
だが、そこには何も変化はなかった。
葉隠(それも当然だべ)
葉隠(ここで証拠を隠滅できたのは桑田っちの超高校級の野球児の能力があってこそ)
葉隠(舞園っちには無理な芸当だべ)
葉隠「………………」
葉隠(じゃあ舞園っちはどこで証拠を隠滅したんだ?)
結局何も思いつかないまま、食堂にやってきた。
葉隠「やっぱり包丁が一本欠けているべ」
『無くなった包丁』のコトダマを入手しました。
葉隠(そういえば一周目で包丁を持ち出した舞園っちを見たのは朝日奈っちだったか)
葉隠(今回は苗木っちの部屋にいるはずだし、確認に行くべ)
再び苗木の部屋に戻る葉隠。
葉隠「朝比奈っち聞きたいことがあるんだが」
朝日奈「なになに?」
そして昨夜のことを聞き出す葉隠。
葉隠(内容は一周目と変わりなかった)
葉隠(つまり一周目と変わらず包丁を持ち出したのは舞園っちしか考えられないべ)
葉隠(これを使えば苗木っちを追い詰めることができる!……はず)
『朝日奈の証言』のコトダマを入手しました。
葉隠「今日の朝食会はどんな感じだったのか?」
朝日奈「いつも通りだよ」
朝日奈「まず私とさくらちゃんと石丸と不二咲ちゃんが来て」
朝日奈「朝食の用意をしていたら苗木が来て」
朝日奈「石丸が苗木によく分かんない話してると思ったら、舞園ちゃんが江ノ島と話しながら一緒に来て」
朝日奈「えっとその後は山田と大和田と腐川ちゃんかな」
朝日奈「あっ、そうそう山田は入ってくるなり石丸から解放された苗木を掴まえて何か力説してたよ」
朝日奈「でマイペースな霧切ちゃん、セレスちゃん、十神が遅れてやってきて」
朝日奈「それでも葉隠と桑田が来ないな、ってなったところにモノクマのアナウンスが流れたの」
葉隠「ふむふむ、ありがとだべ」
葉隠(聞いておいてなんだけど、今の話……)
葉隠(裁判で役に立つのか……?)
葉隠(まあ、メモはしておくべ)
『朝食会の様子』のコトダマを入手しました。
モノクマ「えー、ボクも待ちくたびれたんでお待ちかねの学級裁判を始めます!!」
モノクマ「学校エリア一階にある赤い扉に入ってください」
葉隠「捜査もここまでだべ」
葉隠「これだけの材料で苗木っちをロンパできるか……」
葉隠「って何不安になっているんだべ!」
葉隠「やらなきゃ死ぬ……」
葉隠「だから全力でやってやる!」
葉隠(過去に戻ってまで死ににきたわけじゃない)
葉隠(絶対に生き残るべ!!)
赤い扉をくぐると全員が集合している。
苗木以外「………………」
苗木「そんな睨み付けて、みんな怖いなあ」
葉隠(自分がクロだと言い張る苗木を相手にみんな敵意を出してるべ)
葉隠(……いや、出していない人もいるか。俺と……)
舞園「……………」
葉隠(舞園っちと……)
霧切「全員そろったわね」
葉隠(霧切っち……)
葉隠(霧切っちはどういう考えなんだ?)
葉隠(霧切っちにはこの事件がどこまで見えているんだ?)
モノクマ「うぷぷ……みんなそろいましたね」
モノクマ「それでは正面のエレベーターにお乗りください」
モノクマ「オマエラの運命を決める裁判上に連れてってくれるよ」
モノクマの言葉に従ってみんな乗り込んだところでエレベーターは動き出した。
ゴウン、ゴウンと音を響かせながら地下へ下りていく。
扉が開いて現れたのは……見慣れた学級裁判場。
葉隠(またここに来てしまったべ)
これまで六回の裁判が脳裏をよぎる葉隠。
葉隠(ここに来た限り、絶対に誰かは死ぬ)
葉隠(これまで俺は苗木っちや霧切っち、十神っちに助けられてここから生きて出ていた)
葉隠(けど、今回は自分の力で生き残って見せるべ!)
葉隠(敵はあの苗木っち、そして現状がすでに劣勢だったとしても!)
命がけの裁判……
命がけの騙し合い……
命がけの裏切り……
命がけの謎解き……命がけの言い訳……命がけの信頼……
命がけの……学級裁判……!!
コトダマリスト
『モノクマファイル』
『カギの行方』
『無くなった包丁』
『朝日菜の証言』
『朝食会の様子』
モノクマ「まずは学級裁判の簡単な説明から始めましょう」
モノクマ「学級裁判の結果はオマエラの投票により決定されます」
モノクマ「正しいクロを指摘できればクロだけがおしおき」
モノクマ「だけど間違った場合、クロ以外がお仕置きされ、クロだけが卒業できます」
霧切「あの写真は?」
桑田と江ノ島の写真を指さす霧切。
モノクマ「死んだからって仲間外れはかわいそうでしょ」
セレス「それでしたらあの空席は……?」
モノクマ「……深い意味はないよ。最大16人収容可能な裁判場っていうだけ」
モノクマ「前置きはこれくらいにして議論を開始してくださーい!!」
大和田「そんなの分かっているだろ」
十神「殺人が起きたのは苗木の部屋だったな」
朝日菜「死体は部屋の中央にあったよね」
不二咲「きっと桑田君は部屋にいるところに襲われて」
不二咲「『抵抗むなしく』殺されちゃったんだね」
コトダマセット『モノクマファイル』 カチャ
葉隠「それは違うべ!!」 パリーン!
葉隠「モノクマファイルを見ると、死体は刃物で刺された腹部の傷以外に外傷は無いってなっている」
葉隠「もし桑田っちが抵抗したなら、腹部の傷以外にも外傷がついているはずだべ」
霧切「そうね……それは部屋の状況からしても分かるわ」
霧切「もし争いごとがあったとしたら綺麗すぎるもの、あの部屋は」
不二咲「じゃあ桑田君は……」
葉隠「不意を突かれて殺されたんだべ」
セレス「おそらく部屋を訪れたところをいきなりでしょうね」
セレス「死んでいる場所がどちらかというと入り口寄りですし」
十神「そんなの現場を見ればすぐに分かることだ。わざわざ説明するまでもない」
不二咲「ご、ごめんなさい……」
葉隠「じゃあ続きを始めっか」
大神「では、次は凶器の話だな……」
山田「なんだかそれっぽくなってきましたな」
石丸「腹部に刺さっていた刃物……間違いない! あれが凶器だ!」
大和田「犯人が『ナイフ』でぶっ刺しやがったんだな」
コトダマセット『無くなった包丁』 カシャ
葉隠「それは違うべ!!」 パリーン!
葉隠「あの刃物はナイフなんかじゃなくて厨房の包丁だったはずだべ」
大和田「あ? 包丁だぁ……?」
葉隠「厨房にあった包丁が事件後に一本なくなっていたべ」
大神「その包丁が凶器になったという事か」
大和田「確かに……桑田の野郎に刺さっていた刃物」
大和田「よく見ると包丁だな、こりゃ……」
腐川「凶器が包丁だって分かって何の意味があるのよ」
腐川「どうせ苗木が犯人に決まっているんでしょ……!」
葉隠(違いは殺されたのが桑田っちになったのと、争いが無かったことくらいだべ)
葉隠(けど、今周回はここで……)
苗木「そうだよ。僕がクロだよ」
葉隠(苗木っちがクロ疑惑を否定しないどころか認める)
葉隠(これは一周目には無かったこと)
葉隠(ここからが一周目の記憶が通用しない、本当の裁判だべ……!!)
霧切「結論は裁判を進めた後で出しましょう。……でないと学級裁判の意味がないわ」
苗木「これ以上話し合ったところで結論は変わらないと思うけどね」
葉隠(霧切っちが一周目同様の発言をするも、当の苗木っちが認めているから効果が薄い)
葉隠(ここはさっさとあの証拠を挙げるべ)
葉隠(苗木っちがクロじゃないのはそれで一目瞭然なんだから)
山田「確かに凶器は包丁みたいですけど、それがどう関わるのでしょうか?」
腐川「そうよ。どうせ苗木が『食堂に誰もいないとき』にこっそりと持ち出したのよ」
コトダマセット『朝日菜の証言』 カチャ
葉隠「それは違うべ!!」 パリーン!
腐川「どうして否定するのよ……私がブスだからでしょ」
葉隠「前後の脈絡に全くつながりがない……」
葉隠「って、そうじゃなくて厨房から包丁を持ち出したのは苗木っちじゃないんだべ!!」
苗木「どうしてそう言えるの?」
葉隠「それは朝日菜っちが知っているべ」
朝日菜「え? 私?」
朝日奈「うん、いいけど……」
朝日奈「昨日の夜ね、私さくらちゃんと二人で紅茶飲んでたんだけど」
朝日奈「紅茶作るときはあったはずの包丁が、飲み終わって片づけるときには無かったの」
大神「そうだったな」
不二咲「え? じゃあ包丁はどこに……」
葉隠「二人が紅茶を飲んでいる間に、一人だけ食堂に来たんだよな」
朝日奈「うん」
十神「……それは誰だ?」
朝日奈「えっと……舞園さやかちゃんだよ」
セレス「包丁を持ち出したのは舞園さんとなりますが……」
セレス「あら、おかしいですわね?」
大和田「クロだって言ってる苗木じゃなくて、舞園が包丁が持ち出したってどういうことだ?」
不二咲「どう考えても凶器を使った人がクロだよね……ってことは」
葉隠「舞園っちが本当のクロだべ」
苗木「………………」
葉隠(言い逃れの出来ない証拠……)
葉隠(これで俺の勝ちが確定したべ)
葉隠「………………」
葉隠(そのはずなのに、何で苗木っちは落ち着いている?)
葉隠(桑田っちならアホアホ言うレベルの状況だってのに何故?)
苗木「……フッフッフッ」
苗木「アーハッハッハ!!!」
苗木「いやいや、葉隠君って短絡的な思考だなって思ってさ」
葉隠「短絡っ……!?」
葉隠「何を言うべ!! 凶器を持ち出した人しか、凶器は使えない!!」
葉隠「なら、舞園っちがクロなのは当然だべ!!」
苗木「だからその思考が短絡的だって言っているんだよ」
苗木「どうして凶器の調達なんて、クロだとすぐにバレることを自分でやると思ったの?」
苗木「僕はこれでも裁判のルールを聞く前は、本気で卒業するつもりだったんだよ?」
苗木「みんなにバレないように殺人を犯す……」
苗木「そのためには凶器の調達で足がついてはいけない」
苗木「そのくらいは考えたさ」
苗木「だから舞園さんに包丁を持ってきてもらった」
葉隠(………………)
葉隠(苗木っちは何を言っているんだ?)
山田「そうですぞ。そんなこと自分がこれから殺人を犯すって言っているようなものじゃないですか」
苗木「そこは簡単だよ」
苗木「夕食を食べ終わった後、僕は厨房からリンゴを一つ自分の部屋に持って帰ったんだ」
苗木「後は夜時間に入る少し前に舞園さんと会う約束をしておけば完璧さ」
苗木「一緒にリンゴを食べようと思って持ってきたけど、包丁を忘れちゃった……って言えばね」
苗木「親切な舞園さんはそれくらい自分が取ってきますって言ってくれたよ」
苗木「それで食べ終わったら、片づけは明日の朝自分でするって言えば包丁は自分の手元に残る……完璧さ」
葉隠(……この話は嘘だべ)
葉隠(そう判断する根拠は……思いつかないけど、一周目はそんな事無かった)
葉隠(だからあり得るはずがない)
葉隠(つまりこれは苗木っちが、舞園っちをかばうために吐いた苦し紛れの嘘)
葉隠(けど、こんな嘘簡単に破れるべ)
葉隠(だって嘘をつかれた当の本人が否定すれば…………って)
葉隠(この場合否定しないといけないのは…………!) バッ!
霧切に問われた舞園はうつむいて何やら逡巡していた。
けど、それは問われる前から見ていた葉隠だけが気づけたことで。
霧切の問いに、みんなの注目が舞園に集まったときにはそんな素振りの全く見えない顔で……
舞園「そうですよ」
肯定した。
舞園「昨日の昼の内に、苗木君の部屋に行くことは約束していたんです」
舞園「あんなDVDを見た後で落ち着きがなくなっていて……」
舞園「そしてそのときに苗木君のおかげで精神の平静を保てて」
舞園「だから夜も彼と話をして心を落ち着けようとしたんですが」
舞園「まさか私の訪問がそんな風に利用されるなんて……」
苗木「ごめんね、舞園さん」
葉隠(こんな嘘、本来なら学級裁判で成り立つはずがない)
葉隠(これが成り立ったのは、苗木っちの命をかけた共犯関係のせいだべ)
葉隠(二人が話を合わせれば他の人は信じるしかない)
葉隠(だって、卒業できるクロは一人でそれに協力するなんて人が普通いるはずがないんだから)
葉隠「………………」
葉隠(捜査時間中もずっと苗木っちには大和田っちがついてたはずだから、今の嘘は事前に示し合わせたものではないはず)
葉隠(それでもこの二人の組み合わせなら楽勝だべ)
葉隠(苗木っちの弁論スキルは前の周回から明らかだし)
葉隠(苗木っちのどんな嘘にも、超高校級のアイドルである舞園っちなら即興で合わせることができる)
葉隠(ってこのままじゃ俺の勝ち目は無いんじゃないか……?)
苗木「そうだよ。……何か悪かった?」
大和田「……こいつ殴っていいか?」
朝日奈「殴る必要なんてないって」
朝日奈「もうこのまま投票して、おしおきしてもらえばいいんだよ!」
山田「二次元しか興味のない僕でも、舞園殿に対する仕打ちは酷いと思いますぞ」
セレス「あなたは少々見込みがあると思ってたのですが……残念ですわね」
腐川「そうよ、最初からこんな裁判なんて必要なかったのよ」
不二咲「苗木君がクロだなんて……けど、これ以上議論することもないし」
葉隠(まずいべ、さっきの嘘発言でさらにみんなの苗木っちに対する敵意が増している)
葉隠(まさかここまで計算に入れて苗木っちはあの発言を……?)
葉隠(何にしろこのままじゃ……)
苗木「みんな同じ意見みたいだし」
苗木「モノクマ、そろそろ投票……」
霧切「ちょっといいかしら、苗木君」
苗木「………………」
苗木「何だい霧切さん?」
霧切「いえ……そろそろあなたには本当のことを話してもらおうと思ってね」
裁判中断!!
モノクマ「けど、彼はこれまでの裁判と今回の裁判を同じだと勘違いしていたんだよ」
モノクマ「ん? 何でボクが葉隠クンが何回も裁判を受けているか知っているかって?」
モノクマ「今、この空間は本編とは関係ないんだよ。だから、知ってても問題は無いんだよ」
モノクマ「そうそう、葉隠クンが何を勘違いしてたかって?」
モノクマ「それはいつものように証拠を挙げて正しいクロを導くんじゃなくて」
モノクマ「今回の裁判の本質はどうやって苗木クンを言い負かすかって、ところにあるんだよ」
モノクマ「だって苗木クンはクロになりたがっているんだよ」
モノクマ「彼を言い負かさない限り、葉隠クンには勝ち目が無いよ」
モノクマ「ただ、正しい証拠を挙げるだけじゃ、舞園さんも協力してくれる苗木クンならかわせるからね」
モノクマ「事実そうなっちゃったし」
モノクマ「じゃあどうすればいいのかって。そこはもう普通の弁論だよ」
モノクマ「……例えばだけどね、相手に矛盾した発言をさせるとか……ね」
モノクマ「さて、この後は裁判後半だよ」
モノクマ「霧切さんが発言したようだけどどうなるのかな?」
モノクマ「うぷぷ……」
モノクマ「最後に絶望するのは誰なんだろうね」
苗木「僕は本当のことを話しているよ」
霧切「……これを見てもそう言えるのかしら」
霧切が見せるのは葉隠の記憶にも残っているメモ。
桑田に夜時間になったら自分の部屋を訪れてほしいという旨の書かれた物。
差出人は、舞園さやかとなっている。
葉隠「……ん?」
葉隠(どういうことだべ……。メモ帳は破り取られてたから、そのメモは残っていないはずなのに)
気になった葉隠はそのメモを注視して気づいた。
葉隠(そうか。これは前周回とは違って、白と黒が反転している)
葉隠(つまりこれはメモ帳に残った筆圧を浮かび上がらせたのではなく)
霧切「桑田君の死体に残っていた物なのだけれど……おかしいわね? 差出人が舞園さんになっているわ」
葉隠(呼び出したメモ、その現物なんだべ)
葉隠(今回呼び出した側の桑田っちが死んだから、残ってしまった)
葉隠(舞園っちは証拠隠滅をきっちりしていたけど……きっと死体にさわる勇気はなかったに違いない)
苗木「………………」
苗木「あの、ほら、ネームプレートを入れ替えたんだよ」
苗木「だって桑田君は僕が誘っても来ない可能性があるでしょ」
苗木「けど、舞園さんからの誘いとなれば必ず来るに違いない」
苗木「だから舞園さんからってことにしたんだよ」
霧切「そう……」
霧切「私には苗木君の今の言い分が嘘か本当か見抜くことはできない」
霧切「けど……今、答えるまでに少し間があったわよね?」
霧切「本当のクロなら即答できるはずなのに……まるで考え出したかのように……ね」
苗木「………………っ!」
霧切「あなたの部屋に一本も髪の毛が落ちていなかった件なんだけど」
苗木「だ、だから僕が綺麗好きなんだって」
葉隠(苗木っちが動揺している。……先ほどの霧切っちの発言が効いているのだろう)
霧切「一本も落ちてなかったのよ? そこまで神経質に掃除ってするものかしら?」
十神「どう考えても証拠隠滅だとしか考えられないよな?」
葉隠(出たべ、十神っちの追いうち)
霧切「そういうことよ」
霧切「けど、それならどうして苗木君は証拠を隠滅する必要があったのかしらね?」
霧切「自分の部屋に自分の髪の毛があるのは当然よ」
霧切「これじゃまるで苗木君の部屋に他の人がいて、苗木君に罪を被せるために証拠を消したようじゃない」
苗木「そ、そんなつもりは無いんだって!」
苗木「本当にただ掃除をしたかっただけなんだって!」
苗木「……どうして霧切さんも十神くんも僕を疑うんだよ」
苗木「『僕の部屋に他の人がいたはずなんてない』んだって!」
葉隠(動揺の続く苗木っちが見せた隙……)
葉隠(俺はここぞとばかりに叫ぶ)
コトダマセット『カギの行方』 カシャ
葉隠「それは違うべ!!」 パリーン!
苗木「…………!」
霧切「なくしたっていうのは無しよ」
苗木「……ぐっ!」
しょうがなくカギを出す苗木。
霧切「このカギ、舞園さやかって名前が書いているわね?」
葉隠「そうか……なら、舞園っちもカギを見せてくれ」
舞園「…………」
スッとカギを出す舞園。
霧切「こっちには苗木誠って書いているわね? これはどういうことかしら?」
十神「カギの交換ってことは……」
十神「部屋の交換があったってことだよな?」
不二咲「何か舞園さんがクロみたいな流れになっているけど……」
葉隠(訳の分からない朝日奈っちと不二咲っちが尋ねる)
葉隠(それ以外にも分かっていない人は結構多く、霧切っち、十神っち、俺以外は話についてこれていないようだ)
葉隠(セレスっちだけはポーカーフェイスでどちらなのか分からないが……)
葉隠(まあ俺だって前周回の記憶があるから話についていけてるような状態だからな)
霧切「そうね、この事件を一から説明していきましょう」
霧切「まず、最初に苗木君とクロの部屋交換があった」
霧切「名目は……そうね。怖かったから、とかかしら」
霧切「誰かが自分の部屋のドアを開けようとしていた。自分が狙われている、とかクロが理由付けて部屋交換を提案した」
霧切「もしくは苗木君の方から部屋交換を提案したかもしれないわね」
霧切「そして首尾よく部屋交換を果たしたクロは、桑田君を部屋に呼び出した」
霧切「そのままじゃ苗木君がいるクロの部屋に行ってしまうから、ネームプレートを交換したのかもしれないわね」
霧切「その後は証拠の隠滅よ」
霧切「苗木君の部屋にクロの髪の毛があったらいけないから、丹念に掃除したり」
霧切「返り血を浴びた服をランドリーで洗濯したり」
霧切「ともかく自分が殺人を犯した証拠と、苗木君の部屋にいた証拠を消し去った」
霧切「そうやって苗木君に罪を被せようとした……」
霧切「そのクロは舞園さん……あなたよ」
十神「そうやって反論するからには、カギが交換されていた理由について説明できるんだよな?」
苗木「そ、それは………………」
舞園「苗木君とカギのデザインについて話になったんです」
苗木「……! そ、そうだよ! それで二人の物を出して見比べたから、その後取り間違って……」
苗木「だからカギの交換は『今日の朝食会で舞園さんと話したとき』に起きたんだよ!」
コトダマセット『朝食会の様子』 カチャ
葉隠「それは違うべ!!」 パリーン!
苗木「……何が違うの?」
葉隠「え? ……えっと…………」
葉隠(とりあえず残っているコトダマを使ってみたけど……その……)
霧切「はぁ……」
霧切「朝日奈さん、朝食会の様子を話してもらえる?」
朝日奈「まず私とさくらちゃんと石丸と不二咲ちゃんが来て」
朝日奈「朝食の用意をしていたら苗木が来て」
朝日奈「石丸が苗木によく分かんない話してると思ったら、舞園ちゃんが盾子ちゃんと話しながら一緒に来て」
朝日奈「えっとその後は山田と大和田と腐川ちゃんかな」
朝日奈「あっ、そうそう山田は入ってくるなり石丸から解放された苗木を掴まえて何か力説してたよ」
朝日奈「で、マイペースな霧切ちゃん、セレスちゃん、十神が遅れてやってきて」
朝日奈「それでも葉隠と桑田が来ないな、ってなったところにモノクマのアナウンスが流れたの」
不二咲「それで今の話に何の関係があるの?」
霧切「朝食会に来た順番……あれはどうでもいいわ」
霧切「重要なのは、石丸君が苗木君に話をしていた」
霧切「それが終わった後は、山田君に掴まって話されていた」
霧切「その後にモノクマのアナウンスが流れた」
葉隠(そこまで言われて俺もピンときた)
葉隠「つまり苗木っちは舞園っちと朝食会で話す時間はなかったはずだべ!」
十神「それなのに今おまえは朝食会の時に舞園と話したって言ったよな? どういうことだ?」
苗木「……えっと」
十神「あの桑田を呼びだしたメモと同じ筆跡か、この俺が直々に確認してやろう」
葉隠「そういえばリンゴを食べたって言ってたけど、その皮や芯はどこに捨てたべ?」
大神「朝食会の時、苗木は手ぶらで食堂にやってきたぞ」
葉隠「そういうことらしいから、どこに捨てたのか教えて欲しいべ」
セレス「そう言われてみれば、苗木くんは包丁を舞園さんに持ってきてもらったって言ってましたけど」
セレス「それで舞園さんに罪を被せるつもりでしたら、自分の部屋で殺すわけにはいきませんわよね」
セレス「そこのところ説明してもらえますか?」
霧切「それとランドリーを調べて見たところ、中が乾いていない洗濯機は一つだけだったわ」
霧切「つまり夜中に稼働した洗濯機はそれだけ」
霧切「その中から、青い毛が見つかったのだけど」
霧切「この中で青色が混じった服を着ているのは……舞園さんだけよね?」
苗木「何かあるはずなんだって!!」
苗木「舞園さんがクロな訳があるもんか!!」
苗木「みんな騙されているんだよ!!」
苗木「あのメモは舞園さんを脅して書かせた!!」
苗木「りんごは皮と芯まで全部食べた!!」
苗木「それから桑田君は廊下で殺すつもりで、それで舞園さんに罪を被せるつもりだった!!」
苗木「青い毛は僕のタオルの色だ!!」
苗木「タオルで返り血を防いだんだよ!!」
葉隠(喚くように言い訳する苗木っち……)
葉隠(それを他の人は冷たい目で見つめる)
葉隠(雰囲気的に舞園がクロで間違いない、という流れになっているが)
葉隠(苗木っちの言い訳はどうも嘘だと立証しにくい……)
葉隠(まだまだ裁判は続き……)
舞園「――もう終わりにしましょう、苗木君」
葉隠「……?」
苗木「……何を言っているんだよ、舞園さん」
舞園「何を言っているのか……ですか。つまりこういうことです」
舞園「桑田君を殺したクロは……私です」
霧切「そう。舞園さん、本当にあなたが桑田君を殺したってことでいいのね」
苗木「違うんだって、桑田君を殺したのは僕で……」
舞園「はい。……殺害に至る経緯も霧切さんが言ったとおりです」
苗木「ちょっと僕を無視しないでよ! 僕が桑田君を……!」
舞園「だからもうかばわなくていいんです。苗木君」
苗木「僕が…………僕が…………」
舞園「苗木君は私がおしおきされるのを良しとしなかった」
舞園「そう思ったから、自分の命を投げ打ってまで、私を助けようとしたんでしょう?」
舞園「あのとき約束したように、何があっても味方であってくれた」
舞園「だから私はその苗木君の思いを無駄にしないように、口裏を合わせることにしました」
舞園「苗木君が私が死ぬことに耐えられないのと同じで!」
舞園「私だって苗木君を犠牲にしてまで生きたいとは思えないんです……!」
苗木「何言っているんだよ、舞園さん!!」
苗木「舞園さんは超高校級のアイドルで国民的アイドルなんだよ!」
苗木「対して僕は人よりちょっと運がいいだけの凡人……」
苗木「だとしたら、どっちが生き残るべきか決まっている!!」
舞園「……そう自分を卑下しないでください」
舞園「苗木君は決して凡人なんかじゃないです」
舞園「人が困っているときに助けてあげられる」
舞園「それのどこが普通なんですか?」
舞園「苗木君は凡人じゃない。特別な人です」
舞園「超高校級のアイドルである私が言うんですから間違いありません」
モノクマ「まあ、もう決まっているような物だけどルールだからね」
モノクマ「それではお手元の投票スイッチを押してくださーい!」
………………。
………………。
みんなの顔の映ったスロットが回る……回る。
そして徐々に遅くなっていき。
舞園さやかの顔のところでスロットは止まった。
モノクマ「何と超高校級の野球選手である桑田レオン君を殺したクロは」
モノクマ「超高校級のアイドル、舞園さやかさんでした!」
モノクマ「ただ、悲しいことに今回の投票。全員一致じゃありませんでした」
モノクマ「自分に入れるなんて苗木クン。頭どうかしちゃったの?」
モノクマ「多数決だったから良かったものの、次からもそんなんじゃ危ないよ?」
不二咲「どうして……」
山田「舞園殿……」
葉隠「舞園っち……」
葉隠(そうか、舞園っちが最初に嘘をつく寸前の迷っていたような素振り)
葉隠(あれは苗木っちを犠牲にして生き残っていいのか葛藤していたものだったんだべ……)
葉隠(一度は決心したものの、やっぱり舞園っちは苗木っちを切り捨てることができなかった………………)
大和田「舞園よぉ、どうして桑田を殺したんだよ?」
舞園「………………」
舞園「皆さんも見たあのDVD」
舞園「一人一人中身が違うんでしょうが……私のは私がセンターを務めるアイドルグループが解散したという内容でした」
舞園「私はその真相を確かめたくて、卒業したくて……人を殺しました」
舞園「あの居場所、アイドルという肩書きこそが私を作っていましたから。……それが無くなったと聞かされてたまらなかったんです」
舞園「桑田君を狙ったのも、簡単に誘いに乗ってくれそうといったそんな理由でしかありません」
舞園「みんな……苗木君を犠牲にしないと卒業できないと聞いて、私の決意は砕け散りました」
舞園「……所詮、私のアイドルに対する熱意なんてそんなものだったのかもしれませんね」
苗木「そんなことない!」
苗木「舞園さんは誰よりもすごいアイドルだよ!」」
舞園「……そうですか、ありがとうございます」
舞園「けど、やっぱり私はアイドルではありません」
舞園「だって人殺しが……皆さんに希望を与えるアイドルだなんておかしいでしょう?」
モノクマ「うぷぷ、もういいでしょ話はそれくらいで」
モノクマ「甘ったるさで胸焼けしそうだよ」
モノクマ「え? クマが胸焼けするのかって? ……それはボクにも分からないけど」
モノクマ「というわけで学級裁判の結果、見事クロを突き止めましたので」
モノクマ「今回はクロである舞園さやかさんのおしおきを行いまーす!」
不二咲「処刑……?」
苗木「どうしてだ!? どうして舞園さんがおしおきされないといけない!!」
苗木「……! そ、そうだ。僕が代わりにおしおきを受けるからさ、舞園さんのおしおきは無しにしてよ!」
モノクマ「うぷぷ、自己犠牲もここまで来ると寒気が起きるよね」
モノクマ「けど、それは受け入れられないよ」
モノクマ「だって苗木クンはクロじゃないんだから」
舞園「苗木君、もうかばわなくていいんです」
舞園「もう私は犯した罪から逃げるつもりはありません」
舞園「現実から目を逸らしちゃいけないんです」
舞園「人殺しがアイドルをやっていけるわけがない……」
舞園「そして…………」
舞園「………………」
舞園「そんな単純な事実を忘れていたから、私は殺人を犯しさらに苗木君に罪を押し付けるようなことをしてしまったんです」
モノクマ「それじゃクロのおしおきを始めちゃおうか! みんな待っているんだしさ!」
苗木「細かい理屈は関係ない!」
苗木「僕はただ単に舞園さんに生き残って欲しい!」
苗木「それだけなんだ!」
苗木「だって僕は…………」
苗木「僕は舞園さんのことを………………!」
モノクマ「今回は超高校級のアイドルである舞園さやかさんの為に、スペシャルなおしおきを用意しました!」
舞園「ダメですよ苗木君、その先を言っちゃ」
舞園「アイドルは恋愛禁止なんです」
舞園「そんなの苗木君だって分かるでしょう?」
舞園「……まあ、苗木君の言いたいことはもう分かっちゃったんですけどね」
モノクマ「では張り切っていきましょう! おしおきターイム!」
舞園「だって私――エスパーですから」
『舞園さやかさんがクロに決まりました。おしおきを開始します』
舞園(おしおきということで連れて来られたステージに立って私は歌っている……)
舞園が立っているのは巨大トラバサミの上に作られたステージ。
それが閉じたときに起きる悲劇は……誰でも想像できるだろう。
舞園(どうやら後ろにある歌の評価の点数が20点を超えればおしおきを免れるみたいですが……)
舞園(そんなことどうでもいい)
舞園(………………)
舞園(こうして歌ってみて……やっぱり私はアイドルという職業が好きなんだと再確認できた)
舞園(……さっき言ったことは嘘でしたね。私はアイドルに対する熱意をちゃんと持っていた)
舞園(けど、その熱意に勝るとも劣らない物も持っていたということで)
舞園(………………)
舞園(そういえば、忘れていました。私は殺人犯……アイドルである資格なんてないということに)
舞園(…………ということは恋愛禁止ではない?)
舞園(……でしたら苗木君の気持ちに答えるべきでしたね)
舞園(私が忘れていたもう一つの単純な事実……)
舞園(アイドルに勝るとも劣らぬ想いの正体……)
舞園(それは)
舞園(私も苗木君のことが――――)
ガシャン!!!!!!!
モノクマ「エクストリーーーームッ!!」
葉隠「………………」
葉隠(殺人を犯し、アイドルとして生きていけないと言っていた舞園っち)
葉隠(そんな彼女の処刑方法はアイドルのまま殺すことだった)
葉隠(それは皮肉だったのか……それともアイドルとして死ねて本望だったのか)
葉隠(それはもう誰にも分からない)
葉隠(死んでしまえば全て終わりだべ……)
苗木「あああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
葉隠(苗木っちの慟哭が裁判場に響きわたる)
葉隠(他のみんなも無惨な殺し方に顔面蒼白。言葉も出ない)
葉隠(人の死ぬ瞬間。俺だってこればかりは何回見ても慣れない)
葉隠「………………」
モノクマ「いつまで経っても外の世界の未練を断ち切れないオマエラが悪いんだよ」
腐川「あ、当たり前じゃない! こんな訳の分からないところに閉じこめられて」
気付けば一周目と同じやりとりが始まっていた。
モノクマ「ふーん閉じ込められてねえ……」
モノクマ「けど、オマエラはこの学園の謎を全て知ったときこう思うはずだよ」
モノクマ「ここで一生暮らせるなんて幸せだってね!」
霧切「ずいぶん意味深なことを言うのね。さっきもそうだけど……」
モノクマ『それじゃクロのおしおきを始めちゃおうか! 『みんな』待っているんだしさ!』
霧切「あなたが言う『みんな』……それって誰のことかしら」
モノクマ「さあね。ボクから言えるのはここまでだよ。楽しみは、後にも取っておかないとね!」
モノクマ「ぶひゃっひゃっひゃっ……!」
そしてモノクマは姿を消した。
目の焦点があっていない。涙は拭われることなく落ちていく。口からは呻きが止まらない。
そんな悲惨な状態の苗木。
葉隠(終わった……)
葉隠(二周目初めての裁判……クロと被害者が一周目と入れ替わった裁判がようやく終わった)
葉隠(俺は苗木っちに勝った)
葉隠(けどその結果舞園っちは死んでしまうし、苗木っちは悲惨な状態だし)
葉隠(本当に勝った意味はあったのか……?)
十神「ちっ、不愉快だな」
葉隠(……? 十神っち、何を……?)
十神「いつまで泣いているんだ苗木」
十神「おまえのおかげで最初のゲームも結構楽しめた」
十神「舞園を守るために自分を犠牲にしたこと……」
十神「それ事態は全く理解できない行為だが、自らが望む結果を出すために努力したおまえを俺は評価しているぞ」
十神「だが、それだけの意志があって何故今泣いている?」
十神「舞園は死んだ。つまりおまえはゲームに負けたんだ」
十神「潔く敗北を受け入れろ」
大和田「そうだぞ、こいつは舞園のために俺たちを殺そうとしたんだぞ!! それを認めるような発言をしやがって……!」
十神「殺そうとした、だろう。実際は俺たちが今生きている。それが全てだ」
十神「それに苗木に負けて死ぬ展開など、この俺に限ってありえん」
葉隠(そうか。結果は同じでも、経過は違う)
葉隠(一周目ではみんなを守るために必死だった苗木っちだったけど)
葉隠(この周目では、舞園っちのためにみんなを殺そうとした頭の狂った人物)
葉隠(そのせいで苗木っちは責められるはずだったけど……)
葉隠(どういう風の吹き回しか十神っちが庇って……)
葉隠「………………」
葉隠(いや十神っちの性格を考えると、どう考えても言いたいことを言っただけだべ)
セレス「あらあら、良いではないですか。私も十神君に賛成いたしますわ」
セレス「結局生きているのは私たちですもの」
セレス「それに愛する者を命がけで庇う姿は今思い出しても良かったですわ」
山田「確かに創作物でよくあるヒロインを命がけで救おうとするのは熱い展開ですな」
山田「けれど、それに巻き込まれて死ぬのはゆるさーん!」
腐川「あれのどこに愛があるのよ……」
腐川「あんなの狂気だけしか無いじゃない……!」
セレス「何を言っているのでしょうか?」
セレス「愛なんて元々狂気の一つでしょう?」
腐川「何ですって……!!」
大神「………………」
大神(黒幕と内通している我は、人質のために皆を裏切っている)
大神(やっていることは苗木とさほど変わらん……)
石丸「ちょっと君たち落ち着きたまえ!」
不二咲「そ、そうだよ。仲間内で揉めてもしょうがないよ」
葉隠(まあ、ここで動かずだんまりしていた前周回よりは、口喧嘩できるだけマシなのか……?)
苗木「みんなごめんね」
苗木以外「……!?」
葉隠(……いつの間にか苗木っちが正気を取り戻していた)
苗木「ちょっと言っていることが分からないけど、僕なんかのためにみんな争っているんだよね」
苗木「本当にごめんね」
葉隠(頭を下げる苗木っち……)
葉隠(どうやら舞園っちを失った悲しみを乗り越えて……)
苗木「けど、十神君。さっきのは超高校級の御曹司らしくない発言だったね」
十神「どういう意味だ?」
苗木「十神君のキャラに笑えない冗談は合わないよ」
十神「……何だ? 俺は冗談なんて言ったつもりは無いぞ?」
苗木「? え、けど、さっき言ってたけどさ――」
苗木「舞園さんが死んだなんて、そんなことあるわけないでしょ」
苗木「??? どうしたのみんな。そんな穴が空きそうなほど僕を見つめて?」
苗木「僕の才能なんてただの幸運だよ。そんな注目されるような人間じゃないってば」
葉隠(そうか……苗木っちは……)
葉隠(……舞園っちを失った悲しみに耐えきれなかったんだべ)
葉隠(自分を卑下する言動から狛枝状態が続いていることが分かるし……)
葉隠(ヘラヘラした感じは無くなったけど、よく見れば目が虚ろだべ……)
十神「……そうか。おまえはその程度の人間だったんだな」
十神「さっきの言葉は撤回する。おまえは典型的な愚民だ」
十神「……ちっ、俺の目も曇ったな」
十神「腹正しい。先に帰らせてもらうぞ」
裁判場を出ていく十神。
苗木「……けど、まあ超高校級の御曹司である十神君からすれば僕が取るに足らない存在であるのも当然か」
苗木「うん。あの言動は当然だね」
葉隠「そういうことか…………」
葉隠(一周目では黒幕に徹底抗戦の構えを見せた苗木っち)
葉隠(その態度が顕著に現れ始めたのは舞園っちの理不尽な死を目の当たりにしたから)
葉隠(つまり、苗木っちの原動力の一つに舞園っちとのことがあったのは違いないはずだべ)
葉隠「………………」
葉隠(そして二周目も舞園っちはモノクマによって無惨に殺された)
葉隠(けど、今回苗木っちの視点からすれば、それは理不尽な死ではない……)
葉隠(自分がクロだと嘘をつき、裁判でも皆を欺いてと自分の死力を尽くして……)
葉隠(それでも守りきれなかった……という違い)
葉隠(その結果起きたのが、自分がもっと上手くやってれば舞園っちを守れたかもしれないという後悔……)
葉隠(つまり怒りが黒幕ではなく、自分に向かってしまった)
葉隠(そして自分が耐えきれなくなってパンクした……そんなところだべ)
大神「言うな、朝日奈よ。今は苗木も心の整理が付かないのだろう」
セレス「そうですわね。無理に現実を認識させると壊れてしまいそうな雰囲気ですわ、彼」
大和田「ああいう目をしたやつが一番ヤバいんだよな……」
石丸「苗木君、君はゆっくりと休みたまえ!」
不二咲「そうだよ、今日はもう何も考えず休んだ方がいいよ」
苗木「超高校級のみんなに心配されるなんて嬉しいなぁ」
苗木「そうだね、何か疲れているし今日はもう休むことにするよ」
葉隠(さっきまで苗木を責めていたみんなも、さすがにこの状況を目の前に苗木の心配をする)
葉隠(死体発見アナウンスの前までは一周目同様にみんなと親交を深めていたから、あんな出来事があっても心配されるんだべ)
葉隠(苗木っちの人徳だべ)
苗木がエレベーターに向かうのを見て、その場も解散ムードになった。
一人一人、エレベーターに向かう中。
霧切「ちょっと良いかしら?」
葉隠「……何だべ? 霧切っち」
モノクマが去って以来、ずっと黙っていた霧切が葉隠に声をかけた。
葉隠「……この裁判のことか?」
霧切「ええ、そうよ。……よく分かったわね」
葉隠「……霧切っちがいたおかげでこの裁判に勝てた。感謝するべ」
葉隠「それにしても霧切っち、最初から苗木っちがクロじゃないって分かってたのか?」
霧切「……そうね。私たちがこの裁判で苗木君に勝てたのはどうしてだと思う?」
葉隠(質問に答えて欲しいべ…………)
葉隠「えっと……。それは霧切っちの弁論能力が……」
霧切「確かにそれも一助にはなっているけど、決め手ではないわ」
霧切「一番重要だったのは……これよ」
霧切が取り出して見せたのは舞園が桑田を呼びだしたメモ。
霧切「どうしてこのメモが苗木君にとって予想外だったか分かるかしら?」
葉隠「それは自分が見たことが無かったからだべ」
霧切「どうして苗木君は見たことが無かったのかしら?」
葉隠「それは霧切っちが現場から持ち出したから……」
霧切「どうして私は苗木君に見られる前に現場から持ち出せたのかしら?」
葉隠「それは…………」
――――――――――――――――
霧切『ああそう、大和田君。苗木君のボディチェックをしておいた方がいいんじゃないかしら?』
霧切『すでに危険なものを持っていないか確かめるためにね』
大和田『そうだな。おい苗木、今からおまえのボディチェックを行う。逃げるんじゃねえぞ』
苗木『だから超高校級の暴走族相手に逆らうつもりは無いって』
霧切『私は先に捜査に行くわ』
――――――――――――――――
葉隠「…………!?」
葉隠(捜査開始時にあの身体検査を言い出したのは、苗木っちを出遅らせるため……?)
葉隠(だとしたら……)
葉隠「もしかして霧切っちは捜査開始する前から……!?」
霧切「ええ。私は最初から苗木君を裁判で狙い撃ちするために、重要な証拠を隠すつもりでいたわ」
霧切「捜査開始前、クロが現場で証拠を隠滅しないように、と見張り役をつけるように言ったのもそのためよ」
霧切「それを言い出した本人が証拠を隠すとは誰も思わないでしょう?」
葉隠(印象操作も完璧……)
葉隠(……俺は二周目だってのに、何周しても霧切っちには敵いそうにないべ)
葉隠「ん? けど、それならどうして捜査開始前から苗木っちがクロだと分かってたんだべ?」
霧切「……苗木君がクロだっていうのは、あくまで一つの可能性として考えていただけだわ。……まあ結構高いとは思っていたのだけれど」
霧切「今の作戦だって、他の人がクロだったとしても損はしないでしょう?」
霧切「……というよりその質問は私の方がしたいのだけれどね」
葉隠「……?」
霧切「苗木君がクロじゃない、という可能性が高いと私が判断したのはあなたの占いが理由よ」
葉隠(苗木っちがクロである、という流れが高まってたからとりあえず印象を分散させるためにした発言)
葉隠「って霧切っち、あの俺の発言を信じたんだべ?」
霧切「……あのタイミングじゃなければ、妄言だって切り捨てていたわ」
霧切「だってよっぽどのバカか全てを見通している人でなければあんなこと言えるわけ無いもの」
霧切「……裁判の様子を見ていて不思議に思ったわ」
霧切「あなたは今回の事件を見通していたようにも思える」
霧切「……失礼だけど同時に、頭が悪いようにも思える」
霧切「あなた一体……何者なの?」
葉隠(どうする? 霧切っちに俺が一度コロシアイ学園生活を体験していることを話すか……?)
葉隠(今の霧切っちなら信じてくれそうな……)
葉隠「………………」
葉隠「俺は……」
霧切「そう……じゃああの時の発言も」
葉隠「全部占いだべ」
霧切「……分かったわ」
葉隠(どうして霧切っちに明かさなかったのか)
葉隠(……そう聞かれると、何となくと答えるしかない)
葉隠(俺は直感を信じて生きていくと決めた。だからそれでいいんだべ)
霧切「そう。……これでやっと本題に入れるわ」
葉隠(ん? 今までの話は本題じゃなかったのか?)
霧切「あなた今、後悔していない?」
葉隠「後悔……?」
霧切「いえ……後悔とはちょっと違うのかしら。……そうね、言葉にすると、自分たちは裁判を生き残ったけど、舞園さんが死に、苗木君もこんな狂って勝った意味があったのか……なんて思ってたりしない?」
葉隠「それは…………思っているべ」
霧切「そう。……だとしたら私は言うわ」
霧切「勝った意味はあった……って」
霧切「勝たなければ舞園さん以外のみんなが死んでいたわ」
霧切「私はもちろん……あなたもね」
霧切「だから勝つしかなかったのよ」
葉隠(これは……俺でも分かる)
葉隠(霧切っちは俺を励ましているんだべ……)
葉隠「どうしてそんなことを言うんだべ?」
霧切「あなたは乗り越えられる人間だから……」
霧切「舞園さんや桑田君……仲間たちの死を乗り越えて先に進める人間だから」
霧切「そういう人間でなければこの極限状態を打破することは出来ないから……下を向いてもらっては困るのよ」
葉隠「そっか……ありがとな」
葉隠「……? それはさっき霧切っちが言ったように」
霧切「違うわ。それ以前の問題よ」
葉隠「???」
霧切「……舞園さんは桑田君を首尾よく殺した。……けど、いざ苗木君に罪をなすりつける段階になって躊躇したのよ」
葉隠「どういうことだべ?」
霧切「だって彼女……苗木君の部屋にカギをかけていたでしょう?」
霧切「本当は死体を発見させないといけないのに……どうしてカギをかけたのかしら?」
葉隠「それは……」
霧切「……これは推測でしかないけど、桑田君を殺したことについて苗木君に話すつもりだったんじゃないかしら、舞園さんは」
霧切「話してどうするつもりだったかは分からないけど」
霧切「だからそれまで見つけられないように、部屋にカギをかけた」
霧切「……けど、モノクマはその状態を良しとしなかった」
霧切「カギをかけたら誰にも死体を見つけることができないから、それがアンフェアだと考えたのかもしれないわね」
霧切「だからああやってカギを強制的に解除した……そういうことかもしれないわ」
モノクマ「その通りです!」 ピョーン!
葉隠「うわっ!?」
モノクマ「いやー、霧切さんに僕の真意を分かってもらえて嬉しいよ」
それだけ言うとモノクマはまた消えた。
霧切「他にも桑田君の死体からメモを取れなかったことといい、彼女は非情になりきれなかったのね」
葉隠「確かに……」
葉隠(一周目でも苗木っちを陥れようとしたけど、結局ダイイングメッセージで苗木っちを助けた)
葉隠(今周回、舞園っちは確かに殺人を犯したけど、それは一種の暴走のようなものだったに違いない)
葉隠(桑田っちを殺して、冷静になって自分のしでかしたことの大きさに気付いた)
葉隠(だから桑田っちの死体にさわれなかったり、苗木っちに話そうとした)
葉隠(彼女がそんな暴走するまでに追い詰められたのは……)
葉隠「全部モノクマが悪いんだべ……」
葉隠「そうだべ! 舞園っちも苗木っちも悪くない! こんなことを仕掛けたモノクマが全部悪いんだべ!」
霧切「それだけ怒れるなら、あなたは前を向けるわ」
霧切「私も励ましたかいがあったかしら」
霧切は満足そうに言うとエレベーターに向かった。
葉隠「そうだべ。俺はこんなところで落ち込むわけには行かないんだべ……!」
葉隠(全員で生きて帰ると誓ったけど守れなかった……)
葉隠(それでもこれからは絶対に殺人を起こさせない)
葉隠(苗木っちが狂ったりはしたけど、結局死んだ人間が同じなんだから、これから起こることも同じはずだべ)
葉隠(なら、一周目の記憶を使って今度こそ殺人を止めてみせるべ!!)
葉隠「今度こそ必ず!!」
葉隠康比呂の二周目のコロシアイ学園生活は始まったばかりだ。
C H A P T E R 1
カ バ イ キ ル
E N D
―――――――――――――――――
生存者残り 12名
タララララーン、ラ、ラ、ラ、ラ、ラン!
『絶望マイク』を手に入れた
『使うと不快な声になるマイク。絶望の始まりを予感させる』
TO BE CONTINUED
モノクマ「うぷぷ、CHAPTER1も終わったね」
モノクマ「葉隠クンったら、強くてニューゲームしたっていうのに苗木クンや舞園さん、霧切さんの影に埋もれてしまって……」
モノクマ「やっぱり彼じゃ主人公を張るには荷が重すぎたかな……うぷぷ」
モノクマ「ところでどうしてこのタイミングでモノクマ劇場が入ったのかって?」
モノクマ「それはね……何と作者からCHAPTER2の予告を任されたんだよ!」
モノクマ「ええと、原稿があるから読んでみるね」
―――――――
学級裁判が終わり二階が解放されたコロシアイ学園生活。
結局苗木は狂ったまま戻らなかったが、それでも葉隠は次の殺人を防ぐために動く。
次に殺人を起こすのは大和田。殺されるのは不二咲。
「絶対……絶対防いで見せるべ!!」
葉隠は二人を救えるのか!?
CHAPTER2『週刊少年ゼツボウジャンプ』開幕!
「これは…………一周目では無かった展開……」
物語は一周目の向こう側へ!!
―――――――
モノクマ「……って読んでみたのはいいけどさ」
モノクマ「葉隠クンの『絶対……絶対防いで見せるべ!!』って……」
モノクマ「これってどう考えてもフラグじゃーん!!」
モノクマ「その後に、一周目では無かった展開……って、これどう考えても防げてないよね!?」
モノクマ「こんな予告で大丈夫なのかな……」
モノクマ「本編でもさ……」
葉隠『苗木っちが狂ったりはしたけど、結局死んだ人間が同じなんだから、これから起こることも同じはずだべ』
モノクマ「って思ってたけどさ、これもどう考えてもフラグだよね」
モノクマ「狂った苗木を起点にして一周目と違うことが起きるんだよね!? ね!?」
モノクマ「本当作者の考えていることは分からないよ」
モノクマ「分からなすぎて……絶望するよね」
モノクマ「うぷぷぷぷぷ…………」
モノクマのアナウンスにより体育館に集合するように言われる。
葉隠(一体何が起きるんだったか……?)
そこで行われたのは。
モノクマ「ハイッ! 腕を上下に伸ばして、イチ・ニッ・サン・シッ……」
石丸「イッチ、ニッ、サーン、シッ!」
葉隠(そういえばこんなイベントもあったべ……)
ラジオ体操だった。
モノクマ「……希望ヶ峰学園では学級裁判を乗り越える度に新しい世界が広がるようになっています」
葉隠(二階……そして大浴場の開放だろうな)
その後も一周目と同じやりとりが続いたため、退屈な葉隠は昨日のことを思い出す。
葉隠「………………」
葉隠(昨日、裁判の後に食堂で集まってみんなで話をした)
葉隠(舞園っちが口火を切ったことでこれからも殺人が起きやすくなっただろう……という話や)
葉隠(舞園さんに投票したってことは殺したも同然なんだよ、と言う不二咲っちと十神っちが衝突したり)
葉隠(一周目と同じ出来事が起きて)
葉隠(……けど『悪いのは全て黒幕だ』という苗木っちの言葉は聞けなかった)
葉隠(その結果モノクマがアナウンスで煽ってくることは無かった)
葉隠「………………」
葉隠(みんなで話し合った結果、苗木っちは裁判の後で混乱しているのだという結論に達した)
葉隠(一晩寝れば元に戻るかもしれない、と期待したが……)
苗木「学級裁判……そんなことやったっけ?」
葉隠「苗木っち……」
葉隠(結局戻っていない……)
葉隠(何かが起きない限り、苗木っちはずっとこのままなのかもしれないべ……)
石丸「ではひとまず手分けして調査だ!! その後で食堂に集まり結果を報告し合おうではないかッ!!」
葉隠(……考えている間に話が終わったみたいだべ)
葉隠(この前と同じで全部分かりきっていることでも、一応調査するフリをするべ)
一周目と特に変わらない調査と報告会の後、葉隠は自室に戻ってきていた。
葉隠(報告会は苗木っちが狂っているためか、一周目より発言が少ないことくらいしか違わなかった)
葉隠(やっぱり俺が関わったこと以外は一周目と同じ出来事が起きると考えていいのだろう)
葉隠(……………ということはあの殺人も起きるということだべ)
葉隠(モノクマによる、殺人が起きなければ人に知られたくない過去を暴露するという動機の発表)
葉隠(それに触発されて起きた、超高校級の暴走族の大和田っちが超高校級のプログラマーである不二咲っちを殺してしまった不幸な事件)
葉隠(十神っちのせいで複雑になったあの裁判を……今回は絶対に起こさせない……!)
―――――――――――――――――
C H A P T E R 2
週刊少年 ゼツボウジャンプ
(非)日常編
―――――――――――――――――
葉隠(それは前回のように紙にまとめる必要もないくらい単純だべ)
葉隠(それは二日後……動機発表の日の夜に、大和田っちが殺人を犯すことを何が何でも止めること)
葉隠(……前回は舞園っちの執念が強かったから、事前に舞園っちの説得もできなかった)
葉隠(それに下手な防ぎ方をしては一周目と違う方法で殺人を犯す恐れがあった)
葉隠(だから一周目からなるべく展開を変えないで、決定的な瞬間に介入して改心を促すしかなかった)
葉隠(けど、今回の殺人はどちらかというと不慮の事故だべ)
葉隠(大和田っちは積極的な殺意を持っていない)
葉隠(だから動機発表の夜に大和田っちが殺人を犯すその一回さえ防げれば次はない)
葉隠(つまり展開は一周目と変わってもいいということ)
葉隠(だから今回、俺は一周目と違う行動を取っていく)
葉隠(具体的には……大和田っちは怖いから、不二咲っちと仲良くなるべ)
葉隠(目標は動機発表の夜、自分が男であるということを打ち明けるのを、大和田っちだけでなく俺も一緒に聞けるくらい仲良くなるべ)
葉隠は不二咲の部屋の前に来ていた。
葉隠「不二咲っち部屋にいるのか……?」 ピンポーン
………………。
葉隠「……返事がないべ」
葉隠(どこかに行っているのか、不二咲っちは……)
葉隠「………………」
葉隠「……ん、そうだべ」 ピカン!
葉隠(昨日は二階を探索した)
葉隠(それで図書室でノートパソコンを見つけたはず)
葉隠(一周目では不二咲っちが殺されたときにはアルターエゴが出来ていた)
葉隠(動機発表は二日後の夜……今日から製作にとりかかっていてもおかしくない)
葉隠(つまり不二咲っちがいるのは唯一監視カメラがないあの場所だべ!)
不二咲「あれ、葉隠君昼からお風呂に入るの? それなら出ていくけど」
葉隠(やっぱり不二咲っちは大浴場でパソコンと向かい合っていた)
葉隠「不二咲っちを探していたんだべ」
不二咲「そうなの? ……何か用事でもあるの?」
葉隠「ああいや、いいんだべ。大したことではないから、不二咲っちはそのまま作業を続けてほしいべ」
葉隠(ノートパソコンを閉じて、俺の方を向こうとした不二咲っちを止める)
葉隠(アルターエゴはこの先の学園生活で必要になる。俺との会話のせいなんかで、開発が遅れるわけにはいかない)
不二咲「そう? なんかごめんね」
葉隠(ノートパソコンのキーを叩く音が響く)
葉隠(不二咲っち集中しているな)
葉隠(そんな不二咲っちに話しかけるわけにもいかないし……一旦、出直すか……?)
葉隠「………………」
葉隠(出直したところですることもないし、ここで作業が終わるのを待つべ)
<三時間後>
不二咲「……ん、そろそろ休憩しようかな」
葉隠「お疲れさまだべ、不二咲っち」
葉隠(結局不二咲っちはずっと手を止めなかった)
葉隠(アルターエゴは人工知能……そう簡単に作れるはずがないから頑張る必要があるのは分かるけど……)
不二咲「あっ、葉隠君。……えっと、ずっとここにいたの?」
葉隠「そうだけど」
不二咲「ごめんね、僕に用事があるから来たっていうのに相手できなくて」
葉隠「いや、大丈夫だべ。……それより不二咲っちは何を作っているんだ?」
葉隠(アルターエゴだってのは分かっているけど、それを知ってたらおかしいからな)
葉隠「……別人格って意味だよな」
不二咲「そうだけど、今僕が作っているアルターエゴっていうのは人工知能のことで……」
そこから不二咲によるアルターエゴの説明が続く。
葉隠「………………」
葉隠(不二咲っちが熱心にアルターエゴの説明をしてくれるが、話が専門的すぎて全く分からん)
葉隠(話している間に興が乗ったのか、止める気配もないし)
不二咲「あっ、ごめんね。僕ばかり話して」
葉隠(と、思ったら止めたべ)
葉隠「いいんだべ。……それでそのアルターエゴっていうのはこの学園生活から脱出するために役立つのか?」
不二咲「うん、たぶんね」
不二咲「このノートパソコンにはプロテクトのかかったファイルがあったんだ。アルターエゴができたら一日中、その解析をしてもらえるし」
不二咲「もしネットにつながる場所があったら、そこからこの学園のシステムに侵入して黒幕に対して何かアクションを起こせるし」
不二咲「役に立つと思うよ」
葉隠(実際アルターエゴは役に立った)
葉隠(石丸っちを絶望から蘇らせたし)
葉隠(苗木っちを処刑から救った)
葉隠(アルターエゴが無ければ俺たちは江ノ島盾子に勝てなかったべ)
不二咲「それじゃあ昼食を食べに行こうか」
不二咲「よいしょ……って」 フラッ
葉隠「だ、大丈夫だべか不二咲っち!」 ガシッ
葉隠(立ち上がろうとした不二咲っちが倒れかけたため、あわてて支える)
不二咲「ごめんね。……立ちくらみかな」
葉隠「……三時間もぶっ続けで作業したら、そんな疲れて当然だべ」
葉隠「もうちょっと自分の体に気を付けて作業をした方がいいんじゃないか?」
不二咲「……そうだね、ありがと」
不二咲「………………」
不二咲「葉隠君は強いよね」
不二咲「モノクマがコロシアイ学園生活のことを言った時も動じていなかったし」
不二咲「舞園さんの裁判のときも、最初から苗木君がクロだって言って頑張っていたよね」
不二咲「……僕もそれくらい強くなれたらなあ」
葉隠(……不二咲っちの評価は妥当なものじゃない)
葉隠(不二咲っちの言う強さは、俺が二周目だから持っていたもの)
葉隠(それは偽物に近かったけど……それでも不二咲っちに近づくためにはちょうど良かったから訂正はしないべ)
葉隠「不二咲っちはどうしてそんなに強い、弱いを気にするんだべ?」
不二咲「えっと……」
不二咲(葉隠君になら言っても大丈夫だよね)
不二咲「昔さ、僕はとある理由のくせに弱いって言われてたんだ」
葉隠(確か『男のくせに』……だべ)
不二咲「それからかな、僕が強いとか弱いだとかに敏感になったのは」
不二咲「結局大和田君に助けられて……弱い者イジメだって言われて」
不二咲「やっぱり僕って弱いなあって再確認して……それを振り払うためにせめて得意分野で役に立とうと思って」
葉隠「……不二咲っちは、十分に強い人間だべ」
不二咲「……え?」
葉隠「強い、弱いを肉体的なものでしか見てないとしたら不二咲っちは間違っている。……そんなこと言ったら、誰もオーガには勝てないべ」
葉隠「本当に強い人間っていうのは心が強いんだべ」
不二咲「けど僕は……逃げてばっかりだから、心も弱いよ?」
葉隠(そういえば不二咲っちの女装は男のくせに弱い、と言われた状況からの逃げだったはず)
葉隠(けど、不二咲っちは……モノクマの秘密をばらすという発表を機会にみんなに打ち明けて強くなろうとした。……つまり)
葉隠「確かに不二咲っちは過去に一度現状から逃げているべ」
葉隠「そのときは弱かったのかもしれない」
葉隠「けど……今の不二咲っちはどうだべ」
葉隠「ある部分で駄目なら、別のところで頑張ろうとする不二咲っちは……現状に逃げずに立ち向かえている」
葉隠「きっと今なら昔逃げた自分の弱さにも立ち向かえるべ」
不二咲「そう……なのかな」
不二咲「まだよく分からないけど……ありがとね、葉隠君」
不二咲「君にそう言ってもらえて、心が少し楽になったよ」
葉隠(……きっと俺は不二咲っちと自分を重ねている)
葉隠(俺だって一周目のときは、この学校生活を受け入れられずに逃げていた)
葉隠(そして今は全力で立ち向かっている)
葉隠(だから言葉もいつもの胡散臭さが取れている……そうに違いないべ)
不二咲「それにしても僕が過去に一度逃げているってよく分かったね」
葉隠「え!? ……そ、それは」
不二咲「占い師ってすごいんだね」
葉隠「……ま、まあな! それくらいのこと俺にはお見通しだべ!」
不二咲「プログラマーってことしているからかな。占いってちょっとあやふやなで信じられないと思ってたけど、それは違ったんだね」
葉隠「……じゃあついでに、もう一つ占いで出たから教えとくべ」
不二咲「うん……何なのかな?」
葉隠「今、不二咲っちが作っているアルターエゴ。それは絶対にこれからの学園生活に役に立つ……そう出たべ!」
不二咲「そうかあ。……なら、がんばって作り上げないとね」
葉隠「けど、無理は禁物だべ」
そうして二人は昼食を取りに食堂に向かった。
朝日奈「あれ、不二咲ちゃん元気そうだね」
不二咲「うん。昨日の朝、十神君に言い返せなかったこととかで落ち込んでたけど、葉隠君が励ましてくれて」
大神「お主にもいいところがあるではないか」
葉隠「それぐらい楽勝だべ!」
それから不二咲が詳しいことを話すと大和田が頭をかきながらすまなそうに言った。
大和田「それにしてもオレが怒鳴ったせいで、そんなに不二咲が落ち込んでいたとはな」
不二咲「いや、いいんだよ。もう解決したことだし」
大和田「……いや、それじゃオレの気が済まねえ」
大和田「男の約束をしようじゃねーか!」
不二咲「男の約束?」
大和田「『男の約束だけは絶対に守れ』兄貴が残した言葉だ」
朝日奈「残した?」
大和田「ああ、兄貴は死んだんだよ」
大和田「……まあ、湿っぽい話は無しだ。つうわけで、オレはこれからぜってーに怒鳴らねえからよ」
不二咲「う、うん。ありがと……大和田君」
葉隠(一周目では本来大和田っちが不二咲っちを励ますところを俺が代わりにやったからどうなるかと思えば)
葉隠(結局一周目と同じように、不二咲っちと男の約束を交わした大和田っち)
葉隠(……二人にはきっと切っても切れない絆があるんだべ)
葉隠(十神っちと腐川っちは朝食会に来なかった。それは一周目と同じだべ)
朝日奈「二人は来なかったし、苗木もご飯食べるとすぐに出て行っちゃったもんね」
山田「食べている間も口数が少なかったですぞ」
霧切「昨日もご飯のとき以外はずっと部屋に閉じこもっていたみたいね」
葉隠(どうやら一周目よりも消極的になっている様子の苗木っち)
葉隠(……一周目と違う行動によって起きるイレギュラー)
葉隠(この前の事件を止められなかった理由であるそれを俺は恐れている)
葉隠(苗木っちは消極的になっているけど………………それは今回の事件には何の影響も起こさないよな……?)
葉隠(……占ってみても、結果が出ないべ)
葉隠(昨日は不二咲っちと距離を深めることができた)
葉隠(どうせ今日もアルターエゴを作っているだろうから、作業が休みになる頃を見計らって顔を見に行く)
葉隠(だからそれまでは暇だから今日は……)
大和田「…………」 テクテク
葉隠(と、思って歩いていたらちょうど大和田っちを見つける)
葉隠(大和田っちのことは怖いけど……殺人を防ぐためには避けて通れない道だべ!)
葉隠「大和田っち、どこに行くのか?」
大和田「ん? ……何だ、葉隠か。俺に用か?」
葉隠「いや、ちょっと気になったから聞いてみただけだべ」
大和田「今から二階の男子更衣室に行くんだよ。ここに来てからろくに運動してないからな。あそこにはトレーニング用の器具もあったしそれを使おうと思って」
葉隠「付いて行って良いか?」
大和田「……そんなのおまえの勝手だけど、面白くはねえぞ?」
葉隠「俺もちょうど運動不足を感じていたところだべ」
大和田「そうか」
大和田「おまえにはそのベンチプレスは早すぎる。諦めろ」
葉隠「何のこれしき、だべ! 占いによれば、俺はこれを持ち上がられる!」
大和田「……いや、それ三割しか当たらないんだろ」
葉隠「うおおおおおおおおお!!!!」
大和田「聞いちゃいねえ」
大和田(って、あれ?)
葉隠「おおおおおおっっっっ!!!!」 プルプル
大和田(少しだが持ち上がった……!?)
葉隠「…………はあ」 ガタン!
大和田(すぐに落ちたが)
大和田「確かに少し上がったが、そんなことやっても体力付かないだろ」
大和田「ちょっと代われ」
葉隠(そう言って俺と場所を代わる大和田っち)
大和田「……ふんっ!! ……ふんっ!!」
葉隠「おお! すごいべ、大和田っち!」
葉隠(俺が苦労したベンチプレスを軽々と上げ下げする大和田っち。体力あるなあ)
大和田「まあ、ざっとこんなもんだ」 ハアハア
葉隠「お疲れさまだべ」
葉隠「………………」
葉隠「大和田っちは強いんだな」
大和田「……なあ、おまえの目には俺は強く見えているんだよな?」
葉隠「……ん? 今そう言ったべ」
大和田「…………そうだったな。わりい、おかしなことを聞いた」
葉隠「……もしかして大和田っちは自分の強さに疑問を持っているのか?」
大和田「……っ!?」
大和田「どうしてそ……」
葉隠「分かるべ。オーガなんて見たら、自分が弱っちい存在だと思ってしまうのは当然だべ」
大和田(……何だ肉体的な強さの話か)
大和田(確かに大神には勝てる気が全くしないが……)
大和田(………………)
大和田「なあ、葉隠。自分がどうしようもなく弱い存在に感じられたとき、どうすれば良いと思うか?」
大和田「……いや、例え話だよ。例え。……そんなことより質問に答えろよ」
葉隠「そうだな……そういうときは弱い自分を認めるべ」
大和田「弱い自分を認めるか……けど、そうするわけにはいかない立場だったときはどうすればいいんだ?」
葉隠「それでも弱い自分を認めなければいけないべ」
大和田「……答えになってないぞ」
葉隠「いや、なっている。……弱い自分を認めなければどうしたって強くはなれないんだべ」
大和田「………………」
葉隠「強い人間ってのは最初から強い人間だと思うか?」
葉隠「確かにそういう人間もいるかもしれないけど、それは少数だべ」
葉隠「大多数の強い人間っていうのは、弱い自分を認め克服して……それを繰り返して弱い部分をなくした人間だべ」
大和田「……そうだろうな」
大和田(葉隠の言っていることは正論だ……)
大和田(俺もあの事件に向かい合って、乗り越えないといけない)
大和田(けど、あれはもう過去のことだ。……それに向かい合うなんてことは……)
大和田「…………!?」
葉隠「だからもし大和田っちが自分の弱さを嘆いているなら……今からでも遅くない。向かいあうのをオススメするべ」
大和田「………………」
葉隠「って、例え話だったな」
大和田(どうしてこんなに見透かしたようなことを……)
大和田「……葉隠。おまえもしかして……」
葉隠「それじゃあ大和田っちよろしく頼むべ」
大和田(こちらに向かって手を出す葉隠)
大和田「……ああ? どういう意味だ?」
葉隠「超高校級の占い師である俺の話に対する対価を求めているんだべ」
葉隠「大和田っちは……初回だし、他人でもないからまけて十万にしとくべ」
大和田「俺からぼったくろうっていうのか……!?」
葉隠「だからぼったくりじゃなくて、正当な対価だべ!」
葉隠「俺の話術を尽くした引き込まれるような話なんだから、それくらいの価値があって当然だべ!」
大和田「……おまえの話なんて全く面白くねえし、タメにもならねえんだよ! 大体、今オレ達金持ってないだろ!?」
葉隠「だからそこは出世払いで……」
大和田「……話にならん!」
葉隠(怒ったように大和田っちは男子更衣室を後にする)
葉隠「……上手くいったよな」
葉隠(これでちょっとは考えてくれるといいんだが……)
葉隠(その後は作業休憩に入った不二咲っちと話したりして、ゆるやかに過ぎていった)
葉隠(今日が……今日が本番だべ)
葉隠の記憶が確かなら、今日の夜に動機が発表されるはずだ。
葉隠(そしてそのままあの不幸な事件が起きる……)
葉隠(けど、この二日間がんばったんだ。絶対に防いで見せる……!)
そして食堂に入る葉隠。
石丸「遅刻とは一体どういうことかね、葉隠くん!!」
葉隠「うう、すまんべ……」
葉隠(食堂を見渡すと、十神っちと腐川っちを除いたみんなが揃っている)
葉隠(苗木っちもまだ食べている途中だからか、席に座っている)
石丸「大和田くん! テーブルの上に足を乗せるなんて、行儀が悪いぞ!」
大和田「ああ? そんなの俺の勝手だろ?」
葉隠(石丸っちはいつもと変わらず元気だべ……。今日も相変わらず大和田っちに注意をして…………)
葉隠「………………え?」
葉隠(けど、今は当てはまらない)
葉隠(一周目では確か、このときには二人は和解してお互いを兄弟と呼んでいたはずだから)
葉隠「………………」
葉隠(何が……何が起こっている……?)
一周目の記憶を思い出す葉隠。
葉隠(二人が和解した経緯は……一周目における昨夜、大和田っちと石丸っちがいつもと変わらないように言い争っていて)
葉隠(そこに現れた苗木っちに仲介役を頼んで、サウナで対決を……)
葉隠「苗木っち……?」
葉隠(っ……!!)
葉隠(そうだべ、今の苗木っちは狛枝状態)
葉隠(それに部屋に引きこもりがちだったらしいから、この二周目では昨夜食堂に行かなかった……!)
葉隠(だから二人のサウナ対決も無くなって……結果昨日までと同じ関係が続いている……?)
石丸「一人そういう人がいるだけで空気が乱れるのだよ!」
大和田「空気が乱れようが俺の知ったこっちゃねえよ!」
葉隠(苗木っちが狂ったことに加えて、二人が兄弟にならなかった)
葉隠(一周目との大きな違い)
葉隠「けど………………大丈夫なはずだべ」
葉隠(今回の事件に直接二人が兄弟であったことは関わっていない)
葉隠(……けど、ちょっとした出来心で模擬刀を振るったくらいで結果は変わった)
葉隠(もしかしたらこれが何らかの影響を事件にもたらすのか……?)
葉隠(それともこれが原因で一周目に無かった新たな事件が起きるとか……?)
葉隠「分からない。分からないけど……」
葉隠(……嫌な胸騒ぎがするべ)
葉隠(大和田っちと石丸っちが兄弟じゃなくなった……)
葉隠(そんなイレギュラーが起きたけど、今さら予定変更はできない)
葉隠(結局不二咲っちと仲を深めたりしながら、その日も過ごした)
葉隠(現在、後は寝るだけという時間)
葉隠(……いつもなら、だべ)
キーン、コーン、カーン、コーン。
モノクマ「まもなく夜時間ですが、オマエラ生徒諸君は至急体育館までお集まりくださーい!」
モノクマ「えまーじぇんしー、えまーじぇんしー!」
葉隠(遂に来た……)
葉隠(大丈夫だ……桑田っちのときのようにはさせない)
葉隠(今度こそは殺人を防いで見せる……!)
葉隠「それじゃあ行くべ!!」
朝日奈「ど、どうして……?」
石丸「どうして……このことを知っているんだ……!?」
苗木「………………」
葉隠(各自が名前の入った封筒を手に取り中を見る)
葉隠(一周目同様の光景……苗木っちの元気は無いけど)
モノクマ「24時間以内に殺人が起きなかったら、今見せた秘密を世間にばらしちゃいまーす!!」
石丸「これがキミの言う動機か!!」
モノクマ「そのとおりでーす!」
朝日奈「確かにバラされたくないけど……」
石丸「こんなことのために人を殺したりはしないぞ!!」
モノクマ「そんなあ……」
モノクマ「これじゃ殺人が起きないのか…………」
モノクマ「なら、僕は24時間後にこの秘密をバラすことでささやかな自己満足に浸るとするよ」
モノクマ「トホホ……」
葉隠(落胆した様子のモノクマが体育館の奥に引っ込む)
葉隠(……一周目と同じだが、思えばこのときモノクマはわざと落胆した様子を見せたのかもしれない)
葉隠(殺人が起きるはずがないと思わせることで、後から殺人が発覚したときの絶望を大きくさせるために……)
葉隠(もともと今回の動機発表は大和田っちと腐川っちと不二咲っちあたりを狙い撃ちしたものだ)
葉隠(それ以外がどういう反応をしようと気にもしてなかったに違いない)
石丸「いい考えがあるぞ! いっその事、さっきの秘密をここで告白するのだ!! そうすれば動機の心配など必要なくなるからな!」
石丸「よし、じゃあ僕から行くぞ! 僕の恥ずかしい過去はだな……」
腐川「あんたの恥ずかしい過去なんて聞きたくないわよ……!」
腐川「それに私は嫌よ。この秘密は話したくない……誰になんと言われようと話したくないから……!!」
葉隠(腐川っちがここまで話したくなかったのは、きっと秘密がジェノサイダー翔に関することだからだよな……)
セレス「私も嫌と言うより無理ですわ」
十神「俺も同感だ。話す必要など無い」
石丸「そうか……なら不二咲くんはどうだ?」
不二咲「あの……ごめんなさい。今は話したくない……けど、このままじゃダメだと思うから、後できっと話すよ」
葉隠(俺との会話で少しは強さに対する意識も変わったと思うけど……)
葉隠(さすがにここでいきなりバラすレベルまで変わってはいないか……)
石丸「ふむ、そうか……」
大和田「……俺も話せねえな」
石丸「ああ、君には期待していない。暴走族なんて人には話せない秘密がたくさんあるだろうからな」
大和田「……ああん? 何だと?」
葉隠(文面だけ見ると石丸っちが大和田っちを煽ったように見えるけど)
葉隠(石丸っちの話し方を見る感じ、単に事実を言ったぐらいにしか思ってなさそうだべ)
葉隠(二人が兄弟じゃないから、石丸っちも考えが変わってないんだべ)
石丸「だってそうではないか。事実人には話せないんだろう?」
大和田「……そういうおまえだって最初秘密を見たときは狼狽していただろ。やけに軽そうに秘密を話そうとしていたが、本当は結構やばいものなんじゃないのか?」
石丸「……そんな君も顔面蒼白ではないか! 何だ? 人でも殺したことがあったのか?」
大和田「何だと……!」 ブチン!
葉隠(あっ、地雷踏んだべ)
大和田「やる気か? ああん?」
石丸「そうやってすぐに暴力に頼ろうとして君は恥ずかしくないのかね!」
大和田「この期に及んで説教たあいい度胸だな……!」
葉隠(これはやばい……けど、この二人の間に割って入っても止められる気がしないし……)
葉隠(本格的な言い争いに入ろうとしたところ、絶妙なタイミングでオーガが割って入った)
大和田「だけどこいつが……!」
石丸「あっちから……!」
大神「二人とも落ち着くのだ……」 ゴゴゴゴゴゴ
二人「………………」
葉隠(すごい気迫だべ……)
大神「そうやって不和を起こさせるのもモノクマの一つの策略だ。それに乗ってどうする?」
大和田「……ちっ。まあ、こんな真面目堅物野郎に絡むだけ無駄な時間だったな」
石丸「……そうだな。落ち着きが足りなかった」
葉隠(二人が兄弟じゃなかったために起きた今のいざこざ)
葉隠(もしオーガが止めなければもっとエスカレートして………………最終的にはどちらかが手を出したかもしれない……) ゾクッ!
葉隠(全くイレギュラーは勘弁してほしいべ……俺の頭脳はそんないろんな可能性に対処できるほど高性能じゃないんだから……)
朝日奈「まあ、どうせこんなことで殺人なんて起きるわけ無いよね……?」
葉隠(朝日奈っちのつぶやきを最後にその場は解散した)
葉隠「おお、不二咲っち」
葉隠(体育館から帰る途中、不二咲っちに声をかけられた)
葉隠(一周目では無かった出来事……これはもしかして)
葉隠「どうしたんだべ? 何か用か?」
不二咲「えっと…………」
不二咲「その…………」
不二咲「………………」
不二咲「よ、夜時間になったら更衣室のところまで来てほしいんだ!」 ダッ!
葉隠(それだけ言うと不二咲っちは走って逃げていく)
葉隠「分かったべ!」
葉隠(去っていく背中にそう声をかけた)
葉隠「………………」
葉隠(これは不二咲っちが自分が男だと明かす場面に呼ばれたということだろう)
葉隠(二周目ということで不二咲っちには俺が強く見えていたようだし、それに何回も話して仲良くなっていたからだべ)
葉隠(これなら大和田っちが不二咲っちを殺すときにちょうど居合わせることができる)
葉隠(……どんなことをしてでも殺人を止めて見せるべ!)
葉隠「えっと……」
葉隠(夜時間になってから少しして、俺は更衣室の前にやって来て)
葉隠(そこに先客がいることを発見した)
大和田「どうしてここに来たんだ?」
大和田「俺は不二咲のやつに呼ばれたはずなんだが……」
葉隠「俺も不二咲っちに呼ばれてやって来たんだべ」
大和田「……そうか、お前もか」
葉隠(大和田っちの声にいつもの張りがない)
葉隠(それもそのはずだべ。今の大和田っちの頭の中は、二十四時間後に発表される秘密のことでいっぱいなんだから)
大和田「……それにしても不二咲のやつ遅いな」
葉隠「ここで立って待っていても無駄だべ。更衣室の中で待つことにするべ」
大和田「……いや、不二咲じゃ男子更衣室に入れないだろ?」
葉隠「じゃあ不二咲っちが来たら知らせてほしいべ」
大和田「はあ? どうして俺がそんなパシリみたいなことを……」
葉隠「よろしく頼むべ」
大和田「ちょっ、人の話を聞けよ!」
生徒証をかざし、男子更衣室に入った葉隠。
葉隠「よし、今の内に準備をしておくべ」
大和田「はあ、どうして俺はあんなやつの言葉に従っているんだよ……」 ポツーン
大和田(………………)
大和田(過去、兄貴、秘密、二十四時間後、暴露、殺人、強さ、弱さ……) グルグル
大和田(俺はどうすれば……)
――――――――――――――
葉隠『大多数の強い人間っていうのは、弱い自分を認め克服して……それを繰り返して弱い部分をなくした人間だべ』
葉隠『自分の弱さを認めるのに遅いも早いもないべ』
葉隠『だからもし大和田っちが自分の弱さを嘆いているなら……今からでも遅くない。向かいあうのをオススメするべ』
――――――――――――――
大和田「……っ!?」
大和田(どうして俺はあんなやつの言葉なんかを思い出しているんだよ……!)
大和田(あんな胡散臭いやつの言葉なんか間に受ける必要はねえ!)
大和田(必要は……ねえ………………けど……)
不二咲「どうしたの、大和田君?」
大和田「……! 不二咲っ!」
不二咲「何かボーっとしてるようだったけど、大丈夫?」
大和田「……ああ、大丈夫だ」
不二咲「そう。……良かったあ」
大和田(俺は強いんだ。……強い強い強い強い強い強い強い)
不二咲「あれ? そういえば葉隠君はまだなんだね」
大和田「…………ああ、葉隠なら男子更衣室に入っていったぞ」
大和田「ちょっと待っとけ。今呼んでくるから」
不二咲「えっと……」
不二咲「………………」 ギュッ!
不二咲「そ、その必要はないよ!」
大和田「……はあ? どういうことだよ?」
不二咲「そ、それは……こういうことなんだ」
男子更衣室の入り口横に付けられたパネルに生徒証をかざす不二咲。
大和田「!? おまえそんなことしたらマシンガンが!」
ピー、ガチャッ!
大和田「!?」
大和田(扉が開いた……!?)
大和田「ど、どうして……!」
不二咲「えっと………………それは更衣室の中で話すね」
ガチャ。
葉隠(準備が終わったちょうどそのとき扉が開いた)
葉隠「おおっ、不二咲っち。やっと来たか」
不二咲「……葉隠君は驚かないんだね。何となくそうだろうな、って思ってたけど」
葉隠(あ。……そういえばまだ不二咲っちが本当は男だって分かっていないんだから、男子更衣室に現れた時点で驚かないといけないんだったべ)
不二咲「それも占いなの?」
葉隠「……そ、そうだべ!」
葉隠(本当に占い師って職業は便利だべ)
大和田「それにしても不二咲、どういうことだよ? 何で男子更衣室に入れたんだ?」
不二咲「それは……」
――――――――――――
葉隠『けど……今の不二咲っちはどうだべ』
葉隠『ある部分で駄目なら、別のところで頑張ろうとする不二咲っちは……現状に逃げずに立ち向かえている』
葉隠『きっと今なら昔逃げた自分の弱さにも立ち向かえるべ』
――――――――――――
不二咲(うん、葉隠君の言う通りだ……)
不二咲(二十四時間後には秘密が強制的に明かされる……それは契機なんだ)
不二咲(弱かった自分を変えるのは……今!)
不二咲「僕は……本当は男なんだ」
不二咲「う、うん……騙しててごめんなさい……」
大和田「で、でもよ……どうしてだ? どうして急に秘密を打ち明ける気になった?」
不二咲「……え?」
大和田「だってよ……ずっと守り通してきた秘密だろ? そいつを知られてしまったら……オメエは……」
不二咲「そうだけど……変われると思ったんだ」
不二咲「あの強い葉隠君が……僕も変われるって言ってくれたんだ」
不二咲「だからそれを信じて……勇気を出して、『嘘に逃げている弱い自分』を壊そうと思ったんだ!」
大和田(『嘘に逃げている弱い自分』……?)
大和田(それは俺が弱いって言いたいのか……? 俺のやっていることが逃げだっていいたいのか……?)
不二咲「だけどさ、葉隠君と大和田君は強いから、きっとモノクマにどんな秘密をばらされてもヘッチャラなんだよね?」
大和田「……だから言えっていうのか? 本当に強いなら……秘密を言えっていうのか?」
不二咲「え?」
大和田「皮肉か……? 俺が強いって……皮肉か?」
不二咲「ち、違うよ。葉隠君も大和田君も本当に強い人だし……」
大和田「秘密をバラして全部台無しにすりゃ良かったってのか?」
不二咲「ど、どうしたの……?」
大和田「なんで俺にそんなことを言ったんだ? 俺への当て付けか?」
不二咲「僕はただ……大和田君に憧れていて……」
大和田「そうだよ……俺は強いんだ……」
大和田「強い……強い強い強い強い強い強い強い」
大和田「オメェよりも!」
大和田「兄貴よりもだああああああああっ!!」
大和田が腕を振り上げる。
その瞬間。
葉隠「やめるべ!!!!!!!!!」
不二咲と大和田の間に、葉隠が身を投げ出した。
葉隠(最初は出来ると思っていたけど……生で大和田っちが思い詰めているのを見て、これは無理だと思った)
葉隠(だから説得することを諦めた)
葉隠(と言っても、不二咲っちが殺されることを防ぐのを諦めたわけではない)
葉隠(説得するのが駄目……?)
葉隠(それなら体を張ればいいんだべ)
葉隠(けど、俺なんかが大和田っちを抑えられるわけがないから、こうして今、大和田っちの前に身を投げ出した)
葉隠(進路を変えることはもうできない。これで大和田っちは不二咲っちじゃなくて、俺を攻撃するだろう)
葉隠(けど、俺だって死ぬのは嫌だ)
葉隠(だから一つ前もって準備をしておいた)
葉隠(それは……男子更衣室からダンベルを全て撤去すること)
葉隠(一周目の時の凶器はダンベルだった……その他凶器になりそうなものは全てプール側に全部出している)
葉隠(これで大和田っちは自らのこぶしを振るうしかない)
葉隠(………………)
葉隠(とはいえ、苗木っちを一発KOしたこぶしだ……)
葉隠(痛くないわけがないけど……気合で耐えるべ)
葉隠(あっ、もう)
ゴスッッッッッ!!!!!!!!!!!!
「……れ…………は…………」
「………………くれ君…………」
葉隠(何か……声が……)
不二咲「葉隠君! 葉隠君!」
葉隠「どう……したんだべ……不二咲っち」
不二咲「!! 気が付いたんだね、葉隠君! 大丈夫!?」
葉隠「たぶん大丈夫だべ……」
葉隠(そう言ってから体を起こす……)
葉隠(起こす……? ……どうやら俺は更衣室の床に横になっているようだ)
葉隠(どうしてそんなことに……って)
葉隠「そういえば大和田っちはどうしたんだべ?」
不二咲「……葉隠君を殴った後、急に冷静になったみたいで更衣室から出て行ったよ」
葉隠「そうか……」
葉隠(俺を殴った後に出て行った……これも予想通りだべ)
葉隠(そもそも俺が大和田っちと不二咲っちの会話に口を挟まなかったのは、大和田っちを逆撫でしないため)
葉隠(全く敵意を抱いてなかった俺を間違って殴ったら、そこで頭が冷えると思ったから)
葉隠(綱渡りのような賭けだったけど……上手くいったみたいだべ)
不二咲「えっと、十分くらいかな」
葉隠(十分……)
葉隠(苗木っちが殴られたときはもっと気絶していた時間は長かったはずだ)
葉隠(ということは……大和田っちも手加減してくれた……?)
葉隠(そういえば殴られる直前、俺の顔を見てなんかびっくりしてこぶしの速度が微妙に遅くなったような……なってないような……)
不二咲「それにしても、どうして大和田君はあんなに怒ったんだろう?」
葉隠「………………いつか不二咲っちも分かるときが来るべ」
葉隠(いくら占いという言い訳があるとはいえ、そんなに詳しく知っていたらおかしい)
葉隠(だから、そう言うしかなかった)
不二咲「そう……。あっ、葉隠君立ち上がれる?」
葉隠「そんなのよゆ……」 ガクッ
葉隠(……足がフラフラするべ)
不二咲「やっぱりさっきのダメージが大きかったんだよ。肩を貸すから、部屋まで行こう?」
葉隠「そうだな……」
葉隠(去って行った大和田っちが気になるけど、この体で出来ることなんて休むことくらいしかない)
葉隠(俺は不二咲っちの助けを借りて自分の部屋まで戻り、そのまま夢も見ないくらいぐっすりと寝た)
葉隠「………………」 ムクリ
葉隠(………………)
葉隠「何か起きてしまったな……」
葉隠(どちらかというと俺は寝起きが悪いのだが、何故か今日は起きたすぐから頭が冴えていた)
葉隠「……それにしても……やったべ」
葉隠(昨日は殴られた痛みが大きかったから落ち着いて考えられなかったが)
葉隠(よく考えれば、今度こそ殺人を防いだのだ)
葉隠(殺される運命だった不二咲っちを、おしおきされるはずだった大和田っちを助けた……)
葉隠(……何とも言えない達成感だべ!!)
キーン、コーン、カーン、コーン。
葉隠「ん……チャイム?」
葉隠(何か放送でもあるのか……)
葉隠「………………」
葉隠(……って放送!?) ガタッ!
葉隠(まさか……また、イレギュラーが……!?)
モノクマ「オマエラ、おはようございます! 朝です、七時になりました! 今日も張り切っていきましょう!」
葉隠「何だべ……驚かすなって……」 ホッ
葉隠(よく見ると、時計は確かに七時を指している)
葉隠(昨日寝たのも遅かったっていうのに、いつもより早起きしてしまったようだ)
葉隠(早起きしたっていうことは……)
葉隠「二度寝ができるってことだべ!」
ピン、ポーン。ピンポーン。ピンポン、ピンポン、ピ、ピ、ピ、ピ、ピンポーン。
葉隠「ああもう、何だべ!!」
葉隠(騒音に飛び起きると同時に、視界にちらりと入った時計を見ると……八時半)
葉隠(一瞬だと思ったけど、どうやら一時間半も経っていたみたいだべ)
葉隠「それだけ疲れていたってことか」
ピンポーン。
葉隠「……それにしてもさっきからこのドアベルは何なんだべ?」
葉隠「はいはい、今開けるべ」
葉隠(ドアを開けるとそこには石丸っちがいた)
葉隠「おはようだべ、石丸っち」
石丸「ところで君は今何時なのか分かっているのかね?」
葉隠「えっと……八時半だべ」
石丸「そうだ! つまり朝食会はすでに始まっているのだよ!!」
石丸「早く支度をして来たまえ!」
葉隠「はいはい」
石丸「はいは一回! 短くはっきりと!」
葉隠「はい。……ところで石丸っち、他のメンバーはみんな来ているのか?」
石丸「葉隠くんが最後だ! 何と珍しいことに十神くんに腐川くんも来ているから、本当に最後だぞ!」
葉隠「そうだべか……」
葉隠(ということは誰も殺された人はいないってことだな……)
葉隠「おはようだべ……」 フワーッ
十神「そうかこれで全員か。……あの動機を前に殺人を実行したやつはいなかったてことか」
葉隠(ああ、十神っちはそれを確かめるために朝食会に……。相変わらず性格が悪いべ)
朝日奈「葉隠遅ーい!」
山田「そうですぞ」
葉隠「すまなかったべ」 チラッ
苗木「………………」
葉隠(苗木っちは変わりなし)
大和田「…………!」サッ!
葉隠(大和田っちは俺と目が合うと気まずそうに逸らした)
腐川「……どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう」
葉隠(腐川っちはぶつぶつとつぶやいている。……ジェノサイダー翔のことが今日明かされるとなれば、冷静でいろっていうのも無理な話だべ)
葉隠(その他のみんなは特に変わりがないように見える)
葉隠(こうして十二名揃って朝を迎えることができた)
葉隠(確かに動機の期限まではあと半日はあるけど、日中に殺人にかかろうにも、この二階までしか解放されていない状態では死角はあまりないし大きな音を立てようものならすぐに気づかれてしまう)
葉隠(日中の殺人は無いと考えていいだろう)
石丸「それでは諸君、手をあわせたまえ!」
石丸「いただきます!」
葉隠(ああ、やりきった……)
葉隠(第二の動機の提示を前に……誰も死なずに済んだんだべ……)
朝方に一度思ったことだったが、朝食を取る十一人の顔を見ると改めてそう実感する葉隠であった。
モノクマ「うぷぷ、ここまでの物語どうだったかな?」
モノクマ「え? 葉隠が葉隠らしくないって?」
モノクマ「そうだね、妙に頼りがいがあったり、体張って不二咲クンを助けたり……」
モノクマ「けど、このssは葉隠クンが主人公なんだよ?」
モノクマ「だからこれくらいが普通……むしろ、CHAPTER1の方がおかしかったんだよ」
モノクマ「そうそう、ここまで読んでくれた人は当然疑問に思っているだろうね」
モノクマ「誰も死んでないじゃないか! ……ってね」
モノクマ「うぷぷ、人の死を望むなんておまえらも結構不謹慎だよね」
モノクマ「だけどCHAPTER2の予告で気づかなかったかな?」
モノクマ「あのときボクは『葉隠クンが殺人を防げないフラグだよね』って言った……」
モノクマ「そう! あれこそが『フラグだよね』って発言することで、『フラグがフラグじゃなくなる』フラグだったんだよ!!」
モノクマ「衝撃の事実ー!!」
モノクマ「……え、ややこしくて何言っているのか分からないって?」
モノクマ「もう、そこはフィーリングだよ、フィーリング」
モノクマ「殺人起きなくて飽きたとかいうよくあるご都合主義な理由で三階が解放されて」
モノクマ「次の動機、生き残ったクロには百億円を渡す、ってのが提示されて」
モノクマ「それによって動き出すセレスティア何とかさんを止めるために葉隠クンががんばるのかな?」
モノクマ「今回は不二咲クンも生き残っているからね。何かと頼りになるんじゃない?」
モノクマ「それでも狛枝状態の苗木クンとか、兄弟になっていない大和田クン、石丸クンが一周目と違う展開を引き起こして」
モノクマ「イレギュラーに怯えながら葉隠クンが頑張る……」
モノクマ「そんなCHAPTER3が来ると思っているなら……希望の持ちすぎだね」
モノクマ「絶望させたくなっちゃうよ」
モノクマ「だってまだCHAPTER2は終わってないんですから!!」ゲラゲラ
モノクマ「モノクマ劇場が入ったことで安心した? 安心した?」
モノクマ「だけどね、CHAPTER2が終わったなんてアナウンスはまだされていないんだよ?」
モノクマ「……え? けど、もう第二の動機、秘密の暴露まで殺人は起きないはずじゃないかって?」
モノクマ「じゃあ逆に聞くけど、秘密の暴露までに殺人が起きないといけないって誰が決めたの?」
モノクマ「むしろ秘密が暴露されることによって、疑心暗鬼が起きることだってあるのに」
モノクマ「……それに作者は予告でちゃんと書いていたよ?」
モノクマ「物語は一周目の向こう側へ、って」
モノクマ「これよりCHAPTER2は秘密の暴露を経てのコロシアイ学園生活を描いていきまーす!!」
モノクマ「今度こそはちゃんと人が死ぬよ。良かったね、不謹慎なオマエラ」
モノクマ「じゃあ、ばいなら」
モノクマ「あらら、本当に殺人が起きなかったね」
モノクマ「先生は残念です……」
モノクマ「なので、予告通り秘密をバラすことで鬱憤を晴らすことにするね」
葉隠(日中は予想したとおり、特に何も起こらなかった)
葉隠(俺は昨夜の出来事について話そうと思って大和田っちを探していたが、俺の姿を見るなり逃げられた。……避けられているみたいだべ)
葉隠(今は夜時間前。俺たちは昨日と同じく、モノクマの放送により体育館に集められた)
葉隠(そこで俺たちの隠したかった秘密が暴露されていった)
朝日奈「苗木って小学生までおねしょしてたんだね」
山田「意外ですぞ」
苗木「………………」
霧切(また、黙りこくって……。苗木君、あなたはどうやったら前を向いてくれるのかしら)
朝日奈「さすがにこれには反応すると思ったんだけど」 ヒソヒソ
山田「無反応ですな」 ヒソヒソ
石丸「……僕にとっては恥ずべき事実なのだよ」
葉隠「そ、そうだべか」
葉隠(石丸っちも色々苦労してるんだべな)
山田「セレス殿が餃子好きだったとは驚きですな。今度作ってみますぞ!」
セレス「あらあら、奴隷根性が染み込んでいるようで何よりです」
セレス(それにしても私の秘密……どうして本名や夢についてでは無かったのでしょうか……?)
セレス(それだったらなりふり構わず殺人を企てたのですが……)
セレス「………………」
セレス(……それは恐らくこの動機で私を狙い撃ちするつもりでは無かったから……?)
モノクマ「それじゃあ次だね。超高校級のプログラマーである不二咲千尋。彼女の隠したい秘密とは……」
不二咲「ちょっと待って、モノクマ」
モノクマ「……ん、何だい? もしかして秘密をバラすな、っていいたいのかな」
モノクマ「だとしたら、甘いよ。甘い! 人の秘密を聞いといてそんな言い分が……」
不二咲「そうじゃないんだ。……僕の秘密は僕自身が話したいんだ」
モノクマ「ふーん。……まあ、やる気も出ないしそれぐらいどうだっていいよ」
葉隠(モノクマのテンションは終始低い。殺人が起きなかったのが堪えたんだろう)
葉隠(江ノ島盾子は自信家で気分家だったから、自分の思い通りに行かないと気分が落ち込むのも早いんだろう)
不二咲「うん……じゃあ言うね」
不二咲(……大丈夫。このみんななら受け入れてくれるはず)
不二咲(それに強くなるためには……自分を偽ってちゃダメなんだ……!)
不二咲「ぼ、僕は…………本当は男なんだ」
葉隠(不二咲っちの秘密の暴露にみんなが固まる)
葉隠(あの霧切っちや十神っちでさえ意外そうな表情になっていた)
葉隠(……そういえば霧切っちが不二咲っちを男だと見抜いたのは、大和田っちの呼び方の変化からだったからだべ)
葉隠(この周回では裁判も行っていないし、大和田っちが不二咲っちを呼ぶ場面が無かったから気づけなかったんだろう)
葉隠(驚いていないのは俺と苗木っちと大和田っちと腐川っちだけ)
葉隠(苗木っちはともかく、俺以外の二人はまだ秘密が暴露されていないから、顔面蒼白になっていて驚く余裕がないみたいだべ)
朝日奈「不二咲ちゃんが男……?」
モノクマ「あれ? 気づいてなかったの?」
山田「男の娘キターー!!!」
大神「……それでトレーニングを拒んでいたのか?」
十神「男なら女子更衣室には入れない……そういうことか?」
霧切「……それなら生徒手帳を見せてもらえる? 疑うようで悪いけど、ちょっと信じられなくて」
不二咲「そ、そうだよね。……ほら」
電子生徒手帳を皆に見せる不二咲。
霧切「……本当なのね」
朝日奈「けど、それならどうして女みたいな格好を……?」
そして女の格好をするに至った訳を話す不二咲。
不二咲「だけど、大和田くんや葉隠くんと出会って僕だって変われるって思ったんだ」
不二咲「その……今まで騙すような真似をしてごめんなさい」
朝日奈「いいよ、そんなことくらい」
山田「そうですぞ、性別なんて飾りなのです。偉い人はそれが分かってないのですぞ」
セレス「まさかそれは男の子でもいけるということですか……?」
どうやらみんな受け入れムードのようだ。
葉隠(みんなを殺そうとした今の苗木っちでさえ受け入れたみんなだから心配はいらないと思っていたけど……)
葉隠(本当に良かったべ)
モノクマ「まだ、秘密の暴露が終わっていないのが二人いるんですから」
朝日奈「あ、そうだったね」
モノクマ「むきー!! 忘れていたって言うんですか!?」
モノクマ「ボクは今か今かと楽しみにしてたっていうのに!」
朝日奈「ごめんってば」
セレス「さっさと続きを言えばいいじゃないですか」
暴露を待つのは残り腐川と大和田の二人。
だが、その二人を除いた空気は完全に弛緩していた。
今まで女だと思っていた人物が実は男だった。
これ以上の秘密の暴露があるだろうか?
それに比べたら残りは大したことのない秘密だろう。
無意識の内にそう思って気が抜けているのだ。
葉隠(これ以上の秘密なんだけどな……)
モノクマ「それじゃあ発表します!」
モノクマ「超高校級の文学少女、腐川冬子さんの抱えるみんなに言えない秘密とは」
腐川「やめて!! 発表しないで!!」
葉隠(よりによってそっちからか……)
モノクマ「巷を騒がす連続殺人鬼ジェノサイダー翔。その本人であることです!!」
山田「翔……?」
大神「確かその名前は」
セレス「あらあら、ただの根暗な人かと思えばそんな刺激的な趣味をお持ちでしたか」
腐川「いやああああああああああ!!!!!!」
葉隠(腐川っちが叫びながら崩れ落ちた)
霧切「……本当なの、モノクマ?」
霧切「私の勘なんだけど彼女に人が殺せるとは思えないのだけど」
葉隠(記憶を失っているというのに、探偵としての勘が働いたのだろうか?)
葉隠(ジェノサイダー翔は二重人格。確かに腐川冬子には人が殺せないから正解だべ)
モノクマ「それは……」
十神「それは俺から説明しよう」
葉隠(十神っちノリノリだべ)
十神「フンッ。俺はやつから話を聞いたからな」
腐川「それはみんなには話さないって約束で……!」
十神「俺がいつそんな約束を請け負った? おまえが自己満足で言っていただけだろう?」
十神「それにこの状況で秘密にすることに意味があるとでも言うのか?」
腐川「でも……!」
十神「ほら、さっさとあっちと変われ。言葉で説明するより前に、あっちを見せた方が早い」
腐川「それは…………」
十神「いいからやれ」
腐川「はいっ!」クシュン!!
葉隠(腐川っちがくしゃみをする)
葉隠(それは人格を変えるためのトリガーだべ)
ジェノサイダー翔「呼ばれて、飛び出てじゃじゃじゃじゃーん!!!」
朝日奈の一言がこの場にいる皆の気持ちを代弁していた。
ジェノ「誰って酷くね? ここまで一緒に過ごしてきた仲間なのにさ」 ゲラゲラ
ジェノ「アタシが超高校級の殺人鬼ことジェノサイダー翔」
ジェノ「本名は腐川冬子なんてダセー名前だけどね」
霧切「解離性同一性障害……ということなのね」
葉隠(さすが霧切っち。一瞥しただけで見抜いたべ)
山田「解離性同一性障害……?」
霧切「平たく言えば二重人格よ」
十神「そういうことだ。腐川は殺人鬼の人格を持っていたんだよ」
ジェノ「ていうか、あれ? みんないるじゃん。アタシの方に変わって良かったわけ?」
十神「たった今モノクマにおまえのことをばらされたところだ」
ジェノ「あらあら。ひたむきに隠してた秘密が暴露されちゃったってわけね」
ジェノ「なになに、ちーたんはアタシのこと疑ってるっていうの?」
不二咲「それは……」
ジェノ「まあいいけど。……それと殺したこと? あるに決まってるでしょ」
ジェノ「人が死んだときのあの達成感。本当にたまらないわ」
不二咲「えっと……」
ジェノ「まま、怖がらなくてもアタシは萌える男子しか殺さないから、ちーたんは心配しなくても大丈夫よ」
不二咲「僕は男なんだけど……」
ジェノ「え、マジ? それ女装だっての?」
ジェノ「やっべ、マジで萌える。……ねね、殺していい? 殺していい?」
不二咲「え……!?」 ビクッ!
大神「……少なくとも我の目の届くところで殺そうとしない方がいいぞ」 ゴゴゴゴゴ
ジェノ「おお怖い、怖い」
山田「燃える男……ということは拙者が狙われる可能性が……!?」
セレス「字が違いますわ。……それにしても殺す対象じゃないと分かっていても、物騒なことには変わりありませんね」
不二咲「ううっ…………」 ブルブル
葉隠(目に見える恐怖にみんなが怯えている)
葉隠(思えば、一周目ジェノサイダー翔の正体がばれたのは学級裁判中だった)
葉隠(だからジェノサイダー翔よりも、そのときのクロの方に意識が行っていたため殺人鬼という恐怖が薄れていたんだべ)
葉隠(けど、今は一応何も起こっていなく平和……)
葉隠「………………」
葉隠(大丈夫なはずだべ。今の苗木っちともやっていけているみんななら……)
モノクマ「うぷぷっ、いい感じに場が整ってきたところで最後の暴露に行くね!」
一同「…………!」
その言葉にみんながハッとなる。
そう気づいたのだ。モノクマが意図的に秘密をばらす順番を決めていることに。
つまり、最後の大和田は。
葉隠(ジェノサイダー翔以上の秘密を抱えているってことだべ……)
モノクマ「それじゃあ発表するよ!」
モノクマ「超高校級の暴走族、大和田紋土クンの抱えるみんなに言えない秘密とは!!」
モノクマ「自分の兄を殺したことです!!」
大和田「ぐっ…………!!」
大和田(どうする……モノクマの奴はこの秘密を全国に流すと言っていた)
大和田(チームのみんなは『弟に負けそうになった兄が無茶な走りをしたせいで自滅した』と思っている)
大和田(俺が殺してしまったとバレると…………俺が弱かったってバレると…………)
大和田(チームが崩壊してしまう……っ!!)
大和田(このままじゃ兄貴の死も……俺が一人で背負い込んだ罪悪感も)
大和田(すべてが無駄になっちまう)
大和田(それだけじゃない。このコロシアイ学園生活でも、俺が弱かったなんてバレれば、絶好のカモだと思われる……)
大和田(ちっ……! みんながこっちを見て…………)
大和田(って………………)
大和田「……………………………………」
大和田(みんな……?)
全員。
そう、苗木も視線を上げて大和田の方を見ていたのだ。
苗木「………………」
大和田(苗木……?)
みんな大和田の方を見ているため、苗木のことに気付いているのは大和田だけだ。
苗木(何か大きな希望を感じたんだけど……)
苗木(自分の兄を殺した……か)
苗木(さすがだね。超高校級の暴走族なんだからそれくらいしてもらわないと)
苗木(……なのに、どうして君はそんなこの世が終わったみたいな顔をしているんだろう?)
苗木(暴走族にとって、野蛮なことは勲章みたいなものじゃないのかな……?)
苗木(ケンカに勝ったとか、サツの野郎から逃げ切ったとか……そんなのと同列じゃないの?)
苗木(……うーん、よく分からないな)
苗木(じゃあ聞いてみるか)
苗木『どうしてそんなに落ち込んでいるの?』
苗木『兄を殺したなんて暴走族らしいスゴイことじゃないか』
大和田(何だ今の声……?)
大和田(もしかして苗木なのか?)
大和田(………………いや、そんなことどうだっていい)
大和田(そうだ、モノクマの野郎はまだどんな風に俺が兄貴を殺したのか言ってないんだ)
大和田(それに……)
――――――
大和田大亜『ぜってーに……チームを潰すんじゃねえぞ……』
大和田大亜『俺とお前で作ったチームなんだからな……』
大和田大亜『男の……男同士の……』
大和田大亜『約束……だぞ……』
――――――
大和田(……男同士の約束は守らなければならねえ)
大和田(そのためなら)
何だってやってもいいよな?
大和田「………………」
大和田(今さら後に引けるわけねえんだ……)
大和田(ここで後もう一つ嘘を重ねたって………………)
不二咲「そ、そんなこと……」
石丸「フンッ、暴走族らしい行いだな」
朝日奈「け、けど、そんな兄弟を殺したなんて……」
モノクマ「うぷぷっ、気になるよね」
モノクマ「これからボクがその詳細を……」
大和田「それは必要ねえ」
葉隠「え……?」
葉隠(大和田っち何を……?)
モノクマ「もうっ、人が気持ちよくしゃべっているところを……いや、クマが気持ちよく」
大和田「俺が兄貴を殺したんだよ」
葉隠(認めた……?)
葉隠(にしては一周目と様子が違うような……)
モノクマ「無視ってひどくない? ねえ?」
大神「本当……なのか?」
大和田「ああ、そうだよ……」
大和田「俺があの『くっそ弱え』兄貴をぶっ殺したんだよ!!!!」
葉隠「大和田っち……?」
苗木(うんうん、それでこそ超高校級の暴走族だよ)
大和田「やつと俺とで暮威慈畏大亜紋土を作り上げて、一応初代総長には兄貴がついた」
大和田「それから月日が経って兄貴が引退するってことで、俺の代になるときになって組のやつらが言ったんだ」
大和田「『どうせこの組は大和田大亜が作ったものだからな』」
大和田「『弟じゃやっていけないだろ』」
大和田「なんて抜かしたことをな」
大和田「だから兄貴の引退式のとき、俺は一対一でバイクの勝負を挑んだんだ」
葉隠(いきなり兄を弱い者扱いしたからどうしたのか、と思ったけど考えてみて理由が分かった)
葉隠(自分が弱いとばれると組が潰れてしまう。だから大和田っちはあんなことを言っているんだべ)
葉隠(……ここまでの話は記憶にある前周回のと同じ)
葉隠(この人に言いたくない秘密は全国にばら撒くってモノクマは言っているから、話を捏造しても組の人にはばれるって大和田っちは考えているはず)
葉隠(……だけど、それならどうやって兄貴が弱いって話に繋ぐつもりなんだ……?)
大和田「弱っちい兄貴だったけど、バイクの才能だけはあったみたいだな」
大和田「けど、終盤兄貴はミスで俺に後れを取った」
大和田「それで焦ったんだろうな。……あろうことか、兄貴は俺に勝つためにバイクをぶつけようとしてきた」
葉隠(話が変わって……)
大和田「そんなことされたらひとたまりもねえ。……だから、俺は兄貴のバイクを蹴り飛ばしたんだ」
大和田「それでバランスを崩した兄貴は、対向車に跳ねられ……ペシャンコって訳だ」
大和田「そうやって俺が兄貴を殺したっていうわけだ!!」
葉隠(自分の兄を殺した、という結論に結び付けながら、話の大筋は組の人に聞かれても大丈夫なようにできている)
葉隠(不謹慎だけど、上手くやっているべ)
葉隠「………………」
葉隠(……それにしてもどういう心変わりだべ……?)
葉隠(さっきまで秘密を暴露されることをあれだけ恐れていた大和田っちなのに、こんな方法で切り抜けるなんて)
葉隠(もしかして……また何かイレギュラーが混じった……?)
原因が苗木だとは気付いていない葉隠。
大和田「兄貴は確かに組の為に頑張っていた……」
大和田「けど、やつには才能が無かったんだ!」
大和田「所詮、努力なんて才能の前には無意味なんだよ!」
兄貴を貶すためにそう付け足す大和田。
その言葉がある男の導火線に火を付けた。
石丸「……その言葉は聞き捨てならないな」
石丸「今の言葉を取り消したまえ」
大和田「俺が兄貴を殺したってところか? ……取り消せも何も事実――」
石丸「そんなことはどうだっていいのだよ! 君は暴走族だ。そんなことやってたところで今さら驚いたりしない」
石丸「僕が取り消してほしいのはその次の言葉だ! 努力は才能なんかよりもずっと凄いものだ!」
石丸「なまじ才能があったために、世の中を舐めていた祖父のせいで……僕は……!」
大和田「うっせえんだよ!!」
ドガッ!!
大和田が熱弁振るう石丸を突き飛ばした。
石丸「ぐっ……!」
大和田「ごちゃごちゃと俺に文句を垂れやがってよぉ? おまえの考えがどうだか知らねえんだよ!」
大和田「俺より弱えやつが俺に文句をつけんじゃねぇ!!」
石丸「文句ではない! さっきの言葉を取り消せと言っているのだよ!!」
石丸が大和田に掴みかかる。
大和田「ちっ、しつこい奴だな! ……なら、言ってやるよ。才能が無い奴が努力したところで、無駄なんだよ!」
大和田が石丸を殴り飛ばす。
石丸「ぐぁっ……!!」
大和田「…………大体、本当に努力で才能がどうにかなるなら、俺はどうして………………」
大和田「……ちっ、運が良かったな」
葉隠「ちょっと大和田っちどこに行くべ!!」
大和田「どこに行くも、もう話は終わったんだろ。なら好きにしたっていいだろ、モノクマ」
モノクマ「そうですねえ~。……ま、これも面白いからいっか」
モノクマ「ここで今日暴露した秘密は全国に大々的に宣伝するからね、みんな楽しみにしていてね!」
モノクマが姿を消す。
大和田「…………ふんっ」
そのまま体育館から出て行く大和田。
朝日奈「そういえば大丈夫、石丸!」
大神「かなりダメージがあったように見えたが……」
石丸「大丈夫だ、心配はいらない……」
石丸「………………」
石丸「僕もちょっと帰らせてもらうよ。今は一人でいたい」
そう言うと、周りの反応を窺いもせずに体育館から出て行く石丸。
腐川「……はっ、私は何を……?」
葉隠「あ、腐川っちもジェノサイダー翔から戻って……」
腐川「いやぁっ!! こっちを見ないで!!」
朝日奈「腐川ちゃん……?」
腐川「あんたたちの考えは分かっているわよ! どうせ私は殺人鬼だものね。殺される前に、殺そうっていうんでしょ!!」
葉隠「そ、そんなこと俺たちは……!」
腐川「騙されないから……騙されないんだから!!!!!」
逃げるように去っていく腐川。
体育館に残された者たちに静寂が訪れる。
山田「これからどうなるんでしょうか……?」
セレス「あの二人には近づかない方がいいかもしれませんね。人を殺したことがあるってことは、それだけ殺人に対する意識が変わってきますから」
朝日奈「そんな言い方は……大和田はともかく、腐川ちゃんは別人格が殺人鬼なだけだし……」
セレス「その割には簡単に別人格に変わっていましたが……まあ、あなたがそう思うなら交流すればいいじゃないですか。私はごめんですけど」
霧切「それより私は気になることがあるのだけど。……十神君、あなたはどうして腐川さんがジェノサイダー翔だってことを知っていたの?」
十神「さっきも言ったと思うが。あいつが勝手に部屋にやってきて、話し始めたんだよ」
十神「恋愛小説の見すぎか、それで俺が守ってくれるのとでも勘違いしてな」
十神「……ま、そんなことなくてもジェノサイダー翔については詳しく知っていたがな」
霧切「どうしてなのかしら?」
十神「十神の家には警察の極秘ファイルが置いてある。ジェノサイダー翔の事件についても詳しく載っていたからそれでな」
十神「それにこの学園の図書館にもそれと同じものが置いてあった」
十神「あのファイルを見て勉強すれば、ジェノサイダー翔が起こした事件だという風に細工することも可能かもな」
葉隠(……みんながいる場でそんなこと言うなんて、十神っち性格が悪いべ)
不二咲「大和田君……」
葉隠「…………」
葉隠(不二咲っちは大和田っちが出て行った体育館入口の方を見つめている。……色々思うところがあるのだろう)
モノクマ「まもなく夜時間です。生徒のみなさんは……」
そのアナウンスを切っ掛けにみんなバラバラで部屋に戻っていった。
<朝>
葉隠(秘密の暴露から三日が経った)
葉隠(状況はあまり良くないべ)
朝日奈「今日も来ないね、みんな」
石丸「……仕方ない、それでは食べ始めるとしよう」
葉隠(朝食会に来るメンバーがまた減った)
葉隠(元から来ていなかった十神っち、苗木っち、腐川っちに加えて、大和田っちが来なくなった)
葉隠(現在来ているのは八人しかいない)
不二咲「昨日、大和田君に朝食会来るように言おうと思ったんだけど、近づいただけで追い払われたよ」
葉隠「そうか……」
朝日奈「相変わらずじゃないよ! 腐川ちゃんこの三日間ずっと部屋から出てないんだよ!」
朝日奈「食事も持って行ってるけど、全く手を付けてくれないし……」
山田「まだ自分が殺されるという被害妄想ですか?」
セレス「いいじゃないですか。彼女は殺人鬼なんですから、部屋にこもっていてくれた方が安心ですわ」
朝日奈「そういう言い方は……!!」
大神「朝日奈。落ち着くのだ」
霧切「セレスさんもそういう煽りはやめてほしいわ」
セレス「煽りではなく本心だったのですが……まあ、やめますわ」
葉隠(いや、出す必要が無いのだ)
葉隠(身内に殺人鬼が二人いる明かされたこの状況。……疑心暗鬼がすでに動機となっている)
葉隠(そこらへんはオーガが内通者だと明かされた前周回の四回目裁判のときと同じだべ)
葉隠(モノクマが大和田っちの嘘を許した理由も、これを狙ってのことだろう)
葉隠「………………」
葉隠(前周回の記憶が通じなくなったこの展開……)
葉隠(だけど、どうにかしないとな……)
葉隠(働きかけるべき対象は大和田っちと腐川っち)
葉隠(けど……)
朝日奈「ねえ、腐川ちゃん! もう三日も食べてないでしょ!」 ドン! ドン!
朝日奈「私に殺す気なんてないから! せめて部屋から出て話をしてよ!」 ドン! ドン!
葉隠(腐川っちの方は朝比奈っちが頑張っている。だから俺はもう一人の大和田っちの方に行くべきだろう)
葉隠(とりあえず大和田っちの行きそうなところを探すべ)
<大和田の部屋前>
葉隠「とりあえず部屋に籠っているかもしれないし」ピンポーン
葉隠「………………」
葉隠「反応が無い……もしかして他のところに行っているのか?」
葉隠「トレーニングでもしているかと思ったら、違ったみたいだべ……」
石丸「葉隠くん、君もトレーニングしに来たのかね?」
葉隠「あっ、いや、違うべ」
石丸「トレーニングというのはいいものだぞ、己を高めることというのは……」
葉隠(長くなりそうなので無視する)
葉隠「プールの方にも……いないか」
<大浴場>
葉隠「早めの朝風呂も……無いか」
不二咲「………………」
葉隠(不二咲っちがパソコンに向かい合って作業している。……邪魔しちゃ悪いし、退散するべ)
<体育館>
葉隠「ここにもいない……」
<倉庫>
葉隠「ここも……」
葉隠(心当たりを回ったけどいなかった。……恐らく部屋にこもっていて、さっきのベルは無視したんだべ)
葉隠(だったら食堂で待っていればいい。大和田っちだって朝食会には来ていないけど、腐川っちと違って食事は取っているはず)
葉隠(みんなとタイミングをずらして取っているというなら、ここで待ち続けてればいつか来るはずだべ)
不二咲「あ、葉隠くん、どうしたの?」
葉隠「不二咲っち。……不二咲っちこそどうしたんだべ?」
不二咲「僕はその休憩に」
葉隠「俺の方は大和田っちを待ち伏せしてるんだべ。いつかは食事を取りにくるはずだからな」
不二咲「そうなんだ……。じゃあ僕も待つよ。ちょうどキリが良かったからね」
葉隠「……そういえば、作業の方はどうなっているんだべ?」
不二咲「結構順調かな。デバッグの方も80%終わったし」
葉隠(前周回ならあの秘密の暴露の時には、アルターエゴは完成していた……ように見えた)
葉隠(けどそれは完璧ではなくて、デバッグなどが終わってなかった状態だったのかもしれない。今周回ではこういう風に時間がかかっているし)
葉隠(何にせよ、アルターエゴが使えるまでもう少し時間がかかるみたいだべ)
大和田「あっ……」
葉隠「大和田っち!!」
不二咲「大和田君!!」
大和田「……ちっ」
葉隠(大和田っちは舌打ちをすると、そのまま無視して食堂の奥に向かおうとする)
葉隠「ちょっと大和田っち……」
大和田「話しかけんじゃねえ!!」 パシンッ!
葉隠の手が払いのけられる。
大和田「舐めたマネすんじゃねえよ。殺すぞ」
不二咲「大和田君……」
大和田「お前もだ。……今後一切、俺に関わるな」
葉隠&不二咲「「………………」」
不二咲「どうしたんだろう、大和田君……」
不二咲「モノクマの秘密暴露が原因だとしても……変わりすぎだと思うな……」
葉隠「そうだな……」
葉隠(誤魔化したとはいえ、長年隠していた秘密がばれたのだ)
葉隠(色々と落ち着かないんだろう)
不二咲「腐川さんみたいに自分が殺人を犯したから、僕たちに悪く思われていると考えているのかな」
葉隠「……不二咲っちはどう考えてるんだべ? 大和田っちが兄を殺したことについて」
不二咲「最初は驚いたけど……たぶん何かが間違っているんだと思う」
不二咲「だって大和田君お兄さんのこと大事に思っているみたいだったのに、殺したなんてそんなこと……」
葉隠(そういえば男の約束をするときに、ちらりと兄の話をしていたか)
不二咲「葉隠君はどう思うの?」
葉隠「……俺も不二咲っちと同じだべ。真相を知るためにもまずは大和田っちと話さないとな」
不二咲「そうだね」
葉隠(だが、結局その後も大和田とは話すことはできず一日を終えた)
<朝>
葉隠(今日の朝食会も変わらず八人しか来ていない)
石丸「……これ以上は待っても来なさそうだな」
朝日奈「腐川ちゃん……大丈夫なのかな」
大神「だが……我々にはどうしようも……」
不二咲「大和田君も朝食会来ればいいのに……」
石丸「あの不良が来てどうするというのだ。どうせまたみんなの和を乱すだけだろう」
石丸「……ろくでもない人間だとは思っていたが、まさか殺人までしていたとはな」
不二咲「……その言い方は無いんじゃないかな?」
石丸「何だね、僕は事実を言ったまでだぞ」
不二咲「だとしても……」
葉隠「ストップだべ、二人ともストップだべ!!」
葉隠「俺たちで争っても意味が無いべ!」
霧切「……そうね、こうやって不和を起こさせるのもモノクマの狙いよ」
霧切「すまないけど、不二咲さん抑えて」
不二咲「………………」
石丸「……僕は悪くないからな」
葉隠(日に日に雰囲気が悪くなっていく)
葉隠(そもそも四人も朝食会に来ない時点でやばいっていうのに、その中でもいさかいが起きていては……)
葉隠(……前周回のオーガの時を思い出す)
葉隠(これは良くない流れだべ)
葉隠(部屋に籠っているのだろう、と思ってまた食堂で待つ)
葉隠(だが、食堂にやってきた大和田っちに声をかけても無視される)
葉隠(本当……どうすれば…………)
<翌日の朝>
石丸「………………」
不二咲「………………」
朝日奈「……はあ…………」
葉隠「………………」
葉隠(朝食会に集まった者たちにも覇気がない)
葉隠(無言のまま朝食を食べていく)
葉隠(……駄目だ、このままでは)
葉隠(こうなったら強硬手段だべ)
<大和田の部屋前>
葉隠「…………」 ピンポンピンポンピンポーン!
葉隠(嫌がらせか、というレベルでドアベルを鳴らす)
葉隠(後で大和田っちにどんなに怒られようが、話さないと始まらない)
葉隠「……」ピンポンピンポンピンポーン!
葉隠「…………」ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポーーン!!
葉隠「………………」ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポーーーーーーン!!!!!!
葉隠「はあ、はあ……」
葉隠(たっぷり五分ほど押しまくったが反応は無い)
葉隠(これだけの騒音を無視……? さすがに気まずくても、そんなの出来ないだろう)
葉隠(だったら今日は他のところに行っているのか……?)
<体育館>
葉隠「ここにはいないか」
<男子更衣室前の前の扉>
葉隠「たぶんここにも……って、え?」
葉隠(期待しないで開いたそこで、俺は大和田っちを見つけた)
チ ミ ド ロ フ ィ ー バ ー
その血文字と共に。
葉隠(想像の埒外の出来事に腰を抜かす)
葉隠(視界の中心にいる大和田っちは……その胸にハサミが刺さっていて……)
十神「うるさいぞ、葉隠。騒音…………っ!!」
葉隠(図書室にいただろう十神っちが、俺の悲鳴を聞いてやってくる)
葉隠(だが、そんなことなど気にしてる余裕は俺には無かった)
葉隠「また……また防げなかったのか、俺は…………」
葉隠(今度こそは防いでみせるって決めたのに……)
葉隠(これが夢なら………………早く覚めてくれ)
だが、これは現実だと突きつけるように。
葉隠にとって八回目のアナウンスは鳴るのだった。
モノクマ『死体が発見されました。一定の捜査時間の後、学級裁判を開きます!』
>>414 これからの捜査編で推理できるレベルには作ったつもりです。
>>415 書いてて死にそうだな、思われると思ってましたがそうでしたか。
>>416 そうでしたか。
>>417 ……ボク知らなーいっと。
>>418 それは違うぞ!
>>419 確かに。
これから投下していきます。
C H A P T E R 2
週刊少年 ゼツボウジャンプ
非 日 常 編
被害者大和田紋土。
死亡推定時刻は午前二時頃。
全身に無数の殴られた痕、後頭部に打撃痕、胸部にハサミを刺された痕がある。
その他外傷は無し。
葉隠「………………」
モノクマに渡されたモノクマファイルに目を落とす葉隠。
葉隠(……まだ実感が湧かない)
葉隠(だって大和田っちは昨日まで普通に生きていたじゃないか)
葉隠(秘密の暴露以来、様子はおかしかったけど……)
葉隠(確かに生きていたんだべ…………)
葉隠「………………」
霧切「葉隠君」
葉隠「……何だべ?」
霧切「辛いかもしれないけど、今は呆けている場合じゃないわ。こうやって死体が目の前にある以上、学級裁判は開かれる。……その場で勝てなければ私たちはみんな殺されるのよ」
葉隠「……そんなこと分かっているべ」
葉隠(殺人を二度も防げなかった。本当自分は何のために前周回の記憶を持っているのか、責めたくなる状況)
葉隠(それでも立ち止まっている暇は無い。……生き残るためには!)
葉隠「……よーし!」パンッ!
自らの頬を叩く葉隠。
葉隠「やってやるべ!!」
アナウンスを聞いてか、現場にはすでに腐川以外は揃っている。
葉隠「って、腐川っちは?」
霧切「モノクマが裁判に出てもらわないと困るって言って、無理やり食事を取らせて体力を回復させているみたいよ」
葉隠「そうか」
大神「見張り役は我がやろう」
朝日奈「じゃあ私もやる!!」
霧切「じゃあ二人によろしくお願いするわ」
葉隠「それじゃあ捜査開始だべ!!」
各々思うところの捜査を始める。
葉隠「まずは……気が進まないけど、死体からだべ」
葉隠(もう一回磔にされている大和田っちを見る)
葉隠「………………」
葉隠(こうして見ると、一周目の不二咲っちのときとは少しずつ違うな)
葉隠(全身に無数の殴られた痕は無かった。頭部の打撃痕はダンベルで打たれた状況と似ているけど……同じかは分からない)
葉隠(胸のハサミで刺された痕からは、血が良く出ている気がする。……そして磔は延長コードじゃなくて、ハサミで行われている)
霧切「どうやら出血の状況、傷の状況からして致命傷は胸元のハサミのようね」
葉隠「そんなこと分かるのか……?」
霧切「ええ。殴られた痕は生前に……そしてハサミでの磔は死んだあとに行われたようね」
霧切「他に縛られた痕だとかは見られないようだけど……」
葉隠(やっぱ霧切っちはすごいべ……)
葉隠(……見てて痛々しいほどの数が付いている。致命傷はハサミだっていうから、直接殺しに繋がってはいない。……だったら何のために?)
葉隠(考えられる理由としては……拷問とかか? 全く分からないべ)
葉隠(二つ目の違いはハサミでの磔。……つまりこれを施したやつはジェノサイダー翔本人か、ジェノサイダー翔の犯行手口を知っている者)
葉隠(そんなの腐川っちと十神っちしか考えられないが……)
石丸「胸元のハサミと磔のハサミは倉庫で見たことがあるぞ。そこから持って来たんじゃないか」
葉隠「そうか」
葉隠(……って、あれ? ジェノサイダー翔って、殺しのときはマイハサミを使うんじゃなかったか……?)
コトダマ『モノクマファイル2』ゲット!
コトダマ『死体の状況』ゲット!
葉隠(前周回と違って男子更衣室と女子更衣室の前の部屋だから、男でも女でも出入りできる。電子生徒手帳は今回の裁判には関わってこないだろう)
葉隠(それに死体が磔にされている一角以外には、特に変わりが無いように見えるけど……)
霧切「……変ね」
葉隠「何がおかしいんだべ、霧切っち」
霧切「この部屋やけにきれいなのよ。さっきみんなが入ってくる前に床を調べたけど、髪の毛が四種類しか落ちていなかったわ」
葉隠(……普通そんなところに気がつくのか?)
石丸「それは僕が昨日の夜掃除をしたからだな!」
霧切「掃除?」
石丸「ああ。夕食の後トレーニングをしていたのだが、その帰りにこの部屋の汚れが無性に気になってな。いてもたってもいられず掃除したのだよ」
葉隠(掃除をしたくなる……ねえ。そんな感情とは無縁だべ)
霧切「もう一つ……この金髪は大和田君ね」
霧切「そしてこのボサボサ髪は……葉隠君あなたのものに見えるけど?」
葉隠「俺だべか……!?」
葉隠(どうして……!? 俺は昨日の昼間、大和田っちを探しに来てから近づいていないのに)
葉隠「お、俺は昨日の夜この部屋に来てないべ! 信じてくれ!」
霧切「その慌てよう逆に怪しいわね…………って、言いたいところだけど信じるわ」
葉隠「……へ?」
霧切「だって、この髪の毛が落ちていたのは部屋の入り口付近……あなたが腰を抜かしていた辺りにしか落ちてなかったもの」
霧切「つまり死体を見つけた際に落ちたのね。……現に部屋の奥、大和田君の近くには落ちていなかったから」
葉隠「……そういうことか。……全く驚かさないでほしいべ」
霧切「十神君は部屋の入り口で立ち止まっていたから、落ちていないようね」
葉隠「じゃないべ!」
霧切「どうしたのかしら?」
葉隠「霧切っちはさっき四種類の髪の毛が落ちていたって言ったよな! なら、最後の髪の毛は誰のだべ!?」
霧切「最後は……どうやら茶色ね」
葉隠「……茶色?」
葉隠(髪の毛が茶色って……それは)
コトダマ『落ちていた髪の毛』ゲット!
石丸「少し体調が悪くてな」
霧切「そういえば死体発見アナウンスが鳴ったから私はここに来たのだけど、どういう状況でアナウンスは鳴ったのかしら」
霧切「教えてくれる、葉隠君?」
葉隠「死体発見アナウンス……?」
葉隠(あの時は夢のような感覚だったから、記憶が少しあやふやになっているけど……)
葉隠「俺が死体を発見して悲鳴を上げた後、それを聞きつけた十神っちがやってきて……確かその時に鳴った気がするべ」
霧切「なるほど……」
葉隠(何か納得したのかうなずいている)
霧切「ちなみに葉隠君、死体発見アナウンスが鳴るための条件は分かっているわね?」
葉隠「それは…………えっと……」
霧切「クロ以外の三人が死体を発見した場合よ」
葉隠「それだべ!」
葉隠(ド忘れしていた。……つまり、今回は…………)
葉隠「あれ?」
コトダマ『死体発見アナウンス』ゲット!
朝日奈「私? ……うーん、特に何も無いかな」
大神「モノクマファイルに書かれている犯行時間は午前二時ということだったが、そのときは朝日奈とは一緒に我の部屋で寝ていた」
葉隠「一緒に?」
朝日奈「あっ、それがあったね。……うん、腐川ちゃんとどうやって話をしたらいいのか相談してたんだ」
大神「あまりいい案は思いつかなかったがな」
朝日奈「本当は相談が終わったら部屋に戻るつもりだったけど、眠かったからそのまま寝ちゃった」
葉隠「つまり二人にはアリバイがあるってことだな」
葉隠(とりあえずこの二人は容疑者から外れるか)
コトダマ『朝日奈と大神のアリバイ』ゲット!
<図書室>
葉隠(図書室に入ると、そこには先客がいた)
十神「……ふむ」
葉隠(十神っち。……そういえば色々と聞きたいことがあったから、ちょうど良かったべ)
葉隠「おーい、十神っち」
十神「……何だ? 貴重な捜査時間に、無駄なことを聞いたりはしないよな?」
葉隠(早くこの性格が丸くなってほしいべ……)
葉隠「今日の朝はどこにいたんだ? やけに早く駆けつけたけど」
十神「ここだ。俺が静かに読書をしていたら、騒音が聞こえたからな」
葉隠(人の悲鳴を騒音扱い……)
十神「ああ。捜査資料を読んだことがあるからな」
葉隠「それについてちょっと教えてくれないか」
十神「……まあ、いいだろう」
十神「ジェノサイダー翔の犯行の特徴は二つ」
十神「現場に被害者の血を使ってチミドロフィーバーといった血文字を残すこと」
十神「そして被害者が磔にされていることだ」
葉隠「そうか……」
葉隠(全部知ってることだけどな)
十神「その内、被害者が磔にされていることは警察でも上層部しか知らない極秘情報だ」
十神「それが今回の事件では行われているから、ジェノサイダー翔本人の仕業と言いたいところだが……」
葉隠「けど、十神っちは知っているべ?」
十神「そういうことだ。さっきも言ったが、俺は家で捜査資料を読んているからな。そして同じものがそこの書庫にもある、とはこの前言っただろ」
葉隠(確かに秘密の暴露の後に言ってたような気がする)
葉隠「つまりそれを読めば、誰でもジェノサイダー翔の犯行に似せることは可能だったと」
十神「……ところが話はそう簡単ではない」
葉隠「………………?」
十神「俺は日中いつもこの図書室にいた。つまり俺に見られずにそこの書庫に入ることが出来たやつはいない」
葉隠「……けど、十神っちだって夜は自室で寝ているはずだべ。就寝は自室で行いましょう、って校則があるからな」
葉隠「夜時間の決まりを破って、そのタイミングで読みに来たかもしれない」
葉隠「それ以外にも食料を取りに行ったその隙に入ったやつがいるかもしれないべ」
十神「……ほう。驚いたぞ」
十神「貴様がそこまで頭が回るとは思いもしなかった」
葉隠(我慢……我慢……)
十神「だが、それもない」
葉隠「……? どうしてだべ」
十神「俺は図書室を離れるときは、書庫への扉の蝶番に必ずこれを仕掛けた」
葉隠「……シャーペンの芯?」
十神「そうだ。気づかずに扉を開けたらこれが折れるという仕掛けだ」
葉隠「ふむふむ」
十神「蝶番から抜いて開けば折れないが、こんな細いものに気付くやつもいまい」
十神「そしてその結果、シャーペンの芯が折れていたことは無かった。つまり俺がいない間に書庫に入ったやつはいないというわけだ」
葉隠「そういうことか」
コトダマ『シャーペンの芯の仕掛け』ゲット!
十神「それは殺す覚悟を決めた者が出てきたか確かめるためだな。そのためにわざわざ皆がいる場で、図書室にジェノサイダー翔の捜査資料があると言ったんだ」
十神「この状況で裁判を勝ち抜くには、殺人を犯したことのある二人のどちらかの犯行に見せかけるのが一番考えられる手だからな」
葉隠(嫌な性格だべ)
葉隠「ということは……」
葉隠(資料を読めた人がいなかったということ)
葉隠「つまりあの現場を作ることができたのは、腐川っちと十神っちだけということだべ」
十神「……そうやって、結論を急ぐからお前は馬鹿なんだ」
葉隠「俺は馬鹿じゃないぞ!」
十神「いや。他にも資料を読めたやつはいるだろ?」
葉隠「…………?」
十神「日中、俺が図書室にいる間に書庫に入ったやつだ」
葉隠「え? それはさっき……」
十神「俺はさっき『俺に見られずにそこの書庫に入ることが出来たやつはいない』としか言っていない」
十神「つまり俺に見られながらも書庫に入ったやつが一人だけいる」
十神「……それはどうかな?」
葉隠(またか。このパターンもう四回目だべ)
十神「そんな簡単だったら、この俺が悩んでいたりはしない」
葉隠(十神っちが悩むような問題……?)
葉隠「十神っちが見たのは誰なんだべ?」
十神「……気が向いたら教えてやろう」
そのまま図書室を出て行く十神。
葉隠「ちょ、ちょっと待つべ!! そこまで言っておいて、どうして最後まで言わないんだべ!!」
だが、十神は聞く耳を持たない。
葉隠「……ああもう!」
葉隠(追いかけたところで十神っちは教えてくれないだろう)
葉隠「………………」
葉隠「それにしても……」
葉隠「十神っちが見たのは一体……?」
コトダマ『十神の証言』ゲット!
<書庫>
葉隠(目的の資料はすぐに見つけることが出来た)
葉隠「うへぇ……ひどい殺し方してるな……」
葉隠(殺害現場の写真を何枚か見て、やっぱりと思う)
葉隠(どの写真でも使われている凶器のハサミ)
葉隠(やはり今回の大和田っちに使われたものとは違っている)
葉隠「これは使えそうな情報だな……メモ、メモっと」
コトダマ『凶器のハサミ』ゲット!
モノクマ『というわけで、前の時と同じように赤い扉の先に集合してくださーい!』
葉隠「捜査終了か……」
葉隠(これだけの材料で俺は学級裁判を戦えるのか……)
不安を抱えながら葉隠は赤い扉をくぐる。
すでにみんなは揃っていて、エレベーターに乗り込む。
どこまでも降りていくのではないか、と錯覚したそのころ、エレベーターの扉が開いた。
葉隠「また……やって来たのか」
葉隠(八回目の裁判場……)
葉隠(前周回の裁判、俺は全部苗木っちや霧切っちに任せっぱなしだった)
葉隠(そしてこの前の裁判は苗木っちが犯人だと分かっていた)
葉隠(けど、今回の裁判は誰がクロなのか全く見当がついていない……)
葉隠「………………」
葉隠(そういう意味では初めて本気で挑む裁判……)
葉隠(全力を出して……絶対に生き残って見せるべ!!)
そして幕は開く……
命がけの裁判……
命がけの騙し合い……
命がけの裏切り……
命がけの謎解き……命がけの言い訳……命がけの信頼……
命がけの……学級裁判……!!
『モノクマファイル2』
死亡推定時刻は午前二時、無数の殴られた痕、後頭部に打撃痕、胸部にハサミを刺された痕がある。
『死体の状況』
霧切の証言によると、致命傷は胸元のハサミ。殴られた痕は生前に付けられた物で、磔にされた腕のハサミは死後に刺された模様。その他に縛られた痕などはないようだ。
『落ちていた髪の毛』
昨夜に石丸が掃除をしていたため、現場に落ちている髪の毛は四種類。石丸、葉隠、大和田、あと一種類は茶色のようだ。
『死体発見アナウンス』
死体を三人が発見した場合に鳴る。葉隠の悲鳴を聞いて駆けつけた十神が見たところでなった模様。
『朝日奈と大神のアリバイ』
犯行時刻の午前二時ごろ、二人は一緒の部屋にいた。
『シャーペンの芯の仕掛け』
書庫の扉に仕掛けたシャーペンの芯。それによって、十神がいない間に書庫に入った者がいないことが分かっている。
『十神の証言』
十神が図書室にいる間に、書庫に入った生徒が一人いる模様。
『凶器のハサミ』
ジェノサイダー翔がこれまでの事件で使っていたハサミと、今回の事件で使われたハサミは異なる模様。
モノクマ「じゃあまず学級裁判のルールを説明するよ」
モノクマ「皆さんの中には殺人を犯したクロがいます。今から話し合いでそれが誰なのかを決めてもらいます」
モノクマ「その結果正しいクロを指摘できればクロだけがおしおき」
モノクマ「指摘できなければクロ以外がおしおき。そしてクロは卒業できます」
モノクマ「というわけでよろしく!」
石丸「それでは話し合いといこうか。まずは……」
葉隠(マスクをしていても通る声で、石丸っちが裁判の進行をしようとしたが)
山田「その必要はないですぞ!」
葉隠(山田っちが遮った)
山田「……ふふふ、僕のゴーストがささやいています。今回の犯行はジェノサイダー翔の、腐川冬子殿の仕業だと!」
セレス「確かに現場にはチミドロフィーバーの血文字が残されていましたわね」
葉隠(やっぱり最初はそういう話になるよな……)
山田「ではあなた以外の誰があんな猟奇的な殺し方をするというのですか!」
セレス「そうですわ、胸をハサミで一突きだなんて」
腐川「とにかく私じゃないわよ!!」
朝日奈「そうだよ! 決めつけるのはいけないんじゃないかな!」
葉隠(朝比奈っちが腐川っちの援護に入る)
山田「どうして庇うのですか朝日奈殿?」
朝日奈「庇っているんじゃないの! ただ決めつけるのはいけないって言ってるの!」
セレス「ですが状況からして、ジェノサイダー翔の犯行なのは間違いありませんわ」
十神「そうだな、今回の現場ではジェノサイダー翔本人か警察でも上層部しか知らない磔がされてあった」
不二咲「そういえば十神君は警察の捜査資料を見ているという話だったね」
山田「やっぱりね!」
腐川「だけど!」
霧切「ちょっとみんな落ち着いて」
霧切「焦って結論を出した結果、間違ってたら私たちは死ぬのよ。多角的に考えるためにも冷静にならないと」
霧切以外「…………………」
霧切「まずは……そうね。疑惑をかけられている本人から話を聞こうかしら」
山田「本人って……さっきから腐川殿からは話を」
霧切「そうじゃないわ。今疑惑をかけられているのは、彼女とは別の人格でしょ」
腐川「嫌よ! どうしてあんなやつを呼び出さないといけ――」
十神「ごちゃごちゃ言うな。やれ」
腐川「はい!」クシュン!
葉隠(この従順さは今周回も変わらないみたいだべ)
ジェノサイダー翔「呼ばれて飛び出て、じゃじゃじゃじゃーん!」
十神「聞かれたことだけに答えろ」
十神「お前は今回殺人を犯したのか?」
ジェノ「殺人? ってことは誰か死んだっていうの?」
霧切「……そういえば腐川さんは捜査に参加していなかったわね」
十神「裁判が遅れる。モノクマ、現場の写真を用意しろ」
モノクマ「もう、クマ使いが荒いなあ。けど、裁判が白けるのは嫌だし……はい、これ」
葉隠(モノクマが写真を取り出してジェノサイダー翔の前に置いた)
ジェノ「ん、何これ? あの金髪が死んだっつーの?」
ジェノ「しかも殺し方がすっごく私に似てるし」
山田「しらばっくれても無駄ですぞ!」
山田「どうせあなたが殺したに決まっているんでしょう!」
ジェノ「ああん? 似てるだけで、これには決定的な相違があるっつーの」
ジェノ「これじゃあ名店で習った弟子が作ったラーメンくらい違うっての」
葉隠(名店監修よりかは少しランクが上がってるべ)
山田「『これまでと今回の事件に違いなんてあるわけないですぞ!』」
葉隠(いや、写真を見る限り……)
コトダマ『凶器のハサミ』セット!
葉隠「それは違うべ!」 パリーン!
葉隠「今回の事件とジェノサイダー翔のこれまでの事件とは決定的な違いがある!」
セレス「違い……ですか?」
葉隠「そうだべ。それは凶器の……」
ジェノ「ハサミが違うっての。アタシが殺しに使うのはマイハサミ」
ジェノ「こんな何の変哲のないハサミと一緒にするなっての」
セレス「マイハサミ……ですか」
石丸「だが、そんなものがこの学園にあるわけが……」
ジェノ「ああん? いつも持ち歩いてるつうの」
葉隠(マイハサミを取り出して見せるジェノサイダー翔)
霧切「もしハサミで殺すなら、こうやってマイハサミを携帯しているのに他のハサミを使う理由が無いわ」
霧切「……と考えると私にはある可能性が思い浮かぶのだけど」
朝日奈「それって何なの?」
霧切「誰かがジェノサイダー翔の犯行だと見せるために、わざわざハサミで殺したっていう可能性よ」
大神「確かにそれは考えられるな」
不二咲「そうだとしても誰が……」
朝日奈「十神しか考えられないよ!」
朝日奈「だって警察の捜査資料を見ていて、ジェノサイダー翔の犯行手口に詳しいんでしょ!」
山田「確かに良く知っている口ぶりでしたな」
十神「ふんっ、バカの考え休むに似たりとはこのことか」
朝日奈「誤魔化さないで!」
山田「何ですとー!」
十神「こんなのに関わっていると俺にまでバカが移る。……葉隠、反論は頼んだぞ」
葉隠「ええっ、俺だべ!?」
葉隠「そんなの誰も言ってないべ!」
葉隠(無茶ぶりにも程がある)
十神「…………」
葉隠(……けど、どうやら本気で十神っちは反論する気が無いようで……俺がしないと議論が進まないみたいだべ)
葉隠「はあ…………」
不二咲「けど、『十神君が大和田君を殺した』んじゃないの?」
葉隠(それはあのルールからあり得ない……)
コトダマ『死体発見アナウンス』セット!
葉隠「それは違うべ!」 パリーン!
葉隠「今回の死体発見アナウンスが鳴ったのは十神っちが死体を発見した時だった」
葉隠「そして死体発見アナウンスはクロ以外が死体を見つけた場合に鳴る……だから十神っちがクロじゃないのは確定だべ!」
霧切「それに加えて葉隠君の証言によると、彼が発見した時には大和田君はあの磔にされた状態だった」
霧切「十神君が見たときに死体発見アナウンスが鳴ったということは、それ以前に死体を見たことが無いということだから、死体に細工をすることも出来なかったということだわ」
葉隠(つまり前周回みたいなことは出来なかったということか。ふむふむ)
セレス「……そういえば秘密の暴露の後、十神君が言ってましたわね」
セレス「図書室にジェノサイダー翔の捜査資料があるとか、何とか」
セレス「でしたら、クロはそれを見たのではないですか? それなら磔にされていたのも納得ですし」
山田「そうですぞ! 図書室には十神殿が入り浸っていましたから」
山田「きっと『十神殿がいない隙に書庫に入り込んで資料を読んだ』んですぞ!」
葉隠(そう考えるよなぁ……)
コトダマ『シャーペンの芯の仕掛け』セット!
葉隠「それは違うべ!」 パリーン!
山田「どうして葉隠殿がそうでないと言い切れるのですか?」
山田「犯人が誰にも見られないように書庫に入った可能性を考えれば、葉隠殿が反論できるはずがないですぞ」
葉隠「確かにそうだべ。……けど、十神っちのある仕掛けによって、人がいない間に書庫に入った者はいないと分かってるんだべ」
朝日奈「仕掛け……?」
十神「俺は図書室から離れるときはこれを書庫との扉の蝶番に挟んでいた」
葉隠(シャーペンの芯を取り出して見せる十神っち)
十神「これによってそうとは知らない者が扉を開けたときはシャーペンの芯が折れることになる」
十神「だが、秘密の暴露からこっち、そんなことは一切無かった。つまり俺が図書室にいない間に、誰も書庫に入っていないということになる」
山田「その仕掛けはマンガで見たことがありますぞ! デス○ートですな!」
朝日奈「それは分かったけど……だったら、どうしてそんなの仕掛けてたの?」
十神「この状況で裁判を勝ち抜くためにすることといえば、二人いる殺人鬼のどちらかの仕業に見せかけるのが一番手っ取り早い」
十神「だから誰かがその情報を求めているのかを把握するために仕掛けたんだよ。わざわざみんなのいる前で資料があるって餌まで撒いてな」
セレス「あらあら、趣味の悪いことですね」
不二咲「そうだよね。だって、情報を知っている腐川さんと十神君はクロじゃないってことになったし」
不二咲「その他に『ジェノサイダー翔の犯行手口を詳しく知っている人はいない』ってことだったし……」
葉隠(完璧に俺と同じ思考だべ)
コトダマ『十神の証言』セット!
葉隠「それは違うべ!」 パリーン!
不二咲「え、葉隠君が反論するの……?」
石丸「そうだぞ、君がさっき誰も資料を読むことが出来ないと言ったではないか!」
葉隠「いや、俺が言ったのは十神っちがいない間に資料を読むことが出来ないということだべ」
葉隠「だから……十神っちがいる間に資料を読みに来た人が一人いるんだべ!」
石丸「……そういうことか」
不二咲「けど、それって誰なの?」
葉隠「それは本人に聞いてくれ」
葉隠(十神っちの方に視線を向ける)
十神「こうなったら言うしかないようだな」
葉隠(何か俺が悪いみたいな言い方されてるけど知らん知らん)
霧切「それであなたが見た書庫に入って行った人って誰なのかしら」
十神「それは――」
葉隠(そしてますます裁判の行方が分からなくなってしまうその名前を十神っちは告げた)
十神「大和田だ」
葉隠「……え?」
十神「俺とジェノサイダー翔以外に犯行手口を知っているのは、被害者であるはずの大和田だけということだ」
葉隠(大和田っちが書庫にいた……)
葉隠(……そうだ。俺は秘密の暴露からこっち、昼間は大和田っちを探し回っていたけど見つけられなかった)
葉隠(だから部屋に籠っていると判断していたけど……)
葉隠(もしかして図書室にいたのか)
葉隠(大和田っちは行かないだろう、と思って捜索範囲から外していたけど……そういうことだったんだべ)
山田「ということはですぞ、ジェノサイダー翔の犯行手口を知っている腐川殿、十神殿、大和田殿の三人の内」
山田「十神殿は死体発見アナウンスが鳴ったからクロではない。大和田殿は被害者」
山田「ということは……残された可能性は腐川殿しか無いじゃないですか」
山田「ほら、やっぱりね! 僕の考えは合ってたんですよ!」
朝日奈「けど、凶器のハサミから腐川ちゃんは犯人じゃないってことになったじゃない!」
セレス「……もしかして彼女は普通のハサミを使うことで、誰かが自分の犯行に見せかけたと見せかけたのではないでしょうか?」
ジェノ「おおっ、頭いいなセレス」
石丸「それに違いない!」
不二咲「けど、そうなのかなぁ?」
葉隠(確かに可能性を考えると腐川っちしか犯行を起こせたとしか思えない)
葉隠(けど、本当にそうなのか?)
葉隠(………………俺の直感は違うと告げている)
葉隠(しかし、それを説明することができない……)
葉隠(こういうときは……どうすれば)
霧切「ちょっといい、みんな?」
霧切「ひとまず何故ジェノサイダー翔の犯行現場のようになっているのかは置いておかない?」
セレス「……それはつまり、他の証拠からクロを考えていこうってことでしょうか?」
霧切「そういうことよ」
不二咲「他の証拠……って言っても」
山田「『もう何も無いですぞ』」
葉隠(そう言われてみれば……まだあの証拠が)
コトダマ『落ちていた髪の毛』セット!
葉隠「それは違うべ!」 パリーン!
葉隠「現場に落ちていた髪の毛だべ!」
朝日奈「髪の毛?」
山田「あのー、それくらい落ちていて当然だと思いますが……」
石丸「僕が昨日の夜に掃除していたのだよ」
セレス「それでその四種類とはどなたのものなのですか?」
葉隠「まずは掃除をしていた石丸っち」
葉隠「そして被害者の大和田っち」
葉隠「死体発見者で部屋に入ってた俺」
葉隠「最後に茶色の髪の毛だべ」
十神「茶色……か」
ジェノ「茶色の髪の毛っていえば、そこのお○ぱい女とまーくんとちーたんくらいじゃね?」
朝日奈「お、お○ぱい女ってもしかして私のこと!?」
苗木「………………」
不二咲「………………」
葉隠(この三人の誰かがクロの可能性が高い)
葉隠(それは………………)
そのとき、この周回に入ってから一回目の裁判がフラッシュバックする。
葉隠「………………!」
葉隠(もしかしてこの裁判も一回目と同じなんじゃないか?)
葉隠(前周回でクロだった桑田っちが被害者に、被害者だった舞園っちがクロとなった一回目……)
葉隠(それと同じように今回もクロだった大和田っちが被害者になっていて……)
葉隠(だとしたら……)
葉隠「そうだべ……」
葉隠(俺の直感が告げている……クロはあの人だと……!)
葉隠「もしかしてこの髪の毛って不二咲っちのものじゃないのか?」
不二咲「………………え?」
裁判中断!
モノクマ「うぷぷ、盛り上がってきましたね~」
モノクマ「割と裁判をリードしている葉隠クン」
モノクマ「うんうん、それでこそ主人公だよ」
モノクマ「さてさて、みんな悩んでるだろうからヒントを出しちゃおうかな」
モノクマ「ジェノサイダー翔の犯行手口を知っていた三人が、ともにクロとは思えないこの展開」
モノクマ「どうやってあの現場にしたのか分からなくなっているだろうけどね……」
モノクマ「やっぱり本編でも霧切さんが言ってたように、それは一旦脇に置いて考えた方がいいと思うんだ」
モノクマ「それ以外の情報で答えは出てくると思うよ。例えば殴られたときの状況を考えるとか……おっと、これ以上はダメだね」
モノクマ「さて、じゃあボクのつまらない話はこれくらいにしてそろそろ本編に戻ろうか」
モノクマ「……って、こらっ、そこっ! 今うなずいたでしょ!」
モノクマ「こういうときはお世辞でも『えー、モノクマ様の話まだ聞きたかったのに』って言うところでしょ!」
モノクマ「………………えっ、うざい?」
モノクマ「しょぼーん……」
モノクマ「ま、気を取り直して」
モノクマ「前半では力をためていた真の主人公が活躍を始める後半を……」
モノクマ「どうぞ!」
不二咲「ぼ、僕……!?」
葉隠(不二咲っちが慌てたような様子を見せる)
不二咲「そ、そんな僕は昨日の夜から更衣室には近づいてないよぉ!」
葉隠(濡れ衣を着せられたにしては焦りすぎている……この反応ビンゴだべ!)
不二咲「何で葉隠君は僕だと思うの!?」
葉隠「勘だべ!!」
朝日奈「勘って……」
山田「そんな自信満々に言われましても……」
葉隠「俺の占いは三割当たる!!」
セレス「……七割は外れるんですよね?」
石丸「そもそも三人の内の一人だから、誰でも三割で当てられるぞ!」
不二咲「そうだよ! だったら髪の毛は『朝日奈さんの物でもおかしくない』かもしれないよぉ!」
葉隠(いや……それはあの証拠から無いと考えられる……!)
コトダマ『朝日奈と大神のアリバイ』セット!
葉隠「それは違うべ!!」 パリーン!
不二咲「そ、そんな時間にアリバイなんて……!」
朝日奈「えっとね、昨日の夜はさくらちゃんの部屋で寝ていたから」
大神「我が証人だ。……それに我が寝ている間に朝日奈が部屋から出て行ったという可能性も無いと言っておこう」
大神「例え寝ていても、その程度の気配の動きを我が見落とす訳がない」
葉隠(オーガが言うと説得力あるなあ…………)
葉隠「というわけで朝比奈っちの髪の毛ではないということが証明されたべ」
不二咲「だったら苗木君が……!」
葉隠「……今の苗木っちが殺人を犯せる状態だと思うのか?」
葉隠(言いながら、この裁判で一回も発言をしていない苗木っちの方を見る)
苗木「………………」
葉隠(未だに目が虚ろで本当に立っているだけ。全くもって生気というものが感じられない)
不二咲「それは……」
葉隠「ここから苗木っちの髪の毛でもないと考えると……残りは不二咲っちしかないんだべ」
山田「不二咲殿しか考えられませんな」
セレス「殺人とは一番無縁そうだと思ってましたが……」
石丸「どうなんだね、不二咲君!」
不二咲「……それは……そのぉ……」
葉隠「観念するべ、不二咲っち!!」
不二咲「……」
不二咲「…………」
不二咲「………………うん、そうだね」
不二咲「その髪の毛は僕のだと思うよ」
葉隠(認めた……!)
不二咲「けど!!」
不二咲「僕は大和田君を殺してなんかないよ!!」
葉隠「………………え?」
不二咲「確かに僕は昨日の夜から葉隠君が死体を発見するまでの間にあの部屋に入った」
不二咲「けど、それは今日の早朝……大体六時くらいかな」
不二咲「そのときには既に大和田君は死んでたんだよ!」
葉隠(一部だけ認めるということか……だけど)
葉隠「それは苦しい言い訳だべ!」
葉隠「だったらどうして死体を発見したのに、みんなに知らせなかったんだべ!?」
不二咲「…………それは」
葉隠(うろたえる不二咲っち……やっぱり俺の直感は正しいんだべ!!)
葉隠「そんな言い分、どうしたって言い逃れにしか思えない!」
葉隠「『死体を発見して黙っていた人間がいたはず無いんだべ』!!!」
(やれやれ、熱くなりすぎてるわね)
コトダマ『死体発見アナウンス』セット!
霧切「それは違うわ!」 パリーン!
葉隠(霧切っちが……反論……?)
霧切「みんな、今回の死体発見アナウンスが鳴った状況をよく思い返してみて」
山田「えっと……葉隠殿が死体を見つけて悲鳴を上げて……」
朝日奈「そして十神が駆けつけたところでなったんだよね」
石丸「そこから十神君がクロで無いことが確定したわけだが……」
セレス「そう考えると……もう一つ気になる点がありますわね」
霧切「死体発見アナウンスが鳴るための条件はクロ以外の三人が死体発見した場合」
霧切「なのに葉隠君と十神君の二人しか死体を発見していないのに、アナウンスが鳴っている」
十神「おい、モノクマ。おまえが適当にアナウンスを鳴らしたんじゃないよな?」
モノクマ「そんなことするわけが無いよ。ボクはクマ一倍ルールにはうるさいからね」
モノクマ「今回だってクロ以外の三人が死体を発見した時にアナウンスを流したよ」
霧切「……ということから考えられるのは、葉隠君が見つける前に死体を見た人がいたということ」
霧切「それなら十神君が死体を発見した三人目になるから辻褄が合う」
霧切「だから不二咲さんの証言は可能性として考えられるのよ」
葉隠(何となく霧切っちの言っていることは正しいんだろう、ということは分かる)
葉隠「………………」
葉隠(けど、俺の直感は不二咲っちがクロだって言っているんだべ!!)
霧切「どうやら認められないようね、葉隠君?」
葉隠「ああ、そうだべ。絶対霧切っちが見落としているようなことがあるはずだべ」
霧切「……そう。なら私の質問に答えてくれる?」
葉隠「質問……?」
霧切「大和田君の死体の状況よ。……彼には無数の殴られた痕があったのだけど、どうやって不二咲さんはそれを付けることが出来たのかしら」
霧切「正面から挑んだって、二人の力の差は明白よね?」
コトダマ『死体の状況』セット!
霧切「それは違うわ!」 パリーン!
霧切「大和田君に縛られた痕などは無かった、って捜査の時に言ったでしょう?」
葉隠(そういえばそんなことを……)
葉隠「な、なら『ハサミで磔にしてから』……」
コトダマ『死体の状況』セット!
霧切「それは違うわ!」 パリーン!
霧切「ハサミでの磔は死後、殴られた傷は生前に付けられたもの。時間が前後しているわ。これも捜査の時に言ったわよね?」
葉隠(うぐっ……これは正攻法じゃ駄目だな。えーと……)
葉隠「………………!」 ピカーン!
葉隠「ひらめいたべ! 『オーガに頼んでボコボコにしてもらった』んだべ!!」
コトダマ『朝日奈と大神のアリバイ』セット!
霧切「それは違うわ!」 パリーン!
霧切「朝日奈さんと大神さんにはアリバイがある。……これはさっきあなたが言ったことよね?」
葉隠「えっと…………そうだべ!!」
霧切「言っておくけど、睡眠薬などを飲ませてから殴ったというのは無しよ。保健室は封鎖中だし、四階の科学室も開いていない……薬品を手に入れる術がないわ」
葉隠「………………」
霧切「まさかその程度の考えで私の意見に反論していたってわけ?」 ギロリ
葉隠「お、俺も最初から不二咲っちがクロじゃないって信じていたべ!」
朝日奈「うわー……」
山田「すがすがしいほどの意見の転換ですな」
葉隠(怖い…………)
霧切「そういうわけで不二咲さんは本当に死体を見ただけ、ってこと。みんなも分かったわね?」
朝日奈「けど……だったら推理は振りだしに戻ったってこと?」
葉隠(確かに今まで組み立ててきた推理は否定されたわけだし)
山田「そうですなー。他に取っ掛かりも無さそうですし……」
葉隠(俺も他の証拠が思いつかない……)
霧切「そうね……もうこれ以上の証拠は無いわ」
セレス「……あらあら、推理を諦めるのですか?」
霧切「いいえ、そんなわけないでしょう?」
霧切「私が言いたいのは…………もう既に証拠は出揃っているということよ!」
葉隠(ビシッと指をさして決める霧切っち)
葉隠(それにしても証拠が出揃っている……?)
霧切「注目すべきは落ちていた髪の毛よ」
葉隠「髪の毛……? それは不二咲っちが茶色の髪の毛の持ち主だったということで終わりじゃなかったのか?」
霧切「いいえ、それだけじゃないわ。四種類しか落ちてなかったということは、やはりその四人しか死体には近寄れなかったということよ」
霧切「つまりその中にクロもいるはず」
葉隠(……えっと、整理してみるべ)
葉隠(まずは大和田っちの髪の毛……これは被害者だからクロではない)
葉隠(オーガのときのように自殺というのも、自分じゃ磔できないことから考えにくい)
葉隠(次に不二咲っちは死体を見ただけということで話はついている)
葉隠(そして俺の髪の毛。……俺がクロで無いことは俺自身が一番よく分かっている)
葉隠(ラストは……)
葉隠「…………!」
葉隠(ということは今回のクロは……!!)
『怪しい人物を指名しろ』
葉隠「石丸っちが……クロなのか?」
石丸「って、僕がかね!?」
葉隠「ああ、そうだべ」
石丸「どうしてだね、根拠を言いたまえ!」
葉隠「あの部屋に落ちていた四種類の髪の毛の内、俺と大和田っちと不二咲っちを除いたら石丸っちしか残らないからだべ!」
石丸「なるほど、理解した! ……しかしその理屈だと、葉隠君。君もクロ足り得るということだぞ!」
葉隠「お、俺……っ!?」
朝日奈「……そういえば、葉隠って不二咲ちゃんをクロだと決めつけてたりしてたよね」
山田「あれは罪を擦り付けるため……だったと考えると必死だったのも分かりますな」
葉隠「おおお、俺はクロじゃないんだべ!! 信じてくれ!!」
セレス「そうやって必死に否定する辺り、怪しいですわね」
大神「まさか葉隠。貴様なのか?」
葉隠「クロは石丸っちなんだって!」
石丸「何を言う! クロは葉隠君、君なんだろう!!」
霧切「……はあ、このままだと議論が平行線ね」
霧切「私は……そうね。クロにはある痕が残っていると思うわ」
葉隠「痕?」
霧切「さっき不二咲さんが殴った痕を付けることが出来なかった、と言ったときの話を思い出した欲しいのだけど」
葉隠「……その話が何か関係あるのか?」
霧切「着目すべき点は、大和田君は殴られたときに抵抗することができた、ということね」
霧切「超高校級の暴走族である彼が殴られて抵抗した場合どうなるか……ここまで言えば分かるわね?」
石丸「さささ、さっぱり分からないぞ!!」
葉隠(石丸っちが動揺している……?)
石丸「ク、クロは葉隠君で決まりなんだ!! は、はやく投票に移りたまえ!!」
葉隠(今の話に何か心当たりがあったんだべ。……それはつまり……)
葉隠「…………!」 ピカーン!
葉隠(そういえば今日の石丸っちは……!!)
葉隠「石丸っち、ちょっと見せてほしいものがある!」
石丸「き、君は往生際が悪いな! お、おとなしくクロだと認めるんだ!!」
葉隠「それは……あれを見せてもらうまで納得できないべ!!」
『マシンガントークアクション開始!』
「早くクロだと認めたまえ!」
「忘れろ、忘れろ、忘れろビーム!!」
「超高校級の委員長、石丸清多夏だ!」
「兄弟を殺すわけが無い!」
「ははは、冗談を」
「勉強こそ学生の本分だ!」
「そんなことあるはずがない!」
「風紀が乱れている!」
「健全な魂は健全な肉体に宿るのだよ!」
『僕がクロな訳が無いだろう。言いがかりをつけるなら、証拠でも出したまえ!』
△マス
下□ ○の
×ク
『マスクの下』
葉隠「これで終わりだべ!!」 パリーン!
COMPLETE!!
石丸「うっ……!」
葉隠「俺の考えが正しければ、抵抗して大和田っちに殴られた痕がついているはずだべ!!」
石丸「こ、これはだな……。みんなに風邪がうつらないようにという僕の配慮で……」
葉隠「そんなのいいから、早く取るべ」
石丸「…………」
十神「もし取れないというなら、それでもいいぞ。このまま投票すれば、誰が怪しいかは明白だからな」
石丸「…………………分かった」
葉隠(そう言うと石丸っちはマスクを手にかけて……取った)
朝日奈「うわっ…………」
山田「痛々しいですな……」
石丸「…………」
葉隠(マスクの下からは唇の端が切れていたり、アザが出来ていたり……)
葉隠(まるで誰かに殴られたような痕が残っていた)
石丸「兄弟だ」
葉隠(兄弟……?)
石丸「はぁ……殴られはしたけど、クロではない……と言っても、誰も信じてくれないだろうな」
霧切「死体の付近に葉隠君の髪の毛が落ちていなかったから、それからもあなたしかクロ足り得ないということが分かるわね」
葉隠(そんな証拠あるなら先に言ってほしかった……)
石丸「…………そうだな」
石丸「僕が兄弟……大和田紋土を殺したクロだ」
モノクマ「うぷぷ、話はまとまったかな?」
モノクマ「それじゃあ投票タイムに移ります!」
モノクマ「クロだと思う人のボタンをポチっと押しちゃってください」
葉隠「石丸っち……」
葉隠(どういうことなんだ?)
葉隠(さっきから使っている兄弟という呼称……)
葉隠(それはこの周回ではできなかった絆のはずなのに……)
石丸「すまなかった、兄弟。君の遺志に……答えられなかった」
みんなの顔の移ったスロットが回る……回る。
そして徐々に遅くなっていき。
石丸清多夏の顔のところでスロットは止まった。
モノクマ「何と大和田紋土クンを殺したクロは石丸清多夏クンでした!」
モノクマ「二連続で当てるなんてオマエラも良くやるねえ~」
全員「………………」
沈黙が場を支配する。
最初に口を開いたのは葉隠だった。
葉隠「どうして……大和田っちを殺したんだべ?」
石丸「………………」
葉隠(石丸っちは答えない。代わりに答えたのはモノクマだった)
モノクマ「気になるよね、気になるよね!」
モノクマ「だから特別にボクが昨日の夜起きたことを説明してあげるよ!!」
モノクマ「そうだねえ、どこから話せばいいのかな……?」
モノクマ「うん、やっぱここからだよね」
モノクマ「昨日の夜、大和田紋土クンが果たし状を貰ったことが物語の始まりだったんだよ!!」
葉隠「果たし状……?」
大和田(今日も書庫で資料探し……)
大和田(暴走族に似合わないことをしているという自覚はあるが……まあ、気になってた情報も入手できたし今日で終わりだな)
大和田(他にも興味深い情報も見つけたが……)
大和田「……ん?」
大和田(何だ、俺の部屋のドアに手紙が挟まって……)
大和田「ちっ、とりあえず……」
大和田(その手紙を抜き取る。その内容は封を開ける前にある程度予想がついた)
大和田(というのも表に達筆な字でこう書かれていたからだ)
大和田「果たし状……だと?」
大和田「………………」
大和田(さて、問題は誰からかということだ)
大和田(一番考えられるのは武闘派の大神あたりだが……やつはこういう真似はしない気がする)
大和田(もし俺を呼び出すとしても、面と向かって呼び出すタイプだろう)
大和田(だとしたら……一気に誰なのか分からなくなるな)
大和田(他のやつはこういう荒事は似合わない奴らばかりだし)
大和田「……まあ、何にせよ中身を見れば分かる話か」
大和田(果たし状の封を切って、中身を見る)
大和田(中身も果たし状には似合わないしっかりとした文字で書かれていた)
大和田(それを違和感に思っていた俺だが、最後に書かれた差出人のところを見て合点がいった)
大和田「石丸清多夏……確かに、あの堅物委員長が書きそうな字だな」
大和田(呼び出された場所は体育館、時間は今日の夜時間が入ってからということだった)
大和田(果たし状を読んだ時には既に夜時間を迎えていたので、部屋に入らずそのままこの場所に赴いた)
大和田(……この呼び出しを無視するつもりは端から無い)
大和田(暮威慈畏大亜紋土の総長が、勝負から逃げるなんてことがあっちゃいけねえからな)
大和田(そして俺は体育館に通じる扉を開ける)
石丸「遅かったな」
大和田(その男は体育館の中央で待っていた)
大和田「さっき手紙を読んだものでな」
石丸「逃げ出したのではないかとちょうど心配していたところだ」
大和田「おうおう抜かすねえ……?」
大和田(普通だったらこのまま殴り合いを始めていただろう。挑発には拳で返す信条だ)
大和田(しかし……俺は体を動かす代わりに、口を開いていた)
大和田「それでどういう理由であんなもんを寄越したんだ?」
石丸「それは君が一番分かっているのじゃないかね?」
大和田「俺が……?」
大和田(特に思い当たる節は無いが……)
石丸「この前君が言っていたではないか。『俺より弱え奴が俺に文句をつけんじゃねえ』と」
大和田「………………」
大和田(そんなこと言ったか……? 勢いで話してたから覚えてないが……)
石丸「だからここで僕が君より強いことを証明して、『努力なんて才能の前には無意味』というのが間違いだったと認めてもらうのだよ!」
大和田「……その為だけに果たし状を出したと?」
石丸「ああ、そうだ!」
大和田「おまえ……勉強できるのに馬鹿だな」
大和田(俺なんかの意見を気にしてこんなことをするとは……)
大和田(だが、それもあの出来事の前にはそう思っても仕方がないのか……?)
石丸「どうした、来ないのか? 負けを認めるなら、僕も鬼ではない。努力こそが最上だと言えば、この場から無傷で返すぞ」
大和田「……おまえに呆れていただけだ」
大和田(理由がどれだけ馬鹿らしくても、元より逃げるつもりなど無い)
大和田「そこまで舐めたことを言ってくれたんだ……簡単にくたばるなよ!」 ダッ!
大和田(その間石丸は微動だにしない)
大和田(受けて立つということか……)
大和田「はっ……!!」
大和田(入学式のとき、苗木を一発でKOした拳を繰り出す)
大和田(あのときとは違って助走も乗って、スピードが増したそれは、石丸の上体に吸い込まれるようにして……)
石丸「ふっ……」
大和田「……っ!?」
大和田(その直前で避けられた…………しかも、紙一重というオマケ付きだ)
石丸「どうした? 長い学園生活で体が鈍ったのか?」
大和田(絶好のカウンターチャンスだったはずなのに、そのまま距離を取る石丸)
大和田「おまえ……その動き……」
石丸「君に良いように殴られたあのときとは違うぞ」
石丸「あの日以来トレーニングを、努力を続けていてね……悪いが、君に負ける気がしない」
大和田「努力……か」
大和田(よほど努力に思い入れでもあるのだろう)
大和田「……確かに、最近は本を読んでばかりだったからな。鈍っているのかもしれないな」
大和田「だが、そんなの俺の才能を考えればちょうどいいハンデだ」
石丸「次からは攻撃を加えるぞ。本気でかかってこい」
大和田「……抜かせ」
どちらからともなく、距離を詰めあう。そして拳と拳が交差した。
モノクマ「そこから先は殴り殴られ、雨あられ」
モノクマ「大和田クンが石丸クンを殴り飛ばしたかと思えば、次の瞬間は石丸クンの足が大和田クンの腹を捉え……」
モノクマ「もう見てて興奮したね~」ハァハァ
霧切「……そういうことだったのね」
葉隠「何がだべ、霧切っち」
霧切「今回の大和田君の死体の状況よ。ハサミの傷が死因だったのに、どうして殴った痕があったのか」
霧切「その理由は事件と関係が無い、ケンカで付いたのだというなら納得だわ」
葉隠「確かに……」
葉隠(拷問でもあったのかと考えてたけど、そういうことだったのか……)
朝日奈「それでそこからどうなったの?」
モノクマ「そうだねえ……」
モノクマ「数十分くらい殴りあって……お互いが満身創痍になったころから話そうかな」
大和田「はあ……はあ……」
石丸「はあ……はあ……」
大和田(強い……この強さはここ数日の努力とかだけじゃないだろう)
大和田(元々体を鍛えていたに違いない)
大和田(勉強もできるはずなのに……何てやつだ)
石丸「お互いもう限界のようだな」
大和田「俺はまだまだだぞ……」
石丸「ふっ……やせ我慢だな。まあいい……次で終わらせる」
大和田「俺もちょうどそのつもりだったところだ」
石丸「………………」
大和田「…………………」
石丸「………………」
大和田「………………」
石丸「……!」 ダッ!
大和田「……!」 ダッ!
対する石丸が放ったのも右ストレート。
お互い防御のことは全く考えていない。
どちらが先に当てるのか、倒れるのか。
そんな勝負。
大和田「食らええええっっっっ!!!」
石丸「届けええええっっっっ!!!」
大和田(俺は……俺はこんなところで負けてられねえんだ……!!)
そして。
大和田「ぐっ……!!」ボコッ!
石丸「ぐはっ……!!」ボコッ!
お互いの拳は同時に相手の顔に吸い込まれていった。
大和田「あ、れ……?」
大和田(どうして俺は体育館の天井を見ているんだ……?)
大和田(そうか……負)
大和田「いや……そんなわけ、ねえ……!」
大和田「俺は負けるわけには行かないんだ……!!」
大和田(それが俺に課せられた十字架……暮威慈畏大亜紋土の総長としての使命なんだから……!)
大和田「くそっ……立てよ……立て!」
大和田(体に全く力が入らない……立ち上がることができない……)
石丸「立てないのか……?」
大和田「……っ!!」
大和田(くそっ、このざまじゃ石丸にトドメを指されちまう。……その前に動かないと……動かないと……!!)
石丸「僕も同じだよ」
大和田「………………え?」
石丸「体に全く力が入らないんだ……どうしてだろうね?」
大和田「……はっ、ざまあねえな」
石丸「そういう君はどうなのかね? 今なら絶好のチャンスだぞ」
大和田「……俺も体が動かねえんだ。どうしてだろうな?」
石丸「僕にも分からない」
大和田「………………」
石丸「………………」
大和田「はははっ!!」
石丸「はははっ!!」
大和田「面白れえな! お互い中途半端にくたばって、決着を付けられないなんて!」
石丸「ああ、全くだ!」
石丸「何だね?」
大和田「俺は総長のメンツとして、おまえとのケンカに負けられない」
大和田「そしておまえは俺に文句を付けるために負けるわけには行かない」
石丸「……そうだな」
大和田「そこでだ、提案があるんだが」
石丸「聞こう」
大和田「この勝負……引き分けにしないか?」
石丸「引き分け……?」
大和田「ああ、それならお互い負けたことにならない」
石丸「何と……それは確かにそうだな!」
大和田「だろ」
石丸「名案だ! このケンカは引き分けだ!」
大和田「ああ! このケンカは引き分けだ!」
大和田「……そのことについてなんだが」
石丸「何かね?」
大和田「おまえの祖父について調べさせてもらった」
石丸「……っ! どこでそれを!」
大和田「あのとき少し口走ってただろ」
大和田「それをもとに図書室で調べたんだ。ここの図書室の書庫には本当この世のありとあらゆることが情報として収められててな……時間はかかったが、お前の祖父のことについても書いている資料があった」
石丸「………………」
大和田「総理大臣だったんだってな。……それで汚職をして辞めさせられ、その借金が今もお前を苦しめている」
大和田「才能があるが故に、世の中を舐めきっていて、それで起きた悲劇だった、と」
石丸「……その通りだ」
石丸「だから僕は祖父のようにならないように努力を続けているのだよ」
大和田「……その気持ち分かるぜ」
石丸「……え?」
大和田「才能があってそれが故に成功を続けていた兄貴」
石丸「……君のお兄さんは才能が無かったんじゃないのか?」
大和田「ああ、あのときはちょっと事情があってな。ちいと嘘をつかないといけなかったんだ」
大和田「俺は兄貴に追いつこうと努力を重ねたが……それでも敵わなかった」
大和田「いつしか俺は努力することが無駄だと感じてしまうようになっていた」
石丸「………………」
大和田「だから、努力することを信じているおまえが羨ましくて……何がそこまでさせるんだ、って思って調べてたんだ」
石丸「……そうだったのか」
大和田「……え?」
石丸「君だってその暮威慈畏大亜紋土……だったか。お兄さんと同じ、その総長なんだろう?」
石丸「それでお兄さんと同じように族をまとめていた」
石丸「なら、君はお兄さんに追いつけていたんじゃないか?」
大和田「そんなことは……だって、俺は兄貴より劣っている場所があって……」
石丸「その分、他に秀でているところは無かったのか?」
大和田「それは……」
石丸「人が他の人の完全上位互換になるなんて端から不可能だ。……それでも相互互換にならなれる」
石丸「君はとっくにお兄さんに追いつけてたのだよ」
大和田「そう……なのか?」
石丸「ああ! この僕が言うのだから、間違いない!」
大和田「そう、だよな……おまえは馬鹿だけど、頭はいいんだ。間違っていることは言わないよな」
石丸「その通りだ!」
大和田「そっか……俺は兄貴に追いついて……」
石丸「……兄弟?」
大和田「ああ。俺とおまえはケンカを引き分けたわけだろ」
大和田「つまり対等な力関係ってことだ」
大和田「そんな関係を俺は兄弟って呼んでいるんだ」
石丸「兄弟……兄弟か」
石丸「良い響きだな! 兄弟よ!」
大和田「だろっ!」
大和田「つうわけで、俺とおまえは今日から兄弟だ!」
石丸「ああ!」
モノクマ「と、まあ胸糞悪い青春展開が行われたというわけですよ」
葉隠「そうだったのか……」
葉隠(今周回は築かれなかった二人の絆……)
葉隠(けど、それはちょっと運が悪かっただけで……こうやって紆余曲折はあったけど兄弟になれている)
葉隠(何というのか……そういう運命だったんだろう、としか言えないな……)
大神「だが、おかしくないか?」
大神「最初のいがみ合っていたときならともかく、こうして和解したのにどうして石丸は大和田を殺したのだ?」
山田「確かにおかしいですね……」
モノクマ「うぷぷ……それはこの後二人を悲劇が襲ったからなのですよ!」
葉隠「悲劇……?」
モノクマ「それではそれでは最終パートに話を進めていきましょうか!」
大和田「立てるか?」
石丸「ああ、何とか」
大和田(お互いに肩を貸し合いながら立ち上がる)
大和田「酷いありさまだな」
大和田(顔は腫れ、服で隠れているだけでその他の部分も殴られた痕がたくさんついているだろう)
石丸「全くだ。兄弟のパンチが凄すぎるからだぞ」
大和田「ははっ、すまねえな」
大和田「それじゃあ帰るとするか。今日はぐっすりと眠れそうだ」
石丸「そうだね。僕もよく眠れそうだ」
石丸「しかし、その前にこの汗はしっかり拭きとらないと風邪を……はっ!」
大和田「どうかしたのか、兄弟」
大和田「……話が見えねえんだが?」
石丸「忘れ物だよ、忘れ物!」
大和田「忘れ物?」
石丸「君と戦う前に最終調整をしようと、夜時間になるまでトレーニングをしていたのだが」
石丸「そこにタオルを忘れたのだよ!」
大和田「そうか。なら取りに行けばいいだろ」
石丸「いや、だが兄弟の手を煩わせたくない……だから更衣室には僕だけが行こう!」
大和田「……水臭いこと言ってんじゃねえよ」
大和田「それくらい付いて行ってやるよ」
石丸「……兄弟!!」
大和田「それでタオルはどこにあるんだ?」
石丸「えっと……あそこの棚の上だな」
大和田「どうしてそんなところに置いてんだよ……」
石丸「少々高いところにおいてしまったな……」
大和田(兄弟は背伸びしてやっとのことでタオルを取る――)
石丸「やったぞ!」
大和田(――ところまでは良かった)
石丸「……おっと」ガタッ
大和田(俺とのケンカのダメージが今頃来たのか、ふらついた兄弟は棚に寄りかかる)
大和田(体重をかけられた棚には、バランス悪く載せられていたダンベルがあり……それがぐらついて――)
大和田(――落ちた。……兄弟の頭を目がけて)
大和田「兄弟……っ!!!」
石丸「……え?」
大和田(状況にようやく気が付いたようだ。……しかし体が付いて行っていない)
大和田(このままでは……!!)
咄嗟の判断だった。気が付けば体が動いて――
大和田は石丸の体を突き飛ばしていた。
ゴスンッッッッッ!!!!!!!!
石丸「……兄弟っ!!?」
石丸の目に飛び込んできたのは、頭から血を流す大和田の姿。
石丸を突き飛ばした大和田は、身代わりになるように自分の頭にダンベルを受けていた。
大和田「よう……………………無事、か?」
石丸「兄弟……どうして!!」
大和田「分かん、ねえ……気が付いたら、体が動いていてな……」
石丸「分かった! 分かったから、もうしゃべるなっ! こういうときは安静にしていた方がいい!!」
大和田「そうか……」
石丸(こういうときはどうすれば……! 確か倉庫には救急バッグがあるはずだ……! そこから包帯でも持ってきて兄弟の血の流出を止めて……)
石丸(いや、それより先に傷の手当てが先か……?! 冷やした方がいいんだったか……?! ……落ち着け、落ち着いて兄弟を助ける方法を……!)
大和田「なあ……」
石丸「黙りたまえ!! 聞いていなかったのか!!」
大和田「けど……頼みがあるんだ……」
石丸「頼み…………?」
大和田「ああ。……ハサミを……持ってきてくれねえか」
<更衣室前>
石丸(兄弟の頼みを聞き入れて部屋までハサミと救命バッグを取りに行く)
石丸(それから帰ってきたところで、兄弟が男子更衣室から這って出てくるところを目撃した)
石丸「兄弟!! 安静にしていろと言っただろう!!」
大和田「だけど……男子更衣室にはあいつは入れないからな……」
石丸「あいつ……?」
石丸「それよりハサミを持ってきたぞ! これでどうすればいい!?」
大和田「倉庫にあったハサミ……か。マイハサミには程遠いが……まあ、仕方がない……」
石丸「さっきから何を言っているのだね!!」
大和田「そのハサミで…………」
石丸「このハサミで!?」
大和田「俺を殺せ」
石丸「兄弟を殺……え?」
石丸「何を言っているんだ……兄弟……?」
大和田「それで……俺を、磔にするんだ」
石丸「き、気が錯乱しているのだな!」
大和田「その後、俺の血を使って文字を……チミドロフィーバーの血文字を…………」
石丸「そうだ、早く手当てをしないとだな!」
大和田「それであいつ……ジェノサイダー翔の犯行に見せられるだろう」
石丸「兄、弟…………」
大和田「お前の祖父のことを……調べてるついでに見つけた情報が、役立って……良かった…………」
石丸「……さっきから、自分を殺せといって……君は本気なのかね!!」
大和田「ああ、本気だ。…………何せ、俺はもう、死んじまうみたいだからな」
大和田「ダンベルを食らったとき……一瞬兄貴の顔が見えたんだ……」
大和田「それで悟ったんだ…………もう、俺は死ぬんだなって……」
石丸「それと君を殺すことに何の関係が……!!」
大和田「このまま俺が死んだ場合…………兄弟、おまえがクロになるだろう」
石丸「僕が……っ!?」
モノクマ「うぷぷっ、すごいよね」
いつの間にか現れたのか、その場にはモノクマがいた。
モノクマ「自分を庇わせて殺すなんて……このボクでも思いつかなかった斬新な殺し方だよ!!」
モノクマ「うんうん、すごいね。……あ、大丈夫だよ、想定してなかった殺し方だけど、ちゃんと卒業は認めるからさ」
そのまま出現した時と同じように唐突に消えるモノクマ。
石丸「僕がクロ……?」
大和田「ああいう手合いのやり口は………よく、分かっている」
大和田「どうせ兄弟がクロになるなら…………なるべく、兄弟がクロだとばれない殺し方が良い」
石丸「だから…………僕にハサミを用意させて……」
大和田「腐川……いや、ジェノサイダー翔の犯行と、勘違い、させるためにな…………」
石丸「………………」
大和田「だから……それで……俺の胸を…………」
石丸「出来るわけないだろうっっっっ!!!!!!」
大和田「兄弟……」
石丸「そんなこと出来るはずが無い!!」
石丸「それより諦めるにはまだ早い!」
石丸「しっかりと傷の対処をすればここから生き残る可能性だって…………!」
大和田「いいんだ……」
石丸「よくないっっ!!」
石丸「だってさっき兄弟になったばかりなんだぞ! 僕はまだまだ兄弟と交わしたい言葉、やりたいことが一杯あるというのに……!!」
大和田「いいんだ……だって俺は……」
大和田「弱いから…………な」
大和田「関係……ある……」
大和田「俺は、弱いから…………ここで生き残っても、このコロシアイ学園生活を、生き残ることは……出来ないだろう」
石丸「兄弟は弱くなんかない!!」
大和田「あり……がとな……」
大和田「けど、俺はおまえと違って……弱いんだ……」
大和田「だから……不二咲を妬んで…………あんなことに……」
大和田「努力を信じ続けた兄弟と違って……俺は弱いんだ…………」
石丸「だとしても……!」
大和田「それに俺は……兄弟に生きて外に出て欲しい……」
大和田「おまえは、自分に才能が無い……って言ってたけど」
大和田「努力をする……って、才能があると…………俺は思う……」
大和田「そんなやつがこんなところで、死んだら……世界の不利益だ」
大和田「兄弟は、こんなところを出て……世界で活躍すべきなんだ……」
大和田「そのためだって、思ったら…………俺の命なんて惜しくねえ」
石丸「僕は…………」
石丸「僕は兄弟を犠牲にしてまで生きたいとは思えない……!!」
大和田「……大丈夫だ。おまえは俺の犠牲も力にして生きていける……」
大和田「そういう強い、人間だ…………」
石丸「だが……だが……っ!!!!」
大和田「兄弟に頼む最初で、最後のお願いだ」
大和田「俺を」
大和田「殺してくれ」
大和田「ああ、このままじゃ俺は無駄死にだ」
石丸「………………」
大和田「………………」
石丸「………………」
大和田「………………」
石丸「分かった……」
大和田「…………………」
石丸「僕は……兄弟を殺そう」
大和田「そうか……」
大和田「だったら一思いに……やってくれ。俺だって……あまり苦しみたくないからな……」
石丸「その前に一つだけ言わせてほしい」
大和田「何、だ…………?」
石丸「兄弟は弱い人間なんかじゃない」
石丸「こうやって死を目前に堂々としているのだからな」
大和田「………………っ!」
―――――――――――――
葉隠『強い人間ってのは最初から強い人間だと思うか?』
葉隠『確かにそういう人間もいるかもしれないけど、それは少数だべ』
葉隠『大多数の強い人間っていうのは、弱い自分を認め克服して……それを繰り返して弱い部分をなくした人間だべ』
葉隠『自分の弱さを認めるのに遅いも早いもないべ』
葉隠『だからもし大和田っちが自分の弱さを嘆いているなら……今からでも遅くない。向かいあうのをオススメするべ』
―――――――――――――
大和田「そっか……」
大和田「さっき俺は、弱さを認めた……な」
大和田「だから強くなれた…………」
大和田「おまえの言ってたことは間違いじゃなかった……葉隠……」
大和田「短い間だったけど、おまえと……兄弟になれて良かったぜ……」
石丸「それは……ぐすっ……こちらのセリフだ……ぐすっ……」
大和田「何だ、泣いているのか……兄弟……?」
石丸「当然だろう! ……ぐすっ…………だって兄弟ともう二度と会えないのだから……!」
大和田「何を、言っているんだ……天国で会えるだろう……?」
石丸「天国……?」
大和田「一足先に行って……俺が暮威慈畏大亜紋土天国支部を作っておく…………」
大和田「副総長の座は、開けておくが…………あんまり早くこっちに来るなよ……」
石丸「そうだな……ぐすっ……この世で委員長として真面目に過ごした後くらいは…………あの世で不良になっても誰も文句を言うまい…………ぐすっ…………」
大和田「だろうな……」
石丸「……ぐすっ…………」
大和田「………………」
石丸「それじゃあ兄弟……しばし、お別れだ」
大和田「ああ…………またな」
石丸「…………」
ズブッ
モノクマ「と、これが昨日あったことの顛末だよ」
モノクマ「この後、石丸君が現場を作るエピソードとかもあったけど、蛇足だしいいよね?」
葉隠「こんなの……あんまりだべ……」
葉隠(二人とも折角分かりあえたっていうのに……)
葉隠(コロシアイ学園生活なんて無ければ……二人はもっと生きて……)
霧切「……無粋だけど分かったことが一つあるわね」
葉隠「大和田っちの後頭部の打撃痕だべ……」
霧切「……そうよ」
葉隠「これまた事件と関係なかったはずの傷……それは石丸っちを庇ってできたもの……」
霧切「そういうことみたいね……」
一同「………………」
モノクマ「あれ、どうしたの? みんなお通夜みたいにテンションが落ちて?」
朝日奈「そんなの……当たり前じゃない……!!」
山田「そうですぞ!!」
モノクマ「怖いなぁ……。これがキレる若者ってやつなんだね」
モノクマ「……って、それはどうでもいいんだよ! これから一大イベントがあるんだからどんどんテンション上げて行かないと!」
セレス「イベント……ですか」
大神「まさか……」
モノクマ「そうだよ! クロである石丸クンのおしおきだよ!!」
全員の視線が石丸の方を向く。
石丸「……ははっ、あまり早く来るなって兄弟に言われたのに……これでは兄弟に怒られるな」
葉隠「石丸っち……」
石丸「だがしょうがないのかもしれないな。罪には罰を……それが世界のルールだ」
モノクマ「覚悟が決まってて面白くないなあ」
モノクマ「もっと絶望して欲しかったのに……」
モノクマ「……ま、お楽しみは後に取っておいて、まずはおしおきから行こうか」
葉隠「……?」
葉隠(どういうことだべ? おしおき以上の何かがあるっていうのか?)
石丸「すまない、君たち。……君たちを犠牲にしてまで、卒業しようとした僕は赦されないだろう」
石丸「だから僕はいいのだ」
石丸「その代わり……せめて兄弟を悪く思わないでくれ」
モノクマ「では張り切っていきましょう! おしおきターイム!」
石丸「それが……僕からの最期のお願いだ」
『石丸清多夏クンがクロに決まりました。おしおきを開始します』
総理就任パレードの最中だろうか。モノクマだらけの市民に手を振る……いや、振らされる石丸。
石丸(……この景色を本当の物に、現実の物にするのが兄弟の願いだったのかもな……)
石丸(しかし、もう叶いそうもない)
石丸「………………」
石丸(……死ぬ間際だというのに、不思議と死に対して恐怖は湧いてこなかった)
石丸(代わりに恐怖に思っているのは、天国で待っているはずの兄弟……)
石丸(きっと怒るのだろうな……)
石丸(だけどその後は、顔を崩して笑い、僕に向かって手を差し伸べるだろう)
石丸(そして僕はその手を取って……委員長の肩書きは捨てて……)
石丸(暮威慈畏大亜紋土の副総長として、これからは――――――)
バンッ!!
葉隠「………………」
葉隠(石丸っちはスナイパーに扮したモノクマに撃たれた)
葉隠(最後の最後まで、石丸っちが穏やかな表情だったのが印象的だった……)
朝日奈「ううっ……どうしてこんなことに……」
山田「あんまりですぞ……」
モノクマ「うぷぷっ」
大神「……何が面白いのだ、モノクマ」
モノクマ「ああ、ごめんね。……だって背負う必要も無かったはずの罪に真摯に向かい合ったまま死んでいった石丸クンを見ていたら、どうしても笑いがこらえられなくて」
葉隠「どういう意味だべ……?」
モノクマ「だってさあ、石丸クンは瀕死だった大和田クンの命を無駄にしたくないってことで殺したんでしょ?」
葉隠(何だろう……嫌な予感がする)
モノクマ「だけどさ……あのまま放っておいても大和田クンは死ななかったよ?」
葉隠「………………え?」
朝日奈「そうよ! さっきの話だと、あんた言ってたじゃない! このまま大和田が死んだら石丸がクロだって!」
モノクマ「確かにそう言ったけどさあ。それには単に言葉の通りの意味しか含まれてないよ?」
葉隠「まさか……っ!?」
モノクマ「ボクの発言は仮定の話。IFだよ、IF」
モノクマ「それと大和田クンが本当に死ぬのかは全くの無関係でしょ?」
葉隠「っ……!?」
モノクマ「勝手に違う意味に取ったのは石丸クンたちでしょ? ……大体ダンベルが落ちたくらいじゃ、余程のことが無い限り死なないって」
葉隠(こんなの自分のキャラじゃない……)
葉隠(分かってはいたけど、このときばかりは我慢がならなかった)
葉隠「モノクマァァッッッッッ!!!!」
葉隠(そのままモノクマに掴みかかろうとする)
葉隠(脳裏には学園長に対する暴力を禁ずる校則やモノクマを壊しても代わりがすぐに出ることは分かっていた)
葉隠(それでも……助けようと思っていた大和田っち石丸っちが無駄に死んだのだと思うと耐えられなかった)
霧切「葉隠君っ!!」
葉隠(霧切っちが名前を呼ぶ。それに込められていた注意に気付きながらも無視する)
葉隠(あと少しでモノクマのところに辿りつく……そのとき、モノクマが言った)
モノクマ「葉隠クンがそんな怒る資格はあるの?」
葉隠(ただの言葉……だというのに、足が止まってしまう)
セレス「どういう意味ですか?」
モノクマ「ボクは監視カメラで全部見てたから知ってるけど、あんな不安定なところに何でダンベルが置いてあったんだろうね?」
葉隠「ダンベル……?」
葉隠(大和田っちが食らった凶器……それはどこに置いてあったか……)
葉隠「あ……」
葉隠(そういえば動機発表の夜に不二咲っちを殺せないように一旦プールの方に出して……)
葉隠(翌日、邪魔になるだろうと直して……)
それはどこに置いた?
葉隠「…………っ!!」
モノクマ「分かったみたいだね。言うなれば、君がこの事故の原因を作ったような物だよ?」
モノクマ「君がいなければ大和田クンがダンベルから石丸クンを庇う必要は無かったし」
モノクマ「石丸クンが大和田クンを殺す必要も無かったってことだよ!」
葉隠(俺が原因を作った……?)
葉隠「また……なのか……?」
葉隠(桑田っちの時に続いて俺はまたしても悲劇を防げなかった)
葉隠(どころか、俺が動くことでいつも状況が悪化している……)
葉隠「………………」
葉隠(もう俺は……いっそのこと、頑張らない方がいいのか?)
モノクマ「そうだよ、その顔だよ!」
モノクマ「石丸クンは絶望しないまま死んじゃったからね」
モノクマ「代わりに葉隠クンの絶望した顔が見れて満足だよ!」
モノクマ「それじゃあボクは帰るね。……いやあ、満足、満足」
モノクマがその場から消えた。
山田「葉隠殿……?」
葉隠「………………」
大神「苗木に続いて葉隠までも……」
セレス「二人目ですか」
十神「精神が弱い奴が多すぎるんじゃないか?」
不二咲「………………」
霧切「不二咲さん大丈夫?」
不二咲「え、ぼ、僕?」
霧切「あなただけど……顔色が悪いように見えたから」
不二咲「えっと…………」
不二咲「な、何……?」
セレス「どうしてあなたは大和田君の死体を見たときにみんなに伝えなかったのですか?」
セレス「話によれば、今朝には見ていたんでしょう?」
不二咲「う、うん」
不二咲「今朝、ふと思い立って食事の前にトレーニングをしようとして……そのときにあの現場を見つけたんだ」
セレス「なら、何故ですか?」
セレス「早く伝えることで何かが変わったとは思えませんが、あなたの行動が不可解なことには変わりありませんわ」
不二咲「それは……」
不二咲「………………」
不二咲「怖かったんだ」
セレス「怖い……ですか?」
不二咲「僕にとって大和田君は強さの象徴だったから」
不二咲「そんな大和田君が惨たらしく殺されているのを見て……どうしようもなく体が震えてきて」
不二咲「気が付けば、その場から逃げ出してたんだ」
セレス「……そうですか」
朝日奈「しょうがないって! あんなの見たら、誰だって怖くなって逃げ出すって!」
大神「我でも最初は目を疑ったのだ。不二咲ならましてしょうがあるまい」
不二咲「ありがとね、朝日奈さん、大神さん」
不二咲「……でもね、それを黙ったままでいるのはやっぱり違うと思うんだ」
不二咲「早くみんなに伝えて、大和田君をあの磔から解放するべきだったのに……僕は思い出すのも怖くなって……」
不二咲「………………」
不二咲「やっぱり……僕は強くなんかなれないよ……」
十神「おいおい、またなのか?」
山田「苗木殿に続き、葉隠殿、不二咲殿まで落ち込んで……」
「誰に続いてだって?」
山田「それは苗木殿……って、え?」
苗木「落ち込んでる? この僕が?」
山田「おおっ、苗木殿が元気に!」
セレス「元に戻ったということですか……?」
大神「しかし何を切っ掛けに……」
霧切(これは良いことよね……?)
霧切(なのにこの胸騒ぎは一体……?)
霧切「苗木君、いきなりどうしたの?」
霧切「裁判中もずっと黙っていて……今頃元気になったってどういうこと?」
苗木「そりゃあ、元気にもなるさ。あんな話を聞いたらさ」
霧切「話……?」
苗木「モノクマが話してくれた石丸君と大和田君の話だよ」
苗木「あんなに感銘を受ける話は初めて聞いたよ!」
苗木「霧切さんは感銘を受けなかったの?」
苗木「不良と委員長ということで反発しあっていたあの二人が仲良くなったってだけでも驚くべきことなのに」
苗木「その大和田君が体を張って石丸君を守り、さらには卒業させるために自分を殺させるなんて……」
苗木「さすが超高校級の才能を持つ者だよ! 普通じゃ考えられないことをしてくれるね!」
苗木「もしかしたら僕はこれを見るために希望が峰学園に入学したのかもしれないよ!」
霧切「……そう。狂ったまま……なのね……」
苗木「狂っただなんて失礼だな。……まあ、いいけど」
苗木「これなら僕も大和田君に助言したかいがあったよ」
霧切「助言……って、苗木君、あなた……!」
朝日奈「ど、どういうことなの!?」
霧切「……思えば、あの秘密の暴露の時おかしかったのよ」
霧切「直前まで思い詰めていた大和田君が、急に饒舌に話し始めて……」
山田「そういえばあの時の話は嘘だったということでしたな」
セレス「ということは……あの土壇場で、大和田君は嘘で誤魔化すことに気付いたのではなくて……」
霧切「苗木君、あなたがその方法を教えたってこと?」
苗木「そうだよ? 何か、大和田君が暴走族らしくないことで悩んでたみたいだからね」
苗木「ちょっと助言してあげたんだ。僕がしたのはそれくらいだよ」
十神「それくらい……か。随分と傲慢な言い方だな」
十神「結果論だが、そのおかげで石丸と大和田の中はさらに悪化して、学級裁判に至る出来事の引き金になったというのに」
苗木「けど、そのおかげであの話が聞けたというなら満足だよ!」
霧切「……どうやら何を言っても無駄のようね」
苗木「あれ、呆れられちゃった」
苗木「まあいいか……それにしても初めての学級裁判だったけど、これはいいね」
苗木「希望と希望同士がぶつかり合う……きっとその先に絶対的な希望っていうのは存在するんだろうね!」
苗木「またこの景色を見てみたいからさ……卒業したいって人がいたら、是非僕に声をかけてよね!」
苗木「僕なんかでよければ精一杯サポートさせてもらうから!」
霧切「何を言っているの、苗木君! クロに協力するって……それがどういうことなのか分かって言っているの!?」
苗木「分かっているよ。クロが卒業した場合、他全員がおしおき……」
苗木「だけど、僕の命なんかが君たち超高校級の才能を持つ君たちの役に立てるなら本望さ!」
山田「ドン引きですぞ……」
セレス「本格的にネジが飛び始めたようですね」
大神「舞園を失ったことが、ここまで苗木の心を……」
十神「まあ、落ち込んでいるよりかは面白くなりそうだな」
翔「まーくんの豹変ww ゲラゲラゲラ…………はっくしょんっっ!!」
腐川「あ、あれ……裁判は……?」
朝日奈「もう終わったよ、腐川ちゃん」
腐川「え、終わったって……」
朝日奈「やっぱり腐川ちゃんはクロじゃなかったんだね。良かったよ」
腐川「えっと…………」
苗木「それじゃあそろそろ帰ろうか。こんな暗い地下に閉じこもっていちゃ、君たちの才能は輝けないよ」
霧切「勝手な言い草を……。苗木君、私はあなたを認めないから……!」
苗木「随分と嫌われちゃったね。……でも、僕は自分の考えを改めるつもりは無いよ」
そして残ったのは三人になった。
霧切「いつまでそこに立っているの、葉隠君、不二咲さん?」
葉隠「………………」
不二咲「………………」
霧切「色々あるのは分かるけど、とりあえず今日は何も考えずに寝なさい」
霧切「考えるのは明日でも出来るわ」
葉隠「………………そうだな」
不二咲「…………だね」
のろのろと裁判場を出て行く二人。
その背中を見ながら、霧切は思う。
霧切「この先……大丈夫なのかしら」
一周目と死んだ人間が変わる決着を見せた二回目の裁判。
葉隠、不二咲が絶望に落ちる中、狛枝化した苗木が本領を見せ始める。
一周目のレールから徐々に外れ始める葉隠の二周目は今後どうなるのだろうか…………。
C H A P T E R 2
週刊少年 ゼツボウジャンプ
E N D
―――――――――――――――――
生存者残り 10名
TO BE CONTINUED
葉隠「強くてニューゲーム……って、俺がだべ!?」【後半】
元スレ
葉隠「強くてニューゲーム……って、俺がだべ!?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1402841268/
葉隠「強くてニューゲーム……って、俺がだべ!?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1402841268/
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