不良「そろそろお母さんのことお袋って呼ばないとマズイよなぁ」
ドカッ! バキッ! ドゴォッ!
他校生A「ぐはぁっ!」
他校生B「うげぇっ!」
不良「今度ウチのもんに手ェ出したら、こんなもんじゃ済まさねえからな」ギロッ
他校生A「つ、つええ……! ひいいいっ!」タタタッ
他校生B「ま、待ってくれ~!」タタタッ
ヤンキー娘「相変わらず大したもんだね」
不良「ふん、あんなヘタレども倒して褒められても嬉しくねえよ」
メガネ「あ、あの……ありがとうございました。お礼になにか……」
不良「いらねえよ。俺が勝手にやったことだしな」
不良「俺みたいな不良に関わってねえで、とっとと家に帰りな」
メガネ「は、はいっ! ありがとうございます!」ペコッ
子分「アニキは不良のヒーローっすよ!」
不良「からかうなよ! だいたい不良はヒーローじゃなく、ワルモンだろうがよ!」
不良(そう、俺は不良……)
不良(頭は悪いが、ケンカは負けたことねえし、弱い奴をいじめるのは嫌いだ)
不良(先公どもには煙たがられてるが、仲間には慕われてるという自負はある)
不良(そんな俺だけど――)
不良「ただいま」
母「お帰り」
母「いつもより遅かったけど、まさかケンカなんてしてないでしょうね?」
不良「してねえよ。ほれ、ケガ一つ負ってないだろ」
母「無傷で勝ったってこともありえるしね」
不良「!」ギクッ
不良「息子を信じてないのかよ?」
母「信じてるけど、アンタのすぐ無茶やる性格も知ってるからね」
母「あまり心配かけないでよ……」
不良「分かってるって、お母さん」
不良(俺は自分の母親を“お母さん”と呼んでいる)
不良「行ってらっしゃい」
母「なにかあったら、お母さんのいるスーパーに来なさいよ」
不良「行かねえよ!」
母「それじゃあね」バタンッ
不良「……」
不良「そろそろお母さんのことお袋って呼ばないとマズイよなぁ」
不良(不良がお母さんって、はっきりいっておかしいだろ! イメージと違うだろ!)
不良(やっぱワルなら、親のことなんか“お袋”って呼ぶべきだろ!)
不良(でも変えるタイミングを逸しちゃって、ズルズルここまで来ちゃったんだよなぁ)
不良(ああ……中学のうちに変えとくべきだった)
母「ただいま」
不良「お帰り」
母「晩ご飯は?」
不良「自分でちゃんと作って食べたから、大丈夫だよ」
母「あらそう、アンタもしっかりしてきたわね」
不良「俺だっていつまでも子供じゃないんだぜ、お――」
不良(ここだ! このタイミングで呼び方を変える!)
不良(“子供じゃないんだぜ”っていうセリフにマッチするし、ここで変えるべきだ!)
不良(さらばお母さん! こんにちはお袋!)
母「そうね、アンタももう高校生だものね」
母「だんだんと亡くなったお父さんに似てきたわ」
不良「やめてくれよ、親父に似てるっていわれても嬉しくねえよ。俺は俺だよ」
母「そんなこといわないの」
不良「……ふん」
不良(俺のバカ! 俺のチキン! 俺のクソヤロウ!)
不良(てか、なんで親父のことは親父っていってるのに、お母さんにはお袋っていえないんだよ!)
<学校>
不良「おっす」
子分「ちっす!」
不良「あのさ……」
子分「なんすか?」
不良「おめー……自分の親のことなんて呼んでる?」
子分「へ? 親っすか?」
不良「ふうん……普通に、か」
子分「え?」
不良「……」
子分「え、オレなんかまずいこといったっすか?」
不良「なんでもない……なんでもないんだ……」クルッ
不良(コイツですら、もうお袋呼びなのか……。大人だ……)
ヤンキー娘「ふうん……」
子分「なんかオレ、変なこといっちゃったっすかねえ?」
ヤンキー娘「もしかして、アイツのお袋さんになにかあったのかもしれないね」
子分「ええ、マジっすか!? まさか、入院とか……!?」
ヤンキー娘「そこまでのことじゃないにせよ、何かしらあったのは確かだろう」
ヤンキー娘「だったらさ、アイツんちに行ってちょいと励ましてやろうよ」
子分「そっすね!」
ヤンキー娘「じゃあ、アタシからアイツに話しとくよ」
子分「よろしくお願いしますっす!」
不良「ん?」
ヤンキー娘「明日あたり、子分と二人でアンタんちに遊びに行ってもいい?」
不良「え!? な、なんで突然……!?」
ヤンキー娘「いいじゃんか、そういやアンタんち行ったことなかったしさ」
不良(やべえ、明日はお母さんいるんだよな……)
不良(だけどコイツからこういうこというのって珍しいし、断るのもなぁ)
不良「あ、ああ……いいぜ」
ヤンキー娘「よっしゃ決まり。適当に菓子とジュース持ってくよ。パーッとやろうよ」
不良「お、おう」
不良(もし、あいつらが遊びに来て、俺がうっかりお母さんに“お母さん”なんていっちゃったら……)
子分『アニキ、お母さんはないっすよ……。ガッカリっす』
ヤンキー娘『金輪際、アンタと付き合うのはやめるよ。二度と話しかけないでね』
不良(――こうなるに決まってる!)
不良(なんかこう、まだ呼び方を変える決心というか、覚悟ができない……!)
不良(俺はどうすればいいんだ……!)
不良(こうなったら……先輩に相談してみるしかねえか!)
<バイク屋>
先輩「おう、久しぶりだな!」
不良「お仕事中すんません」
先輩「いいってことよ! 今は客が来る時間じゃねーしな」
先輩「それより、オメーが俺に相談なんて、よほどのことだろ? 力になるぜ!」
先輩「ヤベー奴らと揉めてんのか? それとも金か? あるいは女?」
不良「あ、いや……そういうんじゃないすけど……」
先輩「じゃあまさか勉強か? だったらオメー、聞く相手を間違えてるぜ」
不良「んなわけないでしょう……」
先輩「実は?」
不良「親の呼び方を変えるべきかどうか、悩んでまして……」
先輩「……へ? どういうこと?」
不良「つまり、その……お母さんって呼んでるのをお袋に変えるべきか……ってことっす」
先輩「……」
先輩「アハハハハハハハハッ!」
先輩「アーッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!」
不良「ちょっ、笑わないで下さいよ! 俺、真剣なんですから!」
先輩「いや、ゴメン……マジで悪かった」
先輩「友達が家に遊びに来るから、これを機に変えようかってことか」
先輩「お母さん呼びがバレたくないってんなら、変えればいいじゃねえか。簡単なハナシだ」
先輩「あんなもん、一度変えればすぐ慣れるぜ。俺もそうだったし」
不良「だけど、なかなかその決心がつかなくて……」
先輩「どうして?」
不良「俺のお母さん、女手一つで俺を育ててくれてるんすよ」
不良「なのに俺はこうしてバカに育っちまって本当に……ってそれはさておき」
不良「そんなお母さんを、“袋”扱いするのは、どうもまだ抵抗があって……」
先輩「お袋の袋ってのはそういう意味じゃねーと思うぞ?」
不良「いや、いくら俺がバカでもそれぐらい分かります! 分かるんです、けど……」
先輩「ふうむ……」
不良「え」
先輩「いっとくけど、今の“好きにしろ”は別に考えるのめんどくさいからじゃねーぞ」
先輩「お前が不良なんてバカな生き方してるのはどうしてだ? ツッパってるのはどうしてだ?」
先輩「弱い奴いじめたり、社会をぶっ壊したいからってわけじゃねえだろ?」
先輩「自分の心のままに生きたいからだろ?」
先輩「だったらよ……自分の胸(こころ)に素直に従えよ」
不良「……」
不良「先輩に相談して正解でした! ありがとうございます!」
先輩「なあに、いいってことよ」
不良「じゃ、俺はこれで失礼します!」タッタッタ…
先輩(あんなテキトーなアドバイスでよかったのかな……もうちょい親身になってやった方が……)
店長「あの小僧も、お前に負けず劣らず単純なようだな」ニィッ
先輩「ほっといて下さい!」
<学校>
子分「アニキ、今日は遊びに行かせてもらうっす!」
ヤンキー娘「パーッとやろうじゃないのさ」
不良「おう、大した家じゃねーけど、来てくれ!」
不良(よし……心は決まった!)
不良「ただいま」
子分「お邪魔するっす!」
ヤンキー娘「お邪魔します」
母「あら、お友達? ゆっくりしていってちょうだいね」
子分「はいっ! いつもアニキにはお世話になってやす!」ビシッ
不良「お、おい……やめろ、バカ。恥ずかしいだろ」
ヤンキー娘「へぇ~、もっとグチャッとしてるかと思ったら、案外キレイじゃない」
子分「ホントっす! 壁とかブッ壊れてて穴から外が見えるイメージあったっす!」
不良「どういうイメージだよ、それ」
ヤンキー娘「ま、いいじゃない」
ヤンキー娘「特になにか用があって来たわけじゃないけど、とりあえずダベろうよ」
不良「そうだな。んじゃ、曲でもかけるか」
子分「……で、もうホントムカついたんすよ!」
ヤンキー娘「へぇ~、そりゃ腹立つね」
不良「それで? もちろんブン殴ってやったんだろうな」
子分「いや、オレもそうしたかったんすけどね……人数も多いし……」
不良「俺を呼べば、そんな奴ら蹴散らしてやったのによ」
子分「今日のアニキは別にフツーっすね」ヒソヒソ…
ヤンキー娘「うん……アタシらの思いすごしだったのかもしれないね」ヒソヒソ…
母「みなさん、いらっしゃい」ガチャ…
母「おやつ持ってきたわよ」
子分「あ、どうも、あざーっす!」
ヤンキー娘「ありがとうございます」
不良「ありがとう、お――」
不良(ここだッ! ここで先輩のいうとおり、自分の心に従うッ!)
子分「?」
不良「お……」
ヤンキー娘「どうしたの?」
不良「お……」
不良「おっ……おっ……お、おお、おっ……」
不良(なにをためらってる! いえ! 俺の心のままに!)
母「じゃあ、お母さんは居間に戻ってるから。なにかあったら呼んでね」バタンッ
不良(いったァァァァァ!)
不良(そうだ、俺の結論は――)
不良(俺みたいなケツの青い半端者に、“お袋はまだ早い”だったんだ……!)
不良(好きなだけ幻滅してくれ、二人とも……)
ヤンキー娘「うん、そうだね。いただきます」
子分「うめえっす!」ボリボリ
ヤンキー娘「おい、人んちで食べカス散らかすんじゃないよ」ベシッ
子分「いっけね!」ササッ
不良「!?」
子分「ビックリしたァ! す、すんません、アニキ!」
ヤンキー娘「食べカスならちゃんと拾ったじゃないか。許してやんなよ」
不良「いや、そうじゃなくて……」
不良「なんでノーリアクションなんだよ!?」
子分「ノーリアクション?」
ヤンキー娘「なんかリアクションすべきことがあったっけ?」
不良「いやほら! 今俺、“お母さん”っていったじゃん! それについてだよ!」
ヤンキー娘「うん、アタシも家だとお母さんって呼んでるし」
不良「……へ」
ヤンキー娘「!」ハッ
ヤンキー娘「あ、分かった!」
ヤンキー娘「アンタ、自分がお母さん呼びしてることを気にして、子分に変な態度取ったんだね?」ニヤニヤ
不良「!」ギクッ
子分「ああ、そういうことっすか!」
ヤンキー娘「アハハハハハハハハハ!」
子分「アッハッハッハッハ!」
不良「わ、笑うな! 笑うなよぉ!」
子分「そんなことぐらいで、アニキのこと嫌いになるわけないでしょう!」
子分「たとえママ呼びでも、オレはアニキのこと尊敬するっすよ!」
ヤンキー娘「まったく……アンタらしいというかなんというか……」
ヤンキー娘「こんなに笑ったの久しぶりだわ。あー……腹痛い」
不良「ううう……」
不良「え?」
子分「いやオレら、マジで心配してたんすよ。アニキのお袋さんが病気になったとか」
ヤンキー娘「そうそう、だから今日アンタんちに行こうって話になったんだ」
不良「そうだったのか……」
不良「心配かけて悪かった。二人とも……ありがとう」
子分「アニキが礼をいうなんて! こりゃ明日は雨っすかね?」
ヤンキー娘「雪かもしれないね。1メートルぐらい積もるんじゃない?」
不良「なんだとぉ!?」
アッハッハッハッハ……
不良(いいダチを持ったな……俺)
不良(本当にありがとう……)
子分「お邪魔したっす~!」
不良「おう!」
不良(ふぅ……結局無理に呼び方を変えることはなかったってことか)
不良(でもま……いつかは呼んでみたいもんだ)
不良(“お袋”って……)
不良「ん、ああ……さっき帰ったよ」
母「いきなりお友達連れてくるから、あたしもビックリしたわよ」
不良「ああ、ごめん……。連絡しとくべきだった」
母「いいのよ。アンタにもいい友達がいるって分かって、お母さんほっとしたわ」
母「これからもちょくちょく連れてきなさいよ」
不良「ありがとう、お母さん」
不良「なんだよ?」
母「“お袋”がまだいいにくいんだったら、“母さん”から始めるって手もあるわよ?」
不良(全部お見通しだったぁぁぁぁぁっ!!!)
おわり
元スレ
不良「そろそろお母さんのことお袋って呼ばないとマズイよなぁ」
http://vipper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1476190277/
不良「そろそろお母さんのことお袋って呼ばないとマズイよなぁ」
http://vipper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1476190277/
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- 貴音「異国の方に発音を馬鹿にされました」
コメント一覧 (24)
-
- 2016年10月12日 00:21
- ええな
-
- 2016年10月12日 00:22
- 結局お袋なんて呼ぶことはなかったな
カッコつけても母さんまでだった
-
- 2016年10月12日 00:35
- まだ若かりし小学生の頃→母にポテチをねだる→却下される→グレる→極道の世界へ→数年後、母から一袋のポテチが届く→兄弟に連絡し、母が亡くなったことを知る→遺言状から母の真意を知る→「あの子は体が弱いから、あまりジャンクフードは食べさせたくない」→泣く→足を洗う→ポテチを食う
(゜д゜)ウマー (゜д゜)ウマー (゜д゜)ウマー (゜д゜)ウマー (゜д゜)ウマー (゜д゜)ウマー (゜д゜)ウマー (゜д゜)ウマー (゜д゜)ウマー (゜д゜)ウマー
-
- 2016年10月12日 00:36
- うちは親は名前呼びだなー
-
- 2016年10月12日 00:36
- ほっこりした
-
- 2016年10月12日 00:51
- お袋って・・・真面目な不良ですね、みんな。
ババアだろ、普通そこは
ちなみに俺は「おばちゃん」って呼んでるな
-
- 2016年10月12日 00:57
- あたしンちでお母さんのことをお袋って呼びたい話思い出した
-
- 2016年10月12日 00:59
- こういうのいいな
-
- 2016年10月12日 01:00
- ※4
じゃあ、さちこって呼んでるの?
恋人みたいだな…
-
- 2016年10月12日 01:06
- カーチャンはカーチャン
-
- 2016年10月12日 01:07
- これは古き良き不良
※4
それは不良じゃない
毒親被害者かDQN予備軍か反抗期拗らせてるだけだ
-
- 2016年10月12日 01:39
- ほっこりした。
こういうのいいな。
-
- 2016年10月12日 01:44
- 可愛い食べちゃいたい
-
- 2016年10月12日 10:08
- この不良の気持ちはよく分かる!w
俺も親父、母さん呼びだから・・・www
-
- 2016年10月12日 10:34
- かわe
-
- 2016年10月12日 12:20
- ママ→カーチャンは意識して変えたな。
小学生低学年ぐらいに。
-
- 2016年10月12日 12:24
- ずっと「お母さん」だったが、お袋なんて呼びたいと思ったことないな
昭和初期世代みたいでなぁ…
-
- 2016年10月12日 14:59
- 気分によって呼び方変えるけど、友人の前ではお母さんだな
-
- 2016年10月12日 17:53
- お母さんはともかく、お父さんて呼ぶのがちょっと恥ずかしくなってきて結局今は親父殿と呼んでる。
-
- 2016年10月12日 18:06
- 母上
-
- 2016年10月12日 20:37
- 宇宙兄弟(岩間)
-
- 2016年10月13日 07:34
- いい話だ
お母さんがわかってるのもいい
-
- 2016年10月13日 17:13
- 俺も名前で呼び捨てだわ
仲良すぎて姉弟みたいになってる
-
- 2016年10月15日 18:38
- 母は強し