【ワールドトリガー】 香取「――次は負けない」
ワールドトリガーのssです
時系列はROUND3終わった後
玉狛は上位入りして、香取隊は入れ替わりに中位に落ちたところからです
2月9日 日曜日
「中位に落ちた?」
一夜明けてランク変動の結果を麓郎から聞かされた。
結果は中位落ちだ。
「どっか上がったの?」
「玉狛第二ってチームみたいだね」
玉狛第二、聞いたことのないチームだ。
話を聞けば今期できあがったばかりのチームらしい。
そんなチームと入れ替わりで降格なんて。
――バン
机に叩きつけた拳が大きな音を鳴らす。
痛みはない。
トリオン体というものは、こういうとき都合が良い。
「どこ行くんだよ」
「帰るのよ」
「っは? これからミーティングの予定だっただろ?」
「上位チームのためのね。中位なんて、ミーティングの必要もないわ」
「逆だろ。最近戦ってなかったからこそミーティングが大事なんじゃないか」
もっともだ、と思った。
しかし、同時にアタシのプライドが邪魔をする。
2期連続上位クラス入りのプライドが。
「なら少しでも練習しなさいよ。アタシの足を引っ張らないようにね!」
「おい!」
声を無視してアタシは退室を出た。
これ以上、麓郎の声は聴きたくなかった。
*****
雪こそふっていないものの春を感じるにはまだまだ遠く、三門市の風は身を切るように寒い。
アタシはカバンからマフラーを取り出し、少しの風も通さまいときつく首元に巻きつけた。
冷たい空気が火照った頭を冷やす。
どうも最近イライラすることが多い。
中位におちたこともその理由の1つではある。
でもそれだけじゃない。
この頃、いろんなことが上手くいかない。
何をしても失敗する。
そんな現状が、アタシをいらだたせるのだろか。
良くわからない。
分からないことがさらにアタシをイライラさせていた。
いまごろ雄太が麓郎をなだめているころだろうか。
麓郎の言っていることは分かる。
しかし、いまさら中位グループにさした対策も必要ないだろう思ったのも事実だ。
ROUND4ではアタシが点を取って勝つ。
そして上位にもどる。
それだけの話だ。
それだけのはずだ。
15分ほど歩いて、ある店の前にたどり着いた。
今ではめっきり見ることも減ったゲームショップ。
アタシのお気に入りの場所だ。
嫌なことがあると良くここに来ていた。
現実の嫌なことも、ゲームの世界までは持ち込めない
店内のゲームの間を縫うようにして進む。
「ラスト1本、ついてる」
アタシが探していたのは、ついこの間発売したばかりのゲーム。
シリース物の3作目。
誰もが知ってるゲームではないけれど、3作発売されるくらいには人気のあるものだった。
「ミーティング。しないで正解だったわね」
ミーティングなんかしていたら売れていたかもしれない。
格下チームのミーティングなんてした挙句に、ゲームまで売切れてたとしたら、泣きっ面に蜂も良いところである。
ラッキー、ラッキー。
心の中でそう呟きながら、アタシはその残ったゲームソフトへと手を伸ばした。
「あ……」
「お……」
手と手とが重なり合う。
こんなことが起こるなんて漫画かよ、と悪態をつく。
男の人だったら譲ってもらおう。
女の人だったら強気にでれば良い。
そんなことを考えながら、触れ合った手から上の方に視線を移らせると、見知った顔がそこにあった。
「香取ちゃん?」
「……こんにちは、先輩」
A級1位オペレーター国近先輩だ。
「奇遇だね~こんなところで出会うなんて」
「そうですね」
知り合いと会うなんて。
それも顔を知っているくらいの先輩だ。
正直きまずい。
「先輩もゲームとかするんですね」
「するよ~ゲーム大好きだからね~」
「意外です」
この先輩がゲームに勤しむ姿は想像つかなかった。
やっていたとしても、牧場作ったりとか、その手のゲームな気がした。
「私も驚いたよ~。でも、そうするとー」
うーんと人差し指を顎に添えて唸っている。
あざといとも捉えられかねないポーズも、この先輩だと不思議と自然にきまっている。
「なんですか?」
「このゲームどうしよっか?」
ま、それしかないよね。
ソフトは1本、買い手は2人、半分こというわけにはいかない。
なんとしても購入したいと思っていたが、相手がこの先輩では仕方がない。
今日のところは諦めよう。
「アタシはいいですから、先輩どうぞ」
「そんなの悪いよー香取ちゃんが買ったら良いよ」
「そういうわけには、アタシのほうが後輩ですから」
「だったら私も先輩として、自分だけ買うわけにはいかないよ」
っち。
心の中で舌打ちをする。
本当にめんどうくさい。
形だけの譲り合い。
ただ過ぎる時間。
何も生み出さない、無駄な時間だ。
この時間が終わるなら、ゲームを譲ることもいとわないとさえ思った。
「そうだ! じゃあ私が買うからうちの作戦室来なよ!」
「は、いや……それは」
「うんうん、それが良い。私もこのゲーム好きな人話したいし」
「ん……」
どうこの場を切り抜けようか。
ゲームなんて誰かとするものはない。
その類のゲームはあるが、アタシは好きじゃない。
それも、とくに親しいわけでもない先輩と。
そんなことばかり考えていたら、手が引っ張られるのを感じる。
先輩の手だ。
いつのまにか会計をすましていたらしい。
グイグイと引っ張られ、抵抗を試みるタイミングさえない。
「じゃーいこかー」
やれやれ。
アタシは、自嘲気味にそう呟いた。
「ごめんね~散らかっててー」
A級の作戦室は広いらしいのだが、この部屋からそれを感じ取ることは出来ない。
入って最初に目に入るは、一対のソファーと机。
机の上にもソファーの上にも私物が散乱している。
「いまお茶いれるからね~」
「あ……ありがとうございます」
先輩に準備をさせるなんて。
そう思って口を開きかけたのだが、ここは太刀川隊の作戦室だ。
アタシがお茶の準備を出来るわけもなく、ここはご厚意に甘えることにした。
ぼうっと突っ立てるのも何だかマヌケに思える。
かといって1人だけ勝手にソファーに座るのもいかがなものか。
どうしようかと、辺りをキョロキョロ見回しているとモニターの近くにゲーム機を発見した。
ついさっき購入したゲームソフトに対応するハードだ。
アタシはサクサクとそのゲーム機のセッティングを始めることにした。
「ありがとうー準備手伝ってもらっちゃって」
「これくらいは……」
「本当にゲーム好きなんですね。こんなたくさんあるなんて」
「太刀川さんとかも結構ゲームやるからねー。ほとんど私の趣味だけど」
なるほど道理でコントーローラーなんかも多いわけだ。
みればパーティーゲームの類も何個かあった。
太刀川さんや出水先輩たちと楽しそうにゲームしている姿が簡単に想像できる。
アタシには無縁の話だ。
皆でワイワイやったり、協力しながら進むゲームは肌に合わなかった。
1人でドンドン先に進められるようなゲームが好きだ。
「香取ちゃんのとこもゲームたくさんおいてあるのー?」
「昔は置いてあったんですけど……全部片付けました」
作戦室にゲームがあるとどうしても気になってしまう。
だから少し前にアタシが片付けた。
もっとも、携帯ゲームをするようになったので、あまり効果はなかったのだけれど。
ゲーム機の準備が終わり、国近先輩がソフトを箱から取り出してセットする。
(アタシ1人ならスキップするんだけどなあ)
OP画面が始まり心の中で呟く。
逆に先輩はすごく楽しそうだった。
*****
「また、一緒にやろうねー」
「はい、ありがとうございました」
区切りの良いとこまでプレイしてお開きとなった。
最後に洗い物の手伝いをし、お礼を述べ、アタシは作戦室を出た。
基地から出ると辺りは真っ暗になっていた。
思った以上の時間を過ごしていたらしい。
自宅までの帰り道で、今日のことを思い出す。
誰かと一緒にゲームをした経験は少なかったけれど、悪いものではなかった。
先輩とアタシとでは同じゲームでも楽しみ方が違う。
アタシはいかに効率よくクリア出来るかが楽しみだが、先輩はそれとは真逆といっていい。
細かいところまで調べ、眺め、楽しむ。
ゲームの魅力を一部分でも逃してはいけないとしているようだった。
効率的とはいえないけれど。
アタシ1人では気づけないとこまで楽しめたと思う。
ポケットの奥で携帯が震える。
先輩からだ。
内容は今日は楽しかったよということ。
次はいつ集まるということ。
端的に言えばその2つだ
文面からでも早く進めたくてウズウズしている先輩の姿が容易に想像できて、笑みがこぼれる。
かじかむ手を、入力ミスしないよう、しっかりと動かし先輩へ返信する。
――明日は大丈夫ですか?
元スレ
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- 幼馴染「いいかげん気付けよ・・・」
コメント一覧 (7)
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- 2016年10月09日 00:45
- むぎゃ〜ってしてる香取可愛かった
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- 2016年10月09日 01:05
- ワートリSSが増えてたしかなまんぞく
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- 2016年10月09日 02:01
- 香取ちゃんいいよね
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- 2016年10月09日 03:36
- 実家でやってたのダクソっほかったな
ワートリタグ必要になるくらいいっぱい載せてくれ
-
- 2016年10月09日 04:02
- いいっすねぇ〜
悩みを解決するでもなく、ただただ日常描写があるだけのまったりしたワートリSSってのも新鮮な感じ
-
- 2016年10月09日 06:52
- ジャクソン、ミュラー……
-
- 2016年10月09日 16:14
- この後、那須さん達にボコられてさらに荒れるんだよなw