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ゆき「亜人?」【前半】

1: ◆8zklXZsAwY 2016/03/16(水) 00:09:57.99 ID:tffZCrC+O

『がっこうぐらし!』と『亜人』のクロスオーバーです。
ストーリーは基本的に原作準拠。物語の時間軸は、『がっこうぐらし!』が1巻、『亜人』が5巻の途中からとなります。



2: ◆8zklXZsAwY 2016/03/16(水) 00:15:14.21 ID:tffZCrC+O

ーー学園生活部

由紀「おっはよ~!」

胡桃「おはようって、もう昼だぞ」

由紀「あまいね、くるみちゃん! 業界では時間に関係なく『おはようございます』が基本なんだよ!」

胡桃「業界って、どの業界だよ。てか、『ございます』までちゃんと言えよ」

由紀「くるみちゃん、細かい~」

悠里「二人とも、おしゃべりはそこまで。お昼ごはんできたわよ」

由紀「は~い。って、あれ?」

悠里「どうしたの、ゆきちゃん?」



3: ◆8zklXZsAwY 2016/03/16(水) 00:17:38.55 ID:tffZCrC+O

由紀「う~ん。出前の人かなあ?とっても急いで走ってる人がいる」

悠里「走ってるって……まさかっ……!」

胡桃「っ……どこだ、ゆき!」

由紀「ほら、あそこ。校庭からまっすぐこっち向かってきてる」

胡桃「校舎に入った! りーさん、行ってくる!」

悠里「くるみ! でも、もう……」

胡桃「無茶はしないよ、りーさん。大丈夫だから」



4: ◆8zklXZsAwY 2016/03/16(水) 00:19:05.81 ID:tffZCrC+O

由紀「くるみちゃん、ごはん食べないの……?」

胡桃「食前の運動だよ。だから勝手にわたしの分まで食うなよ、由紀。それからりーさん、念のためにもう一人前用意しておいてくれ」

由紀「ひどいよ、くるみちゃん!わたし、そこまで食い意地はってないよ!」

悠里「無茶しないでね……くるみ……」

由紀「はやく帰ってきてね、くるみちゃん。待ってるから」

胡桃「おう!じゃ、行ってきます」



5: ◆8zklXZsAwY 2016/03/16(水) 00:21:35.93 ID:tffZCrC+O

ーー校舎一階

胡桃(たしかこの辺りから入ってたな)

胡桃(“あいつら”の数がいつもより多い……さっきの人を追ってきたのか……)

胡桃(これじゃ望みは……)

……ゴホッ……

胡桃(!……咳き込む声……こっちか!)ダッ 



6: ◆8zklXZsAwY 2016/03/16(水) 00:22:50.75 ID:tffZCrC+O

胡桃(この部屋だ。中で“あいつら”が動いている気配はない……)

胡桃(慎重に戸を開けて……)

ガラ……ガラ……

胡桃(“あいつら”はいないな……)ホッ

「……だれ、だ……」

胡桃「!」

「……せ、い、存者か?……」

胡桃「ああ。あんた、大じょう……」ハッ



7: ◆8zklXZsAwY 2016/03/16(水) 00:24:33.47 ID:tffZCrC+O

胡桃(酷い……これは、無理だ……)

「……悪、いな……外の、やつ、ら……中、につれ、て……」

胡桃「そんなこと気にすんな!ほら、水だ。飲めるか?」

胡桃「!」

胡桃(このひと、指を切り落とされてる……)

「それ、よ、り……たの、み、があ、る……」

胡桃「何だ?できることなら何でもするぞ」



8: ◆8zklXZsAwY 2016/03/16(水) 00:27:33.53 ID:tffZCrC+O

「“あいつら”……みたい、に……なる、前に……」ハァハァ

スゥ-ハ-

「殺してくれ」

胡桃「そ、んな……!」

「首、は……落と、す、な……頭を、潰、せば……だ、い、じょぶ、だ……」

胡桃「そういう問題じゃ……!」

「は、やく……して、くれ……自分、じゃ、むり……なん、だ」

胡桃「あたしはっ……! あんたを助けようと……!」



9: ◆8zklXZsAwY 2016/03/16(水) 00:29:56.58 ID:tffZCrC+O

「だ、から……たの、んで、る……ん、だろ……」

ガタガタガタガタッ!

胡桃「!」

「はや、く……しろ……!」

胡桃「わかったよ! クソッ!」

「た、す……かる……」

胡桃「一撃で送ってやるからな……!」

「あ、り、……が、とう……」



10: ◆8zklXZsAwY 2016/03/16(水) 00:31:55.50 ID:tffZCrC+O

胡桃「ッ~~~!」ギュッ

グチャッ!

胡桃「………………」

胡桃「……ごめん……」

ガシャン!

胡桃「!」

胡桃(“やつら”が教室に入ってきた)

胡桃「逃げないと……!」ダッ



11: ◆8zklXZsAwY 2016/03/16(水) 00:34:44.04 ID:tffZCrC+O

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

……じゅわ……


……じゅわ……じゅわ……


パチリ


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



12: ◆8zklXZsAwY 2016/03/16(水) 00:37:57.34 ID:tffZCrC+O

ーー学園生活部

由紀「あっ、くるみちゃん遅いよ~。もうお昼ごはん、冷めちゃったよ」

由紀「くるみちゃん、走って出て行ったから今日のメニュー知らないでしょ! 今日はねえ、ミートソーススパゲティなんだ!」

胡桃「……わりい、由紀。あたし、昼いらないや」

由紀「ええ?! せっかく、りーさんが作ってくれたのに」

胡桃「ああ、そっか。わりい、りーさん」

悠里「いいのよ、そんなこと」チラ




13: ◆8zklXZsAwY 2016/03/16(水) 00:40:04.85 ID:tffZCrC+O

悠里「……スコップ、洗ってきたのね……」

胡桃「ああ」

悠里「えっと、お茶でも飲む?」

胡桃「ん? ああ、うん。飲もうかな」

悠里「はい」

胡桃「ん、ありがと」ズズ

由紀「くるみちゃん、大丈夫?」

胡桃「……いや……」

胡桃「なんか、疲れたな」



14: ◆8zklXZsAwY 2016/03/16(水) 00:42:33.29 ID:tffZCrC+O

ーー夜

悠里「くるみ、起きて」

胡桃「どうした、りーさん?」

悠里「隣に誰かいるみたいなの」

胡桃「ほんとか。まさか、“あいつら”じゃないよな」

悠里「わからない。わたしもさっき気がついたばかりだから」

胡桃「数は?」

悠里「たぶん一人」



15: ◆8zklXZsAwY 2016/03/16(水) 00:44:03.07 ID:tffZCrC+O

由紀「どうしたの、ふたりとも?」

二人「!」ハッ

胡桃「起きたのか、ゆき」

悠里「ごめんね、うるさかった?」

由紀「ううん。なんかあったの?」

胡桃「ちょっと物音がしただけだ。りーさん、あたしちょっと見てくるよ」

悠里「お願いだから無理しないでね」

胡桃「ああ。わかってる」



16: ◆8zklXZsAwY 2016/03/16(水) 00:46:27.32 ID:tffZCrC+O

ーー廊下

胡桃(部室の戸が開いてる。やっぱり誰かいるんだ)

胡桃(“あいつら”のうちの一匹がバリケードを越えてきたのか? クソッ、暗くてよく見えない)

胡桃(こっちにおびきよせてみるか)ポイッ

コロコロコロ

「?」

胡桃(よし。ピンポン玉に反応した)

胡桃(出てきたところで、やつの足を引っ掛けて……)



17: ◆8zklXZsAwY 2016/03/16(水) 00:48:21.42 ID:tffZCrC+O

胡桃(いまだ!)グイッ!

「!」

バタッ ゴンッ

胡桃「転んだ!」バッ!

由紀「待って、くるみちゃん!」

胡桃「?!」

悠里「ゆきちゃん?!」



18: ◆8zklXZsAwY 2016/03/16(水) 00:51:21.99 ID:tffZCrC+O

由紀「くるみちゃん、そんなことしちゃダメだよ! その人、痛がってる!」

胡桃「バカッ! いいから隠れてろ!」

「……痛っえ……」

胡桃「!……生きてる……?」

悠里「うそ……人間なの……?」

胡桃「わりい。あんた、大じょう……」

カラン



19: ◆8zklXZsAwY 2016/03/16(水) 00:52:54.50 ID:tffZCrC+O

悠里「くるみ?」

胡桃「嘘だろ……なんで……」

「ええ? ああ、アンタか」

胡桃「だって……わたしは、アンタを……!」

「ニュース見てなかったのか。こうなる前はさんざん報道されてたのに。まあいい」スクッ

「僕は永井圭」



20: ◆8zklXZsAwY 2016/03/16(水) 00:55:24.57 ID:tffZCrC+O






永井「亜人だ」







26: ◆8zklXZsAwY 2016/04/03(日) 18:11:06.26 ID:ZcFmlIvKO

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
由紀「ようこそ! ここが巡ヶ丘高校の学園生活部の部室なんだよ!」

永井「学園生活部?」

由紀「うん。学園生活部っていうのはね、学園での合宿生活によって、授業だけでは触れられない……えっーと……」

胡桃「授業だけでは触れられない学園の様々な部署に親しみ、自主独立の精神を育み、皆の規範となるべし」

由紀「そう! つまり学校で生活して立派な生徒になろうねって部活なの!」

永井「それって、君たち三人だけなの?」

由紀「めぐねえもいるよ」



27: ◆8zklXZsAwY 2016/04/03(日) 18:12:16.04 ID:ZcFmlIvKO

永井「他にも誰かここに?」

悠里「そ、それはね……」

由紀「めぐねえは学園生活部の顧問なんだ。それでりーさんが部長で、わたし丈槍由紀とくるみちゃんが部員なの。……ああっ。大丈夫! めぐねえは影うすくなんかないよ!」

永井「えっと……」

悠里「あっ、わたしがりーさん。若狭悠里です」

胡桃「あたしが恵飛須沢胡桃」

永井「……よろしく」



28: ◆8zklXZsAwY 2016/04/03(日) 18:13:54.26 ID:ZcFmlIvKO

由紀「それでね学園生活部はいま……えっ、なに? めぐねえ……はーい、佐倉先生。……うーん、でもいまは夜だしさ……またあとで着替えるんじゃない?」

永井「……」

悠里「な、永井君。よかったらこれ食べない?」

永井「ミートソーススパゲティか。僕がいただいてもいいの?」


悠里「ええ、お口に合えばいいんだけど」

永井「ありがとう。いただきます」

由紀「それ、くるみちゃんのじゃないの?」

悠里「ちょっと、ゆきちゃん!」



29: ◆8zklXZsAwY 2016/04/03(日) 18:15:43.97 ID:ZcFmlIvKO


胡桃「いいっていいって。それよりゆき、お客さんが食べてるときは静かにしとけよ」

由紀「はーい」

悠里「ごめんなさい。騒がしくって」

永井「いや、お邪魔してるのは僕のほうだからね。この料理を作ったのは君なの?」

悠里「あんまり期待しないでね。料理っていうほどのものじゃないのよ。ただ麺を茹でてソースをかけただけだから」

永井「へえ、水が利用できるんだ」

由紀「屋上に水を綺麗にする機械があるからね! あと太陽の光で電気を作ってるから、天気のいい日にはシャワーも浴びられるんだよ!」

胡桃「ゆき、 静かにしろって言っただろ!」

由紀「ううっ、くるみちゃんこわいよぉ」

永井「……」



31: ◆8zklXZsAwY 2016/04/03(日) 18:17:23.05 ID:ZcFmlIvKO


永井(学校は災害時の避難場所に指定されるものだけど、これほど設備が整っているところはめずらしいな)

永井(太陽電池に浄水設備、食料も他人に分け与える程度の余裕がある。セーフゾーンとしては申し分ない)

永井(問題は僕がここに長期にわたって滞在できるかどうか)

永井(丈槍さんはともかく、他の二人は僕に対して警戒心を抱いている。だが、亜人に対する特別強い差別感情があるわけでもなさそうだ)

永井(この状況下における、当然ありうるべき見知らぬ他人に対する警戒。だが僕が想定していたものより、かなりガードは甘い)

永井(これなら、交渉次第ではうまく潜り込めるかもしれない)

永井(そうなると、留意すべきは丈槍さんについてだな)




32: ◆8zklXZsAwY 2016/04/03(日) 18:19:04.30 ID:ZcFmlIvKO


永井(彼女の、まるで何事も起きてないかのような言動と振る舞い。それに誰もいない空間にむかって会話している。幽霊でも見えているかのように)

永井(まあ、こんな状況下だし、こういうのが出てきてもおかしくはない。気になるのは、他の二人がそういった人物を許容している点だ)

永井(若狭さんにしても恵飛須沢さんにしても、丈槍さんの空想にのっかっている節がある)

永井(彼女たちにとっても情緒を正常に保つにはそうしたほうがいいということか? だとしたら亜人を所属させることの実利を説くよりも、別の方向から交渉を進めたほうがいいかもしれないな)

由紀「ねえねえ、けーくんは転校生なんだよね?」



33: ◆8zklXZsAwY 2016/04/03(日) 18:20:32.79 ID:ZcFmlIvKO


永井「は?」

由紀「だから学校に来たんでしょ?」

永井「いや。ていうか、前の学校ならたぶん退学になってるんじゃないかな」

由紀「そうなの!? どうしよう……あ、そうだ! ちょっと待ってて!」

胡桃「ゆき、どこ行くんだ?」

由紀「すぐそこまで! すぐもどってくるから」ガララッ

胡桃「校長室か。すぐ正面の部屋だな」

悠里「なら大丈夫ね」

胡桃「だな」



34: ◆8zklXZsAwY 2016/04/03(日) 18:22:07.34 ID:ZcFmlIvKO


胡桃「……」チラッ

永井「丈槍さんってさ」

胡桃・悠里「「!」」ビクッ

永井「こんな状況でも明るいんだね」

悠里「え、ええ。わたしたちはあの子の明るさに助けられているの」

永井「この学園生活部っていうのも彼女の発案なのか?」

胡桃「いや、考えたのはめぐねえとりーさんだ」

悠里「毎日ただ暮らすのも疲れるから、いっそ部活の合宿っことにしましょうって」

永井「めぐねえ……さっき丈槍さんが言ってた人のことか」



35: ◆8zklXZsAwY 2016/04/03(日) 18:31:24.30 ID:ZcFmlIvKO


悠里「ええ。佐倉慈先生」

永井「その人、いまは?」

悠里「……もう、いないの」

胡桃「……」

永井「そっか。……丈槍さんにとっては親しみやすい、いい先生だったんだろうね」

悠里「わたしたちにとってもね」

胡桃「めぐねえがいなきゃ、この部活もたぶんなかったろうしな」

永井「……学校に来たのはずいぶん久しぶりだけど、前の学校にはそんなにいい先生はいなかったよ。僕も会ってみたかったな」

胡桃「……」

悠里「……」



36: ◆8zklXZsAwY 2016/04/03(日) 18:38:19.30 ID:ZcFmlIvKO


永井(言葉にこそ出さないが、彼女たちは亜人発覚後の僕の置かれた状況と、現在の自分たちを重ね合わせている。やはり交渉の内容は情緒面に訴えるものにするべきか)

悠里「ねえ、永井君」

永井「なに?」

悠里「もし……」

ガララッ!

永井「!」

由紀「たっだいま~」

永井(間の悪い……)チッ



37: ◆8zklXZsAwY 2016/04/03(日) 18:39:20.24 ID:ZcFmlIvKO


悠里「ゆ、ゆきちゃん、もうもどってきたの?」

由紀「うん! 探してたものがみつかったから」

胡桃「校長室でなに探してたんだよ?」

由紀「これだよ! はい、けーくん」

永井「これって、制服?」

胡桃「こんなの校長室にあったっけ?」

悠里「たぶん、来客への展示用じゃないかしら」

胡桃「でも、どうして制服なんか持って来たんだ?」

由紀「だって、せっかく新しい学校に入ったのにちゃんとした服装じゃなかったら、けーくんまた退学になっちゃうよ」



38: ◆8zklXZsAwY 2016/04/03(日) 18:40:51.74 ID:ZcFmlIvKO


胡桃「え、入学決まってるのかよ」

由紀「めぐねえはいいって言ってるよ。それに学園生活部に入って学校で過ごせば卒業するための出席日数も足りるって」

胡桃「そうはいってもさあ……りーさん、どうする?」

悠里「え、えっーと……そうねえ……」

永井(……マズイな。丈槍さんの提案が突飛すぎて、他の二人が戸惑ってる。なんとかして二人の意識を別なところへ向けないと)

由紀「けーくんはどう? 学園生活部!」

永井(こいつ……余計なことしか言わないのか)



39: ◆8zklXZsAwY 2016/04/03(日) 18:42:17.91 ID:ZcFmlIvKO


永井「……いい部活だとは思うよ」

由紀「絶対いいよ! それに新学期だからね。新しい学期には新しい部活だよ!」

永井「新学期?」

由紀「もうはじまってちょっと経つけど問題ないよ。ねっ、めぐねえ」

永井「……」

永井「……若狭さん、今日が何月何日かわかる?」

悠里「え? たぶん、9月の終わりくらいだと思うわ」

永井「そっか」

永井「……夏休み、とっくに終わってたんだ」



40: ◆8zklXZsAwY 2016/04/03(日) 18:43:43.04 ID:ZcFmlIvKO


胡桃「……」

悠里「……」

永井(さっきまでの戸惑いが多少薄れてきたな。この反応ならいけるか?)

永井「若狭さん。恵飛寿沢さん。お願いだ。丈槍さんと佐倉先生の提案を受け入れてくれないか」

永井「こんな状況で、いきなり現れた人間を不審に思うのはよくわかる。それに僕は亜人だ。普通なら警戒してしかるべき人種なんだってこともよくわかってる」

悠里「そんな……わたしたちは……」

永井「でも、僕は佐藤とは違うんだ! 亜人だってわかるまで、ほんとにただの高校生で……それが突然、なにもかもメチャクチャになって……」

永井「命があるだけで幸運だって思わなきゃいけないんだろうけど……でも、僕はもといた場所に、学校に戻りたいんだ」

永井「だから、お願いします。少しのあいだでいい。僕をここにいさせてください……お願いします……」ツ-

由紀「け、けーくん、泣いてるの!? だ、大丈夫だよ! りーさんもくるみちゃんもきっとわかってくれるよ!」



41: ◆8zklXZsAwY 2016/04/03(日) 18:45:45.47 ID:ZcFmlIvKO


胡桃「……」

悠里「……わかったわ」

永井「!」

悠里「学園生活部のルールをちゃんと守ってくれるのなら、わたしたちはあなたを歓迎するわ」

胡桃「いいのか、りーさん?」

悠里「ええ。もちろん、寝る場所は別々だけど」

永井「……ありがとう」ゴシッ

由紀「やったね、けーくん!」

永井「丈槍さんもありがとう。佐倉先生にもお礼を言わなきゃね」

由紀「聞いた?! めぐねえ、けーくんがありがとうだって!」



42: ◆8zklXZsAwY 2016/04/03(日) 18:47:09.74 ID:ZcFmlIvKO


悠里「ふふっ。よかったわね、めぐねえ」

由紀「そうだ! 歓迎会しようよ!」

悠里「それは明日にしましょ。もう夜も遅いし」

胡桃「ほんと、ゆきはさわがしい……」

グウウゥ-

胡桃「……」

由紀「くるみちゃん、おなかの音おっきいね」

胡桃「ううっ……///」カアア

悠里「お、お昼からなにも食べてないからよ。なにか用意するわ」

永井「……これ、食べる?」

胡桃「いらない……」



48: ◆8zklXZsAwY 2016/04/06(水) 17:52:21.11 ID:QtTLVjR3O

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

胡桃「ただいま」

悠里「朝の見回り、ご苦労さま」

胡桃「ゆきは?」

悠里「ゆきちゃんなら、もう教室で授業を受けてるわ」

胡桃「永井はどうしてる?」

悠里「彼なら屋上にいるわ。いろいろと見て回りたいって言ってたけど」



49: ◆8zklXZsAwY 2016/04/06(水) 17:53:29.80 ID:QtTLVjR3O


胡桃「そっか……」

悠里「なにか気になることでもあるの?」

胡桃「うーん……あんま、うまく言えないんだけどさ……」

悠里「なに?」

胡桃「いや、永井のやつ、ずいぶんあっさりとゆきのことを受け入れたなって思ってさ」

悠里「どういうこと?」



50: ◆8zklXZsAwY 2016/04/06(水) 17:54:46.18 ID:QtTLVjR3O


胡桃「こんなこと言うのもアレだけどさ……こんな状況でいまのゆきを見たら、普通は驚くとか戸惑うとかするんじゃないかって思って……あたしらだって、はじめはそんなだったじゃん」

悠里「それは……確かにそうだったけど……」

胡桃「それなのにあいつはさ、めぐねえにもちゃんと対応して受け答えしてたんだぜ。その様子を見てたら、なんかさ……」

悠里「……考えすぎじゃない?」



51: ◆8zklXZsAwY 2016/04/06(水) 17:56:07.78 ID:QtTLVjR3O


胡桃「そうかな?」

悠里「だって、めぐねえのことは事前に説明していたんだし、それに彼だって大変な目に遭ってきたんだから……」

胡桃「それは……まあ……」

悠里「くるみのほうこそ、大丈夫なの?」

胡桃「えっ、あたし? なにが心配なんだよ?」



52: ◆8zklXZsAwY 2016/04/06(水) 17:57:27.50 ID:QtTLVjR3O


悠里「永井君がここに来たとき、とてもひどい怪我をしてたんでしょ? だから、その……」

胡桃「ああ……いやそれは、むしろラッキーだろ? だって生き返ってきたんだぜ。ふつうありえないだろ、そんなこと? それに、永井自身もたしかそんなこと言ってただろ?」

悠里「ほんとにそう思ってる?」

胡桃「ああ。思ってる思ってる。大丈夫だって」

悠里「……なら、いいけどね」



53: ◆8zklXZsAwY 2016/04/06(水) 17:59:46.22 ID:QtTLVjR3O


胡桃「うん。問題ないって」

悠里「……あっ、そうだ。永井君の歓迎会の準備しなきゃ」

胡桃「でも、もうあんまり物資も残ってないんじゃなかったか?」

悠里「そうね。だから、永井君には歓迎会のあとでいきなり大変な仕事に付き合わすことになっちゃうわね」

胡桃「まあ、それはあいつもわかってるだろ」

悠里「たぶんね……ふふっ」

胡桃「どした?」

悠里「歓迎会の食べ物はたっぷり用意してあげるから。もうおなかを鳴らさないで済むわね」フフッ

胡桃「ちょっ、りーさん。勘弁してくれよ、も~」



57: ◆8zklXZsAwY 2016/04/06(水) 22:22:34.51 ID:QtTLVjR3O


ーー屋上

永井「屋上なのに菜園まであるのか、ここは」

永井(本当に設備が充実してるんだな。学園案内には、自主自立だとか自給自足だとか書いてあったけど、それにしてもこれは……)

永井「まあ、なにを目的にしていようが、いまはこの設備が利用できるだけありがたいか」

永井(しかし、とりあえずはここで生活するとして、その後はどうするか)

永井(現在は9月末。戸崎さんと交渉した日が9月3日。あれから20日程が経過している)



58: ◆8zklXZsAwY 2016/04/06(水) 22:24:07.63 ID:QtTLVjR3O


永井(あの日、僕との交渉中に戸崎さんの携帯に入った連絡。いま思えば、あれはこの事態を告げるものだったんだろう)

永井(相手の話はスピーカー機能で僕も聞いたが、混乱していて要領を得ない内容だった)

永井(だがたしかに伝わったことは、それが亜人捕獲の命令だったということだ。大方、亜人の肉体を利用した原因究明と治療用ワクチンの生成が目的なんだろうけど)

永井(それにしても、あの日の僕はいくらなんでも不運過ぎるだろ)

永井(戸崎さんに携帯に出るのを進めたのがマズかったか……いや、どうせ後から同様の命令が伝わり、僕らは拘束されていた)

永井(そう思ったから戸崎さんに許可を出したんだし、彼の恋人のいるあの場なら、強硬確保に出られても恋人を利用すれば逃げ延びられることも可能だったはず……)



59: ◆8zklXZsAwY 2016/04/06(水) 22:25:45.67 ID:QtTLVjR3O


永井(……やっぱりどう考えても中野が悪い。いくらなんでも、僕が行動しようとする直前に天井から落ちてくるかよ)

永井(そのせいで、こっちは幽霊を放つタイミングは遅れるし、麻酔銃に撃たれるし、戸崎さんの隣の女性の幽霊で押さえつけられてリセットできないし……あいつ、僕の役に立つどころか足を引っ張ることしかできのか)

永井(おかげで研究所に逆戻りだ。なんとか逃げ出せたのは研究所にもやつらが発生したからだが、それは同時に事態の深刻化を意味する……)

永井(政府がこのままこの事態が収束できないでいると、いよいよ佐藤さんのグループが勢力を拡大していくことになっていくだろう)

永井(高度な戦闘能力を持つ亜人の集団。やつらなんて大した脅威にはならない。武器食糧、活動の拠点となるアジトも複数存在しているはず)



60: ◆8zklXZsAwY 2016/04/06(水) 22:27:31.29 ID:QtTLVjR3O


永井(もともと亜人だった者に、今回の事態で亜人だと発覚したやつ。すべてとはいわないが、行動を共にしようとする者も必ず出てくる……)

永井(いや、亜人だけじゃない。人間のなかからも生き残るために、佐藤さんに協力するやつも出てくるはずだ)

永井(このまま放置しておけば、事態は確実に悪化の一途を辿ることになる……仮にこの状況がこの近辺の局地的なものだとしても、佐藤なら意図して被害を全国的に拡散させることも可能……)

永井(“私がこの国を統治する”……ただのアジテーションだったはずのこの言葉が、嫌なリアリティを持ち始めてきている。亜人を利用してきた人間にとっては、僕以上に生々しく響いているだろう)

永井(だからといって、僕が佐藤さんのグループに参加することはできない。グラント製薬での一件を抜きにしてもだ)



61: ◆8zklXZsAwY 2016/04/06(水) 22:30:21.32 ID:QtTLVjR3O


永井(佐藤さんの言う“第3ウェーブ”、国家統治が実現したとして、それでどうなる?亜人テ口リストがパンデミックの混乱時に政権を奪った国家だぞ? )

永井(ハッ、そんなものを国際社会が認めるはずがない。せいぜい、ならずもの国家扱いされるのがオチだ。あの人についていったところで、僕の望む平穏な暮らしは到底得られない)

永井(佐藤さんに合流するのは論外。そもそも、すでに敵対してるし。だからといって、政府側の人間との協力も不可能……)

永井「クソッ。どうしようもないだろ、こんなの」

永井(佐藤さんがなにか行動を起こす前に、政府がこの事態を収束させてくれればすべては杞憂におわるんだが……)



62: ◆8zklXZsAwY 2016/04/06(水) 22:32:11.17 ID:QtTLVjR3O


永井「希望的観測だな。すでに一ヶ月が経とうとしてるのにいまだこんな状況だし……」

ガチャ

由紀「あ、けーくん、ここにいたんだね」

永井「丈槍さんか。なにか用?」

由紀「もうすぐお昼ごはんだから、りーさんが呼んできてって」

永井「わかった。すぐ行くよ」



63: ◆8zklXZsAwY 2016/04/06(水) 22:34:39.00 ID:QtTLVjR3O


由紀「けーくん! 今日のお昼のメニューはなんだと思う!?」

永井「さあ? なんだろ?」

由紀「それはね~、そのときになってからのお楽しみ!」

永井「あそう」

永井(気楽でいいよな、こいつは)

由紀「あ、あれ? もしかして、あんまり楽しみじゃない感じ?」



64: ◆8zklXZsAwY 2016/04/06(水) 22:36:18.94 ID:QtTLVjR3O


永井「そんなことないよ。ちょっと考え事をしてたから」

由紀「けーくん、頭良さそうだよね。きっととってもむずかしいこと考えてたんでしょ?」

永井「どうだろうね」

由紀「でもね、たまには楽しいことをしたほうがいいよ! そのほうが、頭もスッキリするってめぐねえも言ってたよ!」

永井「……」

永井(まあ現状、対処のしようがない問題に頭を悩ませても仕方がないか)



65: ◆8zklXZsAwY 2016/04/06(水) 22:38:49.65 ID:QtTLVjR3O


永井(いま考えるべきは、食糧物資の調達方法と設備の維持。このあたりの地理を把握することと移動手段の確保も重要だな)

永井(いずれ、外に物資を調達しなければならないようになる。そのときにはここ以外にも拠点となる場所を調べる必要が……)

由紀「あっ、ついたよ」ガラッ!

パァン!!

永井「!」ピクッ!



66: ◆8zklXZsAwY 2016/04/06(水) 22:40:39.25 ID:QtTLVjR3O


悠里・胡桃「「学園生活部へようこそ!」」

永井「……」

由紀「けーくん、ポケットに手を入れてどうしたの?」

胡桃「あれ?もしかして、スベった?」

悠里「や、やっぱり子どもっぽかったかしら?」

永井「いや、大きな音にびっくりしただけだよ。わざわざありがとう。歓迎会までしてもらっちゃって」



67: ◆8zklXZsAwY 2016/04/06(水) 22:42:46.61 ID:QtTLVjR3O


悠里「よかった。安心したわ」

由紀「ほら、けーくん! お菓子がいっぱいだよ!」

永井「ほんとだ。でも、こんなに用意しちゃって大丈夫なのか?」

胡桃「どっちにしろそろそろ補給に行かなきゃいけないからな。タイミング的にここでパーっとするのもアリだろ?」

永井「なるほど。納得したよ。それにこんなに食べ物があるんなら、恵飛寿沢さんも安心だしね」



68: ◆8zklXZsAwY 2016/04/06(水) 22:46:03.93 ID:QtTLVjR3O


胡桃「それ、どういう意味だよ!」

悠里「はい。おしゃべりは一旦おしまい。乾杯しましょう」

由紀「かんぱ~い」

永井「乾杯」

永井(……咄嗟にカッターナイフに手が伸びてしまったな。せっかくのセーブゾーンだ。長く滞在するために、不審感を与える行動は避けないと)



73: ◆8zklXZsAwY 2016/04/09(土) 11:55:12.12 ID:Nr/4Jb4JO


ーー夜

由紀「きっもだっめし、きっもだっめし」

胡桃「ちょっとは緊張しろよ」

悠里「ゆきちゃんは怖くないの?」

由紀「うーん、本物の幽霊に会ったら怖いかな。けーくんはどう?」

永井「そのときになってみないと分からないかな」

由紀「だいじょうぶだよ。ここ学校だから、何にもでないって」

悠里「ええ」ピタ…

悠里「たしかにこの時間、学校は誰もいないわ」ボソッ

悠里「だからね、誰もいないはずだけど、もしいたら……」ウフフフ…



74: ◆8zklXZsAwY 2016/04/09(土) 11:56:30.50 ID:Nr/4Jb4JO


由紀「い、いるわけないじゃん」ゾゾゾ…

悠里「そうね」パッ

悠里「知ってる? 幽霊ってね、すごく寂しがり屋で人の声によってくるんですって」ガチャ ポチ

由紀「じゃ、つけちゃだめじゃん!」

胡桃「幽霊なんていないんじゃかったっけ?」

由紀「も、もちろん! でもさ、万が一ってことが……あるよね?」アセアセ

悠里「だから、これはここにおいてあっちの階段から行きましょ」

由紀「なるほど! りーさん、頭いい!」

悠里「それじゃ、出発しましょ」

由紀「はーい」

永井「……」



75: ◆8zklXZsAwY 2016/04/09(土) 11:58:19.43 ID:Nr/4Jb4JO


胡桃「どうした? むずかしい顔して」

永井「丈槍さんもこっちに来てよかったのか?」

胡桃「うーん……まあ、りーさんが大丈夫って言ってたし。それにあいつ、けっこう素早いから」

永井「でも、あいつらのことをちゃんと認識してるわけじゃないんだろ?」

悠里「ゆきちゃんにはめぐねえがいるから大丈夫よ」

胡桃「りーさん」

永井「例の先生か」

悠里「ええ。ゆきちゃんが危ない目に遭わないように、めぐねえがちゃんと注意してくれるの」

永井「……ふぅん」

由紀「なになに、なんの話?」



76: ◆8zklXZsAwY 2016/04/09(土) 11:59:45.16 ID:Nr/4Jb4JO


悠里「永井君がさっきのゆきちゃんを見て、ほんとは怖がりじゃないかって心配してたの」

由紀「こ、怖がってなんかないよ。さっきのは、ほら、万が一のときにそなえて、念には念をいれてってやつだよ!」

悠里「それに、めぐねえもいるからね」

由紀「うんうん。ほら、あそこの階段のところで待ってるよ」トテトテ

悠里「転ばないでね、ゆきちゃん」

永井「………」

永井 (解離性同一性障害の交代人格のなかには主人格を無謀な行動や危険から守る保護者人格や救済者人格があるが、丈槍さんのいう“めぐねえ”もそういった類の存在か?)

……めぐねえ、もっと静…… ボソボソ

永井 (丈槍さんの言動や症状、またそうなった原因を聞く限り、解離性障害に患うには十分な理由はある)

……せ、せっかくだからみんなで……

永井 (だが、やはり違和感が残るな。妄想症や幻覚症状があるわりには、丈槍さんが日常生活を送ることに困難さを感じているようには見えない)

……そうね。そうしましょ……

永井 (周囲の人間が彼女の空想を受け入れているのも、これが大きな要因だろう。ルールを設定したり、注意を促しさえすれば彼女はそれに従う)



77: ◆8zklXZsAwY 2016/04/09(土) 12:01:09.64 ID:Nr/4Jb4JO


……わーい……!

永井 (それにわりと周囲の雰囲気に敏感だしな。そうした点が他の二人の不安やストレスを緩和しているとしたら、彼女はこのセーブゾーンの維持にけっこう貢献しているのかもな。彼女の病状が本物か詐病かは、それに比べれば些細なことだ)

……最初は購買部。次は図書館。みんなで……もしはぐれたら……まで戻ること……

永井 (しかし、だとしたら彼女が崩れた場合が怖いな。亜人でない限りいつ死ぬかわからない状況だし、丈槍さんが再びショックを受ければ病状が悪化する可能性もある)

永井 (今後生存者がここにやってこないとも限らない。その人物が丈槍さんや他の二人の態度に批判的だったとしたら、ここの安定性は簡単に揺らぐだろう……)

永井 (理を説いて納得する人物なら問題ないが、感情的な理由でここの安定性を攻撃してくるような人物だったとしたら、最悪の場合僕がそいつを始末しなければならなくなる)

永井 (そうした手段はあまり取りたくない。殺人罪に問われることのリスクはそれほど考えなくてもいいが、死人が出ること自体、彼女達にとっては心理的なマイナス要因になる……)

胡桃「永井、おまえ、りーさんの話ちゃんと聞いてたか?」



78: ◆8zklXZsAwY 2016/04/09(土) 12:02:52.08 ID:Nr/4Jb4JO


永井「最初は購買部。次は図書館。何か証拠の品を取ってくる。はぐれた場合は声を出さずにこの階段まで戻ってくる」

胡桃「なんだ。ちゃんと聞いてたのか。またなんか考え込んでたのかと思った」

永井「こんな状況なんだ。考えなきゃいけないことだらけだろ」

胡桃「まだゆきのこと心配してんのか? あたしからしたら、おまえがカッターナイフしか持ってきてないことのほうが心配だよ」

永井「これはあいつらを倒すためじゃないよ。リセットのために持ってきたんだ」

胡桃「リセットって……」

永井「噛まれてから死ぬまでいちいち待ってられないだろ?」

胡桃「そりゃ、そうだけどさ……」

永井「それから、基本的にリセットは僕が自分でするけれど、万が一それが不可能な場合は恵飛須沢さんにお願いしようと思う」

胡桃「あ、あたしが?! なんで?!」



79: ◆8zklXZsAwY 2016/04/09(土) 12:04:17.01 ID:Nr/4Jb4JO


由紀「くるみちゃん?」

悠里「どうかした?」

胡桃「い、いや。なんでもない」

悠里「そう?」

由紀「おっきな声だしちゃってたさ。くるみちゃんこそ怖がりなんじゃないの?」

胡桃「うっせ。はやく行けよ」

由紀「はーい」

永井「……あの二人には頼めないだろ? それに君ならいちど僕を殺してるしな」

胡桃「……」

永井「別に責めてるわけじゃない。あんな状況なら、たとえ僕が亜人じゃなくても同じことを頼んでたよ」

胡桃「……わかった。でも、万が一のときだけだからな」



80: ◆8zklXZsAwY 2016/04/09(土) 12:05:51.38 ID:Nr/4Jb4JO


永井「あと、もうひとつ言いたいことがある」

胡桃「なんだよ。まだなんかあるのかよ?」

永井「恵飛須沢さんがリセットすることになったとき、断頭だけは絶対に避けてほしい」

胡桃「亜人なんだろ? たしかにいやな死に方だけど、生き返るならそんなに気にしなくても……」

永井「……亜人は最も大きな肉片を核に散らばった肉片を集めて再生する。だが、離れすぎた部位は回収されず新たに作られることになる」

永井「それが頭だった場合どうなるか? 新たに頭部が作られるということは切り離された頭部は回収されず、そこにある脳は死ぬ。記憶や心は受け継がれても、いまここにある僕の意識はそこで終わる」

永井「死んだ脳にあった意識が新たに作られた脳に乗り移るなんてことはありえない。前の僕と同じように見えても、それは同じ設計図をもとに作られた別の脳が意識というプログラムを実行しているにすぎない。そこにアイデンティティの連続性はない」



81: ◆8zklXZsAwY 2016/04/09(土) 12:07:28.27 ID:Nr/4Jb4JO


永井「わかるか? 定義上の問題とはいえ、これは亜人にとっての死だ。断頭はこういった事態を引き起こしかねない」

胡桃「……正直、よくわかんねえ」

永井「……スワンプマンって知ってるか?」

胡桃「スワンプシング?」

永井「それは元ネタのほうだろ」ハア

胡桃「……よくわかんねえけど、それをやったら死んじまうんだろ? 新しい頭が生えてきても、おまえにとっては死んだのと同じってことなんだろ?」

永井「……ああ」

胡桃「わかった。断頭は絶対にしない」

永井「……助かるよ」

悠里「ふたりとも、もう購買部よ」



82: ◆8zklXZsAwY 2016/04/09(土) 12:08:53.00 ID:Nr/4Jb4JO


由紀「幽霊……いないよね」

悠里「油断は禁物よ」

ガラッ

胡桃「……だれもいないな」

由紀「ふぅー。あっ、証拠の品だっけ? 何取ってもいいの?」

悠里「いいのいいの。ちゃんとお金は払うし」

由紀「わーい」タタタ

永井 (ずいぶん律儀だな)

悠里「永井君も必要なものがあれば
取っていってね」

永井「そうだな……耳栓ってここに置いてある?」



83: ◆8zklXZsAwY 2016/04/09(土) 12:10:19.10 ID:Nr/4Jb4JO


悠里「ええ、たしかあっちの棚にあったと思うわ」

永井「そうか。人数分あればいいけど」

悠里「わたしたちの分も?」

永井「うん。またあとでちゃんと説明するけど、あいつらにも亜人の“声”が通用するんだ」

悠里「ほんとに?!」

永井「ただ、あんな状態だからか普通の人間より効果は短めだけどね。周りに人間がいる状況じゃむしろ危険だ」

悠里「そっか。だから耳栓なのね」

永井「ああ。丈槍さんにはとくによく言い聞かせておいて」

悠里「わかったわ」

永井「さてと、さすがにカッターナイフだけじゃ心許ないよな。なにか他にリセットに適した道具は……」テクテク



84: ◆8zklXZsAwY 2016/04/09(土) 12:12:28.74 ID:Nr/4Jb4JO


由紀「あっ。くるみちゃん、けーくん~。見て見て。これ20倍に膨らむんだって!」

胡桃「おいおい。何に使うんだよ」

永井「風船か。ヘリウムガスでもあれば外にSOSを発信できるけど」

胡桃「あったぞ。たぶん理科室だ」

悠里「どうかした?」

胡桃「りーさん、理科室にヘリウムガスのボンベが置いてあったよな?」

悠里「ええ。でもそれがどうしたの?」

胡桃「風船で手紙を出すんだよ。ほれ、ゆき」

由紀「はい、これ」

悠里「そうか、これなら……!」

由紀「けーくんが思いついたんだよ」



85: ◆8zklXZsAwY 2016/04/09(土) 12:13:34.07 ID:Nr/4Jb4JO


悠里「ほんとに? 永井君、すごいわ」

永井「そんなにたいしたことはないよ。まさかヘリウムガスが学校にあるなんて思わなかったし」

永井 (さっきのは失言だったな。外部の人間を招くきっかけになる行為は僕にとってデメリットが大きい。それが行政機関による救助ならならおさら)

永井 (とはいえ止めるのも不自然か。まあ、これくらいならいずれ彼女達も思いついただろう)

永井「それにしても風船って。駄菓子屋かよ」

胡桃「んなこと言われてもなあ」

永井「……それは?」

胡桃「高枝切りバサミ」

永井「……高校の購買部だよな?」

胡桃「たぶん、用務員が使うんだろ」

永井「ああ。工具はひと通り揃ってるな。工具ベルトもある」スッ



86: ◆8zklXZsAwY 2016/04/09(土) 12:14:31.31 ID:Nr/4Jb4JO


胡桃「それ、持ってくのか?」

永井「使える道具は多いほうがいいからな」ガチャガチャ

悠里「みんな、もう証拠の品は手に入れた?」

胡桃「おう」

悠里「じゃ、次は図書館ね」

由紀「けーくん、その腰に巻いてるの、なに?」

永井「工具ベルトだよ」

由紀「あ、それサスペンダーがついてるんだ。おそろいだね!」

永井「……」

永井 (あとで外しておくか。佐藤さんみたいな格好になるのは嫌だからな)



91: ◆8zklXZsAwY 2016/04/13(水) 12:07:10.84 ID:6cw4R5o0O


ーー図書室

ガラッ

由紀「く、暗いね。電気つかないかな?」

悠里「そしたら肝試しじゃないでしょ。あ、足元気を付けてね」

パリッ

永井「かなり荒れてるな」

胡桃「放課後だったからな。まだ生徒がいたんだろ」

永井「なら、まだここに残ってるかもしれないな」

悠里「どうするの?」

永井「僕が入口から部屋の奥に向かって順に確認していく」

胡桃「だったら、あたしは入口を見張るよ」

永井「頼む」

由紀「え、えっーと……」

悠里「ゆきちゃんはわたしといっしょに本を探しましょ」

由紀「はーい」



92: ◆8zklXZsAwY 2016/04/13(水) 12:08:05.02 ID:6cw4R5o0O


胡桃「あたしから見えるとこでな」

悠里「わかってるわ」

永井「もしやつらを見つけたら、ライトを天井に向けて3回点滅させる。他に緊急の場合はライトを回転させる。それでいいか?」

胡桃「了解」

悠里「わかったわ」

永井「よろしく」スタスタ

永井 (図書室か。この地域の地理が知りたいな)

テクテク..チカッ...

永井 (脱出ルートの特定のほかに防災倉庫の位置なんかも把握しておきたい)

テクテク...チカッ...

永井「地図資料はこのあたりか」

永井 (本のまま持っていくのは面倒だな。必要なページだけ取っていくか)ペラッ...ビリビリッ



93: ◆8zklXZsAwY 2016/04/13(水) 12:09:28.04 ID:6cw4R5o0O


永井「とりあえずはこれでいい」

タタタッ.......アッ......ユキチャン......

永井「……若狭さん、あんた大丈夫だって言っただろ……」

永井 (これぐらいでライトを回すなよ……)

永井「はあ。たしかあっちに走っていった……!」

ユラ......ユラ......

永井 (いたか)カチ...カチ...カチ...

永井 (丈槍さんのほうに向かっている……ここで対処するしかない)

永井 (声で動きを止めてもいいが、すこし距離がある)

永井 (光でおびき寄せ、書架のあいだに誘導するか。せまい直線上だ。声で動きが止まったところをうしろから恵飛須沢さんに対処してもらえばいい)ピカッ...ピカッ...



94: ◆8zklXZsAwY 2016/04/13(水) 12:11:24.98 ID:6cw4R5o0O


ア...アア...

永井「来るか」

タタタッ...

胡桃「!」

永井「こっちも来たか」

永井 (待て待て……まだ襲うなよ……)ジェスチャ-

胡桃「……」コクッ

永井 (声を使う……耳栓をしろ……)パッパッ...トントン...

胡桃「……」スッ

永井 (準備は整った……あとはタイミング……恵飛須沢さんの武器だとこんなせまい場所じゃ扱いづらい……一撃で仕留められなかった場合に備えすぐに追撃可能な距離に来るまで待つ……)

ヒタ...ヒタ...

永井 (近すぎたら僕のリスクが増す……まだ遠い……のろいな……とっと動けよ……まだだ……あと一歩……)

ヒタ...ヒタ...

オオ...!

永井 (よし!)



95: ◆8zklXZsAwY 2016/04/13(水) 12:13:06.97 ID:6cw4R5o0O


永井 『“止まれ!”』ビリビリ!

ダッ!

胡桃「ふっ!」ズシャッ!

...グラッ...

胡桃「クソッ!」

永井 (角度が浅い! 骨に防がれた!)パシッ!

永井 (この位置じゃ脊椎は狙えない。こめかみのあたりは骨が薄い。そこをドライバーで突き刺す)ドスッ!

ゴッ...ガァッ!

永井「チッ! ケガ防止のために先が丸いのか!」

永井 (もう一度! 今度は下から突き上げるかたちで……!)ドシャッ!

...グジュ...ジュ...ジュグ...

...バタン...

永井「……よし。死んだな」

胡桃「わりい。仕損じた」



96: ◆8zklXZsAwY 2016/04/13(水) 12:14:52.66 ID:6cw4R5o0O


永井「お互いケガなく済んだんだ。上出来だよ」ビリッ

胡桃「おい、それ学校の本だぞ」

永井「血を付けたままにしとくわけにもいかないだろ」スッ-...バサッ...

胡桃「おっ、いまの武士みたいでカッコいいな」

永井 (ガキか)

永井「……丈槍さんは?」

胡桃「りーさんといるよ。隅っこのほうに隠れてた。めぐねえの忠告のおかげだな」

永井「どうせなら問題を起こすまえに忠告してほしかったよ。おかげで余計なリスクを想定しなきゃならなかった」

胡桃「そんな言い方はないだろ」ムッ

永井「恵飛須沢さんも彼女のことを懸念してなかったか?」

胡桃「あたしはゆきのことを“心配”してたんだ」

永井「あそう」

胡桃「……はやく2人に合流するぞ」

永井「わかってる」



97: ◆8zklXZsAwY 2016/04/13(水) 12:16:21.88 ID:6cw4R5o0O


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ガラッ

永井「おはよう」

悠里「おはよう、永井君」

由紀「けーくん、はやく座って! もうすぐいただきますだよ~」

悠里「今日はおうどんよ。いま、用意するわね」

永井「運ぶの手伝うよ」

悠里「あら、ありがとう」

由紀「わ、わたしも!」

悠里「ふふっ。ゆきちゃんもありがと」

胡桃「こぼすなよ、ゆき」

由紀「くるみちゃんも手伝いなよ~」

胡桃「はいはい。飲み物用意するな」



98: ◆8zklXZsAwY 2016/04/13(水) 12:17:55.20 ID:6cw4R5o0O


悠里「よし、準備できたわね。いだたきますしましょうか」

由紀「いただきま~す」

胡桃「今日はなにするんだっけ?」ズルル

由紀「忘れたの? 学校から手紙を出すんだよ!」

胡桃「ああ。あの風船でか。でも、手紙といえば伝書鳩のほうがらしいよな!」

悠里「そんなのいないでしょ?」

胡桃「だから、捕まえるんだって」

永井「ヘリウムガスを取りに行かなくていいのか?」

胡桃「ああ~……じゃ、そっちを先に済ませるか」

悠里「お願いね」

由紀「おかわりー!」

胡桃「早いな! よく噛んで食べろよ」



99: ◆8zklXZsAwY 2016/04/13(水) 12:20:01.83 ID:6cw4R5o0O


由紀「ちゃんと噛んだよ~」

悠里「ごめんね。おかわりはもうないのよ。取りに行かないと」

胡桃「じゃ、また肝試しか」ズル-

永井「購買部にはもう残ってなかったよ」

悠里「そう。だから外まで行かないと」

胡桃「外……」チラッ

由紀「じゃあ、めぐねえに聞かないとね」

悠里「そうね。聞いてきてくれる?」

由紀「うん!」スッ

ガラッ



100: ◆8zklXZsAwY 2016/04/13(水) 12:21:46.81 ID:6cw4R5o0O


胡桃「……めぐねえがいいって言ったらどうすんだ?」

悠里「いつかは出ないとね。足りなくなるのはうどんだけじゃないわ」

永井「調達しに行く場所の目処はついてる?」

悠里「このあたりだとリバーシティ・トロン・ショッピングモールがいちばん近いかな」

永井「丈槍さんも同行するのか?」

胡桃「置いていけるわけないだろ」

永井「なら、昨日の図書館でのようなことはなしにしてほしい。丈槍さんがはぐれたせいで、あいつに対処する際のリスクが高まった」

悠里「ご、ごめんなさい。でも、あれはわたしがちゃんと止めなかったから……」

胡桃「リスクって、おまえ亜人だろ」

永井「だから?」

悠里「ちょっと、くるみ……!」



101: ◆8zklXZsAwY 2016/04/13(水) 12:23:40.56 ID:6cw4R5o0O


ガラッ

由紀「ただいま~」

悠里「あっ、ゆきちゃん……」

胡桃「……どうだった?」

由紀「ちゃんと文書にして提出しなさいだって。大げさだよね」

胡桃「めぐねえにだって職員会議とかあるんだろ」

永井「ごちそうさま」ガタ

胡桃「どこいくんだよ」

永井「食器を洗ってくる」カチャ...

悠里「そんなのいいのに」

永井「自分の使った食器は自分で洗えっておばあちゃんが…………」

悠里「?」

永井「いや。とにかく自分でやるよ」

由紀「わ、わたしも洗ってくる!」

ガラッ



102: ◆8zklXZsAwY 2016/04/13(水) 12:25:02.94 ID:6cw4R5o0O


悠里「……くるみ、さっきのはなに? 」

胡桃「べつに。ほんとのことだろ」

悠里「いくらなんでもあの言い方はないわ」

胡桃「あいつも似たような態度だっただろ」

悠里「……ゆきちゃんのことでムッとしてるのね」

胡桃「りーさんはなんとも思わないのかよ」

悠里「永井君はここに来たばかりなのよ。わたしたちと同じようにというわけにはいかないわ」

胡桃「どうかな」

悠里「大丈夫よ。ゆきちゃんのこと、わるく思ってるならいっしょに食器を洗いに行ったりしないもの。それに、昨日のことはわたしの責任。永井君もきっとそう言いたかったのだと思う」

胡桃「なんでそうなるのさ」

悠里「わたしがゆきちゃんは大丈夫って彼に言ったから。永井君はわたしの言ったことをひとまず信用してくれたけど、図書室でのことで余計に心配させることになっちゃったのよ」

胡桃「部長が責任感じる必要はないだろ。あいつはもとからあんなやつだ」

悠里「たとえそうだとしても、永井君はもう学園生活部のメンバーだもの。部長のわたしがしっかりしないとね」

胡桃「りーさん……」



103: ◆8zklXZsAwY 2016/04/13(水) 12:26:30.65 ID:6cw4R5o0O


ガラッ!

由紀「洗い物おわったよ!」バ-ン!

悠里「おつかれさま」

永井「洗った食器はここに置いておけばいいの?」

悠里「ええ」

由紀「めぐねえがけーくんのことをほめてたよ。男の子なのに家のお手伝いしててえらいねって。おばあちゃんに教えてもらったんだよね?」

永井「まあね」

悠里「あら。永井君っておばあちゃんっ子だったの?」

永井「そのひとは僕の親類じゃないよ。つい最近、お世話になっただけ」

悠里「最近……」

永井「その話はともかく、ヘリウムガスを取りに行こう。恵飛須沢さん」

胡桃「まだ食ってる」

永井「なら30分後に」

由紀「食べたら自分で洗うんだよ?」

胡桃「はいはい」



107: ◆8zklXZsAwY 2016/04/14(木) 00:37:42.31 ID:Gz6BsManO


ーー理科室

永井「これがガスのボンベだな」

胡桃「ああ」

永井「台車に載せよう。道中、やつらの姿はなかったし多少の音がしても平気だろ」

胡桃「あと、これも持ってくぞ」

永井「鳥かごとザル……ほんとに鳩を捕まえるのか」

胡桃「なんだよ?」

永井「まあいいや。恵飛須沢さん、ひとりでも大丈夫だよな? 僕はほかに用がある」

胡桃「どこいくんだよ」

永井「工作室だ。ドライバーの先を鋭利にしておきたい。このままだと、武器としてもリセットの道具にしても信用性に欠ける」

胡桃「ゆきのことで文句言っといて、おまえは単独行動なのか」

永井「状況がちがう。丈槍さんの行動はあの場にいた全員にリスクしかもたらさないものだった。それくらいわかるだろ?」

胡桃「……」



108: ◆8zklXZsAwY 2016/04/14(木) 00:39:18.10 ID:Gz6BsManO


永井「あと、手紙に僕のことは書くなって言っておいて。僕の居場所はだれにも知られたくないし、そっちも面倒ごとには遭いたくないだろ」

胡桃「なあ」

永井「まだなにかあるのか?」

胡桃「おまえも、家族いるよな」

永井「それも報道されてただろ」ハア...

胡桃「心配してないのか?」

永井「どういう意図の質問だよ」

胡桃「ほんとに手紙になんも書かなくていいのか? もし家族のひとに届いたらさ、励みになるんじゃ……」

永井「僕が死んでないってことは伝えなくてもわかってる」

胡桃「そうじゃねえよ……手紙にすること自体に意味があんだろ」

永井「現状、家族の安否は確認しようがない。死んでるかもしれない相手に手紙を出してなんになる? そんなリスクの大きい真似はできないね」



109: ◆8zklXZsAwY 2016/04/14(木) 00:40:40.13 ID:Gz6BsManO


胡桃「そうか。よくわかった」

永井「ほかになにか?」

胡桃「いや。なんもない」

永井「なら、もういくよ……ああ、そうだ。恵飛須沢さん」

胡桃「なに?」

永井「あれは鳥類には感染しないみたいだけど、保菌してる可能性もある。つつかれたり、ひっかかれたりしないようにしてくれ」

胡桃「おまえの言いたいことはよくわかったよ」

永井「捕まえたあとは手洗いもしておいて」

胡桃「いちいちうるせえなあ」

永井「石鹸でな」

胡桃「わかったって!」



110: ◆8zklXZsAwY 2016/04/14(木) 00:42:02.36 ID:Gz6BsManO


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ガラッ


悠里「おかえりなさい。永井君」

由紀「おかえり~」

永井「手紙はもう書き終わった?」

悠里「ええ。永井君に言われたとおりにしてあるわ」

永井「一応、確認させてもらうよ」


ペラッ


由紀「うう……まじまじと見られるとはずかしいね。わたし字がきたないし……」

永井「気持ちのこもってる手紙だと思うよ」

由紀「ほんと?! なんか照れるな~」

胡桃「……」

永井 (僕のことは一切書かれてない)

永井「これなら問題ないな」

悠里「なら、風船の準備をしましょうか」



111: ◆8zklXZsAwY 2016/04/14(木) 00:42:56.74 ID:Gz6BsManO


胡桃「……ッよし! なら、こいつにも手紙をつけないとな!」

悠里「待ってくるみ、いま籠を開けたら……」


バサバサバサッ!


胡桃「あ、やべっ!」

由紀「この子、なんか怒ってるよ!」

胡桃「窓開いてる! はやく閉めて!」

悠里「だから待ってって言ったのに!」

永井「……」ハア...



112: ◆8zklXZsAwY 2016/04/14(木) 00:44:08.69 ID:Gz6BsManO


ーー屋上

胡桃「よっしゃあ! ようやく準備完了!」

由紀「いよいよだね!」

悠里「ほんとにね……」

由紀「鳩子ちゃんもがんばってね」

胡桃「ちょっと待て。だれが鳩子ちゃんだ」

由紀「その子だよ。鳩錦鳩子ちゃん」

胡桃「鳩子ちゃんじゃない! こいつはアルノーだ」

由紀「ええー。わたしも名前つけたいー」

悠里「なら、間をとってアルノー・鳩錦でどうかしら?」

由紀「オッケー!」

悠里「永井君もどう? この子の名前つける?」

永井「やめとくよ」



113: ◆8zklXZsAwY 2016/04/14(木) 00:45:24.63 ID:Gz6BsManO


胡桃「それにしても、アルノー・鳩錦ってハーフみたいだな」

由紀「アメリカとかまで行くかもしれないよ」

永井 (アルノーはフランス語圏の姓名だろ)

胡桃「よっし。それじゃ、アルノー・鳩錦、飛んで……」

由紀「あっ、ちょっと待って!」

胡桃「なんだよ、ゆき?」

由紀「けーくんに見てもらいたいものがあるの」

永井「僕に?」

由紀「うん。はい、これ」スッ

永井 (手紙?)


ペラ...ジッ...


永井「……ここに描いてある男子生徒の絵、まさか僕か?」



114: ◆8zklXZsAwY 2016/04/14(木) 00:47:56.58 ID:Gz6BsManO


由紀「うん」

永井「僕のことは手紙に書かないでくれって頼んだよね?」

由紀「ごめんね。でも、けーくんも学園生活部のメンバーだから、どうしても4人そろって手紙に書きたかったの」

永井「僕がここにいることがわかったら、僕だけじゃなくみんなが不利益を被る」

由紀「うっ……で、でもさ、けーくんの名前は書いてないし、それにわたしの絵ヘタだから! だから大丈夫! 絶対バレないよ!」

永井「丈槍さん、なんでそこまでこだわるんだ?」

由紀「えっとね……昨日の肝だめしでけーくん、わたしのこと、ほんとは怖がりじゃないかって思ってたでしょ? あのときはそんなことないって言ったけど、そのあと図書室で迷惑かけちゃったから……」

永井「そのことならもういいよ」

由紀「まだあるの! あのとき、けーくんはくるみちゃんといっしょに不良のひとを追い払ってくれたでしょ? でね、そのあとくるみちゃんと話してること、聞こえたんだ」

胡桃「!」

永井 (こいつ……かなり耳がいい)



115: ◆8zklXZsAwY 2016/04/14(木) 00:49:55.60 ID:Gz6BsManO


由紀「それで、もしかしたらちょっとケンカしたのかなって思って……2人ともすごいのに、仲が良くないのは……なんかさ……」

胡桃「……」

由紀「わたしね、学園生活部ってほんとにすごいと思うの。くるみちゃんは力持ちだし、りーさんやさしいし、けーくんは頭いいでしょ? だからね、そんなみんながいる学園生活部をちゃんと紹介したいんだ」

永井「それでこの絵を描いたのか」

由紀「うん! あっ、でもけーくんにも事情があるみたいだし、ダメだって言うんならこれは出さないから!」

永井「そうだな……」チラッ

悠里「……」

胡桃「……」

永井 (断るのは得策じゃないか……まあ、この絵だけなら僕だと特定することはできないしな……)

永井「わかった。この手紙だけなら出してもいいよ」

由紀「ほんとに?! やったあ!」



116: ◆8zklXZsAwY 2016/04/14(木) 00:51:37.58 ID:Gz6BsManO


悠里「よかったわね、ゆきちゃん」

由紀「うん! りーさんもありがとう」

胡桃「なんだよ、りーさんも手伝ったのか?」

悠里「ゆきちゃんがどうしてもって言うからね。相談にのってあげたの」

胡桃「あたしには相談なしか」

悠里「あれだけムスッとしてたひとに相談なんてできないわよ」

胡桃「永井が断ったらどうしてたのさ?」

悠里「そうならないように、ここで手紙を渡すようにゆきちゃんに言っておいたの」

胡桃「……こわっ」

悠里「ひどいわね。ちゃんと永井君のお願いもかなえてあるのよ? ゆきちゃんのお願いもかなうように、ちょっと譲歩してもらったけど」

胡桃「いや……だから、それが怖いんだって」



117: ◆8zklXZsAwY 2016/04/14(木) 00:52:59.56 ID:Gz6BsManO


悠里「まあそれはともかく、どう、くるみ? 永井君とゆきちゃんのこと、まだ不安?」

胡桃「今回はあいつがちょっと妥協しただけだろ」

悠里「最初にしては十分じゃない?」

胡桃「まだやるのかよ」

悠里「お互いに知り合ったばかりだもの。どちらも楽しくすごせるように工夫していかないと」

胡桃「はあ~……わかったよ。あたしもちょっとは妥協しろってことだろ? でも、あいつの物言いけっこう腹立つんだよなあ……」

悠里「グチなら聞いてあげるわ。部長ですもの」フフッ

由紀「りーさん! けーくんの偽名、どうしよう?」タタタッ

悠里「偽名?」

由紀「けーくんがここにいることがバレたらマズイんだよね? だから、この絵のひとはけーくんじゃありませんよって書いとかなきゃ」



118: ◆8zklXZsAwY 2016/04/14(木) 00:54:29.47 ID:Gz6BsManO


永井「丈槍さん、余計なことはしなくていいんだって」ハア...

悠里「そうねえ……くるみはどんな偽名がいいと思う?」

胡桃「あー……偽名ってもとの名前に近いほうが都合がいいんだっけ」

由紀「それじゃバレちゃうよ」

悠里「なら外国の名前ならどうかしら? アルノーみたいに」

由紀「りーさん、賢い! なにがいいかな?」

悠里「そうねえ、永井だから……文字数の長い名前なんてどうかな?」

由紀「ダジャレじゃん!」

悠里「ゆきちゃん、そんなこと言うのね……」ゴゴゴ...

由紀「ま、待って、顔が怖いよ、りーさん!」


ナニヲ-...ワ-...ゴミ-ン...


胡桃「あーあー、……とめないのか?」

永井「……なんか面倒くさくなってきた」

胡桃「まあ……だな」

永井「……鳩に触ったなら、部室にもどるまえに手は洗えよ」

胡桃「おまえもたいがい面倒くさいぞ!」



119: ◆8zklXZsAwY 2016/04/14(木) 01:01:01.18 ID:Gz6BsManO

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





生きているってすばらしい





「おはよー。ねぼすけ。朝だぞー」




私は



「ーー朝だぞー。おはよー」

負けない

「朝……」バチン!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



122: ◆8zklXZsAwY 2016/04/16(土) 23:38:23.93 ID:1TzRJcmAO

ーーーーーー
ーーーー
ーー

胡桃「よし。いつでもいいぜ」

由紀「けーくん、そっちはどう?」

永井「いいよ」

由紀「じゃあ、いくよ。よーい……どん!」


タタタタタタタ……ひゅん!


胡桃「タイムは?」ハアハア...

永井「ん」

由紀「わたしも見せてー」

永井「はい」

胡桃「あちゃぁ」

永井「なんだよ?」

胡桃「タイムだだ落ちだ。練習さぼってたからなー。鍛え直さないとダメだな、こりゃ」



123: ◆8zklXZsAwY 2016/04/16(土) 23:39:57.75 ID:1TzRJcmAO


永井「……」

由紀「あのさ、くるみちゃん……もしかして……」

胡桃「え、なに?」

永井「シャベル、背負ったままだぞ」

胡桃「あ! そうだった」

由紀「わすれてたの?ほんとに?」

胡桃「うっ……」

由紀「くるみちゃんの愛には妬けちゃうよ。もう、シャベルと結婚しちゃいなよ」

胡桃「なっ……いやほら、道具は体の一部になるまで使いこなすって言うだろ。奥義開眼ってやつ?」

永井「土掘れよ」

胡桃「うるせえ」

永井「もう一回計るか?」

胡桃「いや、いい。これならいける。遠足でもなんでも来い!」



124: ◆8zklXZsAwY 2016/04/16(土) 23:40:56.07 ID:1TzRJcmAO


ーー2日前

由紀「おはよー」

悠里「おはよ」

由紀「あ、ごはんだ!」パアア

悠里「ゆきちゃん、缶詰どれにする?」

由紀「あ、大和煮! 朝から牛なんて! ぜ、贅沢!」

胡桃「昭和かよ。あ、鮭もらうぜ」

悠里「永井君は?」

永井「鯖にするよ」

悠里「はいどうぞ。さて、それじゃ……」

由紀・胡桃・悠里「いただきまーす」

永井「いただきます」



125: ◆8zklXZsAwY 2016/04/16(土) 23:42:28.80 ID:1TzRJcmAO


由紀「ふっふふ~ん♪」ムシャムシャ

悠里「ご機嫌ね。ゆきちゃん」

胡桃「うん。すごいこと思いついたからね」

胡桃「昨日の夜言ってたな」

悠里「なにかしら?」


モグモグ...ゴクン!


由紀「遠足いこう! 遠足!」バ-ン!

胡桃「遠足?」

由紀「そろそろ遠足の季節じゃない?」

胡桃「まあ、そうだな」

由紀「わたし気づいたんだ」

悠里「あら。なにに?」

由紀「学校を出ないで暮らすのが学園生活部。でも、学校行事ならでたことにならない!」

悠里・胡桃「……」キョトン...

由紀「……よね……?」

永井「行き先は?」



126: ◆8zklXZsAwY 2016/04/16(土) 23:44:12.75 ID:1TzRJcmAO


由紀「あっ、それはもう決めてあるんだ。この近くのションピング・モール。いろんなお店があるから、職業見学にもバッチリかなって」

永井「なるほど」

胡桃「いやいや、おかしいだろ。遠足って部でやるもんじゃないし」

由紀「くるみちゃんは頭が固いね! わたしたちの後に道はできるんだよ!」

悠里「それなら提出用の文書を作って、めぐねえに見てもらわないと」

由紀「んふふふ…じゃーん!」

胡桃「むぅ、もうできてんのか」

永井 (ずいぶん準備がいい。それに目的地。よくもまあ、都合のいい……)ズ-...

悠里「そうね、これを見てもらったらいいんじゃないかしら?」

由紀「うん。ごちそうさま! あっ、食器洗わなきゃ……」

永井「確認を取ってきてからにしたら?」

由紀「そうだね! じゃ、聞いてくる~」



127: ◆8zklXZsAwY 2016/04/16(土) 23:45:34.43 ID:1TzRJcmAO

悠里「さて、どうしましょうか」

胡桃「めぐねえ待ちだな。ゆきに任せようぜ」

永井「僕も異論はない」

胡桃「意外だな。おまえがそんなこと言うなんて」

永井「物資の補給と外の状況の確認ができるんだ。丈槍さんの提案に反対する理由はない」

胡桃「当然、ゆきも同行するぞ」

永井「ああ」

悠里「ゆきちゃんはわたしが見守っておくわ。それと、あとは足ね。めぐねえの車を使いましょう。運転できる人はいる?」

永井「僕は大丈夫」

胡桃「あたしも何とか」

悠里「あとは車を取りに行く方法ね。駐車場はグラウンドの向こうだから……」

タタタ...ガチャッ

由紀「オッケーだって!」

悠里「あら、よかったわね」

胡桃「じゃあ、いっちょやるか」



128: ◆8zklXZsAwY 2016/04/16(土) 23:48:03.28 ID:1TzRJcmAO

ーーーーーー
ーーーー
ーー

悠里「それで、駐車場まで行く方法だけど……」

胡桃「玄関からじゃ無理だな」

永井「避難梯子でグラウンドに降りるとして、そこから駐車場までの距離は?」

悠里「150メートルってところね」

胡桃「問題なし」

悠里「でも、シャベルを背負っての全力疾走よ?」

胡桃「いけるいける。さっきタイム計った」

永井「グラウンドを突っ切るあいだは耳栓をしたほうがいい。ノータイムで“声”が使えるし、そのほうが安全だ」

胡桃「駐車場についてからは外したほうがいいな。めぐねえの車がわからない以上、そのほうが探しやすい」

永井「そうだな……キーのエンブレムでメーカーはわかってる。他にも何か手がかりがあればいいんだけど」

悠里「めぐねえはたしか1人暮らしだったから、ちいさめの車を使ってたんじゃないかしら?」

胡桃「どっちにしろ、向こうで探してみなきゃわかんねえな」

永井「その前にこの近くのガソリンスタンドの位置を確認しておこう。もし、ガソリンの残量が少なかったらそれも補給しないと」

悠里「それはわたしがやっておくわ」

永井「頼んだよ」

胡桃「じゃあ、いくか」

永井「ああ」

悠里「二人とも、気をつけてね」



129: ◆8zklXZsAwY 2016/04/16(土) 23:49:30.45 ID:1TzRJcmAO


ーー
ーーーー
ーーーーーー

胡桃「よし」キュ

永井「僕が先に降りるが、先頭は恵飛須沢さんが走ってくれ。耳を塞いでない僕が後方にいたほうが危険を察知しやすい」

胡桃「わかった」

永井「下についたら合図する。それまでは待機だ」

胡桃「上見んなよ」

永井「上にやつらはいないだろ」

胡桃「真面目か」

永井「もっとましな冗談を言え。先行くぞ」


カン...カン...カン...


永井「……よし。いいぞ」


カン...カン...カン...


胡桃「……よーい……どん!」ダッ!



130: ◆8zklXZsAwY 2016/04/16(土) 23:51:33.40 ID:1TzRJcmAO



タタタタタタタタタ!


永井 (グラウンドは問題なく通過できそうだ)

胡桃「ふっ!」ザシュ!

永井「ついたぞ!」

胡桃「この車、同じエンブレムだ」

永井「こっちにもある。先にそっちを試せ」


ガチャガチャ...


胡桃「くそっ! 合わない!」

永井「こっちだ。この赤い車!」


アアア...アア...


永井「!」

永井 (やつらが集まってきた)

永井「耳栓しろ!」

胡桃「ああ!」バッ

永井『“止まれ!”』ビリビリ...!



131: ◆8zklXZsAwY 2016/04/16(土) 23:54:34.21 ID:1TzRJcmAO



...ア...


永井「クソッ! やっぱり効果が短い」

永井 (図書室と違って開けた空間だ。短い時間動きを止めても、対処しきれない)

胡桃「数が多くなってる!」

永井「恵飛須沢さん、シャベルで車を叩け! 警報を鳴らすんだ!」

胡桃「よっしゃあ!」ガン!


フィフィフィフィフィフィ!!


永井「よし。早く来い!」

胡桃「やつらの数が多いんだよ……そうだ!」


ピョン...ガン!...ピョン...ゴン!...


永井 (車の上を……! むちゃくちゃだ、あいつ)


ズシャア...!


胡桃「いってえ! ボンネットで太もも擦った!」

永井「バカやってんじゃねえ! 早く開けろ!」

胡桃「今やってるよ!」ガチャガチャ...



132: ◆8zklXZsAwY 2016/04/16(土) 23:56:13.17 ID:1TzRJcmAO



ガチャッ!


胡桃「開いた!」

永井「エンジン!」


ブロン...!


胡桃「よし! 行くぞ!」

永井「待て、シートベルトがまだ……」

胡桃「後にしろ、んなもん!」



ーー正面玄関

悠里「ゆきちゃん、ガラス気をつけて」

由紀「玄関、工事中なの?」

悠里「他のクラスは授業中だから静かにね」

由紀「うん」

悠里「……ふぅー」

由紀「……」ギュッ...

悠里「……!」

由紀「大丈夫だよ」ニパ-

悠里「そうね」フフッ



133: ◆8zklXZsAwY 2016/04/16(土) 23:58:43.79 ID:1TzRJcmAO



....ブロロロロロロ……キキー!


永井「痛ってえ!」ゴンッ!

悠里「きゃっ!」ビクッ!

胡桃「早く乗れ!」

由紀「け、けーくん、頭大丈夫?」

永井「っ……シートベルトまだだって
言ったろ!」

胡桃「走ってるあいだにつけろよ!」

悠里「早く出して!」

由紀「待って、し、シートベルト……」アセアセ

永井「僕もまだだ!」

胡桃「だから後にしろ!」


...ブウゥン...!



134: ◆8zklXZsAwY 2016/04/17(日) 00:00:15.99 ID:FJujpCv3O


永井「っ……おい、運転荒いぞ。ほんとに大丈夫か?」

胡桃「任せろ。いつもと感覚は違うけどな」

由紀「いつも?」

胡桃「ああ。いつもはハンドルコントローラーじゃなくて、パッド使ってるから」

由紀「ゲームじゃん!」

永井「殺す気か! 運転変われ!」

胡桃「おまえは殺しても死なねーだろ!」

悠里「と、とにかく! これで遠足に出発ね!」

由紀「りーさん、いまそれどころじゃないかも……」



138: ◆8zklXZsAwY 2016/04/22(金) 01:00:45.37 ID:44P560hnO


ーーリバーシティ・トロン・ショッピングモール 5F・避難所

美樹「……」

美樹 (街の様子……やっぱり、変わってない……)

美樹「圭……どこに行っちゃったんだろう…… 」

美樹 (CDプレーヤーの電池、もうなくなっちゃうよ……)


クゥ-...


美樹「お昼にしないと……」

美樹 (もう、食べ物も少ないや……)

美樹「……太郎丸、ご飯だよ? ごめんね。わたし、もう怒鳴ったりしないから……」

美樹「でてきて、太郎丸……」

美樹「……太郎丸……?」

ーーーーーー
ーーーー
ーー



139: ◆8zklXZsAwY 2016/04/22(金) 01:03:00.63 ID:44P560hnO

ーーリバーシティ・トロン・ショッピングモール 正面

由紀「見えた! 見えたよ!」

胡桃「元気だな、おまえ」

悠里「元気すぎよ。昨日ちゃんと寝た?」

由紀「えへっ。あんまり」

胡桃「おまえ、遠足で熱出すタイプだろ」

永井「体調が良くないなら、丈槍さんは車で休んでたほうがいいんじゃないか?」

由紀「そそそそ、そんなことないよ! 大丈夫、ばっちりだよ!」

悠里「喧嘩しないの。さ、行きましょ」

胡桃「どうだろ、誰かいるかな?」

永井「いるだろ。あれが起きたのは日中だったんだ」

胡桃「そうじゃねえよ」

永井「ああ。そっちか」

悠里「避難するなら、ここよね……でも……」

永井「いたとしても、そう多くはない。第一この車は四人乗りだ」

胡桃「……とにかく、中に入ろうぜ」

悠里「車のカギ、どうしよっか?」

永井「開けっ放しでいいと思うけど、キーは持っていったほうがいい」



140: ◆8zklXZsAwY 2016/04/22(金) 01:04:21.30 ID:44P560hnO


由紀「わ、暗い。休みかな?」

胡桃「ドアは開いてるな」

由紀「閉め忘れかな?」

悠里「『リバーシティ・トロン館内案内』……」ピラ...

永井「若狭さん、ホームセンターはあるか?」

悠里「ううん……ないみたいね」

永井「そうか……モール内を動き回るよりはマシだと思ったんだけどな」

胡桃「ああ。客の数もそっちのが少なそうだもんな。使える道具とかもありそうだし」

永井「ないなら仕方ない。リストアップした必需品とそれがある階数を確認しよう」

悠里「食料品は地下一階ね。一階がフードコート、広場、ステージ。二階はアクセサリーや宝飾品のフロアだから関係なし。三階が女性服で、四階が紳士服。本や電化製品は五階ね」

永井「食料品から回収していこう」

胡桃「全員でいくのは危険だよな」

永井「地下に行くのは恵飛須沢さんと僕だ。可能なら、買い物カゴかカートを利用してより多くの食料品を先に車まで運んでおきたい」

胡桃「一階の状態次第か」

悠里「今日はイベントがあるみたいね」

由紀「イベント? お祭りみたいなの?」

胡桃「だったら邪魔しないようにしないとな」

永井「……“声”は緊急時以外には使用しない。モールの構造上、声が反響する恐れがある」

由紀「じゃ、怪しまれないようにそっーとね」

悠里「ええ。そっーと、そっーと……」



141: ◆8zklXZsAwY 2016/04/22(金) 01:06:05.43 ID:44P560hnO


ーー1F

胡桃「ぱっと見、だれもいないな」

永井「素早く移動しよう。先頭は恵飛須沢さん、最後尾は僕が担当する」

悠里「わかったわ」

胡桃「よし、いくぞ」


タタタタ....


胡桃「あれだ、あのCDショップ。シャッターが下りかかってる」

悠里「なら、ひとまずあそこに隠れましょう」

胡桃「頭、気をつけろよ」

由紀「うんしょ……」

永井「シャッター下ろすぞ」ガシャン

胡桃「……ふぅ。店内を見回ってくる」

永井「恵飛須沢さんの見回りがおわったら、僕らは地下一階におりていく。そのあいだ二人はここで待っていてくれ」

悠里「それなんだけど永井君、これ使えるんじゃないかしら?」

永井「サイリウムか。たしかに」

悠里「学校でも使えそうね」



142: ◆8zklXZsAwY 2016/04/22(金) 01:07:37.99 ID:44P560hnO


胡桃「見回りおわったぜ。問題なし」

由紀「もう買い物していい?」

悠里「無駄遣いはダメよ?」

胡桃「よーし、いくか」

悠里「くるみ、これ持っていって」

胡桃「ん? なんだこれ?」

悠里「サイリウム。かれらの意識をそらすのに便利かなって」

胡桃「へえ。なんか『ジュラシック・パーク』みたいだな」

永井「そうか?」

胡桃「ほら、ジェフ・ゴールドブラムがTレックス相手にさ、やってたろ? あんな感じ」

永井「あそう」

胡桃「似てないか? 死んでたのに生き返ったって点じゃ、恐竜も同じだろ?」

永井「どっちでもいいよ。それより、準備はいいか?」

胡桃「ああ。いこう」



143: ◆8zklXZsAwY 2016/04/22(金) 01:09:10.41 ID:44P560hnO


ーーB1F

胡桃「……ひどい臭い……」

永井「生鮮食品は腐ってる。缶詰やインスタント中心に集めていこう」

胡桃「……やつらの数も多いな」

永井「サイリウム、使ってみるか?」

胡桃「そうだな。あそこの固まってるやつら、あれが邪魔だな」

永井「できるだけ遠くに投げろ」

胡桃「あたしが投げるのか?」

永井「楽勝だろ? そんな重たいシャベルを振り回してるくらいだし」

胡桃「なんか釈然としねえ……」シャカシャカ...ポ-ン...


ヒュ-...オ...オオ...


永井「……離れた。行くぞ」タッ...

胡桃「やっぱ釈然としねえ……」



144: ◆8zklXZsAwY 2016/04/22(金) 01:11:42.95 ID:44P560hnO

ーーーーーー
ーーーー
ーー

永井「日用品の数は十分。食料もひととおり手に入ったな」

胡桃「缶詰のコーナーはここだ」

永井「バッグに詰めるとき、乱暴にして音をたてるなよ」

胡桃「わかってるよ」カチャ...

永井 (……おでんの缶詰なんてあるのか)ジ-

胡桃「……気になるんなら持ってけば?」

永井「……そうするか」

胡桃「大和煮も探すか。ゆきの好物だしな……おっ、あった……」パシッ


パシッ


胡桃「ん?」

太郎丸「ハッハッ....」



145: ◆8zklXZsAwY 2016/04/22(金) 01:13:27.06 ID:44P560hnO


胡桃「は? 犬?」

太郎丸「ワウッ!」タタッ!

胡桃「えっ、ちょ、おい! それ、あたしんだぞ!」

永井「おい、声でかいぞ」

胡桃「いや、だって、犬があたしの缶詰を……」

永井「棚にいっぱいあるだろ」


ウオ...オオオ...


永井「来るぞ」

胡桃「……悪かったよ」

永井「戦闘は避けよう。このカートに荷物を載せてエスカレーターのところまで走り抜ける」

胡桃「音が出ないか?」

永井「缶詰をバッグに詰め込でるんだ。走ればどのみち音が出る。サイリウムは?」

胡桃「あと6本」

永井「僕のも持ってけ。カートは僕が押す」

胡桃「了解」

ーーーーーー
ーーーー
ーー



146: ◆8zklXZsAwY 2016/04/22(金) 01:14:50.62 ID:44P560hnO


ーー1F

由紀「おかえり~」

胡桃「いや~、大漁大漁」

悠里「おかえりなさい。時間かかったわね」

胡桃「いったん車まで戻って荷物を置いてきたからな」

永井「食料のほかにも、リストにある必需品もいくつか手に入った」

悠里「どんなの?」

胡桃「食料は缶詰やインスタント、レトルト、シリアルなんかが中心だな。乾パンやチョコレート、調味料もいくつか」

永井「医薬品は絆創膏や包帯、脱脂綿、消毒液、かぜ薬、傷薬、胃腸薬、軟膏。あとトイレットペーパーや乾電池、生理用品、マッチといった日用品も持てるだけ持ってきた」

悠里「そんなに運んでて危なくなかった?」

永井「サイリウムが役に立ったよ」

悠里「あら、よかったわ」

胡桃「あと行くとこは服屋と家電屋か」

由紀「人少ないよね。上にいけばだれかに会えるかな?」

胡桃「……きっとな」

永井「そろそろ行こう。外の様子も、もう落ち着いてきてるころ……」

由紀「けーくん、その子どうしたの?」

永井「ん?」



147: ◆8zklXZsAwY 2016/04/22(金) 01:17:11.80 ID:44P560hnO


太郎丸「ハッハッハッ」

胡桃「あっ、そいつ! 缶詰とってったやつ!」

悠里「首輪してる。飼い犬だったのね」

太郎丸「ワン!」

由紀「返事した! ウ-...ワウワウ」

太郎丸「ワオンッ」

由紀「ワウ~...ワンワン...ワオ-ン!」ピョン

胡桃「ちょ、ゆきっ」

永井「待てっ」

太郎丸「ワン!」ピタッ!

由紀「あれ? 止まっちゃった」

胡桃「おまえ、“声”使ったのか?」

永井「使うわけないだろ、犬相手に」

胡桃「でも、こいつ、ピタッと動き止めたぜ?」

悠里「……もしかして、“待て”って命令されたと思ったんじゃないかしら?」



148: ◆8zklXZsAwY 2016/04/22(金) 01:20:26.19 ID:44P560hnO


胡桃「んん?」

由紀「それって、けーくんの言うことなら聞くってこと?」

永井「なんで?」

悠里「それはわからないけれど……」

胡桃「なんか命令してみれば?」

永井「なにを?」

胡桃「動物飼ったことねーのか?」

永井「おすわり?」

太郎丸「ワン」ペタッ

胡桃「おお……」

由紀「すごーい。けーくん、この子と知り合い?」

永井「初対面」

悠里「でも……どうしましょうか、この子」



149: ◆8zklXZsAwY 2016/04/22(金) 01:21:44.01 ID:44P560hnO


永井「決まってる。ここに繋いでおく」

悠里「えっ」

由紀「置いてっちゃうの?」

永井「この状況で普通の飼い犬なんてつれていけるわけないだろ。見たところ噛まれてはないようだけど、何を口にしたのかもわからない」

胡桃「うーん……そりゃそうなんだろうけど」

永井「ちょうどいい紐がある。これをここに結びつけておく」

悠里「でも、それじゃ……」

永井「帰るときに外していくよ」

永井 (余裕があればだが)

胡桃「まあ、仕方ないか。ゆき、首輪がしてるってことは飼い主がいるってことだし」



150: ◆8zklXZsAwY 2016/04/22(金) 01:22:40.59 ID:44P560hnO


由紀「う~……わんちゃん、ここで待っててね」

太郎丸「ワン!」

永井「おい、吠えるな」

太郎丸「ワウ...」

永井「できた。次は三階?」

悠里「ええ……」

由紀「あっ、待って。この缶詰さ、あの子のために置いておこうよ」

胡桃「そうだな。こいつが持ってきたもんだし」パカッ

太郎丸「……クゥ-ン」

由紀「けーくん、食べていいって言ってあげて」

永井「……食べていいぞ」

太郎丸「ワン!」パクパク

永井「なんなんだ、この犬」

胡桃「まあまあ」



151: ◆8zklXZsAwY 2016/04/22(金) 01:23:58.62 ID:44P560hnO


ーー3F

永井「地下に比べればさすがに少ないな」

胡桃「夕方くらいに起きたからな」

悠里「ええ。だから、いちばん危険なところはもう過ぎたわね」

由紀「あっ、これかわいー! 何だろ? ストラップ?」

胡桃「ちげーよ。防犯ブザーだろ」

由紀「これ、アルノー・鳩錦みたい。つけてこー。これとこれとあとこれも」

胡桃「つけすぎだろ!」

由紀「みんなのぶんだよ。これ、くるみちゃんの」

胡桃「いらねーよ! なんだそのたてがみのないライオンみたいなの!」

由紀「も~、しょうがないなあ。わたしが持ってこ」

悠里「それ、ここじゃ絶対鳴らしちゃダメよ。警備員さん飛んでくるから」

由紀「はい!」ビシッ



152: ◆8zklXZsAwY 2016/04/22(金) 01:25:45.86 ID:44P560hnO


ーー女性服店

由紀「お、おしゃれな空間だ……」

悠里「さ、入りましょ」

胡桃「中はけっこうきれいだな」

由紀「ハイヒールだ。ね、これ履いてみてもいい?」

悠里「ええ、いいわよ」

由紀「はじめてなんだよね、ハイヒールって……ととっ、とっとっとっとおっ!」コテン

悠里「あら、大丈夫?」

由紀「うう~……ハイヒールはまだ早かったよ……」

悠里「なら、こっちの靴はどうかしら? ゆきちゃんに似合うんじゃない?」

由紀「あっ、これもかわいーね」

悠里「靴を見終わったら、洋服を見に行きましょ」

胡桃「こんなことしてていいのかな……」

悠里「こんなときだからこそよ。だってわたしたち、女の子でしょ?」

胡桃「そうかもな……あれっ、永井は?」

悠里「時間がかかりそうだから、先に上の階に行って待ってるって」

胡桃「逃げたな、あいつ」



153: ◆8zklXZsAwY 2016/04/22(金) 01:27:12.23 ID:44P560hnO


ーー4F

由紀「けーくん、お待たせ~」

悠里「ごめんなさい。けっこう時間かかっちゃって」

永井「いや。必要なものはだいたい揃えきたよ」

由紀「けーくん、お金持ってたの?」

永井「おばあちゃんのキャッシュカードがあるから」

胡桃「おまえ、そのキャッシュカードって……」

永井「五階の様子もさきに見てきたよ。階段のところにバリケードがあった」

胡桃「バリケードの向こう、見てきたか?」

永井「まだだ。だが、人のいる気配や物音はしなかった」

胡桃「……どうする?」

悠里「……行きましょう。可能性があるなら確認しないわけにはいかないわ……」

永井「……わかった」



154: ◆8zklXZsAwY 2016/04/22(金) 01:29:38.28 ID:44P560hnO


ーー5F

胡桃「ここか」

永井「荷物たのむ」

悠里「ひとりで大丈夫なの?」

永井「それが一番危険が少ないだろ? 耳栓はすぐつけれるよう準備しておいて」

胡桃「わかった」

永井「よろしく」


タッ...


悠里「……誰かいると思う?」

胡桃「いてほしいけど……車、どうする?……」

悠里「一人くらいならなんとか……」












永井『耳栓!!』


胡桃・悠里「「!」」

悠里「ゆきちゃん!」

由紀「うわっ! っあ!」ポロッ

胡桃「何やってんだ! 永井! ちょっと待て……」



155: ◆8zklXZsAwY 2016/04/22(金) 01:31:21.51 ID:44P560hnO



永井『“止まれ”!!』


ビリビリビリ...!!


胡桃 (身体が……)

悠里 (全然うごかない……)

由紀 (うぅ………)


ダン!

永井「ダメだ、全滅してる。さっさと……ハァ!?」

永井「なんで固まって……ああ! “動け”! 逃げるぞ!」

胡桃・悠里「「!」」バッ

由紀「あっ、動く……」


ミシッ...ミシッ...


永井「耳栓間に合わなかったんなら言えよ!」


グラッ...


胡桃「言おうとしたんだよ!」

悠里「ケンカしないでよ! それよりバリケードが……!」


ガラガラガラッ!!


永井・胡桃「「!」」


グオオオオオオオ....!


永井「チッ……」



156: ◆8zklXZsAwY 2016/04/22(金) 01:33:16.70 ID:44P560hnO



ーー避難所

美樹 (誰もいない……誰も……)

美樹 (圭も……太郎丸も……生きてるひとはみんな……)


ガラッ...


美樹「!」


ドタドタ...!


美樹 (足音……)スッ...


ガタ...ガタン


美樹 (これで……大丈夫……)

美樹「……隠れなきゃ……」


『耳栓!!』


美樹「!」バッ


『止まれ!!』


美樹 (声……男の人……!)

美樹「誰か、いるの……?」

美樹「誰かが、来たんだ……!」



159: ◆8zklXZsAwY 2016/04/27(水) 18:51:17.43 ID:ipw3HlrYO


ダッ!!

胡桃「急げ急げ急げ! やつらすごい数だ!」

由紀「はぁはぁ……」ゼエゼエ...

悠里「えいっ!」ポイッ!

胡桃「ダメだ……まだ半分以上追ってくる」

永井「チッ……」

永井 (黒い幽霊は放てない。あんな無闇に暴れまわるやつ、人がいる状況じゃ危険すぎる)

永井「恵飛須沢さん、先頭に行け! 殿は僕がつとめる!」

胡桃「いいのか? そこがいちばん危ねーだろ 」

永井「この際仕方ない。さしあたり、これが最も全員の生存率が高いからな」

胡桃「わかった」

永井「はぐれた場合は置いていってもいい。モール自体から離れなきゃいけないときは昨日のガソリンスタンドで……」

悠里「待って! 下にもいる!」

胡桃「りーさん、ゆき、動くなよ! あたしが……」



160: ◆8zklXZsAwY 2016/04/27(水) 18:53:12.77 ID:ipw3HlrYO



ガタタタタ!


胡桃「一匹! 滑り落ちてきやがった!」

永井「早く片付けろ!」

胡桃「下のは!?」

永井「僕がやる!」ダン!


ドカッ!!...ゴロゴロゴロ!!


永井 (足に当たって一匹転んだが、着地した場所が遠い! 近づいてくる二匹目から先にやる!)


グオオ...!


永井 (バッグを盾にして……!)ガブゥッ!


ドスッ! ドスッ!...バタン...


永井 (転がしたやつはまだ完全に起き上がってない。頭の位置が低いから髪の毛をつかみ、首の後ろを露出させる)グイッ!


グシャッ!...


永井「……ふう。こっちはもう大丈夫……」


オオオ...!!


永井「!」



161: ◆8zklXZsAwY 2016/04/27(水) 18:54:59.53 ID:ipw3HlrYO


永井 (もう一匹! 見えない位置にいたのか!)

永井「待て! まだ一匹いた!」

永井 (クソッ! はやく倒すこと優先したから武器は回収してない! こいつを盾にするしか……!)グイッ!


オオ!...グラッ...バタン!!


かれら「グオ!...ガァ!」


ガチン!ガチン!


永井 (これじゃドライバーが掴めない…….!)

永井「重いんだよ……!」グググ...

かれら「グアアア!」


ダッ!


ズバッ...!!


永井「!」


ゴロン...ゴロン...ブシャア...




162: ◆8zklXZsAwY 2016/04/27(水) 18:57:18.74 ID:ipw3HlrYO


胡桃「わりい、遅れた」スッ

永井「……首がなくなるかと思った」グイッ

胡桃「ん? ああ。心配すんなって。言われたことは守る」

永井「上のやつらは?」

胡桃「倒したやつの死体を投げつけたら倒れた。ついでに二、三匹やって、それが壁になってる」

永井「あまり長くはもちそうにないな。はやく移動しよう。さっきの戦闘を聞きつけて他のやつらもよってくるぞ」

悠里「ちょっと待って。ゆきちゃんが……」

由紀「大丈夫だよ……りーさん……」ゼエゼエ...

永井 (だいぶ消耗してる。熱もありそうだ)

胡桃「どこかで休憩とれないか? あたしもけっこうキツい」

永井「トイレの前の通路に行こう。ベンチもあるだろうし、フロアの反対側にも通じてる」

胡桃「よし。もうひと踏ん張りだ、ゆき」

由紀「うん……ごめんね……けーくん」

永井「いいよ。それより若狭さん、サイリウムの残りは?」

悠里「さっき何本か使ったけど、まだたくさんあるわ」

永井「あとで正確な数を確認しよう」

胡桃「もう行こうぜ。やつら、近づいてきてる」

永井「ああ」



163: ◆8zklXZsAwY 2016/04/27(水) 19:00:07.77 ID:ipw3HlrYO


ーーーーーー
ーーーー
ーー

永井「思った通り、反対側はやつらの数が少ない」

胡桃「そうか。とりあえず一息つけるな」

永井「あと、自販機が開いていたから飲み物を持ってきた。ミネラルウォーターだけど」

胡桃「さんきゅ」

悠里「ありがとう」

永井「丈槍さんは?」

悠里「やっぱり熱があるみたい。いまは眠ってるわ」

胡桃「寝かしとこう。下を突っ切るのに体力いるしな」

永井「だがあまり長いことここにはいられないぞ。日が落ちる前に昨日のコンビニまでたどり着かないと」

胡桃「わかってるよ。そう焦らすなって」

永井「サイリウムの残りは?」

悠里「あと16本ね」



164: ◆8zklXZsAwY 2016/04/27(水) 19:03:25.68 ID:ipw3HlrYO


永井「すこし心許ないが、まあいいか。囲まれたときを想定して三人で分けておこう」

悠里「足りないなら、あのCDショップに取りに行ったらどうかしら? ほら、あの子もつないだままだし……」

永井「ダメだ。そんな余裕はない」

悠里「だけど……」

永井「優先すべきは僕たち自身の安全だろ?」

悠里「……そうね」

胡桃「なあ、永井」

永井「ん?」

胡桃「バリケードのむこう、どんな様子だった?」

永井「生存者たちが集まって生活してたみたいだ。おそらく十数名。それなりにうまくやってたようだが、物資の調達係が噛まれでもしたんだろう。それで全滅」

胡桃「やっぱり生き残りはいなかったか?」



165: ◆8zklXZsAwY 2016/04/27(水) 19:04:57.58 ID:ipw3HlrYO


永井「いないだろ。あの状態じゃ」

胡桃「いても助ける余裕はない、か……」

悠里「くるみ……?」

胡桃「あ、いや。そういう心構えも必要かなって」

永井「それもいいけど、大事なのは傷を負わないことだ。ここの生存者の例でもわかるように内部で感染者が発生するとヤバい。僕らも気をつけないと」

胡桃「おまえなあ……もうちょっと空気読んでくれよ。さっき発言するのも、けっこう勇気いったんだぞ」

永井「? 当然のことだろ?」

胡桃「はあ……まあいいや」

由紀「う~ん……あっ、りーさん……」ゴシゴシ...

悠里「ゆきちゃん、もうよくなった?」

由紀「うん。もう平気」

永井「もういちど反対側の様子を確認してくるよ。問題ないようならすぐに行動しよう」

胡桃「わかった」




166: ◆8zklXZsAwY 2016/04/27(水) 19:07:02.42 ID:ipw3HlrYO



ーー5F・避難所

キィ...

美樹 (いまなら……)

タッ

美樹 (かれらの姿がない)

美樹 (! バリケードが……それにこれ……)

美樹「サイリウム……やっぱりだれか……」

美樹「……待って……お願い……」

美樹「待って!!」ダッ!!



167: ◆8zklXZsAwY 2016/04/27(水) 19:12:01.18 ID:ipw3HlrYO


ーーモール前

由紀「!」ピクッ

悠里「よかった……ここまでくれば安全ね」

永井「恵飛須沢さん、荷物を載せるの手伝ってくれ」

胡桃「はいよ」

由紀「……」

悠里「ゆきちゃん、どうかしたの?」

由紀「ねえ、なにか聞こえない?」

悠里「え?」

由紀「だれかが叫んでるような……ほら!」


ギギ..ギギギギ


悠里「別に……」

胡桃「ありゃ警備員が騒いでるんだろ。永井はどうだ?」

永井「ん? ああ、あの『はだしのゲン』の擬音みたいな音のことか」

胡桃「おまえ、その例えは……いや、わかるけどさあ」

永井「小学校の図書室とかになかった? あと、小児科の待合室とか」

由紀「ちがうよ! 声がしたもん!絶対だれかいる!」ダッ!

悠里「ゆきちゃん!」

胡桃「っ! 永井、追うぞ!」

永井「ん? ハァ!?」

永井 (そうだ、車のキーは!?)ハッ


ガゴッ


永井「ない……若狭さんが持ったままか……」

胡桃「なにやってんだ! 早く来いよ!」

永井「なんだよ、もう!」



169: ◆8zklXZsAwY 2016/04/27(水) 22:38:42.25 ID:ipw3HlrYO

ーー
ーーーー
ーーーーーー

美樹 (もうすぐ出口だ。あとはこのエスカレーターを降りれば……)


グオオオ...!


美樹「急がなきゃ……!」


ガタガタガタガタ!


美樹「!」

かれら「アア...」

美樹「下にも……」

美樹 (挟まれた……どこか他に逃げ場は……)


ポロン...

美樹「!」

美樹 (ピアノ……あそこに跳べば……!)

美樹「……えいっ!」ダッ!


ドタン!


美樹「……っ!」

美樹 (はやく起き上がって逃げないと……!)バッ!

かれら「グオオオ...!」ワラワラ

美樹「あ……」


ガンガン!...ポロン...パン!


美樹「ひっ!……やだ……来ないで……」

美樹「だれか……」

美樹「だれか来て!!」













由紀「いた! あそこ!」














170: ◆8zklXZsAwY 2016/04/27(水) 22:41:17.24 ID:ipw3HlrYO



美樹「!」ハッ!


美樹 (あ……)

美樹「ほんとに……いたんだ……!」

胡桃「おい、やばいぞ。囲まれてる!」

悠里「待って! いま行くから!」

美樹「」フラフラ...

胡桃「おい、待てって!」

永井「ダメだ。こっちの声が耳に入ってない」


ズルッ


胡桃「落ちたぞ!」

由紀「早くしないと!」タッ!

胡桃「やめろ!もう無理だ」ガシッ!

由紀「でも……」

永井「逃げよう。他のやつらもわいてきた」

由紀「っ!……けーくん、お願い! 助けてあげて!」

永井「は?」

由紀「できるでしょ!?」

永井「そっちの心配してる場合じゃ……」


グオオオオ!


美樹「……ぁ……ぁぁ」

永井「……」

永井「……今度はちゃんと耳塞げ」

由紀「! うんっ!」


ダッ!


永井『“動くな”!』



171: ◆8zklXZsAwY 2016/04/27(水) 22:43:00.78 ID:ipw3HlrYO



ビリビリビリ!


美樹 (……身体が……)

永井「おい! もう動けるだろ! はやく逃げるぞ!」

美樹「えっ? あっ、はい!」

永井「急げ! ここを抜けたら僕の前を……」

かれら「グ...オオオ!」

永井 「もう効果が切れたか!」


ザン!


永井「!」

胡桃「こっちだ! はやく!」

永井「行け! 彼女のあとについてけ!」

美樹「あの、でも……」

永井「いいから!」




172: ◆8zklXZsAwY 2016/04/27(水) 22:47:37.95 ID:ipw3HlrYO




アア...アアアア...アアアアアアア!


永井「やっぱり“声”が響いたか……」

悠里「もうサイリウムはないわ!」

永井「とにかく走れ!ばらばらになるな!」

美樹「あ、あの! わたし幾つか拾ってます!」

胡桃「ほんとか!?」

永井「すぐ投げれるように準備しろ!」

美樹「はいっ!」ゴソゴソ


アア...!


永井「!」

永井 (柱の陰に……彼女は気づいてない)

永井「チッ」ドンッ!

美樹「キャッ!」バタン!

かれら「グアアァ!」

永井 (避けられないか……!)スッ


ガブゥッ!!


ドシュ!





173: ◆8zklXZsAwY 2016/04/27(水) 22:52:19.70 ID:ipw3HlrYO


由紀「けーくん!」

美紀 (圭……?)

美紀「はっ……!」バッ

かれら「カア...!」グチャ

永井「」ブラン...

悠里「っ!……」

胡桃「あいつ……自分の首に……」


ブチチッ...バタン......ドクドクドク......


美紀「あ……」フッ...

胡桃「ヤバい、あの子……!」


ジュワジュワ...パチリ


グイッ...ドシュ!


かれら「ギ...」バタン...

胡桃「!」

永井「治った。逃げるぞ」



174: ◆8zklXZsAwY 2016/04/27(水) 22:53:32.47 ID:ipw3HlrYO


胡桃「待て、永井! その子、気絶してる!」

永井「ハァ!? ったく、面倒だな、もう!」ガッ

悠里「サイリウム貸して!」

胡桃「ほら、走れ走れ!」


ダダダダ!


悠里「もうすぐ出口よ! でも……」

胡桃「群れがいる! 永井、もういちど“声”だ!」

永井「無茶……いうな……人ひとり……担いで走ってんだぞ……」ゼエゼエ...

胡桃「体力ねえな、おまえ!?」

悠里「近づいてくるわ!」

胡桃「くそっ、やるしかないか……!」

悠里「待って、くるみ! ひとりじゃ……そうだ! ゆきちゃん、バック貸して!」

由紀「えっ、うん!」

悠里「みんな、急いで耳を塞いで!」

永井「は?」

胡桃「なんで?」

由紀「りーさんが?」

悠里「いいからはやく!」



175: ◆8zklXZsAwY 2016/04/27(水) 22:54:53.57 ID:ipw3HlrYO


胡桃「っ! そういうことか!」

永井「あっ! 待て、僕はこの子抱えて……」

悠里「いくわよ!」グイッ!


ビイイイイイイイ!!!!


永井 「ぐっ……」キ---ン

かれら「グオ......」

胡桃「よっしゃ! いまだ!」


ゴスッ! ザシュ! ゴスッ!


胡桃「道が開けた! 行くぞ!」

悠里「ゆきちゃん!」

由紀「うん!」

胡桃「ほら、永井も!」

永井「なんだ!? 聞こえないぞ!」

胡桃「ああっ!? あーもう、しゃーねえなあ!」ガシッ

永井「おい、なにしてる!」

胡桃「この子をいっしょに運ぶんだよ! ほら、そっちの手を持て!」



176: ◆8zklXZsAwY 2016/04/27(水) 23:12:54.87 ID:ipw3HlrYO


悠里「はやく! もうエンジンかけたわよ!」

胡桃「ふんばれ、永井!」

永井「なんて言ってんだよ……!」ゼエ...ハア...

悠里「気をつけて! 後ろからなにかくるわ!」


トテテテテテ!


胡桃「あっ、こいつ」

太郎丸「ワン!」

悠里「永井君がつないだ……!」

永井「なんか言ったか!?」


ギギ...ギギギギ...!


悠里「まだこんなに……」

胡桃「仕方ない、おまえも来い!」

太郎丸「ワン!」

悠里「全員乗った!? もう出すわよ!」


ドン!


悠里「!」


ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン!





177: ◆8zklXZsAwY 2016/04/27(水) 23:36:46.60 ID:ipw3HlrYO


胡桃「囲まれるぞ!」

悠里「っ!……つかまっててよ!」


ブォン!!


由紀「うわっ!」


ブオオン!!


ギギギ…ギギギ…ギギギ...ギ...………








ブオ--ン...




178: ◆8zklXZsAwY 2016/04/27(水) 23:39:32.46 ID:ipw3HlrYO


胡桃「……はあ。見えなくなった……」

悠里「……よかった……その子の様子は?」

胡桃「ぱっと見、ケガはないな」

悠里「……そう」

永井「念のため、目がさめるまでは拘束しておこう」

胡桃「おまえ、もう耳聴こえるようになったのか?」

永井「少しはな。まだキーンって音がするよ」

悠里「ごめんなさいね、永井君」

永井「なに? それくらいじゃ聴こえない」

胡桃「りーさんがごめんなさいって!!」

永井「そこまでデカくしなくてもいい!!」

由紀「うわっ」キ-ン

美紀「……ン……」

悠里「ふたりとも、その子起きちゃうわよ」



183: ◆8zklXZsAwY 2016/04/29(金) 14:02:13.68 ID:Acj58bCuO






……たす……けて……だれか……きて……



……動くな!!……動け……逃げるぞ……



………けーくん!………圭?………………ブスッ……………










ブシャアアア!………ドクドクドクドクドクドク……………








美紀「……ヒッ!」




美紀 (……夢……?)ハアハア...







184: ◆8zklXZsAwY 2016/04/29(金) 14:03:13.21 ID:Acj58bCuO

由紀「あ。おはよ」

美紀「えっ?」

由紀「お水、飲む?」

美紀「あ……ありがとう」

由紀「はい、どーぞ」

美紀「……」ゴクゴク


プハッ


美紀「……だれ?」



185: ◆8zklXZsAwY 2016/04/29(金) 14:04:31.90 ID:Acj58bCuO


由紀「巡ヶ丘高校三年C組、丈槍由紀だよ」

美紀「……2Bの直樹美紀、です」

由紀「じゃ、わたしが先輩だね」エッヘン

美紀「ここは、どこですか?」

由紀「学園生活部の部室だよー。あ、めぐねえ、おはよー。こっちこっち」

美紀「……?」

美紀「……がくえん、せいかつ部、ですか?」

由紀「うん。楽しいんだー。新入部員絶賛募集中だよー。最近も一人入部したからねー。ね、めぐねえ?……はーい、佐倉先生」

美紀「?」

由紀「あっ、こんな時間。授業始まっちゃう。みーくん、またねー」



186: ◆8zklXZsAwY 2016/04/29(金) 14:05:30.39 ID:Acj58bCuO




パタン...


美紀「みーくん……?」


キョロキョロ...


美紀 (あれ? 制服、きれいになってる)クンクン

美紀「……石鹸の匂いだ」

美紀 (廊下……だれもいないな……)

美紀 (……教室……)

美紀「夢……だったのかな……?」


ガラッ


美紀「……」

美紀「そんなわけ……ないよね……」




187: ◆8zklXZsAwY 2016/04/29(金) 14:06:55.06 ID:Acj58bCuO




ハッ!


美紀 (じゃあ……わたしを助けてくれた、あの人が死んだのも……)


ガラッ!


美紀「!!」ビクゥッ!

胡桃「いた!」

美紀「あ……」

悠里「……あなた、わたしたちの言うことはわかる?」

美紀「あ、あの……わたし……」

胡桃「……大丈夫そうだな」

悠里「そうね。あなた、名前は?」

美紀「ご……ごめんな、さい、わたしの、せいで……」ブル...ブル...

悠里「え?」

美紀「あなたたちと、いた、男のひと……わたしを、助けて……それで……」

胡桃「あ、あー……」

悠里「お、落ち着いてね。大丈夫だから」



188: ◆8zklXZsAwY 2016/04/29(金) 14:08:20.95 ID:Acj58bCuO


美紀「で……でも……」ボロ...






永井「あ、若狭さん。やっぱりダメだった」






美紀「え……?」

悠里「な、永井君!」アタフタ

胡桃「なんつータイミングで……」ハア...

永井「普通の洗剤じゃ、襟についた血は全然落ちなかったよ。漂白剤にすればよかったな」

美紀「え……? どうして……?」

永井「あ、目が覚めたんだね」

美紀「だ、だって……わたし……!」

悠里「大丈夫だから! ね、落ち着いて!」

胡桃「ちゃんと説明するから! な!」




191: ◆8zklXZsAwY 2016/05/04(水) 23:59:07.86 ID:1n93rb3TO


ーー
ーーーー
ーーーーーー

美紀「亜人……なんですね、ほんとうに……」

美紀 (それに……圭って名前……)

永井「見てたのならわかるだろ?」

美紀「はい……あっ、いえ、わたしは……永井さんが、その……倒れたところまでしか見てなくて……」

永井「ああ、そうだっけ?」

美紀「はい。すみません……」

永井「べつに謝らなくてもいいよ」

悠里「納得したら落ち着いた?」

美紀「あ、はい。さっきは失礼しました。うろたえてしまって……」

胡桃「無理もないって。あたしらもビビったもん」

永井「そういえば君らも亜人の復活ははじめて見たんだったか」

悠里「そうね。ふつうは見る機会なんてないわよね」

永井「佐藤さんがアップロードした亜人の実験映像、見てないの?」

胡桃「見ねえよ。つーか、躊躇なさすぎなんだよ。噛まれたのとほぼ同時だったぞ、おまえが自分の首刺したの」

永井「噛まれたんならさっさとリセットしたほうがいいだろ」

胡桃「慣れねえなあ。その感覚」



192: ◆8zklXZsAwY 2016/05/05(木) 00:00:17.44 ID:nGdPG+9cO


美紀「あ、あの」

胡桃「あ、わりい」

悠里「ごめんなさいね。つい、こっちの話に夢中になっちゃって」

美紀「いえ……あの、さっきゆき先輩が言ってた新入部員って……」

悠里「永井君のことね」

胡桃「ゆきにはもう会ったのか」

美紀「はい、起きてすぐに。それで、ゆき先輩はもうひとり、めぐねえという方のこともおっしゃってたんですが……」

胡桃「……」

悠里「……めぐねえは、もういないの」

美紀「でも、さっきゆき先輩が……」

胡桃「……ゆきにはめぐねえが見えてるんだ」

美紀「それは、オカルト的な話ですか?」

胡桃「そうじゃなくて……」



193: ◆8zklXZsAwY 2016/05/05(木) 00:02:35.04 ID:nGdPG+9cO


悠里「部活を始めてしばらくした頃かしら」

胡桃「それまですげー落ち込んでたゆきが元気になってさ、安心してたんだ。そしたら……元気になりすぎたっていうか……」

悠里「あの子の中では事件は起きてないの。学校は平和で、先生も生徒もいっぱいいて」

美紀「そうなんですか……」

悠里「最初はたまにそうなふうになる感じだったんだけど、めぐねえが亡くなってなから……ずっとなの」

永井 (この話聞くの二回目だな)

美紀「早く治るといいですね……」

胡桃「……」ムッ

永井「……」

悠里「ね、お願い。ここにいる間、あの子に合わせてくれる?」

美紀「その、永井さんもそうしてるんですか?」



194: ◆8zklXZsAwY 2016/05/05(木) 00:03:50.99 ID:nGdPG+9cO


永井「そうだよ」

美紀「……わかりました。やってみます」


ガラッ


由紀「たっだいまー」

胡桃「おかえり」

悠里「あら、その子もいっしょなのね」

由紀「うん。けーくんの部屋の前にいたんだよ。ねー?」

太郎丸「ワン!」

美紀「太郎丸!!」

太郎丸「!」ピョン

美紀「あっ……」

太郎丸「グルルル...」

永井「やめろ」

太郎丸「...ワウ」


トテトテ...ペタン


太郎丸「ハッハッ...」フリフリ

美紀「えっ……?」



195: ◆8zklXZsAwY 2016/05/05(木) 00:06:11.81 ID:nGdPG+9cO


悠里「美紀さん、この子のこと知ってるの?」

美紀「はい……太郎丸とはあの日、モールで出会ったんです。みなさんと出会った日の朝にいなくなってしまったんですが、それまでは五階の避難所でいっしょに生活してて」

永井「そのわりに嫌われてない?」

胡桃「おい! 言い方」

美紀「いいんです。太郎丸には八つ当して怒鳴ったことがあって……だから嫌われても仕方ありません……」

由紀「ケンカしちゃったんだね。でも大丈夫だよ。またすぐに仲直りできるよ」

美紀「そう、でしょうか?」

由紀「もちろん! けーくんも手伝ってくれるのね?」

永井「はあ?」

由紀「だって、太郎丸がいちばん好きなの、けーくんだもん」

胡桃「たしかに」

悠里「それも、ただなついてるというよりは忠犬って感じよね」

胡桃「おまえ、ほんとになんもしてねーの?」

永井「犬相手になにするってんだよ」



196: ◆8zklXZsAwY 2016/05/05(木) 00:07:36.98 ID:nGdPG+9cO


美紀「あの、太郎丸も永井さんが助けてくれたんですか?」

永井「こいつが勝手についてきただけだよ」

美紀「そう、ですか……」

由紀「一目惚れって感じだよね~。きっと、けーくんには犬の飼い主にふさわしいオーラがあるんだよ」

悠里「なら、太郎丸のお世話は永井君にやってもらいましょうか」

美紀「えっ」

永井「なんで僕が?」

悠里「だって、それがいちばんだもの。永井君の言うことをきいてれば、太郎丸が危ないところに行くこともなさそうだし」

胡桃 (なんか、りーさんがいじわるだ)

永井「ほんとに命令に従うんならね。でも普通ないだろ、そんなこと」



197: ◆8zklXZsAwY 2016/05/05(木) 00:09:02.78 ID:nGdPG+9cO


胡桃「もっかい命令して確かめてみれば?」

永井「……お手」

太郎丸「ワウ」ポフ

悠里「問題なさそうね」

永井「直樹さんはどうなの?」

美紀「わ、わたしですか?」

永井「いままでいっしょに生活してきたんだろ? 他人に預けることに不満はないのか?」

美紀「わたしは、太郎丸が望むようにさせてあげたいのですが……」

永井「ああそう」

美紀「でも、もし永井さんが気乗りしないのでしたら……」



198: ◆8zklXZsAwY 2016/05/05(木) 00:10:00.17 ID:nGdPG+9cO


永井「いまさらそんな気遣いはいらないよ」

美紀「……すみません」

悠里「じゃあ、これで決定ってことでいいかしら」

永井「直樹さんも世話を手伝ってくれるんだよね?」

美紀「わ、わたしもですか?」

永井「丈槍さんがはじめにそう言ってただろ?」

美紀「でも、わたしは嫌われてますし……」

永井「いやならべつにいいよ」

美紀「い、いえ。やります! よろしくお願いします、永井先輩」

由紀「よかったね、みーくん」



199: ◆8zklXZsAwY 2016/05/05(木) 00:11:24.54 ID:nGdPG+9cO


美紀「あの、みーくんってなんですか」

由紀「美紀だから、みーくん。ダメ?」

美紀「美紀でいいです」

由紀「えー、みーくんのほうがかわいくない?」

美紀「かわいくなくていいです」

由紀「うー。あっ、そうだ。学園生活部の話はもうした?」

悠里「大体はね」

由紀「そっか。じゃ、みーくん行こ!」

美紀「! どこへですか?」

由紀「学園生活部はね、学校全体が舞台なんだよ!」

永井「丈槍さん、案内してあげたら?」

由紀「うん! ほら、みーくんも!」

美紀「わ! ちょっと待ってください!」


ガラッ!






200: ◆8zklXZsAwY 2016/05/05(木) 00:17:28.51 ID:nGdPG+9cO


胡桃「……よかったのかよ、ふたりで行かせて」

永井「直樹さんは同意しただろ。現在の状況を実際に目で確かめれば、うまく対応する必要があるって納得するだろうし」

胡桃「そう単純にいくかねえ……」

悠里「先輩役としては永井君が向いてるわよね。太郎丸の世話で話することも多そうだし」

永井「また僕かよ」

永井 (まあ、監視役についたと捉えておくか)

悠里「まあ、それはおいおい考えていきましょ。いまは美紀さんの歓迎会の準備をしないと」

胡桃「永井のときにいちどやったから、楽っちゃ楽だな」

永井「ついでに手に入れた物資の数と種類もちゃんと把握しておこう。まだ数えてなかったよな?」

悠里「そうね。じゃ、永井君、おねがい」

永井「わかった」

胡桃「クラッカーも取ってきてくれ。今度はちゃんとしたリアクションがほしいからな」

永井「はいはい」




204: ◆8zklXZsAwY 2016/05/12(木) 15:12:27.85 ID:SOEGTqCwO


ーー深夜・放送室

由紀「スウ...スウ...」


グズッ...


由紀「ん……」パチッ


ムクリ...


由紀「……?」ゴシゴシ

美紀「……グスン」

由紀「……」

由紀「…………」


スッ...


…………


カバッ……


……………


……………………






205: ◆8zklXZsAwY 2016/05/12(木) 15:15:07.08 ID:SOEGTqCwO


ーー屋上

永井「……曇ってきたな」

美紀「さっきまで晴れてたんですが……ここで太郎丸とトレーニングするんですか?」

永井「校舎のなかだと不向きだからね……この椅子、園芸部の備品かな」ガタ

美紀「それで、どんなトレーニングなんですか?」

永井「そんなに緊張しなくてもいいよ。むしろ内容はとてもシンプルだ。屋上を太郎丸といっしょに歩くだけでいい」

美紀「それだけですか?」

永井「ああ。ただし、周回にあたっては直樹さんが主導権を握ること。リードは短く持ち、犬が行こうとする方向とあえて逆へ行く。あと、話しかけたり目を合わせたりするのも禁止だ」

美紀「でも、どうしてですか?」

永井「いちいち伺いを立てるのは犬の社会では下位の犬がすることだ。太郎丸が直樹さんのいうことを聞かないのもこれが原因だろう。だからこの訓練で主従関係をはっきりさせる。毅然とした態度で直樹さんが先導すれば、本来あるべき主従関係を確立できる」

美紀「はあ……」

永井「思っていたのと違った?」

美紀「あっ、いえ。そういうわけでは……」




206: ◆8zklXZsAwY 2016/05/12(木) 15:16:43.15 ID:SOEGTqCwO


永井「主従関係の確立は犬と同居するときの前提条件だよ。これを構築できなきゃ、そもそも性質も習性も異なる動物同士がいっしょに暮らせるわけがない」

美紀「……」

永井「どんな動物でもその習性や社会性を無視した共存はありえない。こんな状況で犬といっしょに生活したいのなら、なおさら危険な行動を取らせないようにならないと」

美紀「そのためのトレーニングなんですね?」

永井「ああ」

美紀「わかりました。永井先輩、わたし、かならず成功させます」

永井「なにか質問は?」

美紀「えっと……このトレーニングとは関係ないことなんですが……」

永井「いいよ。なに?」

美紀「その、ふつうの人間が亜人とそれ以外の人間を見分けることって可能なんですか?」

永井「見分ける方法?」

美紀「はい」ドキドキ




207: ◆8zklXZsAwY 2016/05/12(木) 15:17:45.51 ID:SOEGTqCwO


永井「……僕の知る限り、死んでみる以外にはないな」

美紀「そう、ですか……」

永井「……僕も亜人になってからまだ日が浅い。気が付いてないこともあるかもしれない。なにか分かったら教えるよ」

美紀「! は、はい!」

永井「ほかに質問がなければトレーニングを始めよう。いい?」

美紀「はい。太郎丸、行こう」

永井「声をかけない」

美紀「す、すいません」

永井「いいから始めて」

美紀「は、はい!」

太郎丸「……」ズルズル

美紀「あ、あの……太郎丸が歩いてくれないんですが……」

永井「引きずっていけばいい。そのうち歩き出す」

美紀「わ、わかりました」

太郎丸「……」ズルズルズル




208: ◆8zklXZsAwY 2016/05/12(木) 15:19:13.66 ID:SOEGTqCwO


永井「……」

永井 (亜人について興味があるみたいだな)

永井 (偏見や差別感情といったものはとくに見受けられない。だが理解が深いわけでもない。典型的な態度だな。ただ単に自分が亜人かどうか知りたかっただけか?)

永井 (生き残った人間にとってはある意味いちばんの関心ごとかもしれないな。こと生存限れば、亜人だった場合、ほとんどの問題が解決する)

永井 (とはいえ、この社会で亜人がどう扱われるかはこうなる前の連日の報道で知っているいるはず。現在の状況なら、亜人であることを口外することは、よほどうまく立ち回らないかぎりデメリットのほうが大きい)

永井 (仮に判別法があったとして、自身が亜人だと判明した場合、彼女はどう行動するつもりだった? 僕と協力してこの施設と物資を独占するつもりだったか、あるいは……)

永井 (……無意味な仮定だな。自身を亜人だと認識してない人間が亜人かどうかを見分ける方法なんて、死んでみるしかないんだ。興味本位で試すやつなんかいやしない)

永井 (生き残った人間が亜人だと判明する事態。やつらに襲われるのを除いて最もありうるのは……自殺か)

永井 (集団で生活しているグループから自殺者が出るとして、まず間違いなくそいつは見つからないように行動するだろう。そして、そいつが自身が亜人だと気づいたときの精神状態……これが気になるな)

永井 (自殺を試みて生還した者の心理状態……これが最も近いパターンか? 資料が欲しいところだが、高校の図書室じゃたかがしれてるし……現在のメンバーからそういう者が出てきた場合、僕がそれを判定する方法。そして、とるべき行動をいくつか想定しておくべきか? 亜人だからといって、そいつが僕にメリットをもたらすとは限らないし……)


ガチャ


胡桃「お、やってるやってる」

由紀「みーくん、大変そうだねえ」




209: ◆8zklXZsAwY 2016/05/12(木) 15:20:28.48 ID:SOEGTqCwO


胡桃「太郎丸引きずってんぞ、あいつ」

永井「ふたりとも、何か用?」

胡桃「もうすぐ昼メシだから、呼んでこいって」

永井「わかった。これが終わったら行くよ」

由紀「ねえ、みーくんと太郎丸のとこ、行ってもいい?」

永井「邪魔しないんならね」

由紀「そんなことしないよ~。じゃ、行ってきます~」

胡桃「ったく、りーさんが待ってるっていうのに」

永井「恵飛須沢さんだけさきに戻れば?」

胡桃「いや、待ってる。椅子、まだあった?」

永井「あっちのほうにあるよ」

胡桃「ああ、あったあった……それで? どんな調子?」ガタン




210: ◆8zklXZsAwY 2016/05/12(木) 15:21:47.39 ID:SOEGTqCwO


永井「始めたばかりだ。まあ、そのうち効果があらわれてくるだろ」

胡桃「思いっきり引きずってるけどな……」

永井「ちゃんとトレーニングしてけば、いずれ従うようになる」

胡桃「おまえ、犬のしつけにくわしかったっけ?」

永井「本を読んだ。どうやら、直樹さんと太郎丸が同じスペースを共有して生活してたのもまずかったみたいだ。飼い主の生活スペースに飼い犬が侵入するのを許したままにしておくと、犬は飼い主を上位の存在と見なさなくなるらしい」

胡桃「あの避難所なら仕方ないと思うけどなあ」

永井「ここで生活する以上、まえと同じじゃダメだ」

胡桃「てことは、専用のケージとかが必要になるか…… 理科室になんか利用できるものあったかな?」

永井「あとで確認すればいいさ」

胡桃「だな……永井、美紀はどんな様子だ?」

永井「僕に聞くのか」

胡桃「そりゃいまのところ、おまえといちばん会話してるからな」



211: ◆8zklXZsAwY 2016/05/12(木) 15:23:23.53 ID:SOEGTqCwO


永井「そっちはどうなんだ? たしかに彼女と面識はないのか?」

胡桃「ない。あたしもゆきもりーさんもな。あったら質問するまえに言うよ」

永井「……ふつうの人間が亜人を見分ける方法について聞かれた」

胡桃「亜人を見分ける方法?」

永井「ああ。まあ、こんな状況なら誰だって自分が亜人かどうかは知りたいだろうからな」

胡桃「それでそんな質問を?」

永井「そんなとこだろ」

胡桃「……たぶん、ちがうと思う」

永井「なら、ほかにどんな理由があるんだ?」

胡桃「 ……あの日、あのモールには美紀のほかにもうひとりいたんだよ。美紀の友達。あれが起きたときいっしょに逃げて、五階の避難所にいっしょにかくまわれて、避難所がダメになったときもいっしょだったんだ」

永井「……」



212: ◆8zklXZsAwY 2016/05/12(木) 15:24:51.25 ID:SOEGTqCwO


胡桃「しばらくはいっしょにいたけど、その友達は助けを求めて外に出ていった。美紀はその子を止められなかったって後悔してる」

永井「彼女の生徒手帳に書いてあったのか」

胡桃「ああ」

永井「ふうん……無謀なことをしたもんだ」

胡桃「……その子の気持ち、あたしにはわからなくもない。先が見えない状況じゃ、自棄になっちまうからな。そうならずにすんだのは、ゆきがいてくれてからなんだってあらためて実感したよ」

永井「だから、丈槍さんのことを僕から彼女に伝えろってか?」

胡桃「んー、それは必要ないかもな。それより、おまえもちゃんと先輩らしくしてやれよ」

永井「やるべきことはやるよ」

胡桃「どうにも不安がのこる返事だな……変に同情しろとは言わないけどさ、気づかいくらいはしてくれよ。おまえにだって友達いるだろ?」

永井「わざわざ自分の友人関係を振り返らなくても、不用意な発言は避けられる」

胡桃「あそう。はあ……今日もグラウンドに大勢いる……やっぱ、どれが知り合いかはわかんねえや」チラ......

永井「……」

胡桃 (……こいつ、気にならないのかな? 逃走に協力してくれた友達がいまどうしてるかとか……)



213: ◆8zklXZsAwY 2016/05/12(木) 15:26:28.80 ID:SOEGTqCwO




タタタタッ


太郎丸「ワン!」

由紀「まって~、太郎丸~!」

美紀「もう! ゆき先輩がちょっかい出すから!」

由紀「ご、ごみんね、みーくん」

美紀「みーくんじゃないです!」

胡桃「あーあー、邪魔するなって言われたのに」

美紀「すみません、永井先輩」

永井「お昼の時間だし、戻ろうか」

美紀「で、でもまだ終わってませんよ」

永井「成否にはそれほどこだわらなくてもいい。トレーニングはこれから何度でも続けられるんだから」

美紀「はい……」


ーーーーーー
ーーーー
ーー




214: ◆8zklXZsAwY 2016/05/12(木) 15:27:53.68 ID:SOEGTqCwO


ーー学園生活部


由紀「ふぅ~、お腹いっぱい。 今日はおかずがいっぱいあったね」

美紀「永井先輩、午後からもトレーニングですか?」

永井「いや、やめとこう。天気も悪いし」

美紀「えっと……じゃあ、わたしは何をしたら?」

由紀「みーくんはまだ仮入部なんだからゆっくりしてていいんだよー。あ、マンガ読む?」

美紀「いえ結構です」プイッ

胡桃「無理しなくてもいいんだぞ。太郎丸のトレーニングで疲れてるだろ」

美紀「いえ。何かしてたほうが落ち着きますから」

悠里「じゃあ、こっち手伝ってくれる?」

美紀「はい。家計簿ですか?」ガタッ

悠里「そうなの。最近、人数が増えたからいろいろ見直しをね」

美紀「手伝わせてください」

悠里「ええ、お願いするわ。これで見えるかしら?」

美紀「はい」

悠里「こっちが食料の欄で、こっちが……」

永井 (若狭さんとはとくに問題なさそうだな



215: ◆8zklXZsAwY 2016/05/12(木) 15:29:02.74 ID:SOEGTqCwO


永井 (やはり懸念があるとすれば、丈槍さんとの関係か。さっきのトレーニングも彼女のせいで中断したようなものだし)

永井 (あの程度なら時間が経てば反感も薄まっていくだろうから問題ないが、丈槍さんのことだ。なにか突飛な提案をしないとも……)

由紀「体育祭!」

永井「……チッ」

悠里「あら」

美紀「?」

胡桃「なんで体育祭?」

由紀「みんなで体動かすと楽しくなるよ! つらい悩みもすっきり!」

胡桃「……おまえ、悩みないじゃん」

由紀「それが……遠足から帰ってからごはんがおいしくって……」ハフゥ~

胡桃「ダイエットじゃねえか!」

由紀「くるみちゃんも運動しようよ~。ほらっ」プニッ




216: ◆8zklXZsAwY 2016/05/12(木) 15:30:35.79 ID:SOEGTqCwO


胡桃「!! や、やめろこいつっ」ガタタッ

由紀「へへへ~♪」ツンツン

胡桃「わかった、わかったから!」

悠里「ちょっと! 永井君もいるんだから……」

胡桃「あっ……」

永井「……」

美紀「あの、先輩?」

永井「ん? 聞いてなかった」

由紀「体育祭だよ! けーくん!」

美紀「ゆき先輩、遊ぶのは仕事が終わってからにしましょう」

由紀「遊びじゃなくて、部活動だよ!」

美紀「部活動?」

由紀「あ、そっか。みーくんはまだ仮入部だもんね」

美紀「それとどういう関係が……」




217: ◆8zklXZsAwY 2016/05/12(木) 15:32:05.34 ID:SOEGTqCwO


由紀「学園生活部心得第五条!」バッ

由紀・胡桃・悠里「「「部員は折々の学園の行事を大切にすべし」」」

由紀「だ・か・ら・体育祭!」

美紀「さっぱりわかりません……」

永井「僕は見学にしておくよ」

由紀「えー、けーくんもやろうよ~」

永井「僕が参加しないほうが人数があうだろ」

胡桃「べつにいいじゃん。おまえ体力ねーんだし、これで鍛えれば?」

永井「僕はホワイトカラーなの」

由紀「けーくん、シャツ、赤いよ?」

太郎丸「ワウ~」

由紀「太郎丸もけーくんががんばるとこ、見たいよね~?」

太郎丸「ワン!」




218: ◆8zklXZsAwY 2016/05/12(木) 15:33:36.38 ID:SOEGTqCwO


永井「準備くらいなら手伝うよ」

美紀「いいんですか? 仕事もまだ終わってないのに……」

永井「急ぎの仕事じゃないし、いますぐ取りかかる必要はないよ」

美紀「……永井先輩がそう言うのでしたら」

永井 (本意ではないのは僕も同じだけど、強く反対して僕に反感を持たれたら本末転倒だしな……直樹さんの運動能力を見るいい機会と捉えておこう)

由紀「みーくん、いっしょに準備しよ!」

美紀「……何をするんですか?」

由紀「玉入れの玉作り!」

胡桃「じゃ、あたしらは籠の代わりになるものを準備するか。いくぞ、永井」

永井「どうするんだよ?」

胡桃「紐をつかって鍋を蛍光灯な吊るすんだよ。あたしが結ぶから、おまえは机を支えててくれ」

永井「それはいいけど、着替えないのか?」

胡桃「うん?」

永井「制服のままでさっきの準備をするつもりだったのか?」

胡桃「……着替えてくる」

永井「うん」

悠里「くるみったら……」ハア...


ーーーーーー
ーーーー
ーー




219: ◆8zklXZsAwY 2016/05/12(木) 15:35:23.28 ID:SOEGTqCwO

ーー三階・廊下


由紀「さ、体育祭はじめるよー」

由紀「体育祭といえば徒競走! けーくん、みーくんのタイムよろしくねー!」

永井「ハイハイ」

美紀「さっぱりわかりません」

胡桃「まあまあ。どうだ、ひと勝負?」

美紀「そのシャベルは?」

胡桃「ハンデ」ニッ

美紀「なるほど」

由紀「くるみちゃんのタイムはわたしが測るからね。それじゃ、いちについて……よーい、ドン!」


ダッ!!


胡桃「ハッハッハッ」

美紀「ハァハァ...」


ダダダッ!


由紀「……一位、くるみちゃん!」ピッ

永井「……」ピッ

胡桃「ふぅー……結構やるじゃん」ハァハァ...

美紀「ハンデつきで負けるとは」ゼエゼエ...

永井 (直樹さんのタイムは……これなら囮くらいには使えそうだな)

美紀「先輩、タイムはどうでした?」

永井「はい。結構いいタイムだったね」

美紀「ほ、ほんとですか? ありがとうございます」

由紀「次は玉入れだね!」


ーーーーーー
ーーーー
ーー




220: ◆8zklXZsAwY 2016/05/12(木) 15:37:02.25 ID:SOEGTqCwO



ーー2-B教室


胡桃「いくぞー」ガタン


ゴロゴロ...


美紀「これで玉入れって無理がありませんか……」

由紀「無理は承知の学園生活部っ、だよっ!」シュパッ!


ガコン


由紀「はうっ」ペシッ

悠里「強すぎ。もっとそっーと投げないと」

美紀「……」ソ-...ポンッ


ポスッ


美紀「やった」パア

由紀「おおっ!? みーくんすごい」

美紀「みーくんじゃないです!」

由紀「よーし、負けないぞー」


ズルッ


由紀「あたっ!」ドテンッ

美紀「隙を見せましたね!」

胡桃「ははっ、やるじゃん」

悠里「こっちも負けないわよ」




221: ◆8zklXZsAwY 2016/05/12(木) 15:38:42.25 ID:SOEGTqCwO



永井「……」ボ-...

太郎丸「ワウ」ポン

永井「ん?」

太郎丸「ハッハッ...」フリフリ

永井「ボールか……」


ポ-ン


太郎丸「ワン!」タタタッ

胡桃「うわっ」

悠里「きゃっ」

太郎丸「ワウ!」バクッ

胡桃「おい、永井! あぶないだろ!」

永井「仕方ないだろ? 教室が狭いんだから」

太郎丸「ハッハッ...」ポテッ

永井「ほら」ポ-ン

太郎丸「ワン!」タタタッ

由紀「わわ、太郎丸~」フラフラ

胡桃「あいつ、とんだステージギミックになってやがる……」

悠里「まさか途中から難易度が変わるとは……」

美紀 (いいなあ……)

ーーーーーー
ーーーー
ーー




222: ◆8zklXZsAwY 2016/05/12(木) 15:40:30.21 ID:SOEGTqCwO


胡桃「ろーく、なーな、はーち……あ、もうない」

美紀「やった!」グッ!

悠里「よかったわね」

由紀「負けちゃったー……せ、先輩の威厳が……」

胡桃「いや、元からあんまりないだろ」

由紀「ひどい! よーし、勝負だ! わたしに負けて泣くんじゃないよ!」

胡桃「よっしゃ、受けて立つ!」

美紀「クスッ」

由紀「けーくん、審判よろしく!」

永井「玉入れに審判いらないだろ」サワサワ

太郎丸「ワウワウ~」

由紀「太郎丸お腹なでられてるんだ。気持ちよさそう~」

悠里「ほんと。かわいいわね」

美紀 (いいなあ……)


ーーーーーー
ーーーー
ーー




223: ◆8zklXZsAwY 2016/05/12(木) 15:41:52.42 ID:SOEGTqCwO



ーー
ーーーー
ーーーーーー


由紀「じゃ、ゴミ捨て行ってきまーす」

永井「僕はこいつを寝かしつけてくる」

太郎丸「スゥスゥ...」zzz

胡桃「すぐに戻ってこいよ? 片付けいっぱいあるんだから」

永井「わかってる」


ガラッ


悠里「さて、はじめましょうか」

胡桃「あたしらはボールを片付けようか」

美紀「はい」

悠里「どう? 美紀さん、少しは慣れた?」

美紀「そうですね。慣れたかもしれません」

胡桃「面白いやつだったろ?」ポンッ

美紀「何がですか?」ポスッ

胡桃「ゆき。変なことばっか言うけど、こういうのも楽しいっていうかさ」

美紀「……そうですね」

美紀「……」




224: ◆8zklXZsAwY 2016/05/12(木) 15:43:59.46 ID:SOEGTqCwO


美紀「ゆきちゃん、これからどうするんですか?」

胡桃「ん? ゆきならゴミ捨て行ってるけど」

美紀「そうじゃなくて……このままじゃダメですよね」

胡桃「べつにダメじゃないだろ」

悠里「ゆきちゃんは学園生活部に欠かせない子よ。楽しいことをいっぱい思いついてくれるから、わたしもくるみも助かってる。永井君もそれをちゃんと理解してくれてるわ。それじゃダメ?」

美紀「そうやって甘やかしてるから、治るものも治らないんじゃないですか?」

悠里「甘やかすとか治るとか、そういうものじゃないのよ」

美紀「どう違うんですか?」

胡桃「……」チラッ...

悠里「……」

美紀「永井先輩にしたって、あのひとは最近ここにきたばかりだから、意見を控えてるだけじゃないんですか?」

悠里「……わたしたちが永井君にゆきのことを強制していると言いたいの?」

美紀「どうなんです?」

悠里「……あなたはまだ、ゆきのことをよく知らないから……ゆきのおかげで、どれだけわたしたちが助かってるか……」

美紀「そんなの……」

美紀「ただの共依存じゃないですか」

悠里「あなたねっ……!」

胡桃「ふたりとも落ち着けよ!」グイッ

美紀「わたし、間違ったこと言ってますか?」

悠里「……」ジイイッ

美紀「……」




225: ◆8zklXZsAwY 2016/05/12(木) 15:45:31.42 ID:SOEGTqCwO



ガラッ


永井「戻ったよ」

悠里「!」ハッ!

胡桃「永井……」

永井「……何かあったか?」

美紀「永井先輩は、ゆきちゃんの状態についてどう思います?」

悠里「……!」

胡桃「おい!」

永井 (やはり、その話題か)

永井「直樹さんはどう考えてる?」

美紀「このままではいけないと思います。徐々にでも、現状に慣らしていかないと」

永井「ふうん……」チラッ...

悠里「……」グッ...

胡桃「……」


永井「それで? 具体的な治療法は?」




226: ◆8zklXZsAwY 2016/05/12(木) 15:47:09.74 ID:SOEGTqCwO


美紀「それは……」

永井「直樹さんの意見もわからなくはないけどね。でも、僕たちは治療の実践はおろか病状の診断すらできない。なんの専門知識もないガキが精神科医の真似をしたって、余計に状態を悪化させるだけだ」

美紀「それは、そうですが……」

永井「それでも、危険を認識できずに集団を危機にさらすことがあるなら、何らかの対策は必要だろう。隔離とかね」

胡桃「……本気で言ってんのかよ、おまえ」

永井「もしもの話だ。さいわい、丈槍さんは現実認識こそ正常ではないが危機認識はできてるみたいだし、さっき言ったようなことは必要ない」

美紀「……」

永井「だから、消極的ではあるけれど現状維持が現在とりうる最良の選択肢というのが僕の考えだ。何が言いたいことは?」

美紀「いえ……ありません……」

永井「若狭さんたちは? 僕の言ったことに訂正や反論はあるか?」

胡桃「……」

悠里「いいえ……」

永井「なら、この話は終わりだ。丈槍さんが戻ってくるまえに作業を再開しよう」



227: ◆8zklXZsAwY 2016/05/12(木) 15:49:35.37 ID:dqBMpOaXO



ガラッ


由紀「ただいま~……あれ、どうかしたの?」

胡桃「いや、何でもない……ボール取ってくれ」

由紀「はーい」

美紀「……」

由紀「……みーくん、パス」

美紀「……」ポスッ

美紀「……」ジッ...

美紀「さっぱりわかりません……」

永井「……」

永井 (ここまで反発を露わにするとは、すこし予想外だったな)

永井 (もし彼女がこのまま強硬な態度をとりつづけ、軋轢も辞さないという姿勢でいるつもりなら……)

永井「邪魔……だなあ……」ボソッ...




232: ◆8zklXZsAwY 2016/05/17(火) 22:22:13.30 ID:zmixbsOVO


ーー放送部


カチャ...カチャ...


美紀「……」パク

由紀「……」ムグ

悠里「……」スッ

永井「……」ズズ

胡桃「……」ハァ...

太郎丸「ク-ン...」

由紀「みーくん、ごはんはもっとおいしそうに食べないと」

美紀「……失礼しました」ゴクン


美紀「……先のことが気になるんです」

胡桃「先って?」

美紀「ずっと同じことをしてもしょうがありませんから……これから先、どうするか考えないと」

悠里「そうね。人数も増えたんだし、やれることはあるわよね」

由紀「これから先かー。うーん、悩むよねー」

美紀「永井先輩はどうお考えですか?」

永井「活動圏を拡げることかな。備蓄倉庫は地下にあるし、もしもの場合にそなえて避難ルートは確保しておきたい」



233: ◆8zklXZsAwY 2016/05/17(火) 22:24:33.11 ID:zmixbsOVO


由紀「それって、学園生活部が過ごせる場所がいまより増えるってこと?」

永井「まあ、そういうことだね」

由紀「すごーい。なんかこう、学園の支配者って感じだね! マンガやアニメの生徒会みたいに!」

永井「なんだそれ?」

胡桃「学校を舞台にしたアニメとかだと定番じゃん。教師より権限がある生徒会長とかよく出てくるだろ」

永井「知らないな」

胡桃「普段なにして過ごしてたんだよ、おまえは」

永井「高校生なら勉強だろ。ふつう」

由紀「す、すごい……これが進学組の心がけか!」

美紀「……」

由紀「ね、みーくんはどう?」

美紀「え?」

由紀「やっぱり、みーくんも進学かな? 頭よさそうだもんね。そうなると、わたしは就職かなー」

悠里「ゆきちゃん、就職にも試験はあるわよ」

由紀「えっ!? そ、そんなー」アセアセ

悠里「ふふっ」



234: ◆8zklXZsAwY 2016/05/17(火) 22:26:11.80 ID:zmixbsOVO






美紀「……失礼します!」ガダン!


太郎丸「ガウッ!」

美紀「!」ハッ

永井「座ってろ」

美紀「あっ……」

太郎丸「...…ワウ」ペタン...

美紀「……」カタン...

永井「直樹さん、食事はもういいのか?」

美紀「は、はい……」

永井「僕も食べ終わった。食器を洗いに行こう」

美紀「あ、あの……」

永井「なに?」カチャ...カチャ...

美紀「……いえ、ごちそうさまでした……お先に失礼します」カチャン


ガチャ...





235: ◆8zklXZsAwY 2016/05/17(火) 22:28:01.28 ID:zmixbsOVO


胡桃「……おい、永井」

永井「なんだよ?」

胡桃「さっきの、ちょっとキツすぎるぞ」

永井「あれは直樹さんに向けての言葉じゃない」

悠里「でも、あのタイミングだと……」

永井「いまからフォローするよ。ごちそうさま」ガタン

悠里「あっ、永井君……」

胡桃「おまえ、もうこれ以上キツいこと言うなよ? 優しい言葉かけてやるんだぞ?」

永井「フォローするって言っただろ」


ガラッ


悠里「……大丈夫かしら?」

胡桃「不安だ……こればっかりは」

由紀「……」




236: ◆8zklXZsAwY 2016/05/17(火) 22:30:03.80 ID:zmixbsOVO


ーー洗い場


ジャ-...


美紀「……」


ガチャン


美紀「!」

永井「となり、借りるよ」ジャ-...

美紀「あっ、は、はい……」

永井「すこしは落ちついた?」

美紀「あの……さっきはすみませんでした」

永井「まだ慣れるのに時間がかかりそう?」ジャバジャバ

美紀「そう、なのかもしれません……」

永井「長く極限状況にいたんだ。無理ないよ」

美紀「でも、それを言うなら永井先輩が日本中から追われてたときもそうだったじゃないですか。なのに、わたしは……」

永井「僕の場合、潜伏地の住民に怪しまれないようにしなきゃならなかった。その点、直樹さんのおかれていた状況とちがう」

美紀「……わたしは、どうすればいいんでしょうか?」

永井「すぐにこれだと断言することはできないな。いまできることを確実こなしていって、結論を出さなきゃ……ふきん取って」

美紀「は、はい……あの、先輩。お願いがあるんですが……」

永井「なに?」フキフキ

美紀「このあと、行きたいところがあるんです。いっしょについてきてくれませんか?」

永井「わかった」カチャン

美紀「ありがとうございます」

永井「……」


ーーーーーー
ーーーー
ーー




237: ◆8zklXZsAwY 2016/05/17(火) 22:33:15.72 ID:zmixbsOVO


ーー図書室


ガラッ


美紀「かれら、うまく向こうの階段におびきよせられましたね」

永井「まだこの部屋のなかにもいるかもしれないからいちおう注意して。どんな本を探すんだ?」

美紀「心理学の本を借りていこうかと」

永井「丈槍さんの病状について調べるのか?」

美紀「はい。なにか知識があればふさわしい振る舞いもできるかと思ったんですが……あの、いけなかったでしょうか?」

永井「……いや。心理学の棚はあっちだ。いこう」

美紀「はい」


トテトテ...


美紀「ここですね」

永井「……」

美紀「先輩?」

永井「……僕はあたりを見回ってくる。なにかあれば、天井にライトをむけて合図してくれ」

美紀「あっ、せ、先輩……」

永井「……」スッ...

美紀「……」

美紀 (はやくすまそう。大丈夫。これくらい、ひとりでできるようにならないと……)クルッ...



238: ◆8zklXZsAwY 2016/05/17(火) 22:35:46.99 ID:zmixbsOVO

チカッ


美紀「あれ?」

美紀 (だれか借りたのかな? ……どうしよう?)

美紀「とりあえずあるぶんだけでも……」スッ...










ズ...






239: ◆8zklXZsAwY 2016/05/17(火) 22:37:48.27 ID:zmixbsOVO


美紀 (目次をみてそれっぽいのを選んでみたけど、それでもかなりの量になっちゃった)

美紀「重い……永井先輩、どこいったんだろ?」

美紀 (ライトで合図したほうがいいのかな? でも、なにかあったときって言ってたし……)

美紀「探したほうがいいのかな……?」キョロキョロ...

美紀 (たしか、奥のほうに行ったはず……)カチッ


美紀「先輩?……あの、もう本を選びおわったんですが……」

美紀 (もっと奥かな?)


ガタ...


美紀 (音……こっちから……)

美紀「先輩?」チカッ...




240: ◆8zklXZsAwY 2016/05/17(火) 22:39:33.58 ID:zmixbsOVO



「……」



美紀「あの……もう終わりました。戻りませんか?」



「……」



美紀「……永井先輩?」










かれら「ギギ...」ギョロ!





241: ◆8zklXZsAwY 2016/05/17(火) 22:40:29.71 ID:zmixbsOVO


美紀「!!」

美紀 (かれらだ!)

美紀「逃げなきゃ……!」クルッ...!


グラッ


美紀「あっ!」


ダン!!……バラ...バラ...


美紀 (っ、うぅ……バッグが重くて……!)


美紀「はっ!」

かれら「ギギギギ」

美紀「あっ……あぁ……」

かれら「ギギ……ギチッギチチッ」グバアッ!

美紀「っ!!」ギュッ!


ガシッ!!


かれら「ギッ!」グイッ


ドシュッ!!


美紀「……?」




242: ◆8zklXZsAwY 2016/05/17(火) 22:42:17.17 ID:zmixbsOVO


美紀「ぇ?……あっ!」

永井「ん?」

美紀「な、永井せんぱ……」

永井「シッ」グイ

かれら「ギ……」

美紀「……」

永井「ああ。感触がいつもとちがうと思ったら、喉を貫いて口から出てたのか。やり直したほうがいいな」


...ドチュッ!


かれら「ギッ……!」ビクン...


バタン...


永井「あぶなかったね、直樹さん。ケガはないか?」

美紀「あ、あの……」

永井「直樹さん、ケガはないのか?」

美紀「は、はい……大丈夫、です」

永井「なら、はやく戻ろう。バッグは僕が持つ」

美紀「あの、すみません、先輩。わたし……」

永井「あとで聞く。いまはここから移動することが先決だ」

美紀「……はい」




243: ◆8zklXZsAwY 2016/05/17(火) 22:44:08.41 ID:zmixbsOVO



永井「……」


永井 (状況は申し分なかったが、時期が悪かったな。恵飛須沢さんたちにああ言われた直後に彼女が無事でなかったら、僕の信用度にかかわる。ヘタすれば疑いをもたれる可能性もある……)

永井 (だが、この経験で直樹さんの周囲への警戒度は増す。彼女が孤立する状況は作りにくくなった……これを機に対立的な態度をあらためれば問題はないんだけど……もどってからの反応次第か)


美紀「……」

美紀 (また、助けられた……)

美紀 (それだけじゃない……足を引っ張って、迷惑までかけてしまった……)

美紀 (このままじゃダメだ。生き残ったのに、何もできず、だれかの助けなしじゃ生きていけないような人間のままじゃ……)

美紀 (だれかの負担になるような人間はふたりもいらない……永井先輩に戦力と認められるようにならないと……)

美紀 (そうでなきゃ、圭には……)


ーーーーーー
ーーーー
ーー




244: ◆8zklXZsAwY 2016/05/17(火) 22:48:54.74 ID:zmixbsOVO


ーー学園生活部


ガラッ


悠里「あっ、おかえりなさい」

胡桃「下に行ってたのか?」

永井「ああ。若狭さん、あとで直樹さんにケガがないか確認してくれ」ドサッ

胡桃「は!? おまえ、それ!」

悠里「かれらに襲われたの!?」

美紀「……大丈夫です。永井先輩に助けてもらいましたから」

悠里「でも……」

美紀「大丈夫ですから」

由紀「えっと……みーくん、不良のひとになにかされたの?」

美紀「いいえ。なんでもありません」

由紀「でもみーくん、ツラそうだよ? ムリしてない?」

美紀「問題ありません!……ほんとに、大丈夫ですから」

永井 (ダメか……)ジャ-




245: ◆8zklXZsAwY 2016/05/17(火) 22:51:57.35 ID:zmixbsOVO


胡桃「いや、でもさあ……ケガ、ほんとに大丈夫なんだよな?」

永井「念のためだよ。外傷がなければ問題ない」トポトポトポ...

胡桃「つか、どこに行ってたんだよ」

永井「図書室だ」コトン...

美紀「わたしが永井先輩に同行をお願いしたんです」

悠里「まだ起きたばかりなんだから無理しちゃだめよ。読みたい本があったなら、永井君や……わたしたちに言ってくれればよかったのに」

美紀「体調は問題ありません。それにひとりでも活動できるようになりたいですから」

悠里「美紀さん……」


胡桃「ハア……永井、どうなってるだよ」ボソッ...

永井「聞いたとおりだ。本人が納得するまでやらせるしかない」スッ

胡桃「でも、ああも意固地じゃさあ……」

永井「考えはある」ペリリ...

胡桃「……う~ん……」


永井 (やはり、排除の方向で動いたほうがいいかな)

永井「ふう……あいかわらず、天気わるいなあ」カリッ

ーーーーーー
ーーーー
ーー



248: ◆8zklXZsAwY 2016/05/18(水) 23:04:35.72 ID:fTd/KLkYO


ーー深夜・放送室


美紀「……」ペラッ


『多重人格の実態と伝説』
「ーー主人格は、自己を守るため に人格交代時の記憶を持っていないことが多く、結果として無謀な行動をする場合があります。ーー

ーー救済人格とは、交代人格の一つであり、主人格をサポートする機能を持ちます。ーー

ーー主人格が無謀な行動をしようとした際、交て現実的な対処をするわけです。ーー」


美紀「……」パタン

美紀「ふぅ……」ゴシゴシ...


ギイ


由紀「あ」

美紀「……ゆき先輩」

由紀「みーくん、まだ起きてたんだ~」フワ~

美紀「先輩はどうして?」

由紀「うん……なんか、ちょっと目がさえちゃって」エヘヘ

美紀「そうですか」


ギイッ


悠里「灯りが点いてると思ったら」

胡桃「ふたりしてここにいたのか」

由紀「みんな起きちゃったね」

胡桃「おまえの声がでけーんだよ」ペシッ

由紀「ごみん。けーくんは起こしてないよね?」

胡桃「どうだろ、こっからは離れてるし……」




249: ◆8zklXZsAwY 2016/05/18(水) 23:06:05.37 ID:fTd/KLkYO




ガチャ


永井「なんだ。全員いるのか」

美紀「先輩」

由紀「ごみん、けーくん。声おっきかったよね?」

永井「いや。灯りが点いてたから」

美紀「あっ、それ、わたしです。本を読んでたので……」

永井「へぇ……」

胡桃「おっ、なんの本?」

美紀「勉強の本です」

由紀「けーくんに引き続き、みーくんも進学組の心がけを!」

美紀「べつにそういうわけじゃ……ハァ……」ガタン...

由紀「どこいくの?」

美紀「……お手洗いです」




250: ◆8zklXZsAwY 2016/05/18(水) 23:07:04.46 ID:fTd/KLkYO


由紀「学園生活部心得第三条!」

美紀「?」

由紀「夜間の行動は単独を慎み常に複数で連帯すべし!」

美紀「ひとりで大丈夫です。だいいち、まだ部員じゃなんで」

由紀「いいからいいから。一緒にいこ? ね?」

美紀「だったら、永井先輩に……」

永井「……」

美紀「……」

胡桃 (渋い表情してんなあ……)

由紀「けーくん、男の子だよ?」

美紀「……わかりました。いいですよ」

由紀「じゃ、いそいで行かなきゃね!」

美紀「そういうのは言わなくていいです!」


パタン...





251: ◆8zklXZsAwY 2016/05/18(水) 23:09:01.40 ID:fTd/KLkYO


悠里「……大丈夫かしら? 不安だわ」

胡桃「まあ、永井のときよりは……安心、かな。ある意味」

永井「え? なんで?」

悠里「それは、その……心配り、とか?」

胡桃「気遣いがたりねえんだよ。気遣いが」

永井「直樹さんが直接それを要求したわけじゃないだろ?」

胡桃「そこは察しろよ。言外の意味を。先輩なんだから」

永井「要求にはこたえる。それでメリットが得られるならね」


悠里「……やっぱりわたしたちも、もっと彼女に話しかけるべきだったのかしら?」ヒソヒソ...

胡桃「永井ひとりに任せたのがいけなかった。これはあたしらの責任だ。もどってきたら、美紀とかよく話し合おう」ヒソヒソ...


永井「……」

永井 (聞こえてるっての)




252: ◆8zklXZsAwY 2016/05/18(水) 23:10:36.81 ID:fTd/KLkYO


永井 (それはともかく、今回も実行は見送りか)

永井 (実行自体はそう困難じゃない……ただ、さっき無理矢理ついて行くこともできたけど、それだと疑いを持たれるのは確実だし……こんな状況でも案外難しいんだな、邪魔を取り除くのって)

永井「……」チラ...


悠里「ーーーー」ヒソヒソ...

胡桃「ーーーー」ヒソヒソ...


永井 (まだ話し合ってるか)

永井 (……直樹さんの本でも読むか)ペラ...

永井「……」

永井 (……このタイトル……角が折れてるページが何箇所かあるな……)


胡桃「ん? どうした、永井?」

悠里「それ、美紀さんが読んでた本よね」?

永井「ちょっと黙っててくれ」ペラ...

胡桃「はあ?」

永井「……」ペラ...


ーーーーーー
ーーーー
ーー




253: ◆8zklXZsAwY 2016/05/18(水) 23:18:22.47 ID:fTd/KLkYO


ーー三階・廊下


トテトテ...


由紀「……」チラッ...

美紀「……」

由紀「……夜の廊下ってさ」

美紀「はい?」

由紀「なんかいいよね」

美紀「いいですか?」

由紀「うん。だれもいなくてなんかドキドキするっていうか、ゾクゾクするみたいな」

美紀「じゃあ、昼はだれかいるんですか?」

由紀「え? そりゃいるでしょ」

美紀「……そうですか」


ピタ...


美紀「……」



254: ◆8zklXZsAwY 2016/05/18(水) 23:20:15.90 ID:fTd/KLkYO



















美紀「もう、そういうのやめませんか?」


由紀「……え?」


美紀「めぐねえとかみんな無事とか……全部嘘なんでしょう?」

由紀「……」

美紀「いいんですよ、もう……隠さなくて」




255: ◆8zklXZsAwY 2016/05/18(水) 23:22:02.59 ID:fTd/KLkYO


由紀「えっと……なんの話?」

美紀「この学校にはだれもいないんです。もう終わってるんですよ」

由紀「夜だからねっ」

美紀「昼も夜もです」

由紀「……休日?」

美紀「……」ハア...


美紀「本を読みました。ちゃんと確かめました。人の心ってすごく不思議なんです」

由紀「え? う、うん……」

美紀「でも、自分の嫌なものだけ見えなくて、その矛盾に気づきもしない。そんな都合のいい病気なんてどこにも書いてませんでした」

美紀「妄想で現実を遠ざけても長続きしません。すぐに破綻してもっと症状が悪くなるんです」


由紀「ふぅん……?」




256: ◆8zklXZsAwY 2016/05/18(水) 23:24:20.28 ID:fTd/KLkYO


美紀「最初はふりをしてただけ。そのうちあの二人が本気にしはじめて、後に引けなくてずっと続けるようになって、永井先輩にも指摘されなかったからこのままでいいと思って……」

由紀「え、えと……」

美紀「そんな感じじゃないんですか?」ドン!

由紀「ッ……」ビクッ!

美紀「だから、もういいんですよ」

由紀「……あのね」

美紀「はい」

由紀「おトイレ行かなくてだいじょぶ?」パッ

美紀「あなたって人は……!」

由紀「だって、あの、おトイレに来たんだよ。ね?」

美紀「まだそうやって……!」ギリッ...




257: ◆8zklXZsAwY 2016/05/18(水) 23:27:32.58 ID:fTd/KLkYO



パシッ!


由紀「ど、どこ行くの?」

美紀「先輩の目を覚まします」


グイッ...グイッ...


由紀「に、二階に行くの?」

美紀「そうですよ」

由紀「でも二階は……」

美紀「別にいいでしょう? 誰もいないんですから」

由紀「そ、そうだけど……」


美紀「さ、行きましょう」ヨジッ

由紀「みーくん危ないよ!」

美紀「何が危ないんですか? 危ないものがあるって認めるんですか?」

由紀「え、えっと……」


美紀「いいですよね、この学校」

美紀「電気も水道も生きてて、お風呂まで入れて……」

美紀「それなのに……あなたたちは何をしてるんですか?」




258: ◆8zklXZsAwY 2016/05/18(水) 23:30:44.36 ID:fTd/KLkYO


由紀「なにって……」

美紀「わたしと圭は……」ギュ...


美紀「……そうやって毎日遊んでたら気が晴れるかもしれないけど、それでいいんですか?」

由紀「……」

美紀「現実を直視して行動しているのは永井先輩だけです。あなたはそれを見てなにも思わないんですか?」

由紀「ぅ……」

美紀「もういいです。ずっとそこにいてください……先輩」フッ

由紀「あっ……」


由紀「……」



「………………」



ハッ


由紀「めぐねえ、あのね、みーくんが……」


「………………」


由紀「ううん、わたしが行く。けーくんはすごいけど……すごいから、わたしじゃないとダメだと思う」


「………………」


由紀「ケンカしちゃったみたい。だから仲直りしないと」


「………………」


由紀「うん。それにね、みーくん、わたしのこと先輩って言ってくれるんだよ。えへ。そこだけ、けーくんと同じだ」

由紀「うん」コクッ

由紀「あのね、めぐねえ……ううん。なんでもない」クルッ


由紀「……いってきます」

ーーーーーー
ーーーー
ーー



259: ◆8zklXZsAwY 2016/05/18(水) 23:33:37.94 ID:fTd/KLkYO



ーー放送室


パタン...


永井「……」


ガタン!


胡桃「うおっ。なんだよ」

悠里「永井君……?」


永井「……」ガラッ!

胡桃「おい、どこ行くんだ?」

永井「……いったん部屋に戻ーー」


















『何やってるんですか!!』



260: ◆8zklXZsAwY 2016/05/18(水) 23:35:56.42 ID:fTd/KLkYO


永井「!」

悠里「いまのは……!」

胡桃「下からだ!」

永井「クソ!」ダッ!

悠里「あっ、永井君!」

胡桃「シャベルとってくる! 」


永井 (もしかしたらと危惧はしていたが、こんな唐突に起こるかよ!)

永井 (丈槍さんの病状が虚偽であったとして、それをこんな状況で暴露するメリットがないことくらいわかるだろ!)

永井「ったく、ガキじゃあるまいし……!」

永井 (どうする? 二階におりたということはバリケードを越えているはず……直樹さんだけ向こうに置いておけばやつらがカタをつけるが……)

永井 (だが、やつらとの距離が近くないと難しい。それにほかの人間が見ているなかで直樹さんだけ孤立させられるか? できたとして、その時間は極めてみじかい。なら残された手段は……)


コンコン!


胡桃「永井、行くぞ!」

永井「ああ」ガラッ

胡桃「武器は?」

永井「持った。こっちの階段でいいんだな?」

悠里「ええ。こっちから声が聞こえたし、トイレのすぐ側にあるから」

胡桃「急ぐぞ!」ダッ!

永井 (……残された手段は、ひとつ)

永井 (黒い幽霊による、暗殺だ)

ーーーーーー
ーーーー
ーー




261: ◆8zklXZsAwY 2016/05/18(水) 23:37:55.64 ID:fTd/KLkYO


ーー二階・廊下


ユラ...ユラ...


美紀「二匹……」

美紀 (わたしだってずっと戦ってきたんだ。こいつらなんて目じゃないはず)チャリ...

美紀 (静かに、冷静に。ひとりで生きていたときのように)

美紀「スゥー……ハー……」


ピンッ……チャリ--ン...…


かれら「……~」


コロコロコロ......


かれら「ギ......ギ......」

美紀「よし……」

美紀 (立ち止まるくらいなら、ひとりでいたときのほうがマシだ)


ダッ!
















『みーくんいた!』



262: ◆8zklXZsAwY 2016/05/18(水) 23:39:34.32 ID:fTd/KLkYO


美紀「!」ビクン!

美紀 (まさか……)ソ-...


美紀「!!」


由紀「みーくーん」フリフリ


ゾロ...ゾロ...


美紀「何やってるんですか!!」

由紀「えっ」ビクッ


かれら「ギ......~」クルッ

美紀 (しまった……!)ハッ

美紀「くっ……」ゴソッ...ブンッ!


カラカラカラ.....


美紀「先輩、こっち!」パシッ

由紀「う、うん」


ハア...ハア...ハア...


美紀 (バリケード……!)


ヨジ


美紀「先輩、手!」

由紀「う、うん」


ギュ...


グイッ…


ハァ...ハァ...





263: ◆8zklXZsAwY 2016/05/18(水) 23:42:18.39 ID:fTd/KLkYO


美紀「……あんまり心配かけないでください」ハア...ハア...

由紀「え、でも……みーくんが危なくないって」ハア...ハア...

美紀「そういうことじゃ……まあ、いいです」プイッ

由紀「?」

美紀「……………」

由紀「……………」

美紀・由紀「「あの……」」

由紀「あっ……」

美紀「……どうぞ」

由紀「うん、あのね、あやまりに来たんだ」

美紀「先輩が……ですか?」

由紀「うん……」




264: ◆8zklXZsAwY 2016/05/18(水) 23:45:15.70 ID:fTd/KLkYO


由紀「わたしね、頭悪いから、みーくんの言うことはよくわからないんだけど、たぶんあれのことかなって思うんだ」

美紀「あれ、ですか?」

由紀「うん……りーさんとくるみちゃんがね、ときどきすっごく疲れた顔してるんだ。あと夜中にこっそりケンカしてたりね。それで、だいじょうぶ?って聞くと、うん何でもないよって言うだよね」

美紀「そうですか……」

美紀「……悲しくないんですか?」

由紀「え? なにが?」

美紀「だって仲間はずれじゃないですか、そんなの」

由紀「うーん……わたしのこと、かばってくれてるんだと思うよ」

美紀「どうして、そう思うんですか?」

由紀「りーさんとくるみちゃんが理由もなくそんなことするわけないし、ほら、わたし頭悪いからさ、むずかしい話されてもわからないから」プラプラ...

美紀「……」




265: ◆8zklXZsAwY 2016/05/18(水) 23:50:24.04 ID:fTd/KLkYO


美紀「そんなこと、ないです」

由紀「そうかなっ?」パアッ

美紀「……はい」

由紀「……と、とにかくね、ふたりが疲れてるからわたしはそのぶん元気でいようっておもったんだ」

美紀「どんな論理のつながりですか?」

由紀「ふたりはがんばってるけど、わたしは何もしてないからせめて笑顔でいたいなって。そしたらちょっとは元気出るかもしれないし」

美紀「そうですか……」

由紀「でも、みーくんには迷惑だったかなって」

美紀「え?」

由紀「みーくん、けーくんみたいになりたいんだよね? けーくんはひとりでなんでも出来ちゃうから、わたしがすることないんだよね。だったら、わたし余計なことしちゃったかなって」

美紀「……」

由紀「だから、ごめんね」

美紀「……たしかに先輩のテンションは疲れますけど」

由紀「ややや、やっぱり?」




266: ◆8zklXZsAwY 2016/05/18(水) 23:52:27.74 ID:fTd/KLkYO


美紀「でも、いいです」

由紀「え?」

美紀「ゆき先輩が、たださぼってるんじゃないってわかりました。それに……わたしと永井先輩はちがいますから」

由紀「そっか……みーくんもさ、なんかつらいことあるみたいだけど……」エッヘン!

美紀「はい?」ゴゴゴ

由紀「ウゥッ……」ビクッ

由紀「も、もしかしたらあるんじゃないみたいな、ほら、人生長いし!」アセアセ

美紀「まあ、ありますけど……」

由紀「そーゆー時はね、頼ってくれていいんだからね! なんたってほら、先輩だし!」ド-ン!

美紀「ふっ。あんまり頼りになる気がしませんけど」ニヤッ

由紀「あうっ。そりゃ、けーくんほどじゃないけどさあ……でも、頼りになるよ。それに話して楽になることってあるじゃない?」

美紀「……」

美紀「友達が……いるんです。クラスメイトで、調子が良くて元気で……」

由紀「……うん」

美紀「しばらく会えなくて」

由紀「登校拒否?」

美紀「そう、かもしれません」




267: ◆8zklXZsAwY 2016/05/18(水) 23:54:52.88 ID:fTd/KLkYO


由紀「そっか」

美紀「もういちど、会えたらなって」

由紀「きっと会えるよ」

美紀「気休めですか」

由紀「ううん。だってほら、わたしたち学園生活部だし!」ビシッ

美紀「さっぱりわかりません」

由紀「みーくんは学校嫌い?」

美紀「いえ……」

由紀「でしょ?」


由紀「みんな学校大好きなんだから、きっとその子もまた来るよ。わたしたちはずっと学校にいるから、こりゃもう会うのは時間の問題だね!」ヨット

美紀「来なかったらどうするんですか?」

由紀「そしたらさ、わたしたちでこの学校を、もっともっーと楽しくすればいいんだよ」トスッ

由紀「もういっそ遊園地にしちゃうとかさ! 夜になったら電飾がキラキラ~って! こりゃーくるでしょ、明かりに誘われて!」


美紀「先輩」

由紀「ん?」

美紀「言ってることがむちゃくちゃです」

由紀「そ、そう?」

美紀「虫じゃないんですから、圭は」




268: ◆8zklXZsAwY 2016/05/18(水) 23:57:41.44 ID:fTd/KLkYO


由紀「あれ? ケイっていうの、その子?」

美紀「はい。永井先輩と同じ名前で、字もいっしょなんです」

由紀「んー」

美紀「どうかしました?」

由紀「けーくんとその子が結婚したら、どっちもナガイ ケイになっちゃうね」

美紀「永井先輩と圭が? ありえないです。ないですよ、そんなの」

由紀「そうなの?」

美紀「圭ったら調子がいいから、永井先輩とはあわないです。きっとあきれて放置しちゃいますよ」

由紀「そうかな~?」

美紀「そうです。ありえないです」

由紀「……みーくん、もしかして、ヤキモチ?」

美紀「ちがいます! なんですぐそういう話にしちゃうんですか!」

由紀「ご、ごみ~ん」


ワ-ワ-...





269: ◆8zklXZsAwY 2016/05/19(木) 00:00:43.46 ID:1VLIrGa3O


ーーーーーー
ーーーー
ーー

胡桃「……大丈夫そうだな」

悠里「そうね……ふたりとも楽しそうにおしゃべるしてる」

永井「……」

胡桃「永井、まだ見てるけどそんなに心配なのかよ?」

永井「……いや。僕はもう寝る」

悠里「え?」

胡桃「帰んの?」

永井「僕がここにいる必要はないから」

悠里「永井君……?」


スッ...


悠里「……どうかしたのかしら?」

胡桃「ん? あいつはいつもあんなんだろ」

悠里「そうよね。でも、なんだか……」

胡桃「ん?」

悠里「いえ……たぶん、気のせいね」




274: ◆8zklXZsAwY 2016/05/24(火) 12:22:01.16 ID:8szviqqsO

ーー学園生活部

胡桃「あれ? また曇ってきたぞ」

悠里「朝は陽の光があったんだけど。洗濯物、乾いてるかしら?」

胡桃「つか、雨降りそうだな」

由紀「ねぇねぇ……」チョンチョン...

美紀「!……」コクッ

美紀「ちょっといいですか?」

悠里「あら、どうしたの?」

美紀「学園生活部に正式に入部したいと思います」

悠里「え?」

胡桃「へー」

永井「……」ボ-

美紀「いけませんか……?」

悠里「もちろん歓迎よ」

由紀「よかったね、みーくん」

美紀「みーくんじゃありません」




275: ◆8zklXZsAwY 2016/05/24(火) 12:23:04.22 ID:8szviqqsO

胡桃「なんかあったのか?」

美紀「内緒です」

由紀「内緒だもん。ねー」

美紀「はい」

胡桃「言ったろ。心配ないってさ」

悠里「……いいけどね」

永井「……」ボ-...

由紀「あ! そろそろ昼休み終わるじゃん」ガタッ

胡桃「おう。先行っててくれ」

由紀「うん。じゃ、また放課後ね」


バタン...






276: ◆8zklXZsAwY 2016/05/24(火) 12:24:42.83 ID:8szviqqsO


悠里「……それで、どういう風の吹き回しなの?」

美紀「どうってほどじゃありません。ゆき先輩と話して納得しただけです」

悠里「納得って?」

美紀「あの人も、頑張ってました」

悠里「……そうよね」

永井「……」ボ-...

美紀「あの人はあのままでいいって、そう思えたんです」

胡桃「人にやる気を出させるってのも才能だと思うぜ」

美紀「癒し系ですか。わんこみたいな……」

胡桃「そこまで言ってないけどな」

悠里「……わんこ」

美紀「……ゆき先輩ってちょっと犬みたいですよね」

悠里「わんこ」クスッ




277: ◆8zklXZsAwY 2016/05/24(火) 12:26:09.58 ID:8szviqqsO


美紀「わんこ、かわいいじゃないですか」ムッ

悠里「そうね。かわいいわね」

美紀「悠里先輩は……」

悠里「りーさんでいいわよ」

美紀「りーさんは嫌いですか、わんこ?」

悠里「もちろんそんなことはないわ。太郎丸だっているんだし」

胡桃「そういや太郎丸との訓練はどんな感じだ? けっこう慣れてきたんじゃないか?」

永井「……」

胡桃「おい、永井」




278: ◆8zklXZsAwY 2016/05/24(火) 12:29:30.15 ID:8szviqqsO


永井「あ?」

胡桃「なにボーッとしてんだよ。さっきの話ちゃんと聞いてたのか?」

永井「なんだっけ?……わんこがどうとか言ってたのは聞こえたけど」

美紀「なんでそこだけちゃんと聞いてるんですかぁ……」

悠里「美紀さん、正式に入部したいんですって」

永井「ああ。そうなんだ」

美紀「あの、ありがとうございました」

永井「ん?」

美紀「永井先輩には、いろいろとお世話になりましたから」

永井「んー……」

胡桃「気ぃ抜けてんなあ。まだなんか心配してんの?」

永井「別に。ちょっと考え事してただけ」

美紀「考え事ですか?」




279: ◆8zklXZsAwY 2016/05/24(火) 12:31:23.05 ID:8szviqqsO


永井「ああ。佐藤さんのこととか……」

悠里「佐藤って、亜人の……?」

永井「……まあ、ほかにもいろいろね」

胡桃「亜人だから、生きてはいるよな……でも、なにを心配するんだ? さすがにここにはこないだろ?」

永井「そういう心配はしてない」

悠里「だったらどうして……?」

永井「……佐藤さんのせいで国内での亜人に対する偏見、差別的論調が強まってただろ。その影響で僕が潜伏することは事実上不可能になった。以前のような生活を送るには、佐藤らグループを拘束し事態を収拾させることが絶対条件。なのにこれだ」

悠里「拘束し事態を収拾させるって……永井君が?」

永井「そうしなきゃいつまでたっても追われるだろ。グラント製薬の一件で僕と佐藤につながりができたと見做されていてもおかしくないんだし。佐藤を止めない限り、僕に平穏はない」

美紀「た、戦うってことですか? あんな人たちと……?」




280: ◆8zklXZsAwY 2016/05/24(火) 12:32:41.51 ID:8szviqqsO


永井「そうだよ」

美紀「そうだよって……」

永井「そのために利害が一致する亜人管理委員会のひとりと交渉を進めていたのに、この現象が起きてそれもご破算。これの収束はいつになるか不明だし、収束したとして交渉が再開できる可能性はほぼゼロ。憂鬱でしかない」

美紀「……」

胡桃「……なにもいま、そんなこと言わなくても」

永井「聞いてきたのはそっちだろ?」

悠里「永井君は……」

永井「あ?」

悠里「これがいつか終わると思ってるの?」

胡桃「……りーさん」

悠里「また、前みたいな普通の暮らしが戻ってくるの?」




281: ◆8zklXZsAwY 2016/05/24(火) 12:34:52.66 ID:8szviqqsO

永井「戻ってこなきゃ困るだろ。僕もいつまでもこんなとこにいるわけにはいかないし」

胡桃「こんなとこってなんだよ」

永井「設備はともかく、生き残りはたった五人でしかもただの高校生。たかだかガキ五人の集団になにができるよ?」

胡桃「そっちの都合で話すすめんな。ここで暮らしていくには十分だろ」

永井「その“ごっこ”だっていつまでも続くもんじゃないだろ」

胡桃「おまえ……っ!」

美紀「永井先輩!!」ガタン!


シ-ン...


永井「……なに?」

美紀「あの、えっと……た、太郎丸とのトレーニング、しませんか?」

永井「天気わるいし、やめとこう」

美紀「て、天気わるいならなおさら屋上に出ていたほうがいいです。もし雨が降ってきたら、すぐに洗濯物取り込めますし」

永井「それもそうだな……いこっか」カタン...

美紀「は、はい! 太郎丸、いこ?」

太郎丸「……」スッ...トテトテトテ...


ガラッ




282: ◆8zklXZsAwY 2016/05/24(火) 12:36:25.37 ID:8szviqqsO


美紀「あぅ……」

悠里「美紀さん、大丈夫なの?」

美紀「太郎丸に無視されるのには慣れましたから」

悠里「そっちもだけど……」

美紀「それも大丈夫だと思います。たぶん、ですけど」

悠里「そう……」

美紀「失礼します」

悠里「いってらっしゃい」


ガラッ


胡桃「ふんっ……」ムスッ...

悠里「永井君」

胡桃「あ?」

悠里「いつか、ここから出ていくつもりなのかしら?」

胡桃「知らねえよ。“ごっこ”に飽きたら勝手に出ていくだろ」

悠里「くるみ……」

胡桃「死なねえからって、いい気になりやがって……」


ーーーーーー
ーーーー
ーー




283: ◆8zklXZsAwY 2016/05/24(火) 12:38:35.32 ID:8szviqqsO


ーー屋上

美紀「うわ。雲、すごいですね」

永井「……」ガチャン...

美紀「えっと……トレーニングの内容はまえと同じですか?」

永井「あたりまえだろ。直樹さん、まえのとき達成できてなかったんだし」

美紀「そうですよね……えと、それじゃ始めますね。って、うわっ! た、太郎丸!?」

太郎丸「……」グイグイ

永井「なにしてるんだ」

美紀「す、すいません。太郎丸が……」

太郎丸「スンスン……スン」クイッ

美紀「なにか探してるの?」

太郎丸「……」ピクッ...


トテトテトテ....




284: ◆8zklXZsAwY 2016/05/24(火) 12:40:00.34 ID:8szviqqsO


永井「はぁ……」カタン

美紀「すいません、また……」

永井「直樹さん、さきに戻ってていいよ」

美紀「あの……」

永井「あ?」

美紀「さっきの話……亜人の佐藤と戦うって話なんですけど」

永井「ああ。あれね」

美紀「実際に戦うことになったとして、怖くはないんですか?」

永井「なにが?」

美紀「だって、たとえ死ななくても痛みはあるんですよね? それに、もし戦いに負けたとき、あの佐藤が先輩をそのままにしておくとは思いません」

永井「まあ、ドラム缶詰めにされて、どっかの山中にでも埋められるだろうね。余生は土の中で過ごすことになるな」

美紀「そこまでわかってるのに、どうしてわざわざ……亜人だから、平気ってことなんですか?」




289: ◆8zklXZsAwY 2016/05/24(火) 13:28:46.76 ID:8szviqqsO


永井「べつに怖くなかったわけじゃない」

美紀「えっ!?」

永井「なんだよ?」

美紀「先輩がそんなこと言うなんて意外で……」

永井「おかしなことは言ってないだろ? 怖がるってことはリスクを想定するってことだからな。佐藤さんの怖さはよく知ってる。そのうえで判断したんだ。佐藤を拘束し、事態の収束に貢献したほうが僕にとってメリットが大きいってな」

美紀「……」

永井「判断が終わったら、もう怖がる必要性はない。じゃなきゃ先に進めないんだ」

美紀「先輩は、すごいですね」

永井「あ?」

美紀「いえ、ほんとに。わたし、怖がるってことをそんなふうに考えてみたことなんて、一度もありませんでした」

永井「……」

美紀「ほんと、すごいです」

永井「……いいから犬見てろよ」

美紀「はい」




286: ◆8zklXZsAwY 2016/05/24(火) 12:50:04.48 ID:8szviqqsO



ポツ......ポツポツポツ......


美紀「あっ、雨」

永井「洗濯物、干してあるんだっけ?」

美紀「あっちのほうですね」

永井「太郎丸は僕がつれてくから、先に行ってて」

美紀「はい」

美紀「うわ、雨足つよくなってきたな……本降りになるまえにぜんぶ取り込まないと」スッスッ...


タッタッ


美紀「あっ、先輩」

永井「ここにあるのを取り込んだら僕は先に行くぞ」

美紀「 こっち手伝ってくれてもいいじゃないですか」

永井「そっちにはきみらの下着類もあるんじゃないのか?」

美紀「!」バッ!

美紀「み、見ました……?」ギュウ...

永井「見てないから早く手を動かして」バッ...バッ...

美紀「う、うぅ~……///」カアァ...


ポツポツポツ......ザ-......


ーーーーーー
ーーーー
ーー




287: ◆8zklXZsAwY 2016/05/24(火) 12:52:18.06 ID:8szviqqsO


由紀「あっ、ミケくんと太郎丸」

美紀「なんですか、その呼び方?」

由紀「ほら、みーくんとけーくんで合わせたらミケになるでしょ。ふたりとも部室にいなかったからさー、どこいっちゃったのかと思ったよ」

美紀「猫じゃないんですから。勝手にどこかへ行ったりなんかしませんよ」

胡桃「洗濯物、濡れなかったか?」

美紀「はい。なんとか間に合いました」

悠里「急いでくれたのね。ありがとう」

美紀「いえ……」

永井「僕は部屋に戻る」

悠里「え? 永井君?」

永井「たたんだタオルはもとの場所に置いておくから」

悠里「わたしたちもたたむの手伝うわよ」

永井「直樹さんのをやってくれ。それ、きみらの衣類だから」


スタスタ...


悠里「えっと……ああ、なるほど。気を遣ってくれたのね」

胡桃「ふん。それくらい当然だろ」

美紀「……」

由紀「みーくん、顔赤いよ?」

美紀「な、なんでもないです!」

美紀 (思い出してしまった。屋上でわたしだけが意識してたの、なんかすごく恥ずかしい……!)


ーーーーーー
ーーーー
ーー




292: ◆8zklXZsAwY 2016/05/24(火) 23:40:43.80 ID:8szviqqsO


ーー学園生活部


ザ-ッ...


由紀「運動部のひとたち、雨宿りしてる」

悠里「かなり降ってきたからね」

胡桃「それより、洗濯物ぜんぶたたんだか?」

由紀「もうおわったよ。わたし、めぐねえのとこ戻るね」

悠里「ゆきちゃん、遠くに行かないでね。この階から降りちゃダメよ」

由紀「はーい」


ガラッ...


美紀「あの、りーさん」

悠里「なに?」

美紀「さっきの注意、ゆき先輩が言ってたことと関係あるんですか?」

悠里「雨宿りのことね」

胡桃「あいつら、雨になると校舎に入ってくるんだよ」

美紀「じゃあ、ゆき先輩が言ってた運動部って……」

悠里「かれらのことね」




293: ◆8zklXZsAwY 2016/05/24(火) 23:43:18.28 ID:8szviqqsO


美紀「……人間みたいなことするんですね」

胡桃「どうも、人間だったころの記憶が残ってるっぽいんだよな」

悠里「思い出だけが残ってて、気になるところに戻ってくるのよ」

美紀「わかるんですか?」

悠里「なんとなくね。この学校にこれだけ学生がいるのも、そういうことなんじゃないかな」

美紀「気になるところ、ですか……」

悠里「……めぐねえがいなくなった日も、今日みたいな雨の日だったの」

胡桃「……」

美紀「そう、だったんですか……」

悠里「そのときはまだ雨宿りのことを知らなかったから、気づいたら校舎にたくさん入り込んでて、取り囲まれてしまって……」

美紀「……」

悠里「だから、雨の日はほんとに気をつけてね。なんども念を押すようで悪いけど、大事なことだから」

美紀「はい。肝に銘じておきます」

胡桃「かたっ苦しい返事だなあ」

悠里「いいじゃない。ちゃんとわかってくれたってことなんだから」




294: ◆8zklXZsAwY 2016/05/24(火) 23:45:53.18 ID:8szviqqsO


美紀「そういえば、めぐねえは先のことはどう考えてたんでしょうか?」

胡桃「んー……あのころはみんないっぱいいっぱいだったからなあ」

悠里「ノートに書いてあるかも」

美紀「ノート、ですか」

悠里「部の活動日誌。めぐねえ、よく書いてたから」

美紀「読んでないんですか?」

悠里「見ようと思ってたんだけも……なんとなく、ね」

美紀「あぁ……そうですよね……」

胡桃「……」

美紀「あの、そのノート、わたしが見てもいいですか?」

悠里「そうね、お願いするわ」

胡桃「たのむよ」

美紀「はい」


ーーーーーー
ーーーー
ーー




295: ◆8zklXZsAwY 2016/05/24(火) 23:48:07.84 ID:8szviqqsO



ーー放送室


カラカラ...


美紀 (ノートは……)

美紀「これ、かな?」スッ...


パラパラ...


美紀「あれ? これって……図書室の本?」

美紀 (棚になかった本、めぐねえが?)


パサッ...


美紀「あっ」

美紀 (落ちちゃった。綴じ込んである……パンフレット?)


スッ...


美紀「!」







ーー職員用緊急避難マニュアルーー








美紀「これって……!」

ーーーーーー
ーーーー
ーー




296: ◆8zklXZsAwY 2016/05/24(火) 23:51:15.25 ID:8szviqqsO


ーー永井の部屋(生徒指導室)

永井「タオル、置きにいくか」

太郎丸「ワウ~」フリフリ

永井「おとなしく待ってろ」


ガラッ...パタン...


太郎丸「ワウゥ...」ペタン...


太郎丸「……」


ァ...ォ-...


太郎丸「!」スクッ


ググッ...


太郎丸「ワヴゥ...!」グイグイ...


スポッ


太郎丸「ワウゥ...」フルフル


ガラッ


太郎丸「スンスン...!」ダッ


タタタタッ...!





297: ◆8zklXZsAwY 2016/05/24(火) 23:53:43.94 ID:8szviqqsO


太郎丸「ワン!」


かれら「ギッ...~」


太郎丸「!」ビクッ!


ダッ!


太郎丸「ハッハッ...!」タタタッ!


トテ...トテ...トテ...


太郎丸「ハッ...ハッ...ハッ...」

太郎丸「...クゥ-ン」


ピチャン...


太郎丸「!」


ピチャン...ピチャン...


太郎丸「ワン!」


トテトテトテ...


太郎丸「......」ピクッ...!


ピチャン...


太郎丸「グルルル...!」


ピチャン...!


『ギギッ...』


ーーーーーー
ーーーー
ーー



299: ◆8zklXZsAwY 2016/05/25(水) 00:03:01.39 ID:cc+m9BwmO


ーー職員用緊急避難マニュアルーー


「感染対策は初期の封じ込めが重要であるが、それに失敗し、感染が爆発的に増加した、いわゆるパンデミック状態が引き起こされた場合ーーーー」


美紀「なに……これ……」


「対応できる資源、人員ともに限定ーーーー厳密な選別と隔離を基本方針とすること。」


美紀「……」ゴクッ...

美紀「どういうこと……」

美紀「……」

由紀「みーくん!」ポンッ

美紀「わあああぁっっ!!」ガタガタガシャ-ン!

美紀「……」ハアハア...

由紀「……」ボ-ゼン

美紀「お、脅かさないでください」

由紀「ご、ごめんね……」

美紀「すいません。ちょっとびっくりしました」ゴホン

由紀「なに読んでたの?」

美紀「……こわい本です」

由紀「こ、こわい本?」ビクッ...

美紀「すごーくこわい本です。読みますか」ジリッ...




300: ◆8zklXZsAwY 2016/05/25(水) 00:04:36.89 ID:cc+m9BwmO


由紀「え、え、えんりょしとくねっ!」ピュ-

美紀「あっ」

由紀「じゃまたね!」

美紀「はい……」


パタン...


美紀「……どうしよ、これ」


コンコン...


美紀「?……はい」

由紀「みーくん……」

美紀「どうしました?」

由紀「あのね……なんか悩みごとがあったら相談してね」

美紀「え?」

由紀「わたしじゃ頼りなかったら、りーさんでもくるみちゃんでもけーくんでもいいから、とにかくみんなで考えよ?」

美紀「……そうします」

由紀「う、うん。ごめんね、へんなこと言って。それじゃね」


パタン...


美紀「……まいっちゃうなー」

美紀「怖がる必要性はない、だよね……」

ーーーーーー
ーーーー
ーー



301: ◆8zklXZsAwY 2016/05/25(水) 00:07:14.31 ID:cc+m9BwmO



バサッ


永井「……!」

胡桃「ちょっと待て、なんだこれ」

悠里「これが……めぐねえの荷物の中に?」

美紀「はい。本に挟まってました」

胡桃「めぐねえが……最初から知ってたってことか?」

美紀「いえ、それは……」

胡桃「だったらなんだよ!」

永井「落ち着け。いまはその先生のことよりも、このマニュアルのほうが重要だろ」ペラッ...

胡桃「なんだと……?」

悠里「くるみ、やめて。永井君も、お願いだから」

美紀「くるみさん、めぐねえが知っていた可能性は低いと思います」

胡桃「……」

悠里「根拠は?」

美紀「表紙を見てください。開封指示がありますよね? 渡されて持ってたけど、内容までは知らなかったのだと思います」

悠里「……そんなところでしょうね」

胡桃「こんなことになって思い立って、開けてみたら……ってことか……」

悠里「……」

胡桃「言ってくれれば、よかったのに……」ポツリ...

永井「いまさらそんなこと言っても仕方ないだろ。それより直樹さん、これの中身は……」




302: ◆8zklXZsAwY 2016/05/25(水) 00:09:19.28 ID:cc+m9BwmO



ガッ!


胡桃「さっきから何なんだ、てめえは……!」

永井「放せよ」

悠里「くるみ!」

美紀「お、落ち着いてください、二人とも!」

永井「僕は落ち着いてる。勝手に興奮してるのは恵飛須沢さんだろ」

胡桃「めぐねえは……」

永井「あ?」

胡桃「めぐねえは、あたしらが不安にならないように、いつも明るくて、元気で……だから、だから……!」

永井「死んだ人間のことなんて、僕が知るかよ」

胡桃「てめえ、いい加減に……!」

永井「いい加減にするのはそっちだ。いつまで死人にこだわってんだ。そんな話して、僕らのメリットになるのか」

胡桃「そういう問題じゃねえんだよ……!」

永井「ズレたこと言ってんじゃねえぞ。いつまでもこの学校で平和に生活できると本気で思ってるのか?」

美紀「先輩ダメです!」

永井「そんなふうに“ごっこ”に夢中になってたから、その先生も死んだんじゃないのか」

胡桃「!」プツン




303: ◆8zklXZsAwY 2016/05/25(水) 00:13:33.09 ID:cc+m9BwmO



ゴッ!!


永井「っ!」ガタガタ...バタンッ!

美紀「先輩!」バッ

悠里「くるみ、ダメっ……!」ガシッ

胡桃「放せ! こいつはっ……!」









永井『“動くな”!!』


ビリビリビリ...!


悠里 (か、からだが……)

美紀 (こ、これって……!)

胡桃 (ぐっ……クソッ!)


ビリビリビリ..........ピクッ


美紀「! うごく……」

悠里「く、くるみ……?」ハァ...ハァ...

胡桃「はぁー……はぁー……」ギロッ

永井「……ハッ」ムクッ

美紀「あ……せ、先輩……?」


ガラッ





304: ◆8zklXZsAwY 2016/05/25(水) 00:16:27.44 ID:cc+m9BwmO


胡桃「どこ行くつもりだ?」

永井「自分の部屋だ。ここじゃ、こんな薄いマニュアルさえ満足に読めそうにもないからな」

胡桃「ダメだ。それはここに置いてけ」

永井「なに?」

美紀「く、くるみさん……」

胡桃「おまえは信用できない」

悠里「ちょ、ちょっとなに言ってるの!?」

胡桃「ここで読む分に構わない。だけど、マニュアルはこっちで管理する。それはめぐねえの持ち物だ」

永井「……」クルッ...


ガタン!


永井「……」ペラッ...

美紀「あ……」

悠里「……」




305: ◆8zklXZsAwY 2016/05/25(水) 00:22:18.99 ID:cc+m9BwmO




ガラッ


由紀「ねえ、太郎丸が……あ、あれ。どうしたの、みんな?」

悠里「ゆきちゃん……!」

美紀「あの……太郎丸が、なにか?」

由紀「う、うん。あのね、さっき太郎丸の様子を見に行ったんだけど、首輪だけしかなくて、太郎丸がいなかったの」

美紀「え……?」

由紀「紐はつないであったから、首輪から抜け出しちゃったのかなって」

美紀「そんな……」

悠里「美紀さん……」

美紀「あ、あの……」チラッ...

永井「……」ペラッ...

美紀「ぁ……」

胡桃「あたしが探してくるよ」

悠里「くるみ、でも今日は……」

胡桃「わかってる。危ないところには近づかないよ」

美紀「だったら、わたしも……」

胡桃「いや、大丈夫だ。いざというときはひとりのほうが逃げやすいからな」




306: ◆8zklXZsAwY 2016/05/25(水) 00:24:57.26 ID:cc+m9BwmO


永井「わざわざリスクを冒してどうすんだ」ペラッ...

美紀「な、永井先輩……?」

胡桃「……」

永井「雨の日にやつらの数が多いことは知ってるんだろ? ならここで待機してるのが一番だ。生前の行動を模倣するんだから、どっちの状態にしろ、ここに戻ってくる」

美紀「そんな……」

胡桃「……よくニュースで言ってたよ。亜人には人の心がないんだって」

永井「……」

由紀「く、くるみちゃん……?」

胡桃「べつに信じてたわけじゃないけど、おまえ見てるとよくわかるわ」

悠里「くるみ、やめてよ……!」

胡桃「おまえ、亜人じゃなかったらよかったのにな。そしたら、ここにも来なかった」

美紀「くるみさん!」


ガラッ!...バタン!
......
...


シ-ン...


由紀「ねえ、いったいなにがあったの? どうしちゃったの、みんな……?」

悠里・美紀「「……」」

永井「……」ペラッ...

永井「バカが」ボソッ...




310: ◆8zklXZsAwY 2016/06/08(水) 00:51:32.48 ID:8i5gGj6YO

ーーーーーー
ーーーー
ーー

暗い空の色は、黄昏時からめざめの薄陽を消したときのような、夕暮時が蒼ざめたときのような、重苦しいものだった。


割れた窓からはいりこんでくる雨粒が校舎を徐々に水に浸していた。廊下には水膜が張り、その薄い水面を揺らすのは、雨粒をのぞけば恵飛須沢胡桃の移動する足と廊下に伏した“かれら”が流す血だけだった。


血と雨は下へ下へと流れていき、やがて胡桃を地下の非常避難区域へと誘い込んだ。


部室を出たあと、胡桃は屋上と三階部分を捜索した。太郎丸は見つからなかった。胡桃は階段をおり、バリケードの近くまでを足を運んだ。


朦朧と、おぼつかない足取りで徘徊する“かれら”が何体がバリケードのすぐむこうにいたが、胡桃は意に介さず、床をライトで照らした。犬のものと思しき足跡が、階段からバリケードの向こうへと続き、折れ曲がってまた階段を降りていったのが見えた。




311: ◆8zklXZsAwY 2016/06/08(水) 00:53:15.27 ID:8i5gGj6YO


胡桃はライトを消し、反対側のバリケードまで歩いていった。バリケードによじ登ると、スマートフォンを取り出し音量を最大にして音楽を再生した。太郎丸の足跡がある階段まで戻り、バリケードの上部から反対側をのぞきこむと、“かれら”はスマホから流れる音楽に誘われてバリケードのもとに集合していた。


音楽が流れているせいもあってか、“かれら”の動きは何処となく踊りを思わせるところがあった。その緩慢な動作は滑稽さを感じさせるには十分だったが、胡桃は表情をいっさい変えることなく、二階を通過し一階へ降りていった。


一階部分も二階とさほどかわりなかった。“かれら”が校舎に侵入してくる地点は胡桃が降りた階段から離れており、スマホから流れるポップ・ミュージックが校舎によく響くおかげで、“かれら”は胡桃のいる方向へ来ることはない。


もともと非常避難区域への道すがらにいたものたちは、胡桃がシャベルを振るうと動くのをやめた。だが、そのものたちの血は雨の流れにのって胡桃を追いかけ、やがて追い越し、胡桃が足を踏み入れるべき場所へ先導するかのように地下の暗い穴に吸い込まれていった。




312: ◆8zklXZsAwY 2016/06/08(水) 00:54:58.03 ID:8i5gGj6YO


一階倉庫隅のシャッターが机に阻まれ、七〇センチほど開いている。胡桃がライトをかざすと、犬の足跡が浮かびあがった。足跡は地下へと続いていた。胡桃はシャッターをくぐり抜けた。


地下への通路は灯りがほとんどなかった。頭上にあるいくつかの光源が、避難区域への通路が水浸しになっていることを教えていた。胡桃は通路へと続く階段をおり、“かれら”が潜んでいる場合に備えてサイリウムを一本放り投げた。


サイリウムが水を弾いた音がし、床から跳ね転がっていく。緑色のぼうっとした灯りがわずかに拡がり、沈黙もあたりに拡がった。


胡桃がサイリウムのところまで移動しようとしたとき、暗闇のなかから水音がした。それは規則正しく同じ間隔で続き、だんだんと胡桃に近づいてきていた。何者かが暗闇からこちらにむけて歩いてくる音で間違いなかった。




313: ◆8zklXZsAwY 2016/06/08(水) 00:56:19.68 ID:8i5gGj6YO

胡桃は柱に身を隠した。足音から察するに“かれら”ではなく、“かれ”または“かのじょ”であることは明白だった。胡桃は、いままでと同じようにシャベルを振るえば“かれ”または“かのじょ”はすぐに動かなくなると思った。むしろ胡桃が心配したのは、自身のことより太郎丸のことだった。太郎丸がこの人物、かつてひとだったものに遭遇していなければいいと願った。


足音がサイリウムの側まで近づいてきた。いまだ緑色の光を放つそれが、足音の正体を照らした。その正体は“かのじょ”だった。


“かのじょ”を見た途端、胡桃の目は見開かれ、極度の混乱と恐怖が襲ってきた。悪態をつきながら、異常に高まってくる動悸に胸を押さえる。しゃくりあげるように疑問の声をあげる。直後、胡桃は柱から飛び出し“かのじょ”にむかってシャベルを振り上げた。なんでだよ!と苦悶に等しい叫び声をあげながら。


だが、胡桃はすぐに動きをとめた。それは胡桃自身が命じたものなのかは定かでなかった。“かのじょ”は変わり果てていたが、“かのじょ”だった。“かのじょ”が腕をあげるようすは、ぎこちなく、操り人形よりも不自然な動きだった。“かのじょ”は、手のひらが頭上を越えたところで腕をあげるのをやめた。すこしの停止時間があった。胡桃も“かのじょ”も、わずかな時間静止していた。


そして、“かのじょ”だけが動いた。“かのじょ”の手は、きわめて正確に、胡桃にむかって振り下ろされた。


ーーーーーー
ーーーー
ーー




314: ◆8zklXZsAwY 2016/06/08(水) 00:59:41.19 ID:8i5gGj6YO


ーー放送室


ペラッ...


由紀「……」


ペラッ...


美紀「……」


ペラッ...


悠里「……」


パタン...


永井「……」




315: ◆8zklXZsAwY 2016/06/08(水) 01:01:50.14 ID:8i5gGj6YO


永井 (塗りつぶされている箇所はあるが、それでもこのマニュアルに書かれていることは重大な価値を持つ)

永井 (食糧や救急物資の存在より、感染症の種類と事態の原因とおぼしき企業、関連組織の名前が判明したのは大きな収穫だ)

永井 (ランダル・コーポレーション……この企業とその関連企業の人間の名前は、佐藤さんの暗殺リストには挙がっていなかったはず)

永井 (田中の証言をもとに作成したリストだから確実とはいえないが、おそらくランダルと亜人管理委員会や厚生労働省とのあいだに癒着はない)

永井 (拠点一覧には航空基地や自衛隊駐屯地も記載されている。厚労省ではなく防衛省とつながりがある企業……このつながりを知っている人間は少ないだろう。生き残っていたとしても、保身のためそれを口にするやつはいない)

永井 (これほどの情報があれば、今後ある程度の規模の生存者のグループに遭遇した際、有利な方向に交渉を進めることも可能だ。それにこのランダルが今回の事態の原因なら、解決の糸口もここにあるかもしれない。もしそうなら、わざわざ佐藤と戦わなくても僕の社会的地位の回復を望める)

永井 (となると、ランダルまで移動できる足が必要だな。それと感染症別救急キット、これの効力も把握しておきたい。ほんとうに効果はあるのか、効果があったとしてそれは感染して何時間以内か、後遺症はあるのか。中野がいれば、すぐに確かめられるんだけど……)

永井 (まあ、それはあとでいい。必要なのはこのマニュアルと救急キットの中身、それも複数。食糧物資は最悪持ち出さなくてもかまわない。あとは、移動手段。車のキーは若狭さんが管理してたな。どうせここに長居はできないだろうし、あとはどうやって……)




316: ◆8zklXZsAwY 2016/06/08(水) 01:04:03.47 ID:8i5gGj6YO




チョン...


永井「っ……」ピクッ

由紀「あっ、ご、ごめん、けーくん……痛かった?」

永井「……なに? 丈槍さん」

由紀「えっとね、そのほっぺたのケガ痛くないのかなって思って……」

永井「さわらなきゃ痛みはない」

由紀「そ、そうだよね。ごめんね……」

永井「いいよべつに。丈槍さん、すこし考えたいことがあるからほっといてくれないか?」

由紀「う、うん。けーくん、でもさ……」

永井「なんだよ?」

由紀「ほっぺた、手当てしたほうがいいよ。救急箱ならここにあるし……」

美紀「あっ、ならわたしが取ってきましょうか?」

永井「必要ない。医療品の数だって限られてるんだ。これくらいのケガでいちいち使ってらんないだろ」

美紀「で、でも……」

由紀「あとでもっとひどくなるかもしれないよ! アザだってそんなにくっきり……」




317: ◆8zklXZsAwY 2016/06/08(水) 01:06:07.92 ID:8i5gGj6YO


永井「僕は亜人だ。死ねば治るよ」

美紀「っ……!」

悠里「美紀さん……」

由紀「みーくん……」

由紀「……」

永井「もういいだろ? 頼むからすこしでいいから静かに……」

由紀「たぁー!」ガシィッ!

永井「っ、はぁ!?」

悠里「ゆきちゃん!?」

美紀「ま、マニュアルを……!?」

由紀「こ、これはおあずけ!」

永井「どういうつもり……」

由紀「けーくんはケガを手当てしなきゃダメだよ!」

永井「はぁ?」

由紀「手当てしなきゃ、これは返さないからね!」

永井「さっきの聞いてなかったのか? 僕には必要ない」




318: ◆8zklXZsAwY 2016/06/08(水) 01:08:59.92 ID:8i5gGj6YO


由紀「……そのケガ、くるみちゃんのせいなんだよね?」

永井「それがなんだよ?」

由紀「くるみちゃんがなんでそんなことしたのか、わたしにはわからないけどさ、でも悪いことなのはたしかだと思うの。だからね、ほっぺたにおっきなガーゼがあればくるみちゃんもきっと反省するよ。そしたら、けーくんも許してあげて」

永井「価値観の違いが明確になっただけで、許す許さないは問題じゃない。今後は互いのメリットに抵触しないよう折衝を重ねてけばいいだけのことだ」

由紀「よ、よくわかんないけど、なんか学園生活部らしくないよ。それじゃ、学校なのに楽しくなくなっちゃう……」

永井「いいから、それを返せよ」グイッ

由紀「う、うぅ……」

美紀「……ゆき先輩! こっちにパスです!」

由紀「!……うんっ!」ポイッ!


パスッ!


美紀「取りました!」

悠里「み、美紀さん!?」

永井「……直樹さんまでなんのつもりだ?」

美紀「わたしもゆき先輩と同じ意見です。 手当てをしてください」

永井「必要ないってさっきから言ってるだろ。何回同じこと言わせるんだ」

美紀「先輩に必要なくても、わたしたちには必要なんです!」

永井「はあ?」

美紀「学園生活部に必要なんですよ!」



319: ◆8zklXZsAwY 2016/06/08(水) 01:14:24.66 ID:8i5gGj6YO


永井「なに言ってるんだ……? 自分が言ってることをちゃんと理解してんのか?」

美紀「せ、説明はむずかしいけど……わかってるつもりです! とにかく手当てしてください」

永井「なんで貴重な医薬品を消費してまでして僕がきみらの要望に応えなきゃいけない? きみらとちがって、僕は恵飛須沢さんと和解することにメリットを見出しちゃいない」

美紀「……どうしても手当てする気はなんですか?」

永井「ない。この会話も時間の無駄だ。わかったらマニュアルをもどせ」

美紀「……わかりました。なら……!」


シュボッ!


永井「!」

由紀「みーくん!?」

悠里「それ、着火ライター……!?」

美紀「永井先輩、ケガの手当てをしてください」

永井「……きみらにとってもそのマニュアルは重要だろ」

美紀「わたしはもう全部読みました。内容もちゃんとおぼえてます。永井先輩もそうですよね?」



320: ◆8zklXZsAwY 2016/06/08(水) 01:16:17.90 ID:8i5gGj6YO


永井「……」

美紀「なら、実物としてのマニュアルにそこまでこだわるのはどうしてですか?」

永井 (……こいつ)

永井「……」ギロッ


美紀「っ……」ビクッ...

美紀「……」ゴクッ...

美紀「わたしの要求は変わりません」

永井「……」

悠里「み、美紀さん……」オロ...


じゅわ………


美紀「お願いします。永井先輩が傷の手当てをすれば、すべて元通りになるんです」


じゅわ………………



















永井「……はぁ」

永井「……救急箱、ここにあるんだっけ?」

美紀「……え?」

永井「どうなんだよ?」

美紀「あっ、はい。そっちの棚に……」



321: ◆8zklXZsAwY 2016/06/08(水) 01:18:54.73 ID:8i5gGj6YO


永井「これか……直樹さん、もう火つけなくてもいいだろ」

美紀「あっ、け、消します……あの、手伝いましょうか?」

永井「自分でできるから必要ない」カチャッ...

美紀「そう、ですよね……」




チョンチョン...ペタ...…





永井「おわった。マニュアルを返してくれ」

美紀「はい」スッ...

永井「……いったいなにがしたかったんだ?」

美紀「え?」

永井「これを読んだのならどれだけ重要なことが書かれてるのかわかってるだろ。それを失うリスクを冒してまで、僕に傷の治療をさせたのはなぜだ?」

美紀「それは……」

永井「はじめは丈槍さんに同調しただけだとしても、途中からの行動はあきらかにそこから逸脱していた」

美紀「……」

永井「直樹さんのしたことの結果しだいでは、部全体が不利益をこうむっていたかもしれない。それをわかったうたえで、何を目的にしてあんな行動にでたんだ?」

美紀「……とっさの行動だったので、後付けの理由になるんですが……それに、みなさんが納得できるような合理的な説明にはならないと思います。それでもいいですか?」

永井「どんな理由だ?」



322: ◆8zklXZsAwY 2016/06/08(水) 01:26:12.74 ID:8i5gGj6YO


美紀「……わたしがここにやってきて過ごしているうちに、気づけばたくさんのものをもらってました。楽しいことやあたたかいこと、ほかにも、大事なことを。わたしにとって学園生活部は大切な場所なんです。だから、ここにつれてきてくれた永井先輩にはほんとに感謝しています」


美紀「でも、そのうち気づいたんです。永井先輩はわたしたちといっしょにいるけれど、わたしたちとちがうことを考えてるんだって。当然ですよね、先輩とわたしたちでは事情がまったく異なるんですから」


美紀「だから、さっきみたいに意見が対立することもありえたんです。むしろその可能性のほうが高かった。なのにわたしは楽観して目をそらしてたんです。永井先輩は、わたしを学園生活部につれてきてくれたのだから、先輩にとってもここは大切な場所なんだ。だから本気でここからいなくなるようなことはしないはずだって……」


美紀「でも、ちがうんです。永井先輩は大きな決断を下せる人だから……いつかはここを去っていくときがくるかもしれない。それはわかります。でも、わたしはそれをまだ納得できないんです」


美紀「学園生活部も永井先輩も、わたしにとっては……どちらも両立することをあきらめられないんです。わたしがその方法を見つけなきゃって思って……それに永井先輩が必要がないのに死んでしまうのも、学園生活部のみんながそれを許容するのもイヤだったから……それが理由です」


永井「迷惑だな」

美紀「わたしもそう思います。これはわたしのわがままですから」

永井「……」

美紀「……わたしの言いたかったことは以上です」



323: ◆8zklXZsAwY 2016/06/08(水) 01:28:40.74 ID:8i5gGj6YO


悠里「……」

由紀「えっと……もうお話はおわり?」

美紀「はい。すいません、長々と」

由紀「ううん。いいの、言いたかったこと言えたなら」

美紀「ありがとうございます。りーさんもすいません。結局、わたし個人の事情でとんでもないことをしてしまって……」

悠里「それはいいんだけど……」チラッ...

永井「若狭さん」

悠里「な、なに?」

永井「今後の方針について話したいことがある。恵飛沢さんがもどってくるまでにマニュアルを読んでおいてくれ」

悠里「……なにをするつもりなの?」

永井「それを相談する。いまはまずこれを読んで……」


カリ...カリ...


由紀「なんの音?」

悠里「くるみ、かしら?」

由紀「太郎丸かも」


カリッ...カリッカリッ...


美紀「でも、なにか……」

永井「僕が開ける」


ガラッ


胡桃「ハァ……ハァ……」フラッ...

永井「!」ガシッ

悠里「く、くるみ!?」

胡桃「ミスった……」


ポタッ...ポタッ....


永井「……クソッ」




326: ◆8zklXZsAwY 2016/06/10(金) 07:01:04.86 ID:+IPKUuU5O


悠里「く、くるみ!」

永井「落ち着け!」

悠里「で、でも!」

永井「とにかく応急処置だ。ソファに寝かせるから若狭さんは運ぶのを手伝ってくれ」

美紀「あの、わたしたちは……」

永井「直樹さんは処置に必要な道具をたのむ。保健室から取ってきたヘビの咬傷用救急キットが放送室に置いてあるはずだ。止血帯もそこにあるから、救急箱と使い捨てのゴム手袋もいっしょに持ってきてくれ」

由紀「わ、わたしは?」

永井「清潔なタオルとシーツ。あとはお湯を二リットル沸かして。半分は生理食塩水をつくる。水一リットルに0.九グラムの食塩を混ぜるだけでいい」

由紀「わかった」

美紀「行きましょう、ゆき先輩」

由紀「うん!」


タタタッ...





327: ◆8zklXZsAwY 2016/06/10(金) 07:02:36.49 ID:+IPKUuU5O


永井「若狭さん、そっち側を持って」

悠里「は、はい」

永井「いくぞ」グイッ!

胡桃「ッゥ~~」ゼェゼェ...

悠里「永井君、くるみが!」

永井「まだ意識はあるな。いまのうちにどういう状況で傷を負ったのか聞いておこう」

悠里「でも、こんなに苦しんで……」

永井「それがわかれば処置の選択肢が増える。余分な感情で状況を悪化させたいのか!」

悠里「っ……!」

胡桃「…………だ」

悠里「え?」

胡桃「めぐねえ……だったんだ」

悠里「くるみ、それって……!」




328: ◆8zklXZsAwY 2016/06/10(金) 07:05:11.19 ID:+IPKUuU5O


美紀「先輩!」タッ!

永井「持ってきたか?」

美紀「はい、ほかには?」

永井「ドアを開けてくれ。僕らは手がふさがってる」

美紀「はい」


ガラッ


永井「ソファに寝かせるぞ。足はそっちに向けて」

悠里「くるみ……」

胡桃「ハァハァ……」

永井「ハサミ持ってないか? 傷をよく見たい」

美紀「あります」

永井「待って。手袋をはめる」


ジョキジョキ...


永井「止血帯貸して」

美紀「はい」


ギュッ!





329: ◆8zklXZsAwY 2016/06/10(金) 07:07:57.24 ID:+IPKUuU5O


胡桃「っ~~」

永井「……」ジッ...

悠里「……どうなの?」

永井「恵飛須沢さん、この傷は噛まれたのか? それとも引っ掻かれたのか?」

胡桃「ぅ……」ゼエ...ゼエ...

永井「ちゃんと答えろ恵飛須沢! 噛まれたのかどうなんだ!」

悠里「そんな大声で……!」

胡桃「……引っ、掻かれた」ゼエ...

永井「ならまだ可能性はあるな……直樹さん、丈槍さんのようすを見てきて」

美紀「はい!」


ガラッ!


悠里「……どういうことなの、可能性って」

永井「単純な話だ。これは血液だけでなく唾液からでも感染する。咬創でなく掻創なら発症するまでにまだ多少の時間的余裕がある」

悠里「なんで……どうして、そんなこと知ってるのよ?」

永井「人体実験されたからな。意識がある状態で感染させられたから、研究員たちの会話も断片的にだか聞こえた。だから、僕の認識にほぼ間違いはないと思う」

悠里「っ……!」




330: ◆8zklXZsAwY 2016/06/10(金) 07:10:28.58 ID:+IPKUuU5O



ガラッ!


美紀「もどりました!」

永井「生理食塩水は?」

由紀「これ!」

永井「かして」

美紀「どんな処置をするんです?」

永井「毒ヘビに噛まれた際の処置方法だ。止血帯で血流を抑え、洗浄した傷口を切開して毒を吸い出す」ジャバジャバ

美紀「き、切るんですか!?」

永井「毒を体外に出すにはそれしかない。手伝ってくれ、タオルで腕を固定する。」

美紀「は、はい」


ギュウッ...!


永井「救急箱のイソジンを」

由紀「う、うん」


ジュワ...ヌリヌリ...


永井「洗浄と消毒はおわった。咬傷用救急キットにナイフと吸引カップがある」

美紀「これですね」

永井「あと下にひくシーツを何枚か。床やソファを血で汚れないようにするから、ゴミ袋も用意して」

由紀「わたし、とってくるね!」

美紀「お願いします」

永井「いまから切開する。血がつかないよう、すこしはなれて」

美紀「りーさん、大丈夫ですか?」

悠里「え、ええ……」


ス-ッ...ス-ッ...




331: ◆8zklXZsAwY 2016/06/10(金) 07:13:15.20 ID:+IPKUuU5O


永井「……よし。吸引カップで毒を吸い出すのは三十分は続けてくれ。かならずゴム手袋とマスクをして血液に触れないようにしろ」

美紀「どこかに行くんですか?」

永井「武器を取りにいってから地下にむかう。マニュアルに薬の備蓄があると書いてあった」

美紀「ひとりで行くんですか?」

永井「それがいちばん確実だからな」

美紀「……そうですよね」

悠里「……薬の効果ことも、知ってるのね?」

美紀「え?」

永井「ああ」

悠里「そう……」

悠里「……永井君、くるみを助けてあげて……お願い、お願いします」

永井「それは僕だけの仕事じゃないぞ」

悠里「え……?」

永井「高熱が出ているうちは初期段階。時間がたてば全身が激しく痙攣し、やがて体温が急激に低下する。そうなればもう手遅れだ。だが、そうなった場合の対処も講じておく必要がある。僕が間にあわなければ若狭さんたちがしなきゃならない」

美紀「!」

悠里「……」

永井「移動できないよう拘束し、だれも立ち入らないようにしてくれればいい。そのあとのことは僕がやる」

美紀「永井先輩、それは……」

永井「部全体の問題だろ。情にすがって待っているだけじゃ事態は良くないほうに転ぶだけだ」

悠里「どうしても、必要なのね……?」

永井「たのむぞ。僕はもういく」ガラッ




332: ◆8zklXZsAwY 2016/06/10(金) 07:16:30.85 ID:+IPKUuU5O


由紀「あっ」ビクッ...

永井「……」

美紀「ゆき先輩……」

由紀「え、えーと……そうだ、ゴミ袋持ってきたよ!」

永井「丈槍さん、さっきの話聞いてたな?」

由紀「な、んのこと……?」

悠里「…….永井君」

永井「なんだ?」

悠里「ゆきちゃんのことは……ううん、ゆきちゃんのことも、わたしに任せて」

永井「……わかった」


ピシャン


美紀「……」

悠里「美紀さん」

美紀「あっ、すみません、ボッーとしてて……なにか手伝うことは?」

悠里「わたしのほうはいいの。それよりも永井君を手伝ってあげて」

美紀「え?……でも……」

悠里「なにか考えがあるんでしょう? さっき、そんな顔してたわ」

美紀「それは……」

悠里「いいの、くるみのためにできることがあるなら、してあげて」

美紀「……はいっ!」


ガラッ!




333: ◆8zklXZsAwY 2016/06/10(金) 07:17:58.89 ID:+IPKUuU5O


悠里「……ゆきちゃん、ほかの生徒が間違って入ってこないように、廊下見てきてくれない?」

由紀「う、うん」

由紀「……りーさん」

悠里「なに?」

由紀「くるみちゃん、元気になるよね?」

悠里「いま、永井君がお薬を取りにいってるわ」

由紀「……なら安心だねっ。それじゃ、廊下みてくるね!」

悠里「お願いね」


パタン...


悠里「……」


ジャラッ...


悠里「くるみ……すこしだけ我慢してね」


ガチャン!………

………



由紀「……」

由紀「……くるみちゃん」

ーーーーーー
ーーーー
ーー




334: ◆8zklXZsAwY 2016/06/10(金) 07:20:29.41 ID:+IPKUuU5O



ーー永井の部屋(生徒指導室)前


美紀「永井先輩!」

永井「……何しにきた、直樹さん」

美紀「いまから地下に向かうんですよね?」

永井「それがなんだ?」

美紀「あの、提案があるんです」

永井「まさか、ついてくる気じゃないだろうな」

美紀「ちがいます。放送室から音楽を流せば“かれら”を誘導できると思ったんです。地下に続くほうのスピーカーを切っておけば、行きも帰りもを邪魔されることはないはずです」

永井「たぶんね」

美紀「だったら……!」

永井「スピーカーはバリケードの近くに設置されている。今日のような雨の日には“やつら”の数が集中して、バリケードが破壊されるおそれがある」

美紀「様子を確認しながら、音量を調節すれば問題はないんじゃないですか?」

永井「直樹さんの言うとおりだと思う。だが、現状ひとつ懸念がある」

美紀「それは?」

永井「太郎丸だ」

美紀「!」




335: ◆8zklXZsAwY 2016/06/10(金) 07:22:55.14 ID:+IPKUuU5O


永井「感染した犬でも、習性は“やつら”と変わらないだろう。太郎丸は身体がちいさい。バリケードをたやすくくぐり抜けられる」

美紀「……」

永井「この緊急事態のなかじゃ、若狭さんも丈槍さんも冷静な対処はできないだろうし、それは太郎丸に思い入れている直樹さんもだ。そんな状態で直樹さんのアイデアを実行するのはリスクが高い。わかったのなら、話はおわりだ。僕はもう行くぞ」


美紀「……もし」

永井「なんだよ?」

美紀「もし、わたしが、感染した太郎丸を“眠らせる”ことができたなら、誘導案は受け入れられますか?」

永井「……できるのか?」

美紀「それで、くるみさんが助かる確率があがるのなら……リスクは、わたしが受け止めます」


永井「……」

永井「……放送室の折りたたみ机でバリケードの下を覆え。太郎丸がバリケードをくぐり抜けることがむずかしくなる」

美紀「はい」

永井「バリケードの状態に問題がなくても十五分が過ぎたら音楽はとめろ。それまでには戻ってくる」

美紀「わかりました……永井先輩」

永井「なんだ?」

美紀「あの、気をつけて」

永井「……僕は死なないけどね」

美紀「あっ……そう、でした」

永井「時間をすこしロスした。はやく実行するぞ」

美紀「はいっ!」

ーーーーーー
ーーーー
ーー



336: ◆8zklXZsAwY 2016/06/10(金) 07:25:50.40 ID:+IPKUuU5O


ーー放送室


美紀 「スピーカーの音量調節は……これだ」

美紀 (こっち側の音量をゼロにして……)

美紀「あとは音楽を流せば……」スッ...


パカッ


美紀「CD借りるね、圭」


ウィ-ン...


美紀「……再生」ポチッ...


♪♪♪~~


美紀 (曲は問題なく流れてる。バリケードの確認にいかなきゃ)

美紀 「……くるみ先輩、シャベルお借りしてます。力を貸してください」ガラッ

 
♪♪♪~~


美紀 (圭のお気に入りの曲に混じって、雨の音が聴こえてくる)

美紀 (不思議な感覚……こんなの学校でなきゃ、思わなかった)

美紀 (そう、学校……学校なんだ。わたしだけがいるんじゃなくて、ゆき先輩やりーさんやくるみさんがまずはじめにいて、永井先輩が転校してきて、そしてわたしがやってきた)

美紀 ( みんながいるから……みんなからいろんなものをもらったから……だから、わたしは戦える)


美紀「負けられない、よね」

美紀「……」

美紀「バリケード、まだ集まってきてない……」


『ギッ! ギギッ!』
『ギギギッ』
『ギチッ! ギッ!』


美紀「!」


ゾロ...ゾロゾロゾロ...!


美紀「っ……!」ゴクッ...

美紀「圭……わたし、ここで待ってるから……だから、お願い。力を貸して……みんなを助けて……」ギュウ...


ーーーーーー
ーーーー
ーー


ゆき「亜人?」【後半】



元スレ
ゆき「亜人?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1458054597/
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