理髪師「王子様の耳はロバの耳!」
- 2016年08月26日 21:40
- SS、神話・民話・不思議な話
- 4 コメント
- Tweet
国王「おぬしがこの国一番と呼ばれている理髪師か」
理髪師「この国で一番かは定かではありませんが、そう呼ばれることもございます」
国王「うむ……謙虚でよろしい」
国王「おぬしには、我が息子の散髪をしてもらいたい」
理髪師「かしこまりました」
国王「こちらへ来てくれたまえ」
理髪師「はい」
国王「これからおぬしが何を見ようとも、決して他言してはならぬ」
国王「もしこの約束を破れば……どうなるかは分かっておるな?」
理髪師「……もちろんです」
国王「よろしい。むろん、報酬はそれに見合うだけ払う」
理髪師「……」
理髪師(王子はもう10歳を超えているはずだが、表舞台に出たことはほとんどない)
理髪師(まさか、とんでもない化け物だったりするんじゃ……)
王子「やぁ」ボサッ
理髪師(うわっ、ボサボサだ。完全に耳が隠れるほど、髪が伸びちゃってるじゃないか)
理髪師(だが……切りがいがある!)シャキーン
理髪師「それでは王子、これより散髪を開始いたします」
王子「よろしく頼むよ」
理髪師「……」チョキチョキチョキ
理髪師「……」チョキチョキチョキチョキ
理髪師(少し警戒していたが、なんてことはない……普通の髪の毛じゃないか)
理髪師(このままいけば、問題なく散髪が終わりそうだ――)
理髪師「!?」ギョッ
理髪師「お、王子……! この耳は……!?」
王子「あーあ、やっぱり驚くよね」
理髪師「犬……? いや猫……? いや、ロバ……ですか」
王子「そのとおり、ボクの耳はロバの耳なんだ」
理髪師「ロバの耳……!」
理髪師(なるほど……こういうことだったのか)
王子「もしボクの耳のことを誰かにバラしたら……“しけー”だからな」
理髪師「も、もちろんバラしませんとも!」
理髪師(いわれるまでもなく、こんなのバラしたら大変なことになる……)
理髪師(だ、だけど……)
理髪師「あの、ちょっとだけ触ってもいいですか?」サワッ
王子「あっ!」ピョコッピョコッ
理髪師「結構敏感なんですね」サワサワ
王子「やめろよ~!」ピョコピョコピョコ
理髪師「し、失礼しました! つい……」
王子「ふん……まぁいいよ。髪を切ってくれたんだし、触るぐらい許してやるよ」
王子「あ~、さっぱりした! どうもありがとう!」
理髪師「では今後は、一ヶ月に一度ぐらいのペースで来ますので」
王子「うん、頼んだよ」ピョコッ
理髪師(可愛い……)
理髪師「王子様、ご機嫌うるわしゅう」
王子「今日もよろしく頼むよ」
~
理髪師「こんな髪型はいかがです?」
王子「うん、かっこいい! ボク、本の中に出てくる王子みたいだ!」ピョコッ
理髪師(可愛い……!)
~
王子「近頃、帝国がこの国にちょっかいかけてきてるんだってさ」
王子「ボク、心配だよ……」
理髪師「大丈夫ですよ。きっと陛下たちがなんとかして下さいます」
~
王子「お前が来てくれるようになってから、毎日が楽しくなったよ。ありがとね!」
理髪師「身に余る光栄でございます」
理髪師は王子の散髪をし続けた。
<理髪師の家>
理髪師「……」ウズウズ
理髪師(ああ、しゃべりたい)
理髪師(誰かにしゃべりたい)
理髪師(それに王子も、ずっと引きこもったままじゃ辛いだろう)
理髪師(しかし……しゃべったら私の命はない)
理髪師(だけどしゃべりたい……ええい、もどかしい!)
理髪師(仕方ない。せめて、地面に穴を掘って、そこに叫ぶとするか……)
理髪師「……これでよし、と」
理髪師「王子様の耳はロバの耳!」
理髪師「王子様の耳はロバの耳~!」
理髪師「王子様の耳はロバの耳~!!」
理髪師「王子様の耳はロバの耳~!!!」
理髪師「ハサミで髪の毛を切ったら、王子様の耳はロバの耳~!!!」
理髪師「やっぱり人間、秘密なんて持つもんじゃないな!」
理髪師「これからも、王子の秘密をしゃべりたくなったら、どんどんここで叫ぼう!」
草木「クスクスクス……」ザワザワ…
草木「面白い話を聞いたぞ……」ザワザワ…
草木「これは叫ばずにはいられない!」ザワザワ…
草木「王子様の耳はロバの耳~!」
草木「王子様の耳はロバの耳~!」
草木「王子様の耳はロバの耳~!」
草木「ハサミで髪の毛を切ったら、王子様の耳はロバの耳~!」
「ねえねえ、王子様の耳はロバの耳なんですって!」
「オレも聞いた!」
「だから、めったに姿を現さないのかもしれないな」
「でもちょっと見てみたいわね、ロバの耳!」
「もし本当だとしたら、ビックリだよな」
王子「――どういうことだよ、これは!」
理髪師「いえっ、これは違うんです! 私ではありませんっ!」
王子「でも髪の毛切ったらロバの耳って……お前しかいないじゃないか!」
理髪師「いえっ、それはきっと……なにかの間違いで……」
王子「もういい! 言い訳すんな!」
王子「お前なんかしけーにしてやる!」
理髪師「ひいいっ!」
王子「いつかはバレることだし、かえってスッキリしたよ」
理髪師「へ」
王子「やっぱり人間、秘密なんて持つもんじゃないよね」
王子「それにさ、いつもボクの髪を切ってくれてるお前をしけーにするはずないじゃん」
王子「これからもよろしくね」ピョコッ
理髪師「王子様……」
理髪師(いかん……可愛すぎる!)ハァハァハァ…
王子「おい……目つきが怖いんだけど」
理髪師「失礼しました!」
王子「どうも……王子です」ピョコッ
キャーキャー! ワーワー!
「可愛い~!」
「いちいち耳がピョコピョコ動くのが可愛すぎる!」
「まずいな……新しい世界に目覚めてしまいそうだ」
理髪師「も、申し訳ありません……!」
国王「だが、結果としておぬしのおかげで息子が明るくなったのは事実」
国王「今回の件は不問に処そう」
理髪師「ははーっ! ありがとうございます!」
<城>
大臣「陛下、帝国からトップ同士の会談を要求する書状が届きました!」
大臣「どうやらこちらの返事を待たず、兵を率いて出向いてくる模様です!」
国王「ついに来たか……!」
国王「あの帝国の皇帝についてはほとんど何も知らんが、かなりの野心家と聞く」
国王「おそらく帝国はまともに話し合いをするつもりなどなかろうが……」
国王「なんとか、武力衝突は避ける方向に話を持っていかねばな……」
王子「帝国がこの国を欲しがってるって噂もあるし……」
王子「この国はどうなっちゃうのかな……」
理髪師「大丈夫、王子様が気にすることじゃありませんよ」チョキチョキ
王子「うん……」
理髪師「……」チョキチョキ
理髪師(帝国の武力は強大だ……。我が国とは大人と子供ぐらいの差があると聞く)
理髪師(もし、あの帝国がこの国を狙っているという噂が本当であれば……)
理髪師(この国は滅ぶ……!)チョキチョキ
<城>
国王(帝国のトップか……いったいどんな皇帝なのか……)
敵将軍「女帝陛下、こちらです」ザッ
女帝「狭苦しい城ね~、こんなの半日もあれば落とせちゃうわ」ヒョコッ
国王「なんだね、君は? 皇帝のご息女かね?」
女帝「あら、失礼しちゃうわ。私こそが帝国の皇帝よ」
国王「な……!?」
国王(バカな……まだ子供じゃないか!)
女帝「弱冠12歳にして国のトップの大学を卒業し、軍略の天才でもあるの」
女帝「私の頭脳と帝国の軍事力で、成人するまでに全世界を我が物にしてやるわ!」
国王「なんと恐ろしいことを……!」
女帝「ところで、さっそく会談を行いたいんだけど、こっちからの要求はたった一つよ」
女帝「我が帝国に全ての領土を明け渡すか、それとも戦争するか、今この場で決めてちょうだい」
女帝「さ、どうする? 勝負する? 降伏する?」
国王「ぐ、ぐぐぐ……!」
王子「どうしよう、このままじゃこの国が……!」
理髪師「……」
王子「もし帝国に領土を渡したら、この国の市民はきっと奴隷のような扱いになるに決まってる!」
理髪師「……王子」
王子「?」
理髪師「……私の読みが確かならば、この国を救えるのはあなただけです!」
王子「ボクが!? どうして!?」
理髪師「とにかく……あなたがあの女帝の前に出てみて下さい!」
王子「うん、分かった! ……やってみる!」
敵将軍「女帝陛下は気が短い。早くせねば、待機させている軍を暴れさせるぞ」
国王「うぐ……ううう……」
王子「待って!」
国王「!? ……お前がなぜここに!?」
女帝「!!?」ビクッ
女帝「……」
王子「お、お願いします!」ピョコッ
女帝「……」
王子「……?」
女帝「……」
王子「もしもし……?」
女帝「か……」
王子「?」
女帝「可愛すぎるぅぅぅ~~~~~~~~~~!!!」
王子「!?」ビクッ
王子「ちょ、ちょっと……」
女帝「さわらせてぇぇぇぇぇ!」
王子「やめてっ!」ドンッ
女帝「はうっ!」ドサッ
敵将軍「女帝陛下に暴力を! ……貴様!」チャキッ
女帝「お黙り!」キッ
敵将軍「!」ビクッ
女帝「なんですか!?」
王子「もし侵略をやめてくれたら……好きなだけさわっていいよ。ボクの耳」
女帝「やめます!」
王子「え?」
女帝「やめます!!!」
敵将軍「ちょっ! 女帝陛下!? なにをおっしゃってるのですか!?」
敵将軍「こんなあっさりと、帝国の天下統一の野望をやめるなど――」
女帝「あ?」ギロッ
敵将軍「ひいっ!」
王子「ど、どうも……」ピョコピョコ
敵将軍「……!」ゴクッ…
敵将軍(こりゃあ……すげえ……)
敵将軍「ぜひとも養子に!」
王子「お断りします」
女帝「ケモノ耳は最上である、特にロバは極上だ、と……」
王子「聞いたことないけど……」
女帝「と、に、か、く!」
女帝「不束者ですが、これからはよろしくお願いしますね」ペコッ
王子「は、はぁ……こちらこそ」ピョコッ
女帝「かーわーいーいー!」ギュッ
王子「わぁっ、抱きつかないで!」
理髪師(どうやら私の読みは当たっていたようだな……)ホッ…
<城>
理髪師「今日は二つの国の正式な和解と同盟が成る記念すべき日です」
理髪師「お二人のヘアスタイルはこの私が、しっかりと整えさせていただきます」
王子「うん! かっこよく決めてよね!」ピョコッ
女帝「私の美しさと彼の可愛さを損なったら、承知しないから!」
理髪師「もちろんでございます」
おわり
元スレ
理髪師「王子様の耳はロバの耳!」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1472207867/
理髪師「王子様の耳はロバの耳!」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1472207867/
「神話・民話・不思議な話」カテゴリのおすすめ
- バイク「走りたいなー…」
- 猫「ねぇ、起きてよ」
- 魔法少女(19)「貴方のハート、キュンキュンさせちゃうぞっ!」
- 座薬「やめろ!俺は美少女の尻穴に入りたかっただけなんだ!」
- 男「そこに、いるんだろう?」 妖怪「……」
- HP「ゲームで一番重要な数字はオレだろ!」攻撃力「なんで?」
- 女神「貴方が落としたのは金の斧ですか?それとも」男「お弁当です」
- 信長「あー…天下統一とかダルい…光秀、今夜儂を暗殺してくんね?」
- ヨドバシ「ここは俺に任せて先に行け!」Amazon「ククク…」
- y=x^3「くっ殺せ!」
- 件名『私メリー、あなたの後ろにいるの』 男「メール…だと!?」
- 少女「翼をください」天使「いたたたたた!!!!」
- 少年「やった! 野生のニート捕まえたぞ!」
- 狐娘「なに?ワシを抱きたいじゃと?」青年「おう」
- 妖狐「本日も耳かき、致しましょうか?」
- 神さま「すっげーいらない能力をあげる」
- 俺「登校日ダルイなぁ…」ガラッ 教室シーン 俺「えっ?」
- 京大「センターも終わったか」 東大「後は僕達の番だね」
- 犬「人間になりました」 男「そのようですね」
- 婆「桃から男の子が!」爺「竹から女の子が!」
「ランダム」カテゴリのおすすめ
- 唯「これで567521251回目の高校生活かぁ」
- まどか「プレインズウォーカーになりたい」
- 勇者「最近パーティに入れた『FPSジャンキー』って奴がヤバいんだわ…」
- まどか「がんばれ、泣き虫ほむらちゃん」
- モバP「時子、もうやめてくれないか」
- 【瑞加賀】瑞鶴「加賀さんって私のこと好きだよね?」 加賀「……好きよ」
- 雪美「……野獣……先輩?………」
- ホールドアップされたソ連兵「……なあ、みんな起きてる?」
- P「アイドルは衰退しました」
- 相葉夕美「晴れた日は、あの人を誘って」
- 【ガルパン】エリカ「ネトゲをやってみるわ」
- 成歩堂「異議あり!」勇次郎「異議ありッッッ!!!」
- 美希「千早さんは美希のお姉さんなのー!」
- 勇者「世界救ったら仕事がねぇ……」【前編】
- 朝潮「初恋の、ビターチョコレート」
- 相良宗介「とてもやさしいパンツァー・フォー」【前半】
- 智絵里「朋さんと」ほたる「少しのお出かけ」
- 海馬「冥界にブルーアイズ忘れてきた」(劇場版遊戯王)
- 苗木「霧切さんの手の甲に『右』『左』って書いてある……」
- 士郎「Fate/Zero? これが十年前のセイバーか」セイバー「違います」
コメント一覧 (4)
-
- 2016年08月26日 21:45
- 萌えは地球を救う
-
- 2016年08月26日 21:56
- もうひとつ何か読者を裏切って欲しかった
悪くないんだが、展開が読める
-
- 2016年08月26日 22:27
- てっきりジョジョ風かと思ったわ
-
- 2016年08月26日 22:57
- ケモナーがここまで市民権を得たなんて15年前じゃ考えられん