姫川友紀「あたしはマウンドに立ちたいだけ」橘ありす「アイドルに興味はありません」
捏造多数
アイドル養成所設定
(練習生→デビュー候補生)→プロダクション所属アイドル
そう願った人間は今までに星の数ほど存在し、彼らはそれぞれの経験から、アイドルを目指す動機を見つけ出しているはずだ
時に、その動機はアイドルとしてデビューしたその先にある、ということもあるかもしれない。私もその例に含まれる
アイドルとなる宿星を持つ者こそがアイドルとなる。それは至極当然で、残酷で、とても美しいことのように思えた
私の動機はそれに比べてまったく不純であり、目を輝かせた周囲の候補生達との競争の中で生き残れるか不安だった
しかし彼女は言った
全身に気を張って、目をぎらつかせながら
アイドルになることは『過程』だと言い切ったのだった
彼女は、ハンドグリップを掌に収めて、レッスンルームに面した休憩室の隅に座っていた
ここに居るのに相応しくない人だと思った。おそらく何か屋外で行うスポーツの経験者だろうか、その肌は周囲のいかにも女の子、といった人達と比べてやや浅黒い
茶色がかった長い髪はお世辞にも整えられているとは言えそうにない、ボサボサの髪だ
アイドルの卵として集まった数十人の女の子たちの中で、その雰囲気は浮いていた
「ジムにでも行った方がいいんじゃない?」
潜められた声で彼女に対する評が発された。私も同じような感想を持ったが、彼女はその声に対しては特に反応せずに黙々とグリップを軋ませていた
レッスンルームからトレーナーの女性が現れ、入室するように指示された
グリップを乱雑に鞄に放り込み、ピンと背を張って、行進のようにきびきび歩くその姿
彼女は来る場所を間違えているのではないかという疑問を捨てきれることができなかった
「そうだな……まずは、おめでとう」
「君たちは、この養成所グループに所属する数百という練習生の中から選ばれ、晴れてデビュー候補生となった」
「もちろん、ここにきて緊張を緩める者は居ないだろう」
「ここにいる数十人、全員がアイドルデビューする者として選ばれるかもしれないし、もしかしたら全員がアイドルにはなれないかもしれない。ここが厳しい世界であることは、皆は既に十分、分かっていると思う」
不可解なセンスの服を着た女性トレーナーの説明を聞きながら、私はゆっくりと深呼吸をした
このレッスンルームに集められた候補生の中で、アイドル業界に出ることができる人間が一人でもいれば割合としては上等なのかもしれない
その中で、私は戦っていくのだ
説明に区切りがついたところで、トレーナーはこう言った
「では、早速レッスンに……おっと、その前に軽く、自己紹介をしてもらおうか。志望動機も含めて頼む」
「一番後ろの列の、こちらから見て右側から……」
「私は、高垣楓さんに憧れてーーー」
「小さい頃からダンスのレッスンを行っていてーーー」
「昔、握手会に参加した際に元気をもらい、私も誰かに幸せを届けられるようにーーー」
順次、候補生たちが志望動機を話していった
みんな目を輝かせて、キラキラしていた
私は大人になったら、歌や音楽を仕事にしたかった。その過程でアイドルになることが出来たら、その後の仕事が色々とやりやすくなるのではないかと思い、アイドルを志したのだ
母も、当初はその理由に心配な様子だったようで、アイドル目前であるこの候補生となったことを伝えたときにようやく安心した顔を見せてくれた
私は、アイドル自体に興味は無かった
「アイドルに興味はありません」
なんて。言えるはずもない
とりあえず、志望動機の指南書の例文にあるような無難な内容を述べた
名前を省き、橘という苗字のみを名乗ったが、特に何か言われたりはしなかった
「ありがとう。では、次の人」
そうこうしているうちに、あの彼女の番が来た。正直、気になっていた
彼女はどんな自己紹介をするのだろうか、と
「姫川友紀。宮崎出身です」
「あたしの目標は、東京ドームのマウンドに立つことです」
「よろしくお願いします」
……彼女は、そう言い切ったのだった
翌日の朝はスッキリしないものだった
あまり眠れた気がしない
レッスンが始まる前に一通り昨日のおさらいをするつもりで、予定時刻よりもかなり早めに家を出た
そのために、大分早めに養成所に到着した
彼女は黙々とステップを踏んでいた
昨日見た彼女のダンスは、アイドルとして育ってきた者のダンスとは全く異なっていた
彼女の動きの中では、体軸のブレが殆ど無い
マイク以上の重さの物を持つ事がないアイドルと違って、そのガッチリとした腕はきっちりと美しい円弧を描いて飛んでいく
そして脚部を上げる際には、やはりピッチャーの投球フォームの如く、筋肉のついた足が太腿から高々と上げられた
野球とダンスという全く異なる運動に跨る剥離感覚を乗り越え、身体を自分の思い通りに動かすレベルに達し始めているのだろう
……驚くべきことに、彼女は息切れ一つしていなかった。私が彼女を観察していた時間は、決して短くはなかったのに
扉に嵌められたガラスの向こうに映る彼女を見て、私はレッスンルームの入り口で呆然と立ち尽くすことしかできなかった
バサリ、と長い髪が翻り、彼女がこちらを向いた。私は扉を開け、適当に挨拶をした
「……おはようございます」
「あー、おはよう……えっと、橘ちゃん、だっけ」
「……はい」
「橘ちゃんは鏡の前、使うかな?」
「いえ、今日はいいです」
「そう……」
彼女が私の苗字を覚えていたのは驚きだった。私が彼女を忘れるはずはないが、彼女にとっては私は数十人の候補生の中の一人だと思っていたから
「ん?」
「いえ……少しお聞きしたいことがあります。ほぼ初対面の人には失礼かもしれませんが……」
「?……何かな」
私は、昨日から聞いてみたかった。彼女の本心を
「うん。始球式でね」
「……姫川さんは、本当に始球式に出たいんですか?そのためだけに、本当にその目的のためにアイドルになりたいんですか?」
「……そうだね、あたしは……マウンドに立ちたいだけ。大観衆の中で、あたしの最速の球を投げる。それがあたしの夢」
「それが、アイドルになりたい理由の全てですか」
「……今は、ね」
本当に、こんな考えを持つ人が……そんなことのために、アイドルを志した人が……
「馬鹿な考えだと思うよね?」
「……は、はい」
思わず正直に言ってしまった
「……?」
「だってさ」
彼女は、過去を懐かしむかのような、優しい表情を浮かべていた。そこには、何か大きな『挫折』が含まれている。そんな気がした
ポツリと独り言のようにその言葉が発された
こんな価値観の人間が、存在するのかと
彼女にはある種の狂気的な背景が感じられる
もしかしたら、アイドルではなく、野球選手になりたいという思いを今でも持っているのかもしれない
小さなことだろうか、ささやかなことだろうか
……克服できないことだろうか
目指してやろうか、手段のための目的を!
「え……?」
「私。体力が無くて、ダンスレッスンで、すぐにへばってしまうんです。ダンスを克服して……アイドルに……なりたいんです」
「……ふぅん」
「ライバルにタダで情報を教えるわけにはいかないけど……交換条件なら良いよ」
「私に出来ることなら、なんでも」
「自主レッスンの時に、あたしに歌のコツを教えてよ。トレーナーさんが付く時間も限りがあるしさ」
「……いいでしょう」
「へへ、同盟成立だね……えっと……」
彼女の言葉が淀んだ
「名前、教えてよ。昨日、苗字だけしか言わなかったから、気になってたんだけど」
そうだ、私も……ある意味印象に残っていたんだった
「ありすちゃんね、よろしく……」
「いえ、橘と呼んでください」
「え?」
「ライバルでしょう、私たちは」
「!……そっか。じゃあ、アイドル仲間になった時は、思う存分呼ばせてもらうよ」
「ええ、お互いの健闘を祈りましょう」
「よろしく、橘ちゃん」
「よろしくお願いします、姫川さん」
マメの跡がはっきりとわかる
この硬い手は、野球選手になるための手だった
女子野球選手がキャッツの始球式に出る機会があるならアイドルになるよりも楽かもしれない
元スレ
姫川友紀「あたしはマウンドに立ちたいだけ」橘ありす「アイドルに興味はありません」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1470048841/
姫川友紀「あたしはマウンドに立ちたいだけ」橘ありす「アイドルに興味はありません」
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コメント一覧 (13)
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- 2016年08月01日 22:16
- ユッキとありすだけだとクール成分が足りんな
-
- 2016年08月01日 22:23
- ※1
どっちも可愛くてキュートだからな
-
- 2016年08月01日 23:26
- ここから呑んだくれ観戦アイドルとイチゴ狂に成長するのか……
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- 2016年08月02日 00:00
- こういうユッキも公式で見てみたいなあ
-
- 2016年08月02日 00:59
- この人のゆきあり作品は独自の世界観あって好き
-
- 2016年08月02日 01:41
- キャッツのホームでアンダースローを披露する姿が見える
-
- 2016年08月02日 01:53
- そして立ち塞がる、女の子投げで100km超えのフィジカルモンスター・諸星きらり
-
- 2016年08月02日 11:11
- ※3
そう考えると、何故か感慨深いなぁ・・・
-
- 2016年08月02日 11:58
- アイドルになったその先の目標が無いと笑顔なんて誰でもできるもん!ルートがあり得るからな…
-
- 2016年08月02日 18:43
- ※7
そのきらりヤクルト好きそうだな
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- 2016年08月02日 21:06
- ※7
きらりは200kmくらいの豪速球投げそう
キャッチャーは幸子
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- 2016年08月03日 13:57
- むしろキャッチャーの後頭部をバットでぶん殴って負傷退場させるくらい豪快なスイングしそう
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- 2016年08月03日 19:06
- 元ネタあれだったのか