【AC】哀れな戦士
時代や企業名は決めていませんが、すべてのシリーズは過去のものとして扱われます。
機体は3~LR基準です。
単体でも読めるようには作っていますが、前作と対になるように作ってありますゆえ、是非ともそちらと一緒にご覧になって頂きたい。
話の流れも意図的に似せています。
前作 【AC】傭兵の仕事
眩しい。
ただひたすら眩しい目覚めだった。
脳に電気でも流されたような感覚だ。
網膜に眩い光が走り、手足の先が痺れた。
最近こんな目覚めを繰り返している。
何故かいつも決まってコックピット内で目を覚ます。
食事はちゃんと取っただろうか。記憶が定かではない。
体調管理を疎かにしてはいけない。
だが多少の不調で動転してはならない。
仕事に支障が出ては困る。
思考がまとまらない。
少し混乱しているのかも知れない。
早速仕事だ。
ただ現在はフリーの傭兵ではなく、一時的にB社という企業に雇われている。
強制ではない。信条の一致があった為だ。
皆は汚れ仕事だと言うが、己の良心に基づいて仕事を選べる上、直接戦いに介入することで、虐げられる者たちを守護し、奪われる者たちを救済することができる。
指を咥えてただ見ているだけでは無く、自らの手で。
それは悪魔にも救世主にもなれる仕事だと私は思っている。
何でも、最近起きたA・C社間の抗争で被害を受けたB社管轄のコロニーから生存者を別のコロニーに移送するらしい。
B社は貧しい市民の為にコロニーや資源、食料提供している人道的な企業だ。
私はその理念に賛同し、ここを選んだのだ。
私は即座にミッションを契約し、出撃の準備をした。
とは言っても、弾薬の補充も損傷の修復も既に完了している。ここのスタッフは優秀だ。
僚機と共にひび割れたコロニー外壁近くに佇み待機していると、物資搬入口から物々しい装甲に身を包んだ列車が現れた。これが今回の護衛対象だ。
これに住まいを奪われた哀れな民衆が肩を寄せ合っているのだ。
何としても守り抜き、彼らを新たな住まいに送り届けよう。
微笑み列車を見下ろしながら、私はそう誓った。
この頃にはもう頭痛のことなど忘れていた。
伴って私と無口な僚機は滑走を始める。
途中の補給所で列車と私たちの燃料を補給する予定だそうだ。
実に長い道のりである
この荒廃した世界で最も自由な存在。
そして世界を救うことの出来る可能性を持った唯一の存在。
私の父も傭兵だった。
優しく、誰よりも勇敢だった父。
私は幼い頃、そんな父から多くの昔話を聞いた。
かつて起きた最悪の大戦の後、世界を、人類を再生しようとした鉄の神様の話。
神様の使いであり人類の守護者だった赤い天使たちの話。
そしてそれらを殺し、たった一人で全ての罪を背負い人類に自由を与えた英雄の話。
訪れた滅びを止める為に全ての泥を被りながら戦い、死んだ傭兵の話。
自らの心身を破壊しながらも、穢れの光を放つ悪魔を墜とした傭兵の話。
どれも誇張された物語だった。
だが私はその傭兵たちに、そして父に憧れた。
そして私は弱きを救う為に。
守護者になる為に、傭兵となった。
ゆくゆくは、長く続く戦いを終わらせ、人類に再び黄金の時代をもたらすことが私の目標だ。
砂漠の地平線から、朝日が昇る。
夜明けだ。
戦いで大地は醜く爛れてしまったが、この朝日の美しさはいつの時代も変わらない。
きっと人類はこの美しさのように、永遠なのだ。
見上げると、頭上を鳥の群れが通り過ぎた。
こんな汚染された世界を、逞しく生きている。
私は確信した。
間違いなく、この大地はまだ生きている。
世界はこんなにも美しい。
私と僚機は手早く補給を済ませ、護衛に戻った。
列車は補給にかなり時間を要するらしい。
襲撃者にとっては絶好の機会だ。注意しなければならない。
近くにB社航空部隊の簡易的な駐屯地があるらしく、そこの偵察機部隊から情報を提供してもらうことになっている。
しかし予定の時刻になっても部隊からの連絡がない。
何かあったのかもしれない。
私は僚機に警戒するようにサインを送った。
私もレーダーやセンサー類に意識を最大限に傾けた。
突然響く空気を切り裂く激しい放電音。
そして光速の青白い砲弾が僚機の右腕を吹き飛ばし、第2射で脚を破壊した。
助けに行こうとした時にはすでに遅く、僚機のコアは無慈悲な第3射によって炎に包まれ、爆散した。
たった一歩も動くこともなく、味方は死んだ。
何故。
レーダーやセンサーには何の反応も無かった。
しかしあの精度、範囲外からの狙撃ではないはず。
そう考えを巡らせていると、途端にレーダーに赤い点が現れた。
ステルスか。
赤い点の位置は背後の岩山だった。
ターンブースターで振り返り、敵に備える。
岩陰から勢い良く滑り出た敵は、こちらにマシンガンの銃口を向けた。
肩には何も装備していなかった。おそらく僚機を襲ったレーザーキャノンはパージしたのだろう。
機体を構成するパーツはメーカーが統一されておらず、エンブレムも企業のものではなかった。
同業者だ。
姿を隠しての不意打ちとは卑怯極まりない。
だが戦略としては素晴らしかった。
憤りを感じたが、これは勝負ではない。
戦争なのだ。
列車を守れるのはもう私だけだ。
列車には触れさせない。
私は決意を固め、ブースターに火を灯した。
しかし対する私の機体は重量機。マシンガンの弾を少し浴びた程度では痛くも痒くもない。
こちらは大火力の火器を満載している。耐えてどれかを当てることができれば勝ちだ。
敵は動きを変え、私を中心に周回を始めた。
細かいジャンプを挟んでの移動の為、照準を定め辛い。
私は右腕のバズーカで敵を狙いながら追った。
私が放つ砲弾をかわし、敵は後ろに引きつつマシンガンを撃つ。
その時だった。
敵の流れ弾が背後の列車に命中し、2車両ほどを吹き飛ばした。
嗚呼。
守るべき人々が。
残骸の中に動くものは何もなかった。
皆死んでしまったということではない。
列車の中は空だった。
死体も無ければ血は一滴も落ちてない。
その時始めて、私は騙されたということに。
自分が守ろうとしたものが、虚構であったことに、気が付いてしまった。
動揺が隠せなかった。
敵を追う速度が落ちる。
なんとか敵に照準を合わせようとするも、腕が震え、定まらない。
闇雲に放った砲弾は一発も命中せずに、そのまま弾切れを迎える。
慌ててバズーカをパージし、左腕のプラズマライフルを構えたが、やはり照準が定まらない。
何発か発射するも、どれも寸でかわされてしまった。
その隙に敵は私の機体の左腕の関節部を狙い、無数の弾丸を浴びせる。
恐ろしく正確な射撃だった。
左腕が耐えきれず千切れる。
痛い痛い痛い痛い。
何故だろう。
経験したことのない激しい痛みが私を襲う。
文字どおり、腕を千切られた様な痛み。
何故。
千切れたのは機体の腕なのに。
そこを勝機と見たのか敵はブレードを構え、オーバードブーストを使い突撃してきた。
背後に回り込まれる。
殺される。
急に恐ろしくなった。
私は必死にブースターを吹かし、真上に逃れる。
そのことしか頭に無かった。
しかしここで使える私の武装はもうない。
錯乱しながら何か攻撃する手段を考えた。
すると肩のレーザーキャノンが展開され、敵に対して砲撃を行ったのだ。
空中で。
私の機体は二脚機。二脚機は構えなしでキャノン系武装は使用できないはず。
それに私はいつトリガーを引いた。
疑問が頭を駆け巡る。
だがそんなことを考えている暇はない。
私は疑問を残したままブースターを使い浮遊しながら敵に砲撃を続けた。
減らないエネルギーゲージに戦慄しながら。
敵も必死にかわす。
敵機は軽量機。レーザーキャノンの直撃には耐えられない。
しかし、やはり寸でかわしながら、私が着地するタイミングを見計らって突撃してきた。
またも背後に回りこまれる。
死にたくない。
死にたくない。
そしてやはり私はトリガーを引いていなかった。
そもそも戦闘が始まってから自分はトリガーを引いたことがあるのか。
果たして操縦桿を握っていたのか。
ターンブースターはどうやって発動した。
ペダルはいつ踏んだ。
最後にコックピットを出たのはいつだ。
疑問が頭を駆け巡る。
そして私は自分の体を見下ろした。
千切れ、火花を散らす左腕があった。
機体は私の体だった。
その時私は気が付く。
私に肉体は無いのだと。
機体に組み込まれた脳でしかなかったのだ。
自分が何者なのか分からなくなった。
放ったレーザーはかわそうとした敵の右腕を奪う。
だが敵は勢いそのまま私の胴体を切り裂いた。
痛かった。
先ほどとは比べ物にならない位、痛かった。
死にたくない。
混線だろうか、唐突にノイズが走る。
そのノイズは次第に音楽となる。
Was blind but now I see…』
それは何世紀も前の、賛美歌だった。
敵が迫ってくる。
損傷は深かった。
だがそれでも黒煙を吹き上げながら、光り輝くブレードを構えながら、私を追って飛翔する。
真っ赤に燃えるカメラアイが私を睨む。
まるで飢えたカラスの様だった。
その姿に私は激しく恐怖した。
死にたくない。
And grace my fears relieved,…』
神様。
The hour I first believed…』
神様!
I have already come…』
私は、人間だ…
And grace will lead me home…』
死にたくない!
His Word my hope secures;…』
お父さ…
『…He will my shield and portion be
As long as life…………』
一瞬、私は墜ちる鳥の夢を見た。
「そうか。まあ大したことではない。収穫はあったからな」
「被験体の戦闘データですか」
「ああ。少しフィードバックが強すぎたようだな」
「そうですね…意識の混濁もあったようですし、失敗ですかね」
「いや、そんなことは無いだろう。貴重なデータだ。次に生かせれば良い」
「被験体のストックは確か…」
「この前の抗争で出た『哀れな犠牲者』が腐るほどいるだろう。C社に金を払ってよかった」
「そうでしたね。数字に加えておきます」
「頼む。メディアには生存者無しと伝えておくのもよろしくな」
「はい。それはそうと、C社と合同開発の生体兵器の進捗状況ですが…」
「ああ、順調だ。来月には試作品が完成する。我がB社はこの分野だけはA社に先を越されるわけにはいかないからな」
「はい。ではそう伝えておきます」
「ああ、よろしく」
元スレ
【AC】哀れな戦士
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1469199097/
【AC】哀れな戦士
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1469199097/
「SS」カテゴリのおすすめ
- アスカ「ねぇ、電話帳の根暗ガールってだれよ?」シンジ「綾波だよ」
- セイバー「雪がですか?」
- 藍子「うーひっく、どうせ私はエッチですよ…」
- 一夏「ドゥフフフwwww拙者織斑一夏でござるよwww」
- ダブり売りの少女「留年生~、留年生はいりませんか~?」
- 後輩「先輩、ナニしてるんですか?」 男「っ!」
- ピザバイト俺「双海真美ちゃんか……」
- 紅莉栖「私明後日にはアメリカに帰るの」岡部「だから?」
- 徐倫「なぁF.F、BLって何の略?」
- モバP「ダイナミックスカウト」
- 八幡「由比ヶ浜と付き合ってから雪ノ下の様子がおかしい」
- 幼馴染「おい、幼馴染料まだかよ」 男「体で支払います」
- ハルヒ「みんな、ごめんなさい! 本当にごめんなさい!」
- 神谷奈緒「加蓮の寝相がひどすぎる」
- フリーザ「問いましょう。貴方が私のマスターですか?」
- 夜神月「新世界の神が、童貞でいいのか?」
- 二宮飛鳥「P、またこんなに散らかして」
- 禁書「とうまにバレンタインのチョコをあげたいんだよ!」
- 速水奏「行く末」
- ミカサ(80)「エレンがまだ現役」
「ランダム」カテゴリのおすすめ
- 川島瑞樹「菜々ちゃん、ちょっといいかしら」
- 小鷹「あれからもう10年か……」
- モバP「アイドル達との日々」
- アスカ「もう!なんでいつもそこで間違えんのよ!」シンジ「だって」
- 勇者「世界も平和になったし、後は子作り三昧の毎日だな!」
- 【モバマス】娘がアイドルだとありがちなこと
- ルルパン三世 ~コードギアス 反逆のルルーシュ X ルパン三世~
- P「パンツってさ・・・」
- ミカサ「エレンが巨人化しようとして手を噛んだら」
- れいか「ボボボーボ・ボーボボ…ですか?」 やよい「うん」
- 苗木「霧切さんが死んでからもう1ヶ月かぁ……」
- モバP「アイドルの髪と戯れる」
- 小鳥「新婚旅行?」 P「下見旅行」
- 楽「なんか小野寺がデレデレになった」
- 美人「あーあ、私も彼氏ほしぃな~」ブス「はぁ!?」
- 菫「白糸台麻雀部は恋愛禁止だ」照「恋愛した人は坊主にするよ」
- 陽乃「静ちゃん、ひゃっはろー!」平塚「その呼び方はやめろ」
- 両津「くそ~。こんな田舎に飛ばされるとは」れんげ「にゃんぱすー」
- 男「妹ツクールで理想の妹を作ろう」
- P「音無さんと結婚する」
コメント一覧 (10)
-
- 2016年07月23日 02:03
- 騙して悪いがは依頼主からもされるしな、、、
-
- 2016年07月23日 02:52
- 企業も俺達も所詮ただの駒でしかない!
-
- 2016年07月23日 03:37
- 一作目ほどは楽しくなかった
-
- 2016年07月23日 04:55
- 小さいものだな……
-
- 2016年07月23日 09:33
- この救い様の無さがACって感じだな…。
-
- 2016年07月23日 10:41
- 面白かった
-
- 2016年07月23日 13:11
- 俺は特別だって、死に···たく···ない···
-
- 2016年07月23日 16:04
- 中途半端に強い者は“大きな力”によって叩き潰され、弱い者は例外なくゴミのように死ぬ。
この呆気なさと空虚感がACだなと自分の主観ながら思う。
-
- 2016年07月23日 19:34
- あわれーなーなっかまーが
-
- 2017年10月17日 09:41
- ナニカサレルのってこんな感じか