前川みく「しっぽのきもち」
「お疲れさまでーす! Pチャン、用事ってなーに?」
「おお、お疲れさま。みく、カバー曲が決まったぞ」
にこっと笑って、Pチャンが資料やら何やらをみくに差し出す。
「『しっぽのきもち』……?」
「そうだ。以前『みんなのうた』でも流れてたなぁ。その映像もあるから目を通してみな。猫が出てくるんだ」
「ねこチャン! うん、さっそく聞いてみるにゃ!」
「用事はそれだけだし、そうしてくれるとありがたい」
「わかったにゃ。Pチャン、お疲れさまー」
みくのカバー曲、とーっても可愛い♪
「みんなのうた」の映像も見たけど、男女のねこチャンが照れながら仲良くしてるのが、うーん、甘酸っぱい!
でも――
「しっぽになりたい、ってどういうこと?」
可愛いねこチャンになりたい、ならみくにもよく分かるんだけどなぁ。
好きなのに、しっぽになりたい……?
「あの映像の最後も、見方次第ではホラーだにゃ……」
好きな人のしっぽになってニコニコしてる女の子のねこチャン。
それに気づいたのか気づいていないのか分からないまま、背を向けて歩いて行く男の子のねこチャン。
「わ、分からないにゃあ……」
いつも忙しいPチャン。さすがにオフの日まで迷惑はかけられないもんね。
「……うん、まずは自分で考えられるとこまで考えよう」
でも、どうすれば……。
そうだ、あの子に相談してみよう!
「………あ、もしもし、前川みくだにゃ。実はお願いがあるんだけど――」
「――うん。じゃ、明日はよろしくにゃ!」
よし。あの子に聞けば何かつかめるはず!
「みくおねーさん、おはよーごぜーます」
「おはよう、仁奈チャン。今日はありがとにゃ!」
「仁奈こそ誘ってもらってありがてーです」
そう、「○○のきもち」といえば仁奈チャン!
今日は仁奈チャンにいろいろ教わるつもりなんだ。
「あ、仁奈チャン、今日はねこチャンの気持ちかにゃ?」
「そうでごぜーます。雪美ちゃんから借りたんだー♪」
そう言って猫耳パーカーを嬉しそうに見せてくれる。
ふふふ、これは強力なライバルになるかも……なんて♪
だから、それまでお散歩に付き合ってもらうんだ。
「それで、みくおねーさんが仁奈に聞きたいことってなんでごぜーますか?」
てくてくと隣を歩く仁奈チャンが疑問を口に出す。
「みく、今度『しっぽのきもち』って曲を歌んだにゃ。でも、しっぽの気持ちって何だか分からないんだ。だから、いろんな動物の気持ちになれる仁奈チャンからアドバイスをもらいたいのにゃ」
「しっぽの気持ちでやがりますか……。うーん、難しいですねー」
腕を組んでうんうん唸る仁奈チャン。
「ヘビの気持ちになるのは難しかったですよ……」
「そのときはどうしたのかにゃ?」
「えーっと、そのときは雪菜おねーさんと一緒にヘビとたくさん触れ合ったですよ!」
そういえば、雪菜チャンが遠い目をしていたこともあったなぁ……。
「いーっぱいヘビのことを見たら、ヘビの気持ちもつかめたですよ!」
やっぱり、近くで見てみるのが一番みたい。
そうだと思って、今日のお散歩の目的地は決めてあるんだ。
ぐい、っと伸びをする。
「みくおねーさん、ここは公園でやがりますか?」
「そうにゃ。それでね、ここは結構ねこチャンが集まってくるんだにゃ」
「おおー!」
辺りを見回すと、既に何匹かねこチャンが集まっている。
「仁奈チャン、一緒にしっぽの気持ちをつかむにゃ!」
「まかせてくだせー!」
「おお、たくさん猫がいやがりますね」
あのねこチャンが可愛い、あっちではゴロゴロしてるね、なんて二人で喋りながらねこチャンをじーっと観察する。
そのうち、一匹のねこチャンがやってきた。
みくと仁奈チャンの足元をうろうろして、たまに身体を擦り付けてくる。
「あ、いつものねこチャンにゃ。この子は特に人懐っこいから、少し触るくらいなら大丈夫にゃ」
「ほんとですか!?」
仁奈チャンがキラキラと目を輝かせる。
「うん、優しく触ってあげてね」
「……さ、触れた。うわぁ、ふかふかだー♪」
撫でられたねこチャンもリラックスしきった顔をしている。
しっぽがゆーっくり右に左にゆーらゆら。
「ねこチャンも喜んでるみたいだにゃ」
「本当でごぜーますか?」
「うん、しっぽを見ればねこチャンの気持ちが分かるのにゃ」
「みくおねーさん、すげーです!」
まあ、それほどでも、あるかな?
「みくおねーさん、仁奈もしっぽで猫の気持ちを知りて―です!」
「ふふん、みくに任せるにゃ。例えばあそこのねこチャンはね――」
二人で公園にいる猫を探しながら、あのねこチャンはどんな気持ちだろうってお喋りする。
しっぽを大きく左右にぶんぶん振ってる子は今ちょっとイライラしているんだよ、とか。
ゆっくり、大きくしっぽを振りながら歩いているあの子は何かが気になっているみたい、とか。
「仁奈チャン、あれはどんな気持ちだと思うかにゃ?」
「うーん、怒ってるように見えるですよ」
「ぶっぶー、はずれにゃ。ヒント、さっきここに来たときと同じ気持ちだよ」
「うーん、えーっと、遊びたい、ですか?」
「正解! 甘えたかったり、遊びたかったりするときのしっぽだにゃ」
今度はみくの膝に乗ってきたねこチャンを二人で優しく撫でる。
「仁奈チャン、しっぽの気持ち、つかめたかにゃ?」
「うーん、猫の気持ちはつかめたけど、しっぽのきもちはわからねーですよ」
まあ、そう簡単にはいかないよね。
「でも、猫としっぽは同じことを考えているんだー、って分かったですよ!」
「同じことを考えている?」
「そうでやがります! 猫が嬉しいとしっぽも嬉しいし、猫がイライラしているとしっぽもイライラするんでごぜーますよ」
「……うん、仁奈チャンの言う通りだにゃ」
きっと、ねこチャンとしっぽが同じことを体験しているから。
うん、ヒントになりそう!
「し、しっぽのキグルミ?」
それは、恐らく鈴帆チャンあたりの領分じゃないかな……。
そのあとも仁奈チャンとしっぽ観察をして過ごした。
どんどんとねこチャンの気持ちをつかんでいく仁奈チャン。
いつか、一緒にねこチャンとしてステージに立ってみたいなぁ♪
そして、二人でお昼ご飯を食べてから、レッスンルームまで仁奈チャンを送り届けた。
「仁奈チャンにならって、しっぽのことをよく観察してみるにゃ」
確か、みくの衣装はあの棚だったかな?
えーっと、ここに……
「あ、あったにゃ」
みくの大事な大事な商売道具。
ステージに立つときには欠かせない猫しっぽ。
思えば長い付き合いで、何度も一緒にライブをしてきたんだなぁ。
楽しいステージも、悔しいステージも、ずーっと一緒。
「昔より少し細くなったかにゃ?」
それでも、キラキラと白い毛が眩しい自慢のしっぽ。
「うーん、でも、しっぽの気持ちかぁ……」
撫でたり、嗅いだり、色々な方向から眺めてみたけど、なかなか分からない。
「しっぽさーん、あなたの気持ちを教えてにゃー。なーんて――」
「いいですよー♪」
「ち、ちひろさん。驚かせないでほしいにゃ……」
「すみません、ここまで驚くとは思わなくて」
あまりにいい反応で少し楽しかったです、と笑うちひろさん。
そういう方向で褒められるのはイマイチなんだけど……。
「ところで、みくちゃんは何をしていたんですか? 一人でおままごと、というわけでもなさそうですし」
「えっとね――」
今度歌うことになった「しっぽのきもち」について悩んでると打ち明ける。
「なかなかつかめなくて……」
「それなら、歌詞の通りにスキな人のしっぽになったらどうだろう、って考えてみるのはどうですか?」
「にゃ゛っ!?」
す、好き!? にゃ、にゃあ……。
「みくには、ちょっと、難しいかも……」
みくにはまだ、その、好き、とかそういうのは、ちょっと、早いし……。
「にゃああああ! あ、あのときの話はなしにゃ! やめやめ!」
あのときは、ちひろさんに恋ってなにか聞いたんだっけ。
みくは仕事がコイビトって言ったけど、それって、いつもプロデューサーさんのこと考えてますよね、って言われて、それで、それで、う、ううう……。
「あら、みくちゃんお顔が真っ赤ですよ?」
「き、気のせいにゃ!」
大人の余裕ってやつかな? むぅ……。
「……でも、プロデューサーさんのしっぽになったら、って考えてみるのもありかもしれませんよ?」
「みくはPチャンなんて一言も――」
「言ってなくても顔に出てますよ?」
「にゃぁ……」
やっぱり、ちひろさんは強敵にゃ……。
「ん? どういうこと?」
好きって、えっと、そういう好きじゃないの?
「友達として、家族として、まぁ、いろいろありますよね。そういう『スキ』でもいいんじゃないかな、って」
「で、でも、『みんなのうた』の映像では、その、恋愛的な『スキ』っぽかったし……」
「みくちゃん。あれだって一つの解釈ですよ?」
確かに、ちひろさんの言う通りだ。
「恋愛的な『スキ』じゃなくたって、案外伝えるのは大変なものですよ」
じっと、ちひろさんがみくの目を見つめる。
確かに、身に覚えがない訳ではないけど……。
「それで、Pチャン?」
まぁ、みくのことを拾ってくれて、ここまで輝かせてくれたPチャンは、間違いなく大切な人だけど。
「ええ。それに、みくちゃんってプロデューサーさんのしっぽに見えないこともないですから」
「え? みくがPチャンのしっぽ?」
「みくちゃん、いつもプロデューサーさんの後をついていってますよね? プロデューサーさんが楽しそうなときはみくちゃんも楽しそうで、疲れていればみくちゃんもお疲れ、二人して嬉しそうにしてたり、悔しそうにしてたり……」
え、そうなの? そんなこと気にしたことなかった……。
「でも、それは二人で同じことを体験してるからにゃ」
一緒にアイドル活動頑張って、一緒に喜んで、悔しがって、ってそれだけ。
「なにも特別なことじゃ――」
「そうかもしれませんね。でも、それってとても大切で、素敵なことだと思います。特に、みくちゃんならそれはよく分かってるんじゃないですか?」
「あ……」
確かにそうだ。
みくは、そういった関係に憧れてここに来たんだった。
あれ? もしかしてこれって、仁奈チャンが言ってた猫としっぽの関係じゃない?
ちひろさんが、ゆっくり腰を上げる。
そして、みくの表情をじーっと見てから満足そうに頷いた。
「私はそろそろ他のお仕事に行きますね。少しはお役に立てましたか?」
「うん。ありがとう、ちひろさん」
「いえいえ、これもアシスタントのお仕事ですよ♪」
そう言うと、にっこり微笑んで出て行った。
ふふふ、ちひろさんはみんなのお姉さんみたい。
「うーん、Pチャンのしっぽになる、か」
Pチャンのしっぽになったなら、いつでもPチャンと一緒。
そして、仁奈チャンとちひろさんの言葉を思い出す。
同じことを体験して、同じように感じる。
Pチャンの嬉しい気持ちも、悲しい気持ちも、楽しい気持ちも、悔しい気持ちも、全部ぜーんぶ、みくにも伝わってくるのかにゃ?
それから、Pチャンと一緒に丸くなってお昼寝したり?
でも、たまにふわふわっと揺れてPチャンをてしてし、しっぽパンチしたり!
ふふふ、ちょっと楽しいかも♪
「おっはようございまーす」
「おはよう、みく。いつもより早いな」
朝早く、事務所にはまだPチャンとみくだけ。
「ちょっとだけPチャンに用があったのにゃ」
「え、俺に?」
「Pチャン、みくに背中を向けて立ってほしいにゃ」
「んん? まぁ、いいけど」
「そのまま立っててね」
そう言って、Pチャンと背中を合わせる。少し寄りかかるように。
「……みく?」
「もうちょっとだけ、こうさせてほしいにゃ」
背中を通してPチャンの体温がじんわりと伝わってくる。
Pチャンは今何を考えてるのかにゃ? どう感じてる?
ちらっと振り返ると、困惑したようなPチャンの横顔がギリギリ見える。
うーん、そう感じるだけかな? でもなぜか確信できる。
Pチャンのしっぽになったら、こんな風景が見えるんだ。
「ちょ、みく、背中が中途半端にこすれて、こ、こそばゆい、あははは、や、やめてくれ」
もぞもぞっと動いて、Pチャンが離れてしまった。
「結局、なんだったんだ?」
「うーん、秘密にゃ☆」
「こそばゆい損かー。ま、みくが楽しそうだし、いいけどな」
そう言って、わしゃっと髪をひと撫でしたPチャンも楽しそうな顔をしていた。
そんな距離感はきっと、とても素敵。
だから、みくもPチャンのしっぽになってみたいな、なんて少し思った。
「Pチャン、今日も一緒に頑張ろうね」
「ああ、今日も頑張ろう。一緒にな」
そう言ってお互いにっこり笑う。
Pチャンと一緒、その言葉で胸がじんわりと温かくなる。
言葉にならない大切なこの気持ちは、まだ胸の中にしまっておくんだ。
「スキというかわりに、しっぽがゆれるの♪」
いつか素直に言える日まで、みくはアナタのしっぽ
しっぽのきもちってなんでしょうね?
ちなみに、ちひろさんとのやり取りに出てきた話はCG劇場649話です。可愛いからみんな読もう!
元スレ
前川みく「しっぽのきもち」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1468495650/
前川みく「しっぽのきもち」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1468495650/
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- P「如月千早か。どんな子なんだろう」
- ハーマイオニー「魔法に飽きたから握力を鍛えるわ」
- ナナバ「今日も大盛況だ」
コメント一覧 (14)
-
- 2016年07月15日 01:25
- みくにゃんの尻尾になりてぇなあ俺もな
-
- 2016年07月15日 01:27
- ※1
???「その欲望、解放しろ!」チャリーン
-
- 2016年07月15日 01:33
- 科特隊に撃破されたゴモラの尻尾は何を思って跳ねていたのだろうか……
-
- 2016年07月15日 03:33
- ぼくの前しっぽもお願いします(ボロン
-
- 2016年07月15日 03:42
- 同タイトルの電波ソングが黎明期にあったな
-
- 2016年07月15日 07:36
- みくにゃんが尻尾を振るとき
お尻もまた揺れているのだ
揺れているのはお尻だけでなくおっぱいも勿論
おっぱいとパンツが嫌いな男がいるかよ
パンツの下から埋まれおっぱいを飲んで育ったんだ
もはやこの二つが親
執着するのも頷ける
正直な話りーなちゃんがうらまやしい
-
- 2016年07月15日 07:41
- ※4
だけどねすこし みじかいきがする
これじゃ あなたのかおが 見えないよ
-
- 2016年07月15日 10:28
- 天使のしっぽていう作品もあったな。
-
- 2016年07月15日 10:55
- ※4
しっぽは後ろに付いてるもんなんやで
じゃけん後ろに移植しましょうね〜
-
- 2016年07月15日 17:33
-
※8
あれってちょっと微妙な作品だったよなぁ
でも声優さんは今だと結構豪華だよね
-
- 2016年07月15日 20:25
- みくにゃんのしっぽはどうやってとめてるんですかねぇ(ゲス顔)
-
- 2016年07月15日 21:35
- ※11けつでしょ(HYSOSM)
-
- 2016年07月15日 21:39
- 前川さんド工口いけど尻尾はベルトみたいなので腰につけててほしい
-
- 2016年08月10日 19:17
- 蟹になってみくにゃんの尻に這い込みたい