勇者「今日より旅立ちか」勇者(……それにしても腹が減ったな)
勇者(遥か西の果て。魔王の国が人間に対して宣戦布告をはじめて早10年)
勇者(魔王軍との戦いは多国籍軍との戦いがメインとなっている)
勇者(その隙に募集、または推薦などで勇者と称される者達が、秘密裏に魔王の元へと肉薄する)
勇者(という計画が以前続いているものの、未だに成果はあげられず)
勇者(そして、そこそこ腕がある自分にも遂に声がかかってしまった……)
勇者(一応、この証があれば色々と特典があるが、勇者としての使命をまっとうしなくてはならない)
勇者(証に使われている魔石は、本人以外が所持したら黒くなるから売っても安いし)
勇者(勇者名簿なるものがあるとも聞く)
勇者(今までも旅はしていたのだし、細々とやっていくとするか)
勇者(とは言え、この証を自分自身の物と設定するのに、自分が施した各地の転移魔法の標がリセットされたのは痛かった……)
勇者(それにしても……腹が減ったな)
勇者(よし、ここは景気づけに少し奮発していくか)
勇者(が、結構値が張るな。奮発とは言え、無闇に散財する訳にもいかない)
勇者(うーむ、中価格帯の料理屋がないものか)
勇者(仕方がない、無理を言わず大衆食堂にしておくか)
料理屋
「いらっしゃいませー」
勇者「ふう」
勇者(さて、何を食べようかな)
勇者(スライムスープなんてものもあるのか。なんだか飲みづらそうだな)
勇者(うーん、よし、これだな)
勇者「すみませーん。このスライムチーズ焼きと薬草スープを下さい」
「はーい、かしこまりましたー」
勇者(無難だし、大して奮発もしていないけども、食べたいものを食べる。これでいいんだ)
スライムチーズ焼き 40G
薄く延ばしたスライムにチーズを乗せてカリッカリに焼きあげたもの。パン付。
薬草スープ 20G
しんなり薬草たっぷりのコンソメスープ。肩身が狭そうにニンジンとピーマンが入っている。
勇者「良い香りだ。こいつは思わぬ当りかもしれない」バリッ
勇者「うんうん」ムグムグ
勇者(スライムってこんなカリカリになるんだ。驚きだなぁ)
勇者(でもこれだと、パンは余分な気がするな。どうやって食べるんだ)
勇者(! 苦味が全くない!)
勇者(薬草のスープと言えば大抵は草っぽい苦味があるのに、全く気にならない)
勇者(普通に葉菜類として食べられるのかぁ。調理方法なのか? それとも品種の問題だろうか?)
勇者(ともすれば、パンはスライムよりも、スープのつけ合わせとして食べる方が正解だぞ)ヒタ
勇者「むぐ」ムシャ
勇者「うん、良い味良い味」ムシャムシャ
「ありがとうございましたー」
勇者「ふう……」
勇者(料理はそこまで多くないけども、中々良かったな)
勇者(さて、腹ごしらえも済ましたし、そろそろ出発とするか)
勇者(各地を回り、情報を仕入れながら進もう)
勇者(未だに成功していないのは何故か。それも分からなければ同じ轍を踏むだけだしなぁ)
勇者(これぐらいの距離なら、もう少し頑張って昨晩のうちに着けばよかったか)
勇者(それにしても、ここらの魔物は全く以って脅威じゃないな)
勇者(北西と中の国が凄いからかな。細かい敵もあんまり入り込めないんだろう)
勇者(さて、始めるか)
勇者(予想どおり情報らし情報はないか)
勇者「うん? これは?」
露天商「ああ、それは赤目石だね」
勇者「へえ、中に何かあるのかな? 変わった石だ」
露天商「見た目だけの土産物さ」
露天商「ここだけ、かは分からないけどな。町の裏手にある小さい洞窟から取れるんだ」
露天商「用途もない、珍しい石ころってだけだが」
勇者「ちょっと面白いな。これ、一つ貰えますか?」
露天商「毎度、10Gだよ」
勇者「どうも」
勇者(こういう珍しい物は、意外と他所でふっかけられるものだ)キラキラ
勇者(三日ぶりのまともな飯だ。何かいい物はあるかな)キョロキョロ
勇者(いくつか店があるな)
勇者(一つは町の食堂かな)
勇者(もう一つはスープ物専門っぽいお店だな。あとはパン屋かぁ)
勇者(よし、ここは汁物で攻めてみるか)
勇者(外にメニューが出ているのか……ふむふむ、肉と野菜がメインのところか)
勇者(さて、外のメニューでだいたいは分かったけども)ペラ
勇者(どうやらあれで全部……おや、トッピングの種類が多いな)
勇者(卵にチーズ、角切りパンかスライスパン、ミートボールなんてものもあるのか……)
勇者(ミートボールとパンはちょっと多いかな……)
勇者「すみません、このグリーンスライムの切干スープ。トッピングにミートボールでお願いします」
「はい、少々お待ち下さい」
思いの他安価。緑色の半透明な寒天状のものがたくさん入っている。
キャベツと玉ねぎも盛りだくさんが嬉しい。
トッピングのミートボール30G
小振りなミートボールがごろごろ。納得のお値段。
勇者「ほー具沢山でいいじゃないか」
勇者(グリーンスライムってこの地方の原生種って話だし、特産スープになるよな?)
勇者(それにしても切干スライム……何だかパスタのように見えてきたな)
勇者「どれどれ」チュルン
勇者「へえ、うん」ムニュムニュ
勇者(中々弾力があって食べ応えがある。これだけ噛み応えがあるとちょっとミートボールが多く感じてきたぞ)
勇者「けれども、だんだん」ムニュムニュ
勇者「食べると言うより作業に近くなってくるのはいただけないな」ムニュムニュ
勇者(それにスライム自体に味がないのも残念だな。もう少し、スライムの量は少なくていいな)
勇者(と言う時にトッピング様が生きてくるわけですよ)ムシャ
勇者(小さいのに肉汁たっぷり。もうミートボールスープでもいいんじゃないかな)
勇者「危うくパンもトッピングしてしまいそうだったけど、中々の英断っぷりだった」
勇者(次の町までは少し距離があるな……)
勇者(しっかりと準備していかないとだ)
勇者(薬草と保存食を多めに。いつもより干し肉の量も多くしておくか)
勇者「おや……あれは」
勇者「いやあ助かります」
行商人A「いやいや、こちらこそ勇者様が護衛して下さるなんて感謝感激ですよ」
行商人B「勇者様を見るのは初めてですが、お一人で旅をされるものなのでしょうか?」
勇者「どうでしょうか? 自分は人と歩調を合わせるのが得意ではないので、一人旅をしているのですよ」
行商人A「そういう事でしたか」
行商人B「しかし何故あの町に? 言っては何ですが、位置的にも重要度的にも行く必要はないのでは?」
勇者「他の勇者達がどう生きて、今どうしているのか。失敗しているとしたらどうしてか」
勇者「それらが知りたくて、各地を回りながら進もうと思っているんですよ」
行商人A「おぉ、なんと!」
行商人A「勇者様には是非とも頑張って頂きものですな」
勇者「まあ、死なない程度に努力はしますよ」
行商人B「でしょうな。全ては命あっての物だねですし」
行商人A「お、良い時間ですな。そろそろ昼食にしましょうか。勇者様もご一緒にどうです?」
勇者「それではお言葉に甘えさせてもらいます」
脂が浮き出て良い香りの干し肉を惜しげもなくパンに乗せる。
リンゴの蜂蜜煮コンポート
テラテラと輝く甘そうなリンゴのコンポート。
勇者「へえ、リンゴですか」
行商人A「コンポートというものでしてね、ジャムより薄めの砂糖水なんかで煮て、保存がきくようにするんですよ」
行商人B「これは蜂蜜を薄めたもので煮たんです」
勇者「それはまた贅沢ですね」
行商人A「ささ、どうぞどうぞ」
勇者「それでは頂きます」
勇者「はふはふ」モシャモシャ
勇者(噛み締める度に干し肉の旨みがじゅわっと広がる)
勇者(パンも出来立てのものを持ってきたんだろう。美味い美味い)
行商人B「しかし今日はやたらと魔物がいませんね」
行商人A「進みやすくていいですな。これなら三日で着けそうですな」
勇者(やっぱりジャムのような甘ったるさはないのか。しかしこれはこれで良い甘さだ)
勇者(コンポート、やるじゃないか)モグモグ
行商人A「黙々と食べてらっしゃる……」
行商人B「しかしとても美味しそうな顔である……」
勇者「ふう……」
勇者(まさか野営中にこんな美味い食事が出来るなんて)
勇者(大して戦闘もないし、逆に申し訳なくなってくるな)
行商人A「それじゃあここまでで」
勇者「どうもありがとうございました」
行商人B「本当にこちらこそですよ」
勇者(さて、一回りしてみたけども)
勇者(何人か勇者が通過したというだけで、特にめぼしい情報はないか)
勇者(皆、周囲を回らずに真っ直ぐ西に向かっているのかな)
勇者(料理屋とパン屋が一軒ずつか)
勇者(ここら辺の敵もまだまだ弱い魔物だし、パンでも買って歩きながら食べるか……)
パン屋
クー「いらっしゃいませっ」
勇者(へえ、随分と種類が多いんだな)
勇者(突進ウサギのサンドイッチも捨てがたいが、粗挽きウィンナーのスティックフランクもいいな)
勇者(このグラタンパン、ブロッコリーやベーコンがいっぱい入っているな。コーンマヨパンのコーンの多さも嬉しい)
勇者(ううむ、迷うなぁ)
勇者(うん? エクスプロージョンパン? 『中にたっぷりクリーム、一齧りで吹き出ます!』か、悪くないなぁ)
勇者(リンゴの焦がしバターのアップルパイかぁ、堪らないなぁ)
原っぱ
勇者(歩きながら、なんて思っていたけども、これはじっくり味わわないと勿体ないな)
お弁当パン 25G
トーストに目玉焼きが乗せてある王道パン。レジにある各種調味料をかけてテイクアウト。
突進ウサギのサンドイッチ 38G
具が突進ウサギの挽肉の三角ミートサンドが二つ。
グラタンパン 35G
ブロッコリーやベーコンたっぷりのグラタン風パン。
エクスプロージョンパン 25G
たっぷりクリーム。一口齧ればボンッ。
勇者(うーん、ちょっと買いすぎたかな)
勇者(うんうん、この安定した感じ。凄く好き)モグモグ
勇者(ミートサンドも具が詰まっていていい感じだ)
勇者(へえ、ミートサンド、片方はマスタードがついているのか)パク
勇者(札の表示、見落としたかな。でもこれは嬉しい誤算だ)ムグムグ
勇者(そして間に食べるお弁当パン)アグッ
勇者(そろそろグラタンパンにいくか)ゴソソ
勇者(しかもチーズもたっぷり。こんなに嬉しい事はない)ガブッ
勇者(ふぅっ。かなりの満足感だ)ゲフッ
勇者(しっかりと包みを抑えてエクスプロージョンっ!)ガブリュゥゥ
勇者(う、お、う、なんだこのクリーム量! 看板に偽りなし!)ウリュリュリュ
勇者(しかもクリームもとっても美味しい! 甘党には堪らない一品だ)ペロペロ
勇者(ああ、美味しかった……大満足だ)
ソードフォレスト
タイニークリフ
魔王国 ヒューズヒル セントラルカーベース
グリーンレイク
ヴォルケイノ
ウォーターサーフェス
グリーンレイク
勇者の出身地。草原に風がそよぐと湖面のよう。
タイニークリフ
山岳地帯。小さい崖と言っても無数にありすぎてそう見えるだけ。険しい。
セントラルカーベース
商業都市
ソードフォレスト
高い木々に囲まれた森の国。
ウォーターサーフェス
水面の国。陸地の国土が少なく、埋立たり水上に建物を建てて生活の場を広げる。
ヴォルケイノ
国土に火山のある国。
ヒューズヒル
広大な丘。魔王軍の進撃に対抗すべく、国土を大爆発させて今はクレーターで戦場。
勇者(さて、この町の北にある山を越えると)
勇者(北東の国、タイニークリフか)
勇者(山岳地帯が密集する国、その多さに大きい崖さえ小さく見えるという)
勇者(きっと他の勇者は寄っていないんだろうけども、タイニークリフ発の勇者の情報もあるだろうし)
勇者(何より転移魔法の標もないし行ってみるか)
勇者(さて、昼食用に食べる物も買ったし出発するか)
勇者「火炎魔法!」
ゴブリン「ぐおおおお!」ボォォッ
勇者「これで片付いたか」
勇者(それにしてもここらはまだ緩やかだな)
勇者(普段は西からタイニークリフに向かうから、道が険しいんだよな)
勇者(これはこれで新鮮だなぁ)
薪「」ボォッ
勇者「木で組んだ上に金網を乗せて……」ポポイ
干し肉「 ジュ
干し魚 」 ゥゥ
勇者「軽く炙ってパンに、と」ヒョヒョィ
炙り干し肉・干し魚乗せパン
買ってきた肉と魚をいい感じに炙り、パンに乗っけてガブリ。
安物の干物だから硬く食べ辛い。雰囲気食。
肉団子スープ 40G
トマトベースのスープに、肉団子にひよこ豆、玉ねぎが入っている。
木製の筒に入れてテイクアウト。容器の問題で割高。
勇者「うん、まあこんなもんか」モグモグ
勇者(やっぱりあの商人達のはいい干し肉だったんだろうな)モグモグ
勇者「さて……」カポ
勇者「これこれ、この香り」ホワァ
勇者(ちょっと冷めてきてるけど)ズズゥ
勇者(うん、いい感じだ)
勇者(野外で店のスープが飲める贅沢。ついつい買ってしまうなぁ)
勇者(場合によっては食材も得ておかないと大変だしなぁ)
勇者(後は……まだオークの集落までは距離があるから警戒しておく必要はないか)
勇者(へえ、豊かなところだな)
勇者(木の実も多く手に入ったし、野草も色々と見つかったし)
勇者(明日は一日中、進むことを考えても良さそうだ)
勇者(やっと着いたか)
勇者(確かここは美味しい山菜鍋のお店があったな)
勇者(確か噴水を3時の方角に……)
山菜保存食店
勇者(あれ? どっかの町の店と記憶がごっちゃになったかな)
勇者(おかしいな……見当たらない)ウロウロ
町人「はい?」
勇者「こちらに山菜鍋のお店があったと思うんですが……」
町人「ああ……あそこのご主人が体を悪くしたんで、店を畳んじゃいましたよ」
町人「今は山菜の保存食売っているお店に変わっちゃいましたよー」
勇者「あ……そうでしたか、ありがとうございます」
勇者(困ったな……もうすっかり山菜鍋のつもりでいたからな)
勇者(他に食べたいものが思いつかない)
勇者(うーん……)ウロウロ
勇者(普通の鍋屋……肉って気分じゃないんだよなぁ)
勇者(酒場か……酒の肴は好きだけども今は)
勇者(すっかり迷ってしまったぞ)
勇者(前来た時はなかったな。あっちの店が畳んだから?)
勇者(えいっもうここでいいや)ガチャ
「いらっしゃいませー」
勇者(なんか、前の店と似た雰囲気だな)キョロキョロ
勇者(というか使っている椅子とか同じ物?)ガタタ
勇者「あの、すみません」
「はい、お決まりですか?」
勇者「いえ、あのここってもしかして」
「あ、向こうのお店に行った事がある方でしたか?」
「あたし、あそこで働いていたんですけど、店長が体悪くして閉店になったんですよ」
「その時にまあ、看板を頂いたようなものですね」
勇者「じゃあ店内に使っている物って」
「格安で譲ってもらったんですよ。流石にお店までは買えないんで、安いところ借りてやっているんですよ」
勇者「へえ」
勇者(どのメニューも美味しいんだよな。根菜鍋に季節の山菜鍋)
勇者(高原薬草鍋か……新メニューかな)
勇者(根菜ソバ……? ソバって確かここら辺で取れる植物から作るパスタだっけ)
勇者「あの、ソバってパスタでしたっけ?」
「あー……パスタではないんですよ。ソバという穀物の実で作るからソバと言うんです」
勇者「ソバの実ですか」
勇者「すみませーん」
根菜ソバ 65G
ソバが見えないほど盛りだくさんの根菜類の鍋。
醤油仕立てでかなりのボリューム。
勇者「ほう」
勇者(いい香りじゃないか)
勇者(それにこの野菜の量は頼もしい)
勇者(昔、別の料理を食べるのに練習したっけ。箸の使い方も)
勇者(どれどれ)ズゾゾ
勇者(ほう、ほう……いいじゃないか、これ)
勇者(野菜も美味い美味い)モグモグ
勇者(美味いんだが……よくよく考えたらこれは普通の作物の野菜だな)
勇者(となると、山菜も食べたくなってくるな)
「はーい」
山菜漬物 25G
結構なボリュームの季節の山菜漬物。浅漬。
勇者「ふむふむ」パリパリ
勇者(結構あっさり目だな。うん、美味い美味い)
勇者(とすれば、山菜の保存食屋は当たりがあるかもしれない)
勇者(後で買いに行ってみないといけないな)
勇者(ふう食った食った)
勇者(今日はこのまま宿に泊まるとして、明日の朝にでも出発しよう)
勇者(ここから先は道も険しくなるし、しっかりと準備していかないとな)
勇者(それに山菜も)
勇者(さて、とっとと休むか)
予想の通り1G=10円、と言ってもかなり適当だけど
収入ら辺はほぼカットだけど
勇者の証持ち
ある程度強いやつ(大きな集団のリーダーとか)を倒すと褒賞金
他の人
依頼にある魔物を倒すと賞金。
勇者のPTメンバーは公的に登録されていないので、賞金と報奨金の二重取りとかできちゃう
勇者
得た薬草を調合し、簡単な薬の販売、魔物や動物の皮や骨の販売、遠くの地の特産等の販売
ヨーロッパの伝統的な果物の保存方法。
甘みが少ない、外れの果物を引いた時とかにコンポートにする事が多いらしい。
シロップやワインで煮込んだりもする。
根菜ソバ
ぶっちゃけけんちんそば。茨城の名物。
けんちん汁は元々精進料理で建長寺で作られていたとかいないとか。
名前の由来も建長寺説が有力らしい。
勇者「やっと町かぁ……」
勇者(ちょっとオークが多かったな)
勇者(だいぶガタがきてるし、そろそろ装備も考えないと)
勇者(こんなところで鍛冶師もいないだろうし、買い替えかなぁ)
露店「」ガヤガヤ
勇者「へえ」
勇者(今日は市か何かをしているのかな)
勇者(何か掘り出し物でもあるといいな)
勇者(しかし、食べる物の類は少ないな)
勇者(殆ど物ばかりだ。干物の類とかあってもいいのに)
商人「お、あんた勇者様かい。これから出発ですかい?」
勇者「いえ、自分は他所からこちらに来た者です」チャラ
商人「はん? おいおいグリーンレイクの勇者様がなんだってこんな国に来てんだい」
勇者「分かるのですか?」
商人「聞いとらんのですかい? その勇者の証の魔石、国ごとに色が違うんでさあ」
勇者「へえ……緑って珍しいと思ったけどもそういう事でしたか」
勇者「どうも自分は人と合わせるのが苦手でして」
商人「魔法はどうです?」
勇者「そこそこ、でしょうか。基本的な攻撃魔法と治癒魔法、転移魔法も使えます」
商人「お、いいですな。でしたらこの魔石はいかがでしょ」
勇者「それは?」
商人「伝達魔法を練り上げたもんでさ」
勇者「へえ?」
何かのリスト「」ポォ
勇者「! なんだこの表は……視覚魔法も混ぜ込んであるのか」ハー
勇者(ある程度魔法が使えれば扱えそうだけど、魔石自体は結構複雑な構成をしていそうだ)
商人「その魔石を持っていれば、持っている同士で連絡……伝達魔法が飛ばせるって代物でしてね」
商人「中にはこうして所持している事をオープンにしているのもいるってもんですよ」
勇者「これ全部人の名前……店の名前も。あ、グリーンレイクもある。なるほど、国への連絡としても」
勇者「面白いなこれ。商いにも使えるんじゃ?」
商人「いやまあそうなんですが、魔法の才や知識がある程度必要なもんで」ポリポリ
勇者「なるほど……」
勇者「今使えるのは?」
商人「未登録状態はオープンリストの確認まででさ」
勇者「なるほど……」
商人「お値段は4000Gですぜ、いかがです?」
勇者「4000G……」
勇者(簡単に買える額ではないけども)
勇者(今後、各地を回る事を考えると、特産の行商に活用できそうだな)
勇者(今までは細々とやってきたけど、本格的に取り組めそうだし……)
勇者「頂きます」
商人「毎度あり!」
勇者(簡単、短い文なら登録できるのか。国の連絡先に異常なしってあったのは、旅人向けとかそんな感じか)
勇者(どうしようかな、各地特産販売、かな)キィン
勇者(よし)
勇者(痛い出費だけど投資投資)
勇者(さて、そろそろ何か食べるか)
勇者(こっちの道は店が多いんだな)
勇者(奥の方に料理屋があるのか。探す手間が省けてありがたいな)
勇者(ここは……炭焼き? 肉だろうとは思うけど何のだろう)
勇者(中が見えないのはちょっと勇気がいる店だな)
勇者(ここは菜食強めの料理屋か……こっちにはパン屋)
勇者(この店は……特に専門としているのはなさそうだな)
勇者(うーんどこも良い匂いで迷ってくるぞ)
勇者(とは言え、うだうだしている訳にもいかないし)グゥ
勇者(ここは無難に無難に)ガチャ
普通の料理屋
「いらっしゃいませ」
勇者「さて」ゴクリ
勇者(ほほう、ガーリックチキン。香草焼きもあるのか)
勇者(うん? オークステーキ? オーク? 本当に?)
勇者(亜人系なんて食べた事がないぞ)
勇者(しかしオークか……いや、男は度胸だ)
勇者「すみませーん。このオークステーキと……ミネストローネを下さい」
でかでかと大きな肉だけが皿にのっている。本当にオークの肉。
味付けはガーリック・自家製ソース・ブラックペッパーから選べる。
ミネストローネ 65G
玉ねぎニンジンベーコン、そして大きなニョッキが入ったミネストローネ。重たい。
勇者(うーん、随分と高いミネストローネだと思ったけど、これで一食賄うものだったか)
勇者(まあ今更言っても仕方がない)キコキコ
勇者「まずはステーキ」ムグ
勇者(ふむふむ、豚のようでかなりどっしりとした歯ごたえ。なるほどなるほどこういうのか)モギュモギュ
勇者(パンもポテトもついていないなんて珍しい、とは思ったけど肉だけで大満足のボリュームだ)
勇者(さてミネストローネ)スス
勇者(うーん、このトマト特有の酸味感。これだよこれこれ。最近のはマイルドなのが多いから困る)スス
勇者(ここの店、よく分かってらっしゃる)パク
勇者(しかしこのニョッキは大きいし多いな。他の料理につけるミネストローネもあったのかな)モグモグ
勇者(ふーん、これはじゃがいもで作っているのか)パク
勇者(しかし、やはりこの量はくるなぁ。とってもニョッキ・ジョベディだぞ)
勇者(既にだいぶ腹が膨れてきたけど)モギュモギュ
勇者(うんうん、美味い美味い。これは幸せな悩みだ)
「ありがとうございましたー」
勇者「うぅ」ゲフゥ
勇者(流石に食いすぎたか。このまま出発するつもりだったけど、今日は宿に泊まってしまうか)
勇者(ちょっと散財し過ぎたな。注意しないと)
勇者(節約に節約を重ねて路銀も貯まったし、そろそろ元の生活をしてもいいか)
勇者(とは言え首都は初めて来るな。場所が場所だけに高そうだな)
勇者(しかし、ここは標高もそこそこで少し体が冷えるな)
勇者(何か暖かい物が食べたいな)
勇者(汁物か……汁物だな。首都だし、何かしらそういう店はあるだろう)
勇者(うーん、店の違いが分からない)
勇者(どこも普通の料理屋のように見えるし……)
勇者(何よりどこも良い匂いがして決めかねるなぁ)
「よっこらせっと」ガチャチャ
勇者(料理屋の人か出てきたか……よし)
「うーん、何処の店でもありますよー」
勇者「と言いますと?」
「この辺りぐらいから北や標高の高いところは、暖かいスープの郷土料理があるんです」
「で、何処が一番というよりはお客さんに一番合う味付けのお店を、となってしまうんですよ」
勇者「因みにここのお店は?」
「……ふふ、秘密です」
勇者「敢えて言わない、ですか。中々商売上手ですね」
「まあ、どこのお店でもとっても美味しいですから、あまり深く考えなくてもいいと思いますよ」
勇者「ふーむ」
勇者(えい、何かの縁だしここにするかっ)
「あはは、ありがとうございます。空いている席にお座り下さい」
勇者「ええと、先ほどの郷土料理というのは?」
「このコシード・ガジェゴというものです」
「肉や野菜をじっくり煮込んだ物で、最初にその煮汁でパスタを食べ、後に肉や野菜を食べるものです」
勇者「へえ、面白い食べ方ですね」
勇者「そのコシード・ガジェゴと……えーと」
勇者(うん? これは牛もつ煮込みか。肉かぁ、モツだし厳密には被らないな)
勇者「この……カジョス・ア・ラ……マドリレーニャをお願いします」
「はい、畏まりました」
勇者(まあ、味付けは違うだろうしいいか)
勇者(しかしパスタも付く事を考えると、ちょっと量が多いかもしれないか)
勇者(まあ、腹も空いているし何とでもなるだろう)
勇者(それにしても、勇者の情報はあまり集まらないな。やはりもう少し先に行かないといけないのか)
勇者(そろそろ西を目指してみるか)
コシード・ガジェゴ 70G
鶏肉や塩漬け豚のばら肉、じゃがいもにひよこ豆にニンジンなどの具が盛りだくさん。ポトフに近い。
生ハムの骨等の出汁で煮込み、塩胡椒で味付け。スープパスタに具沢山スープと二度美味しい。
カジョス・ア・ラ・マドリレーニャ 45G
牛の腸やチョリソ等の他、トマトや玉ねぎ等の野菜と煮込んでいる。
パプリカや鷹の爪で味付け。真っ赤。
勇者「ほほう!」
勇者(匂いを嗅いだだけで涎が溢れてきそうだ。これは堪らないな)
勇者(格式ばったところでもないし、パスタとスープを一緒に出してくれるのはありがたい)
勇者(これでパスタの後だなんて言われたら生殺しもいいところだ)
勇者(うーん、この味、この素朴な味。いいよ、これ凄くいい)モグモグ
勇者(まさか首都でこんな物が食べられるだなんて思ってもみなかった)
勇者(さてさて、こうなってくると牛モツちゃんも期待が高まってくる)パク
勇者(へえ、こういう感じか。見た目とは裏腹に殆ど辛くない)モギュモギュ
勇者(下手に辛くするだけじゃない。噛めば噛むほど味が広がる)パク
勇者(これ、結構凄い気がする。とっても美味しいぞ)モギュモギュ
勇者(この豚肉の大きさ、なんて頼もしいんだ)バク
勇者(味があっさりとしつつ、深くしっかりと染み込んでいて堪らない)モギュモギュ
勇者(油断ならないぞ、首都で食べる郷土料理っ)バク
勇者(この味の染み込んだ野菜も泣かせてくるっ)モグモグ
勇者(初め見た時は結構量があるなんて思ったけども、今じゃ腹がはち切れても食べていたいと思っている)パク
勇者(恐るべき魔性の料理だっ)モグモグ
勇者「ふぅ。久々に超満足だった」
勇者(それにしても辛い料理でもなかったのに、体がポッカポカだ)
勇者(きっと、ここの国の冬は皆あれを食べるんだろうな)
勇者(ふふ、今の自分の心はタイニークリフ人だ)
勇者(さあて、食休みをしたら明日に備えてから、宿に向かうか)
勇者(今日はいい夢が見れそうだ)
イタリア料理で昔は小麦粉練って茹でれば出来上がり。今はじゃがいもをメインにして練る。
名称は指の節目のnocca(ノッカ)から来ているらしい。
イタリアだと滋養のあるものや重い食べ物を木曜に食べる習慣があり、
ニョッキは腹に溜まる為、木曜に食べることが多くなったそうな。
だもんでgnocchi Giovedi(ニョッキ・ジョベディ)、木曜のニョッキと呼ばれるんだとか。
でも日本人で30代前後だと芋虫料理かと思うよね
\ ニャッ! /
,,,
(l l )
| |
| !、__
ヽ、____)
スペインの煮込み料理。
コシード(煮込み料理)・ガジェゴ(ガリシアの)って事で、ガリシア地方じゃ家庭の味だとか。
この他にもカルド・ガジェゴなんてのもあるけども、違いがよく分からない。
パスタなしのような。あと比較的こちらはカブを材料にするっぽい。
カジョス・ア・ラ・マドリレーニャ
スペイン、マドリッドの伝統料理。真っ赤な牛の腸の煮込み。
チョリソというパプリカで味付けした豚の腸詰や、
モルジージャという血入りの豚ソーセージと一緒に煮込む事も。
そもそもスペイン人は辛いものが苦手らしく、色の割にはたいして辛くないらしい。
勇者「ふう、ふう……やっぱりここら辺は険しいな」
勇者「よっと……ふう。おっ町が見えてきたな」
勇者(しかし今日は疲れたな……早く休みたい)
勇者(あと美味しい物も食べたい)
勇者(ここら辺まで来ると暖かいスープものは少ないだろうなぁ)
勇者(むしろスープは冷たい物がいいな)
勇者(この緑の石……地域によってはかなり稀少だったような)
勇者(うんうん、ここもメモしておこう)
勇者(それにしても魔石、連絡は中々こないもんだな)
勇者(もっとこう、実際に取引してこの魔石使っているのを宣伝しないとかなぁ)
勇者(あまり、こちらから出向いて回るのは得意じゃないんだよなぁ)
服屋「もう少し小さいのだったら欲しいけども」
家具屋「いいなぁ……ただ、そこまで装飾にこだわる余裕がないんだよなぁ、うち」
勇者(やはり難しいものか)
雑貨屋「ふーん、へー……お、この赤目石っていうのいくらぐらい?」
勇者「! そうですね、25G程度でしょうか」
雑貨屋「うーん、この大きさなら20Gにまけてよ」
雑貨屋「これより小さいの……これぐらいのサイズのがあったら40Gで買うからさ」
勇者「……。分かりました、商談成立という事で」
雑貨屋「お、ありがとさん」
雑貨屋「そうだなぁ。ちょっとした装飾に使いたいだけだから、あと10個もあれば十分かな」
勇者「分かりました。それでしたら、明後日に10個納品しますよ」
雑貨屋「ほんと?! わぁ、転移魔法使えるのか。助かるよー。あ、小さいのだったら別に20個欲しいな」
勇者「ええ、探してみますね」
雑貨屋「やったっ。しっかし、今後はどうやってこれを購入しようものか」
勇者「この伝達魔法の魔石で連絡先を設けているんですけどねぇ」
雑貨屋「そんなん持っていないし、魔法使えないよー」
勇者「そうなんですか?」
雑貨屋「有料だけど、使う事がなかったからなぁ。けど、それ使えば頼めるのか」
勇者「自分もまだ連絡を取り合った事がないので、実際どんなものかは分からないんですけどね」
雑貨屋「いいよいいよ、すぐにって事もないからさ」
勇者「はは、ですね」
勇者「よし、腹ごしらえをしたら転移魔法を使うか」
勇者(もの凄い便利だけど、一日一回の使用までの縛りも中々厳しいもんだな)
勇者(まあ、転移魔法まで使える人だと、大抵魔法に関する職業に就いたり、ギルドや協会に入っているからなぁ)
勇者(商人紛いな事、というか安直な事や低俗な事をしてると干されるって言うし。基準がよく分からないけど)
勇者(おまけに商人で魔法使える人は少ないから、往復二日でも大きなアドバンテージになる訳だ)
勇者(今後はもっと、足で稼いでみてもいいかもな)
勇者(それほど大きい町でもなし。料理屋が二軒に酒場が一軒か)
勇者(うーん、どちらの店もどう違うのか何とも……)
勇者(片方はちょっとお洒落な感じだな。たまにはこういう店でもいいか)
「いらっしゃい、空いているからどの席でもいいよ」
勇者(内装もお洒落でいて落ち着いた雰囲気だ)
勇者(の割に店主はフランクだな。変わった店だがさてさて)
勇者(お、デザートも充実してる。うんうん、これは楽しみになってきたぞ)
勇者(肉料理は少なめかぁ。でもそれなりに食べたいしなぁ)
勇者(ラム肉の網焼き、鶏の香草炒め……白身魚のムニエル、確か近くに小さい湖があったんだっけ)
勇者(お、トルティージャか。たまにはいいか)
勇者(へえ、冷製のミネストローネなんかあるんだ。うん? ガスパチョ? なんだろう)
勇者(トマトの冷製スープ? ミネストローネを冷やしたって訳じゃないんだよな?)
勇者(養鶏が盛んなのかな。プリンやらクレープやら卵を使ったデザートが多いな)
勇者(ふんふん、よし)
じゃがいもと玉ねぎたっぷりの円盤型のオムレツ。
ガスパチョ 35G
冷製トマトスープ。キュウリにピーマンにパンのざく切りと、細かくしたゆで卵が乗っている。
クレマ・カタラナ 30G
表面がパリパリのカラメル層のあるカスタード。
勇者「ほほう、これはこれは……」ザク
勇者(うんうん、このトルティージャ、具が多い)バク
勇者(ハム入りの方が好きだけど、贅沢は言えないか)
勇者(しかしちょっと小さいな。やっぱりお洒落な店は量の満足度が何ともいえないな)
勇者(にしてもガスパチョ。一緒に他の野菜を煮込んでいる訳じゃないのか)ススゥ
勇者(ほう、ニンニクがきいていて中々これは……)スス
勇者(うーん、良い味だ。これは暑い夏場に飲みたくなるなぁ)
勇者(卵料理にトマトスープ。中々いいチョイスをしたな)
勇者(さてさてクレマ・カタラナ。なんだかクレームブリュレみたいだな)パク
勇者(うん、あれとの違いはよく分からないが美味い美味い)
勇者(しかし……ちょっと物足りないな。トルティージャ、もっと量があると思ったのに)
勇者(とは言え、もう一品主食というのもあれだしな……)
勇者(いや、量が少なそうだし逆にあれか? うーん、腹にしっかり溜まりそうなものの方が無難か?)
生クリームとメイプルシロップがついたクレープ。
クリームとシロップの量に比べて、ホットケーキが凄い大きい。
勇者「ほお……これはなかなか」
勇者(やはり養鶏が盛んなのは間違いなさそうだな。トルティージャは謎だけど、思ったとおりの大きさだ)サク
勇者(うんうん、この端っこのサクサク感、とっても大好きだ)
勇者(しかし、生クリームとメイプルシロップのダブルパンチは嬉しいけど、量が少ないな)
勇者(これは上手く調節して使わないと足りなくなるぞ)パク
勇者(とは言え、これも美味しいなぁ。うんうん、まん丸ホットケーキ、花丸だ)パク
勇者「ふう、満腹満腹」
勇者「もう一軒の店はどうなんだろう。やっぱり卵料理が多いのかな」
勇者(とすると鶏肉の保存食も売っていたりするのかな)
勇者(でも肉用の養鶏って結構規模が大きいところじゃないとあんまりないような)
勇者(近くにあったりしないのかな。ま、明後日探してから出発すればいいか)
勇者(それにしても、あの商談。思った以上に大きいな)
勇者(探せば小さい赤目石もあるもんなんだな)
勇者(うんうん、今後の生活が決まった気がする。と言ってもそうは上手くいかないか)
勇者「うん?」
空に魚影「」サササー
勇者「へえ、飛翔魚っ。そういえば高地に生息しているんだったか」
勇者「群れを見るのは初めてだなぁ」
勇者「待てよ。もしや」
飛翔魚「」チビチビ
勇者(思ったとおりだ、湖の水を飲みに来ている)
勇者(よし……狙いをすまし小範囲で)
勇者「雷魔法」ビッ
飛翔魚「!」バリリィ
飛翔魚「!!」バッ
飛翔魚「」ピクピク
勇者「よし、取れた取れた」
勇者「口から棒を刺してぐりっと捻り……」ズルゥ
勇者「内臓を抜いて中に香草を詰めて、ぱらっと塩を振る」パッ
勇者「あとは火を起こして……」ボゥッ
飛翔魚の香草焼き
簡易なアウトドア食。香草がないとただの塩焼き。
ちょっとだけリッチな気分。
勇者「はふはふ」ガブリ
勇者「うん、まあこんなもんかな」モグモグ
勇者「噛めば噛むほど味があるし、香草もいいアクセントになっている。丁度いい量だ」モグ
勇者(そういえば、誰かと旅をしていた時には)モグ
勇者(調味料やら料理にお金をかけ過ぎてよく喧嘩になったっけ)バク
勇者(何処までいっても、自分は誰かと旅をするのは向いていないな)モグモグ ゴクン
勇者「ふう……美味しかった」
勇者「さて、もうすぐ商業都市だ。何かいい事があればいいんだが……」
スペインの平らに丸く焼いたオムレツ。
一般的にはじゃがいも、玉ねぎ、ほうれん草、ベーコンなどを具にして、塩で味付けするそうだ。
と言っても、具は人それぞれで生ハムいれたりエビ入れたり色々らしい。
本場のトルティージャだと、じゃがいもと玉ねぎをたっぷりの油で揚げる様に煮て作るんだとか。
ガスパチョ
スペイン・アンダルシアの冷製トマトスープ。
トマトメインな為にちょっともったりしているらしい。
同地域には更にトマトの量を増やしたトマトスープ、サルモレッホなんてのもある。
更にもったりしていて、ガスパチョのように具をトッピングして食べる。
クレマ・カタラナ
スペインのデザート。おフランスのクレームブリュレの起源と言われる説が強いらしい。
3月19日の聖ヨセフの日に食べるそうな。
因みに違いはクレマは湯煎しない、クリームを使わない。
最も、今は普通にクリーム入ってるらしいけど。
勇者(セントラルカーベース。行くのは久しぶりだなぁ)ゴトゴト
勇者(楽しみだなぁ。何を食べよう)
勇者(とは言え、周囲にまともな町がないのはいただけないな)
勇者(その分、休憩所のような小屋と馬車による、各地の行き来が充実しているから行くのは楽だけども)
勇者(まあ、これも旅の醍醐味ってやつなのかな。商業都市限定だけど)
「今日はここで宿泊となりまーす。明日の昼ごろにセントラルカーベースに到着の予定です」
行商人A「あーよっこらせ」
行商人B「楽なんですが少々高いのと、腰にくるのが何ともですな」
行商人A「ですな」ハハハ
勇者(さあて今日のご飯は何かなぁ)
ごくごく普通の料理。ライス付き。量は普通。
コンソメスープ
玉ねぎとニンジンが入っているけど、量が少なく寂しいスープ。
勇者(やっぱりこんなもんか)
勇者(馬車移動の代金に含まれてる料理だし、食費も考えると決してそこまで高くない料金)
勇者(となると、連日こんなぐらいだよな)
勇者(肉があるだけ良しとしよう)モグモグ
勇者(うん、だけど具は悪いのを使っているわけじゃないから美味しいな)
勇者(暴れ大鶏もこの辺りに生息しているし、北側から東にかけて野菜の輸入ルートが多いからな)
勇者(南側だと魚が多いのかな)
勇者(しかしこのトマト、甘めだな。そういう品種なのかな)
勇者(味はいいんだから文句は言えないな)
勇者「ふう……」
勇者(しかし)
勇者(……物足りないな)クゥゥ
勇者(やる事はないし、とっとと寝てしまおうか)
勇者「うーん、久々の大都市だぁ」ノビー
勇者(一先ずは情報探しかな)
……
勇者(やっぱりここを通る勇者は多いな)
勇者(全員を見ればこの先の……ソードフォレストとヴォルケイノには誰かしらが進んでいる)
勇者(位置的に少し戻る事になるウォーターサーフェス行きの情報はないけども、どうなんだろうか)
勇者(一応行ってみるかな)グーキュウウウ
勇者(とは言え……気づいてみればもうこんな時間か)トップリ
勇者(参ったな。どっかさっとでもいいから食べたいが酒場ぐらいしかやっていないかな)
勇者(宿は取っておいたけども、もう夕食はないだろうし)
勇者(完全に失敗したなぁ。酒場を探すしかないか……うん?)
勇者(なんだろう、あの店まだやっている?)
勇者(それにしては酒場っぽくないし。ちょっとよってみるか)
勇者(これは……弁当屋みたいなものか?)
勇者(なるほど、首都ともなると遅くまで活動する人もいるんだろう)
勇者(夜間営業のお店もあるという訳か)
勇者(ここで買って宿屋で食べるとするか)
勇者(それにしても……意外と種類が多いな。これは迷うな)
勇者(夜中にホカホカをだなんて、都市が見せる大きな気遣い。泣かせてくれるじゃないの)
勇者(ラム肉のロースト、手長エビのロースト……突撃豚のステーキかぁ。うーん、札を見ているだけで涎が出る)
勇者(小魚のチップスに白身魚の蒸し焼きにガーリックチキンっ。豊富な肉類に魚! つけいる隙がないじゃないか)
勇者(うん? これはタルトのケーキ? パイ? あ、キッシュ・ロレーヌか。そういえば食べた事がないな)
勇者(トマトの冷製パスタか。これもそそるなぁ。へえ、ピザなんかもあるのか)
勇者(コーンスープにミネストローネ。ポトフまであるのか。心強いなぁ)
勇者(困ったなぁ。これは中々決められないぞ)
勇者(ウィンナーにチョリソのグリル、豚肉スライスロースト!)
勇者(単品のおかずまであるだなんて。このお店、死角なし!)
勇者(これはとんでもないお店だぞ。遅くまで時間がかかってよかった)
勇者(普通に過ごしていたら、ずっとここのお店知らずにいるところだったぞ)
勇者(しかし、ふむ……どうしたものか。ええい、迷った時は食べたい物を買って食べるっ)
勇者「さあて……」ゴソゴソ
キッシュ・ロレーヌ 65G
タルトにいっぱいのベーコン、玉ねぎ、アスパラガス。
更にチーズどか盛り。中々お目にかかれない。ボリューミー。
ペスカトーレ 55G
魚介類のトマトソースのパスタ。イカや様々な魚の身が入っている。
少し小さめ。
ウィンナーのグリル 45G
大きいウィンナー二本のグリル。ソースはお好みで。
パンナ・コッタのブドウソース添え 38G
カップ状の器にパンナ・コッタとブドウソースが層になっている。
少なくとも添えではない。
勇者「この勢い余って買いすぎてしまった感」
勇者「まあ、最悪明日の朝食べるとするか」
勇者「このキッシュ・ロレーヌ、チーズが凄いなぁ」ウニョー
勇者「聞いた話よりも凄いな。きっとこんな頼もしいキッシュはそうそうないぞ」バク
勇者「うーん、流石首都。良いチーズだ」モグモグ
勇者「この輝くアスパラもいい」パク
勇者「値段は高めだけどそれ以上の心遣い。嬉しいじゃないか」モグモグ
勇者「ペスカトーレもイカエビ貝類じゃないってのも珍しいな」アグ
勇者「しかもこの魚の身、一種類じゃないな」モグモグ
勇者「もしかしたら、雑魚とかなのかもしれない」モグモグ
勇者「その上でこの具の多さなら、あの店の店主は逆に天才ではないか」パク
勇者「さて、と。こういう大きいウィンナーと言ったら」
勇者「粒マスタードをガンガンのせて」バグゥ
勇者「くーーっ美味い!」
勇者「ああ、なんて幸せなんだ。酒は飲めないが、これだけで十分幸せじゃないか」パク
勇者「しかしこうなってくると、キッシュ・ロレーヌがちょっと薄味に感じてきたな」モグモグ
勇者「仕切りなおしのスープでも買ってくればよかったか。まあこんなしくじりもアリか」バグ
勇者「さてデザートを……」プリュン
勇者「うんうん」パク
勇者「ブドウの甘酸っぱさもいい感じだ。しかもこのソースの量。太っ腹だ」パク
勇者「しかしこれでほぼ40G。都会価格だなぁ」パク
勇者「ま、美味い物にケチつける程の額でもないか」パク
勇者「ふうう……満腹だぁ」
勇者「うーん、大満足。これで寝たら明日は牛になっていそうだ」
勇者「ふああ……とは言えいい時間。支度を済ましたら寝るとするかな」
フランスのアルザス・ロレーヌ地方の郷土料理。
パイ生地・タルト生地で作った器の中に、卵やひき肉アスパラガスなどを入れる。
そこへたっぷりのチーズをのせ、オーブンで焼き上げればキッシュの出来上がり。
これにクリームやベーコンを加えると、キッシュ・ロレーヌ(ロレーヌ風キッシュ)となる。
ペスカトーレ
ペスカトーレとは、漁師という意味の名を持つイタリア料理。
元は漁師が売れ残りの魚を、トマトソースで煮込んだのが始まりだとか。日本で言うあら汁。
特定のレシピがない為、魚介類をトマトソースで仕上げるとペスカトーレってつく事が多いらしい。
パンナ・コッタ
イタリアのお菓子。生クリーム(パンナ)を煮た(コッタ)もの。
生クリームの量が多いから高カ口リーなんだとさ。
日本では90年代初め、森永乳業等が販売してブームになり、喫茶店やレストランのメニューになったそうな。
勇者「やはり遠くの特産品は買い手さえいれば、商業都市だと高値で売れるな」
勇者「とは言え、その買い手を捜すのが大変な訳だが」
勇者「お陰で今日もとっぷりと暮れてしまったな」
勇者「昨日のお店、もいいけど、今日は別のところにするか」プラプラ
勇者「酒場以外に夜間営業のお店ってないのかな」
勇者「酒場、なのかな?」
勇者「ううーん。中が見えないのは勇気がいるなぁ」
勇者「うん? 誰か出てくるか」イソイソ
女性A「あー美味しかったね」カランカラン
女性B「でしょ? だからオススメだって言ったじゃん」
勇者「……」
勇者「酔っているようにも見えなかったし、本当に喫茶店なのかも……」
勇者「うん、ここだな」
マスター「いらっしゃい」
勇者(へえ、内装はこうなっているのか)チラッ
勇者(お酒、呑んでる人いるな。お酒が呑める喫茶店、て感じか)
勇者(となると、やっぱり量が少ないのかなぁ)
勇者(ディナーメニューもあるのか……。量は分からないけど、結構肉料理が多そうだな)ペラ
勇者(オーソドックスにローストにするか。うん? ユニコーンのタルタルステーキ?)
勇者(え? 嘘? ユニコーン? 本当なのか?)
勇者「……」チラリ
勇者(それらしき物を食べている人はいない……都会じゃ珍しくないのか? 高いからか?)
勇者(それとも、別の肉をそう呼んでいるとか……ううん、しかしユニコーン)
勇者(食べた事がない分、俄然食べたくなってきてしまったぞ)
勇者(ここは騙されたと思って頼んでみるか)
やや円柱状にした粗いみじん切りの生肉の上に、卵黄と様々な薬味がのっている。
量はそこそこだがかなり高い。
勇者(ううーん、普通の肉に見える)
勇者(言っても仕方がないか)カチャチャ
勇者(卵をといて、薬味と肉を絡めて)パク
勇者「んん!」
勇者(なんだこれ! 柔らかくて、何とも言えないこの甘み!)モグモグ
勇者(うんうん、これ凄いな。ユニコーン肉、真贋なんてどうでもよくなる)モグモグ
勇者(ああ、まずい。いかんぞ。こんなの、もっと味わって食べないといけないのに)バク
勇者(手が止まらない、止められないぞ)モグモグ
勇者(本当の高級というものはこういう事なのか)パク
勇者(タルタルステーキってあんまり得意じゃなかったけども)モグモグ
勇者(このユニコーンの肉なら、いくらでも食べられるな)ゲフッ
勇者「ふう……」
勇者「まだ食えるけども、これぐらいにしておくか」
勇者「うん、ユニコーン肉。あれはユニコーン肉でいい」
勇者「それにしても、たまにはああいう高級な物もいいな」
勇者「それ相応の価値、良い物を知ってしまったなぁ」
勇者「さて、明日は出発だし早めに寝るか」
勇者「ってところで転移魔法が活きてくる訳だ」
勇者「流石に商業都市からよりも、こっちの方が近いからなぁ」
勇者「あとしばらくすればウォーターサーフェスの領土」
勇者「早く魚介料理が食べたいな」ジュルリ
勇者「と言っても海岸線、ウォーターサーフェスの本番はもうちょっと先なんだよなぁ」
勇者「ふう……こんな所にミニオーガがいるなんて」
勇者「もっと険しい地にいるはずなのに」
勇者「やはり、魔王軍によってざわついているのは、人間だけじゃないんだな」
勇者「少し疲れたな」
勇者「ちょっと早いが休憩にするか……」
勇者「木々を組んで、火をつけて……さて」ゴソゴソ
テイクアウトした水辺に棲むキラーダックのコンフィを、バリッと焼き上げた。
ポテトとパンは他所で買って付け合せに。
勇者「あちち」ガブリ
勇者「うん、美味い美味い」モグモグ
勇者「こういうちゃんとした肉って肉、干し肉じゃ味わえないからなぁ」モグモグ
勇者「しかし、付け合せにとパンやら買ってきたけど」
勇者「お皿もないのに、ただ食べ辛いだけだな」
勇者「少し行儀が悪いが、肉を齧った口でそのままパンも」ガブリ
勇者「うんうん、ミートサンド、ではないけども美味い美味い」モグモグ
勇者「もっと魔法が上手ければ、肉類も冷凍したまま持ち運べるんだが……」
勇者「これ以上、贅沢は言えないよな」ガブガブ
勇者「少しデザート類が欲しくなってきたな」モグモグ
勇者「商業都市に行くと、つい贅沢してこの反動があるから、ついつい行くのを躊躇ってしまうんだよなぁ」
勇者「そういえば、この先の水辺はキラーダックが生息しているんだっけ」
勇者「上手くいけば、生肉手に入るのかな」
勇者「丸焼きなんていいなぁ」
勇者「香草を詰めてじっくり焼くのもありだ」
勇者「ふふ、食ったか傍からもう次の食事のことを考えている」
勇者「どれだけ腹ペコなんだろうな、俺」
勇者「ここら辺はまだ木々も多いし、少し仕掛けに使える枝を探してから行こうかな」
欧州の料理らしいけども、そのルーツは別にある料理。
諸説あるけども、モンゴル帝国の遊牧民の諸民族を漠然と指すタルタル人が由来だとか。
彼らは遠征時に馬を何頭も連れて行き、一部を食用とした。が、乗用なんでめっちゃ硬い。
だもんだから、細かく刻んだ肉を袋詰めして、鞍の下に敷いて潰してから味付けして食べたんだとか。
生ハンバーグ。
コンフィ
今ではフランスの高級料理だけど、元は重要な保存の効く調理法。
肉をオイルで低温でじっくり煮込み、密封して冷たい所に保管すれば数ヶ月の保存に耐えたとか。
発祥としては水鳥や豚肉らしいけど、真のコンフィは水鳥らしい。
地域によって、使われる油が異なり、その地で多く取れる物が用いられる。
一応、果物のコンフィもあるらしいけども、コンポートと同じっぽい。
勇者「はーいつ来てもいい景観だなぁ」
勇者「この水面に浮かぶような木造の家の数々」
勇者「水に浸かってはいないけど水面で生活している感じ、とっても好きだな」
勇者「それにしても、ウォーターサーフェス発の勇者は数が少ないんだな……」
勇者「まあ……元来、漁師の多い国だし、お国柄、のんびりとしているからなぁ」
勇者「出来れば各地の町へ転移魔法が使えるように、訪れておきたいがそれはまたの機会にするか」
勇者「とすると、このままヴォルケイノ向かってから、ソードフォレストかな」
勇者「どっかで魚料理を食べたら、ルートの確認をしておかないとか」
勇者「まだ時間もあるし、市場でも寄ってみるか」
勇者「うんうん、この魚だらけの市場。ワクワクしてくるなぁ」
勇者「とは言え、物ではない以上、あまり持ち歩く訳にはいかないからなぁ」
勇者「チェックだけして、購入は控えておくか」
勇者「となると、こういう類の魚もあるのかな」
勇者「こういうのはいいな。日持ちもするし、自分でも使っていい」
勇者「しかし、果たして需要はどうなのだろう……。知名度の問題で売り込みをかけないとダメか?」
勇者「……」
勇者「ヴォルケイノあたりなら売れる、かな?」
勇者「うん、ものの試しだ。買ってみるか」
勇者「しばらく来なかった間に随分と、外向きの商売も始めたんだな」
勇者「うん、これはもしかすると、思いがけずヒットする物が出てきそうだ」
勇者「少し、細かく調べてみるかな」
勇者「ふう……流石に疲れたな」
勇者「さて、そろそろ昼食にしようかな」
勇者「うーん、良い匂いだ。何時もは中央あたりのお店で食べるけど……」
勇者「うん、今日はここにしよう。新規開拓だ」
勇者(いらっしゃいませも何もない。感じとしては漁師が利用している、大衆食堂って感じか)
勇者(きっと魚料理で埋め尽くされているんだろうなぁ)
勇者(どれどれ……)
勇者(と思ったけど、多分正確にはただの魚介炊き込みご飯なんだろうな)
勇者(とは言え場所が場所。きっと美味しいに違いない)
勇者(ペスカトーレに魚介鍋。へえ、フライもあるのか)
勇者(うん? マルミタコ? なんだろう)
勇者(タコ? タコ料理? 何も書かれていないなぁ)チラッ
店員「……」
勇者(うーん、この疎外感。多分、顔なじみの漁師が来たら談笑したりするんだろうけど)
勇者(聞きづらいなぁ)
勇者(うん、よし。決めた)
勇者「すみませーん」
マルミタコ 50G
魚とじゃがいものトマト煮。魚の種類はその時々、水揚げ次第。
今回はマグロで、更にじゃがいもは煮崩れ気味。
日替わり魚のフライ 40G
こちらも水揚げ次第の三点フライ。
一つ一つが大きく、この値段でこの大きさは中々お目にかかれない。
勇者(ほうほう、マルミタコはトマト煮なのか。タコの要素もなさそうだ)
勇者(ペスカトーレみたいなものか)
勇者(このぐらい煮崩れしていると、味が馴染んでいいな。これは考えを改めないとなぁ)
勇者(さて、こうなるとフライへの期待も鰻上り)
勇者(ソースも選べる上に一種のみじゃないのは、なんて心強いんだろうか)
勇者(一つはソース、もう一つはタルタルソース……これは)スンスン
勇者(レモンとにんにくか? 面白いソース置いてるなぁ)タララー
勇者(さて、まずはソース)パク
勇者(うんうん、美味い美味い。この噛む度に溢れる旨み、鮮度がなせる事だなぁ)
勇者(卑怯だなこれは。こんなの何だって美味しくなるに決まってる。その上、この魚なんだからなぁ)
勇者(さてさて変り種は……)サクッ
勇者(ほうほう、こういう感じか。さっぱりしててガツンとくる。これは美味い。いかにも漁師っぽい)
勇者(ああ、いかんいかん、フライに夢中になっててマルミタコがおろそかだ)バク
勇者(完全にペースが崩されてしまったなぁ。もうフライが殆ど残ってないや)
勇者(まあマルミタコ自体、単体で食べても問題ないし、そこまで気にすることでなし、か)
勇者「ふう、食べた食べた」
勇者「しかし、如何せん居心地が悪いところだったな」ポリポリ
勇者「でも、それに余りあるほどに美味しかった。また機会があったら来よう」
勇者「今度はご飯ものもいいな。面白い商品も見つかったし案外、次の機会は早いかもなぁ」
勇者「そう考えると、売込みする気力も沸き立つと言うものだ」
勇者「早くヴォルケイノに向かわないとだなぁ」
スペインのバスク地方の漁師料理。
マルミタっていう深い鍋で作る事が、名前の由来なんだとか。
マグロの他にカツオだったりメカジキだったり。
日本だと割りと刺身のする物が主力っぽい?
最も、マグロ自体がスペインだと火を入れて食べる魚の扱いだとか。
食材は
スペアリヴ
蕪
じゃがいも
白いんげん
ってレシピを見たけど、白いんげん見当たらないから、
ひよこ豆・赤緑いんげんのミックスビーンズ
スペアリヴはタイムやオレガノに胡椒等で下ごしらえ
じゃがいもと蕪は乱切り。蕪は茎も葉も使えば更に栄養◎
で、リヴを軽く焼いて、脂をきって鍋へ投入
水とローリエ一枚入れてコトコト一時間煮込む。
次にじゃがいもと蕪、豆類を投入し30,40分煮込む。
今回は30分煮込んでから蕪の茎葉を投入し
軽く煮込んで最後に塩胡椒で味をつけて
完成?
味は薄味気味に味付けした所為もあって
ハーブ類の香りやら何やらが広がる素朴な感じ
けど、脂が凄かった
一時間煮込みの前に軽く煮立たせてから、煮汁を捨てて
そこから煮込んだ方がよかったかなぁ
料理スキル4ぐらいだから焼くだけで上手く脂を切るとか無理だった
勇者「やっとここまで来たかぁ」
勇者「もう一息でヴォルケイノだな」
勇者「ここら辺から、天気が良い日はヴォルケイノの火山が見えるんだよなぁ」チラッ
勇者「うーん、流石にこの町からだと、よほど条件が揃わないと見えないか」
勇者「まあ、すぐにそのお姿も見えてくるし、焦らずに行くか」
勇者「え? ウォーターサーフェスの勇者が?」
「ああ、この先の沼地でヴェノムフロッガーが湧いてね。君も気をつけなよ」
勇者「被害者は同行者含めて七名、ですか……」
「君が気に病む事じゃあないさ。僕がこんな事を言っちゃいけないんだろうけど」
「君達も大変だと思うし、魔王討伐なんかより生き抜く事を優先して欲しいよ。本当」
勇者「ええ、ありがとうございます」
勇者「けれども、聞けてよかった。このまま沼地の脇を通るルートを予定していたからなぁ」
勇者「ヴェノムフロッガーか……もっと木々の多い奥地の沼で生息するものだけど」
勇者「そういえばミニオーガもそんなだったっけ」
勇者「思った以上に、突発的な死ってありえそうだな」
勇者「気をつけて行かないと、人間側の領土でさえ安全に行動できないそうだなぁ」
勇者「うーん、情報屋? しかし、リアルタイムでの情報収集は無理だし」
勇者「あの魔石を使っての兼業は無理そうだなぁ」
勇者「さて、物産も一通り見たし、腹も減ってきたな」
勇者「そういえば、ここら辺は沼地の泥魚の香草焼きがあったな」
勇者「生臭ささえどうにかなれば、中々美味しいだよなぁ」
勇者「うん、今日の晩御飯はこれだな」
勇者「食事できそうなところは一軒だけか」
勇者「悩む楽しみはあるものの、食べるものが決まっている時は楽でいいかな」
「いらっしゃいませー」
勇者(さて、さっと食って出てしまおう)
勇者(うん? あれ? 泥魚の料理、全部にシールが貼られている?)
勇者「あの、泥魚の料理って……」
「あーすみませんね。沼地に魔物が現れちゃって、泥魚が入荷しないんですよ」
勇者「あ、そうですか……」
勇者(うーん、困ったな。すっかり泥魚のつもりでいたから、急に他の物と言われてもなぁ)
勇者(魚は他にないんだよなぁ)
勇者(肉か……肉にするか……)
勇者(うーん、すると……お)
「お待たせしました」
デミグラスオムライス 120G
牛肉が乗っているデミグラスソースのオムライス。
オムライスは半楕円じゃなく、丸くて表面がくしゃっとした半熟タイプ。
勇者(ほほう、代案としてはいいじゃないか)
勇者(うんうん、美味い美味い)
勇者(初めはそんなに量が多くないかと思ったけど)パク
勇者(結構腹に溜まりそうだなぁ)
勇者(それにしてもこのオムライス)パク
勇者(卵が半熟でふわっふわだ。味は特別じゃないけど、普通に美味いなぁ)パク
勇者(この牛肉も美味しいなぁ)モッギュモッギュ
勇者「中々良かったなぁ」
勇者「泥魚は食べられなかったけど、逆に良かったかもしれない」
勇者「さて、宿屋に戻って明日に備えよう」
勇者「出来る限り、沼地と水辺を通らないルートを考えないといけないしな」
勇者「それにしてもヴェノムフロッガーか……いなくなったら、泥魚が特産として買えたりしないかなぁ」
勇者「やっとヴォルケイノ領か」
勇者「何とか無事にたどり着けたかぁ」
勇者「ここまでくれば水辺もないし、ヴェノムフロッガーの脅威もないだろうし」
勇者「とは言え、何か別の事が起こっていないとも限らないし、油断はできないか」
勇者「それにしても……腹が減ったな。ここしばらく、落ち着いて食事できなかったし」
勇者「まずは腹ごしらえしてから行動するとするか」
勇者「何が美味しいんだろう……少しぶらぶらしながら見て回るか」
勇者「喫茶店に……麺屋? 麺ってあの麺? 専門店って初めて見るなぁ」
勇者「こっちは鉄板焼きのお店か。町の大きさの割りにお店が多いなぁ」
勇者「うーん、麺屋。そそるなぁ。だけど鉄板焼きも捨てがたい」
勇者「ヴォルケイノと言えば、暖かい気候の野菜類が豊富なところだし」
勇者「鉄板焼きの方ががっつりと食べられそうだなぁ」
勇者「うん。麺、捨てがたいが今日はこっちだな」
勇者(へえ、テーブルに鉄板が備え付けられている)
勇者(目の前で焼くのか。しかもこれ、自分で焼く方式か。珍しいなぁ)
勇者(さてさて、メニューはっと)ペラ
勇者(暴れ軍鶏? ああ、魔物の軍鶏か。ここら辺に生息しているのか)
勇者(ふーん、軍鶏にいくつか野菜がついてくるのか。ある程度セットになっているのかな)
勇者(あ、肉だけの単品もあるのか。面白いなぁここ)
勇者(それにしてもどのぐらいの量なんだろう。うーん、色々と悩むなぁ)
勇者(思いがけず肉も食べられそうだし……ここは一つ、大きく出るか)
軍鶏単品。更にモリっと結構な量の肉。
タレの種類が選べて、甘口を選択。
野菜合わせ 40G
特産の野菜盛り合わせ。ナスにピーマンに何故かきくらげも。
無料トッピングとして唐辛子、生姜やあんかけもある。唐辛子をチョイス。
甘野菜合わせ 30G
輪切りにされたかぼちゃ、とうもろこしの盛り合わせ。ソースつき。
勇者(これはちょっと早まったかな)
勇者(凄い量になってしまったなぁ)
勇者(まあ、焼いていけばそんなでもなくなるだろう)
勇者(うーん、ただ肉を焼いているだけだけどこの香り)ジュウウウ
勇者(これはいい暴れ軍鶏に違いない)
勇者(これは普通にタレにつけて)パク
勇者(うん、イケるイケる。とっても美味しいじゃないか)モグモグ
勇者(まずは軍鶏を投入して少し焼き)ジュウゥゥゥ
勇者(野菜合わせを投入っ!)ジュアァァァァ
勇者(刻み唐辛子も合わせて混ぜて)ジュァァジャッジャッ
勇者(軍鶏についてきたタレを絡めれば)ジュウウァァァ
勇者(甘辛軍鶏と野菜炒めの出来上がりだ)ジャァァァ
勇者(どれどれ、どんなもんだろう)パク
勇者「ほふっはふっ」モグモグ
勇者(うん、美味い美味い。ナイスジャッジだ、俺)パク
勇者(この弾力、一際輝いて見えるぞ)コリュコリュ
勇者(結構な量だが、注文を間違えていなかったな)
勇者(デザートの類がない店で、このカボチャととうもろこしは嬉しい)
勇者(軍鶏野菜炒めを食べている間に、こっちをじっくり焼いておくか)バララ
勇者(うーん、蓋になるものとかあれば、蒸し焼きに出来るんだけど……今更聞くのもなんだかなぁ)パク
勇者(この失敗は次に活かすか)モグモグ
勇者(そろそろこっちもいいかな)
勇者(このソースをかけて……)パク
勇者(うんうん、甘くて美味しい)モグモグ
勇者(とってもヘルシーなデザートだ)パク
勇者(はは、とうもろこしとがぼちゃの鉄板焼きがデザートだなんて)モグモグ
勇者(うん、でもこれ、とっても甘くて美味しいな)パク
勇者(でも、一人で食べるにはちょっと多いかな。まあいいか)モグモグ
勇者「ふぅ……少し、食べ過ぎたか」
勇者「今日はもうのんびりして、明日の朝やる事をやって発てばいいだろう」
勇者「それにしても鉄板焼きである良さ、あまり分からなかったな」
勇者「まあ、美味しいものを食べたんだ。そんな愚痴は野暮ってもんか」
勇者「ううっぷ、久々に美味しい野菜をたらふく食べた気分だ……」
勇者「ウォーターサーフェスあたりから、ずっと魚ばっかりだったからなぁ」
勇者「さて、ヴォルケイノの都市まであと少しだ」
日本発の洋食。
元々は具入り卵焼きのような物が、お店の賄い食として出されたのが始まりだとか。
かぼちゃ
かぼちゃの皮は日光を浴びていないと、中の実と同じ色、つまり黄色になる。
市販の物はかぼちゃの下に白い布や鏡を置く事で、前面緑色にしている。
個人的には、食べごろが完全に見極められる底が黄色いかぼちゃこそ、流通して欲しいと思う。
北海道の底が黄色いかぼちゃは格別だった。
勇者「お……見えてきたな」
勇者「ふう、ようやっとでヴォルケイノか」
勇者「思いがけず暴れ軍鶏との連戦になって収穫になってくれたし」
勇者「ウォーターサーフェスの土産もある」
勇者「いい路銀稼ぎになってくれると嬉しいなぁ」
勇者「おー、流石。この賑わいはウキウキしてくるなぁ」
勇者「暴れ軍鶏はどうしようかな。どっかの市場に売りさばくか? それとも宿屋や料理屋?」
勇者「うーん、一応までに血抜きしているとは言え、あまり出来がいい訳じゃないし……」
勇者「うん、これを売り込むのは失礼だな。適当に買い取ってくれそうな所に卸してしまおう」
「へえ、ふーん。んー……一羽で150Gかな」
勇者「そんなものですか」
「もうちょっと丁寧に処理してくれていれば200G。毛毟ってツボ抜きまでしてあれば、350Gでもいいぐらいなんだけどねー」
「でもま、綺麗に倒してはくれているからね。食材としては扱い素人の人だと、100Gいかないとかザラだよ」
勇者(なるほどなー)
勇者「料理屋か宿屋かな」ブラブラ
勇者「お……」スンスン
「いらっしゃい! 出来立ての温泉饅頭はいかがですかー!」
勇者「温泉饅頭か……たまにはいいかな」
勇者「すみません、三つ……一つずつで三つ下さい」
「はい、まいどー!」
火山と温泉のヴォルケイノ都市名物の小振りなお饅頭。
出来立てで湯気が立ち上っていてる。
味は三種、粒餡・白餡・うぐいす餡。ウグイス餡は昔ながらの緑褐色。
勇者「はふ、あぐ、あぅっあふっ」モゴモゴ
勇者「うんうん。やっぱり出来立ては一味違うなぁ」モグモグ
勇者「もっと時間に余裕があれば、色んな店の温泉饅頭を食べ歩きしたいところだけど」パク
勇者「ほふっはぅっ、またの機会にしよう」モグモグ
勇者「確かこっちに……あったあった」
勇者「古き良き老舗。この古さと手入れの行き届いた感じの建物、実に味がある」
勇者「よーし、頑張ってみるか」
「そんな物があるのか」
勇者「どうでしょうか?」
「乾物か……個人で適量を使うってものか」
「とは言えどうもなぁ」
勇者(当然と言えば当然か)
「いいのか? それじゃあちょっと試させてもらおうか」
「おーい、お湯を持ってきてくれ!」
勇者(分量は……こんなものか?)
「……ほう、お湯をかけると磯の香りが」
「どれ……」ススッ
「うん……? 思ったよりも薄いな」
勇者(少なめ、じゃないし、お湯も多くはない。となると、磯味が薄いのは、この乾物の限界って事か)
「ふーむ、海藻類のこの歯ごたえはいいな」
勇者「本当ですか?」
「これだけの物は中々買えないからな」
「この汁物用の乾物は購入しない。が、もし海藻類の乾物が手に入るのなら、そちらは十分に利用する価値があるな」
勇者「ええと、海藻類ですか」ゴソゴソ
勇者「ええ、大丈夫です。ワカメでいいですか?」
「今のところ、常時扱う事があるのはそれぐらいだし、今回はそれにしておくか」
勇者(よし、何とか商談がまとまりそう)
「価格はどんなもんだろうか?」
勇者(あそこ、かなり大雑把な売り方しているんだよなぁ)
勇者(100gぐらいで20Gだけど量がいい加減なんだよなぁ)
勇者(量を減らされる事前提として考えて……でも大口のお客さんになりそうだし)
勇者「1kgあたり350Gでいかがでしょうか?」
「なに? 350だと?!」
勇者(あ、あれ、相場そんなに外れていた?)
「買おう! 3、いや5kg買おう!」
勇者(安すぎた? まあいいか、ってそんなに使うのか?!)
「それに魔王軍との戦時下とは言え、これから繁忙期だ」
勇者「へえ、そんなに他所から来るものですか?」
「ああ。それに今だと、戦線を交代してきた兵士の方が、利用しにきたりするからな」
「火山の奥のほうだと湯治場もあるし、その中継に立ち寄る事が多いのだよ」
「おっと、興奮してついつい話を逸らしてしまったか」
「納期は何時ごろになるだろうか?」
勇者「転移魔法があるので、市場に問題がなければ明日にはお持ちします」
「それは有り難いな!」
勇者「こちらの役場には連絡用の魔石というものはないのでしょうか?」
「ああ、確かそんな物があると聞いたな。利用したことはないが」
勇者(殆ど、首都が各地の情報収集する為の施設になっているんだろうなぁ)
勇者「あちらに私の名前が登録されていますので、必要になりましたらご連絡下さい」
「おお。そうであるならば遠慮なく頼らせてもらおう」
勇者「はい。他、仕入れのご相談がありましたら、そちらもどうぞご連絡下さい」
「はは、そうさせてもらおう」
熟した青エンドウを茹でて潰し、砂糖などを混ぜて作られる。
今でこそメジロのような色だけど、本来は緑がかった暗い茶色い色をした餡子。
この色こそウグイスの羽の色である。
今は着色料でメジロ色にしているが、銅鍋で茹でるだけでも多少は緑色になる。ちょっと裏技ちっく。
ウグイス
ウグイスとメジロは混同されがち。よくあるのは梅に鶯だろうか。
ウグイスは緑がかった暗い茶色で、メジロは明るい緑に目の縁が白と全然違う。
花札だってメジロじゃん、と言うけど目が赤い鳥が描かれている通り、メジロではない。
札が栄えるようにウグイスを明るい色にしよう
↓
メジロと混同されるけど、本来のウグイスの色だと暗くて札が栄えない
↓
目を赤くして、メジロじゃないって示そう
っていう花札逸話があるとかないとか。
まあ、白い鳥だったり青い鳥だったりするけどね。花札のウグイス。
後は現実だとウグイスより、メジロの方が梅とセットで見る機会が多いってのもある。
ウグイスは肉食性の強い雑食だから、そんなに花の蜜は吸わない為、梅の木を好むわけではない。
あと、あんだけ鳴いておいて警戒心が強いのか、あまり開けた場所に出てこない。
諺においてはお互いが調和しているとか似合ったりって事であって、
実際に花咲く梅の枝に鶯が止まるって意味ではない。
この二者の調和は、お互い春を告げるものという意味である。
因みに、万葉集においても梅と鶯がセットで歌われるものが多くあるけど、
同じ光景にいるってものは見かけない(気がする)
目の前の光景だけでなく、情緒的なものを大切にする万葉びとらしい諺だよね。
その時代に出来た諺かは知らないけど。
てところで、梅に鶯じゃなくて本当は梅に目白なんだぜ
ていうのはトンチンカンな話だから信じちゃダメなんだぜ
というお話。
食事でレベルアップってオーディンスフィアしか知らなかったわ(勇者ものじゃないけど)
探してみるか
メジロはメジロで可愛いしよく庭に来てくれるけど、ウグイスの姿は見えずども鳴き声は聞こえるって風情とはまた違うんだよな
そういえばオーディンスフィアもそうね
ただあれは、食べた方が経験値多いってだけで
戦闘でも上がらない訳じゃないし。激しくマゾいけども
Lv9ヨーグルトからの地下の料理屋・喫茶店or出張レストランでどか食い美味しいれす(^q^)
食べ物ネタ
うぐいす豆なんてものもある。
ひよこ豆のように、そういう食物でなく料理名で、えんどう豆を甘煮したものである。
餡も豆もえんどう豆が原料な訳だけど、
このえんどう豆の未成熟な実があのグリーンピースである。
勇者「ふう、大口の依頼が入ったぞ」ウキウキ
勇者「しかし、そうなると夕飯はまたウォーターサーフェスか」
勇者「まあ、明日はこっちで食べればいいか」
勇者「なんか、少しずつ軌道に乗っていっているんじゃないか?」
勇者「早く誰かが魔王を抑えてくれると有り難いな」
勇者「今後は気ままな行商でもやって、生活していくのも楽しそうだな」
「お代の1750Gだ」
勇者「……はい、確かに1750G丁度頂きますね」
「それと、よかったらこれを持っていってくれ」
勇者「チケット? 一泊無料券っ」
「しーっ! 今日付けだから良ければ泊まっていってくれ」
勇者「ええと、口外しては不味いものなんですか?」
「家内に怒られる」
勇者(女将さんか何かという事か)
勇者「ふぅぅ……久しぶりの温泉、身に染みるなぁ」
勇者「何だかとっても贅沢している気分だ。他の勇者に知られてたら絶対に顰蹙を買うぞ」
勇者「まあ、たまにはこんな事もあり、だ」
勇者「これから、もう少し火山を登ったところの町に行って火山を回りこんで向こう側へ」
勇者「出来ればヴォルケイノ領の端にある町まで行きたいけどどうだろうなぁ」
勇者「状況と自分の状態次第かな」
勇者「ここでゆっくりと英気を養っていくか」ノビー
勇者「食事はなんだろうな。確か部屋に持って来て貰えるって事だったけど」
勇者「滅多にこんなところに泊まらないけども、こういう旅館にある……」ゴソソ
勇者「お茶と茶請け、本当に好き」カササ
勇者「へえ、生姜の味噌漬けが茶請けなんだ。変わってるなぁ」コポポ
勇者「こういうのは甘いものが大抵なのに」スス
勇者「うんうん、いいじゃないか」シャクシャク
勇者「もっと味がキツイかと思ったけど、中々これは」
勇者「どっかで売ってるのかな。いい物を見つけたぞ」
勇者「お、きたきた」
「夕食のご用意をさせて頂きますね」
勇者「はい、お願いします」
山菜と牛肉のすき焼き風鍋
土台に乗った小柄な鍋に、ネギやシラタキの他にゼンマイ等の山菜と牛肉が入っている。
土台には火炎魔法の魔石が置いてあり、旅館の人に火をつけてもらう。
魚の塩焼き
川魚と思しき魚をまるまる使った塩焼き。
はじかみという生姜のつけ合わせ付き。
山菜と野菜の天ぷら
ナスや芋の他にゼンマイや新芽と思しき天ぷら。
お吸い物
透明な吸い物でミツバが浮かぶだけ。とてもいい香り。
茶碗蒸し
キノコや鶏肉の入った茶碗蒸し。
器は小さめ。
勇者(しかもお米は小さ目の容器とはいえ、数杯分は入っているし)
勇者(ご飯足らずなんて事はなさそうだな)
「……」カチャカチャ ボゥ
勇者(この魔石なんかは自分でも火が付けられるけど、合えて旅館の人にやってもらうのが醍醐味ってもんだ)
「では、お鍋は火が消えましたらお召し上がり下さい」
勇者「はい、分かりました」
勇者「いや、朝食かな? 何にせよ楽しみだなぁ」
勇者「さて、何から食べようかな」
勇者「まずは天ぷら」サクッ
勇者「ほほぅ、これはいい揚げ具合だ」サクサク
勇者「山菜の天ぷらも、食べた事がなかったけども」サクサク
勇者「うんうん、美味いじゃないか。山菜、侮っていたな」モグモグ
勇者「いかんぞこれは。これだけあってもご飯が足りないんじゃないか?」モグモグ
勇者「このいい香りに、口の中に広がる旨み。一体なんだろう、見当もつかないや」
勇者「商談の時から思ったけどもあの人、研究熱心なんだろうな」
勇者「具なしでこれだけ満足する汁物って、そうそうないんじゃないかな」ススゥ
勇者「この魚の塩焼きもなんて美味しそうな事か」パク
勇者「塩がきつ過ぎず、それでいて薄すぎず。なんて絶妙なんだろう」モグモグ
勇者「そしてこの白とピンクの何かの植物の付け合せ。これとっても大好きだ」パク
勇者「味的に口直しか何かなんだろうけど、ついつい普通に食べちゃう」モグモグ
勇者「鍋もいい頃合か」
勇者「火が消える前に手を付けるのは、邪道なんだろうけども」パカッ
勇者「食べてる内に冷めさせてしまうのはもっと邪道だろう」
勇者「この牛肉が何枚も入った鍋。中々お目にかかれないぞ」
勇者「それに負けずと盛りだくさんの野菜と山菜も泣かせてくれる」
勇者「まずは挨拶代わりの牛肉」パクパク
勇者「うーん、美味い! これはいい肉だ」モグモグ
勇者「噛む度に溢れる、味付けを押し返さんばかりの脂と旨み。堪らないな」パクパク
勇者「ああ、困ったぞ。もうご飯の二杯目が終わってしまう。まだ料理は半分近く残っているというのに」
勇者「牛肉の旨みを吸っていていい感じじゃないか」
勇者「この何の為に入っているか分からないシラタキも」パク
勇者「今一美味しさが分からないのに、嫌いになれない存在感」モグモグ
勇者「ううん、やっぱりご飯の量が足らないな」
勇者「とは言え、これに更にご飯そのものをおかわりって訳にはいかないし……」
勇者「何よりそこまで食べきれないだろうし」サスサス
勇者「少し、ご飯のペースを落としていくか」パク
勇者「うぅ、げふぅ……流石に腹9分だ」
勇者「さて、最後に茶碗蒸しだ」カポ
勇者「うーん、この見た目普通の茶碗蒸し」パク
勇者「おぉぅっ! やっぱり美味しいっ!」
勇者「何だろう? やっぱり卵に混ぜるだし汁とかが違うのかな」パクパク
勇者「くー、これがこんな小さい器なのが悔やまれるなぁ」パクパク
勇者「お、これこれ。この銀杏。これがなくちゃ茶碗蒸しじゃないな」パク
勇者「ふう……大満腹だ。腹がはち切れそう」
勇者「タダ券だし、これで一番安い設定なんだろうか」
勇者「だとしてもこれ、軽く700Gは超えるんだろうなぁ」
勇者「一泊二食つき。下手したら1000G……いや、老舗だしもっといくかも……」
勇者「堪らない贅沢だ。あのワカメの乾物、高値で吹っかけたとしても、こっちの方が大きいぞ」
勇者「まあ、暴利を貪るような卑しい真似をしなくたって、強いアドバンテージがあるんだ」
勇者「この調子で得意先を増やしていくのが一番いいのかもしれないな」
勇者「ふう……ふう……」
勇者「相変わらずここは険しいな……」
勇者「うーん、これは上のほうまで行く余裕はないかもしれないな」
「ホロロロロ」
勇者「お……」
ヒクイドリ「ロロロ……」ガサガサ
勇者「ヒクイドリ。珍しいなぁ。確か絶滅危惧種の魔物だったっけ」
勇者「もうヴォルケイノ火山にしかいないんだよな」
勇者「国際条約で保護されているし、獲ったら密猟だからなぁ」
ヒクイドリ「……」バサァッ
勇者「行ってしまったか……」
勇者「お、羽か……随分と形の良い。お小遣いぐらいにはなるかな」サッ
勇者「さて、良いものも見れたし行くとするか」
勇者「え? 音信不通?」
「ああ、そうだよ。どうにも謎なんだよなぁ」
「ここから山を、ぐるりと回るルートなんてそう危険はないはずなんだが」
「既に4組ぐらいの勇者様方の消息が不明だ」
「一番初めで3,4週間前にここを経ったのに、他の町に到着した様子がないときていてねぇ。何が何やら」
勇者「どうゆっくり行っても、何処かしらの町には着いていますよね。もしや、役場に寄っていないだけでは?」
「一応ね、宿屋を利用すれば役場に知らせをよこす決まりなんだよ」
勇者「なるほど」
「まあ、うちの国出身の勇者様限定で把握しているだけさ」
「君が利用した記録自体は残っても、何処の町を何時出たとかは見てないよ」
勇者(それはそれで世知辛い)
勇者「しかし、気になりますね」
「ああ……。そうなんだよ」
「ここら辺でいるのなんか、ヒクイドリと暴れ軍鶏ぐらいなもんだが」
「ヒクイドリは臆病だから襲ってこないし、暴れ軍鶏だってそこまで危険な魔物じゃないし」
「あとは滑落ぐらいか? しかし、四組全員が滑落というのも妙な話だし」
勇者(もっと山頂ならいざ知れず、こんな中腹でか。一体何が起こっているんだろう)
勇者(しかし、流石にそれは面倒だな)
勇者(とは言え、四組か。偶然ではない数だよな)
勇者「その間に抜けて行った勇者はいますか?」
「いいや。初めの行方不明から残り三組以外は通貨していないよ」
勇者(という事は全員か)
「あ、ああそうだ。もう一組いるよ。と言っても今朝、出発したばかりなんだけどな」
勇者「今朝ですか。分かりました、情報提供ありがとうございます」
勇者「しかし、追いついたとしてどうする?」
勇者(……)
勇者(……)グゥゥ
勇者「腹が減ったな……」
勇者「よし、まずは腹ごしらえからだな」
勇者「料理屋も一軒しかないし、さくっと食べて出発しよう」ガチャ
勇者(さてさて、何があるかな)
勇者(野菜類の炒め物多し、かな。畜産はからっきしかな)
勇者(うん? ヒクイドリの料理がある? え、嘘だろ?)
勇者(本当かな? ううん、信じられない)
勇者「あの、すみません。このヒクイドリって」
「はい、本物ですよー」
勇者「ほ、本物……」
勇者「と、言いますと?」
「ここではヒクイドリの養殖を行っていて」
「毎年、何十羽も野生に返しています」
「条約上で取り決められていまして、こちらで育てて野生に返した数の一割を獲っていい事になっているんです」
勇者「へえ、そうだったんですか」
「それなんで、飽くまで一割を家畜として飼い続けているんですよ」
勇者「なるほど……では」
スープと漬物がセット。値段の割りにかなり大きめの丼。
ヒクイドリの肉と卵だけのシンプルな親子丼。
スープは真っ赤なマグマ草と玉ねぎのピリ辛スープ。
勇者(ほほう。こう来たか)
勇者(しかし、随分と安いものだ。かといって肉や卵の量が少ない訳じゃない)
勇者(何とも太っ腹なものだ)パク
勇者(ふむふむ……こういう味か)モグモグ
勇者(美味しい。確かに美味しいが、何か物凄い感動する味という訳じゃないな)パク
勇者「急いで消耗品を補填して出発しないといけないな」
勇者「しかし、これで何か変なものに遭遇したら……」
勇者「ううん……いくつか保険をかけて置いたほうがいいかもしれないな」
勇者「ここの地方でよほど危険な魔物か……」
勇者「レッドグリズリー? フレイムアナコンダ? ヴォルケイノドラゴンもいたか」
勇者「マグマサラマンダーも超危険魔物だよな。しかし、どれもこれももっと上、というか」
勇者「火口付近に生息しているんだよなぁ。こんな中腹で生きていけるもんなのかな」
勇者「というか……ヴォルケイノドラゴンなんか現れたら、必然レベルで死ぬよなぁ」
勇者「……ふう」ザッ
勇者「急いで来てみたけど、それらしい痕跡は何もなかったな」
勇者「まあ、半日で着ける範囲に居るわけがないな」
勇者「今日のところはここら辺で休んで、明朝早くに出発するか」ガツ
勇者「なんだ? 黒い石? 随分と細長い楕円形だな、珍しい」スッ
勇者「手が黒く……? これ、炭か?」
勇者「楕円の炭。人より一回り二周り小さい……」
勇者「! これは死体か!」ゾクッ
勇者「戦って焼かれた訳じゃない? いや、そうか。ここまでじっくり焼く必要ないもんな」
勇者「じゃあ別に理由でか? 一体なんだ? もしかして炭にする事で何かしたかった?」
勇者「あ……フレイムアナコンダに食われたものは、炭になって排出されるって聞いたような……」
勇者「フ、フレイムアナコンダなのか?」ゾゾゾォ
勇者「こ、ここ、こんな場所に?!」
勇者「ま、不味い、野営なんてしている場合じゃないぞ」カラカラ
勇者「石が転がってきた? この上の方?」
勇者「ま、まさか既に上に……」ゾゾォ
勇者「うわっと!」バッ
魔法使い「う……」ボロボロ
勇者「大丈夫ですか?! 治癒魔法!」パァ
魔法使い「あ、あんた、魔法が、使えるのか……」
勇者「少しですがね」
魔法使い「逃げ、ろ……フレイム、アナコンダが……」ガラ
女勇者「くうう!」ズザザザ
僧侶「きゃああ」ゴロゴロゴロ
勇者(更に二人……他の人はいるのか……うん?)ヌゥ
フレイムアナコンダ「……」チロロ
勇者「っ!」ゾゾォッ
女勇者「あたし達の事はいいから逃げてくれ」ヨロ
勇者「他に人は?」
魔法使い「戦士が、いたよ」ヨロヨロ
勇者「過去形……食われたか……」
勇者(だとしたらそれはそれで不味い。フレイムアナコンダは、一度に大量に食す事はないが)
勇者(腐肉だって食べる悪食。食いきれない獲物は足を潰して、逃げられないようにして放置するという)
勇者(転移魔法を使うにしても、行使するのに準備をする時間がかかる。この人達じゃ、時間稼ぎももう……)
勇者(退いてトラップを仕掛けてから転移魔法……ダメだ。とても時間を稼げそうにない)
勇者(しかも複数匹いないとも……いや、一ヶ月で四組。一匹でないと考えるべきだ)
勇者「逃げ切れないでしょうね。俺も戦います」
女勇者「犬死だよ」
勇者「逃げてもさほど変わりませんよ。ならばこそ、可能性がある方に賭けます」
勇者(この人は殆ど魔力が残っていなさそうだ)
勇者(魔法使いの人ももう余裕がなさそうだし、きっついなぁ)
勇者「一先ず、治癒魔法、治癒魔法」パァァァ
女勇者「! 凄いな、治癒魔法が使えるのか?」
僧侶「うう、すみません……」
勇者「氷系の魔法は使えますか?」
魔法使い「氷石魔法が二発、それが限界だ」
勇者(出来れば体温を奪いたいが……それと自分が合わせてもろくな効果はないな)
魔法使い「ああ、分かったよ」
女勇者「勝算があるのか?」
勇者「逃げる算段なら、ですね」
勇者「あれは恐ろしい精度の熱感知能力を持っています。その代わり目などはほぼ見えていません」
勇者「そこを利用して逃げる隙を作ります」
勇者「ついてきて下さい。魔法使いの方もです」
魔法使い「あまり、素早く動けないぞ……」
勇者「織り込み済みの作戦です」
魔法使い「氷石魔法!」ドガガガ
フレイムアナコンダ「シャアアァァ!」ズガガガ
フレイムアナコンダ「シィィィ」チロロロ
勇者「警戒した……今のうちに!」
女勇者「た、戦わなくていいのか?」
勇者「近づいても死ぬだけです。本来あれは、魔法兵の部隊で討伐する魔物ですよ」バッ
青い魔石「」カラコロ
僧侶「……氷魔法の魔石?」
勇者「急いで下さい」
赤い魔石「」バラララ
女勇者「ど、どんだけ魔石を持っているんだ」
勇者「小さく砕いたものですよ。今のところ、全部合わせても4000Gにはなりません」
僧侶「よ、よん……!」
魔法使い「ぐ、すまないな」
勇者「自分の命がかかってますからね」
フレイムアナコンダ「……」チロロロ
フレイムアナコンダ「……」ズルズル
勇者「もう一発お願いします」
魔法使い「ああ、氷石魔法!」ドガガガ
フレイムアナコンダ「……」ヒョヒョイ
僧侶「よ、避けた……」
フレイムアナコンダ「シャーーー!」バッ
勇者「距離がありますからね……ですが」スィ
青い魔石「」カッ
噴水「」ッドオォォン
フレイムアナコンダ「シャアアア!?」
勇者「噴水魔法ですよ。当て辛いんでメジャーではないですが、かなり有力な魔法です」
魔法使い「驚いたな……初めて見たぞ」
僧侶「威力が地味なんですよね……」
勇者「しかし、フレイムアナコンダほどの知能があると、警戒してくれるんですよ」
フレイムアナコンダ「シイイイイ」チロロロ
勇者「さあ今です! 散り散りになってあの大きい岩まで移動!」バッ
女勇者「わ、分かった!」
赤い魔石「」ガラカラカラ
僧侶「はあっはぁっ!」
魔法使い「そうか……大量の赤い魔石に複数のルート」
勇者「私一人での単独でしたら、もっと接近されて効果がありませんが、これだけ距離が取れれば」スッ
赤い魔石「」カッ
炎「」ボォォォン
炎の壁「」ゴオオォォ
吹き上げる炎「」シュゴオオオ
女勇者「しかし、この炎の地帯を越えられたら、すぐにこちらを見つけるのでは?」
勇者「ええ、なんでダメ押しでこうです。複合魔法・フランベ!」ゴォォ
火の海「」ゴアアァァァァ
魔法使い「随分と才能があるんだな」
勇者「というより勤勉の賜物ですかね。中級魔法は扱えません」
僧侶「……辺り一面が炎の海で凄いと思ったんですけど、火力低いんですね」
勇者「複合魔法はそれだけで強力とされる中、全然強力にならないため、このフランベを習得する人は殆どいません」
女勇者「しかし、あの魔物には」
勇者「ええ、追走を妨げる効果は絶大。どちらの方角に敵がいったのかも分からないまま」
勇者「道標の高温の地帯を彷徨う事になります。とは言え、運よくこちら側に出てくる可能性もありますが」
女勇者「……正直、仲間を見捨てるのは心苦しいよ」
女勇者「しかし、少し交戦すれば分かる。あんな化け物を倒して腹を掻っ捌くなんてね……」
僧侶「今こうして生きているだけでも不思議なほどです」
魔法使い「とは言え、これからどうしたら……このまま町に進んでいいものなのか?」
勇者「追跡が振り切れていないのなら、今晩中に追いつかれますよ」
勇者「町に連れ込んでしまう危険性で言えば、他にもいるであろうフレイムアナコンダに見つかる事です」
僧侶「ほ、他?」
勇者「流石にあの一匹だけが下りて来たとも思えませんしね」
女勇者「あたしもそう思うよ」
勇者「準備さえあれば、あと数名いれば討伐できなくもないでしょうが、如何せんあちらの数が分かりませんし」
魔法使い「転移魔法が使えるのか?」
勇者「ええ。その為にも、フレイムアナコンダから逃げ切らないといけなかった訳です」
女勇者「魔法使いは使えないんだよな? それでも初級魔法、なのか?」
勇者「うーん、そうですね。厳密に言えば中級魔法ですね」
魔法使い「手間がかかる魔法なんだよ。それで習得にも無駄に時間がかかる」
魔法使い「おまけに一日一回しか使えない」
魔法使い「だから利便性の割に使える人間が少ないんだ」
僧侶「ですよね……」
勇者「術者と一緒に転移するのであれば、4,5人程度は難しくないんですよ」
勇者「ちょっと手間が増えるだけです」
魔法使い「あ、そういえばそうだったか」
僧侶「転移魔法……行うのを見るのは初めてですが、どのようにするのですか?」
勇者「まず魔方陣を描きます」
女勇者「魔方陣?! 随分と珍しいな」
勇者「これが中々普及しない一因ですね」
勇者「魔力の消費量や、術後の体調などに大きく影響を与えます」ガリリリ
女勇者「め、面倒臭そうだな」
魔法使い「そう、じゃないんだよ」
勇者「更には転移する場所までの距離によっても変わります」
勇者「ここら辺はかなり大雑把でも問題ないですけどね」
魔法使い「ここで挫折した」
僧侶「複雑……」
勇者「更には道中の地形も影響します」
勇者「ここからなら距離は短いですし、大きな森などがある訳でもないので描くものは少なくて楽ですね」
女勇者「う、うへぇ……」
勇者「北の方角に描いたこれに自らの血液を垂らし、南に他の動物、魔物でもいいので血や肉などを置きます」
勇者「数分待って、今度は内部の陣に魔法水を……」
20分経過
勇者「これで魔方陣は完成です」
女勇者「うわぁ……」
魔法使い「凄いスムーズでも20分か……」
僧侶「これ……慣れていないと魔方陣を描くだけでも……」
勇者「かなりかかりますよ」
女勇者「普及しない訳だ」
勇者「到着です」
女勇者「す、凄い。一瞬で……」
魔法使い「発動させるまでが長いからなぁ」
僧侶「とにかく役場へ行きましょう」
勇者「それでは自分はこれで」
女勇者「え? ま、待ってくれ、せめてお礼を」
勇者「いえ、自分一人でしたら、転移魔法を使う余裕も作れなかったでしょうし」
勇者「共闘と考えて頂いていいですよ」
魔法使い「引き止めるのも悪いよ」
魔法使い「何はともあれ助かったよ。本当にありがとう」
魔法使い「君の考えはどうあれ、何時か礼を返すよ」
勇者「そうですか? では、その時まで死なないように気をつけます」
僧侶「……戦士さん」
勇者「あ、すみません……」
女勇者「落ち込むなとは言えないが、生き残れた奇跡を噛み締めるんだ」
魔法使い「仲間一人を盾に、ね」
勇者「はい?」
魔法使い「女勇者」
女勇者「……」
魔法使い「君をPTに誘うつもりなだけだよ。でも一人で旅をしているのには訳があるんだろう?」
勇者「……ええ、まあ」
魔法使い「ただでさえ、グリーンレイクの勇者がこんな所に一人でいるんだ」
魔法使い「誘うだけ野暮ってもんだよ」
勇者「お気遣いありがとうございます」
魔法使い「ああ、また何処かで」
勇者「しかし、フレイムアナコンダか……。生還できたのは本当に運がよかった」
勇者「とは言え、フランベの有用性も実証できたし、悪くはなかったな」
勇者「問題は一部ルートが閉鎖された事か」
勇者「フレイムアナコンダは、大きな集団に対しては警戒をするから」
勇者「何もなしに町へは行かないだろうからいいものの」
勇者「うーん、あまりヴォルケイノ火山の付近で行動したくないな」
勇者「商業都市からソードフォレストに向かうか」
勇者「一先ず今日は宿屋に向かうか。もう疲れたなぁ」ファ
勇者「ふう、疲れた」グデー
「お待たせしました、こちらが今晩の食事となっています」コトッ
勇者「お、きたきた」ムクリ
暴れ軍鶏のチリンドロンソース煮
赤いトマトのソースと鶏肉の料理。
たまねぎやピーマンなどがみじん切り・短冊切りにされて入っている。
勇者(二食連続で鶏肉か。まあ仕方もなしだな)
勇者(野菜と一緒にトマトソースで煮たものなのかな)ゴクリ
勇者(うーん、いい香りだ)パク
勇者(うんうん、美味い美味い)モグモグ
勇者(チリンドロンソースか。なんか、へんてこりんな名前だなぁ)モグモグ
勇者(しかし美味いな。このソース、パンとの相性も抜群だぞ)パク
勇者(かなり冷静に対応していたけど、多分それは自身の命も危機に瀕していたから)パク
勇者(今頃、苛んでいる事だろう)モグモグ
勇者(やはり、身一つで身軽でいるほうが、抱え込む事が少なくていいな)パク
勇者(いかんいかん、もっと味わって食べねば勿体無いな)モグモグ
勇者(暴れ軍鶏もしばらくお別れだしな)パク
勇者「ふう……美味かった」ドッカ
勇者「もっと……戦術も考えないとこの先……」ウトウト
勇者「とは言え、物資に頼った戦法も……」ウトウト
勇者「ふああ……今日はもう寝よう」
勇者(それに……この後は……魔王城? 自殺と変わら……なら、何処へ)
勇者(それも……後で……考え……)スゥ
デミグラス
フランス語で正確にはドミグラスと言い、ブラウンソースを煮詰めたものの事。
ブラウンソースは、小麦粉とバターを茶色になるまで炒めたルーを、ブイヨンで溶かしのばしたソース。
ドミは半分、グラスは氷という意味。
但し料理に使う時は、煮こごりや煮詰める、単純に氷菓子等の意味になる。
亜人ちゃんは語りたいのデミってそういう事なんかね。
チリンドロン
スペイン・アラゴン地方の郷土料理でかなりポピュラーなソースらしい。
Wikiだと焼いた鶏肉からにじみ出る脂を使うらしいけども、
調べてみるとトマトやタマネギ、ピーマン。オリーブやニンニクにパプリカ等を炒め煮したソースっぽい。
トマト煮したもの・少し煮込んだただのトマトソースを、チリンドロンと称するものも見かけるけど、
流石にそれは簡略し過ぎで正しくないんだろう、と思う。
勇者「うーん、いいところだ」
勇者「ここら辺はまだそこそこの森だから、森林浴にももってこいだな」
勇者「ここから先はより鬱蒼とするからな」
勇者「しかし、ソードフォレスト。あまり深くには行った事がないんだよな」
勇者「一体、どんなものがあるんだろう」ワクワク
勇者「ふふ、もう心はすっかり商人だ。勇者にさせられた時はげんなりしたが」
勇者「かなり良い機会だったな」
勇者(最も、肝心の魔王がなぁ)
勇者「なんだこれ……へえ、シイタケ栽培キットか」
勇者「ちゃんと育つのかな、これ」
勇者「試してみたいけど、移動しながらは使えないしなぁ……」
勇者「一応、そういうものがあるってだけでも知っておけば、何時か役立つのかなぁ」
勇者「それにしても、結構色んなキノコの原木栽培ってあるんだな」
勇者「ふーん、結構難しそうなものもあるんだな。そこまでお手軽って訳じゃないんだ」
勇者「やはり、ソードフォレストは木材を使った物も多くあるなぁ」
勇者「ここら辺にしておくかな」
勇者「腹も減ったし……キノコだな。キノコが食べたい」
勇者「キノコパスタもいいしキノコグラタンもいいな」
勇者「よし、お店を探すか」
勇者「しかし、あまり広くない町だし、そう何件もないんだろうなぁ」
勇者「あの」
「はい?」
勇者「何処か、食事が出来るお店ってありますか?」
「ああ、それでしたらこの道を真っ直ぐ行って、突き当たりを右に曲がった所にありますよ」
普通の木造建物
勇者「ここ、かな?」
勇者「ううん、全くもって店にすら見えない」
勇者「でも、他にそれらしい建物もないし……」
勇者「しかしこうも様子が分からないと、中々入りづらいな……」
兵士A「ふー食った食った」ガチャ
兵士B「ごちそーさん」
勇者「……」
勇者「町の兵士でも気軽に入れるお店、なのかな」
勇者「よし」
「いらっしゃい」
勇者(中は喫茶店っぽいんだな……ちょっと意外だ)
勇者(キノコ豚炒めミートパスタ。とてつもなく美味しそうだ)
勇者(キノコたっぷりクリームシチュー! 冬場だったら間違いなくこれだな)
勇者(へえ……各種キノコの網焼きか。これはこれでそそるなぁ)
勇者(よく見ると使われているキノコもちゃんと明記してあるんだな)
勇者(この吸い物はムキタケが使われているのか。食べた事がないな)
勇者(うん? ヤマブシタケの卵スープ?)
勇者(ヤマブシタケって凄い珍しいキノコじゃないのか? 栽培方法が確立されているのか)
勇者(食べる機会なんてないしな……)
ソードフォレスト固有種の豚のステーキ。
大きなシイタケとポテトが一緒に焼かれている。
ヤマブシタケの卵スープ 40G
鶏がらを使ったスープで、小さくほぐしたヤマブシタケが浮いている。
希少の割りに安価。
勇者(これがヤマブシタケ……何ていうか、何だろう)
勇者(味はどうだろうか)スス
勇者(う……これはまたキノコ臭というか風味が凄いな)
勇者(ちょっと、キノコ好きの上級者じゃないと食べ辛いな、これ)
勇者(けど、これだけ細かくても弾力があるのは嬉しい。中々の食べ応えだ)
勇者(うんうん、肉厚だし美味いし文句なしだ)モグモグ
勇者(付け合せのポテト、ちょっと量が少ないところは気になるが)
勇者(この大きなシイタケでカバーだ)キコキコ パク
勇者(しかし、このシイタケ肉厚でとっても美味いな)モグモグ
勇者(何だか、全体的に弾力のあるものばかりになってしまったな。思った以上に腹が膨れそうだ)
勇者(それに今更だけどこれ、ポテトよりシイタケの方が物量多いんじゃないか?)
勇者(もしかしてキノコ料理のレシピとか、どっかでまとめられていないかな)モグモグ
勇者(キノコ豚炒めミートパスタ、売れるんじゃないか?)パク
勇者(うーん、転移魔法が使えるとは言え、取り扱いの幅が広がり続けて行くのは……)ススゥ
勇者(異次元収納魔法だっけ。魔法で存在しない空間を作り、そこに物を出し入れする魔法)モグモグ
勇者(使える人なんて、殆どいないらしい超上級魔法……使えたらいいのにな)
勇者(ふふ、それでするのが行商人だなんて、魔法使いの人でなくても卒倒する話だ)
勇者「しかし、これからはキノコ料理ばかりになるだろうからなぁ」
勇者「ソードフォレストの人達は、どうやって飽きもせずにいるんだろう」
勇者「うん、この旅でそれも知っておかないと」
勇者「後でどっかのお店で聞いてみようかな」
勇者「キノコを飽きずに食べ続ける方法を聞きながら食べるキノコ料理。はは、なんだか滑稽だな」
勇者「ふう……ふう……」
勇者「まだまだ奥地でないはずだけど……ここら辺は随分と鬱蒼としているな」
勇者「そういえば、ここら辺って……確かサキュバスがいるんだったっけ」
勇者「聞いた話だと、上手く共存関係になっているとか……どういう状況なんだろ」
勇者「まあ、元々人をとって食う存在じゃないし、逆に有り難がる人もいるだろうし」
勇者「言うほど大変じゃないんだろうな」
勇者「へえ……意外と広い。元々開けた場所じゃなかったんだろうな」
勇者「先人の開拓の功績か……こういうところ、好きだな」
勇者「それにしてもサキュバス、全く見かけないな」
勇者「会った事がなかったから期待していたんだけどなぁ」
勇者「まあ仕方なし、か」
勇者「いつも通りにやるとするか」
勇者「それに勇者情報もあんまりだな……」
勇者「森の北にいる巨大アナコンダ注意とかあるけど、地元の人間だし危機管理は十分なんだろう」
勇者「あまり悪い話がないもんだ」
勇者「ともすれば逆に、自分が引っかかりかねないのが怖いところだなぁ」
勇者「一先ずソードフォレストの首都まで目指すんだ。ちゃんと魔物の情報を集めていかないと」
勇者「ソードフォレストの中でも、比較的移動が手間な位置らしいし、もっと行き来しやすい」
勇者「大きい町に出てから、だな」
勇者「そうと決まれば今日は早めに休もう。まずは腹ごしらえだ」
勇者「と言っても、さっきから探してはいるけども、全くそれらしい店がない」
勇者「一体何処だ? この間と同じパターンか?」キョロキョロ
勇者「お、あそこはお店っぽいな」
勇者「というか、これで殆ど一周したのか……とりあえず、入ってみるかな」
勇者「そうなんですか?」
「道中大変だったろう。滅多に外から人は来ないよ。商人とか、ここに来る明確な理由がある人でもない限りにね」
勇者「なるほど……うん?」
勇者「このメニュー……あの、ここって食事って出来ないんですか?」
「あー悪いね。食事は宿屋が料理屋を兼任しててさ。ここは食材販売がメインの喫茶店みたいなもんだ」
勇者「はあ……そうでしたか」
勇者(うーん、困ったな。今は腹が減っているから料理が食べたいんだが……)
勇者(何も買わない頼まないは気が引ける)
勇者(適当にお茶して、宿屋でがっつり食べるか)
勇者(先にデザートというのも変な話だなぁ)
勇者(ケーキ三種にプリンにゼリーがちょっと。圧倒的に種類が少ない……うん? サキュバスプリン?)
勇者(どういう事だろう? サキュバスが従業員? うーん、これは面白そうだ)
勇者(ちょっと冒険気味ではあるけど、敢えて聞かずに頼むのが道理だな)
コーヒー 10G
到って普通のコーヒー。しかし安い。
サキュバスプリン 70G
超巨大なお○ぱい型のプリンで乳首もちゃんとある。納得の名称だけどトラップ。
巨大プリンの所為で小さく見える生クリームとさくらんぼが、脇に添えられている。
あまりの大きさに高いのか安いのかよく分からないけど、作る手間を考えると多分安い。
勇者「」
「まあなんだ、滅多に他所の人が来ない楽しみってもんよ」
「因みに頼まなかったら、強めにオススメしている」
「大抵の人は興味本位で頼んでくれるよ」
勇者「でしょうね」
勇者(しかしこの量、食事がいらないほどだ)
勇者(……よし、食べるか)プリュン パク
勇者(!)
勇者(なんだこれ! まったりとしたコクであり、しつこ過ぎない。凄い美味しいぞ)
勇者(これはとんでもない物だぞ)プリュパク
勇者(にしても、ソードフォレストってそこまで畜産が高い訳じゃないはず)パクモグ
勇者(一体何のお乳を使ったらこんな美味しいプリンができるんだろう)ススゥ
勇者(コーヒーは普通だな)
勇者(しかし、何とも手が止まらないプリンだ。堪らない、堪らないぞサキュバスプリン)
勇者(これは良いトラップだ。かかって得する。素晴らしい)
「はは、まいど」
勇者「うーん、腹がぱんぱんだ」
勇者「せめて、もうちょっと中腹の町で、キノコ料理の口直しに食べたかったかもしれない」
勇者「まあ、不満はないけども」
勇者「しかしこれは……確実に太るな。恐ろしい食べ物だった」
勇者「え? ええ、そうですが……何故?」
女性「ふふ……」スゥ
サキュバス「あたしがサキュバスだからよ」
勇者「……」
サキュバス「……え、何その反応」
勇者「答えになっていないので、その点については不満ですが」
勇者「町人として共存している事に軽く感動を覚えています」
サキュバス「え、あ、はい……え、そこなの?」
サキュバス「貴方からあたし達サキュバスと同じ魔力を感じたからよ」
勇者「どういう事ですか?」
サキュバス「あれはあたし達の母乳よ。だから摂取すると一時的に、あたし達の魔力を帯びるの。僅かにだけどね」
勇者「母乳……出るのですか?」
サキュバス「そりゃあ勿論。少し魔力は消費するけども、子を産まずとも出るわよ」
勇者「へえ、知らなかった。ふーむ、サキュバスのお乳で作った巨乳プリン、面白い事考えるなぁ」
サキュバス「だから何で反応するのがそこなの?」
勇者「唇舐めながら言われましてもね。この腹具合ですと、正直のんびりしていたいですし」
サキュバス「何この人ブレない」
勇者「むしろ談笑等の方がいいですね。ああ、そうだ。サキュバスの方はどういう食生活を?」
勇者「精だけですか? 必要な道具や欲しい物ってありますか?」
勇者「転移魔法ありますので、各地の特産や材料を販売致しますよ」
サキュバス「何なのこの人」
サキュバス「はい、1000G」
勇者「どうも。しかし、これだけの魚油、どうするんですか?」
サキュバス「美容にいいのよ。ウォーターサーフェスでも、一部でしか作られていないから」
サキュバス「そこの町に行った事がある人で助かったわぁ」
勇者「サキュバスなら精さえしっかり取っていれば、美容を気にする必要がないのでは?」
サキュバス「まあね。でもケアを疎かにしていい理由にはならないわ」
勇者「なるほど」
サキュバス「仲間に売るのよ」
勇者「堂々と転売宣言ですか」
サキュバス「サキュバス相手に、一切抱く気が起きない変人が何言っているのよ。そっち趣味?」
勇者「そういう訳ではないです。そもそもサキュバスの方とは基本、一夜の恋というのも理解しています」
勇者「が、自分はそうした事はもっと真摯に向き合いたいですし、あまり抱える物を多くしたくないのです」
サキュバス「面白い矛盾を言うわね」
勇者「不器用なだけですよ」
サキュバス「ふんふん」サッ
勇者「自前で持っているんですか……」
サキュバス「あたし達からしてみれば、こんなの簡単に作れるしねー」
勇者「へえ」
サキュバス「まあ、元の現物がないと、そっちの魔石の所持者と繋がる物は作れないけれどもね」
サキュバス「あ、あったあった。ま、何かあったらまた連絡するわー」
勇者「ええ、またのご利用お待ちしています」
勇者「出来ればまた話でもして、欲しそうな物を発掘したいものだ」
勇者「逆にこちらから魔法関連で頼む事もあるだろうし……」
勇者「……」
勇者「全ての魔族とこうして交流がなされれば、色々と発展していくのだろうけど」
勇者「まあ、難しいんだろうなぁ」
勇者「何時か、魔王の国の人とも接点を持ちたいものだなぁ」
キノコの一種で白いボンボンみたいな形をしている。
クヌギ・クルミ・シイなどの広葉樹に生える。
広く北半球温帯以北に分布しているが、天然は珍しく中々お目にかかれない。
名前の由来は、子実体が山伏の装束にある梵天というのに似ているからだそうな。
ウサギタケ、ハリセンボン、ジョウコタケなんて呼び方も。
生薬としても利用されていて猴頭という名称。
認知症や更年期障害等への効果が期待されているが、臨床と成分・メカニズムの解明は不十分らしい。
中国では四大山海の一つで、特別な香りや味はないため、スープや吸い物に適している。
卵の中華スープにしてみたけど、めっちゃキノコの風味きつかったんですが。品質の問題?
尚、スーパーなんかでも気軽に買える。群馬だからか?
勇者「それにしても、この辺りは薬草が豊富だなぁ」
勇者「少し調合しておこうかな」
勇者「流石にソードフォレストで売っても、大した額にはならないだろうから」
勇者「自分で使うか、他所で売ってしまおうか」
勇者「まあ、かさ張る物でもなし。時間の許す限り、集めておくか」
勇者「しかもよく見ればココの実もあるじゃないか」
勇者「もう少し熟すと美味しいんだよなぁ。うーん、タイミングがズレてしまった」
勇者「これは毒食み草か。ちょうど実もついている……」
勇者「潰すと恐ろしく臭いから取り扱い注意だけど、毒を持つ生物を返り討ちにできるんだよなぁ」
勇者「……」
勇者「えい、背に腹は代えられない、これも採集だっ」
勇者「すっかり暗くなってしまったなぁ」
勇者「情報収集は明日にして、どっかで食事をしてから宿に向かってしまおう」
勇者「というか、明るい建物自体が少ないな」
勇者「ここの人達は夜はすぐに寝てしまうのだろうか?」
勇者「……そうか、この辺りから狩人が多くなるんだっけ。なら納得かもしれない」
勇者「ともすれば、まだ明かりがあるような所は、お店の可能性が高いんだな」
勇者「後は酒場っぽいところとあれは宿か? あそこは……道具屋か?」
勇者「流石に、この時間に酒場に入るのは勇気がいるし……」
勇者「ともすれば悩む間もなしっ」グッ
「おや、こんな時間に珍しい」
勇者「まだやっていますか?」
「ええ、やっていますよ、ご自由におかけ下さい」
勇者(肉という事はやはり狩人が活躍しているのかな)
勇者(ほーキノコの肉詰めっ。これは美味そうだな)
勇者(うん? ラージフラットのステーキ? なんだこれ)
勇者(魔物? 部位? 聞いた事がないなぁ)
勇者(しかもステーキなのに70G。小さいのかな。ラージなのに)
勇者(しかし、気になるな。うーん)
勇者(よぉし、今日は肉とキノコ、これだな!)
巨大キノコのステーキ。大人の手ぐらいの大きさ。
シンプルにグリルで焼いたものにガーリックソースがかかっている。
マッシュルームのアヒージョ 25G
マッシュルームと野草が入ったアヒージョ。
可もなく不可もなく。
勇者(うーん、これは)
勇者(ラージフラット、想定外にキノコだった)
勇者(いかんな、キノコがダブってしまったぞ)
勇者(しかも、何というか、香りがいい)スンスン
勇者(食べてみるか)キコキコ
勇者(ナイフとフォークでキノコを食べる日が来るとは。分からないものだな)パク
勇者(ほほう、こんな感じか。悪くない)モグモグ
勇者(キノコにガーリックソースだなんて、ただのソース味かと思ったけども)キコキコ
勇者(主張し過ぎず、キノコの香りを引き立たせている。こんなキノコ料理、初めてだぞ)モグモグ
勇者(うん、これは普通だな)モグモグ
勇者(けど、野草が入っていてこの味か。もっと苦味が強いかと思った)パク
勇者(安定した味、って感じか)モグモグ
勇者(しかしどっちを食べてもキノコ)キコキコ
勇者(何だか堂々巡りをしているようだ)モグモグ
勇者(とは言え、少しキノコを侮っていたかもしれない)キコキコ
勇者「あ……」
「どうしました?」
勇者「一つ、聞いてみたかったんですが、皆さんってキノコをよく食べるのですか?」
「まあ、ソードフォレストの人間は皆そうだと思うよ」
勇者「飽きたりしませんか?」
「んー、君、グリーンレイクの人だよね? パンって飽きるかい?」
勇者「……なるほど、育ち、ですか」
「まあ、そうだろうね。キノコなんて、それだけで種類も味もあるからね。飽きないもんだよ」
勇者「うーん、腹も膨れたし眠くなってきたな」
勇者「宿屋をとって、とっとと休むかな」
勇者「しかし、そもそも飽きない、か」
勇者「違う環境で育った自分は、一体いつ食べ飽きるのかなぁ」
勇者「せめて、この国を出るまではもってほしいものだなぁ」
和名でツクリタケ。言わずと知れた食用キノコ。
マッシュルームは成長具合で味が変化するキノコである。
イギリスにおいては大きさによって名称が変わる。出世茸。
マッシュルームそのものも種類がある中で、日本で親しまれているあのマッシュルームは、
ボタン・マッシュルーム、クローズドカップ・マッシュルーム、オープンカップ・マッシュルーム、
フラット・マッシュルームと名称が変わっていく。
ボタンをベイビー、フラットをラージフラットを呼ぶ事もあるそうな。
因みにオープンカップから、マッシュルームの傘は黒くなる。
また、大きくなるとあの歯ごたえがなくなるが、香りが増していくそうな。
アヒージョ
スペイン語でニンニク風味という言葉。
オリーブオイルとニンニクで煮込む代表的なスペイン料理。
料理名において、正確には「アル アヒージョ」と言い、エビを使用する場合は「ガンバス アル アヒージョ」となる。
勇者(うーん、やはり勇者の情報は少ないか……)
勇者(首都南西の道を通って国外に出て行くのが主流か?)
勇者(しかし、そこを抜ければ元ヒューズヒルの現戦場だ。何か対策とか考えあっての事だろうか?)
勇者(魔物は……北部の奥地にヴェノムドラゴンがいるぐらいか)
勇者(お、そうか。鶏の体に尾が蛇のバジリスクがいるんだったか)
勇者(この先、鶏肉あたりは満足にありつけそうだな)
勇者(しかしバジリスクか。毒食み草では効果がない毒を持つ魔物だったはず)
勇者(遭遇しても出番はなしだな)
勇者「これは……」
バジリスク「」ボロボロ
勇者「明らかな剣の傷。誰か、というよりどっかの勇者が通ったか?」
勇者「勿体無いな、これは。いや、そんな余裕がなかったという事か」
勇者「しかし、こんな所にいるという事は、気をつけないといきなり襲われる可能性もあるのか」
勇者「流石に不意打ちを食らって、バジリスクの毒を回避できるとも思えないし気をつけないとだなぁ」
勇者「確か足の爪……蹴爪に毒があるんだったか」ゴソゴソ
勇者「よし、取れた。貰っておこう」
勇者「ついでに良さそうな羽も……。矢の材料として売れるといいな。ここじゃ無理か。無理だよなぁ」
勇者「そろそろもっときつくなってもいいような気がするが」
勇者「もしかしてソードフォレストの首都って、まだまだ先なのか?」
勇者「うーん……最悪、そこまで行かなくてもいいか?」
勇者「いや、今後のプランもないし進むだけ進むとするか」
勇者「本当にこの後どうしようかなぁ……」
勇者(ふー……ふー……はぁー……)スハァ
バジリスク「!」ガザザッ
勇者「くっ!」ガギィィン
バジリスク「ケーーーーー!」
勇者「よし、先制防いだぞ」ビリビリ
勇者「よっ!」ガギィ
勇者(受け流して背後を取り……)
勇者「風塵魔法!」バァァァ
バジリスク「!!」ザァァッ
勇者「氷結魔法!」
バジリスク「コッコッ!」ビキビキ
勇者「足さえ封じれば」バッ
勇者「たあああ!」ザンッ
バジリスク「」ドクドク
勇者「さて、そろそろ血抜きもいいか?」
勇者「うーん、いざ獲ってみると扱いに困るな」
勇者「あまり時間もかけてられないし、皮は諦めて中の肉だけ切り出すか」
勇者「流石にこの大きさの羽を一人で毟るのは容易じゃないしなぁ……」
勇者「うん、そうしよう」ザクザク
勇者「たっぷり鶏肉ローストで我慢するか……」
勇者「まあ、それでも贅沢と言えば贅沢かな」
勇者「しかしこの量、焼くとなるとちょっと木の枝の数が不安だな」
勇者「少し、取りに行って来るか」
鎧を着た男「ひゅー……ひゅー……」
勇者「わぉ……」
勇者「うーん、なんだ? この紋章は? どっかのお偉い家の方?」
勇者「……」
勇者「え、うん? まさか魔王軍兵士?」
勇者「……」ゴソゴソ
勇者「うわ、見た事ない貨幣。間違いない、この人魔族だ」
勇者「うーん、困ったな。立場上、止めを刺すか見殺すべきなんだろうけど」
勇者「後味悪いよなぁ」
勇者「剣と短剣と魔石が一個……魔王軍兵士の人もカツカツなのかなぁ」
勇者「とりあえずこれは没収。命に別状がないレベルまで軽ーく回復魔法」パァ
兵士「はぁ……はぁ……」
勇者「とりあえず連れて行くか」ズリズリ
勇者「……」シィン
勇者「複合魔法・リジェネレーション!」クワッ
兵士「はぁ……はぁ……」シゥシゥ
勇者「ううーん、相変わらず効き目が悪い……まあ、少しずーつでも傷が塞がっていっているみたいだし」
勇者「今のうちに焼き始めるか」
兵士「……うぅ」パチ
勇者「……」ジャァァァァ
勇者「胡椒は少量でも発揮する味付け具合って」
勇者「旅人の味方って感じだな」パッパッ
兵士「おま、え……」ムク
勇者「あ、気がついた」
兵士「……助け、たのか? 人間、ではないのか」
勇者「いやまあそうなんですけどね。俺個人はそっちに恨みがないし。いや侵略者か……ううん」
バジリスクだけロースト
ゴロッゴロのバジリスクの鶏肉だけを焼いたもの。皮なしなのでパリパリ感なし。
胡椒を振りかけて味付け。
兵士「……」
勇者「……」
兵士「いいのか?」
勇者「獲って成仏、食べて供養。でも食べ手が少ないって事で」
勇者「……」モグモグ
兵士「普通に鶏肉だな」
勇者「うん、普通に鶏肉」
兵士「……」パクパク
勇者「……」パクパク
兵士(飽きる)
勇者(飽きてきた)
勇者「だいぶ、回復してきたようだな」
兵士「ああ……何と言えばいいか分からないが、その、感謝する」
勇者「いいよいいよ。俺も勇者だけど、正直戦いたい訳じゃないし」
兵士「そうか……人間にもそういう考えがあるんだな」
勇者「というと……お違い世知辛いですな」
兵士「ああ」
兵士「分かっているよ。助けてもらったんだ、このぐらいの措置、こちらから願い出るところだ」
勇者「しかし、何でまたこんな所に」
兵士「孤立してしまってな。最初は六名ぐらいいたのだが、追撃と魔物の襲撃で今や自分だけだ」
勇者「あー……ご愁傷様です」
兵士「まあ、生きていれば丸儲けの環境だからな」
兵士「不幸を嘆くより、生き延びている事に喜ぶとするよ」
兵士「今、どの辺の位置なんだ?」
勇者「ここがこうでこうでああで」
兵士「恐らく、俺のいた戦場はこの辺り……随分と奥に逃げてきたんだな」
勇者「出会った自分がびっくりですよ」
勇者「あ、この魔石って何なんですか?」
兵士「ああそれはだな……お? へえ、魔法に心得があるのか。プロテクトをかけやがったな」
勇者「魔石の作動を阻害する行為をそう言うんですか。なるほどなるほど」
兵士「変わってるな、お前。そいつは伝達魔法を魔石化したものだ」
勇者「へえ!」
兵士「音等は送れないが文字を送るものでな。視覚に作用する魔法との複合したものだ」
勇者「文字、か」
兵士「助けも呼べないし、あまり意味はないな」
勇者「貰ってもいいですか?」
兵士「え? ……。よし、貸してくれ」
勇者「……」サッ
兵士「……言っておいてなんだが、本当に渡すんだな」
勇者「嘘をついている様子がないみたいなんで」
兵士「はは、ありがと」
兵士「……」スッスッ
魔石「」パァァ
勇者「はー……浮き出た文字に触って文章を作るんですね」
兵士「ああ、その通りだ。凄いだろ」
兵士「まあ、大昔は人間とも交流があったと聞くしな。ある程度、文化も同じなんだろう」
兵士「よし、これで初期化完了だ」
兵士「悪いが、軍属の設定も消させてもらったから諜報とかできない」
兵士「これでも良ければ」スッ
勇者「おおお、ありがとうございます」
兵士「そ、そんなに喜ばれると気味が悪いな。持っていても、連絡を取れるのはこの魔石を持つ魔族だぞ」
勇者「それはそれで未知の可能性が開かれたと言いますか」
兵士「ふーん?」
兵士「どれ……ああ、問題ない。というかさっき勇者と言ったが、なんだこの紹介文」
兵士「商人の真似事もしているのか」
勇者「ええ、まあ」
兵士「変わっているな。ま、それで連絡とって、何れはこっちの国で商売でもしてくれ」
兵士「一部の魔族にとってしてみれば、人間達との交易というのは、興味がつきない話題でもあるんだ」
勇者「行けるルートがあれば、の話なんだよなぁ」
兵士「まあ、な」
勇者「こちらこそ」
勇者「あの、こんな事を言うのもどうかと思うけども」
兵士「?」
勇者「どうかご無事で」
兵士「……ああ、あんたもな。何時か酒を交わしたいものだ」
勇者「……下戸なんで」
兵士「そん時は酒の肴で飯でも食ってくれ。俺は飲むからよ」カラカラ
勇者「それは……いいですね」
兵士「じゃあお互い達者でな」
勇者「ルート、か」
勇者「戦場を通らず魔王国へのルート」
勇者「でもばれたら……」
勇者「しかしこれは一攫千金のチャンスのようにも思えるし何より……」
勇者「よし、少しこの路線で考えてみるか」
古代の伝承ではヤマガカシに似ており、頭に鶏冠みたいなものがある
体を半分上げて移動し、彼らが鳴らす音は蛇を散らすとか何とか
中世においてはコカトリスと同一視されるようになったそうな
因みに石化の力はコカトリスの方で、バジリスクは毒
鶏と蛇っていうのは中世あたりで生まれたイメージらしい
文字伝達魔石「」キラキラ
勇者「それにしてもこの魔石、一切音が出ないんだな」
勇者「魔石の明かりさえ見られなければ、敵地でも使用可能という訳か」
勇者「差し詰め隠密向け、て事だろうか」
勇者「それに使用時における魔力の放出も、文章の送受信の時だけ」
勇者「一方、こちらのは通話中は常に魔力を放出しなくちゃいけない」
勇者「中々面白い違いだなぁ。短時間で多くの情報を得る為に、燃費と隠密性を捨てるか否か」
勇者「紹介文の文字制限もかなり緩いなぁ」
勇者「なんか、アイドルっぽい人とかいるし。眺めている分にはこちらの方が断然面白いな」
勇者「うーん、それに比べて自分の紹介文の事務的感半端ない」
勇者「まあ、受注がもらえるとも限らないし気長に考えるとするか」
勇者「そういえば、あちらとこちらに特産とかの違いってあるのかな」
勇者「魔物の種類によっては、収集物で稼げそうだ。問題は情報と道のりか……」
勇者「ここの町は随分とキノコの乾物が多いんだな」
勇者「キノコか……栽培地がある程度限定されてしまうからな」
勇者「あの旅館の板前さんはどうなんだろう。今度連絡があったら聞いてみるか」
勇者「しかし、ヴォルケイノ火山の周囲にも森はあったし、案外キノコそのものの供給はあるのかも」
勇者「うーん、特別な物は乾物ぐらいか」
勇者「この辺で切り上げるかな」
勇者「仕方がない、とっとと宿をとってそこで食べてしまおう」
「食事? ああ、他に店はないよ。メニューはこちら」
勇者「どうも」
勇者(ソードフォレストは宿屋と料理屋を一体化させる文化があるようだけど)
勇者(一体何なのだろうか。やっぱ森を切り開く関係で、土地を狭く使いたいとかなのかなぁ)
勇者(キノコパスタ……そろそろいってみるのもいいな)
勇者(うん? バジリスクのガランティーヌ? 馬鹿な)
勇者(こんな場所でそんなオシャンティな料理があるなど……本当なのかな)
勇者(別にガランティーヌが特別好き、という訳ではないけども)
勇者(ソードフォレストの宿で提供されるガランティーヌ。怖い物見たさの好奇心が抑えられないぞ)
勇者(しかも一人前とか四人前とか分かれているけど、どういう事だろう)
勇者(普通に一人前じゃダメなのか? というか六人前って何でだ)
予想を大きく覆して、ツボ抜きしたバジリスクに香草等を詰め込んだロースト。
動体部分を輪切りにしたものが、皿の上で山のようになっている。
勇者(こう来たか。恐るべしソードフォレスト)
勇者(最早も何もガランティーヌじゃない)
勇者(ただの香草詰めしたローストバジリスクじゃないか)
勇者(しかしこの値段でこの量、田舎ならではというか、とっても嬉しいじゃないか)
勇者(こんなでかいフォークも、山賊や海賊のお話でしか登場しないもんだと思っていた)ザク
勇者(何とも粗野な食欲が溢れてくるものだ)バグゥ
勇者(ほほうっ! これはいいローストバジリスクだ)モグモグ
勇者(何気に色んなスパイスを使っているんだな。しかも外側は黒胡椒をかけてあるのか)ザクザク
勇者(中々大味だが、これは飽きないな)バグ
勇者(この間のバジリスクと被る、とか思ったけども、全然そんな事ないぞ)モグモグ
勇者(別、既に全く別の料理だ!)
勇者(そして噛み締めれば感じる、肉のジューシーさと言ったらない)モグモグ
勇者(これで一人前……となると六人前は丸々一匹のバジリスクか。それはそれで食いでがあるんだろう)ザク
勇者(しかし、こう出てくるのなら手羽先も食べたかったけど……流石にそうは上手くいかないか)バグゥ
勇者(だけど、大満足の量と味だ)モグモグ
勇者「げっぷ」
勇者(ふう、美味かった)
勇者「このペースなら2,3週間ぐらいで首都に到着するな」
勇者「その後、どうしようかな」
勇者「大陸の端の方からあちら側にアプローチしようかな」
勇者「一旦、ソードフォレストを抜けてから北を目指さないと、ヴェノムドラゴンと遭遇する可能性があるし」
勇者「結構な長旅になりそうだな」
勇者「しかも完全に敵地か……そもそもあちらまで行ってどうしよう」
勇者「町に入ったら即殺される? 人間かどうかって見た目で分かるものなのかな」
勇者「うーん、難しいな」
勇者「な、んだ……これ」
勇者「一体何が……」モォッ
勇者「!」ズザァッ
勇者「この僅かな香りは……ヴェノムドラゴンの毒か?」
勇者「だいぶ日にちが経っているのか、毒性はもうないみたいだな」
勇者「確か外気に触れているダメなんだっけ。あれって何日ぐらいなんだろう」
勇者「しかしこれは……首都の方は大丈夫なんだろうか。生息地はもっと先のはずだよなぁ」
勇者「……町が、ない」
勇者「そうか、さっきの町の次が首都だったか……」
勇者「早めに到着できないと、本格的にサバイバルしないといけなくなるなぁ」
勇者「出来れば食料確保が優先される前に、到着したいものだけど」
勇者「しかしなんだってこんなに拓けた道なんだろう」
勇者「首都の周りはある程度開拓されているのか?」
勇者「けど、割と首都周りは鬱蒼としているって聞いたいたのだが」
勇者「考えていても仕方がない。先に進まないと」
勇者「つ、疲れた……」フラフラ
勇者「もう食料もないし……とにかく腹いっぱい食べたい」ヨロヨロ
勇者「えい、もう、この店でいいや」
「いらっしゃいませー」
勇者「うう……もう考える余力もない」
勇者「あの、何かいっぱい食べられる料理とスープを下さい」
「は、はぁ……」
ベックオッファ 100G
大きな耐熱容器に入っている。
じゃがいもやたまねぎ、ニンニクや肉類が入っているようだ。
ソパ・デ・ケソ 35G
ニンニクスープにチーズとパンが入っている。
コンソメの香りが食欲を掻き立てる。
勇者「ほほぅ……」
勇者(何だかよく分からない料理が出てきたがとっても美味しそうだ)
勇者(ニンニクと肉は何だろう……鶏ではないな)モグモグ
勇者(あとはじゃがいもと玉ねぎ?)バグ
勇者(しかもこれ、層になっているんだ。変わっているな)モグモグ
勇者(味付けはなんだろう。多分、肉とか漬け込んでいるんだろうな)パク
勇者(塩胡椒とハーブっぽい感じがやや強めか。しかし美味しいな)モグモグ
勇者(うーん、ニンニクが効いていて美味い!)ズズ
勇者(そこにパンにチーズか。ちょっとした軽食になるなぁ、このスープ)モグ
勇者(うんうん、滅多にしないが店員さんお任せメニュー、実にいいじゃないか)
勇者(それにしても流石首都なのかな。こんな料理があるもんなんだなぁ)
勇者(何時もなら相当な腹具合だろうけども、今日の腹にはすっぽり収まる丁度いいサイズだ)
勇者「ふう……それにしてもソードフォレスト首都」
勇者「とんでもなくでかいな」
勇者「何だか、無理に広くしている途中みたいだし……そうか、あの町の人達をこっちにとかか」
勇者「今日はもう休んで明日情報収集をしよう」
勇者「原因と経過によってはしばらくはここで、待機していた方がいいかもしれないなぁ」
勇者「さて、何が出てくるのやら……まあ大型爬虫類ぐらいだろうけども」
フランス料理で洗練されたという意味のgalantからきたとか。
主には延ばした鶏肉や魚肉で野菜やひき肉を包むように巻いた料理。
これを茹でたり蒸したりするが、提供する時は冷えた状態である。
他にはフランス版煮こごりで覆ったりするものも。
これの冷製のものをバロティーヌというが明確な決まりがなく、人によってまちまち。
元々冷製なんじゃないのか? ガランは冷まして、バロは冷やす? とよく分からない話。
ベックオッファ
フランスのアルザス地方の伝統料理。パン屋という意味。
かつては町のパン屋さんに主婦達が鍋を持ち寄り、釜の余熱を利用して作ったものだとか。
ワイン等で漬け込んだ肉類や玉ねぎ。それとじゃがいもを何層にも敷いて、最後に蓋のようにじゃがいもを乗せる。
ワインも入れたりして、オーブンで1時間半ぐらい煮込むというか蒸すというかして出来上がり。
だし汁をかけてオーブンって事もあるそうな。
ソパ・デ・ケソ
スペイン料理。ソパ(スープ)・デ・アホ(ニンニク)にケソ(チーズ)が入ったニンニクスープ。
調べ不足かもしれないけれど、スペインのスープには割りと直接パンを入れる事が多いような。
入れるパンは固いものでフランスパン等。
余談だけどバケットとはフランスパンの中の一種類で、
フランスパン自体が長さや太さ大きさや形で、何種類にも分かれている。
「いきなりヴェノムドラゴンが現われたそうでなー」
勇者(恐ろしい話だ)
「町の人も半数が亡くなったよ」
勇者「先日、その町を通ってきたのですが、香りは残っているものですね」
「あーそりゃ逆だ。ヴェノムドラゴンの毒は外気に触れると無毒になっていくってやつだが」
「それが大体2,3週間かかるんだが、無毒になると臭いを発するようになんだよ」
勇者「だとしても長いのでは……?」
「それだけ強力って事だよ」
「逃げられたそうだ。未だに目撃情報がないところを見ると、外に出て行ったのかもしれないなぁ」
勇者「本当に恐ろしい話だなぁ」
勇者「これから先、ヴェノムドラゴンとエンカウントする可能性があるのか……死ぬ」
勇者「うーん、待っていても解決しなさそうだしなぁ」
勇者「けれども、これで森の西側にいたら最悪だ。いっその事、魔王軍の陣に突っ込んで行ってくれないかな」
勇者「とは言え、森の中の方が接近を許す訳だし、急いで国外に出たほうがいいのかな」
勇者「うーん、うーん……悩むなぁ。こんな状態で無理してあちらの国に?」
文字伝達魔石「」キラ
勇者「お、おお、連絡来てる」
勇者「ええ、と。……ふむふむ、急ぎではないけどバジリスクかヒクイドリの羽が大量に欲しい」
勇者「年内での納品は可能か、か……向こうにこの二種類の魔物って少ないのかな」
勇者「しかし、バジリスクなら何とでもなる」
勇者「年内か……そもそもどこら辺なんだろ」
勇者「魔王城の装飾師!? と、とんでもないところから依頼がきちゃったぞ」
勇者「うーん、あの兵士さんに聞いておけばよかったなぁ」
勇者「年内ぐらいには到達できそうな気がするけども……」
勇者「というか見た目とかで人間ってバレるのかな。向こうまで単身で行ったら、気のせいって思われるかな」
勇者「しかしなぁ……ううん……こちらは遠方にいる為、年内での納品は厳しい可能性がございます」
勇者「納期につきまして、都合はつけられますでしょうか? うーん、完全にナメてる内容だな」
勇者「ええと、文章削除は……あ! 送っちゃった!!」
勇者「げぇぇ……」
勇者「印象最悪だぁ、挽回できないぞ、これは」
文字伝達魔石「」キラ
勇者「うわぁ……返信きたぁ」
勇者「ええと、それでしたら下記の量と追加で別の素材もお持ち頂けないでしょうか?」
勇者「それでしたら来年の春まででも構いません……ふんふん」
勇者「バジリスクの蹴爪? 装飾師だよなぁ、何に使うんだろう……まあいいか」
勇者「この数なら時間をかけなくても揃えられるし、納期延長は確保できたな……」
勇者「問題は場所だよなぁ……何処なんだろう」
昔の地図「この辺りだよ!」
勇者(わぉ)
勇者「はい、ありがとうございます。資料室をお貸し頂きありがとうございます」
「いいのいいの。勇者の方の力になれたのならそれで十分ですって」
勇者「思いがけず知る事が出来た……役場、優秀だなぁ」
勇者「それにしても戦線からだいぶ離れているなぁ。当然か」
勇者「うーん、こうなるとルートはこうでこうで……圧倒的に食料が足りないなぁ」
勇者「これはかなり長丁場になるな」
勇者「携帯食料……栄養価の高い凄い不味いのをいくつも持っていかないと」
勇者「いざという時の生命線だからなぁ。栄養失調で動けなくなるのだけは避けないと」
勇者「腹具合は最悪、野草で凌ぐしかないな」
勇者「ふう……何とか無事着けたか」
勇者「ソードフォレスト領の森の外まであと町が二つ」
勇者「このルートだと、平地であと一つってところか」
勇者「うーん、何とも心細い話だ。これで数ヶ月近い旅になるやもしれな、いと」
勇者「最悪、転移魔法で帰ってこれるとは言え、人がいる地帯まで行かないと転移魔法の標は得られないしなぁ」
勇者「そういえば魔王の国とかどうなんだろう、行ったら転移魔法でひとっ飛びなのかな」
勇者「いや、最近は果実ジュースがよく並んでいるな? そういう季節なのかな」
勇者「よし、もう切り上げてちょっと食べたら宿で休もう」
勇者「とは言え、食事にするにはまだ早いな……」
勇者「軽く食べられるものか。屋台的なものはあるんだろうか?」
勇者「うーん、それっぽい建物はいくつかあるけども」
勇者「このお店……酒場っぽい雰囲気だけど、外に出ているメニューは喫茶店だ」
勇者「何か変わったお店だなぁ。しかし悪くなさそうだ。軽く甘いものでも食べるか」
「……」チラ
勇者(寡黙な店主と言うべきか、接客向きじゃない店主と言うべきか)
勇者(しかし、目つきが悪い訳でもないし、下手にベタベタされるよりよっぽどいいな)
勇者(しかもこの店、お酒も並んでいる……夜は酒場として営業しているのか)
勇者(中々雰囲気もいいし、これは期待できるやもしれないな)
勇者(うん? サフト? そういえば、あの果実ジュースもそんな名前だったような)
勇者(ほうほう、試しに飲んでみるか)
勇者(あとは食べるものか……ケーキもいいが、たまにはパンケーキにしてみるかな)
パンヌカック 45G
四角いパンケーキに、クリームとベリーのジャムが乗っている。
パンケーキはやや大きめ。
リンゴンベリーのサフト 10G
やや透明の赤いジュース。
とっても爽やか。
勇者(にしても四角いパンケーキ。不思議だ。フライパンが四角なのかな)
勇者(まずはこのサフトとやらを)クピ
勇者(くぅぅぅ、なんだこれ。目の覚めるような酸味っ)
勇者(仄かに甘みもあるけど、中々酸味が強いな。これはかなり好き嫌いが分かれそうだが)グビ
勇者(美味い! これは美味い酸味だ。病み付きになってしまうぞ)
勇者(ほう、ほう……味は普通だけど結構どっしりしているんだなぁ)モグモグ
勇者(見た目以上に腹に溜まるな、これ)パク
勇者(その上でこの大きさっていうのは、ちょっとしたトラップのような気がしなくもない)モグモグ
勇者(ここでサフトの援軍)クピ
勇者(うん、うん。これは素晴らしく美味しい口直しだ)
勇者(リンゴンベリーのサフトか。多分これは極端に砂糖を入れていないタイプなんだろうけども)
勇者(覚えておいて損はないな)
勇者「味も腹具合も大満足の花丸満点だ」
勇者「しかし、逆に夕食はあまり食べられなさそうだな」
勇者「とは言えこれから先、しばらくはこんな風に腹をさする事もめっきり減るし」
勇者「食える時にめいいっぱい食べておきたいものだ」
勇者「軽く散歩して夕食に備えておくかな」
勇者「食べる事もまた休息と思えばこそ、それも悪くないなぁ」
フィンランドの四角いパンケーキで、パンナリという愛称で親しまれている。
四角い天板に生地を流し込んで、オーブンで焼き上げるから四角い形をしているんだとか。
溶かしバターと卵が多く、焼き上がりはどっしりもちもちの出来上がりになる。
食べ方は他のパンケーキと同じでアイスやクリーム、フルーツ添えたりジャムをかけたりして食べる。
サフト
スウェーデンの無添加フルーツジュース。
夏や秋の季節に採れた果実で作るシロップで、水や氷で薄めて飲んだり料理に使ったりする。
冷凍保存する事で、冬場の貴重なビタミン源にも。
人によって作り方は様々。
煮立たない程度に煮る、加水して煮る、こして砂糖を加えて煮て、とろみがついたらビンに。
逆に初めにこして作ったり、保存性は低くなるけど、砂糖の量をちょっぴりだったり。
因みにサフトで作るスープでバールソッパというものがある。
カシスで作ったサフトに、水、砂糖、シナモンスティックを加えて鍋で煮立たないように暖め、
ポテトスターチでとろみをつけて出来る甘いスープだとか。
冬場に飲んでみたくなる話だ。
リンゴンベリー
コケモモの事。
北欧では野生のコケモモが多く、スカンディナヴィア諸国では公有地から収穫することが許可されているんだとか。
酸味が強いため、砂糖を加えてジャムやコンポート等にする。
コケモモのコンポートは肉料理の供え物にする事もあるんだとか。
勇者「ふう……何とか無事に出れたか」
勇者「ここからは一応、ヒューズヒル領か」
勇者「魔王軍の強襲を受けて、首都を含んだ広域を爆破させた国」
勇者「商業都市の西に小さな建物を建てて、そこを仮設の城代わりにさせているとは聞くが……」
勇者「かなり、厳しい状態だろうな……」
勇者「随分と傾斜がきつめの丘が立ち並ぶな……。ちょっとした崖の合間を歩く巨人の気分だ」
勇者「これでは、意外と敵に近寄られるかもしれない……」
勇者「むしろ、ヴェノムドラゴンがいたらソードフォレストより危険やも」
勇者「とは言え、魔王軍の兵士が入り込んでいないとも限らない。そういう意味では、やり過ごす事もできる」
勇者「なんとも一長一短な話だなぁ……」
勇者「何より、ヴェノムドラゴンが相手であれば、この丘の間なんて飛び越えて隣に移れる」
勇者「見つかったら最後、逃げおおせるものじゃない」
勇者「うーん……中々困った土地だなぁ」
勇者「しばらくはひっそりと進むとするか」
勇者「数kmも行けば少し道が穏やかになるし、そこで考えるとしよう」
勇者「と、思った傍から」
ヴェノムドラゴン「ガアアアアア!」ドドッ
鎧姿の男A「がぁっ!」ドッ
鎧姿の男B「ぐ!」ガッ
鎧姿の男C「くそ……なんて魔物だ」
勇者(あれはどう見ても、魔王軍の兵士の鎧……困ったなぁ)ソヨソヨ
勇者(ヴェノムドラゴンは自らの毒では死なないから、毒の息で殺した獲物をそのまま捕食する)
勇者(あれだけの人数がいれば、ヴェノムドラゴンも満腹だろうし、何とかやり過ごせそうだけど)ソヨソオ
勇者(見殺しにするのも……うん?)フア
勇者(不味い、彼らがやられたら以前の問題だ。毒の息を吐かれたら最後、こっちも死ぬぞ)
勇者(何としてでも倒さないと!)ダッ
ヴェノムドラゴン「グォォ」スゥゥゥ
D「息を……」
E「炎……いや、このドラゴンは毒か!」
B「駄目だ……間に合わない」
石「」ヒュッ
ヴェノムドラゴン「グル」ガツッ
勇者「……」
B「何故……」
ヴェノムドラゴン「オォォ」スゥゥゥ
勇者(間に合っ……)ギリッ
勇者「たっ!」ビュンッ
ヴェノムドラゴン「グル!?」ゴクン
D「何を投げたんだ?」
C「袋……?」
勇者「え、嘘ぉ」
勇者(毒食み草は爬虫類や両生類、ドラゴン種のある成分の毒に効くはずなのに)ジリ
勇者(ま、まさか量? 量が足りない? 駄目だ、今からじゃもう逃げられない)
ヴェノムドラゴン「ガアアアア!!」ボコボコボコ
A「ひぃ!」
B「首筋に瘤が……」
勇者(おぉ……だけど、即死じゃなさそうだ……うう、近づきたくないなぁ)
C「随分と苦しがっているな」
D「瘤も増える一方だな」
E「隙を見て止めを刺すぞ」
ヴェノムドラゴン「ガヒューー……ガヒューー……」ボタ ボタタタ
勇者(凄い量の粘液を吐き出したな……多分、もう体内に毒素は殆ど)
A「今だ!」バッ
B「かかれぇ!」ザッ
勇者「止めを刺して下さってありがとうございます」
A「何故、助けたんだ」
勇者「うーん、やはり人の姿をしている相手を見殺しにするのは心苦しい」
勇者「何より、あのまま毒の息を吐かれていたら、風下の自分は死んでいましたし」
B「ああ……だろうな」
勇者「こちらとしては、争う意思はありませんので、そう警戒しないで頂ければと思います」
E「そうか。いや、すまない、感謝する」
C「にしても、今の一体なんだ?」
勇者「毒食み草という植物の実です」
勇者「爬虫類や両生類、ドラゴン種の持つ一部の毒に反応して、無毒の水分に変えてしまうそうです」
D「じゃああの首に出来た瘤は」
勇者「ヴェノムドラゴンは毒を首筋に溜めるそうなんで」
勇者「大抵は無毒化する際に膨張して毒腺などが破裂」
勇者「その勢いで血管や様々な器官に入り込んで、ショック死させたりするのですが」
E「体が大きい分、効きが足りなかったのか」
勇者「恐らくはそうなんでしょうね。いやあ、焦りました」
A「戦場で孤立してな。逃げている内にここまで来てしまったんだ」
B「そうしたらあんなドラゴンに出くわすしな」
C「人間も随分と過酷な環境なんだな」
勇者「ヴェノムドラゴンの襲撃はそうそうあるもんではないですけどね……」
勇者「ただ、大戦の空気を感じてか、多くの魔物がピリピリしていると言いますか」
勇者「普段いないような所に出現したりしていますよ」
D「そいつは悪かったな。だが、俺らも好きでやっている訳じゃないからな?」
勇者「分かっていますよ」
ヴェノムドラゴン「」
A「うん? どうした?」
勇者「これからあれを解体しようと思っていますが、皆さんどうでしょうか?」
B「え? なに? 売るのか?」
勇者「いえ、毒抜きではないですが、無毒化も済んでますし」
C「食うのか?!」
D「凄いな……人間は皆あんななのか?」
E「どうなんだろうな……」
勇者「ええ、と……解体に二人、もう三人は穴掘りと枝や葉っぱを集めてきてほしいです」
B「穴に枝……?」
D「俺とAで解体を手伝おう」
C「じゃあ俺は穴掘るわ」
E「俺も」
B「……薪拾いか」
A「この装備で出来るものなのか?」
勇者「こうやって」ゴリュ
勇者「骨を外してやれば、意外と簡単に切れますよ。ただ、急がないと硬直が始まるので」
D「そうなると厄介か」
勇者「ですね。そうしましたら次に……」
C「これが図面か」
E「一体、何に使うんだろうな」
A「何が意外と簡単だ……」ヒソ
D「滅茶苦茶重労働だ……」ヒソ
勇者「切り分けた肉の塊はこちらに」
B「穴の上に持ってきた枝を格子状にして置け、てこんな感じでいいのか?」
勇者「お、ありがとうございます」
C「こっちの穴の準備は出来たぞ」
E「こっちの被せ物も出来ている」
勇者「じゃあこっちの穴に火をつけちゃいましょう」
A「はー……上手い事を煙を逃がす道を作ったのか」
D「これで燻せるって事か」
勇者「かなり古い方法ですけどね」
B「どうなっているんだ?」
E「俺もよく分かっていないが、穴の中に火を起こし、煙の逃げ道を肉のある方にってしたんだ」
E「燃すところの穴も別に空気穴がある」
勇者「さて、出来る上がるまでは普通に焼いて食べますか」
B「豪勢な」
C「仕方がない」ゴソゴソ
D「お、奮発するか」
勇者「と言いますと?」
C「これだ」コト
暗い色をした小ビン「」
勇者「調味料、ですか?」
C「これはグレープソースを濃縮し、冷凍保存しているものさ」
勇者「へえ!」
A「中に凍結魔法の魔石を入れているのさ」
勇者「それは……衛生的に問題ないのですか?」
B「食品用の魔石だから、入れておいても平気だぞ。人間側ではないのか」
勇者「そうですね……直接入れるって事はしないですね」
D「あんまし、人間側は魔法や魔力に関する技術って低そうだな。こっちは魔石の衛生問題なんて相当昔だぞ」
E「まあ、こんだけ濃縮させるのも、魔法学が使われているしな」
勇者(魔法学。完全に学問として浸透しているのか。差がある訳だ)
C「湯をかけてゆっくり回してやると……」
濃い紫色のソース「」トロォリ
勇者「おお……芳醇な葡萄の香り。これは中々」ゴクリ
A「こっちは焼き始めるか」
B「だな」
大きなステーキに惜しまずブドウソースをかけてある。
骨付き肉もあって見た目のボリュームが凄い。
勇者(うーん、これは堪らないぞ。まさかこんなところでこんなご馳走にありつけるとは)
勇者(しかも野営時。はばかれる事なくかぶり付ける幸せっ)ガブゥ
A「おお、いった」
B「この人、結構ワイルドだな……」コソ
C「ああ、見た目や雰囲気や言動が何というか一致しないというか……」
勇者(美味っ! 美味い! このソース、とってもいけるぞ!)モギュモギュ
E「あの巨体だと専用の器具無しだと、川でもない限り血抜きは難しいからなぁ」
B「お、じゃあこいつを」ゴソソ
A「粒マスタードなんて持っていたのか」
B「好きなんだよ」
勇者「皆さん……随分と色々とお持ちですね」
A「そりゃあな。食の楽しみを失ったら疲弊するのはすぐだぞ」
勇者「……なるほど」
B「ほら、あんたも」サッ
勇者「頂きます」ヌラヌラ
勇者「はふっはふっ」ガブゥ
勇者「おほぉっ」
勇者(これはこれで中々! しかも臭みがこんなにも綺麗になるとは。これはいいマスタードだぞ)モギュモギュ
E「良い食いっぷりだな、この人」
D「俺、こんなに美味そうに食べる奴、初めて見たわ」
A「ああ、食った食った」
B「力になるなぁ」
勇者「おっと、そろそろ良い頃か」カポ
ドラゴンの燻製肉
昔の燻製方法で作った。しっかりとしたチップを使った訳ではないので、本当に保存の為の加工。
中は生なので、食べる時には必ず焼くなりしないといけない。
勇者「いえいえ、お互い様ですよ」
B「にしてもあんた、一人で旅をしているのか」
B「これから何処に向かうつもりだ?」
C「……まさか、単身乗り込む気か」
勇者「ええ、まあ」
D「ほ、本気か」
E「……命の恩人とは言え、暗殺者を見過ごす訳にも」
勇者「あ、いえ、取引があるだけです」
ABCDE「は?」
A「の、納品?」
B「どうやって連絡を」
勇者「少し前に、別の魔王軍の方を助けまして。その時にそちらで使われている魔石を譲っていただいたのです」
D「ほう……うーん、ちゃんと初期化しているからいいか」
C「本当にそれだけなんだな?」
勇者「それと……何かあちらの特産とか知っておきたいのと、あちらの料理を食べたいですかね」
D「お、おう……そうか」
B「そいつが非番でなけりゃ、話もスムーズだとは思うが……」
A「まあ、止めはしないが気をつけてくれ。人間と俺達は魔力の質が違う」
A「大抵の魔族なら、お前達に会えば人間かどうかは分かるものだ」
勇者「とすると、やはり全ての町は避けないといけないのですか……」
C「お前、楽観視し過ぎだろ……」
B「何にせよ達者でやってくれ」
C「縁があったらまた会おうぜ」
D「だな。礼も返さないといけないしな」
E「あ、これプライベート用の文字伝達魔石だ。連絡先交換しておこう」
勇者「ええと」ゴソソ
E「ここをこうしてこう。こうする事で、このリストからすぐに相手を探して、連絡を取る事ができるんだ」
勇者「なるほど、ありがとうございます」
勇者「少しは楽になるかなぁ」
勇者「それにしても魔族の人、やっぱり話せるもんだなぁ」
勇者「とっとと和平組んで国交正常化してくれないかな」
勇者「その前に、ひと稼ぎしておきたいなぁ」
勇者「魔族の国、何があるのかなぁ」ワクワク
勇者「さ、まずは生きて着く事だ」
カラシナやシロガラシの種子やその粉末に水や酢等を練り上げた調味料。洋がらしとも呼ぶ。
マスタードの歴史は古く、古代ローマ時代には既に使われていたとか。
ギリシアでは紀元前2000年頃の遺跡や、
同時代のエジプトの遺跡からもマスタードの種子が発見されている。
時代を考えると、スパイスは元より臭み消しとしても重宝されていたのは、想像に難くない話だなぁ。
勇者「とっくに魔王の領土に入ったわけだけど」ザッザッ
勇者「魔王領土内のこの北の山……」
雪「」シンシン
勇者「参ったな……この山、こんなに早くに雪が降るなんて」
勇者「手前の山が平気そうだから入山したけども、一山超えたら既に積もっているじゃないか」
勇者「本格的な冬までには、魔王城へ南下するだけってところまで行きたかったけど」
勇者「完全にやらかしたなぁ」
勇者「とは言え、うかうかしていたら食料が尽きる……急がないと」ザッザッ
勇者「しかし完全に雪山。下手をすれば死ぬぞ、これ」ザッザッ
勇者「あの時の兵士の人達ともっと情報交換しておけばよかったなぁ」
勇者「まあ、今更言っても」ズボ
勇者「! しま」ボボッ
勇者(落ち……)
勇者「」
「……」
勇者「!」ガバッ
勇者「いつつつ……」
勇者(どうなった? 確か、雪に隠れていた崖か何かに落ちたはずだが)
勇者(どう見ても家の中だ……狐に化かされているのだろうか)
子供「……」ジー
勇者「おっと……」
子供「母ちゃん母ちゃん! 生き返った!」
女性「こら、死人じゃありません」メッ
勇者(人……魔族の……)
勇者「はい。貴方がここまで運んで下さったのですか?」
男性「ああ、そうだ。お前さんにとっては、色々と感謝の言葉を言いたいのだろうが」
男性「その前に、こちらの質問に答えてもらいたい」
男性「お前は人間だな?」
勇者「ええ、そうです」
子供「!」ビク
女性「こちらに来なさい」コソ
男性「即答、か」
勇者「私は勇者と言う立場の者です。勇者は各国の王が様々な者に任命するもので」
勇者「いくつかの特典と共に、魔王討伐を命じられた者達です」
男性「ほう……」
勇者「私は……気が合う者もなく、こうして一人で旅をしております」
勇者「無論、一人で魔王に叶う訳もなく、討伐の旅のふりをしながら行商をしています」
男性「そうか……うん? え?」
勇者「行商してます」
男性「そ、そう、か?」
勇者「まあ、流石に国に見つかる事はないでしょうから、反逆罪で捕まる事もありませんが」
男性「……」
勇者「そんな訳でして、私個人は魔族の方と戦う意思はありませんので、どうか警戒を解いてください」
男性「ならば何故、単身こちら側へ? まさか迷子とでも言う訳でもあるまい」
勇者「魔王城にいる方に、商品を届けに行くところです」
男性「……。え? 何だって?」
勇者「こちらがその時のやり取りです」
文字伝達魔石「」ポゥ
男性「……本当だ」
勇者「先ほど言いました魔王軍の兵士の方から譲って頂きました」
勇者「その後に別の方々を助けた際に、登録の方もしてもらいました。一名だけですが」
男性「……」チラ
女性「失礼ながら荷物の方、見させてもらいました」
勇者「ええ、どうぞどうぞ」
女性「……。この大量の羽と爪のような物は何でしょうか?」
勇者「両方ともバジリスクのものです。羽と蹴爪、そちらが今回納品する商品です」
男性「商売の為にこんなところまで……あんた、本当になんなんだ……」
勇者「明朝まで居させて下さるのですか?!」
男性「あんたといると……調子が狂うな。人間は皆そんなものなのか?」
勇者「いえ、自分が変人なのは自覚の上なので」
男性「……はあ、まあいい。お前」
女性「ええ、もうすぐですよ」
勇者「……?」
女性「あれから一日眠ってらしたんですよ。お腹、空いているでしょう?」
勇者「あ」グゥゥ
勇者「これは、かたじけないです」
根野菜たっぷりの中に、ごろっとすいとんが入っている。
肉はないが豪勢に見える。
男性「ここらは貧しくてな。こんなものしかないが、これで我慢してくれ」
勇者「いえいえ、こんなご馳走、申し訳ないぐらいです」
女性「え、ご馳走?」
子供「何時もこれだけど……」
勇者(うん、美味い美味い。味噌仕立てか)モグモグ
勇者(これは白米が欲しくなる味だが……米は取れないのかな)パク
勇者(その代わりがすいとんって事なのだろう)モグモグ
勇者(しかしこの暖かは困るな。実に困る。箸が止まらなくなってしまうじゃないか)パク
勇者(こんなにも早くに雪が降る地方ならではなんだろうな)モグモグ
女性「いっぱいありますから、おかわりして下さいね」
勇者「ええ、ありがとうございます」
勇者(里芋の多さも頼もしい)パク
勇者(ああ、いかん。ついがっついてしまう)モグモグ
勇者(寒い中の熱い鍋、幸せだ。なんて幸せなんだろう)パク
女性「悪い人には、とても見えないわね」フフ
男性「……うるさい」
子供「母ちゃんおかわりっ」
女性「はいはい」
勇者「あの、もしご迷惑でなければ、何か食材等を仕入れてきてお譲りしたいのですが」
男性「裕福でないと……」
勇者「いえ、助けて頂いた事と二泊の恩です。とてもお代は頂けません」
女性「とは言っても……急に言われても中々思いつかないものねぇ」
子供「母ちゃん、俺肉食いたい!」
勇者「お肉、ですか」
男性「というか、一体どれだけ時間をかけるつもりなんだ?」
勇者「転移魔法が使えますので明日、戻ってきますね」
男性「転移魔法だと?」
男性「それはつまり、一度訪れたところに大量の軍隊をけしかけられると言っているのだぞ」
勇者「そうでもないですよ? 定員ってそこまで多くないですし、基本的に魔方陣は魔法発動と共に消えてしまいます」
勇者「それこそ岩盤に彫ったものでもなければ、魔方陣はその都度書くのが普通」
男性「……人間側の転移魔法は違うのか」
勇者「え? ああ、なるほど。もっと発展したものなのですね。こちらのは」
勇者「転移できるのは、人が建物を立てている場所。大雑把に言えば町等です」
勇者「これは、人間が建物を建てる事で、地中深くに何かしらを打ち込む」
勇者「これが地脈とでも言うのでしょうか。周囲のそれを支配する事で」
勇者「転移魔法における魔方陣がその地点を探す事ができる、というものです」
勇者「なので、ここから近くの森に兵士を送り続けて、数が揃ったら、という事も出来ません」
勇者「あと、転移魔法は一日一回までしか使えません」
男性「ほお、制約が多いのだな」
男性「だが、それなら……そうだな」
勇者「ではこちらが暴れ軍鶏の肉です」ドサッ
子供「おおお! 肉!」
女性「まあまあ、こんなに」
男性「ほ、本当にいいのか? まさかこんな量を持ってくるとは思っても」
勇者「ええ、構いませんよ」
男性「なんだか、すまないな」
勇者「こちらこそ、お世話になりました」
勇者「まさかこんな命拾いをするとは……」
勇者「絶対に死んだと思った……」
勇者「気を引き締めていかないと」
勇者「何より、町自体に近寄らないほうがいいんだし……良い人達でよかったぁ」
勇者「さ、まだ少しかかるんだ」
勇者「美味い物も食ったし、食料調達にも戻る事が出来た」
勇者「あと少し……年明けぐらいにはつけるだろうか」
勇者「……ようやく山を抜けられたか」
勇者「ここからだと……問題がなければあと一月程度かな」
勇者「うん、うん。終わりが見えてきたぞ」
勇者「魔王城、何とか辿り着けそうだ」
勇者「と言ったものの、食料が心細い」
勇者「どうにか得られないとギリギリだなぁ」
勇者「機会があれば、必ず獲る事を意識しないと」
勇者「うん? あれは……」
勇者「何かの群れかな? 念の為に隠れてやり過ごすか」ガササ
勇者(結構速いな。一体なんだろうか)
グリーンドラゴンの群れ「……」ダガダガダガダガ
勇者(グリーンドラゴン!? 初めて見た……けど、これは不味いんじゃないか?)
勇者(確かに人間側の領土内での目撃情報は少ないけども……魔王領土内をメインに移動しているのか?)
勇者(生態については詳しく分かっていないんだよなぁ)
勇者(とは言え、10体ぐらいか? 仮に火も何も吹かないとしても、あの数に襲われたら一溜まりもない)
勇者(ここは手を出さずに穏便にやり過ごすしかないな)
緑竜の群れ「……」ザザァ
緑竜の群れ「……」キョロキョロ
勇者(何か探している?)
勇者(ああ、そうか。獲物でも探しているんだろうな……。うん? 何であそこで立ち止まって探しているんだろう)
勇者(……こっち、見てる? しまった……嗅覚とかが発達しているのか?!)
勇者(少しずつ……音を立てずに後退して……)ソロリ
緑竜の群れ「……」ソロリソロリ
勇者(! 気づかれている! 絶対にこっちにいる事を分かっていて近づいてきている!)バッ
緑竜の群れ「クエエエエエエ!!」ダガダガダガ
勇者(駄目だ! 逃げ切れない!)ゴソゴソ
勇者(爆発魔石!)バッ
黄色い魔石「」カラララ カッ
勇者(これで少しでも時間を……!)ッドドドォォォン
爆煙「」モウモウ
爆煙「」ボボフッ
緑竜の群れ「……」ボシュッボボッ
勇者(怯みも警戒もしていない……!?)
火の海「」ゴォォォ
勇者「それと」バッ
赤い魔石「」ガララララ
火柱「」バァァァン
勇者「どうだ……」ダダダ
緑竜の群れ「……」ダガダガダガ
勇者(まだ来るか!)
勇者(駄目だ、彼らの探索能力を突き止めた所で、撒く為の準備をする時間がない!)
緑竜A「ガアアア!」バッ
勇者「くぅ!」ガァァン
緑竜A「クゥゥゥン」バッ
緑竜B「シャアアア!」ザザッ
勇者「つっ!」ガギィン
緑竜B「シィッ!」バッ
勇者(ヒットアンドウェイ!? くそ、嫌な戦い方を!)
緑竜C「シャッ!」ビッ
勇者「くあ!」ザシュゥ
荷物「」ドサァッ
勇者(爪が荷物に当たったか!)
緑竜E「……」チロチロ
勇者(動きが変わった……? それに舌を出して……)
勇者(逃げられるか?)ササ
緑竜A「……」ソロリ
緑竜G「……」ソロリソロリ
勇者(荷物に集まっていく……嗅覚が発達しているのかも)
勇者(食料……命あってのものだねか)バッ
勇者(ここまで来るまでにいくつか臭いのトラップや対策をしたけども……)
勇者(これで追いつかれたらもうどうにもならないなぁ)
勇者「……」ゴソゴソ
勇者「納品の品は無事、か。落としたのは食料バックだけ」
勇者「手痛いがよしとするか……」
勇者「問題は食料もそうだけど、持ち運べる量がかなり減ったって事だよなぁ」
勇者「……」フラ フラ
勇者「……」ドザァ
勇者(こっちのバッグにも……もっと水筒になるものを入れておくべきだった)
勇者(空腹より……これは枯死するなぁ)
勇者(何とか凌いできたけど、もう限界だ。池すら、見当たらない……)
勇者(……)
勇者「……」
勇者「……」ムク
勇者「なん、で……生きているんだ」
獣人「あら、気がついたようね」
勇者(獣のような耳と尻尾……魔王の領土にいるという獣人か)
勇者「貴女が助けてくれたんですか?」
獣人「ええ、そうよ。文無しで損したわ」
獣人「食べる物を持ってくるから大人しくしてなさいな」
勇者「ありがとうございます」
獣人「礼はいいわよ。後でしっかりと返してもらうから」
勇者「働けって事ですか」
獣人「物でもいいのよ。貴方、人間でしょ」
獣人「こっちじゃ珍しいものとか、色々と候補はあるんじゃないかしら?」
勇者「まあ、そうですね……」
根菜類を中心に細かく刻んだ具が、鍋から溢れんばかりの汁。
汁物だけど、完全に食べる料理。
勇者「ほほう……」
勇者(これは美味そうだ)
獣人「見たところ、飢餓よりも脱水症状が強かったみたいだから、普通の食べる物だけど大丈夫そうか?」
勇者「ええ、量は少なかったですけど、直前まで食べる事はしていました」
獣人「そりゃ良かった。さ、召し上がれ」
勇者「いただきます」パク
勇者(ほうほう、味噌仕立てか。ここらは寒い地域なんかな。やたらと汁物に味噌を入れたがる)モグモグ
勇者(しかし美味いぞ、この鍋。この小さくさいの目に切った野菜達、思った以上に量があるし)パク
勇者(これはかなり大当たりな郷土料理なんじゃないだろうか)モグモグ
獣人「……」
勇者(肉は一切入っていないのか。獣人ってもっと肉を食べるもんだと思っていた)モグモグ
勇者(それにしても不思議な味だ。味噌以外にも出汁は取っているんだろうけど……何だろう)
勇者(うーん、何にしても美味しいし、かなり腹が膨れるぞ。そしてヘルシー。いくらでも食べたくなるぞ)
獣人「……」モグモグ ゴクン
獣人「で、あんたはなんでまた一人でこんな所まで来たんだ?」
獣人「とても魔王様を暗殺できるようにも見えないが」
勇者「色々とありまして行商の真似事をしています。それで、魔王城にいる方から注文がありまして」
獣人「それでここまで一人で? あんた……ただの商人、いやここまで来たんだからただの商人でもないか」
獣人「あんた、強いのか?」
勇者「うーん、そこそこ戦える程度ですよ。上手く立ち回って逃げ回っているだけです」
獣人「ふーん、まあそれでもここまで来たんだ。それなりのもん持っているんだろうな」
獣人「ま、あたしらが徴兵されている訳じゃないけども、やっぱり気分がいいもんじゃないし」
獣人「どうにか上手くやってよ。魔王城に行くんでしょ?」
勇者「流石にそれは無茶振りですよ」
獣人「そこをどうにかしてよって話」
獣人「あ、じゃあこの礼はそれで返してよ」
勇者「転移魔法使えるので、人間側の方から何か買い付けてお譲りしますね。何か欲しい物はありますか?」
獣人「完全スルーかよ」
獣人「ただ、もしも機会があったらお願いって事」
勇者「はあ……」
勇者「あー……その、そもそも何で魔王は侵略を?」
獣人「単純に土地問題ね」
獣人「東の果てには瘴気が溢れる土地があるのよ。その所為でこっち側の土地って」
獣人「面積の割りに使えないところが多いのよ」
勇者「住む場所ですか? それとも食糧問題?」
獣人「差し迫っては食糧問題じゃない? 力のある種族が東に移るとかすれば、居住地は余裕ができるだろうし」
勇者「獣人の方は肉などは食べないんですか?」
獣人「食べるよー。ただ、ここら辺はよくグリーンドラゴンが通るからね。中々いないのさ」
勇者「食い尽くされる、と」
獣人「お陰で野菜や山菜なんかは多く自生しているんだけどね」
獣人「ぶっちゃけ、ここら辺で肉を得る機会ってそのグリーンドラゴンそのものよ」
勇者「倒すんですか……あれ」
勇者「はー……美味しかった。ご馳走様です」
獣人「はい、どうも」
勇者「しかし、野菜だけなのに力が湧いてくるなぁ」
獣人「肉はないけど豆も多く入っているからね」
勇者「え? 豆?」
獣人「すりつぶした物を溶かしてあんのさ」
勇者(あの不思議な味は豆の味だったか)
勇者「え?」
獣人「あたしが好きでやった事だからさ」
獣人「何なら、たまにはここに立ち寄っていきなよ。転移魔法あんでしょ?」
獣人「その時に色々と物持ってきて、ここで交換なり販売していってくれればいいよ」
獣人「重要な土地じゃないから、割と魔王様からは見放されているのよ」
獣人「お陰で自国の商人もあんまり来ない。グリーンドラゴンが原因ってのもあるんだけどね」
勇者「ああ、なるほど」
勇者「……」
勇者「それではご好意に甘えさせてもらいます」
数日後
勇者「お世話になりました」
獣人「こっちこそ、色々手伝ってくれてありがとうね」
獣人「ま、またいらっしゃいな」
勇者「ええ、そうします」
獣人「魔王城はこのまま南下していけば着くだろうけど、歩きだと結構かかるかなぁ」
獣人「ま、気をつけてね」
勇者「なんか魔族の人に拾われるなぁ」
勇者「それにしても、何だかんだであんまり警戒さていないな」
勇者「まあ、単身でこんな荷物なら争いに来たとは思われない、か」
勇者「意外と話せるもんなのかもしれないなぁ」
勇者「和解ってそう難しくないような……いや、国が関わる事だし、そうでもないか」
勇者「まあ、自分のやるべき事だけしていればいいか」
東北の郷土料理で、津軽から秋田にかけて作られる。
きゃの汁やきゃのことも呼ばれ、細かく刻んだ根菜に、ワラビ等の山菜。
更には高野豆腐に油揚げ、こんにゃくにずんだと具だくさんの汁物である。
野菜の味が染みる事もあって、日が経つ程に美味いという。
名前は粥の汁という意味で、"かゆ"が訛って"け"となったんだとか。
昔は米が貴重だった為、刻んだ野菜を代わりにして食べたのが起因しているそうな。
勇者「おお……あれが魔王城」
勇者「かなり立派なもんじゃないか」
勇者「それに城下町も栄えているようだ」
勇者「しかし……」
勇者「この姿で街に入るのは勇気がいるなぁ」プゥーン
勇者「近くに水辺はないし、あったとしてもこの季節に水浴びは自殺行為だしなぁ」
勇者「何より、こっち側の貨幣を持っていない」
E「うん?」
B「どうした?」
E「あの人間から連絡が来た」
A「へえ、まだ生きているんだな」
E「……」
C「ど、どうした?」
E「……」スッ
件名『助けてほしい』
勇者「ふむふむ……南東に大きな池か」
勇者「……寒いがそこで体とか洗ってから行こう」
勇者「うー寒い寒い……」
勇者「早く魔王城に行って温まりたいなぁ」
勇者「あれ? また連絡が来てる」
伝達魔石『今日の門番、知り合い誰も勤務していないから力になれない。頑張れ』
勇者「うーん、出たとこ勝負か。まあ仕方がない」
勇者「お、門が見えてきた」
門番A「何者だ」
門番B「……ちょっと待て。お前、人間か?」
勇者「はい、勇者と申します」
門番A「人、間……」
門番B「……」ザワッ
門番A「……」ゴクリ
門番B「……」ジリ
勇者「こちらにいらっしゃいます、装飾師様へ商品の納品に伺いました」
門番AB「えっ」
勇者「こちらがその時のやり取りです」スッ
門番AB「えっ」
門番B「確認をしてくる。ここで待機してもらうぞ」
勇者「……分かりました」
勇者(寒いから中に入れてほしいんだけどなぁ)
門番A「お前……魔王様を暗殺とか企んでいないだろうな」
勇者「考えておりませんよ。むしろ今は……」
勇者「早く暖をとりたいです……」ガタガタ
門番A「……すまないが、もうしばらく待っていてくれ」
兵士「監視として同行させてもらうぞ」
勇者「はい、どうぞ。というか早く中に入れてください」ブルブル
門番B「……この人間、なんでこんなに震えているんだ?」コソ
門番A「……寒いらしいが、そこまでじゃないんだけどな。人間側の領土は温暖な土地なのかもな」
勇者(若干濡れているからです)フルフル
勇者(へえ……随分と装飾が)
勇者(やっぱり種族が違うとは言え、魔族も"ヒト"なんだな)
兵士「あまりきょろきょろとするな」
兵士「一挙手一投足を見張られていると思え」
勇者「はあ、そうですか」
勇者(言われても城内なんて今日の商談以外は観光気分だし)
勇者(和平……和平……うん、無理だな)
勇者「すみませんね、騙すような形で。ですが、商品は確かに」
装飾師「ふんふん、ええ、物は申し分なしです。本当にありがとうございます」
装飾師「御代はこちらの2000Gです」
勇者(こちら側はギルで、向こうはゴールド。材質はあまり違いはないみたいだけど、流石に絵柄は違うか)ジャラジャラ
勇者(こういうところ、昔は普通に交流があった感があるなぁ)ジャラ
勇者「はい、2000G、確かに受け取りました」
勇者「稼ぎ時だと思いまして」
勇者「転移魔法が使えますので、今後はこちら側へも用意に来れます」
勇者「あちら側の物等、ご相談頂ければすぐに対応致しますよ」
装飾師「それはありがたいですが……て、転移魔法か」
勇者「人間側の転移魔法は定員が数人程度、基本的に魔方陣はその都度描く」
勇者「また、一日一回でこういった町など建物がないところへは転移できません」
装飾師「制約が多いのですか……まあ、安心しました」
勇者「ええ、要らぬ誤解で争いなんて、私も望んでいません」
勇者「かなり便利なものだとは。何度か命の危機に、こちらの方々に助けて頂いた時に聞きました」
装飾師「それはそれでどうなんでしょうか……まあ、私は軍属ではないし、貴方も似たようなものですし……」
装飾師「まあ、また何かありましたらよろしくお願いしますよ」
勇者「ええ、こちらこそ」
勇者「あ……」
装飾師「どうしました?」
勇者「城内で食事を出来るところってありますか?」
装飾師「ええ、食堂がありますよ」
兵士「……案内しよう」
勇者「よろしくお願いします」
「あれ……? 人間?」ザワザワ
「え? うそ」ザワ
「まさか、いやいやまさか……」ザワザワ
兵士「ここが食堂だ。こちらにある札を持って、あそこでお会計すればそのまま注文となる」
勇者「へえ、そういう仕組みですか」
勇者(しかし、結構メニューは変わらないもんだなぁ)
勇者(ミートサンド……魔王の国の肉って何を使っているんだろう)
勇者(豚肉野菜炒め定食もそそるなぁ)
勇者(カツ丼もあるのか。魔王の国ってパンと米が両方普及しているのかな。珍しいなぁ)
勇者(ふーん、アジの開き定食、魚料理もか。幅広いメニュー、流石は王城)
勇者(ほうほう、ラーメンにうどんにそばと麺類も豊富か、これは侮れない)
勇者(うん? ちゃんぽん? なんだこれ、初めて見るな)
勇者(うーん、列的には麺類か。ちょっと気になるな)
勇者(へえ、鶏の唐揚げ。単品もあるのか)
勇者(豚の角煮か。これもそそるなぁ)
勇者(困ったぞ……まるで袋小路だ)
兵士(凄い悩んでる……)
勇者(ちゃんぽん。ここで聞くのは野暮な気もする)
勇者(ご飯物ってだけなら、これから先こっちを旅していればいくらでも食べられそうか……)
勇者(折角の魔王城での食事だ、ここは一つ冒険してみるか)カタ
ちゃんぽん 50G
野菜とエビやイカ等がたっぷりのった麺物。
白めの濁ったスープだが、味はあっさり。
豚の角煮 35G
ぶ厚めに切られた3切れの豚の角煮。
付け合せなのか、ほうれん草が添えられている。
カツカレー 60G
兵士の人が頼んだ料理。
かなり恐ろしくぶ厚いカツがのったカレーで、ニンジンはジャガイモもごろっと入っている。
グリーンドラゴンの肉らしい。
兵士「いただきます」
勇者(カツカレー、予想以上の大きさだ。早くも青い芝生に見えるぞ)
勇者(とは言え、このちゃんぽんも中々なものだぞ)
勇者(この野菜の量に負けないエビにイカ。これはアサリか。それに豚肉まで)
勇者(やっぱりごちゃ混ぜって意味合いのちゃんぽんなのかな)フーフー
勇者(! なんだ、この味。予想以上にさっぱりだ)ズゾゾゾ
勇者(もっと大味かと思ったけども。しかし、これは中々、いやとっても美味いぞ)モグモグ
勇者(シーフードかと言えば、そうでもないし、本当に不思議な美味しさだ)モグモグ
勇者(ちゃんぽん、かなりやるじゃないか)
勇者(おっと、角煮を疎かにはできないな)パク
勇者(ほほう、うんうん、とっても柔らかくて美味しい)モグモグ
勇者(しっかり味が染み渡っている。これはいい角煮だ)
勇者(となると、このほうれん草も期待しちゃうぞ)パク
勇者(ほうほう、そう来ましたか。豚と一緒に煮込んでいるんだな)モグモグ
勇者(豚の旨みをすっかり吸ってらっしゃる。このほうれん草も強敵だ)パク
勇者(魔王国、侮れないぞ)モグモグ
勇者(ああ、美味しいな。ここが魔王城で本来敵国だなんて、どうでもよくなってしまう)パク
勇者(ふふ、食事中にそんな野暮な事考えちゃ、料理に失礼だな)モグモグ
兵士「……」モグモグ
兵士(この人、敵地のど真ん中だってのに、すっげえ美味しそうに食べるなぁ)
兵士(うーん、今日はちゃんぽんにしておけば良かったなぁ)
兵士「この後はどうするつもりだ?」
勇者「そうですね……こちらの貨幣も得られましたし、少し城下町で面白い物がないか見て行こうかと思います」
兵士「あ、いや、そんな直近の話でなく……」
勇者「地図が手に入れば、少し近隣を観光していこうかと」
兵士(観光って言い切っちゃったよ、この人)
勇者「面白い土産物や特産が売っている町とか知りませんかね?」
勇者「お世話になりました」
兵士「あ、ああ……」
勇者「また機会がありましたらよろしくお願いしますね」
門番A「行った、か」
門番B「様子はどうだったんだ?」
兵士「商人、かな……」
門番A「え……マジか」
門番B「何だったんだ、本当に」
勇者「うん、やっていけそうだな。魔王の国」
勇者「それにしても魔王の国の物かぁ。出来るだけ、バレないものを探さないとなぁ」
勇者「まあ、何とでもなるだろう」
勇者「それよりも、少しこちらの国の料理について学んでおきたいな」
勇者「ふふ、食った傍からもう次の料理が楽しみになってきている」
勇者「魔王の国、満喫できそうだ」
その者は戦乱を止める役を与えられていたものの、終ぞ直接的に貢献する事はなかったという。
ただ、分け隔てる事無く敵国の者にも接し、更には自らその地に赴いては自らの目的を果たす。
利する事もなければ、害する事もなく。
恐れはすれど臆することはなく。
闘争こそはないものの、別の形の勇気ある者として、永く永く語り継がれたという。
勇者「へえ、このパン屋、外からも見えるようにPOPを書いているのか」
勇者「『当店オススメ、カヌレ・ド・ボルドー』……このカップケーキ、みたいのかな」
勇者「……」
勇者「うん、食後の甘い物はまだだし、食べてみるか」カランコロン
ちゃんぽんと言えば長崎ちゃんぽん。
語源は色々と諸説があり、中国の福建語の挨拶やそこの言語での混ぜるという意味合い。
はたまた、沖縄のチャンプルーやマレー語・インドネシア語のチャンプルとか。
福建省の料理をベースにしているらしく、明治時代中期に清国人留学生向けに考案されたらしいが、
異説として明治初年に支那饂飩をちゃんぽんの名で売り出していたともいう。
カヌレ・ド・ボルドー
フランスのボルドー女子修道院で古くから作られているお菓子で、カヌレという名で親しまれている。
蜜蝋を入れる事とカヌレ型と呼ばれる小さな型で焼く事が特徴。
カヌレは溝のついたという意味で、底の形は違うけどプリンの容器が円柱状になっていると思えばイメージし易い。
ボルドーではワインの澱を取り除くのに、鶏卵の卵白を使うため卵黄が大量に余る。
その利用法がこれという話だとか。
卵白卵黄使い道繋がりで。
日本のOTC医薬品でよく使う抗炎症や去痰の効果のある塩化リゾチーム。
これは卵白から作られていて、マヨネーズ工場で余る卵白を利用しているとか。
カヌレの逆バージョン。
勇者「60万ゴールドに23万ギル……随分と稼いだもんだなぁ」
勇者「しばらくのんびりしてもいいぐらいだけど、動ける内に稼ぎたいしなぁ」
勇者「さて、納品を済ませてどっかで食事でも取るか」
勇者「それにしても」
勇者「随分と賑やかだな。お祭りでもあるのかな」
勇者「いやぁ、中々大変でしたよ」
勇者「でもまあ、二ヶ月で獲れたのは運がいい方でしょうね」
装飾師「そんなにですか……」
勇者「あ、いえ、自分の能力での話です。狩人の方とかでしたら1,2週間も篭れば大抵は済むらしいですよ」
装飾師「なるほど。しかし何にせよ貴重な物、本当にありがとうございます」
装飾師「こちらが御代の5000Gです」
装飾師「え? ご存知ではないのですか?」
装飾師「今日は、こちらと人間側との和平が結ばれる日ですよ」
勇者「えっ!」
勇者「全然知らなかった……」
装飾師「人間側では話題になっていないのですか?」
勇者「ここ最近は一角兎の情報集めたりだったんですよ。基本的に辺境の町や村ばかりなので」
装飾師「あーそうでしたか」
勇者「へー」
勇者「……」
勇者「あ、あの、それって聞いたりする事はできますか?」
装飾師「まあ、秘匿する内容ではないですので、ある程度の権限を持つ者なら傍聴できますが」
勇者「出来れば王達に気づかれないところで」
装飾師「あー……」
装飾師「うーん、それでしたら」
魔王軍騎士「装飾師さん? どうなさったんですか?」
装飾師「ええ、彼が聞きたいそうなので」
勇者「どうも」
騎士「特に面白い話題はないと思いますよ?」
勇者「……いえ、ちょっと気がかりがありまして」
装飾師「というのは?」
勇者「え、ええと、立場的に、とか?」
装飾師「?」
剣「問題ない」
丘「ああ」
火「相違ない」
商「ええ」
魔王「ではこれにて、人間側七ヶ国並びに魔王国の和平を取り結ぶとする」
魔王「……」
剣丘火商「……」
魔剣丘火商(ふー……)
魔王「斥候なのか何なのか知らんが、送り込むだけ送り込んでアクションなし」
魔王「こっちはずっと警戒をしっ放しだったぞ」
丘「なに?」
剣「は?」
火「ほほう、うん?」
勇者「」ゾォッ
装飾師「あ、そういう……」
魔王「勇者という職位の者を送り込んでいるのだろう」
火「ええ、確かに。だが、誰一人として魔王城はおろか、魔王の領土を越えたという話は聞いていないぞ」
魔王「なに? ああ、飽くまで代表としてだからか。この場に出席できなかった三ヶ国の人間という事か」
火「いや、多少なりとも勇者についての情報は交換し合っている」
火「それだけの事を成した者がいるのならば、周知されているはずだ」
魔王「……どういう事だ?」
剣「こちらが聞きたい」
魔王「現状の法では、その者を捕らえる事が出来ん」
魔王「ごく普通に違法性のない物を取引していくだけだからな」
商「……? 勇者? 商人の間違いでは?」
魔王「いや、勇者であると報告を受けている。此処でそのような嘘を言うメリットはなかろう」
剣「確かに……では一体何者が? しかも何の報告もなしに……商売をしていただけだと?」
商「微妙なラインですね。今こそ和平を結んだとは言え、当時は敵国へのルートを得た訳ですから」
火「それを隠していたとなると、最悪は反逆罪となってもおかしくないな」
装飾師「……」
勇者「ここから遥か西の土地についてお伺いしてもいいでしょうか?」
勇者「出来れば、長期的な滞在、あるいは移住を受け入れている町とか」
装飾師「ええと……はい。すぐに調べさせます」
勇者「うーん、人間側で商売出来るのは何年後かなぁ」
装飾師「え? そこなんですか?」
勇者「元々孤児なんで、故郷らしい故郷もないんですよ」
勇者「分かりました」
勇者「その間、城下町にいますね」
装飾師「大丈夫でしょうか?」
勇者「まだ人相は割れていませんからね」
装飾師「なるほど、分かりました。ごゆっくりしてきて下さい」
勇者「はい、よろしくお願いします」
勇者「しかし本格的に和平が結ばれるとなると、これから先、競争相手も出てくるだろうなぁ」
勇者「少し考えなくちゃいけないな」
勇者「まあ今は生活の基盤が先になるのかな」
勇者「何にせよ情報待ちか……」
勇者「さあて、何を食べようか」
看板「本日、海産物仕入れ!」
勇者「普通の料理屋に見えるが……海産物か」
勇者「ここまで大々的にするって事は普通の魚とかじゃないのかな」
勇者「どんな料理なんだろう」
勇者「ここ最近はずっと山だったし……よし、ここにしてみるか」
勇者「あの、外の看板って」
「入荷したのはタカベ、きびなご、あとタコだね」
勇者「へえ、タコってあのデビルフィッシュですか?」
「ああ、そうだよ。そんな事を聞くなんて……あんたまさか人間か?」
「人間側はタコを食わないって聞いた事があるが、本当なんだな」
勇者「ええ、まあ……あの、タカベも聞いた事がないんですが、どういったメニューなんですか?」
「きびなごは天ぷらだな。海よりの地域なら刺身で食うのも中々イケるんだがな」
「タコは刺身と水軍鍋だな」
勇者「……それじゃあ」
水軍鍋 90G
白身魚にしいたけ、白菜や水菜と里芋にエビ。
何と言っても丸々と入っているデビルフィッシュが凄い。
勇者「ほほう……これがデビルフィッシュ。何という存在感だ」
勇者(うん、美味いっ。思いの外、味はあっさり目なんだな)
勇者(魔王の国の鍋物って味噌が多いイメージだけど、これはしょうゆか)パク
勇者(うんうん、いいぞ。この白菜、実にいい)モグモグ
勇者(それにこの抜かりないしいたけの量)パク
勇者(やっぱり鍋と言ったら欠かせないな)モグモグ
勇者(この魚は何だろう?)パク
勇者(うーん、何の魚かは分からないが上等上等)モグモグ
勇者(このデビルフィッシュの量は想定外だった)ツンツン
勇者(あ、足が一本ずつ切ってあるのか……それにしてもでかい)
勇者(ええい、ままよっ)ガブ
勇者(……)モギュモギュモギュモギュ
勇者(ほう、ほう……デビルフィッシュ、面白い食材だ)モギュモギュモギュ
勇者(デビルフィッシュの味は分からないけど、これは多分食感を楽しむ食材なのかも)モギュモギュ
勇者(しかし、足一本。食べ辛いな)モギュモギュ
勇者(魔王の国の海辺の町ならもっと、デビルフィッシュを使った料理があるんだろうか?)
勇者(少し興味が湧いてきたぞ)パク
勇者(新たな発見だ。凄いぞ水軍鍋)モグモグ
勇者(しかしあと七本の足か。一人だと中々腹にくるなぁ)
勇者(けど残すのなんて勿体ないな。ここは勇者の見せ所だな)グッ
勇者「うう……腹がはち切れそうだ」
勇者「しかし、中々だったな。恐るべし水軍」
勇者「さて……宿屋を取っておくか。食休みしたら魔王城に行って」
勇者「大まかでもこれからの事、考えないとだなぁ」
しかし、彼の事が風の噂でなく、実在した者として広く伝わったのは、
和平が結ばれてから数年たった後であったという。
勇者「今日より旅立ちか」勇者(……それにしても腹が減ったな) 終
西日本でよく食べられる魚。
小魚で痛みやすく、遠方への流通は少なめ。
薩摩料理において、きびなごの刺身を酢味噌で食べるのが有名。
タカベ
ベントウやベットウとも呼ばれる魚。
名前の由来は、漁師用語で岩礁を意味するたかに、魚を意味する接頭辞のべを付けたと考えられている。
背部の中心から尾鰭全体にかけて特徴的な黄色をしており、中々目立つ魚で岩礁に近くに群生する。
日本固有種の夏の魚で、茨城あたりから西の太平洋に生息。
市場では高値がつく為、高級魚の扱いを受けている。関東圏内に卸される物は大抵伊豆産。
脂が多く塩焼きが絶品らしい。
観光激戦区、伊豆の中木でもよく見る。
スキンダイビング中に見かけては、よく喉を鳴らしている。
食べてみたい。今年の目標である。
海軍鍋
広島の郷土料理の一つ。
室町から戦国にかけて因島を拠点とした村上水軍が、必勝祈願に食べたと言われる。
瀬戸内海の魚介類と海草をふんだんにいれ、八方の敵を食らうという意味でタコを丸々入れるのが特徴。
昆布で出汁をとり、醤油などで味を調える。
ああああああああああ!!
タコ!
普通にタコって知ってるじゃん!マルミタコォォォ!
しかもタコを普通に食材として認識してるじゃんんうううう!!
元スレ
勇者「今日より旅立ちか」勇者(……それにしても腹が減ったな)
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1456590582/
勇者「今日より旅立ちか」勇者(……それにしても腹が減ったな)
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1456590582/
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コメント一覧 (53)
-
- 2016年07月06日 09:22
- ↓次にお前は「孤独のグルメかよ!」…と言う
-
- 2016年07月06日 09:29
- 孤独のグルメナリか?
-
- 2016年07月06日 09:37
- 孤独のグルメかよ!…は!!
-
- 2016年07月06日 11:23
- なべしきが赤旗…
-
- 2016年07月06日 11:54
- ※5
ソレ、時期が時期だけにオレも気になったわ
あ、ssは面白かったです
-
- 2016年07月06日 12:05
- これは面白い、グルメSSとしても普通のSSとしても良かった
-
- 2016年07月06日 12:24
- 面白かった!
予想以上のSS
-
- 2016年07月06日 12:25
- 勇者ゴロー、諸国漫遊。
-
- 2016年07月06日 12:27
- 誤字
-
- 2016年07月06日 12:56
-
グルメ旅いいねぇ
-
- 2016年07月06日 13:16
- まだ最後まで読めてないけど、魔王にアームロックはかけますか?
-
- 2016年07月06日 13:46
- ダンジョン飯+孤独のグルメって感じかな?
-
- 2016年07月06日 14:17
- 良作だね
-
- 2016年07月06日 15:10
- ファンタジー飯だと思って侮ったわ
腹減った
-
- 2016年07月06日 15:38
- 孤独のグルメ+ダンジョン飯なんて個人的最高の組み合わせだわ
いきなり誤字やら何やらでつまずきそうになったが良かった
ただ、食事描写の連続だから読んでて満腹感が強い
1食ずつ区切ってもらえるともっと読みやすかった
-
- 2016年07月06日 17:04
- 松重豊ボイスで勇者が喋ってるよ…
-
- 2016年07月06日 20:27
- 最後のオチに大草原
-
- 2016年07月06日 20:52
- じっくり楽しめた
-
- 2016年07月06日 21:04
- 最後二重でオチついてて笑う
-
- 2016年07月06日 22:15
- ページ見て長いと思ったが
気付いたら一気読みしてた
-
- 2016年07月06日 23:46
- 面白かった!
-
- 2016年07月06日 23:59
- 続編はよ
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- 2016年07月07日 01:11
- ある意味いいオチでしたw
-
- 2016年07月07日 03:50
- すみません、このサキュバスプリンってのを一つ
-
- 2016年07月07日 04:02
- TRPGのマスター経験者かな?
しかし一人旅はともかく、荷馬くらい使っても良さそうなもんだがw
-
- 2016年07月07日 04:52
-
寝る時間が無い…
-
- 2016年07月07日 10:06
- いや、孤独のグルメじゃあないな、これは野武士のグルメに近い。
-
- 2016年07月07日 14:32
- いやあ面白かった、ダレることなく綺麗に纏まってる
最後のオチもいいね(笑)
-
- 2016年07月07日 14:57
- 魔界はとうほぐだった…?
-
- 2016年07月08日 04:28
- 架空の魔物の肉とか最高に旨そう
ダンジョン飯新刊はよ!
-
- 2016年07月08日 10:50
- 側近をいじめてる魔王にアームロックをかけて、側近に「それ以上いけない!」と止められるシーンがあると思ったのに!
あ、内容はとても面白かったです。実際に自分で料理を作る人だからか色々うまいね
-
- 2016年07月08日 20:44
- 誤字が酷かったが、面白かったよ(笑)にしても終わり方www
-
- 2016年07月09日 00:28
- サキュバスプリンくれ
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- 2016年07月11日 15:09
- 面白いわ
-
- 2016年07月11日 20:17
- なんだよ、良作じゃないか!
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- 2016年07月12日 23:57
- コメント数が内容の割に少ない
これはもっと評価されて良い
-
- 2016年07月13日 01:02
- 勇者ssはどうしても出尽くした感があるけど、なかなか面白かった!!
-
- 2016年07月13日 02:14
- 久しぶりの良ss
デビルフィッシュ食いたくなった
-
- 2016年07月13日 20:39
- お腹が減るSSだった
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- 2016年07月13日 23:14
- 俺にも食わせろー!!
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- 2016年07月19日 21:03
- 淡々と変人ぽさが出てて好きだ
-
- 2016年07月21日 15:30
- 面白かった
ちょっとソードフォレスト行ってくる
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- 2016年07月26日 01:45
- 普通に松重さんの声で脳内再生されたw
-
- 2016年08月19日 04:59
- 一気に読んでしまった
お腹すいてたまらんなぁ
-
- 2017年06月12日 01:14
- いいじゃん
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- 2018年04月23日 02:22
- ただし夜に見るSSじゃねえ。繰り返す。夜に見るSSじゃねぇ。
-
- 2018年08月21日 23:42
- 久しぶりに読んだけど、やっぱ夜に読むもんじゃねぇな。腹が減るw
-
- 2018年09月02日 20:45
- 普通に飯テロSSだった
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- 2018年11月07日 20:54
- 勇者(ゴローちゃん)
名作だわこのss
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- 2020年05月04日 02:24
- 神作
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- 2020年05月24日 16:02
- コロナ大変だけどSSがあれば何とかなるもんだ
良作でした
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- 2020年06月14日 02:54
- 途中で関わった女勇者ご一行のその後が気になりんしてな
オークは女騎士とセットで親近感が。