レッド「――俺はマサラタウンのレッドだッ」
トキワの森の独特の空気が、少年レッドを圧倒していた。
頭上を覆う枝や葉による暗さ。そのすきまから差す柔らかな陽。
その光の筋が雨のように降り注ぐ道を、一歩、また一歩。
――がさッ。
――がさッ、がさッ。
『トキワの森には近づくな』
『巨大な蜂のバケモノに殺される』
それがマサラで育ったレッドが聞かされた迷信だった。
大人はみんなレッドやグリーンのような子共を脅し育てた。
もちろん、それは子供を危険な遊び場に近づかせないための策だったのだろうけど。
これがレッドにとっての、初めての冒険だった。
胸を焦げつかせる、新しい出会いと冒険の道が――。
???「――ほう、予知夢どおり、現れたか」
森の入口付近で、レッドは綺麗な女と出会った。
女は一際大きな大木の下で、冷たい眼でレッドを見つめた。
レッド「……」
???「おまえが私を知らなくても、私はおまえを知っている」
――マサラタウンのレッド。未来のロケット団の敵だ。
妖艶に笑う黒髪ロングのカノジョ。
彼女の抱える胸の中には、安らかに眠るピカチュウがいた。
黒い制服に、首もとの白いスカーフ。
そして何よりも女の制服には、赤文字の『R』のマークがあった。
それはポケモンの犯罪集団、秘密結社であるロケット団の証明だった……。
レッド「……」
???「私の名はナツメ。近い将来、おまえに殺される女だ」
そして苛立ち気に、ナツメは舌うちをした。
――チッ!
すべての未来を怨んでいる。そんな眼をレッドは受け止める。
勝手に殺人者にされた。これだけで女とは無関係ではない。そんな風にレッドは思った。
突然、ボッという大きな音が轟いた。
それに釣られるように、すぐさま森が悲鳴をあげ始める。
ナツメの背後で、黒煙があがり始めた。
トキワの森が、燃え始めていた……。
クックック、とナツメが笑い始めた。
ナツメ「始まったか。トキワの森一掃計画が」
レッド「……」
ナツメ「おまえに説明する義理はないさ――ユンゲラーッ!」
ナツメが鋭く叫ぶと、ユンゲラーが現れた。
ナツメ「かなしばりだ!」
ナツメはレッドに、ピカチュウを投げつけた。
腹にぶつかったピカチュウが、地面で呻いた。さっきまで優しかったナツメに助けを求めるように。
レッド「……」
ナツメ「敵に塩を送るというやつか。酔狂だな、私も――。
我が敬愛なるボスがいうには、トキワの森のポケモンは強靭らしいぞ?
ためしてみては、どうだ?」
ごそごそとナツメがレッドの装備からモンスターボールを抜きとる。
ナツメ「ふっ、予知どおり。ヒトカゲか。
こんな希少なポケモンは、
マサラで隠居してる翁にはもったいない。
この子はもらっていくぞ。こいつは我がロケット団の巨悪のために
役立つだろう……」
ナツメ「何が、なんだか分からない、って顔だが、それでいいのか?」
レッド「……」
ナツメ「おまえの理解を待つほど、現実は生温かくないということだ。
もうすぐやってくる理不尽な現実は、私からのおくりものだ」
ユンゲラーの頭に触れて「テレポートだ」とナツメが命令した。
彼女は消える寸前、さびしそうな顔をオレに向けた。
――しゅん。
そこにナツメの姿はなく、
レッドの冒険の門出を呪うように、
陰惨たる黒炎が、トキワの森を焼きつくしていた……
木岐が爆ぜる音。ピカチュウの慟哭。
それらから眼を背けたくても、かなしばり状態のレッドは、嫌でも凝視するしかなかった。
ロケット団。その制服をきた男たちが、ポケモンを捕獲、虐殺する風景までも――。
レッド「……」
ざぁざぁとトキワの森が雨に包めれ始めた。
かなしばりが解け、ピカチュウを抱きかけた時だった。
×××「レッド! こんな所で何をしているッ!」
いつものクールな仮面は剥げ落ちている。グリーンの眼には殺意が宿っていた。
呆然としているレッドに近づき、グリーンは頬を殴り飛ばした。
近くにいたピカチュウが、ぴかぁ、とグリーンに威嚇の声をあげる。
レッド「……」
グリーン「マサラの少年が、トキワの森を燃やしているってなぁッ!
……レッドッ、おまえのヒトカゲはどうしたァァァァァァァ!!」
レッド「――ッ」
『君の理解を待つほど、
現実は生温かくないということだ。
もうすぐやってくる理不尽な現実は、
私からのおくりものだ』
ナツメがいう、おくりものの箱を、少年レッドは否応なく開いてしまった……。
―― ポケットモンスター ――
■■■ 始まりの森/了 ■■■
―― 一ヶ月後、ハナダシティ。
通称ゴールデンブリッジ。
その橋のまえに、うす汚れた外装の少年がいた。
帽子とフードで顔は窺い難い。ただ平和的な姿ではないのは明らかだった。
×××「……」
虫とり「ポケモンバトルしないか」
ゴールデンブリッジには、戦いに飢えたトレーナーがたくさんいるのだ。
虫とり少年以外にも、橋には4人のトレーナーが、こちらの様子を窺っていた。
雑魚「え、ぼくら全員と戦うだって? 早く終わらせたい?
――君、ぼくを雑魚だと勘違いしてない!?」
怪しい少年の豪胆な発言に、ゴールデンブリッジに荒れる気配があった。
虫とり「さて! おまえに 抜けられるかな?」
ミニスカートA「ふたりめは わたし! これからが、本番よ!」
たんパン「そう簡単にはイカせないぜ!」
ミニスカートB「そろそろバテてきたんじゃない」
ボーイスウト「きえーいッ! おれが あいてだ!」
豪華賞品『きんのたま』がもらえるという条件で、
ポケモンバトルが始まった。
彼/彼女らが一声にモンスターボールを投げた。
キャタピー、ニドラン、アーボ、ズバット、マンキーが現れた
こいつらの台詞と、5人抜き後の『きんのたま』
大人になってプレイすると、絶対にスタッフ狙ってやっただろっと思っちゃうよね。
それが戦いの合図のように、怪しい少年は宙にモンスターボールを投げた。
高く打ち上げられたボールの軌道を、だれもが固唾を呑んで見守った。
少年の尋常じゃない雰囲気が、彼/彼女たちを呑みこんでいた。
その瞬間、
虫とり「糸を吐いて動きを封じろ」
ミニスカA「二ドラン、体当たりよ!」
たんパン「かみつけぇ!」
ミニスカB「いけぇぇ」
ボーイスカウト「ひっかいてやれぇ!」
申し合わせたように、全員が攻撃し始めた。
――が。
落ちたボールに向かっての攻撃が、すべて宙を切っていた。
5人「――え?」
少年が投げたボールは、空っぽだったのだ。
5人の背後で、何かが落ちる音がした。
振り向いた瞬間、すべてが終わっていた。
×××「……」
二つの巨大な針を5人に向けて構えたスピアー。
その赤い大きな昆虫の眼球が訴える、
『串刺しにするぞ』
という兇暴な意思に、ただただ5人は圧倒された。
いや、よそう。負けだ。ぼくらの」
たった数秒で、少年は5人抜きを達成した。
このバトルは後々ゴールデンブリッジの伝説になった。
ボーイ「空のボールがダーミーだったんだろう。
地面に落ちる寸前まで、ぼくらは怒りと緊張状態。
いつ投げたのかは分からないけど、つけ入る隙がいくらでも、ね」
――殺意がなかったところからすると、
何か生き急ぐ理由が彼にはあるようだな、とボーイは思った。
虫とり「なんて虫が好かんやつだ」
他4人(虫とりの虫ギャグうぜー)
少年は二つのボールを拾って、すぐに立ち去ろうとしていた。
その後ろを、ちょこちょこと、ピカチュウがついてまわる。
ボーイスカウトが握手を求めた。
少年は両手で握り返し、ぶんぶんと上下させ、ボーイスカウトを戸惑わせた。
ボーイスカウト(変わった子だなぁ)
少年との別れ際。
ボーイスカウトは、少年の謝罪の声を聞いた。
――ごめんなさい。
と、確かに、そう聞こえたのだ。
ボーイ(あいつの顔、どっかで見たような。いや、まさかね。指名手配犯なわけ……)
ゴールデンブリッジを抜けようとした時だった。
団員「5人抜きおめでとう。
そして人間に躊躇なく牙をむける、
その醜悪な精神。すばらしいよ!
君、ロケット団って慈善組織に、入らないかい?」
と、少年を勧誘する、ロケット団の制服姿の男がニヤついていた。
団員「え? ナツメ様を知っているかって?
知っているとも。我らがロケット団の幹部だからな」
いきなり少年はポケモンを出した。
ボールから出現した瞬間から、
すでにスピアーは荒ぶっていた。
男はとっさにアーボで応戦。しかし一瞬でピカチュウの10万ボルトに倒れた。
そのスキにスピアーがロケット団員を串刺しにしようと急接近。
団員「くそったれ!
次だ。いけ、ギャロップッ!!」
レッド「……!」
ボゥッと火を吹く、猛々しい眼のギャロップ。
高レベルだと分かる圧力を少年は感じとった。
その声に呼応して、ギャロップが火の雨を降らせた。
炎に弱いスピアーに、猛威が降り注ぐかと思われた瞬間だった。
少年が疾駆し外装を脱ぎ棄て、それを火避けにスピアーにかぶせた。
団員「チィ!」
×××「……」
主人の短い命令に従った軌道でスピアーは飛んだ。
視界が外装で見えないというのに、一切の躊躇がない。
×××「……」
ピカチュウの電光石火が、ロケット団員の腹をえぐった。
その首筋に、スピアーの針が触れる。
そして男の胸を容赦なく踏みつけ、少年はスピアーから外装を剥ぎ取った。
ロケット団員「その顔はまさか――指名手配中のレッド!」
レッド「……」
理不尽な現実に追い立てられ。
レッドはトキワの森を壊滅の犯人にされてしまっていた。
トキワの森の実行犯にされちゃァ、
もう故郷には戻れないよなぁ。
いい機会じゃないか、なァ。
逃走生活なんざ、ガキにはキツ過ぎる。
俺から口添えしとくから、ロケット団に入れちまえよ。
それだけの実力があれば――ひゃァッ!?」
ドッドッドッドッドッドッドッ!
スピアーが男の頭蓋付近の地面を穿った。
いくつも開いた穴の数だけ、男は死を実感した。
レッドの持ちポケモン、ピカチュウとスピアー。
どちらも悲劇の森で生活をしていたポケモンだった。
二匹ともロケット団に怒りを覚えているのだ。
―― 5日前。トキワの森跡。
そこは幼いレッドにとって地獄絵図だった。
レッドのまわりには、何匹ものポケモンが瀕死状態で転がっている。
息を切らし、血だらけのレッド。傷だらけのピカチュウとスピアー。
そして、戦いの順番を待っているかのような、野生のポケモンたちがいた。
レッドは泣きながら、順番に襲ってくるポケモンを倒し続けていた。
もう何日も、何日も、ピカチュウとスピアーのみで、戦い続けた。
どんな手を使っても強く、強く。そんな仄暗い激動が、彼とポケモンの原動力だった。
経験を捧げるための、ポケモンの自虐行為。
倒されるために戦い。
復讐を少年の肩に託し。
レッドたちに経験値を与え続ける。
雨降る暗いトキワの森に、ピカチュウの電撃がピカッ瞬いた。
――また、一匹、レッドのまえに焼けこげたポケモンが横たわる。スピアーの同胞だ。
それは10代のレッドが背負うには、あまりにも無慈悲なモノだったからだ。
トキワの森にいる、すべてのポケモンが啼いていた……
■■ 回想/了 ■■
彼の眼が揺らぐのを、ロケット団員は見た気がした。
まるでトキワの森の亡霊が宿っているかのような……。
団員「あァ、助けてくれぇ」
レッド「……」
ゴロゴロと稲妻が轟き始めた。
ポツ、ポツ、と雨が降り始める。
ピカチュウの電気袋に、紫電が走る。
カッ空が光った瞬間、ロケット団の男は死を悟った。
団員「ウギャァァァァァァァァァァァァ!!」
ポケモン図鑑の機能を使って、レッドは救急車を呼んだ。
ロケット団員は、気絶している程度だった。
――甘いな、というナツメという女の声が聞こえた気がした。
それでも、それでも少年の眼はギラついていた。
これはトキワの森の復讐代行なんかではない。
これはマサラの少年による、ロケット団壊滅の狼煙だ――。
■■ Golden bridge/了 ■■
それはハナダシティの食堂で耳にした噂話だ。
「離れの滝で、水ポケモンが暴れてるってよ」
「すっごく兇暴なポケモンらしい」
「まるでドラゴンみたいだって」
「ハナダのジムリーダーが、戦っているとか……」
ジムリーダーが不在な理由判明。
ランチをがつがつ口の中へ放りこんで、レッドは立ちあがった。
圧倒的な速度で、ポケモンが滝のぼりをした。
そして暴竜は空へ舞い、大きな牙を少女に向け落下する。
ギャラドス「ギャシャァァァァァァァァッ――!!」
カスミ「また来たわねッ。頼むわよ。スターミー頼むわよ。
サイコキネシスッ!!」
少女を呑み砕こうとしたギャラドスの頭が弾かれた。
滝壺に落ちた巨体で、震動。そして水しぶきが舞い上がる。
少女カスミは、眼前の水しぶきに映る、巨大な影を見据えていた。
カスミ「油断しちゃダメよ。皆、一声に攻撃よ。GOッ!」
スターミー、トサキント、タッツー、コダックが、それぞれ叫び攻撃を放つ。
水しぶきを蹴散らし、ギャラドスに無数の攻撃が当たる。
ギャラドスの悲鳴が、ハナダの滝に轟く……。
ばざんと倒れたギャラドスを、憂いだ眼で見る少女。
が、しかし、強靭な暴竜は、まだギラついた殺意に燃えていた。
ギャラドス「ギャラァァァァァッ」
滝壺の中で巨体をうねらせ、カスミに喰らいつこうと水の中を疾駆した。
その暗澹たる坑内を呆然と見つめ、カスミは死を覚悟する。
カスミ(助けられなくてゴメンね、コイちゃん。みんな、私もう……)
――ピカァァァァァ!!
ギャラドスの巨体に、雷が落ちた。
今度こそギャラドスは悲鳴をあげ、倒れていく。
水しぶきに埋もれながら、カスミは驚いていた。
カスミ(これは10万ボルト?)
レッド「……」
少年の傍らには、電気ポケモン、ピカチュウがいた。
疲労した体を引きずって、こちらに向かう少年のまえに近寄った。
カスミ「あんたが助けてくれたの?」
レッド「……」
カスミ「……なんで謝るのよ?」
レッド「――。」
カスミ「え? あたしがこのギャラドスを大切にしてるものじゃないか、ですって?」
カスミ「なんで、この子があたしの子だなんて、だれにも言ってないのに」
レッド「……」
カスミ「なんとなくって、なんとなくってねェ、アンタッ!」
カスミ「――みんな、町のみんなが、この子を悪者扱いしてたのに、
仲良かった友達や家族だって、気づかなかったのに……」
静かに少女は大粒な涙を流した。
(嬉しい。なんで、どうして、こんなに――)
戸惑うレッドの胸に顔をうずめ、カスミが震える口を開く。
カスミ「ありがとう。本当に、本当に……」
カスミと名乗った少女に
「お礼するんだから、絶対に逃がさないわよッ!」
と半ば無理やりつき纏われたレッド。
回復したギャラドスが入ったモンスターボールを受け取ったカスミ。
カスミ「コイちゃん、コイちゃん!」
と、頬をボールに擦り寄せている。
平和であるべきポケモンセンターは、カスミを取り残して騒然としていた。
カスミ「ポケセンの皆、なァんか変な空気だったよね。ビビってるっていうか。
あのいつも笑顔ふりまく、クローン疑惑のある、ジョーイさんだって、なんかヘンだったわ」
レッド「……」
カスミ「え? コイちゃんを怖がってたですって?
しかたないけど、酷いわ!
こんな大きくなっちゃたけど、可愛いじゃない!」
レッド「……」
カスミ「可愛いわよ!」
またロケット団だ。
水浴びをさせていたコイキングを、ロケット団員が連れ去ったらしい。
ここ半年、こういったポケモン誘拐事件が多発していた。
そして、そのポケモンは、金持ちに売られ。
あるいは特殊なレベルアッパー的な何やかんやで強制的に強化され悪用される。
レッド「……」
レッド「……」
カスミ「なんでもないって顔、してないじゃん! 嘘つき!」
レッド「……」
カスミ「あたしは、アンタの助けになりたいの!///
アンタ、えェっと、まだアンタの自己紹介がまだだったわね」
あたしはカスミ。
ハナダのおてんば人魚にして、ハナダのジムリーダーよ。
あたしの方が年上みたいだし、少しはアンタの助けに……」
レッド「――」
カスミ「そうレッドっていうんだ。
で、ねえレッド。なんでアンタ、ボールをかまえてるわけ?」
レッド「……?」
カスミ「ジム戦したいからって、
こんな場所で自己紹介終わった直後にするなァァ!」
怒鳴られて、首をかしげるレッド。
カスミ(やだ、ヘンなヤツだけど、可愛いかも///)
翌日の早朝。
レッドはハナダのジムの扉を押し開いた。
暗闇が広がっていた。ぽちゃん、と水の跳ねる音が聞こえた。
レッド「……」
カスミ「ようこそ、レッド。あたしのジムへ」
レッドのまわりには巨大な水槽の壁。
まるで水槽の中を泳ぐポケモンたちに観察される虫けらのような気分だった……
カスミ「助けてもらってアレだけど、あたしはジムリーダー。
背負っている期待を裏切らないわ。全力でアンタの挑戦を受けつけるわ!」
レッド「……」
――カスミの合図で、レッドのジム戦が始まった。
それが戦いの場だった。
いくつもある岩の足場。
そこから滑り落ちたら、一巻の終わりだった。
プールの底では、カスミの独壇場だ。
カスミ「スターミー、10万ボルトッ!」
レッド「――ッ!」
カスミは水を使うだけではなく、それを利用できるジムリーダーだった。
私怨も義務もない、純粋な戦いに、レッドは燃えていた。
レッド「……」
カスミ「あんたさァッ! ――わくわくしてるでしょッ?」
スターミーVSスピアー戦。
空と水の戦い。レベルの高い両者の戦いの中。
レッド「……」
カスミ「でしょうねッ! あたしもワクワクしてるわ!!」
激闘の、激闘。
すぐに勝負をつけるための、
レッドのトレーナーへの攻撃もなしの。
本当のポケモンバトル。
お互い残されたのは、一匹ずつ。
ピカチュウ。
そしてカスミの、――。
ぽん、と軽い出現音に似合わない。
巨大なギャラドスが、ジムに降り立った。
ギャラス「ギャシャァァァァァァァァァッ!!」
レッド「……」
電気を溜めていたピカチュウが、ギャラドスに向かって跳ねた。
ピカァァァ――。
ギャシャァ――。
大きな戦闘のうねりがジムの中心で渦巻いていた。
これで雌雄が決する。
そんな未来を壊したのは、突然の乱入者だった。
何かしらの超現象により、
大きな音を立てて勝手に開いた。
そこには一人の女の影があった。
あまりにも無粋で、あまりんも唐突だった。
激戦の熱や想いを断ち切るようなくらいには……。
ナツメ「久しいなマサラの坊や」
レッド「……」
それは始まりの森で出会った女だった。
そのことに怒り心頭なカスミ。
ナツメに詰め寄って「あんた、一体なんの――」というが、
ナツメは無視して、カスミの横を通り過ぎた。
ナツメ「少しはイイ顔するようになったじゃないか。
その眼光。その佇まい。
少し、私のボスの気配があるな」
レッド「……」
ナツメ「ここへ来た目的?
なに勘ぐるな。坊やに会いにきただけさ。他意はない」
カスミ(この女、レッドの何なのォ!?)
あたしとレッドの戦いの邪魔をして、ただじゃ済まさないんだからァ!」
ナツメ「嫉妬となんてしなくていいぞ。ハナダの出涸らし人魚娘。
恋など愛だの浮ついたものじゃない。他意はないといったはずだが?」
カスミ「そ、そんなんじゃないわよ! 勘違いするなァァ!」
ナツメ「これは何のつもりかな、坊や」
ナツメの喉元に、スピアーの毒針。
ナツメの背後にまわったレッドは無言で応える。
ギャラドスに向けられる筈の、ピカチュウの電気がナツメに向けられる。
トキワの森のポケモン二匹が、猛々しくナツメを睨み主人の命令を待つ――。
さっきまでの『ポケモンバトル』を楽しむだなんて、
甘ったるい感情じゃ、我々ロケット団は倒せないぞ」
カスミ「ロ、ロケット団ッ!?」
カスミに醒めた眼を向けたナツメが、懐に手を伸ばした。
ナツメ「そう警戒するな坊や。ほら」
そういってレッドにとり出した紙を渡した。
レッド「……」
ナツメ「何のつもりか、か。ただの贈り物だ。
ポケモンと合体したアホを、気まぐれに助けたらもらったんだ」
ナツメの贈り物。
それに陰惨な記憶が頭を過る。
ナツメ「ここにハナダ周辺のポケモン誘拐組織の幹部がいる。
そいつの名はマチス。貴様が憎む、ロケット団の幹部だ」
レッド「……」
ナツメ「このネタをどうするかは、私の預かる所じゃないな」
突如ユンゲラーが出現し、レッドとカスミ、そしてポケモンたちに金縛りをかけた。
レッド「――ッ」
ナツメ「待てといわれて、待つ阿呆じゃないさ」
レッド「……」
ナツメ「罠だと思うなら、そう思っていればいい。
それが罠ならば、乗り越えろ。
巨悪を倒すために、生きているのだろう?」
レッドの制止の声も空しく、ナツメはユンゲラーと共にテレポートで消えた。
その後。
ハナダのジム戦は有耶無耶になったが――。
午後。街の南。6番道路にて。
カスミ「そう、そんな理由があったのね」
レッド「……」
カスミ「アンタが指名手配犯だなんて、このあたしが許さない。
タマムシの権力者のエリカさんって人にも、応援を頼んでみる」
カスミはごそごそとポケットから、ボールをとり出した。
強力だし。ロケット団のレベルアッパーとかそんな感じの何やかんやで、
酷い目にあってたから。きっとアンタに協力してくれるわ!」
ボールを受け取ってお礼を述べ、
セント・アンヌ号に乗船するため、クチバシティに向かう。
カスミ「ありがとー! さようなら!
あたし、絶対にアンタのこと忘れないからァ――!」
そういってカスミはレッドの姿が消えるまで、手をふり続けた。
それにレッドの心の弾力が取り戻されていく。
これでは駄目だ。
甘くては、ロケット団という『人間』に牙を向けれない。
それでも悪くない。旅立ちには、悪くない気分だった――。
ピカチュウが青空を仰ぐと、そこには大きな白い雲があった。
ハナダは みずいろ、しんぴのいろ。
■■ ハナダの霞草/了 ■■
――クチバシティ。サントアンヌ号前。
ナツメからもらったチケットを渡すと、事務の男が驚いた声をあげた。
事務「すぐにご案内いたしますッ」
恭しく礼をして、事務の男が船まで案内した。
階段をあがっていく途中、貨物の船員たちの中に、ある男を見つけた。
マチス「丁重に運べェ! こいつらは富を呼ぶんだからな。HAHAHAッ!」
レアコイルを撫でながら、ポケモン誘拐犯の首領マチスが笑っていた。
シンプルで大きな部屋。そこに思わなく先客がいた。
ナツメ「さきにランチを頂いてるぞ、坊や」
レッド「…………………………………………」
ナツメ「なんだ、その坊やらしくない、呆れ切った顔は」
レッド「……」
ナツメ「べつに食事くらい構わんだろう。
そのチケットもマチスの情報も、私が与えたものなのだから」
ナツメ「なかなか度胸がついたじゃないか」
レッド「……」
食卓にならぶ色とりどりの料理に手を出し始めるレッド。
ナツメ(度胸がついたのか、ただ食欲馬鹿なのか……)
レッド「……」
ナツメ「なァに。貴様に協力をしようと思ってな。
坊やに罪を擦りつけ、トキワの森を殲滅した我々ロケット団。
その憎い幹部のマチスへの報復。それに手を貸すといっているんだ」
――ガブ、ガブ、むしゃむしゃ。
ナツメ「同じロケット団? ヤツは裏切り者だ。
マチスは組織を陰で裏切り、金儲けに走っている。
そいつを切ると同時に、おまえへの当て馬にしたいというのが、ボスの指令だ」
――ガブ、ガブ、むしゃむしゃ。
レッド「……」
ナツメ「いや、その、なんだ坊や――えェい! この大食漢め! 私の分まで食べたなッ!?」
その男の指示に従って、ナツメは動いているようだ。
ボスの目的も正体も分からない。
――自分を育てようとする黒い糸が、自分の四肢にぶらさがっているのを感じた。
社会も組織も裏切る。
どっちつかずの、私利私欲の怪物。
――そいつを倒せるのは、また別の悪だよ坊や」
せいぜい、協力し合おうじゃないか。ふふふ。
そういってナツメは客室を出ていった。
そしてサントアンヌ号の出港の汽笛が鳴り響いた。
『あいつテレポート以外でちゃんと移動するんだ』
と思った。
眼下には空よりも黒い海が広がっていた。
夜風のように、冷たい手が首筋にからみついてきた。
ナツメ「スキだらけだな、坊や」
レッド「……」
ナツメ「ハナダの娘と会うまでは、もっとギラギラしていたのにな。残念だよ」
レッド「……」
ナツメ「ああ、私自身、超能力者だからな。
おまえの気配は伝わっていたよ」
レッド「……」
ナツメ「甘ったるい感傷は、この暗澹な海の上にでも捨てていくんだな」
一時休戦。
利用できるものは、敵だろうが利用。
レッドは正直に、しかし気を抜かず、サントアンヌ号襲撃計画を語った。
ナツメ「ははは、なんだ。そうか。
悪を成して悪を断つのかと思いきや。
おまえ、貨物の中に閉じ込められている、
売却予定のポケモンたちを救うつもりだな?」
レッド「……」
ナツメ「なんて甘ちゃんなんだ。
だが、妙に私を惹きつける」
レッド「……」
ナツメ「いいだろう。貨物の襲撃は、私がやろう。
正義ったらしくて虫唾が走るが、いいさ」
レッド「……」
ナツメ「ロケット団とは『巨悪』を成すための組織。
金儲けごときに走るアホウには粛清が必要だ」
ナツメ「いや、信じなくていいさ。
腐ってもおまえは正義で、私は悪だ。
ただの利害の一致さ。
それに――」
レッド「……」
ナツメ「トキワの森でいっただろ。
おまえは近い未来、私を殺す男なんだ。
信頼関係なんて、持たれても困るぞ」
レッド「……」
ナツメ「いずれ分かるさ」
レッド「……」
それをしげしげと眺めたあと、ナツメが薄く微笑む。
ナツメ「船襲撃で、またおまえは罪が大きくなるな。大犯罪者だ」
友人よりも強い力じゃなく
恋人家族よりは軽く、
信頼を置くには遠い柔らかさ。
そんな絶妙な加減で、ナツメは握手をかえした。
ナツメ「レッド。おまえの悪行を讃えよう」
レッド「……」
――こうして深夜のサントアンヌ号襲撃が始まった。
――その人影は陰で見ていた。
妖艶な美女と、指名手配犯の少年の、共闘の握手を。
すっと人影はデッキから離れた。
その胸にはレッドと変わらない、復讐の暗く熱いものが滾っていた。
その気配にナツメは気づいていた。
ふふふ、と妖艶に魔女は笑う。
――あァ坊や。
私もおまえの未来も、ひどく残虐じゃないか。
■■■
――しゅん。
ベッドの傍らにユンゲラーが現れた。
堕ちてもロケット団幹部。異様な気配には鋭かった。
マチス「ヘイ、ヘイ、ヘイ、ヘイ、ヘイ。
誰の使いだテメェはッ――!?」
ボールに手をのばすマチス。
が、ユンゲラーは、また唐突に消えてしまった。
一枚の手紙だけが、ひらひらと床に落ちて残された。
ユンゲラーが残した手紙をマチス拾う。
マチス「アッハーン? なんじゃこりゃァァ!」
マチスの女関係、黒歴史、性癖、
『猫ポケモンを愛でる会』の会員ナンバーが10桁内であることや、
その他、本人にとっての醜態が、細かく書かれていた。
それはレッドによる挑発文かつ、呼び出し状だった。
もちろんマチス情報は、ナツメの嗜虐という名の超能力によるものだった。
マチス「誰だか知らねェがぶち殺してやるぜッ!!」
デッキに荒々しい気性の男がやってきた。
マチス「ヘイ。テメェが腐れ個人情報漏洩ヤロウかァ。アンッ?」
レッド「……」
マチス「テメェの指図通り、一人で来てやったぜ――っていってもだぁ」
ポン、ポン、ポン、ポン、ポン、ポン、ポン、ポン――。
マチスはたくさんのハイパーボールを床に落とした。
マチス「部下はいねェがッ、ポケモンはたくさん連れてきたぜェ!
ハンッ! 俺サマはさびしがり屋なんでなァ、許してくれよなッ」
兇暴が染みついたような顔つきで、マチスがニヤついた。
マチス「バカなヤロウだぜ。
わざわざ俺とタイマン張ろうなんざ。
何が目的か知らねェが、死んでもらうぜ」
レッド「……」
マチス「――いけ、コイル共。
猫ポケ大好きで団員共にも
マニアを自称している俺サマが、
哀れ会員ナンバーが10桁という恥を、
そいつと一緒に海のもくずにしろォォ」
レッド「………………」
コイル14匹による、体当たり劇が始まった。
俊敏にデッキを飛び回り、時に転がり、すべてを避けるレッド。
7回目の体当たりを避けた刹那、レッドはボールを投げた。
ボールはコイルの群れのすき間を、絶妙に切りぬけマチスの足元に転がった。
――ポンッ。
飛び出したスピアーの針が、一瞬でマチスを襲いかかった。
その瞬殺の二連突きを、マチスがあっさり避けた。
マチス「ひゅーッ。アブねェなッ。
だがよ、生憎と俺サマは強えェのよ!!」
レッド「……」
マチス「極上のポケモン使いってのはなァ。
てめェの肉体を鍛えてるんだ、YO!!」
スピアーの腹を殴り飛ばし、マチスが疾駆する。
向かうは、コイルに翻弄される、レッド――。
マチスがコイルの影から、右ストレートをくりだした。
わき腹を穿たれ、呻くレッド。
マチス「ハッハアーンッ!」
鍛えぬかれた肉体から、さらにローキック。
それを避けた瞬間、背中にコイルの体当たりが当たった。
ポケモンの攻撃は、人間、それも幼い少年には残酷だった。
レッドはくるりとまわり、モンスターボールを上に投げた。
ボールが、マチスの鼻先に、カスった。
マチス「チィッ! 悪あがきしやがって」
きれいに数メートル頭上にあがったボール。
それを見上げて、
マチス「おい、ポケモンが出てこねェじゃ――」
倒れていたレッドはひょいっと猫のように跳ねあがり、
ボールを見上げているマチスの顎に掌底をぶちかました。
レッド「……」
マチスは一歩後ずさり、コイルの群れに姿を隠した。
また体当たりから逃げ続けるレッドを睨んだ。
マチス「てめェも極上のポケモン使いのくちかよッ。
それもポケモンバトルの為だけじゃねえ。
俺と同じ、人間にも振るう暴力ときやがる……」
と、すぐさまコイルに指示をだした時だった。
――ポンッ。
空中のボールからピカチュウが飛び出した。
レッド「……」
主人の指示に呼応し、ピカチュウが電気袋に力を溜めこんだ。紫電が走る。
ピカチュウ「ぴかぁぁぁぁッ」
マチス「ヤロウ、幼い顔しやがって、人に電撃を――」
暗い船のデッキが、カッと一瞬電撃で照らされた。
マチス「ぎゃぁあああッ!!」
レッドが呼ぶと、巨大な暴竜が、海から首を出した。
ギャラドスのハイドロポンプの水流が、コイルたちを薙ぎ払った。
水浸しになったデッキ。
デッキに転がっている、気絶したコイルたち。
レッドは地面に伏したマチスに近づいた。
レッド「……」
ピカチュウ「ぴかぁ?」
ピカチュウがレッドを見上げた。その時だった。
マチス「べろべろばぁ!」
マチスが軽薄に顔を歪めて跳ね起きた。
分かってたって顔つきだなボーイ?」
レッド「……」
マチス「軽傷な理由なんざ、コレだよ。コレ!
この特殊な電気を通さないスーツだぁ!
電気ポケモン使いにして、ジムリーダー。
この俺サマが、電気対策してねェわけねーだろォがぁ!!」
レッド「……」
マチス「ボーイ。てめェは俺を怒らせた。」
ポン、ポン、ポン、ポン、ポン、ポン――。
現れたのは、10匹のマルマインだった。
ころころころころ。床にマルマインが転がっている。
マチス「マルマイン、みがわりだぁ!」
10匹による、10匹のマルマインの分身。
デッキが計20匹ものマルマインで埋め尽くされた。
異常な光景だった。
ごろごろ、ごろごろ、ごろごろ、ごろごろ……。
マルマインの転がる音が、ひどく不吉だった。
レッド「……」
そのガキ一人殺す程度でいい。
いいな、船を沈めるんじゃないぜ?」
レッド「……」
レッドは一声攻撃をしかけた。
ピカチュウの電光石火。
スピアーの乱れ突き。
ギャラドスの波のりがマチスを襲う。
デッキに漂う悪寒。
それを発しているのは、もちろん。
マチス「マルマイン、大爆発だぁ!!!!」
――大爆発×10(みがわり)が、レッドたちを襲った。
『みがわり』と『だいばくはつ』の、裏技コンボを、10匹で。
みがわりが爆発するので、マルマインは無傷だ。
そして5匹以上の大爆発は、ビルの撤去などで使われる、大規模な破壊だった。
これで助かる人間がいるわけがねェ。マチスは確信していた。
ヘイヘイヘイヘイヘイヘイヘイヘイヘイヘイッ――!!
どうした極上? こんなもんだろやっぱよォ。
これが俺の数の暴力だぁ。汚いも臭いもヘチマもねェぜ。
これが、ポケモンの使い方だ、勉強になったろハハハハ!!」
――その時だ。
爆炎の中から黒い影が飛び出し、マチスの喉元を掴んだ。
マチス「――なん…だと…?」
床に倒れるマチス。
彼に圧しかかったレッド。
そのレッドにそっくりな悪魔の口端が、
鋭い三日月のように歪み笑った……
みがわり×だいばくはつのコンボへの、惜しみない賞賛だった。
マチスが首を動かし、こちらを凝視している。
マチス「なッ、てめェ何でそんな所にいやがる?
いくら沈没しねェために手加減したからって
、人一人殺すなんざワケない爆発――」
驚いたマチスが顔をあげると、
レッドの顔が崩れた。
そこには、レッドに変身していた、ゲンガーがいた。
レッドはマチスを電撃で伏しった瞬間。
すぐにゲンガーと入れ替わり、隠れていたのだった……。
レッド「……」
どすッ。
レッドがマチスの肩を踏みつけた。
マチス「なぜポケモンを売りつけるかだって?
そりゃあ、金になるからに決まってんだろうがハハッ――ぎゃあぁ!」
ピカチュウがマチスの頬をひっかいた。
マチス「ハナダのコイキングだぁ?
そりゃあ覚えてるぜ。
ちょいと、とあるレベルアッパー的な飴と、
組織の特殊兇暴薬を与えまくったら、
すぐにゴキゲンになりやがってよォ――うぎゃぁぁ!」
スピアーの針が、マチスの腹を軽く穿った。
マチス「もうポケモンを悪用しないかだって?
するねェ、するぜェ、絶対。約束してもいい……。
つかてめェ、いい子ぶってんじゃねェぞゴラァ」
レッド「……」
マチス「てめェは人間にポケモンを向けることができる、悪人なんだよォ!
パンピーの皆様方は、絶対にできない、サイテーなことだぜ。
サイテー同士、悪人同士。仲良くやろうじゃないかハハハハハハハハ
ハハハハハハハハハハハハッ――!!」
デッキには、男の笑い声が響いた。
一つ、また一つ。客室の電灯がつき、騒がしくなり始めた。
その一声に、ナツメが貸してくれたゲンガーが、マチスを襲った。
――夢食い。
マチスの劣悪な精神を、ゲンガーが呑みこんだ。
――ガブリッ。
― マチス戦/了 ―
デッキの騒ぎで混乱し始めたサントアンヌ号内。
深夜だというのに、人の波ができた通路を、レッドは走る。
貨物倉庫まえ。
その扉が開かれていた。
もうナツメはポケモンを逃がしているのだろうか?
ぎいっと蝶番が軋む音。
ゆっくりと扉を開くと、そこには――。
裸電球一つが、空っぽの倉庫とレッドを照らしている。
レッド「……」
たしかマチスとその部下が、
大量のモンスターボールが入った箱を、
この倉庫に運んでいた筈なのに。
パチ、っと倉庫内のすべての電灯が点いた。
×××「正体を現したな、レッド」
背後から、男の声がした。
×××「とことん堕ちたなレッド。
今度は乗客が預けたポケモンたちを盗んだか」
レッド「……」
一歩、一歩、少年は近付いてくる。
ロケット団の幹部と噂の、
あのナツメと一緒にいる、そのおまえの。
――何を信用しろっていうんだ?」
コツ、コツ、コツ。
また一歩、一歩と。
レッドの眼前には、同じ背丈、同郷の……。
グリーン「サントアンヌ号襲撃。
どこまでマサラの名を汚せば気が済むんだレッドォォォ!」
まっさらの始まりの地、マサラの少年がそこにいた。
グリーン「レッド。ポケモン図鑑、ここに置いていけ。
おまえにオーキドの爺ちゃんの作った図鑑は、相応しくない」
レッド「……」
レッドは床に図鑑をおいて、後ずさった。
それを拾ったグリーン。その後ろに、もう一人、人がいた。
グリーン「さぁな。本人に聞いてくれ。
ただトキワの森を燃やし、ロケット団幹部とつながっている。
そんな男と、この空っぽの倉庫――」
船長「うむ。捕まえる必要がありそうだね。
ワシは至急、警備の者たちを呼んでくるよ」
そういって船長が去っていった。
同じくマサラを故郷とし、
高め合い、認め合うくらいには、
どこか似ていて、それを大人たちに期待されていたのだが……。
グリーン「おまえは、オレが止める。
ポケモンバトルだ、レッド」
グリーンはボールから、フシギソウを出した。
何を語ろうと、状況がレッドを許さない。
レッドにとって、いま最優先するべきは――。
レッドは扉に向かって、走りだした。
グリーン「逃げるつもりかッ! させないぞ!」
それに向かって、レッドは疾駆する。
ポケモンを出す気配がなかった。
グリーン「チッ。卑怯だぞ、レッド! ポケモンを出せ!」
グリーンは善。
丸腰の人間に対して、ポケモンの攻撃ができないのだ。
あっさりフシギソウをレッドは飛び越えた
しゅん、バンッ!
強力なムチがレッドのすぐ足元を砕く。
しかし、それで怯むような、幼い心はトキワの森で死んでいた。
レッド「……」
グリーン「それどころじゃないだとッ!?
ふざけるな! オレと戦え! オレを見ろよレッド!」
グリーンの怨嗟の声はむなしく。
貨物倉庫には、グリーンだけが残された。
警備「いたぞォ! あの帽子の少年だぁ!」
正面と、後ろ。
挟み撃ちになる形で、
屈強な警備の男たちに、レッドは捕まった。
抵抗もむなしく。
頭をつかまれ、乱暴に地面に押しつけられた。
レッド「――ッ」
まったく動けない。
警備長「一番近い港に寄せるよう、船長に伝えろ。
警察に突きだしてやる。――さァ、オマエたち。
この少年を空いている部屋に閉じ込めておけ!」
その時だった。
暗い空から、耳を劈くような、風切る轟音が鳴り響いたのは……
どうやら船のテラスに向かっているようだった。
その巨大な機械の腹には、赤い『R』の文字。
「Raid On the City, Knock out, Evil Tusks.」
(町々を襲いつくせ、撃ちのめせ、悪の牙達よ)
それは悪名高きロケット団のシンボルだった。
ヘリの轟音に、レッドも。
そして船内のすべての人々が起き上り恐怖した。
ここまでヘリの音とは、不気味だっただろうか。
まるで地獄の釜から聞こえる、亡者の高笑いだ。
ロケット団だ!
この船に何があるっていうんだ!
ヘリの光が、テラスを照らしてるぞ!
逃げろ、この船を沈める気なんだ!
――がやがや。
この混乱の隙に、レッドは警備を振り払った。
警備長「待て! だれか、その少年を捕まえてくれェ!」
ヘリに照らされたテラスには、
貨物の木箱に座っている、ナツメがいた。
ナツメ「友人との再会は楽しめたかな、坊や」
ヘリの荒々しい突風が、ナツメの黒髪をなびかせる。
さあっと細い指で、彼女は長い髪を払った。
レッド「……」
ナツメ「そうだ、最初っからさ。レッド。
最初っから私は、このポケモンたちの輸送が目的だったんだ」
レッド「……」
ナツメ「共闘? それがどうした?
その共闘というのは、レベルが同じ同士の者がするものだ。
その点、レッド。おまえは違う。
善にも成れず、悪にも成れず。
そんな中途半端なガキが、私と共闘? おもしろくもない」
ナツメ「そう吠えるな、坊や。
おまえはおまえで、『ロケット団幹部』を倒したんだ。
よかったじゃないか」
ナツメは、指を上に向けた。
ヘリから降りたハシゴ。
そこにマチスを背負ってのぼるロケット団員がいた。
マチスがこれからどうなるのか、レッドは知る由もなかった。
ナツメ「マチスは我々が私有すべきポケモンたちを、
金儲けのために横流ししていてね」
ナツメ「マチスの粛清。横流しのポケモンたちの確保。
そしてボスお気に入りのレッド。
おまえの成長の起爆剤のための、悪の兵との戦闘」
ナツメ「――どの目的も叶うとは。
なかなかどうして、世の中とは悪の為にまわってくれる」
くくくく、と唇に指をあて、ナツメは笑った。
ナツメの〝パチン〟という指鳴らしと共に、
ゲンガーの入ったボールが跳ねた。
ナツメの手に吸い込まれたボールが開いた。
――ぽんッ。
ゲンガーはレッドに変身すると、本物のレッドの頬を大きな舌で舐めた。
悪寒が走ったあと、レッドは痺れて動けなくなった。
どうも気に入ったヤツの変身ばかりする子でな」
ナツメはレッドの頬を優しくなでた。
レッド「――ッ」
ナツメ「いっただろ?
私の予知では、近い将来、おまえは私を殺すんだ。
未来は、変わらない。今までだってそうさ
そんなガキと女が、分かりあえるわけがない」
レッド「……」
ナツメ「なにッ? この私が寂しそうだ、と?」
レッド「……」
ナツメ「あはははははははははははははははは
はははっはははははははははははははははは
はははははははははははははははははははは」
まるで慟哭のようなナツメの笑い声が響いた。
動けないレッドが、床に転がった。
一通り笑ったあと、
ナツメ「――なァ、坊や」
ひどく優しい声で、ナツメがいった。
ナツメ「――じゃあ、おまえは私を助けてくれるか。
抗いがたい未来を壊してでも」
レッド「……」
地面に這った少年が見上げた先には、
見たことのないナツメの、シニカルで柔らかい笑みがあった。
ボールからユンゲラーが現れた。
レッド「……」
ナツメ「背中に打撲のあとがあるな。
いまはゆっくり眠れ、レッド」
ナツメ「ユンゲラー、催眠術!」
眠りに落ちる中、頭をなでる感触をレッドは感じた……
ババババババババババババババッ……。
ヘリの喧しい音に、私はうんざりした。
戦士が休息中だ。その妨げになるじゃないかと。
団員「ナツメ様。貨物とマチスを運び終えました。
これよりタマムシのアジトに輸送します!」
ナツメ「よろしい。
私は作戦ナンバー13。
『マサラの少年』を逃がしたのち、
シオンタウンに向かう。ゆけェ!」
団員一同「「「ハッ! すべてはロケット団の栄光の為に!!」」」
私の命や、坊やの人生さえも、礎に。
ババババババババッ……
去っていくヘリを、船にいる全ての者が固唾を呑んで見送った。
そして残された私と、倒れている少年に、乗客たちの注目がいった。
超能力を使って、レッドを引き寄せる。
そっと眠るレッド。何も知らないレッド。
乗客に向けて、私は演説する。
ナツメ「――聞くがいい。愚かなる偽善者共。
我はロケット団の尖兵がひとり、ナツメ」
がやがや、ざわざわ……。
あの人、ヤマブキの……
超能力で話題になった
ロケット団だって?
少年を人質にするのか?
新たなる世界を切り開いてみせよう。
遍く人間共が、ポケモンに平伏す未来をッ!」
がやがや、わざわざ……。
ナツメ「そして、この少年を覚えておくがいい!
――この少年がいずれ、人類の大いなる敵なるだろう」
遠ざかるヘリの轟音。私の演説。ロケット団登場による緊張感。
それらすべてが作り上げた空気。それが一人の幼い少年に向けられる。
ナツメ「怨め、憎め、疑え、知れ、嬲れ、許すなッ――。
この少年に試練を、ロケット団に栄光をッ!」
その乗客の視線は、言うなれば『敵意』だった。
私を怨め、憎め、疑え、知れ、嬲れ、許すな。
おまえの同情めいた顔など、毛頭見たくもないんだよ。
――カッシャ。
カメラのフラッシュの光と音が響いた。
ナツメ「……」
私は気弱そうな男を睨んだ。
大方、写真をマスコミに売りつける魂胆なのだろう。
理科系の男「あの、いや、つい……あはは」
ナツメ「ふんッ」
疑惑と恐怖を残し、
ナツメはレッドと共に、
サントアンヌ号から消え去った。
少し荒れ始めてた波飛沫の音が、
乗客たちの心をざわつかせていた。
■■■
――ざざァん、ざざァん。
夕焼けのオレンジに染まった海が、
レッドの眼前に広がっていた。
どうやら自分は、
サントアンヌ号出港場所だった、
クチバシティの港に戻っていることがわかった。
そこでレッドに、しばらく眠っていたようだった。
ナツメに眠らされた後から記憶がない。
だれに、ここまで運ばれたのかも、不明。
ただ、背中には治療の跡。
ここへ運んでくれたヤツの優しさを感じとれた。
レッド「……」
――ぽちゃん。
レッド「……」
波の中を、ポケモンが泳いでいた。
ピンク色の皮膚の、ちょっとマヌケそうな顔。
見たことのないポケモンに興味がわいた。、
いつもどおりポケモン図鑑を出そうと手をポケットに――
レッド「……」
ポケモン図鑑は、もうなかった。
――ざざァん、ざざァん。
それでも、ポケモンは逃がせなかった。
サントアンヌ号襲撃で悪名はあがり、
ナツメに裏切られ、
グリーンへの誤解はどろ沼……
心の弾力が、また失われていくのが分かる。
――ざざァん、ざざァん。
ボールの中では、
同じく故郷を失くした、
二匹の仲間が心配してるのがわかった。
夕焼けに染まる、町、海、空。
波と戯れるポケモン。
レッドの心とは無関係に、
今日も世界は美しくあり続ける。
レッドは、ピカチュウ、スピアー、ギャラドスを、外にだした。
ぽん、ぽん、ぽん。
――戦いは、また明日。
正義に逃げるのか、悪に転がるのやら、分からない。
いまはただ、仲間と夕焼けを眺めていよう。
― クチバは オレンジ ゆうやけの色 ―
■■ サントアンヌ号襲撃/了 ■■
――タマムシシティ、スロットコーナー。
オジサン「やぁ、えらく出してるな、少年」
隣に座ったオジサンが、声をかけてきた。
仕立ての良い黒いスーツの、人の良さそうなオジサンだ。
レッド「……?」
首をかしげるレッド。
見知らぬ人に声をかけられる覚えがなかった。
しかし、
レッドのうしろには10箱以上のドル箱の山。
ボケなレッドは気づいていないが、現在すべての客に注目されていた。
スロットコーナーの暗がり。
喧しいスロットの音。店のBGM……
オジサン「すまないが、コインを少し分けてくれないか?」
レッド「……」
コクリと頷いて、レッドは豪快に、箱ごと渡そうとした。
が、いやいや、と軽く首をふって、断った。
オジサン「3枚でいいんだ。一回まわせればそれでね」
レッド「……」
軽快に三枚のコインが投入口された。
スロット機種は『アイム・ニャース』だった。
オジサン「幸運の女神は、尻軽なんだぜ?」
レッド「……」
不敵な笑みで男は、たった一回だけスロットをまわした。
『777』
大当たりだ。
オジサン「な、いったろ。女も神も信じちゃいけない。
何かを信仰するなら、己にするべきさ。
――そうすれば、運さえも跪かせられる」
オジサンの機種から、大当たりの音楽が流れ始める。
それを見物していた観客たちが、おぉ! と感嘆の声をあげた。
オジサン「ほら、コイン返すぜ。レッドくん」
レッド「……」
名前を呼ばれて驚くレッド。
メガネの変装を、あっさり見抜かれていたらしい。
オジサン「ははは、お互い大勝だな!」
レッド「……」
オジサン「あれから一度も当たらなかった?
隣に俺くらいのカリスマが座ったんだ。
そりゃあね、女神も大人の魅力にタジタジさ」
冗談まじりのオジサン。
しかしレッドは信じる気になれた。
この男に、運の女神が屈したのだと。
レッド「……」
オジサン「俺かい? 俺はサカキという、とある会社の首領さ」
男の名はサカキ。
おもしろい人だな、とレッドは思った
その目的に走っているレッドは、
情報収集。もとい下っ端団員への脅迫で、
このタマムシにロケット団のアジトがあることが分かった。
そのアジト発見のため、しばらくタマムシに滞在していた。
そして、そのあいだ、サカキという男と行動を共にした。
どこか荒んでいて、掴みどころがなく、知識の塊だった。
そして、指名手配中のレッドを、まるで警戒しない。
それどころか変装道具から、宿の手配までしてくれた。
そして、大人のくせに、
こどもみたいにレッドを危険な遊びに誘う。
いままで出会った大人の中で、一番目指したい背中だった。
そして本日もレッドは危険な遊びに誘われた……。
サカキ「ほら、いただろ? ――じゃじゃ馬が」
レッド「……」
ポケセン裏に位置するマンション。
その屋上に放置されていたボール。
それを開くと、兇暴なポケモンが現れた。
――シゃぁぁぁぁああああああああああ!!!
サカキ「おや、コレは奇妙だな?」
レッド「……」
サカキ「イーブイは、こんな巨大なポケモンじゃなかった筈だが。
まるでニドキングくらいあるぞ」
――シャぁぁぁあああああ!!
イーブイの雄叫びが、タマムシに轟いた。
威嚇じゃない。この声は怯えだ。と、レッドは気づいた。
それが今日の遊びだった。
イーブイがレッドめがけて駆けだした。
サカキ「それでは頑張りたまえ。レッドくん。
俺は見物しているよ。ハハハッ」
サカキが逃げた。
いくつもの注射器。瓶。鞭……。
ロケット団に調教された後のようだった。
レッド「……」
咄嗟にイーブイの頭を蹴って、飛び越えた。
空中でも手は休めない。
人間を襲うポケモンとの戦闘。
そこにタイムラグは命とりだった。
空中でスピアーを出した。
レッド「――ッ」
そのままスピアーに指示。
ほうッともらし、サカキは戦闘を見守った。
イーブイのこうげき。たいあたり。
レッドはころがって、さけた。
そのスキにスピアーのダブルニードル。
イーブイのぞうぶつをつらぬくハズのどくバリがよけられた!
イーブイのでんこうせっか!
スピアーに120のダメージ。
スピアーはしゅんごくさつをくりだした。
イーブイに200のダメージ。
しかしまだよりょくがありそうだ。
みだれづき。
しっぽをふる。
いとをはく。
とっしん……
酷く哀しい眼光で、レッドを睨むイーブイ。
――たすけてほしい。
そんな声が聞こえた気がした。
レッド「――」
スピアーは主人の心境を図り慎重に戦っている。
トキワの森を知っているレッドが。
ロケット団を殲滅して歩くレッドが。
このイーブイを救わないわけがない。
そうスピアーは確信していたのだ。
本当は辛く、いまも怯えている。
そんなイーブイの荒ぶる心の声が轟く。
スピアーを跳ねのけ、イーブイはレッドに疾駆した。
――イーブイの牙が、レッドを捉えようと開く。
レッドは背中に視線を感じた。
この戦闘を凝視するサカキの眼だ。
レッド「……」
レッドはスピアーに、本気で貫くよう命じた。
約40回の高速の突きが、
イーブイの横腹を穿った。
――シャぁぁぁぁあああああッ!!
助けを求めたイーブイの慟哭。
血が薄暗い闇や地面にまき散らかされた。
鮮血にそまった手を、スピアーは払い飛ばした……。
レッド「……」
サカキ「――」
先ほどとうって変わって、いまじゃ幼い声で鳴いている。
――きゅううん。
なんども、何度も。
血の海で身を動かし、
レッドに助けを求めるように
前足をのばす。
レッド「……」
トキワの森のポケモンたちを思い出した。
見ず知らずのレッドに助けを求め、
幼い肩に希望を預け、
レッドの成長のために生贄になった彼らを。
この人間に虐げられたイーブイですら、
同じ人間のレッドに、何かを感じ、救いを求める。
レッド「……」
『R』とロゴの入ったボールを近づける。
――きゅううん。
やはり怯えて戻ろうとしない。
サカキ「こいつは驚きだ。
ただのモンスターボールじゃないな」
レッド「……」
サカキ「あぁ、恐らくは改悪されている。
それもポケモンの恐怖心と服従心を煽るための、
えげつない装置でもあるんだろうな」
大人しく捕獲されるイーブイ。
サカキ「よくやったレッドくん。
恐れず、躊躇せず、残虐に。
教えたとおりやってのけたな!」
レッド「……」
サカキに背を向け、レッドは醒めた顔をした。
レッドは駆けた。
たたたたたたッ――。
サカキ「おい、レッドくんッ!
どこへ行くんだ?」
マンションの屋上から、レッドは去った。
サカキ「……」
たった一人深夜の屋上に残されたサカキ。
サカキ「ききき、きはははははははッ」
私利私欲の権化のような顔つきで、レッドが去った扉を見つめる。
サカキ「あの人間恐怖症のイーブイがなぁ。
あれだけ調教し、牙を研いでやったというのに。
あっさりレッドを信頼したようだ――」
マサラの加護をうけた、レッドの力があれば……。
サカキ「マサラタウンのレッド。
やはり彼が我々の計画の鍵になりそうだな」
サカキ(レッドの奴め。
本気で俺に気を許しちゃいないようだな。
あのスピアーの乱れ突き。
微妙に急所を外していた。
あれだけハデにやったのも、
俺の信頼を得るためのパフォーマンス……)
――おもしろい、化かし合いをしようっていうのだな、レッド。
一瞬のぞいた懐には、『R』と刻まれたモンスターボールが。
サカキ「レッド。悪には悪の美学があるんだ。
善にもつかず、悪にも傾倒しようとしない。
その甘さのせいで、いずれ地を這うことになるぞ」
血にぬれた屋上を、サカキは跡にした……。
■■■
クローン疑惑のあるジョーイさんに、イーブイを預けた。
薄暗い待合室でレッドは自分の両手を見つめた。
なぜか血に染まっているような気がしてならなかった。
あそこでサカキの意図とは逆の、
イーブイを助ける為ような戦い。
それが出来ない理由がレッドにはあった。
先日のスロットコーナー。
それを裏で経営しているのは、実はロケット団なのだ。
(哀れ下っ端ロケット団員を、ピカチュウの電撃椅子で脅して得た情報である)
だからこそレッドは、スロットで遊び、店内を窺っていた。
隣に座ったサカキの大当たり。
それらは狙いすましたようだった。
――幸運の女神なんかじゃない。
――あれはサカキのパフォーマンスだ。
そんな違法行為ができるのは、
店でも幹部クラスの人間だ。
サカキは、ロケット団と繋がっている。
それも、おそらく、深い所に……
悪の塊のようなサカキに、正義をかざしたら逃げられる。
悪を倒すために、悪を成す。
それでもイーブイにしたことは……
××「なぁに、暗い顔してんのよ、レッド」
カスミ「このハナダの人魚姫が、アンタに会いにきたっていうのにさッ」
レッド「……」
カスミ「なんで……、じゃないわよ。
あたしはアンタの助けなりたいって言ったじゃん。ほら!」
その優しさがあたりまえのように、カスミがレッドに手をのばした。
深夜の静寂な、暗がりの待合室。
そこには悪の美学とは正反対の、快活な少女の笑顔があった……
■■ 悪の美学/了 ■■
タマムシのファミレス。
カスミ「……あんた、朝から胃袋ブラックホールね」
どこかの悟空さん並の勢いで、食事の皿の山を形成していくレッドさん。
レッド「……」もぐもぐ、むしゃむしゃ。
カスミ「挨拶がわりって、何に対してのよッ!」
レッド「……!」もぐもぐ、むしゃむしゃ。
カスミ「いや、うん、あのさ――自分の肉体への挨拶って何よ!?」
カスミの嘆息に、レッドは首をかしげる。
肉体を鍛えるのは、荒々しいバトルをするレッドの基本なのだ。
カスミ「……あ、あー、あたし、ドリンクとってくるね!
レッドは何飲む? っていうか、レッドの好きな飲み物ってなに?
知りたいなァ、あたし」もじもじ。
チラ。
もぐもぐ、むしゃむしゃ。
レッド「……?」
カスミ「ニャースなんて被ってないわよ!
レッドの馬鹿。もう知らないッ!
いいわよ、カスミ特性激辛ミックスを作ってやるわよ!」
カスミが怒って去っていく。
なぜ怒ってるんか見当もつかないレッドさん。
とりあえず、食べつづけた。
レッド「――」
声の主に顔をむける。
そこには和服姿の、お淑やかな令嬢といった感じの女がいた。
指名手配中のレッド。
名をあてられ、かなりビビる、が、肉だけは食い続けた。
もぐもぐ、むしゃむしゃ。
××「……」ジー。
見つめあう男と女。
レッドの反応に困った女は、あらあら、と首をかしげるだけだった。
カスミ「何、見つめあってんですか、エリカさん……」ムカ
エリカ「あら、カスミさん。ご無沙汰しておりますわ」
ふわっと花が咲いたように、エリカが微笑んだ。
談笑の中心である、カスミ。
そして、いやもう、なんか食べる描写しかないレッドさん。
カスミ「それで、エリカさん。
頼んでいたレッドの件なんですけど……」
レッド「……」ピクッ。
重たい話題に、エリカは箸を置く。
エリカ「ええ、まずはトキワの森の件ですが――。
この実行犯が、レッドさんでない証拠を掴みました」
カスミ「やったァ! ねえ、聞いたレッドッ!?」
レッド「……」
どちらもロケット団の構成員であることが判明――」
エリカ「それとグレンジムのカツラさんに検証してもらった所。
オーキド博士からもらった時点のヒトカゲのレベルでは、
アレほどの大規模な火災が起きるはずがない、という結果がでました」
カスミ「へー。ところでカツラさんは、元気?」
エリカ「はい。去年のジムリーダーの集会以来ですが、
お変わりないようです」
カスミ「じゃあ、またヘンなクイズばっかり考えて、うむー、うむーとか? あはッ」
エリカ「クイズ馬鹿じゃなければ、仲良くしたいのですが」
カスミ「うわァ……ほんとエリカさんって、時々キツーイ!」
エリカ「しかたありませんわ。
どのクイズも、答えが分かってしまうので、面白味がないんですもの」
エリカ「レッドさん」
レッド「……」
真剣な顔でエリカはレッドを見つめる。
エリカ「言ったとおりです。
トキワの森について冤罪を晴らすことができます。
現在、全力で私たちのチームが、確固たる証拠を集めています」
冤罪と誤解を晴らすためにも、私にすべてを話してくれませんか?」
赤の他人のレッド。
それも極悪人の烙印を押されたこどもに。
何故ここまでしてくれるのか分からなかった。
まるで難解な数学の問題を突きつけられてるかのようだ。
カスミ「……はァ。あんたって筋金入りの〝鈍チン〟ね」
エリカ「あら、その発言は殿方の下のことですか?」
カスミ「んなわけあるかいッ!」
わいわい、わいわい。
僭越ながら、私が代表しましょう、とエリカ。
エリカ「なぜ貴方に手を差し伸べるのか、という質問に答えましょう。
それは――カスミさんが私の『朋輩』だからです」
ほうばい。
仲間という意味だ。
暴れまわるギャラドスに、一人で立ち向かう。
そんな意地っ張りなカスミさんが、
プライドを捨てて、『助けて欲しい人がいる』と頼ってきたのです……」
レッド「……」
レッドが眼をやると、カスミは顔を赤くして、そっぽを向いた。
エリカ「ならば朋輩として助けるのが、このエリカの矜持じゃありませんか」
その気高さにレッドは戸惑った。
今度はカスミの番だった。紅潮した顔でレッドを睨んだ。
カスミ「そしてアンタはあたしを助けてくれた。
アンタは一人、あたしのコイちゃんへの想いに気づいてくれた。
だからあたしは助ける。アンタはあたしの仲間よ。迷惑だなんていわせない。
――レッドの為なら、いつでもプライドなんて捨ててやるわよ!」
レッド「――――」
胸が温かくなる。
その感覚に、困惑するレッド。
久しぶりの感覚だった。
仲間。
朋輩。
かつてレッドにも、それはいた。
グリーン。
マサラで唯一の、幼なじみで、ライバル。
いまは殺意をもって、彼に呼ばれるけれど――。
エリカ「貴方が逃亡してから、13件。
13件も、ロケット団員の粛清、および支部の壊滅が確認されています。
どの事件にも、あなたの姿が確認されました」
レッド「……」
エリカ「……復讐、ですか。なんて哀しいッ。
たった10を超えただけの少年が、茨の道を歩むのを、私は見ていられませんッ」
エリカ「レッドさん。
貴方が一人で抱える理由が、どこにあるというのですッ」
エリカ「私もカスミさんも、あなたの力になりたいのです。
――よかったら、私を朋輩と認めてくれませんか?」
戸惑っているレッドに、エリカが柔らかい笑みを向けた――。
トキワの森の想いも、
死んでいったポケモンたちの慟哭も。
託されたロケット団への怒りも。
無実の自分を追いやったマサラへの悲しみも。
ぜんぶ、ぜんぶ。
常にそんな想いがレッドの腹の底で滾っていた。
――しかし。
エリカ、カスミ。
この二人は、そんな暗い想いまでも、受け入れてくれる。
きっと叱ってくれる、泣いてくれるかもしれない。
レッドの胸に温かいものが広がっていく。嬉しいのだ。
カスミ「あたしも、そのホウバイってやつなんだからね。
ほら、誓いの握手。誓いのチューよりは、カンタンでしょ?」
冗談めかしていったカスミは、やっぱり頬が紅潮していた。
そっぽ向いて勝気な顔のカスミ。
その意地っ張りな横顔に、レッドは数ヶ月ぶりに、笑った。
とてもおかしそうに、そしてそれは、エリカとカスミが騒ぐくらいの、満面の笑みだった――。
サカキ「やァ、レッドくん。相変わらずだな」
店員が片付ける食器の山を見て、サカキが人の良さそうな顔で近付いてきた。
レッド「……」
サカキ「昨日のイーブイ、助けたんだろ?」
レッド「……」こくり。
サカキ「爪が甘いが、君らしいな」
と、親しげにレッドの肩に手をおく。
エリカ「…………」
サカキ「ハハハ、まあ40をとうに超えているが、若いつもりだったんだが。
せめてオジ様が望ましいな」
カスミ「俺はサカキだ。まあ、レッドくんの悪友といったところか」
レッド「……」
カスミ「へー。歳の離れたホウバイね」
サカキ「朋輩? ハハハ、渋い言い回しだな。
――生憎だが、そいつは違うだろうな、なァレッド?」
レッド「……」こくり
サカキ「ほう、もう何年も姿を暗ましていたのだが、まだ俺の名は世に通っているようだ」
カスミ「え? トキワのサカキって、もしかして伝説のジムリーダーの?」
サカキ「伝説かどうかはしらないが、そのサカキで間違いない」
レッド「……」
カスミ「えッ? そんなことも知らずに、オジサンと仲良くなってたの?」
― サカキは『おっさん』から、『オジサン』に進化した! ―
エリカ「ジム戦の砦。難攻不落。
一時期、『ポケモンマスター』を目指す若者が減少するほどの兵ですわ」
それよりもレッドは、『ポケモンマスター』という響きに心動かされていた。
かつてマサラを旅立った時に、
オーキドが語り、グリーンが目指したもの。
――なぁ、レッド。
どちらが先にポケモンマスターになるか、勝負しようじゃないか?
いつかの、もしかしたら朋輩と呼べただろう、同郷の少年の声が蘇る……
その言葉の数時間後。
トキワの森でレッドは地獄を見るのだが――。
よかったらサカキさん、座ってくださいな。
ジムリーダーの責務を放棄して、行方を暗ましていたのでしょう?
我々ジムリーダーの信用を落とした謝罪なんかを、ぜひ聞きたいですわ」
ニコッと悪意のない笑み。
そのわりに言葉の含みは辛辣だった。
サカキ「遠慮させてもらおう。
おっ、これはトマトジュースかな?
なんだ、飲まずに片付けるなら、頂こうじゃないか」
カスミが作った特性激辛ドリンクに、サカキは手をだした
その後の展開が楽しみで、本気で止めないカスミ。
ごく、ごく、ごく、ごく……
豪快に飲み干すサカキ。
唖然とする三者。
カスミ「……」
エリカ「……」
レッド「……」
サカキ「ごちそうさま。喉を突き刺すイイ喉越しだ!」
エリカ「逃げられましたわ。
ジムリーダーを束ねる者として苦言したかったのですが。
ヤマブキのナツメさんは、ロケット団員宣言で失踪してますし。
残念ですわ」
レッド「……」
カスミ「っていうか、うっそでしょー。
厨房から唐辛子やハバネロとか借りてきて作ったのにッ」
レッド「…………」
カスミ「えッ? そんなものを飲ませようとしたのかって?
いや、あの、そのォ、ごめん、レッド!
だから、――らめぇぇ、そんな醒めた眼であたしを見ないでぇぇ!!」
― 同時刻。タマムシ、上空 ―
そこには巨大な赤き炎竜の姿。
タマムシの家々や地面に、暗い影を落としている。
青空に浮遊しているリザードンに、気づき始めた人が騒ぎ始めていた。
リザードンの背には、二つのロケット団員の影。
ムサシ「何だかんだと聞かれたら!」
コジロウ「答えてやるのが世の情け!」
コジロウ「世界の破壊を防ぐためって――おいおい、マジでやるのかよォ。
いくらボスの命令でも、俺こえぇよッムサシィ!」
ムサシ「黙らっしゃいッ。ボスの命令は絶対よ!
だからこそボスに内緒で、ニャースに手配させてるんじゃないさ!」
タマムシの空に、緊張した二人の声が響く。
ムサシ「ハナからロケット団は悪の組織じゃないか!
給料天引きなんて、あたしはゴメンだわ!
――ニャース、聞こえるッ!?」
ムサシと呼ばれた赤紫髪の女が、無線機をとって声をあげる。
ニャース『聞こえてるニャ!
ポケモンたちも逃がし終わってるニャ。
いつでもOKニャ!』
コジロウ「あァ、あァ、分かりましたよォ!
やってやるぜ。ムサシ一人にやらせて堪るかい!」
ニャース『ボスから指令メールが来たにゃ、40秒で支度しニャッ!』
――まだか? という視線。
それに怯えながら、よし、と二人が頷いた。
コジロウ「男コジロウ。咲かせてみせよう悪の華」
ムサシ「連れ添いますは、時代の徒花ムサシ」
ムサシ・コジロウ「いけぇぇぇ、リザードン! 火炎放射だぁぁ!!」
――ぎゃしゃァァァァアアアア!!
リザードンの濁流のごとき炎が、とある森と建物に放たれた。
ロケット団員たちの狙いは、森に囲まれたタマムシのジムだった……
■■■
破壊音と人々の悲鳴が轟いた。
エリカ「――何事ですのッ!?」
ガラス壁の向こう側で、炎があがっていた。
カスミ「エリカさん、あの方角って――」
エリカ「はい。あの森は私のジムですッ」
レッド「――――」
エリカ「エリカです。一体何が起こったのですか?」
携帯越しにジム関係者と会話するエリカ。
それをレッドとカスミが見守っている。
すぐに向かいます、とエリカは携帯を閉じた。
エリカ「ロケット団の襲撃です。
リザードンの火炎放射で
我がタマムシジムが破壊されてました」
カスミ「そんなッ!
エリカさんの所が襲われる理由なんてないのに……」
エリカ「いえ、一つあります――」
エリカを見つめた。
エリカ「はい、理由はレッドさんでしょうね」
カスミ「え?」
エリカ「トキワの森の放火の冤罪。
サントアンヌ号の、ナツメさんの協力。
ロケット団は、レッドさんに何かしら執着していますよね」
エリカ「そしてナツメさんの発言」
――この少年を覚えておくがいい!
――この少年がいずれ、人類の大いなる敵になるだろう
エリカ「何故かロケット団はレッドさんを追い詰めたいように見えます」
エリカ「これはレッドさんの冤罪を晴らす為に動いてる
私への報復と脅しと見て間違いありません」
こんな酷いことして、レッドに何をさせようっていうのッ!?」
レッド「……」
エリカは和服をなおし、席を立った。
エリカ「楽しい席でした。それでは失礼します」
たたたたたッ、からん、ころん。
カウベルの音を残して、エリカが去った。
レッド「……」
カスミ「罪悪感で動くんじゃないでしょうね?」
レッド「――」?
深刻な状況なのに、レッドは軽く返した。
カスミは驚いたあと、嬉しそうな声をあげる。
カスミ「アンタも分かってきたじゃん。
そうよ、朋輩だもんね。行くっきゃないって」
そういって二人して席を立った。
ファミレスを出る際。
気取られないように振り返る。
燃えさかる森を、コーヒーを啜りながらサカキは見つめていた……
― サカキ ―
我が麗しの悪友、レッドが去っていった。
コーヒーを啜りながら、団員の仕事っぷりを眺める。
――だめだめだな。
人もポケモンも、逃がしてると見た。
まだ壊せた筈だ。
まだ燃やせた筈だ。
まだ殺せた筈だ。
まだ轟かせた筈だ。
まだ慄かせた筈だ。
まだ、まだ、まだ、まだ――。
腹の底で、滾る悪意の塊。
頭蓋の芯に埋め込まれた、冷たい悪の因子。
仕事をこなした団員たちの、悪の足りなさをなじりたくもある。
所詮は手足。
心や頭ではない。
芯がないのだ。
――悪い病気は、俺だけが持っていればいい。
サカキ「ごっほッ、くッ――」
吐血するサカキ。
机の上にポタポタと滴る、赤い雫。
サカキ「チッ、もっと手筈を踏んで、計画に臨みたかったんだがな……」
――さぁて、クライマックスの幕を開こうか。
■■■
エリカの背に追いついた。
カスミ「エリカさん、状況はッ?」
エリカ「はい。被害は森とジムのみ。
人もポケモンも、予め避難していたようです」
レッド「……」
エリカ「はい、なんでも、喋るニャースが、
爆弾を巻きつけて乱入。
『早く非難しないと爆発させるニャ』などと呻き、
それが本物の爆弾だったので、みなさん避難を。
――その避難のとたんに、この放火です」
カスミ「……なにそれ?」
地面に大きな影が落ちた。
上を見上げれば、青空を竜が飛行していた。
カスミ「なに、あのリザードン。こっちに向かってくるッ!」
その竜は、ゆっくりと地面に降り立とうとしていた。
翼による風に、レッドは帽子を押さえた。
レッド「――――」
その邪悪な顔をした炎竜は、
それに似合わない慇懃な礼をとるように、
静かにレッドに向かって頭を落とした。
リザードンの鼻先付近を、レッドは軽くなでた。
それに対してリザードンは、なんの抵抗もせず受け入れた。
――それはレッドの最初の仲間だった、ヒトカゲだった。
コジロウ「おいおい。あの暴れん坊が、ガキに頭をさげたぞォッ!?」
ムサシ「あんなジャリボーイに? うっそでしょォ!」
コジロウ「わっけ分かんねー」
ムサシ「おい、アンタ、早くアジトに飛び立ちなさいよ!」
リザードン「――――」ギ口リ。
コジロウ「……あの、よろしければ、ぼくたち家に帰りたいなぁーって」
リザードンは、ふんっと二人を落とし、尻尾で二人を遠くへ打ち上げた。
ムサシ・コジロウ「やな感じィィィィイイ――」
謎の愉快なロケット団員は星になった。
カスミ「間違いないわ。
だって、ロケット団に調教されてる筈なのに、
こんなにレッドに哀しい眼を向けてる……助けて欲しいのよッ」
ギャラドス事件の経験が、そうカスミに強く確信させていた。
レッド「…………」
×××「おいおい、そのリザードンは、レッドくんのじゃないぞ」
その男の声に、三人が振り返った。
――ポン。
モンスターボールの開閉音。
その刹那、スピアーとサイドンが激突していた。
スピアーの角のような両手が、サイドンの角を抑えつけていた。
レッド「――――――」
サカキ「ふん」
睨むあう両者。
状況に追いつけない、カスミとエリカ。
サカキ「そいつは我々が奪い取った、
正真正銘、我がロケット団のリザードンだ」
レッド「……」
サカキ「俺の本性? 化かし合いを続けて、ロケット団に近づきたかったか?
そんなもの、ここでたった今断ち切ってやっただろうが?」
サカキ「戦っていた土俵から、理不尽に降りるのも有効だぞ」
カスミ・エリカ「……」ごくり。
レッド「……」こくり。
エリカ「まさかジムリーダーが、ロケット団だなんて。
やはりサカキさん。貴方とはお話する必要がありそうですわね」
オレ
サカキ「話、か。善のおまえ達に、悪の言葉は通じないさ」
――うむ、改まって自己紹介といくか」
赤いネクタイを緩め、サカキが酷薄な顔を浮かべた。
――俺がロケット団の首領だ。驚いてもらえたかな?
その深夜、一夜限りの戦火があがっていた。
ポケモンタワーに挑むように、ロケット団の軍勢がいた。
ロケット団が関わった事件では、最大規模の戦力が集結していた。
マチスによる、マルマイン60匹による大爆発の音が轟く。
ビル一つ崩壊させるほどの爆発。標的はポケモンタワーだった。
――ドゴォォォォォォオオオオンッ!!!!!
爆炎と煙に包まれながらも、ポケモンタワーの影は健在だった。
その影を見上げて、舌うちをする、一人の男。
マチス「シット! あの野郎、完全に立てこもりやがったッ!」
そこにマルマインの攻撃を見物する一人の影。
団員「キョウ様。ゴルバットたちの超音波による、情報の結果が出ました!」
その報告に、忍びの装束の、気難しい顔の年配男がうなづく。
キョウ「すぐにナツメ嬢の部隊に結果をまわせ。
なお残りの団員は、引き続き調査に当たるべし……」
団員「「「ハッ。承知致しました!!」」」
キョウ「マチス殿の大爆発をモノともしないか。
愛らしい姿とは裏腹。超越的な力をもっているな、あのポケモン……」
空中部隊のプテラ、カイリュウたちのの攻撃。
29もの破壊光線が、ポケモンタワーを襲った。
が、すべて見えない壁に防がれてしまった。
死霊の塔。
ポケモンの墓場。
シオンに聳える荒廃な聖域。
そのポケモンタワーは、特別な力で守られているようだ。
――部隊の雑用係りたち。
コジロウ「うへー、ATフィールドかよ~!」
ニャース「おみゃーは何をいってるニャ」
ムサシ「アンタたち、遊んでないで手伝いなさいよ!」
それはタワーの破壊ではない。
追いつめた筈のポケモンを炙り出す為だった。
サカキの念願が、塔に逃げて籠城してしまったのだ。
サカキ「――――ッ」
塔を仰ぎ、舌うちをするサカキ。
そこにはまだ幼さが残るナツメがいた。
ナツメ「オジさん。ケーシィが情報つかんだって!」
――バッシッ。
容赦なくサカキが、ナツメの頬を叩いた。
まだ10を超えて間もないナツメ。
涙を浮かべて、サカキを見上げた。
サカキ「年配者への口の聞き方を教えてやろうか?」
それは虐待的教育のことだった。
ペルシアンに刻まれた腕の傷を思い出し、ナツメが震えた。
ナツメ「……申し訳ありま、せん」
サカキ「超能力のせいで、忌み嫌われたおまえを救ったのは誰だ?」
ナツメ「サカキさまです」
サカキ「何故、おまえは拾われた」
ナツメ「?」
俺の優秀な駒に成りえるからだ。
チェスでいうなら、まだビショップ。
成長すれば、クイーンにもなりえる駒だ」
ナツメ「……」
サカキ「そして俺はキングではない。
キングすら操る、打ち手だ。
その俺を不快にさせる駒など入らん」
ナツメ「――捨てないでください!
あんな醜い世界に戻りたくありません」
泣き言ながらも、キッと強い眼光でサカキを見据えた。
マスコミのお約束だ。
持ち上げて、手のひら返し。
忌み子、呪われた子。超能力でのイタズラ。
そういった悪評を撒き散らされ、家族崩壊にまでなってしまった。
サカキ「その醜い世界を、俺が壊してやる」
――おまえは俺の背中を見て育てばいい。
戦火を酷薄な顔で観賞するサカキ。
その背中を見つめ、ナツメは拳に力をいれる。
悪。その背中。その背中が、ナツメを強く突き動かす。
ナツメ「ハッ!」
戦火に照らされた少女の顔には、もう幼さは消え失せていた……
その報告をまとめ、ナツメが読み上げる。
サカキ「そうか、ヤツはある筈のない8階を形成し引きこもったか」
ナツメ「ハイ。物理攻撃は無駄かと。ATフィールド発動中です」
サカキ「ATフィールド?」
ナツメ「いえ。エスパー学における専門用語です」
サカキ「俺が欲しい報告じゃないな。ヤツを捕獲する手立てはないのか?」
ナツメ「それが……あッ、ア、ぐぁッ」
突然、頭を押さえ、苦しむナツメ。
その脳裏には、未来が足早に映し出されていく。
断片的なそれに、ナツメは吐き気を覚えた。
――これは四年後の、ポケモンタワーの予知だ。
その一つがナツメにとって衝撃的だった。
――その予知では、ナツメは少年に殺されるのだ。
サカキ「予知がきたか。もちろん、ヤツの捕獲についてのだな?」
そうでなければ使えない。
そんな声色でサカキがナツメを見下ろした。
ナツメ「……はい」
その予知の内容を、ナツメは語った。
サカキ「まっさらなマサラが育む精神!
確かに伝承では『純粋な心の持ち主に姿を見せる』だったな」
サカキ「それでは我々がいくら向かった所で意味がない」
ナツメ「どうされますか?」
サカキ「全軍、引け。俺は四年後に備える」
ナツメ「……サカキ様」
サカキ「おまえの犠牲が必要ならば、払え。その命」
サカキ「――醜い世界を壊す礎となれ」
ナツメ「ハッ。ありがたき光栄です」
――私一人の力じゃ世界は壊せない。
でも悪の権化の、このお方ならば……
サカキが聳えたつタワーを振り返った。
サカキ「――待っていろよ、幻のポケモン、ミュウ。
俺の悪意が、貴様を呑みこんでやる」
きはははははははははははははッ!!
ナツメ「――マサラの少年、か。
私はどんなヤツに殺されるのだろうな」
四年後。ナツメはトキワの森で、その少年と出会った――。
― 四年前/了 ―
その発言後、レッドとサカキの戦闘が始まった。
スピアーとサイドン。
圧倒的に力負けのするスピアー。
速さと毒で翻弄されるサイドン。
両者の角と針が火花を散らす姿は、
さながら主君の名誉をかけた騎士の殺しあいだ。
が、その勝負を打ち切ったのは、やはりサカキだった。
レッドを見つめるリザードン。
レッド「……」
サカキ「ふん、これ程ナラしたリザードンすら、おまえに好意を抱くか。
――だからこそ、おまえが必要なのだレッド」
カスミ「ちょっとアンタ、タダで帰るつもりじゃないでしょうねェッ!」
エリカ「あら、お茶の席を用意致しますのに。
きっちり絞り上げて、証言をお聞きしたいですわ」
ふたりはモンスターボールをかまえた。
サカキ「残念だが、遊びは終わりなんだよ」
すっとサカキが手をあげると、リザードンが炎を吐いた。
バッサッ、バッサッ、と飛び始めるリザードン。
サカキ「レッドよ」
レッド「……」
サカキ「どんな苦難を与えても、貴様は悪に染まらなかった。
そこの正義ったらしい娘たちを仲間と思うくらいだ。
もう、俺が歩んだ道に、踏み外すことはないだろう」
――喜ばしいが、本心としては残念だ。
バッサッ、バッサッ、バッサッ――。
レッド「…………」
サカキ「シオンタウン。ポケモンタワー。
そこの最上階を、決着の舞台としようじゃないか」
サカキ「待っているぞ。レッド――ッ」
シュッバッ―――。
サカキをのせたリザードンが、遥か上空に飛び去っていった。
レッドは巨大なイーブイの背にのった。
向かうはシオンタウン。ロケット団の頭を叩く。
――たぶん、そこにナツメも、と一人の女を想うレッド。
カスミ「こら、レッド! もう行くつもり?」
エリカ「あらあら。カスミさんも寂しがり屋さんですわね」
カスミ「エッ、エリカさんだって、そうじゃないですかぁッ!」
振り返ると、朋輩と呼んでくれた少女たちがいた。
エリカ「レッドさん。私はジムの件でお伴できません――これを」
そういってエリカはたくさんのバッチを手渡した。
レッド「……」
エリカ「これは全てのジムバッチの真贋です。
ジム戦でもらえるバッチは、すべてこれのレプリカなのです。
バッチはリーダーを束ねる、このエリカの管轄ですので、
――かるく本部から拝借してきましたわ」
ふふふ、と笑うエリカ。
エリカ「きっと貴方の才とポケモンの力を、バッチが大いに強化してくれますわ」
でもだからって、逃げるつもりはないわ。私はエリカさんを手伝う。
だから、私は、こんなことしかできないけど――」
民族衣装のカスミが、静かに踊り始めた。
そのゆったりなリズム。幻想的な姿。歌声。
まるで大海を見守る、人魚を彷彿させられる。
見えない力に、守られているような気分だった……
ジャン、タッタタ、ランッ――
最後のステップを決め、カスミが頭を下げる。
眉つばなんだけど、旅人に加護を与えるんだって!」
レッド「――――」
カスミ「で、どうよ? 御利益ありそう?」
顔を真っ赤にしたカスミが、上目遣いでレッドを見つめた。
レッド「……」こくり。
カスミ「そう、よかった! レッド、いってらっしゃい!」
エリカ「あなたの帰りをお待ちしていますわ」
レッドは別れを告げ、イーブイにのり駆けだした。
向かうは、シオンタウンの、ポケモンタワーだ。
流れていく花々や木岐の景色。
近代的な建物すら、とても柔らかい色をしている。
虹色のようなタマムシの風景を、レッドは跡にする。
カスミとエリカ。彼女たちが託したモノ。
それは眼にはみえないものだ。
しかしレッドは想う。
――それはタマムシシティのような、鮮やかな色のような気がした。
――なかま、か。
イーブイの背で、レッドは強く拳を握りしめた。
― タマムシ にじいろ ゆめのいろ ―
■■ 朋輩の質量/了 ■■■
◇ 桜咲くカフェテリア ◇
――ポケモンタワー、入口の洞窟前。
岩壁に寄りかかっているナツメがいた。
ナツメ「――よく来たな坊や」
レッド「…………」
ナツメ「ここでおまえと我々ロケット団。
どちらかが潰れることになるだろう」
ナツメ「まぁ、万が一にもサカキ様が負けるなどありえないがな」
と、ナツメはシニカルな笑みを浮かべた。
ナツメ「久しぶりにあったと思ったら、ずいぶん嫌な顔になった」
レッド「……」
ナツメ「なんだ、その緩みきった顔は。
以前のおまえは、もっとギラついていたぞ?」
レッド「――」
ナツメ「故郷は、社会は、家族は、同郷のグリーンは……
みなお前を怨み、恐れ、遠ざけているというのに――!」
ナツメ「だというのに、たいそう善人な顔をする。
まるで『決闘者』だ。復讐者のそれではない。
――なぜ、なぜ、そんな顔ができる……」
苛立ちげに、ナツメが睨む。
それを真っ当から受け止めるレッド。
ナツメ「ただ坊やに会いたくなっただけさ」
レッド「……」
ナツメ「私は心理学者じゃないんだ。会いたくなった理由なんて知るか。
――まあ、これが最後だからだろうさ」
そっぽを向いて、ナツメがいった。
ナツメ「おまえはこの塔の8階で、サカキ様と戦う。
そして何故か、私はここでお前に殺される……」
レッド「……」
ナツメ「それが私が見た、予知の断片だ。
ちなみに私は、予知を外したことはない」
ナツメ「――いや、一度だけ、あったな」
レッド「?」
ふっと儚げに自嘲するナツメ。
どこかのカフェだった。硝子を隔てた向こうには、桜が散っていた。
そこで私は楽しげにだれかを、からかいながらコーヒーを啜っていた……」
――アレはだれだったんだろうな。
一瞬、温かい顔をのぞかせたナツメ。
それもすぐに、いつものクールな顔に切り替わる。
ナツメ「結局、そんな未来は訪れなかった。
――いまの私からしたら、キモち悪いほど幸福な予知だったよ」
レッド「……」
ナツメ「私は入らない。ここで塔内部を監視するのが、サカキ様の命だからな」
レッド「……」
ナツメ「サカキ様に従う理由だと?
先に私の居場所を奪ったのは、おまえ側の住人なんだよ」
ナツメ「私はサカキ様に従う。この世界を壊してくれるならば!」
――ザッ。
大きく一歩ナツメに踏み出すレッド。
額がぶつかる程の至近距離で、レッドが宣言した。
ナツメ「――なッ?」
驚くナツメの横を通り過ぎて、レッドは洞窟内に入っていった。
ナツメは塔を見上げた。
灰色の雲がシオン全体を覆い始めた。
ポツ、ポツと雨が降り始める。
ナツメ「私をサカキ様の呪縛から解く――か。
レッド、だから私はおまえが嫌いなんだ」
――救済を求めるには、私の手は汚れ過ぎてるんだよ。
……ざぁぁぁぁ。
◇ 桜咲くカフェテリア/了 ◇
暗闇をピカチュウの電気が照らす。
墓標。墓標。墓標。墓標。墓標……。
薄気味悪い風。妙な視線。遠くから聞こえる怪音。
如何にもユウレイが現れそうな空気だった。
レッド「……」
ある気配に、レッドとピカチュウが、バッと振り返った……
全ての影がにゅるりと形を変えていく。
ポケモンの墓場。幽霊がいても納得の場所だ。
その群れに、レッドは見覚えがあった。
レッド「……」
その群れはレッドが助けられなかったポケモンたちだった
燃やされ、レッドの成長の生贄になり、死んでいった虫ポケモンたち。
旅の途中で助けられず、ロケット団の餌食になったポケモンたち。
いつの間にか虚ろな群れが、レッドとピカチュウを囲んでいた。
ピカチュウが幽霊に訴えかける。
しかし、その声は空しくなっていく。
レッドは攻撃を躊躇していた。
安らかに眠っていただろうか。
世に未練を残していたのか。
群れは、レッドの手をつかみ、見上げ、足にしがみつく。
虚ろな顔で、墓場に引き込むように、ゆったりと、ゆったりと……。
――ドン。
レッドの脳裏に、地獄の記憶がよみがえった。
燃え朽ちていく、トキワの森という地獄を。
罪悪感。復讐心。そういった感情が蘇っていく――。
その時だった。
すべてを打ち消すような、衝撃音が轟いた。
一条の太い光が、一瞬、墓場を昼に変えた。
その光は影を消し飛ばし、タワーの壁に穴をあけた。
タワーは元の暗がりを取り戻す。壁の向こうには、シオンの暗い空。
コツ、コツ、コツ、コツ――。
レッド「……」
この技は、ソーラービーム。
まさか、とレッドが振り返る。
グリーン「たっぷり日光浴させて正解だったか」
グリーン「なにせ天下の大悪党のレッドくんに、借りを作れたんだからな」
そこにはクールで嫌みったらしい、
フシギバナを連れたグリーンがいた。
グリーン「……」
先に睨みあいを降りたのはグリーンだった。
歩み寄り、ポンとレッドの肩をたたく。
グリーン「タマムシのリーダーからマサラに伝達があった」
グリーン「――レッドが無実だってな。
いまレッドの冤罪を晴らすために、エリカさんたちによる情報合戦さ」
レッド「――」
グリーン「オレはおまえを憎んじまった。
オーキドの爺ちゃんが、せっかくおまえに夢を託したのにってよ……」
レッド「……」
グリーン「いまはオレは、自分が許せない。
このクールな俺サマが、人一倍甘ちゃんな幼なじみを信じられなかったことが……」
グリーン「――レッド、俺を殴れ」
墓場に、レッドの一撃が轟いた。
レッド「……………?」
グリーン「ちくしょう。そうだよ、おまえはそういうアホだったよ」
頬をさすりながら、グリーンはニヤついた。
憎しみで自分を見失っていたグリーンも、やっとらしさが出てきたようだ。
グリーン「悪かった」
レッド「……」
グリーン「あぁ、言いっこナシだ。さっさとケリ、つけに行こうぜ」
――二人はコツンと、拳を突き合わせた。
これから最終決戦をまえに、マサラの少年二人の最強タッグが誕生した。
さぁぁっと薄気味悪い霧が晴れていった。
まるで一本の道を作るかのように、薄気味悪い霧が晴れていく。
それを辿った先に、巨大な階段が現れた。
ボッ、ボッ、ボッ、ボッ――。
燭台のロウソクに、勝手に火が点されていく。
暗がりの階段から、恐ろしくも神秘的な空気。
気を抜くと、一気に違う世界に呑み込まれそうだ。
グリーン「へぇ、俺たちに、来いってかぁ?」
レッド「……」
二人は階段をあがっていった。
――ポケモンタワー前。
――ざぁぁぁぁ。
ナツメが雨に濡れていた。作戦中である。
塔内部でレッドたちを観察するユンゲラー。
その念を受け取り、逐一サカキに無線で報告していた。
洞窟の入り口に手をのばす。
やはり入れない。透明な壁があるようだ。
悪意ある者は、入れないって所らしい。
ナツメ「……」
胸騒ぎがする。
――くそォ、随分飛ばされたなぁ、という男の声。
コジロウ「おぉ! あそこの洞窟で雨をしのごうぜ!」
ニャース「賛成ニャ。ニャーの紳士的な毛並みが台なしニャ」
ムサシ「うっそォ、やぁだ! アレってポケモンの墓場じゃないさ」
どこかで見たことある顔ぶれ。
たしか下っ端の構成員だった筈。
コジロウ「あァ! ナツメ様だ!」
ニャース「ニャーたちには、それはそれは、
リザードンよりも高く、カビゴンの胃袋より深い理由が……」
雨にぬれるナツメ。
それをじーっと見つるムサシ。
ムサシ「あんたこそ、何してんのさ。そんな顔で」
――ざぁぁぁぁぁ。
ナツメ「馬鹿な。あんな坊やなんて、年下過ぎて男として――」
ニャース「……だれも坊やかニャんて聞いてニャいな」ボソ。
コジロウ「コラ、ムサシ、ナツメ様に向かってなんていう口の聞き方をォ……!」
ムサシ「いくら幹部では、アタシたちよりも、ぐんと下の小娘じゃないさ」
ナツメ「……ふん」
ムサシ「どんな事情があるか分かんないけどサ。
さっさと追いかけなさいよ」
――似合ってないんじゃない、そーいうの。
ムサシの訴えかける眼。
ナツメ「まるで私をそこらの女扱いするんだな……」
再度、洞窟の入り口に手を伸ばす。
――なぜかナツメも、入れるようになっていた。
コジロウ「あぁ、あぁ、必死になって走っていったよ。
クールな所が、チャーミングだったんだけどなぁ」
ムサシ「まったく女ってもんを分かっちゃいないわねぇ」
ニャース「おみゃーが女を語るニャ」
コジロウ「似あわねー」
ムサシ「うっ、うるさいわねアンタたち!」
――ガ、ガ、ガ、ガァァ。
コジロウ「おい、なんかコレから聞き覚えのある声がするぞ」
ニャース「にゃんだ、にゃんだぁ!?」
地面に落ちた無線を、コジロウがとりあげる。
その機械からはロケット団の首領の声がした……
■■■
まるで静謐な空気が漂う寺院のようである。
レッド「……」
グリーン「あぁ、持ってるけど、何に使うんだ?」
レッド「――」
グリーン「まぁ、いいけどよ。ほら」
そういって、レッドはモンスターボールを受け取った。
グリーンは伽藍とした8階を見渡した。
グリーン「特に、何もナシ、と。
おいレッドォ、オレたち化かされてないか?」
レッド「……」
レッドは迷わず、中央の祭壇。
そこに置かれた、とある石板のまえに立った。
レッドは古代ポケモンが描かれた石板に触れた。
――しゅっばァァァァんッ!!!!!
レッドが石板にふれた瞬間。
眼を覆いたくなる光が天を貫いた……
レッド「―――――」
グリーン「なんだ、こいつはァ!」
石板の上に漂う、
一匹の小柄なポケモンが、
ゆっくりと瞼を開いた。
レッド「……」
ミュウ「――」
幻のポケモンであるミュウが出会った。
7月6日。
ここに立ち入る人間が
再び現れるとすれば
心優しき人で在らんことを
今ここに其の願いを記し
この地を跡にする
― フジ ―
■■ ミュウ/了 ■■
神々しい8階に乱入者が現れた。
荒々しく壁を破壊してやってきたソレは、
リザードンの背で邪悪な笑みを浮かべた。
サカキ「気を抜いたなミュウ!!」
――バサァッバサッバッサァ。
突っ込んできたリザードンの牙が、ミュウに喰らいついた。
リザードン「ぎゃしゃぁぁぁあああ!!!!」
狭い室内に風が吹き荒れ、レッドは帽子を押さえた。
レッド「……」
グリーン「あいつが、ロケット団首領かッ!」
そのまえに供物を捧げるように、
リザードンがミュウを差し出した。
バッサッ、バッサッ、バッサ。
――みゅうッ。
サカキ「予知のとおりだな。マサラの純白な精神。
レッド、おまえはいい餌だったよ!」
サカキはボールを投げた。
それを払おうと尻尾をふるミュウ。
ミュウ「――!」
が、あっさりミュウを捕獲してしまった……
そのボールは、人類の叡智が生んだ傑作。
どんなポケモンでも捕獲するという、マスターボールだった。
グリーン「……」
状況を掴めない、レッドとグリーン。
サカキ「きはははッ。ついに、ミュウを捕獲したぞ!
四年越しの捕獲劇も、ついに閉幕――」
――これで俺の野望が遂げられる!
スピアー、ギャラドス、イーブイ、ピカチュウ。
すべての手持ちポケモンを出し、レッドは戦いに挑もうとしていた。
サカキ「おいおい、まさか、『決着の舞台』とやらを信じているのか、おまえは?」
レッド「――」
サカキ「四年前から俺の狙いは、このミュウ一匹。
いまさらオマエと戦う理由が、何一つないんだがね?」
――またしても、戦いから逃げるサカキ。
同じ土俵に立とうとしない、根っからの策士だ。
サカキ「グリーン、か。ポケモンバトルをしよう、とでも?」
グリーン「分かってるじゃんか。出せよ、ポケモン」
レッド「――――」
サカキ「うむ、早速こいつを使ってみるのも、一興か」
サカキはミュウのボールをかざした。
先手必勝。レッドはスピアーに攻撃を指示。
その時だった。
――たッ、たッ、たッ、たッ、という足音。
幻の8階に辿りつくと、レッドの姿があった。
ナツメはレッドに向かって走りだす。
――たッ、たッ、たッ、たッ。
ナツメ(レッド。レッド。レッド――!)
■■■
――ナツメの胸を、スピアーの針が穿った。
ナツメ「――あ」
レッド「――――――――――――――」
急に飛び出してきたナツメ。
深々と刺さる、巨大な針。
ゆっくりと崩れていくナツメの躰。
グリーン「……」
サカキ「――予知が当たったか」
のしかかってきた、
ねっちょりしたナツメの躰を、
レッドは抱きしめた……
そうか、レッド、おまえもついに人を殺めたかッ!」
レッド「……」
サカキ「それも女。極上の女をッ。悪の女を!」
高笑いしているサカキ。
その顔がすぐに屈辱に変わる。
ナツメ殺害でできたスキに、
ピカチュウが、マスターボールを奪ったのだ。
――ぴっ、ぴかちゅう!
誇らしげなピカチュウの声がした。
サカキ「なッ、それは、まさかッ」
レッドの足元で溶けていくナツメ。
それは変身が得意な、メタモンだった。
グリーン「仕込みバッチリ成功だなレッド!」
レッド「――――」
――パンッ。
マサラのコンビの、軽快なハイタッチが響いた。
それをスピアーの針が貫く。
――びき、びき、パリンッ。
マスターボールが砕け散った。
どうやらサカキの狙いは、このポケモン。
ならば、それを徹底的に阻止。
これがいまのレッドによる、サカキへの有効打である。
サカキ「やってくれたな……」
――みゅう。
幻のポケモンが、大いなる力をふるった。
サカキ「――なん、だと……?」
8階にいるすべての者を、ミュウが放つ虹色の光が包み込んだ
――しゅうん。
そして8階には誰もないくなった……。
ミュウの力により、テレポートさせられた。
そこは焼け野原だった。
いくつか残された大木も黒こげだ。
レッド「……」
グリーン「ここって、まさか、アレだよなぁ?」
サカキ「――ここはトキワの森だ」
その声に、レッドたちは身構えた。
空中ではミュウが自由にとびまわっている。
サカキ「――生きてる間に、捕まえられそうにないな」
レッド「……」
サカキ「レッド、おまえの勝ちだ」
レッド「――――」
サカキ「ロケット団は、解散だ。
レッド、俺はな、ありがちな病気にかかり、
ありがちな死に様を晒す、一歩手前なんだ」
サカキ「もう半年もない命。
悪を、もっと悪を成すためには、長い寿命が必要だった。
――できるならば、ミュウの力で、不老不死になりたかったんだがなぁ」
グリーン「悪行の為に不老不死……あんた、狂ってるぜ」
しゅぼッ。
サカキは煙草をくわえ、火をつけた。
サカキ「――ふん。悪なんてものはな、俺にとっては食欲と同じなんだ。
狂ってるもなにも、悪をしなきゃ、死ぬくらいだ俺は。きははッ」
悪がべらべら、犯行理由を喋るのは、ナンセンスだからな。
――おまえたちに語るのは、悪ボスのごくごく一部。
格好が悪いところを見せたのは、ちょっとした愛嬌だよ」
レッド「―――」
サカキ「あぁ、ロケット団は、本当に解散だ」
サカキ「まだ犯罪を犯すのか、か。それを俺に聞くかレッド?」
サカキ「犯すさ。
ロケット団という手足を使わずとも、
この頭脳で、この心臓で、この滾る悪の血潮でッ。
――俺という人間は、死ぬ間際まで悪を貫こう」
レッドは、一歩、一歩。サカキに近づいた。
睨みあう両者。
レッド「――――――――――――――」
その刹那、私は虹色の光に包まれた。
それがテレポートの類だとは、エスパーポケモンの使い手として熟知していた。
気がつくと私は森の茂みに倒れていた。
空を見上げれば、青空と入道雲。
――素直に、キレイだ、と私は思ったのだ。
現状を把握するため、
あたりを窺った、その時だ――。
レッド「――――――――――――――」
聞き覚えのある少年の声。
私は茂みや木岐のすきまを煩わしく歩く。
するとすぐに眼前には、私の心をかき乱す少年。
その少年の快活な声に、私の鼓動が跳ねあがった。
――さぁぁぁあああああ。
トキワの森の風が、私の髪をちらした。
―――………
まだ根強く生える草花がなびいている。
レッドはモンスターボールをかまえた。
レッド「――俺はマサラタウンのレッドだッ」
――サカキ、ポケモンバトルしようぜ!
まっすぐな眼で悪を見据え、
レッドが挑戦状を叩きつけた。
勇ましくも、楽しそうな少年のような顔で。
トキワの森の空に、ミュウの楽しげな鳴き声が響く……
― トキワは みどり えいえんのいろ ―
■■ マサラタウンのレッド/了 ■■
― 後日談 ―
――2日後、トキワの森。
何時間も続いた、レッドとサカキのバトル。
両者共に、すべてを出し切った、激闘だった。
スピアー、ピカチュウ、サイドン、
イワーク、イーブイ、ギャラドス、リザードン、
ニドキング……
すべてのポケモンが、須らく主役であった。
もうそこに争いの気配はない。
涼しげな風が吹くくらいだった。
サカキ『レッド。おまえの勝ちだ。
そして、もう俺を追うのはやめろ。
餓鬼は餓鬼らしく、もっとマシな道を歩けよ。
――あと善人に近づかれると、持病が悪化しちまうのさ』
そう言い残して、サカキは姿を暗ました。
生涯、あの男と会う機会は巡ってこないだろう。
2日前の熱の名残りを求めるように、
レッドは荒廃しているトキワの森にやってきた。
それに付き添うグリーン。
グリーン「おい、あいつ、こっちに来るぞ」
ここ2日、トキワ周辺を飛び回って、世間を騒がせているミュウ。
その空中で遊んでいたミュウが、レッドのまえに降り立った。
――みゅう、みゅう、みゅー、みゅ?
レッド「――――」
唐突にミュウから、光が放たれた。
それも今度はトキワの森全土を包む巨大な光だ……。
さながら森が生き物のようだった。
元に戻るのではない。
新しい森が生まれようとしているのだ……。
トキワ本来の、濃厚な森の匂いがした。
――気がつけば、立派な森が誕生していた。
ミュウが遠くの空の彼方に飛んでいった。
もうあのポケモンとも、会うことはないだろうな、とレッドは思った。
――ありがとな、ミュウ。
グリーン「これからどう生きて行けばいいのか分からない~!?」
レッド「…………」こくり。
ずっと復讐の日々だったレッド。
そして最終目標だった、ロケット団の解散。
もうレッドには、やるべき目標がないのだ。
レッド「……」
グリーン「あぁ、だったら、よォ。ものは相談なんだが……」
グリーン「俺とポケモンマスターを目指そうぜ。
どちらが先に頂点に立つか、勝負だ!」
そういって、グリーンが手を差し出した。
まるでマサラを旅立った日のやり直しだった。
レッド「……」
そして、あの時のように。
レッドはその手を握り返した。
ぐッと力強い握手が交わされた。
レッド「……!」
グリーン「ポケモンマスターのまえに、だ。
君には達成するべき任務があるんじゃないのかな?」
ニヤつくグリーンが、レッドの肩を叩く。
耳打ちをするように、ぼそりとグリーンがいった。
グリーン「いいか、レッド。
年上の女は、押しに弱い。強気で当たれレッド」
レッド「――」
グリーン「なんのことだ、じゃない。すぐに分かる」
レッド「……」
グリーン「――タマムシに、桜咲くカフェテリアがある。
そこにデートに洒落こんでみな。良い雰囲気の店だぜ」
レッド「――――――」
じゃあな、と手をあげて、森を去っていくグリーンだった。
トキワの森の入口。
そこには始まりの女、ナツメがいた。
まるで本当に旅立ちの日のやり直しだ。
ナツメ「……」
レッド「……」
お互い見つめあい、黙りこんだ。
先に根をあげたのはナツメだった。
ナツメ「――色々。本当に色々。
おまえには言わなきゃいけないことがある……」
ナツメ「すまなかった、ありがとう。辛かったか? 傷は癒えたか。
……初めに何をいえば相応しいのか、会うまで悩んでもいた」
レッド「……」
レッド「……」
――さて、どうしたもんかな。
唇に指をあて、儚げな笑みを浮かべるナツメ。
毅然としたナツメの、ほんの一瞬だけ見せた、脆さ。
レッド「――――――」
ナツメ「――え?」
桜咲くカフェテリア。
それは唯一当たらなかった予知。
悪意まみれの世界で生きるナツメにとっての、
ある筈のない、やわらかく、嘘みたいに幸福な光景。
ナツメの頬を涙が伝う。
ナツメ「こんな所にあったのか……」
レッド「―――――」
毅然とした顔が、柔らかい笑みに変わった。
――初めっから大切なものは、まっさらで。
初めっから、すぐそばに転がっているらしい。
スピアー、イーブイ、ピカチュウ、サカキから取り返したリザードン。
どれもロケット団に調教された、可哀そうなポケモンたちだった。
これからレッドは新しい道を歩く。彼らにもそうして欲しかった。
『野生にお帰り』
そうレッドとナツメが、ポケモンたちを見送った。
レッド「……」
ナツメ「……」
ぎゅっとナツメは、レッドの手を握り締めた。
――二人はトキワの森を跡にした。
カスミはミス・ハナダに選ばれたことを、
レッドに自慢したり、衣装をお披露目したりした。
ちかごろ彼が連れ添っている女と
衝突している光景は、もうお約束だ。
タマムシの再興に尽力するエリカ。
彼女は忙しいながらも、裏で暗躍したりしている。
どうやらバッチの件は、借りだったらしい。
朋輩が聞いてあきれるが、これもエリカの冗談なのだろう。
その後ロケット団の噂が、頓と途絶えた……
ナツメ「そこはエスパーポケモンで攻めるべきだ」
レッド「――――――」
ナツメ「それはオマエの嗜好だろうが。
いいかレッド。もっとゴリ押しじゃなく、相性を――」
そこにいるのは、
復讐者のレッドでも、
世界を怨むナツメでもない。
純粋にポケモンを愛する二人の、
いつもと変わらないポケモン議論に花が咲いていた……
動物図鑑にも載っていない。
不思議な不思議な生き物。
ポケットモンスター。
略してポケモン。
これはそんなポケモンと、
少年レッドの物語。
■■ 完 ■■
元スレ
レッド「――俺はマサラタウンのレッドだッ」
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1287865841/
レッド「――俺はマサラタウンのレッドだッ」
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1287865841/
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コメント一覧 (27)
-
- 2016年06月29日 05:06
- なんかなんとなくだが読んだことあるような気がするな
-
- 2016年06月29日 05:15
- ※1
同じく…
既視感はんぱなかった
-
- 2016年06月29日 05:19
- これ昔のやつか
見たことあるのも当たり前か
-
- 2016年06月29日 06:36
- 6年前のやないかーい
-
- 2016年06月29日 07:34
- ナチスって誰だ……?
-
- 2016年06月29日 07:57
- マガジン版ポケスペって感じでよかった
ちょいちょい表現が荒かったり誤字があったりしたけどそれでも面白かったって言える
-
- 2016年06月29日 09:04
- 台詞回しにもうちょっと気を使ってくれれば
-
- 2016年06月29日 10:54
- トウフワールド更新はよ
あれでゴルダックは最強と洗脳されますた
-
- 2016年06月29日 11:37
- それがどうした!こっちには川崎市のレッドさんがいるんだぞ!
-
- 2016年06月29日 13:47
- まーたなつかしいもんを
-
- 2016年06月29日 13:53
- 2010年が6年前とか信じられん…
-
- 2016年06月29日 14:17
- だいぶよかったぞ。褒めて使わす
-
- 2016年06月29日 15:58
- 久々に読めて良かったよ
-
- 2016年06月29日 18:10
- 初めて読んだが、おもしろかった。
-
- 2016年06月29日 18:24
- 6年前の作品とは思わず
初めて読んだが、面白かった。
サカキの性格の独特さやナツメエンド展開が
個人的に好ましかった。
ところでカスミエンドSSは
幻のポケモン以上に俺は見たことが無い(笑)
-
- 2016年06月29日 19:54
- ジムリーダーの協会の内部グチャグチャだな…
てかナツメタイーホだろ
-
- 2016年06月29日 22:16
- 初見だが面白かった
ベースがポケスペなのが個人的に良かった
-
- 2016年06月29日 23:55
- 俺がマサラタウンのガンダムだッ!
-
- 2016年06月30日 01:03
- 割と好評価なんだな・・・レッドのナツメへの対応に全然納得出来なかった・・・
-
- 2016年07月01日 07:39
- 面白そうだから最後まで読んでしまった
つまらなかった
-
- 2016年07月01日 19:54
- なんかすごい高評価だけど、文章もノリも気持ち悪く感じる
-
- 2016年07月02日 06:58
- マチスの黒歴史と会員なのはいらんだろwww
-
- 2016年07月02日 19:48
- マチスはともかくナ・チ・スならそこまで酷いことしててもおかしくないなwww
レッド「ナチス絶対に許せねぇ!」
-
- 2016年07月02日 20:25
- 駄目
-
- 2016年08月18日 01:15
- 面白かったけど、あと一歩って感じかなー
-
- 2021年08月17日 06:36
- 懐かしくて泣きそう
ポケスペにも影響されてるだろうけど、あのゲームからよくこんな創作ができたな
-
- 2021年08月17日 06:39
- 幹部ナツメがデレる作品を描きたかったんだろうが、単にレッドが甘いだけになってるし、ナツメも優柔不断さがあってノリが気持ち悪いというのには同意できる