【艦これ】三日月「もっと……もっと頑張らないと……私は」電「……三日月ちゃん」【前半】

1: ◆jz1amSfyfg 2015/03/19(木) 10:45:12.24 ID:pKyOQk7a0


三日月「……」 スタスタ

 果たして今まで、私はどれだけの罵声を浴びてきたのだろうか。

三日月「……」 スタスタ

 役立たず。これは何度言われたか覚えてすらいない。

三日月「……」 スタスタ

 でも、一番頭に来たのはそんなどうでもいい罵声じゃない。

『所詮は睦月型だな。役立たずめ。加えてお前は無個性……やれやれだな』

 これはさすがに……我慢できなかった。私の事はいくらでもバカにしていいけれど、大切な姉妹達まで罵倒されているみたいで、すごく不愉快な気分になった。

 スタスタ ピタ

三日月「……ここが、新しく所属する鎮守府かぁ」 ジー

 ここの司令官は、いったいどんな人なんだろう。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


【艦これ】電「暁お姉ちゃんが頭を打って変になっちゃったのです」

【艦これ】三日月「……バレンタインデーかぁ」

※以上のSSの過去の話となっております。話のつながりはありますが、読んでいなくても問題はありません。よろしくお願い致します。
※書き溜めはしていないので、スローペースになると思います。ご了承ください。




2: ◆jz1amSfyfg 2015/03/19(木) 11:06:23.96 ID:pKyOQk7a0


三日月(結構大きいなぁ。前に所属してた鎮守府程じゃないけれど) キョロキョロ

 スタスタ

「あ、あの」

三日月「?」 クル

電「も、もしかして……本日着任されるとの連絡を受けていた艦娘の方なのですか?」

三日月「はい! 私は睦月型10番艦の、三日月です。先刻、こちらの鎮守府へ転属命令があり、本日着任いたしました。まだまだ未熟な身ですが、どうぞよろしくお願い致します」 ビシッ

電「は、はいなのです! お、おおお待ちしていましたなのです!」 アセアセ

電「同じく艦娘なのです! 暁型4番艦の電なのでしゅ!」 ビシッ

三日月(か、噛んだ……)

電「……///」

電「うぅ……舌が痛いのです……」

三日月「ぷっ、ふふふ……」

電「……うぅ、は、恥ずかしいよぉ……///」

三日月「!! ご、ごめんなさい! つい……」 オロオロ

電「い、いいのです……悪いのは噛んで失敗しちゃった電なのです」

三日月「いえ、つい笑ってしまった私が悪いですよ……本当にごめんなさい。失礼でした」

電「いや、電が……」

三日月「いや、私が……」

電「電が」
三日月「私が」

電・三日月「……」

電・三日月「「……ふふふ」」

電「これじゃあ埒があかないのです」

三日月「ふふ、そうですね。では、お互いが悪いという事で」

電「この件はおしまい、なのです!」 ニッコリ

三日月「そうですね。そうしましょう」 ニッコリ



3: ◆jz1amSfyfg 2015/03/19(木) 11:27:40.87 ID:pKyOQk7a0


電「では、まずは司令官さんの所へ案内するのです」

三日月「はい! 電さん、よろしくお願いしますっ」 ペコリ

電「はわわ、こちらこそなのです」 ペコリ

電「では、着いてきてくださいなのです」 スタスタ

三日月「はい!」 スタスタ


三日月「それにしても、静かですねー。他の艦娘の方々は何か任務中とかですか?」 スタスタ

電「え? この鎮守府にはまだ電しかいないのですよ?」 スタスタ

三日月「え?」

電「はわわ、失礼しましたのです! 訂正なのです! 三日月ちゃんも今日からこの鎮守府の艦娘なので、電と三日月ちゃんしかいないのです」

三日月「そ、そういうことじゃありません! それ……本当の事ですか!?」

電「は、はい」

三日月「え、えー……」

電「……三日月ちゃん、別の鎮守府からここにやってきたんですよね? 前の司令官さんとかから何も聞かされていないのですか?」

三日月「…………」

三日月「……はい。場所と訪れる日にちだけは聞いていましたけれど、それ以外は何も……」

電「そうだったのですか……」

電「ちなみになのですが」

三日月「?」

電「電がこの鎮守府に着任したのもついさっきなのです。三日月ちゃんを迎えに行くことが初めてのお仕事だったのです。だから少し緊張しちゃって……」

三日月「……もしかして、この鎮守府が鎮守府として活動するようになったのって……」

電「本日からなのです」

三日月「……が、頑張ります」

 なんだか、大変な日々が始まりそうな予感がした。



4: ◆jz1amSfyfg 2015/03/19(木) 12:00:00.56 ID:pKyOQk7a0


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


電「こちらが、司令官さんがお仕事をする司令室の入り口なのです。中に司令官さんがお待ちしているのです」

三日月「はい。案内ありがとうございます、電さん」

電「いいのです。お仕事ですし、なにより電は新しいお仲間である三日月ちゃんのお役に立ててうれしいのです」 ニッコリ

三日月(……電さんは優しい子だなぁ)

電「では、中に入りましょう」

 コンコンコン

電「し、司令官さん。電なのです。ただいま戻りましたのです」

 ガチャ

電「司令官さん。三日月ちゃんを……え? し、司令官さん?」

三日月「し、失礼しま……え?」

 目の前にあるのは崩れた段ボール箱の山。中は結構広いけれど、それでもその光景は良く目立った。中に司令官らしき人物は見当たらなかった。

三日月(司令官はこの部屋にいるはずじゃ……)

電「はわわわわ」

三日月「も、もしかして……」


三日月「この崩れた段ボールの山こそ司令官ですか!?」

電「そんなわけないのです! 司令官さーん!!」 パタパタ



5: ◆jz1amSfyfg 2015/03/19(木) 12:10:44.46 ID:pKyOQk7a0


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


提督「ははは……いやぁ、電が迎えに行っている間に少しダンボールの整理でもしようかなって思ってたら崩れて埋もれちゃったよ」 ハハハ

電「わ、笑い事じゃないのです……初日から怪我でもしたら大変なのです!」

提督「心配させてすまないね。……電は優しい子だなぁ」 ナデナデ

電「し、司令官さん……はずかしいのです」

提督「あっ、ごめんつい。女の子に対して失礼だったな」

電「……電は別に嫌ではないのです。でも、嫌がる子もいるかもしれないので、気を付けてくださいね?」

提督「ははは、そうだな」


三日月「……」

三日月(この方が、私の新しい司令官)

 電さんと仲良く話す司令官の姿は、“私と私の姉妹達”以外の艦娘と話している前の司令官の様子とよく似ていた。優しい雰囲気だ。違っているのは年齢と見かけだけ。前の司令官より若そうだ。

提督「んで、君が今日から着任……って言ってもここにいるみんなは今日からここに着任か。――まぁ私がここの鎮守府の最高責任者である提督だ。よろしく頼む」

三日月「!!」 ビク

三日月「は、はい! あなたが司令官ですね。三日月です。どうぞお手柔らかにお願いします!」 ビシ

提督「ははは、そんなに固くならなくても大丈夫だよ。こちらこそよろしく。三日月」 スッ

三日月「――!! ひっ」

 パシッ!

提督「え?」

三日月「はぁ……はぁ……――!!」

電「み、三日月ちゃん……?」

三日月「し、失礼しました! 私……わたし、なんてことを……」

 自分のやってしまった行動は、無意識での行動だった。司令官の握手を求める手を、私は気が付けば拒絶していた。

三日月(あ、謝らないと……謝らないと、私また!)

提督「ははは、いやぁごめんな三日月」

三日月「……え?」

提督「いきなりでビックリしちゃったよな。すまなかった」

三日月「し、司令官は何も悪く――」

提督「とりあえず! 電! 三日月! まずはこのダンボールの山の整理だ。手伝ってくれ」

電「は、はいなのです!」

三日月「…………」

 ごめんなさい。その一言が口から出せなかった。



10: ◆jz1amSfyfg 2015/03/20(金) 05:42:07.77 ID:S1Js99+H0


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

提督「よし、とりあえずこんなもんかな。電、三日月。手伝ってくれてありがとう」

電「つ、疲れたのです……。けど、電は頑張るのです」

提督「荷物の整理ってけっこう疲れるからな。本当に助かるよ」

三日月「……」

提督「? 三日月、どうかしたのか?」

三日月「あ、いえ……何でもないです」

提督「おう、そっか。疲れたりしたら正直に言って大丈夫だからな?」

三日月「はい……お気遣い、ありがとうございます」

提督「ひとまず、司令室の形は整った。君たちにはこの後、もう少しだけ仕事をしてもらって、今日の日程は終わりな感じだな。とりあえず一時間休憩してくれ」

電「はいなのです! 司令官さんはどうするのですか?」

提督「私はもうちょっと仕事してから休憩するよ。君達は先に休憩しててくれ」

電「だったら電もお手伝いを」

提督「大丈夫、大丈夫! 今後君達にはうんと働いてもらうから、今は素直に休憩しとくんだ」

電「わ、わかりました。お気遣い、ありがとうございますなのです!」 ペコリ

三日月「……」 ペコリ

提督「おう。ここから出ると、中にいっぱい空き部屋がある。どれでも好きな部屋を使ってもいいからなー」

電「はいなのです!」

電「三日月ちゃん、行きましょうなのです」 スタスタ

三日月「は、はい。三日月、休憩いただきます」 スタスタ

 バタン

提督「……」

提督「……はぁ」



三日月「!!」

電「? 三日月ちゃん、どうかしましたか?」

三日月「い、いえ。何でもないですよ」

 司令室の中から、私の耳には届いた溜息が届いた。やはり、さっきの事だろうか。私は気になって仕方がなかった。



11: ◆jz1amSfyfg 2015/03/20(金) 06:06:49.58 ID:S1Js99+H0


〈空き部屋〉

電「はぁ……疲れたのです……」 グダー

三日月「ですね……」 グダー

電「それにしても、司令官さんがとても優しそうな人で電は安心しているのです。怖い人じゃなくて良かったのです……」

三日月「……ですね。司令官は……優しそうな方ですね」

 司令官もそうだったけれど、電さんも私の先ほどの行動の事は言及してこなかった。まるで何もなかったかのようだ。

電「三日月ちゃんが前にいた鎮守府の司令官さんは、どんな人だったのですか? ……あっ、い、言いたくなかったら言わなくても大丈夫なのですよ?」 オロオロ

三日月(……やっぱり、気を使ってくれているんだ。優しいなぁ)

三日月「ふふ、大丈夫ですよ」 ニコリ

三日月「そうですね。前の司令官は……優しい方……でしたね」

三日月「鎮守府にいた皆さんと、とても仲が良く優しい方でした」

電「そうだったのですか。司令官の人達は、優しい人達が多そうなのです」

三日月「……はい」

三日月(……私たちにも……最初は……)

電「電は、鎮守府に着任するのはここが初めてなのです。……緊張がすごいのです。ちゃんとお仕事できるか心配なのです」

三日月「電さんならきっと大丈夫ですよ」 ニッコリ

電「が、頑張るのです!」



12: ◆jz1amSfyfg 2015/03/20(金) 06:22:42.65 ID:S1Js99+H0


電「三日月ちゃんは、出撃とかはしたことがあるのですか?」

三日月「はい、何回か……ですけど」

電「なら電より先輩なのです!」

電「色々とご迷惑かけてしまうかもしれませんが……あの、その……」

電「よろしくお願いします! なのです」

三日月「あっ、いえ……こちらこそ……出撃したと言っても数回ですし……」

三日月「私は……前の鎮守府で……」

電「な、何かあったのですか?」

三日月「……いえ、何でもありません。ごめんなさい、こんな風に言い留めちゃったら、気になっちゃいますよね」

電「……電なら大丈夫なのです!」

電「……何かあったかは……まぁ気になるけれど……三日月ちゃんが話したくなったときに話してほしいのです」

電「電でよろしければ、いつでもお話を聞くのです」 ニッコリ

三日月「……はい! ありがとうございます」 ニッコリ

電「いえいえ……電達は、仲間ですから」

三日月「……はいっ」

三日月「では、もっと交友を深めましょう!」

電「なのですっ。もっとお話ししましょう!」

三日月「はい!」

 電さんは、本当に優しい人なんだなと改めて分かった瞬間だった。



15: ◆jz1amSfyfg 2015/03/20(金) 08:25:50.24 ID:S1Js99+H0


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

提督「二人とも、ちゃんと休憩はできたか?」

電「はいなのです!」

三日月「は、はい」

提督「そっか、ならよかった」

提督「んじゃ、パパッとやってもらう事を伝えたいと思う。……君達にはこの後、出撃してもらう」

電「も、もうなのですか!?」

提督「まぁ出撃してもらうって言っても、そんなに固くなることじゃないよ。艤装を積んで、鎮守府近海を航海してもらって、警備してもらう」

提督「確か、電はまだ出撃はしたことないんだよな?」

電「はいなのです。電は鎮守府に着任するのはここが初めての事ですので、知らない事ばかりなのです」

提督「うん、分かった。前の鎮守府にいた頃、三日月は出撃したことはあるか?」

三日月「……数回、くらいならあります」

提督「分かった。なら電のこと、よろしく頼むな?」

三日月「はい、わかりました。頑張ります」

電「い、電も頑張るです!」

提督「そんなに緊張しなくても大丈夫だ。リラックスだぞ」 ナデナデ

電「は、はい!」



16: ◆jz1amSfyfg 2015/03/20(金) 09:01:15.40 ID:S1Js99+H0


提督「もし深海棲艦が現れたりなどしたら、無茶はするなよ? いざとなったらすぐに逃げるんだ」

電「りょ、了解なのです!」

提督「電、深海棲艦のことは知っているよな?」

電「はい、大丈夫なのです」

電「深海棲艦は……電達の……敵なのです」

提督「……まぁ、何かあったらすぐに連絡するんだ」

提督「私達人類は、君達艦娘に力を借りなければ“人類の敵”である深海棲艦を倒すことはできない。だからこそ、君達艦娘を支えるのが私達提督のできることだ」

電「……」

三日月「……」

提督「本音を言うと、君達を戦わせることは非常に心苦しいよ。……私達が言っていいことでは無いかもしれないが、怪我だけはしないようにな?」

電「了解、なのです」

三日月「……了解しました」

提督「……よし、とりあえず工廠に行って、君たちの艤装を取りに行こう。付いてきてくれ」

 そう、私達艦娘は、“人類の敵”である深海棲艦を倒すための存在。突如どこからか現れ、何を目的としているのか分からない、人類からなぜか制海権を奪おうとしている存在――深海棲艦。
 そんな私達は、深海棲艦が現れたとほぼ同時に生み出された“艦娘を造り出す技術”により造られた存在だ。艦娘は人類の希望の光であり――兵器である。

三日月「…………」

 私達も、深海棲艦も、謎ばかりです。



17: ◆jz1amSfyfg 2015/03/20(金) 09:30:28.15 ID:S1Js99+H0


 〈工廠〉

電「……」 プルプル

三日月「……」 キラキラ

妖精さん「オウ、ドウシタジョウチャンタチ」

妖精さん2「テートクー、コンナギソウデダイジョウブカ?」

提督「大丈夫だ、問題ない。ありがとうな、妖精さん達」

妖精さん3「ウム、ヨキニハカラエー」

電「…………」 プルプル

電「し、司令官さん!!」

提督「うぉ! びっくりしたぁ……どうした電」

電「こ、この可愛い子達は何なのですか!?」 キラキラ

提督「あー、この子たちは妖精さんだ。軍の上層部から派遣されてくる、お手伝いさん達だよ。仲良くしてやってくれ。ちなみに、技術力はすさまじい」

電「か、可愛いのですぅ……///」 キラキラ

提督(お前もだけどな)
三日月(あなたもですけどね)

電「よ、妖精さん! ギューってしていいですか!? ギューっと!」

妖精さん4「イイヨコイヨ」

電「あ、ありがとうなのです!」 ギュー

電「……はぁ~……可愛いのですぅ~」 キラキラ

妖精さん4「ヘヘ、テレルゼ」

三日月(私も前の鎮守府で見たときは我慢できず抱きしめたのを思い出すなぁ)

提督「……」

電「はっ! しゅ、出撃前なのにごめんなさいなのです!」 バッ

提督「いや、全然大丈夫だよ。むしろ微笑ましくて和む」



20: ◆jz1amSfyfg 2015/03/20(金) 11:49:19.72 ID:S1Js99+H0


提督「よし、それじゃあ装備の確認だ。ひとまず、ここには二つの装備しかない。12.7cm連装砲と、12cm単装砲だ。性能が良いのは、当然12.7cm連装砲だ」

提督「とりあえず、前に出撃がしたことがある三日月に12.7cm連装砲を持たせようと思うが、いいか?」

三日月「はい、私はそれでも構いませんよ」

電「電も、問題ないのです」

提督「では、そうしよう」

提督「編成の確認も、一応しておく。形は大事だからな」

提督「編成は、旗艦を電、その補佐として三日月の二人で出撃してもらう」

電「い、電が旗艦ですか!?」

提督「電は初期艦だし、まだまだ色々と経験が必要だ。旗艦になることで、より多くの経験が得られると私は思ってる」

電「……」

提督「そんなに緊張しなくて大丈夫さ。君ならできると信じてる……って言っても、今日会ったばかりの私にそんなこと言われてもいまいちパッとしないよな」

電「そ、そんなことは」

提督「だから、素直に言うよ。誰だって最初は素人なんだ。三日月もいる。君は一人じゃない。……頑張れ、電」 ナデナデ

電「……は、はい! 頑張ります……電の本気を見るのです!」

提督「おう。まぁ何度も言うけど、そう緊張しすぎないようにな」 ナデナデ

電「はいなのです!」

三日月「…………」


『頑張ってる? そんなの分かっているさ。……でもな』

『君の頑張りなんて他の艦娘達と比べたらまだまだなんだよ』


三日月「……もっと、頑張らないと……ですね」 ギュ



21: ◆jz1amSfyfg 2015/03/20(金) 12:20:10.71 ID:S1Js99+H0


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 〈港〉

提督「よし、艤装も装備も完璧だな。二人とも中々かっこいいぞ」

電「……えへへ」

提督「任務は本当に簡単な、鎮守府近海の警備だ。深海棲艦がいたらすぐに私に連絡してくれ」

電「この通信機を使うのですよね?」 スッ

提督「そうだ。とりあえず、怪我の無いようにな?」

電・三日月「「了解です」」

提督「あと、三日月」

三日月「……なんでしょうか?」

提督「君も、あまり緊張しないようにな? 心配なのは電だけじゃなく、三日月もだからな」

三日月「……はい。お心遣い感謝します」 ビシッ

電「…………」

提督「それじゃあ……諸君らの無事を祈っている」

提督「全艦、抜錨だ」

電「は、はい! 第一艦隊、第一水雷戦隊。出撃です!」



29: ◆jz1amSfyfg 2015/03/21(土) 01:27:55.60 ID:hD5JILxZ0


 〈鎮守府近海〉

 ザー、ザー

電「く、訓練以外で航海するのは初めてなのです」 オロオロ

三日月「電さん、大丈夫ですか?」

電「は、はい。三日月ちゃんの足を引っ張らないように……頑張るのです」

三日月「……電さん」

三日月「そんな気にしなくて大丈夫ですよ」

三日月「何事も経験ですし、助け合い協力し合うのが仲間です」

三日月「足を引っ張らないように頑張るのではなく、一緒に支え合って頑張りましょうっ。私だって、まだまだ未熟者ですから」 ニッコリ

電「み、三日月ちゃん」

三日月「ね?」

電「は、はい。……あ、あの……ありがとう」 ニコリ

三日月「ふふふ、いえいえっ」



30: ◆jz1amSfyfg 2015/03/21(土) 01:36:07.17 ID:hD5JILxZ0


 ザー、ザー

電「深海棲艦は、いなそうですね」

三日月「ですね。けど、用心するに越したことはありませんよ」

電「……」

三日月「電さん? どうかしましたか?」

電「……変な事、聞いても大丈夫ですか?」

三日月「変な事、というと……?」

電「そ、それは……その……」

三日月「ゆっくりで大丈夫ですよ?」

電「はい…………三日月ちゃんは」

電「戦争には勝ちたいけど、命は助けたいって……おかしいと思いますか?」

三日月「……え?」

 彼女からの問いは、私が今まで聞かれたことが無いものだった。



31: ◆jz1amSfyfg 2015/03/21(土) 02:04:55.06 ID:hD5JILxZ0


電「変な事言ってるのは……電が一番分かっていることなのです」

電「けど、電は……あまり戦いたくはないのです。沈んだ船も……できれば助けたいのです」

電「……それが“人類の敵”である、深海棲艦であってもなのです」

三日月「……」

 この時、私は改めて理解した。電さんは、優しすぎるんだって事を。
 どう答えればいいか、すぐには頭に浮かばなかった。聞かれたことが無かったから。そんなこと、誰かから聞かれるとは思っていなかったから。

三日月「私は……電さんの言っていることは……おかしいとは思いません」

 だからこそ、私は素直に伝えた。

三日月「だけど、私達は……深海棲艦を倒すために造られた存在です。私達が戦わなければ、人類は制海権を奪われてしまいます」

電「……はい……」

三日月「私は、個人的に深海棲艦へ恨みは今のところありません。ですが、家族が乗っていた船を深海棲艦に襲撃され、家族を亡くした人だって世の中にはいたりします」

三日月「今もどこかで、深海棲艦が人類を脅かしているかもしれません。私達はそんな人類の、希望の光なんです」

三日月「だから私は、負けたくはありません。……戦いなんですから」

電「……やっぱり、電が言っていることは間違っ――」

三日月「けど、電さんが言っていることを私は間違っているなんて思いません。いや、思いたくありません」

 ギュ

電「み、三日月ちゃん……」



32: ◆jz1amSfyfg 2015/03/21(土) 02:54:47.53 ID:hD5JILxZ0


三日月「深海棲艦も、もしかしたら私達と立場は同じなのかもしれません。本当は戦いたくないのかもしれません」

三日月「でも、私達は……深海棲艦が何なのであるかすら解明できてません」

三日月「それでも、戦っているんです。……戦争をして……いるんです」

三日月「そんな中でその優しい気持ちを持てることを、間違っていることだなんて思いたくありません。例え周りが電さんに何か言ったとしても……私は立派だと思います」 ギュー

電「……そんなこと言われたの、初めてなのです」

三日月「……争いを争いで解決するなんて、本当は良くない事だと思います。けれど、私達は戦わなければいけません」

三日月「私が今握っているこのあなたの手でも、いつかは深海棲艦を撃たなければいけない時が絶対に来ます。その時は、迷わないで……」

三日月「……そうでないと……やられてしまうのは電さんなんです。そんなの、私はいやです」

電「……はい、なのです」

電「三日月ちゃんに言ってみて……良かったのです。……ありがとう」 ギュー

三日月「はいっ」

 ……いつか、戦争が終わる時、平和が訪れる時。その結果が和解で終わるためには、電さんのような優しい心を持った人が絶対に必要だと私は思う。

三日月(何も感じないまま戦うより、全然いいに決まってる……)

 ブクブク

電「? 何の音でしょうか?」

 ブクブクブクブク

三日月「――!! 電さん!! こっちに!!」 グイ

電「――はにゃあ!?」

 バシャーンッ!!

イ級「……」


電「深海……棲艦……?」




33: ◆jz1amSfyfg 2015/03/21(土) 03:33:56.61 ID:hD5JILxZ0


 海から浮上してきたそれは、私達の敵だった。深海棲艦、駆逐艦イ級。

三日月「……嫌な、タイミング……ですね」

電「し、司令官さん! 聞こえますか!?」

 ザザ

提督『こちら、司令室。私だ。電、もしかして深海棲艦が現れたのか?』

電「は、はいなのです! 数は駆逐艦イ級一隻、なのです!」

イ級「ィ――!!」 ギー

電・三日月「「!!」」

バン!

三日月「電さん!」 グイ

ザバーン!!

電「三日月ちゃん! あ、ありがとうなのです!」

三日月「大丈夫です!」

提督『……音からして、発砲してきたな』

提督『やむを得ないな……二人とも、なんとか撃沈させるんだ。無茶はしないようにな』

電「――ッ!」

電「は、はいなのです」

三日月「…………」

 私が握っている電さんの手は、震えていた。

三日月「……私が、やらないと……」

三日月(私が、この子を守るんだ)

イ級「……」 ギー

三日月「!! 電さん、動きますよ!!」 グイ

電「は、はい!」 ザッ

ザー、ザー

バンバン!!――ザバーン!!

三日月「……しつこいです……!!」

電(だ、ダメだ……わたし、三日月ちゃんの足引っ張っちゃってる……)

ザー、ザー

三日月「よし、ここまでくれば……! 電さん、手を放しますよ!」 ピタ

電「へ? あっ、はい!」 バッ

三日月「イ級は……私が倒します」 ザッ

電「み、三日月ちゃん!」

 一旦イ級から離れ距離を置く。そして私は単艦で再びイ級に近づく。こうすれば、ヤツは私を狙ってくる。電さんに攻撃はいかせない。

イ級「……」 ギー

三日月「当たってっ……!」 ガチャ

 バンッ!!



34: ◆jz1amSfyfg 2015/03/21(土) 06:15:28.29 ID:hD5JILxZ0


イ級「!?」

 ドカーン!

三日月「当たった!」

イ級「……ィイイイイ――!!」 バン!

三日月「!?」 シュッ

 バシャーン!!

三日月(あ、危なかった……反応がもう少し遅れてたら、直撃してた)


電「み、三日月ちゃん! ……い、電だって、戦わなきゃ……」 プルプル

電(……あ、足が……動かない……手も震えてる……三日月ちゃんが、戦っているのに)


三日月「えぇい!!」

 バンバン、バン!!

イ級「――!!」

三日月(当たってる。ちゃんと弾は当たってるはずなのに、直撃しているはずなのに!)

三日月「まだ、倒せないの!?」

イ級「イィィィイイ――!!」

三日月「いや、効いては……いる。――それなら!」 カチャ

三日月「魚雷を――ひぃあ!?」

 ドーン!!


電「み、三日月ちゃん!!」


イ級「……イィィィィ」 ギー

三日月「ぁ、ぐぅ……!」

三日月(……直撃……中破……)

三日月「なんてこと、するのよ……服が台無し……」

三日月「……こんなの、痛く……ない!!」

三日月「私が……頑張らないと……!」



35: ◆jz1amSfyfg 2015/03/21(土) 06:46:36.58 ID:hD5JILxZ0



電(お願い! 動いて……電の身体……動かないと、三日月ちゃんが!!)

提督『――づま! 電! 今どうなっているんだ! 状況は!』

電「――!!」

―――――――――――――――――――――


提督『誰だって最初は素人なんだ。三日月もいる。君は一人じゃない。……頑張れ、電』 ナデナデ

電『……は、はい! 頑張ります……電の本気を見るのです!』


―――――――――――――――――――――

電「……電が……電が……頑張らなきゃ……!! あんなこと言ったのに……三日月ちゃんが……必死に戦ってるのに……!!」

電「電が……頑張らないと……!」 プルプル

電「電が……いなづまが!!」 ジワァ

 ザー!!

電「電だって!! 電だってぇ!!」ガチャ

 バン!!


イ級「!?」 

ボカーン!

三日月「……え?」

 ザッ!

電「はぁ、はぁ……」

三日月「い、電さん……」



36: ◆jz1amSfyfg 2015/03/21(土) 07:30:03.31 ID:hD5JILxZ0


電「ひぐ……ひっぐ……!」

イ級「……」 ザバーン

三日月「て、敵艦……撃沈……」

電「み、三日月ちゃん……!!」 バッ

 ギュー

三日月「電さん……あなた……敵を」

電「ごめんなさい!! いなづまの!! 電の、せいで……三日月ちゃんが……三日月ちゃんが……!!」

三日月「……電さん」

三日月「私は、大丈夫ですよ? だから、泣かないで?」 ヨシヨシ

電「でも、でもぉ……!!」

三日月「…………」 ギュー

三日月(……私がすぐにイ級を倒せていたら……電さんは悲しむことはなかったのかもしれない……)

 申し訳ない気持ちになった。それと同時に、12.7cm連装砲を三発も当ててもイ級すら倒せない自分の無力さを改めて感じた。出撃したことがまだ一回もなかった、電さんの12cm単装砲の一発で倒せた敵ですら、私は倒せなかったんだ。恐らく、私はイ級が小破になるくらいしかダメージを与えることができなかっただろう。


『艦娘が使用する装備の性能は、使用者によって大きく変わるんだ。つまり、“使用者の実力が無い”と、例え良い装備を使ってもその性能は発揮されないんだ』


三日月「…………」

 前の司令官に教わった言葉が、頭を過ぎった。

三日月(私は……本当に……弱いんだなぁ……)

電「うっく、うう……!!」 ギュー

三日月「……」 ギュー

 私は、ただただ電さんを抱きしめる事しかできなかった。



45: ◆jz1amSfyfg 2015/03/22(日) 08:00:17.39 ID:tYygIWBm0


 ――ザザザ

提督『電! 三日月! 大丈夫か!? 状況はどうなっている』

電「ぐす、ぐす……」

提督『電……泣いているのか……?』

三日月「電さん、少し通信機借りますね」

三日月「司令官、私です。三日月です」

提督『!! 三日月、大丈夫か!?』

三日月「……私は一発被弾してしまい、中破状態です。でも、安心してください。電さんは無傷ですし、イ級は撃沈しました」

提督『……お前が中破状態でどう安心しろって言うんだ! ふざけるんじゃない!!』

三日月「!?」

電「え?」

提督「――!! ……す、すまん。……とりあえず、状況は分かった。詳しくは戻ってきたときにまた聞く。すぐに帰還するんだ」

三日月「りょ、了解……しました。失礼しました」

 ――ブッ

三日月「…………」

 まさか、怒られるだなんて思ってもいなかった。

三日月(……司令官は、私のことをそんなに知らないからあんなこと言えるんだ。……私の事を詳しく知ったら……絶対に)



46: ◆jz1amSfyfg 2015/03/22(日) 08:34:34.05 ID:tYygIWBm0


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

三日月「い、電さん……別に大丈夫ですよ?」

電「ダメなのです! 電のせいで……三日月ちゃんは怪我をしまったのです。これくらいさせてください」

三日月「……わかりました。なら、お言葉に甘えます」

 電さんは、私の手をずっと引っ張ってくれた。別に、そんなに気にしなくてもいいのに……電さんは罪悪感を覚えてしまっているのかもしれない。むしろ、申し訳ないのは私なのに。

電「あっ、司令官さんが港にいるのです」

三日月「……」

 ザザン

提督「二人とも、お疲れ様」

電「は、はい……艦隊がお戻りになったのです」

三日月「……艦隊、帰還しました」

 司令官は、戻った私達を見て安心したかのように笑っていた。

提督「初の出撃で、大変だったろう。詳しい報告は入渠が終わってから聞くから、今は休むんだ」

電「……電は……足を引っ張っちゃっただけなのです……」

提督「ほら、そういうのは後だ。君たちが帰ってきただけでも私は安心だよ。とりあえず入渠だ入渠」 ポンポン

提督「それと、三日月」

三日月「……はい、何でしょう」

 スタスタ

三日月(司令官が、私の方にやってくる……やはり先ほどの事で怒られるだろうか……それよりも、失礼の無いようにしなきゃ)

 スタスタ ピタ

提督「……」

三日月「……」 フルフル

 司令官が、私の前でじっと見つめてくる。たったそれだけのことで、私の身体はなぜか震える。……必死に自分語りかける。

三日月(失礼の無いようにしなきゃ……失礼の無いようにしなきゃ、失礼の無いようにしなきゃ失礼の無いようにしなきゃ)

三日月(それに、怯えるな私……震えるな私。この人は、前の司令官じゃない。優しい人だって、会って間もないけど分かる。本当に心配していることだってわかる)

 ――でも、前の司令官だって……“最初”は優しかった。



47: ◆jz1amSfyfg 2015/03/22(日) 09:43:48.72 ID:tYygIWBm0


 ――転属命令が出たのだって、私のせいだ。優しくなくなったのも、私のせいだ。姉妹を馬鹿にされるようになったのも、私のせいだ。

三日月(……全部、私のせいなのは……分かってるんだ……でも、でも……)

 ――それだけは、許せなかったんだ。

提督「三日月」 スッ

 司令官が、手を伸ばしてくる。

三日月(――!! 何もしちゃダメだ、拒絶なんかしちゃダメだ、三日月。大丈夫、この人が私を……“殴る”わけないんだから……!!)

三日月「…………ッ」 フルフル

 スー

提督「……そんなに、怯えなくて大丈夫だ」

 ナデナデ

三日月「……し、しれい……かん?」

提督「……三日月が前の鎮守府でどんな風に過ごしていたとかは、まだ分からない」

提督「でも、何かあったんだなって事は……なんとなくわかるさ」

三日月「……」



53: ◆jz1amSfyfg 2015/03/22(日) 10:35:28.25 ID:tYygIWBm0


提督「別に、話してくれとは言わないさ。俺の最初の仕事は、お前達から信頼してもらえる提督になることだって思ってる。信頼もしていない上官に、打ち明ける事なんてできるはずないしな」

提督「幻滅するかもしれないけど、ぶっちゃける。俺、仕事中はできるだけ威厳がありそうにしゃべってる。……けど、実際は見かけどおり若造だ。まぁ、口調なんか変えても意味ないかもしれないけどさ」

提督「……んで、今は上官とかそういうのは関係なく言う。……お前らは、俺の仲間だ。遠慮なんかいらないし、何かあった時は全力で俺がお前らを支えてやる」

提督「だから三日月……怯えなくていい。震えなくていい。手を振り払ったことだって、気にすんな。……自分を軽く見るな。相談だって、いつでも受ける」 ナデナデ

三日月「……司令官……」

電「……司令官さん……」

 震えは、いつの間にか止まっていた。私の頭を優しくなでる司令官の手は、とても大きく感じた。

提督「……いや、ごめんな。入渠前だってのに長い話しちゃってさ。……とりあえず三日月、これ羽織っとけ」 バサ

三日月「え? だ、大丈夫ですよ! 私、塩水で濡れちゃってますし……これじゃ司令官の上着が」

提督「そんなの関係すんなって。……女の子が素肌晒すもんじゃないしな」 ポンポン

三日月「あっ……///」

 自分の状態を、ついつい忘れてしまっていた。結構痛かったはずなのに、なぜ忘れていたのだろうか。

提督「そんじゃ、入渠するとこまで案内するから付いてきてくれ。行くぞー」 スタスタ

電「……三日月ちゃん、行きましょうなのです」 ギュ

三日月「……はいっ」

 司令官の上着は、とても暖かかった。手を引いてくれる電さんの手も、温かかった。



54: ◆jz1amSfyfg 2015/03/22(日) 11:02:58.61 ID:tYygIWBm0


〈入渠場〉

 カポーン

電「はぅぅ……あったかいのですぅ~」

三日月「ですねぇ~……これは……すごく癒されます~」

 私達艦娘は、入渠するとなぜか身体の痛みとかが消え、傷が癒える。いったいどういう事なのかは、自分でも疑問です。

電「……三日月ちゃん、本当にごめんなさいなのです……」

三日月「ふふ、もう。電さんは優しすぎますよ。もう……大丈夫ですから。私ももう、あんな無茶はしません。それに、私が不甲斐ないばかりに電さんに敵を撃たせてしまって、本当にごめんなさい」

電「み、三日月ちゃんが謝ることなんて何も!」

三日月「電さん! ……もう、この話はおしまいです」

電「……はいなのです」

三日月「そういえば、電さんに聞きたいことがあるんです」

電「? 何ですか?」

三日月「司令官を、どう思いますか?」

電「……え?」

三日月「……私、お二人が察してくれているように……前の鎮守府で色々と問題起こしちゃったし、色々あったんです」

三日月「だから……提督、と人が自然と怖くなってしまって……司令官にもできるだけ干渉しないようにしちゃっていました」

三日月「話しかけてくれても、素っ気無い反応だったり、遅れた反応しちゃってたり……失礼な態度ばかり取っていました」

電「…………」

三日月「でも、司令官は……本当に優しい人です。そんな私の事も心配してくれていて、あんなことも言ってくれました」

電「……電は、ここが初めての鎮守府なので、あの人が初めての司令官さんなのです」

電「でも、あの人が司令官さんで良かったと思っているのです」



67: ◆jz1amSfyfg 2015/03/24(火) 03:45:56.24 ID:LoVp9Ccr0


三日月「…………」

電「電は、さっき三日月ちゃんに伝えたことを、司令官さんにも打ち明けます」

電「あんなこと言っちゃったら、電は解体されてしまう可能性もありますけど……きっと司令官さんなら……」

三日月「……あの人なら、大丈夫だと思いますよ?」

 解体――それをされると、私達は艦娘ではなくなる。つまりそれは、役割の喪失を意味する。深海棲艦と戦うという役割を失った艦娘は、この世から消えてしまう。……微量の資材を残して。

三日月「それに、心配しないでください」

三日月「電さんがどんな答えを出そうとも、私とあなたは仲間ですから」 ニコリ

電「……うん……///」

電「ありがとう、なのです」 ニコリ

三日月「いえいえっ」

電「い、電はもうそろそろ出るのです! 三日月ちゃん、報告などは電がしておくのでゆっくり身体を休めてください」 ザバッ

三日月「はい、お任せしますね」

 怪我をすればするだけ、入渠する時間が長くなる。それでも、私達駆逐艦の入渠時間はかなり短い部類に入る。戦艦クラスの方々になるとものすごく長い。

電「それじゃあ、また後でなのですっ」 フリフリ

三日月「はいっ」 フリフリ


電(……電は、もう迷わないのです)



68: ◆jz1amSfyfg 2015/03/24(火) 04:01:44.76 ID:LoVp9Ccr0


三日月「……報告、かぁ……」

三日月(つまり、三発を当てても倒せなかったという事も、当然報告することになる)

三日月「……司令官は、いったいそれをどう思うんだろ……」

 すっと目を瞑る。
そこに広がるのは、暗い世界。その中に――私と前の司令官が立っている。


『君が、三日月だね? 僕が提督だ。よろしく頼むよ』

三日月『は、はい! よ、よろしくお願いしましゅ!!』

三日月『あっ……///』

『……ぷっ、ははは!』

三日月『うぅ……』

『あっ……ごめん……つい。とりあえず、そう緊張しなくて大丈夫だよ。楽にね?』 ポンポン

三日月『は、はい!』


 懐かしい光景だった。こんな日々もあったんだ。



69: ◆jz1amSfyfg 2015/03/24(火) 04:47:53.44 ID:LoVp9Ccr0


 バン、バン!

三日月『……はぁ……はぁ……』

『三日月? まだ訓練しているのかい?』

三日月『あっ……お疲れ様です、司令官』

『明日は大事な遠征任務があるから休めと指示したはずだよ?』

三日月『ご、ごめんなさい……』

『……ははは、謝ることじゃないさ。努力する子、僕は好きだよ』

三日月『……あ、ありがとう……ございます///』

『僕には、君と同じくらいの大きさの娘がいる。あの子も君と似ていて頑張り屋さんでな』

『だからこそ、余計に心配なんだよ。時には休むことも大事なんだ。今はゆっくり休みなさい』

三日月『は、はい!』

『……まぁ、その娘も僕の妻も明日会いにやってくる。きっと君と娘は仲良くなると思うんだ。明日はよろしく頼むよ?』




『提督! こちら海上護衛隊旗艦、神通です! て、敵が……深海棲艦が現れました!』

『ッくそ! なんで、このタイミングで……いつもはこんなことないはずなのに……ッ!』

『敵のか、数は……4隻っぽい!』

『……神通! 夕立! ――三日月!』

『頼む……何としても、深海棲艦を撃退させてくれ』

『その船には……娘と妻が……乗員しているんだ!!』


三日月「!!」

 バシャーン

三日月「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……!!」

三日月「…………」

三日月「……私は……私は……!!」 ジワァ


 役立たず。




70: ◆jz1amSfyfg 2015/03/24(火) 05:50:55.47 ID:LoVp9Ccr0


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

三日月「……」 スタスタ

 入渠が終わった後の空気は、少し冷たい。でも私はこの肌を透き通るような空気が嫌いじゃなかった。

三日月「……」 スタスタ ピタ

 〈司令室前〉

三日月(もう、報告終わってるよね。うぅ、やっぱり入るの……少し怖い……)

三日月(……でも、そんなことも言ってられないよね)


「あぅ……司令官さん……そ、そっちは……め、です」

「……ふっふっふ……電は……やすいなぁ……」


三日月「え?」

三日月(な、中で何をしているの?) ササッ

三日月「…………」 ソー


電「ひゃあ! だ、だめなのです! そ、そっちは!」

提督「あっはっはっは! もう遅い! 奪ってやるぞぉ!!」


三日月「ま、まさか……!!」


――――――――――――――――――――――

提督『ふふふ……その事を上層部に公言したら……君はどうなるかなぁ?』

電『そ、それだけは……嫌なのです!』

提督『……なら、分かっているね?』

電『うぅ……はい、なのです……!!』

 提督 夜戦ニ突入ス

――――――――――――――――――――――

三日月「な、ななななななななな///」

三日月「な、何やってるんですか! 司令官ッ!!///」

 バターン!

提督「電、お前もう少しポーカーフェイスにやらないとダメだろ。声出てたし」

電「うう、負けてしまったのです……」


三日月「――え?」

三日月(……と)

三日月「トランプ?」



71: ◆jz1amSfyfg 2015/03/24(火) 06:10:57.76 ID:LoVp9Ccr0


提督「おっ、三日月。入渠終わったのか、お疲れ様」

電「あ、三日月ちゃん。お帰りなさいなのです!」

三日月「…………」

三日月「あ、あの……お二人は何をしていたんですか?」

提督「え? ババ抜きだけど」

電「司令官さん……とっても強いのです……」

提督「いや、電が弱すぎるんだって……」

三日月「…………」

三日月(わ、わわわわわわ……私……なんて想像を……!!)

三日月「~~~~~!!///」 ガンガンガンガン!!

提督「おいいいい!! やめるんだ三日月! 何やってんだ!?」

電「み、三日月ちゃん! 頭怪我しちゃうのです!!」

三日月「……い、電さん……私を……埋める穴を作っていただけますか?……いや、作ってください!」

電「え? 別に良いですけど……どうしてですか?」

三日月「……今、穴に入って埋まっていたい気分なんです……」

電「はわわわ……わ、分かったのです! 司令官さん! スコップどこにありますか!?」

提督「素直に言う事聞くんじゃない! とりあえず二人とも落ち着け!!」



73: ◆jz1amSfyfg 2015/03/24(火) 07:14:34.64 ID:LoVp9Ccr0


提督「……で、落ち着いたか?」

三日月「は、はい……失礼しました」

電「もう、ビックリしたのです」

提督(電が本当に穴を掘ろうとしたことにも驚いたけどな)

提督「まぁ、なんであんなことしたかは詮索しないようにするよ」

三日月「……ありがとうございます……」 ズーン

電「み、三日月ちゃん! 元気出すのです! 電が付いているのです! 何かあったのなら電に頼っていいのです!」 グッ

三日月「……天使がいます」 ギュー

電「はわわ! ……ふふ、三日月ちゃんは甘えん坊さんなのです///」 ギュー

提督(……あれ? 俺ここにいていいのか?)



75: ◆jz1amSfyfg 2015/03/24(火) 08:44:15.87 ID:LoVp9Ccr0


提督「……」

三日月「あっ……ご、ごめんなさい電さん」 バッ

電「全然大丈夫なのです!」

三日月「でも司令官……なんでババ抜きなんてやってたんですか?」

提督(あっ、忘れられてなくて良かった)

提督「あぁ、もう報告は全部聞き終わってな。三日月を待っていたんだ」

三日月「そう……だったんですか。ごめんなさい、お待たせしてしまって」

提督「いいっていいって。それより電から聞いたぞ三日月」

三日月「…………」 ギュ

 来る。私の無力さを知った司令官からの一言が来る。
 自然と手を強く握りしめてしまう。

提督「電を必死に守ってくれたんだろ?」 ナデナデ

三日月「え?」

電「そうなのです! 三日月ちゃんが一人で深海棲艦に立ち向かって行って、電を守ってくれたのです」

三日月「し、司令官!」

提督「ど、どうしたんだよいきなり」

三日月「……聞いてないんですか?」

提督「え? いや……全部聞いたぞ?」

三日月「三発攻撃を当ててもイ級を倒せなかったことも……ですか?」

提督「あぁ、聞いてるけど」

三日月「……ど、どうして……」

提督「え?」

三日月「どうしてその事を責めないんですか……?」



76: ◆jz1amSfyfg 2015/03/24(火) 14:47:23.03 ID:LoVp9Ccr0


提督「責めるって……責める事なんか何もないだろ」

三日月「だって……だって……!」

三日月「私はこんなに弱いんですよ!? 戦力にならないんですよ!?」

三日月「そんな私を……どうしてあなたは責めないんですか!!」

提督「……三日月」

提督「お前は弱くなんかないよ」

三日月「弱いですよ!!」

三日月「……私は……弱いんです……役立たずなんです!!」

提督「弱くなんかない!! 役立たずでもない!!」

三日月「ッ!!」

提督「……それに、戦力にならないなんて言ったら俺が……いや、提督という役職のやつら全員がそうなる」

提督「俺達は……戦う君達を見てる事しかできないんだからな」

三日月「それは……上官なんだから……当然のことです! 戦わなくていい方なんですから!」

提督「上官とかそういうのは関係ないんだよ!!」

三日月「……ッ!!」



77: ◆jz1amSfyfg 2015/03/24(火) 15:18:37.84 ID:LoVp9Ccr0


提督「まだ子供のお前達が戦って……何で俺らは戦わなくていい奴らなんだ。そんなのはおかしいんだよ」

三日月「……子供って言っても!」

三日月「私は人間ではありません!! 兵器で――」

提督「――ッ!! それ以上何も言うんじゃねぇ!!」

三日月「!!」 ビクッ

電「…………」

提督「……その事は、二度と口にすんな。お前達は……そんなんじゃない」

三日月「でも……でも……!!」


『……役に立たない兵器だな、君は。……疫病神め』


提督「……お前達は……少し戦える力があるってだけで……普通の可愛い女の子達だよ」


『役立たずめ』


提督「……もう一回言うぞ? お前は役立たずなんかじゃないし、弱くなんかない」

三日月「……ぅぐ……ッ、ぐ……!!」 ジワァ


『役立たずめ』


提督「仲間を必死で守れる子が……役立たずなはずないだろ」

三日月「……違います……違うよ……司令官……」

三日月「私は……いや、わたしたち……睦月型は……」

 今になって、姉妹達を馬鹿にされたことがなんで我慢できなかったのか、分かってしまった。大切な姉妹が馬鹿にされる悔しさで溢れるのと、“自分と同じ性能”の子達を馬鹿にされることによって理解してしまう現実があるから。

三日月「弱いの……!!」 ポロポロ



80: ◆jz1amSfyfg 2015/03/24(火) 16:03:39.94 ID:LoVp9Ccr0


提督「……俺もさ、一応提督だ。……睦月型ってのがどういう子達か理解してる」

三日月「じゃあ……なん、で……」

提督「それでも、俺はお前を弱いと思わない。役立たずなんて思わない。……兵器だとも思わない」

提督「弱い奴は誰かのために必死に戦えない。役立たずなんてお前達艦娘には誰一人として存在しない。……兵器が、こんなに感情を爆発させて泣けるはずなんてない」 ギュー

三日月「……ぅぐ……ぅ……!! しれいかんは……知らないのよ……」

三日月「わたし、が……どれだけ……無力だって……ことが……!!」

提督「はは……確かに俺はお前の事、あまり知らないよ。今日会ったばかりだしな」

提督「でもな、これだけは断言してやる。俺は何があってもお前を役立たずだなんて思わないし、無力だとも思わない」

提督「……な? 電」

 ギュー

電「はいなのです」 ギュー

三日月「……いなづま、さん……!!」

電「三日月ちゃんは、無力なんかじゃないのです」

電「電は……わたしは、三日月ちゃんに救われたんです」

電「……今まで、いっぱい我慢してきたんですね? 後ろは電が抱きしめてあげます。守ってあげます。だから……もう我慢しないで?」 ギュー

三日月「うぅ……うぅ……!!」

提督「……ほら、今ここには俺と電しかいないし、我慢する必要はないよ。涙は俺が隠してやる」 ギュー

提督「それに……睦月型が弱いんだったら、俺が全員集めて……強くしてやる。睦月型のホントの力ってやつを証明してやる」


提督「そんでお前を、最強にしてやる。誰よりも強い、鎮守府最強にな」


提督「三日月は、弱くないんだから」 ギュー

三日月「…………ッ、!!」 ギュ

三日月「うわああああああああん!! うわあああああああん!!」 ギュー

 我慢が、できなかった。誰かにこう言ってほしかったのかもしれない。思い切り、甘えたかったのかもしれない。誰かに助けてほしかったのかもしれない。

電「……ッ!」 ジワァ

提督「…………」 ギュー

 部屋には、私の叫びにも似た鳴き声でいっぱいになっていた。司令官は私を静かに抱きしめてくれ、電さんは優しく後ろから抱きしめてくれていた。
 時間はゆっくりと、静かに過ぎていく。時間は、止まることはない。私が犯してしまった“過去の過ち”も、変えることはできない。永遠に忘れることもできないだろう。――けど

三日月「うわああああああんッ!!」

 この時だけは、何もかも忘れて、ただただ泣き続けた。



94: ◆jz1amSfyfg 2015/03/28(土) 16:04:52.16 ID:ibnsmBWJ0


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

電「三日月ちゃん、間宮さんのご飯美味しかったですね」

三日月「はい! あれを毎日食べられると思うとなんだか頑張れる気がしますっ」

電「それにしても、司令官さんの一番好きな食べ物がボルシチだなんて意外だったのです」

三日月「確かに。結構珍しいですよね」

電「ボルシチって聞くと……電のお姉ちゃんを思い出すのです」

三日月「え? 電さんも姉がいるんですか?」

電「なのです! 響お姉ちゃんって言ってですね――」

 時刻はフタマルマルマル。もうすっかり夜だ。
 私達はあの後みんなで間宮食堂という場所でご飯を食べ、一日を終えた。それと、司令官曰く「この鎮守府ではできるだけみんなでご飯を揃って食べる事」が決まりらしい。ちなみに今は艦娘が寝泊まりする寮にいる。電さんとは同じ部屋だ。司令官が気を使ってくれたのかもしれない。

電「――あっ、もうこんな時間なのです」

三日月「あー、本当ですね。明日も早いですし、そろそろ寝ましょうか」

電「はい!」

三日月「……それでこれが……」 ジー

電「……私達のベッドですね」 ジー

三日月・電「「に、二段ベッド……!」」



95: ◆jz1amSfyfg 2015/03/28(土) 16:10:23.48 ID:ibnsmBWJ0


電「二段ベッドなんて、初めて見るのです!」 キラキラ

三日月「私も前の鎮守府では布団でしたので、初めてです!」 キラキラ

三日月(……これは)

電(……是非とも)

三日月・電(上で寝たい!!)

三日月・電「「――はっ」」

電「もしかして三日月ちゃん……」

三日月「……電さんも……なんですね」

電「……はい」

 私達は顔を見合わせ、静かに頷き合う。

電「三日月ちゃんと……戦う日が来るなんて……思っていなかったのです」

三日月「ふふ、私もです。しかし、手加減はいりませんよ?」

電「もちろんなのですっ」

三日月「……では、いきましょう」

電「はい!」


三日月「最初はグー!」

電「じゃんけん!」

三日月・電「「ぽい!」」



98: ◆jz1amSfyfg 2015/03/28(土) 16:43:35.34 ID:ibnsmBWJ0


 チョキ×チョキ

三日月「……やりますね、電さん」

電「ふふ、簡単には負けないのです」

三日月・電「「あいこで」」

三日月・電「「しょ!」」

グー×グー

三日月「」
電「」

三日月「き、気を取り直していきましょうか」

電「な、なのです。……あ、ちょっとパワー込めるのです」 ギュー

三日月(かわいい)

電「お待たせしました。では……いきましょう」

三日月「はい」

電「じゃんけん!」

三日月「ぽいです!」

 パー×パー

電「……」

三日月「……」



100: ◆jz1amSfyfg 2015/03/28(土) 16:57:50.50 ID:ibnsmBWJ0


三日月「あ、あの……」

電「……三日月ちゃん、多分考えてることは電も同じなのです」

三日月「で、ですよね」

電「はい」

三日月「では……一緒に上で寝ましょうっ」

電「はいなのです!」


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

電「三日月ちゃん、狭くないですか?」

三日月「はい、大丈夫ですよ。電さんも大丈夫ですか?」

電「大丈夫なのです」

三日月「なら良かったです」 ニコリ

電「今日は……いろんなことがありましたね」

三日月「……ですねぇ」

三日月(本当に……今日はいろんなことがあったなぁ)

三日月(……そういえば、私あの時思い切り司令官に抱き着いちゃって……)

三日月「……///」

電「あれ? 三日月ちゃんどうかしましたか? 顔がちょっと赤いのです」

三日月「な、なんでもないですよ! なんでも!」

三日月(……食事の時は謝れなかったし、明日会ったら謝ろう)



104: ◆jz1amSfyfg 2015/03/28(土) 17:27:59.81 ID:ibnsmBWJ0


電「そういえば、三日月ちゃんに言いたいことがあったのです」

三日月「ん? なんですか?」

電「電にさん付けしなくても、別に大丈夫ですよ?」

三日月「え?」

電「呼び捨てで大丈夫って事なのです」

三日月「こ、これは癖みたいなもので……」

電「そうだったのですか」

電「でも、わがまま言っちゃうと……さん付けよりも普通に呼んでくれた方が電は嬉しいのです。電はさん付けされたことが無いので、少し落ち着かないのです」

三日月「あー、なるほど……」

三日月(確かに……私もさん付けされたら少し落ち着かなくなるかも)

三日月「分かりました」

三日月「けれど私……姉妹以外を呼び捨てにしたことがなくて、それもそれで落ち着かないのでこう呼ばせていただきます」

電「はいっ」

三日月「電さん!」

電「……三日月ちゃん、変わってないのです……」

三日月「……い、いつもの癖で……」

電「…………」 シュン

三日月「あぁ! そ、そんなに落ち込まないでください!」

三日月「い、電ちゃん!」

三日月「あっ」

電「!!」 パァァ

電「み、三日月ちゃん! もう一回お願いしますっ!」



106: ◆jz1amSfyfg 2015/03/28(土) 17:37:53.31 ID:ibnsmBWJ0


三日月「い……電ちゃん///」

電「はい! 三日月ちゃん!」

電「も、もう一回お願いします!」

三日月「は、はい。い、電ちゃん」

電「も、もっかいお願いするのです!」

三日月「も、もう! 何回言わせるんですか電ちゃん!」

電「……えへへ」

電「ごめんなさいなのですっ」 ギュー

三日月「……ふふっ」 ニッコリ

三日月「大丈夫ですよ、電ちゃん」 ギュー

電「はにゃ~……三日月ちゃんあったかいのですー」

三日月「電ちゃんもですよ~」



108: ◆jz1amSfyfg 2015/03/28(土) 18:41:58.28 ID:ibnsmBWJ0


三日月「そういえば電ちゃん、入渠している時に司令官にもあの事を伝えるって言ってましたけど、いつ頃伝えるつもりなんですか?」

電「あっ、あれはもう司令官さんに伝えたのです」

三日月「……え? そ、そうだったんですか!?」

電「はいなのです」

三日月(そんな感じ一切しなかったから意外だ……)

三日月「その、司令官はどういう反応でしたか?」

電「ふふ……三日月ちゃんと大体一緒なのです」

三日月「え?」

電「司令官さんは、電の頭を撫でながらこう言ってくれました」

―――――――――――――――――――――


提督『……君は、優しい子だ。私はその事を一切おかしいとは思わない』

提督『しかし、提督としてそれは正しいことだなんて断言はできない。だから、俺個人の意見を伝えるぞ』

提督『俺はお前の言っていることを間違っているだなんて思いたくないよ。お前も三日月も、兵器じゃないんだ。ちゃんとした意思があるんだ。考えることができるんだ』

提督『お前が、お前自身で答えを見つけるんだ。すぐじゃなくてもいいさ。時間はいくらでもかけていい』 ポンポン

提督『んで、答えが見つかったら俺に教えてくれ。支えてやるからさ。それがどんな答えでも、な』

提督『……ほら! そんな顔似合わないぞ? もう出撃の報告は終わってるし、三日月を待とう。トランプでも使って少し遊ぼう』 ニコリ


―――――――――――――――――――――

三日月「…………」

電「電は、もう……迷いません」

電「……私は、戦います」

電「そして、強くなります」

電「仲間も……深海棲艦も……助けられるように」



112: ◆jz1amSfyfg 2015/03/29(日) 14:28:29.46 ID:vI7gBQda0


三日月「それが……電ちゃんの答えなんですね?」

電「はい」

電「私の……答えなの……です」

三日月「……そっか」

三日月「電ちゃんなら、きっと強くなれます」

電「…………」

三日月「…………電ちゃん?」

三日月「私も……強く……なれると思いますか?」

電「……すー……すー……」

三日月「……ふふ、寝ちゃったのか……」

三日月「おやすみなさい。電ちゃん」 ギュー

 電ちゃんなら、きっと強くなれる。
 でも、私はどうなんだろうか。司令官は、私を最強にしてくれると言ってくれた。つまりそれは、鎮守府で一番強い艦娘にするってことだ。果たしてそんなことができるのだろうか。

三日月(……私次第なのかも……しれない)

 司令官に言われたことを、私自身が信じなければ、決して強くはなれない。そんなことは分かってる。――けど、やっぱり不安なんだ。

三日月「…………寝なきゃ」

電「すー、すー」

 今は余計な事は考えないようにしよう。そう思い、私は静かに眠りについた。



113: ◆jz1amSfyfg 2015/03/29(日) 15:00:11.72 ID:vI7gBQda0


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



三日月「……あれ、ここはどこだろう」

 目を開けると、そこは白い世界だった。その白い世界はずっと奥まで続いていて、終わりが見えない。
 私はそんな中、一人でポツンと立っている。辺りを見渡しても、誰もいない。ただ一人だ。
 シーンっと辺りは静まっており、まるで時間が止まっているみたいだ。


『……では、行きましょう』


三日月「!?」 クル

三日月(左から……声?)

 静まり返っていた空間だったけれど、突然声が聞こえた。私は自然と左側に視線を移してしまう。

三日月「……私?」

 そこには、私がいた。


三日月『大丈夫です。皆さん私が守りますから! こんな私が旗艦では頼りないかもしれませんが、それだけは信じてくださいっ』


 そこにいる私は、にっこりと笑いながら周りの人達にそう伝えている。周りの人達の顔はぼやけていて見えない。人数はそこにいる私含めて6人だ。


三日月『……では、行きましょう! 皆さん、暁の水平線に勝利を刻みましょうっ!』

『『『了解!!』』』

三日月『では、全艦出撃です!』


三日月「…………」

 そこにいる私は、とても自信に満ち溢れている。多少下出に出ているけれど、私ではあんなことは言えない。
 ……いや、言いたい。だからこそ、ハッキリわかる。

三日月(ここは、夢の中だわ……)

三日月「……そしてあそこにいる私は……」

 自分がなりたいと思っている“理想の自分”だ。



114: ◆jz1amSfyfg 2015/03/29(日) 16:31:24.11 ID:vI7gBQda0



『……ふふふ……』


三日月「!?」 ビク

 今度は、後ろから笑い声が聞こえた。少し身体がビクッと反応してしまう。

三日月「……」 クル

三日月「……え?」

三日月(周りが……暗く……!?)

 先ほどまで白かった世界が、黒く染まり始めていた。辺りを見渡しても、理想の自分はいなくなっており、先ほどまであった白の世界は段々と蝕まれていく。


三日月『……ひどいよね……』


三日月「……わ、わた……し?」

 ここに先ほどまであった白の世界はすでに無くなり、黒の世界へと変わっていた。そして、もう一人の自分が立っている。距離はさっきまでいた理想の自分よりもはるかに近い。


三日月『……私だって、私だって、私だって、私だって、私だって……』 ブツブツ

三日月『……頑張ってるのに……司令官は……司令官は……!』


三日月「……」


三日月『……私は役立たず。私は無個性。私は疫病神』


三日月「…………」


三日月『役立たず役立たず役立たず役立たず役立たず役立たず』


三日月「……やめて」


三日月『私は役立たず』


三日月「やめて」


三日月『私は……』 クル


三日月「!?」 ビク


三日月『……』 ニヤリ

三日月『人殺し』


三日月「――ッ!!」 バッ

 ダッダッダッダ

三日月「やめてッ!!」 ガシ

三日月『…………』



115: ◆jz1amSfyfg 2015/03/29(日) 16:52:31.95 ID:vI7gBQda0


三日月「そんなこと……私が一番分かってる……!!」

三日月「だから……もうやめて!」

三日月『…………』

三日月『……司令官の言ったことが本当だなんてまだ信じてるの?』

三日月「!!」

三日月『睦月型が最強になれるわけ……無いじゃない。役立たずの癖に』 ニヤニヤ

三日月「……そ、そんなこと!! わから――」

三日月『分かるに決まってるじゃない』

三日月『私、あなただもん』

三日月「な……」

三日月『罵声を浴び続け、暴力を振るわれ、姉妹を馬鹿にされた……役立たずのあなただもん』

三日月『任務が失敗となる原因を作ってしまった張本人のあなただもん』

三日月「―――!!」

三日月『……前の司令官の家族が乗った』 ニヤニヤ

三日月「お願い……やめて……!!」


三日月『……船を深海棲艦から守り抜けず』


三日月「やめて……やめてやめてやめて!!」


三日月『轟沈させたあなただもん』


三日月「やめてぇぇぇ!!」



116: ◆jz1amSfyfg 2015/03/29(日) 17:28:30.18 ID:vI7gBQda0


三日月『…………』

三日月「もう……やめて……」 ポロポロ

三日月『……ねぇ、なんで泣いてるの?』

三日月『自分が役立たずだってこと、自分で一番分かっているんでしょ?』

三日月『なのになんで直接言われると泣くの?』

三日月「…………」

 ガシッ

三日月『……あなたが現実を見れていないからよ』

三日月「……!!」

三日月『あなたは……いや、私は役立たず。いくら頑張ったって……最強になんて』

三日月『なれないよ』





三日月「――!!」 バッ

三日月「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……!!」

三日月(夢から……覚めた……?) キョロキョロ

電「……すー……すー……」

三日月「……電ちゃんが起きなくてよかった……」

三日月(……汗、だいぶかいちゃった)

 時間を確認すると、マルゴーマルマルだった。

三日月「…………」 スッ

 私は電ちゃんを起こさないように注意しながら、ベッドから降りた。



117: ◆jz1amSfyfg 2015/03/29(日) 18:17:29.42 ID:vI7gBQda0


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

三日月「はぁ……はぁ……!」 タッタッタッタ

 朝のランニングは、目を覚ますには最適だ。

三日月(夢の中のあの私は……私の弱い心だ) タッタッタッタ

三日月(……言われたことだって……私が一番分かってる) タッタッタッタ

三日月(現実だってちゃんと見えてる。私が役立たずだなんて知ってる!) タッタッタッタ

三日月「はぁ……はぁ……!!」 タッタッタッタ

三日月(過去の過ちの罪の重さだって知ってる。全部知ってるよ!) タッタッタッタ

三日月「……でも……はぁ……はぁ……だからって……!!」


―――――――――――――――――――――


提督『お前を、最強にしてやる。誰よりも強い、鎮守府最強にな』


―――――――――――――――――――――

三日月(努力しないでいい理由になんて……ならない!)  タッタッタッタ

 ピタ

三日月「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

 私は、もっと頑張らないとダメだ。

三日月(現実も受け止める。罪も受け入れる。逃げちゃダメなんだ)

三日月「……私は……自分の弱い心なんかに負けない……」

 夢の中で、なりたい理想の自分と……弱い心の自分を同時に見た。そして、弱い心の自分に対して何も言い返せなかった。
そんなのじゃダメだ。

三日月「私は……強くならなきゃ」

三日月「もっともっと頑張って……理想の自分になるんだ」

三日月「……いつまでも役立たずじゃ……いられないもん」

 朝の陽ざしが顔に当たる。その陽ざしはいつもよりまぶしく感じた。
 寝る前に感じていた不安は、気が付けば消え去っていた。



118: ◆jz1amSfyfg 2015/03/30(月) 02:25:15.27 ID:vmVYByvT0


 スタスタスタスタ

提督「よっ」

三日月「え? 司令官……?」

三日月「あっ、失礼しました! お、おはようございます!」 ペコリ

提督「おう、おはよう三日月」

提督「こんな朝早くからランニングするなんて、えらいな」

三日月「いえ、それほどでもありませんよ」

提督「……謙虚だなぁお前は」

提督「ほら、水飲みな」 スッ

三日月「え!? そ、そんな……申し訳ないですよ!」

提督「何が申し訳ないんだよ。運動したんだからちゃんと水分補給もしなきゃだろ。ほら」

 ペタ

三日月「ひゃあ! つ、冷た!」 ビクゥ

提督「あっはっは! 素直に受け取らなかった罰だ」 ケラケラ

三日月「……も、もう……」

提督「はっはっは。悪かったって」

提督「まぁ、ひとまず飲んどけ。な?」

三日月「……すみません、いただきます」

提督「……三日月。そういう時はすみませんって言うんじゃなくてな」

提督「ありがとうって言えばいいんだ。分かったか?」 ニコ

三日月「……ふふ。はいっ」

三日月「ありがとうございます!」 ニッコリ



119: ◆jz1amSfyfg 2015/03/30(月) 03:23:22.28 ID:vmVYByvT0


 司令官は仕事の時はできるだけ威厳のありそうな喋り方をしていると聞いた。確かに、普段とでは雰囲気が違う気がする。あまり変わらないかもしれないと司令官は仰っていたけれど、そんな事はないと思う。まぁ、結構素が出てしまっていることが多いけれど。
 仕事中は爽やかな人ってイメージで、プライベートでは面倒見の良いお兄さんって感じがするかも。よくよく考えると威厳がありそうな喋り方をしているのに、爽やかだと思えてしまえるのはどうなんだろうかってなる。あまり気にしないようにしよう。

提督「……本当に失礼かもしれないけど、俺三日月が笑ったの初めて見たかもしれない」

三日月「わ、私だって笑いますよ!」

三日月「……けれど……私……確かに司令官の前では笑っていませんでしたね。反応も素っ気無くて、話しかけてくれる司令官に反応するのも遅くなっちゃっていました」

三日月「ごめんなさい」 ペコリ

提督「……三日月」 ナデナデ

提督「そんなこと全く気にしてないよ。だからお前も気にすんな」 ナデナデ

三日月「……はいっ」


三日月「あっ……あと昨日の夜はその……」

提督「ん?」

三日月「え……えっと……そ、その……」 モジモジ

三日月「ご、……ごめんなさい……」 ペコリ

三日月「……///」 カァァ

提督「……みーかーづーきー」 スッ

三日月「へ?」

提督「そい」 ペチン

三日月「いひゃ!」

提督「お仕置きのデコピンだ」

提督「そういう時は謝るんじゃなくて?」

三日月「……えっと、その……」

提督「おう」

三日月「……あ、ありがとう……ございました……」 ニコリ

提督「……おうっ」



121: ◆jz1amSfyfg 2015/03/30(月) 04:34:25.13 ID:vmVYByvT0


三日月「それと司令官。私……もっと頑張りますね」

三日月「昨日あなたが言ってくれた期待に応えられるように」

提督「……だからこんな朝早くからランニングしてたのか」

三日月「はい! 戦う場所は海の上と言っても、体力は必要ですから」

三日月「まぁ……前にいた鎮守府の先輩の受け売りなんですけど」

提督「そっか。でも、無茶だけはするなよ? 体調崩したりしたら元も子もないからな?」

三日月「はいっ。けど、努力は怠りません!」

三日月「……いつまでも弱いままの、役立たずではいられませんから」

提督(……三日月、なんか少し雰囲気が変わったな。まぁだけど……)

提督「三日月。確かに頑張ることは良いことだけど、お前は今も弱くはないし役立たずなんかじゃないぞ。昨日も言ったけどな」

三日月「いや……それは……やはり違いますよ。現実は見ないと」

三日月「今の私はまだ弱いですし、このままではお荷物になってしまいます。そう言ってくれるのは本当にうれしいですけれど」

提督「……じゃあ聞くけど、三日月は強い人ってのはどんな奴の事をいうと思うんだ?」

三日月「え?」

三日月「それは……」 ウーン



122: ◆jz1amSfyfg 2015/03/30(月) 05:53:50.33 ID:vmVYByvT0


三日月「まず、単純に火力がある人だと思います。戦艦の方々などですね」

三日月「あと何があってもくじけない心を持っている人も強い人だと思います」

提督「ほい、ストップ」

三日月「?」

提督「三日月は今、強い人がどんな奴かって聞かれて、力がある奴とくじけない心を持った奴ってすぐに答えた」

三日月「はい」

提督「それは正解だ。確かにそんな奴らは強いって言えるだろうな」

提督「けど、そんなのほんの一部の要素にしか過ぎないよ」

三日月「え?」

提督「いいか三日月? 強さってのは人それぞれによって思い浮かべるものが変わるんだ」

提督「力のある奴とくじけない心を持った奴って答えたけど、もっと思い浮かぶだろ?」

三日月(……防御が固い人。運が良い人は……じゃんけんとかで強いよね。……まだまだ思い浮かぶかも)

三日月「はい。思い浮かびます」 コクン

提督「だろ? つまりな、強いって言葉は意外と曖昧な存在なんだ。たくさんの意味を持つ言葉だし、人のよってすぐに思い浮かべるものも変わる。捉え方も考え方すらも変わる。言葉の面白さってやつだな」

提督「三日月は、自分が火力はないから弱いって思っていないか? 敵を落とすことができないから」

三日月「……一理あります」

 そう、図星だ。私は火力がない。だから深海棲艦を倒すことがなかなかできないんだ。

提督「そうか。でもな三日月」

提督「お前には仲間を必死に守ろうとする強い心がある。電の優しい心だって、俺は強さだと思っているよ」

三日月「……しかし……敵をたおせなくちゃ……」

提督「それよりも、大事なことだと思うぞ? 俺はな」

三日月「…………」



123: ◆jz1amSfyfg 2015/03/30(月) 06:58:42.88 ID:vmVYByvT0


提督「三日月は敵を倒せなかったって落ち込んでるけれど、動くイ級に三発も攻撃を当てられたんだぞ? 砲撃って、当てるのめちゃくちゃ難しいんだろ?」

三日月「それは……まぁ……」

 確かに難しい。相手の動きを読む必要もあるし、弾道の軌道も予測する必要があって、その日の風なんかも関係してくる。それも動きながらだ。こうして考えてみると、かなり難しい。

提督「だろ? それを三発も当てられたんだ。それってすごいことだと思うぞ?」

提督「それに、電の攻撃では一撃で撃沈できたって話だけど、三日月がダメージを与えてくれていたのと、敵の意識が完全に三日月へ向いていたことが関係すると思う」

提督「相手だって命がけなんだ。真正面から直撃をする際、防御はするし致命傷は避けるだろうさ。でも、意識が向いていなかった電からの砲撃をいきなり食らうことになったら、防御なんてできるわけがない。だから一発で撃沈できたんじゃないか?」

提督「全部推測の話だから確信は持てないけど……そう考えるとなんか元気出てこないか? 自分でもいけるって思えてくる気がしないか?」

三日月「……そうかも、しれません」

提督「だろ? 何事も、ポジティブに考えた方が気が楽になるさ」

三日月「……」

提督「もう一回だけ言うけど、お前は弱くなんかないよ。お世辞じゃなくて、純粋に思っていることだ」

 この人は、会ったばかりの私にこう言ってくれる。なんだか……

三日月「……///」

 すごく嬉しくて、顔が熱くなる。

三日月「司令官」

三日月「……私、頑張りますっ」

提督「……無茶はするなよ? 焦んなくても、俺がお前らの道筋を作ってやる。お前達はその道筋を辿って、もっと成長していけばいいんだ」

提督「頼りないかもしれないけれど……信じてくれ」

三日月「……はい」

三日月「……あなたを、信じます」



127: ◆jz1amSfyfg 2015/04/07(火) 00:04:02.22 ID:aOPfZZ100


提督「ありがとう、三日月」 ナデナデ

三日月「はいっ」

提督「そう言えば三日月は頭撫でられてもびっくりしたりしないんだな。つい撫でちゃうけど」

三日月「私は……慣れてますから」

三日月「あっ、でも見境なく撫でるのはダメですよ! 嫌がる子もいますから」

提督「電にも言われたな。分かってはいるんだけど……癖でな」

提督「三日月や電と同じくらいの大きさの弟にいつもやっていたからさ」

三日月「……司令官はご家族と離ればだと、やっぱり寂しいですか?」

提督「ん? まぁそりゃな」

提督「けど、お前達だって姉妹と離ればなれなんだ。俺だけが寂しいって訳じゃない。そうだろ?」

三日月「そ、それは……」

提督「まぁ心配すんな。お前の姉妹はちゃんとこの鎮守府に集めてやるからさ。今は別の鎮守府にいるかもしれないけど……なんとか交渉して着任させる」

三日月「……あんまり焦らなくても大丈夫ですよ?」

提督「あぁ。なるべく急ぐけど、お前達には心配かけさせないようにするよ」 ポンポン

三日月「…………」

 本音を言うと、皆には会いたいという気持ちもあるけれど、“どんな顔をして会えばいいか分からない”と言う気持ちもある。

三日月「……はい」 ニコ

 でも今は、笑っていようと思った。

提督「さて、七時には朝食だ。ひとまず三日月はシャワーでも浴びて、電と一緒に食堂に集合な」

提督「今日も忙しいから、一緒に頑張ろうな」

三日月「はい!」

 今日も一日が始まる。



128: ◆jz1amSfyfg 2015/04/07(火) 00:37:43.09 ID:aOPfZZ100


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

三日月「ふぅ……やっぱり朝のシャワーっていいなぁ~」 ホカホカ

 現在はマルロクサンマル。六時半だ。

三日月(電ちゃんはもうさすがに起きてるよね。心配してるかもしれないから早く戻らなきゃ)

 スタスタスタ ガチャ

三日月「ただいまー。電ちゃんごめんなさい。ちょっとランニングに……」

三日月「……あれ?」 キョロキョロ

 部屋の中を見渡しても、電ちゃんの姿は見えなかった。

三日月「……まさか」

 スタスタスタスタ

三日月「い、電ちゃん!」

電「すー、すー」

 電ちゃんはまだぐっすりと眠っていました。

三日月「め、目覚ましはセットしたはずなのに……」 チラ


潰された目覚まし時計「」


三日月「め、目覚まし時計さーーーん!!」

三日月「電ちゃん! もう六時半過ぎてますよ!? ち、遅刻してしまいます!!」 ユサユサ

電「うーん……おさわりは……ダメ……なのですぅ……」 スヤスヤ

三日月「どんな夢見てるんですか!!」



130: ◆jz1amSfyfg 2015/04/07(火) 04:44:01.13 ID:aOPfZZ100


電「……みかづき……ちゃん……」 スヤスヤ

三日月「!?」

電「……えへへぇ……」 スヤスヤ

三日月「……もうっ」

三日月「電ちゃん? 早く起きてくだ」

電「ねぼすけ……さん……ですぅ……」

三日月「早く起きてください! ねぼすけさんはあなたです!!」

電「ふぇ!?」

三日月「もう……朝ですよ? 早く起きましょう。ね?」

電「あぁ……おはようございますぅ~……暁お姉ちゃん~」 ボー

三日月「私三日月ですよ!? ほら、寝ぼけてないで」

電「……」 ボー

三日月「まずは顔を洗いましょ。あと……髪もぼさぼさなので――」

電「暁お姉ちゃ~ん」 ガバッ

三日月「!?」

 ボスン

電「えへへぇ~」 ギュー

三日月「い、いいい電ちゃん!?」

電「会いたかったのですぅ~」 スリスリ

三日月「……電ちゃん」

三日月(……電ちゃん……寂しいのかもしれない)



132: ◆jz1amSfyfg 2015/04/07(火) 05:13:18.61 ID:aOPfZZ100


三日月「……電ちゃん。私は三日月ですよ?」 ナデナデ

三日月「今日も一日が始まります。早く起きましょ? ね?」 ギュー

電「……ん~?」 スヤスヤ

電「……ん?」

三日月「……」 ギュー

電「!?//////」

電「み、みみみみ三日月ちゃん!?」

三日月「あっ、電ちゃん。起きましたか。おはようございます」 ニッコリ

電「は、はい……おはようございます……って! 三日月ちゃん!? どうして電に抱き着いているのですか!?」

三日月「え? 電ちゃん覚えて……」

電「???」

三日月「……ふふ」

三日月「電ちゃんが可愛かったので、つい。ごめんなさい」 ニコ

電「だ、大丈夫なのです。あっ、でも嫌なのではなく、そ、その……」 ゴニョゴニョ

三日月「今はそれより、急いだ方が良いですよ? もうすぐ朝食の七時になってしまいます。まずは顔を洗いましょうっ。髪は私が梳かしてあげます」

電「は、はい! 起きるの遅くてごめんなさいなのです!」

三日月「さ、スピード勝負です!」

電「は、はいなのですぅ!!」 バッ

三日月(……さっきの電ちゃんの行動は秘密にしておこ)



133: ◆jz1amSfyfg 2015/04/07(火) 10:24:37.51 ID:aOPfZZ100


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 〈司令室〉

提督「あっはっはっはっは!!」

電「も、もう! 司令官さん! 笑いすぎなのです!!」

提督「はははは、いやぁごめんごめん。なるほど、それで今朝の朝食はギリギリの時間だったんだね」

電「うぅ……三日月ちゃん、ごめんなさいなのです」

三日月「全然大丈夫ですよ! 気にしないでくださいっ」

電「……はい」 シュン

 現在時刻はマルハチマルマル。間宮さんの朝食を食べ終え、今日行う事を聞くために司令室へ集合している。それにしても電ちゃんが朝に弱いことは意外だった。

提督「さて、雑談はここまでにしておこう。本日君達にしてもらう事を説明するよ」

三日月「はい!」

電「頑張るのです!」

 司令官は今朝会った時とは雰囲気が変わっている。所謂お仕事モードだ。

提督「まっ、そんなに緊張することもないさ。出撃はしないからね」

提督「君達には本日、演習訓練をしてもらう。朝から夕方までみっちりな」

 演習訓練は、艦娘同士で戦い戦闘経験を得る訓練だ。私も前の鎮守府では良くやっていた。

電「演習訓練……ですか」

提督「あぁ……っと言っても、ここはまだできたばっかの鎮守府で、私はまだまだ提督になったばっかだ。他の鎮守府に演習訓練を手伝ってもらえるほど世の中甘くない。どこも忙しいからね」

 そう、演習訓練は“基本的”に他の鎮守府の艦娘達と行うものだ。

提督「だから君達にはこの鎮守府内で演習をしてもらうことにする」

でも、別に“自分の鎮守府”の艦娘とすることもできる。あまりやっているところは多くないみたいだけれど。

三日月「てことは……私と電ちゃん同士で演習を行うって事でしょうか?」

提督「……ちゃん?」

三日月「へ?」

提督「え? ……あぁ、なんでもない。そういう事だね」



134: ◆jz1amSfyfg 2015/04/07(火) 10:33:50.74 ID:aOPfZZ100


提督「まぁ、君たち同士で行う演習訓練は砲雷撃戦ではないけどね」

三日月・電「「え?」」

提督「っま、それは後でのお楽しみということで」 ニヤニヤ

電「き、気になるのです」

提督「他の鎮守府ではあまりやってないことをやってもらうって事だけヒントだね。まっ、今は忘れときなって」

三日月(……他の鎮守府ではやってない演習訓練? 砲雷撃戦以外で?)

 何をやるかは検討が付かなかった。

提督「もちろん砲雷撃戦の演習もやるよ。んで、今からその演習相手を着任させる」

電「着任……させる?」

提督「あぁ。工廠に移動するよ」

提督「建造だ」



135: ◆jz1amSfyfg 2015/04/07(火) 10:53:41.34 ID:aOPfZZ100


 〈工廠〉

提督「妖精さん、準備はできてるかい?」

妖精さん「オウ、バッチリダゼ」

電「はわわぁ……妖精さん可愛いのですぅ~」 キラキラ

三日月「……っ」 コクンコクン

提督「ほらほら、ちゃんと新しい仲間の着任する瞬間を見るんだぞ?」

三日月「あっ、はい!」

電「はっ、つい……」

三日月(建造……かぁ)

 建造。それは私達艦娘をこの世に現れさせる方法である。どういう原理かは分からないけど、私達はこの建造によってこの世に君臨するんだ。

電「司令官さん。資材はどれくらい使うのですか?」

 そう、資材を使って。その資材が私達を呼び出すために必要な物だ。本当に、謎が多い。なんでこれで私達艦娘は出てくるのか。艦娘の自分でも分からない。
 そして、疑問はまだある。この建造では誰が出てくるかは分からない。つまりランダムだ。ってことは同じ“駆逐艦 三日月”が出てくることもある? という疑問を自分でも浮かべたことは当然ある。
 でも、それはない。なぜだか分からないけど。“すでにこの世に存在している艦娘は出てくることがない”のである。だから自分と同じ存在が出てくることはない。その辺はちょっと安心だ。
 自分が目の前に現れたら、さすがに怖い。



136: ◆jz1amSfyfg 2015/04/07(火) 11:01:40.86 ID:aOPfZZ100


提督「資材? あぁ、オールマックスだよ」

 なんだかとんでもない一言が聞こえたような気がした。

電「へ?」

提督「だから、オールマックス」

三日月「……し、司令官?」

電「電達……まだまだ資材不足の貧乏鎮守府なのですよ? そんなことしたら」

提督「まぁまぁ、そこら辺は私が頑張って何とかするよ」

提督「こういうので大事なのは勢いだ! 来てほしいのは戦艦の子だけど、例え戦艦の子がやってきやすい資材を使っても出ない事はある。だったら、思い切りオールマックスでな」

三日月「ど、どういう理論ですか!」

提督「まぁまぁ! 記念すべき初建造だから思い切りやってみようぜ!」

電「はわわわわわ」

提督「よっしゃ、妖精さんやっちゃってくれ! 高速建造だ!」

三日月「司令官! 素が出てます!」

妖精さん「オッケー」

妖精さん2「イクゼー、ヤルゼー、チョウヤルゼー!」

妖精さん3「ファイヤー!」

 ボォォォォォ!!

 ピカーン!!

三日月「ま、まぶし!」

提督「さぁ……誰が来るかな」

電「け、建造が終了したのです」

 フシュウウウ

 私達の記念すべき三人目の仲間が着任する瞬間だった。煙を吐き出す建造ドッグからは……



金剛「英国で産まれた帰国子女の金剛デース! ヨロシクオネガイシマース!」 ニコー

 とても綺麗で、にこやかに笑う戦艦の方が現れた。



141: ◆jz1amSfyfg 2015/04/12(日) 19:50:43.03 ID:EbCvRxTi0


電「戦艦……?」

三日月「はい、そうだと思います」

 私達は驚きを隠せなかった。私が前にいた鎮守府ですら、戦艦の方はいなかった。艤装の大きさと立派さを見る限り、私達駆逐艦では絶対に付けられないだろうなと即座に分かってしまう。それにしても……

三日月(き、綺麗な人です……!)

電(か、かっこいい……!)


金剛「ん~? !! オーウ!」 バッ

三日月・電「「え?」」

 ダッダッダッダ

 ギュー

金剛「可愛いネー!! ユー達は駆逐艦デスネー!? ン~、妹にしたいデース!!」 ギュー!!

三日月「うぐっぐぐぅ……!!」

電「ぐ、ぐるじいの……です……!!」

金剛「オウ、ソーリー」 バッ

三日月「し、死んじゃうかと思いました……」

電「なのです……」

金剛「HAHAHAー! ゴメンネー!」

 なんだか少しイメージが崩れた気がしました。

提督「君は……金剛型と聞くと戦艦の子かな?」

金剛「そうデース!! ユーが提督かナー?」

提督「あぁ、私がこの鎮守府の提督だよ。君みたいな子が来てくれてとても嬉しい。よろしく頼む」 スッ

金剛「オーウ! ご丁寧デース! こちらこそヨロシクオネガイシマース!」 ギュ

金剛「駆逐艦ズのプリティーなユー達は誰デース?」 チラ



142: ◆jz1amSfyfg 2015/04/12(日) 20:25:02.96 ID:EbCvRxTi0


三日月「あっ……も、申し遅れました! 私は睦月型10番艦の三日月です! よろしくお願いします」 ビシ

電「あ、暁型4番艦の……い、電です!」 ビシ

金剛「オッケーイ! イナヅマとミカヅキ、デスネー? あんまり固くならないで平気デスヨー? ヨロシクデース!」 ナデナデ

三日月・電「「は、はい!」」

金剛「ウーン、可愛いネ~」 ニコニコ

妖精さん「ネエチャン、オレラハカワイイカイ?」

金剛「ンー? 確かに可愛いけど……この子達には敵わないネー!」

妖精さん2「オウマイゴッド!!」

金剛「それで提督ー? 他の艦娘達はどこデース?」

提督「あぁ、その話なんだが」

電「実は……」

三日月「今はまだ私達しかいないんです。金剛さんが三人目の艦娘です」

金剛「What!? それホントデスカー!?」

電「は、はいなのです」

提督「まぁ、この鎮守府昨日できたばかりだしな」

金剛「……なるほどー」

提督「すまないな……幻滅させてしまったか?」

金剛「いや、そんなことないデスヨー」

金剛「どんなに立派な鎮守府だって、最初というものは必ずありマース。皆さんで協力し合って、この鎮守府も立派な鎮守府になればいいだけデース!」 ニッコリ

金剛「むしろこの鎮守府で初めての戦艦として、ガッカリさせない様に私ガンバルネー!」

提督「あぁ、期待してるよ」 ニコ



143: ◆jz1amSfyfg 2015/04/12(日) 21:48:30.47 ID:EbCvRxTi0


電「三日月ちゃん」 ボソ

三日月「ん?」

電「金剛さん……良い人ですね」 ボソ

三日月「ふふ……ですね」 ニコ

 戦艦と聞くと、どうしても怖いイメージがあったけれど、そんなことはなかったみたい。

金剛「では提督―! 早速だけれど、私はどうすればいいかナー? 出撃デース!?」

提督「いや、実は君を呼ぶのにだいぶ資材を使ってしまってね。しばらく出撃はできないと思う。そのかわりにあまり資材を使わずにやれる演習訓練でこの子達を――」

金剛「し、しばらく出撃できないのデスカー!?」

提督「……あ、あぁ。戦艦は出撃させるのに結構資材を使うからね。海域への出撃は当面電達に任せるつもりだ。だから君にはこの子達を――」

金剛「そ、そんなー! お留守番しかできないなんてつまらないデース!!」

提督「ごめん! 最後まで言わせてくれ!」

金剛「OH、了解デース」

三日月「あはは……」

電「元気な人なのですっ」 ニッコリ



144: ◆jz1amSfyfg 2015/04/13(月) 06:10:13.63 ID:o3UoSJ330


提督「よし、金剛。もう一度聞いていてくれよ?」

金剛「はいデース!」

提督「今はまだ資材が少ない」

金剛「うんうん」

提督「戦艦の君は出撃するのに多くの資材を使ってしまうから、できたばっかウチの貧乏鎮守府ではしばらく出撃させることができない」

電「そんな鎮守府でオールマックス建造したのは司令官さんなのです」

三日月「電ちゃん! しっー」

提督「だから、しばらく出撃はさせるとしてもこの子達駆逐艦に行ってもらう予定だ」

金剛「まぁ……仕方ないですネ……」

提督「そこで、君にはこの子達の演習訓練の先生になってもらいたいんだ。演習なら、使う資材は少なくて済むし、この子達の練度も上げることができる」

電「……練度?」

三日月「私達の強さみたいなものですよ。練度が高ければ高いだけ、私達艦娘は強くなるんです」

電「なるほど。勉強になるのです」

 ちなみにこの練度には1~99までの数があって、それが上がれば上がるだけ強くなるらしい。
 でもそれは私たち自身では確認することができない。私達艦娘の練度を“見ることができる素質を持った特別な人”が提督になれるという噂を聞いたことがある。また、練度にも限界はあるらしく、その限界を迎えた艦娘は自分の練度の高さを実感できるようになるらしい。曖昧な事ばかりだけれど、それくらいしか私にもわからない事だった。
 妹の一人の望月が、昔に『まぁ、ゲームでいうレベルみたいなものかー』っと言っていたことを思い出した。これはどういう意味なんだろうか。今だに分からない。



145: ◆jz1amSfyfg 2015/04/14(火) 03:34:04.56 ID:lrDkpbcc0


金剛「なるほどなるホドー。では、私はこの子達のteacherになればいいんですネー?」

提督「そう言う事だ」

金剛「了解したデース! 二人ともヨロシクデース!」

三日月「は、はい! こちらこそよろしくお願いします!」 ペコリ

電「よ、よろしくお願いします! なのです!」 ペコリ

金剛「HAHA! 礼儀正しい良い子達デス」

金剛「では早速何を教えればいいデース? 砲撃のコツとかデスカー?」

提督「いや、そういうのは大丈夫だ」

金剛「オーウ?」

提督「この子達の演習相手になってほしいんだ。つまりは対決してくれって事だね」

金剛「……提督―、それはつまりは駆逐艦対戦艦の演習訓練をするから、私はその敵役をやればいいってことデース?」

提督「まぁそういう感じかな」

金剛「ほうほうー……まぁ確かにー、その方がコツとかを聞くよりも経験になりますネー」 コクンコクン

三日月(……演習相手を着任させると言っていたから、金剛さんが来た時点でそうなるとは思っていたけれど……やっぱり緊張するわね……)

電(うぅ……こ、怖がっちゃダメよ電! これも強くなるためなのです!)

金剛「そう言う事なら、私がビシバシ二人を鍛えちゃうワ! 二人とも、覚悟してくださいネー!」

三日月「……頑張ります」 グッ

電「い、電もです」 グッ



146: ◆jz1amSfyfg 2015/04/17(金) 14:51:12.61 ID:HtxEqXOs0


 〈演習場〉

電「ひ、広いのです……」

三日月「で、ですね……鎮守府の近海に出るのとあまり気分は変わりませんね」

 私達は早速演習訓練を行うために鎮守府にある演習場に移動した。工廠から出て、すぐ近くにある海が演習場となっているらしい。かなり広く、奥でこちらに手を振ってきている金剛さんがいる位置まで、結構な距離がある。

三日月「でも、ここだったら実戦と似た訓練ができそうですね。電ちゃん、一緒に頑張りましょうっ!」

電「はいなのです! 今度は電が三日月ちゃんを守ってあげるのですっ」

三日月「ふふっ、ありがとうございます。では私も電ちゃんを守りますね」 ニッコリ

提督『――電。三日月。聞こえるか?』 ザザ

電「あ、司令官さん。大丈夫なのです。聞こえます」

三日月「はい、私も聞こえていますよ」

提督『よし、やっぱり演習場だと電波もいいね。君達も金剛もちょうど見える場所があったから、私はそこから見ているよ』

 チラッと陸の方を見ると、司令官が見えた。

提督『演習開始の合図は私が出すから、その前に一旦確認だ。君達は演習の時にどうすれば勝利になるか分かっているな?』

電「確か……相手をよりもダメージを受けず、相手の方にダメージを与えれば勝てると聞いたのです」

三日月「あとは相手の過半数を戦闘不能にさせるか、旗艦を大破にさせると勝利ですね」

提督『その通りだ。相手は戦艦の金剛だし、かなりの経験になると思う。頑張るんだぞ』

三日月・電「「はい!」」



147: ◆jz1amSfyfg 2015/04/17(金) 15:32:15.61 ID:HtxEqXOs0


金剛『HEY! テートクー!! 聞こえてますかーーー!?』 キーン

提督『うおおおお!! み、耳がぁぁぁぁ!!』

三日月「!!」 ビクッ

電「はわわ! び、びっくりしたのです」


金剛『あっ、提督の声聞こえましたー! すごいデース!!』 キーン

提督『こ、金剛! もう少し小さい声でも聞こえるから! ちょっとトーンを下げてくれ!』

金剛『オーウ、了解ネー』

提督『あぁ……そのくらいで大丈夫だ。ありがとう』

三日月「し、司令官……大丈夫ですか?」

提督『あぁ、大丈夫だy――』

金剛『OH! 三日月の声デース!! ヤッホー!!』 キーン

提督『うおわあああああああああ!!』

金剛『あっ』

 通信機と正面から声が届く。結構距離あるはずなのに……。

電「……み、耳が痛いのです」 ズキズキ

三日月「……司令官はもっと痛そうですね……」 ヅキヅキ



149: ◆jz1amSfyfg 2015/04/19(日) 04:39:45.49 ID:SNb1/WpS0


提督『……とりあえず、そろそろ演習を始めたいと思う。金剛、二人の相手、よろしく頼むよ』

金剛『了解デース!』

三日月「金剛さん! よろしくお願いします!」

電「なのです!」

金剛『HAHA! こちらこそよろしくお願いしマース!』

提督『あぁ、そういえば言い忘れてたことがある。三日月、電』

三日月・電「「?」」

提督『この演習は予定通り朝から夕方まで何回も行ってもらうけど、その度に勝利数を数える。金剛は二人の先生だが、勝つつもりで挑むんだぞ』

金剛『その通りデース! 私はあなた達の先生だけど、同時に後輩デース。二人のために頑張るから、ユー達もファイトデース!』

三日月「はい! 演習と言えども、戦いであることには変わりません。負けないように頑張ります!」

電「金剛さん、ありがとうございます!」

提督『よし、みんな気合十分みたいだな。じゃ、そろそろ始めよう。通信機を切るぞ』

 プツン

三日月「え?」



提督「…………」 スーーーー

提督「――これより!! 演習訓練を開始する!!」

提督「全艦!! 抜錨ッ!!」



電「!!」 ガチャ

三日月「は、はい!」 ガチャ


 こうして、演習訓練が始まった。



150: ◆jz1amSfyfg 2015/04/19(日) 05:22:50.39 ID:SNb1/WpS0


 ――その次の瞬間だった。

 ドカーン!!

三日月「!! 電ちゃん、右に!!」 バッ

電「!!」 バッ

 ザバーーーン!!


金剛「ワーオ、初弾を避けましたかー。中々やりますネー!」

金剛(ふふふー、ダメよ二人ともー……演習を始める前から距離の計算はしなくっちゃね。戦場ではいつ攻撃が来るか分からないわよ!)

金剛「そこはもう……私の距離ネー」 ゴゴゴゴゴ


電「こ、この距離から!?」

三日月「さすが戦艦……ですね……」

三日月(戦う前から……戦いは始まってるってこと……ね)

三日月「電ちゃん! この距離では私達の弾は恐らく届きません! 左右に展開して、攻撃を避けながら金剛さんに近づ――」    ドカーーーン!!

三日月「ッ!?」 シュッ    ザバーン!!

電「み、三日月ちゃん!!」

三日月「大丈夫です!! 少し掠めただけです!! 行きましょう!! 電ちゃんは右に!!」 ザッ

電「は、はい!!」 ザッ



金剛(咄嗟に身体をずらして避けたわね。良い動きだわ)

金剛「全砲門! Fireー!!」 ドンドンドーーーンッ!!



 バシャーーン、ザバーン!! ――バシャーーンッ!!

電(え、演習なのに怖いのです!!) ザー、ザー

三日月「電ちゃん! スピードは緩めちゃダメですよ!」 ザー、ザー

電「はっ、はい!!」 ザー、ザー



151: ◆jz1amSfyfg 2015/04/19(日) 06:26:58.70 ID:SNb1/WpS0


 周りのあちこちから水しぶきの上がる音が耳に届く。そして、身体の横を通って行く砲弾の雨。一発でも当たったらおしまいだ。

三日月(少しずつ距離は近づいてきてる……攻撃も避けれてる……)


金剛「Fireー!! Fireー!!」 ドーン!! ドーン!!


三日月(右!!……左!!) シュッ ザッ

 バシャンバシャーン!!

三日月(回避成功! 次!) ジー


三日月「!! 電ちゃん! そっちに攻撃行きます!!」

電「はい!」     ドカーンドカーン   バシャンバシャーン!!

三日月(電ちゃんも回避成功! 良い動きです!)

電「三日月ちゃんありがとうなのです!」

三日月「はい!」

 距離も埋まってきている。攻撃も避けれている。良い調子だった。


金剛「……なら、これでどうデース!?」 ドンドーン!! バッシャーーーーン!!

 ――でも、金剛さんはそう甘くなかった。

三日月「ふぇ!?」

電「じ、自分の周りに!?」

三日月(水しぶきで金剛さんの主砲の向きが見づら――)

 ドンドカーン!!

三日月「――ッ!?」

三日月(これは、右!) シュッ

 ザバーン!!

三日月「あ、あぶなか――」 チラ

電「三日月ちゃん!!」

三日月「へ?」

 私に近づく砲弾が目に映った。――私が避けた砲弾は、フェイクだったんだ。囮からの偏差射撃。私は右に動かされたんだ。


 ボカーン!!


電「み、三日月ちゃーん!!」

 ドンッ!

電「――!?」 ハッ



 ボカーーーン!!



154: ◆jz1amSfyfg 2015/04/20(月) 04:03:25.85 ID:gEFnAW570


提督「さすが、戦艦って事だな」

提督(……あれで練度はまだ1だってのが驚きだ。今の演習で金剛の経験にもなって3になったけど)

提督(艦娘は着任したばかりでも、ある程度の戦闘知識や経験はあるって本当だったんだな。まぁだからこそ先生には適任だと思ったんだけど)

提督(三日月達も大したもんだ。あんだけ金剛の攻撃を避けれてたんだから。あいつらも金剛も、もっと強くなるな)

提督「……俺が導いてやらないとな……」 スッ

 ザザー

提督「あー、聞こえるか? 第一回の演習は終了だ。結果は金剛の完全勝利。とりあえず、一旦こっちまで戻ってきてくれ」

 ザザッ


金剛『了解デース! よいしょ』 ガシ


提督(……三日月と電、気絶してるな。あれが演習弾じゃなく実弾だったらと考えるとすげぇ怖ぇな……)



 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 気が付くと、私と電ちゃんは司令官の元にいました。砲弾を直撃して、そのまま気を失っていたらしい。

三日月「…………」 ズーン

電「…………」 ズーン

提督「……結構落ち込んでるなぁ」

三日月「それも……そうですよ」

電「何もできなかったのです……」

電(三日月ちゃんがいなかったら、多分もっと何もできなかった……このままじゃダメなのに)




155: ◆jz1amSfyfg 2015/04/20(月) 04:40:55.13 ID:gEFnAW570


金剛「HEY! 二人ともー? 落ち込むことないデース」

金剛「三日月も電も良い動きでしたヨー! 特に三日月は素晴らしかったデース!」

三日月「……そんなこと……ないです」

金剛「うーん、三日月は謙虚デスネー……私の言葉は信じられませんかー?」

三日月「そ、そんなことないです!」

金剛「では信じてくださーい! Teacherの私が言うんだから、ネ?」 ナデナデ

三日月「……はい」 ニコッ

電「…………」

金剛「ホラホラー、電もそんな顔してちゃダメデース。可愛い顔が台無しデスヨー?」

電「……電は、強くなれるでしょうか?」

金剛「……先ほどの演習で、二人は必死に私に向かってきました」

金剛「私はそれを見て、二人は本当に強くなりたいんだな思いました。その通りデショー?」

電「……はい。電は、強くなりたいです」

三日月「……私も強くなりたいです」

三日月(……皆のために。理想の自分になるために。……そして……) チラ

提督「……」

三日月(……あなたの期待に答えるために) ジー

提督「……ん?」 チラ

三日月「!!」 プイ

三日月「……///」

提督「?」



161: ◆jz1amSfyfg 2015/04/21(火) 03:45:17.98 ID:D/S9G7+00


金剛「良いですか二人ともー。努力に勝る才能無しデス。その強くなりたいと思う気持ちを持って、努力し続ければ必ず強くなれマース!」

三日月「……はい!」

電「なんだかやる気が出てきたのです! 次の演習も頑張るのです!」

金剛「そうデース! その意気デース!」 ナデナデ

提督(……ふふ、頼りになるな金剛は)

三日月「司令官! この後も演習ですよね?」

提督「あぁ、そうだよ」

三日月「……よぉし……頑張ります!」 グッ

提督「はは、気合十分だな。皆、頑張るんだぞ」

提督「まぁ、その前にだ。全員一旦目を瞑ってくれ」

電「へ? 何かあるのですか?」

提督「いいからいいから」

三日月「分かりました」 スッ…

金剛「ン~、変な事はしちゃノーだからネ! 提督ー」 スッ…

提督「変な事なんかしないって。ほら、電も」

電「は、はいなのです」 スッ…

三日月(な、何があるんだろう……)

提督「んしょ、んっしょ」

ガサガサ

電(き、気になる……)

提督「……よし。金剛、ちょっと口開けてくれ」

三日月・電「「!?」」

金剛「Why!? 提督なにする気デース!?」

提督「いいからいいから」

金剛「うぅ、ちょっと恥ずかしいデース……あーん……///」

三日月(大丈夫司令官を信じなさい三日月司令官が変な事するはずがないもの落ち着くのよ三日月) ゴゴゴゴゴゴ……!!

電(三日月ちゃんの方からなんだかすごいオーラを感じる気がするのです)



162: ◆jz1amSfyfg 2015/04/21(火) 05:23:48.78 ID:D/S9G7+00


提督「ほいっとな」 ヒョイ

金剛「ン゛ン゛!?」 パク

金剛「こ、これは……美味しーデース!!」 パァァァ

三日月「え?」 パチ

電「!?」 パチ

提督「あっ、目開けちゃったか」 スプーンキラーン

三日月「……アイス……?」 キョトン

提督「一応サプライズだったんだけどね。ばれちゃったなら仕方ない。ちゃんと二人の分もあるよ」

提督「間宮さんの特製アイスだよ」

電「はわわわぁ……」 キラキラ

提督(電……すっげぇ目輝いてるな)

三日月「でも、特製アイスって作ってもらうのにお金がかかるんじゃ……」 ソワソワ

提督「あぁ、まぁお金はかかるね。けど、それこそお金の使いどころだろ?」

提督「ほら、電。……あーん」

電「!! あ……あーん……なのです」

 パク

提督「美味しいか?」

電「お、美味しいのです!!」 パァァァ

電「……あっ」

提督「ん?」

電(な、流れに身を任せてついあーんしてもらっちゃった……は、恥ずかしいよぉ……!!)

電「な、なのです!///」 シュッ!

 バキッ!

提督「ゲフッ!!」 

提督「な……なんでぇ……」 プルプル

電「はわわわ! ご、ごめんなさいなのです!!」



165: ◆jz1amSfyfg 2015/04/21(火) 12:26:21.57 ID:D/S9G7+00


三日月「!!」 ビクッ

電「し、司令官さん! ごめんなさいなのです!!」 オドオド

提督「あぁ……だいじょぶだいじょぶ……ははは……」

三日月「…………」

提督「ん? 三日月どうかしたのか?」 キョトン

三日月「い、いえ……何でもない……です……」

提督「……そうか? なら良いけれど」

電「うぅ……電はなんてことを……」 ズーン

提督「って電、そんなに落ち込まなくて大丈夫だから。な? ほら、アイス食べて食べて」

電「……はい……本当にごめんなさいなのです」

三日月「…………」

提督「ほら、三日月の分もあるからな・」

三日月「……はい」

提督(三日月、どうしたんだろ。なんかさっきよりも元気がなくなってる気がするんだが。……よし)

提督「……三日月」

三日月「はい、なんですか?」

提督「あーん」 スッ

三日月「ふぇ!?///」

提督「二人にやって三日月にもやらないのはなんかあれだしな。ほら、あーん」 スプーンキラーン

三日月「い、いや……大丈夫です! 自分でたた、食べれられます! それに司令官のお手を煩わせるわけにはいきませんから!!」 アタフタアタフタ

金剛(……食べれられます。そんな日本語があるんだねー。勉強になるわ!) パクパク



166: ◆jz1amSfyfg 2015/04/21(火) 12:56:20.91 ID:D/S9G7+00


三日月「と、とにかく! 私は……その……だ、大丈夫ですか――ん!?」 ヒョイ

 パク

提督「美味しいか?」

三日月「…………///」 コクンコクン

提督「そっか。良かった良かった」 ニコッ

 口の中には甘い味が広がる。ひんやりとしたアイスはとても美味しくて冷たかったけれど、

三日月「……っ///」 カァァァ

 顔はとても熱かった。

金剛「提督はふっとぱらデース! アイスありがとうございマース!」 ニッコリ

提督「全然大丈夫だよ。むしろ喜んでもらえてうれしいよ。あと、太っ腹な?」

提督「金剛には本当に感謝してるし、このくらいして当然さ」

提督「本当にありがとう」 ニコッ

金剛「!!///」 ドキーン

金剛「……て、テートクー?///」

提督「ん?」



167: ◆jz1amSfyfg 2015/04/21(火) 13:18:16.66 ID:D/S9G7+00


金剛「私……優しくて仲間思いな人が好きなのデスが……」

提督「うん」

金剛「一番好きなのは……」

提督「?」 キョトン


金剛「笑顔がステキな人デース!!」


提督「え?」

金剛「バーニング……ラーーーブ!!」 バッ

三日月・電「「!?///」」

提督「は!?」

 ギュー……っ

金剛「えへへぇ……提督大好きデース!」 ニコニコ

提督「こ、金剛!?///」 アセアセ

提督「これはどういう状況なんだ!?」

電「はわわわわ」

三日月「え? ……え?」

 状況を理解するのに、少し時間が必要だった。金剛さんが司令官に抱き着いている。……何でです!?

三日月・電「「こ、金剛さん! 何やってるん(の)ですか!!」」

三日月・電「「……ん?」」

 なぜだか電ちゃんと目が合った。

提督「こ、金剛! 色々とまずいって!! いきなりどうしたんだ!?」

金剛「提督にホの字デース!」 ギュー

提督「ええええええ!?」



168: ◆jz1amSfyfg 2015/04/21(火) 14:19:36.46 ID:D/S9G7+00


 ギュー

提督(あ、あかん……あかんぞこれは!)

電「金剛さん! 司令官さんが困っているのです!」 ガシッ

金剛「……なるほどォ~……電はライバルデスネー。提督のハートを掴むのは私デース!」

電「そ、そういう事ではななな……ないのです!」><

電「こ、金剛さんが司令官さんから離れないならこっちも考えがあるのです! 電の本気を見るのです!」 バッ

 ギュー

電「///」 カァァァ

提督「お前も来るの!?」

金剛「おぉ! 電やるデース!」

電「負けないのです!!」

提督(電完全にテンパってやがる!!)


三日月「えと……うぅ……///」 ソワソワ

三日月(わ、私も……行きたい……? いや、わからない。でも、なんだか胸がチクチクする。二人が羨ま……しい?)

提督「み、三日月! 助けてくれ!」

三日月(司令官は……二人に抱きしめられてて嬉しいのかな? 電ちゃんは可愛いし、金剛さんは綺麗だもの。私なんてこんなに地味だし、二人みたいに可愛くないし……うぅ……)

三日月「…………っ//////」 モジモジ、ソワソワ

提督「聞こえてない!? み、三日月さーん!?」

三日月「――ハッ!! な、何でしょう!? この後はちゃんと歯磨きして虫歯予防しますよ!? はい!!///」 アセアセ

提督「それはいいことだ! でも今はとりあえずこの二人の暴走を止めてくれないか!? お前だけが頼りなんだ!!」

三日月「――!!//////」 ドキッ

 お前だけが頼りなんだ。お前だけが頼りなんだ? ……私が? 頼り? 私“だけ”が?

三日月「~~~~~!!//////」 プシュゥゥゥ!

三日月(わ、私が何とかしなきゃ!!)

三日月「み、三日月! 頑張ります! 司令官の期待に答えるために!! 電ちゃん! 金剛さん!」

提督「おぉ! さすがはみかづk――」

 バッ!

三日月「む、睦月型の本当のチカラです! え、えーい!!」 タッタッタッタ!!

提督「突撃してくるの!? や、やめ――うわああああああ!!」

 どんがらがっしゃーん!!



174: ◆jz1amSfyfg 2015/04/26(日) 17:03:18.36 ID:AspOL2I90


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

提督「…………」 ゴゴゴゴゴ

金剛「……」 正座中

電「……」 正座中

提督「……まったくお前達は……」 ゴゴゴゴゴ

金剛「……そ、ソーリー。ごめんなさいデース」

電「ご、ごめんなさいなのです」

提督「怪我がなかったから別に良いけど、何かあってからじゃ遅いんだからな! 電もテンパるのは仕方ないけど、もう少し落ち着くんだ」

電「……はいなのです」

提督「それと金剛」

金剛「は、ハイ!」

提督「……男として、そう言ってもらえるのは本当に嬉しかったけど……さすがにあれは恥ずかしかったから……」

提督「時間と場所を弁えるんだ!///」 ガミガミ

金剛「ごめんなさいデス! 肝に免じるデス!」

金剛「……ケド、時間と場所を考えればアピールオーケイってことデース?」

提督「……自分の気持ちに嘘を付けとは言えないしな……。こんな俺のどこがいいかは分からないけどな」

金剛「あ、ありがとうデース! 私、提督のハートを掴めるように頑張るからネー! それと提督はすっごく魅力的デース!」 パァァァ

提督「ありがと。……ほどほどに頼む」

提督「……まっ、何はともあれ三日月がいてくれてなんとかはなった。……けど」 フイ


三日月「……//////」 カァァァァ


提督(俺もまさか突撃してくるとは思わなかった。そしてまさかその自分の行動に後悔して端っこに体育座りして恥ずかしがられるとも思わなかった)



175: ◆jz1amSfyfg 2015/04/26(日) 18:13:37.76 ID:AspOL2I90


提督「み、三日月?」 スタスタ

三日月「!?///」 バッ

提督「いや待て待て待て! 逃げないで!?」 ガシッ

三日月「あっ……」

三日月(て、手……)

三日月「///」 ピタ

提督(あ、あれ……急に止まった。今日の三日月はちょっと不思議だ……)

提督「あ、あのな三日月。俺は別に気にしてないから……な? 元気出せ?」

三日月「で、でも……私……」

提督「いやまぁあの行動には驚いたけど、結果的に助かったし。な?」

三日月「うぅ……」


―――――――――――――――――――――


 どんがらがっしゃーん!!


金剛『オウ!?』

電『はにゃー!?』


提督『っ、いててて……お、二人とも離れてくれ――』

三日月『う、うーん……』

提督『!?』

三日月『へ?』

三日月『――!?』

提督(三日月の顔が目の前に!)

三日月(し、司令官の顔が目の前に!?)

提督『え、えっと……三日月……?』

三日月『えっと……そ、その……あぅ……///』

三日月『ご、ごめんなさーーーい!!』 バッ


―――――――――――――――――――――

三日月(私……なんか変。司令官の顔が近かっただけでこんなに恥ずかしいなんて……)

三日月(でも、今こうして手を握ってもらえてるのは……すごく安心する……どうしたんだろう本当に)

提督「何はともあれ助かったからさ。ありがとな三日月」

提督「んで、切り替えは大事だ。俺も切り替えるからさ、三日月もあまり気にせず切り替えろ?」 ナデナデ

三日月「は、はい。……が、頑張って切り替えます」 グッ

三日月(そ、そうだよね。切り替えなきゃ……心頭滅却心頭滅却……)

提督(実際俺もちょっと恥ずかしかった……切り替えないとな……)



178: ◆jz1amSfyfg 2015/05/01(金) 07:13:49.79 ID:pKwmVchV0


 スタスタ

提督「ゴホン。……よし、そんじゃ良い感じに休憩できたと思うし、そろそろ演習訓練を再開しよう。金剛、またよろしく頼むよ」

金剛「わっかりましター! 提督と二人のために、私頑張るネー!」

電「……三日月ちゃん」

三日月「ん? どうかしましたか? 電ちゃん」

電「一緒に……頑張りましょうね!」 ゴゴゴゴゴ

三日月「は、はい」

三日月(電ちゃん、すごく燃えてる)

電「こ、金剛さん! 電も負けないのです!」 グッ

金剛「フフー、良いですヨーその心意気! 燃えるデース!」

三日月(二人ともすごいやる気……よし)

三日月「……私も、もっともっと頑張らないと、ですね」

三日月「金剛さん、よろしくお願いします!」 ペコリ

金剛「任されましたデース! 私からもヨロシクオネガイシマース!」 ナデナデ

提督(微笑ましい。できる限りこの子達には笑っていてほしいものだな)


三日月『ありがとうございます!』 ニッコリ


提督「!!」 ブンブン

提督(待て待て待て……なんで三日月の今朝の笑顔が頭に思い浮かぶんだ……しかも今!)

提督(いやまぁ確かに三日月には笑っていてほしいけどさ……とにかく早く切り替えろ俺!)

提督「そんじゃ……訓練再開!」

金剛「了解デース!」

三日月・電「「はい!」」



179: ◆jz1amSfyfg 2015/05/01(金) 07:57:41.21 ID:pKwmVchV0


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

三日月「……」 バタンキュー

電「……」 バタンキュー

提督「おーい……二人とも大丈夫か?」

三日月「は、はい……平気……です……」

電「……なの……です」

提督「……ナイスガッツだな、二人とも」

 時刻はヒトナナマルマル。もうすぐ太陽さんがおやすみをいただくために夕日さんへと変わり始める時間だ。

金剛「ヘーイ! やっぱり二人とも段々動きが良くなってきてるヨー! コングラチュレーション!」 ニコニコ

三日月「えと……その……褒めていただけるのは素直に嬉しいんですが……」 モジモジ

電「……いまだに攻撃を当てられないのです……」 ズーン

 現在は司令官から休憩をいただき、身体を休めている。こんなに休憩が嬉しいと思ったのはすごく久しぶりだった。前の鎮守府にいた頃の、神通さんの訓練もものすごくハードだったけれど、戦艦の金剛さんと演習訓練を続けることも中々ハードだ。

金剛「ふっふー。まぁ、先生としてそう簡単に負けるわけにはいかないからネー! 惜しい場面も結構あったし、次に切り替えデース!」

三日月「……はい!」

電「……頑張るのです」

 ちなみに、演習回数はすでに20回を超えている。けれど、いまだに攻撃を当てることはできない。それに加えて演習訓練をこなせばこなすだけ金剛さんの動きも良くなっていて、金剛さんの強さというモノが実感できてしまう。

三日月(……もっともっと頑張らないと)

電(このままじゃ何も変われてない……頑張らないと!)

 けど、良い経験になる。だから、もっと頑張らないと。



181: ◆jz1amSfyfg 2015/05/05(火) 10:32:12.24 ID:XXh67j6K0


提督「あー、なんか水を差すようで悪いが、金剛との演習はひとまずおしまいだ。三日月と電の二人にはまた別の演習訓練をしてもらうよ」

三日月「もしかして今朝おっしゃっていた」

電「他の鎮守府ではあまりやっていないという演習訓練でしょうか?」

提督「察しが良いな。そういうことさ」

金剛「オーウ、なんだか気になる内容デスねー」

提督「まぁ、すぐにわかるよ。そろそろ妖精さんが頼んでいた物を持ってきてくれるはずさ」

 テクテクテクテク

妖精さん「テートクー」

妖精さん2「タノマレテイタモノ、モッテキタゼー」

提督「おっ、うわさをすれば妖精さん。ありがとう妖精さん」

三日月「これは……?」

電「木刀なのです!」

金剛「おぉ! カッコいいデスねー! ジャパニーズな雰囲気を感じマース!」

三日月「あと、ちっちゃな風船もありますね」

提督「次の演習訓練ではこの木刀と風船を使ってもらうよ。三日月、ちょっとこっちに来てくれ」

三日月「え? あっ、はい!」 スタスタ

提督「ちょっとじっとしててね」

三日月「は、はい」 ピタ

提督「妖精さん、風船を貸してくれ」

妖精さん「オーシェーイ」 スッ

提督「ありがとう」

三日月(司令官が近くても落ち着くのよ……三日月。今は演習訓練前なんだから)

三日月(でも、いったいどんな訓練をするんだろう。木刀と風船を使うだなんて)



182: ◆jz1amSfyfg 2015/05/05(火) 11:04:02.90 ID:XXh67j6K0


提督「よし、三日月動いちゃダメだぞ?」

三日月「わかりました」

提督「この風船を頭に乗っけて……紐で固定……っと」 ササ

提督「よし、おしまいだ。もう動いて大丈夫だよ」

三日月「……えと、司令官? これは?」

電「頭に風船が乗ってるのです」

金剛「なんだかちょっとシュールだネー」

三日月(ちょっと恥ずかしい)

提督「あぁ、ちょっと恥ずかしいだろうけど、ごめんな。三日月と電には互いにこの頭に乗っけた風船をこの木刀で割り合ってもらう。それが次に行う演習訓練の内容さ」

電「え? 電達が木刀を使うのですか?」

提督「そういうこと。もちろん勝敗は決めるからね。先に風船を割られた方が負けだ」

三日月「でも、私木刀なんて使った事ありませんよ?」

提督「だろうな。木刀なんて、君達は普段絶対に使わない武器だろうし」

提督「でも、意外と使っておいて損はないと思うぞ? 今後、何かの役に立つかもしれないしね。ということで電、君にも付けたいからちょっと来てくれ」

電「は、はいなのです!」

提督「電に付けたらすぐに訓練を始めよう。三日月は準備を始めててくれ」

三日月「はい、わかりました」

提督「あっ、主砲と魚雷は外しといてね」

三日月「え?」

 他の鎮守府ではあまりやっていないという演習訓練。あまりやっていないどころではなく、どこでもやっていない訓練なんじゃないかと私は思った。



183: ◆jz1amSfyfg 2015/05/05(火) 11:38:18.42 ID:XXh67j6K0


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 今日何度浮いているか分からない訓練場の海の上。先ほどまで前方には金剛さんがいたけれど、今は電ちゃんが目の前にいる。

三日月「……なんだか、さっきまで隣にいたのに、今は目の前にいるから違和感を感じちゃいますね」

電「なのです。金剛さんの時と違って、距離も近いからこうして普通に話せちゃうので、そこも違和感あるのです」

三日月「ふふ、確かにそうですね」

電「それにしても……なんだか不思議な訓練なのです。司令官さんのことですから、何か意味はあると思うのですが」

三日月「そうですね。ちょっと恥ずかしいですけれど……頭に風船が乗っかっているのは」

電「はは……確かに」

三日月「それに、主砲も魚雷もなくて、あるのは海の上に浮かぶために必要な艤装とこの木刀だけですもんね」 ブンブン

電「本当に不思議なのです」

提督『二人とも、聞こえるかい?』

三日月・電「「はい」」

提督『よし。それじゃそろそろ始めよう。もう夕方だし、今日の所はこの一回目のみの訓練だよ。気を引き締めてくれ』

三日月「わかりました」

電「なのです」

提督『良い返事だ。……あっ、あと一言だけ言っておこう』

提督『君達は仲の良い子達だけれど、決して手は抜いちゃダメだぞ? 互いのためにもね』

三日月「その点は、大丈夫ですよ」

電「そんなことしても、強くはなれないのです。この訓練の意味はまだ少し分からないこともありますけれど、何か意味があるって信じているのです」 スッ

三日月「私も電ちゃんと同じです。なので、頑張ります」 スッ

提督『……ごめん、お前た……ゴホン。君達にはいらない心配だったね』

提督『それじゃあ、演習訓練を始めよう。いつも通り、通信機は切るぞ』 プツン


電「三日月ちゃん」

三日月「はい、なんでしょうか」

電「昨日のじゃんけんは引き分けでしたけど……今回は……」

電「ま、負けないのです!」

三日月「私も負けたくはありません。だから、お互いに頑張って」

三日月「一緒に強くなりましょう」 ニコッ

電「……はい! なのです!」



提督「――これより!! 演習訓練を開始する!!」

提督「全艦!! 抜錨ッ!!」



三日月「電ちゃん! 行きますよ!」

電「はい!」



185: ◆jz1amSfyfg 2015/05/08(金) 03:32:44.53 ID:63DnEGEc0


金剛「提督も面白い訓練を考えマスネー」

提督「ん? そうか?」

金剛「イエース! 本来なら私達艦娘は接近戦の訓練なんて必要ないデース」

金剛「ケド、恐らくこの訓練には意味があるんデショー? 提督ー?」

提督「あぁ、意味はあるよ」

金剛「是非教えてほしいデース!」

提督「あぁ、いいよ。……君の言う通り、確かに艦娘には接近戦の訓練なんて必要ないんだ。君達の武器は主砲であって、遠距離から攻撃するからね」

提督「だけど、彼女たちは駆逐艦だ。持てる武器の大きさからして、金剛ほど射程距離は長くない。だから、相手との距離を詰める必要がある。そしてその距離が近ければ近いほど、砲撃は当てやすくなるだろう。……戦う相手共にね」

金剛「確かにそうデスね~」

提督「接近戦の訓練は必要にないって言われてるけど、実戦じゃ何が起こるか分からない。それに、あれだけ近い距離での戦闘はないかもしれないけど、駆逐艦はある程度相手との距離を詰めなきゃいけないからね。極端な話として、あれだけの距離で訓練してもらってるのさ」

金剛「木刀を使わせているのはなぜデス? 木刀は実戦には使えませんヨ?」

提督「まぁ……それにも理由はあるよ。とりあえず、電達の戦いを見てくれ」

金剛「ン~?」 ジー



電「え、えいなのです!!」 ブン!

三日月「っ!」 シュッ バシャン!

電「はにゃ!?」 グラッ

三日月「わわ!?」 グラッ

 バシャーン!!

電「うぅ……び、ビショビショなのです……」

三日月(電ちゃんの攻撃を避けれたけど、普段とは感覚が違うから……ば、バランスが……だけど)

三日月「ちゃ、チャンスです!」

三日月(昔読んだ本では……確かこんな感じだった気が!)

三日月「め、メーーーン!!」 ブン!

電「はわわ!?」 グルングルン バシャン!

三日月「避けられ――あれ!?」 グラッ

 バシャーン!



金剛「……二人ともフラフラで転んでばかりデース」

提督「はっはっはっは! それもそうだ」

提督「彼女たちは木刀なんか振ったことないだろうからね。当然、どんな風に振るのか知らないだろうから、がむしゃらにやるさ。地上でだったらチャンバラごっこみたいに何とかなるだろうけど、君達が戦う場所は海の上だ。バランスが悪いそんな所で、慣れない木刀なんかをがむしゃらに振ってたら、転びまくるだろう」

金剛「確かに、私達普通に移動してても気を抜けば転んじゃいマスからネー。海の上を移動することは中々ハードデース」

提督「だろうね。……そして、その転びまくることも経験になるはずなんだ」



186: ◆jz1amSfyfg 2015/05/08(金) 04:29:01.58 ID:63DnEGEc0


三日月「これは……頑張らないと、ですね……」 ビショビショ

電「……ふふ……お互いビショビショですね、三日月ちゃん」 ポタポタ

三日月「はい。今日は一日中塩水に浸かってばかりで、髪が傷んじゃいそうです」

電「なのです。……でも」

三日月「これも、強くなるためです!」 ザッ

電「なのです!」 ザッ

三日月(さっきは木刀を振ることを意識しすぎてたんだ。今度は転ばないように、いつも通りの事を意識しながら!)

電(こっちから仕掛けても、またさっきの様に転んじゃうよね。だったら、カウンター狙いで……いくのです!)

 ザザー!

電(おそらく三日月ちゃんは、さっきの様に縦に木刀を振ってくる……気がする)

三日月「メーン!」 ブン!

電「ッ、狙い通り! なのです!」 シュッ

三日月「!? よ、避けられた!?」 パシャン!

電「命中させちゃいます!」 ブン!

三日月「ッ! ええーい!」 グルン

電「ま、前回り!?」 バシャーン!

三日月「ふふ、なんとか……避けられました」

電「さすが、三日月ちゃんなのです。……でも、電だって負けないのです!」 ザッ

三日月「私も負けません!」

電(だんだん慣れてきたのです。だったら今度はこっちから!)

三日月(電ちゃん、さっきは木刀を振っても転ばなかった。慣れてきたんだ。でも、避け続ければ、隙は生まれるはず!)

 シュッ、バシャン! ブン、ブン!



金剛「おお! さっきとは別人みたいになってるデース!」

提督「必死にどうすれば転ばないか考えるだろうからね。もしくは早くも感覚が慣れてきたのかもしれないな」

金剛「二人ともカッコよくてカワイイデース!」 キャッキャ

提督「あぁやって転ばないように、なおかつ相手の攻撃を受けないように移動するから、海の上を移動する訓練にもなるはずさ。駆逐艦は一発でも受けたら危険だから、俊敏な動きが要求される。今やってる訓練だったら、その辺も鍛えられるはずさ」

金剛「あっ、確かに二人とも私と戦ってる時より俊敏な動きしてマース」

提督「転ばないようにしながら攻撃して、相手の攻撃を受けないようにしてるからね。相当集中してるはずだよ」

金剛「フフー、明日の二人が楽しみデース!」

提督「あー、ちなみにな」

金剛「ンー?」

提督「戦艦と言っても駆逐艦の接近を許して魚雷をまともに直撃したら、大ダメージだろう。動きが良くなってくる二人に接近を許させない事は、金剛の訓練にもなるはずだ。金剛は二人の先生だけど、彼女達から経験を積むこともできる。頑張るんだぞ?」 ナデナデ

金剛「……了解デース! 提督は色々と考えてくれてるんデスネー」

提督「……俺は……いや、提督はお前達艦娘が成長するための道筋を作らなきゃいけないからな。これくらいしなきゃ、戦ってくれているお前達に申し訳が立たないさ」

金剛「……提督ー、ずっと思ってたけど提督って口調ガバガバダヨネー」

提督「まさか今それを言われるとは思わなかったよ」



187: ◆jz1amSfyfg 2015/05/08(金) 04:41:12.44 ID:63DnEGEc0


三日月「はぁ、はぁ」

電「はぁ、はぁ」

三日月「……電ちゃん」

電「……はい」

三日月「もう、私体力の限界です」

電「三日月ちゃんもですか。電も限界なのです」

三日月「ふふ、だと思いました。朝からずっと一緒に訓練してましたもんね」

電「なのです! ……司令官さんも金剛さんも、意外とスパルタなのです」

三日月「ふふふ、本当ですね」 クスクス

電「……次の一振りが、最後の攻撃なのです」

三日月「私も……腕が限界なので、恐らくそうなります」

電「……では」 スッ

三日月「……はい」 スッ

電・三日月「「決着をつけましょう」」

電「…………」

三日月「…………」

 ザッ

電「えりゃああああああ!!」 ザー

三日月「ええええええい!!」 ザー

 ブン!!



188: ◆jz1amSfyfg 2015/05/08(金) 05:02:28.91 ID:63DnEGEc0



 バキッ!!


三日月「――え?」

 木刀と木刀が重なった瞬間、私が振った木刀の刃先が――空を舞った。

電「ッ!! 電の本気を見るのです!!」 シュッ!!

三日月「――しまっ!?」

 パーン!



提督「……電の勝ちだな」

金剛「デスネー。いい勝負でしたケド、パワーは電の方が上だったみたいデース」

提督(……それでも、新品の木刀を折るなんて……電の力を侮ってはいけないな)

提督「電の良い所が1つ見つかった瞬間だね」



三日月「っ、いたたた……」 ジーン

電「はわわ! ご、ごめんなさいなのです! 思い切り頭を……」

三日月「あはは……だ、大丈夫ですよ」

三日月「……電ちゃん」

電「は、はい」

三日月「……私の負けです」

三日月「次は負けませんよ?」 ニコリ

電「……は、はいなのです!」

 力は、電ちゃんの方が上手だったという事だ。そんなことは分かっていたし、仕方のないことだ。……でも、

三日月(……悔しい……!!) ギュ

仕方ないことでは済ませたくなかった。



提督(……戦艦の金剛にすら負けても悔しいんだ。同じ駆逐艦に負けたのは、相当悔しいだろうな)

提督(でも、その悔しさも成長するためには必要な鍵だ。二人で切磋琢磨しあって、成長していくんだ)

提督「……金剛、二人の迎えに行ってあげてくれ」

金剛「了解デース!」 シュパ

提督(二人とも……頑張れよ)



189: ◆jz1amSfyfg 2015/05/08(金) 05:42:00.99 ID:63DnEGEc0


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

提督「ということで、今日はお疲れ様」

金剛「中々ハードでしたケド、良い一日だったデース!」

提督「金剛には感謝してるよ。明日もよろしく頼むよ」

金剛「了解デース!」 ビシッ

提督「……さて、電と三日月。今日は疲れただろ?」

電「い……いえ……そんなことはないのです……」

三日月「……私も……もっと頑張らないと……」

提督「いや、疲れてんのバレバレだから。三日月も、十分頑張ってたからな? 無理は禁物だ」

三日月「……はい」

提督「とりあえず……みんなこの後は入渠して身体を癒してくれ。その後は皆で美味しい夕食を食べよう」

金剛「オーウ! ディナー楽しみデース!!」

提督「あぁ。とても美味しいから、期待してた方がいいよ」

提督「ちなみに、今日やった訓練は明日もやってもらう。この訓練をしてもらう期間は六日間だ。その後一日はオールフリー。身体をゆっくり休めてくれ」

電「了解なのです!」
金剛「了解デース!」
三日月「了解しました」

三日月(……中々きついけど、頑張らないと) グッ

提督「……三日月?」

三日月「? はい、なんでしょうか?」 キョトン

提督「あまり気張り過ぎないようにな?」

提督「ゆっくりでいいんだ。ゆっくりでな」 ナデナデ

三日月「……は、はい!」

金剛「……むー……意外なところにライバルがいたデース……」 ジー

三日月「へ?」

電「はわわわ……」

金剛「……提督ー!! 私ももっと撫でてほしいデース! ヅッキーばかりズルいデース!」

提督「……はいはい」 ナデナデ

金剛「~♪」 ニッコリ

三日月「づ、ヅッキー?」

金剛「イエース! ミカヅキだから、ヅッキーデース!」

三日月「あはは……なんだか、慣れませんね」

金剛「エー? 嫌デース?」

三日月「……いえ、そんなことはありませんよ? ただあだ名で呼ばれたことはないので少し新鮮です」

金剛「すぐ慣れマース! ということでヅッキー、ヨロシクデース!」

三日月「はいっ」

電「金剛さん、電のあだ名はあったりするのですか?」

金剛「電はデンでどうデース!?」

電「……電でいいのです」

金剛「エー!?」 ガガーン

三日月「……ふふ」 ニコ

提督「……ほら、お前達いつまでも遊んでないで、早く入渠しに行きなー。夕食に遅れるぞー?」

金剛「ハーイ!」



194: ◆jz1amSfyfg 2015/05/09(土) 05:13:49.35 ID:GMmfcPFH0


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 ――六日後――

 チュンチュン、チュンチュン

三日月「……うーん……」

三日月「……ん……?」 ボケー

三日月「…………」 ガサゴソ

三日月「……ん?……」 キョロキョロ

 身体中が筋肉痛で痛むけど、朝です。今は何時だろうか。

三日月「……電ちゃーん?……あれ?」 キョロキョロ

三日月(電ちゃん、どこだろ。それに、今何時だろうか。時計時計) キョロキョロ

三日月「あ、あったあっ――」

時計『マルハチニーマル』

三日月「!?」

三日月「え!?」 パシッ

三日月「は、8時20分!?」

三日月(お、おかしい! いつも通り5時に目覚ましをセットしたはずなのに!)

三日月「い、急がないと……!!」 バッ

 バターン!

提督「うお!? び、ビックリした!」 ビクッ

三日月「あっ、しし、司令官! えと、おはようございます! ……ってそうではなく! ご、ごめんなさい! 私、寝坊してしまって、その……目覚ましはセットしたんですが……その!」 アタフタアタフタ

提督「え?」 ポカーン

三日月「と、とりあえず……私の努力が足りなくて、ごめんなさい!」 ペコリ

提督「……ぷっ」

提督「あっはっはっはっは!」

三日月「……し、しれいかん?」 キョトン

提督「三日月、大丈夫だぞ?」 ナデナデ

提督「今日君達は全員休みの日だ」

三日月「……あ」



195: ◆jz1amSfyfg 2015/05/09(土) 05:48:50.77 ID:GMmfcPFH0


 そうだった。今日は休みの日だったことをすっかり忘れていた。

提督「電も金剛ももう起きてるぞ。三日月、今日は珍しくぐっすり寝てたみたいだな」

三日月「……いつも通り5時に目覚ましをセットしていたはずなんですが、起きられなかったみたいです」

提督「まぁ、たまにはそういう日も必要じゃないか? 最近毎日ランニングと木刀の素振りしてたしな、三日月は」

三日月「日課となっていたので、やらないとやらないでなんだか少し落ち着きません」

提督「……まっ、今はそんなことよりもさ」

三日月「?」 キョトン

提督「着替えた方が良い。パジャマのまんまだぞ、お前」

三日月「……あっ」

三日月(ほ、本当だ……何もしないで飛び出しちゃったから……)

三日月「え、えと……っ、~~~!!//////」 カァァァァ

三日月「し、失礼しました……///」 ペコリ

 スタスタ、バタン

提督「……可愛すぎない?」


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

三日月「うぅ……恥ずかしかった……もうっ……私のバカ」 スタスタ

三日月(今日は間宮さんも休みみたいですね。朝ごはんとかどうしよ。それに、電ちゃんはどこに行ったんだろ)


電「――のです。――休みの日だからこそ――――なのです」


三日月「……電ちゃんの声? 外から?」 ピタ

三日月「あっ、電ちゃんと金剛さん」

 二人は外にいた。鎮守府の入り口の所だ。艦娘の寮は入り口のすぐそばに位置している。2階のこの窓からでも二人の姿はしっかりと確認できる。

三日月「……草むしり? とりあえず急がなきゃ」 タッタッタッタ



196: ◆jz1amSfyfg 2015/05/12(火) 04:30:17.09 ID:i1D3A9290


金剛「本当に大丈夫だと思いマスよー?」

電「電は秘書官ですが、あまりそれらしいことはまだやれていないのです。だから、お休みの日こそこういうことはやりたいのです」

金剛「そこは本当に偉いと思いますケド……」

 タッタッタッタ

三日月「はぁ、はぁ……皆さん、おはようございます。ごめんなさい、寝坊してしまいました」

金剛「あっ、ヅッキー。おはようございマース!」

電「三日月ちゃん、おはようなのです」

三日月「はい、おはようございますっ。目覚ましで起きれなくて……今さっき起きてしまいました……」

電「それはよかったのですっ」

三日月「え?」

電「三日月ちゃん、おやすみの日だろうけど多分いつも通り朝の五時に起きて訓練するのだろうなぁって思っていたので、目覚ましを解除しておいたのです」

三日月「え、えええええ!? 何でです!?」

電「三日月ちゃんは普段から頑張り過ぎなのです。休むことも大切なのです」

三日月「で、でも……」

電「余計なことしちゃったなぁとは思うけど……電は三日月ちゃんにあまり無茶をしてほしくないのです……」

電「電からの……お願いなのです」

三日月「…………」

三日月「確かに、無理をしすぎるのもよくありませんね」

三日月「気を使ってくれて、ありがとうございますっ! 電ちゃんっ」 ニコリ

電「……なのですっ!」 ニコッ

金剛(うーん、朝から微笑ましいワ~)




197: ◆jz1amSfyfg 2015/05/13(水) 00:17:36.50 ID:z7U7q1v60


三日月「ところで電ちゃんは何をしてるんですか? 草むしり?」

電「はいなのです」

金剛「何もわざわざこんな休みの日にしなくても大丈夫だと思いマース。何度も言っているんデスが……」

電「いえ、そういうわけにもいかないのです」

電「今朝司令官さんから聞いたところ、もしかしたらお客様が来るかもしれないそうなのです。なので、入り口は綺麗にしておかないとダメなのです」

電「それに、おやすみの日だからこそやっておきたいのです」

三日月「……それもそう、ですね。よいしょ」 スッ

三日月「私もお手伝いしますっ」

電「本当ですか? ありがとうなのです!」

金剛「……も~、仕方ないデース。私も手伝いマース」

金剛「みんなでやれば、早く終わりマスからネー」

電「金剛さん! ……ありがとうございます!」

金剛「ノープログレムデース! では、皆さん、一緒にガンバロー!」

三日月・電「「オー!」」



198: ◆jz1amSfyfg 2015/05/13(水) 01:02:29.53 ID:z7U7q1v60


提督「おぉ、朝から偉いなお前達」 スタスタスタスタ

金剛「あー! HEYテートクー!! オハヨウゴザイマース!!」

提督「あぁ、おはよう金剛」

電「司令官さん、朝一回お会いましたが、おはようございます。なのです」

三日月「私も先ほど会ったばかりですが、おはようございます」

提督「おう、おはよう二人とも。三日月はパジャマからちゃんと着替えたみたいだな」

三日月「……そ、それは忘れてください! もう……」

提督「はっはっは! ごめんごめん」

電「パジャマ? 三日月ちゃん、何かあったのですか?」

三日月「……聞かなかったことにしてください……」 ズーン

電「は、はいなのです」 ヨシヨシ

提督「まぁその話は一旦置いておいて、お前達草むしりしようとしてるんだよな?」

電「はいなのです」

金剛「今日はお客さんが来るって電が言っていましたが、本当デース?」

提督「もう伝わってるのか、早いな。とりあえず、時間は何時頃になるかはまだ未定だけど他の鎮守府の提督がやってくるんだ」

提督「一種の交流のためってことでな、上層部からの指示なんだ。俺もどんな人が来るかはまだ分かってないんだよ」

電「なるほど……では、早めに入り口は綺麗にしなければいけませんね。頑張るのです!」

提督「偉いなぁ電……。というわけで俺も草むしりを手伝うぞ!」

電「え!? 司令官さんもやるのですか? だ、大丈夫ですよ?」

提督「いやいや、金剛がさっき言ってたみたいにみんなでやれば早く終わるさ。ちゃっちゃとやっちゃおう」

三日月(司令官……多分どっかで会話聞いてたんだろうなぁ)

提督「朝ごはんもみんなまだ食べていないだろうから、さっき俺が軽めのものだが作っておいた。これが終わったらみんなで食べような」

金剛「提督の手作りデース!? ワーオ!! 味は心配だけど、楽しみデース!!」

提督「ふふふ、味が心配だなんて言えないくらいビックリするぞ! 楽しみにしとけ!」



199: ◆jz1amSfyfg 2015/05/13(水) 01:38:53.94 ID:z7U7q1v60


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

三日月「お、美味しかったです!」

 自然と出てしまった言葉だった。草むしりが終わって、司令官が作った朝ごはんを食べ終わった直後のことだ。

金剛「私もビックリデース……まさかここまで美味しいなんて……」

電「電も、正直あんまり期待はしていなかったのですが、とっても美味しかったのです!」

提督「電さりげなくひどくない?」

提督「まぁ、提督になる前は家で自炊して弟に食べさせていたからな。自然と料理の腕も上達したって事さ」

三日月「この前弟さんがいるっておっしゃっていましたね」

提督「あぁ、少し歳は離れてるんだけどさ」

金剛「提督の弟さん……ということはいずれ私の義弟になるかもしれませんネー!」

提督「おう、そうだね。なれるといいね、うん」

金剛「朝からドライな返答に私ちょっぴりショックデース!!」

提督「ショック受けてる人の声のトーンじゃないな」

電「でも、司令官さんがご飯を作っていたって事は、司令官さんのお母さんかお父さんはあまり料理が得意な方ではなかったのですか?」

提督「いや、二人とも料理はすごく得意な人だったぞ」

提督「俺が自炊を始めたのは、ちょうど一年くらい前からだ」

提督「二人とも、亡くなったんだ。俺が料理を始めたのはそこからだな」

金剛「……Oh……」

電「……ご、ごめんなさいなのです……変な事聞いてしまって……」

提督「あぁ、大丈夫だよ、気にすんな。今は戦争中だ……仕方ない事さ」

三日月(……一年くらい前、か……)

提督「弟もちょくちょく手伝ってくれて、最近では料理できるようになってきたんだ。今は俺が提督になったから離れ離れになったけど、その点はあまり心配はしてないよ。あいつは優秀な奴だからな! 一人でもうまくやっているさ」

 弟さんの話をする司令官は、どこか誇らしそうだった。

三日月「戦いを、早く終わらせないと……ですね」

提督「あぁ、それもそうだ」

提督「けど、今日は休みの日だ。みんなあまり気張らずにゆっくり身体を休めるんだぞ? 特に三日月」

三日月「そ、そんなに私って無理しているように見えますか?」

一同「「「うん」」」 コクリ

三日月「え、えー……」



200: ◆jz1amSfyfg 2015/05/13(水) 03:36:33.30 ID:z7U7q1v60


提督「そこで、羽を伸ばせるようにみんなへ俺からのプレゼントだ」 スッ

提督「じゃじゃーん、外出許可書だ!」

金剛「オーウ、それ本物デース?」

提督「むしろ俺が出したやつが偽物だったら色々とマズいだろ……」

電「ち、鎮守府の外へ遊びに行っていいって事なのですか!?」

提督「そう言う事だ。地図はあとで渡してあげるから、色々と見て回って来い」

電「い、良いのですか!?」 ソワソワ

提督「おう」

電「!! 司令官さん! ありがとうなのです! 一回鎮守府の外にある街に遊びに行ってみたかったのです!」 キラキラ

三日月「で、でもよろしいんですか? お客さんが来るみたいですし、残っていた方が良いのでは……」

提督「その辺は大丈夫だから、安心しなって。ゆっくり羽を伸ばして来い。あまり遅くならないうちに帰ってくるんだぞ?」

金剛「……」 ジー

三日月「……わかりました。お言葉に甘えさせてもらいます」

電「なのです! 早速用意してくるのです!」 バッ

三日月「はや! い、電ちゃん待ってくださいー!」 バッ

 タッタッタッタ

提督「ははは……あぁいうとこはまだまだ子供だな」

提督「金剛も外に行って大丈夫だぞ? だから準備に行って――」

金剛「あのさぁ提督ー」

提督「ん?」

金剛「三日月のことあまり言えないデスヨ?」

提督「え?」

金剛「お客様が来るんですから時間が分からないにしろ多少は準備も必要でしょうし、私達を全員休みにしてくれましたが、まだまだ仕事も残ってマスよネー?」

提督「うっ……それは……」

金剛「その顔は図星みたいデスね」

金剛「……提督も提督で無理しすぎデス」 ジトー



201: ◆jz1amSfyfg 2015/05/13(水) 04:09:22.46 ID:z7U7q1v60


提督「そ、それは……」

金剛「提督はとても優しい人デース。だから駆逐艦のあの子達にあまり負担はかけさせないようにしているって事は分かっていマス」

提督「いや、あの子達だけじゃなく、金剛にも――」

金剛「提督ー? 今は私が話してる時デース」

提督「…………」

金剛「優しくすることは大切ですが、もっと大切なことがありマス」

金剛「信頼することデス」

金剛「私は提督のこと信頼していマス、それは多分電や三日月達も同じダヨー? だから、もっと私達を頼りにしてくだサーイ」

金剛「電なんか今朝、『電は秘書官ですが、あまりそれらしいことはまだやれていないのです』って言ってたヨー? 草むしりすることに必死になっていたのは、多分それも原因デース」

提督「…………」

金剛「……もっとあの子にお仕事をさせてあげるべきデス。あの子は周りのために必死になれる良い子デース。ヅッキーも同じデス」

提督「……そうだったな」

提督「優しくするのと、気を遣い過ぎるのはまた別の話だもんな」

金剛「イエース!」 コクンコクン

金剛「ということで、今日は一日私が秘書官代理デース!」 パァァァ

提督「へ?」

金剛「だからー、私が色々とお仕事手伝ってあげるデース! 二人っきりで、ネ!」 キラーン

提督「えぇぇえ!? いや、それはありがたいけど……」

金剛「あんなに喜んでた電とヅッキーに今さら何かしてくれなんて言えないデショー?」

提督「いや、俺が言いたいのはそうじゃなくて……お前も今日休みの日だろ!? しっかり休むべきだ! だから仕事をさせるわけには……」

金剛「お仕事じゃないデース! ボランティアデース!」

金剛「それに……私は提督と一緒にいることがどんなことよりも心休まりマース!」

提督「……お世辞を言っても何も出せないぞ!」 カァァァ

金剛「お世辞なんかじゃないデース」

金剛「私は提督が大好きデスから!」 ニッコリ

提督「……い、電達の地図を用意してくる!」 バッ タッタッタッタ

金剛「あっ、逃げた……も~」 プンスカ

金剛「……でも、ああいうとこも可愛いワ!」 ニコッ



202: ◆jz1amSfyfg 2015/05/13(水) 04:31:19.63 ID:z7U7q1v60


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 〈鎮守府入口〉

電「それでは司令官さん、行ってくるのです!」 ニッコリ

提督「あぁ、気を付けて行って来い。あまり遅くなるうちに帰ってくるんだぞ? 道が分からなくなったら地図を見るか、人に聞いてみるんだ。怪しい人にはついて行っちゃダメだぞ?」

電「はいなのです!」

三日月「司令官、色々とありがとうございます。お土産買ってきますね!」

提督「別に大丈夫だから、しっかり遊んで来い」 ナデナデ

三日月「は、はい!」

金剛「お土産は美味しい紅茶セットでいいデスヨー?」

電「あれ、そういえば金剛さんは行かないのですか?」 キョトン

金剛「私はちょっとやることがあるから鎮守府に残りマース。ちゃんと休むから大丈夫だヨー? 楽しんできてネ!」

電「はいなのです!」

三日月「はい! お土産買ってきますね!」 キラキラ

金剛(ヅッキー、かなりウキウキしてるわね。カワイイー) ホッコリ

電「では、行ってくるのです! 第一艦隊、出撃なのです!」 ゴー!

三日月「では、行ってきますっ!」 ペコリ

 スタスタスタスタ

提督「行ってらっしゃーい」 フリフリ

金剛「行ってらっしゃいデース! ドナドナー!」 フリフリ

提督「出荷されるみたいな見送りはやめなさい」

金剛「HAHAHA! 冗談デース!」

金剛「じゃ、お仕事始めまショーか! テートクー」

提督「あぁ、そうだな」

提督「……金剛」

金剛「ンー? 何デース?」

提督「色々とありがとうな。お前がこの鎮守府に来てくれて本当に良かった。心の底からそう思うよ」

金剛「……ふ、不意打ちは卑怯デース……///」

金剛「ケド、嬉しいデース! バーニング、ラーブ!!」 ギュー

提督「こ、こら! 抱きつくんじゃない!」

金剛「フフー、残った者の特権デース! えへへ!」 ニッコリ



215: ◆jz1amSfyfg 2015/05/31(日) 07:12:57.09 ID:v59+jfDm0


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 ~鎮守府から歩いて15分後~


電「おぉ……中々おっきな街なのです!」

三日月「で、ですね……正直予想よりも大きくて驚きました」

電「三日月ちゃん! まずはどこに行きましょう!」

三日月「そうですね……まずは無難にお洋服とか見に行きましょうかっ」

電「了解なのです!」 ニパァ

三日月(電ちゃん、楽しそうだなぁ……よぉし)

三日月「電ちゃんっ」 スッ

電「?」 キョトン

三日月「結構人が多いですし、お互い道も分からず地図頼りですから、はぐれないように手をつなぎましょう」 ニッコリ

電「……うん!」 ニッコリ

電「三日月ちゃん、ありがとうなのです!」 ギュ

三日月「ふふっ、まだ何もしてませんよ、電ちゃん」

三日月「この三日月が、しっかりエスコートしてあげますねっ」

電「はいなのです!」 ニッコリ

三日月「では、行きましょうか。えーと、地図によるとお洋服屋さんは……」 ジー

三日月「……あっちみたいですっ」

電「はいっ!」



216: ◆jz1amSfyfg 2015/05/31(日) 07:42:14.06 ID:v59+jfDm0


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 〈洋服屋にて〉

電「三日月ちゃん! 次はこのワンピースを着てみましょう!」 キラキラ

三日月「え、えーと……電ちゃん? わ、私どれだけ試着すればいいんですか?」

電「電が満足するまでなのです!」

三日月「は、はぁ……」

三日月(お、おかしいな……私がエスコートしてあげるはずだったのに、いつの間にか主導権を握られてる)

電「~♪」 ニコニコ

三日月(……まぁ、電ちゃんが楽しそうだし、良しとしましょう)

三日月「けど……私がオシャレしたって意味なんてあるのでしょうか?」

電「ありありなのです! 三日月ちゃんは可愛いのですから!」

電「それに、レディーたるものオシャレは誰にだって必要なのですっ。電のお姉ちゃんがいつも言っていたのです」

三日月「わ、私……全然可愛くないですよ? クセっ毛ですし、こんなに地味ですし……」

三日月「……無個性ですし」

電「そんなことないのです!」

電「三日月ちゃん可愛いのです!」 キッパリ

三日月「い、いや……そんなこと……」

電「可愛いのです!」

三日月「え、えと……///」

三日月「はい……///」 カァァァァ

電「ふふっ」 ニコニコ

三日月「し、試着してきます! お時間いただきます!」 バッ

電「はいっ! 行ってらっしゃいなのです!」 フリフリ

電「……やっぱり三日月ちゃんは可愛いのです」 ニッコリ



217: ◆jz1amSfyfg 2015/05/31(日) 09:54:28.24 ID:v59+jfDm0


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

三日月(お洋服、色々買っちゃった。今いる雑貨屋さんもかなり広いし、迷わないようにしなきゃ)

三日月(……なんだか、今が戦争中だという事を忘れてしまいそう)

電「三日月ちゃん! 見てください!」

電「このキーホルダー、とっても可愛いのです!」

三日月「!!」 ドキーン

三日月「な、なんですかこれ……か、可愛いです!」

電「なのです!」

電「このヤドカリさんのキーホルダー」

三日月「はい!」

三日月「けど、何だかこのキーホルダーを見てると特別な感情が湧きますね……何でしょう、この気持ち」

電「それ、電も感じていたのです……不思議なのです」

三日月「……とりあえず……」

電「買いましょう! 一緒に!」

三日月「はい!」



220: ◆jz1amSfyfg 2015/06/04(木) 14:36:20.44 ID:Tedqzuxt0


 スタスタスタスタ

三日月「そういえば、司令官たちへのお土産も探さなきゃですね」

電「なのです。金剛さんは美味しい紅茶セットが良いって言っていましたが、司令官さんは何が良いのか分からないのです」

三日月「そんなの気にしなくていいって言われましたけど、そういうわけにもいきませんし……どうしましょうか」

電「無難なのはお菓子の詰め合わせとかだと思うのです」

三日月「そうですね。何か美味しそうなのあったら買っていきましょうか」

電「はいなのです! まだまだ時間はあるのでゆっくり探しましょうっ」

三日月「はい!」

三日月「……あっ」 ピタッ ジー

電「ん? どうしました三日月ちゃん。……おぉ、可愛いのですー!」

三日月「はい、たまたま目に付いちゃいました」

三日月(……白い猫のキーホルダー)

三日月「急に立ち止まっちゃって、ごめんなさい。……私の姉に白い猫が大好きな人がいるんですが、ちょっと思い出してしまいました」

電「白い、猫が……ですか?」

三日月「はい。まぁ白い猫に限らずどんな猫でも好きなんですけどね。普段はそんなことない! って言い張っているんですが、昔白い猫をキラキラした目で頬を緩ませながらギュ~ッとしていたのを見たことあります」

電「猫さんは可愛いから仕方ないのです」

三日月「ふふっ、確かにそうですね」 クスクス

三日月「けど、その人普段はとてもカッコよくて武人の様な人でしたから、ギャップを感じてしまって……その時の光景は今でも覚えています」 ニッコリ

電(三日月ちゃん、楽しそうに話してるのです)

電「……三日月ちゃん! 三日月ちゃんの姉妹の話、もっと詳しく聞きたいのですっ」 ニッコリ

三日月「……はいっ、いいですよ。少し長くなってしまいますが、大丈夫ですか?」

電「大丈夫なのです!」

三日月「では、あそこのベンチにでも座りながら話しましょう。私も電ちゃんの姉妹さんのお話、聞きたいですから」

電「はいなのですっ」

三日月(……菊月、元気かなぁ)



221: ◆jz1amSfyfg 2015/06/15(月) 04:58:01.51 ID:E0Ln31Hh0


 それからしばらく、私は思い出話を語った。自分の姉妹がどんな人達だったのか、話題は尽きなかった。電ちゃんは、すごく聞き上手だった。話していてとっても楽しい。

電「なるほど……三日月ちゃんの姉妹達は個性的な方が多いのですねっ」

三日月「ふふっ、そうなんですよ。本当にみんな……個性的なんです」

三日月「訓練時代はみんな一緒だったんですが、鎮守府に配属されるときにバラバラになってしまって、前の鎮守府で一緒だったのは如月、弥生、菊月の三人でしたけど……また会いたいなぁ……」

電「……大丈夫なのです! きっとまた会えるのです。司令官さんは睦月型を全員集めてくれるって言っていたのです」

三日月「……そう、ですね。またきっと会えますよね」

電「なのです!」

三日月「……ごめんなさい、私の話ばかりしてしまいましたね」

電「ふふふ、大丈夫なのです。三日月ちゃんのお話、とっても聞きやすくて楽しいのです」

三日月「電ちゃんが聞き上手だからお話ししやすいだけですよ」

電「うーん、そんなことない気がするのですが……」

三日月「とりあえず、次は私が聞き手に回りますね! 電ちゃんの姉妹さん達の話を――」

 グゥゥゥ……

三日月「…………」

三日月「ご、ごめんなさい……わ、私です……///」 カァァァァ

電(かわいい)

電「もうそろそろお昼なのです。仕方ないのです!」

三日月「そう、ですね……はい……切り替えます。どこかお店、空いてるかなぁ」

電「この時間だと、人がいっぱいで混んでそうなのです。……あっ!」

三日月「ん? どうかしましたか、電ちゃん?」

電「……三日月ちゃん、ちょっとここで待っていてほしいのです」

三日月「え?」

電「すぐに戻って来るのです!」 ガタッ タッタッタッタ

三日月「ちょ、い、電ちゃーん!?」

三日月「ど……どうしたんだろ……」



222: ◆jz1amSfyfg 2015/06/17(水) 16:14:08.36 ID:dihI2F9X0


 タッタッタッタ

電(ふふふ……実はさっき美味しそうなクレープ屋さんを見つけたのです!)

電(三日月ちゃんは気が付いてなかったみたいだし、サプライズになるかなぁ)

電(喜んでくれたら嬉しいな~) ニコニコ

電「あ、でもどんなクレープにすればいいのでしょうか……」

電「……な、なんとかなるのです! きっと!」

タッタッタッタ

電(確か、次の角を曲がればもうそろそろ見えてく――)

 スッ  スタスタスタスタ

電「――え?」

電(ひ、人!?)

「ん? ――え?」

 ゴチーーーン!!


電「っう、いたたた……!?」

「っ、ぅう……な、なんなのさ……」

電「ご、ごめんなさいなのです! お怪我はないですか!?」 アセアセ

「……あぁ、大丈夫だ。そちらこそ大丈夫か?」

電「い、電は大丈夫なのです。ほ、本当にごめんなさい!」 ペコリ

「いや、そんなに気にするな。こちらの不注意でもある。こちらこそすまなかった」

「……ところで今……自分の事を電と呼んだが……」

電「え?」

「……いや、何でもない。私だったから良かったが、老人や子供も歩いているんだ。ぶつかって怪我をさせてからでは遅い。今後は気を付けるんだぞ」

電「は、はい……本当にごめんなさい」 シュン

「……まぁ、その様子だと反省してるみたいだし、あまり気落ちするな」 ナデナデ

電「!?」

「……あっ……す、すまない。……つい」

電「だ、大丈夫なのです」

「……そろそろ私は行くよ。少し急いでいてな。……ではな」 スタスタ

電「は、はい! 本当にごめんなさい!」 ペコリ

「…………」 フリフリ

電「……反省なのです」 スタスタ



223: ◆jz1amSfyfg 2015/06/17(水) 16:44:51.16 ID:dihI2F9X0


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 スタスタスタスタ

「……電、か……」

「……確か暁型の四番艦は『電』と言ったか? もしかして今の奴は艦娘だったのだろうか」

「……制服を着ていたな。という事は艦娘の可能性は無きにしも非ず、だな」


「あー!! やっと見つけたっぽい!!」


 スタスタスタ……ピタ

「……はぁ」

 タッタッタッタ!!

「ぽーい!」 ダキッ

「……後ろから抱き着くなといつも言っているだろう」

「ふふー、勝手にいなくなったのは誰っぽい?」

「……知らんな」 プイ

「ふふふー……」



「菊月ちゃんっぽい!」

菊月「……貴様が私を着せ替え人形みたいにして遊ぶからだろう。バカ立」

夕立「バカ立じゃなくて夕立っぽい!」 プンスカ

夕立「とか言いつつ、試着させた服は買って今も着てるっぽい~」 ニヤニヤ

菊月「……艦娘だと怪しまれないための配慮だ」 プイ

夕立「嘘が下手っぽい~」

菊月「……う、うるさい。気に入ってなどいないからな。貴様から選んでもらっても嬉しくなんかないからな。こんな服気に入ってなどいないからな!」

夕立「……菊月ちゃん、ほんと可愛い~!」 ギュー

菊月「は、離れろ! というか、お前はなおさら配慮しなきゃいけないだろう。お前、今は目が赤いんだぞ?」

夕立(改二)「む~、菊月ちゃん細かすぎぃ~。目の色なんか一々気にしてる人いないっぽい」

菊月「いや、普通にいっぱいいるだろう」

夕立「まぁまぁ、せっかく提督さんが遊んできていいって言ってくれたんだから、細かいことはなしにするっぽい!」

夕立「こんな遠い所、めったに来れないっぽい!」

菊月「まぁ……確かに私達の鎮守府からここまでかなり遠かったが……だからと言って……」 ブツブツ

夕立「相変わらず菊月ちゃんはくそ真面目っぽい~」

菊月「少し黙れ」



224: ◆jz1amSfyfg 2015/06/17(水) 17:12:05.03 ID:dihI2F9X0


菊月「それに、用がある鎮守府まではここからさらに距離があるんだろ? 司令官は大丈夫なのか私達を置いて行って」

夕立「まぁ、神通さんが付いてるし、平気だと思うよ?」

夕立「それに、用がある鎮守府ってここから“15分も歩けば着く”って聞いたっぽい」

菊月「……まぁ、司令官の配慮は無駄にしたくないからな。ちゃんと遊びはするが、ある程度時間が経ったら私達も鎮守府へ向かうぞ。いつまでも遊んではいられんだろう」

夕立「ぽーい」

菊月「返事ははいだろ」

夕立「はーい」

夕立「それじゃあ菊月ちゃん? 次はどこ行くっぽい?」

菊月「……そうだな。そろそろ小腹が空いてきた。どこかでお昼にするか」

菊月「この辺にある美味しそうな定食屋は……」 バッ

夕立「……菊月ちゃん? その今広げた雑誌は何っぽい?」

菊月「ん? あぁ、この街のガイドブックだ。先ほど買った。これでいい店を探しやすくなるぞ!」 キラキラ

夕立(究極に無駄遣いしてるっぽい)

 スタスタスタスタ

菊月「ふむ……ここも良さそうだが……カレー屋も捨てがたいな……」 ブツブツ

夕立「ながら歩きは危険って提督さんが言ってったっぽい」

夕立(ほんと菊月ちゃんはくそ真面目っぽい)

 スタスタスタスタ


 ピタッ


夕立「…………は?」

菊月「ん? どうした夕だ――」

 ガシッ

夕立「…………」 スタスタスタスタ

菊月「お、おい!? い、いきなりどうしたんだ!?」 スタスタスタスタ

夕立「……夕立、さっきこっちの方で美味しそうなクレープ屋さん見かけたの。そこいこ」

菊月「いや、いきなりすぎるだろう! ……そ、そして……て、手!」

 スタスタスタスタ






三日月「…………」

三日月「……電ちゃん、遅いなぁ」



231: ◆jz1amSfyfg 2015/06/26(金) 03:39:10.07 ID:PvHoD9jd0


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 がやがやがやがや

三日月「…………」

三日月(う、うーん……一人だとやっぱり不安になるなぁ……人多いし)

三日月「…………」

三日月「電ちゃん、遅いなぁ」

 スタスタスタスタ

電「三日月ちゃーん!」

三日月「! 電ちゃん!」 パァァァ

電「はぁ……はぁ……ごめんなさいなのです。ちょっと、遅くなってしまいました」

三日月「別に大丈夫ですけど……いきなりだからビックリしましたよ。どこ行ってたんですか?」

電「えーっとですね……説明するよりこれを……じゃじゃーん! なのです!」

三日月「……く、クレープ?」

電「はいなのです。実はさっき、美味しそうなクレープ屋さんを見つけたので、三日月ちゃんと一緒に食べてみたかったのですっ。はい、どーぞ」 ニッコリ

三日月「あ、ありがとうございます。……けど、どうして教えてくれなかったんですか?」

電「えと……電なりのサプライズだったのです」

三日月「……いきなり一人にされたから、ちょっと寂しかったんですよ?」 ジトー

電「あっ……えと、その……ごめんなさいなのです」 ショボン

三日月「けど、ありがとうございます。電ちゃんが私のためにしてくれた行動だって、分かってますから」

三日月「すごく嬉しいですっ」 ニコリ

電「!! う、うん……ありがとう、なのです」 ニコリ

三日月「ふふっ、なんで電ちゃんがお礼を言うんですか。ささ、一緒に座って食べましょうっ」

電「はい! 味はオススメって書かれていたチョコバナナクレープなのです!」 ササ

 キラキラ

三日月「……改めてみると、すごく美味しそうです」 キラキラ

電「……電も運んで来る途中よだれが出そうになったのです」 キラキラ

三日月「あっ、そういえばお金払ってませんね私! おいくらでした?」

電「ふふ、良いのです。電のおごりなのです。そんなに高くなかったですし」

三日月「ええ!? そ、そういうわけには」

電「いーのです! それでは、いただきますなのです!」 パクリ

三日月「え、ちょ、はや……こ、今度は私が奢りますね! いただきます!」 パクリ



232: ◆jz1amSfyfg 2015/06/26(金) 04:15:52.34 ID:PvHoD9jd0


電「…………」

三日月「…………」

電「……お」
三日月「……お」

電・三日月「「おいしー!!」」

電「こ、このクレープ……間宮さんのアイスにも負けてないのです!」 キラキラ

三日月「薄い、もちもちの生地の中にたっぷりの生クリームとパリパリのチョコレートっ。そこへ完熟した甘いバナナが絡んできて……お口の中を満足させます! それに加えて生クリームがぎっしりと詰まっているのに甘さが少し控えめでミルク感がたっぷりと味わえ、チョコレートの食感がバナナとクリームの味をより一層引き立ててきて……!!」 キラキラ

三日月「最高のチョコバナナクレープです……電ちゃん! ありがとうございます!!」 キラーン

電「……う、うん。よ、喜んでもらえて電も嬉しいのです」 ニコリ

電(三日月ちゃん、すっごいキラキラしてる)

三日月「~♪」 モグモグ

電(けど、こんなに喜んでもらえてうれしいなぁ) ニコニコ

三日月「……はぁ……幸せぇ……」 ウットリ

電(……写真に収めたいのです) プルプル

 ブー、ブー、ブー

電「ん? 通信機に着信……?」 キョトン

三日月「あれ、それ司令官が持たせてくれた物ですよね?」

電「そうなのです。ちょっと、出ますね」

 ピッ

提督『おっ、繋がった繋がった』

電「司令官さん? どうかしたのですか?」

提督『あぁ、遊んでる時にすまないな。特に大変なことが起きたわけじゃないんだけど、伝えることがあってな。三日月も聞こえてるか?』

三日月「はい、聞こえていますよ。司令官」

提督『そっか、じゃあそのまま一緒に聞いててくれ』

提督『二人とも知っているだろうけど、実は今別の鎮守府の提督がウチの鎮守府に来ているんだけどさ』

提督『向こうの提督が是非とも二人に会いたいと仰っているんだ』



233: ◆jz1amSfyfg 2015/06/26(金) 04:43:02.02 ID:PvHoD9jd0


電「い、電達に……?」

提督『そそ。特に三日月に会いたがっていてな』

三日月「え!? わ、私にですか?」

提督『あぁ、理由は教えてくれなかったんだけどさ。それで、本当に申し訳ないんだけど、近々鎮守府に戻って来れるか? そんな大急ぎじゃなくても大丈夫だけどさ』

電「なるほど……分かったのです」

三日月「お客様が私達に会いたいと仰っているんですから、あまりお待たせするわけにもいきませんね。すぐに鎮守府に戻りましょう!」

電「電もそう思うのですっ。司令官さん、急いで鎮守府に戻りますね」

提督『おう、分かった。……いやぁ、本当に申し訳ない。また別の日に休みを作るからな』

電「色々と見て回れましたし、とっても楽しめたので、そんなに謝らなくても大丈夫なのですっ」

三日月「お土産もありますから、楽しみに待っててくださいねっ」

提督『ははは、別に気を遣わなくても良かったのに。けど、ありがとうな。楽しみにしてる』

提督『気を付けて帰って来るんだぞ? そんなに慌てなくても大丈夫だからさ』

三日月・電「はいっ」

提督『そんじゃ、また後でな』

 プツンッ

三日月「……なんか、予想外の事が起こりましたね」

電「なのです」

三日月「特に私に会いたがってるかぁ……」

三日月(珍しい人も……いるんだね)

電「とりあえず……これ食べ終わったら戻りましょうか」

三日月「はいっ」

 ――本当に、心の底から珍しい人もいるんだなと思った。睦月型の、しかも10番艦の私なんかに会いたい人がいるだなんて……。
 いったいどんな人なんだろうか。私は少し緊張しながら、残りのクレープを食べた。



 ――そして、私はこの後身を持って実感することになる。

 運命は時に残酷なんだと。



234: ◆jz1amSfyfg 2015/06/26(金) 05:02:09.59 ID:PvHoD9jd0


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 スタスタスタスタ

電「いったい、どんな人なんでしょうか。失礼のないようにしなきゃ」

三日月「電ちゃんならその点は大丈夫だと思いますよ?」

電「いや、電はあがり症ですから……緊張したら何をやってしまうかわからないのです……この前もそれで司令官さんに迷惑をかけちゃったのです」

三日月「うーん、私もあがり症ですから、気持ちは痛いほどわかります。なんであんなことやってしまったんだろうってすっごい後悔しますよね」

電「そうなのです……手だけは出さないようにしなきゃ……この前は司令官さんのお腹にパンチしちゃいましたから……はぁ、本当に何やってるのですかあの時の電……」

三日月「…………」

三日月「そう、ですね……手だけは、出しちゃダメですよ……」

電「……三日月ちゃん?」

三日月「え?」

電「さっきよりちょっと元気ないように見えますけど……大丈夫ですか?」

三日月「……なぜだか分からないんですけど、鎮守府が近づくにつれて、なんだか嫌な予感がしてくるんです。それが原因かもしれません」

電「嫌な予感?」

三日月「はい。よくわからないんですけどね」

電「……三日月ちゃん」 ギュ

電「何かあったらすぐに電に言ってくださいね?」

三日月「……うん」



235: ◆jz1amSfyfg 2015/06/26(金) 05:38:44.55 ID:PvHoD9jd0


 スタスタスタスタ   ピタ

電「ふぅ……ただいまなのです」

三日月「…………」

 私達は、鎮守府に帰ってきた。入り口の門は今朝草むしりをしたからか、とっても綺麗だった。
 この鎮守府の風景は見ていてなんだか安心できるし、来てあまり日は経っていないのに、ここはすでに私にとって大切な場所になっている。

三日月「……っ」

 けど、なぜだろう。

三日月「……っ!」 プルプル

 今は、入りたくなかった。

電「み、三日月ちゃん?」

三日月「――え?」

電「大丈夫……ですか? 手が……」

三日月「……?」 プルプル

 自分の手を見つめる。震えている。理由は分からない。
 汗が頬を伝って流れる。息が苦しい。理由は分からない。

三日月「だ、大丈夫ですよ。あはは……」 ニッコリ

 けど、電ちゃんにはあまり心配をかけたくなかった。

電「……本当に、何かあったら言ってくださいね?」 ギュー

三日月「……はい」

 タッタッタッタ

金剛「オーイ、ヅッキー! 電ー!」 ニコー

電「あっ、金剛さん!」

 タッタッタッタ   スタ!

金剛「ヘーイ! おかえりなさいデース! デートは楽しかったデース!?」

電「で、デート!?/// そ、そんなんじゃないのです!」

電「あっ、け、けど、とっても楽しかったのです! お土産もあるのですっ」

金剛「オーウ! とっても嬉しいデース!」

三日月「……」

金剛「あれれー? ヅッキーどうしたデース?」

三日月「……え? あっ、金剛さん。……ただいまです」

金剛「……何かあったのデスか?」

三日月「い、いえ……大丈夫ですよ?」 ニコリ

金剛「……とてもそうには見え――」

電「こ、金剛さん! 今お見えになっている方はどんな人なのですか!?」

金剛「…………」

金剛「……ふふー、とっても優しい提督さんとその秘書官デース! きっとヅッキー達にも優しくしてくれマース!」 ニッコリ

電「本当ですか!? よ、良かったのです!」 ギュー

 電ちゃんの握る手が、少し強くなった。

三日月(電ちゃん……私に気を使ってくれてる……)

三日月「た、楽しみです!」 ニッコリ

 こんなわけのわからない症状に負けちゃダメだ。そう必死に思い込み、私は謎の苦しみを抑え込んだ。



236: ◆jz1amSfyfg 2015/06/26(金) 06:04:29.98 ID:PvHoD9jd0


 スタスタスタスタ

三日月「…………」

金剛「――デネー、中々話の分かる――」

電「――は楽し――のです」

 二人の会話がまるで耳に入ってこなかった。
 理由の分からない苦しみに耐えるので精一杯だった。

三日月(ホントに、どうしたんだろ……私……)

金剛「――ッキー。ヅッキー!」

三日月「え?」

金剛「ヅッキー、聞いてましたカー?」

三日月「え……その、ごめんなさい……ちょっとボーっとしてて」

金剛「もーう、ではもう一回聞きますヨー?」

金剛「クレープ、そんなに美味しかったデース!?」 キラキラ

電「もう最高だったのです! ね? 三日月ちゃん」

三日月「は……はい! とても美味しかったですよ」

金剛「オーウ……今度は私も連れてってネー」

電「はいなのです! 今度は皆で一緒に行きましょうっ」

金剛「イエース!」

三日月「…………」

電(三日月ちゃん……本当にどうしたんだろう……)

 スタスタスタスタ

金剛「みんな司令室にいますヨー。もうすぐデース」


 ――ドクン、ドクン


三日月「……っ!」 プルプル

 苦しい。気持ちが悪い。震えが止まらない。嫌な予感がする。――嫌な予感しかしない。

三日月「はぁ……はぁ……」

電「み、三日月ちゃん。……部屋に戻りましょう。真っ青なのです……」

 そうしたかった。今すぐにでも、ここから逃げて部屋に行きたかった。
 でも、そういうわけにはいかない。

三日月「……大丈夫です、よ。……私達に会いたいって言っているのに、行かないわけにはいきませんよ」

電「……わかったのです」 ギュー

三日月(……ごめんね……電ちゃん)




237: ◆jz1amSfyfg 2015/06/26(金) 06:44:02.39 ID:PvHoD9jd0


 スタスタスタスタ   ピタ

金剛「さ、司令室の前に着いたデース。二人ともー? 失礼のないようにしなきゃダヨー?」

電「はいなのです」

三日月「……は、はい……」


「――――」

「――ははは!」


 司令室の中から少し声が耳に届く。司令官の笑い声だ。

 ――ドクンドクンドクン

三日月(落ち着け私……落ち着け私)

 必死にそう言い聞かせ、苦しみを抑え込む。――けど、嫌な予感は収まらない。

 嫌な予感とはどういった嫌な予感か。……考えたくないものだった。
 そんなことはあり得ないと必死に思い込むけど、私の勘が嫌な予感を何度も何度も頭に過ぎらせる。

金剛「それじゃ、入るヨー?」

 コンコンコン

金剛「金剛デース! お二人を連れて戻ってきましター!」

提督「お疲れ様。入ってくれ!」

 中から司令官の声がはっきりと聞こえる。

 ――ドクンドクンドクンドクン

 疑問が生まれる。お客様はどんな方なのだろうか。

 ――ドクンドクンドクンドクン

 嫌な予感が頭を過ぎる。


『僕には、君と同じくらいの大きさの娘がいる。あの子も君と似ていて頑張り屋さんでな。いつも無茶をするんだ』

『時には休むことも大事なんだ。今はゆっくり休みなさい。明日は期待しているよ?』

『……役立たずめ』

『頑張ってる? そんなの分かっているさ。……でもな』

『君の頑張りなんて他の艦娘達と比べたらまだまだなんだよ』


『所詮は睦月型だな。役立たずめ。加えてお前は無個性……やれやれだな』


 もしかしたら、この鎮守府に訪れている他の鎮守府の提督は――前の司令官なんじゃないかなって。

 ガチャ

三日月「――……っ……!!」

神通「……」

 運命は時に残酷だ。
 嫌な予感というのは、やたら的中する。

「やぁ、三日月」

三日月「ぁ……っ……!」 ブルブル

前提督「……久しぶりだね」 ニヤリ



243: ◆jz1amSfyfg 2015/06/30(火) 03:04:35.97 ID:3pleY1h/0


 二度と会う事はないんだろうなと思っていた。……“会ってはいけない”んだろうなと思っていた。
 ――身体が震える。
 先ほどから私がこんな状態になっていた理由が、今わかった。――身体は理解していたんだ。司令官にここで会うという事を。

三日月「し……司令、官……」

提督「……え?」 キョトン

提督「大佐、三日月と知り合いなのですか?」

前提督「ははは、知り合いもなにも、ねぇ……」 ジロ

三日月「……っ」 ゾク

前提督「元々彼女は僕の鎮守府にいた子だからね。ちょっと席を立たせてもらうよ」 スタ

 コン、コン、コン、コン

三日月(こっちに向かって、くる)

 コン、コン、コン、コン   ピタ

前提督「…………」

三日月「…………」 ブルブル

前提督「……ふぅ……」 ヤレヤレ

 スッ

前提督「挨拶はどうした」

三日月「!!」 ビクッ

三日月「お、お久しぶりです……司令官!」

三日月「あ、挨拶遅れて、も……申し訳、ありませんでした」

前提督「……あぁ、久しぶりだねぇ、三日月。何日ぶりかな?」

三日月「た、多分……じゅ、12日ぶりだと思います……」

前提督「……へぇ」

前提督「なぁ、三日月」

前提督「その多分ってのは……なんだい?」

三日月「……え?」



244: ◆jz1amSfyfg 2015/06/30(火) 03:49:42.64 ID:3pleY1h/0


前提督「何度も言う通り、私と君が会うのは久しぶりだ。そう、久しぶりなんだ」

前提督「私は君の元上官だ。そんな私と久しぶりに会うのに、君は何日ぶりかという情報を『多分』なんていう曖昧な言葉で伝えるのかい?」

三日月「っっ!!」 ビク

三日月「じゅ、12日ぶりです!」

前提督「……ははは」 ニコニコ

 スッ

前提督「……13日ぶりだ、この無能が」

三日月「……ご、ごめんなさい……」

電「!!」 ピク

金剛「…………」

提督「は?」

前提督「ん? 何だい? “少佐”殿」 ニッコリ

提督「あっ、その……いえ。何でもありません」

前提督「そうか。よし、じゃあさっきの続きの会話でも――」

電「あ、あの!」

前提督「ん? 君は……」

電「……暁型4番艦、電なのです。あなたが会いたいと言っていた」

前提督「!! ――あぁ、君が電か。特型駆逐艦は非常に優秀だと聞いたからね、会いたかったんだよ」

電「……光栄なのです」

前提督「……んで、少し気になってはいたんだが、何で君は三日月の手をずっと握っているんだい?」

電「……それは三日月ちゃんと電が大の仲良しだからなのです」 チラ

電「ね?」 ニッコリ

 ギュー

 電ちゃんの握る手が、また少し強くなる。
 そして、優しく微笑んでくれている。その表情はまるで「大丈夫だよ」と言ってくれているかのような、上手く言い表せられないけど、安心感の様なモノを感じさせる。

 きっと、私の事を心配してくれているんだ。ずっと。私の具合が悪くなった時から、ずっと。

 ねぇ、電ちゃん。――なんでそんなに優しいの?

三日月「…………」

電「み、三日月ちゃん?」

 電ちゃんは、優しい子だ。こんな私に優しくしてくれるし、その優しさは敵であるはずの深海棲艦にまで向けている。
 街にいたときだってそうだ。私に気を使ってくれてた。

 ――そんな子が、私なんかの友達で、いいのかな? こんな“役立たず”で“無能”なんかの私で。


 ――ぱっ……

電「……え!? な、なんで手を……」 アタフタアタフタ

三日月「…………」

電「み、三日月、ちゃん……? ど、どうしたのですか?」

前提督「……ははは」

前提督「電ちゃん、だっけ?」

前提督「友人はちゃんと選んだ方が良いよ? 友人にするべき人にはアタリとハズレがある」

前提督「……そいつは、“ハズレ”だよ」 ニコ



245: ◆jz1amSfyfg 2015/06/30(火) 04:34:01.42 ID:3pleY1h/0


 バァン!!

提督「…………」

前提督「……どうしたんだい? 少佐殿」

提督「……金剛」

金剛「……ヘーイ、何でショー?」

提督「紅茶、淹れて来てくれないか?」 ニコ

金剛「……オーウ! オッケーですヨー!」 ニッコリ

金剛「私がとっても美味しい紅茶を入れて持ってきてあげマース!」

提督「大佐、いきなり机を叩いてしまって失礼しました。少し変な虫がいたんですが、逃がしてしまいました。変な音を立ててしまったから、気分を害してしまったでしょう。気分を変えるために、うちの鎮守府の金剛が美味しい紅茶をお持ちいたします」 ニコリ

前提督「……おぉ、それは楽しみだね。期待して待っているよ?」

金剛「HAHAHA! 期待しててネ! ……頬が落ちないように気を付けてネー?」 スタスタ


電「…………」

電(……司令官さんが、あの大きな音を立てて空気を変えてくれなかったら、危なかったのです)

電(……ぶん殴っちゃいそうだったのです) ギリ

三日月「…………」

電「……三日月ちゃん」

三日月「……ごめんね、電ちゃん……」

電「何が、なのです……?」

三日月「私なんかの友達になっちゃ、ダメだよ……絶対にいつか迷惑かけちゃうし、私は電ちゃんの友達を名乗る資格なんて、ない。電ちゃんは、もっとマシな人と――」

 ガシッ

三日月「え?」

電「み、三日月ちゃん」

電「それ……本気で言っているのですか?」

電「本気で言っているんだったら……電、怒るのです」

三日月「……ほ、本気よ……だ、だって! 私は!」

 ――パシーン!!

三日月「――え?」

電「……み、三日月ちゃんの……ばか!!」 ポロポロ

三日月「……」

 電ちゃんが、泣いている。一瞬何をされたか分からなかった。だけど、右の頬が痛いことに気が付いて、何をされたかもわかった。

三日月「…………」

 ことばが、見つからない。なんて言えばいいのか、わかんなかった。

三日月「い、電ちゃん……」

電「…………」 スタスタ

 私から離れていく電ちゃんに、私は何も言えなかった。

三日月「……」 ジワァ

 そして、ぶたれた頬よりも、胸の方が痛かった。



246: ◆jz1amSfyfg 2015/06/30(火) 05:23:06.36 ID:3pleY1h/0


 スタスタスタスタ

神通「……三日月ちゃん」

三日月「!!」 ゴシゴシ

三日月「じ、神通さん……お久しぶりです。」

神通「はい、お久しぶりです」

神通「会えてうれしかったわ。元気そうで何よりです」 ニッコリ

三日月「……はい。私も、嬉しいです。ごめんなさい、お恥ずかしいとこを見せてしまって。神通さん、前より綺麗になられましたね」

神通(改二)「ふふ、ありがとうございます」

神通「それと、さっきの事は大丈夫ですよ。……良い友人じゃないですか、彼女」

三日月「…………」

神通「……さっきのは、三日月ちゃんが完全に悪いです」

三日月「え?」

神通「何がどう悪かったのか、しっかり考えて、彼女には謝らなきゃいけませんよ? 三日月ちゃんの悪い所が出ていましたよ?」

三日月「……私の悪い所なんて、いっぱいあり過ぎて……分かりません。……神通さんが一番分かっているはずですよ?」

神通「ええ。……ですが、あなたの良い所も同じくらい知っています」

三日月「…………」

神通「答えは言いません。自分で見つけて、自分で答えにたどり着くのよ? 訓練だと思って、頑張ってください」

神通「……あと、ごめんね」 ボソ

三日月「…………」

前提督「神通」 クイクイ

神通「……はい、提督。すぐにそちらへ行きます。……では」 ペコリ

 スタスタスタスタ

三日月「…………」

 神通さんは、相変わらずいい人だった。前の鎮守府でも、神通さんはずっと優しかった。
 ――……私はあんなことをしてしまったのに。



247: ◆jz1amSfyfg 2015/06/30(火) 05:23:54.72 ID:3pleY1h/0


 prrrr

前提督「すまない、私だ。出ていいかい?」

提督「ええ、お構いなく」

前提督「では失礼」 ピッ

前提督「あぁ、私だ。……うん。うん。……随分と早いね。もっと遊んでても良かったんだよ? ……そうか、分かった」 ニッコリ

三日月「……」 ジー

前提督「……なんだい?」

三日月「!! い、いえ……失礼しました」

前提督「あぁ、ごめん、なんでもないよ。……分かった。そこで待っててくれ。……うん、じゃ」 ピッ

提督「どうかなさったんですか?」

前提督「あぁ、実は他の艦娘も二名ほど同行させていたんだけど、あまりぞろぞろとやってくるのもどうかと思って、近場の街で遊ばせていたんだ。……けど、その子たちがここにやってきたらしく、今入口にいるらしい」

提督「あぁ、本当ですか。では案内を……」

電「電が行くのです」

提督「……わかった。では電に任せようかな。お願いする」

電「了解なのです」

前提督「よろしく頼むよ」

電「……はいなのです」

 スタスタスタスタ

三日月「……あっ……」

電「…………」 スタスタ

電「……三日月ちゃんは、休んでてください……」 ボソ

三日月「…………」

 スタスタスタスタ

三日月(どこかで、謝らなきゃ……)



258: ◆jz1amSfyfg 2015/07/01(水) 20:59:00.57 ID:AMfiezTP0


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

電「…………」 スタスタ

電「……っ……」 スタスタ

電(電は……最低なのです……三日月ちゃんの事を馬鹿にされて怒ったのに、その三日月ちゃんをぶっちゃうなんて……)

電(……でも、なんであんなこと言ったのかな……三日月ちゃん)

 スタスタスタスタ

 ――ガチャリ

 スタスタスタスタ

電「…………」 スタスタ


夕立「あっ、誰か来たっぽい!」

菊月「……お前、こんなとこに来てまでそんな話し方するのか……」

夕立「癖だからしょーがないっぽい!」

電「こんにちはなのです。電は――って、え?」

菊月「…………」

菊月(やはり、艦娘だったか)

電「あ、あなたは……先ほどお会いした……」

菊月「あぁ、この鎮守府の艦娘だったのか。ならば、あの街にいたことも納得ができる。……先ほどぶりだな。暁型4番艦……電」

電「な、何で知って……って、そうじゃなく、あの時は本当にごめんなさいなのです!」 ペコリ

菊月「別に気にしなくていいさ。私の不注意でもあったしな」

夕立「???」 キョトン

夕立「お二人とも、知り合いっぽい?」

電「お知り合いと言うか……その……」

菊月「……お前から逃げてる時にぶつかって、少し会話した程度だ。……なんとなく予想はしていたが、まさかここの艦娘だとは思わなかったけどな」

菊月(……特型駆逐艦も、見かけはあまり私と変わらないのだな)

夕立「え!? って事はあなたもあの街にいたっぽい!? そして菊月ちゃんと会ってたのに再会っぽい? すっごい偶然っぽい!」 キラキラ

夕立「ねぇねぇ、あなたお名前なーに? 私、白露型駆逐艦、夕立よ! よろしくね!」 グイグイ

電「あ、暁型4番艦、い、電なのです……よろしくなのです」

夕立「うん! よろしくっぽい!」 ニコニコ

電(お、お犬さんみたいな子なのです……)

電(……けど……) ジー

夕立「♪」 ニコニコ

電(む、胸の大きさは駆逐艦とは思えないのです!!)

菊月「……見ての通り、やかましい奴だが……悪い奴じゃない」

菊月「私は……菊月だ。よろしく頼む」

電「……え? 菊月、さん? もしかして、睦月型のですか?」

菊月「……そうだが?」

電「も、もしかして、三日月ちゃんの……お姉ちゃんですか?」

菊月「!!」

夕立「……」 ピク



259: ◆jz1amSfyfg 2015/07/01(水) 21:27:42.57 ID:AMfiezTP0


菊月「お前……三日月と知り合いなのか?」

電「は、はい。三日月ちゃんはこの鎮守府はできたばっかで、まだ艦娘は三人しかいないのです。三日月ちゃんは電の次……っといってもほぼ同時ですけれど、二人目の子なのです」

菊月「……そう、か……」

夕立「……やっぱり、あの街で見かけたのは見間違いじゃなかったのね……」

菊月「!! お前、三日月を街で見かけていたのか!?」

夕立「…………」 コクン

菊月「だったらなんで言わ――」

夕立「…………」

菊月「……いや、すまない……。……そう、だったのか」

電「……あ、あの……お聞きしたいことがあるのです」

菊月「……なんだ?」

電「三日月ちゃんと……そちらの司令官さんについ――」

夕立「ねぇ」

夕立「……あの子の話、しないでよ」

電「え?」

夕立「あの子の名前なんて、聞きたくもないっぽい」

夕立「……イライラするっぽい」

菊月「…………」

電「……な、なんですか……それ……!」

電「なんですか!! それ!!」

菊月「……」

夕立「……」

電「そちらの司令官さんも!! 夕立さんも!! なんでそんなひどい態度なんですか!!」

夕立「……」

電「夕立さん、さっきまであんなに笑顔だったのに、なんで三日月ちゃんの名前が出ただけで、そんな風になるんですかッ!!」

電「……み、三日月ちゃんが……可哀想なのです……!!」 ジワァ

夕立「……さいな」

電「……え?」

夕立「――うるっさいなぁ!!」

電「――ッ!?」 ビク



260: ◆jz1amSfyfg 2015/07/01(水) 21:58:41.62 ID:AMfiezTP0


夕立「……あの子の名前を出さないでって言ったでしょ……」

夕立「……けど、怒鳴ってごめん……ぽい」

電「……っ……!」 グッ

電「怒鳴ったことなんて別に大丈夫なのです! けど、あなたの司令官さんは三日月ちゃんになんで――」

夕立「……黙ってッ!!」

電「だ、黙らないのです!!」

電「あなたの司令官さんは!! 三日月ちゃんの事を“無能”って言ったんですよ!? それに、他にもいろいろ言っていましたし、態度だって……あなたの司令官さんは優しくていい人だって聞いていたのです。けどそんな要素どこにも――」

夕立「黙れってッ!! 言ってるでしょッ!!」 ギロ

電「っ――!!」 ビク

夕立「……提督さんのこと、よく知りもしないくせに……!!」 プルプル

菊月「…………」

電「……し、知りませんよ! ……だけど」

 ガシッ

夕立「…………」

夕立「……電ちゃん、だったっけ?」

夕立「……そんなに知りたければ、教えてあげるっぽい。覚悟して聞いてよ」


夕立「あの子は……提督さんの娘とお嫁さんを、殺したのよ……!」


電「――え?」



261: ◆jz1amSfyfg 2015/07/01(水) 22:27:33.91 ID:AMfiezTP0


電「う……うそ……」

電(……み、三日月ちゃんが……?)

夕立「……嘘じゃないよ」

夕立「私とあの子は、ずっと一緒の部隊だった。その時の様子も一緒に見てる」

夕立「それに、あの子が“自分自身で”言ってる。『私は人殺しです。司令官の娘さんとお嫁さんを殺したのは私です』って。……全部本当のことよ」

電「…………」

夕立「……その様子だと、何にも聞いてなかったみたいね。……何にも変わってないのよ……あの子は……いっつも一人で抱え込んでさ……!!」 ギリ

夕立「……ホント、イライラするっぽい……」 パッ

夕立「それに……あの子は提督さんのことを……!!」

菊月「夕立!!」

夕立「――!!」 ハッ

菊月「もう、やめてくれ……聞いてて……つらいんだ……」 フリフリ

夕立「……ごめん……なさい」

電「…………」

夕立「……電ちゃんも……ごめんなさい……」

電「……電も……ごめんなさいなのです……」

電「…………」

夕立「…………」

菊月「…………」

菊月「……電。司令室までの案内を頼む」

電「……はい。こちら……なのです……」 スタスタ

菊月「……感謝する」 スタスタ

夕立「……」 スタスタ



262: ◆jz1amSfyfg 2015/07/02(木) 02:02:58.80 ID:OCzmjaGo0


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

三日月「…………」

金剛「ヘーイ皆さーん! 紅茶ができたヨー!」

提督「おぉ、ありがとう金剛」

前提督「いい香りだね。ありがとう」

金剛「いえいえー」

金剛「はい! 神通もどーぞデース!」

神通「あっ、ありがとうございます。いい香りですね」 ニコ

金剛「神通とはさっき紅茶トークで盛り上がった仲デース! また話しまショー!」 ニッコリ

神通「ええ、楽しみにしています」

三日月(金剛さん……もう神通さんと仲良くなったんだ。さすがだなぁ)

三日月(それにしても電ちゃん……ちょっと遅い。何かあったのかな)

金剛「へいヅッキー。美味しい紅茶を持ってきたヨー」 スタスタ

三日月「あ、ありがとうございます」

金剛「ノープログレムデース。お隣いいデスカー?」

三日月「……はい」

金剛「オウ、センキュー! では、失礼しマース」 スッ

三日月「…………」 ズズー

金剛「はぁ……幸せデース……紅茶 is god……」 ポワー

三日月「……金剛さん、すっごい幸せそうですね」

金剛「イエース。三度の飯より紅茶が好きデース」 ニッコリ

三日月「ご飯はしっかり食べなきゃですよ?」

金剛「わかってますヨー? 紅茶でお腹は膨れまセーン」

三日月「でも、飲み過ぎると水っぱらになってお腹出ちゃいますよ?」

金剛「え? それマジ?」 ガーン

三日月「ずっとではないから大丈夫ですよ。けど、飲み過ぎは良くないので、控えめが良いかと」

金剛「……1日8杯なら……セーフデスか?」 グヌヌヌヌ

三日月「ふふふ、多すぎですよ、それは」 クスクス

金剛「……やっと笑ってくれたデース」

三日月「え?」

金剛「ヅッキー、ずっと不安そうな顔でしたから、私心配だったデース」

金剛「ヅッキーは悲しそうな表情より、笑っている方がステキデース」 ニッコリ

三日月「……金剛さん……」



263: ◆jz1amSfyfg 2015/07/02(木) 02:55:28.95 ID:OCzmjaGo0


金剛「……ヅッキー」

 ギュ

金剛「……Youは頑張り屋さんデス。毎日の訓練も頑張っていマスし、朝早起きして朝練までしてる努力家デース」 ボソ

金剛「それに、思いやりのある優しい子デス。それは電も同じデス」 ボソ

金剛「電の場合はちょっとお寝坊さんデスけれど」 クスクス

三日月「…………」

 金剛さんは私を抱き締めながら、小さく耳元で囁いてくれた。

金剛「私は……そんなお二人が大好きデース。提督と同じくらい、私はあなた達が……」 ボソ

金剛「……大好きなの」 ギュ

三日月「……金剛さん……」

金剛「だから、あの人に三日月を馬鹿にされた時……すごく……嫌な気持ちになりマシタ。イラっとしマシタ」

金剛「……ケド、最初会った時とかは本当に良い人デシタ。……さっきは人が変わったようでしたけれど、今もさっきみたいな様子は見られません。……だから……何か理由はあるんだと思いマス」

三日月「…………」 ギュ

 理由はもちろんある。だって私は……あの人にとっては……。

金剛「……その理由は、聞きません。三日月が話したくなった時に話してくれればいいデスし、話したくないならいいデス」

金剛「……ケド、これだけは覚えておいてくだサーイ」

三日月「…………」

金剛「私は……何があってもあなたの味方ヨ」 ギュー

金剛「……提督も一緒デース。さっきまであの人との会話はすごく楽しそうでしたけれど……」


前提督「――――」

提督「……ははは」


金剛「今はちょっとぎこちない笑い方してマース。提督も同じ気持ちなんデス」

三日月「……司令官……」

金剛「……ここの鎮守府のみんなは、三日月が大好きデス。だから……何かあったら……」

金剛「……私達に頼って……」 ギュー

三日月「……金剛、さん……」

 不意にも、目頭が熱くなった。ギュッと私を抱き締めてくれている金剛さんは、少しだけ震えてた。
 哀しんでいるのかもしれない。

 ――私が何も打ち明けないから。

三日月「…………金剛さん、実は私――」

 コンコンコン

三日月「!!」 ハッ ――パッ


電「電です。お客様をお連れしたのです」



264: ◆jz1amSfyfg 2015/07/02(木) 03:26:50.96 ID:OCzmjaGo0


提督「あぁ、電か。お疲れ様。入ってくれ」

金剛「……電が戻って来たみたいデスネ」

三日月「……はい」 コクリ

 ガチャリ

 スタスタスタスタ

三日月「――!!」

電「……ただいま、お戻りしました」

提督「あぁ。案内、ありがとうな」

夕立「……」

菊月「……」

三日月「……き、きく……づき……?」

菊月「……久しいな……三日月。……まだそんなに日は経っていないけどな」

三日月「それに……夕立……さん」

夕立「……」 プイ

 ガタッ

前提督「お前達……街で遊んでいても良かったのに……」

夕立「菊月ちゃんがそういうわけにはいかないって、聞かなかったっぽい!」 ニッコリ

菊月「二人がここにいるのに私達だけで遊んでいるわけにもいかないだろう……」

前提督「ははは、本当に菊月は真面目だなぁ」 ナデナデ

菊月「あっ、ちょ……こ、こんなところでやめて、くれ!」


三日月「……え?」 キョトン

三日月(な、なんで司令官が……菊月の事を……?)

前提督「あぁ、すまないね少佐殿。君達、ご挨拶を」

夕立「白露型4番艦、夕立です! 改二です! よろしくお願いします!」 ビシィ

菊月「……菊月だ。睦月型9番艦……」 ビシ

前提督「敬語を遣いなさい」 コツン

菊月「あいた! ……うぅ、なんなのさ。……菊月です」

提督「!! 睦月型9番艦って事は……三日月の」 チラ

三日月「……」 プルプル

菊月「……」

三日月「……な、なん……で……?」 プルプル

三日月(あなたは……司令官は――)

前提督『“所詮”は睦月型だな。役立たずめ』

三日月(睦月型を……私のせいで……!!)



265: ◆jz1amSfyfg 2015/07/02(木) 03:54:17.94 ID:OCzmjaGo0


前提督「……昔、どっかの誰かに僕はこう言ったことがある」

前提督「『所詮は睦月型だな。役立たずめ』って」

前提督「だけど……この子は非常に優秀な子だった。ここ最近の活躍を僕は心の底から評価してる。だからついこの前優秀な神通率いる部隊の“一人”として配属して、僕の護衛をさせているんです」 ナデナデ

菊月「…………」

前提督「僕の考えは間違っていたんだよ。睦月型でも役立たずは……」


前提督「“一隻”だけなんだなぁってね」


三日月「…………あはは……」

 何かが、折れる音がした。何が折れたのかまでは……わからなかった。

三日月「……っ!!」 ジワァ

 なぜだか、涙があふれ出して、止まらなかった。

 ――そして、その時だった。

 バッ

電「…………」

 電ちゃんが私の歪む視界の中で、司令官に殴りかかった。



266: ◆jz1amSfyfg 2015/07/02(木) 04:18:42.53 ID:OCzmjaGo0


提督「!! いなづ――」

 その言葉が、言い終わる前だった。電ちゃんは――

 シュッ   ――バタァン!!

電「ッ!?」

神通「……」

 床に叩き伏せられていた。

前提督「……あれあれ? 電ちゃん。今君、僕に何をしようとしたのかな?」

提督「た、大佐! 電は!」

前提督「君には聞いていない」

提督「っ!!」 グッ

前提督「電ちゃん? 怒らないから正直に言ってごらん?」

電「…………」

提督(電……頼む! 嘘を付いてくれ!!)

三日月「い、いなづま……ちゃん」

電「…………ふふ」


電「あなたをぶん殴ろうとしたに決まっているじゃないですか」


提督「……くっ!!」


前提督「……神通」

神通「はい」

前提督「折れ」

 ――バキッ!!

三日月「――へ?」

 聞いたことが無い音が部屋の中に響き渡った。
 何が起きたのか、一瞬では理解できなかった。――次の瞬間までは。

電「うっ――――ぁぁぁぁぁァァあああッ!!」

 電ちゃんの聞いたことない絶叫が耳に届いた。



267: ◆jz1amSfyfg 2015/07/02(木) 04:55:29.38 ID:OCzmjaGo0


提督「金剛!! 俺を抑えてくれッ!!」

金剛「ッ!!」 ガシッ

提督「はぁ……はぁ……!!」

提督「ごめん、な……!!」

金剛「……提督が謝ることなんて、ないワ……!!」

提督「……向こうの秘書官の神通に感謝だな……あのまま彼女が止めなかったら、電は……あいつを、殴って……!! 解体処分だっただろう……ッ」

金剛「…………」


三日月「いな、づま……ちゃん……?」


電「えぐ……ぃたい……痛い……!!」

前提督「……まったく、ダメだよ電ちゃん。僕を殴ってたらもっとひどい目にあってたよ」

前提督「なんでそんなに怒ってるのか分からないけれど、上官は殴ってはダメなんだよ。……なぁ、三日月?」

三日月「!!」 ビクッ

電「……はぁ、はぁ……ひっぐ……!!」

前提督「……けど、良い教訓になっただろう? 痛い目にあわせてごめんね、電ちゃん」

前提督「何か、言う事はあるかい? あるよね? 悪いことをしてしまったあとに言う言葉」

電「はぁ……はぁ……!!」 ギリ

電「『なんでそんなに怒ってるのか分からないけれど』……? ふざけないでください!!」

電「なんで……三日月ちゃんが……私の大事な大事な友達が!!」

三日月「!!」

電「傷つけられているのに!!」

 ――やめて。

電「怒らないと思ってるんですか!!」

 ――やめて。やめてやめてやめて。

三日月「……いなづまちゃん……やめて……!」

前提督「…………」

電「……上官が……私情を挟んで、部下を……しかも今は他の鎮守府にいる子を……いじめるのは……楽しいですか?」

三日月「い、いなづまちゃん……!!」

電「私が……はぁ……言ってあげるのです……あなたが、みかづきちゃん、に……はぁ……いったように……!!」

三日月「や、やめて……」 フリフリ

電「……ふふ」 ニヤリ


電「この――無能提督」





268: ◆jz1amSfyfg 2015/07/02(木) 05:28:34.84 ID:OCzmjaGo0


前提督「神通……折っていいよ?」

神通「……どこをですか?」

前提督「……優秀な君には似合わない質問だな。左腕だよ。左右ともに一緒にしてあげなさい」

神通「…………」

電「……はは……暁お姉ちゃんが……しれいか……ていと、く……になった方が……まだゆうのう……なのです」

電「……むのう、提督……」

前提督「神通!!」

神通「…………はい」

 ――バキッ!!

電「あっ――がっ、ぐぅぅぅうううううッ!!」

夕立「……ッ」 プイ

菊月「……」


三日月「やめて……やめてやめてやめてやめてやめて……やめて!!」


電「はぁ……はぁ……はぁ……げほ……!!」

電「……なんどでもいって……あげましょうか?」

前提督「……っ!!」 ブチ

前提督「なんなんだ君は!!」

電「……みかづきちゃんの……なかま……なのです……」


三日月「――――――――」



電『同じく艦娘なのです! 暁型4番艦の電なのでしゅ!』 ビシッ

電『……///』

電『うぅ……舌が痛いのです……』


電『電は新しいお仲間である三日月ちゃんのお役に立ててうれしいのです』 ニッコリ

 ――わたし、さっき電ちゃんになんて言った……?

三日月『私なんかの友達になっちゃ、ダメだよ……絶対にいつか迷惑かけちゃうし、私は電ちゃんの友達を名乗る資格なんて、ない。電ちゃんは、もっとマシな人と――』

 ――わたし、あの時、初めての実戦の時、電ちゃんにこう言った。

三日月『電さん、大丈夫ですか?』

電『は、はい。あ、足を引っ張らないように頑張るのです』

三日月『……電さん』

三日月『そんな気にしなくて大丈夫ですよ』

三日月『何事も経験ですし、助け合い協力し合うのが仲間です』

三日月『足を引っ張らないように頑張るのではなく、何があっても一緒に支え合って頑張りましょうっ。私だって、まだまだ未熟者ですから』 ニッコリ

電『み、三日月ちゃん……』

三日月『ね?』

電『……あ、あの……ありがとう』 ニコリ

三日月『ふふふ、いえいえっ』



269: ◆jz1amSfyfg 2015/07/02(木) 05:58:31.81 ID:OCzmjaGo0


 ――そうだ、私はあの時、そう言ったじゃないか。なのに。

三日月『私なんかの友達になっちゃ、ダメだよ……絶対に“いつか迷惑かけちゃう”し、私は電ちゃんの友達を名乗る資格なんて、ない。電ちゃんは、もっとマシな人と――』

 ――いつか迷惑かける? あんなこと言ったくせに? 仲間とはそういうものだって偉そうに語ったくせに? それって……「迷惑すらかけられないあなたは、仲間じゃない」って言ってるようなものなんじゃないかな?


電『戦争には勝ちたいけど、命は助けたいって……おかしいと思いますか?』

 電ちゃんは、本当に、優しすぎる子なんだ。

電『変な事言ってるのは……電が一番分かっていることなのです』

電『けど、電は……あまり戦いたくはないのです。沈んだ船も……できれば助けたいのです』

電『……それが“人類の敵”である、深海棲艦であってもなのです』

 ――そんな彼女が、今……本気で怒っている。私のために。“何にも打ち明けず、一人でずっと抱え込んでいる”私のために!


電『三日月ちゃんは、無力なんかじゃないのです』

電『電は……わたしは、三日月ちゃんに救われたんです』

電『……今まで、いっぱい我慢してきたんですね? 後ろは電が抱きしめてあげます。守ってあげます。だから……もう我慢しないで?』 ギュー


 ――――ッ!!

三日月「やめて……!!」 バッ

夕立「!?」

菊月「…………」

 タッタッタッタ!!

 ガシッ

前提督「な!?」

三日月「司令官……お願いです……!」 ガシ

三日月「電ちゃんを……これ以上苦しめないでください……!!」

電「みかづき……ちゃん……?」

三日月「……私の友達を!! これ以上……傷つけないでください!!」

電「!!」



271: ◆jz1amSfyfg 2015/07/02(木) 06:41:02.85 ID:OCzmjaGo0


前提督「……離れなさい」

三日月「電ちゃんが! 私のせいで傷ついてるのは……わかっています!」

三日月「司令官が……私の事を恨んでいるのも……わかってます!! 私が、一番!!」

夕立「……」

三日月「けど、これ以上……」

三日月「私の“大切な友達”を、傷つけないでッ!!」

電「っ――!!」

電「……えへへ……いうのが……おそい……の……です」 ジワァ

電「……みか、づき……ちゃん……だい……す……」

電「…………」


前提督「……っ、離れろ!」

三日月「うっぐ……!!」 ギュ

前提督「――!!」


 ―――――――――――――――――――――

 ガシッ

『行かないでよ! パパ!』 ギュ

『お願い……!!』

『うっぐ……!!』 ギュ

 ―――――――――――――――――――――

前提督「ッッ――!! くっそ!!」 ドン

三日月「ひゃ!」

 ガシ

神通「……」

三日月「じ、神通……さん」

神通「……提督。電ちゃんが気を失いました」

電「…………」

三日月「え……?」

神通「至急何とかしないと……まずいです」

前提督「……少佐……」

提督「……なん、ですか」

前提督「……今すぐ入渠させた方が良い。30分もすれば……完治するよ……」

提督「……三日月、電を今すぐ入渠場へと運んでくれ……」

三日月「は、は――」



272: ◆jz1amSfyfg 2015/07/02(木) 06:55:13.49 ID:OCzmjaGo0


 スッ

夕立「……」

三日月「ゆ、夕立さん……」

夕立「そっちの提督さん、少し冷静になった方がいいっぽい」

夕立「……この子じゃ急いで運べないと思うっぽい」

提督「……じゃ――」

夕立「――だから、夕立に運ばせてください」

夕立「パワーと……スピードだけなら自信あるっぽい……!」

前提督「……」

提督「……ありがとう……頼んだ」

電「…………」 ガシッ

夕立「任されたっぽい! ……お姫様抱っこなんて、久しぶりっぽい」 フゥ

三日月「……」

夕立「……ねぇ、早く案内してほしいっぽい!!」

三日月「へ!?」

夕立「運ぶのは手伝うけど、場所わからなきゃ意味ないでしょ! 臨機応変に対応してよ!」

夕立「ッ!! あなたは速力だけだったら夕立にも負けなかったでしょ!?」

三日月「――!! は、はい! こっちです!」 バッ

夕立「……ふん!」 バッ

 タッタッタッタ!!

菊月「……夕立……三日月……」

前提督「……」

神通「……」

提督「……」

金剛「……」

提督「……大佐……」

前提督「……なんだい?」

提督「……お話が……あります……!!」 ギロ

金剛「…………」

金剛(提督……拳握り過ぎて……出血してる……)

金剛「…………」 スッ ジー

金剛「あはは……私も……してた」


【艦これ】三日月「もっと……もっと頑張らないと……私は」電「……三日月ちゃん」【後半】



元スレ
【艦これ】三日月「もっと……もっと頑張らないと……私は」電「……三日月ちゃん」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1426729511/
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