鷺沢文香「言葉探し」
小さな男の子が、親しくなった野良ネコから、動物たちにとらわれている、
りゅうの子どもの話を聞いて、助けにいく物語
その少年がリュックから取り出す道具の数々、個性的な動物たち
非日常な世界は、幼い私の心をくすぐり、私はすっかり本が作り出す世界に魅了されました。
私の読書人生に転機が訪れました。
私は漱石を読んでいました。
先生と私の出会いから、先生が自殺するところまでを書いた話なのですが、
当時の私には、先生が他人の殉死を受けて、自分も死ぬ決心がついた理由がよくわかりませんでした。
どうして残された妻のことを考えると死ぬことができなかった人が、
出会ったこともない人の死を自分の命を絶つきっかけにできるのだろう
考えてもわからなかったので、
私はこのもやもやを書店を経営している叔父にぶつけました。
叔父は、高校生の私にもわかるように、丁寧に漱石の思想や立場、時代背景について教えてくれました。
話し終えた後、私は漱石がこの小説に込めた意味をなんとなく理解すると同時に
本とは一つの現実を空想の中に隠したものだと気づきました。
ありふれた言葉で自分の思いを伝えるのではなく、
自分にしか語れない言葉で自分の思いを伝え、相手の心を動かす。
なぜ、わざわざまわりくどいことを、と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、
どうか伝わってくれと、言の葉に自分の思いを込める作者の姿を想像すると、
私は、なんて情熱的なのだろうと、心が震えるのを感じました。
それ以来、私は本を読むとき
筆者が本に隠した言葉を探すようになりました。
私はますます本の虜になりました。
授業終わりに叔父の店に行き、講義で気になった箇所を叔父に尋ね、意見を交わす。
それはとてもゆっくりですが、すごく充実した時間でした。
大学にいる時間の方が長いはずなのに、
あの頃の私の記憶は書店での出来事ばかりなのですから、
この時間を私がいかに大切にしていたか、今更ながら実感します。
今度は私に人生の転機が訪れました。
私はいつもように叔父の店で店番をしていました。
今日は何を読もうかと、本を物色していると、スーツ姿の男性が来店しました。
その日は、梅雨も訪れていないのに、夏の真ん中のように暑い日でしたので、
スーツを着崩すことなく、きっちりと着ているその男性に私は目を引かれました。
その男性は雑誌コーナーで色々な雑誌を、少し手にとっては、棚に戻すを繰り返し、
熱心に何かを探しているようでした。
あまりにも熱心に探しているようでしたので、普段は人見知りな私なのですが、
「あの……何かお探しですか?」
と、聞こえるかどうかもわからないような小さな声で、その男性に声をかけました。
声をかけられた男性は私の方をじっくりと見つめ、
しばらくしてから私の前髪を払いのけました。
「アイドルにならないか」
私の世界が光り輝き始めました。
最近の流行の歌にも疎かったですし、運動神経も良い方ではありません。
ですが、
「アイドルにならないか」
この一言が私の心にずっと残りました。
今、思い返すと
「アイドルにならないか」
は貴方にしか言えない貴方だけの言葉のような気がしますね。
とにかく、私はこの縁を大切にしようと、アイドルを始めることにしました。
煌びやかなステージや衣装、一緒にいてくれる仲間、
まるで子供の頃に読んだ物語の主人公になったようでした。
あのころ感じた、ドキドキやワクワクが甦ってくるようで、私の心を刺激しました。
私はどんどんアイドルの世界に魅了されていきました。
私は貴方に感謝の気持ちで一杯でした。
この世界に連れてきてありがとうございます
慣れない私のためにいつも付いてきてくださってありがとうございます
私の世界は光で満ちていました。
私は貴方に違う気持ちを抱くようになりました。
これからもずっと付いてきてほしい
これからもずっと付いていきたい
私の世界は豹変しました。
知っていたからこそ、私は思いを巡らせました。
この思いを私はどんな言葉で貴方に伝えましょう
私の言葉探しが始まりました。
昔、読んで面白かったものや、名作と言われているもの、最近の流行まで、
主人公が気持ちを伝えるところに重点を置いて、私は読んでいきました。
「月が綺麗ですね」「死んでもいいわ」「何をしても構わない」
偉大な先人たちの多くの言葉とその言葉に秘められた思いを、
一つ一つ、私は丁寧に拾っていきました。
どの言葉も素敵で私の心を動かしたのですが、
私が探している言葉は見つかりませんでした。
帯紙に“永遠の名作“と書かれた、まだ出版されて10年も経っていない本を読んでいると、
「文香、また読書か」
と声が聞こえました。
読書中は、周りの音が聞こえなくなる私ですが、この声だけは特別です。
「はい……プロデューサーさんも読みますか?」
「時間がないから、時間がまとまった時に読むよ。ん?また恋愛小説か、最近ずっと読んでいるな」
こんな一言だけで私は、貴方がちゃんと見てくれている、と嬉しくなります。
「えぇ……その……伝えたいことがあるので、その思いにぴったりの言葉を探しているのです」
「……それは恋か?」
顔が熱くなるのを感じました。
貴方にしているとはまだ言えないので、少し返答に困ってしまいました。
「……ちゃんと相手に伝えたいなら、本の言葉を借りるのではなく、文香自身の言葉で言った方がいいんじゃないか?」
とまるで、当たり前のことの言っているように、言いました。
「あ、でもアイドルだからばれないようにな」
いたずらをした男の子のような無邪気な笑顔で、そう付け加えて、
貴方はデスクに向かいました。
「文香自身の言葉で」
今度はこの言葉が私の心に残りました。
いつも休日は叔父の書店に顔を出していた私ですが、
この日は一日中部屋にいることにしました。
私自身の言葉
こんなことを考えるのは初めてでした。
どうしていいか、わからなかったので、本を書く筆者の気持ちになってみようと思い、
ノートとペンを持って机に向かいました。
ノートを開きましたが、ペンが動きませんでした。
30分ほど頑張りましたが、ノートは白紙のままでした。
作戦を変えてみよう
私はそう考え、ノートの左に貴方、右の方に私の名前を書きました。
左から右への矢印の上には?を加えました。
次に、貴方と私の名前の下に、それぞれの情報を書き始めました。
性別、年齢、職業、趣味、好きなもの、
項目を何個か作り、そこの空欄に私は言葉を埋め込んでいきました。
書き終えてみると、
私のページは、ほとんど黒くなったのに対して、
貴方のページは、いくつか白いところが目立ちました。
ですが悲しい気持ちにはなりませんでした。
これから知っていけばいい、知りたい
そう思えました。そして、
貴方は私のことをどれだけ知っているのでしょうか
私は貴方に思いを寄せました。
また貴方の言葉が浮かびました。
貴方のことをもっと知ったら、貴方への私の言葉が浮かぶのではないか、と思えました。
合わせて、貴方にも私のことをもっと知ってほしい
今はまだ、貴方への言葉は浮かばないですが、今日感じたことはそのまま貴方に伝えよう
いつも読書で夜更かしをしてしまう私でしたが、今日は本を開きませんでした。
いつものようにキッチリとしたスーツ姿で出勤した貴方が、私に声をかけました。
「おはようございます。……昨日はありがとうございました。プロデューサーさん」
「うん?俺、何かしたっけ?」
「はい……自分の言葉で、と言っていただいて……」
「あー、あのことか」
「はい……それでプロデューサーさんに、お願いがあるのですが……」
「なんだ?昨日の事なら、手伝える範囲でなら協力するぞ」
私のこの思いを貴方は探してくれるでしょうか
今は、届かなくてもいつかは貴方の心に届いてほしい
私は言葉を飾りました。
「私と言葉探ししてくれませんか」
私の言葉探しは続いていきます。
元スレ
鷺沢文香「言葉探し」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1464655159/
鷺沢文香「言葉探し」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1464655159/
「シンデレラガールズ」カテゴリのおすすめ
- 杏「甘えちゃいけない」
- みく「Pチャン....」ペロペロ
- モバP「常駐型渋谷凛」
- モバP「内風呂入ろうとしたらアイドルがいた」
- みく「ヤクいにゃぁ……」
- モバP「休職することにした」
- モバP「寒いから智絵里を抱きしめよう」
- 大和亜季「ええ、ゾッコンです」
- モバP「……アイドルのお仕事、ですか」ちひろ「はい!」
- 幸子「いくらボクが可愛いからって、性的な目で見過ぎですよ!」
- モバP「比奈をデレッデレにさせてみたい」
- 莉嘉「お姉ちゃんになりたい」
- モバP「ライラさんとの生活」
- モバP「俺がプロデューサーになったわけですか?」
- モバP「卯月の機嫌が悪い……」
- 結城晴「真剣ゼミ…?」
- 島村卯月「嫌・・・」渋谷凛「えぇ・・・」本田未央「しまむー・・・」【モバマスSS】
- 【モバマス】P「渋谷凛6歳、家出をする」
- 卯月「961プロでもがんばります!」
- 綾瀬穂乃香「ぴにゃこら太の災難」
「ランダム」カテゴリのおすすめ
- 杏奈「……私が……ラジオ?」
- アニ「私の日記」
- 男「尻をさわりました」女「さわられてません」裁判官「やってませんな」
- ハルヒ「……裸で外に出てみたい」
- 佐天「フィアンマを自由に使役する能力、かぁ」
- 小鳥「一回だけ!先っちょだけでいいですから!」P「やめてー!」
- 伊織「スキスキ、だーい好き!」
- 綺礼「Fateのソーシャルゲーム.....?」
- 飛影「ハッピーウエディング」
- セイバー「……………………」切嗣(セイバーがテレビ見てる)
- モバP「泰葉のドールハウスにぴにゃこら太を詰め込んだのは誰だ!」
- ハルヒ「ねえ、あんた知ってる?」
- モバP「加蓮が再び病弱になってしまった」
- ジン「動くな」コナン「!!」ブッ
- 【生徒会役員共*】津田「ちょっと散歩」スズ「はぁ……一人で行くんだもんなぁ」
- ルイージ「兄さん、>>5が悪さしてるらしいよ」
- 提督(演:アーノルド・シュワルツェネッガー)「……」天龍「……」【艦これ】
- 悟空「ベジータ、一瞬で5億年分の修行ができる空間があるんだ」
- 千川ちひろ「ダイスDEシンデレラ!」
- ほむら「仲間になってくれる魔法少女が……」
コメント一覧 (32)
-
- 2016年05月31日 13:22
- 今も昔も無職だが、いつか小説家になって文香に作品を読んでもらうんだ
-
- 2016年05月31日 13:24
- 恋する文香さんもかわいい///
-
- 2016年05月31日 13:27
- いい。エルマー好きにはたまらんね
-
- 2016年05月31日 13:43
- ※3
ありす、そのような女に構う出ない。優秀な頭脳を持つ私のプログラムをインストールした渋谷凛を慕うといい
-
- 2016年05月31日 13:46
- 初対面の人間の前髪を払いのけて「アイドルにならないか」なんて言える男は少女漫画にしか生息していないのではないか
-
- 2016年05月31日 14:10
- ※5
蒼なのにゴルドとはこれ如何に……
-
- 2016年05月31日 14:14
- いいね、なんか心温まるわ。
ただ、野暮は重々承知の上でひとつ
月が綺麗ですね、という台詞は小説の言葉ではない。
-
- 2016年05月31日 14:22
- 実際に言ったのかすら曖昧みたいだしね
-
- 2016年05月31日 14:24
- 素直になれるパフュームがあるんだよー
-
- 2016年05月31日 14:26
- いい雰囲気だ
-
- 2016年05月31日 14:27
- ※6
何ぃ!?
初対面の男に局部を見せつけ「やらないか」と言う男だとぉ!?
-
- 2016年05月31日 14:45
- エルマーのぼうけん知ってる人いて嬉しいな、子供の頃何度も読み返した。ワニの橋のところが一番好きだ
-
- 2016年05月31日 14:52
- 自分の気持ちに気づいてからは一気に大胆になる文香すき
「あなたと見ると」月が綺麗ですねが正しい使い方らしいゾ
-
- 2016年05月31日 15:24
- この後、ふみふみが俺の嫁になるのか
-
- 2016年05月31日 15:42
- ※15
ふざけんのも大概にしろ!
ふみふみは俺のぽこちんの虜なんだよ!!
-
- 2016年05月31日 16:52
- でも結局はPの本命になるのはわた渋谷凛ちゃんで文香はありすと添い遂げるんだよね。
-
- 2016年05月31日 16:56
- 凛さんとプロデューサーさん、お似合いですね
-
- 2016年05月31日 17:00
- レズライカはレズレズしいと思うがふみありはそこまでレズレズしてると思わんなー
むしろ……微笑ましい?
-
- 2016年05月31日 17:06
- ※1
別に間違ってないじゃないか
-
- 2016年05月31日 17:53
- あまずっぱいのもええのう
-
- 2016年05月31日 18:00
- こういう子が吹っ切れて積極的になったらかなりの強敵になる
-
- 2016年05月31日 18:00
- ふみかわいい。
俺、転生したらふみふみとPさんの子供として生まれ変わるんだ…
…そうすれば合法的にふみふみのお山に登頂することが出来るからな(笑顔)
-
- 2016年05月31日 18:12
- ありすちゃんは晴ちんや桃華ちゃまが似合うと思うんだよな
ふみふみは俺の
-
- 2016年05月31日 20:17
- エルマーのぼうけん懐かしい、大好きだった
今ちょっと調べたらアニメ映画にもなってて、ボリスの声が林原とかびびった
-
- 2016年05月31日 22:16
- ※14
そもそも何のソースもない話なんだがな
ロマンチックでいいと思うけど
-
- 2016年05月31日 23:10
- ※6
現実だと白黒ツートンカラーのランプ光らせてる車に乗ることになる。
-
- 2016年06月01日 01:12
- 正直文香レベルの読書家が高校になって初めて漱石のこころを読むなんてことはないと思う
-
- 2016年06月01日 12:16
- 文香はどすとらいくすぎて生きていくのがツラい…プロデューサーになってこんな感じに慕われて結婚したい!!そして膝枕されながらお山にサンドイッチされたいだけの人生…
-
- 2016年06月01日 19:44
- ※19
ラブライカはそれっぽくないだろう
レズ臭はむしろアスタリスクの方が強い
-
- 2016年06月01日 22:24
- ※19
レズレズ言ってやるな。俺百合好きだけどラブライカの二人は協力し合って困難を乗り越えようとする戦友みたいに思っていたよ~。コンビだから何かしら特別扱いするかもだけど、あくまで友情でありコンビ愛やろ
-
- 2016年06月07日 13:18
- 冒頭のはやっぱエルマーのぼうけんか、懐かしいなぁ
なんだふみふみか