ヘンゼルとグレーテル「和菓子の家だ!」
- 2016年05月26日 21:40
- SS、神話・民話・不思議な話
- 29 コメント
- Tweet
ヘンゼル「パンくずで作っておいた目印がなくなってる! どうして!?」
グレーテル「どうするの、お兄ちゃん!」
ヘンゼル「と、とにかく……森を出なきゃ!」
グレーテル「出るって……どうやって?」
ヘンゼル「歩くんだよ! 適当に歩けば、きっと森を出られる!」
ヘンゼル「森を出たら、誰かに助けを求めればいいのさ!」
ヘンゼル「ハァ、ハァ……」
グレーテル「ねえお兄ちゃん、ここさっきも通らなかった?」
ヘンゼル「うう……」
グレーテル「お兄ちゃん、あたしたち本当に森を出られるの?」
ヘンゼル「出られるさ! とにかく歩くんだ!」
ヘンゼル(くそっ、いくら歩いても森を出られない!)
グレーテル「お兄ちゃん……あたし、もう歩けない……」
ヘンゼル「グレーテル……」
ヘンゼル「ほら、おぶってあげる」
グレーテル「お兄ちゃん……ありがとう」
ヘンゼル「兄が妹を助けるのは当然だろ? なんとしても、この森を出るんだ!」
グレーテル「お兄ちゃん、大丈夫?」
ヘンゼル「ああ、へっちゃらさ」
グレーテル「――あっ」
ヘンゼル「どうした?」
グレーテル「あそこに……家があるよ!」
ヘンゼル「……本当だ! 行ってみよう!」
グレーテル「なんだか甘い匂いがするよ」クンクン
ヘンゼル「ホントだ」クンクン
ヘンゼル「――こ、これは!?」
ヘンゼル「これは……壁が羊羹でできてる!」
グレーテル「あっ……こっちはきんつばでできてるよ!」
ヘンゼル「ということは、そうか、これは――」
ヘンゼルとグレーテル「和菓子の家だ!」
ヘンゼル「……」グゥゥ…
グレーテル「ねえお兄ちゃん」
ヘンゼル「ん?」
グレーテル「この和菓子の家……ちょっと食べてもいい?」
ヘンゼル「!」
ヘンゼル「ダメだダメだ!」
グレーテル「どうして?」
ヘンゼル「いくら腹が減ってるからって、こんなの食べたらダメだ!」
グレーテル「でも……おいしそうな匂いだけど……」
ヘンゼル「とにかく、ダメったらダメなの!」
魔女「おやおや、ひどい言い草だねえ」ヌゥッ
ヘンゼルとグレーテル「わっ!?」
ヘンゼル「お前……魔女だな!」
魔女「おやおや、よく分かったじゃないか。私が魔女と呼ばれてるってことを」
グレーテル「ま、魔女……!?」
ヘンゼル「ぼくたちを……食べるつもりか!?」
魔女「そんなことしやしないさ。むしろ、食べてもらいたいと思ってるのさ」
魔女「私が作った……和菓子をね」
魔女「食べたくなきゃ食べないでいいよ」
魔女「そっちのお嬢ちゃん。ほら大福だ、食べてごらん」
グレーテル「うん!」
ヘンゼル「お、おいっ! あいつは魔女なんだぞ!」
グレーテル「いただきます!」モグッ
グレーテル「……」モグモグ
グレーテル「うっ!」
ヘンゼル「グレーテル!? 大丈夫か!?」
ヘンゼル「へ……」
グレーテル「控え目な味の餡とさっぱりした皮が絶妙なハーモニーをかもし出してる!」
魔女「ひっひっひ、ありがとうねえ」
グレーテル「ねえ、もっと食べていい?」
魔女「いいとも、和菓子はいつもたっぷり作ってあるからね。たんとお食べ」
ヘンゼル「……」ゴクッ…
魔女「なんだい?」
ヘンゼル「ぼくもちょっとだけ食べたいかな~……なんて」
魔女「おや? 和菓子はマズイんじゃなかったのかい?」
ヘンゼル「うぐ……」
ヘンゼル「お、お願いします! 食べさせて下さい!」
魔女「仕方ない坊やだ、ほれ、どら焼き」
ヘンゼル「うんめえええええええええ!」
ヘンゼル「ふわっふわの生地が、つぶあんと絡み合って、うんめえええええええ!」
ヘンゼル「うめえ、うめえよぉ……!」ガツガツ
ヘンゼル「手にくっついた餡ですら、舐めたくなる……!」ペロペロ
魔女「ひっひっひ、ありがとうよ」
グレーテル「お兄ちゃん……ちょっと怖い」
ヘンゼルとグレーテル「いただきまーす!」
ヘンゼル「このせんべい!」バリボリッ
ヘンゼル「噛めば噛むほど幸せが押し寄せてくる! たまらねぇ~!」ボリボリッ
ヘンゼル「ああっ、今ぼくは幸せを噛んでいるぅ~!」バリボリバリッ
グレーテル「このおはぎ、おいしい!」モグッ
グレーテル「お米も餡もモチモチしてて、いつまでも楽しんでいたい食感だわ!」モチモチ
グレーテル「んもう、ほっぺた落ちそう!」
ヘンゼル「歯触りがよくって、上品な甘さで、非のうちどころがない!」
ヘンゼル「この紫色のキューブには、完璧の二文字が詰まっているんだぁ~!」
グレーテル「栗まんじゅう、おいしいよぉ!」
グレーテル「ほくほくしてて、栗の甘みがふわっと口の中に広がる!」
グレーテル「飲み込んだ後にも、ほんわかと余韻を楽しめるよ!」
グレーテル「ん~、このかりんとう、やめられない止まらない!」ポリポリ
ヘンゼル「芋けんぴうめえ! 芋の持つ甘みが、菓子に昇華されている……!」サクサク
グレーテル「八つ橋おいしいよぉ……ニッキの香りがたまらない……」モグモグ
魔女「ほら、お茶を持ってきたよ」
ヘンゼルとグレーテル「いただきます!」
グレーテル「ごちそうさまでした!」
魔女「こちらこそ、おいしく食べてくれてありがとうよ」
ヘンゼル「……だけどぼくはまだ、完全に和菓子を認めたわけじゃない!」
グレーテル「ええっ!?」
ヘンゼル「たしかに和菓子の美味しさは分かった……だけど!」
魔女「ひっひっひ、そいつはどうかねえ?」
ヘンゼル「なにっ!」
魔女「こっちに来るといいさ、いいものを見せてあげよう」
グレーテル「すごい!」
ヘンゼル「この落雁……まるで宝石みたいだ!」
グレーテル「こっちの最中(もなか)も、食べるのがもったいないくらいキレイだよ!」
魔女「ほれ、さらにそっちを見てごらん」
ヘンゼル「これ……お菓子でできてる!」
グレーテル「こっちのお寺もそうだよ、お兄ちゃん!」
ヘンゼル「お菓子でこんなものが作れるなんて……!」
魔女「ひっひっひ、工芸菓子ってやつさ」
魔女「和菓子の見た目の美しさは、決して洋菓子に引けを取っちゃいないよ」
ヘンゼル「くっ……」
魔女「謝ることはないよ」
ヘンゼル「だけどなぜ、あなたほどの和菓子作りの名人が魔女になったんです?」
魔女「ひっひっひ、いっとくけど私は魔法なんか使えないよ」
ヘンゼル「え……!?」
魔女「元々は私も町でお菓子屋をやっていたんだけどねえ……」
魔女「私の作る和菓子は異端扱いされ、魔女呼ばわりされ、町を追い出されちまったのさ」
魔女「そして……今はここで細々と和菓子研究をする毎日さ」
ヘンゼルとグレーテル「……」
魔女「なんだい?」
ヘンゼル「もしよろしければ、ぼくに和菓子の作り方を教えてくれませんか?」
グレーテル「あ、あたしもっ!」
魔女「あんたたち……」
魔女「きっと心配するよ。まさかこんなところまで通うわけにはいかないだろうしねえ」
ヘンゼル「いえ……実はぼくたち……」
グレーテル「お父さんとお母さんに捨てられたの……」
魔女「!」
ヘンゼル「元々は家に帰るつもりで、ここにたどり着いちゃったけど……」
ヘンゼル「もし帰ったとしても、ぼくらの居場所は……」
魔女「そうだったのかい……」
魔女「だったらこの私が、あんたたちを一人前の和菓子職人にしてやるよ!」
ヘンゼル「ホント!?」
グレーテル「ありがとう!」
魔女「ただし私は厳しいよ! ビシビシいくからね!」
ヘンゼル「はいっ!」
グレーテル「よろしくお願いします、先生!」
ヘンゼル「ぼくの作った餡、どうですか?」
魔女「……」ペロッ
魔女「まだまだだね。こんな餡じゃ、いい和菓子は作れないよ!」
ヘンゼル「は、はいっ!」
~
魔女「なんだいこりゃ!?」
魔女「皮と餡のバランスが悪すぎる! もっと精進しな!」
グレーテル「すみませんっ!」
グレーテル(個々の味がよくてもダメ……大事なのはバランス……! つまり調和……!)
~
修行は厳しかったが、二人は魔女の技術を吸収し、和菓子職人としてめきめきと成長していった。
―城―
王「ふむ……」モグモグ
王「おおっ! なんとうまい菓子だ! これがくず餅というものなのか!」
ヘンゼル「ありがとうございます」
グレーテル「お褒めにあずかり、光栄ですわ」
王「ぜひ、そなたらには多大なる褒賞を授けたいが……」
ヘンゼル「いえ、褒賞はいりません」
王「ほう?」
グレーテル「その代わり、ある人物の名誉を回復させていただきたいのです」
王「いったいだれの?」
ヘンゼル「ぼくたちの師匠です」
魔女「ひっひっひ……ありがとうねえ」
魔女「おかげで私はまた、町でお菓子屋をやれることになったよ」
魔女「しかも、なにしろ今度は王様のお墨付きだしねえ」
ヘンゼル「よかったですね!」
グレーテル「これでやっとご恩をお返しすることができました!」
魔女「まったく師匠孝行な子たちだよ」
魔女「さて、あとは……」
魔女「立派になったあんたたちの姿を、見せるべき相手に見せるだけだねえ」
ヘンゼルとグレーテル「はいっ!」
……
―自宅―
父「あの子らを森に置き去りにしてからというもの、毎日夢を見るね……」
母「ええ、森であの子たちが飢えて死んでいく夢を……」
父「こんなことになるのなら……やめておけばよかった……」
母「ええ、口減らしをして私たちはなんとか助かったけど……」
母「こんなことなら、四人で飢え死にするべきだったのかもしれないわ……」
父「おお、ヘンゼルとグレーテルよ、愚かな私たちを許しておくれ……」
「ただいまーっ!」
グレーテル「ただいま、お母さん!」
父「お、お前たちは……ヘンゼルとグレーテルか!?」
母「生きていたの!?」
ヘンゼル「へへへ、なんとかね」
父「そ、そうか……」
母「よかった……」ウルッ…
母「私たちにもう、あなたたちの親である資格はないのよ……!」
ヘンゼル「いいんだよ……父さん、母さん、何も気にしないで」
グレーテル「あたしたち、なーんにも気にしてないんだから」
ヘンゼル「そうだ! 今日は二人に和菓子を作ってきたんだ!」
父「和菓子……!?」
父「こっちの草餅も……とてもおいしいよ!」モグモグ
グレーテル「やったね、お兄ちゃん!」
ヘンゼル「ああ!」
こうして一流の和菓子職人となったヘンゼルとグレーテルは、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。
―おわり―
ありがとうございました
元スレ
ヘンゼルとグレーテル「和菓子の家だ!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1464260973/
ヘンゼルとグレーテル「和菓子の家だ!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1464260973/
「神話・民話・不思議な話」カテゴリのおすすめ
- 狸耳ロリババア「おや、どうしたんだい?」
- 鶏「俺達、家畜、人間、鬼畜」鶏「飼畜な俺達マジ駆逐、Yes」
- 貞子「ぉぉぉぅん...」ハゲ「いらっしゃい」
- いじめっ子「ぬーげ!!ぬーげ!!」 いじめられっ子女子「ううっ…ぐす」
- 俺「母上、自慰の儀を執り行います」 母上「誠ですかっ!?」
- 少女「マッチが売れないのなら、マッチョを売ればいいじゃない!」
- 女神「あ、貴方が落としたのはこの健全な画像zipですか?」
- コナンドイル「小遣い稼ぎにキモオタ向けのラノベでも書くか」
- 大本営「チキチキ!!無人島生き残りバトル~!」日本兵「おぉーっ!!」
- キリギリス「いや俺、冬には死んでるし」
- 男「人を襲うモンスター……」魔物娘「……ち、ちがう」
- サキュバス「それは傷つくわ」
- 女「あ、あのね・・・男君、S●Xって・・・したことある?」男「」
- 妖狐「なんか!好きになっちゃいました!!」男「え!?」
- 男「処女を実年齢より若く、非処女は老けて見える能力?」
- 面接官「おっ光宙(ぴかちゅう)君かぁ!いい名前だな!」
- エ口HDD「じゃあな・・・」
- 神さま「すっげーいらない能力をあげる」
- シャチ「おまえうまそうだな」アザラシ「おいしくないです」
- 「その昔…ケツは割れておらず、一つの山であった」
「ランダム」カテゴリのおすすめ
- 武内P「モバマスに……興味はありませんか」
- カツオ「このままじゃ殺される」
- 承太郎「がっこうぐらし?やれやれだぜ…」
- モバP「1/5」
- 男「幼馴染なんて幻想だ!」幼馴染「は?」
- 幸子「アイドルになった事に後悔なんてしていません」
- P「海外のファンサイト?」
- P「俺もトップアイドルを目指そうと思うんだ」 春香「はい?」
- 花山「……ジャッジメントだ……」
- 小鳥「バック・トゥ・ザ・ピヨちゃん」
- モバP「晴の結婚相手は―――ッ!! この俺だぁ―――ッッ!!」
- マリク「現世に戻れたと思ったらラーがクソカードになってた」
- 承太郎「ゾンビか…全く気持ちの悪い敵だぜ…」
- サザエ「タラちゃん、もう新成人なんだからその足音やめなさい」
- 岡部「ラボメンガールズ全員に素直に接するとどうなるか」
- ちひろ「仮眠しますか……」
- セイバー「おいちい」士郎「は?」
- 仗助「サカナ嫌いにであったッス」
- エレン「そしてアニとミカサはのた打ち回り悪魔は爆笑する」
- 美希「iPodnano」
コメント一覧 (29)
-
- 2016年05月26日 21:50
- 双子にとって和菓子の家が我が師の家ということか
-
- 2016年05月26日 21:51
- プリン食べながら見るんじゃなかった
地元のでっかい豆大福が恋しくなったじゃないか!
-
- 2016年05月26日 21:53
- スレタイでgdgd妖精のお菓子の家思い出したよ
-
- 2016年05月26日 21:54
- ↑昇太「山田さん、座布団一枚」
-
- 2016年05月26日 21:55
- ※1
うまい!!
-
- 2016年05月26日 22:00
- 何故か幸腹グラフィティで脳内置換された
-
- 2016年05月26日 22:04
- 米1の力でこの作品は完成した
-
- 2016年05月26日 22:13
- まさに「わがし」の恩だな
-
- 2016年05月26日 22:24
- 優しい世界
よかったよ
-
- 2016年05月26日 22:37
- 大福食べたくなった。すあまも食べたい。コンビニにあるかな
-
- 2016年05月26日 22:45
- 優しい世界
これはいい。
-
- 2016年05月26日 23:03
- 千夜「和菓子の家か・・・ここは私の出番ね、ふふっ!」
-
- 2016年05月26日 23:07
- この時間に見るんじゃなかった・・・
-
- 2016年05月26日 23:15
- 和菓子の家ははるか昔に、ねこぢる作品で見た
-
- 2016年05月26日 23:16
- ※12
貴方の場合はネーミングセンスがちょっと…
-
- 2016年05月26日 23:27
- ドラえもん「どら焼きの家に住みたい」
-
- 2016年05月26日 23:27
- ヘンゼルとグレーテルというだけでお互いの呼び方が『兄様』『姉様』の双子を思い出したことから魔女退治するのかと思ってしまった
-
- 2016年05月26日 23:36
- 窓硝子はべっこう飴だったりするんだろうか
干琥珀で磨り硝子風でも美しいな
上手いこと言った※1には飴ちゃんをあげよう
-
- 2016年05月27日 00:02
- 落雁はあんまりおいしいイメージなかったなあ
綺麗だけどね
-
- 2016年05月27日 00:52
- 不覚にも感動してしまった。
和菓子買って帰るかな。
-
- 2016年05月27日 01:57
- ただ和菓子はほぼ砂糖と餡の味だからなぁ
-
- 2016年05月27日 02:30
- 「燃える毒キノコの家」みたいなことにならなくてよかった
全員ハッピーエンド最高
-
- 2016年05月27日 10:53
- ※1
やるじゃん 100点
-
- 2016年05月27日 14:35
- 和菓子好きです
-
- 2016年05月27日 15:07
- ブラックラグーンの双子と
バラライカさんで想像してたからなんかワロタ
-
- 2016年05月27日 18:17
- ※1
作者がエンドマークを打ちに来た…?
-
- 2016年05月27日 21:38
- 我が師の恩と和菓子の餡か。
-
- 2016年05月27日 22:24
- ほんきで「『和菓子』の恩」だと思い、どうして卒業式の歌なのに和菓子なんだ?と疑問に満ちていた十代。
忘れてたのに米欄で思いだしちまったいw
-
- 2016年05月29日 07:21
- あずき臭そう(褒め言葉