【俺ガイル】八幡「ボーダーか…」【ワートリ】【前半】
- 2016年04月14日 03:10
- SS、やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。
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新たにここで始めさせていただきます
主人公 八幡の基本的なトリガーセット
メイン
弧月、メテオラ、シールド、バッグワーム
サブ
旋空、メテオラ、バイパー、アステロイド
ここから射撃トリガーを組み替えたりしている
基本避けるスタイルなのでシールドは念のためとして片方にだけ装備
では始めさせていただきます
「このまま街に墜ちるつもり!?」
「止まれ!止まりなさい!」
このままでは街が!人が大勢死んでしまう!
それだけは…!!
少女は叫ぶ
「やることは決まったな」
少年は頼まれたことを実行しようとする
「おいおい、なにやってんだエリートさんよ」
そして
目の腐った青年はやれやれとポケットに手を入れる
「止まって!!」ドンッ!ドンッ!
「ま、こいつを試す絶好の機会だ…トリガーオン」キィィィン
「頼むぞ、レプリカ」
『りょうか…待て、遊真!』
「?」
街に自爆するために墜ちようとしていたイルガーは
突然顔の先から尾まで一本の線に貫かれた
そして
(何!?こいつ、突然…!?)
爆発することすら出来ずに河に墜落した
「ふぅ。木虎にばれなかっただろうな…。念のためさっさ退散しよ」
木虎はチームメイト以外に助けられるのを気持ちよく思わないだろう
見つからないうちにとっとと撤退だ
「あ、そういやまだこのトリガーをボーダーのトリガーとして認証してなかったな。やっべ…ま、いっか」
逃げるが勝ちだ
「うお、イルガー貫いた。なんだ今の」
『自爆モードのイルガーを貫くとは』
「キトラ…じゃないよな?」
『キトラが出来たのなら最初からやっていただろう』
「ふむ。ボーダーにもすごいやつがいるってことか」
『何にせよ、これでトリガーも使わずに済んだ。結果として良かったと言えよう』
「そうだな」
「うっす」ガチャ
「遅い!」パァン
「いってぇぇ!?何しやがる小南!!」
「普通に遅刻っすよ、比企谷先輩」
「あー…それは悪かった。ちょっと途中で野暮用が出来てな」
「ふっふーん?」
「あ?なんだよ宇佐美?」
「大方、さっきの爆撃型だろう?」
「…なんで分かるんすかレイジさん。エスパーっすか」
「お前のやりそうなことだからな」
「小南先輩、通知見てないんすか?」
「通知?なにそれ?」
「よせよ、京介。この斧女がそんなこといちいち確認するわけないだろ」
「誰が斧女よ!!」ウガー
「いてぇ!噛み付くな!!」
「仲がいいねぇ二人共」ニヤニヤ
「「はぁ!?誰がコイツなんかと!」」
「はぁ、まったく…いいからさっさとミーティング始めるぞ」
「「「了解」」」「いてぇ…」
俺は比企谷八幡
高校2年生のしがないボーダー隊員だ
スタイルとしては一応オールラウンダー
ってもほぼ弧月ばっか使ってるけど
メテオラやバイパー、アステロイドなんかも使ってることは使ってる
使い方はかなり特殊で、多分こんな使い方が出来るのは俺だけだろうがな
俺の自慢できる数少ない特技の一つだ
それはまた今度話すとしよう
あと一応強化視覚のサイドエフェクトも持っている
スナイパーの弾を避けたり相手を見つけるのに役立ってるな
ちなみに元アタッカー3位
玉狛支部に入ってからはほぼソロランク戦をしてないからかなり抜かれてる
実力的には今じゃカゲさんにぎり負けるくらいか?
鋼さんにはまだ勝ち越せるな
あの人のことだからそのうち抜かれるだろうけど
母親は4年前の第一次大規模侵攻で殺された
俺と小町は三門市外の出掛け、親父は出張に行っていたおかげで難を逃れたが…
その後の小町と親父はもう見てられなかった
1年後には落ち着きもかなり取り戻し、今では以前とあまり変わらない生活も出来ている
家事は俺と小町でなんとかしてるしな
んで、俺はその大規模侵攻の後からボーダーに所属している
最初は俺も母さんの仇をうつためだった
そうすれば小町や親父も立ち直れるかもって思ってたからな
でも、ボーダーに入って2年後、初めて遠征に出掛けた時
そこで俺の価値観は一変した
それまでは本部所属の城戸派だったが、現在は玉狛支部に所属している
それなりに楽しくやれており、俺は悪くないと感じている
あと俺はかなりの引きこもり体質で休日は必ず家にいる
まぁ休日なんて滅多にないんですけどね☆
それもこれもあの変なサングラスかけたエリート隊員がいろいろ引っ張りまわすからだ
ちなみに俺の通っている総武高校にはボーダー隊員が何人もいる
仲の良いやつも何人かいる…と信じてる
というか一方的に向こうから絡んでくる
やれ「勝負しようぜハッチー」だの、やれ「勉強おしえてくれハッチー」だの
たまに俺の教室に来てはそんなことを言う
教室では友達いないんだからやめろよ
注意引いちゃうだろうが
しかも俺がボーダー隊員だってばれるんじゃないかとヒヤヒヤする
てかハッチーってなんだよ誰がハッチーだコラ
そうそう、俺がボーダー隊員ということは学校では同じボーダー隊員のやつらしか知らない
知られると話を聞かせてくれだの何だの鬱陶しいからな
ま、俺に限ってそれはないと思うんだけどね☆
え?さっきから陶しい?すいませんでした
あ、この人達は俺のチームメイト
隊長のレイジさん、もさもさしたイケメンの京介、オペレーターで眼鏡大好きな宇佐美、あと斧女の小南
俺含めて全員この玉狛支部というところに所属している
4人ともかなりの腕利きで正直言ってボーダーで最強の部隊だと思っている
さらにもう一人欠かせないのが
「迅はどうした?」
「さぁ…あの人いつも飄々としてますからね」
俺が答える
「てかあいつがミーティングに顔出すわけないでしょ。今まで一度だって顔出したことないじゃない」
「迅さんなら多分今本部にいますよ。確か今日は会議とかなんとか」
「はぁ…まぁいい」
京介曰く今日は会議らしい
まぁあの人組織の重要人物だからな
今話題に出た男
迅悠一
黒トリガーの「風刃」を所有するS級隊員だ
未来視のサイドエフェクトを持っていてそれがまた風刃と相性がかなりいい
なかなかにチートな人だ
趣味は暗躍
前述どおり俺もよく巻き込まれている
その度に厄介なことになるから勘弁してほしい
…まぁ俺から首を突っ込むこともあるけど
正直結構頼りになる人なんだけどな
キャッ、言っちゃった///
すいません、調子乗りました
まぁそれは置いといて
この俺を含めた戦闘員5人とオペレーター1人が玉狛支部の全戦力だ
スタッフも何人かいるが、それはまぁ割愛させていただく
ボーダー3勢力の1角をこの少人数で担っている
勢力は一番弱いけどな
まぁだがそのことからもこの部隊が最強だと言える要因の一つだろう
ミーティングを終え、自室で本を読んでいると迅さんが帰ってきた
「ただいまー。あー腹減った」
挨拶だけはしとくかな
「お帰りなさい、迅さん」ガチャ
「よう、八幡」
「あら迅じゃない」
「よ、小南。あーそうだお前らに言っとくことがある」
「「??」」
「明日空けとけよ。忙しくなるぞ。イレギュラーゲートの原因が明日判明するから、そうしたら隊員全員でその原因潰しだ」
ほう
流石未来視
こういうことが分かるのは便利である
まぁ引きこもりの俺に予定なんてあるわけないんですけどね☆
たまに米屋とか出水とかに連れまわされることはあるけど…
翌日になると隊員全員に指令が届き、C級までもが出動する小型トリオン兵の大掃除が行われた
「あー疲れた。これもう1ヶ月分は働いたわ。もう防衛任務しばらく休みでいいんじゃね?」
「何言ってんのよ馬鹿幡」
「おいなんで俺の小学生の頃のあだなの一つを知ってる。それに馬鹿とは失礼だな。小学生の頃はアレだが、今は成績は良い方だから別に馬鹿では…」
「あ、加古さんだ。おーい加古さん!」タッタッタ
「…あいつ今度ぶった切ってやる」ピクピク
そんな小南とのいつも通りのやり取りを終え、ぶらぶらしていると迅さんを見つけた
隣には知らないやつが二人いる
…なんか変なことに巻き込まれる気がする
気づかれる前に退散…
「お、八幡!」
チックショー
こうなってはしょうがない
挨拶だけ交わして逃げよう
「お疲れ様です迅さん。この二人は?」
「今回のイレギュラーゲートの要因を見つけてくれたやつらだよ」
「いや、僕は何も…」
「いいから手柄はもらっとけって、修」
「そうだぞー眼鏡君。パワーアップは出来る時にしといた方がいい」
「?」
「あ、僕は三雲修と言います」
「俺は空閑遊真だよ」
「空閑に三雲な。俺は比企谷八幡、よろしく」
「あ、はいこちらこそ」
「よろしく」
「ん?…迅さん、空閑ってネイバーっすか?」
「!?」
「!!」
「まぁ雰囲気で何となくっすけどね」
「…俺をどうもしないのか?」
「しないよ。するわけがない」
「?」
「俺はネイバーの世界に何回か行ったことがあるんだ。だからネイバーに良いやつがいるってことも知ってる。ネイバーだからって邪険にはしないさ」
『なるほど。迅以外にもそのような人物がいるのは助かる』ニュッ
「うおっ!?なんだこいつ?」
『始めまして八幡。わたしはレプリカ。遊真のお目付け役だ』
「はぁ…これはどうもご丁寧に」
「さて、そろそろ行くぞ遊真、眼鏡君」
お?俺が退散する前にどこかに行くようだ
「あ、はい」
「ん、わかったよ迅さん」
「3人でどっか行くんすか?」
「あぁちょっとな。じゃあまた後でな、八幡」
「失礼します」
「じゃあな、比企谷先輩」
「おーう、今度基地にも顔出しな。菓子くらいなら出せるぞ」
「ふむ、楽しみしています」
3人と別れた俺は帰路についていた
時刻は既に夜の7時
腹も空いてきた
マイリトルシスターのいる我が家に帰るとしますかね
…っと思ってたんだが
「おい、ハッチー!飯食いに行こうぜ!」
「この前いい中華料理屋見つけたんだよ!」
なんでお前らがいる
米屋と緑川
お前ら本部も家もこっち方面じゃないだろ
そのことを伝えると
「飯食いに行く途中だったんだよ。んで、お前を見つけたってわけ」
だからってなんで俺まで誘うんだ
「腹減ったから早く行こうよー」
「あと15分も歩けば着く。ほら、行くぞ」
「おい待てなんで行く前提なんだ。俺は家に帰る。疲れたんだ」
と言い残して歩き始めると
「さー行くぞー。緑川」ガシ
「あいあいさー」ガシ
「!?」
なん…だと…!?
「離せお前ら!?てか力つよっ!!よく見たら隊服…てめぇらトリオン体かよ、ずりぃぞ!!」
「「レッツゴー」」ズルズル
「ちょっ、まっ、今あんま財布に余裕ないんだよ!!おい!!」
「うまっ」バクバク
「だろ?」バクバク
「この前いずみん先輩とやねやん先輩と見つけたんだー」モグモグ
俺は普通に食べていた
悲しいかな、食欲には勝てん
いい香りがしたと思ったらもう注文していた
恐るべし中華
ちなみに小町に飯はいらんと電話したら
『お、お兄ちゃんが友達とご飯…!?』
とか言いやがった
うん、俺も驚いてる
「そういや出水っていつこっち帰ってくるんだ?」
「さぁ?1週間後くらいだっけ?」
「確かそんなもんだったと思うよ」
「適当だなお前ら」
「お前だって知らなかったじゃねぇか」
「まぁな」
「みんな適当だね」ケラケラ
腹もふくれて今度こそ帰路についていた
俺の貴重な野口が旅立っていったが、まぁうまかったので良しとしよう
さて一度基地に寄らないとな
よく考えたら持ち物一式全部基地に置いたまんまだ
「じゃあ俺こっちだから」
「おう。今度本部こいよ。バトろうぜ」
「あ、俺もやる!」
「また今度な。じゃあな」ヒラヒラ
「じゃあな」
「ばいばーい」
ほどよい疲労感と満腹感
風も気持ちいいし、こういう時って何故かテンションあがるよな
一人でひゃっほーって叫んで帰ろうか
やめとこ
黒歴史が増えるだけだ
「ただいまー」
「遅かったじゃない。どこ行ってたのよ」
「米屋と緑川と中華食いに行ってた」
「えー!?なんであたしも誘わないのよ!?」
「てめぇはずいぶん前に加古さんとこ行っただろうが」
「あんなもん世間話程度よ。ちぇー、あたしも食べたかったなー」
「今度宇佐美とか連れて行ってこい」
「そうするかー。あんたも来る?」
「暇だったらな」
「おっけー」
なんだかんだ仲が良い二人である
「三雲はネイバーと接触している可能性があります」
「ほう、どういうことだ」
「学校で倒されていたトリオン兵とは違い、爆撃型からボーダーのものではないトリオン反応が検知されました」
「なるほど。つまりネイバーのトリガーか」
「うちの隊で見張らせてください。すぐにボロが出るはずです」
「よかろう。もし確定した場合は消せ」
「了解しました」
八幡の気持ちとは裏腹に、暗雲は立ち込める
「…」ペラッ
「よう、八幡」
「ん?迅さん?」
ラッド退治の翌日、俺が本を読みながら支部の居間で一人くつろいでいると迅さんから話しかけられた
こういうパターンは大体
「ちょっと話があるんだが、いいか?」
やっぱりな
「…また暗躍っすか?」
「今回はそんなでもないかな」
「はぁ、いいっすよ。なんすか?」
「悪いな。場所を移そう」
毎回付き合う俺も大概か
「なるほど。三輪隊が空閑をね」
三輪隊が空閑を襲うつもりらしい
まぁあいつは人一倍ネイバーを憎んでるしなぁ
下手したら昔の俺より憎んでるかもな
「それで俺は何をすれば?」
「そのことなんだが…」
「?」
「今回は何もしないでくれ」
「…は?」
「今回、俺がお前にこのことを伝えなくてもお前はどうやら現場にたまたま居合わせちゃうっぽいんだよ。だから言っとかないとってね」
「…その方が良い未来になるんすか?」
「可能性は高い」
「了解しました」
「お、あっさり了解してくれるんだな」
「まぁ迅さんの予知ですからね。それに何もするなってんなら俺にとっては楽以外のなにものでもないっすから」
「はは、助かるよ。じゃあそういうわけだから、頼むわ」
「うーい」
何もするなとは初めて言われたな
ま、つうことは特に気にしなくていいってことだな
正直なんか三輪隊が動いてるってのは気付いてた
それが空閑のことだろうってのもな
まぁでも迅さんが何もしなくていいって言ったんだ
気楽になったぜ
…暇だな。たまには散歩でもするか
「警戒区域内なら他に人もいないし、静かに散歩が出来るからいいな。まぁたまにトリオン兵が出てくるのが難点だが」
ふらふら歩いていると
ドンッ!!
「!!銃声…!トリオン兵か?」ダッ
当然銃声が響いた
近いな
場合によっては救援が必要かもしれんし、行ってみるか
現場に到着すると
そこには三輪と米屋と戦う空閑がいた
しまったな
三輪隊が襲うって言ってんだから市内なはずがない
必ず警戒区域内で戦闘が起こるはずだ
そんな単純なことを見逃してたとは
まぁでも手を出さなきゃいいんだろ?
見てる分には問題ないはずだ
そばには三雲と…女の子?
なんで警戒区域内に…
そんなことを考えていると空閑が空中へと飛びあがっていた
「あ、そりゃまずい」
チュン
遊真は右腕を狙撃されてしまった
しかし何か違和感があるな…
なんかこう…うーん…
そっか、反撃してないんだあいつ
空閑のやつ優しいなぁ
多分三雲の今後のことも考えてるのだろう
そしてさらには三輪に鉛弾までつけられてしまう
「おもっ、なんだこりゃ」
本格的にまずいな
右手を削られてさらには鉛弾
正直絶体絶命だ
手をだすなって言われたけど
…すまんね、迅さん
流石に無抵抗のやつが殺されるのは黙ってみてられん
「終わりだ、ネイバー!!」
「そこまでだ」
ザンッ!
空閑と今にも飛び掛ろうとする二人の間を旋空弧月が遮る
「!?」
「うお!?」
「お?」
八幡が三者の間に割って立つ
「比企谷先輩?」
「よう空閑。結構やられてんな」
「助けてもらわなくてもよかったぞ」
「え?そうなの?」
「うん」
「マジかー…まぁでも出てきちゃったもんは仕方ない」
「比企谷…!!」
「ハッチーじゃねぇか」
「よう米屋。昨日ぶりだな」
とりあえず軽い挨拶を交わす
「なんのつもりだ比企谷…ネイバーをかばうつもりか!」
「落ち着け三輪。そんなんじゃ対話も出来やしない」
「対話など必要ない!ネイバーは全て排除するのがボーダーの責務だ!」
「聞く耳持たず、か。やれやれ」
「お前だってネイバーを恨んでいたはずだ!何故そいつを助ける!」
「いつの話してんだお前は…」
はぁ、とため息をもらす
「ハッチー、そいつと知り合いなのか?」
「ん?ああ、そうだ」
「敵じゃねぇのか?」
「ああ」
「…おっけー。ハッチーがそういうなら信じるぜ」スッ
米屋が構えをといた
お前のそういうとこ嫌いじゃないぜ
「陽介!?」
「さすが米屋。話がわかるぜ」
「三輪、大人しく引け。これ以上こいつとやろうってんなら…」
「代わりに俺が相手になるぞ」ギロッ
腐った目で威圧してやった
どうだ、こえーだろ
何故か自分で言ってて悲しくなってきたぜ
「!!」
「あーらら。ハッチー結構怒ってら」
「…」
「秀次、ここは引こうぜ。この二人を相手にすんのはちとキツイだろ」
「…!」ギリッ
「お?」
「ネイバーは…俺が殺す!」ダッ
「あ、おい!秀次!!」
「引かねぇか…しょうがない」スッ
弧月を構えようとしたその時
「錨印(アンカー)+射印(ボルト) 四重(クアドラ)」
キュドッ!!
「ぐっ!?」ドドドッ
突然八幡の後ろから黒い射線がいくつものびた
「お?空閑?お前それ…」
「コピーした。さっき比企谷先輩が介入してこなかったらこれ使うつもりだったよ」
「へぇ、便利なトリガーだな。なるほど、そりゃ俺いらんわ」
(鉛弾をコピー!?いや、これはそれ以上の…!!)
「勝負あり、だな。三輪」
「さて、じゃあ話し合いしようか」
「くっ…!」
米屋に戦闘の気はなく、三輪は無力化した
こっちの勝ちみたいなもんだ
「おいおい、八幡。何もするなって言ったろ?」
「迅…!!」
「あ、迅さん」
迅さんが三輪隊のスナイパーの奈良坂と古寺を引き連れて現れた
途中から狙撃がなかったのは迅さんが止めてたからか
「すいません、迅さん。耐えらんなかったっす」
「まぁ結果として良かったけどさー」
「次は気をつけますよ」
迅さんの介入で本格的にこの戦いは一段落したようだ
「しかし空閑、お前のトリガーすごいな。他者の攻撃を学習して、さらにそれを威力上げて返せるのか?」
俺は気になっていた質問をぶつけてみた
「ふむ、だいたいそんなところ」
「その性能でいくと…黒トリガーか?」
「うん」
「!?」
「マジか!?」
三輪と米屋が驚きの表情を見せる
無理もない
黒トリガーとはそういうものなのだ
「はっ、そりゃ三輪隊でも勝てんわな」
「だまれ!!」
「おー、こわっ」
「やはり貴様らが一枚噛んでいるのか!裏切り者の玉狛支部が!」
「裏切り者?」
遊真が疑問の声を漏らす
「ま、後々説明してやるよ」
「ふむ」
「秀次」ザッ
「迅…!」
「お前らは帰って城戸さんにこいつを追い回しても得がないってことを伝えてこい。それに、このところゴタゴタしてるのにこいつまで相手にする気か?」
「…っ!!」
「そのネイバーが敵対しないという保証は?」
奈良坂が問う
「俺が保証するよ。クビでも全財産でもかけてやる」
「!」
「ひゅー。迅さんがそこまで言うか」
「茶化すな米屋」
「わりぃわりぃ、ハッチー」
「…損か得かなど関係ない!ネイバーは全て敵だ!!」
「緊急脱出(ベイルアウト)!!!」
ドンッ!
「うお、飛んだ」
「今のはベイルアウトって言ってな、正隊員がもつトリガーにはああやって自分の意思で発動させるか、もしくは戦闘体が破壊されると自動的に基地に送還されるようになってんだ」
「負けても逃げられる仕組みか。便利だな」
「悪いな、白チビ。いきなり襲いかかっちまって」
「気にしてないよ。どうせあんたらじゃ俺には勝てないし」
「まじか、それはそれでショックだなー」
「黒トリガーに勝てたらA級7位どころじゃないからな」
「うるせー」
米屋はいいやつだ
戦闘後すぐでも雑談を交わすくらいには緊張感のないやつだけどな
「ま、俺らは一旦本部に帰るわ」
「おう」
その後迅さんは俺と三雲を連れて本部へと向かった
三輪隊の報告だけじゃ偏るからだそうだ
まぁそれは否めないな
でも俺いらないんじゃないかなぁ?
―――――――――
「なるほど、報告ご苦労」
うえー、俺正直城戸さん苦手なんだよなぁ
規律とかに厳しいし
出来れば会いたくない
「まったく、いちいち面倒を持ってくるやつだ」
そう言ったのは開発室室長の鬼怒田さん
実はボーダーにとって最も重要な人物はこの人なんじゃないかと思う
「しかし黒トリガーとは…何故今まで黙っていたのかね?」
今度はメディア対策室室長の根付さんだ
「…」
この黙ってるのが唐沢さん
本部とバチバチやりあう時は大抵この人がネックになる
曲者だ
「眼鏡君はその黒トリガー使いから信頼を得ています。仲間にするのはどうでしょう?」
迅さんが提案した
まぁこの人だったらこう言うだろうとは思ってた
「なるほど…確かに黒トリガーは戦力になる。よし、ではその黒トリガー使いを始末して黒トリガーを回収しろ」
「なっ!?」
「…」
(やっぱりな…)
城戸さんのことだ
このまま空閑がボーダーに入隊したとしても所属する派閥は間違いなく玉狛
玉狛に黒トリガーが2つも集中するのはまずいと思っているのだろう
「馬鹿な!それでは強盗と同じだ!」
忍田本部長が声を荒げる
「それにその間の防衛任務はどうするつもりだ!」
確かにそうだ
黒トリガーを倒して捕まえようとするならばかなりの戦力をつぎ込まなければならない
加えてトップチームは遠征中
残る全ての隊員を総動員すれば倒せるかもしれんが、そんなことをすれば防衛がおろそかになってしまう
「部隊を動かす必要などない。黒トリガーには同じ黒トリガーをぶつければいいだけの話だ。迅、黒トリガーを回収しろ」
なるほど…そうきたか…
でも…
「ちょっと待ってください」
「比企谷…」
「…」ニッ
迅さんを見ると笑ってた
あんたこれ予知してましたね…
実は俺には一つ思い当たる節があった
4年前、ボーダーに入ったときにちらほらと聞いたとある名前があるのだ
その名前がどうにも引っかかる
その名前は…
「空閑有吾」
「「!?」」
忍田さんと林藤さんが俺が突然出した名前に驚く
ちなみに林藤さんってのは俺ら玉狛のボスだ
「…その名がどうした?」
城戸さんが問いてくる
「確かボーダーの初期メンバーっすよね。んで、今回現れた黒トリガー使いの名前は…」
「空閑遊真」
「「「!!?」」」
瞬間、会議室に動揺が広まった
「く、空閑有吾?」
「誰だそれは?」
鬼怒田さんと根付さんは知らないみたいだ
まぁこの人達俺より後に来たしなぁ
「空閑、だと…?」
城戸さんが口を開く
「えぇ、そうです。みなさんなら俺よりもはるかにこの名をご存知でしょう?」
「…!」
城戸さんは黙る
「恐らく、あいつはその有吾さんの息子です。そしてあいつが使っている黒トリガーは…」
「…そうか」
「まさか…有吾さんが」
「あれほどの人がねぇ…」
3人は有吾の死を理解したようだ
「しかし、それならばこれ以上戦力をぶつける必要はないな。有吾さんの息子と戦う理由などない」
「名を騙っている可能性もある」
「それは調べれば分かることだ。迅、比企谷、三雲君。繋ぎを頼むぞ」
「「了解」」「はいっ!」
「……では会議はこれまで、解散とする」
ふぅ、とりあえず口勝負じゃ勝ったな
まぁ城戸さんがそんなんで引くとは思えないけど…
「黒トリガーは必ず我々が手にいれる。…唐沢君、君の意見を聞きたい」
「…兵隊の運用は専門外ですよ?」
「かまわん」
「では…ま、今は強奪するための条件が整うのを待てばいいんじゃないですかね?」
「条件が整う?どういう意味だ?」
「なるほど…遠征チーム、か」
「「!!」」
「あと数日で帰還する彼らならばやってくれるだろう」
「なるほど!」
「では彼らが帰還し次第、三輪隊と組んで黒トリガーを確保する」
その後、三雲と雨取(襲撃現場に居合わせた女の子)と合流し、玉狛支部に帰った
支部につくなり宇佐美が小南のドラ焼きを引っ張りだしてきてもてなす用の菓子としていた
宇佐美さん…後で俺が噛みつかれるんですけど?
ボスに呼ばれたとか言って迅さんは空閑を連れて出て行った
その間にレプリカから空閑の過去を聞いた
なんというか…すさまじかった
はっきり言って俺なんかよりはるかに過酷だ
そして空閑に目的を与えてやってほしい、というのがレプリカの願いだった
…それなら多分大丈夫だろう
「すいません。ちょっといってきます」
「…おう」
「着いてきてくれ、千佳」
「うん」
三雲と雨取がでていった
やっぱりな
あいつはお人よしの権化みたんもんだな
しばらくすると迅さんと三雲達3人が戻ってきた
どうやらこの3人でチームを作って遠征チームを目指すらしい
そりゃ大変だぞ
と言ってはみたが3人の意志は固いらしい
やれやれ…こう本気の目を見せられては先輩として応援してやらんわけにはいかんな
俺がこんなこと思うなんて自分でもビックリだぜ
本当、玉狛に転属してからの俺はおかしくなっちまったのかな
翌日、俺は何故か学校の職員室にいた
いや理由は分かってるんだけども
「比企谷、これはなんだ?」
「はぁ、高校生活を振り返っての作文ですが…」
「歯くいしばれ」ドスッ
「ぐふっ」
問答無用かよこの人
教師としていいのかこれで
てかこの人の拳速おかしくね?
俺の目でも見えなかったんだけど?
トリオン体なの?
「か、書き直します…」
「当たり前だ」
はぁ、だるい…
「ところで、君は学校に友達はいるのか?」
「…そこそこ仲の良いやつらならチラホラ」
「嘘をつくな。その目を見れば分かる」
え?俺の目って友達いないかどうか分かるの?
すごくね?悪い意味で
「どんな根拠っすか…本当ですよ」
「…」
どんだけ怪しんでるんだこの人は…
「ま、いい。君には罰を与える」
「えぇ…」
「あん?」ギロッ
「なんでもないです…」
「よし、ついてきたまえ」
カゲさんほどじゃないけどこえぇよ…
「ここだ」
「?」
「失礼するぞ」ガラッ
「…平塚先生。入るときはノックを…」
「すまんすまん」
「はぁ…それで?その男は?」
「今回の依頼対象だ」
「は?」
こいつは確か雪ノ下雪乃とか言うやつだ
テストでは確か毎回学年1位だったはずだ
俺も名前と顔だけなら知ってる
てかなんだそりゃ
依頼対象?どういうことだ?
「その男をどうしろと?」
「更正してやってくれ。見ての通り目が腐っていてな。友達もおらんようだ」
「なるほど」
なるほど、じゃねぇよ
だから仲の良いやつらならいるって言ってんだろ
友達かどうかは分からんが…
そのまま俺はなぁなぁにこの部に入れさせられそうになっている
奉仕部とかいうらしい
それは困る
俺は防衛任務は放課後と土日にいれている
その時間が奪われるのは非常にまずい
「俺は了承してませんが」
「君に拒否権はない」
相変わらず教師らしからぬ発言だ
こっちの言うことは無視ですかそうですか
平塚先生はそう言って出て行った、が…
「いつまでそうやって突っ立っているのかしら?あら、ごめんなさい。そう言えば友達もまともにいないのだったわね。ならば対人関係もまともに築けないあなたがまともな受け答えも行動も取れるわけがなかったわ。私の失念ね」
なんだこいつ?
よく初対面の相手に好き勝手言えるな
こういうやつは俺と同類みたいなもんだ
つまり…
「お前友達いるのか?」
「…そうね。まずは友達というのが…」
「あ、もういい。察した」
やっぱりな
なんかこっちを睨んでるけど無視無視
「奉仕部ねぇ…」
「そうよ。食料に飢えてる人に釣りの仕方を教える。そういった活動を行うのがこの奉仕部よ。ようこそ目の腐ったヒキガエル君」
なるほど
あくまで自立をうながすってことか
あともうこいつに突っ込むのはやめだ
多分こいつはいくら言っても聞かん
なら言うだけ労力の無駄だ
「…あー、一つだけ言わせてもらう」
「なにかしら?」
「俺はお前に助けられたいと思ってないし、そもそもお前程度のやつに人を救えるとは思えん」
「…どういうことかしら?」
めっちゃ睨んでるな
でも二宮さんの方がプレッシャーあるし、カゲさんの方が数倍怖い
正直こいつの睨みなど毛ほども怖いと思わん
「なに、簡単だ。会ったばかりのやつを罵倒するようなやつに人が救えるはずもないからな」
「…っ」
「俺は本当に頼りになる人達を知ってる」
言いながら頭に浮かんできたのはレイジさんや東さんと言ったボーダーの兄貴分達だ
彼らは本当に頼りになる
「その人達と比べてもお前はまず人として劣る。俺が言ってるのは学力だとかそんなチープなもんじゃないぞ」
雪ノ下は黙って俺の話を聞いている
「その人達でも人一人を救うのは難しいだろう。それなのにその人達より人間性が遥かに劣るお前に人が救えるとはとてもじゃないが思えん」
雪ノ下は反論してくるかと思いきやなにやら黙り込んでいる
「それに先生はああ言ったが、俺は別に孤独じゃない。学校以外の場所にちゃんと俺の居場所はある。そこは温かくて、とても安心できる俺の大切な居場所だ」
俺は続ける
「だからはっきり言おう。俺にとって今先生とお前がやろうとしてることは迷惑以外の何ものでもない」
「それじゃあ悩みは解決しないし…誰も救われないじゃない…」
わなわなと震えていて、大きい声ではなかったが、確かに聞こえた
「そうかもな。だが少なくとも俺は悩んでいない。人助けごっこがやりたいのなら他をあたれ」
そういい残して部屋を出ようとした時、平塚先生が扉を開けて入ってきた
「まぁ落ちつけ二人とも」
「俺は落ち着いていますよ」
「まぁまぁ、それではこうしよう」
?
何を言うつもりだこの人は?
てかこの人出て行ったかと思ったら扉の前で聞いてたのか
正確悪いな
「これから君達には自らの主義主張を賭けてたたかってもらう!依頼人は私がつれてくる。君達は依頼人の悩みを解決したまえ!そして自分の正義を示した…!」
Prrrr…
「すいません、電話です。廊下いってきます」ガラッ
平塚先生の横を通り過ぎるとき、先生はやや涙目になっていた
そんなにそのセリフ言い切りたかったんですかね?
電話の内容はレイジさんからで、今日のミーティングの話だった
そろそろ学校を出ないと遅れちまいそうだ
教室に戻ると何故か平塚先生が泣いていて、それを雪ノ下が氷の目で見ていた
「比企谷ぁ!最後まで言わせろよぉ!!」
(普通泣くか…?)
マジでこの人大人かよ?
「ぐすっ…ま、まぁいい。それでは条件をつけようではないか」
「条件?」
「勝ったほうが負けた方になんでも命令できるという条件だ!」
「「お断りします」」
「えぇー…」
「私がこの男を自由に出来たところで一切のメリットがありません」
「奇遇だな、俺もそう思うぜ」
「あら、その目から察するにどうやら下碑た考えを持っているようだけど?」
「そりゃお前の勘違いだな。自分の身体を見れば分かるだろう?」
「…っ!最低ね」
「お前と同じでな」
「なんだ、雪ノ下。やはりお前でも恐れるものはあるんだな」
おい、やめろ馬鹿教師
まさかこの女もこんな分かりやすい挑発に乗るわけが…
「…いいでしょう。その安い挑発に乗ってあげましょう。その勝負受けてたちます」
おいおい…どんだけ負けず嫌いなんだこいつ?
「よし!それでは勝負開始だ!」
……え、あれ?俺の意見は?
「遅い!」
クソ教師とクソ女のせいでミーティング時間ギリギリになった俺は小南にはたかれそうになるが
「甘い」ガシッ
「なっ!?」
受け止めてやった
多分くるだろうかと予測してたからな
拳速もあの教師には遠く及ばんな
しかも俺はレイジさんの影響でそこそこ身体は鍛えてる
小南の生身の攻撃を受け止めるなど造作も…
「ふんっ!」ヒュッ
「ぐぅっ!?」コカーン
コ、コイツ…!俺のマイサンを…!
お前…そこ蹴るのは…いくらなんでも酷い…だ…ろ…
ドサッ
俺の意識はそこで途絶えた
「小南先輩、今からミーティングなのに比企谷先輩倒してどうするんすか」
「はっ、しまった」
「小南…」ゴゴゴゴゴ
「レ、レイジさん…!いや、これは条件反射みたなもんで自分じゃどうしようも…」
「馬鹿野郎」ゴンッ
「~~!!っったぁー!!」ジンジン
「はぁ…八幡の目が覚めるまで待つか」
「はっ!?帰ってこい俺の息子よ!」ガバッ
「あ、おきた」
「結構早かったすね、比企谷先輩」
「よし、じゃあミーティングを始めるぞ」
「???」
おかしい
基地の扉を開けるとこまでは記憶にある
そこからの記憶が…うっ、急に俺の息子が…
「よし、今回はここまで」
「じゃああたしちょっと出掛けてくる」ガチャ
「俺はバイト行ってきます」
「おう、お疲れ。八幡、お前はどうする?」
「あー…特にやることもないっすかねぇ」
「そうか。俺は本部に久しぶりにソロランク戦しに行こうかと思うんだが、お前も来るか?」
「マジっすか。じゃあ俺も行きます。そういや前に米屋と緑川に誘われてたんで」
「よし、じゃあ行くぞ」
ランク戦か
久しぶりだ
「いやー…俺結構久しぶりっす。ランク戦ブース来るの」
「俺もだ」
オ、オイ。アレタマコマノキザキサンジャネ?
ホントダ。タシカタダヒトリノパーフェクトオールラウンダートカ
スゲェヨナァ。トナリノヤツハ?
サァ?シラネェ
「さすがっすね、レイジさん。本部でも有名人じゃないっすか」
「だからって別にどうとも思わん」
「はは、レイジさんらしいっす」
「お、ハッチーじゃねぇか」
「よう、米屋。やっぱここにいたか」
「ソロランク戦か?」
「おう」
「お、じゃあ俺とやろうぜ」
「いいぞ。そのために来たんだしな」
「やりぃ!10本でいいよな。俺124号室なー!」タッタッタ
「あいよー」
「お久しぶりです、レイジさん」
「こっちいるなんて珍しいですね」
「ん?荒船に村上か。久しぶりだな」
「まさかソロランク戦っすか?」
「そうだ。いつも同じやつらと戦っててもマンネリ化してしまうからな」
「じゃあ俺とやりませんか?」
村上が提案した
「あ、ずりぃぞ鋼!俺もやりたいのに」
「どっちも相手してやる。5本ずつでいいか?」
「「お願いします!」」
「ふんふんふーん」
武富桜子は自隊の次のランク戦のためのミーティングに出るために廊下を歩いていた
「あとはこのランク戦ブースを抜けてエレベーターに乗れば…」
ザワ…ザワ…
「ん?なにやら騒がしいなぁ…なにかあった…の…」
武富桜子は見てしまったのだ
そう、あの唯一パーフェクトオールラウンダー、木崎レイジが今まさに村上とのソロランク戦を始めようとしているところを
加えて顔は見たことがあるが実力は全くの謎、噂しか聞いたことのないあの腐った目の隊員と米屋も戦おうとしている
「な、なにー!?」
その時、彼女の実況魂に火がついた
というかついてしまった
「さぁ今回の戦いの実況を勤めさせていただくのはこの私、武富桜子です!よろしくお願いします!」
「え?あれっていつもランク戦を実況してる人…」
モブが驚く
「た、武富?何故ここに…」
荒船も驚く
もはや彼女を抑えられるものはいない
『ソロランク戦開始』
「安心しろ、米屋。玉狛のトリガーは使わん」
「お?なんだ余裕じゃん?」
「ま、お前なら使わなくても勝てるからな」
「昔の俺と同じと思うなよ?」
言い終えると同時に米屋が飛び込む
八幡はそれを弧月でいなし、迫撃をかけるも米屋はそれを局所シールドでガード
「お」
「あめぇぞハッチー!オラァ!」
米屋の怒涛の攻め
しかし八幡は持ち前の目と弧月一本でかわし、いなす
「チィッ!」
痺れを切らした米屋がさらに踏み込んできた
(ちっ)
「アステロイド」キン
「!!」
とりあえず牽制のアステロイドだ
このまま攻められ続けては流石に分が悪い
「くっ!」ババッ
距離を取る米屋
アステロイドは全てかわされた
だがこの距離、俺の射程だ
「旋空弧月」キィィン
「やべっ!」
ズカッ!
しかしこれも飛んでかわす米屋
今のは決まったかと思ったんだけどなぁ
いや、以前の米屋ならこれで決まってただろうな
「強くなってんじゃねぇか」
「だから言ってんだろ?俺だって日々鍛錬してっからな」
「お前にとっては半分遊びみたいなもんだろ」
「まぁな」
ったく、こいつは…
ま、おしゃべりはここまでだ
そろそろ本気を出すかね
滅多にやらないことだ
サービスだぜ、米屋
「バイパー+メテオラ」ギュワン
「!!」
「トマホーク」ドドドドッ
「おいおい!出水より作んのはえぇじゃねぇか!シールド!」キンッ
流石の米屋もこれには驚いたようだ
シールドでも防ぎきれずにメテオラの爆発に被弾している
俺が玉狛に転属してから2年
俺はその時から必死にトリオンコントロールの訓練をつんできた
理由はとあるトリガーを使いこなすため
まぁそれは今は置いとこう
昔じゃトマホーク作るのに10秒はかかっていた
こんなに時間がかかっていては到底使い物にならない
今では1秒ちょっとはかかるものの2秒はかからない
確か出水は2秒だったか
いつの間にか抜いていたんだな
「くそっ!」
米屋の身体からトリオンが漏れ出ている
しかし俺が勝負を決めるのはあくまで弧月だ
俺自身トリオン量はそんなに多くない
サイドエフェクト発現ギリギリのレベルだ
だからあまりトマホークなんか使ってるとすぐにトリオンがからっけつになっちまう
だから普段はこういった風に普通の使い方では使わないのだ
この距離ではいくら撃っても致命傷には出来ないだろう
よし、一気に決めさせてもらうとするか
距離をつめ、弧月をふりかぶる
米屋はバランスを崩していて体制が不安定になっている
避けることは不可能だ
「もらったぜ、米屋」
「…と、思うじゃん?」
「!?」ガキッ
急に八幡の動きが止まった
なんだ!?
俺の足が…
これは、スコーピオン!?
まさかモールクローか!?
「もーらい」ドスッ
動きが止まった隙に米屋が槍で俺のトリオン供給器官を貫いた
『戦闘体活動限界。緊急脱出』
ランク戦ブース待機室の大画面に
米屋―比企谷 1-0 と表示される
見ていた観客からはおぉーと歓声が上がっている
「くそっ、やられた…そういやあいつスコーピオンも使えるんだった…」
『まずは俺の一勝だな、ハッチー』
そんな嬉しそうな声が画面から聞こえた
「調子のんなよ、次だ次!」
そんなこんなで戦っていき…
『ビー!ソロランク戦終了』
『最終スコア7-3 勝者、比企谷八幡』
「ふぅ」
「くっそー!負けたー!」
二人の勝負はその後いつになくやる気になった八幡が本気を出し、勝利を収めた
「まだハッチーには勝てねぇかぁ…」
「だが思ったよりもかなり苦戦した」
「お?なんだ励ましてくれてんの?」
「…事実を言ったまでだ」
その後は米屋がハッチーがデレたーとか大声を出して爆笑しやがるもんだからまたブースに引っ張っていってズタズタにしてやった
「ハッチー…容赦ねぇ…」ガクッ
「そういやレイジさんは?」
『ビー!ソロランク戦終了』
『最終スコア5-0 勝者、木崎レイジ』
おいおい…
あれ相手荒船さんだぞ…
荒船さん相手に無双するとか…
んでその前は鋼さんとか
こっちは4-1
でも鋼さんでも1本しか取れなかったのか
しかもレイジさん玉狛製のトリガー使ってなかったっぽいな
それでこの実力差
パーフェクトオールランダー半端ねぇな
「くそ…流石レイジさんだ…1本も取らせてくれなかった」
「いや、だがあとちょっとなのが2本あったじゃないか。あそこで2回とも詰めが甘くて結局逆に押し切られちまったな。あそこは…」
悔しがる荒船さんに鋼さんが励ますと同時にアドバイスもしていた
一時期この二人が仲違いしてるって噂が流れてたけど、やっぱり嘘だったっぽいな
「二人とも、付き合ってくれて助かった」
「いや、こちらこそいい勉強になりました」
「レイジさん、俺もいつかあなたの位置に立たせて頂きます」
「ふっ、早くあがってこい」
「はいっ!」
いいなぁ、青春だなぁ
なんで俺はこんな槍バカとなんだろうなぁ
なんか後ろの方では武富のやつが興奮しすぎて鼻血出して倒れたとかなんとか言ってギャーギャー騒いでるが…まぁ無視でいいだろ
そんなこんなで時刻は既に夜の7時半
今日こそは早く家に帰って我が愛しの妹の飯にありつくのだ
ってなわけでまだ突っ伏してる米屋を放置して俺はさっさと帰った
許せ、米屋よ
そして後は頼んだぞ
米屋を見つけた誰かよ
翌日、授業も終わりさっさと帰ろうとするとあの教師に引き止められた
「どこへ行くのかね?」
「家に帰るんすよ」
「部活をさぼるとはいい度胸じゃないか」パキポキ
いや生徒に向かって指鳴らす教師とか始めて見たわ
「いやいや、俺は部活に入ることを了承した覚えはありませんし、入部届けも出して…」
「衝撃のぉ!」
うっそだろおい
「ファーストブリットォー!」
「失礼するぞ」ガラッ
「…平塚先生、ノックを…」
「ほらっ」ドサッ
「…」チーン
「じゃあわたしは戻るぞ」ガラッ ピシャッ
「…何があったのか予測出来てしまうのが怖いわね」
俺が目を覚ますとそこは奉仕部の部室で目の前には氷の目の雪ノ下がいた
あのクソ教師マジで問答無用かよ
はぁ、しかたない
毎日こんなことを繰り返されちゃたまったもんじゃない
忍田さんに相談して防衛任務のシフトを変更してもらおう
はぁ…
俺が悲壮感を垂れ流していると流石の雪ノ下も同情したのか特に何も言ってこなかった
単に興味がなかっただけかもしんないが
そんなことを考えていると
トントン
扉を叩く音がした
「し、しつれいしまーす」
入ってきたのはいかにも馬鹿そうな女だった
「な、なんでヒッキーがいるの?」
俺の方を見て急にそんなことを言い出した
「?」クルッ
ヒッキー?
俺の後ろには誰もいないが…
まさかこいつ幽霊が…
「比企谷君のことだよ!」
「あ?ヒッキーって俺のことかよ」
「当たり前じゃん!」
何が当たり前なんだ
初対面のやつに向かってヒッキーとは失礼な
お前がトリオン体だったら首飛ばしてんぞ
「2年F組の由比ヶ浜結衣さんね」
まさかの俺と同じクラス
あー、そういやいつもうるさいあのリア充グループにこんなやついたような気がする
「それで、何かご用件かしら?」
「う、うん。平塚先生がここは悩みを解決してくれるって…」
「少し違うわね。奉仕部は例えば魚の獲り方を教える部活よ。魚をあげることはしないわ。つまり悩みが解決するかどうかはあなた次第ね」
こいつ絶対分かってないな
「それで?どういった悩みを?」
「え、えっとね…うんと…」チラッ
そういうとモジモジし始めた由比ヶ浜は俺の方をチラチラと見てきた
「…飲み物でも買ってくる」スッ
なるほど
男がいちゃ話にくい内容なんかね
「ならわたしは…」
「人件費込みで200円な」
「…」
「いらないんだな。じゃあ行ってくる」ガチャ
はっ、俺をただで使おうなど100年早いわ!
戻ってくると話は終わってたようだ
どうやらクッキーを作る手伝いをしてほしいとのことらしい
ので、家庭科室に行くことになった
俺出て行かなくても良かったんじゃねぇの?
結果は想像を絶するものだった
この由比ヶ浜とか言うやつ、サイドエフェクトを持ってるんじゃないのか?
暗黒物質を作るっていうサイドエフェクトを
サイドエフェクトは人間の能力の延長上にあるものだから理論的にないとは言い切れないはず…
…んなわけないか
雪ノ下は頭を抱えている
そりゃそうだろうな
目の前でこんなもん作られたら誰だってそうなる
「ま、まぁ見た目はアレでも美味しいものとかあるじゃん!?」
いやこれに限ってはそれはねぇよ
「ヒッキー!」ズイッ
「おい、まさか俺に食わせる気か?この石炭を?」
「石炭言うなし!」
そういうと同時に口に突っ込まれた
…意識が飛ぶところだった
なんだこれは
こんな凶暴なものがこの世にあるのか…
いや、あるわ
加古さんのチャーハンとかいう人類史上稀に見る化学兵器があったわ
「まずい。まずすぎる」
「あれー?おかしいなぁ」
なんもおかしくない
妥当だ
その後も雪ノ下と由比ヶ浜は頑張って作っていた
そして毎回味見は俺
堤さん…俺、今日からあなたを心の底から尊敬します
何度かやっていると由比ヶ浜がポツンと言葉を漏らした
「やっぱりあたしには向いてないのかな?才能ないし…」
そうだな
俺も間違いなくそう思うよ
ただ、ちょっとまて
一つ言いたいことが…
「解決策は努力あるのみよ、由比ヶ浜さん。最初から上手い人なんていないわ。最低限の努力もしない人は成功者の才能を羨む資格すらないわ」
ほう
それについては俺も同意見だ
というかちょうど似たようなことを言おうと思ってたが、先に言われたか
「でもみんなやってないし…あたしには向いてないんだよ…」
「何故周りに合わせるの?それやめてくれないかしら。ひどく不愉快だわ。自分の不器用さを他人のせいにして、あなた恥ずかしくないの?」
おぅ…
こいつ結構ズバッと言うな
こりゃ下手したら泣くかもしんないぞ
「か…」
うん?
「かっこいい…!」
なん…だと…
「建前とか周りに合わせるとか、あたしそういうのばっかやってきたから…なんか、そういうのかっこいい!ごめん、次からちゃんとやる!もう一度教えて!」
「え、えぇ…もちろん…」
はっ、あの雪ノ下が引いてやがる
その後、やる気になった由比ヶ浜だったが、結果は大して変わらない
微妙にマシになった気がするが、誤差の範囲だ
知ってるか?由比ヶ浜
勝負の世界に気持ちは関係ないんだぜ
仕方ない
いつまでやってても時間をくうだけだ
今日は特に防衛任務もミーティングもないから急ぐ必要はないが、さっさと帰りたい
「なぁ、何故そこまでうまくすることに拘るんだ?」
「どういうことかしら?」
「そのクッキー、プレゼントのためなんだろう?」
「え、うん」
「なら大切なのはなんだ?味なのか?」
「え…」
「違うだろ。大切なのは心だ。相手に感謝の気持ちなのか知らんが、そういう気持ちを込めて作ったのなら相手もそれだけで嬉しいはずだ」
くっさ
何言ってんだ俺
雪ノ下も呆然と俺を眺めている
「自分の手作りだってことを示して男に渡せば、多分そいつはもうそれだけで嬉しいはずだ」
「…じゃ、じゃあ…ヒッキーも嬉しいって思うの?」
はっ、そんなもん決まってんだろ
「この石炭を渡されたらぶち切れるな」
「じゃあダメじゃん!」
そんなこんなで結局今回はこれでお開きとなった
由比ヶ浜は
ありがとう!後は家で頑張ってみる!
だとか言って帰っていった
…おい、片付けしていけよ
由比ヶ浜が帰ったあと、あいつがしていかなかった片付けを俺と雪ノ下でやっていると不意に声をかけられた
「あなたもあんなことが言えるのね」
「どういう意味だ?」
「さっきの気持ちがうんぬんの話よ」
「それか…当たり前だろ。俺には愛する妹がいるからな。その気持ちをよく理解している」
「…シスコン」
「だまれ雪女」
翌日、由比ヶ浜が再び部室に来た
「やっはろー」
「あ、お帰りください」
「ちょっ!?ひどいヒッキー!」
「勝手なこと言わないでくれるかしらキモ谷君」
「なんだその最低なあだなは。しかも今『たに』っつっただろ」
「黙りなさいシスコンボッチ」
「上等だ表でろやコラ」
「え?え?え?」
由比ヶ浜がオロオロし始めた
ちっ、ここは由比ヶ浜に免じて拳を引いてやるか
「それで、今度は何の用かしら?」
「あのね、ゆきのん!昨日のお礼に家でクッキー焼いてきたから食べて!」
雪ノ下の顔色がみるみるうちに青くなっていく
ざまぁみろ
「いえ、食欲がないから遠慮しておくわ。それとゆきのんって呼ぶのやめて」
「えー!いいじゃん、ゆきのん!食べてよー」
「うっ…」
由比ヶ浜が雪ノ下に猛攻をしかけている
いいぞ、もっとやれ
すると急に由比ヶ浜がこっちを向いた
…嫌な予感がする
「はい、ヒッキーにもお礼」
くそったれがよぉ!!
「これ以上石炭はいらん。帰る」
さっさと逃げなければ
そう思い、鞄を取って部室のドアを開けると
「いいから!たべて!」
と、由比ヶ浜はクッキー(石炭)のはいった包みをこちらに投げてきた
ついそれを受け取ってしまった俺は直後にしまったと思ったがもう遅い
一度受け取ったものを返すなんてことできるはずがない
小町、お兄ちゃんもう駄目かもしんない…
その日、支部で涙目になりながら石炭を食べている俺を小南とレイジさんが心配そうに眺めていた
それから朝までの記憶がない
「あのクソ教師のせいで忍田さんにまた迷惑かけちまうな…」
翌日の土曜日、俺は本部の本部長室に向かって歩いていた
用件はシフトの変更
あの教師のせいで今月の残りのシフトを一部変更してもらわにゃいかん
19時や20時からの防衛任務ならいいが、17時からの防衛任務とかになるとやはり部活のせいで出られない
確か今月はそういうのがあと4日ほどあったはずだ
はぁ、気が重い
忍田さんにはいつも何かと迷惑をかけてしまっている
主に迅さんの暗躍のせいだが
ぐちぐち言ってても仕方ない
頭下げて頼もう
コンコン
『入りたまえ』
「失礼します」ガチャ
「比企谷?どうした?」
「実はですね…」
「なるほど…」
「ってことでどうにかなりませんかね?」
この防衛任務
本来ならば部隊ごとで行うものだが、俺は特例で一人だけで行うことが許可されている
と言うのも、B級下位のまだ不安が残る部隊と合同でなら、という制約付きだがな
正直ただのトリオン兵相手ならレイジさん小南、京介の三人がいれば一人余るほど余裕である
だがB級下位はそうでもない
例えば茶野隊の二人がモールモッド10匹相手、とかだと勝てるかどうか不安になる
そこで俺だ
その不安を俺の存在によってカバーする
俺ならばモールモッド10匹が来たとこで別に問題ない
余裕で蹴散らせる
そうして俺は放課後のB級下位部隊の防衛任務に付き添う形で仕事をしている、というわけだ
なかなか忙しいが、まぁここまで我がまま聞いてもらったんだ
これ以上は何も言えん
こうして本部としても俺としてもwin-winな関係を築いているのだからな
「それは今月だけでいいのか?」
「とりあえず今月の分だけはお願いします。来月からは部活も想定したシフトを組むので」
多分来月からは19時以降の防衛任務で埋め尽くされるだろうが、まぁ仕方ない
こればかりは諦めるとしよう
「そうか…よし、分かった。ちょっと待っててくれ」
そう言うと忍田さんは何やら電話でいろんな人へ連絡を取っているようだ
「そうだ…頼めるか?」
『――!――。』
「すまない。感謝する」
終わったようだ
「よし、とりあえず今月だけでいいんだな?」
「はい」
「まだ部隊を組んでいないフリーのB級の面々に頼んでみた。出られないものもいたが、その4日分だけはなんとかなりそうだ」
「ありがとうございます!」
俺は深く頭を下げた
本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ
「なに、比企谷にはいつも助けられてるからな。B級の子達も君の戦いぶりから得られるものが多いようだ。来月からは時間が遅くなってしまうことが多いだろうが、頼んだぞ」
「はい」
用件が終わったので帰ろうとすると声をかけられる
「ところで…まだ学校に知らせるつもりはないのか?そうすれば昼間にもシフトが入れられるし、木崎達と一緒に防衛任務も出来るだろう」
「…」
その話か…
「あの教師も遠くの方に飛ばされたと聞くし、高校にもあのような者がいるとは限らんだろう?」
「…そうですね」
俺が中学2年でボーダーに入った時、その頃はまだまだ隊員も不足していて防衛任務に出るために授業に出られないことが多かった
それは学校側もしょうがないと了承していたし、なにより俺は中学では結構勉強が出来ていたので問題ないだろうとしていた
それはある程度間違ってなかったし、事実成績はやや落ちたもののそこまで大きく変わることもなかった
だが、数学だけは別だった
とある数学の教師がいた
俺は元々数学が苦手で、ボーダーに入る前ですら平均点が取れたことは一度もなかったほどだ
それがボーダーに入ってからは赤点を取るようになってしまった
しかも一度ならず二度、三度もとってしまった
そしてその三度目の時、遂にその教師が切れてしまった
『なにが防衛任務だ!学生の本分は勉強だろう!赤点を取るくらいならそんなものはやめてしまえ!!』
今にして思えばそれは正論以外のなにものでもない
しかし、その教師はあろうことか俺の家にまで来やがった
当時の親父は傷心中だったこともあってその教師の言葉にかなりショックを受けていた
あなたの息子さんはどうなっているんですか!ってな
これには当時の俺も切れそうになった
それは俺の問題だろう、親父は関係ない、と
俺はこれ以上親父の悲しむ顔が見たくなかった
なのに…
家族のため、親父のためにと思ってやっていたことが裏目に出てしまったのだ
その教師は結局やりすぎだと厳重注意の上、遠くに飛ばされたらしい
俺はその後は忍田さんによる計らいで防衛任務が減り、学業もおろそかにしてはならないよと言われて必死に勉強して持ち直した
けど、この教師は本当は悪くない
悪いのは俺が成績を落としたからであって、少しやりすぎだとは思うが特に悪いことをしたわけじゃない
けど、もし似たようなことがまた起こってしまったら
そう思うと俺は怖かった
今でこそ親父も小町も元の元気を取り戻してる
けど次また同じようなことが起こったら、また親父はあの時のように落ち込んでしまうかもしれない
ならば保険をかける
俺が成績を落とさないように頑張るのは当然として、万が一似たようなことが起こったとしてももう親父に迷惑がかからないように
俺だけが悪くなるように
だから保険として、高校側には俺がボーダー隊員だと言うことを知らせていない
今はもう隊員もかなり増えてきたし、勉強する時間は十分とれている
けど保険はかけといて損はない
ばれてしまったらそれまでだけど、なるべく秘密にしておいてもいいだろう
「…でも俺は、やっぱり出来るだけ知らせないようにします」
「そうか…無理には言わん。君がやりたいようにしたまえ」
「ありがとうございます。では失礼します」ガチャ
ふぅ、嫌なこと思い出しちまったな
トイレに行って鏡を見ると酷い顔をしていた
この顔なら素でお化け屋敷のスタッフができそうだ…
いかんな
こんな顔三雲達に見せられん
そう自分に言い聞かせてトイレから出て、玉狛の支部に向かうために歩いていると
『無事メノエイデスを出立。およそ68時間後に到着の予定です』
そんな声が扉の向こうから聞こえた
ここは…司令室か
ってことは今のは…
なるほどね
迅さんも分かってるかな?
――――――――――
「さて諸君!」
宇佐美の元気はつらつとした声が基地に響く
俺は本部から既に戻っていて今は三雲達や迅さん、宇佐美などらと基地の居間にいた
「諸君らはA級を目指す。そのためには既にB級になってる修君を除いた二人がまずB級に上がらなければならない!それは何故かというと…」
宇佐美のボーダーについての講義だ
受講生は空閑、雨取、三雲の3人
A級に上がるつもりならばここでちゃんと整理しておくのがいいだろう
「よし、まずはポジション決めだな」
俺が口を挟む
「ふむ?ポジション、とは?」
「それも私が説明しよう!ポジションとは…」
「なるほど。いろいろあるんだな」
「お前はアタッカーだな。確か黒トリガーでも似たような戦い方してただろ」
「俺もそう思ってたところです」キラーン
「遊真君はアタッカーね。じゃあ千佳ちゃんは…」
宇佐美が適切なポジションになれるような質問をいくつかぶつけていく
「ふむふむ。わたくしの分析の結果、千佳ちゃんに一番合うポジションは…」
「「スナイパーだな」」
「あー!ハッチーに迅さん!私が言いたかったのにー!」
なんで言っちゃうのー、とか宇佐美が言ってるとなにやら廊下からズンズンと足音が聞こえた
おっとこりゃ…
念のためいつでも換装できるようにしとこう…
と、トリガーホルダーに手をかける
バンッ!!
ドアが勢いよく開かれ、現れたのは
「あたしのドラ焼きがない!誰が食べたの!?」
やはり小南か
こいついつでも騒がしいなぁ
「ごめーん小南。この前お客さんが来た時に出しちゃった。また今度買ってくるからー」
「あたしは今食べたいの!!」
ふぅ、セーフ
俺が噛み付かれることはなかったようだ
俺はトリガーホルダーから手を離した
てかそろそろ落ち着け小南
三雲達がちょっとびびってる
「なんだなんだ、騒がしいな小南」
「いつもどおりじゃないっすか?」
レイジさんに京介も入ってきた
「お、この三人。迅さんが言ってた新人っすか?」
「新人?あたしそんなこと聞いてないわよ!」
そりゃお前に教えたらギャーギャーうるさいだろうからな
今まさにそうだし
その後は迅がまた分かりやすい嘘をついたり、何故かそれを小南が信じたりとでいつものパターンだった
「さて、本題だ」
迅さんが切り出す
「レイジさん達三人にはそれぞれ眼鏡君達三人の師匠になってマンツーマンで指導してもらう。これはボスからの命令でもあるから拒否権はないぞー」
なるほど
そりゃいい考えだ
事前にアドバンテージは出来るだけあったほうがいい
「ちょっと待ちなさいよ。比企谷はどうするのよ?」
「俺は全員の補助ってとこだろ。それにやらないといけないこともあるからな」
「…ふーん。どうせまた迅となんか暗躍するんでしょ」
「さぁ?なんのことだか」
「白々しいわね」
「ま、三人とも頑張ってくださいってとこだな」
―――――――――
宇佐美を含めた三雲やレイジさん達7人はそれぞれ訓練室に向かっていった
「さて、八幡」
「分かってますよ、三日後でしょう?」
「お、なんで知ってんだ?」
「今朝司令室の前を通った時にちょっと…ね」
「おいおい。悪いやつだなぁ」
「たまたま聞いちゃっただけですよ。てか迅さんに言われたくないです」
「はは。けど太刀川さん達が来るってのは予想出来てたんだろ?」
「まぁ多分そうだろうとは思ってましたよ」
「いけるか?」
「…まぁなんとかなるでしょ。いざとなったらアレも使いますよ」
「そうか。頼りにしてるぜ」
「はいはい」
城戸さんが今まで手を出してこない理由
間違いなく遠征チームだろう
彼らが帰ってくるのを待っているのだ
戦うということになったら彼らほどの戦力はない
流石の遊真も遠征チーム全員を相手にしたら生き残ることは出来ないだろう
ま、させないんですけどね
―――――――――
「これが今回の遠征の成果です。お納めください、城戸指令」
「ご苦労、無事の帰還なによりだ」
「さて、帰還早々で悪いが君達に新たな任務がある」
「任務?」
「あぁ、現在玉狛支部にある黒トリガーの確保だ」
「黒トリガー?」
「玉狛…?」
「三輪隊、説明を」
「はい」スッ
「なるほどねぇ…じゃあ」
太刀川が顎に手をそえて
「襲撃は今夜にしましょう。今夜」
そう切り出した
「!?」
「太刀川さんいくらあんたでも…」
「相手の黒トリガーは学習する能力なんだろ?じゃあ今頃玉狛でこっちのトリガーについて学習しまくってるかもしれん。それに見張りの米屋と古寺にも悪いしな」
「…!」
三輪が反論しようとするが正論を返され黙ってしまう
「よし、では太刀川。お前が部隊を指揮しろ」
「了解です。じゃあ夜までに作戦たてるか」
「襲撃地点の選定が先だな」
「なるほど」
(太刀川慶…昔からこの人は苦手だ)
――――――――――
「雨取のトリオン能力は超A級だ。戦い方を覚えればエースになれる素質はある」
「うちの遊真の方が強いわよ!今でも余裕でB級上位の実力はあるわ!」
二人が弟子の話で盛り上がっているが一人黙っている者もいた
「とりまる、あんたのとこはどうなのよ」
「うーん………今後に期待、としか」
「なにそれ、つまり全然ダメってことじゃん」
三雲がしょんぼりしていた
まぁそう気を落とすな
なんとかなるさ…多分…
さて、そろそろ行かないとな
「ん?あんたどこ行くのよ?」
「ちょっと散歩にな」
「…」ジー
「なんだよ。本当に散歩だって」
(ふむ?比企谷先輩…嘘ついてる?)
「…早く帰ってきなさいよ」
「…おう。じゃあ行ってくる」
ったく、こいつは…
ま、そう言われちゃ仕方ないな
「お待たせしました。迅さん」
「よし、行くか。後輩達を守るために」
さーて、一世一代の正念場だ
―――――――
「おいおい、三輪。もっとゆっくり走ってくれよ。つかれちゃうぜ」
「…」
「…!!止まれ!」
太刀川達遠征チームに三輪隊を加えた合同部隊の行く手に2つの影が立ちふさがる
「迅…比企谷…!」
「あれ、ハッチーじゃん!」
「なるほど、そうくるか」
「太刀川さん久しぶり。みなさんおそろいでどちらまで?」
迅さんが口を開く
「よう出水。それと三輪、お前まだ懲りてな…」
「だまれ!」
俺にももうちょいかっこよく言わせてくれませんかねぇ?
なるほど、これがあの時の平塚先生の気持ちか
「うおっ、迅さんじゃん。なんで?」
「よう当真。冬島さんはどうした?」
「うちの隊長なら船酔いでダウンしてるよ」
「余計なことは言うな」
「こんなとこで待ち構えてたってことは、こっちの目的も分かってるわけだな」
「そりゃね」
「ま、それをさせないために俺達がいるんすけど」
「なんだお前ら。いつになくやる気だな。特に比企谷」
「自分でもびっくりしてますよ」
「俺のがびっくりしてるわ」
太刀川さんと軽く口を交わす
この人とも長い付き合いだからなぁ
「『模擬戦を除くボーダー隊員同士の戦闘を固く禁ずる』」
風間さんが脅すような口調で言ってきた
「隊務規定違反で厳罰を受ける覚悟があるんだろうな?迅、比企谷」
迅さが口を開こうとするがその前に俺が口を開いた
「そりゃ残念っすね。風間さん」
「?」
「それを言うならうちの後輩達も正式な手続きをふんで入隊した立派なボーダー隊員っすよ。ネイバーを入隊させちゃいけないってルールはないっすからね。あなたたちがやろうとしてることもルール違反だ」
「「!!」」
どうだ?いけるか?
「いや、それは違うな」
げっ
太刀川さん
この人こういう時だけは何故か頭回るんだよなぁ
「玉狛での正式な入隊手続きが完了しても、正式入隊日を迎えるまでは本部ではボーダー隊員とは認めていない。つまり今ではまだただの野良ネイバーだ」
「へぇ…」
「…」
やれやれ
どうあっても引いちゃくれないのかねぇ
こんな強い人たちと出来れば戦いたくないんだが
「大人しく黒トリガーを渡せ。抵抗しても遅いか早いかの違いしかない」
「あんたたちにとってはただの黒トリガーかもしんないが、本人にとっては命よりも大切な物だ」
「ま、そういうことです。俺らとしちゃ戦争する気はないんすけど、かと言って大人しく渡すわけにもいかないんですよね」
舌戦が続いている
だがこんなもの意味は成さないだろう
「あくまで抵抗を選ぶか」
ほらもう風間さんがどんどんピリピリしてきてるもん
「俺達相手にお前ら二人で勝てるつもりか?」
「勝てるよ。俺のサイドエフェクトがそう言ってる」
「「!!」」
「面白い…お前の予知、覆したくなった」スラッ
ついに太刀川さんが抜いたか
さーて、気張らんとな
『八幡、ここからは秘匿通信だ。事前に言ったプランは覚えてるな?』
『もちっすよ』
『よし、頼むぜ』
『はい』
「そういうだろうと思ったよ、太刀川さん」スラッ
さ、戦闘開始だ
戦闘開始と同時にスナイパー2人が身をかくした
だが俺と迅さんはボーダー内での対スナイパー2トップと言ってもいい
そうそうあたらんぜ
まぁ相手もスナイパー2トップだから不安だけど
風間隊の3人と迅さんがつっこんできた
風間さんと太刀川さんは迅さんに
残り二人の菊地原と歌川は俺の方にきた
迅さんと風間さんが激しくきりあっている
「僕達の邪魔しないでくれる?」
「そりゃ無理だって言ったろ?」
「じゃあ無理にでも通らせていただきます」
「やれるもんならやってみな」
2対1でガンガンやりあう
さすがA級3位部隊だな
連携もいい
なかなか反撃する隙がないな
ま、普通ならな
「そらっ」ヒュッ
「!!」ザキン
ごくわずかに生まれた隙を逃さず菊地原をスコーピオンごと斬りつける
米屋みたいな弧月使いは隙があっても弧月で防がれてしまうため、こういう風に武器ごと斬るなんて出来ないがスコーピオンなら力込めて斬りつければ武器ごといける
手数は多いし攻撃は強いが反撃には弱い
スコーピオン使うならその辺も常に警戒してないとダメだぜ
「ちっ」ババッ
「大丈夫か菊地原」バッ
「かすり傷だよこんなもん」
『八幡!飛べっ!』
「ん?うおっ!?」バッ
ズカッ!!
足元すれすれを旋空弧月が切り裂いた
「ちっ、外したか」
『あっぶねー。助かりました迅さん』
『一旦距離とるぞ』
『了解』
「距離をとったか」
「二人まとまってると殺しきれんな」
「しかも迅は風刃を一発も使ってない。比企谷も恐らく玉狛製のトリガーを持っているだろうが使っていない。トリオンを温存する気だ」
「風間さん、こいつら無視して玉狛に向かっちゃ駄目だめなんですか?」
「玉狛には木崎達もいる。流石に全員を相手にするのは危険だ」
「なるほど、了解」
「三輪、米屋と古寺はいつ合流できる?」
「もうすぐ合流します」
「よし、出水」
「はいはい」
「俺らとスナイパー組みで迅を仕留める。お前は三輪と米屋と組んで比企谷を仕留めろ」
「了解」
「どうします?迅さん」
「多分太刀川さん達は俺らを分断しに来るだろうな」
「でしょうね。嵐山さんたちは?」
「まだ到着にはもうちょいかかるな」
「んじゃ何人かを一人で相手しないといけないってことっすか」
「多分三輪隊と出水あたりがそっちに行くと思う。スナイパーはこっちかな」
「ってことは3人か、了解。まぁとりあえずプランAでチマチマやりますよ」
ズズン…
「お、来たな。うまくやれよ?」
「はい」
迅さんが太刀川さん達がいるであろう方面へ駆けていく
俺は待ってりゃ向こうから来るかな
お、来た来た
「比企谷…何故そこまで邪魔をする」
三輪が聞いてくる
「後輩を守るため、じゃあおかしいか?」
「少なくともハッチーらしくはねぇな」
出水が笑いながら言ってくる
「それは自覚してる」
「すまん、ハッチー。俺としてもあんまり乗り気じゃねぇんだけど、上からの命令だからさぁ」
「分かってるよ」
「ま、でも戦うからには勝たせてもらうぜ。この前のリベンジだ」
「いってろ」
ふぅ
迅さんにはああ言ったけど、正直この3人相手は結構きつい
順番に1対1とかなら勝てるだろうけど、3対1じゃなぁ…
「ま、ぐちぐち言っててもしょうがないだろ」
出水はそう言うやいなや両手をかざし
「さっさとやろうぜ」キン
トリオンキューブを作った
「しょうがねぇか」スラッ
俺も弧月を抜く
「アステロイド!」ドドドドドド
出水の先制射撃
流石の弾数だなぁ弾バカ
そのトリオン量わけてくれよ
シールドを展開し、大体はガード
抜けてきたやつは全てかわした
『陽介、動きを制限しろ』
『おっけー』
その間に三輪隊の二人が距離をつめていた
米屋が斬りかかってくるが、まだ距離がある
反撃に備えてるな
ってことは
ドンドンッ!
「鉛弾か」
三輪が鉛弾を撃ってくる
だが強化視覚のサイドエフェクトを持ってる俺にはその弾は遅すぎる
「あまいあまい」ヒュンヒュン
「チッ!」
「メテオラ!」
三輪の後ろから出水が攻撃を仕掛けてくる
今度はメテオラか
後退して爆風をかわせば問題な…
ギュワン
「!?」
曲がった!?
しまった、トマホーク!
ドドドォン!
「くっ…」バッ
あっぶねー
ちょっと食らったけど大きなダメージじゃない
この野郎今度はこっちの番だぜ
「旋空弧月」キィン
「「「!!」」」ババッ
ズカッ
ま、よけられるわな
けど
「メテオラ」キン ドドドド
その状態でこいつをよけれるかな?
「ちっ!」
「うお!」
「シールド!」
三輪と米屋にはかすり傷程度負わせられたか
感触的に出水にはシールドで防がれたな
けど出水、シールドなんか展開してて大丈夫か?
爆発の影響で舞い上がった土煙に紛れて出水との距離をつめる
「よう、出水」ボッ
「!?」
土煙から突然現れた俺に出水は驚きを隠せないようだ
「腕一本もらうぜ」ヒュッ
入った
「させるかよ!」
「うおっ」
かと思ったけど寸前のところで米屋がカバーにきた
腕を落とすことは出来なかったがダメージは負わせられたな
「よっと」ババッ
そして俺はまた距離をとる
「ちっ、やっぱハッチー強いな」
「しかもあいつなかなか踏み込んでこねぇ」
「時間稼ぎのつもりか?」
「…!!いや、まて。お前ら残存トリオンどんなもんだ?」
出水が三輪と米屋に問いた
「ん?あと8割ちょっとってとこだな」
「俺は9割は残ってる」
「俺はちょうど8割…なるほどな」
ん?あの様子…
ばれたか?
「ハッチーの野郎、俺達をトリオン切れで撤退させるつもりだ」
「トリオン切れ?」
「そうか…撃退よりも撤退の方が本部との摩擦が少なくてすむ、ということか」
あーらら
完全にばれたな
「戦闘中に後始末の心配か…ずいぶんと余裕だな、比企谷」
「…」
どうしよっかねぇ…
ばれたらもうさっきまでのようにはいかんだろうしなぁ
ドンッ!
お?
「誰か飛んだぞ?」
「誰だ?」
迅さんの方で誰かが緊急脱出した
黒トリガーには緊急脱出の機能はついてない
ってことは相手の誰か、か
『八幡』
迅さんから通信が入る
『見えましたよ。プランBっすね』
『ああ。存分にやっちまってくれ』
『了解』
『あとすまん、当真がそっちいった』
『えー、マジっすか』
『ま、あとは頼んだぜ』プツン
やれやれ
さっさと終わらせるか
「ハッチー、こっちも余裕がなくなってきたみたいだ。悪いが本気でいくぞ」
「悪いなハッチー。本当はもっと楽しみたかったんだけど」
出水と米屋が言う
「そうか…」
まぁそっちがその気なら…
「しょうがないな」バチッバチッ
俺もそうしよう
「「「!?」」」
「ヤマト オン」キィィィィン
さーて
お前らには初お披露目だぜ
『ヤマトの起動を確認』
機械音が響く
『残存トリオン88%のうち、50%を消費。戦闘体を特別体へ換装、弧月を強化。特別体解除まで残り300秒、カウントダウン開始』
バチバチと俺の身体がさらに換装されていく
格好は普通の隊服から和服らしき着物へ
そして弧月は刀身が伸び、日本刀のようになっていく
「さて、どいつから基地に戻りたい?」
悪いな
お前ら全員蹴散らすぜ
「おいおい…なんだそりゃ」
「玉狛の新トリガーか?前はそんなん使ってなかったろ」
出水と米屋がやや驚きながらも冷静に質問してくる
動揺してくれたらもらいもんだと思ったけど、そんな甘い相手じゃないわな
「悪いが、あんまりお喋りしてる時間はなくてな…」スッ
俺は弧月を腰の位置にもっていき、まるで居合いのような格好をとる
そして左手からアステロイドを形成し…
「アステロイド+弧月」ギュワン
「「「!?」」」
「斬空弧月 死突」キィィン
「!!弾バカ!」バッ
「分かってら!!」バッ
「シールド!」キン
出水と米屋が瞬時に回避行動に移る
彼らは比企谷八幡という人物をよく知っているからこその回避なのだろう
嫌な予感がする、と
が、三輪はシールドを張った
いや、張ってしまった
「フッ」ニヤッ
「…!!秀次!」バッ
ボッ!!
「!?」
次の瞬間
三輪を庇った米屋の胸に…
直径20センチほどの風穴ができた
さらにその後方にある民家をいくつも貫いていく弾丸のような白線
軽く100mはいっているだろうか
三輪を庇ったか
だがこれで…
『トリオン供給器官破損。戦闘体活動限界』
「マジかよ…」ピシピシ
『緊急脱出』
ドンッ!
まず一人
「陽介…!」
「なんだ今の…ハッチーのやつ、何をした?」
「くそっ…!」
「さーて、いきなり米屋が落ちたな。ま、本当は三輪を落とそうとしたんだが。おい三輪、基地に戻ったら米屋に礼言っとけよ?」
「…ッチ!」
俺が今何をしたのか
それにはまずこの『ヤマト』というのを説明しないといけないだろう
もう分かってると思うが、これは玉狛製の一点物のトリガーだ
名を『ヤマト』
コンセプトは『攻撃一点特化』
小南の火力重視とかそんなレベルじゃない
本当にそれのみを特化させたものだ
発動するには残存トリオンを何%か消費しないといけない
時間にして10%で1分
今回は50%分使ったから5分、つまり300秒だな
発動と同時に換装体からさらに換装した特別体になり、その時間分経過すればこの特別体は解除される
だがこの特別体、さらには弧月が強化されたこの日本刀のような剣型トリガー
まぁこれを日本刀型弧月とでもするか
これらにはある特殊な効果が付随される。
具体的には、特別体には
『この特別体の状態にある限り、あらゆるトリオン消費は大幅に抑えられる』
という効果が、そして日本刀弧月には
『日本刀型弧月と射撃トリガーの合成が可能になる』
という効果だ
さらにはこの日本刀型弧月のトリオン密度がめちゃくちゃ高くなる
多分小南の本気でやっとヒビが入る、くらい硬いだろう
ただし、いいことばっかりってわけでもない
これらの機能を付けるにあたって犠牲にしたものもある
それは
『弧月と射撃トリガー以外の全てのトリガーが使用不可になる』
というものだ
つまりシールドもバックワームも使えないということだ
っつーことは相手からの攻撃をかわす動体視力や、日本刀型弧月で叩き落とす技術、これらが必要不可欠というわけで…
そこらの隊員じゃ扱うのは到底無理ってわけだ
さらには日本刀型弧月と射撃トリガーの合成
これにはかなりのトリオンコントロールが要求される
トマホークを5秒以内で作れないやつにはまず合成すら無理だろう
ってことで結構欠点もある
が、俺はそれを全てクリアしている
というかクリアするために修行した
玉狛に転属した時、エンジニアがまず俺の何に目をつけたのかと言うと、強化視力のサイドエフェクトとアタッカーらしからぬ高度なトリオンコントロールだ
アタッカーはシューターとは違い、トリオンコントロールをほとんど必要としない
旋空弧月の時にちょっと必要なくらいだ
だからアタッカーのやつらにトマホーク作らせて見ると、30秒40秒が普通、1分をこえるやつもいた
だが俺は10秒で作れた
これならば訓練すればあのトリガーを使えるかもしれん!!
とは当時のエンジニアの言葉だ
そんなわけでこの『ヤマト』を扱うために俺は2年も修行している
実践に投入できるようになったのなんてごく最近だ
ヤマトは俺のみに扱える、つまり一点物ってわけだ
「あー、そういや三輪」
「…?」
「この前現れた爆撃型トリオン兵からボーダーのものじゃないトリガーの反応が出たろ?」
「…それがなんだ。あれはあのネイバーの…」
「いや、すまん。それ俺のこのトリガーなんだわ」
「!?」
「さっき米屋を貫いたやつあったろ?あれであの爆撃型落としたんだよ。んでそん時はこのトリガーをボーダーのって認証するの忘れててさ、悪いな。もうちゃんと認証したからよ」
「…そんなことは今更どうでもいい!」
「あ、そうっすか…」
「んで?ハッチー。そりゃなんだ?」
出水がこのヤマトのことを問いてくる
「そりゃ今は教えられんな。それに言ったろ?あんまお喋りしてる時間的余裕はないんだよ」
「そっか。んじゃお前を倒して後でじっくり教えてもらうわ」
「出来るもんならやってみな」スッ
「メテオラ!」キキン
ドドドドドドドド!!
出水のフルアタックでのメテオラだ
流石にこの範囲はまずいな
俺はバックステップで距離をとる
メテオラの嵐は俺に当たることなく土煙をあげる
すると三輪が俺の裏に回ってきた
「挟み撃ちか」
「三輪!合わせろ!」
「あぁ!」
「アステロイド!」
「シッ!」ダンッ
おっとこりゃまずい
前方からは出水のアステロイド
後方からは三輪の弧月による挟撃だ
けど…
「バイパー+弧月」ギュワン
「「!!」」
「蛇空弧月」
ガキキキキキン!!
俺の放った斬撃が様々な軌道を描き、前方の出水のアステロイドを全てなぎ払った
「なに!?」
「うそだろ!?」
三輪と出水も流石にこれには動揺を隠せないようだ
けどそんな悠長にしてて大丈夫か?
俺の放った蛇空弧月は全てのアステロイドをなぎ払っても勢いを止めることなく、その威力とスピードのまま出水へと向かっていく
「!!」
「出水!」
決まったな
これで二人目
ボッ!!
そう思った瞬間、俺の左肩が後ろから前へと貫かれる
「「「!?」」」
この衝撃で俺はバランスを大きく崩し、蛇空弧月は出水の右腕を切り裂くだけに終わり、戦闘体を破壊するまでには至らなかった
なにが!?
そう思い、後ろを振り向くとそこには
「させねーよ」ニヤッ
後方100メートルほどのビルにある人影があった
当真さん…!!
しまった…!完全に失念していた!
「比企谷、お前の目のことは知ってるぜ。真正面からやったら俺でも当てんのは無理だろうなぁ。けど、そもそも視界に入らなければいいだけの話だ、そうだろ?」
迅さんがわざわざ知らせてくれたってのに…!
『おら、出水、三輪。さっさとたたんじまえ』
「ナイスアシストだぜ!当真さん!バイパー+メテオラ!」ギュワン
まずい!
「トマホーク!」ドドドドド
「終わりだ!比企谷!」ドン!ドン!ドン!
くそっ
出水のトマホークと三輪のバイパーによる鳥かご
しかも俺は今バランスを大きく崩してる
ちっ…
せめて当真さんはもってくか…
「メテオラ+弧月」ギュワン
「爆塵弧月」ビッ
俺は先ほど当真さんがいたところへ向けて斬撃を放つ
「お?悪あがきか比企谷?でも残念、俺はもうそこには…」
「離れろ!当真さん!」
カッ!!
「!?」
俺の斬撃が当真さんのいたビルにあたった直後
ドォォン!!!
大爆発が起こった
ビルはあまりの爆発にその場で崩れ落ちていく
「おいおい…なんだそりゃ…」ピシピシ
『戦闘体活動限界。緊急脱出』
爆塵弧月の爆発に巻き込まれた当間さんは緊急脱出したようだ
ふぅ、なんとか当真さんは倒せたか
けど、俺ももう終わりだなぁ
すぐ目の前にはトマホークとバイパーによる鳥かご
もう逃げる隙間もない
すんません、迅さん
役目、果たせなかったっす…
俺は諦めて目を閉じる
しかし
「「「シールド!!」」」
!?
ガキキキキキキン!!
出水のトマホークと三輪のバイパーは俺の周りに突如出来たシールドによって完全に防がれた
「なに!?」
「!?」
なにが…?
ダダダン!
俺の目に赤い3つの影が映る
はっ…あんたらマジでヒーローだな…
かっこよすぎだぜ
「嵐山隊、現着した!」
「「!?」」
「なんで嵐山さんが!?」
「…本部長派と手を組んだのか!」
「無事か?比企谷」
「ナイスタイミングっすよ、嵐山さん。助かりました」
「間に合ってよかったです」
「悪いな、時枝」
「まったく、しっかりしてください。仮にもA級なんですから」
「いや、仮じゃなくて列記としたA級だから。お前よりだいぶ早くA級になってるから。しかも相手もA級だからしょうがないだろ」
「ま、まぁまぁ」
「てかこんな時くらい優しくしてくれてもいいだろ、木虎」
「は?」
「いや、すいません…」
やだこの子いつも辛辣
「嵐山隊…なぜ玉狛と手を組んだ?」
「さぁ…玉狛の狙いは正直分からないな。だがあの迅が動いてるんだ。あいつは意味のないことはしないからな」
「そんな曖昧な理由で…!!」
「お前がネイバーを憎む理由は知ってる。それを否定するつもりもない。けどな、お前とは違うやり方で戦うやつもいるってことだ」
「っ!!」
「納得いかないなら、ここからは俺達が相手になるぞ」
ひゅー
嵐山さんかっけーなマジで
惚れちゃいそうだぜぇ
『三輪、ハッチーに加えて嵐山隊が相手ってなると俺達二人だけじゃ無理だ。一度引いて太刀川さん達と合流して立て直した方が…』
ドドンッ!
「「!!」」
迅さん達の方から二つの光が伸びた
『三輪君、作戦終了よ。太刀川君と風間さんが緊急脱出したわ』
「…!!」
「!!くああ~!負けたか~!」
わお
迅さん太刀川さん達相手にマジで勝ったのか
6対1だぞ…
黒トリガーすげぇな
『特別体維持限界。ヤマト、解除』
バシュウ
「ふぅ」
ははっ、まぁこれで俺達の勝ちだ
プランAは駄目だったけどBは上手くいった
あとは…テーブル上での勝負だな
「しっかしハッチー、そのトリガーなんなんだ?結局俺達はハッチー一人に負けたようなもんだぜ」
「あ、それわたしも気になってました。あの和服?みたいな格好と日本刀のような弧月はなんだったんですか?」
出水と木虎が質問をぶつけてくる
木虎まで興味を持ったってのはちょっと意外だな
「ま、それは基地に帰りながらでも話してやる。とりあえず本部に向かおうぜ。俺にはまだ本部でやることがある」
「…あのハッチーが自分から仕事するなんて…」
「おいコラ弾バカ。俺だってたまに自分からやるわ…本当にたまにだけど」
「たまに、なんですね…」
木虎が呆れるように言う
自分から仕事するようになっただけすごい進歩だと思いません?
東さんが聞いたら腰抜かすんじゃない?
「よし、じゃあとりあえず本部に戻ろう!」
「うーい」
「結局僕達って来ても何もしなかったね…」ボソ
「そうですね…」ボソ
そんなこんなで俺達は基地へと歩き出した
ちなみに三輪は悔しそうな顔をしながら緊急脱出でさっさと帰った
俺もそうしたいけど緊急脱出すると玉狛に送られちゃうからなぁ
「へぇ…玉狛も毎回よくそんなの作るよなぁ」
「ヤマトは俺に合わせたってよりは、たまたま俺だけが合ったって感じだな」
嵐山隊の3人と俺と出水で本部へと歩いてる最中、俺のヤマトについて説明していた
あれ、嵐山隊って3人だっけ…?
まぁいいか
「つーかハッチーにトリオンコントロール負けてるってことが地味にショックなんだが」
「2年の修行なめんな」
「くっそー、俺も本格的にそういう訓練しようかなぁ」
「比企谷先輩」
「あ?どうした木虎?」
「あの和服は仕様なんですか?それともまさか自分でデザインしたんですか?」
「え…ハッチー自分で戦闘体に和服チョイスしたの…?厨二…」ヒキ
「なんだ出水、そんなに飛んで帰りたいのか」チャキ
「冗談だよ!弧月抜こうとするな!」
「…で?本当のところは?」
「宇佐美のやつが勝手にデザインしてた。気づいた時には既に、な」
「へー、宇佐美がねぇ」
「なんでも、ハッチーは和服が絶対似合うと思うんだよねぇ、だとよ」
「…何今の。宇佐美のモノマネ?…きもっ」
「比企谷先輩…」ヒキ
「お前らって何気にひどいよな」
そんな会話をしていると本部の入り口に着いた
そこでは既に迅さんが待っていたようだ
「おう、八幡。お疲れ」
「迅さんもお疲れ様です」
「迅さん、太刀川さん達相手に一人で勝つとかやばいっすね」
「まぁ俺と風刃の相性は良すぎるからな」
「いいなぁ。俺も黒トリガー使ってみたいなぁ」
「玉狛に来れば黒トリガーとはいかないまでも何かしらの特殊なトリガー作ってくれるぞ」
迅さんがさらっと出水を勧誘する
「太刀川隊抜けてまでほしくはないからいいです」
「あらそう」
迅さんは結果が分かっていたのであろう
でしょうね、とでも言うような感じで返した
「うし、八幡。そろそろ行くぞ」
「へーい。じゃあな出水。あと木虎、時枝、嵐山さん、今日は助かりました」
「おう、またいつでも頼ってくれ!」
「今度わたしと模擬戦しましょうよ。前に負け越して以来戦ってないじゃないですか」
「俺が暇な時で気が向いたらな」
「お、ハッチー俺ともやろうぜ!」
「はいはい」
「お疲れ様でした、比企谷先輩」
「おう、またな時枝」
みんなと別れて迅さんと二人で本部の廊下を歩く
目指すは会議室だ
扉の前に立つと中から忍田さんの怒りを含む声が聞こえた
知ってるか?
本部最強の虎が切れるとマジで怖いんだぜ
「ここからが第二ステージだ。頼むぜ八幡」
「俺いる必要あります?」
「いた方がすんなりいく可能性が高い」
「なるほど、分かりました」
「よし、いくぞ」
「失礼します」ガチャ
「どうもみなさんおそろいで。会議中にすみませんね」
「っす」ペコ
俺も取り合えず一礼だけはしておく
「…迅!比企谷!」
「きさまら~!よくものうのうと顔を出せたな!」
「まぁまぁ鬼怒田さん、血圧上がっちゃうよ」
「そうっすよ。高血圧が続くと動脈硬化や頭痛なんかを…」
「お前はだまっとれぇ!」
「へい…」
「なんの用だ。宣戦布告でもしに来たのか?」
「いやいや。そんなつもりは毛頭ないよ」
「俺達の目的はただ一つ。うちの隊員空閑遊真の入隊を認めて頂きたいんすよ」
「なにぃ!?どういうことだ!」
「太刀川さんが言うには正式入隊日を迎えるまではボーダー隊員じゃないらしいんだよね」
「だから本部に認めてもらえば解決ってことで、こうして交渉に来たんです」
「なるほど…『模擬戦を除く隊員同士の戦闘を固く禁ず』」
「組織の規則を盾にネイバーを庇うつもりかね!?」
「…そんな要求をこちらが飲むと思うか?」
「ま、そう言うと思ってましたよ」
城戸さん頑固だしなぁ
やっぱりこの手しかないんかね
迅さんが自分で決めたこととは言え、やっぱりちょっと…
「ただで、とは言わないよ」スッ
ふぅ
「代わりにこっちは風刃を出す」ゴト
「「「!?」」」
幹部達の間に動揺が広がる
俺だって最初この話を聞いた時は驚いた
だって迅さん風刃の手に入れるのにあんなに必死だったのに、と
「どう?そっちにとっても悪くない取引だと思うけど?」
何故今回空閑を入隊させるのにここまでややこしいことになっているのか
それはあいつが黒トリガー持ちだからと言う他ない
もしあいつがノーマルトリガーだったらここまでややこしくはならなかっただろう
つまり城戸派が何を嫌がっているのかというと、玉狛に黒トリガーが二つ集中するのが許せないということだ
しかも忍田さん一派もこっちについた
となると戦力ではこちらの陣営が勝ることになる
それが城戸派は許せないのだ
だったらそれを解決する手段は二つ
空閑を本部に入隊させるか
もしくは、風刃を本部に引き渡すか
これらしかない
しかし空閑を本部に入隊させるのはいささか危険だ
本部にはネイバーを憎んでるやつが一定数いるからな
だから玉狛で護らないといけない
つまり残る手段は風刃を手放すしかないのだ
「…そんなことをせずとも私は、太刀川達との規定外戦闘を理由にお前らからトリガーを没収することも出来るぞ?」
「ということは太刀川さん達から襲撃して来たんだから、当然彼らの方からもトリガーを没収するんですよね?」
俺が口を挟む
「しかもボーダーにはネイバーを入隊させてはならないって規定はない。つまり俺達は何も悪いことしてないのにそっちが強襲してきたってことになるんすよ」
「…比企谷!」
「どうするんすか?城戸さん。俺達のトリガーだけを没収するんすか?出来るもんならやってみてくださいよ。まぁそんなことしたらどうなるか…分からないあなたじゃないでしょう?」
「…!」
「さぁ、どうする?城戸さん?」
「………」
「八幡、ぼんち揚げ食う?」ボリボリ
「もらいます」
迅さんと会議室から出てしばらく廊下を歩いていると、そこには太刀川さんと風間さん、それに米屋と出水もいた
「よう、4人方もぼんち揚げ食べる?」
「なんであっさり風刃渡してんだよお前は。今すぐ取り返せ!そんでもう一回勝負しろ!」ボリボリ
「無茶言うね太刀川さん」
「…あんた達を派手にを蹴散らすことでようやく成功できた交渉なんですから、俺達の努力を無駄にしないでくださいよ」ボリボリ
「本当は撤退が一番良かったんだけどね。ま、上手くいったからもういいや」
「おいハッチー!俺にもあのトリガーの説明しやがれ!」
「お、そうだ比企谷。出水と米屋から聞いたぞ。なんかすげぇやつ使ってたらしいじゃねぇか」
米屋の言葉に太刀川さんも目を輝かせて聞いてくる
でたな戦闘狂どもめ
「はいはい、じゃあまずこのヤマトから…」
米屋と太刀川さん、ついでに出水も俺のヤマトについて聞くことになった
「迅」
「ん?どした風間さん?」
「そうやって風刃を売ってまでネイバーをボーダーに入れる目的はなんだ?何を企んでる?」
「…それ城戸さんにも聞かれたなぁ」
『何を企んでいる、迅。この取引は我々にとって有利すぎる』
『別に何も企んでないよ。俺達はただかわいい後輩を影ながらかっこよく支援してるだけ』
『俺達は別にあなたたちに勝ちたいわけじゃないんすよ。ボーダーの主導権争いにも興味ないです』
『俺達は、ただ後輩たちの戦いをあんたたちに邪魔されたくないだけだ』
『…』
『それに、うちの後輩たちは城戸さんの真の目的のためにもいつか必ず役に立つ』
『俺のサイドエフェクトがそういってるよ』
『…いいだろう。取引成立だ。風刃と引き換えに、隊員空閑遊真のボーダー入隊を正式に認める』
「その遊真ってやつが結構ハードな人生送っててさ、俺達はそいつに楽しい時間を与えたいわけ」
「楽しい時間?」
「俺は太刀川さんたちとバチバチやりあってた頃が最高に楽しかったから」
「ん?呼んだか?」ズイ
俺の話を聞き終えた太刀川さんが迅さんと風間さんの方にいく
あぶないあぶない
あとちょっとで太刀川さんに無理やり模擬戦させられるとこだった
「そのうち上に上がってくると思うから、そん時はよろしくね」
「へぇ、そんなに出来るやつなのか」
「強いっすよ空閑は。使い始めのボーダーの武器で小南に3-7っすからね。今でも普通に8000ポイント以上の実力はあると思います」
「小南と3-7!しかも短期間で!そりゃあ楽しみだ」
「あ、そうそうそれと…」
「?」
「俺黒トリガーじゃなくなったからランク戦復活するよ。取り合えずソロでアタッカー1位目指すからよろしく」
「「「「「!?」」」」」
これには俺含めて全員驚いた
「そうか、そういやそうだ!もうS級じゃないんだもんな!お前それ早く言えよ!何年ぶりだ!?3年ちょっとか?」
太刀川さんがめっちゃ嬉しそうだ
まぁ迅さんとこれからまたいくらでも戦り合えるんだ
あの戦闘狂が嬉しくないはずがない
「こりゃあ面白くなってきた!な、風間さん、米屋!」
「全然面白くない」
「迅さん今から模擬戦やりません?」
おいこら槍バカ
節操なしかお前は
玉狛に帰ると三雲達が居間で休憩していた
「あ、迅さんとハッチー。おつかれ~」
「お疲れ様です」
「ふぃ~す」
「うっす」
「比企谷先輩、散歩にしてはだいぶ長かったけどどこ行ってたの?」
そういや散歩に行ってることになってるんだったな
適当にはぐらかすか
「ん?あー、それはアレだよ。ほらアレ」
「?」
「ま、そういうことだ。俺はもう疲れた。帰って寝る」
適当にも程があるな
「おやすみ~」
「ふむ?お疲れさまです」
ようやく大きな仕事が終わった
これで当面の心配はないだろう
唯一悔やまれるのは
これだけ働いても給料が出ないってことだけだな
ブラック企業ばんざい
「よーし今日はここまで」
アーヨウヤクメシダー
ツカレター
大きな仕事を終えた俺は再び日常を謳歌していた
しかし俺の日常はとある教師によって打ち砕かれているので実は謳歌出来ていなかったりする
クソ教師許すべからず
今日は小町の弁当もないので俺は購買に行きパンを買うことにした
ついでに自販機でマッカンを買うことも忘れずにな
「ふぃー」ピッ ガコン
「お、ハッチー君じゃないかね」
「あ?なんだ宇佐美か」
「こんにちは、比企谷君。先日はお疲れ様」
「綾辻もか。おー、その件はサンキューな」
「菊地原君が今度倍返しにして返すって」
「あの生意気小僧にてめぇじゃ無理だって言っといてくれ、三上」
「なになに?なんかあったの?」
宇佐美と綾辻と三上が話しかけてきた
この三人はクラスも同じで学校内でもボーダー内でも外でも仲良しらしい
綾辻と三上は先日の事を知っているが、宇佐美は全く知らないので疑問が浮かんだっぽいな
「いや、別になんもねぇよ」
「またそうやってはぐらかす!どうせまた迅さんと何かやってたんでしょー」
「さぁな」
ああして迅さんと暗躍してるのはちょくちょくあるので玉狛の面子には俺と迅さんが揃っていないときは暗躍、と暗黙の了解みたいなものが生まれているらしい
あながち間違ってないかもしれん
「んじゃ俺は行くわ。じゃあな」
「ばいばい」
「またねー」
「むぅ!」
宇佐美がまだむくれてるっぽいが無視だ、無視
そうしてベストプレイスに着いた俺は一人(いや寂しくなんかない。絶対。これ本当)昼食をとっていた
「このパンは外れだな。マッカンに合わん」
俺のパンがおいしいかどうかの基準はマッカンに合うかどうかだ
ってことを前カゲさんに言ったら、お前は狂ってる、なんていわれた
あんただけには言われたくない
「あれ、ヒッキー?」
「あ?クルッ」
振り向くとそこにはジュース片手にきょとんとする由比ヶ浜がいた
「なんだ由比ヶ浜か」クルッ
俺は再度前に向きなおす
前の方にはテニスコートがある
今は昼休みだと言うのに熱心に練習しているやつがいる
前まではいなかったのに最近突然始めたっぽいな
「なんでこんなとこで食べてるの?」
「静かなとこが好きだから」
教室がうるさいのは主に君のグループのせいだよ由比ヶ浜君
「へー、変わってるね!」
でしょうね
自覚あります
「で?お前はこんなとこで何やってんだ?」
「わたし?わたしはゆきのんとのジャンケンでの罰ゲームでジュース買いに来たの」
「あいつも罰ゲームとかするんだな」
「最初は嫌がってたんだけど、自信ないの?って聞いたらすぐやりましょうって返事が返ってきたよ」
雪ノ下さんマジちょろノ下さん
「そんでわたしが負けたんだけど、そん時にゆきのんがちっちゃくガッツポーズしててさ、可愛かったなー」
「へー」
由比ヶ浜がクスクスと笑いながら楽しそうに話す
けど俺は微塵も興味がわかなかったので正直どうでもいい
というかそれなら早く部室に帰れよ
「あれ、比企谷君と由比ヶ浜さん?」
?
俺の名前を知ってるやつにこんな可愛らしい声を出すやつは極少数しかいない
しかしその誰とも違う声がした
「あ、さいちゃん!やっはろー」
「うん、やっはろー」
振り向くとそこにはジャージ姿の可愛らしい生徒がいた
手にはテニスラケットを持っている
ということはこいつが練習してたやつか
「二人はなにを?」
「やー特に何も。ただ話してただけだよ」
「そっかー」
「さいちゃんは昼休みなのに練習?」
「うん。つい最近ようやく昼休みにコート使うことが許可されてさ」
「がんばるねー」
「うん!そういえば比企谷君はテニス上手かったよね」
突然話を振られたので若干驚いた
「え!?そうなの!?」
「あ?なんで知ってんの?」
「だって授業でずっと壁打ちしてるよね?でもラリーがずっと途切れないからさ!」
「??女子の体育は体育館でバレーだろ?なんでそんなこと知ってる」
「?」
「なに言ってるのヒッキー?」
「は?」
「あ、そういえば自己紹介がまだだったね」
由比ヶ浜のその言葉でその生徒が自己紹介を始めた
「クラスメートの戸塚彩加です。あと、僕男なんですけど…」
「…ほ?」
変な声でた
次の日、体育があったが俺はいつも通り壁打ちしようとすると
「ねぇ、比企谷君」
「ん?戸塚…だっけか?」
「覚えててくれたんだね!」ニコッ
くそ、こいついちいち可愛いな
「実はいつもペア組んでる子が今日は休みでさ、だから僕とペア組んでくれないかな?」
「あー…いいぞ」
「やった!じゃあ向こうのコートが空いてるからいこう!」
この天使のような笑顔に勝てるものなどいるのだろうか?
いや、いない
しばらく打ち合っていると戸塚が疲れてきたのか休憩を申し出てきた
俺はレイジさんと定期的に生身でもトレーニングしているので体力にはまぁまぁ自信がある
が、ここは戸塚にあわせよう
「ふー」
ベンチに二人で腰をかける
汗を流す戸塚はどこかエ口い
しかもやたらと近い気がする
あかん(確信)
「やっぱり比企谷君は上手だね」
「そうか?まぁある程度身体は動かしてるから並程度のことなら出来る自信はあるが…」
「…あのね、ちょっと相談があるんだけど…」
む?
「なんだ?」
「実はテニス部ってすごく弱くてさ、三年生も今度引退するからまた弱くなっちゃうんだよね」
まぁテニス部が強いって噂は一回も聞いたことないしな
「だから、比企谷君が良ければだけど、テニス部に入らない?」
「…すまん、戸塚。俺平塚先生に変な部活入れられててさ、しかも放課後はバイトとかもしてるから無理だ」
「そっか…それじゃあしょうがないよね」
ざ、罪悪感が…
「さ、続きしようか!」
「おう…」
放課後になると例のクソ教師がまた俺を連行しようとしたが、俺がしょうがないから入部しますよという旨を伝えると満足したような顔で職員室に向かっていったようだ
この恨み、俺は忘れねぇからな
「うーっす」ガラ
「…」チラッ
当然の如く無視ですか
俺がイスを引っ張ってきて座るとようやく雪ノ下が顔を上げた
「ん…あら、いつのまに来てたの?」
「てめぇさっきこっちチラッと見ただろうが」
「なんのことかしら。言いがかりはやめてくれないかしら影が薄谷君」
語呂わるっ!
まぁこいつに付き合ってるだけ時間の無駄だな
特になにも言い返さずに勉強を開始する
俺はこの時間を勉強に費やすと決めたのだ
しかし開始した直後
「やっはろー!依頼人連れてきたよー!」ガラッ
でたな石炭専用錬金術師
「失礼します。あ、比企谷君!また会ったね!」
戸塚?
依頼人って戸塚のことなのか?
「ヒッキーもさいちゃんから事情は聞いてるでしょ?」
「まぁ…」
「だから部員としてあたしがここを紹介したの!」
「あの、由比ヶ浜さん。あなたは部員じゃないわよ。入部届けも出してないのだし」
「え-!?そんくらい書くよ!今!」
と言ってルーズリーフに書き始めた
「それで?依頼内容はどういったものなのかしら?」
「あ、えっとね、僕のテニスの実力を鍛えてほしいんだ」
お、ちょっと内容変わった?
「部長の僕が強くなれば他の部員達も強くなろうとしてくれると思うから…」
「そう。でもあなたが強くなるのかどうかはあなた次第だわ。私達はあくまで強くなる方法を教えたりお手伝いをするだけよ」
「う、うん。それでもお願いします」
「で?具体的にはどうするんだ?」
俺が質問する
「死ぬまで走らせて死ぬまで素振りさせて死ぬまで練習あるのみよ」
戸塚を殺す気かこいつ
ま、取り合えずジャージ着て外いきますかね
始めは基礎練習から、ということで筋トレや走り込みから始まった
由比ヶ浜も身体を動かしたいからとか言って参加している
あと何故か俺も参加させられている
why?
戸塚と由比ヶ浜がバテる頃には俺も少し息があがっていた
「あなた意外と体力あるのね」
「まぁ鍛えてるからな。それよりお前もやれよ。由比ヶ浜は自主的だからアレとして、なんで俺にだけやらせるんだよ」
そんなことを言うと目線をプイッとそらして
「し、指導役が必要じゃない」
なるほど、お前体力ないな
この日はあまり時間も取れなかったのでこれで終わった
戸塚には継続しろよという旨を伝えて解散となった
翌日の昼休みに本格的な練習を始めるらしい
が、どうしてこうなった
翌日の昼休み、戸塚が特訓中に転んで怪我をしてしまった
雪ノ下はどうやら保健室に救急箱を取りにいったらしい
その時問題は起こった
「あ、テニスしてんじゃん!」
波乱の幕開けだ
「あ?」クルッ
声のした方を振り向くと、はしゃぐ女子+その他大勢の男女集団がテニスコートにやってきていた
なんだこいつら
由比ヶ浜は彼女らを見て少し戸惑っているようだ
なんだ、よく見たら由比ヶ浜が普段教室で一緒にいるグループのやつらか
「戸塚ー。あーしらも遊んでいい?」
「み、三浦さん。僕は遊んでるわけじゃ…」
「なに?聞こえないんだけど?」
「えっと…」
「おい」
なに(俺の)天使にオラついてんだてめぇ
「は?なにあんた?」
「戸塚は遊んでるんじゃねぇって言ってるんだよ。真剣に練習して強くなろうとしてんだ。それを邪魔する気か?」
「あーしは今戸塚と喋ってるんですけどー?」
こいつトリオン体になってくんねぇかな
四肢ぶった切ってだるまにした後思いっきり笑いながら首飛ばしてやりてぇ
「とにかく、ここで遊びたいならテニス部の顧問から許可もらってこい」
「でもあんたも部外者じゃん。ってことはあーしらも使っていいんっしょ?」
「俺達は戸塚からの依頼で練習に付き合ってるだけだ。てかお前俺の話聞いてんのか?てめぇは真剣な戸塚を遊びたいからって理由で邪魔しようとしてんだぞ。真っ当な人間ならいかに自分が場違いな馬鹿なのか理解出来るもんだが、お前はそれすら出来んのか?」
戸塚と由比ヶ浜がオロオロし始めた
だが俺は個人的にこいつがとてもムカつくので止めない
「は?喧嘩うってんの?」
「そりゃこっちのセリフだ」
「まぁまぁ二人とも落ち着いて」
俺が金髪縦ロールと口論をしているといかにも好青年ですと言った感じの金髪高身長イケメンが割り込んできた
「みんなでやった方が楽しいと思うからさ…」
この言葉で完全に俺は切れた
「おい、いつ俺達が楽しんでやってるって言った?」
この嵐山さんを二段階くらい劣化させたような野郎も金髪縦ロールも絶対に許さん
「何度でも言うが戸塚は真剣なんだ。何故お前らは真剣なやつを邪魔する?言ってみろ」
「えっと…でもみんなでやった方がいいと…」
「みんなでやることによって俺達の特訓より成果が得られるという自信があるのか?」
「それは…」
「自信があるのかと聞いている。何故お前らは戸塚の邪魔をする。答えろ」
金髪が返答に困っていると
「ねー隼人―。あーし早くテニスしたいんだけどー?」
あ~~~!
イライラするぅ!
「おい縦ロール。てめぇはまず日本語と道徳を学ぶところからやり直して来い。具体的には小学生だな。ここは高校だ。てめぇのような脳内お子ちゃまが来るようなところじゃねぇんだよ」
「はぁ!?」
「まぁまぁ優美子も落ち着いて。じゃあこうしないか?部外者同士で勝負しよう。そして勝った方がコートを使えるし、もちろん戸塚の練習相手にもなる」
「あ、それいいー!」
「は?お前ら俺達に妥協させる気か?本格的に頭のネジ吹っ飛んでるよう…」
と、俺が言い切る前に
「ねー戸塚―。それでいいっしょー?」
「え、あ…うん」
縦ロールが先手をうってきた
しかも戸塚も了承しちまったよ…
「当人がこう言ってるんだしさ、ここは…」
「はぁ…ちっ、分かったよ」
戸塚が了承してしまったものは仕方がない
「君達は戸塚の他には結衣と君だけかい?」
「あともう一人女子がいる」
「じゃあ男女ペアで勝負ということにしよう」
「は?いや俺一人で…」
「さんせー。あーし出るね」
早く…
早く俺に弧月をくれ…
「由比ヶ浜、先に言っておくがお前は出なくていいぞ」
こいつは本当は向こうのグループだ
敵対するような関係になってしまっては今後グループに居づらくなってしまうかもしれない
しかもこいつはさっきまでの練習を見てる限り下手くそだ
居ると逆に迷惑になる可能性まである
しかし…
「やる」
マジかよ
「いや大丈夫だ。俺に任せろ」
「わたしも出るったら出る!」
なんでどいつもこいつも俺の言うことを聞いてくれないんだ…
俺のカーストが最底辺なせいかな?
間違いなくそうだな
世界が俺に厳しい
「さぁ、始めようか!」
金髪の掛け声で始まった試合はしばらくは拮抗していた
というのも縦ロールが俺を打ち負かしたいのかやたらと俺の方に打ってくるからだ
なので俺は持ち前の運動神経と強化視力のサイドエフェクトを活用してその球に即座に対応、そして返球して得点を奪っているというわけだ
しかし途中でそれも変更になったらしい
俺を倒すよりも試合に勝つこと重視に切り替えたのか、今度はしつこく由比ヶ浜の方を狙ってきた
由比ヶ浜は返球しきれずにネットにぶつけたり、アウトにしたりしていた
なので得点は今はこちらが劣勢
しかも由比ヶ浜は戸塚の練習に付き合ってたから体力がもう底を尽きそうだ
どうしたらこの状況を打破できる?
そんなことを考えていると
「きゃっ!」
由比ヶ浜が転倒して膝を擦りむいてしまった
「血出てんな。保健室行って来い」
「大丈夫…」ググッ
由比ヶ浜はそれでも立ち上がろうとする
「いいから後は俺一人で大丈夫だ。お前もう体力も限界だろ?無理するな」
「…っ」
由比ヶ浜は悔しそうな顔をしている
こいつはこいつで頑張っていたのだ
正直足手まといだったが、一生懸命やっていたやつを責める理由などない
由比ヶ浜は悔しそうに保健室の方へと歩いていった
「なにあんた?見捨てられたのー?」
縦ロールは小馬鹿にしたような口調で言ってきた
「は?お前らなんて俺一人で十分なんだが。実際序盤は俺を狙ってたが逆に返してこっちの得点にしてたしな」
縦ロールは一瞬で黙った
さて続きだ
縦ロールがサーブを打とうとするとギャラリーが少しざわついた
なんだ?と思ってそちらを向くと
「貴方、わたしのいないところで何をやっているのかしら?」
氷の女王降臨☆
由比ヶ浜と雪ノ下がこちらに向かって歩いてきた
「お前ら保健室行ったんじゃないのかよ?」
「大体のことは由比ヶ浜さんから聞いたわ。ここからは私が代わりに出るわ」
こいつ体力ないんじゃなかったか?
大丈夫か?
「私のお友だ…部員を傷つけた罪は重いわよ」
今完全にお友達って言いましたよね
雪ノ下さん既に陥落してるじゃないですかヤダー
「雪ノ下さんだっけ?あーし手加減出来ないから怪我しても知らないよ?」
「挑発のつもり?安心しなさい。あなたが手加減出来なくても私はちゃんと手加減してあげるわ」
二人の女王が睨みをきかせている
こわいねぇ…
「あーしテニス結構得意だからさぁ、顔に飛んでいって傷ついたらごめんねっと!」
そういいながら縦ロールが放つサーブは普通ならば雪ノ下がギリギリ届かないであろう場所へと飛んでいった
しかし
「ふっ!」
それを難なくリターンエースで返す
これにはギャラリーもおおっと声が上がる
てかギャラリー増えてね?
よく見たら出水と米屋もいやがる
しかもニヤニヤしながらこっちに手を振ってくる始末
あいつら…
「よく今の返せたな」
「小学生の時に嫌がらせをしてきた子達と同じ表情をしていたもの。予想がつくわ」
なるほど
そんな経験あるのお前だけだろうな
その後は雪ノ下の独壇場だった
攻めて攻め、また攻める
攻撃は最大の防御なりとはよく言ったものだ
たまに俺の方にも飛んでくるが俺はそれをただ相手コートに返すだけの存在になっていた
試合に勝つまであと2得点とまでいった時
問題は起こった
それほど強くない球がきたが雪ノ下はそれに追いつけなかった
膝に手を置いて肩で息をしている
完全にスタミナ切れだ
はっや
「体力ねーなお前」
「うるさいわね…。昔から何をするにも習得には時間がかからなかったから…」
つまり体力が続いてる間にある程度マスターしてしまうというわけか
なるほど、それなら体力がつかないわけだ
今度から走りこんで体力つけろ
ま、ここまで追い込んでくれたことも事実
あとは俺の切り札で勝負を決めよう
「おい、ちょっとトイレ行ってきていいか?」
「はー?ったく…もう昼休みの時間あんまないんだからさっさとしてくんない?」
「はいはいっと」
そうして最寄のトイレに入った俺はジャージを脱いだ
そして禁断の手段に出る
「トリガーオン…」キィィィン
「すまん、待たせた」
「マジおせーし。さっさとやってくんない?」
「俺のサーブだったな。んじゃ」スッ
「ふっ!」
俺の放ったサーブはものすごいスピードで相手のコートを抜けていった
「…え?」
「な…!?」
これには金髪も縦ロールも驚いている
当然だろう
さっきまでとはまるで違う球だ
そこらのアマチュアでは到底拾うことなど出来ないほどの球威と速度である
ギャラリーの方を見ると出水と米屋が爆笑している
あの様子だと恐らくあいつらは気づいただろうな
「さ、あと一点だな」
「あ、あなた…」
雪ノ下も驚いた様子で信じられないといった表情だ
「ほら、お前のサーブだ。そんくらいは打ってくれよ?」
「え、えぇ…」
雪ノ下の放ったサーブは力もスピードもないがどうにか相手コートには入った
縦ロールがやはり俺に返球するのはまずいと思ったのか既にバテバテの雪ノ下に強烈なリターンを放ってきた
しかしそれを俺が拾う
常人でもギリギリ不自然じゃない程度の瞬発力を装いながら
しかしそれではやはりあまり力が出なかった
金髪がそれをさらに返球する
方向はさっきまで俺のいたところ
これにはどうあがいても届かない
そう、普通ならば
「よっと」
しかしそれすら俺はギリギリで拾う
今のはちょっと不自然だったかもしれない
力の調節がなかなかに難しいな
これには金髪も嘘だろといった様子だ
金髪がその球を再びリターン
しかし今度はそれほど深い位置じゃない
これなら余裕で間に合う
「おらっ!」
俺がその球をものすごい勢いでリターンする
相手はそれを拾えずに、ボールは後ろの金網に当たっててんてんとしている
「ゲームセット、だな」
その場にいた全ての人たちが呆然としていた
出水と米屋だけはなおも腹をかかえて悶えているが
「そら、出て行け。そういう約束だろう」
縦ロールは苦虫を噛み潰したような表情でこちらを睨んできた
俺も負けじと睨み返す
ただ余裕の表情は崩さずにだけどな
金髪も悔しそうな顔をしているが縦ロールを連れて出て行こうとする
しかし縦ロールも黙っていられなかったのか、こちらに向けてボールを思いっきり投げてきた
しかしそんなものは強化視力を持ち、なおかつトリオン体である今の俺には余裕でキャッチできた
しかし俺はそれをあえてスルー
ボールは俺の胸のあたりにドッとぶつかった
「お、おい優美子!」
金髪もさすがにこれには声を荒げる
さらにそれを見た出水と米屋が笑い顔から一転、怒気を含んだ表情でこちらに向かってこようとするのが見えた
だが俺はそれを目で制する
「おい、てめぇ今何をした」
俺は精一杯の怒りを含めたフリをして威圧する
縦ロールもこれには流石にやりすぎたと思ったのか、若干オロオロし始めた
よし、これならばもうちょっかいを出してくることはなくなるだろう
一度後ろめたいと感じてしまえば再びそれをしようとする気はなくなる
これで完璧に撃退できたことになるだろうな
まさにパーフェクト
職人の所業だ
「ちっ…さっさと失せろ」
この言葉でやつらは全員帰っていった
ギャラリーも自然に解散していった
戸塚は少し戸惑った様子で、しかしありがとうと言ってくれた
The☆天使
由比ヶ浜と雪ノ下は今でも信じられないといった様子だが授業の予鈴がなると我を取り戻したようで教室の方へと歩き始めた
俺と戸塚も教室に帰る準備を始めた
その後は授業の前にトイレでトリオン体を解除し、平然と何事もなかったかのように授業を受けた
後日忍田さんに無断かつ私用でトリガーを使ったのがバレ、こっぴどく怒られたのに加えて1ヶ月の減給処分となった
自業自得とは言え1ヶ月の減給は正直かなり萎えた
やはり俺の無給労働は間違っている
てか無給どころか減給…
それから数日後、ついに本部での入隊式が行われた
監督役は今回も嵐山隊
さらには先日の無断での私的なトリガー使用による罰で俺もその補助をやらされている
今日は緑川と模擬戦をやる約束をしていたがこれによって中止になってしまった
今度何か飯でも奢ってやるかな
まず最初は忍田さんによる挨拶だ
が、それは一瞬で終わった
校長先生の話みたいに長くはないらしい
ちょっと安心した
校長の話ってなんであんな長いの?
忍田さんの話が終わって嵐山さん達が現れると黄色い声が上がる
俺はC級達の後ろの方で全体を見回す
三雲達三人も見つけた
空閑は何やら近くのC級三人と話してるようだ
その三人は何やら達観した様子で嵐山さん達を見て嘲笑っている
なんだこいつら
「よし、じゃあアタッカーとガンナーを志望するものはここに、スナイパーを志望するものはウチの佐鳥についていってくれ」
俺はスナイパーのことは全然分からないのでアタッカーやガンナーを志望するやつらの補助だ
嵐山さんがざっとB級に上がる説明をする
現在はソロポイントを4000ポイントまで上げることがB級に上がるための条件だ
そういえば俺が入隊した頃はこんな制度なかったな
俺が入隊した頃はとにかく人員不足だったので少しの説明と訓練の後にすぐ防衛任務に就かされるやつが多かった
特に俺のように最初から結構できるやつは、な
あまり強くないやつらは忍田さんの判断で防衛任務に就いていたようだ
今ではそのようなアバウトなものではなく、きちんと4000ポイントというラインが決められている
これも組織が大きくなったからこそだろう
「まずは訓練の方から体験してもらう。着いてきてくれ」
嵐山さんがC級達を連れて訓練室の方へと歩いていく
「よう空閑、三雲、木虎」
「お、比企谷先輩」
「お疲れ様です、比企谷先輩」
「なんだ比企谷先輩ですか」
三雲と空閑が木虎と最後尾を歩いていたので声をかける
三雲は既にB級だが空閑の付き添いと転属手続きのために本部に来たらしい
あと木虎、お前失礼だぞ
俺は一応先輩なんだ
敬えこの野郎
無理?
ですよねぇ
「俺なるべく早くB級に上がりたいんだけどさ、どうすればいいの?」
「ランク戦でそこらのやつらからむしり取れ。お前なら余裕だろ」
「なるほど、分かりやすいですな」キラーン
実際空閑なら余裕だろうから他のやつらはかわいそうである
そんなこんなで訓練場に到着する
「さあ到着だ。まず最初の訓練は対ネイバー戦闘訓練だ。だが本物ではなく、ボーダーのデータから再現されたものだから安心して戦ってくれ」
「私の時もいきなりこれだったわ」
「僕の時も…」
「これで大体向いてるか分かるよな。俺はやったことねぇけど」
「そうなんですか?」
そういえば三雲にはまだ俺が入隊したのがいつ頃なのかまだ言ってなかったか
まぁ言う機会もなかったしな
「俺が入隊した頃はこんなのなかったからな」
「…ちなみに今やるとどのくらいで倒せるんですか?」
「あ?あー、まぁ1秒はかからんな」
「まぁ慣れればそんなもんですよね」
木虎も同意する
「そ、そうですか…」
俺は雑談もそこそこにC級達の補助を始める
今回の相手はバムスターを初心者用にやや小さくしたもの
まぁ初めてなら1分切れればいい方だろう
だが半数ほど終わってたがどいつもこいつも2分だったり3分だったりとタイムは良くない
一人58秒を出したやつがいたがそいつが暫定で最速らしい
こりゃあんまり期待できるやつはいねぇな
が、突然おぉー!と歓声が上がった
そっちの方を見ると空閑が訓練室から出てきたところだった
なるほど、恐らく空閑がかなりの高タイムをたたき出したのだろう
よく見ると時間が4分59秒41で止まっている
0.59秒かよ
流石だな
しかしどうやらさっき空閑と話してた三人組がいちゃもんを着けたらしい
空閑がもう一度訓練室に入っていく
しかしタイムはさらに縮んだ
ざまぁみろ三バカ共め
上の方では木虎と三雲の他に京介の姿も見えた
なんだ、京介も来たのか
木虎は珍しく落ち着かない様子でソワソワしている
こいつほど分かりやすいやつはそういないだろうな
コツコツと階段を降りてくる音が聞こえたのでそちらの方を見ると風間さんだった
若干きまずいのであんまり会いたくないなぁと思っていると突然
「訓練室を一つ貸せ、嵐山。迅の後輩とやらの実力を試したい」キィィン
と言い出した
そして風間さんがトリオン体へと換装していく
おいおい、マジかよ
「待ってください風間さん。彼はまだ訓練生ですよ?トリガーだって訓練用だ!」
訓練用トリガーと正隊員が使うトリガーとでは基本的に性能が段違いだ
出力や切れ味など、様々な差がある
さらには訓練生が使えるのは一種類なのに対して正隊員は最大8つ
これではあまりにも不公平である
「また城戸さんの差し金ですか?風間さん」
俺が口を挟む
「比企谷か」
風間さんは普段と変わらない様子だ
根に持ってはいないらしい
「勘違いするな。俺が言っているのは…お前だ。三雲」
「「「!?」」」
どうやら風間さんのお目当ては空閑ではなく三雲だったらしい
三雲は正隊員だ
模擬戦をやるには別になんら問題はない
「訓練室に入れ、三雲。お前の実力を確かめさせてもらう」
三雲はどうやら迷っているようだ
いや頭が真っ白になっていると言った方がいいか
A級トップレベルの人に突然そんなことを言われればそうなるのも無理はない
「おい、三雲。嫌なら断れ」
「模擬戦を強制することは出来ない。嫌なら断れる」
俺の発言に京介も加わる
しかし
「いえ…受けます。やりましょう、模擬戦」
おいおいマジか
相手は風間さんだぞ
だが本人がやると言った以上俺達が口を挟む権利はない
「今のお前じゃ勝てんぞ」
「はい…それは分かってます」
なるほど
どうやら経験を積みたいらしい
だが相手との実力が離れすぎててはそれもあまり意味を為さない気もするが
しかし本人がやる気を出しているのだ
これならばやらないよりはやる方がマシだろう
「無理はするなよ」
「はい!」
三雲が京介の言葉を皮切りに風間さんが待つ訓練室へと入っていく
C級達は時枝が別室へと連れて行ってくれたらしい
よく気が利くやつだ
今度ジュースでもおごってやろうかね
結果は散々だ
現在23連敗中…あ、今ちょうどまた負けたから24連敗だな
まぁこうなるだろうとは思っていたが、実際目の当たりにするとなかなかかわいそうに思えてくる
まずカメレオンを捕らえられてすらいない
お、どうやら今ので終わりらしい
風間さんは表情にはあまり出さないが少しガッカリした様子だ
二人は訓練室内でなにやら話し込んでいる
ここからでは何も聞こえないな
風間さんが出入り口に向けて歩き出す
が、何故かまた戻っていく
「あれ?まだやるみたいだぞ?」
「なんで?もう十分負けたでしょ…!?」
三雲のやつ、さっきまでと目が変わったな
すぐ近くにいる風間さんと強化視覚をもつ俺しか分からないだろうが、明らかに目つきが変わっている
風間さんに何て言われたんだ?
『ラスト一戦、開始!』
堤さんの掛け声で25戦目が開始される
今度も風間さんはまず始めにカメレオンを起動した
今までならここで三雲がなんとか当てようとがむしゃらに動いたりアステロイドを放ったりしていた
しかし今回は違った
「…!?」
「これは…超スローの散弾?」
三雲は弾速を極端に削ったアステロイドを訓練室にばら撒き始めた
「なるほど…訓練室を弾丸で埋め尽くす気か」
「訓練室ならトリオン切れはない…しかも風間さんはカメレオンを発動してるからガードすることも出来ない。考えたな、修」
「まさかこんな手が…」
これには木虎も驚嘆しているようだ
「けど…」
風間さんがカメレオンを解除し、姿を現す
「風間さんはカメレオン無しでもかなり強いぞ」
俺の発言通り風間さんは目の前に迫る弾丸をスコーピオンで全て叩き落し、そのまま三雲に突撃していった
あの剣捌き、俺と同等か、いやそれ以上だろう
流石不動のアタッカー2位である
三雲は右手でアステロイドの弾丸を再び生成していた
今度はスロー弾ではなく、普通に撃つつもりだろう
風間さんが近づいてきてるがまだ放たない
弾丸の壁で動きを制限して大玉で迎え撃つつもりか?
しかしそれは風間さんも分かっているだろう
予測できてしまえば避けるのはさほど難しくない
そのままじゃあ風間さんは倒せ…
「スラスターON」ドッ!
「!?」
「シールドチャージ!?」
風間さんは避けきれずにそのまま壁際まで押し込まれてしまう
しかしその距離では風間さんの間合いだ
即座に反撃されて…
ブワン!
レイガストで閉じ込めた…!?
レイガストはシールドモードではその範囲や形状をいじれる
その機能を活用して風間さんを壁とレイガストを使って完全に覆う
「アステロイド!!」キィィン
そのままレイガストに弾一発分の穴を空けて、そこにアステロイドを撃ち込もうとしている
「0距離射撃!」
ドォォン!!
どうなった?
塵がまっていてよく見えない
「やったか?」
「やったんじゃねーかこれ!?」
煙が晴れていく
そこには
のど、つまり伝達系を切り裂かれている三雲の姿があった
『伝達系切断、三雲…ダウン』
マジか
読み合いでは完全に三雲の勝ちだったが…
けど風間さんをここまで追い込んだんだ
「惜しかったわね」
「惜しかったな、三雲」
「いや…そうでもないよ」
空閑の言葉を聞いて風間さんをよく見てみる
すると
『トリオン漏出過多!風間ダウン!』
お、おぉ…!
「最後は相打ち…引き分けだ」
「「「!!」」」
あの風間さんと引き分け
はっ、すげぇじゃねぇか三雲
『模擬戦終了』
最終スコア 三雲 0勝24敗1引き分け
「風間さんと引き分けるなんて…!」
「勝ってないけど大金星だな」
「風間さん、どうでした?うちの三雲は」
「烏丸…そうかお前の弟子か」
「最後はしてやられてましたね、風間さん」
「比企谷…最後の戦法はお前らの入れ知恵か?」
「いえ、俺達が教えたのは基礎だけです」
「あとは全部三雲のアイデアっすよ」
「なるほど…」バシュウ
風間さんがトリオン体を解除する
「正直言って、弱いな。トリオンも身体能力もギリギリのレベルだ。迅が推すほどの素質は感じられない」
でしょうね
誰から見ても素質って点じゃ最低レベルだ
「だが、自分の弱さをよく自覚している。それゆえの発想と相手を読む頭がある」
お?
「知恵と工夫を使う戦い方は俺は嫌いじゃない…邪魔したな、三雲」スタスタ
でた
風間さんの落として上げる方法
これでイチコロな後輩も多いと聞く
飴とムチの典型例だ
結局風間さんは空閑とは一切戦わずに帰っていった
プライドの高い風間さんのことだから模擬戦はちゃんとポイントが動くものじゃないとやりたくないのだろう
ちなみに今の模擬戦では三雲は24敗もしたにも関わらず、ポイントはたった136しか動いていない
ポイントの最高レベルが最低レベルを倒してもポイントの上下ってこんなにも小さいんだなと初めて知った瞬間であった
哀れなのか幸運なのか…
その後は雨取がアイビスで基地の壁を貫いたり、空閑が全ての訓練で満点を取ったりと、ここまでくると流石に隊員の間でも話題になってきていた
ついでに風間さんと引き分けたやつがいるって噂も聞いた
話してるやつらはそいつ絶対A級になるな、とか言ってた
間違ってないんだけど…間違ってるんだよなぁ…
その後は雨取がアイビスで基地の壁を貫いたり、空閑が全ての訓練で満点を取ったりと、ここまでくると流石に隊員の間でも話題になってきていた
ついでに風間さんと引き分けたやつがいるって噂も聞いた
話してるやつらはそいつ絶対A級になるな、とか言ってた
間違ってないんだけど…間違ってるんだよなぁ…
C級への説明も既に全て終わっており、これで俺の役目も終了だ
思ってたよりもかなり早く終わった
緑川のやつランク戦のブースにいるかな?
そうしてブースについた俺は米屋と空閑を見つけた
何故か陽太郎と雷神丸もいる
しかもなんかやたらとギャラリーが多いな
『ビー。十本勝負終了。10対0 勝者緑川』
お、緑川
今まさに模擬戦終わったとこか
誰とやって…三雲?
あいつら知り合いだったのか?
模擬戦が終わり、二人が出てくる
ギャラリーはひそひそと小声で三雲を馬鹿にするようなことを話している
それを聞いた俺は正直かなりイライラした
確かに三雲は弱い
それは間違いない
だがそれはバカにしていいことではない
あいつだって強くなろうと必死に努力している
それは京介との特訓や自主トレーニングからも分かることだ
だがバカにしてるやつらはそれを知らない
なにせあいつはまだソロだし玉狛にいることがほとんどだ
そもそも三雲のことを知らないやつが圧倒的に多いだろう
だからこそ、俺はそれにイラつく
俺は必死に頑張ってるやつは嫌いじゃないからな
なにやら空閑と緑川が話している
ここからじゃよく聞こえないな
緑川が再びブースへと入っていく
しかも今度は空閑まで
今度はこいつらが戦うつもりか?
「よう、米屋。それに陽太郎も」
「お、ハッチー」
「む?はちまんか」
「あ、比企谷先輩…」
「よう三雲、さっきぶりだな。お前緑川と知り合いだったのか?」
「いえ…そういうわけでは…」
「?」
じゃあ何故緑川と模擬戦を?
『ランク外対戦10本勝負、開始』
そうこうしてるうちに空閑と緑川の試合が始まった
訓練生と正隊員によるランク戦ではポイントの上下がない
理由はさっき言った通り正隊員の方が圧倒的に有利だからだ
「米屋、なんでこいつらが緑川と戦ってる?」
「さぁ、よく知らねー。メガネボーイは緑川から誘われてやったらしいぜ。したら今度は白チビが緑川に勝負ふっかけた。理由は知らねぇ」
「…?さっぱりわからん…」
「だろ?」
「三雲、緑川は突然模擬戦しようって言ってきたのか?」
米屋は何も知らないようなので三雲に直接聞く
「えーっと…休憩室にいたら突然話しかけられて…」
「突然?」
「はい。玉狛かどうかをまず聞いてきてその後はどうやって玉狛に転属したのかとか…」
む?
「三雲、迅さんの話題とか出したか?」
「え?えっと…迅さんに誘われて玉狛に転属したんだよ、とは言いました」
「…なるほど」
謎が解けた
簡単なことだ
緑川が嫉妬しただけだな
んで、空閑がそれに気づいたかどうかは分からんが、三雲に恥をかかせた緑川に怒ってこうなったわけか
あいつもそういうとこやっぱまだガキだな
自分で納得していると緑川が空閑を倒したところだった
これで緑川は2連勝
緑川は余裕の表情をしている
あー
こりゃやばいな
「結構経験の差があんなー」
「だな」
米屋も分かったらしい
「けいけんのさってなんだ!?ゆうまもミドリカワに負けるっていうのか!?」
「いや、逆、逆」
「…?」
「まぁ見てな。そろそろ勝つぞ」
米屋の言った通り空閑が1本返した
腕は切り落とされたが、逆にトリオン供給器官を一突きだ
「捕まえた。もう負けはねーな」
「空閑のやつ、緑川をボコボコにする気か?」
「なんか知んねーがそうみたいだな」
「どういうことですか!?」
三雲が質問してくる
「三雲、前に空閑が三輪隊に襲撃されてただろ?」
「は、はい…」
「俺達4人相手に白チビは一人で凌いだんだ。緑川一人くらい捌けないわけねーだろ」
「…!!」
空閑はその後も緑川を圧倒していく
あっという間に6-2だ
これで空閑の勝利が確定した
緑川は焦った顔をしている
動きにもその影響が出ているようだ
「空閑の動きはボーダー内でもトップレベルだ。緑川も確かに強いが、それでも年季の差はあるし、なによりあいつの動きは覚えた芸を見せたくてしょうがない犬ッコロみたいなもんだ」
「だな。けど、白チビのは違う。あいつはもっと…静かで淡々としてる。ただうまく相手を殺すための動きだ」
7-2
ラスト1本だ
緑川も空閑もなにやら笑っている
緑川のやつ、さっきよりはマシな顔つきになってやがる
『ビー。10本勝負終了。最終スコア8-2 勝者、空閑遊真』
しかし結果は当然覆らない
最後の1本はなかなか惜しいとこまでいっていたが、それでも地の力ではまだ空閑の方が上だ
空閑がブースから出てくるが緑川はまだ出てこない
「よーし白チビ、今度こそ俺と…」
「遊真、メガネ君」
「迅さん…!」
「どもども。あれ、八幡もいるのか」
「うっす」
「遊真とメガネ君はちょっと来てくれ。城戸さん達が呼んでる」
お、今回は俺いらないらしい
「あ、迅さんだ!」
緑川がブースから出てくるやいなや迅さんを発見する
くるくると迅さんの周りを回るこいつは本当犬みたいだな
「あ、ハッチー先輩もいるじゃん」
なんだそのついでみたいな言い方
その後は緑川がちゃんと三雲に謝ったり、空閑とライバル関係みたいないい感じになったりと一件落着のようだ
迅さん達3人が出て行ったので結局米屋はまた空閑とは戦えずじまいだった
「緑川」
「ハッチー先輩…」
「どうする?約束どおり今からやるか?」
「俺今ボロ負けしたところでそんな気分じゃないよ」
「うそつけテンション上がりまくってたじゃねぇか」
米屋が思わずつっこむ
「まぁ負けたのはそんな気にすんな。良い勝負だったぜ」
「8-2だったんだけど…」
「その差は空閑に翻弄されたってのが大きな要因だな。動き自体にそこまでの差はない」
「そうなの?」
「最初の2本、結構楽に取れただろ?」
俺の指摘に緑川がやや難しい顔になる
「…やっぱあの2本はわざとだったのか」
「最初は派手に勝たせる。そして油断したところを叩く。んでそれを取り返そうと力んで普段の力が出せなくなったところをさらに叩く」
「全部手のひらの上だったってことか…」
「ま、最後の1本は持ち直したな」
これで緑川も成長したかね
戦いはこうやって心理戦を挟む場合が結構多い
戦いってのはメンタルも重要だ
特に実力は近いやつとの勝負はな
「ってことでハッチー、今からやるか?」
「めんどい。断る」
「緑川とはやる気だったじゃんかよー」
「それは約束してたからだ」
「ちぇー、他にバトれるやついねーかな」
「お、あそこに熊谷いるぞ」
俺は自販機でジュースを買ってる熊谷を見つけた
「くまかー。たまにはくまでもいいなー」
「んじゃあいつに頼め」
「そうっすかー。おーい熊谷!」
熊谷がこちらに気づいたようでジュース片手に歩いてくる
「米屋に比企谷、それに緑川か。どした?なんか用?」
「今からバトろうぜ」
「あー、ごめん。今からチームミーティング」
「マジかー、ちぇー」
「ってことだ。今日は諦めろ米屋」
「まーしょうがねぇか」
「あんたたまには勉強しなさいよ」
「うぐっ…」
「そうだな、いいこと言った熊谷」
「テストの度にみんなに迷惑かけてんだからさー」
「はい…すいません…」
熊谷の口撃で米屋のHPがゴリゴリ削られていく
「緑川、お前もだぞ」
「うぇ!?」
俺が突然緑川へと矛先を変える
「なに、あんたも成績悪いの?」
「米屋とどっこい…いやそれ以下か…?」
「あんたそれ相当やばいわよ」
「あ、あはは…双葉にたまに教えてもらってるんだけど…どうもね」
「黒江ちゃんにあんまり迷惑かけちゃ駄目だよ」
「はーい…」
熊谷さんマジお母さん
「んじゃあたしはそろそろ行くわ」
「おう」
「じゃあなー」
「ばいばーい」
熊谷がこちらに手をふって去っていく
「んじゃ俺も玉狛に帰ろうかね」
「俺はもう家帰ろっかな」
「二人とも帰るのかー。俺は秀次が会議終わるまで暇だからもうちょいここにいるわ」
「いや勉強しろよ」
「帰ったらなー」
あ、これしないフラグだ
まぁいくら言ってももう今日は無理か
「そうか。じゃあまたな」
「バイバイよねやん先輩」
俺と緑川はランク戦ブースを後にし、本部を出たところで緑川とも別れた
今日は罰だとかで仕事させられたが、これが1ヶ月続く気がするのは俺の気のせいだろうか
頼むからそうであってくれ
もう無給で働きたくない…
ジリリリリリリリリ!
「おにーちゃーん、朝だよー!」
あぁ始まった
始まってしまった
ばいばい日曜日、一週間ぶり月曜日
「おはよう」
「おはようお兄ちゃん。朝ごはんできてるよ」
着替えて下に降りると妹が既に朝食を作って待っていてくれた
紹介しよう
我が最愛の妹にして千葉最高の妹、小町だ
異論反論口答えは認めない
「もー、もうちょっと早く起きてよねー」
「わりぃわりぃ。昨日ちょっと疲れててな」
「そういえば帰ってきてすぐお風呂とご飯済ませて寝てたよね」
「あぁ。忍田さんに雑用押し付けられたようなもんでな」
「でもお兄ちゃんが悪いことしたからなんでしょ?」
「うぐっ…」
「はぁ~。まったくごみぃちゃんだなぁ」
戸塚のためにトリガーを使ったとはいえ、わざわざそれを言うのは言い訳してるようで気が引ける
というか俺があいつらをボコボコにしたいがために使ったってのが一番大きい要因だ
だから言えるわけがない
「あぁもうほらあんまり時間ないんだよ。食った食ったー」
小町に急かされて朝食の白飯と味噌汁をかきこむ
うまうま
「んじゃお兄ちゃんっ!」
「へいへい」
小町がこうやって俺と一緒に家を出る時は大体こうだ
俺の自転車の後ろに乗る
うわーい青春だー
「ゴー!」
「うーい」
小町を後ろに乗せて出発する
やや遠回りになるが小町の中学は俺の高校の通学路の途中にある
自転車を漕いでいると前のほうに見知った顔を見つける
「お」
「あ、茜ちゃんだ!」
「ん?あ、比企谷先輩と小町ちゃん!」
日浦茜
B級12位の那須隊に所属するスナイパーだ
小町とは同じ中学同じクラスでかなりの仲良しらしい
たまに俺の家に日浦が来たり、逆に小町が日浦の家に行くこともしばしばだ
日浦経由で那須達とも小町は仲良しだ
この前は那須隊+小町で買い物に出掛けてた
ちなみに日浦を泣かせるとこちらが社会的に死ぬ、というのはそこそこ周知のことだ
「また比企谷先輩の後ろに乗せてもらってるの?」
「にひひー、いいでしょ」
「先生に見つからないようにね」
「んー、いやもう降りようかな」
「降りるの?」
「うん、茜ちゃんと一緒に歩いていく。ここまでありがとね、お兄ちゃん」
「おう、二人共気をつけてな」
「りょーかい!」ビシッ
「はい!」
二人と分かれ俺は我が総武高に向かう、が
「やばい…今日の2限の課題忘れた…」
どうする
今から家に戻っていては間違いなく1限に間に合わない
しかし2限は課題を忘れたやつがいるとよく切れると有名な教師
噂によると数人忘れたクラスでは説教で30分以上費やしたとか
かなり面倒だし注目される
だが1限はあの暴力教師
うーむ…
まだ暴力教師の方がなんとかなるか
課題を取りに帰ろう
んで1限が終わる頃を見計らって行こう
そう決めた俺は家へと戻った
昇降口に着くとちょうど1限が終わった鐘の音が鳴った
ナイスタイミングだ
教室に入ると休み時間だけあってがやがやとしている
そして何故かあの暴力教師がまだいる
「やあ、比企谷。言い訳は?」
「…2限の課題忘れたんで取りにいってました」
「にしては遅すぎじゃないか?」
「と、途中で大荷物を持ったおばあちゃんが…」
「もうちょいマシな嘘つけ」ゴンッ
「ぐっ!?」ドサッ
なんという拳速
防げなかった
てかこの前より速くなってないか!?
「ちなみに2限は先生が今日は出張でいないので、このまま引き続き私の現国だぞ」
なん…だと…
ガラ
俺が絶望に打ちひしがれていると長髪で制服を着崩している女生徒が鞄を持って教室に入ってきた
「む?はぁ、川崎…君も遅刻かね?」
川崎と呼ばれた女生徒は特に何か喋るわけでもいい訳をするでもなく、軽く会釈をして席に向かっていく
「黒のレース…か」
「…バカじゃない?」
聞こえてたか
放課後、今日は部活もないし防衛任務は深夜なので勉強することに決めた
場所は自宅と学校の中間地点くらいにある喫茶店
が、俺は入った瞬間に後悔した
由比ヶ浜と雪ノ下が見えた
それともう一人は…
「あ、八幡!」
戸塚ァァァァァ!
ごめんうそやっぱ後悔してないマジエンジェル
「よう、戸塚。こいつらと勉強会か?」
「うん!」
由比ヶ浜はやっべー、みたいな顔をしている
大方呼んでないやつが来ちゃったよー、とか思ってるんだろう
「あら、呼ばれてない比企谷君じゃない」
「よう、体力ゴミクズの雪ノ下さん」
にらみ合う
「ま、別にお前らの邪魔はしねぇよ。俺は向こうの方で勉強する。じゃあな」
戸塚と一緒になれないのは心苦しいがさっさと勉強を開始したいので奥の方へ歩いていこうとする
すると
「あ、お兄ちゃんだ」
ふぁ?
「小町…なんでここに?」
「大志君からちょっと相談受けててね」
「大志君…?」
小町の後ろの方から一人の男が現れてこちらに一礼する
そうか貴様が小町に近づく羽虫か
よろしい、害虫は駆除に限る
「お兄ちゃん、目の腐り具合がいつもより増してるよ。そこまでそこまで」
ちっ
寛大な小町に感謝しろよ
「ん?お兄ちゃん、その人達は?」
「あぁ、こいつは戸塚だ。俺のクラスメイト。それがどうした?」
「ちょっとヒッキー!わたしとゆきのんは!?」
「だまれ石炭」
「せっ!?だ、誰が石炭だし!!」
「落ち着いて由比ヶ浜さん。この男の言葉に惑わされてはだめよ」
「なんだ冷静だな。今日はまだ体力尽きてないのか?」
「喧嘩を売りたいのね。いいわよ…」ガタッ
「お、落ち着いてゆきのん…」
由比ヶ浜があわあわしている
落ち着いてって言う側が落ち着いてないとか漫画かよ
「どうも比企谷小町ですー。兄がお世話になってます!」
突然小町が自己紹介を始めた
「ちょっとお兄ちゃん!」ヒソヒソ
「…へいへい」
小町に止められたのでここまでにしておくか
「戸塚さんに由比ヶ浜さん、それに雪ノ下さんですね。みなさん可愛い人ばかりですねー。お兄ちゃんもやるなー…ん?」
小町は何やら由比ヶ浜を見つめる
由比ヶ浜は気まずくなったのか目を逸らした
「おい、小町。戸塚は男だぞ?」
「ん?いや、なんでそんな嘘つくの?」
「いや嘘じゃねぇ」
「あ、えっと、僕男です」
「「…えぇ!?」」
小町とついでに大志とやらも驚いている
まぁ俺も最初は驚いたもんだ
「それで、何かお前達はここで何を?」
「だから相談受けてるの。あ、そうだ確かお兄ちゃんって相談乗ってくれるっていう部活に入ったよね?」
「入ったというか入れさせられたというか…てかこの二人が残りの部員だ」
「どうも小町さん。私達奉仕部に用かしら?」
「あ、んっと…大志君から言った方がいいかな」
「うん。俺から言わせてもらうよ」
すると大志とやらは相談の内容を俺らに話す
俺と小町、大志の3人は結局戸塚たちが座っていたテーブル席に着いた
「なるほどね」
「沙希ちゃんの弟だったんだ」
「それで、お姉さんが不良化したのはいつ頃かしら?」
「えっと…確か高2になってからぐらいだったと思います」
うーむ
まだまだ情報が少なすぎるな
「帰りは何時頃だ?高校生なんだから多少遅くなることもあるだろう」
「それが…朝方の5時とかで…」
おっそ
高校生とか関係なしに遅すぎる
「そ、そんな時間に帰ってくるの?寝る時間ないじゃん…」
由比ヶ浜の言うとおりだ
だから今日も遅刻したのだろう
「親は何も言わないのか?」
「それが両親は共働きで、しかも下の妹達の面倒もみないといけないからあまりうるさく言わないんすよ」
家族もあまり関与しない、か
「何か他に情報はないか?」
「えっと…あ、最近変なところから電話がかかってきて…」
「変なところ?なんというところかしら?」
「確かエンジェルなんとかって…」
おいおい
深夜にエンジェルって…まさかそういう店か?
ま、とにかく今ある情報から探っていくしかないな
「よし、じゃあ取り合えず深夜に営業してるエンジェルと名のつく店を洗い出すか」
「そうね。でも別の店でまた働く、なんてことがあってはイタチゴッコだわ。根本的に解決しないといけないわね」
それもそうだ
「まぁとにかく一回沙希ちゃんと会って話さないとね!」
「そうだな」
「みなさん、お願いします…!」
「頑張れお兄ちゃんたちー!」
こうして奉仕部の活動が再び始まる
…あれ?また無給じゃね?
いや「奉仕」って名前なんだから無給は当たり前なんだけど…
あれぇ…?
「さっきのメイド喫茶が違うとなれば後はここしかないな」
「ええ…エンジェル・ラダー 天使の階、だったかしら?」
「ふへー、おっきなホテル…」
深夜営業しているエンジェルと名のつく店は二つしかなかった
一つはメイド喫茶
行ってみたが川崎の姿はなく、また店員に聞いてもそのような者は働いていないとのことだった
ちなみに雪ノ下と由比ヶ浜がその時メイド服を着たが、俺が心底どうでもいいといった顔をしていたら雪ノ下の鋭い眼光に加えて由比ヶ浜のビンタが飛んできた
あまりにも理不尽だ
まぁそういうわけで残るもう一つのお店に来たわけだが…
ホテル内にあるバー
どう考えてもドレスコード必須のお店だ
俺はスーツなどもっていなかったのでどうしたものかと考えていた
しかしそこは流石ボーダー
ツテはこういう時便利だ
いろんな人に聞いて回っていると来馬先輩が声をかけてくれた
俺のを使うかい?と
スーツは大学の入学式用に買ったやつらしくてほとんど新品同然だった
やや気が引けたが来馬先輩の厚意を無碍には出来なかった
来馬先輩マジ菩薩
由比ヶ浜は雪ノ下に借りたようだ
ゆきのんはドレスとかいっぱい持ってるんだよ、と何故か由比ヶ浜が誇らしげに言ってきた
戸塚、小町、大志はそのような服装が準備出来なくて来れないそうだ
まぁ仕方ない
店に入るとさっそく川崎を見つけた
バーカウンターでグラスを拭いている
雪ノ下は足早に彼女へと向かっていく
「捜したわよ、川崎沙希さん」
川崎は無言で雪ノ下を見つめている
「ど、どもー」
由比ヶ浜と俺もそれに続く
「雪ノ下に由比ヶ浜…あと…誰?」
よろしい
戦争だ
「この男のことはどうでもいいわ」
おい、どうでもいいのかよ
「ま、あんたらと一緒ってことは総武の人でしょ。で、ご注文は?」
唐突に聞いてくる
まぁここはバーだ
何をするにもまず注文がマナーというものだ
てか俺お前と同じクラスなんだが?
朝会ってるんだが?
「MAXコーヒー」
「あなた馬鹿じゃない?」
雪ノ下が即ツッコミを入れてきた
漫才の才能あるよ君
「MAXコーヒーね、了解」
あるんかい
雪ノ下と由比ヶ浜はペリエを頼む
さて、本題だ
「川崎、お前最近帰りが遅いらしいな」
川崎がピクッと反応する
「そうか…なんであんたらがここにって思ったけど、そういうこと…」
話が早いヤツは助かるな
「大志?」
「そうだ。心配してたぞ」
「そうそう!本当心配でしょうがないって顔してたよ…!」
「なるほどね…」
川崎はそれっきり黙る
「…やめる気はないのかしら?」
雪ノ下が問う
「ないね」
キッパリと言う
「大体さ、あんたら部外者じゃん。あたしから大志には言っとくからさ、もう関わらないでくれる?」
口を出すな、ということか
「そうか。だが残念だな川崎。もうタイムリミットだ」
「タイムリミット??」
由比ヶ浜がきょとんとしている
「現在時刻は10時40分、これが分からないはずはないわよね?」
雪ノ下も加わる
由比ヶ浜はまだ分からないといった様子だ
「高校生以下は10時以降は働いてはいけないのよ。つまり彼女は歳を誤魔化してここで働いているということになるわ」
「あ、そうなんだ…」
そんくらい知っとけ
「…で?それでどうするの?」
だが川崎はだからなに?といった様子だ
「わたしのことを店長に言ってクビにさせるつもり?まぁそんなことしたら別のとこで働くだけだけどね」
「あ、あのさ…なんでわざわざこんな深夜にバイトしてるの?もっと放課後とかにすればいいじゃん?」
由比ヶ浜が最もなことを言う
そう、それが最大の疑問なのだ
お金がほしいのならばわざわざ深夜に働いてリスクを負うよりも、放課後から10時頃まで働けばいいだけの話である
それとも、それほどまでにお金が必要なのだろうか?
「それじゃあ駄目なんだよ。いいからあんたらはもう帰りな。補導されてもしらないよ」
ふむ
金額だけの問題ってわけでもなさそうだな
放課後は別の用事があるってことか?
「遊ぶ金欲しさに働いているわけじゃないんだろう?」
「当たり前じゃん」
川崎が即答する
なるほどね
大方の予想がついてきた
「何か話してみてよ…そうすれば楽になるかもしんないよ?」
「言ったところで楽にはならないし、解決ももちろんしない。あんたらにはわかんないさ。それともわたしのためにお金用意してくれるの?」
「うっ…それは…出来ないけどさ…」
由比ヶ浜が黙ってしまう
「そのあたりでやめなさい。それ以上吠えるのならば…」
「ねぇ、あんたの父親、県議会議員なんでしょ?」
雪ノ下が言い切る前に川崎が言う
その言葉を聞いた雪ノ下がピクッと動く
「そんな親を持ってるならさぞ余裕があるんだろうね。そんな余裕あるやつがわたしのこと分かるわけないじゃん」
ガシャン
雪ノ下が自分のグラスを倒してしまう
顔は暗く、下を向いていた
「ちょっと!ゆきのんの家のことなんて関係ないじゃん!」
「ならわたしの家のことも関係ないでしょ」
珍しく由比ヶ浜が怒った口調で凄む
だが川崎はそれをしれっと流す
しかも完璧な反論で
「雪ノ下、由比ヶ浜、帰るぞ」
俺が提案、いや命令に近い口調で言う
「ヒッキー!?関係ないのにゆきのんの家のこと言われたんだよ!?」
「だが川崎の言うことも最もだ」
由比ヶ浜がぐっと黙る
「雪ノ下はどう思ってるが知らんが、実際のところ雪ノ下の家は金持ちだろう?金に困ったことはないはずだ。そんなやつが川崎に何を言っても無駄だ。説得力が全くない」
「で、でも…!」
「それに他人の家の事情に踏み込みすぎだ。俺達はあくまで部外者。そこらへんをわきまえろ」
由比ヶ浜は下を向いてしまう
「由比ヶ浜さん、帰りましょう」ガタッ
雪ノ下が立ち、由比ヶ浜もそれに連れ立って立つ
「川崎、明日の朝時間をくれ。バイト終わりだから…5時半くらいに通りのマックでいいか?」
「はぁ?なんで?」
「いいから頼む。それが最後だ。それで無理なら諦める」
「はぁ…分かったよ。本当にそれで最後だろうね?」
「あぁ、約束する」
今日はここまでだ
これ以上ここで何を言っても無駄だ
なにより由比ヶ浜と雪ノ下が冷静じゃない
俺達は料金を支払って店を出た
翌朝5時半
マックでコーヒーを飲みながら川崎を待っていた
くっそ眠い
防衛任務が終わったのが深夜の1時半
それから約3時間ほどしか寝ていない
こりゃ授業中寝てしまうかもしれんな
幸い今日は防衛任務はないから帰ってからたっぷり寝られる
「話ってなに?」
気がついたら川崎が後ろにいた
ちょっとビックリした
お前カメレオンかバックワーム使ってんだろ
「もうちょい待て。まだみんな集まってない」
するとそれから少しして雪ノ下、由比ヶ浜、大志、小町が入ってきた
あれ?小町?
なにしてんの?
「小町、お前こんな時間になにしてんの?」
「大志、あんたこんな時間になにしてるの?」
わぉ
完璧なハモリ
川崎に睨まれた
お、俺は悪くねぇ!
「だってあんな話の途中じゃむずむずしちゃうよ。ちゃんと結末をしりたいの」
なるほどね
我が妹ながら面倒見がいいこって
「姉ちゃんこそこんな時間になにやってんだよ?」
「…あんたには関係ないじゃん」
川崎が突き放す
「関係なくねぇよ!家族じゃん!」
大志の大きく、はっきりとした言葉に川崎は、うっ、となる
「大志、最終確認だ。お前中三になってから何か始めたか?」
「え?えっと…塾に通い始めたくらいっすね」
やっぱりな
迅さん風に言うなら、はい予測確定、だな
「川崎、お前がバイトしてる理由は自分の学費のためだろ?この時期ならば大志の塾のお金は既に支払い済み、川崎家でもその出費は既に折込済みだろう。逆に言えば大志の学費だけが解決してるんだ」
「なるほど…」
雪ノ下は理解したようだ
「それと、放課後は勉強しているんだろう?効率、という点を考えれば勉強ならば放課後でも深夜でも同じ。だがバイトの給料では放課後、つまり10時以前よりも深夜の方が圧倒的に良い。だからお前はわざわざリスクを犯してまで深夜にバイトしているんだ」
川崎ははぁ、と肩を落とす
「姉ちゃん…俺が塾行ってるから…」
「だからあんたは知らなくていいって言ったじゃん」
川崎が何も否定しないことから間違いなくこれが真実だろう
取り合えず家族の問題はこれで解決だ
あとは
「でもバイトはやめない。わたし大学行くつもりだし、それで親に迷惑かけたくないから」
ふむ、だろうな
生半可な覚悟じゃこんなリスクを負ってまでバイトしないし、睡眠時間をこんなにも削るなんてこともしないだろう
「ちょっと失礼しますよ。うちも昔は両親が共働きだったんですけど、それで小町が帰っても家に誰もいないのが嫌で家出したことあるんですよ。んで、それ以来兄は小町よりも早く帰ってきてくれるようになったんです。それが嬉しくて…今は兄はバイトしているので小町よりも早く帰ってきてもまた出て行ってしまうことが多いんですけど、それでもやっぱり感謝してるんです」
なにこれむずかゆい
「こ、小町…そこらへんで…」
俺が恥ずかしそうに止める
「それで?結局何が言いたいの?」
川崎が問う
「大志君も沙希さんに迷惑かけたくないんですよ。沙希さんが大志君に迷惑かけたくないのと同じように」
川崎がはっとする
「その辺も分かってくれると下の子的には嬉しいのです」
大志が力強く川崎を見つめる
川崎は困ったようで、けどどうしようもない、葛藤した様子だ
さて、そろそろ俺が助け舟を出すかね
「なぁ、川崎。スカラシップって知ってるか?」
問題は無事解決した
あれ以降川崎は深夜にバイトすることはなくなったようだ
バイト自体は続けているらしいが、今度は放課後にちゃんと法律に則って適度に働いているらしい
よきかなよきかな
「そういえばお兄ちゃん、お菓子の人とちゃんと会えてたんだね」
小町が唐突に言ってきた
「お菓子の人?」
「ほら、事故でお兄ちゃんが助けたわんちゃんの飼い主さん。でもあんな事故でも由比ヶ浜さんみたいな綺麗な人に会えたのなら報われるね!」
は?
由比ヶ浜が…俺が庇った犬の飼い主?
「あー、だりぃ」
さて問題です
俺は今どこにいるでしょうか
正解は警戒区域内の民家の屋根の上でしたー
つまり防衛任務なう
だりぃ
今日は間宮隊との合同任務だ
でも間宮隊は最近めきめきと力をつけてきてるから正直俺はいらない気がする
まぁ念のためって考えとくか
でも俺間宮隊の人たちちょっと苦手なんだよなぁ
なんかこう…某厨二デブのような気概を感じる…
ちなみに今日は防衛任務が始まって1時間経ってもトリオン兵が全く現れないので暇なことこの上ない
俺はこれでもA級なので固定給があるが、間宮隊のようなB級は歩合制のみなのでこうも敵が現れないと給料が全く出ない
なのでB級の中にはトリオン兵うじゃうじゃ出ればいいのにとかいう不謹慎なやつもチラホラいるとかなんとか
まぁ気持ちは分からんでもないが…
『ゲート発生ゲート発生、座標誘導誤差3.65』
お、きたか
結構な団体様だな
見るからにバンダー5体とモールモッド3体…あとは…
『イ、イルガー…!』
イルガーまでいやがる
間宮隊のやつらが動揺している
イルガーはちょっとやばいな
『間宮隊、バンダーとモールモッドを片付けろ。イルガーは俺がやる』
『りょ、了解!』
俺がいてよかったな
恐らくイルガーを被害なく墜とせるのはA級、またはB級の中でもほんの一握りの者達だけだろう
まったく、ネイバーも厄介なトリオン兵を作るもんだ
「ヤマトオン」キィィン
『特別体解除まで120秒、カウントダウン開始』
現れたイルガーは2体
余裕だな
「斬空弧月 斬波」キィン
ザンッ!
市街地に向かおうとしていたイルガー2体のうち1体を巨大化した斬撃で両断する
斬波は旋空を巨大化させたものと思ってくれていい
スピードは普通の旋空や死突より劣るが、その代わり威力・範囲は絶大だ
イルガーの対処法の一つに自爆モードになる前に墜とすってのがある
つまり自爆モードになる前に超強力な一撃で墜とすってことだな
これが出来る隊員はあまりいないだろう
俺、天羽、迅さん、太刀川さん、小南、レイジさん、二宮さん…くらいか?
あ、あと千佳も出来そうだな
残ったもう1体のイルガーが自爆モードに移行した
どうやら自身がダメージを食らわなくても自爆モードになれるらしい
ま、だからどうってことはないが
「斬空弧月 死突」キィン
ドッ!
以前と同じように貫く
イルガーはボンッと音を発して警戒区域内に墜ちていく
任務完了だな
間宮体はどうなった?
「くっ!バンダーの砲撃が邪魔でやりづらい…!」
「アタッカーがいないとこういう時苦しいな…!」
強化視力で間宮隊の現状を確認する
するとどうやらバンダーの砲撃でモールモッドをなかなか捌けないらしい
アタッカーがいない隊はこれが大変だ
モールモッドを抑える役目がいないからな
『間宮隊、モールモッドに集中しろ』
『ひ、比企谷先輩!けどバンダーの砲撃が邪魔で…!』
ドォォォン!!
5体のバンダーのうち3体が巨大な爆発に巻き込まれて木っ端微塵になる
『なっ!?』
『残り2体も俺が片付ける。お前らはモールモッドを片付けろ』
『りょ、了解!』
結局問題なく討伐できた
間宮隊も現在一息ついている
『ザザッ お疲れ様、比企谷君』
『沢村さん…どうしたんすか?』
『イルガーを迅速に討伐してくれてありがとう。こっちから応援を送ろうとしてたけど、必要なかったみたいね』
『まぁ2体程度なら…あ、じゃあその分給料弾んでください』
『はぁ…あなたはまったくもう…』
『じゃああと20分くらいで防衛任務も終わるんで』
『はいはい、給料が弾むかどうかは忍田さんに自分で相談しなさい』
『えっ…』
『じゃあまた』プツン
そりゃないぜ沢村さんよ…
「うーっす」ガラッ
さて
再び問題です
俺は今どこにいるでしょーか
「あら、いらっしゃい。今日はどんな用事かしら?」
「いや俺部員だから。お客さんじゃないから」
「…?」
「かわいく首かしげんな」
そう、奉仕部です
目の前には雪ノ下
「ちょっとヒッキー!」バンッ
そして今入ってきた馬鹿っぽいのが由比ヶ浜
「比企谷君、馬鹿っぽいだなんて失礼よ」
人の心を読むなんて失礼よ、雪ノ下さん
「なんで先いったし!」
「いや、別にお前待つ必要ないじゃん」
「一緒のクラスなんだから一緒に行こうよ!」
「あー、次から善処しまーす」
「ぜ、ぜんしょ?」
「適切に処置するという意味よ、由比ヶ浜さん」
「へ、へー」
こいつマジでなんで総武に入学できたんだ
総武7不思議の一つに由比ヶ浜と米屋の入学があるんじゃないかと最近本気で思うようなった
「そういえば二人は職場体験どこにするか決めた?」
職場体験
嫌な響きだ
総武ではこの時期に2年生は職場体験をしなくてはならない
「わたしはまだ決めてないわ」
「俺は決めてるぞ」
「え、どこどこ?」
「自宅」
「えー…」
俺の将来の夢
それは専業主夫だ
問題は相手をどうやって見つけるかだが、それは時間が解決してくれるだろう
と、信じている
「あなた本気で言っているの?」
「もちろんだ。専業主夫の夢を馬鹿にするな」
「いやー、普通思ってても言わないでしょ…」
その後は三者が定位置について雪ノ下は読書、由比ヶ浜は携帯、俺は勉強といつも通りになる
いつもならばこのまま由比ヶ浜と雪ノ下が喋ったりして解散だ
だが今日は違った
コンコン
「どうぞ」
珍しい
依頼者か?
「やぁ。こんな時間に悪いがお願いがあってさ…」
入ってきたのはいつぞやの金髪
同じクラスだが関わりたくないやつNo1と言ってもいいほどの俺が嫌いな部類の一人である
「いやー、テスト前はなかなか部活が抜けさせてもらえなくてさ…」
「能書きはいいわ。何か用があるからここに来たのでしょう?葉山隼人君」
へー
こいつ葉山隼人っていうのか
てかなんか雪ノ下が冷たいな
「あぁ、そうだ。これを見てくれ」
そういって金髪は自分の携帯を見せてくる
『戸部はカラーギャングの仲間でゲーセンで西校狩り』
『大和は三股かけてる最低の屑野郎』
『大岡はラフプレーで相手校のエース潰し』
なんだこりゃ?
「あ、それ…」
「結衣も知ってるか…」
「見たところチェーンメールの類かしら?」
「あぁ、そうなんだ」
チェーンメール
また懐かしいもんを…
「これが送られてくるようになってからクラスの雰囲気は悪いし、それに友人のことを悪く言われれば腹も立つ」
ふーん
クラスの雰囲気悪くなってたのか
へー
知らんかった…
「これを止めたい。でも犯人を捜す、とかじゃなくて穏便に丸く収める方で頼みたいんだ」
「は?」
やべっ
思わず声を出してしまった
だがこいつの言ってることがあまりにも能天気だったので思わず出てしまったのだ
丸く収まっても犯人が痛い目を見なければそのうち似たようなことが起こるだけだ
こいつはそんなことも分からんのか?
「つまり事態の収拾を図ればいいのね」
「うん、そうだ」
「では犯人を捜しましょうか」
「うん、よろし…あ、あれ?なんでそうなるの!?」
「チェーンメール、あれは人の尊厳を踏みにじるものよ。しかも拡散元は悪意があってもさらに拡散させる人に悪意があるとは限らないのがまたタチが悪いのよ。止めるには元を根絶やしにするしかないわ。ソースは私」
「実体験かよ…」
てか雪ノ下でもソースは、なんて言葉使うんだな
「とにかくわたしは犯人を捜して一言言うわ。多分それだけで解決するでしょう。その後はあなたの裁量に任せます」
「…」
「それでいいかしら?」
「…あぁ、わかったよ」
葉山とやらも観念したようだ
まぁ犯人も自分がやったってことが他の人にバレたと分かれば流石にもうやらないだろう
もしクラス中にばれればそいつの高校生活はそこで終わりだからな
「それで、メールが来たのはいつ頃かしら?」
「確か先週末くらいからだったよな、結衣?」
「うん、そんなもんだったよ」
「その時クラスで何かあったかしら?」
「いや特に何もなかったと思うけど…」
「うん、いつも通りだった」
雪ノ下はうーんと考えている
「一応あなたにも聞いておくわ、比企谷君。普段と何か変わったことはなかったかしら?」
急に俺の方を向いてそう言った
一応ってなんだコラ
「あー…あ、確か職場体験のグループ分けがあったな」
「あ、それだ。こういうイベントのグループ分けは後の関係性に関わるからね。ナイーブになる人もいると思うよ」
由比ヶ浜が珍しく納得できる説明をする
「お前ナイーブって言葉知ってるのか。意外だな。」
「ちょっとどういうことだしヒッキー!」
葉山は、ははっ、と笑っている
否定しないところを見るとこいつも由比ヶ浜の馬鹿さ具合は知っているらしい
「チェーンメールに書かれているこの3人、全員あなたの仲良しさん達よね?あなた達は既にグループを決めたの?」
なんだその言い方
普通に友達って言えよ
「そういえばまだ決めてないな」
「あ…ほとんど犯人分かっちゃったかも…」
由比ヶ浜が暗い顔をして言う
「説明してもらえるかしら?」
「うん。職場体験って3人1組のグループじゃん?でも葉山君達は4人…」
「なるほどな」
理解した
「つまり犯人はその3人の誰かってことか」
「うん…多分…」
「なっ!?」
「その中からはぶられたらかなりキツイから…」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!あいつらのことを悪く言うメールなんだぜ!?あの3人が犯人なわけないじゃないか!」
「自分のことだけ書いてなかったらそいつが真っ先に疑われるだろうが。自分のことも書いたのは隠れ蓑だろう」
「でしょうね」
「まぁ俺だったら一人だけわざと悪く書かないでそいつに罪をかぶせるけどな」
「ヒッキー最低…」
まさに外道!
その後は葉山が3人のことを詳しく言えば雪ノ下がものすごくネガティブに解釈して葉山が絶句していた
「駄目ね。葉山君の説明だけじゃ三人とも犯人でもおかしくはないわ。二人はこの三人のことどう思うのかしら?」
俺が思うにお前が犯人じゃね?
とは言えない
「うーん、そんなこと言われても…」
「俺はそいつらのことは全く知らん」
「そういえばあなたはクラス全員のことを知らなかったわね。いえ、クラス全員があなたのことを知らないといった方が正解かしら?」
「よっし表でろや」ガタッ
「ヒッキーどうどう」
俺は馬か
俺のことを知ってるやつはいるわ
戸塚とか…戸塚とか…戸塚…とか…
あれぇ?
てかこういう状況になっても由比ヶ浜が動じなくなってきたな
慣れってすごいな
「では調べてもらえるかしら?グループ決めの締め切りは明後日だがら1日猶予があるわ」
由比ヶ浜が下を向いてしまう
「ごめんなさい…あまり気持ちのいいものではないわね」
「俺がやる。お前の言う通りクラスのやつらは誰も俺のことなんて気にしないからな」
ここは俺がやるべきだろう
由比ヶ浜はもし失敗したら居場所がなくなりかねん
「え、でもヒッキーテニスの件で優美子にちょっと悪く思われてるかもよ…?」
「だから?あいつにどう思われてようが俺には関係ない」
「では友達のいない比企谷君にお願いしましょうか」
「お前さっきからやけに挑発的だな。お前がその気ならいつでも受けて経つぜ」
「やめときなさい。わたしこれでも合気道を一通りマスターしているから」
「試してみるか?俺もこれでも結構鍛えてるんでね」
「怪我してもいいのなら」
「はいストップストップ。そこまでだよ」
由比ヶ浜が止めにはいる
葉山は呆然としている
「由比ヶ浜さんに感謝なさい」
「お前がな」
マジで由比ヶ浜慣れてきてんな…
翌日、俺は例の3人を観察する
うーむ
なんも分からん
「おはよう比企谷君」
「ん?戸塚か、おはよう」
「うん!」
なにこの笑顔天使なの?
「比企谷君は誰と職場見学行くかもう決めた?」
「いや、まだ決めてないな」
俺の自宅に職場見学に行きたいなんて言うやついるわけもないしな
「お前はもう決めたのか?」
「うん、僕は一応決めてるよ」
ちっ
「ねぇ比企谷君…」
「なんだ?」
「あ、あのね…その…」モジモジ
戸塚がモジモジしている…だと…!?
いかん冷静になれ
小南の着替えを見ちまったあのシーンを思い出せ…!
…ふぅ、もう大丈夫だ
「ぼ、僕も比企谷君のこと名前で呼んでもいい?」
「なん…だと…」
「あ、ごめん…嫌だったかな…?」
「そんなことないぞ彩加!」
「え!?今名前で…」
あぁあああぁぁぁああ!
「嬉しいな、始めて名前で呼んでくれたね!じゃあ僕も八幡って呼ぶね!」
昇天
「やぁ、何かわかったかな?」
天にも昇る(物理)気持ちでいると横から嫌な声が耳に入ってきた
この音声はいらん
「いやまだだ」
「そうか…」
だってあいつら見てても何もわから…
あぁ、なるほどね
「…?どうした?」
「いや、犯人は分からんが原因と解決策は見つかった」
「本当か!」
「放課後奉仕部にこい」
放課後
部室に全員が集まったとこで俺が切り出す
とする直前
「ハッチーいるかー?」ガラッ
What?
「あ、確か…出水君?」
「ん?あー、えっと由比ヶ浜ちゃんだっけ?」
「そうそう!」
「出水君…何か奉仕部に用かしら?」
「いや奉仕部じゃなくてハッチーに用があるん…」
「ちょっと来い」グイッ
「うぇ!?」
ガラッ ピシャッ
「…ヒッキーと出水君って知り合いだったの?」
「さぁ…わたしは知らないわ」
「おいどういうつもりだ弾バカ」
「弾バカ言うなひねくれバカ」
「誰がひねくれバカだ。で?なんで携帯にかけるんじゃなくわざわざここに来た?てかなんで俺がここにいるって知ってんだ」
「だってハッチーいくら電話かけても出ねーし。場所は先に教室行ったんだけどハッチーいないからさ、そしたらめっちゃ可愛い子が八幡は奉仕部に行ったよって言うから場所聞いて来た」
そういえば携帯の電源切ったままだったな…
んでこいつの言ってる可愛い子ってのは多分戸塚だな
「そりゃ悪かった。で、用事はなんだ?」
「今日17歳組で焼肉行くんだけど、来るか?那須と熊谷は防衛任務があるから途中で抜けるらしいけど」
お、久々に17歳組であつまるのか
「何時からだ?」
「7時にいつもの店に現地集合」
「分かった。俺も行く」
「うっし!じゃあまた現地でな!俺今から防衛任務だからちょっと遅れるかもしんねーから」
「分かった」
「じゃあな!」
ふぅ
学校でボーダー関係者とあまり関わりたくないってのに
「悪いな」ガラッ
「ヒッキーって出水君と知り合いだったの?」
「あぁ」
「へぇ、あのヒキタニ君が…」
てめぇ今その言葉にどんな意味を含めた?
「さっさと本題に入るぞ」
この言葉を皮切りに全員が真剣な顔になる
「まず葉山。お前はお前がいない時の三人を見たことがあるか?」
「いや、ないけど」
「?」
「どういうことかしら?」
三者とも何を言いたいのか分からないといった様子だ
「お前が教室で俺の方に来た時、三人は全く会話をしていなかった。それどころか全員互いの顔を見ようともしてなかった」
「え…」
「つまりあの三人にとって葉山は友達で、葉山以外は友達の友達でしかないんだよ」
「あ、なるほど。確かに会話回す人がいないと気まずいよね」
由比ヶ浜も納得したようだ
葉山は悔しそうだが反論できないといった様子
雪ノ下はまだ分かってないらしい
あぁ、そういえばこいつ友達できたことなかったんだっけか
「まぁそういうわけなんだが、解決策はある。つまりその三人が友達になっちまえばいいんだよ」
「どうやって?」
由比ヶ浜が疑問をぶつけてくる
「葉山、お前今度の職場見学のグループでそいつら三人とは組むな」
「え…?」
「今回の犯人の目的は一人だけハブられないようにすることだ。つまり葉山が他の人と組むってことになれば、その三人で否応なしに組むことになるだろう」
「なるほど…そうすれば少なくともハブられることはなくなるわね」
「ついでに仲良しになってくれれば儲けもんだな」
葉山は特に反論も意見もなく、すんなり受け入れた
恐らく葉山自身も納得してしまったのだろう
「これで依頼は終了だな。さっさと自分の部活に行け」
葉山は礼を言って部室から出て行った
やれやれ
「お、きたきた!」
「アンタ遅いわよ!」
「いやまだ7時前じゃねぇか」
「あたしを待たせたら遅刻なの!」
「なんだそりゃ」
俺はその夜、約束通りボーダー17歳組と焼肉に来た
メンバーは今のところ米屋、小南、那須、熊谷、辻、奈良坂、綾辻、三上、宇佐美、氷見、仁礼、小佐野、そしてなんと三輪
俺は三輪の方へと向かう
「三輪、お前が来るのなんて珍しいな」
「比企谷…俺は陽介に無理やり連れてこられただけだ」
「それでもだよ」
俺も三輪もやや沈黙する
「…なぁ、お前はネイバーが憎くないのか?」
「なんだ急に」
「いいから答えろ」
「そうだな…正直言うとまだちゃんとした答えは出せてない。けど、少なくともネイバーにも良い奴がいるってことだけは分かる。それはこの目で見たことだ」
「そうか…」
「それに、俺は母さんを殺した国を許したわけじゃない。いつか必ず報いをうけてもらう」
「…」
三輪はそれ以上は喋らなかった
「よし、店入ろうぜ!」
米屋の掛け声で一斉に入っていく
人数は14人
まぁまぁの大所帯だ
出水は防衛任務で30分ほど遅れるそうで、那須と熊谷は9時からなので途中で抜けるそうだ
「ちょっと槍バカ!あたしの肉取らないでよね!」
「なんのことだか知らねぇなぁ」モグモグ
「三輪!あんたちゃんとコイツの面倒見なさいよね!」
「俺にふるな」
「まぁまぁ小南、わたしのお肉あげるからさ」
「さすが栞!」
「おいこら仁礼!しれっと俺の肉とるな!」
「はっ、あたしの肉の報いよ!やっちまえ光!」
「うまうま」
あのテーブルは戦場か何かか?
「みんな元気だね」
「バカばっかりなんでしょ」
「秀次がもう疲れてきてるな」
「はっや」
俺のいるテーブルには那須、熊谷、奈良坂がいる
ちなみにもう一つのテーブルには
「あ、これおいしー」
「ちゃんと野菜も食べなさいよ」
「三上っちお母さんみたーい」
氷見と三上と小佐野
そして
「…」
辻がいる
そんな助けを請うような目でこっちを見るな
ちょうどいい機会だからお前はそこで女性に慣れろ
「そういえば小町ちゃんは元気?」
「あん?元気すぎてちょっと引くまであるぞ」
「そっか!今度また一緒に遊ぼうねって言っといて」
「あいよ」
那須と熊谷は小町と仲良しだ
「なんだ比企谷、お前妹がいたのか?」
「おう。千葉至上最高の妹と言っても過言じゃない」
「そ、そうなのか…」
「でた比企谷のシスコン」
「ふふっ、変わらないね」
奈良坂はちょっと引いていて、熊谷はやれやれといった様子だ
那須だけが可愛い笑顔でクスクスと笑っている
さすがファンクラブまであると噂の那須だ
こういうとこで男共が陥落するのだろう
「おいーっす」
「おせーぞ弾バカ!」
「だれが弾バカだ槍バカ」
出水が遅れて到着した
辻が頼むからここに来てくれと、ものすごい目で訴えている
「分かった分かった。だからそんな目でみるなって」
出水は苦笑しながら辻のいるテーブルへと向かった
辻の顔がものすごい安堵に包まれているのが分かる
どんだけ女性が苦手なんだお前は
「そういやハッチー」
「あん?」
「なんで部活なんか入ったんだ?」
「「「「「「「!!??」」」」」」」
その瞬間全員が動きを止めた
いや俺Theワールド使ってないよ?
「比企谷が部活…!?」
「うそだろ…」
「あ、ありえない…」
「天変地異の前触れか…?」
おいどういう意味だお前ら
「自分の意思で入ったわけじゃない。無理やり入れさせられたんだよ」
「誰に?」
「暴力教師」
「?」
それ以上はもう興味がなくなったのか、別の話題で会話が始まった
それからは8時過ぎ頃に那須と熊谷が抜け、そうなったら槍バカと小南が何故かこっちのテーブルに居座ってこっちのテーブルがカオスな状態になった
まぁけど、こういうのは俺は嫌いじゃない
ここが俺の居場所だって心から思える
とか感慨にふけっていたら槍バカに俺が丹精込めて育てていた肉を取られた
コロす
「八幡疲れてる?」
「あー、昨日ちょっとな」
翌日、俺は教室の自分の机に突っ伏していた
つ、疲れた…
昨日は米屋と小南に焼肉後も連れまわされて酷い目をみた
おかげで俺はクタクタだ
もう何もしたくない
チラッと後ろの黒板を見ると戸部、大和、大岡の文字が縦に並んでいた
どうやら上手くいったようだな
「おかげで丸く収まった。ありがとう」
「別に。俺は何もしちゃいない」
「これを機にあいつらが本当の友達になれるといいな」
葉山が話しかけてくる
こいつは…
能天気というか楽観的というか
人を信じすぎだろう
そのうち痛い目を見るんじゃないか
「そういえば、俺まだグループ決まってないんだ。一緒にどうかな?」
まぁ余り物と組むつもりだった俺はほぼクラス全員が既に決まっている現状、特に断る理由はない
「別に構わないが、あと一人はどうするつもりだ?」
そう言った瞬間隣にいた戸塚がぷくーっと頬を膨らませた
「と、戸塚?」
「八幡、僕は?」
「え?だってお前もう決めてるって…」
「だから、初めから八幡と行くって決めてたの!」
マジか
なら初めからそう言ってくれればいいのにー
もー戸塚ったらー
「じゃあこの三人で黒板に名前書くか。行く場所はどこにする?」
「僕はボーダーに行ってみたいな!」
「え」
いや、待ってくれ戸塚
それはまずい
個人的に非常にまずい
「俺もボーダーに行ってみたいな」
2対1だと…!?
「ボーダーかぁ…」
「あ、ごめんね。八幡が嫌なら無理にとは言わないから別の場所に…」
「うっ、いや…嫌ってわけじゃ…」
そんな上目遣いで、さらにちょっと涙目で見られたら…断れるわけない
「いや、構わねぇよ」
「いいの?」
「あぁ…」
話を聞く限りうちのクラスはほぼどのグループもボーダーに行くらしい
てか学年中で一番人気がボーダーだ
おいおい
やべぇよやべぇよ
こりゃ当日仮病使うか?
【俺ガイル】八幡「ボーダーか…」【ワートリ】【後半】
元スレ
【俺ガイル】八幡「ボーダーか…」【ワートリ】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1454944275/
【俺ガイル】八幡「ボーダーか…」【ワートリ】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1454944275/
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- 魔王「フハハ!封印から蘇ったら人間が滅亡しとったわ!!」
- 御坂「あ、あんた何やってるの!?」上条「ん?」
- 雪乃「比企谷君とのキスにはまってしまったわ」
- のび太「ドラえもん!僕にデュエマを教えてよ!」
- ルーク「二週目?」
- 由比ヶ浜「ヒッキー大変!小町ちゃんと体が入れ替わっちゃった!」
- 梨沙「き、着てあげてもいいわよ」モバP「ん?」
- 跡部「デュクシwwwwww」
- 【第1話】半沢直樹(小学生)「ひゃくまんばい返しだ!!!」