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勇者「仲間TUEEEEEEEEEEEEEE!!」【前半】

1:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/16(火) 14:04:45.63 ID:LuI9ccOWo

ー 十五年前、とある村 ー


少女A「」エグッ、エグッ

少年B「とうとうお別れの日が来ちまったか……」ゴシゴシ

少女C「勇者! 向こうに行っても元気でやるのよ!」グスッ

少年D「僕たちの事、絶対忘れないでね!」グスッ

少女E「約束だからね! 十五年後の今日、またこの木の下に来て、それでみんなで魔王を倒しに行くんだから!」


子供勇者「わかってる! 俺、その時は絶対勇者になってるから! 絶対に! 絶対に!」ポロポロ

少女A「わたしは立派な……僧侶に……」グシュッ

少年B「俺は戦士だ!」グスッ

少女C「あたしは武闘家に!」エグッ

少年D「僕は魔法使いに……!」グスッ

少女E「私は商人に……!」グシュッ


全員「十五年後に、またこの木の下で!!」



2:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/16(火) 14:08:58.15 ID:LuI9ccOWo

ー 十五年後、王宮 ー


国王「騎士隊長、いや、今や女神の加護を受けた勇者よ」

勇者「はっ」

国王「女神の神託通り、そなたを魔王討伐の旅へと出す事をここに宣言する」

勇者「ははっ。慎んでその任、お受け致します」

国王「思えば、そなたは一介の兵士から、最年少で騎士団の一員となり、そして更にまた最年少で騎士隊長へと就いた男」

国王「その素晴らしき剣と魔法の才能には驚いておったが、勇者となれば納得だ。そなたを失うのは魔王軍との戦いにおいて不安が残るが、しかし、勇者の旅立ちを妨げる様な事を余がする訳にはならぬ」

国王「こちらの事は気にせず、自由に旅するが良い。そなたが選び進む道こそが、それ即ち勇者の道だ」

国王「迷わず進め。そして、必ずや魔王を倒し、この世界を救うのだ」

国王「魔王を倒した暁には、我が娘である姫との婚姻をも認めよう。そなたの進む道に女神の加護があらん事を」

勇者「もったいないお言葉、ありがとうございます。不肖、この勇者、魔王討伐に全力を尽くす所存です!」



4:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/16(火) 14:10:22.36 ID:LuI9ccOWo

ー 訓練所 ー


騎士団長「……そうか。遂に、勇者として旅立つのか」

勇者「はい。明日、出発します。それで最後の御挨拶に伺いました」

勇者「騎士団長様には、幼い頃から目をかけて頂き、言葉では表せない程感謝しております。長い間、本当にお世話になりました」ペコッ

騎士団長「よしてくれ。そんな堅苦しい挨拶は私は苦手だ」

騎士団長「それに、これで最後と言う訳でもあるまい。魔王を倒せば、君もここに戻ってくるのだろう? 私はその時をずっと待っているよ」ニコッ

勇者「……っ、ありがとうございます」グスッ

騎士団長「ふふっ。旅立ちの前に涙は縁起が良くない。これで拭きたまえ」スッ

勇者「はい……」ゴシゴシ



5:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/16(火) 14:11:58.57 ID:LuI9ccOWo

騎士団長「……もっとも、次に帰って来た時には、君は次期国王様という事になるのか。こうして気安く語り合える事もなくなるのだな。それだけが少し残念だ」

勇者「いえ、それは……ないです。俺が次期国王とか、想像もつかないですし。それに姫だって俺と結婚など……」

騎士団長「したくはないと?」

勇者「はい。姫はあれだけお美しい方ですから……」

騎士団長「君も、十分美男子だよ。自信と誇りを持ちたまえ」ニコッ

勇者「そんな……。やめて下さい」

騎士団長「やれやれ。これまで何人も女を泣かしている男の台詞ではないな。まったく、お前というやつは……」(軽く頭に手を置く)

勇者「団長……」



6:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/16(火) 14:15:52.60 ID:LuI9ccOWo

騎士団長「昔からずっと世話してるんだ。お前の考えてる事は何となくわかる。政略結婚だから嫌だと言うのだろう。姫が可哀想だと」

勇者「…………」

騎士団長「だが、私からすれば、貴族のボンクラ息子や、他所の国のバカ王子の元に嫁がされるよりは、お前の方が遥かに良いと思うぞ」

勇者「誰かに聞かれたら、不敬罪で捕まりますよ……」

騎士団長「まあ、それはいつも通り秘密だ。とにかく、今はあまり深く考えるなという事だ」

勇者「ですが、それは……」

騎士団長「魔王討伐の旅がどれだけかかるかは私にはわからない。だが、どれだけ少なく見積もっても一年か二年ぐらいはかかるだろう」

騎士団長「その間に、お前はお前で様々な体験をするはずだ。その体験が、きっと帰って来たお前に色々と教えてくれるだろう」

騎士団長「これからどうすればいいのか、何が正しい選択なのか、という事をな」

騎士団長「世界を見て、そして一回りも二回りも大きな男になって、無事にここに帰ってこい」

騎士団長「考えるのは、それからでも遅くはないぞ。未来の事に今思いを馳せるよりも、今やらなければならない事に対して精一杯努力しろ」

騎士団長「これが、私からの最後のアドバイスだ。頑張れよ」

勇者「……団長。……ありがとうございます!」



7:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/16(火) 14:18:35.71 ID:LuI9ccOWo

ー 酒場 ー


隊員A「それでは、隊長殿の栄誉ある旅立ちを祝って……」

隊員A「かんぱーい!!」

「かんぱーい!!」カチンッ、カチンッ


隊員B「いやー、しっかし、本当に隊長殿が勇者様とは!」グビッ

隊員C「子供の時から、散々聞かされてきた伝説! いつか女神様からの神託が降りて、魔王を倒す勇者様が現れるとは聞いておりましたが!」

隊員D「この国から勇者様が出るなら、多分、隊長か騎士団長様なんじゃないかって俺たち噂してたんすよ! でも、本当にそれが当たるとはなあ!」グビビッ

隊員E「…………」グビッ

隊員A「もう何回も言いましたが、おめでとうございます、隊長殿!」

勇者「ああ、ありがとう。俺も子供の時からの夢が叶って嬉しいよ」グビッ

隊員B「あ、あまり飲みすぎないで下さいよ、隊長。明日は旅立ちの日だってのに、二日酔いじゃ洒落にならないんで」

勇者「わかってる。この一杯だけにしとくから」

隊員E「」グビッ



8:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/16(火) 14:19:31.56 ID:LuI9ccOWo

ー 一時間後 ー


隊員A「それにしても、俺らが一緒に旅に行けないのが、本当に残念です」グビッ

隊員B「だよな。団長様も残念がってたからな」グビッ

勇者「仕方ないさ。最近は比較的平和とは言え、防衛を疎かにする訳にはいかない。首都のここから、兵士を割く余裕はないよ」

隊員C「だからといって、隊長殿お一人で旅に出るってのもきつい話だと思うんですけど」グビッ

隊員D「せめて、直属の俺らだけでもついて行きたかったですよ」

勇者「今はどこの都市も兵士数に余裕がないんだよ。人員補充して調整したとしても、旅立ちが三ヶ月近くは延びる事になるし」

隊員A「っても、一人はねーっすよ、一人は。中隊全部とは言わないですけど、小隊の一つぐらいお供につけてもいいと思うのに」グビッ

勇者「危険な旅だし、何よりその間、給料が出ないからな。希望を募っても、どうせ誰も立候補しないさ」

隊員B「見損なわないで下さいよ、隊長殿! 自分はそれでも立候補しましたとも!」グビッ

隊員C「そうっす! それに、上手く無事で帰ってくりゃ、英雄扱いでしょうし!」グビッ

勇者「酔いすぎだぞ、お前ら」ハハッ

隊員E「ちっ……」グビッ

勇者「……?」



9:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/16(火) 14:20:57.46 ID:LuI9ccOWo

隊員E「隊長さんよ……。いい加減、その白々しい嘘やめてくれませんか」グビッ

勇者「…………」

隊員A「ちょっ、隊員Eさん、また酔ってんすか。今日は絡むのはなしにしましょーよ」

隊員B「そうそう。今日は穏便にいきましょうって。壮行会ですし……」

隊員E「うっさい。あんな適当な事言われて黙ってられっかよ!」ダンッ

隊員C「落ち着いて下さいって。まあまあ」

隊員E「お前らだって嘘つかれてんだぞ!」

隊員D「嘘?」

隊員E「隊長さん、あんた、本当は陛下から兵士を一緒に連れていけって言われたのを断ったそうじゃないか」

隊員A「え!」

隊員B「隊長……!?」

隊員C「そうなんですか!?」

勇者「…………ああ」グビッ

隊員E「なのに、こいつらときたら簡単に騙されて。情けないったらありゃしねえ」ヒック

隊員A「隊長……どうして?」

隊員B「何で断ったんすか! 味方は多い方がいいのに!」

勇者「…………」



10:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/16(火) 14:25:08.10 ID:LuI9ccOWo

勇者「……理由は幾つかあったんだけどな」

勇者「一つは、武装した兵士を何百人も引き連れて行ったら旅に支障が出る」

勇者「行くのはこの国だけじゃないからな。兵士を引き連れて旅してたら国際問題になる。それに宿や食費がその分加算されるから、戦争と同じぐらいの負担がかかる。国としても養いきれない」

勇者「だから、三十名程の少数精鋭でって事を陛下は言われたんだが、それも断った」

勇者「本当に今は兵士の数に余裕がないからな。うちの国は貧しい国だ。軍隊も他国に比べて多いわけじゃない」

勇者「陛下は新たにその分、兵士を募って補充すると仰ってたが、そこから精鋭を何人も引き抜いたらその補充した新兵の訓練を誰がするかって話になる」

勇者「兵士が使い物になるまで最低でも二年はかかる。精鋭となると年数や人数の問題じゃなくなる。数は同じでも内部が弱体化したら、結局、同じ事だ。この国を危うくするような事は避けたかった」

勇者「それと、さっきも言ったけど、危険な上に給料も出ないんだ。一度旅に出たら、もうそれっきりなんだぞ。魔王を討伐するまで何年かかるかもわからないしな」

勇者「そんな危険で得にもならない目に、他の誰かを無理矢理遇わしたくはなかったんだよ。それなら、一人の方がよっぽど気が楽だし、旅しやすい」

勇者「そして、最後の理由。俺にはもう仲間がいる」

勇者「昔、約束した仲間がいるんだ。だから、他の仲間を連れてく訳にはいかない。それだけだよ」グビッ


隊員たち「…………」



11:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/16(火) 14:32:35.84 ID:LuI9ccOWo

隊員A「……でも、俺らだって同じ隊の仲間じゃないですか」

隊員B「いや……やめとけ。お前、この前、結婚したばかりだろ……? 隊長の気持ち、考えろよ」

隊員A「う……」

隊員C「俺も……子供いるな……」

隊員D「だけど、こうして騎士団でいる以上、死ぬ事も覚悟してるぞ……!」

隊員C「それは全員がそうだろ……。それもわかった上で、隊長は一人で行く事を選んだって話だ。……そういう事ですよね?」


勇者「……悪いな。だけど、俺だって本音を言えば少しは怖いし、こんな何年かかるかもわからないような旅をしたくないって気持ちもあるんだよ」

勇者「勇者として選ばれた以上、断れないし断ってはいけない種類の話だから、やらなきゃならないって義務感もあるしな」

勇者「だけど、魔王を倒して平和な世界にしたいって気持ちもあるんだ。俺しかやれないってんなら尚更そう思う」

勇者「だから、俺が自分から行くのはいいさ。自分のしたい事をやってるんだから」

勇者「でも、その為に無理矢理誰かを巻き込むってのは嫌なんだ。わかってくれ」


隊員A「…………」

隊員B「…………」

隊員C「…………」

隊員D「…………」

隊員E「…………」グビッ



12:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/16(火) 14:33:30.27 ID:LuI9ccOWo

隊員E「……精鋭を勝手に選ぶってんなら、家族持ちのやつらも中に入るかもしれないからな」グビッ

隊員E「志願者だけにするってんなら、数がどれだけ集まるかわからんし、何より腕のバラツキが出る」

隊員E「役立たずが志願してきたり、何も考えてないお調子者が来たら、今度はそいつらを守らなきゃならないから逆に迷惑だ」グビッ

隊員E「……なら、確かに一人の方がマシかもな。なにせ、あんたは剣も魔法も一流の腕前だ。あんたと近いレベルのが少ないぐらいにな」

隊員E「十歳上の俺をあっさり抜かして、一気に隊長になっただけはある。将来は騎士団長間違いなしとまで言われてたしな」グビッ

隊員E「誠にご立派だよ。生まれながらの天才と周りから言われて、人望も厚いしな」

隊員A「隊員Eさん……。そんな話しなくても」

隊員B「それに、実力は隊長のが遥かに上だってみんなわかってるじゃないですか……」

隊員E「ああ、そうだよ! わかってるよ、これは嫉妬だ! 当たり前だろ、悔しいじゃねーか! 誰よりも必死に努力してきたのに、結局は才能の差だってんのがな!」ダンッ

隊員B「隊員Eさん! やめましょう! 落ち着いて!」

隊員E「なのに、あんたは勇者に選ばれて! たった一人で旅に出るとか言って!」

隊員E「それで、空いた騎士隊長の座がどうなったかと言えば、俺にひょいと転がってきたんだ!」

隊員D「え」

隊員E「今日、団長から推薦を受けて内々で決まったって事を言われたよ! 俺は内心、嬉しいやら悔しいやら悲しいやら情けないやらで、ずっとずっと……」ポロポロ

勇者「隊員Eさん……」



13:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/16(火) 14:35:20.44 ID:LuI9ccOWo

隊員E「」ゴシゴシ

隊員E「あんたの事は前から認めてた。だけど、それを自分で認めたくなかった」グスッ

隊員E「なのに、あんたが旅に出るってなって、自分に騎士隊長の座が転がってきたら、もうそれだけであっさりとあんたの実力を心の底から認めてる自分がいたんだよ」グスッ

隊員E「だから、こんな器の小さい男がこれから隊長をやっていくのかと思うと、それがもう情けなくてみっともなくてな」ポロポロ

隊員E「いっそ、辞退しようかと何度も考えたんだが、それも出来やしねえ」ポロポロ

隊員E「あんたがいなくなって欲しいような、欲しくないような、自分でもよくわかんない状態なんだよ。だから……」ポロポロ


勇者「…………」



14:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/16(火) 14:37:00.91 ID:LuI9ccOWo

隊員E「俺は本当に情けない……」ポロポロ


隊員A「……もう完全に出来上がってますね」

隊員B「……普段は取っつきにくいけど、根はいい人なんですけどね。酒癖悪いところがたまに傷ですから」

隊員C「隊長殿、ここは俺たちでなだめとくんで」

隊員D「もう時間も遅いですし、これでお開きにしましょう。後は任せといて下さい」


勇者「いや、だが……」


隊員A「ああなってから長いの、隊長殿も知ってるじゃないですか」

隊員B「俺ら慣れてますし、任せといて下さいよ。伊達にこの人と五年も過ごしてないですよ」

隊員C「あと、隊員Eさんの言葉は隊長も気にしないで下さいね。どうしようもない愚痴なんですよ。本当なら隊員Eさんの年齢で騎士隊長になるのも十分早い方ですし」

隊員D「騎士団長と騎士隊長のは特別で例外なんです。それと比べちゃう隊員Eさんのが駄目なんですよ。あの人も本当はそれがわかってるはずなんです」

隊員A「だから、気にしないで下さい」


勇者「……そうは言ってもな。隊員Eさんには毎回助言やら補佐で助けられたし……。このまま俺だけ帰るのは……」



15:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/16(火) 14:38:26.23 ID:LuI9ccOWo

隊員A「まあ、気持ちはわかるんですけどね。俺らも正直言えば、最初はこんな若い隊長なんて、っていう抵抗ありましたし」

隊員B「でも、実力と指揮能力で毎回あれだけ差を見せつけられたらそんなの消し飛んでますよ」

隊員C「ずっと前に起きた魔物襲撃事件の時の事、覚えてますか? あの時、俺らは隊長の指揮下にいたからこうして無事に生きてるんですよ」

隊員D「別の隊は全滅したところもあるし、そうでなくてもかなりの殉職者を出したってのに……」

隊員A「隊長の率いていた隊だけが、生還率九割だったんです。一番長く戦場に留まって、一番最後に帰還したっていうのに」

隊員B「だから、死んでいったやつらの事を思うと、年下だってのに隊長の事は尊敬さえしてますよ」

隊員C「この人の下にいたら、俺らはずっと死なずに生き残れるんじゃないかって、そんな気になりました。それは隊員Eさんもきっと同じはずなんです」

隊員D「だから、隊長は気にせず胸を張って下さい。俺ら全員、感謝してるんですから。隊員Eさんも必ず感謝してます」

隊員A「ただ、最後に言わずにいられなかったんですよ、きっと。それだけです。明日になったら、全員何もなかった振りをして、それでおしまいにした方がいい話じゃないですか」

隊員B「隊員Eさんもそうして欲しいと思いますよ。だから……」


勇者「……わかった。ただ、この一言だけは伝えておいてくれ」

勇者「今までありがとうございます、って」


隊員C「わかりました……。必ず」ニコッ



16:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/16(火) 14:39:30.43 ID:LuI9ccOWo

勇者「君たちも、ありがとうな。いや、もう俺は隊長じゃないか……悪かった」

勇者「先輩方、ありがとうございます」


隊員A「やめて下さい。俺らの中じゃ、隊長はいつまで経っても最強で最高の隊長ですよ」

隊員B「隊長なら必ず魔王を倒してこの国に帰って来るって、俺たち信じてますからね」

隊員C「伝説の勇者様として帰って来る日をずっと待ってますから」

隊員D「明日はきっと、ろくに話せないと思うんで今言っておきます。絶対に生きて帰ってきて下さい、隊長」


勇者「……ああ、必ず生きて帰ってくるよ。約束する」


「今まで、ありがとうございました、隊長!!」


勇者「こちらこそ……。みんなと会えて本当に良かったよ」



34:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/18(木) 17:37:55.24 ID:nZITnjFWo

ー 夜、自宅 ー


勇者「色々考えさせられたけど、壮行会、行って良かったな」

勇者「昼間に挨拶回りに行った人たちも、みんな別れを惜しんでくれて……。励ましてくれて……」

勇者「……嬉しかった」

勇者「…………」

勇者「でも……」

勇者「本当に明日、この町とはお別れなんだな」

勇者「寮から出て、自宅をこの前買ったばかりだってのに、もうここには帰ってこれなくなるのか……」

勇者「騎士団のみんな、それに近所の人、馴染みの店の人たち、神父さん……。その全員ともお別れだ……」

勇者「そして、団長とも……」

勇者「必ず、魔王を倒して生きて帰ってくる……。そういう約束をした。だけど逆に言えば、それまではずっと会えないって事だ……」

勇者「……流石に寂しいな」



35:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/18(木) 17:38:49.20 ID:nZITnjFWo

ヒヒーン

勇者「あ」

勇者「いけない、相棒も腹が空いてるよな。すぐに用意しないと」

勇者「人参はと……」サッ

勇者「よし、今行くからな」タタッ



36:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/18(木) 17:40:37.85 ID:nZITnjFWo

ー 厩舎 ー


馬「」カキ、カキ

勇者「よしよし、ちょっと待ってろ。飼い葉を餌箱に入れてと」ザッ、ザッ

勇者「あと、明日からたっぷり走る事になるからな。これもたっぷり持ってきたぞ。食ってくれ」っ人参

馬「」ヒヒーン

勇者「ああ、嬉しいか。ふふっ」

馬「」モグモグ

勇者「これからは辛く厳しい旅になると思うけど、頑張ってくれよ」

勇者「一緒に、生きて帰ろうな、相棒」ナデナデ

馬「」ヒヒーン



37:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/18(木) 17:43:24.21 ID:nZITnjFWo

ー 家 ー


勇者「さてと、少し早いけど、明日の為にもう寝るか」

勇者「仕度も全部終わってるし、体調を万全にして出発しないと」

コンコン

勇者「……?」

勇者「誰だ……こんな時間に?」

勇者「」テクテク、ガチャッ


団長の娘(以下、幼馴染み)「あ……こんばんは」


勇者「幼馴染みか……。どうしたんだ?」

幼馴染み「今、ちょっといい……? 中、入っても大丈夫?」

勇者「いいよ。どうぞ。何か温かい飲み物でも出すよ。紅茶だけはまだ少しだけ残ってるから」

幼馴染み「うん……。ありがと」



38:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/18(木) 17:44:55.89 ID:nZITnjFWo

勇者「」コポコポ

勇者「はい、どうぞ。残念な事に少ししかなかったけど」スッ

幼馴染み「うん……」ソッ

幼馴染み「」ゴクッ

幼馴染み「…………」

幼馴染み「……部屋、綺麗に片付いちゃってるんだね。物とかほとんど無くなってる……」

勇者「明日出発だからな。きっと当分は帰って来れないだろうし。物があっても埃をかぶるだけだよ」

勇者「その間、管理してもらうのも悪いし、結局売りに出したんだ。明日には、このベッドもそこのテーブルも食器棚もなくなってるよ」

勇者「その持ってるティーカップも。何もかも」

幼馴染み「そっか……。全部、売りに出しちゃったんだ……」

勇者「まだ一年ぐらいしか住んでなかったから、もったいないとは思ったけどな。でも、帰ってきて蜘蛛の巣だらけの家を見るのは嫌だったから」

幼馴染み「……そっか」

勇者「うん」



39:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/18(木) 17:46:00.78 ID:nZITnjFWo

勇者「それで、どうしたんだ? 明日の式典の前に、もう一度会いに来てくれたのか?」

幼馴染み「そうじゃない……。ただ……」

勇者「うん」

幼馴染み「本当に行くんだなって……。それを確かめに来たの」

勇者「……うん。行くよ」

幼馴染み「だよね……。もう町中その話だらけだし、広場じゃ明日の為の式典の準備してるし……」

幼馴染み「私の家にも挨拶に来たし、お父さんからも帰ってきてから話をされたし……」

勇者「団長が……。何か言ってた?」

幼馴染み「……寂しくなるけど、明日は笑顔で見送ってやりなさいって。……そう言われた」

勇者「……うん。俺も明日は笑顔で見送って欲しいと思う」

幼馴染み「うん……。だけど……」



40:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/18(木) 17:47:01.81 ID:nZITnjFWo

勇者「だけど?」

幼馴染み「……なんかね。今までずっと、実感わかなかったの」

勇者「何が?」

幼馴染み「勇者が魔王討伐の旅に出るっていう、その実感。頭では理解出来てるけど、どこか現実味がないっていうか……」

勇者「……うん。かもね。女神様から神託を受けたって話を初めて聞かされて、俺もしばらくはそんな感じだったから。ふわふわしてて、どこか他人事みたいな」

幼馴染み「そうなんだ……」

勇者「うん」

幼馴染み「だけど……。今日、このがらんどうな部屋を見て……それでやっと実感したんだ。本当にいなくなっちゃうんだなって……」

勇者「……うん」



41:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/18(木) 17:48:19.10 ID:nZITnjFWo

幼馴染み「昔の事……覚えてる?」

勇者「覚えてるよ。毎日、幼馴染みに意地悪されてたっけ」

幼馴染み「……ごめん」

勇者「いいよ。今はもうそんな事ないし」

幼馴染み「あの頃は……お父さんやお母さんが取られちゃったみたいに思ってたから……」

勇者「いきなりやって来て、今日からこの子も一緒に住む事になった、家族だと思って仲良くしてくれ、なんて言われたらきっと俺もそう思っただろうね」

幼馴染み「……お墓参りはもう行ったの?」

勇者「こっちのお墓には。でも、中は空っぽだからね。向こうの村に戻ったら、きちんと墓参りするつもりだよ」

幼馴染み「そっか……」

勇者「うん」



42:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/18(木) 17:48:51.36 ID:nZITnjFWo

幼馴染み「…………」

勇者「…………」


幼馴染み「ねえ、勇者……」

勇者「うん」

幼馴染み「……私。話、聞いちゃったんだ……」

勇者「何の?」

幼馴染み「…………」

勇者「…………」



43:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/18(木) 17:49:56.59 ID:nZITnjFWo

幼馴染み「……私も」

勇者「うん」

幼馴染み「ついてく……」

勇者「……どこに?」

幼馴染み「旅に……」

勇者「…………」


幼馴染み「……私さ、魔法、使えるし」

勇者「うん」

幼馴染み「……学校の成績、魔法と数学が良かったの勇者も知ってるでしょ。学年で7位と4位だったんだよ」

勇者「うん」

幼馴染み「……料理も出来るし。洗濯も、掃除も、裁縫も。一通りの家事は全部出来るし」

勇者「うん」

幼馴染み「……体力も意外とあるんだよ。子供の頃みたいにすぐバテたりとかしないよ。体も丈夫な方だから、風邪とか滅多に引かないし」

勇者「うん」

幼馴染み「魔物だって怖くないよ。お父さんについていって、魔物と出くわした事が二回あったけど平気だった。普通に戦えるよ」

勇者「うん」

幼馴染み「……だから、私も一緒についてく」

勇者「……ごめん」

幼馴染み「…………」

勇者「……ごめん」



44:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/18(木) 17:50:49.43 ID:nZITnjFWo

幼馴染み「……何で」

勇者「危険だから」

幼馴染み「危険だから、私がついて行くんだよ。一人より二人の方がいいじゃない」

勇者「……ごめん」

幼馴染み「……足手まといにならないから」

勇者「ごめん」

幼馴染み「……なら、どうすればいいの」

幼馴染み「……どうやったら、私、勇者と一緒にいられるの」

幼馴染み「……教えてよ」グスッ

勇者「待ってて」

幼馴染み「ぅ……」ポロポロ

勇者「帰るのを待ってて。幼馴染みやみんながいるから、俺はここに絶対に帰ろうって思えるんだ」

勇者「俺が魔王を倒すから、幼馴染みは帰ってきた俺を誉めてくれ」

勇者「だから、ここで待ってて」

幼馴染み「ぁぅ……」ポロポロ



45:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/18(木) 17:51:42.49 ID:nZITnjFWo

幼馴染み「待ってたって……」エグッ

幼馴染み「意味……ない……!」エグッ

勇者「幼馴染み……」


幼馴染み「だって……私は……聞いたんだから……」エグッ

幼馴染み「帰ってきたら……お姫様と結婚するって……」エグッ

勇者「…………」


幼馴染み「なら……何で……私が……待つ意味……」グスッ、エグッ

幼馴染み「どうして……何で……どうして……。どうして……こうなるの……」ヒック、エグッ

幼馴染み「私は……勇者が……勇者の事が……。前からずっと……ずっと……」グシュッ、エグッ

勇者「…………」



46:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/18(木) 17:52:32.33 ID:nZITnjFWo

勇者「……もう遅いし、送ってくよ」

幼馴染み「いや……やだ……」グスッ

幼馴染み「ねえ……何で……」グスッ

幼馴染み「何で……私は……ダメなの……。何で……」グシュッ

勇者「……幼馴染みの事は、妹みたいに思ってるんだ。ずっと一緒に過ごしてきたし、もう家族なんだよ」

幼馴染み「好きで……私……そうなった訳じゃない……」エグッ

幼馴染み「なら……幼馴染みなんか……嫌だ……。嫌だよ……なりたくなかった……」エグッ、ヒック

勇者「俺も好きで孤児になった訳じゃないよ」

幼馴染み「違う……。そんな……つもりじゃ……」エグッ

勇者「でも、団長と亡くなった父さんが親友で、俺を引き取って色々と面倒を見てくれた。そうでなかったら、俺はきっとどこかの教会に引き取られて、今頃、貴族や大金持ちの家で下働きをやっていたかもしれない」

勇者「俺にとっては、優しくしてくれた団長はもう一人の父さんだし、奥さんはもう一人の母さんなんだよ」

勇者「そして、幼馴染みは妹なんだ。それ以外にはもう見えないんだよ……ごめん」

幼馴染み「う……うぅ……」グシュッ

勇者「……送ってくよ。立てる?」

幼馴染み「ぅぅ……ぁぅ……」ガタッ

勇者「……ずっと大事に思ってるよ。幼馴染み」

幼馴染み「ぅん……ぅぅ……」エグッ



47:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/18(木) 17:57:09.02 ID:nZITnjFWo

ー 翌朝、広場 ー


国王「それでは勇者よ、期待して待っておるぞ」

王妃「吉報を待っています。道中、困難や苦境もあるでしょうが、挫けず頑張りなさい」

勇者「ははっ! ありがたき御言葉、旅の励みに致します!」


ワーワー、キャーキャー、パチパチ!!(大歓声、大拍手)


王女「」ツイッ

王女「勇者よ」

勇者「はっ!」

王女「父上からお話は聞いています。その上で貴方にこう言いましょう」

王女「必ずや、生きて帰ってきなさい。私はいつまでもそれを待っています」

勇者「……姫」

王女「返事は、はい、しか私は受け取るつもりはありません。……どうかお気をつけて」

王女「そして、私をあまり待たせないようにして下さい。頼みましたよ」

勇者「……姫のお気持ち、しかと承りました。最善を尽くします」

王女「ええ……」


ワーワー、キャーキャー、ピーピー、パチパチ!!(更に大きい大歓声、大拍手)


団長「……姫も心を決めたか」

幼馴染み「……ぅ」グスッ



50:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/18(木) 18:06:01.42 ID:nZITnjFWo

国王「では、女神より祝福を受けし勇者を総出で見送れ!」

国王「かの者の旅立ちに、幸運と幸福が舞い降りる様に!」


団長「楽隊、前に!」スサッ

楽隊「」ザッ、ザッ

楽隊「」パッパッパー、パッパパー

カラーン、コローン、カラーン、コローン


(盛大なファンファーレが鳴らされ、教会からは一斉に鐘の音が響く)


勇者「行くぞ、相棒」サッ

馬「」ヒヒーン


隊長A「開門! 開門せよ!」

隊長B「勇者様が旅立たれる! 門を開け!!」


ギギィーーー…… (ゆっくり門が開かれる)


団長「全隊! 旅立つ勇者様に向けて敬礼!」ビシッ

隊員全員「はっ!」ビシッ


団長「魔法弾、打上用意! 放て!」

ヒュー……ボンッ!! ボンッ!! ボンッ!! (花火)


市民A「勇者さまー、必ず世界に平和を!!」

市民B「この世界の事を、お願いします!!」

市民C「勇者様、お気をつけてー!!」

市民D「勇者様、バンザーイ!!」

市民E「勇者様、バンザァーーイ!!」


幼馴染み「勇者! 必ず帰ってきて!! 必ず!!」

隊員たち「隊長ー! 俺たち待ってます! この国を守りながら待ってますから!!」

隊員E「隊長! どうか御無事で!!」


『南の国、王宮日誌より一部抜粋』

かくして、勇者は王都より旅立てり。市民の惜しみ無い大歓声を背中に、漆黒の馬にまたがり颯爽と門を駆け抜け、外へと勇ましく進んでいった。

国王陛下はそれを無言で見送り、姫は名残を惜しむ様にその姿が見えなくなるまでいつまでもその場に立ち尽くされた。

男は口々に勇者の名を熱狂的に叫び、女はハンカチを振ってその門出を祝い見送る。

旅立っていくその勇姿は正に伝説の勇者に相応しきものなり……。



51:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/18(木) 18:08:06.07 ID:nZITnjFWo

勇者「さあ、行くぞ、相棒!」パシッ

馬「」ヒヒーン


勇者「約束の期日まであと十日あまり」

勇者「お前の足なら、ゆっくり行ってもお釣りが来るぐらいだ」

勇者「途中の魔物に気を付けつつ、十五年前の約束を果たしに行こう!」

勇者「ひょっとしたら、約束を覚えているのは俺だけかもしれないが、それでも構わない!」

勇者「父さんと母さんに改めて挨拶をして、決意新たに魔王の城へと向かおう!」パシッ

馬「」ヒヒーン!!


パカラッ、パカラッ、パカラッ


勇者「いざ、魔王討伐の旅へ!!」



58:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/20(土) 21:52:41.18 ID:oUuutzfIo

ー 同日。東の国、酒場 ー


マスター「さて、もう昼か……。そろそろ開店の準備をしとかないとな」

【酒場のマスター】
『体力 :24
 攻撃力: 7
 防御力:10
 魔力 : 2
 素早さ: 5』


ギィッ、チリンチリーン

マスター「っと。あー、駄目駄目。まだ、準備中だ。真っ昼間だぞ」

名剣士「そいつは悪かったな、マスター」

マスター「おお、なんだ、名剣士か。久しぶりじゃないか」

名剣士「忙しいなら出直すぜ」

マスター「ははっ。冗談はやめてくれ。あんたならいつでも営業中だよ。とにかく適当なとこにかけてくれ」

名剣士「そいつはどうもっと」スタッ

【名だたる剣士】
『体力 :9999
 攻撃力:7432
 防御力:8914
 魔力 :   0
 素早さ:3809』



59:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/20(土) 21:53:28.07 ID:oUuutzfIo

マスター「で、何を飲む? この前、いいのが手に入ったんだ。西の国の252年もののワインだ。そいつにするか?」

名剣士「いや、普通にウイスキーにしてくれ。ロックで」

マスター「はいよ。つまみはどうする?」

名剣士「適当に。お任せする」

マスター「オーケー。少しだけ待っててくれ」カチャカチャ

マスター「とりあえず、これな。生憎、今はこの燻製肉ぐらいしかいいのがなくてね、我慢してくれよ」コトッ

名剣士「十分だよ」



60:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/20(土) 21:54:32.20 ID:oUuutzfIo

マスター「それで、いつこっちに帰ってきたんだい?」

名剣士「東の国に着いたのは一週間ぐらい前だな。それまで、北の国にいた。援軍に行ってこいって言われてね。勅命だからってタダ働きさ」ゴクッ

マスター「ああ、その活躍は聞いてるよ。タダ働きってのは聞いてないけどね。何でも劣勢に陥ってた北の国軍を勝利に導いたそうじゃないか」

名剣士「親玉のガーゴイルを斬り飛ばしてやっただけさ。後は大した活躍はしてないぜ」

マスター「謙遜するねえ。あんたが通った後は魔物の死体で道が出来てるってぐらいの活躍だって聞いてるのに。わずか二日で、北の国軍がこれまで倒した魔物の数よりも多く葬ったらしいじゃないか」

名剣士「んなもん、いちいち数えてないっての。その話、尾ひれどころか、背びれまでついてるんじゃないのか?」

マスター「相変わらずだね。それで、ようやくこっちに帰ってこれたのかい?」

名剣士「ああ、事後処理だとか祝勝会だとかで引っ張り回されてね。その間に、引き抜きやら暗殺やらに何度遇った事か。面倒でかなわなかったよ」ゴクッ

マスター「それを面倒で済ますあんたの方がどうかしてるよ……。まあ、あんたの強さ考えたらそれも仕方ないだろうけど」



61:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/20(土) 21:55:56.10 ID:oUuutzfIo

名剣士「いや、俺なんかまだまだだな。修行が足りないといつも思ってるぜ」

マスター「謙遜も度が過ぎると嫌味に聞こえるから気を付けた方がいいよ。今回の件で、あんた一人で兵士五千人分の価値があるって言われる様になってるんだからね。最早、伝説の領域だよ」

名剣士「伝説? 何だそれ?」

マスター「知らないのかい? こっちじゃもうすっかり逸話になってるよ。あんたと陛下のやり取りさ。吟遊詩人や講談家が何回もここでそれをやるもんだから、俺もすっかり覚えちまった」

名剣士「やり取り? どんなだよ?」

マスター「ゴホン。あー……あれはつい半年ほど前の事。この頃、北の国は魔王軍からの本格的な攻撃を受け、苦境に立たされていた」

マスター「そこで、我が東の国に援軍要請が入ってくる。だが、我が国はようやく革命が終わって新政権に変わったばかり。援軍を出すだけの財政的余裕がない」

マスター「しかし、北の国とは軍事同盟を結んでいる。何よりこれまで革命を裏から支援してもらい色々と援助を受けてたから、断る訳にはいかない」

マスター「そこで、陛下は名剣士を王宮へ呼び寄せた。そして、やって来た名剣士に向けて、さも当然の様にこう仰った」

マスター「兵士を五千人ほど出せば向こうも納得するだろう。だから、お前が一人で行け。そうすれば全部片付く」

マスター「そして、実際に向かった先で、兵士五千人どころか一万人以上の働きをしたのが名剣士。これにちなんでつけられた異名が『一振り五千斬りの名剣士』!」

マスター「構えは隙なく、攻めれば鬼神、守りに入ればこれ鉄壁、進んだ後に魔物なく、進む先には敵もなし。これぞ正に世界最強の剣士!」

マスター「ってな具合にね」

名剣士「……よくもまあ、そんなある事ない事を」



62:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/20(土) 21:57:23.02 ID:oUuutzfIo

マスター「でも、実際、それだけの活躍をしてるんだろう? そりゃ言われるよ。巷じゃ史上最強の剣士って言われてるの、あんた知ってるかい?」

名剣士「初耳だね。それに、俺は史上最強でも何でもないよ。剣士としては世界で三番目ぐらいだとは自分でも思ってるけどな」ゴクッ

マスター「へえ、じゃあ一番と二番は誰なんだい?」

名剣士「二番は俺の師匠だよ。一番は俺の師匠の師匠だな」

マスター「ああ、なるほどね。そう来たか」

名剣士「なに勝手に納得した様な面してんだよ」

マスター「いや、別にね。それより、もう一杯飲むかい?」

名剣士「ああ、もらう。何せ今回はしみったれた旅立ったからな。金貨二十枚分ぐらいの働きはしたのに、報酬はなしだってんだから。傭兵稼業が身に付いてる身としてはきつかったわ」

マスター「宮仕えを断るからだよ。新政権が誕生した時、騎士団長のポストについてれば、給料に加えて特別手当ても出ただろうに」

名剣士「根っからそういうのが向いてないんでね。用意してくれた陛下には申し訳なかったけど、務まる気がしなかったからな。……まあ、そのせいで、今回タダ働きになったんだがな。断った借りを返すって意味で」

マスター「それはまた、ずいぶん重い借りになったもんだね。一国を救ったってんだから」ハハッ



63:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/20(土) 21:58:51.22 ID:oUuutzfIo

名剣士「って事で、しばらく振りに本業に戻るからよ。最近は何か美味しい話はあるかい? 金になりそうな依頼とかさ」

マスター「生憎、金にならないのしかないね。金貨以下のものばかりだよ。もっとも、銀貨でも普通は十分高いんだけどね……」

名剣士「懸賞金がかかってる魔物とかもいないのか?」

マスター「それも、金貨以下」

名剣士「残念だな」

マスター「いっその事、魔王でも倒しに行ったらどうだい? あんたが討伐出来ない魔物なんている気がしないよ、俺は。魔王倒して、史上最強の英雄として歴史に名を刻めばいいと思うんだがね」

名剣士「いや。流石に魔王は無理だな。あれは俺が倒せる代物じゃない」

マスター「それも謙遜かい? それとも本気で?」

名剣士「本気で、だよ。これはマスターだから言うけど、俺は前に魔王城があるって噂の妖魔の森に行った事があるんだよ」

マスター「……そもそも妖魔の森なんて本当に存在してたのかい。てっきり、伝説の中だけの空想話だと思ってたんだけど」

名剣士「実際にあるよ。北の国の更に北。地上の彼方。最果ての地だ。そこにいるのは全部神話クラスや伝説級の魔物だけっていうイカれた森さ」

マスター「……本当なのかい、それ。冗談とかじゃなく」

名剣士「ああ、もう何年も前に実際に行ってきて、体験したからな。しばらく進んだところでいきなり巨大な魔物に出くわして、何をされたかもわからず気が付いたら吹き飛ばされて瀕死状態だった」

名剣士「あの時は命からがら逃げてきたよ。敵に背中を向けたのはあれが初めての事だった」

マスター「……あんたが、そんな目に……?」ブルッ



64:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/20(土) 22:00:28.24 ID:oUuutzfIo

マスター「あ、いや。だけどさ……」

名剣士「ん? どうした?」

マスター「一応、先に言っとくけど、あんたの話を疑う訳じゃないんだ。ただ、ふと疑問に思った事があってね」

名剣士「そんなん気にしないでくれ。で、何だい?」

マスター「いやね。そんな伝説級の魔物がウジャウジャいるってのに、どうして魔王はそいつらを使ってこっちに攻めてこないのかなって……」

名剣士「何だ、そんな事か。そりゃ、単純な理由だよ」

マスター「どんな?」

名剣士「あの森には、竜がいるんだよ」

マスター「竜……!」

名剣士「そ。最強無比の孤立種族と言われる竜たちがワンサカいて、そいつらが魔王軍とドンパチやってんだ。魔王からしたら、こっちに割く戦力なんてほとんどないんだろな」

マスター「…………」

名剣士「聞いた話だが、あの森は、元々竜たちの住み処だったそうだ。魔王の目的は多分世界征服だから、きっと最初に竜にケンカ吹っ掛けたんだろう」

名剣士「で、本格的な大戦に突入。ただ、竜ってのは当たり前だが強さがどれも半端ないから、雑魚をどれだけ投入しても蹴散らされて一瞬で終わりだ」

名剣士「だから、戦力にならない余った奴等をついでの様に人間の方に向けたんじゃないのか? つまり、魔王からしたら、人間なんて初めから眼中にないんだよ。猛獣と戦ってる時、足元にネズミがいたようなもんだ」

名剣士「魔王がその気になりゃ、多分、一日で人間は根絶やしに出来るだろうな。俺たちなんて、そんな程度なんだよ」

マスター「…………」ツルッ、ガシャン

名剣士「おいおい、マスター。落ち着きなよ。震えんなって」

マスター「あ、ああ、悪い……。あまりに強烈というか……すさまじい話を聞いてしまったもんだから……」

名剣士「ま、そういう事だよ。こっちにいる魔物なんて戦力外通告受けた雑魚ばっかなんだ。もっとも、その雑魚に俺たちは世界の三分の一を征服されて大苦戦してる訳なんだけどな」

マスター「…………」



65:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/20(土) 22:01:38.11 ID:oUuutzfIo

マスター「……じゃあ、もしも竜たちが魔王軍に負ける事になったら、俺たちはもう一貫の終わりって事……なのかい?」

名剣士「普通に考えたらな」

マスター「……まだ何かあるのかい? いや、希望はあった方がいいんだが」

名剣士「ま、安心しなって、マスター。例え竜が全滅しても、俺たちは平気だよ」

マスター「どうしてそう断言出来る?」

名剣士「おいおい、マスターだって知ってるだろ? こっちには魔王を倒す伝説の勇者がいるじゃないか。俺ごときじゃ到底無理だが、勇者なら必ずこの世界を救ってくれるさ」

マスター「……」ハァ

名剣士「ん?」

マスター「よしてくれ……。ありゃ、単なる伝説だろ? お伽噺みたいなもんじゃないか。まさか、あんたがそれを本気で信じてるとは思わなかったよ」

名剣士「そっちこそ冗談きついぜ、マスター。伝説だって? そんな訳ないだろ。本当に勇者はいるさ。間違いなくその内名乗りを上げて、この世界を救ってくれるからよ」

マスター「……そうかい。まあ、期待しないで期待しておくよ」

名剣士「どっちなんだよ」ケラケラ

マスター「……さてね。どっちだろうね」ハァ



66:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/20(土) 22:02:22.58 ID:oUuutzfIo

マスター「ああ、そういえば……。さっきの話で思い出したけど……」

名剣士「ん?」

マスター「この前、南の国に女神の神託を受けた勇者が出たらしいよ。そんな情報がこの前入ってきた」

名剣士「お、おい! それ、本当か?」ガタッ

マスター「え? あ、ああ……。何人もの情報屋が同じ事を言ってたし、南の国の国王も公式に発表してるよ。間違いないだろうね」

名剣士「それ、南の国で間違いないんだな? 勇者の年齢は? 生い立ちは? 名前は? 詳しく教えてくれ」

マスター「ああ、えっと……。名前は……何だったかな、ド忘れしちまった。確か年齢は26歳で……。元は騎士隊長を務めてた人間だ。もちろんあんたほどじゃないだろうが、剣と魔法の才能は天才的だという評判だよ」

マスター「ただねえ、肝心の女神の神託ってのが眉唾ものなんだ。それと言うのも、教会側が沈黙を保ったままなんだよ。勇者が選ばれたっていう公式発表を一切してない」

マスター「だから、これは南の国側が教会に無断で行った、政略としての単なるでっち上げだって言われてる。ただの宣伝工作か、もしくは潜入任務か何かだってのが一般的な見解らしくて」

名剣士「そんな事はどうだっていい! それより、肝心の名前は? 思い出してくれ」

マスター「ああ、名前ね。ちょっと待ってくれ、確かこの紙に」パラパラ……

マスター「あった。名前は『勇者』だよ。生い立ちは南の国の外れにある、山奥のへんぴな村だな」

名剣士「……間違いない」



67:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/20(土) 22:03:14.18 ID:oUuutzfIo

マスター「……ん? なんだい、知ってる相手なのかい?」

名剣士「悪いがマスター、急用が出来た。これで失礼するぜ」サッ、タタッ

マスター「あ! ちょっと!」

名剣士「代金は、次来た時に払う! 悪い!」ガタッ

チリンチリーン……


マスター「いや、代金はいらないんだけどさ……。もう十分もらってる様なもんだし」

マスター「『名剣士、馴染みの酒場』ってだけで、ずっと大繁盛だもんな……」

マスター「そうじゃなくて、旅の話とか色々聞きたかったんだが……」

マスター「しかし、伝説の勇者ねえ……。あの名剣士がそこまで気にかけるなんて……」

マスター「まさか、本物……? いや、それこそまさかだろうけど……」



79:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/21(日) 17:24:20.38 ID:0sl7vD+po

ー 中央国、とある町 ー


コンコン、ダンダン!!

騎兵A「旅の者だ! 開門せよ!」

騎兵B「…………」
騎兵C「…………」
騎兵D「…………」

大司教「…………」


見張りの兵士「んー……何だ?」ヒョイッ (城壁から顔を覗かせる)

兵士「……!? あいつら、鎧に十字マーク!?」

兵士「まさか、神殿騎士団!」


騎兵A「そうだ! 我らは教会本部より遣わされた神殿騎士団である! こちらの大司教様の、旅の護衛としてこの地までやって来た!」

騎兵A「わかったのなら、即座に開門せよ! 通行手形ならここにある!」サッ


兵士「は、ははーっ! すぐにお開け致します! しばしお待ちを!!」



80:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/21(日) 17:25:18.09 ID:0sl7vD+po

兵士「伝達だー!! 開門、開門ー!」

兵士「大司教様と神殿騎士団様がお入りになる! 周囲に魔物なし! 急げー!!」


「了解ー!! 急げー! 大司教様と神殿騎士団様がおみえになられるぞー!!」


ギギギギギッ…… (門が開く)


騎兵A「うむ」

騎兵B「大司教様、門が開きました。馬をお進め下さい」

大司教「ああ」カッポ、カッポ

騎兵C「では、我らはこの後、情報収集に回りますので」

騎兵D「大司教様は一足先に教会へとお向かい下さい。念の為に騎兵Aは護衛として残しておきます」

大司教「わかった。あの方が見つかったら不用意に接触せず、まず私のところに知らせてくれ。それと……」カッポ、カッポ

騎兵B「はっ」

大司教「調べる際は、その鎧は脱いでおくように。教会本部の人間だとわかると、あの方が逃げてしまうからな」カッポ、カッポ

騎兵C「御意」



81:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/21(日) 17:26:32.49 ID:0sl7vD+po

ー 広場 ー


ワイワイ、ガヤガヤ、ワイワイ、ガヤガヤ


老婆「ああ、ありがとうございます。ありがとうございます」ペコペコ

女「いえ、お気になさらないで下さい」ニコッ

女「では、次の方、どうぞ」

大工「すみません、お願いします。先日、屋根から落ちて足と腰をやっちまいまして……。この通り、足は折れちまってますが……」ヒョコ、ヒョコ

女「大丈夫ですよ。少しだけじっとしていて下さい」

女「治癒の光よ、この者に女神の庇護を……」パァァッ……

大工「おおっ……」

女「はい、もう治っているはずです。次からはお気を付けてお仕事して下さいね」

大工「え、もうですか? じゃ、じゃあ」ソッ

大工「お、おお! 凄い! まるで痛くない! 治っている!!」

女「」ニコッ

大工「ありがとうございます! ありがとうございます! 天使様!」ペコペコ

女「お気になさらず。それと、その呼び方はやめて下さい。私はそんなたいそうな人間ではありませんので」

女「それでは、次の方どうぞ」

病人「は、はい。お願いします。原因はわかりませんが、かなり前から咳が止まらなくて……」ゲホゲホ





騎兵B「流石、『紅の天使』様だな。有名なだけある。居場所はすぐにわかったな」ボソッ

騎兵C「ああ。お前はここに残って、もしもあの方が移動したら尾行を頼む。俺は大司教様のところに行って指示を頂いてくるから」

騎兵B「了解した」



82:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/21(日) 17:27:55.79 ID:0sl7vD+po

ー 夜、みすぼらしい宿屋 ー


主人「……本当によろしいのですか、天使様? 天使様ならこの様な貧しい宿屋でなくとも、いくらでも無料でお泊めする宿がありますでしょうに……」

女「お気遣いなく。それと、天使様はやめて下さい。その様な大それた者ではありませんので」

主人「も、申し訳ありません」

女「いえ、謝る様な事ではありませんから」

主人「それと、天使……いえ、女様。今日、治して頂いた者たちから、お礼にとこちらを預かっています」スッ

主人「全部で銅貨が678枚ありました。既に換金して銀貨3枚と銅貨78枚にしてあります。みな、口を揃えて少なくて申し訳ないと言っておりましたが、旅の路銀の足しにして下さいと……。どうかお受け取り下さい」

女「では、銅貨だけありがたく頂いておきます。銀貨の方は、この町の城壁の補修費用に加えておいて下さい」

主人「それは……。ですが」

女「構いません。城壁は町の防御の要ですので。魔物に壊されないよう、どうか補修費用に当てて下さい」

主人「本当に……よろしいのですか?」

女「はい。よろしくお願いします」

主人「ありがとうございます。無料で皆を治療して頂くだけでなく、この町の事まで心配してくださるなんて……」グスッ

女「女神様は、持つ者に厳しく、持たざる者に優しいお方です。私は人を治す力を既に頂いていますので、これ以上は何も望みません。それだけで十分幸せです」

主人「本当にあなた様は、地上に舞い降りた天使です。どうか女様に女神様の愛と祝福が与えられますように……」グスッ

女「ありがとうございます」ニコッ



83:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/21(日) 17:28:48.06 ID:0sl7vD+po

ー 深夜 ー


コンコン

女「……?」

女「どちら様ですか?」

「この町の神父です。夜分遅く申し訳ありません」

女「いえ。それでどうされました? 誰か急患でも出ましたか?」

「そうではありません、御安心を。ただ、女様に少しお話がありまして……。中に入れてもらってもよろしいですか?」

女「ええ、構いません。今、開けますので」タタッ、ガチャッ


神父「すみません……女様……」

騎士A「」サッ (ドアを手で押さえて固定)

女「!?」


騎士B「」ササッ
騎士C「」サッ (整列)

騎士D「どうぞ」

大司教「御苦労」スッ


女「……その服装、教会本部の! そして、神殿騎士団まで……!」



84:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/21(日) 17:29:57.99 ID:0sl7vD+po

神父「……申し訳ありません、女様。この様なだましうちの様な事をしてしまって……」

【神父】
『体力 :17
 攻撃力: 2
 防御力:11
 魔力 :10
 素早さ: 6』


大司教「人聞きが悪い事を言うものではない。全ては教会本部の意向だ。君はそれに従っただけだよ」

神父「…………」

大司教「では、改めて私の自己紹介を……。初めまして、『紅の天使』様。私は大聖堂から遣わされた者で、大司教と申します。以後、お見知り置きを……」

【大司教】
『体力 :31
 攻撃力: 8
 防御力:44
 魔力 :40
 素早さ:19』


大司教「そして、この者たちは、護衛の神殿騎士団たちです。全員、精鋭揃いですよ。逃げようなどとは考えない事をお勧めします」

騎士A「…………」ペコッ
騎士B「…………」ペコッ
騎士C「…………」ペコッ
騎士D「…………」ペコッ

【神殿騎士団精鋭】(四人の平均値)
『体力 :94
 攻撃力:35
 防御力:42
 魔力 :19
 素早さ:26』



女「…………」

【教会を破門された女】
『体力 :6254
 攻撃力:   1
 防御力:9999
 魔力 :8870
 素早さ:4209』



86:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/21(日) 17:30:52.45 ID:0sl7vD+po

女「それで……どんな用件でしょうか?」

大司教「ええ、ですがその前に……」

大司教「神父、あなたはもうこの場には必要ありません。教会の機密事項に関わる話になるので、退出しなさい」

騎士A「」チラッ
騎士B「」コクッ

騎士C「すぐにこの部屋から出ていくように」ズイッ

騎士D「なお、今回の件は口外禁止とする。いいな?」ズイッ

神父「……は、はい。それでは……失礼します。申し訳ありません……」スゴスゴ……


ガチャ、バタンッ……




87:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/21(日) 17:31:54.85 ID:0sl7vD+po

女「……少しも変わってないみたいですね。教会の内部は」

大司教「秩序の為にですから」

騎士A「…………」
騎士B「…………」
騎士C「…………」
騎士D「…………」

女「それで、用件は何ですか?」

大司教「貴女を、再び教会へお連れする事です」

女「私は教会から破門を受け、全ての教会から出入り禁止となった身のはずですが」

大司教「その破門は取り消しになりました。最高会議で先日決まった事です。教皇もそれを御承認されました」

女「…………」

大司教「また、これまでの勝手な振る舞いや、度重なる規則違反、命令違反も全て不問に処すとの事です。……もちろん、貴女が教会本部へと戻ってきたらの話ですが」

女「…………」

大司教「その若さで、以前は枢機卿にまで上られた貴女です。今回も、戻ってきて頂いたらそのまま枢機卿へ復帰させるとまで教皇は仰られています」

大司教「破格の条件だと思いますが……」

女「いいえ、お断りします。私は教会とは縁を切った身なので」

大司教「……そうですか。困りましたね……」ハァ



88:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/21(日) 17:33:09.57 ID:0sl7vD+po

大司教「ちなみに、理由を聞かせてもらってもよろしいですか?」

女「簡単な事です。私は教会の闇を知りすぎてしまいましたから。もうあそこに戻る気はありません」

大司教「闇と言うのは?」

女「色々と、です。例えば、治療の有料制とか」

女「回復魔法を使えるのは、女神様の祝福を受けた僧侶のみです。だけど、それを使うのに対して料金表を作り、その規定の金額以下で怪我や病気を治療する事を禁止するというのは私には納得出来ません」

女「難病や重傷ほど治療費は高くなります。貧しい人にとっては払えない金額です。そして、そういう人達を安い金額で治療したら、罰則が下されます。こんなの間違っています!」

大司教「なるほど……」



89:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/21(日) 17:34:50.89 ID:0sl7vD+po

大司教「ですが、特例として生死に関わる様な怪我や病気の場合は無料で治療する事が許可されているじゃありませんか」

大司教「それに、打ち身や風邪などの軽いものであれば、教会は寄付や謝礼を頂いてませんよ。だからこそ、こうして厚い信頼を得ているのです」

女「それはただの人気取りに過ぎません。それに、瀕死状態を救えるほどの高位な回復魔法が使える人間は限られています。さほど多くありません」

女「何より、女神様は貧富の差によって救う者を決める様な真似は許さないはずです!」

女「そして、その得た高額な治療費が何に使われているかと言えば、護衛と称した実質軍隊である神殿騎士団の育成や、司祭司教の贅沢に使われてるんです」

女「私は治療費を取るなとは言いません。教会という巨大な組織を維持してく以上、寄付だけではまかなえない面もあるでしょうから」

女「ですけど、それを規則として定めたり、庶民には払えないほどの高額にしたり、破ったら罰則を加えたりというのは、どう考えても間違ってます!」

女「本来なら、教会は善意のみによって運営されるべきなんです。私はそうならない限り、教会に従う気も、戻る気もありません」

女「教皇に……いえ、あのただの強欲頑固ジジイにそう伝えて下さい。私は貴方を聖職者として認めないと」


大司教「……ふふっ。これはまた過激な」

騎士A「…………」チャキッ (剣に手をかける)
騎士B「…………」チャキッ
騎士C「…………」チャキッ
騎士D「…………」チャキッ



90:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/21(日) 17:36:36.59 ID:0sl7vD+po

騎士A「大司教様。今の発言は看過出来ません。多少、躾を入れさせてもらってもよろしいですか?」スッ

大司教「いや、やめときたまえ。手荒な真似はするなと上からきつく言われている」

騎士B「しかし……教皇様をあのように侮辱するとは……」

大司教「元より、そういう方なのだよ。でなければ彼女を破門する訳がない」

大司教「そうでしょう? 教会の重鎮職に抜擢されながら、教皇に再三に渡って意見し、遂には反省の為に地下牢にまで入れられた方ですからね」

女「大聖堂に牢屋があるという事実が既に間違っているとは思われないのですか?」

大司教「本来は、封印しなければならなかった魔物の為の牢ですよ。少しもおかしくはありませんがね」

女「詭弁を」

大司教「事実ですよ。大聖堂の地下には何体もそういった魔物が封印されてますしね。強すぎて殺す事も出来なかった凶悪な魔物の封印場所です」

女「いざという時には、その魔物さえ利用しようと考えているではないですか。あそこは封印場所ではなく、兵器の保管庫の様なものです」

大司教「まさか。その様な危険な事など考えていませんよ」

女「口では何とでも言えます。そして、教会の実体は、口先だけ綺麗な、国土を持たない軍事政権でしょうに」

大司教「世迷い言を。御勘弁して頂きたい。その様なデマを口にされては教会の名に傷がつきます」

女「名ばかり綺麗で、何の意味があるというのです」

大司教「ふっ……。どうにも困ったお方だ。予め聞いていた通りのお方ですね」

女「…………」



91:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/21(日) 17:38:26.81 ID:0sl7vD+po

大司教「一体、誰に手引きされたか知りませんが、地下牢から脱走し……」

大司教「そして逃亡の為に各国を渡り歩きながら、教会の規則に背いて無料で治療をして回り……」

大司教「贅沢もせず、見返りも求めず、どんな難病奇病大怪我でもたちどころに治してしまう」

大司教「その噂がこの四年の間に世界中に広まり、遂にはついた二つ名が『紅の天使』」

大司教「僧侶着用の白のローブをまとわず、常に赤いローブをまとっていた事から、その様な名がつき、今や天使の化身扱いです」

大司教「あなたの名声は古今東西ありとあらゆる英雄をしのぎ、市民からの人気はどんな名君でも霞むほど。教会の神父達も揃って貴女を匿い庇いだてする始末」

大司教「こうなってしまっては、教会としては、破門にした事自体が既に不名誉扱いなんですよ。まったく、厄介な事をして頂きました。有名になりすぎているので、今や公に連行も裁判も出来ませんからな。そんな事をしてはこちらが非難される」

大司教「我々としては、教義に違反している者を、正当に処罰しようとしているだけなのにね」

女「…………」



92:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/21(日) 17:39:36.27 ID:0sl7vD+po

大司教「なので、教会としては取るべき道を変えざるを得なかったんですよ」

大司教「ですので、私がこうして派遣されたのです。今、教会では更なる問題を抱えていて困っていますからね」

女「問題?」

大司教「ええ。勇者が現れたのですよ。南の国にね」

女「!?」



93:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/21(日) 17:40:32.97 ID:0sl7vD+po

女「勇者が……! 南の国に……!」

大司教「そうです。教会はまだそれを公に認めていませんがね」

女「どうして! 神託は下されたのでしょう! それなら、全世界に発表して、人々に希望を与えるべきです!」

大司教「それがそうもいかないんですよ。裏話をするなら、勇者は、女神の加護を受けし神殿騎士団から出てもらわなければ教会としては面子がありませんからね」

大司教「ところが実際には、何の関係もない、更には教会に対して非協力的な態度を取っている南の国から選ばれてしまった」

大司教「これを認めれば、教会は面子を潰し威厳を無くします。だから、正式にはまだ認めていません。しかし、その神託が本物なのもまた確か」

大司教「なので、この状態で、もしも勇者が魔王を倒してしまったら、更にまずい事態に陥る。勇者でないものが魔王を倒してしまったら、これまでそう教えを説いていた教会に対しての信頼は地に落ちてしまいますからね」

大司教「なので、いつかは教会側としても公表しなければならないでしょう。あるいはこういう手も取れますがね……」

大司教「そうなる前に、勇者には死んでもらう、という手が」

女「!?」



94:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/21(日) 17:42:22.33 ID:0sl7vD+po

大司教「と言っても、もちろん暗殺などというリスクの高い事を教会はしませんよ」

大司教「そんな事をしなくても、教会は全世界、どの町にもある。また市民からの信用と信頼は国王よりも勝っています。何せ教会の言葉は女神の言葉と同義ですからね」

大司教「なら、こう発表してやれば良い。先日、女神の神託を受けた勇者とやらは、真っ赤な偽物であり、神の名を勝手に騙った最低な不届き者である、と」

大司教「そうすれば、瞬く間に世界を救う勇者は一転して、各町や村で迫害や弾圧を受ける事になるでしょう。宿にも泊まれず、買い物も出来ず、そもそも町や村に入れてもらえるかどうか」

大司教「武力で勇者を殺すなど愚か者のする事です。そんな事をせずとも、野垂れ死にさせれば良い」

女「あなた方は……! 私利私欲の為に、女神の名を汚し、あまつさえ世界を救おうという勇者様の妨害までしようと言うのですか! どちらが人間の敵なのです!」

大司教「勇者など、死んでもいずれまた現れるでしょう。問題ありません。それに女神というのは、人が作り出した幻想に過ぎませんよ。世界一つ救えない神など、私は神と認めていません」

女「っ! 大司教の身でありながら……! あなたはどこまで女神様を侮辱すれば気が済むのです!」

大司教「私は私の考えを述べたまでです。それに、大司教などと言うのは役職を示す記号でしかありませんが」

女「傲慢な! 聖職の風上にも置けない男!」



95:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/21(日) 17:46:50.12 ID:0sl7vD+po

大司教「別にあなたからの評価など、私はどうでも良いのです。それよりも、これを聞いてあなたはどうされますか?」

大司教「聞き及んでおりますよ。あなたは勇者の出現を教会にいる頃からずっと気にかけておられたと」

大司教「そして、勇者を深く尊敬し、女神同様とても大切に考えていると」

女「当然です! 勇者様は特別ですから! 必ずやこの世界を救って下さる方なんですから!」

大司教「ところが、現在の状況では恐らくそれは無理だというのが、流石に貴女でもわかって頂けたはずです。勇者だろうと何だろうと、人の子である以上、俗世の風聞や迫害からは逃れられませんからね」

女「……っ」

大司教「しかし、出来れば教会側としてはその様な不穏な真似はしたくない……。これはご理解頂けますよね?」

女「……結局、何が言いたいんですか?」

大司教「要は、最近、教会にとって不都合な事が起こり過ぎているのですよ。名誉を別のところに持っていかれるばかり。ならば、こちらも面子を保つ為に、何かしら都合の良い事が起きて欲しいと願っているのです」

女「つまり……私が教会側に戻れば、その面子が戻ると」

大司教「先程も言った通り、貴女の人気と名声は凄まじいですからね。世界を救えるのか不確定な勇者よりも、弱い者の味方であり実績が既にある貴女の方が市民からの人気はより上です」

大司教「貴女が教会に復帰してそれを宣言して頂ければ、勇者がどこの国から出ようと大した事ではない。教会側としてはお釣りがきます」

大司教「簡単に申し上げれば、勇者の旅の邪魔をされたくないのであれば、私と共に教会に戻って頂き教皇様に忠誠を誓って下さいと、そういう話ですよ」

女「…………」



96:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/21(日) 17:48:08.86 ID:0sl7vD+po

女「……わかりました。ですが、その前に一つだけ確認をさせて下さい」

大司教「なんなりと」

女「その勇者の名前は、なんと言いますか?」

大司教「名前、ですか……? 確か『勇者』だと聞いておりますが……」

女「ふふっ、そうですか……。『勇者』ですか」

大司教「?」

女「わかりました。私は大聖堂へと戻ります。明朝には出発しますので、それまでに馬の手配をよろしくお願いします」

大司教「……そうですか。それはお話が早くて助かりますが……」

女「まだ、何か?」

大司教「いえ……。特には……。それでは、話もまとまった事ですので、我々はこれでおいとまします。……行くぞ」

騎士A「はっ」

騎士B「」ガチャッ、スタスタ

騎士C「」スタスタ
騎士D「」スタスタ

大司教「くれぐれも約束を違われないよう、お願いしますね。では……」バタンッ


女「…………」



97:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/21(日) 17:49:13.39 ID:0sl7vD+po

ー 宿屋前、路地 ー


騎士A「大司教様……。あの者、逃げ出したりはしないでしょうか? 念の為に見張りを立てた方がよろしいのでは……」

大司教「いや、必要ない。嘘をつく様なお方ではないと聞いている。そうでなければ、『天使』などとは呼ばれる事はないだろうしな」

大司教「それに、逃げたとしても、こちらもそれほど困る訳ではない。むしろ、困るのは向こうの方だ」

騎士A「左様ですか……。ならば、そのままにしておきますが」

大司教「それよりも……。私はあの表情の方が気になったな。どこか嬉しそうだったが……」

騎士B「それは私も感じました。あの女、何か企んでいるのでしょうか?」

大司教「わからんが……。まあ、いいだろう。とりあえずこれで私の受けた任の半分は終わり、そして良い方に転がったのだからな」

大司教「残りの半分は無事に大聖堂まであの方を連れていくだけだ。翌朝には旅立たれるという事だったから、上等な馬を今日の内に手配しておけよ」

騎士C「はっ!」

大司教「戻れば、枢機卿になられるお方だ。無礼な口の振る舞いもそこまでにしておけ。良いな?」

騎士D「ははっ。肝に命じておきます」


大司祭「……しかし、何を聞くかと思えば、名前を聞くとはな。まさか、元から勇者に心当たりでもあったのか……?」



98:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/21(日) 17:53:12.74 ID:0sl7vD+po

ー 宿屋内、女の部屋 ー


女「……ついに、勇者様が」

女「本当に、十五年前の約束通り……。覚えておられたのですね……」

女「やはり、この運命を女神様は知っておられたのでしょう……。このタイミングで私の元に安全に大聖堂へと行く好機が舞い降りてくるなんて……」

女「……感謝致します、女神様」ギュッ (強く手を組んで祈りを捧げる)


女「後は、一刻も早く大聖堂に戻って……」

女「『あの方』に、私は何としてでもお会いしなければ……!」



112:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/23(火) 01:49:05.50 ID:GB3+ZqeEo

ー 西の海、海上、海賊船 ー


海賊A「二時の方角に所属不明の船を発見しやしたぁ!」

海賊B「帆のドクロマークを確認! 海賊船だあっ! 獲物が出たぞおっ!!」

海賊C「ははっ! ついてない奴等だぜ! 俺らに見つかっちまうとはなあっ!!」

海賊D「野郎共ぉ! 敵船だぞぉ!! 戦闘準備だぁ!!」

海賊E「いや……! おい……待て! あの海賊旗をよく見てみろ!!」

海賊A「あれは……!!」

海賊B「『凪』の海賊団っ!! まさか、とうとうこんなところにまで来やがったのかよっ!」

海賊C「バカ野郎っ! ビビんな! 相手はガレオン船とはいえ、一隻だけだろうが! うちが何隻いると思ってやがる!」

海賊D「そうともよ! 俺らの縄張りにまでノコノコ乗り込んで来やがったんだ! 海の藻屑にしてやれ!」

海賊E「とにかく、船長に報告だ! 急ぐぞっ!!」ダダッ

海賊C「おうっ!!」ダダッ



113:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/23(火) 01:50:20.20 ID:GB3+ZqeEo

ー 一方、『凪』の海賊団 ー


海賊A「船長! 見つけやした! 『不死身の銀髪鬼』の船団でさあ!」

海賊B「数は、10、20、全部で34隻! 恐らく本船団だと思いますぜ!」

海賊C「向こうもこちらに気付いたのか、大慌てでさあ! バタバタ走り回ってやす!」

海賊D「船長! こちらはどうしやす! まさかいきなり本船団にかち合うなんて予想外っすけど!」


女船長「ふっ」

女船長「手間が省けて丁度いい。船団ごと潰してやるぞ!! 真っ直ぐ進め!!」

副船長「マジですかい! だけど、このままじゃ多勢に無勢で、囲まれて船を沈められますぜ!!」

女船長「わかってる! だから、私が先に行く! お前らは祝勝会の用意でもしとけ!!」ググッ

女船長「」ダンッ!! (大ジャンプ!)


ビューン……


副船長「おおっと……行っちまったか、船長」

海賊A「しっかし、相変わらずどういう脚力してるんですかね、我らが船長は……。あんな遠くの船まで一足飛びとか、あの人、人間じゃないっすよ……」

海賊B「常識が通用しない人だからなあ……。うちの船長は」



114:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/23(火) 01:51:22.31 ID:GB3+ZqeEo

ー 『不死身の銀髪鬼』船団 ー


女船長「はっ!」ダンッ!! (着地!)


グラッ……! グラッ……! (衝撃で船が激しく揺れる)


『船内』

海賊A「何だ!? おい!?」

海賊B「一体、どうした!? 何が起きた!? 高波か!?」


『甲板』

海賊C「な!? おい、何だ、お前は!? 今、急に空から降って……!!」

海賊D「ちょっと待て! こいつのこの長い髪にあの青い腕輪は!!」

海賊E「まさか、『神速の隼』!? 乗っていたのかよ、あの船に!!」


女船長「ふっ、こんな海域にまで通り名が広まってるとはね。私もそれなりに有名になったもんだ」

女船長「じゃあ、あんたたちには悪いけど、早速始めようか」トントン (片足踏み)

女船長「あんたたちにとっての、終わりの始まりをね!」ダダッ



115:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/23(火) 01:52:09.45 ID:GB3+ZqeEo

ー 『不死身の銀髪鬼』船団、司令船 ー


海賊F「船長! 一大事です!」ガチャッ!!

銀髪鬼「何だ? 騒々しいな」

海賊F「敵から攻撃を受けてます! そのせいで、さっきから次々と船が沈んでいってます!」


銀髪鬼「船がだと!? どういう事だぁっ! 強力な魔法弾でも撃たれてるってのか!?」

海賊F「いえ、それが……!!」

海賊F「素手です!! たった一人の敵にやられてるんです!! 相手は、あの『神速の隼』です!!」

銀髪鬼「何だとっ! まさか、さっきの報告にあった船にやつが乗ってたってのか!」

海賊F「はい! もう十隻近く沈められました! 副船長の乗っていた船まで!!」

銀髪鬼「畜生っ! わかった、すぐ行く!!」


ドウンッ!!

グラッ……グラッ!!


銀髪鬼「おい、どうした!?」


海賊G「船長!!」ガチャッ

海賊G「船の横っ腹にドデカイ穴を開けられました!! この船ももう持ちません!! すぐに避難を!!」

銀髪鬼「っ!! 馬鹿な!! 鋼鉄で造られたこの船までだと!! 有り得ねえだろ!!」



116:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/23(火) 01:52:37.99 ID:GB3+ZqeEo

ー 甲板 ー


銀髪鬼「」ダダダッ、ガチャッ!!

銀髪鬼「なっ!?」


ゴボゴボ、プカプカ…… (一面に広がる、船の残骸)


海賊F「何だよ……これ! 嘘だろ!!」

海賊G「一隻だけ残して、他は全部……沈められてる……」

海賊F「五分も経たない内に、33隻の大船団が……」

海賊G「壊滅……させ……られた」ガクッ


銀髪鬼「ぬおあああああああっ!!!」(咆哮)



117:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/23(火) 01:53:45.15 ID:GB3+ZqeEo

ー 本船の隣の船 ー


女船長「おや、遅かったじゃないか。おかげで生憎、この通りだ。見通しが良くて、ずいぶんとさっぱりした景色になっただろ?」


銀髪鬼「……貴様の仕業か、これは……!!」

海賊G「そうです……! こいつ一人に、船団が……!! 仲間が全員……!!」

海賊F「こいつが『神速の隼』です!! 間違いありません!!」


女船長「ああ、そうだね。敵からは憎悪の対象として、味方からは敬意を込めて、私はそう呼ばれてるとも」

女船長「きっと、あんたもそうなんだろ? 『不死身の銀髪鬼』。こっちの海にも名前は届いてる。全身、傷のない箇所はないってほどの、勇猛な男だってね」

銀髪鬼「今は違うがな……! 俺は今、貴様に傷をつける為だけの鬼と化している!!」ゴゴゴゴゴ

女船長「ふふっ。やれるものなら、やってみるといい。こっちの船まで来なよ。相手してやるよ」クイッ (手招き)

銀髪鬼「黙ってろっ!! 今、そっちに行って、その生意気な舌を切り取って魚の餌にしてやるっ!!」ダダッ、ダンッ!! (ジャンプして飛び移る)

海賊F「俺達は避難するぞ! 船長の技の巻き添えを食っちまう!」ドボンッ

海賊G「おうっ!!」ドボンッ


ゴゴゴゴゴ……


女船長「へえ、威勢だけはいいようだね。せいぜい、楽しく踊ってくれよ。こっちは近頃、物足りなくて退屈気味なんでね」

銀髪鬼「数分後、同じ台詞を言えるといいな、生意気なメス犬がっ!!」ジャキッ (抜刀)



118:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/23(火) 01:54:37.15 ID:JJQzrKPXo

海賊F「船長、頼みます! 仇を取って下さい!!」

海賊G「そのアバズレを、出来る限り惨たらしく殺してやって下せえ!!」

【海賊F】   【海賊G】
『体力 :31 『体力 :35
 攻撃力:17  攻撃力:13
 防御力:10  防御力: 8
 魔力 : 2   魔力: 6
 素早さ: 8』 素早さ:11


銀髪鬼「わかってる……!! だいいち、そうしなきゃ到底俺の気がおさまらねえからな!!」ズサッ (構えを取る)

【海賊団の船長】
『体力 :217
 攻撃力: 51
 防御力: 89
 魔力 :  3
 素早さ: 31』


女船長「グダグタ言わずにかかってきな。こっちはもう火がついてるんだからね」トントン (片足踏み)

【天才格闘家】
『体力 :7703
 攻撃力:9999
 防御力:4056
 魔力 :  12
 素早さ:9999』



銀髪鬼「なぶり殺してやるっ!! 覚悟しなっ!!」ダダッ (大剣を持って斬りかかる)

女船長「来なよ!」サッ (構える)



119:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/23(火) 01:56:13.75 ID:JJQzrKPXo


その銀髪の男は、十二才で海賊になった。

激しい気性が災いして、親から勘当同然に家を叩き出された。当てもなく町をさ迷っているところを海賊に拾われ、そのまま海へと出た。

その男は海賊見習いの頃から、常に最前線で戦い続けた。

臆病という言葉を知らない男だった。どれだけ斬られ、どれだけ攻撃魔法を受けても、一歩も退かず常に戦いの只中に居続けた。

戦った回数は万をゆうに超え、その間についた傷は千を超す。死の淵を覗き見た回数は両手の指ではまるで足りない。

その苛烈で命知らずな戦いぶりは、勇猛ではなくただの馬鹿だと何度言われた事か。しかし、五年も経った頃には、別の名で呼ばれる事となっていた。

『不死身の銀髪鬼』

その男は、どんなに危険な場面であろうと必ず生還し、どんなに致命傷を受けても必ず生き残ってきた。

仲間は囁く。この男は死を知らない。

負けた敵は地団駄を踏みながらわめき散らす。あいつは馬鹿だから、そこらの酒場に『死ぬ』って事を忘れて置いてきちまったんだよ。

本人は満足そうに豪語する。俺は一度死神に会った事があるんだが、そいつからお前は二度と来るなって追い出されてな。以来、会った事がねえんだよ。

そんな彼はやがてクーデターを起こす。船長を殺して船を乗っとり、自分が船長となって新しい海賊団を結成した。

その海賊団は、十六年の歳月をかけて、西の海の覇者と言われるほど巨大なものに成長していった。そして今……。



女船長「せいっ!!」ドゴゴゴゴオオオオオオンンンンンンンンンッッ!!!

銀髪鬼「ごふぎああぐぼおおおおぐええあががぎぐぼぼぼおおごおおおおおおおおおおっっっ!!!」ズガゴラバキガッシャーン!!!

9910ダメージ!!
体力:217→0


海賊F・G「船長ぉぉぉぉぉぉぉ!!!」



一撃で壊滅した。



120:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/23(火) 01:57:41.54 ID:GB3+ZqeEo

ー 戦闘終了後 ー


副船長「ったく。船長、勘弁して下せえ。船ごと沈められたら、お宝がパーじゃないっすか」

海賊A「そうっすよ! 食料や水や酒だってあっただろうに!」


女船長「うるさい。宝なら海中から引き上げろ。酒や水なら樽がそこらに浮かんでるから回収しとけ」


海賊B「それが面倒だから言ってるんすよ! 大体、残した一隻も生き残った奴等に渡しちまって!」

海賊C「船も貴重な宝だってのに、全部沈めるから! もったいない!」


女船長「黙れ。ともかく、これで西の海域は八割方制覇したも同様だ。まずはそれを祝え」


海賊D「つうか、俺ら何もしてないんで」

海賊E「祝えも何もって感じなんすけど」


女船長「くどい。それより、ぶんどり物はここに集めておけよ。後できちんと山分けだからな」

海賊A「うっす!」

海賊B「ああ、そうだ、船長。これをどうぞ。さっきの船に新聞があったんで」スッ

女船長「ああ、ご苦労。気が利くな」



121:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/23(火) 01:58:45.80 ID:JJQzrKPXo

女船長「どれどれ……。最後に陸に立ち寄ってからずいぶん経つからな。例の、東の国の革命記事が載ってりゃいいが……」パサッ


『北の国軍、魔王軍に全面勝利。立役者は東の国の援軍、名剣士!』


女船長「ふうん……。東の国軍は、革命後、初の軍事行動となるが、見事にこれを成功させ……。へえ……」

女船長「つまり、もう革命は成就してたってのか。私らも裏から支援したかいがあったな」

副船長「ですね。資金や武器を結構回しやしたっけ」

女船長「ああ、投資が実ったぞ。これで東の国の海域を大手をふって航海出来るからな。本格的に海上貿易が出来るってもんだ」

副船長「にしても、これじゃあもう、どっちが本業かわからなくなってきやしたね。今じゃ貿易業の方が儲かってるってんだから」

女船長「元は密輸のカモフラージュだったんだがな。何がどう転ぶかわからないもんだ」

副船長「まったくで。つっても、狩る海賊がいなくなっちまったからしょうがないんですがね。商船は襲わないってのがウチのポリシーですし」

女船長「で、出会った海賊は、全部、潰すか傘下におさめてやったからな。気がつきゃ国もビビるぐらいの最強の海賊集団になってた。痛快なもんだ」

副船長「『凪』の海賊一味ってのも、こっちから名乗った訳じゃあないんすけどね。海に敵なし、風一つなし、って事で、いつのまにかそう呼ばれる様になりやしたし」

女船長「まあな。とはいえ、未だに魔物にはちょくちょく襲われてるから、完全に敵なしとは言えないが」パラッ

副船長「魔物は厄介すからね。潜って船底から攻撃されると、こっちも海に飛び込んで戦」

女船長「なっ!?」

副船長「」ビクッ!!



122:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/23(火) 01:59:30.69 ID:JJQzrKPXo

副船長「ど、どうしやした、船長? 急に大きな声だして……」

女船長「まずい……。相当前の事だったから、すっかり忘れていた……」ワナワナ

副船長「?」

副船長「……何か気になる事件でもあったんですかい?」ヒョイ (覗き見る)


『南の国から勇者(自称)が旅立つ。盛大な式典の裏には教会との軋轢が?』


副船長「勇者? へえ、神託があったんですかい。だけど、自称ってのは一体……。なになに、名前は『勇者』で、歳は……」


女船長「副船長っっ!!」

副船長「」ビクッ!!

副船長「ア、アイサー!」ビシッ


女船長「緊急の用事が出来た!! 私は今すぐアジトに戻るぞ!!」

副船長「はひ!? 今すぐって、まだお宝をサルベージ中ですぜ、船長!?」

女船長「関係ない!! 先に向かうぞ!! お前らは後から来い!!」ダッ (ジャンプ)


副船長「ちょっ、ちょっと船長!! 海に飛び込んでどうするんですかい!? まさか泳いで帰るってんじゃ……」ササッ (甲板から下を覗き見る)

副船長「!?」

副船長「水の上に……!! 立って……!?」


女船長「当然だ! 海の上ぐらい立てなくて、いっぱしの海賊が名乗れるか!!」チャプチャプ


副船長「!!!???」



123:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/23(火) 02:00:18.22 ID:JJQzrKPXo

※『軽気功』
気功の一種。己の存在を自然と一体化する事により、気配どころか体重そのものを消す。
完全に修得すれば、舞い落ちる枯れ葉の上にも乗れると言われる。
会得の難しさから、史上、最高難易度の気功と呼ばれる。


女船長「後の指揮は、副船長、貴様に任せる!!」チャプチャプ

女船長「私なら、船で行くよりも、走った方がよっぽど早いからな!!」

女船長「任せたぞっ!!」ダダダダダダダダッ!! (ダッシュ)


副船長「ちょ! 船長ぉぉぉぉ!!!」


シーン……


副船長「って、くそっ。もう姿が見えなくなっちまった……。本当に、どんな足をしてやがんだよ、あの人は……」

副船長「それに、何で急にまたアジトに戻るだなんて……」

副船長「一体、なんだってんだ……?」



124:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/23(火) 02:00:57.08 ID:JJQzrKPXo

ー 海上 ー


女船長「まずい! くそっ、私とした事が!!」ダダダダダダダダッ (ダッシュ)

女船長「何で今の今まですっかり忘れていたんだよ、こんな大事な事を!!」ダダダダダダダダッ

女船長「急いでアジトに戻らないと、絶対にまずい事になる!!」ダダダダダダダダッ

女船長「対応によっちゃ、この海賊団が崩壊するぞっ!! 急げっ!!」ダダダダダダダダッ


女船長「にしても、畜生っっ!! 何だって十五年も前にした約束を覚えてやがるんだっ!! バカ勇者がっっ!!!」ダダダダダダダダッ



147:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/23(火) 18:36:01.64 ID:UtAJP8oxo

ー 最果ての地、魔王城 ー


魔王「ふむ……。北西地区の被害がきつくなってきたな」

魔軍師「はい。向こうに新たに黄金竜が二匹ほど、投入された事が原因です」

魔王「それで、対応は考えてあるのか?」

魔軍師「比較的優勢な東地区から、フェンリル狼を援軍として派遣します。下策ですが、今のところはそれ以外手の打ちようがないですね」

魔王「……奴か。だが、大人しく命令に従うかどうか。気性の激しさは折り紙つきだぞ。激戦区に回されると聞いて黙ってるような奴ではない」

魔軍師「ですが、フェンリル狼は欲望には忠実な魔物です。特に奴は魔結晶が好物ですし、出来の良いのを二十個ほど与えて懐柔すれば大人しく従うでしょう」

魔王「それは構わんが、またか……。魔結晶一つ作るのに、どれだけの魔力と金を注ぎ込んでいると思っているのか……」


※『魔結晶の作り方』
1、魔石に特別な魔法加工をし、魔力を吸収するマテリアルに変える。
2、そのマテリアルに魔法をひたすら放ち続け、魔力をひたすら吸収させる。
3、吸収出来る許容一杯になると、マテリアルは結晶化する。
4、それを更に強力な炎魔法で1000時間近く炙り続けると、不純物が無くなり、純粋な魔力のみで構成された魔結晶に変わる。
5、魔力が無くなった時に服用すると、吸収した分の魔力が回復する。ヤバイぐらい美味。宝石の様に美しい。物によっては、城が建てれるぐらいの高値で取引される。


魔軍師「だからこそ、魔結晶には価値があるのですよ。ここは惜しむ様な場面ではありません、魔王様」

魔王「ちっ……。わかった。良きに計らえ」

魔軍師「はっ」



148:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/23(火) 18:38:03.37 ID:UtAJP8oxo

魔王「それで、他に耳に入れておかねばならぬ情報はあるか」

魔軍師「これといって、特には……。ただ、些細な事ですが、一つ、気になる情報が入ってきてますね」

魔王「何だ?」

魔軍師「人間どもに、女神の神託を受けたと言われる勇者が現れたとか」

魔王「勇者? それに女神だと? あの女は確か、かなり前に封印してやったはずだが……」

魔軍師「はい。ですが、身動きを封じてあるだけですので、神託や祝福は与えられる様ですね」

魔軍師「とは言っても最後の足掻きでしょう。加護を与えられたとは言え、所詮は人間ですから」

魔軍師「魔王様の力から考えて、特に気にするほどのものではないと思いますが、一応ご報告はと。聖なる力というのは、それだけで厄介な代物ですから……」

魔王「確かにな。そのせいで女神にはかなり手こずった。余の片腕だったルシファーが犠牲となってくれねば、封印すら出来なかったはずだ」

魔軍師「他にも高名な悪魔や魔獣がかなり犠牲に……。あれは痛ましい戦争でしたね」

魔王「だからこそ、散っていった者達の為にも、余は竜属を滅ぼし、この世界を統一せねばならん。何としてでも」

魔軍師「はい。その決意をお忘れなきようお願いします」



149:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/23(火) 18:38:59.36 ID:UtAJP8oxo

魔軍師「それで、魔王様。勇者は如何致します? 放置しておいても構わないでしょうが、もし潰す気なら初めから潰しておいた方が良いかと」

魔王「ふむ……。確かに気にはなる話ではあるな」


魔王「良かろう。確かこの前、軍に入ったばかりの新兵がいたな。そいつらを使え。この機に、人間どもを根絶やしにしておく」

魔軍師「新兵というと、あの五体ですか……。まだまだ訓練不足で兵士としては使い物にはなりませんが……まあ、人間を全滅させる程度なら問題ないでしょう」

魔軍師「わかりました。後で手配しておきます」

魔王「うむ。それと……」



150:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/23(火) 18:39:54.02 ID:UtAJP8oxo

魔王「例の試みはどうなっている?」

魔軍師「異界への扉を開く件ですか……。一応、古文書の解読も終わり、その記述通りに魔方陣は完成させていますが……」

魔軍師「ですが、魔王様自らが異界に乗り込むのはどうかと……」

魔軍師「確かに、あの古文書が真実であれば、異界には下手な竜よりも遥かに強力な魔獣が数多くいるとの話です」

魔軍師「戦力不足に陥ってる今、その魔獣達を倒して、従わせ、味方につけたいというそのお気持ちもわかります」

魔軍師「ですが、魔王様本人が向かうというのは問題があります。万が一の事があったらどうするというのですか」

魔王「だが、その魔方陣で異界へと移動出来るのは二人だけだというではないか。そして、そいつらが桁外れに強いと言うのなら余が向かわねばならぬ。他の者では返り討ちに遇うだけだろうからな」

魔軍師「それはそうかもしれませんが……。しかし……」



151:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/23(火) 18:41:05.34 ID:UtAJP8oxo

魔軍師「そもそも異界から帰って来れるという保証がございません」

魔軍師「扉を開けたはいいが、帰りは開かない、となればこちらには二度と戻ってこれないのですぞ」

魔王「だからこそ、余が行くのだろう。世界広しと言えど、時空魔法を使えるのは余だけだ。いざとなれば時空に穴をこじ開けて帰って来れる」

魔王「代償として恐らく寿命を百年ほど失うだろうがな。禁術に手を出してそれで済めばもうけものだ」

魔軍師「……いくら魔王様の寿命が長いとは言え、命を縮める様な魔法は。リスクが高すぎます……」

魔軍師「どうか思いとどまって頂けないでしょうか? 今の状況はそれほど厳しい訳ではありません。そこまでリスクを背負って異界へと行くメリットは……」

魔王「……魔軍師」

魔軍師「はい」

魔王「勘違いするな。余はただテーブルについて料理が出てくるのを待つだけの客ではないぞ。獲物は自ら狩りに行く」

魔王「メリットなど二の次だ。余は王である前に征服者なのだ。わかったら、これ以上は口を挟むな」

魔軍師「……左様ですか。承知しました……」



152:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/23(火) 18:42:18.30 ID:UtAJP8oxo

魔軍師「ならば、せめて供には側近をお連れ下さい。あやつは守りに秀で、忠誠心が厚き者。必ずや魔王様の良き盾となりましょう」

魔王「ああ、余もあやつを連れていくつもりでいた。心配には及ばぬ」

魔軍師「はっ。ならば、先程の命令にあった新兵どもに指示を与えた後、異界行きの儀式の準備を整えさせます」

魔王「うむ」

魔軍師「それでは、私はこれで」ペコリ


魔軍師「」スタスタ

ガチャッ、バタンッ……


魔王「異界か……。久々に腕が鳴るな……」

魔王「ふっ、ふふはははははっ。これはこれで心踊るというものだ」

魔王「この一策で、一気に竜王との片をつけてやろうではないか。首を洗って待っていろ、竜王!」



153:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/23(火) 18:47:09.81 ID:UtAJP8oxo

ー 訓練場 ー


魔軍師「それでは、これよりお前たち新人五名に魔王様からの命令を伝える。心して聞くように」


闇死霊「はい……」

【死神の使い】(人型・霧状)
『体力 :134977
 攻撃力:  7198
 防御力: 16127
 魔力 : 23346
 素早さ: 17271』


焔鳥「SIGYAAAAAA!!!」

【不死鳥】(全長41メートル)
『体力 :271840
 攻撃力: 13319
 防御力:  5044
 魔力 :  9106
 素早さ: 17676』


クラーケン「URYYYYYYY!!!」

【烏賊の王族】(全長39メートル)
『体力 :131347
 攻撃力:  9930
 防御力: 22044
 魔力 : 11665
 素早さ:  7673』


琥珀蝶「…………」バッサ、バッサ

【神秘の幻蝶】(全長34メートル)
『体力 :128290
 攻撃力:  9625
 防御力:  7411
 魔力 : 23697
 素早さ: 15732』


雷獣「GAOOOOOOO!!!」

【破滅の魔獣】(全長52メートル)
『体力 :208724
 攻撃力: 18050
 防御力: 10437
 魔力 :  8502
 素早さ: 12140』


魔軍師「うむ」

【不敗の名将】(身長177センチ)
『体力 :129万
 攻撃力: 13万
 防御力: 27万
 魔力 : 45万
 素早さ: 18万』



154:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/23(火) 18:48:53.00 ID:UtAJP8oxo

魔軍師「お前たちはこれから南に向かって進み、妖魔の森を抜けて、人間どもを全滅させてもらう」

魔軍師「人間の国は五国あるから、それぞれが一国ずつ担当せよ」

魔軍師「手を抜かず、必ずや全滅させる事だ。一人も生かしておくな」


雷獣「GYAOOOOOOOOOON!!」

ビリビリ…… (大気の震え)


魔軍師「なお、わかってるとは思うが、妖魔の森を横断する時は必ず西側を通る様に。東側は竜の支配下だからな。もしも遭遇したら、今のお前たちの実力じゃ瞬殺されるだろう」

闇死霊「……理解」


魔軍師「では行け。一週間もあれば足りるはずだ。それまでに任務をこなして帰って来るように」


闇死霊「……はっ」フワッ (暗黒の霧となって移動)

焔鳥「SIGYAAAAAA!!!」バッサ、バッサ (全長41メートル)

クラーケン「URYYYYYYY!!!」ウネウネ (全長39メートル)

琥珀蝶「…………」バサバサ、バサバサ (全長34メートル)

雷獣「GAOOOOOOO!!!」ダダッ (全長52メートル)



156:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/23(火) 18:50:41.20 ID:UtAJP8oxo

ー 北の国、北東部、小さな村 ー


大賢者「流石にここまで来ると寒いな……。手が凍りそうだ」ハァ…… (息を吹きかける)

大賢者「防寒着もきちんと買っていかないとまずいな……。食料の前にそっちから先に行くか……」テクテク


占い師「ふぇっふぇっふぇっ。そこのマントをかぶったお兄さんや」


大賢者「?」

占い師「そう、そこのあんたじゃよ。他にはいないじゃろうに」

大賢者「……僕に何の用かな、お婆さん?」

占い師「あんた、普通の人とはどこか雰囲気が違うからね。悪い意味で言ってるんじゃないよ、オーラを感じるんだよ」

占い師「袖すり合うも多生の縁って言うじゃないか。興味がわいたから、ちょいとタダで占ってやるよ」

大賢者「占いですか……」



159:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/23(火) 18:51:47.49 ID:UtAJP8oxo

大賢者「すみませんが、遠慮しときます。それ、よくある手ですよね? そう言ってろくでもない予言をして、その後、この御利益の高いお守りを買えば回避出来る……って言ってくるつもりなんでしょう?」

大賢者「一種の詐欺です。その手に乗る気はないですよ」ニコッ

占い師「あらまあ、なんちゅう事を言うんだかね、このボウズは。人が善意で占ってやろうって言ってんのにさ」

占い師「ほんと、最近の若いもんはすーぐにこれだ。人の好意を平気で踏みにじって、更には小賢しい事を言って逆に得意気なツラしてさ。まったく、嫌な世の中になったもんだね」

占い師「ああ、いいさ、いいさ。どこへなりともお行きよ。見所ありそうだと思ったのに、あたしのとんだ勘違いだったよ。ったく」ブツブツ

大賢者「わかった、わかりましたよ。それならどうぞ、是非お願いします」(苦笑)

占い師「もう有料だよ。そんでもいいって言うなら占ってやるがね」

大賢者「ホント、商売上手ですね。わかりました」

大賢者「はい、これ。銅貨四枚でいいですか? それぐらいが相場ですよね」スッ

占い師「あたしゃ、当たる事で有名なんだ。銅貨は七枚だよ」

大賢者「わかりました。じゃあ、もう三枚どうぞ。さ、お願いします」スッ

占い師「毎度あり。ふぇっふぇっふぇっ」

大賢者「参るなぁ、本当に……」(苦笑)



161:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/23(火) 18:52:40.70 ID:UtAJP8oxo

占い師「それじゃあ、お兄さんや。この200枚のカードの中から適当に4枚引いておくれ。それがお兄さんの運命だ」

占い師「このカードにはあたしの魔力が込められてるからね。純粋に未来だけを導き出す。そこには運や気まぐれが入る要素はないよ」

占い師「お兄さんが引く4枚は自分で選んだものじゃない。未来が導いた4枚だ。わかったなら、さあ、引いておくれ」スッ


大賢者「……じゃあ、これと、これと、これと、これ」スッ


占い師「………………………………」

大賢者「ん? どうしたの、お婆さん。そんな深刻そうな顔して」

占い師「…………あんた、これはまずいよ。……だって、あんたが選んだカード…………」ブルブル


『恐怖』 『死神』 『墓場』 『時計』


占い師「最後に引いたのが時計ってのが、更にまずいんだよ……。四枚目の時計は、時間の無さの表れだ……」ブルブル

占い師「あんた……近い内に、何かに巻き込まれて死ぬよ。こんな危ない予言出たの初めてだよ……。どうすればいいかあたしにだってわからないよ……」ブルブル


大賢者「…………」



162:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/23(火) 18:53:36.14 ID:UtAJP8oxo

大賢者「えっと……」

大賢者「それって、やっぱり、僕が最初に言った通りの結果で……」

大賢者「ああ、結局、僕は騙されちゃったって事か……。参ったなあ、降参です。こういう駆け引きとか自分では得意だと思ってたんだけどな」(苦笑)


占い師「違う……! 女神様に誓って言えるけど、この予言は本物だよ! あんた、今すぐどっか遠い町にでも行った方がいい!」

占い師「予定があるんなら、それは全部変更しな! でなきゃ、本当に死ぬよ!!」


大賢者「わかりました。参考にしておきますね」ニコッ

占い師「違う! あんた、全然わかってないよ!! 嘘じゃないんだ! 本当なんだよ!」


大賢者「そう言われましても……」(頬をかく)

大賢者「生憎、僕は寿命以外では絶対に死なない自信があるんで」ニコッ

【大賢者】
『体力 :5254
 攻撃力:  12
 防御力:8296
 魔力 :9999
 素早さ:6238』



163:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/23(火) 18:54:26.60 ID:UtAJP8oxo

占い師「冗談言ってないで、あたしの忠告をお聞き! ちょっとばかし、腕に自信があったって、それが完璧って訳じゃないんだよ!」

占い師「世の中にゃ、あんたみたいな若いのが想像も出来ない様な怪物もいるし!!」

占い師「想像もつかない様な、不運や出来事だってあるんだ!!」

占い師「黙ってあたしの忠告をお聞きよ!! この跳ねっ返りが!!」


大賢者「わかりました。心に留めておきますよ」ニコッ

大賢者「それでは、僕はこれで……」クルッ、スタスタ


占い師「ちょいとあんた! これからどこ行く気だい!?」


大賢者「装備を整えて、北に向かいます」スタスタ


占い師「こっから北って……」

占い師「あんた、何にもわかってないじゃないか!! そっちには妖魔の森があるんだよ!!」

占い師「人が生きて帰って来れる場所じゃない!! そんなとこへ、一体、何しに行くんだい!!」


大賢者「軽く腕試しです。勇者が現れたって話を聞いたのでね」ニコッ

占い師「!!?」


大賢者「それでは……」スタスタ


占い師「この……馬鹿男が……!!!」



188:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/24(水) 18:49:57.03 ID:rJic2Cgyo

ー 北の国、王都

『七つ星大商会』本店三階

      冒険用品売場 ー


大商人「はい、いらっしゃい、いらっしゃい。七つ星印でお馴染みの魔法銃がズラリと揃ってるよ。これを売ってるのはうちの商会だけだよ。他にはないよ」

大商人「魔力を使えない人でも平気な代物だよ。誰か魔法が使える人にこの特製の弾を持ってもらって、後は魔法を唱えてもらうだけ。すると、その魔法が弾に込められて、引き金を引けばこの銃から飛び出すって便利な代物さ」

大商人「弾さえ事前に用意しときゃ、魔力を気にせず何度でも撃てるし、射程距離だって普通の魔法の四倍はあるって優れものだよ。今じゃどこの国でもこの魔法銃が正式採用されて大人気だよ」

大商人「旅の必需品だし、弱い者の味方さ。値段もお手頃価格になって販売中だ」

大商人「弾は一発につき、銅貨4枚。ラム酒1瓶と同じ値段だ。だけど今日は勇者様旅立ち記念バーゲン中につき、特別に銅貨3枚で売っちまうぜ。さあ、持ってけ泥棒」

大商人「銃本体も、銀貨4枚ポッキリの大特売だ。これだけ安値なのは今日だけだぜ。さあ、買った買った」

大商人「今ある分だけの限定特別価格だ。後になって無くなってても知らないよ。今しかチャンスはないよ」


※『通貨のおおそよその日本円換算』
銅貨1枚→250円
銀貨1枚→5万円
金貨1枚→50万円

なお、通貨の価値は国や質によって微妙に変動する。



189:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/24(水) 18:51:14.86 ID:rJic2Cgyo



アリガトウゴザイマシター!!


若者「ヤベエ、ついつい買っちまった……。だけど、これさえあれば、魔物とか襲われた時、役立つだろうし……」スタスタ


大商人「おっと、毎度ありぃ! お兄さん、今日は良い買い物したよ。また来てくれよ」

大商人「もしも、高度な魔法を弾に込めたいって思ったら、この通路を真っ直ぐ行った専用の魔法屋に行ってくれ。熟練の魔法使いが待ってるからさ。そっちも今日は特別価格で営業してるよ」


大商人「はい、いらっしゃい、いらっしゃい。今日は特別バーゲン中だよ。安いよ、安いよ」



190:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/24(水) 18:52:17.39 ID:rJic2Cgyo

女大富豪「」スタスタ
秘書「」スタスタ


大商人「はい、いらっしゃい、いらっしゃっい。そこの美人なお嬢さんもナイスミドルな紳士も是非見ていってくだ……か、会長!?」

女大富豪「うん。ちょっと立ち寄ってみたとこ。自ら売り込み、御苦労様。店長」

大商人「は、はい!!」ペコペコ

秘書「どうも。御無沙汰してます」ペコリ

大商人「はい! 秘書の方も、お元気そうで」ペコペコ



191:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/24(水) 18:53:13.37 ID:rJic2Cgyo

女大富豪「それにしても、やっぱり手慣れたものね。本店の店長ともなると、何をやらせても一流。さっきから見ていたけど、お客さんの食いつきが違ったから」

秘書「ええ、本当に」

大商人「あ、ありがとうございます!」ペコッ

女大富豪「でも、今日はどうしてまた売り込みなんて?」

大商人「はい。バーゲン初日という事で、店員全員の気合いを乗せる為にと。現場に出ないとわからない事もありますし」

女大富豪「なるほど……流石だね。ちなみに、売り上げはどう? 今月も好調?」

大商人「ええ、そりゃもう。やっぱりこの魔法銃の量産化が効いてますね。ここまで安く出来たら、国相手だけでなく一般にも販売出来ますし」

女大富豪「地道な研究開発がようやく実ったからね。魔法銃の開発に5年、量産化まで3年、ずいぶん長い道のりだったけど……」

大商人「はい。ここからまだまだ上が見えますね。いくらでも上っていけそうなぐらいに」

女大富豪「そうだね。その為にも、あなたには期待しているわ」ニコッ

大商人「ありがとうございます!」ペコッ

秘書「引き続き、この店を宜しくお願いしますとの事です」

大商人「はい! ありがとうございます!!」ペコペコ



商人B「おい……。あの店長がめっちゃ嬉しそうに頭下げてるぜ……」ヒソヒソ

商人C「何者なんだ、あの二人……?」ヒソヒソ



192:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/24(水) 18:54:19.38 ID:rJic2Cgyo

女大富豪「それじゃあ、私はこれから寄るところがあるから。悪いけど、これで」

秘書「失礼しますね」

大商人「はい! お気をつけて!」ペコッ

女大富豪「ふふ。大丈夫よ。護衛もいるしね」

秘書「…………」

【秘書、兼、ボディーガード】
『体力 :182
 攻撃力: 61
 防御力: 64
 魔力 : 38
 素早さ: 69』


大商人「それもそうですね、要らぬご心配を」

女大富豪「ええ。それじゃあね」クルッ、スタスタ

秘書「では」ペコッ

大商人「はい!! またのお越しをお待ちしてます!」ペコッ



商人A「おお……。最後までずっと頭下げ続けてるぞ」ヒソヒソ

商人B「……一体、誰なんだよ、本当に。店長があそこまで頭下げるなんて……。国のお偉いさんの娘か?」ヒソヒソ



194:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/24(水) 18:55:16.26 ID:rJic2Cgyo

ー 休憩時間 ー


商人A「店長、ちょっといいですか?」

大商人「ん? どうした?」

商人B「さっき、ごつい人と、若いお嬢さんの二人組いたじゃないですか。あれ、誰なんです?」

大商人「お前らなあ……。うちの商会の会長と秘書をつかまえて、その言い草はなんだ」

商人A「会長!? あの人が!?」

商人B「で、でも、会長なのに、やけに腰が低くなかったですか? 頭、何回か下げてたし」

大商人「逆だよ、逆。そっちの人が秘書だ。女性の方がうちの会長なんだよ」

商人B「はい!? いやいやいや、それは店長、冗談きついですって。うちの商会ですよ? 全世界、全部の町に支店がある、前代未聞の大商会ですよ?」

商人B「総資産は国家予算を超えているって言われてる、そんな馬鹿デカイ商会の会長が、あんなに若い訳がないじゃないですか」

大商人「だろうな。それが普通の反応だよな。だから、俺はだいぶ前から、それを信じてもらうのを諦めてる」

商人A「?」
商人B「?」



195:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/24(水) 18:57:26.68 ID:rJic2Cgyo

商人A「それ、どういう事です?」

大商人「だから、そのままの意味だよ。うちの会長と初めて会う人は、必ず勘違いしてお付きの秘書に握手を求めるそうだ。事前に女だって聞いてるはずなのにな」

大商人「あんまりにも間違えられるもんだから、会長も段々めんどくさくなったのか、終いには私が秘書ですって自分から言ってたらしいしな。そっちの方が話が早いからって」

商人B「いやいや、それ絶対嘘ですよね?」

大商人「だから、信じる信じないはもう好きにしてくれ。そもそも、うちの会長の逸話はどれも人に信じてもらえる様な類いのものじゃないんだよ」

大商人「元々、小さな雑貨屋の商人だったのが、今じゃインクから堤防建設まで扱う巨大商会の経営者だ。わずか10年で全世界に3000店舗出してんだぞ」

大商人「やる事なす事全部大当り、画期的な新商品を大量に産み出しては大ヒットの繰り返しだ。そのせいで、『七つ星商会には、魔女と錬金術師がいる』って根も葉もない噂が囁かれるぐらいだしな」

大商人「金塊を作り出すか、完璧な未来予知でも出来ない限りあの急成長は考えられないんだと。会長も、投資しかり開発しかり、商売で外した事は一度もないって言ってたしな」

大商人「で、極めつけがうちの魔法銃だ。他の商会が真似しようにも、あれは中身が複雑過ぎててコピーが出来ないらしい。千年先の技術だとか言われてる」

大商人「だから、作れるのはそれ専用の工房持ってるうちだけで、完全な独占状態。しかもそれが大量に売れてるときたもんだ。1秒ごとに金貨が10枚近く空から降ってくるような売り上げを上げてる」

大商人「平民としては史上初で教皇に会ったって人だし、各国の財務大臣からは毎年の様に高価な贈り物が届けられるとか。こっちから贈るんじゃなくて、その逆なんだぞ?」

大商人「どこの国にも大金を貸し付けてるから、国王でさえ面会を断れないし、自分から挨拶をしてこない貴族はいないらしい。ただの平民なのに、最早王族以上の待遇を受けてるみたいだしな」

大商人「もう全部が嘘くさくて俺も信用出来ないぐらいなんだが、どれもこれもきっと本当の話なんだよ。うちの会長は真面目におかしいんだ。商売の天才って言葉じゃ足りないぐらいな」


商人A「いや、そんな……まさか……」ブルッ

商人B「そうですよ……いくらなんでも……」



196:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/24(水) 18:59:39.30 ID:rJic2Cgyo

大商人「まあ、会長が何で今日ここに来たかは知らないが……」

大商人「あの人が来る以上、金貨一万枚以上の金が動くのは間違いないな」

大商人「なにせ『歩く経済』なんて呼ばれ方をしてる人だ。あの人が、≪最近、小麦が安いわね≫、ってちょっと呟いただけで、次の日には小麦の買い付け価格が倍以上につり上がったなんて伝説もあるほどだしな」

大商人「ここが本店だってのに、姿を見せるのも二年ぶりだ。俺でさえ、会長が最早どこで何してるのかわかりゃしねえ」

大商人「常に世界中を旅していて、自宅ってものがないらしいしな。毎日の様に町を移動して情報収集やら指示出しとかしてるから、寝る時の景色も時間も毎回違うんだと」

大商人「その生活に唯一ついてこれたのがあの秘書で、それまでに五人以上秘書を変えたらしい」

大商人「て事は、本人もあの秘書並の体力があるって事になるんだがな。色々と規格外な人なんだよ、うちの会長は」


商人A「……なんかもう、おかしいって言葉しか出てこないですね」

商人B「……おう」


大商人「ちなみに、お前たちと同い年だぞ」

商人A「!?」
商人B「!?」


大商人「ほら、お前たちもいつまでも休んでないで商売に精を出せ。成功の秘訣は? って質問に、会長は、寝る時以外は働く事って言ってたからな」

商人A「……はいっす」

商人B「……なんか、聞きたくない話を聞いちまったなあ」ボソッ



197:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/24(水) 19:00:49.15 ID:rJic2Cgyo

ー 町の外 ー


女大富豪「んー、久しぶりに店長見たけど、元気そうにしてたわね」パカラッ、パカラッ (馬で移動中)

秘書「ええ」パカラッ、パカラッ


女大富豪「ただ、建物はやっぱり古くなってたかな。一号店だし、もう少し綺麗にした方がいいかも」パカラッ、パカラッ

秘書「では、デザイン部門と建設部門に連絡して改修工事させておきます」パカラッ、パカラッ


女大富豪「あと、ここの街道も、もう少し広くした方がいいわね。走りにくいし」パカラッ、パカラッ

秘書「早速、街道専門チームと護衛請負部門に手配させます」パカラッ、パカラッ


女大富豪「あ、向こうに魔物発見」パカラッ、パカラッ

秘書「お任せを」ガチャッ (大型魔法銃、構える)

秘書「FIRE!!」バンッ!!



198:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/24(水) 19:01:42.17 ID:rJic2Cgyo

一つ目狼A「ガルルル」
一つ目狼B「ガウウゥ」
一つ目狼C「グルルル」

【魔物・タイプ狼】
『体力 :19
 攻撃力: 7
 防御力: 3
 魔力 : 0
 素早さ:11』


一つ目狼A「ウォン、ウォン!!」ダダダッ
一つ目狼A「ガウォォン!!」ダダダッ
一つ目狼A「ガウッ、ガウッ!!」ダダダッ


BANG!! (魔法弾・氷)

ガキンッ!!!


一つ目狼A「!!!」ビキッ (氷漬け)
一つ目狼B「!!!」ビキッ (氷漬け)
一つ目狼C「!!!」ビキッ (氷漬け)

全体に35ダメージ!!
体力 :19→0



200:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/24(水) 19:02:30.71 ID:rJic2Cgyo

女大富豪「うん。あの距離を馬乗ってる時に一発で仕留めるなんて、あなたもずいぶん手慣れたみたいね、魔法銃に」パカラッ、パカラッ

秘書「練習しましたからね」パカラッ、パカラッ

女大富豪「最初は魔法銃なんて邪道だなんて言ってたのに、練習はしたんだ?」パカラッ、パカラッ

秘書「私は幼い頃から剣一筋に生きてきましたので……。しかし、魔法もそれなりに使えたので、そこまで頑固ではありません」ガシャッ、ガコッ (次弾、装填)

秘書「便利だとわかれば使いますし、苦手だとわかれば練習もします。それだけです」パカラッ、パカラッ

女大富豪「そうそう、そういう柔らかさがやっぱりないとね。この時代はこれからどんどん変わってくでしょうし」パカラッ、パカラッ

女大富豪「私が作り出した魔力伝達物質、『魔導鉄』によっていくらでもね」パカラッ、パカラッ

秘書「ええ」パカラッ、パカラッ



201:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/24(水) 19:04:12.07 ID:rJic2Cgyo

女大富豪「魔力を貯める事の出来るマテライト。あれは本当に素晴らしいものだったわ」パカラッ、パカラッ

女大富豪「それを魔結晶にする前にちょっといじって、鉄と一緒に錬成してやれば、魔力を伝達する『魔導鉄』に変わる事がわかったんだから」パカラッ、パカラッ


※『魔導鉄』
魔力を伝達する特性を持つ金属。なお、命名者は開発した女大富豪。ある程度、鉄の特性も維持しているが、ほとんど別物。


女大富豪「それで、マテリアルと魔導鉄を使って造ったのがその魔法銃。だけど、銃以外にもありとあらゆる使い道があるもの」パカラッ、パカラッ

女大富豪「これまでの実験で、魔力のエネルギー変換や伝達理論もだいぶわかってきたしね。特定の用途ごとに魔導鉄で魔力伝達回路を作って、マテリアルに貯めた魔力で動かしてやれば、きっとどんなものでも作れる」パカラッ、パカラッ

女大富豪「軍事に商業、その応用はいくらでもきくわ」パカラッ、パカラッ

女大富豪「その内、スイッチ一つで町が昼間の様に輝いたり、遠くの景色を別の場所から見れる様になったり、馬よりも速く走れる乗り物が走り回る時代がきっと来る」パカラッ、パカラッ

女大富豪「マテリアルと魔導鉄が世界を変える日が必ずやって来るのよ。いいえ、私が必ずそう変えてみせるわ!」パカラッ、パカラッ

女大富豪「まだまだ先は長いのよ。なのに、人生は短すぎるから。私は今の内に、もっともっともっと、沢山の夢を見ないと!」パカラッ、パカラッ

秘書「はい。私も陰ながらその夢、応援させて頂きます」パカラッ、パカラッ

女大富豪「ええ! 頼りにしてるわよ、秘書!」パカラッ、パカラッ

【世界一の大富豪(流通王・商業王・資産王・発明王)】
『体力 :5439
 攻撃力:2510
 防御力:2644
 魔力 :1073
 素早さ:2276』

『所持金:金貨9999万枚 (約50兆円)
 総資産:金貨   8億枚』(約400兆円)



女大富豪「さあ、急ぎましょう! 皆との十五年前の約束を果たす為に、例の場所へとね!」パカラッ、パカラッ

秘書「はい。御供します!」パカラッ、パカラッ



221:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/25(木) 19:47:49.07 ID:RkV0hrb3o

ー 南の国、鉄鉱の町付近 ー


勇者「もう陽が落ちてきたな」パカラッ、パカラッ

勇者「相棒、もうすぐ町だぞ。今日はちょっと早いがそこで休もうな」パカラッ、パカラッ

馬「」ヒヒーン


勇者「だけど、その前にもう一踏ん張りだ。周辺の魔物を片付けないと、門を開けてもらえないからな」チャキッ

勇者「さあ、向こうの魔物の群れに突っ込むぞ! 回避は頼んだからな!」

馬「」パカラッ、パカラッ、パカラッ!!



勇者「せやっ!」ズバッ!! (剣攻撃)

スライムA「ピギーッ!!」
体力:4→0


勇者「はっ!」ザシュッ!!

一角ウサギ「ピギャー!!」
体力:8→0


勇者「それっ!」ドシュッ!!

人喰いネズミ「ギャァゥ!!」
体力:11→0



スライムB「ビェ!! ビッピーッ!!」スタコラサッサー

巨大トカゲA「ジュイーッ!!」スタコラサッサー

巨大トカゲB「ジュニィィー!!」スタコラサッサー


『残りの魔物たちは逃げ出した!』



勇者「うしっ! どうどう。もういいぞ」グイッ

馬「」ヒヒーン

【伝説の勇者】
『体力 :197
 攻撃力:112
 防御力:106
 魔力 : 73
 素早さ: 85』

【名馬】
『体力 :109
 攻撃力: 16
 防御力:  8
 魔力 :  0
 素早さ: 24』



222:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/25(木) 19:49:06.36 ID:RkV0hrb3o

勇者「」スタッ (馬から降りる)

一角ウサギ「」(死体)

勇者「うん、大丈夫だ、角には傷がついてない。一角ウサギは角が売れるから、これは根本部分から剣で削って……」ゴリゴリ

勇者「おし」パキッ

勇者「いい感じに綺麗に取れた。これは布で包んで、それで革の袋に入れると」ゴソッ

勇者「王様からたっぷり軍資金を貰ったとはいえ、少しでも資金の足しにしていかないとな。これから何があるかわからないし、大切に使いたい」


※『一角ウサギの角の相場』
長さにもよるが、およそ銅貨2枚ほど。


勇者「ここに来るまでに、一角ウサギの角が6本、電撃ヒツジの羊毛が1袋分、一つ目狼の牙が4つ。あと、レアな七色トラの爪と牙も手に入った」ズシッ

勇者「これだけあれば、銅貨70枚(約一万七千円)ぐらいにはなるはずだ。今日は大収穫だったな」


※『勇者の所持金』
金貨20枚、銀貨3枚、銅貨63枚(約1000万円)


勇者「今夜は酒場で少し奮発したお酒でも頼もうな。相棒にも何か買ってやるぞ」ナデナデ

馬「」ヒヒーン


勇者「さて、それじゃ行こうか。門を開けてもらって、この荷物を売り払わないと」カッポ、カッポ



223:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/25(木) 19:50:27.89 ID:RkV0hrb3o

ー 開門後、すぐ横の検問所 ー


兵士A「すみません、通行手形を改めますので、宜しくお願いします」

勇者「ああ、これを」スッ

兵士A「おお、この鷹の紋章は! 確かにこれは国王様直々の認可証!」

兵士B「やはり、あなたが勇者様なのですね! お話は伺ってます! 遠路、お疲れ様です!」ビシッ (敬礼)

勇者「ああ、ありがとう」

兵士A「王様からも、旅の便宜をはかるようにとの仰せが届いております。後で町長にも連絡を入れときますので、何かお困りの時には、いつでも私どもにお声をかけて下さい。出来る限りの事はさせてもらいます」ペコッ

勇者「それは有り難い。なら早速。安くて良い宿と、酒場を知っていたら教えて欲しいんだが」

兵士A「ああ、それでしたら、町の中央付近にある『満月亭』がお勧めです。すぐ向かいに酒場がありますし、そちらもお勧めですよ。どちらも旅の者に人気があるところです」

勇者「そうか、なら今日はそちらに泊まる事にするよ。ありがとう」

兵士B「しかし、やはり流石ですな、勇者様は」

勇者「?」

兵士B「その格好ですよ。服や鎧に返り血や泥がほとんどついていないものですから」

勇者「ああ……なるほどね。と言っても、そう大した魔物に遭遇してないだけなんだが」

兵士A「いえいえ、御謙遜を。服の綺麗さは強さを表すパラメータの様なものです。これまで何人もの賞金稼ぎや旅の者を見てきましたが、勇者様ぐらいお綺麗なのも珍しいですよ」

勇者「それはどうも。じゃあ、悪いけど俺はこれでもう行くから。明日にはまた旅立つつもりだから、その時にまた」

兵士A「はっ!」ビシッ (敬礼)
兵士B「はっ!」ビシッ (敬礼)



224:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/25(木) 19:51:30.23 ID:RkV0hrb3o

ー 町中、道具屋 ー


チリンチリーン

商人「へい、らっしゃい! 買い物ですかい、旦那!」

勇者「いや、売りに来たんだよ。品を見てくれるかな」

商人「毎度! どれですかい!」

勇者「これを。袋の中、全部だ」ズシッ

商人「おお、結構ありますね。どれどれ」サッ、パッ、ゴソゴソ

商人「ふうん……。全部、魔物の素材ですか……。お客さん、その格好からして騎士様とか?」

勇者「ちょっと前まではね」

商人「一応、身分証いいですか? この国は、騎士様が魔物の素材を売りに出す事が禁止されてるんで。国で管理してまとめて売る事になってるんで、密売になっちまいますからね」

勇者「知ってるよ、大丈夫。小金稼ぎとかじゃないから安心してくれ。これは身分証」スッ

商人「あ、はい。どうも」ソッ

商人「!?」

商人「ゆ、勇者様でしたか! これはとんだ御無礼を!!」ペコペコ

勇者「いや、大丈夫。やめてくれ。そういうの苦手なんだ」

商人「いえいえ、ホント申し訳ない! お詫びにこちらの品、通常の倍額で買い取りさせて頂きますんで!!」

勇者「それこそ、まずいよ。頼むから普通の価格にしてくれ。勇者が不正を働いたって噂が立ってしまう」

商人「そ、そうですね! ホント失礼しました! えーと、なら、何かオマケつけますんで!」

勇者「それもいいよ。本当に普通の客として扱ってくれればそれでいいから」

商人「いえ、ですが! 勇者様にそんな失礼な事をする訳には!」


勇者「参るな……。こういうのは逆に困るんだが……」



225:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/25(木) 19:52:30.39 ID:RkV0hrb3o

勇者「それなら……代わりに何か情報をもらえないかな? 何でもいいんで。最近の噂だとか、この町の事とか……」

商人「あ、そうですか。えっと、なら、あー……うーん……」

勇者「なければないでいいよ。そこまで無理して考えなくても」

商人「いえいえ! あ、そういや!」

勇者「うん」

商人「ここ最近、魔結晶の値段が高騰してるって御存知ですか?」

勇者「いや……初耳だな。魔結晶自体、高価な代物だから、そう買う機会もないし」

商人「まあ、ピンキリとはいえ、安いもんでも銀貨五枚ぐらいはしますからね。ところが今は金貨一枚出しても買えないんですよ」

勇者「……それは。相当なもんだね。二倍以上になってるのか。魔結晶は貴重な魔力回復アイテムだから、この先買う事もあるだろうに……」

商人「ですよね。うちでもたまに買われるお客さんいるんで。だけど、仕入れにそれだけの金額を使う訳にはいかないんでさあ。なんで、魔結晶は、入荷させず品切れにしてるんですよ。実際、今は相当手に入りにくいですし。他の店に行ってもまず品切れのはずですから」

勇者「となると、安くなるまで魔結晶は手に入らないって事か……」

商人「で、ここからが本題なんですが……。勇者様、すみませんが、誰かに聞かれないようもう少し近くにお願いします」

勇者「……ヤバめの話か。わかった」スッ



229:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/25(木) 19:54:14.08 ID:RkV0hrb3o

商人「これは、言いふらさないで欲しい事なんですが……」ヒソヒソ

勇者「ああ」ヒソヒソ


商人「七つ星商会はご存知ですよね、勇者様」ヒソヒソ

勇者「流石に知ってるよ。王家御用達の大商会だからね。この前、ついに全世界に支店を出したって話も聞いてるし。俺もこの通り、魔法銃は持ってる」ガチャッ

商人「……流石に勇者様となると銃まで高級品ですね。かなりの代物じゃないんですか、それ?」ヒソヒソ

勇者「まあ、自前で買ったから結構な額はしたね。それで、その七つ星商会がどうかしたのかい?」ヒソヒソ

商人「何でもね、そこの商会が最近、魔結晶を密かに買い占めしてるらしいんでさあ。おかげで、値段が高騰してるって噂で」ヒソヒソ

勇者「魔結晶を……? どうしてまた?」ヒソヒソ

商人「それは何とも……。だけど、その買い占めてるって噂の七つ星商会も魔結晶は品切れになってるんです。つまり……」ヒソヒソ

勇者「七つ星商会が、故意に値段をつり上げてるって事か?」ヒソヒソ

商人「多分ですけどね。だから、商人仲間の間じゃ、近々、相当デカイ戦争でもあるんじゃないかってもっぱらの噂です。魔結晶を大量に購入するのって大体国とかですからね」ヒソヒソ

勇者「戦争……? 要はどこかで大規模な戦争が起きるかもしれないってネタを七つ星商会が掴んでるって事だよな、それ」ヒソヒソ

商人「ええ。戦争が起きりゃ、魔法使い達の魔力回復の為に魔結晶は必ず必要になりますからね。だから足元見て、各国に高額で売り付けようって考えてるんじゃないかってそういう噂なんですよ」ヒソヒソ

勇者「……なるほどね」ヒソヒソ



232:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/25(木) 19:56:11.24 ID:RkV0hrb3o

商人「あそこはこれまでそんなやり口した事はなかったんですけどねえ……。ただまあ、必要品の買い占めとかはどこもやる手口ですから」ヒソヒソ

商人「で、そんな噂が密かに広まってるんで、今は武器や防具とかも値段が上がってるんですよ」ヒソヒソ

勇者「そうか……。あまり良くない話だな。戦争も武器の値上がりも……」ヒソヒソ

商人「で、その当の七つ星商会はと言えば、値上げした武器屋や防具屋を嘲笑うかの様に、勇者様旅立ち記念って事でバーゲンをやり始めまして。おかげで値上げしたやつらは客を七つ星商会に全部取られちまったらしいですがね」ヒソヒソ

勇者「……というか、そんなバーゲンやってたのか」ヒソヒソ

商人「はい。まあ、あの七つ星商会ってのは、昔から機会を見るのが上手いっていうか、タイミング外さない商会なんでね。こっちからしたら、商売上がったりでたまったもんじゃないんですが……」ヒソヒソ

商人「ただ、今回の件についてはちょっとあこぎなんで、うちら商人の組合連中からはかなりの反感を買ってますよ。出る杭は打たれるのが当然の世界ですから。元よりあの商会は仲間内から閉め出し食らってますし」ヒソヒソ

勇者(……というより、今の勢力図を考えると、閉め出しを食らってるのは逆に彼らの様な気もするがな)



233:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/25(木) 19:57:08.53 ID:RkV0hrb3o

商人「まあ、噂とかはこんなとこです。お役に立てましたかね」

勇者「ああ。貴重な情報をありがとう。きっと、今後の役に立ってくれると思う」

商人「それは良かった。何かしら勇者様のお役に立てたなら嬉しいもんで。ええと、それで買い取りでしたよね。すぐに値段つけますんで、少々お待ち下さい」

勇者「ああ、頼む。色とかは本当につけなくていいから」

商人「普通、逆なんですがね。しかし、わかりやした。いつも通りの価格でやらせてもらいますね」

勇者「よろしく」



チャリン
『+銅貨62枚!』



勇者「ああ、そうだ。あと、小さな金槌ってあるかい? テント用の布を持ってきたはいいけど、建てる為の金槌を忘れてきてしまったのに後から気付いてさ」

商人「もちろん、ありますよ。ちょいとお待ちを」ゴソゴソ



ジャラッ
『-銅貨3枚』



234:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/25(木) 19:58:20.48 ID:RkV0hrb3o

ー 宿屋、満月亭 ー


チリンチリーン

女商人A「いらっしゃいませー」


勇者「やあ。一名で一泊。部屋は普通で、夕食なしの朝食ありでお願いしたいんだけど」

女商人A「あ、はい。かしこまりました。それでしたら、銅貨10枚頂きます」

勇者「へえ、本当に安いな。それじゃあこれを」ジャラッ

女商人A「はい、確かに。ところで……」

勇者「?」

女商人A「その格好……。もしかして、勇者様では……?」

勇者「……ああ、いや。普通の旅人だけど」

女商人A「ですけど、先程、兵士さんに聞いた通りの服装ですし……」

勇者(……先回りして、宿屋の方に連絡をしたのか。親切なんだろうけど、さっきの事もあるし、出来ればやめて欲しかった)

女商人A「それに何より、雰囲気が違います。強そうなオーラって言うか、そういう特別な感じの雰囲気がビシバシ出てますし……」

勇者(どんなのなんだろうか……)

女商人A「やっぱり、勇者様なのでは? もしも違ったら申し訳ないですけど……。町長も後から御挨拶に伺うって聞いてるので、私も見落とす訳にはいかなくて……。怒られてしまいますから。……すみません」

勇者「……わかった。降参だ。確かに、女神様から神託を受けてる」

女商人A「ああ、やっぱり! 店長ー! 勇者様が御来店されましたー!!」

勇者「いや、そんな大声で……」


ドタドタドタ!!


主人「これはこれは! ようこそいらっしゃいました、勇者様!!」

女商人B「ようこそいらっしゃいました! 勇者様!」
女商人C「ようこそいらっしゃいました! 勇者様!」
商人D「ようこそいらっしゃいました! 勇者様!」
商人E「ようこそいらっしゃいました! 勇者様!」
料理人F「ようこそいらっしゃいました! 勇者様!」



勇者「またか……。しかも総出で……」



235:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/25(木) 19:59:08.72 ID:RkV0hrb3o

主人「ささ、大したおもてなしも出来ませんが、どうぞどうぞ。一番上等な部屋を用意しておきましたので」

勇者「いや、普通の部屋で構わないんだが……。それに、支払いも普通の部屋分しか」

主人「いえいえ、お気になさらず。代金はそれだけで結構です。なにせ、世界を救う勇者様ですから、それぐらいのサービスは致します」

勇者「出来ればこういうのはやめて欲しいんだが。俺は王族や貴族という訳でもなく、ただの平民なんだから」

主人「はっはっは。勇者様がただの平民でしたら、私どもは奴隷になってしまいますとも。ご冗談を」

勇者「いや、そういう話じゃなく」

主人「本当にお気になさらず。大した事ではありませんので。だいいち、勇者様を普通の部屋にお泊めしたなんて言ったら、私どもが恥をかいてしまいます」

主人「ですので、ささ。私どもを助けると思って、どうぞこちらに」


主人「おい、勇者様のお荷物は丁重に運べよ!」

主人「あと、こちらへは馬で来られたらしいからな! 多分、表にいるはずだ! そちらも丁重に馬小屋に連れてけよ!」


主人「ささ。勇者様。どうぞ」

勇者「……参った。迂闊に名乗るものじゃないな……」ハァ



236:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/25(木) 20:00:12.63 ID:RkV0hrb3o

ー 夜、宿屋『満月亭』 ー


勇者「しかし、参ったな。結局、一番豪華な部屋に通されてしまったし……」

勇者「服の洗濯や相棒の世話もチップなしでやってくれるんだからな……」

勇者「これ以上、タダで世話になるのも悪い。もう寝るだけだから、酒を飲みに酒場まで行くか」

コンコン

勇者「っと、その前に誰か来たか。まあ、そろそろ来る頃だろうとは思ってたけど……」

勇者「はい。どちら様ですか?」スタスタ

「こんばんは。私、この町のまとめ役をしております、町長と申します。勇者様がこちらにご宿泊なさってると聞きまして、ご挨拶に伺いました」

勇者「そうですか。ありがとうございます。(殺気は感じられないな……。音からして一人だけだし、問題ない)」

勇者「今、開けます。どうぞ」

ガチャッ

町長「どうも、初めまして。町長でございます、勇者様」ペコリ

勇者「ご丁寧な挨拶痛み入ります。勇者です」



237:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/25(木) 20:01:24.81 ID:RkV0hrb3o

町長「しかし、こうして勇者様とお逢い出来て光栄ですよ。これからの自慢話に出来ます」ニコリ

勇者「そんな自慢出来る程の者ではないですよ。それより、今晩はこの町にお世話になります。宜しくお願いします」

町長「いえいえ。しかし、流石は勇者様ですな。噂通り、誠に御立派で勇敢そうな方で」

勇者「ありがとうございます」

町長「聞いた話によると、元は騎士隊長様だったとか。さぞかし剣や魔法も優れていらっしゃるんでしょう。その凛々しいお姿がまた心強い」

勇者「ありがとうございます。ですが、まだ修行中の身ですので、日々精進している途中です」

町長「左様ですか。となると、やはり毎日稽古や訓練などを」

勇者「旅立つ前はそうでしたね。今は実戦に身を置いていますので、休息を取る方を大事にしてますが」

町長「ああ、なるほど。そうですね、疲れていては出せる実力も出せなくなりますからな」

勇者「というより、旅自体が緊張と警戒の連続ですからね。気を緩める時は緩めないと、体が持ちません」

町長「……左様ですか。そこら辺はやはり勇者様も人の子なのですな」

勇者「元から人の子ですよ。女神様から加護を頂いてるだけで、それ以外は他の方と変わりません」

町長「そうなのですか……?」



239:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/25(木) 20:02:46.34 ID:RkV0hrb3o

町長「しかし、その加護というのは、やはり凄いものなのでは? 例えば、魔物から攻撃を受けてもまるで効かないとか……」

勇者「流石にそれはないと思います。実感的にはほとんど前と変わりませんね。もっとも、まだ魔物から攻撃を受けた事がないので、実際のところどうなのかはわかりませんが……」

町長「それはそれでまた……凄い。やはりお強いのですな、勇者様は」

勇者「いえ、馬で街道を走っているので、そんなに魔物とは出くわさないだけです。それに、ここら辺に強い魔物は少ないですから」

町長「いえ、私どもからしたら、よく見るスライムや一角ウサギでさえ、十分、脅威ですとも。やはり勇者様はお強いのでしょう」

勇者「そうだといいんですが……。しかし、上には上がいると言いますから。慢心して油断する様な真似はしたくないですし」

町長「いやはや、心掛けもやはり御立派で。流石は勇者様です」

勇者「ありがとうございます。……ただ、それよりも」

町長「はい?」

勇者「何か私に言いにくいお話でもあるのでしょうか?」

町長「あ、う……。わかるのですか……?」

勇者「ええ。先程から、無理に話題を繋げようとしてる感じでしたし、何より誉め言葉があれだけ続けばこちらも自然と構えます。後に、何かあるんじゃないかと」

勇者「王都で騎士隊長をしていた頃、よくこういう事がありましたので。大体は、公に言えない様な下世話な頼み事でしたが」

町長「申し訳ありません……。お察しの通り、誠に恥ずかしながら、勇者様にお願いがあるのです……。ただ、決して私利私欲だけではありませんので、どうかお話だけでも聞いて頂けませんか……」

勇者「一応、話だけは聞きます。断るかもしれませんが」



241:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/25(木) 20:05:55.26 ID:RkV0hrb3o

勇者「それで、一体、どの様な事でしょうか?」

町長「実は……最近新しい採掘場を発見しまして」

勇者「採掘場ですか。そういえば、この町はそれで成り立っているような町でしたね」

町長「御存知ならお話が早い。その通りなんです。ここら辺は良質な鉄が採れますので、それで発展した町なんです」

町長「それで、今、掘っている採掘場があるのですが、そこはかなり深くまで掘り進めていて、段々と採れる鉄の量が減ってきているんです」

町長「そこで、新しく別の場所をずっと探してまして、つい半年ぐらい前にようやく見つけました。掘り進む為の足場やトロッコなども作り、今、ある程度形になってきたところなんです」

町長「ところが、ここ最近、その採掘場の近くに魔物が頻繁に現れる様になりまして」

町長「そこまで強い魔物という訳ではないので、幸いな事にまだ軽い怪我人しか出ていません。ですが、何度も何度も現れるのでこれでは採掘は到底出来ません」

町長「元騎士隊長様ならおわかりだと思いますが、国が守ってくれるのは町だけなんです。外の採掘場までは兵士を回してくれません。なので、採掘場は私どもの力だけで守らねばならない」

町長「ですから、採掘場にはそれ専用の護衛を雇って配備してますが、魔物があれだけ多く現れてはその護衛の数がとても足りません」

町長「結局、その新しい採掘場で掘るのは諦めざるを得ず、今は封印しています。しかし、これまで莫大な金額を投資していますから。そして、そのお金は町の者達も多く出しています。結局、皆が大損をしているのです」

町長「かといって、護衛を多く雇ってそこを掘る様にしても、護衛料が毎月かなりな額になり、大した儲けは出ません。やはり意味がないのです」

町長「ですので、今のこの苦境を、勇者様のお力でどうにかならないかと……。こうしてお恥ずかしながら相談に参りました。どうかその知恵とお力を貸して頂けないでしょうか」

勇者「……なるほど。そうですか」



242:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/25(木) 20:07:24.43 ID:RkV0hrb3o

勇者「ちなみに、魔物が最近よく現れる原因はわかっているんですか?」

町長「いえ……。なんとも……。ただ、恐らくはという程度の見当ならついてます」

町長「以前、採掘場近くの森で、奇妙な魔物を見たと言う者がいましたので……。初めて見る魔物だったそうです」

町長「ですから、ひょっとしたらそれが原因ではないかと思っています。強い魔物は、周辺の弱い魔物を引き付けますから」

勇者「……そうですね。それは十分、有り得そうな話です」

勇者「それで、その奇妙な魔物の姿とか形はわかりますか?」

町長「はい。何でも、ライオンの体に蛇の尻尾がついていた巨大な魔物だったと……」

勇者「それはまさか! キメラ……!?」



243:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/25(木) 20:08:27.77 ID:RkV0hrb3o

町長「……? キメラというのは?」

勇者「そういう強い魔物がいるんです。私も本の中でしか見た事ありません。嘘か本当かは知りませんが、魔王軍が、違う種類の魔物を掛け合わせて新たに作った、人工的な魔物だとか……」

町長「そんな魔物が……。しかし、どうしてまたこんなところに……」

勇者「それはわかりませんが……。ひょっとしたら、前の北の国軍との戦いで破れた際、本隊とはぐれてこちらの国に迷いこんだのかもしれません」

勇者「大きな戦争の後には、そういうはぐれ魔物が必ず何十匹かは出ますから。私も、前の戦いの時は、ずいぶん長いこと残党狩りをしました」

勇者「……しかし、キメラか。もし本当だとしたら、相当厄介ですね」

町長「……そんなに強い魔物なのですか……?」

勇者「はい。その本の記録によると、キメラ一匹仕留めるのに、軍の中隊がまるごとやられる程の被害が出たと書いてありました。もしそれが本当なら、訓練された兵士150人分ぐらいの力を持っている事になります」

町長「……っ!!」



245:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/25(木) 20:10:29.02 ID:RkV0hrb3o

町長「それは……また。いやはや……どうすれば……」

勇者「本当にキメラであれば、近くにあるこの町自体が危険ですね。城壁は高く堅牢に作られているとはいえ、下手したらそれを破りかねない」

勇者「とにかく、今日はもう暗いので無理ですが、明日の朝にでも私が確認に行ってきます。それでもしもキメラであれば、王都に連絡して軍を派遣してもらいます」

町長「そ、そうですか……。それは有り難い。是非、お願いします」

勇者「ええ、話からして、もう採掘場の問題どころではなさそうなので。この件は引き受けました。お任せ下さい」

町長「ありがとうございます。助かります。勇者様が引き受けてくださるのなら、実に頼もしい。安心出来ます」

勇者「元騎士隊長として、当然の処置です。それより、この話は内密にお願いします。まだはっきりした訳ではありませんので、変なデマとなって流れたら困りますから」

町長「はい、それはもう。口に鍵をかけておきます。パニックになる可能性もありますし」

勇者「お願いします。では、申し訳ありませんが、今夜はこの辺で。夜明けと共に出るつもりなので、早い内に寝ておきたい。体調を整えないと、こちらも不安ですから」

町長「あ、はい! では、私はこれで失礼します。宜しくお願い致します、勇者様」ペコッ!!

勇者「ええ、御安心を」



275:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/28(日) 17:38:02.09 ID:Lh9hCcAyo

ー 翌朝、早朝、門の前 ー


勇者「それでは、行ってきます。昼までには戻ってきますので」

町長「はい。申し訳ありませんが、お頼みします」


兵士A「勇者様、またお戻りになられるのですか?」

勇者「ああ、ちょっと用事が出来てしまったのでね。軽くこの辺りを偵察してまた戻ってくる」

兵士A「そうですか。勇者様なら大丈夫とは思いますが、御武運を」ビシッ (敬礼)


兵士B「門を開くぞー! 滑車を回せー!」


「はいっ!!」


ギギギィィィ……


勇者「では、また」ヒラリ (馬に飛び乗る)

勇者「行くぞ、相棒!」タンッ

馬「」ヒヒーン


パカラッ、パカラッ、パカラッ


町長「どうかこの町を宜しくお願いします、勇者様……」



276:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/28(日) 17:38:57.87 ID:Lh9hCcAyo

ー 新しい採掘場、付近 ー


パカラッ、パカラッ、パカラッ


勇者「よし、着いたな。ここで間違いない」

勇者「どうどう」グイッ

馬「」キキィッ


勇者「話によると……向こうの森だな」スタッ (馬から降りる)

勇者「悪いが、こっからは別行動だ、相棒。繋いではおかないから、もしも強い魔物が来たら構わず逃げてくれ」

勇者「戻る場所はわかってるよな。またあの町だぞ」

馬「」ヒヒーン


勇者「よしよし、流石は相棒だ。それじゃあ、しばらく向こうの森の中に行ってるから」

勇者「気を付けるんだぞ、こんなとこで死ぬなよ」ナデナデ

馬「」ブルル

勇者「ああ。それじゃあな、相棒。危ないから、鳴き声はあまり出すなよ」タタッ



277:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/28(日) 17:40:41.82 ID:Lh9hCcAyo

ー 森の中 ー


ガサッ、ガサッ

勇者(……結構、広い森だな。それに木が多い。歩いてると、どうしても音は出るか)


勇者(一応、風下から進んではいるが、それもあまり意味がないかもしれないな。キツネやウサギの姿さえ見つからない)

勇者(ただ、その代わりに……)



ガサッ、ガサササッ

巨大山猫「シギャァァ!!」ダッ (茂みから突然現れ、襲い掛かる)


勇者「ふっ!」ズバッ!! (一閃)



巨大山猫「グギャッッ!!」ドサッ
体力:42→0


勇者(魔物には頻繁に出会うな……。しかも、ここら辺ではあまり見ない強めの魔物が多い)

勇者(キメラがいるってのは、やはり本当かもしれない。キメラでなくとも、かなり強い魔物がいるのは確かだろう)

勇者(だが、はっきりと姿を見ないと、軍を要請するのは厳しい。どうにか見つけて確認をしな)


ザシュッ!! メキメキッ!! (木が根本から倒れる音)


勇者「!?」 (慌てて後ろを振り向く)


キメラ「グワオオオオオオオッッ!!!」ダダダダッ




勇者「キメラ!?」

勇者「くそっ! 先に向こうに見つけられてたのか!!」



278:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/28(日) 17:41:58.41 ID:Lh9hCcAyo

キメラ「グルルルルッッ!!」ダダダダッ (全長4メートル)

【合成魔獣・獅子タイプ】
『体力 :451
 攻撃力:129
 防御力: 77
 魔力 : 74
 素早さ: 50』


勇者「くっ!! 迂闊だった! 俺のミスだ!!」

勇者「もう、やるしかない!!」チャキッ (剣を構える)




キメラ「ガルルルルッ!!」ダッ!! (飛び込んでくる)

勇者「はっっ!!」ダッ!! (斬りつける)



279:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/28(日) 17:43:43.58 ID:Lh9hCcAyo

鮮血が空中に舞った。

飛び込みざま勇者が振り抜いた剣は、キメラの巨大な足を掠めた。
だが、一方で勇者も、肩口を爪で切り裂かれ、服を赤黒く染め上げていた。

その一回の攻防は、それだけで相手の力量を把握するにはお互い十分だった。


油断出来ない相手だ。それが、キメラが抱いた印象であり、

これは俺の手に余る。それが勇者が抱いた印象だった。


その印象の差が、即ち、両者の実力の差と言えた。


キメラは足の傷口を軽く舐め、再び突撃の構えを取る。

勇者は剣を鞘に納めると、代わりに魔法銃を取り出して構えていた。


弾に込められた魔法は閃光魔法。
主に灯りとして用いられる魔法だが、目眩ましとしてもよく使われる。

勇者はその魔法が使えないので、いざという時の為に王都で弾として何発か込めてもらっていた。逃げる為の用意だ。

強敵相手に無理をする必要などない。ここは素直に退いて軍に援軍要請をすればいい。
これまでかなりの月日を戦場で過ごしてきた勇者は冷静に今の状況を判断していた。

キメラの目に狙いを定め、手慣れた手つきで勇者は引き金を引く。



280:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/28(日) 17:47:30.91 ID:Lh9hCcAyo

反動で銃が浮く。砲声! そして着弾!

眩いばかりの光が辺りを一瞬で包んだ。

勇者は即座に背中を向けて走り出す。


だがーー。


咆哮がすぐ背後から轟いた。背筋が凍りつく。
勇者は反射的に剣を抜いていた。考えるよりも先に体が動いていた。振り向きざま斬りつける。

鼓膜を破るかの様な悲鳴!
肉を裂く感触が手にずしりと伝わった。
巨大なキメラの前足が視界一杯に映り、血しぶきが顔にかかる。

だが、それと同時に体に強い衝撃が来た。斬られながらもキメラはその前足を振り切っていた。
勇者の体がゴムまりの様に勢いよく弾き飛ばされ、木に当たって地面へと崩れ落ちる。

倒れ込んだところに、呻く間も許さず、今度は巨大な蛇の顔。キメラの尾!
それが大口を開けて襲い掛かってきていた。

しゃにむに足で蹴り上げた。顎の部分に運良く当たり蛇が怯む。その隙に勇者は転がる様にして必死で飛び起きる。少しでも気付くのが遅かったら、今頃その牙が体に食い込んでいたはずだ。


だが、休む間など与えられず、キメラが口を開けて巨大な炎を吐き出す。勇者はすぐに氷魔法を唱えそれを相殺する。

キメラが血だらけの前足で飛び掛かって襲う。勇者が剣で逆に切り返して更なる傷を負わす。

キメラが突進する。避けきれず直撃。だが、吹き飛ばされながらも、勇者は魔法銃を撃ち体に火傷を負わせる。


両者の実力が拮抗しているが故に、逃走は最早不可能だった。閃光魔法もキメラには効果がなかった。再び背中を向ければ今度こそ無防備なその背に鋭い爪痕が刻まれるだろう。

両者の攻撃は途切れず、互いに一瞬の弛緩も許さず、そのまま死闘へと突入していった。

激しくも長い攻防が続く。だが、消耗戦の様相となってきた時、そこで両者に決定的な差が出た。
それは体力の差だ。それに関しては勇者の方が圧倒的に不利だった。

一対一の時点で、この勝敗は半ば最初から決まっていた様なものだった。



282:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/28(日) 17:49:33.91 ID:Lh9hCcAyo

勇者「」ハァハァ、ハァハァ
残り体力:12 残り魔力:18


キメラ「グルルルッ……!」
残り体力:51 残り魔力:26



勇者(ヤバイ……。さっきから血が流れ過ぎてる……)ハァハァ、ゼェゼェ

勇者(もう体が思う様に動いてくれない……。あと、一撃でも喰らったら死ぬぞ……)ハァハァ、ゼェゼェ

勇者(体力回復アイテムも、ある分は使いきった……。俺は僧侶じゃないから回復魔法も使えない……)ハァハァ、ゼェゼェ

勇者(魔法銃は……元から回復魔法は使えない仕様だ……。魔力はまだ多少残ってるが、こいつの毛皮には炎魔法も氷魔法も効きづらい……。逆転の手にはならない……)ハァハァ、ゼェゼェ

勇者(詰んだな……。死ぬのか……俺……。こんなとこで……)ハァハァ、ゼェゼェ

勇者(まだ何もしてないのに……。まだ十五年前の約束すら果たしてないのに……)ハァハァ、ゼェゼェ

勇者(だけど、体がもう……もってくれな……)ガクッ (膝が崩れ落ちる)


キメラ「グルルルルッッ!!」ガキッ、ガキッ (威嚇の噛み付き)


勇者(くそっ……。流石に魔物だ。死の匂いには敏感だな……。向こうも……次で決着だってわかってやがる……)ハァハァ、ゼェゼェ

勇者(何だよ、これは……。こんな俺の……どこが勇者なんだ……。魔物一匹倒せない勇者のどこが……)ハァハァ、ゼェゼェ

勇者(こんなところで……死ぬ羽目になるのか……。まだ……本当に何もしてないってのに……)ハァハァ、ゼェゼェ


勇者(女神様……。もしも見ているなら……どうか俺を……)ハァハァ、ゼェゼェ

勇者(俺を救ってくれ……! 俺に加護を与えてくれ……! どうか……!)ハァハァ、ゼェゼェ







283:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/28(日) 17:50:32.85 ID:Lh9hCcAyo

キメラ「ウォォォォッ!!」ダダッ


勇者「くそおおおおおっっ!!」(剣を構える)




キメラ「グオオンッッ!!」ガブッ!! (体に噛み付き)

勇者「ぐああああああああああっ!!!」メキョッ、バキッ



キメラ「ガウルッ!!」グググッ (顎に力を込める)

勇者「あっ! ぎあっ!! いぎゃああああああっっ!!」メキッ、ゴキッ



284:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/28(日) 17:51:32.45 ID:Lh9hCcAyo

勇者の体に巨大な牙が深々と食い込み、力任せに潰されていく。

骨も折れただろう、内臓も相当やられただろう、余りの痛みに脳が壊れそうになり、目の前の景色が一気に色を失っていった。


これが『死ぬ』という事なのか……。


薄れゆく意識の中で、ふと勇者の頭の中に次々と過去の光景が映し出されていった。

ああ、これが走馬灯というやつかと、勇者はぼんやりとそれを見つめていた。




少年B「せやっ!」ブンッ (木剣を振る)

子供勇者「当たるかっ! それっ!」ベシッ!!

少年B「うぎっ!! っ痛ーーー!!!」ピョン、ピョン


子供勇者「やったね! また、俺の勝ちだよ!」

少年B「ちっくしょー! 何でいっつもお前に勝てないんだよ!」

子供勇者「そりゃ、そうだよ。少年Bって、目でどこ狙ってくるかすぐわかるし!」

少年B「目って何だよ! そんなん俺、わかりゃしねえぞ!」

子供勇者「わかるって。目とか見てたら、多分ここ狙ってくるんだなあ、みたいなのが」

少年B「わかんねえよ! そんなのお前だけだ! ちくしょう、もう一回勝負だ! 覚悟しろ!」サッ

子供勇者「いいよ! でも、絶対負けないから!」サッ


「「そりゃ!!」」


カンッ、コンッ、カンッ

ベシッ!!

「っ痛ーーーーー!!! またかよ、ちくしょう!」


 



285:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/28(日) 17:52:40.20 ID:Lh9hCcAyo




少女A「ふふ……。ここをこうして……。これはこっちのがいいかな……?」ゴソゴソ

子供勇者「あれ、少女A。何してるの?」


少女A「あっ、見ちゃダメ……。秘密なんだから」サッ

子供勇者「えー、そういうの気になる」

少女A「気になってもダメ……。もうすぐ出来上がるから、その時に教えてあげる」

子供勇者「ホントに?」

少女A「ホント」

子供勇者「なら……待ってる。後ろ向いてればいい?」

少女A「うん」ニコッ



「出来たよ。お待たせ。ほら」ポフッ

「え? これ、花冠?」

「ううん、兜。子供勇者にあげたいと思って作ったの。……大事にしてね」

「兜なんだ。これ、カッコいい? 勇者みたい?」

「うん。勇者みたい」

「やった! ちょっと、お母さんに見せてくる!」

「あっ、待って、私も行く! 置いてっちゃやだ!」


 



287:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/28(日) 17:53:39.72 ID:Lh9hCcAyo




少女C「川の向こう? そっちに行くの?」

子供勇者「うん! イチジク見つけたんだ! だから行こう!」

少女C「イチジク! あたしも食べたい。でも、他のみんなは誘わなくていいの?」

子供勇者「だって、危ないから。少女Cじゃないときっと無理だし。だから、みんなには秘密だよ」

少女C「秘密はいいけど、あたしじゃないと無理ってどいう事?」

子供勇者「ほら、ここ。あそこの川の上に出てる石を飛んでくんだ。見ててね」

子供勇者「よっ、それっ、もう一回っと」ピョン、ピョン、タンッ

少女C「うわ、上手……」

子供勇者「ほら、少女Cも」

少女C「え、でも……」

子供勇者「大丈夫。少女Cなら出来るよ。すっごい身軽じゃん」

少女C「う……。わかった。ちょっと怖いけど……」


「せーのっ」

「それっ、わっ、きゃあっ、っとっと」

「ほら、やっぱり! 少女Cなら絶対出来るって思ってた!」

「ホントだ……! スゴい、あたしスゴいかも!」

「じゃあ、行こう! ここ越えたらすぐだから!」

「うん! 二人でいっぱい食べようね!」


 



288:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/28(日) 17:55:29.55 ID:Lh9hCcAyo




子供勇者「蛇の脱け殻?」

少年D「そう。昨日、見つけたんだ。子供勇者も見に行く?」

子供勇者「何かちょっと気持ち悪そう」

少年D「じゃあ、やめる?」

子供勇者「でも、気になる」

少年D「だよね。みんな見たくないって言ってたけど、子供勇者だけはそう言うって思ってた。じゃあ、やっぱり行くよね?」

子供勇者「うん……。行く。で、どこで見つけたの?」

少年D「内緒だよ。村の柵の外に出ちゃうから」

子供勇者「え、それまずいよ。っていうか、外に出たの、昨日?」

少年D「うん。だから内緒。小さな抜け穴見つけてさ。そこからたまに外に出るんだ。そんなに遠くまで行かないけど」

子供勇者「見つかったら物凄く怒られちゃうよ」

少年D「その時はその時」

子供勇者「見かけによらず、こういう悪さするよね、少年Dって」

少年D「だって、外の世界って気になるじゃん。大きな柵で囲ってて、まったくわかんないしさ。だから、見たくなるんだよ。大人になるまで待ってられないもん」

子供勇者「それはわかるけど……」


「実は、この前、魔物も見たんだ。これは本当に内緒だからね」

「え! どんなんだった! 何を見たの!? スライム!?」

「うん。スライム。急いで逃げてきた」

「そっか、スライム見たんだ。いいなあ、俺も見たい。そして、倒したい」

「勇者とか魔物の事とかになると、僕以上に食いつくよね、少年勇者って」

「だって、俺、勇者になりたいもん!」

「そうなんだ。でも、僕は魔法使いになりたいなあ。そして、いつかは賢者になって、世界中を見て回るんだ。行けるんだったら、妖魔の森だって一度行ってみたいし」

「妖魔の森って?」

「ああ、それはね……」


 



289:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/28(日) 17:56:51.51 ID:Lh9hCcAyo




少女E「あーあ、今日は雨降りかあ……。つまんないね」

子供勇者「そう思ってさ、これ、持ってきたんだ」

少女E「本……?」

子供勇者「うん、この前町長さんから借りたんだ。冒険のお話。ほら」パッ (本を広げて挿し絵を見せる)

少女E「面白そう……。でも、子供勇者、この本読めるの? 難しい言葉でいっぱいなのに……」

子供勇者「お父さんとかに聞きながら、ちょっとずつ読んでる。もう半分まで読んだんだよ」

少女E「そうなの? どんなお話? この子、お姫様?」

子供勇者「うん、そうだよ。お姫様がお城の外に出ちゃって困ってるところを、この主人公が助けるんだ。それでね」

少女E「あ、待って。出来れば、私も読みたい。だから先に言わないで」

子供勇者「じゃあ、一緒に最初から読む? わからない言葉が出てきたら教えてあげるから」

少女E「うん! 読む。そうする」


「そういえば、子供勇者って、本、好きなの?」

「うん。好きだよ。外で遊ぶのも好きだけど、本を読むのも好きなんだ。だって、読んでてワクワクするから。大きくなったら、絶対、俺もこんな冒険するんだ」

「勇者になって?」

「うん! 勇者になって! それで、みんなと冒険の旅に出るんだ! もう約束してるし!」

「私も、一緒に行きたい……って言ったら、仲間に入れてくれる?」

「もちろん! 少女Eも大切な友達だもん!」

「そっか……。良かった。なら、私もがんばるから」

「うん!」


  



290:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/28(日) 17:57:50.71 ID:Lh9hCcAyo




「今日は、お父さん、お母さん……遅いな。まだ帰って来ない」

コンコン

「あ、やっと帰ってきた! お帰りなさい!」ガチャッ

「……子供勇者」

「おじさん……? どうしたの? 何か顔が真っ青だけど……」

「落ち着いて……よく……。よく聞いてくれ」

「え? うん……」

「昨日、大雨が降っただろ。それで……。お前の畑の近くで、ついさっき……」

「…………」

「土砂崩れが……あって……。お前のお父さんとお母さんが……そこで畑仕事してて……」

「!!」

「土砂をどけた時には……もう……」

「お、お父……さん……と……お母さん……は……?」

「天国に……。行ってしまった……」

「あ、う……あ、あ、ああああああああ!!」


 



291:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/28(日) 17:59:58.39 ID:Lh9hCcAyo




コンコン、コンコン、コンコン、コンコン

「ぇぐっ……ぅっ、ぅっ……」


ギィッ……

「鍵もかけてないのか……」

「あ……。騎士さん……ぅぐ……」

「あいつが亡くなったという報せを聞いてな……王都から飛んできた。残念な事に……葬儀には間に合わなかったがな……」

「ぅ、ぇぐっ……ぅぅっ……」

「墓にあいつの好きだった酒を供えておいた……。天国で飲んでくれてるといいが……」

「……ぉ、お母さんも……一緒に」

「わかってる……。良い人を亡くした。本当に、良い人間ほど早く亡くなる……。何でなんだろうな……」

「だから……お、俺……一人になって……。と、遠くの町の……教会に……。ぃ、行かなきゃ……ならなくなったって……。そう……言われて……」

「ああ……聞いたよ。去年も今年も冷害が続いてるからな……。どこも余裕がないんだろう……」

「ぃ、行きたく……ないっ……。この家も……離れたくない……。なのに……。みんなと……一緒にいたいのに……。行かなきゃ……いけないって……ぃ、言われて……」

「……それなんだが。良かったら……俺の家に来ないか?」

「ぅぁ、騎士さんの……家に……?」

「ああ、王都だから遠くに行かなきゃいけないってのは変わりないんだけどな……。だが、教会に孤児として引き取られるよりはいいだろう。あそこの生活は辛いと聞いているからな……」

「ぅう……ぅっ……」

「それに、うちにはお前と同じ歳ぐらいの娘がいる。きっと寂しくはないぞ。少しおてんばだから、お前と気が合いそうだしな」

「ほ……本当に……いいの……?」

「ああ、遠慮せずに来い。気にするな」


 



292:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/28(日) 18:01:22.22 ID:Lh9hCcAyo




「……みんな。……そういう訳で、俺、王都に行く事になったから……。だから、もうみんなとは……」


「何でだよ……。俺、お前にまだ一回も勝った事ないのに……!」

「やめなよ……! 少年勇者のせいじゃないでしょ! 辛いのはみんな同じよ!」

「見送らないと……。僕たちは何も出来ないんだから……」

「ぅっ、うあ……」

「泣かないでよ。泣いたら、私まで……ぅぅ」



「俺も……。みんなと離れたくない……。だけど、だけど……。う、ぅぁ……」


「いやだ……。そんなの俺はいやだ……! もっと一緒にいたいのに……! これでお別れなんていやだ!」

「もう会えなくなるなんて……。わたしもいやだよ……! また帰ってくるんだよね……? でなきゃ、でなきゃ……」

「また会えるよね……! そうでなきゃ……あたしもいや……!」

「だって……! 僕たち、仲間なんだから……!」

「また、きっと……。きっとじゃなくて、絶対に……ぅぅ」


「うん……! 絶対にまた……会おう……! 大きくなって大人になったら、絶対にまた俺はこの村に帰ってくるから……!!」



「だから、その時は……! この木の下で……!! もう一度会おう……!!!」



「その時、俺は……勇者になってるから……!! 絶対に勇者になってるから!! それまでみんな、待ってて……!!!」


 



293:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/28(日) 18:02:13.78 ID:Lh9hCcAyo

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そんな約束……してたのに……。

一体……何してんだよ……俺は……。


こんなんじゃ……勇者失格だ……。勇者だって……名乗れない……。


子供の頃からずっと……。ずっと聞かされてきたのに……。

勇者は諦めない……。

勇者は挫けない……。

だから、勇者は不可能を可能にするんだって……。


そう……俺は……こんなところで……死ねない……。

死んじゃいけない……。


あの木の下で……。

みんなが……。

きっと待ってるから……!







294:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/28(日) 18:03:03.04 ID:Lh9hCcAyo





『勇者よ……』


『聞こえますか……勇者よ……』


『貴方にこの世界の命運を託します……』


『この世界を正しい方向に導けるのは、世界にたった一人……。貴方しかいないのです……』


『今の私は封印されし身……。加護と祝福を与える以外、ろくな力を持ちません……』


『ですから、どうかお願いします……』


『魔王を倒し、必ずやこの世界に平和をもたらして下さい……』


『頼みましたよ……勇者よ……』








『負けないで……』


 



295:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/28(日) 18:04:01.03 ID:Lh9hCcAyo

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ーーーーーーー


キメラ「ガルルルッ!!」ガギッ (噛み砕こうと更に力を込める)

勇者「ぅっ……がはっ……!!」ボキッ、メキャッ!!



その時の勇者は、ほとんど意識のない状態だった。

だが、手が、口が、体が、勝手に動いていた。



勇者「女神……よ……迷える……子羊に……祝福の光を……」パァァッ (回復魔法)
体力:1→29

キメラ「!?」


勇者「あぐっ!! ぬぐあああっ!!」ググッ (牙を掴んで持ち上げていく)

キメラ「!!??」



296:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/28(日) 18:05:01.85 ID:Lh9hCcAyo

勇者「俺は……!! もう諦めない……!!」グギギギッ!!

勇者「約束一つ果たせない勇者なんか……勇者と呼べない!!」グギギギッ


≪ 次に会う時は絶対にお前に勝ってやるからな! ≫

勇者「ああ……。わかってる……。決着……つけないとな……!」グギギギッ!!


≪ 約束……。忘れないでね……。またここで会うんだよ……! ≫

勇者「忘れる訳……ないだろ……! ずっと覚えてた……!」グギギギッ


≪ そして、あたしらで魔王を倒す冒険の旅に出るんだ! ≫

勇者「そうだよな……! なのに、俺がここで死ぬ訳にはいかないよな……!!」グギギギッ!!


≪ みんなで世界中を旅するんだよ! ≫

勇者「ああ……! 楽しみにしてるっ……!!」グギギギッ!!


勇者「ぬああっっ!!!」メキョッ、バキッ!! (牙をへし折る)

キメラ「グオアギガアアアアッッ!!!」ビクッ


≪ そして、世界を平和にするの! 私たちで! ≫

勇者「約束だっっ!! 絶対に果たす!!」ドスッ!! (剣を突き立てる)

キメラ「ギアアアアアアッッ!!」


勇者「雷よ! 我が剣に宿れ!!」バチバチッ!!

勇者「とどめだっ!!」


『魔法剣!!  雷 鳴 閃 !!』



 



297:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/28(日) 18:06:01.52 ID:Lh9hCcAyo

剣が煌めき、雷撃を伴って一閃された。

その剣はキメラの固い皮膚を斬り裂き、そしてーー。


一瞬の事だった。これまでの長い攻防がまるで嘘だったかの様に。


勇者の剣がキメラの体を一刀両断にした。




ズバッ!!


キメラ「ガ……!! ギッッ…………」ドサッッ
体力:51→0


勇者「倒した……! どうにか……勝てた……!!」ガクッ (膝から崩れ落ちる)



『勇者の強さが上がった!!』

【伝説の勇者】
『体力 :197
 攻撃力:112
 防御力:106
 魔力 : 73
 素早さ: 85』
    ↓
【伝説の勇者】
『体力 :204
 攻撃力:115
 防御力:110
 魔力 : 77
 素早さ: 87』

『勇者は回復魔法を覚えた!!』
回復魔法(弱)

『勇者は雷魔法を覚えた!!』
雷魔法(弱)

『勇者は魔法剣を覚えた!!』
雷斬り、炎斬り、氷斬り



322:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/06(日) 19:38:12.47 ID:GAxT1pDfo

ー 新しい採掘場、付近 ー


勇者「」ハァハァ、ゼェゼェ

勇者「どうにか森を……抜けられたが……! さっきからずっと魔物に襲われっぱなしだぞ……!」ハァハァ、ゼェゼェ


スライム「ピギィー!!」ドスッ (体当たり)

勇者「ぐっ……!」
残り体力:10→9


勇者「はっ!」ズバッ!!

スライム「ピギャーッ!!」
体力:4→0


勇者「くそっ。スライムの攻撃すらもう避けられなくなってる……」ハァハァ、ゼェゼェ

勇者「目眩と吐き気が酷い……。大きな傷はあらかた治せたけど、血の再生まで回復魔法がいき届いてないのか……」ハァハァ、ゼェゼェ

勇者「それに、血の匂いのせいで魔物もうじゃうじゃ集まってくるし……」ハァハァ、ゼェゼェ


一つ目狼A「ガルルッ」ガブッ!!
一つ目狼B「ガウッ」ガブッ!!

勇者「ぐあっ!」
残り体力:9→7

勇者「離れろっ!!」ザシュッ、ドシュッ

一つ目狼A「ギャウン!!」ドサッ
一つ目狼B「ギィッ!!」ドサッ
体力:19→0


勇者「倒しても、倒しても、きりがない……! やめろ! 来るな!」ザシュッ!!

一角ウサギ「ミギュー!!」ドサッ
体力:8→0



323:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/06(日) 19:38:59.76 ID:GAxT1pDfo

吸魔コウモリ「」バサバサ!!

食人植物「」ガサガサ

呪いイノシシ「ブルルルッ!!」


勇者「くそうっ!! まだ来るのか!!」

勇者「森を抜けたってのに、しつこく追って来る……!!」ハァハァ、ゼェゼェ

勇者「このままじゃ、町に帰るまでに殺される……!!」ハァハァ、ゼェゼェ


ヒヒーン!!


勇者「!!」


パカラッ、パカラッ、パカラッ


馬「ブルルルッ!!」ズガッ!! (体当たり)

食人植物「……!!」メキッ!!
体力:10→4


勇者「相棒!!」



324:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/06(日) 19:40:25.41 ID:GAxT1pDfo

勇者「ふんっ!!」ズバッ!!

呪いイノシシ「ブギィィ!!」ドサッ
体力:21→0


吸魔コウモリ「ピィィィー」ボッ!! (炎魔法)

馬「」ヒヒーン!!
残り体力:46→39


勇者「やめろ!! 相棒に手を出すな!!」ザシュッ

吸魔コウモリ「ギィッ!!」ドサッ
体力:7→0


馬「バルルッッ!!」ドカッ!! (足蹴り)

食人植物「」ドサッ
体力:4→0


勇者「相棒! 大丈夫か!!」

馬「」バルル……


勇者「こんなに一杯、怪我して……。お前、傷だらけじゃないか……」

馬「」ブルルルッ

勇者「逃げずに、わざわざ俺を迎えに来てくれたんだな……。相棒」グスッ

馬「」ヒヒーン


勇者「ああ、ありがとう。相棒」

勇者「わかってる。二人で町まで帰ろう。乗るぞ」ヒラリ

馬「」ブルルルッ



325:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/06(日) 19:41:22.55 ID:GAxT1pDfo

一角ウサギA「キュイ!!」ダッ (突進)
一角ウサギB「キュキッ!!」ダッ (突進)


勇者「やられるかっ……!!」ザシュッ、ズバッ

一角ウサギA「」ドサッ
一角ウサギB「」ドサッ
体力:8→0



勇者「よし……」ハァハァ、ゼェゼェ

勇者「さあ、行くぞ……!」グイッ

馬「」ヒヒーン!!



勇者「相棒は真っ直ぐ進んでくれ……! 血路は俺が開く!」チャキッ

馬「ブルルルッ!!」パカラッ、パカラッ、パカラッ



326:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/06(日) 19:42:03.76 ID:GAxT1pDfo

ー 鉄鉱の町 城壁上 ー


兵士A「おい。あれ、勇者様じゃないか?」

兵士B「ああ、お戻りになられたみたいだな。ずいぶん早かったが……。いや……だけど、何か様子が……」

兵士A「おい、勇者様の服、真っ赤に染まって血だらけだぞ! 何かあったんじゃないか!」

兵士B「周辺に魔物は!?」

兵士A「スライムが一匹だけだ! 今、仕留める!」グイッ (弓を構える)

兵士A「それっ!」ピュンッ!!



ピギィー!!



兵士A「よしっ! 一発で仕留めた! 運が良いぞ!!」

兵士B「伝令ーー!! 勇者様がお戻りになられるぞーー!! 急いで門を開けろーー!!」


「おーーっ!!」


ギギギィィ……!!





327:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/06(日) 19:42:49.85 ID:GAxT1pDfo

ー 門のすぐ近く、検問所 ー


パカラッ、パカラッ、パカラッ!!


馬「」ヒヒーン!! (急停止)



勇者「良かった……。助かったな……相……棒……」ハァハァ、ゼェゼェ

兵士A「勇者様! 御無事で何よりです! ですが、どうされました!」

勇者「魔物に……やられてね……。だが……町長に伝えてくれ……」ハァハァ、ゼェゼェ

勇者「キメラは……倒したから……。もう心配は……いら……ないと……」グラッ

勇者「」ドサッ (落馬)


兵士A「勇者様!?」

兵士B「気を失ってる!! 急いで担架を!!」

兵士C「教会まで運ぶぞ!! 神父様に治してもらわないとまずい!!」

兵士D「おい! 手の空いてるやつは、先にひとっ走りして神父様と町長に事情を話して来い! 急げ!!」

兵士E「馬の方もかなり怪我してる! こっちは獣医に連れていけ!」



328:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/06(日) 19:44:18.85 ID:GAxT1pDfo

ー 教会 ー


神父「これはまた……酷い怪我を。すぐにそこの寝台に」

兵士A「はい! 運ぶぞ。お前、足を持て。せーのっ」ソッ
兵士B「よしっ」ソッ

勇者「」ボフッ……


神父「では……」サッ (十字を切る)

神父「天にまします慈愛の女神よ……。この者に、愛とあなたからの庇護を与えたまえ……」パァァッ…… (回復魔法)

勇者「ぅ……」
残り体力:4→18


兵士A「な、治りましたか……。神父様?」

神父「いいえ……。傷が深いので、これだけではとても」

兵士B「なら、もう一度回復を……」

神父「駄目です。女神様の加護とはいえ、回復魔法は自然の摂理を曲げているのですから」

神父「何度も使えば確かに傷は治るでしょう。ですが、これほどの大怪我だと、疲労や体への痛みは逆に激しく残るはずです」

神父「逆効果です。薬も飲みすぎれば毒になる。それと同じです。私は高位な僧侶ではありませんので、こうして何日もかけてゆっくり回復させていかないと」

神父「しばらくはここでお泊めして、休養して頂きましょう。当分の間は休まないと」

兵士A「そうですか……。しかし、勇者様ともあろうお方が何でこんな大怪我を……」


ガチャッ

町長「それは、私から話そう……」


兵士A「町長! 何か知ってるんですか?」

町長「ああ……。まさか、こんな事になるとは思ってもいなかったが……」



329:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/06(日) 19:45:31.62 ID:GAxT1pDfo

ー 説明後 ー


兵士A「そんな怪物がこの近くに潜んでたってんですか……」ゾクッ

町長「ああ……。勇者様がこれだけ酷い怪我を負っているんだ……。間違いない……」

神父「では、勇者様はその怪物と戦って……。この様な怪我をされたと」

町長「ええ、きっと。ですが、それでどうなったのかまでは……」

兵士B「あ! それなら俺が聞いてます! キメラは倒したと!」

町長「なんと! 本当にか!?」

兵士B「はい! だから、心配はいらないと町長に伝えて欲しいとおっしゃってました!」

神父「それは……。流石は勇者様……」

町長「なら、新しい採掘場の方はもう行っても大丈夫という事か……。すまないが、兵士さん。あなたたちの隊長にこの事をお伝えして、その事を確認してくれんか」

町長「それだけ強い魔物だ。もしも死体がそのままなら、燃やして処理した方が良い。新しい魔物の苗床になるかもしれないしな」

兵士B「わかりました! 隊長にお話ししてみます!」

町長「うむ。すまないが、頼んだ」

神父「しかし……。その様な強い魔物をお一人で倒されてしまうとは……」

町長「ええ。おかげでこの町も助かりました。この様な大怪我をされてまで……。勇者様にはなんとお礼をすればいいのやら……」

神父「正しく……伝説の勇者様ですね。この方ならば、きっと魔王をも倒してくれるでしょう」

町長「ええ。必ず……」



330:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/06(日) 19:46:13.72 ID:GAxT1pDfo

ー 二日後 東の国、王都 ー


名剣士「」スタスタ


門番A「止まれ! ここより先は王宮の敷地……これは名剣士様!」

門番B「お戻りになられたのですか! 失礼致しました!」


名剣士「なに、構やしねえよ。それより今日はちょっと急ぎの用件でね。陛下に会いに来たんだ。取り次いでくれるか?」


門番A「はっ! 名剣士様の頼みでしたらすぐに!」

門番B「きっと陛下もお喜びになられるはずです!」



331:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/06(日) 19:47:55.20 ID:GAxT1pDfo

ー 同時刻 中央国、大聖堂 ー


大司教「只今、戻りました。教皇猊下」

教皇「うむ……。遠路御苦労であった。して、あやつは首を縦に降ったか?」

大司教「はい。教会に従い、教皇猊下に忠誠を尽くすとの事です」

教皇「なるほど……。やはり勇者の件が効いたか……。だが、あやつの姿が今ここには見えぬが……これはどういう事だ?」

大司教「それが……。枢機卿の着任式までは、教皇猊下にはお会いしたくないと申しまして……」

教皇「それで、忠誠を尽くすとはよく言ったものだな」

大司教「誠に申し訳ありません……。私の方からもお諌めしたのですが、これだけは譲れないと頑固に言い張るもので……」

教皇「まあ良い……。所詮は籠の中の鳥と同じ。私に歯向かえぬという事が理解出来ているのなら良かろう……」

大司教「はっ……」

教皇「それで、あやつは今どうしておる?」

大司教「はい。大聖堂を回って、昔の馴染みに挨拶をしてくると」

教皇「昔の馴染みに……?」

大司教「どうされました?」

教皇「いや……まさかな……。それに『あの方』に会うのは不可能であろうし……」

大司教「……?」



332:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/06(日) 19:49:56.83 ID:GAxT1pDfo

ー 大聖堂敷地内、離れの特別礼拝堂 ー


女「」テクテク


神殿騎士A「そこでお止まり下さい、女様」サッ (槍を構える)

神殿騎士B「ここより先は、聖なる領域。教皇猊下の許可がない者は、例え国王であろうと通す訳には参りません。お引き取りを」サッ


女「……知っています。だからこそ、私はここに来ました」

女「ここに来る為だけに私は戻って来たのです。そこをおどきなさい」


神殿騎士C「いいえ。例え女様であろうと、ここをお通しする訳には参りません」

神殿騎士D「どうかお引き取りを。怪我をなされない内に」チャキッ (剣を抜く)


女「……ならば仕方ありませんね」

女「押し通らせてもらいます」スッ


神殿騎士A「お引き下さい!」サッ (槍を喉元に突き立てる)


女「どうぞ。私は抵抗しませんから。どのような理由であれ、危害を加える事を私は致しません」


神殿騎士A「こちらは本気です! どうかお引き取りを!」グッ……

女「いえ、引きません。通らせて頂きます」ソッ (槍に手をかけ、横に逸らす)


神殿騎士D「ぐっ! ならば御免!」サッ (剣を上に振り上げる)



334:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/06(日) 19:54:59.55 ID:GAxT1pDfo

騎士が剣を降り下ろした。

とはいえ、それはあくまで威嚇行為であり、肩あたりにかすらせるつもりだった。

しかし……!



バキンッ!!


騎士D「剣が……! 折れた……!?」


騎士の降り下ろした剣は、女に当たると同時にあっさりと、まるで枯れ木の枝の様に折れ散らばった。

呆然と鍔だけになった剣を眺める騎士。女がその横をゆっくりと通り抜けていく。


女「生憎、私は女神様から多大な加護を頂いています」

女「それ故に、剣も魔法も、私の前では意味を成しません」

女「御自分の武器を処分されたいというのであれば、他の方も御自由にどうぞ……」


そうして、固く厳重な鋼鉄製の扉を開けてゆっくりと大礼拝堂の中へと入っていく女……。

騎士達が我に返り、慌ててこの事態を報告しに行くまでの間に、女は大礼拝堂の奥の奥へとその姿を消していた……。


特別大礼拝堂の一番奥。その先にある異常に巨大な一室。

そこには、異なる聖域結界が六重にかけられ。

更に、教会が禁忌としている、魔と陰陽道を用いた複合結界も二重に張られている。

恐らく、人間が考えうる最強の結界。

その奥目指して。

女は一歩一歩確かめる様に進んでいった。



335:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/06(日) 19:56:41.35 ID:GAxT1pDfo

ー 同時刻、南の海

 『凪の海賊団』拠点

 占拠している島 ー



ダダダダダッ……


海賊A「おい、あれ! 津波か!」

海賊B「待て! 落ち着け! あれは!」


「はっ!!」ダンッ!! (大ジャンプ)


ヒューンッ……


女船長「せいっ!!」ズサッ!! (着地)


海賊A「女船長!!」

海賊B「何でこんなとこに!? 確か西の海まで遠征に行ってたはずじゃ!!」


女船長「話は後だっ!! 緊急事態が起きた!!」

女船長「全員に伝えろ!! もしもの時に備えて、この島からすぐに出て避難しろとっ!!」


海賊A「避難!? どういう事ですかい、女船長!!」


女船長「説明する暇もない! 巻き込まれて死にたくなかったらさっさと動け!!」
 

海賊A「ア、アイサー!!」

海賊B「避難命令だーっ!! 全員、この島から出ろーっ!!」


女船長「ったく! 来るのにずいぶんかかっちまった! 手遅れになってなきゃいいが!!」ダダダダダッ

女船長「間に合えよ!!」ダダダダダッ  



336:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/06(日) 19:58:56.43 ID:GAxT1pDfo

ー 同時刻、魔王城、庭園 ー


魔軍師「魔王様。異世界への扉を開く儀式、全て整いました」

魔軍師「万が一の時を考え、城の中ではなく、この庭園に魔方陣は描かせてあります。ここなら、仮に異世界から魔獣が飛び出してきても十分対処出来ます」

魔王「うむ。御苦労」


魔王「では、側近。これから向かうぞ。覚悟しておけよ」

側近「はっ。この命にかえましても! 魔王様は必ずお守り致します!」

魔王「固いな。少し心をほぐしておけ。何が起こるかわからんのだ。臨機応変に対応出来るよう、柔らかくな」

側近「はっ!」


大魔導師「魔王様、側近様。朧月が向こうの空に上り始めております。これで異界送りの条件が整いました。どうぞ、あちらの魔方陣の中央に」


魔王「うむ」スタスタ

側近「」スタスタ


大魔導師「では、魔力を込めます……」パアアッ

魔導師A「我々も」パアアッ

魔導師B「はい」パアアッ


魔導師C「」パアアッ

魔導師D「」パアアッ

魔導師E「」パアアッ

魔導師F「」パアアッ



337:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/06(日) 20:00:44.21 ID:GAxT1pDfo

地面に血でもって描かれた魔方陣が、注ぎ込まれる魔力に感応して、徐々に朱色に、緑に、黄金色へと変化していく……。


大魔導師「古より伝わりし、名も姿もなき魔神王よ……。黄泉と現世の狭間に降臨し、新たな世界を生み出せし、混沌と創造の大悪魔……」

大魔導師「血と我が魔力を贄に、その世界への扉を今ここに開けたまえ……。我らは祖を同じくする、闇の魔神の一族……」

大魔導師「敵でも味方でもなく、敵にも味方にもなる者……。混沌を好む魔神王よ。我らの呼び掛けに応えたまえ……」


その言葉が終わった直後、空間の揺らめきが魔方陣内に発生した。そして……。



フッ……



魔軍師「消えた……。魔王様と側近の姿が……」


大魔導師「」フゥ…… (額の汗を拭う)

大魔導師「異界送りの儀式は成功です。上手くいきました」


魔軍師「そうか……。これで当面の肩の荷は下りたが……」

魔軍師「問題は、次に魔王様がいつお戻りになられるか……。そして、その間、竜王軍との戦いに敗れぬ様にする事だな……」


魔軍師「各方面にいる魔将軍に伝えよ! 魔王様は予定通り、異界へと向かわれた! お戻りになるまで、各自奮起して持ち場を死守せよとな!」

魔兵士「はっ!!」



338:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/06(日) 20:03:21.90 ID:GAxT1pDfo

ー 同時刻、妖魔の森、最南端近く ー


大賢者「あれが……妖魔の森か」

大賢者「凄まじく広いんだな……。端から端が見えない。地平線一杯に広がってる……」

大賢者「それに、何て言うか……。見てて寒気がする……。こんなに遠くから見てるだけなのに……。おどろおどろしい……」

大賢者「流石、魔王城があるって言われてる森だ……。これは想像以上だけど……」

大賢者「恐れてばかりもいられないよな……。腕試しと様子見がてら、中に行ってみよう」


大賢者「」テクテク……



339:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/06(日) 20:04:37.06 ID:GAxT1pDfo

ー 妖魔の森、最南端 ー


闇死霊「……到着」フワッ (暗黒の霧から人型に)

焔鳥「」バッサ、バッサ (全長41メートル)

クラーケン「」ウネウネ (全長39メートル)

琥珀蝶「…………」バサバサ、バサバサ (全長34メートル)

雷獣「」ズダンッ (全長52メートル)


闇死霊「……ここから分担して攻撃。我は中央国」

闇死霊「焔鳥は、東の国」

焔鳥「SIGYAAA!」

闇死霊「クラーケンは南の国」

クラーケン「URYYYY!」ウネウネ

闇死霊「琥珀蝶は西の国」

琥珀蝶「…………」バサバサ、バサバサ

闇死霊「雷獣は北の国」

雷獣「GARRRRR!」


闇死霊「三日で人間を全滅。集合。二日で魔王城へ戻る」

闇死霊「では、散……」フワッ (暗黒の霧に変化)


闇死霊「む……? 向こうに人間?」





大賢者「っ! 何だ、この化物達は!!」



341:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/06(日) 20:07:43.25 ID:GAxT1pDfo

闇死霊「手始め。血祭り」

闇死霊「死の霧……」フッ……


闇死霊の体から暗黒の霧が放たれ、それはまるで生き物の様に大賢者めがけて近付いていく!


大賢者「っく! 即死系の霧か!?」

大賢者「結界魔法! 我を死神の鎌から守れ!!」フインッ


大賢者の周囲に光り輝く粒子が現れ、円を描く様に大賢者の体を包み込んだ!


闇死霊「……魔導師か。人間にしては高位」

闇死霊「面倒だ。焔鳥、雷獣。交代」


焔鳥「SIGYAAAAAA!!!」バサッ!! (全長41メートル)

雷獣「GAOOOOOOO!!!」ダダッ!! (全長52メートル)


大賢者「っ!!」(身長180センチ)



343:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/06(日) 20:15:10.57 ID:GAxT1pDfo

巨大な二匹の生物が、大賢者めがけて襲いかかった!

片方は体が燃え盛る焔の怪物、もう片方は雷を身に纏った化物!

焔鳥はそのまま突撃してきた! その体は鉄をも溶かす高温! 最早、体自体が危険極まりない武器!

大賢者はすぐさま氷魔法を唱え、それで障壁を作る!

だが! それは横から放たれた雷撃によって瞬時に破壊された!

雷獣が口から吐き出した、魔力を伴った雷球だった。その間に焔鳥の突撃! 素早い! 逃げられない!

咄嗟に大賢者は右手で防御魔法を、左手で回復魔法を放った。だが!

気が付けば、大賢者の周りには琥珀蝶の鱗粉が舞っていた。魔法は放たれなかった。魔力そのものを無効化する特殊な鱗粉! それに大賢者が気付いた時には最早完全に遅かった!


「うぐあぁああぁっがっ!! ぎあっぐっがぁぁ!!!!」


焔鳥の灼熱の体が通過し、大賢者の全身を焼いていく! 熱さではなく最早痛み! 激痛!

そこへ雷獣からの雷撃! スパーク! 爆発! 大賢者が糸の切れた人形の様にその場に倒れこむ! そこへ、クラーケンの巨大な足が飛んできて、地面へと激しく叩きつけた!


クラーケンが足をどかした時にはもう、大賢者はその場で息絶えていた……。動かない……。亡くなった……。その魂は天へと召されていった……。



345:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/06(日) 20:16:29.28 ID:GAxT1pDfo

闇死霊「多少、邪魔が入ったが……」

闇死霊「問題なし」

闇死霊「各自、人間を根絶やしに……」

闇死霊「散……」フワッ (暗黒の霧になって移動)


焔鳥「SIGYAAAAAA!!」バサッ、バサッ

クラーケン「URYYYYYYY!!」ウネウネ

琥珀蝶「…………」バッサ、バッサ

雷獣「GYAOOOOOOO!!」ダダダッ






大賢者「」…… (骸)



350:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/06(日) 21:07:47.50 ID:p/jXjTESo

ー 同時刻、西の国、小さな町 ー


女大富豪「ようやく着いたわね。予定より少し遅れてしまったかも」テクテク

秘書「そうですね。多少ですが」テクテク

馬車「」カッポ、カッポ


女大富豪「馬車一杯の魔結晶……。これだけの魔結晶を集めるには流石に手間取ったものね」テクテク

秘書「そうですね。買い占めとも誤解されてしまいましたし、入手がより困難になりましたから」テクテク

馬車「」カッポ、カッポ


女大富豪「最後らへんはかなり足元見られたしね。おかげで、財産の三分の一を使ったわ。まあ、必要経費だから仕方ないけど」テクテク

秘書「……国が動く金額なんですがね」テクテク

馬車「」カッポ、カッポ


女大富豪「いいのよ、別に。元からこの為だけに財を成したようなものだし」テクテク

秘書「はあ……」テクテク

馬車「」カッポ、カッポ


女大富豪「さ、着いたわ。私専用の特別研究所」ピタッ

秘書「はい」ピタッ

馬車「」ピタッ


女大富豪「行きましょうか。魔結晶は全部中に運んで」ガチャッ

秘書「はい」ゴトッ、ゴトッ (馬車に積まれた、魔結晶が大量に入った木箱を次々と下ろしていく)

馬車「」ブルルルッ (鳴き声)



362:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/08(火) 17:18:11.97 ID:WzQzbLsqo

ー 翌日。鉄鉱の町、門付近 ー


勇者「それでは、相棒共々お世話になりました」

馬「」バルルルッ


町長「いえ、お世話になったのはこちらでございます。勇者様がいなかったら、この町は滅んでいたかもしれませんので……」

兵士A「そうです! あんな化物をよくぞお一人で倒して下さいました! 感謝の言葉もありません!」

兵士B「この町の者は全員、勇者様から頂いた御恩を忘れません! 改めて、ありがとうございます!」

勇者「元騎士隊長として当然の事をしただけだよ。それに戦闘になってしまったのは、見つかった俺の責任だからね」

町長「なんと勇者様らしきお言葉……。功を誇らず恩を売りもしない……。誠に貴方こそが真の勇者様でございます」グスッ

神父「まったくです。女神様と勇者様に感謝を……」



363:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/08(火) 17:19:12.96 ID:WzQzbLsqo

勇者「神父様も、どうもありがとうございます。昨日は無理を言って、相棒にまで回復魔法をかけて頂きまして」

神父「いえ。勇者様の愛馬となれば、それぐらいはお安い御用ですとも。それよりも、体調の方は大丈夫でしょうか?」

勇者「ええ。おかげさまで。自分でも回復魔法を使いましたし、万全とは言いませんが、傷はもう完治しています」

神父「ですが、本来ならもう何日か治療を要する怪我です。疲労などは完全に抜けてはいないはずですので……。やはり、もう少しここに滞在した方が良いのではないでしょうか?」

勇者「生憎、そうもいかないんです。とある約束をしていて、のんびりしていたら、その期日までに間に合わなくなってしまう」

神父「そうですか……。仕方ありませんね……。ですが、お気をつけて。人馬ともに決して無理をなさらないように」

勇者「ええ。御心配ありがとうございます」

神父「……しかし、我々、僧侶以外で回復魔法を使える方がいるとは思いませんでした。やはり、女神様の加護を受けておられる勇者様なのですな」

勇者「自分でも驚いてます。ですが、自信にもなりました。旅をする上でも役立ちますし、ありがたい事です」

神父「ええ。貴方にこれまで以上の女神様の加護があらん事を……」



364:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/08(火) 17:20:28.38 ID:WzQzbLsqo

勇者「それでは、行ってきます。皆さんもお元気で」


町長「勇者様も、どうか御無事で」

兵士A「ご武運を!」ビシッ (敬礼)

兵士B「お祈りしております!」ビシッ (敬礼)

神父「お気をつけて……」


勇者「行くぞ、相棒」ヒラリ

馬「」ヒヒーン



兵士A「勇者様の旅立ちだ! 開門! 開門ーっ!!」

兵士B「鐘を鳴らせー! 勇者様の御無事を祈れーっ!!」


カラーン、コローン、カラーン、コローン


ギギギギィィ…… (門が開く)



勇者「どうもありがとう。いつかまた」

勇者「さあ、出発だ、相棒!」タンッ

馬「」ヒヒーン!



パカラッ、パカラッ、パカラッ、パカラッ……




【英雄譚、『伝説の勇者』より、一部抜粋】

かくして勇者は、鉄鉱の町から旅立つ

町の危機を未然に防ぎ、更には町の発展に貢献せり

町の者は勇者が去った後も、こう語る

彼こそ、魔王を倒す伝説の勇者に相違なしと……



365:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/08(火) 17:21:11.48 ID:WzQzbLsqo

ー 街道 ー



勇者「予定より、ずいぶん遅れてしまったからな」

勇者「途中で休憩を挟みつつも、飛ばしていくぞ、相棒!」タンッ

馬「」ブルルルッ!!



パカラッ、パカラッ、パカラッ、パカラッ!!



一角ウサギA「キュイ!!」

一角ウサギB「キュキッ!!」

【一角ウサギA、Bが現れた!】



勇者「押し通るっ!」ザシュッ、ズバッ

一角ウサギA「」ドサッ
一角ウサギB「」ドサッ
体力:8→0



四つ目カラス「ガァー! ガァー!」バサッ、バサッ

【四つ目カラスが現れた!】



勇者「はっ!」ザシュッ

四つ目カラス「」ドサッ
体力:19→0



パカラッ、パカラッ、パカラッ、パカラッ……





366:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/08(火) 17:22:10.18 ID:WzQzbLsqo

【古書、『勇者伝記』より一部抜粋】


その後、勇者は途上で何回か小さな町に立ち寄って宿泊しつつ、通常は六日の道程を四日で駆け抜けた

この頃には、勇者は自分が勇者である事を秘匿して旅をする様になっていたので、具体的にどこの町に立ち寄ったかまでは不明である

あるいは、木や枝を使って布を張り、野宿した可能性も否定出来ないが、一人旅の為、恐らくそれは選択しなかったと思われる


※『注釈』
当時は魔物が至る所に跋扈していた為、旅の途中で野宿する人間はほとんどいなかった
夜間の方が魔物の動きが活性化するし、暗闇である為、敵に気が付きにくいからというのがその理由となる
その為、馬で都市と都市とを点々と繋ぎながら旅をするのが一般的だった
どうしても野宿をする場合は、まず周りに聖水(アイテム)を振り撒き、焚き火をしながら交代で見張りをするのが基本となる


そして、勇者は生まれ故郷の比較的近くにある大都市、『商業で栄える町』へと辿り着く……



367:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/08(火) 17:23:50.27 ID:WzQzbLsqo

ー 商業で栄える町 ー


勇者「さて、宿屋に荷物や鎧とかは全部置いてきたし」

勇者「少し早いが、軽く酒場に行って英気を養うか」テクテク


勇者「ここから、俺の生まれ故郷までもう少しだ。明日にはきっと辿り着ける。丁度、約束の日だ」

勇者「みんな、あの木の下で待っていてくれてるんだろうか……」

勇者「別に戦士や僧侶とかになってくれなくててもいい。パーティーとか組まなくてもいい。みんなが普通に生活をしてて、元気に暮らしてくれてたらそれでいいんだ」

勇者「約束を覚えていて、待っていてくれるだけで嬉しいから」

勇者「ひょっとしたら、もう誰か結婚してるかもな……。結婚してても全然おかしくない歳だしな。もしかしたら子供もいるかもしれない」

勇者「明日が楽しみのような、誰もいなかったらどうしようみたいな……不思議な感覚だな……」

勇者「今日は何だか強いお酒が飲みたい。興奮して眠れなくなりそうだし」

勇者「でも、良い夢が見れそうな、そんな気分だ……」

勇者「本当に……」

勇者「明日なんだな……約束の日が」ソッ


ギィ……

カランカラーン


「いらっしゃいませー」



368:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/08(火) 17:25:09.48 ID:WzQzbLsqo

ー 酒場 ー


女店主「いらっしゃい。ご注文は?」

勇者「ウイスキーを。あと、オススメ料理を幾つか。予算は銅貨10枚以内で」

女店主「あいよ。にしても、お客さん、その注文の仕方ずいぶん手慣れてる感じがするね。旅の人かい? それも結構、旅慣れてる方でしょ? 賞金稼ぎか何か?」

勇者「まあ、そんなところかな」

女店主「そう。なら、懸賞金がついてる魔物の情報はいる? こっちは銅貨2枚で教えるけど」

勇者「いや、それはいいよ。それより、何か日持ちしそうでかさばらない食材を沢山包んでくれないかな。こっちは銀貨1枚出すから」

女店主「そりゃありがたいね。にしても、銀貨1枚分ってやけに気前がいいじゃん、結構な量になるし。そんなに長旅になるの?」

勇者「いや、昔の馴染みや知り合いにお裾分けしたいんだ。これから生まれ故郷に戻るものだから」

女店主「ああ、なるほどね。お土産か。それじゃ、保存のきく干し肉とかがいいかな。それでいいかい?」

勇者「いいよ。よろしく」

女店主「はいよ。おーい、キッチン。オーダーだよ。パンと特製ビーフシチュー、あと鴨のソテー。それから、干し肉を銀貨1枚分包んでおいて」


「へーい!」


女店主「あとウイスキーだったね。割るかい?」

勇者「いや、ロックでいいよ」

女店主「それじゃあ、グラス」トポトポ、トンッ

勇者「ありがとう」



369:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/08(火) 17:27:07.03 ID:WzQzbLsqo

ー 食事中 ー


女店主「ところで、あんた、旅してるんなら、その途中とかで聞いた何か面白そうな噂や情報とかないかい? ネタによっては値段をつけるよ」

勇者「生憎、売れる情報は特にはないね」

女店主「そうかい、残念だね。まあいいさ、ならあんた自身の事を聞いてもいいかい? さっき言ってた故郷ってのはどこなんだい?」

勇者「ここから少しいったところにある、『山奥の村』だよ。道は険しいし、きちんとした道になってないしで、ろくに都会との行き来がない田舎だけどね。でも、とてもいいところだった」

女店主「……『山奥の村』……なのかい」

勇者「?」

女店主「あんた……ひょっとして、かなり子供の時にあの村から外に出てきたんじゃない?」

勇者「そうだね。もう十五年も前の話になるから」

女店主「やっぱりか……」ハァ

勇者「……何か、まずかったりするのか?」

女店主「……まあ、どうせわかっちまう事か。それに言っておかないと駄目だしね……」

勇者「……どういう事だよ」

女店主「先に言っておくけど、あんたにとっちゃかなりきつい言葉になると思う。悪い事は言わないけど、『山奥の村』に行くのは諦めなよ」

勇者「え……?」



370:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/08(火) 17:28:53.72 ID:WzQzbLsqo

女店主「もう十年ぐらい昔の事になるんだけどね……」

女店主「その頃から、あの山に奇妙な魔物が色々出没する様になったんだよ……」

女店主「最初はそういう魔物を見たって話が少なかったから、そんなに噂にはならなかったし、特に誰も気にはしなかったんだ」

女店主「だけど、段々と。年数を重ねるごとに少しずつ。その『見た』って目撃談がどんどん増えていってね」

女店主「しかも、どれもここらじゃ見かけない、見た事自体ないって魔物ばかりだったんだよ。それこそ、本や図鑑にも載ってない様な魔物がうじゃうじゃと」

女店主「今じゃあそこの山に行くって人は誰もいないよ。気味悪がって近寄らないし、危険だからね。今じゃあの山は、奇妙な魔物の巣窟と化してるのさ」

勇者「そんな…………」



371:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/08(火) 17:31:24.46 ID:WzQzbLsqo

女店主「何で、あの山がそんな風になっちまったかなんて誰もわかりゃしないんだけどさ……」

女店主「例えば、あの山のどっかに、空間の歪みがあって、そこから魔物が続々とこっちに来てるんじゃないかとか……」

女店主「もしくは魔王の軍勢が、あそこの山を秘密の軍事拠点にしてるんじゃないかとかね……」

女店主「あと、嘘かホントか知りやしないが、竜まで見たって話もあるぐらいだから」

女店主「竜だよ? 国を簡単に滅亡させちまう様な伝説の化け物だよ」

女店主「その竜が一匹、あの山を気に入って自分のねぐらにしたって噂もあるんだ」

女店主「だから、それにつられて強い魔物たちもあの山に住むようになったんじゃないか……って風にも言われてる。強い魔物は、他の魔物を引き付けるからさ……」


女店主「まあ、どんな理由にしろ……」

女店主「もうあの山は駄目なんだよ。人が入れる様な場所じゃなくなってるから」


勇者「じゃあ……あの山奥にあった……村は…………」



372:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/08(火) 17:33:06.13 ID:WzQzbLsqo

女店主「……気の毒だけど」

女店主「あの山が魔物の巣窟みたくなってから、もう何年も経ってるからね……」

女店主「……言いたかないけど、今でも無事とは到底思えない」

女店主「村の人達はとうの昔に逃げたか、もしくは……」


女店主「その先は、言わなくてもわかるだろ……?」


女店主「全員、無事に山から避難出来たんじゃないかって信じるしかないよ……」



勇者「……そんな。……嘘だ」ガタガタ、ガクガク



373:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/08(火) 17:34:36.56 ID:WzQzbLsqo

勇者「王都にいた時も……そんな噂……入って来なかったのに……」

勇者「みんなが……。みんなが……」

勇者「隣のおじさんも……優しかった村長も……」

勇者「それに、大事な仲間たちが……!」

勇者「もうあそこにいないなんて、そんな事……!」

勇者「またあの木の下で会おうって! そう約束したのに……!!」


女店主「……気持ちはわかるけどね」

女店主「でも、事実なんだよ。認めないと……」

女店主「ここから王都まではかなり離れてるし、そもそも魔物たちも年単位でゆるやかに増えていったからね。噂があんたの耳まで届かなかったか、もしくは噂にすらなってなかったって可能性はあるよ」

女店主「あの村は、山奥にあって、元から孤立してた村だったらしいし……。あの山自体、鉄だとか魔石とかが採れるって訳でもなかったし……」

女店主「それに、あの山から魔物は出て来ようとはしないからね……。自分から行かない限りは、被害が出ないんだよ。だから、そんなに目立つ噂にもならなかったろうし……」

女店主「あんたが知らなくても、そんなに不思議じゃないんだ。それに、知ってたとしても……」

女店主「あんたに何か出来た訳じゃないだろ? ……結局、どうしようもない事だったんだよ」



勇者「でもっ!! だけどっ!!」



374:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/08(火) 17:35:39.12 ID:WzQzbLsqo

女店主「やめとくれよ。そんな大きな声を出さないで。他のお客さんもいるんだし」

勇者「ぐっ……!」ウルッ


ザワザワ……


女店主「あー、大丈夫。この人、ちょっと悪酔いしちゃってるみたいでね。それだけだよ。平気だから」

女店主「気にせずみんな飲んどくれ。この人はあたしがなだめとくからさ」


ガヤガヤ……


女店主「……さてと」

勇者「うぅっ……!」グビッ

女店主「やっぱりね……。やけ酒は体に悪いよ」

勇者「違う。そんなはずはない……! あの村がもう無くなってるなんて、そんなはずが……!」

勇者「みんなだって、きっと絶対に生きてるに決まってる……!!」グビッ

女店主「……」ハァ



375:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/08(火) 17:37:50.19 ID:WzQzbLsqo

女店主「何も、生きちゃいないなんて言ってないよ。確かにみんな、どっかで生きてるのかもしんないさ」

女店主「でもさ。村だけはもう無くなってるんだよ。確認した訳じゃないけど、これだけは確かだよ」

女店主「疑ってるのなら、他の人にも聞いてみなよ。この町に住んでる人間なら誰もがそう答えるはずだからさ」

女店主「繰り返すけど、あの山は、もう近付いちゃいけない山になっちまってんだ。今は恐ろしい魔物の巣窟なんだよ」

女店主「あんたの故郷が無くなったから、辛いのはわかるよ。仲の良かった人が、全員亡くなってるかもしれないって知って、かなりショックだったってのもわかるよ」

女店主「でも、そういう事もあるんだよ。そこは認めないと。こんな御時世なんだから、仕方ないんだよ」


勇者「ぅっ……!! うぅぅ……!!」ポロポロ


女店主「……干し肉はキャンセルにしとくけど……構わないよね?」

勇者「ぐっ!」グビッ

女店主「うん……。代わりにしこたま飲んできな。酒は涙を全部流させてくれるからさ」


勇者「ぅぁっ……! うぁぁっ……!!」ポロポロ



376:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/08(火) 17:39:13.26 ID:WzQzbLsqo

ー 深夜、宿屋 ー



「あーあ、もう……。世話が焼ける人だねえ、ホント。よいしょっと」


商人「ん……? あれ、酒場のおかみさんじゃないか。どうしたんだい?」

女店主「なんか、あんたのとこの客らしいからね。完全に潰れちまったから、ここまで引きずってきたんだよ」


勇者「ぅぅ……」グシュッ


商人「ああ、この人かい。確かにうちのお客さんだね。顔を覚えてるよ。わざわざすまないね」

女店主「いいよ、別に。普段なら店の外に放置しとくとこなんだけど、ちょっと飲み過ぎた理由が理由だったからね。そのままにしとくにゃ可哀想でさ」

商人「なんだい、結婚を前にして女にでも逃げられたのかい?」

女店主「それよかもっと可哀想だね……。店に来た時は目を輝かせてたのにさ……。まったく、嫌な世の中だよ、ホントに」

商人「……なんだか訳ありっぽいね。まあ、聞かなかった事にしとくよ。後はこっちで部屋まで運ぶから安心してくれ」

女店主「ああ、頼んだよ。それじゃあね」


勇者「何で……こんな事に……」ポロポロ



377:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/08(火) 17:49:37.58 ID:WzQzbLsqo

ー 同時刻。異界、炎王の城 ー


炎の魔神「外界より来たりし者よ、滅せよ!!」(全長14メートル)

【異界の四王・炎】
『体力 :789万
 攻撃力:438万
 防御力:102万
 魔力 :247万
 素早さ:161万』


「 灼 熱 流 陣 撃 !!」


炎が四方八方に踊りながら流星の様に舞う。それは炎と言うよりも、最早マグマに近かったかもしれない。火山が噴火し、溶岩が雨のように降り注ぐ様に似ていた

逃げようのない全体攻撃。隙間なく、灼熱の炎が襲う

この二人を


魔王「ふっ。この程度で最も攻撃に優れた四王の一人だと言われているとはな。期待外れだ。話にならぬ」

側近「魔王様、ここは私が防ぎます。魔王様はその間に攻撃を」


側近が腰の刀をすらりと抜き床に突き刺す。それと共に固有の結界技が展開された


「 絶 対 不 可 侵 領 域 !!」


側近の周り、半径五メートル。そこに正四角形で展開された闇の鎖が覆う。ありとあらゆる魔法・物理干渉を受け付けない完璧な防御結界
多大な魔力を消費し、使用中は自身が何も行動が出来なくなるが、それはあくまで使用者のみの話である


側近「魔王様、お願い致します」

魔王「うむ」


闇の鎖に阻まれ、次々と落ちては消滅していく灼熱。その炎に彩られた景色の中で、魔王はそっと右手をかざした

その手に、はっきりと目で見える程の膨大で純度の濃い魔力が集約されていき……


「 魔 装 弾 !!」


放たれた。魔法ではなく、魔力そのものを撃ち放つ、魔王オリジナルの技
夜空に光を放つかの様に、その暗黒の魔力は空間を切り裂いていく。そして!


炎の魔神「グあガあアアぁギぁあアアあアあっっ!!!」

ダメージ、631万! ×7撃(total4417万ダメ)

残り体力:789万→0



魔王「他愛ない。拍子抜けだな」

側近「いかにも」


崩れ落ちていく炎の魔神を眺めながら、魔王は不敵な笑みを浮かべた。それは勝者のみが許される笑みであり、そしてこの魔王にはその姿があまりにも似合っていた



378:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/08(火) 17:53:02.83 ID:WzQzbLsqo

魔王「さて、炎の魔神とやら」スタスタ

炎の魔神「ヴ……あ……」(炎で出来た体が少しずつ崩れ消えていく)

魔王「余は強い者が好きだ。そして、余は今、この異界にて余に従う者を集めている」

魔王「余と比べれば話にならぬが、お前の強さは異界においても、余の軍においても上位に位置するだろう。魔将軍クラスかそれ以上の力は持っていると見た」

魔王「故に、お前に人生を選ばせてやろう。余の軍門に下ると言うならば、その燃え付きようとしている命、拾ってやる。我が魔力を与え、その体を修復してやろうではないか」

魔王「返答を聞くぞ。心して答えよ。どうする?」


炎の魔神「フッ……下らヌッ……」ボロッ……

炎の魔神「既に一度……拾っタ命ダ……。二度も拾う気は……ナい……」ボロッ、ズササッ……


魔王「ほう。それは、どういう意味だ?」


炎の魔神「ククッ……我らハ四王などト……呼ばれテイるガ……」ボロッ、グシャッ……

炎の魔神「元はソの四王全員が……こノ異界の覇権ヲ争って対立してイた四人の王ダった……」ボロッ、ボロッ……

炎の魔神「とコロがある日……我ら全員ガ一人の者にヨって倒さレたのだ……」ボロッ……

炎の魔神「今ではそやツが真の王だト……誰もが認めテイる……」グラッ……


魔王「つまり、この世界の魔王という訳か。そして、お前たちが四天王という事だな」


炎の魔神「ククッ……。その通りダ……。そして……我は四王の中デモ最弱……」ボロッ、ボロッ……

炎の魔神「我に勝ッた程度……大しタ事ではなイ……。他の三王ヲ倒し……まシてや真ノ魔王を倒す事ナど……貴様らニハ絶対不可能ダ……。ククくクッ……」ボロッ、ズサッ……


側近「同じ台詞を他の三王も吐いていたがな」


炎の魔神「!? まさカ……既に他ノ三王全員を……!!」グラッ……


魔王「そう。お前で最後だ。残りは真の魔王一人という事になる。だが、この様子ではどうせそやつも大した腕ではあるまい」


炎の魔神「ア……ガがグアあぁぁ…………」グシャッ……



379:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/08(火) 17:56:13.57 ID:WzQzbLsqo

魔王「……逝ったか。しかし、どいつもこいつも服従よりは死を選ぶとはな。目的は達成出来ぬが、見上げたやつらだと誉めるべきか」

側近「ええ。気骨のある武人ばかりでした」

魔王「だが、手ぶらで帰る訳にもいくまい。せめて、この世界の魔王ぐらいは傘下に置きたいものだな」

側近「はい。さすれば、この異界に住むその他大勢の魔獣たちも大人しく従いましょう」

魔王「うむ。では、行くとするか。確か、中央の巨大な塔に住んでいるとの事だったな。一応、休みを取って、そこに向かうのは明日にしておくか」

側近「はい。まだまだ魔力は残っておりますが、念には念をという事で……。その方が私も良いかと思います」

【魔王の片腕】
『体力 :530万
 攻撃力:218万
 防御力:681万
 魔力 :497万
 素早さ:405万』


魔王「では、行くか。飛翔魔法!」フワッ……

【史上最強の魔王】
『体力 :999万
 攻撃力:999万
 防御力:999万
 魔力 :999万
 素早さ:999万』



魔王と側近の体が浮かび上がり、彼ら二人は城の窓から暗黒の空の彼方へと飛び去って行った

「明日には、この異界をも制覇してくれようぞ!! 」

その言葉を中空に残して……



397:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/09(水) 17:21:23.08 ID:muoF85sfo

ー 翌日。商業で栄える町、酒場 ー


カランカラーン


女店主「あら……また来たんだね、あんた」

勇者「……ああ。昨日は宿まで送ってもらったと聞いたから……。ありがとう」


女店主「なに、構わないよ。それよりも酷い顔してるね。目なんか真っ赤じゃないか」


勇者「鏡を見て自分でもびっくりしたよ……。本当に酷い顔をしてた」

女店主「うん。……でも、目には光が戻ってきてるね。それだけは救いかな。現実は受け入れたのかい?」

勇者「それはまだ何とも……」

女店主「そうかい。まあ、いいさ……。昨日の今日でなかなか受け入れられる事じゃないだろうからね」

勇者「かもね……」



398:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/09(水) 17:22:28.85 ID:muoF85sfo

女店主「それで、今日は律儀にお礼に来たのかい。店はまだ開けてないけど、折角だから軽く食べていく? 何か作ってやるよ」

勇者「いや、ありがたいけど……。それより、上等な酒を皮袋でもらえたら助かるかな」

女店主「呆れたね。昨日あれだけ飲んだのに、まだ飲むつもりかい? 二日酔いになってないぐらいだから、酒は強い方なんだろうけど、流石に体を壊すよ」

勇者「そうじゃないんだ。俺の分じゃない。村の人達の分だよ。もしも、本当にみんなが亡くなってる様だったら、せめて墓だけでも作って、そこに供えたいから」

女店主「……あんた。まさか、あの山に登ろうなんて考えてるんじゃないだろうね?」

勇者「色々考えたけど……そうするつもりだよ。やっぱり自分の目で見ないと気が済まないし」

女店主「バカ言ってんじゃないよ。死にに行くようなもんだよ。魔物の巣窟になってるって言っただろ!」

勇者「腕には多少自信がある。どれだけ魔物がいても、一目見るぐらいならきっと出来る」

女店主「それを驕りって言うんだよ! そう言って二度と帰って来なかったやつがどれだけいると思ってんだい! やめな!」

勇者「じゃあ、もし全員が生きていたらどうするんだ!」

女店主「!」

勇者「約束通り、あの木の下で待っていたら! 俺だけが約束を破った事になる! そんな事、俺には出来ない!」

女店主「……アホだね、ホントに」



399:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/09(水) 17:23:29.31 ID:muoF85sfo

女店主「呆れたよ……。約束と命、どっちが大事なんだい。第一、その幼馴染み達だって、約束を覚えていたとしても山に登るはずがないよ」

女店主「もしも約束を覚えていたなら、きっとこの町にいるはずだから、ここで探しな! それで見つからなかったら、もう諦めなよ! そういう事だったんだよ!」

勇者「それでも、自分の目で一目見るまでは、納得出来ない!!」


女店主「とんだバカだね、あんたは」

勇者「約束を破る訳にもいかない……。例え誰も来なかったとしても、俺は行くから」

女店主「それで、あんたが死んだら、結果的に約束を破る事になるんだよ」

勇者「死なないよ。必ず生きて帰ってくる」

女店主「だったらもう好きにしな。うちは酒場だからね。バカにつける薬は置いてないよ」

勇者「ああ……。それと、もしもの時はきっと馬だけこの町に戻ってくるから、その馬を頼む。これ、登録証だから」スッ

勇者「良い馬だから、大事にしてくれる人に売って欲しい」

女店主「あたしは便利屋かい。少し優しくしてやったからって調子に乗るんじゃないよ! そんなんで手に入れた金なんて誰が使えるもんか!」



400:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/09(水) 17:24:43.03 ID:muoF85sfo

女店主「大体ねえ。死ぬ覚悟してまで守る必要のある約束なんてこの世にはないんだよ。とっとと忘れちまいな。それがあんたの為だよ」

勇者「もう意地だよ。それに、ここで約束を破ったら、俺は一生後悔するだろうから」

女店主「約束守って死ぬより、一生後悔して生きる方が賢い生き方ってもんだよ。どうしてそれがわかんないかね」

勇者「……さっき言ってた上等な酒、用意してもらえるかな?」

女店主「死ぬつもりなら代わりに有り金置いてきな。死体が持っててもしょうがないだろ。生きて帰ってきたら返してやるよ」

勇者「有り金は流石に無理だけど……金貨を一枚置いてくよ。だから、馬の事と酒を頼む。戻ってきたらお釣りをもらうから」

女店主「ホント、男ってのはアホな生き物だね! 一度決めたら曲げやしない。ああもう、用意してやるから待ってな。ただし、絶対に戻ってくるんだよ!」ゴソゴソ

勇者「助かるよ、ありがとう」



401:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/09(水) 17:25:50.59 ID:muoF85sfo

ー 街道 ー


勇者「……いい人だったな、あのおかみさんは。結局、酒も干し肉も用意してくれたし、本気で心配してくれてた」

馬「」バルルッ


パカラッ、パカラッ、パカラッ


勇者「相棒、もしもの時は、お前だけは必ず逃がすからな。その時は遠慮なく町まで戻ってくれよ。頼んだぞ」

馬「」ブルル


パカラッ、パカラッ、パカラッ、パカラッ


勇者「見えてきた、あそこだ。こうして眺めるのも十五年振りだよな。騎士団長の馬に乗せられて、最後に見た景色そのままだ」


パカラッ、パカラッ、パカラッ、パカラッ


勇者「今だからわかるけど、あの山、相当大きかったんだな。かなり広いし」

勇者「今じゃ誰も登る人がいなくなったって聞いてるけど、道はまだ残ってるだろうか……。もしも残ってなかったら、相棒は連れて行けないからな……」

勇者「藪が繁っててもいいから、道自体は残ってて欲しいんだが……」

馬「」ブルル


パカラッ、パカラッ、パカラッ、パカラッ……




402:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/09(水) 17:27:33.22 ID:muoF85sfo

ー 勇者の生まれ故郷

 奇妙な魔物が出現する山

       麓付近、山道 ー


勇者「良かった……。少し尾根が繁ってるけど、まだ道は残ってる。これなら、相棒も一緒にいける」

馬「」カッポ、カッポ


ガサガサ……ザザザ、ガサガサ……


勇者「!」チャキッ (剣を構える)

馬「」バルルルッ


ガサガサ……ガサガサ…………


勇者「行ったか……?」

勇者「気配は消えてるけど……」

勇者「しかし、不気味だな……。普通、魔物はすぐに襲ってくるもんなんだが……」

勇者「そりゃ、闇雲に襲われるよりはずっとマシだけど……」

勇者「狙われてる様で、気持ち悪いのも確かだ……。狩りの準備をされてるみたいで不安になる……」



403:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/09(水) 17:28:26.42 ID:muoF85sfo

ー 山道、山の中腹辺り ー


メキメキッ、ボキッ!! (木の折れる音)


勇者「近いっ! 魔物か!?」チャキッ

馬「」バルルルッ!!


ノソッ……

氷ゾウガメ「シューッ……」(全長31メートル)

【奇妙な魔物・タイプ亀】
『体力 :5279
 攻撃力: 673
 防御力:9091
 魔力 :1241
 素早さ:  53』



勇者「!!??」



404:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/09(水) 17:29:13.67 ID:muoF85sfo

氷ゾウガメ「…………」チラッ


勇者「何だ、このバカでかい亀は!? これでも魔物なのか!?」サッ (剣を構える)

馬「」バルルッ!!


氷ゾウガメ「…………」ジィーッ


勇者「ぐっ! やる気か!?」


氷ゾウガメ「…………」

氷ゾウガメ「」ノッシ、ノッシ…… (無視して去っていく)


メキッ、ボキッ!! (木がなぎ倒されていく)


ノッシ、ノッシ…………



勇者「……何もせずに去っていった」フゥ

勇者「しかし、何でこんな山の中に巨大亀が……」

勇者「しかも、襲って来なかった……。一体、何だったんだ、あれは……」



405:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/09(水) 17:30:06.97 ID:muoF85sfo

ー 山道。頂上近く ー


ガサッ、ガサササッ


トゲ持ち大蛇「シュルルルッ……」(全長28メートル)

【奇妙な魔物・タイプ蛇】
『体力 :18036
 攻撃力: 6797
 防御力: 3814
 魔力 : 3420
 素早さ: 4513』


勇者「」ビクッ!!

馬「」ヒヒーン!!



トゲ持ち大蛇「…………」ジィーッ


勇者「く、来るのか……!!」チャキッ


トゲ持ち大蛇「…………」

トゲ持ち大蛇「シュルルルッ……」ウネウネ


ウネウネ……ウネウネ…………



勇者「また去っていったか……」フゥーッ

馬「」バルル……



406:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/09(水) 17:31:17.30 ID:muoF85sfo

勇者「それにしても、本当に見た事のない魔物ばかりだな……。しかも、それが大量にいる」

勇者「これなら、誰もこの山を登ろうとしないっていうのは納得だ。あまりに心臓に悪い……」ハァ

勇者「とはいえ、これまで一度も襲われてないっていうのが不思議だな……。ここの魔物は大人しいのか……?」


シギャアアアアアッ!!

グギャッッ!! ギギャーーーーッッ!!


勇者「」ビクッ!!

馬「」ヒヒーン!!


勇者「いや、そんな事はないか……。さっきの大蛇が、向こうで巨大なネズミを襲って食べてる……」ドキドキ

勇者「魔物だけを餌としてるのか……? まあ、あれだけ巨大だと、人間一人程度じゃ物足りないだろうが……」

勇者「何にせよ、この山は少しおかしい……。どうしてこんな風に変わってしまったんだ……」


勇者「もうすぐ、俺が住んでた村だけど……。これじゃ、もう誰も住んでる訳がないよな……」

馬「」カッポ、カッポ……



407:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/09(水) 17:32:10.52 ID:muoF85sfo

ー 山奥の村、近く ー


勇者「見えた……! あそこだ……!!」

勇者「村だ! 村の柵がある!! 変わってない!!」

勇者「どこも荒らされてなんかない!! 柵が破られてもいない!!」

勇者「みんな、まだあそこに住んでるのか!! 全員、無事なのか!!」

勇者「とにかく確かめに行くぞ、相棒!!」タンッ

馬「」ヒヒーン


パカラッ、パカラッ、パカラッ


と、その時!!



ガサッ!! ガサササッ!!


キメラ「グオオオッ!!」ダダッ

【合成魔獣・獅子タイプ】
『体力 :451
 攻撃力:129
 防御力: 77
 魔力 : 74
 素早さ: 50』



勇者「あれはキメラ!!? こんなところにまで、いたのか!?」

勇者「しかも、まずい!! 一直線に村を襲おうとしてる!! くそっ!!」



408:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/09(水) 17:32:57.57 ID:muoF85sfo

キメラ「グルルルッ!!」ダダダッ


勇者「まずい!! キメラの攻撃力なら、あんな木で出来た柵なんて一撃だ!!」サッ (馬から飛び降りる)

勇者「相棒は逃げろっ!! こいつは俺がやる!!」ガチャッ (魔法銃を構える)



ガタッガタッ (木の柵から音がする)

ガラッ


村人「何だべ、騒がしいな……」ノソッ



勇者「!!」

勇者「人がいたのか!! でも駄目だ! 逃げてくれ!! 襲われるぞ!!」



キメラ「グオオオッ!!」ダダダッ



勇者「やめろおおおおおっ!!!」



409:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/09(水) 17:33:37.88 ID:muoF85sfo

村人「ん?」

キメラ「グオオオッ!!」ダンッ (飛び掛かる)


村人「ほいさ」ドゴッ!!


ズゴガラグワバキボキメキガッキーン!!!!


キメラ「グボオホギグゲゴアギアグゲゴガアアアアアッッッ!!!!」ドーンッ!!!
体力:451→0


勇者「」




村人「さっきから騒いでたのはこの魔物かい、ったく。人騒がせな」

【山奥の村人】
『体力 :774万
 攻撃力:561万
 防御力:359万
 魔力 :   0
 素早さ:428万』



勇者「村人TUEEEEEEEEEEEEEE!!!」

 



442:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/10(木) 15:31:52.44 ID:nGrTViXfo

村人「ん?」


勇者「あ、あの……! えっと、その、俺は決して怪しい者じゃなくて……!!」アセアセ


村人「あー!」

勇者「」ビクッ!!


村人「おめえ、もしかして『勇者(名前)』じゃねえか? 昔の面影残ってっし、なーんか今日帰ってくるみたいな約束してたみてえだし」

勇者「あ、はい……! 俺、『勇者(名前)』です!」

村人「懐かすいなあ! おらだよ、おら! 覚えてねえのか?」

勇者「え、いえ、あの……! す、すみません!」

村人「何だ、忘れちまっただか。まあ、おめえもあん時は子供だったからなあ」

勇者「は、はい! すみません!」

村人「別に謝る事ねえべ。おらはあれだよ、おめえん家の三軒隣に住んでたやつだよ。小さい頃にベーゴマとか教えてやったべ?」

勇者「ベーゴマ……。え!? もしかして、竹トンボとかよく作ってくれたおじさん!?」

村人「そうそう。ははっ。思い出したか。いやー、忘れられてなくて良かったっぺ」

勇者「いや、忘れるとかそういうんじゃなくてさ……。何かだって、前と変わりすぎてるから……」

村人「?」

勇者(めちゃくちゃ体つきが良くなってるなんて言えない……)



443:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/10(木) 15:33:11.92 ID:nGrTViXfo

村人「しっかし、おめえもずいぶんデッかくなったよなあ。ここ出てった時はただのやんちゃなガキだったのに、今じゃこんな立派な大人になって」

勇者「ああ、うん……。まあ、色々と努力したし……それなりの経験も積んできたからさ……」

村人「何かいかにも高級な剣士っぽい格好してっけど、もしかして賞金稼ぎにでもなったのか?」

勇者「ああ、いや、これは……。ちょっと前まで王都で騎士隊長やってたから」

村人「うおおっ! それ、本当か! 騎士様飛び越えて、騎士隊長様にか! おめえ、凄いな!! 強いんだなあ!!」

勇者「え……?」

村人「そういや、おめえは子供の時から『勇者になる、勇者になる』ってずっと言ってたもんなあ。それが今や騎士隊長様とは。いやあ、無茶苦茶強くなったんだろうなあ。きっと、おらなんかもう話にならないんだろうなあ」シミジミ

勇者「え゛」

村人「あ、でも、ちょっと前まではってどういう意味だべ? まさか、騎士隊長を辞めたって訳じゃないんだろ?」

勇者「いや、あの……」オロオロ

村人「ん? どうしたべ?」

勇者「ゆ、勇者に……」(小声)

村人「あ? 聞こえねえって。どしたんだべ?」

勇者「勇者に……選ばれて……」

村人「うおおおおっっ!! 凄えな、本当だべか!? 勇者様に!?」

勇者「……いや、あの、でも! た、大した事ないから! たまたま選ばれたっていうか、偶然選ばれたっていうか、ま、間違いで選ばれた的な!!」

村人「なーに謙遜してんだべか! そんじゃ何か! 女神様の神託があったって事か! てーしたもんだな! おめえがあの伝説の勇者様か!」

勇者「いや、本当に凄くないから! 大した事ないから!」アセアセ



444:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/10(木) 15:34:02.46 ID:nGrTViXfo

村人「これもう、大ニュースだべな! まっさか、本当におめえが勇者様になってるだなんてな!」

勇者「いや、ニュースでも何でもないから! 俺なんか本当に選ばれただけっぽいし! 大して強くないし!」

村人「はっはっは! 強い奴ほどそういうんだべなあ! まさか、こんなところでそんなお決まりの台詞が聞けるだなんて思わなかったべ!」

勇者「いや、本当だから! そんな強くないんだって、俺!」

村人「こりゃあれだ、村長とかにも早速報告しねえとな」スタスタ

勇者「ちょ、待って待って! おじさん、待って!!」ガシッ (服を掴む)

村人「おーい、村長ー!! それにみんなー!! 伝説の勇者様が来たぞー!!」スタスタ

勇者「ちょおおおっ!!!」ズルズル



445:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/10(木) 15:34:56.05 ID:nGrTViXfo

ー 村長の家 ー


村長「ああ、懐かしいのう。あの本を借りに来てた鼻たれ坊主が、本当に勇者様になっておるとは……」シミジミ

【山奥の村長】
『体力 :536万
 攻撃力:221万
 防御力:209万
 魔力 :348万
 素早さ:217万』


神父「まったくですなあ……。陛下から頂いた証明手形も本物……。いやはや、驚きましたよ」シミジミ

【山奥の神父】
『体力 :599万
 攻撃力:207万
 防御力:311万
 魔力 :475万
 素早さ:184万』


村長の奥さん「本当にねえ、立派になって」シミジミ

【山奥の村長の妻】
『体力 :487万
 攻撃力:218万
 防御力:265万
 魔力 :331万
 素早さ:189万』


女村人B「なんかもう、嬉しいわあ。オバサン、涙出てきちゃう」グスンッ

【山奥の女村人】
『体力 :842万
 攻撃力:694万
 防御力:716万
 魔力 :328万
 素早さ:652万』



勇者(全員、雰囲気がヤバい……!)ガクガク



446:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/10(木) 15:36:25.44 ID:nGrTViXfo

村長「しかし、こうして見ると流石は勇者様じゃなあ。まず、体から溢れ出る雰囲気からして違うからのう」

神父「ええ、本当に。よくぞここまで凛々しくなりまして……」

村長の奥さん「乗ってきた馬も、凄かったわよねえ……。毛づやも良くて、張りがあって。さぞかし名馬なんでしょうねえ」

女村人B「本当にね、あんな小さくてやんちゃだった子がこんな立派になってね」グスンッ


勇者(今すぐ逃げ出したい……)ガクガク



447:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/10(木) 15:37:06.79 ID:nGrTViXfo

村長「ああ、そうじゃ。ばーさん、お茶と菓子を。勇者様に何も出さんとは失礼じゃぞ」

村長の奥さん「ああ、そうですね。あんまりにも懐かしくてついね……。すぐに用意するわ」ソソクサ


勇者「いえ……お構い無く……」ガクガク


神父「しかし、あの子達の言う事は本当に正しかったんですね……。美しい友情です」ウンウン

女村人B「そうね。みんな、勇者は必ず来るって自信を持って言ってたものねえ」グスッ

勇者「!?」



448:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/10(木) 15:38:00.36 ID:nGrTViXfo

勇者「あ、あの……! その『みんな』って言うのは、もしかして!」

神父「ええ、そうですよ。あなたが子供の頃に仲良く遊んでいた、あの五人です」ニッコリ

女村人B「みんなもね、村からはもう何年も前に出て行ったんだけどね。でも、ついこの間、帰ってきて」

村長「そうじゃったなあ。それで揃って、近い内に『勇者(名前)』がここに来るはずだからと言ってな。しかも、伝説の勇者になって帰って来ると」

勇者「みんなが……!」


村長の奥さん「ええ、そうなのよ」テクテク

村長の奥さん「私らはね。その時、ろくに信じてなかったんだけど……。だって伝説の勇者様でしょ? いくらなんでもねえって……。でも、ほんにその通りになって……」

村長の奥さん「あ、これ、お待たせしたわね。お茶と草餅。どちらも私が作ったのよ。口に合うかわからないけど」ソッ

勇者「あ、ありがとうございます」ペコッ



450:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/10(木) 15:39:14.06 ID:nGrTViXfo

勇者「そうか……。もうみんな来てたんだ……!」

女村人B「嬉しいわよねえ。良い話だわあ……。あらやだ、また涙が。最近、めっきり涙もろくなって駄目ね……」グスッ

勇者「なら、すみませんけど、俺もすぐにみんなの所に行きます! いる場所はわかってるんで!」

村長の奥さん「あらそう? でも、せめてお茶だけでも飲んでったら? 折角用意したんだし、ね?」

勇者「あ、そうですよね、すみません! 頂きます!」パクッ、モグモグ

勇者「美味い! この草餅、凄く美味しいですね!」


タラッタラッタッター♪
【勇者の体力が19上がった!!
 勇者の攻撃力が16上がった!!
 勇者の防御力が18上がった!!
 勇者の魔力が20上がった!!
 勇者の素早さが18上がった!!】


村長の奥さん「そう? 隠し味に裏の畑で取れた種をすり潰して入れてるの。そのせいかしらね」


勇者「いや、本当に美味いです。初めて食べる味です、これ!」ゴクッ

勇者「わ、このお茶も清みきった味で美味しい!」


タラッタラッタッター♪
【勇者の体力が11上がった!!
 勇者の攻撃力が8上がった!!
 勇者の防御力が9上がった!!
 勇者の魔力が8上がった!!
 勇者の素早さが7上がった!!】


村長の奥さん「そっちもやっぱり種をすり潰したやつをブレンドして、少しだけ入れてあるの。腐るほど収穫出来るものだから、他の料理とかでも色々使ってるのよ」

神父「そういえば、あなたがいた時にはこの種はなかったものでしたね。今じゃこの村では香辛料や薬味の代わりとして当たり前の様に使われてるんですが」

勇者「いや、これ、凄く良いものですよ。何て言うか、力が湧いてくる感じで」

村長「こんなものが良いのかのう? わしらにはわからんがなあ……」



451:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/10(木) 15:40:20.94 ID:nGrTViXfo

勇者「それじゃあ、すみませんが、俺はこれで行きます! ご馳走さまでした!」

勇者「また後で、改めて挨拶に来るので!」


村長「そうじゃな、再開を楽しんできなさい」

村長の奥さん「気を付けてね」

神父「積もる話もあるでしょうし、私たちの事は気にせず、ゆっくりしてくると良いでしょう」

女村人B「戻ってきたら、後であたしん家に来なよ。ご馳走するからね」


勇者「はい! それじゃ、また!」クルッ

ガチャッ、タタタタッ……



村長「若いのう……。羨ましいわい」シミジミ

村長の奥さん「ほんにねえ……」シミジミ

神父「しかし、良い子に育ってくれました……。精悍で、礼儀正しく、心の清い子です……」

女村人B「本当にねえ。イタズラしたり柵をこっそり抜け出したりとかで、毎日、村中を走り回ってたのが嘘みたいだねえ……」グスッ



452:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/10(木) 15:41:35.73 ID:nGrTViXfo

ー 村の外れ近く ー


タッタッタ……


勇者「最初、どうなる事かと思ったけど……」


タッタッタ……


勇者「そりゃ、かなり驚いたし怖かったけど、やっぱりみんな良い人ばかりだった」


タッタッタ……


勇者「それに強い! 俺は、自分では強い方だと思ってたけど、それこそ井の中の蛙だったんだな。知らず知らず天狗になりかけてたんだ」


タッタッタ……


勇者「どうやってあれだけ強くなったのかわからないけど、でも、ここでその教えを乞えば、俺もきっと! もっと強くなれる!」


タッタッタ……


勇者「最初、気後れしたのが恥ずかしい。俺は勇者じゃないか! 勇者はいつでもどんな時でも諦めない、常に前向きに生きないと!」


タッタッタ……


勇者「みんなの為にも! 仲間の為にも! 俺は精一杯強くならないと駄目なんだ! それでこそ勇者なんだから!」


タッタッタ……


勇者「見えてきた! ここを曲がって通り過ぎれば、あの木が正面に……! 正面に……。正面に……?」


タッ……タッ……タ……


勇者「ない!? 折れてる!?」


切り株「」…………



481:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/13(日) 16:53:16.82 ID:0AI19Bpuo

ここで、話は一旦、600年前にまで遡る……




ー 魔界、奥深くの山小屋 ー


魔老師「どうしても行くのか、小僧……」

魔王「ええ、師匠。失礼ながら、もう貴方から学ぶ事は何もない」

魔老師「ちいとばかし、強くなった程度ですぐに自惚れおって……。ワシから見れば、お前など半人前にもなりきれておらんぞ」

魔王「なら……試されますか? 師匠殺しの汚名を受けるのは本意ではないですが……」ゴゴゴゴゴ……

魔老師「この老体で、今更若いお前とやる気はないわい……。ワシが半人前だと言うておるのは、その血気盛んなところだ。お前は覇気が強すぎる……」

魔王「覇気があるのは結構、ないよりは遥かに良いかと」

魔老師「バカタレ。明鏡止水の心こそ、武の本質じゃ。結局、お前はワシから何も学んでおらんではないか……」

魔王「そうやって魔族らしからぬ妙な境地を悟ったせいで、魔界を統一出来る程の腕を持ちながらも振るわず、無為に腐らせ、今ではただの老いた一魔族へと変貌してしまったのが師匠でしょう」

魔老師「水が低きに流れるが如く、普通の一生を普通に生きただけじゃ。それが当たり前の事じゃろうが」

魔王「生憎、私と師匠とでは、『普通』に差がありすぎるようで。師匠の終着点が、私にとっては出発点ですから」

魔老師「魔界を統一する気か……。下らぬ事を」

魔王「覇道を歩むつもりです」

魔老師「だから、下らぬと言っておる。世俗にまみれおって……」



482:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/13(日) 16:54:18.73 ID:0AI19Bpuo

魔老師「お前には期待しておったんじゃがな……。だが、ワシの目が曇っておったようじゃ……。腕ばかりが強くなって、心はまるで子供のままじゃ……」

魔王「ならば、それで結構。子供の夢が世界征服で何が悪いのか」

魔老師「…………」

魔王「師匠、私はその内魔界を統一し、ひいては神界、竜界まで統一しましょう。果ては伝説の中の異界まで!」


※注釈
竜界=人間界
魔族からしたら、人間は元から眼中にない


魔老師「戦乱を広げて何になる……。愚か者めが……」

魔王「その愚か者がこの世で唯一無二の覇者となる様、とくとご覧あれ」

魔老師「…………」


魔王「では、私はこれで。もう会う事もないでしょうが、残りの余生をどうか御自愛下さい」クルッ

魔王「」スタスタ……


魔老師「跳ねっ返りが……。実に嘆かわしいわい……」



483:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/13(日) 16:55:28.17 ID:0AI19Bpuo

250年前




ー 魔界。魔王城、玉座の間 ー


魔学者「此度は、魔界の統一、おめでとうございます」

魔王「よい。堅苦しい挨拶は好きではない。それよりもこの忙しい時期にお前を呼び出したのには当然理由がある。早速本題に入るぞ」

魔学者「はっ。何でございましょう」

魔王「今、お前たちが研究している合成魔獣だ。これまで十年以上研究資金を出してきたが、その間に、成果はどれだけ出した」

魔学者「つい先日、御報告申し上げた通り、眠り獅子と二股ヘビの掛け合わせが成功し、『キメラ』というまったく新しい魔獣が生まれました」

魔王「そうだな。十年かけてあの程度だ。戦力にすらならん」

魔学者「ですが、新しい魔獣を生み出すのに成功しただけでも、これは記録的な大進歩です。これからこの研究を続けていけば、魔王様が望む、強力な魔獣が続々と生まれてくる事でしょう」

魔王「魔学者……。何を勘違いしている? これだけわかりやすく言っても自覚がないようだから説明してやる。今のお前は単なる無駄飯食らいだと、余は言っているのだ」

魔学者「い、いえ、ですが! 研究というものは時間がかかるものでして! そこは十年などではなく、百年二百年という長い目で見て頂かないと!」

魔王「言い訳無用。合成魔獣の研究は今日をもって取り止めとする。これ以上は続ける価値がない」

魔学者「っ!!」

魔王「代わりに、別の研究をしろ。神界・竜界・魔界を繋ぐ、通称『次元の扉』についてだ。これを解析して、移動条件を調べあげろ」

魔王「現状だと、運任せでしか移動出来ないからな。それでは、軍を送る事など不可能だ。そこを何とかしろ」

魔学者「軍……ですか?」

魔王「三界を制覇するのが、余の望みだ。これ以上、説明は不要であろう」

魔学者「……か、かしこまりました。研究員全員にその様に伝えておきます……」

魔王「うむ」



484:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/13(日) 16:56:34.64 ID:0AI19Bpuo

ー 魔界、辺境の集落 ー


牛鬼「ヴォォォ。ヴォム、ヴァリリィ」(全長16メートル)

ベヒーモス「ヴルルルル。ヴォルルルフ」(全長23メートル)

(立ち話)


魔老師「」テクテク

魔老師「そうか……。あやつ、本当に魔界を掌握しおったか……」

魔老師「そして、次は神界や竜界にまで戦争を仕掛ける準備をしておるとは……」

魔老師「全て師たるワシの責任か……。だが、この老いぼれ、最早何も出来ぬわ……」

魔老師「歳を重ねるごとに弱くなっていくのがわかるからのう……。今や、全盛期の三分の一程度か……」

魔老師「もう魔界には未練もない。無為に死んでいく同胞も見とうない……。どこか静かなところで暮らしたいわ……」


魔老師「どこか、静かに死ねる場所を……」スタスタ……




485:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/13(日) 16:57:47.32 ID:0AI19Bpuo

15年前



ー 竜界(人間界)。山奥の村 ー


少年B「…………」ブンッ、ブンッ (素振り)

少年B「」ハァ……

少年B「やっぱりあいつがいねえと物足りねえな……」ショボン

少女A「うん……」

少女C「言わなくてもわかってるってば、そんなの! でも、もういないんだから仕方ないじゃない!」

少女E「やめよう。またケンカになっちゃうよ……。『勇者(名前)』が出て行っちゃってから、まだ一週間も経ってないのに……。こんなんじゃ、きっと『勇者(名前)』もがっかりするよ……」

少年D「ならさ……これからみんなでちょっと冒険の旅に出ない? 練習みたいな感じで」

少女E「冒険の旅って……?」

少年D「柵の外に出るんだよ。抜け穴見つけたからさ。ちょっとだけ。夕飯が出来る前までの間だけでも」

少女A「だ、だけど、柵の外に出たら怒られちゃうよ……」

少年B「いや、俺は行くぞ! こうなったら魔物をギッタンギッタンにしてやる!」ブンッ、ブンッ

少女C「あたしも行く! やる事なくてつまんないし!」

少女E「みんなが行くなら……。私も行く」

少女A「え、みんな行っちゃうの……? じゃ、じゃあ、あの……わたしも行く……」

少年B「よしっ! そんじゃあ行くか! みんなで冒険の練習だ!」

少年D「決まりだね。それじゃあ、みんなこっちに来て。見つかったらまずいから、こっそりだよ」

少女C「うん!」



486:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/13(日) 16:59:02.74 ID:0AI19Bpuo

ー 村の外 ー


少年B「なんか、すっごいドキドキするな」

少女A「う、うん……」ドキドキ

少女C「あたし、初めて村の外に出た。しかもこんなに遠くまで」

少女E「私も……。でも、結構、普通……」キョロキョロ

少年D「そりゃそうだよ。でも、魔物が時々出るから気を付けてね。スライムぐらいならどうにかなると思うけど、一角ウサギとか一つ目オオカミとか出たら、すぐに逃げるから」

少年B「んなもん、俺の剣で倒してやるってんだ。どっからでもかかって来い!」ブンッ

少女E「あ……。あそこ、見て。変な洞穴があるよ」

少年D「ホントだ! 中に入ってみる?」

少女C「うん! 入ろうよ! 探検、探検!」

少女A「で、でも、中は真っ暗だよ。怖いし、やめとこうよ……」オドオド

少年D「一応、ランプ持ってきてるよ。これで照らしながら進めば大丈夫だと思う」

少年B「だな! 俺は行くぜ! 中に魔物がいてもやっつけてやる!」


ガタッ!!! ガタゴト!! (洞窟の奥から物音)


少年B「」ビクッ!!
少女A「きゃあ!」
少女C「ま、魔物がいるの!?」
少年B「みんな、落ち着いて!」
少女E「う、うう……」ビクビク


カツーンッ、カツーンッ……

魔老師(魔物)「やれやれ……」ヒョコッ



「うぎゃああああああっ!! 出たああああああっ!!」





487:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/13(日) 17:00:23.16 ID:0AI19Bpuo

老師(タイプ・悪魔)「おいおい、そこの人間の子供ら。ちいと静かにしてくれんかのう……。ワシは悪さする気はないんでな……」


「しゃべったあああああああっっ!!!」


魔老師「ああ、そうか……。この辺は人語を喋る魔物がおらんからのう……。そう珍しくはないんじゃが……」

魔老師「のう、子供ら……。さっきも言った通り、ワシは悪さもしなければ、お前さん達に危害を加える気もない……。じゃから、退治とか言わず、そっとしといてくれんか……?」


少年B「だだだだだだって、じじ爺さんは、ま、魔物じゃないか! そんなのウソだ!!」ブルブル


魔老師「そうじゃのう。確かにもう七千年ぐらいは、魔物やっとるがのう……」

魔老師「じゃが、嘘はつかんぞ……。ワシは魔物の中でもちょっと変わっとるんじゃ。そこまで攻撃衝動にかられる事はないしのう……」

魔老師「それにな。ここの山はな……。ええ、山なんじゃ……。色々旅したが、ここほど魔力が満ちておって、じゃが静かで落ち着いておる山はどこにもなかった……」

魔老師「多分、ここの地中の奥深くにでっかい魔石でも眠っとるんじゃろうなあ……。ここだけきっと特別なんじゃて……」

魔老師「じゃから、ワシは死ぬならこの山で死にたいんじゃ……。多分もう十年か二十年の命じゃからのう……」

魔老師「子供ら……。見逃してくれんか? あんまり騒がれると、ワシはこの山から出ていかなければならなくなる……。それは嫌なんじゃて……」


少年D「こ、こう言ってるけど……ど、どうしよう?」アセアセ

少女E「う、嘘ついてるかもしれないよ。簡単に信じちゃ良くないよ」

少女A「ううん……。わたし、わかるよ。このお爺ちゃん、ウソなんかついてない。本当の事だって信じる……」

少女C「う……。少女Aがそう言うなら……ホントかもね」

少年B「少女A、ウソを見破るの得意だもんな……」

少年D「そうだね。何故か『勇者(名前)』の嘘だけは見破れなかったけど……。それ以外だとこれまで外した事なかったし……」



488:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/13(日) 17:01:58.91 ID:0AI19Bpuo

ー しばらく後 ー


少女A「へえ……。お爺ちゃん、元は『まかい』とかいうところに住んでたんだ」

魔老師「ああ、じゃがのう……。とある事があって、嫌気がさしてしもうてのう……。それで長い間、色々なところを旅してな……」

魔老師「それで、ようやっと見つけた落ち着ける場所がこの山だったんじゃ……」

魔老師「とある事については、詳しくは言えんが……。お前さんらには本当に迷惑かけたわい……」

魔老師「悪かったなあ……。謝って済む事じゃあないが、どうか許しておくれ……」ペコッ

少年D「?」

少年B「そんな事よりもさ、爺ちゃん! 魔族なら爺ちゃんも強いんじゃないか? いっちょ、俺と勝負してみないか!」サッ (木剣を構える)

魔老師「勝負か……。若いもんは元気があってええのう……。それに、お前さんはキラキラしたええ目をしておる。ワシの若い頃によう似とるわ……」シミジミ

少年B「げっ! 爺ちゃんにかよ! それはやだなあ」

少女E「」クスクス

魔老師「まあ、ええぞ。こういうのも久しぶりじゃからなあ……。どこからでもかかって来るとええ……」

少年B「どっからでもって、爺ちゃん、武器もないし座ったままじゃないか! これじゃ勝負になんないだろ!」

魔老師「ふぉっふぉっふぉっ、武器ならここにあるぞい」ソッ

少年B「!? 俺の木剣!?」

少女C「すごーい! いつのまに少年Bから取ったの!?」

少年D「全然気が付かなかった……」

魔老師「ワシとお前さんらでは、それぐらい差があるという事じゃ。勝負になるには二千年は早いかのう」

少年B「うぐぐぐぐっ……」

少女C「なら、お爺ちゃん! あたしとも勝負だ!」ビシッ (拳を構える)

魔老師「もうついとるぞい」

少女C「ふえああああああっ!!」ゴロゴロ

少女A「ああっ! 少女Cちゃんが転がってく!!」

少年B「爺ちゃんTUEEEEEEEEEEEEEE!!!」


魔老師「ふぉっふぉっふぉっ」

【魔闘錬清流・開祖】
『体力 :332万
 攻撃力:274万
 防御力:286万
 魔力 :245万
 素早さ:319万』



489:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/13(日) 17:04:42.41 ID:0AI19Bpuo

少年B「なあ、爺ちゃん! 爺ちゃんスゲー強いし、良かったら、俺らに稽古をつけてくれないか!」

少年D「あ、それいいかも。僕ら、強くなりたいんです。大きくなったら、みんなで魔王を倒しに行くって約束をしてるから!」

魔老師「ほうほう……。あのバカ魔王をか……。ああ、そりゃええかもな。うん、ええ事じゃ」

少女A「……? お爺ちゃん、魔物なのに、魔王は嫌いなの?」

魔老師「そりゃもう、嫌いじゃわい。あやつはとんでもない大バカ者じゃて。せめて魔界の統一までにとどめておけば良かったものをなあ……」

魔老師「煙のないところに、わざわざ火を起こしおって……。その為にどれだけ無駄な犠牲が流れた事か……」

少女C「うん……。あたしも魔王は大っ嫌い! あいつのせいで、みんな困ってるんだから! 人だって一杯死んでるし!」

少女E「柵を作ってその中で暮らす事になってるのも、魔王のせい……。町に行けば、読んだ事のない本とか一杯あるのに、滅多に行けないし……」

少女A「『勇者(名前)』にずっと会えなくなったのも……魔王のせい。魔物がいなかったら、きっと普通に旅して会いに行けるのに……」グスッ

魔老師「そうじゃなあ……。例えどれだけ強くなろうとも、その強さに溺れて周りを傷付ける様な事だけは絶対にしてはいかん……。優しい心を持つ者こそが、真の強さを持つ者じゃ」

魔老師「それに、修業だけでなく、勉学もせねばならん……。知識は人の器量を大きくする。物語は人の心を育てる……」

魔老師「それらも一生懸命勉強すると言うのなら……お前さんらに教えてやってもええぞ」

魔老師「強さとは、どういうものかをな……」


少年B「じゃあ!」

少女C「稽古をつけてくれるの!」

魔老師「ああ、ええとも……。いつか、本当に強くなって、それで魔王を倒すといい……。そして、世界に平和をもたらしとくれ……」

少年D「やった!」

少女E「ありがとね、お爺ちゃん!」

魔老師「代わりにワシの事は内緒じゃぞ……。魔物と仲良しになっとったら、きっと村のもんが誤解するからのう……」

少女A「うん! 大丈夫だよ。絶対に内緒にする」



490:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/13(日) 17:06:35.44 ID:0AI19Bpuo

ー 翌日 ー


魔老師「村の者には見つからんよう、ちゃんと出てきたかの?」

少年B「もちろん!」
少女A「大丈夫」
少年D「平気だよ」
少女E「」コクッ
少女C「まっかせて!」

魔老師「それでは、まずはこれからじゃな。ほれ」スッ

『少年少女はクワとスキを手に入れた!』

少女A「……?」

少年B「爺ちゃん、これ何だよ? 畑でも作るってのか?」

魔老師「うむ。まずは体力作りからじゃ……。畑を耕してこれを植えるのじゃぞ」スッ

『少年少女は、体力の種・力の種・守りの種・魔力の種・素早さの種を手に入れた!』

少女E「これ、何の種……?」

魔老師「ワシお気に入りの植物の種じゃ。茎や実は苦くて食えんが、種が美味でのう……。滅多にない貴重品じゃぞ」

魔老師「普通は栽培出来る様な代物じゃないんじゃが……長年かけてちょっと品種改良してやってな。種もかなり取れる様にしてやったわい。ここの土地はええ土地じゃから、きっと良い種が幾つも取れるじゃろ……」

少女A「じゃあ、まずはお爺ちゃんのお手伝いって事?」

少年D「授業料みたいな感じかな……。うん。ただで教えてもらうのも気が引けるし、やろうか」

少女C「だね! お爺ちゃんにも喜んでもらいたいし!」

少女E「がんばる……」

少年B「うしっ! 早速取りかかるぞ!」


魔老師「うんうん……。ほんにええ子揃いじゃなあ」ホロリ



492:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/13(日) 17:08:36.92 ID:0AI19Bpuo

それから、五人の修業の日々が始まる……



魔老師「ほい、ほい。剣というものはじゃな、腕で振るのではなく、心で振るものじゃぞ」ペシッ、ペシッ

少年B「意味がわかんねえよ、爺ちゃん! あと、痛い! 痛いって!」


魔老師「お前さんは優しい良い心を持っておるな……。ならば、魔法なんぞに頼ろうとするな。慈悲の心こそが、真の回復魔法に通じる道じゃぞ」

少女A「????」


魔老師「ふぉっふぉっふぉっ。体を鍛えるなんぞ無意味じゃて。武道を極めようとするなら、まずは自然の声に耳を傾けてみ。筋力など不要になってくるぞい」ポーイッ

少女C「ふぎゃあああああっ!!」ヒューン


魔老師「まずは魔法ではなく、魔力そのものを出す事から始めようかの。これが出来れば、大体どんな魔法でも習得出来るようになるからの」

少年D「魔法じゃなくて……魔力??」


魔老師「お前さんは商人を目指すのか。なら、何よりも知識じゃろうて。昔話とか、偉人伝とか、民話とかそこらから始めて、果ては数学、経済学、帝王学、法学、経営学、生物学、科学、化学、魔法学、魔導学、まあそんなところを教えてやろうかの」

少女E「」



493:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/13(日) 17:10:25.17 ID:0AI19Bpuo

案の定、途中で村の人達に見つかってしまったが……



少女A「やめて! このお爺ちゃんは良い魔族なの! 悪い事なんてしないの!」

少女C「そうだよ! 爺ちゃん、何もしてないじゃないか!」

少年B「それに、爺ちゃんをここから追い出そうって言うなら、俺らも村から出てくぞ!」

少年D「父さん母さん、話だけでも聞いてよ!」

少女E「お爺ちゃんの話をちゃんと聞けばわかるから! ね!」



村人A「むう……。村長……どうする?」

村長「……とりあえず、子供らが向こう側についとるからな。催眠とかそんな類いかもしれんが、話だけでも聞くしかなかろう」

神父「……ですが、もしもその途中で子供らに何かした時は」

村人B「俺らも鎌とか持ってからな。八つ裂きにしてやるべ!」

村人C「覚悟しとけよ!」


魔老師「わかっとる……。それより、後で子供らを責めんでやっとくれよ。ワシが秘密にしといて欲しいと頼んだ事じゃからな……」

少年B「爺ちゃんは悪くない! それに、爺ちゃん、スゴい強いんだからな!」

少女A「わたしたちも……勝手に外に出てごめんなさい。だから、お爺ちゃんを追い出すのはやめて……」グシュッ

少女E「お願い……」ペコッ

少年D「お爺さんは良い魔族なんだよ! それは本当だから!」

少女C「悪い事したのはあたしらだけ! 信じて!」



村長「……とりあえず、子供らがああ言っとる事だし、危害を加えない事だけは約束しよう。じゃから、子供らがこっちに戻ってくるよう説得してくれんか? 話はそれから聞くから……」

魔老師「もっともじゃな……。心配かけさせて、申し訳ないのう……。さ、お前たちは向こうにお行き……」



496:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/13(日) 17:12:57.09 ID:0AI19Bpuo

子供たちの熱意もあり、紆余曲折の末、徐々に村人からの信頼を得ていく魔老師……



村長「話はわかった。じゃが、全部を信用した訳ではない。あんたが悪い魔物じゃないと、ワシらが信じるまでは、逐一、見張らさせてもらうが構わんか?」

魔老師「よいとも……。監視されて困る様な事はしておらんからのう……」


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村人C「爺さん……。突然、すまねえ。実は、うちの嫁さんが変な病気になっちまったんだ……」グシュッ

村人C「神父様も手に負えねえって……。あんた、子供らから聞いたけど魔法も凄いんだろ……? お願いだから、治せなくてもいいから、診てもらえるだけ診てもらえねえかな……」ポロポロ

魔老師「ええとも、ええとも。気功と魔法を修めたワシに治せん病気などないぞ……。安心するがええ」


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村人D「うわ! きょ、巨大な魔物が村のすぐ近くに!!」

魔老師「やれやれ……。軍からはぐれた魔物が迷い込んできよったのかのう……。ほいさと」ドゴオオオオオオオオン!!!

村人D「うおおおおおおおおっ!!! 爺さんTUEEEEEEEEEEEEEE!!!」


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村人E「今年は雨が降らねえな……。このままじゃ、凶作になっちまう……」

魔老師「雨は無理じゃが、水なら魔法でいくらでも出せるぞ。ほれ」ドボドボドボドボドボドボドボ

村人E「爺さんSUGEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!」


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村人F「へえ、こりゃうめえな爺さん! この種、おらも育てたいから、少し貰ってもええだか?」

魔老師「ああ、ええぞ。子供らが育ててくれとるし、何よりここの土地は収穫が段違いだからのう……。腐るほどあるから、好きなだけ持ってくとええ」


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村人G「爺さん、良かったら子供たちだけじゃなく、おら達にも武術ってもんを教えてくれねえだか? 最近、やけに畑仕事が早く済むから時間が余ってんだべよ」

魔老師「ええとも、ええとも。習いたい者はいくらでも来るがええ。ただし、強さに溺れる事のないよう、他の事も一緒に教えていくからな……。強さと腕力自慢を履き違えるでないぞ……」


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497:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/13(日) 17:14:52.80 ID:0AI19Bpuo

そして、魔老師と初めて出会ってから五年が過ぎたある日……



少女E(16歳)「それじゃあ、これで」

魔老師(7842歳)「うむ……。この五年でよくぞあれだけの学問を学んだわい……。物覚えが良すぎて、逆にワシが困ったほどじゃからな……」

少女E「代わりに、武術や魔法の方はまるで才能がなかったですけどね。みんなから置いてかれるばかりで」

少年B(16歳)「ホント、お前はそっちの才能はなかったよな。毎回一人だけ、別メニューだったし」

少女E「うるさいわね! 代わりに学問じゃ毎回別メニューだったでしょ!」

少女A(14歳)「結局、あの種まで品種改良しちゃったもんね、少女Eちゃん。おかげでもっと美味しくなったし」

少年B(15歳)「頭が良いっていうのも立派な才能だよね。僕にもその才能を少し分けて欲しかったって思うもんなあ」

少女C(15歳)「でも、本当に行っちゃうんだね。また、寂しくなるなぁ……」

少女E「もう16歳だしね。それに、武術とかじゃ勇者の役には立てないってはっきりしちゃったし。ここでない才能を伸ばそうとするより、別の事で私は役に立とうと思って」

魔老師「そうじゃな……。旅するには資金が不可欠じゃ……。それに、情報とかも。これは馬鹿に出来んぞ。むしろ、一番重要な事かもしれん」

少女E「私もそう思います。だから、これからはガンガンお金を稼いで、十年後には勇者がびっくりするぐらいの大金持ちになってやろうかなって」

魔老師「うむうむ……。それも良い事じゃて……。頑張るんじゃぞ。たまには帰って来いよ……」

少女E「はい! 行ってきます!」



498:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/13(日) 17:17:29.80 ID:0AI19Bpuo

更に五年後……



魔老師「」ゴホッ、ゴホッ

魔老師「お前たち……。よくぞこれまで十年間、真面目に修業をした……」

魔老師「ワシから教える事は……もう何もない……」

魔老師「これからは……自分達で修業をしていくと良い……。世界を見て……己を知って……そして五年後に……」ゴホッ、ゴホッ

魔老師「幼い頃の約束通り……勇者と共に旅立ち……魔王を倒してくるのじゃ……」

魔老師「驕るな……負けるな……そして、大きく世界へと羽ばたいて来い……」ゴホッ、ゴホッ

魔老師「我が愛する弟子たちよ……」


少年B「はいっ! 師匠!!」グスッ

少女A「お爺ちゃんも……体に気を付けてね……。無茶しちゃ駄目だよ……」グシュッ、ヒック

少女C「あたし達、次に会った時はもっともっと強くなってるから!!」グスッ

少年D「先生も……どうかお元気で……」ポロポロ


魔老師「ふぉっふぉっふぉっ……。そうじゃなあ……。お前たちが戻ってくるまでは……絶対に生きておるからな……」ゴホッ、ゴホッ

魔老師「しっかり……強くなって帰って来いよ……」


「はいっ!!!」

 



499:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/13(日) 17:18:20.45 ID:0AI19Bpuo

ー 下山後。山の麓辺り ー



少年B「それじゃあ、俺は手始めに東の国に行く。向こうは今、荒んでるって聞くからな。修業の身としては丁度いい」

少女A「わたしは北の国に行くね。向こうはいつも水不足に困ってるって聞くから」

少年D「僕は西の国に。向こうは珍しい本が沢山あるって話だからね」

少女C「あたしは船に乗って世界中を回ってみる」


少年B「だけど、忘れるなよ」

少女A「うん。少女Eちゃんみたいに、一年に一回は必ず山奥の村に帰ってきて……」

少年D「先生の様子を見に行く」

少女C「何かあったらすぐに連絡出来るよう、今の居場所を村長に教えておく事! 大丈夫だよな!」


「それじゃあ、またな! お互い強くなろうな!」

「うん!」

 



500:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/13(日) 17:19:24.90 ID:0AI19Bpuo

しばらく後……


ー 東の国、地方の町 ー



役人「ふざけんなっ!! とっとと税金を納めやがれ!!」

商人「で、ですが、これだけ高くてはとても支払いなど……!」

役人「なら、代わりにてめえんとこの商品を貰ってくぞ! それしか方法がないからな!」ガタッ、ドサッ

商人「お、お止め下さい! それを取られては売る物が無くなって生活出来なくなってしまいます!」

役人「黙れ!」ドゲシッ

商人「ぐはっ!」ドサッ

役人「何なら、てめえんとこの嫁や娘を売り飛ばしてもいいんだぜ! それをされたくなかったら、大人しくしてろ!」チャキッ (剣を抜く)

商人「ひ、ひぃっ!!」

役人「しっかし、しけたもんしかねえな。ろくな物がありゃしねえ」ゴサッ、ゴトゴト、バリンッ

商人「あ、ああああああああっ!!」ポロポロ



少年B「これは酷いな……。想像以上だ……」

少年B「重税に、厳し過ぎる法律。なのに、逆に役人は威張り散らして、権力をかさに着てやりたい放題だ……」

少年B「こんなの、見過ごしておけるか! 俺がこの国を変えてやる!!」



501:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/13(日) 17:20:39.24 ID:0AI19Bpuo

ー 北の国、小さな村 ー



少女A「はい、どうぞ。お水です。川を潤しておきますね」ドポドポドポドポ

村人A「おおっ! ありがたや、ありがたや……。これで田んぼに水が張れます。今年は何とか生きていける……」

少女A「そう、良かった。でも、ここら辺一帯には井戸とかないんですか? どこも水不足だって聞きましたけど……」

村人B「あるにはあるんだがねえ……。すぐに干からびちまうんだ。乾燥した地域だし、雨がろくに降らねえんでな……」

少女A「そうなんですか……」

村人C「昔はもっと雨が降ったもんなんだがなあ……。女神様の力が弱くなったかもしんなくてな……。魔王が出てきてからは本当に雨が少なくなっちまった……」

少女A「女神様の力が弱まって……」


「おーいっ!! 大変だあぁぁっ!!」


村人A「何だ、どうした!?」


村人D「」ハァハァ、ハァハァ

村人D「む、村の近くにりりり竜が出ただっ!! そんで、旅の娘が今、そこにっっ!!」


村人A「!!?」
村人B「竜が!?」
村人C「なしてこんなとこに!?」


少女A「!!」タタタタタッ

村人D「あ、ちょっとあんた、どこさ行くだ!!」

少女A「その子を助けに行くっ!!」タタタタタッ


村人D「む、無茶だ!! 絶対殺されるぞっ!!」



502:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/13(日) 17:22:08.75 ID:0AI19Bpuo

ー 西の国、貴族の屋敷 ー



少年D「凄い……。王都でもないのに、これだけの書物があるなんて……」

少年D「しかも、魔法関連の書物ばかりだ。あ、こっちには魔導書が。こっちは魔物関連のが」バサッ、ドサッ

貴族「お気に召したかね、魔法使い殿?」

少年D「ええ、とても。ありがとうございます。助かります」

貴族「いやいや、礼など要らぬよ。我が領地に現れた魔物を無償で倒してもらったのだからな。こんな物で済むならお安いご用だ」

少年D「とんでもない。ここの図書室は金貨100枚以上の価値がありますよ。こちらは、貴族様が集められたのですか?」

貴族「いや、先代の先代が古書好きでな。私ではないし、私には価値がさっぱりわからんよ。書いてある文字すら読めんからな」

少年D「ほとんどが古代文字ですからね。しかし、素晴らしいです。しばらく滞在して、ここの本を読ませてもらう事は出来ますか?」

貴族「構わんよ。好きなだけいるといい。部屋も用意させておこう」

少年D「ありがとうございます!」

貴族「それでは、私はこれで失礼するよ。食事の時間になったら、メイドを遣わそう。それではな」クルッ、スタスタ

バタンッ……


少年D「助かるなあ。ありがたい話だ」

少年D「読みたいものばかりだからな。この魔物大全集とか、他にも魔導関連の書物が一杯」ゴソゴソ

ザザッ、バサッ (積み上げていた本が落ちる)

少年D「っと、いけない。貴重な書物だっていうのに」ササッ

少年D「ん……これは?」

少年D「異界移動の儀……? 昔、先生から異界の事は伝説として聞いてたけど、本当に異界なんてあるのかな……? あるのならここにも行ってみたいものだけど……」ペラッ、ペラッ……



503:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/13(日) 17:24:33.13 ID:0AI19Bpuo

ー 南の国、海上 ー


船員「大変です、船長!! 向こうから海賊船が!!」

船員「あれは、疾風の海賊団の旗です!! まずい!!」


ワー、キャー、タスケテー!!


船長「舵を西に取れぃぃっ!! 逃げるぞ! 全速前進!! 」

船長「それと、客を落ち着かせろ!! 邪魔だから、船室にでも全員ぶちこんどけ!!」

少女C「うるさいわよ! ったく! 海賊船一隻ぐらいで騒がないで!」バタンッ!!

船長「おい、何だお前は! 邪魔だから向こうに」

少女C「聞きなさいっ!!!」ビリリッ

船長「」ビクッ!!

船員「」ビクッ!!

少女C「命令は変更! 舵を正面に!! 海賊船を逆に叩き潰すわよ!!」

船長「ア、アイサー!!」

船員「アイサー!!」


少女C「まったく……。そういえば、うちの国は海の魔物が比較的少ないから、一番海賊が多い海域だったっけ」

少女C「まあ、丁度いいわ。これも何かの縁よ。折角だから、海賊達をこの海から根こそぎ葬ってやろうじゃないの」

少女C「海賊を狩る海賊といったところね。名前を変えて、この海で一暴れしてやるわ!」



504:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/13(日) 17:25:38.25 ID:0AI19Bpuo

ー 西の国、研究所 ー


少女E「とうとう立てたわ、私専用の特別研究所」

少女E「苦節、十年……。ようやく私の道が見えてきたわね」

少女E「商売の方は軌道に乗ったし、各支店長にある程度任せても大丈夫だし……」

少女E「ここで、思う存分研究出来るわ!」

少女E「そして、私が子供の頃からずっと考えてた『あれ』を現実のものにするの!」

少女E「魔結晶をたっぷり買えるだけのお金も今から貯金しておいて、五年後には『あれ』も完成させる!」

少女E「それで初めて、私は世界を救う勇者の仲間だと胸を張って言えるんだから!」



521:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:09:42.98 ID:JpBbyk/ao

そして、現在……

勇者が山奥の村に訪れる五日前の事……





ー 東の国、王宮 ー



兵士A「名剣士様、ご来訪ーーーっ!!」


バタンッ! (玉座の間の大扉が開かれる)


兵士B「」ビシッ (敬礼)
兵士C「」ビシッ (敬礼)
兵士D「」ビシッ (敬礼)
兵士E「」ビシッ (敬礼)

兵士F「」ビシッ (敬礼)
兵士G「」ビシッ (敬礼)
兵士H「」ビシッ (敬礼)
兵士I「」ビシッ (敬礼)


部屋の左右に並ぶ屈強な兵士たち

彼等は全員、歴戦の強者であり、その顔には大小の傷が武勲代わりに刻まれ、そのたたずまいには一分の隙もなかった

そんな彼等にして、自然と敬意を払わせてしまう男
それこそが部屋の中央、豪華な敷物の上をゆっくりと歩き、玉座へと近付いていく彼

即ち、名剣士である


名剣士「お久し振りでございます、陛下」

名剣士「いえ、ここではあえてこう言わせて頂きましょう。無礼の程をお許しを」


名剣士「お久し振りです、師匠」


剣聖「ははっ。そうだな。やっぱりお前はそういう言い方のがしっくり来るな」



522:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:11:43.24 ID:JpBbyk/ao

剣聖「しかし、相変わらずの厚かましさで安心したぞ。俺はお前を弟子にとった覚えなんかないんだが、いつの間にか師匠呼ばわりしやがって」

名剣士「心の師匠ですよ。それに多少は稽古をつけてもらいましたからね」

剣聖「勝手な事を。剣のいろはも教えた覚えはないんだがな」

名剣士「いの字ぐらいまでは教わったと自負してますよ。しかし、相変わらず軽いですね、師匠は。その甲冑を着こなしている身なりといい、とても国王様になられたとは思えない」

剣聖「こっちのが落ち着くんだよ。そう言うな。元は革命軍のリーダーだったのが、いきなり国王だとかに祭り上げられて一番戸惑ってるのは俺だからな」

名剣士「統率力や指揮能力とか考えれば当然ですよ。あと、その呆れるぐらいの強さもですけどね。俺は師匠に剣をかすらせた事すらないですから」

剣聖「剣の強さなんて、革命を行う上であまり必要なかったがな。クーデター起こそうってんじゃないんだ。国民の意識の改革から始めないと」

名剣士「実際、クーデターなら一日で終わってたでしょ、師匠は」

剣聖「で、何が変わるんだ? 血にまみれた独裁者が新しく誕生するだけだろ。そんなのは願い下げだ。政権が変わるのが大事なんじゃない、国民の意識が変わるのが大事なんだよ」

名剣士「わかってます。ただ、従うだけでは操り人形と同じだって。師匠の師匠の教えですよね。もう耳にタコなんで」

剣聖「俺にとっては血肉だ。師匠の教えがなければ、俺は今のこの強さも平和も手に入らなかった」

名剣士「尊敬されてるってのはよくわかってますよ。それよりも……」



523:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:13:26.04 ID:JpBbyk/ao

名剣士「多分、師匠の耳にも既に入ってますよね? 勇者が現れたって話」

剣聖「ああ、知ってる。その為に無理を言って、しばらくこの国を留守にする事を議会にねじ込んだからな。準備はもう整ってる」

名剣士「なら、わざわざ来なくても良かったですかね。師匠が動けなくて困ってるといけないと思って、何か助け船を出そうかと急いで来たんですけど」

剣聖「悪いな、気持ちだけもらっとく」

名剣士「残念ですよ。逆に恩を売る機会だと思ったのに」

剣聖「そういう奴だ、お前は。妙なところだけ俺に似てやがる」

名剣士「まあ、唯一の弟子なんでね。師匠譲りですよ、それは」

剣聖「だから、弟子にした覚えはないぞ」

名剣士「師匠と俺は元革命軍のリーダーと副リーダーじゃないですか。その時、政治やら剣術やら色々教わったし、言ってみればもう師弟みたいなもんですよ」

剣聖「強引過ぎるな。まあいい。それよりも名剣士、暇ならこれからちょっと付き合え。丁度今から旅立つつもりだったんだ。折角だから見送りをしていけ」

名剣士「もちろん、お付き合いします。久々に師匠の勇姿も見たいですしね」



524:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:15:14.71 ID:JpBbyk/ao

ー 大廊下 ー


名剣士「しかし、驚きましたよ。本当に師匠の言っていた通りになるなんて……」テクテク

剣聖「当たり前だ。ガキの頃から、俺は『勇者(名前)』にたった一回でも勝った事がないんだからな」テクテク

名剣士「そこらは正直、話し半分に聞いてたんですけどね。師匠に勝てる人間がいるなんて想像がつかなかったんで……」

名剣士「でも、師匠より強いってんなら、間違いなく世界を救う勇者に選ばれるでしょうし、実際そうなってますから。そりゃ流石に信じますよ」

剣聖「だから、俺の話した事は嘘や間違いじゃなかっただろ。今じゃ、あいつがどれだけ強くなってるか、俺にも想像がつかないしな」

剣聖「正直、剣の道はもう極めたと内心では思ってたんだが、とんだ驕りだった。俺もまだまだ修業不足だな。勇者に選ばれたあいつは、きっと俺よりも遥かに強くなってるだろうから」

名剣士「にしちゃあ、嬉しそうですよね、師匠」

剣聖「当たり前だ。子供の頃からの夢がようやく叶うんだぞ」

名剣士「っと、話してたらもう着いちゃいましたか、厩舎に」

剣聖「ああ、見送りはここまででいい。さ、行こうか、相棒」


天馬「」ヒヒーン!!



525:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:16:37.03 ID:JpBbyk/ao

剣聖「それじゃあな! 魔王を倒したら戻ってくる! 城の奴等にも宜しく伝えといてくれ!」ヒラリ

天馬「」ブルル


名剣士「ご武運を!」


剣聖「ああ、それじゃ行くぞ、相棒!」タンッ

天馬「」バッサ、バッサ (天に舞い上がってく)





名剣士「……しかし、相変わらずカッケーな、師匠は」

名剣士「天騎士の鎧に名剣デュランダルと伝説剣エクスカリバー、そしてペガサス……。神話に出てくる英雄そのものだ。勇者でないのが不思議なくらいだぜ……」



526:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:18:21.89 ID:JpBbyk/ao

ー 東の国、上空 ー



剣聖「さて、お前の速度なら山奥の村まで20分ぐらいで着くだろう。十五年前の約束を果たしに行くぞ!」

天馬「」バッサ、バッサ


剣聖「しかし、最近は政務ばかりで実戦は久し振りだからな。腕が鈍ってないといいが……」


剣聖「む……」

天馬「」バッサ、バッサ


剣聖「……珍しいな。こんなところで大型の魔物に出会うなんて」




焔鳥「SIGYAAAAAA!!!」バッサ、バッサ (全長41メートル)




剣聖「どれ、肩慣らしといくか」チャキッ


「飛剣! メ ル ト ス ラ ッ シ ュ ッ !!」


ザシュッ!!!!



焔鳥「シィ……ギィ…………」 (真っ二つ)


ヒューン……ドグシャッ!!!



剣聖「弱すぎて試し切りにもならんか。ちっ」

【天下無双の剣聖】
『体力 :9999億
 攻撃力:9999億
 防御力:9999億
 魔力 :9999億
 素早さ:9999億』

特殊技能:魔法剣
    :剛剣
    :柔剣
    :飛剣
    :聖剣
    :暗黒剣
    :暗殺剣
    :二刀流
    :無刀流
    :居合



528:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:20:05.22 ID:JpBbyk/ao

ー 中央国、大聖堂

  離れの特別礼拝堂

  最奥の間 巨大部屋 ー



ギギギギギギィィ…… (魔力でコーティングした鋼鉄製の扉が開かれる)


女「……ようやく。ようやく、お会い出来ました」

女「お久し振りでございます、女です」ペコッ……

女「今日は特別な知らせを持って参りました」

女「この世で唯一無二、世界にただ一人だけの特別なお方」

女「竜に愛されし聖女様……」



聖女「わ、久し振りだね、女ちゃん。懐かしいなあ」


その言葉とほぼ同時に、彼女のすぐ横に座っていた二匹の生物が低いうなり声を出しながら顔を上げた……

三界における最強の孤立種族ーードラゴンである


天海竜『グルルルッ……』(全長38メートル)
地海竜『ギルルルッ……』(全長38メートル)

【双子の竜族】(二匹の平均値)
『体力 :736万
 攻撃力:424万
 防御力:408万
 魔力 :357万
 素早さ:280万』



530:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:21:45.69 ID:JpBbyk/ao

聖女「少し痩せたんじゃない? 大丈夫? 元気にしてた?」

女「はい、体は健康そのものです。それもこれも全て女神様の加護の賜物です。聖女様こそ、お元気そうで何よりです」

聖女「もう、相変わらず固いなあ、女ちゃんは。もっとフレンドリーでいいって言ってるのに」

天海竜『…………』ジロッ
地海竜『…………』ギロッ

聖女「あ、ダメだよ、ドラリンにドラポン。この子はわたしの友達。攻撃したら、めっ、だからね」

天海竜『…………』コクッ
地海竜『…………』コクッ

聖女「うん。いい子たちだね。よしよし」ナデナデ

天海竜『ぐるるっ……』(ご満悦)
地海竜『ぎるるっ……』(ご満悦)


女「聖女様も初めてお会いした時から少しも変わっておられないようで安心しました……。あの時も聖女様はそうやって、竜をまるで赤子の様に大人しくさせてしまわれて……」

聖女「もう五年も前の話だっけ? そういえば女ちゃん、あの時、竜に襲われかけてたよね」

女「はい。そこを聖女様に助けて頂きました。まるで奇跡を見ているかのようでした」

聖女「大袈裟だよ。竜は元々大人しい種族なんだから、きちんと話せばわかってくれるもの。こっちに悪意とか恐怖がなければ平気よ」

女「それを言えるのは、世界で唯一、聖女様だけですよ。正直、私は今でも竜は怖いですし……」

聖女「そうなの? こんなに可愛いのにね」ナデナデ

天海竜『ぐるるるるっ……』(ご満悦)
地海竜『ぎるるるるっ……』(ご満悦)


女(猫みたいな鳴き声を出してる……)



531:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:23:48.91 ID:JpBbyk/ao

聖女「それで、今日はどうしたの? 何か特別な報せがあるって言ってたけど」

女「はい。吉報です。聖女様が前に話しておられた勇者様が現れたのです。名前も確認しましたが、以前お聞きしていた通り勇者様ご本人で間違いありません」

聖女「ああ、うん、知ってるよ。女神様から直接聞いたから」

女「そうですか。直接お伝えを受けるとは、流石は聖女様です。もしも知らなかったら、どうしてもお伝えしなければと、ここまで来たものですから」

聖女「わざわざありがとうね。ここに来るのも大変だったんじゃない? 忍び込んで来たの?」

女「いえ、色々ありまして、教会に復職する事になりました。不本意ではありますが、その内、また枢機卿に任命されるようです」

聖女「あ、戻っちゃうんだ。女ちゃんはそのまま教会とは縁を切ってた方が良かったと思うんだけど……」

女「申し訳ありません。こちらにも事情がありまして……。聖女様のお耳汚しとなる様な事なので、詳しくは申し上げませんが……」

聖女「うーん……。でも、気になる。教えてくれない?」

女「いえ、いくら聖女様と言えどもこればかりは……。しばらくの辛抱だと割り切りますし、あまりに長くなるようなら、その内、自分で何とか致します」

聖女「そうは言ってもなあ……。女ちゃんも困ってるみたいだし……」



532:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:25:14.56 ID:JpBbyk/ao

聖女「悪いけど、ちょっとだけごめんね」

女「?」

聖女「」パアアッ (後光が差す)

女「!?」

聖女「ふうん……。勇者の事で脅されちゃったんだ」

女「わ、わかるのですか!?」

聖女「うん。何となくだけど。でも、それなら平気だよ。私も一緒に行くし、何なら各地の教会に勇者は本物だって伝えるよう、天使さんを派遣してもいいし」

女「……て、天使様??」

聖女「うん。お話は聞いてたよね? いざという時はお願いしていい?」


ピカーッ (目映い光が部屋中を照らす)

天使A「心得ました」フワッ

天使B「全ては聖女様のお心のままに」バサッ

天使C「御安心を……」フワリッ

【聖女の世話役】(三天使の平均値)
『体力 :516万
 攻撃力:272万
 防御力:296万
 聖力 :264万
 素早さ:224万』



女「て、天使様が降臨を……!!!」



533:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:26:25.84 ID:JpBbyk/ao

女「け、結界は……大丈夫なのですか? この部屋には聖魔含めて最強の結界がかけられていたはずですが……」

女「唯一、通過出来る場所が、あの外側からしか開かない頑丈な扉だけだというのに……」

聖女「結界なら、この前ドラリン達が遊んでいる時にパリンッて割れちゃったみたい」

女「」

聖女「どっちにしろ、あの程度の結界じゃ、天使さんには意味ないけどね」

女「そ、そうですか……。流石は天使様……」

聖女「私自身も、前からこっそり抜け出して色々なところに行ってたりしてたし」

女「」

聖女「そもそもドラリン達なら、あの扉自体、壊すの簡単だと思うよ」

女「」



534:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:28:07.72 ID:JpBbyk/ao

女「な、ならば何故、聖女様はこの様な軟禁生活を受け入れられてるのですか」

女「私はてっきり、聖女様は封印されていて身動きが取れないからだと……。しかし、その気になればここからいつでも出られるというのに、何故!」

聖女「それは、ここの場所が聖地だけあって、みんなの信仰や祈りが世界中から集まってくるからだよ」

聖女「今、女神様が魔王によって封印されてるらしくって。だから私が女神様の代わりに、この場所でそれを祝福や加護に変えて与えてるの」

女「で、では、聖女様は今や実質的に女神様と同じ……。私の加護も聖女様が……」ガクガク、ガタガタ

聖女「うん。天使さんに頼まれてその代わりをしてるだけなんだけどね。私は力を貸してるだけで、細かい事は天使さんが全部やってくれてるよ」

女「そ、そうですか……。さ、流石は聖女様……」ガクガク

聖女「急にどうしたの? 震えてるけど? 寒いの?」

女「あ、い、いえ……。多少驚いてしまったので……」ガクガク

聖女「驚く程大した事はしてないよ。きっと女ちゃんでも出来るから。試してみる?」

女「ムリムリムリムリムリムリ、恐れ多いです! 私ごときではとてもとても!!」ブルブル

聖女「そんな謙遜しなくてもいいのに」

女「いえいえいえいえいえいえ!! 絶対ムリですから!! 無茶ぶりやめて下さい!!!」ガクガク



535:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:30:10.02 ID:JpBbyk/ao

聖女「でも、気軽に動けないと不便な時もあるからなあ。今回もどうしようかなって考えてたところだし」

女「そ、それはそうでしょうね……。勇者様のお供をすると言うのならかなり長い間、ここを空ける事になりますし……」ガクガク

聖女「そうなんだよね。二・三日ぐらいならいなくなっても平気なんだけど、何ヵ月も空けると世界中の加護とか祝福が少なくなっちゃうだろうから、みんな困ると思うし……」

女「は、はい……。そうでなくとも聖女様は教会のシンボル的なところありますし……。聖女様が行方知れずになったとなれば、世界中の者が悲しむはずです」

女「それに、竜に愛されてる聖女様の存在があるからこそ、教会は絶大的な信頼を得ています。最強の武力を有している事にもなるので、大きな顔が出来ている訳ですし……。きっと教会も聖女様の旅立ちを認めないでしょうね……」

聖女「言い方全然違うけど、何か教皇さんも似たような事を言ってたね。あの人の陰湿なやり方は嫌いなの、わたし。だから、女ちゃんがやってる事は応援してたよ」

女「で、では、聖女様も今の教会の方針を快く思ってはいないと……!」

聖女「うん。わたしはここから長い間離れられなくなっちゃったし、わたしが教会の事を悪く言うときっと女神様への信仰自体が弱くなっちゃうからね。そのせいで何も出来なかったんだけど」

聖女「だから、信仰を下げずに教会に反旗を翻している女ちゃんにはいつも感謝してたよ」

女「なら、私はすぐさま、以前の様に教会から袂を分かちます! まだ枢機卿になるという発表はされてませんし!」

聖女「そう? ありがとね。でも、その前にやっぱり女ちゃん、わたしの代わりに祝福や加護をみんなに与えてくれない?」

女「だからそれはムリですって!! 聖女様たっての頼みなので断りたくはないのですが、ムリなんです!!」ガクガク



536:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:32:03.45 ID:JpBbyk/ao

聖女「そんな事ないよ。結構簡単な事だし」

女「世界規模の加護や祝福を簡単とか言われても困ります!!」ガクガク

聖女「女ちゃんなら才能あるし大丈夫だと思うんだ。一度試してみればわかるから。わたしの聖力を少しだけ女ちゃんにも貸すしね。はい」パアアッ

女「あ、あああああああああああああああああああっっ!!!///」ビクンッ!

『女のパラメータが上がった!!』

【教会を破門された女】
『体力 :6254
 攻撃力:   1
 防御力:9999
 魔力 :8870
 素早さ:4209』
     ↓
【聖女の祝福を受けし女】
『体力 :7289万
 攻撃力:    1
 防御力:8753万
 聖力 :9999万
 素早さ:5047万』


聖女「それで、この地に送られてきてる祈りや信仰を女ちゃんに受け渡して」パアアッ

女「ふああああああっ!!///」ビクンッ!!!


聖女「ね? 平気でしょ?」

女「え、あ、はい……。大丈夫……みたいですね……」パアアッ (後光が差す)


聖女「それじゃ、お願いしてもいい? 細かい事は天使さんがやってくれるから」

天使A「ええ。私どもに万事お任せを……」ペコッ

女「は、はい!!」ビクッ


聖女「あと、念の為にドラポンを護衛に残しておくから。頼んだよ、ドラポン。女ちゃんを守ってあげるんだよ」

地海竜『グルルルッ!!』フンスッ

女「」ビクッ!!



538:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:33:53.58 ID:JpBbyk/ao

聖女「それじゃ行ってくるから。悪いけど、しばらくお願いね」

女「は、はいっ!! 聖女様からの頼みであれば、この命尽きるまでここでお待ちしております!!」

聖女「大袈裟だよ。でも、出来るだけ早く帰ってこられるように頑張るね」

女「はいっ!!」

聖女「魔王を倒して女神様の封印が解けたら、わたしもこの場所から自由に動けるようになるし、そうなったら、この教会の事も何とかしよう。女ちゃんと一緒なら良い方向に変えていけると思うし」ニコッ

女「あ、ありがとうございますっ! 聖女様!!」

聖女「それじゃ行こうか、ドラリン。よいしょっと」ピョン(竜の背に乗る)

天海竜『グルルルッ!!』フンスッ


女「」ビクッ



539:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:35:29.69 ID:JpBbyk/ao

聖女「魔王を倒したらすぐに戻ってくるから。どれだけかかるかわからないけど、女ちゃん、それまでドラポンと一緒に仲良くしててね」

地海竜『ぎるる』コクコク

女「は、はい!!」


聖女「じゃあ、行こっか。わたしの行く先を阻む物よ、一時、その力を消したまえ」パァァッ

(壁がぐにゃりと曲がり、巨大な穴が開く)


女「なにあのまほう……。わたししらない……」


聖女「進む先は山奥の村だよ。飛んで!」

天海竜『グルルルッ!!』バッサ、バッサ



ヒューン……!!!



女「はや!」


ウニョニョ……


女「あ、かべがもとにもどってく……。すごい……」



540:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:36:26.35 ID:JpBbyk/ao

ー 中央国、上空 ー


聖女「やっぱり空飛ぶのって気持ちいいよね」

天海竜『グルルルッ』バッサ、バッサ


聖女「それにしても、勇者、どんな風に変わってるかな? きっとスゴく強くなってるよね」

天海竜『グルルルッ!』バッサ、バッサ


聖女「だよね! あと、スゴくカッコよくなってるかもしれないね。昔からカッコ良かったし」

天海竜『グルルルッ!』バッサ、バッサ


聖女「え? 前? あ、魔物だね。悪霊系かな……?」





闇死霊「竜……!? た、退避……!!」フワリッ




天海竜『グルルルッッッ!!』バッサ、バッサ!!!

聖女「あ、いいよ。私がやるから」

聖女「闇より生まれし亡者よ、闇へと消え去りなさい」パァァ




闇死霊「あ、ああああっ……!!!」ビキキィィィ


パリンッ…… (消滅)




聖女「さ、行こう。十五年振りに勇者に会いに! 楽しみだね!」

天海竜『グルルルッ!!』バッサ、バッサ!!

【竜に愛されし聖女】
『体力 :9999億
 攻撃力:9999億
 防御力:9999億
 聖力 :9999億
 素早さ:9999億』

特殊技能:奇跡



541:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:37:43.12 ID:JpBbyk/ao

ー 南の海、凪の海賊団、アジト前 ー


女船長「大船長ーーーーっ!!!」ダダダダダッ


バキイッ!! ズゴーンッ!! ガッシャーン!!!

男船長A「ぐぼおらげほぐふげふわっっっ!!!」ビューン!!

【格闘王】
『体力 :7574
 攻撃力:8329
 防御力:6811
 魔力 :  36
 素早さ:6025』

女船長「!!?」


「大船長!! 考え直しぎゃぐいあぐげごぼがぎふあっっ!!!」

バリーィン!! ズガッシャーン!!

男船長B「が、ぐふっ…………」ドサッ

【三番艦隊、隊長】
『体力 :6597
 攻撃力:7134
 防御力:5468
 魔力 :   0
 素早さ:7256』


女船長「お、遅かったか、ちくしょう!!」



542:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:38:40.36 ID:JpBbyk/ao

ー アジト内 ー


ガチャッ!!!

女船長「大船長っっ!!」


女闘神「ああ、女船長、お帰り。悪いけど、今、ちょっと立て込んでてね」

副船長「がふっ……!!!」ドサッ……

【四海の小覇王】
『体力 :8187
 攻撃力:8255
 防御力:8436
 魔力 : 291
 素早さ:5923』


女船長「副船長までっ!!!」

女船長「やっぱり、この海賊団を抜ける気なんですか、大船長!!」


女闘神「そ。ひょっとしてあんたまで止めに来たの?」

女闘神「もしそうで、そこのみんなみたいに実力行使で止めようとするってんなら、床とキスする覚悟はしときなよ」



男船長C「」(気絶)
女船長D「」(気絶)
男船長E「」(気絶)
男船長F「」(気絶)
男船長G「」(気絶)
女船長H「」(気絶)
男船長I「」(気絶)


女船長「わ、私を除いた十番隊の船長全員が、もう……!!」



543:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:40:45.94 ID:JpBbyk/ao

女闘神「だから、最初に言っておいたのにさ。子供の時からの約束があるから、あいつが伝説の勇者になって現れたら、あたしは海賊稼業をすっぱりやめるって」


女船長「確かにそりゃ聞きましたよ!! でも、本当にその幼馴染みが約束通り勇者になって旅立つなんて、誰も思わないじゃないですか!!」

女船長「それに、大船長はもう世間じゃ海賊王だって言われてるんですよ!! この海賊団がここまでデカクなったのだって、大船長が率いていたからで!!」

女船長「大船長はこの海賊団の竜骨なんですよ!! 屋台骨なんです!! 今更抜けるって言われたら、そりゃ何としてでも止めますよ!!」


女闘神「それこそ勝手な言い分だね。あたしは初めから全員に言ってあるんだし、それでいいって話だったんだから」

女闘神「で、いざその時が来たら、納得出来ないからってムリヤリ捕まえようとしてくるなんてね。そりゃあたしだって反撃するよ」


女船長「大船長が抜けたら、その後、私らはどうしろってんですか! 解散しろって言うんですか!?」

女船長「こんだけデカイ海賊団まとめれるの、大船長だけなんですよ!! でなきゃ隊長同士で争いが起こりますって!!」


女闘神「ま、それについてはあたしも困るからね。だから、しばらくは副船長に任せる事にした。これ、一応委任状。あんたはその補佐にしといたから」ピラッ

女船長「ちょっ! 勝手ですって、そんなの!!」

女闘神「いいでしょ、別に。ずっとって訳じゃないんだし。魔王倒したらまた帰ってくるから、それまでの間だけだしさ」

女船長「それ、いつになるんすか!! 無理ですよ、私らじゃそんなに長い期間もたないですって!!」

女闘神「なら、お互い武闘家らしく、拳でケリつけよっか?」スッ

女船長「っ!!! そ、そっちも無理です……!! 大船長に勝てる訳ないじゃないですか!!」ガタガタ



544:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:42:28.86 ID:JpBbyk/ao

女闘神「ま、あんた達もそこそこ強くなった訳だし、平気だってば。もう、ここらじゃ敵なしぐらいの強さにはなってるはずだし」

女闘神「それに、海賊稼業もそろそろ潮時だったからね。これからは貿易でやっていこうかって話になってたし、あたしはあまり必要ないでしょ」

女船長「必要あります!! 大船長がいなかったら、私ら誰から経営学とか学ぶんですか!! ずぶの素人揃いなんすよ!!」

女闘神「そっちも、あたしが昔使ってた教本置いといたから、自分たちで学びなよ。小麦とかのあまり価格変動が起きないもの扱って堅実にやってけば、大こけはしないはずだから」

女闘神「ただし! 商売とかせずに、あたしがいない間に勝手に先祖がえりして、もしも商船の略奪を始めるようなら……」

女闘神「その時は容赦なく潰すから、それだけは忘れないようにしなよ」ゴゴゴゴゴ……

女船長「っ!!」ビクッ!!


女闘神「って事で、他の隊長達にも起きたらそう伝えといて。それじゃあね」ダンッ (窓から近くの大岩まで大ジャンプ)


女闘神「」ピィィーッ (指笛)



ヒューン……

鳳凰「」バッサ、バッサ (全長56メートル)

【神の使い】
『体力 :551万
 攻撃力:246万
 防御力:219万
 魔力 :336万
 素早さ:304万』




女船長「!!!???」



女闘神「さ、行こっか! 目指すは山奥の村!! 勇者と合流するよ!!」スタンッ (乗る)

鳳凰「シギャアアアアアアッ!!」ビリビリッ



バッサ、バッサ、バッサ……



女船長「っ……。け、結局、止めるどころか、一歩も動けなかった……」ヘナヘナ

女船長「大船長……。いつの間にあんな怪物手懐けたんだ……」

女船長「やっぱ化物だわ、あの人…………」ハァ……



545:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:44:31.89 ID:JpBbyk/ao

ー 南の国、上空 ー


女闘神「にしても、大変な騒ぎになっちゃったな。この五年の間にちょっと組織をデカくし過ぎたかも」

鳳凰「」バッサ、バッサ


女闘神「しっかし、楽しみだな。本当に勇者に選ばれちゃったし、あいつ。どれだけ強くなってるんだろ」

鳳凰「」バッサ、バッサ


女闘神「ま、伝説の勇者だし、それぐらい強くなってもらわないと困るか。ふふっ」

鳳凰「シギャアアアアッ!!」バッサ、バッサ


女闘神「ん、ああ……。下にちょっと強そうな魔物がいるね。女船長だけじゃ多分あれはキツいかな。他の面子は今気絶してるし、あたしが片付けておくか」





クラーケン「URYYYYYYY!!?」ビクッ (全長39メートル)




女闘神「行くよっ!!」ギュイイーン


「 烈 火 降 破 弾 !!!」(気功弾)



ズガッバキッガッシャーーーーーーーン!!!

クラーケン「GYUAAAAAAAAAA!!!」ドギャボギアガギ!!!


ゴボゴボゴボ…… (撃沈)




女闘神「よしっ! それじゃ、十五年前の約束を果たしに行こっか!!」

【武を極めし女闘神】
『体力 :9999億
 攻撃力:9999億
 防御力:9999億
 魔力 :9999億
 素早さ:9999億』

特殊技能:魔法拳
    :硬気功
    :柔気功
    :軽気功
    :外気功
    :秘孔
    :合気
    :消力
    :忍術
    :暗殺拳
    :殺意の波動



546:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:46:28.95 ID:JpBbyk/ao

ー 異界、中央巨大塔、最上階 ー


カツーン、カツーン……

魔王「さて、ここまで来てようやく真魔王と御対面という訳なのだが……」

側近「」チャキッ (剣を構える)

魔王「しかし、お前がこの世界の魔王とはな。その姿、意外としか言えないぞ」


侍女「?」

侍女「お前、誰だ。いきなり訪ねて来て無礼だろ」


魔王「無礼はそちらであろう。招かれざる客ではあるが、余は魔界から来た魔王だぞ。礼儀を知っているのならば、それなりの態度を持って遇せよ」


侍女「お前が魔界の王?」

侍女「嘘だな、お前、弱すぎる。論外だ」


魔王「ほう。ならば試してみるか……?」ゴゴゴゴゴ……


侍女「断る、面倒だ。客でないなら排除するだけ」ビュンッ!!

侍女「はいっ!!」ドゴオオオオオオオオンンンンッッッ!!!


ズガゴラギングワンバキンドグガッシャーーーーン!!!

魔王「ごぶげらがぎぐれごがぶぎがりごぼほあああああっっっ!!!!!」メキョ、バキッ、ガッシャーン!!!

側近「魔王様ぁぁぁぁーーーー!!!」



侍女「お前は見逃してやる。さっさと去れ」

側近「ぐっ、うおああぁっっ!!! ま、魔王様ぁぁぁっっ!!!」ダダダダダッ


侍女「とんだ無礼な奴らだ。あんなの、御主人様に会わせる価値もない」

【真魔王の式神】
『体力 :2000億
 攻撃力:2000億
 防御力:2000億
 魔力 :2000億
 素早さ:2000億』



547:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:48:55.20 ID:JpBbyk/ao

侍女「」ペタペタ、ヌリヌリ (魔王が吹き飛んで壊れた壁の修復中)


真魔王「おーい、侍女ー。さっき、何か大きな音がしたけど、何かあったのかい?」テクテク

侍女「変な奴ら来たから、追い出した」

真魔王「そうか。そりゃありがとう。いつも、御苦労様」

侍女「他愛ない。もっと誉めろ」フンスッ

真魔王「わかったよ。君は偉い、よくやってくれてる」

侍女「それほどでもない」フンスッ

真魔王「そっか。ああ、それとしばらく僕は出掛けてくるから、その間、留守番を頼んだよ」テクテク

侍女「何だ? 御主人様、どっか行くのか?」

真魔王「人間界に里帰りだよ。幼馴染みが勇者に選ばれたからね。だから、これから僕も一緒に魔王を倒す旅に出てくるのさ」

侍女「魔王か。きっと恐ろしく強いんだろうな。御主人様、大丈夫か?」

真魔王「どうだろうね……。とんでもないぐらいの強さだって話だし……。何せ三年間、僕の先生の元で修行しただけで、先生が戦わずして負けを認めたらしいからね……。正直なところ、僕の実力では叶わないだろうなって思ってる」

真魔王「でも、勇者の他にも僕には強い仲間達が一杯いるからね。皆で力を合わせて戦えばきっと何とかなるよ。どれぐらいかかるかわからないけど、必ず魔王を倒して帰ってくるから」ニコッ

侍女「それでも心配だ。私、留守番で平気か? 手伝うぞ?」

真魔王「大丈夫だよ、ありがとう。それに、僕は不老不死の秘法を会得してるしね。最悪でも、死ぬ事はないよ」

侍女「そうか。でも、やはり心配だ。気を付けろ」

真魔王「わかってる。それじゃ、ちょっと行ってくるから」スッ


真魔王「時空の扉を開けたまえ、我が目指すは人間界なり……」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……


真魔王「じゃあ、留守番頼んだよ」フッ…… (消える)




侍女「行ったか」

侍女「無事に帰ってこいよ、御主人様。私はそれまで待ってるからな」



548:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:50:33.48 ID:JpBbyk/ao

ー 竜界(人間界)、妖魔の森すぐ近く ー


フッ……

真魔王「ん……。到着っと。ここは妖魔の森近くかな」

真魔王「おや……」



大賢者「」…… (骸)


真魔王「魔物にでもやられたのか……。だけど、亡くなってからそう時間が経ってる訳でもないみたいだ……」

真魔王「これなら……」スタスタ


真魔王「蘇生魔法。この者の魂を冥界から呼び戻したまえ……」パァァッ……

大賢者「っ……」ビクリッ……


真魔王「うん。甦ったな。あとは……」

真魔王「召喚魔法。我の魔力を贄としてその姿を現したまえ……。左より、守護の雷神」パァァッ

ズゴゴゴゴゴゴ……

トール「……我を呼びし者、何用だ」

真魔王「陰陽術。我との契約を結びし者、我の前に姿を見せよ……。右より、姿麗しき霊獣」ピカッ

ズゴゴゴゴゴゴ……

九尾の狐「……何じゃ、昼寝しとったところを呼び出しおって」


真魔王「我が名をもって命じる。トールはこの者を葬った魔物に、裁きの鉄槌を」

真魔王「九尾の狐はこの者を安全な場所に移して、回復するまで面倒を見てくれ」


トール「容易い願いだ……。叶えよう」

【古の雷神】
『体力 :624万
 攻撃力:482万
 防御力:376万
 魔力 :153万
 素早さ:219万』


九尾の狐「やれやれ……。その程度の事で妾を呼び出しおってのう……」

【傾国の美狐】
『体力 :377万
 攻撃力:213万
 防御力:159万
 魔力 :582万
 素早さ:252万』



549:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:51:57.68 ID:JpBbyk/ao

トール「出でよ、ミョルニル!」ズンッ


※注釈
ミョルニルは鎚の名前。名称は古ノルド語で「粉砕するもの」
決して壊れない。投げても的を外さずに再び戻ってくる


トール「ふんっ!!!」ブンッ (ぶん投げ)


ヒューン……





「UGIYUAAAAAAAAAA!!!」 (断末魔)




九尾の狐「どれ、では運んでやるか」パクッ、グイッ (口でくわえる)

大賢者「う……」ズルッ


九尾の狐「面倒じゃが、妾の屋敷で世話してやる。感謝するんじゃな」ピョーンッ

大賢者「こ、これは……ゆ、夢…………?」


ピョン、ピョーンッ……



真魔王「これで良しと」

真魔王「それじゃあ、僕も行くとしようかな。今から勇者に会うのが楽しみだ」ニコッ

【異界に君臨せし真魔王】
『体力 :9999億
 攻撃力:9999億
 防御力:9999億
 魔力 :9999億
 素早さ:9999億』

特殊技能:多重魔法
    :合成魔法
    :召喚魔法
    :陰陽術
    :回復・蘇生魔法
    :時魔法
    :時空魔法
    :移動魔法
    :即死魔法
    :魔力錬成術


真魔王「山奥の村まで! 移動魔法!」ヒュンッ……



550:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:53:12.23 ID:JpBbyk/ao

ー 西の国、専用研究所 ー


女大富豪「いよいよね。これで魔結晶は全部そこのエネルギータンクに入り終わったわ」

秘書「はい。しかし、膨大な数でしたな……」ゼェゼェ

女大富豪「そうね。でも、フルパワーでずっと動かそうとするなら、きっとこれぐらいは必要よ」


女大富豪「子供の頃、絵本やおとぎ話を聞いて、私はずっと思い描いてたの」

女大富豪「私は体を動かすのが得意じゃない。だから」

女大富豪「私の代わりとなって戦ってくれる、ゴーレムの様な存在が欲しいって」

女大富豪「そして、私は苦労の末に魔導鉄の開発に成功した。これは偶然じゃないと私は確信したのよ」

女大富豪「運命の女神が、私にこれを造れと、ずっと囁いていたのよ!」

女大富豪「魔結晶をエネルギーとして動き、魔導鉄と魔力回路によって自在に可動する、人が生み出したる神たる存在!」

女大富豪「この、『魔導機神、ウイングフリーダムゴーレム』をね!!」


魔導機神「」…… (全長19メートル・人型)

【最終決戦兵器・魔導機神ウイングフリーダムゴーレム】
『耐久力:9999億
 火力 :9999億
 装甲 :9999億
 運動性:9999億
 持続力:9999億』

武装:近接防御機関砲×2門
  :高エネルギー魔力出力砲×8門
  :魔力ソード×2
  :魔導シールド
  :対巨大魔獣用、大型魔力凝縮出力砲×2
  :魔導レールガン×6門
  :遠隔操作型、魔力出力小型砲台×32機
  :大型魔導弾バズーカ×2
  :光の翼(背面超大型魔力ソード)



551:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:54:47.26 ID:JpBbyk/ao

女大富豪「装甲は魔力コーティングを六重に施した強化魔導鉄。ちゃちな魔法や剣じゃ傷一つつかない仕様」

女大富豪「そして、魔導回路を計七十万箇所、ありとあらゆる部位に張り巡らせているから、どんな複雑な動きも可能」

女大富豪「エネルギーとして魔結晶三千万個を使用しているから、圧倒的な高火力、驚く程の運動性、途中でエネルギーが尽きる事もまずないわ」

女大富豪「操作法も魔力を流してイメージするだけ。それだけで自分の手足の様に動く」

女大富豪「そして、私の魔力のみで動くようにしてある特別専用機体!」

女大富豪「これが、私の十五年の結晶! 世界で唯一無二の、最強の操縦型ゴーレムよ!」ババンッ


魔導機神「」…… (全長19メートル)



553:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:56:29.88 ID:JpBbyk/ao

秘書「相変わらず圧巻ですな……このゴーレムは。試運転の段階で山を一つ、跡形もなく吹き飛ばしましたし……」

女大富豪「それぐらいの強さでなきゃ困るわよ。私の仲間はみんなその程度の事なら軽く出来るし」

秘書「はあ……」

女大富豪「で、勇者はきっともっと強くなってるだろうから、これでようやく私も勇者の仲間を名乗れる程度ね。多分これでも一番弱いわよ」

秘書「……あなたの話を聞いてると、むしろ仲間や勇者の方が魔王よりもよっぽど怪物の様に思えるのですが……」

女大富豪「ううん。魔王なんて、きっともっともっと化物なんだから。私の師匠の全盛期よりも強かったらしいし。未だに師匠に及ばない私達にとっては、もう想像出来ないぐらいの強さよ」

秘書「そうですか……」

女大富豪「さ、無駄話はここまでよ。約束の日までまだ何日かあるけど、早く行って悪い事はないんだし」ピョン (魔導機神のコクピットまで一足跳び)

秘書「……しかし、命がけの旅に出られるというのに、楽しそうですね。まるで、子供が遊び場に飛び出して行く様な感じで……」

女大富豪「ええ。正直、ワクワクしてるもの。待ちきれない感じよ。だってこれまでずっと十五年間も待ったんだから!」


秘書「左様ですか……。いえ、それは結構な事なのですが、決して浮かれて油断なさらないように」

女大富豪「ええ、わかってる。それじゃあ、研究所の扉を開けて。そこのスイッチよ」ガコッ、ウィーン…… (コクピットの中に乗り込む)

秘書「はい」ポチッ


ガガガガガガガガガ…… (研究所の壁が動き出し、ゆっくりと上に開いていく)


『ふふっ! 魔導機神ウイングフリーダム、出るわ!!』

ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……


ドシュンッッッ!!! (発進)



ブワッッ!!! (爆風)




秘書「行ってしまわれたか……」

秘書「願わくば、あの方に勝利の二文字を……」



554:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 15:58:30.98 ID:JpBbyk/ao

ー 西の国、上空 ー


ビュインッッ!!!


女大富豪『快適ね、空の旅は! 反応も上々、スラスターの具合も良好!』 (コクピット内)

魔導機神「」ドギュッッ!!!


女大富豪『何度乗っても、鳥になった気分ね! これだけ速い鳥は魔獣でもそうはいないだろうけど!!』

魔導機神「」ドギュッッ!!!



ピコーン、ピコーン……

女大富豪『ん、魔導レーダーに反応。識別、大型の魔獣・昆虫タイプ』

女大富豪『ここら辺では見ない魔物ね。これだけ大きいと流石に放置しとく訳にもいかないか。町が壊されちゃうだろうし』


女大富豪『じゃあ行くわよ! 戦闘準備! エネルギーチャージ!』ガコッ

魔導機神「」ググッ (構える)

女大富豪『照準、29キロ先の大型魔獣! バスターライフル、セット!!』

魔導機神「」ジャキッ (高速飛行しながら、大型魔力凝縮出力砲を装備)


女大富豪『発射っっーーーーーー!!!!』

魔導機神「」ガチッ!!!




ドギュウウウウウウウンンッッ!!!






555:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 16:00:07.06 ID:JpBbyk/ao

ー 29キロ先、上空 ー



琥珀蝶「」バッサ、バッサ (全長34メートル)


琥珀蝶「」バッサ、バッサ


琥珀蝶「」バッサ、バッサ



キラーンッ!!!


琥珀蝶「?」


チュゴゴゴゴゴゴゴオオオオオンンンンンン!!!!





琥珀蝶「!!!!!!」ジュワッ…… (消滅)





 



556:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/03/16(水) 16:01:01.65 ID:JpBbyk/ao

女大富豪『レーダーから反応消失!』

魔導機神「」ドギュッッ!!!


女大富豪『バスターライフルを使う程でもなかったかもね。加減がまだイマイチわからないのよね』

魔導機神「」ガコッ、ジャキンッ (大型魔力凝縮出力砲をしまう)


女大富豪『ま、旅をしていけば、その内慣れるわよね。今は気にしないでおこ』

魔導機神「」ドギュッッ!!! (高速移動)





女大富豪『あ、山奥の村が見えた。早い早い。もう着いたのね』

魔導機神「」ドギュッッ!!!



女大富豪『逆噴射して減速! 降下するわよ!』

魔導機神「」ドシュゥッッ……



女大富豪『あの約束の木のすぐ横に降りる! 着地用意!』

魔導機神「」ヒューーンッ……


女大富豪『着陸っ!!』

魔導機神「」ドシンッ!!!

メキャッ!! ボキッ!!

約束の木「」グラッッ!! ドサッッ!!



女大富豪『あああああ!!! 折れたあああああああ!!!!』


勇者「仲間TUEEEEEEEEEEEEEE!!」【後半】



元スレ
勇者「仲間TUEEEEEEEEEEEEEE!!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1455599085/
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