蟻「頼む!あと1日だけ待ってくれ!!ここは俺達がせっせと働いて建てた家なんだ!!」
- 2016年04月01日 17:10
- SS、神話・民話・不思議な話
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蟻「なんで分からないんだよ!!モグラと違って俺達は小さい。この家を作るにも一苦労だったんだぞ!!確かにお前の敷地かもしれない。でも俺達は一生懸命に作ったんだ!急に出てけって言われて出ていけるか!!」
モグラ「もううるさいな。分かったよ。じゃあ言われた通り、1日だけ待ってやるよ。」
蟻「1日だけって…。」
モグラ「お前が言ったんだろ。期限は1日だ。引っ越しの準備でもしてな。こっちも準備があるからじゃあな。」
蟻「待ってくれ!!…皆になんて説明すればいいんだよ…。」
蟻「…。」
蟻3「モグラが住んでたとは思わなかったからな。まぁ仲良くやっていければそれでいいじゃないか。」
蟻「…。」
蟻2「どうした?浮かない顔して。」
蟻「ダメだったんだ。」
蟻2「そっか。蟻は人見知りだからな。そのうち仲良くなれるさ。」
蟻3「近所付き合いなら任せな。俺がやってやるよ。」
蟻「そうじゃなくて…この家も明日で離れなくちゃいけない。」
蟻2「え?」
蟻「この一等地は全部モグラの敷地らしいんだ。あとからやってきた俺達は不法行為を侵しているって…だから…この家とも…」
蟻3「なに言ってんだよ!!モグラにそんな権限あると思うのか!?」
蟻2「それに明日って言ったな。急過ぎないか?なんとか話をして」
蟻「無駄だよ。折り合ってなんかくれない。どうしよう…。」
蟻3「…やるしかねぇな。」
蟻「何を?」
蟻3「モグラを。」
蟻2「…やるしかないか。」
蟻「本当にモグラをやっつけるの?」
蟻3「あったりまえだよ。折角いいところに来たんだから離れてたまるか!なんとしてでもモグラの息の根を止めてやる!」
蟻2「馬鹿。声がでかいよ。モグラの巣まで潜入するんだからもう少し慎重に行動してくれ。」
ボコッ!
ミミズ「お前らなにしてんの?」
蟻2「いぎゃあああああ!!でたぁあああああ!!」
蟻3「おい騒ぐな。ただのミミズだ。」
ミミズ「ただのミミズってなんだよ。ミミズアタック!」ペチン
蟻3「うぎゃあああああ!!!」
蟻「頼むから静かにしてよ。モグラが来たらどうすんだ!」
ミミズ「ん?モグラ?お前らモグラと仲いいのか?」
蟻「仲良くは無いけど…。」
ミミズ「ちょっと教えて欲しいんだけど、モグラの弱点ってどこ?」
蟻「弱点…?なんで弱点なんて聞くんだよ?モグラと仲悪いのか?」
ミミズ「そんなんじゃねぇよ。あいつは仇だ。家族を…食べられた。」
蟻3「ぶふっ…(笑)」
蟻2「やめろ、失礼だろ。」ベチン
ミミズ「とりあえず俺はモグラをしとめる。止めれるもんなら止めてみやがれ!!」
蟻2「待て待て、俺たちもモグラ退治をしようとしてたところなんだ。」
蟻「しないと家追い出されちゃうんだ。」
ミミズ「そうか…モグラの奴、好き勝手に振る舞いやがって!よし、協力してここからモグラを追い出してやろう!!」
蟻3「ぶふっ…(笑)ミミズがどうやって戦うんだよ(笑)」
ミミズ「ミミズアタック!!」ペチン
蟻3「うぎゃあああああ!!!」
蟻「うん。ここがモグラの巣だ。」
蟻3「でかいな。勝てるか?」
ミミズ「どうかな。協力すれば」
蟻3「お前に聞いてねーよ(笑)」
ミミズ「…」ペチン
蟻2「この調子ならいけそうだな。よし、行こう!正面突破だ!」
蟻「待って!」
蟻2「なんだよ?」
蟻「やっぱり皆で頼み込みに行こう。正直戦ったところで勝てるかも分からないよ。」
蟻3「俺達を疑ってんのか?」
蟻「巣のでかさを見ただろ?あまりにも体格差がありすぎる。ミミズも…家族食べられたんだろ?抵抗できたか?」
ミミズ「言っていいことと悪いことがあるだろ!!」
蟻「冷静になって欲しいんだ。無謀に戦って皆を失いたくない。失う痛みはミミズが一番分かってるんじゃないか?」
ミミズ「なんなんだよ…なんで俺が説教受けなきゃいけないんだ…くそっ…家族失うは蟻に怒られるわ、もういいや。正直土地なんてどこでもいい。家族が居なきゃどこも変わらない、ただの冷たい土の中だ。」
蟻3「蟻、謝れよ。流石に過ぎるぞ。」
蟻「ごめん。でも、皆このまま行きそうだったから。」
蟻2「蟻に聞くけど話し合いで解決できるのか?折り合ってくれないって言ってたじゃないか。」
蟻「あの時は一人だった。今度は違う。皆で頭下げて皆で頼み込もう。誠意を見せれば分かってくれるよ。」
ミミズ「仇のモグラに頭を下げるのか…。」
蟻「行こう。モグラの巣へ!」
蟻2「呑気なこと言ってんなよ。モグラを探さなきゃ。」
ミミズ「探すっつってもどうすんだよ?まるで迷路だぞ?」
蟻「…毛が抜け落ちてる。」
蟻3「あん?」
蟻「向こうにいくにつれて毛の量が多くなってる。奥の部屋がよく使われてる証拠だ!奥の部屋に居るかもしれない。行こう。」
蟻3「マジかよ。」
ミミズ「俺もできるぞ。壁を見てくれ。この壁と奥の壁、湿り具合からして奥の壁の方が湿ってる。生物は常に呼吸を発しているからな。奥にモグラがいる可能性がある。」
蟻3「スゲーな。」
蟻2「俺達は耳が効かないが地面の揺れには敏感だ。生物は呼吸をしてると言ったな。呼吸をしているとき多少なりとも呼吸器官に動きがある。そして地面は振動する。そしてその振動源を辿ると…後ろを振り返ってくれ。」
蟻3「は?」
シューコーシューコー
モグラ「お前らなにしてんの?今度は不法侵入か。」
蟻3「うしろじゃん。」
ミミズ「…」ペチン
蟻3「この通りだ!なんでもする!小さな体で自分よりも大きなものを作り上げる…どうかこの努力を無駄にさせないでくれ!」
蟻「しつこいようだけど頼むよ!ここまでたらい回しにされてやって来たんだ。他の場所は使われてるし、俺達三匹だけの蟻は除け者らしい。でも、ようやく居場所を見つけたんだ。俺達から居場所を奪わないでくれ!」
モグラ「何度言われたって同じだよ。重荷を背負ってるのはお前達だけじゃない。」
蟻「頼む!少しのスペースでいいんだ。三匹暮らせればいいんだ!三匹だけでも、同じところで暮らしたい。今まで…散々仲間と別れて来たんだ。」
蟻2「やめろ。もういい。…この通りだ。どうか許してくれ。」
蟻3「俺からも頼む。他ならぬここで暮らしたいんだ。」
モグラ「…そいつはなんだ?もう一匹の。」
ミミズ「覚えてないのか?」
モグラ「ああ。初対面じゃないのか?」
ミミズ「ふざけんな。ふざけんなよ!!逃げた餌なんか覚えてる訳なんてないよな!」
蟻3「おい、落ち着けよ。折角ここまで来たのに。」
ミミズ「うるせーよ!!お前に分かるか!!目の前で家族食われてんだよこのモグラに!!平然と話せるか!!」
モグラ「すまなかった。でも、生きるためだ。それくらい分かってくれ。」
ミミズ「生きるため?ならお前なんか死んじまえ!!弱肉強食の世界じゃ当たり前。そんなんで納得できるわけねーだろ!!ふざけんなよ!!」
モグラ「…申し訳ない。」
ミミズ「くそっ…」
モグラ「…やっぱりお前達には明日出てってもらう。俺を独りにさせてくれ。ここは俺の一等地だ。」
蟻「そんな…。こんなに頼みこんだのに。」
蟻3「ミミズ…。」
ミミズ「なんで…なんでこんな弱者に産まれきちまったんだよ。」
蟻2「帰って引っ越しの準備をしよう。」
蟻3「…」
ミミズ「…」グスッ
蟻2「な、次はきっといい場所見つかるよ。ミミズも、きっと気の合う仲間が見つかるからさ。」
ミミズ「気の合う仲間は…もうモグラの胃の中だ。」
ベチッ!!
蟻3「お前いい加減にしろよ!!お前がぶち壊したようなもんだぞ!!折角許してもらえそうだったのに!」
ミミズ「夢見んなよ!俺が居ようが居まいが三匹だけのお前らなんてどこ行ってもたらい回しだ!数あれば場所を制圧できる。元からお前らじゃ無理なんだよ!!」
蟻・蟻2「…。」
蟻3「お前…。家族がそんな好きなら、お前も喰われちまえばよかったんだ。逃げ出して一匹で怒り狂ってるなんてざまーねーな。」
蟻「やめなよ。」
ミミズ「お前らも可哀想だ。お前らは居場所を、俺は仲間を無くして、似た者同士分かり合えると思ったんだけどな。どうやら俺は夢を見てたらしい。」
蟻2「お前も度が過ぎるぞ。最後ぐらい仲良くしろよ。」
ミミズ「ああ、そうだったな。お前らは仲間がいるのか。居場所なんてどこでもいい。場所にこだわるお前らには俺の辛さなんて分からねーだろーな。俺引っ越すわ。未練なんてどこにもないから。じゃあな。」
蟻3「待てよ。」
蟻2「止めんなよ。もう好きにさせてやれ。」
蟻3「でも…。」
蟻「家、帰ろうか。最後は三匹だけで仲良くやろう。」
蟻2「そうだな。」
蟻2「ウゲェー。そんなの喰うのかよ。」
蟻「ダメだよ嫌がったら。生きるためだよ。仕方ないでしょ。あっ…」
蟻2「…生きるためか。」
蟻「モグラ、なんだか悲しそうだったね。」
蟻3「そりゃ悲しいだろ。独りぼっちだもんな。」
蟻「ミミズも、独りぼっちになっちゃって、モグラと変わらないんじゃないかな。」
蟻2「もうその話はよそう。最後は楽しくさ、嫌なことも忘れられるように。」
蟻「俺、もう一回話行ってくる。」
蟻3「は?何度頼んだって同じだよ。」
蟻「頼むんじゃない。話すんだ。ただ腹を割って話す。」
蟻2「俺たちも行くぞ」
蟻「いや、俺だけでいい。俺に行かせてくれ。」
蟻2「でも…。」
蟻「行ってくる。ミミズの分まで。」
蟻3「おい…。」
蟻「頼みに来たんじゃない。モグラと話したい。」
モグラ「結局言いたいことは家を出たくない、だろ?」
蟻「違うよ。ミミズに言われて気づいたんだ。雨が凌げれば場所なんてどこでもいいって。まだ皆が納得してるかは知らないけど、俺は気づいたよ。」
モグラ「…そうか。なんで来たんだ?別れの挨拶ならいらないぞ。」
蟻「モグラは、どうして独りなんだよ。独りになるんだよ。自分から他を寄せ付けないようにしてるじゃないか。」
モグラ「俺がいつそんなことをした?俺はただ土地のきまりを守っただけだ。約束したからな。」
蟻「約束?」
モグラ「言ったろ?重荷を背負ってるのはお前達だけじゃないって。俺だって…俺だって新しい仲間を作って過ごしたいよ。でも、約束は破りたくない。」
蟻「なんの約束なんだ。」
モグラ「共食いされた、家族との約束だよ。どこで間違ったかな。俺は仲間が少なかった訳じゃないんだ。話してやるよ。ちっぽけなお前にもこれくらいは分かるだろ。」
モグラ2「おい、聞いたか?また仲間作ってきたらしいぞ。」
モグラ3「仲間が増えすぎるのも困るね。」
モグラ父「まあいいじゃないか。仲良くしてやってくれ。悪い奴じゃないんだよ。」
モグラ「よ、よろしく。――――――
モグラ「俺は拾われたんだ。血は繋がってなくても、優しい父だったよ。でもな、やっぱり優しい父は優しいだけだった。最期まで――――
モグラ父「大丈夫だ。安心しなさい。ちょっと仲間と喧嘩しただけだよ。」ヨロッ
モグラ「喧嘩って…こんなになるまでどうして?」
スタスタ
モグラ2「ちょっと考えれば分かるだろ。馬鹿なお前の父さんは分からなかったみたいだけどな。こんだけモグラが集まったら食料足りないだろ。」
モグラ「モグラ2さん?」
モグラ3「優しい父さんを持てて幸せだよ。他に引っ越そうとしても追い出されて結局ここに戻ってきちまうからな。共食い経験ある俺らでも迎い入れてくれるなんてご立派なモグラだこと。」
モグラ2「お陰で生きながらえたよ。冬は寒いからさ。遠出してまで他のモグラを狩りに行けないよ。」
モグラ父「それ以上言うんじゃない。お前達はそんなに悪い奴じゃないじゃないか。毎日楽しいぞ。仲良く皆で少ないご飯を食べて。笑いが絶えなかったじゃないか。」
モグラ3「そうだろうな。たまにご飯に他でとってきたモグラを入れてても美味しそうに喰うんだもんな。笑いが止まらねぇよ(笑)」
モグラ父「そんなことをしても、お前達の痛みは消えない。どこのモグラ達にも煙たがられて、辛かったはずだ。」
モグラ2「なに言ってんのこいつ?意味わかんねー。」
モグラ父「少しでも優しいところがあるなら、お前達は悪い奴じゃない。気づかいできる、優しい奴じゃないか。」
モグラ3「うっせーな。説教すんなよ!気持ち悪いんだよいつまでも。」
ズカッ!!
モグラ「父ちゃん!!」
モグラ2「てめぇーもいつまで血の繋がってない父ちゃんに依存してんだよ!!」
ボコッ!!
モグラ父「やめろ。仲間同士傷つけ合うな。これじゃあ他のモグラ達と一緒だ。たらい回しにする、仲間外れにする、そんなモグラと大差ないぞ。」
ガッ!!
モグラ3「うるせーな!!だからなんだよ!!俺達をハブるあいつらなんてどうも思ってねーんだよ!!喰えば味は一緒だしな(笑)」
モグラ2「おい、はやく喰ってやろうぜ。拾われ子供も一緒に。」
モグラ「!!」ブルブル
モグラ父「ごめんな…。俺の育てが悪かったらしい。父親失格だ。」
モグラ3「お前はしつこいんだよ!!いい加減くたばれぇ!!!」
モグラ「やめてぇ!!!」ダッ!
ゴスッ!!
モグラ「あの時俺の育ての父は、止めようとした俺と、喰おうとしたモグラ二人の衝突を止めたんだ。自分の身を盾にして、三匹を守った。」
モグラ「そして、父は、自分の体を差し出した。食べたいなら食べればいい。今まで少量の食料で我慢できていたお前らが、本当に俺を食べたいなら。そう言って自分を餌にさせたんだ。」
モグラ「それでも結局、父は喰われた。最初は笑いながら食べてたあいつらも、最後は泣きながら父を食べてたんだ。そして気分が悪くなったと言って、姿を眩ました。喰われる前、父は俺に言ったんだ。」
モグラ「永遠の仲間と共に生きろ。って。」
蟻「永遠の仲間?」
モグラ「ああ、父は理想主義者だからな。父との約束だ。俺は永遠の仲間と共に生きる。」
蟻「え?父との約束、全然守れてないじゃないか!」
モグラ「いや、守ってるさ。共食いする仲間と一緒に暮らしていた俺はレッテルを張られて、どこに行っても恐れられ、居場所なんて無い。」
モグラ「俺は気付いた…永遠の仲間なんてこの世には居ない。探しても探しても、居たのは最期まで自己犠牲を払って仲間に尽くした天国の父だけだ。」
蟻「自分自身が進んで仲間を作ろうとしないと永遠の仲間なんて作れっこないだろ!」
モグラ「何度も頑張ったよ!!手を差し伸べても、ことごとく手は払われた!!」
蟻「それは俺達だって同じだよ!これから先、何回も払い落とされる。色んなところ行って、馬鹿にされて、追い出されて、それでも居場所を探し続けるんだ。」
モグラ「もし、死ぬまで居場所が見つからなかったら?」
蟻「言ったろ?家なんて無くたって、あいつらが居るんだ。雨さえ凌げれば、どこでもいい。強いて言うなら居場所はあいつらだ。」
モグラ「俺にはないよ。お前みたいな仲間と、素敵な居場所は。」
蟻「俺達と仲間になるんじゃダメなのか?いつまで命が持つか分からないけど、俺達が死ぬまで永遠の仲間で居られるよ。家は保証できないけどさ。」
モグラ「そうか…。そうだな…。いつからか怖れてたのかもしれない。もしかしたらまた払い落とされるかもしれないって。自分から手を差し伸べるのをやめていたんだ。
家は…俺が保障するよ。」
居場所は自分達で作る。自分達自身の立っている場所が、居場所になるように。
どれだけ旅をしても、どれだけ探し続けても、結局足元に転がってる。居場所とは、そういうものだ。
蟻「えーー、ってことでね。家族が増えます!」
蟻2・蟻3「え?嫁か?」
蟻「もっとおっきいよ!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ ポコンッ!!
モグラ「家族は言いすぎだよ。」
蟻2・蟻3「いや、おっきすぎだろぉ!!!」
家が、崩れて、皆の、お墓に、なりました。
ミミズは、無事です。
完
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蟻「頼む!あと1日だけ待ってくれ!!ここは俺達がせっせと働いて建てた家なんだ!!」
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