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小鳥「今日は皆さんに」 ちひろ「殺し合いをしてもらいます」【後半】

関連記事:小鳥「今日は皆さんに」 ちひろ「殺し合いをしてもらいます」【前半】





小鳥「今日は皆さんに」 ちひろ「殺し合いをしてもらいます」【後半】






594:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/16(土) 21:50:28.25 ID:DjCVaLavo

二日目
6:30 音無小鳥

小鳥「みんな、もう準備は出来てる?」

貴音「はい。すぐにでも出発できます」

やよい「す、すみませんお待たせしちゃって……」

響「ううん大丈夫、時間通りだぞ」

小鳥「……それじゃあ、行きましょうか」

その言葉を合図に、四人は小鳥を先頭にして歩き始めた。
西の方に見える灯台へ向かって。



595:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/16(土) 21:53:17.21 ID:DjCVaLavo

本当ならやはり昨日のうちに向かいたかった。
しかし数時間歩いたことや精神的な疲労により、
日が沈んだ時点で思いのほか彼女たちの体力は削られていた。

そして何より心の準備が必要だった。
ゲーム開始直後ならまだしも、数時間も経てば灯台には誰か居る可能性が高い。
それが765プロの者ならば良いが、そうでなかった時。
疲れきった心と体で的確な判断と行動を選択できるかどうか、分からなかった。
そういった理由から四人は灯台を調べるのは日を改めることにし、
今こうして向かっている。

しばらく歩き、壁の汚れが見える程度に灯台に近付いた。
中に居るのであれば、それが765プロの者でありますように。
四人はそう願いながら歩みを進める。

しかしその歩みは数秒後、同時に止まった。
灯台の屋上の扉がゆっくりと開いたのが見えたのだ。



596:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/16(土) 21:55:47.17 ID:DjCVaLavo

やはり誰か居たようだ。
四人は無意識的に息を殺し、その正体を確かめるためじっと目を凝らす。
そして次の瞬間、響とやよいはぱっと顔を明るくして声を上げた。

響「春香……! あれ、春香じゃないか!?」

やよい「そ、そうです! 春香さんですー!!」

二人に次いで小鳥、そして貴音も確証を得る。
朝日を浴びるように大きく伸びをするその少女は、確かに春香だった。

765プロの仲間を見付けた嬉しさに、響は両手を大きく上げる。
そして息を吸い込み……

貴音「響」

響「むぐっ……!」



597:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/16(土) 21:57:42.59 ID:DjCVaLavo

力いっぱい春香の名を叫ぼうとしたところで、貴音が響の口を押さえた。
響は昨日のことを思い出し、首を縦に数度振る。
それを確認して貴音は手を離した。

響「……ご、ごめん。自分、ついまた……」

貴音「いえ、気にしないでください。気持ちが急くのも分かります。
  それに私も、仲間との合流は早いに越したことはないと思います」

やよい「わ、私! 早く春香さんに会いたいです!」

小鳥「そうね……。早く、合流しましょう」

そう言って小鳥は駆け出し、三人もすぐ後に付いて行く。
一歩足を出すごとに春香の姿がはっきりと見えてくる。
そしてそれから数十秒後、春香の視界もようやく、その端に動くものを捉えた。

春香「……あっ!? こ、小鳥さん! 響ちゃん、貴音さん、やよい!!」



598:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/16(土) 21:59:55.24 ID:DjCVaLavo

春香はこちらへ駆けて来るよく知る顔を見て、
少し前の響ややよいと同じように顔を明るくした。
そして慌てて振り向き、屋上への出入り口から中へ向かって叫ぶ。

春香「ご、ごめん千早ちゃん! 一階の入口開けてあげて!」

千早「えぇ、わかった……!」

春香に続き屋上へ出ようと階段を上っていた千早は、その言葉を聞き踵を返した。
直前に春香が呼んだ名はしっかり千早の耳にも届いており、
事情の説明は必要なかった。

美波「! 千早ちゃん!」

アーニャ「どうか、しましたか? 何か急いでいるように見えます」

あと少しで階段を降りきるというところで、千早は美波達と鉢合わせる。
千早は慌てることなく、何があったか二人に手短に話した。



599:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/16(土) 22:01:12.21 ID:DjCVaLavo

千早「765プロのメンバーが四人、今この灯台に向かってきています」

美波「えっ……ほ、本当!?」

千早「まず私が応対して今のこちらの状況を……
   つまり、346プロと協力していることを話します。
   新田さんとアナスタシアさんは、奥へ戻って律子と城ヶ崎さんにこのことを伝えてください」

アーニャ「Да……えっと、私たちは、出てこない方がいいですか?」

千早「……そうね。大丈夫だとは思うけど、念のために奥で待っていて」

千早の言葉に美波とアナスタシアは頷き、奥へ駆けていく。
その背中を見送って、千早は出入り口へと向かい、そして扉を開けた。



600:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/16(土) 22:07:17.56 ID:DjCVaLavo

響「! ち、千早! 千早も一緒だったのか!」

やよい「千早さーん! よ、良かったですー!」

千早が外へ出たとき、小鳥たち四人はもうほぼ目の前まで来ていた。
響とやよいが真っ先に駆け寄り、再会を喜ぶ。

千早「我那覇さん、高槻さん……。四条さんと音無さんも……会えて、嬉しいです」

そう言って千早は四人に笑いかける。
小鳥がゲームの説明をしていたことに関しては、
千早は既に「やらされていた」ということで納得している。
そして今、765プロのメンバーと行動を共にしている姿を見て改めて確信した。

そんな千早に小鳥が何か話しかけようと口を開く。
しかしそれとほぼ同時に、千早の後ろからもう一つ影が飛び出してきた。

春香「本当に良かった……! 千早ちゃん、早く中に入ってもらおうよ!」



601:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/16(土) 22:08:24.04 ID:DjCVaLavo

春香「あ、そうだ! その前に、私みんなに教えてくるね!」

千早「ま、待って春香!」

声を弾ませ中へ戻ろうとする春香を、千早は慌てて止めた。
そして振り返った春香に引き止めた理由を話そうとしたが、
その前に響が嬉しそうに春香に問いかけた。

響「ま、まだ中に居るのか!? 誰が居るの!?」

春香「律子さんと、それから346プロの人達も三人居るんだ!
   美波さんと、アーニャちゃんと、莉嘉ちゃん!」

響の問いに春香もまた嬉しそうに答える。
しかしそれを聞いた響の表情は一瞬強ばった。
響だけではなく、やよいと小鳥もまた同様であった。



602:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/16(土) 22:10:14.09 ID:DjCVaLavo

春香「? どうしたの、響ちゃん」

響「あ、いや……。な、なんでもない!
  346プロの人が一緒って聞いてちょっとびっくりしちゃっただけだぞ!
  えっと、みんなで協力してるってことでいいんだよね!」

春香「もちろん! みんなすっごく優しくていい人達だよ!」

笑いながらそう言う春香を見て
上手く誤魔化せた、と響は心の中で胸をなで下ろした。
千早もまた、特に不審がることなく納得してくれたらしい。

響「そ、そっか。それじゃあ……」

と、ここで響はチラと後ろを振り返る。
その先に居るのは貴音と小鳥。
響の視線を受けて、貴音は静かに口を開いた。

貴音「双方で協力し合えることは真、よきことです。
   私たちもその輪へ加わることと致しましょう」



603:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/16(土) 22:23:05.51 ID:DjCVaLavo

 『友好的な346プロの者は殺さない』
 『可能であれば協力関係を結ぶ』

それが昨晩、小鳥が響たちと交わした約束だった。
響達が小鳥に頼んだ訳ではなく、小鳥が自らそう言ったのだ。
小鳥がこの約束を口にしたのは、
響とやよいを安心させるために他ならない。
そして実際、二人はこれを聞いて表情に安堵の色を浮かべた。

もちろん既に死者を一人出してしまっているという事実は消えない。
しかしそれでも、これ以上犠牲者は出ないかも知れないという希望は
小鳥の狙い通り響達を少なからず安心させた。
だが小鳥は、本気で約束を守るつもりは無かった。

友好的な346プロは、確かにすぐには殺さない。
その代わり、人質として最大限利用する。

小鳥はそう覚悟を決めていた。



604:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/16(土) 22:26:31.51 ID:DjCVaLavo

灯台へ入るまでの数秒間に、小鳥は早鐘を打つ心臓を鎮めることに集中する。

もう間もなく、346プロのアイドル達に出会う。
自分は覚悟を決めた。
そう、既に一人殺してしまったんだ。
もう後戻りはできない。

と、その時、小鳥は隣を歩くやよいが心配そうにこちらを見上げていることに気が付いた。
今の自分の心が顔に表れていたのかも知れない。
小鳥は長く息を吐き、

小鳥「ごめんね、大丈夫よ」

そう言って笑いかけた。
さっき自分はどんな顔をしていたのか。
やよいを安心させるために貼り付けた笑顔の下で、今どんな顔をしているのか。
それは小鳥自身にも、分からなかった。



605:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/16(土) 22:28:31.78 ID:DjCVaLavo




律子「えっと、これで私たちからの情報は全部です。
   何か気付いたこととか、質問なんかはありますか?」

小鳥「……いいえ、大丈夫です。みんなは何かある?」

貴音「私も特に何もありません」

響「あ、うん……。自分も大丈夫」

やよい「えっと……私も、ないです」

律子「それじゃあ、これからの方針についても話しますね。
   まずは――」



606:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/16(土) 22:38:21.49 ID:DjCVaLavo

小鳥達と346プロの三人は挨拶、自己紹介を交わし、
そして灯台組と小鳥達との間で互いに情報の交換をした。
ただし小鳥側は情報を隠した。
卯月の死に関する全てを、小鳥側は一切話さなかった。

何の為に隠したか。
不安にさせないためか、悲しませたくないからか、
協力関係を結べなくなるからか、信用を得られなくなるからか……。

小鳥と貴音、また響とやよい、
それぞれが考える理由に多少の差はあったがいずれにせよ、
今ここに居る人間が、この武器を使って、あなた達の仲間を銃殺しました……
などということをおいそれと話せるはずがない。
どうしても明かさなければならなくなる瞬間まで秘密にしよう、
と四人は昨晩話し合い、そう決めていた。

律子「――説明はこれで全部かしら。美波さん、補足はある?」

美波「いえ、今ので全部だと思います。ありがとうございます、律子さん」



607:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/16(土) 22:43:22.80 ID:DjCVaLavo

美波は薄く笑って律子に礼を言う。
律子もそれに微笑み返す。
しかしそんな二人の隣で、春香は心配そうな目をして、響とやよいを見つめていた。

卯月の死を知る者達は皆、胸に抱いた事実と感情とを必死に押し隠していた。
だがやはり響とやよいは、
それを完璧に実行できるような性格も器用さも精神力も、持ち合わせては居なかった。

春香「……響ちゃん、やよい……。二人とも、大丈夫?」

二人の様子を見かね、ついに春香は声をかけた。
初めはみんなに会えたことの嬉しさが勝り気付くことができなかったが、
律子の説明の途中から春香は気付き始めていた。
また先に口に出したのは春香だったが、
律子と千早も二人の様子には気が付いていた。



608:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/16(土) 22:48:05.73 ID:DjCVaLavo

しかし当然ながら、何があったのかまで気付いたわけではない。
殺し合いゲームという異常な状況に心が磨り減ってしまっているのだと、
また伊織の件を聞いて心配している、不安になっているのだと、春香達はそう思っていた。

律子「……ごめんなさい。やっぱり、伊織のことは
   もう少し慎重に話すべきだったかも知れないわ」

千早「我那覇さんと高槻さんは、少し横になって休んでいた方がいいかも知れないわね……」

やよい「え、あの、えっと……へ、平気です! 私、大丈夫ですから!」

響「そ、そうだぞ! なんくるないさー!」

三人に心配され、響達は慌てて健在を主張する。
様子を変に思われた、隠し事に気付かれるかも知れない、と焦りを感じたのだ。
しかしそんな二人に、今度は貴音がそっと声をかけた。

貴音「二人とも、無理は禁物です。
   今は千早の言う通りゆっくりと休んで、心を落ち着けることが肝要です」



609:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/16(土) 22:54:57.00 ID:DjCVaLavo

 『無理に否定すると不自然に思われる』
 『だからここは素直に休んでおこう』

貴音の言葉はもちろん二人を心配しての物でもあったが、
裏には少なからずそのような意図が含まれていた。

響とやよいはその裏の意味まで読み取ったかどうかは分からないが
少し迷った結果、素直に従うことにした。

響「それじゃあ……休むことにするさー」

やよい「ごめんなさい……」

春香「謝ることなんかないよ!
   ほら、こっち来て! 二階にベッドがあるんだ!」



610:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/16(土) 22:59:57.79 ID:DjCVaLavo

美波「あ、それじゃあ私、二人の荷物持って上がるね?」

アーニャ「私も、手伝います。えっと……ヤヨイ。荷物、持ちますね」

響「え、あ……ありがとう……」

やよい「あ、ありがとうございます!」

莉嘉「えっと、えっと、あっ! じゃあアタシはドア開ける!」

律子「別に無理に仕事探さなくても……」

昨晩野宿した765プロの者達を慮ってか、
率先して響とやよいの手助けをしようとする346プロの三人。
その優しさを受けて少々困惑気味の響達に、春香はにっこりと微笑みかけた。

春香「大丈夫だよ! 心配な気持ちや不安な気持ちも分かるけど……でもきっと大丈夫!
   だって346プロの人達、こんなに優しくて心強いもん!
   だから絶対、協力すればみんなで一緒に帰れるよ!」



611:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/16(土) 23:03:49.22 ID:DjCVaLavo

そう言っていつものように元気に笑う春香。
その後ろで穏やかな笑みを浮かべる千早と律子。
そしてそんな765プロの皆と同じように笑顔を浮かべる346プロのアイドル達。
そんな彼女達から、小鳥はほとんど無意識に目を逸らした。

そこには、いつもの笑顔があった。
自分が大好きな光景があった。
自分が守りたい、守らなければならないものが、そこにはあった。

……守らなければならないものとは、何だったか。

  『あいつらのこと、よろしくお願いします!』

そうだ……みんなのことを、守らなければいけない。
みんなの、何を?

私はみんなの笑顔を、この幸せな光景を、守りたい……。

でも、それは今、ここにある。
みんな裏のない笑顔を、向け合ってる。
346プロの子達と……。



613:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/16(土) 23:07:52.72 ID:DjCVaLavo

違う。
命があるから、笑顔があるんだ。
命があるから、幸せがあるんだ。
守るのは命……765プロのみんなの、命を守らなきゃいけないんだ。

殺さない。

……そう、人質だからだ。
人質だから、今はまだ、殺さない。
そう、人質だからだ、人質だから……。

みんなを守るんだ。
守らなきゃいけないんだ。
だからやるんだ、それ以外に方法は無いんだから。
だから私は……。

小鳥は何度も自分に言い聞かせた。
昨日と同じように、何度も、何度も。



627:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/17(日) 23:03:26.17 ID:sBtr+FSPo

6:45 水瀬伊織

真美「……いおりん……?」

真美は小さな声で呟くように名を呼び、
突然立ち止まった伊織に不安そうな視線を向ける。
しかし伊織は答えず、見開かれたその目は探知機の液晶に釘付けになっている。

少し前に起床し行動を開始した伊織達は今、灯台を目指して歩いていた。
元々今日は初めに灯台へ行ってみるつもりではあった。
とは言っても、それを決めた時点ではまだ明確な目的があったわけではない。

しかし目覚めてすぐ、灯台へ向かうためのこれ以上ない理由ができた。
探知機に表示された四つの点が、灯台へ向かって移動していたのだ。
点の色は、そこに居るのが765プロの者であることを示していた。



628:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/17(日) 23:05:24.11 ID:sBtr+FSPo

後を追わない理由がない。
そう思い、仲間と合流すべく二人は予定通り灯台へ向かった。

そして伊織の足が止まったのは、探知機の画面に灯台が表示された時だった。
呼びかけても反応しない伊織を疑問に思い、
真美は伊織の手に握られた探知機へ目を落とす。
が、次の瞬間全身の血液が凍りつく感覚を覚えた。

灯台のある位置に、二種類の色が点滅している。
複数の点は完全に重なり、間違いなくそれらが同じ場所に居ることを示していた。

少しでも詳しい状況を把握するため、伊織は探知機を操作し灯台周辺を拡大する。
すると重なっていた点のそれぞれの細かい位置、また数が分かった。
どうやら、765プロと346プロが三人ずつ居るらしい。

と、そのうち765プロを示す二つが移動し、灯台の外へ出た。
そして初めに探知した四つの点が、
その二つの点に招き入れられるように灯台の中へと入っていった。



629:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/17(日) 23:06:23.72 ID:sBtr+FSPo

これを見て伊織は状況を推察した。
灯台の中に居た六人は恐らく、互いに協力し合っている。
どの程度信用し合っているかは分からないが
少なくとも現時点では協力する姿勢を見せている、と。

だがここで、不意に真美が伊織の思考を止めた。
伊織の腕にしがみつき、

真美「た、助けなきゃ……! みんな死んじゃう……殺されちゃう……!」

今にも泣き出しそうな顔で真美はそう言った。
伊織は真美の顔を見つめ、そして震える真美の手を握る。

伊織「……そうね。行きましょう」

そう言って真美の手を引き、駆け出した。



630:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/17(日) 23:10:59.23 ID:sBtr+FSPo

その後、二人が灯台へ着くこと自体は早かった。
だがそこからは彼女達にとって最大の慎重さを要した。

今の二人には、まともな武器がない。
真美は杏から逃げる際、唯一の武器である鎌を取り落としていた。
当然亜美のゴルフクラブも同様である。
現時点で彼女たちの持つ武器は、伊織の探知機と音響閃光手榴弾が三つ。

使いようによっては有用だが、
咄嗟に身を守るには心もとないと言わざるを得ない。

だから二人は、可能な限り灯台内部の把握に時間をかけた。
無警戒に中へ入って後悔することだけは避けたい。
真美には灯台の目視を任せ、伊織は液晶に映る点に集中する。



631:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/17(日) 23:12:14.66 ID:sBtr+FSPo

二人は音を立てぬよう近付き、聞き耳を立ててみる。
が、壁は厚く、波の音しか聞こえない。
こうなればもう、ノックでもしてみるしかないか……。
と伊織がそう考え始めたその時。
しばらく変化の無かった液晶に、動きがあった。

765プロを示す点の一つが移動を始めたのだ。
伊織は初め、もしかすると外へ出るつもりなのかも知れないと思った。
しかしどうもそうではないらしい。
灯台の中をうろうろと、円を描くように動いている。

それが螺旋階段を昇っているのだと気付いたのは、
頭上から声をかけられるほんの一瞬前だった。

貴音「……伊織と、真美でしたか」



632:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/17(日) 23:20:41.45 ID:sBtr+FSPo

恐らく気配を感じて様子を見に出てきたのだろう。
突然の声に驚いた伊織達が見上げた先には、
屋上から覗き込むようにしてこちらを見下ろす貴音の顔があった。
微かに安堵の色を浮かべていた貴音。
しかし、

真美「お姫ちん!!」

そう名を呼んだ真美を見て、表情を改めた。
そして、努めて落ち着いた声で真美と伊織に声をかける。

貴音「今から降りましょう。入口付近で待っていてください」

二人は指示に従い、入口の扉の前まで移動する。
伊織はその間念の為に探知機を注視していたが、
346プロの者に動きはないようだった。



633:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/17(日) 23:23:07.14 ID:sBtr+FSPo

貴音を示しているであろう点は階段を降りてすぐ扉へと移動し、
それに伴って目の前の扉が開かれる。
そして中から貴音が姿を現すと同時に真美はしがみつき、
声を殺して囁くように叫んだ。

真美「に、逃げなきゃ! 他のみんなも早く呼んで!!
   346プロの人居るんでしょ!? 逃げようよ!!
   殺されちゃう!! みんな殺されちゃうよ!!」

両手で貴音の服を掴み、必死な形相を浮かべる真美。
そんな真美の様子に貴音は一瞬目を見開いたが、数秒後、
真美の両頬にそっと手を添え、そして目線を合わせて言った。

貴音「……大丈夫ですよ、真美。ここには脅威になる者は居ません」

真美「で、でも、でも……!」

貴音「私は殺されません。ここに居る皆も死にません。
   ですから、落ち着いて。私の目を見て深呼吸をしてください」



634:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/17(日) 23:25:28.62 ID:sBtr+FSPo

目を見てはっきりと断言した貴音の言葉。
この言葉は半ば錯乱状態にあった真美の耳にもしっかりと届いた。
涙目ながらも真美は貴音の言う通り深呼吸をする。
そして真美が落ち着いたのを確認し、貴音は伊織へと顔を向けた。

貴音「他の765プロの者をここへ呼びましょう。
   何があったかは、皆で聞きます」

伊織「助かるわ、そうしてちょうだい。……真美」

と伊織は未だ貴音の服を掴み続けている真美を呼び寄せる。
真美は黙って手を離して伊織の元へ戻り、
ここへ来るまでと同じように伊織の袖をきゅっと握った。

伊織より背の高いはずの真美は、一回りも二回りも小さく見える。
一体真美に何があったのか……貴音の脳裏を最悪の予感がよぎる。

そしてその予感が外れていることを祈りながら、
貴音は灯台の中へ入っていった。



636:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/17(日) 23:27:11.21 ID:sBtr+FSPo

それから数分も経たないうちに、中に居た765プロのメンバーが次々と外へ出揃う。
伊織はその中にやよいと小鳥が居るのを見て、思わず目を逸らした。
しかしやよいは伊織と真美の姿を確認するやいなや、
真っ先に駆け寄って嬉しそうに声を弾ませる。

やよい「伊織ちゃん、真美! 良かったぁ……!」

だがそんなやよいとは対照的に、二人の顔は晴れない。
真美はずっと不安そうな表情で伊織の袖を掴み、
伊織はやよいと目を合わせたくないかのように下を向いている。

そしてそんな二人の様子を見てやよいが何か声をかけようとした直前、
最後に灯台から出てきた律子の声が伊織の目線を引き上げた。

律子「伊織! 本当に心配したのよ……!
   あなたと美波さんの件を聞いてから、もう心配で心配で……」



637:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/17(日) 23:30:48.23 ID:sBtr+FSPo

律子の口から美波の名が出たことで伊織の心臓は一瞬跳ねた。
しかしすぐに事態を把握し、平静を取り戻す。

伊織「それじゃ、中に居るのは新田美波ってことね……。
   ……間違いなく信用できるの?」

律子「ええ。先に出会ったのは春香達だけど、
   この子達の話を聞いてもまず間違いないわ」

律子の言葉に春香は何度も頷く。
伊織は春香を見、そして千早を見た。
その視線を受けて千早も静かに頷く。

伊織「……春香はともかく、千早がそう言うんならその通りなんでしょうね」

律子「それに私達はこの灯台で一晩過ごしてる。
   念の為交代で一人ずつ起きてるようにはしてたけど、
   346プロの子が起きていて765プロが全員寝てるなんて時間もあった。
   もしあの子達に敵意があったとすれば、とっくに襲われてるはずよ」



639:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/17(日) 23:32:21.40 ID:sBtr+FSPo

貴音「私も初めは警戒しておりましたが、
   彼女達の目からは一切の敵意も悪意も感じ取れませんでした。
   その点に関しては信用して大丈夫かと思われます」

律子の理屈に基づいた言葉と、貴音の感覚に基づいた言葉。
根拠は異なるが、どちらも十分な説得力を持っていると伊織は感じた。
自分の行いが原因で美波が765プロを敵視するというようなことも無かったらしい。
そのことに伊織はほんの少し安堵した。

伊織「……あんた達がそこまで言うなら私も信じるわ。
   本当にお互い協力してるのね」

この伊織の言葉に律子達はホッと胸を撫で下ろす。
春香は俄かに顔を明るくし、そして伊織と真美に声をかけた。

春香「そうそう、みんなで協力して解決策を考えてるの!
   だから伊織、真美! 二人も……」

伊織「嫌よ。私はそんな現実逃避なんて御免だわ」



640:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/17(日) 23:36:23.02 ID:sBtr+FSPo

春香の言葉を遮り、伊織はきっぱりと言い切った。
あまりにあからさまに拒絶され、春香は思わず言葉に窮してしまう。
そんな春香に代わって律子が口を開こうとしたが、
それすら遮るように伊織はすぐに続けた。

伊織「あんた達が信用できる相手と一緒に居るなら別に良いわ。
   私と真美は別行動を取るけど、そのことに対して文句を言ったりしない。
   でも、これだけは覚えておきなさい」

伊織はそこで言葉を区切り、少しの沈黙が生まれる。
その時……律子達は伊織の唇が震え始めたのに気付いた。
それとほぼ同時に、伊織は震えを抑えるように唇を噛む。
そして目を伏せ、震える声を押し殺すようにして、静かに言った。

伊織「346プロの中には……もう、私達を殺す気の奴らが居るわ」



641:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/17(日) 23:38:24.75 ID:sBtr+FSPo

この言葉の直後、伊織へ集中していた視線が、真美へと移った。
突然伊織の肩に額を押し付けるようにして、泣き始めたのだ。
まさか、とその場の数人の頭に浮かんだ最悪の想像は、
涙と共に発された伊織の言葉によって、事実だと告げられた。

伊織「亜美が……亜美が346プロの奴らに、殺されたのよ……!」

その瞬間、伊織と真美を除く全員の頭が一瞬真っ白になった。
真美は改めて事実を聞かされてしまったことで、一際大きな声で泣きじゃくる。
伊織も肩を震わせ俯き、涙を流している。

この二人の様子を見て、一同は呆然と立ち尽くしてしまう。
仲間の死という事実をどう処理するべきか、脳が混乱してしまっているのかも知れない。
しかし辺りに響き渡る真美の泣き声がその脳に、体に、じわじわと染み入ってくる。

だが彼女達はすぐに涙を流すことはなかった。
亜美の死を実感し涙が出てくるより先に、
背後の出入り口から、影が顔を覗かせた。



642:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/17(日) 23:39:42.67 ID:sBtr+FSPo

それは346プロのアイドル達だった。
突然聞こえた大きな泣き声に、
何か大変なことがあったのかも知れないと心配になり様子を見に来たのだ。

そんな彼女達に初めに気付いたのは伊織。
次いで伊織の視線を追って、他の765プロの者達も背後に立つ美波達に気が付く。

扉を開けた先に広がっていた異様な雰囲気に、346プロの三人は困惑した。
こちらを睨みつける伊織、その腕にしがみつき泣きじゃくる真美、
また振り向いた協力者達の悲哀に満ちた表情。

美波「な……何があったんですか?」

美波は短く、一番近くに居た小鳥にそう聞いた。
しかしこの質問に真っ先に反応したのは小鳥ではなかった。

俯いて泣きじゃくっていた真美は、耳に入った聞き慣れない声に反射的に顔を上げる。
そして346プロのアイドル達が目に入ったその瞬間、真美の様子が変わった。



643:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/17(日) 23:42:15.49 ID:sBtr+FSPo

真美「ひっ……!」

短い悲鳴を上げて真美は伊織の背中に隠れる。
呼吸は荒く、体は震えている。
先ほどまでの泣き声は完全に収まっている。
しかしそれは泣き止んだのではなく、泣き声を上げることすらできないほど
怯えきっているということは誰の目から見ても明らかだった。

あの子は自分を見て怯えている。
それに気付いた美波は、敵意のないことを示そうと、

美波「だ……大丈夫、私達は何もしないわ。だから安心して、ね?」

笑顔を浮かべ、そして優しい声で話しかけた。
だがその対応は、今の真美にとって完全に逆効果だった。

真美「いっ……嫌ぁあッ! やだぁああ!! やだああぁああああッ!!」



644:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/17(日) 23:44:58.32 ID:sBtr+FSPo

伊織「っ……やめなさい! この子に話しかけないで!!」

美波が優しく話しかけた途端、真美は半狂乱になって泣き叫んだ。
その異様な反応と伊織の怒声に、美波は肩を跳ねさせて口をつぐむ。
そして今までより更に濃い困惑の色を浮かべる346プロの三人に、
小鳥は目線を落としたまま言った。

小鳥「あの子の妹の亜美ちゃんが……346プロの子に、殺されたの」

それを聞き、美波達は息を呑んだ。
そして再び真美の方へ見開かれた目を向ける。
伊織はその視線から守るように真美の体を強く抱きしめ、
美波達を睨み返すようにして叫んだ。

伊織「そうよ……亜美はあんた達の仲間に殺された……。
   しかもさっきのあんたみたいに、笑顔で近付いて来て……!
   この子達が気を許した瞬間、銃で撃って殺したのよ!!」



649:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/17(日) 23:54:37.33 ID:sBtr+FSPo

これを聞き、346プロと765プロ双方に強い動揺が広がる。
不安や恐怖で思わず殺してしまった、ならばまだ心情的には理解できる。
しかし、そうではないと伊織は言う。

346プロの者が騙し討ちのような手段を用い、殺人を犯した。
そのことは同じ346プロの三人にとっては特に信じがたく、

莉嘉「う、嘘……そ、そんなわけ……」

莉嘉は思わず伊織の言葉を否定したい気持ちを漏らした。
莉嘉がまだ幼いことを差し引いても、
自分の友達が誰かを騙して殺したという事実はそう簡単に受け入れられるものではない。
しかし今の伊織には、莉嘉の心情を慮るだけの余裕は無かった。

伊織「『そんなわけ』……何よ。そんなわけないって言いたいの……?」

そう言い、伊織は莉嘉へと視線を移す。
その目には今まで伊織が抱いたことのない種類の怒りがこもっている。
そしてそれに気付き肩を跳ねさせた莉嘉に追い打ちをかけるように、伊織は大声で怒鳴った。



651:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/17(日) 23:57:53.55 ID:sBtr+FSPo

伊織「言ってみなさいよ……そう思うならこの子にそう言ってみればいいじゃない!!
   亜美が殺されたのは嘘だって、そんなわけないって、
   この子に向かってそう言ってみなさいよ!!」

律子「い……伊織、落ち着いて!!」

今の伊織は感情が制御できていない。
今にも莉嘉に向かって飛びかかりそうな伊織の肩を、律子は咄嗟に掴む。
しかし次いで律子の口から出た言葉は、律子自身の体と心を凍りつかせてしまった。

律子「莉嘉や彼女達に何を言ったって、もう……!」

もう、何なのか。

自分は今何を言おうとしたのか。
直前で飲み込んだ言葉が、胸の中を、頭の中をかき乱すのを律子は感じた。

伊織の肩に置いていた手を自分の口元へ運び、
そのまま膝から崩れ落ちるようにして、律子は地面に座り込んだ。



653:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/18(月) 00:01:10.87 ID:HuYsKSuQo

『亜美は二度と帰ってこない』

頭にこびり付いたこの言葉をかき消すように、律子は声を上げて泣いた。
そしてこの律子の泣き声が、他の765プロの者達の感情に、亜美の死を理解させた。
律子と同じように崩れ落ち泣き声を上げる者、声を押し殺しながら涙を流す者、
ただ表情を歪め、拳を握る者……。
仲間を失った悲しみに暮れる皆を、346プロの三人はただ見ていることしかできなかった。

しばらくその場には泣き声だけが響き続けるかと思われた。
だが唐突にその時間は終わりを告げる。

伊織「……諸星きらりと、双葉杏。やったのは多分この二人よ……」

脈絡なく発された伊織の言葉。
それを聞きある者は恐る恐る、ある者は驚いた様子で伊織に目を向ける。

伊織の目にはやはり皆と同じように涙が浮かんでおり、
その表情からは怒りも読み取れた。
しかし先ほどまでの感情の昂ぶりは既になく、
その場に居る者全員に情報を伝えるべく静かに伊織は話し始めた。



656:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/18(月) 00:05:05.23 ID:HuYsKSuQo

伊織「油断させたのが諸星きらりで撃ったのが双葉杏……。
   もう一人居たみたいだけど、そいつのことは分からない。
   私は実際に見たわけじゃないけど、
   でもその二人だってことは真美の話から考えて間違いないわ……」 

美波「き、きらりちゃんと、杏ちゃんが……」

そう呟いた美波に、伊織は目を向ける。
美波は思わず身を固くしたが、伊織はふっと目を逸らし、

伊織「……さっきは私も少し興奮してた。
   騙し討ちしたのは私も同じだし、亜美を殺したのはあんた達じゃない。
   もう、そこを混同する気はないわ……。それに、そういうゲームなんだしね。
   あんた達がゲームに乗り気じゃないってことも、信用してあげる。
   でも……」

と、そこで伊織は再び美波達へ視線を向ける。
そして莉嘉とアナスタシアを見て、静かに片手を出し、言った。

伊織「やっぱり、武器は渡してもらうわ。あんた達に配られた武器を出しなさい」



659:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/18(月) 00:08:55.75 ID:HuYsKSuQo

その言葉に、二人は困惑する。
自分の仲間が双海亜美を殺してしまったこと、
自分の仲間に双海亜美が殺されてしまったこと、
そのことに深い悲しみと罪悪感に近い感情を彼女達は持っていた。

自分達は、伊織の言葉を拒否できる立場には無いのかもしれない。
しかし武器を要求した伊織の真意が分からない。

身を守る武器を手に入れるためか、
あるいは765プロの脅威となり得る可能性を完全に排除するためか。
それならまだ良い。
だが、もしそうでないなら。
守るためでなく攻めるためだったなら、
自分が武器を渡したことで346プロの誰かが殺されてしまうかも知れない。

そう思うと、二人はやはり簡単に伊織の指示に従うことはできなかった。

とは言え、もしもここで伊織がより強く押せば二人はその指示に従っていただろう。
しかしその「もしも」は、現実とはならなかった。

律子「駄目よ、伊織……。武器は渡せないわ……!」



661:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/18(月) 00:15:57.29 ID:HuYsKSuQo

先程まで亜美を失った悲しみに打ちひしがれていた律子。
しかし今、その声色にはしっかりとした意志が宿っていた。
律子は立ち上がり、そして涙に濡れた目で伊織の顔を真っ直ぐに見て言った。

律子「武器を渡せば、きっとあなたは346プロの子を傷付けてしまう……。
   そしたら、今度はあなたが狙われるかも知れないのよ!」

伊織「……傷付けなくたって、どうせ狙われるわよ。亜美を殺した奴らにね。
   それとも何? あんた、私が為すすべもなく殺されてもいいって言うの?」

律子「っ……そんなはずないでしょ!? 私は、あなたのことを心配して……!
   もう……もうこれ以上、誰にも死んで欲しくないのよ!!」

伊織「……」

律子は自分のことを心配してくれている……そんなことは分かっている。
口には出さずとも、伊織は律子の気持ちを十分に理解できていた。
だがそれでも今の自分は、律子と話し合って意見をすり合わせることはできない。
武器の奪取は無理だ。
伊織はそう感じ、静かに目を閉じた。



662:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/18(月) 00:20:42.88 ID:HuYsKSuQo

伊織「もういいわ。真美、行きましょう」

伊織はそう言い、真美は少しの間を空けて黙って頷く。
そして二人は律子に背を向けた。

律子「なっ……ふ、二人ともどこに行くの!?」

伊織「言ったでしょ、あんた達とは別行動を取るって。
   そっちはお互い仲良くやってれば良いわ。
   その方が死ぬ確率は少なそうだし。
   でもこっちはこっちで、取るべき行動を取らせてもらうから。
   たださっき言った通り、
   やる気になってる346プロの連中も居るってことは忘れるんじゃないわよ」

慌てて声をかけた律子に、伊織は肩越しに目線だけをやって早口気味にそう答えた。
そして前を向き、真美と二人で歩き出した。



663:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/18(月) 00:23:12.90 ID:HuYsKSuQo

律子「ま、待って! 二人とも、お願い、待って……!」

必死に声をかけるが、二人は振り向くことなく去って行く。
だが律子はその場から動くことができず、ただ小さくなっていく二人の背中へ叫び続ける。
本当なら、今すぐ駆け出して力尽くでも止めるべきなのかも知れない。
しかしその場に居る誰も、それはできなかった。

伊織が単に346プロを警戒しているだけなら、間違いなく止めていた。
亜美が殺されたという事実があったとしても、きっと止めていた。

しかし律子達が二人を引き止めることができなかった理由は、伊織ではなかった。

美波に話しかけられて泣き叫んだ、真美。
彼女は去り際までずっと、そして今も何度も振り返り、
怯えた目で346プロの三人を見続けている。
そのことが彼女達にこれ以上ない躊躇を与えた。



665:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/18(月) 00:27:22.73 ID:HuYsKSuQo

美波達に敵意はないと、真美もきっと頭では分かっている。
だが真美の心は今や、完全に346プロへの恐怖に侵されてしまっていた。

亜美が殺されたこと。
しかも一度心を許した相手に殺されたこと。
その事実が真美の心へ与えた影響は計り知れない。
誰が何を言おうと恐らく彼女の中の恐怖心が消えることは二度とない。

346プロの者ががただ近くに居続けるだけで、
想像を絶する恐怖が、苦しみが、真美を襲い続けるだろう。
もしかすると、心が耐え切れなくなってしまうかも知れない。

真美の美波達に対する態度は見た者にそう思わせるのに十分なものであり、
そしてそんな状態の真美に、
346プロとの協力を強いることは彼女達にはできなかった。



666:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/18(月) 00:29:08.47 ID:HuYsKSuQo

どうすることが正解なのかその場の誰にも分からなかった。
真美の精神状態は心配だが、
殺される危険だけでも減らすためにここに居させるべきなのか。
それとも二人が自分の身を守れるよう、武器を渡した方が良いのか。
それとも灯台での協力を放棄してでも誰かが二人に付いて行くべきか。
それとも……。

考えれば考えるほど、いたずらに選択肢が増えていく。
そしていずれの行動を選択した場合を想定しても、
良い結果と悪い結果が浮かんでは消え浮かんでは消え、答えは出ない。

そうして悩むうちに二人の背中はどんどん小さくなり、
森の中へと入った後はあっという間に見えなくなってしまった。

残された者達は皆、しばらくそこから動くことができなかった。



689:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/18(月) 22:17:50.13 ID:HuYsKSuQo

7:40 双葉杏

李衣菜「……本当に行くの? まだ爆弾持ってる奴が居るかも知れないのに……」

そう聞いた李衣菜の視線の先には、
もう一つの集落へ行くための支度をする杏の姿があった。
周辺で爆発音がしたということは李衣菜たちも既に知っている。
そんな場所へ自ら赴こうとする杏を案じての言葉だった。

しかし杏はそんな李衣菜に対し、変わらず落ち着いた様子で答える。

杏「まぁ、やっぱり早いうちに調べておきたいしね。
 それに危ないのはどこも同じだよ。
 爆発起こした人がこっちの集落に来る可能性だってあるんだし」

その言葉に対する李衣菜、みく、蘭子の反応はそれぞれだったが、
緊張感が高まったという点では共通していた。
杏はそれを確認し、今度はきらりとかな子に目を向けた。



691:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/18(月) 22:19:46.00 ID:HuYsKSuQo

杏「それで、二人ともどうするか決めた?」

その言葉にかな子達は二人で顔を見合わせる。
そしてすぐに杏に向き直り、

かな子「私たちも……一緒に行ってもいいかな」

少し遠慮がちにだが、かな子は杏の目を見てそう答えた。
杏はかな子の返事を聞き、きらりに目を向ける。
きらりは慌てたように目を逸らしたが、覚悟を決めるようにぎゅっと目を瞑り、
そして杏と目を合わせて頷いた。

杏「……それじゃ、もうちょっと待ってて。もうすぐ準備終わるから」

そう言って杏は二人から目線を外し、支度の続きを始めた。



692:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/18(月) 22:22:59.09 ID:HuYsKSuQo

それから数分後、準備は整った。
必要最小限に厳選した荷物を持ち、杏は立ち上がる。

杏「それじゃ、行ってくるよ。何もなかったらすぐ戻ってくるから」

李衣菜「うん……気を付けて」

みく「……ごめんね。みく達、一緒に行けなくて」

杏「別にいいよ、謝らなくても。それよりちゃんと安静にしてなよ。
  あ、でももし何かあったらすぐ逃げなきゃ駄目だからね」

横になったままのみくに杏はヒラヒラと手を振って背を向ける。
その背中に向け、蘭子も声を搾り出すようにして声をかけた。

蘭子「あ、あのっ……! き、気を付けて、ください……!」

杏「お互いにね。さっきも言ったけど、危ないのはここも一緒なんだから」

杏はやはり落ち着いた声でそう答え、きらりとかな子を連れ部屋を出て行った。



693:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/18(月) 22:28:23.71 ID:HuYsKSuQo

7:45 星井美希

美希「ミキ的には、もうしばらくここで待ってた方がいいって思うな」

そろそろ準備しよう、行くなら早い方がいい。
そう提案した真に、美希ははっきりと反論を述べた。
その理由を真が問うより先に美希は話し始める。

美希「だってこっちから行くより、向こうから来てもらった方が安全なの。
  ミキ達があっちの集落に行っても、どの家に誰が居るかなんて分からないよね?
  でも家の中で待ち伏せしてる人達からは
  ミキ達のことが丸見えになってるかも知れないの。だからミキは反対」

この意見を聞き、真は実際に自分達が向こうの集落へ着いた時の状況を想像する。
そして、確かに美希の言う通りかも知れない、と思った。



694:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/18(月) 22:31:15.17 ID:HuYsKSuQo

次の行き先は今自分達が居る集落の北西にある、もう一つの集落。
その点については二人の意見は一致していた。
しかし出発は早い方がいいと言う意見について、美希は反対している。

美希「人質が居るって言っても、例えば家の中からいきなり撃たれちゃったりとか、
   物陰からいきなり襲いかかられたりとかしたらどうなるか分からないの。
   だからミキは、こっちが346プロの人を待ち伏せした方が良いと思うな。
   ここからなら誰か来たらすぐ分かるし、爆弾だって使いやすいもん。
 きっとそっちの方が良いの」

真「……でも美希、346プロの人がここに来てくれるとは限らないよ。
 確かに可能性としては低くないかも知れないけど、
 ここで待っていてももし誰も来なかったら……」

美希「じゃあ、午前中くらいだったら良いよね?
  12時くらいまで待って、それで誰も来なかったら出発するの。それじゃ駄目?」



695:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/18(月) 22:32:49.26 ID:HuYsKSuQo

真「……わかった。それじゃ、12時まではここに居よう」

その返事を聞き、美希は薄く笑った。
そして横でずっと黙っていた未央にチラリと目を向け、
俯き気味の未央の顔を覗き込むようにして言った。

美希「もし346プロの人が来たら、人質さんの出番だからね。
   ちゃんと人質さんになっててね? そしたら殺さないであげるから」

確認とも忠告とも取れるこの言葉に、未央は卑屈な笑みを浮かべて二度三度頷く。
美希はその顔を至近距離で数秒見つめた後、真に視線を外した。

美希「真くん、見張る場所とか決めよ? 作戦会議なの」

そうして二人は、更に話し合いを続けた。
未央は目を閉じて、二人の会話をただ黙って聞いていた。



696:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/18(月) 22:35:28.37 ID:HuYsKSuQo

8:00 水瀬伊織

伊織は草木の中にじっと身を伏せて探知機を注視する。
息を潜め、目と耳に神経を集中する。
聞こえるのは波の音と、真美の息遣い、それと、

凛「見えてきた……。智絵里、もうすぐだよ」

智絵里「う、うん……!」

微かに聞こえる346プロのアイドル達の話し声。
液晶に映る二つの点が最接近する。
とは言っても距離はそれなりにあり、気付かれる恐れはほぼない。

凛達が通り過ぎていったのを見計らって、伊織は木の陰からそっと頭を出す。
少し離れた場所に、恐らく灯台に向かって砂浜を歩く二人の背中が見えた。



697:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/18(月) 22:37:45.33 ID:HuYsKSuQo

そして、はっきりと見た。
二人の手にはそれぞれ武器が握られている。
一つはサバイバルナイフ。
そしてもう一つは、拳銃。

チャンスだ。
この機を逃さない手は無い。
少なくとも拳銃、できれば両方手に入れたい。

あの二人が765プロに対して友好的かどうか、それは分からない。
そして分からない以上、武器を奪うのに手段を選ぶことはできない。
交渉など論外だ。
相手が殺意を持っていた場合、今の自分達には拳銃から身を守る術がないのだから。

だから、やるしかない。
それが絶対のルールなのだから。



698:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/18(月) 22:46:36.01 ID:HuYsKSuQo

伊織は長く息を吐いて覚悟を決め、真美に目配せする。
それを見て真美は慌てた様子で耳を抑え目を瞑った。

真美が耳を塞いだのを確認して、
伊織は手に持っていた音響閃光手榴弾のピンを抜く。
そして、まだこちらに気付いていない凛と智絵里の背に向けて投げた。

手榴弾は弧を描き、二人の右上方を通過して、見事目の前に落ちた。

凛「っ!」

智絵里「ひっ……!?」

突然視界に映った飛来物に驚き、二人は思わず注視する。
そして次の瞬間。
智絵里が小さく上げた悲鳴ごと、その場を爆音と閃光が覆い尽くした。



699:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/18(月) 22:50:06.18 ID:HuYsKSuQo

その直後、伊織は森を出た。
凛と智絵里は伊織の狙い通り、砂の上に倒れ伏して身を固くしている。
二人に向かって走りながら、伊織は智絵里の拳銃と荷物を確認した。
智絵里は自分が銃を握っていることなど忘れているかのように、
頭を抱えて体を丸めている。

そして数秒後。
智絵里が握っている銃は強引に指から引き剥がされた。
また伊織は銃を奪うと同時に、
傍に落ちていた智絵里の荷物も自分の後ろへと放り投げた。

突然の出来事に智絵里は驚いて声を上げ、反射的に伊織の方を見る。
だが閃光を直視した目は、まともに働いてくれない。
ただそこに何者かが居るという、それだけの情報しか得られない。
そのことが恐怖心を更に掻き立て、敵の存在を確認したにも関わらず
智絵里は逃げることも立ち向かうこともできなくなってしまった。



700:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/18(月) 22:52:13.43 ID:HuYsKSuQo

しかしそのことが智絵里にとって幸いした。
無力に怯える少女の姿が、伊織に僅かな躊躇を与えたのだ。

つまりそれは、伊織に隙が生まれたことに他ならなかった。

凛「ぅあああぁあああッ!!」

突然の叫び。
それを聞き伊織が咄嗟に目を向けた直後。
伊織の両目を、痛みが襲った。

伊織が感じたのは目の痛みだけではない。
顔全体に、何かがぶつかったのを感じた。
少し遅れて口の中の不快な異物感にも気付く。
そこで伊織はようやく何が起こったか理解した。
爆音と閃光の衝撃からいち早く回復した凛が、敵の存在を感じ取り砂を掴んで投げたのだ。



701:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/18(月) 22:55:39.91 ID:HuYsKSuQo

砂粒は目を直撃し、伊織の視界は今や完全に奪われている。
それに対し凛の視力は、敵を視認できる程度には機能している。

凛は立ち上がり、利き手にナイフを構える。
今この瞬間は、自分以上に敵の視力は不自由になっているはず。
やるなら今しかない。
そう決断し、凛は足を踏み出して
伊織に向けてサバイバルナイフを思い切り振り抜いた。
しかし、

伊織「ッぐ……!?」

伊織を襲ったのは、頭部への打撃。
伊織はそれに一瞬怯むが、しかしこれは凛にとっても想定外だった。

切りつけるはずが、柄の部分で殴りつけてしまった。
視界の不良が災いし、凛は伊織との距離感を誤ったのだ。



702:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/18(月) 22:57:07.53 ID:HuYsKSuQo

失敗した、今度こそ……と凛はもう一度ナイフを振りかぶる。
だがそれと同時に、伊織は目を閉じたまま凛が居るであろう位置から距離を取った。
そして凛が距離を詰めようとした次の瞬間。
霞んだ視界に、もう一つの影が飛び込んできた。

真美「いおりん……!!」

待機するように言われていた真美だったが、
伊織の身に危険が迫ったと見て慌てて駆け寄ったのだ。
そして伊織の腕を掴み、

真美「こっち!! いおりん、こっち……!!」

そう言って森の中へ逃げようと必死に引っ張る。
しかしそんな真美の胸に、伊織は何かを押し付けた。
真美が視線を落とすとそこにあったのは、
伊織が智絵里から奪った銃だった。
そして真美がそれを確認したのと同時、伊織は目を閉じたまま怒鳴るように叫んだ。

伊織「撃って、真美! 早く!!」



703:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/18(月) 22:58:50.59 ID:HuYsKSuQo

真美はその声を聞いて、ほぼ反射のように伊織の手から銃を受け取る。
そして、伊織に切りかかった「敵」に向けて、構えた。

凛「っ……!」

朧げな凛の視界だが、銃口を向けられたことは分かった。
それが誰かも分からないし、周りの音もほとんど聞こえない。
ただ分かるのは、765プロと思しき人間が一人増えたことと、
相手が自分達に明確な敵意を持っているということだけ。

こんな状況で下手に身動きを取れるはずがない。
凛は間も無く自分を貫くであろう痛みへの恐怖に、思わず目を瞑った。

が、しかし。
完全に抵抗の意思を失った凛に向けて銃を構えた真美の手は、
これ以上ないほどに震えていた。



704:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/18(月) 23:01:48.00 ID:HuYsKSuQo

伊織「真美!? どうしたの、真美……!?」

未だ目を開けることのできない伊織は、
発砲音が聞こえないことに焦りを感じ真美の名を呼ぶ。
しかし真美の耳には伊織の声は届いていない。

いつの間にか真美の視界は涙に滲んでいる。
心臓は張り裂けそうに鼓動し、呼吸はまともに肺に空気を送っているのかすら分からない。

そして数秒後。
伊織の耳に聞こえたのは発砲音ではなく、
喉から漏れ出すような、真美の泣き声だった。

伊織がそれを聞いたのと、凛が決断したのはほぼ同時だった。
閉じた目を恐る恐る開けた凛は、なぜか敵が銃口を下げていることに気が付いた。
表情は分からず声も聞こえないため、理由は分からない。
しかし、今しかない、と凛はそう思った。

凛「智絵里、立って!!」



705:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/18(月) 23:03:16.17 ID:HuYsKSuQo

すぐ隣で震える智絵里の肩を抱き、凛はそう叫ぶ。
大声で叫んだ凛の声は、麻痺した智絵里の耳にも届いた。
智絵里は仲間の声にようやく動くことができ、凛の手を握って立ち上がる。
そして伊織達に背を向けて二人はその場から逃げ出した。

伊織「っ……この……!」

伊織は凛の声を聞いてほんの僅かに目を開けた。
真美が銃を握っていることを確認し、その手から銃を取る。
そして去って行く凛達の背中に銃口を向けた。
しかし、やはりまともに目を開けていられない。
しばらくなんとかして照準を定めようとしたが、
二人が木の陰に隠れて見えなくなった辺りで、伊織は歯噛みして銃口を下ろした。

俄かに喧騒は収まり、海岸には再び静けさが訪れる。
伊織の耳には、波の音と、真美の泣き声しか聞こえなくなった。



706:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/18(月) 23:06:01.41 ID:HuYsKSuQo

伊織は手探りで、智絵里から奪った荷物から
ペットボトルを取り出し、その水で目を洗った。

砂を洗い流し、何度か目を開閉させ、痛みが無いことを確かめる。
ついでに口もゆすいで砂を吐き出し、顔を袖で拭った。

その時になってようやく伊織は、真美の姿をはっきりと見た。
真美は地面にへたり込むように座り、両手をついて俯いている。
泣き声はもう聞こえないが時折しゃくり上げ、肩が跳ねる。
そんな真美の後ろで伊織は、激しい後悔と自己嫌悪を感じた。

自分の失態で、渋谷凛と緒方智絵里を逃がしてしまった。
それも美波の時とは違い、明確な殺意を顕にした上で、逃がしてしまった。
もうあの二人が765プロを敵視するのは、ほぼ間違いない。

なぜ逃がしてしまったのか。
躊躇してしまったからだ。
つまり自分は、この期に及んで未だ中途半端だったんだ。



707:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/18(月) 23:07:47.35 ID:HuYsKSuQo

自分が決めたと思っていた覚悟など、まったくの薄っぺらいものだった。
中途半端だったせいで、自分のみならず真美まで危険にさらした。
それだけじゃない。
凛に反撃された自分は、あろうことか真美を頼ろうとした。
真美の心が弱っているのを知りながら、銃を持たせて射殺を命じた。

自分は真美を守ろうとしていたんじゃなかったのか。
灯台であれだけの啖呵を切っておいて、いざとなるとこのざまだ。

その灯台のことだってそうだ。
自分のことを棚に上げて、346プロの騙し討ちを責めた。
亜美を殺した奴らとは無関係の三人に、八つ当たりのように怒鳴り散らした。

伊織は拳を握り、自分の意思の薄弱さ、一貫性のなさを責めた。
自分自身に虫酸が走る。
ここまで酷い自己嫌悪を覚えたのは伊織は初めてだった。



708:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/18(月) 23:10:07.76 ID:HuYsKSuQo

そしてそれと同時に、
自分が真美の精神状態を何も分かっていなかったことを恥じた。

たとえ何があっても、真美に撃てなどと言うべきじゃなかった。
反撃され危険が迫っていたとは言え、目が開かなかったとは言え、
それでも自分がなんとかするべきだった。

真美が銃を構えたまま泣き出すまで、気付かなかった。
真美はただ346プロに怯えているだけではなかった。
怯えているだけなら、ああはならないはずだ。
銃を構えることはできたのだ。
ならば、恐怖の対象を排除するためにそのまま引き金を引くこともできるはず。
しかし真美は撃たなかった。
それどころか泣き出してしまった。

真美の心の状態は自分が思っていたよりずっと複雑で、
ずっと深刻なものだったと、伊織はこの時になってようやく気付いた。



709:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/18(月) 23:12:37.75 ID:HuYsKSuQo

真美はあの時、確かに引き金を引こうとしていた。
346プロの者を殺そうという明確な殺意を、真美は確かに抱いていた。
あの時、あの瞬間は、自分が圧倒的に優位であることを感じ、
真美の346プロに対する恐怖心は影を潜めていた。
恐怖心に勝る復讐心が、あの時の真美の心には確かにあった。

亜美の仇を討つ。

昨日から今までの間に真美がそう考えたのは一度や二度ではない。
恐怖に震えながらも、その裏には確かに亜美を殺した346プロへの憎しみがあった。

346プロは怖い。
でも、亜美の仇を取らなければ。
復讐しなければ。

真美の心を、幾度となく殺意がよぎった。
しかしそのたびに……。
亜美のことを思い出すたびに、真美は分からなくなった。



710:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/18(月) 23:14:30.53 ID:HuYsKSuQo

 真美『や……やだ!! 真美、こんなの絶対いや!!』

 亜美『あ、亜美だってやだよ! 人殺しなんてしたくないもん!!』

 真美『亜美、作戦会議だよ! これからどうすればいいのか考えなきゃ!』

 亜美『うん! 人なんか殺さなくてもいいように考えよ!!』

自分も亜美も、人なんか殺しなくなかった。
だからたくさん考えた。
人を殺さないために、たくさん、たくさん、考えた。
その時の亜美の顔が、言葉が、今でもはっきりと思い浮かぶ。

二人で一緒に、一生懸命考えた。
人を殺さずに済む方法を、頑張って考えた。

そう……亜美は絶対に、人殺しなんか嫌だったんだ。



711:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/18(月) 23:15:59.61 ID:HuYsKSuQo

仇を討ちたい。
亜美を殺した奴らが憎い。
復讐してやりたい。

しかし亜美との思い出が、駄目だと言う。
あの時の亜美が、やめてと言う。
人を殺さないために二人で一生懸命話し合ったあの思い出。
もし自分が346プロの者を殺してしまったら、あの思い出を台無しにしてしまう気がする。
亜美との思い出を、亜美の思いを、台無しにしてしまう気がする。

凛に銃口を向けた時、真美の殺意は最大にまで高まった。
何かが違えば恐らく引き金を引いていた。
だがその瞬間、やはり亜美との思い出が心に浮かんだ。
だから、できなかった。

亜美のために殺さなければいけない。
亜美のために殺してはいけない。

どうすればいいのか、わからない。



712:以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします 2016/01/18(月) 23:18:59.43 ID:HuYsKSuQo

矛盾する二つの気持ちは常に真美の中にあり、
それはことあるごとに頭と心を掻き乱して、少しずつ真美の精神を蝕んでいた。
そして、今。
実際に仇を討つ機会が巡ってきてしまったことは、更に大きく真美の心を削った。

伊織は真美のこの精神状態を、正確に理解したわけではない。
しかし自分が発砲を命じたことが、真美の心を更に弱らせてしまったことは分かった。

伊織はぎゅっと目を瞑り、座り込む真美を正面から抱いた。
胸の中でしゃくり上げる真美の頭を抱きしめ、
伊織は真美への懺悔とともに改めて決意する。

もう真美には何もさせない。
手を汚すのも心を汚すのも、自分一人でいい。
これ以上真美の心を傷付けない。
最後まで、この子のことを守り通す。
最後まで、絶対に。



748:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/23(土) 22:59:32.01 ID:BQ4HY44xo

8:05 星井美希

美希「それじゃ真くん、向こう側よろしくね」

真「うん。美希も、その子のこと任せたよ」

そう言って真は、未央の鞄から手榴弾を三つ全て取り出した。
そして美希が向かっているのとは別の窓に見張りにつく。

二人は話し合った結果、美希が未央の挙動と南側の窓を見張り、
真が手榴弾を持って北側と西側の窓を見張ることになった。

今美希たちが居る部屋は、二人が最も待ち伏せに適していると判断し選んだものだった。
窓が北・南・西の三方向に付いており周囲を広く見張ることができる。
唯一窓のない東側には部屋への入口の扉があり、内鍵をしっかりとかけている。



749:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/23(土) 23:00:13.61 ID:BQ4HY44xo

窓のある方向から誰かが来れば、まず確実に自分達の方が先に相手に気付く。
仮に窓のない東側から来たとしても、
玄関を開ける音や部屋の扉を開けようとする音で気付くことができる。
この状況であれば、先手を打って行動できることは間違いない。
部屋の中央には大きめのテーブルがあり、
何かあった時には身を隠したり倒して遮蔽物として使ったりもできるだろう。
待ち伏せの準備としては恐らく万全だった。

ただやはり懸念材料は、「一時間ルール」の存在だ。
これだけの準備を整えていても、一時間に一度はこの場を離れなければならない。
確率としては低いがその間に敵が訪れることもあり得ないことではない。
人質が居る以上、不利になるということはないが、優位性は薄れてしまう。

もしエリアの移動中に敵が来たらどうするか、
その時の対策も一応考えては居るが、やはり多少不安であることには違いない。
が、そんな風に二人が胸に抱えていた懸念は杞憂に終わった。

真「っ! 美希……!」



750:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/23(土) 23:00:52.21 ID:BQ4HY44xo

真はギリギリ聞こえる程度の声で美希を呼んだ。
その声に美希が振り向くと、真は北側の窓から外を覗いたまま、
手だけを美希の方へ向けて手招きしている。

美希は姿勢を低くし、未央を連れて真の横に行く。
そして真と同じように僅かに顔を覗かせて外を見た。
すると、北北西の方角からこちらに向かって歩いてくる人影が目に映った。

人数は三人。
まだ十分な距離があり、こちらの存在には気付いていないようだ。

方角から考えて、北西の集落からやって来たのかも知れない。
武器は、分からない。
先頭を歩くアイドルは鞄を持っている。
後ろの二人は何も持っていない。
どこかへ落としたか、あるいは置いてきたか。
北西の集落へ置いてきたのかも知れない。
とすると、ここへ来たのは偵察か、調査か……。



751:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/23(土) 23:03:10.41 ID:BQ4HY44xo

分からないことをこれ以上考えていても仕方ない、と美希は思考を切り替える。
そして未央の襟元を掴み顔を寄せて囁いた。

美希「人質さん、出番なの」

そのまま襟首を引っ張るようにして、姿勢を低く保ち部屋の入口へと歩いて行く。
可能な限り素早く、音を立てないように扉を開けて廊下へ出る。
美希はそこで立ち止まり、振り返って真の合図を待った。
廊下からでは、北側の様子は見えない。
つまり人質を連れて出て行くタイミングは真次第となる。

そしてそれから何十秒かが経ち、真は美希に向けて頷いた。
合図を確認し、美希は未央の首元に鉈を押し当て、

美希「行くよ」

短く一言そう言い、未央の腕を掴んで玄関へと進んだ。



752:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/23(土) 23:04:23.00 ID:BQ4HY44xo

緊張しているのか、未央は廊下を歩きながら深呼吸する。
美希も、落ち着いてはいるが鉈を握る手には自然と力が入る。

そしていよいよ、二人は玄関へ立った。
目の前の、この扉を開け外へ出て、そして左を向いて数歩進めば、
こちらへ向かってくる346プロの三人が目に入るだろう。
そうなれば当然向こうもこちらに気付く。
人質が居ることにもすぐ理解するはずだ。

美希は軽く息を吐く。
向こうがこちらに気付けば、後は未央の命を盾に武装を解除させればいい。
手順は何度もシミュレーションした。
敵が起こす可能性のある行動もいくつか想定し、対応策も考えてある。

未央の呼吸はやはり深い。
美希は首筋に刃を当てたまま、扉に手をかける。
しかし扉を開けた次の瞬間、気付いた。

直前に未央が大きく息を吸い込んだのは、呼吸のためではなかった。



753:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/23(土) 23:07:27.43 ID:BQ4HY44xo

美希「ッ!!」

扉を開けるために美希が腕を離したその瞬間。
その一瞬の隙をついて未央は、体を捻って扉をこじ開けるようにして外へ出た。
咄嗟に反応した美希により少し首が切れたが、なんとか致命傷は避けた。

当然美希は、再び捕らえようと手を伸ばしてくる。
しかし未央はその美希の体を思い切り蹴り飛ばした。

未央「ぅくッ……!」

だが両手を縛られているため力が上手く伝わらない。
美希はよろける程度だったのに対し、
未央はバランスを崩して地面に倒れ込み、うめき声を上げる。

しかし未央にとっては、これで良かった。
ほんの数秒時間を稼げれば良かった。
未央は地面に倒れ込んだまま美希の方を見ることもなく、
再び大きく息を吸い仲間に向かって思い切り叫んだ。

未央「来ちゃ駄目ええええッ!! 逃げてぇえええええええッ!!」



754:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/23(土) 23:08:36.90 ID:BQ4HY44xo

……あの時。
真と対峙し、背後から美希に殴り掛かられ、追い詰められた、あの時。
壁を背にして未央が思ったことは何だったか。

自分が殺されるという恐怖と絶望。
それはもちろんあった。
しかしそれとほぼ同時に未央の心に生まれたのが、
自分の仲間が自分と同じように殺されることへの恐怖だった。

不意打ちで、挟み撃ちで、あるいは騙し討ちで、殺される。
この人達ならやる。
間違いなくやる。
自分が殺されれば、次は他の誰かだ。

そして、未央は思った。
そんなの嫌だ。
そんなことさせない。
そのためには……もう、これしかない。



755:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/23(土) 23:17:50.03 ID:BQ4HY44xo

未央が人質を志願したのは命惜しさからではなかった。
美希達が346プロの者を発見した時、それを真っ先に仲間に伝えるため。
そのために、未央は自ら人質となった。
そうすれば少なくとも自分の時のような不意打ちは無くなるはず。
敵がここに居ると、教えられるはず。

何もしなくてもどうせ殺される。
それなら友達を逃がして、殺されたい。
その一心を胸に、未央は裏切り者を演じた。
そしてこの瞬間まで演じ抜いた。

地面に横たわった未央は息を全て吐き終わった。
そして次の瞬間、首元に熱を感じる。
赤い飛沫が飛び散るのが見える。
もう声は出ない。
息も吸えない。

お願い、逃げて。

薄れゆく意識の中、未央は最期まで、口を動かし続けた。




本田未央 死亡



756:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/23(土) 23:19:09.13 ID:BQ4HY44xo




杏「ッ……逃げるよ!! 走って!!」

数十メートル先、自分達が向かっていた方向から聞こえた声。
それはしっかりと杏達に届き、
杏はすぐさま振り返ってきらりとかな子に向かって叫んだ。

二人は一瞬体を強ばらせたが、杏の剣幕に突き動かされるように踵を返す。
二人が走り出し、そして後に続いて杏も走り出そうとしたその時。
背後、遠くの方から物音が聞こえた。
杏はその音に反射的に振り返る。

そして杏の視界は捉えるべきものを真っ先に捉えた。
未央の声が聞こえた民家、その窓が開き、中に人が立っている。
その人物が346プロのアイドルではないことを確認した瞬間、
杏は躊躇することなく銃口を窓へ向け、引き金を引いた。



757:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/23(土) 23:20:18.09 ID:BQ4HY44xo

きらり「ひっ……!?」

かな子「あ、杏ちゃ……」

突然の発砲音に二人は振り返る。
そして立ち止まりそうになるが、

杏「いいから走ってッ!!」

杏は二人の目を見て怒鳴るように叫び前を向かせた。
そして直後、自分は警戒のため再び背後に目をやる。
窓ガラスは割れ、人影は既に見えない。
窓の下に伏せたか。
命中していればいいのだが……
と、杏が思ったのと同時だった。

もしこの時、杏が背後を見る際に体をひねる方向が逆だったなら。
あるいはあとほんの少しだけ早く振り返っていたなら。
結果は違っていたかも知れない。



758:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/23(土) 23:21:26.46 ID:BQ4HY44xo

右側へ体をひねり後ろを向いていた杏は、逆側……つまり、
進行方向に対して左側から、何か物音がしたのを聞いた。

そしてきらりとかな子もそれに気付いた。
見ると、背後から飛んできた何かが自分達のすぐ左隣に落ちて、
そのまま今向かっている方向へと転がっていく。

そして数メートル先で止まった。
それが何か分かった瞬間、先頭を走っていたきらりと
後に続いていたかな子の足は、地面に張り付いた。

真は、既に投げていた。
杏が発砲を止めたその瞬間に、
窓の下に身を伏せたまま、投げていたのだ。

ピンが抜かれて既に数秒経過した手榴弾が、
今きらり達の目の前に転がっていた。



759:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/23(土) 23:22:28.57 ID:BQ4HY44xo

いつ爆発するか分からない手榴弾が目の前に突如現れる。
そのことはきらりとかな子の頭を真っ白にし、体を完全に硬直させた。

特に先頭に立っていたきらりは、
ほんの数歩先にある手榴弾に完全に思考を奪われていた。
一体どう行動するのが正解なのか……などという迷いすら起こらない。

一瞬の間の後、ようやくきらりが起こすことのできた行動は、
本能に任せて身を守ることだった。

手榴弾に背を向け、目を強く瞑り、両手で頭を抱えて地面に座り込む。
そんなことをしても至近距離の爆発から身を守れるはずはない。
当然、近くに居るかな子と杏も、無事で済むはずがない。
しかし今のきらりは、目前の脅威にただ小さくなって怯えることしかできなかった。

そしてそんなきらりのすぐ後ろで、手榴弾は爆発した。



760:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/23(土) 23:23:30.19 ID:BQ4HY44xo




美希「真くん!!」

爆発音を聞いた直後、室内に戻った美希は姿勢を低くして真に駆け寄った。
既に体を起こし窓から外を覗いていた真は、声に反応して美希の方へ目をやる。
そして思わず息を呑んだ。

真「美希、その血は……」

美希「平気なの。ミキの血じゃないから」

短くそう言って、美希は真と同じように窓から顔を覗かせる。
それだけの説明だったが、真は事態を把握した。
直前の未央の叫び声は真にも届いていた。
だからそれ以上は聞かず、自分も再び外へと目を向けた。



761:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/23(土) 23:27:26.04 ID:BQ4HY44xo

手榴弾が爆発したであろう場所には濃い砂塵が立っている。
風がほとんど無いようでなかなか薄れず、その場がどうなっているかが分からない。

上手く投げられていれば、今頃は恐らく全滅しているはずだが……。
と、美希と真は早く砂塵が晴れるよう心の中で急かした。

が、数秒後、二人は目を見開く。
砂塵が晴れたその場所に、二つの影がはっきりと見えた。
一人は立っており、もう一人は座っているように見える。

まだ生きている。

それが分かった瞬間、真は立ち位置を窓の正面へと移した。
今度こそ、しっかり狙いを定めて投げてやる。
そう決心し、真は手榴弾のピンに指をかけた。

しかしそれを引き抜くのと全く同時。
斜め後方から、音が聞こえた。



762:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/23(土) 23:30:49.15 ID:BQ4HY44xo

全神経を窓の外に集中していたのが災いし、
直前までその気配に気付くことができなかった。
突然の物音に驚いて二人は振り返り、そして次の瞬間、

真「ッぐ!?」

真の胴体を強い衝撃が襲った。
不意を突かれた真は衝撃に耐え切れず、バランスを崩す。
そして後ろに倒れながらその衝撃の正体を見た。

赤城みりあが、自分の体にしがみついている。

一体いつから居たのか。
その答えが出る前に、真の思考は倒れた衝撃で中断させられた。
だが、倒れただけならまだ良かった。

最悪なことに……真は倒れた際、壁に頭を強く打ち付け、
そのせいで既にピンの抜けた手榴弾を取り落としてしまった。



763:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/23(土) 23:33:51.89 ID:BQ4HY44xo

そして次にみりあが取った行動は、深く考えての物ではなかった。
手榴弾はピンを抜けば爆発するということもみりあは知らない。
単純に、爆弾を投げさせたくないという一心からの行動だった。

みりあは美希と真が阻止する間もなく、
自分のすぐ傍に落ちた手榴弾を部屋の隅へ……
つまり真達から最も離れた所へ、手で弾き飛ばした。

美希「っ……!!」

それを見た瞬間、美希は部屋の中央へと走った。
みりあが起き上がり窓から外へ出ようとしているのが見えたが、
それすら一切無視した。

逃げる者を追うことを放棄し、美希が最優先で行ったこと。
それは、部屋の中央に置いてあったテーブルを蹴り倒すことだった。



764:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/23(土) 23:37:33.55 ID:BQ4HY44xo

ピンを抜いて何秒経ったか分からない。
だが少なくとも手榴弾を拾って外に捨てることは不可能だ。
今すぐにでも爆発してしまうかも知れない。

そう判断した美希が咄嗟に考えたのが、テーブルを遮蔽物にする方法。
説明書によると、この手榴弾は破片を飛ばして殺傷するタイプの物らしい。
テーブルの天板で少しでも破片を防ぐことが出来ればと、
これが美希に思い付いた最も「マシ」な方法だった。

この程度の遮蔽物で完全に防ぎきれるとは到底思えない。
しかし二人とも生き残るためには、賭けるしかなかった。

テーブルを倒した直後、美希は真へ向けて飛び、
真を庇うようにして重なる形で床に伏せる。

そしてみりあが身を投げ出すように窓の外へ出たのと同時に、
爆音が部屋を満たした。



765:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/23(土) 23:41:14.36 ID:BQ4HY44xo

分厚いテーブルの天板は、爆風によって飛び散った破片のいくらかは防いだ。
しかしやはり全ては防ぎきれず、天板を貫通した破片が、
数メートル先に伏せている美希達を襲った。

美希は真に覆いかぶさり、また真は美希の頭をだき抱えていた。
そして手榴弾の破片は、真の体を守る美希の背中数箇所と左足、
更に美希の頭部を守る真の両腕に突き刺さった。
その大半は天板を貫通したことにより幾分か威力が殺されていたため
致命傷には至らなかった。

が、それでも、

美希「ぅ、あっ……」

真「っ……美希! 大丈夫!? 立てる……!?」



766:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/23(土) 23:44:11.89 ID:BQ4HY44xo

美希「ミ……ミキは、平気。大丈夫だよ……」

苦痛に表情を歪めながら美希は答える。
しかし真が更に何か声をかけるより早く、
壁に手をつき息を切らせて立ち上がった。

美希「……逃げなきゃ……! 今は早く、ここから離れるの……!」

そう言った美希の視線の先には、窓から見える人影があった。

やはりどう見ても、少なくとも二人生きてる。
しかもその窓のすぐ向こうには、逃げ出したばかりの赤城みりあが居るはずだ。
爆破のショックからかすぐに動き出す気配はないが、
いつ武器を持って攻め込まれるか分からない。
そうなれば、今の自分達では応戦は不可能だ。

真も考えは美希と共通していた。
負傷した両腕を庇いながら立ち上がり、痛みをこらえて荷物を肩にかける。
そうして二人は細心の注意を払いつつ民家を出て、足早に集落を後にした。



767:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/23(土) 23:47:41.52 ID:BQ4HY44xo




みりあ「っう、くうッ……!」

窓の外へ身を投げ出したみりあは、しばらく地面に横たわったまま動けなかった。
肋骨の辺りがズキズキと痛み涙が滲む。

しかしみりあは歯を食いしばり立ち上がった。
みりあは、一部始終を見ていた。
杏達がやって来たことも、未央が首を掻き切られたことも、
手榴弾が杏達を襲ったことも、すべて見ていた。

あの時自分は物陰に身を潜めたまま、何もできなかった。
あんな思いはもう嫌だ。
だから、こんな痛みなんかで泣いている場合じゃない。

みりあの体を動かすのは何もできなかったことへの後悔。
そして、今目に映っている光景。

遠くに立つかな子と、その傍で座っているきらり。
それから、その場を彼女達ごと真っ赤に染め上げている何かが、
みりあの体をそこへ引き寄せた。



768:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/23(土) 23:49:17.39 ID:BQ4HY44xo

みりあ「っ……きらりちゃん、かな子ちゃん……!」

痛みをこらえつつ、みりあは二人の名を呼んで駆け寄る。
が、二人とも反応を示さない。
きらりは座ったまま俯き、かな子はそんなきらりの背中をじっと見たまま動かなかった。

その様子にみりあは更に不安を掻き立てられ、走る速度を上げる。
直後、気が付いた。
地面に座り込んだきらりが、その手に何か、赤黒いものを抱えていることに。
その瞬間みりあは一瞬内蔵を鷲掴みにされるような感覚を覚えた。
思わず足を止めてしまいそうになったが、堪えて進み続ける。
だが数秒後に、その足も止まった。
みりあは気付いた。

きらりが抱えているものは、多分、人間だった。

人間だとして、では誰なのか。
すぐに、分かってしまった。



769:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/23(土) 23:51:04.52 ID:BQ4HY44xo

爆発が起きるまでこの場にはきらりと、かな子と、杏が居たはずだ。
しかし今、杏が居ない。
それが何を意味するのか。
考えるまでもなかった。

きらりの腕に抱かれた杏は、ぼんやりと空を見上げているようだった。
しかし薄く開かれたその目は、ただ開かれているだけだった。
瞼はぴくりとも動いていなかった。

動くはずがなかった。
赤黒く染まった杏の体は、
酷いという言葉では到底言い表せないほどに損傷していた。
見るものによっては、恐らくあまりの惨状に胃の中身を吐き出してしまうほどに。
誰が見てもひと目で分かる。
こんな状態で生きていられる人間が、居るわけがない。

一体なぜこんなことになったのか。
その一部始終を、かな子は見ていた。



770:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/23(土) 23:54:21.66 ID:BQ4HY44xo

目の前に手榴弾が落ちた、その時。
きらりとかな子はそれが手榴弾だと分かった瞬間思わず足を止めた。

だが杏は止まらなかった。
それどころか逆に加速し、二人の横を追い抜いた。
震えるきらりの背後に回り込み、そして、手榴弾に全身で覆いかぶさった。
その直後、杏の腹の下で手榴弾は爆発した。

かな子が杏の名を呼ぶ間も無かった。
本当に、杏が覆いかぶさった直後に爆発した。
そうしなければ間に合わなかったのだ。
杏はそう瞬時に判断し、そして、自分が考える最善の選択を取ったのだ。
かな子を、きらりを、友達を守るための選択を、杏は取った。

そしてきらりは、杏の想いに気付いた。
杏がこれまで何を想っていたのか。
気付き、理解し……
きらりは意識を失った。

地面に倒れたきらりの横で、血に濡れた杏の瞳はただ空を映し続けた。




双葉杏 死亡



804:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/25(月) 21:19:06.53 ID:BWTu3+s/o

8:15 秋月律子

律子「っ……駄目。もう、遠くへ行ってしまったみたい……」

砂浜に残った足跡を見て、律子は唸るようにそう呟く。

数分前、彼女達の居る灯台に「あの音」が届いた。
春香と千早、また美波とアナスタシアは、
それが伊織の音響閃光手榴弾の爆音だと知っていた。
四人はそれを皆に伝え、そして、行動を起こした。

亜美の死が彼女達を動揺させたのは確かだが、
幸いにもそれで不和が生じるということはなかった。
寧ろ、既にゲームに乗っている者が居るからこそ
自分達はより強く結束しなければと、そう考えていた。
また所属事務所に関わらず、
この場に居ない他のアイドル達を案ずる気持ちも皆共通していた。



805:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/25(月) 21:20:42.64 ID:BWTu3+s/o

その気持ちがあったからこそ、
やはり伊織を放ってはおけないと一同は全員で音の方へ向かうことにした。

美波達346プロの三人は真美に接触するわけにはいかないが、
それでも伊織から聞いた双葉杏と諸星きらりの件がある。
仮に765プロだけで伊織と真美を探しに行ったとして、
もし杏達と遭遇してしまったら恐らく交戦は免れない。
それを避けるため、伊織達を発見するまでは美波達も同行することとなった。

が、音がしたであろう場所に一同が着いた時には、既に誰も居なかった。
足跡は残されていたが森の中へ消え、完全に行方知らずとなっていた。

それを見て皆沈黙し肩を落とす。
が、その沈黙は律子の落ち着いた声によって破られた。

律子「……仕方ないわ。これからは最初に決めた通り、
  探索組と待機組に分かれて行動しましょう」



806:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/25(月) 21:25:48.72 ID:BWTu3+s/o

それを聞き、数人は驚いて目を見開いた。

響「な、なんで!? 伊織と真美はどうするの!? 放っておいていいのか!?」

春香「そんな……! 律子さん、まだみんなで探せばきっと見つかります! だから……」

二人を探すのを諦めるつもりか、と響と春香は律子に食ってかかる。
しかしそんな彼女達に、
律子は努めて毅然とした態度で返した。

律子「放っておくわけでもないし、探すのをやめるわけでもない!
   ただ、このまま全員で探し続けると時間がかかりすぎるのよ。
   ゲームに乗り気な子が居ると分かった以上は
   バラバラで手分けして探すわけにはいかないのは分かるわよね?
   それなら全員で固まって探すより、
   他事務所同士のチームを複数作って動いた方がきっと早く見つけられるはずよ!」



807:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/25(月) 21:29:24.41 ID:BWTu3+s/o

これを聞き、響と春香は自分達の早とちりに気付いて押し黙る。
律子は二人がひとまず納得してくれたことを確認して、少し声のトーンを落として続けた。

律子「ただ、チーム編成は変えることになるわね……。
   探索側により多く人数を割いた方がいいわ。
   灯台に残るのは最低限で、346プロと765プロから一人ずつにするべきだと思う。
   残りのみんなは二つに分かれて、それぞれ346プロ一人と一緒に行動する……。
   これが今私が考えられる一番良いやり方よ。もし何か意見があれば、聞かせてちょうだい」

この状況でも可能な限り最善手を考え立案する律子。
そんな彼女の様子に、皆少なからず驚いた。

律子は亜美の死を知ったにも関わらず、冷静に考え続けている。
いや、亜美の死を知ったからこそ、
考えることをやめてはいけないと、律子はそう思っていた。

亜美の死に感じた絶望から律子を奮い立たせたのが、
伊織を、仲間を案じる心だった。
これ以上犠牲者を出したくないという思い一つで、律子は今動いていた。



808:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/25(月) 21:30:35.76 ID:BWTu3+s/o

そしてその思いは他の765プロのメンバーにも通じた。
それまでは亜美の死のショックが抜けきらず、
とにかく伊織を放ってはおけないという感情のみで動いていた者が大半だった。
頭は混乱で満ち、思考する余裕などなかった。
しかし律子は、感情に支配されることなく
頭を最大限に使って仲間を救おうとしてくれている。
そのことが、皆に落ち着きを取り戻させた。

春香「ご、ごめんなさい、律子さん。私、焦っちゃって……。
   わ……私も、それでいいと思います!」

響「じ、自分もごめん! 自分も、律子に賛成だぞ!」

律子「……それじゃあ、急いで相談しましょう。
  でも焦らないように、しっかり話し合って決めるわよ」

そうして一同は急いで、しかし冷静に、
これから誰がどう動くべきかを話し合い決めていった。



809:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/25(月) 21:32:13.67 ID:BWTu3+s/o

8:25 三村かな子

かな子「うあっ……!」

みりあ「か、かな子ちゃん! 大丈夫!?」

かな子「っ……はあっ、はあっ、はあっ……!」

何かに躓いたのか、かな子はバランスを崩して膝をついた。
そしてみりあの呼びかけに答える余裕もなく、
両手をついて荒い呼吸を地面に向けて吐き続ける。

みりあに比べ、かな子は既にかなりの体力を消耗していた。
それもそのはず。
今かな子の背中には、気を失ったきらりが抱えられていた。



810:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/25(月) 21:36:05.02 ID:BWTu3+s/o

かな子は杏の死を間近で見て茫然自失とし、
その後の民家で起きた爆発やみりあの声にすら反応しなかった。
しかしきらりが失神したのを見て、初めて動き出すことができた。

そしてそれと同時に、ここから離れなければと感じた。
また手榴弾が投げられるかも知れない。
あるいは別の敵がやって来るかも知れない。
とにかくここは危ない。
すぐ森の中に逃げなければ。

かな子は傍に立つみりあにそう言って、きらりを背中に抱えて歩き出した。
肋骨に痛みがなければみりあも手伝えていただろうが、それは叶わなかった。
そうして、自分より遥かに背の高いきらりを抱え、
舗装されていない森の中をかな子は走り続けた。

が、ここでついに限界が来た。



811:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/25(月) 21:43:52.92 ID:BWTu3+s/o

立ち上がろうとするも足に力が入らない。
人一人抱えて舗装されていない山道を走るのは、
相当な負担をかな子の両足に与えていた。

みりあ「休憩しよ、かな子ちゃん! 無茶して怪我なんかしちゃったら大変だよ!」

みりあはかな子の限界を察し、休憩を提案する。
かな子はそれを聞いてみりあに目を向け、
その時初めて、みりあが脇腹に手を当てていることに気付いた。

かな子「みりあちゃん……怪我、してるの……!?」

みりあ「えっ? あ……う、ううん、大丈夫だよ!」

かな子「そ、そんなはずないよ……! 見せて、早く!」

みりあは慌てて健在をアピールしたが、痛みを隠していることは明らかだった。
そしてみりあはかな子の必死な様子に観念したように、
服を捲って痛む箇所を見せた。



812:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/25(月) 21:45:27.71 ID:BWTu3+s/o

それを見てかな子は思わず息を呑む。
みりあの脇腹は、一部が赤紫色に染まり、見るからに痛々しく腫れていた。

その原因は、真だった。
あの時みりあが飛びついた際、真は咄嗟に反撃し、
みりあの胴体に思い切り膝を打ち込んだのだ。
そして不安定な姿勢ながらも十分な威力を持ったその蹴りは、
みりあの肋骨にヒビを入れていた。

骨折していることまではみりあにもかな子にも分からなかったが、
かな子はその痛々しい痣を見て、思わず目に涙を浮かべた。
きらりは意識を失い、みりあは酷い打撲を負い、
そして、杏は死んでしまった。
短い時間で起きたこれらの出来事は、かな子の心を確実に追い詰めていた。



813:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/25(月) 21:52:07.14 ID:BWTu3+s/o

だが同時にこれらの出来事が、
逆にかな子の心に折れることを許さなかった。

今無事なのは、自分だけ。
もし今、卯月を殺した者や杏を殺した者に襲われたら、
きらりとみりあを守ることができるのは自分だけ。
だから、自分がしっかりしていないといけない。

頼れる仲間を失ったことが、
無力な仲間が傍にいることが、かな子の心を支えた。

かな子はにじみ出た涙を拭く。
そして顔を上げてみりあの目をしっかり見て、言った。

かな子「……杏ちゃんのところに戻ろう。荷物を置いてきちゃったし、
    それに……杏ちゃんのこと、あのままにしておけないよ……!」

その言葉を聞き、みりあもまたかな子の目を見てしっかりと頷いた。



814:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/25(月) 21:54:48.56 ID:BWTu3+s/o

8:35 音無小鳥

小鳥「……先に入って。鍵をかけるから」

莉嘉「うん……」

小鳥に促され、莉嘉は灯台の中へと入る。
そして小鳥もそれに続いて入り、扉を閉めて内鍵を回した。

話し合いの結果、小鳥と莉嘉が灯台に残ることになった。
346プロの三人のうち一人灯台に残すのであれば、一番幼い莉嘉が妥当だ。
また765プロのアイドル達には全員、伊織と話をする機会が与えられるべきだ。
小鳥がそう言って、自分と莉嘉を待機組にするよう提案したのだ。

この提案に反対する理由も特に無く、皆納得し、
二人に灯台での待機と周囲の観察を任せた。
ただ貴音だけは小鳥の言葉の裏に気付いていたが、何も言うことはなかった。



815:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/25(月) 21:59:04.98 ID:BWTu3+s/o

『もし灯台に346プロの者が来たら、莉嘉を人質に武装を解除させられる』

それが、小鳥が自分達を灯台に残すよう提案した本当の理由だった。
346プロを人質に取るには、対象と二人きりが都合が良い。
他に誰か居ればその所属事務所に関わらず阻止される恐れがある。
そして人質はできるだけ、小柄で力の弱い人間の方がいい。

また、きらりとユニットを組んでいるということも莉嘉を選んだ理由だった。
伊織の言葉通り諸星きらりがゲームに乗り気なのだとすれば、
きらりを相手にした時の人質は
ユニット仲間である莉嘉が最適だと、小鳥はそう考えた。

とは言え、あくまでそれは最終手段。
莉嘉が765プロに仲間意識を持っている今なら、
自分が何もしなくとも莉嘉自らが相手に武装解除を呼びかけるだろう。
それが成功すれば、自分の敵意を相手に気付かせることなく無力化できる。
可能であれば間違いなくその方がいい。
その意味でも、莉嘉は最適だった。



816:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/25(月) 22:01:13.00 ID:BWTu3+s/o

そこまで考えて、小鳥は莉嘉を選んだ。
他の皆が伊織を案じるその隣で、
利用するなら誰が適任か、その算段を立てていた。

自分が今どれだけ最低な人間になっているか、自覚している。
でも仕方ない。
みんなを守るためなのだから。

前を歩く莉嘉の後頭部を眺めながら、
小鳥は何度言ったか分からない言葉を頭の中で復唱した。
が、ふと小鳥の思考は止まる。

莉嘉の肩が震え、嗚咽が漏れ始めた。
そして小鳥が理由を聞くより先に、莉嘉はしゃくり上げながら口を開いた。

莉嘉「ごめん、なさい……ごめんなさいっ……!」



817:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/25(月) 22:04:11.09 ID:BWTu3+s/o

小鳥「……どうして謝るの? 何か、あったの?」

唐突に泣き始め、謝罪の言葉を口にした莉嘉。
だが小鳥には謝られる心当たりはなく、率直にその意図を聞いた。
すると莉嘉は途切れ途切れに、答えた。

莉嘉「亜美ちゃん……殺したって……。
   きらりちゃん、と……杏、ちゃんっ……殺した、って……!」

しっかりした文章にはなっていなかったが、
この言葉で小鳥はすべて理解した。
莉嘉は、杏達が亜美を殺したことへの罪悪感に耐え切れず、泣き出してしまったのだ。

自分の仲間が相手の仲間を殺したことへの罪の意識。

この感情は、当然美波とアナスタシアも持っている。
また卯月の死を知っている765プロの者達も、
それを隠している分余計に強い罪悪感を持っている。



818:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/25(月) 22:10:19.81 ID:BWTu3+s/o

だが彼女達は、理屈を理解していた。
殺したのは自分じゃない。
自分の全く知らないところで起きたことなのだから、自分に責任はない。

実際にそう考えたわけではないが、
無意識下でその理屈を以て自らの罪悪感を薄れさせ、耐えていた。

だが莉嘉にはそれができなかった。
幼さゆえか、性格か、その両方か。
莉嘉の感情は、仲間の殺人をまるで自分の行いであるかのように捉えていた。
そしてその思いが、集団を離れ長い沈黙を経るうちに高まり、今爆発した。

莉嘉「ごめんなさいっ……亜美ちゃん……ごめ、なさい……!」

亜美に謝っているのか、小鳥に謝っているのか。
莉嘉は泣きじゃくりながらただただ謝り続ける。

そして小鳥はそんな莉嘉を見て、ぽつりと呟いた。



819:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/25(月) 22:12:34.61 ID:BWTu3+s/o

小鳥「……莉嘉ちゃんは、何も悪くないわ。
   それに、杏ちゃんと、きらりちゃんも」

莉嘉の前に膝を付き、
俯いた莉嘉の目を見るようにして小鳥は話す。

小鳥「あの子達もきっと、一生懸命なの。
   みんなのことを守らなきゃ、って、必死に、頑張ってるの……。
   だから……私はあの子達のことを責めたりなんかしない」

その言葉を聞き、莉嘉は涙に濡れた目で小鳥を見る。
その顔を見て、小鳥は自分の顔が酷く歪みそうになるのを感じた。
しかし必死に耐え、穏やかな表情を貼り付け、

小鳥「そうよ、悪くなんかないの。だって……仕方ないんだから」

安心させるために、心を落ち着かせるために、そう言い聞かせた。



820:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/25(月) 22:17:47.49 ID:BWTu3+s/o

8:35 渋谷凛

多分、もうすぐのはずだ。
凛は地図に目を落とし、何度目か分からないが灯台の位置を確認した。

伊織の襲撃を受け、凛と智絵里は海岸沿いを歩くのは
危険だと判断し森の中を行くことにした。

これなら一方的にこちらの姿だけが丸見えになるという可能性は低くなる。
灯台は視認できなくなるが、やむを得ない。
大体の位置はわかったのだし、問題ないはず。

そうして二人が歩くうちに、ふと生い茂る木々が途切れた。
見るとその空間は左右に長く伸びている。
どうやら小道のようなところに出たようだった。



821:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/25(月) 22:20:42.27 ID:BWTu3+s/o

凛は地図を見て、この道がどこへ続いているのかを確認する。

凛「左が灯台で……右が集落かな」

その声に智絵里も地図を覗き込んだ。
見ると、この小道は灯台と集落を結ぶものらしい。
左に進めば灯台に着き、
右に進めば、二つある集落のうち北西側の集落に着くようだ。

自分がいる場所を確認し終え、凛は智絵里を振り返った。

凛「……どうする? このまま灯台行くのでいい?」

智絵里「う……うん。やっぱり、気になるから……」

凛「うん……だよね。よし、それじゃ予定通りにしよう」



822:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/25(月) 22:22:03.53 ID:BWTu3+s/o

少し前の急襲を受け、二人はこのまま灯台へ行っていいものか初めは迷った。

765プロにはゲームに乗り気の者が居る。
もし灯台に居るのがそういう者達だったら、あまりに危険すぎる。
身を守る術はサバイバルナイフが一本。
もし相手の武器が飛び道具だったとすれば防ぎようがない。
またナイフより長く大きな武器であっても圧倒的に不利だ。

今の状態で誰が居るか分からない灯台へ向かうのは、やはり不安がある。
しかしその不安を、灯台への期待が上回った。
灯台を調べれば何か見つかるかもしれない。
上に登れば何か見えるかも知れない。
その思いは凛、智絵里ともに共通していた。

そうして二人は当初の予定通り灯台を目指すことを決め、
今も小道を北へ向かって進んでいる。



823:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/25(月) 22:26:33.81 ID:BWTu3+s/o

しかしあと少しで小道が終わって森を抜けるというところで、
二人は慌てて道の脇の木々に身を隠した。
そして顔を覗かせ、灯台を見る。

少し先に立つ灯台。
その屋上に、人が居る。
そしてそれは、346プロの者ではなかった。
見たことはない。
だが346プロの者ではないということは、765プロの者ということで間違いない。

そこに居たのが仲間ではなかったことと、
そして何より相手が持っていた武器が、凛と智絵里を木の陰に隠れさせた。
詳しくは分からないが、どう見てもナイフより拳銃よりもっと強力な銃だった。
それを見て二人は言葉にするまでもなく思った。
灯台に行くのは無理だ。
諦めよう。

二人は顔を見合わせて、森の奥へと戻っていった。
その直後、屋上に莉嘉が姿を現したのだが、凛達がそれに気付くことはなかった。



824:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/25(月) 22:34:19.75 ID:BWTu3+s/o

9:00 菊地真

真「美希、少し休もう……! 一度傷口を診ておいた方が良いよ!」

美希「はあっ……はあっ……!」

激しく呼吸を乱した美希は、真の言葉を聞いて頷き、地面に腰を下ろす。
美希の左足を直撃した破片は特に深くまで突き刺さっており、
機動力を失った美希は真に比べ遥かに体力を消耗していた。

真は座り込んだ美希の隣に膝をつき、鞄から未開封のペットボトルを取り出す。
そして痛みを堪えキャップを回し、美希の足に慎重に水をかけた。



825:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/25(月) 22:39:04.58 ID:BWTu3+s/o

真「大丈夫? 痛くない?」

美希「っ……うん。こんなの、へっちゃらだよ」

汗を滲ませながらも、美希は心配かけまいと真に笑いかけた。
だが真はそれに笑顔を返す余裕もなく、心配そうな表情を浮かべ続ける。

真「他にも傷あるよね? そっちの方も見せて!」

美希「……真くんも、手、怪我してるの」

真「ボクの傷は最後でいいから!」

美希「あっ……」

そう言って真は、美希の後ろに回って服を捲る。
一瞬、首を回して背後の真に何か言おうとした美希だったが、
真の表情を見て口を閉じ、正面を向いてじっと自分のつま先を見つめた。



826:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/25(月) 22:40:45.74 ID:BWTu3+s/o

美希「もう……真くんってば強引なの。
   流石のミキも、いきなり裸を見られちゃうのはちょっと恥ずかしいって感じ」

水のかかる冷たい感覚を背中で受けながら、
美希はまるで日常の中に居るかのように軽口を叩いた。
しかしその声には微かに苦痛を堪える強張りがあり、
これもまた心配させないための気遣いであると真はすぐにわかった。

しばらく黙って傷口周辺を水で洗っていた真だが、
ふと軽く息を吐いて美希に声をかけた。

真「……一応、これで傷口は洗ったよ。
 でも、多分……破片がまだ刺さってるよね。やっぱり、取った方がいいのかな……」

美希「ん……ミキ達お医者さんじゃないし、あんまり触らない方がいいって思うな。
   それにもし取った方が良くても、取るための道具がないの」

真「だよね……。じゃあもう、これくらいしかできないかな……。
  ただ水で流しただけで、意味なんてあるのか分からないけど……」



827:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/25(月) 22:42:17.46 ID:BWTu3+s/o

美希「絆創膏とか包帯とかも無いだもん、仕方ないの。
   でもミキの服ってきれいだし、バイキンなんか居ないって思うな!」

本気でそう思っているのかどうかは分からないが、
美希の言う通り雑菌を防ぐような道具が無い以上、気にしすぎても仕方ない。
もしかしたら何か良いやり方があるのかも知れないが、
医学の知識など無いに等しい自分達では、これ以上できることはない。

真「うん……そうだね」

真は短く一言そう言って、自分の腕にも片方ずつ水をかけた。
その時、思わず痛みに表情を歪めてしまい、
今度は美希が心配そうに声をかける。

美希「……やっぱり、痛いよね。ごめんね、ミキのせいで……」



828:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/25(月) 22:45:38.83 ID:BWTu3+s/o

美希「ミキの首とか頭とか守ってくれたから、怪我しちゃったんだよね?
   それにミキがもっとちゃんと気を付けてれば、こんなことにならなかったのに……」

真「美希のせいなんかじゃないよ。気付かなかったのはボクも同じだし、
  それに美希の傷だってボクを守ってくれたから負った傷だろ?
  だからなんていうか……おあいこってことにしておこうよ」

と、この場を収めるため真はそう言った。
しかし真は、本心では美希よりも圧倒的に自分の方に責任があると考えていた。
だがここでそれを言っても、美希も「自分の方が」と主張を返してくるだろう。
今ここでそんなやり取りを続けても意味がない。
そして美希はこの真の考えを知ってか知らずか、

美希「……うん。ありがとうなの、真くん」

それ以上自分を責めることなく、薄く笑って礼を言った。



829:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/25(月) 22:50:06.80 ID:BWTu3+s/o

美希「それじゃあ……これからどうする?
   ミキ的には、早く765プロの誰かと一緒になりたいって感じ」

と、早速美希はこれからどうするかという話題に切り替えた。
真は美希の意見を聞き、静かに頷く。

真「ボクも賛成かな。
  ただ、怪我のことを考えるとあんまり無茶しちゃダメだ。
  血はそこまでたくさん出てるわけじゃないけど、
  それでもできるだけペースは落とした方がいいと思う」

美希「うん……そうだね」

真「それに、隠しても仕方ないから正直に言うけど……。
  ボクはもう、手榴弾をあまり遠くには投げられない。
  無理に投げようとしたら、多分コントロールがきかなくなる。
  残されてるのは一発だけだし……。
  だから346プロの子を見たら、逃げるか隠れることを最優先に考えたいんだ」



830:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/25(月) 23:01:17.86 ID:BWTu3+s/o

美希「……うん。悔しいけど、ミキもまともに戦うのは無理だと思う」

と美希も自分の状態を正直に話した。

現状、二人とも戦力としてはほぼ無力。
しかし真は、その状況に気を落とすことはなかった。

真「まずは、できるだけ体を休めながら少しずつ北に向かってみようよ。
  森の中ならそう簡単に敵に見つかることはないだろうし、
  これ以上急いで集落から離れる必要もないと思うんだけど……どうかな」

そう言って冷静に、これから取るべき行動について確認を取る真。
そんな真を美希は数秒見つめ、そしてニッコリ笑って答えた。

美希「……あはっ。真くん、すっごく頼もしいの。
   うん、ミキもそれでいいって思うな」

この返事と笑顔に、今度は真も、穏やかな笑顔を返すことができた。



842:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/26(火) 22:15:33.51 ID:7jBbcePto

10:00 萩原雪歩

雪歩は今、途方に暮れていた。
昨晩北西の集落に向かっていたのだが、
探知機はそこに346プロのアイドルが六人も居ることを示していた。
そんなところに無警戒に行けるはずは無く少し引き返した後、
孤独に震えながら森の中で一晩を過ごした。

そして今朝。
今度は南東の集落に行ってみようと歩き始めた雪歩だったが、
まさにその方向から、今度は爆発音が聞こえた。
慌てて探知機を見たが、爆発が起きたのは探知可能な範囲の外側だった。
だが少なくとも、もうどちらの集落も安全ではないことは分かった。

雪歩はどうすればいいのか分からず、
集落から離れるために再び南下し海岸に出て、
文字通り右往左往したのち、とうとうその場に座り込んでしまった。
孤独や恐怖や不安、様々な負の感情が、雪歩の心を侵し始めていた。



843:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/26(火) 22:17:58.83 ID:7jBbcePto

しかし涙に濡れた雪歩の目に、探知機に起きた変化が映った。
北の方角から、765プロを示す点が二つこちらに近付いて来ているのだ。
雪歩は目を見開いて跳ねるように立ち上がり、北へと走った。
そして森に入り少し走ったところで、雪歩はようやく待ち望んだ顔を見ることができた。

雪歩「い……伊織ちゃん!! 真美ちゃん!!」

そう名前を呼んだ雪歩を見て、伊織は僅かに安堵の色を浮かべた。
そんな伊織達に雪歩は駆け寄り、そして勢いよく抱きついた。

雪歩「良かった……私、ずっと一人で……!
   すごく寂しくて……でも、良かったぁ、良かったよぉ……!」

そう言って、二人を抱きしめたまま泣き始める雪歩。
また真美も、雪歩の背中に手を回し、
ぎゅっと服を掴んで同じように泣いた。



844:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/26(火) 22:21:11.18 ID:7jBbcePto

伊織も本音を言えばもっと長く雪歩とこうして抱擁し、再会を喜びたかった。
しかしそういうわけにもいかない。
伊織は雪歩に抱きしめられたまま、呟くように口を開いた。

伊織「……雪歩、聞いて欲しいことがあるの」

雪歩「え……?」

その伊織の声色に、雪歩はただ事ではない何かを察した。
ゆっくりと体を離し、そして伊織の顔を見る。
伊織は雪歩の目を見つめ返し、

伊織「無茶を言うかも知れないけど……できるだけ、取り乱さないで」

そう前置きして伊織は、亜美のことを話し始めた。
それを聞いて雪歩が見せた反応は、伊織の予想を大きく外しはしなかった。

初めは信じられないような顔を浮かべ、
しかし伊織の表情と泣き続ける真美を見てそれが事実だと実感し、
地面にへたり込み、涙を流した。



845:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/26(火) 22:23:03.11 ID:7jBbcePto

地に手を付き涙を流す雪歩を見下ろしながら、伊織は眉根を寄せる。
泣いている場合ではない。
悲しんでいる場合でもない。
そんなことは分かっているが、それを口にすることはやはり胸を強く締め付けた。

だがそれでも口にしなければならない。
伊織は拳を握り、雪歩に向けて口を開こうとした。

しかしその直前、雪歩が顔を上げた。
そして未だ流れる涙を止めることなく、

雪歩「ど、どうしよう……。伊織ちゃん、私達、これからどうしたら良いのかな……!」

すがるように伊織を見つめてそう言った。
それを受け、伊織は言いかけた言葉を飲み込んだ。

雪歩の目は不安と悲哀に満ちている。
だが今、彼女は「これから」のことを聞いた。
恐怖と悲しみに包まれながら、決して絶望などはしていない。
雪歩の頭は既に「次」に切り替わっていることに、伊織は気付いた。



846:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/26(火) 22:24:54.76 ID:7jBbcePto

伊織「そうね……。これからどうするべきか。それを考えなくちゃいけないわ。
   だからもう一つ、あんたに大切なことを教えるわね」

伊織は座り込む雪歩を見下ろしたまま、静かに言った。
雪歩は一瞬の間を開けて涙を拭い、立ち上がって頷く。
それを見て伊織は、やはり落ち着いた声で続けた。

伊織「……346プロには、765プロと協力して解決策を探してるアイドル達も居るわ。
   北にある灯台に、みんな集まってる」

雪歩「え……?」

伊織「だから……もし雪歩がこのゲームに乗りたくないのなら、
   そっちに行ってちょうだい。私は止めないから」

雪歩はこの情報を聞いて目を丸くする。
亜美が殺されたという話の直後に今度は真逆の情報を聞かされたのだ。
困惑しないはずがない。



847:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/26(火) 22:26:13.70 ID:7jBbcePto

雪歩「ほ……本当に、協力してるの? だ、騙されてたりとか……」

伊織「それは無さそうよ。律子や貴音、千早がそう言ってたから。
   私も実際に見て、その点に関しては心配ないって信じることにしたわ」

雪歩「そ、そう、なんだ……。他には、誰が居るの?」

伊織「765プロはその三人と、小鳥、やよい、響、春香の全部で七人。
   346プロは新田美波、アナスタシア、城ヶ崎莉嘉の三人よ」

雪歩「……みんな、知ってるの? さっき伊織ちゃんが教えてくれたこと……」

伊織「知ってるわ。でもそれを聞いたからって、
   少なくともあのグループは敵対しようとなんてしないでしょうね。
   ただ……」

と伊織はここで一瞬目を伏せてひと呼吸起き、
再び雪歩の目を見て、言い切った。

伊織「はっきり言って、私は協力なんて無駄だと思ってる。
   ゲームに勝つ以外に生き残る方法なんて無い」



848:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/26(火) 22:27:56.13 ID:7jBbcePto

伊織「でも、その気じゃない子に人殺しを強制するつもりもない。
   だから雪歩、あんたはどうするか決めなさい。
   私達と一緒に居るか、それとも灯台に行って律子達と一緒に居るか」

雪歩「っ……」

伊織「すぐに決められることじゃないかも知れないけど、
   でも出来るだけ早く決めてちょうだい。決められるまで待っててあげるから。
   どっちにしろあんたと合流したら休憩するつもりだったし」

伊織はそう言い、チラリと真美に目を向けた。
真美は相変わらず伊織の袖を掴んだまま、俯いて時折鼻をすする。

伊織「……真美、少し座って休みましょう」

その言葉に黙って頷き、真美はその場に座り込む。
雪歩はそんな真美と伊織の様子を見ながら、
自分にとって恐らく最も重要となる選択を出来るだけ早く、
しかし早計に失することのないよう、一人目を瞑って考え始めた。



849:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/26(火) 22:33:36.84 ID:7jBbcePto

それからどのくらいの時間が経ったか。
雪歩はずっと閉じていた目を静かに開き、立ち上がった。

伊織はそれを見て、もう気持ちは決まったのか、と雪歩に問おうとした。
が、その時。
探知機に反応があった。

伊織が探知機を手に取ったのを見て、雪歩も自分の物を確認する。
するとそこには、765プロを示す点と346プロを示す点が複数表示されていた。
伊織と雪歩はこれを見て、その点の正体を察した。

真美「……いおりん……?」

探知機を見つめる伊織に、真美はか細い声で呼びかける。
伊織は探知機の液晶を伏せ、笑顔を向けた。

伊織「大丈夫よ。多分、律子達がここから離れたところに居るってだけ。
   でも346プロの奴らは居ないから安心して」



850:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/26(火) 22:35:13.83 ID:7jBbcePto

真美「りっちゃん達……? なんで……?」

伊織の嘘を真美は疑うことなく受け入れ、思ったことを素直に質問した。
そしてその質問に、伊織は少し考えて答える。

伊織「『解決策』とやらを探してるか、それとも私達を探しに来たか……。
   それか、その両方ね」

真美「真美達を探しに……?」

伊織「会って話でもしたいんでしょ。
   私達と一緒に来るつもりなのか
   それとも私達を灯台に連れて行きたいのか、それは分からないけど」

真美「え……や、やだ……。真美、やだよ。いおりん、真美……」

伊織「えぇ、分かってるわ。346プロの連中と一緒になんて過ごしてたまるもんですか」

と、ここで伊織は真美から雪歩に視線をやる。
雪歩はそれを受けて、伊織が何か言う前に先に口を開いた。



851:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/26(火) 22:37:58.14 ID:7jBbcePto

雪歩「私……行ってくるね。みんなのところに……」

伊織「……そう。いいわ、行ってらっしゃい」

雪歩は自分達とは別の選択をした。
伊織はそのことに特に傷付くことも悲しむこともなく、
落ち着いた様子でそれを受け入れた。
そしてそのまま続ける。

伊織「もし向こうが私達を探しに来たんだったら、伝言をお願いしてもいいかしら」

雪歩「あ……うん」

伊織「『私達は会う気はない。もし近付いて来るのが見えたら逃げるから、
   これ以上追い回しても時間の無駄』。そう伝えて。

雪歩「……うん、わかった」



852:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/26(火) 22:40:01.41 ID:7jBbcePto

雪歩はもう伊織からの伝言が無いことを確認し、
自分の荷物を持って出発の準備をする。

もうゲームが終わるまで雪歩に会うことはないだろう。
そのことを思い、真美は雪歩の横顔を不安げな表情で、
伊織はほんの少しだけ眉をひそめて見つめた。
が、去り際の雪歩の言葉が、その伊織の表情を僅かに変えた。

雪歩「二人とも、まだもうちょっとここに居るよね?」

伊織「……? えぇ、そのつもりだけど」

雪歩「ここに居てね。すぐ戻ってくるから!」

雪歩はそう言い残し、
伊織の返事を聞く間も惜しむように駆け出した。



853:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/26(火) 22:40:58.60 ID:7jBbcePto

雪歩は探知機に注意を払いつつ、木々の間を駆けていく。
そしてしばらく走ったところで、前方に人影が見えた。
念の為に身を隠し、それが誰かを目で確認する。

そこに居たのは、律子、貴音、響、それからアナスタシアだった。
伊織の言っていた通りのメンバーが居る。
探知機は、そこから更に離れたところにもう一グループ居るのを示していた。
恐らくそちらに居るのが残りのみんなだろう。

雪歩は一度呼吸を整え、そしてもう一度駆け出した。
と、少し進んだところで貴音がこちらに気付く。
それに続いて他の三人も雪歩に気が付いた。



854:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/26(火) 22:46:12.67 ID:7jBbcePto

響「ゆ……雪歩!? 無事だったのか!」

律子「良かった……! 雪歩、本当に……!」

貴音「真、安心致しました……」

雪歩を見て、アナスタシアは少しだけ緊張していたようだが
765プロの三人は各々無事を喜び、また再会を喜んだ。
しかし雪歩は、自分も同じように喜びたい気持ちをぐっと抑え、
そして第一声から話すべき話題を切り出した。

雪歩「あ、あの……! 実は私、さっきまで伊織ちゃんと真美ちゃんと一緒に居たんです!」

律子「え……!? ど、どういうこと?」

雪歩「えっと、それが――」



855:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/26(火) 22:48:52.07 ID:7jBbcePto

雪歩は、皆に経緯を話した。
そして伊織からの伝言を聞き、律子は唇を噛んだ。

会って話をすること自体、伊織は拒否している。
灯台に連れ戻されることを避けるためというのももちろんあるだろう。
だが律子は、拒絶の理由はそれだけではなく、
「一度協力を決めた者達を殺し合いに参加させたくない」
という思いが伊織にあるからだと感じた。

実際律子は、灯台での協力を放棄してでも伊織達の傍に居た方がいいのではないかと、
そう考え始めていた。
また律子の他にも、その選択肢を頭に入れていた者は少なからず居る。
伊織はそれを見越して、接触すること自体を拒むことで
「協力派」を自分の戦いに巻き込む可能性を限りなくゼロにした。

それは足でまといを増やしたくなかったか、それとも優しさからか、
それはもう確認のしようがない。
だが少なくとも律子は、きっと後者だろうと思った。



856:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/26(火) 22:54:27.28 ID:7jBbcePto

そしてだからこそ伊織の意志は固い。
ここで自分が接触をはかっても、本当に逃げて行ってしまうだろう。
律子は眉根を寄せ俯く。
そしてそのまま、

律子「……雪歩は、伊織達と一緒に行くつもりなのよね」

声を絞り出すようにしてそう聞いた。
雪歩はその問いを受けほんの少しだけ沈黙した後、
体にぐっと力を入れるようにして答えた。

雪歩「はい。ただ本当は私も……まだ、決められてないんです。
   346プロの人と戦うことになったら、攻撃なんかできるかどうか、わかりません。
   でも……私、伊織ちゃんと真美ちゃんのこと、守ってあげたいです。
   助けてあげたいんです。だから……!」

この雪歩の言葉を聞き、律子は顔を上げた。
そして一歩近付き、微かに震えた声で言った。

律子「二人のこと……あなたに、頼むわ」



857:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/26(火) 22:58:10.61 ID:7jBbcePto

伊織達に会うことはもう諦める。
律子の発言はつまりそういうことだったが、
これを一同は黙って聞いていた。
以前は異論を唱えた響も、伊織の意志と想いを考え、受け入れた。

伊織を心配する気持ちは皆同じだ。
しかし今の自分達には何もできない。
だから、雪歩に頼むしかない。
伊織達と共に行動することが危険を伴うのは百も承知だ。
だが雪歩もそれは十分に理解した上で、伊織と真美の傍に居たいと強く願っている。
だから律子は、自分達の想いを雪歩に託した。

律子「でも、お願い……。どうか無茶だけはしないで。
   それから、もし何かあればすぐに灯台に来るようにあの子達に伝えて。
   私達はずっと、あなた達のことを心配してるって……」

そう言った律子の目には涙が滲んでいる。
雪歩はそんな律子の目を見て、力強く頷いた。



858:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/26(火) 23:00:58.10 ID:7jBbcePto

響「ゆ、雪歩……!」

そしてとうとう我慢できなくなったのか、響が雪歩に抱きついた。
一瞬驚いて身を固くした雪歩だが、すぐに響をそっと抱き返す。

響「自分も……自分も、伝えて欲しい!
  すごく心配してるって! さっきは何も言えなくてごめんって……!」

貴音「私も……いえ。この場に居ない他の皆も、同じ気持ちです」

雪歩「響ちゃん、四条さん……。はい! みんなの気持ち、ちゃんと伝えます……!」

と、ここでアナスタシアがおずおずと、一歩前へ出た。
そして雪歩に向け、小さな声で言った。

アーニャ「……私も、です……。私も……死んで欲しくない、です……」

こんなことを言える立場にないかも知れない、とアナスタシアは自覚していた。
しかしそれは紛れもなく、彼女の本音だった。



859:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/26(火) 23:04:43.03 ID:7jBbcePto

所属事務所に関わらず、全員が伊織達の身を案じていた。
また誰ひとり、「346プロと争うな」という伝言は頼まなかった。
そんなことを言ったところで、もはや意味はない。
だから、それよりも無事を願う気持ちを伝えたかった。

雪歩はアナスタシアを含む皆のその想いを汲み、再びしっかりと頷く。
そして律子に向き直り、静かに言った。

雪歩「それじゃあ……私、そろそろ行きますね」

律子「……えぇ」

と、律子は別れの挨拶をしようとしたが、思わず口をつぐむ。
雪歩が不意に、右手の探知機に目を落としたからだ。
何かあったのか。
そう思い律子が尋ねようとしたその瞬間、
雪歩はその右手を、律子に向けて差し出した。



860:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/26(火) 23:07:13.69 ID:7jBbcePto

雪歩「これ、あげます……。私は伊織ちゃんと一緒に居るから、もう必要ありません。
   律子さん達が持ってた方がいいと思います」

これを聞き、律子は当然驚いた。
そして初めは一瞬断ろうとした。
しかし探知機から目を上げた次の瞬間には、それは諦めた。
雪歩の目が、断っても無意味だということを律子に直感させた。
だから律子は余計なことは言わずに、

律子「……ありがとう、雪歩」

一言礼だけを言ってその手から探知機と、それから説明書を受け取った。

探知機があれば他のアイドル達を見つけた場合、
同事務所のアイドルだけで交渉に向かうことが可能になる。
これで探索がずっとやりやすくなった。

律子は感謝の気持ちを込めるように、探知機を胸元でぎゅっと握った。



861:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/26(火) 23:10:01.25 ID:7jBbcePto

みんなにいい贈り物ができた。
そう思い、雪歩は薄く笑う。
そして、

雪歩「それじゃあ、行きます。
   他のみんなに……また会おうね、って伝えてください」

そう言って背を向け、これ以上名残惜しくなる前に駆け出した。

伊織達が移動していないことも、
周りに346プロの者が居ないことも、既に確認済みだ。
あと必要なのは、勇気だけ。
人を殺せるかどうかは、まだ分からない。
でも、二人を守るための勇気だけは絶対に忘れてはいけない。

雪歩はその想いを胸に、伊織達の元へ走り続けた。



869:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/28(木) 22:00:16.91 ID:3qWFblf0o

10:30 水瀬伊織

伊織は真美の隣で座ったまま、探知機を見つめる。
そしてしばらく後、物音のした方へと目を上げた。

伊織「……本当に戻ってきたのね」

その視線の先には、息を切らせた雪歩の姿があった。
そして伊織は雪歩の手に探知機が握られていないことに気付き、
改めてその意思を確信する。
つまり雪歩は、これからずっと自分達と一緒に居るつもりだということを。

真美「ゆきぴょん、一緒に居てくれるの……?」

雪歩が戻ってきたことに、真美は不安の中に微かな期待を込めた声で聞く。
雪歩は息を整えて二人に近付き、にっこりと笑った。
それを見て真美はほんの少しだけ表情を明るくし、
空いている方の手で、伊織にするのと同じように雪歩の袖をきゅっと掴んだ。



870:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/28(木) 22:03:03.07 ID:3qWFblf0o

雪歩はそんな真美を見つめた後、
伊織にも目線をやり、伝えるべきことを伝えた。

雪歩「あのね、二人にみんなから伝言があるの。
   みんな心配してるって。もし何かあったらすぐ灯台に来ていいから、って」

それを聞き、真美は何も言わずに俯く。
伊織は一瞬目を伏せた後、

伊織「……そう。気持ちだけありがたく受け取っておくわ。雪歩も伝言ご苦労様」

なんでもないことのようにそう言った。
だがみんなの気持ちは確かに伝わったと、雪歩は薄く笑って伊織を見つめる。
その雪歩の視線を受けて伊織は、
これ以上余計なことを言われるのは御免とばかりに
わざとらしくため息をついて話題を変えた。

伊織「あんたも本当お人好しよね。探知機、律子達にあげちゃったんでしょ?」

雪歩「えっ? あ、うん……。伊織ちゃんの分があるから、もう要らないと思って……」



871:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/28(木) 22:07:20.62 ID:3qWFblf0o

伊織「じゃああんた、今丸腰ってことじゃない。
   そんな状態でもし何かあったらどうする気なのよ」

この言葉に雪歩が答えるより先に、
伊織は自分の鞄を探ってその中から何かを雪歩に差し出し、言った。

伊織「これ、渡しておくわ」

伊織の手に握られたのは、円筒状の何かが二本と、紙が一枚。
そして雪歩が紙に大きく印刷された文字を読んだのを確認し、言葉を続ける。

伊織「最初に配られた私の武器よ。もしもの時のためにあんたが持ってなさい。
   上手く使えば身を守るくらいはできるはずだから」

雪歩「え? でも……」

伊織「いいから。受け取らないと今すぐ律子達のとこに追い返してやるわよ」



872:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/28(木) 22:10:52.65 ID:3qWFblf0o

『もしもの時』
それは恐らく三人が離れ離れになった時のことを言っているのだと、雪歩は思った。

伊織の言う通り、今の自分には身を守る手段がまったく無い。
伊織と離れたあと再び生きて合流するために。
そのためにも、自分の身を自分で守れるようになっておくことは大切だ。

雪歩「……うん。ごめんね、伊織ちゃん。ありがとう」

自分の身を守るため、また伊織の想いを汲むため、
雪歩は二つの音響閃光手榴弾を受け取った。

伊織「……それじゃ、とっとと移動しましょ。
   早くしないと一時間経っちゃうわ。説明書を読むのはその後でいいわね?」

雪歩「あ、うん……!」

雪歩の同意を得て、伊織は真美を連れ歩き出し、
雪歩もその隣に付いて歩き出した。



873:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/28(木) 22:12:36.22 ID:3qWFblf0o

伊織「取り敢えず二つの集落に誰か居ないか、確認しましょう。
   まずは南東側で、次に北西側。
   多分北西側には居るでしょうけど、
   もしかしたら居なくなってるかも知れないし、念のためにね」

と、歩き出してすぐ伊織はこれからの行き先を話した。
しかしこの言葉に雪歩は疑問を抱き、そしてすぐに口に出す。

雪歩「えっと……伊織ちゃん達も、その、北西側の集落に行ってみたの?」

伊織「『伊織ちゃん達も』ってことは、やっぱりあんたも行ってみたってこと?」

雪歩「あ、でも……私は、探知機で居ることが分かったらすぐ離れちゃって……」

伊織「……私も、行ったって程じゃないわ。
   外から様子を窺ってみただけだし、大した情報は得られてない。
   分かったのはそいつらがしばらくその集落に居座る気だろうってことと、
   双葉杏と諸星きらりはそこには居ないっていうことくらいよ」



874:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/28(木) 22:20:57.97 ID:3qWFblf0o

雪歩「そ、そう、なの? じゃあ誰が……?」

伊織「残念だけど、遠目だったからはっきり誰かまでは見えなかったわ。
   飛び抜けて背が高い奴も低い奴も居なかったから
   少なくともあいつらじゃないってことが分かっただけ」

雪歩「えっと、それじゃ、しばらく集落に居座る気、っていうのは……」

伊織「その三人、集落から出ない範囲でエリア移動してたみたいなのよ。
   三人で固まって、家から家に移るって感じでね。
   だからしばらくその集落の中で時間を過ごすつもりだって分かったの」

この質疑応答で、雪歩はおおよそは理解した。
が、その中で一つ引っかかったことがある。
それは、伊織が見たというアイドルの人数だ。

雪歩「三人……? え? そこに居たアイドルって、三人だったの?
   北西の方の集落の話だよね……?」



875:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/28(木) 22:22:07.44 ID:3qWFblf0o

そう言って雪歩は地図を指し、伊織が言っている集落と
自分が考えている集落が一致していることを確認する。
伊織は雪歩の指し示した集落を見て、頷いた。

伊織「そうだけど、それがどうかした?」

雪歩「えっと……。その集落って、昨日の夜までは六人居たはずなんだけど……」

それを聞き、真美はその目に一際不安の色を濃くし、
伊織は意表を突かれたように目を見開く。
しかし特に動揺することなく、伊織は冷静に思考した。

伊織「つまり……残りの三人はどこかへ移動したってこと?」

雪歩「う、うん、多分。あっ、も、もしかしたらもう一つの集落に行ったのかも……!」

北西集落に居た六人のうち、三人は南東集落に向かった。
可能性としては十分にあり得る。
しかし伊織はそれに対し首を捻った。



876:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/28(木) 22:29:46.80 ID:3qWFblf0o

伊織「でも……その後もう一つの集落も見てみたけど、
   少なくともその時には誰も居なかったわ。
   まぁ見たって言っても、探知機を通してだけど……」

雪歩「あ、そうなんだ……。
   そっちの方は直接行って調べたりはしなかったの?」

伊織「本当はそのつもりだったけど、行こうとしたらあんたが探知機に映ったから」

雪歩「え、あっ……ご、ごめんね、私のせいで……」

伊織「別に謝ることないわよ。優先順位を考えて行動したってだけ。
   それより、早く集落が探知できる位置まで行ってみましょう。
   あんたの言ったことも気になるしね」

雪歩「う、うん、そうだね!」



877:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/28(木) 22:36:40.97 ID:3qWFblf0o

そうして三人はエリア移動も兼ね、
まずは二つある集落のうち南東側の集落に向かって歩き始めた。

しかししばらく歩いたところで
探知機を持ち先頭を歩いていた伊織が足を止め、呟いた。

伊織「……居たわ。346プロが三人」

それを聞いて真美は身を固くし、
雪歩は緊張した面持ちで液晶を覗き込む。
すると確かに、346プロを示す点が三つ、集落内部に表示されていた。

伊織「あの時誰も居なかったのは、
   移動中でまだ着いてなかっただけ、だったのかもね……」

雪歩「じゃ、じゃあやっぱり今は、どっちの集落にも346プロの人達が三人ずつ……」

伊織「多分ね。まぁ私が見た北西の三人がこっちに移動しただけの可能性もあるけど」



878:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/28(木) 22:42:35.32 ID:3qWFblf0o

伊織「もう少し北に行って、そっちの方も探知機で見てみましょう。
   そうすればはっきりするわ」

そう言って伊織は向きを変えて進み、二人も黙ってそのあとを付いていった。

が、少し進んだところで伊織は再び立ち止まる。
その手に握られた探知機には、またしても346プロが三人表示されていた。
つまりこれで、昨晩北西側で一緒に居た六人が今
二つの集落に分かれているということがほぼ確定した。

これを見て、伊織は眉根を寄せて考える。
北西側に居る三人が自分が見た三人のままだとすれば、つまり……

伊織「さっきの、南東側に反応のあった三人……。
   あれが双葉杏達のグループかも知れないわね」

その言葉に雪歩と真美は息を呑む。
そして伊織は二人に目を向けて静かに言った。

伊織「確認しましょう。今南東側に居るのが、あいつらなのかどうか」



879:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/28(木) 22:45:23.19 ID:3qWFblf0o

双葉杏と諸星きらりは現時点で確実に765プロにとっての脅威となる存在である。
だからその二人の所在を確かめることが現時点での最優先事項だと、伊織は考えていた。

だが、それを聞き最も大きく反応したのがやはり真美だ。
亜美を殺した二人の近くに行くと聞き、恐怖が蘇ってくる。
伊織は自分の袖を掴む真美の手の震えを感じ、
その手を優しく握って落ち着いた声で言った。

伊織「大丈夫よ。向こうが私達に気付くような位置には絶対行かないわ。
   こっちには探知機があるんだから、安心しなさい」

その言葉を聞き、そして伊織の目を少しの間じっと見て、真美は黙って頷いた。
真美が納得してくれたのを確認し、伊織は次いで雪歩に目を向ける。
雪歩もまた、伊織の目を見て黙って頷いた。

伊織「……決まりね。それじゃ、行きましょう」



880:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/28(木) 22:47:17.17 ID:3qWFblf0o

伊織の言葉を合図に、三人は南東側の集落へ向かった。
移動中、伊織は常に探知機に注意を払っていたが、346プロを示す点に大きな動きはなかった。

そしてとうとう、木々の間から集落の様子が見える位置までやってきた。

伊織「……大丈夫。距離はまだまだあるから」

呼吸が早くなっている真美に、伊織は囁くように声をかける。
真美は返事をする代わりに、伊織の袖を更に強く握った。

伊織の言う通り、まだ十分以上に距離はある。
向こうからはまず気付かれようがない。
しかし姿が見えないのは伊織達にとっても同じこと。
今居る場所からは、敵が居るであろう建物すら見えていない。
せめて姿自体は見えなくとも、居る場所だけでも視認しておきたい。



881:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/28(木) 22:52:52.60 ID:3qWFblf0o

伊織はそれを雪歩と真美に伝え、了承を得た。
三人は森の中から出ないよう、集落周辺を時計回りに移動する。

その間、伊織は探知機と実際に見える集落の様子を照らし合わせながら、
敵が潜んでいる建物を慎重に探った。
そしてもうすぐ進めば恐らくその建物が見えるはず……
というところで、三人は同時に足を止めた。

それまで何の変哲もなかった風景に、突如異様なものが混ざった。

伊織「……何、あれ。血……?」

地面の一部に、広く赤いものが飛び散ったような痕跡がある。
伊織と真美は一瞬、それが一体何を意味しているのか分からなかった。
だが雪歩はすぐに思い当たった。

雪歩「ば……爆発、したんだ……。それで、ここで誰かが……」



882:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/28(木) 22:55:51.77 ID:3qWFblf0o

今朝聞いた爆発音はこれだったのだと、雪歩は気付いた。
そして雪歩の言葉を聞き、伊織と真美もそれが爆発の跡だと知る。
つまり何か爆弾のようなもので、ここで誰かが負傷した。
土に染み込んだ血の量を見ると、あるいは死んでしまったのかも知れない。
まさか765プロの誰かが……と嫌な想像をしてしまった自分を伊織は戒める。
しかしそれを考えたのは伊織だけではなかった。

真美「ち……違うよね? ねぇいおりん、ゆきぴょん、違うよね?
   誰も死んでないよね? 怪我しちゃっただけだよね?」

早口気味に二人にそう問う真美。
「誰も」というのが765プロの人間を指すのか、
それとも346プロを含めた全員を指すのか、それは分かりかねた。
もしかすると真美自身にも分かっていないのかも知れない。
だがとにかく今は真美の不安を払ってやらなければ。
伊織はそう思い、努めて冷静に返事をした。



883:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/28(木) 22:57:44.71 ID:3qWFblf0o

伊織「えぇ、その通りよ。だから変な想像をするのはやめましょう」

雪歩「そ、そうだよ! みんなきっと大丈夫だから、心配しないで?」

二人揃っての返事に、真美の表情は少し和らいだ。
伊織はそれに微かな安堵を覚えつつ、今自分が言ったことを頭の中で復唱する。
前半部分は真美を落ち着かせるための言葉だったが、
後半部分は自分に言い聞かせるためのものでもあった。

そうだ、勝手に悪い結果を想像したって何の意味もない。
それより今はやるべきことがある。

伊織「もう少し進むわよ……。
   そしたら、346プロの奴らの居場所が見えるはずだから」



884:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/28(木) 23:04:01.72 ID:3qWFblf0o

その後少し進むと伊織の言った通り、
346プロのアイドル達が居る民家が見えた。
今伊織達が居る場所は特に草木が深く、身を隠すのにはちょうどいい。
三人はそこでしばらく様子を窺い、
どれだけの時間が経った頃か。

伊織「っ! 出てくるわ……!」

この言葉に、雪歩と真美は民家の出入り口を注視する。
伊織は液晶と民家との間を視線を行き来させる。
そしてそれから数十秒後、ついに姿を現した。

伊織達は息を殺して目を凝らし、
それが三村かな子、赤城みりあ、諸星きらりの三人であることを確認した。
伊織の推測を外し、そこに双葉杏はおらず、
またその様子も想像していたものとは少し違っていた。



885:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/28(木) 23:10:33.48 ID:3qWFblf0o

赤城みりあが周囲を警戒し、そして三村かな子が諸星きらりを背負っている。
諸星きらりはぐったりとしていて、どうやら気絶しているようだった。

伊織達はそのまま黙って身を伏せ、
かな子達が別の家へと入っていったのを見届けた。
そして声を抑え、今見た光景について話し合いを始める。

伊織「……エリアを移っただけみたいね。あいつらもしばらくこの集落に居るつもりみたい」

雪歩「あ、あの子……気絶してたのかな。もしかして、爆発のせいで……?」

伊織「そうかもね……。細かい理由は分からないけど。
   でも気絶の理由なんてどうでもいいわ。
   大事なのは、これは間違いなく私達にとってチャンスってことよ」

伊織はそう言い、拳銃をぐっと握り締める。
亜美を殺した二人のうち、一人が今気を失っている。
つまりこれは仇を討つチャンスであり、
765プロにとっての脅威を一つ減らせるチャンスでもあるのだ。



886:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/28(木) 23:15:36.21 ID:3qWFblf0o

この機を逃してはいけない。
敵は今、少し離れたところに見える民家の中に入っている。

問題はどちらの選択を取るかだ。
つまり、自分から民家に突入するか、
相手が次のエリア移動のため外に出てくるまで待つか。

どちらにもそれぞれ懸念事項はある。
前者は突入に備えられている恐れがあり、
後者はその時には既にきらりが意識を取り戻している恐れがある。

だがどちらにせよ、出来ればここで始末しておきたい。
そのためにはどうするか……二人の意見も聞いておこう。

そう考え、伊織は二人に話しかけるため探知機から視線を上げようとした。
が、しかし。
その直前で伊織の目は液晶に釘付けになった。

765プロを示す点が一つ、
北西側の集落に向かって歩いていた。



887:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/28(木) 23:23:06.59 ID:3qWFblf0o

伊織の様子が変わったことに気付き、雪歩と真美も左右から液晶を覗き込む。
そして、二人同時に目を見開いた。

今一人で行動していると考えられるのは、
美希か、真か、あずさのうちの誰か。
だが伊織は直感的に、あずさだと感じた。

もしあずさだとすれば、
まず間違いなく346プロに対して敵意など抱いていない。
それに対し、今彼女が向かっている集落に居る者達は、
遠目から見ただけでも明らかに周囲を警戒していることは分かった。
つまり、少なくともある程度の敵意は抱いている。
もしそれが敵意で収まらず、殺意であったなら……。

伊織「ッ……急ぐわよ!」

そう叫ぶが早いか、伊織は真美の手を引いて駆け出す。
そして雪歩もそのすぐ後ろに続き、三人は北西の集落へと走った。



918:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/31(日) 21:56:21.93 ID:zDg1x824o

12:00 三浦あずさ

木々の隙間から民家が見えた時、あずさは思わず嬉し涙を流しそうになった。
だがぐっと堪え、そこを目指して駆け出す。
目覚めた時から今までずっと一人でさまよい続けたあずさは、
人恋しくて仕方が無かった。

とうとう森を抜け、あずさは集落へと足を踏み入れる。
きっとここなら誰か居るはず。
そう思い、あずさは息を大きく吸って叫んだ。

あずさ「あの、すみません~! 誰か居ませんか~!」

この呼びかけに、やはりすぐには返事がない。
しかしあずさは諦めず、歩きながら人を呼び続けた。



919:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/31(日) 21:58:47.91 ID:zDg1x824o

あずさ「すみません、誰か~!
    私、あずさです~! 765プロの、三浦あずさです~!」

あずさは、分かっていなかった。
「音」は聞いていた。
一人さまよっている時、
どこか遠くの方から何度か大きな音がしたことには気付いていた。
しかしまさか本気の殺し合いが行われているとは、
あずさは考えていなかった。

だから、ここに居るのが例え346プロのアイドルだったとしても、
こうして敵意のないことを示していれば
向こうからも歩み寄ってくれるはずと、そう思っていた。
殺意を抱いて陰から様子を窺っている者が居るとは、
露ほどにも思っていなかった。



920:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/31(日) 22:01:50.06 ID:zDg1x824o

あずさ「すみません~、誰か居ませんか~?」

途中あずさは足を止め、一番近かった民家の玄関扉を叩く。
中に居るかも知れない誰かを呼んでみるが、やはり返事はない。

返事がないのなら誰も居ないのだろう、
とあずさは別の民家へと向かう。
そして再び、扉を叩いて人を呼ぶ。
それを繰り返しつつ、あずさは少しずつ進んでいった。

だがしばらくそれを続けるうちにあずさは徐々に不安になってきた。
これだけ呼んでも誰も出てきてくれないということは、
本当に誰も居ないのではないか。
きっと誰かに会えると思ったのに
まだ一人ぼっちで居なければいけないのか、と。



921:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/31(日) 22:04:05.23 ID:zDg1x824o

集落にたどり着いた喜びは少しずつ薄れ始め、
またじわりと視界が滲んでくる。
しかしあずさは立ち止まり、溢れかけた涙を袖で拭った。

まだだ。
まだ諦めるには早い。
まだ調べていない民家はあるし、
ひょっとしたら中で眠っている人が居るかも知れない。
次の家は、中に入って調べてみよう。
それに、仮に今は誰も居なかったとしても、待っていればきっと誰か来てくれる。

あずさはそう自分に言い聞かせ、顔を上げて再び前へ進みだした。
早く誰かに会いたいという願いが、あずさを動かした。

だがこのあずさの健気な願いは数秒後、
最悪の形で叶えられることとなった。



922:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/31(日) 22:11:31.17 ID:zDg1x824o

次はこの家を調べよう、
とあずさは数メートル先の民家に向けて歩いた。
見たところ玄関口は向こう側にあるようだ。
そう思い、その民家の壁沿いを歩く。
しかし壁の端に出て向きを変えたその瞬間、

あずさ「あぐッ!?」

強い衝撃があずさの頭部を襲った。
思わず後ろに倒れ込み頭を押さえる。
一体何が起きたのかと、倒れたままあずさは顔を上げた。
すると、見えた。

頭部へのダメージがあとを引き、視界がまだはっきりとしない。
だがそれでもあずさは見た。
誰かが何かを持って、息を切らせてそこに立っていた。



923:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/31(日) 22:14:51.33 ID:zDg1x824o

それは、李衣菜だった。
李衣菜がフライパンを持ち、そこに立っていた。
本来は殺傷の武器ではないフライパンだが、
言ってしまえば鉄の塊である。
至近距離での不意打ちに使えばそれなりの効果を発揮した。

が、やはり十分ではなく、
ダメージはあったもののあずさの意識ははっきりしていた。
そして李衣菜はそれを見て、

李衣菜「ッ……ぅあぁあああああッ!!」

倒れたあずさに馬乗りになり、その鉄の塊を再び頭部へ打ち下ろそうと振り上げた。

突然の脅威。
襲い来るであろう痛み。
それから身を守るため、あずさは咄嗟に
手に持っていた自分の鞄で李衣菜の攻撃を防いだ。
そしてこれが、あずさにとって最悪の結果を招いた。



924:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/31(日) 22:18:59.65 ID:zDg1x824o

それは様々な要因が重なって起きた出来事だった。

あずさが鞄で李衣菜の打撃を防ごうとしたこと。
李衣菜がその鞄に向けて繰り返しフライパンを打ち下ろしたこと。
あずさの静止を聞けるほど冷静ではなかったこと。
あずさが無警戒にこの集落に来てしまったこと。
李衣菜が765プロを敵視していたこと。

あずさの武器がフッ化水素酸だったこと。
この島で目覚めたあの時、刺激臭に驚いた彼女が慌てて蓋を閉め、
しっかり密閉したかを確認することなく鞄にしまい込んでしまったこと……。

危険な薬物が入った容器は、鞄の中で強い衝撃を何度も受けた。
そしてその結果、何が起きたか。

李衣菜が刺激臭を感じたのと、
あずさが悲鳴を上げたのは同時だった。



925:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/31(日) 22:20:59.73 ID:zDg1x824o

あずさ「ひッ……ぃああぁああッ!!」

突然顔を押さえて叫び声を上げたあずさと、目と鼻をつくような臭い。
それは一瞬にして李衣菜の思考を攻撃から退避へと転換させた。

何が起こったのかは分からない。
だがこの刺激臭と、三浦あずさの反応。
どう考えても危険な何かが今、ここにはある。
もしかしたら毒ガスのような何かかも知れない。

李衣菜はそう直感し、
半ば転がるようにしてあずさから距離を取り、

李衣菜「二人とも逃げて!!」

ずっと陰に潜んでいたみくと蘭子に向けてそう叫んだ。



926:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/31(日) 22:24:18.00 ID:zDg1x824o

それを聞き、みくと蘭子は森に向かって走った。
その後を追って李衣菜も走る。
走りながら李衣菜は振り向き、あずさの様子を見た。

あずさはよろけながら立ち上がったが、数歩歩いて再び倒れる。
そして、視力を失ったかのように手を前に出しながら、
その場から逃れるように地面を這って移動する。

その様子を見て李衣菜は、
心にこみ上げてくるものを必死に押し殺した。

仕方なかったんだ。
やらなければ、こちらがやられていたかも知れない。
あの危険物を使われていたかも知れないんだ。

そう言い聞かせ、あずさから目を逸らし前を向いて走り続けた。



928:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/31(日) 22:29:16.78 ID:zDg1x824o




あずさ「あぅ、あぁあッ……ゲホッ! ゲホッ!」

李衣菜達が去った後、あずさはなんとか
フッ化水素酸が撒かれた位置から距離を取った。
そして濡れたウェアを急いで脱ぎ、そのまま地面に苦痛に呻き続ける。

その苦痛に、また記憶の中にある説明書に、
自分に何が起きたのかを嫌というほど思い知らされる。
あの劇薬が眼球を焼くのを感じる。
間違いなく自分の両目はもう使い物にならない。

いや、両目が潰れただけならまだ良かった。
自分はあれを、頭部と両手に浴びてしまった。
脱いだウェアで急いで拭き取りはしたものの、もう……

伊織「あずさ……!? あずさ!!」



929:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/31(日) 22:33:14.99 ID:zDg1x824o

唐突に聞こえたその声に、あずさは反射的に顔を上げる。
そして直後、更に二人の声が自分の名を呼んだ。

伊織、雪歩、真美の三人が、恐らくこちらに向かって走ってきている。
それに気付いたあずさは、

あずさ「駄目!! 来ないでッ!! 私に近付いちゃ駄目!!」

これまで出したことのないような、怒鳴り声にも近い叫びを上げた。
それを聞き、伊織達は思わず立ち止まる。
そして足音が止まったのを確認し、あずさはゆっくりと立ち上がって言った。

あずさ「私に触ったら……みんな、死んじゃうわ……。
    だから、近付かないで、お願い……!」

この言葉に当然、三人は困惑する。
そんな彼女達に向けてあずさは苦痛に震える声で続けた。



930:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/31(日) 22:39:37.59 ID:zDg1x824o

あずさ「……私ね、すごく危ない酸を浴びちゃったの……。
    ほんの少し体に付いただけで死んじゃうような、危ない酸……。
    今も多分、体のどこかに付いてるわ……だから……」

伊織「は……はぁ!? 何よそれ……お、大げさに言ってるだけでしょ!?
   だってあんた、生きてるじゃない! そんな、少し付いただけで死んじゃうなんて……」

あずさ「すぐには死なないの!!
    今はまだ生きてるけど……きっと何時間かしたら、私は……!!」

そこで限界が来たかのように、
あずさは両手で顔を覆って嗚咽を漏らす。

遅効性かつ致死性の高い酸。
そんな酸の存在など聞いたことはなかったが、
だからと言って完全に否定するほど三人とも短絡的ではなかった。
そして何よりあずさの悲痛な泣き声が、
その酸の存在に十分な説得力を持たせていた。



932:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/31(日) 22:43:50.07 ID:zDg1x824o

数メートル先であずさが、「自分に触れると死ぬ」と言い、泣いている。
この異常な状況で、伊織は考えた。
眉根を寄せて一瞬目を伏せる。
そして、

伊織「……二人とも、ちょっとここで待ってて」

雪歩と真美にそう言い、鞄を持ったまま静かにあずさに向かって歩き出した。
その気配をあずさはすぐに感じ取り、顔を上げて一歩後ずさる。

あずさ「だ……駄目! お願い、近付いちゃ……」

伊織「どこに浴びたの?」

あずさの言葉を遮るように、伊織は静かに聞いた。
その質問の意図が分からず沈黙してしまうあずさに、伊織は繰り返し聞く。

伊織「あんたが酸を浴びたっていう場所、教えなさい」



933:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/31(日) 22:45:30.58 ID:zDg1x824o

あずさ「あ……え、えっと、両手と、顔……」

伊織「……じゃあ両手出して。早く!!」

有無を言わさぬ伊織の指示に、あずさはおずおずと両手を前に出す。
すると伊織は更に、

伊織「もっと低い位置で。地面ギリギリになるように」

そう指示を追加した。
あずさは伊織の意図が分からぬまま、言う通りにする。
すると数秒後、突然あずさは肌に冷たい感覚を覚えた。
一瞬手を引っ込めそうになったが、すぐにその正体に気付く。
伊織が、ペットボトルの水を両腕にかけ始めたのだ。



935:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/31(日) 22:47:18.35 ID:zDg1x824o

その行動を見て、立ち止まった場所から動けなかった雪歩と真美も、
あずさの元へ慌てて駆け寄る。
そして自分達の鞄からも水を取り出し、あずさに声をかけた。

雪歩「か……顔も洗いましょう! あずささん!」

真美「水あるよ! あずさお姉ちゃん! 真美の水あげるよ!」

あずさ「あ、あの……え……?」

伊織「二人とも、焦っちゃ駄目よ。
   完全に洗い流すまでは、あずさの言う通り、触っちゃ駄目。
   水が飛び跳ねないように注意して。絶対に濡れないように気を付けなさい」

あずさ「……伊織、ちゃん……」



936:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/31(日) 22:48:47.25 ID:zDg1x824o

しっかり注意しろと二人に向けられたこの言葉。
だがあずさには、それが
「ここまで気を付ければ文句はないわよね?」
と自分に向けられているように聞こえた。
そして、先ほどまでとは違う種類の涙が溢れてくるのを感じた。

そんなあずさに、伊織は今度は顔を洗うよう指示する。
あずさは嗚咽を堪え、指示に従った。
出来るだけ水が撥ねないよう姿勢を低くしたまま両手で受け皿を作る。
そこに伊織が水をかけ、その水で顔を丁寧に洗い流す。
同時に雪歩と真美は、頭から大量に水をかける。

それをしばらく続け、あずさの皮膚に残ったフッ化水素酸は
他の誰に触れることなくすべて洗い流された。



937:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/31(日) 22:52:00.45 ID:zDg1x824o

だがそれでも、あずさの両目の痛みが消えるわけではないし、
フッ化水素酸が皮膚に付着してしまった事実も消えるわけではない。
そのことはあずさも分かったいた。

あずさ「……ありがとう、伊織ちゃん、真美ちゃん、雪歩ちゃん。
    でも……私は、もう……。だから、私のことは構わないで」

あずさはこの件で、346プロにはゲームに乗り気な者が居ることを知った。
そんな状況では、今の自分は足手まとい以外の何物でもない。
視力は失い、そして信じたくないが
説明書の通りであれば、自分が迎える結末はもう確定している。

また伊織達も、このあずさの考えは重々承知していた。
しかしそれでも、三人の答えは決まっていた。

伊織「……バカ言ってんじゃないわよ。
   そう言われて本当に見捨てるような奴が私達の中に居るわけないじゃない」



938:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/31(日) 22:54:24.38 ID:zDg1x824o

雪歩「そ、そうです! それにまだ、死んじゃうって決まったわけじゃありません!」

真美「一緒に居ようよ! ね、あずさお姉ちゃん! 一緒に居よ!」

伊織「っていうかここで置いて行ったら
   じゃあ何のためにあんたの体洗ったのかって話になるでしょ。
   一緒に居るためにその危険な酸ってのを洗い流したんだから」

あずさ「っ……」

あずさを守りたいという気持ち、
単純に一緒に居たいという気持ち、
それぞれの想いは様々だったが、そこには確固たる意志があった。
そしてその強い意志は確かにあずさに伝わった。
三人の言葉を聞いて、あずさは少しの間を空け、

あずさ「……本当に、一緒に居てもいいの……?」

震えた声で、希望を込めた言葉を口にした。



939:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/01/31(日) 22:57:32.62 ID:zDg1x824o

伊織「だからそう言ってるでしょ」

雪歩「も、もちろんです! 一緒に居てください!」

二人はそう返事をし、真美は黙ってあずさに抱きついた。
そして伊織はあずさの手を取り、

伊織「ほら、そうと決まれば早くどこかの家に入りましょう。
   色々話すこともあるけどまずはそれからよ」

そう言って一番近くの民家へとあずさを連れて入っていった。
あずさは久し振りの仲間との触れ合いに、
またしても嗚咽が漏れそうになるのを堪えた。

そして、願わくはあの説明書の内容が誤りであって欲しい、
例外があって欲しいと、心からそう祈った。



960:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/02(火) 22:43:35.21 ID:iMFSYJ63o

12:40 多田李衣菜

李衣菜「な……何、これ……」

南東の集落。
その地面に飛び散った血飛沫のようなものを見て、
李衣菜とみくは息を呑み、蘭子は震えながら李衣菜の腕にしがみつく。

一体ここで何が起こったのか、原因を探すようにみくは辺りを見回した。
すると、離れた場所に目を引くものがあった。

みく「ね、ねぇ! あれ……!」

そう言ってみくが指した先にあったのは、窓ガラスの割れた家。
この状況を見て三人の鼓動は加速する。



961:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/02(火) 22:44:31.06 ID:iMFSYJ63o

数時間前、杏ときらりとかな子がこの集落へ向けて出発した。
「調べて何も無ければすぐ戻る」。
杏はそう言っていたが、結局戻って来なかった。
そして今目の前に広がっている光景。
もう間違いない。
ここで765プロとの戦いがあったんだ。
戦って、誰かが大怪我を負ったんだ。

それは杏達の中の誰かかも知れない。
そこに思い至り、李衣菜は行動を起こした。

李衣菜「わ、私、みんなを探してくる。二人は森に戻って、隠れて待ってて……!」

みく「え……!? だ、駄目だよ李衣菜ちゃん! 一人でなんて危ないよ!」

蘭子「さ、探すなら、三人で……!」



962:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/02(火) 22:45:49.68 ID:iMFSYJ63o

まだこの集落には敵が居るかもしれない。
そんな場所に一人で行こうとする李衣菜をみく達は当然止める。
だが李衣菜はそれをきっぱりと断った。

李衣菜「言ったでしょ、みくは安静にしてなきゃダメなんだって。
    ただでさえここまで走ってきて、相当無茶してるんだから」

みく「っ……で、でも……」

李衣菜「大丈夫、私は絶対無茶はしないから」

そう言って、李衣菜は次に蘭子を見る。
そして肩に両手を置き、言った。

李衣菜「ちょっとの間だけど、みくのこと、お願い。
    多分大丈夫だと思うけど、もし何かあったらすぐに武器使って逃げるんだよ」

その言葉に蘭子は逡巡したようだったが、
しばらくした後、自分の鞄をぎゅっと胸に抱えこみ、頷いた。
やはり不安や恐怖は拭い去れない。
しかしみくを任されたことに対する責任感が、蘭子の体の震えを少しだけ和らげた。



963:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/02(火) 22:47:36.43 ID:iMFSYJ63o

蘭子の意志を確認し、李衣菜は肩から手を離した。
そして一歩下がり、蘭子とみくの二人に視線をやる。

李衣菜「それじゃ……早く森に隠れて。
    二人がここから見えなくなったら行くから」

みく「……本当に、気を付けてね。絶対無茶しちゃ駄目だからね……!」

李衣菜「わかってる。だから、早く」

みくはまだ言いたいことがあるようだったが、
上手く言葉にできなかったからか、李衣菜に急かされたからか、
ぐっと飲み込んで踵を返した。

蘭子と二人森へ駆けていくみくの後ろ姿を見送り、
草木に紛れ見えなくなったのを確認して、
李衣菜も背を向けて駆け出した。



964:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/02(火) 22:49:29.43 ID:iMFSYJ63o

二人と別れ、李衣菜はまず窓の割れた民家へと向かった。
ある程度近付いたところで、可能な限り足音を消して慎重に忍び寄る。

どうやら人の気配はないようだ。
恐る恐る窓から中の様子を窺う。
やはり中でも何かあったのだろう、室内は相当に荒れている。

次いで李衣菜は玄関へと向かった。
が、壁の端まで行って向きを変えたところでその足はぴたりと止まる。

地面や玄関扉に、大量の血が飛び散っている。
先ほど目にしたものとはまた違う飛び散り方だ。

ここでも誰かが大怪我をしたのか。
誰も居ないということは動ける程度の怪我なのか。
それとも移動させられたのか。
一体、ここで何が……。



965:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/02(火) 22:51:14.71 ID:iMFSYJ63o

次から次へと湧いてくる疑問と嫌な想像を、李衣菜は頭を振って追い払った。
それより今は人探しだ。
集中しなければ。

李衣菜はゆっくりと長く息を吐き、もう一度神経を張り詰める。
そして、探索を続けた。
窓の割れた民家を調べ終え、次を調べる。
慎重に、一つ一つの民家の中の気配を探っていく。
誰も居ないことが分かれば、中に入って何か残されていないか探す。

そうやっていくつの家を回っただろうか。
李衣菜はそれまでと同じように、壁に張り付いて聞き耳を立てる。
窓の傍に行き、音を窺う。
だがやはり、ここにも人の気配はない。
中に入って詳しく調べよう。
と李衣菜が玄関へと向かったその時だった。

初めて、李衣菜の耳に何かが聞こえた。



966:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/02(火) 22:52:09.39 ID:iMFSYJ63o

気のせいかも知れないほど一瞬だったが、聞こえた。
今調べようとしていた民家ではない。
もっと離れたところだ。

李衣菜は目を閉じ、声の聞こえた方に神経を集中させる。
そして次の瞬間、確信に変わった。

間違いない。
どこかで誰かが話をしている。
みくと蘭子ではない。
ここから見て、二人が隠れている場所とは逆方向だ。

李衣菜は自分の足音でその声を消してしまわないよう、
ゆっくりと声のした方へと向かって歩き出す。
そして少し歩き、
声の発生源である民家を突き止めたと同時に、声の主も特定した。

それは、みりあとかな子の声だった。



967:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/02(火) 22:54:50.09 ID:iMFSYJ63o

李衣菜は思わず名前を呼んで駆け出しそうになる。
しかし寸前でその衝動を抑えた。

そうだ、安心するのはまだ早い。
二人以外にも誰か居るかも知れないんだ。
それはもしかしたら765プロのアイドルかも知れない。
みくと同じように騙されて一緒に居るのかもしれない。

と李衣菜の心に浮かんだ疑念はしかし、その後すぐに晴れた。
会話の内容を聞き取れる位置まで近付いた李衣菜は、
その会話から765プロの者が居ないことを理解した。

李衣菜はそのことに安堵したが、同時に不安も生まれた。
なぜ、杏の声が聞こえないのか。
嫌な想像が再び胸をざわつかせる。

これが杞憂で終わるのか、あるいは的中してしまっているのか。
かな子達に合流すれば、たちまちに結果は出るだろう。
李衣菜はほんの少しだけ躊躇し、
そして決意して、二人の名を呼んで目の前の扉を開けた。



968:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/02(火) 22:56:57.09 ID:iMFSYJ63o

13:30 渋谷凛

凛と智絵里は今、休憩を挟みながら森と海のちょうど境目辺りを歩き続けている。
少し前までは集落の近くまで行っていたのだが、
二人はそこへ足を踏み入れることはなかった。

元々は当然、集落を調べて手がかりや仲間を探すつもりだった。
しかし森の中から集落を見た途端、二人は躊躇した。

敵が身を隠せる場所が多すぎる。
あの民家のうち、どこに誰が居てもおかしくない。
こちらから向こうの姿は見えないが、向こうからはこちらが丸見えだ。
この中へ入っていくのはあまりに危険すぎる。

凛と智絵里は共にそう感じた。
不意打ちを受けたという経験が、
集落に対する二人の警戒心を最大値にまで引き上げていた。



969:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/02(火) 23:01:51.60 ID:iMFSYJ63o

だから二人は、集落の探索は後回しにすることにした。
それより先に海岸線の探索を済ませ、
可能なら仲間を増やしてから集落を探索しようと、そう決めた。

そうして今、探索を続けている二人だが、
流石にもう海岸沿いを探しても無駄なのではと薄々思い始めていた。
この島で目が覚めてから丸一日が経とうとしている。
それだけの時間が経てば海岸沿いを調べるくらいは既に誰かがしているだろう。
そして集落か、あるいは灯台に居場所を落ち着けていると考えるのが普通だ。
つまり、海岸沿いには手がかりも仲間ももう残ってはいないのかも知れない。

と、そんな風に考えながら凛が浜辺に目をやったその時。
ふとある一点に違和感を覚え、一度通り過ぎた目線を戻した。

凛「智絵里、あれ……」

凛は智絵里を呼び、違和感の元を指差す。
智絵里は凛の指したその先を見て、同じように違和感を覚えた。



971:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/02(火) 23:05:43.87 ID:iMFSYJ63o

砂浜の一部が、不自然に盛り上がっている。
誰かが意図的に砂を盛って山を作ったか、
あるいは……そこに何かが埋まっているかのようだと、二人は思った。

凛「……行ってみよう」

智絵里「う、うん」

短くそうやり取りし、二人は森を出て砂浜へと足を踏み出した。
一歩歩くごとに、徐々に詳細が明らかになっていく。
そして、その不自然な盛り上がりの形と大きさが分かった時、
二人は一瞬心臓が跳ねるのを感じた。

智絵里は思わずそこで立ち止まってしまう。
だが凛はぐっと体に力を入れ、更に数歩進む。
そして、たどり着いた。
足元で盛り上がっている砂を数秒見つめ、ごくりと喉を鳴らし、
膝を付いてそっと砂山の一部を手で払った。



973:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/02(火) 23:11:01.32 ID:iMFSYJ63o

すると、何かが見えた。
それを見て凛は確信した。
やはりこの砂の盛り上がりはただの砂山ではない。
何かがこの中に埋まっている、と。

凛はもう一度、今度は先ほどより多めに砂を払う。
埋まっている物が見える範囲が一気に広がった。

しかし二~三回それを繰り返したところで、凛の手は止まった。
彼女は「それ」に見覚えがあった。
質感や色に、心当たりがあった。

そんなはずはない、よく似た何かに違いない。
凛は自分に言い聞かせるように願いながら、
自分の心当たりが間違いであると証明するため、更に砂を払った。
だがそうして砂の中から姿を現したものは、
凛の願いを裏切った。



974:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/02(火) 23:16:05.35 ID:iMFSYJ63o

凛は呼吸を荒げ、黙ってそれを見つめる。
頭の中は真っ白なのか、
それとも様々な思考が入り混じっているのか、分からない。
だがそんな凛の頭は、智絵里の震えた口から出た言葉だけは瞬時に理解した。

智絵里「う……卯月ちゃ」

凛「違う!! そんなはずないッ!!」

智絵里の言葉をかき消すように凛は怒鳴った。
その剣幕に智絵里は肩を跳ねさせて涙を滲ませる。
しかし凛はそんな智絵里の様子など意に介していないかのように、
すっと立ち上がって智絵里の手を掴んで走り出した。

凛「行くよ智絵里! 早く!」

智絵里「えっ……い、行くって、どこに……!」



975:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/02/02(火) 23:19:09.65 ID:iMFSYJ63o

凛「卯月を探さなきゃ……! 集落に行ってみよう!
  きっとそこに卯月も居るから! みんなも集まってるかも知れない!」

智絵里「っ……」

あれは、どう見ても卯月だった。
顔は分からない。
でも体は紛れもなく卯月だった。

だが凛は信じたくなかった。
あれは卯月なんかじゃない。
早く卯月を見つけて、それを証明しなければ。

そのためには集落に行ってみるのが一番早い。
危険だろうがなんだろうが関係ない。
海岸なんかを歩くより集落に行った方が、
346プロの誰かに、卯月に会える確率は高いんだ。
ただただその考えを胸に、
凛は北西側の集落に向かって真っ直ぐに走り出した。


小鳥「今日は皆さんに」 ちひろ「殺し合いをしてもらいます」 2



元スレ
小鳥「今日は皆さんに」 ちひろ「殺し合いをしてもらいます」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1451043217/
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