キモオタ「ティンカーベル殿!おとぎ話の世界に行きますぞwww」八冊目【後半】

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キモオタ「ティンカーベル殿!おとぎ話の世界に行きますぞwww」八冊目【後半】






495:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/04(月)00:11:58 ID:etm

ティンカーベル「悟空でも簡単に倒せなかった相手なのにちょっと煽るだけで隙を作っちゃうなんて、私達って実は結構凄いんじゃない!?」ヘラヘラ

キモオタ「確かにそうですなwww我輩もティンカーベル殿も確実に煽り力がアップしてますぞwwwアリス殿の一派など恐るるに足りませんなwww」コポォ

孫悟空「……」

玉龍「いやーっ、すごいッスよ二人とも!ウチ等も言葉での駆け引きはするッスけど、あんな容易くあいつを逆上させるなんてなかなかやるッスね!」

キモオタ「ドゥフフwww外見を貶すとブチキレるのはオカマキャラの常でござるからなwww」

ティンカーベル「しかも私達打ち合わせとかしてないからね!私とキモオタも結構息があってるよね!これならアリスも楽勝かも!」

玉龍「何においても仲間と連携が取れてるってのは有利ッスからねー、二人は本当n」

孫悟空「そこまでだ玉龍。あんまり褒めるんじゃねぇ、こいつ等の為になんねぇ」

玉龍「そうッスか…?確かにウチやセンパイが同じようにやったらお師匠はきっと怒るッスけど…二人は守護者じゃないし別に良いんじゃないスか?」

ティンカーベル「えーっ?悟空は何でそんな事言うの?実際、私達がうまく煽ったおかげで隙ができたんじゃん!褒めてくれても良いくらいだよ!」

孫悟空「そりゃあ確かに助かったぜ?帽子屋は俺と渡り合えるだけの実力があった、オメェ等が隙を作ったおかげで一撃入れる事ができたのは事実だ。だがやっぱり感心しねぇ、今後はこういう戦い方はやめとけ」

キモオタ「ちょwww悟空殿は硬いでござるなwwwブラフや煽りは卑怯とでもいうつもりですかな?www勝てばよかろうなのでござるよwww」コポォ

孫悟空「行為自体は咎めねぇ、俺だって必要なら煽りもする、命の取り合いに卑怯もクソもねぇんだ。だがオメェ等の場合は実力が伴ってねぇのに挑発だのブラフだのかますだろ?それが良くねぇ…いや危ねぇ」

ティンカーベル「えーっ?危なくなんか無いよ、今までずっとこれで何とかなってきたもんねっ!ねっ、キモオタ!」

キモオタ「そうですぞwww我輩は煽りとブラフに定評のあるキモオタでござるからwww」



496:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/04(月)00:13:44 ID:etm

孫悟空「…俺は大勢の妖怪共の相手をしてきたから解るけどよ、戦い方ってもんは大きく分けて二つある、計算して戦う奴と本能のまま直感で戦う奴だ」

ティンカーベル「あー、確かにそういうのってあるかもね!桃太郎とかは計算するタイプで悟空は直感タイプだ!」

孫悟空「帽子屋は見たところ…冷静に状況を判断して勝利を手にする計算タイプだ。だからこそ変身される前に玉龍を弱体化させたり、遠近に対応した魔法薬を準備してんだ」

孫悟空「あいつは美しさの為なんて言ってたが、戦闘に不向きな大鎌なんて使ってんのも目立つ武器に目を向けさせる目的があんだろうな。大息を吐くにしろ相手を掴むにしろ、相手の一瞬の隙を付けばいいんだからな」

玉龍「そう考えるとあいつの行動は全て勝つ為に計算されていたって訳ッスか…」

孫悟空「冷静で居られる奴ってのは本来挑発なんかに易々と乗らねぇもんだ。今回は…余程キモオタと同じ程度の顔面だって言われたのが耐えられなかったんだろうな」

キモオタ「ちょwww冷静さを欠くほど嫌だったのでござるかwwwいやそれを狙って煽ったのには違いないでござるがwww」

孫悟空「まぁ確かに相手の突かれたくない部分をうまく突いたとは思うぜ。だが、同じ方法が直感タイプの奴に通じるかってぇとそうもいかねぇ」

孫悟空「逆上して自滅する奴もそりゃあいるだろうがな、怒りや気持ちの高ぶりをそのまま殺意に変えてうまいこと手綱を引く奴ってのも結構いる、しかもそういう奴は相当な強者ってのが多い」

ティンカーベル「悟空はさ、煽りなんてしてると相手の心を乱すどころか怒らせるだけになって不利になっちゃう事もあるよって言いたいの?」

孫悟空「平たく言えばそうだな、逆上した相手を押さえつけるだけの実力がありゃあいいが…無けりゃあ自分の首を絞めるだけだ、テメェ等のやってる事は思っている以上に危険を伴う戦略だって事だ」

キモオタ「ムムム…悟空殿の言う事ももっともですな。しかし…」

孫悟空「要は実戦経験が浅いうちにやる戦略じゃねぇって事だ。事実、あいつをぶっ飛ばしたことでテメェ等はすっかり気を抜いているだろうが…」

ガラガラッ ムクッ

孫悟空「あれだけの手慣れが吹き飛ばされたくらいでくたばる訳がねぇ。解ったんなら、今度は口先だけじゃなく武器を構えやがれ。…戦闘はまだ終わっちゃいねぇんだぜ」



497:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/04(月)00:15:58 ID:etm

ガラガラッ

帽子屋「聞いてたわよぉ~…んふふっ、自分も大概だったくせにキモオタちゃん達には説教するのねぇ~」

孫悟空「説教じゃねぇ、忠告だ。これからテメェという強者と戦うんだ、調子になんざのってりゃ一撃入れるのがせいぜい…テメェを倒すにゃ驕りなんざ足枷にしかならねぇからなぁ!」

帽子屋「あら、強者だなんて照れちゃうわねぇ!でもまいったわねぇ…この帽子は商品なのにすっかりボロボロ。もう売り物にはならないわぁ~」

孫悟空「さぁ気ぃ抜くなよ。あぁ見えて俺と渡り合えるだけの実力者だ、それにもうあいつにゃ安っぽいブラフだの挑発だの通用しねぇと思え」

帽子屋「ぶほほっ、そう警戒しないのぉ。そういえばキモオタちゃんとティンクちゃんはああいうの得意だったわよねぇ~、アタシったらつい乗せられちゃったわぁ~」スッ

ティンカーベル「あいつ…!思いっきり瓦礫に突っ込んだはずなのにふっつーに立ちあがってきた…!痛くないの!?」

玉龍「…そりゃそうッスよね、あれくらいでくたばる程度の奴ならとっくにセンパイに倒されてるッス」

キモオタ「しかし…妙ですぞ、あの者…先ほどは手負いだったはずでござるのに今は傷付いている様子がほとんどないでござるよ!?治癒の魔法かあるいは…」

ティンカーベル「もしかして、傷を癒す魔法具とか持ってるのかも!」

帽子屋「んふふっ、こんなに解り易い死神の鎌を持ってるのにわかんないのねぇ…ちょっと勉強不足かもねぇ~」

孫悟空「おい、キモオタ。さっき聞きそびれちまったが…かぐやとドロシーはどうした?」ボソッ

キモオタ「二人は翁殿を安全な場所まで送り届けると言ってましたぞ、後ほど向かうと言っていたでござる」ヒソヒソ

孫悟空「そうか、わかったぜ。あいつ等が来るまでにケリを付けねぇとな」ヒソヒソ

帽子屋「ぶほほっ、メンズが二人して何の相談かしらぁ?ヒソヒソ話は気になっちゃうじゃないのぉ~!」

ヒュオッ

帽子屋「ぶほほっ、私も混ぜて貰うわよぉ!それとも乙女に聞かれちゃ困る話かしらぁ~?」ヒュッ



498:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/04(月)00:19:21 ID:etm

帽子屋「さっきあれだけ侮辱してくれたんだもの!まずはキモオタちゃんをスライスベーコンにしてあげちゃうわよぉ!」ビュオッ

キモオタ「ぶひゃ!?あ、あからさまに標的にされてしまいましたぞ!?」

ティンカーベル「悟空が言った通りだ!挑発したはいいけどすぐ倒せなかったから怒りを買っちゃってるよ!」

孫悟空「だから言っただろうが!厚切りチャーシューになりたくねぇなら防げ!それか避けやがれ!」

キモオタ「ぶひいぃぃぃっ!あんな大鎌喰らったらひとたまりもありませんぞぉ!?」

帽子屋「ぶほほっ!キモオタちゃんが死んじゃえばもうそんな醜い姿と同類扱いされる事もないものねぇ!覚悟しなさぁい!」ズバッ

キモオタ「ぶ、ぶひぃぃっ!?お、おはなしサイリウムを…!い、いや助けていただきたいですぞ悟空殿ォ!」

孫悟空「ったく、今までどれだけ運が良かったんだテメェは!仕方ねぇ、伸びやがれ如意棒!」ビュオッ

キモオタ「おぶっ」ドスッ ズサー

帽子屋「あらあらぁ、如意棒で突き飛ばして攻撃を防いであげるなんて優しいのねぇ~悟空ちゃん」

孫悟空「キモオタァ!テメェを庇いながらじゃ攻勢に移れねぇ!そのサイリウムとかいう魔法具で何とかしやがれ!そんくらいできんだろぉ!」

キモオタ「し、しっかしあれ!あの大鎌に切り裂かれたらヤバいですぞ!?」

孫悟空「見た目にビビんじゃねぇ!大鎌じゃなく帽子屋を見ろ!大鎌は振りかぶった後にゃ軌道を変えにくい、どこを攻撃してくるかは読みやすいって事だ!目ぇそらすな!」

帽子屋「ぶほほっ、あんなに怯えた子ブタちゃんにアドバイスなんかしても無駄だと思うけれどねぇ!」ググッ

玉龍「あいつ容赦無いッス…!片腕じゃ調子でないッスけど…ここはウチが加勢に…!」

ティンカーベル「玉龍ちゃんは無理しないで、キモオタなら大丈夫だよ!それに今は…私達が入っていかない方がよさそうだよ!」



499:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/04(月)00:21:08 ID:etm

帽子屋「ティンクちゃんはキモオタちゃんを信頼してるのねぇ!でも…それももうおしまいよ、真っ二つになっちゃいなさいキモオタちゃん!」ズバッ

キモオタ「ぶひぃぃぃっ!!お断りですぞぉぉぉ!!」フリフリッ

おはなしサイリウム「コード認識完了『孫悟空』 武器モード『如意棒』への形状変化を実行」

ガキィィンッ!

孫悟空「俺の如意棒にも変化させられるのか、やるじゃねぇかキモオタァ!」

キモオタ「悟空殿のようにうまく扱えないでござるが、確かに大鎌の軌道さえ解れば防ぐだけなら容易いですな!」

帽子屋「あらぁ!素敵!それが噂に聞く魔法具ねぇ!ひとつで色々な魔法が使えるなんてなんだかずるいわねぇ!」

キモオタ「我輩が今までに得た絆がなせるわざですぞwwwさぁ攻勢に移りますぞwww悟空殿www」ドスドスドス

孫悟空「おうよ!いくぜぇっ…伸びろッ如意棒!!」ビュババッ

帽子屋「如意棒が二本もあるなんて分が悪いなんてもんじゃないわねぇ…!」ガキーン

孫悟空「チッ、そう言うわりにゃあ容易く受けやがって…!」

キモオタ「悟空殿はそのまま攻撃の手を休めないでいただきたい!さぁ帽子屋殿、我輩の如意棒の一撃を食らって立っていられますかな?伸びてくだされwww如意棒www」コポォ

スカーッ

玉龍「なんかでかい口叩いた割には盛大に外してるッスー!?」

帽子屋「ぶほほっ!どんなに強力な武器でも持ち主がクソだと意味ないわねぇ!思いっきり私をはずしてるじゃないのぉ!ぶほほっ!」

キモオタ「…ドゥフフwww一見すると帽子屋殿を外して頭上に伸びた如意棒…しかし、これこそ我輩の計算通りですぞ…!」



キモオタ「このままお主を叩きつぶしますぞwww我輩が命じて『太く』なった如意棒が頭上から降り注げばお主は逃げの一手でござろうwww」



500:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/04(月)00:24:01 ID:etm

帽子屋「太く…ですってぇ!?」バッ

キモオタ「如意棒!柱のように太くなって…帽子屋殿を叩きつぶすでござるよぉ!!」

帽子屋「逃げたりしちゃ悟空ちゃんにいい的にされちゃうわっ!ここは大鎌でなんとか受け流すしかないわねっ…!来なさいっ!」ババッ

シーン

帽子屋「……?」

孫悟空「んなことだろうと思ったぜキモオタァ!」ビュバッ

帽子屋「うぐっ…!痛いじゃないの悟空ちゃん…!それよりなんなのぉ!?キモオタちゃんの如意棒は太くなるんじゃ…あなたまさか、また…!」ハッ

キモオタ「お察しの通りwww如意棒を外した事をごまかす為のブラフでござるwww」ドヤァ

帽子屋「ぶほほっ!アタシも学習しないわねぇ…でも狙われてるのがわかって私を騙そうなんて良い根性してるじゃないのぉ!嫌いじゃないわよそういうのぉ!」

孫悟空「まったくだぜ、普通はあんな風に忠告されちまったら使わないようにするもんだがなぁ」クックックッ

キモオタ「悟空殿の忠告はありがたいでござるが、やはりブラフ煽りあってこその我輩だと思うのでござるwwwもちろん、危険な事も承知なので使いどころは選ぶ故www」

孫悟空「まっ、戦い方なんざ人それぞれだ。危ねぇって事さえわかって使ってんならあとはテメェの好きにすりゃあいい、その方がうまく戦えるってなら尚更な!」

帽子屋「んふふっ、もうキモオタちゃんの口車には乗らないわよぉ!今度こそ大鎌の切れ味を体感して貰わなくちゃねぇ!」ババッ

キモオタ「ややっ!あからさまに距離をとりましたぞ!ここは我輩の如意棒で今度こそ…」

孫悟空「いや、こっちも距離をとるぞ!あいつが距離を取ったってこたぁ…大息で吹き飛ばすつもりだ!玉龍!ティンク!巻き込まれねぇように注意しやがれ!」

帽子屋「ぶほほっ、この距離ならあんた達まとめて吹き飛ばせちゃうわよぉ…!」スゥゥゥッ



501:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/04(月)00:26:32 ID:etm

キモオタ「大息ですと?まさかこの辺り一帯の家もその大息とやらに?」

玉龍「そうッス!息継ぎが始まっちゃったッス、巻き込まれないうちに逃げるッスよ!あの大息はレンガの家でもなけりゃあ防げないッス!」

キモオタ「なるほどwwwならば、逃げる必要はないですな」クルッ

ティンカーベル「そうだね!私達が逃げちゃったらその隙にあいつが他の村とか襲いに行くかもだしね」

孫悟空「あぁ?何か手があるってぇんだな?」

帽子屋「んふふっ!いまからお家でも立てるっていうのかしらぁ!?乙女の吐息は生半可な建物じゃ防げないわよぉ!?」スウゥゥゥッ

ビュオォォォォォォッ!

キモオタ「なるほどwwwならば…愛娘への過保護が生み出した塔ならば、余裕で防げますなwww」

フリフリッ

おはなしサイリウム「コード認識完了『ラプンツェル』 魔法発現状態へ移行……モード『tower』」

ズモモモモッ

玉龍「壁…いや、塔ッスかこれ!?いきなり塔が現れたッスよ!?」

孫悟空「大息なんざものともしねぇ頑丈な塔…ラプ公が住んでたっていう塔か…!」

キモオタ「そうですぞwwwラプンツェル殿との絆が生み出す魔法は強固な塔を具現化する魔法www母の愛が詰まったこの塔を崩す事など不可能ですぞwww」

ティンカーベル「でも塔が出る魔法でよかったよね。ラプンツェルみたいにキモオタの髪がぶわーって伸びたらキモキモオタになるし」

キモオタ「ならんでござるよwwwさらさらロングになろうとも我輩のキモさは一律でござるwww」コポォ



502:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/04(月)00:30:18 ID:etm

シュウゥゥ

玉龍「塔が消えたッス!」

キモオタ「これでその乙女のwww吐息wwwとやらは攻略しましたぞwww」

帽子屋「なぁに笑ってんのよっ!んふふっ、でも困ったわねぇ~…乙女の吐息が防がれちゃったわ~」

孫悟空「そいつぁおかしいな俺にゃあちっともテメェが困ってるようには見えねぇんだよ!」

帽子屋「困ってるわよぉ?思ったよりもキモオタちゃんが出来る男だったからねぇ~…ここで殺せたらそうしようと思ったけれど、予定変更ねっ!ちょっと戦いはお休みしましょうか」

孫悟空「あぁっ!?敵を目の前にして武器を下すような奴が居ると思ってんのかぁ!?」ググッ

キモオタ「待つでござるよ悟空殿!あの者には我輩も聞きたい事があるでござる」

孫悟空「んなもんあいつをぶちのめしてからでいいだろうが!」

帽子屋「んふふっ、ぶちのめせないかもしれないから今聞こうっていう事よねぇ?キモオタちゃんの考えは」

キモオタ「そういうわけではないでござるが…正直、合点がいかないのでござるよ。不自然と言うか…何か企んでいるというか…」

ティンカーベル「それは私も思ってた。キモオタがいいたいのはアレでしょ?あのオカマが……」

帽子屋「んふっ、『どうして悟空ちゃんと渡り合えるほどの力を持つアタシが、今までおとぎ話の世界を襲うのに加担しなかったか』…よねぇ?」ンフフ

キモオタ「その通りでござるよ。ドロシー殿を切り捨てたから帽子屋殿が代わりに…とは思えませんしな、それほどの力があるのに使わない理由はないでござるし」

帽子屋「おとぎ話は筋道から大きくそれると消滅する…アタシって【不思議の国のアリス】じゃ結構重要なポジション任されてんのよぉ、アタシが不在だと消えちゃうの」

ティンカーベル「っていう事はもしかして…【不思議の国のアリス】のおとぎ話はもう…結末を迎えたって事なの!?」

帽子屋「ついほんの少し前にね。代役を務めたミチルちゃんは良くやってくれたわよねっ、これでようやく【不思議の国のアリス】の住人は自由に動けるって訳よぉ~」



503:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/04(月)00:32:28 ID:etm

帽子屋「これで【不思議の国のアリス】が消える事は無いものねっ、アタシも女王様も三月ウサギちゃんも…もちろんアリスちゃんもこれからは自由に動けるのよっ!」

帽子屋「これを機にアリスちゃんは一気に目標を果たそうとしてるのっ!アリスちゃん、そしてルイスちゃんのためにもねぇ~」

キモオタ「我々にとっては厄介な事になってしまったというわけでござるな…今まででも厄介だったアリス殿が本気を出すとは…」

玉龍「っていうことはあんたがこの世界に来たのも、アリスの目的を果たす為って言う事ッスよね!」

帽子屋「まぁそうよねぇ、さっきも言ったけれど悟空ちゃんの戦闘力は敵にするには厄介だから始末したいのよね~…それにかぐやちゃんもね」

孫悟空「やっぱりかぐやの事も狙ってやがったか…!」

ティンカーベル「かぐやも?もしかしてかぐやを人質にとって悟空を…」

帽子屋「違うわよぉ!あんな人間凶器を人質を取るなんてしないわよっ、かぐやちゃんは戦闘力こそ低いけど…あの娘がもつ月の民の能力は脅威の一言よぉ~?」

キモオタ「確か…光の速さで移動出来るとかでしたかな?」

帽子屋「んふふっ、そんなのはおまけ程度の能力よぉ~。あなたたちかぐやちゃんの能力の恐さを知らないのねぇ?あの娘は何を考えてるんだか今はその能力を使わないようにしてるみたいだけど…」

帽子屋「あの娘がその気になれば、一帯を更地にするなんてたやすいのにねぇ?その能力を使って大勢の人間を殺してきたみたいだし?」クスクス

孫悟空「おいテメェ何処で聞いたかしらねぇが…あいつは自分の罪を償おうとしてんだ。水を差すような真似をするってなら…俺は黙っちゃいねぇぞ」

帽子屋「まぁ恐いっ!まぁいいわっ、アタシ達の目的は悟空ちゃんとかぐやちゃんの始末の他にもあるものねっ!」



504:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/04(月)00:36:54 ID:etm

ティンカーベル「別の目的?隠さないで教えてよね!」

帽子屋「んふふ、いいわよぉ!かくすつもりなんか無いわよぉ、もう一つの目的はこのおとぎ話に伝わる宝物…『龍玉』よぉ!」

キモオタ「玉龍殿のこと…ですかな?」

玉龍「違うッスよ!『龍玉』ってのは龍がもつ宝玉の事ッス!ウチにとっちゃそうでもないッスけど…人間からしちゃあ至高のお宝扱いッス」

帽子屋「調べさせて貰ったけど、その龍玉はかぐやちゃんが持ってるのよねぇ?その魔法具…ぜひとも欲しいのよぉ!」

キモオタ「この村を襲ったのも、悟空殿やかぐや殿をおびき寄せて始末し龍玉を奪う為だったでござるか!」

帽子屋「そんなところねぇ。【アラジンと魔法のランプ】の結界を破るにはもう少し魔法具が居るのよねぇっ、だから龍玉が欲しいのよぉ!」

孫悟空「ありゃあかぐやにとっても大切なもんだ。例えそうでなくてもテメェのような輩には勿体ねぇ代物だ、渡すつもりはねぇぜ」

帽子屋「あら残念っ、でも手に入るまで私はしばらくこの辺りに滞在しようかしらねっ!必要なら他の村だって襲うわよぉ~?」クスクス

孫悟空「んなこと出来ると思ってんのかぁ?確かにテメェの実力は本物みてぇだが…俺はお前を逃すつもりはねぇぜ?」

帽子屋「ぶほほっ、悪いんだけどアタシも捕まるつもりはないのよねぇ…でもねぇ、私にも奥の手はあるのよぉ?」ゴソゴソ

ティンカーベル「奥の手…!まだほかにも魔法具とかあるって事!?」

スッ

帽子屋「そうよぉ、例えばこの魔法具とかねぇ~。さてこれなぁにかしら?ぶほほほっ!キモオタちゃんには簡単なクイズかしらぁ?」

キモオタ「そ、その魔法具は…マッチ売り殿の…!」

帽子屋「大当たりよぉ~。【マッチ売りの少女】の幻覚を見せるマッチ…もうあなたたちにもおなじみよねぇ?」ブホホ



505:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/04(月)00:40:10 ID:etm

帽子屋「精神に直接影響を与える幻覚…どんな魔法具を手にしたってこんなに使い勝手のいい魔法具は他にないわよぉ~」

キモオタ「お主等はまだそのマッチを…!やめるでござるよ!そのマッチはその様な事に使うものではないでござる!」

孫悟空「幻覚を見せるマッチだぁ…?そんなもんで俺を倒そうってぇのか?随分と舐められたもんだぜ」

帽子屋「あらぁ?アタシが悟空ちゃんの弱点…知らないとでも思ったのかしらぁ?」

玉龍「センパイの弱点って…そんなのあり得ないッス!だってもうお師匠様は…!」

帽子屋「んふふっ、このマッチの幻覚は視覚だけを騙すんじゃないの。精神に干渉するのよねぇ」

帽子屋「だから私達が知らなくても記憶の中にいる悟空ちゃんを叱るお師匠様の姿を映し出す事は可能なのよぉ?んふふっ、それが悟空ちゃん唯一にして最大の弱点だものねぇ~?」

孫悟空「……帽子屋、テメェ!」ギロッ

帽子屋「んふふっ、お師匠様…三蔵法師の唱える経にかかれば、手のつけられない暴れ猿のあなたでもたちまち大人しくなるのよね、頭にはめられた緊箍児の呪縛のせいでねっ!」

帽子屋「経を唱えるお師匠様の姿…たとえそれが幻覚でも悟空ちゃんにとっては耐え難い痛みを与えるわよぉ?」

ティンカーベル「魔法具を使って悟空の弱点を突くなんてずるい!見た目はキモオタと同じくらいキモイけどあんたはほんとにわるいやつだよね!」プンス

帽子屋「あらあらぁ、随分ねぇ?ティンクちゃん、言っておくけどアタシは知っているのは悟空ちゃんの弱点だけじゃない…あなたの弱点だって知ってるのよぉ?」

ティンカーベル「……。はっ、はぁ!?そんなの、弱点とかそんなの私にはないもんねっ!」

帽子屋「ぶほほっ、強がっちゃって可愛いわねぇティンクちゃん!それだったら…今ここで、試してみましょうかぁ?」ンフフ

ティンカーベル「……っ!や、やめて…!」ビクッ

キモオタ「ティンカーベル殿…?」

帽子屋「アタシはマッチを一本こするだけで悟空ちゃんを潰せるし、ほんの一言口を開くだけでティンクちゃんを消せる…んふふっ、弱点がはっきりしてる子達は大変ねぇ!」ブホホ



512:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/05(火)00:04:19 ID:Ert

帽子屋「私がその気になれば…今ここで二人とも始末する事が出来ちゃうのよぉ?ぶほほほっ!」

帽子屋「もうあまりあなた達だけに時間をかけるのもアレだし、そろそろケリをつけちゃってm」

孫悟空「オラァッ!ベラベラと手の内明かしてどういうつもりだテメェ!!」ビュオンッ

帽子屋「んもぉっ、まだ話してる途中だったのよぉ?さっきもそうだったけど、あんまりガツガツしちゃだm」ヒラッ

ドゴシャアッ!

孫悟空「何を企んでやがるテメェ…!本当に俺を始末するつもりならハナっからそのマッチを使やぁいいはずだ!……何か裏があるな!?」ビュオッ ゴシャッ!!

帽子屋「あら危ないっ!んふふっ、あからさまに腕狙って来たわねぇ?でもこのマッチはまだ私の手の中にあr…きゃあっ!」ズバーッ

玉龍「お師匠様の幻覚?そんなウチ等の事馬鹿にしたような真似、させないッスよ…?」ギロリ

帽子屋「あら…随分とスパイシーな瞳を向けるようになっちゃってぇ!大好きなセンパイのピンチでようやく本気って感じかしらぁ?」ダラダラ

孫悟空「おい!テメェ右腕持っていかれてんだろ!無茶するんじゃねぇ!」

玉龍「断るッス。ウチはまだ先輩と一緒にいたいんス、それにウチはまだ天竺への旅を諦めたわけじゃないんスよ?」

孫悟空「玉龍…!」

帽子屋「んふふっ、随分と悟空ちゃんに入れ込んでるじゃないのぉ。ワイルドなところは認めるけど、そこまでする価値がある男ぉ?んふふっ」

玉龍「愚問ッスね。センパイはいずれ天竺へたどり着いて、神様になる存在ッス。お前のような姑息な商人とはそもそもの格が違うんスよ」

帽子屋「あらあらぁ!神様とは大きく出たわねぇ玉龍ちゃん!今にも私に始末されちゃいそうなのにぃ?」

玉龍「ぐだぐだ言ってないでできるもんならやってみろッス。センパイが苦労してるのにいつまでも見てるだけのウチじゃ無いッスよ!」



513:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/05(火)00:06:27 ID:Ert

帽子屋「ならどうするのぉ?右腕は無いけど龍に変化しちゃぅ?やってみなさいな、きっとキモオタちゃん達まで潰しちゃうわよぉ?」

玉龍「本来の姿に戻れなくてもお前を食い止めるくらいできるッスよ。左腕と両足、尻尾だけ龍に戻せば十分ッスよ…中途半端な変化解除は体力使うッスけど、センパイの為ッス。グッと堪えるッスよ」ズズズッ

帽子屋「あらやぁだ、片腕だけならまだしもそこまで龍に戻っちゃうと…皮膚も鱗っぽさ丸出しだし、可愛い女の子なのに台無しよぉ?ぶほほっ、女の子は美肌よねぇやっぱり!」

玉龍「お前に女の子の可愛さなんか語って欲しくないッスね、おっさん」フフッ

帽子屋「言うわねぇ…!玉龍ちゃんにもそんな事言う資格は無いはずよぉ?」バッ

ピョンッ

玉龍「…センパイ、ここはウチに任せて逃げて欲しいッス。マッチの炎さえ見なければ幻覚にはかからない筈ッスから…せめてセンパイとキモオタ達だけでも逃げるッス」

孫悟空「…あぁ?」

玉龍「元々お師匠が逃がしてくれたおかげでウチの命は【西遊記】で散らずに済んだんス、センパイの為に使えるのなら…本望ッス!さぁ、行くッスよ!」

孫悟空「……うるせぇ」ゴンッ

帽子屋「!?」

玉龍「っ!?なんで殴るんスか!?そんな事より早く逃g」

孫悟空「何が『まだセンパイと居たい』だ。気色悪いわテメェ!冗談は格好だけにしとけ変態がァ!」



514:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/05(火)00:09:26 ID:Ert


玉龍「こんな時になんでそんなこと言うんスか!?ウチはセンパイを守護者として尊敬してて…」

孫悟空「何が尊敬してるだ、俺ぁんな立派なもんじゃねぇ!だがなぁ…もう仲間を見捨てるなんざ二度としねぇって決めたんだよ!絶対になぁ!」

玉龍「センパイ…!まだ【西遊記】でお師匠様達を置いて来てしまった事気にして…」

孫悟空「おい帽子屋ァ!ウチの連れがごちゃごちゃ言ってたが俺が相手してやらぁ!こいつを見捨てるわけにゃいかねぇんでなぁ!」ババッ

帽子屋「あらあらぁ、結局悟空ちゃんが向かってくるのねぇ!このマッチ奪えるものなら奪ってみなさいなっ!んふふっ!」

孫悟空「さぁて、そんじゃあさっさと片付けちまわねぇとな…弟弟子が尊敬してくれてるってのに、良いところの一つも見せらんねぇのはダセェからなぁ!」ババッ

玉龍「センパイ!そういう事ならせめて加勢はさせて欲しいッス!ウチとしてもセンパイに良いところ見せたいッスからね!」

孫悟空「へっ、下手に気張って!足ぃ引っ張るんじゃねぇぞ!」

帽子屋「んふふっ、美しい弟子同士の絆って奴かしらねっ!でもぉ…私の敵じゃないわよぉ!」

ビュオオォォッ!!  ガキィィンッ!!

ババッ ビュオッ 

キモオタ「悟空殿も玉龍殿も何と言う気迫…!しかしそれをものともしない帽子屋殿の動き…一筋縄でいきそうにないですな…!」

キモオタ「ここは我輩も加勢したいところでござる…しかし……」

ティンカーベル「……」ビクビク

キモオタ「ティンカーベル殿…何故そんなに怯えているのでござるか……?」



515:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/05(火)00:13:19 ID:Ert


ティンカーベル「……知ってた。あいつ、あいつら…知ってたよ……!」

キモオタ「知ってたとは……あの帽子屋殿が言っていたティンカーベル殿の弱点とやらの件でござるか…?」

ティンカーベル「…うん、【ピーターパン】の世界に来ていたならもしかしたらアリス達は知ってるかもって思ってたけど…」

ティンカーベル「でも、いままで何度も顔を合わせてきたのに、そんな素振り見せなかったから…知らないんだと思い込んでた……でも、あいつら知ってたんだ…!」ブルブル

キモオタ「落ち着くでござるよ、いつものお主は何処に言ったでござるかwwwティンカーベル殿の弱点をあの者達が知っていたとしても、それを防ぐ事は出来るでござろう?」

ティンカーベル「…無駄だよ。もう、私の命はあいつ等に握られちゃってる!ううん、きっとずっと知ってたんだ…私はあいつ等に生かされてるだけだったんだよ!」

キモオタ「命を握られてるとは大げさ…な訳ではなさそうですな、お主の様子を見ていると…」

ティンカーベル「……」

キモオタ「しかし無駄などと言わずに、その弱点とやらの事話して欲しいでござる。何か力になれるかもしれませんぞ、我輩」

ティンカーベル「……前にさ【ラプンツェル】の世界で話したこと覚えてる?」

キモオタ「【ラプンツェル】の世界で話した事と言うと、確か…」

ティンカーベル「私達【ピーターパン】の妖精がどうやって生まれるか…ラプンツェルと三人でお話してるとき、教えたよね?」



516:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/05(火)00:17:07 ID:Ert

キモオタ「そうでしたな、我輩もちろん覚えておりますぞ!」

キモオタ「ティンカーベル殿達【ピーターパン】の妖精は、人間の赤ちゃんが生まれて初めて笑った時に、その笑顔から生まれるのでしたな?」

ティンカーベル「うん、そうだよ。良く覚えてたね、何でもない会話だったのに」

キモオタ「印象に残っておりましたからなwwwしかし何度聞いてもファンタジーですなぁwww」コポォ

ティンカーベル「そうかも、私は赤ちゃんの穢れの無い無垢な心から生まれるの。だからちっちゃな子供には私の事が見えるんだ、まだ信じる心を持ってくれてるからね」

キモオタ「しかし大人はほとんど妖精の姿を見る事が出来ないのでしたな…我輩はレアケースというわけでござるな」

ティンカーベル「うん、どんな子供も成長していつかは大人になるからね。その間にいろんな事を知るんだよ、イジメとかズルとかウソとか、あとはニコニコしてる人が本当は悪い人かもしれないとか…」

ティンカーベル「現実世界だったらあれだよ、仮面ライダーの中には普通のおじさんが入ってるとか、サンタクロースは本当は居ないとか…そういう現実を知って、ちょっとずつ無垢な心は失われていっちゃう」

ティンカーベル「そうするとね、子供のころは見えた私達妖精の事も居ないって思いこんじゃうんだ。ライダーやサンタが作り話だってのと同じで妖精の事も作り話って思っちゃう。そしたらもう、わたしの事は見えない」

キモオタ「しかし、それはあくまで普段ティンカーベル殿の事が見えるか見えないかの話であって、それがティンカーベル殿の弱点となんの関連が…」

ティンカーベル「妖精は無垢な心と一緒に生まれるんだよ?だったら…無垢な心が完全に死んじゃったら、どうなるかわかる?」

キモオタ「……っ!?いやいやいや、ちょっと今変なこと想像してしまいましたぞwwwいくらなんでもwwwそれはwww」

ティンカーベル「……妖精はね、人間が無垢な心を完全に失った時。存在を否定されると姿を維持できなくなっちゃうの」



ティンカーベル「『妖精なんかいない!』…って口にするだけで、そのたった一言だけで私は消えちゃうんだ」



517:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/05(火)00:19:35 ID:Ert

キモオタ「なんという…!そんな話、いままでに一度も…!」

ティンカーベル「あっ、違うよ!?キモオタを信じてなかったとかじゃなくて…私もあまり人にいいたい事じゃないから、黙ってたの。ごめんね」

キモオタ「そんな事は気にする事では無いですぞ!しかし言ってくだされば…!もしうっかり我輩がその…口に出してしまうかも知れなかったでござるのに!」

ティンカーベル「いやいや、それはないって信じてたからね。キモオタが私の存在を否定したりしないでしょ?」

キモオタ「まぁ、それは…そうでござるけど…」

ティンカーベル「だから、それを知ってる帽子屋もアリスも…私をいつでも殺せたはずなんだよ、でもそれをしなかっただけ」

キモオタ「普段近くにいすぎる故に忘れがちでござるが、ティンカーベル殿も魔力を持った存在。その為アリス殿も手を出さないとかかもしれませんな…」

ティンカーベル「そうかもしれないね。でも、どっちにしてもさ…私はもう、こうして喋ってる間にも殺されちゃうかもしれないって事だよ…」

キモオタ「ティンカーベル殿…何と言っていいか、我輩何でもしますぞ!言ってくだされ!」

ティンカーベル「……。もーっ、ごめんごめん!暗くしちゃったら駄目だよね!もう落ち込んでもどうにもならないし!」

ティンカーベル「こうなったらさ!私をここまで生かした事を後悔させてやるくらいの気持ちで行こう!うんうん!そーしよそーしよ!」ヘラヘラ

キモオタ「ぶぉっふぉwww確かにそうですなwww目にもの見せてやりますぞwww」コポォ

タッタッタッタッ

ティンカーベル「あっ、ドロシーとかぐや来たよ!まだ帽子屋倒せてないんだから、私達だけサボってちゃ怒られる!急げー!」ピューッ

キモオタ「……ティンカーベル殿」



518:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/05(火)00:20:48 ID:Ert

ティンカーベル「かぐやっ!ドロシー!こっちだよ!はやくはやく!」

ドロシー「あっ、よかった…!ティンクちゃんとキモオタさんは無事みたいです、かぐやさん!」

かぐや「そうね、二人の実力は話にしか聞いていなかったから少し不安だったけれど、無事なら一安心ね」

キモオタ「我々は無事でござるが…。いや、それよりも竹取の翁殿は大丈夫でござるか?」

かぐや「ええ、お爺様は屋敷まで送り届けたわ。戻ると言ったら引きとめられてしまってね…心苦しいけれど、振り払って来たの」

キモオタ「翁殿としてはかぐや殿を危険な場に送りだすなどありえんでござろうしな…」

かぐや「それよりも…キモオタ君、今の状況を説明してくれる?悟空と玉龍が戦っている相手は…?」

キモオタ「【不思議の国のアリス】の帽子屋のようでござる。腕をもぐ魔法薬に大息を吐きだす魔法薬、死神の鎌やなにやら傷を癒す魔法具か魔法…さらには幻覚を見せるマッチまで…」

ティンカーベル「帽子屋の奴がね、そのマッチで悟空にお師匠様の幻覚を見せて動けなくしようとしてんの!」

かぐや「…その幻覚を見せるマッチで、経を唱える三蔵様を映し出すつもりね。悟空はまだ旅の途中、緊箍児をはめられたままだもの」

ドロシー「幻覚を見せるマッチ……!」ビクッ

かぐや「ドロシー?マッチがどうかしたの?」

ドロシー「そのマッチは…私が【マッチ売りの少女】でマッチ売りちゃんを騙して手に入れていた魔法具で…その…それをアリスちゃんが帽子屋さんに…!」

かぐや「あなたがその魔法具を調達していた、と言うわけね?」

ドロシー「はい…だから、いま悟空さんや玉龍ちゃんが帽子屋さんと戦っているのはわたしの責任で…!あの、そのっ…!」オドオド



519:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/05(火)00:22:37 ID:Ert

ドロシー「えっと、帽子屋さんはアリスちゃんの世界の中でも一番強くて…魔法具の管理をしていたんです、だからマッチや他の魔法具も持ってて、それで…あと、えっと…!」

キモオタ「ちょwww戦いを目の当たりにして焦る気持ちはわかるでござるがドロシー殿www落ち着いてあの者について話してくだされ、何か帽子屋殿打倒の手掛かりになるやも知れませんぞwww」

ドロシー「あの…きっと期待に添えられるような情報は…無いです。ただ、私はその、物凄く…帽子屋さんの事苦手で…」

ドロシー「帽子屋さんは…答えの無いなぞなぞだしてきたり、飲みきってないのにお茶を注いで来たり…その、ちょっと、ちょっとおかしな人で…あと…」

ティンカーベル「なにそれ…見た目以上にキチガイだね…あっ、でもマッドハッターって呼び名もあるんだっけ…そう考えれば当然なのかも」

キモオタ「むむむ…とにかく、ドロシー殿は今、戦う事が出来ないのでござるよね?我々は悟空殿に加勢する故、かぐや殿はドロシー殿を…」

ガキーンッ! ババッ スタッ

帽子屋「…あらぁ!?そこにいるのってもしかして、ううん、もしかしなくてもぉ…かぐやちゃんとドロシーちゃんじゃないのぉ?」ンフフ

ドロシー「ひっ、あ、あの…こんにちは……」ビクッ

帽子屋「んふふっ、以前の凶悪ドロシーちゃんとは随分違う対応ねぇ?前みたいに開口一番『くたばれキチガイオカマ』とか言わないの?ぶほほっ」

ドロシー「すいませんすいません!違うんです、あれは私が言ったんじゃなくて…あっ、私が言ったには違いないんですけど、私じゃない私で…あのっ…!」

かぐや「落ち着きなさいドロシー。彼は全てを知っているはずよ、その上で貴方をおちょくっているのよ。相手にしないの」

ドロシー「あっ…はい、すいません…」

帽子屋「あなたの事も待っていたのよぉ!それにかぐやちゃんもねぇ!」ブホホ



520:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/05(火)00:24:57 ID:Ert

孫悟空「だからよぉ…テメェは俺達を舐めてんのかぁ!?戦闘中に余所見だのありえねぇんだよぉ!ぜぇいっ!」

ビュバッ!

玉龍「ウチの友達に手ぇ出したら八つ裂きッスよぉ!」ズバ

帽子屋「んふふっ、二人とも口ばっかりじゃないのぉ~。私はこの通りピンピンしてるわよぉ!」

玉龍「ぐぬぬ…!折角、ウチが斬りつけてもセンパイが叩きつけてもすぐに立ちあがってくるッス!」

孫悟空「あの野郎…妙な植物を口にしながら戦ってやがる、おそらくあれが傷をいやす魔法具だ…クソッ!キリがねぇ!」

帽子屋「んふふっ、落ち込まなくていいわよぉ?あなた達は良くやったわよ、マッチを擦る間も無いほどの連撃は効いたわぁ~。でもアタシのが一枚上手だったわねぇ?」

かぐや「二人とも、遅れてごめんなさいね。思ったよりも、あの帽子屋という男は強いようね。悟空が易々と倒せないんですもの」

孫悟空「んな事直球で言うんじゃねぇよ。俺だって結構な衝撃なんだぜ?押される事はねぇがのらりくらりと避けちゃあ回復なんざ小賢しい…!」

かぐや「いいわ、二人とも少し休んでてちょうだい」

スッ

かぐや「…私が彼の相手をするから」スッ

帽子屋「あらぁ!光栄ねぇ、かぐやちゃんは月の民の能力が使えるんですものね!どんなものなのか見ておきたいわぁ~」

かぐや「うふふっ、あなたが思ってるほど美しいものじゃないと思うわよ?」スッ

玉龍「待つッス!待つッス!かぐやは月の民の能力はなるべく使わないように暮らしたいって言ってたッスよ!?」

孫悟空「玉龍の言うとおりだぜ、テメェはその月の民の能力で戦う事を避けてきた。いまここでその禁を自ら破る必要なんぞねぇだろ」



521:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/05(火)00:30:31 ID:Ert

かぐや「悟空と玉龍ちゃんが束になっても倒す事が出来ないのなら、もう私が月の民の力を使うしかないわ」スッ

孫悟空「そう言われちまったら立場がねぇな…悪ぃ」

かぐや「ごめんなさいね、そんなつもりで言ったんじゃないの。二人のおかげでお爺様は逃げる事が出来たのだし、それに…この村を襲った事は許せないのは私も同じなのよ」

帽子屋「んふふっ、あんな立派な屋敷に住んでるくらいなんだからこんな村の連中なんてどうでもいいんじゃないのぉ?かぐやちゃんって優しいのねぇ~」ンフフッ

かぐや「自分のおとぎ話の世界に住む人たちの幸せを願う事がそんなに特別とは思えないけどね、優しくなんか無いわよ私は」

帽子屋「そうねぇ、優しいっていうよりも甘いって感じかしらぁ?ねぇ、ドロシーちゃん?」

ドロシー「えっ、あのっ…なんで私…」ビクッ

帽子屋「かぐやちゃんの優しさ、あなたは良く知ってるでしょぉ?だって、普通は助けたりしないわよぉ?あんたみたいな悪人をねぇ?」

ドロシー「…うぅっ」

ティンカーベル「そんないい方無いでしょ!私も赤ずきんもドロシーのやってきた事はもう責めない事にしたんだよ!だってドロシーは操られてただけだもんね!」

キモオタ「そうですぞwwwドロシー殿は操られてつられていただけでござる!故にこれからは我々の味方として共にアリス殿打倒を目指すのでござる!」

帽子屋「あぁらあらあら、すっかりキモオタちゃん側ね。アリスちゃんがあなたの事を切り捨てたとはいえ…そうも容易く裏切るとはねぇ~」

ドロシー「う、裏切りだなんて…!私は、ただ今までやってきた事の償いを…償いたくて!」

帽子屋「償い?ぶほほほっ、笑わせないで欲しいわねぇ~!かぐやちゃんやティンクちゃん、赤ずきんちゃん達が優しく許してくれたからってあなた勘違いしてなぁい?」

帽子屋「あなたがどれだけ償おうと、優しく接してくれる人が居ようと、善行を積み上げようと真実は変わらないのよぉ!あなたはもう善人にはなれない」

帽子屋「誰がどう思おうがあなたはおとぎ話の世界を消滅していった、悪人なのよぉ?それは今後も決して変わる事の無い事よぉ?」

帽子屋「他人の幸せを奪ったドロシーちゃんが、優しい人たちに囲まれて幸せに暮らすなんて望んじゃ駄目よぉ?無理な話なんだからねぇ~」ンフフ

帽子屋「一度罪を犯した物は死ぬまで犯罪者、そんな奴に普通の生活なんか訪れないわよぉ?んふふっ」



535:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/10(日)00:24:05 ID:l2l

ドロシー「そ、そうかもしれませんけど……でも……!私は……」

帽子屋「調べさせて貰ったわよぉ?あなた、今はかぐやちゃんの身の回りの手伝いをしながら暮らしてるんですってねぇ?」

ドロシー「そんなこと…どうして知って……」

帽子屋「んふふっ、ナイショよ。それよりもドロシーちゃん、あなたこの世界の人たちに随分良くして貰ってるそうじゃなぁい?かぐやちゃんや悟空ちゃんの人望のおかげかしらねぇ」

帽子屋「村の人たちやかぐやちゃん家のお爺ちゃんお婆ちゃんに女中の人たちも…余所者のあなたに親切にしてくれてるみたいじゃない?」

ドロシー「…そうです。最初は村の人に異国人だって理由で追われたりもしましたけど、今はその誤解も解けて…ううん、かぐやさん達がその誤解を解いてくれて…」

帽子屋「優しい人たちに囲まれて、それなりに幸せに暮らしてるのねぇ。でも納得よぉ、素のドロシーちゃんはオドオドしてて小動物みたいで可愛らしいし護ってあげたくなっちゃうものぉ~」

帽子屋「あなたが悪人だって知らなきゃ見た目に騙されちゃうのも仕方ないわねぇ。こぉんな可愛い娘が数え切れないほどの世界や人々を消しちゃったなんて思わないものねぇ」クスクス

ドロシー「わ、私は騙してるわけじゃないです…た、確かに私の罪の事は言ってませんけど…でも、それは……!」

帽子屋「どうして言わないのかしらぁ?言っちゃったら絶対に嫌われてしまうからぁ?」

ドロシー「……」

帽子屋「んふふっ、もうドロシーちゃんも解ってるんじゃなぁ~い!罪人だって知れたらどうなるかなんて、考えるまでも無いものねぇ」

帽子屋「でもダメよぉ。自分にとって都合が悪いからって、罪を隠し続けるなんて…誠実じゃないわよぉ?」



536:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/10(日)00:27:46 ID:l2l


ドロシー「自分に都合の良いようにするなんて、そんなつもりは…ないです…。私が罪の無い人たちを苦しめたのは事実だから……でも、だからこそ、私は……償いをしたいんです、だから…」

帽子屋「そんなことしてどうなるのぉ?償いなんて所詮は自己満足よぉ?」

帽子屋「ティンクちゃんや赤ずきんちゃんが許してくれたら消した世界は元に戻るのぉ?アリスちゃんを倒せば殺した人たちは蘇るのかしらぁ?…ぶほほっ、今更あなたが何をしても元通りになんかならないわよぉ?」

ドロシー「……で、でも」ジワッ

帽子屋「良い事教えてあげるわドロシーちゃん、世間はねぇティンクちゃんや赤ずきんちゃんみたいに甘くないの。あなたの罪を誰も許してくれない、何処に行こうとドロシーちゃんは誰かに恨まれ続けるのよぉ!んほh」

孫悟空「黙って聞いてりゃ…ガキを追いつめて泣かせるたぁ随分と良い趣味してんなぁ!あぁっ!?」ビュバッ

ガキィィンッ!!

帽子屋「んふふっ、私はドロシーちゃんとお話してるのよぉ悟空ちゃん?邪魔しないで欲しいわぁ~」

孫悟空「なぁにが『お話』だぁ!?こんなもん一方的な攻撃じゃねぇか!おいドロシー!こいつの言う事なんざ気にする必要ねぇぞ!」

ドロシー「……うぅ、ひっく……は、はい…」ボロボロ

帽子屋「あらあらぁ、そうやってドロシーちゃんを甘やかして。現実から目を背けさせてなんになるのぉ?この子の為にならないわよぉ?んほほっ」

孫悟空「テメェがやってる事はこいつの為になるってぇのか?どうも不可解だな…テメェの目的は俺とかぐやを始末する事のはずだ。どうしてドロシーを追いつめる必要があんだ?あぁ?」

帽子屋「ドロシーちゃんはアタシ達にとっては裏切り者だからよ~?他に意味なんて無いわぁ、ぶほほっ」



537:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/10(日)00:31:46 ID:l2l

ティンカーベル「裏切り者って…!ドロシーがおとぎ話を消してたのはアリスに利用されてたからでしょ!悪いのはあんたたちじゃん!」

玉龍「そうッスよ!自分達の事を棚に上げてドロシーだけ責めるのは卑怯ッス!」

帽子屋「んふふっ、好きに言いなさぁい。アタシは痛くもかゆくもないわよぉ?んふふっ」バッ

孫悟空「あの野郎…!のらりくらりと……!」

キモオタ「しかしあれですなぁ、帽子屋殿は随分とドロシー殿を責めるのでござるな?」

帽子屋「まぁねぇ、あらなぁに?あんたも悟空ちゃんみたいに不可解だとか言うつもりぃ?んふふっ」

キモオタ「いやwww別にwwwそんな事はないでござるけどwwwただ…」

キモオタ「おとぎ話を消したドロシー殿を悪人だと蔑むのならばwwwアリス殿も悪人と言う事になりますぞwwwそこに問題はないのでござるか?www」コポォ

帽子屋「んふふっ、アリスちゃんを悪人扱いすればアタシが逆上するとでも思ったかしらぁ?」クスクス

キモオタ「いやwwwそんなに簡単ではないでござろうwwwただの純粋な疑問でござるwww」

帽子屋「んふふっ、確かに今のアリスちゃんは罪人ね。でもそんなの、彼女の願いの前では些細なことなのよぉ」

帽子屋「アリスちゃんの願いはもうすぐ成就するの。くだらない現実世界も、馬鹿馬鹿しいおとぎ話の世界も全て消滅するのよぉ」

キモオタ「現実世界の消滅…それはアリス殿本人も言っておりましたな」

帽子屋「ルイスちゃんとアリスちゃんが望む世界。【不思議の国のアリス】だけを残して不要な世界は全て消え去る…そうすれば、アリスちゃんがどんな罪を犯したとしてもそれを責める人なんていないわよぉ~」



538:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/10(日)00:33:42 ID:l2l

キモオタ「お主に教えていただきたい、アリス殿は何故現実世界を消そうとするのでござるか…?」

キモオタ「【不思議の国のアリス】はおとぎ話離れの激しい現実世界でも圧倒的に高い知名度を持っているでござる、忘れ去られておとぎ話の世界が消滅するというシステムに乗っ取るならば、決して消える事の無い安全圏のはず」

キモオタ「自分の世界が危険にさらされてアリス殿が腹を立てるなら納得でござるが、そんな心配も無いというのに…アリス殿は何故、現実世界の消滅など…」

帽子屋「そうねぇ、知っているけれど…アタシがキモオタちゃんに話したところで、アリスちゃんの気持ちは一ミリも理解出来ないでしょうね」

帽子屋「ただ、現実世界の連中は…アリスちゃんからとても大切なものを奪ったわ」

キモオタ「とても大切なもの…?それは一体…?」

帽子屋「だぁめ。アタシが勝手に話しちゃうのもおかしな話だもの、アリスちゃんに直接聞きなさいな。まぁ、ただ…」

帽子屋「キモオタちゃんは現実世界の人間。だったら良く知ってるんじゃなぁい?」

キモオタ「知っているとは、何をでござるか?」

帽子屋「現実世界がどれだけ残酷で救いの無いクソみたいな世界かって事をねぇ」

キモオタ「クソってwwwまた随分な言いようでござるな。しかし、否定が出来ないというのがまた…困りましたなwww」

ティンカーベル「否定しなきゃ!あんな奴に現実世界を馬鹿にされたままでいいの!?現実世界素敵じゃん!ほら…あれだよ、なんかあるでしょ!」

キモオタ「説得力がwwwでも実際クソな部分が目立っているのも事実でござるしなwww」

帽子屋「ぶほほっ、キモオタちゃんは正直ねぇ!」



539:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/10(日)00:37:39 ID:l2l


帽子屋「まぁ、なんだって構わないけれどねぇ。アタシの目的は悟空ちゃんとかぐやちゃんを始末すること、それとかぐやちゃんの持つ龍玉を手に入れること…んふっ」

帽子屋「ねぇねぇ、かぐやちゃん?さっきから黙ってるけどアタシの話聞いてるぅ?」

かぐや「…ええ、聞いてるわよ」

帽子屋「それはよかったわぁ、アタシ無視されてるのかと思っちゃったわよ~!」

かぐや「それは余計な心配をかけちゃったわね。安心していいわ、あなたを無視するつもりなんか無いから」

帽子屋「あらそぉ?でも意外だわぁ、アタシ調べによるとかぐやちゃんは随分ドロシーちゃんを可愛がってるみたいだから、アタシがドロシーちゃんを攻めれば一番に庇うと思ったのにねぇ、んふふっ!」

かぐや「…ドロシー、少し厳しい事を言うわよ。覚悟なさい」

ドロシー「……はい」

かぐや「帽子屋君、あなたはさっき散々ドロシーを責めたわね。世間は罪を簡単には許してくれないとか、恨まれ続けるとか…あげくには泣かせまでしてね」

帽子屋「そうねぇ、でも現実や世間はドロシーちゃんが思っているよりもずっとずっと厳しい。それは事実よねぇ?かぐやちゃんもそう思うでしょぉ?」

かぐや「……ええ、まぁそうね。償って容易く罪が消えるほど甘くはないわね」

キモオタ「ちょwww肯定wwwしたwww」コポォ

ティンカーベル「もぉ!かぐやもキモオタも何なの!?あのキモいオカマの言う事に同意したりしちゃダメでしょ!」

ドロシー「かぐやさん…?」ポロポロ



540:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/10(日)00:40:12 ID:l2l

かぐや「泣かないでドロシー。確かに帽子屋の言う事は少し過剰すぎる、だけど正論な部分だってあるわ」

ドロシー「……」ヒックヒック

かぐや「罪を償いたいというあなたの気持ち、私は立派だと思う。それを応援する事に私はなにも惜しまないわ。でもね…この先、あなたが罪を償っていく中で出会う人たちは味方ばかりじゃないの」

かぐや「中にはあなたの罪を許せず糾弾する者、噂に流されて面白がってあなたを責める者もいるかもしれないわ。彼の言うように」

帽子屋「んほほっ!かぐやちゃんはなかなかわかってるじゃなぁい!そうよねぇ、甘やかすだけじゃ駄目よねぇ~?」

ドロシー「……うぅ、ひっく……じゃあ、私はもう…どうすればいいのか……わかんないです、かぐやさん……」グスングスン

かぐや「でもねドロシー、あなたはこの先辛い思いや苦しい思いをするかもしれないけれど…それを含めての償いよ。それは耐えなきゃ駄目、わかるわね?」

ドロシー「……はい、わかります」

かぐや「そう、良い子ね。でも安心しなさい、あなたを苦しめる人だけじゃないわ。ドロシーに協力してくれる人はきっと大勢居る、あなたの友達もそうだし、私もそうよ?」

かぐや「帽子屋はティンクちゃんや赤ずきんちゃんの事を甘いなんて言ったけれど、私はそうは思わないわ。少なくとも彼女達はあなたを理解してくれた、あなたの味方よ」

ドロシー「……はい。なんだか、ちょっぴり、安心しました……」

ティンカーベル「ねぇねぇキモオタ。かぐやはいきなり何言いだすかと思ったけど…大丈夫だったね」ヒソヒソ

キモオタ「まぁ確かに帽子屋殿の言葉は一理ありましたからな、それを伝えつつ励ますとは流石の一言ですなwww」ヒソヒソ



541:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/10(日)00:43:21 ID:l2l

帽子屋「あらあらぁ…なんなのぉ?かぐやちゃんはキチンとドロシーちゃんに厳しくできると思ったら結局甘やかすのねぇ?」

かぐや「あなたにはお礼を言わないとね、帽子屋君?」

帽子屋「あらぁ?アタシなにかしたぁ?」

かぐや「あなたが厳しい言葉をドロシーに吐いたおかげで、彼女も少し現実を知ることができたでしょう。言い過ぎだったとは思うけど、彼女の成長にはつながったわ」

かぐや「この先どうしても彼女は厳しい現実を目の当たりにする…いつかは自分の事を攻め立てる者と出会うことになる。その予行練習にはなったでしょう」

ドロシー「かぐやさん、そこまで考えて……」

帽子屋「んふふっ、やっぱりアタシがドロシーちゃんを責めてるのに口出ししなかったのはワザとだったってわけねぇ?まんまとやられたわぁ」

かぐや「ええ、そうよ。もしかして、利用されたみたいで頭に来てる…そんな感じかしら?」

帽子屋「んふふっ、別に気にしてないわよぉ?その程度で腹を立てるほど心が狭いわけでも無いものねぇ?」

かぐや「そう、よかったわ。けれどね、とても心の狭い私は違うわ……今、とても頭に来ているのよ」

帽子屋「あらぁ?どうしてぇ?アタシには感謝してるんでしょぉ?」クスクス

かぐや「ええ。だけどね…私は案外自分勝手な女なのよ、それに割り切る事が苦手なの。例えあなたの暴言がドロシーの経験につながったとしても…」



かぐや「あなたがドロシーを泣かせた事は、大目に見る事が出来ないわ」フワッ



542:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/10(日)00:46:45 ID:l2l


帽子屋「んふふっ、どうやら月の民の能力を見る事が出来そうね…願ったりかなったりだわぁ~!」

かぐや「見るだけで満足なの?そんな事言わず、身体で感じなさい。最後まで着いてこれるか疑問だけれどね」フフッ

フワフワ

ドロシー「か、かぐやさん…!?どうして宙に浮いて…!?」

かぐや「忘れたの?私はこの星の人間じゃない、月に済む人間…月の民なの。それより……悟空、ドロシーをお願い」

孫悟空「ああ、解った。だが…すまねぇ、オメェはこの能力使いたくねぇはずなのになぁ…」

かぐや「気にしないで。大切な友人の為に使うのなら、命を護る為、尊厳を護る為に使うのなら何の抵抗も無いもの」

帽子屋「んふふっ!なぁにおしゃべりしてるのかしらぁ!?折角かぐやちゃんの能力を見る事が出来るんだから、外野は邪魔しないで欲しいわねぇ!」

ジャキッ

帽子屋「ぶほほっ!アタシ自慢の鎌で、スライスかぐやちゃんにしてあげるわぁ!!」

ティンカーベル「帽子屋の奴…また大鎌構えて…!かぐやが危ないよ!なんの武器も持ってないのに…!」

キモオタ「かぐや殿!危ないですぞぉぉぉ!!」



543:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/10(日)00:50:39 ID:l2l

玉龍「心配いらないッスよ二人とも。それより、絶対にかぐやに近づいちゃダメッスよ?」

ティンカーベル「本当に大丈夫!?素手で大鎌相手にするなんて…絶対無理でしょ!」

キモオタ「我々はかぐや殿月の民の能力を知らないでござるから不安しかないのでござるが……」

ドロシー「私も…その能力の事はあまり教わってないから……」

孫悟空「まぁ、見てな」

帽子屋「んふふっ、随分余裕そうじゃない!?そろそろ避けないとまずいわよぉ?」ヒュッ

かぐや「……」スッ

帽子屋「あらあらぁ?手なんか差し出してどういうつもりかしr……!?」グググッ

キモオタ「なんですと!?帽子屋殿の身体が見えない力によって押さえつけられているような…!」

ドゴシャアアァ

帽子屋「ごはっ…!なん、なの…!?このアタシが地面にたたきつけられるなんて…!」

かぐや「あら、まだ意識を失ってないなんて驚いたわね。そんなに加減してなかったつもりだけど…でもそういう事なら」スッ

グググッ メキメキメキ

帽子屋「ぬぐあぁっ…!なんなの…抗えないほどの巨大な力で地面に押し付けられて……!これが月の民の能力なのぉ!?」メキメキメキ



544:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/10(日)00:53:41 ID:l2l

かぐや「本当はこんな盗賊のような事をするのは嫌だけど、あなたはとても強いから…その力をさらに高める魔法具は取り上げさせてもらうわね」スッ

フワッ フワフワ

ティンカーベル「あっ!あの重そうな大鎌がひとりでに宙に浮いたよ!?」

ドロシー「それと…一緒に宙に浮いてるあれは、薬草…かな?」

玉龍「あいつの傷がたちどころに回復していたのはあの薬草のせいッスね…!それを取り上げるとはナイスかぐやッス!」

帽子屋「あ、アタシの身体は地面にめり込んだまま自由が利かないのに…魔法具だけ浮かせるなんて……!」

かぐや「悟空、悪いけれどこの大鎌と薬草…お願いできる?」スィーッ

孫悟空「おう、任せときな」パシッ

帽子屋「私の自由を奪ったうえ、魔法具まで取り上げるなんてかぐやちゃんの事舐めてたわねぇ…!あんた、やっぱりただ者じゃないわ、こんな事が出来るなんてねぇ!」ググググ

かぐや「この星の人たちにとって、私は宇宙人だからこれくらいはね。それにこの能力が使えなきゃ、余所の惑星に降り立つなんてできないわ…危険だもの」クスクス

キモオタ「もしかかぐや殿…月の民の能力とは…重力操作でござるか!?」

かぐや「だけ、ではないけれど…これも月の民の能力の一つよ、キモオタ君」クスクス



553:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/12(火)00:17:43 ID:ClV

帽子屋「んふふぅ…まいったわねぇ…まったく想定外よぉこれは……」ギギギッ

かぐや「悟空と玉龍にしかこの能力は見せた事がなかったのだけど。これであなた達にひとつ情報を与える事になってしまったかもね」フフッ

ティンカーベル「すごい!悟空と玉龍が二人がかりでも止められなかった帽子屋をあんなに簡単に動けなくしちゃうなんて!」

キモオタ「加えて大鎌と魔法具まで取り上げるとは…もしかすると月の民は戦闘民族なのかもしれませんなwwwスーパーカグヤ人www」コポォ

ティンカーベル「でも本当にそんくらいの強さだよねぇ…ぶっちゃけ悟空の『おとぎ話最強』ってなんなんだろうね。名前負けだよね」プークスクス

玉龍「それは聞き捨てならないッスね!悟空センパイは間違いなく最強ッスよ!」フーッ!

ティンカーベル「えーっ…でもかぐやの方が強いし…ねぇ?キモオタ?」

キモオタ「ちょwww我輩を巻き込まないでいただきたいwww」

孫悟空「やめろ玉龍、んなこたぁどうでもいいじゃねぇか。帽子屋を止められたんだからよぉ」

玉龍「よくないッス!いいッスか?そりゃかぐやの月の民の能力は規格外ッスけど、戦えるだけの筋力とか無いッスからね!?不老不死だとか高い身体能力とか物凄い腕力とかその上妖術使える事とか総合的に考えればセンパイの圧勝ッス!」

玉龍「それにあの帽子屋は強いスけど、たくさんの魔法具で強化してようやくあのレベルッス!悟空センパイが持ってる如意棒も確かに魔法具ッスけど、あんなのただの伸びる棒ッスからね?その辺り考えるとセンパイは圧倒的n」

孫悟空「やめろっつってんだろがみっともねぇ!つぅかただの伸びる棒じゃねぇよ!テメェは俺を持ちあげたいのか落としてぇのかどっちだ!」

玉龍「持ち上げてなんか無いッスよ!だってセンパイが一番強いのは事実ッスから!それなのにティンクが…!」

ティンカーベル「わ、わかったよ…悟空が一番で良いから…」ヒキヒキ



554:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/12(火)00:19:53 ID:ClV

玉龍「解ってくれたみたいッスね!センパイ!これでセンパイの面目は保たれたッスよ!」スリスリ

孫悟空「んなこたぁどうでもいいが…おい、帽子屋」

帽子屋「あらぁ…何か用かしら悟空ちゃん?アタシ今、呼吸をするのすらしんどいんだけどぉ…?」ググググ

孫悟空「かぐやの重力操作でテメェには普段の何倍もの重力がのしかかってんだ。そりゃあキツイだろうよ」

帽子屋「なんだか自分の手柄のように言うのねぇ?悟空ちゃんはアタシを倒す事が出来なかったくせに良く言うわよぉ~、女の子のかぐやちゃんの方が強いなんて悟空ちゃん情けなぁい」クスクス

孫悟空「否定しねぇよ、最強だのなんだの持て囃されちゃいるがまだまだ鍛錬の必要ありって事だ。少なくともテメェのような実力者が居る限りなぁ」

帽子屋「んふふっ、褒めてくれてるのよね?例え嫌味でも嬉しいわぁ」ンフフ

孫悟空「嫌味なんかじゃねぇさ、テメェの実力は認めざるを得ねぇ。だから俺としちゃあテメェにトドメを刺して起きてぇ所だが……」

ティンカーベル「えっ!?ちょ、ちょっと待ってなにその言い方!トドメ刺さないの!?」

キモオタ「息の根を止める必要はないでござるが捕えるべきではござらんか?」

ドロシー「命を奪うのは私も反対です…でも、帽子屋さんは放っておくにはその、危険すぎます…」

帽子屋「んふふっ、悟空ちゃん大ブーイングじゃないのぉ。そりゃそうよねぇ、折角捕まえたアタシをみすみす逃がすつもりぃ?」

孫悟空「それを決めるのはかぐやだ。テメェを捕えたのはかぐやだからな、俺には決定権なんかねぇよ。おい、かぐやどうすんだ?」

かぐや「そうね、私は……」スッ



555:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/12(火)00:23:02 ID:ClV

かぐや「みんなは納得できないかもしれない。けれど私は彼を解放するわ」

ティンカーベル「なんで!?村まで壊されて玉龍は怪我だってしたのになんで…!」

キモオタ「ティンカーベル殿、かぐや殿にも考えがあってのこと。ここは見守るでござるよ」

かぐや「…どうかしら帽子屋君、あなたに掛かっている重力は元に戻っているはずよ」

帽子屋「ええ、確かにもう自由に動けるわねぇ……でも驚いたわぁ、本当に私を逃がすつもりぃ?」ムクッ

かぐや「そのつもりよ。まだ相手をして欲しいって言うなら応じるけど、普段の倍以上の重力を浴びたあなたは見た目以上に消耗しているはず…それでもいいのならね」

帽子屋「やめておくわぁ。あなたがこんな事をする意図は解らないけど、大鎌も死神の薬草も奪われてしまったし…今日の所は大人しく引くとしましょ」

かぐや「そうね、その判断はとても懸命だと思うわ」

帽子屋「だけどねぇ、かぐやちゃん?アタシは見逃して貰ったなんて思わないわよぉ?これに恩を感じてあなた達に下るなんて期待しないでよぉ?」

帽子屋「アタシはアリスちゃん以外の下には絶対につかないわ。彼女を護る事がアタシの使命だもの、ルイスちゃんが与えてくれた使命よぉ」

かぐや「そう。安心して、恩を売るつもりはないわ。だけど村を壊したことや玉龍やドロシーを傷付けた事は反省してちょうだい」

帽子屋「んふふっ、かぐやちゃんこそよくよく反省することねぇ…戦いにおいて敵を逃がす事がどれだけ愚かなことなのか、しっかりとねぇ」クスクス

かぐや「あなたとは…また会う事になると思うけれど、村を襲うなんてまどろっこしい事しないで次は直接私を襲いなさい」

かぐや「私の能力は重力を操るだけじゃない。村を襲うなんて事に戦力を裂いて、それで勝てる相手じゃないって解ったでしょう?」

帽子屋「んほほっ、確かに今は勝てないわねぇ。でも次はキチンと対策をして来るから、次会うのが楽しみねぇ~?」ブホホッ

スッ



557:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/12(火)00:26:10 ID:ClV

玉龍「消えたッス…!世界移動の手段も隠し持っていたみたいッスね、一人でこの世界に来ていたって事ッスか…」

ドロシー「ほ、本当に別の世界にいどうしたのかな?もしかしたら、姿だけ消してまだ近くに潜んでいるとかかもしれないです…」

孫悟空「そりゃあねぇだろ、最後までヘラヘラしてやがったからそうは見えねぇかもしれねぇけど、相当ダメージを受けてるはずだぜ」

孫悟空「余裕そうに構えちゃいたが、ありゃあもう戦える状態じゃねぇよ。頼みの綱の回復の魔法具もこっちにあるしな」

キモオタ「玉龍殿の右腕もその魔法具があればなんとかなるのではござらんか?試してみる価値ありですぞwww」

玉龍「元に戻るならそれに越した事はないッスけど…でも正体のよくわからない魔法具を使うのは躊躇するッスねぇ…」

キモオタ「確かにwwwならば我輩の友人におとぎ話に詳しい者がいるでござるからその者に聞いてみるというのはwww」

かぐや「それは名案ね、治せるのなら早く腕を治した方がいいわね。村の復興には人手がたくさん必要になるだろうから」

孫悟空「そうだな、とにかくこんなところで立ち話してても始まらねぇ。俺と玉龍が住処にしてる小屋が近ぇ、話はそこでするとしようぜ」

玉龍「それがいいッスね!かぐやん家みたいにごちそうはないッスけど、柿くらいなら出せるッス!」

キモオタ「ほうwww我輩はもっぱら肉派でござるが、たまに食べるとフルーツも上手いでござるからなwww早速向かうでござるよwww」

スタスタ

かぐや「ふふっ、キモオタ君、随分とお腹が空いているのかしら?…ほら、ティンクちゃんも行きましょう」

ティンカーベル「…うん、わかった」



558:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/12(火)00:29:08 ID:ClV


かぐや姫の世界 悟空達の小屋

・・・

キモオタ「柿うまいでござるwww柿うまいでござるwww」バクバクムシャムシャ

ドロシー「キモオタさん、物凄く食べるんですね…あっ、たくさん食べるのは良い事ですよね」アワアワ

キモオタ「頑張って戦った後は甘いものが食べたくなるというものwwwドロシー殿も遠慮せずにいただくでござるよwww」

ドロシー「あっ、はい、いただきます…」カプッ

ティンカーベル「私もキモオタも、結局何にもしてないようなもんだったけどね」モグモグ

キモオタ「ちょwwwそれはそれwww何もしなくても腹は減るのでござるwww結局夕飯食べ損ねましたしな我々www」

玉龍「じーさん達はキモオタ達の為にごちそう用意してたみたいッスけど、屋敷のみんなも逃げて行ったッスからねー。もうごちそうは諦めて柿を食うッスよ」スッ

ドロシー「あっ…そういえば翁さんや村のみんなは避難したままなんでしたね、帽子屋さん居なくなったって伝えなくてもいいんですか?」

かぐや「伝えた方がいいのは確かだけど、伝えたところですぐに村に帰れる状態ではないから…。復興となれば悟空も忙しくなってこうして落ち着いて話す時間を取ることも難しくなりそうだから」

孫悟空「今回、帽子屋が村を襲った件で話しておくべき事は多いしな。この世界がおとぎ話だって知らねぇ奴等になんて説明するかも考えなきゃなんねぇし」

孫悟空「それに巻き込まれただけのキモオタ達をいつまでも引き留めるわけにもいかねぇしな。まぁ、大事な事だけ話したら俺と玉龍で避難先に行ってくるぜ」

キモオタ「我々の事なら気になさらずともよいというのにwwwしかしそういう事ならば早いところ柿を平らげて本題に入りますかなwww」



559:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/12(火)00:31:53 ID:ClV

孫悟空「あー、その前にだな…玉龍。テメェに言っておくことがある」

玉龍「何ッスかセンパイ?もしかして、今回頑張ったご褒美ッスか!?ご褒美ッスか!?褒めてくれるんスか?」ワクワク

孫悟空「なんで褒めて貰う気マンマンなんだテメェは。だがジジィが死なずに済んだのは村に急いでくれたお前のおかげだ。よくやった、偉いぜ玉龍」ガシガシ

玉龍「いやぁー、その後は結果残せなかったッスけどね…でもしっかり頑張ったッスよ玉龍ちゃんは」テレテレ

孫悟空「それと、あれだ…テメェの右腕がそうなっちまったのは俺の到着が遅れたからだ、すまん」

玉龍「もー何言ってんスかセンパイ!これはウチが帽子屋を甘く見た結果ッス!先輩は悪くないッスよ!」

孫悟空「未知の敵相手にお前一人行かせたのは軽率だった。帽子屋から奪った薬草で治りゃ良いが、駄目だとしても俺は必ずお前の右腕を戻してやる、だから許してくれ」

玉龍「ウチは別に気にしてないッスけどセンパイがそう言うならお願いするッス!それじゃあもしも、右腕が元に戻らないなんて事があれば責任とってセンパイの嫁にして貰うッスよー!約束ッス!」

孫悟空「いや、流石にそれはねぇ。気色わりぃ」

玉龍「なんなんスかそれ!?口だけッスか!?口だけ大聖ッスか!?」ギャーギャー

孫悟空「斉天大聖みたいに呼ぶんじゃねぇ。あとはかぐやにも詫びなきゃならねぇな、悪かったな…あの能力を使わせる事になっちまって」

かぐや「いいのよ、気にしないで。むしろ私はあなた達に礼をしなきゃね、傷付いてまで帽子屋君を相手に戦ってくれたこと感謝してる」

キモオタ「いやーwwwこういう関係はいいですなぁwww親しい仲だからこそキチンと謝罪して感謝すべきは感謝する、大切なことですぞwwwティンカーベル殿www」チラッ

ティンカーベル「なんで私に言うの!?それじゃ私はキチンとできてないみたいじゃん!」バンバン

キモオタ「そういうわけではwwwただもう少し我輩への暴言を抑えて優しくしてくれてm…ちょ痛い痛いwww叩かないでいただきたいwww」



560:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/12(火)00:33:42 ID:ClV

ドロシー「うふふっ、キモオタさんとティンクちゃんは仲がすごく良くて羨ましい…」

キモオタ「そんなことないのでござるよwww我輩は家主なのに蔑ろにされがちでござるし、最近特に口が悪くて困ってますぞwww気も短いからすぐに腹を立てるでござるしwww」

ティンカーベル「そんなの言いがかりだよ!私は気が短くなんか無いもん!いい加減な事言ってると怒るからね!」プンス

キモオタ「言ったそばからお主はwww」コポォ

ティンカーベル「もぉー私達の事なんかどうでもいいんだよ!それより私が聞きたいのはなんでかぐやは帽子屋を逃がしちゃったの?って事だよ!」

ドロシー「あっ、それは私も気になってました…かぐやさんのことだからきっと考えがあってだと思うけれど…」

ティンカーベル「でしょ?折角捕まえたのにあんな危険な奴を逃がすなんて…どうせまたすぐに悪さするよ!納得が行かないよ!危なすぎるもん!」

かぐや「確かに、ティンクちゃんが言うようにまた悪さをすると思うわ。私や悟空を始末できてないもの、きっと襲いに来るわね」

ティンカーベル「襲いに来るって解ってるのになんで逃がすの?まさか罪を償って反省してくれるかもしれないなんて思って帽子屋を逃がしたんじゃないよね?だとしたら甘過ぎるよ!」

かぐや「…正直なところ、そういう気持ちは少なからずあるわね。私がそうであるように例えどんな悪さをしても人はやり直せる…あれだけ暴れて悪さした帽子屋君だって罪を償えばまたやり直せると私は思ってるわ」

ティンカーベル「むむぅ…その考えは立派だけど……でも!」

かぐや「大丈夫よティンクちゃん、帽子屋君を逃がした理由はそれだけじゃないから」

キモオタ「別に理由があると?我輩、帽子屋殿を逃がしたのはてっきりかぐや殿の優しさかとwww」

かぐや「ふふっ、流石におとぎ話の危機だというのにそんな勝手はできないわよ。考えてみてくれる?ここで私達が帽子屋君を捕らえたらどうなるかしら?」



561:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/12(火)00:35:29 ID:ClV


キモオタ「むむっ、そうですなぁ…我々が帽子屋殿を捕えて監禁するでござる…そうすれば帽子屋殿が戻ってこないとアリス殿側は騒ぎになるでござる、それで…」

ティンカーベル「あんなに強い帽子屋を見捨てるなんて思えないから…アリスが取り返しに来るんじゃない?」

かぐや「今のアリスちゃんはドロシーの魔法の靴を履いているし、強さの方向性は帽子屋君とは違うと思うけれどそれでも…私達は苦戦を強いられるはず」

かぐや「それに帽子屋君を捕えたりすればアリスちゃんから標的にされるわ。私や悟空はともかく、キモオタ君達やドロシーまで標的にされてしまう」

キモオタ「我輩やティンカーベル殿は既に標的にされてる感ありますがなwwwしかし、ドロシー殿は違いますなwww今の所彼女の標的ではないでござるwww」

ドロシー「で、でも私はアリスちゃんに用済みだと言ってこの世界に飛ばされたんですよ?きっと私の事も始末するつもりなんです…」

ティンカーベル「そーかな?だったらすぐに殺すと思うよ?なんていうか、その、きっと…別に居ても居なくても一緒だと思ったから別の世界に飛ばしたんだと思うし…」

ドロシー「うぅ…居ても居なくても一緒……」ズーン

ティンカーベル「ち、違うよ!そういう意味じゃなくて…!キモオタァ!私の代わりに説明してよぉ!」クルッ

キモオタ「要するにwwwアリス殿はドロシー殿を敵に回しても脅威ではないと判断したわけでござるな。だからそこ殺さずに敢えて別の世界に一人で飛ばすことでドロシー殿に苦労させようと思ったのではwww
身よりの無い少女が人並みに暮らすのが難しいのは何処でも同じでござろうし…ひとつの嫌がらせですなwww」

ティンカーベル「そういうこと!」フンス

キモオタ「しかし、大切な仲間である帽子屋殿に手を出したとなれば話は別でござる。かぐや殿はドロシー殿を可愛がっているでござるし、見せしめに命を奪う…などいかにもやりそうな感じでござろう?」

ドロシー「た、確かにそうです…!」

孫悟空「帽子屋の口ぶりじゃあ…アリスとは随分硬い絆があるようだったからな。大切な仲間が捕えられりゃ誰だって本気で相手を憎むし、全力で奪還に向かうだろうよ」



562:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/12(火)00:39:50 ID:ClV


かぐや「それに彼を逃がしたところで、他のおとぎ話に危険が及ぶ事はないでしょう。彼は目的を達成していないから、準備が整えばまたこの世界に来るはず」

かぐや「私の能力について知られてしまったし、またこの辺りの村を襲うかもしれないけど…でも、それは私や悟空や玉龍でも防ぐ事は出来る」

かぐや「別の世界に行っているあなた達や現実世界の事まで護りきる事は出来ないから…だから今回は彼を逃したの」

キモオタ「なるほど、どっちに転んでも自体が好転しないなら被害を抑えられそうな方を…ということですなwww」

ドロシー「で、でもそれじゃ私達は良くてもかぐやさん達が…」

かぐや「大丈夫よ、彼らも対策をして来るでしょうけど私達だって迎え撃つ準備は出来る。条件は対等よ」フフッ

孫悟空「あぁ、今度は準備を整えてあいつ等を歓迎してやらねぇとなぁ!」

玉龍「ウチもやられっぱなしじゃ嫌ッスからね!そうと決まればキモオタ!さっき話していた友人とやらにあの薬草の事聞いて欲しいッス!」

キモオタ「わかりましたぞwww」

ティンカーベル「えっと、あの大鎌と薬草…確か帽子屋言ってたよね『死神の鎌』だって、あと『死神の薬草』とも言ってた!」

キモオタ「恐らく、別のおとぎ話から奪って来た魔法具でござるから、それらが登場するおとぎ話がないかどうか聞けば、その正体がわかるやもしれませんぞwww」

ティンカーベル「それじゃ、やっぱり司書さんに聞く感じ?」

キモオタ「そうですぞwwwそれに司書殿にはもうひとつ聞いておきたい事があるのでござるよ、とにかくおはなしウォッチで話し掛けてみるでござるwww」コポォ



563:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/12(火)00:43:40 ID:ClV

・・・

司書の声「…その鎌と薬草はグリム童話のひとつ、【死神の名付け親】の魔法具ですね」

司書の声「そのおとぎ話の中では鎌に特別な力はありませんけど、薬草の方は死の至るような病ですら癒す効果があります。このおとぎ話の主人公はその薬草を使って名医になるんですけど…とにかく傷を癒す魔法具だと思ってもらえばいいです」

キモオタ「流石司書殿wwwやはりお主に連絡してよかったでござるwww」

司書の声「いえいえそんな…死神が持っている傷を癒す薬草と言えばこのおとぎ話ですから。現実世界では既に消滅しているおとぎ話ですから間違いないと思いますよ」

玉龍「それで、この魔法具を使えばもがれた腕も治るんスかね?」

司書の声「どうでしょうか…でもその帽子屋さんが【こぶとり爺さん】の鬼の能力で腕をもいだとなると、もがれた腕は生きているはずですから傷を癒すという行為に当たるかどうか…」

玉龍「なるほどッス…なんだか期待はできそうにないッスね。まぁ、戻らなかったら戻らなかったでセンパイの嫁にして貰うッスから問題ないスけど」

孫悟空「しねぇよ、妙なところで食い下がんじゃねぇ」

司書の声「ふふっ…でもその魔法具は病でも傷でも癒す事は出来ますから有用なものではありますよ」

キモオタ「なるほどwww玉龍殿の腕を治せなさそうなのは残念でござるが、便利なものを手に入れた事には違いないでござるなwww」

孫悟空「キモオタの魔法具もすげぇがこの女もすげぇな…僅かな情報からどのおとぎ話の魔法具なのか検討をつけるたぁただ者じゃねぇ」ヒソヒソ

かぐや「【キジも鳴かずば】のお千代ちゃんと言っていたけれど…彼女ほどの辛い思いをした娘が現実世界で夢をかなえる為に頑張ってるなんて、偉いわね」



564:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/12(火)00:45:40 ID:ClV

ティンカーベル「いやー、凄く助かっちゃったよ!ありがとうね司書さん!」

司書の声「いえいえ、お礼を言わないといけないのはこっちの方です。聞きました、ヘンゼルの為に色々としてくれたんですよね?」

キモオタ「我々がした事などたかが知れているでござるwwwヘンゼル殿が向かった【裸の王様】の世界は治安もいいでござるし、なにより裸王殿が立派で親切な方故、ご安心をwww」

司書の声「ふふっ、キモオタさんがヘンゼルの為に勧めてくれた行き先ですから危険なはずはないと…私は信じていましたけどね。だから心配してません」フフッ

キモオタ「おおっとwwwこれは司書殿にフラグ立ちましたかなwww」コポォ

司書の声「? えっと、他に何かありますか?キモオタさん?」

キモオタ「ちょっと待っていただきたいwwwもうひとつ聞きたい事があるのでござるwww」

ドロシー「えっと、聞きたい事って…なんなんですか?キモオタさん?」

キモオタ「帽子屋殿、会話の中にアリス殿の為…と何度か口に出しておりましたが、その度にとある名前を出していたでござろう?」

玉龍「言っていたッスね!アリスを護るのは自分の使命だと、そしてそれを与えたのがえっと…ルイスだったッスか?」

ティンカーベル「ルイス…ルイス…?どっかで聞いたような見たような気がするけど…」

キモオタ「我輩も聞き覚えがあるのでござるが曖昧でしてなwwwしかし、司書殿に聞けば何者なのかはっきりするでござるよwww」

キモオタ「司書殿。帽子屋殿がしきりに『ルイス』という名前を口にしていたでござる。アリス殿を護るのはルイス殿から与えられた使命だとも言っていたようで…」

キモオタ「その者…『ルイス』とは何者なのか、解りますかな?」



565:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/12(火)00:48:16 ID:ClV

司書の声「ルイス…帽子屋さんがその名を口にしたんですね?」

キモオタ「そうでござる。【不思議の国のアリス】にその様な登場人物が居たとは記憶していないでござるし…別のおとぎ話の登場人物ですかな?」

司書の声「……」

キモオタ「司書殿?流石の司書殿でも見当がつかないですかな?」

司書の声「いいえ、アリスさんに関係する人物でルイスという名なら間違いなくそれは……ルイス・キャロルのことですね」

キモオタ「ルイス・キャロル…一体、何者ですかな?」

司書の声「1800年代のイギリスに住んでいた男性で……【不思議の国のアリス】の作者です」

キモオタ「なんですと…アリス殿のおとぎ話の作者…!通りでなんか聞いたことあると思ったのでござるよ!」

ティンカーベル「作者…だから帽子屋は言ってたんだね、アリスを護る事がルイス…作者から与えられた使命だって。作者に生み出された存在だからそう考えれば使命かも…」

司書の声「でも、それは少し不思議ですね。【不思議の国のアリス】で確かにアリスさんは様々なトラブルに巻き込まれ、大変な目にもあいますけど…」

司書の声「おとぎ話の中での帽子屋さんはアリスさんの味方ではありません。と言っても敵と言うわけでもないですけど」

キモオタ「確かにそうでござったな、と言うか基本あの物語に敵も味方も無いでござるしな」

司書の声「作者が登場人物に与えた役割を使命と言うのなら、ルイス・キャロスが帽子屋さんに与えた使命は狂ったお茶会でアリスさんを小馬鹿にすることと裁判で証言をする事…」

司書の声「作中でアリスさんを護るなんて事は一切しません。帽子屋さんがアリスさんを護る事が使命だというのなら…」



司書の声「それは【不思議の国のアリス】のストーリーの中では無いどこかで……帽子屋さんがルイス・キャロルから与えられた使命。という事になりますね」



578:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/16(土)00:27:02 ID:ADc

キモオタ「むむっ…しかし妙ですぞ。【不思議の国のアリス】の作者ルイス・キャロル殿が帽子屋殿にアリス殿を護るよう命じたというのが事実として…」

キモオタ「ルイス殿は一体何からアリス殿を護ろうとしたのでござろうか?」

玉龍「そりゃ…おとぎ話に出てくる悪い奴からアリスを護ってくれっていう意味じゃないッスか?」

孫悟空「考えてもみろ、作者は【不思議の国のアリス】を生み出した張本人だぞ?物語の中に敵を作るも味方を作るも作者の自由だ、当然アリスに降りかかる危機だって自分で取り除けるだろ?」

ティンカーベル「それじゃあさ、【不思議の国のアリス】が消滅しないようにして欲しいってお願いかな?」

かぐや「それなら『アリスを護るのが使命』じゃなく『【不思議の国のアリス】を護るのが使命』になるんじゃないかしら?」

ティンカーベル「そっか、確かにそうだね。だったらうーん…わかんないよ、作者のルイスは何からアリスを護りたかったんだろう?」

司書の声「うーん、そこまでは私にもちょっと見当がつかないですね…」

ドロシー「あ、あの…ちょっといいですか?その、ルイスさんの事なんですけど…」

キモオタ「おぉ、これはうっかりしてましたな…!ドロシー殿はアリス殿と共に行動をしていたのでござった、何か知っているでござるな!?」

ドロシー「あの…そんな期待して貰うような事でも無いんですけど、私が【不思議の国のアリス】の世界に居た時のことなんですけど…」

ドロシー「えっと、その作者さんの名前を口にしていたのは帽子屋さんだけじゃないんです。あの世界のほとんどの人たちがそのルイスさんの事を知っていて、会話の中にもよくその名前が出て来てました」

ティンカーベル「えっ!?じゃあ【不思議の国のアリス】の登場人物のほとんどが作者の存在や名前まで知ってるって事!?」

ドロシー「はっ、はい。帽子屋さんも白ウサギさんもハートの女王様も三月ウサギさんも…事あるごとにルイスさんの名前を出してました。でも、あの世界で一番ルイスさんの名前を口にしていたのはきっと…アリスちゃんです」



579:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/16(土)00:30:08 ID:ADc

キモオタ「多くの登場人物が作者の存在を認知しているなど…そのようなおとぎ話、今までに一度も見た事がありませんぞ!?」

ティンカーベル「だよね…おとぎ話とは言っても事情を知らない人たちにとっては現実なわけだし」

司書の声「そうですね、でも私はアリスさん達が作者の存在とその名前をどういう経緯で知る事になったのかが気になります」

司書の声「雪の女王様やヘンゼルは自分のおとぎ話を生み出した作者について知っていましたけど、それは現実世界に渡ったりそこから手に入れた文献で知ったからですからね、初めから知っていたわけではないでしょうし…」

かぐや「初めから知っていたわけではないとしたら、ルイスが【不思議の国のアリス】の世界へ渡ったか…あるいはアリスが現実世界に渡ってそこで知ったか、そうなるわね」

キモオタ「そう考えるのが自然でござる。しかし…以前、現実世界で会ったアリス殿はこう言っていたでござる…『こんな世界に来たくなかった』と」

玉龍「それじゃあアリスが現実世界に来たのはその時が初めてって感じッスかね?酷い世界だって聞いていたから『こんな世界に来たくなかった』って事ッスよね?」

孫悟空「そうとも限らねぇぞ?以前現実世界で酷い目にあったからもう二度と『こんな世界には来たくなかった』って事かもしれねぇ。その言葉だけで判断するのは難しいだろうな」

キモオタ「でも少なくともアリス殿はルイス殿と面識があったと考えてもいいと思うでござるよ、見ず知らずの他人や文献のみで得た情報ならばそこまでルイス殿にこだわるとも思えんでござるし」

ドロシー「あの、私にもそこまでは解らないです、ルイスさんの事を詳しく聞いた事はなかったですから…でもルイスさんの名前を口にする時のアリスちゃんはなんだか嬉しそうで愛おしげで…そしてどこか決意に満ちている感じがしてました」

ドロシー「きっとアリスちゃんにとってすごく特別な人なんだなって思いました…だからアリスちゃんの願いと言うか目的って、ルイスさんが関係しているんじゃないかって私は思うんです」

キモオタ「ドロシー殿の話を聞いた感じだと、おそらくそうでござろうな…その経緯や理由は全く分からんでござるけど」

ティンカーベル「でもさぁ…何があったのか知らないけどさ、作者ってそんなに特別なものなのかな?」

ティンカーベル「【ピーターパン】にも作者は居るんだろうけど…なんだか私はピンとこないよ。ウェンディと空を飛んだりフックと戦ったりするお話だし、きっとドキドキワクワクが好きな人なんだろうなぁ…くらいの感想しかないもん」



580:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/16(土)00:32:01 ID:ADc

玉龍「まぁ…ぶっちゃけそんなもんッスよね。よく知らないあった事も無い奴を慕う理由があるわけないッスから…あっ!でもウチを女の子にしなかったのは失敗だったって伝えてやりt」

孫悟空「まぁ今だから言うが、俺は作者の事を恨んでた時期もあるぜ?師匠から俺の住んでた世界がおとぎ話だって聞かされてしばらくの間な」

玉龍「えぇっ!?そうなんスか!?よく暴れなかったッスね?その時はまだ今よりもずっとガラ悪かったッスのに…」

孫悟空「うるせぇよ、もう昔の話だ。納得がいかなかったんだな、何百年も封印されたり緊箍児なんてもんを頭に巻かれたり人使いの荒い師匠に付き合ったりさせられてな、そして思ったもんだ」

孫悟空「【西遊記】を生み出した作者の野郎が俺に試練を与えたせいで苦労する羽目になっちまってんじゃねぇかふざけんな!ってな」

司書の声「事情は違いますけど、自分の…というよりグレーテルの恵まれない境遇への憤りを作者に向けたヘンゼルと少し似てますね…彼もまた作者を憎悪していましたから」

孫悟空「あぁ、あいつもそんな事言ってたっけなぁ…でもまぁ、文句言ってもどうにもならねぇ。師匠と共に天竺への旅を続けて行くうちにそんなことはどうでもよくなっちまった」

孫悟空「作者が決めたもんだろうとなんだろうと、俺の運命には違いねぇんだ。他人に文句言う間があるんなら少しでも強くなった方が良いって思ったしな」

かぐや「なんだか悟空らしい考え方ね」フフッ

孫悟空「まあなんだ、話がそれちまったが…要は俺達おとぎ話の住人にとっちゃ余程特別な事情でも無い限り作者を好く理由なんかねぇって事だ」

キモオタ「そしてアリス殿は世界を敵に回すほどの騒動を起こしてでも叶えたい願いがある…それがルイス殿関連だとすれば二人の間にはただならぬ絆があるという事でござるな」

ティンカーベル「うーん、やっぱわかんないなぁ…いくら仲の良いキモオタやピーターパンの為だとしても、私そこまでしないと思うよ?っていうか他の世界を消してでも手に入れたい事なんてある?」

キモオタ「逆に言えばアリス殿にとってその目的は世界を破壊してでも叶えたいもの…という事でござる、どっちにしろ皆目見当つきませんがな」

司書の声「うーん…アリスさんとルイス・キャロスの関係が鍵なんでしょうか?【不思議の国のアリス】はその成り立ちも特殊ですから、そのあたりも関係しているのかもしれませんね…」



582:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/16(土)00:34:45 ID:ADc

玉龍「成り立ちが特殊?それってどういう事ッスか?」

司書の声「えーっとですね、どう説明しましょう…まず前提として【不思議の国のアリス】はルイス・キャロルによる創作童話です、ここはいいですか?」

ティンカーベル「うんうん、ずっと昔から伝えられてるおとぎ話じゃなくて作者がちゃんと存在しててその人が生み出したおとぎ話って事だよね?」

司書の声「そうですね【雪の女王】や【マッチ売りの少女】…ドロシーさんの【オズの魔法使い】もこの創作童話に分類されます」

司書の声「創作童話は基本的に童話作家が読み手を意識して作る作品です。生み出された経緯やそこにどんな思いが込められているかという話は別として、創作童話に共通する部分がひとつあります」

司書の声「それは大勢の読み手を想定しているという事です。自分の作品を世に出して、たくさんの人に読んで貰うことを前提としている…プロの作家さんの作品だから当然と言えばそうなんですけど」

キモオタ「作家ならば世に評価される物語を生み出してなんぼでござるからなwww」

司書の声「でも【不思議の国のアリス】は例外なんです。このおとぎ話は不特定多数の読者の為じゃなく、元を辿ればただ一人の少女の為に作られたおはなしだったんです」

ティンカーベル「へぇー、たったひとりの女の子の為に作られただなんてなんだか贅沢な話だね」

司書の声「きっかけはなんてことないものだったようですけどね、ルイス・キャロルにはとても親しくしている少女がいたんですが、彼女にせがまれて即興で作った物語が元になってると聞いています」

司書の声「ある時、彼は手作りの本を一冊、その少女に送りました。内容は少女にせがまれて作った即興の物語をまとめたおはなし…後の【不思議の国のアリス】です」

キモオタ「なるほど…初めはあくまで個人的な贈り物だったというわけでござるか」

司書の声「そうですね。でもそのおはなしはあまりによく出来ていて、やがて正式に出版される事になりました。あとはキモオタさんも知っているように世界で愛されるおとぎ話になったというわけです」

キモオタ「現実世界ではおとぎ話離れが進んでいるというのにその人気たるや凄まじいですからな。アリス殿、どんなソシャゲにも大体出てくるでござるしな…ディズニー映画のグッズとか本屋で見るでござるし…我々としては複雑でござるが、人気である事に違いはあるまいwww」



583:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/16(土)00:36:16 ID:ADc

司書の声「そうですね…【不思議の国のアリス】はうちの図書館でも人気高いです、他の作家へ与えた影響も大きいと聞いていますから」

ピルルルルッ

司書の声「…あっ、ごめんなさいキモオタさん。仕事の電話が掛かってきてしまって…こんな時間に何なのかな…」

キモオタ「おおwww長々と時間を取らせてしまい申し訳ありませんでしたなwwwおかげで色々と知ることができて助かったでござるwww」コポォ

司書の声「いえ、私には戦う力がありませんからこういった手助けしかできませんけど。必要ならばいつだってお手伝いしますから、遠慮無く言って下さいね。それでは、また」

キモオタ「わかりましたぞwwwそれではまたwww」

ピッ

孫悟空「しっかしテメェの仲間は大したもんだな、おとぎ話の内容どころかどうやって出来たとかそんなことまで知ってるなんてな」

かぐや「私達おとぎ話の住人も別のおとぎ話を知識として知っている事はあっても、成り立ちや作者の事は現実世界でないと知りようがないものね」

キモオタ「お千代殿こと司書殿は現実世界とおとぎ話の世界、両方の視点から物語を見る事のできる特殊な立場でござるからなwww知識面ではシェヘラザード殿と並んで頼れるインテリタイプの仲間なのでござるww」ドヤァ

ティンカーベル「でもアリスは変わってるって思ってたけどさ、まさかおとぎ話までちょっと特別な感じだったなんてね」

キモオタ「アリス殿のおかれた状況や気持ちが理解出来れば、彼女の行動の意図にもたどり着けると思ったでござるけど…確かに情報は増えたでござるが、その反面謎も増えてしまった感ありますなぁ」

ドロシー「ルイスさんの存在やアリスちゃんのおとぎ話の成立はわかったんですけど…でも、アリスちゃんの真意はやっぱりわかんないですね…」

ティンカーベル「うん、それにアリスにとって作者がどれだけ大切なのかわかんないけどさ、あいつがやってる事はやっぱり理解出来ないよ…」

かぐや「でも、理解出来ない事やわからない事だけじゃないわ。私達にはわかっている事もある、そうよね?」



584:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/16(土)00:39:25 ID:ADc

孫悟空「ああ、帽子屋がこの世界に来た目的…だな?」

玉龍「帽子屋は自分で語っていたッスからね!あいつの目的のひとつは悟空センパイとかぐやを始末することッス!」

キモオタ「悟空殿もかぐや殿も方向性は違うでござるけど戦闘においてスペック高いでござるからなwww」コポォ

ティンカーベル「格闘メチャクチャ強い悟空と重力操作できるかぐやが一緒にいるとかもうチートだよ!早めに倒しておきたいってのもわかるもん」

玉龍「その上可愛い玉龍ちゃんもいるッスからね。それでそしてもう一つの目的は…それはかぐやが持つ龍玉だったッスよね?」

孫悟空「ああ、そう帽子屋が言ってやがったな。んなこと知ってるって事ぁ俺達の事どこかで覗き見てたんだ、気色悪ぃ奴だぜ」

ドロシー「うぅ…嫌ですねそれ…。でも龍玉って確か…【かぐや姫】のおとぎ話にも出てくるとても貴重な宝物ですよね?」

ティンカーベル「あれでしょ?かぐやが求婚してきた男の人に持って来いっ!って無茶振りした五種類の宝物のひとつ!」

かぐや「そうね、でも未来の私はきっと無理難題を言って諦めて貰おうとしただけよ?それを無茶振りだなんて人聞きが悪いわ」ウフフ

キモオタ「いや、おとぎ話史上稀に見る無茶振りでござるよwwwしかし、あれは求婚者をそれとなく断る為のお題故、本来手に入る事の無いレアアイテムでござろう?その様なものをどうやって…」

玉龍「フッフッフ…ウチのあまりの可愛さに忘れちゃったッスか!?龍玉は龍の持つ宝玉ッス!ここに一匹頼れる龍がいる事を忘れては困るッスよ!」ドヤァ

ティンカーベル「そっか!龍の宝物なんだもん、玉龍になら簡単に手に入れる事ができるよねっ!」

玉龍「そうッスね!ちょっと雲の上を数日間飛んで百何匹かの龍に声をかけてようやく龍玉を生成できる龍を見つけてお願いしただけッスからね!」

キモオタ「ちょwww難易度クッソ高いwwwそんなもん要求された求婚者が可哀そうですなwww」コポォ

かぐや「ふふっ、もう求婚者の事は良いわよ。これがその龍玉よ」スッ

ピカピカ

キモオタ「おおwwwこれはふつくしいwwwしっかしボーリング玉みたいなの想像しておりましたがピンポン玉サイズでござるなwww」

ティンカーベル「帽子屋はこれを狙ってるわけかぁ…手に入れるのが難しいレアな宝物だしね。それで、この魔法具は何ができるの?」



585:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/16(土)00:41:59 ID:ADc

かぐや「魔法具…?この龍玉が?」

ティンカーベル「うん!そうなんでしょ?特別な力が備わってるに決まってるよ、なんかこう…七つ集めたら龍が願いを叶えてくれるとか!」

キモオタ「つっwwwかっwwwもっwwwうっwwwぜっwwwドwwwラwwwゴwwwンwwwボwwwーwwwルwww」コポォ

かぐや「あなた達の世界には龍玉を集めるとそんな事が起きるって伝説でもあるの?そんな話は初めて聞いたけれど…どうなの?玉龍?」

玉龍「いや、これはただの綺麗な玉ッス。魔力は相当な量が込められてるッスけど、不思議な力なんて宿って無いッスよ?」

ティンカーベル「えぇーっ!?そうなの!?見かけ倒しじゃん!」

玉龍「なんてこと言うんスか!綺麗なだけでもいいじゃないッスか!何にでも不思議な力が宿ってると思ったら大間違いッスよ!」

ティンカーベル「そ、そうだけど!でもレアアイテムだっていうから期待しちゃうのも無理ないじゃん!」

孫悟空「まぁ気持ちは解らんでもねぇがな。おおかた龍玉を伝説でしか聞いた事の無い奴らもティンクと同じように考えたんだろうな」

かぐや「龍玉には願いを叶える力がある…なんて言い伝えもあるくらいだから」

キモオタ「なるほど…しかし、玉龍殿は何故そのような代物をかぐや殿に贈ったのでござるか?」

玉龍「まぁ日ごろのお礼って感じッスかね。かぐやって結構貴族から贈り物とか貰うんスよ、まぁご機嫌取りの贈り物がほとんどッスけど…」

玉龍「で、その贈り物の中に結構可愛い服とか装飾品とかあるんスよね!ウチ、変化したりとかで着物破く事もあるッスからよく譲って貰ってるンスよー、だからそのお礼ッス」

キモオタ「ちょwww思ったよりwww軽い理由でしたなwww」コポォ

玉龍「まぁ、お守り代わりッスよ。ウチら龍なら手に入れるのも難しくないッスからねー」

玉龍「それに願いが叶うっていうのは言い伝えッスけど。もしも本当に叶ったりしたら…素敵じゃないッスか!そういう期待もちょっぴりあるッス!」



586:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/16(土)00:46:36 ID:ADc

かぐや「世間ではこの龍玉は値が付けられないほどの宝物だけど、私にとっては友達から貰った大切なお護り。宝物って事に違いはないけれど、ね」

かぐや「でも帽子屋君達がこの龍玉を狙っているのは、これに含まれる魔力に目をつけたからでしょうね」

キモオタ「恐らくそうですな、アリス殿達は魔力を集めて【アラジンと魔法のランプ】の結界を破るつもりでござるからね。故に邪魔者の排除と魔力の強奪を目的としてるわけですな」

ドロシー「私がアリスちゃんの所にいた時も、他のおとぎ話を襲う理由は大抵同じでした…敵になりそうな相手を倒しておくこと、それと魔力や魔法具の確保…」

キモオタ「【不思議の国のアリス】が結末を迎えて帽子屋も動けるようになったから本気出すみたいに言ってたっけ、だから遂に強敵の悟空やかぐやの所に来たんだね!」

孫悟空「ああ、だが……俺達を倒すって目的も龍玉を奪うって目的も、俺にはどうも表向きの理由にしか見えねぇんだよな」

キモオタ「…というと?どういうことでござるかな?」

孫悟空「俺とかぐやが邪魔だってのは事実だろう、龍玉だって手に入れたいはずだ。だが、さっき帽子屋と戦っている時も感じたが…どうもひっかかる部分が多い」

玉龍「センパイも感じてたッスか。ウチも引っ掛かってる部分あるんスよね…例えば、そう、そもそも村を襲った事ッスね」

ティンカーベル「それはあれでしょ?村を襲えば悟空やかぐやをおびき寄せると思ったんでしょ?実際、二人とも村に駆け付けたわけだしさ」

孫悟空「おびき寄せるって発想がそもそも不自然なんだよティンク。いいか?帽子屋はアリスの邪魔になりそうな俺達を殺したいんだぞ?」

ティンカーベル「わかってるって、だから三人をおびき寄せてまとめて殺そうとしたんでしょ?」

キモオタ「…いや、殺そうとしているのなら尚更強敵を三人一度に相手するのはおかしいのでござるよ」

ドロシー「確かにそうです…!村を襲ったりすれば三人とも来ちゃう可能性が高いです…!」

かぐや「そうなってしまえば殺せる可能性は減るわね、帽子屋君は一人で来ていたみたいだし。だったら一人ずつ始末する方が確実ね」

ティンカーベル「…っ!それじゃあ本当は三人を殺すつもりはなかったって事!?」



587:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/16(土)00:48:56 ID:ADc

孫悟空「今の所は殺すつもりがない…ってとこだろうな」

玉龍「帽子屋は【こぶとり爺さん】の鬼の力を持っていたッス。それならウチら三人が別の場所にいる時を狙ってすれ違いざまに攻撃する方がずっと確実で簡単ッス」

キモオタ「それに気が付けないような者共ではござらんし、意図したものでござろうな…」

孫悟空「それにドロシーをやたら責めたててたが…あれもどうも引っかかる」

ドロシー「わ、私を責めてた事ですか…?」

孫悟空「ああそうだ。ドロシーを追いつめることであいつ等は何を得られるってんだ?」

ドロシー「わかんないですけど…私の事を虐めて楽しんでたとか…」

かぐや「あの時、あの場に到着したのはドロシーと私…どんな能力を持っているか解らない私を前にして、そんなことするかしら…?」

キモオタ「普通ならかぐや殿の方を警戒するでござるよね。戦う事が出来ないドロシー殿の方を構うというのは確かに不自然でござる」

ティンカーベル「…ねぇ、悟空はどう考えてる?帽子屋には何か別の目標があるって思う?」

孫悟空「そうだな…これは俺が今までの戦いで得た経験っつうか勘みてぇなもんだがな」

孫悟空「帽子屋は俺達の目を自分に向けようとしてるってところじゃねぇか?」

ティンカーベル「どゆこと?帽子屋は構ってちゃんだったって事?」

キモオタ「ちょwwwそういう意味ではないでござろうwww自分に注意をひきつけているってことでござるよね?悟空殿?」



588:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/16(土)00:52:00 ID:ADc

孫悟空「ああそうだな。村を襲う事も、ドロシーを責め立てる事も俺やかぐやの怒りを買うって点じゃ共通してっからな」

孫悟空「俺達の意識を帽子屋に向けている間に、別の場所でもっとでかい何かをしようとしている……ってとこだろうと俺は考えてるぜ」

キモオタ「他でおこなわれるもっと大きな計画から目をそむけさせる為に、帽子屋殿は敢えて自分にヘイトが集まるような行動をしたと」

ドロシー「村を襲う事も十分酷い事だと思うのに、もっと大きな計画があるなんて…」ビクビク

ティンカーベル「うーん…でもさぁ、それだったらなおさら悟空やかぐやを殺そうとしない?」

ドロシー「えっと、それってどういう意味ですか…?」

ティンカーベル「だからさ、他の場所でもっと大きな計画をしようとしてて悟空やかぐやに知られたくないっていうならもういっそのこと二人を殺した方が早くない?あいつらにとったらさ」

玉龍「あー、確かに殺してしまえば注意をひきつけるも何もないッスからねー」

ティンカーベル「でしょー?」

キモオタ「……殺せない、のだとしたらどうですかな?」

ティンカーベル「んー…でも帽子屋は間違いなく強敵だし、こっそり近づいて襲いかかられたら…」

キモオタ「そうではなく、この世界に用があるからかぐや殿を殺してこの世界が消えてしまうのは困る。とかではござらんか?例えばこの世界で何か探し物があるとか」

かぐや「良い線をいってる推理だと思う。私にはアリス側が何を探しているのか…大方察しがつくわ」

ティンカーベル「それって…もしかして、龍玉以外の宝物の事かな?龍玉に強い魔力が宿ってるなら他の宝物もきっと魔法具だったり強い魔力が宿ってたりするんじゃない!?」



589:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/16(土)00:54:03 ID:ADc

孫悟空「俺もキモオタと同じ考えだ。アリス側はこの世界にある魔法具・魔力の宿った道具を回収する為にあえてこのおとぎ話を消さずにいやがる」

孫悟空「その為に俺達の気を帽子屋が惹き、別の場所で他の奴が魔法具を探している…そんなところだろうな」

ティンカーベル「じゃあ玉龍や悟空が頑張って帽子屋と戦ってたのもかぐやが帽子屋を圧倒したのも全部意味無かったってこと!?」

キモオタ「意味がなかったわけではないでござろうwwwしかし、その裏では別の計画が動いていた可能性もある…ということですな」

ティンカーベル「んもぉー!なんかあいつ等の手の中で踊らされてる気がして悔しいよ!」

孫悟空「そう喚くんじゃねぇよ、俺だって頭にきてんだ。まぁアリスがこの世界に来ていながら消滅させずにいるってのは…前から気がついていたけどな」

キモオタ「そうだったんでござるか?」

孫悟空「ああ、お前も居たから見ただろ。現実世界でアリスがグレーテルの火炎魔法を防いだ事…覚えているか?」

キモオタ「覚えておりますぞ、何の魔法具を使ったのか…あるいは防御魔法でも使っていたのかわからんでござるが…」

孫悟空「ありゃあな、この【かぐや姫】のおとぎ話に登場する魔法具…火鼠の皮衣だ」

キモオタ「火鼠の皮衣…」

かぐや「火鼠の皮衣は火にくべても決して燃える事の無い魔法具よ。身にまとえば、どんな火炎の中でも熱風を浴びても平然としていられるわ」

孫悟空「このおとぎ話に登場する五つの宝物は龍玉、仏の御石の鉢、火鼠の皮衣、蓬莱の珠の枝、燕の生んだ子安貝…この宝物になんらかの不思議な力が宿ってると踏んで、奴等はこれを探してんだろうな」



590:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/16(土)00:57:07 ID:ADc


孫悟空「まぁ、推測にすぎないが…こんなところじゃねぇかとは思ってるぜ」

キモオタ「ならば帽子屋殿を無視してこの世界の別の場所で宝物を探している輩を攻撃するでござるか?」

かぐや「そういうわけにはいかないわ、今回は村の人たちに直接被害はなかったけど…私達の注意が引けないとなれば、次は村の人やお爺様に手を出すかもしれない」

かぐや「それだけは絶対にさせないし、許さないけれどね」

キモオタ「だったらここは帽子屋殿との戦いを続けるしかないでござるな…」

ティンカーベル「もうあれだよ!さっさと帽子屋を倒してさ!それからちゃちゃっともう一人の奴捕まえればいいんだよ!」

キモオタ「ちょwww理想ではあるでござるがwwwそれ難易度やばいでござるよwww」コポォ

ドロシー「……」

かぐや「あら、どうしたの?ドロシー?」

ドロシー「い、いえ…なんだかアリスちゃんも帽子屋さんも目的を達成する為なら手段を選ばないなって思って…恐いし、本当に悪い人たちだなって思って…」

ドロシー「でも、でも…私には悪いことするつもりなんかなかったけど、それでも私は少し前までそんな人たちの仲間だったんだなって…思っちゃって…」

かぐや「…帽子屋が言っていた事を気にしているの?」

ドロシー「……」

キモオタ「ドロシー殿…」

ドロシー「……帽子屋さんの言ってた事は間違いないなって、思います。私は今でも償いをするつもりはあるし、それを諦めたりはしないけど…でも…」



ドロシー「どれだけ償いをしても、それで許されたとしても……私はもう、前のような普通の女の子には、戻れないなって…そう、思います…」



604:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/21(木)00:17:28 ID:czh

玉龍「何を落ち込んでるんスかー!あんなカマ野郎に言われたことなんか気にしなくていいんスよ!」

ティンカーベル「そうだよそうだよ!あんな奴の言うことスルーしちゃえばいいんだよ!スルー安定だよ!」

ドロシー「うん…」

キモオタ(とはいえドロシー殿…帽子屋殿に責められた事が相当心に残っているようでござるな…)

孫悟空「…無理もねぇよ、あんな風に言われちまったらな」ヒソヒソ

キモオタ「悟空殿…」ヒソヒソ

孫悟空「性格を捻じ曲げられたこいつは随分とガラが悪かったみてぇだが、本来は内気で引っ込み思案な…まぁどっちかっつうと地味な田舎小娘だ」

孫悟空「あんな風に他人に責め立てられるなんて経験無かったろうし、これから償いをしていこうって時にあんな風に言われちまったら委縮もすらぁな」

キモオタ「普通の女の子には戻れないと言っておりましたな…口には出さないだけで元の生活を取り戻したいのでござろうか…」

孫悟空「そりゃあそうじゃねぇか。こいつが【オズの魔法使い】の主人公で、仲間と冒険の旅を繰り広げたって事を差し引いても…こいつはもともと普通の小娘なんだ」

孫悟空「何事も無けりゃオズの国から帰った後ごく普通の未来が待ってただろうにな。田舎の農家娘の将来なんざ決まりきったようなもんよ、家の手伝いして年頃になったら嫁にいって子供産んで、そこそこ幸せな家庭で年老いていくってな」

キモオタ「地味でありきたりながら幸せな未来でござるが、もはや自分にとっては叶わぬ夢と…ドロシー殿はそう思っているのでござろうな。帽子屋殿が言ったように普通の生活など出来無い、どこに行こうと恨まれ続けるのだと…」

かぐや「…そんな事はないのにね」ヒソヒソ

キモオタ「かぐや殿、聞いていたのでござるか…」



606:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/21(木)00:19:09 ID:czh

・・・

玉龍「ほらほらドロシー!ウチが取ってきた柿を食べるッス。なんならビワもあるッスよ?食べて元気出すッス」

ティンカーベル「なんなら空飛ぶ?妖精の粉かけてあげてもいいよ!」フンス

ドロシー「あっ、うん…ありがとう、でも大丈夫だよ、平気だよ」オドオド

ドロシー(二人が私の事心配してくれてるのは…嬉しい、でも…)

ドロシー(帽子屋さんが言ってたように、私はきっと何処へ行っても恨まれるし…もう普通の生活は送れない。今はかぐやさん達が良くしてくれてるから平気なだけで…)

ドロシー(かぐやさんは私には味方だっているって言ってくれた。でも…罪人の私と一緒に居たら、私はその味方にまで迷惑をかけちゃうんじゃ……。だったら私は一人で居るべきなんじゃ…)

スッ

かぐや「ねぇ、ドロシー。今、おかしなこと…考えてない?」ニコッ

ドロシー「んふぇっ!?か、かぐやさん…おかしなことなんて…考えてないです…!」シドロモドロ

キモオタ「その割には変な声出てましたぞwwwんふぇってwww」コポォ

かぐや「帽子屋君が言ってた事気にしてるのね。でもドロシーはもう一度普通の生活を送りたい。普通の女の子に戻りたい。そうなんでしょう?」

ドロシー「……はい、いつかは昔のように争いや戦いとは無縁の生活を送りたいって思ってます。でも、帽子屋さんは言っていました…私のような罪人が普通の生活を送るなんてもう出来ないって」

かぐや「そんな事無いわ。確かに帽子屋君が言ってたように現実は厳しいし罪を償うのは容易い事じゃない、あなたを恨む人もいる。私は確かにそれを肯定したけれど、私はこうも言ったわ…あなたに協力してくれる人だっているって」

かぐや「あなたは随分帽子屋君の言葉を気にしているけど、彼は貴方にとってどんな存在なのかしら?あなたに協力してくれる味方?」



607:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/21(木)00:21:23 ID:czh

ドロシー「…違います。帽子屋さんは…私に協力なんかしてくれないと思います、仲間なんかじゃ…ないです」

かぐや「そうよね。だったらあんまり帽子屋君の言葉を気にする事無いのよ」

ドロシー「で、でも…」

かぐや「それでも気になるのなら、ここにいるみんなに聞いてみましょう。ドロシーは普通の生活に普通の女の子に戻りたいそうだけど…それは出来ると思う?」

玉龍「出来るに決まってるッス!そもそもドロシーは操られてただけなんスから、そんな心配することないんスよ!」

孫悟空「まぁ、時間はかかるだろうがな。やってやれねぇことなんか何もねぇよ、ドロシーのやる気次第だな」

ティンカーベル「まぁ悟空の言うとおりだよね。あと元気があれば何でもできるよ!」

キモオタ「闘魂wwwまぁ、我輩が脱オタするよりははるかにイージーでござろうなwww」

かぐや「だって、ドロシー。あなたの仲間はみんな口をそろえて、こう言っているわよ?」

ドロシー「で、でもそれはみんなが優しいから私を傷付けない為に言ってくれてて…」

かぐや「例えそうだとしても…あなたがそう望むのならみんなはあなたの手助けをしてくれるわ、必ずね」

ドロシー「それは…凄く嬉しい事です。でも、かぐやさんやみんなの言葉に私は甘えてばかりで……」

かぐや「確かに…自分に都合のいい言葉ばかり聞き入れるのは誠実とは言い難いかもしれないけれど、周りの声を全て聞き入れる必要なんかないのよ」



608:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/21(木)00:22:36 ID:czh

かぐや「周囲は貴方にいろんな言葉を投げかけてくるけれど、あなたの為に何かをしてくれるわけでもあなたを想ってくれているわけでもない他人の無責任な言葉を信じる必要なんか無いの」

かぐや「それよりも、あなたを心配してくれる人の言葉を信じた方がずっと良いと私は思うわよ。今までだってそうだったんじゃない?今は遠く離れていても…あなたには仲間がいる」

ドロシー「はい、私には…仲間がいます。ブリキもカカシもライオンも…今は離れているけど、でも大切な仲間です」

かぐや「だったら想像できるんじゃない?彼等に同じ質問をした時、どんな答えが返ってくるのか」

ドロシー「……きっと、みんなと同じ答えを返してくれると思います。大丈夫だよ心配しないで、普通の女の子にきっと戻れるよって…言ってくれます」

かぐや「だったら、あなたがすべき事は一つよね?それは、帽子屋君の言葉を気にして立ち止まってしまうこと?」

ドロシー「……違います。私がしないといけないのは…みんなが大丈夫って言ってくれた気持ちに答えられるように、頑張る事です」

かぐや「そうね、ドロシーは理解が早くて賢い子ね」ウフフ

ドロシー「で、でも…私に出来るでしょうか…みんなの気持ちを裏切ってしまうかも…」オドオド

キモオタ「ちょwwwドロシー殿は何事もマイナス思考がセットになってしまっておりますなwww」

ティンカーベル「失敗するかもー…とかさ、失敗してから考えればいいんだよ!とにかくやってみたらいいんだよ、話はそれからだよ!」

キモオタ「ティンカーベル殿はもうちょっと繊細に行った方がいいのではwww前向きならいいってもんじゃないですぞww」

孫悟空「まぁ、後ろ向きになってウダウダ悩んでるよりはずっといいんじゃねぇか?やってみなけりゃ始まんねぇってのは俺も同意見だぜ」

玉龍「そうッス!まずは気持ちからパーっと明るくしてしまうんス!そのまま勢いでズバーって挑戦すればいいんス!結果はついてくるッス!」

キモオタ「ちょwwwこのパーティwww脳筋率高過ぎワロタwww」コポォ



609:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/21(木)00:24:18 ID:czh

かぐや「ふふふっ…確かに前向きなのは良い事ね」フフッ

玉龍「なんなんスかかぐやー!人事みたいに笑ってる場合じゃないッスよ!」

かぐや「ふふっ、ごめんね。…でも少し思いだしちゃったわ、ネロの事。彼は前向きと言うのとは少し違っていたけれどね、でも決して後ろを向かない子だったわ」

ドロシー「ネロさんって…確か、村に向かう前にかぐやさんが言っていた…」

キモオタ「【フランダースの犬】というおとぎ話でしたかな?確かもう既に消滅しているとか…」

かぐや「良い機会だわ、私の過去に何があったのか…帽子屋君との戦いが終わったら話す約束をしてたわね」

孫悟空「まぁ、かぐやの過去の経験は…聞いておいて損はねぇだろうな、いやドロシーはむしろ聞くべきって感じだな」

かぐや「そうね。私もドロシーには特にしっかり聞いておいて欲しいわね」

ドロシー「私に…ですか?」

かぐや「そうよ、ネロの生き方はドロシーに知っておいて貰いたい。きっとこの先生きて行く中であなたの為になる」

ドロシー「…はい、かぐやさんが言ってくれるって事は間違いないと思いますし…。ネロさんの事も、かぐやさんに何があったのかも聞きたいです…だから、話して下さい」

かぐや「わかったわ。でも彼の話をするにはまず事の起こりから離さなければいけないわね」



かぐや「当時の月の姫…私がどんな人間だったのか。そして如何にその行動が独りよがりで愚かなものだったのか…聞いて貰うわね」



610:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/21(木)00:26:10 ID:czh

ずっとずっと昔

かぐや姫の世界 月の都 王宮

・・・

サッサッ

かぐや「お待たせ致しましたお父様。かぐやにございます」

月の王「はい、どうぞ。急に呼び付けてすまなかったね、入っても構わないよ」

かぐや「失礼いたします」スッ

月の王「さて、かぐや…何故、私が自ら君を呼び出したのか解るかい?」

かぐや「いえ、見当もつきませぬ」

月の王「本当にそうかい?」

かぐや「えぇ、全く心当たりがございませぬ。ですが…お父様は私に何か不満がおありなのですね?仰っていただければ至らぬ点を改めますが…」

月の王「では単刀直入に言おうか。かぐや、君はまた都へ降りて行ったね?それも護衛も付けずに一人きりで」

かぐや「はい、成すべき事がございましたので。護衛を連れなかった件については私の能力があれば必要ないと考えての事ですが…何か不都合でもございましたか?」

月の王「随分と堂々としているけれど、私は以前君にこう言いつけたはずだよ…『許可なく都へは向かわぬ事』と、忘れたわけでは無いね?」



611:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/21(木)00:28:44 ID:czh

かぐや「はい、覚えております」

月の王「ならば何故君は都へ向かったんだい?私との約束を反故にしてまで」

かぐや「お言葉ですがお父様。私が都へ向かったのは決して興味本位や好奇心が理由ではございません」

かぐや「一見平和に見える都にも大小様々な悪意が蠢いております、そして善良な人々を食い物にする罪人から民を護る事こそが私の使命にございます」

月の王「またそれかい…。もういい加減に君とその役目が云々の話をするのは終わりにしたいのだけどね」

かぐや「それは容易い事にございます、お父様が快く私が使命の為に動く事を了承してくださればいいのです」

月の王「そういうわけにもいかないよ。私は君の行動を肯定するつもりは一切無いんだ、何度も言っているけれど今すぐにやめなさい」

かぐや「…私が自らの役目を全う出来ていないと仰るのですか?」

月の王「出来ているいない以前の問題なのだけどね…君はいつも私達に無断で都へ降りては悪党の根城を暴いたり、罪人を退治したり…苦しい生活を送っている者を援助しているようだけど…」

月の王「そもそも…悪人を捕えるのは兵達の仕事。民が幸福に暮らせるように治世を行うのは私の仕事だ。君の役目じゃない」

かぐや「民の幸せを願うのは、姫の役目ではないと?」

月の王「そうは言わないよ。だけど君のやり方は間違っている、少なくとも今の君がすべき仕事では無いよ」メガネクイッ

かぐや「失礼を承知で言わせていただきます。私がすべき仕事ではないと仰いましたが…ならばお父様は御自分の役目を全う出来ていますか?」

月の王「我が娘ながら本当に失礼だね君は…。しかし君がそう問いかけるのなら私は当然こう答える、私は王としての役目を果たせているとね」



612:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/21(木)00:31:46 ID:czh

かぐや「私はそうは思いません。先ほど申し上げたように都にはいまだ多くの悪が潜んでおります、生活をする事すら苦しいと嘆く民までいる始末」

かぐや「王族の責務とは国民に安全で豊かな生活を保障する事です。悪は蔓延り民は苦しんでいるこんな状況で…どうして役目が果たせているなどと言えますでしょうか」

月の王「都の治安についても民の生活水準も私は把握しているよ。当然、それを改善する為の政策も計画している」

月の王「かぐや、君は確かに歴代の王家の中でも特に優れた能力を持っている…重力の操作、光を操る事も君の右に出る者はいない。この私でさえもだ」

月の王「そんな君の目に私は少々頼りなく映るかもしれないが、あまり父を見くびらないで欲しい。君が考えているような事は私はとうの昔には既に考えているんだよ」

かぐや「それならばなぜすぐに行動を起こさないのですか?改善の為の政策、計画があったとしてそれが成果を上げるのはいつになるのでしょう?十年後、百年後ですか?」

かぐや「民は今、この時を苦しんでいるのです。すぐさま成果を出す事の出来ない計画になど、なんの価値がありましょう」

月の王「君の主張はあまりにも現実を見ていない。ひとつ政策を立ち上げたとしてもその結果が表れるまでには時間がかかる、焦って進めるものではないんだ」

月の王「国というものは一朝一夕で理想の形になるものではないのだよかぐや」

かぐや「それは詭弁にございます。私達王族は国を作る事が責務ではありません、民が幸せに暮らせる国を作る事こそが責務なのです」

月の王「君の王族としての意識の高さや民への想いは素晴らしいものだと思うよ、しかしあまりに考えが未熟すぎる。君はもっと政治について学び知識をつけるべきだ」

かぐや「その様なものに時間を費やすのならば、悪党を一人でも多く成敗すべきでは?」

月の王「困った娘だ…かぐやよ、私が何故君に『都へ向かわないように』言いつけたかわかるかい?



613:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/21(木)00:35:10 ID:czh

かぐや「私は姫という立場です、故にお父様は私に大人しくしているとようにと申されるのでしょう?」

月の王「君には民を愛する気持ちが備わっている。それだけでなくその想いを形に出来るだけの能力もある…時が来れば君が姫であろうがそんな事は関係なく、政治に参加してもらって構わないと私は思っている」

月の王「しかし、今の君は未熟。そしてその能力は一級品…これはとても危険な組み合わせだ。だから君が過ちを犯さぬよう、私は都へ向かわないように言いつけた」

かぐや「私が未熟だと仰るのですか…?それは私に対する侮辱だと受け取らせていただきますが…よろしいですか?」

月の王「どうぞ。実際、君は未熟だよ。目に見えるモノしか理解できない、罪人は全て悪だと思っている…しかし、そうではないよ」

かぐや「……何を仰っているのか、理解できません」

月の王「君は先日、不正に税を徴収して私腹を肥やしている役人の存在を突き止めた。民の不満に耳を傾け、国の癌を暴いてくれた君の功績は素晴らしいものだ」

月の王「しかし、君はその役人を殺してしまったね?一言の言い訳も許さずに…」

かぐや「ええ、民の幸せを願う事が本懐のはずの役人が私腹を肥やして民を苦しめるなど言語道断です。死を持って償うべきと判断いたしました」

月の王「彼は何故悪事に手を染める事になったのか、あるいは罪を償って今後はまっとうな役人として生きていけるかもしれないなどと…考えはしなかったのかな?」

かぐや「罪を…償う…?ふふっ、おやめ下さいお父様。私達は今、真面目な話をしているのです。唐突にそのような戯れを口にするなど…思わず笑ってしまいました」クスクスクス

月の王「私はいたって真面目だよ。彼が犯した罪は許せない物だ、だがどんな罪人にでも等しく償う権利は与えるべきだと思うよ、私はね」

かぐや「お父様、これ以上の戯れはおやめ下さい。どのような理由があろうと罪人は罪人…情けをかける必要などございません」



614:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/21(木)00:37:28 ID:czh

月の王「…ひとつ問おうか。都の一人の男が盗みを働いたとしよう、盗んだものはほんの僅かな金銭だ。その場に居合わせたとしたらかぐやはどうする?」

かぐや「決まっております。私の重力の能力を使い、動きを封じ捕え…息の根を止めます。罪を犯せば罰を受ける事は当然です」

月の王「息の根を止める必要があるかい?人を殺したわけでも多くの人間を苦しめたわけでも無い、僅かな金銭を盗んだだけでそこまでするのかい?こんな軽い罪で」

かぐや「…信じられません、それが一国の王の言葉ですか?」ワナワナ

かぐや「それは僅かな盗みかもしれません、しかしその男は罪を犯しても許される事を覚えてしまいます。そうすればもう…どうしようもございません」

かぐや「小さな罪だからと見逃す事が、後の大きな犯罪につながると…何故わからないのです!?」

月の王「落ち着きなさい。君こそ何故わからない?彼にも何か事情があったのかもしれないよ、魔が刺すという事は誰にでもある」

月の王「何日も食べ物を口にしてなかったのかも知れないし、病気の家族の為に薬を買ってあげたかったのかもしれない」

かぐや「理由があれば罪を犯しても許されるというのですか?…私には、私には到底理解できません」

かぐや「どんな理由があろうとも、罪は罪です。償いの機会など与える必要などありません、ここでその男の息の根を止めなければ…この国は犯罪で溢れてしまいます」

月の王「…そうか、君の考えは理解したよ」

かぐや「…でしたら、私が都へ行く事を了承していただけますか?」

月の王「いや、逆だよ。君の考えは危険すぎる。君はしばらく都へは向かわないこと…これは言いつけでも約束でも無い。国王としての命令だ、いいね?」

かぐや「お父様…!私は…!」

月の王「もう一度言うよ、これは親子の約束でも父親としての言いつけでもない。国王として命令しているんだ。この意味がわかるね?
あまり君が言う事を聞かないようだとこの【かぐや姫】の存在まで危うくなってしまうそれは避けたいのだけど」

かぐや「……承知いたしました。しばらくの間、都へは向かいません」



615:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/21(木)00:40:17 ID:czh

かぐや姫の世界 月の都 かぐやの部屋

かぐや「理解出来ませぬ。お父様は何をお考えなのやら……」

かぐや「都へ向かわないように…など馬鹿げています。この宮殿に籠りっきりでは民の為に何かを成す事などできない…!」

かぐや「私はただ、国の為、民の為…正義の為、悪を滅ぼしたいだけだというのに何故お父様は理解して下さらないの…」

かぐや「こうしている間にも悪党は悪事を働いているかもしれない。私にはこんなところにいる時間はないというのに…」

かぐや「……」

スッ

かぐや「そうだ…別のおとぎ話の世界」ボソッ

かぐや「そうです、この世界の都へ向かう事が出来ないのなら…別のおとぎ話の世界へ向かえば良いのです!」スッ

かぐや「世界を渡る方法は…確か書庫にそれに関連した書物があったはず…それさえ出来れば、世界さえ移動してしまえば…私は正義を貫く事が出来ます」

かぐや「世界移動の力さえ身につければ、私はなんだって出来る…重力操作さえできれば敵はいない、苦しんでいる登場人物を救って悪を挫く事が出来る…!結果を残していけばお父様もきっと理解して下さる…」

かぐや「決めました、早速書庫へ向かいましょう。私は、恵まれないおとぎ話の登場人物達を救済して見せます…!」



616:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/21(木)00:43:35 ID:czh

さるかに合戦の世界 柿の木

・・・

かに「そ、そんな…!あなたは実った柿を私の代わりに取ってくださると、約束したではありませんか!」

サル「あぁーっ!?そんな約束しらねぇなァー!俺様がもいだ柿は全て俺様の物だァー!」ムシャムシャ

かに「酷い…!私を騙したんですね!?私は、子供たちの為にも食べ物を持って帰らなければいけないのに…!ああ、どうかどうかひとつで構いませんから私に分けていただけないでしょうか!」

サル「ウルセェ!折角の柿がマズくならぁ!テメェみてぇな雑魚は目障りなんだよ、消えろクソが!」

かに「うぅ…あんな猿を信じた自分が憎い…易々と他人を信じた自分が…!」グググッ

サル「ブツブツとうるせぇかにだぜ…目障りだって言ってんだろうが!そんなに喰いてぇならこの硬い柿でも食らってろ!ヒャーッハッハッハ」

ビュッ

かに「っ!?しまった…避けられないっ…!これまでか…!」

サル「ヒャーッハッハッハ!この世界は弱肉強食!弱い役は強い奴になすすべなく死んでいく運命なんだよぉー!」

ポトッ

サル「ん?なんだ…?結構本気で投げたつもりだったけどよ、柿がかにまで届かずに途中で落ちちまったぞ?投げ方間違えちまったか?まぁいい、もう一度…」

スッ ベキベキベキバキボキボキボキッ ズサーッ

サル「っ!?うごががががっ!?な、なんだこりゃあ…!急に身体が重くなっちまって…動けねぇ…!?な、なんだこのバカでかい力は…!?」グググググ

かに「!?」

スッ

かぐや「善良なかにさんを騙した挙句、命を奪うような猿には当然の報いを与えなければなりませんね。けれど、諦めもつくでしょう…あなたが言うようにこの世界は弱肉強食…」


かぐや「重力は絶対的な力…故に、それを自在に操る事の出来る私よりも強いものなんて世界のどこにも存在しませんから」



633:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/25(月)00:17:27 ID:WC2


サル「…ぐががっ!何者だテメェ…!突然しゃしゃり出て俺様にこんな事しやがって…!どういうつもりだ!?」グググググ

かぐや「私の名はかぐやと言います。彼女のような可哀そうな者を救い、あなたのような悪人を滅ぼす為に別の世界から参じました」

サル「お、俺がそいつに青柿を投げつけたからテメェが代わりに復讐するってのか!?無関係なテメェにそんな権利なんか…ぐあああぁぁっ!」ギリギリギリ

かぐや「権利ならあります…いえ、義務でしょうか。私のこの能力を使えばどんな悪人だって倒す事が出来ます、ならばその為に力を尽くす事こそ私の使命…」

かぐや「実際にあなたは…もう動く事が出来ないのではないですか?」

サル「わ、わかった!謝る!俺が悪かった!だからこの力を解いてくれ!このままじゃ身体が引きちぎれちまう!」ギリギリギリ

かぐや「謝罪を求めているわけではないのです。謝ったところであなたの罪が消える事はありません。それに不安に感じる事はありませんよ、身体が引きちぎれたりなんてしません」

スッ

かぐや「ただ…重力に耐えられずに肉体が破裂する程度です」

サル「お、おい!俺はちょっと柿を独り占めしただけじゃねぇか!そんくらいd」ググググッ

グチャッ

かに「さ、猿の身体が…こ、こっぱみじんに…!」ガタガタ

かぐや「私とした事が…醜いモノを見せてしまいましたね、申し訳ありません。しかし、この者は悪事を働いたのですから当然の末路です」

かぐや「ともあれ、悪はこのかぐやが成敗いたしました!あなたはもう辛い思いをする事はありません、それは私にとっても大変喜ばしい事です」ニコッ



634:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/25(月)00:19:15 ID:WC2

かぐや「さぁ、お子さんが柿を心待ちにしているのではありませんか?甘そうなものをいくつかもいで差し上げましょう」スッ

かに「あっ、はい…すいません。私ではどうも木に登る事が出来ないので…」

かぐや「いいえ、お気になさらず。はいどうぞ、もう悪い猿に騙されたりしないようにお気を付け下さい」ニコッ

かに「あっ、はい。何から何までありがとうございます。でも……」チラッ

かぐや「…?どうか致しましたか?」

かに「いえっ、何と言いますか…助けていただいた事は非常に感謝しているのです。ですが…確かにあの猿に腹は立ちますけど、なにも殺さなくてもよかったのかな、と…」

かぐや「ふふっ、あなたはお優しい方です。でも、その優しさはどうかご家族に向けて差し上げて下さい」ニコッ

かぐや「あの猿はあなたを騙し利用し殺すつもりだったのですから、情けを駆ける必要などありません。それよりも早くお子さん達に柿を届けてあげてください。きっとお腹を空かせていることでしょう」

かに「…そ、そうですね。すいません、助けて貰ったのに失礼な事を言ってしまって…では私はこれで失礼します。ありがとうございました」ペコペコ

カサカサカサ…

かぐや「うふふっ、良い行いをして感謝の言葉を投げかけられるなんて、こんなに嬉しい事はありませんね。…おや?」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ…

かぐや「景色が歪み木々が朽ちて行く…。なるほど…本来復讐によって殺されるはずの猿を私が殺したことでこのおとぎ話が形を保てなくなったという事ですか…」

かぐや「しかし、問題ありませんね。少なくとも彼女は殺されずに済みました、まちがいなく私は一人の善人を救う事ができたのですから」ニコニコ

かぐや「さぁ、巻き込まれないうちに別の世界へ向かいましょう。私の助けを必要としている者はまだ大勢居るのですから」スッ

ヒュンッ



635:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/25(月)00:21:38 ID:WC2

それから……

・・・とあるおとぎ話の世界

天邪鬼「ぐぉぉぉっ…この天邪鬼様が余所者の小娘に後れを取るとは…!貴様何者だ!」ググググッ

かぐや「かぐやと申すしがないおとぎ話の主人公です。罪無き娘を殺さんとするひねくれ者の悪鬼を成敗する為に出向きました」

天邪鬼「【かぐや姫】の主人公か…!テメェは俺様達の世界がおとぎ話だって知ってんだろ、だったら何故こんなことをしやがる!」ググググ

かぐや「こんなこと…とは、瓜子姫を騙し殺そうとしたあなたを私が成敗しようとしている事ですか?」

天邪鬼「それ以外になにがあるってぇんだ!俺様があいつを殺す事は定められた運命、この世界はそういうおとぎ話だからだ!それを何故無関係のテメェがかき乱す!?」グググ

かぐや「私になら変えられるからですよ」

天邪鬼「あぁ…?どういう意味だ?」グググ

かぐや「あなたに殺されるという瓜子姫の運命は彼女自身にはどうにも出来ない、抗うことすらできない。でも私は違います」

かぐや「私になら運命を変えられる。私になら瓜子姫を幸福に導ける。私にならあなたを成敗できる」スッ

グシャッ

天邪鬼「ぬぐっ…ぐおぉぉっ!やらせねぇぞ…このおとぎ話をテメェみてぇに勘違いした余所者なんぞに…!」ググググ

かぐや「流石は鬼ですね…まだ息がありますか。ですが…悪党に容赦はしません。今度こそ朽ちなさい、天邪鬼」スッ

ベチャッ



636:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/25(月)00:24:10 ID:WC2

・・・また別のおとぎ話の世界

兵士達「ぐわぁぁっ!」ドサッ

国王「ぐぬぬ…侵入者の小娘一人追い払えんとは使えん兵隊だ!ええい、誰か早く来るのだ!そしてこの侵入者を捕えよ!」

かぐや「声を上げてももう誰も助けに来ませんよ国王。城への入り口は全て崩しておきましたから増援が来る事はありません」フワッ

国王「くっ…貴様は何の目的があってこの城へ来たのだ!私の命を狙っているのか!?」

かぐや「ええ、可哀そうな姫君を救うためです。あなたは王妃を病で失った寂しさを埋める為…あろうことか実の娘である姫を妃にしようとした。望まぬ結婚を強いるなど悪党のすることです」

国王「仕方あるまい、娘は若き日の我が妻に瓜二つだ。私の新たな妻に相応しいのは姫をおいてほかには居ない」

国王「それに望まぬとは言うが私は姫との約束を果たしたのだぞ!姫は結婚を認める代わりに三つのドレスとひとつのコートを要求した、特にコートは無理難題で手に入れるには随分と苦労したがどれも間違いなく娘が願った品物だ!」

かぐや「太陽、月、星のドレス…。そして千種類の動物の毛皮を編んで作った毛皮…確かに手に入れるのは難しい、まさに無理難題です」

かぐや「ですが姫があなたに無理難題を押し付けたのは、あなたを諦めさせるため…そんな事はあなたも理解しているはずではありませんか?」

国王「どんなが理由があろうと、約束は約束だ!姫が要求した贈り物を用意した私には彼女を妃として迎える権利がある!何故余所者の貴様が口を挟むのだ!」

国王「そもそも姫はこの状況を望んでいるのか!?姫もこの世界がおとぎ話の世界だと知っている、この世界が消える事は姫にとっても耐えがたいことのはずだ!」

かぐや「姫がどう思っているかなど関係ありません。無理矢理父親と結婚させられるなんて絶対に嫌だと思っているはずです、当然でしょう」

国王「なんだと…姫の意思を確認したわけでもなく貴様は姫の為などとのたまっているのか!?」

かぐや「私が『姫は不幸だ』と思うのですから姫もそう考えているに違いありません。それに…あなたが死ねば姫は苦悩から解放されます、娘の為なのですから覚悟を決めてくださいますよね?」スッ

グシャッ

・・・



637:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/25(月)00:27:02 ID:WC2

・・・またまた別のおとぎ話の世界

物乞い「クッ…私ともあろう者が指先ひとつ動かす事が出来ぬとは…!何という失態…!」グググ

かぐや「さぁ、お逃げください姫君。あなたに屈辱と苦痛を与えたこの悪党は私が成敗します」

姫「おぉっ…!何者かは知らないけどわたくしをこの掃き溜めのような場所から逃がしてくれるのね?良い働きだわ、このわたくしが褒めてあげましてよ!」

かぐや「あなたはこの様な男に利用されていい方ではありませんから。さぁ、あとは私に任せてあなたはお逃げください」

姫「そうよ、そうよね!わたくしは姫なんだもの!あなた中々見所があるわ、後で城へ来なさい!望むままの礼を用意させるわ!」

スタスタスタ

物乞い「君はおとぎ話の住人だな?何と言う事をしてくれたのだ!姫を逃がしてしまうなど…自分が何をしたのかわかっているのか!?」

かぐや「あなたに言われたくありません。姫が日々辛い思いをしているのはあなたと結婚させられた事が原因なのですから」

物乞い「それは誤解だ、余所者の君からすればあの姫は貧しい物乞いの男と結婚させられた不幸な姫に見えるかもしれない」

物乞い「しかし、あの姫君は容姿こそ美しいが性格に問題がある。王が自分の為に開いてくれたパーティの客人に蔑称をつけては面白がるような失礼な娘だからだ」

物乞い「だから私は姫の内面を成長させる為、その傲慢な性格を改めさせるために物乞いに化けてこの辛く貧しい生活を姫と共にしているのだ。だが私は物乞いでは無い、私の本来の姿は…」

かぐや「存じております。その特徴的な髭…あなたはこの一帯の地域を収める国王、つぐみの髭の王様なのですよね」

つぐみの髭の王「なんと…君は私の正体を知っているのか!ならば尚更何故あのような事を!」

かぐや「決まっているではありませんか、不幸な姫君を救うためです」



638:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/25(月)00:30:37 ID:WC2

つぐみの髭の王「不幸な姫君を救う為?馬鹿な、君はこのおとぎ話【つぐみの髭の王様】の内容を知らないのか!?」

かぐや「いえ、存じていますよ。あなたが口にしたように…美しいけれど傲慢な姫君と物乞いに化けたあなたが生活を共にするおとぎ話ですよね」

かぐや「姫はやがて貧しい生活に順応し、貧しいものや辛い境遇に置かれたものの気持ちを解るようになり以前の様な傲慢な姿ではなくなる」

かぐや「心身ともに清く美しい女性に生まれ変わった姫にあなたは正体を明かし、二人は改めて結ばれる…そういったおとぎ話ですよね?」

つぐみの髭の王「そのとおりだ、そこまで知っているのなら何故我々の邪魔をする!?何故不幸などと思う!?」

つぐみの髭の王「確かに今の生活は辛いかもしれない…だがこのおとぎ話はハッピーエンドだ!最終的に姫は私の…国王の妃として幸せな生活を送るのだから!」

かぐや「終わりよければすべてよし…と私は思えません。実際、今この時の姫は自分が不幸だと考えている。例え未来が輝いていても、今が不幸では何の意味も無い。不確かな幸せにすがるなど愚かしい事です」

つぐみの髭の王「なんと傲慢な…!幸福も不幸も表裏一体だ、常に幸福な人生などあり得るものか…!」

かぐや「あなたが姫にしたように自分の価値観を押し付ける悪党がいなければ、人はもっと平和に暮らせると思いますけれどね」

つぐみの髭の王「…価値観を押し付けているのはどっちだ?私には君こそが稚拙な正義感を押し付けてこの世界に迷惑をかけているだけにしか見えないが?」

かぐや「…よくもそのような事が言えたものですね」スッ

バチンッ

つぐみの髭の王「ぐおっ!」ビターン ベキベキベキ

かぐや「言葉に気を付けなさいつぐみの髭の王。私にはあなたの生死を自在にできる能力が備わっているのですよ」

かぐや「私の能力は素晴らしい、鬼さえも国軍さえも蹴散らせる。私が全てのおとぎ話の中で最も優れている、だから…何者をも救う事が出来る、私の行動に間違いなど無い」

かぐや「私の考えこそが正義、私の行いこそ…平和を導くための最善手なのです」



640:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/25(月)00:33:30 ID:WC2

つぐみの髭の王「まさか君は…このおとぎ話意外にも、別の世界で同じような事をしてきたのか…?」

かぐや「ええ、私はこの能力で数多くの人々…時にはそれが虫であったり動植物であったり物質だったりしましたが…とにかく、数多くの者を救って来たのです」

かぐや「決して正義感の押しつけなんかではありません。私が助けた者達は必ず私に感謝しているはずです、なにしろ不幸を取り除いて差し上げたのですから」

つぐみの髭の王「…君は姫が可哀そうだと言ったが、私には君の方がよほど不憫に見える」

かぐや「…重ね重ね無礼な方ですね。不憫?多くの人々を救う能力を持つ私が?」スッ

つぐみの髭の王「これまでの世界では誰一人、君の過ちを正す事が出来なかったのか」

かぐや「私は悪党ではありません。正すも何も…過ちなど犯すはずがないでしょう」

つぐみの髭の王「一つ聞かせて貰えるか?キミはどういう基準で…向かう先のおとぎ話を選んでいる?」

かぐや「教わったおとぎ話を端から巡っています、記憶にあるおとぎ話はもうほとんどすべて回りましたが」

つぐみの髭の王「ほう、ならば…君は誰におとぎ話を教わった?」

かぐや「父ですが…その様な事を聞いてどうするつもりですか?」

つぐみの髭の王「なるほど…随分と自分の娘の性格を理解しているお父上のようだ」

かぐや「……何が言いたいのですか?」

つぐみの髭の王「君は知っているおとぎ話をほぼ全て回ったと言ったが…それはおかしい」



641:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/25(月)00:36:59 ID:WC2

つぐみの髭の王「君のやり方だと…不幸な者を救うたびにおとぎ話は消滅する。つまり、君が向かったおとぎ話はほぼ全て消滅している」

かぐや「そうなりますね。ですが、それになにか問題がありますか?」

つぐみの髭の王「裏を返せば、今もなお存在しているおとぎ話は…君が知らないおとぎ話ということになる。いや、君のお父上が意図的に君に教えなかったおとぎ話があると言った方が良いかな」

かぐや「私が知らないおとぎ話…?お父様が、敢えて私に教えなかったおとぎ話があると?」

つぐみの髭の王「ああ、そうだ。これが私には偶然とは思えない。なぜなら君が知らないおとぎ話は…誰の目にも明らかなほど不幸な生涯を送る主人公達のおとぎ話ばかりなのだから」

つぐみの髭の王「恐らくお父上は君がこうなるのを危惧して…本当に不幸な者がいるおとぎ話を教えなかったのだろうな」

スッ

かぐや「つぐみの髭の王、そのおとぎ話を教えなさい。私は、まだ真に不幸な者を救えていないのですね…?さぁ、教えなさい」

つぐみの髭の王「断る。君はその世界も身勝手な正義感で消滅させてしまうからだ」

かぐや「教えなければ頭部を砕くと脅せば…良いのですか?」

つぐみの髭の王「君はどちらにしろ私を殺すつもりだろう?だが…ひとつ条件を飲めば教えてやっても構わない」

かぐや「…言ってみなさい」

つぐみの髭の王「私が教えれば君はそのおとぎ話に向かうだろうが…決してそのおとぎ話を消滅させないと約束しなさい」

かぐや「……」

つぐみの髭の王「それが君に不幸な主人公たちのおとぎ話を教える条件だ」



642:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/25(月)00:40:34 ID:WC2

かぐや「私がその条件を飲んだとして…あなたに何の得があると?その条件にあなたを殺さないという項目は無いのですよ?」

つぐみの髭の王「私に得は無い。だがもうこのおとぎ話はじきに消滅するだろう…もうわが身の事は潔く諦めた。他の者達には申し訳ないがな」

つぐみの髭の王「それに使い方を誤っているだけで君の能力は確かにすばらしい。考えさえ改めれば真の救世主になれるだろう、だがいまのままではだめだ。これから向かうおとぎ話で人を救うという事はどういうことなのか学びなさい」

かぐや「これ以上何を学ぶというのですか?あなたの言い方を借りるのなら、私は既に救世主なのですよ」

つぐみの髭の王「そうか、ならば君には何も教えない。さぁこの物乞いを殺すが良い。容易い事だろう?」

かぐや「…いいでしょう。約束します、私は次に向かうおとぎ話を消滅させません。ですから教えなさい、そのおとぎ話を」

つぐみの髭の王「いいだろう、君を信用して教えよう。不幸な主人公が登場するおとぎ話はいくつかある」

つぐみの髭の王「悲恋の末に泡と消える【人魚姫】、像になっても民を思いそして己が身を犠牲にした【幸福の王子】、正しい行いをしたにもかかわらず恩をあだで返される【浦島太郎】と…様々だ」

つぐみの髭の王「その境遇に優劣をつけるわけではないが…私が考える最も不幸な結末のおとぎ話は二つある。ひとつは【マッチ売りの少女】だ」

かぐや「マッチ…売りとは?そのおとぎ話はどういう内容なのですか?」

つぐみの髭の王「父親に虐げられ、寒空の下売れぬ道具を売り歩く幼い少女が幸福な幻に包まれながら…しかし現実には微塵も報われず命を失う話だ」

かぐや「…っ!そのような不憫な少女の存在を見逃していたなど…!」

つぐみの髭の王「そして、もうひとつ…【マッチ売りの少女】に並ぶ、私が考える最も不幸な結末を迎えるおとぎ話が存在する」



つぐみの髭の王「【フランダースの犬】…絵描きを目指す少年が主人公のおとぎ話だ」



643:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/25(月)00:45:02 ID:WC2

つぐみの髭の王「主人公の少年の名前はネロ…祖父と一匹の愛犬パトラッシュと共に生活する、貧しい少年だ」

つぐみの髭の王「ネロは絵描きを目指す傍ら、牛乳の運搬で生活費を稼ぎながら貧しいながらも懸命に生きていた。だが…」

つぐみの髭の王「彼を良く思わない男がいた。その男の策でネロは仕事を失う。更には唯一の友で幼馴染ある風車小屋の娘とも引き離され、最愛の祖父を失い…そして絵描きになる夢さえも失う」

かぐや「……何一つ報われないというのですか?」

つぐみの髭の王「ああ、ただ最後に…一度は目にしたいと願っていた名画を見る事が出来るだけだ。その願いをかなえた後……」

つぐみの髭の王「ネロは愛犬のパトラッシュと共に、息を引き取る。寒い寒い、冬の夜に」

かぐや「【マッチ売りの少女】や…そんな思いをする少年の事を、私は一切知らなかったなんて…!」ポロポロ

つぐみの髭の王「彼等の境遇に涙するか…」

かぐや「あなたの様な悪党にはわからないでしょう。辛い思いをする人の気持ちなど」

つぐみの髭の王「…ハッキリ言うが私はこのおとぎ話を無茶苦茶にした君が憎い。方法も考え方も未熟で稚拙で…自分よがりだ。だが、それは改める事が出来る」

かぐや「私の行動に、改める必要など……」

つぐみの髭の王「さぁ行きなさい、いずれ痛感するだろう。急ぎなさいこの世界はもうじき崩れ去る。私との約束を決して違えぬようにな」

かぐや「…約束を破る事など悪党のする事。私は悪党では無いのです、約束は守ります。…では私はこれで、もう会う事も無いでしょうけれど」スッ

ヒュン

つぐみの髭の王「未熟な正義感を持つ娘にあの世界の存在を教えたのは賭けだが…しかし、苦難を乗り越えねば掴めぬものもある。随分と傲慢で独善的な娘だが、心配はあるまい…」

つぐみの髭の王「あの娘がマッチ売りやネロの境遇に流したその涙は偽りでは無いのだからな。少々荒療治だが…耐えて見せるがいい、異国の娘よ」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ



644:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/25(月)00:48:42 ID:WC2

フランダースの犬の世界 街道

ヒュンッ

かぐや「ここが【フランダースの犬】の世界…。辛い境遇の少年が主人公の…おとぎ話」ゴクリ

かぐや「ここは見たところ…西洋の街道の様ですね。人通りが少ないところを見ると、大きな街は遠いのでしょうか…」

かぐや「……。まずは考えをまとめなければいけませんね、そこの木陰で休むとしましょう」

スッ

かぐや「さて…この世界に来たからには不幸な境遇におかれているネロを救わなければいけません。その為に来たのですから」

かぐや「つぐみの髭の王にもっと詳しい情報を聞くべきでしたね…ネロが住んでいる町の情報も何も聞けませんでしたから…」

かぐや「……」

かぐや(しかし、あの王は何故私に手を貸すような真似をしたのでしょうか)

かぐや(あの王は姫の将来の為だと言って辛い思いをさせた悪党…。彼にとっても私は敵のはずなのですが…何故彼は敵の私に協力するような真似を…)

かぐや「……いえ、これは考えても答えなどで無いのでしょう。今はネロの住む場所を探し出さないと…」

かぐや「……。確かつぐみの髭の王は言っていましたね、唯一の友が風車小屋の娘だと…つまり、少なくとも近くに風車のある村…」キョロキョロ


かぐや「…駄目ですね。ここからではよく見えません。少し浮遊して高い場所から…」スッ

ザッ

少年「ねぇ、お姉さん…きょろきょろしているけど何か探しているのかい?」



645:◆oBwZbn5S8kKC 2016/01/25(月)00:50:27 ID:WC2

かぐや「ええ、風車小屋が近くにある村を探しているの。それよりも…あなたは?」

少年「あっ、ごめんごめん。お姉さんが珍しい恰好してるし何か困ってるみたいだから助けようと思って声を掛けただけなんだ」

ネロ「僕の名前はネロ。そして…あっ、しまった!」

爺さん「ぬおぉぉ…!ネロや、いきなり走っていきおってからに!老いぼれジジィと老いぼれ犬に重い荷車を運ばせるとは…もうちょっと労りとか…なんかいろいろあるじゃろ…!」ゼェゼェ

パロラッシュ「くぅんくぅん」

ネロ「ごめんね、あのお姉さんがなんだか困っているように見えたから、風車小屋のある村を探してるって言っててさ案内してあげようよ」

爺さん「そんな事じゃろうと思ったよ、お前は優しい子じゃからな。しかしジジィにこの荷車は重すぎる、手を貸しとくれ」

ネロ「僕のお爺ちゃんと愛犬のパトラッシュさ、今日は近くの町までミルク運びの仕事をしていたんだ」

かぐや「この子がネロ…」

ネロ「…?どうかしたの?」

かぐや「いいえ、私の名はかぐやよ。よろしくね、ネロにお爺さん。それに…パトラッシュも」スッ

パトラッシュ「わうん!わうん!」スリスリ

爺さん「風車小屋のある村と言うとこのあたりだとワシらの村じゃな。かぐやさん、ワシらについてくるとええ」

ネロ「荷車に載せてあげたいところだけど、流石に僕達だけじゃ重いからさ。歩いて貰うけど、ごめんね?」

かぐや「いいえ、いいのよ。それよりも私も荷車を押すのを手伝いましょう、案内してもらうお礼に」

かぐや(…この子があの辛い境遇にいる少年。ネロの事も必ず救う、それが私のすべき事…私にだけ出来る事…!)



670:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/01(月)00:10:29 ID:nKL

フランダースの犬の世界 ネロの住む村

ネロ「かぐやさん、この辺りが僕達の住んでいる村なんだ」

かぐや(ここがネロの住む村…。この貧しく不幸な少年が住む村…)キョロキョロ

かぐや(このおとぎ話【フランダースの犬】の存在を私は知らなかった。故につぐみの髭の王から聞いた僅かな情報しか私は持ち合わせていない…)

爺さん「ふぅふぅ…。今日は特別じゃから久しぶりに街まで着いて行ったが…やはり無理はするもんじゃないのぉ…」ゼェゼェ

ネロ「だから無理しないでっていったのに。それに今日から十二月だ、寒さも厳しくなってきているし…さぁ早く小屋へ戻って休もう」

パトラッシュ「くぅんくぅん」トテトテトテ

かぐや(ネロはこのお爺さんをもうすぐ亡くしてしまう。この牛乳の運搬の仕事も失う…そしてパトラッシュと共に息を引き取る…何一つ報われぬまま…)

かぐや(私がこの少年にしてあげられる事は…ただ一つ。その不幸を取り除く事…その為にはネロを良く思っていないという男を探さなければ)

かぐや(その男を探し出し…いつものように押し潰してしまえば事は足りる…。ですが…ひとつ気がかりなこともある)

――つぐみの髭の王「決してそのおとぎ話を消滅させないと約束しなさい」

かぐや(相手が悪党とはいえ約束は守らねばなりません。その男を殺す事でこの世界が消滅してしまうのならば…私は別の方法を探さなければいけなくなる…)

かぐや(しばらくはネロと行動を共にするというのが良いでしょうか…?それならばその男の事も掴めましょう…)

かぐや(私は必ず、この不幸な青年を救って見せるのです。正義を掲げる者として…それが当然の行いなのですから)



671:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/01(月)00:13:02 ID:nKL

ネロ「なんだかさっきから黙っているけれど…もしかして、この村はかぐやさんが探している場所じゃなかった?」

かぐや「いえ、少し考えごとをしていたのです。私の目的とする場所は確かにこの村です、ここに君が住んでいるというのなら」

ネロ「そう…?良くわかんないけど、目的の村にたどり着けたなら良かったよ」

爺さん「ところで…かぐやさんは何故この村に来たんじゃ?近くのアントワープなら大きな街じゃからまだしも、こんな小さな村にゃ風車小屋以外なんもありゃせんよ?」

かぐや「私がこの村に来た目的…ですか?そうですね、それは……」

かぐや(普段なら正体を明かしてしまう所だけど…。今回は少々勝手が違う、ここは立場を伏せておいた方が良いかもしれない…。何か口実を考えて…)

かぐや「……風車、そうです。ここからも見えるいくつもの大きな風車です」

かぐや「私は各地を転々としている旅の者なのですが、この村の風車小屋が大層美しいという話を聞いたのです。ですので是非、一目と思ったのです」

ネロ「そうなんだ、僕にとっては幼いころから見慣れている村の風景の一部だけれど余所の人には珍しいのかな?」

かぐや「はい、私の生まれた惑星…いえ、国には風車というものは存在していませんでしたから。文献で存在は知っていたのですけれど…」

かぐや「しかし、実際に目にして驚きました。確か、風の力を利用して穀物を粉にしているのでしたね?」

ネロ「うん、この辺りは農業が盛んだからね。もう収穫の時期は終わったけれど、秋にはこの小さな村も大忙しさ」

かぐや「秋は豊饒の季節、どこもそれは同じなのですね。私の住む国でもそうでした」

爺さん「豊作ならばまとまった収入も得られるしのぅ…。ワシもこの子に田畑のひとつでも残してやれたら…もう少しは人並みの生活をさせてやれたものを…」

かぐや(なるほど…二人は田畑ひとつ持てないほど貧しい。故にこの牛乳運びの仕事が生命線というわけね…)



672:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/01(月)00:14:37 ID:nKL

ネロ「もう、またそんな事言って…無い物ねだりしてもしょうがないよ」

爺さん「いや、お前ももう十五じゃ。それにワシももう長くない…いつまでも牛乳運びをしているわけにもいくまい、パトラッシュももう年寄りだ」

パトラッシュ「くぅんくぅん」

爺さん「ワシはお前の夢を応援しているが…しかしそろそろ生活の事も考えなければならん。お前一人になってしまった後、あの世からワシが手助けしてやれるわけでもないんじゃからな」

ネロ「心配してくれるのはありがたいけど、大丈夫だよ。今回の絵にはすごく自身があるんだ、コンクールで賞をとれる出来栄えだよ」

爺さん「しかしじゃなぁ…」

かぐや「確かネロは絵描きを目指しているのでしt……いえ、絵描きを目指しているのですか?」

ネロ「うん、そうなんだ。今日は絵画コンクールの作品受付の日でね、牛乳配達のついでにアントワープの街に作品を届けて来たんだ」

ネロ「いつも牛乳運びは僕とパトラッシュの仕事だけど、お爺さんがどうしてもついて行くって言ってくれてね…身体が悪いんだから家で休んでいていいのに」

爺さん「お前がコンクールに出品するというんじゃ、ワシが居てどうというわけでもないが…じっとしている事も出来んでな。なぁパトラッシュ?」

パトラッシュ「わうんわうん!」フリフリ

ネロ「二人も応援してくれているし、今回の作品で結果を残せれば絵描きの夢にぐんと近づけるんだ。コンクール結果は今月の末…クリスマスに発表される」

ネロ「僕は必ず賞を取って、絵描きになるんだ。そして、ルーベンスのような立派な絵描きになってたくさんの人に感動を与えたい」

かぐや「ルーベンス…?というのは有名な絵描きなのですか?」



674:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/01(月)00:16:09 ID:nKL

ネロ「かぐやさん…ルーベンスを知らないの!?」

かぐや「ええ、存じません」

爺さん「あぁ、駄目じゃかぐやさん…」

ネロ「なんて事だ…旅の人とはいえルーベンスを知らないなんてそんな事があるの?あのね、ルーベンスって言うのはね物凄く立派な絵描きなんだ。
どう立派かって言うとね…ああ、駄目だ言葉じゃ言い表せない!でもとにかく凄いんだよ、その作品は油彩画が多いらしいんだけど、何というかこう…
見るモノに感動を与える作品らしくてね、僕はもうルーベンスに凄くあこがれていて、それで…」クドクドクド

かぐや「……」

爺さん「すまんの、ネロはルーベンスの事になるとこうなんじゃ…」

ネロ「かぐやさん聞いてる?それでね、そのルーベンスの作品がアントワープにある大聖堂に展示されているんだ。僕はその絵を一目で良いから見てみたいんだ」

かぐや「私は絵画に興味は無いのでわかりませんが…そんなに素晴らしい作品ならば見てみればよいのでは?」

ネロ「僕も出来ればそうしたいけれどね…無理なんだ」

かぐや「絵画をただ見るだけなのでしょう?」

ネロ「大聖堂に展示されているルーベンスの絵を見るには見物料が必要なんだ。とてもじゃないけど、僕には手が届かない額でね」

かぐや「そうなのですか…」

かぐや(つぐみの髭の王が言っていた絵とはそのルーベンスという者の作品のようね。高い見物料の為にネロはその絵を見る事が出来ない。いえ、一度だけ見る事が出来る…)

かぐや(しかし、それはネロが息を引き取る時…その時、たった一度だけ。小さな願いが叶うだけで、ネロは報われず不幸なまま死んでいく…それがこのおとぎ話の結末)



675:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/01(月)00:19:54 ID:nKL

爺さん「ワシが金持ちじゃったら、ネロに絵画の見物料くらいだしてやれたというのにのぉ…」

ネロ「だからそんな事気にしなくていいんだって。僕がいつか画家として有名になって、絵を買ってくれる人が居たらそのお金でルーベンスの絵を見に行くから良いんだ」

ネロ「それに僕はお爺さんやパトラッシュが居るだけで十分なんだから」

爺さん「ネロや、お前は本当に健気な子じゃて…」

ネロ「もう、そんなことないって。僕を育ててくれたお爺さんに恩返しだって出来てないのに」

爺さん「何を言っているんじゃ、お前が居てくれるだけであの古びた小屋はぱぁっと明るくなるんじゃから恩ならもう十分に返してもらっとるよ」

かぐや「……」

かぐや(何故このような貧しくも清い者たちがいつも苦しい思いをするのでしょうか?その世界でも悪党ばかりが力を持ち、弱きものは貧しく不幸…納得がいきません)

爺さん「…しかし、かぐやさん。今夜の宿はどうするつもじゃ?ここは見ての通りの農村じゃから宿など無いのじゃ、アントワープの街まで行かなければならん」

ネロ「今からアントワープにもどって宿を探すってなると…早めにこの村を出ないと、夜遅くなってしまうよ?」

かぐや「そうですね…不躾なお願いではあるのですが、あなた方の元に置いてはくださいませんか?」

爺さん「それは構わんのじゃが…。ワシらは自分達の食事すら困窮している身、何のもてなしもしてやれんのじゃ」

かぐや「構いません。軒先を貸していただければそれで、食事を頂こうなど考えておりません」

爺さん「そういうことなら…あんなあばら屋でよけりゃ構わんが…本当に粗末な小屋じゃ、驚いてしまうかも知れんが…」

かぐや「その様な事はありません。好意で身を置かせていただくのに何故その様な贅沢を申せましょう、驚くなど失礼な事はありません」



676:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/01(月)00:22:15 ID:nKL

ネロの住む村 村はずれの小屋

ネロ「着いたよ、ここが僕達の住む小屋なんだ僕とパトラッシュは荷車の後片付けをして来るから二人は先に入っていてよ」

かぐや「……っ」

かぐや(これは…予想以上の粗末さですね。我が国の貧民でも、もうすこしマシな家屋に住んでいました。とても人が住む場所では…)

爺さん「…思った以上にボロイじゃろ?若い娘さんが身を置くにはあんまり粗末じゃ、知り合いの牧場主に頼んで一晩だけでも止めて貰えるように頼んで…」

かぐや「いいえ、申し訳ありません…正直驚いてしまいました。しかし、私は旅の身。十分でございます、どうかここに泊めてください」

爺さん「義理立てようとして無理しなくてもいいんじゃよ。お主は若く美しい、頼めば食事も恵んで貰えるじゃろうし」

かぐや「私はあなた方のような清い心を持つ者達の側に居たいと思うのです。待遇の良し悪しは関係ありません」

爺さん「そうかい…それならいくらでも居るといい。じゃが本当に何も構ってやる事は出来んがのぉ…」

かぐや「助かります。しばらくご厄介になりますが…このかぐやに手助けできる事がおありでしたらなんなりとお申し付けください」

かぐや(…見たところ、お爺様の言っている事は謙遜などでは無いのでしょう。本当に困窮している…。食べ物に困っているのなら後に野山で鳥獣の類でも狩ってきましょうか)

コンコンッ

爺さん「どうやら来客じゃな…珍しい。ネロはまだ裏手じゃし、どれワシが出て…あいたたたたたっ」ビキッ

かぐや「お爺様は無理をなさらないでください、私が出ましょう」スッ



677:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/01(月)00:24:07 ID:nKL


アロア「誰も出ない…まだ帰っていないのかな?ねぇネロ、お爺さん、パトラッシュ。居ないの?私よ、アロアよ」コンコンッ

ガチャッ

かぐや「お待たせしました。何用にございましょう?」スッ

アロア「わっ…綺麗な人…!」

かぐや(少女…。年の頃はネロよりもいくつか下でしょうか…?)

アロア「えーっと、ネロ…君はいますか?私、ネロ君に用事があって来たんです」

かぐや「…あなたはどちらさまでしょう?」

アロア「アロアって言います、ネロの友達…いえ親友です。えっと、あなたは…?」

かぐや「かぐやと申します。縁あってここに厄介になっている者です」

アロア「縁あって……あの、こんな事聞くの失礼ですけど…ネロとはどういう関係なんですか…?」

かぐや「どうといいましても…彼等は旅の私を家に置いてくださっているのです。それがなにか?」

アロア「旅人さんですか…じゃあかぐやさんはネロの事好きとかそういうのは…ないんですよね?」モジモジ

かぐや「はぁ…何を言いたいのかわかりませんが、ネロなら荷車の片づけをしているのでもうじき戻ると…」

ガタッ

ネロ「アロア……!どうして君がここに……!」



678:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/01(月)00:26:54 ID:nKL

パトラッシュ「わうんわうんっ!」スリスリ

アロア「パトラッシュ!久しぶりね、今日はあなたにもお土産があるの。食事の残りモノの骨だけど…あなた好物だもんね」ナデナデ

パトラッシュ「わふっわふっ!」ペロペロ

アロア「あははっ、喜んでるのね?良い子良い子」ナデナデ

かぐや「ネロ、彼女は何者なのですか?あなたの親友だと名乗っていましたけれど」

ネロ「…初対面のかぐやさんにまだそんな事を言ってるんだね、アロアは…」

かぐや「事情は知りませんが、あなたにとって都合の悪い相手というのなら私が殺し…いいえ、始末…ではなく、どうにかしましょうか?」スッ

ネロ「えっ!?いやいや、やめてよ。アロアは良い娘だよ、僕の幼馴染で何かと気に掛けてくれているしパトラッシュにも優しくしてくれる。でも…」

アロア「ネロ!もちろんあなたにも贈り物があるの、お母様にお願いしてパンを焼いてもらったのよ」ドッサリ

ネロ「…あのね、アロア」

アロア「少しだけど干し肉も持って来たの。あなたは何も言わないけど食事ができない日もあるんでしょ…?」

アロア「遠慮なんかしないでいいの、私達は友達だもん。困った時は助け合わなきゃ。私に出来ることなんかこれくらいだけど、でももっと私の事を頼ってくれても……」

ネロ「アロア、ありがたいけれど…受け取れない。それにここには来ないでくれと前に頼んだはずだよ…それなのにどうして来たんだい?」

アロア「あっ…ごめんなさい…。でも、ネロ…!」

ネロ「……ごめん。でももう帰ってくれ、ここは君が居てはいけない場所だ」



679:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/01(月)00:28:51 ID:nKL


アロア「…どうして!?私にとってあなたは大切な人なの、あなたが困っているのに…私には何もできないなんて嫌よ」

ネロ「…それは僕にとっても同じだ、今でも僕は君の事を親友だと思っている。大切な友達だ」

ネロ「でも…ここに居ては君の立場を悪くするだけだ。それにおばさんに頼んでパンを焼いて貰ったって言っていたけど、それももうやめて欲しい。おばさんにまで迷惑がかかるから」

アロア「私の立場が悪くなったって構わない、それにお母様だってあなたの事を心配していたわ」

ネロ「……」

アロア「今日、ここに来るのだって誰にも見つからないように来たの。だから、お父様は私がここに来ている事なんて知らない筈よ」

アロア「お父様はあなたが優しい子だって事を見ようとしてないだけ。貧しいからってあなたの事を悪く言って、あなたの夢を良く思っていないだけで…!」

かぐや「……っ!ネロの事を良く思っていない……男。彼女の父親……」ボソッ

ネロ「アロア、話しても無駄だよ。君のお父さんは僕達が仲良くしているのを良く思わない、だからもう僕とは会わないように言いつけたんだ。その約束を破っちゃいけない、良い事にはならない」

アロア「どうして…私達は、ネロは何も悪い事をしていないのに。どうして友達同士で仲良くしてはいけないの!?お父様にそんな事を決める権利は無いのに!」

アロア「私は…昔のようにあなたと遊びたいだけなの、風車小屋の下で…絵を描くあなたの側に居たいだけなの」

ネロ「……帰るんだアロア。もう二度とここに来てはいけない」

アロア「ネロ……!」

ザッ

男「彼の言うとおりだアロア。二度とこのような場所に来てはいけない」



680:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/01(月)00:30:42 ID:nKL

アロア「お父様…!どうして…!」ビクッ

男「お前のやりそうなことなどお見通しだ。アロアよ、私はお前に厳しく念を押したはずだが?もう二度とネロとは会わぬようにと」

アロア「だ、だけど…そんな事はおかしいです!私とネロはただの友達です、友達と会ってはいけないなんて…!」

男「お前はそう思っていたとしても世間はそうは思わん。じきに年頃の男女が親しくしていれば…良くない噂も立つ、お前もネロも顔が良くよく目立つから尚更だ」

男「嫁入り前のお前に妙な噂が立つ事は良い結果を生まない。まして村一番の富豪の娘と…土地も家畜も持たない貧民との間に良くない噂が立つなど…あり得ん事だ」

ネロ「おじさん。僕達はあなたが思っているような関係ではありません、アロアはただ…友人として僕を助けてくれようとしただけで」

男「当然だ、お前のような怠け者とアロアが恋仲などと思うはずがなかろう。だが世間はそういったくだらない噂話を好むのだ、小さな村ならば尚更な」

アロア「ネロは怠け者なんかじゃないわ!彼はルーベンスのような偉大な画家になる為に一生懸命頑張っているの!」

ネロ「アロア、もう良い…やめるんだ」

男「ああ、確かにこいつの絵は中々のモノだ。だがそれがどうした?絵描きなどというのはほんの一握りの天才だけに許された職だ」

男「多少才能があろうと、こいつのような貧しい子供に叶えられるものではない。叶わぬ夢を見るのは無駄な事、無駄な事に時間を費やすなど…遊び呆けている怠け者に過ぎん」

ネロ「……」

かぐや「あなたが…ネロを不幸にした元凶…この世界で私が滅するべき悪党なのですね」

男「悪党…?何を言っている、何者だお前は?」

かぐや「その前に…あなたの名を是非ともお伺いしたく思いますが…お聞かせいただけますか」

コゼツ「良いだろう、我が名はコゼツ…。この村に存在する全ての風車小屋を所有する者…バース・コゼツだ」



681:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/01(月)00:34:20 ID:nKL

かぐや「これはこれは…ご丁寧にありがとうございます。私はかぐやと申します」

コゼツ「貴様は私の事を悪党だと言ったな?今、貴様は私の立場を理解したはずだ…もう一度聞こう、先ほどの悪態は私の聞き間違いか?」

かぐや「いいえ、私は確かに申し上げました。あなたは悪党であると」

ネロ「かぐやさん…!駄目だ、そんな事を言っちゃあかぐやさんまで睨まれてしまうよ。今すぐに謝るんだ」グイッ

かぐや「あなたとアロアに非はありません。この男のつまらない世間体の犠牲になっているだけです、屈する必要などないでしょう」

ネロ「だから駄目だって、コゼツおじさんはこの村一番の富豪なんだ。こんな小さな村でそんな人に目をつけられる事がどういう事か…わかるでしょ?」ヒソヒソ

かぐや「えぇ、わかります。ですが…正義はこちらにあるのです、故に悪党に許しを請う必要などありません」

コゼツ「なかなか胆の据わった娘だ。それともただ後先考えぬ無知な娘か?どちらにしろ私がこの村一番の富豪だと知った上で悪態を吐くなど愚かな娘だ」

かぐや「随分と器の小さな男です、あなたは自分の立場を誇示しなければ他人と会話も出来ないのですか?」

コゼツ「ほう…余所者の娘が、口だけは達者なようだな。地位は力だ、それがわからんのなら身を持って教えてやろう」

ネロ「コゼツおじさん、彼女は余所の国の生まれで…もういろいろと良くわかっていないんです!だから大目に見てくださいませんか」

かぐや「引いていなさいネロ、悪党に頭を下げる必要等ありません。それに私は彼に用があるのです」

ネロ「何言ってるの、初対面のコゼツおじさんにようなんかあるわけないでしょ。良いからここは謝って、それで丸く収まるんだから」

コゼツ「小僧、その娘の好きにさせよ。私もそこまで言われて大人しく引き下がれるほど、安いプライドは持っていないのでな」



682:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/01(月)00:36:25 ID:nKL

コゼツ「貴様は私を悪党だと言ったが…それは私がネロとアロアの仲を引き裂いたからか?」

かぐや「それも要因の一つではありますね」

コゼツ「貴様のような若者には理解出来んだろうがアロアは村一番の富豪の一人娘…誰とでも仲良くしていていいわけではないのだ」

かぐや「随分な暴論ですね、どんな家柄であろうとその人間が誰と仲良くしようと当人の勝手です」

コゼツ「そういうわけにもいかぬ、アロアは富豪の…あるいは貴族の息子と結婚させる。ネロとおかしな噂がたてばうまくいくものもいかんのだ、それはアロアの幸せにも我が家系の繁栄にも響く」

かぐや「自分の娘をお家の繁栄の為に利用すると?」

コゼツ「庶民には考えられんかもしれんがな、富豪の娘とはそういうものだ」

アロア「お父様、私はそんな結婚望んでいません。それに私はまだ十二です、そんな話は…」

コゼツ「お前は黙っていなさいアロア。全て父に任せていれば問題ないのだ、我が家が繁栄する事はお前にとっても喜ばしい事なのだからな」

かぐや「つまり…あなたはそのくだらない欲望の為にアロアやネロを苦しめると」

コゼツ「欲などと言うな、一族を繁栄させる事は家長である私の責務だ。それに何か間違いがあってからでは遅いのだ」

かぐや「…その為に、彼の生活を脅かす事も罪を着せる事も厭わぬというのですね?」

コゼツ「唐突に何を言い出す。私がいつその様な事をした?」

かぐや「…仮にです。今後、あなたは自分の欲望の為に…ネロの仕事を奪ったり罪の濡れ衣を着せる…そう言った事も厭わないのでではないかと聞いているのです」

ネロ「かぐやさん…?」



683:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/01(月)00:38:25 ID:nKL


コゼツ「私を見くびるな、必要がなければその様な事はせぬ」

かぐや「それはつまり…必要があればすると、そう解釈してもよろしいですか?」

コゼツ「好きにしろ。だが…ネロとアロアが私の言いつけを破り続ければ、そういう事になる可能性も十分にあり得る」

かぐや「…例えその様な事態になったとしても、それはネロやアロアが言いつけを護らなかった事が原因だと。その様な口ぶりですね」

コゼツ「当然だ、大人の言いつけや忠告を護れないのなら…相応の罰を与える、それが教育というものだ」

かぐや「夢を持つ少年を蔑み、苦しめるのが大人のする事だと?」

コゼツ「現実を見せる事の何が悪い?ネロのような貧乏人が画家になろうなど…自惚れもいいとこだ、分相応に生きるべきと教える事も必要だ。貴様のような若者にはわかるまい」

コゼツ「貧しい家系はその時点で何の権利も持てぬのだ。貧しき者や弱者は夢すら持てぬ、幸福を願う事も叶わぬ。だがそれは定められた運命、故に幸福を願うなど…おこがましいのだ」

かぐや「……もう結構。どうぞお帰り下さい、あなたと話す事はもうありません」

コゼツ「ほう、納得したか…。いいだろう、余所者という事で今回の無礼は見なかった事にしてやろう。いくぞ、アロア」

アロア「はい、お父様…」

かぐや「ですが…足元にはお気を付け下さい。つまずいて転んだりしないようにしてください、このあたりは砂利が…多いですから」

スッ

コゼツ「むっ?何を言って……。っ!?」ズズッ

ゴシャアアァァァ ベキベキベキ

コゼツ「ぬぐおぉぉっ!な、なんだこの押さえつけられるような力は…!」グググググ



684:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/01(月)00:40:40 ID:nKL

かぐや「おやおや、ですからお気を付け下さいと言ったではありませんか…しかし、随分と盛大に転びましたね」クスクス

コゼツ「貴様が…何かしたのか…!」ギロリ

かぐや「言いがかりはおやめ下さい。私は妖術使い魔法使いの類では無いのですから、手を触れてもいないのにあなたを転ばせる事などできませんよ」

コゼツ「転んだ…だと?抜かせ、このおかしな力…貴様ただの旅の女じゃないな!?」ググググ

かぐや「私はただの旅人ですよ。さぁ、手をお貸ししましょう…娘さんの前でいつまでも転んだままというのもお恥ずかしいでしょう」スッ

コゼツ(…?急に押さえつけるような感覚が消えた…)

かぐや「ほら、押さえつけるような力なんかあなたの勘違いですよ。しかし、もしもその押さえつける力が本物だとしたら…」

かぐや「身体が破裂するまで押さえつけることも可能でしょうね」

コゼツ「……」

かぐや「どうかなさいましたか?風車小屋の主、バース・コゼツさん?」

コゼツ「ネロ…そしてかぐやと言ったな、もう二度と私やアロアに近づくな」

かぐや「約束はできませんね。今後しだいですから」

コゼツ「…まぁいい。帰るぞアロア」

スッ

ネロ「……」



686:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/01(月)00:43:51 ID:nKL

かぐや「悪党は何処にでも居るもの…とはいえ大変な目にあいましたね、ネロ」

ネロ「ねぇ、かぐやさん。コゼツおじさんが地面に押さえつけられてたあの力って…何?」

かぐや「ネロまで私が何かしたと思っているのですか?ふふっ、ですから私は妖術使いでも魔法使いでも無いんですよ?」

かぐや「妖術も魔法もおとぎ話の世界の出来ごとなんですから、私にそんな力が使えるわけが…」

ネロ「だったらむしろ…使えるよね。この世界はおとぎ話の世界なんだから、それにかぐやさんはどこかよその世界から来た…おとぎ話の住人なんでしょう?」

かぐや「……」

ネロ「隠さなくてもいいよ、僕はこの世界の正体を知ってる。【フランダースの犬】というおとぎ話で、僕はその主人公だ」

かぐや「…そうですか、あなたもまたおとぎ話の世界の事情を知る一人でしたか」

ネロ「かぐやさん…あなたの目的は何なの?風車が見たいなんて嘘だったんだよね。何の為にこの世界に来たの?」

かぐや「あなたの事を救うためです。この世界がおとぎ話の世界だと知っていると言う事は…あなたは知っているのでしょう?この先、自分の身に何が起きるのか」

ネロ「もちろん、でもそれを知ってるのはこの世界では僕だけだ。だからこの先僕やパトラッシュがどうなるか…知ってる」

かぐや「その不幸からあなたの身を救う為に、私は来たのです。不幸なあなたを救う為に、私は正義を掲げこの場に来たのです!あなたはもう苦しむ必要は無いんです」

ネロ「……気持ちは嬉しいけど、でもそれは……余計な事だよ」

かぐや「……今、何と言ったのです?」

ネロ「余計な事はしないで欲しいと、そう言ったんだかぐやさん。僕は…救って貰うつもりなんて無いんだよ」



702:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/06(土)00:20:09 ID:tT7

短めですが更新していきます



704:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/06(土)00:24:28 ID:tT7

かぐや「救って貰うつもりは無い…。今、あなたはそう言ったのですか?」

ネロ「うん、そう言ったよ。でもかぐやさんは僕とは違う考えなんだよね…きっと【フランダースの犬】の結末を、僕の運命を不憫に思ってくれたんだ。だからここに居る、そうだね?」

かぐや「えぇ、その通りです。私はある男からあなたの話を聞きました、あなたが辿る運命とその末路を」

ネロ「そっか…それで僕を運命から救うため、おとぎ話の結末から逃す為にこの世界に来てくれたって事なんだね」

かぐや「はい、私は今までに様々なおとぎ話の世界を旅してきました。【さるかに合戦】や【瓜子姫と天邪鬼】【千匹皮】…他にもいくつもの世界を飛び回りました」

かぐや「そして…弱き者、不幸な者を何度も見てきました。狡猾な悪党に騙された者、嫉妬を向けられ命を脅かされた弱者、権力を振るわれ望まぬ婚姻を結ばされた者…どんな世界でも例外なく、悪党と被害者は存在していました」

かぐや「私はそんな弱者を救い、悪党を葬る為に旅を続けてきました。そしてこの能力で大勢の人々を救い、そして悪党を滅してきたのです」

ネロ「能力…コゼツおじさんに使ったあの重力の力だね?」

かぐや「はい、私の能力はそれだけではありませんが…。ですが重力操作は私が持つ最も強力な能力です、増加すれば押し潰す事も減少させれば身軽にし浮かせる事もできる」

かぐや「こんなに優れた力を私以外の誰が持っているというのです?私は特別なのです、神に愛された特別な存在。だからこそ生まれながらにこの素晴らしい力を授けられました」

かぐや「そして私は、この能力を弱き者達の為に使うと決めたのです。不幸な者達を救う為に、正義を執行し世界を平和で包む為に…私はこの能力を行使するのです」

ネロ「……」

かぐや「あなたは救って貰うつもりは無いと言いましたが…もう一度よく考えてみてください。何故、身に降りかかる不幸に歯をくいしばって耐える必要があるのです?」

かぐや「私はネロを不幸な運命から救う為にこの世界に来たのです…そして私にはそれを叶える力がある。安心してすべて私に任せなさい、あなたに確かな幸せを約束しますから」



705:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/06(土)00:26:06 ID:tT7

ネロ「確かな幸せを約束する、か…。ははっ、そんな事言えちゃうなんてすごいね…かぐやさんは…」

かぐや「いえ、力を持つ者として当然の行いです。まず手始めにあなたを蔑ろにしてきた悪党コゼツというあの男を殺しましょうか?復讐の為に」

ネロ「かぐやさん、それさっきも言ってたけど…駄目だよ、そんな事は何にもならない」

かぐや「そうですか?しかしあなたがそう望むのなら悪党を殺すのは見送るとしましょう。となると別の方法であなたを幸せにしなければなりませんね」

かぐや「あなたがまたアロアと遊びたいというのなら私があの男と『交渉』して首を縦に振らせましょう。食べ物にもお金にも不自由させません、私が工面してあげます」

かぐや「ルーベンスの絵を見る為の見料も与えます、画家になりたいという夢を叶える為に別の世界の画家を探して弟子入りするというのもいいですね」

ネロ「うん…うん、どれもこれも素敵な提案だ」

かぐや「そうでしょう?清く正しく生きてきたあなたには幸せを掴む権利がある、さぁまずはどの夢から叶えますか?もちろん、全てでも構いませんよ」

ネロ「……。パトラッシュ、僕の側においで」スッ

パトラッシュ「わうんわうんっ!」ペロペロペロ

ネロ「よーしよし。よかったなパトラッシュ、アロアに食べ物を分けて貰って…ちゃんと感謝しながら食べなきゃね」ナデナデ

パトラッシュ「くぅんくぅん」ペロペロ

ネロ「ねぇ、かぐやさん…僕の為にいろいろしてくれるというのはうれしいんだけどさ…」

かぐや「…はい、どうかなさいましたか?」

ネロ「折角だけど、僕は…なにもいらない。僕は自分に与えられたありのままの運命を受け入れる事を選ぶよ」



706:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/06(土)00:28:51 ID:tT7

かぐや「理解に苦しみますね…正気なのですか?」

ネロ「うん、ごめんね。折角僕の為にわざわざ別の世界から来てくれたっていうのに」

かぐや「そんな事はどうでもいいのです、それよりもネロはわかっているのですか?あなたの場合、運命を受け入れるという事は命を失うということなのですよ?」

かぐや「あなたは優しい。お爺様やパトラッシュにはもちろん、見ず知らずの私にも声をかけてくれました。コゼツの言いつけを破ってここに来たアロアを心配し優しく諭しもしました」

かぐや「他人を思いやる事の出来る素敵な心をあなたは持っている。それは短い時間しか関わっていない私にでも解る事です」

ネロ「ははっ、僕はそんな大層な人間じゃないよ」

かぐや「…いいえ、謙遜の必要はありません。そして私は思うのです、真の幸せを掴む権利があるのはあなたのような善人だと」

かぐや「今、あなたの目の前には確かな幸せが迫っている…それなのに手を伸ばす事も無く見過ごそうとしている。何故あなたが元々与えられた悲惨な結末にこだわるのか、私にはわかりません」

ネロ「……」

かぐや「その理由…教えてはくれませんか?」

ネロ「失礼な言い方になっちゃうけど、かぐやさんには理解出来ないかもしれないよ?」

かぐや「構いません」

ネロ「わかった、話すよ。まず…この後、【フランダースの犬】で起きる事を聞いて貰おう…今から大体二週間後くらいかな、今月の半ばにアロアは誕生日を迎えるんだ」

ネロ「でもその日の夜、コゼツおじさんの風車小屋が何者かに燃やされる。怪我人は出ないけど…風車小屋が全て焼け果てるほどの大火事だ」



707:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/06(土)00:30:37 ID:tT7

ネロ「翌日になって、放火の犯人捜しが始まる。何しろ全ての風車が燃えたんだからその被害は甚大で…そしてコゼツおじさんは僕が放火の犯人に違いないと怒鳴りつけるんだ」

かぐや「根拠は何なのですか?あの男は悪党ですが、なんの根拠も無くあなたに放火の容疑を駆ける等出来ない筈」

ネロ「間の悪い事に僕は放火があったその夜、風車小屋の側の道を通ったんだ。アロアの元に向かう為にね」

かぐや「…アロアの誕生日のお祝いをする為に向かったのですね?会う事を禁じられているあなた達は昼間に会うのは難しい、故に夜遅く…人目を避けるように出歩いた」

ネロ「うん、その通りだよ。それが仇になっちゃったんだね、でも真実を言う事は出来ない…僕の容疑は晴れるかもしれないけれど、アロアが叱られてしまうから」

かぐや「…しかし、証拠があるわけではないのでしょう?いくら疑わしいとはいえ、村の者たちはコゼツの言葉をそのまま信じるというのですか?」

ネロ「村のみんなだって僕が犯人だなんて思わないと思うけど…でもコゼツおじさんが言っていた通り、あの人はこの村一番の富豪だ」

ネロ「余計な事を言わずに、従っていた方が波風が立たない。こんな小さな村ではそのほうが賢い生き方なんだ」

かぐや「…自分の身可愛さに悪党に従うなど、悪事の片棒を担いでいるに等しいです」ギリッ

ネロ「とにかく…村の人たちに相手にされなくなれば牛乳運びだって出来ない、それが原因で僕は仕事まで失うんだ。そしてクリスマスを数日後に控えたある日、お爺さんはこの世を去る…もう随分高齢だからね」

ネロ「クリスマスを前に仕事を失って収入も無い、お爺さんの葬儀でもう僅かなお金さえも手元に無い僕は家賃を払う事も出来ず、住む場所まで失う」

かぐや「…ネロ、もういいです。これ以上は聞くに堪えられません、あなたが不幸だという事はもう十分に…」

ネロ「…違うよ、僕は自分が不幸だってことを証明したいわけじゃないんだ。最後まで聞いて欲しい」

かぐや「……わかりました、続きをどうぞ話して下さい」



708:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/06(土)00:32:24 ID:tT7

ネロ「行くあても無い僕はコンクールの結果発表がその日だという事を思い出して、その結果に最後の望みを掛けるんだ」

ネロ「雪の降る中、僕はパトラッシュと二人でアントワープまで歩いていく…でも結果は落選だ。僕は仕方なく、村に戻る事にしたんだ」

ネロ「その途中でパトラッシュは道に落ちている袋を見つけるんだ。それはコゼツさんが落としたもので、中には大金が詰まっていた。先の火事で大損害を受けたコゼツさんにとってそれは失えば一家離散を免れないほどの額だった」

かぐや「それを、あなたはどうしたのですか?悪党の持ち物だとはいえ自分のモノにする様な事は…」

ネロ「もちろんしないよ。僕はお金をアロアのおばさんに渡した、そしてパトラッシュの事もお願いするんだ。どうか、僕の愛犬の事をよろしくお願いしますって」

パトラッシュ「くぅん…」スリスリ

ネロ「そんな顔をするなよパトラッシュ。未来の僕は、せめて君には生きて欲しいと思ってアロアの家に預けようとしたんだから」ナデナデ

かぐや「しかし、パトラッシュはあなたと共に息を…」

ネロ「うん。本格的に行くあての無くなった僕はアントワープにある大聖堂に向かっていた、ルーベンスの絵がある場所だね」

かぐや「あなたの後を追ってそこにパトラッシュも向かうわけですね?」

ネロ「うん。夜になると絵には布がかけられるんだけど…その日は係が忘れたのか布は掛けられていなくて、月灯りに照らされたその美しい絵を僕とパトラッシュは見る事が出来るんだ」

ネロ「ずっと見たいと思っていたその絵を最後に見る事が出来て、もう何も思い残すことなんか無い。僕とパトラッシュはそのまま…息を引き取る」

かぐや「絵を見るなんてそんな小さな夢をかなえたところで、死んでしまっては何の意味も……」

ネロ「そう言わないでよかぐやさん、僕にとってその絵を見る事は画家になるのと同じくらい大切な夢なんだ」



709:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/06(土)00:35:21 ID:tT7

ネロ「それにね、僕とパトラッシュは死んでしまうけれど…このおとぎ話には続きがあるんだ」

かぐや「続き…ですか?」

ネロ「どれだけ探しても落としたお金が見つからなくて、コゼツさんは絶望しながら家に戻るんだ。でもそこで、僕がお金を届けた事をおばさんに聞くんだ」

ネロ「僕がキチンとお金を届けた事にコゼツさんは感動して…そして反省してくれるんだ。ネロは正直者だったのに信じてやる事が出来なかった、アロアとの仲を引き裂いて悪い事をしてしまった…ってね」

かぐや「…反省なんてしたところでもう遅いでしょう、コゼツが今までの行いを悔いる頃にはあなたはもう既に…」

ネロ「それだけじゃないんだ、コンクールで審査員を務めた一人の画家が…僕の絵を絶賛してくれるんだ。ルーベンスの後を継ぐ才能を持つ少年…だなんて言ってくれるんだ」エヘヘ

ネロ「その上、僕を引き取って弟子として育てたいと思ってくれるんだ。僕の作品は落選したけれど…でも、僕の才能を信じてくれる画家が居た…僕はそれがすごく嬉しい」

かぐや「……」

ネロ「かぐやさんは僕の運命が悲惨だと言ったけれど…僕はそうは思わないんだよ」

ネロ「お爺さんが亡くなる事は悲しいけれど、別れはいつか来るものだ。放火の濡れ衣を着せられた事だって僕が疑われるような場所に居た事が悪いし、アロアが叱られなかったならそれでいい」

ネロ「仕事を失った事も住む場所を失った事もコンクールに落選した事も、何一つ誰かが悪いわけじゃない。誰かを恨む事なんて間違っている」

ネロ「僕はどんなに貧しくてもコゼツさんの財布を盗むような悪事に手を出さなかったし、夢だったルーベンスの絵を見る事だって出来た。コゼツさんや画家の先生だって僕を認めてくれた」

ネロ「それに…僕は愛する家族のパトラッシュと一緒に天国へいけるんだ。最期まで清く正しく生きて、夢も叶って自分の事を認めて貰って…家族ともずっと一緒だ」

ネロ「僕にとってこんなに幸せな事は無いよ。だから僕は別の結末なんて望まない、元の結末のままで十分に幸せなんだ」



710:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/06(土)00:39:42 ID:tT7

かぐや「例え命を失ったとしても、辛い人生を送ったとしても…ネロは自分自身の結末に不満が無いというのですか?」

ネロ「うん。ルーベンスの絵の前で息を引き取れるだけでも幸せなのに…コゼツさんや画家の先生にまで認められて、むしろ幸せ者だよ」

ネロ「それに大好きなお前と離れ離れにならずに済むしね、パトラッシュ」ナデナデ

パトラッシュ「くぅんくぅん」スリスリ

かぐや「……」

かぐや「ネロの考えはわかりました。私とは随分考え方が違うようですが…」

ネロ「解ってくれたなら嬉しいよ。お願いするよかぐやさん、僕はこの物語の本当の結末を望んでる…だから妙な手出しをして、物語を改変したりしないで欲しいんだ」

かぐや「解りました、あなたがそれを望むというのなら…私は余計な手出しはしません」

ネロ「うん、ありがとうかぐやさん。もしかしたらかぐやさんは納得してくれないかもって思ってたから、嬉しいよ。僕の気持ちを理解してくれて」

かぐや「ですが…私がこの世界に居る事自体は問題ありませんね?折角ここまで来たのですから、どうかこのおとぎ話が結末を迎えるまではあなたの側に居させてください」

かぐや「クリスマスの夜にあなたが息を引き取るまで…異国の居候が側に居たとしても、物語に大きな影響は出ないでしょう?」

ネロ「うん、もちろん。かぐやさんがそうした言って言うなら、僕は歓迎だよ。何もしてあげられないのが申し訳ないけど」

ネロ「さぁ、すっかり長話をしちゃったね。小屋の中に入ろう、暗くなるまでにしてしまわないといけない事もあるし、折角だからかぐやさんの話も色々と聞きたいしね。いいよね?」フフッ

かぐや「ええ、私が旅してきた世界の話ならば喜んでお聞かせしますよ。あぁ、私は少し風に当たってからいきますから、ネロは先にいっていて下さい」フフフ

ネロ「そう?うん、わかった。いこうパトラッシュ」スッ

スッ パタン

かぐや「……。あり得ません、死んで幸せになんてなれるわけがないでしょう。彼は解っていないだけ…本当の幸せを…解っていないだけなのです…」ボソッ



711:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/06(土)00:42:06 ID:tT7


その夜遅く
フランダースの犬の世界 ネロの住む小屋

・・・

爺さん「ぐぅぐぅ……」

ネロ「スゥスゥ……」

かぐや「……」ムクッ

かぐや(……何だか、眠る事が出来ないわね。月灯りでも眺めていれば、眠くなるかしら)スッ

かぐや「……ネロが考える『幸せ』の意味、理解しようと考えてはみましたが…やはり私には理解できません」

ネロ「スヤスヤ……」

かぐや「なんて可愛らしい寝顔なのでしょう。この心優しい少年が命を落とす必要などありましょうか…」

かぐや(けれど、この子は自分の死を受け入れると言った…。あぁ…ネロは本当に可哀そうな少年。彼は本当の幸せがどういうものなのか知らないのね)

かぐや(知らないから、自分に与えられた結末に満足してしまう。あんな悲惨で救いの無い結末を曲解して、自分が幸せだと思いこもうとしているのね)

かぐや(ルーベンスの絵を見れたからなんだというの?そんなものはただの絵画…見たところで何が変わるわけでもない)

かぐや(コゼツや画家が認めてくれたとは言うけれど、そのころにはもうネロは死んでしまっているのにそんな事に何の意味があるというの?)

かぐや(大好きなパトラッシュと一緒に息を引き取れたから幸せ?馬鹿馬鹿しい…死ぬ事は不幸な事なのです、それが幸せに繋がることなど決してない。生きてこそ幸せは得られるもの)

かぐや(あぁ、可哀そうなネロ…。でも安心なさい、私があなたを絶対に幸せにしてみせる。あなたが口にしていたのは全て偽物の幸せ…そんな者比べモノにならないほどの幸福を与えてあげるわ)

かぐや「何も心配はいらないのですよネロ。私が本当の幸せというものをあなたに教えてあげます。私に任せていれば、何の心配も無いのです」



712:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/06(土)00:45:36 ID:tT7


現在
かぐや姫の世界 悟空達の住む小屋

かぐや「私は自惚れていた…。幸せというのは全ての人間に共通しているものだと思い込んでいたのです」

かぐや「辛い生活からの解放、食卓いっぱいの美味しい食べ物、使いきれないほどの大金…豊かな暮らしが送れて、心配事がなければ幸せだと思いこんでいた」

かぐや「だから…ネロが見出していたささやかな幸せなんか、ニセモノでしかないと考えていたの。その頃の私は…自分の考えこそが正しい、自分の考えが間違っている事なんて想像すらしなかった」

かぐや「強力な重力操作能力…そのおかげで私は何だって思い通りにしてきた、だから自分が神様のように絶対的な存在だと信じて疑わなかった」

孫悟空「まぁ、何が幸せでそうじゃないかなんざ、そいつ次第だからな…むずかしい問題ではあるが」

玉龍「でもぶっちゃけ、ウチもネロの考えは理解できないッスね!絶対に生きていた方が何かしら良い事あるッス、それなのに諦めるのは駄目ッス!」

ドロシー「生きててこそ楽しい事も辛い事もあるんですもんね…やっぱり死んじゃったら幸せも何もないと、私も思います…」

ティンカーベル「うーん、私はネロ派かなー。そりゃ死なないで済むならその方が良いけど、例え死んじゃったとしても強い想いは消えないわけだしー」

キモオタ「ですなwwwマッチ売り殿もそうでござった、少し状況は違うでござるが自分の死を受け入れていたでござる」

キモオタ「ネロ殿と違ってあの子の場合は自分ではなく…他人の幸せを願って死を受け入れたでござるけど」

かぐや「ネロもマッチ売りちゃんも自分の境遇に負けることなく、正しいと思った事をしていて…とても立派ね」

ティンカーベル「ねぇねぇ、それで…かぐやはどうしたの?ネロは元々の結末に満足してるって言ってたけど、かぐやは納得してないんだよね?」

かぐや「そうねその時のあたしの頭の中にあるのは…どうやってネロを幸せにするか。ただそれだけ…



714:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/06(土)01:01:38 ID:tT7


かぐや「そうこうしているうちに月日は流れていったわ」

かぐや「私はそのままネロとお爺様の小屋に居候していた、ネロには『折角だからあなたの結末に付き合いたい』と言っていたけれど、本当は違った」

かぐや「なんとかしてネロを幸せにしようとしていた。ううん、『私が考える幸せ』をネロに押し付けようとしていたのね」

キモオタ「正義感が空回りしていたのでござるなぁ…」

孫悟空「しかも強力な能力をもっちまってるからそれに気が付けねぇ…俺も似たようなもんだ」

玉龍「強すぎて敵がいなかったッスから天界までいって大暴れッスもんね。強力な力を持つって言うのも考えもんッスね」

かぐや「でも…私は少なくともこの頃は幸せだったわ。貧しかったけれど、ネロとお爺さんとパトラッシュと暮らして…この頃はまだ村の人たちも優しかったから」

かぐや「それにきっと…ネロも同じ気持ちでいてくれたんじゃないかしらね」

ティンカーベル「そうだねぇ…でもこの頃はって事は、じゃあこのあとは優しくなくなっちゃう…?」

ドロシー「コゼツさんの風車小屋が燃えてしまった後は…村の人たちはネロに厳しくなっちゃうんですね…?」

かぐや「そうね、その通りよ。そこから私は…ネロの運命を間近でみる事になって、その事に耐えられなくなってしまったの」



かぐや「そして…私は決断した。交わした二つの約束を両方とも破ってしまうことを」



723:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/08(月)00:08:40 ID:Xjq


かぐやがこの世界に訪れて三週間ほど後
フランダースの犬の世界 ネロの家

ガチャッ

かぐや「只今戻りましたお爺様。お身体の具合はいかがでしょう?」スッ

爺さん「ゲホゲホ…。おぉ…かぐやさん、おかげさんで随分と調子がいいんじゃ…ゲホゲホッ、ゲホゲホ」

かぐや「とてもそうは見えませんが…それにまた食事を残していますね、召し上がらないと具合も良くなりませんよ」

爺さん「すまんのぉ、食欲が沸かんのじゃ…。折角、かぐやさんが貴重な食材を使ってワシの為に作ってくれたというのに…」ゲホゲホ

かぐや「それはお気になさらず。鳥獣の肉なら野山に入ればまた手に入ります、食欲がないのならせめて水分だけでもしっかりと摂ってください。どうぞ、お水です」スッ

爺さん「あぁ、ありがとう…。しかし、情けの無い事じゃ…この老いぼれはもはや何の役にも立たん。旅人のあんたにまで世話をして貰って…申し訳ない限りじゃ」

かぐや「何を言っているのですか、申し訳ないというのはこちらの方です。思ったようにお金を稼ぐ事が出来ず、あなたに薬ひとつ買う事が出来ないのですから」

爺さん「旅人のあんたがこんなところで無駄金使ってどうするんじゃ。こりゃあもう薬でなおるようなもんじゃない…もう歳なんじゃからそう長くはないじゃろう」ゲホゲホ

かぐや「そんな事を言うのはやめてください、あなたが亡くなってはネロが悲しみます。さぁ、起きていては身体に障りますから少し休んでいてください」

爺さん「そうじゃな…せめてネロのコンクールの結果が解るまでは生きておらんとな…」ゲホゲホ

かぐや「…ええ、そうです。彼の晴れ姿を見ずに逝ってしまうなど勿体無いですよ」

かぐや(……)



724:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/08(月)00:11:16 ID:Xjq

かぐや(私がこの世界に訪れて三週間ほどの月日が流れた)

かぐや(あの日から私はこの家に居候をしている。ネロは相変わらず牛乳配達をしていたけれどお爺さんはあの日の無理がたたったのかもう寝たきりの生活が続いていた)

かぐや(私はというと、この家に少しでも恩を返す為と野山に入っては鳥獣を捕えてそれを売り稼ぎにしている。しかし、真冬のこの時期に捕えられる獲物の数はそう多くない)

かぐや(稼ぎは思ったより増えず、相変わらずネロ達は貧しい生活をしていた。けれど、以前よりは食事を取る事が出来る回数は増えたようだったから、それは嬉しいと思う)

かぐや(それに、私が家事をするようになってネロは絵を描く時間を取れるようになった。彼は楽しそうに絵を描く、きっとその時だけは苦しさから解放されるのだろう)

かぐや(私もそんなネロを見ているのは楽しかったし、一時でも彼が幸福感を感じているのならば喜ばしい事だった)

かぐや「……けれど、そんなものはあくまで一時的なもの。私が彼に与えたいものはそんな小さなモノじゃない」

かぐや(貧しくても幸せだというネロの主張は少しだけ理解出来た。けれど…死ぬ事を幸せと結び付ける考えは未だに理解できないしするつもりもない)

かぐや(私は今、ネロたちと過ごす時間が幸せよ。彼が楽しげに絵を描く姿は、夢に向かって努力している姿は好き。けれど…結末が不幸じゃあ意味なんか無い)

かぐや「このままじゃ駄目ですね…。私がネロをうんとに幸せしないといけません、彼が幸福というものを理解していないのだから正義の使者たる私が彼を導かなければいけない…」

ガチャッ

パトラッシュ「わうんわうんっ」

ネロ「ただいま。あぁ、かぐやさん帰っていたんだね、お疲れ様」

かぐや「おかえりなさいネロ、パトラッシュ。今日は随分と早かったのですね…。やはりもう…牛乳運びの仕事はできそうにありませんか?」

ネロ「うん…無理そうだね。新しく街から来た業者は随分とサービスが良くて評判もいいみたいだし、どうしようもないよ」



725:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/08(月)00:13:36 ID:Xjq


かぐや(あの日ネロが教えてくれた通り、コゼツの風車小屋は全焼し…ネロはその罪を着せられた。ネロの強い意志もあって、私にはそれを防ぐ事が出来なかった)

かぐや「コゼツのやり口は非常に卑劣なものです。商売敵を呼び、ネロの仕事を奪うなど…人の所業とは思えません」

ネロ「仕方がないよ。この村じゃ僕はコゼツさんの風車小屋を燃やした犯罪者扱いだ、そんなところと取引なんかしてて良い事なんか無いから」

かぐや「いいえ、平然と悪に屈する事が私には許せないのです。あなたが無罪だと多くの村人たちは信じている、だというのに保身の為にあなたを見捨てた」

ネロ「そんな言い方はよくないよ。みんなだってそれぞれの生活があるんだし」

かぐや「いえ、真に心の強い者は悪党に屈したりはしません。村はずれの牧場の主人を見てみなさい、彼は強い人です…ネロの無罪を信じて今も牛乳の取引を続けているではないですか」

ネロ「あのおじさんは正義感が強いからね…でも今日言って来たよ、今までのお礼と…明日からは新しい業者に牛乳運びを依頼して欲しいって事をね」

かぐや「…何故ですか?仕事を失うのは貴方の運命かもしれませんが、そんな自ら投げ出すような真似をする必要は…」

ネロ「牧場の奥さんね、お腹に赤ちゃんがいるんだって。僕に同情したせいでおじさんまで仕事を失ったら大変だよ、そんな事になっちゃ嫌だしね」

かぐや「…私はあなたが仕事を失い、不幸になる事の方が嫌ですけどね。しかし職を失ったとしても、私ならばあなたを幸せに出来ますよ?今からでも遅くは…」

ネロ「もう、かぐやさんは何かというとその話ばっかりなんだから。その話は決着付いたでしょ?」

ネロ「僕はそのままの結末で十分幸せなんだ。むしろかぐやさんが来てくれたおかげで毎日が前よりも楽しいよ、絵を描く時間も増やして貰えたし…食事も前よりとれるようになった」

ネロ「こんな事言うのは照れ臭いけど…お姉さんが出来たみたいで僕は嬉しいんだ。だから不幸だなんて僕は微塵も思わない、むしろ幸せ者だよ」



ネロ「ちょっぴり強情だけど、こんなに綺麗で優しいお姉さんが出来たんだから」フフッ



726:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/08(月)00:16:12 ID:Xjq

かぐや「強情なのはお互い様ですね。この際だから言ってしまいますが…実は私も、ネロの事を弟のような存在だと思えていたのです」フフッ

ネロ「そうなの?ははは…お揃いだね。でもこういうのって面と向かって口にするとなんだか恥ずかしいね」

かぐや「そうでしょうか?恥ずべき事では無いのですから口にすべきです、今やあなたもお爺様もパトラッシュも私にとっては大切な家族なのですから」

かぐや(……だからこそ、私には納得がいかない)

かぐや(ネロと過ごせば過ごすほど、彼の事を知れば知るほど…。彼の運命に納得できない、このおとぎ話の結末を受け入れられない)

かぐや(どうしてネロなの?どうしてネロが苦しまなければいけないの?他に苦しむべき悪党は大勢いるというのに…)

かぐや(それに…私は気が付いてしまった。何故、あのつぐみの髭の王が私にあんな約束をさせたのか、何故この世界を消滅させないようになどといったのか…)

かぐや(ネロの話だと、彼が命を失った後コゼツは今までの行いを悔いる。ネロが死んでから反省したところで何の意味も無いけれど…コゼツの反省も含めてこのおとぎ話の結末になる)

かぐや(だからコゼツを殺せばこの世界を消滅させる事になる。他の事も全て同じだ…ネロが不幸になる要因に私は何一つ手が出せない)

かぐや(私には重力を操れても人の生き死には操れない、だからお爺様を救う事は出来ない。命を失ったネロをよみがえらせる事も出来ない)

かぐや(牛乳屋を殺すのも村の連中を懲らしめる事も、コンクールの審査員にネロの絵を選ばせるように仕向けても…この世界は消える)

かぐや(その上…ネロはそれを望んでいない。小さな幸せを得る為に死を選ぶような少年だもの。だから私には…この世界とネロを両方とも救う事は決してできない)

かぐや(…つぐみの髭の王はそれを知って、私を騙した。出来もしない難題を押し付けて私を苦しめる為に。悪党の言葉を信用すべきじゃなかったのよ…)

かぐや(でも今はそんな事を言っても仕方がない…。今の所憎らしいほど順調に物語が進んでいる。お爺様の命は……あと数日持たないでしょうね)



727:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/08(月)00:19:19 ID:Xjq

数日後

かぐや(私達の看病もむなしく、お爺様は今朝方息を引き取った。ベッドの上で眠る様に…穏やかな表情のまま天に召された)

かぐや(お爺様にはネロの運命を話していない。きっとネロがコンクールで賞をもらい、画家として大成する事を願いながら死んでいったんだろう)

かぐや(……)

ガチャッ

かぐや「ネロ…。葬儀と埋葬の手配はできましたか?なにも問題ありませんでしたか…?」

ネロ「一応…ね。でも手持ちの財産じゃ大した葬儀はあげられないって言われたよ。それでもお願いはしておいた…せめてもの供養になればいいけど」

かぐや「貧しい者は…家族が無くなっても悲しむことすら許されないのですか…?財産がなければ…十分な供養も許されないなど…間違っています」

ネロ「流石にコゼツさんもお爺さんの葬儀にケチをつけてきたりしないだろうし、形だけでもキチンとした葬儀ができるだけでも十分さ…」

パトラッシュ「くぅん…」スリスリ

ネロ「心配しなくて大丈夫だよ、パトラッシュ。でも覚悟はしていたけど、思っていたよりも…ずっとずっと…辛いね…ははっ」グスングスン

かぐや「……」

ネロ「あははっ、大丈夫!もう気持ちを切り替えるから、だからかぐやさんもそんな顔をしないで。僕はもう平気だから」

かぐや(…違う。あなたの事も心配だけど…思っていたよりも辛いのは私も一緒なの。思ったより私はこの不幸に耐えられそうにない)

かぐや(どうしてネロが気丈にふるまう必要がある?どうして私はあんなに強力な能力を持っているのに人一人救えない?どうして運命に抗ってはいけない?どうして幸せを願ってはいけない?どうしてこの不幸を耐えなければいけない?)

かぐや(あぁ、いけない。これ以上は…とてもじゃないけれど、受け入れられない。このまま理不尽な不幸がネロを襲い続けるというのなら。私はもう…)



かぐや(なにをしてしまうかわからない)



728:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/08(月)00:20:57 ID:Xjq

葬儀の翌日 クリスマス当日
ネロ達が住む小屋

大家「失礼するよネロ。あぁ、お爺さんの事は残念だったな」

ネロ「大家さん…僕に何かご用でしょうか?」

大家「うむ、このような時になんだが…。先月分の家賃をまだ貰っていなかったのでな、徴収に来たのだよ」

ネロ「…申し訳ありません。今はもう、お爺さんの葬儀でお金が無いんです」

大家「そうだろうな…だが、牛乳運びの仕事も今はしていないんだろう?そこの異国人が狩りをしているとは聞くが…この時期じゃまともな金銭にはなるまい」

かぐや「突然押し掛けて来て、あなたは何が言いたいのですか?…いえ、概ね想像は出来ますが」

大家「それなら話は早い。私も決して裕福では無いのでね、お前達に収入のめどが立っていないのならばいつまでもこの小屋に住ませる事は出来ないと言いに来た」

かぐや「あなたは…家賃が支払えないからといってネロを追い出すというのですか?彼がどのような目に会おうと、金さえ手に入ればそれでいいのですか?」

大家「私を金の亡者のように言うのはよしてくれ。私はほら…あれだ、お前達に家賃を支払う気が無い事に腹を立てているのだ」

大家「ネロは働きもせず絵を描いてばかりではないか。金が無いとは言うが絵など描かずに働けばいくらかまとまった収入は得られるだろう?」

かぐや「絵描きはネロの夢なのです。あなたはそれを捨てろというのですか?」

大家「生活の為に夢を捨てている者など世間には山ほどいるんだ、ネロだけ特別じゃない。それにお前もそうだ、その気になれば金儲けなどいくらでもできる」

大家「顔も綺麗だが体つきも上等だ、アントワープまで行けばそれを売り物に出来る店だってある。そこで雇ってもらえば家賃なんざあっというだろう」ハハハ

かぐや「私に身体を売れというのですか?なんと下劣な…!恥を知りなさい!」スッ

ネロ「かぐやさん、駄目だ。腹が立つのは解るけど…僕達に非があるんだ。大家さんを恨むのは筋違いだよ」



729:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/08(月)00:23:10 ID:Xjq


ネロ「大家さん。家賃を支払う事が出来ないので僕達はここを出ていきます、ただ…今日一日だけ猶予をください。荷物もまとめなければいけませんから」

大家「その程度なら許そう。ただ、明日にはきっちりこの小屋を明け渡して貰うぞ、いいな?」

ネロ「はい、ご迷惑をおかけして申し訳ありません」

スタスタスタ

かぐや「…ネロは大人ですね」ギリッ

ネロ「ごめん、あんな事言われて屈辱だったよね。かぐやさん嫌味とか言われるの慣れてないから…」

かぐや「いいえ、いいのです。しかしネロが止めてくれなければあの男を破裂させるところでした、礼を言わなければいけません」

ネロ「またそんな物騒な…」

かぐや「あの男はあんな事を言っていましたが本当は金に目がくらんでいるだけなのです、まともな人間ならばこの寒空に少年を追い出そうなどとしません」

ネロ「でも家賃払ってなかったのは僕達だからね…。それに僕達が追い出されたって事は問題なく物語が進んでるってことなんだし、それは嬉しい事だよ」

かぐや「…そうでしょうか、私にはそうは思えませんけれど」

ネロ「ははっ…かぐやさんはそういうよね。でも、僕は嬉しい。だから【フランダースの犬】の展開通り、僕はアントワープの大聖堂に向かうよ」

かぐや「コンクールの結果をあなたは知っているでしょう、わざわざ辛い思いをする為にアントワープまで向かうのですか?」

ネロ「うん、行くよ。でさ、かぐやさんはどうするつもり?その、ここからは本当に辛いと思うんだかぐやさんにとっては。長く歩く事になるし、もうじき雪も降ってくるしそれは激しさを増す」

ネロ「僕はもう十分にかぐやさんには救って貰った、かぐやさんのおかげで楽しい日々が遅れたんだから。だからもうかぐやさんは…」

かぐや「私も付き合いますよ、コンクールの結果を目の当たりにすればあなたの決心が変わるかもしれませんからね」



730:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/08(月)00:25:59 ID:Xjq

アントワープ 大聖堂 コンクール結果発表会場

ザワザワザワザワ

ネロ「…解っていた事だけど、やっぱり落選だったね。うーん、結構自信あったんだけどね…まぁ仕方ない、帰ろうか」

パトラッシュ「くぅん…」

かぐや「……」

ネロ「な、なんで二人とも神妙な顔してんの。大丈夫だって、賞はとれなかったけど僕の絵を見て才能があるって言ってくれる画家の先生が現れるんだから」

ネロ「むしろ嬉しい事だよ、本物の画家に褒めて貰えるなんて幸せ者だよ!だから悪いけど、僕の決心は鈍ったりしないよかぐやさん」

かぐや「…そのころにはあなたは死んでいるというのにですか?」

ネロ「いや、あのねかぐやさん…」

かぐや「もうあなたのおとぎ話も結末に近づいています、だからあなたに聞くのはこれで最後にします」

かぐや「今ならまだこのおとぎ話を捨てて別の世界に行く事が出来ます。そこで絵の勉強をすればいい、あなたには才能があるのですから…あなたが望むのなら私はそれを与えられる」

ネロ「……ありがとう。でも、大丈夫」フルフル

かぐや「……そうですか、解りました」スッ

ネロ「かぐやさん?どこに行くの?」

かぐや「申し訳ありませんが私は元の世界へ帰ります、あなたの死に際に側に居る勇気はありませんから」

ネロ「ちょ、ちょっとまってよ!せめて別れの挨拶くらいさせてよ」

かぐや「……そんなもの悲しくなるだけです。確か帰り道は雪が酷いのでしたね、ネロもどうか気をつけて。それでは」スッ



731:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/08(月)00:28:03 ID:Xjq

アントワープからネロが住む村までの帰り道

スッ グッグッグッ

かぐや(結局、ネロは私の誘いに乗らなかった。幸せを掴もうとしなかった)

かぐや(ネロはこの後村へ帰る途中コゼツのお金を拾う。けれどそれに手を付けることなく正直に渡し、パトラッシュをアロアの家に託し…)

かぐや(その後はアントワープの大聖堂で息を引き取る)

かぐや(……)

かぐや(そのあと誰に認められようと、ルーベンスの絵を見れようとそれが幸せだとは私には到底理解できない。でも…)

かぐや(ネロがそれを願うのなら…それは仕方がない事なのかもしれないわね)

かぐや(それなら私に出来る事は、少しでも少しだけでも幸せを増やす事よ)

かぐや(ネロは、私に会えた事で本来の結末よりももっと幸せになれたと言ってくれたわ。楽しかったと言ってくれた…)

かぐや(私にもできる事はあるみたいだもの、例えばこうして重力で少しでも雪を踏み固めておくとか…また積もるだろうけど少しはネロも歩きやすいでしょう)

かぐや(あとは…アロアの家に先に向かって暖かい飲み物と毛布を用意して貰おうかしら、その程度ならばきっと結末に影響は無いでしょう)

かぐや(私に彼の為に出来るのはもう、その程度の……。…あれは?)

スッ

コゼツ「…っ。なんだ貴様か、このような雪道で何をしている?」



732:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/08(月)00:33:38 ID:Xjq

かぐや(あぁ、コゼツは確か落としてしまったお金を探しているんだったわね。けどそれが見つかる事は無い、ネロ達が見つけるんだから)

かぐや「私が何をして居ようとあなたには関係の無い事です」

コゼツ「ふむ…あぁ、確か今日はアントワープの大聖堂でコンクールの結果発表が行われるのだったな、おおかたあの小僧と一緒に向かったのだろう。結果は解っているがな」

かぐや「……あなたに何がわかるというのです、ネロはコンクールの絵を一生懸命描き、そして画家になろうと努力をしているのです」

かぐや「彼の努力を、自分の都合だけで彼を苦しめるあなたが…馬鹿にしていいわけありません」

コゼツ「ふんっ、コンクールに落選すればあいつも絵描きなどという夢物語を諦めるだろう」

かぐや「いいえ、彼は決して諦めません。落選しようが命を落とそうが、画家になるのは彼の夢なのですから」

コゼツ「馬鹿馬鹿しい、私はお前達のような輩に構っている暇は無いのだ」

コゼツ「暇を持て余し絵画などうつつを抜かしているあの小僧とは違うのでな」

かぐや「……待ちなさいコゼツ、お前は今なんといったのかしら?」カチンッ

コゼツ「訂正しろ、貴様のような小娘に名を呼び捨てにされる覚えは無い」

かぐや「断るわコゼツ。謝りなさい、私ではなくネロに…彼を馬鹿にした事をね」

コゼツ「何故その様な必要がある?私は事実を言ったまでだ」

かぐや「…あぁ、ネロ。この男は本当に救うに値しないわよ、こんな男に金を返してやる必要なんか無いのよ」

コゼツ「……待て、何故お前は私が金を落とした事を知っている?」



733:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/08(月)00:36:16 ID:Xjq

かぐや「…ああ、あなたは知らないのだったわね」

コゼツ「どういうことだ、答えろ!金がどこにあるか知っているのか!」

かぐや「あなたが落とした大金はね、パトラッシュが見つけるのよ。だからそれをネロはあなたの家n」

コゼツ「なるほどな…読めたぞ。私が落とした金を貴様等は偶然拾ったというわけだ、あれはお前達のような貧乏人は腰を抜かすほどの大金だ…」

コゼツ「お前達はそれを盗んだというのだな?お前達にとっちゃ自分達をを目の敵にしている私に馬鹿正直に返す必要などないだろうからな!」

かぐや「…最後まで聞きなさい、ネロはお前にあれだけ酷い仕打ちを受けていながらそれでもお前が困るだろうからと正直にアロアの家に向うのよ。だから少し探したら家で待ってなさい」

コゼツ「はっ!何を抜かすかと思えば…ネロが拾った金を私に返すだと?ありえんな、あれだけの金があればここからトンズラして別の町で暮らす事も出来るからな!」

かぐや「いい加減にしなさい。ネロはそんな事は決してしないわ、彼は貧しくても正しく生きているのだから」

コゼツ「お前の言う事など信じられるか!さぁあの小僧は何処に居るか教えろ!そして私の金を今すぐに返せ!」

かぐや「…この際私の事なんか信じなくても構わないわ。でもネロの事は信じなさい、彼はあなたのために」

コゼツ「あのような貧乏人を信じろというのか!?薄汚いコソ泥を信用できるわけがないだろう!村の連中は奴を可愛そうだなんだのと同情しているが…」

コゼツ「全て自業自得だ!画家になろうなどと自惚れてアロアに近づき、挙句の果てには私の金にまで手を出す!大家に小屋を追い出されたとも聞いたが良い気味だ!」

コゼツ「どうせコンクールも落選だ、絶望しながら村に帰る事だろうが…。あの村にコソ泥など必要無い!あのような小僧この寒い寒い雪道で死んでしまえばいいのだ!」

スッ

ベキベキベキベキベキッ

コゼツ「ぐああぁぁっ…!!」ベキベキベキ 



734:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/08(月)00:39:26 ID:Xjq

かぐや「ネロは絶望なんかしない。あの貧しい生活の中で彼は一度も弱音を吐かなかったわ」

コゼツ「こ、この力はあn」

かぐや「黙れ」スッ

ベキベキベキッ

コゼツ「……っ!」グググッ

ベシャッ

かぐや「……ああ、ネロ。私が間違っていたわ。…あなたは私の事を姉だと言ってくれたわね」

かぐや「そうよ、私は姉…そしてあなたは弟、そうよまだ子供よ。私がちゃんと導いてあげなければいけなかった…私がちゃんと教えてあげなければいけなかった…」

かぐや「優しさなんか報われない。こんな男が本気であなたの事を認めるなんて到底思えないわ」

かぐや「あなたは確かに心優しい善人だけど周りは違う。コゼツは悪党…こいつに意見しない家族も村の連中も…この悪党と同罪よ」

かぐや「つぐみの髭の王のせいで少し見失いかけていたわね忌々しい悪党め…。簡単な事よ、最初から私は自分自身の掲げる正義に従えばよかったのよ。私がする事に間違いなんか無いんだから」

かぐや「この世界を消滅させて、ネロ達を別の世界へ逃がす。もうネロたちの意思なんかどうだっていいわ、私が正義なんだからその行動もまたまごう事無き正義だもの」

かぐや「そうときまればネロとパトラッシュを迎えに行かなければね…。あぁ、でもその前に…村へ向わなければ」



かぐや「悪党は全て始末しておかなければいけない」

ヒュッ



735:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/08(月)00:41:34 ID:Xjq


ネロの住む村 コゼツの屋敷

ゴゴゴゴゴ

ネロ「急げ!急ぐんだパトラッシュ!アロアの家はもう目の前だ!」タッタッタ

パトラッシュ「あうんあうん!!」スタタタタ

ネロ「おかしい!コゼツさんのお金は確かに拾った、それなのに何故景色が歪み始めたんだ!?」

ネロ「まさか…まさかとは思うけど…かぐやさんが何かを…?いや、疑うなんていけない。かぐやさんは解ってくれたじゃないか!」

パトラッシュ「わうんわうん!!」

ネロ「うっ…なんだこの匂い…!気持ち悪い…。まさか、アロアの家の中から…そうなのか?パトラッシュ!」ゲホゲホッ

パトラッシュ「うぅー…っ!わうわうっ!」

ネロ「っ!まさか、アロアやおばさんになにかあったんじゃ…!」タッタッタ

バタンッ!

ネロ「アロア!おばさん!無事で……なん…なんだこれ…!家の中が血塗れじゃないか…!…アロア!」ダッ

アロア「……ネ…ロ?」ボタボタッ

ネロ「…酷い、下半身が潰されて逃げられなくされているのか…!アロアしっかりするんだ!今すぐにお医者様を呼んで…」

スッ

かぐや「駄目よネロ、医者なんか呼んじゃ」

ネロ「かぐやさん…!」

かぐや「そんな事をすればその悪党を助けてしまう事になるわ」



736:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/08(月)00:43:20 ID:Xjq

ネロ「かぐやさんがやったのか…!なんでこんな事を!」

かぐや「ごめんなさいねネロ、私が間違っていたのよ。こんな世界最初から捨ててしまえばよかった」スッ

ネロ「一体何を言ってるんだかぐやさん…!アントワープではそんな素振りなかったのに…!」

アロア「ネ…ロ……」

ネロ「アロア…もう喋らなくていい!」

アロア「あの…ね…私、友達なのに…助けてあげられなくてごめんね…」ポロポロ

ネロ「何を言ってるんだ…そんなこと…!」

ベチャッ

かぐや「お前はネロの友達なんかじゃない。この子が一番つらい時に助けもせず、父親のいいなりになっていたくせに。調子のいい事を抜かすのはやめなさい」

ネロ「…っ!」

かぐや「安心しなさいネロ。アロアで最後だったのよ、コゼツもアロアの母親ももう潰しておいたから」

ネロ「二人の事も殺したって言うのか…!アロアだけじゃなく!」

かぐや「そうね、コゼツを殺したから世界の消滅が始まっている。まぁ、放っておいてもこの世界の人間はすべて死ぬけれど、年の為にこの村の連中は私が始末しようと思っているけれどね」

ネロ「…何故だ、なんでこんな事をしたんだ!」

かぐや「決まっているでしょうネロ。あなたを幸せにする為よ」



738:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/08(月)00:47:09 ID:Xjq


ネロ「僕を幸せにするためだって…?そんな事は馬鹿げている!言ったはずだよ、僕は元々の結末で満足しているって!」

かぐや「あなたは幸せというものを理解していない、あんなものは幸せなんかじゃない」

ネロ「これはかぐやさんの意見だ!コゼツさんもアロアもおばさんも…殺されるような事はしてない!」

かぐや「コゼツはあなたをコソ泥扱いした…いいえ、それはいい。けどあろう事か死んでしまえばいいなどと口にした、そんな悪党生きている価値など無いわ」

ネロ「きっと大金を失って気が動転してただけだよ!それにアロアやおばさんまで殺すなんて…!何もしなかっただろう二人は!」

かぐや「そうね、何もしなかった…この二人がコゼツを説得すればあなたは友達を失うことも仕事を亡くすことも無かったのに、あなたを助けなかった」

ネロ「アロアもおばさんも気が強い方じゃない!思っていても言えない事だってあったはずじゃないか!」

かぐや「悪党に屈する者もまた悪党なのよ。抗う者がいないから状況が変わらない、正義を掲げる者が少ないから悪が蔓延るの」

かぐや「だったら私が…その流れを断ち切る正義になるだけよ。世界から悪人だけを一人づつ殺して行けば善人だけの世界になる」

ネロ「そんなこと本気で言ってるの…?」

かぐや「そうね、私は間違っていない。私は力を持っている、だから私が正義なのよ」

かぐや「あなたは自分の結末を『幸せ』だと勘違いしているけど、間違いはこれから正していけばいい。今は私と一緒に来なさい」

ネロ「……断る。この世界は消えてしまうだろうけど、かぐやさんの考えには賛同できない」

かぐや「そう、でもどうでもいいわそんなこと。ネロの意思なんかどうでもいい、私はあなたを幸せにする」

かぐや「さぁ来なさい、来たくないなら好きにしなさい。気絶させてでも連れていく、それがあなたの為よ」



739:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/08(月)00:49:58 ID:Xjq


ネロ「……見くびらないでよ、かぐやさん」スッ

ガシャーン

かぐや「窓ガラスを叩き割った…?ネロ、あなたは何をしようというの?」

ネロ「…こうするのさ」スッ

ブスッ

ネロ「うぐっ…!ゲホゲホッ…」

かぐや「馬鹿な事を…!自分で自分の腹を突き刺すなんて…!私には治癒するような能力は使えないのよ!?」

ネロ「助けて貰おうなんて思って無い…それは始めてかぐやさんに会ったときから何一つ変わらないよ…」ゲホゲホ

かぐや「別の世界の医者に見せれば間に合うかもしれない…!来なさいネロ、こんな世界もういい。別の世界へ…」

ネロ「断る。寄らないで…突き刺すよ。僕はここで死ぬ。アロアと同じ場所で死ねるならそれもまた良いかもしれない」

かぐや「あなたという人は本当に何も理解していない!なんで幸せになれると私が言っているのに信じないの?どうして幸せになろうとしないの!?」

ネロ「理解して無いのはかぐやさんの方だ」

ネロ「僕は大きな成功なんか望まない、小さくても大きくても関係ない…僕にとっては絵を見る事もパトラッシュと一緒に死ぬことも幸福な事だったんだ」

ネロ「それなのにかぐやさんは…自分の考えを押し付けて、僕が幸せじゃないなんて思いこんでる…」

かぐや「思いこみなんかじゃないわ、だって私がそう思っているのだから間違いないわ。あなたは幸せなんかじゃない、酷く不幸な少年よ」



740:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/08(月)00:52:56 ID:Xjq


ネロ「いいや、違う…かぐやさん…神様にでもなったつもり…?強力な力を持ってて何でも思い通りに出来るから?」

かぐや「私だけの意見じゃないわ、他の世界の人間も恐らくは現実世界の人間もあなたの事を不幸だと言う、あなたがどう思って居ようと関係なく【フランダースの犬】は不幸な結末のおとぎ話なのよ!」

ネロ「違う…それは違うよかぐやさん」

ネロ「僕が幸せか不幸かを決めるのは作者でも現実世界の読者でもましてやかぐやさんでもない……」

ネロ「僕の人生の価値を決めるのは僕自身だ」

かぐや「……」

ネロ「友達と縁を切られようと家族を失おうと仕事を失おうとコンクールに落選しようとも…僕は幸せなんだ!僕がそう思い感じてるんだから間違いない!」

ネロ「僕が自分の人生を幸せだと言っている以上…他人にその事を覆したりなんかできない【フランダースの犬】は読者にとっては悲しいおとぎ話かもしれないけど、僕にとっては…」

ネロ「本来なら見る事の出来ない絵画を目にし、大切な家族と一緒に神様の側にまで逝ける…これ以上に無い幸せの物語だ」

ネロ「でももうそれも叶わない…。この世界はもう消えてしまう、だったらせめて…理不尽な理由で殺された友達の側で死ぬよ」

かぐや「違う…違う!そんなものは…!慰めにすぎない!本当に幸せになれないから諦めて妥協をしているだけよ!」

ネロ「僕はね…かぐやさんの事を本当に家族だと思ってたんだ、姉だと思ってるって言うのも本心だよ。一緒に過ごした時間は確かに楽しかった」

ネロ「でも…僕の幸せを理解してくれず、大切な友達とその家族…僕の住む世界を無茶苦茶にしたかぐやさんを……もう慕う事は出来ない」



ネロ「今のかぐやさんは、僕にとって世界を壊して僕を不幸にした……ただの悪党だよ」



780:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/13(土)00:21:03 ID:AcB

かぐや「わ、私が悪党…?」

ネロ「そうだよ、かぐやさんが…あなたがコゼツおじさんを殺すことでこの世界は形を留めていられなくなった」

ネロ「コゼツおじさんにはまだ【フランダースの犬】の登場人物として役割があった、それなのに殺してしまえばどうなるか…あなたは知ってたはずだよ」

かぐや「それは…!確かに私は知っていたわ、おとぎ話の展開に必要な登場人物が死んでしまえば、物語が立ち行かなくなって…消滅してしまう」

ネロ「それをわかっていながら…あなたは殺したんだ。僕の幸せの為だと言って…自分の都合でコゼツおじさんを殺した」

かぐや「コゼツを殺したから私が悪党だって言うの!?ま、待ってよ…確かに私はコゼツを殺した、その結果この世界が消えてしまってもいいと思ったことも事実よ。でも…それはあなたの事を救うためだったのよ!理由あってのことなの」

ネロ「あなたに…罪の無いコゼツおじさんを殺すような理由があったって言うの?」

かぐや「ええ、私はアントワープであなたと別れた後この村に向かっていたの。その途中でコゼツに出会った」

かぐや「コゼツは落としたお金を探してたみたいだったけれど、そこで…少し口論になったの。その時、言ってしまったのよ…あなたがコゼツのお金を拾う事を」

ネロ「……それで、どうしたの?」

かぐや「私は真実を教えてあげたわ、お金はネロが拾うけれどそれはキチンとコゼツの家に届けられるって事をね。でもあいつは…それを信じなかった」

かぐや「コゼツはあなたを泥棒扱いしたわ、貧しいネロの事だから拾ったお金を素直に返しに来るわけがないってね。それだけじゃない…あの男はネロなんか死んでしまえばいいとすら言ったのよ?」

かぐや「あなたが望む結末のひとつに、コゼツと画家の先生があなたを認めると言うモノがあるけれど、私にはこの男の事をとてもじゃないけど信用できなかった」

かぐや「ネロを蔑み馬鹿にするコゼツが…この数時間後に改心するなんてとても信じられなかった。あなたの事を認めて今までの罪を悔やむとは到底思えなかった」

かぐや「あなたが望む結末を迎えられるとは思えなかった」



781:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/13(土)00:23:00 ID:AcB

ネロ「だから…殺したっていうの?」

かぐや「そうよ、コゼツは改心の余地の無い根っからの悪党だった。あなたの運命を委ねるには…信用できない人物だった。だから殺した」

かぐや「だからいっその事あなたの周囲の悪党を全て殺して…あなたを連れて別の世界へ逃げようと思ったのよ」

ネロ「それを僕が望んでいないって、考えなかったの?」

かぐや「望んでいるとか望んでいないとかじゃなく…あなたが幸せになるにはもうそれしか方法がなかったのよ」

かぐや「アントワープであなたの決心が硬い事を知って、一度はあなたの望む結末に協力しようと考えたわ。でも…それは意味の無い事だってすぐに気が付いた」

かぐや「ネロ…あなたは優しい。でも周りの連中もそうだとは限らない、コゼツがあなたを疑ったように…村の連中やアロアがあなたを助けてくれなかったように…」

かぐや「この世界にあなたを幸せに出来る人間は誰一人いなかった。そう、私以外には…誰一人」

ネロ「……」

かぐや「さぁ、ネロ…急いでこの世界から逃げましょう。お腹にガラスなんか突き刺して…きっと内臓を傷付けてる、すぐにお医者様へ…」

ネロ「…僕に近づかないでくれ、それ以上近寄れば…僕はこのガラス片をあなたを突き刺す」

スッ

かぐや「…どういうつもり?私に、そんなもの向けて…」バッ

ネロ「……言ったはずだよ。僕にとってはもう…かぐやさんはただの悪党だって」



782:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/13(土)00:26:41 ID:AcB

かぐや「ネロ、そんなものは捨てて頂戴。冗談はやめて…そんなもの握るから手のひらだって怪我してるじゃない…」

ネロ「…こうでもしないとあなたは無理矢理にでも僕をこの場から連れ去るだろう」

かぐや「どうして私にそんなモノを向けるの?私は…ネロの事を救おうとしてるのよ?あなたの味方なのよ?そんな事は解りきってる事じゃない」

かぐや「私の事姉の様だって、言ってくれたじゃない。ほら、私に全てを委ねて…その傷も何とかしてあげるから。私に治癒は出来ないけどどこか別の…」スッ

ネロ「……僕の側に近寄らないで。僕はもうあなたの事を姉だとも家族だとも……思って無い」

かぐや「……っ!」

ネロ「でも、出来る事なら殺したくは無い…。でも、近寄られたらなにをするかわからない。僕は今…とても、とても…悔しいんだ…この世界を消される事が…」

かぐや「どうしてそんなにこの世界の結末にこだわるの…?ネロ、私が悪かったのなら謝る…だから家族じゃないなんて言わないで。あなたに…そんな風に言われるのは、とても…辛いわ」

ネロ「……あなたは不思議に思わなかった?僕がどうしておとぎ話の主人公でありながら、この世界の事も結末の事も知っているのか」

かぐや「考えた事も無かったわ…私はお父様に自分の世界がおとぎ話の世界だと教わったけど…)

かぐや(でも確かに…私が旅してきたおとぎ話の世界の主人公たちはそのほとんどが自分の世界がおとぎ話であると知らなかった…)

かぐや(主人公はおとぎ話の核。特に悲惨な結末のおとぎ話の場合、その未来を主人公が知っていることは…都合が悪いはず。だから本来は知らない筈だ…)

ネロ「……以前、僕の元に一人の女性が現れたんだ。彼女は自分の名をウィーダと名乗った」

ネロ「ウィーダはこのおとぎ話【フランダースの犬】を生み出した作者…僕の運命を書きつづった現実世界の女性だよ」



783:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/13(土)00:30:49 ID:AcB

かぐや「この世界を生み出した作者が…この世界に?そんなことが…あり得るの?聞いたことないわよそんな事…」

ネロ「信じられないかもしれないけど事実だよ。僕は別の世界との交流が無いから…これが特殊な事なのか一般的な事なのか解らないけどね…」

ネロ「本当はこの事を誰かに話すつもりなんか無かった、もちろんあなたにも話さないでおくつもりだった」

かぐや「…でも聞かせて頂戴、あなたがこの世界の結末にこだわる本当の理由がそこにあるんでしょう?」

ネロ「……ウィーダは僕に【フランダースの犬】の一部始終を教えてくれたよ。アロアとの事、お爺さんの事、仕事を失う事、そして…結末の事」

ネロ「初めて僕が迎える結末を聞いたとき、確かにショックだったけど…でも不思議と怒りは湧いてこなかった、救いのある結末だったから納得できた」

ネロ「それに、僕にその事を話すウィーダは終始泣きながら僕に何度も謝っていたよ。こんな結末にしてごめんなさい、あなただけ辛い思いをさせてごめんなさい…って」

かぐや「…その女はあなたを悲惨な運命に縛り付けた張本人なのよね?泣いて謝るくらいならそんなことしなければいいと思うけれど」

ネロ「…僕には彼女の気持ちがわかった。一応僕だって絵描きのはしくれだから…絵描きも作家も作品を生み出すっていう点は同じだから」

かぐや「その女の気持ち…?」

ネロ「作家にしろ画家にしろ、自分の作品には愛情を持って接するよ。だからウィーダは僕を苦しめる為に【フランダースの犬】を生み出したわけじゃないってすぐに理解出来た」

かぐや「…でもそれは主人公のあなたが不幸になった方が、展開が盛り上がるからじゃないのかしら?」

ネロ「それなら、パトラッシュとも離れ離れで聖堂にたどり着けずに僕を死なせると思うけど」

かぐや「……」

ネロ「ウィーダは言っていたよ、現実世界で【フランダースの犬】はとても高い知名度を得る事が出来たって、多くの人に読んで貰えたって」



784:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/13(土)00:33:00 ID:AcB

ネロ「物語に感動して手紙を送ってくれる人も居たって聞いたよ。僕達の運命に涙してくれた人がたくさんいたってね」

かぐや「現実世界の人間達が流した涙で、あなたが幸せになれるわけでも無いでしょう」

ネロ「そうかもしれないけど、でも…僕はね、それがとても嬉しかったんだ」

ネロ「僕には世界中の人を感動させる絵を描く事はできなかった。でも…僕の運命は、僕の人生は現実世界で多くの人たちに感動を与えていた」

ネロ「それがすごく、凄く嬉しい。人々に感動を与えたあのルーベンスの絵のように、僕達の存在は人々に感動を与えられたんだ」

ネロ「だから、僕は大きな成功も名誉もいらないと言ったんだ。元々の結末でも十分幸せだったけれど、それを聞いて更に僕は救われてると感じたよ」

ネロ「元々与えられた僕の運命を聞いて、現実世界の人たちは悲惨だと同情して泣いてくれただろうけど…それでもやっぱり僕自身は幸せだ」

ネロ「そうやって伝えたら、ウィーダはまた泣いちゃって…それからしばらくして彼女は現実世界へ帰って、二度と会う事は無かった」

かぐや「……あなたは本当に一切その女を恨まなかったの?その女はあなたを…」

ネロ「恨まないよ。それにウィーダが書きつづったと言ってもこれは僕の人生の物語だ、そこに幸せや価値を見出せるのは僕だけなんだ」

ネロ「だから…何度も言うようにあの結末に不服なんか無かったんだ。むしろ誇りにすら思っていた」


ネロ「…それを、あなたは奪った。僕はそれが悔しいし、許せない」



785:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/13(土)00:34:28 ID:AcB

かぐや「そんなにこの世界が大切なら、もっと早くその話をしてくれれば良かったのに…!」

ネロ「言ったところで信じて貰えないかもしれないと思ったし。それになにより…あなたは優しい面もたくさんあったけれど、どこかで過激な部分が見え隠れしていた」

ネロ「…最悪の場合、現実世界に乗り込んで無茶苦茶するかもしれないって思えた」

かぐや(……否定は、出来ない)

ネロ「ウィーダはもう現実世界ではずっと昔に亡くなってると思う。けれどおとぎ話は語り継がれていく、僕の運命に感動してくれる人はきっと今でも居るはずだ」

ネロ「そんな世界を無茶苦茶にさせるわけにはいかない。だから、現実世界の話題には極力触れないように…この事は言わなかった」

かぐや「……」

ネロ「でも、それも結局無意味になっちゃったね…こうやってあなたに無茶苦茶にされて、この世界は消えてしまうんだから」

ネロ「あなたにとって大切なのは可哀想な人を助ける事だけ、その世界がどうなろうと知った事じゃなかったんだろうけど…」

ネロ「もうこの際だからはっきり言う、僕は…あんたが許せない」

かぐや「……」

ネロ「僕は何度も言った、元の結末で満足してると。でも最後の最後で…結局あなたはこの世界を壊したんだ」

ネロ「ウィーダが伝えたい事が詰まったこのおとぎ話、現実世界の人たちを感動させたこのおとぎ話、僕のささやかながら幸せな結末…」

ネロ「それを自分の正義感を押し付けて無茶苦茶にしてしまったあなたを…僕は軽蔑するよ」



787:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/13(土)00:36:32 ID:AcB

かぐや「……ネロ、ごめんなさい。私は、貴方を助けたい一心で」

ネロ「……」

ネロ「それでも、やっぱりあなたを許せない。あなたを許す事はできない」

かぐや「……」

ネロ「……もう、僕は長くない。最後くらい、パトラッシュと二人で逝かせて欲しい」

かぐや「……わかったわ」スッ

ネロ「パトラッシュ、側においで。僕は一足先に神様の元に向かう事になりそうだ」

パトラッシュ「…くぅん」ペロペロ

かぐや「……さようなら、ネロ」スッ

パタンッ

パトラッシュ「くぅんくぅん…」

ネロ「大丈夫だよパトラッシュ…この世界は消えて、現実世界の人たちは僕達の事を忘れる。でも…僕達が多くの人に感動を与えた事は事実なんだ、それは嘘にはならない」

ネロ「僕がかぐやさんを恨んでも一緒に過ごした楽しかった日々が無くならないようにね……それだけは嘘じゃ無かった。こんな別れになるのは嫌だったけど…」

パトラッシュ「わぅん…」

ネロ「おやすみパトラッシュ、アロア……さよなら、かぐやさん」



788:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/13(土)00:38:26 ID:AcB

フランダースの犬の世界 崩壊していく村

ゴゴゴゴゴ ボロボロボロ

「うわあぁぁ!!もうおしまいだぁぁあ!!」
「空が落ちてくる…風景が崩れていく!民家が牧場が…何もかも消えていく…!」
「終末だ…もう私達にはどうにも出来ない…ただ死んでいくしか…!!」

ワーワー ギャーギャー

かぐや「……」トボトボ

かぐや(ネロが言った通り。今まで、可哀想な人を助ける事だけが重要だった、だから真面目に考えたことなんかなかった、世界が消えると言う事がどういう事か…)

かぐや(ただ世界が一つ消えるだけじゃない。そこに託された思いも何もかも全てが消える、現実世界の人間が感じた事も想った事も巻き込んで何もかも消してしまう)

ギャーギャー ウワアアアア

かぐや(こんな小さな村でさえ見た事も無いような大混乱…阿鼻叫喚…。崩れていく世界、死んでいく住人…まさに地獄絵図)

かぐや「……これを引き起こした私は、確かに悪党ね」

かぐや「……」

かぐや(私が今までに救ったと思っていた世界でも…同じような事が起きていたのね…)

かぐや(私が誰かを救えたと思っていた裏で、崩壊していく世界の中で多くの人が絶望していた…。現実世界でおとぎ話が消滅していた。そんなものに見向きもせず、私は次の世界を目指していた)

かぐや(自分が可哀そうだと思う者だけ救い、それ以外には目も向けなかった…)

かぐや「……独りよがりな正義、ね」トボトボ



789:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/13(土)00:40:22 ID:AcB

ギャーギャー ウワワワワ タスケテクレェェェ

かぐや「……」トボトボ

――ネロ「今のかぐやさんは、僕にとって世界を壊して僕を不幸にした……ただの悪党だよ」

かぐや「私は…正義でも何でもない悪党……」

――ネロ「……僕の側に近寄らないで。僕はもうあなたの事を姉だとも家族だとも……思って無い」

かぐや(私を姉だと慕ってくれたのに…助ける事が出来なかった。それどころか彼を裏切るような事をしてしまった、私は…私は…)

かぐや「何をしてるんだろう、私にとってネロは大切な人だったのに…彼の言葉を聞きいれることもできず、自分勝手な行動をして…大切なおとぎ話まで無茶苦茶にして…」

かぐや「……。大丈夫。不安に押しつぶされちゃいけない、私は……正しい。うん、うん……私は間違って無い……」

かぐや(大丈夫よ……私は正しい、私は正しい。ネロの事は救えなかったけど…あんな優れた力を持つ私は神に選ばれた存在なの……)

かぐや(……)

かぐや(……本当に?本当に私は正しいの?ネロを救う事が出来なかったのに?)

かぐや(……もう、私にはわからない)

かぐや(ネロを救いたい一心でやっていた事なのに、結局は彼の望む未来を…大切なおとぎ話を奪い取っただけだった)

かぐや(……私は、私がしてきた事は……)

かぐや「なんだったんだろう…私が正義だと思っていた事は…私が今までやってきた事は…なんだったんだろうか…」

かぐや「ごめんなさいネロ…ごめんなさい…私は…私は……」ポロポロ



790:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/13(土)00:43:00 ID:AcB

かぐや姫の世界 月の都 王宮 かぐやの自室

かぐや「……」ボーッ…

月の王「かぐや、私だ。入っても構わないか?」

かぐや「……今は、一人にしてください」

月の王「君が望むのならそうしよう、だが…長い間家を出ていた娘が帰ってくるなり部屋に閉じこもっては、父親としては心配だ」

月の王「あれからもう一週間、その間君はろくに食事もとってないそうじゃないか」

かぐや「……」

月の王「外の世界で何があったのか知らないが、父に聞かせてはくれぬか。そろそろ…君の中での気持ちの整理もついたのではないか?」

かぐや「……」

月の王「私は王だ。君よりは数多くの逆境や困難を乗り越えてきた、力になれると思うのだけどね」

かぐや「……どうしてこうなったのでしょうか、お父様」

月の王「……話してみなさい」

かぐや「私は…以前月の都に下りた時、一人の悪党に遭遇しました。都では有名なならず者で、役人すら手を焼いている様子。民達はその存在に怯えていました」

かぐや「私がその悪党を押しつぶすと、民からは感謝され街には笑顔が戻りました。それがとても嬉しかった…これが私が初めて悪党を倒した時の話です」

かぐや「あれから月日は経ちましたが、私はいつだって困っている者の為弱き民の為に正義の為に戦っているつもりでした」

かぐや「それが何故…どうしてこんな事になってしまったのでしょう…」



791:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/13(土)00:44:38 ID:AcB

かぐや「私は結局、大切な友を失っただけでなく彼から何もかも奪ってしまった」

かぐや「彼を救いたかっただけなのに、笑顔になって欲しかっただけなのに…」

月の王「良かれと思った行動が裏目に出てしまったというわけだね?」

かぐや「…はい」

月の王「そうか、それは大層辛かっただろうね。でも自分にとっての善が他人にとっては悪に映ってしまうと言う事は…少なくない事だよ」

かぐや「…お父様にも同じような経験がおありなのですか?」

月の王「私は王だ、だけど神様じゃない。民の為を思ってとり行った政策が逆に民を苦しめてしまうと言う事もあった」

月の王「組織した軍隊の練度が不足していて無駄な死者を出してしまった事もあった」

かぐや「…その時、民や兵…あるいはその家族に恨まれはしなかったのですか?」

月の王「恨まれもしたさ、手酷い仕打ちを受けた事も罵声を浴びせられた事だってある」

かぐや「……」

月の王「でもね、君のように落ち込んでひきこもるような事はしなかったな」

かぐや「……」

月の王「今の状況は辛いかい、かぐや?」

かぐや「……はい、とても辛いです」



792:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/13(土)00:46:14 ID:AcB

かぐや「私が今まで掲げていた正義は…何の意味も持たないモノになってしまいました。それどころか独りよがりな考えでしかなかったのです」

かぐや「しかし、本当に辛いのは私の未熟な正義感に振り回された者達です…今なら、つぐみの髭の王の言葉も理解できます」

かぐや「私に辛いなんて言う権利は無い…全ては私が引き起こした事なんだから」

月の王「……侍女から君が落ち込んでいると聞いてね、宝物庫からある魔法具を出させたんだ」

月の王「羽織ることで記憶を消す事ができる羽衣…魔法具だ、君も知っての通り【かぐや姫】の結末の場面で君はこれを羽織って下界での記憶を失う事になる」

かぐや(何故、今その様なものを…)

月の王「君が外の世界での記憶が重荷になると言うのなら、辛い経験に悩まされるというのならこの羽衣でその記憶を消してしまう事も可能だよ」

かぐや「……」

月の王「もちろん、残しておきたい記憶だけ残しておくこともできる、どうする?使うかどうかは君次第だ」

かぐや「……お父様ならどうしますか?」

月の王「私かい?」

かぐや「ええ、お父様も王という立場にいらっしゃるので、精神的な負荷も多いと思いまして…」

月の王「私だったら…使わないな。自分の過ちや失敗から逃げても意味なんか無いからね」



793:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/13(土)00:49:05 ID:AcB


かぐや「……記憶を消して逃げても、罪が消えるわけでは無いですからね」

月の王「それはもちろんその通りだけど…忘れてしまっては罪を償う事も出来ないだろう?」

かぐや「罪を償う…?そんな事に意味は無いと思います、罪を償ったとしても犯した罪が無かった事にはなりません」

月の王「私はそうは思わないな。罪を償うことで必ずしも許されると言う事は無いが…それでも、償うと言う事は大切な事だ」

月の王「人は罪を犯すものだ、それは仕方の無い事だ。しかし自分の過ちと向き合って、自分の犯した罪の後始末をしなければいけない…」

かぐや「……どうすれば、罪を償う事が出来るでしょうか」

月の王「それは君自身が見つけなければいけない事だよ、かぐや」

かぐや「私自身が…」

月の王「そうだ、君自身で決めなさい。私はそれを手助けするだけだ」

かぐや「それならば…ひとつ、お願いがありますお父様」

月の王「ほう、なんだい?」

かぐや「力に溺れ、立場に胡坐をかき、自分の価値観を押し付け…まるで自分が神様だと思っていた愚かな私から…生まれ変わらなければいけません」

かぐや「もう一度、私は赤子からやり直さなければいけません。そして、次こそはおごることのない立派な人間へと成長して見せます、その過程で…償いの意味を見出します。必ず」

月の王「なるほど…少々時期は早いが、それはつまり…」

かぐや「はい、私を…送りだして欲しいのです」



かぐや「地球へ…日ノ本の竹林の中へ」



800:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/15(月)00:14:13 ID:cXr

現在
かぐや姫の世界 悟空達が住む小屋

かぐや「それから程なくして、私はお父様の能力で日ノ本に降り立った」

かぐや「王族という立場も歪んだ価値観も捨てて、今度こそ本当の意味で誰かを救える人間になれるよう…私は赤子からやり直す事にしたの」

かぐや「あとはみんなが知っている通りね。竹林で拾われた私はお爺様とお婆様に大切に育てて貰って、そして順調に成長していった」

孫悟空「そんで俺や玉龍に出会って、今に至るって訳だな」

かぐや「そうね。赤子になったと言っても能力を捨てる事は出来なかったし記憶も残したままだったから、別世界の貴方達に出会った時はとても驚いたけれどね」

かぐや「月とは文化も環境も違うこの地で暮らして行く中で私は変わる事が出来たわ、もう生まれ変わる前の私じゃない。これも周囲の人たちのおかげね」
フフッ

玉龍「つまりうちのおかげでもあるって事ッスか。いやぁ~、そう言われると照れるッスね!うちは何にもしてないッスよ~」ヘラヘラ

孫悟空「ジジィやバーさんには感謝すべきだけどよ、玉龍テメェは本当に何もしてねぇだろ…」

かぐや「うふふっ、でも変われたと言ってもネロや今までに私が消滅させた世界の人たちに償いは出来てない。だからむしろこれからの方が重要ね」

かぐや「まだ【かぐや姫】は結末を迎えていないから、私は自由に別世界へいけない。私が償いを果たす事が出来るのはもう少し先になるわね」

ドロシー「……」

玉龍「ん?うつむいちゃってどうしたんすか、ドロシー?」

ドロシー「うぅ…だって、だってこんなの辛すぎるじゃないですかぁ…かぐやさんはネロ君を助けたかっただけなのに…こんなのって辛すぎますよぉ…」ポロポロ



801:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/15(月)00:15:57 ID:cXr

ドロシー「ぐすんぐすん…確かにかぐやさんの行動には、間違ってるところがあったかもしれないですけど…でも仲良くなったネロ君とこんな最期になるなんて悲しすぎます…」ボロボロ

かぐや「そんなに号泣することないのよ。私がもっと精神的に大人ならあんな事にはならなかった…だから私はもう受け入れたわ、この結果は私の傲慢さが招いた結果なんだから」

かぐや「ネロには本当に申し訳ない事をしてしまったけれどね…数え切れないほどの物を奪ってしまったから。でも私の事はいいのよ」

ドロシー「で、でもぉ…」ボロボロ

玉龍「しっかし、ネロはすごいっすよね。まだ若いのに自分の意思をキチンと持ってるというか、芯がしっかりしているというか…平たく言えば精神的に大人ッスよね」

ティンカーベル「うんうん、そうだよね!メンタル強いよね!私の友達に豆腐メンタルな侍居るけど、とてもネロの方が年下とは思えないよー!」

孫悟空「薄々気がついちゃあいたけどよ、テメェは仲間だろうと容赦なく毒吐くよな」

ティンカーベル「違うよ、信頼してるからこそ遠慮なくモノが言えるんだよ!」

玉龍「なんか良い感じの事言ってるけど、それただ口汚いだけッスね」ケラケラ

キモオタ「しかし、我輩としては…【フランダースの犬】の作者であるウィーダ殿が自らその世界に訪れたという事が気になりますぞ」

ティンカーベル「んー?なんでなんで?キモオタだって現実世界の人間だけどおとぎ話の世界に行けるじゃん」

キモオタ「いやいやwwwそれは我輩の力で無くティンカーベル殿の力でござろうwww」

キモオタ「現実世界の人間はおとぎ話の事を単なる創作された物語としてしか認識していないのでござるから、現実世界にはそもそもおとぎ話の世界へ渡る力など存在しないのでござるwww」

ティンカーベル「確かにそっか…じゃあウィーダって人もおとぎ話の住人に協力してもらってネロの所に行ったんじゃない?」



802:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/15(月)00:18:13 ID:cXr

キモオタ「おそらくそうでござる。ならば、一体何者が…?何の理由で…?」

ティンカーベル「わかんないけど…っていうかそれって重要な事かな?気にする所じゃ無くない?」

キモオタ「しかし、考えても見るでござるよ。例えば…ティンカーベル殿が現実世界に来たのは【ピーターパン】の崩壊から逃れるためでござるよね?」

ティンカーベル「うん、そうだよ。あの時は緊急事態だったからね」

キモオタ「そうでござる、世界の崩壊は命にかかわる緊急事態でござる。しかし、そんな事でも起きなければ現実世界に来ることなどありましたかな?」

ティンカーベル「…そう言われると確かに無いかも。だって私たちみたいなおとぎ話の住人にとって現実世界に行く理由なんて…特にないしね?だよね?」

孫悟空「あぁ、そうだな。そもそもおとぎ話の住人にとっちゃそれぞれが住む世界こそが現実の世界だ。現実世界の存在なんか知らない奴の方が多い」

ドロシー「私達は例外で現実世界の存在を知ってますけど…知っていたとしても、用事があるわけでもありませんから…」

玉龍「作者に頼んでうちを名実ともに女の子にして貰うとかならやってみたいッスけど、もう死んでると思うッス。そうなるとやっぱり別に用事ないッスね」

かぐや「それこそティンクちゃんのように命の危険が迫っている時か、あるいは…アリスのように何らかの強い目的意識を持っている時に限るでしょうね」

ティンカーベル「アリス!だったらあれだよ!アリスの仕業だよ!あいつならやるよ!」

キモオタ「流石にそれは暴論でござろうwww【フランダースの犬】が消えた原因では無いのでござるし、アリス殿にメリットは無いでござるwww」

ティンカーベル「じゃあ…アリス以外に、現実世界とおとぎ話の世界を行き来できる誰かがウィーダにその方法を教えたって事?」

かぐや「ネロの口ぶりだと…彼の元に現れたのは彼女一人。何者かの協力があったとして、それは私やティンクちゃんのように魔法や身体能力を使った物というよりは…」

キモオタ「赤ずきん殿や悟空殿のように、魔法具を使って世界を移動できる者の協力…として考える方が妥当でござろうな」



803:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/15(月)00:20:49 ID:cXr

ティンカーベル「そう考えると、気になってきたかも…。だって世界移動出来る魔法具なんて結構な重要アイテムだよ?」

ドロシー「大抵は物語のなかで重要な道具だから…人に貸したりなんて、簡単にはできませんよね…」

キモオタ「ウィーダ殿が世界移動出来たという事実が今の我々の状況と関係あるかどうかは正直わからんでござる。しかし…妙なことであるには変わりないでござるな」

玉龍「案外、ただどこかのおとぎ話の住人が気まぐれで現実世界にいっただけかも知れないッスけどねー」

キモオタ「ちょwwwそれを言われてしまうと我輩の主張がまったくの無意味になるでござるwww」

孫悟空「実際がどうであれ、おとぎ話の住人が大した理由なく現実世界に行ってそこの人間に手を貸す…しかもそいつが作者だったって可能性がどれほどのもんかって話だ」

孫悟空「キモオタや俺達が置かれている状況が既に普通じゃねぇんだ。少しでも不可解な事は気にしておいて損はねぇだろ」

ティンカーベル「まぁ、そうだよね。一応覚えておく事にしよっか」

ドロシー「それにしても…ウィーダさんって凄く勇気ありますよね。私だったら恐くて…謝る事も出来ないかもしれません」

玉龍「まぁ悲惨な目にあわせた相手に、自分が原因だって白状するようなもんッスからね。そう考えるとすごい話ッスよね」

かぐや「ネロにあの結末を背負わせてでも、それを書いたのは自分だと明かす事で恨みを買う事になっても、それでも読者に伝えたい事が作者のウィーダにはあったんでしょうね」

孫悟空「おとぎ話の世界、主人公の運命ってのは結局の所…作者が伝えたい想いが映し出されてるもんだからな。そいつにも思う所があったんだろ」

ドロシー「でも、私が言うのもおかしい話だけど…結末はやっぱりハッピーエンドが良いです…」

ドロシー「誰かが騙されたり死んじゃう話は…悲しいです」



804:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/15(月)00:25:28 ID:cXr

かぐや「ドロシーは、ネロの本来の結末…幸せだと思えない?」

ドロシー「それは……その……。言いにくいというか……」

かぐや「私はね、自分の行いを悔いて。この地で生活して…長い時間をかけてもう一度考えてみたの。ネロの本来の結末が幸せなものかどうかをね」

かぐや「長い長い時間ずっと考えて…悟空や玉龍、村の人やお爺様お婆様…いろんな人といろんな経験をして、改めてネロの本来の結末について考えてみたの」

ドロシー「……」

かぐや「でも、やっぱりダメ。今でも私にとってネロは不幸で可哀そうな少年、全っ然幸せだなんて思えないのよ」

ドロシー「えっ…!?」

ティンカーベル「えーっ!?考えが変わったんじゃないの!?」ガビーン

キモオタ「ちょwww今までの話はwww一体www」コポォ

かぐや「うふふっ、でもそれはそうでしょ…貧しい少年が友達も仕事も夢も失って死ぬんだから。そんな物語悲しいに決まってるでしょ?」

かぐや「でもどんなに悲しい物語でもネロにとっては幸せだったって事、今の私は少しも疑っていないわ」

かぐや「私や読者にとってネロの結末は不幸。でもネロにとっては幸せな結末、以前の私はそこに正反対の感情が生まれる事がおかしいと思っていたけど、何もおかしくは無かったんだって思えるようになったわ」

かぐや「それはネロが言っていた通りよ。自分が幸せかどうか、何ができるか、どう生きるか、他人がどう思おうとそれは自由だけど…本当にそうかどうかを決めるのは他人じゃない、自分自身よ」

かぐや「あなただって一緒よ、ドロシー。あなたが償いを果たすかとか、いつか普通の女の子になれるか…なんて他人が決める事じゃないでしょ?」

ドロシー「あっ…」

かぐや「帽子屋君や心無い人たちに何を言われてもね、私達がどんなに言葉を掛けても…あなたの事を決められるのはあなた自身だけよ」



805:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/15(月)00:27:07 ID:cXr

ドロシー「そうですよね…ネロさんみたいに強い心を持てれば、帽子屋さんとかアリスちゃんの言葉に惑わされなくてもすむんだ…」

かぐや「そうよ、あなたが出来ると決めたのなら何だってできる。だったらあなたがする事は…なにかしら?」

ドロシー「あっ、あの…えっと…私、ぜ、絶対に償い果たしてみせます…時間はかかるかもしれないけど、それでも…やるって決めたから、します!」

かぐや「うん、やってみせなさい。周りがなんて言おうともあなたが出来ると決めたなら、きっと出来る」ポンポン

ドロシー「あと、今の私はたくさん悪い事をしてしまった罪人だけど…いつか普通の女の子に戻りたいです…じゃなくて、なれるように頑張ります!」

玉龍「それについては必要無いと思うッスけどね。ドロシーは初めてあった時から魔法も妖術も使えないフツーの女の子ッス。むしろ身体的な意味で女の子になりたいのはこっちッスよ!」

孫悟空「テメェが口出すとおかしいことになるから黙ってろ、玉龍」ゴッ

かぐや「うふふっ、普通の女の子みたいな生活を取り戻したい…きっと出来るわ。そしてあなたが憧れている恋愛でもなんでも好きな事をして平和に暮らすこともね」ウフフ

玉龍「ほう…それならドロシーが願いをかなえた暁にはうちが恋バナの相手をしてあげるッスよ!もちろんうちと悟空s」ドヤァ

孫悟空「おい、その恋バナとかいう捏造話に俺の名前を出すな」

玉龍「じゃあどうやって語れって言うんスか!無茶を言うのはやめて欲しいッス!」バンッ

孫悟空「なんでテメェがキレてんだ!お前がそういう事言うたび俺まで変態扱いされんだよ、お前いい加減にしろ!」

ドロシー「あのその、違うんです、そういう恋とかそういうのに憧れてるわけじゃなくてあのその…」アワアワ

かぐや「うふふふっ」ニコニコ



806:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/15(月)00:28:29 ID:cXr


キモオタ「ティンカーベル殿…強い意思というのは人から人に受け継がれていくものでござるな」キリッ

ティンカーベル「えっ?あ、うん、そうだね。キリッとしてどうしたの?」

キモオタ「誰かに同情されようと、不幸だと言われようと、自分の運命を決めるのは自分だけ。この強い想いはネロ殿からかぐや殿へそして、ドロシー殿へと受け継がれていくのでごz」

ピルルルル

孫悟空「おい、キモオタ。時計鳴ってんぞ、誰かから連絡なんじゃねぇのか?」

キモオタ「ちょwww我輩がキメ台詞でかっこよくまとめようとしている時に限ってwww我輩の見せ場を奪わないでいただきたいwww」コポォ

ティンカーベル「大丈夫だよ、別にかっこよくキメれてなかったから」

キモオタ「くぅwww辛辣wwwそれはさておき誰から連絡ですかなwww」コポォ

チラッ

キモオタ「……おうふ」ガタガタ

ティンカーベル「? どーしたの?誰から連絡があったのか知らないけど、どーしてでないの?早くでればいいじゃん!」

キモオタ「ティンカーベル殿…誰からの着信かわかってもそんなことが言えますかな……?」スッ

ティンカーベル「なに深刻な顔してんのさー!おはなしウォッチに連絡してくる人は私達の仲間だけなんだからそんなビビる必要なんか……」

チラッ

ティンカーベル「……ああぁぁ」ガタガタ



[着信]
芽吹きの魔女 ゴーテル



807:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/15(月)00:30:40 ID:cXr

キモオタ「な、何故ゴーテル殿から着信が…」ガタガタブルブル

ティンカーベル「き、決まってるじゃん…ラプンツェルの事知っちゃったんだよ…!」ガタガタブルブル

かぐや「大丈夫…?二人とも汗がものすごいわよ?」

ドロシー「ゴーテルさんって…魔法植物の栽培に長けた魔女さんで、確かラプンツェルさんのお母さん…ですよね?」

孫悟空「ラプ公の母親か。だったら何をそんなに震えてんだ?あいつの母親ならお前達の仲間でもあるんだろ?」

ティンカーベル「そうだよ…ゴーテルは私達の仲間だよ。少なくとも私が知ってるゴーテルはね…今はどうかしらないけど」ボソッ

キモオタ「ゴーテル殿は頼りになる優秀な魔女でござるが…その、愛娘のラプンツェル殿を誰より何より愛していて、その子煩悩たるや彼女が傷付けられようものならその原因を塵にしても不自然じゃないレベルで…」

孫悟空「おいおい、ラプ公は確か現実世界のあの廃墟でアリスに七星剣で腹を裂かれて魔力を弱体化されたんじゃなかったか…?」

キモオタ「そうでござる、ラプンツェル殿も心配をかけたくないと内緒にしていたでござるがバレてしまったのでござろうな…。しかも現実世界に来る前、我々に強く念を押してましたからな。彼女を傷つけぬようにと…」

玉龍「うわー、それはヤバいッスね。二人とも大丈夫なんスか?」

キモティン「「多分塵にされると思う」でござる」

一同「……」

ティンカーベル「わ、私!ちょっと用事思い出した!じゃあまたね、キモオタ!」スッ

キモオタ「ちょ、ズルイですぞ!我輩一人に消し炭になれというのですかな!?」ガシッ



808:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/15(月)00:32:16 ID:cXr

ピルルルルル

かぐや「とりあえず出た方が良いんじゃない?」

孫悟空「居留守使ったところで後で気まずくなるだけだぞ?」

キモティン「「……」」

ティンカーベル「……塵にされてもご飯食べられるかな」

キモオタ「多分無理でござろう…。しかし、覚悟決めますかな…」

ピッ

ゴーテルの声「おお、ようやくでおった!何をもたもたしているんじゃ、キモオタ!」

キモオタ「ご、ゴーテル殿!本日はお日柄もよく足もとの悪い中、我輩のようなものに連絡をしていただいて誠にありがとうござる」ヘラヘラ

ゴーテルの声「どっちなんじゃそれ。それより今話せるじゃろ?ティンカーベルもおるな?お主だけでなく二人に用事があるんじゃが」

ティンカーベル(居ませんって言って!ホントにお願い!まだ【ピーターパン】復活させられてないし…塵になるのはいやだから!)

キモオタ「も、もちろん居ますともwwwバッチリいますぞwwwははは…」

ティンカーベル「うわー!裏切り者ー!」ポカポカポカ

キモオタ「どっちがでござるかwww死ぬ時は一緒ですぞwww」

ゴーテルの声「何なんじゃさっきから…あまり時間が無いんじゃ、さっさと本題に移りたいんじゃが構わんな?」

キモティン「「はいっ!大丈夫ですっ!」」



809:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/15(月)00:33:56 ID:cXr

ゴーテルの声「実はじゃな…」

キモティン「「……」」ドキドキドキドキ

ゴーテルの声「【シンデレラ】の世界で問題が発生したんじゃ、今日はその件でお前達に連絡した」

ティンカーベル「シンデレラのとこで?ほ、本当に…?騙しとかじゃなくて?」

ゴーテルの声「なんじゃ騙しって。こんなもん嘘ついてどうするんじゃい!」

ティンカーベル(この感じ…きっとラプンツェルの事はゴーテルには…)チラッ

キモオタ(バレて無い…でござるな!)チラッ

ゴーテルの声「……続けても構わんか?」

キモオタ「勿論ですぞwwwどうぞ続けてくだされwww」コポォ

ゴーテルの声「まぁいい。隠しても仕方がないから言ってしまうが…シンデレラが行方不明だ、数日前から所在がつかめておらんらしい」

キモオタ「なん…ですと…」

ティンカーベル「シンデレラが!?またあの悪い大臣の仕業?でもあいつは牢屋だし…」

ゴーテルの声「さらわれたという確信は無い。じゃが、状況から考えてもそう考えるのが自然じゃな…そうなれば大方、犯人の目星は付く」

ティンカーベル「……アリス達。だね!?あっちこっちで悪さしてもぉー!」プンスカ



810:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/15(月)00:38:53 ID:cXr

キモオタ「そう決めつけるのは早計ですぞ。シンデレラ殿は今や王妃様でござる、【シンデレラ】の世界の何者かにさらわれたとかではござらんか?」

ゴーテルの声「あやつにはガラスの靴という魔法具があるというのに、易々とさらわれるとは思えんがな…それにあやつは有名すぎる。手を出すような愚か者はおるまい」

キモオタ「……」

ゴーテルの声「わしは【シンデレラ】の世界に居るんじゃが、その件で魔法使いから頼みがあるということでな、シンデレラにゆかりのある者達に集まって貰っているのだ」

ゴーテルの声「お前達以外には大方声を掛け終えたところじゃ。桃太郎、赤ずきんと赤鬼、裸の王、そしてもちろん我が娘ラプンツェルにもな」

キモティン「「……っ」」ギクッ

ゴーテルの声「お前達は見たかの?我が愛娘、なんとショートカットになっておってな、初めて見た時はどこの天使かと思ったが良く見たら我が娘じゃったわ」

ティンカーベル「へ、へぇー…まだ全然絶対見てないし知らなかったよー」

キモオタ「し、しかしラプンツェル殿の事でござるから超絶可愛いのでござろうなwww」

ゴーテルの声「あたりまえじゃろ!じゃが…流石のわしも魔法使いの気持ちを考えると、娘自慢をする気にはなれぬ」

キモオタ「娘煩悩なゴーテル殿をそんな気持ちにさせるとは…魔法使い殿相当ダメージを受けているのでござるな?」

ゴーテルの声「…致し方あるまい。あやつにとってシンデレラは年老いてできた娘も同然なんじゃから」

ティンカーベル「それは心配だね…私達すんごくお世話になってるから力になりたいよ。ねっ、キモオタ?」

キモオタ「もちろんですぞ、シンデレラ殿にも魔法使い殿にも世話になりっぱなしですからな」

ゴーテルの声「じゃったらなるべく早くあやつの屋敷に来てはくれぬか?わしが声を掛けた者達もじきに集まるだろう」



811:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/15(月)00:41:18 ID:cXr

キモオタ「…という事なんでござるが、いいでござるかね?かぐや殿。折角招待していただいたのでござるが…」

かぐや「もちろん、すぐに向かってあげるといいわ。あなた達へのお礼は改めてさせて貰うから、それよりシンデレラさんが心配だものね」

キモオタ「かたじけないですぞ。…ゴーテル殿、我輩達もすぐにそちらに向かう故、魔法使い殿にそう伝えておいていただきたい」

ゴーテルの声「うむ、わかった。伝えておこう」

ティンカーベル「あっ、でも赤ずきん達はともかく桃太郎や裸王は世界移動できないんじゃない?私、お手伝いに行こうか?」

ゴーテルの声「それには及ばん、桃太郎はわしが直接連れて来る手はずになっておるし、裸の王の元には丁度世界移動の術を持った少年が居ると聞いた」

キモオタ「おそらくヘンゼル殿の事ですな【裸の王様】の世界へ向かうということでござったし」

ティンカーベル「ヘンゼルが裸王を連れて来てくれるって事は…それなりに馴染めたのかな?あの世界に」

ゴーテルの声「詳しくは知らぬが…裸の王はその少年と共に魔法使いの屋敷に来ると言っていた、険悪な仲というわけではないだろう」

キモオタ「それならひと安心でござるwww」

ゴーテルの声「わしからは以上じゃ、他にもすべき事があるからのぉ。お前達も気をつけてくるといい」

キモオタ「わかりましたぞ!チョッパヤで向かいますぞ!」

ティンカーベル「うんうん!友達のピンチならいつだって駈けつけるよ!」

ゴーテルの声「そうかそうか、二つ返事で駆けつけてくれるとはシンデレラは良い友人を持ったのぉ。じゃが、まぁ…我が娘の身を護る事は出来んかったようじゃがな」

キモティン「「えっ……」」

ゴーテルの声「言っておくがわしは知らぬわけではないからな?ラプンツェルが現実世界で怪我を負った事をな…。まぁその件については後日じっくり話すとしよう。そう、じっくりとな…」

ツーッツーッツーッ



812:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/15(月)00:43:05 ID:cXr


キモオタ「完全に知ってたのでござるなぁ…。我々が甘かったでござる…これ最悪のパターンでござるよ…」ズーン

ティンカーベル「素直に謝っとけばよかった…あわよくば知らない事にしようとしてたのが絶対にばれたよ…最悪だよ…」ズーン

かぐや「キチンと謝罪して、知らないふりしようとした事も素直に謝るしかないわね。それで許してもらえればいいのだけど…」

孫悟空「流石の俺も蘇生の妖術までは会得してねぇからな…仙桃やら金丹がありゃあ不老不死にもなれるが【孫悟空】の世界は消えちまってるしな…」

キモオタ「何で死ぬこと前提なのでござるかwww…と突っ込むところでござろうが、割と現実的な対策なのでござるよねそれ…」

ティンカーベル「はっ…!私に変化した玉龍が代わりに行ってくれればあるいは…?」ブツブツ

玉龍「絶対に嫌ッスよ!魔女を騙す自信ないッス」

孫悟空「まぁ落ち込むな。お師匠様が言ってたぜ?例え死んでも来世・来来世で徳を積めば良いんだ、そうすりゃいずれ…」

キモオタ「ここぞとばかりに布教しなくていいでござるよ…」

ドロシー「あの、私に何かお手伝いできることがあれば何でもするんですけど…」

ティンカーベル「……そうだ、キモオタ!ドロシーにも来てもらおうよ!魔法使いの所にさ!で、一緒に謝って貰おう!」

ドロシー「わ、私も謝るんですか?何でもとは言いましたけど…お邪魔にならないですかね…」

キモオタ「ふむ…名案かもしれませんな、内気ガールのドロシー殿が一緒に謝ってくれればゴーテル殿も全力で怒ったりしないでござろうし…」

ティンカーベル「お願いしてもいいよねドロシー!頼むよ、私達の生死がかかってるんだよ!」

キモオタ「この通りですぞ!土下座でも焼き土下座でも何でもするでござるから」

ドロシー「わ、わかりました。力になれるか解らないけど、一緒に行きますね…ちょっと、ううん大分恐いけど…これも償いの一つ…」



813:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/15(月)00:44:45 ID:cXr

・・・

ティンカーベル「ドロシー、準備できた?」

ドロシー「う、うん。この身なりなら…初めて会う人でも大丈夫だと思う、おかしくないですか?かぐやさん?」

かぐや「大丈夫よ、いつもどおり可愛いわ。キモオタ君達の命を救ってきてあげなさい」ウフフ

キモオタ「ではドロシー殿をしばらくお借りするでござる。ご安心をwww彼女の命までは流石に奪わんでござろうしwww」

ティンカーベル「魔法使いとのお話がひと段落したらちゃんとこの世界に送り届けるから安心してね!」

孫悟空「悪かったな、折角招いたのに飯も食いそびれちまっただろ?次はたらふく食わせてやるからな!」

玉龍「ドロシー、時間に余裕があったら西洋のお土産が欲しいッス!こうお洒落な装飾品辺り…期待してるッス!」

かぐや「初めて会う人だからって、あまり気負いしないようにね。彼等の仲間ならあなたを糾弾したりしないでしょうから安心していきなさい」

ドロシー「わかりました、私…がんばってきます」グッ

キモオタ「それではかぐや殿、悟空殿、玉龍殿またwww」

ティンカーベル「それじゃあ早速行くよー!【シンデレラ】の世界へ…!」

ヒュンッ

玉龍「行っちゃったっすね、大丈夫ッスかねドロシーは」

孫悟空「オドオドしてて気が弱いからな、あいつらがいりゃあ問題ないとは思うがな」

かぐや「大丈夫でしょう。それに多くの人と出会う事はドロシーにとっても良い事だと思うもの、今回はキモオタ君達の手助けだけどきっと彼女にも得るものがあるはずよ」



814:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/15(月)00:46:57 ID:cXr

玉龍「かぐやは本当にドロシーの事お気に入りッスよねー、さっき話してくれた事はかぐやにとっても忘れたい程の過去ッスよね?それを軽々と話しちゃうんスから」

かぐや「誰にだって話すわけじゃないわよ、あなた達やキモオタ君達になら話してもいいと思えたし私の過去がドロシーの役に立つのなら聞いて欲しかったからね」

孫悟空「あいつの為にはなったんじゃねぇか?自分に自信がないみてぇだったからな、お前の話を聞いて少しはしっかりするんじゃねぇか」

かぐや「結局はドロシーが決める事だけどね、私達はそうなる様に応援するだけね」

孫悟空「そうだな。さぁて、話も付いたし…俺は避難してるジジィや村の連中に事の顛末を伝えてくるとするか」

かぐや「そうね、お爺様やお婆様…みんなを少しでも安心させてあげたいわ」

玉龍「うちも行くッスよ!うちみたいな女の子も居た方がこう言う時は順調に事が運びやすいッス!」

孫悟空「ああ、そうだな」スッ

玉龍「おぉっ!ついにうちの事を認めてくれたんスね!?」

孫悟空「違ぇよ!無視してんだろうが気付け!おら、馬鹿な事言ってねぇで行くぞ!っと…思ったがここはかぐやも俺達と来た方が良いな、一人だけ残すのは心配だ」

かぐや「大丈夫よ。私の顔見たらお爺様の事だから取り乱しちゃうだろうし、私は村の方に行ってみるわ。今のままじゃ住めないけど瓦礫の除去くらいはできるもの」

玉龍「ははぁん、重力の能力で瓦礫を浮かせて避けるンスね?そりゃあ効率的ッス!」

かぐや「本来、力っていうのはこういう事に使うべきだからね。だからそっちは二人に任せるわ」

孫悟空「そうか、じゃあ俺と玉龍で行ってくる。お前も無理すんじゃねぇぞ?」

かぐや「えぇ、また後で」ウフフ



???「……」スッ



815:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/15(月)00:48:23 ID:cXr

玉龍「じゃあかぐや、行ってくるッスね!手負いといえどもうちは龍ッスからね、パパーッと行って解決ッス!」ピューッ

孫悟空「ったく、あいつは落ち着きがねぇ…じゃあ行ってくるからな。…おい、玉龍!お前さっさと一人で行くんじゃねぇ!」ヒュッ

かぐや「ふふっ、相変わらず素早いわね。猿人と龍なんだから当然と言えばそうだけど、もう後姿さえ見えないもの」

かぐや「さぁ、私も湯呑の後始末だけして村に急ごうかしら。村のみんなが戻ってきたら重力は使えないからそれまでにある程度…」

カタッ

かぐや「誰っ!?」ババッ

シーンッ…

かぐや「……帽子屋君?いいえ、彼はまだ万全じゃない筈…魔法具で体力を回復した可能性はあるけれど…こうも早く再襲撃なんて……」

かぐや「……っ」スッ

ザッ

かぐや「やっぱり誰かいる…。そこね…っ!」バッ

シーン…

かぐや「今、確かにそっちから人の気配がしたはずなのに…!」

???「すごいね、正解だ。確かにボクはそこに居たよ、一瞬前までね」

ブスリッ

かぐや「うぐっ…いつの間に!私の背後に…っ!」

アリス「始めまして…になるかな。ボクの事は知ってるだよね?君の妹分の元・友人だ。よろしくね、かぐや姫」



817:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/15(月)00:51:17 ID:cXr

かぐや「あなたがアリスね…ドロシーを利用したっていう。話は彼女から聞いているわ」

アリス「へぇ、ドロシーが話すボクの事…どんな内容か気になるね」クスクス

かぐや「悟空や玉龍が私から離れる機会をうかがっていたんでしょうけど、私一人でもあなたの…相手くら…い…」フラッ

アリス「ボクの相手をするのは難しいんじゃないかな?随分眠そうだけど?」クスクス

かぐや「……くっ、なんなの…?この異常なまでの眠気……立っている事すら……まさか、さっき私を突き刺した時に……!」ウトウト

アリス「実はボクも君の話は聞いていたんだ、帽子屋からね。すごいじゃないか、重力を操る能力なんて。いくらボクでもそんな能力には敵わない」

アリス「だから眠って貰う事にしたんだ。この糸車の針で刺されたからにはキミは百年は眠り続ける」

かぐや「直接戦ったら敵わないから…私を眠らせようって魂胆ね…。随分と……私の能力を評価して…くれてるのね……」

アリス「ああ、君の事も悟空や玉龍の事もね。君達は邪魔だけど、戦いになれば分が悪い。帽子屋も相当強いと思っていたけどいくつもの魔法具を手にしてようやく優位に立てたくらいだからね」

かぐや「あなたの目的は…私を始末する事ね……?でも、甘く見ないで欲しいわ…そうそう、あなたの好きにはさせないわよ…」フラフラ

アリス「そうかい、でもボクはボクの好きなようにやらせてもらうよ」

アリス「光になって逃げて助けを呼ぶかい?それとも重力で僕を押しつぶす?潔く諦める事をボクはオススメしたいね」

かぐや「さぁ…どうしようかしらね。もうあまり時間はなさそうだし、すぐに決着をつけたいところだけど…諦めるなんて選択肢は…無いわね」

かぐや「私が消えればこの世界も消える。悟空達に心配をかけてしまうし、ドロシーは…また泣いちゃうでしょうね。彼等にそんな顔をさせるのは嫌なの」

かぐや「だったら…私に出来る全力で、彼らの表情を曇らせないように……しなければいけないわね……っ!」キッ



845:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/22(月)00:08:46 ID:5Ny


アリス「諦めるつもりはナシ、か。いいよ、足掻いて見せなよ。月の民の底力を見せてごらん?」フフッ

かぐや「ふふっ…随分と…余裕そうね…?まるで勝利を確信してるみたいに…でもさすがにそれは…自惚れというものじゃない…?」フラフラ

アリス「そうは思わないな。キミには悪いけど、僕に背後を取られた時点でキミの敗北は決まっているのさ。その証拠にその睡魔には抗えないだろう?」

アリス「キミに突き刺したのは【眠り姫】の主人公・オーロラ姫を百年の眠りにいざなった糸車の針…突き刺した相手に長き眠りを与える魔法具だ」

かぐや「えぇ、身を持って体感しているわ…この酷い睡魔…気を許してしまえば今にも眠りに落ちてしまいそう…」ウトウト

アリス「ふふっ、一度まぶたが落ちてしまえばそれでおしまいだ。キミは覚める事の無い夢の世界をさまよい続ける」

かぐや「殺す事も……できたはずなのにそうしなかった…何か企んでいるのね?」

アリス「そんな事をボクに問いただしている時間はキミにはないんじゃない?」クスクス

アリス「ボクはキミが眠りに着くのを待ってからゆっくりと仕事をすればいい。対するキミは眠気に耐えながら逃げるか戦うかを選択し、それを遂行しないといけない」

アリス「大変だね、キミの方が圧倒的に不利だ。もう身体も思うように動かないだろうし思考力も随分落ちてるんじゃないか?」

かぐや「えぇそうね…どう行動するのが最善なのか…全く頭が働かないわ…でもそんなのは、抗う事を諦める理由には…ならないわ……でも」ググッ

タンッタンッ

アリス「飛び跳ねて一気に距離を取った…か、なるほどね。自分自身に掛かる重力を軽くして身軽になったと…考えたね」

かぐや「これならもう…私の間合いよ。さぁ地面に突っ伏して、眠りなさい…!」バッ



846:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/22(月)00:12:28 ID:5Ny


かぐや(間合いは十分にとれた。このままアリスに掛かっている重力を数倍にしてしまえば彼女を地面に張り付けられる。…けど)

フッ

かぐや「姿が消えた…。やっぱりそう易々と…思い通りにはさせてくれないわよね……」バッ

アリスの声「ふふっ、距離を取ったくらいで勝ち誇るほど馬鹿じゃないか。その自慢の重力操作も万能じゃないみたいだしね」

かぐや「……一度は使い方を間違えた能力だもの、利点も欠点も、把握しているわ……」フラフラウトウト

アリスの声「そうかい、帽子屋は『アレは恐ろしい能力よぉ!』なんて脅かしてきたけど、そうでもないね…姿を隠しているボクが押し潰されないところを見ると視認できない相手には効かないようだ」

かぐや「……姿を隠してやり過ごそうなんて……案外姑息なのね……」

アリスの声「一度押し潰せば相手の行動を完全に封じられるのはわかりやすい利点だ。その反面、近距離では使い辛い…特に極端に距離を詰められるとどうしようもないという欠点もある」

ヒュンッ

ギュッ

かぐや「!? 一瞬のうちに背後から…抱きついて来くるなんて…!」ググッ

アリス「だから…こんな風にしがみつかれるとどうしようもない。キミ自身にはボクを振り払う程度の力も無いみたいだしね?」クスクス

かぐや「このっ…いいかげんにしなさい……っ」バッ

チャキッ

アリス「ボクを引き剥がしたいなら重力を浴びせて地面にたたきつければいい。でもこの状態じゃ、ボクの握るナイフも重力に負けてキミの胸を引き裂いていくだろうね。その覚悟があるのならやってみてもいいんじゃない」クスクス



847:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/22(月)00:14:41 ID:5Ny

アリス「どちらにしろ、この体勢じゃボクを押し潰せばキミだって潰される。例えナイフがキミの肌に突き刺さらなかったとしてもだ」

かぐや「……」クッ

アリス「八方塞がりだね。距離を詰められる事が弱点だってわかっているなら、距離を詰めてきた相手を止める手段を用意しておくべきだよ。ナイフを携帯しておくとか…ね」

かぐや「……私はこの能力を戦いには使わないと決めていたの。帽子屋君やあなたに使ったのは仲間やこの世界を護る為にやむを得ないからよ」ウトウト

アリス「勿体無いな、こんな強力な能力なのに埃をかぶせたままだなんて」ググッ

アリス「戦闘に備えていない事も、経験の不足も能力の価値を下げてる。接近してきた相手への対策も立てていれば…ボクももう少しは苦戦していたかもね」

かぐや「…この能力は強力すぎるわ。容易く振りかざしていい能力じゃない…」ウトウト

アリス「へぇ、そういう考えなんだ。ボクはそういうの逃げだと思うけどね」

アリス「自分に与えられた力が強力すぎるから封じるなんて馬鹿馬鹿しい。扱いきれないなら扱えるように努力すべきだ、そうすればどんな敵でも障害でも打ち壊せたはずだよ」

かぐや「…こんな能力がなくても、私は生きていけるわ」

アリス「そうだね、死にはしないさ。でも百年の眠りと死との違いに大差は無い、百年もの間目覚めることなく夢の中…そんな状態を生きてると言えるかな」

かぐや「……」スッ

アリス「そろそろ我慢できなくなってきたかな?いや、むしろボクは感心しているよ。魔法具が与える睡魔にここまで抗うなんてね」

かぐや「おあいにくさま…私はね、随分と寝つきが悪い方なのよ…」

かぐや「案外…あなたの方が先に眠っているなんて事も…あるかもしれない…わよ…」フラフラ



848:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/22(月)00:17:16 ID:5Ny

アリス「ふふっ、眠そうな顔で言われても説得力がないよ」クスクス

かぐや「……帽子屋君は素直に身を引いてくれたから、ひとまずは諦めてくれたものだと思っていたけど……読みが甘かったわね、こんなにすぐに襲撃してくるなんて思わなかったわ」ウトウト

アリス「キミ達が思っている以上にボク側の戦力は豊富なんだ。帽子屋が負傷して戦えないのなら手の空いている奴が代わればいい、なんにせよ手負いの君達を追撃しないわけないだろう」

アリス「悟空もキミも強力な能力を持っているのは知っていたからね。どっちもボクの計画にとっては邪魔でしかない、始末できる時にしておかないと…後で面倒だ」

かぐや「なんていいながら…帽子屋君も今のあなたも…私を殺そうとしない。それは私に死なれると困るから…この【かぐや姫】の世界の私達とは違う何かを狙っているから、そうじゃないの?」

アリス「ハズレとまではいかないけど…その回答じゃサンカクかな。確かにまだこの世界に存在する豊富な魔法具を回収しきっていない、しかし困った事にどれも珍しい品々だ…もう少し時間がかかるかもね」

かぐや「……私が百年の眠りについてしまう事はあなたにとっても不都合じゃないかしら…?私が覚めない眠りにつけばこの世界は消える、魔法具を探す事もできなくなるはずよ…」ウトウト

アリス「そんな事は無いさ。主人公が消えればおとぎ話も消えるものだけど、キミの場合は眠ろうが死のうがこの世界から連れ出されようが…この【かぐや姫】は消える事は無いだろう」

かぐや「……なるほどね、確かに私が眠ったとしても消えない可能性は十分にあるわ」

アリス「十分にある…というか、ボクは必ずそうなるという確信すらあるけれどね。キミが消えてもこのおとぎ話は消えない」

アリス「だからボク達はこの世界で魔法具探しが続けられる。キミという厄介な重力使いを始末した上で、ゆっくりとね」

かぐや「……」フゥ

アリス「ふふっ、ため息なんか着いて…どうかしたかい?自分達の予想が見事に外れていた事がショックだったのかな?」

かぐや「いいえ、そうじゃないわ。ただ、ひとつ私の話を聞いて貰おうかしら」



849:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/22(月)00:18:52 ID:5Ny

かぐや「……この小屋の裏手にはね、立派な柿の木があるのよ」

アリス「…?」

かぐや「…悟空達が行動の拠点にする小屋を作ると決めた時、玉龍がこの場所を強く推したのよ。悟空の好物だから、この木の側に小屋を建てたいってね」

かぐや「だから……その木は、玉龍にとっても悟空にとっても大切なものなの」

アリス「…だからなんだというんだい?」

かぐや「えぇ、だから…時間がかかってしまったのよね……」

メキメキ ミシミシッ

アリス「っ! …この音、まさかキミは天井を落とすつもりか?」

かぐや「ええ、本当はこの小屋を崩すのも心苦しいけれどね、でも柿の木を巻き込まずにこの小屋だけを潰してしまうというのは…少し重力の操作が難しいのよ。だから時間がかかったの」

ギュッ

かぐや「でもこれで、あなたはもう逃げられない。天井の下敷きにされたら…流石のあなたも無傷じゃいられないものね」ウツラウツラ

アリス「…それはキミも同じだろう。ボクを止める為に命を投げ出すというのかい?」

かぐや「あなたがおとぎ話を消して周っているのにも何か理由があるんだろうから…事情を知らない私が何か言う事は出来ないけど」

かぐや「あなたの行動で苦しむ人が居るのなら、私はそれを阻止するまでよ。それが私にとって大切な人たちなら、尚更ね」

アリス「……命を投げ出すにしちゃ随分とくだらない理由だ」

ズズッ メキメキメキ ズシャアァァァ



850:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/22(月)00:21:33 ID:5Ny

バキッ メキメキメキ!!

ヒュッ

アリス「…あぁ、今のは少しだけ焦ってしまったな。だけど、ボクにこんな小細工は効かないよかぐや姫……この騒音じゃもう聞こえないか」

ズシャアアアアァァァ 

バキバキバキ…

アリス「どんな奇抜で掟破りな行動も気付きさえすれば回避できる。どんなギリギリの攻撃でも時を止めてしまえばいいんだから」

アリス「つまり彼女は無駄死にというわけか…まぁ、ボクを巻き添えに殺せたと思い込んで死んでいったのなら、彼女自身は幸せだったのかもしれないけれど」

アリス「……世界の崩壊が始まらない。この様子じゃもう動けやしないだろうけどまだ息はあるみたいだ、拘束して【不思議の国のアリス】の世界へ連れて行っt……」

ズッ ググググ

アリス「!? どういう事だ…身体が急に重く……!」ググググッ

ガタッ

アリス「そうか……ボクはまんまとしてやられたというわけか……。そうだろう、かぐや姫…!」ググググッ

かぐや「……えぇ、あなたほどの能力と魔法具を持つ者があんなあからさまで大味な攻撃をそのまま受けるわけがないものね…」ムクッ

かぐや「あの状態なら当然あなたは……私の背後を取ったのと同じ方法で、瞬間移動で…小屋の外へ逃げ出す……。距離を取る事になる…そう、距離さえ取れれば…」ゼェゼェ

かぐや「私は重力操作で……あなたの動きを完全に封じる事が出来る……」ゼェゼェ

アリス「……」グググッ



851:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/22(月)00:23:44 ID:5Ny


アリス「それで、どうするつもりだい?ボクの行動を封じても、キミに掛けられた眠りの魔法は継続中だ」ググググッ

アリス「それに…自分にのしかかる瓦礫を浮かせてダメージを軽減したみたいだけど、それでも完全に無傷というわけにはいかなかったみたいだね…眠気のせいかな?」

かぐや「そうかもね…でも、少しは目が冴えたような気がするわ…」

かぐや「それに少し安心した、これも無意味に終わったらどうしようかと思ったから…流石のあなたもこの能力からは逃げられないみたいね」ウトウト

アリス「あぁ、残念ながらね。さぁ、どうする?この隙に光になって悟空の所へ逃げるかい?それとも…ボクを殺すかい?」

かぐや「……殺したりしないわ、あなたの動きを止めてから悟空の元へ向かう。でも、あなたの危険性を知って野放しにはできない」クイッ

ボキンッ

アリス「…っ!」ズキッ

かぐや「ごめんなさいね…念のためあなたの足だけは使えなくさせて貰うわ…その袋も預からせてもらうわね」スッ

アリス「やれやれ…他人の足を折ったうえに強奪かい?でもこのポーチは大切な人からの贈り物なんだ、勘弁してほしいね」

かぐや「…魔法具を取り上げたいだけ、大切な物なら汚したり壊したりするつもりは無いわ」

アリス「…わかった、キミの言葉を信じて預けるよ。好きに持っていけばいい」

かぐや「魔法具はこの中に入っている物で全てね…?」スッ

アリス「…あぁ、そうだ。確認の為に開けて見ても構わないよ」



852:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/22(月)00:25:41 ID:5Ny

かぐや「……やめておくわ」

アリス「へぇ、何か仕込んであるって疑ってるんだね?随分と信用されていないんだね、ボク。酷いな、こっちは君を信じてポーチを素直に渡したって言うのに。でもいいよ、わかりきってた事だ」クスクス

かぐや「……」

アリス「黙りこまないでよ、かぐや。別に僕はそんなことで心を痛めたりしないよ。あぁ、でも気をつけて…ポーチを開けようと開けまいと……同じ事だから」クスクス

ビリビリビリッ! バッ

かぐや「っ!?袋を突き破って中から何かが…!」サワッ

金のガチョウ「……何度口にしてもこのキノコはマズイ、何故高貴なわたくしがこのような物を……あの小娘め」ムシャムシャ

かぐや「金のガチョウ…!」ガバッ

アリス「はははっ、今更ポーチを手放そうとも無駄だよ。ポーチを突き破った彼の身体に…金のガチョウの身体にキミの指先が触れてしまったなら、もう逃げられない」

かぐや「幸い触れたのは右手だけ…それならもう、右手に金のガチョウがくっついたままでも悟空の元に……!」コォォォォ

アリス「逃がさないよ。金のガチョウ、今すぐにボクの身体に触れろ。しくじれば今晩お前の寝床はゴミ箱の中だ、城の厨房のね」

金のガチョウ「…っ!じょ、冗談はよし給え!やる!すぐにやるから!」バサバサッ

かぐや「なんて強い力……体が引っ張られて…!」フッ

ピトッ

アリス「ふふふっ、さぁこれでキミもボクも金のガチョウから離れられない。さぁ、行ってみるかい?このまま、悟空の元に」クスクス



853:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/22(月)00:27:25 ID:5Ny

かぐや「……行けるわけないわ、悟空の所にはお爺様や村の人たちが居る…巻き込むわけには……。……っ」ガクッ

アリス「あぁ、ようやくキミにも我慢の限界が来たって言うわけか。月の民は我慢強いのか、それとも君自身に魔法に耐性があったのか…まぁ今となってはどっちでもいいか」

かぐや「……。ルイス……作者の……ルイス・キャロル……」ウツラウツラ

アリス「……何、なんで君がその名前を口にするの?」

かぐや「あなたが……こんな大事になるほどいろんなおとぎ話を巻き込んで何かを成し遂げようとしているのは……その作者の為……なんでしょう……なにが、あなたを…そこまで……」ウツラウツラ

アリス「……」

かぐや「もしも、あなたが……私がネロにしたのと同じように……。あなたが作者の為に何かしようとしているなら……それが、本当に正しい事なのか……誰にとっての幸せなのか、よく考えて…」ウツラウツラ

アリス「…余計な御世話だね」

かぐや「……あなたの考える幸せが、必ずしも作者の幸せとは限らない……。それを、知らずにいたら、あなたも、私みたいに……、過ちを……」ドサッ

アリス「……ようやく眠ったか。思ったより時間がかかったね…。あぁ、もう身体が動く…意識が無くなれば解けるのか。でも足は…無理だな、死神の薬草持ってきていたはずだけど何処に入れたかな」ゴソゴソ

ゴゴゴゴゴ

金のガチョウ「悠長に構えている場合ではない、ほら見たまえ…崩壊がもう始まってしまった!逃げる準備をしたまえ!」

アリス「あぁ、本当だね。でも大丈夫だよ、すぐにおさまるさ」



854:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/22(月)00:30:06 ID:5Ny

金のガチョウ「そんなことがあるのかね?いやいや、主人公が覚めない眠りにつけば当然世界は消えてしまう!早く逃げたまえ!私を連れて!」

アリス「そう慌てなくていいよ、彼女が持っているはずの魔法具も奪いたいしね」

金のガチョウ「何の根拠があってその様な事を言っているのだね!見たまえ、風景が崩れ建物だって……むむっ?」

ゴゴゴゴゴ……スッ

金のガチョウ「崩壊が…おさまった?何故だ!?このようなことがあるのかね!?」

アリス「忘れたのかい?この世界には【かぐや姫】に係わりの無い人物が二人いる、それも二人ともが変化の能力を持っていて…そしてそいつらはこの世界、かぐやの世界が消えるのをきっと阻止する」

金のガチョウ「孫悟空と玉龍かね!なるほど、確かに彼等が崩壊に気づき、かぐやの身に何かあったのだと察すれば…」

アリス「まぁ、彼女が護ろうとしているこの世界を消させない為に玉龍辺りがかぐやに変身して、その場をしのぐだろうね」

金のガチョウ「代役というものだな」

アリス「そうだね。でもそれだけじゃない…かぐやになった玉龍はもう龍にもなれないし必要以上に暴れる事も出来ない」

アリス「それに悟空も、別の世界を飛び回ったりできないだろうね。ボクが今度こそこの世界を消しに来るはずだと考えるだろうからね、そうなれば玉龍を一人になんかしないだろう」

金のガチョウ「確かにそうだ、そんなことまで考えていたのかね!なんと恐ろしい…」

アリス「重力を操れるかぐやはボクの世界へ。龍の子、玉龍はかぐやに化けてもう自由が利かない。おとぎ話最強の悟空も玉龍とこの世界を護る為自由は効かない…思った以上にうまくいったよ」クスクス

アリス「さて…早いところ用事を済ませて一度帰ろう。重力使いも龍もおとぎ話最強も…今や絆に縛られて身動きが取れない。早いところ計画を進めなければね」

アリス「あいつら…ルイスの事を詳しく調べるかもしれない、面倒な事になる前に結界を壊してしまおう」

・・・



857:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/22(月)00:32:08 ID:5Ny

シンデレラの世界
魔法使いの屋敷の前

・・・

キモティン「……」ガサガサ

ドロシー「あの…どうして二人とも茂みに隠れているんですか…?」

キモオタ「…ドロシー殿、目の前に見えるあの建物こそ…魔法使い殿の屋敷でござるよ」

ティンカーベル「うん、そしてあそこが私達の死に場所だよ……」

ドロシー「し、死に場所って…大げさですよぉ…」

キモオタ「いやいや、決して大げさでは無いですぞ。我々がこの世界に来たのはシンデレラ殿を救う為に魔法使い殿の呼び出しに応じての事でござるが…」

ティンカーベル「屋敷はゴーテルも来てるから魔法使いの用事が終わったら今度はゴーテルとお話する事になるのはもう確定だからね…」ガタガタ

キモオタ「我々がついていながらラプンツェル殿が現実世界で怪我して更に魔力を弱められた事。しかもそれを黙っていた事…ゴーテル殿の怒りはいかほどか……」ガタガタ

ドロシー「ちゃ、ちゃんと謝ればわかってくれますよ…黙ってた事はともかくラプンツェルさんが怪我した事に関しては二人だけの責任じゃないですし、ラプンツェルさんも無事だったわけですから…」

キモオタ「とはいえ…出来れば死なないですむ謝り方をここでシミュレーションしておきたいでござるなwww」

ティンカーベル「予行練習だね。賛成賛成!ここでゴーテルに謝る練習しておこう!」

キモオタ「じゃあ我輩がいくつか謝罪パターンを上げていくでござるからティンカーベル殿はゴーテル殿になったつもりで判定してくだされwww」

ティンカーベル「わかったよ!どんどんいこっ!少しでも死んじゃう確率下げてから行こう!」



858:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/22(月)00:33:35 ID:5Ny

キモオタ「まずは素直なところで…『あれはラプンツェル殿がアリス殿を倒そうと突然飛び出して行ったのが原因なのでござる!』」

ティンカーベル「わしの娘が悪いというのかお前達はー!ドーン!はい、死にましたー。私たち死にましたー」

キモオタ「まぁそうでござるよね…じゃあ褒めパターンで『傷を負いはしたもののラプンツェル殿の勇気のおかげで一件落着でござった!流石ラプンツェル殿でござるなぁー!』」

ティンカーベル「わしの天使が世界一だって事はお前に言われんでも知っておるわ!ドーン!はい、死んだー。私たちは塵になりましたー」

キモオタ「ぬぅ…ならば逆に開き直って『もう桃太郎殿の治癒のおかげで治ったんだから硬い事言いっこ無しでござるよwww』」

ティンカーベル「真面目にして。そんなの言ったら八つ裂きにされた後に生き返らせられてからもう一回殺されるよ?」

キモオタ「申し訳ないでござる…」

ドロシー「……(い、意味あるのかなこれ…)」

ティンカーベル「もぉー!ドロシーも黙ってないで案を出してくれなきゃ困るよ!」プンス

キモオタ「八つ当たりはダメですぞwwwティンカーベル殿www」

ドロシー「す、すいません…でもあの、変に言い訳みたいな事を言うからダメなんじゃ…」

キモオタ「ほう、一理ありますな…ならばどのような謝罪が良いと思いますかな?」

ドロシー「もっと普通で素直に…『ゴーテルさんの言いつけ護れなくて本当にごめんなさい。叱られるのが怖くて隠そうとしていた事もごめんなさい、キチンと反省します』とか…」

ティンカーベル「うーむ…まぁいいじゃろ、ラプンツェルが原因でもあるようじゃし。今後は気を付けよ!…やった!多分このあと説教タイムに突入するけど!でも生きてる!」

キモオタ「おお!やりましたなwwwそれでいくでござるwww」コポォ

ドロシー(い、いいのかな…ごく普通の謝罪になっちゃったけど…。なんだか雰囲気がブリキ達と居た時ともアリスちゃんと居た時とも随分違うなぁ…)



859:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/22(月)00:35:30 ID:5Ny

キモオタ「ゴーテル殿への謝罪案はこれプラスドロシー殿にも一緒に謝って貰う、という事で決定ですな!www」

ティンカーベル「賛成!ドロシーに来て貰うように言って正解だったね!」

ドロシー「そう言って貰えるとうれしいです。けど…私が来る事って誰も知らないんですよね?」

キモオタ「そう言えばそうですなwwwゴーテル殿にも言ってないでござるしwww」

ドロシー「このお屋敷に集まっているのはシンデレラさんのお友達ばかりなんですよね?それなのに関係の無い私が居て良いのかな…それに私、その…」

キモオタ「大丈夫でござるってwww皆、気の良い者達ですぞwww」

ティンカーベル「赤ずきんと赤鬼も居るし…桃太郎も裸王も優しいからドロシーの事情きっとわかってくれるよ!ラプンツェルはそもそもそーいうの気にしなさそうだし!」

ドロシー「うー…でもなるべく隅っこに居るようにします…」

キモオタ「本当に気にしぃでござるなおぬしはwww大丈夫ですぞwww裸王殿と一緒に来る事になっているヘンゼル殿もシンデレラ殿と面識ないはずd」

『グオオオオォォォッ!!!』ビリビリビリ

ドロシー「ひっ…!な、なんなんですかこの唸り声…」ブルブル

ティンカーベル「なんだろう…獣の唸り声っぽかったけど…でも今のはこの森の動物たちじゃないよ!」

キモオタ「屋敷の裏手、魔法使い殿の庭…我々がかつて特訓した森の方から聞こえましたな…少々危険かもしれませんが行ってみますぞ!」

ティンカーベル「うん!誰かが襲われてるのかもしれないしね…!うん、行こう!!」

ドロシー「えぇ…あの、ちょ、ちょっと置いていかないでください!わ、私も行きます!」アワアワ



860:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/22(月)00:37:09 ID:5Ny

魔法使いの屋敷 庭(森)


巨大な獣「グルォォォオオオォォォ!!」

裸王「むぅ、なんと猛々しき咆哮か…!まさに空を裂き大地を揺るがす程の雄叫び…!だが…この程度で怯む裸王では無いぞ!掛かってくるがいい!」ババッ

ガシィッ!

巨大な獣「グッ…グガアァァ!!」クワッ

裸王「私は獣の言葉を理解出来ぬ、だが筋肉が語る言葉に種族の壁など存在せん!お前の筋肉は語っているぞ『まさか俺の突進を人間に止められるとは思わなかった』とな」

巨大な獣「グルルルゥ……」ギロリ

裸王「ハッハッハッ!人間ごときにあしらわれるのはプライドに差し支えるかね?悔しいのならば鍛える事だ!鍛えた分だけ筋肉は己に微笑む!それは人も獣も同じ事!」

巨大な獣「グルル…グルオオオォォォォッ!!」ババッ ビュオン

裸王「ぬっ、そう猛るではない!まだまだ戦いは始まったばかり、怒りに身を委ね勝利を急ぐなど愚の骨頂!」バッ スッ

巨大な獣「……グルルゥ!」ザッザッ

裸王「ぬぅ、もう一度突進を試みるか…!良いだろう!我が筋肉の冴えを見るがいい、そしてその攻撃を受け止めて見せようぞ!」ババッ

巨大な獣「グググ…グルォオオオオオォォォ!!」ダダダッ



861:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/22(月)00:39:33 ID:5Ny

ティンカーベル「あっ!裸王がなんかデカイ獣に襲われてるよ!?やばいよ!」

キモオタ「ちょ、これはマズイですな!裸王殿ー!助太刀いたしますぞー!」

裸王「その声、キモオタとティンカーベルだな!?」マッチョ

ティンカーベル「うん!でも再会を喜ぶのは後だよ!とりあえずみんなで協力してその獣やっつけちゃおう!」

裸王「ぬぅっ!勘違いさせてしまったか、助太刀など無用!こやつは敵では無い!」

キモオタ「ファッ!?その巨大な獣が敵ではないとはどういう…」

裸王「うむ!敵ではないのだ!こやつは…」スッ

巨大な獣「グルオォォオオオォォォ!!!」ザザッ 

ドゴオォッ!!

裸王「ぐぬっ!しまった…!余所に気を取られている隙に…!ぬぅっ、不覚をとったか」ヨロッ

キモオタ「ちょ、我々に気を取られたせいで裸王殿が…!大丈夫でござるか!?っていうかその獣敵では無いのに何故裸王殿に襲いかかるのでござるか!?」

裸王「ぐぬぅ…すまんが話は後にして貰おう!今はこの獣をねじ伏せるが先決!」ググッ

巨大な獣「グルルゥ…」ザッザッ



862:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/22(月)00:41:12 ID:5Ny


巨大な獣「グルウォォォオオオォォォ!!」ザッザッザッ

裸王「一度与えた打撃に気をよくしたか…!そうそう何度も同じ攻撃が通用する裸王では無いぞ!今度こそ、我が筋肉の真の実力見せてやろう!」ババッ

ドゴオォォ!! ガシィィィッ!!

ティンカーベル「裸王があの獣の突進を受け止めたよ!?相変わらず物凄い筋肉だね…」

キモオタ「しかし捕えたとはいえあの巨大な獣にダメージを与えるとなると素手では厳しいのでは…!」

裸王「案ずるでないキモオタよ!我が筋肉は時に強固な鎧となり、時には重厚な槌となり、時にはしなやかな鞭になる!」マッスル

裸王「獣よ、変幻自在なる我が筋肉…!筋肉の奏でし戦いの旋律を聞くがよい!!」グググッ

 裸 王 右 ス ト レ ー ト

裸王「ふぅんっ!!シンプルイズ・ベスト!!」ビュオン

巨大な獣「グッ…グオオオォォッ!!」ビュッ

ドゴシャアァァァ!!

ティンカーベル「あ、あんなに巨大な獣をパンチ一発で吹き飛ばしちゃった…!」

キモオタ「ちょwwwどうなっているのですかなwww裸王殿の右ストレートはwww」コポォ

裸王「ふむ、近頃政務により多忙であったが…未だ我が拳、衰えてはおらんようだな」マッチョ



863:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/22(月)00:43:06 ID:5Ny

裸王「だがもう少しキレが欲しいところだ、トレーニング方法を変え……むっ?」

巨大な獣「グ、グルゥ…」キュー

メキメキッ メキッメキメキ…

キモオタ「ちょ、巨大な獣が叩きつけられた衝撃で大木がへし折れそうですぞ!?」

ティンカーベル「ちょ、ちょっとまって…ドロシーは!?ついて来てないけど…」

ドロシー「…はぁはぁ、お二人とも待ってください…!私を一人にしないでください…」トテトテ

メキメキメキメキ

ティンカーベル「圧し折れた大木がドロシーの方に…!このままだと下敷きになっちゃう!」

キモオタ「ドロシー殿!そこに居ては危険ですぞ!早くこちらへ逃げてくるでござる!」

ドロシー「えっ……?あ、あわわわわっ…!な、なんでこっちに倒れて来て……」ガタガタブルブル

キモオタ「むむっ、ドロシー殿…!急ぐのですぞ我輩!いつもの倍速でサイリウムを振りますぞ…!」ウオオォォ フリフリフリ

裸王「ぬぅっ!?何という事だ…!だがこの距離……いやしかし間にあわせてみせる…!」バッ

メキメキメキーーー!

ティンカーベル「ドロシー!!」

ドロシー「あわわっ…だ、誰か…助けて……!」


???「キモオタお兄さん、裸王さん…任せて、僕が行く」スタッ



864:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/22(月)00:45:17 ID:5Ny

裸王「ぬぅっ!その手があったか!頼むぞヘンゼルよ!」マッチョ

ヘンゼル「出でよ銀貨の魔獣!『火打ち箱』の所有者ヘンゼルが命じる!倒れる大木を引き裂き、あの少女を救いだせ!」ガチン!ガチン!

ビュオッ

銀貨の魔獣「……ガルル」ヒュッ

キモオタ「なんと…!ヘンゼル殿があの魔法具を打ち付けると同時に巨大な獣がもう一体現れましたぞ!?」

ヘンゼル「急げ!あの少女に傷一つつけてはいけない!」バッ

銀貨の魔獣「ガルルァァァァ!!」ズバッズバーッ

ッパァン!!

裸王「ぬぅっ!大木が木端微塵に…!なんと鋭利な爪か!称賛に値すべき雄々しき力よ!」ムキムキッ

ドロシー「……」ポカーン

銀貨の魔獣「ガルゥ…!」スタッ

ドロシー「あ、あなたがあの大木を切り裂いてくれたんだね…ありがとう」ナデナデ

銀貨の魔獣「ガルルッ」



865:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/22(月)00:47:29 ID:5Ny

ヘンゼル「よし、良くやったぞ銀貨の魔獣。……それより、君は大丈夫?」

ドロシー「あなたがこの子に頼んで私を助けてくれたんだね、あ、ありがとう…私の事を、助けてくれて…」

ヘンゼル「いや…それよりもごめんね、無関係な君を巻き込んでしまって。怪我は無い?」

ドロシー「わ、私は大丈夫です…。で、でもあなたの方こそ…頬、血が出てる…!」

ヘンゼル「…あぁ、砕かせた木片がかすったのかもね。平気だよ、かすり傷だから」フキッ

ドロシー「で、でも…キチンと治療しないとバイ菌とかはいっちゃうから…その…」

ヘンゼル「ありがとう、心配してくれるんだね。でも平気だよ、この程度の怪我慣れてる…というか僕の事は良いんだ。そんなことよりも…」

ドロシー「…?」

ヘンゼル「キミが怪我をしなくて良かったよ」

ドロシー「……あっ、はい」トゥンク…

キモオタ「ヘンゼル殿wwwお主いつの間にポケモンマスターにwww見違えましたぞwww」ドゥフコポォ

ヘンゼル「キモオタお兄さん、僕達の特訓に巻き込んだのは悪かったけど…あんたの連れならちゃんとあの子を助けてあげなよ。それだけの力があるんだから…」

キモオタ「面目ないwwwしかしヘンゼル殿の活躍が見れた故www結果オーライでござるwww」

ヘンゼル「何言ってんだか…まぁいいけど、キモオタお兄さんは怪我してないよね?もし怪我したなら屋敷に桃太郎が来てるから彼に頼んで――」

ドロシー(ヘンゼル君、かぁ……)ドキドキ

ティンカーベル「……ほぅ」ニヤニヤ



886:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/29(月)00:20:44 ID:cmT

裸王「むぅ、無関係な少女を危険な目にあわせてしまうなど…我ながら不甲斐ない!まさに裸王ミステイク!!」マッスルポーズ

ドロシー「ひっ」ビクッ

キモオタ「ちょwww裸王殿wwwいきなり大声出すからビビってるではござらんかwww」コポォ

裸王「ハーッハッハ!それは失礼した!キモオタの連れ合いというのなら既に聞いているのかも知れぬが、是非とも自己紹介をさせて頂きたい!構わんかな?」ムキムキ

ドロシー「あっ、はい…すいません、お願いします」ペコペコ

裸王「うむっ!我が名は裸王!おとぎ話【裸の王様】の主人公を務める、至高の筋肉を纏いし裸の王なり!」マッチョ

裸王「趣味は筋力トレーニングとポージング研究。近頃特に注目している筋肉は『下腿三頭筋』だ。よろしく頼むぞっ!ではこの巡り合わせを感謝して…喜びの裸王ポージングッ!」マッスルポーズ

ドロシー「……」ポカーン

ティンカーベル「まぁそういうリアクションになるよね。何処の筋肉なのそのなんとか筋って…」ヒキヒキ

ドロシー「あ、私も自己紹介しなきゃっ…!あの、えっと、ドロシーって言いますっ!【オズの魔法使い】の主人公してました…それで、えーとそのあの好きな筋肉は…」アワアワ

キモオタ「ちょwww落ち着くでござるよwwwドロシー殿がその項目語る必要無いでござるwww」コポォ

ドロシー「うぅ、練習してくれば良かったです…折角自己紹介していただいたのに何も考えてきませんでした…」ドヨーン



ヘンゼル「ドロシー……どうやら彼女本人で間違いなさそうだね、裸王さん」ヒソッ

裸王「うむ…キモオタ達がその名を呼んでいたからもしやと思ったが…この出会いもまた筋肉の加護なのであろうな」マッスルヒソヒソ



887:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/29(月)00:21:57 ID:cmT

ティンカーベル「ほらー、誰も責めたりしないから落ち着いてってばー!はい、深呼吸して!」スーハー

ドロシー「う、うん…。えっと、改めて…【オズの魔法使い】の主人公・ドロシーです…えっと、知っているかもしれないですけど…私は、あの…この間までアリスちゃんの所に居ました」

ドロシー「それで一緒に…たくさん悪い事をしていて…アリスちゃんに魔法具で性格を変えられてたくさんの世界を消して多くの人を…殺しました。それで……」

裸王「…うむっ、待ちたまえドロシーよ!それ以上口にするのは君にとっても辛い事だろう、ならば無理に言葉にする必要などないのだぞ!」マッスル

ドロシー「で、でも…キチンと謝らせて下さい!私達は【裸の王様】の世界も消そうとしたんです、裸王様の大切な国を…失くしてしまおうとしたんです」

裸王「あまり気に病むのではない、それらはもはや過去の事!それに我が国は消えてなどいないのだから君の過去の過ちを責め立てる理由など私には無いというわけだっ!」マッチョ

裸王「それに君の事情は別の者から聞いているっ!随分と辛い想いをし未来に不安を感じているだろう…だが案ずる事は無い!お主は一人では無いのだからな!」マッスル

裸王「皆が必ずお主の力になってくれるだろう!勿論この私もだっ!筋肉に関する悩みならばいつでも応えようではないか!ハッハッハ!」マッチョ

ドロシー「は、はい…!ありがとうございますっ!」

キモオタ「相変わらずでござるな裸王殿はwwwしかし頼れる国王である事は我輩が保証するでござるよドロシー殿www」コポォ

ドロシー「はいっ、裸王様が優しい人で良かったです…」

ティンカーベル「うんうん!そうだよねー…。はいっ!じゃあ今度はヘンゼルの番!カッコ良く自己紹介してあげてね!」

ヘンゼル「カッコ良くって何?普通でいいでしょ、というかなんで君が張り切ってるの?」

ティンカーベル「私の事はどーでもいいのっ!さっき魔獣召喚して戦ってた時カッコ良かったんだから自己紹介もカッコ良くやってよね!その方がドロシーも喜ぶよ!」

ヘンゼル「だからそのカッコ良くって言う指定はなんなの…?」



888:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/29(月)00:23:46 ID:cmT

ドロシー「あ、あの…ティンクちゃんはああ言ってるけど…普通の自己紹介で、大丈夫ですから…」ドキドキ

ヘンゼル「そのつもりだよ。と言っても特に紹介するようなことも特にないけど形だけはしておこうかな…。僕はヘンゼル、今は裸王様の所でお世話になってる。よろしく」スッ

ドロシー「は、はいっ!よろしくお願いします、ヘンゼル君」ペコペコ

ティンカーベル「えっ……それだけ?自己紹介それだけ?」

ヘンゼル「初対面の相手にいきなり自分の事を多く語っても仕方ないでしょ。裸王様みたいに冗談の一つでも交えるならともかくさ」

ティンカーベル「もー!なんでそんなにドライなのさ!もっといろいろ教えてあげればいいじゃん!好きなタイプとか恋人にしたいタイプとか…ドロシーのことどう思ってるかとか!」

ヘンゼル「いや、どう思ってるも何も初対面なんだけど」

ドロシー「そ、そうです!ちょ、ちょっとティンクちゃん何を言って…!」

ティンカーベル「大丈夫大丈夫!私がヘンゼルと良い感じにしてあげるからドロシーは大船に乗ったつもりでいていいよ!」ヒソヒソ

ドロシー「!? ちょ、ティンクちゃん…えっ、えぇぇ…?ど、どうして…」アワアワ

キャイキャイ

ヘンゼル「…? ねぇキモオタお兄さん、ティンカーベルは何が言いたかったわけ?何かおかしな呪いでもかけられたの?」

キモオタ「うーむwwwあれは恐らく呪いというか病気の一種でござるwwwティンカーベル殿は他人の恋路に…いや、他人事に首突っ込むのが好きなのでござるよwww」コポォ

ヘンゼル「はぁ…?よくわかんないけど…まぁそんなことより、裸王さんどうする?キモオタお兄さん達も来たし、特訓は切り上げた方が良いと思うんだけど」

ヘンゼル「あの子がドロシーだって言うのなら…僕達はドロシーにあの事を伝えてあげないといけないわけだし」

裸王「うむっ、ようやく体が温まってきたところではあるが…それは優先したいものだ、特訓はここで切り上げるとしよう」マッスル



889:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/29(月)00:26:03 ID:cmT


ヘンゼル「あぁ…でも木を一本へし折った事魔法使いに謝っておかないと、木片を随分と散らかしてしまったし…後で掃除をしないといけないね」

裸王「うむっ、だが二人で掛かればさほど時間もかかるまいっ!あるいはお主の魔獣に手伝ってもらうというのはどうだ?彼等の筋肉は素晴らしいものだぞ!」マッチョ

ヘンゼル「残念だけど僕の魔獣達はそんな繊細な命令聞けないと思うよ。彼等は基本的に力で解決みたいなところあるし…手伝わせてもきっと二度手間だよ、相手によるけど」

裸王「ならばやはり我々で何とかせねばな!なぁに、新手の筋トレだと思えば良いのだ!何事も筋トレだと思って取り組めば単純作業も苦にならんぞっ!」マッスル

ヘンゼル「僕にとっては筋トレが既に苦痛なんだけどね…。どっちかといえば身体を動かすのは好きじゃないし」

キモオタ「ほうwwwなんというか…意外ですなwww」

ヘンゼル「意外?何が?僕がインドア派だって事が?」

キモオタ「ちょwwwそこではないwwwヘンゼル殿が裸王殿と普通に接している事でござるよwww」コポォ

ヘンゼル「あぁ…その事…」

キモオタ「大人嫌いのヘンゼル殿が家族以外の者と親交を深められるように始めた旅wwwその最初の行き先として【裸の王様】の裸王殿のもとを勧めたのは確かに我輩でござるwww」

キモオタ「しかし思った以上に早く裸王殿と親交を深めているようですなwwwもしかしたらヘンゼル殿が心を開かないかも…などと思っていましたがこの様子なら安心でござるなwww」コポォ

裸王「ハッハッハ!私も突然現れたこの少年が自分に心を開いてくれるか心配だったぞっ!始めて出会ったとき、何故か不審者を見るような眼差しを向けられたからなっ!」マッチョ

ヘンゼル「国王だと名乗る男が半裸でポージングしてたら僕じゃなくても不審がると思うけどね…」



890:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/29(月)00:27:20 ID:cmT

ヘンゼル「でも…半裸だろうと執拗に筋肉を見せつけてこようとも、その王様が有能だって事は街を見ればすぐに解ったよ」

ヘンゼル「市場はとても賑わっていて、まるでお祭りのようだったしその場に居る誰もが幸せそうで…誰もが笑顔でいるなんて、僕が生まれた国とは大違いだった」

キモオタ「裸王殿の国は裕福でござるからなwwwそれなのに裸王殿の城はシンプルでござるし服は着ないでござるしwwwきっとその分国民に還元されるのでござろうなwww」

裸王「うむ、私は常々王族が豪華な暮らしをする事に疑問を持っているのだ。権力を誇示する為の豪奢な建造物、威光を示す為の立派な衣類に何の意味があるというのか」

裸王「国王の価値を決めるのはどれだけ国民を笑顔に出来るか、決して城や衣類の豪華さでは国王の価値など決まらぬっ!」マッチョ

キモオタ「くぅ~www相変わらず半裸だという所以外は非の打ちどころの無い善王でござるなwww」コポォ

裸王「ハッハッハ!まぁこのように立派な事を口にしてはいるが…実の所、国民達の期待を裏切る事が恐ろしいだけなのかもしれんな!」ハッハッハ

キモオタ「我輩が今まで旅してきた世界の国王に聞かせてやりたいですなwww主にマッチ売り殿の所の王とかwww」コポォ

裸王「あの国の王は私欲に目がくらんでおった、あのような姿は真の王とは言えぬなっ!更に言えば鍛錬の足りぬ随分と脆弱な肉体…筋肉が泣いておったわ!」マッスルポーズ

キモオタ「しかし、こう言っては何でござるが…大人嫌いのヘンゼル殿がよく裸王殿をそのまま信じましたなwwwお主の性格的に疑ってかかりそうなもんでござるがwww」

ヘンゼル「まぁ、ね…理由をつけて裸王さんの事を否定するのは簡単だったけど、街の人々の笑顔は否定できない。あれは演技や上辺なんかじゃないって事は僕にでもわかる」

ヘンゼル「それに…食べ物も困っていないみたいだった。裸王さんの国の子供たちは飢えのあまり何日も食事が取れなかったり口減らしで両親に捨てられる事もないんだ。それはとても素敵な事だよ」

ヘンゼル「僕は実の父親に今更未練もなければ同情もしないけど…それでも子供が親に捨てられるなんてこと、無い方が良いに決まってるから」



891:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/29(月)00:29:15 ID:cmT

ヘンゼル「とにかくあんたや女王が裸王さんを信用しているように、僕も信用してもいいと思ったんだ。だから僕は裸王さんに事情を話した」

ヘンゼル「裸王さんは素性の知れない僕の言葉を疑うことなく信用して城に招いてくれたよ。その代わり、日々の筋トレを欠かさない事を約束させられたけどね」フフ

キモオタ「なるほどwwwそれで裸王殿のもとで世話になっているというわけですなwww」

ヘンゼル「まぁ、そういうこと。だから心配なんかいらないよ、僕は問題なくやってる」

裸王「うむ、キモオタよ…私はヘンゼルから事情は聞いた。その上で私がヘンゼルに出来る事は何か…私にしか出来ない事は何か…そう考え、私は一つの結論にたどり着いた!それが一体、何か解るか?」

キモオタ「いやwwwクイズ形式にしなくてもぶっちゃけ解るでごz」

裸王「私がヘンゼルにしてやれること、それは……筋肉を鍛えてやることだ!」マッスルポーズ

キモオタ「やっwwwぱwwwりwww知ってたでござるwww絶対に言うと思ったでござるよwww」

裸王「ヘンゼルは知識面と魔力においては人並み以上の力を持っているが…筋肉に関しては随分衰えているようだったのでな」

ヘンゼル「昔は力仕事とかもしてたけど…女王の所に住むようになってからは全然だからね」

裸王「いくら膨大な魔力を持とうとも!強力な魔獣を召喚する術を持とうとも!人間は…いや生きるものは体が資本!体を鍛えていなければそれらの真の力を引き出す事など出来ん!」

裸王「逆に言えば丈夫な体を造り、良質な筋肉を手に入れればその力は何倍にも跳ね上がるっ!筋肉はそのまま勝利を手繰り寄せる力となる…」

裸王「妹君を護りたいのであれば尚更だ、鍛えられた体は敵やあらゆる脅威から護る強固な壁となるっ!筋肉とは盾にも矛にもなるのだからな!」マッチョ

ヘンゼル「まぁ…そういう事だよキモオタお兄さん、しばらくは裸王さんに鍛えて貰う事にするよ。魔獣達をうまく使役する為の訓練も裸王さんになら相手して貰えるし」

キモオタ「ヘンゼル殿にも頼れる相手や目標ができたようで良かったでござるwwwしかしムキムキなヘンゼル殿というのは想像できませんなwww」

ヘンゼル「別にムキムキになるまで体を鍛えるつもりは無いんだけどね…」

裸王「ハッハッハ!何を遠慮しているのだヘンゼル!私が鍛錬に付き合うのだ、ムキムキ程度では済まさぬぞ?」マッスル



892:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/29(月)00:30:19 ID:cmT

キモオタ「それはさておきwww新たな環境で張り切っているヘンゼル殿に我輩からひとつ頼みがあるのでござるがwww聞いていただけますかなwww」コポォ

ヘンゼル「別に張り切ってるわけじゃないけど、頼みって何?でも、それをきくかどうかは内容によるよ」

キモオタ「じゃあ話だけでもいいでござるからwww実はドロシー殿の事でござるよwww」

ヘンゼル「あぁ…あの子がどうかしたの?」

キモオタ「二人はどうやら既に知っていたようでござるが、先ほど本人が言っていた通りドロシー殿はアリス殿に利用され、悪事を働かされていたのでござるよ」

裸王「うむ、既に話は聞いていたぞ。見たところ元々は気が小さくか弱い少女のようだ…精神に干渉する魔法具とは恐ろしいものだな、元の性格など関係無く悪の心を植え付けるとは」

キモオタ「そうでござるな…しかし魔法具で植え付けられた悪意とはいえドロシー殿が犯してきた罪の数々…殺してきた者達…本人はとても悩んでいるようなのでござる」

ヘンゼル「人を殺す事自体が悪だったり罪な訳じゃないでしょ、どういう意思のもとに殺したかが問題なんだよ」

ヘンゼル「グレーテルだって僕達を利用した魔女を殺したけど、それは自分や僕を護る為の行為だ。それが罪や悪と言われてたまるか、ドロシーもそれと同じだよ」

キモオタ「ヘンゼル殿ならそう言ってくれると思いましたぞwwwもちろん我輩も同じ考えでござるし、ティンカーベル殿赤ずきん殿含む他の者達も、きっと彼女を突っぱねなどしないでござろうwww」

キモオタ「とはいえ…ドロシー殿自身が自分を許せずに過去に負い目を感じている以上、我々に遠慮なく自然に接するという事は…容易ではないでござろう」

ヘンゼル「…なるほどね、ティンカーベル達と違って僕はドロシーに被害を受けたわけじゃない。あの馬鹿馬鹿しいおとぎ話も自分で消したんだしね」

ヘンゼル「そういう意味である意味中立な位置にいる僕にならドロシーも接しやすいんじゃないか?…そう言いたいんでしょ、キモオタお兄さんは」

キモオタ「その通りですぞwww年齢も近いでござるし、ドロシー殿もなにかと話しかけやすいのではwwwと思いましてなwww」



893:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/29(月)00:32:02 ID:cmT

キモオタ「それにヘンゼル殿は女子に囲まれた生活を送るモテモテボーイでござるからwww女子との接し方は心得ているでござろうwww」コポォ

ヘンゼル「いや、それグレーテルやお千代とか女王の事言ってるんでしょ?家族と接するのとはまた違うと思うけど」

キモオタ「ドゥフフwwwまぁこれは頼みというより願いですなwww我輩が勝手に言ってるだけでござるし、できれば気に掛けてあげてくれれば我輩も嬉しいというわけでござるwww」

ヘンゼル「相変わらずのお節介焼きだよね、キモオタお兄さんは。まぁ、僕も彼女には興味があったし…構わないけどね」

キモオタ「ほうwwwそれはそれはwwwドロシー殿にwww興味がwwwどのような興味でござろうなぁwwwドロシー殿小動物系で可愛いですからなぁwww」ドゥフフ

裸王「いやいや、違うぞキモオタよ。ヘンゼルはドロシーの姿勢の良さが気になるのだろう?あのピンとした背筋…今は未熟でも鍛えれば立派な背筋を手に入れる事もできようっ!」ムキムキ

ヘンゼル「……これだから大人は」ハァ…

キモオタ「ちょwww悪かったでござるからこんなことでまた大人に絶望するのはやめていただきたいwww」コポォ

裸王「なんと、違ったかっ!?」マッスルショック

ヘンゼル「…まぁ、いいよ。でもそういう事ならドロシーにあの事を伝えるのは僕の方が適任かもしれないね。裸王さん」

裸王「そうだな…じきに魔法使い殿の話も始まるだろう、シンデレラの事も気になるがそれはそれで重要な事。そちらはお主に頼んでも構わないか、ヘンゼルよ」

ヘンゼル「うん、任せてよ。この事はきっと裸王さんよりも僕の方が彼女もショック少なく聞けるだろうし…」

キモオタ「…ほう?なにやらシリアスムードでござるな、我輩にもお聞かせ願いたいwww」

裸王「まだキモオタにも伝えていなかったな。実は…」



894:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/29(月)00:33:25 ID:cmT


ティンカーベル「おーい!キモオター!ヘンゼルー!裸王ー!立ち話もなんだから屋敷に行こうよ!きっとお茶出してくれるよ!」パタパタ

ドロシー「……うぅ、顔を隠したい。それか表情に出ちゃう自分の性格を何とかしたい……」ドヨーン

キモオタ「ちょwwwティンカーベル殿wwwドロシー殿に何をしたのでござるかwww影を背負っているのでござるがwww」

ティンカーベル「おっと!それは言えないねっ!ガールズトークの内容を聞くなんて許されざる行為だからねっ!」フンス

キモオタ「ほうwwwそれはさておきwwwなにやら裸王殿達がドロs」

ゲシッ

キモオタ「おぶっwwwちょwwwなんで蹴り入れるでござるかヘンゼル殿www」コポォ

ヘンゼル「ドロシー」

ドロシー「は、はいっ!なんでしょうか…」ビクッ

ヘンゼル「君と二人で話がしたい、少し時間を貰える?」

ティンカーベル「!?」ガタッ

キモオタ「ちょwwwなんでお主のリアクションの方がでかいのでござるかwww」コポォ

ドロシー「え、えっ…は、はい、それは良いですけど…。それならティンクちゃんやキモオタさんも一緒に居て貰った方が…」

ティンカーベル「うんうん!私も一緒に居るよ!その方がおもしr」

裸王「ハッハッハ!ティンカーベルよ、お主とキモオタはこっちだっ!」マッスルホールド

ティンカーベル「ちょ、ちょっと放してよ裸王!なんで掴むのさ!」ジタバタ

裸王「ハッハッハ!特訓に精を出したせいか我が筋肉は糖分を欲している!一人で茶をすするのもなんだ、お前達にも付き合って貰うぞっ!裸王ティータイムッ!」マッスル



895:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/29(月)00:35:21 ID:cmT

魔法使いの屋敷 廊下

ドスドスドス

ティンカーベル「うわぁー!放してー!絶対あっちに居る方が面白いのにー!」ジタバタ

キモオタ「ティンカーベル殿wwwもう諦めて何のお菓子が出されるのか期待した方が有意義ですぞwww」コポォ

ティンカーベル「諦めが早いよ!私は甘いお菓子よりも甘い雰囲気の方が気になるんだよ!うまいこと言ったんだから離してー!」ジタバタ

キモオタ「いやwww別にうまくないでござるからwww」コポォ

裸王「うむっ、それにヘンゼルはお主が期待しているような浮ついた話をするつもりではないぞ?」

ティンカーベル「えっ、そうなの?若い男女が二人きりで話するって言ったらそういう…」

キモオタ「初対面でそんな事あるわけないでござろうwwwお主は少女漫画の読み過ぎですぞwww」

裸王「真面目な話なのでな。少なくともお主がきいて愉快な気持ちになるものではないぞ」

ティンカーベル「なんだ…じゃあいいや、お菓子何かなー」パタパタ

キモオタ「ちょwww盛大なwww手のひら返しwww」コポォ

ティンカーベル「でもさ、じゃあヘンゼルはドロシーに何の用事があったのかな?裸王は知ってるんだよね?」

裸王「うむ、それについてはお前達にも話しておかなければなるまい」

裸王「我々も無関係というわけではないのだ、他の者も交えて話しておくとするか」



896:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/29(月)00:38:27 ID:cmT

魔法使いの屋敷 庭(森)


ドロシー(あ、あわわわ…。ヘンゼル君が私に用事って…一体何の事なんだろう…)ビクビク

ヘンゼル「ごめんね、突然話がしたいなんて言われて驚いたよね」

ドロシー「い、いえ、大丈夫ですっ!気にしないでくださいっ!」ドキドキ

ヘンゼル「そう…?そうは見えないけど、まぁそれならいいけど…」

ドロシー(な、なんだろう…もしかしてキモオタさんとティンクちゃんと一緒に居ても私が浮いちゃってるから気を掛けてくれたのかもしれない…他に話し掛けてくれる理由がないし…)

ドロシー(それか実は恨まれてるかどっちかだと思うけど…恨んでるなら私を助けたりしないだろうし…。じゃあやっぱり気を使ってくれてるんだ、わ、私もそれに応えなきゃ…!)

ヘンゼル「そうだな、まずはあの事を…」

ドロシー「あ、あのっ!さっきは助けてくれてありがとうございました…あのっ、助かりました!」ペコペコ

ヘンゼル「あっ、うん。あれは僕達が悪かったんだから君は気にしなくていいよ、それよりも…」

ドロシー「あ、あの!あの大きな犬にお願いする魔法具…!凄いですね!あんな大きな犬を自由に出来るなんて私、びっくりしましたっ!」

ヘンゼル「あぁ、火打ち箱って言うんだ。あれは家族から譲って貰った大切な魔法具なんだ。それで…」

ドロシー「わ、私も魔法具を持っていた事あるんですっ!今はアリスちゃんに取られてしまったけど…あの、でも、」

ドロシー(ヘンゼル君は私に気を使ってくれてる…だ、だから会話を途切れさせないようにしないと…なにか面白い事言わなきゃ…!)

ヘンゼル「……」

ドロシー(私はただでさえ悪い事ばかりしてきたのに…周りの気づかいにはちゃんと答えなきゃ、キモオタさんやティンクちゃんやヘンゼル君…みんなに嫌われちゃう…)アワアワ



897:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/29(月)00:42:45 ID:cmT

ドロシー「あ、あと…何話そうかな…あのっ、えっと…すいません、今何か面白い事を言いますから待ってください…!」アワアワ

ヘンゼル「……あのさ、ドロシー」

ドロシー「は、はいっ!すいませんっ!」ビクッ

ヘンゼル「……。ごめん、ちょっとさがって。危ないから」

ドロシー「は、はいっ。あの、危ないって何をするつもりで…」

スッ

ヘンゼル「…出でよ銀貨の魔獣、『火打ち箱』の所有者ヘンゼルが命じる。しばらくそこに寝そべってくれるかな、それとドロシーに危害を加えないようにね」ガチン!ガチン!

ビュオッ

銀貨の魔獣「ガルルゥ…」スリスリ

ヘンゼル「よし良い子だ。さっきは手を貸してくれてありがとう、君の腕を少し借りるよ。ドロシー、立ち話もなんだから彼の腕に腰かけるといいよ、下手なソファよりもふかふかだから」

ドロシー「あの、でも…助けて貰ったのにそんな事しちゃ…悪いです」

ヘンゼル「…って言ってるけど、君は気にするかい?もしも身体を触られるれるのが嫌なら、火打ち箱に戻っても構わないよ」

銀貨の魔獣「ガルゥ…」フルフル

ヘンゼル「気にしないってさ。彼は僕が使役出来る三匹の魔獣の中でも一番人懐っこいんだ、それに毛並みだって一番いい。撫でてくれた君の事を気にいってるのかもしれないよ」

ドロシー「そ、そういうことなら…失礼します」



898:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/29(月)00:43:19 ID:cmT

フカッフカ

ドロシー「あっ、ホントにふっかふかですね…」

ヘンゼル「でしょ?こんな風に懐いてくれるのはこの子だけなんだ、他の魔獣…銅貨の魔獣はじっとしていられないし、金貨の魔獣は触られるのを嫌うから」

ドロシー「えっと、火打ち箱は魔獣…を呼び出す魔法具なんですよね?魔法で作られたのに性格とかあるんですね…」

ヘンゼル「そりゃあね、だからこそ扱いが難しい子も居るんだけどね…所有者の僕が火打ち箱を打ちつければ忠実に命令は聞いてくれるけど」

ドロシー「私の魔法具は靴だったから意思とか無かったですけど…。性格が違う仲間が三人も居たらやっぱり楽しいですね」

ヘンゼル「でも扱いは大変なんだよ。銅貨の魔獣は悪い子じゃないけど暴れるのが好きで大人しくしていられない、素直ではあるんだけどね」

ヘンゼル「銀貨の魔獣は素早い、一番僕に心を許してくれているし見ての通り大人しい。それに命令の意図も比較的キチンと汲んでくれる」

ドロシー「へぇ…君はおりこうさんなんだね」ナデナデ

銀貨の魔獣「ガルルッ」ワフワフ

ドロシー「うふふっ、君が魔獣だなんて信じられないよ、こんなに素直で可愛いのに…」ナデナデ

ヘンゼル「まぁ、二匹は素直なんだけどね…問題は最期の一匹、最も強い力を持つ金貨の魔獣だよ」



899:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/29(月)00:44:38 ID:cmT

ドロシー「もしかして、言う事聞いてくれないとか…ですか?」

ヘンゼル「いいや、聞いてくれるからこそ性質が悪いんだけど…まぁ、三匹も居れば一匹くらい気むずかしい奴もいるって事だよ」

ドロシー「なんとなく、わかる気…します。私にも三人の仲間がいて、一緒に長い旅をしてたから…」

ヘンゼル「脳の無いかかし、心の無いブリキのきこり、勇気の無いライオン…だったよね。【オズの魔法使い】は昔、家族と一緒に読んだよ」

ドロシー「そ、そうなんですか…?な、なんだか恥ずかしいです…。みんなが頑張ってくれたおかげで悪い魔女を倒せただけで…わ、私は大した事してないし…それに……」

ドロシー「そのおとぎ話はもう、存在しません。私が消しちゃったから…」シュン

ヘンゼル「…うん、知ってる。そうらしいね」

ドロシー「あっ…あの、そんな事するのダメですよね。おとぎ話の主人公が自分のおとぎ話を消しちゃうなんて、そんな事…やっちゃいけないことですよね…」

ヘンゼル「……。へぇ、ドロシーはそう思うんだ?」

ドロシー「そ、そうです。おとぎ話は現実世界の人が折角作ってくれたものなのに、自分の都合で消しちゃうなんて……そんな事をする人は、悪い人です……神をも恐れぬ悪人です……」

ヘンゼル「ふふっ、そうだね。自分の生まれた世界を自分の都合で消すような主人公はとんでもない悪人だ、絶対に許しちゃいけないね」クスクス

ドロシー「うぅ…。でも、そう言われても仕方ないです……私は自分の都合でおとぎ話を消した悪人です……言い訳するつもりも……」

ヘンゼル「じゃあ僕達は悪人仲間って事になるね?」クスクス

ドロシー「えっ…?」

ヘンゼル「僕も自分のおとぎ話の世界を消した主人公だから。あの【ヘンゼルとグレーテル】とかいうおとぎ話を消したのは他でも無い、僕なんだよ」フフッ



900:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/29(月)00:47:29 ID:cmT


ドロシー「えっ…えぇっ!?そうなんですか!?わ、私知らなくてなんかすごく酷い事言っちゃいました…すいませんすいません!」ペコペコ

ヘンゼル「いいんだよ、僕は悪人だ。自分の都合でおとぎ話を消した大悪党、それでいいよ」クスクス

ドロシー「だっ、駄目です!ヘンゼル君は悪人なんかじゃありません、私の事助けてくれて…だから悪い人なんかじゃないですよ!」アワアワ

ヘンゼル「いやいや、大悪党だよ?【ヘンゼルとグレーテル】だけじゃなく【キジも鳴かずば】も消したからね」クスクス

ドロシー「ふ、二つも…」

ヘンゼル「ひとつでも悪人なのにおとぎ話二つとか極悪人だよ?もう僕は救いようがない悪党だね」

ドロシー「か、関係無いですよ消しちゃった数とか…だってヘンゼル君にはおとぎ話を消した理由があるんですよね!だから…その、悪くないです!」

ヘンゼル「じゃあ君も悪くない。君にだってアリスに利用されてたっていう理由があるでしょ?」フフッ

ドロシー「で、でも……私は数え切れないほどのおとぎ話を……!」

ヘンゼル「数は関係ないって言ったのは君だよ?」クスクス

ドロシー「そ、それは…」

ヘンゼル「僕のやった事と君のやった事は同じ事だよ、理由があったからおとぎ話を消滅させたし無関係の人間も殺した。…君は僕の事を責めるかい?」

ドロシー「そ、そんなこと…しません。ヘンゼル君は優しい人だって…わかってます。だから…」

ヘンゼル「だったら僕もだ。僕は君の事を責めない」



901:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/29(月)00:50:24 ID:cmT

ドロシー「でも…」

ヘンゼル「僕はね、初めて【オズの魔法使い】を読んだ時にこう思ったんだ『あぁ、この世界にも悪い大人に騙された僕みたいな子がいるんだ』ってね」

ヘンゼル「確かオズって名乗ってたんだよね、君と仲間達を利用して魔女退治なんて危険な役目を押し付けた挙句、約束を護らなかった詐欺師」

ドロシー「…はい、大魔法使いだって言ってたけどそれは嘘で…。私達は願いを叶えてあげるなんて甘い言葉に騙されて、危険な魔女退治をすることになって…」

ヘンゼル「僕とグレーテルは悪い魔女に利用されて兄妹共々殺されかけたんだ。悪い大人の食い物にされたって点は同じだよ」

ドロシー「……そうかもしれません」

ヘンゼル「こんな風に言うと自惚れに聞こえるかもしれないけど…。大人に利用されて、騙されて…妹や仲間を利用された君の気持ちを僕は理解できる」

ヘンゼル「僕は君におとぎ話を消されたわけでもなければグレーテル達を傷付けられたわけでもない。君は自分が悪い、自分は悪人だって気にしてるみたいだけど…」

ドロシー「……」

ヘンゼル「僕にとっては自分と同じ苦痛を経験した女の子だ。君に恨みの感情も無ければ、蔑むような事も無いよ」

ドロシー「……ヘンゼル君は、本当に優しいです。私みたいな女の子を気遣ってくれて…私なんか、罵倒されてもおかしくないことしたのに…」

ヘンゼル「僕だって誰にだって優しいわけじゃないよ。君がどれだけ優しい女の子か、ある人物に一晩中聞かされたからね」クスクス

ドロシー「それって、もしかして私の仲間の……」



902:◆oBwZbn5S8kKC 2016/02/29(月)00:52:53 ID:cmT


ヘンゼル「うん、君の仲間の一人…ブリキのきこりに僕は出会った」

ドロシー「ぶ、ブリキは無事でしたか!?私の仲間の中でもブリキは一番私の事気に掛けてくれて、その…無茶とかするから…」

ヘンゼル「……」

ドロシー「へ、ヘンゼル君…?こ、答えてください!お願いします…!」

ヘンゼル「無事は無事…だけど、彼は今……裸王さんの城の地下牢に閉じ込められてる。両腕両足を拘束された状態でね」

ドロシー「酷い…!なんでブリキにそんな事を…!裸王様は優しい王様じゃないんですか…!」

ヘンゼル「誤解しないであげてドロシー。裸王さんも…そうするしかない事にとても頭を悩ませてたから」

ドロシー「ま、まさかブリキが…なにかしちゃったとか…!」

ヘンゼル「君の事をとても心配していた。だから君を探しに行く為になりふり構っていられなかったんだろう」

ヘンゼル「ブリキは疲れも知らないし痛覚も無いんだよね、本人から聞いたけど…だから彼は君を探しに行く手段を手に入れる為に自分の身を犠牲にしてまで」

ドロシー「……凄く、簡単に想像できます。ブリキ、そういう所あったので」

ヘンゼル「これ以上自分自身を蔑ろにして目的を果たそうとするブリキを見ていられなかったんだろう。裸王さんはなんとか彼を拘束して、地下牢に閉じ込めた」

ドロシー「……」

ヘンゼル「僕には、彼の気持ちがよくわかる。助けたい大切な人が今も苦しんでいるのに、自分には何もできないっていう歯がゆさ…」

ヘンゼル「だから僕は彼を救ってあげたい。君に…裸王さんの城まで来て欲しい」



927:◆oBwZbn5S8kKC 2016/03/07(月)00:17:51 ID:rPm

回想…
裸の王様の世界 裸王の城 地下牢

コツッコツッコツッ

裸王「むぅ、ここはやはりうす暗いな。我が筋肉の輝きで照らし出すとするか!…と言いたいところだが素直にランタンを使うとしよう、これはヘンゼルの分だ」マッスル

ヘンゼル「うん、ありがとう。…で、僕に会って欲しい人っていうのは何処に居るの?」

裸王「うむ、突き当たりの一際大きな檻だ。地下牢とはいえここに入っているのは彼一人、彼も危険な犯罪者というわけではない…安心してくれたまえ」

ヘンゼル「そうは言っても檻に入れてるって事は何かしたんでしょ?」

裸王「うむ…彼は我が国の城下で大暴れをした。幸い死者は居なかったが、何人か怪我を負ってな…」

ヘンゼル「という事は余所の国からの旅人?わざわざ僕に会わせるって事は余所の国というより…余所の世界って言う方が正しいのかな?」

裸王「うむその通りだ、彼は別の世界からやってきたおとぎ話の住人なのだ」

ヘンゼル「別世界から来たおとぎ話の住人に暴れられて迷惑している。だから僕に何とかしてほしい…そういう事?」

裸王「うむ…そうには違いないのだが彼を檻に入れている理由は街で暴れたという理由だけではないのだ」

ヘンゼル「…? それってどういう事…?」

裸王「説明するよりも彼の姿を見てもらう方が早いだろう。さぁこの檻だ……ブリキよ、ブリキのきこりよ。起きているか?」

ガシャッ

ブリキ「……俺は心を持たず生身の肉体を持たぬブリキのきこり。睡眠を取る事も必要としない、それは以前伝えたはずだが」ギロリ



928:◆oBwZbn5S8kKC 2016/03/07(月)00:19:42 ID:rPm

裸王「ぬぅ、すまん。今日はお主に用があってな…少し時間を貰えるか?」

ブリキ「拘束しておきながら『時間を貰えるか?』など…滑稽な物言いだ。俺には時間がないというのに貴様がそれを奪っているのは今に始まった事ではないだろう!」ギシッ

裸王「そう言うでない、私とてこの様な形でしか事態を収束出来ぬ事に筋肉を悩ませている…。かと言ってお主を野放しにする事も出来んのだ」

ブリキ「……フンッ」ギシッ

裸王「…ヘンゼル、彼はブリキのきこりという男だ。博識なお主の事、名前程度は聞いた事があるのではないか?」

ヘンゼル「ブリキのきこりってことは彼は【オズの魔法使い】の登場人物って事だよね。確かそのおとぎ話の主人公ドロシーは……」

小夜啼鳥「アリスと共に行動しているという話ですね。しかし妙です…」ヒョコ

ヘンゼル「…君さ、結構神出鬼没だよね。僕のバックに隠れてたの?」

小夜啼鳥「えぇ、暗闇を飛ぶのはあまり得意ではないので。それより見てくださいヘンゼル君、彼の姿…酷い有様です」

ボロボロ

ヘンゼル「…ブリキで出来た身体はあちこちへこんだりひしゃげたりしてる。生身の人間に例えるなら相当な大怪我だ、それを更に鎖で縛りあげられてる」

小夜啼鳥「これでは身動きを取る事も出来ないでしょう…お優しい裸王様がここまで厳重に拘束するという事は何か理由がおありなのでしょう」

裸王「うむ、過剰な拘束に見えるかも知れんが…これは彼の身を護る為の措置でもある」

ヘンゼル「ブリキの身を護る為の…?」

裸王「うむ、実は私が彼と出会ったときひとつの約束をしたのだ。私との戦いに勝利すれば彼の願いであるドロシーという娘の捜索に協力するとな」



929:◆oBwZbn5S8kKC 2016/03/07(月)00:21:23 ID:rPm

裸王「結果を言えば私の勝利だった。だが…ブリキ製の身体がひしゃげようと、腕が潰れようとも足が軋もうとも彼は止まろうとしなかった」

小夜啼鳥「それは壮絶な…しかし生身の肉体でないとはいえ、あれほどのダメージを負えば痛みで動けないのではないですか?」

裸王「名の通りブリキの身体を持つ彼は睡眠を必要としないだけではない、食事もしなければ疲れもしない。そして痛みを感じる事も無いようだ」

ヘンゼル「それは羨ましいもんだね、痛みを感じなければどれだけダメージを受けようが何も感じないって事だしさ」

裸王「私はそうは思わんな…痛みを感じぬとはいえダメージは確実に蓄積されるのだ。事実、彼の身体も徐々に言う事を聞かなくなっていたのだ…そこを取り押さえた」

裸王「しかし彼はどんなにズタボロになろうとも自分を庇おうとも引こうともしなかった。その目が光を失う事は無かったのだ」

ヘンゼル「体が壊れてしまっても構わない程…彼はドロシーに会いたかったってことなんだね」

裸王「そうだろう、何とか捕えて檻に入れたものの彼は朽ちかけた身体を打ちつけて檻を破壊しようとした。私はもう見ていられず…不本意ながら彼を拘束した」

小夜啼鳥「痛みを感じない事を逆手にとって、自分をも犠牲にした彼の振る舞いを止める為…ですか」

裸王「うむ、アリスとドロシーの件は私も聞いていたが…しかし目の前にこれほどにまで必死な男がいるというのに捨て置く事も出来なかった」

裸王「おとぎ話の事情を伏せた上でこの世界の魔法使いに世界移動の件を聞いては見たが、そんな魔法は存在しないと言われてしまった」

ヘンゼル「このおとぎ話には魔法使いなんか居ないと思ってたけど…あぁでも『愚か者には見えない服』なんて存在がすんなり受け入れられるくらいなんだから魔法自体はこの世界にも存在するのかな?」

小夜啼鳥「えぇ、するでしょう。物語において重要な役割を持つ雪の女王様や【シンデレラ】の魔法使い様と比べれば魔力は随分と見劣りするでしょうが…」

裸王「うむ、そうなのだ。ブリキの身体を直す事も考えたが…どんな優秀な鍛冶屋に相談しても皆首を横に振った。予想はしていたのだがな」

ヘンゼル「僕の周囲は何かと魔法に縁があるから麻痺してたけど…本来は魔法魔力に縁がない事の方が普通だもんね。世界移動だって同じだね」

裸王「そうなのだ、だがドロシーに会いたいという彼の願いならば世界移動が可能なティンクや赤ずきん達に頼めばなんとかなっただろう。しかし、彼らも各々の目標の為に研鑽しているのだ…邪魔をする事は出来ぬ」

裸王「それにブリキが別世界の住人だとしても、この世界での出来事である以上この件を解決する責任は王である私にある。ならば他者に頼る前に出来る限りの事をすべきだからな」



930:◆oBwZbn5S8kKC 2016/03/07(月)00:22:37 ID:rPm

裸王「とはいえ…方々に手を尽くしてはみたが、彼の願いを叶える事はおろか傷付いた身体を直す方法も見つからず、もうキモオタ達に相談せざるを得ないと思っていた所だったのだ」

小夜啼鳥「困り果てていた所に丁度ヘンゼル君が訪ねてきたというわけですね。世界移動ができる私という存在を連れて」

ヘンゼル「確かに小夜啼鳥になら彼を別世界に連れていくことは可能だね」

裸王「うむ、出会ったばかりの君にこの様な事を頼むなど不躾である事は承知の上だ。だが…私にはがむしゃらに友を想うこの男を放っておく事は出来ぬ、どうか協力してはくれぬか?」

ヘンゼル「僕を快く迎え入れてくれた裸王さんには僕も恩がある。だけど……」

裸王「むぅ…やはり難しいか、ヘンゼルにとっても小夜啼鳥は重要な存在。お主を頼れぬのならばやはりキモオタに頼むしかあるまい…」

ヘンゼル「ううん、そういう意味じゃなくてさ。もちろん協力はするよ?協力はするけど……ねぇ小夜啼鳥?」

小夜啼鳥「はい、私達が彼を別世界に連れ出したところでドロシーさんの居場所が分からない以上…彼はまた同じように自分自身を犠牲にして彼女の居場所を探し出すでしょうね」

ヘンゼル「それじゃ…意味がないよね。それにまた関係無い別世界の人を巻き込んでしまうかも知れないし」

裸王「うむ…確かにそうだ。別の場所で暴れてしまうだけかもしれん。ぬぅ、しかしそれならばどうすれば……」

ヘンゼル「僕が……彼と少し話してもいいかな?」

裸王「むっ?それは構わんが…」

小夜啼鳥「ヘンゼル君?何をするつもりなのですか?」

ヘンゼル「…うん、少し思う所があってね。大丈夫だよ、無茶するつもり無いからさ」



931:◆oBwZbn5S8kKC 2016/03/07(月)00:23:43 ID:rPm

スッ

ヘンゼル「ねぇブリキ。僕と少し話をして欲しいんだ、君の力になれるかもしれない」

ブリキ「……貴様は何者だ?俺の力になれるかもしれんだと?何を解ったような事を…子供の癖に思いあがるな」ギロリ

ヘンゼル「子供の癖に…?はぁ、随分な言い方だね。そういう物言いに僕はとても腹が立つ。大体そういう言い方をする大人に限って…」カチン

小夜啼鳥「ヘンゼル君、そんな話をする為にあなたは彼の前に?そうではないのでは」

ヘンゼル「…ごめん。そう言わずに話を聞いてもらうよブリキ、君は別世界に行く方法を探してるんだよね?ドロシーを探し出す為に」

ブリキ「見ず知らずの貴様に話す理由など無い……が、お前は『ヘンゼル』と呼ばれていたな。小僧、もしや…おとぎ話【ヘンゼルとグレーテル】の主人公の一人か?」

ヘンゼル「おとぎ話の主人公って言い方は好きじゃないけど…まぁ、その通りだよ。僕はヘンゼル、別世界の住人だ」

ブリキ「ならばこの世界に来た方法があるはずだ。お前はどのように世界を移動している?魔法か魔法具か、あるいは持って生まれた能力の類か…?」

小夜啼鳥「あっ、それ私です。【小夜啼鳥】というおとぎ話をご存知ですか?その世界からやってきた、小夜啼鳥と申します」ピチチチチ

ブリキ「世界移動の能力はお前に備わっているのか…。ならばその力を俺に貸してくれ、俺は今すぐにでもこの世界を出ていかなければならんのだ」ギシッ

小夜啼鳥「それはできませんね。今のあなたを別世界へ連れだせばどんな事になるかは想像に容易い。危険です、あなたもあなたの周囲も」

ブリキ「力になれると言ったのはそういう意味ではないのか?ならば貴様等は何故俺の目の前に現れた?世界移動の方法をちらつかせて俺をおちょくろうとでも言うのか?」ギロリ

ヘンゼル「そんなことしないよ、ただ……手助けはしたいと思ってる」



932:◆oBwZbn5S8kKC 2016/03/07(月)00:25:39 ID:rPm

ブリキ「俺の望みはこの檻から出る事、そして友のドロシー達を探し出す事。その為に世界を渡る手段が必要だ」

ブリキ「俺を助けたいという言葉が真実ならば、俺を連れて別の世界へ渡ってくれ。お前の…小夜啼鳥の力は今俺が最も欲しているものだ、俺は今すぐにでも別の世界へ渡りたい、ドロシーを救う為に」

ヘンゼル「自分の身体がどうなっているか気が付いていない訳じゃないでしょ?そんなボロボロの身体でどうするつもり?」

ブリキ「俺の身体の事などドロシーが受けているであろう苦しみに比べれば些細な事だ。あいつは今、誰よりも辛く苦しい状況に置かれている」

ブリキ「今のあいつには俺やかかしやライオン…仲間が必要だ。今すぐにでも見つけ出してその不安を解消してやりたい。気の弱い娘だ、一人になどできない」

ヘンゼル「随分と大切なんだね、そのドロシーって子が。僕が知ってる情報だと…アリスと一緒に悪事をしてるって聞いたけど人違い?」

ブリキ「いや…事実だ。だが信じてくれ、あいつはアリスに利用されていただけで…本当は内気で気弱な女の子なんだ、悪意なんか無かった。今はアリスに掛けられていた魔法が解けてしまって、悪事の記憶に悩まされているはずだ…」

ブリキ「だから俺はあいつに協力するためだったら何だってやる。この身が朽ちる事など恐れない、あいつを悩ませる不安を取り除けるなら俺はなんだってやる」

ヘンゼル「……」

ブリキ「お前が俺に頭を下げて頼めというのならばそうする。決して暴れるなと命じるのならそれだって守る。だから頼む!俺に世界移動の力を貸してくれ!」

ヘンゼル「……悪いけど、それは出来ない。やっぱり危険すぎるよ、君自身も周りの人たちも」

ブリキ「好機が巡って来たと思ったが…そう甘くはないか。世界移動の力を貸すつもりがないというのなら、お前達に用は無い」ギリッ

ヘンゼル「最後まで聞きなよ、彼女は僕の見張りでもあるんだ…だから小夜啼鳥を貸すことは出来ない。でもその代わりに、僕がドロシーの居場所を突き止めてこの場所に連れてくる。それじゃ納得できない?」



933:◆oBwZbn5S8kKC 2016/03/07(月)00:28:05 ID:rPm

ブリキ「俺の代わりにお前がドロシーを探し出し、ここへ連れてくるだと?」ギシッ

ヘンゼル「うん、自分の身体がそんな風になるまで暴れるような君を余所の世界に連れ出すなんて出来ない。でもだからといって諦めろというのは酷だよ」

ヘンゼル「僕にもやらなきゃいけない事があるから時間の全てをドロシーの捜索に割く事は出来ないけど、なるべく優先的に行動はするよ。それでもいいのなら任せて欲しいな」

ブリキ「そうしてくれるのならば、俺は助かるが…」

小夜啼鳥「ヘンゼル君。いいのですか?彼の言葉をそのまま信じてしまっても」

小夜啼鳥「ドロシーがアリスと組んでいるというのは女王様が得た確かな情報。しかしドロシーが操られているだけという情報は…初耳です。何らかの罠の可能性も…」

ブリキ「そう思うのも無理はない。だが、事実だ…それを証明する方法は無いから信じてくれとしか言えないがな」

ヘンゼル「大人の言う事は簡単に信用しちゃいけない。とはいっても…彼の言葉が嘘だとは思えないし、もしもアリスの罠なら世界移動ができる人を狙うと思う。僕がいるのなんか想定外なわけだし」

小夜啼鳥「…正直に言えば私も彼の言葉に嘘偽りは無いとは思いますよ、ですがあなたは随分とブリキに肩入れしているように見えます」

小夜啼鳥「それもごく個人的な感情が原因のようですが」

ヘンゼル「鋭いね小夜啼鳥は」クスクス

小夜啼鳥「鋭くなければあなたのお目付け役は務まりません。あなたはかつての自分の姿とブリキの姿を重ねている…そうですね?」



934:◆oBwZbn5S8kKC 2016/03/07(月)00:29:46 ID:rPm

ブリキ「…【ヘンゼルとグレーテル】でお前と妹は魔女に騙され捕えられたんだったか」

ヘンゼル「まぁ一応その話だね…昔、僕と妹は魔女に騙されて捕まった。妹は奴隷のように扱われ、僕は太らせて食べる為に小屋に監禁され食べ物を与えられ続けた」

ヘンゼル「その時…妹が魔女のもとで苦しんで悲しんでいるのがわかっているのに、僕には何もできなかったんだ。小屋から出る事も妹に声をかける事も出来ずに…」

ブリキ「……まるで今の俺の状況のようだな。ドロシーが苦しんでいるのを解っていながら、俺は何もできない。それに似ている」

ヘンゼル「うん、だから僕にはブリキの気持ちがわかるんだ」

ヘンゼル「辛いよね。大切な人が苦しんでいるのに何もできない、声をかけて元気づける事も側に居る事さえできない。ただ指をくわえてみるしかできない…それがどれだけ辛い事か」

ヘンゼル「だから彼に協力したい。同じ辛さを経験している彼を、今の僕なら…救えると思う」

小夜啼鳥「個人的な感情で動くという事は…あまり良い結果を招かない事が多いですよ?」

ヘンゼル「あの時は僕を救ってくれる人は居なかった。けれど、ブリキの場合は違う。それとも僕の行動に問題があるって小夜啼鳥は思うの?」

小夜啼鳥「…いいえ、あなたが思うように行動なさってください。私の役目はヘンゼル君を導く事、それは答えを押し付ける事ではありませんから。でももしもの時は…わかってますね?」

ヘンゼル「うん、わかってる」

ブリキ「ヘンゼル…さっきは子供の癖になどと言って悪かった。お前の気づかいと協力、感謝する。今の俺に出来ることなど限られているが、必要な事があれば何でも話そう」

ヘンゼル「聞きたい事…そうだな、それじゃあ折角だからまず…」

ヘンゼル「…ドロシーって女の子がどんな子なのか聞かせてよ。君が身体を張ってまで守りたいと思う女の子がどんな子なのか、僕は興味がある」フフッ



935:◆oBwZbn5S8kKC 2016/03/07(月)00:31:14 ID:rPm

現在
シンデレラの世界 魔法使いの屋敷 庭(森)

・・・

ヘンゼル「……って事があってね、僕はブリキと約束したんだ。君を探し出すって」

ヘンゼル「でもタイミングが良いのか悪いのか、その翌日にゴーテルさんが訪ねて来て僕と裸王さんはこの世界にやって来た。そこで君に出会った…って訳だよ」

ドロシー「ブリキったらいつもそうなんだから…『俺には心が無い』なんて言って、誰よりも私達の事を思ってくれて…誰よりも優しくて…」ポロポロ

ヘンゼル「……これ、使いなよ。そんなに泣いちゃ、ブリキも悲しむよ」スッ

ドロシー「うぅ、ごめんなさい…。私、すぐに泣いちゃって…気まずい感じにしちゃってごめんなさい…」フキフキ

ヘンゼル「いいよ、気にしてない。それで…どうする?ブリキは君に会いたがってる、僕としては彼にあって欲しいんだけど…」

ドロシー「も、もちろん行きます!本当はみんなに会ったらすぐに頼っちゃいそうだから…なんて考えてたけど、でもブリキの事が心配だから…行きます!」

ヘンゼル「そっか、ありがとう。ブリキも喜ぶよ」フフッ

ドロシー「あ、あの…こっちこそありがとうございます!ブリキの事、助けてくれて…」

ヘンゼル「僕は君に伝言を伝えただけだよ、大した事はしてない。あぁ、でも…裸王さんの話が終わってからじゃないといけないんだけど、それでもいいかな?」

ドロシー「あっ、はい…大丈夫です。私も皆さんのお話が終わってから用事があるんです、私がいないとキモオタさん達が塵になっちゃうとかで…」

ヘンゼル「ははっ、なにそれ?あの二人また何かやらかしたの?相変わらずよくわからないな、キモオタお兄さんは」クスクス



936:◆oBwZbn5S8kKC 2016/03/07(月)00:34:09 ID:rPm

ヘンゼル「まぁ、待ってるにしてもこんなところに居ても仕方がない。裸王さん達の所へ行こう、邪魔になる様だったらその時に出ていけばいいよ」

ドロシー「は、はい…あっ、でも…そこにはみなさん居るんですよね…。桃太郎さんとかラプンツェルさんとか…」オドオド

ヘンゼル「どうしたの?あぁ…もしかしてこの前までアリス側に居たから、何か言われるとか思ってる?」

ドロシー「お、思ってないと言えば嘘になりますけど。でも、それはかぐやさん達やキモオタさんが励ましてくれたから平気です…。でも、私は元々…初対面の人と話すの苦手で…」

ヘンゼル「あぁ、ブリキが言ってたっけ…緊張しちゃうってことでしょ?えっと何か緊張をほぐすものあったかな…ああ、良いものがある」ゴソゴソ

スッ

ヘンゼル「裸王さんの所で買ったんだ、瓶詰めキャンディ。なめてればきっと気持ちも落ち着くと思うよ」

ヘンゼル「ひとつあげるよ、何味が好き?ミントとレモンとプロテインがあって…あぁごめん、プロテイン味はぜんぶ裸王さんにあげたんだった」

ドロシー「あっ、じゃあミント味で…」

ヘンゼル「ミント味だね。いいよ、わかった。じゃ口開けて、はい…あーん」スッ

ドロシー「ふえぇっ!?」ガタッ

ヘンゼル「えっ、何?」ビクッ

ドロシー「いや、あのっ!自分で食べられますから!だから、あの直接ください、あの、えーっと…」アワアワアワ

ヘンゼル「…あっ、ごめん。グレーテルに飴玉をあげる時はいつもこうしてたから。つい癖でやっちゃってた」ハハッ

ドロシー「だ、だよね!グレーテルちゃんにしてあげてるなら仕方ないよね、だ、大丈夫…!あはは、ごめんね?びっくりしただけだから大丈夫、あはは…」アセアセアセ

小夜啼鳥「……これ女王様に報告しておきます」スッ

ヘンゼル「また忘れたころに出てくる…。そんな事報告しなくてもいいって」



937:◆oBwZbn5S8kKC 2016/03/07(月)00:36:30 ID:rPm

ヘンゼル「まぁ、いいや。食べたら行こう、彼等は大人だけど…まぁ信用してもよさそうな大人達だし、君が優しくて素敵な女の子だって事はブリキから聞いたから不安がる事無いよ」フフッ

ドロシー「うぅ…そんな風に言われると恥ずかしいです…。ブリキ、私の事どんなふうに喋ったんだろ…」ドキドキ

ヘンゼル「…?」

小夜啼鳥「…ヘンゼル君、おそらく他意はないんでしょうけど不用意すぎます。彼女はあなたの妹じゃないんですよ?」ヒソヒソ

ヘンゼル「そんなの当然じゃないか、何言ってるの小夜啼鳥?」キョトン

小夜啼鳥「いや…まぁいいです。家族以外の人と係わる事が少なかったという理由もあるでしょうし。ただもう少し敏感になりましょう、そうでなければ将来的に刺されますよ」

ヘンゼル「今何か物騒な事言わなかった…?」

小夜啼鳥「まぁ、こういった経験もあなたの成長の為には必要でしょうから…なりゆきに任せましょう」ピチチチチ

ヘンゼル「なりゆきで刺されるのはごめんなんだけど…」

小夜啼鳥(流石に刺されそうなら助けますけど、家族間では出来ないこういった経験こそ彼には必要でしょう)

小夜啼鳥(不安もありましたが裸王さんには心を許し始めているようですしね。その辺りは女王様や弥平さん、キモオタさんの影響なのでしょう…口で言うほど大人を信用していないわけではないのかもしれません)

小夜啼鳥(元々、子供や家族相手には優しい少年ですから大人への憎しみと家族への愛が暴走しないように注意していれば問題ないでしょう)

小夜啼鳥(しかし、アリスに利用されていたドロシーさんが解放されたこのタイミングでのシンデレラさんの誘拐…これがアリスの仕業だとするなら……

小夜啼鳥(アリス側は十分に戦力が整っているはず。そうでなければシンデレラさんを誘拐するなどというリスクを冒さないはず…むしろこれはキモオタさん達を誘い出す為の餌にも見える…)

小夜啼鳥(だとしたら、アリス達はこの一件を終わらせようとしていると考えてもいい…。それだけの自信と準備があるからこの様な行動に出た…)

小夜啼鳥(その様な意図がなかったとしても、シンデレラさんを救出に向かうとなれば【不思議の国のアリス】の世界に行く事になる。そうなれば戦いは逃れられないでしょう)


小夜啼鳥(いずれにせよ…この一件の終幕は、もう目の前と言うわけですか。例えその結末がどう転ぼうとも…もうじき、全てが終わると考えた方がよさそうですね…)

・・・



938:◆oBwZbn5S8kKC 2016/03/07(月)00:38:10 ID:rPm

不思議の国のアリスの世界 ハートの王の城 牢屋の入り口付近

・・・

スタッ

ジャック「頼むぜ。誰も居ねぇでくれよ…」キョロキョロ

シーン…

ジャック「……よし、俺が牢番を倒した事はまだ奴等に知られてねぇみてぇだな。和尚、誰も居ない今のうちだ。とっととこんな牢から逃げだしちまおうぜ」ヒソヒソ

和尚「うむ、それがよかろう。皆、聞いておったな?もたもたしておっては見つかってしまう、早々にこの世界から逃げ出すのじゃ」

しっぺい太郎「是。我がジャック少年と共に先頭に立ち活路を切り拓く。例え敵が行く手を阻もうともこの牙とこの爪で切り刻んで御覧にいれよう」ガルルルッ

ぶんぶく(荷車状態)「よっしゃ!そんじゃお前達の後ろをオレっちと和尚が進むわ、本当はオレっちもアリスの手下共にひと泡吹かせてやりたいけどもな!」ポンポコポン

和尚「戦ってはならんぞ。お前には姫を護送するという役目があるじゃろう、狸のお主が荷車に化けた理由を忘れてはいかんぞ?」

ぶんぶく「わかってますって!呪いで眠っているオーロラ姫を安全に連れ出すのがオレっちの役目!任せてくれ!」

オーロラ姫「すやすや……んふふ、違いますってぇ……私は今話題のオペラ歌手じゃありませんよ~…しがない一国の姫ですって~……」スヤァ

ぶんぶく「ぐぬぬ…仕方がないっつってもこれから命賭けで逃げ出そうって時にいい気なもんだよなぁ…」ポンポコ

長靴を履いた猫「彼女が眠っているのは呪いのせいなのである、そのような事に腹を立てるなど時間の無駄である」ニャーン

長靴を履いた猫「事は一刻を争うのである。追手が現れた場合は最後尾を走るワガハイに任せよ、とにかく今は先を急ぐべきである!」ニャーン



939:◆oBwZbn5S8kKC 2016/03/07(月)00:39:59 ID:rPm

タッタッタッタッ

ぶんぶく「しっかし、牢屋にぶち込まれてもう駄目かと思ったが…ジャックが助けに来てくれて本当に助かった!感謝してるぞー!」ゴロゴロ

ジャック「ヘヘッ、よせやい照れちまう。だが礼はこの世界から逃げ出してからにしてくれよな、まだ何も解決しちゃいねーんだぜ?」

和尚「そうじゃな。しかしジャック君、牢屋から逃げ出したは良いがこの後はどうするつもりじゃ?我々は一人として世界を移動する手段を持たんのじゃが…」

ジャック「それは問題ねぇぜ、俺には世界移動ができる魔法具があるからな。ほら、こいつだ」スッ

長靴を履いた猫「それは豆であるな?しかし君のおとぎ話に出てくる豆は成長速度が凄まじい他に世界を移動する力まであったのであるか?」

ジャック「いいや、あれとは別もんだ。俺の牛と豆を交換したおっさん…魔導師に事情を話して世界移動ができる豆ってやつを譲って貰った。この豆を育てて雲の上まで逃げれば…そこはもう【ジャックと豆の木】の世界ってわけだ」

和尚「ほう、世界移動の手段があるのならば話は早い。ひとまず逃げ、急いで別のおとぎ話の世界に協力を求めるんじゃ、牢に残してきた仲間達を救いに戻らねばならんからな」

しっぺい太郎「左様。牢に残ると決意したチルチル少年と鼠の娘は卑劣にも人質を取られている。我等と行動を共にする事は叶わなかったが…再び此方に舞い戻り、彼等を救いだす」

ぶんぶく「そうだな、足手まといになるからって残った笠地蔵も救ってやらねぇとな」ゴロゴロゴロ

オーロラ姫「すやすや…んふふふっ、そんなにローストビーフばかり食べられませんって~…もうお腹いっぱいですぅ~……」ジュルリ

ぶんぶく「あのさぁ、ジャックが連れて行こうっていうから連れ出したけど……こいつの方が足手まt」

ジャック「そんな事言うんじゃねぇよ!こんなかわいこちゃんを牢に残してられるかよ!可哀想だろ!?」

オーロラ姫「すやすや…だから違いますよぉ、私はただの姫君です~…モデルさんじゃないですってぇ~…」ニヤニヤ



940:◆oBwZbn5S8kKC 2016/03/07(月)00:41:27 ID:rPm


ジャック「どっちにしろ世界を移動するにゃあ一度豆を埋めなきゃなんねーんだ。まずは城の裏手の森に身を隠してから距離を取って…豆を埋めちまえばあとは昇るだけだぜ」

和尚「うむ、少々大雑把な計画じゃが賛同しよう、他に手も無い事じゃし。じゃが…お主一人でこの世界に来るとは無茶するのぉ」

ジャック「ハハッ、無茶なのは昔からなのさ。実は雪の女王に協力を依頼されて今回の事を知ってさ、女王には依頼があるまで下手に動かないで欲しいって言われてたけどじっとしていられなくて一人で来たんだ、後で叱られるかもしれねぇけど」アハハ

長靴を履いた猫「なるほど…しかしジャックには頭が下がるのである。ワガハイも皆を救おうと単身この世界へ乗り込んだもののアリスに見つかりこの有様である」

しっぺい太郎「我も同じく、滾る正義の血を抑えきれずこの世界を訪れたまでは良かったが…彼奴等が駆使する数多の魔法具による猛攻に耐えきれず、捕えられた次第」

ジャック「俺も身軽さには自信あるけどよ、流石に動物のお前達には負けるぜ。俺の場合は運が良かったのさ。ん……しっ、静かに」スッ

…ワーワー

しっぺい太郎「…聞こえしは兵共の雄叫び、おそらく我等が牢を破った事が明るみに出、追って来たのだ。刹那の内にこの声の主達は我等を取り囲むだろう」グルル

ザッザッザッザッ

ぶんぶく「うおっ、やっべぇ!声が聞こえたかと思ったらもう姿が見えたぞ!オレっち達も急いで逃げねぇとやばくないかこれ!」

ジャック「急いで逃げるっつってもお前、こんな大勢で追ってくるなんて思っても無かったぞ!?クソッ、こっちにはオーロラ姫も居るってのに…!相手が多すぎる!」

ザッザッザッザッ

白ウサギ「ぐぬぬっ、アリスさん達が出張ってる時に限ってなんでこんな面倒事に…!トランプ兵達よ、急げ!奴等を捕えるんだ!」

和尚「致し方あるまい…ぶんぶくとジャック君の二人はオーロラ姫を連れて先を急ぐのじゃ。奴等の相手はワシらが…」バッ

スタッ

しっぺい太郎「否。先を急ぐは和尚もだ、汝には願いを叶えし札に墨を入れる力がある…この先の戦いを考慮すれば此処で失って良い力ではない。雑兵共の相手は我に任せよ。否、我等…か」ザッ

長靴を履いた猫「彼の言う通りなのである、和尚殿は彼等と共に先に行くのである!レイピアはアリスに取り上げられてしまったが安心するがよいである!ワガハイにはこの爪があるのである!」



941:◆oBwZbn5S8kKC 2016/03/07(月)00:44:31 ID:rPm


白ウサギ「トランプ兵達よ、僕の命令に従い奴等を捕まえるんだ!決して逃がすんじゃないぞ!」バラバラバラッ

トランプ兵「Yes my lord…」ザッザッザッ

ヒュン ババッ

長靴を履いた猫「にゃはははっ!そのような薄っぺらい体でワガハイの爪を受け切れると思ったのであるか?貴様らなどワガハイに掛かれば一刀両断なのである!」ズパッ

ワーワー ニャンニャン ガルルルッ ワーワー

しっぺい太郎「歯応え無き身体よ。この様な脆弱な兵…我が妖殺しの牙にて噛み千切ってくれる!」ガブッ ビリィッ

トランプ兵「…error」ドサッ

白ウサギ「ぐぬぬ…流石はこの世界に襲撃を掛けてくるほどの実力者…!折角のトランプ兵も戦闘経験の浅い私が指揮したんじゃ力が発揮出来ない!」グヌヌ

ぶんぶく「よっしゃぁ!その調子で後は任せたぜ二人とも!」ゴロゴロゴロ

和尚「二人ともすまん!必ず別世界へ救援を求め、援護にやってくる故…それまで持ちこたえるんじゃぞ!」

長靴を履いた猫「今はそのような事を考えず、逃げのびる事を考えるのである!ワガハイ達を気にせず、先に行くのである!」

しっぺい太郎「是。汝等は生き延び、眠りの姫を救う事こそ使命。女子を護れぬ男児に価値など無し」

ぶんぶく「あいつらカッコイイな!くっそー…それに答える為にも生き延びるぞ!」ゴロゴロゴロ

ワーワー

白ウサギ「ぐっ…このままだと逃げられてしまう!ここはもう兵力で押しつぶすしかない、手持ちのトランプ兵を全部使って…」

???「その必要はありません…敵を殺すのに必要なのは兵力でも力でもありません」

ヒュッ

???「圧倒的なスピード。それだけで事足ります」ヒュッ



942:◆oBwZbn5S8kKC 2016/03/07(月)00:46:09 ID:rPm


白ウサギ「どうして君がここに!?アリスさんが与えた君の持ち場は随分と離れた場所のはず…い、いやなんでもいい!」

白ウサギ「あいつ等を捕まえてくれ!殺しさえしなけりゃなんだっていい!任せたよ、シンデレラ…!」

シンデレラ「えぇ、まかせてください。あなたの時計の秒針が一周するまでにはケリをつけて見せます」

ヒュッ

長靴を履いた猫「な、なんであるか今の娘は!?突然現れたと思ったら消えてしまったのである!?」キョロキョロ

しっぺい太郎「…っ! 長靴の!消えたのではなく視認できぬだけだ!早急に避けよっ!」ガルッ

シンデレラ「身軽さが自慢の様ですけど、私程では無いみたいですね」スッ

長靴を履いた猫「なっ…!」

ゴシャアァァ!!

シンデレラ「次はあなたです、狼さん」ヒュッ

しっぺい太郎「其処…っ!我とて素早さを武器に戦う身!易々とやらせはせん!」スッ

シンデレラ「ふふっ、お見事です。私の攻撃をかわせる方がいるとは…驚きました」ウフフ

しっぺい太郎「長靴のを蔑むつもりはないが、我は奴と違い場数を踏んでいるのだ。貴様を視認するなど…我には容易い事」

シンデレラ「困りましたね……ではもう一段階速度を上げましょう」ヒュッ

しっぺい太郎「何…っ!此の上、更に速度を上げるなど…!」

シンデレラ「これでも視認できますか?もっとも視認出来たところで避けられるかどうかは……」

ヒュッ ゴシャアアアァァ

しっぺい太郎「ぬっ…うおぉっ…!」ドサッ

シンデレラ「…別問題ですけれどね」スタッ



943:◆oBwZbn5S8kKC 2016/03/07(月)00:49:06 ID:rPm

白ウサギ「おぉ…!流石は高名な魔法使いが生み出した魔法具ガラスの靴!これほどとは…!」

シンデレラ「二人とも息はあるはずです、あとは貴方に任せます。私は彼等を追いますから」スッ

ヒュッ

シンデレラ「逃がしませんよ?あなた達には檻へ戻って貰います」

ぶんぶく「!? クッソ…なんなんだこいつは!」

和尚「シンデレラと呼ばれていた!ガラスの靴を履けるのは世界広しといえどシンデレラ本人だけじゃ!しかし、何と言う機敏な動きじゃあ!」

ジャック「和尚!ぶんぶく!姫連れて先に行け!あいつ等の努力無駄にできねぇ!和尚、豆は渡しておく!」ピーン

和尚「ジャック君!やめるんじゃ!あやつらでも叶わなかった相手、とてもお主には…!」パシッ

ぶんぶく「いいからいこうぜ和尚!オレっち達がやる事はひとつだ、こいつ等の意思を汲む事だろっ!」

シンデレラ「ダメですよ?和尚様も狸さんも姫様も、逃がしません」スッ

ジャック「おっと待ちなっ!シンデレラっつったか…随分と足さばきには覚えがあるみたいじゃねぇか…なぁ?」

シンデレラ「ジャック…と呼ばれてましたね?私の相手をするつもりなら…やめておいた方が良いですよ。怪我をせずに檻に入れられた方が後々楽ですから」

ジャック「そう言うなって、あんたみたいな美人さん見て声かけないわけにゃいかねぇだろ?それに、あいつ等逃がしたのは俺だ…最後まで面倒みなきゃなぁ!」バッ

シンデレラ「覚悟があるのでしたら私は構いませんが…その様にただがむしゃらに向かってこられるだけでは困ります」

ヒュッ 

シンデレラ「そんな有様では舞踏の相手すら務まりませんよ?」ビュッ

ゴシャアァァ



944:◆oBwZbn5S8kKC 2016/03/07(月)00:50:45 ID:rPm

シンデレラ「和尚様、もう降参なさってください。狸さんもお姫様もあなたもひとまず無傷で済みます。断るのでしたらどうぞ、お好きにしていただいてかまいませんが」

ぶんぶく「クッソ…なんだこいつ…!無茶苦茶な強さじゃねぇか…!」

和尚「…わかった、もう抵抗はせん。じゃからこいつらに乱暴はせんでくれ」

シンデレラ「えぇ、わかりました。……白ウサギさん」

白ウサギ「あ、あぁ、はいはい…トランプ兵ども!彼等を牢に閉じ込めるんだ、今度こそ厳重にだ!」

トランプ兵「Yes my lord…」

・・・

白ウサギ「いやはや助かった!ありがとうシンデレラ、君のおかげで最悪の事態だけは逃れることができたよ!」

シンデレラ「それなら何よりです」

白ウサギ「何か礼をしないと…そうだ、美味しいケーキがある。アリスさんも帽子屋や他の皆も出張っているけど、三月ウサギの庭でティーパーティと言うのはどうかなシンデレラ?」

シンデレラ「……シンデレラ」

白ウサギ「ん?どうかしたかい?」

シンデレラ「シンデレラと言う呼び名、あなたも…先ほど捕えた和尚様も使っていましたね」

白ウサギ「まぁ、そりゃあね。君はおとぎ話【シンデレラ】の主人公シンデレラなんだから、当然だと思うよ?」

シンデレラ「……気にいりませんね。シンデレラと言う呼び名は」



945:◆oBwZbn5S8kKC 2016/03/07(月)00:59:19 ID:rPm

白ウサギ「気にいらないって…ははっ、自分の名前をそんな風に言うもんじゃないよ」アハハ

シンデレラ「そう言われても困ります、いい気分はしません」

白ウサギ「そうなのかい?まぁ、でもシンデレラって『灰かぶり』って意味だものね。蔑称と言えばそうだし、嫌なのもまぁ解るかも…」

シンデレラ「いえ、別にそれは気にしてないです。『灰かぶり』でだった事には違いないですし…過去に受けた辱めを忘れぬ為にもその意味は失いたくないです」

白ウサギ「ん?えっ、どういうこと?」

シンデレラ「『灰かぶり』はいいのです…ただ『シンデレラ』は気にいりません、その名前は私が戦うことを放棄して恨みや憎悪に目をつぶって生きていた頃の情けない自分の名です」

シンデレラ「継母や義姉達に利用されて屈辱の日々を送っていたにもかかわらず…怒りから目を背け、偶然得た幸福に身を委ねるだけの…愚かで恥ずべき頃の、私の名です」

シンデレラ「私はもう、そんな恥辱にまみれた名を名乗る事は我慢なりません」

白ウサギ「それならば何か新しい名前をつけるといい、『灰かぶり』だけど『シンデレラ』じゃない…みたいな。ははっ、そんな都合のいい名前ないかな」アハハ

シンデレラ「……いえ、そうでもないです。思い出しました」

白ウサギ「えっ?思い出したってなにを…?」

シンデレラ「かつて友人だった娘が昔口にしていたのです、彼女の国で灰かぶりを指すのはシンデレラという言葉では無いという話を」

シンデレラ「『シンデレラ』ではないもう一つの『灰かぶり』……怒りに憎悪に忠実に生き、何者にも媚びず屈さず、憎悪する全てに復讐を遂げる私の新たな名…」



アシェンプテル「アシェンプテル。今後…私はそう名乗りましょう」



946:◆oBwZbn5S8kKC 2016/03/07(月)01:06:17 ID:rPm

かぐや姫とオズの魔法使い編 おしまい

今日はここまでです。そして八冊目終了です
書きたいこと書いてたら無駄に長くてまとまりなくなってしまった…ここまでつきあってくれた人たちありがとう!
サヨナキドリが考えているようにもう終幕近いです
孫悟空やキモオタ塵になるかも問題については次スレにて

次回九冊目、いよいよアリスとの決戦が見えてきます
更新までにスレが残ってたらここにお知らせします
1000いっちゃったら同じタイトルで立てておきます
次回もよろしくお願いしますー



元スレ
キモオタ「ティンカーベル殿!おとぎ話の世界に行きますぞwww」八冊目
http://hayabusa.open2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1445091115/
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         コメント一覧 (7)

          • 1. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2016年03月07日 13:21
          • きたあああああ!仕事終わったら読む~
          • 2. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2016年03月07日 13:55
          • 宮部みゆき「史上最強のクソゲー?そりゃもうFF8」
            宮部みゆき「史上最強のクソゲー?そりゃもうFF8」
          • 3. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2016年03月07日 14:29
          • 恒心綜合法律事務所 ワンクリック詐欺 ぼったくり ウイルス 架空請求 高額
            弟殺し 弁護士 無能 飲酒運転 ひき逃げ 虚カス
          • 4. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2016年03月07日 20:17
          • 大変だったが面白かった
            今回まとめて済ませたようだが過去編はアンケート落ちるぞ
          • 5. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2016年03月08日 23:11
          • さて、続きが楽しみだ
          • 6. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2016年03月12日 23:19
          • つぎつぎ新しい展開になっていって楽しい

            やっぱり長いから読む人減ってコメ欄が寂しくなったなー
          • 7. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2016年04月16日 02:28
          • かぐやの過去話のせいでかぐやが一番嫌いになったわ

        はじめに

        コメント、はてブなどなど
        ありがとうございます(`・ω・´)

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