渋谷凛「アイドル、邁進中」 桐生つかさ「トップしか見てないんで」
2作目 渋谷凛「アイドルになった」 水本ゆかり「一緒にがんばりましょう」
3作目 渋谷凛「アイドルデビュー」 池袋晶葉「歌を歌うぞ!」
の、続きです。
新入りアイドル渋谷凛が、他の駆け出しアイドル5人とともになんやかんややっていくお話だということさえわかっていれば、過去作を読まずともなんとかなると思います
ぱちぱちぱち
ひゅーひゅー
凛(今日はデパートの屋上でのミニライブ)
凛(デビューから何度かステージに上がって、ようやくお客さんの反応を観察するだけの余裕がでてきた気がする)
凛(まあ、大きな会場になったら絶対雰囲気にのまれるだろうけど……)
凛「なんて、今考えてもしょうがないか。そんな大きい会場でやれるだけの人気もないし……」
P「ステージで踊ることにも、だんだん慣れてきたんじゃないか?」
凛「そうだね。ちょっとずつ、地に足が着いてきたかも」
凛「初ライブの時は、あとでビデオ見返したらガチガチに身体が固まってたから……アレに比べたら、ましになってきたと思う」
P「ははは、あれくらいの緊張は誰だってするさ。むしろ1回目にしては動けてたほうだぞ」
凛「そうかな……ところで、つかさは? 私の前に歌い終わったけど……」
P「ああ、あの子ならそこに座ってるよ」
つかさ「………」
凛「……つかさってさ、ライブ終わった後は本当にいつもああなの?」
凛「目を閉じたまま、本当に動かないらしいけど」
P「いつもああだよ。あれがつかさのルーチンみたいなものなんだ」
P「うん? ……はは、そうだな。それもやってるだろうな」
凛「………も? それってどういう」
つかさ「P。水どこにある?」パチッ
P「おお、起きたか。ちょっと待っててくれ」
凛「………」
凛(聞きそびれた……)
P「はい、ミネラルウォーター」
つかさ「サンキュ」ポリポリ
凛「なんでたくあん食べてるの?」
つかさ「口が寂しくなった時用に持ってきた。今こいつにファボってんだよな」
凛「ふぁぼ?」
P「ハマってるって意味だよ」
凛「漬物にはいつもハマってるんじゃないの?」
つかさ「その中でもたくあんがマイブームってこと」ポリポリ
凛「だからってスナック菓子感覚で食べるのはどうなんだろう」
つかさ「うまいぞ。食うか?」
凛「………今は遠慮しとく」
P「俺はもらおうかな」
つかさ「おう、食え食え」
事務所に戻って
晶葉「3体の食事制限くんを合体!」
晶葉「ゆけっ! サイバーエンド食事制限くん!」
サイバーエンド食事制限くん「ぎゃおおおおおす!」
真奈美「来いっ!」
晶葉「今度こそ真奈美の攻撃に耐えてみせるのだーっ!」
ドカーン! バゴーン!
つかさ「おーおー、今日もやってるねえ」
凛(まあ、私の同僚は得体の知れない人ばっかりなんだけど……)
ゆかり「おかえりなさい。凛さん、つかささん」
凛「やっぱり癒しはゆかりだけだね」
ゆかり「?」
凛「今日もかわいいし」
ゆかり「まあ、照れてしまいます」ウフフ
バゴーン!
晶葉「うわあ! サイバーエンド食事制限くんがジャンクに!」
凛「もう食事制限っていう当初の目的見失ってるよね」
凛「おはようございます」ガラッ
麗奈「だーもう! わっかんないわよ!」
凛「わ、びっくりした」
麗奈「イライライラ」ムカムカ
凛「どうしたの、麗奈?」
晶葉「学校のテストが近いと言うから勉強を見てやっていたんだが……」
麗奈「アンタの説明難しすぎ! なんでここの答えがこうなるのよっ」
晶葉「だから、これは類似した問題をさっきやっただろう。むしろなぜ解けないのかこっちが聞きたいぞ」
麗奈「解けないものは解けないのよ……う~」
凛「麗奈って、意外とテストに真剣なタイプなんだ」
麗奈「アタシは別に点数なんて気にしないけど、成績悪いと親もPもうるさいのよね」ハァ
麗奈「おこづかい減らされるとイタズラ用の道具も買えなくなるし……」
凛「ふーん……テスト、か。私もそろそろだなあ」
麗奈「もぐもぐ」
凛「ゆかり、私にもくれる?」
ゆかり「どうぞ」
凛「ありがと」ハムハム
ゆかり「お勉強、進んでいますか?」
晶葉「全然だな」
麗奈「ゆかりーなんとかしなさいよー」
ゆかり「大変そうですね……どんな問題をやっているのでしょう」チラッ
ゆかり「……わあ、懐かしい。私も昔、同じ問題で悩んだことがありました」
麗奈「そうなの?」
ゆかり「はい。ここでプラスとマイナスの符号が逆になるのがわからないんですよね」
麗奈「そうそう! そこ!」
ゆかり「ここはですね、前に習ったこの部分と同じ考え方で――」
麗奈「ふむふむ」
麗奈「……あ、わかった! それでここがこうなって、これが答え!」
ゆかり「はい。よくできました」ニコニコ
凛「ゆかり、先生の才能あるんじゃないの?」
ゆかり「そういうわけではないと思いますよ」
ゆかり「どこかで聞いたお話ですけれど、頭が良すぎる人は、普通の人が引っかかる部分で引っかからないので、勉強を教える時に相手の方とうまくかみ合わないことがあるそうです」
ゆかり「逆に私は、ちょうど麗奈さんと同じところで引っかかった経験があるので、うまく教えることができるんです」
凛「なるほど」
晶葉「つまり私が天才だということだな!」
凛「まあそうだけど、今は胸張る場面でもないと思う」
凛「晶葉は頭良すぎて合わなさそうだし、ゆかりは麗奈についてるし……と、なると」
つかさ「おはーっす。ちょっと会社のほう寄ってたら遅れたわ」ガラッ
凛「………」
凛「真奈美さんが来るまで待とうかな」
つかさ「おい、なんだその『こいつはダメだ』みたいな視線は。なんかムカつくぞ」
凛「いや、だって……見るからにアレだし」
つかさ「はっきりしない態度だな……ん? 勉強してたのか」
つかさ「高1ってどんな勉強してたんだっけ? ちょっと見せてみろ」バッ
凛「あっ」
つかさ「へー、懐かしいなあ。この辺やったやった」ペラペラ
凛「……ちょっと、わかんないところがあるんだよね」
つかさ「どこ」
凛「ここの問題とか」
つかさ「どれどれ……ああ、なんだこれか。これはな――」
凛「………」
つかさ「――って感じだな」
凛「………」
凛(あれ、わかりやすい?)
凛「う、ううん。そんなことないよ」
凛「あのさ。他にも何個か聞きたいところあるんだけど、いい?」
つかさ「食堂のチーズカツカレーは550円だ」
凛「……おごれってこと?」
つかさ「そう」
凛「お金とるんだ……」
つかさ「世の中ギブ&テイク。当然だろ」
凛「つかさってさ、社長なんだからお金持ちなんじゃないの?」
つかさ「アタシが金持ちなことと、お前から授業料とることのどこに矛盾があるわけ?」
凛「む……まあ、ご飯おごるくらいなら全然いいけど」
つかさ「よし、契約成立だな。じゃあ、早速教えてやる」
凛「お願い。……私もお昼はカレーにしようかな」
晶葉「………」
晶葉「な、なんだか私だけ仲間外れになっていないか……?」
ゆかり「晶葉さん。あとで私の宿題を手伝ってくれませんか?」
晶葉「わーい」
凛「はい、チーズカツカレー」
つかさ「お、来た来た」
つかさ「そっちはチキンカレーか」
凛「うん。いただきます」
つかさ「いただきます、と……その前に」ドン
凛「……そのタッパーの中身は、なんとなく予想がつくけど」
つかさ「ぬか漬け。これがカレーに合うんだよ」ニコニコ
凛「福神漬けじゃないんだ」
つかさ「もちろんそっちも合うけどな。ほら、お前にもやるよ」
凛「いいの?」
つかさ「今回のは自信作なんで。周りの感想が聞きたい」
凛「ありがとう……やっぱり自分で作ったやつなんだ」
凛「………」モグモグ
凛「あ、おいしい」
凛「これは、カレーが進む」パクパク
つかさ「だろ?」
凛「うん、本当……ぬか漬け、好きになるかも」
凛「特に大根がいい」モグモグ
つかさ「よーし、じゃあお前もこれを機に自分でぬか漬けを」
凛「いや、私は食べる専門でいいから」
つかさ「ノリの悪いヤツだな……ま、別にいいけど。アタシはひとりでコネコネするし」パクパク
凛「そうだね」
ガラッ
凛「ただいまー」
麗奈「発射!」
ドカーーン!!
凛「うわあっ!?」
凛「な、なに今の音!」
麗奈「『なに今の音!』と聞かれたら、答えてあげるが世の情け!」
麗奈「世界の破壊を防ぐため――」
凛「アンタのイタズラか」ポカリ
麗奈「あいたっ!? ちょっと、名乗り中は攻撃しないのが暗黙のルールでしょ!」
凛「知らないよそんなこと」
凛「こんなもの用意する暇あるならテスト勉強すればいいのに」
麗奈「へへーん、勉強ならゆかりのおかげでもう終わったわ!」
凛「いやいや、テスト勉強に終わりは……あれ、そういえばつかさは?」
麗奈「ん? つかさも一緒だったの?」
凛「うん。さっきまで隣にいたんだけど」キョロキョロ
つかさ「はーっ、はーっ」ビクビク
凛「……なんでそんな遠くにいるの?」
つかさ「べ、べつに? 最初からこのくらいの距離だったろ」
凛「いやいや、一緒に帰ってきたでしょ。なんで5メートルくらい離れてるの」
つかさ「もともとこれが適正距離だろ」
凛「どんだけ仲悪いの私達」
麗奈「5メートルが適正距離って、命を狙いあう宿敵レベルね」
つかさ「ゆかりー、お茶ー」
ゆかり「はい。ただいま」パタパタ
凛「強引にスルーされた」
麗奈「なんなの? あいつ……」キョトン
凛(……ひょっとして、さっきの音にめちゃくちゃびっくりしてた、とか?)
卯月「あ、お邪魔してます」
つかさ「島村卯月……なんでここに?」
卯月「えっと。楓さんが言ってた、渋谷凛さんのことがちょっと気になって」
つかさ「凛ー、お前に新人いびりしに来たヤツがいるぞー」
卯月「そ、そんなんじゃないですってば~」
凛「渋谷凛なら、私ですけど……」ヒョコッ
卯月「あなたが……あれ?」
凛「?」
卯月「………」ジロジロ
凛「な、なに」
つかさ「ガン飛ばされてるんだろ」
凛「なんでさっきからそういう方向に持って行こうとするの」
卯月「………」
卯月「もしかして、お花屋の店員さん?」
凛「えっ……なんで知ってるの?」
卯月「私、何度かそこで買い物してるんですけど……覚えていませんか?」
凛「………」
凛「……ああっ!」
卯月「よかったー、思い出してもらえて」
凛「しょ、しょうがないでしょ。アイドルに本格的に興味持ち始めたの、最近なんだから」
卯月「ここ2ヶ月くらいは、仕事が忙しくてお店に行けてませんでしたし」
卯月「それに私、街に出る時は眼鏡をかけるようにしているので」
ゆかり「変装ですね。ファンの方がたくさんいらっしゃるのはうらやましいです」
麗奈「にしたって、眼鏡くらいなら気づけると思うけど」
麗奈「アタシなら、眼鏡のあるなしで人がわからなくなるなんて絶対ないわね!」フフーン
晶葉「ちょっとコンタクトにして髪をほどいてみたぞ」
麗奈「わっ、誰よアンタ!」
凛「わざとやってるの?」
つかさ「これがわざとじゃないのがコイツのすごいところだ」
ゆかり「ええ。私も、ここにいると毎日楽しいです」
卯月「お菓子もおいしいですし」モグモグ
ゆかり「和菓子も洋菓子も揃っていますよ」ウフフ
卯月「いいですねー……ほんわかします」ホワホワ
ゆかり「ありがとうございます♪」ホワホワ
凛「なんか、あのふたりが一緒にいるとほわほわするね」
晶葉「癒し空間だろうか。あれを機械で再現するのは難しそうだ」
つかさ「あの空間に近寄るとどうなるのか……よし麗奈、いってこい!」
麗奈「わっ、ちょっといきなり押さないで――」
卯月「あはは」
ゆかり「うふふ」
麗奈「ほわほわ~」アハハウフフ
つかさ「すげえ、一瞬で飲みこまれた」
凛「特殊な成分でも出てるの?」
晶葉「興味深い。実に興味深い!」
凛「あそこだけ時間の進みが遅くなってそうだね……」
晶葉「では諸君。また会おう」
麗奈「ほわほわー」
ゆかり「今日の麗奈さんは穏やかな顔つきをしていますね」
凛「……私はちょっと勉強してから帰ろうかな」
凛(家にいると、漫画とか読んじゃいそうだし)
凛(島村卯月さん、か)
凛(楓さんは一目見ただけでオーラがある感じだったけど、あの人はなんというか……私みたいな『普通の子』に見えた)
凛(でも、実際は違う)
凛(私は、みんなと一緒にあの人のライブを見たことがあるけど……すごかった)
凛(もちろん、今日の島村さんと姿かたちは同じなんだけど。いい意味で、別人みたいに輝いていたと思う)
凛「私も、あんな風になれるのかな……」
真奈美「勉強しているのか。感心だな」
凛「あ……真奈美さん。今日は休みだったんじゃ」
真奈美「たまたま近くを通ったから、顔を出してみたんだが……少し時間が遅かったようだ」
真奈美「残っているのは凛だけか」
凛「うん。他のみんなはもう……あれ、そういえばつかさだけ荷物残ってる」
凛「どこかうろついてるのかな」
真奈美「ああ。それならおそらく、居残りでステップの練習でもしているんだろう」
真奈美「彼女が夕方にふらっといなくなる時は、たいてい自主練習をしているからな」
凛「そうなんだ……真面目」
真奈美「結果を出すための投資は怠らないということだろう」
凛「なんか社長っぽいね」
真奈美「本物の社長だからな」
凛「だね」
凛「社長とアイドル両方やってて、どっちにも手を抜いてないみたいだし」
凛「いつも自信満々で……ちょっと口が悪いところ以外、弱点なんてない感じ」
真奈美「………」
真奈美「そう見えているのなら、彼女は安心するだろうな」
凛「え?」
真奈美「凛は、社長に必要な能力はなんだと思う?」
凛「うーん……みんなを引っ張っていけるカリスマ、かな」
真奈美「正解。だがそれだけではない」
真奈美「社長という立場は、ただ闇雲に前に進めばいいというものじゃない。もしこの戦略が失敗したらどうなるのか。うまくいかないパターンはどのくらいあるのか。その可能性はどの程度なのか」
真奈美「そういった、リスク管理の能力も要求されるわけだな」
凛「……確かに、無茶しすぎて大失敗、なんてことになったら大変だもんね」
凛「なるほど」
凛「それはわかったけど……つかさの話にどうつながるの?」
真奈美「そこから先は、自分で考えてみないか?」
凛「ええ……気になるなあ」
真奈美「ははっ。まあ、なんでもかんでも話してしまうと、つかさのプライバシーにもかかわるからな」
つかさ「そう思ってるなら、最初から全部話すな」オッホン!
凛「あ、つかさ」
真奈美「いいタイミングで戻ってきたな」
つかさ「あいにく地獄耳なんで」
真奈美「ダンスの自主練習は終わったのか?」
つかさ「あれ、なんで知ってんの」
真奈美「経験による推測だ」
つかさ「へえ、やるね。やっぱ真奈美さん有能だわ、ウチの会社で働かねえ?」
真奈美「誘いはうれしいが、私はアイドル一本でいかせてもらうよ」
つかさ「それは残念」
凛「………」
凛(私のつかさへの印象、間違ってるのかな?)
凛「ほら、ハナコ。散歩いくよ」
ハナコ「わん、わん!」
凛「こらこら、リード付けるからじっとしていなさい」
凛「ふわあ……」
凛(平日は、朝の散歩を早めにしなきゃいけないのがちょっと面倒)
凛「ハナコがかわいいからいいんだけどね」ナデナデ
ハナコ「わうっ」
凛「こら、あんまり走らないの。危ないよ」
ハナコ「ハッ、ハッ」
凛「ほんと、朝から元気だね」フフッ
ハナコ「わうっ!」
凛「ん? 河原に誰かいるの?」
ハナコ「わんわん」
凛「あれは……つかさ?」
つかさ「へー、こいつが凛の飼い犬か。話で聞いてただけだけど、実物はかわいいな」
ハナコ「わんっ」フリフリ
つかさ「おっ、褒められて一丁前に喜んでるぞ」
凛「つかさはなにしてたの?」
つかさ「妙に早くに目が覚めて暇だったから、ぶらぶらしてた」
凛「散歩か。じゃあ私と同じだ」
つかさ「昨日トレーナーに教わったことを思い出すついでに、ちょっとね。セルフチェックは入念に」
つかさ「次のライブはいつもより会場でかいし、失敗しないように念には念を入れときたい」
凛「………」
凛(偉そうで自信満々のくせに、練習にはすごく熱心)
凛(私はそれを見て、ストイックなんだと思ってたんだけど……)
凛「ねえ」
つかさ「ん?」
凛「ポケモンやるとするじゃん」
つかさ「いきなりだな」
凛「最初のポケモンはフシギダネにするとして」
つかさ「スルーして話進めんな。お前までボケだしたらアタシら収拾つかなくなるだろ」
凛「最初のジムのタケシ戦、つかさはどのくらいまでポケモン育てる?」
つかさ「………」
つかさ「フシギソウに進化するまで」
凛「じゃあ次のジムのカスミ戦は?」
つかさ「フシギバナになるまで育てる」
凛「ふむ……」
凛「そんなところかな」
つかさ「ほーん。で、結果は?」
凛「………」
凛「つかさってさ……怖がり?」
つかさ「………」ビクッ
凛「この前麗奈のバズーカに相当驚いてたし。その前はお化けの話に震えてたし」
凛「あと、昨日の真奈美さんの話と今の質問の答えを参考にすると……そういう仮説が立つんだけど」
つかさ「べ、べつにビビってなんかねーし! だいたいさっきのポケモンの話がどうつながるんだよ!」
凛「ヒトカゲならともかく、フシギダネをそこまで念入りに育てる人は怖がりに違いないよ」
つかさ「暴論だろ、暴論」
凛「じゃあ、違うの?」
ハナコ「わん?」
つかさ「うぐっ……」
つかさ「ったく、最近の若いヤツは年上への礼儀ってもんがねえから困る」
凛「つかさに言われたくはない」
つかさ「社長っていうのは、豪胆さだけじゃなくて、臆病さも持ってなきゃやっていけないんだよ」
凛「そっか。心配症なんだ」
つかさ「そう。だから練習も多めにやる。やった分だけうまくなって、それだけ成功率があがる……そう思うと楽だからな」
凛「……ふうん」
凛「なんだか、安心したかもしれない」
つかさ「安心?」
凛「つかさって、なんでもできる完璧な人ってイメージだったから……普通の人っぽいところがあるってわかって、ほっとした」
凛「思ったよりご近所さんだった感じ」
つかさ「お前のその遠慮のない物言いは、確かにアタシに似てるわ。ご近所さんだわ」
つかさ「つか、常人離れしてるなら晶葉や真奈美さんのほうがよっぽどアレだぞ」
凛「……それは確かに」
つかさ「………」
凛「………」
つかさ「ほんと、アレだよな」ハハッ
凛「だね」フフフ
ハナコ「わんっ」
凛「ほどけないように、ちゃんとリードを木にくくりつけておかないとね……これでよし」ギュッ
つかさ「なにしてんの」
凛「私もちょっと、ステップの確認しておこうと思って」
凛「よっ、ほっ……と」タンッタンッ
つかさ「………」ジーー
つかさ「下手だな」キッパリ
凛「昨日習ったばっかりなんだからしょうがないでしょ。これからうまくなるよ」
つかさ「ふーん」
凛「………」タンッ
凛「私も、不安なことはたくさんあるよ」
凛「アイドルとして本当にうまくやっていけるのか、とか。学校の勉強との両立はちゃんとできるのか、とか」
凛「でも、一度やるって決めたから。簡単には投げ出したくない」
つかさ「………」
凛「そうしたら、私は自信がつくし。つかさも、『ひよっこのこいつがアイドルとしてやれるのなら』って自信が持てる……たぶん」
凛「こういうの、ウィンウィンって言うんだっけ?」
つかさ「……ウィンウィン、か?」
凛「どっちも得してるじゃん」
つかさ「お前へのリターンのほうが大きい気がするけどな」ジトーー
凛「そこは……先輩の器の大きさで許してほしいかな」フフ
つかさ「調子のいいヤツ……」
つかさ「ま、しょうがないから付き合ってやる。たまにでいいならな」
凛「うん。ありがと」
ハナコ「ワンっ!」
真奈美「よし! 身体も温まってきたところでペースを上げるぞ!」
凛「な、なんで私までランニングに……」ゼーゼー
つかさ「アタシだけ真奈美さんのランニングに付き合わされる回数が多かったからな」
つかさ「アタシも身体を鍛えること自体はいいと思ってる。だがしんどいのも事実」
つかさ「だから生贄……もとい仲間を増やした」
凛「な、なんてことを……」
真奈美「アイドルは身体が資本! 走ることはすべての基本だ!」キラキラ
凛「体力つけることは、確かに大事だけどさ……!」
つかさ「諦めろ。アタシに付き合うことを決めたのはお前自身だ」ククク
凛「鬼、悪魔っ」
つかさ「フハハ」
真奈美「おしゃべりする余裕があるなら、まだまだ速くいけそうだな」
凛・つかさ「勘弁してください!」
晶葉「ここの事務所、陸上部はあったかな」ガチャガチャ
麗奈「ところで、アンタ今度はなにつくってるの」
晶葉「ジャンク・食事制限くん」
ゆかり「みなさんのために、冷たい飲み物を用意して待っていましょうか」
麗奈「アタシも手伝うわ」
ゆかり「それはありがたいですけど、この前みたいにジュースに変な物混ぜちゃダメですよ?」
麗奈「チッ、ばれたか!」
ゆかり「麗奈さんはいたずらが大好きですね」
麗奈「大好き!」ニコニコ
ゆかり「あらまあ」ウフフ
晶葉「ゆかり、そこは怒るところだ。笑うところではないぞ」
P「………」
P「つかさと凛、か……ユニット、組ませてみるのもありか?」
おわり
つかさ社長は初登場の偉そうな物言いからの特訓後の表情がグッとくるのです
次回は多分木場さんのお話になると思います
もう4話目になりますが、とりあえずこの6人の組み合わせがそれなりに受け入れられてるっぽいのでちょっと安心
関係ない過去作
武内P「城ヶ崎さんと飲むことに」 莉嘉「お酒じゃなくてジュースだよ☆」
元スレ
渋谷凛「アイドル、邁進中」 桐生つかさ「トップしか見てないんで」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1455367743/
渋谷凛「アイドル、邁進中」 桐生つかさ「トップしか見てないんで」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1455367743/
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- 両津「くそ~。こんな田舎に飛ばされるとは」れんげ「にゃんぱすー」
- ゼハート「手違いでガンダムのパイロットが来た」 キオ「……」
コメント一覧 (14)
-
- 2016年02月14日 21:18
- ニコニコしてる社長かわいい
-
- 2016年02月14日 21:41
- サイバーエンド食事制限くん狙いが何人いるのかな
-
- 2016年02月14日 21:47
- >>晶葉「わーい」
かわいい
-
- 2016年02月14日 21:56
- 社長ええやん! 社長のぬか漬け食べてえなあ
-
- 2016年02月14日 22:02
- 社長が社長らしくて、このシリーズ好き
-
- 2016年02月14日 22:37
- 変に人を増やさず恋愛要素もない・・・この空気感が好きだ
-
- 2016年02月14日 22:37
- しぶりんがボケたら終わりという風潮
一理ある
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- 2016年02月14日 22:54
- サイバーから今度はジャンクシリーズか食事制限くん
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- 2016年02月14日 23:42
- アイドル邁進!シブヤイエロー!
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- 2016年02月15日 00:10
- やだ、ゆかりったら気遣い上手! 惚れた!
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- 2016年02月15日 04:27
- 社長って結構ビビりなんだよな
それを再確認できるSSだった
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- 2016年02月15日 05:23
- こういうノリでいいんだよなぁ…
-
- 2016年02月16日 08:29
- つかさいいな
この話で知ったわ
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- 2016年02月19日 04:41
- 読んでて楽しい