長門「……はむっ」パクッ キョン「ファッ!?」
目の前には長門居て、いつもの様に読書している。
どうやらいつの間にか寝てしまっていたらしい。
長門「……どうかした?」
キョン「な、長門?今…俺の耳に何かしたか?」
長門「……別に」
キョン「そ、そうか…」
そう思い直して辺りを見渡すと、そこは長門の部屋だった。
最近長門は俺をよく家に招く。
特に話があるというわけではなく、例のごとく俺に何杯もお茶を飲ませ、そして読書をする。
俺が訪ねたことには反応を示すが、あとはほとんど無言だった。
その無言が苦痛かと言えばそうではなく、俺も長門と共に読書の真似事をしながら、静かに時が流れていく安心感に浸っていた。
季節は冬であり、俺は長門の寒々しい部屋を見かねてコタツの導入を勧めた。
その俺の提案を受け入れた長門が用意してくれたコタツの温もりが、俺を眠りへと誘った最大の要因だった。
キョン「すまん。ちょっと寝てたみたいだ。俺が言い出したことだけど…コタツはどうも眠くなっていかんな」
長門「……謝らなくていい。コタツは…良いアイディアだった」
あれだけお茶をガブ飲みした後の寝起きとしては、当然の生理現象といえる。
キョン「すまん長門。トイレを貸して貰っていいか?」
長門「……構わない」
時刻は午後6時半。
トイレを済ませたらそろそろ帰るか…
そんなことを考えながらトイレに入り、用を済ませた俺は便座から立ち上がる際に、トイレに備えつけられた棚の上に何か置いてあることに気づいた。
キョン「ん?何だこれは…?」ヒョイッ
キョン「!?」
それは真っ白なパンツだった。
というかこのパンツは一体誰の物だ?
男性用には見えない。
俺の目はそこまで節穴ではない。
そしてここは長門の部屋。
長門は一人暮らしである。
つまり…
キョン「長門のパンツ…だよな?」ゴクリ
何故こんなところにパンツがあるかなど、もはやどうでも良かった。
そこにパンツがあった。
だから頂いた。
男子高校生なんてこんなものだろう?
ドアの前に長門が立っていたからだ。
長門「………」ジー
キョン「ど、どうした長門?もしかしてお前もトイレか?」
大丈夫だ。落ち着け。なんとかこの場を乗りきr
長門「……そこにあった私のパンツ…どうしたの?」
キョン「ッ!?」
そりゃそうだ。
俺が頂戴したのだから。
それでも俺はなんとかシラを切ろうと試みた。
キョン「パ、パンツ?おいおい長門…そりゃ気のせいだ。俺が入った時にはそんな物どこにも…」
長門「……実はあなたを試していた」
キョン「!?」
詰まる所、俺は嵌められたのだ。
長門「……あなたが寝ている間にパンツをトイレに置いておき、それをあなたがどうするのかを検証していた」
キョン「へ、へぇ~…」
もしや、何杯もお茶を飲ませたのはこの為に?
まさか、お茶の中に睡眠剤でも仕込んでいたのか?
そんな疑念がぐるぐる頭を巡ったが、答えは既に闇の中であり、俺のお先も真っ暗だった。
キョン「待て待て待て長門!というかなんでこんな真似を?動機を聞かせてくれ!」
長門「……出来心」
そんな長門の答えに俺は脱力し、がっくりと膝をついた。
すると長門は俺から半歩距離を取った。
キョン「?」
長門「……今…穿いてない…から」
キョン「ッ!?」
俺は更に姿勢を低くせざるを得なかった。
えらい美少女がそこに居た。
しかもノーパンである。
そんな長門の懇願に俺は…
キョン「いやだね。絶対返さないね」
パンツを返すつもりなど毛頭なかった。
そんなもの捨て置け。
ノーパンの長門がそこに居るのに、何故パンツを返さなくてはならないのだ。
長門「……お願い。返して…」
キョン「絶対いやだね。そもそも俺がパンツを盗ったなんて証拠が一体どこにあるんだ?」
キョン「そ、そんな目で見たって駄目だぞ。ないものはないんだ」
そんな俺の意地悪に長門はこう返した。
長門「……じゃあ…あなたのポケットの中、見させてもらう」
言うや否や長門は俺に飛びかかって来た。
ジタバタと悪足掻きをする俺の制服のポケットに、必死で手を伸ばす長門は健気でそして可愛らしかった。
長門の新しい一面を見た気がした。
だが、俺にも譲れない物はある。
意を決して、形勢を逆転する為の魔法の言葉を放つ。
キョン「そ、そんなに暴れると、スカートの中見えるぞ!?」
長門「!?」
大人しくなった長門にホッと胸を撫で下ろし、勝利の達成感と満足感が俺の胸を満たした。
これで長門のパンツは俺の物だ。
長門「………ッ…」ジロリ
長門はスカートの端を押さえつつ、半分涙目になって俺を睨んでいた。
出会った当初は長門がこんな表情をする日が来るとは夢にも思わなかったが、どうやら長門は少しずつ普通の人間に近づいているらしい。
そんな感慨に耽りながら、罪悪感にほんの少し胸を痛めていると、長門がこんな提案をしてきた。
は?
俺の…パンツ?
Why? 何故?
そんなあまりに意味不明な提案に、俺が目を白黒させていると長門はこう続けた。
長門「……等価交換…だから」
なるほど、パンツに釣り合うのはパンツしかないというわけだ。
しかし、俺のパンツに長門のパンツほどの価値があるとは思えないが?
長門「……等価交換!」
やれやれ…どうやら長門も引くに引けないらしい。
まさか封印した筈の感動詞をこんな場面で使うことになるとは…
そんなことを思いながらも、それでこの場が収まるならば安いものだと解釈し、俺は長門の提案を受け入れることにした。
長門「……わかった。ありがとう」ニコッ
キョン「ッ!?」
長門が…笑った?
長門の笑顔を見たのはいつぶりだろう。
あれは確か…ハルヒが居なくなった世界で見たのが最後だったか?
そんな激レアな長門の笑顔に心を奪われつつ、再びトイレに篭った俺はいそいそとパンツを脱ぐのだった。
長門「……これで、取引成立」
キョン「いや、だから俺は何も盗ってないからな?取引じゃなくて…あー…言うなればそう!日頃世話になってるお前へのプレゼントだ!」
我ながら恩知らずにも程がある。
嘘つきな上にプレゼントと称して自分のパンツを渡す変態が俺だった。
それでも長門は嬉しそうにパンツを握り締め、こう言うのだ。
長門「……そういうことに…しておく。ありがとう」ニッコリ
長門「………」クンクン
長門は俺のパンツを嗅いでいた。
キョン「おいおいおいおい!?長門さん?何やってるの!?」
長門「? ……貴重な…サンプルだから?」
そんな風に小首を傾げる長門に…俺は何も言えなかった。
俺を見送った長門は…まだ俺のパンツを嗅いでいた。
そんな衝撃的な光景を俺は夢だったと思うことにして、ポケットの中の現実を指先で弄びながらスキップをして家まで帰った。
ちなみに俺は当然ノーパンである。
完全に不審者だったが、周囲の目などもはやどうでもいい。
長門のパンツがポケットにある。
それが全てで、それだけが俺にとっての現実だった。
家に帰った俺がそれをどうしたかなんて、そんなことは言うまでもないことだろう?
長門「……はむっ」パクッ
キョン「ファッ!?」
またしても耳に違和感を覚えた俺は飛び起きた。
恐る恐る隣を見ると…
長門「……おはよう」
何故か長門がそこにいた。
見紛うことなく俺の部屋だった。
何故長門が俺の部屋で、しかも俺の隣に寝ているのだ?
長門「……起こしてみようと…思って」
意味がわからなかった。
長門「……当初の目的は…あなたと一緒に登校することだった。だけど…あなたはまだ起きてなかった…だから」
キョン「だからって…どうやって家に入ったんだ?」
長門「……呼び鈴を鳴らしたら、あなたはまだ起きてないと言われて…起こして来て欲しいと頼まれて…」
俺の家のセキュリティーは一体どうなっているのだ。
長門「……パンツを…交換した仲だから」
全くもって意味がわからなかった。
キョン「あのな長門。だから俺はお前のパンツなんて…」
長門「……私のパンツ…カピカピになっているのは何故?」
キョン「!?」
ぬかった。
使った後、机の上に置きっぱなしにしていたらしい。
長門「……何故…カピカピに?」
キョン「さ、さぁて!そろそろ起きて、飯食って準備するかぁ!長門、すぐ準備するから待っててくれ!!」
とりあえず俺は誤魔化すことにした。
妹には今朝のことは口止めしておこう。
長門「……何故…カピカピに?」
長門はしつこかった。
そんな長門の追求を躱す為に俺は話題を変えることにする。
キョン「そ、そんなことより長門、一緒に登校して大丈夫なのか?もし万が一ハルヒにでも知れたら…」
長門「……大丈夫。『ステルスモード』」
長門「……今の私は、あなた以外に認識出来ない」
キョン「へぇ~便利な機能もあるもんだな」
そんな風に感心しつつ、とりあえず騒ぎにはならないことに安堵していた俺の背に、喧しい声で呼び掛ける馬鹿が現れた。
谷口「よぉキョン!なんだ今日はいつもより早いじゃねーか!」
谷口「あん?俺様以外に誰がいるんだよ。寝ぼけてんのか?」
どうやらステルスモードというのは本物らしい。
改めて長門の凄さを思い知った俺の手に、細い指が絡まってきた。
びっくりして隣を見ると長門は右手で俺の手を握りながら、左手の立てた人差し指を口に添えていた。
長門「………しぃー…」
表情は無表情だったが、俺の目は誤魔化されない。
こいつ、楽しんでやがる。
谷口「なんだキョン?急に驚いたり口をパクパクさせたりしてよ。まさかお前、とうとう『エア彼女』にでも手を出したのか?」
『エア彼女』
存在が認識出来ない以上、こいつにとっては俺の隣にいる長門はまさしくそれだと言える。
谷口「まぁこの時期だし、涼宮に振り回されて現実逃避したくなる気持ちはわかるけどよぉ…さすがに人としてどうかと思うぜ?」
そんなことを言う谷口を、とりあえずぶん殴っておいた。
それからちょっと手を振る仕草をして長門は自分の下駄箱へと向かった。
あの長門が手を振るなんて…
俺はいたく感動して、思わず手を振り返していた。
そんな俺を見て…
いや、奴の目には俺が誰もいないところに手を振っていたように見えたのだろう。
谷口「キョン…あとでいい病院紹介してやるよ」
懲りない谷口を再び殴った。
教室内に満たされた暖房の心地良さも相まって、授業中はほとんど寝て過ごしていたようなものだ。
なにより今日は後ろの席のハルヒが大人しかった。
ハルヒが大人しいと聞いて不安がる者も多いだろうが、安心して欲しい。
何せ俺の背後からは甘い香りが漂ってくる。
どうやらお菓子か何かを食べるのに夢中になっているらしい。
しかし、俺は失念していた。
嵐の前のなんとやら。
静けさとは嵐の前触れなのだと言うことを。
帰りのHRが終わった後、俺は少しばかり国木田や谷口と談笑し、部室へと足を向けた。
特に何をしにいくというわけでもなければ、別段用があるというわけでもないが、習慣とは恐ろしいものである。
ちなみにハルヒは放課後になると同時に部室へ向かった。
我らが団長は恐らく部活の為だけに登校しているのだろう。
では一体俺はなんの為に?
歩きながら暫し考えてみたが、途中でアホらしくなって考えることを放棄した。
目的もなく登校している奴など、俺の他にもごまんと居るだろう。
古泉は…まだ来てないようだ。
そもそも古泉とは誰だ?
そんなどうでもいいことに気を取られながら俺は部室に入った。
みくる「あっ!キョン君!今、お茶淹れますね~」
そう言って甲斐甲斐しくお茶を淹れてくれる朝比奈さんに恐縮しながらも、あぁ…俺はこの為に登校しているのだと実感した。
長門はいつもの様に読書。
ハルヒは椅子に胡座をかき、何やら小箱を抱えその中に入ってる物を食べていた。
その箱から漂う甘い香りに気づき、授業中にむしゃむしゃ食べていたのはこれだったのだと得心がいった。
キョン「ハルヒ。甘いものばかり食べてると太るぞ」
ハルヒ「うっさいバカキョン。あたしが誰の為に食べてると…って、あっ!今のなし!」
なんだこいつ?
ハルヒ「黙りなさい」ギロリ
みくる「ふぁっ…ご、ごめんなさぃ…」
ぴしゃりとハルヒに窘められ、朝比奈さんはそれっきり黙った。
今週末?
一体なんのことだろう?
ハルヒはそう言って長門にチョコを勧めた。
どうやら話題を逸らすつもりらしい。
長門は暫しチョコを見つめて、コクンと頷いた。
長門「……頂く。私も…今週末のバレンタインの為に参考にする」
ハルヒ「ちょっ!?」
そう言えば今週末はバレンタインか。
どうやらハルヒは、チョコ作りの参考するべく巷で評判のチョコを研究していたらしい。
ハルヒ「わ、私がバレンタインなんてチョコ会社の陰謀に乗っかるわけないでしょ!ほら有希、いいから口開けなさい!」
長門「……」アーン
どうにかして俺もおこぼれに預かれないだろうかと考えていた矢先、事件は起こった。
ハルヒ「あぁ!?ごめん有希!」
手元を狂わせたハルヒは、その持ち前の体温の高さによって溶け始めていたチョコの端を長門の口にくっつけてしまった。
先ほどの一件で動揺していたのだろうが、長門の口の小ささも要因の一つと思われた。
ハルヒ「みくるちゃん!ティッシュ!ティッシュ!」
みくる「は、はい!ただいま~」
ハルヒと朝比奈さんは慌てていたが、長門はいつも通り、冷静に口に入ったチョコ本体を咀嚼していた。
しかし、このあと俺は夢幻などではないと思い知らされることになる。
ハルヒ「ほら、有希!拭いてあげるから!」
長門「……大丈夫。必要ない」ゴソゴソ
そう言って長門が鞄から引っ張り出した物は…
事もあろうに俺のパンツだった。
みくる「へ?」
長門「……これで…拭くから」フキフキ
キョン「はぁ!?」ガタッ
長門は俺のパンツで口元のチョコを拭った。
みくる「あわわわ…」
長門「……昨日…彼から貰った」
そう言って長門が指し示した指の先には、開いた口が塞がらない俺が居た。
俺は…貝になりたかった。
キョン「い、いや、俺にも何がなんだかさっぱり…」
とりあえずしらばっくれることにした俺だったが…
長門「……私のパンツと…交換した。等価交換」
俺の目論見は儚くも瓦解した。
みくる「キョン君がそんな人だとは思わなかった…」
ち、違うんです朝比奈さん。
何も違くはないけれど。
ハルヒ「とにかくそんな物は没収よ!よく見ると茶色い沁みがついてるじゃない!?」
俺の名誉の為にもはっきりと言わせて貰うが、それはただのチョコだ。
ハルヒ「有希、早くそれを渡しなさい!!団長である私がしっかり管理…じゃなくて焼却処分しておくから!」
長門「……やだ」
拒否。
断固拒否である。
まさか長門に拒否されるとは思ってもいなかっただろうハルヒは、少し鼻白んだ後に我に返って長門に掴みかかった。
ハルヒ「いいからよこしなさい!!」
長門「……絶対やだ」
小柄な長門が意外と力があることに驚いた様子のハルヒだったが、それもその筈、長門は人ならざる力を備えているのだ。
情報統合思念お手製の対有機生命体用ヒューマノイド・インターフェースは伊達じゃない。
劣勢に立たされたハルヒは朝比奈さんに助力を求めた。
ハルヒ「みくるちゃんも見てないで引っ張りなさい!!」
みくる「ふぇっ!?キョ、キョン君のパンツに触るなんて…そんなの無理ですよぉ~!」
ははっ…もうどうにでもなれ。
俺が半ば自棄になっていたその時、バーンと勢いよく扉が開いた。
鶴屋さん「やっほー!遊びに来たにょろよ~!」
鶴屋さん…あなたが救世主か。
古泉「遅れてしまって申し訳ありません。実は鶴屋さんに会長から押し付けられた生徒会の仕事を手伝って頂いたので、お礼にお茶でもと誘ったのですが…おや?これは一体何の騒ぎですか?」
どうせハルヒを退屈させない為のゲストのつもりだったのだろう。
というか、誰だこいつ?
キョン「鶴屋さん…実は引いているのは綱でなくて…」
長門「……パンツ」ググググ
ハルヒ「キョンのパンツ!!」ググググ
この2人…頼むから黙ってて貰えないだろうか。
興味を持つな気持ち悪い。
鶴屋さん「でも、なんでキョン君のパンツがあんなことに?」
キョン「いや、少々手違いがありまして…」
どう取り繕おうかと逡巡していると、またしても外野から声が上がった。
長門「……昨日…彼と交換したパンツを…防衛中」ググググ
ハルヒ「部内の風紀を取り締まるのは、団長としての責務だから!!」ググググ
キョン「欲しくはないけれどあったら嬉しい。そんな感じですかね」
そんな要領の得ない俺の意思表示に鶴屋さんはニヤリと笑い、こう切り出した。
鶴屋さん「少年の気持ちはめがっさ良くわかるよっ!それじゃあ、あたしともパンツ交換しよっか!」
言葉が…出なかった。
鶴屋さん「ちょっと待つにょろよ~!すーぐ脱いじゃうからさっ!」ヌギヌギ
なんだこれは現実か?
いや、夢でもいい!
半脱ぎ状態の鶴屋さんはこの世の絶景を全て?き集めたとしても届かぬほど美しく、また神々しかった。
この瞬間を少しでも永く引き伸ばしたい!
そう思った俺はこんな提案をしてみた。
我ながらなんと馬鹿馬鹿しい夢だろう。
まさに、寝言は寝て言えという奴だ。
しかし、鶴屋さんの半脱ぎ状態を引き延ばすことには成功した。
この隙に目に焼き付けておこうと思った俺に、鶴屋さんは笑顔でこう仰った。
鶴屋さん「あっはっはっ!そんなのお安い御用っさ!すぐ結んじゃうからっ!」
なんと快諾してくれた。
みくる「つ、鶴屋さん!?な、何をしてるんですか!?」
とうとう気付かれてしまったらしい。
鶴屋さん「へ?何をって…キョン君がポニーテールの女の子からパンツを貰うのが夢だって言うからっさ!ひと肌脱ぐことにしたにょろ!」
みくる「はぅ…」バタン
ハルヒ「ちょっ!?鶴屋さんったらなんて格好してんの!?」
長門「……これは驚き」
と、その時
ビリッ…ビリビリビリッ!!
俺のパンツが無残にも破け散った。
長門「……ッ…!」
呆然と立ち竦む両者。
仕立ての良いパンツではなかった。
本気のパンツ引きに耐えられる器ではなかったのだろう。
鶴屋さん「あっはっはっは!残念だったにょろね~2人共!まぁ、くよくよせずに元気を出すっさ!」
鶴屋さんはこんな時でも高笑いだった。
鶴屋さん「いやだから、キョン君がパンツ欲しいって言うからっさ~」
ハルヒ「見境がないにも程があるでしょ!このバカキョン!!」パコンッ
キョン「いってぇなこの野郎!!」
情状酌量の余地なく、チョコの空箱で殴られた。
鶴屋さん「いや~ポニーテールの女の子からパンツを貰うのが夢だって言うからっさ~」
長門「……」ギュウッ
キョン「いってぇなこの野郎!?」
釈明の余地なく、足を踏まれた。
そんな抜け殻みたいな俺の目の前を横切って、古泉が破けた俺のパンツへと歩み寄り、そしてそれを…
古泉「はむっ。……美味ですね」ムシャムシャ
食った。
一同「!?」
古泉「さて、こちらはどんな味でしょうか?ふふっ…楽しみですね。はむっ」ムシャムシャ
そんな猟奇的な光景を目の当たりにして、身動き一つ出来ない俺の手をぐいっと何者かに引かれる。
長門「……今のうちに。走って」
キョン「へ?お、おい長門!?」
そして俺達は走り出した。
気がつくと、長門のマンションの前だった。
ハルヒ達は追って来なかった。
あんな光景を見せられたのだから無理もない。
しばらく夢に見そうだ。
頭の中を整理し、呼吸を整えた俺は長門に向き直った。
キョン「長門…助けてくれて、ありがとうな」
長門「……気にしなくて…いい」
そう言う長門の声には既に怒気はなく、先ほどの一件が尾を引いていないことに俺はほっと胸を撫で下ろした。
そんな俺をじっと見つめていた長門が再び口を開く。
長門「……上がっていって」
そして長門は繋ぎっぱなしだった俺の手を引き、マンションの中へと誘った。
部屋に入るや否や長門はそんなことを俺に命じた。
まさかな…
恐らく、聞き違いだろう。
キョン「な、長門?今、なんt」
長門「……正座」キッ
俺はフローリングの上に正座した。
長門「……どうして、他の人からパンツを貰おうとしたの?」
キョン「……く、くれるって言うから…」
長門「……あなたは…あげると言われたら、誰のパンツでも受け取るの?」
キョン「そ、そんなことは…」
長門「……最低」
長門はご立腹だった。
俺は平謝りを繰り返した。
こんな時に言い訳をしたって拗れるだけだ。
そんな殊勝な俺の頭を長門は踏んだ。
長門「……ポニーテールの女性が、そんなに魅力的?」グリグリ
どうやら長門の怒りの源はそれらしい。
恐る恐るそう進言するが、長門は取り付く島もない。
長門「……気休めは…好きじゃない」グリグリ
いや、確かに俺はポニーテールをこよなく愛しているが、別にショートカットが嫌いという訳じゃない。
むしろ長門と出会ってから、俺の中でショートカット株はうなぎのぼりだ。
長門は冷たい声でそう告げる。
俺は居ても立ってもいられず、長門の足に縋りついた。
キョン「ま、待ってくれっ!見限らないでくれ!許してくれよ…許してくれるなら俺、なんでもする!なんでもするから!!」
そんな女々しい俺に長門はピクリと反応した。
長門「……なんでも?」
長門「……じゃあ、パンツちょうだい」
そういや昨日渡したパンツは破れた上に古泉に食われちまったもんな。
至極当然の要求と言えた。
長門「……早く」
沈黙する俺に長門は焦れる。
俺は…攻勢に出るべきは今だと判断した。
そう言って不敵な笑みを浮かべる俺を長門は訝しむ。
長門「……私が何を忘れていると?」
よし。これで主導権はこちらの物だ。
キョン「等価交換だよ」
小首を傾げる長門に俺は畳み掛ける。
キョン「おいおい忘れちまったのか?昨日お前が言ってたろ。パンツの対価はパンツだって。俺のパンツが欲しいなら、対価を払う必要があるんじゃないか?」
これが先刻、女の足に縋りつき、何でもするから許して欲しいと宣った男の発言である。
そんな長門の正論を俺は敢えて突っぱねる。
キョン「嫌なら良いんだぜ?この話はなかったことに…」
長門「……ッ…待って」
よし。食いついた。
言われっぱなしってのはどうも性に合わないんだ。
長門「……わかった。等価交換は…絶対」
勝った。
上手く長門を丸め込んだ俺は勝利を確信した。
そして俺は長門の驚くべき行動を目の当たりにする。
そう言って長門はいそいそとパンツを脱ぎ始めた。
Fantastic!!
よもや1日で2人の美女のパンツ脱ぎを生で拝むことができるとは!!
パンツを脱ぐ長門を一心不乱に見つめていた俺だったが、そこで唐突に我に返った。
少しばかり調子に乗っていたヘタレに過ぎない。
キョン「な、長門!今この場で脱ぐのはマズい!そ、そうだトイレで脱ごう!な?」
長門「……彼女には生脱ぎさせた癖に」
鶴屋さんのことだろう。
そんな文句は聞き流し、俺は長門をトイレに押し込んだ。
長門をトイレに押し込んだ俺は虚しさに襲われていた。
せっかく生のパンツ脱ぎを拝めるチャンスだったのに…
千載一遇のチャンスをふいにした自分のヘタレ加減にほとほと愛想が尽きる。
長門「……お待たせ」
間も無く長門はパンツを持ってトイレから出てきた。
さて、次は俺の番だ。
脱いだパンツを握り締めてトイレから出ると、長門はその場で待っていた。
キョン「ほら、これで仲直りだな」
そう言って長門にパンツを手渡すと、長門も俺に自分のパンツを手渡した。
長門「……仲直り出来て…嬉しい」ニッコリ
長門のパンツはまだ仄かに温かかった。
長門「……ちょっと早いけど…バレンタイン…だから」
そんな長門に頬を緩めた俺は謝意を示した。
キョン「ありがとな…長門」
これは…忘れられないバレンタインになりそうだ。
昨日の物と同様に沁み一つない純白のそのパンツはまさしくホワイトチョコパンツであり、ミルクチョコパンツでないことが少々残念ではあったが、俺は今晩自身のホワイトソースをこのホワイトチョコパンツに盛大にぶっかけるその瞬間に思いを馳せ、胸をときめかせた。
長門「……」クンクン
ま、楽しみ方は人それぞれだしな。
もうとやかく言うまい。
時刻は…午後6時45分。
そろそろ潮時だろう。
長門「……また、明日」クンクン
今日もパンツを嗅ぎながら見送る長門に軽く手を振ってから、俺は足取り軽く帰路についた。
俺のポッケには確固たる現実が。
ポッケに突っ込んだ手の先に確かに存在するパンツの感触を弄びながら、俺は今日もスキップをする。
ノーパン男は今日も今日とてご機嫌だった。
長門「……はむっ」パクッ
キョン「ファッ!?」
耳に違和感を覚えた俺は飛び起きた。
ここは俺の部屋である。
あれから長門は毎朝俺の布団に忍び込み、耳を齧って起こすようになった。
むしろ、この瞬間の為に惰眠を貪っていると言っても過言ではない。
何故ならば、俺が飛び起きると可愛い長門が隣に寝ていて、こう言うからだ。
長門「……おはよう」
こんな幸せなことはそうそうないだろう?
キョン「ん?お前、髪伸びたんじゃないか?」
すると長門は髪先を弄りながら少し気恥ずかしそうにこう言った。
長門「……伸ばしてる。ポニーテールに…したくて」
なるほど。
それは楽しみだ。
アイスピックでつついたらいい感じにカチ割れるんじゃないかと思える地球を
ようやく春の日差しが溶かし始めた
そんな…ある晴れた日の朝の出来事だった。
FIN
元スレ
長門「……はむっ」パクッ キョン「ファッ!?」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1455192185/
長門「……はむっ」パクッ キョン「ファッ!?」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1455192185/
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最初艦これかと思ったわ
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- 2016年02月12日 01:03
- ハートフルだった
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- 2016年02月12日 01:18
- ※5 艦これが出始めの頃はタイトルに長門とあるとハルヒだと思う人がほとんどだったのだが…。時間の流れを感じるな
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- 2016年02月12日 01:45
- 長くて読むの断念。
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- 2016年02月12日 02:38
- 頭の中でキャラが動く位に良かった
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- 2016年02月12日 03:00
- や長N1
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- 2016年02月12日 03:35
- キョンってタイトルに含まれてるのになぜ艦これかと思ったのか
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- 2016年02月12日 04:00
- NARUTOかと思った
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- 2016年02月12日 04:43
- ハルヒ以外の作品(艦これやNARUTO)だと思ったとか言ってる奴はタイトルちゃんと読んでなさ過ぎだろ……
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- 2016年02月12日 05:24
- まだ読んでないけど久々のハルヒSSなので星5
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- 2016年02月12日 05:27
- 鶴屋さんは貰ってイキますねぇ!
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- 2016年02月12日 05:37
- 無駄な文章力の高さに草不可避
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- 2016年02月12日 06:00
- 結局原作って完結しないの?
谷口は冨樫状態なの?
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- 2016年02月12日 06:18
- 谷川な、谷川流
ハルヒも好きだったが学校を出ようもわりと好きだったなぁ……もう内容とかほとんど覚えないが
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- 2016年02月12日 07:01
- これもう10年前のコンテンツなんだよな
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- 2016年02月12日 07:36
- 南部の臭いがしたが気のせいだったようだ
これはよいものだ
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- 2016年02月12日 07:59
- ええ・・・夢オチじゃないのかよ・・・
長門が長門じゃなささすぎてキモいわ
夢オチならギリ許すつもりだったが、そうじゃないなれ無理だわ
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- 2016年02月12日 09:10
- やはりハルヒSSのマジキチさはいいわ
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- 2016年02月12日 09:12
- 原作っぽかった。作者もきっと本当はこういう話が書きたいはず
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- 2016年02月12日 16:06
- 夢オチだったら許してたとか書いてる奴がとても気持ち悪いです
南部だと更にカオスになってたんだろうなぁ
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- 2016年02月12日 16:55
- ハートフルだったな
※6に先にかかれてた
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- 2016年02月12日 18:56
- こんな毎日ならエンドレスでもいいです
8回と言わず何回でもいいです
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- 2016年02月12日 23:32
- 最近艦これのステマがうざい
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- 2016年02月13日 08:20
- ハルヒSSを書くことにより艦これのステルスマーケティングになるとはまた素晴らしい超理論だな
もう艦これ人口の増加も止まりつつあるしね、仕方ないね
後1年程度したら一気に減少するよ、確実に
すべてのゲームはそうやって廃れていくのが世の常だからね
あー有希かわいい、流石佐々木・橘・周防と並ぶキャラだぜ(俺の好みランキング)
ちなみにトップは国木田、異論は認めない
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- 2016年02月13日 19:57
- えーい佐々木スレはまだか
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- 2016年02月15日 00:36
- パンツパンツうるせえよwwwwwww
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- 2016年02月15日 05:42
- 朝倉のパンツもほしいところです
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- 2016年06月10日 08:35
- あさまくらみたいなのがまた見たい
また見たい(切実)
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- 2016年07月31日 07:58
- ファッ!?って使うやつ、元々は先輩が顔面○精された時の声って知ってるんですかね……
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- 2016年07月31日 07:59
- 知りません