花陽「皆の背中」
弱虫で、泣き虫でダメダメの、そんな人間。
そんな私は今、μ'sというグループでスクールアイドルやってます。
私が自慢できることと言ったら、μ'sの皆くらいしかないです。
昔から私は弱虫でうじうじしてて……そのたびに凛ちゃんが私のことを引っ張ってくれるんです。
ほら、こうやって。
凛ちゃんの、温かい手が大好きで。
でも、いつもいつも思うことがあるんです。
私は……皆と同じ場所に立てていない、って。
凛ちゃんも、真姫ちゃんも、他の皆も、優しくて、心地よくて、大好きです。大好き、なんですけど……。
私には、皆の背中しか見えないんです。追い付こうと必死で走っても距離は縮まらなくて、むしろどんどん離されちゃうみたいで。
花陽「ん……ごめんね、凛ちゃん」
凛「……」
凛「ううん、いいよ。大丈夫」
花陽「ありがとう」
花陽「……」
凛「……」
沈黙がずっしりと私にのしかかってきて、重い。
なんだか、頭の中でざあざあと聞こえる気がした。
まるで、雨が降ってるみたい。
不快感しかなかった。
花陽「……え?」
凛「凛の家に、ちょっと来ない?」
花陽「あ、うん。……行く」
凛「じゃあ、行こっ!」
花陽「うん」
凛「……」ジッ
花陽「? ついてるの、なにか?」
凛「ううん、そんなことないよ」
……なんだろう。
こんなに体って重かったっけ?
なんだかうまく話せないや。
」
花陽「ありがとう」
凛「……」
凛ちゃんずっとずっと険しい顔。
私のせいかな。
そういえば、朝、凛ちゃんが真姫ちゃんと二人で話してたときに私の方チラチラ見てた。
私の悪口でも言ってたのかな。
……あれ?
花陽「わかった」タンタンタン
凛「……の……ち……」ボソッ
花陽「……!」ピクッ
なにか、呟いてた。
なんだろ。気になる。でも怖い。
そんなこと思ってたら凛ちゃん、来た。
花陽「うん、ありがとう」
凛「はい」ストッ
凛「……あのさ、かよちん」
花陽「どうしたの」
凛「凛の勘違いだったら悪いんだけど……」
凛「……なにかあったの?」
花陽「?」
凛「あれ?」
花陽「なにか、って?」
雨はざあざあと降り続いているけど、多分、気のせいだから。
それは言わないし、言っちゃいけないのかなって思う。
あはは、って笑う凛ちゃん。
でも、どうして。
どうして、寂しそうに笑っているんだろう?
私のせいで悲しませちゃってるのかな。
凛「恥ずかしいにゃー」
花陽「心配してくれてありがとね、凛ちゃん」
凛「……本当になにもないんだよね……?」
声、震えてる。
どうして?
本当は嫌われちゃってるのかな?
そう考えたら、喉がカラカラして、紅茶を一気に飲み干す。
それでも喉は渇いたままだった。
なんだか、さっきから喉に違和感がある。うまく、話せない。
……でも。
花陽「なんでもないよ? 凛ちゃん、考えすぎだよー!」
できるだけ、明るく。
気持ちを悟られないように。
これでいいんだ。
元の小泉花陽は奥に押し込んでしまおう。もう二度と出れないくらい、奥に。
花陽「ね? だから、大丈夫」
凛「うん……」
花陽「……ごめんね、今日は帰るね」
凛「また明日、かよちん」
花陽「……うん、また明日だね」ニコッ
出来る限りの笑顔で凛ちゃんとバイバイする。
今までの私の気持ちとも、バイバイ。
部屋を出るときに何か聞こえた気がしたけど、気にしなかった。
喉の違和感は凛ちゃんの家を出たあたりでほとんどなくなっていた。
深いため息。
喉を軽く撫でる。
さっきのは……なんだろう。
意味がわからなかった。
家に帰ろう。
花陽「ただいまー」
元の私を奥に押し込める。
明るく、明るく。
花陽母「あら、花陽。ご飯できてるわよ」
花陽「……ごめん、お母さん。お昼食べ過ぎちゃったから……」
花陽母「……そう。なら、お風呂いってきたら?」
花陽「うん、そうするね」
あんなに大好きだったご飯が全然美味しそうに見えないや。
なんだか、少し怖い。
どうしちゃったんだろう、私。
もう、嫌なことなんて忘れて寝ちゃおう。
花陽「あ、ごめん、なさい……」
穂乃果「……チッ」
花陽「っ……!」
凛「……」
花陽「凛、ちゃん」
凛「なに? 用がないなら話しかけないでよ」
花陽「……っ」
ガバッ。ハァハァ。
夢だった。さっきの。
……夢くらい、楽しくしてくれないかなあ。
神様、私はなにかしてしまったんでしょうか……?
つい、口からこぼれた言葉。
なんで今頃?
なんで、今、私は泣いてるの……?
ダムが崩壊したみたいに涙が溢れる。
別に、今は悲しい訳じゃないのに。
花陽「っ……ぐっ……」ポロポロ
抑えなきゃ、って思う気持ちと正反対に溢れてくる。
……本当、意味わからない。
こんなんだから、皆の背中しか見えないんだ。ダメダメな私。
私は私が許せないよ。
どうすればいいの?
誰か……助けて。
こんなに憂鬱な朝なんて、初めてだと思う。
まるで私のまわりに膜が張ってるみたいに感じる。
休んでしまいたいけど、お母さんに心配はかけたくない。
支度をしなきゃ……。
花陽「いってきます」
花陽母「いってらっしゃい」
靴をとんとん。ドアをがちゃり。
凛「!」
……え?
花陽「あ……お、おはよう」
なんで、凛ちゃんはここにいてくれるの……?
こんな私に優しくしないでよ。
そんな優しさが、暖かくて、とっても痛いんだよ?
凛「穂乃果ちゃん、海未ちゃん、ことりちゃん!」
花陽「おはよう……!」
穂乃果「あ、花陽ちゃん。凛ちゃんをちょっと借りてくね?」
花陽「え? うん」
凛「どうしたの、穂乃果ちゃん?」
穂乃果「……ほら、昨日の」ボソッ
凛「……! わかったにゃ! かよちん、ごめんね、先に行ってるね?」
花陽「うん、わかったよ」
海未「では、私たちは3人で行きましょうか」
ことり「まだ時間に余裕もあるし、ちょっとゆっくり行こうか♪」
花陽「はい!」
穂乃果「!」ブイッ!
ことり「あはは……」
花陽「……?」
珍しいなあ、っていうより……初めてかも。
先輩禁止! とはいえ、少し緊張しちゃうなあ。
海未「ときに花陽」
花陽「ん? なに、海未ちゃん?」
海未「クッキーはお好みでしょうか」
花陽「へ? 好きだけど……なんで?」
海未「実は、昨日ことりと作ったので、よかったら味見していただけないかと思いまして」
花陽「もらっていいの?」
海未「ええ、是非。感想を聞かせてもらえますか?」
花陽「わーい! ありがと!」パクッ
味……わからない?
なんでだろ、砂を食べてるみたいな……。
でも。
花陽「……! おいしいよ、海未ちゃん!」パァァ
海未「! 本当ですか?」
花陽「うん!」
ことり「……」
海未「ことりの指導のおかげですかね……ふふ、なんだかとても嬉しいです!」
ずき。ずきずき。
申し訳ない。
ごめんなさい。
花陽「んー?」
ことり「どうして、ことりたちから離れていこうとするの?」
花陽「……え?」
海未「ことり……それは」
ことり「最近の花陽ちゃん、なんだか離れようとしてるみたいに見えるよ」
違うの……。
私は、私だって。
花陽「私だって……皆について行きたいだけなのに!!」ダッ
耐えきれなくなって逃げちゃった。
後ろから、海未ちゃんの「ことり!」って声が聞こえた気がするけど、心の中の雨でかき消された。
花陽「……っ」ポロッ
タイミング、最悪だ。
絵里「……花陽」スッ
花陽「……どうしてかなあ……」
絵里「……なにが?」
花陽「どうして、背中しか見えないのかな……」タタッ
つい溢れた言葉。
呼び止められた気がしたけど、もういいや。
そのまま学校、着いた。
教室には凛ちゃんがいたよ。
涙は隠して。ついでに、本当の私も隠すの。
花陽「ううん? 大丈夫!」
凛「そっか。それならよかったにゃ」
花陽「HR始まるよ、座ろう?」
真姫「……」チラッ
凛「……」コクッ
花陽「……」
また、チラッ、て。
はぁ。心の中で、ため息ひとつ。
廊下で、ザワザワと声がしてる。
なにかな、って思っていたら、にこちゃんと希ちゃんがいた。
にこ「あ、花陽! ちょっといい?」
凛「げ、にこちゃんだ」
にこ「げ、ってなによ!」
凛「べっつにー?」
真姫「……で、花陽に何か用なの?」
希「ちょっと教えて欲しいことがあるんよ」
……朝のこと?
ふたりとも、3年生だし。
やだなあ。行きたくない。けど。
花陽「どうしたの?」
にこ「ちょっと花陽借りてくわよ」
凛「いってらっしゃーい」
真姫「お昼までには帰るのよー」
凛「……ちょっと寒くないかにゃ?」
にこ「実はね……」
希「次のライブのことなんやけど」
……あれ、絵里ちゃんのことじゃないの?
にこ「サビ前のとこ、音がうまく取れないのよね……なにかコツとかないかしら?」
花陽「あ、あぁ……そこだったらーーー」
希「なるほどなあ……花陽ちゃん、すごいわかりやすいね」
にこ「ええ、助かったわ。ありがとう。」
花陽「う、ううん。それくらいなら、いつでも!」
にこ「それじゃあ、邪魔して悪かったわね」
希「ほんまありがとなー」
花陽「大丈夫! それじゃあね!」
にこ「ええ、また部活で!」
……絵里ちゃんのことじゃ、なかった。
気が重いよ……。
穂乃果「おふぁえりー」モグモグ
海未「食べながら話してはダメだと何回言えばわかるのですか!」
穂乃果「ふぉめんなふぁい」ゴクン
花陽「あれ、みんな……?」
ことり「これ、渡しそびれちゃったから……」
花陽「わぁ……マカロン? すごく美味しそう!」
ことり「いつものお礼だよ!」
花陽「いつもの?」
ことり「衣装作りのお手伝いしてくれるの、すっごく助かってるから!」
花陽「そんな……でも、ありがとう!」
あれ?
……なんで?
どうして、皆……責めないの?
花陽「どうしたの? 穂乃果ちゃん」
穂乃果「ライブ終わったら一緒にご飯食べに行かない? 奢っちゃうよ~」
花陽「行きたい! けど、奢らなくてもいいよ?」
穂乃果「いつも頑張ってる花陽ちゃんへ、穂乃果からのプレゼントだと思ってよ!」
海未「……ダイエットにならない程度にしてください」
穂乃果「わ、わかってるよ?」
花陽「穂乃果ちゃん……ありがとう!」
花陽「あー……」
真姫「……目つぶって口開けて?」
花陽「へ?」アーン
真姫「……」ヒョイ
花陽「ん? ほまほ?」モグモグ
真姫「何も食べないのはよくないから、ちょっとくらい食べなさい」プイッ
花陽「おいしいよ、真姫ちゃん!」
凛「あー真姫ちゃん照れてるにゃ?」ニシシッ
真姫「なんでそうなるのよ!」
ことり「じゃあ、ことりたち戻るね?」
海未「では、また部活で」
穂乃果「バイバーイ!」
今日の皆、なんだか少し変だよ?
……なんでかな。
凛「かよちーん、先生呼んでるよ?」
花陽「え? 本当? ごめんね、ふたりとも、先に行ってて!」
真姫「わかったわ。皆には言っとくから」
何か怒られるのかと思っていたけど、よかった。
手伝いを頼まれただけでした。
生徒会室に資料をお届けです。
ドアをコンコン。ドアががちゃり。
希「どうしたん?」
花陽「あれ、どうしてふたりが?」
絵里「先生に頼まれたものがあってね」
花陽「あ、そうなんだ。じゃあ、これ」
希「あ、その資料探してたんよ。ありがとなー」
花陽「いえ! じゃあ、先に部活行ってるね」
絵里「……まって、花陽」
花陽「どうしたの?」
絵里「まだ……皆の背中しか見えない?」
花陽「……え?」
絵里「気になっていたのよ、朝のこと」
花陽「……」
花陽「なにを?」
絵里「本当に花陽は皆に追い付けないような人間なのか」
花陽「……」
絵里「答え、知りたいかしら?」
花陽「うん、知りたいな」
希「じゃあ、部室行こうか」
花陽「あれ、仕事は?」
希「あとでも遅くないんや、あれ」
絵里「ええ、明日終わらせる仕事だから」
花陽「そう、なんだ……」
絵里「さ、行くわよ」
皆はどうしてこんなに優しいのかな?
どんどん大好きになっちゃう。
優しすぎて、私には眩しすぎるよ。
がちゃり。ドアが開く。
そこに待っていたのはーーー
にこ「遅いわよ、3人とも」
凛「かよちーん!」ギューッ
真姫「もう、待ちくたびれたわよ」
穂乃果「そわそわしてたもんね、真姫ちゃん」
真姫「う、うるさいわよ!」
ことり「皆でおやつ食べよ~♪」
海未「……太らない程度で、ですよ?」
皆の眩しいくらいキラキラした笑顔、でした。
花陽「……なに?」
絵里「花陽は……皆の背中ばっかり見ていて、皆の表情までは見えていなかったんじゃないかしら」
花陽「……」
もう一度、部室を見る。
キラキラ。眩しいけれど、ちゃんと皆の顔が見える。
……なんだ。やっぱり皆は皆だった。
花陽「ねぇ、皆!」
皆の視線を浴びる。
花陽「私は、μ'sの皆のことが大好きだよっ!」
今はもう、皆の顔が見えていた。
見てくださり、ありがとうございました!
近いうちにまたssを書くつもりなので、よろしかったら見ていただきたいです。
元スレ
花陽「皆の背中」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1453217822/
花陽「皆の背中」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1453217822/
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コメント一覧
-
- 2016年02月02日 20:27
- んー……最初は良かったけど結末が尻すぼみになったのは残念だね。
心情の変化をもう少し丁寧に描写していれば良かったかな。
-
- 2016年02月11日 15:52
- うざい
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