【艦これ】整備兵「鎮守府で働け?」提督「そうだ」【前半】
・キャラ口調崩壊の可能性有り
・半端な知識及び乏しい構成力による艤装、工廠、妖精等についての妄想独自設定有り
・ほのぼの7割シリアル3割
【整備兵宅】
整備兵「……」
提督「……」
ミーンミンミンミンミン
ジジジジジジジジ
整備兵「あのなぁ……栄えある海軍大学校首席卒業組の提督様と違って、俺は工作学校出だぞ?艦隊の指揮なんかできるか。暑さで頭でもやられたのか?」ウチワパタパタ
提督「いや、そういう意味じゃない。うちの鎮守府の工廠で働かないかってことだ」パタパタ
整備兵「そりゃどうしてまた……。聞いた話だと、今の海軍の主力――艦娘――の艤装や兵器は妖精とやらにしか扱えないから、人間の工員はもう必要無いそうじゃないか」
提督「そうだな。お前が軍から暇を出されて、日雇いで食いつなぎながらこんなボロ家でくすぶっているのもそのせいだ」
整備兵「ボロ家は余計だ」
柱「」ミシッ
整備兵「おいやめろ。こんな常識外れの格安物件、なかなか無いんだからな……」
提督「ボロさも常識外れだったな」
整備兵「黙っとけ……とにかくここを失ったら俺はもう生きていけないんだよ」
提督「そこで、この状況を何とかしてやりたい十数年来の親友からさっきの提案だ。うちの鎮守府に来れば、それだけで三食風呂付きの8畳間が手に入る。今ならもれなく布団も付いてくるぞ」
整備兵「な、に……?」
整備兵(三食、だと?俺なんてここ最近は一日二食もザラだぞ……。しかも、8畳間……!この家は2畳一間だから、単純計算で4倍……。その上、風呂に、布団……最後に見たのは工作学校にいた頃か……)
提督「悪い条件じゃないだろう?」
整備兵「ああ……」
整備兵(悪いどころか魅力的でしかない)
提督「もちろんだ。だが特別な職務がある」
整備兵「特別な、ね……」
提督「整備兵、お前には、その整備の知識と経験を使って妖精の整備技術の謎を探ってほしい」
整備兵「……?」
提督「確かお前、妖精が見えたよな?」
整備兵「ああ……高校の終わり頃にやった何ちゃら適性検査とかいうやつの話か。確かに見えたぞ。工具を抱えた小さい人形みたいなのが動き回ってて、そのときは本当に驚いた」
提督「知ってるだろうが、妖精が見える人間はかなり珍しい。その上、そういう人間は皆揃ってその力を生かし艦隊指揮官を目指す。お前みたいな、三度の飯より機械いじりが好きな物好きくらいしか工作学校には行かない」
整備兵「まあ、当然そうなるな」
提督「するとどうなるか?」
整備兵「何か問題があるのか」
整備兵「……分かってきたような気がする」
提督「もちろん、今は戦時下だ。なるべく多くの指揮官を育て、なるべく多くの艦隊を作る……すなわち戦力の増強が最優先だということは俺も分かっている。だが事実、今のところ、軍は妖精に装備を作ってもらう方法は知っていても、妖精がどうやって装備を作っているのかは全く明らかにできていない……というより、明らかにするためにリソースを割こうとしていない」
整備兵「原理の分からない技術をいつまでも使い続けるのは、得策とは言えないってことか」
提督「その通り。この調査は、間違いなく深海棲艦との戦いに役立つはずだ」
整備兵「しかし、どうして俺なんだ?俺は艦娘についてはずぶの素人だぞ。何やら、大戦期の艦艇の魂と装備を持った者たちだとは聞いたことがあるが……」
提督「それに関しては……まあ実際に姿を見て話してみれば、すぐに大体のことはつかめるはずだ。どうせ、まだ分かっていることも少ない。それに、お前は工作学校時代も『近代兵器学』の成績はトップだったからな」
整備兵(『近代兵器学』、か……懐かしいな)
整備兵「……まあな。もともと、子供の頃から昔の軍艦とかには興味があったんだ」
提督「調査の中では恐らく、既存の兵器と艦娘の艤装の違いも重要になるはずだから、そのことも含めて整備兵は向いていると俺は考えている」
提督「……まあ、さっきまでの話は半分本音で半分建前だ。うち程度の規模の鎮守府なら、赤レンガに打診すれば案外人を寄越してくれたりするかもしれない。だが、俺は昔からお前の知識には舌を巻かされてきた。折角できる奴が身近にいるんだ。頼んでみたくもなる」
整備兵「……」
提督「だから今回のところはお節介を許せ。当然、仕事内容は前人未到の空前絶後。とんでもなくキツいだろうから覚悟は要るぞ?」
整備兵「……」
提督「……」
整備兵「……分かった。その仕事、引き受けさせてくれ。失望はさせない…た、多分」
??「ばっちりですヨ!ご主人さま!」ドアバァン
家「」ミシミシッ
整備兵「へ?ご主人さま?てかその女の子誰な」
提督「おっと、うっかり言い忘れていたが出発は今すぐだ。鎮守府を空ける時間はなるべく減らしたいからな。ん?何だ?言質は取ったから、今さら怖気付いてももう遅いぞ?」ニヤリ
整備兵「」
提督「俺の車が道の反対側に停めてある。さっさと乗り込むぞ」
??「ほいさっさ~♪」
提督「荷物なんて、そもそもそこに置いてあるダンボール箱一つしかないだろ。よっと……ちゃんと鍋も財布も入ってるな。ん?奥に何やら桃色の画集が……」ガサガサ
??「……」チラッ
??「……!///」メソラシ
整備兵「やめろぉ!」
提督「何だ。思ったより元気そうじゃないか」
整備兵(流石に最近は常時疲れ切っててご無沙汰です)
??「」ジトー
整備兵(そしてなぜ、こっちのドアを蹴破らんばかりの勢いで入ってきた見も知らない女の子には軽蔑の目で見られる羽目に……)
整備兵「ええっと、ごめん。あー、君は……」
??「……ふんっ」プイッ
整備兵(傷つくわ……)
整備兵「……むしろその状態で一度も滞納しなかったことを褒めてくれ」
提督「おーすごいなー俺だったら多分無理だわーまー俺はそもそもそーならないけどー」
整備兵「うわーい。やっぱり提督はすごいなー」
整備兵(今すぐスパナで背後から一撃ってのもアリだな)
提督「はい、ちょうどですね……よし、これで後顧の憂いはすっぱり断てたな。整備兵、出発だ」キリッ
整備兵「……あいよ、了解」ヨッコイショ
整備兵(……だが、わざわざ任された仕事だ)
整備兵(頑張らなければ)グッ
バタン
ブロロロロ……
提督「着いたぞ」
整備兵「ん……まずい、すっかり眠り込んでしまった……。しかし長旅だったな。空が真っ暗だ」
整備兵(しかし、提督の奴……)
鎮守府「」デーン
整備兵「エリートだとは思っていたが、まさか天下の暮鎮守府の司令長官とは……」
提督「ちなみに、史上最年少での就任とのことだ」
整備兵「ひょっとして、提督って凄い奴なのか?」
提督「ひょっとしなくとも、だ」シレッ
整備兵「その無駄に落ち着きに溢れたドヤ顔はひた隠しにした方が良いぞ。キャリアに響く」
整備兵「分かった。相変わらず万事手際が良くて助かる」
提督「褒めても明日の朝食のデザートしか出ないぞ」
整備兵「俺、これからは毎晩お前を讃えてから寝ることにするよ……ん?」
??「すぅ……すぅ……」
整備兵(こっちの、名前が分からない女の子も俺と同じく寝ていたようだ……というか、今現在も寝ている)
整備兵(ピンク色の髪を太めのツインテールにしているのが特徴的だ)
提督「どうした?忠告しておくが、手を出したらその場で名誉の戦死だぞ」スッ
整備兵「んなことするか。こんな所で軍刀に手を掛けるな……で、この子は誰なんだ?まさか、実はお前の方こそ誘拐犯」
提督「」アァン?
整備兵「……も、もちろん最初から気付いていたさ。この子が……艦娘」
提督「なかなか察しが良いな」シラジラ
整備兵「こんなに小さい子がか」
提督「一応、俺の着任と同時にここに配属された最古参だからな。鎮守府や事務仕事についての知識なら右に出る者はいない」
整備兵「ほー。あ、それはそうと、気になってたんだが……」
提督「何だ?」
整備兵「ご主人さま呼びがタイプなのか?」
提督「ぶっ」
整備兵「司令官の権限を悪用していたいけな少女にメイドごっこを強要か……」
提督「強要なんてするか!……これは漣が勝手にやっているだけだ」
整備兵「嘘つけ……」
提督「嘘じゃない!こ、こいつはな、よく風変わりな言動で人を惑わす。だがな、ほ、本当はちゃんとお話ししたいと思っている。そういう艦娘だ」
整備兵「そんなに力説されても」
提督「とにかくそういうことだ。……分かったら早く行くぞ」スタスタ
ドーン
整備兵「……ば、爆発!?基地の方からじゃないか……!?」
提督「深海棲艦……?いや、哨戒は常時行っている。もしそうならば……」
<ケイジュンヨウカンセンダイ!カレイニヤセンニトツニュウ!
<コンヤハオールナイトナカチャン!
提督「」
整備兵「……艦娘たちは皆もう休んでいるんじゃなかったのか?」
提督「くそ、あいつら……さては俺の留守を聞きつけたな……」
漣「んぅ、うるさい……」モゾモゾ
提督「お。漣、ちょうど良いときに起きたな」
漣「すみませんご主人さま!漣、眠っていました!」
提督「いや、それは構わない。ただ、起きた途端で悪いが早速仕事だ」
漣「何でしょう?」キョトン
提督「……俺の不在を良いことに暴れているバカどもを狩る」
<ヨーイ!テー!
<キャーカオハヤメテー
漣「……今日という今日は、徹底的にやりましょう」
提督「ああ」
提督「すまんが、俺たちは野暮用ができた。この地図の通りに進めばお前の部屋だ。明日の詳しい予定もここに書いてある。お前の荷物も明日部屋に届くように手配しておく」パサッ
整備兵「お、おう……」
提督「よし、早く行け。勝手に他の建物に入ったりするなよ。……漣、行くぞ」ダッ
整備兵「えっ、おい!?」
漣「合点承知!」ダッ
整備兵「……何だか訳が分からないうちに置いて行かれた」ポツーン
提督「港の街路灯を片っ端から点けろ。奴らを照らし出せ」
漣「ほいさっ!」ポチッポチッ
提督「マイクスイッチオン」
漣「はいよっ!」ポチッ
<ゲッ!テイトクッ!
<ソンナコトイワレテモナカチャンハロセ
提督「……投降の意思は無しか」
漣「こんな時のための原稿がここに……ありました!」
漣「えー、一、今カラデモ遅クナイカラ宿舎ヘ帰レ。二、抵抗スル者ハ全部逆賊デアルカラ解体スル。三、オ前達ノ神通ハ国賊トナルノデ泣イテオルゾ。以上、艦隊司令部ヨリ」
<ウワーニゲロー!
<ナカチャンスマイルカラノーナカチャンダッシュ!
提督「逃がさんぞ……俺はしつこいからな」ダダッ
漣「漣のセリフを取らないでください!」ダダッ
整備兵「だ、大丈夫なのか、この鎮守府……」
整備兵「……仕方ない。もう何も考えず部屋に行こう……」トボトボ
整備兵「ふー……ここか」パタン
部屋「」ヒッローイ
整備兵「これが8畳の威力……何てことだ……」
整備兵「窓にはちゃんと割れてないガラスがはまってる上、壁にもひびや穴は無く扉の立て付けも良好……これに慣れたら外じゃ暮らせなくなりそうだ」
整備兵「お、布団もあるじゃないか!こちとらこれだけが楽しみで……ん?奥にも扉があるな」ガチャ
整備兵「トイレか。一人で使えるなんて、贅沢なもんだ……」パタン
整備兵「でもって、こっちには本棚か。何冊か本が入ってるな……」
海軍省監修建造開発最新レシピ集「」ドン
改訂版装備品目録~見分け方から活用法まで~「」ドドン
海軍艦艇型録第一巻 駆逐艦の歴史と型式「」ドドドン
整備兵「このぐらいの基礎知識、さっさと読んで頭に叩き込めってことか」
整備兵「…………」
整備兵「………………」ペラリ
整備兵(確かに、状況は大体提督の言った通りみたいだ)
整備兵(妖精たちに資材を与えると、妖精にしか扱えない道具を用いて艤装や装備を作ってくれる……与える資材の量をいわゆる『レシピ』通りに調整すればある程度は出来上がるものを固定できるが、作っている過程は大部分が不明)ペラリ
整備兵(艦娘や装備の種類・性能はそこそこ記録がある一方で、その仕組みについての解説はほぼ皆無……)
整備兵(艦艇型録は……大体、知ってることしか書いてないな)
整備兵「さて、次は……」
……ペラリ…………ペラリ………………
【港・埠頭】
提督「……申し開きは有るか?」
??「だって提督がいつも夜戦させてくれないからー!」
??「アイドルを縛り上げるなんてヒドイよー!」
提督「……」
漣「全く反省してませんね」
提督「……二人共、朝までその場で謹慎処分とする。朝食の時間には解放してやろう」
??「そんなー!」
??「鬼ー!」
提督「帰るぞ、漣」スタスタ
漣「はい、ご主人さま」スタスタ
提督「では、遅くなったが今日の執務はこれで終わりだ。明日に備えてゆっくり休め。それと……」
漣「何ですかご主人さま?」
提督「……ああ、いや、何でもない。自分でできることだ」
漣「それなら良いですけど、ご主人さまも早く休んでくださいね」
提督「問題無い、すぐに終わる……下がって良いぞ」
漣「はいっ!」
パタン
提督「……」スッ
提督「……」ピッピッピッ
提督「……助かる。何かあればいつでも連絡するように」チンッ
提督(湾入口の機雷敷設はこの前済ませた……その上、いざとなれば持っていた主砲で自衛もできるだろう)
提督(危険は無いな)
漣「……」トビラノソト
漣「( ・∀・)ニヤニヤ」
提督「……ふう、茶でも飲んで寝るか」ポツリ
漣「お淹れしますよ!」ガチャッ
提督「っ!……何だ漣、まだ起きていたのか?」
漣「車で寝ていたのであんまり眠くないんです」
提督「まあそれなら、淹れてくれるに越したことは無いが……」
漣「了解しました~♪」カチャカチャ
カラカラカラカラカラカラカラカラカラカラ……
【廊下】
整備兵「まずいまずい……!」
整備兵(ついついあのまま本を読んでいて気がついたら寝ていた)
整備兵(そして寝坊した!)
整備兵「昨日もらったメモ書きによれば執務室集合は7時半……急がないと」スタスタ
整備兵「……危なかったが、なんとか遅刻は免れたな」
整備兵(よーし……何事も最初が肝心だ。気合入れて行くぞ)パシパシ
整備兵(まずはノックを……ん?扉の向こうから声が……?)ピクッ
漣「……さま!」
提督「前々から気になっていたんだが……どうしてご主人さま呼びなんだ」
漣「なんとなくです。合っているかなと」
提督「合っているとは何だ合っているとは……。普通に司令官とは呼べないのか?」
漣「ムリです」ニッコリ
提督「無理か……」
漣「ムリです」ニッコリ
提督「……」
漣「……」ニッコリ
整備兵(おもしろい)
整備兵(……さて、立ち聞きも悪いしこの辺で入るか)
コンコン
提督「入れ」
ガチャ
整備兵「整備兵、ただいま参りました」ビシッ
提督「……」
整備兵「?」
提督「いや、整備兵が柄にもなく背筋を伸ばしていたので驚いた」
整備兵「ひどいですよ……」
提督「……」
整備兵「……」
提督「今すぐその気色悪い丁寧語をやめろ」
整備兵「え」
整備兵「とんでもないクズじゃねえか!」
提督「それで良い」
整備兵「働く者としての自覚を見せようと思ったんだが……」
提督「古来から、何事も自然体でと良く言われる。余計な気遣いは必要無い。どうせ、艦娘達含めて誰も気にしない」フン
整備兵「そ、そういうものなのか……」ガーン
漣「……」ジーッ
整備兵(す……すごく……見られてます……)
整備兵「……初めまして。と言っても、昨日会ったかな」
漣「」ピクッ
整備兵(自己紹介が名前だけってのは物足りないよな……何か軽く自分を説明するようなことを言うべきか?)
整備兵「俺は……」
漣「……変態です」
整備兵「おう、俺は変態で……って違うわ!」
漣「m9(^Д^)プギャー」
整備兵(……もう帰って良いかな俺……)シクシク
整備兵「き、昨日のは……何と言うかその、申し訳なかった」
整備兵「え、気にしてないんで……してないのか?」
漣「実際に会ってみたら、何だか悪いことは出来なさそうな人でしたし」クスッ
整備兵「それは褒められているのかどうなのか……」
漣「ともかく、よろしくお願いします。この鎮守府はみんないい子ばかりですから、すぐに慣れますよ」
整備兵「それは嬉しいな。俺もまだ分からないことばかりで何かと迷惑を掛けるかもしれないが、よろしく頼むよ」ペコリ
漣「はい♪」ペコリ
提督「自己紹介が済んだようなら、さっさと食堂に行くぞ。ちょうど朝食の時間だ」
整備兵「おう」
漣「了解しましたー!」
整備兵「朝食を餌に食堂に誘い出されてみれば、」
かんむすのむれ「」ザワザワ
整備兵「……完全に晒し者だった」
??「ねー彼女とかいるのー?」
??「そ、そのような質問ははしたないですわよ!」
整備兵「ずいぶんと元気な子たちだな……」アセアセ
提督「もちろんだ。うちの鎮守府は一人一人の個性を大事にしているからな」
??「ちょっと冴えない感じね」
??「立ち方もなんやぼさっとしとるし」
??「こら、失礼よ……」
??「翔鶴さんの言う通りです。二人とも、そういったことを、ましてや初対面で言ってはいけませんよ」
整備兵「……物は言いようだよホントに」シクシク
提督「大丈夫だ。俺が完璧にフォローしておく。……さて諸君、静粛に」
艦娘達「……」シーン
提督「こいつは、今日から工廠に勤務することになった整備兵。俺とは中学校以来の仲だ。皆、虐めたりハブにしたりいびったり無視したりどつき回したりストレスのはけ口にしたりせず仲良くするように。以上だ」
整備兵(そんなフォローされたらむしろ怖くなるだろこのクソ提督!)
提督「……ほら、早く挨拶しろ」
整備兵「あ、ああ……新しくこの鎮守府で働くことになった整備兵だ。みんなに色々と教わりながら、早くここに慣れていきたいと思う。よろしく」ペコリ
艦娘達「」パチパチパチパチ
提督「次はこちらの番だ。そっちの端から順に自己紹介していってくれ。漣はもう知っているから飛ばして構わない」
熊野「同じく最上型重巡洋艦の4番艦、熊野ですわ。どうぞ、よろしくお願い致します」
龍驤「軽空母龍驤や!ほな、よろしく頼むで!」
鳳翔「軽空母、鳳翔と申します。よろしくお願いしますね」
翔鶴「翔鶴型航空母艦1番艦の翔鶴です。あの、先ほどは妹が無礼を……申し訳ありません」
瑞鶴「翔鶴姉の妹、翔鶴型航空母艦の2番艦瑞鶴よ。……さっきはごめんなさい。よろしくね、整備兵さん!」
整備兵「いやいや、構わないよ……改めて、みんなよろしく」
艦娘達「はい!」
??「皆さーん、朝食ができましたよー」ダイシャゴロゴロ
龍驤「おおっ!タイミングばっちりやな!」
鈴谷「やりぃ!もう鈴谷お腹ペコペコー!」
間宮「あらあら、そんなに楽しみにしてくれると私も嬉しいわ……おや?そちらは……?」
整備兵「はっ、はい!今日から工廠で働かせてもらうことになった整備兵といいます!」
整備兵(あ……また丁寧語になってしまった)
間宮「新しく入られた方でしたか。ご丁寧にありがとうございます」
間宮「私はこの食堂を任されている給糧艦の間宮と申します。これからどうぞよろしくお願いしますね」ニコ
整備兵「はい、こちらこそ」ペコリ
整備兵(給糧艦……鎮守府の主計科みたいな存在ってことか)
瑞鶴「あっ、待ちなさい!油揚げ取り過ぎたら承知しないわよ!ほら、翔鶴姉も早く!」
翔鶴「そ、そんなに急がなくても……」
鳳翔「まあまあ皆さん、慌てず順番に取りましょう。全員に行きわたるように作ってくれていますから大丈夫ですよ」
龍驤「せやせや。朝っぱらからうるさしゅうてかなわんわ。こんなんやったらおちおち飯も食べられへん」
熊野「全くですわ……はぁ。鈴谷も、もう少し落ち着きなさいな」グイッ
鈴谷「むー……」ズルズル
整備兵「ははは……楽しそうな鎮守府だ」
漣「だから言ったじゃないですか」フンス
提督「まあ……もう少し規律が有った方が良い気もするが」
整備兵「温かい白ご飯……出汁の効いた味噌汁……。うまい……うますぎる……!涙が出そうだ……!」ガツガツムシャムシャ
間宮「おかわりもありますよ」
整備兵「もうこれが最後の晩餐になっても良い……」
提督「何と言うか、本当に貧乏性だなお前」
整備兵「腹が減るってのはな……それだけ辛いことなんだよ……」モグモグゴックン
整備兵「ふー……やっと落ち着いた」
鈴谷「ねーねー、整備兵さんって工作学校出の人?」
整備兵「……ん、一応な。だから工廠で働くことになった」
鈴谷「へー。でも、工廠でどんな仕事するの?」
熊野「そうですわ。艤装の整備や修理は、妖精さん達がしてくださいますし……」
整備兵「……」チラッ
提督「……」ウナズキ
整備兵「それがだな……その妖精達の整備技術を研究するのが、俺の仕事なんだ」
熊野「妖精さん達の……」
鈴谷「ふーん……?」
整備兵「つまりは、妖精達がどうやって艤装を作ったり直したりしてるのか調べるって事だ。まあ、簡単にはいかないだろうが」
熊野「難しそうですが、確かに重要そうな仕事ですわね。言われてみればわたくし達も、艤装の使い方はともかく仕組みはあまり知りませんもの……」ムムム
整備兵(艤装を使える艦娘も、その仕組みには詳しくないのか……そりゃまあ、艦娘に聞いて分かるならとっくに解明されてるもんな)
鈴谷「雰囲気地味なのになんかすごい任務背負ってんじゃーん」
整備兵「雰囲気はどうでも良いだろ!」
整備兵「うわっとっと……」
龍驤「ちゅーことは、キミ、妖精が見えるんやな?」
整備兵「ああ。そういう人間は珍しいらしいけどな。龍驤たち……艦娘は、やっぱりみんな見えたり話ができたりするのか?」
龍驤「見えることには見えるんやけど……話せたりはせえへんな」
整備兵「そうなのか?でも、見えるのに意思疎通ができないとなると不便だな……」
龍驤「そういうことやないねん。妖精と話はでけへんのやけど、意思疎通はできるんや」
整備兵「……?」
龍驤「妖精はウチらの言うことが分かるんや。そんで話しかけると、身振り手振りで答えたり紙に字を書いて返事してくれたりするっちゅーわけや」
整備兵「んなバカな……」
整備兵「高度過ぎる!」
整備兵(というか、妖精は航空機のパイロットもやっているのか。兵器の整備だけでなく、運用もしているとは……)
整備兵「そうか……教えてくれてありがとな、龍驤」
龍驤「気にせんでええ。新入りの面倒を見るんも仕事のうちや」ヒラヒラ
整備兵(いい子だなあ……)
整備兵「そうだ、話は変わるんだが……」チラッ
鳳翔(←軽空母)「あっさりとして品のある味付けです。見習いたいほどですね……」
瑞鶴(←正規空母)「翔鶴姉、その煮物の人参とこれ、取り替えっこしない?」
翔鶴(←正規空母)「良いわよ。ほら……はい」
鈴谷(←航空巡洋艦)「どうしたの?元気ないじゃん熊野」
熊野(←航空巡洋艦)「昨晩は夜間警備の係でしたので、何だかお肌の調子が良くなくて……」
鈴谷(←航空巡洋艦)「何言ってるんだよー。熊野の肌はいつもスベスベのもち肌だよー」プニプニ
熊野(←航空巡洋艦)「こら!やっ、やめなさいっ!」
漣(←駆逐艦)「……」モグモグ
提督(←人間)「……」パクパク
龍驤「あー……確かに、これだけ規模の大きい艦隊にしては砲撃戦火力に欠けるかもしれへんな」
整備兵(……そう言えば、昔から提督は筋金入りのペラ屋だったっけか)
整備兵「提督の方針か?」モグモグ
龍驤「わざとそうしてるっちゅーわけやないやろ……あ、醤油取ってくれへん?」パクパク
整備兵「はいよ」ポン
龍驤「おおきに……っちゅーより、建造は妖精のさじ加減やから提督はんにどうこうできることやない。たまたま戦艦が着任せえへんかった。それだけやろ」パクパク
龍驤「ごちそうさん」コトッ
提督「食べ終わったみたいだな。早速工廠を案内する。ついて来い」ポン
整備兵「い、いつの間に背後に……」
提督「今日は一日、出撃や遠征の予定は無い。漣の指示に従って各自で訓練や準備に励むように」
全員「はい!」
提督「漣、頼めるな?」
漣「(`・ω・´)ゞ」ビシッ
提督「じゃ、行くぞ……ん?」
……ドタドタドタドタッ!
??「那珂ちゃん、今日も元気に朝ごはん入りまーす!」キャハッ
??「ああ……」ガックリ
整備兵「ん、まだ他にも艦娘がいるのか」
龍驤「これで晴れて全員集合や。一番最初にドアを吹き飛ばしそうな勢いで入って来たんが川内で、うなだれてるのが神通、で、右目にピース当てて決めポーズしてるのが那珂や。ウチの艦隊の護衛担当、川内型軽巡洋艦三姉妹やな」ハァ
整備兵(聞き覚えのある声だ……多分、昨日港にいた二人組は川内と那珂だな)
提督「神通、迎えご苦労。仕事を増やしてすまない」
神通「いえ……。こちらこそ、いつも二人がご迷惑をお掛けして……」
整備兵(この子が昨夜、とばっちりで国賊にされてた子か……)
神通「……本当に申し訳ございません」ズーン
整備兵(も、物凄い苦労人のオーラを放ってる……)
川内「提督ー!朝ご飯まだ残ってる?」
提督「……ああ。もちろん、ちゃんと『一人分』残してあるぞ」ビキビキ
那珂「一人分……?あ!那珂ちゃんの分」
提督「もちろん神通の分だ。神通は俺の命令でお前達を迎えに行って遅れたが、お前達二人は勝手に捕まって遅刻した。飯なんかやれるか」イライラ
川内「そんなぁっ!」
那珂「えー!?」
神通「えっと……あの……!」
鳳翔「提督さん、意地悪を言ってはいけませんよ。川内さん、那珂さん、間宮さんがお二人の分も取っておいてくださっていますから安心して下さい」クスッ
川内「なーんだ、心配して損したよ!」
那珂「やったー!間宮さーん、今日のお味噌汁の具何ー?」
間宮「ふふっ、今日は……」
神通「ほっ……」
川内「ご飯も魚もおいしいっ!あぁ……なんか食べたら眠くなってきたかも……」
那珂「おいしいごはんは元気の源だよっ!」
提督「……」ギリギリ
整備兵「いやあ、一人一人の個性を大事にするのもなかなか大変だなあ」ニヤッ
提督「……」ギリギリギリギリ
整備兵「そんなに歯軋りしてると奥歯が無くなるぞ」ハハハ
整備兵「――へー、それであの二人は、しょっちゅう問題を起こしてはお前に追っかけ回されてるってわけか」スタスタ
提督「最近は静かだと思っていたらその矢先にこれだ。川内は夜戦の権化、那珂は派手なことが大好物のお調子者ときた。軍人として、少しは落ち着きを持ってほしいものだ」スタスタ
整備兵「たまには敵の水雷戦隊かなんかと夜戦させてやれば良いじゃないか。川内も満足するし、那珂も実戦で有り余った体力を消費すれば落ち着くと思うぞ?」
提督「俺は夜戦は好かん。航空攻撃が行いにくいせいで敵兵力の漸減が難しくなり、思わぬ反撃を受ける可能性も昼戦と比べて高まる。艦隊の損害を減らすことを考えれば、夜戦をしないに越したことはない」
整備兵「まあ、お前に言わせればそうだろうな」
提督「今はまだ深海棲艦との戦いでも、敵に空母がいない限りは砲戦が戦闘の主役になるという考え方が主流だ。小回りが利かないという艦砲の欠点を、艦娘は克服できるからな」
提督「……しかし、所詮砲弾は水平線上に見えている相手までしか貫けない。本物の軍艦ならまだしも、身長が普通の人間と変わらない艦娘にとっての水平線は精々数km先って所だ。じきに航空機の時代が来るだろう」
提督「その言い方、まるで俺がこの鎮守府にお気に入りだけ揃えてるみたいじゃねえか……俺は飛行機は飛ばすが飛ばし屋じゃないぞ。ここの工廠で建造された艦娘達の中に偶然その辺の艦種が」
整備兵「ま、分かってたけどな」シレッ
提督「それなら聞くな」フン
整備兵「……で、後どのぐらい歩けば良いんだ?いい加減、うららかな初夏の日差しが痛いんだが……」ダラダラ
提督「工廠は離れにあるからな……このまま海岸に沿って15分くらいってところか」
整備兵「遠っ!」
提督「敷地が広くて豊かだと言え」
提督「着いたぞ」
整備兵「うー暑い暑い……ここが工廠か。本当に海が目の前だな」
整備兵(とてつもなく巨大なレンガ造りの長屋……ってとこか?)
提督「このシャッターを開けて出入りする。海に面しているから、潮風が入らないように基本閉めとけ」ガラガラガラ
提督「提督だ。入るぞ」
整備兵「お邪魔します……でいいのか……?」ソーッ
カーンカーンカーン
バチッバチバチッ
ジジジジチュイーン
整備兵(うわ……あっちにもこっちにも機械やら資材やらが散乱して、足の踏み場も無いな)
整備兵「おお……妖精がたくさん……」
整備兵(ちょこまか動いてると、何かかわいいな)
??「おう若造!話に聞いた新入りかァ?」
整備兵「え?提督、何か言ったか?」
提督「いや、何も言っていないが?」
整備兵「あれ……?」
??「若造!下だ下ァ!」
整備兵「は?下……ってええ!?」
整備兵(ベージュ色の工員服を着たオッサンぽい妖精が喋ってる……)
整備兵「え?は、はい……ええ?」
工廠妖精?「俺ァこの工廠の荒くれ男どもを束ねてる、言ってみりゃ頭領、御頭、工廠長よォ!」バーン
整備兵「こ、こうしょうちょ……」
工廠長「そうだァ!どうやらここで働くつもりみてェだが……俺のお眼鏡にかなわねェようなら、二度とここには来れなくなると思え……良いなァ!?」
整備兵「」
工廠長「分かったら返事ィ!」
整備兵「は、はい……?」
工廠長「声が小せェ!」ペシッ
整備兵「はいぃ!!」
整備兵「どうしたもこうしたもねえよ!何か妖精が滅茶苦茶怖い口調で喋ってるんだよ!」
提督「はぁ?言い忘れてたがな、妖精は話さな……」
整備兵「それは龍驤から聞いて知ってるんだが……事実この妖精が普通に喋ってる」ヒョイ
工廠長「うぉっ!いきなり持ち上げんじゃねェ!離せ!」ジタバタ
整備兵「な?」
提督「……ただ無言でジタバタしているようにしか見えないが」
整備兵「な……」ガーン
提督「……本気か?」
整備兵「本気も本気だ」
提督「……」
整備兵「……」
提督「……よし分かった。何やら原因は分からんが……お前は俺や艦娘達と違って妖精と話せる。そうだな?」
整備兵「ああ……」
提督「……ふむ。だがそれはそれで、お前にとっても俺にとっても大いに利益になる。文字や絵でのコミュニケーションには限界があるから話せて損は無い。やったな」グッ
整備兵(お前はどうしてそんなに前向きになれるんだ)
整備兵「ま、まあ、結果オーライと言えばそうなのか……?」
工廠長「た、頼む……俺ァ高いトコは苦手なんだよォ……」ブルブル
整備兵「……あ、悪い悪い。ほいっと」ポン
整備兵「……ただこの妖精、話し方がかなり……というかすごくオッサン臭いんだが、妖精ってのはこういうものなのか?俺が昔見たのはもっとこう何と言うか、のんびりした感じだったんだが……」
提督「いや、確かに工廠の妖精達は工員服なのもあってやや力強いイメージだが……艦載機のパイロット妖精なんかはむしろ女の子と言った方がしっくり来る外見だぞ?」
整備兵(やや?これが?は?)
工廠長「おい若造……さっきはよくもやってくれたなァ!?」
整備兵(これじゃまるで近所の工場の頑固親父……いや、学校時代世話になった鬼教官にすら近いかもしれない)
工廠長「こんの、聞いてんの……」
整備兵「……」ヒョイ
整備兵「……」クルクル
工廠長「うぼぁぁぁ振り回すなぁぁぁ!」ヒュンヒュンヒュン
整備兵(でも小さくて助かった)
整備兵「あ、ああ……」ポン
工廠長「」チーン
整備兵(……既に信頼度最低かも)
工廠妖精達「」ザワザワ
工廠妖精A「工廠長!大丈夫ですかい!?」バタバタ
工廠長「お、俺ァこんなモンでやられるほどヤワじゃねェ……心配要らねェよ……」フラフラ
工廠妖精B「流石っス工廠長!流石っス!」
工廠妖精達「」ヤンヤヤンヤ
工廠長「いいから作業に戻れ!仕切り直しだ!……おら、野郎共ォ!」
工廠妖精達「「「へいっ!」」」ザッ
整備兵(バラバラに作業していた妖精達が一瞬でまとまった……!)
工廠妖精達「「「申し訳ございません工廠長!」」」スッ
工廠長「俺が倒れようと海に沈もうと、常に目の前の仕事に集中する!それが工員の流儀ってモンだろォ!」
工廠妖精達「「「その通りであります工廠長!」」」ビシッ
工廠長「俺達ァ海には出れねェ。いつも安全な陸で味方の帰りを待つ事しかできねェ工員だ。だがだからって、俺達にここでぬくぬく丸まってる暇と資格は有るのかァ!?」
工廠妖精達「「「有りません工廠長!」」」スチャッ
工廠長「その通りだァ!俺達ァどこにいても、海の男としての誇りを忘れねェ!俺達が金槌を置いていいのは、資材が尽きた時と!」
工廠妖精達「「「工廠と共に焼き尽くされ、土に還る時だけであります!」」」ビシィッ
工廠長「各自、作業開始ィ!!」
工廠妖精達「「「作業開始ぃー!!」」」ウォォォォ!!
バチッバチバチッ
ジジジジチュイーン
整備兵「」ボーゼン
提督「ここの妖精達は鎮守府の中でも特段に勤勉で、団結しているような雰囲気があるな。見ているだけで、こちらも身が引き締まる思いだ」ウムウム
整備兵(いや、この統率力はもはや前線行けるレベルじゃ……)ヒキッ
工廠長「ってな訳で若造。……ウチの新人研修は、ちょいと『効く』かもしれねェぜ?」グイッ
整備兵「……」ダラダラ
工廠長「 よ ろ し く な ァ ? 」ニカァ
整備兵(アカン)
整備兵「……お、おう。分かった」
整備兵「えー、おほん……工廠長」
工廠長「あァん?」
整備兵「提督が作業の進捗はどうかと聞いてるんだが……」
工廠長「若造、この俺に向かってタメ口ってのは、いくら何でも無礼が過ぎるんじゃねえかァ?」
整備兵「……提督が、作業の進捗はどうかと聞いているんですが……」
工廠長「声がちっさくて聞こえねえなァ?」
整備兵「……」スッ
工廠長「わーったわーった!好きに喋って良いからそうやってすぐつまみ上げようとするんじゃねェ!進捗、進捗な……おい一班!作業状況報告!」
工廠長「……ん、そういう事だ若造。間もなく竣工、そう伝えな!」
整備兵「ありがとう。……提督、間もなく竣工だそうだ」
提督「そうか。思ったより早いな……それならもう少しここで待つか」
整備兵「竣工って言うからには……今まさに、艦娘を建造してるってことか?」
提督「そうだ。まずは建造の様子を見せておきたかったからな。ちょうど建造中にここを見学できるようにしておいた。言っておくが、建造もあまりしょっちゅうできるわけじゃないぞ」
整備兵「そりゃ有難い」
提督「建造の方法については分かるか?」
整備兵(そう言えば、昨夜読んだ本に書いてあったな……)
提督「ああ、装備開発もほぼ同じ流れで行われる。だが妖精と言っても、ここにいる妖精達のように工廠での業務を専門としている妖精に頼まなければならない」
整備兵「建造や開発ができる環境は限られるってことか……」
ピリリリリ
整備兵「携帯鳴ってるぞ?」
提督「ああ、分かってる」スッ
提督「提督だ。……漣か。何……?分かった……すぐ戻る」ピッ
提督「悪い整備兵、緊急に処理を要する書類が入った。先に執務室に戻っているから、建造された艦娘を連れて後から来てくれ」
整備兵「提督ってのは忙しいんだな……分かったよ」
提督「仮にも、海軍では五本の指に入る規模の根拠地の長だからな。頼んだぞ」スタスタ
ガラッ……ガラガラガラ……ガタン
工廠長「運搬始めェ!」
運搬妖精達「」ワーイ
整備兵「ん?何かを運び始めて……」
整備兵(連装砲……のミニチュア――おそらく50口径三年式12.7センチ砲――に、魚雷発射管と……あれは何の部品だ……?)
運搬妖精達「」ワッショイワッショイ
整備兵(何も喋ってない時はかわいいだけなんだけどな……)
工廠妖精A「待機姿勢!整列!気をつけ!休め!」
工廠妖精達「はっ!」スタッザッビシッ
工廠妖精B「工廠長!整列・待機それぞれ完了したっス!」
工廠長「おう」
運搬妖精達「」グラッオットット
運搬妖精達「」ヨイショット
運搬妖精達「」キャッキャッ
整備兵「……あの部品を運んでる妖精達、何と言うか……違わないか?」
工廠長「あァん?」
整備兵「工廠長とか他の工廠の妖精達と違って怖くな……じゃなくて、やけにテンションが高い気がするんだが」
整備兵「え?でも部品運んでるし、工員服着て工具持ってるし……」
工廠長「あいつらの担当してる装備が今修理中でなァ。暇だから何か手伝うってんで、一番楽な最終運搬をやらせてんだよ。工具は勝手に持って振り回してるだけで全然使えやしねェ」
整備兵「紛らわしい……それにしてもよく仕事を任せる事にしたな」
整備兵(この頑固そうな工廠長が、あののほほんとした妖精達と喜んで一緒に働くとはあまり思えない)
工廠長「まァ確かにおちゃらけた奴ばっかで気に食わねえが……自分の武器ぶっ壊されて無理矢理有休取らされてんだ。あんななりだが、あいつらも実のところ何かしてねェと気が済まねェんだろうよ」
整備兵「そうなのか……」
工廠長「……他の奴らが戦ってんのに自分達だけ働けねェってのは、やっぱり辛い事なんだろうなァ」
整備兵「……」
運搬妖精達「」キャー
運搬妖精達「」ワイワイガヤガヤ
整備兵(……いや、深読みし過ぎだろ、多分)
ドシン
運搬妖精達「」ワーニゲロー
運搬妖精達「」ダダダダッ
整備兵(部品を置いたと思ったら、今度は一斉に部品から離れ始めたぞ……?)
整備兵「なあ工廠長、どうして急に……」
??妖精「」ススッ
整備兵(……!今、一人だけ妖精が出てき……)
工廠長「……若造、目ェ潰されたくなけりゃしっかり瞑っときな」
整備兵「へ?」
ピカッ
整備兵「うわっ……!」
??妖精「」ススッ
整備兵「……な、何だったんだ」ウスメ
整備兵(さっき出てきた妖精は……いない?気のせいだったのか……?)
??「あ……れ……?」
整備兵(煙の中から人影……艦娘か?)
??「……!」
整備兵「この子が……?」
工廠長「おぉーう、こいつァべっぴんさんだぜ」グヘヘ
整備兵(だからオッサンかよ)
工廠妖精達「ヒューヒュー!たまんねえな!」ヘッヘッヘ
整備兵(……全員かよ!)
整備兵「あのな……ちょっと静かに……」
整備兵(漣と同じ、紺と白の水兵服……見た目も子供っぽいし、駆逐艦か……?)
??「はじめまして、司令官。特Ⅰ型駆逐艦2番艦、白雪です。よろしくお願いします」ピシッ
整備兵「俺の名前は整備兵。よろしく、白雪」ビシッ
白雪「はい!」
整備兵「……えーと、それでだな。丁寧に挨拶してもらった手前非常に申し訳ないんだが、俺はここの司令官じゃないんだ」
白雪「え……そ、そうなんですか?」キョトン
整備兵「んー……その辺の事情は、提督執務室まで歩きながら話しても良いか?白雪が建造されたらすぐ連れてくるように、本当の提督に言われてるんだ」
白雪「分かりました」
整備兵「どうした?」
工廠長「お嬢ちゃんに、艤装を外して置いてくように言ってくれ。最初は点検が必要なモンでなァ」
整備兵「分かった。……白雪、工廠長が艤装を置いてってくれってさ」
白雪「はい、ではここに置いておきますね」ガチャガチャ
白雪「えっと、それで、工廠長とは誰のことを……?」
整備兵(……そうか、白雪には工廠長の声が聞こえないのか)
整備兵「この妖精を、俺が工廠長って呼んでるんだ。名前の通り、工廠の妖精達を束ねてるリーダーってところだな」
白雪「妖精さんのことでしたか……こんにちは。これから、よろしくお願いします」ペコリ
整備兵「気色悪いからやめろ」コツン
工廠長「いてっ。良いじゃねえかこんぐらい。どうせ聞こえねェんだ」
整備兵「俺には丸聞こえなんだよ……」
白雪「……えっと、もしかして整備兵さん、工廠長さんと話してらっしゃるんですか?」
整備兵「え、まさか、白雪にも聞こえるのか!?」
白雪「いえ、私には全く……でも、そんな風に見えたので」
整備兵「ああ、そういう意味か……」ズーン
白雪「話せるのは、整備兵さんだけなんですか?」
整備兵「正確には、妖精の声を聞き取れるのが俺だけってことらしいけどな。……さ、行こう。提督が待ってる」
白雪「はい」ニコ
白雪「そうですか……整備兵さんも、私と同じで今日着任されたんですね」
整備兵「ああ……だから俺もまだこの鎮守府の事はあまり分からなくてさ。大した話もできなくてごめん」
白雪「そんなこと……」
整備兵「とにかく、これはほんの数時間前に他の駆逐艦の子に言われた事の受け売りなんだけど、ここはいい子達ばかりだから心配はいらないよ。提督も何だかんだ言って信頼は置ける奴だし」
白雪「ふふっ。整備兵さんと司令官は昔からのご友人なんでしたよね?」
整備兵「ああ。工員としてこの鎮守府で働けるようになったのも、多分そのお陰みたいなもんだ。あいつには感謝しないとな……」
白雪「それで今は、工廠で妖精さん達の整備技術について調べていらっしゃると」
整備兵「まあ、実際の所まだ何も始められちゃいないんだけどさ」ハハハ
整備兵「……さて、着いた着いた」コンコン
提督「入れ」
ガチャ
整備兵「連れて来たぞ」
白雪「特Ⅰ型駆逐艦2番艦、白雪です。よろしくお願いします、司令官!」ピシッ
提督「よろしく白雪。帝国海軍暮鎮守府司令長官として、君の着任を歓迎しよう」サッ
漣「わっ、ま、まさか駆逐艦!?」ガタッ
白雪「ひゃっ!?そ、そうですが、あなたは……?」
漣「駆逐艦、漣だよ!一応、提督の秘書艦。この艦隊、今まで漣以外駆逐艦いなかったから大感激!白雪ちゃん、よろしくね!」
漣「これから一緒にやってく友達なんだし、もっと気楽にしていいよ」
白雪「えっと、それなら……よろしく、漣ちゃん……♪」ニコッ
漣「そうそう♪」
提督「……すまないが連絡事項だけ、良いかな?」
白雪「……!申し訳ございません!」キリッ
提督「そこまで堅くならなくても良いが。さて、白雪は現時点を以って当鎮守府内洋艦隊に参加、駆逐艦漣、軽空母龍驤、軽空母鳳翔と共に主として鎮守府周辺海域の防備につく。良いな?」
白雪「はい、了解しました」
漣「やった!同じ艦隊だね!」
整備兵「……ん?何だ?」
提督「白雪を整備兵の補佐官に任命する。通常の職務に支障が出ない範囲で構わない。整備兵の調査研究活動を補佐するように」
整備兵「ちょ、ちょっと待て。俺は補佐とかは別に……」
提督「俺も伊達に鎮守府で何年も働いていない。備品管理に書類整理、仕事に伴う雑務は山ほどある。この先調査の規模が拡大するだろう事を考えても、補佐官は絶対に必要だ」
整備兵「いや、だがな……」
提督「さらに伝令としても必須だ。お前の携帯電話が家の固定電話もろとも4ヶ月前に止められたことは知っている」
整備兵「う……って、なぜそれを!?」
提督「俺もそれなりに顔が利くのでな」
提督「白雪だと嫌なのか?」
整備兵「え?」
白雪「……」ジッ
漣「……」ジトー
整備兵「そ、そういう意味じゃない!ただ白雪は俺と同じで今日着任したばかりだし、いきなり仕事を増やすのは……」
提督「理由は三つある。一つ目は、白雪が内洋艦隊所属だからだ。ここの艦隊は艦隊構成上、主力艦隊ではなく他鎮守府の艦隊の支援艦隊を務める事が多い。その際主にお呼びがかかる外洋艦隊のメンバーには、あまり新しい仕事をさせるわけにはいかない」
提督「二つ目は、白雪が駆逐艦だからだ。この鎮守府では毎日日没から日の出まで、艦載機または水上機を扱える艦娘達が持ち回りで夜間警備を行っている」
漣「つまりは、駆逐艦と間宮さん以外全員って事ですヨ」
提督「ああ。そしてそこから食堂を離れられない間宮と秘書艦である漣を除くと、白雪しか残らないというわけだ」
提督「これも何かの縁だからだ」
整備兵「」ズコー
提督「新しい艦娘が着任するのもしょっちゅうというわけじゃない。提督以外の人間が着任する事に至っては、前例が無いかもしれないくらいだ。同じ日に二人着任したのは十分な縁になるだろう。まあ良く分からんが」
整備兵「色々言っておいて最後は適当だな!」
提督「ともかく、この辺りで軽く人を使う事を覚えておけ。これも仕事の内だ」
整備兵「あ、ああ……」
提督「……ということだ。できるか?」
白雪「分かりました。精一杯頑張らせていただきます」ピシッ
漣「ご主人さま!二人に鎮守府を案内したいのですが、どうでしょうか?二人とも、まだ工廠以外の場所はほとんど見てませんし」
提督「ああ、それが良いだろう。だが、他の艦娘達は……?」
漣「みんなちゃんと自主練してましたし、大丈夫だと思いますよ?」
提督「分かった。一通り見て回っても昼には間に合うだろう。ゆっくり行ってこい」
漣「やったー!白雪ちゃん、色々連れてってあげるから!綺麗な港とか、すごく広い弓道場とか、食堂とか……」ズイズイ
白雪「あ、ありがとう漣ちゃん……」アセアセ
整備兵(食堂……何か忘れているような……あ!)
整備兵「そう言えば提督、朝、デザートなんて出なかったぞ」
整備兵「昔から、聞こえるか聞こえないか微妙だけどやっぱり聞こえるから相手がどうしてもツッコみたくなる舌打ちするの得意だよなお前」
提督「まあそう怒るな。まるでケチな貧民だ」
整備兵「ケチな貧民だよ」
提督「仕方ない、今回だけの大盤振舞いだ……これをやる。三人分だ」ポン
整備兵「なになに……間宮、券?間宮さんに関係あるのか?」
漣「まっ、間宮券!?」カッ
白雪「漣ちゃん、知ってるの?」
漣「間宮さんはこの鎮守府の食堂で働いてて、みんなにおいしいご飯を作ってくれる人。そしてこれを間宮さんのトコに持っていくと、なんと……」
整備兵「なんと……?」
漣「特製スイーツを作ってもらえるのです」ジャーン
整備兵「スイーツ……!?」
漣「この間宮券はめったにもらえないから、漣もほとんど食べたことがないんだよ!」
整備兵「ほー……」
白雪「とっても楽しみです……」キラキラ
漣「でしょ?」
提督「俺からの着任祝いといった所だ。暮鎮自慢の間宮の腕をしっかり確かめてこい」
整備兵「ずいぶん気前が良いじゃないか」
提督「新人を労うのも上司の責務だ。……ただし、昼飯があるのを忘れるな。がっつきすぎて腹を壊すなよ」ニヤッ
整備兵「おあいにく、貧乏暮らしのおかげで腹は丈夫なんでね。余計なお世話だ」
白雪「わ、分かったから!押さなくていいから!」
ガチャバタン
提督「……」
整備兵「……」
提督「当然のように置いて行かれた一人の哀れな整備兵に合掌」ナームー
整備兵「うっせえ」スタスタ
ガチャバタン
提督「さて、仕事仕事」サラサラ
整備兵「間宮さんに作ってもらうんだとしたら、ここしか無いよな……?」コンコン
整備兵「すみませーん……」
漣「ずいぶん遅かったですネ」
整備兵(ビンゴ!)
整備兵「行き先も分からないまま置いてかれたら、そりゃ遅くもなるだろ……」
白雪「すみません。私達だけで勝手に来てしまって……」
整備兵「あー……いやいや、結局合流できたんだ。そこまで気にしてないよ」
漣「そうです、許してあげてください。白雪ちゃんが『さすがに食べるのはまだやめておこう』って言ってくれなかったら、今頃漣たちは一足先に最高級スイーツを味わっているところだったんですから♪」
白雪「そ、そんな、泣くほどでは……」
整備兵「って、漣は最初から待つ気無いのかよ」
漣「もちろんですよ。……あんな本持ってるような変態整備兵さんのことなんて」ボソッ
整備兵「へっ……おい!こんにゃろっ……!」
整備兵「……白雪に聞かれたらどうすんだよ!」ヒソヒソ
漣「m9(^Д^)プギャー」
整備兵「朝も思ったけど、その笑い方なんか無性にムカつくな……!」
白雪「どうしたの、漣ちゃん?」
整備兵「おい待てぃ!」
ワーワーギャーギャー
白雪「……?」
白雪(話がよく分からないけれど……二人ともすごく仲が良さそう)
白雪(私も早く鎮守府の皆さんとこんな風になりたいです)ニコニコ
間宮「お待ちどおさま」ゴロゴロ
漣「キタ━(゚∀゚)━!」
整備兵「おおっ……!」
白雪「……」ドキドキ
間宮「特製アイスクリームです。久しぶりに、腕によりをかけて作ってみました」ニコ
漣「いっただっきまーす!」
白雪・整備兵「いただきます!」
パクリ
漣「(゚д゚)ウ-(゚Д゚)マー(゚A゚)イ-…ヽ(゚∀゚)ノ…ゾォォォォォ!!!!」ガツガツ
白雪「冷たくて甘くて、とっても美味しい……」パクパク
整備兵「うまいっ!これは確かに暮鎮守府の自慢、いや海軍の自慢……」
間宮「ふふふっ、あまりおだてないでください」
間宮「いえいえ、一日中、次の食事の献立を考えるくらいしか仕事がありませんから。こうして、いつもは作れない料理を振舞えるのは楽しいです」
整備兵「……やっぱり、砂糖や乳製品はあまり手に入らないんですか?」
間宮「ええと、あの、そういうわけではなく……」メソラシ
整備兵「?」
間宮「まだ鎮守府に人が少なかった頃は、よく作っていたのですが……皆さん食堂に入り浸りになってしまって、提督の許可制になったんです」
整備兵「た、大変でしたね……」
間宮「それにしても整備兵さん、私には丁寧語なんですね。遠慮なさらなくても……」
整備兵「あー、何というか……間宮さんは大人っぽいので、あまりぶっきらぼうに話すのはどうも気が引けて……」アハハ
整備兵「まあ、白雪はともかく漣はお子様だな」
漣「おおっと、そいつは聞き捨てなりませんよ……!」
白雪「……ふふっ」
漣「白雪ちゃん!笑わないでよ!」ウガー
白雪「あっ、ご、ごめんね……」シュン
漣「なーんてね」
白雪「え……?」
漣「遠慮なんかいらないよ。笑ってるときの白雪ちゃん、とっても幸せそうだから。人間……いや艦娘だけど、とにかく幸せが一番!」ビシッ
白雪「……!」
白雪「そ、そうだよね……えへへ」
整備兵(ああ……今日の漣はやたらと絡んでくると思ったら、白雪のためだったのか)
整備兵「さすがは最古参だな」ヒソヒソ
漣「当然ですよ。整備兵さんと違って色々考えてるんです」フフン
整備兵「……前言撤回。やっぱり、ただケンカ売りたいだけだろ」
漣「さあー?……それじゃあ白雪ちゃん、そろそろ出発進行だよ!」
白雪「うん、分かった」ニコッ
整備兵「……へいへい」ヤレヤレ
間宮「お粗末さまでした。お昼ごはんも楽しみにしていてくださいね」フリフリ
漣・白雪・整備兵「ごちそうさまでした!」フリフリ
漣「ここが運動場。陸の上でもできる訓練とか、体力作りとかをやるよ!」
白雪「広ーい……」
整備兵「暑っ……。こんな日に外で体力作りなんてしたら倒れるぞ……って、向こうから誰か来るな」
タッタッタッタッタッ……
神通「あの……整備兵さん、こんにちは」ペコリ
川内「」ヨロヨロ
那珂「」フラフラ
整備兵「三人とも……一体どうしたんだ?川内と那珂が今にも倒れそうだぞ……?」
漣「うわー……」
白雪「そ、そんな……」
神通「おや……そちらは、新しく建造された子ですか?」
白雪「はい。特Ⅰ型駆逐艦2番艦、白雪といいます」ピシッ
神通「では、私とは水雷戦隊仲間ですね。私は軽巡洋艦神通。こちらが姉の川内、こちらが妹の那珂ちゃんです。……よろしくお願いしますね」
白雪(な、那珂ちゃん……さん?)
神通「白雪さんは、内洋艦隊に?」
神通「私たち三姉妹と、鈴谷さん、熊野さん、それに正規空母のお二人は外洋艦隊に所属しています。他の鎮守府の艦隊と、協同作戦を実施することも多いんですよ」
白雪「す、すごい方がたくさんいらっしゃるんですね……」
神通「ですが、私たち外洋艦隊の帰る場所を守るのは白雪さん達の役目です。……大切なのは、鎮守府の皆さん全員で心を一つに頑張っていくことですよ」ニコ
白雪「……はい」ニコ
整備兵「ところで、そういえば神通は罰則を命じられてないんだよな?それなのに……」
神通「二人が、あの、やはり心配で……私も一緒に走っているんです」
漣「神通さんは優しいからね……」
神通「いえ……姉と妹が迷惑を掛けたのですから、当然です」
神通「はい。では……川内姉さん、那珂ちゃん、行きますよ」
川内「眠い……暑い……うぁぁ……」
那珂「アイドルは……へこたれないん……だから……」
タッタッタッタッタッ……
整備兵「神通はやっぱり苦労人みたいだな……」
白雪「でも神通さん、さっきこちらに走ってきたときも息一つ乱していませんでしたね……」
漣「神通さんはうちの水雷戦隊の司令塔だからね!航行も砲撃も上手だし、あの三人の中で一番戦果を上げてるのは神通さんだと思うよ?」
白雪「そ、そうなんだ……!?」
整備兵(人は見かけによらないな……)
ヒュッ……カンッ!
漣「漣だよー!翔鶴さん、瑞鶴さん、いる?」ガラッ
翔鶴「あら、漣ちゃん」
瑞鶴「どうしたの、漣……あれ?」
整備兵「おはようございます」ペコリ
白雪「おはようございます」ピシッ
漣「今、二人に鎮守府を見せて回ってるトコなの」
瑞鶴「整備兵さんと……そっちは新しく入った艦娘?」
白雪「はい。特Ⅰ型駆逐艦2番艦、白雪といいます」
瑞鶴「私は瑞鶴。翔鶴姉の妹よ。航空戦のことなら、私達に任せなさい!」フフン
白雪「は、はい……」アハハ
漣「翔鶴さん達は何してたの?」
翔鶴「今日は各自で訓練と言われていたので、二人で艦載機の発着艦の練習をしていたの」
整備兵(艦載機……何か分かるかも知れない)
整備兵「その練習、見せてもらうことってできるか……?」
瑞鶴「あれ、整備兵さん、艦載機に興味あるの?」
整備兵「もちろんそれもあるんだけどな。実は、俺の仕事というのが……」
カクカクシカジカ
整備兵「良いか?」
瑞鶴「もちろん。お安い御用よ!」
整備兵「念のために聞くけど、二人は艤装の仕組みについて何か知らないか?」
翔鶴「扱い方は何となく感覚的に分かるのですが、仕組みとなると……」
瑞鶴「妖精さんにしか、分からないんじゃないかな……」ウーン
整備兵「漣と白雪も同じか?」
漣「ですね……」
白雪「私はまだ実際に艤装を扱ったことは無いですが……確かに使い方は分かるような気がします。仕組みについては、皆さんと同じで分かりません」
整備兵「……分かった。じゃあ、早速練習を見せてもらえるか?」
整備兵(へ?弓矢……?)
翔鶴・瑞鶴「……」
整備兵(まさか、弓で艦載機を発進させるなんて言わないよな……いやそもそも、つがえてるのがごく普通の矢だし……)
ミーンミンミンミン……
ジジジジジ……
翔鶴・瑞鶴「……戦闘機隊1番機、発艦!」パッ
ヒュッ……ブゥン!
整備兵(一瞬で、矢が小さい艦載機に……!?)
バババババッ!
的「」コッパミジン
白雪「す、すごいです!」パチパチ
瑞鶴「ま、ざっとこんなもんよ。ふふん」ドヤァ
翔鶴「このように矢を放つと、艦載機を発艦させることができます。ただ、撃ち出すときに、こうして妖精さんに声で命令を発してあげないといけないのですが……。いかがでしたでしょうか、整備兵さ……ん……?」
整備兵「」ボーゼン
瑞鶴「おーい!整備兵さんってば!」フリフリ
整備兵「……はっ!すまん、少し驚いただけだ」
翔鶴「もしかして、艦娘方式の発着艦をご覧になったのは初めてですか?」
整備兵「ああ……しかし驚いた。まさか弓矢とは……」
整備兵「ちょっ、ちょっと待て。弓矢はこの目で見たから良いとしても、巻物に……紙人形?」
瑞鶴「そうそう。式神って知ってるわよね、陰陽師が紙の形を変えたり動かしたりするやつ。大体あんな感じよ」
整備兵「……こりゃ本格的に人智を超えてきてるな……」
翔鶴「突然、混乱させたでしょうか……?」
整備兵「いやあ、何か、艤装の仕組みなんて到底解き明かせる気がしなくなってきた」アハハ
整備兵「でもまあ、そんな冗談を言ってる場合じゃないな。……次は、艦載機を詳しく見せてくれないか?」
翔鶴「分かりました。……帰投してください!」
ブゥン
整備兵(あ、降下してきた……)
ヒュッ……カッカカカッ……キイィ……
翔鶴「これで着艦完了です。どうぞ、自由に見てください」
整備兵「ありがとう。さて……」ジー
整備兵(手で握れそうなほどの大きさ……まるで模型みたいだが、ワイヤにしても鋲の一つ一つにしても、精密さが尋常じゃないな……)
整備兵「零式艦戦の……二一型か?」
瑞鶴「そうよ。よく知ってるわね」
整備兵(いやいや、一体どうやったら矢からこんなものが……)
ガラガラッ
整備兵「うわ、風防が勝手に……!」
翔鶴「あら、妖精さん。お疲れ様でした。今日も完璧な飛行でしたよ」ニコ
零戦妖精「」エッヘン
整備兵「龍驤から話は聞いてたが……やっぱり、艦載機も妖精が操縦しているのか」
翔鶴「はい。私達のように単独では非力な空母娘にとっては、盾となり刀となってくれるこの子たちが一番の誇りなんです」
整備兵「そうか……」
整備兵(見た目は別に怖そうじゃないが……この妖精も、話してみたら工廠長みたいなんだろうか)
整備兵「……えー、ごほん。俺は整備兵。この鎮守府の工廠で働いてるんだ。よろしくな」
零戦妖精「」コクコク
整備兵(ん?どうして頷くだけで話さないんだ?)
零戦妖精「」ブンブン
整備兵「ええと、話したくない、のか?」
零戦妖精「」ブンブン
整備兵「それも違う……となると、もしかして、話せないのか?」
零戦妖精「」コクコク
整備兵「これは……一体……?」
瑞鶴「何言ってるの整備兵さん。妖精さんはみんな話せないのが当たり前よ?」
翔鶴・白雪「……?」キョトン
瑞鶴「えー……?」
整備兵「……おーい」フリフリ
零戦妖精「?」クビカシゲ
整備兵「……」
瑞鶴・漣「……」シラー
整備兵「やめてくれ……俺をそんな可哀想なものを見る目で見るな……」
整備兵「工廠にいた妖精達とは話せたんだがなあ……」ウーン
漣「何かの間違いじゃないですか?幻聴とか、頭のネジが飛んでたとか」
整備兵「んなわけ……」
白雪「あの!私も建造されてすぐに見たんです。整備兵さんと工廠の妖精さんが話しているところを。だからきっと、整備兵さんが妖精と話せるのは本当だと思います」
漣「えー……?白雪ちゃんも見た、か……」ウーン
瑞鶴「でもやっぱり、まだ疑わしいわね……」
全員「……」
翔鶴「では、漣ちゃん、白雪ちゃん、整備兵さん。またお昼の時間に会いましょうね」
瑞鶴「整備兵さんはもう寝た方が良いんじゃないの……?」
整備兵「だから幻覚じゃないって言ってるだろ……」
瑞鶴「あはは、冗談だってば。またね、三人とも」
漣「お邪魔しました~♪」
白雪「お邪魔しました」ペコリ
整備兵「お邪魔しました……」
整備兵(どうも腑に落ちないな……)
漣「ここが、漣たち艦娘が住む宿舎。一人部屋から三人部屋まであって、大体同型艦が相部屋、同型艦がいなければ一人部屋になってますね。……ちなみに、男子禁制ですので」ジロッ
整備兵「は、入る用もねえよ!」
白雪「あはは……漣ちゃんも一人部屋なの?」
漣「昨日まではね」
白雪「……?」
漣「今日からは白雪ちゃんと相部屋にするって決めたから!」ビシッ
白雪「そ、そうなんだ!?」
漣「嫌かな……?」ウルウル
漣「( ゜∀゜)b ケイカクドオリ」
整備兵「邪悪な顔だ……」
鈴谷「あ、整備兵さんじゃーん。ちーっす!」トコトコ
熊野「おはようございます。宿舎に何か御用でも?」トコトコ
整備兵「鈴谷と熊野か。今、漣に鎮守府を案内してもらってるところなんだ」
鈴谷「へえ……あ、そっちの子は新しく来た子?」
白雪「はい。特Ⅰ型駆逐艦2番艦、白雪……」
鈴谷「白雪ちゃんかー。おさげかわいいねー、さらさらー」グイグイ
熊野「……鈴谷」ジロッ
鈴谷「へいへい」パッ
白雪「……」ホッ
熊野「わたくしが熊野で、こちらが鈴谷ですわ。鈴谷はただ調子に乗りやすいだけですので、怖がらないであげてくださいな」
白雪「は、はい……」
漣「二人はここで何してたんですか?」
鈴谷「部屋に戻って、熊野が昨日夜間警備で使った零式水偵の整備してたんだー」
熊野「整備と言っても、汚れを落として表面を磨く程度ですけれど……哨戒飛行しただけなら、妖精さんの力を借りるほどではありませんから」
整備兵「艤装は普段から宿舎に置いてるのか?」
熊野「基本的に、わたくしたち全員、使っていないときは艤装を自分の部屋に置くことになっていますわ。非常時に備えるため……と」
整備兵「そうなのか」フムフム
鈴谷「そんじゃ、鈴谷たちはもう行くね」
熊野「では、ごきげんよう」ペコリ
鈴谷「白雪ちゃん、またおさげ触らせてね~」ニヤニヤ
白雪「さ、触らせませんっ!」
ザザーン……ザザーン……
白雪「わぁ……きれいな海……」
漣「でしょ?あっちの方に工廠があって、反対のそっち側には司令部があるの」
白雪「本当!建物がよく見えるね」
漣「そうそう。それで、向こうの方の海が演習場。他の鎮守府の艦隊と模擬戦闘をしたりするんだよ。普段は入れないけど……」
白雪「結構、遠くにあるんだね……」
整備兵「……いやあ、風が気持ち良いな」ポツリ
龍驤「せやなぁ……」ボー
整備兵「うわっ!?……龍驤、いたのか。何してるんだ?」
整備兵「成果のほどは?」
龍驤「アカンわ。さっぱりや」ゴロン
整備兵「こんなところで寝るなよ……」
漣「あっ!龍驤さん、こんにちは!」
龍驤「お、漣か。隣が新入りの……白雪やな。提督に聞いたで」
白雪「はい。よろしくお願いします」ペコリ
龍驤「おんなじ内洋艦隊のメンバーとして、仲良くしようや」ニッ
整備兵「こんにちは、鳳翔さん」
漣「こんにちは!」
白雪「はじめまして。よろしくお願いします」ペコリ
鳳翔「はい。……ところで龍驤さん、今は訓練もしくは整備の時間ですよ?」
龍驤「休憩や休憩。おいしい空気吸って、気分転換せなあかんときもあるんや」グテー
鳳翔「では提督には、龍驤さんは気分転換のため休憩していたと正しくお伝えしておきますね」ニッコリ
龍驤「いや、いやいや!そういう話でもないやろ、な?もうちょーっと穏便にいこうや?」アセアセ
鳳翔「でしたら近々、久しぶりに私と艦載機の特訓でもいたしましょうか。暑いのが嫌でしたら、夜でも構いませんよ?」
龍驤「げっ……そ、それもできれば遠慮したいかなー、なんて……」
白雪「そ、そうなんだ……」
整備兵(神通さんといい、静かに怖い人が多いな……)
漣「そろそろお昼の時間だね。帰ろっか」
白雪「でも、龍驤さんたちは……」
漣「大丈夫。後からすぐに戻ってくるから」
>アカンアカン、コンカイバカリハ!コンカイバカリハ!
>ハンセイシテイルンデスカ、モウ……
整備兵「ははは……」
コトッ
漣「ごちそうさまでした!今日も元気でメシがウマい!」
白雪「お昼ご飯も、とても美味しかったです」
間宮「お口に合って良かったわ」ニコッ
鳳翔「――ええ。戦闘機は全員、零戦の二一型を」
龍驤「他には、雷撃機に九七式艦攻と、急降下爆撃機に九九式艦爆を使ってるんや」
整備兵「後継機の開発はどんな状況だ?」
鳳翔「零戦の五二型は配備の目途が立ちそうなんですが、天山や彗星はまだ飛行隊を組めるほどの数も無いんです」
龍驤「あらへんなぁ……専用の機体は無くて、艦攻を何機か偵察に回してる状態や」
整備兵「そうか……」
白雪「あ、あの」
整備兵(あれだけ規模の大きい工廠を持っていて艦娘も多いのに、開発はあまり進んでいないみたいだな……)
白雪「すみません……」
整備兵(艦載機の更新は後回しになっているのか……?いやしかし、空母の能力をほぼ決めると言っても良いぐらい価値のある艦載機より先に必要なものなんて、そもそもあるのか?)
白雪「整備兵さん……?」
整備兵「……!な、何だ?」クルッ
整備兵「ああ、うん、まあ……もともと俺自身、大戦期の兵器とかに子供の頃から興味があったのもあるけど……一番は、昔、工作学校でやった近代兵器学の勉強のおかげかな」
白雪「近代兵器学……ですか?」
整備兵「その名の通り、近代……特に大戦期の兵器の構造や能力について学ぶ分野だ」
白雪「でも、どうして工作学校でそんな勉強をしたんですか?もう六十年以上も昔の兵器のことを……」
整備兵「ああ、それは……」
ブーーーーーーッ ブーーーーーーッ ブーーーーーーッ
整備兵「……!何のサイレンだ!?」
提督『――以下の者は、至急提督執務室へ集合せよ。翔鶴、瑞鶴、鈴谷、熊野、漣、白雪、整備兵。ただし、整備兵以外の者は艤装を装着のこと。繰り返す。以下の者は――』
提督「全員集まったようだな。時間が無いので手短に話す。よく聞け」
整備兵「……」ゴクリ
提督「現在時刻より12分前、早瀬穂(させぼ)鎮守府所属の部隊から、宮崎市の北東約130kmの沖合で深海棲艦の部隊の離脱を許したという連絡が入った。離脱方向は、恐らく北ないしは北東方向……すなわち瀬戸内海方面と推定されている」
翔鶴「敵の兵力は判明していますか?」
提督「約1時間に渡って早瀬穂の部隊と交戦した後、潰走した敵中規模機動部隊の残党だとのことだ。軽母ヌ級が3隻、重巡リ級が1隻以下、随伴に若干数の駆逐ロ級もしくはハ級との報告を受けている」
瑞鶴「護衛は少なそうだけど……軽母が3隻っていうのはちょっとした脅威ね」
提督「予測が正しければ、間もなく敵艦隊は早瀬穂の管轄海域を出てこちらの管轄海域に侵入する。翔鶴、瑞鶴、鈴谷、熊野、漣の5名は機動部隊を編成、出撃の後、敵残存艦隊を捜索・撃破せよ。旗艦は翔鶴だ。頼めるな?」
翔鶴「はい」
提督「それと、鈴谷、熊野。カタパルトは置いて行け。索敵は空母の二人で十分だ。かわりに……そうだな、機動部隊同士の戦闘になる。機銃を乗せるのが良いだろう」
熊野「了解ですわ」
漣「ご主人様、白雪ちゃんと整備兵さんは……?」
提督「二人は工廠に向かい、艦隊の帰投に備えて艤装等の修復の準備を行え。艦隊に何らかの損害が出るかもしれん」
整備兵「分かった」
鈴谷「まーそんなに心配しなくていいよ?さくっと倒してきちゃうからさ」
熊野「そういういかにも危険そうなセリフを言わないでくださる?」ペシッ
鈴谷「いてて……」
提督「敵は残党とはいえ十分な航空兵力を備えている。全員気を引き締めてかかるように。以上だ」
全員「はい!」ビシッ
翔鶴・瑞鶴「偵察隊発艦!」
シュンッ シュンッ
九七式艦攻妖精(以下九七妖精)「」シュツゲキ-
ブゥゥン……
翔鶴「輪形陣を組んで航行しながら、私の偵察機で索敵を行います。敵に先手を取られることの無いよう、皆さんも警戒を怠らないようにしてください」
瑞鶴「制空と攻撃は私と翔鶴姉が担当するわ。三人とも、用意は良い?」
鈴谷「もちろん!敵機が来たら、この20.3cm連装砲が火を噴くから!」
熊野「わたくしも準備万端ですわ」
漣「オッケーです……たぶん……」
翔鶴「大丈夫みたいですね」ニコッ
提督『ザザザッ――今現在、監視中の近隣泊地からも敵艦隊確認の報は来ていない。敵はまだ海岸から離れた洋上を移動中とみられる。以上』
翔鶴「分かりました。……では皆さん、しばらくはこのまま南西へ向かいます。何度も言いますが、対空・対水上警戒は怠りなく」
全員「はいっ!」
翔鶴「……偵察機より入電。敵機動部隊発見。軽母ヌ級2隻、重巡リ級1隻、駆逐ハ級3隻です!」
瑞鶴「よしっ、来たわね!第一次攻撃隊発艦!」
ヒュッ
翔鶴「戦闘機隊・爆撃隊第一波発艦。瑞鶴隊の援護に回って!雷撃隊は待機してください!」
シュンッ
零戦妖精達「」イクヨー
九七妖精達「」ライゲキビヨリダー
九九艦爆妖精(以下九九妖精)達「」イェーイ
ブゥン……
翔鶴「私たちがいる方向へ、ほぼ真っすぐに進んでいるようです。まだ、気づかれてはいないと思いますが……」
提督『分かった。彼我の距離を保ちながら、確実に制空権を掌握しろ』
翔鶴「はい。……艦隊、左回頭!」スッ
全員「了解!」スッ
キラッ
鈴谷「……ん、あれ何だろ?」
熊野「あれ、ですの?何も見えませんけど……?」
鈴谷「右の雲の端っこで、何か光ったような気がしたんだよね……」ジッ
熊野「鳥か何かか、それとも……」
鈴谷(よぉく狙って……)
ドォン
敵偵察機「グギャアッ!」バァン
瑞鶴「敵の艦載機!?……まずいわね、位置を知られたかしら。念のため……直掩隊、発艦!」ヒュッ
翔鶴「対空警戒を密にしてください!」
熊野(敵は軽空母が2隻……偵察が一機とは思えませんわ。どこかにまだ敵が……)チラッ
熊野「……」ジッ
熊野「……」
熊野「……そこですわ!」ガシャッ
ドォン
敵偵察機「……!?」ドゴォン
鈴谷「あっちにもいたの?熊野すごっ!」
熊野「最初の一機に気づいたのは鈴谷ですわよ。集中力ではわたくしなど到底かないませんわ」
漣「あんな遠くにいる敵機を主砲で一撃ってだけで、二人とも十分すごいです……」
瑞鶴「二人が見つけなかったら、絶対触接されてたもんね……でも、まだ油断しないで」
翔鶴「提督、敵偵察機2機発見、共に撃墜。敵艦隊に発見されたと思われます。敵艦隊との距離は十分にありますが、間もなくヌ級が攻撃隊を出してくるでしょう」
瑞鶴「どうして?」
提督『奴らは早瀬穂の艦隊との戦闘で戦力がすり減っていて、あまり偵察機を多く出す余裕が無いはずだ。さらに奴らは不意の襲撃に備えるため、全方位に偵察機を放たなければならない。ヌ級程度の搭載力では、同じ空域に留まれる偵察機は2機が限界だ』
漣「確かに……」
提督『だから、全く発見されないよりも、むしろ一瞬だけ発見された後に後続の情報を絶ったというこの状況の方が恐らく俺達に有利に働くだろう。このアドバンテージを最大限に利用すべきだが……ふむ』
提督『……よし、艦隊は直ちに、敵艦隊の進行方向に対して直角に航行せよ。進攻してくる敵攻撃隊及び敵艦隊の側面を突く』
翔鶴「……!了解しました!」
瑞鶴「偵察隊から入電よ。敵機動部隊より、攻撃隊計40機程度の発艦を確認!」
翔鶴「あまり余裕はありませんね……。艦隊右回頭。皆さん、全速で東北東へ……あの小島の方角へ移動してください!」
ヌ級艦攻「……」
ヌ級艦爆「……」
ヌ級『……チョクシン、イケ……』
ヒュウウッ……
ヌ級艦戦「……?」
零戦妖精A「」オラァー!
零戦妖精B「」カチコメー!
ヌ級艦戦「……!?」
ヌ級艦戦「」ボォン
翔鶴『接敵後、私の隊は制空に専念。瑞鶴の戦闘機隊が到着するまでに敵護衛戦闘機を排除してください』
零戦妖精C「」リョウカイ
零戦妖精D「」ソウコナクッチャ
ヌ級艦戦「……」ブゥン
バリバリバリッ!
零戦妖精C「」テキダー
零戦妖精D「」ミギミテミギ
零戦妖精B「」アブナイアブナイ
零戦妖精C・D「」テェー!
バババババッ!
ヌ級艦戦「」ズガァン
零戦妖精C「」テキハコンランチュウッポイ?
零戦妖精D「」テイクウニヒキコンデタタキオトセー
零戦妖精達「」ラジャー
ヌ級B「テキハイドウシタノカ……?」
ヒュウウウウ……
リ級「……ッ!?」クルッ
ドゴォンッ!
九九妖精「」テキハッケン
九七妖精「」コウゲキセヨー
ヌ級A「テキキタスウ……ゲイゲキセヨ……」カパッ
ヌ級艦戦「ギギギギ……」ブゥン
零戦妖精「」ソウハサセナイヨ-
ヌ級艦戦「……」ブゥン
零戦妖精「」コッチガアイテ
ヌ級艦戦「……キシャァァッ!」
瑞鶴「迎撃隊からも入電よ。敵攻撃隊の過半を撃墜、間もなく帰投。散り散りになった敵残存機も、現在攻撃隊の護衛戦闘機が掃討中」
鈴谷「やったね、鈴谷たちの大勝利!」
熊野「一時はどうなるかと思いましたけれど……」
漣「あれ、でも確か、敵のヌ級って3隻じゃありませんでしたかご主人様?」
提督『早瀬穂からはそう聞いている。3隻程度でも3隻以下でもなくちょうど言ってきたところを見ると、確かなはずだが……』
瑞鶴「でも、撤退中の敵が分かれて行動するとも思えないし……誤認じゃないかしら?」
零戦妖精「」ブゥン
カカカッ……キイィッ
零戦妖精「」バタバタ
翔鶴「え、ええと、電鍵ですか?……はい、どうぞ」
零戦妖精「」カタカタカタカタ
トントンツーツーツートンツートン……
翔鶴「……はい、ええ…………何ですって!」
瑞鶴「どうしたの翔鶴姉?」
瑞鶴「それが、まさかもう一隻のヌ級の……」
鈴谷「でもそれなら、今頃もう見える範囲に来てるはずだよね……鈴谷たちを狙ってるなら、なおさらさ」チラッ
熊野「雲も全く出ておりませんし……それらしい影も見えませんわね」キョロキョロ
瑞鶴「提督さん、そういうことみたい。雲も無い快晴で、周りは全部開けた外海。見えるものといえば、東の少し遠いところに、さっき移動の目印にした小島があるくらいで……」
翔鶴「島……島?」ハッ
提督『待て、小島だと?』
瑞鶴「ええ、そうだけど。本当に小さい島よ。急な崖に囲まれてて、小さいわりには結構高いけど……あっ」
熊野「あっ」
鈴谷「あーっ!」
提督『……瑞鶴らしくもない。何だ、最近大きな作戦が無かったからなまっていたんじゃないか?』ヤレヤレ
瑞鶴「そ、そんなこと無いわよ!……でももう分かったわ、偵察隊発艦!」ヒュッ
提督『時間がかかりすぎている……奴らが出てきたところで鉢合わせになるかもしれん。帰還した翔鶴の戦闘機隊も飛ばしておけ』
翔鶴「はい!すみません。できれば休ませてあげたいのですが……」ヒュッ
零戦妖精A「」イイッテコトネ
翔鶴「間に合えば良いのですが……」
……ブゥン!
漣「て、敵機です!島の裏側から敵機多数!」
熊野「遅きに失しましたわ……!」グヌヌ
翔鶴「偵察隊は即時帰還。戦闘機隊は正面からぶつからず、敵の集結を妨害しながら増援を待ってください!」
瑞鶴「……」ヒュッ
瑞鶴(迎撃隊は出したけど、あの裏に残りのヌ級がいるのは確実。爆撃隊で、逆に島影から不意を突いて一気に……)スッ
瑞鶴「えっ?」
提督『奴らは今まさに島影を利用しているところだ。こちらが同じ手で挑んでも、間違いなく何か対策が施されているだろう。その上、制空権争いが熾烈な島の上空に迎撃隊と爆撃隊を同時に送り込めば、無用な混戦を生む』
瑞鶴「それもそうね……」
提督『それに、島の頂上は一つしか無いが、回り込むならどちら側からでも良いからな』ニヤッ
瑞鶴「……ふふっ、ありがとね提督さん」
翔鶴「瑞鶴、私が北側から行くわ」スッ
瑞鶴「分かった。私は南ね」スッ
翔鶴・瑞鶴「「行くわよ!攻撃隊、発艦!」」ヒュッ
零戦妖精A「」テキオオスギー
零戦妖精C「」ヤバイッポイ?
翔鶴「わずかですが、迎撃網を抜けた敵機があるようです!総員、対空戦闘用意!」
漣「あいあいさー!……鈴谷さん、熊野さん、機銃は持ちましたか!」
鈴谷「……あっ、あそこかー」スッ
熊野「バレバレですわね」スッ
漣「えっ、なんで二人は主砲を」
熊野「とぉぉ↑おう↓!」ドゴーン
ヌ級艦爆「」バァン
ヌ級艦攻「」ボォン
漣「」
鈴谷「次弾そうてーん!」ドォン
熊野「とぉぉぉぉ↑おうぅぅぅ↓!!」ドォン
ヌ級艦爆「」ズガァン
ヌ級艦攻「」ドガァン
漣「いやいやいや!対空戦闘を主砲でやらないでくださいよっ!」
鈴谷「えー、だって機銃よりこっちの方が使い慣れてるし、射程も長いし……」
漣「それはまあ、確かに二人とも射撃はとっても上手ですが……ですがですネ……」
瑞鶴「艦攻隊より!『ワレ奇襲に成功セリ』!敵軽母ヌ級、大火災を起こして轟沈だって!」
翔鶴「やったわね、瑞鶴」ニコッ
翔鶴「……では皆さん、帰路も気をつけて帰りましょう」
全員「おー!」
鈴谷「艦隊の凱旋だよー」
ゾロゾロガヤガヤ
整備兵「おう。お帰り、みんな」
白雪「皆さん、ご無事で何よりです」ペコリ
熊野「あの程度の寄せ集めごときに後れを取るようなわたくしたちではありませんのよ」フフン
龍驤「お!もう帰ってきてたんか!」トコトコ
整備兵「龍驤まで、どうしたんだ?」
龍驤「ちょっと海岸の方を散歩してたら、帰投してくる翔鶴たちが見えたんや」
龍驤「鳳翔のお許しは出とる。ま、かわりに特訓を三日連続で入れられたんやけど」
整備兵「それ、もっと良くないんじゃ……」
龍驤「後のことは後のことや。今が大事やねん」
整備兵「ただの能天気にしか聞こえないんだが」
翔鶴「――翔鶴戦闘機隊、損傷2機。艦爆隊、喪失1機、損傷1機。艦攻隊、損傷2機です」
工廠長「いち、にー……あいよ」カキカキ
工廠妖精A「損害が少ないと、忙しくなくて良いですなあ!」
工廠妖精B「そうっスね!今日なんて、入渠の準備もいらないっス」
整備兵「……損害報告か?」
龍驤「せやな。今日は艦には被害が無いみたいやから、工廠ですることは艦載機の補充と修理だけやな。……ほら、見てみ?ああやって、損傷を受けた機体は妖精が修理するんや」
工廠妖精A「こりゃ難儀でさぁ……右の翼が半分無くなってます。おまけにエンジンもふっ飛んじまってて」ガチャガチャ
工廠長「修理にかかる時間は断面の状態にもよるからなァ……その辺が分かったら、また報告しろ。良いなァ?」
工廠妖精A「わかりやしたっ!」ビシッ
整備兵「あんな状態の飛行機を修理できるのもそうだが、あれに乗って帰還できるなんて妖精はすごいんだな……」
龍驤「ここの艦載機妖精は優秀やからな。……いやいや、身内びいきってわけやないで。事実、寄越日(よこすか)鎮守府の元帥の艦隊を除けば、機動部隊の錬度で暮に勝てる艦隊はいないはずや」
整備兵「寄越日の元帥艦隊といえば、赤レンガのお膝元、海軍最強と名高い大艦隊だよな……ってことは、実質ナンバー2じゃねえか!」
整備兵「……なんか、な」
龍驤「なんや?」
整備兵(意外だな……龍驤とか、割とだらけてるイメージしか無いのに)
龍驤「……キミぃ、なんや失礼なこと考えとるやろ」ジトー
整備兵「いっ、いやいや、そんなことは無いぞ!」
工廠長「おい若造!」
整備兵「工廠長、なんだ?」
龍驤「あー、これが工廠長なんやな」
龍驤「昼に鎮守府中で噂になってたで。妖精とトークするイカしたメルヘンボーイ、整備兵っ!てな感じに」
整備兵「漣もしくは瑞鶴このやろぉぉぉっ!」
工廠長「若造ゥ!!」ガンガンッ
整備兵「うわっ、はい!すみません何ですか!」
工廠長「仕事だ仕事ォ!ここで働くとか言っといて、いきなり何にもせずに突っ立ってるつもりかァ?」
整備兵「わ、悪かった。何をすれば良いんだ?」
工廠長「ほら、ここに補充と修理に必要な資材が書いてあンだろ?これ全部、奥の倉庫から運んでこい」ペラッ
白雪「あの、整備兵さ……」
工廠妖精B「工廠長ー!この配管、取り替えた方が良いっスかー!?」
工廠長「うるせェ、大声出すな!すぐ行くから待ってろ!」
白雪「せ、整備へ」
工廠妖精B「申し訳ございませんっスー!」
工廠長「ったく、仕事が少ない気がしねェぜ。……じゃあ若造、ちゃっちゃとやっとけよ。そこに分けて積んどけば良いからな」スタスタ
整備兵「了解。さてさて、運ぶかな……」
白雪(全く気付いてもらえません……)ガーン
白雪(こ、今度こそ……)ソロソロ
白雪(……?)ピタッ
龍驤「どないしたんや?」
整備兵(さっきの翔鶴の話では、喪失……つまり撃墜された機がいた。戦争には付き物だし、だからこそ『補充』と修理なんだろう)
龍驤「……」
整備兵(だが、艦載機は妖精が乗り込んで操っている。もし撃墜されれば、脱出でもしていない限り……)
龍驤「……キミ、ほんまに顔に出やすいなあ……」ヤレヤレ
整備兵「?」
龍驤「今、整備兵はんが何考えてるのか、当ててみせるわ。……撃墜された機体の妖精は、果たしてどうなったんやろなー、ってとこやろ?」
白雪(……!)
龍驤「結論から言うで。今のところ、ここの艦隊でも他の艦隊でも、被撃墜機の艦載機妖精が発見された例は無いんや」
整備兵「脱出や、救助は?」
龍驤「妖精の艦載機に脱出装置が付いとるかは分からんが、脱出した妖精はこれまた例が無い。艦娘のすぐ近くで撃墜された機体の周辺を捜索した部隊もあったみたいやけど、機体の残骸以外何も見つからなかったそうや」
整備兵「……辛いな」
龍驤「せやなあ……もち、ウチもそれなりには辛いで。空母娘はそういう点で不利なんや。砲や機銃の妖精と違って、艦載機の妖精とはどうしても離れて戦わなアカン。戦闘方法から来る、一種の宿命なんやろうな」
整備兵「……」
龍驤「その話、他ではせえへん方がええで。ウチなんかはまあ結構慣れとるけど、みんなやっぱり何となく気になるときはあるんや」
整備兵「……もちろんだ」
整備兵「お、おう!……ごめんな龍驤。それと、ありがとう」
龍驤「ええってええって。わざわざ余計な話始めたんは、ウチの方やしな。ほな、邪魔になるやろうからもう少し散歩してくるわ」フリフリ
整備兵「……ああ、あんまりサボりすぎるなよー」フリフリ
整備兵「……」クルッ
工廠長「――艦爆隊の欠員は?」
工廠妖精B「翔鶴隊6番機と、瑞鶴隊11番機っス!」
工廠長「工程表に書き込んどけ!尾翼に番号書くとき間違えんじゃねェぞ!」
工廠妖精B「はいっス!」
整備兵「……」
整備兵(……行くか)スタスタ
白雪「……」
整備兵「腰が痛え……」
白雪「これで最後の一箱ですね。お疲れ様でした」
整備兵「ただの荷物運びかと思ったらとんでもない量だったな。工廠長の奴、ついでとか言って工具から何から運ばせやがって……でも、白雪が手伝ってくれたから早く終わったよ。白雪はどこか痛かったりしないか?」
白雪「いえ、大丈夫です。私も整備兵さんのお役に立てて嬉しいです」ニコッ
整備兵(ええ子や、ほんまええ子や)
工廠長「おう、終わったか。今日はこれで上がって良いぞ。明日からは本格的に開発をやってくからな」
整備兵「分かった。じゃあ、明日もよろしく、な……?」
??妖精「……」ウツラウツラ
整備兵(確かあれ、昨日白雪が建造されたときに、一瞬だけ出てきてすぐ消えた妖精だ……)
整備兵(ねじり鉢巻きに……はっぴ?ドライバーみたいな工具も持ってるし、工廠妖精か?)
??妖精「……はじめまして、整備兵さん」
整備兵「はい、こちらこそ、はじめまして……って、どうして俺の名前を?」
??妖精「工廠長から、聞きましたので……」
整備兵「ええと……じゃあ、君の名前は……?」
??妖精「そうですね……では、女神とでもお呼びください」
整備兵「女神……?」
整備兵(名前、なのか……?)
白雪「……?整備兵さん、この妖精さんともお話されてるんですか?」
整備兵「ま、まあな……。……女神、女神は工廠で働いている妖精なのか?」
女神「いいえ、そういうわけではありませんが……」
整備兵「ありませんが……?」
女神「……」ウトウト
整備兵「そこで眠るのかよ!」
女神「ああ、失礼しました……。ともかく、工廠で働くとは良い心意気です。工廠という場所には、船に比べるとどうしても地味な印象がありますから……」
整備兵「それは分かるよ。俺も工作学校時代から、艦に乗る機会が無くてずっと工廠にいたからな」
女神「そうでしたか……これも何かの御縁ですね。人はとかく、大きいもの、派手なもの、目立つものにとらわれがちです。小さいもの、地味なもの、日の当たらないものにも目を向けて、これからも精一杯励むのですよ……」
女神「……」コクリ
整備兵「昨日、白雪が建造されたとき、女神が一瞬だけ艤装の近くにいたよな。あれは何かの仕事だったのか?それとも……」
女神「……日が、沈みますね」
整備兵「……へ?」
女神「この硬いレンガの壁の外、夕日が今まさに沈もうとしています……。そろそろ夕餉の時間でしょう。お仲間方を待たせては、いけませんよ……」
整備兵「え……いや、まあ、そうだが……」
女神「そちらの方も、お腹を空かせているようですし……」
整備兵「そちらの方……?」クルッ
白雪「は、はい?何でしょう?」
グー
白雪「……」
整備兵「……」
白雪「……あっ、あの、これはそのっ!///」ワタワタ
整備兵「お、俺は何も聞いて……」
白雪「は、早く行きましょうっ!間宮さんも他の皆さんも、きっと私たちを待ってくださっているはずです!」ガリガリガリガリ
整備兵「い、行く行く!分かった!分かったからまずシャッターを引っかいてないで上げろ!」
白雪「ところで、さっきの妖精さんとはどんなお話をされたんですか?」トコトコ
整備兵「ああ……とりあえず、あの妖精の名前は女神というらしい」スタスタ
白雪「女神……ですか?」キョトン
整備兵「そうだ。名前としては変だと俺も思うけど……」
白雪「その女神さんは……工廠で働いているんですか?」
整備兵「それは俺も聞いてみたんだ。女神は違うとだけ言ったんだが、じゃあ何の仕事をしてるのかってところは教えてくれなかった」
白雪「そうですね……私も今日は長い間工廠にいましたが、工廠妖精さんの中に女神さんのような服装の妖精さんはいなかったと思います」ウーン
白雪「名前も女神さんですし、もしかしたら本当に工廠の守り神の妖精さんなのかもしれませんね」ニコッ
整備兵「ははっ、まさか……」
白雪「……そういえば、お昼に聞きそびれてしまったこと、今聞いてもよろしいですか?」
整備兵「昼に……ああ、近代兵器学の話か。何から話すべきか……そうだな。そもそもの始まりはもちろん、深海棲艦が現れたことだ。俺が中学の頃だな。全世界のあらゆる海域に突如として出現した深海棲艦に船舶を無差別に攻撃されて、各国は……まあ言ってみれば何だか訳の分からないうちに戦争に引きずり込まれた。ここまでは良いか?」
白雪「はい、知っています。その深海棲艦の脅威に対抗するために、私たち艦娘が戦っているんですよね」
整備兵「確かに、艦娘の力を借りた人類が何とか深海棲艦の勢力を押し返しつつある……ってのが今の状況だな。でも、この状況に至るまでには結構な紆余曲折があったんだ」
整備兵「深海棲艦が現れた瞬間から、艦娘がいたわけじゃないからな」
白雪「……!そういえば、そうですね」
整備兵「深海棲艦が現れてすぐの時代に話を戻すぞ。放っておけば、世界の海運は文字通り寸断されることが確実になったんだ。世界中の海軍は混乱しながらも、保有する通常艦艇を総動員してそれぞれ深海棲艦に対抗しようと試みた。帝国海軍からも、ほぼ全ての護衛艦が対深海棲艦戦闘に駆り出された」
白雪「試みた……ですか?」
整備兵「ああ。……深海棲艦には、ミサイルも爆弾も魚雷も機関銃弾も、命中はするにも関わらず全く効かなかった。帝国海軍の最新鋭艦対艦ミサイルの直撃ですら、たかがイ級の装甲に傷一つ付けることができなかった」
白雪「そんな……」
白雪「そ、そのくらいの被害でしたら……」
整備兵「……残りの2隻が、喪失だった」
白雪「……!」
整備兵「話によれば、戦艦級の敵複数に近接されて蜂の巣だったそうだ……とまあ、まともに戦闘することもままならないくらい、人類は追いつめられた。何を使って攻撃しても効かない。なのに相手は、船どころか沿岸の都市まで攻撃し始める。工作学校を出ても整備する船なんて残っていないんじゃないか、なんて話も良く聞いたよ」
整備兵「そしてそんな状態の日本に、最初の艦娘が現れた。俺も噂にしか聞いていないが、艦娘が現れたのは暮――この鎮守府のすぐ近くの海岸らしい。どこからか駆けつけて、作業中に深海棲艦の駆逐隊に襲撃された海軍部隊を守り、小さな砲を駆る妖精達とともに敵を壊滅させた……とか何とか」
整備兵「それは分からない。何しろ噂だけだからな……。でも、その艦娘が手に持っていた砲は、旧海軍の14cm単装砲にそっくりだったらしい。そしてその艦娘の出現は、色々と謎を呼びながらも人類最後の希望とささやかれるようになったってわけだ」
白雪「14cm単装砲……川内さんたちも持っている砲ですね。ですが……そうです、そもそもなぜ艦娘の兵装だけは深海棲艦に効いたんでしょう?」
整備兵「そうなんだ。艦娘とは何なのか、という疑問と同じくらい誰もが思ったのは、そのことだった。最初は、艦娘の武器にのみ何かの力があると考えられたんだが……」
白雪「……?」
整備兵「同時期に他国から報告がもたらされて、状況は一変したんだ。曰く、稼働状態で博物館に保管されていた前大戦期の野砲で海岸沿いの深海棲艦を砲撃したところ、わずかだが損害を与えることに成功した……と」
白雪「それはつまり、昔の……大戦期の兵器であれば、深海棲艦に効くということでしょうか?」
白雪「ですが、その頃の混乱の中では、他に手が無かったんでしょうね……」
整備兵「……そうだな。あと、もともと日本には現存している大戦期の兵器が少なく、ましてや稼働状態の物なんて無いも同然だという問題を解決するために、資源と古い設計資料をかき集めて大戦期の兵器の再生産も始められた」
白雪「再生産……でも、待ってください」
整備兵「どうした?」
白雪「例え昔の兵器であっても、『昔に作られた』のでなければ、効果が無いということは無いんでしょうか……?」
整備兵「……」クルッ
整備兵「……すごいな、白雪。その通りだ」
白雪「え、本当に……そうだったんですか?」
整備兵「ああ。なぜだかは俺にも……多分お偉方にも分からないんだが、再生産された兵器は、現存していた前大戦の兵器と違って深海棲艦に対して効力を持たなかった。この方法も、時間と生産力の無駄遣いだったと分かったんだ。……もしそれが有効だったら、今頃は白雪たちを戦わせるなんて真似しないで、かわりに俺や提督が前線で深海棲艦と撃ち合ってたよ」ハハハ
白雪「……笑えない、話ですね」
整備兵「……悪かった。でもその頃になると、今度は工廠妖精や他の艦娘たちが次々と見つかり始めて、次第に艦娘を主力に戦おうという意見が優勢になっていった。……そして今に至る、かな。外国では艦娘がいないために苦戦を強いられているようだけれど、日本に限って言えば、ここ数年は艦娘が増えるとともに少しずつ航路や海域を奪回してきてるって状態だ」
ザザーン ザザーン
整備兵「……ごめん、話が長くなっちゃったな」
白雪「いえ、知らなかったことをたくさん知ることができて良かったです。……私も艦娘として、早くこの戦争を終わらせるために頑張らなくてはいけませんね」
整備兵「あんまり肩に力を入れすぎるのも良くないんじゃないか……とはいえ、頑張らないといけないのは俺も同じか」ノビー
グー
整備兵「あ」
白雪「……」
整備兵「……」
整備兵「白雪、今笑ったな……?」ジー
白雪「ご、ごめんなさい!つい……!」ペコペコ
整備兵「いや、良いよ。あー腹減った……」
白雪「あ、あのですね、あまりにも良い音だったので、その……」グー
白雪「……へ?///」
整備兵「……ぷっ」
白雪「えうっ、え、ええとっ……!?」カーッ
整備兵「白雪は俺よりも夕飯が待ち遠しいみたいだな」ニヤッ
白雪「そ、そんなことありませんっ!」ポカポカ
白雪「あっ……す、すみません」ショボン
整備兵「今のは俺も悪かった。お互いさ……」グー
ザザーン ザザーン
白雪「……」
整備兵「……」
白雪「……これで勝ち負け無しですね」
整備兵「ど、どういうことだ?」
白雪「今ので私も整備兵さんも、二回お腹が鳴りました。これで、おあいこです」ニコッ
整備兵「……ま、そういうことにしておくよ」ニコ
全員「ごちそうさまでした!」
ワイワイガヤガヤ
鈴谷「よーし、早く帰って寝……」
熊野「鈴谷。夜間警備、忘れたとは言わせませんわよ?」
鈴谷「ぎくっ。……えー、熊野かわってよー。最近やってないじゃん」
熊野「昨日やったばかりですわ!」ムキー
川内「――だからそこで、塀を飛び越えて――」ヒソヒソ
那珂「――建物の陰から、さささーっと――」ヒソヒソ
神通「……え、えっと……」ハラハラ
提督「……次に何かしでかした奴がいたら、今度は運動場20周にするか」ボソッ
川内・那珂「」ビクッ
漣「白雪ちゃん、宿舎行こ!まだ家具の置き場所とか決めてないでしょ?」
白雪「うん、分かった。……整備兵さん、それでは」ペコリ
整備兵「ああ。また明日な」
提督「おい、整備兵。久々だ。少し付き合え」
整備兵「何にだよ?」
提督「これだ、これ」クイッ
整備兵「……店にでも行くのか?あまり鎮守府を空けるのは良くないんじゃなかったのか?」
提督「その点は問題無い。店には行くが、鎮守府からは出ないからな」
整備兵「?」
提督「まあ、とりあえずついて来い。すぐに分かる」
鳳翔「あら、いらっしゃいませ」サラフキフキ
提督「な?」
整備兵「な?じゃねえよ。なんで司令部の建物内に居酒屋があるんだ……というか、鳳翔さんの店なのか」
提督「鳳翔がやってみたいと言うからな。作ってみた」
整備兵(いや、これは完全に海軍の職務の領域を外れてるだろ……)
鳳翔「提督、珍しいですね。最近いらっしゃるのは空母の皆さんばかりでしたが……」
提督「漣の案内ではここには来ていないだろうから、整備兵に見せておこうと思ってな」
鳳翔「そうでしたか。……今日は、いかがなさいますか?」
提督「そうだな……その奥から三番目の瓶で頼む。料理は鳳翔に任せる」
鳳翔「はい。白雪の上撰ですか……粋ですね」ニコ
提督「大体慣れてきただろう。明日からは本格的に仕事だぞ」
整備兵「あの妖精達と仕事ってのも、結構大変そうだけどな……」
提督「そこは頑張ってもらわないと困る。まあ、何とかなるだろう。というより何とかしろ」
整備兵「お前、結構容赦無いな」
鳳翔「お待たせしました。どうぞ」
コトッ コトッ コトッ
整備兵「おお、凄いもんだな……本当の街の店みたいだ」
鳳翔「うふふ、ありがとうございます」
提督「さて、乾杯だ」
整備兵「乾杯!」
チンッ
整備兵「十年……ああ、深海棲艦が現れてからか」
提督「そうだ。まあ、俺が暮に来てからはまだ何年と経ってないがな」
整備兵「最初はここにも、提督と漣しかいなかったのか?」
提督「いや、間宮もいた。その三人から始まって、今では艦娘12人を抱える大所帯だ」
整備兵「言うほど大所帯……なのか?」
提督「これでも、一つの鎮守府としてはかなり多い方だ。今日はちょうど準備していたから出来たが、本来艦娘の建造はめったに……せいぜい数ヶ月に一度くらいしか出来ないことだからな」
整備兵「数ヶ月……そんなにか。資源事情が厳しいのか?」
整備兵「なら、どうしてだ?」
提督「建造の場合、資源を妖精に渡しても断られることが多い。理由は分からないが、どうも建造は出来るときと出来ないときがあるようだ」
整備兵(出来るときと、出来ないとき……?資源以外にも、何か必要なものがあるのか?)
提督「だから、艦娘の総数も少しずつしか増えていない。急速な戦力増強はできず、新たな艦娘が建造されたら戦線をその分だけ拡大していく……言ってみれば自転車操業だ」
整備兵「今は、海軍全体でどれくらい艦娘がいるんだ?」
提督「120、あるいは130隻くらいだと聞いている。それが五つの鎮守府と、外地にあるものも含めて十数ヶ所の泊地・基地に割り振られているそうだ」
提督「既存の兵器と比べて、個々の戦力が凄まじいからだ。この数でも本土は概ね防衛できているし、最近では局地的な反攻も可能になっている。……だが結局、妖精に建造してもらう以外に艦娘を仲間に加える方法が無い以上、作戦もやはりその制限の中で行っていくしかない」
整備兵「そういう建造の困難さの原因を解明できれば、戦力の強化をより進められるってことか」
提督「まあ、それも整備兵の調査項目だ」
整備兵「仕事ばかり増えていくな……。けど、見れば見るほど妖精も艦娘も謎だらけだ。……一筋縄ではいかないと思う」
提督「まあ、あまり焦るのも良くない。今のところは、そういった謎が解けないままでも戦えている。あくまでも、これは先々のための調査ということだ」
整備兵「ああ。分かってるよ」
ガチャッ
整備兵「よし、さっさと風呂に入って……いや待てよ、そういえば風呂なんてどこにあるんだ?」
整備兵(昨日この部屋を見て回ったときには、無かったような気がするが……)キョロキョロ
整備兵(戸はトイレに繋がる一枚しか無いし、後は本棚ぐらいしか……)スタスタ
ガンッ
整備兵「っあ痛ぁ!!」
整備兵の小指「」チーン
整備兵「ぁぁぁぁぁ……」ウズクマリ
整備兵(くそ……思ったより本棚が大きかった……)
整備兵(……ん?本棚の陰の壁に何かある?)
ズズズ……
整備兵「……!」
整備兵(本棚の裏に戸がもう一つ……)
ガラガラッ
露天風呂「」キラキラ
整備兵「え……」
整備兵(ぎりぎり足が伸ばせるくらいの大きさとはいえ、立派な岩の露天風呂だ)
整備兵(洗い場の向こうの外は真っ暗……この音は多分、海に面してるな)
整備兵「……」
整備兵(……これは、入るしかない!)
整備兵(まさか天然温泉なわけ無いよな……?ただのお湯だよな……?)
整備兵(……さて、今夜も少し本を読んでから寝よう)
整備兵(明日は装備開発をしていくと工廠長も言っていた……それなら、今日はレシピの本にするか)パサッ
整備兵(何を作っているのかが分からなければどうにもならない。ちゃんとした予習が必要だ……)
整備兵「なになに、艦載機……比率は燃料20に対して弾薬60、及び鋼材10に対しボーキサイト100、ただし彩雲は……」ブツブツ
ペラリ……ペラリ……
??「いよいよだねぇ」
??「ついに……と言ったところかの。抜かりは無いじゃろうな?」
??「大丈夫ですよ。これが世の中に出れば、状況は一変します」
??「一変……とまで行くかのう?」
??「もちろんです、出来は保証しますから。あの人達も含めてここにいる全員が、これからはもっと働きやすくなりますよ」
??「そういえば、あの人たちにはこの計画の詳しい内容、もう伝えてあるの?」
??「そんなわけありませんよ。前もって伝えたら楽しくないじゃないですか」
??「でも、反対されるかも……」
??「むしろ、思い切り嫌がってくれた方が見ていて面白いです。……それにそもそも、上層部の許可は既に得ています。何の障害にもなりませんよ」ニヤリ
??「悪い奴だねえ……」
??「これも全ては、海軍のためですよ」
??「……二人共、そろそろ静かに見たまえ」
??「ほーい」
??「はいはい、分かりましたよー」
ピピピピピピピピピピピ
整備兵「……ん」パチッ
整備兵(よし、今日は目覚ましをかけるのを忘れなかったぞ)ムクリ
整備兵「はー、眠……」
【食堂】
整備兵「おはよう」ガチャ
白雪「整備兵さん、おはようございます」ペコリ
漣「おはようございますー」
白雪「はい、もちろんです」
漣「えー……漣はちょっと……」
整備兵「……あからさまに嫌がられると辛いんだが」
漣「ほんの可愛いジョークですよ」
整備兵「可愛げの欠片も無いな……ふわぁ……それで、今日のメニューはどんなのだ?」
白雪「焼き魚は鮭で、お味噌汁はわかめに油揚げに大根、後のおかずは――」ニコニコ
整備兵「白雪は食べ物の話してると、いつもより表情豊かになるな」
白雪「――そ、そんなこと無いです!それに、聞いてきたのは整備兵さんの方じゃないですか!」ブンブン
整備兵「ごめんごめん」ハハハ
漣(朝っぱらから何ですかこの謎の甘い空気)
提督「おはよう。全員揃ってい……」
バァン!
ダダダダダッ!
神通「姉さん、那珂ちゃん、早く……」
川内「いやー、危なかったけど何とか間に合ったね!」
那珂「那珂ちゃんセーフ!那珂ちゃん滑り込みセーフだよっ!」
提督「……」ギリッ
龍驤「……あー、あかんわこれ」
鳳翔「あらあら……」クス
川内「ま、まさか冷奴に醤油をかけさせてもらえないなんて……」
那珂「那珂ちゃんなんて、納豆を何もかけないでそのままだよぉ……」
提督「」ジロッ
川内・那珂「ひぇー……」
提督「……今日の連絡事項は一つだけだ。急な話だが、寄越日の元帥艦隊との演習が行われることになった」
鈴谷「しつもーん!それっていつのことー?」
提督「明日だ」
鈴谷「へえ、明日かー……って、えっ!?」
ザワザワザワザワ
提督「だから急な話だと言った。だが、うちの艦隊は何度も元帥の艦隊と演習をしたことがあるだろう。普段から鍛錬を積んでいれば、今度も良い戦いができるはずだ」
整備兵「……元帥の艦隊と演習をしたことがあるのか!?」ヒソヒソ
漣「何回もありますよ」ヒソヒソ
白雪「す、凄いんですね。ここの皆さん……」ヒソヒソ
漣「ご主人さまが元帥様と協同作戦をしたりして、結構仲が良いらしくて」ヒソヒソ
整備兵「やっぱり、元帥の艦隊は強いのか?」ヒソヒソ
漣「私たちも、勝てたことはほとんどありません。金剛型姉妹と正規空母の加賀さんという人が、特に恐ろしく強いんですけど……」
翔鶴「演習はいつも通り、六対六ですか?」
提督「ああ、そうだ」
瑞鶴「艦隊構成はいつ決めるの?」
提督「これから俺の方で考える。明日の朝には伝えられるだろう」
瑞鶴「……今度こそ、あいつに勝ってみせるんだから……!」ボソッ
龍驤「まあまあ、そう毎回加賀はんが出張ってくるとも限らんし、肩の力抜きぃや」ポンポン
鳳翔「演習で大切なのは相手に勝つことではなく、相手の良い所を吸収することですよ」
瑞鶴「そ、そうだけど……」
瑞鶴「翔鶴姉……分かった!一緒に頑張ろうね!」
翔鶴「ええ」ニコッ
提督「もう質問は無いようだな。では今日は内洋艦隊と外洋艦隊に分かれて、港付近で艦隊単位での戦闘訓練を行うように。内洋艦隊側には白雪がいるので俺が付く。整備兵は工廠だ」
全員「はい!」
ヨーシガンバロー
ヤレヤレ
ゾロゾロゾロゾロ
整備兵「構わないよ。艦娘としての訓練の方が大事だ。こっちは何とかなる」
白雪「はい。……あの、頑張ってください」ニコッ
整備兵「ああ、白雪もな」
整備兵(ただ仕事に行くだけで白雪みたいな子に労ってもらえるなんて、良い仕事だな……)
漣「整備兵さん、何だか表情が緩んでませんか?」ジトー
整備兵「……!い、いやいや、そんなことは無い」
整備兵(まずいまずい。……そうだ、どうせここからはひたすら工廠長にこき使われるだけの一日だ。気を抜くのは良くない)
漣「……」ジーッ
整備兵「……」ダラダラ
漣「……ささっ、ご主人さま。今日の訓練も頑張りましょうね!思えば最近、あまりご主人さまと一緒に訓練していませんでしたし!」
提督「ああ、そうだな」スタスタ
漣(……こっちはこっちで、どうしてこんなに素っ気ないんでしょう)ムスッ
提督「どうした?白雪ならもう龍驤に連れて行かれたから心配無いぞ?」
漣(……むかむか)
整備兵「お、俺ももう行くか。また昼にな」スッ
漣「……」キッ
ゾクッ
整備兵(い、今、何やら寒気が……)
ガラガラガラガラ
整備兵「誰かいるかー?」
ゴッチャゴッチャ
整備兵(うわ、相変わらず整理整頓の言葉の欠片も無い職場だな……)
工廠長「おう、来たか若造!」ガタッ
整備兵「おはよう、工廠長」
工廠長「大して早くもねェよ。すっかり待ちくたびれちまったぜ。早く入んな」クイクイ
整備兵「あ、ああ……」
整備兵(ぶっきらぼうというか、普段からこういう感じの性格なんだろうな……)
工廠長「あん?」トコトコ
整備兵「今日はいないのか?あの、女神って名前の妖精は……」スタスタ
工廠長「あー、女神の奴なら今は留守だな。あれはいつもここにいるわけじゃねェ。国中のあっちこっちを転々としてんだよ」
整備兵「国中を?それはまた、どうして……」
工廠長「……」
整備兵「どうしたんだ、工廠長?」
工廠長「……いや、俺もそれは知らねェな。あれがたまに来るときも、何をしてんのかは分からねえ。ただその辺に座ってるだけよ」
整備兵(ますます女神が何をしている妖精なのか分からなくなってきたぞ……)ウーン
工廠長「……」
整備兵「……今日は、装備の開発をするんだよな?」
工廠長「ああ。じっくり見て流れを掴んどけ。これからやってく仕事の中でも、修理と並んで頻繁にやる作業だからな」
整備兵「建造はあまり頻繁にできないから、修理と開発が同率一位ってことか」
工廠長「良く知ってるじゃねェか」
整備兵「提督に教えてもらったんだよ。例えば今日とかも、建造はできないんだろ?」
工廠長「ああ……できねェな。今日は無理だ」
整備兵「工……」
工廠長「よし、着いたぞ若造。この区画で装備開発をする。……とりあえず、最初にやることは昨日と同じだ」
整備兵「あ……えーと、昨日と同じ……まさか資材運びか?」ゲッ
工廠長「そうだそうだ。俺達より何倍も体がでけェんだから、まずは肉体労働で奉公しやがれ。行動は素早く!」
整備兵「……へい」
工廠長「おら、お前らも手分けして運べ!新入りに任せてお前らが鈍ってたら笑いもんにもなりゃしねェぞ!」
工廠妖精達「「「分かりましたぁー!!」」」
工廠妖精B「災害防止、事故撲滅!今日も安全第一でいくっスよ!」
工廠妖精達「「「おぉー!!」」」
整備兵(今日もしょっぱなから大変そうだな……)
整備兵「……でも工廠長、こんなに床が物で溢れかえってたら、作業がしづらいどころか持ってきた資材の置き場所を作るのも大変じゃないか?」チラリ
工廠長「俺達ァもう慣れちまったけどなあ」
整備兵「慣れとかそういう問題じゃないだろ……」
整備兵「……え、いや待て。俺がやるのか?」
工廠長「直すべきところは気づいた奴が直す、だ。よし、よしよし……それがちょうど良いな。若造、これからは工廠の片付けも少しずつやっていくから、その時は中心になって進めろ」
整備兵「ま、待て待て待て!何をどこに置くべきかとかも全然分からないぞ!建物内の土地勘みたいなものも……」
工廠長「その辺は俺か他の妖精共に聞けば良い。まあこの際だ、新人研修にちょっとばかし追加ってとこだなァ」ニヤニヤ
整備兵(こ、これが藪蛇か……)ガーン
工廠長「けどまあ、その前にまずは資材運びだ。どの仕事も手を抜くんじゃねェぞ!」
整備兵「……へいへい」ドンヨリ
整備兵(日が昇ってだんだん暑くなってきたな……くそ)
ドンッ
整備兵「……ふう。これで全部か」
工廠長「運び終わったな?そんじゃお待ちかねの、装備開発と洒落込もうじゃねェか」
資材「」テンコモリ
整備兵「しかし、ものすごい量の資材だな……一度にこんなにたくさん使うのか?」
工廠長「あァん?使うから出したに決まってんだろうが」
整備兵「いや、そうだが……それに、これだけ運び出したっていうのに資材庫はまだまだ資材で一杯だったぞ。随分と潤ってるんだな……」
工廠長「まあ言われてみれば、モノに困ったなんて事ここでは一度も無ェな」シレッ
整備兵「……そういうセリフ、俺も一度は言ってみたいもんだ」ズーン
整備兵(提督は戦闘指揮も優秀だしやり手だからな……きっと、レシピを活用して開発に必要な資材を上手く節約しているんだろう)
工廠長「よし、じゃあ早速一回目だ。A班運搬開始、B班加工用意!300/300/300/300!復唱!」
工廠妖精A「うんぱーん、始めー!300/300/300/300!」
工廠妖精B「かこーよーいっス!300/300/300/300っス!」
工廠妖精達「「「うおぉーっ!!」」」バタバタ
整備兵(300/300/300/300……レシピを簡略化した呼称だったな。この場合全て300単位か。確か昨日読んだ本によれば……)
『――妖精が開発を引き受ける最少資材量を10単位と定義し、使用する資源量はこれを基準として相対的に計量する。一回の開発に妖精が使用できる資材は各300単位が限度であると考えられており――』
整備兵(……いや間違い無い。全資材300単位はこれまでの試行実験上、一度に妖精が扱える限界量だと書いてあった。資材消費が酷いせいで、このレシピは本にも試行の記録がほとんど無かったはず……)
整備兵「なあ工廠長、今までの装備開発の記録は残ってるか?行った日付とか使用資材とかが書いてあるやつだ」
工廠長「ん、ああ、それならこっちの棚に……ほらよ」ポン
整備兵「ありがとう」
ペラッ
整備兵「……ぅ」
ペラリ……ペラリ……ペラリ……
整備兵「……け、建造の記録も、見せてくれ!」
工廠長「あん?急に血相変えてどうした?建造、建造……ほら、これだ」ポン
整備兵「……」ガバッ
ガサガサ……ペラッ
整備兵「……め…………ろ」ブルブル
バサッ
整備兵「や、やめさせろ、開発を。今すぐだ」ブルブル
工廠長「何だとォ?折角準備が整っ……」
整備兵「この記録全部借りるぞ。俺は少し提督のところへ行ってくる。悪いけど待っててくれ」ダッ
ガラガラガラ……ガタンッ
工廠長「……」
工廠妖精A「……」
工廠妖精B「……」
工廠妖精達「……」
ザザーン ザザーン
提督「……よし。全員、岸に上がれ」
漣「ふぃー、やっと休みだー……。最初から総合訓練でかなりハードだったけど、白雪ちゃん大丈夫?」
白雪「はぁっ、はぁっ……う、うん、初めてだからあんまり上手くできなかったかもしれないけど……司令官や漣ちゃんたちが色々教えてくれたから」ニコ
鳳翔「いえいえ。初めてなのに、白雪さんはとても頑張ってついて来ていたと思いますよ」
龍驤「航行中の重心移動なんて、ウチより上手いかもしれへんなぁ」ニッ
白雪「ま、まさか……」
全員「はい!」
提督「まず鳳翔、いつも通り危なげないな。だが航行の際に、近くの者の動きを見て配慮しすぎる傾向がある。確かにそのおかげで艦隊運動がスムーズになっているが、あまり他の者が甘やかされても困る。少なくとも訓練では、もう少し自由に振舞って良いぞ」
鳳翔「はい、分かりました。気を付けますね」ペコリ
白雪(鳳翔さんが何度も進路を譲ってくれてたの、やっぱりわざとだったんだ……)
提督「次、龍驤。直線移動は申し分無いが、やはり回頭時に左右のバランスを崩しやすいのが見ていて怖いな」
漣「龍驤さんは仕方ないですよ、昔からそういうクセがありますから」
龍驤「せや。しゃーないやろ、もともとそういう艦形なんや……って何言わせてんねん!」バシッ
漣「いててっ」
龍驤「ふっふーん、こりゃ、もう鳳翔はんに艦載機の特訓をしてもらう必要が無くなるのも時間の問題かもしれへんな」ドヤァ
鳳翔「あら、でしたら、次からは航行訓練を増やしていきましょうか」ニコッ
龍驤「そっ、それは堪忍……!」
提督「次に漣。概ね穴の無い動きだった。ただ、電探を背負っているときは、重みで体のひねりが遅くなり砲撃が不正確になりがちだ。まだ配備されて間も無いから仕方ないが、ゆくゆくは慣れるようにしろ」
漣「了解ですご主人さま!」
提督「……それと」
漣「何ですか?」キョトン
漣「まっかせてください!古参の貫録は伊達じゃありませんよ!」
白雪「……漣ちゃん、ありがとう」
提督「最後に白雪だが……航行訓練では何とか遅れず食らいついていた上、射撃も回避も連続でなければかなり優秀な成績だ。一回目の訓練にしては上出来過ぎるくらいだと言える。十分、自信を持って良い水準だろう」
漣「おおー!」パチパチ
龍驤「大型新人、到来ってとこやな。もっと喜んでええで?」パシパシ
白雪「いえ、そのっ、それほどでは……」カァァ
提督「しかし、まだ荒削りな部分も多い。一番は……そうだな、主砲を構えてみろ」
白雪「はいっ」ガシャン
提督「わずかだが、体の向きが前に出した足と反対側に曲がっている。これは主砲、さらに魚雷発射管の方向にまで影響し、砲雷撃の命中率を下げる原因になりやすい」
白雪(そ、そうだったんだ……自分だと、今まで気づかなかったなぁ……)
提督「肩の力は抜く。上腕よりも、まず肘から先がぶれないように真っすぐ伸ばして固定しろ」
白雪「……」スッ
提督「そして、拳もう一つ分だけ腰を落とせ。発射管が水面に近づくから、魚雷が海中へ進入する角度が浅くなり初速が上がる」
白雪「……」グッ
提督「なかなか良くなった。……では15分の休憩の後、再び海上での訓練を再開する。一旦解散」スタスタ
漣「白雪ちゃん、水、水飲みに行こうよー……」グデー
白雪「今日も暑いからね……そうしよう」アハハ
白雪(訓練は結構厳しいけど……司令官もみんなもとっても分かりやすく指導してくれるし、頑張れそう)ニコ
ワイワイガヤガヤ
提督「……?」
ダダダダッ
整備兵「おい、提督……ちょっと、話良いか?」ゼエゼエ
提督「どうした。まだ昼までは時間があるぞ?それとも、そんなに早く終わったのか?」
整備兵「これを見ろ……これを……」パッ
提督「開発と建造の記録がどうした?」
整備兵「内容だ内容!どうして開発も建造も、全部資源量最大でやってるんだよ!」バンバン
提督「ああ、工廠妖精達がそのレシピをいやに推すものでな。それなら、妖精の好きなようにさせてみようと思っただけだ」スズシゲ
提督「そうか、そんな本が入っていたのか」
整備兵「……は?」
提督「あの本棚はどこかの物置きの奥から出てきたものでな。お前の部屋の風呂へ続く戸を隠す嫌がらせのために、漣と鈴谷が運んだやつだ。だから、俺はその本棚の中身は知らん」
整備兵「何やってんだあいつら!……じゃなくて、となるとお前はレシピとかの本を読んだことは無いのか?」
提督「無いな。もちろんレシピも全く分からん」
整備兵「……て、提督さん、い、今、何と?」ガタガタ
提督「開発も建造も、直接俺が手出しできるものじゃないからな。まあ正直に言えば、あまり興味が湧かない」
整備兵「」ボーゼン
整備兵「……一つ、聞くぞ」
提督「何だ?」
整備兵「お前の開発・建造に対する考え方を一言で教えてくれ」
提督「考え方か……」フム
提督「……妖精達にやる気があればそれで良い、だな」ウナズキ
整備兵「そうか、良く分かったよ。ありがとう」ニッコリ
カキカキ
バンッ!
整備兵「……これに今すぐハンコ押せ。開発と建造を指示する権限は俺がもらう」
整備兵(開発・建造の記録書を調べるため、間宮さんに食堂を借りたは良いが……)
ペラッ……ペラッ……
整備兵「はぁ……300掛ける12で3600、足して11100……これで今年度分……」カキカキ
整備兵(提督の野郎、開発だけでどれだけ資材使ったんだ……まだまだびっしり記録があるぞ……)
整備兵(しかも、これに加えて建造に使った資材もある……本によれば建造は失敗が無いらしいから、建造は12引くことの2で10回……)
整備兵「999掛ける10、9990……嘘だろ……」カキカキ
整備兵(開発や建造は控えめに言ってもすさまじく雑だが、提督はこの前の戦闘も完璧に指揮していたようだし、他の物事にはむしろ鋭いはずだ……。したがって、開発・建造により艦隊運営に実質的な支障が出れば、やり方を改めようとするだろう)
整備兵(しかし、資材庫の様子や工廠長の話から考えても、事実この鎮守府は資材不足とは無縁。だからこそ、この有り得ないようなレシピが使い続けられてきたんだろうが……)
整備兵(建造はともかく、通常のレシピを使えば開発は今の何倍もできる資材量……人類が反攻を開始しつつあるとはいっても、赤レンガがこれほどの資源を支給してくれるわけがない。何か、これだけの資材消費を可能にする理由があるに違いない)
整備兵(海軍では普通、各根拠地ごとに、資材を得るための遠征――資源地帯からの輸送任務など――を日々行っているはず。それならあるいは……?)
整備兵(……いや、それも違うか。この鎮守府には遠征用の艦隊がいないんだった。ここに来て三日、どの艦娘も遠征をする気配すら無い。昼はもちろん、夜もみんな鎮守府に残っているし……)
整備兵(その都度艦隊を組んで、不定期に遠征を行っているんだろうが……それだと遠征の回数がかなり減る。この量の資材をまかなうのは難しいんじゃ……)
整備兵(というか、そもそも俺の考え方が貧乏くさいだけで、鎮守府ともなるとどこもこのくらい羽振りが良いものだったりするのか……!?)ガーン
整備兵「あー、訳が分からん……」クタッ
ワイワイガヤガヤ
整備兵(ドアの外が騒がしい……みんなが帰ってきたのか?)
ガチャッ
漣「――それでね白雪ちゃん、そのとき漣が……あれ、どうしました?」
白雪「整備兵さん、ずいぶんお疲れですね……」
整備兵「いや、そんなに体力は使ってないんだけどな……白雪達こそお疲れ。大変だっただろ?」オキアガリ
漣「白雪ちゃんってばすごいんですよ。初めてなのにばっちりついて来れてましたし、ご主人さまは『上出来過ぎるくらいだ』って……」
整備兵「おお、流石だな白雪」
白雪「ばっちりは言い過ぎだよ漣ちゃん……司令官や皆さんに、教えていただいたおかげです……」ウツムキ
漣「さすが白雪ちゃん、その上奥ゆかしさも完備だなんて……」
白雪「も、もうやめてよっ!///」
整備兵「はははっ……」
漣「そういえばそうですね。どうして昼前から食堂にいるんです?まさか、サボりですか……」ジトッ
整備兵「断じて違う。……本当は装備開発をする予定だったが、少し問題が起こったから午後に持ち越しただけだ」
白雪「問題……ですか?」
整備兵「ああ……とんでもない問題だ……」ズーン
漣「それって、一体どんな……」
ガチャッ
鳳翔「それなら良いですけれど」ニコッ
龍驤「お、おう!任しとき!」アセアセ
川内「やっと昼だー……。眠いのに訓練なんかしたら、お腹空いたよ……」フワァ
那珂「この香り!今日はカレーだねっ!」
間宮「はーい。皆さん、お待たせしました。お昼はビーフカレーですよ」ガラガラ
白雪「外洋艦隊の皆さんも終わったみたいですね」
漣「もうこんな時間でしたか。整備兵さん、続きは食べながら聞かせてください。……漣は、カレーの人参を獲りにいかなければなりません」
鈴谷「カレーも鈴谷が一番乗りぃ!人参はもらったぁ!」バァン
漣「こういう輩が来るからですよ!……そこっ!止まりなさーいっ!」ダダッ
ワーワーギャーギャー
白雪「……あの、整備兵さんは取りに行かなくて良いんですか?」
整備兵「俺はこのページだけチェックした後で取りに行くから、最後で良いよ」
白雪「でしたら、私が自分の分と一緒に持って来ますね」ニコ
整備兵「……本当か!ありがとう、助かる」
白雪「はい、では」トコトコ
整備兵(あまり白雪に頼っていると、こっちがダメな奴になりそうだ……気を付けよう)
整備兵「漣も、レシピのことは知らなかったのか?」
漣「はい。知っていれば、ご主人さまと話をしましたし」
整備兵(仕方が無いか……。艦娘の役割はそもそも戦うことで、開発や建造をすることじゃない)パクパク
白雪「私も工廠のことはまだほとんど知りませんが……そのやり方で良いと言われれば、そう思ってしまうと思います」
整備兵「うーん……」
整備兵(……自分が全く知らないことについて疑問を持つことはできない、だな。その通りだ)
整備兵「じゃあ漣、それと関連することなんだが……」
漣「……あっ!」ピョン
整備兵「な、何だ急に」
白雪「どんな仕事があるの?」
漣「お昼前に赤レンガからお手紙が届くので……もぐもぐ、取りに行くはずだったんですよ……ごっくん」
整備兵「食べるか喋るかどっちかにしろ」
漣「ごちそうさまでした!……というわけで、漣は少し出ますね。すぐに戻ってきますから」トコトコ
ガチャバタン
白雪「整備兵さん、さっき漣ちゃんに何か言いかけていましたよね?」
整備兵「ああ。この鎮守府が膨大な量の資源をどうやって集めているのか、それを聞こうと思ったんだ」
白雪「……確かに、それは気になりますね」
整備兵「……そういえば、白雪はここに来てから、遠征の話を聞いたことはあるか?」
整備兵「ああ、そうか……遠征っていうのは、鎮守府が独自に資材を手に入れるため、遠方からの資源輸送をしたりすることだ」
白雪「つまり遠征をしていれば、これだけの資材を集めることも可能かもしれないということですね。……でも今のところ、そういう話を聞いたことはありません。輸送任務なら、私みたいな新人がまず任されると思うのですが……」ウーン
整備兵「……」
整備兵(他の誰かにも聞いてみるか。提督は……)チラ
提督「……前進待機、ここで戦闘機隊が到着……距離6000、地点到達まで10分……」サラサラ
間宮「お昼まで作戦立案ですか?お体に障りますよ?」
提督「せっかくの間宮の飯を片手間にしてしまってすまない。しかし……」ペラリ
間宮「演習に備えてですよね。でも、一人で何でもやらないで、たまには休んでくださいよ?」フフッ
提督「分かっている。だが、万全の戦術を練っておきたいからな」サラサラ
整備兵(……忙しそうだ)
整備兵(そうだ、鳳翔さんに聞いてみよう。空母の中でも一番昔からいるそうだし、鎮守府にも詳しいかもしれない)スッ
整備兵「鳳翔さん、少し良いですか?」
鳳翔「ええ、何でしょうか?」
整備兵「この鎮守府では遠征をどのくらいしているのか、分かりますか?ここの資源事情が少し気になって……」
鳳翔「遠征……ですか。以前はしていましたね」
整備兵「以前は、ですか?」
鳳翔「以前と言ってもかなり昔のことで……まだ艦娘が、間宮さん、漣さん、神通さん、私しかいなかった頃くらいまでです」
整備兵「確かに、相当昔ですね……って、逆にそれ以降はやっていないということですか?」
鳳翔「そうですね……はい。ここ一、二年は全く無かったと思います」クビカシゲ
整備兵「そ、そんなわけ――!」ガタッ
整備兵(それなら、一体全体この資材はどこから出てるって言うんだ?どうやって手に入れているんだ?)
龍驤「整備兵はん、キミ今えらい目立っとるで……。どないしたんや?」
整備兵「え?」
艦娘達「……」ジー
提督「……」サラサラ
整備兵「あ、わ、悪い。今座る……じゃない!龍驤、聞きたいんだが……」
龍驤「何や急に……食堂にいる全員が聞いとるんや。大した話やなかったら怒るで」ジトッ
整備兵「鎮守府に必要な資材は、どうやって手に入れてるんだ?遠征はどうしてるんだ?」
龍驤「そんなことかいな……簡単や。まず、作戦で深海棲艦に支配されてる地域に行くやろ?敵倒すやろ?」
整備兵「あ、ああ……」
整備兵「…………は?」
鈴谷「この前のカレー洋なんてすごかったよねー。作戦のついでに占領した島から、鉄鉱石が出たんだっけ?」
熊野「そうですわ。あの島から特別に鋼材を送ってもらえるようになって、とても楽になりましたわね。まあ、私たちが確保したのですから当然ですけれど」フフン
瑞鶴「何と言っても、一番は私と翔鶴姉が獲ってきた南西諸島よね。油田もボーキサイト鉱山もあるし、西方海域よりも近いし」
川内「南西諸島海域なら、私も護衛でバッチリ活躍したからね。……夜戦は無かったけど」
那珂「那珂ちゃんも忘れないでよー!」プンプン
翔鶴「でも確か、私たちが攻略した資源地帯が多すぎて、いくつかは他の鎮守府に移管したのでは……」
瑞鶴「そのかわり、提督さんが交換条件として弾薬の支給量を上げてもらったんだから良いじゃない」
鈴谷「提督ったら、いつもそういうトコ汚いからねー」ニヤニヤ
熊野「汚くはありませんわ。提督も私たちも、働きに対して正当に報奨を得ているだけですわよ」
整備兵「」ポカーン
整備兵(じ、常識が、通じない……こんな前代未聞の戦争経済があってたまるか……)
整備兵「……じ、神通!どうだ?神通も、結構昔からいるんだろう?輸送任務とか、やったことは無いか?」
神通「え、えっと、あの……夜間の鼠輸送のお手伝いを……」
整備兵「そ、そうか!そうだよな!」ホッ
那珂「でもお姉ちゃん、その輸送中に敵艦隊と出くわして、うっかり物資を投げ捨てて撃滅しちゃったんだよねっ!」
整備兵「え」
神通「あ、あの!私、そんなつもりは無くて……!///」
川内「今でも伝説になってるよ?たった一人の軽巡洋艦の前に、襲撃してきた敵水雷戦隊は一隻残らず炎上爆沈。自分の分の物資は落としちゃったけど、他の艦を守った武勲を認められて感状もらったんだよね。あー、私も夜戦したかったなー!」ブーブー
神通「~~!」カーッ
整備兵「じゃ、じゃあ何だ?この鎮守府はずっとそうやって資材を調達してきたってことか?」
艦娘達「」コクリ
整備兵「も、もしだ。もし資材が足りなくなったらどうするんだ?」
瑞鶴「そんなことまず無いと思うけど……。そうなったら、次の敵拠点を制圧して資材を手に入れれば良いじゃない」キョトン
整備兵(そ、それ、もはや海軍と言うより海賊の思考だろ……)アセアセ
整備兵「制圧してって……で、できなかったら?」
翔鶴「提督の指揮と私達の努力があれば、どんな敵にも必ず打ち勝つことができる……少なくとも私は、そう信じて戦っています」ジッ
整備兵「いや、その闘志は素晴らしいけど!でも!」
整備兵(ほ、鳳翔さん……)チラッ
鳳翔「?」チラッ
鳳翔「……何か、おかしな点がありましたでしょうか?」ニコ
提督「……ん?」ピタッ
提督「別にそれほど驚くことも無いだろう。モノもカネも、有る所には有るものだ。俺やお前には想像も出来ないくらいの量がな。俺は艦娘達の力で少しだけそこから分け前をもらい、その分け前で艦娘達が強くなる手助けをしている。それだけだ」シレッ
整備兵「あ……ああ……」ウツロナメ
ガチャッ
漣「~♪」フンフンフーン
整備兵「さ、漣!良いところに来た!漣が最後の砦なん……」
漣「ご主人さま、赤レンガからお手紙です!『リランカ島空襲作戦における貴艦隊の功績を認め、海軍省及び軍令部は、暮鎮守府への燃料とボーキサイトのさらなる追加支給を決定した』……やりましたね!」
提督「ふむ……何とかこちら有利の妥協案を飲ませられたか。上出来だな。全く、最近はあちらさんも財布の紐が固くてかなわん」サラサラ
漣「もう、ご主人さまったら……」ニコニコ
整備兵「……あ、あは、あはは、あははははっ……」フラフラ
バタリ
整備兵「」チーン
白雪「大丈夫ですか……?」トコトコ
整備兵「……も、もう平気だ。ようやく頭が現実に追いついてきた。しかし、ここはとんでもなく奇抜な鎮守府だな……」スタスタ
白雪「私も少し驚きました。そういう手があったのか……と」
整備兵「他の鎮守府じゃ、そうそう有り得ないやり方だよ。そもそも戦果をあんなに上げ続けられる方がおかしい。もっとも、ここの皆はそれを普通だと思ってるみたいだがな……さてと」
ガラガラガラ
整備兵「工廠長、いるかー?」
白雪「お邪魔します……」ソロソロ
バッ
白雪「……きゃっ!?」サッ
整備兵「うおっとっと……白雪、とりあえず、工廠長にレシピ変更の話をつけるから待っててくれ」
白雪「はい……」
整備兵「……いや、悪かった。提督と話をしてな。装備開発の新しいやり方を考えていたんだ」
工廠長「新しいやり方だとォ?」ジロリ
整備兵「具体的には、一回の開発に使用する資材量の変更だ。今までの資材量でやるよりも効率的に装備を生み出せる比率を採用する。具体的には――」ガサガサ
整備兵「――この本に書いてあるレシピを使いたい。目下の最優先課題は艦載機の更新だ」ペラッ
工廠長「あァん、なになに……けっ、んなもん使えるかよ」
整備兵「え?」
工廠長「誰かが決めた方法に従ってもなァ、やりがいってもんがこれっぽっちも無ェんだよ。もっと誰も考えてねェような方法を使った方が……」クドクド
工廠長「だからつまみ上げるなって言ってんだろうがァ!」ブラブラ
整備兵「そういえば、提督にあのレシピを勧めたのは工廠長達なんだってな?」
白雪(なかなか折り合いがつかないのでしょうか……)
工廠長「だ、だから何だよォ」
整備兵「今はそんなやりがいとかにこだわってる場合じゃないんだよ……事実として、この鎮守府の装備開発の遅れはかなり深刻だ。今のところは何とかなっているが、いつこの事が戦況に響いてくるか分からない。深海棲艦を全て倒してこの戦争に勝つためには、どうしてもより強力な装備が要る」
白雪「……」
工廠長「……」ムスッ
整備兵「その方が俺にも提督にも工廠長達にも、そして何より艦娘達にも、余計な負担や被害を出さずに済むんだ。……どうだ、協力してくれないか。頼む」ペコリ
整備兵「?」
工廠長「あん?」
白雪「私には工廠長さんの声が聞こえないので、話の筋を読み違えているかもしれませんが……一つだけ言わせてください。やり方を今までとすっかり変えてしまうのは大変だと思います……でもそれも、私を含めた鎮守府のみんなが戦って――生きのびるために、必要なことなんです。だから、その……整備兵さんの話を、聞いてあげてください。お願いします」ペコリ
整備兵「白雪……」
工廠長「……」
整備兵「……」
工廠長「……良い加減下ろせってんだ」ピョン
シュタッ
工廠長「……若造の言い分は分かった。俺ァ人間に資材を恵んでもらってる方だからな。そう言われりゃ従わないわけにはいかねェよ」
工廠長「とりあえずこれからは、若造の言うレシピとやらで開発することにしてやるよ」フン
整備兵「おおっ!ありがとう工廠長!……白雪、俺達の考えに賛成してくれるってさ」
白雪「ありがとうございます、工廠長さん!」パアァッ
工廠長「……けっ」
整備兵(最初はどうなることかと思ったが、工廠長も分かってくれたみたいだ。これなら何とか……)
工廠長「……おい、野郎どもォ!」
工廠妖精達「へーい……」ションボリ
整備兵(全員、露骨にやる気無えっ!)
工廠妖精B「もっとこう、資材がうず高く積まれてないとつまんないっスー……」ダラー
工廠妖精達「はぁ……」ポケー
整備兵「いやいや、開発って普通そういうものじゃないから」アセアセ
整備兵(資材を浪費するのが楽しすぎて中毒になってるな……末期だろこれ)
整備兵「……おい、工廠長も、いつもみたいに何とか言ってやれよ」
工廠長「何かそう言われると、俺もやる気が出ねェよ……やっぱり今日はもう休むか……」ズーン
整備兵「一緒になって落ち込むなよ!?……ほら、立った立った!自慢の技を見せてくれるんだろ?」ポンポン
工廠長「分かった、分かったよ……お前ら、いつも通りだ。準備始め……」
工廠妖精達「あいあいさー……」ノロノロ
整備兵「ああ……」
整備兵(この調子だと、もしかしたら開発そのものにも影響が出るんじゃ……)
提督『……妖精達にやる気があればそれで良い、だな』
整備兵(まさか提督、このことを見越して……)チラッ
工廠妖精A「……」チラッ
工廠妖精B「……」チラッ
工廠妖精達「……」ジッ
整備兵(や、やっぱり、少しぐらいなら今のレシピも……)
整備兵(大丈夫だ。俺には膨大なデータと近代統計学がついている……レシピを信じろ……)グッ
工廠妖精達「……」ショボン
整備兵(う、胸が痛む……)キリキリ
整備兵(しかしここは心を鬼にして……!)フンッ
白雪(整備兵さん、どうしたんでしょうか……)
工廠妖精A「……」チラッ
工廠妖精B「……」コクッ
工廠長「……さてと、いつまでも落ち込んじゃいられねェ!俺達はプロだ。どんな時でも最高の仕事をする、それだけよォ!」スクッ
工廠妖精B「加工班、作業開始っス!」ピョン
工廠妖精達「「「へいっ!」」」
整備兵(流石、一度作業を始めればいつも通りの動きだ)
工廠妖精達「ふっ、ふっ……」シュンシュン
整備兵「おお……資材がみるみる細かく成形されていくな……」ジー
白雪「はい。動きが速くて、目で追うのも大変です……」ジッ
トンテンカンテン
整備兵「開発にはそこまで時間がかからないんだよな?」クルッ
工廠長「ああ、長くても一分以内には終わる。ほら見ろ」
整備兵「も、もう出来たのか!どうだ……?」クルリ
工廠妖精達「「「作業完了、てっしゅーう!」」」ダダダッ
白雪「整備兵さん、艦載機です!」
整備兵「本当か!?」ダダダッ
スッ
整備兵「中翼配置、細身の胴体に爆弾倉……彗星か!」
白雪「やりましたね!」
整備兵「最初から新型機だ、幸先が良いな。ほら工廠長、やったぞ!ちょうど欲しかったものだ」
工廠長「ま、俺達に任せりゃチョロい仕事よ」ドヤァ
工廠妖精達「「「どやぁ」」」
整備兵「さっきまでこの世の終わりみたいな顔してたのは誰だよ」
白雪「あ、あはは……」
工廠長「んで、後どのくらいやれば良いんだ?流石に一回とは言わねェだろ?」
整備兵「そうだな……とりあえず、工廠長達は持ってきた資材が無くなるまで開発を頼む。何回やって何が出来たかは開発記録に書いておいてくれ」
白雪「整備兵さん、私たちはどうしましょうか?」
整備兵「工廠の整理を始めよう。まずは今日中に、既に作られた装備品を一か所にまとめて、何がいくつあるのかを確認するところまで行きたい。工具類は妖精達が使うだろうから、また今度で良いだろう」
白雪「分かりました」ニコ
整備兵「ふう。時間はかかったけど、だいぶ片付いたな」
装備品「」ドッサリ
白雪「今までたくさん開発してきただけあって、装備のストックも大量ですね……」
整備兵「しかし、艦載機は絶望的だな。このわずかばかりの九六式艦戦なんて、果たして使える時が来るのか……」チラッ
白雪「でも、機銃や副砲は充実していますね」
整備兵「ああ。7.7ミリ機銃……15.2センチ単装砲……15.5センチ三連装副砲……。これなんて掘り出し物だぞ、大和型にしか積まれなかった九一式徹甲弾だ。今のところ、この鎮守府じゃ使いようがないけどな」
白雪「何だかもったいないです……」
整備兵「まあ、活用法は後々考えよう。このレシピがその辺の装備を良く生み出すレシピだってことは分かった……あまり嬉しい発見の仕方じゃないが」ハァ
整備兵「さてと……今日も遅くなっちゃったな。工廠長から今日の分の開発記録を受け取ったら帰るか。白雪も、午前中は訓練だったから疲れただろ?」
整備兵「着任早々、変な仕事ばっかり手伝わせて悪い。できれば、艦娘としての職務に集中させてやりたかったんだけどな……」
白雪「……いえ。両方の仕事をこなすのは大変ですが……それでも私は、やっぱりこれからも整備兵さんの補佐官をしていきたいと思っています」
整備兵「どうしてだ?」キョトン
白雪「整備兵さん、さっき工廠長さんを説得するときに言いましたよね。『何より艦娘達にも、余計な負担や被害を出さずに済むんだ』……と」
整備兵「うん……?」
白雪「その言葉を聞いて、私、整備兵さんは私たち艦娘のことを本当に大切に思ってくれているんだなあと思ったんです。だから私も、整備兵さんのお仕事を手伝いたいな……と」
整備兵「は、ははは……照れるな」ポリポリ
白雪「……そ、」
整備兵「?」
整備兵「……!」ドキッ
白雪「……すっ、すみません!私、あの……///」カーッ
整備兵「あ、ありがとう。期待に応えられるように、俺も頑張らないとな……」メソラシ
整備兵(何ドキッとかしてんだ。これは単に、俺の真摯な職務遂行態度が仕事上の評価の対象になった、ただそれだけの事……そうだそうだ……)ウンウン
整備兵(しかし、普段は真面目な白雪も、笑うと……)ボー
整備兵「……待て待て待て!」ガンガン
白雪「ど、どうしたんですか!?」
整備兵「だ、大丈夫。少し壁に傷がついただけだ」ゼエゼエ
整備兵「ほら、行くぞ。今度こそ夕飯に遅れそうだ」スタスタ
白雪「ま、待ってください!」タッタッ
整備兵「え……ああ、記録か。悪い。ありがとな!」フリフリ
タッタッタッタッ……
<セイビヘイサン、ハヤイデスヨ……
<ゴ、ゴメンゴメン……
工廠長「……」ニヤニヤ
工廠長「……♪たぁた~え~よわ~が青春を~」クルッ
工廠長「♪い~ざ~ゆ~け、遥か希望のお~かを越~えぇて~」トコトコ
工廠妖精B「急にどうしたっスか?桜の季節はもう終わったっスよ?」キョトン
工廠長「そういう問題じゃ無ェんだよ、こいつはな」ニヤニヤ
??「……さ…………さん……」
??「……な、に……?」
??「……聞こえ……ますか…………」
??「……ええ。……まさか、あなたが……?」
??「そうです。……状況は、私がかいつまんでお伝えします。同胞のため、ご一緒に、来ませんか?」
??「こんなに遠いところまで……迎えに来るのね……」
??「私は行きますよ……どこへでも、どこまでも」
【食堂】
ワイワイガヤガヤ
漣「――それでですね、最後にはご主人さまと神通さんが、那珂さんを無理やり食堂から引っ張り出しまして」
白雪「それ、本当なの?」アハハ
整備兵「漣、何の話だ?俺にも聞かせてくれよ」クルッ
白雪「」ビクッ
漣「整備兵さんも聞きます?間宮券が創設されたときの事件の話なんですが……あれ、白雪ちゃんどうしたの?」
白雪「え、えっと、私……」
漣「?」
整備兵「白雪、どうかし……」
白雪「す、少しおかわりをもらってきます!」ガタッ
タタタッ
整備兵(昨日の夜から何となく受け答えがぎこちなかったが……避けられてるのか?)タラリ
漣「そんなにお腹空いてたのかな?普段はおかわりするところ見たことないのに……って白雪ちゃん、食器を持っていくの忘れてる」チラッ
整備兵(何だ?やはり昨日の……いやいや、でも俺、そんなにおかしな反応はしてないぞ。なんとか平静を装ったはず……!)ブツブツ
漣「……整備兵さん」ジー
整備兵「な、何だ?」
漣「白雪ちゃんと何かありました?」ズイッ
整備兵「は?い、いや別に、何も無いぞ?」アセアセ
漣「ごまかすのが下手すぎますよ……で、ケンカでもしたんですか?」
整備兵「してない」
整備兵(ああ、やっぱり避けられてたのか……)ズーン
整備兵「何でも無い。平気だ平気」
漣「強情ですねー……」
整備兵(この話を漣にするくらいなら、埠頭から助走付けて海に飛び込んだ方がまだマシだ)
整備兵「……とにかく、何でも無いんだ」
漣「ふーん……白雪ちゃんを困らせるようなことだけはしないでくださいよ?」ジロッ
整備兵「す、するかよ!」
整備兵(さ、漣の眼光が鋭くて怖い……!)
シーン
提督「今日の連絡事項は三つ。まず一つ目は演習についてだ。演習に参加する六人が決定した」
鈴谷「よっ、待ってましたー!」パチパチ
瑞鶴(今日こそ演習に出て、あいつに勝つんだから!)
提督「一人目は……翔鶴。旗艦だ。よろしく頼むぞ」
翔鶴「はい、お任せください」ニコ
提督「二人目、瑞鶴……」
瑞鶴「やったーっ!翔鶴姉、頑張ろうね!」ブンブン
提督「……最後まで聞け。瑞鶴は副旗艦だが、実質翔鶴とのダブルリーダーだ。艦隊全体の指揮を預かっていることを忘れるな」
瑞鶴「分かってるわ。必ず勝利を掴んでみせるから!」フンス
那珂「他の鎮守府から人が来るなら、やっぱり艦隊のアイドルは欠かせないよねっ!」キャピッ
川内「……うう、眠い……あれ、誰か呼んだ?」
神通「ね、姉さん、演習です。演習のメンバーですっ」ワタワタ
川内「演習……夜戦!?夜戦もあるの!?」ガバッ
提督「残念ながら昼戦のみだ。元帥は、夕方には寄越日に向かって発たれることになっている」
川内「なんだ……あー、眠……」パタッ
神通「ね、姉さん……!」
提督「いや、起こさなくて良い。どうせ演習は午後だ。それまでには目を覚ますだろう」
神通「すみません……」
漣「了解しました!漣、頑張ります!」ピョンピョン
提督「以上の者は、追って指示される装備を持って一四○○に演習場に集合すること。遅刻は厳禁だ」
六人「はい!」
鈴谷「いやー、選ばれなかったね」
熊野「そうですわね……残念ですわ」シュン
鈴谷「ま、ゆったり海辺で見学するのも楽で良いじゃん。どうする?ジュースか何か持ってく?……あ、アイスの方が良いかな!」ニコニコ
熊野「人が本気で残念がっていますのに、何ですのこの温度差は……」シラー
鳳翔「こちらが機動部隊なのは確実ですからね……。同じ機動部隊で来るか、戦艦部隊で接近を試みてくるか……元帥さんの艦隊は人数がこちらよりずっと多いですから、誰が出てくるか予想できませんね」
龍驤「それに加えて、毎回次から次へと新兵器を繰り出してくるし、ほんまに参ってまうわ。前、演習に初めて北上と大井が来たときなんか……」ズーン
鳳翔「……ふふっ、そういえば、あの時は私も龍驤さんも出撃組でしたね」
龍驤「せや。足元から突然魚雷が飛んできてドン……甲標的って何やねん。カ級やないんやで。ホンマに腰抜かしたわ」
鳳翔「確かあのお二人、演習の少し前に大規模改装されたんでしたね」
龍驤「とにかく、寄越日は次に何を出してくるかがさっぱり読めへんってことや」
鳳翔「ですが裏を返せば、私達はそのおかげでいつも新たな発見ができるんですから、損というわけではありませんよ」
龍驤「そらそうやけど……やっぱりあそことの演習は心臓に悪いわ」ハァ
全員「」ゴクリ
提督「近く、北部太平洋及び中部太平洋を作戦海域とする大規模作戦を行うとの情報が軍令部から通達された」
全員「」ゴクリ
提督「以上だ」
全員「」ズコー
瑞鶴「提督さん、それだけじゃ何が何だか分からないじゃない!もっと詳しく説明してくれないと……」
提督「まだこれしか通達されていないんだから仕方無い。詳細な作戦時期や内容はこれから伝えられるだろうから、その時はまたこうして連絡する」
瑞鶴「ふーん……分かったわ」
提督「だが、この通達はどうやら本土の鎮守府と警備府全てに届いているようだ。今までの諸作戦と比べても、一、二を争う規模の作戦になるのは間違いない」
提督「特別な備えは必要無いが、皆は改めて日々の訓練を大切にするように。そして、三つ目の連絡だが……関係があるのは整備兵と白雪だけだな」
白雪「はい……?」
整備兵「?」
提督「工廠長から伝言で、今日は工廠に一一○○に集合、とのことだ。……では、これで解散とする」
アーオワッター
イヨイヨエンシュウカー
ワイワイガヤガヤ
整備兵(一一○○……まだ時間があるな。どうしようか……そういえば、白雪は?)チラリ
整備兵(う、ちょうど目が合った……)
白雪「……あの、整備兵さん」
整備兵「何だ?」
白雪「ま、また後で、工廠で!」クルッスタスタ
整備兵「え、おい……」
シーン
整備兵(た、多分、工廠で作業するときにちょっとは話せるようになるだろう……)
整備兵「俺もどこかで時間潰すか……」ズーン
整備兵(本当なら、部屋で本でも読むのが良いんだろうが……)スタスタ
整備兵(体を動かしたくなったので、建物の普段行かない場所を探索してみることにした)スタスタ
整備兵(しかし、変わり映えの無い扉が並んでいるだけであまり面白くないな……流石に閉まっている扉を開けるのはまずいだろうし)スタスタ
整備兵「……ん?あそこの扉、少し開いてるぞ……?」
整備兵「何の部屋だ……?」ノゾキコミ
龍驤「何や用か?」ジロッ
整備兵「おわぁっ!ひ、人が!?」
龍驤「わっ、誰やと思ったら整備兵はんか……。そら扉が開いてたら、普通は中に人おるやろ。驚かせんといてや」
龍驤「それはウチのセリフや。キミこそ、自分の部屋ここから結構離れとるやろ」
整備兵「いや、俺は少し建物を探索していただけなんだが……」
龍驤「この鎮守府に来たばっかりなのに、えらい暇なんやなぁ」ケラケラ
整備兵「うっ」グサッ
龍驤「ま、ええわ。いつまでもキミを廊下に立たせとくわけにもいかへん。話は入ってからや」ガチャ
整備兵「ありがとう。それでここは……結構狭いけど、本がたくさん有るな。図書室か?」キョロキョロ
龍驤「正確には資料室やな。……キミ、この鎮守府が昔、ウチら艦娘やなくて本物のフネを運用してたんは知ってるやろ?」
整備兵「ああ……今から七十年前、日本が大戦に負けるまでのことか。俗に言う、一代目暮鎮守府ってやつだな。ここも、その跡地を再利用して建設したらしいが……」
整備兵「ほうほう……」チラッ
整備兵(鎮守府の沿革に古そうな構内見取り図、大戦中の主要な戦役に関する歴史書……この鎮守府のことに限らず、大戦全般に関する本も色々置いてあるな)
整備兵「龍驤はよく来るのか?」
龍驤「昔のことに興味があってな……ときどき来て本を読んどるんや。変やろか?」
整備兵「いや……歴史を勉強するのは、良いことだと思うぞ」
龍驤「ウチ、思うんや。ウチら艦娘は、一人一人に実在した艦艇の名前が付いとるやろ?でも、それはどうしてなんやろなーって。だって、本物の方はフネなのにウチは人型や。ウチとその本物のフネと、一体何が関係あるんやろな」
整備兵「龍驤……」
龍驤「せやからさしあたっては、自分の名前になってるフネとか昔の戦いとかその頃の鎮守府とか、そういうことを調べてみたら何か分かるかと思って、ここに来とるんや」
整備兵(確かにそのことはとても不可解だ……。艦の魂を持つ少女たち……そう言われて何となく受け入れていたが、そもそも魂って何なんだ?実在した艦艇と、一体何が繋がっている?)
整備兵(しかし今は俺にも……多分、どの艦娘にも提督にも全く分からない)
龍驤「何や、変にかしこまって」キョトン
整備兵「これから、俺もたまにここに来て良いか?」
龍驤「もちろんや」ニッ
龍驤「……にしても、キミ、こういうのに興味あるんか?」
整備兵「学生の頃から戦史とかを読むのが好きだったからな……一応心得はあるつもりだぞ。例えば、そうだな……龍驤、今読んでる本は何だ?」
龍驤「これや。ちょうど読み終わったところやけど……」スッ
整備兵「暮海軍工廠の創設と発展……か。これなら、何度も読んだことがあるぞ。俺もかなり気に入ってる本で、これを読んで整備兵の仕事に興味が湧いたと言っても良いくらいだ」
龍驤「ホンマか!」
整備兵「当時現役だった暮海軍工廠の工廠長が、戦中に書いた本なんだよな」ペラリ
整備兵「この本の一番面白い章は第三章で……?」ピタッ
整備兵(良く考えたら、この本を書いた工廠長と、ここの工廠長って性格が似てるよな……リーダーシップがあって人望が厚いところとか、結構口が悪いところとか)
整備兵(工員を集めての演説癖までそっくりだ。人も妖精も、同じ職人なら言動まで似るのかもな)ニヤニヤ
龍驤「どないして第三章が面白いんや?そこで止められたら知りたくなるやろ」
整備兵「……ああ、悪い。いや、それがだな、実はこの章の最初から三ページ目に――」
ホンマカイナー!
ソウソウ、サラニソノウエ……
ウソヤロー!
ハハハ……
整備兵「~♪」スタスタ
整備兵(楽しかった……時局柄、前大戦の知識は誰でも多少持っているが、趣味で本を読んだり調べたりする人はあまりいないからな)
整備兵(しかし龍驤の場合、趣味とは少し違うかもしれないが……)
ガラガラガラ
整備兵「来たぞ」
白雪「わっ……」
工廠長「おう。お嬢ちゃんならもう来てるぜ」
整備兵(……ここはごくごく自然体で。こちらがいつも通りの態度で押し切れば、白雪もそのうち慣れるはず!)
白雪「こ、こんにちは整備兵さん」ペコリ
整備兵(よし……やはり作戦は間違っていないな。普段通りが一番だ)
整備兵「それで工廠長、今日は何をするんだ?特に無ければ開発もしたいんだが……」
工廠長「悪いが、今日やる事ァほとんどが演習の準備と後始末になるだろうよ。演習の日はいつもそうと決まってる」
整備兵「ああ、そういえばそうだな」
白雪「具体的にはどんなことをするんでしょうか?」
工廠長「まず準備は、主に艤装を演習仕様にすることだな。弾を全てペイント弾に入れ替えて、審判を配置する」
白雪「ペイント弾に……審判、ですか?」
整備兵「艦載機にも一機に一人つくのか?確か、零戦とかは単座だろ?」
工廠長「主翼にでもへばりつくんだよ。近くにいなきゃ見えねェだろ?」
白雪「え、ええっ……!?」
整備兵「その審判をやる妖精っていうのは、どこから……?」
工廠妖精達「」ガタガタ
整備兵「……ん?」チラッ
工廠妖精A「あ、あっしなんて、戦闘機の係でさぁ!絶対ロールで振り落とされっちまうよぉ!」ガタガタ
工廠妖精B「何言ってるんスかっ!こちとら艦爆隊っスよ!?急降下爆撃って何メートル落ちるんっスか!?」ガタガタ
工廠妖精達「」ザワザワ
工廠妖精達「……」ガタガタガタガタ
工廠妖精B「ちなみに、工廠長は高所恐怖症だからいつも審判はやらないんっスよ!」ビョンビョン
工廠長「んだとォ!?」ドンッ
工廠妖精B「す、すいませんっスー!」ドゲザァ
白雪「ほ、本当にそんなことをしても大丈夫なんですか?」
工廠長「演習の時は毎回やってるが、今のところ落っこちた奴はいねェよ」シレッ
整備兵「それも凄いな……!?」
工廠長「前準備はそんなとこだな。終わったら今度は後始末だ。艤装を元に戻して、お嬢ちゃん達の修復をする」
整備兵「ペイント弾やら審判やらを使うのに、修復が必要なのか?」
工廠長「ペイント弾の外殻も、流石に射出の衝撃に負けねェ程度には硬いからなァ。……まあ普通にやってりゃ、実際の被害は酷くても小破程度だ」
白雪「そうですか……」ホッ
工廠長「……ってな訳で若造、今日は大した仕事もできねェぞ。昼飯までそう時間が無ェから、整理を始めるのもあんまりお勧めできねえしなァ」
整備兵(……それならとりあえず、俺は俺の仕事をするか)
整備兵「じゃあ、艤装を演習用に転換する作業を見せてもらうかな」
工廠長「地味だが、見たいなら止めはしねェぜ」
整備兵「白雪も見て行くか?」
白雪「はい……ぜひ」ニコ
整備兵(白雪も……大体元に戻ったかな)ニコ
工廠妖精A「」ソイヤッソイヤッ
工廠妖精B「」ソイヤッソイヤッ
整備兵「」スッ
工廠妖精A「……?」トリャッ
工廠妖精B「……?」ホイヤッ
整備兵「……」ジー
整備兵(こんなに小さな槌や鋸を、よく扱えるもんだ……その上、あの手作業で精密な模型のような艤装を作れてしまうのだから、凄いを通り越して末恐ろしい)
整備兵(……もしこの妖精達がいなかったら、人類は今頃どうなっていただろうか)
白雪「整備兵さん」ヒソヒソ
整備兵「どうかしたか?」
白雪「妖精さんたちが、気にしているような感じが……」
整備兵「えっ……」
工廠妖精A「……何ですかい?」クルッ
工廠妖精B「……何っスか?」クルッ
整備兵「いや、悪い悪い。どんな風に作業しているのか、見てみたくてさ。今は何をしているんだ?」
工廠妖精A「艤装に追加の装甲板を取り付けてるんでさぁ!」
工廠妖精B「多少動きが悪くなっても、演習では参加部隊の負担を最低限に抑えるのが最優先っスから!」
工廠妖精A「もちろんでさぁ!」スッ
整備兵「ありがとう」スッ
整備兵(小さくて持ちにくい……だがまあ、見た目通りの重さかな。触ってみた感じも普通の鉄だ)ギュッギュッ
整備兵(しかし……)
工廠妖精B「お嬢さん、よーく見てるっスよ?」フリフリ
白雪(……?見ていてほしいってことなのかな?)
白雪「……」ニコ
工廠妖精B「よーし!久々に本気出すっス!」グッ
工廠妖精A「普段から出してほしいもんだよ……」
トンテンカンテン
白雪「……せ、整備兵さん!金槌で叩いただけで、板が鋲止めされていっています……穴も鋲も無いのにです!」
整備兵(……この工具、明らかに普通じゃない力を持ってるんだよな……)
白雪「お上手です」パチパチ
工廠妖精B「ふっ……」ドヤァ
白雪「良くできました」ナデナデ
工廠妖精B「ふぉおおおっ!?こんなに優しくされたのは初めてっスー!俺、心を射抜かれたっスー!」ピョンピョン
工廠妖精A「……そろそろ自重した方が良いんじゃあないかい?」ゲシゲシ
工廠妖精B「いででででっ!」
白雪「どうしてですか?」キョトン
整備兵「いや、そいつらただのオッサンだし……」
白雪「?」クビカシゲ
整備兵「……いや、何でもない。でも、仕事の手を止めさせちゃってるしさ」
白雪「そ、そうでした……すみません」パッ
工廠妖精B「ああ……」ショボーン
工廠妖精A「けっ、良い気味でさぁ……それで整備兵殿、そろそろ工具を返していただけますかい?」
整備兵「分かっ……いや、ちょっと待ってくれ。俺にも打たせてくれないか?」
工廠妖精A「本気ですかい?こいつはあっしらにしか使えませんよ?」キョトン
工廠妖精A「それなら……分かりやした」スッ
工廠妖精B「端材持ってきたっス!」ゴトッ
整備兵「すまない、ありがとう」スッ
白雪「何かするんですか?急に金槌を構えて……」
整備兵「少しだけ、俺も打たせてもらえることになったんだ」
白雪「それって……妖精さん達にしか使えないのでは……?」
整備兵「妖精にもそう言われたよ。けどまあ、実際に使ってみるのも情報収集だ」
白雪「さっき私に、妖精の仕事の手を止めさせるなって言いましたよね……」ジトー
白雪「そうですか。……でしたらそれが終わるまで、私も妖精さんをなででいますからね」プクー
整備兵「それは、あー……いや、う、うん、良いんじゃないか?」
白雪「……」ナデナデ
工廠妖精B「あ゙ーいいっスー……ふへ……ふへえへへへ……」ヨダレダバー
整備兵(俺の精神衛生的には、妖精の言葉なんて聞こえない方が良かったかもしれない)
白雪「……」ニコニコナデナデ
整備兵(しかし声さえ聞かなければ、妖精も小動物みたいなものだ。微笑みながら小動物を可愛がる白雪……絵になるなぁ……)
整備兵「……」ポケー
工廠妖精B 「ぎゃぁっ、何するっスか!?やめろっス!」ダダッ
白雪「あっ……」シュン
工廠妖精A「こんにゃろっ、腑抜けてんな!……して整備兵殿、まだですかい?」イライラ
整備兵「……」ポケー
工廠妖精A「……何を見てるんですかい、整備兵殿?」ギロッ
整備兵「……うわっ、わ、別に!ごめんごめん、すぐ終わる!悪かった!」
工廠妖精A「こっちも時間がそれほど無いんでさぁ。頼みますよ……」ハァ
整備兵「よし……ふっ、はっ!」トンテンカンテン
工廠妖精B「整備兵殿が工具を見てみたいとのことでしたので、お貸しした次第っス!」
工廠長「あァん……?」
整備兵(久しぶりだな。あまり力は込められないけど……硬い鋼を打つこの感触、衝撃。整備兵の仕事はこうでないと)トンテンカンテン
鋼板「」シーン
白雪(妖精さんが打ったときのようなことは起こりませんね……)
工廠妖精A「……もちろん見ての通り、使えてはいませんが」ヒソヒソ
工廠長「当ったりめェだ。あれは俺達にしか使えねェんだからよ」
整備兵「~♪」ハナウタ
整備兵(そういえば、海軍工廠で働きたいと初めて思ったのも、実際に近所の工場で作業を手伝わせてもらったときだったな……)トンテンカンテン
工廠妖精B「それにしても夢中で叩いてるっスね……。そろそろ止めるっスか?」
工廠長「そうだな……お前らがずっと働けねェのも困りもんだ」
整備兵(やっぱり良いな、この仕事は……。地味で船にも乗れないが、俺にとっては一番誇れる仕事だ)トンテンカンテン
白雪「整備兵さん、多分、もうそろそろ……」
カンッ
整備兵「ん?」ピタッ
工廠妖精A「何の音ですか……い……」
鋼板「」トマッテル
白雪「……!」
工廠妖精B「こっ、工廠長!見てくださいっス!一本だけっスけど、鋲が打たれてるっス!」
工廠長「何だとォ!?」ズイッ
整備兵「……」
工廠長「……こんなデタラメな事が……チッ。おい若造、時間切れだ!俺達は作業を続けるから、工具を返したらもう帰れ!」
整備兵「あ、ああ。時間を取らせて悪かった。でも、その鋼板……」
工廠長「でももヘチマも無ェよ!とりあえず出てけ!」グイグイ
整備兵「うわっ、きゅ、急に押すなよ!」
工廠長「お嬢ちゃんも帰った帰った!」グイグイ
工廠妖精B「お嬢さん、申し訳ないっスー!」
白雪「わわっ……!」
ポイッ ガラガラガラ ピシャッ
ザザーン ザザーン
整備兵「……全く、ひどい追い出し方をするな。確かに、しつこく長居した俺も悪いけどさ」イテテ
白雪「それにしても、さっきのは何だったんでしょう?妖精さん達の道具を、整備兵さんが使えるなんて……」
整備兵「俺も、ただぼんやりと打っていただけなんだが……なぜだ?」
白雪「整備兵さんだけが工廠の妖精さんたちと話せることと、関係があるのでしょうか……?」
整備兵「いや、分からない。……あれ?そういえば白雪こそ、さっきは工廠長とだけは話せていたよな?」
白雪「あっ……言い忘れていました。これです」サッ
白雪「本当は私の艤装に付属している通信用機器なんですが、整備兵さんより先に到着したときに、話せないと不便だろうと工廠長さんが予備を渡してくれたんです。私と話すときは、話すと同時に小型電鍵でその内容を送ってくれる、と。同時通訳みたいなものでしょうか?」
整備兵「便利なことを考えるなぁ……というか工廠長、会話しながら電鍵って器用だな。手の中でやってたのか?全然気づかなかったぞ……」
白雪「本当にありがたいです。これで、お仕事も今までより頑張れます」
整備兵「それは心強いな……。さてと、それじゃあとりあえず食堂に行くか。昼が近いし、その後は演習だ」ヨッコイショ
白雪「はい」スッ
ザザーン ザザーン
工廠妖精A「工廠長……」
工廠長「……」
工廠長(……くそっ、また相談事が増えちまったじゃねェか)
工廠妖精A「……」チラッ
工廠妖精B「白雪さん……」
工廠妖精A「……」ゲシッ
工廠妖精B「あだだだだっ!」
ミーンミンミンミン
白雪「少し出発が早すぎたでしょうか……」トコトコ
整備兵「と言っても、10分やそこらの差だ。すぐに他のみんなも来るだろう」スタスタ
整備兵「しかし、寄越日の艦隊と演習ってことは、元帥が来るってことなんだよな……まさか会える日が来るとは思わなかった」
白雪「どんな方なんでしょう?」
整備兵「うーん……軍内では、知略に戦術に指導力、あらゆる分野に長けた稀代の軍人と言われていたかな」
白雪「何だか厳格そうな方ですね……」
整備兵「まあ、俺も軍籍はそこそこ長く持ってるけど、ここに来る前に軍で働けていた期間はそう長くなかったからあまり良くは知らないかな」
白雪「軍籍を持っていたのに軍で働けなかったんですか?てっきり、深海棲艦が現れてから軍は人手不足だと思っていましたが……?」
白雪「!確かに……」
整備兵「工作学校を出た後は、機械に触れない仕事ばかりして稼がないといけないから大変だったよ」ハハハ
白雪「整備兵さんは本当に機械が好きなんですね」
整備兵「同期の奴らもみんなこんな感じだよ。そうじゃなきゃ、整備の仕事……特に工廠勤務の仕事には就かない。何だかんだ言っても、やっぱり海軍に入るからには、俺も含めてみんな船で海を行くのが好きだからな。白雪もそうだろ?」
白雪「そうですね……はい。この前の訓練で初めて海に出ましたが、とても楽しかったです。何となく、ここが私の居場所なんだな……と思いました。私の場合は、艦娘だからかもしれませんけれど」ニコ
整備兵「そうかもな」ハハハ
ザザーン ザザーン
整備兵「ところで……この辺はあまり手入れされていないみたいだな。やたら不規則な段差が多いし、岸壁のコンクリートも古い」キョロキョロ
整備兵「地面に金属の土台みたいなものもたくさんあるが、錆びていて良く分からないな……と、何か立ってるな。これは……!?」
白雪「地上に据え付ける型の対空機銃……でしょうか?」
整備兵「錆びも酷いしボロボロだが、地面にはちゃんと固定されてるな。少し見てみる」スッ
整備兵(銃架の支持力が相当弱っている……このままだと明日にでもバラバラに崩れ落ちそうだ)ジッ
整備兵(それでもここまで持っていたのは、偶然木の陰になっていたからか。しかしこの機銃、作りが古いな。まるで……)
白雪「待ってください。この機銃……出撃のとき、鈴谷さんと熊野さんが使っていたものに似ています。そちらは連装でしたが……」
整備兵「……ああ、白雪の言う通りだ」パッ
整備兵「旧日本海軍が使っていた九六式25ミリ機銃の単装型だ。もちろん艦娘の艤装じゃなくて、本物のな」
整備兵「いや……あながち不自然とも言えないかもしれない」
白雪「そうなんですか?」
整備兵「暮は大戦以前から軍港の街で、旧海軍時代もここには鎮守府があったからな。その頃設置された防御陣地が、解体されずに残っていたと考えれば……」
白雪「それなら、この辺りに金属の土台がいくつもあったのも、地面に段差が多いのも説明できますね……」チラリ
整備兵「しかし見たところ、この一挺以外はどれも銃身から何から風化して残っていないな……あるのは基礎だけだ」キョロキョロ
白雪「ですが整備兵さん、これなら深海棲艦にも効く武器になるのでは……?」
整備兵「いや、流石に状態が悪すぎて、このままだととても使えないと思うぞ……」
整備兵(……だが、白雪の言う通りこれは貴重なものだ。放置しておくのはかなり惜しい)
整備兵「……よし、決めた」
白雪「?」キョトン
白雪「それは良いですね!」
整備兵(まあ、ここ最近妖精のトンデモ技術ばかり見てきたせいで、普通の機械をいじる時間が欲しいっていう理由もあるんだけどな……)
整備兵(しかし、まさか大戦期の兵器の本物を見つけられるとは……本でしか見られないとばかり思っていたぞ)ニヤニヤ
白雪「――さん!整備兵さん!」
整備兵「……ん、どうした?」
白雪「ええと、時間が……」
整備兵「……」トケイチラッ
整備兵「……走るぞ白雪!」ダダッ
白雪「そ、そんなっ!?」ガーン
白雪「はぁっ……はぁっ……」
整備兵(だいぶ疲れてるな……そりゃそうか、艤装を着けてない限りは普通の女の子だもんな)
整備兵(しかしまずいな。さっきの場所で時間を使い過ぎた。このペースじゃ間に合わないぞ……)
整備兵「白雪、大丈夫か?辛かったら無理しないで歩いて良いんだぞ?」
白雪「すみません……。整備兵さんは先に行ってください。私は後から遅れて着きますから」
整備兵「元はと言えば俺のせいなのに、そんなことできるか。そこまで薄情者じゃないよ」
整備兵(とはいえ、一体どうしたものか……。考えろ、考えろ……)
整備兵(俺の方はまだまだ体力に余裕があるんだが……そうだ!それなら、俺が白雪をおぶるか何かして……!)
整備兵(第一どうなんだ?突然そんな提案されておいそれと乗っかるか普通?……だが今は非常事態、そうでもしないと恐らく遅刻だ……!)
整備兵「……し、白雪!」
白雪「はぁっ……はぁっ……はい、何でしょう?」
整備兵「の、乗って良いぞ、背中に」
白雪「……」
整備兵「……」
整備兵(言ってしまったっ!これは……さ、流石にドン引きされるだろうな……)ダラダラ
白雪「で、ですがあの、汗もかいていますし……」
整備兵(忘れてた……!けど確かに、背中も少し汗ばんでる……そりゃ嫌だろ。当たり前だ……)ズーン
白雪「いえ、そうではなくて……わ、私が、かいているという話で……///」ウツムキ
整備兵「……へ?」
白雪「で、ですが、そうしないと整備兵さんも遅れてしまうんですよね……それなら、あの、お願いします……///」カーッ
整備兵「ほ、本当に良いのか……?」
白雪「はい……」
整備兵「じゃ、じゃあ……」シャガミ
白雪「しっ、失礼します……!」スッ
トンッ
整備兵(背中が熱い……直射日光とかとはまた違った種類の熱で……)
ギュッ
整備兵(そ、そんなにしがみつかれると背中にその、あれだ、あれが……)
整備兵「……はァっ!」バシッ
白雪「どっ、どうしたんですか!」
整備兵「いや、じ、自分の頬に蚊が止まっていただけだ!」アセアセ
整備兵(……それ以上具体的に想像したら本当に最低の屑野郎だぞ!落ち着け!良識と常識を持て!)ブンブン
白雪「わっ……!?」ギュッ
整備兵「あああああッ!」バシッバシッ
白雪「整備兵さん!?」
整備兵「こ、今度は反対側の頬に二匹だ。夏は蚊が多くて大変だな。ははは……」
整備兵(無心無心無心無心無心……)
整備兵「飛ばすぞ!落ちないようにな!」
白雪「は、はいっ!」
整備兵(俺は何も考えていない俺は何も考えていない俺は何も考えていない……)
タッタッタッタッタッ……
ダダダダダッ
整備兵「悪い……ギリギリになった……」ゼエゼエ
提督「早く出た割には遅かったな。二人して迷ったか?」
整備兵「そ、そんなとこだ……」ハハハ
白雪「うぅ……///」メソラシ
提督「……まあ良いだろう。すぐに始めるぞ」
整備兵(着く直前で下ろすことに気づけて本当に良かった……)
提督「演習に参加する者は全員揃ったな?」
翔鶴「はい」
提督「全ての準備が整いました。……はっ。所定位置までは――」
整備兵「元帥はどこにいるんだ?この辺りにはいないみたいだが……」ヒソヒソ
漣「船に乗って、元帥艦隊の人たちと一緒に沖合にいると思いますよ?私たちがこの後陸側から出発して、十分距離が開いた状態から演習開始です」
白雪「でもそうなると、実際に戦闘するまで相手の艦隊構成が分からないんじゃ……?」
漣「そうそう。だから、偵察とか索敵を通じて相手艦隊に誰がいるのかを探りながら戦うの。今はこっちも向こうも、相手が六人だってことしか分かってない」
白雪「本格的だね……」
整備兵「ん……漣、それ電探か?」
整備兵「そりゃ整備兵だしな」
漣「最近開発に成功した対空電探です。最新兵器を載せてもらえるのも、ご主人さまに頼りにされている証拠ですね」ドヤァ
整備兵「あーそうだな」
漣「雑な反応ですね……」
整備兵「開発の経緯を知ってるから素直に喜べないんだよ……」
白雪「あはは……」
提督「諸君、今回の演習は無司令で行うことに決まった」
翔鶴「……」ゴクリ
白雪(無……司令?)
漣「直前の作戦会議以外、戦闘中はそれぞれの司令官が一切指揮を執らないで、艦隊が自分たちだけで戦闘する方式のことだよ」ヒソヒソ
整備兵(難しい方法だな……だが、そのやり方なら実際の戦闘で必要なとっさの現場判断力が鍛えられる。元帥と提督……やっぱり高度な演習だ)
提督「事前の作戦会議は現在から5分間だ。……集まれ」
翔鶴・瑞鶴・川内・神通・那珂・漣「」ゾロゾロ
ヒソヒソ……ザワザワ……
翔鶴「皆さん、行きますよ!」スッ
瑞鶴「ええ!」グッ
川内「良く寝たらようやく頭が冴えてきたよ……さーて、一発かましてやりますか!」ガチャッ
神通「……軽巡洋艦神通、参ります」キリッ
那珂「例え相手が寄越日でも……那珂ちゃん以外、海軍に主役はいらないんだよっ!」キャハッ
漣「ご主人さま!漣の勇姿、ばっちりご覧になってくださいね!」ピョン
提督「もちろんだ。遠慮はいらん。あちらさんに暮の意地を見せてやれ」ニヤッ
整備兵「皆、頑張れよー!」
白雪「気を付けてくださいねー!」フリフリ
提督「元帥閣下、いつでも出撃可能です――はっ、了解。……艦隊、出撃せよ!」
全員「「「おーっ!」」」
審判妖精「死地に赴く仲間達、そして艦載機係の者達にも……敬礼!」ビシッ
審判妖精達「い、行くぞぉぉぉっ!!」ビシッ
グラグラッ
審判妖精「うわーっ!滑る!滑り落ちる!」ジタバタ
審判妖精達「大丈夫かぁー!?」
瑞鶴(……?何だか腕が重いわね……って!)
瑞鶴「ちょっと!妖精さん大丈夫!?」グイッ
瑞鶴「危ないからちゃんと肩に乗ってて……さっ、速度上げるわよ!」
審判妖精「」ウワァァァ
審判妖精達「」イキテ、イキテコウショウニカエルンダァァァ!
ギャアアアアアア……
整備兵「……南無三」
提督「何見てるんだ?ぼさっとしてないでこれ立てとけ。少しは日差しが弱まるだろう」ヒョイ
整備兵「こんなバカでかいパラソルどこにあったんだよ……まあ良いか」キャッチ
白雪「ありがとうございます」ペコリ
整備兵「そういえば提督」
提督「何だ?」
整備兵「さっきの会議は何を話したんだ?提督のことだから、何か対元帥艦隊用の作戦を持ってきたんじゃないか?」
提督「そういうものも少しはあるが……相手の戦力があまり読めない以上、大したことは言えないな」
整備兵「ほー……?」
白雪「見てからのお楽しみということですね」
提督「その通りだ」
【海上】
瑞鶴「翔鶴姉。海岸からの距離、もう十分よ」
翔鶴「ええ。……では漣ちゃん、よろしくね。敵艦隊、おそらく1時方向から2時方向の間です」
漣「任しといてください!」ダッ
川内「気をつけて行ってきなよー!」
神通「空襲には気をつけてくださいね……漣さんがやられてしまっては元も子もありませんから」
漣「もっちろんです!ご主人さまにもらった電探、無駄にはしませんよ!」フリフリ
翔鶴「他の皆さんは一旦この場所で停止、航空戦に備えます。良いですね?」
ハ-イ!
リョウカイ!
漣「電探起動、対空捜索開始……と」
漣「あとはじっと待つ……ですね」
ピッ……ピピッ……ピピピッ……
漣「……来たっ!」ピョン
漣「――こちら漣。敵航空隊発見。2時方向および11時方向より中規模編隊。二手に分かれてますね」
翔鶴『了解しました。距離と機種をお願いします』
瑞鶴『確かに、まだ遠いわね……でも無理するんじゃないわよ?』
漣「はい、では!」プツッ
漣(なかなか緊張しますね……!)
漣「とりあえず、念のため高角砲を準備しておきましょうか」イソイソ
??「……」ジッ
漣「……っと、敵地で機関停止はご法度でしたね。警戒航行、警戒航行っと」スイー
??「……」ブクブク
翔鶴『ご苦労様です。その様子だと、相手側艦載機の更新は無いようですね』
漣「……あっ、識別表示が見えました」
瑞鶴『どこ!?どこの機体!?』
漣「戦闘機、爆撃機、雷撃機……全て加賀航空隊の塗装ですっ!」
瑞鶴『やっぱり来たわねっ……!前はこっちが21型だったから分が悪かったけど、今なら性能はほぼ互角。絶対制空権は渡さないんだから!』
翔鶴『落ち着いて瑞鶴。体力を温存しないと。……漣さん、ありがとうございます。情報はほぼ集まりましたので、そろそろ離脱に移ってください』
漣「はい!了、か……」
漣(……?)クルッ
シュッ
漣「う、おりゃぁっ!」グイッ
ゴロンゴロンゴロン……
漣「うわっ、わっ、おっ、とっと……」ヨロヨロ
漣「Σ(゚д゚|||)アブナッ!」
??「……」ススッ
漣(微かだけど、水面下に影が……!)
漣「……そこ、なのねっ!」ドォン
??「……」ヒラリ
漣「くっ、すばしっこいですね……」
漣「現在、敵の水中戦力と交戦中です。さっきのは雷撃を受けたので、回避するときに転んだだけです……多分、北上さんか大井さんの甲標的かと!」
翔鶴『雷巡とは厄介ですね……敵の航空隊が到着するまでに、私達のところまで戻れますか?』
漣「何とか振り切ってみます。動きのトロい甲標的ごとき、速力では負けてませんからいけますよ!」
翔鶴『……では、頼みます。何にせよ、空の方は任せてください。漣ちゃんは、とにかく全力でその甲標的を!』
漣「はいっ!」プツッ
??「……」ブクブク
漣「駆逐艦が、接近戦で潜航艇に負けてたまりますか!」ダッ
??「……」スススッ
漣(今まで見てきたのと違って、やけに動きが速いですね……でも、)スッ
漣「そんな浅い所にいたら、すぐに潜望鏡撃ち抜かれますよっ!」バァン
漣「ちぃっ……」ダッ
漣(方向転換も機敏な上、正確にこっちの航跡を追って来てる……化け物ですかあの潜航艇は)
漣(それなら……)
漣「」ピタッ
??「……」ピタッ
漣「どうぞ。真正面ですよ?撃たないんですか?」クイクイ
??「……」ジッ
漣「……」
??「……!」シュバッ
??「……!?」
漣「ま、今のは普通かわせませんよね。昔ご主人さまと特訓しまくったおかげで、漣はできますが」
漣(これでかわした魚雷は2本。そして甲標的の魚雷搭載数も2本……)ニヤリ
漣「この勝負、漣がもらっ……」
??「……!」シュバッシュバッ
漣「え、ちょっ」
パァン
漣「……」チラッ
審判妖精「漣、小破!……と、整備兵さんと違って聞こえてないのか……」ミブリテブリ
漣(小破の合図……確かに塗料は付かなかったけど、今度こそ海面にばっちり全身打ちましたからね)
??「……」スイー
漣(まさかまだ魚雷を持ってるなんて……一体何なんですかあれは)ドンッドンッ
??「……」ヒラリハラリ
漣(とりあえず、釘付けにされないように敵編隊から離れつつ戦わないと……)
漣「……漣、これは結構な難敵の予感がしますよっ!」ダダッ
??「……」スイー
瑞鶴「なるべく早く航空隊を送るべきよ。あっちの編隊に追いつかれたら、漣一人じゃひとたまりも無いわ」
翔鶴「そうね……そうしましょう。できればもう少し引きつけたかったけれど……」スッ
瑞鶴「……」スッ
翔鶴・瑞鶴「第一次攻撃隊、発艦!」
ブゥン ブゥン ブゥン
翔鶴「戦闘機隊の皆さんは、漣ちゃんを見かけたら対潜戦闘を援護してあげてください!」
暮零戦妖精A「」リョウカーイ
川内「なかなか敵は姿を現さないね……」キョロキョロ
神通「相手の方々が、大人しく航空戦の開始まで待機しているとも思えないのですが……」キョロキョロ
那珂「きっと、那珂ちゃんの主役オーラに恐れをなして近づいて来ないんだよっ!」イェーイ
神通「」ピクッ
川内「神通の零式水偵から?」
神通「はい。……ええと、はい……っ、やはり来ましたか……」
那珂「どうしたのー?」
神通「相手方戦艦が一名、単艦にて10時方向より高速接近中とのことです!」
川内「こっちが準備を整えないうちの殴り込みってことか……!」
瑞鶴「どうする?艦載機はほとんど航空戦用だから、あまりそっちには振り向けられないわよ……?」
那珂「でも、こういうときのための作戦はもう立ててあるよね?」
神通「ええ。このまま座して待っていても、射程と火力に勝る戦艦が相手では不利になるだけです。それならば……」
神通「翔鶴さん、瑞鶴さん。私と川内姉さんとで、敵戦艦の接近を阻止します。那珂ちゃんを置いて行きますから……」
那珂「ま、まさかの那珂ちゃん置いてけぼりー!?」ガーン
神通「那珂ちゃん、翔鶴さん達の護衛をしっかりと頼みましたよ」
那珂「ぶー、ずるーい。那珂ちゃん、頼まれると嫌とは言えないんだよー?」スチャッ
神通「ありがとうね、那珂ちゃん」ニコ
翔鶴「例の戦艦対策ですね、分かりました。一筋縄ではいかないでしょうが、どうかよろしくお願いします」
瑞鶴「でも、これってものすごい賭けよ?私達の方の戦力が最低限になるんだから。せめて敵艦載機の襲来までには帰ってきてよね」
神通「それでは……皆さんも、お気を付けて」クルッ
川内「じゃあね!」フリフリ
那珂「二人とも、ファイトだよっ!」ピョンピョン
瑞鶴「雷撃隊なら少しだけど予備があるわ……発艦!二人を支援して!」ヒュッ
九七妖精「」マカセロ
翔鶴(ここまではほぼ予想の範囲内……しかし、綱渡りなことに変わりはありません。気を引き締めないと……)
瑞鶴「翔鶴姉、リラックスリラックス」
翔鶴「……そうね」ニコ
神通「それが、水偵妖精さんも分からないみたいで……。主砲は連装らしいのだけれど、艤装が見慣れない形をしている、と……」
川内「ふーん……でもまあ連装砲ってことは、またいつもの金剛型四姉妹の誰かじゃない?ちょっと改装したとかさ」
神通「おそらくは……」コクリ
川内「しっかし金剛型か……二対一とはいえ、あんまり真正面から戦いたくないね」
神通「それは同感です……あの速力、火力、命中精度。全て侮れない方々です」
川内「気が付いたら全員射程距離に入ってて初弾から次々命中、気が付いたら金剛さん一人相手に艦隊が半壊してたー……なんてこともあったっけ」アハハ
神通「はい……ですから、今日こそは射程に収められる前に懐に潜り込まなければなりません」
川内「そうだね……ん、そろそろ見えてくるかな?」カシャン
神通「……」スッ
神通「見えましたっ――」
川内「夜じゃないのが残念だけど、いっちょやってやるか!」
ダッ
??「……!?」
神通「面舵一杯!神通、砲撃戦参ります!」ドォン
川内「取舵一杯!魚雷斉射、てぇー!」バシュンバシュン
??「くっ……!」ガシャッ
川内「今さら主砲なんか構えたって、間に合わないよっ!」
??「……!」ドゴォン
??「……」スッ
神通(やはり身のこなしは一流ですね……まだこの距離ではかすりもしませんか)ジッ
神通「……撃てっ!」ドォン
川内「まだまだぁ……!」ダダッ
??「……」ドゴォン
川内「――うわっ!あ、危なっ!」ヒョイッ
神通「川内姉さん、副砲にも注意して!」
川内「分かってる分かってる!……それなら、一気に距離を詰めるまで!」クルッ
神通「姉さん、あまり無茶は……。……仕方ありません」スッ
川内「当たらないってば!」ヒョイ
神通「……」ヒラリ
神通(砲撃の照準がまるでなっていません……それこそ、初めて砲を持った艦娘かというくらいに。とても金剛さん達とは思えません)
神通(一体、どういうことでしょうか……)
川内「神通、距離600切った!そろそろだよね!?」
神通「……はい。ここから最大火力を叩き込めば、相手も無傷ではいられないでしょう」
川内・神通「よーい……」
川内「主砲、全門斉射ぁっ!」ドゴォン
神通「魚雷発射用意、撃……」
神通(……自分以外の、魚雷発射音?)チラリ
ブクブクブクブク……
神通(魚雷……こちらに向かって!?どうして……!?)
神通「……姉さんっ!12時、雷跡二本!回避――」
川内「えっ――う、そっ」
パァン パァン
ベチャッ
審判妖精「神通、小破!」バッ
川内「ち、くしょっ……」ベットリ
神通「姉さん、とにかく下がって――」グイッ
??「……この国では、初めて出会った人には丁寧に名前を名乗るのが礼儀だと聞いたわ」
神通「……っ!」クルッ
ビスマルク「Guten Tag.ビスマルク型戦艦のネームシップ、ビスマルクよ。どうぞよろしく」ニコッ
??「……」ジリジリ
漣「……ほいさ!」タッ
??「……」ススッ
漣「もういっちょ!」ドォン
??「……」ヒラリ
シュバッ
漣「まーた魚雷ですかっ!」ダダッ
??「……」スススッ
漣「はぁっ、はぁっ……。こんなんじゃ埒が明きませんよ……」
漣(確かに、ちょっとずつ翔鶴さんたちの方には近づいてますが……)
??「……」ブクブク
漣(あれに進路を妨害され続けたら、帰り着くより先に敵の編隊に捕まりそうですね)
漣(あっちは漣を仕留めても、足止めしても良い。対して、こっちは一人で疲労は溜まる一方……)
漣「……どっちにせよ、タダでは帰さないってことですか」
??「……」シュバッシュバッ
漣「ちぃっ……」ダッ
漣「……って、えっ!」コケッ
漣(まずっ、足がもつれて……)
魚雷「」スイー……
漣(せ、せめて機関部だけは――)ギュッ
漣「……へっ?」
パァン パァン
ベチャベチャッ
漣「う、わわわっ!」サッ
暮零戦妖精A「」ヤッホーゲンキー?
暮零戦妖精B「」アンマリソウハミエナイネー
漣「まさか……翔鶴さん達の零戦ですか!?」
暮零戦妖精A「」ア、ソノヘンマンベンナク
暮零戦妖精B「」リョウカーイ
??「……くっ、あともう少しだったのに……」ブクブクブク……
暮零戦妖精B「」ニゲハジメタケド-?
暮零戦妖精A「」フカオイハキンモツヨ
??「……」スィー
漣「あ、いなくなった……逃げ足も速いですね。……みなさん、航空支援感謝します!」フリフリ
暮零戦妖精A「」フリフリ
暮零戦妖精B「」タッシャデナー
ブゥン……
漣「……ふぅ。今度こそ、さっさと帰りましょう」クルリ
翔鶴「……第一次攻撃隊、まもなく加賀さんの航空隊と接敵するとのことです。事前の計画通り、敵編隊の合流を阻止し二方向から挟撃する飛行ルートに入りました」
瑞鶴「漣の索敵のおかげで相手の動向がバッチリ把握できてるのは良いけど……まだ帰って来ないのかな」
翔鶴「先ほど戦闘機隊から、漣さんと交戦していた甲標的らしき敵を撤退させたとの報告がありました。そろそろ戻ってきても……」
漣「すみません、遅くなりましたー!」フリフリ
那珂「あっ、漣ちゃん!良かったーっ!」フリフリ
翔鶴「無事だったのね」
瑞鶴「遅いから心配したわよ……そんなにしつこい相手だったの?」
漣「しつこいなんてもんじゃないですよ。すばしっこくて、避けるわ魚雷をばら撒くわ……」
漣「魚雷が塗料入りだったのでそれは無いですが……追い払うだけで精一杯だったので、この後また現れるかもしれません」
瑞鶴「……」
翔鶴「……ですが、一度撤退させられた以上、またすぐにこちらの制空空域へのこのこ入り込んできたりはしないでしょう。今はまず航空戦に備えます。念の為、対潜警戒も意識はしておいてください」
漣・瑞鶴「……」コクリ
那珂「まっかせてー!」
漣「ところで、川内さんと神通さんはどこに?」
翔鶴「ええ、あの二人でしたら先ほど――」
川内「オーケー、見えてる!」ヒラリ
ビスマルク「上ががら空きね!」ドゴォン
神通「いえ、その程度ではまだ遅いです……!」サッ
ビスマルク「流石は日本の巡洋艦、すばしっこいわね……」
川内「そこぉっ!」ドォン
ビスマルク「でも、火力なら負けはしないわよ!」ドゴォンドゴォン
神通「っ!」ズザザッ
川内「うぁっ!……どうする?近づけば魚雷、離れれば砲撃。避けられることには避けられるけど、このままじゃどうにもならないよ……!」ヒソヒソ
神通「こちらの攻撃パターンを完全に読まれていますね……ですから例えば、こちらもビスマルクさんのように多様な攻撃を同時に行えればあるいは……」
神通「効果があまり無くても、あちらの注意を逸らせる程度でも、何か他に攻撃手段があれば……!」
……ブゥン
川内「……?」クルッ
神通「あれは……!」
九七妖精「」ヘイオマチ
川内「あれ、瑞鶴の雷撃機じゃない!?」
神通「追いかけてきてくれたんですね!」
九七妖精「」テキカンハッケンー
川内「……あれなら、いけるかも!」
神通「ええ!」
神通「例え当たらなくても、雷撃後に必ず隙ができるはずです。私達も行きましょう」カシャン
川内「了か……」
パァン パァン
神通「?」
九七妖精「」ウワッ
パァン パァン
九七妖精「」ダンマクコスギー
ビスマルク「堂々と突っ込んでくるとは舐められたものね。私の国のFlakを甘く見ないで!」
審判妖精「左主翼、敵高射砲弾命中!小破!」
審判妖精「嘘をつくな嘘を!バッチリ塗料付いてるのが見えるぞ!」
九七妖精「」ウルサーイフリオトスゾー
審判妖精「おい待て!やめろロールするな!うわぁぁぁっ……!」グルングルン
川内「艦攻が離れていく……あのくらいじゃ、戦艦には簡単に対処されるのか……」
神通「何かあと一歩、あと一歩が……いえ、待ってください。航空機というのは良い作戦かもしれません。川内姉さん、確かまだ偵察に出していない水偵がありましたよね?」
川内「一機だけなら……でも、どうやって使う?」
神通「限界まで意図を読まれないために、まず――」ヒソヒソ
川内「――分かった。じゃあその間に、神通はさっきの艦攻に作戦を伝えて!」
川内「……鉛弾が飛んでくる頃合いだからね」ニヤッ
……ドゴォン!
ビスマルク「何回かわしても、時間稼ぎにしかならないわよ!……あら、あれは……?」
川内水偵「」ブゥン
ビスマルク「あの軽巡の水偵……Flak!」
カカッ カカカカッ
川内水偵「」ヒラリ
川内水偵「」クルッ
ブゥン……
ビスマルク(……でも良いわ。それまでに、私があの二人に勝てば良いだけの事よ)フフッ
ビスマルク「……Feuer!!」ドゴォン
川内「うっ、わ!爆風広っ!」ズザザッ
川内「神通、まだ!?」クルッ
神通「もうすぐです!」
ビスマルク「よそ見してる暇なんて無いわよ!」ドォンドォン
川内「ま、まずっ……」
バシュッ
ビスマルク「……!?今の弾は、必中コースに入っていたはずよ……!」
神通「……ええ。確かに、間違いなく当たっていたはずでした。弾がそのまま進んでいたらでしたが」カシャン
ビスマルク(単装砲……まさか)
神通「……」
ビスマルク「フフッ、砲弾で砲弾を弾くなんて。日本の艦娘は皆、侍か忍者なのかしら?」
神通「ビスマルクさんの副砲弾が徹甲榴弾でしたから何とか軌道を逸らせました。徹甲弾なら危なかったですね」
ビスマルク「今日は、面白い戦いがたくさんできそうね?」
神通「褒めていただけて嬉しいですが、私達もあなたをそう長く戦線に居続けさせる気はありませんので」ニコ
ビスマルク「……良い度胸ね。嫌いじゃないわ!」
神通「姉さん、艦攻がもうすぐ来ます!」ザザッ
川内「こっちも準備万端だよ。よし!水雷戦隊、この川内に続けぇっ!」ダッ
神通(二人しかいませんが……って、そんなことを言っている場合ではないですね)ダッ
ビスマルク(……二人して突っ込んでくる?もしかして、自棄になったのかしら?)
ビスマルク(でも、勝利を急ぐ事にはリスクが伴うものよ……!)ドォン
川内「まだまだっ!」サッ
神通「……」ドォン
ビスマルク(そこまでは来られても、私のところにはたどり着け……)
ビスマルク(……?)
九七妖精「」リベンジダーオー
ビスマルク(さっきの艦攻……まだいたのね。でも、同じ手は何度やっても通用しないわよ)
カカカカッ
九七妖精「」アーコレハムリダワ
ベチャベチャベチャッ
審判妖精「胴体及び右主翼に被弾多数!撃墜!」バッ
九七妖精「」キビシーイ
九七妖精「」チョットトンデカラセンセンリダツシヨー
審判妖精「……って聞けぇぇぇ!」グルングルン
ビスマルク「あとは貴女達二人だけ……っ?!」クルッ
ヒュウウウ……
川内水偵妖精「」コウイウヤクモシンセンカモ
ビスマルク「水偵……離れていったはずじゃ……!」
神通「ご存知ですよね?水偵は爆弾も積めるんです」バシュン
ビスマルク「!」チラッ
ビスマルク(もう緩降下態勢に入ってる……!機銃……は、艦攻に向けてたから旋回が間に合わない……!)
川内水偵妖精「」バクダントウカー
ビスマルク「……っ」サッ
ドォォォン!
審判妖精「川内水偵1番機、撃墜ぃぃぃっ!」グルングルン
審判妖精「ビスマルク、小破!」
ビスマルク「……はぁ、はぁ」
ビスマルク(何とか直撃は免れたわね。結構追いつめられたけど、後はあの二人を仕留めるだけ……)
神通「……そこですね」ザッ
川内「や。ようやく近づけたよ」バッ
川内「軽巡の取り柄って、速力くらいしか無いからさ。やっぱり夜戦も昼戦も、至近魚雷戦が一番だよね!」
ビスマルク「くっ、まだ!Feue……あ、あら?」スカッ
川内「機銃は海面ぎりぎり向いてる上に、副砲は仰角最大じゃさすがにね……?」ニッ
ビスマルク「まさかあなた達、このために……!?」
川内「神通、魚雷斉射準備。決着だよ」ガシャン
神通「はい」ガシャン
ビスマルク「……完璧ね。負けたわ、あなた達には」
審判妖精「――ビスマルク、大破航行不能。速やかに演習から離脱してください」
暮零戦妖精A「」ダレニ?
暮零戦妖精B「」センカンニ
暮零戦妖精C「」ナマエハ-?
暮零戦妖精B「」ビス…ナンダッケ?
暮零戦妖精C「」ソコシラナインカイ
暮零戦妖精A「」ソロソロシズカニ
暮零戦妖精C「」タイチョウキビシー
暮零戦妖精A「」ゼンイン、キアイイレテケヨー
暮零戦妖精達「」オー
翔鶴『攻撃隊の皆さんは、制空戦から距離を取り護衛機と共に敵艦隊を目指してください。最優先目標は……航空母艦、加賀です』
九七妖精達「」リョーカイ
九九妖精達「」ラジャッ
暮零戦妖精A「」ジャ、イッチョイクカ-
暮零戦妖精A「」ゼンキ、コウカ-!
暮零戦妖精達「」ウォー!
ブゥン――
加賀零戦妖精A「」カチャカチャ
ツーツートントントン……
加賀零戦妖精A「」ワレテキセントウキノコウゲキヲウク
ヒュッ
暮零戦妖精C「」オラー!トツゲキダー!
加賀零戦妖精A「」ソンナニサケバナクテモイーデショウニ
暮零戦妖精C「」モンドウムヨウッ
バババババッ
加賀零戦妖精A「」ヒラリ
暮零戦妖精C「」コンドコソハ……カツ!
加賀零戦妖精A「」……アイカワラズアツクルシイブタイデスネ
瑞鶴「戦闘してる間に私達から結構離れちゃったから、戻るまでもう少しかかるみたい」
漣「そうなると、しばらくは防空に不安が残りますね……」
那珂「でもその分、今回は機体が更新されて今までより強くなってるんだよねっ!なら大丈夫じゃないかな?」
翔鶴「だと良いのですが……加賀さんの航空隊の錬度は侮れません」
瑞鶴「も、もちろん大丈夫よ!何てったって新型機だし!提督さんが、うちの航空隊の錬度は加賀とだって肩を並べられるくらいだってこの前言ってたし!」
那珂「あれ、でもよく考えたら、新型になったのは戦闘機だけなんだっけ?」クビカシゲ
漣「それに『肩を並べられるくらい』って、勝ってるわけではないってことですしね……」ボソッ
瑞鶴「う……」タラリ
瑞鶴「……もうっ!何でそうやって士気下げるような事ばっかり言うのよ!」ムキー
加賀零戦妖精A「」ニゲテバッカジャイラレマセンカ
バシュン
暮零戦妖精C「」アブナッ
加賀零戦妖精A「」シンチョウサ、ダイジデスヨー
暮零戦妖精C「」チッコシャクナッ
パンッ パパパパンッ
加賀零戦妖精A「」ヒョイッ
暮零戦妖精C「」……ソウクルトオモッタ
加賀零戦妖精A「」ナニガ……?
暮零戦妖精B「」ニヤリ
暮零戦妖精B「」イラッシャイマセ
加賀零戦妖精A「」……アア、ソウイウヤツデスカ-
クルッ
加賀零戦妖精A「」ナメナイデクダサイヨ
暮零戦妖精B「」ヤバッ
審判妖精「暮鎮守府零戦2番機被弾、中破!」
暮零戦妖精C「」ソノチュウガエリハハンソク-
暮零戦妖精B「」マテー!
スッ
暮零戦妖精A「」カチャリ
暮零戦妖精A「」……ニガサンヨ
加賀零戦妖精「」ウワ、マダイマシタカ
暮零戦妖精A「」チャンスハイッシュン……イマッ!
加賀零戦妖精A「」……クッ
ベチャベチャベチャッ
審判妖精「暮鎮守府零戦1番機被弾、小破!……う、酔った……うぷっ」グルングルン
審判妖精「寄越日鎮守府零戦1番機被弾、撃墜!……おえっ気持ち悪っ……」グルングルン
暮零戦妖精A「」グッ
――ブゥン
加賀零戦妖精B「」ヨクモタイチョウヲッ!
暮零戦妖精A「」チョクジョウ!カイヒッ!
暮零戦妖精C「」マズイッ
ベチャッ
審判妖精「暮鎮守府零戦3番機被弾、撃墜!」
暮零戦妖精B「」チクショウッ
暮零戦妖精A「」イッタンキョリヲトレッ
天山妖精「」ヒラリ
暮零戦妖精D「」アツマラレルトキツイ-
ベチャベチャッ
審判妖精「寄越日鎮守府天山12番機被弾、撃墜!」
審判妖精「寄越日鎮守府天山15番機被弾、撃墜!」
暮零戦妖精D「」ヨシッ
加賀零戦妖精B「」ハラガマルミエデスヨット
暮零戦妖精A「」シタダヨケロッ
暮零戦妖精D「」ナッ……
審判妖精「暮鎮守府零戦4番機被弾、大破――」
天山妖精「」コウブジュウザモアルンデス
バシュン
審判妖精「――撃墜!」
暮零戦妖精A「」ニキヒトクミッ!コリツヲサケロ-!
アブナイサガレ-
ナンノコレシキッ!
審判妖精「寄越日鎮守府零戦11番機被弾、撃墜!」
審判妖精「暮鎮守府零戦9番機被弾、撃墜!」
暮零戦妖精A「」ニバンキ!ボカンニジョウキョウホウコク!
暮零戦妖精B「」リョウカイ!
審判妖精「寄越日鎮守府彗星7番機――」
審判妖精「寄越日鎮守府天山6番機――」
審判妖精「暮鎮守府零戦8番機――」
瑞鶴「攻撃隊の方は?」
翔鶴「そちらは護衛機も含めて損害は軽微よ。被害のほとんどは制空隊から出ているみたい」
瑞鶴「……まあ、一筋縄じゃいかない相手だとは思ってたわ。押し負けないだけでも優勢は優勢よ。この調子なら対空戦闘はかなり楽になりそうね」
ピピッ ピピッ
瑞鶴「通信機鳴ってるよ?」
漣「また制空隊から連絡ですか?」
翔鶴「いえ。確か、この通信帯は直掩機のはずなのだけれど……」カチャッ
翔鶴「……」
翔鶴「!」
??「いやいや、逆に隠密じゃなかったら進むだけでも大変だし」
??「もう少しの辛抱ですよ」
??「でもさー、ホントに加賀さん一人にして大丈夫だったの?」
??「五航戦ごときに遅れは取りませんって言って、どれだけ止めても意地張ってたんだから仕方ないじゃないですか」
??「加賀は本当に翔鶴達と張り合うのが好きだクマ」
??「実際張り合ってるのは瑞鶴さんとだけだけどねぇー」
??「まあ、青葉は心配してませんけど」
??「加賀さんなら安心ってこと?」
??「それもありますが……加えて今回の加賀さんには秘密兵器がありますし、ね」
??「ん?あれって翔鶴さんトコの零戦じゃない?」
??「秋雲は目が良いクマね」
??「流石は"寄越日の画伯"……って、感心している場合じゃないですよ。発見されたってことですから」
??「元よりそういう予定だクマ」
??「そりゃそうだけどさー。警戒してってことじゃない?」
??「ヴォー!頑張るクマー!」グッ
??「それは警戒っていうより吶喊だよねぇー」
??「ともかく、ここからは全速で行きます。ちゃんとついて来てくださいよ」
??「重巡が軽巡と駆逐艦に言うセリフじゃないクマ」
??「い、言われてみれば確かにそうですね……」
??「私はどうすれば良いの?」
??「無理に早く来なくて良いですから、とにかくこっそりとお願いします」
??「了解よ」
??「上手くいけば大物が狙えますよ。何と言っても、相手はまだイムヤさんの存在すら知りませんから♪」
??「分かったわ」ニコッ
ブクブクブク……
??「では、行きましょう!」
漣「3人でしたよね!誰と誰と誰ですか!?」カシャン
翔鶴「青葉さんを先頭に、球磨さんと秋雲さんが続いていたそうです。今度は全員面識がある方ですね」
那珂「こんな大事なときなのに、那珂ちゃんは姉妹で一人だけ仲間外れってひどいよー!」
漣「それにしても、敵艦隊はいつの間にそんな近くまで……」
瑞鶴「そうよ。よりによって、あれだけ航空部隊を送った正面から真っすぐ敵が来てるのよ。どうして見つけられなかったのかしら……」
翔鶴「……いえ、案外、見つけられないように仕向けられていたのかもしれないわね」
漣「どういうことですか?」
瑞鶴「……ってことはつまり、青葉達がその偵察できていなかったルート近辺を通ってきたとしたら辻褄が合うってこと?」
翔鶴「……」コクリ
那珂「でもそうすると、漣ちゃんが加賀さんの航空隊の位置を把握してたってことも知られてることになるよね?」
漣「いえ……それは確かに知られています。あの甲標的っぽいのに」
翔鶴「……となれば、早急に対策を立てなければなりません。敵水上艦隊の接近を阻止しつつ、敵空母への攻撃を実施する必要があります」
瑞鶴「でも、青葉達がここまで来てるなら今頃加賀の方は丸裸じゃない。攻撃隊をいくらか呼び戻して青葉達への攻撃に転用するべきよ。……良かった。もう少し遅かったら無駄に戦力を偏らせることになってたわ」
翔鶴「そう……そうね……」
翔鶴(確かに、攻撃隊は引き返せばまだ十分青葉さん達に追いつける位置にいる。でも、こんなにちょうど良く呼び戻せるタイミングで敵が見つかるなんてこと……考え過ぎかしら)
翔鶴「……」
瑞鶴「ね、翔鶴姉?今なら、一番良いタイミングで青葉達を攻撃できるわ」
翔鶴(加賀さんには直掩隊が付いているとはいえ、一人相手に攻撃隊全てを投入するのは確かに戦力過剰……適正数に戻して余力を制空権下の敵部隊攻撃に回す。何も、間違いは無いはず……)
翔鶴「……分かったわ。攻撃隊の爆撃機・雷撃機の半数を、青葉さん達の攻撃に向かわせましょう。直掩機も偵察を中止させてその援護に回します」
瑞鶴「漣、那珂。砲撃戦の準備は良い?」
漣「はい。ですが、私達だけで大丈夫でしょうか……?」カシャン
瑞鶴「バッチリ航空支援するから安心して。ね?」
那珂「そうだよ漣ちゃん!那珂ちゃんがいれば、絶対にセンターは抜かせないからっ!」
漣「……ですが、下がらないんですか?特に空母のお二人は……」
翔鶴「あまり陸から距離がありませんので、下がると浅瀬に乗り上げるかもしれませんから。それに、制空隊の皆さんをできるだけ早く回収してあげたいですし」
漣「了解です!」
瑞鶴「まあ、急に色々慌ただしくなっちゃったけど、これで相手の戦力がほとんど明らかになったと思えば気が楽よね」
漣「加賀さん、青葉さん、球磨さん、秋雲さん、ビスマルクさん。で、多分最後の一人が、私を追ってきたあの……」
那珂「でも那珂ちゃん、潜水艦の艦娘がいるなんて聞いたことないよー?」
瑞鶴「私もよ」
翔鶴「私もです」
漣「もちろん漣もです……そもそも、服を着たままどうやって潜るんでしょうか?」
翔鶴「寄越日は規模も他の鎮守府とは段違いですし、新しい艦娘が頻繁に着任するらしいですから。この際、もう何が現れても驚いてはいられませんね」
漣「なんだか、演習をするたびに未知への耐性が付いていく感じがします……」
瑞鶴「それ言えてる!」アハハ
審判妖精「暮鎮守府九七艦攻20番機被弾、撃墜!」
九七妖精達「」コウドサゲロー!
青葉「思ったより数が多いですね」
秋雲「ほら青葉、遅れてるよ~?」スイー
青葉「しょうがないじゃないですか……。遅いんですし」バシュン
審判妖精「暮鎮守府九七艦攻14番機被弾、撃墜!」
秋雲「ほらー!球磨もあんまり前行かないの!」
球磨「悪かったクマ。つい本能で小さいものは追いかけてしまうんだクマ」クルリ
秋雲「青葉、装填まだ時間かかる?」
青葉「よいしょっと……もう少しです」ガチャガチャ
秋雲「んじゃ、それまでは秋雲さんの独壇場ってわけねー」カシャン
九九妖精達「」トウカジュンビ-!
秋雲「艦載機ども!秋雲さんの対空射撃、ちゃーんと見ときなよー?」スッ
シャッ つ10cm連装高角砲+高射装置
シャッ つ13号対空電探改
秋雲「照準よしっ!」
審判妖精「暮鎮守府九九艦爆22番機被弾、撃墜!」
審判妖精「――暮鎮守府九九艦爆25番機――」
審判妖精「――府九九艦爆――」
九九妖精達「」ウワーッ
九九妖精A「」ナニガオキタンダー!?
ワーワーキャーキャー
球磨「見た目は地味だけど、球磨のことも忘れてもらっちゃ困るクマー」ドォン
審判妖精「――被弾、撃墜!」
九七妖精B「」サァ?
青葉「……よし、準備完了です!」カチャリ
九七妖精A「」シャゲキクルヨー
九七妖精B「」アタラナケレバドウトイウコトハナイ
青葉「撃てっ!」ドゴォン
九七妖精A「」ヒラリ
九七妖精B「」マッタク、マトハズレモイイトコ……
九七妖精A「」ナニ!?
ベチャベチャッ
審判妖精「暮鎮守府九七艦攻19番機――」
九七妖精B「」グラリ
九七妖精A「」アイボウーッ!
九七妖精A「」イッタイ……!
パァン!
審判妖精「暮鎮守府九七艦攻――」
翔鶴「……駄目だわ。雷撃隊も爆撃隊も、攻撃開始以降全く連絡が取れないの」
瑞鶴「相手には戦闘機の一機もいないのよ?なのに……」
ブゥン
漣「あれ、見てください!制空隊の零戦です!」
瑞鶴「帰ってきたのね!……でも、様子が変じゃない?」
暮零戦妖精B「」クルッ
ドォン
暮零戦妖精B「」ベチャリ
瑞鶴「何、あれ……あんなに正確な対空射撃、鈴谷達でもできないわよ!」
暮零戦妖精A「」ヒラリ
瑞鶴「頑張って!あともう少しで……」
パァン パァンパァン
暮零戦妖精A「」モエツキタゼ……
翔鶴「そんな……。あの炸裂音、一体……」
漣「敵艦発見!青葉さん、球磨さん、秋雲さん……例の三人です!」
翔鶴「もう来てしまいましたか……!」
那珂「それに、なんか全員元気そうだよ!?」
秋雲「」ドヤァ
球磨「」クマァ
瑞鶴「ものすごく勝ち誇った顔しててムカつく……!」
翔鶴「皆さん、原因は分かりませんが航空攻撃の効果は薄かったようです……そして、ここまで接近されてしまっては仕方ありません。港の方角へ後退しながら砲撃戦で決着を付けましょう」
漣「了解しました!漣が最後尾行きます!」ダッ
那珂「那珂ちゃんも行っくよー!」ピョン
青葉「追撃しちゃいますよ!」
秋雲「よぉ漣ぃー!久しぶりー!」
漣「お久しぶりです秋雲さん」カシャン
秋雲「他人行儀だなぁ~。秋雲さんって呼んでいいのは秋雲だけだってー」カシャン
漣「……」ザッ
秋雲「……」ザッ
漣・秋雲(――来るっ!)カッ
那珂「うわーん!どうして一対二なのー!」ピョンピョン
球磨「ふっふっふ……せいぜい存分に逃げ惑うクマ!」バシュン
青葉「それ、青葉達が悪役になってません?」バシュン
那珂「漣ちゃんは秋雲ちゃんと一騎打ちしてるし……もしかして那珂ちゃん、一人ぼっち……」ウルウル
??「――そんなことはありませんよ」
球磨「何か言ったクマ?」
青葉「いえ、何も?」
那珂「そっ、その声はっ!」
球磨「クマ!?」
青葉「新手ですか!」
神通「遅くなってすみません。……何とか間に合いました」ニコ
川内「妹をいじめる奴は放っておけないからね!」
球磨「ええい小癪な奴らだクマ!まとめて地獄に送ってやるクマ!」ガオー
青葉「球磨さんノリノリですね」
川内「旧式艦に負けてたまるか!」ガシャン
球磨「言うほど差は無いクマ!」ガシャン
瑞鶴「えーと……これ以上下がるのはもう危険かも。水深があんまり無いから」
ドゴーン ドゴーン
クマー! ナッカチャーン!
翔鶴「皆頑張ってくれているけれど、押し込まれるのも時間の問題ね……」
瑞鶴「……しょうがない。翔鶴姉、あれ出せる?」
翔鶴「……仕方ないわね。分かったわ」
――シュッ
瑞鶴「魚雷!?……翔鶴姉っ!」ドン
審判妖精「翔鶴、小破!」パッ
??「……」ブクブク
翔鶴「瑞鶴、大丈夫!?」
瑞鶴「うん、まだ中破だから……あの夜戦バカもいつも言ってるし。『中破は無傷』って」
翔鶴「……多分、今のが漣ちゃんの言っていた甲標的もどきね」チラリ
瑞鶴「うん。問題は、浮上してくれないと見つけることもできないってことだけど……あっ」
翔鶴「何か思いついたの?」
翔鶴「……そうね」ヒソヒソ
瑞鶴「――せーのっ!」
翔鶴・瑞鶴「」ダッ
??「……!」スススッ
ガンッ
??「ぁ、痛っ!」ザバッ
翔鶴「!」
??「!」
伊168「な、何よ!泳ぎやすいんだから良いじゃない!」
翔鶴・瑞鶴・伊168「……」
伊168「ってそんなこと言ってる場合じゃないわよ!」ジャキッ
瑞鶴「翔鶴姉!」ガシャン
翔鶴「ええ!」ガシャン
伊168「えっ、あなたたち、何で空母なのに砲持ってるのよ!?」
瑞鶴「空母だって、元々はたくさん副砲を積んでたのよ?護身用に、ね♪」
伊168「15.5センチ三連装砲持ってる空母なんて初めて見たわよ!」
翔鶴「球磨さん……もうここまで……!?」
神通「くっ……すみません翔鶴さん。前進を許しました」ザッ
青葉「やっぱり、重巡と軽巡じゃ砲火力が段違いですね」
川内「はぁっ、はぁっ……」
那珂「な、那珂ちゃんもピンチかもっ……!」
秋雲「ふぅ、漣も、結構鍛えてるみたいだねぇー……」ゼエゼエ
漣「秋雲さんも、です……っ」
瑞鶴「あんた達を……吹っ飛ばすためよ!」ドォン
球磨「クマー!?」
ベチャベチャベチャッ
審判妖精「球磨、中破!」パッ
審判妖精「青葉、小破!」パッ
球磨「やったクマね!そっくりそのまま返してやるクマ!」ダッ
翔鶴「私と瑞鶴も支援します!全員、順次輪形陣を組みつつ砲撃戦から雷撃戦に移ってください!」
漣・川内・神通・那珂「はい!」
神通「は、速いっ……!」
川内「止まれっ!」ドォン
漣「左舷魚雷、斉射っ!」シュッ
球磨「効かないクマー!」ヒョイッ
神通「瑞鶴さん!下がってください!」ドンッ
秋雲「オマケの魚雷だよ……もう一斉射!」シュッ
バァンッ!
審判妖精「神通、秋雲、青葉、中破!」パッ
瑞鶴「あっぶない――みんな固まりすぎ!」
那珂「ら、雷跡っ!1時と3時と9時と11時と……多すぎるよー!」アワアワ
瑞鶴「艦隊全速後退!とにかく魚雷を――」
翔鶴「後退はダメです!瑞鶴、後ろを見て!」
瑞鶴「後ろ?……えっ、もう岸がすぐ――!?」
球磨「こうなったら、この一撃で勝負を付けてやるクマ!」シュッ
青葉「く、球磨さん!ストップストップ!」
瑞鶴「ちょっ、待ちなさいよっ!こんな所で魚雷なんて撃ったら……!」
翔鶴「全員、身を守って――!」
ドンガラガッシャーン
加賀「……ふう」
暮零戦妖精E「」ナ、ナニコレー……
――ブゥン
九七妖精達「」ヤラレタッ
九九妖精達「」テッテキハドコダッ!
暮零戦妖精F「」トテモオイツケナイゾ……ウワー!
――ブゥン
暮零戦妖精E「」……ウエカ!?
ベチャッ
審判妖精「暮鎮守府――」
加賀「……なかなか良い機体ね。明石さんにお礼を言っておかないと」
整備兵「……はっ!」ガバッ
白雪「大丈夫ですか!……痛たっ」サスリサスリ
整備兵「あ、ああ……って、俺なんでこんなとこに転がってるんだ?」ビッショリ
整備兵(確か演習を見ていて……そうだ。なぜか知らないが演習中の艦隊が岸に突っ込んできて巻き込まれたんだった)
提督「これはまた随分と派手にやってくれたな……」パラソルノカゲ
整備兵「……おい提督、俺のパラソル盗って盾にしただろ。そのせいでこっちはまともに海水浴びてんだぞ」
提督「工員服と違って第二種軍装は洗うのが大変なんだよ。まあ良いだろ、涼しくなって」ヨッコイショ
整備兵「なんて奴だ……」クルッ
白雪「いえ、特に怪我は……でも、今は」
整備兵「良かった。とりあえず、周囲の安全を確認しないといけないな。ほら、引っ張るから白雪も立って……」グイッ
パサッ
整備兵(パサッ?)
白雪「あっ……!?」
整備兵「な……」
整備兵(白雪のセーラー服の前が、何というか……ごっそり破れて落ちている)
白雪「……ううっ」ウズクマリ
整備兵(って、ずぶ濡れなんだった……)
白雪「だ、大丈夫です……。整備兵さんのせいではありませんから……」グスッ
漣「また白雪ちゃんを泣かせてるんですか、整備兵さん」スタスタ
整備兵「違う。というか、そもそもの原因は漣たちがぶつかってきたことだろうが……って、おい!漣も、服っ!」
漣「艦娘のダメージの受け方はこういうものなんです。整備兵さんの方が気にしなければ良いんですよ」シレッ
整備兵「いや、もう少しこう、恥じらいというものを……」メソラシ
整備兵(提督は顔色一つ変えていない……やっぱり慣れなのか?)
漣「あ、何見てるんですかご主人さまー。そんなに気になっちゃいます?」ニヤニヤ
整備兵「俺のときと態度が違」
提督「だから見ていないといつも言っているだろう。良いから早くこの大事故の説明をしろ」ハァ
漣「ショボーン(´・ω・`)」
提督「それと、まずは全員工廠へ移動して艤装の修理だ。元帥閣下にも事情を伝えて、工廠までご足労頂けるように頼んでおく」
工廠長「一体どうなってんだよこれはァ!?」バァン
整備兵「仕方ないだろ、事故なんだから……ほら、鋼材こっちに置いとくぞ」
工廠長「だからってなァ、ただの演習で本物の大破が五人も六人も出るなんざ有り得ねェだろうが!このせいで俺達全員今日は徹夜だぞ!?」
整備兵「待て。それ、俺も入ってるのか?」
工廠長「工廠で働いてんだから当たり前だろォ!?」
整備兵(勘弁してくれよ……)ガックリ
ワーワー
整備兵「……?」チラッ
工廠妖精達「そうだそうだ!」
零戦妖精達「」ソコヲナントカー
工廠妖精B「それならもう判定に口出ししないっスね?無駄なロールもしないっスね?」
九七妖精達「」モチロンデゴザイマスー
工廠妖精達「前もそんなこと言ってただろー!」
工廠妖精達「この口だけ野郎がー!」
九九妖精「」コノトオリー
工廠長「演習の後はいつもああだ。艦載機の連中が遊び感覚で審判を振り落とそうとしただの何だので、ストライキ寸前まで行ったりする。まあ、最終的にはいつも俺達が折れるがな」
工廠妖精B「……分かったっス。今回は許してやるっス。次やったら今度こそ、そっちの艦載機を全部スクラップにしてやるっスよ?」
零戦妖精達「」ハハーアリガタヤー
整備兵「しかし、どうも悪いのは艦載機の妖精の方に見えるけどな……」
工廠長「俺達には俺達の仕事があって、あいつらにはあいつらの仕事がある。最終的に職務を遂行するためなら、時には譲ることも必要だ。……俺達工廠の妖精は、全員ちゃんとそのことが分かってンだよ。それだけだ」
漣「すいませーん!お風呂、空いてますか?」
漣「ありがとうございます。さっ、白雪ちゃん、早く早く!」グイグイ
白雪「整備兵さん、そんなに時間はかからないと思いますので……戻るまでよろしくお願いします」
整備兵「えーと……分かった」メソラシ
漣「ではっ!」
ダダダッ
整備兵「風呂……って、工廠に風呂があるのか?てっきり宿舎にあるものとばかり……」
工廠長「ここで風呂に行くって言ったら、ただの風呂のことじゃねェ。修復に行くってことだ」
整備兵「修復に風呂が必要なのか?」
整備兵「ああ」
工廠長「ありゃァな、艤装と服が直接の傷を引き受けてるからなんだよ。戦いで酷くやられても、お嬢ちゃん達は目に見える怪我をほとんどしない。俺達が修理しなきゃならねェのは艤装と服だけだ」
整備兵「それは……良いな」
工廠長「だがな、そのダメージは怪我としては残らなくとも、お嬢ちゃん達の体に疲労として残る」
整備兵「走っていて転んでも擦り傷はできないけど、走った分の疲れは残るって感じか?」
工廠長「どっちかと言うと……走っていて転んでも擦り傷はできねェが、転ばずに走ったときより余計に疲れるって方が近いかもしれねェな。で、その疲労を解消する施設が風呂だ」
整備兵「なぜ、風呂……」
整備兵「一体何が入ってるんだその風呂……」
工廠長「後、高速修復材と呼ばれる液体を追加投入すると効果が高まる。どんな疲れも数秒で吹き飛ぶようになるな」
整備兵「本当に何が入ってるんだよ……!?」
整備兵(……待てよ。風呂の湯の成分を検査してみるのもありかもしれないな。何が修復を可能にしているのかのヒントになるかもしれない)
整備兵「その風呂の湯、少しもらうことってできるか?」
工廠長「……あァん?」
整備兵「いや、湯を少し。どうも気になってさ……」
整備兵「ん……?何の話だ?」
工廠長「……残り湯集めるってのはちょいと趣味が悪いんじゃねェか?」ヒキッ
整備兵「そうじゃねえよ!」
工廠長「どっちにせよ修復用の風呂はお嬢ちゃん達以外立ち入り禁止だ。何だかんだ言っても一応風呂だからな。若造も自分の風呂が無ェってわけじゃねえだろ?」
整備兵「まあ、そりゃそうだけど……それなら、高速修復材の方はどうだ?」
工廠長「使いきりの量しか無ェから、ちょっと分けるってこともできねえ。それに貴重品だ。一つたりともやれねェよ」
整備兵「……ケチだな」ボソッ
工廠長「あァん!?」
整備兵「誰か来たのか?」クルッ
提督「こちらです、元帥閣下」スタスタ
元帥「うむ」スタスタ
整備兵(あの人が、元帥……!)バッ
整備兵「……」ビシッ
提督「こちら、工廠に勤務している整備兵です」
元帥「ふむ、君が例の……」ビシッ
元帥「提督から話は聞いておるよ。調査の具合はどうじゃね?」
整備兵「えー……。まだ開始したばかりでして、ご期待に添えるような進捗は……」
整備兵「」ビクッ
元帥「分かっておるよ。老い先は短くとも、流石にそこまでせっかちではないわい」
整備兵「は……はっ、ありがとうございます」ペコリ
整備兵(想像していたよりも、茶目っ気のある人みたいだ……)
元帥「ところで、整備兵君。君さえ良ければじゃが、近々会わせたい者がおる」
整備兵「……?」
元帥「寄越日鎮守府の工廠を運営しながら、君と同じように妖精の整備技術について調査している艦娘じゃ。名を明石と言う」
元帥「同じ調査をしている者同士、意見交換などできると良い刺激になるじゃろう。どうかね?」
整備兵「ありがたいお話です。是非とも、お願いいたします」
元帥「うむ。では暇を見てこちらへ派遣するから、それまでは引き続き職務に励んでくれたまえ」
整備兵「はっ!」
ガラガラガラ
元帥「おお、加賀か」
加賀「他の皆がここにいると聞きましたので」スタスタ
加賀「では、秘書艦として私もここで待つことにします。……あら、あなたが整備兵さんね」
整備兵「ああ、初めまして。加賀は特に損傷を受けていないんだな」
加賀「空母というのは、元来後方にいて戦闘に直接巻き込まれたりはしないものよ。……それが分かっていない子もいるみたいだけれど」フン
整備兵(ああ……確かに、これは相当対抗心を燃やしてるな……)アハハ
元帥「しかし提督君、あの電探運用はなかなかのものじゃった。さながらレーダーピケット艦じゃな」
提督「元帥閣下に予測されていなければ、ですがね。元帥閣下の艦隊の戦略こそ、素晴らしいものでした」
元帥「ほう。どのようにじゃ?」
元帥「それだけ分かっていれば、君も凡庸とは言えまい」ニコ
提督「それと元帥閣下。今回は、潜水艦と外国の艦がいましたね」
元帥「伊168とビスマルクのことじゃな。伊168は演習への参加が初めてじゃが、実はかなり昔から寄越日におったのじゃよ。これまでは他の潜水艦娘と同じく南西諸島海域での資源確保作戦に忙しかったから、あまり他の作戦に参加できなかったのじゃ」
元帥「そして、ビスマルクの方は本当に新入りじゃ。着任は今日の朝じゃったからな。提督君の言う通りドイツの戦艦娘じゃ」
整備兵「着任が、今朝ですか……!?」
元帥「この国の艦娘の力をどうしても早く見たいと言うものじゃからな。急遽演習艦隊に加えたのじゃ。じゃから、まだ砲撃などで拙い所が多く見られたのう」
翔鶴「ふぅ……」トコトコ
瑞鶴「あ、提督さん。本当に私達だけ高速修復材もらって良かったの?」トコトコ
提督「二人は今日と明日、夜間警備の係だからな。あまり長風呂されても困る」
瑞鶴「あ、そういうことか。なーんだ……って」ジロッ
加賀「こんにちは。翔鶴さん、瑞鶴さん」
翔鶴「こんにちは、加賀さ……」
瑞鶴「久しぶりね加賀。……会えて嬉しいわ」キッ
加賀「私は別に嬉しいとも思わないけれど」
瑞鶴「……っ、こっちこそ、コソコソ後ろに隠れて出てこないお高くとまった空母と会っても嬉しくも何とも無いわよ」ビキビキ
加賀「敵の接近を許す方が空母としては失格ね。艦載機の錬度だけでなく指揮能力も上げなければ、機動部隊の強化には繋がらないわ」
瑞鶴「うっ……。こ、こいつ……!」グヌヌ
ワーワーギャーギャー
整備兵(あー……始まってしまった)
提督「……申し訳ございません元帥閣下。後でよく言い聞かせておきますので」キリキリ
元帥「構わんよ。人も艦娘も、皆多かれ少なかれ衝突して育ってゆくものじゃ」
整備兵「……とは言っても、流石に張り合い過ぎな気もするな……」ポツリ
整備兵「うわあっ!?」クルッ
青葉「はじめまして。寄越日鎮守府所属、重巡洋艦青葉です!以後お見知りおきを!」
整備兵「は、はぁ……一体どこから出てきたんだ?」
青葉「そこは気にしちゃダメですよ。それにしても、ここの工廠はやっぱりミステリアスですね。特に資源収支の辺りとか」パラパラ
整備兵「おい、それ開発記録か?勝手に見て良いものじゃ……」
青葉「まあまあ、良いじゃないですか。これは面白いネタになりますよ……」メモメモ
整備兵「何のネタだよ……」
整備兵「……ノーコメントだ」
青葉「何ですか。面白くないですね。……ですが、この鎮守府は他とは違うことだらけですから。悪く言えば変、良く言えば見ているだけで楽しいですよ」
整備兵「まあ、それは俺も思ったことがあるが……」
青葉「ここを舞台に映画を作っても良いくらいなんじゃないでしょうか。こう記録映画風に、対深海棲艦戦争の真っただ中、一風変わった方法で戦果を上げ続ける一つの鎮守府があった……みたいな」
整備兵「そこまでずば抜けて変わってると言われ続けると流石に嬉しくないな……」
青葉「あはは、すみません。ともかく、これからもお互いに頑張っていきましょう」ポンポン
青葉「では、青葉は加賀さんを連れて行きますので。そのあと、他の四人が戻り次第、青葉達は寄越日へ帰ります。またいつか会いましょう!」スッ
整備兵「?」
青葉「握手ですよ。親交の握手です」
整備兵「あ……ああ。青葉も元気でな」ギュッ
青葉「もちろんです♪」サッ
<マアマアカガサン、マアマアマアマア
<チョッナニヨアンタ!
<イヤーゴメイワクオカケシマシタ!イヤースミマセン!デハ!
<サテ、ワシモモドルトスルカノウ
ガラガラガラ……ガタン
【夕刻】
整備兵「工廠長、燃料足りなくなったら言ってくれ。中途半端に開いてるドラム缶がある。……それにしても提督、俺を鎮守府に入れることは元帥にも話してたのか」
提督「当たり前だ。どこの馬の骨とも分からないお前みたいな人間に許可無く艦娘の情報を与えたら、俺の首が飛ぶぞ」
整備兵「馬の骨扱いかよ」
提督「しかし元帥も、軍内では珍しく妖精の技術を調査することに積極的でな。案外素早く話が通った」
整備兵「寄越日では明石という艦娘が俺と同じ調査をしているらしいが、それも元帥のお膝元だからってことか」
提督「明石は寄越日の工廠を最初期から運営している、海軍一の艦娘の専門家だそうだ。以前から俺も、色々と有用な情報を持っているかもしれないと思っていた」
整備兵「となると、明石との意見交換の機会を作るよう元帥に掛け合ったのもお前か?」
提督「当然だ」
提督「やめろ」グイ
提督「俺が引き込んだわけだからな。協力できることがあればやってみるのが筋というものだ。……そのかわり、明石からはきっちり情報を引き出せ。こっちには届かない話がごまんとあるはずだ」
整備兵「ああ、もちろんだ。それぐらいは心得てる」
提督「じゃあ、俺は執務室に戻る。今日はせいぜい働け」ヒラヒラ
整備兵「言われなくてもそうするしかないんだよ……」
ガラガラガラ……ガタン
整備兵(……さて、と)
整備兵(しかし、まずどの方向から調べてみるかという問題がある)
整備兵(もちろん、最も優先すべき調査対象は艤装そのものだ。幸い、ここには修理中の装備がたくさんある。今日は無理かもしれないが、雑用が忙しくないときにその構造を実際に見ることはできるだろう)
整備兵(実際に見るといえば風呂や高速修復材、変な力を発揮する工具なんかも調べたいが……覗きで捕まるのは最悪だし、修復材は渡せないと言われた。工廠妖精から工具を借りてまた仕事を中断させるのも良くない。ここは後回しだな)
整備兵(……そして、艤装そのものと同じくらい気になるのは妖精達自身だ。一番の疑問は当然、なぜ俺にだけ工廠の妖精達の声が聞こえるのか、ということだ)
整備兵(一方で、艦載機の妖精の声は聞こえなかったのも謎だ。工廠の妖精達と装備の妖精達は確かに性格が違うように見えるが、何か他にも違いがあるんだろうか?)
整備兵(他にも、撃墜された艦載機の搭乗員妖精の行方や、そもそも妖精はどこから生まれてくる何なのかということも全く分からない)
整備兵(それを探るためには、やっぱり妖精達に直接話を聞いてみないといけないだろうが……気軽に話せるのは工廠長くらいか。装備の妖精達は見分けすらつかないし、出撃のとき以外はどこにいるかも……)
整備兵「……とりあえず、できることからやってくか」ノビー
整備兵「白雪、その書類に今日使った資材量記録したらもう上がって良いぞ」
工廠妖精B「……!」ピクッ
白雪「整備兵さんは、まだ残るんですか?」
整備兵「修理が終わるまでは帰るなって工廠長から厳命されてるんだ。これだけ一度に何人も艤装が使えない状態はまずいから、今は猫の手でも借りたいんだとさ」フワァ
白雪「やっぱり、私ももう少し……力仕事はあまり力になれませんけど、書類仕事なら……」チラリ
工廠妖精B「そうそう、それが良いっスよ!」
整備兵「お前は黙っとけ」コツン
工廠妖精B「うびゃっ」
工廠長「あァん!?誰が明日は寝て良いって言った!?これが終わったら、明日はそのまま通常業務だ!」
白雪「……」
整備兵「あー……」ハハハ
白雪「……分かりました。でしたら、せめて今少し休憩をはさんでください。夕食を取ってからずっと働きづめです」
整備兵「まあ、な……」
白雪「良いですよね、工廠長さん?」ズイッ
工廠長「いや、今抜けられるとな……」ウデグミ
白雪「今抜けられると、何でしょう?」ズイッ
整備兵「……何とかしてくれこの妖精」ハァ
整備兵(とは言っても、白雪が自分の意見を前面に出すことってあまり無いよな……)
工廠長「……わーったわーった!確かに、集中力が落ちたらそれはそれでこっちが困るからな……短めに頼むぜ」ケッ
白雪「分かりました。では、お茶を淹れてきますね」ニコ
白雪「給湯室はどこでしょうか?」
工廠長「そこの扉入って右だ」クイッ
白雪「ありがとうございます」ニコ
工廠長「……けっ」
ザザーン ザザーン
整備兵「この辺で良いか……よいしょっと。ほら、白雪も」
白雪「休憩とは言いましたけれど、出てきてしまっても良かったんでしょうか……?」コシオロシ
整備兵「いや……折角休むなら、外に出た方が休んだ気がするだろって工廠長が言ってさ」
白雪「そうだったんですか……」
整備兵(本当は、白雪がいると工廠妖精Bの作業効率が地に落ちるから今だけでも出ろって言われたんだけどな……)
整備兵「工廠長も、さっき白雪に叱られて遠慮したのかもしれないぞ?」
整備兵「口調が割とそんな感じだったけどな」ハハハ
白雪「やっ、やっぱり、きちんと休みは取るべきですから!整備兵さんの体調を考えてです!」
整備兵「ありがとう。白雪は真面目だな」ニコ
白雪「笑わないでください」プイ
整備兵「ごめんごめん」
白雪「……はい、どうぞ。緑茶です。漣ちゃんに、夜は目が覚めるように淹れたての濃い緑茶が良いと聞いて、練習したんです」ニコ
緑茶「」ホカホカ
白雪(あっ……)ハッ
白雪「すみません。夏なのに暑いお茶って、よく考えるとおかしかったですね……」シュン
整備兵「えっ?ま、まあ……でも、冷ませば良いし」
白雪「でも、余計な労力を使わせてしまって……」
整備兵「あと……あれだ!夏は冷たいものばかり飲みがちだから、ちょうど良いかもしれない」
整備兵「それにほら、潮風も涼しくて白雪のお茶との……そう、コントラストが良い感じだ!」
整備兵「な、何だ?」
白雪「ふふっ……どうして整備兵さんが必死になるんですか。普通、ここで言い訳をするのは私の方ですよ?」クスクス
整備兵「は、ははは……お、ちょっと冷めてきたかな」ゴクリ
整備兵(……!)
整備兵「……おいしい。凄く。今まで自分で淹れてきた茶が、ただの湯みたいだ……!」
白雪「そ、それは言い過ぎでは……」
秋雲『くぅー!久々の暮の風呂は良いねぇー』グテー
漣『寄越日のも暮のも変わりませんよ……』グテー
秋雲『そ、れ、でー……どうなのよ最近は?』ニヤリ
漣『……何がですか』ジロッ
秋雲『提督とのことだよー』
漣『別に何も変わりませんよ』
秋雲『えぇー、何それ。もう何年秘書艦やってるんだか。いい加減、実は漣ご主人さまのことがっ……そうだったのか、俺もっ……きゃーっ、二人は幸せなキスをして終了っ!みたいな展開が』
漣『』ガシッ
秋雲『ちょまっ、溺れる!艦娘なのに溺れて死ぬ!』ガボガボ
秋雲『ひどいねぇ。貴重なアドバイスを無下にするなんて』プカプカ
漣『別に何のアドバイスにもなってませんよ……』
秋雲『秋雲さんはー、ただ自分の心に忠実であれって言ってるんだよ?どうも漣は、口は回るくせに大事なことは言わないというかさー』
漣『確かに、秋雲さんがこっそり描いて売りさばいてる漫画は自分の心に忠実ですけどね』ジトッ
秋雲『あれはあれ、これはこれだよー。……まあでも、秋雲が本当に心の奥底から描きたいのはまた違ったものなんだよねぇ。別に媒体も漫画とは限らないから、そう……例えば、真実の恋とか?』
漣『何言ってるんですか、全く……とにかく、今ご主人さまは真剣に艦隊を指揮して深海棲艦と戦っているんです。そういうことは……』
秋雲『そんな時だからこそ、そういうことが大事なんだと思うけどねぇ……ま、いっか』
漣(……はぁ、眠れませんね)パチッ
ザザーン ザザーン
漣(適当に海の方へ来てしまいましたが、確かこちらには工廠しかありませんでしたね)
漣(この辺で引き返しますか……あれ?)
白雪「」ニコニコ
整備兵「」ニコニコ
漣(……ああ、白雪ちゃんがお茶を淹れてあげたんですね。練習の成果が発揮できたみたいで何よりです)
漣(盗み聞きも悪いですし、戻りましょう……)クルリ
漣(流石にあの二人はまだ会ったばかりですし、そういうのとは違うって分かりますが……)スタスタ
漣「……やっぱり、自分と重ねちゃいますよねー」ノビー
漣「まあ良いか。さっさと……おや?」
漣(執務室の明かりが点いていますね)
漣「……」
提督「……」カリカリ
コンコン ガチャ
漣「こんばんは、ご主人さま~♪」
提督「漣か。どうした?」
漣「いえ。遅くまでお仕事を頑張っているご主人さまに、お茶のサービスをと思いまして」
提督「もう夜も遅いだろう。わざわざ気を遣わなくても、」
漣「いえいえ!夕方はお風呂に浸かりっぱなしだったので、体力があり余っているんですよ」
提督「それなら、淹れてくれるに越したことは無いが……」
漣「了解です」ニコ
漣「ところで、何の書類を書いているんですか?昼には、そんなにたくさん無かったと思うんですけど……?」
提督「……『鎮守府間演習試合中の衝突事故に関する釈明と再発防止策』だ」
漣「Σ(;゚ロ゚)ゲッ」
提督「ありがとう。……うむ、旨いな」
漣「もちろんです。漣が何百回提督にお茶を淹れたと思ってるんですか」フンス
漣(……これで良いんです。こうして、今までと同じように過ごして行ければ。例え、何も変わらなくても……)
提督「……む」
漣「どうしました?」キョトン
提督「甘いな……玉露を入れたのか?」
漣「前も入れましたよ?同じ煎茶と玉露の組み合わせです」
漣「えっ……」
提督「玉露の甘みを引き出して渋味を抑えるために、前よりも温度が低く抑えられている。いや……もしかしたら、夏だからあえて温めにしたのか?」
漣(……!)
漣「そ、そこまで細かく味わっているとは思いませんでした……」
提督「まあ……自然と、な。こっちこそ、何百回漣に茶を淹れられたと思っているんだ」
漣(自然と、ですか……)
提督「もう一杯、もらえるか?」
漣「……喜んで!」ニコッ
女神「こんばんは……」
工廠長「おう、女神か。ちょうど良い所に来た。……話があるんだが、良いか?」
女神「またすぐに別の場所へ発たなければなりませんので、どうか手短に……。そういえば、整備兵さんは……?彼がいると思ったのですが」
工廠長「若造なら、今は外で女と茶でも飲んでんだろうよ」
女神「それは良いですね……」ニコ
工廠長「良いもんかよ……だが、この話は若造がいない今しか出来ねェんだ。本題に入るぞ」
女神「ええ、どうぞ……」
女神「ああ、その話ですか……。きっと、整備兵さんや白雪さんに説得されたんでしょう……?」
工廠長「……まあな」
女神「分かりました……。大丈夫です。私の方からも、そろそろ止めるように言おうと思っていたところでしたから……」
工廠長「そいつは良かったぜ。俺達としても、あのレシピを使い続けるのは気が進まなかったからな。……それともう一つ。これを見ろ」ポイ
ガシャン
工廠長「……若造がやった。妖精の工具でな」
女神「……それは、驚きですね」
工廠長「驚きですねじゃねェ!どういうことだ?こいつは俺達にしか……」
女神「……知識は感情に、感情は心に、心は魂に」
工廠長「何の話だ?」
女神「つまり、経験は重要ではないのですよ……。過去を持っていなくとも、過去を知れば、それが魂になるのです……。工廠長、貴方も少しは期待したのではないですか……?」
女神「でしたら、整備兵さんに声が聞こえたとき、全てを気のせいにすることにすることもできたでしょう……。そうしなかったのなら、それは貴方がわずかでもそういう存在を求めたからに違いありません……」
工廠長「……チッ」
女神「私はその試みに反対しません……。私達の目的にも、決して反してはいません……。ですが、どうするかは貴方が決めることです……」
工廠長「……最後に良いか?若造も……『そうなる』ことは、あるのか?」
女神「そうですね――」
女神「――彼がそう、望めばですが」
??「~~!」ブルブルブルブル
??「……ぷっ。殺してやるって目でこっち睨んでる」ニヤニヤ
??「ええと……流石にこれはやり過ぎじゃありません?」キョロキョロ
??「何を今さらー。一緒に作った共犯が引かないでよー」
??「いや、確かにそうですけど……」
??「 ! !」ガタガタガタガタ
??「あははっ、もっと震えだした。でも残念ながら声は出せませーん」
??「……」
??「あ、もう静かになっちゃったか。残念。まあ、まだまだ先は長いからねぇ……」
【工廠】
整備兵「ぁー……肩痛い。腰痛い。腕痛い」ノビー
工廠長「どうだ?全部終わったか?」
整備兵「何とかな……」
工廠長「そろそろ終わりが見えてきたぞ。修理も全て、午前の訓練には間に合いそうだ」
整備兵「それは良かった」
工廠長「で、一旦若造の仕事も終わりだ。開発がしたかったら、俺達が修理を終わらせてから……そうだな、朝飯の後くらいからだな」
整備兵「なら工廠長、朝食まではまだ少し時間がある。修理の様子を見ていても良いのか?」
整備兵「ん、ダメなのか?」
工廠長「いや、まだそうは言ってねェが……なんで、そんなもんが見てみてェんだ?」
整備兵「それはもちろん……」
整備兵(……いや、ちょっと待て)
整備兵(確か、まだ工廠長に俺の目的を話したことは無かったはずだ。だから、今ここで普通にその目的を話してしまえば工廠長の質問に対する答えになる)
整備兵(しかし、俺の目的――妖精の技術を調査すること――は、工廠長の側から見れば……妖精達の技術を盗むことを意味するんじゃないか?)
整備兵(……それでもやっぱり、工廠の妖精達が仕事に誇りを持っているということは考慮した方が良いように思える。そしてかつ、完全にごまかしにかかるのもかえって怪しいから、あくまで自然に……)
整備兵「……妖精達の整備技術に興味があるからだ。同業者として、さ」
整備兵(これも嘘じゃない。この鎮守府に来たきっかけとしては正しくないが、知れば知るほど妖精の技術を調査したい気持ちが増すのもまた事実だ)
工廠長「……」ジロリ
整備兵「……」
工廠長「……どうするかは俺が決めること、か」ボソッ
整備兵「……?」
工廠長「何でもねェ。……よし分かった。好きに見せてやるから、ついて来い」
バチッバチバチッ
工廠妖精達「ふっ!ふっ!」
整備兵「おお……ちゃんと見たことが無かったけど、やっぱりすごいな」
工廠妖精A「工廠長、どうしたんですかい?」
工廠長「若造が修理の様子を見たいってんで、連れてきたんだよ」
工廠妖精A「……そうでありましたか!おはようございます、整備兵殿!」ビシッ
整備兵「おはよう。別に早起きしたわけでもないけどな」
工廠妖精B「おはようございますっス!……して、白雪さんは?」
工廠妖精B「ああ、俺も白雪さんと一緒にお休みしたいっス……!」
整備兵「……妖精じゃなかったら、提督に頼んで憲兵隊を呼んでやれたんだが」ハァ
整備兵「ところで、今二人は何を修理してるんだ?」
工廠妖精A「魚雷発射管と魚雷でさぁ!」
整備兵「これが、九三式酸素魚雷……!」
整備兵(……のミニチュア版か)
整備兵「俺の腕の長さも無いぞ……こんな細かい配線よく扱えるな」ジー
工廠妖精A「あっしらの経験の賜物でさぁ」フンス
工廠妖精A「見ても良いですが、この魚雷は組み立て中ですから触らないようにしてくださいよ」
工廠妖精B「安全装置が外れたら、蹴飛ばしただけで工廠を粉々にするかもしれない代物っス」
整備兵「そっちにあるのは何だ?」
工廠妖精B「修理の終わった12.7センチ連装砲っス。漣さんのものっスね。持ってみるっスか?」
整備兵「良いのか?……よいしょっと」ヒョイ
整備兵「おお……砲塔の根元辺りの形が本物とは違うのか。握れる部分が付いてるんだな」ギュッギュッ
工廠妖精A「その横にある突起を握りこんで押すと射撃でさぁ。もちろん今はロックが掛かっていますが……」
整備兵「射撃がここか……じゃあ、旋回と仰角の調節は……」
砲妖精「」ホウシンノナカカラコンニチハ
整備兵「よ、妖精?」
工廠妖精B「もう中に戻ってたっスか。早いっスね」
砲妖精「」シゴトネッシンナノデ
工廠妖精A「艦載機と同じで、それ以外の装備も細かい動作は妖精がやるんでさぁ。その連装砲も、弾の発射以外は全て妖精が受け持つんでさぁ」
整備兵「すごいもんだ……まるで、本物の船の乗員みたいに働くんだな」
工廠長「……」
工廠妖精B「妖精が言うことを聞かないから、まず照準ができないっス」
整備兵「うーん……だけど、照準できなくても射撃はこの部分を押せば良いだけなんだよな。それならできそうだが……」
工廠長「生身の人間が使うのは、やめておいた方が身のためだな」
整備兵「そうなのか?」
工廠長「考えてもみろ。人体の耐久力に対して反動が大きすぎる。艦娘は艤装が衝撃を肩代わりするから良いが……もし人間が使えば、」
整備兵「……」ゴクリ
工廠長「五体満足じゃいられねェかもしれないぜ……?」ニヤリ
工廠妖精A「」ニヤリ
工廠妖精B「」ニヤリ
工廠妖精B「怖がりすぎっス……とは言っても、ここの区画にはもうその砲とさっきの魚雷くらいしか無いっすスよ。他はほとんど奥にしまうか、宿舎に届けちゃったっスから」
整備兵「それなら、もう一度さっきの魚雷を見るか……ん」
工廠妖精A「何ですかい?」
整備兵「これは……ちょうど今から、奥から二番目の……そこのバルブ締めるところか?」
工廠長「……!」
工廠妖精A「な、なんと……」
工廠妖精B「よ、良く分かったっスね!?」
工廠長「良く覚えてんな、そんなモン……」
整備兵「そっちの魚雷の仕組みは、軍でも勉強したし個人的にものめり込んだことがあったからさ」ハハハ
工廠妖精B「それならもう、整備兵殿も修理の仕事をすれば良いんっスよ!そうすれば、白雪さんもきっと一緒に来てくれるから……へっへっへ」
整備兵「心の声漏れてるぞ」
整備兵(でも、もしそうできれば妖精の技術のことがより分かるかもしれない。絶好の機会だ……!)
工廠妖精A「……工廠長、どうですかい?」クルッ
工廠長「……」ウデグミ
整備兵「……」
整備兵「ほ、本当に良いのか?そんなに気軽に!?」ズイッ
工廠長「工廠を吹き飛ばしかねない様子なら即クビだがな」
整備兵「いや、俺も物凄く嬉しいんだが、仕組みはともかくどの装備も小さいから手先が……」
工廠長「そりゃ若造、いきなり魚雷みてェな繊細な部分を任せるわけ無ェだろうが!まずは基礎から、デカい部品からだ!」
整備兵「へ、へいへい……」
整備兵(まあ、そりゃそうか)
整備兵「……と、朝食の時間だ。一旦抜けさせてもらうぞ」
工廠長「おう」
工廠妖精A「頑張っていきやしょう!」
工廠妖精B「ご飯の後の作業には、白雪さんを是非連れ」
整備兵「ふう。眠い分、飯で体力を補わないとな……つらい」スタスタ
整備兵(……しかし、無茶な夜勤のおかげで、まだ朝なのにもういくつか大きな収穫があった)
整備兵(一つ目はもちろん、修理の仕事を勉強させてもらえるようになったことだ)
整備兵(そして二つ目はそれとも関係があるが……見たところ、艦娘達の武装の構造は、小さくなっていることを除けば現実の大戦期の兵器と何ら変わりないということだ)
整備兵(……まあ、さっき見た連装砲のように、艦娘が装着するための構造が追加されていることはあるが)
整備兵(このことは重要だ。艦娘の装備は妖精にしか扱えないとはいえ、別に未知の機械というわけじゃなく、その構造が人間にも理解できるということが分かったからな……)
整備兵「よし……ここからだ。頑張るぞ」グッ
工廠妖精A「工廠長、これで良いんですかい?」
工廠長「……ああ。昨日女神と話をしてから、良く考えて出した結論だ」
工廠妖精A「女神さんは何と?」
工廠長「てめえで勝手に決めやがれ、だとさ」フン
工廠妖精A「それは……また何とも……」
工廠長「……とにかく、俺は若造を巻き込んでいく方に決めた。このことが、戦いを終わらせるためにも良い方向に働くはずだ。これからは、そのために技術を全力で差し出していくしかねェ」
工廠長「流石に、そこまで勘が良いとは思えねェな。……昔の俺だって、いきなりそんなことを言われたら絶対信じねェよ」
工廠妖精A「それは、あっしもです……しかし、もしもそうなったら……?」
工廠長「……」
工廠長(……畜生。決心したつもりでも、迷いは消えねェもんだな……)
工廠妖精B「ああ白雪さん、まだっスか……。もう六時間と四十七分も離れ離れに……」ウロウロ
工廠妖精A「」ゲシッ
工廠妖精B「」ゴフッ
【食堂】
漣「いやー、朝一番の鳳翔さんのお味噌汁は最高だね!」プハー
白雪「はい……」
漣「あれ、どうしたの?元気無いけど……」
白雪「少し、整備兵さんが心配で……」
漣「……?」チラッ
整備兵「……はぁ」モグモグ
漣「確かに暗い雰囲気……でも確か、この前は新しく艤装の整備を教えてもらえることになったって喜んでたよね?」
白雪「それがどうも、思い通りに進んでいないみたいで……」
工廠長「全ッ然駄目だこんなモン!実戦で使ったら死人が出るぞ!」バンッ
整備兵「す、すまん……」
工廠長「溶接の位置がズレてる上に、成形も雑!もっと正確にやれねェのか!?」
整備兵「でも手の震えはどうにも……」
工廠長「若造がやるっつったから教えてやってんだろォ!?弱音吐く前に努力しろ努力!」
整備兵「く……!」スッ
バチッ バチバチッ
工廠長「さっきとなーんも変わってねェだろうが!」
整備兵「う……」
工廠長「ずっとこんなもん繰り返してても何も進みやしねェ……一旦お開きだ!若造、ちっと休んで気合い入れ直して来い!次は午後、分かったな!?」スタスタ
整備兵「はぁ。厳しいな……」ドンヨリ
整備兵(最初こそ楽観的に構えていたが、艤装の整備は想像以上に大変な仕事だった)
整備兵(部品が小さいので、手元が少しでも狂えば即品質不良が起こる。そして、実際の兵器には無い艤装独特の機構も覚えきれないほど膨大)
整備兵(極めつけは妖精の工具だ。以前まぐれで鋲を打てたときのように何とかなるかと思ったら、そんなに簡単なものではなかった)
整備兵(どう使おうとしてもダメなときは全くダメ。あの魔法のような作用が出ることがあるのは百回か二百回に一度くらいだ)
整備兵(構造が分からないから、当然コツもテクニックも無い。毎日がむしゃらに使い続けていても、効果が発揮される確率は一向に上がる気配が無い)
整備兵(やっぱり妖精にしか使えないのが当然で、人間の俺が使おうというのは無茶なんだろうか……)
整備兵(数日くらいでは……とも思うが、ここまで集中しているのに仕事の断片すら飲み込めないのはもどかしい)
整備兵(俺だって、機械に関してはそこまで物覚えが悪い方ではないはずなんだが……)
整備兵(……そんなことを悶々と考えていたから、ついに工廠長から暇を出されたのかもしれない)
整備兵「今、何時だ……?」チラッ
整備兵(十一時か。白雪……は、軽巡洋艦と駆逐艦の合同砲撃訓練だったっけ)
整備兵「昼食もまだ先だし、どうするか……」スタスタ
龍驤「」スタスタ
整備兵「おーい、龍驤!」
龍驤「お、整備兵はんか。どないしたんや?工廠は反対方向やで?」
整備兵「いや……艤装の整備を手伝ってるんだけど、なかなか上達しなくてな。工廠長に、気合い入れ直して来いって追い出されたんだ」ハハハ
龍驤「そ、そら災難やな……」
整備兵「龍驤はどこに行くところだったんだ?」
龍驤「資料室や。時間が空いたから、また本でも読もうかと思て。……せや、ならキミも一緒にどうや?昼まで暇やろ?」
整備兵「そうだな……ありがとう。行くよ」
整備兵「今はどの本を読んでるんだ?」
龍驤「今は……こっちの、こっちの、これやな。もうほとんど読み終わったようなもんや」
整備兵「旧帝国海軍海戦史、大戦期編……か。今回は歴史の本だな。ちなみに、どうして読もうと思ったんだ?」
龍驤「ウチは、大戦のことを全然知らへんから。大戦で、ウチやこの鎮守府の皆と同じ名前のフネがどんな風に戦ったんか……それを知りたいと思ったんや」
整備兵「そうか……」
龍驤「……ま、大体のフネは大戦が終わる前に沈んでしもたみたいやけど」
整備兵「……ああ」
整備兵「……あまり、読んでいて気持ちの良いものじゃないよな」
龍驤「せやけど、ウチはあんまり気にしてへん。ウチとこのフネとは、やっぱり全くの別物やと思うし。……でも、なーんか違和感があるような気もするんや」クビカシゲ
整備兵「どういう意味だ?」
龍驤「上手く表現でけへんのやけど……『龍驤』の沈没のところを読んでると、ふと、その映像が思い浮かんでくるような感じになるんや」
整備兵「『龍驤』が海に沈んでいく光景が、か?」
龍驤「というより……海中から上を見てる自分が、沈んでいく感じっていう方が近いやろか。こうやって『龍驤』は沈んでったんやろな……みたいな。そんな、光景や」
整備兵「……?」
整備兵(……そんなに、簡単な話なのか?いや、でも龍驤は最初から『龍驤』について特に何も知らなかった。となると、やっぱり艦娘の龍驤と艦艇の龍驤は無関係ということに……)
龍驤「それで、や」ペラリ
龍驤「この本読んで、ウチが一番気になったんはさっき言った部分なんやけど……もう一つ、気になるところがあるんや。ここやな」ペラリ
整備兵「?」ノゾキコミ
龍驤「1945年……」
整備兵「暮軍港空襲……これか。ここは大戦のさらに前からずっと海軍の拠点だったからな。……狙われるのも、無理はなかったかもしれない」
龍驤「このときもまた、何隻もフネがやられたんやな……」
整備兵(天城、榛名、伊勢、日向……このとき沈んだ艦の艦娘も、どこかの鎮守府にいるのだろうか)
整備兵「……暮海軍工廠造兵部空襲。工廠機能喪失、工員の死傷者多数……か」
整備兵(空襲での艦への被害はいくつかの本で読んだことがあったが、工廠の被害について詳しくは知らなかったな……)
龍驤「なんや、無性に悲しくなったんや。フネに乗ってて沈められるのも辛いやろうけど、工廠で働いてて爆弾落とされるのも同じくらい辛いやろな、て」
整備兵「……しかも、自分達が作っているものを壊されながら、だもんな」
龍驤「せやなぁ……」
整備兵(同業者として、その悲しみを想像するのは難しくない……俺にとってみれば、ここの工廠がある日突然深海棲艦に破壊されるようなものだ)
整備兵(そのときの工員達はどんな思いだったんだろうか。……そして、俺に整備兵の仕事の面白さを教えてくれたあの本の著者の工廠長。彼はどんな気持ちで、空襲の日を迎えたんだろうか)
整備兵(……恥ずかしい、な)
龍驤「……キミ、キミ!」ポンポン
整備兵「ん。……悪い、ちょっと考え事してた」
龍驤「いや、謝るのはウチや。暇潰しに誘っておいて、暗い話ばかりして。堪忍な」シュン
整備兵「そんなことは無いさ。普段考えてなかったことが考えられて、知識が深まった。良い時間だったよ……と、もうこんなに時間が経ったのか」
龍驤「ほな行こか。さっさと行かへんと、お腹空かせた水雷組が鍋空っぽにするで」パタン
整備兵「それはもっともだ」ハハハ
【工廠】
整備兵「……」トンテンカンテン
整備兵(……あれ?)
整備兵「……」トンテンカンテン
整備兵(どうしてだ……手先が定まる。朝やったときよりも、思い通りに工具を動かせる)
整備兵(妖精の工具も、十回に一回くらいは効果を発揮するみたいだ。明らかに確率が高まっている)
整備兵(どうすれば上手くいくかが、何の手掛かりも無いのになぜか分かる……そんな気分だ)
整備兵「……こ、工廠長。出来たぞ」
整備兵「……」
工廠長「おい、貸せ!早くしろ!……ん、良し、良し、良し……何てこった」
整備兵「ど、どうだ……?」
工廠長「新米としちゃ、十分合格点がやれる出来だ。……若造、今朝までのは一体何だ?手抜いてたんじゃねェのか?」ジロッ
整備兵「そんなことするか!なぜか、今朝までと違って上手く出来たんだ……」
工廠長「じゃあ、慣れたってことか?」
整備兵「いや……」
整備兵(今朝までは、慣れどころか身に付いている実感すら無かった。こんな短時間で急激に伸びるわけが……)
工廠長「んなことで、ここまで変わるとは思えねェけどなァ……?」ジー
整備兵「まあ、俺もそれは思ったけど……」
整備兵(他にさしたる理由も見当たらない)
ガラガラガラ
白雪「こんにちは、整備兵さん、工廠長さん」ペコリ
整備兵「白雪!」ニコッ
工廠長「よう、お嬢ちゃん」
整備兵「ああ……バレたか。いや、実は整備の練習の調子が良くてさ」
白雪「本当ですか!」
工廠長「おう。今朝までの調子が続くようなら、もう止めようかとも思ってたがな……今さっきの出来なら、まだ見込みがある」
白雪「良かったです!」ニコ
整備兵「いやぁ、俺も驚いてるくらいだよ」ハハハ
整備兵「分かってる。……じゃあ、キリが良いから、この辺で今日の分の装備開発を済ませることにするか」
白雪「はい。早く戦闘機の更新も始めたいですね」
工廠長「ったく、ちゃんと聞いてんのか……?」ブツブツ
整備兵「」ニコニコ
白雪「」ニコニコ
工廠長「……けっ」
【艦これ】整備兵「鎮守府で働け?」提督「そうだ」【後半】
元スレ
【艦これ】整備兵「鎮守府で働け?」提督「そうだ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1428133858/
【艦これ】整備兵「鎮守府で働け?」提督「そうだ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1428133858/
「艦隊これくしょん」カテゴリのおすすめ
- 提督「サービス終了の夜」
- 提督「清霜はもういないんだ!!」
- Верный「…」
- 天城「提督、提督っ」提督「ん」
- 提督「艦娘が淫夢中になった…」
- 提督「榛名をいじめようと思う」
- 赤城「赤土提督?」提督「アーカードだ」
- 鎮守府空母のLINE事情 第二部
- 金剛「私にいい考えがありマース!」 コンボイ司令官「!?」
- 提督「艦娘とケッコンカッコカリしたら」
- 曙「このクソ提督!」提督「うむ」
- 提督「矢矧が好きだ」【艦これ】
- 【艦これ】敷波「かわいそうな司令官」
- 不知火「延性破壊」
- メカ榛名「はいメカ榛名は大丈夫です」金剛「これ榛名じゃないデース!?」
- 神通「おつきあいしていただけますか……?」提督「うむ」
- 【艦これ】私はあと何度死ねば満足できるのだろうか
- 提督「高雄のスカートを捲ったら興奮したので押し倒した」
- 提督「…転属だ」
- 提督「触ってねえよテキサスクローバーホールド極めんぞ」
「ランダム」カテゴリのおすすめ
- モバP「変態と記録」
- P「千早と同棲を始めてから他のアイドル達のアタックが凄い」
- 陽乃「静ちゃん、ひゃっはろー!」平塚「その呼び方はやめろ」
- 従妹「にぃにぃ久しぶりっ!」
- 杏子「そうしてお姫さまは泡となって、」
- 従順長門
- エレン「ペトラさんに夜這いをかける」
- 後輩「ちょっと先輩!晩御飯どうするんですか!」
- 杉下右京「江戸川コナン……?」
- モバP「プロデューサーに愛されドラマCD?」
- 上条「よう、操祈じゃねーか」
- ヘレン「特技は豚の料理?」時子「えっ、えぇ……」
- 犬娘「お腰につけたきびだんご、ひとつわたしにくださいな」
- オーキド「ここに3つのモンスターボールがあるじゃろ?」
- 男「エスカレーターの手すりに股間をこすりつけると気持ちいい」
- 幼馴染「わたしのもの!」
- 男「なんか、シャワールームに人の気配がするんだけど」
- P「あー、パンツ見たい……」 春香「見せますよ?」
- 岡部「紅莉栖と思いっきりいちゃいちゃしたい」紅莉栖「!?」
- 女「あの……つ、付き合ってください」男「えっ」
スポンサードリンク
デイリーランキング
ウィークリーランキング
マンスリーランキング
アンテナサイト
新着コメント
最新記事
スポンサードリンク