勇者と魔王がアイを募集したFINAL【後半】

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勇者と魔王がアイを募集したFINAL【後半】






548:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/06/24(火) 02:18:42.49 ID:16vX/aHu0

121

--郵便局--

大カバ亜人「なにが……起きたみゃあ?」

しゅううぅうぅ……

ハイ「魔力の流れを感じる……」

ハイは自分の掌を見つめている。そして体を覆う魔力の存在を懐かしく感じた。

ハイ「私達、戻ってこれたんでしょうか?」

ユー「……」

こくり

ユーは無表情のまま頷いた。

ハイ「! きゃあっ!? わた、わわわ私達裸じゃないですか! ナンデ!?」

まいっちんぐ、とハイは身体を隠す。

ユー「……」

真顔のユーはゆっくりと同じポーズを取った。



549:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/06/24(火) 02:20:12.51 ID:16vX/aHu0

122

--郵便局--

ハイ「……って、そんなことしてる場合じゃないですね。ここはどこで今はいつなのか調べないと!」

ざり

大カバ亜人「誰かと思えば、ハイじゃないか……」

ハイ「! 所長! あ……ここ郵便局だ」

ハイは見覚えのある場所だと気づく。そう、ここはかつての勤め先なのだ。

大カバ亜人「一体何をしてるんだみゃあ……。今の爆発はお前のせいなのかみゃ? その隣の男はうちの職員じゃないみたいだが、誰なんだみゃ」

ハイ「所長! 今日は何年何月何日ですか!?」

大カバ亜人を遮るハイ。

大カバ亜人「かばっ!?……そ、そんなの1010年2月23日だみゃあ……なんでそんなことを……」

ハイ「1010年2月23日……!!……北の王国が滅ぼされるより前だ!」



550:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/06/24(火) 02:21:39.43 ID:16vX/aHu0

123

--郵便局--

ハイ「やった……! ちゃんと戻って来れたんですね! しかもあの悲劇の前に!!」

興奮するハイ。

大カバ亜人「き、北の王国が滅ぼされるゥ? 何を言ってるんだみゃあ……さっきの爆発で頭がおかしくなったのかみゃ?」

ハイ「でもその日まで一週間しかない……助けに行かなきゃ!」

だっ!

ハイは全裸で駆け出した。

ユー「……」

それを追うようにユーも駆けていく。

ダダダダダ!

大カバ亜人「……プレイかな?」



551:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/06/24(火) 02:23:03.20 ID:16vX/aHu0

124

--郵便局--

ダダダダダ!

ユニコーン「……ひひん?」

ハイ「っ! ユニちゃん! 会いたかった……!」

がばっ!

ユニコーン「ひひん!?……ぶるる……」

涙ながらに抱きつくハイと突然のことに驚くユニコーン。
彼にとっては数時間会っていないだけなので、ハイの行動は理解できなかった。

ハイ「……っと、悠長にしている時間は無いんです。ユニちゃん、いきなりですが走ってもらいますよ!」

がちゃがちゃ

ハイは近くに置いてある備品をユニコーンに積んでいく。



552:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/06/24(火) 02:23:31.21 ID:16vX/aHu0

125

--郵便局--

ひょこ

馬係「おうハイちゃんか? どうしたんじゃそんなに慌てて……どわっ!? 裸!? 裸ナンデッ!?」

ハイ「きゃっ!! そうだ忘れてました……ちょっと更衣室行ってきます」

たたた、ばたん

ユー「……」

更衣室に走るハイを仁王立ちしながら見送るユー。

馬係「……」

ユー「……」

馬係「……プレイ中だったかな?」



553:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/06/24(火) 02:26:03.04 ID:16vX/aHu0

126

--郵便局--

ハイ「馬係さん! さっそくですけど私出ます!」

馬係「おう? 長距離配達かい? そんな知らせは受けて無いのじゃが……」

馬係はそう言いながらもユニコーンに荷物を積んでいく。

ハイ「訳あっていかねばならないんです……」

馬係「訳?」

ハイ「えぇ、世界を護るために」

馬係「ひょっ?」

馬係は驚いたような声を出す。

ハイ「……」

馬係「……そうか。それなら行くといいさハイちゃん。世界をよろしく頼むよ」

しかし穏やかな表情で大きめの水筒を二つハイに渡した。

ハイ「……疑わないんですか? 意味のわからないこといって早退しようとしてるだけかもしれないですよ?」

自分で言っといてなんですが、とハイ。

馬係「ふふふ。だれが、ハイちゃんのいうことをうたがうものですか」

ハイ「お、おばあちゃん……!!」

馬係「おじいちゃんじゃよ」



554:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/06/24(火) 02:27:43.98 ID:16vX/aHu0

127

--郵便局--

ガラガラガラ

扉を開ける馬係。

ハイ「……じゃあ、行ってきます!」

馬係「あぁ、行っておいで」

ハイは馬係と握手をし、ユニコーンとともに地平線を見据える。

ハイ「はいよー、ユニちゃん!」

ユニコーン「ひひーん!」

ぱからっぱからっぱからっぱからっぱからっ!

馬係「……」

馬係は旅立つハイを見送った。




ユー「……」

馬係「……そんで、お前さんはいかなくていいのかな?」

ユー「……」

ダッ!

言われて走り出すフルチン。

馬係「ちょっ! せ、せめてこれを持ってきなさい!」

馬係は慌ててユーにマントを渡す。

ユー「……」

ペコ

ユーはお辞儀をすると、颯爽とマントを羽織ってフルチンで走り出した。

馬係「……大丈夫かなぁ」



555:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/06/24(火) 02:29:21.33 ID:16vX/aHu0

128

--草原--

ぱからっぱからっぱからっぱからっ

ダダダダダ!

並走するハイとユー。

ハイ「すいません貴方のこと完全に忘れてて……でもユニちゃんには処○じゃないと乗れないし」

さりげなく自爆しちゃうハイ。

ユー「……」

ぶんぶん

気にするなとばかりに手を振る裸マント。

ユー「……」

さっ、ささささ

そしてユーが野球のサインを出すような動作を取る。

ハイ「え? どこに向かっているか、ですか? それはもちろん北の王国です。あの悲劇から私達の滅亡は始まったんですから……」

さささささ

ユー「……」

ハイ「どうやって止めるのか、ですか?……そうですね、侵略自体を止めることは出来ないでしょう」



556:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/06/24(火) 02:30:26.38 ID:16vX/aHu0

129

--草原--

ぱからっぱからっぱからっぱからっ

ダダダダダ!

ハイ「でも、結末を変えることは出来ると思うんです」

ユー「……」

ハイ「北の王様に事情を説明して、魔王が襲撃をかける前に国民全員を避難させようと思ってます」

ユー「……」

ささささ

ハイ「えぇ……簡単には信じてもらえないでしょう。私が未来から来た……時をかける成人女性だということは……」

ぱからっぱからっぱからっぱからっ

ダダダダダ!

ハイ「でもやるしかありません!! ユーさんも力を貸してください!」

ユー「……」




557:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/06/24(火) 02:33:21.31 ID:16vX/aHu0

130

--草原--

ぱからっぱからっぱからっぱからっ

ダダダダダ!

ハイ「……え? 未来から来たこともそうだが、そもそも私には説得力が足りない……ですか?」

ユー「……」

ユーはコクコクと頷いている。

ハイ「……そうか。確かにそうですね。私には王の言や独裁者の言のような、説得力をあげるスキルが無い……。未来から来たっていう、ただでさえ突拍子も無い話なのに……こんなんじゃまともに聞いてもらえるわけが無い……」

そもそも王と直接話をすることが出来るのかそれすら怪しい、とハイは続ける。

ハイ「なるほど……まずはそのスキルを持つ人物を探さなくちゃいけないんだ。それでいて私のような一般人とも会ってくれて、私の話を信じてくれるような人を……」

ユー「……」

ユーはコクコクと頷いている。



558:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/06/24(火) 02:34:47.37 ID:16vX/aHu0

131

--草原--

ぱからっぱからっぱからっぱからっ

ダダダダダ!

ハイ「説得力をあげる言系のスキル持ち……私が知る限りだと、亜人保護団体の代表君。王国の軍師さん。西の王国の西の王様。黄金王国の参謀長さん。それと盗賊さん、か。多分、各国の王様は全員持っているんだろうけど、絶対とは言い切れないし」

ハイは旅の中で起きたことを思い出していく。

ハイ「この中で私が会うことが出来るのは、そして話を信じて貰えるのは……」

ユー「……」

ハイ「……やっぱり盗賊さんしかいない!」

ハイは手綱を握り締める。

ハイ「行こうユーさん! ユニちゃん!! 失われた王国へ!!」

ユニ「ひひーーーーん!!」



559:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/06/24(火) 02:35:43.47 ID:16vX/aHu0

132

--死の砂漠--

びゅおおおおぉおお

砂嵐が二人と一匹を攻め立てる。

ざっ、ざっ

ハイ「はぁ、はぁっ……確か、この辺のはずだったんだけど……」

ハイ達は死の砂漠の中心をさ迷っている。

ざっ、ざっ

ハイ「はぁ……はぁ……」

死の砂漠の中心地はあらゆる生命の存在を許さない。
ほとんど一般人である通常状態のハイが耐えられるわけが無かった。

ハイ「おか、しいな。見つかりません……前は、もっと簡単に行けたん、だけ、ど」

ずる

ユニコーン「!? ひひん!!」

どさっ

ハイは砂の上に落ちる。



560:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/06/24(火) 02:36:14.48 ID:16vX/aHu0

133

--死の砂漠--

ユー「……」

そっとハイを担いでユニコーンに乗せるユー。

ハイ「はーっ、はーっ……」

ユー「……」

ハイが強くなれるのは戦闘時のみである。それ以外はただの27歳の女性……。

びゅおおおおおぉおおぉお

力尽きるのは時間の問題だった。

ズシーン

ユー「!……」

ユニコーン「ひひん!?」

その時、

巨大蠍「ぎしゃあぁああ!!」

巨大蠍が姿を現した。



561:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/06/24(火) 02:36:46.86 ID:16vX/aHu0

134

--死の砂漠--

ハイ「こ、このモンスターは……」


  配達屋「!? この鳴き声!」

  悪役「う、うわぁぁぁ!?」

  巨大蠍「ぎしゃあああああ!!」

  配達屋「さっきの巨大モンスター!? 私を追ってきたんですね……!」


ハイ「あの時の……そうか、ここらへんを棲家にしていたんですね」

ハイは鞄からパチ○コを取り出そうとするのだが、

ぽろ

手に力が入らないため掴み損ねて落としてしまう。

ハイ「う、目も、かすんで……」

巨大蠍「ぎしゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!」



562:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/06/24(火) 02:37:25.37 ID:16vX/aHu0

135

--死の砂漠--

咆哮とともに巨大蠍は鋏を振り下ろした。

ぶぉん!!

ユニコーン「ひ、ひいひひーーーーん!!」

ユー「」

ばっ

刹那、ユーはマントを翻し、腰に帯刀している二本の細剣、レイピアを抜いた。

しゃん……

ユー「……スキル、二段突き」



ボッ、ボッ!!!!

巨大蠍「」

ハイ「……あ」

薄れゆく意識の中で、ハイは巨大蠍の鋏を吹き飛ばすユーの剣を見た。



563:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/06/24(火) 02:38:25.48 ID:16vX/aHu0

136

--失われた王国--

ぴちょん

ハイ「ん……ここは」

??「気がついたか?」

ぼんやり

ハイ「あ、はい。ここはどこですか? ユーさん」

??「俺はユーさんじゃぁねぇぜよ」

ハイ「!!」

ガバッ

ハイは飛び起きた。

??「んん。元気があってよろしいぜよ」

髭面長髪のホームレス的存在が立っていた。

ハイ「貴方は……護皇さん」

??「俺か? 俺は護皇……あれ? 俺ら会ったことあったっけぜよ?」

名乗る前に自分の名前を言われて、護皇は不思議そうな顔をする。



564:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/06/24(火) 02:39:16.12 ID:16vX/aHu0

137

--失われた王国--

ユー「……」

すたすたすたすた

ハイ「あ、ユーさん」

??改め護皇「なんだ、ユーさんてこの男のことかぜよ。無口だからなんにもわからなかったんぜよ」

ユー「……」

もぐもぐ

ユーはジェスチャーで葡萄の美味しさを表現した後、ひと粒ハイの口に入れた。

ハイ「あむ。本当だ、おいしい」

護皇「そらそうだ、ここの果物はなんでもうめぇ。ここは楽園だからな」

ハイ「知ってます。護皇さん、私達盗賊さんに会いに来たんです。今どこにいらっしゃるかわかりますか?」

護皇「……あれ? なんでこの子なんでも知ってるぜよ?」



565:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/06/24(火) 02:40:30.35 ID:16vX/aHu0

138

--失われた王国--

じゃり

占師「ふぇっふぇっ。予言の子でも現れたのかい?」

そこに占師が現れた。

ユー「……」

護皇「予言の子……? まさかこの子がぜよ?」

ハイ「あっ……そういえばこの懐中時計……元はと言えばおばあさんが勇者さんに渡したんですよね?」

ハイは時を越えても身に着けていた懐中時計を占師に渡す。

占師「!……間違いないね。これは私が生涯をかけて作っていたものだよ……昨日いきなり無くなってしまったものだから、もしかしてと思っていたんだが……」

占師はハイの頬に手をあてる。

占師「戻ってきたんだね? 未来から」

ハイ「!!……はい!」



566:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/06/24(火) 02:42:19.10 ID:16vX/aHu0

139

--失われた王国--

占師「そうかいそうかい……勇者ちゃんに渡すつもりだったのだが、これもめぐり合わせなんだろう。で、ここには何をしに来たんだね?」

ハイ「盗賊さんに会いに来たんです!」

占師「あの青年か。なるほどなるほど……」

占師は窓の外を指差した。

占師「あの子なら先ほどどこかに出発しようとしていたけれど、今ならまだ追いつくかもしれないね」

ハイ「っ! わかりました、ありがとうございます!!」

がばっ!!

ハイは飛び起きて装備を掴んだ。

ハイ「あ……助けてくれてありがとうございます護皇さん。このお礼はいつか返しに来ますから」

護皇「いやぁ、もうそこのあんちゃんからお礼もらっちゃってるから気にしないでぜよ」

護皇の手にはハイのパンツが握られていた。

ハイ「!? いつの間にっ!?」

ユー「……」




567:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/06/24(火) 02:44:55.56 ID:16vX/aHu0

140

--失われた王国--

だだだだだだだ!!

ハイ「ま、待ってくださあああいい、盗賊さああああん!!」

盗賊「ん?」

旅の格好をし、今まさに出発しようとしている盗賊を呼び止めるハイ。

ハイ「はっ、はっ、はっ……よ、よかった、まだいてくれた……」

ユー「……」

盗賊「誰かな? 見たこと無いけど……」

盗賊は顎に手をあててハイとユーを交互に見た。

ハイ「わ、私……私は……ハイと言います」

ユー「……」

盗賊「ふむ。やっぱり聞いたこと無いな。それでそのハイちゃんが俺になんか用かい?」

息を整えるハイ。

ハイ「ふー……。話を聞いてもらいたいんです……」

盗賊「話?」

ハイ「その……わ、私……未来から来たって言ったら、笑いますか?」

盗賊「笑わないよ。俺、タイプの女の子の言うことだけは絶対に信じることにしてるから」

ハイ「そんな理由で信じちゃうんですかーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」

ユー「……」





579:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/01(火) 02:42:31.35 ID:KOd1hxiD0

141

--失われた王国--

ホーホー

ハイは半日かけて、これからこの世界に起こることと未来での出来事を細かく盗賊に説明した。

パチバチ……

盗賊「……」

ハイ「――という感じなんですが……」

盗賊「……」

ハイ(凄い険しい顔で悩んでる……ことの重大さを理解して、これから何をすべきか考えてるんだろうな……。やっぱりポニテ先輩のお父さんです、頼りになる!)

盗賊(話が複雑かつ難しくてよくわからん。あとう○こしたい)



580:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/01(火) 02:43:34.40 ID:KOd1hxiD0

142

--失われた王国--

盗賊「つまり、このままいくとよくないことが起きるってことでいいのね?」

ハイ(……私の半日がすぅごい曖昧かつ簡単な一言でまとめられてしまいました……)

少しショックなハイ。

盗賊「……うーん、頼ってきてくれた所悪いんだけど、俺一人で北の王を説き伏せるのは無理だね」

ハイ「えっ!?」

思いがけない一言によりハイは驚いた声を出す。

盗賊「えっていうか。北の王は普通に強敵だよ。道化演じてるけどキレる人だ……。そもそも王に会うことすら難しい」

俺はお尋ね者だからねー、と盗賊。

ハイ「そん、な……」

盗賊「説得力を強化すればまた別だけどな」

ぶっ!



581:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/01(火) 02:45:56.58 ID:KOd1hxiD0

143

--失われた王国--

ハイ(今のおなら、かな……いやでも盗賊さんこんな真剣な表情で話してるんだし、きっと聞き間違いだよね)「説得力を強化、っていうのはどうするんですか?」

盗賊「信じたくさせるような状況に持ってくしかないね。言葉以上の何かで」

ぶっ、ぶぶっ!

ハイ(……完全におならですね、臭いが……でも真剣に話をしてるわけだし、生理現象ですし、ここは平静を装わないと)「な、なるほど。盗賊さんには何か策があるんですか?」

ばぶりっ! 

盗賊「一応ね。後は向こうさんがどれだけ手を貸してくれるのかに関わってるんだけどさ」

ぶっ……びちちっ!

ハイ(今の音はまずい!)「あ、はい。……あの、盗賊さん……」

盗賊「どうかした?」

ぶりりりりっ!

ハイ「……盗賊さん……トイレ行ってきたほうがよくないですか?」

盗賊「……あ、いい? じゃあちょっと失礼するよ」

すっ

ひょこひょこ歩きで森の中に消えていった盗賊。
おしりがとてもこんもりしていたという。



582:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/01(火) 02:46:50.42 ID:KOd1hxiD0

144

--失われた王国--

盗賊「おいおっさん、これに署名してよ」

護皇「ぜよ?」

あれから盗賊は用があると言って護皇の家に寄り、一枚の紙を差し出した。

護皇「これなんぜよ?」

盗賊「なんでもいいから早く書くぜよ」

護皇「そんなこと言ってもよくわからんものにサインなんて出来ないぜよ」

盗賊「いいんだよほれぇ、さっさと書くんだよじじぃ!」

ハイ「無理やり契約させる人みたい!!」

ユー「……」



583:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/01(火) 02:48:07.48 ID:KOd1hxiD0

145

--失われた王国--

盗賊「じゃあちょっと未来から来たハイちゃんと世界救ってきます」

しゅるり

包帯を巻く盗賊。

護皇「いいのかぜよ? お嬢ちゃんのこと待たなくて。計画が狂うぜよ?」

盗賊「勇者には先に行動を起こすって言っといてくれ。どうもこのままじゃ間に合わない気がするんだ」

護皇「……わかったぜよ。気をつけて行ってくるぜよ」

盗賊「おう、ここの守りよろしく頼みますよ。じゃあ行こうぜハイちゃん、ユー君」

ハイ「あ、はい!」

ユー「……」

すたすた

ハイ「ちなみにどこに向かうつもりですか?」

盗賊「あぁ、それはな、黄金王国さ。しばらくよろしくな」

盗賊が仲間になった。



584:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/01(火) 02:49:37.36 ID:KOd1hxiD0

146

--黄金王国、牢獄--

がしゃーん

黄金兵「まったく、ふざけたことしやがって……。判決が出るまでそこで震えてるんだな」

盗賊「……」

ハイ「……」

ユー「……」

牢獄に入れられているハイ達。

盗賊「ち、あれくらいで牢獄にぶち込むとか。ひどい対応だぜ……」

ハイ「あ、当たり前ですーーー!! だから真正面から行こうって私言ったじゃないですかーーー!!」



585:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/01(火) 02:51:03.48 ID:KOd1hxiD0

147

--黄金王国、過去--

ハイ達が捕まる三時間前……。

がやがや

ハイ「うわぁ。私黄金王国はじめて来ましたけど、活気が凄いですねぇ!」

ハイ達は黄金王国のマーケットの中を歩く。

盗賊「まだまだ成長途中の国だからな。他の国とはハングリーさが違うよ」

黒肌のおばちゃん「お兄さんお嬢ちゃん、フルーツ、とてもおいしい、甘いよ!」

露天のおばちゃんがフルーツを買えと差し出してくる。

ハイ「あ、私達観光に来たわけじゃないので……資金もそんなに無いですし」

盗賊「美味そうだね。おばちゃん三つ下さい」

黒肌のおばちゃん「まいどー!」

ちゃりん

盗賊「はい、ハイちゃんにユー君、おあがりよ。腹が減っては戦はできんよ」

ハイ「は、はぁ……」(こんな簡単にお金使っちゃって大丈夫なのかな)



586:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/01(火) 02:51:44.07 ID:KOd1hxiD0

148

--黄金王国、過去--

しゃぐしゃぐ

盗賊「甘えぇ! なんだこれ。失われた王国のフルーツばりに美味しいじゃん!」

しゃり

ユー「……」



ハイ「あむ……確かに美味しいです。っていうかあそこで食べたのと似てる感じがします」

盗賊達は桃に似た果物を味わっている。

盗賊「あー美味かった。ねぇおばちゃん」

黒肌のおばちゃん「おかわり? もっとあるよ!」

盗賊「いやいやもうお腹いっぱい。それより聞きたいことあるんだけどさ」

盗賊はおばちゃんに近づいて言った。

盗賊「姫様って、どこにいるか知ってる?」



587:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/01(火) 02:52:51.67 ID:KOd1hxiD0

149

--黄金王国、過去--

黒肌のおばちゃん「姫、様?」

盗賊「そうそう」

ハイ(そういえば聞いたことがあります。黄金王国の支配者である姫様は、支配者階級にふさわしくないほどフリーダムな方だと。国民を愛し、一切偉ぶらないその姿に国民からの信頼は厚く、一説にはあの黄金で出来た城も国民のために開放し、今ではお年寄りの集会所になってるまである、と……)

まぁ最終決戦の時に近くにいたんだけど、とハイ。

盗賊「俺達姫様に話があって来たんだ。でも真正面からじゃ会ってくれなそうでさー」

盗賊のマントが揺れ、隙間からナイフがちらりと見えてしまう。

黒肌のおばちゃん「!!」

盗賊「姫様は護衛もつけずに外で遊びまわってるらしいって噂聞くしさ、そんならおばちゃん達が居場所知ってるんじゃないかって思うんだけど、どう?」

じり

ハイ「……あ、あの盗賊さん」

じりじり

ユー「……」

さっきまで活気で賑わう通りだったのだが、一瞬で殺気で埋め尽くされる。



588:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/01(火) 02:54:33.81 ID:KOd1hxiD0

150

--黄金王国、過去--

ハイ「盗賊さん……絶対私達怪しまれてますって……」

黄金王国はまだ国民の数が少ない。
それゆえ仲間意識が非常に強く、よそ者が入国すればたちまち知れ渡ってしまう。

ざわざわ

黒肌のおばちゃん「姫様の場所、知らない。買わないなら、行け」

盗賊「そっか。じゃあサンキューなおばちゃん。これ美味かったよ」

盗賊は手を振って歩いていく。

すたすたすた

ハイ「と、盗賊さん、どうするんですかこんなに目立っちゃって……素直に真正面から謁見手続きした方がいいと思います」

盗賊「はっはっはっ。俺らみたいなどこの馬の骨ともしれないやつらに、国家元首がぱっと会ってくれるわけないじゃないの。顔見知りならともかくさー」

ハイ「……。じゃあ……どうするんですか?」

盗賊「どうしようね」

ハイ「は、はい?」

ジロジロ

周囲の視線がハイ達を逃がさない。



589:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/01(火) 02:55:32.06 ID:KOd1hxiD0

151

--黄金王国、過去--

すたすたすた

盗賊「……いい国だ」

ハイ「え?」

盗賊「国民全員が姫様の身を案じてるよ。ただ居場所聞いてナイフ見せただけなのに」

ハイ「! やっぱりさっきのわざと見せてたんですか! なんでそんなこと!」

ざわざわ

盗賊「……こっちであってるみたいだな」

ハイ「え?」

盗賊「人が増えてってる。しかも進行方向を塞ぐようにしてね」



590:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/01(火) 02:57:02.12 ID:KOd1hxiD0

152

--黄金王国、過去--

ハイ「それは単純に、私達にこの国の中を歩き回られたく無いだけなんじゃ……」

盗賊「その可能性が無いとは言わない。けどね、さっきおばちゃんに質問した時に観察眼使ったんだ」

ハイ「え……」

盗賊「そしたら一瞬だけ意識をこっち側に向けた。周囲にいた人の中で、一人だけ小走りでこっちに走っていったのもいる」

ハイ「……いつのまに」

盗賊「今は太陽が真上に来ててあっついよな。こんな時は川遊びでもしたいもんだ」

……ザー

盗賊「ここに来る前に地図で確認したんだけど、この近くに川があるみたいなんだよね。どうだろ、丁度今頃そこにいるんじゃないかな? 姫様は」

ハイ「!!」(や、やっぱりこの人……ただのう○こもらし野郎じゃない!!)



591:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/01(火) 02:57:50.57 ID:KOd1hxiD0

153

--黄金王国、過去--

ざり

黒肌の男「立ち去れ。これ以上進むことは許さない」

黒肌の髭男「立ち去れ」

屈強な男たちが盗賊の前に立ちはだかる。

盗賊「……」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ハイ(! 戦闘になりそうな予感……! でも話し合いに来ただけなのに。しかもこんな)

後ろを見ると、戦闘経験のなさそうな女子供までもがハイ達を睨んでいる。

ハイ(一般人となんて、戦えない……)

盗賊「はっはっはっ、やだなー。こっちは争う気なんてないんだってばー」

盗賊は笑いながらハイとユーの手を握る。

盗賊「スキル、トリプルインビジボォ」

ばしゅん

黒肌の男、黒肌の髭男「「!?」」

盗賊達の姿が見えなくなった。



592:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/01(火) 02:58:19.17 ID:KOd1hxiD0

154

--黄金王国、過去--

ざざざざざ!!

ハイ「透明化スキル!? ど、どうするつもりなんですか? 盗賊さん!」

わーわー!!

民衆は盗賊達を見つけようと大騒ぎしている。

盗賊「さー……どうしようね?」

ハイ「無計画!?」




--黄金王国、過去--

参謀長「なに、賊が?」

執務をこなしていた参謀長の耳に盗賊の話が入る。



593:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/01(火) 02:59:41.15 ID:KOd1hxiD0

155

--黄金王国、過去--

ぺらり

部下から渡された入国許可証を見る参謀長。

参謀長「……! 護皇一行……だと?」

ばちっ

参謀長(……魔力筆跡も確かに彼のものだ……だとしたら、賊は何者だ? どうやってこれを入手した……)

参謀長は顎に手をあて考える。

たんぽぽ星人「どうすんだ参謀長。このままじゃ国中ひっかきまわされちまうぜ?」

参謀長(……報告では透明化スキルを使って逃げているという……ならなぜそのスキルを最初から使わなかった? わざわざ騒ぎを大きくしてまで……)

たんぽぽ星人「参謀長?」

すっ

参謀長「――決まっているでしょう。我らが姫を狙うものは、例えなんであろうと打ち倒すのみ」



594:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/01(火) 03:00:28.61 ID:KOd1hxiD0

156

--黄金王国、過去--

わーわー!!

盗賊「あー、しんどっ!」

びゅぅん

ジャングルに入った所でインビジボォを解く盗賊。

盗賊「あー……歳は取るもんじゃないねぇ……ただでさえ役立たずの俺がますます弱くなっちまうよ」

盗賊は肩に巻いたタオルで汗を拭く。

ハイ「……」

盗賊「あれ? どうしたのハイちゃんむくれちゃって。可愛い」

ハイ「盗賊さんが何をやろうとしてるのかおっしゃってくれないからです!!」

盗賊「まぁまぁそう怒らないでよ」

ぷにぷに

盗賊「こっちも無い頭振り絞って策を考えてんだからさ」

ハイ(……そのわりには、楽しそうです)



595:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/01(火) 03:02:04.95 ID:KOd1hxiD0

157

--黄金王国、過去--

ざー

盗賊「お、やっぱりいたね姫様」

盗賊達は木の上から川にいる姫の姿を確認する。

ハイ「姫様はいましたけど……姫様以外の人もいっぱいいますよ?」

姫のいる川を全方位から守るようにして兵士達が立っていた。

盗賊「見えない相手がどこから襲って来るのかわからないから、うかつに安全な場所に護送することも出来ないのかな?」

ハイ「そうですね。そして三強が来るまでの時間稼ぎだと思います」

盗賊「うん、だろうな」



ざー

姫「? これは一体なんの遊びかな? かな?」

黒肌の英雄「――姫様ご注意ください。敵がお命を狙っているのです」

姫「今バカってゆった!?」



596:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/01(火) 03:03:39.24 ID:KOd1hxiD0

158

--黄金王国、過去--

盗賊「うん、よし」

ぽん

盗賊は手を叩く。

盗賊「ハイちゃん、ユー君。ちょっと囮をしてください」

ハイ「……はい?」

盗賊「あそこから川に向かって大声で走ってってください。そしたら俺が逆側から姫様にアプローチします」

ハイ「……」

平然と作戦を提案する盗賊に対して、

ハイ「……あの、言いたく無かったんですけど」

盗賊「うん」

ハイ「私あんまり強く無いんです」

盗賊「大丈夫、俺のが弱いから」



597:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/01(火) 03:04:58.25 ID:KOd1hxiD0

159

--黄金王国、過去--

ハイ「私の職業、レベルは色々と条件が難しいんです。今の状況ではレベル2、騎士になるがいいのでしょうけど、ユニちゃんがいなくちゃ条件を達成できないんです。でもユニちゃんは入り口に繋いできちゃったから……」

盗賊を無視して話を続けるハイ。

盗賊「あぁそうなの? なんかそういうのあるの? めんどくさいね」

ハイ「うぅ……そうなんですよ」

ぽん

ユー「……」



ユーはハイの肩を叩き、サムズアップ。

ハイ「……なんですか? バカにしてるんですか?」

ユー「……」

違う違うとジェスチャーをしてから再びサムズアップ。

盗賊「あ、なるほどそういうことね」

ハイ「? 何がそういうことなんですか?」

盗賊「騎士になるにはユニコーンが必須って言ってたけどさ、ようは騎乗できたらいいんでしょ?」



598:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/01(火) 03:06:23.32 ID:KOd1hxiD0

160

--黄金王国、過去--

びしっ

黒肌の敏感「あたっ……小石?」

ハイ「じょ、条件達成っ!! レベル2! き、騎士っ!!」

ばしゅうー!!

ユー「!」

だからっだからっだからっ!!

黒肌の英雄「!? なんだ、なんだあれは!」

ハイ「や、やけくそだーーー!!」

ユーにまたがるハイが川に向かって突進する。
ユーはまるで馬のように疾走する。

黒肌の英雄「と、取り押さえろー!!」

わーー!!

しゅん

黒肌の英雄「!?」

兵士達がハイを取り押さえようと向かったその時、一陣の風が吹き、それは姫の傍に現れた。

姫「ふにゃ?」

ぱんっ

盗賊「ドーモ。ヒメ=サン。トウゾクです」



603:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/08(火) 03:12:11.35 ID:WS0zgOr/0

161

--黄金王国、過去--

姫「とう、ぞく?」

きょとんとした顔の姫。

黒肌の英雄「くっ!! 姫様!!」

しゃきぃん! 

黒肌の英雄が剣を抜き盗賊に斬りかかろうとするも、

ドッ!!

黒肌の英雄「ッ!!」

ドサッ

その前に盗賊が黒肌の英雄の首に手刀を放ち、気絶させる方が早かった。

盗賊「やぁ姫さん、乱暴になっちゃって悪いね。これでも話があって来ただけなんだぜ」

姫「話? 姫ちゃんに?」

盗賊「うん、ちょっと重大なことが……あれ?」

しゅぅう

いきなり霧が出現し、盗賊の視界が奪われる。



604:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/08(火) 03:13:46.65 ID:WS0zgOr/0

162

--黄金王国、過去--

潜入長(奥義、霧霧巣!! 姫様は渡しません!!)

ザザザザザ!!

その場に潜入長が現れた。

黒肌のふとっちょ「この霧は潜入長様の!! やった! 間に合ったぞ!! これで姫様は無事だ!」

しゅうぅうう

盗賊(なんだこれ……探知が全然出来ない……スキル、透視眼)

きぃいいん

しかし、目の前にいたはずの姫の姿でさえ捕らえることが出来ない。

盗賊(これでも駄目なのか……となると)

ザザザザザ!!

潜入長(姫様に手を伸ばした瞬間、仕留める!!)

潜入長は盗賊達に近づいていく。



605:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/08(火) 03:15:12.51 ID:WS0zgOr/0

163

--黄金王国、過去--

盗賊「よし」

潜入長(私の姿を確認することなく死になさい!)

しゅばっ!!

盗賊「逃げよ」

すかっ

潜入長「!?」

盗賊はダッシュで後方に逃げていく。

ばしゃばしゃばしゃばしゃ!

潜入長「そんな……姫様が狙いだったんだろうに……いくら不可解なことが起きたからって、目標を目の前にして逃げるんですか……? 信じられない」

姫「あれ? この霧なにこれー!?」






ハイ「私はいつまで暴れてればいいんですかー?」




606:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/08(火) 03:17:18.99 ID:WS0zgOr/0

164

--黄金王国、過去--

ほーほー

夜。

ハイ「はぁ、はぁ……」

盗賊「おうハイちゃん。お疲れ」

ハイ「お、お疲れじゃないですよ……あれから、みんなをまくのに、大変、だったんですから、ね」

息を整えるハイと汗一つ見せないユー。

ユー「……」

ハイ「それで――姫様は、無理だったんですか?」

盗賊「無理だったね。後少しだったのになー」

もっちゃくっちゃ

盗賊はジャングルにあった果物を食べている。

ハイ「……なんか軽いですね。本気さが感じられません……」

盗賊「そうだ、聞いておきたいことがあったんだよハイちゃん。ちょっといいかな」

ハイ「え?」

盗賊「パンツの色についてなんだけど」



607:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/08(火) 03:18:34.46 ID:WS0zgOr/0

165

--黄金王国、過去--

参謀長「逃がしたんですか」

潜入長「すいません……まさかあの状況で即座に後退するとは思わなくて……」

おろおろと慌てる潜入長。

参謀長「――いえ、よくやりました。姫を守りきったことだけでも評価に値します。優先順位を間違えなかった貴女の決断は正しい」

潜入長「! あ、ありがとうございます!」

参謀長(……しかし半日かけて捕まらないとは……)「たんぽぽ星人、もこもこ。貴方たちにも動いて貰いますよ」

たんぽぽ星人「! おう。腕がなまってたところだぜ!」

もこいち「もきゅ。進化した我々の情報能力ならきっと一瞬もきゅよ!」

参謀長「あぁ、そうだと思ってる……頼りにしてるよ」



608:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/08(火) 03:19:11.87 ID:WS0zgOr/0

166

--黄金王国、過去--

ぴくっ

盗賊「……」

ジャングルの中で睡眠を取っていた盗賊は何かの気配を感じ取って起き上がる。

盗賊「……多いね」

ハイ「むにゃむにゃ……どうかしたんですか?」

盗賊「ハイちゃんもユー君も起きて。どうやら向こうも本気を出してきたみたいだぜ」

ザザザザ……

ハイ「! ジャングルの中を何かが移動してます?」

盗賊「そろそろ罠地帯にさしかかるようだが……こいつらはどう反応するかな?」



609:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/08(火) 03:21:11.26 ID:WS0zgOr/0

167

--黄金王国、過去--

ばちぃん!!

たんぽぽ星人A「いったっ!? な、なんだこれ痺れれレレレ!!」

たんぽぽ星人B「! おいやっぱり罠があるみたいだぞ、参謀長の言っていた通りだ! 罠がありそうな位置と魔力の固有振動値をもこもこちゃんねるにうpるぞ!」

たんぽぽ星人C「――情報確認した。もこもこ細胞を組み込んだのは正解だったな。俺の分身能力と相性が抜群だぜ!」

たんぽぽ星人B「よし、次のフェーズに移行する。ここからは弓の出番だ」

すっ

弓を持ったたんぽぽ星人たちがジャングルの奥に向かって弓を構える。




盗賊「ありり? 最初のやつ以外綺麗に罠をかわしてくる……モンスターの場所も丁寧に避けてるし……まずいな、移動するぞ」



610:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/08(火) 03:22:02.73 ID:WS0zgOr/0

168

--黄金王国、過去--

ひゅひゅひゅひゅ!!

盗賊「! 矢を撃ってきたか」

ハイ「うわっ! 反撃しなきゃ!」

すっ

ユーはハイを止めた。

ハイ「え? なんで止めるんですか?」

盗賊「向こうは四方八方、弓で攻撃している……ってことはまだうちらの場所がわからないってことだ。大体の場所まで絞れてるんだろうけど」

ハイ「反撃したらばれちゃう、ってことですか」

盗賊「そそ。ここは少しずつ後退していこう。敵がいない場所を通って」



611:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/08(火) 03:24:10.39 ID:WS0zgOr/0

169

--黄金王国、過去--

すすす

たんぽぽ星人D「いたかー?」

たんぽぽ星人E「いないでー」

がさがさ

盗賊(こんな所にまでいるなんて。向こうさんかなりの兵を俺らの捜索に動員してる……。まぁ、あれだけ騒いだやつがいまだに自分の領土をうろうろしてるんだから当たり前か)

盗賊はにやりと笑う。

ハイ(どうするんですか? 盗賊さん)

盗賊(……このまま姫さんの所に特攻しちゃおうかな)

ハイ(え)

盗賊(こんだけ兵が出てきてるってことは逆に姫の警護は手薄になってるはずだからね)

ハイ(……もしかして兵を引きずりだすために昼間あんなことを……?)

盗賊(偶然偶然。でも思った以上なので包囲網を抜けれるか心配だなぁ)



612:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/08(火) 03:24:53.35 ID:WS0zgOr/0

170

--黄金王国、過去--

ぽんぽん

ユーが盗賊の肩を叩く。

ユー「……」

盗賊(え、ユー君が囮になるって?)

こくこく

盗賊(うーん……)

ハイ(さすがにこの数じゃ厳しいんじゃないですか……?)

ユーは任せろとばかりに自分の胸を叩く。

盗賊(……うん、任せたぜユー君。君ならなんとかなるだろうし)



613:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/08(火) 03:25:49.70 ID:WS0zgOr/0

171

--黄金王国、過去--

ガサガサ!!

たんぽぽ星人F「!! おいこっちいたぞー!!」

ユー「……」

腕を組んでマントを棚引かせているユー。

たんぽぽ星人G「! 後ろにも二人いるぞ! 全部で三人、情報通りだ。狙いつけて撃てー!!」

ばしゅばしゅばしゅばしゅ!!

ぎぎぎぎっぎいいんん!!

ユー「……」

ユーは二本のレイピアで飛んできた矢の全てを叩き落とす。

たんぽぽ星人H「ちっ、当たらなくてもいい、あの三人をここに足止めするんだ!」

ばしゅばしゅばしゅ!!



614:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/08(火) 03:27:51.31 ID:WS0zgOr/0

172

--黄金王国、過去--

たんぽぽ星人I「俺が行く!」

ババッ!!

たんぽぽ星人F「! あれは近接特化個体! みんな、あいつを援護しろ!!」

ばしゅばしゅ!!

ユー「……」

一直線に走ってくるたんぽぽ星人。それをユーは矢を落としながら迎え撃つ。

しゃりん

たんぽぽ星人I「うおりゃああああああああああああ!!」

どぎいいいいいいいいいん!!!!

たんぽぽ星人I「!! こんな細い剣で俺の拳を止めやがった!?」

ユー「――スキル、土属性防御剣」

いつのまにかユーの剣は、鉱石のようなもので覆われていた。



615:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/08(火) 03:28:51.27 ID:WS0zgOr/0

173

--黄金王国、過去--

ぎぎん、ぎぎぎぎん、どしゅっ!

たんぽぽ星人I「がはっ!」

たんぽぽ星人J「!? 近接特化個体がやられたぞ! しかもあっさり!」

ユー「……」

ザザザザザ!!

たんぽぽ星人K「うお、向かってきやがった!?」

ズバババババババババ!!

木々をかわし矢を落とし、視界にいるたんぽぽ星人全てを一瞬で切り裂いた。

ぶしゅっ!!

たんぽぽ星人L「こ、こいつ……」

たんぽぽ星人M「は、速くて、強い」

どささささ!!

ユー「……」



616:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/08(火) 03:30:21.78 ID:WS0zgOr/0

174

--黄金王国、過去--

しゅ

ユー「」

ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!

突撃長「――ほっ。わしの不意打ちをあっさりと受け止めるとはやりますですじゃ!」

巨大な斧を持った老人がユーに向かって喋りかける。

シャシャシャッ!!

ユー「!」

ふぉんっ!!

潜入長「! 私の攻撃までもかわすなんて……!」

じりじり

ユー「……」

突撃長と潜入長が現れてユーを囲む。

たんぽぽ星人L「へ、へへ。うちの三強レベルの二人だぜ……お前ら三人もここまでだ」



617:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/08(火) 03:31:20.96 ID:WS0zgOr/0

175

--黄金王国、過去--

タタタタタ

盗賊「やー。町には兵が少なくて楽ちんだなー。はっはっはっ」

ハイ「土属性魔法、分身改……自分の分身を自分以外の姿に変えて操る魔法。そんな魔法もあるんですね」

盗賊「全く便利な魔法だ。あちらさんはまだ俺らがあのジャングルにいると思ってるんだろうな」




ギギギギィン!!

潜入長(く! この男私達二人を相手に互角にやりあってる!!)

突撃長(残りの二人に手を出させないとは余裕ですじゃな……しかしいつまでそれが続きますかじゃ!)

ユー「……!!」

ギギギギギギン!!



618:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/08(火) 03:33:12.35 ID:WS0zgOr/0

176

--黄金王国、過去--

ササササササ!

黒肌の筋肉「……」

兵たちの真横を透明化してすり抜けていくハイ達。

ハイ(にしてもこのインビジボォもめちゃくちゃ便利ですね……誰にも感知されずに移動できるとか)

盗賊「……」

ハイ(才能が無い人だって聞いてたけれど、こうやって色んな技を駆使して生き抜いてきたんだろうな……一つのスキルや魔法に対する理解が深いように感じる)

盗賊「……」

ぶっ

黒肌の筋肉「? 何だ今の音は? おならみたいなのが聞こえたが……」

ハイ「……」)



619:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/08(火) 03:34:10.21 ID:WS0zgOr/0

177

--黄金王国、過去--

ざっ

ハイ「ここが姫様のお家……ですか?」

盗賊「何事も無くここまで来れちゃったな。本当に警備が薄いというか」

盗賊は窓に近づいて中を見る。

姫「くー、すー」

盗賊「いるな。よし……」

かちゃかちゃかちゃ、かきん

ハイ「うわ、鍵開けちゃいました」

盗賊「だって俺本職盗賊だし。今はニートだけど」

ハイ「最低な経歴ですね」



620:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/08(火) 03:35:38.33 ID:WS0zgOr/0

178

--黄金王国、過去--

すた、すた

盗賊は姫のいるベッドにまで近づいていく。

ハイ「と、盗賊さん。さすがにこれは怪しくないですか? 姫様の周りに護衛が一切いないなんて、そんなことありえるんですか?」

盗賊「ん? ありえないんじゃない?」

ハイ「! だったら」

盗賊「まぁいいからいいから。それにここにいる姫様は本物なんだよねー。透視眼で確かめたから間違いない」

すっ

盗賊は手を伸ばした。

参謀長「その手を引っ込めてもらおうか」

ハイ「!?」

ぎぃ

暗闇の中に、壁を背にして参謀長が立っていた。

盗賊「……いたんだ?」

ハイ(そんな、盗賊さんでさえ気配に気がつかなかったなんて!)



621:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/08(火) 03:39:24.63 ID:WS0zgOr/0

179

--黄金王国、過去--

盗賊「……」

参謀長「……」

にらみ合う二人。

盗賊「君は……参謀長さんでいいのかな?」

参謀長「……」

参謀長は無言で盗賊を見つめている。

参謀長(この国を引っ掻き回せるほどの人物が誰なのか色々と考えてはいたが……こいつは誰だ? この包帯男。私の記憶にこんなやつはいない。一体どこの勢力のものだ?)

盗賊「話があって来たんだが、聞いてもらえたりするかな? 出来れば紅茶とかも出して欲しいんだけど」

参謀長「ふっ、この状況で何を言うかと思えば。話は聞くさ。拷問室でな」

ハイ「っ」

ハイが腰のパチ○コに手を出そうとした瞬間、

ばちっ

ハイ「きゃっ!?」

手に電流が流れ、パチ○コを落としてしまう。

ハイ「な、何今の?」

参謀長「私が許したこと以外しないほうがいい。ここは私の領土内なのだからな」



622:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/08(火) 03:44:04.18 ID:WS0zgOr/0

180

--黄金王国、過去--

盗賊(領土に関するスキル……? 中々面白い能力じゃん。噂に聞いてたのよりずっといい)

参謀長「さて、武器を捨てて姫から離れてもらおうか。もし抵抗するというのならこのまま……」

ぎり

盗賊「っ!」

ハイ「んっ!? 心臓が、わしづかみされてるみたいに痛くて苦しい……!」

ぎりぎりぎりぎりぎり

盗賊「うぎっ!……わ、わかった……降参だ」

ハイ「!?」

ごと

盗賊はあっさりとナイフを捨てて手を上げた。

はらり

その時に白い紙が一緒に落ちた。

ハイ(え、えぇ!? 一体この人はなんなんですか!? こんな無謀なことして捕まるだけですか!?)

参謀長「……ひっとらえろ」






がしゃーん

--黄金王国、牢獄--

ということで現在。

ハイ「うぅ……もう日数が無いのにこんな所で無駄にしちゃうなんて……」

ハイはよよよと泣いている。

ユー「……」

ユーは傷一つ無い体をタオルで拭いている。

盗賊「ハイちゃん、無駄じゃないさ。そろそろあれに気づいてくれるだろうから、もうすぐ釈放されるよ」

ハイ「え……」

盗賊「それまでもうちょっと。ここでリラックスして待ってようぜ」

盗賊は鼻歌を歌っている。



630:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/15(火) 02:18:05.98 ID:T2t+mGrr0

181

--黄金王国--

突撃長「ふひー。久しぶりに暴れさせてもらったですじゃ。しかしあの男、本当に強かった……」

タオルで汗を拭いている突撃長。

潜入長「っ……私達を誰も傷つけないように加減して戦っていた気がします……しかも最後はいきなり投降するし……屈辱の極み!」

親指の爪を噛んでいる潜入長。

たんぽぽ星人「誰も傷つけないようにって、俺の分身めっちゃ斬られてたんだけど?」

残りの自分の数を数えているたんぽぽ星人。

潜入長「それはあなたが人として見なされて無かったからです」

たんぽぽ星人「ひどい!」

突撃長(ひどいっていうか、本当に人じゃないでしょうに)



631:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/15(火) 02:18:32.45 ID:T2t+mGrr0

182

--黄金王国--

がちゃ、ぎぃ

そこに参謀長が現れる。

参謀長「お疲れ様でしたお二方。怪我は無いと聞きましたが大丈夫ですか?」

突撃長「ほっほっ。心配かけてしまいましたな。我らならこの通り大丈夫ですじゃよ」

参謀長「そうですか。それは良かった」

たんぽぽ星人「おい、ナチュラルに俺をはぶくなよ」

潜入長「それより参謀長様。賊はどうしてますか?」

参謀長「……とりあえず牢獄にいれてあります。尋問は日が昇ってから行うつもりです」



632:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/15(火) 02:19:32.79 ID:T2t+mGrr0

183

--黄金王国--

バタバタバタ

部屋の外が慌ただしい。

突撃長「なにやら先ほどから賑やかですな。トラブルでもあったのですじゃ?」

参謀長「いえ、賊があの者達だけとは限らないので警備を強化させてるんですよ。兵には負担をかけてしまいますが」

突撃長「――なるほど、確かに。この老兵、そんなことにすら気づけなかったとは……。日を増すごとに衰えていくこの体……もういっそ死んでしまいたいですじゃ……」

参謀長「そこまで悲観しないでください突撃長さん。貴方はよくがんばってくださっている」

参謀長は落ち込む突撃長の肩に手をおく。

潜入長「……なおさら早く尋問すべきなんじゃないんですか? 仲間がいるのかどうか、彼らに直接聞けばいいじゃないですか」

参謀長「そうなんだけど、ね」

ぴら

参謀長はある紙を見せる。



633:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/15(火) 02:20:21.59 ID:T2t+mGrr0

184

--黄金王国--

突撃長「なんですかな? これは」

参謀長「賊の主犯格とおぼしき男がこれ見よがしに落としていったものです」

その紙にはこう書いている。



 かに りんご かぼちゃ しま なし しろ なし


    彼女はなんでも知っている
未来からきた姫の友人より



突撃長「……なんですじゃ? これ」

参謀長「わかりません」



634:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/15(火) 02:21:25.40 ID:T2t+mGrr0

185

--黄金王国--

潜入長「それもなんなのか直接聞いちゃえばいいんじゃないんですか?」

参謀長「……」

突撃長「……」

潜入長「な、なんですかその無いわー、っていう目!」

参謀長と突撃長の二人は深いため息をつく。

参謀長「だってクイズを出されたっていうのに、すぐ答えを聞きにいっちゃうのは自分で愚か者だ、って言っているようなもんじゃないですか」

突撃長「そうですじゃそうですじゃ。まったく、ロマンが無い」

潜入長「ロマン……そんなこと言ってる場合じゃないんじゃ……」



635:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/15(火) 02:22:38.99 ID:T2t+mGrr0

186

--黄金王国--

参謀長は椅子を引き寄せて座る。

参謀長「まぁ冗談は置いといて……私が思うにですね、この一連の行動は全て、我々を試そうとして行ったものだと思っています」

突撃長「!?」

潜入長「試す……?」

参謀長「えぇ。我々の性能を試しつつ、その上で自分らの有能さをこっちに宣伝している……そんな感じですね。組むに値するのかどうなのか、と」

潜入長「ふ、ふざけてる!」

参謀長「ええ、まったく」

参謀長は顎に手を当てる。

参謀長「……現在我々は後手に回っています。今兵士達に彼らの情報を集めて貰っていますが、どうせ大したことはわからないでしょう。だから私はこの時間を利用して、彼らが何のメッセージを私達によこしたのか読み解くつもりです」

尋問をするにしても、彼らの情報を持っているのと持っていないのでは大きな差がでますから、と参謀長。



636:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/15(火) 02:24:24.78 ID:T2t+mGrr0

187

--黄金王国--

がちゃ

姫「ふぁあぁあ。みんな何の騒ぎなの? 姫ちゃん眠いのにー」

もこもこを引きずりながら下着姿の姫が現れる。

突撃長「姫様……起こしてしまいましたな」

潜入長「ひ、姫様、今は立て込んでますので寝所に行きましょう?」

潜入長が慌てて姫のもとにかけよった。

参謀長「……姫様。これがなんだかわかりますか?」

参謀長は姫に例の紙を見せる。

姫「ふぇ? かに、りんご?」

姫は寝ぼけ眼をこすりながらそれを受け取った。

姫「んぅ? んーん。これは天才の姫ちゃんでもわからないね!」

参謀長「でしょうね」

姫「今バカってゆった!?」

突撃長(遂に被害妄想による幻聴まで……)



637:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/15(火) 02:26:01.48 ID:T2t+mGrr0

188

--黄金王国、牢獄--

ハイ「――あの時落とした紙に、そんな理由があったんですか?」

盗賊「そうだよー。ちゃんとした理由があったのさー」

ハイ「……何を書いたのかわからないですけど、それで本当になんとかなるんでしょうか」

盗賊「大丈夫だよきっと。あの参謀長って人、頭よさそうだったし」

ハイ「よさそう、って。そんなの見た目で判断してるだけじゃないですか」

盗賊「見た目で判断してるわけじゃないよ」

盗賊は鼻をほじる。

盗賊「……あの時俺は上手く兵をおびき寄せたつもりだったし、ちゃんと人気の無い所を通って姫さんの所に侵入したつもりだった。でもそれは全部向こうの計算通りだったのさ。あえて被害を出させないために兵と接触させなかったんだ」

ハイ「え」

ユー「……」

ちくちくちく

ユーは自分のマントを材料にして何かを作っている。



638:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/15(火) 02:27:24.49 ID:T2t+mGrr0

189

--黄金王国--

突撃長「!……もしかしてこの文章は我々を混乱させるために意味不明なことを書き連ねただけなのではないですじゃ?」

潜入長「っ! それですよきっと! あの包帯男とか見るからにうさんくさいし……何か深い考えがあって動いてるなんてとても思えません!」

参謀長「……何も考えてない、とは思えないんですよ」

参謀長はぼそりと呟いた。

潜入長「え……」

参謀長「あの賊は途中から私の策に気づいてましたし」

突撃長「!? なんですと!?」

潜入長「そ、そんなのありえないですよ!」

参謀長「ありえるんですよ。でなければ姫様の寝所に入った時にあそこまで落ち着いていられないはず……。つまりやつは罠だと知りつつも飛び込んだ……それがもっとも姫様に近づける手段だったから」



639:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/15(火) 02:29:19.82 ID:T2t+mGrr0

190

--黄金王国--

潜入長「じゃ、じゃあ……あの人たち……」

参謀長「我々に殺される心配が無いという、確信を持っていなきゃ出来ない行動ですね。よほど重要な情報を持っているのか。あるいは……」

潜入長「……ただの狂人、という線は?」

参謀長「無いとは言えません」

姫「ねーねー、姫ちゃんめんどくなっちゃったから寝ていい?」

姫はあくびをしている。

突撃長「おっと、忘れておりましたですじゃ。ささ、行きましょう姫様。寝不足は体に毒ですじゃ」

突撃長が姫を連れて部屋を出て行こうとする。

くるっ

参謀長「……!」

二人の後姿を見た参謀長に電撃が走る。



640:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/15(火) 02:30:15.45 ID:T2t+mGrr0

191

--黄金王国、牢獄--

早朝

ちゅんちゅん

ぎぃ

ハイ「うーん、むにゃむにゃ……? まぶしっ!」

暗い牢獄の中に朝日が差し込んだ。

黄金兵「……出ろ。参謀長様がお前らに話があるとさ」

ハイ「!!」

盗賊「……待ってました。」

ぽんぽん

ユー「……」

ユーはハイの肩を叩く。

ハイ「なんですかユーさん?……え? これ私に、ですか?」

こくり

ユーが手渡したのは自作のパンツだった。



641:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/15(火) 02:30:46.91 ID:T2t+mGrr0

192

--黄金王国--

こんこん

黄金兵「失礼します。賊を連れてまいりました」

参謀長「ご苦労様。入れ」

黄金兵「はっ」

ぎぃ

潜入長「……」

突撃長「……」

参謀長「……」

部屋の中にいる三人がプレッシャーを放つ。

姫「お? 昨日の包帯男だー」



642:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/15(火) 02:31:36.76 ID:T2t+mGrr0

193

--黄金王国--

盗賊「やぁやぁ。昨日はどうもー」

ハイ「ちょっ!? 盗賊さんフレンドリーすぎやしませんか!?」

参謀長「……」

参謀長は一切表情を崩さずに、紙を盗賊のほうに投げ捨てた。

ひら ひら ぱさ

盗賊「どうやら意味はわかったみたいだね?」

参謀長「……なぜこのことを知っている?」

参謀長の表情が険しくなる。



643:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/15(火) 02:35:04.61 ID:T2t+mGrr0

194

--黄金王国--

ハイ(!! ここまで険しい表情になるなんて……盗賊さんは一体何を書いたんだろう……)

盗賊「書いてあっただろ? なんでも知ってるって。未来から来たんだって」

潜入長「たわごとを!! そんなわけあるもんか! どうせどっかから盗み見ていたんだろう!?」

参謀長「潜入長さん、少し落ち着いてください」

掴みかからんばかりの潜入長を参謀長が制す。

潜入長「だ、だって!」

参謀長「盗み見られていたにせよ、それはそれで問題なんですよ。我々が知らない間に、この者達は黄金王国最大級の秘密を知っていた……」

潜入長「ッ!!」

盗賊「さすが。これがどういう意味なのかわかったみたいだな」

参謀長「……あぁ」

参謀長は深いため息をつく。

参謀長「……あそこに書かれていたのは」



    姫様のパンツの一週間のローテーションだ



644:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/15(火) 02:37:15.73 ID:T2t+mGrr0

195

--黄金王国--

ハイ「!? は、はいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?」

盗賊「うむ、ご名答!」

盗賊は誇らしげな表情だ。

ハイ「な、何を書いてるんですか何をぉ!!……はっ!? あの時私に聞いてきたのはそういうことだったんですか……」

ぴくっ

参謀長がわずかに反応する。

ハイ「なんでいきなりそんなことをと思ってましたけど……まさかこんな……」

盗賊「……今のでもうわかったと思うけど、未来から来た、っていうのはこの子なんだよ参謀長さん」

そういって盗賊はハイの頭に手を乗せる。

盗賊「この子は今から一年後に姫様と仲良くなって友達になったらしい。それでその時、姫様のおパンツローテーションのことを聞いたんだとさ」

ハイ「……仲良く、っていうほど長い付き合いではありませんでしたけど、まぁ寝食を共にしましたからね」(最終決戦の時に)

姫「姫ちゃんとその子が……友達?」



645:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/15(火) 02:39:50.39 ID:T2t+mGrr0

196

--黄金王国--

参謀長「ふむ……目的はなんだ? 我々に早急に近づいて話をしなければならないほどの何かがあるのだろう?」

潜入長「!? 参謀長様! 信じるんですか!? たかがパンツのローテーションがばれたくらいで!!」

突撃長「ですじゃですじゃ!」

参謀長「たかがじゃないんですよ潜入長さん。ある曜日を除けば、姫様のパンツの柄が外部にばれることはありえないんです。それは私が保証します」

突撃長(……パンツの柄の話ですじゃよね?)

参謀長「私だってこの者達が言っていることを完全に信じたわけじゃない。時間移動の魔法は過去の私でさえ作りえなかったもの……そうやすやすと信じられません」

盗賊「……」

参謀長「だが何かしらの強力な情報源をもっていることは確かです。それを我々に見せたということは、その力を我々に買って欲しいということ」

盗賊「……」

参謀長「いや、違うか……それならこんな急で危険な行動をする理由にはならない……何か切羽詰ったものを感じる……なるほど、何か危険が迫っていて我々の力が必要ということだな?」

盗賊「うん」



646:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/15(火) 02:40:26.21 ID:T2t+mGrr0

197

--黄金王国--

参謀長「それはどの程度の規模の危険か?」

盗賊「人類全滅」

潜入長「!?」

突撃長「!? な、なっ!?」

参謀長「……なるほど、了解した。では話をしてもらおうか。そちらの持っている情報の全てを」

潜入長「ちょっ、ちょちょちょ、ちょっと待ってくださいよ参謀長様! 勝手に話を進め過ぎです!」

突撃長「そうですじゃ! 我々理解がおっつきませぬ! ひ、姫様だってそうですじゃ!」

姫「なーなー。お前、未来から来た姫ちゃんの友達なのか?」

姫はハイの服を引っ張りながら聞く。

ハイ「え? あ、は、はい」



647:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/15(火) 02:41:28.14 ID:T2t+mGrr0

198

--黄金王国--

ぱああああ

っと、姫の表情が明るくなる。

姫「そうか! お前は姫ちゃんの友達なのだな! きゃっほー! 友達ー!!」

ばふっ

姫はハイに抱きついた。

姫「姫ちゃん家臣はいても人間の友達はいないからな! 嬉しいぞーー!!」

突撃長「ちょっとーーーーー!! 何で賊に接近してるんですじゃ姫様ーーー!!」

姫「賊じゃないよ、友達だよ!」

頬を膨らませながら姫は怒る。

突撃長「も、もうちょっと疑いを持って欲しいですじゃ! この者達は姫様に危害を加えるつもりかもしれませんのですじゃよ!?」

姫「え? 危害を加えるつもりなのか?」

姫はハイに聞く。

ハイ「いえ、そんなことないです」

姫「ほらみろ!」

突撃長「ですじゃー!!」



648:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/15(火) 02:42:59.58 ID:T2t+mGrr0

199

--黄金王国--

潜入長は頭を抱えている。

参謀長「突撃長殿。そこらへんにしておきましょう。話を聞いてみたいと思います」

突撃長「で、ですがこの者達が嘘を言っている可能性も……」

姫「嘘って何? 食べ物?」

突撃長「バカだ!!」

姫「今バカってゆった!?」

ぴょんぴょん!

跳ねる姫。
その時ふわりと姫のスカートがめくれ上がった。

盗賊「あ、なし、って梨じゃ無いのね」



649:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/15(火) 02:46:55.88 ID:T2t+mGrr0

200

--黄金王国--

盗賊「じゃあほれ、ハイちゃん。説明したげて」

盗賊はハイの背中を押す。

ハイ「は、はい……じゃあ信じて貰えるかわかりませんが、これから起こることを話させてもらいます」

ハイは一歩進んで参謀長の眼を見る。

ハイ「……これから数日後、北で魔王軍が動き始めます。そして北の王国がわずか半日で壊滅します」

参謀長「!」

突撃長「なっ!」

潜入長「ば、バカな!!」

ハイ「――全てはそこから始まったんです。人類の滅びの道が……そしてこのままだとまたバッドエンドに辿り着いてしまう……だから私は歴史を修正したいんです。北の王国の人たちを助けたいんです!」

盗賊「……」

ユー「……」

潜入長「さ、参謀長様……」

参謀長「……半日で一つの王国を滅ぼすような相手だ……我々が力を貸した所でどうにかなるのですか?」

ハイ「……全員が最終決戦に揃っていれば……何とかなると思います! いえ……」

ハイは大きく息を吸い込んだ。

ハイ「――何とかしてみせます」



655:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/22(火) 01:30:23.61 ID:zPv1XqvF0

201

--黄金王国--

ざっ

黒肌の兵士「参謀長殿。準備整いました」

参謀長「ご苦労」

ハイ「ふぇぇ……ほ、ほんとに国を動かせちゃった」

ざっ、ざっ

黄金王国の兵の約半数が整列している。

参謀長「ではゆくぞ。北の王国を救いに」

ぽてっ、ぽてっ

姫「あ、ちょっとまって参謀長ー。姫ちゃんまだいつものお菓子持ってきてなくて、ちょっとまって」

参謀長「しゅっぱーつ」

姫「待ってって、言ってるのに!! びえー!!」



656:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/22(火) 01:31:35.98 ID:zPv1XqvF0

202

--草原--

ざっざっざっ

ユニコーン「……」

ぱかっ、ぱかっ、ぱかっ

ハイ(ユニちゃんのことすっかり忘れてた……)「でも盗賊さん。あんな約束しちゃってよかったんですか?」

盗賊「あんな約束? どれのこと?」

ハイ「ほら、

  参謀長『しかし盗賊殿。これだけの数の人間を動かすのです。もしなにも起きなかったら……その時はどう責任を取るおつもりですか?』

  盗賊『じゃあその時は失われた王国の半分あげるよ』

ってやつです……」

盗賊「あぁ、あれね」

ハイ「あれね、じゃなくて……」



657:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/22(火) 01:32:58.56 ID:zPv1XqvF0

203

--草原--

盗賊「それはまぁなんとかなるでしょー」

ハイ「……」

盗賊「あれ?……また呆れさせちゃったかな?」

ハイ「いえ、そうじゃないんです!……これは私が言い出したことなんだから、本当なら対価を出すのも責任を取るのも私のはずだったんです。それなのに、盗賊さんや他の方々に迷惑をかけてしまって……未来から戻ってきても助けられてばかりです私……」

ハイはうつむいてしまう。

盗賊「おいおい、気にしないで行こうぜハイちゃん。大体ハイちゃんは私利私欲のためじゃなくて、人々を助けるために動いてるんじゃないか。なんでもかんでも一人で背負うことなんて無いさ、俺だって一緒に担がせてくれよ」

盗賊はそう言ってハイの頭に手を乗せる。

ハイ「……盗賊さん」

盗賊「俺達に借り貸しは無しだ」




658:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/22(火) 01:34:40.52 ID:zPv1XqvF0

204

--草原--

参謀長「借り貸し無し……ね」

ぱから、ぱから

馬に乗った参謀長がハイ達に横につく。

ハイ「参謀長さん?」

参謀長「少し話をしてもいいですか?」

ハイ「へ?」

断りを入れてから参謀長が話し始める。

参謀長「――二ヶ月ほど前の話になるのですが、遠征していた我が国の兵士達が、死の砂漠で迷ったことがあるんですよ」

ハイ「遠征、ですか」

参謀長「はい。オリョールに」

ハイ「オリョール!?」



659:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/22(火) 01:37:06.39 ID:zPv1XqvF0

205

--草原--

ぱか、ぱか、ぱか

参謀長「方角もわからないまま歩き回ったせいで、体力は限界を向かえ、水は底をつき、後は死を待つばかりとなった彼らの前に……ふと、一人の包帯男が現れたそうです」

盗賊「……」

ハイ「へー。包帯男ですかー。怪我人かな?」

参謀長「その包帯男はオアシスまで兵士達を導き、兵士達の体力が戻るまで面倒を見ると、丁寧にも黄金王国まで案内してくれたらしいのです」

ハイ「包帯男……ミイラかな? いずれにせよいい人みたいですね」

参謀長「……。黄金王国に着き、何かお礼がしたいと兵士達が包帯男に言うと、『礼ならいい、困った時はお互い様だ。でももし俺が困ったことになったら、その時は力を借りに来る。そんで借り貸しは無しだ』と言って煙のように姿を消したそうです……おならの臭いとともに」

ハイ「オナラ……」

ハイは盗賊の方を見て、盗賊は顔をそらす。



660:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/22(火) 01:39:47.82 ID:zPv1XqvF0

206

--草原--

ぱから、ぱから

参謀長「変な話でしょう。兵士たちの間では怪談の一つになっているんですよ。……そうそう、変な話と言えばあのパンツローテーションも少しおかしかったんですよ」

ハイ「え? おかしかったって、何がですか?」

参謀長「いえね、あの紙に書かれていた順番は、

   かに、りんご、かぼちゃ、しま、なし、しろ、なし

でした。でも実際に姫様にローテーションをお聞きしたところ、

   かに、りんご、かぼちゃ、なし、しま、しろ、なし

だったんですよ」

ハイ「え、えぇー!……そうだ、確かにそうですよ。え、私そう言いませんでしたっけ盗賊さん! それとも言い間違えちゃいました!?」

盗賊「ど、どうだったかなー」

参謀長「ま、多少順番が違えども、ここまでパンツの柄を言い当てたのだから十分と言えば十分なんですがね。誰だって他人のパンツローテーションの話なんて覚えていないでしょうし。普通なら」

ハイ「まるで私が変態みたいな言い草!」



661:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/22(火) 01:42:05.94 ID:zPv1XqvF0

207

--草原--

参謀長「ただなんとなく気になることがあったんで、何かあるんじゃないかと紙を眺めていたら……」

盗賊「……」

参謀長「頭の文字だけを注目したら、
 
か り か し な し な

と読めたんです」

ハイ「かりかしなしな……借り貸し……無しな?」

盗賊「……」

ぴひゅー、ぴひょー

盗賊は吹けない口笛を吹いている。

参謀長「……随分遠まわしかつ、微妙な効力の暗号ですよね。相手側が気づかないんじゃ意味が無いと思いますが?」

盗賊「う、うるさいな……! パンツローテーションだけじゃパンチ弱いかと思って、咄嗟に考えたやつなんだよ!」

ハイ「……パンツだけに、パンチ」



662:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/22(火) 01:52:59.28 ID:zPv1XqvF0

208

--草原--

ハイ「え、順番変えてまで言いたかったことって、それだけ?」

盗賊「……」

参謀長「……」

盗賊「姫様の秘密と俺が助けた兵士のこと、それとこっちの実力を見せたらなんとか話をいい方向にもっていけるかなーって思ったんだよ……」

ハイ「……回りくど……。やっぱり真正面から堂々とお話をしにいったほうがよかったんじゃないですか?」

盗賊「……。実際に見てみた感想としては活気があっていい国だったよ。統治してるやつもいいやつなんだろうと思ったし。でもハイちゃんは知らないのかもしんないけどさ……黄金王国は結構変な噂があったんだよ。例えばあの研究員を内緒で匿ってるとか」

参謀長「ぎく」



--黄金王国--

研究員「ぶぇっくしょーい!」

ウーノ「? 風邪ですか?」



663:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/22(火) 01:54:38.64 ID:zPv1XqvF0

209

--草原--

ハイ「あー……西の王国で騒ぎを起こして行方不明になった人ですか……確か国際指名手配されてましたよね。でもまさか黄金王国にいたりはしませんよ」

参謀長「そうですね」

盗賊「あともこもこを飼いならしてるとか」

参謀長「ぎくぎく」

ハイ「あの東の王国を壊滅寸前にまでおいやった未知のモンスターですか? まさかそんなことあるわけないですよ」



--草原--

もこじ「もきゅんっ」

姫「あれー? どしたの? 寒い?」

ぎゅっ

もこじ「寒くないもきゅ。むしろ暑いもきゅ。離して欲しいもきゅ」



664:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/22(火) 01:58:49.13 ID:zPv1XqvF0

210

--草原--

盗賊「というわけで俺も試したかったのさ。もし変な国だったらその時は……」

参謀長「……」

ハイ「……。でもそれを言うなら他の国に力を貸してもらいにいけばよかったのでは? 東の王国とか」

盗賊「うんにゃ、東の王国は駄目だ。王が頭硬すぎる。西の王国も駄目だ。秘書が問答無用で殺しに来る。王国も……新しい大臣のせいでなんだかんだで戦いになって長引いちゃうだろうな」

ハイ「……南の王国は? って、自分で聞いておいてなんですけど、北の王国まで遠過ぎますか」

盗賊「そゆこと。残るは魔法王国と黄金王国。この二つはどっちでもよかったんだけど、黄金王国の方が北の王国まで近かった、っていうのと力を割いてくれそうだった、ってのが選んだ理由かな」

参謀長「随分と正直に話してくれる人だ……で、結局うちは合格だったんですか?」

盗賊「さっきも言った通り、いい国だよ。試して悪かった。あんたも国民から好かれてていい人そうだし、研究員とかを匿うのもきっと何か理由があるんだろう」

ハイ「!? え、やっぱり匿ってたんですか?」

盗賊「なんとなくそんな気がする」

ハイ「なんとなくて」

わいわい

参謀長(……残念。少し私を勘違いしてますよ。世の中には作戦のために兵を犠牲にしても、悪く思われない指揮官というのもいるんです)



665:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/22(火) 01:59:49.23 ID:zPv1XqvF0

211

--草原、夜営--

パチパチ……

盗賊「ん」

ばしゅっ

盗賊「ふぅ~……」

ハイ「何をしてるんですか?」

水の入ったコップを持ったハイが盗賊に話しかける。

盗賊「いや、ちょっとね。あ、ありがとう」

盗賊は水を受け取る。

ハイ「共有、でしたっけ。それ」

盗賊「ぶっ!」

盗賊は口に含んだ水を噴出した。

ハイ「えっ!? 大丈夫ですか!?」

ぽたぽたっ

盗賊「……いや、俺これ見せたことないよね? やっぱり未来から来てるからばれてるんやなーって」



666:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/22(火) 02:02:03.06 ID:zPv1XqvF0

212

--草原、夜営--

パチパチ……

盗賊「勇者と情報を共有してたんだよね」

ハイ「!……そうか。技とかを引き継げるってことは、戦いの経験も引き継いでるはず……つまり記憶の一部も共有できるってことですね?」

盗賊「察しいいね。今回は俺らだけじゃ分が悪そうなんで呼んでおいたのさ」

ハイ「勇者さんが参戦……心強いです!」

盗賊「……今まで心細かった?」



パチパチ

姫「これこれーそこのものー」

ユー「?」

ユーは俺? とばかりに自分を指差す。

姫「そうそう貴方貴方ー! マントしか付けてないからかわいそうだなー、さむそうだなーって、ずっと思ってたんだよねー。姫ちゃん優しいから!」



667:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/22(火) 02:02:58.27 ID:zPv1XqvF0

213

--草原、夜営--

ユー「?」

姫「だからー。優しい姫ちゃんはー」

ぽぉう

姫の両手に魔力が集まっていく。

姫「いいものプレゼントしちゃうのだーーー!」

ばちいぃいいいいいん!!

ユー「っ……」

しゅううぅうううぅう……

突然の閃光。そして白煙。

ユー「……!?」

中から現れたのは、

姫「黄金属性生成魔法、黄金鎧!」

まるでどっかのゴールドセイントみたいなユーの姿がそこにあった。



668:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/22(火) 02:04:17.44 ID:zPv1XqvF0

214

--草原--

翌日。

ぺかー

ハイ「まぶしっ!」

盗賊「ど、どうしたんだいユー君! なんだか眩し過ぎて君のことが見れないんだけど!」

ユー「……」

ユーは嬉しそうににこにこしているのだが誰もそれに気づけない。

ぱか、ぱか

参謀長(魔力を帯びた黄金製の全身鎧……ち、今からそんなに魔力使ってて大丈夫なのか?)

姫「くー、すぴー」

もこいち「なんだか疲れて眠っちゃってるもきゅ」



ジュッ!

盗賊「ギャー!! 太陽光を虫眼鏡であれするみたいな感じで眼が焼けたー!!」



669:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/22(火) 02:06:22.26 ID:zPv1XqvF0

215

--北の王国--

盗賊「……」

ユー「……」

ハイ「……すんなり、入れましたね」

盗賊「そりゃあ、いきなりとはいえちゃんとした国家元首が来てるんだ。追い返すなんてことはできないだろうさ」

がちゃ、ぎぃ

北の王「あんらぁ、お久しぶりでんなぁ姫様~。相変わらずおうつくしゅー!」

にこにこと笑いながら部屋に入ってきた北の王。

ざっ

参謀長はすぐに立ち上がり頭を下げる。

参謀長「お久しぶりです北の王様。このような急な訪問で、本当に申し訳ありません」

北の王「いやいやあんさんのことや、何か深い理由があるんやろ~? 聞きましょ。どうかしたんでっか?」

どすんと音を立てて北の王は玉座に座る。

参謀長「はい。実は……」



670:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/22(火) 02:07:25.80 ID:zPv1XqvF0

216

--北の王国--

北の王「――なんですって? 魔王軍が五日後に攻めてくるから、それまでにこの国から全ての国民を脱出させろ、と?」

参謀長「はい」

北の王「それはまたえらいこっちゃ……いや、疑うわけではないんやけども、それは一体どこの誰が言うてはるんでっか?」

すっ

参謀長はハイに手を向ける。

参謀長「彼女です。彼女は未来からやってきたそうです」

北の王「み、未来から!? それはほんまでっか?」

ハイ「は、はい」

北の王「……」

ハイ「……」

北の王「……ぶ」

ハイ「ぶ?」

北の王「ぶわっはっはっはっはっ!!」

北の王は腹を抱えて笑い出した。



671:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/22(火) 02:09:14.11 ID:zPv1XqvF0

217

--北の王国--

北の王「ひー、ひー……いやぁえろうすんません。でもあまりに突拍子が無くってですなぁ……」

参謀長「北の王様。ですが時に関する魔法があるのは貴方もご存知のはずです。時間転移魔法があったとしても」

北の王「おかしくはない。でも私は見たもんしか信じられんのですわ……。なんなら今ここでそれ見せてくれはりまっか?」

ハイ「い、いえ。あれは私一人でやったものではないので……」

北の王「……となると……どうやらその話、信じられそうにないですわ」

ハイ「え、えぇ!? そんな……」

参謀長「……では、信じて貰うにはどうしたらいいでしょうか?」

北の王「……準備があるんでっか? そんな与太話を『信じてもいい』と、私が私を騙せるほどの何かを……」

北の王の顔つきが商売人の顔になる。

参謀長「はい――。姫様」

姫「おっけーい!」

ぴょーん!

姫は立ち上がって窓を勢いよくあけた。



672:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/22(火) 02:10:53.29 ID:zPv1XqvF0

218

--北の王国--

ばんっ!
びゅおおおぉおお!!

姫「う、うひいー! さぶうー!!」

北の王「な、何をやるのかわかりまへんが、寒いんで早く頼んます! このままじゃ凍え死んでまう!!」

姫「よぉーし! 黄金属性変換魔法、レベル4!!」

ビイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイム!!!!

ハイ「!?」

ばちばちばちばちばちぃいいいい!! ぴかーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!

ハイ「……なっ」

盗賊「ほぉー……」

参謀長「……これはとりあえずお気持ち、ということで」

ぴか、ぴか、ぴか

北の王「……なんてぇ、こった……」

姫「えへへ! すごいっしょ! はぶしっ!」

姫の放った魔法は、山一つを丸々黄金に変えた。



673:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/22(火) 02:13:42.87 ID:zPv1XqvF0

219

--北の王国--

参謀長(あまり他国に黄金を持たれたくは無かった。が、これも仕方あるまい)「いかがでしょう。少しは話を信じたくなってもらえましたか? この国を一時的に放棄してくださるのであれば、更に好きなものを黄金に変えさせていただきます」

北の王「ひゃ、ひゃー! すんごい魔法でんなぁ! 錬金術とはまさにこうあるべき!! すんばらしぃ!!」

北の王は飛び跳ねて喜んでいる。

参謀長(ふりだろ)

北の王「……いやでもいくら黄金を積まれてもねぇ……国民には国民の生活があるんですわ。慣れ親しんだ我が家を放棄するのは簡単じゃおまへん」

盗賊(この感じ、信じたな。いや、信じて無くても話に乗る気になった。後は……)

参謀長「――それはわかっております。国民の生活は我々が責任を持ってサポートするつもりです。衣食住、不自由させる気はありません」

北の王「そうはいってもねぇ……」

盗賊「……」

かつ、かつ

盗賊「はい、これどうーぞ」

北の王に近づいた盗賊は一枚の紙を渡す。

北の王「だれでっかあんた……けったいな格好やなほんま。なんでっかこれ……ん? 護皇!?」

盗賊「もしこの国に魔王軍が攻めてこなかったなら、失われた王国の半分をあんた達にあげるよ。って書いてありますよん」

北の王「!」



674:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/22(火) 02:17:54.27 ID:zPv1XqvF0

220

--北の王国--

盗賊「そこは寒くないし山も少ないから人が住める場所が多いのよ。北の王国の人たちが楽に全員住めるんじゃないかな」

北の王「……ほんものの護皇はんのサインでんな……。あんさんは誰でっか?」

盗賊「……盗賊だ。元勇者パーティの一人のね」

北の王「!!」

参謀長「!」

ハイ(あれ! 言っちゃうの!?)

しゅるり

盗賊は包帯を少しだけ解く。

北の王「その顔……あの時魔族を連れて逃げ出した勇者の男に似てまんな……本物でっか」

盗賊「ろんのもち」

北の王「……国際指名手配犯でっせ?」

盗賊「知ってるよ」

北の王「……参謀長はん。あんさんはなんてもんと手を組んでるんでっか?」

参謀長「……」

ハイ「はわ、はわわわ!」

盗賊「はぁ……あーもう、めんどくさいなぁ」

北の王「……なんですって?」

盗賊は頭をかきながらめんどくさそうに言い放つ。

盗賊「お前らが死んだら俺達人類の勝ち目が薄くなるんだよ。つべこべ言わないでさっさとここから非難しなさい」



686:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/28(月) 23:56:41.23 ID:ArGKcUj40

221

--北の王国--

ざわ

召喚士「ぶ、無礼なやつでやんすね! なんなんでやんすか!」←実はいた。

北の王「……」

盗賊「……」

ハイ(い、一国の王に対してその言葉使いはあまりにも……!)

ユー「……」

重い沈黙が流れ、そして

北の王「……はぁ。ええでしょ」

ハイ「!?」

北の王「あんさん方の要求、いや……アドバイス受けさせてもらいまひょ」



687:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/28(月) 23:58:51.40 ID:ArGKcUj40

222

--北の王国--

召喚士「王……この話を信じるのでやんすか?」

北の王「はいな。……どうやら損得を気にしている場合じゃないようなんで」

北の王はにこりと笑って立ち上がる。

すっ

北の王「そうと決まれば早いほうがいいでんな? 民間人を輸送する手段はどう考えてますのん?」

ハイ「あ、はい! それには私の勤め先にある大きめの船や砂上船で行いたいと思ってます。配達、運輸ならあそこが適任です」

参謀長「そしてそれの警備は我々がやります」

北の王「ふむふむ。わかりました。それではその旨を国民に伝えなければあかんのでごめんやっしゃ」

北の王はおじぎをして部屋から出て行く。

ぎぃ

召喚士「……」

それに追随する召喚士。



688:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/29(火) 00:00:36.27 ID:sOecktTU0

223

--北の王国--

ばたん

参謀長「……」

ユー「……」

盗賊「……ふひぃー。どうにか説得出来たみたいやね!」

びしっ!b

ユー「……」

びしっ!b

ハイ「いや、びしっ! じゃないですよ……あれ、怒らせて全部ダメになるパターンじゃないですか。成功したからよかったですけど」

参謀長「ですね。確かに少し考えなしでしたね盗賊さん」

盗賊「う……ごめんなさい」

参謀長「――でもそこがよかったのかもしれません」

ハイ「へ?」



689:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/29(火) 00:02:10.54 ID:sOecktTU0

224

--北の王国--

カッ、カッ、カッ、カッ

召喚士「我が王……何か考えがあってのことなんでやんすよね? あんな与太話、今時子供でも信じないでやんすよ」

北の王「いやぁ、多分あれ本当のことでっせ」

召喚士「やんす!?」

北の王「少なくとも彼らはそれを本当のことだと思っているんですわ。私のスキル、嘘発見にひっかからへんでしたから」

召喚士「それは……極度の妄想癖という可能性はないでやんすか?」

北の王「ありえます」

召喚士「だったら!」

北の王「でも違うでしょきっと。私のカンがそう言ってるんですわ」

召喚士「!……王のカンは当たるでやんすからねぇ……」



690:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/29(火) 00:08:33.52 ID:sOecktTU0

225

--北の王国--

カッ、カッ、カッ、カッ

北の王「――彼らを信じようと思った理由は、彼らが失うものがあまりにでか過ぎるゆうこってす」

召喚士「……」

北の王「普通あそこまでしますか? 未来から来たなんていう、よくわからん情報のために。けど五柱の護皇はんらも含め、結構な大物がそれに賛同しとる……それはあの情報がある程度は真実味があるいうことでんな」

召喚士「……みんな裏で手を組んでるって可能性は無いでやんすか?」

北の王「裏ねぇ……。でもあれだけの条件に匹敵するものが我が国にあるとは思えないんですわ」

召喚士「……」

北の王「極めつけはあの男の言う台詞でんな。私らが死んだら勝ち目が無くなる……。つまり彼らもただ人助けがしたいわけやないんや。戦力である私らに死なれたら困る……つーことは、やっぱりこれは人類の存亡をかけた、ほんまもんの事件なんや、と……」

もちろん嘘発見使って聞いてたからこれも本心のはずやで、と北の王。

召喚士「……正直おいらはまだ納得できないでやんす。でも……おいら達はあんたについていくだけでやんすから」

北の王「……おおきに」



691:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/29(火) 00:09:44.09 ID:sOecktTU0

226

--北の王国--

次の日。

がたごとがたごと

大カバ亜人「はぁああいいいいいい!! よくやったぞ!! いきなり出て行った時はクビにしてやろうかと思ったものだが……ハイ、今回の件はお手柄だみゃあ!!」

バンバン

ハイ「あ、いえ。ははは……痛いです」

がたごとがたごと

大カバ亜人「ほら貴様らはとっとと仕事しろ仕事!!……いやぁ、ボーナスは弾むぞハイ。これでわしも大事なコレクションを切り売りしなくてよくなるというもの……あ、でも一度出品したものは取り下げられない決まりみゃあ……まぁ、自分で買い直せばいいかみゃ。アピールにもなるだろうし……くふふ」

ハイ「……」



692:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/29(火) 00:10:54.09 ID:sOecktTU0

227

--北の王国--

北の王「進んではりまっか?」

ハイ「北の王様」

大カバ亜人「あぁ、北の王様、このたびは我が社を利用していただきありがとうございますみゃぁ!」

北の王「あぁはいはい。うちが仕事頼んだわけやないで? あんたんとこを雇ったのは黄金王国やさかい」

大カバ亜人「いえ、それでも挨拶はしておかみゃあいけないと思いまして!」

北の王「ま。挨拶は大事やね。じゃあもうわかったからちょっと席を外してくれまへんか? ちょっとハイちゃんとお話したいんで」

大カバ亜人「ハイと……? わ、わかりました。では私はここで」

頭を下げて去っていく大カバ亜人。

ハイ「私に話、ですか?」

北の王「せや~」



693:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/29(火) 00:13:46.63 ID:sOecktTU0

228

--北の王国--

北の王「未来から来たって言ってはりましたな?」

ハイ「は、はい。信じて貰えるかわかりませんが……」

召喚士「……」

北の王「私らの最後、知ってたりします?」

ハイ「……はい。北の王国から逃れてきた難民の話を、噂で聞いただけですけれど」

召喚士「最後って……おいら達が死ぬってことでやんすか? ははは、そんなまさかぁ!」

ハイ「えと、国民の大半を逃がすために、半日ほど魔王を足止めしていたそうですよ。お二人で。確か金ぴかに光る人を召喚したとかで」

召喚士「!!」

北の王「金ぴか? 召喚と言えば召喚士のことやろうけど、そんな召喚獣持ってたっけ?」

召喚士「いないでやんす……けど」(おいらの奥義なら、多分出てくるのは……)



694:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/29(火) 00:14:56.11 ID:sOecktTU0

229

--北の王国--

北の王「――でも少し安心しましたわ」

ハイ「へ?」

北の王「魔王に襲撃を受けた世界の私らが、国民を守るためにそこまでやれたんやな、って」

召喚士「……」

ハイ「北の王様……」

北の王「でももし今そんなことが起きたら一目散に尻尾巻いて逃げ出してしまいますわー! おーこわ!!」

自分の肩を抱いてガタガタと震える北の王。

ハイ「……」



695:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/29(火) 00:15:36.86 ID:sOecktTU0

230

--  --

そして……






その日が訪れる。



696:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/29(火) 00:16:07.32 ID:sOecktTU0

231

--北の王国、城壁--

チチッ、チチチッ

北の老兵「ふぁあ……えぇ、天気じゃ」

老兵は見張りもろくにせずに、城壁に腰をかけて空を眺めていた。

ガチャガチャ

北の新兵「む」

北の老兵「はぁ……心休まるのぉ」

北の新兵「おいじいさん! あんた仕事しないで何やってんだ!」

北の老兵「んん……またうるさいのが来おったか」

北の新兵「うるさいじゃねーよ! 俺らの仕事は見張りだっていうのに何サボってんだよ!」

北の老兵「別にサボってるわけじゃないわい。仕事はしとる。敵の気配はせん」

北の新兵「けっ! 何が気配だよ! 勇者討伐戦争を生き抜いたかなんだか知らないけどよ、仕事はきちっとこなしてくれよっ!」

ったく、と呟いて北の新兵はその場から去っていった。



697:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/29(火) 00:16:59.60 ID:sOecktTU0

232

--北の王国、城壁--

北の老兵「……まったく。老骨のいたわり方を知らんやつだ……」

老兵は、一年中雪が積もっている北の大地に目をやった。

北の老兵「この国も大きくなったものよの……」

老兵は、北の王国の建国の日を思い出す。

ず……

北の老兵「ん……? 影?」

北の大地を巨大な影が覆っていく。

北の老兵「これほどの影を作るほどに、大きな雲があったかいの」

老兵は空に視線を戻した。

ずず……

北の老兵「!……なんじゃあれは……」



698:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/29(火) 00:17:44.38 ID:sOecktTU0

233

--北の王国、城壁--

ずずず……

北の老兵「鳥、いや……モンスターか……?」

ずずずず……

北の老兵「!? ち、違う!! あれは城なのか!? まさか!!」

老兵が目を凝らすと、空飛ぶ城の周りをモンスターの群れが飛んでいた。

北の老兵「!!」

老兵は立ち上がり、撞木を手に取ると力一杯鐘を鳴らした。

ガーン!!!!

北の老兵「敵襲だーー!! 『本当に』魔王軍が来たぞーー!!」

ガーン!!
ガーン!!
ガーン!!



699:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/29(火) 00:19:44.06 ID:sOecktTU0

234

--北の王国--

ガーン!!
ガーン!!
ガーン!!

盗賊「さー……本当に来ちゃったね」

ハイ「はい!」

参謀長「……うーん」

北の王「ひゃー、驚いた……これでも結構信じていたつもりだったんやけども、本当に起きると驚き&ショックでんなぁ……」

ハイ「でも大丈夫ですよ。今回は私達もいます。同じ結果にはさせません!!」

北の王「……ハイちゃん」

盗賊「んだな。時間稼ぎしなきゃならん民間人はいないし、いざとなったら逃げればいい。……ってあいつ遅いな……何やってんだろ」



700:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/29(火) 00:21:49.31 ID:sOecktTU0

235

--北の王国、上空--

ごぅんごぅんごぅん

カトブレパス「……おかしいですね」

フランケン「ど、どうした。な、なにがおかしい?」

カトブレパス「いえね、なんというか北の王国全体に人の気配が無い気がするんですよ。煙もあがっていない……生活感が感じられない」

ニンフ「薪が無いんですよきっと~でも寒いからひきこもってるんです~」

ウェンディゴ「……どう思う魔王勇者。なんか罠の臭いがするぜ?」

魔王勇者「……関係無いわ」

ザン!

魔王勇者は大剣を床に突き立てる。

魔王勇者「――人間を全て抹殺することに変わり無しよ。罠だろうがなんだろうが、全て壊すのみ」

カトブレパス「……魔王勇者さん……」

ウェンディゴ「魔王勇者……後で一緒に床直そうな」

魔王勇者「……うん」



701:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/29(火) 00:22:46.86 ID:sOecktTU0

236

--北の王国、東地区--

ズンッ!!

フランケンが魔王城から落下し、地面に激突する。

しゅううぅう

フランケン「あ、あで?」

しかし誰もいないのでフランケンは頭をひねった。



--北の王国、西地区--

カトブレパス「やはり……誰もいない……まさか我々の襲撃を予測したというのですか?」



--北の王国、南地区--

ニンフ「ぶっ殺す人間どもがいないです~超つまんないです~~~~~!」



702:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/29(火) 00:24:01.66 ID:sOecktTU0

237

--北の王国--

研究員「攻撃、開始ー」

びかっ!!


どおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんん!!


--北の王国、上空--

ウェンディゴ「おわああああああああ!?」

魔王勇者「くっ!」

ウェンディゴ「なんだ? 砲台か!?」



しゅごおーーー

魔王城の外には完全武装した機械兵士三姉妹が飛んでいる。

ウーノ「くすくす。久しぶりの戦闘、楽しみですわ」

ドゥーエ「えへへ、おもいっきりやっちゃうぞーー!!」

トーレ「砲雷撃戦、よーい」

ビービービー!!

三姉妹の高火力レーザーが容赦なく魔王城を攻撃する。

どがあああああああああああああああああああああああん!!



703:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/29(火) 00:25:01.81 ID:sOecktTU0

238

--北の王国--

北の王「……すさまじい戦闘力でんなぁ、おたくのとこの兵士さんはぁ……」

参謀長「恐縮です」

姫「えへへー! 姫ちゃんえらい? えらい?」

召喚士「さて……モンスター達の駆除いくでやんすよ!」

ユー「……」

こくりと頷くユー。



--北の王国、上空--

どがぁああん!!

がたがたがたがた!!

ウェンディゴ「ち! このままじゃ落とされる!」

ダダンッ!!

ウェンディゴは魔王城の窓から外に出て、手すりも何もない外壁を走る。

ウーノ「! 標的B出現。排除開始しますわ」

ドゥーエ「おっけぃ! ドゥーエ援護するよ!」

トーレ「私は雑魚どもを蹴散らしておきます」



704:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/29(火) 00:26:23.02 ID:sOecktTU0

239

--北の王国、上空--

ビー、ビー!!

ウェンディゴ「やっかいな火力だな……古代の力か。空間設置魔法罠、ミスタイプ!」

ヴン!

ウーノ「?」

フォンフォン!!

ウーノ「! この距離で私達の攻撃が外れる? なるほど、確率変動系の魔法ですわね? それなら、アンチマジックフィールド展開」

ぐにゃり

ウェンディゴ「!? 罠が解除された!?」

どぉおおおおおおんん!!

魔法罠を解除されたウェンディゴは、次に放たれたレーザーをもろに受けてしまう。

ウェンディゴ「がっ!! くそ……」



705:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/07/29(火) 00:28:13.44 ID:sOecktTU0

240

--北の王国--

どぉおおおん……

盗賊「すげー……あれが別ルートの魔族になった俺かー。自分一人の魔力で空間設置魔法罠使えてるよー」

ハイ「でもそれにさらりと対応しちゃいましたね、あの機械兵士さん」

空中戦を眺めている二人。

どぉん、ちゅどおぉおん、ががががががが!!

そして一方的に攻められている魔王城。

ハイ「っと、盗賊さん。私達もモンスターや、地上に落ちてきた魔族を倒しにいかないと!」

ユニコーン「ひひん!」

盗賊「あぁ。しかしこりゃ勇者いらないかもな……はっ!? てかあいつ遅いよ! 何やってんだよ!」



--西の王国--

勇者「……あれ? 西って言ってなかったっけ?」



713:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/04(月) 00:04:40.35 ID:U2gnKUf20

241

--北の王国--

ひゅおおおぉぉお

ドゥーエ「えいっ! アンチスキルフィールドだぁ!」

びゅわっ!

ドゥーエがフィールドを展開し、ウーノのフィールドに重ねがける。

しゅぅ……

ウェンディゴ「っ! スキルまで!」

ウェンディゴは透視眼が効力を失ったことに気付き、すぐさま目視と反射神経による回避に切り替えた。

シャシャシャ、ドォン!ドドォン!!

ウェンディゴ「まずい……らちがあかないぞ……! エネルギー切れを期待するしかないか?」



714:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/04(月) 00:06:32.61 ID:U2gnKUf20

242

--北の王国--

ドォン! ドゴォン!

魔王勇者「くっ、何をやってるウェンディゴ! もう私が直接やるぞ! いいな!」

ガッ!

ウェンディゴ「来るな!」

魔王勇者「っ!」

窓に足をかけたところで魔王勇者の動きが止まる。

ウェンディゴ「……襲撃が読まれてたり、こいつらといい、わけわかんねぇことだらけだ。この分だとこいつらまだ何か隠してるに違いない……だから安全が確保されるまでもうちょい中で待ってて下さい」

魔王勇者「っ、私にこのまま黙って見ていろって言うの?」

ウェンディゴ「違う、信じて待ってろって言ってんの」

魔王勇者「」

魔王勇者の頬が僅かに紅潮した。



715:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/04(月) 00:07:19.46 ID:U2gnKUf20

243

--北の王国--

ドォン! ドォン!

ウェンディゴ(とは言ったもののどうやって打開するかなぁ……このままじゃ尻尾巻いて退散するしかないぜ)

ウーノ「っ! ちょこまかと!」

ビービー!
シャシャ!

ウェンディゴは回避しながら何気なく地上に眼をやった。

ワーワー

そこではモンスター相手に奮闘する人間達の姿があった。

ウェンディゴ(……ん? おかしくねぇか? 魔法とスキル封じられてんのにモンスターと戦えるわけねぇだろ……)

ぴくっ

ウェンディゴ(あぁ……なるほど、効果範囲ね)

ウェンディゴはにやりと笑う。



716:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/04(月) 00:09:20.22 ID:U2gnKUf20

244

--北の王国--

ビービー!
シャシャ!

ウェンディゴ(よくよく考えてみりゃこの魔王城だって動力は魔力エンジン。魔力を封じてるんなら効果範囲にいるこの魔王城だっておっこちてるはず)

シャッ

ウェンディゴ(ってことはコアに届かない程度の効果範囲……それか魔王城、つまり非生物には効き目が無い……もしくはその両方ってことだな?)

シュタッ!

ウェンディゴは魔王城の外壁を走る。

ウェンディゴ「魔王勇者! 魔王城の右腕を伸ばしてくれ!」

魔王勇者「! わかった!」

ゴゴゴ

ドゥーエ「はれ? お姉ちゃん、なんかあれ動いてない?」



717:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/04(月) 00:09:58.65 ID:U2gnKUf20

245

--北の王国--

ウーノ「まさか……」

ゴゴゴゴゴゴ

ウーノ「この城、動くの?」

ブォオオオオオオオオオオン!

魔王城の畳まれていた右腕が動き始め、ウーノ達を襲った。

ウーノ「く!」

シュゴー!

しかし空を駆けるウーノ達には当たらない。

シュタタタタタ、シュタッ!

ウーノ「!?」

ドゥーエ「!!」

だがそこにウェンディゴが追撃を加える。

ウェンディゴ「へっ!」



718:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/04(月) 00:10:39.00 ID:U2gnKUf20

246

--北の王国--

ウーノ「! こいつ伸ばした腕の上を走って!?」

ウェンディゴ「おぅりゃ!」

ザギィン!

ウーノ「っ! きゃあぁあ!!」

ウェンディゴの爪がウーノを切り裂くも、

びりびり

ウェンディゴ(かってぇ……全然ダメージ与えられんぞ)

ほぼノーダメージ。

ドゥーエ「! よくもお姉ちゃんを!」

ウェンディゴ「……」

きゅいぃん

空中でウェンディゴはドゥーエにロックされる。



719:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/04(月) 00:11:31.23 ID:U2gnKUf20

247

--北の王国--

ビー!
シャッ!

ウェンディゴの胸部に放たれたレーザー、それをウェンディゴは銃口の角度から射線を見極め、身を捩って回避した。

ドゥーエ「うそっ!?」

ウェンディゴの避けたレーザー。その斜線上には……

ドジャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!

トーレ「!? づっ!!」

どごおおぉおおおおおおぉおおおん!!

……トーレがいた。

トーレ「な、ぜ?」

レーザーは、空からモンスターを排除していたトーレの背部に命中し、貫通した。

ドゥーエ「と、トーレちゃん!」



720:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/04(月) 00:12:56.11 ID:U2gnKUf20

248

--北の王国--

ひゅるるるるるるるるるる!!

研究員「……まっずいねー。うちの三姉妹は対機械兵士用の装備じゃ無いんだよねー。だから同士討ちを狙われると……」



デガシャァ!

トーレ「ぐ……ぐ」

ばちっばちばちぃ!

地上に落下したトーレは立ち上がろうともがいているが、あまりにダメージは大きい。

トーレ「何が、おきた?」



すたっ

ウェンディゴは魔王城の右腕に着地して機械兵士達を観察している。

ウェンディゴ(魔力もスキルもダメなら同士討ちを狙うしかない……まぁこんなうまくいくなんて思わなかったけどね)



721:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/04(月) 00:16:09.17 ID:U2gnKUf20

249

--北の王国--

ドゥーエ「トーレちゃんごめんなさい! あの、あの!」

ウーノ「ドゥーエちゃん! それよりも今はこっちに集中なさい!」

ドゥーエ「っ!」

ウェンディゴ(さぁてと。もう次は同士討ちを警戒してあまり近づいてこれないだろうな。あんたらの味方は地上にもいるんだし)

シャッ!

ウェンディゴは魔王城の外壁を走る。

シュバババババ!!

ウーノ「……!」

また飛び掛ってくるかと考えていたウーノ達だったが、ウェンディゴは逆に離れていった。

ウェンディゴ(アンチフィールドの範囲はあまり広くないんだろ?……なら追いかけてくるしかないだろ?)



722:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/04(月) 00:17:48.40 ID:U2gnKUf20

250

--北の王国--

ウーノ「……!」(今度はフレンドリーファイアはさせないようにもっと慎重に狙い撃てばいいだけ……でもそれをあいつにかき回されてしまう気がする……どうする……)

命を持たぬ、機械兵士のカン。

ドゥーエ「お姉ちゃん! 追う必要はないよ! このまま魔王城そのものを破壊しちゃえばいいんだから! そうすれば万事解決でしょ!?」

ウーノ「! そうね……」

だけどウェンディゴが完全に視界から消えるのはまずい、と、ウーノはそう感じていた。

ヒュイイイイン!

しかし他に良策もなく、ウーノはドゥーエ同様、銃を構えた。



723:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/04(月) 00:19:18.60 ID:U2gnKUf20

251

--北の王国--

ざっ

ニンフ「お?」

ハイ「あら?」

ほぼ同時刻。ニンフとハイが戦場で出会う。

ニンフ「やっとおもちゃはっけーん~!!」

ダッッ!!

ハイ「魔族! しまっ」

襲撃に備えて構えようとするハイ。

ボッ!!

だが、

バッキャッ!!

ハイ「ッッ!」

レベル2状態のハイでは魔族のスピードについていけず、ニンフの蹴りがハイの頭部を粉砕した。

ビシャシャーーー!!



724:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/04(月) 00:20:34.66 ID:U2gnKUf20

252

--北の王国--

ハイ「」

ドサッ
びくっ、びくくっ

ニンフ「……うわ、手応え無さすぎですね~……」

ドクドクドクドク……

血を吹き出すハイの死体を、まるでゴミのように見るニンフ。
ハイは一切の抵抗も、レベルアップする間もなく、瞬殺されてしまったのだ……。

ぴくっ

ニンフ「ん……あ~やっと見つけました~。他のやつらはあの塔にいるみたいですね~」

邪悪な笑みを浮かべるニンフ。その目線の先には、参謀長や姫達がいる塔があった。



725:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/04(月) 00:22:33.08 ID:U2gnKUf20

253

--北の王国--

ざり

盗賊「お?」

フランケン「お、おで?」

ほぼ同時刻、東の町にて盗賊とフランケンがあいまみえる。

盗賊「これは……魔族化した闘士……か!?」

フランケン「ふ、ふ、ふぅうううううううううううううう!!」

盗賊は変わり果てたかつての友を、複雑な表情で見ていた。

フランケン「と、盗賊うぅうう!!」

ズシン!

フランケンが盗賊のケツに狙いを定め、襲い掛かってきた。

盗賊「もう一度……俺が殺すしかないってか……?」



726:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/04(月) 00:24:05.14 ID:U2gnKUf20

254

--北の王国--

バシューバシュー!!
ドガァアァン!!

ウーノとドゥーエによる一斉射撃で、魔王城は燃え上がる。
この分ならものの数分で魔王城は粉砕されるだろう。

ウェンディゴ「ぐぅ……そう来たか……まぁそう来るか。でも、それでいいのか?」

ぶぅん

ある距離までくると、ウェンディゴに魔力が戻った。

ウェンディゴ「うしっ。魔王城はでかいからな。端まで行けば何とかなると思ったけど、何とかなったぜー?」

ウェンディゴはしゃがみ込んで魔王城に手をあてる。

ウェンディゴ「空間設置魔法罠、ミラータイプ」

きぃん!

ウェンディゴは、
魔王城自体を罠に変えた。



727:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/04(月) 00:25:47.56 ID:U2gnKUf20

255

--北の王国--

キキキキキンン!!

ウーノ「っ」

ドギャギャギャギャギャアアアアン!!!!

ドゥーエ「う、そ」

ウーノ達が放ったレーザーは、

フォン、フォフォン!! ドガァアアアアアアン!!

ウーノ「――、――っ!」

全て跳ね返されて、北の王国を無差別に襲った。

ドガドガドガドガドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!

ばち、ばちばち

ウーノ「ぐ……やはり……目を離すべkでは、無かったa……」

ドゥーエ「おねえ、cch」

ひゅるるるるるる

自らのレーザーで貫かれたウーノとドゥーエは地上に落下する。



728:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/04(月) 00:29:53.17 ID:U2gnKUf20

256

--北の王国--

ウェンディゴ「あー……いんやぁ、強いやつらだった……もうだめかと思ったよ……まじで」

ウェンディゴは深いため息とともにへたり込む。



魔王勇者「ジャイアントキリング……魔族化しても健在か」

魔王城内部で魔王勇者はウェンディゴの勝利を感じ取った。

ウェンディゴ「魔王勇者ー掃除は終わったぞー。ここはもうアレをやっちまうしかないんじゃねーかー?」

外から聞こえてくるウェンディゴの声。

魔王勇者「アレ?」

ウェンディゴ「この魔王城の真の力を見せてやるのさー」

魔王勇者「……それはまだ私に外に出るな、ってことなのね?」

魔王城の動力は魔王勇者自信。まだ魔王城を使うということはつまりはそういうこと。

ウェンディゴ「ち、違うよー」

魔王勇者「……はぁ、わかったわ」

ジャッ!!

魔王勇者の座る椅子から赤い線が延びていく。

魔王勇者「たまにはこういう戦い方も悪くないもの」



729:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/04(月) 00:30:55.30 ID:U2gnKUf20

257

--北の王国--

ゴゴゴゴゴゴゴゴ

参謀長「ん? 何か動きがおかしいな……」

魔王城の動きを観察していた参謀長が呟く。

姫「何? 何がおかしいの? 姫ちゃんの可愛さがおかしいくらい可愛いの?」

参謀長「うるさいあほ」

姫「バカってゆった!?」

北の王「やれやれ。しかし手が生えましたもんなぁ。このままいくと……人型になっちゃったりして~」

研究員「!!……さ、さすがにそんなロマン溢れることにはー……」

参謀長「で、ですよね……」

研究員と参謀長はわくわくしながら魔王城を眺めている。



730:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/04(月) 00:32:46.13 ID:U2gnKUf20

258

--北の王国--

ニンフ「あらお外ばかり見てていいのかしら~?」

ざっ

参謀長「!?」

北の王「!! 魔族!? しまった!!」

外に注意が向いていたのはほんのわずか。だがその魔族はそのわずかな時間でこの塔の最上階にまでやってきていた。

ニンフ「見張りがよっわいよっわいで~ニンフさんは退屈なのです~。だからぁ~」

ひゅっ、ごとっ

姫「!?」

ニンフは見張りの兵の首を投げ捨てる。

ニンフ「貴方たちは私を楽しませちゃってね~?」

どがぁぁ!!

ユー「……」

がらがら……

その時、城壁を破壊してユーが現れた。

参謀長「! ユーさん……!」



731:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/04(月) 00:36:07.12 ID:U2gnKUf20

259

--北の王国--

研究員「助けがきたー。でも単騎ですかー……」

ニンフ「あらあら~。随分元気がありあまってそうな子はっけ~~ん」

ニンフはくるりと回ると、まるでダンスを踊るようにしてユーに近づいていく。

ユー「……」

ニンフ「くすくす。あんな登場シーン、かっこいいですね~。じゃーあ~。かっこつけて入ってきたご褒美で~、最初に殺してあげますね?」

ドンッッッッッッ!!

ニンフは全身から強烈な魔力を放ち、それを身に纏うと跳躍した。

北の王「! な、なんちゅう魔力量や!!」

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!

魔力の流れが渦になり、その全てが圧縮されてニンフの右足を中心として回る。

ギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!

参謀長(! この集約された魔力! これは魔導長の星光破砕砲以上の破壊力になるぞ!!)

参謀長「ばかな! 魔族はこんなものを連発できるのか!?」

フッ

ニンフ「奥義、スーパ~タイフーンドリルキィイイイイック!!」

ギュリリリリリリリリリイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!

まるで部屋の中に竜巻が出来たかと思うほどの暴風が吹き荒れ、余波だけでその階層をぶっ飛ばした。

どっごおおおおおおおおおおおおおおおーーーん!!

ぎし

ニンフ「」

しかしユーは右手で持ったレイピアでそれを受け止めて、

すぱっ

左手に持ったレイピアでニンフの足を切断する。

ニンフ「!?!?」



732:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/04(月) 00:37:01.23 ID:U2gnKUf20

260

--北の王国--

ニンフ「ばっ!!」

ざく

……そして二つのレイピアでニンフの心臓を貫いた。

ニンフ「」

北の王「」

研究員「」

姫「」

参謀長「」

ユー「……」

ぶっしゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!!

まさかの一瞬の攻防……ニンフは、

ニンフ「がばっ!? そ、そんな……この私が、こんなあっさりと!!!??? う、嘘よっ!! うs」

ニンフは、

ユー「……」

ザァアアアァ……

砂となって消えた。

北の王「……」

研究員「……」

姫「……」

参謀長「……え?」



742:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/12(火) 02:13:08.18 ID:DBL5eMCk0

261

--北の王国--

ザァアアァ……

ユー「……」

ピッ

レイピアについた血をはらうとそれも砂となって消える。

北の王「魔族を……」

参謀長「瞬殺……?」

ユー「……」

ブンブン

安全が確保されたことを確認したユーは、みんなに手を振ると、入ってきた穴の中に戻っていった。



743:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/12(火) 02:13:59.32 ID:DBL5eMCk0

262

--北の王国--

ワーワー

召喚士「やんすぅ……」

カトブレパス「ふ、たった一人で魔族である私と渡り合うなんて……さすが年期が違いますね、召喚士さん」

カトブレパスの魔眼に注意を払い、物陰に隠れている召喚士。

召喚士(何言ってるでやんすか……。渡り合うとかジョークが過ぎるでやんすよ)

どくどくどく

右肩の出血が止まらない。恐らく召喚士が受けたのは回復不能攻撃……。



744:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/12(火) 02:15:56.22 ID:DBL5eMCk0

263

--北の王国--

ざり

カトブレパス(しかし厄介ですね召喚の職業は。局面に応じて有利な召喚獣で戦うことができる……その万能性たるや、他の職業の比じゃないですね)

ぐぉん

召喚士(魔力が動いた! 来るでやんすか!)

カトブレパス(――けど、あくまで本体はただの一般人なんですよね)「行きますよ、範囲攻撃魔法、魔眼光殺法!」

バババババババーーーー!!

カトブレパスの魔眼が光り、周囲一体を無差別に攻撃し始める。

召喚士「今でやんすっ! 召喚、来るでやんすよ! コカトリス!」

ドン!

召喚士「コカァー!!」

バサッ!

魔方陣から飛び出したコカトリスは同じように魔眼の呪いを放った。

バシィー!!



745:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/12(火) 02:17:16.42 ID:DBL5eMCk0

264

--北の王国--

バババババババ!

カトブレパス「! なるほど面白い! 文字通り眼には眼を、ってわけですか!!」

バチバチバチバチ!

呪い同士のぶつかり合い。コカトリスの魔眼がカトブレパスの呪いを食い止めている。

カトブレパス「でも」

バリ……

コカトリス「コカァ!?」

石化耐性を持つコカトリスが、手足の先から石になっていく。

ぱきぱきぱき

カトブレパス「甘いですね……残念ながら魔族とモンスターでは全てにおいて格が違うんですよ……そぉら!」

バリバリバリー!

カトブレパスが魔眼の力を強めると拮抗は一瞬で崩れ、

コカトリス「コ、コカァー!!」

ビシィ!

コカトリスは完全な石像となってしまった。



746:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/12(火) 02:20:45.35 ID:DBL5eMCk0

265

--北の王国--

召喚士「……」

ぱきっ

カトブレパス「……召喚士ともあろう方があまりにぬるい手を……。これも老いのせいなのですかね」

カトブレパスはゆっくりと近づいていく。

カトブレパス「でもまぁ中々楽しむことができました。チェックメイトです」

ざっ

召喚士「まだでやんす! 召喚、移しカエル!」

ぼふん!

カトブレパス「この場に及んでまだ召喚? 移しカエル……?」

移しカエル「げこげこー!」

ぴょこん

体長30cmほどのカエルが出現すると、それはコカトリスの周りを跳ね回る。

召喚士「移しカエル! コカトリスの石化ステータスを、そっくりそのままあいつに移し変えるでやんすよ!」

移しカエル「げこー!」

バシィー!



747:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/12(火) 02:25:06.24 ID:DBL5eMCk0

266

--北の王国--

移しカエルの体が光ったかと思うと……

カトブレパス「っ!? これは……」

ピシピシ……

最高レベルの石化耐性を持つカトブレパスが石化していく。

カトブレパス「私が、石化? そんなばかな……ありえない!?」

召喚士「ありえなくないでやんすよ。石化耐性持ちを無理やり石化させるほどの呪い……あんたそれをさっき放ったでやんしょ?」

カトブレパス「!!」

コカトリスの石化が徐々に解除され、代わりにカトブレパスの身体が石になっていく。

パキパキパキ!!

カトブレパス「――だからあえて先ほど、コカトリスを出したのですか……!?」

召喚士「ちっちっちっ。老いではなく熟成……伊達に年季入ってるわけじゃないのでやんす」

カトブレパス「う、うあああああああああああああああああ!!」

パキィイイイイイイイイイイイイイイイイン!!



748:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/12(火) 02:28:02.11 ID:DBL5eMCk0

267

--北の王国--

カトブレパス「……」

召喚士「えへ、えへへへ……思い知ったでやんすかー。これが北の王国最強の隊長、召喚士様の実力なのでやんすー。あ、お姉さん方、サインは一列に並ぶのでやんすよー」

召喚士は白目をむきながら涎をたらしている。

カトブレパス「やれやれ。今頃どんな夢見てるんでしょうね。召喚士さんとまともに手合わせせずに終わってしまうなんて。味気ない」

カトブレパスは右の掌に魔力を集め、召喚士に向けて放った。

ぼしゃっ!!

召喚士「おぎゃっ」

召喚士の頭部がトマトのように破裂する。

カトブレパス「幻術……魔眼使いに対する対策が甘かったですね」

ざり

カトブレパス「!」

ユー「……」

そこにユーが現れる。

カトブレパス「もう一人……追加ですか」



749:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/12(火) 02:29:23.93 ID:DBL5eMCk0

268

--北の王国--

ざっ、ざっ

カトブレパス「? 真正面から堂々と……また随分と無用心ですね! 石化の魔眼!!」

びしぃっ!!

ユー「……!」

パキパキッ

カトブレパスの魔眼にやられ、足元から徐々に石化していくユー。

カトブレパス「自信がおありのようですが、石化しちゃえばどんな強者もこの有様です」

ぎぎぎ、ざっ

ユーは石化しながらも足を前に出す。

カトブレパス「!?」

ぼろっ

するとユーの外側を覆っていた石化が崩れていく。

カトブレパス「!?!?」



750:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/12(火) 02:30:47.57 ID:DBL5eMCk0

269

--北の王国--

ざっ、ぱきっ、ざっ、ざっ

カトブレパス「石化をものともせず歩くですって!? ……石化耐性持ちか……ならば更に威力をあげるまでです!」

ばしいいいいいいいいいい!!

ざっ

カトブレパス「!? バカな!!」

しかしユーの歩みを止めることは出来ない。

ざっざっ、ざざざざざ!!

ユーは走り出す。

カトブレパス「ならば幻術眼!」

ぴきーん!

ざざざざざ!!

それでもユーは止まらない。

カトブレパス「まさか……全耐性……!?」



751:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/12(火) 02:32:14.19 ID:DBL5eMCk0

270

--北の王国--

カトブレパス(めんどうですね、防御タイプか……それもかなりの高レベル……! 搦め手を得意とする僕じゃキツイですね)

ざざざざざ!! だんっ!!

ユーはレイピアを構えて飛び掛る。

カトブレパス「ならば僕の十八番で行きましょう」

ひゅぼっ

カトブレパスは両の掌に巨大な魔力球を作り上げた。

カトブレパス「魔力暴発レベル4」

ぼっ

ユー「」

どがぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!!!!



752:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/12(火) 02:34:30.63 ID:DBL5eMCk0

271

--北の王国--

オオォオオォオオ……

北の王国の五分の一を消し飛ばすほどの大爆発。その爆心地で動くものが……。

カトブレパス「はぁーっ、はぁーっ」

ずる、ずるるっ

決死の自爆技で体の大半を失ってしまったカトブレパスは、回復魔法と魔族特有の再生能力で体を修復中だった。

ズンッ

カトブレパス「――」

ユー「……」

その再生中の体をユーのレイピアが貫く。あれだけの爆発を零距離から受けたにも関わらず、ユーは無傷に近かった。

カトブレパス「かはっ!……ば、化物じみた防御力ですね……こんなの、ありです……か」

ざぁあ……

カトブレパスは砂と化した。



753:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/12(火) 02:36:25.57 ID:DBL5eMCk0

272

--北の王国--

盗賊「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

フランケン「ふ、ふんぬらばぁああああ!!」

どがぁあああああああああああああああん!!

フランケンのタックルをギリギリの所で交わした盗賊。

盗賊「あ、あぶねぇあぶねぇ! 動きは早くないけど、巻き込み範囲が広過ぎる!」

しゅたっ

盗賊は一旦距離を置こうと跳躍するのだが、

フランケン「す、スキル、ホモの眼光!」

ギンッ!!

盗賊「!」

すたっ

元いた場所に着地してしまう。

フランケン「こ、これでおでからは逃げられない……」

盗賊「ち……性別アンチスキル……!」

盗賊の菊がヒクヒクと動いている。



754:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/12(火) 02:38:53.26 ID:DBL5eMCk0

273

--北の王国--

どがぁあん! どががああぁああん!!

盗賊「っく! 当たり構わず暴れやがってもー!」(ち、煙で闘士がどこにいるのかわからん!)

ぴくっ

盗賊(? アンディ!?)

盗賊の菊門がわずかな風の乱れを感知した。

ふぉん、ドガァーーーーーッ!

フランケン「!? よ、避けた?」

盗賊「はん! お前の居場所は俺のアンディ(括約筋)が教えてくれるのさ!」

ザザザザザリィイイーーーンッ!!!!

盗賊のナイフによる乱れ斬り。

フランケン「……おで」

しかしフランケンの皮膚は硬い。

盗賊「ちぇ……こりゃ俺一人じゃ勝てないかも」



755:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/12(火) 02:39:54.38 ID:DBL5eMCk0

274

--北の王国--

ズドオオオオオン!!

フランケン「お、お前のケツを、ふわふわあなるにしてやる!」

ドガァアアアアン!!

盗賊「っく……!」

瓦礫ごと吹っ飛ばされてしまう盗賊。

ズザザー!

盗賊「硬くて強い……単純だけど、単純ゆえに強いな」

ズンッ、ズンッ

フランケン「お、おで!」

盗賊「やっぱり、お前は強いよ。闘士」



756:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/12(火) 02:41:53.68 ID:DBL5eMCk0

275

--北の王国--

盗賊(俺一人の魔力じゃ空間設置魔法罠は使えない……今できるのはこんくらいだけど)

シャシャシャ!

盗賊は一瞬で罠と魔法罠を設置する。

ズンッ!!

だがフランケンがあっさり踏み抜き、そして破壊してしまう。

盗賊(やっぱダメだ。罠は早いやつほど有効だ。でも闘士は遅いからな。遅くて硬いとか相性最悪だ)

ドガガァアアアンン!!

盗賊「やべっ!」

考え事をしていた盗賊はフランケンの攻撃にかすった。ほんの少し脇をかすっただけなのに、

ボキキィッ!

盗賊「っ!……ひゅっ……アバラもってかれた……!」



757:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/12(火) 02:45:56.20 ID:DBL5eMCk0

276

--北の王国--

ズンッ、ズンッ!

フランケン「ふしゅるるるる……」

ひと回りもふた回りもも大きなフランケン。
繰り出される一撃がまともに当たれば、大抵の人間は一瞬であの世行きだろう。

盗賊「……」

ズンッ!

フランケン「と、とうぞく。おまえ、ほんきじゃないな?」

盗賊「……いや、全開ばりばりだぜ。出し惜しみ無しでやんなきゃ魔族と戦えるかっての」

フランケン「いや、ちがう」

フランケンは盗賊を指差した。

フランケン「お、おまえは、まだなにかかくしてる……つかうきがないだけで」

盗賊「……」

盗賊は魔族になってしまったフランケンの眼を見つめる。

盗賊「……お前は昔から勘がいいやつだったよな」

フランケン「ほ、ほんきでたたかえ、とうぞく。お、おれはほんきのおまえとたたかいたい。せいかくにいえば、とうぞくがほんきでたたかってまけたところを、おでがほんきでほりたい。そうしたい」

盗賊「へ、変態だ……」

フランケン「へんたい? しんがいだな」



758:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/12(火) 02:47:06.15 ID:DBL5eMCk0

277

--北の王国--

盗賊「しかし参ったな……打つ手無しか。このままじゃ掘られちまうなぁ」

フランケン「……ほ、ほんきをだすきはないのか」

ズゥン

フランケンが湯気を発しながら一歩ずつ前へと進む。

盗賊「わりいな……俺は……俺だけの力でお前を倒したいんだ」

フランケン「……」

盗賊「お前を殺しちゃったのは俺なんだからさ。今更他のやつらの手を借りるのは引けるのよ」

フランケン「……」

ズゥン!

フランケン「……そ、そうか……残念だ」

フランケンは拳を引いて必殺の構えに移る。



759:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/12(火) 02:51:13.26 ID:DBL5eMCk0

278

--北の王国--

盗賊「つってもまだ手が無いわけじゃないぜ?」

ぼっ

フランケン「?」

盗賊は全身の魔力を高めていく。

盗賊「自己暗示魔法、勇者ライフ!」

ぼしゅん!!

フランケン「ゆ、勇者……ライフ?」

びゅおおおおおおおおおおおおおおおおお!!

吹き荒れる風。その中心で盗賊は静かに目を瞑った。

 「……ばれ……れ」

フランケン「! こ、このこえは……ゆしゃさん……?」

風の中でかすかに聞こえる声。それは勇者のものだった。

 「がんばれ……がんばれ」

フランケン「!!」

フランケンは見た。
竜巻の中心で眼を瞑っている盗賊。そしてその前にチアの衣装に身を包んだ勇者が、

勇者「がんばれ♥がんばれ♥」

と言って盗賊を励ましているのを!!



760:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/12(火) 02:53:10.13 ID:DBL5eMCk0

279

--北の王国--

盗賊「うおおおおおおおおおおおおお!! みなぎってきたああああああああ!!」

きぃいいいいいん

風が弾け飛び、そして盗賊の右手のナイフに集まっていく。

しゅるるるるるるるる!

フランケン「む、む」

それを見たフランケンは身構えた。あれを無策に受けてはいけないと、野生の勘で察したのだ。

ひゅぅおおおおおおおおおおおぉぉ!!

風が吹き荒れる。

盗賊「……」

フランケン「……」

盗賊「……なぁ、闘士」

フランケン「……な、なんだ?」

盗賊「俺、お前に言っておきたいことがあったんだ」

フランケン「……」

チャキッ

盗賊はナイフを構える。

盗賊「俺は……ホモじゃない」



761:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/12(火) 02:55:48.49 ID:DBL5eMCk0

280

--北の王国--

シャッ!!

盗賊は走り出す。
盗賊の最高速とも言える速度でフランケンに向かっていく。

シャシャシャシャシャシャ!!

フランケン「う、うおおおおおおおおおおおおお!!」

どがあああああああああああああああん!!

フランケンは地面を破壊して盗賊の進路を塞いだ。だが

シャシャシャッ!

盗賊は宙に浮いた地面の破片を、飛び石のように渡って移動する。

フランケン「ま、またまたそんなうそいっちゃってーーーーーー!!」

フランケンは盗賊目掛けて拳を突き出した。

ボウッ!!

盗賊「嘘なんかじゃない! 俺は、俺は! 俺はノンケなんだああああああああああああああああああああああああああ!!」

シュッ

フランケンの右拳を紙一重でかわし、そして

フランケン「!」

ズギャシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!

盗賊「……」

フランケン「……」

ぽたっ

盗賊のナイフがフランケンの胸をわずかに斬った。



762:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/12(火) 02:58:14.09 ID:DBL5eMCk0

281

--北の王国--

ぽたたっ

盗賊「……」

フランケン「……ず、ずっと……そんなんじゃないかって……じつは、きづいてた」

ぽたっ

盗賊「……」

ぽたっ、ぽたたっ

盗賊「……スキル、盗む……」

盗賊の左手には、フランケンの心臓が握られていた。

ざぁあ……

盗賊「……すまねぇな。闘士。俺はまた……またお前を殺しちまった」

フランケン「……ふ……ふふ。な、なんだかよくわからないが、とうぞく」

ざぁあ……

フランケン「きにするな」

フランケンは穏やかな笑みを浮かべながら、最後に盗賊のお尻を撫でると砂になって消えた。

盗賊「……闘士……」

盗賊は空を見上げた。



772:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/19(火) 01:19:59.64 ID:dI147Ioy0

282

--北の王国--

しゅうぅう……

盗賊「はぁ……けどどうすっかねー……かなり体力もってかれた……。他の奴等の相手を今からするのは、共有を使ってもきつい……」

ぺたり

盗賊はその場に座り込む。
魔族を一対一で倒すという偉業、その奇跡には代償が必要だ。

盗賊(また寿命削っちまった……しょうがないけど)

砂となって消えていくフランケンを眺めている。



773:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/19(火) 01:20:57.92 ID:dI147Ioy0

283

--北の王国--

ゴゴゴゴゴ

魔王勇者「! ニンフ、カトブレパス、フランケンの霊圧が……消えた……?」

ゴゴゴゴゴ

ウェンディゴ「……ち」

それぞれの位置から二人は仲間の死を知る。

魔王勇者「……よくも……」

ゴゴゴゴゴ

魔王勇者は両手で顔を隠して肩を震わせている。

魔王勇者「よくも……よくもよくもよくもオオオオオオオオー!!」

魔王城「グゥアァアオォオォオォォおおおおおおおおおおォぉ!!」

魔王勇者の怒りに同調するように、魔王城が吠えた。



774:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/19(火) 01:21:50.73 ID:dI147Ioy0

284

--北の王国--

参謀長「あれは!」

バキバキ!!

変形していく魔王城。

北の王「数年前にも同じような光景を見ましたで……でっかいやからに北の王国が踏み荒らされるのを……」

ゴゴゴゴゴ

魔王城は空中で胎児のような姿となり、そして

ヒュウゥ……ズッズーーーン!!

地面に落下した。

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ! !

その衝撃波で周辺にあった町は吹き飛び、離れた場所の建物も揺れで倒壊してしまう。



775:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/19(火) 01:23:07.86 ID:dI147Ioy0

285

--北の王国--

参謀長「無茶苦茶しやがって……」

ゴゴゴゴゴ……

魔王城「フー! フー!」

魔王勇者「全て殺せ……DX超合金魔王城!!」

魔王城「グゥアァアオォオォオォォォ!!」

魔王城の叫び。その破壊的な音波は山を崩すほどの威力があった。

ビリビリビリ!!

盗賊「ち……! 座ってばかりはいられねぇか!」

ダダダ!

盗賊は足に力を入れて立ち上がり、魔王城に向かって走り出した。

ふわっ

ウェンディゴ「――不安要素を残しておくわけにはいかないな」

盗賊「!?」

その盗賊の目の前に、ウェンディゴが降り立った。



776:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/19(火) 01:24:16.39 ID:dI147Ioy0

286

--北の王国--

ズバシュッ!!

盗賊「――っ」

そしてウェンディゴは盗賊の首を切り裂いた。

ボタタタッ

盗賊「げっ……ごほ」

慌てて左手でナイフを構え、右手を傷口に手を当てる。

盗賊(油断、した……罠や不意打ち、そんな陰険な攻撃を得意とするやつが、向こう側にもいたのによ……!)

ぽたっぽたたっ

盗賊の血は止まらない。

ウェンディゴ「ここで死んでおいてくれ、俺」



777:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/19(火) 01:27:03.66 ID:dI147Ioy0

287

--北の王国--

ぽたっ、ぽたっ

盗賊「ひゅーっ、ひゅー……」

かたかたかた

意識を失いそうになりながらも、盗賊はナイフを構え続けている。

ぽたぽた

ウェンディゴ「……諦めの悪さは相変わらずか」

盗賊(ぐ……こいつは、どの分岐の俺なんだ? せめてそれだけでも……)

ウェンディゴ「――諦めずに戦い続ける。それだけが俺の持ち味だったんだもんな」

ウェンディゴはどこか悲しそうな目で盗賊を見ていた。

盗賊(? なんだその言い方……引っかかるな)

ウェンディゴ「……! 血の落ちるのが止まったぞ!? まさか!」

盗賊「ち、気づくのがはえーぞ! 俺のくせに!!」

ブゥン!

奥義共有、賢者の型。
盗賊は賢者の力を共有して自らの傷を治療していたのだった。



778:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/19(火) 01:29:50.27 ID:dI147Ioy0

288

--北の王国--

ウェンディゴ「あぁ、あれの改良版か……相も変わらず俺ってやつはめんどくさいな」

盗賊(この力の目星もついてるのか? じゃあ……あそこまでは俺と同じ道を辿っていたのか……)「めんどくさいのはお互い様だぜ! 魔力暴発、レベル2!」

シャッ

盗賊がウェンディゴに向けて魔法を放とうとした瞬間、

ドシュドシュドシュドシュドシュドシュドシュドシュドシュ!!!!!!

盗賊「!? がっ、は……」

ウェンディゴ「……空間設置魔法罠、カウンタータイプ」

無数の魔法の槍が盗賊を貫いていた。

盗賊「すでに、貼ってたのか……」

ウェンディゴ「あぁ。透視眼が甘いぞ、俺」

盗賊「――、――……」

ぽた、ぽたたっ

伸ばしていた腕が力なく落ちる。

盗賊「」

ぽた……

盗賊は死亡した。

ウェンディゴ「お前は俺が見てきた中で……まぁまぁ速い敵だった」



779:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/19(火) 01:32:11.22 ID:dI147Ioy0

289

--北の王国--

ズズゥーン、ズズゥーン

魔王城「がぁああああああああ!!」

参謀長「……く」

北の王「参謀長はん。何かいい手ありまへんか?」

参謀長「手持ちの駒では正直……研究員さん、回収した機械姉妹の方は?」

研究員「あの子らを元に戻すまでに、最速でも一週間はかかるねー」

参謀長「……でしょうね。となると現時点では……」

姫「よっし! 姫ちゃんがなんとかしちゃうぞー!」

ぱんぱかぱーん!

暗いムードを壊すように姫が机の上に立ち、無い胸を張る。

参謀長「あとは……盗賊さんやユーさんに任せるしかありませんね。我々と兵士は撤退の準備を始めましょう」

姫「む、無視しちゃらめぇーーー!!」



780:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/19(火) 01:35:23.01 ID:dI147Ioy0

290

--北の王国--

参謀長「はぁ……そんなこと言ったって姫様、貴女、金を産むしかとりえが無いでしょう?」

姫「遠まわしに無能ってゆった!?」

北の王(金を産めるだけで超有能な気がするんや)

姫「むぅ~! じゃあそこで見ているがいー!」

ギンッ!!

姫が魔力を開放する。それだけで城が軋んだ。

ビリビリビリビリ!!

北の王「! な、なんちゅう魔力や!! こんな力が!」

姫「黄金属性攻撃魔法ー、星降らし!!」

きらんっ!

……ひゅぅうううぅうううううううん!!!!

何かが上空から落ちてくる。



781:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/19(火) 01:36:44.19 ID:dI147Ioy0

291

--北の王国--

キラン

ウェンディゴ「ん?」

どがぁああああああああああん!!

ウェンディゴ「う、うおぉおおお!?」

ウェンディゴのすぐ傍に大きな金の塊が振ってきた。

しゅうぅうう……

ウェンディゴ「あぶねぇ……隕石か? 人の頭くらいあるじゃん。後で持ってかえろ」

きらん

ウェンディゴ「ん?」

きらんきらん

ウェンディゴ「……ん?」

きらきらきらきらきらきらきらりんきらんきらきらきらきらきらん!!!!

ウェンディゴ「うっ、お……」

ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!

まるでスコールのように金が降り注いだ。

ウェンディゴ「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!??」



782:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/19(火) 01:37:48.70 ID:dI147Ioy0

292

--北の王国--

どぎゃっ!!

ウェンディゴ「っ!!」

そのうちの一つがウェンディゴの左肩に命中し、そのまま骨を砕いた。

ウェンディゴ「いっ、てぇ……!!」

ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!

ウェンディゴ「ぐっ! これは人間の仕業なのか!?」



姫「きゃははは! どーだー!! 見たかー!」

ガガォオンドガァアアン!!!!

参謀長「国全体がやられてるんですがそれは」

北の王「夢のような光景でんな。二重の意味で」



783:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/19(火) 01:40:06.71 ID:dI147Ioy0

293

--北の王国--

魔王城「ふぅううー!!」

ドガガガガガガガガガガガ!!!!

魔王城は降り注ぐ金をものともせず歩いていく。

ズズゥーン、ズズゥーン!!

北の王「あいやー。しかしあのデカ物はんには効いてないみたいでっせ」

姫「むぅー!!」

参謀長(魔力を大量に含む金属である黄金を、雨霰と全身に受けてもまだ進むのか……)

ズズゥーン、ズズゥーン!!

姫「そ~ん~な~ら~! 黄金属性攻撃魔法、黄金の大星!!」

参謀長「って、それ以上無駄に魔力を使わないで下さい姫様!」

しかし姫の魔法は発動してしまう。



784:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/19(火) 01:40:59.87 ID:dI147Ioy0

294

--北の王国--

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

ウェンディゴ「やっと降り終わったか……って、今度はなんだ?」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!

大地が震え、巨大な影が迫る。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!

ウェンディゴ「……嘘ぉ」

ぶわっ!

雲を吹き飛ばし現れたのは、

北の王「……この国オワタ……」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!

北の王国の領土をすっぽり覆うほどの、巨大な黄金だった。



785:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/19(火) 01:42:26.15 ID:dI147Ioy0

295

--北の王国--

ウェンディゴ「規模がでか過ぎる!! 魔王勇者ーーー!!」

魔王勇者「っ!」

魔王城「ぐおおおおおおおおおおおおおお!!」

がしぃいいいいいいいいいいいいいいい!!

魔王城は落下する黄金を受け止めようと手を伸ばす。

ズズズズゥウウン!!
ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!

受け止めた時の衝撃で大地が割れる。



北の王「なんかこれEVAで見たことありますわ!」

研究員「ゼルダでも見た! 後三人足りない!」

参謀長「これやつらが受け止めてくれなきゃ私らも全員死ぬレベルじゃないか……」

姫「むふー!」

なぜかドヤ顔の姫。

北の王(なんで黄金がダメなのかちとわかった気がしますわ)



786:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/19(火) 01:46:02.07 ID:dI147Ioy0

296

--北の王国--

ガガァアン!! ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!

魔王城「ぐおおおおおおおおおお!!」

びしっ、ばきばきぃ!!

魔王城の頑強な両腕にひびが入り、少しずつ崩れていく。
巨大な黄金の勢いは止まらない。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!

ウェンディゴ「まじか……金に押しつぶされて死ぬとか……人によっては嬉しいんだろうけど」

とんっ

その時、魔王城の口から魔王勇者が飛び出した。そして、

ブゥン

大剣を呼び出し、構える。

魔王勇者「魔奥義、魔王スラッシュ」

フォン、ズ

闇を纏った大剣が黄金に触れる。

ドガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!

北の王「!?」

参謀長「なにぃ!? 一振りであの黄金を破壊しただと!?」

姫「……」



787:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/19(火) 01:47:33.13 ID:dI147Ioy0

297

--北の王国--

ゴゴゴゴゴゴ……

魔王勇者「……」

ふぉん、どごぉん!!

砕けた黄金が北の王国に降り注ぐ。その中で優雅に浮遊している魔王勇者。

ウェンディゴ「……あれをぶっ壊しちまうのか……やー、さすがは勇者様だわ」

ふぉん、ふぉん

魔王勇者「……?」

黄金の雨の中を移動する何かに気づく魔王勇者。

しゃしゃっ

そしてそれは魔王城に向かっているようだった。

ユー「奥義」

それはユー。
二つのレイピアを体の前で交差した構えを取った。



788:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/19(火) 01:50:10.64 ID:dI147Ioy0

298

--北の王国--

魔王城「ごご……?」

ユーの接近に気づいた魔王城はゆっくりと方向を転換する。

しゅ

だがもう遅い。

ユー「勇者ラッシュ」

ぼっ

ぼぼっ

ボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボッ!!!!!!!!!!

魔王勇者「!?」

ウェンディゴ「!」

魔王城「 がっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

黄金の雨でさえ崩れなかった外壁が、

ドガガガガガガガガガガガガガガガアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!

レイピアのラッシュによっていとも容易く粉砕された。

そして巨大な岩石の破片が空を飛ぶ。

魔王勇者「その、力は……!」

ユー「……」

どごぉん、どががぁあん!!

今北の王国では、金と石の雨が降っている。



789:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/19(火) 01:51:42.89 ID:dI147Ioy0

299

--北の王国--

ウェンディゴ「いっ!? 魔王城をぶっ壊しただと!? そんなこと人が出来るわけ……」

ドォン、ドガガァアアン!!

魔王勇者「……」

ユー「……」

金と石の雨の中で、ユーと魔王勇者は見つめ合っている。

ドォン、ドガガァアアン!!



ユー「……」

最初にユーが走り出し、

ぼっ

魔王勇者「……」

続いて魔王勇者が飛ぶ。

ウェンディゴ「いやまて魔王勇者! そいつはまずい!! いくな!!」

ユー「」

魔王勇者「」

ウェンディゴの制止むなしく、ユーと魔王勇者の剣が、

ドギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!

空中で激突した。



790:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/19(火) 01:53:40.17 ID:dI147Ioy0

300

--北の王国--

ウェンディゴ「くっそ! こうなりゃサポートするっきゃねぇ!!」

ひょっ、しゅた!

ウェンディゴは跳躍して家の屋根に乗った。

?「でも残念~それはかないません~」

ウェンディゴ「!?」

どがっ!!

ウェンディゴは突如現れた人物から回し蹴りを食らう。

ざざざー

ウェンディゴ「……おいおい」

??「水属性蘇生魔法、レベル4」

ぱぁああ

蘇生魔法の光りが盗賊の体を優しく包む。

???「やれやれとんでもないことになっているじゃないか。もっと早くに賢者に情報を共有すべきだったのではないか?」

ザッ!!

ウェンディゴ「踊子、賢者、シャーマン……」

むくり

盗賊「……おぉ、みんな来てくれたのか」

復活した盗賊が目を覚ました。











その頃……

--南の王国--

乳でかくなる教教祖「この体操をすれば、必ずお乳は大きくなります。それでは声を出して元気にやっていきましょう。はい、ワンツー、ワンツー!」

勇者「ワンツー、ワンツー!……は!?」



799:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/25(月) 19:49:45.59 ID:f83gWoaa0

301

--北の王国--

ヒュゥウウウウゥウウ

ウェンディゴ「……」

ざり

踊子「さぁて、私と踊ってもらいましょうか~別ルートの盗賊さん~?」

ウェンディゴ「踊子さん……」

ざっ

賢者「道を間違えたとはいえ盗賊君だ……出来ることなら戦いたくないんだけどね」

ウェンディゴ「賢者さん……」



シャーマン「私は別に言うこと無い」

ウェンディゴ「……シャーマンさん」



800:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/25(月) 19:51:23.74 ID:f83gWoaa0

302

--北の王国--

すた

盗賊「……本当は一騎討ちでやりあいたかったんだけどな。でもこんな状況だし私情は挟んでられないよな」

ウェンディゴ「俺……」

ザンッ!

新生勇者パーティー(勇者不在)がウェンディゴの前に立ち並ぶ。

踊子、賢者、シャーマン(((フランケン戦で私情挟みまくって共有使わなかったくせに)))

盗賊(共有使わなくてもわかるぞみんなの心の声が)

ウェンディゴ「……」

ウェンディゴはしばらく盗賊達を眺めていた。
そして……

ウェンディゴ「……相手にとって不足無し」

ぼぅ

全身から魔力を発して完全な戦闘モードに。



801:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/25(月) 19:53:07.62 ID:f83gWoaa0

303

--北の王国--

ビリビリ!

賢者(! このプレッシャー……やはり魔族ですね……強い!)

踊子(典型的な、味方だと弱いのに敵になったら厄介なパターン、ですね~)

賢者達はちらちらと横にいる盗賊を見た。

盗賊(なんかバカにされてるような気がするのは気のせい?……)

じりじり

シャーマン「おい、忘れてるのかお前ら。あれも盗賊なんだぞ?」

賢者「え? 何を今さら……そんなこと百も承知ですよ」

ジリジリジリジリ

ウェンディゴ「相手にとって不足無し……なので」

シャッ!

ウェンディゴが跳躍する。

踊子「!!」

ウェンディゴ「引かせてもらうよ! バイバイ!」

賢者「!?」



802:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/25(月) 19:55:32.06 ID:f83gWoaa0

304

--北の王国--

盗賊「し、しまった!!」

シャシャシャ!!

ウェンディゴはあっという間に逃げてしまった。

踊子「ぐ……本当逃げ足は早いんですから~……」

踊子はキッ、と盗賊を睨む。

賢者「し、失念していました……勝ち目が薄いと判断した戦いを、盗賊君がするわけがない……」

賢者は盗賊を見てため息をつく。

盗賊「こ、これー! 戦え俺ー! お前がしっかりしてないと俺の評価も下がるんだぞー!?」

だぞー
だぞー
ぞー



803:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/25(月) 19:56:35.75 ID:f83gWoaa0

305

--北の王国--

シャーマン「――で、どうする? 追うのか? あれを」

盗賊「……やめよう。俺のことだから逃げ道に罠しかけまくってるよ。一対一に持ち込むためのしかけもしてるだろうから、追えば各個撃破される可能性が高い」

賢者「く……魔族になりスペックの上がった盗賊君の厄介さははんぱないですね」

シャーマン「陰険」

踊子「そ~ろ~」

盗賊「!?」

シャーマン「はげ」

踊子「ポークビッツ~」

賢者「僕のことじゃん!?」



804:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/25(月) 19:57:25.81 ID:f83gWoaa0

306

--北の王国--

踊子「……でもどうするんです~? このままだとあの魔族、あそこに向かっちゃいますよね~?」

賢者「……確かに」

ギィン! ガガァン!

盗賊達は、空中で繰り広げられるユーと魔王勇者の戦いに目を向けた。

盗賊「そうだな……じゃあ透視眼で周囲を索敵しながらゆっくり進むことにする。みんな離れるなよ?」

賢者「了解」

踊子「仕方ないですね~」

シャーマン「……」



805:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/25(月) 19:58:23.91 ID:f83gWoaa0

307

--北の王国--

ギィァン! ギィン! ガガギィン!!

ユーと魔王勇者の壮絶な斬り合い。

ユー「……」

魔王勇者(こいつ……!)

手数のユーと精密な剣技の勇者。

ギギギギギィン!!

二人は数百と打ち合ったが、両者ともダメージを受けていなかった。

魔王勇者(やはり勇者の力を持ってる……! だとすればこいつの一撃を受ければ致命傷になりかねない……)

ギィン!!

風属性魔法で飛翔するユーは旋回しながら次の攻撃を放とうとしている。

びゅおおおぉお!



806:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/25(月) 20:02:27.81 ID:f83gWoaa0

308

--北の王国--

魔王勇者(だがそれは向こうも同じことだ! 私の魔力に耐えきれるものは、誰一人としていない!!)

ボアッ!!

ユー「!」

魔王勇者の全身を包む魔力が漆黒の炎と化す。

ボボボボボボボボボボボボボッ!!

魔王勇者「魔王技、深淵に飲まれよ!」

ドギァアアアァンン!!

魔王勇者が大剣を振るうと、黒の炎が空を覆っていく。



ゴゴゴゴゴゴ!!

盗賊「! 範囲攻撃か!」

賢者「いやMAP攻撃です! しかも特大の! これは避けきれない!!」

闇が全てを燃やし付くそうと地上に迫る。



ユー「……」

それを見たユーは、そっと右手を掲げた……。
















①親方! 空からパンツが!
②親方! 空からスク水が!

※先着一名でお願いします。五分経ってなかったらオートで始まります。



808:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/25(月) 20:08:06.19 ID:f83gWoaa0

309

--北の王国--

②親方! 空からスク水が!

パリィィン!

魔王勇者「!?」

魔王勇者が渾身の魔力を込めて放った闇の炎は、全てスク水に変わった。

ウェンディゴ「! は、はぁっ!?」

ひらひらひらひら

賢者「ばかな……ありえない……」

盗賊「これは……まさか……」

盗賊はあり得ないといった表情で落ちてきたスク水を一枚手に取った。

そのスク水の名前の場所にはゆうしゃ、とひらがなで文字が書かれていた。

盗賊「これゆうしゃのスク水じゃん! うほほーい!!」

賢者「ツインテちゃんとフォーテちゃんの急いで探さなきゃ!」

きゃっきゃっ

シャーマン「おい順応はえーぞクソ男子共」

踊子「まったくです~」



810:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/25(月) 20:10:26.77 ID:f83gWoaa0

310

--北の王国--

ウェンディゴ(なんだこれは……事象を捻じ曲げたのか……? まるで)



ひらひらひらひら

舞い散るスク水の中、魔王勇者は驚愕していた。

魔王勇者「この力……この力は……」

ドキュッ!!

戸惑う魔王勇者にユーが迫る。

ユー「……」

ボッ!!

風属性の飛翔魔法に火属性の飛翔魔法を重ね合わせたユー。その速度は爆発的に増加する。

ぎゅんっ!

魔王勇者「しまっ!」

ザシィン!!



811:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/25(月) 20:11:15.19 ID:f83gWoaa0

311

--北の王国--

ぴちゃ

ウェンディゴ「……つ」

魔王勇者「!? ウェンディゴ!!」

ユーのレイピアが魔王勇者を貫こうとしたその時、魔王勇者とユーとの間にウェンディゴが割り込んだ。

ピチャッ

レイピアはウェンディゴの脇腹を貫通し、血がレイピアを伝って落ちていく。

ガシッ!

ユー「!」

ウェンディゴ「捕まえたぜ……よくわからん勇者さんよぉ」

ウェンディゴは貫かれた状態でユーの両腕を掴んだ。



812:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/25(月) 20:12:12.54 ID:f83gWoaa0

312

--北の王国--

ユー「!」

振りほどこうとするユー。

バシィン!

ユー「!」

その腕に魔力で出来た縄が巻きついていく。

ウェンディゴ「残念、もうにげられないのさあんたは」

魔王勇者「! 自分に罠を張っていたの……?」

ウェンディゴ「魔王勇者! ぼさっとしてんじゃねぇよ! やれ!!」

魔王勇者「!」

ユー「……」

ギシギシッ!



813:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/25(月) 20:13:05.26 ID:f83gWoaa0

313

--北の王国--

盗賊「こんなところにまで罠かけやがって! スキル、罠解除!」

ぱきぃん

賢者「恐るべき念の入れようですね……同じ思考を持つ盗賊君じゃなければ、例え透視眼を持っていても全てを見つけることは出来ないかもしれない」

踊子「このびびり~」

盗賊「慎重な男と言ってください」

シャーマン「あ」

盗賊「あ?」

ドゴオオオオオオオオオオオオオオン!!

空が爆発する。

ひゅるるるるるるるる

盗賊「!! あれは!」

焼け焦げて落下する物体、それはユーだった。



814:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/25(月) 20:14:32.95 ID:f83gWoaa0

314

--北の王国--

魔王勇者「はぁ、はぁっ……」

ウェンディゴ「俺ごと斬ればよかったのに。あれじゃまだ生きてるぜ多分」

魔王勇者「……うるさいわね……もう、ごめんなのよ」

魔王勇者は小さく呟いた。



参謀長「……ユーさんが敗北した」

落下していくユーを遠くから見つめている参謀長達。

研究員「盗賊君の仲間がかけつけたみたいだけどー、果たしてあの勇者君に勝てるのかなー? 私の勘だとあれは魔族じゃなくて魔王だよねー」

北の王「……」



815:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/25(月) 20:18:03.62 ID:f83gWoaa0

315

--北の王国--

盗賊「……まじい」

ユーの敗北を知り、盗賊は冷や汗を垂らす。

踊子「……ふん、仲間が一人減ったのは辛いですけど~、まぁやってやりますよ~。あっちは二人、こっちは四人です~。二倍ですよ二倍~」

賢者「そう簡単にいけばいいんですが……」

シャーマン「……なぁ、目標は達成したようなもんだろ。ここは撤退でいいんじゃないか?」

シャーマンの突然の提案。

盗賊「へ?」

シャーマン「市民への犠牲は0。兵達の被害も最小限。おまけに敵の魔族を三体も倒したんだ。十分だろう」

盗賊「いやぁ……そう考えちゃいますか」

シャーマン「あっちだって相当消耗しているはずだ。逃げる奴を追うほど、体力は残って無いんじゃないか?」

賢者「……」

踊子「……」

盗賊「――でも、みんなの死体はどうなるんだ?」

シャーマン「……めぼしいのだけ連れてかえるしかないな。それすら可能かわからないが」

盗賊「じゃあダメだろ」



816:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/25(月) 20:20:19.79 ID:f83gWoaa0

316

--北の王国--

シャーマン「――ダメ、とは? ここで我々まで死んだら最悪だぞ? 恐らく人類の敗北は避けられないことになる。計画はおじゃんだ」

盗賊「わかってるけどダメなんだよ、そういう戦い方じゃ」

盗賊は罠を解除しながら進む。

盗賊「ハイちゃんは言ってたぞ。全員が最終決戦に揃っていればなんとかなる、ってな。だから少しの戦力も犠牲にできない」

シャーマン「……」

盗賊「それになにより」

賢者、踊子「「見殺しにはできない」」

シャーマン「」

盗賊「……わかってるよ分が悪いことくらい。でもこのまま引いたらダメなんだ」

シャーマン「……」

踊子「うふふ~。それに~知らないんですか~?」

賢者「ピンチの時には、ヒーローが来るんですよ」



817:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/25(月) 20:20:54.23 ID:f83gWoaa0

317

--北の王国--

  ひゅぅううぅううう



シャーマン「ヒーロー……?」



  ひゅううううううううううう



盗賊「あぁ。物語はそういう風に出来てるのさ。なぁ」



  ひゅうううううううううううううううううううううう!!



盗賊「勇者」



ドォオオオオオオオオオオオオオオオオオンン!!!!



グラグラグラ

北の王「こ、今度はなんでっか!? 隕石!?」

参謀長「何かが飛んできたみたいですが……これは」

研究員「ほうほうー……なんだか面白いことになってますねー」



818:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/25(月) 20:23:40.39 ID:f83gWoaa0

318

--北の王国--

しゅうぅううう……

土煙が舞う。

?????「……」

ウェンディゴ「なにかがものすごいで飛んできたぞ……」

魔王勇者「……」

魔王勇者はそれが何か探っている。

魔王勇者(この魔力パターン……なんだか懐かしい気がする……だれだ? なんだか、胸が締め付けられるようだ)

ぶぉおおうう!

?????「……」

落下してきた者が、大剣を振り回して土煙を吹き飛ばす。

魔王勇者「!?」

落下地点の中心にいたものは、勇者――。

?????改め勇者「……」

チャキッ

大剣を構えるは、もう一人の赤き絶壁。



盗賊「ほぉら来た」



819:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/25(月) 20:25:19.07 ID:f83gWoaa0

319

--北の王国--

魔王勇者「」

ウェンディゴ(!?……そういうことか……くそっ!)「おい魔王勇者、ここは一旦撤退しよう!」

がしっ!

魔王勇者「何、あれ……何で、私があそこにいるの?」

ウェンディゴ(トリガーの奴……このことを知ってて!!)「聞いてるのか魔王勇者! 引くぞ!」

ばしっ!

魔王勇者はウェンディゴの手を振り払う。

魔王勇者「撤退? そんなことするわけないでしょ? 私は魔王……全てを滅ぼす者よ」

魔王勇者は明らかに動揺している。

魔王勇者「大体、フランケン達を失ったのに今更……引けるわけなんて無いでしょ!」

ぼおおおぉ!!

魔王勇者は魔力を発する。

ウェンディゴ「くっ!!」(ダメだ、俺の言葉じゃ止めることができない!)

魔王勇者「私の偽者なんかわざわざ用意して……無駄なあがきだわ。消してくれる……」



820:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/08/25(月) 20:28:24.48 ID:f83gWoaa0

320

--北の王国--

たたたっ

勇者「!」

賢者「勇者さん!」

踊子「勇者さ~ん~」

勇者「みんな……遅れてすまない」

勇者と合流する盗賊達。

踊子「もう~遅いじゃないですか~待ってたんですよ~?」

むぎゅっ

踊子は勇者に抱きついた。

勇者「もふっ。す、少し道が混んでいたんだ」

お○ぱいに埋もれた勇者は複雑な顔つきで踊子を引き剥がす。

勇者「敵は……あれだな。よし、行くぞみんな!」

盗賊「行くぞみんなじゃねーよ」

れろ

盗賊は勇者の耳の穴に舌をいれる。

勇者「ひゃうっ!? な、なななななな!! いきなり何をするんだぁ!!」

どすん

大剣を手放して両耳をガードしてしりもちをつく勇者。

盗賊「うるさいよ。どんな道を通ってくればこんなに時間かかるんだよこのまな板! こっちはハラハラしたんだぞ?」

勇板「だ、だから道が混んでたんだってば! 謝ったでしょ!?」

盗賊「この味は……嘘をついてる味だぜ……ド貧乳」

勇貧「!!」

シャーマン(え? 耳クソの味?)



839:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/08(月) 23:53:02.08 ID:+Lhl4pgm0

321

--北の王国--

勇者「み、耳くそなんてないもん! ちゃんと毎日掃除してるもんっ!」

舐められた耳を両手で押さえながら涙目で訴える勇者。

盗賊「おいしゅうございました」

賢者「ほんとに食べたんですか!?」

踊子「ないわ~」

シャーマン「やれやれ……」

ギャーギャー

ウェンディゴ(……揃ったか。一人は知らないやつだな。闘士の穴埋めか?)

ウェンディゴは盗賊達の顔を見る。

ザン!

ウェンディゴ(これが……このルートでの俺達……か)



840:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/08(月) 23:53:41.38 ID:+Lhl4pgm0

322

--北の王国--

魔王勇者「……」

ミシッピキッ

魔王勇者の感情が逆立つことで周囲の建物が自壊していく。

魔王勇者「――みんなの作り物まで用意して……しかもちょっとしか似てないし」

盗賊(……似てない? もしかしてこの勇者は歳くった俺達を知らないのか?)

魔王勇者「そんなことで……この私が揺らぐと思っているのかっ!!」

ギュオ!!

魔王勇者が掌に魔力を集め始める。

ギギギギギギィィン!!

勇者「!」

暗黒の光を放つそれは、辺りを一瞬で夜に変える。



841:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/08(月) 23:54:33.43 ID:+Lhl4pgm0

323

--北の王国--

シャーマン「地形変化効果付きか。さすが魔王」

盗賊「夜の地形ってなんだ。なんかエ口いな」

踊子「言ってる場合ですか~」

勇者「夜は魔に属する者の力を増加させる効果を持つ……賢者!」

賢者「はい。しかしあれは私の障壁じゃ防ぎきれませんね。なので、魔力暴発で対応します」

ぱちん

賢者が軽快に指をならすと、

ぴしっ

魔王勇者「……なに?」

ドォオォオォオォン!!!!

魔王勇者の魔力が大爆発を引き起こした。



842:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/08(月) 23:55:54.07 ID:+Lhl4pgm0

324

--北の王国--

ウェンディゴ「!」

魔王勇者「っづ!! 私のコントロールからいとも簡単に切り離した……? おのれ賢者もどきめ!」

魔王勇者が動こうとした瞬間、

賢者「魔力障壁レベル4!」

ガイン!

魔王勇者「!?」

魔王勇者は空中で進路上にある何かに弾かれる。

ウェンディゴ(加速する直前にピンポイントで空中に障壁を設置したのか……それならわずかな力でも止められる。この賢者さん、魔族化した賢者さんよりも錬度が高い)

踊子「きゃん。ダーリン、ハゲててもカッコいいです~。――では私も」

くるん

踊子は踊り始める。



843:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/08(月) 23:56:56.99 ID:+Lhl4pgm0

325

--北の王国--

たぷーんたぷーん

踊子「ふっ、ふっ!」

激しく踊子が踊っている。

勇者「え……なにそれ……」

勇者のやる気が下がった。

盗賊「わはは! お、踊子さんそれギャグっすか?」

盗賊は笑っている。

シャーマン「凄まじいな……」

シャーマンは恐れおののいている。

魔王勇者「……」

魔王勇者は無言で眺めている。

ウェンディゴ(時の流れは残酷だなぁ……)

ウェンディゴは哀れんでいる。

踊子「はっ、はっ!」

たぷーんたぷーんたぷぷーん!

賢者「踊子さん……体型元に戻し忘れてるよ」

踊子「はっ!」



844:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/08(月) 23:57:49.67 ID:+Lhl4pgm0

326

--北の王国--

踊子「……」

踊子はしばし呆然と立ち尽くし、そして……

踊子「ふん!」

ギュルルル!

大量の脂肪を一気に魔力に変換させる。

踊子「……だ、出し惜しみしてる場合じゃないですからね~」

盗賊「いやいや忘れてただけじゃんごはっ!」

どごっ!

踊子の蹴りが盗賊の後頭部を強打する。



845:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/09(火) 00:01:05.01 ID:PY8syIXP0

327

--北の王国--

魔王勇者「……はっ! このぉ……奇怪なものを見せて!」

ヒュッ!

ウェンディゴ(くそ、魔王勇者だけ行かせるわけにはいかない!!)

ダッ!!

踊子「ここんとこはずっと一人で戦ってましたが~本来踊子という職業は支援型なんですよ~」

ドンッ!!

踊子が踊ると盗賊達全員の速力が上昇した。

踊子「仲間が多ければ多いほど効果を発揮するんです!!」

ヒュヒュヒュッ!

盗賊達が一斉に走り出す。

魔王勇者「! ふん、強化されたからといって、元がそれじゃあ!」

ヒュン

ウェンディゴ「! 魔王勇者、右だ!」

魔王勇者「!?」

ギィン!

回り込んでいた勇者が大剣で斬りつけた。

魔王勇者「っ!」

勇者「元がなんだって? 私!」



846:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/09(火) 00:02:48.70 ID:PY8syIXP0

328

--北の王国--

ギギギギギギギィンギギギギィギィン!!

勇者と魔王勇者が高速で斬り合う。

魔王勇者「っく!」(パワーもスピードも魔王化している私が勝っているはずなのに、なんで!!)

勇者「って思ってる?」

ギィン!!

魔王勇者の大剣が弾かれる。

ウェンディゴ「魔王勇者!」

盗賊「おぉっと、お前の相手は俺達だぜ!?」

フォン!

シャーマン「スキル、インストール」

どろん!

シャーマン「お、おで!」

ウェンディゴを盗賊とシャーマンが迎撃する。

ウェンディゴ「く!」

シャシャシャシャ!!

ウェンディゴ(シャーマン! なるほど、死んだ闘士の力を!)



847:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/09(火) 00:04:52.74 ID:PY8syIXP0

329

--北の王国--

賢者「水属性回復魔法レベル2、回復持続レベル4!」

賢者は離れたところから回復を行い、

踊子「ほぉーら~私を放っておくとどんどんステータスあがっちゃいますよ~?」

ぎゅんっ!!

踊子は舞いで盗賊達のステータスを強化する。

シャシャシャシャガガッ!

盗賊「おっ! ついにヒットしたぞ!」

シャーマン「て、てかずは、つよみ!」

シュババババババ!!

ウェンディゴ(4対1はさすがに辛い! ここは)

ひゅん!

ウェンディゴ(先に踊子さんをやらせてもらう!!)

ばしぃっ!!

ウェンディゴ「!?」

ウェンディゴの足が罠にひっかかる。

盗賊「焦ったか俺? 俺が罠しかけてないわけないだろうが! 俺のばーか!」



848:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/09(火) 00:06:50.47 ID:PY8syIXP0

330

--北の王国--

ウェンディゴ(魔法罠じゃない、普通の罠……しょぼ過ぎて意識の外だった!)

シャッ!

シャーマン「す、スキル、ホモ拳!!」

ドゴォオオン!!

シャーマンの拳がウェンディゴの尻を強打する。

ウェンディゴ「はうぅ!?」

説明しよう! ホモ拳とは! 男にのみ有効な打撃系スキルである!!

ウェンディゴ「がっっ!! ぐっ……!」

盗賊「こんなの持ってたんだ闘士……」

賢者「あの人アンチ男スキル持ってすぎぃ……」

二人のお尻がきゅっとなる。



849:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/09(火) 00:09:53.68 ID:PY8syIXP0

331

--北の王国--

ウェンディゴ「くそっ!」 (ばかばかしい名前と効果のくせに、ダメージが半端じゃないぞ!)

盗賊「よっ」

ずばっ!!

ウェンディゴ「」

痛みで動けなくなった一瞬を逃がさず、盗賊がナイフでウェンディゴの右腕を切り落とした。

どっ、どさ

盗賊「忘れてんじゃねぇぞ? 俺らは今踊子さんのおかげでパワーアップ状態なんだぜ?」

ウェンディゴ「! 忘れてねぇよ」

しゅるる!

ウェンディゴは盗賊に向かって風魔法を放つのだが、

賢者「魔力暴発」

どふぅうっ!!

ウェンディゴ「ッ!!」

その魔法はウェンディゴの目の前で暴発してしまう。

ウェンディゴ(……強い……何もさせてもらえない……かみ合うとここまで強くなれたのか、俺達は……)



850:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/09(火) 00:12:07.67 ID:PY8syIXP0

332

--北の王国--

盗賊「これで!」

シャーマン「お、おわりだ!!」

ズギャッ!!!!

ウェンディゴ「ッッッ!!」

盗賊のナイフとシャーマンの拳がウェンディゴに決まる。

ウェンディゴ「……ごぶっ……」

ぼたっ、ぼたたっ

地面に落ちるウェンディゴの血が

……ざぁあ……

砂へと変わっていく。

盗賊「……」

賢者「……盗賊君、下がってください。まだ何かしてくるかもしれませんから」

ウェンディゴ(……油断も無しか。こりゃ困った……な)



851:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/09(火) 00:14:14.25 ID:PY8syIXP0

333

--北の王国--

ざらっ、ざざぁ……

ウェンディゴの体が少しずつ砂になっていく。

盗賊「……」

ウェンディゴ「……」

しばし見詰め合う二人の盗賊。

盗賊「……なぁ、俺」

ウェンディゴ「……? なんだ、俺」

あと数十秒で消滅するだろうウェンディゴに盗賊は話しかける。

盗賊「お前は、どんな終わり方を迎えた俺なんだ?」

ウェンディゴ「なんだ……気になるのか?」

賢者「ちょっと盗賊君……」

盗賊「そりゃ気になるさ。なんてったって俺だもん。ちょっと考えてはみたんだが、本当の所は本人から聞くしかないからな」

ウェンディゴ「……」



852:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/09(火) 00:15:06.25 ID:PY8syIXP0

334

--???--

?「……」

男は誰かの墓の前で佇んでいる。
墓と言っても、どこかで拾ってきた石が土の上に置かれているだけの質素なものだ。

?「君の救った世界は……救う価値のあるものだったのかな……」

木漏れ日の中、彼は目を瞑る。

?「君はあれだけ辛い思いをして……それでも人のために戦って……その挙句に追い詰められて……」

男はしゃがみ込む。

?「……せめて……これからはゆっくりとおやすみ」

男は愛おしそうに墓石をなで、持ってきていた花を添える。

?「……君のいない世界で、俺は何をしたらいい?」

勇者になった男は力なさげに笑う。



853:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/09(火) 00:18:51.68 ID:PY8syIXP0

335

--北の王国--

ウェンディゴ「……俺は……勇者を自分のこの手で殺しちまった男さ」

盗賊「!?」

ウェンディゴは悲しそうな目で無い右手を見つめる。

ウェンディゴ「俺は……日に日に追い詰められていく勇者を見ていられなかった……。どれだけ一緒にいても勇者は死ぬことを諦めてくれなかった……だから殺してやることが、勇者を救ってやれる唯一の方法なんだと、あの時は思ったんだ」

盗賊「……間違ってるよ」

ウェンディゴ「俺もそう思ったんだよ」

ウェンディゴは苦虫を噛み潰したような表情で続きを語る。

ウェンディゴ「だから俺はあれから毎日、勇者を殺したことを悔やんだ。……本当にあれが最善の策だったのかって。俺にとって一番大切だったのはなんだったのかって。勇者が狂ってしまうというのなら、俺も一緒に狂ってしまえばいいだけだったんじゃないかって」

盗賊「……」

ウェンディゴ「その時、次元の穴を切り裂いてあいつが現れたんだ」



854:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/09(火) 00:20:28.38 ID:PY8syIXP0

336

--???--

トリガー「やぁ、盗賊。随分辛そうだね。その辛さ、僕ならなんとかできるって言ったらどうする?」



--北の王国--

ざぁあ……

ウェンディゴ「……そして連れてこられたこの世界には、夢にまで見た勇者と、みんながいた……」

ウェンディゴが目を瞑ると異形化した勇者達の姿が浮かぶ。

ウェンディゴ「――だから、俺は決心したんだ。例えどんな道であろうとも、今度は最後まで一緒に歩いていくんだ、って。もう二度と迷わない、と」

ぼろぼろっ

ウェンディゴの目から砂が落ちる。



855:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/09(火) 00:21:41.03 ID:PY8syIXP0

337

--北の王国--

ウェンディゴ「……というわけだ、俺」

盗賊「……あぁ、理解したよ、俺」

ぼろっ

ウェンディゴ「なので……死んでも勇者のことは守らせてもらう」

ギンッ!

ウェンディゴの目に力が宿る。

シャーマン「! 盗賊離れろ!」

ウェンディゴ「もう二度と、あいつは死なせない」

ぶくっ

ウェンディゴの体が膨張する。

賢者「! まさかこの期に及んで!?」

ウェンディゴ「俺は諦めの悪い男だよ。わかってるだろ? 賢者さん」



857:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/09(火) 00:24:17.00 ID:PY8syIXP0

338

--北の王国--

賢者「くっ!(自爆なら暴発させても被害は変わらない……魔力暴発じゃあどうにも出来ない。かといって僕の障壁じゃあ……)

踊子(ちっ、つい話に引きずり込まれちゃいました! やっぱりこの流れを変える厄介な感じは盗賊さんですね~!!)

盗賊「やれやれ……無駄に終わるぜ、それ」

盗賊だけが冷静にウェンディゴに話しかける。

ウェンディゴ「……だとしてもやらないわけにはいかないな」

ウェンディゴは、にこりと笑う。

ウェンディゴ「可能性にかけてみるさ」

盗賊「……バカだな」

ウェンディゴ「バカさ」

盗賊「……だよな。奥義、共有・カブトの型」

ドゥン!

ウェンディゴ「」

爆発寸前で時が止まる。

盗賊「……お前ももうお休み」



858:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/09(火) 00:26:13.31 ID:PY8syIXP0

339

--北の王国--

ドォン! ガガガガァアアン!! ギンギィーン!!

魔王勇者「くっ!! この私が、本物の私が!!」

勇者「はぁああ!!」

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!

勇者、魔王勇者「「!?」」

その時、爆炎が広場の方向から上がる。

勇者(これは……?)

魔王勇者(この魔力反応……まさか)

勇者「! 隙あり!」

ズバッ!!

魔王勇者「ッ!!」

一瞬の油断、それを見逃さなかった勇者は、大剣で魔王勇者の胸部を切り裂いた。



859:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/09(火) 00:31:16.54 ID:PY8syIXP0

340

--北の王国--

ぼたっ、ぼたたっ

魔王勇者「うっ、く……」(本来ならこの程度の傷……なのになぜここまで……!)

魔王勇者は傷を抑えながらも剣を構える。

ざっ!

勇者「……来たか」

魔王勇者「!!!!」

そこに現れたのは、

踊子「おまたせ~」

盗賊「勇者、こっちは片付いたぞ」

賢者「今度は勇者さんをしっかりバックアップさせていただきますよ」

シャーマン「――というわけだ」

魔王勇者「」

魔王勇者の表情が固まった。

魔王勇者「……嘘」

ぽたっ

魔王勇者「ウェン……盗賊まで、死んじゃった……の?」

ぽたぽたっ

魔王勇者は血の涙を流している。

魔王勇者「私だけを残して……?……また、あの時みたいに……嘘だ、嘘だ……」

勇者「……」

魔王勇者の魔力が膨れ上がる。

盗賊「……」

魔王勇者「嘘ォ……う、嘘だあああああああああああああaaaaaaaaaaああああ亜アアアアアアアア!!!!」



868:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/10(水) 01:34:29.20 ID:KfCf/0IM0

341

--北の王国--

魔王勇者「                                」

幼い少女の慟哭が響き渡る。

勇者「……倒すわよみんな。魔王が動揺している今がチャンス」

ザッ

賢者「恐ろしいまでに冷静ですね……了解しました」

踊子「そうね~。……あの子も、もう楽にしてあげないと~……」

シャーマン「あぁ」

ザッ!

盗賊「……」

盗賊だけが足を前に出すことが出来ない。

勇者「盗賊?」

魔王勇者「うあぁあああああん!! あああああああああああん!!」

幼い子供のように泣きじゃくる魔王勇者。

盗賊「……あ、あいつは今、仲間を失って悲しんでる……そんなの人間と変わらないじゃないか」



869:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/10(水) 01:36:24.71 ID:KfCf/0IM0

342

--北の王国--

勇者「盗賊……」

賢者「盗賊君、ですが相手は魔王ですよ。確かにここまで仲間の死に動揺する敵に出会ったことはありませんでしたが……放っておくことはできない存在です」

盗賊「いや……わかっちゃいるんだけどさ」

踊子「はっ、何を今更甘っちょろいことを~。あなた今までどれだけたくさんの敵を殺してきたと思ってるんですか~」

盗賊「……」

踊子「それが最愛の人にちょっと似てるからって躊躇しちゃうんですか~?」

盗賊「……し、仕方無いだろ……そんなの、当たり前だろ……」

シャーマン「はぁ。こと勇者のこととなると弱いな、盗賊は」

勇者「……盗賊、あれは道を間違えた私。私であることには違いないけれど、君と一緒に生きてきた私じゃないよ?」



870:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/10(水) 01:37:11.53 ID:KfCf/0IM0

343

--北の王国--

魔王勇者「うあぁあああああん!! あああああああああああん!!」

盗賊「勇者……」

勇者「私のことを本当に好いてくれているのを知ってる。だからその手にかけたくない気持ちも……わかる」

ザッ

勇者「だから、止めは私がさす」

勇者は振り返り、魔王勇者に近づいていく。

ザッザッザッザッ

盗賊「ゆ、勇者」

勇者「やれる人だけで戦う。元より心に迷いがあるものなど不要」

賢者「……ですね」

踊子「キャー勇者さんかっこいい~惚れ直しちゃいますよ~」

シャーマン「懸命な判断だな」

盗賊「……っ!」



871:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/10(水) 01:38:04.52 ID:KfCf/0IM0

344

--北の王国--

魔王勇者「ぐすっ、ひっく……あ……」

涙を拭う魔王勇者に勇者達が接近していく。

魔王勇者「この……偽者めぇえ!」

勇者「賢者、魔力障壁を怠らずに」

賢者「了解です。まぁ一瞬で破られちゃいますけど」

シャーマン「その一瞬で生死を分かつこともあるだろう」

踊子「! 来るみたいですよ~」

ぼっ!!

魔王勇者「よくも、よくも、よくもよくもよくもよくもよくもよくもヨクモヨクモヨクモヨクモヨクモヨクモヨクモヨクモヨクモヨクモヨクモヨクモヨクモヨクモヨクモヨクモヨクモヨクモヨクモヨクモヨクモヨクモヨクモヨクモヨクモヨクモヨクモヨクモヨクモヨクモヨクモヨクモヨクモヨクモヨクモヨクモヨクモォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!」

魔王勇者の怒りの眼が勇者達を捉える。

魔王勇者「絶対に、殺す!!」



872:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/10(水) 01:38:53.61 ID:KfCf/0IM0

345

--北の王国--

ギュンッ!!

魔王勇者は足裏で魔力を爆発させ、

勇者「!」

ギイイイイイン!!

勇者に飛びかかった。

ギギッギィイイン!!

魔王勇者「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

勇者(我を忘れて凄い勢いだ……でも、攻撃が単純になっている!)

ギィン!

魔王勇者「!」

ズバッ!!



873:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/10(水) 01:42:10.37 ID:KfCf/0IM0

346

--北の王国--

魔王勇者「ッッ!」

ボタタッ

勇者の斬撃が魔王勇者の傷を更に抉る。

勇者(既に何者かによって体力を削られていたみたいね。この戦いにおいてそれは致命的よ!)

魔王勇者「うっ、ぐううああああ!!」

ばっ!!

勇者「それでも飛び掛ってくるか!」

シャーマン「お、おら!」

ドッ!!

横から現れたシャーマンが魔王勇者を殴り飛ばす。

魔王勇者「!」

シャーマン(魔王にダメージを与えられるのは勇者のみ。でも)

踊子(いやがらせくらいは出来ちゃうんですよね~)

ドゴッ!

今度は踊子が魔王勇者を蹴り上げる。

魔王勇者「! 無駄なことを!! お前達から先に」

勇者「はあああああああああああああ!!」

ズバアアアアアアアアアアアアアアン!!

空中に浮き上がった瞬間、あらかじめ待っていた勇者に斬撃をたたきこまれる。



874:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/10(水) 01:44:37.40 ID:KfCf/0IM0

347

--北の王国--

魔王勇者「ぎゃ、っふ!!」

バラバラと漆黒の鎧が砕け落ちていく。それほどまでに強烈な一撃……。

勇者(歴代の勇者達は皆一人で魔王を倒したという。それは勇者因子を持たぬ者の攻撃では魔王にダメージを与えられないから……)

魔王勇者「っく、そおおおおおおおお!!」

勇者(でも私はみんなと共に戦う! これが、私達なんだ!!)

ズバッ!!

魔王勇者「」

ダメ押しの攻撃が魔王勇者の背中を切り裂いた。

魔王勇者「がっ、は……!」

どしゃっ!! ばらっ、ばららっ

地面に顔から落下する魔王勇者。

盗賊「……っ!」

魔王勇者「あ……う」

そして……魔王勇者の落下地点は盗賊の目の前だった。



875:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/10(水) 01:45:38.26 ID:KfCf/0IM0

348

--北の王国--

魔王勇者「う、ぐ……」

ずる……

魔王勇者は血だらけになりながら地面を這う。

勇者「盗賊! そこから離れて!!」

魔王勇者「とう、ぞく……?」

魔王勇者は顔をあげ、虚ろな瞳で盗賊を見た。

盗賊「!」

弱りきった魔王勇者の表情に盗賊の心が揺らぐ。

魔王勇者「盗賊……」

意識が混濁している魔王勇者は、盗賊の顔を見て安らかに微笑んだ。

盗賊「!!」



876:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/10(水) 01:46:48.38 ID:KfCf/0IM0

349

--北の王国--

しゅばっ!

踊子「あーもー! 離れろって、言ってんでしょー!!」

どごっ!!

盗賊「!!」

駆け寄ってきた踊子が魔王勇者を蹴り飛ばす。
無論魔王勇者にはダメージが無い。だが、

どすっ、どざざざー

魔王勇者「う……」

もぞ……

盗賊「ぐ……」

盗賊の心が痛んだ。



877:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/10(水) 01:47:53.13 ID:KfCf/0IM0

350

--北の王国--

勇者「手負いだからって油断しちゃだめ。いや手負いだからなおさらよ!」

ざざっ!

盗賊のもとに勇者達が集まってくる。

魔王勇者「と、盗賊……戻ってきて……くれたんだね」

賢者「? 魔王は何を言ってるんでしょうか……」

シャーマン「恐らくは昔の記憶か。ダメージのせいで記憶が混乱してるんだろう」

踊子(戻ってきて……?)

魔王勇者「とうぞ……く?」

魔王勇者は盗賊と隣に立っている勇者を見た。

魔王勇者「え……どういう、こと……」



878:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/10(水) 01:48:47.37 ID:KfCf/0IM0

351

--北の王国--

ずるっ

魔王勇者「違うよ、盗賊。それ私じゃないよ。私が勇者だよ……」

ずるっ

魔王勇者「盗賊……」

盗賊「……くっ!」

たまらず盗賊は目を逸らしてしまう。

魔王勇者「」

勇者の血に塗れた眼が大きく開かれる。

魔王勇者「……なんで、なんでそんなのと一緒にいるの?」

ずるっずるっ

魔王勇者「私が、わからないの? 盗賊……」

ずるっずるっずるっ……

勇者「……」



879:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/10(水) 01:49:50.27 ID:KfCf/0IM0

352

--北の王国--

ずるっ……

盗賊「……」

魔王勇者「…………私を、捨てたの?……」

勇者「……」

賢者「……」

盗賊達は誰も喋ろうとしない。
もはや会話も出来ない状態になっていることを誰もが理解しているからだ。

盗賊「っ……」

魔王勇者「……そう……そうなんだ……」

どろっ

魔王勇者の口から赤黒い血が流れ出る。

魔王勇者「……うそつき」

自身の血が染みこんだ土を掴む。

魔王勇者「うそつき」

魔王勇者はそれを盗賊に向かって投げる。だが届くことなく地面に落ちてしまう。

べちゃっ



880:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/10(水) 01:51:17.25 ID:KfCf/0IM0

353

--北の王国--

魔王勇者「うそつき……うそつき……」

べちゃ、べちゃっ

勇者「……」

何度もよろけながら土を掴み投げる。それはまるで自分の血でおぼれているかのようだった。

魔王勇者「うそっ、つき……うそつき……ぐす」

びちゃっ

とうとう体を支える力も無くなり、血溜まりに魔王勇者は倒れこんだ。

魔王勇者「うっ、うっぅ……うぐっ……うそつきうそつきうそつきぃっっ!!」

身を裂かれるような悲痛な声で魔王勇者は叫ぶ。

魔王勇者「私のことっ、守るって、言ったくせに!! 私のこと好きだって言ったくせに!!!! お墓までついてくるって言ったクセニ!!!!!!」

盗賊「っつ!」



881:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/10(水) 01:53:16.32 ID:KfCf/0IM0

354

--北の王国--

魔王勇者「なんで、そんなやつと一緒にいるのよォォッッ!! そいつは私じゃないのにィィっ!!……なんで……置いていったの……」

勇者「――そうよ。私は私。貴女じゃないわ」

すらぁ

勇者は大剣を構えて魔王勇者に近づいていく。

ざっ、ざっ

盗賊「勇者……」

勇者「正直貴女には同情するわ。一歩間違えれば今そこにいるのは私だったかもしれない……。いえ、何も間違えなくともそうなっていたかもしれない。全ては、ルート」

ざっ、ざっ

勇者「自分自身に止めをさすのは、少し怖いわ。でも私なら……今の貴女みたいになってしまったのなら、殺して欲しいと思うだろう」

魔王勇者「う、あ……」

どろ

魔王勇者は眼からも赤黒い血を垂れ流す。



882:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/10(水) 01:56:30.52 ID:KfCf/0IM0

355

--過去、魔王城--





サキュバス「お前らも早めに決めておけ。勇者を取るか、世界を取るか。なに、難しいように見えて簡単だ。なぜなら片方はどのみち手に入らない」

ゆすaha「!!?」

サキュバス「お前らが何のために世界を救ったのか。よく考えて答えを出せ」

盗賊「俺は……」

言いかけた盗賊は止まる。

盗賊「……」

そしてちらりと後ろを振り返る。

賢者「……」

闘士「……」

踊子「……」

皆同じように悩んでいた。ことがことだけに、これは個人の感情だけで決めていい問題ではない。

盗賊「……」

一緒に生きたい、そう思ったことにいつわりは無い。勇者を連れて、どこか遠くでひっそりと生きようと決意して王様に反旗を翻したのだ。

勇者「……」

でもそれは叶わないことなのだと、サキュバスの口ぶりから察してしまった。恐らく勇者の魔王化を止める術は無い。そしてこのままだと自分達も魔族に変貌する……。

盗賊「……っ」

かつてのサキュバス達の行動を思い返す。例え自分の意思じゃなかったとしても、あれだけの惨劇を起こしたのは事実なのだ。

賢者「……」

自分達は人を救うために勇者に立候補したのだ……人を虐殺する側に回る勇気は無かった。



883:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/10(水) 01:58:06.67 ID:KfCf/0IM0

356

--過去、魔王城--

勇者「あ……ねぇ、みんな?」

盗賊「はっ……あ、ご、ごめんな勇者。悩むなんて俺らしくもない……」

勇者「ううん、いいの……本当なら私はあの時あの場所で死んでいたはずなんだから……私、みんなが助けに来てくれて本当に嬉しかった」

賢者「勇者さん……」

勇者「でも……もう巻き込んだりはしないから……。十分盗賊達はしてくれたよ。だから……もう大丈夫だから」

勇者は両手を後ろで組んだ。

ふるふる

震えている両手を見られないように……。

サキュバス「……」

闘士「ゆ、ゆしゃさん……」

盗賊「……っ……っ」

盗賊は、勇者に声をかけてやりたいのだが声が出ない。



884:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/10(水) 02:02:46.88 ID:KfCf/0IM0

357

--過去、魔王城--

賢者「――盗賊君。ここは引きましょう」

みんなが言い出せないことを賢者は言った。

盗賊「なっ! け、賢者さんあんた」

賢者「それがきっと勇者さんのためだ……」

                            (チガウヨ)

賢者「このまま僕達が勇者さんに付いて行けば僕達まで魔族になってしまう……それはつまり人類の敵を増やすことになる。それでは僕達がやってきたことが全くの無意味になる……」

踊子「……」

賢者「そして勇者さんからしてみたら仲間を魔族に変えてしまうんだ……。そんなの、心優しい勇者さんには酷というものだ……」

                             (チガウ)

盗賊「……勇者……そうなのか?」

勇者「へっ!?……あ、うん……そうだね。それは辛いかな……」

                             (ヤダ……)

盗賊「……そうか」

盗賊は何度も頭を振り、――そして覚悟を決める。

盗賊「……勇者……ごめん。俺達は王国に戻るよ」

勇者「!!……う、うん。それがいい、よ」

                             (イッチャヤダ……)

盗賊「俺達まで魔族になっちまったら、もう勇者を救ってやれるやつがいなくなっちまうもんな……せっかく勇者が守ったこの世界だって平和ではいられなくなる……」

勇者「うん」
                 
                             (……ヤダヨォ)

盗賊「……俺達は王国でがんばって勇者の魔王化を解く方法を探してみるから……だから」

勇者「うん……お願いするね、みんな」
                       
                             (ヤダヤダヤダヤダ! イカナイデ!!)

盗賊「じゃあ……またな。サキュバス。勇者をよろしく頼む」

サキュバス「……あぁ。任せろ」

賢者「勇者さん。どうか助けに来る日までお元気で」

闘士「お、おで」

踊子「私達が方法を見つけるまで……どうか耐えてくださいね……?」

ぎぃ……ばたん

勇者「                                                 ア」



885:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/10(水) 02:04:21.74 ID:KfCf/0IM0

358

--過去、魔王城--

ぐちゃっ、ずるっ……

サキュバス「……」

がぶっ、ばきっ、じゅる……

魔王勇者「がふっ、がふがふっ!」

サキュバス「やれやれこうなっちまったか……ったく、勇者の精神状態を考えたらどうなるかわかりそうなもんだったけどな」

魔王勇者「ぐるっ!!」

魔王と化した勇者は……盗賊達を食っていた。

魔王勇者「うっ、うぅ……!」

血の涙を流しながら、後悔しながら、

魔王勇者「う、うぅぅ!! うぅううう!!」

全ての憎しみと悲しみを吐き出しながら。

びしっ

その時時空が割れる。





トリガー「やぁ勇者。迎えに来たよ」



886:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/10(水) 02:07:10.55 ID:KfCf/0IM0

359

--過去、魔王城--

ドクン、ドクン

魔王勇者「……」

主の目覚めとともに鼓動を再開する魔王城。

魔王勇者「……」

その玉座に座りたる赤髪の少女の瞳が開く。

魔王勇者「……と」

ひどい夢を見ていた。信じていた者達全てが去っていく夢……泣き叫びたい感情に囚われる魔王勇者。

魔王勇者「うぞ、く」

だが、

ウェンディゴ「……勇者」



目を開けた先には                 みんながいた。



魔王勇者「」

カトブレパス「おや起きましたか、ゆう……魔王勇者さん」

フランケン「お、おで」

ニンフ「うふふ、お寝坊さんですね~勇者さん」

魔王勇者「みんな……」

魔族化したみんなが魔王勇者を取り囲んでいた。

魔王勇者(そうか、先ほどまでのことは全部夢だったんだ……)

ウェンディゴ「勇者……勇者」

ウェンディゴは魔王勇者に近寄ってそっと手を握る。

魔王勇者「みんな……いてくれてたんだ」

ウェンディゴと魔王勇者は涙を流しながら手を握り合う。



887:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/10(水) 02:16:54.00 ID:KfCf/0IM0

360

--北の王国--

ごぼっ、ぼごごごぼっ

魔王勇者が口から、眼から、鼻から耳から、赤黒い血を垂れ流し続ける。

どぼっ、どぼぉん

賢者「! 勇者さん、魔王の様子が明らかにおかしい!! 早くとどめを!!」

勇者「えぇ!!」

ブォオン!!

がしっ!!

勇者「!?」

勇者の大剣が防がれる。

魔王勇者「ごぼぼっ」

魔王勇者の口の中から出てきた骨の腕によって……。

踊子「な、なんですかこれ!」

賢者「わからない……でも何か、まずいことが起きようとしている」

シャーマン「勇者! 魔王勇者の後ろだ!!」

勇者「え?」

がばっ!! がぶしゅっ!!

何かが魔王勇者の下半身に噛み付いた。それは、

勇者「!? ママ!?」

白いワニの剥製……。

勇者(! そうか、これは別ルートの私の魔王の骨なんだ!! 別ルートの私にとって最も大事だったものは、ママなんだ!!)

ズズズズズズズ……

赤黒い血が魔王勇者を覆っていく。

盗賊「く……」

魔王勇者「モウ……ナニモ……シンジナイ」

強大な闇が生まれる……。




892:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/15(月) 21:20:06.55 ID:doGyN01E0

361

--北の王国--

ず、ずずず……

勇者「……」

闇の中から徐々に姿を現す魔王勇者。

ずしゃっ

下半身は白いワニ。

ずしゃっ

上半身は骸。

ずしゃっ

なびくは赤く長い髪。

魔王勇者「……」



参謀長「……見るからに化物だな。さすがはモンスターの親玉といったところか」



893:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/15(月) 21:22:32.95 ID:doGyN01E0

362

--北の王国--

魔王勇者「ヴヴヴ」

盗賊「これは……魔王なのか? いや、確かに旅に出る前に想定していた魔王はこんなんだったが……」

勇者「魔王の骨との融合……とてつもない凄いパワーを感じる……!」

魔王勇者「ヴヴヴ」

魔王勇者かの細い左腕が北の王達がいる城に向けられた。

ぽっ

そして人差し指の先に魔力が灯る。

ゾクッ!!!!

シャーマン「なんだと!?」

踊子「あなたっ!!」

賢者(あの指先の小さな魔力球、魔法使い君のレベル5魔法以上の魔力だ!!)「魔力暴は」

ぷんっ

魔力球は目にも留まらぬ速度で発射されてしまい、

賢者「つ」

どごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!

城は跡形も無く吹き飛んだ。



894:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/15(月) 21:24:20.82 ID:doGyN01E0

363

--北の王国--

盗賊「!?」

勇者「なっ!?」

あまりの出来事にしばし呆然としてしまう盗賊達。

けた……

シャーマン「! 気を抜くな! こいつを私達が倒さなくちゃならないんだ!」

けたけたけたけたけたけたけたけたけたけたけた!

魔王勇者は笑っている。

帽子屋「ヒーヒーww」

賢者「!」

白兎「ふふふふ」

チェシャ猫「にゃははははは」

三月兎「こ、こころぴょんぴょんっ!」

踊子「なんですかこいつらは~いつのまに現れて~」

魔王勇者の周りを笑いながら踊っている四体のモンスター。



895:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/15(月) 21:26:54.43 ID:doGyN01E0

364

--北の王国--

盗賊「……」

シャーマン「盗賊! 呆けている場合か!!」

盗賊「!」

シャーマン「今のを見なかったのか!? 魔王の処理が遅れたせいで城が吹っ飛んだんだぞ! 何人死んだかもわからない!」

盗賊「!!」

シャーマン「お前は……敵と味方の命、どっちの方が大事なんだ?」

盗賊「そんなの……」

魔王勇者「けたけたけたけたけた」

盗賊「……く!」

盗賊は頭をがりがりとかきむしり、そして

盗賊「悪い。こんな歳になってもまだ甘えてたみたいだ……」

しゃきぃん

盗賊は再びナイフを構える。

シャーマン「……よし」

盗賊「そうだよ、敵も味方もどっちも大事だったんだ」

シャーマン「!?」



896:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/15(月) 21:27:54.56 ID:doGyN01E0

365

--北の王国--

盗賊「だからこそ、ちゃんと殺して救ってやらなきゃな!!」

勇者(盗賊の気配から迷いが消えた……よし!)

ふおん!

勇者は大剣を振るう。

勇者「行くぞみんな! 魔王を討伐する!!」

盗賊、賢者、踊子、シャーマン「「「おおっ!!」」」

ザッ!!

魔王勇者「……」

盗賊「風属性移動速度上昇魔法、レベル4!」

ひゅいぃいん!!

盗賊「×5!!」

ひゅぃいいいいいいいいいいいいいいん!!

パーティ全員のスピードが上がる。



897:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/15(月) 21:29:17.77 ID:doGyN01E0

366

--北の王国--

だだっだだっ!

チェシャ猫「おあr8やおdんふぁkjdhg!!」

それを見たチェシャ猫が盗賊に襲い掛かる。

盗賊「っ!」

ふぉんっ!

さらりと攻撃をかわした盗賊は、その勢いのままチェシャ猫をナイフで切り裂く。

ずばっ!!

シャーマン「つ、土属性攻撃力上昇魔法、レベル4! 防御力上昇魔法、レベル4!!」

ぎいいいん!!

シャーマン「×5!!」

ぎいいいいいいいいいいいいいいいん!!!!



898:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/15(月) 21:31:18.02 ID:doGyN01E0

367

--北の王国--

白兎「あぃせygほあhうぇg」

ざばああああああああん!!

白兎が放つ水属性の魔法を、

賢者「水属性障壁魔法、レベル4!!」

ぱきぃいいん!!

賢者が障壁を張って完全に防ぐ。

踊子「いきますよー! 全ステータス上昇の舞!」

どんっっ!!

盗賊達は更にステータスが強化される。

賢者「ダメ押しです。水属性回復魔法、回復持続、魔力回復持続レベル4! ×5!」

きいいいいいん

勇者「更にダメ押しだ! パーティスキル、勇者の進軍!」

ぎいいいいいいいいいいいいいいん!!

盗賊達のステータスが極限まで上昇する。



899:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/15(月) 21:34:02.71 ID:doGyN01E0

368

--北の王国--

三日月兎「;mぴおいくぃほrうぃへg」

シャーマン「おっ、らっ!!」

シャーマンの素早い正拳突きが三日月兎の顔を砕く。

どぐしゃああああああ!!

踊子「今の私達はちょっと強いですよー!?」

帽子屋「ヵいsrgほあいうぇg!」

踊子は帽子屋の攻撃を掻い潜り、帽子屋の頭部を蹴り抜いた。

どごおおあああああん!!

魔王勇者「ヴヴヴ」

賢者「障壁で足場を作りますよ! 好き勝手動いてください!!」

賢者は魔力障壁を足場のようにして設置する。

盗賊「うおおおおおおおいくぜえええええええええええ!!」

ザザザッ!!

勇者「はあああああああああああああああああああああ!!」

盗賊と勇者が魔王勇者に向かって突っ込んでいく。



900:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/15(月) 21:35:35.79 ID:doGyN01E0

369

--北の王国--

ひゅっ、ひゅひゅひゅっ!!

盗賊「おらぁ!」

ずぎぃいん!!

盗賊のナイフが魔王勇者のうなじにヒットするのだが、

魔王勇者「……」

盗賊(ノーダメージ……これだけステータス上げても無敵設定は健在か……)

すっ

魔王勇者の左手が盗賊に触れようと動く。

盗賊「!」

それに反応した盗賊は空中に設置された障壁を踏んで射線上から逃げた。

ぽぽっぽぽぽっ

遅れて発射された魔力の球は、

どおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんんん!!

北の王国の一画を吹き飛ばした。



901:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/15(月) 21:36:49.79 ID:doGyN01E0

370

--北の王国--

盗賊(いくら国民は避難してるっていっても)

賢者(このままだと戻ってくる場所が無くなっちゃいますね!)

ざっ

勇者「はああああああああああ!!」

ぎいいいいいいいん!!

勇者は魔王勇者を斬りつけようとしたのだが、その斬撃は横から現れた白兎に弾かれる。

勇者「っ!」

白兎「おあいうをいふぁじぇおgじゃpうぇ」

ぎぎっぎぃんぎぃん!!

勇者「っ、どけぇ!」

ズバッ!!

両断。

勇者「!」

魔王勇者「……」

切り裂いた白兎の向こうで魔王勇者が人差し指を向けて笑っている。



どごああああああああああああああああああああああああああああああああん!!




902:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/15(月) 21:38:38.92 ID:doGyN01E0

371

--北の王国--

盗賊「勇者!!」



勇者に気を取られた盗賊は

盗賊「しま」

どがああああああああああああああああああああああああああああんん!!

魔王勇者の攻撃を受けてしまう。

賢者「ちょっ! 二人とも!」

しゅぅうう……

左右に吹き飛ばされた盗賊と勇者。北の王国の地形がどんどん変わっていく。

ずるっ

三月兎「……」

白兎「……」

踊子「! こいつら倒したのに再生しやがりました~?」



903:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/15(月) 21:41:25.96 ID:doGyN01E0

372

--北の王国--

ざっ!

勇者「賢者! 私と盗賊を治してくれ!」

賢者「勇者さんっ!」

土煙の中からぼろぼろになった勇者が現れる。

勇者「づっ……通常状態なら消し飛んでいたかもしれないな」

盗賊「げほごほ、だな……」

盗賊も同じようにして反対方向から現れる。

シャーマン「し、しかしどうする? しなないモンスターにあのまおうだぞ」

盗賊「……とりあえず攻めてみるさ。やれるだけ、ね!」

ざざざざざ!

賢者「盗賊君まだ治して……もう! 水属性回復魔法レベル4!」

ぱあぁあああ

盗賊の傷が走りながら治っていく。

チェシャ猫「……」

盗賊(やっぱりこいつら勇者に一番注意を払ってやがる……そらそうか。俺らの攻撃なんてきかないって思ってんだもんな)

ばっ!

盗賊は魔王勇者に飛び掛る。

盗賊「ならば! 奥義、共有・勇者の型」



904:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/15(月) 21:43:54.75 ID:doGyN01E0

373

--北の王国--

ずぎゃああああああああああ!!

魔王勇者「ヴっ!?」

盗賊のナイフが魔王勇者の肩を僅かに斬る。

白兎「!」

チェシャ猫「っ」

ひゅんひゅんっ!!

それを見たモンスター達が一斉に盗賊に向かって走っていく。

ざざざざざ!!

盗賊(ち、勇者の力でもちょっぴりしか切れネェじゃねぇの!)

シャーマン「! か、かせいにいくぞ!」

踊子「ですね! 一人で飛び出して死にたいんですか~?」

だだだだ!

踊子とシャーマンが魔王勇者に接近する。

盗賊「! そこだ! 奥義、共有!」



905:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/15(月) 21:45:21.86 ID:doGyN01E0

374

--北の王国--

ばしゅうううん!!

シャーマン「! これは!」

シャーマンの体から六色の魔力があふれ出る。

盗賊「俺の奥義は共有だ。借りるだけじゃあ共有とは言わないぜ!」

賢者「! 勇者さんの勇者の力を共有したままシャーマンさんに渡したのか!?」

シャーマン「お、おおおおおおおおおおおおおお!!」

どごおおおおん!!

魔王勇者「っ!!」

シャーマンの一撃を受けた魔王勇者の体が宙に浮く。

盗賊「みたか! 俺の他力本願の局地! 名付けて勇者シャッフル!」

勇者、賢者、踊子(((凄いけどそれ又貸しなんじゃ……)))




906:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/15(月) 21:46:30.72 ID:doGyN01E0

375

--北の王国--

魔王勇者「……」

勇者「この魔王、とんでもなく強いけど、速さは私達が押してる」

ざざざ!

白兎「おあういえhがおうぃえjg!!」

勇者の力を持っているためにモンスター達に狙われている盗賊。

盗賊「行くぞ勇者! パス!」

ばしゅうん!

勇者「!」

勇者に勇者の力が戻ってくる。

三月兎「!」

帽子屋「!」

それに対応してモンスター達が一斉に振り向くのだが、

勇者「はぁああ!!」

ずばああああああああああああん!!

勇者の大剣が魔王勇者を切り裂く方が早かった。



907:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/15(月) 21:51:36.19 ID:doGyN01E0

376

--北の王国--

魔王勇者「……」

勇者「く、あまりに硬い!!」

じゅるる

いくらダメージを与えても魔王勇者の傷はすぐに治ってしまう。

賢者「はぁ、はぁ」

勇者(結果的にこっちの消耗の方が早い……どうすれば)

魔王勇者「……」

攻め倦む盗賊達。
それとは裏腹に余裕のある魔王勇者は、両の掌を空に掲げた。

ぎ ぎ ぎ

勇者「!?」

魔王勇者が一瞬で作り出したのは、10メートル以上もある巨大な魔力球……。

賢者「!? な、なんだこの魔力量は……宇宙のもこもこを消し飛ばした時のあれ以上じゃないですか!!」

ぎ ぎ ぎ

踊子「! だっていうのにまだ大きくなりますか~……こりゃもう魔力暴発も使えませんね~。今ここで暴発を使えば私達耐えられそうにないですもの~……」

盗賊「ど、どうするんだ勇者……!」

勇者「……」



908:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/15(月) 21:53:23.17 ID:doGyN01E0

377

--北の王国--

勇者「……盗賊」

盗賊「なんだ?」

勇者「盗賊の共有でみんなの魔力を私に集めることって出来る?」

盗賊「……みんなから借りて勇者に渡す。それを繰り返せば出来るかもしれないが……それでなんとかなるのか?」

勇者「わからない。でも」

ぎ ぎ ぎ

勇者「それしか無い気がする……」

踊子「! やるなら早くやりましょう~! もうあれにどれだけの破壊力があるのか私にはわからないです~!」

シャーマン「……恐らく星が終わるな」

賢者「えぇ……かもしれませんね」

ぎ ぎ ぎ

盗賊「ならいくぞみんな! みんなの魔力を借りる!! 奥義、共有!」

ばしゅっ

賢者「ん」

ばしゅっ

踊子「ん~」

ばしゅっ

シャーマン「くっ……」

盗賊「行くぞ勇者!」

ばしゅっ

勇者「よしっ!」

三人分の魔力を受け止めた勇者はさっそくその魔力を剣に纏わせる。

ばちぃ!!

勇者「……ダメ……全然足りない」



909:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/15(月) 21:55:36.93 ID:doGyN01E0

378

--北の王国--

盗賊「三人分上乗せしてもダメか……俺の魔力も全部渡すつもりだがそれでも無理か……?」

勇者「むしろ盗賊の魔力なんておまけ程度だし」

盗賊「ぐ……じゃ、じゃあどうするんだよこれじゃあ」

ぎ ぎ ぎ

魔王勇者の魔力球は半径10メートルほどの大きさになっていた。

勇者「これじゃ差が開く一方……どうしたら……」

ざっ

賢者「!?」

そこに

北の老兵「わしらの魔力も使ってくれんか?」

盗賊「!」

北の兵士たちがぞろぞろと現れた。

北の新兵「このままじゃ人が住むところがなくなっちまうしな……俺らのも全部もっていってくれ!! それであいつが倒せるんならな!」

おれもーおれもー!

兵士達は次々に前に出る。

盗賊「……あんたら」

シャーマン「……まぁ、そりゃそうだな。誰のために戦ってんだって話だし」

踊子「このままじゃ死んじゃうんだから当たり前ですよね~」

賢者「君たち……」



910:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/15(月) 21:58:25.08 ID:doGyN01E0

379

--北の王国--

ばしゅばしゅばしゅっ!

勇者「! きた!……いや、これでも足りない……くっ!」

ぶしゅっ!

盗賊「!? 勇者!?」

強烈な魔力による負荷で勇者の体の所々が裂ける。
あの勇者でさえ魔力の容量オーバーになりかけているのだ。

勇者「大丈夫、気にしないで。それより……」

ざざっ!

姫「おーいおーーーい! 姫ちゃん達もいるよー! 姫ちゃん達の魔力も受け取ってー!!」

盗賊「!! 生きてたのか!!」

参謀長「とっさに障壁魔法全開で展開したんですよ。かなり魔力持ってかれてしまいましたがなんとかね」

ばしゅばしゅばしゅっ!

勇者「うぐ……!!」

ばちばちばちいいいいいいい!!

ふわ、ふわわ

小石や瓦礫が宙に浮いていく。
重力というルールが捻じ曲がるほどの強大な力。それだけの魔力が勇者の大剣に集まっているのだが……。

勇者「だ、だめ! まだ足りない!!」

盗賊「嘘だろ!?」



911:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/15(月) 22:06:11.88 ID:doGyN01E0

380

--北の王国--

ぎ ぎ ぎ ぎ ぎ

魔王勇者が作っているのは巨大な黒い太陽。それが放たれれば星が死ぬ。

勇者「ぐっ……あっちの溜めに、追いつけなかった……!」

魔王勇者「……」

魔王勇者が発射体勢に入ったのを肌で感じ取る勇者。

ぎ ぎ ぎ ぎ ぎ ぎ ぎ ぎ ぎ ぎ ぎ ぎ ぎ ぎ ぎ

盗賊「こ、ここで終わるのか……? これじゃあハイちゃんが見た結末より最悪じゃねぇか……!」

勇者「っ!!」





        ??「あきらめるのはまだ早いのでやんす」

すたっ

勇者「!?」

そこに召喚士が現れた。

北の王「召喚士! 生きてたんかわれぇ!!」

??改め召喚士「いや死んでたところを若いのに蘇生してもらったのでやんすよ。でも眼が覚めたらこのありさまやんす。おちおち死んでもいられないってやつでやんすよ」

召喚士はにこりと笑う。

盗賊「北の三隊長の……あんたのことはよく聞いてるけど、でもあんたの魔力をもらったくらいじゃもう……」

召喚士「ちっちっちっ。オイラは召喚士でやんすよ? 召喚士の仕事は」

そう言って召喚士は魔力を解放する。

召喚士「希望を召喚することでやんす。出てこいオイラの友達!!」

ぼぉっ!!

召喚士を中心にして巨大な魔法陣が出現した。

ずず、ずずずずずず!!

二頭巨象「……」

サイクロプス「……」

盗賊「う、お! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

大小様々なモンスター達が30体ほど現れた。

召喚士「魔力を共有できるんでやんすよね? ならこのモンスター達からもらうといいのでやんす!」



920:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/23(火) 01:47:07.18 ID:g9lHsEr10

381

--北の王国--

ばしゅしゅしゅ!

盗賊「はぁはぁ……俺ももう色々ときついな……どうだ? 勇者……」

盗賊は全てのモンスターから魔力を共有し、勇者に渡す。

勇者「ん……」

バチィ! バチバチィ!

高密度に圧縮された魔力が弾ける。

勇者「……わかんない」

盗賊「わかんない!?」

勇者「だってこれもう、効果を予測出来るレベルに無い」

賢者「……まぁ、そうですよね」

バチバチィ!

勇者「――でも、差は一番縮まったかもしれない。それにもう時間も無いし、これ以上は私の体がもたないっ……」

ブチブチっ!

勇者の体が裂け始めていた。

魔王勇者「……オワリダ……」

盗賊「!!」

魔王勇者は宣言とともに、巨大で凶悪な魔力球を放つ。



921:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/23(火) 01:48:45.33 ID:g9lHsEr10

382

--北の王国--

ごおおおおおおおおおおおおおん!!

鐘のような音を鳴らしながらゆっくりと地上に迫る黒い魔力球。

踊子「あ~、遠近感完全に麻痺しちゃってますね~」

シャーマン「まぁこれだけでかいものを見るのは初めてだからな」

賢者「……皆さん随分余裕ありますね」

盗賊「やれることをやって、全てを絞りつくしたんだ。後は信じて見てようぜ。よいしょっと」

盗賊は地面に座り込んで足を伸ばす。

参謀長「……さすがにそこまでくつろげませんが……やれることが無いのは同感です」

姫「いやいやいやー! あるよー! まだあるよー! 姫ちゃん達に出来ることー!!」

ばっ!

姫は元気よく両手をあげる。

姫「それはね、応援、だよっ!!」

北の王「ほう……!」

参謀長「……たまにはいいことを言いますね」



922:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/23(火) 01:49:44.10 ID:g9lHsEr10

383

--北の王国--

ゴゴゴゴゴゴゴ……

勇者「ふぅ……」

勇者は集中し大剣に魔力を纏わせていく。

勇者(迫ってきている……でもここは慎重にしないと魔力がはじけ飛んでいってしまう……)

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

勇者(慎重に冷静に、でも確実に!! これにはみんなの未来がかかってるんだから!!)

ギイイイイイイイイン!!

振動する大剣。油断すると勇者自身が吹き飛ばされてしまいそうになる。

勇者「よし!!」

ざっ!

盗賊「フレー、フレー、ゆ・う・しゃ! はいっっ!」

賢者、踊子、シャーマン「「「フレッフレッ勇者! フレッフレッ勇者!!」」」

勇者「!?」



923:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/23(火) 01:52:01.54 ID:g9lHsEr10

384

--北の王国--

盗賊「がんばれ、がんばれ、ひ・ん・にゅう! はい!」

北の王、召喚士、姫、参謀長「「「がんばれがんばれ貧乳っ! がんばれがんばれ貧乳っ!! わーーーー!!」」」

勇者「!!??」

盗賊達は大声を出して勇者を応援している。

ドンドンドンドン!!

盗賊「かっとばせー、ゆ・う・しゃ! ホームランかっとばせーよっ!」

ウオオオオオオオオオオオオオ!!!!

北の兵士「たのんますー! 勇者さんーー!! まだ俺んちローンが残ってるんだー!!」

黄金王国兵「あれをぶっとばしてくれー!! 頼むー!!」

盗賊「貧乳ー! 可愛いよ貧乳ー!!」

召喚士「全部あんた次第でやんすからねー!! 信じてるでやんすよー!!」

賢者「失敗しても恨みませんから気楽にー!」

踊子「全人類の命かかってるのに気楽になれるか~」

ワーワー

勇者「……」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!

空気を読みすぎてる魔力球もここまでだ。高い建物から順に接触し、全てを破壊せんと落下する。



924:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/23(火) 01:53:03.56 ID:g9lHsEr10

385

--北の王国--

勇者「    」

シャンッ

勇者が大剣を後ろに引くと、魔力の光が線になる。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!!!

魔力球が近づくことで風が吹き荒れる。乳は揺れない。

勇者「合体奥義……」

びゅーん!

膨大な魔力が巨大な剣の形となり、穂先がどこまでも伸びていく。

勇者「……っ!!」

――そして勇者はそれを振る。

勇者「っっっスーパあああああああああああああああああ勇者スラアアアアアアアアaaaaaaaaaaaaaアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッシュウゥウウウウウウウウウウ!!!!」

ぎょんっ!!



925:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/23(火) 01:54:44.46 ID:g9lHsEr10

386

--北の王国--

光の剣と闇の球が

じゅっ、ぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!

空中で激突する。

ずんっ!!

勇者「っ!! お、重っ!!」

ズウウウウウうウウウウウうウウウウウうううううううううううううううううううううううん!!

黒い太陽を切り裂こうとする光の剣が左右にぶれる。

ず、ずず! ずるるっ!!

華奢な勇者の体が少しずつ後ろに押されていく。

勇者「っぐ!! ふ、踏ん張れない!! きゃっ!!」

がしっ!!

勇者「あっ……」

盗賊「気ぃ抜くなよ勇者ーーーー!! これは絶対に負けられないんだからなー!!」

勇者を受け止めた盗賊は、後ろからその大剣に手を添える。

勇者「……」



926:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/23(火) 01:56:15.30 ID:g9lHsEr10

387

--北の王国--

ズウウウウウうウウウウウうウウウウウうううううううううううううううううううううううんん!!

北の王「む!? 剣が押し始めましたでっ!!」

召喚士「本当でやんす! そのままいっちまえでやんすーーーーぅ!!」

ワーワー!!

勇者「簡単に、言ってくれちゃっ、てっ!!」

盗賊「仕方ねぇ、さ!」

ぎぎぎぎぎぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいん!!

魔王勇者「!」

上空から魔力球をコントロールしている魔王勇者が違和感を感じた。

ズズ、ズズズズ……

勇者「んー!!」

盗賊「ひゃおおーー!!」

魔力球が少しずつ押し上げられていく……。



927:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/23(火) 01:58:37.39 ID:g9lHsEr10

388

--北の王国--

ズズ、ズズズズズウウウゥゥ!!

姫「押してる! 押してるよっtぅ!!」

参謀長「行けるっ!! 行けっ!!」

賢者「行けーー!!」

北の王「シシュー、シシューーー!!」

ズズズン!!

魔王勇者「ヴ、ヴヴヴヴヴ!!」

盗賊「! この期に及んで更に強めるのかよ! くそ! きっついぜー!! 明後日は筋肉痛だーーーー!!」

勇者「向こうも追い詰められているのよ……盗賊、踏ん張って!!」

盗賊「わかってるよ勇者! ぬうおおおおおおおおおおおおお!!」

ズズ、ズズズズズズ!!!!

北の王国の上空で拮抗する人類の存亡。

魔王勇者「ヴヴヴアアアアアアアアアアアアアア!!」

ズンッ!!

魔王勇者は止めとばかりに力を込める。



928:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/23(火) 02:01:25.30 ID:g9lHsEr10

389

--北の王国--

魔王勇者「ホ、ホロ、ベッッ!! ホロベッ! スベテホロンデシマエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!!!!!!!!!!」

チェシャ猫「ぃあういぇおうg」

白兎「ぃおあう0893th」

モンスター達も魔力球を押しこんだ。

ズゥン……ズズズズズズズズズズズズズ!!!!

勇者「う、あああああ!!」

ガクガクガクガクガク!!

盗賊「くっ、くそーっ!! みんなに力借りたのによぉ!!」

ズズズゥウウウウウウン!!

魔力球は再び落下し始める。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

賢者「まずい!」

踊子「あ、あら~……」

シャーマン「まぁ……これでダメなら諦めるさ」

ズズズズズズ!!

盗賊「ゆ、勇者!! わかってんな!?」

勇者「わかってるっ!! 最後の最後まで、絶対に諦めないっっ!!!!」

盗賊「」

ぎゅっ

勇者は更に強く柄を握る。

勇者「行くわよ!! 盗賊!!」



929:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/23(火) 02:04:41.24 ID:g9lHsEr10

390

--北の王国--

ダンッ!

その時、魔王勇者の後方で、屋根を蹴って跳躍する影があった。

ユー「……」

盗賊「! あれはユー君!」

ユーは魔王勇者に向かって飛んだ。だが満身創痍の彼では届くことは出来なかった。

ユー「……!」

シャシャッ!!

ゆえにユーは二本のレイピアを投擲する。

ボッっ!

チェシャ猫「おうぃrhpwjg!!」

それを撃ち落そうとチェシャ猫が出現し、ナイフを振るう。

ガインッ!!

チェシャ猫「   」

チェシャ猫のナイフはレイピアと当たった瞬間に砕け散り、

ザクッ!!

魔王勇者「……アッ……」

二本目のレイピアは邪魔されることなく魔王勇者の胸部に突き刺さった。

ユー「――スキル、効果付与、武器破壊」



930:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/23(火) 02:06:11.11 ID:g9lHsEr10

391

--北の王国--

グラッ

思わぬダメージによろける魔王勇者。
魔力を出し尽くしてはいるものの、今の魔王勇者ならば数秒待てば治る程度の傷。

勇者「今だっ!!」

盗賊「いっけえええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!」

魔王勇者「!!」

だが一瞬だけ力が緩んでしまった。

ズズズズズズズズズズズズズズズウウウウウウウバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!

盗賊、勇者「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」

光の剣は

魔王勇者「       」

魔力球を切り裂いた。



931:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/23(火) 02:07:03.17 ID:g9lHsEr10

392

--北の王国--

ズババババアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!

光の壁が魔王勇者に迫っていく。

白兎「うぇhg」

帽子屋「ぉSIf」

三月兎「l;kじあ」

チェシャ猫「ぃHAKうg」

バッ!!

魔王勇者を守ろうと光の剣との間に入るモンスター達。

ジュッ

――だが一瞬も抗えず消滅してしまう。

魔王勇者「         」

無意識に手を伸ばす魔王勇者の指が、光の剣に触れた。



932:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/23(火) 02:07:41.70 ID:g9lHsEr10

393

--北の王国--

ズズズズズズズズズッズウウウウウウウウウン!!!!

魔王勇者「」

暖かくも激しい光の渦に巻き込まれる魔王勇者。

ズオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!

魔王勇者「」

ズオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!

魔王勇者の装甲が少しずつ剥がれ、消滅していく。

魔王勇者「」

魔王勇者は光の中に……。











    



933:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/23(火) 02:08:35.17 ID:g9lHsEr10

394

--  --


















           あ









                                 あーあ……











 



934:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/23(火) 02:09:58.20 ID:g9lHsEr10

395

--  --


 私……負けちゃったんだ。



 悔しかったのに、寂しかったのに、憎かったのに、辛かったのに……全部の力を使ったのに……



 ……



 でも不思議……なんだから今はとても、気分が楽



 ……そっか。もう、呪わなくて、いいからか
















 よっ


 え……盗、賊……? え、なんでここに……盗賊は……もう


 なんでって、そりゃ勇者を迎えに来たに決まってんじゃん


 あ……


 みんなも先で待ってるよ。さぁ、行こうぜ


 え……えっと……


 ほら、手を掴んでさ


 あっ!……うん……



935:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/23(火) 02:11:45.15 ID:g9lHsEr10

396

--  --


 ……お疲れ、勇者。頑張ったな


 へ?……!? ち、違うよ、私頑張ってなんか、いない……私は、何も……

 
 俺にはよくわかんねぇけど、そうなのか?


 そうだよ……私は……ただ心が堕ちていくのに、身を任せていただけ……私は…………………ぐすっ


 どうした? おいおい泣くなよ。これからみんなに会いに行くっていうのに


 ……ごめんなさい。私は……私は盗賊達を……殺してしまったんだった……あぁう……ひぐっ


 ……


 それにっ、色んな人たちに迷惑をかけてしまった……。私は、魔王だから……たくさんの人を……この手で

 
 俺は、恨んでなんかないよ


 ――え


 あんな状態の勇者を置き去りにしちまった俺達が悪かったのさ。少し考えりゃあどうなるかわかったようなもんなのによ。……仲間にあるまじき行為だ、だから殺されても当然さ


 と、当然なわけないじゃない!! 私はそんなことで!……仲間を殺したんだよ?


 お前の心を殺したのは俺達だ。お相子さ。まぁ……仲間の不始末が仲間内で済んだんだ。いーじゃねーか


 ……ひどい話。そんなひどい理屈初めて聞いた……


 じゃあ理屈じゃないってことで一つ



936:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/23(火) 02:15:18.80 ID:g9lHsEr10

397

--  --


 ……それに仲間内で済んでないもの……言ったでしょ? 私は多くの人を……


 殺したのか? いつ?


 え? それはさっき……


 それはあいつらに止められただろ?


 ……え


 お前とそのお仲間は全滅したじゃんよ。お前が迷惑をかけたことには変わらないけど、まぁ死んでないならなんとでもやり直せるるんだし、いいじゃん? 


 いいじゃん、って……でもそうか、私、殺せなかったんだ……


 あいつらのおかげでな。――といったところでそろそろ時間だ。もう行くぞ?


 ……うん……そっか……少しだけ……救われた


 おう。そんならよかった


 ……盗賊?


 ん?


 盗賊、あのね?


 だから、なによ?


 …………………………………………………………………………………………………………もう、どこにも行かないで


 ……あぁ、もう二度とこの手を離したりしないよ

 
 ……


 さぁ行こう、みんなが待ってる。これからはずっと、みんな一緒だ


 ……うん!



















ドオオォン



937:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/23(火) 02:17:06.72 ID:g9lHsEr10

398

--北の王国--

しゅぅううう……



雲ひとつ無い空。
北の王国を脅かしていた脅威は、完全に消え去った。

勇者「はーっ、はーっ……あ、危なかった……あと紙一重で、終わってた……」

涙ぐみ、足をがくがくと震わせている勇者。

盗賊「み、見たか。これが俺と勇者の合作奥義、ウェディングケーキ両断剣よ!」

ズボンのお尻の部分がこんもりしている盗賊。

賢者「……はぁ、よかった……でもこれは……しばらく動く気になりませんね」

踊子「も~、五回くらい死んだ気分です~……」

シャーマン「寿命は確実に縮んだな」

ざっ、ざっ、ざっ

盗賊「おっ! ユー君! 最後は助かったよ!! ほんといいところ持ってくねぇ!」

ユー「……」

ユーは抱きかかえていたハイをそっと地面に降ろす。



938:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/23(火) 02:21:08.17 ID:g9lHsEr10

399

--北の王国--

賢者「もしかしてその子死んでます?」

ユー「……」

ユーはジェスチャーで、損傷がひどかったのでなけなしの最後の魔力で回復魔法だけかけた、と伝えた。

賢者「なるほど……。それなら早い所、他の国の医療関係者に見せないとまずいですよ」

踊子「ですね~。今私達も魔力からっからで蘇生できないですもんね~」

シャーマン「だがこのまま24時間経てば……」

姫「に、二度と生き返れないよーっ!」

北の王「……それやばくないでっか?」

召喚士「そうでやんす、他の国に普通に行くとなると数日かかるでやんすよ? とんでもないドンパチがあったから、各国偵察部隊をよこしていると思うでやんすが……その中に蘇生魔法の使い手がいないと……」

参謀長「間に合いませんね。もしくは高速で移動できる手段があればあるいは」

姫「なら姫ちゃんが黄金の船を魔法で出すよー! んーっ!」

ぷりっ

姫「あれ? 魔法が使えないー」

参謀長「今魔力全部使ったの覚えてないんですかバカ」

姫「今バカってゆった!?」



939:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/23(火) 02:24:21.78 ID:g9lHsEr10

400

--北の王国--

ざわざわ

盗賊「ぐ……体もろくに動かんぞ……でもハイちゃんを死なせるわけにはいかない……この子のおかげで何人が助かったことか……」

北の王「……ですなぁ。うちの国を、いや、人類を救った救世主なんやさかい!」

勇者「でも本当どうしよう。どうすれば」

召喚士「こら兵士共! 回復アイテムまだ残ってないか探せでやんす! 恩人をこのまま死なす気でやんすかーーー!?」

ワーワー!

ハイ「」

参謀長「……一難去ってまた一難……ですね。まさかこんな幕切れが……」

盗賊「終わらせねぇ……絶対に……くそ、何か、何か手は無いのか!?」



ひゅうぅううううううぅう

???「……どうした? 何かあったのか?」

ざっ

その時、一陣の風が吹く。

勇者「? 声はするけど姿は……」

盗賊「! インビジボォか」

ぶぅん

スキルが解けて現れたのはフードを被っている青年。そして青年はハイに近づいていく。

ざっ、ざっ、ざっ

???「そいつを蘇生すればいいのか?」

召喚士「……何者でやんす?」

盗賊(歩き方でわかる。こいつは暗殺者系の職業だ。しかもかなりの凄腕の)

ざっ

青年はフードを取った。

???改めアッシュ「――何、通りすがりの砂漠の風だ」



948:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/30(火) 02:02:42.15 ID:bKsNwOjU0

401

--北の王国--

勇者「!」

シャーマン「砂漠の風……そんな奴らまで引き寄せてしまったか」

砂漠の風の名を出した瞬間、その場にいた全員が戦闘態勢になる。

ザザッ

アッシュ「……」

ボロボロの兵士達がアッシュを取り囲む。

盗賊「ちょっ、やめなさいよ君たち、落ち着いて」

アッシュ「……私は争いに来たのではない……が、そっちが争いを望むというのなら応戦するまでだ」

ボウッ

アッシュが魔力を開放する。

北の兵士「うっ!? こ、こいつ強い!」

アッシュ「今のあんたらならたとえ束になっても負ける気がしないが……本当にやるのか?」

アッシュの両目が光る。

盗賊「やんないやんない。それよかこの子を助ける手段があるんだったら手を貸してほしいんだよ」

ぽんっ

殺気全開のアッシュに軽々しく近寄って肩を叩く盗賊。

アッシュ「……」



949:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/30(火) 02:04:22.72 ID:bKsNwOjU0

402

--北の王国--

ざっ、ざっ

アッシュはハイに近寄ってその容態を確認する。

賢者「しかし信用してもいいものか……」

踊子「いいんじゃないですか~? どうせあれは死体ですもの~。いくら暗殺者でも死体は殺せないですし~」

シャーマン「……それもそうだな」

アッシュ「……」

アッシュは観察眼と透視眼を用いてハイの死体を入念に調べる。

アッシュ(……呪いやめんどくさい死因じゃあなさそうだ。これならレベル1の蘇生魔法でなんとかなるな)

スッ

アッシュ「悪役さん」

アッシュが名前を呼びながらスキルを解除する。

ブゥン

悪役「……」

すると一人の女性が姿を現した。

勇者「! もう一人いたのか」

盗賊「離れた他人にインビジボゥを……? やるぅ!」



950:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/30(火) 02:07:21.83 ID:bKsNwOjU0

403

--北の王国--

悪役「アッシュ副隊長……」

アッシュ「悪役さん、蘇生魔法をお願いします」

悪役「う……いいですけど、あちきの蘇生魔法は成功率低いですよ……?」(魔法の勉強適当にやらなけりゃよかった……)

アッシュ「構いませんよ。我々は善意で手を貸すだけです。たとえ失敗したとしても、賞賛されこそすれ非難されるいわれはないですよ」

悪役「んー……じゃあ、やってみます」(この人の前だし、良い所見せたい……。えぇい確率の神に祈るか)

悪役はハイの傍まで歩いていくとしゃがんだ。

悪役「風属性蘇生魔法、レベル1」

ほぉうぅ

賢者(風の蘇生かぁ……しかもレベル1。これは期待できませんね)

悪役は魔力を練り上げると、

悪役「……ん」

ぶちゅ

まさかのマウストゥマウス。

賢者「キマシタワー!!」



951:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/30(火) 02:10:11.28 ID:bKsNwOjU0

404

--北の王国--

悪役「んー……ぶはぁっ!」(うぇ~きもちわりぃ……)

ごしごしごし

悪役は腕で念入りに口を拭った。

踊子(なるほど~他人にうまく魔力を注ぎ込めないから物理的接触が必要ってわけですね~)

悪役「あちきなんかじゃ、ほとんど全ての魔力を使ってもこれで精一杯。起き上がらなかったとしても恨まないでね」

盗賊「いやいやありがとう。生キマシ見れたし俺は満足ですよ」

勇者「おい」

じゃり

アッシュ「……」

アッシュは再び近づいて、悪役が注ぎ込んだ魔力の流れを確認している。

アッシュ(胸の辺りの魔力の流れが悪いな。このままでは効果が薄い……)

ぐっ

アッシュが心臓マッサージを施した。
すると

     どくん

勇者「あ」

盗賊「今お○ぱい揉まなかった?」

賢者「盗賊君、自重してください」

    どくん どくん どくん!

ハイ「……がっ! げほっごほっ!!」

ハイが生き返った。



952:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/30(火) 02:11:52.10 ID:bKsNwOjU0

405

--北の王国--

北の王「!!」

ざわざわ!

悪役「お、なんとかなったか」

ざわざわざわざわ!!

盗賊「やっ、やっ……」

召喚士「やったでやんすーーーー!!」

わーーーーーーーーーーーーーー!!!!

ハイ「えっ、えっ、えっ……!?」

目を開けたら大歓声、そして最初に視界に飛び込んできたものは、

アッシュ「成功したようでよかった」

ハイ「!? あ、アッシュ、先輩……」

すぐ近くにあるアッシュの顔だった。

ハイ「せっ、せせせせ性交!?」



953:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/30(火) 02:14:29.87 ID:bKsNwOjU0

406

--北の王国--

アッシュ「……なぜ私の名を……?」

悪役「! 確かに今こいつ副隊長の名前を呼びましたよね」

ハイ「あ……」

だんだんと冷静になっていくハイ。

盗賊「ハイちゃん。もしかしてこの人のことも知ってるのかな?」

ハイ「あっ、はい。アッシュ先輩とは同じパーティの一員でした」

悪役(!! ちっ、こいつ昔の女か!!)

悪役が殺意をもってハイを睨み続ける。

アッシュ「……すまない。実は私は記憶を失っていて過去のことは全く覚えていないんだ」

ハイ「え?……まぁ過去っていうか未来のことなんですけど」

悪役(何言ってんだこいつ)



954:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/30(火) 02:20:27.68 ID:bKsNwOjU0

407

--北の王国--

ハイ「……あ! っていうか魔王はどうなりました!?」

ハイは勢いよく起き上がって辺りを見回した。

盗賊「あぁ……ちゃんと送ったよ。なんとか被害を最小限に済ませられた」

北の王「最小限といいますかぁ、なんと今回の戦いで人死には零なんでっせ!! あの人類最大の敵、魔王を倒したっていうのに!! こーれは快挙やでー!!」

わーわー!!

アッシュ「魔王!?……そうか。ここ数日間の激闘は魔王との戦いだったのか。結界のせいで外からは観測できなかったからな」

参謀長(ん?)

悪役「こいつら……魔王を倒したとか嘘っぱちに決まってるじゃん……」

ハイ「そうだったんだ……よかった……! 私過去を変えることが出来たんだ!! あ、いや、私は何もしてないんですけどね」

あははと笑うハイ。

盗賊「いやいやいやハイちゃん、完全に君のおかげさ。君が襲撃を教えてくれたからこの勝利が生まれたんだ。特に妖精の案は見事だった」

姫「? 妖精ー?」

参謀長「なんですか? 私らには知らせていない秘密の作戦ですか?」

ハイ「……すいません、隠すつもりは無かったんですけど……」

盗賊「あー、それは俺が説明するよ。実はそこにいる俺の仲間達、本当ならこの戦いに間に合いそうに無かったんだよ。でも戦力は欲しいしさ、どうしたら間に合うかなーってハイちゃんに相談したことがあったんだ」



955:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/30(火) 02:24:38.57 ID:bKsNwOjU0

408

--過去、草原、夜営--



盗賊「勇者と情報を共有してたんだよね」

ハイ「!……そうか。技とかを引き継げるってことは、戦いの経験も引き継いでるはず……つまり記憶の一部も共有できるってことですね?」

盗賊「察しいいね。今回は俺らだけじゃ分が悪そうなんで呼んでおいたのさ」

ハイ「勇者さんが参戦……心強いです!」

盗賊「……今まで心細かった?」

パチパチ……

盗賊「――でももしかしたらギリギリ間に合わないかもしれない」

ハイ「え」

盗賊「ちょっとばかり遠いんだよねぇ今いる場所が。でもあいつらがいないとなるとかなり厳しい気がするし……。そこで未来から来たハイちゃんに知恵を貸してもらいたいんだけど、なんとか間に合わせる方法、ないかな?」

ハイ「うーん……そう言われましても……私自身は普通のどこらへんにでもいるような人間ですし……ワープとかで呼ぶとか?」

盗賊「ワープねぇ。北の王国には召喚士さんがいるし、召喚術で呼ぶっていうのが一番それに近いと思うんだけど……召喚術は召喚士と召喚獣との間に契約が必要だからねぇ……」



956:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/30(火) 02:30:12.33 ID:bKsNwOjU0

409

--過去、草原、夜営--

パチパチ……

ハイ「そうですかぁ。凄いスピードで来て貰う方法……うーん……ごめんなさい、浮かばないです。やっぱり私の知恵なんかじゃダメみたいです……」

盗賊「えぇい諦めるなハイちゃん! まだきっと何かあるはずだよ! 押してだめなら引いてみたらどうだい!?」

ハイ「押してだめなら引いてみる? っていうと、早くにお仲間を到着させるんじゃなくて……侵攻を二、三日後にずらしてもらうよう魔王に頼む、とか?」

盗賊「それだ!!」

冗談で言ったつもりなのに盗賊が食いついてしまう。

ハイ「嘘ですよ。ははは……そんな無理が通るような相手なら私……ん? 日付をずらす……? そういえば……そんなことが前にもあった気がします……」

盗賊「え?」

ハイ「いつだっけ? えっとー……あ。妖精郷だ!!」



  ぴっち『あー、先に言っておかなきゃいけないことだったのかもしれないっぴが、実はここは外と時間の流れがちょっと違うっぴ』



ハイ「妖精郷で私達が過ごした時間の何倍もの時間が、あの時外では経過してたんだ!!」

盗賊「……どういうこと?」

ハイ「あれが土地の力か精霊様の力か妖精さんの力なのかはわかりませんが……もしかすると北の王国で流れる時間を遅くすることが出来るかもしれません」

盗賊「!!」



957:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/30(火) 02:31:45.83 ID:bKsNwOjU0

410

--北の王国--

……

参謀長「それで――その時間の遅延は成功したんですね?」

盗賊「あぁ」

ぴるるるー

らっち『やれやれ、本当に疲れたっら』

りっち『全くだっり。契約を破棄させてもらいたいだっり』

るっち『るーるるるー』

れっち『魔王との戦いの最中に、僕らに結界を張らせ続けるなんてひどいご主人だっれ』

ろっち『もう帰っていいっろ?』

ぴーぴーうるさい妖精たちが飛来する。

召喚士「あぁおつかれでやんすよ。また今度頼むでやんす」

盗賊「召喚士さんの妖精召喚のおかげでな!」



958:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/30(火) 02:34:37.66 ID:bKsNwOjU0

411

--北の王国--

北の王「妖精にこんな力があったんでっか……でも妖精に力があるっていうのをなんで知ったんでっか? それを調べるのも時間がかかりそうなもんやけど」

ハイ「はい。実は妖精さんが時を遅延させているエピソードを思い出したんですよ。それは、私がパーティを組んでいたツインテさんという人のことなんですが……」

賢者「!?」

踊子「!!……驚いた……ツインテちゃんの名前まで知ってるなんて、本当にこの子未来から来たのかしら~……」

アッシュ「うっ!」

少し離れた所で話を聞いていたアッシュは、ツインテの名前を聞いた瞬間、強烈な頭痛を感じた。

悪役「! どうかしましたか!? 大丈夫ですか!?」

アッシュ「い、いや、なんでもないです」(ツイン……テ? なんだ……どこかで聞いたことがあるような)

ハイ「ツインテ先輩は……えっと、どこかのお金持ちに買われて三年間過ごしたそうなんですけど、全然成長が見られなかったんです。で、話を聞いてると妖精さんが守ってくれたとかなんとか……」

アッシュ「ツインテがお金持ちに買われた!? うっ! 頭が!!」

悪役「アッシュ副隊長しっかりしてください!!」



959:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/30(火) 02:41:14.24 ID:bKsNwOjU0

412

--北の王国--

賢者「ちょ、ちょっと待って、その話詳しく聞かせてもらえるかな? もしかして君はうちの娘(?)がどこにいるのか知ってるのかな?」

ハイ「……今の場所はわからないです。でも、この後のことならわかります。暗黒森林で行われるオークションに出品されるんです」

アッシュ「しゅっぴいいいいいん!! しゅっぴいいいいいいいいいいいいいいいいん!!」

アッシュは鼻とか耳とか色んな穴から血を垂れ流している。

悪役「副隊長おおおおおおおおおおおおおおおお!!」

賢者「……暗黒森林の裏競売か……! そこにツインテちゃんが……」

踊子「ふふふふ~私達も全力で介入しなくちゃあいけませんねぇ~三日後が楽しみです~」

指を鳴らす踊子。

ハイ「……はい? 三日後……?」

ハイの顔面が真っ青になる。

ハイ「あ! 妖精さんで時を遅延したせいで外の時間が過ぎちゃったんだ!! 早く行かなきゃ!」

悪役「……さっきから聞いてればわけわかんないやつらだな。日にちもろくにしらねぇのか? 裏競売は今日から受付が始まってるぞ」

ハイ「は、はいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?」

盗賊「!! そりゃあ賢者さんたちがここに入ってきた時と、その後に来た人との間にも時間のずれがあるよな」

ハイ「も、もう行かなきゃーーーー!!」



960:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/30(火) 02:43:38.56 ID:bKsNwOjU0

413

--北の王国--

ずだだだだー

ハイは走りだしたのだが、急いでUターンして戻ってくる。

ハイ「って、何やってんですかアッシュ先輩! 本当ならアッシュ先輩も会場に向かってるはずなんじゃないんですか!?」

ハイはアッシュを掴んでガクガクとゆする。

アッシュ「な、なんのことでしゅかぁ、ぐふふぅ」

悪役「! てめぇ! あちきのアッシュ副隊長に触るんじゃねぇ!!」

ばしっ!

ハイ「! 誰が貴女のですか! アッシュ先輩は私達のです!」

がつんっ!

ハイと悪役はおでこをぶつけてめんちをきる。

悪役「てめぇ、助けてやった恩を忘れやがって! ふざけんじゃねぇぞ!!」

ハイ「一体貴女が何を言ってるのかわかりません! 私達には大事な使命があるんですから邪魔しないで下さいよ!」

アッシュ「ツインテ、ツインテ、夢の中で逢った、ような」



961:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/30(火) 02:46:12.43 ID:bKsNwOjU0

414

--北の王国--

ハイ「! そういえばさっき記憶喪失がどうとか! 嘘でしょ!? アッシュ先輩がツインテ先輩のこと忘れるはずがないですよね!?」

アッシュ「つい、つい、つつつつついいいいいいんんんんててててててててててて!!!!」

壊れた機械の様に喋りだすアッシュ。

悪役「はったおすぞ! アッシュ副隊長がおかしくなっちまうじゃねぇか! もうやめろ! なんだそのツインテって! 呪いの言葉か!?」

ハイ「やめません! アッシュ先輩思い出してください! ツインテ先輩ですよツインテ先輩! えっと、賢者さんか踊子さん写真とか持ってませんか!?」

賢者「あるよー」

スッ

勇者(あんの!?)

そう言って取り出したのはツインテがスク水を着てプールに入っている写真だった。ちなみにお尻の食い込みを直している場面。

アッシュ「!? こっこれは!!!! あ、あぐあぐあああ!! あ、頭が!! 頭が!! 頭がびびでぃばびでぃぶぅうううううう!!」

それを見たアッシュは頭を抱えて叫ぶ。

ハイ「アッシュ先輩、記憶を取り戻してください!!」

アッシュ「ぐあああ!! あああああ!!」

アッシュの頭の中にいろんな場面が浮かんでは消える。

『……くん』

誰かの懐かしい声が。

アッシュ「ぐぅぅぅああ!!」

『ッシ……くん』

大事な人の声が頭に響く。

アッシュ「はにゃあああああ!!」

アッシュの髪の色が、徐々に紫に変わっていく。

『アッシュくん』

アッシュ「んあああああああああああああああああ!!!!」

がくっ

激しい叫びの後、アッシュは地面に倒れ込む。



962:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/30(火) 02:47:23.52 ID:bKsNwOjU0

415

--北の王国--

アッシュ「……」

盗賊「……死んだんじゃねぇの?」

悪役「アッシュ副隊長!? お気を確かに!!」

アッシュ「ツイ……ンテ」

そう呟いてアッシュは涙した。

悪役「!?」

ハイ「!! 取り戻したんですね!! 記憶を!!」

ハイはしゃがみ込んでアッシュの目線に合わす。

アッシュ「あぁ……取り戻した……だが」

ハイ「だが?」

アッシュ「……お前は誰だ? なぜツインテや俺のことを知っている?」

ハイ「!」



963:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/30(火) 02:50:22.82 ID:bKsNwOjU0

416

--北の王国--

ハイ「あ……」

盗賊「……そうか、ハイちゃんが彼とパーティを組むのはこの後からなのか……」

踊子「? どういうことです~?」

勇者「……まだこの時点では、あの二人は面識が無かったっていうことだろう」

賢者「それじゃあ、あんまりですね……」

シャーマン「あぁ……片方は一緒に旅した数々の記憶を持っているのに、片方は何一つ知らないわけだ」

ユー「……」

ハイ「――あー……はは……そりゃ、そうですよね。っていうかこんなことは何日も前から覚悟してたことでした」

にこりと笑うハイ。だが、

ぽろっ

ハイ「っ……っ……でも……やっぱり……辛いですね……!」

アッシュ「?……」

ハイは泣く。



964:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/30(火) 02:52:57.77 ID:bKsNwOjU0

417

--北の王国--

悪役(なんだこいついきなり……変なことをまくしたてたと思ったらすんなりアッシュ副隊長の記憶を取り戻しちまうし……でも当のアッシュ先輩はこいつのこと知らないみたいだし……そしてなんか外野は理解が早いし)

アッシュ「……お前が誰だかわからないが、ツインテの情報は本当なのか?」

ハイ「え……あ、はい。ツインテ先輩は、ぐすっ、裏競売に出品されるはず、です」

アッシュ「そうか……」

ハイ「……あ」

その時ハイは気づいてしまう。

ハイ(本当ならアッシュ先輩はもう会場入りしてるはずなんだよね……? でもアッシュ先輩は何も知らずにここにいる……っていうことは)

ごく

ハイは唾を飲み込んだ。

ハイ(歴史が変わっちゃった、ってこと?)

ハイは当たり前のことに今更気づいた。

ハイ(いや、そりゃそうだよ。過去を変えるために私は戻ってきたんだもん。そして無事に北の王国を救うことが出来た……。でも、そのせいで他のことまで少しずつ変わっていってしまってる……っていうことは、これからのイベントは必ずしも前と同じようにはいかないんだ)

ハイは、当たり前のように見えていた道が、いきなり闇の中に消えてしまった様な錯覚に陥る。



965:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/30(火) 02:55:56.01 ID:bKsNwOjU0

418

--北の王国--

ハイ「……」

改めて自分がやっていることの責任の重大さを理解するハイ。

アッシュ「……」

そしてアッシュは何も喋らなくなったハイをどかして立ち上がる。

アッシュ「……」

ざっ、ざっ

アッシュは無言で暗黒森林の方向に歩き出した。

悪役「あ……」

手を伸ばす悪役。だがアッシュに触れることが出来ない……。

盗賊「――って、ちょっと待ってくれないかな。アッシュ君だっけ?」

盗賊がアッシュを止める。

アッシュ「……なんだ? 俺は一刻も早く暗黒森林に向かわなくちゃならないんだ。余計な時間は無い」

盗賊「ほんの少しだけさ。アッシュ君、君には信じてもらいたいことがある」

アッシュ「何をだ」

盗賊「彼女をさ。彼女、ハイちゃんの言うことを全て信じてあげて欲しい」

アッシュ「……は?」

ハイ「……はい?」



966:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/30(火) 03:01:50.55 ID:bKsNwOjU0

419

--北の王国--

アッシュ「……いきなり何を言い出すかと思えば……」

盗賊「それが君のためだ。彼女はバッドエンドを覆すために未来から時間を遡ってきたんだ。――って言って素直に信じる奴はバカだと俺でも思うさ。でも真実なんだ。その証拠にこの北の王国も救われた……魔王が侵攻してきたっていうのに、一人も犠牲者を出さずにすんだ」

アッシュ「……」

アッシュは辺りを眼だけで確認する。
壊滅的な町並みではあるが、確かに死体は見当たらないようだった。

盗賊「あとはハイちゃんに色んなことを聞いてみるんだ。それで君なら納得できるはず」

アッシュ「……」

アッシュは振り返りハイを見る。

ハイ「あ……」

アッシュ「……お前は俺と同じパーティだったと言ったな? なら俺の奥義は言えるか?」

ハイ「は、はいっ。ポイポイポイズンです。好きな効能の毒を作る奥義です」

アッシュ「!!……じゃあ次は……」

ハイ「家族構成とか言えばいいですか? アッシュ先輩は一人っ子です。お母さんは秘書さんで、お父さんは西の王様なんですよね」

アッシュ「!?」

盗賊「え!? 秘書さんの子供!? う、嘘だろっ!?……その節はどうも」

勇者パーティは少しだけ弱気になってしまう。



967:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/09/30(火) 03:09:30.39 ID:bKsNwOjU0

420

--北の王国--

アッシュ(俺とお母様の関係を知っているのはごく一部のはずだ……いや、それよりもお父様が西の王だと? それはでたらめだ。いや、しかし)

ハイ「あ、そっか、この頃のアッシュ先輩はまだお父さんについて知らされて無かったでしたね。確かカーテン越しにお父様とお話していたとか。でもその人は秘書さんの部下さんなんだそうですよ」

アッシュ「………………………………」

ハイ「後は何を言ったらいいんだろう……えっと……」

盗賊「早く納得した方がいいと思うよ? どんどん人前でまずいエピソードが垂れ流されちゃうよ?」

アッシュ「……はぁ。どうやらそのようだな」

アッシュは深いため息をついた。

ハイ「! じゃ、じゃあ認めてくれたんですか!?」

アッシュ「……勘違いするなよ? 未来から来たなんて、そんなたわごとを信用するわけではない。ただ真実がなんであれ、その情報能力は役に立つ……だからツインテ奪還まで力を使わせてもらうだけだ」

ハイ「!!」

ざっ

アッシュ「さぁ急ぐぞ。速度上昇魔法を何重にも重ねがけして延々と走り続ける。奪還するまで休憩は一切無しだ」

ハイ「は、はい!!」

ユー「……」

ユニコーン「ひひん」

ハイとユーとユニコーンがアッシュの後ろについて歩き出す。



悪役(……ちぇ、入り込む隙間ねぇじゃん……)

悪役は無言でハイ達を見送った。



977:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/10/07(火) 02:55:28.73 ID:/jL23EQi0

421

--北の王国--

ハイ「……て、あれ? 盗賊さん?」

ハイは盗賊が着いてきてないことに気づいて振り返った。

盗賊「ん? あぁ……すまんハイちゃん。俺はここまでだ」

ハイ「……はい?」

盗賊「ちょっと今回頑張り過ぎちゃったからなー。しばらく療養がてら裏方に徹しようと思ってるんだよ。この国の復興にも手を貸さなきゃならないしな」

北の王「なんかえろうすんまへんなぁ……」

ハイ「……そうですか……そうですね。今までありがとうございました、盗賊さんのおかげで凄い助かりました」

盗賊「なんの、助かったのはむしろこっちの方さ。君と一緒に旅出来てよかった」

ハイ「はい! 私もです!」

勇者(……旅?)

少しむくれる勇者。

アッシュ「ほら行くぞ」

アッシュはハイを促した。

ハイ「あ、はい。それでは皆さん」

盗賊「あぁ」

勇者「気をつけてね。無理しないように」

ザッ



978:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/10/07(火) 02:57:41.62 ID:/jL23EQi0

422

--北の王国--

ワーワー

盛大に見送られるハイ達。その遙か上空にて、

トリガー「……これはおかしいね……」

トリガーがその様子を観察していた。

トリガー「奇襲は完璧なはずだった……なのに事前にわかっていたとしか思えない手際の良さ。しかもあの勇者が生きていたなんて……まぁ薄々そうだろうなぁって思ってはいたけど」

ばさっ、ばさっ

大きな鳥がトリガーの体をすり抜けていく。

トリガー「……しかし魔王の襲撃を知っていたにしては集まっている国が少な過ぎるね。一国を失うリスクは高いだろうに。なぜ他の国は手を貸さなかったのか?」

トリガーは一人一人の顔を確認していく。

トリガー「――他の国には信じてもらえなかった、ということなのかな? つまり情報を持ってきたのが発言力がないもの、もしくは、信じるに値しない情報を持つ者……」

そしてトリガーはハイを見つけた。

トリガー「彼女……今までこの物語に関わってこなかった人物なのに、随分とメインキャラクターに接しているね……それに」




979:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/10/07(火) 02:58:52.78 ID:/jL23EQi0

423

--暗黒森林--

ポニテ「……なんでこんなことに」

ジャラ

ポニテはみすぼらしい服を着させられて、鎖のついた首輪をしている。

レン「仕方ないにゃ。闇競売会場は変な人間が入りこまないように、資格がいるのにゃ。それは一千万円の所持、何かを買う意志があるものだけ」

レンは変装の為にフードを被っている。

ポニテ「むしろ変な人間しかいないと思うんだけど。でもさ、それとこれとどんな関係があるの? ってゆうかレンちゃん錬金術師なんだから金錬成したらよくない? そのための錬金術じゃないの?」

レン「金錬成は錬金術の道理に反するにゃ」

ポニテ「え? 錬金術師って何のための存在なの? バカなの?」

レン「……というのは半分冗談だとして、金錬成は実は非常に難しいにゃ。たくさんの材料と時間を使うにゃ。だから闇競売までに一千万円分も作ることは出来ないにゃ」

ポニテ「ふむ……にしてもこんな時でも闇競売やるんだね。北の王国が攻められてるっていうのに……」

レン「そうにゃね……みんな欲に目が眩んで正常な思考も出来ない愚か者達なのにゃ」

ポニテ「辛いね。本当は助けに行きたいのにね。競売の開始を延期してくれたのなら、レンちゃんの国を助けに行けたのに……」

レン「……」



980:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/10/07(火) 02:59:37.64 ID:/jL23EQi0

424

--暗黒森林--

レン「……レンも同じように愚か者にゃ。ツインテを助けたいがために、北の王国を見殺しにしているのだかにゃ」

ポニテ「違うよレンちゃん。レンちゃんはここの人たちとは違う。欲を満たすために来ている人たちと、誰かを助けるために来ているレンちゃんが同じなはずないよ!」

レン「……ポニテ」

ポニテ「ツインテちゃんは私達にしか助けられない。そして助ける責任が私達にはある……北の王国のことは魔導長お姉ちゃん達に任せたんだし、私達は私達のやれることをすればいいんだよ」

レン「……」

真っ直ぐに見つめてくるポニテ。

レン「……そうにゃね。じゃあ……レンはレン達がやらなきゃいけないことのためにポニテのスカートを斬るにゃ」

ポニテ「なんで!?」

さすがに驚きの声をあげるポニテ。

レン「もうレンにはポニテを奴隷として売ることしか出来ないのにゃ」

ポニテ「もっとあるでしょ!? どうしてそういう結論になったの!? バカにもわかるように説明して!!」

レン「ポニテを売って金にしてツインテを取り戻すのにゃ。だから少しでも高く売れるために見栄えをよくするのにゃ。スカートが短ければ短いほど価値があがるとか言ってた人もいたのにゃ」

ポニテ「その人はただの変態だよ!! 真に受けちゃらめぇ!!」

シャッ!

しかしレンはナイフを錬成し、問答無用にポニテのスカートを切った。

ぱらり

ポニテ「!? ちょっ、ちょっとちょっとレンちゃん!? スカートどころかパンツまで切れちゃってるんだけど!?」



981:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/10/07(火) 03:00:36.76 ID:/jL23EQi0

425

--暗黒森林--

ホーホー

月も見えない夜の森。二人の警備員が門番として門の前に立っていた。

……ダダダ

警備員A「ん? なんだ? 何か音が聞こえないか?」

警備員B「音? 別に聞こえないけど……そういやお前知ってるか? あの噂」

警備員A「ちょ、やめろよ! そういう話したいんじゃねぇんだって」

……ダダダダダダ

警備員A「ほら聞こえるだろ!?」

警備員B「……聞こえるな。まぁ、どっかの金持ちが自慢のコレクションを馬車かなんかで大量に運んでんだろ」

……ダダダダダダダダ

警備員A「なんか、近づいてこないか?」

警備員B「嘘だろ……」

ダダダダダダ!!

ハイ「ど、どいてくださーーい!!」

警備員A、B「「!?」」

ダダダダダダドカーーーーーン!!

もの凄いスピードでユニコーンが警備員たちをはねた。





982:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/10/07(火) 03:03:54.30 ID:/jL23EQi0

426

--暗黒森林--

アッシュ「はっ、はっ、はっ……さすがに、きついな……」

ハイ「普通なら二、三日かかる道のりを半日で走破しちゃうなんて……凄い速度ブースト……げほっ」

ユー「……」

ユニコーン「ひ、ヒヒーン……」

三人と一匹はぶち壊した門の破片とともにねっころがっていた。

警備員C「なんだなんだー!?」

警備員D「討ち入りかー!?」

ぞろぞろ

アッシュ「……ち、まずいな」

ハイ「囲まれちゃいましたね……この後はどうするつもりなんですか? アッシュ先輩」

アッシュ「この後? この後ってなんだ」

ハイ「え! まさか無計画で突っ込んで来ちゃったんですか!?」



983:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/10/07(火) 03:06:46.81 ID:/jL23EQi0

427

--暗黒森林--

ぞろぞろ

アッシュ(三人分の速度強化で魔力残量は心もとない。ぎりぎりインビジボォを使えるが、ここを透明化でやり過ごしたってこいつらの警備が強化されるだけ。ツインテ奪還のためにそれは得策じゃあない……さてどうする?)

警備員E「怪しいやつらめ……来い、しょっぴいてやる!!」

ハイ「あちゃ~……」

ざり

???「ちょっと待つでござるよ」

アッシュ「!」

ハイ「ん? この声どこかで……」

ざっ、ざっ

警備員F「だ、誰だあんた」

???「その子らの知り合いでござる。どうやら約束の時間に間に合わないってんで、かっ飛ばしてきたみたいでござるな。はっはっはっ」

刀を帯刀した長身の男が現れた。

???「やぁ、警備の皆さんには迷惑をかけたでござる……。しかしこれが大ごとになって競売が中止にでもなったら残念でござるなぁ。どうかこの件は不問にしておいてくださらんか?」

そう言って男は懐から小さい布をそれぞれの手に握らせていく。

???「ささ、これで美味いもんでも食ってくだされ」

ハイ「パンツじゃん」



984:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/10/07(火) 03:09:12.34 ID:/jL23EQi0

428

--暗黒森林--

警備員C「……ま、まぁこちらとしても競売の運営に支障を出したくはないんでな……今回は見逃してやる。さぁ行った行った!」

しっしっ、とアッシュ達を追い払う警備員達。

???「すまないでござるよ。夜勤も頑張って欲しいでござる。さ、弟達よ。拙者についてくるでござるよ」

アッシュ「オウ ワカッタ オニイチャン」

ハイ「!?」

アッシュから不穏な殺気を感じたハイ。

ユニコーン「ひひん」

ぱからぱから

警備員C「はぁ、そうは言っても後片付けが大変だ。後で上になんて報告するかなぁ」

警備員D「……しゃぶしゃぶで食べよう」

警備員E「!?」



985:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/10/07(火) 03:13:28.68 ID:/jL23EQi0

429

--暗黒森林--

すたすた

???「ふう、全くびっくりさせてくれるでござるよアッシュ殿は。拙者が偶然気づいたからよかったものの……。しかしどうしてここに現れたでござる? もしかして拙者に会うために追ってきげぼっ!!」

どごっ!

アッシュは振り向いた男の顔面を強打した。

アッシュ「おいこらクソサム野郎……寝ぼけてんじゃねぇぞ?」

???改め侍「おごふっ、ごふっ……この言葉遣い……この容赦の無さ……まさかアッシュ殿記憶が戻ったんでござるか!? そんな! そのイベントは是非拙者がやりたいと思っていたのに!! ぎゃふっ!!」

更に追撃を加えるアッシュ。アッシュの拳は怒りで震えている。

アッシュ「全てだ。全てを思い出したんだ……き、貴様との屈辱の日々もなぁ!!」

ドガッ! ごきっ!

侍「痛いのもありかも!」

ハイ「せ、先輩そこらへんにしておいた方がよくないですか? さすがに侍先輩でも死んじゃう!」

侍「……」

アッシュ「いいや許せん! こいつは見かけ次第殺しておいた方がいい!」

侍「そ、そうだアッシュ殿達、お腹空いてないでござるか!? ここには美味しいご飯屋さんがあるんでござるよ! 一緒に食べに行こうでござる!! 奢るでござるよ! ささっ!」

アッシュ「む……」

ぐー

ハイ「そういえば今日はあれから何も食べてないからお腹空きました。食べないと魔力の回復もままなりません」

アッシュ「……むぅ」



986:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/10/07(火) 03:14:03.87 ID:/jL23EQi0

430

--暗黒森林、酒場--

レン「……」

ギィ

ごろつき「ん……?」

レンが酒場に入ると中にいた人間が一斉にレンを見た。

コッ、コッ、コッ、コッ

ごろつき「ひゅ~……」

酒飲み「足がグンバツの女だぁ……」

コッ、コッ、コッ、コッ、ポスっ

オヤジ「……なんにするんだ姉ちゃん」

レン「ミルク」

酒飲み「定番かよ!」

オヤジ「あいよ」

この暗黒森林において覆面は決して珍しいことではない。どっかのお偉いさんが、お忍びで法に触れる代物を買いに来ることなどしょっちゅうだからだ。
それゆえに顔を隠すのは暗黙のルール、レンが注目を集めているのは女としての魅力と、

外法者「ちっ、亜人か」

猫耳尻尾。

レン「あと適当に食事頼むにゃ。あ、でも油っこいのは少なめでサラダ多めに。もしお肉をいれるのなら鳥系で。皮は取って欲しいにゃ。あとあまり辛い味付けはダメにゃ。塩分も少なめで頼むにゃ」

オヤジ「適当じゃなくない!?」



987:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/10/07(火) 03:14:41.30 ID:/jL23EQi0

431

--暗黒森林、酒場--

ガンッ!!

外法者は、レンのすぐ横で酒の入ったジョッキを叩きつけた。

ぴちゃ

レン「……」

外法者「ふん……亜人ごときが随分とまぁ、でかいつら出来るようになったじゃねぇか」

外法者が絡んできた。

オヤジ「お、おいお前」

レン「レ……私はむしろ小顔にゃ。あんたのほうが顔でかいにゃ」

酒飲み「……」

ごろつき「……」

オヤジ「……」

外法者「……」

酒飲み「……ぷ」

酒場全体「「「だぁーはっはっはっ!!」」」

一人を除き、酒場で飲んでる者全員が笑いだす。



988:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/10/07(火) 03:15:24.36 ID:/jL23EQi0

432

--暗黒森林、酒場--

ごろつき「ちげぇねぇや!! ちげぇけど!!」

がはははは!

オヤジ「……はっ……ほら、お前もやるなら楽しくやってくれよ。ここは酒場なんだからよ」

外法者「……てめぇ!!」

すちゃ

外法者はナイフを取り出した。

ざわ…

外法者「こけにしやがって……!! そのこぎたねぇ耳と尻尾切り取ってケツの穴に詰めてやるぜ……!!」

レン「オヤジ、ミルクおかわり」

オヤジ「お、おかわりってアンタ!」

レンは一度たりとも外法者の方を見ようとしない。



989:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/10/07(火) 03:16:59.66 ID:/jL23EQi0

433

--暗黒森林、酒場--

外法者「こ、この人モドキが!!」

外法者がナイフを突き出そうとした瞬間、

ギィ

侍「おうオヤジー、また食べに来たでござるよー!」

アッシュ「ち、なにが美味しいご飯屋だ。ただの酒場じゃねぇか」

侍「それが中々バカに出来ないんでござるよー。オヤジ、いつもの四人前頼むでござる。あと外のユニコーンにも」

オヤジ「あ、あぁ」

レン(ん? ござる?)

外法者「ち……」

ばんっ!

外法者「命拾いしたな……」

外法者は代金をたたきつけて出口に向かっていった。

侍「すんすん。あれ? この臭いはレン殿の……」

レン「……」

それを聞いたレンは振り返る。

レン「うお、サムじゃないかにゃ」



990:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/10/07(火) 03:18:47.94 ID:/jL23EQi0

434

--暗黒森林、酒場--

わいわいがやがや

ハイ「はむはむっ! 本当だ、ここの料理美味しい……荒々しいんだけど、どこか優しくて懐かしい感じがします」

アッシュ「むしゃ、ばくっ、もぐもぐ!!」

ユー「ばくばくばくばくばくばく!!」

侍「はっはっはっ、三人ともいい食いっぷりでござるよ」

レン「はぁ……まさかこんな再会の仕方をするとは、にゃ」

むしっ

レンは鶏肉を食いちぎる。

侍「レン殿が生きているのは知っていたでござるからな。拙者らと同じことを考えているなら、きっとこの会場に来ていると思っていたでござる。……しかし、はて。ポニテ殿の姿が見当たらないでござるが?」

レン「あいつは競売品として売ったにゃ。じゃないとお金が作れなかったにゃ」

侍「売った!? ってことは明日出品されるってことでござるか!? 絶対買わなきゃ!!」



991:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/10/07(火) 03:21:14.52 ID:/jL23EQi0

435

--暗黒森林、酒場--

むしゃむしゃ

レン「それにしても……砂漠の風にいたなんて……随分思い切った行動だにゃぁ……あんた達お尋ね者にゃ」

侍「はっはっはっ。だがそのおかげでいい鍛錬になったでござるよ。なぁアッシュ殿」

アッシュ「うるへぇ!! もぐもぐ!」

レン「……今のやりとりで何があったのかなんとなく想像ついたにゃ。相変わらずお盛んなのにゃね」

侍「はっはっはっ。どうですレン殿。今夜は拙者と」

レン「レンの操はツインテの物にゃ。それよりそっちの二人は誰なんにゃ?」

侍「あぁ、紹介が遅れたでござるな。こちらは……えっと……誰でしたっけ?」

ハイ「あははは……」

アッシュ「もぐ……」

レン「アッシュの仲間かにゃ? 男の方はともかくそっちの子はあまり戦闘タイプには見えないにゃけど」

アッシュ「……一時的に一緒にいるだけだ」

ハイ「あ、じゃあ自己紹介させていただきますね。えと、初めまして、は変、かな。私は、皆さんと一緒のパーティを組むことになるハイと申します」

レン「パーティを組むことになる……?」

ハイ「はい、それじゃあ――」

ハイはハイの秘密を語った。



992:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/10/07(火) 03:24:08.82 ID:/jL23EQi0

436

--暗黒森林、酒場--

わいわいがやがや

レン「……」

アッシュ「……」

侍「む、むぅ……さすがにこれは……いやしかし通常では知りえないことまで知ってるしあながち嘘では無いでござるかも」

ハイ「ははは……やっぱり簡単には信じられないですよね?」

レン「――どう思うにゃアッシュ」

アッシュ「さぁな。なにぶん、ここまで詳しい話を聞いたのは俺も初めてだからな」

レン「呆れたにゃ……。たいして話も聞かずに一緒に同行していたのかにゃ」

アッシュ「真意はどうあれこいつの情報収集能力は確かだと判断したからな」

レン「……」

レンは顎に手を当てて考える。

レン「確か欠陥属性の一つに時を操る属性というものがあったにゃ。それは時を止めたり予知をすることが出来るという噂があるのにゃ。だから、時間逆行はありえない、とは言い切れないと思うにゃ」

ハイ「! じゃあ信じてくれるんですかレン先輩!」

レン「あくまで可能性の話にゃ。レンも一応学者にゃ、自分で見たものじゃなきゃ信じることは出来ないにゃ」

ハイ「う……」



993:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/10/07(火) 03:26:48.46 ID:/jL23EQi0

437

--暗黒森林、酒場--

ハイ「……」

レン「……でも、嘘を言っているようにも思えないにゃ。……このアッシュは最低のドクズ野郎にゃ」

アッシュ「いきなりなんだ!? なぜ俺の罵倒が始まった!?」

レン「ツインテに色目を使い、下着にいたずらするようなゴミカス野郎にゃ……だけど人を見る目はあると思うのにゃ。そのアッシュが、あんたが傍にいることを許可したのにゃ。それもツインテ奪還という最も大事な戦いに」

侍「……」

レン「だから全部は信じられないけれど、信用してみたいと思うにゃ」

ハイ「! は、はい!! ありがとうございますレン先輩!」

ハイは喜んでユーとハイタッチをする。

レン「……」

アッシュ(まぁ、信じ切るのは現段階じゃあ無理な話だ)

レン(ここまで何もかも知っている……それはつまり)

ハイ「よぉし、がんばってツインテ先輩を取り戻さなくちゃ!」

アッシュ、レン((魔王側の存在という可能性も捨てきれない))



994:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/10/07(火) 03:27:38.77 ID:/jL23EQi0

438

--暗黒森林--

ほーほー

ツインテ「……」

ツインテは窓の外に映る月を、虚ろな瞳でじっと眺めていた。
変わることの無い青く白い月を……。



995:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/10/07(火) 03:29:05.96 ID:/jL23EQi0

439

--???--

トリガー「……」

ウェイトレス「お、トリガーおかえりー……って、どした? なんだか不機嫌だね。何かあったの?」

トリガー「ちょっとね。魔王勇者がやられたよ」

ウェイトレス「!?……嘘だろ? 人間側の戦力でそんなことできるわけが……」

トリガー「それが出来たのさ。この僕でさえわからない自体が起きてしまった……由々しき自体だ」

ウェイトレス「……じゃあどうするの? 計画を早めるのか?」

トリガー「その対抗策を今考えてるんだ。だから今日は夕飯いらないよ」

そう言ってトリガーは自室に戻っていった。

ウェイトレス「はぁ……魔王勇者……残念だな」



996:Qw0 ◆7b3JfpIY/2 2014/10/07(火) 03:32:57.18 ID:/jL23EQi0

440

--???--

トリガー「後のことを考えれば、使えてもあと一度だ……なら誰を呼び出すべきか」

トリガーは何も無い暗黒の中で一人思考している。

トリガー「本来なら彼の対抗手段として盗賊王を呼ぶ予定だった……が、今は彼女を優先するか。彼女に関する情報が全く無いというのは、やはり不安だからね」

うぉん

トリガーが腕を翳すと空間が揺れる。

トリガー「ルート」

じじじっ!

宣言と共に空間の揺れが激しくなり、トリガーの右腕が闇に埋没する。

トリガー「……このルートでもない、こっちも違う……ん――これだ」

びしっ!

揺れが収まると、今度は空間に亀裂が入る。

びしびしびしっ!!

トリガー「――やぁ、初めまして。僕のことは知ってるよね? 是非君の力を貸して欲しいんだ」

ぱかっ、ぱかっ

??「ぶひるん」

二つの角を持った黒い馬が空間の隙間から現れる。そして、

???「あっはぁん……」


勇者と魔王がアイを募集したFINAL+【前半】



元スレ
勇者と魔王がアイを募集したFINAL
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