酒場で戦士募集したら勇者が仲間になった
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少女「はぁっ、はぁっ!!」
薄暗い森の中を、ワンピースの少女が駆けている。まるで恐ろしい何かから逃げるように。
ガサ、ガササ!!
草の向こう側に、少女と並走する何かが……いる。
ドオオン!!
少女「!?」
突如、何かの爆発音が響きわたる。音の出所は、少女の進路方向。
少女「はぁっ、はぁっ!!」
ガサササ!!
少女は駆ける速度を速め、一気に森を抜けた。
--森--
男「ちっ!!くそ、しぶてぇな!!」
眼前に広がるのは崖。そこで男と黒い生物が戦っていた。男は見るからに劣勢で、左腕から血を流している。
少女「大丈夫!?」
男「!?来たか!!」
男は少女が来たことを確認すると、少女の下へと駆けよる。
男「嫌な予感的中だ。あれは似てるとかまがい物なんかじゃない……正真正銘本物の……」
ガササッ!!
?????「オオオオオオオオオオ!!!!」
少女、男「!?」
少女を追って来ていた黒い生物が姿を現した。
--森--
???「オオオオオオ!!」
少女と男は、黒い生物に挟まれた形で対峙している。
少女「……さすがに二体も……」
男「こっちだ!!」
男は少女の手を取り、崖に向かって走っていく。
?????「オオオオオオオオオオオ!!!!」
黒い生き物は獲物の逃走を見て咆哮する。
???「オオオオ、ロクショオオ、オオオクホオオオオ!!」
黒い生き物の右腕に光り輝く力が集結する。
少女「!?まずい!!避けて!!」
ドゴオオオオオオオオオオン!!
男「うわっ!?」
少女「きゃあああああああ!!!!」
放たれた光弾。
その強力な爆風により、少女と男は深い谷へと落ちていった。
--城下町--
新勇者「はううぅ……なんで……こんな暗い時間に酒場なんていかなきゃならないんだろう……」
新勇者は酒場の前でうろうろと歩きまわっている。
新勇者「べ、別に勇者になんてなりたくないんだけどなぁ……でもお母さんが……」
はぁ、とため息を一つつき、新勇者はチラチラと酒場の入り口に視線を送る。
新勇者「行かなきゃ……やっぱり、駄目だよね……?まずは確か……戦士さんを頼まないと……」
ギ、ギギィ
新勇者「おっ、おじゃま……します」
おっかなびっくりの新勇者は、酒場に足を踏み入れた。
--酒場--
屈強な男「あぁん?」
がちむち「なんだ?……なんでこんなところに餓鬼がいやがる……」
マッスルひげ「おい嬢ちゃん、ここは餓鬼の遊び場じゃねぇんだよ。悪いおじさんに何かされる前にけぇんな!!」
新勇者「ぴぃっ!?」
新勇者は大の大人に凄まれて、その場に座り込んでしまう。
屈強な男「たぁく、この酒場も落ちたもんだ。なぁ、マスター?世界を救うために旅にでよう!!最初はそんな夢を抱いてここにきたっつ
ーのに、今ここにいるのはろくでなしとしょんべんくせぇ餓鬼とはよぉ!!」
がちむち「てめぇ……誰がろくでなしだ!!」
屈強な男「どっかの筋肉馬鹿のことさ、勇者勇者勇者勇者って、んなもんがお前をパーティに入れてくれるか、ってーんだよ!!」
がちむち「てめぇっ……!!」
ガタガタっ
屈強な男「勇者な自分の力を活かしてくれるだぁ?笑わせんな!!この間だって組んでたパーティでへまやらかしてクビになったやつが勇
者と組めるわけねぇーだろ!?」
がちむちは屈強な男に掴みかかる。
新勇者「あわわっ!!」
屈強な男「大体勇者なんて本当にいんのかよ!?何百年も語り継がれてるくせに一切表舞台に出てきやしねぇ!!こんな時代なのに勇者は
一度だってこの酒場にこねぇじゃねぇか!!」
--酒場--
?「くあぁっ」
テーブルに足を投げ出して寝ていた少年が、この騒動のせいで夢から覚める。
?「……何事だ?」
騒いでいるのはいつもここにいるおっさんとおっさん。
?(また無駄な言い争いか……シネ)
少年は争いに巻き込まれる前に酒場から出て行こうと準備を始めた。
?(質が悪い、程度が低い、ここにはまともなやつがいないのかよ)
ガタガタっ
男達はいよいよ殴り合いに発展しそうだ。
?「マスター、ミルクの勘定おいとくぞ」
少年はコートを着て酒場の入口へ歩いていく。
屈強な男「大体勇者なんて本当にいんのかよ!?何百年も語り継がれてるくせに一切表舞台に出てきやしねぇ!!こんな時代なのに勇者は
一度だってこの酒場にこねぇじゃねぇか!!」
?「……」
少年はその言葉に反応する。
?(勇者……)
新勇者「あ、あのっ!!」
?(ん?)
入り口の前に少女が立っていた。少女は涙目になりながら男達へと近づいていった。
--酒場--
屈強な男「なんだ嬢ちゃん、危ねぇから帰れっつわれただろ!?」
新勇者「ひぃぃぃ!!」
新勇者は頭を抱えてしゃがみ込む。
新勇者「あ、ち、違います。ボク、女の子じゃないです、男の子です……」
マッスルひげ「あ?……ぶっ、」
がははははははは!!
酒場は男達の下品な笑いで溢れた。
マッスルひげ「ばかか!!ツインテールの男がどこにいるよ!!」
新勇者「あ、こ、これはお母さんがやっちゃったんです!!……ほ、本当に」
がちむち「おい」
がちむちは新勇者の目と鼻の先にまで顔を近づけた。
がちむち「なんでもいいから帰れって言ってんだよ。お前も血をみるぞ?」
新勇者「ひっ……で、でも」
?「……」
新勇者「で、でも!!その!!……ボク、勇者なんです」
--酒場--
?(なんだと!?……)
少女の男宣言に続き勇者宣言。酒場はシーンと静まり返った。
ぎゃはははははははは!!
マッスルひげ「こいつあぁおもしれぇwwだったらお譲ちゃんはモンスターを、魔王を倒せるっていうのかよ」
新勇者「え?あ、え、えーと……や、やったことないから……わからないですけど……」
がちむち「お前が俺の探し求めてた勇者だと?……ふざけんじゃねぇ!!」
新勇者「ぴぃ!!!!」
?「確かにそうだな……」
がちむち「あん?……また餓鬼かよ」
?「勇者はその女じゃない、この俺だからな」
新勇者「え、ええええ!?」
--酒場--
マッスルひげ「……はは、さすがに酔いも冷めてきたぜ。天下無双の勇者様がこんな餓鬼だったとはな、しかも二人も……もうそのネタじ
ゃぁ笑えねェわ」
新勇者「あ、あや、でもボク、お母さんにあなたは勇者なのよ、って……」
?「俺だって、お父様やお母様から勇者は俺だと言われたぞ」
がちむち「うるっせえええぞ餓鬼がああああああああああああああ!!!!」
バタンっ
その時、酒場のドアが勢いよく開かれた。
??「たっのもーーーうっ!!誰かーーー!!私と一緒に旅しよーーー?」
剣を背負ったポニーテールの少女が万歳のポーズでそこに立っていた。
屈強な男「……また餓鬼?」
??「あ、申し遅れましたーー!!私勇者だよーー!!えへへww」
マスター「……まるで勇者のバーゲンセールですね」
--酒場--
マッスルひげ「なんなんだ一体この餓鬼どもは……そろいもそろって勇者だと?演劇だかなんだか知らねぇがここでやんじゃねぇ!!」
?「?俺は演劇などしていないぞ。俺が勇者なのは本当のことだ」
??「えーー!?君も勇者なの!?」
新勇者「ぼ、ボクも本当のことを言っただけなんです……本当に勇者なんですよぉ」
勇者を名乗る三人は見つめあう。
?(どういうことだ?……確かに勇者くらい知名度の高い人物なら、名を語る者も出てくるだろうが……こんな子供が)
??(あれれー?パパとママは私が勇者だ、って言ってたんだけどなー?変なのー)
新勇者(うぅ、ボクが勇者なのに……あれ?でもっ、も、もしかして……もしかしてボク、勇者しなくてもいいのかな?)
カーーンカーーンカーーン
マスター「!?」
突如、非常用の鐘が鳴る。
鐘男「モンスターだ!!モンスターが来たぞ!!」
--酒場--
?「!!」
??「♪」
新勇者「え?え?」
少年と少女は酒場から走り去って行った。
--城下町--
ダダダダダ
?「お前……モンスターが来ているんだぞ?逃げないのか?」
??「なんで?みんなを護るのが勇者のお仕事でしょ??」
?「……」
モンスター「ぐゃああああおおおおおおおおおおおお!!!!」
?「あれは……ミノタウロスか」
眼前に棍棒を振りまわすミノタウロスがいた。
少年は腰のナイフを抜くと、
シュパアアン
ミノタウロス「……ごふ?」
ブシャアアアアアアアアアア
すれ違いざまにミノタウロスの胴を切り裂いた。
--城下町--
??「おおうっ!!君っ、中々やるね!!」
?「……」
魚人「ぎょぎょぎょぎょ!!」
?「次は魚人か」
少年がナイフを構えると、
??「炎属性魔法レベル2!!」
ボッ
少年の横を炎魔法が通り抜け、
魚人「ぎょおおおおおおおおおおお!!!!」
魚人は炎に包まれた。
--酒場--
新勇者「あわわわっ!!ほ、本当にモンスターがいるよぉっ……」
ゾンビ「きしゃああああああああ!!」
新勇者「きゃああああああああああああああ!!!!」
がちむち「どいてろ!!攻撃力上昇レベル1!!」
がちむちはショルダータックルでゾンビを吹き飛ばす。
ゾンビ「ぎょえあああああ!!」
マッスルひげ「くそ、なんだっていきなりこんな!!」
屈強な男「王国の警備兵は何をしてやがる!!はあああ!!」
屈強な男は手に持った斧でゾンビに斬りかかる。
ズブっ
しかし思っていた以上にゾンビは硬く、
ゾンビ「はぎょおおおお!!」
屈強な男「!!」
屈強な男はゾンビに噛みつかれてしまう。
--城下町--
??「範囲炎属性魔法レベル2!!」
ゴオオオオオオオ!!
オーク「がああああああああああ!!」
?「……なるほど……」(確かに勇者を名乗るだけあるか?)
ズバズバっ
??「……ふーん……」(強いなこの子)
--酒場--
がちむち「うおおおおおおおおおお!!」
ゾンビ「きしゃああああああああ!!」
新勇者「もうやだあああああああああああああ!!」
--酒場--
マッスルひげ「お譲ちゃん逃げな!!ここは俺らがなんとかしてやっから!!」
新勇者「……え?」
マスター「えぇ、こんなお譲さんすら護れないようじゃ、大人しっかくです!!」
マスターは酒場の椅子を武器として装備した。
新勇者「で、でも!!」
ゾンビ「きしゃああああ!!」
マッスルひげ「!?あぶねぇ!!」
新勇者「!?」
ブシュッ
--城下町--
兵士「モンスター共めええええ!!」
ズバッ
モンスター「ぎゃあああああああああああ!!!!」
?「……ふぅ、兵士達がやっとでてきたか。モンスターの数も残り少ないし、なんとかおさまりそうだな」
??「いい運動だったねー!!」
?(そういやもう一人のあいつは……)
少年は踵を返し、酒場へと戻っていく。
??「あっ!どこいくの?待ってよーー!!」
--酒場--
?(酒場にはろくなやつがいなかったからな……もしかすると)
少年が壊れた扉から中を覗き込むと、
マッスルひげ「……」
新勇者「ごめんなさい……ひっ……ぼ、ボクなんかの、ひっ、せいで……!」
新勇者は酒場にいた30人くらいの大人に回復魔法をかけていた。
?「……っ!!」(これだけの人数を相手を一度に……)
??「うわーーー!!なんかやさしい光だねぇwww」
マッスルひげ「……お譲ちゃん……めちゃくちゃだな」
ぐちゃ
?「?」
少年は酒場に散乱するゾンビの肉片を踏んだ。
?「……っふ」
--酒場--
マスター「ありがとうお譲さん、もう私達の怪我は治りましたよ」
新勇者「えぐっ!ほ、本当に……?」
マスター「えぇ……」
?「……決めたぞ」
新勇者「……すんっ……?」
新勇者は少年の方を振り向く。
??「あ、そうだ!!いいこと思いついちゃったww」
少女は嬉しそうに顔を綻ばせる。
?「この三人とも勇者だと言うのであれば、」
??「私達三人で競争しようよ!!」
新勇者「……?」
?「俺らの中で一番最初に魔王を倒したやつが、」
??「誰が魔王を倒せるか♪それで、倒した人が」
新勇者「……え?」
?、??「真の勇者だ!!」
少年と少女の声が重なる。
それを聞いた新勇者はしばらくほうけて……そして、
新勇者「え、えええええええええええええええええええええええええ!?」
絶叫した。
酒場で戦士募集したら勇者が仲間になった
第一部
勇者×勇者×勇者
--酒場--
次の日。
?「そういえば名前を知らなかったな」
??「?なんのー?」
?「俺達のだよ……みんな勇者じゃ、呼びづらいだろ」
新勇者「う、うん、確かに……」
?改めアッシュ「じゃぁ、俺の名はアッシュと呼んでくれ」
??改めポニテ「じゃあ私はポニテだから~ww」
新勇者「え?え?あ、じゃ、じゃあ」
アッシュ「お前はツインテだな」
新勇者改めツインテ「ボクは、って、えええええええええ!?」
--酒場--
がちむち「おい嬢ちゃん達、そんでどこに行くつもりなんだ?」
アッシュ「む……魔王討伐だが、実際どこにいるのかわからないしな」
ポニテ「そだねぇー」
マッスルひげ「とりあえず修業のために適当に旅したらどうだ?」
アッシュ「俺はすでに強いぞ」
がちむち「いやいや、お前らレベルなんてごろごろしてるだろ。きっと今魔王と闘ったら……」
ツインテ「ひっ!!う、うぅ……怖いよぉ」
マッスルひげ「そ、そこでどうだ。お前達は3人しかいないわけだし、俺とかパーティに入れてみないか?俺はこうみえて魔法とかがな!」
がちむち「いやいやこんなやつより俺を入れろ!!俺は役に立つぞ!!」
屈強な男「ったく、こいつらが本当に勇者なのかわからねぇってのに……ただツインテの譲ちゃん、俺はお前に命を救われたわけだ……お、お前が付いてきて欲しいっ!!って、た、頼むなら、い、一緒に、行ってやらんでもないっていうか!!」
ポニテ「えへへ、面倒くさいね!!じゃあおじさん達、私と勝負しよっ!!」
アッシュ「なるほど、入隊試験というわけか。おもしろい、俺もやるぞ。俺達に一撃でも入れられたら仲間に入れてやる」
おっさんs『……え?』
--酒場--
ツインテ「だだだ、大丈夫ですか!?あうあうあうー!!」
ツインテはおっさんsに蘇生魔法をかけている。
ポニテ「おっさん達弱かったねー」
アッシュ「所詮酒場で飲んでるだけのおっさんか」
がちむち「く、くそぉ……俺達だって……ぐすん」
アッシュ(蘇生魔法ですら1分か……)
--草原--
がちむち「ちくしょおおおお!!何かあったらすぐ帰ってこいよおおお!!」
屈強な男「危ないことはするなよおおおおおおお!!」
アッシュ「……むさいな。シネ」
ポニテ「あははww鼻水まで垂らして汚いよぉww」
ツインテ「うぅぅ……皆さんおたっしゃでええ!!!!ツインテは、ツインテは……!!」
おっさんsは号泣しながら手を振って勇者達を見送った。
マッスルひげ「……俺、ツインテが帰って来たら告白するんだ」
--草原--
アッシュ「さて、何も決めずに出てきたわけだけど、どこに行く?魔王の居場所はわからないしな」
ポニテ「私わからないけど、おもしろいとこがいいなぁ!!」
ツインテ「ぼ、ボクこの国しか知らないんでっ、あん、あんまり怖くないところが……」
アッシュ「おいお前ら……テーマパークに行くんじゃないんだぞ……?」
ポニテ「でもでも私どこになにがあるとか知らないよ?」
アッシュ「だと思ったよ。じゃあ一応俺が調べておいた所に行くか」
ツインテ「え?もう調べてあるの?」
アッシュ「というか、今現在問題が起きている場所だ。聞いた話じゃ、北の王国がゴーレムに襲われているらしい」
ポニテ「ゴーレム!?絵本でしか見たこと無い!!行こう、面白そうww」
ツインテ「え、え……?」
アッシュ「まだ他にもあるんだが、まぁいいか。モンスターを狩りつつ北の王国を目指すとしよう」
ポニテ「おーー!!」
ツインテ「えぇ?……」
--酒場--
ツインテ「だだだ、大丈夫ですか!?あうあうあうー!!」
ツインテはおっさんsに蘇生魔法をかけている。
ポニテ「おっさん達弱かったねー」
アッシュ「所詮酒場で飲んでるだけのおっさんか」
がちむち「く、くそぉ……俺達だって……ぐすん」
アッシュ(蘇生魔法ですら1分か……)
--草原--
モンスターがあらわれた!
ポニテ「あ!モンスターだ!!」
ツインテ「ひぃいいいいいいい!?」
ポニテ「おお!!モンスターだぁ!!おりゃー、範囲火属性レベル2!!」
モンスター「あぎゃあああああ!!」
ポニテの放った火属性魔法がモンスター達を焼き尽くす。
子モンスター「ぎゅぴいいい!!」
モンスターの中から小さい個体が逃げ出した。
アッシュ「!!逃がさん」
アッシュは走り出しナイフを
モンスター「ぎいいいい!!」
小さな個体を護るように、モンスターが立ちふさがる。
アッシュ「無駄なことを」
ザバシュ
モンスターはアッシュの一刀の下に斬り伏せられてしまう。
子モンスター「ぎゅ、ぎゅぴ……」
ポニテ「逃げちゃだーめっww」
グシャっ
ツインテ「!!」
--草原--
モンスターをたおした。
ツインテ「あ、あわわわ……い、いくらモンスターが相手だからってやりすぎなんじゃないんでしょうか……」
ツインテの言葉に二人が振り向く。
ポニテ「ほえ?だってモンスターだよ?勇者達はモンスターを倒して強くならなきゃいけないんじゃないの?」
アッシュ「何を言い出すかと思えば。お前……魔王を倒して世界を救う気はあるのか?」
ツインテ「あ、あるよ。でも別にそんな無理やり倒さなくても……」
ポニテ「??よくわからないけど、ツインテちゃんは闘うのがやなの?」
ツインテ「……やだ。だって、モンスターだって生きてるし……家族とか」
アッシュ「っ。それでどうやって魔王を倒す気だ、モンスターを倒し魔族を駆逐し魔王を殺す。それが勇者に課せられた命題だろう?」
ツインテ「……うん」
ポニテ「まぁ、そんな考えない方がいいよー。そんなこと言ったらご飯も食べられないもんwww」
ツインテ「う……うん」
アッシュ(……ポテンシャルに見合わない精神の貧弱さ……)
--草原--
モンスターがあらわれた。
アッシュ(試してみるか)
ズバッ
モンスター「げこおおああああ!!!」
モンスターをたおした。
ポニテー「ああぁー!!私が倒そうと思ってたのにぃー!!」
ツインテ「あわわわ。蛙男さん……」
アッシュ「ツインテ、回復魔法だ」
ツインテ「え?怪我、したんですか?わかりました」
アッシュ「違う。俺にじゃない。こいつにだ」
アッシュはモンスターを指さす。
ツインテ「え!?どうして……あ!わ、わかりました!!」
ポニテ「……ふーん」
ツインテ(そ、そうだよね!!倒して経験値が入ったら蘇生してあげればいいんだよね!!痛いことして申し訳ないけど……でもこれなら
誰も悲しまない!!)
ツインテの蘇生魔法はモンスターを生き返らせることに成功した。
モンスター「げ、げこ?」
--草原--
ツインテは生き返ったモンスターに話しかける。
ツインテ「ごめんなさい、でも許して下さい。ボク達はどうしてもまお」
グシャ
振り下ろされるアッシュのナイフ。
ナイフはモンスターの頭部を引き裂き、頭部から噴出した血がツインテの顔を赤に染めていく。
アッシュ「……」
ツインテ「……え」
モンスターをたおした。
ツインテ「な、ななななな何してるんですか!?せ、せっかく、い、生き返ったのに!!」
アッシュ「もう一度こいつを治せ」
ツインテ「なっ!?」
ポニテ「なるほどなるほど。倒す→蘇生→倒すのループかぁww魔力が尽きるまでずっとモンスターを倒し続けられるね!!」
アッシュ「そういうことだ。ほら、早く」
ツインテ「や、やです!!な、何回も死んじゃうなんてかわいそすぎます!!」
アッシュ「でもこいつが犠牲になれば、ほかのモンスターを殺す数が減るぞ」
ツインテ「!!」
アッシュ「なんにせよ俺達はもっと強くなっておく必要があるんだ。さぁ」
ツインテ「う、うぅ」
--宿屋--
ポニテ「おいしーーー!!牛肉って初めて食べたよーww本当においしーね!!」
アッシュ「……お前……ちょっと食いすぎだろ」
ポニテ「えー?そんなことないよー!おうちにいたころはもっと食べてたもん!!」
アッシュ「……あいつはあいつで飯はいらないとか言い出すし」
ポニテ「あむあむ。ちょっと荒療治過ぎたんだよー。目の前で100万回も死なれたらこたえるよー」
アッシュ「お前こたえてねーじゃん」
ポニテ「私はそういうのは仕方無いって思ってるもん。弱者は強者に食われるものなり、ってね。さすがにあれは可愛そうだったけど。あむ」
アッシュ「……」
ポニテ「……ツインテちゃんのことを考えてのことだったんでしょっ?」
アッシュ「……違う。慣れてもらうためだ。俺らの旅で戦闘をしないわけにはいかない。毎回あーだこーだ言われてたら俺が困る」
ポニテ「www不器用ですねwwwおじちゃん、あと二頭頂戴!!」
アッシュ「ちょっと待って!?」
--寝室--
ツインテ「……ぐすっ」
--雪山--
ツインテ「あーうー……」
アッシュ「……うーむ」
ポニテ「あはははwwなんか病んじゃってるww」
アッシュ「笑いごとじゃねぇよ……」
ツインテ「ぶつぶつぶつぶつぶつぶつ」
ポニテ「あはははは……はは」
アッシュ「……やっぱり失敗だった……かなぁ」
--雪山--
モンスターがあらわれた。
アッシュ「おい、ポニテ」
アッシュはポニテに小声で囁く。
ポニテ「うん?なぁに?」
アッシュ「昨日の今日だから、ツインテに戦いは見せたくない。ここは逃げとこう」
ポニテ「あれれwww慣らすんじゃないの?ww」
アッシュ「!こ、効率ってもんがあんだよ!!」
ポニテ「はいはい、わかったよーww」
アッシュ「っち、よし、撤退するぞ……て」
ツインテ「うああああああああああああああ!!」
ツインテは杖を持ったままモンスターに突進していく。
アッシュ「……あれ?」
モンスター「うごおおおお!!」
モンスターはそれに合わせて駆けだしてくる。
ツインテ「あはぁ」
ドガッゴッズガッ
ツインテは杖でモンスターを殴打し、
ツインテ「水属性魔法、レベル3」
ドバッシャアアン
アッシュ「……」
ツインテ「あははははははははははははは!!!!」
ポニテ「何かが外れちゃったみたいだね……」
--雪山--
モンスターがあらわれた。
スノーマン「いんじぃえああああああああああ!!!!」
ポニテ「あ、またモンスター!!」
ツインテ「あははははははははははははは!!」
ツインテは笑いながらスノーマンへ接近する。
アッシュ「ま、待て!!ツインテ、ハウス!!」
グシャっドシャっ
スノーマンを押し倒したツインテは、殴打でスノーマンの体を破壊していく。
ポニテ「あちゃ~バーサーカーですなぁw」
アッシュ「う、うーむ」
??「ぶるうるるるるる」
アッシュ「!?新しいモンスターか!?」
勇者達の前に現れたのは、三体の土でできたゴーレム。
ゴーレム「ぶるるるるるる!!!」
ツインテ「!?」
--雪山--
アッシュ「あれが噂のゴーレムか……おい、ツインテ」
ツインテ「あっはははははは!!」
アッシュ「あ、こら!!」
ツインテは立ち上がってスノーマンの頭部を踏み砕き、ゴーレムに狙いを定めた。
ツインテ「かなかなかなかなかなかなかなかなかな!!!!」
ゴッ
ツインテの殴る攻撃。ゴーレムはほんの少しバランスを崩しただけだった。
ゴーレム「ぶるる?」
ゴーレムは拳を天へと掲げ、ツインテ目がけて振り下ろす。
ツインテ「!!」
ガインっ!!
ポニテ「あぶなー!!」
ゴーレムの攻撃をポニテが剣で払いのける。
ポニテ「あんま先走ったら危ないよぉ~?」
アッシュ「!?」(あいつ一瞬で……)
--雪山--
ポニテ「ん~?かったいなぁ。斬りおとすつもりで振ったんだけどなぁ」
ツインテ「はははははは」
ポニテ「ツインテちゃんは後衛タイプでしょ?前は私の仕事なんだよー!だからぁ」
ガイィン!!
ポニテ「怪我する前に下がってね!!」
ゴーレム「ぶるるるる!!」
アッシュ(あれが3体か。俺とは相性がよくなさそうだしな……なら!)
アッシュの右目が光り始める。
アッシュ「スキル、透視眼!!」
目に映る物すべての弱点がわかるスキル、透視眼。
アッシュ「……っな!!」
しかし、それを持ってしてもゴーレムの弱点は見えなかった。
アッシュ(なぜだ!?俺のレベルが足りない?……いやそんな制限なんて無かった筈……)
ゴーレム「ぶるるるるるる!!!!」
ドシンドシン!!
ゴーレムは巨体を揺らし、勇者達に襲いかかる。
--雪山--
ポニテ「属性付与、炎剣!!」
ポニテの剣が灰色の炎に包みこまれる。その熱にあてられて周囲の雪は一瞬で溶けていく。
ポニテ「おおおおりゃあああああああ!!」
ポニテは跳躍し、落下の勢いに任せた唐竹割りを見舞う。
ブオン!!
ゴーレム「ぶるるる!!」
ガアアン!!
しかしその斬撃はゴーレムの左手で防がれ、
ポニテ「え?そんなあっさrぐぶっ!!」
そして右手で弾き飛ばされてしまう。
アッシュ「ポニテ!!」
ゴーレム「ぶるるるるる!!」
アッシュ「!!」
残りのゴーレムがアッシュの近くにまで来ていた。
アッシュ「ちっ!!魔法罠、束縛!!」
ゴーレム「ぶるるる!?」
地面から光の糸が出現し、二体のゴーレムを縛り上げる。
--雪山--
ツインテ「あはははは!!」
ゴーレム「ぶる?」
ポニテを吹き飛ばしたゴーレムは、次にツインテに手を伸ばす。
ツインテ「対単体水属性魔法、レベル2!!」
ドバアアッ!!
ゴーレム「ぶるっ!?」
強烈な水流を真正面から受けてしまうゴーレム。
しかし、
ゴーレム「ぶるるる……るっ!!」
ばしゃっああ!!
ツインテ「!!」
水流を突破してツインテの右手を掴んだ。
ツインテ「あはh」
ブオン
ツインテはゴーレムに投げ捨てられ、宙を舞った。
--雪山--
アッシュ「くっ!!あいつまで」(まずいぞ、ここは逃げるか)
ゴーレム「ぶるるるるるるるる!!」
ブチブチブチぃ!!
ゴーレムは魔法罠の拘束を自力で解除した。
アッシュ「!!こんな早く自由に」
ゴーレム「ぶるるる!!」
ゴキッ
ゴーレムの蹴りを受けて、アッシュの右手はいともたやすく砕かれてしまう。
アッシュ(っ!!防御しておいてこれか!!)
ポニテ「ポニテちゃん復活!!覚悟ぉおおおおおおおお!!」
吹き飛ばされていたポニテが雪だるま状態で現れる。
ポニテ「あぁ!!みんなやられちゃってる!!もう許さないんだから!!」
--雪山--
ポニテ「奥儀……」
ポニテを中心に、灰色の魔力が渦巻き燃える。
ゴーレム「ぶ、ぶる」
感情無きゴーレムが、その圧倒的魔力量を前にして退いた。
ポニテ「……」
収束されていく魔力は荒れ狂い、辺りかまわず火の海にしていく。
アッシュ「なっ!」
まるで巨竜のブレス……いやそれ以上。
天変地異?いや、恐らくそれですらまだ足りない。
ツインテ「あは……ははは」
ポニテ「I am the bone of my……」
ドゴオン!!
ポニテ「!?」
詠唱を初めた途端、急に足場が崩れた。
ポニテ「わ、ちょ、ちょっ!!」
アッシュ「う、うお!!!」
ツインテ「あはははははははあああああああああ!?」
勇者達は暗い闇へと落ちていった。
--雪の町--
ドオオオオオンン
???「……」
町の近くの山で何かが崩れさる音が町にまで届いている。
若い町人「なんだ?雪崩か?」
活発な少年「うおー!こえー!!」
???「……」
帽子を被った少女は、手に持った本を強く握りしめその場から走り去った。
--雪山--
アッシュ「ん……ん?」
アッシュが目を覚ますと、目の前には泣きじゃくるツインテの顔があった。
ツインテ「ふえ!ごめんなさい~……うあああん」
ポニテ「よしよし~大丈夫だってー」
アッシュ「……ん。助かったのか?」
ポニテ「うんー!ツインテちゃんが正気に戻って障壁張ってくれたり、回復して
くれたりしたからねwwツインテちゃんに感謝しなきゃだめだよぉー?」
アッシュ「そうか……悪いな」
ツインテ「!!」
ぶんぶんとツインテは左右に顔を振る。
ツインテ「元はと言えばボクが悪いんです!!ぼ、ボク、昔からパニックになる
と暴走しちゃって……心に余裕が無いんです……」
アッシュ「……その余裕を無くしたのも俺だ。お前は悪くない」
アッシュは折れた腕を動かしてみる。
アッシュ(完璧だ)
ポニテ「まぁでも骨を折った価値はあったみたいだよ!ほら!!」
ポニテは右手で指し示す。
そこには北の王国、雪の町の入り口があった。
--雪の町--
アッシュ「ここが雪の町か……ゴーレムに襲われてるっていう割には、案外平和そうだな」
ポニテ「ねぇねぇ!!ご飯いこう!!ご飯!!」
ポニテは目を煌めかせて言う。
アッシュ「……ポニテ、俺らがそんな大金持ってると思うか?」
ポニテ「ん?大金は無くてもご飯代くらいはあるでしょう?ww」
アッシュ「はぁっ、あのな、この前のお前の食事代で全部消し飛んだわ!!」
ポニテ「あえ?」
ツインテ「え!?ボクが持ってきたお金も全部……ですか?結構あったと思うんですけど……」
アッシュ「あぁ?んん……お前が寝てる間にこいつがめちゃくちゃ食いやがってさ……」
ツインテ「ボ、ボクのだけで半年分の旅費ですよ!?それが一日の夕食代で……」
アッシュ「……嘘みたいだろ?死んでるんだぜ、それで(財布が)」
ポニテ「えへ☆」
ツインテ「きれいな顔してますね……」
--雪の町--
???「はっ、はっ、はっ」
帽子を被った少女は、雪のちらつく町の中を走る。
さっきとは違う本を大事そうに抱えて。
ポニテ「ええー!!ごーはーんー!!」
アッシュ「ええい黙れ!!誰のせいで食えないと思ってるんだ!!」
ツインテ「じゃ、じゃあボクが何か作りましょうか?」
???「にゃっ!!」
ドシン
少女は角を曲がってきた勇者達とぶつかってしまう。
ポニテ「あたたたたー……あえ?」
ツインテ「ご、ごめんなさいちゃんと前見てなくて!!」
???「……あ」
アッシュ「いてぇな、どこに目を付けている?」
ぴこっ
ポニテ「ああああー!!猫人間だあああ!!」
???「びくっ!!」
ぶつかった拍子に少女の帽子は落ち、可愛らしい猫耳が姿を現した。
--雪の町--
アッシュ「……亜人か」
???「っ!!」
少女は慌てて帽子を手に取ると深々と被る。やつれた頬に緊張が宿る。
ポニテ「ええええ?!隠しちゃやだー!さわらしてよーーー!!」
ツインテ「ぽ、ポニテさん、怯えちゃってますよ」
村のおばさん「あらいやだ!!亜人ですって!?まぁまぁまぁ!!」
???「!!」
村のおばさん「まだこの国に薄気味悪い亜人がいたなんて……あぁ嫌だ嫌だ!」
???「っ!!」
少女は本を抱えて路地裏へと走っていった。
ツインテ「あ、あう……」
ポニテ「むぅー!ひどいよおばさん!!」
村のおばさん「な、なによ。亜人を擁護するつもりなの?」
アッシュ「……あいつが何か悪いことでもしたのか?」
村のおばさん「そ、そういう問題じゃないのよ!!亜人はけがらわしいのよ!!勇者討伐戦争の時だって」
?「あー、はいはい、おばさん押さえて下さい。相手はまだ子供ではないですか」
村のおばさん「ぼ、牧師様……」
--雪の町--
?改め牧師「嫌い合うなんて悲しいことです。ましてやほら、亜人と人ならともかく、人間同士なんですからww」
村のおばさん「……そうね」
村のおばさんは牧師に会釈をすると、背中を向けて歩いていく。
アッシュ「……」
牧師「ふぅ、やれやれ。さて少年達よ、君達は見たところ旅人に見えるのですが、相違ないですか?」
ツインテ「あ、あの、助けてくれてありがとうございます」
ポニテ「ううん、私達はただの旅人じゃないの。魔王を倒すために旅してる伝説の勇者なんだよー!!」
ポニテは胸を張って答えた。
牧師「ゆ、勇者……勇者ねぇww」
ポニテ「あぁ、笑った!!」
牧師「いえいえごめんなさい。ちょっとあまりにも可愛らしい勇者達だなぁと思ってww」
アッシュ「……先代の勇者も若い女性だったと聞いている。それなら俺達が勇者だったとしてもおかしくないだろう?」
牧師「うーん……」
牧師は上を向いて考える。
牧師「そう言われてみればそうですね……わかりました。信じましょう勇者様。よくぞ雪の町にお越し下さいました」
牧師はやさしい笑顔を三人に向けた。
--雪の町--
牧師「ですが、勇者様方」
牧師は人差し指をピンと立てる。
牧師「この北の王国では、あまり亜人関係の話はしないほうがよいですよ?特に今は……」
ポニテ「えぇ!?なんでなんでー!?」
牧師「この国の国民の大多数が亜人のことを良く思って無いんですよ」
ツインテ「それは……どうしてなんですか?」
牧師「どうしてなんでしょうね……遥か昔にはその理由があったのかもしれませんが……いや、人が何かを憎むのに理由なんていらないのかもしれません」
ポニテ「理由もわからずにあんなひどいこと言ってるの!?」
牧師「多少はあるんですよ?彼らのせいで職を失った人達もいれば、亜人との喧嘩で夫を失った奥さんもいる……」
アッシュ「……」
牧師「でもね、職を奪われた原因はその人が亜人より努力しなかったからに過ぎませんし、喧嘩の話も大抵は人間からしかけたものだと聞いています。本当に憎んでる理由は、もっと深い所にあると思うんです……」
クゥゥウ
ツインテ「あ!///」
牧師の話の途中でツインテのお腹が鳴る。
牧師「あらあらww勇者様方はお腹が空いてらっしゃるようだww」
--教会--
がつがつがつがつ!!
ツインテ「ぽ、ポニテさん!もっとお行儀よく食べて下さい。それにそんなにいっぱい食べちゃったら……」
ポニテ「がもがも?」
ポニテは口いっぱいにパンを頬張っている。
牧師「あはははww気になさらないでください。我が教会には恵まれない人達に分け与えるために、政府から食糧をたくさんいただいてますので」
アッシュ「へぇ……今どき珍しいな」
牧師「はい。我が王国の誇れることの一つに、餓死者数0がありますからww」
ツインテ「すごい、ですね。こんな過酷な土地なのに……」
牧師「えぇ、でもそんなものは知恵と努力でどうとでもなります。北の王国のモットーは、生き延びること!!勇者討伐戦争でも、我が王国の兵士の死傷者数は最も低かったんですよ?まぁ、戦争に行った兵隊の数が他よりも少なかったってのもあるんですけどね」
ポニテ「もがももふもふ!!」
ツインテ「……口の中のものをちゃんと食べ終えてから話してください」
--雪の町--
召喚士「……なんで歴戦の英雄たるオイラ達が見回りなんてやらなくちゃいけないんでやんすかねぇ」
人形師「いぃーではありませんかぁ。ワタシらレベルでないと無駄に犠牲者が増えるだけですからねぇえ」
召喚士「オイラレベルって、その割にはあいつはなんもしてないでやんす!!しかも一番若いのに!!年功序列という素晴らしいシステムはどうなってるでやんす!?」
人形師「これからは老人が働いて若者はパソコンをする時代になるのですよぉ」
召喚士「……笑えないでやんす」
--教会--
アッシュ「そういや牧師さん、この国はゴーレムに襲われてるんじゃないのか?」
牧師「……なるほど。そのことでこの国に訪れたのですか。そうですね、答えから言うとはい、襲われています。一週間に一度くらいのペースで」
ツインテ「こういうのもなんですけど、多いんだか少ないんだかわからない回数ですね……」
牧師「えぇそうですね。でも偶然にも毎週日曜日に襲ってくるんですよ。律義にも」
アッシュ「……俺達も雪山でやつらと出くわしたが、何体くらい来るんだ?」
牧師「雪山ですか……いえね、このゴーレムが少しおかしいんですよ」
ポニテ「むごみち」
ツインテ「まだ食べてたんですか!?」
牧師「警備は万全、どこからも王国に入ってこられる場所は無いのに、いきなり町の中に出現するんです……」
アッシュ「……」
ツインテ「どこからともなく現れるって……も、もしかしてゆ、幽霊……」
--教会--
アッシュ「……だれかが手引きしているのか?」
牧師「その可能性は考えられます。ここでさっきの話に通じるのですが、国民は亜人達がその手引きをしているのではないか、と疑っているんです」
ツインテ「!!そんな……」
アッシュ「ありえないだろ。ただでさえマークされやすい亜人が、厳重な警備の中どうこうできるとは思えないぞ」
牧師「私もそう思います。でもね、少なくとも亜人達には動機がある……と国民は思っているんです。亜人達が耐えかねて自分達に復讐をするつもりなんだ、と。そして亜人達のせいにすることで得をする人達もいるのです」
ツインテ「濡れ衣……じゃないですか」
牧師「かもしれませんし、そうじゃないかもしれません……」
ポニテ「むしゃりむしゃり」
--教会--
ツインテ「あ、あの……話変わってしまうんですけど、いいですか?」
牧師「はい、なんでしょう?」
ツインテ「さっきの、あの子は……」
牧師「あぁ、錬金術師のことですか。彼女がどうかしましたか?」
ツインテ「あの子は……ちゃんとご飯食べてるんでしょうか。ちらりと顔が見えた時には、すごく、痩せて見えました」
アッシュ「……」
牧師「……あの子も私達牧師の保護対象です。ですが彼女からはあまりここにこないのです。ここに来ると辛いことを思い出すのでしょう……」
アッシュ「辛いこととは?」
牧師「あの子は生まれてからずっと路地裏で生きていました。その日の食糧にも困り、頼る身内も無い状態で。ついに精も根も尽き果てて、ボロボロになった状態の彼女を先代の牧師様が助けたんです」
--過去--
???改め錬金術師「にゃあ……にゃっ」
路地裏には、ボロボロになり頭から血を流している錬金術師がいた。
先代牧師「これはひどい……人間達にやられてしまったのか。むごいことを……」
先代牧師は錬金術師を抱えて教会へと走った。
錬金術師「……にあ?」
錬金術師は教会で目を覚ます。
先代牧師「おぉ!!気付いたか、よかったよかった!私の魔力もまだ捨てたものではないな!!」
牧師「牧師様、こういうのもなんですが、こういうことはあまり……子供達がおびえていますよ?」
先代牧師「なぁあにをいっちょるか!子供はみんな子供、神からの授かりものだ!!ささ、みんなも来なさい。この子は新しい友達だよ!!」
赤髪の少年「その子……噛まない?」
先代牧師「お前達の方が歳も体もでかいくせに、何を心配しとるんだ!!いいから来なさい!!」
錬金術師「にあ」
そばかす少女「な、なんか猫みたい……触ったら病気になっちゃうんじゃ」
先代牧師「病気になんてなるわけがないわ!!」
牧師「いえ、でも一応お風呂に入れてあげてからのほうがよいのでは?ずっと外で生活していたようですし」
先代牧師「私なんかこの子の全身舐めたくてうずうずしとるくらいだ!!!!」
錬金術師「ふ、ふー!!!!」←おぞましいものを感じた。
--過去--
錬金術師「にゃははははwww」
赤髪の少年「うお!?こら待て!!」
牧師「……あの子も大分ここに慣れたようですね。人語も覚えてきたようですし」
先代牧師「なぁに、子供の適応力ならあっという間よ!!」
そばかす少女「あ、お兄ちゃんがきたー!!」
ひょろっとした男「うーす」
先代牧師「おお、久々に顔を見せに来たか」
牧師「……」
ひょろっとした男「久しぶりーおっちゃん。元気してた?それと牧師も」
先代牧師「元気だ元気だ!わはははは」
牧師「やれやれ、本当にたまにしか顔を出さないんですね、貴方は」
ひょろっとした男「なかなか兵士ってのも大変でさぁ……」
牧師「嘘ですね。貴方のことだから、面倒なだけだったんでしょう?」
ひょろっとした男「そういうなよぉ、今日は城下町の人気のクッキー買ってきたんだからさ」
赤髪の少年「おかし!?やったー!!あんちゃん、早くくれ!!」
ひょろっとした男「ういよ。……ん?あの子は?」
錬金術師「……」
錬金術師は木の陰に隠れて、こちらをじっと見つめている。
--過去--
牧師「あぁ、彼女は最近うちで面倒を見ることになった錬金術師です」
ひょろっとした男「ふーん。猫亜人?毛が白い……レアな白猫か」
先代牧師「どうだ!?めんこいだろ!?」
ひょろっとした男「そうね。でも俺、なんか避けられてる?」
錬金術師は、木の陰からぴょこぴょこと顔を出している。
先代牧師「あー……まぁ最初はこうなんだ。人間に辛い目に遭わされたからな、彼女なりの品定めなんだろうよ」
ひょろっとした男「ふぅうん……」
錬金術「……じー」
ひょろっとした男「でもまぁ、初対面の人にはちゃんと挨拶しなくちゃな」
錬金術師「!!!!」
錬金術師の視界から男は一瞬で消え、
バサ
ひょろっとした男「今日は何色じゃあああい!!……あ、あれ?嘘……ごめんなさい」
スカートをめくりあげた。
錬金術師「にゃあああああああああああああああああああ!!!!」
--過去--
先代牧師「ほぉ、移動スキルか。今度の親衛隊選抜試験の準備は万全のようだな」
牧師「今まで寝坊とか単位足らなかったとかで一回も受けられなかったですからね」
ひょろっとした男「あ~……正直めんどくさいんだけどなぁ」
牧師「……」
先代牧師「今回は牧師も受ける!!二人で親衛隊になってこいさ!!」
そばかす少女「え……牧師お兄ちゃんもどっかいっちゃうの?」
先代牧師「うむ。人生に分かれはつきものだ、それは良いことなんだよ?さびしいかもしれないが、笑って送りだしてやろう!」
牧師「でも、まだ受かると決まったわけじゃないからね」
ひょろっとした男「俺にいたっては受けるかわからないしなwwていうか一人でここまわせるのかよおっちゃん」
先代牧師「あぁ?余裕に決まってんだろ若造!!私だって若い頃はあの亜人王と闘ったことがあるんだぞ!?」
ひょろっとした男「古い上に闘っただけかよ」
錬金術師「うぅうう!!」
--工房--
錬金術師は地下にある工房室で何かを練っている。地下室は本や資料や標本などがならんでいて、ゆらめく蝋燭の炎に照らされている。
錬金術師「……はっ……はっ……お父さん」
涙を浮かべた必至の形相で……。
--過去--
牧師「錬金術師ー!錬金術師ー!ご飯の時間ですよ、食堂に来なさい。みんなあなたのことを待っているんですよ?」
錬金術師「あ、牧師……」
牧師「ここにいましたか。なんですか貴方書庫になんてこもって……え?」
錬金術師「……ごめんなさい……この本に書いてあったこと試してみたくて」
牧師「金でできた……本!?」
錬金術師「本に試しにやってみたら……ぴかぴかになっちゃった」
牧師(錬金術師の……才能!!)
--過去--
そばかす少女「わー!このブローチかわいいー!!ありがとぉー!!」
錬金術師「……うんっ」
赤髪の少年「そんなもんはいいからさー!剣作ってくれよ剣!!」
庭ではしゃぐ子供達と、それを見つめる大人三人。
先代牧師「いやいや驚いた。まさかあの子に錬金術の才能があろうとは……」
牧師「まったくです。この教会はレアスキル持ちの子供ばかり集まりますね」
ひょろっとした男「俺の武器もつくってくんねぇかなー」
先代牧師「あほか!!」
ゴッ
ひょろっとした男「あいたああ!?」
先代牧師「あの子には……闘いに関与する仕事にはつかせん!!」
--過去--
ひょろっとした男「おーい錬金術師ー」
錬金術師「……にゃ?」
ひょろっとした男は教会の裏からおいでおいでと手招いている。
錬金術師「にゃ……」
錬金術師はおそるおそる近づいていくと、
ひょろっとした男「ほれまたたび!!」
錬金術師「んにゃああああああああああ!!??」
錬金術師は一心不乱にまたたびに飛びついた。
ひょろっとした男「前から気になってたんだよなぁ……これ人間の耳あんのかなぁって」
ひょろっとした男は錬金術師を後ろから抱きあげて髪をかきわける。
錬金術師「っっ!な、なにして……るの?」
ひょろっとした男「ん、なぁに、上についてる猫耳とは別に人間型耳がついてるのか気になってさー」
錬金術師「耳っ、み、んっ!?あ、そ、そこ……」
ひょろっとした男「ほれ、じたばたすんな。すぐ終わるから天井のシミでも数えてな」
錬金術師「天井!?な、無いっ!!ふにゃ!!」
ひょろっとした男「あぁ~あんのか。人耳も。四つ耳じゃん。すごい聴力いいっぽそう。あむっ」
錬金術師「ひあっ!?そ、そこ舐めちゃ、あっ!!」
ひょろっとした男「じゃあ、しっぽの付け根を、っと」
牧師「なに……してんですか」
--過去--
ひょろっとした男「うし、じゃあ行ってくらぁ」
牧師「先代牧師様、しっかりと戸締りお願いしますよ?」
先代牧師「あぁ、わかっとる!!二人とも、しっかりな!!」
赤髪の少年「がんばれあんちゃんズ!!」
そばかす少女「弓お兄ちゃんも牧師お兄ちゃんもがんばってね……」
錬金術師「……ふぁいと」
ひょろっとした男と牧師は、親衛隊選抜試験を受けるために城へと向かった。
--工房--
錬金術師は地下にある工房室で何かを形作っている。手はあかぎれ、目には隈。不眠不休のその行為は、作る物に命を宿す所業である。
錬金術師「……もうすぐで……」
錬金術師は力無く微笑んでいた。
--過去--
先代牧師「ふむぅ……選抜試験から一週間が経った。そろそろ報告をしに帰ってきてもいいころなんだが」
錬金術師「……お父さん」
先代牧師「ん?おぉ、錬金術師か、どうした?」
錬金術師「……」
錬金術師はもじもじしていて、中々喋ろうとしない。
先代牧師「ははぁん、わかったぞ。本が欲しいんだな?また錬金術の本を読みたいのだろう?」
錬金術師「!!」
錬金術師の体はビクリと跳ねた。
先代牧師「やれやれ、勉強熱心というのも困りものだ。なまじお前は集中力がよすぎるせいで目が悪くなってしまったからなぁ。亜人が眼鏡をかけるだなんて、聞いたことがないぞ」
錬金術師「う……」
先代牧師「それで、何冊欲しいのじゃ?」
錬金術師はおずおずと右手を先代牧師に見せた。立てられた指は三本。
先代牧師「三冊か!?太いの三冊欲しいのか?三冊……いやしんぼめッ!」
--過去--
村のおばあさん「……はいよ!お釣り」
錬金術師「……」
ぺこりと錬金術師はお辞儀をして本屋から走り去る。
錬金術師「……はっ、はっ」
大事そうに抱える本の重さが、錬金術師の頬を自然と緩くする。
錬金術師(……もっと……もっと勉強して……みんなの役に立ちたいっ!!)
錬金術師は次第にこらえ切れなくなり、満面の笑顔で町の中を走った。
--過去--
ガーゴイル「あぎゅるるるるるる」
錬金術師「っっ!!!!!」
その笑みも、教会についた瞬間凍りつく。
ガーゴイル「ぎゅあああああああああああ!!!!」
錬金術師「……あ」
教会の礼拝堂には三匹のガーゴイルがいた。どれを見ても共通の羽、大理石のような眼球、赤く染まった口……。
錬金術師「……あぁ」
ガーゴイルの口からはみ出している、見るからに幼い腕からブローチがこぼれおちる。
錬金術師「……あぁあ」
ガーゴイル「あぎゃああああああああああああああ!!!!」
ガーゴイルは口に咥えていたものを吐き捨てて錬金術師へと飛びかかった。
--教会--
ポニテ「あーお腹いっぱい幸せげぷー!」
ポニテはベッドの上でお腹を幸せそうになでている。
ツインテ「うぅぅ、ちょっとは自重してくださいよぉ……というかよく気分が悪くなりませんね」
アッシュ「……」
ポニテ「だってーww私達が悲しんだ所でなにかなるわけでもないしー。あえ?ツインテちゃんどっかいくの?」
ツインテ「はい……厨房をお借りできるということなので、クッキーでも作って錬金術師さんのところに持って行こうかと……。何をしているのかわかりませんけど、何カ月もまともな食事を取っていないのは、やっぱり……」
ポニテ「クッキー!?私も行くー!!」
ツインテ「ま、まだ食べる気なんですかー!?」
アッシュ(ガーゴイルに襲撃されて教会の人間は全滅。生き残ったのは助け出された錬金術師と試験を受けに城に行っていた二人の青年だけ……か。そして)
アッシュはにやりと笑う。
アッシュ「……よし、ツインテ。さっさとクッキーを作ってこい。みんなで錬金術師の家に行くぞ」
ツインテ「え、アッシュ……君も来るんですか?」
アッシュ「女二人で夜道を歩かせられないからな」
ツインテ「いや……あのボクは……」
--雪の町--
アッシュ「ふぅ。まだ7時前なのに外は真っ暗でめちゃくちゃ寒いな」
ポニテ「わーい!夜の散歩ー散歩ーww」
ツインテ「わわ、怖いです……アッシュ君がついてきてくれてよかったかもです……」
召喚士「こらー!!そこの不審人物諸君!!こんな夜になに出歩いているでやんすか!?」
前方から勇者達に話しかける人影が。の
人形師「おやぁあ?これはこれは、まだ子供じゃないでぇすかぁ」
ポニテ「む?私達子供じゃないよ!?もう15歳だもん!!」
召喚士「それを子供と言うんでやんすよ。親御さんから聞かされていないのでやんすか?今この国にはゴーレムが出るんでやんすよ?」
ツインテ「親……お父様とお母様、元気にしてるかなぁ」
人形師「話聞いちゃいねぇでぇすね」
召喚士「まったく!!おいら達伝説の英雄が警備してるからいいものの……」
アッシュ「……」(そうか、こいつらどこかで見た顔だと思ったら、北の親衛隊三隊長の人形師と召喚士……)
人形師「もうしらんでやんす!!せいぜい危なくなる前に用事を済ませて帰宅するがいいでやんす!!そんで万が一危ない目にあったら力いっぱい助けを呼ぶでやんす!!すぐに駆け付けてやるでやんすからっ!!」
人形師は怒りながら歩き去る。
アッシュ「……」
--工房--
錬金術師「……よし、後はあれを受け取って組み込めば……」
コンコン
錬金術師「!!……誰か……来た?」
錬金術師は地下室から出てドアの所までやってくる。
ツインテ「あ、あのー……いますよね?ボク達教会から来たんです。ドアを開けていただけませんか?」
錬金術師(教会?……なんで……それに、誰?)
ギィ
錬金術師はほんの少しだけドアを開いて、そこから来訪者の顔を凝視した。
錬金術師(……知らない人……家にいれちゃだめ……)
ギィ
錬金術師は何も言わずにドアを閉めた。
ツインテ「あ、あの!牧師様から錬金術師さんがちゃ、ちゃんとしたもの食べてないって聞いて……その、おいしくないかもしれないですけ
ど、クッキー、焼いてきたんです!!」
ギィ
錬金術師「……クッキー?」
錬金術師は涎を垂らしている。
--工房--
ツインテ「お邪魔……しまーす」
ポニテ「あはは、なんかくさーいw」
錬金術師「……それよりクッキー……欲しい」
ツインテ「あ、はい。ちゃんと四人分用意してありますから」
錬金術師「……四人?」
ポニテ「あえ?アッシュ君、いないねそういえば」
ツインテ「え?あれ?どこ行ったんだろう。さっきまで一緒にいたのに……」
錬金術師「……とりあえず、紅茶いれてくる」
--工房の屋根--
アッシュ「よし、あいつらは中に入ったか。じゃあ煙突っと」
アッシュは煙突から家の中へと降りていった。
アッシュ(煙突が二つあるのに片方からは煙が出ていない。そしてドアから見えた部屋の暖炉には火がついていなかった。ということはこっちの煙がでている煙突の下の部屋で、何かを行っていたということ……)
スルスルスル
アッシュ「これはいきなりビンゴかもしれない……」
アッシュは地下の工房室へ到着した。
--工房--
サクサクサクサク
ポニテ「おいしいねーww」
ツインテ「お口に合いましたか?」
錬金術師「……」こくん
錬金術師はクッキーをひっきりなしに口に運んでいる。
ツインテ「れ、錬金術師さん、その、先代牧師様のことは残念だったと思います。でもしっかり食べないと駄目です」
錬金術師「!!」びく
ツインテ「あ!す、すいません!牧師様にその、話を、聞いたん、です……」
ポニテ「辛くても悲しくてもご飯食べなきゃだめだよーー?」
錬金術師「……」
ツインテ「一年前から教会を飛び出して何かをやっているそうですけれど、何をやってらっしゃるんですか?」
錬金術師「……」
ツインテ「自分をボロボロにしてでもやらなければならないことなんですか?」
錬金術師「そう」
--工房--
アッシュは地下室を探っている。
アッシュ(錬金術の本……月刊エリクシル、THE賢者の石生成術、ホムンクルスの作り方……)
アッシュはいろんな本を手に取りその内容を調べていく。
アッシュ「……決定だな」
???「がががが」
アッシュ「!!」
小瓶ほどの大きさの何かが、部屋の中を駆けまわっている。
アッシュ「……なんだ?侵入者排除システム?」
???「がっががががが」
テーブルの下にそれは身を潜めている。
アッシュはナイフを抜き取った。
--工房--
錬金術師「これは私がしなくちゃいけないこと。私にしか出来ないこと」
ツインテ「で、でもっ、それで具合悪くなって病気になって……そんなことになったら先代牧師様も悲しむと思います」
ポニテ「あの牧師の兄ちゃんも心配してたしねー」
錬金術師「……悲しまない。だって……もうすぐでお父さんは」
錬金術師はそれきり動かなくなってしまう。
--工房--
アッシュ(何がいるのかわからないが、犬とか猫みたいな愛玩動物では無いだろうな……)
アッシュ「スキル、透視眼!」
アッシュは透視眼を発動し、テーブルの下に潜む者の姿をとらえた。
???改めゴーレム「ががががが」
アッシュ「小型のゴーレム!?」
ゴーレム「がっ!」
ゴーレムはテーブルを突き破ってアッシュに飛びかかる。
アッシュ「!?」
ドオオン!!
--工房--
ツインテ(思いつめた目……この子)
ポニテ「まぁまぁ、食いねー食いねー!お腹いっぱいになれば嫌なことも忘れられるよ!!」
ドオオン!!
錬金術師「!?」
ツインテ「な、なんの音ですか!?床の……下から?」
ガタタッ
錬金術師「……まさか」
錬金術師は地下室へと走る。
ツインテ「あ、あの!……どうしよう、ついてきますか?」
ポニテ「そだね、行こう!」
--工房--
アッシュ「ぺっ。こいつ……ちっこいくせにパワーがありやがる」
アッシュは激突し崩れた本棚を払いのけて立ち上がる。
ゴーレム「がががっがが」
バタン!ダダダダ!!
アッシュ(!?ちっ、こんだけ騒ぎを起こせば気付くか。仕方ない)
ゴーレム「ががががが」
アッシュ「移動速度低下レベル2」
ゴーレム「が が が」
アッシュはゴーレムに魔法をかけた後、暖炉へと戻り煙突を登り始める。
--工房--
バンっ!!
地下の扉が勢いよく開かれる。
錬金術師「はっ!はっ!はっ!……」
ゴーレム「がががががが」
そこには荒らされた部屋と動き回る小さなゴーレム。
錬金術師(ゴーレムしかいない……疑似エリクシルの匂いにあてられて暴走?……)
ツインテ「れ、錬金術師さん!大丈夫ですか!?」
錬金術師「!!」
ツインテとポニテが階段を下りて近づいてきていた。
錬金術師(この子を見られたら……!!)
ゴーレム「まままま」
錬金術師『物陰に身を隠せ。そして機能を停止しろ』
ゴーレム「が」
ゴーレムは素早く本棚から落ちた本の中へと潜っていった。
ダダダダ
ツインテ「こ、これは!!」
錬金術師「つ、積んでた本が落ちただけ。なんでもない」
ポニテ「……」
--工房--
ツインテ「そ、そうだったんですか?泥棒さんとかじゃないんでしょうか」
錬金術師「泥棒……いや、違う、大丈夫だから」
ポニテ「あー!なんかぐつぐついってるー!!ねね、もしかしてシチュー!?」
錬金術師「ち、違う!!だ、だからもう、出てって!!」
ツインテ「え、でも本片づけるの手伝いますよ」
錬金術師「いい!いいから、もう、寝るから!!」
錬金術師は二人の背中を押して地下室から遠ざける。
--雪の町--
アッシュ「……」
召喚士「顔にまいた黒い布……どっからどうみても怪しいやつ……さては泥棒でやんすね!?」
人形師「えぇ~。煙突から出て来ましたしぃ、泥棒かサンタの二択でしょうねぇえ」
召喚士「サンタ!?サンタだったでやんすか!?ならプレゼントくれでやんす!!子供のころから一回ももらうことなく大人になったので、今までの分も全部くれでやんす!!」
人形師「しかぁし、サンタは赤と白のカラァーリングだと、聞きましたがぁ」
召喚士「え?やっぱ違うでやんす?だまされた!!」
アッシュ「……」
召喚士「なんか言えでやんす!!さびしいでやんすよ!!」
--雪の町--
召喚士「まぁなんにせよ、こんな時間に出歩いてちゃいかんのでやんす。事情聴取させてもらうのでやんすよ」
人形師「明日は日曜なんでねぇ、厳しくなるのは仕方がないのですぅぅ」
アッシュ(やばい……こいつら馬鹿っぽいけど、北のトップ3の二人……切り抜けれるか?)
召喚士「……まじでなんもしゃべってくれないでやんす。やれやれ、力を残しておきたいのでやんすがねぇ。まぁ軽めにいくでやんす。召喚、ハーピー」
ハーピー「ぴょろろろろええええ!」
アッシュ「!!」(陣もつくらず一瞬で!?)
人形師「じゃああ、わたしはジャック君でいきますかぁ」
ジャック「あぃrgは09438jがd」
人形師の体についていた人形の一つが動き出す。その人形の手にはナイフが握られている。
アッシュ(……まずいかもしれない)
--雪の町--
ツインテ「はぁ……」
ポニテ「いきなり追い出されちゃったねー」
ツインテ「せっかく少しは仲良くなれそうだったんですけど……はぁ」
ポニテ「仕方ないよー。簡単にはいかないこともあるんだよー」
ツインテ「人生簡単にいかないことばかりですね……というかアッシュ君はどこに行ったんでしょう」
ポニテ「どっかで道に迷ってんだよきっとー」
--雪の町--
アッシュ「っく!!」
ハッピー「ぴょろろええええええ!!」
ハーピーの鋭い爪がアッシュの肩を切り裂き、
ジャック「あお483うじょrきdげwrr」
ジャックのナイフが頬を斬りつける。
召喚士「ほぉ、中々いい動きするでやんす」(てか気持ち悪い動きでやんす……常時発動スキルでやんすか?)
人形師「しかしぃ、青いですねぇ。背丈からしても子供でしょうかぁ」
召喚士「でやんすね。職業は盗賊かアサシンってところでやんすか。まったく近頃の餓鬼は才能よさげでうらやまでやんすよ」
人形師「ですねぇ。わたし達がここまで上り詰めるには大変でしたからねぇえ」
ズガッ
アッシュ「っっ!!!」
ハーピーの蹴りがアッシュの頭部を揺らす。
召喚士「もうそのへんにしてやめたらいいでやんすよ。ハーピーの爪には毒があるでやんすから」
人形師「ジャックのナイフにも速攻性の神経毒が塗ってありますからねぇ」
アッシュ「はっ、はっ、はっ!!」(2体1とはいえ……なんだこの差は!!)
--雪の町--
召喚士「まぁ別に殺してから蘇生でもいいでやんすけど、明日のためにも教会の牧師の貴重な魔力を使わせたくはないでやんすよ」
アッシュ「……っ!!」
アッシュは右手のナイフを逆手に持ちかえて振り被る。
人形師「おやおや」
ガシッ
ジャック「あおr48gじゃおkれg」
ジャックがアッシュの右腕に纏わりつき、ナイフをザクザクと刺していく。
アッシュ「ぐあっ!!」(これ以上のダメージはまずい!!)
ズブブ
アッシュの右腕が奇妙な音と共に紫色に変色していく。
人形師(?……新技でしょうか?見たことがありませんねぇ)
そしてアッシュの右腕の傷口から紫色の液体が噴出した。
召喚士「あわわわ!!ばっちぃでやんす!!」
ハーピー「ぴょろろろええええ!!」
アッシュ目がけて突進してくるハーピー。
アッシュ「っ!!」
アッシュはジャックに巻きついている右腕をハーピーに突きだした。
ジャック「あおr8gはl3?」
ジャックはぬめっている右腕に捕まりきれず投げ飛ばされてしまう。
--雪の町--
ドガっ
ハーピー「ぴょろろろれえええ!!!」
顔面でジャックを受け止めたハーピーは地上で転げまわっている。
召喚士「何しているでやんすボクのお前達!!」
アッシュ「スキル、インビジボゥ!」
そしてアッシュはスキルにより姿を消した。
召喚士「あ!!」
人形師「……攻撃してこないところを見ると、逃げられたようですねぇ」(……逃げれるだと……?)
召喚士「ぐあああああああ!!!カッコ悪いでやんす!!またあいつに馬鹿にされちゃうのでやんす!!」
--教会--
ポニテ「たっだいまー!!」
牧師「お帰りなさい。錬金術師はどうでしたか?」
ツインテ「クッキーはちゃんと食べてくれました。でも、なにか忙しかったみたいで、あまりお話もできないうちに追い返されてしまいました……」
牧師「そうですか……外は寒かったでしょう?お風呂が沸いてます。お入りなさい」
ポニテ「お風呂!?やったー!!じゃあツインテちゃん、一緒にはいろー!!」
ツインテ「え!?いやだからその、ボク女の子じゃなくて男の子なんです!!」
ポニテ「またまたーwwほら、早くいこっ?もう寒くて寒くて」
ツインテ「え、ちょちょちょ!!本当にまずいですってばあーー!!」
ずるずる
牧師「私は少し用事が出来たので出かけて来ます。遅くなると思うので代わりに戸締りをお願いしますね」
ツインテ「わかりました。って、助けて下さいいいいい!!!」
牧師「ふふ、女の子同士一緒にお風呂に入るのは、別に恥ずかしいことではないんですよ?」
ツインテ「だからああああああああああ!!」
--教会--
ギィ
アッシュ「はぁ、はぁ……くそ、えらい目にあった!!……」
アッシュは床に腰を下ろし、ポーチから取り出した傷薬を体中の切創に塗りこませる。
アッシュ(簡単じゃないのはわかっていた。近くないこともわかっていた……でもここまで遠いか)
包帯で腕を巻いていく。
アッシュ(あいつらにとっちゃ子犬をあしらったに過ぎない労力……)
ダンっ!!
アッシュは床を叩く。
アッシュ「……見てろよ」
ポニテ「きいいいいいいいやあああああああああああああああああああ!!!!」
ドタドタドタドタドタ!!
ポニテの叫び声とこちらへ走ってくる音が。
ポニテ「あああああああああああ!!ってアッシュ君!?帰って来てたんだ!!ってそんなことはどうでもいいの!!ツインテちゃんがね!!ツインテちゃんがね!?こここ、ここにぞうさんが!!」
アッシュ「なんかで隠せや」
--風呂場--
ツインテ「……も、もう、お婿にいけない……」
--教会--
ポニテ「ぶー!!本当に見たんだってばー!!」
ポニテはタオルで髪を拭いている。
アッシュ「夢でも見てたんだろ?大体……」
アッシュは湯上り状態でストレートにしたツインテの顔を見た。
アッシュ「こ、こんな……か、かわ」
ツインテ「?」
アッシュ「……と、とにかく!もう寝ちまうぞ!!明日は日曜なんだし」
ポニテ「うえー?夢だったのかなー?じゃあツインテちゃん一緒に寝よう!?」
ツインテ「まだ男の子だと認められないのか……」
--工房--
コンコン
錬金術師「!!……誰?」
??「私です」
ギィ
錬金術師「牧師……遅かったね」
??改め牧師「今教会にはお客様が来ていましてね」
錬金術師「知ってる……さっき来た」
牧師「貴方の話をしたら心配したようですね。まさか会いに行くとは思いませんでした」
錬金術師「お喋り……」
牧師「で、どうですか?進み具合は」
錬金術師「地下室……来て」
錬金術師は地下室へと降りていく。
--工房--
錬金術師「これ」
牧師「ふむ……すごい量のエリクシル。これに術式を流せば、さぞや良い体が出来るでしょう」
錬金術師「うん……牧師にもらった本によれば、あとあのアイテムがあれば完成する」
牧師「これ、ですね」
牧師は袋から何かの腕輪を取り出した。
牧師「伝説のアイテム……まさか実在するとは思いませんでした。いや、これが本物なのかは試してからでないとわかりませんが」
錬金術師「それが魔王の骨の一つ……腕輪」
--工房--
牧師「今までゴーレムを何体も作ったおかげで、貴女の技術は飛躍的に上昇した。成功率は高いでしょう」
錬金術師「……でも、町の人を……ゴーレム達は襲ってしまった」
牧師「最初だけです。それからのゴーレム達は最初からプログラミングして、町の外へと行くようにしたではないですか」
錬金術師「……うん」
牧師「やっと……私達の父を復活させられる時が来たんです。先代牧師様はまだ我々に必要だ」
錬金術師「うん」
錬金術師は、ぐつぐつと煮たる大きな窯の前へと歩いていく。
錬金術師「もうすぐだよ……お父さん」
錬金術師は牧師に腕輪を求めた。
--教会--
ポニテ「すー、すー」
ツインテ「ぽ、ポニテさん、お、重いですぅ」
ツインテ、ポニテの二人は同じベッドで寝ている。
その頃アッシュは教会の屋根の上にいた。
アッシュ「……もうすぐ、深夜零時。日曜日」
--雪の町--
召喚士「あれから特に怪しいやつもいないでやんす」
人形師「しかぁし、もうすぐ日曜日になりますねぇ。わたしは何かが起きそうな気がします」
召喚士「……でやんすね」
--工房--
牧師「よし、零時になりましたよ」
錬金術師「お父さん!」
錬金術師は腕輪を窯に入れ、魔力を流し込んだ。
錬金術師『我が野望を叶えよ!!』
牧師「……」
ビカアアアアアアアアアアア!!
窯は目も眩む光を放ち、そして、
ドゴオオオオオオオオオオンンン!!
--教会--
ツインテ「きゃっ!?な、ななな、何の音ですか!?」
ポニテ「ううぅん??」
アッシュ「……なんだ……ありゃ」
アッシュが目撃したものは、
???『ぐばああああああああああああああああ!!!!』
全長30メートルもの巨人だった。
--雪の町--
召喚士「な!?なんなんでやんすかあれは!!」
人形師「超巨大な……ゴーレムでしょうか」
召喚士「まずいでやんす!!あのでかさは洒落にならんでやんす!!この町はおろか、下手したら国が」
人形師「……させません。いきますよぉぉ!!」
二人が駆けだした瞬間、
ゴーレム「ぶるるるるるる!!」
人形師「!!」
ゴーレム達が雪山から町に降りてくるのを見た。
召喚士「ちぃっ!!巨大ゴーレムの相手をしなくてはならないと言うのに!!」
--雪の町--
ダダダダダダ
勇者達は暗闇の中、巨大ゴーレム目がけて町を疾走している。
ツインテ「ほ、本当なんですか!?」
アッシュ「あぁ、あの方角は間違いない。錬金術師のいる工房だ」
ツインテ「そんな!!……錬金術師さん……どうか無事で!!」
アッシュ「……多分無事だろうな」
ポニテ「なんでそんなことがわかるの?」
アッシュ「……いや」(だってあいつが)
ゴーレム「ぶるるるるる!!」
アッシュ「!?昼間のゴーレム!!」
ポニテ「あやや、あのおっきいゴーレムに呼ばれてきちゃったのかなっ!」
アッシュ(……ありえる)
--雪の町--
ゴーレム「ぶるるるるるる!!」
召喚士「っっ!!先にこいつらを片づけるでやんす!!」
北の兵士「召喚士様、人形師様!!」
北の兵士達が二人の下に集まってくる。
人形師(兵士達には巨大ゴーレムの相手は不可能……とするならば)
召喚士「人形師」
人形師「わかってます。早くに片づけてきてくださいねぇ~」
召喚士「一人だからって無茶するなでやんすよ?」
--雪の町--
アッシュ「おおおおおおおお!!」
ギギィィン!!
ゴーレム「ぶるるるるるる!!」
ドボッ
アッシュ「ぐはっ!!……こいつら相変わらず硬いな……」
ツインテ「アッシュさん!!」
ポニテ「どいて!私が燃やしちゃうから!!」
アッシュ「いやいい。こいつら炎耐性持ってるんだ、強引に焼き殺せても魔力消費がでかすぎる。その魔力はとっとけ」
ポニテ「でもそれじゃどうしようもないじゃんっ!!」
アッシュ「俺がやる」
ゴーレム「ぶるるるるるる!!」
ガイン!!
ツインテ「そんな!?一人じゃ危険です」
ポニテ「そうだよぉ、この三人の中で一番ゴーレムに勝てそうにないよ?」
アッシュ「……はっきり言うな」
ツインテ「あわ、あわわわわ」
アッシュ「じゃあなおさらだ。一番使えないやつでここを切り抜けられるんだったらお得だろう?」
ポニテ「……大丈夫なの?」
アッシュ「あぁ、お前らは巨大ゴーレムのとこに行け」
ポニテ「ふぅん。うし、おっけー。行くよー!!ツインテちゃん!!」
ツインテ「え?え?ででで、でも!!」
アッシュ「錬金術師を助けたいなら早くいけ」
ツインテ「!!……わかりました。後できて下さいね!?」
--雪の町--
???『ごるあああああああああああああ!!!!』
人形師「おっきいですねぇ。なぜか動いていないところを見ると、失敗したということなんでしょうか」
人形師は自分の服についている6体の人形を全て外す。
人形師「さて困りました。こんなでっかい相手をできるようなのは今持っていませんねぇ。ゾロ、ジャック、アリス、ダルタニアン、ティンカーベル、ピノッキオ。愛しいわが子達よ……行きますよ!!」
???改め巨大ゴーレム「ごああああああああああああああああ!!!!」
ドオオオオオン!!!!
--雪の町--
ゴーレム「ぶるるるるるる!!」
アッシュ「昼間は仲間が見ていたから使わなかったが……いやそんなことは無いな。単純にこの使用方法を考え出せなかっただけだ」
ゴーレム「ぶるるるるる!!」
ギィン
アッシュ「そうだ、もっとこっちにこい」
ズブブブブ
アッシュの両腕が紫色に変貌していく。
ゴーレム「ぶるるっるああああ!!!!」
アッシュ「複合スキル、毒沼!!」
アッシュが地面に両手をつけると魔法陣が浮かびあがり、その範囲内にいた3体のゴーレムが地面に沈んでいく。
ゴーレム「ぶるっあ9くぁん39るhごあrごぼ」
アッシュ(泥と石だから毒は効かない。だが毒としては効果が無くとも……その重量なら這い上がってこれまい)
ゴーレム「いrがjんhgkすぢygほsぶし;ほうdそj」
--雪の町--
召喚士「召喚、ヤテベオ!!」
巨大な植物のモンスターが広場に出現する。
ヤテベオ「ふしゅううううう」
ヤテベオ
は触手を伸ばしてゴーレム達を絡め取っていく。
ミシッ、ベキッ
ゴーレム「ぶるるるるるるる!!!!」
召喚士「いっくら硬い石だって、植物の力には勝てないでやんす!!多分!!」
ゴーレム「ぶるるるる!!」
ゴーレム達は一斉にヤテベオに突進し始めた。
ゴレイヌ「ぶるるるる!!」
召喚士「やつらめ、ヤテベオをぶち折ろうという作戦でやんすか。させんでやんす!!ヤテベオ!!片っ端から触手プレイにしちまうでやんす!!」
ゴレイヌ「ぶるるるるるる!!」
召喚士「あぁ!!なんかゴリラみたいなのもまざってるでやんす!?」
--雪の町--
ツインテ「はぁっ!はぁっ!」
ポニテ「見えた!!あ、誰かが戦ってるよ!!」
ツインテ「もしかして錬金術師さん!?」
ポニテ「いや禿げたおっちゃん」
ツインテ「あ……さっきの人か」
人形師「ほえーーい!!」
ザシュドガズンドサっ!!
巨大ゴーレムの足元で、踊るように6体の人形を攻撃していた。
ツインテ「すごい!!6体も同時に操っているなんて。それにそのどれもが綺麗な動き……」
巨大ゴーレム「ぐるるるるああああああああああ!!!」
巨大ゴーレムは自分の足元にパンチを繰り出すが、人形師はいとも簡単に避けてしまう。
人形師「わぁたしはぁああ!!テェクニシャンですからねぇ!!」
--雪の町--
アッシュ「はっ、はっ、はっ……」
ゴーレム「ぶるるる……」
アッシュ(8体くらい沈めたか……しかしまだ……)
アッシュの目の前には20体以上のゴーレムが。
アッシュ(毒沼を警戒して近づいて来ない。時間が稼げるならそれに越したことはないな。このスキルは魔力消費がでかくてきついぜ)
ゴーレム「ぶるるるる」
ゴーレム達はスクラムのようなものを組み始めた。
アッシュ「?……なんだ?」
なんとゴーレム達は、4体がかりでゴーレムを投げ飛ばした。
アッシュ「なっ!!」
ズシィン!!
アッシュの作りあげた毒沼を飛び越えて、ゴーレムはアッシュの傍らにまでやってきた。
ゴーレム「ぶるるるるるる!!!!」
ゴッ!!!
腕を振りまわしただけのゴーレムの一撃。
アッシュ「!!」
しかし防御の薄いアッシュには十分すぎる威力。思いきり民家に叩きつけられ血を吐いた。
--雪の町--
アッシュ「……がはっ……」
頭部からも出血し、その血が目に入った。
アッシュ(やっべぇ……せめて人形師達と戦って無ければこんなには……)
ゴーレム「ぶるるるるる!!」
アッシュ「……って、言い訳がましいな俺」
ゴーレム達は次々にこちらへと飛んでくる。
アッシュ(ツインテ達は……ちゃんと俺を蘇生させてくれるだろうか)
ゴーレム「ぶるるるるるるるあ!!!」
ゴーレムの腕が振り下ろされた。
--雪の町--
?「ん、御苦労、一般市民」
アッシュ「……?」
アッシュが目を開くと、そこには左腕の無いゴーレムが尻もちをついていた。
ゴーレム「ぶ、ぶるるるる……」
?「あんまなぁ、例えモンスターだろうとなんだろうと、むやみにぶっ壊したくないんだけどなぁ」
ゴーレム「ぶるるるるるる!!」
ゴーレム達は再び発射台を形成、屋根の上にいる男に向けて同胞を射出した。
?「……効果付与、貫通」
ギリリリ、と何かが絞られる音が聞こえた。
ズガアアアアン!!
ゴーレム「ぶ、ぶるるるるるるる!!」
アッシュ「……!!」
今度は下半身の無いゴーレムが宙から降ってきた。
?「仕方ねぇ、ちゃっちゃと終わらすか」
アッシュ「!!アンタは!!」
--雪の町--
人形師「ちぃ……硬いですねぇ……一体誰がこれを作ったというのでしょう。わたしは決定打に欠けるんだからそこらへん考慮していただきたいものですねぇ」
ツインテ「ポニテさん、錬金術師さんいましたか!?」
ポニテ「いないー!!どこだよー猫ちゃーん!!」
人形師「……まじめに闘っているのに外野はうるさいですし……仕方ありません。有効かはわかりませんが奥儀使いますが」
巨大ゴーレム「ぶるっるるああああああああ!!」
巨大ゴーレムは右足の照準を人形師に合わせ、踏みつぶさんと下ろす。
ツインテ「あ!!こっちのがれきの中にいました!!ポニテさん、手伝ってください!!」
ポニテ「おけー!!」
人形師「奥儀、って本当外野うるさいですねぇ!!あ」
ドズズズズズン!!!!
--雪の町--
人形師「わ、わたしとしたことが……」
巨大ゴーレムの攻撃から逃げ遅れた人形師は左足を踏み砕かれてしまう。
人形師「この程度のことで精神が乱れようとは……ダルタニアン」
ダルタニアンと呼ばれた人形が動き、レイピアで人形師の左足を切断した。
人形師「ゾロ」
ゾロと呼ばれた人形が人形師の左足の付け根に抱きつく。いやらしい意味では無くて。
人形師(ごっそり魔力が無くなりました……よもや不可能でしょうが)
人形師「わたしにも北の三隊長としてのプライドがありますからねぇ!!奥儀、オールドール!!」
人形師は自分の魔力を糸に変え、巨大ゴーレムへと伸ばした。
ギシッ
巨大ゴーレム「ぶ、ぶる?」
人形師「さぁ、このまま、わたしの人形になってしまいなさいな」(それが駄目でもここで足止めせねば)
ポニテ「あー!息してないよー!?ツインテちゃん、人工こきゅー人工こきゅー!!」
ツインテ「えぇ!?ボクがやるんですか!?ポニテさん女の子なんだからポニテさんのほうが」
人形師「君達は平和ですねぇええ!!」
--雪の町--
錬金術師「……う?」
ツインテ「あ!気がつきました!?ヨカッタデスー///」
ポニテ「結局一通り全てやったツインテちゃんでした」
ツインテ「言わないでください!!」
錬金術師「!!そうだ!!お父さん!!」
ガバッ
ツインテ「きゃっ!?」
錬金術師は飛び起きて目の前の巨大ゴーレムを凝視した。
錬金術師「……なんで……なんでこんなことに。お父さんは?」
ポニテ「……なんだー、やっぱり錬金術師ちゃんがやったのかー」
ツインテ「へ?何言ってるんですか?」
錬金術師「なんで……なんで……」
--雪の町--
?「ふぃー。矢は消耗品なんだから勘弁してくれっての」
アッシュ「……」
アッシュが戦っていたゴーレム達は、全て土塊と化した。目の前の男の手によって。
?「坊主、大丈夫か?治療出来る奴に見てもらった方がいいな」
アッシュ「……っぐ、大丈夫だ。まだあの巨大なゴーレムの所に仲間がいるんだ、俺はそれを」
?「そっか。ふふぅん、そうだよな。やっぱ男の子はそうでなくなっちゃぁな!!」
アッシュ「?」
?「仲間を助けるためならば自らの犠牲も厭わないってな!!……さて果たして俺はあの時どうだったか」
男は何かを考えるように宙を見つめる。
?「うん、だがまぁ、あれも俺にまかせろ。お前はもう戦えない」
男は俊足を生かして巨大ゴーレムへと向かった。
アッシュ「……北の3隊長、最強の……」
アッシュの意識はそこで途絶えた。
--雪の町--
巨大ゴーレム「ぎ、ぎるるるるる!!」
ギシッギシギシッ!!
人形師「ふ、ふふ……さすがに無理が……ありましたね……もう」
召喚士「人形師!!遅くなったでやんす!!」
人形師「いえ、早いくらいですよ……ちゃんと間に合ったんですから。では、受け継ぎたいとおもいます」
巨大ゴーレム「ぐるっるるあああああああああ!!!!」
ブチブチブチいいい!!
巨大ゴーレムは人形師の魔力の糸を全て振りほどいた。そして、
召喚士「!!人形師!!!!」
人形師「後は頼みました」
グシャア
召喚士「人形師いイイイイイイイイイイイ!!!!」
--雪の町--
ポニテ「錬金術師ちゃん、あれ、貴女がつくったんだよね?」
錬金術師「……ブツブツブツ」
ツインテ「え?え?えぇ?!」
ポニテは錬金術師の前に立ちはだかり、真正面から目を見据える。
ポニテ「あれを止める方法は?」
錬金術師「……し、知らない……だって……私お父さんを、お父さんを作ったのに」
ポニテ「でもあそこにいるのはおっきなゴーレムじゃん」
錬金術師「知らない……お父さん……」
ツインテ「ダメですよポニテさん!!錬金術師さんも混乱してます!!」
ポニテ「……っ!!でも!早くしないと町ごと、国ごと破壊されちゃう!!」
錬金術師「!!」
--雪の町--
ピチャリ
巨大ゴーレムが足をあげるとそこには無残な姿の人形師がはりついていた。
召喚士「……任務ご苦労でやんす……後は……後はオイラに任せるでやんす!!」
召喚士は魔力で召喚陣を描き詠唱を開始する。
召喚士「ハラペコライオンアホ毛にサッカー!!我の下に来たれ!!剣王!!!!」
まばゆい光とともに魔法陣の中から剣を持った人物が現れた。
召喚士「オイラの最強召喚獣の力、見せ付けてやるでやんす!!」
剣王「問おう、あなたが私のご主人か」
--雪の町--
剣王は対峙している巨大ゴーレムこそが、自分の召喚された理由であると即座に判断した。
剣王「これはゴーレム?……なんと大きい。外見もさることながら内に内在する魔力量も馬鹿にできない。民衆に被害が及ぶ前に仕留めます。シロウ、行きますよ」
召喚士「オイラはそんな名前じゃないのでやんす」
剣王は手にした剣を構えた。
巨大ゴーレム「が……がぁ?」
巨大ゴーレムがたじろぐ。構えた剣王から発せられる未知数の力を恐れて。
剣王「X……カリバァァァァァァァ!!!!」
ズバシャァァァァ!!
夜空を貫く圧倒的閃光が巨大ゴーレムに直撃する。
巨大ゴーレム「が、ギャアアアアア!!!!」
堅固な外装が強烈な魔力にあてられ、ぼろぼろと崩れていく。
ポニテ「い、いける!?」
ツインテ「すごい……!!」
--雪の町--
ズゴォォォォ!!
剣王「ああああああああ!!」
巨大ゴーレム「おおおおおおおお!!」
召喚士「やんすうううううう!!」
剣王「アイムハングリー」
バシュッ
ツインテ「……え?」
後一歩というところで剣王は消えてしまう。
召喚士「く、くっ!!剣王は魔力消費が激しいのが難点でやんす……」(他の場所で魔力を使わないでいれたなら……)
巨大ゴーレム「が……がふ」
巨大ゴーレムは半身になり、その身は崩れ始めていた。
召喚士「そこのお嬢ちゃん達……」
ツインテ「?」
召喚士「……逃げるでやんす」
ドサッ
ポニテ「魔力を使い果たして死んじゃった……」
--雪の町--
巨大ゴーレム「だぁぁぁぁぁぁぁ!!」
半分しか無い顔で巨大ゴーレムは咆哮する。
ツインテ「う、うあ!!ちょ、聴覚保護×27」
ツインテは、ポニテと錬金術師、それと兵士達に魔法をかけた。
ポニテ(音関連の魔法は風と水だった気がしたけど。ツインテちゃん器用だなあ)
錬金術師「お父さん……」
錬金術師は巨大ゴーレムを見上げている。その目には、苦しみ、絶叫する先代牧師が映っているのか。
--雪の町--
ゴーレム「ハヨセナハヨセナ」
ゴーレム「ハヨセナハヨセナ」
ゴレイヌ「キムヨナキムヨナ」
ゴーレム「ハヨセナハヨセナ」
ゴーレムが一斉に巨大ゴーレムに駆け寄ってきた。
兵士「な、なんだこいつらは!?」
そして、
ガシッ
巨大ゴーレムにつかまり登っていく。
ポニテ「……何がしたいんだろ……」(アッシュ君を残してきた方向からは来てない。だから突破されたわけじゃないんだろうけど……大丈夫かな)
巨大ゴーレム「おおおおお!!」
ツインテ「!?ゴーレムが……巨大ゴーレムと融合している……」
巨大ゴーレムは失った部分をゴーレムとの融合で補うだけにとどまらず、以前の姿すら凌駕する大きさを手に入れた。
巨大ゴーレム改めアークゴーレム「ごおおおおおおおおおお!!」
--雪の町--
ツインテ「こ、こんなの……倒せるわけない……」
パチパチパチ
牧師「いやいやご苦労様でした。剣王を出された時はひやひやしましたが……。うん、想像していたのより少し小さいですが上々ですね」
ポニテ「!?牧師さん……」
錬金術師「っ!牧師……これ、変だよ……お父さんじゃ……」
牧師「やはり貴女は天才でした。これだけ強力なゴーレム、一人でなんてとてもじゃないですが作れませんよ」
ツインテ「……牧師さん、貴方、まさか」
牧師「スキル、人形奪い」
牧師の手から糸が伸び、アークゴーレムの全身に絡んでいく。
アークゴーレム「ごおおおおおお!!」
ポニテ(本当の職業は人形師!?)「そんなでっかいのなんて操れるわけない!!」
牧師「普通なら……そうでしょうね」
途端、牧師の右腕が黒い魔力で覆われていく。
ツインテ「な!……なに、この嫌な気配は……」
ポニテ「!?これって」
牧師「この魔王の骨の一つ、無亜の腕輪が無ければね!!」
--雪の町--
アークゴーレム「ま、ますたー」
牧師「上書き完了……行きますよアークゴーレム。愚かな北の王達を殺しにね」
錬金術師「なにいってるの……それにその腕輪、その精霊の腕輪!お父さんの媒介の一つにしたはずなのになんで」
牧師「久しぶりに同世代の人間と会話して気でも緩んだんですか?あれはこれの模造品にすぎません」
ポニテ(はめられた……)「貴方がやらせたのね!?錬金術士ちゃんに!!」
牧師「ふふふ……」
錬金術師「そんな……私の技術が足りないからゴーレムになっちゃうんだって……だから何体も何体も、町のみんなに迷惑がかかるのを知りながらも作ってきたのに!!」
牧師「……完全に死んだ人が生き返るわけが無いじゃないですか。優秀な貴女のことだ、心のどこかでわかってたんじゃないですか?」
錬金術師「!!」
--雪の町--
錬金術師は崩れるように地面に膝をつく。
錬金術師「だって……お父さん生き返るって……精霊の腕輪があれば……」
錬金術師の頬を一筋の涙が伝う。
ツインテ「……」
ツインテは杖を構えて牧師を見上げた。
ツインテ「ひ、ひどいです。人が故人を想うのは当たり前のことなのに……牧師様はそれを利用したんですか?」
牧師「それが何か?私は錬金術師の才能をフルに生かしたに過ぎません」
ツインテ「……想いは人が利用していいものじゃない!!」
牧師「人はなんだって利用する。人の死でさえ。葬儀屋は人がいっぱい死ねば喜ぶんですよ?仕事が増えて」
ポニテ「うるさい」
ポニテが剣を担いで走りだす。
ポニテ「ツインテちゃんの言う通りだ!だからこんなものは私が」
ポニテの剣が炎を纏う。
ポニテ「私がぶっ壊してやる!!」
ドガァァァン!!
--雪の町--
牧師「は、そんなもの」
アークゴーレム「ごあああああ!!」
ツインテ「ポニテさん!」(潰された人と魔力尽きた人を蘇生すれば……いやでも魔力まで回復出来ないし……こんな状況で魔力を無駄使いはできない)
無駄と言い切るまじ天然。
ツインテは錬金術師を見る。彼女は巨大なゴーレムをずっと目で追っていた。
ツインテ(錬金術師さんのためにもあれは必ず、止める!!)
牧師「さらに巨大になった分、小さな人間の相手をするのは面倒くさいですね。ならば」
牧師から黒い魔力が放たれる。すると夜空から三匹のガーゴイルが現れた。
錬金術師「!!!!」
牧師「さぁ行け我が傀儡。あの羽虫共を食い散らせ」
ガーゴイル「あぎゅるるる!!」
--雪の町--
錬金術師「お、お父さんを殺した、モンスター!」
ツインテ、ポニテ「!?」
錬金術師はガーゴイル達を見て頭を抱えた。
錬金術師「なんでなんでなんで!!」
ツインテ「まさか……教会を襲ったのも貴方なんですか……?」
牧師「答えてやる意味がないですね」
ガーゴイル「ぎゅるあああ!!」
ツインテ「!!」
ガキィィン!!
ツインテは空から襲いかかるガーゴイルの爪を杖で弾く。
牧師「貴女たちはガーゴイルと遊んでいなさい。進め、アークゴーレム」
アークゴーレム「ごあああああ!!」
--雪の町--
ポニテ「っ!!邪魔よ!!」
ガギィン!!
ガーゴイル「ぎゅるあああ!!」
ポニテ(こんなのに力を消耗してられないのに!!)
人形師「おぉどきなさぁい」
ツインテ「!?潰された人!!」
兵士「すいません人形士殿。蘇生で手一杯で魔力の方は……」
人形師「いやいや、い~い働きをしましたねぇ」
人形師はジャックでガーゴイルに切り掛かる。
人形師「……そこの白雪猫のお嬢さぁん。ガーゴイルというのはですねぇ、北の王国の親衛隊選抜試験でよく使われるモンスターなのですよぉ」
錬金術師「……?」
--雪の町--
人形師「ガーゴイルは手軽に強い部類ですからねぇ。ガーゴイルを切れれば剣士として、射てれば狩人として、また操れれば人形師としてそれぞれ親衛隊の近衛兵になれるのでぇす」
ツインテ「そんなモンスターがなんでここ、にっ!!」
ギャァン!!
ガーゴイル「ぎゅるあああ!!」
人形師「それがもし召喚士や人形師であれば、最初の手持ちとして使われるくらいのポピュラーなモンスターなのです」
ツインテ「無視ですか!?」
人形師「北の王国では、親衛隊で無くとも使う人が多いモンスターでぇす。だから二年前……貴女のいた教会を襲ったガーゴイル達は、人為的に放たれたものだったのでしょう」
錬金術師「!!……」
人形師「しかしぃ、三体同時に操るとなると話は違いまぁす。北の王国、いや、世界最強の人形師と言っても過言ではないワタシですら骨がおれまぁす」
ポニテ「……じゃあ犯人はもしかしておじさん?」
ポニテは人形師を指差した。
人形師「……いや確かに能力的にワタシクラスでないと無理ということを言いたかったのではありますがぁ」
--城下町--
アークゴーレムとその肩に乗った牧師が町を踏みつぶしながら歩を進める。
ズシン
北の国民「う、うわあああああああああ!!」
牧師「ふふふ……私の力を理解しなかった愚か者どもめ……」
アークゴーレム「ごああああああああああああああ!!!!」
?「あっちゃぁ……被害甚大だわ」
家の屋根を走りながらアークゴーレムに向かう影が一つ。
?「……しかもなんであいつがあれに乗ってるのよ」
弓と矢を担いだ青年は跳躍する。
--雪の町--
人形師「ワタシ以外にこんなことが出来る人間がいるとすればただ一人ぃだけいるんですよぉ」
ツインテ「流れでわかります。牧師様なんですね……」
人形師「……っち。昔々ぃ、親衛隊選抜試験を受けに国民が集まりましたあぁ。その中にぃ後の親衛隊隊長になる男と、奇妙な力を持った
男がいましたぁ」
ツインテ「舌打ちしたっ!そして何事も無かったかのように!!」
人形師「奇妙な力を持った男はぁ、今までの常識や経験を打ち崩すような不可思議な魔力を操っていましたぁ。確かに戦力は目から喉が出
るほど欲しいですが」
ツインテ「きもちわるっ!!」
人形師「得体のしれないものを王の傍に置くわけにはいかなかったのですよぉ」
ポニテ「……」
ガーゴイル「ぐるるるあああああ!!!」
人形師「ジャック!!」
ギィンン!!
人形師「……彼からしたら屈辱だったんでしょうかねぇ。ライバルのような関係だった男は今や親衛隊長で、自分は親衛隊にすら入れなか
ったのですからぁ」
ポニテ「そんなの牧師が逆恨みしてもおかしくないじゃん!!奇妙な力って言うならなおさらなんで放っておいたの?」
人形師「……お嬢さんのおっしゃる通りなんですが……。どうも、説明しにくいんですがね。危険だなぁとは思ったんですよ?帰り道人気
の無い所でさらっちゃおうとか思ったんですよ?でもなぜか失敗しました!てへっ!!」
ツインテ「……無能さんでしたか」
--城下町--
?「効果付与、貫通」
青年が弓を引き矢を放つ。
ドシュっ
青年の放った矢はなんの抵抗も無くアークゴーレムの左足を貫いた。
アークゴーレム「あごおう!?」
?「……むぅ。あんだけでかいとちょっと穴空いたくらいじゃ意味ないか」
牧師「ん?……!!お、お前!!」
--雪の町--
人形師「多分そういう能力も持っているのでしょう。自分の存在に霞をかけるような……現に教会が襲われた時、ワタシ達は現場に行った
のですぅ。そこに彼がいた。そして事情聴取もした。なのにその場では彼のことを一ミリたりとも疑ってなかったのでぇす」
ポニテ「……それが本当なら結構めんどくさい?」
錬金術師「ガーゴイルを!!ガーゴイルをあの時操ってたのは牧師お兄ちゃんなの!?」
ツインテ「……錬金術師さん」
人形師「おそらくyesです」
--城下町--
?「よぉ、久しぶりだな。おっちゃん達の葬式以来か?」
牧師「えぇ……そうですね」
?「……なぁにやってんだよ~。あんだけ国のために尽力して見せるとか言ってたお前が、今は国壊してんじゃん」
牧師「……だまれ」
?「狙いはあれか、俺か。二人で受けに行って俺だけ受かっちまったから」
牧師「!!……今はそれだけで動いちゃいません。あの時はついむしゃくしゃして憂さ晴らしをしてしまいましたがね」
?「やっぱ……お前がみんなを殺しちまったんか」
牧師「えぇ、本当は前から邪魔だったんですよ。試験も近いっていうのに汚い餓鬼を拾ってくる先代牧師やうるさくて私の時間ばかり奪い
取る羽虫ども。あんな奴らの世話ばっかしてたから試験にも落ちたんだと」
ドシュ
その時矢が牧師の頬をかすめた。
?「死んだ奴の悪口言うんじゃねーよ」
--雪の町--
錬金術師「っっ!!」
錬金術師は駆けだした。アークゴーレムが通ってできた道を。
ツインテ「!!危ない!!」
ガーゴイル「ぎゅるるるああああ!!」
錬金術師「!!」
ギャンン!!
ポニテ「ばかっ!!錬金術師ちゃんさっきから全然現実見てないよ!!」
ポニテが間一髪でガーゴイルの攻撃を払いのける。
錬金術師「あ!あ、あ、私行く!!私が止める!!」
ツインテ「錬金術師さん、でも今は」
人形師「しかたありませんねぇ、お嬢さん達は行きなさい。ここはワタシと兵士達でなんとかしのいで見せましょうぉ」
ポニテ「おじさん、大丈夫?結構きついでしょ?」
人形師「は、何を言ってらっしゃるのです。ワタシはここよりも危険な所へ行けと言ってるんですよぉ?」
人形師とポニテはしばし見つめ合う。
ポニテ「……へへっww行くよツインテちゃん、錬金術師ちゃんを護りながらでかゴーレムの所へ!!」
ツインテ「え?え?だ、だだ大丈夫ですかね!?一応ボク達のことも考えて言っておきますけど」
--城下町--
牧師「へぇ、貴方が怒るとは思いませんでした。へらへらしてるだけでろくに感情なんて無いと思ってましたから」
?「むぅ、また気にしてることを……」
牧師「アークゴーレム」
アークゴーレム「ごああああああああああ!!!!」
牧師「いくら貴方が北の王国最強だとしても……こいつに勝てるでしょうか?」
?「さぁ、わからん。そもそも最強だなんて思ったことないしな」
牧師「……やれ」
--城下町--
ドズウウン
ツインテ「!!す、すごい地面が揺れて!!」
ポニテ「怪獣大決戦だね全く~」
錬金術師「は、は、は!!」
三人は潰れた家屋の上を走っている。
ポニテ「すぐ近くに見えるんだけど……やっぱり中々追いつかないね」
ツインテ「それだけあれが巨大だっていうことなんだとおもいます」
ポニテ「……うん、あんまり近すぎても駄目だね、錬金術師ちゃん、すとーーぷっ」
錬金術師「にゃっ!」
錬金術師を抱きかかえるポニテ。
錬金術師「は、はなしてっ!」
ポニテ「いや、だって前」
ゴゴオオオオオオ!!
ものすごい泥の塊がツインテ達の方へと飛んできていた。
ツインテ「に、逃げて下さいーーー!!」
ドオオン!!
--城下町--
牧師「な、なんだと……?」
?「効果付与、切断……うん、これは中々有効だな」
アークゴーレム「が、あがああ」
呻くアークゴーレム。その左腕には、鋭利な刃物で斬りおとしたかのような断面がある。
牧師「効果付与……ここまでやっかいとは……ならば」
?(このままのペースでいっちゃぁくれないよなぁ。ん?)
青年は気配を感じて後ろを振り向いた。すると、
ポニテ「あー、あっぶなかったねぇ、まるでインディジョーンズだったね!」
ツインテ「ぼ、ボクは死ぬかと思いました……」
錬金術師「にゃ、にゃあ……」
牧師「何を見て、!」(あれは……)
アークゴーレム「ごあああああああああ!!」
アークゴーレムが右腕を振り回した。
ポニテ「あ」
ドゴオオオンン!!
--城下町--
ツインテ「あ、ああががあああ」
ポニテ「あ、あれ?死んでない」
錬金術師「……お兄ちゃん」
?「ったく。女子供が戦場にでてくんじゃありませんってーの」
青年は一瞬でツインテ達三人を抱えて移動していた。
ドサ
?「ほら、もうお前らががんばってどうこうっていう相手じゃないから。帰んなさい」
錬金術師「!!や、やだ!!」
錬金術師は青年の服を掴みながら叫ぶ。
錬金術師「もう何がなんだかわからないけど、でも、私の作りだしたあれを早く止めないと、私みたいなのが!!」
?「……だから下がってろって。俺が代わりにやってやるから。それともなんか策でもあんのか?」
錬金術師「……うん!!」
牧師「そこにいましたか……相変わらずすばしっこい」
アークゴーレムがツインテ達の方に向きを変える。
ツインテ「わ、わわ!!また来るみたいですよ!!話し合いは後にしたほうが!!」
ひょろっとした青年は、アークゴーレムに乗る牧師を見上げて言った。
?「おい猫。だったら期待しちゃうかんな。時間稼ぎしてやるから頼むぞ?」
錬金術師「あ……う、うん!!」
牧師「……貴女達まで邪魔を……いいでしょう。旅の勇者一行、錬金術師、そして狩人!!全部まとめて排除してあげます!!」
?改め狩人「まぁお手柔らかになぁ」
--城下町--
ポニテ「狩人って……あの?」
ツインテ「こんなに若かったんだ……」
狩人はアークゴーレムに向かって駆け出した。
牧師「む……」(これ以上アークゴーレムを削られるわけには……)
牧師の腕輪が黒い光を発する。
狩人「いやな気配だなぁそれ……効果付与、転倒」
狩人はアークゴーレムに矢を放った。
しかし、黒い魔力が矢をかき消した。
狩人「!」
ツインテ「な!!」
牧師「う、うぐっ!!」(この心臓をひっかかれるような痛み……長くは使えないですね)
--城下町--
ツインテ「錬金術師さん、どうするんですか?いくら狩人さんでも長くは持たないです」
錬金術師「……一度だけ読んだことがあるの。禁術の書」
錬金術師は服の内側から敷布を展開させる。
ポニテ「禁術?なにそれ」
錬金術師「威力や用途、効果が異常なもの」
ツインテ(まさかこの場で作る気なんですか……ん?術?)
ポニテ「錬金術師ちゃんて、職業は名前通りでいいの?」
錬金術師「うん」
ツインテ「……錬金術師って、魔法とかスキルまで作れるんですか?」
錬金術師「!!」
錬金術師はびくりと反応した後、全く動かなくなる。
錬金術師「わ、私なりに武器として再現しようと思うんだけど……」
ポニテ「……実体の無い物を実体にかぁ」
--城下町--
ドゴォォン!
アークゴーレム「ぐぉぉぉ!!」
アークゴーレムは拳での直接攻撃をやめ、家屋を破壊してその瓦礫で攻撃する戦法をとる。
ドゴゴ
狩人「っづ!……ってーな」(被害は増えるし、あーもう)
狩人は背中の矢籠から矢をを取ろうと腕を伸ばす。
狩人「ん?」
スカ
しかしすでに矢は射ち尽くしていた。
狩人「やぁぁべ」
--城下町--
錬金術師「これから擬似エリクシルに形を与える……」
錬金術師は瓶から緑色の液体を取り出した。
ツインテ「すごい……水なのに水じゃないみたい」
エリクシルはまるで粘土のように姿を変える。
錬金術師(維持するだけでも魔力がかかる……さらに形成と能力を付加するのに一体どれだけ)
ガクン
錬金術師の意識が飛びそうになる。これまでに消耗した体力と魔力がピークを迎えようとしていた。
錬金術師(!!……っだめ!!ここで倒れたらだめ!!)
しかし錬金術の意志とは無関係に、体は機能を停止しようとしている。
錬金術師「う、うう!」
ポニテ「錬金術師ちゃん頑張って!!火が必要なら言ってね!?」
ツインテ(禁術の力を付加するだなんて、あり得ないことをやろうとしてるんだ……今の錬金術師さんには……)
錬金術師「あ、あぐっ」
エリクシルは徐々に形を成そうとしていたのだが、錬金術師の指は動かなくなってしまう。
錬金術師(動け、今動かないとなんの意味もないの……動け動け動け動け)
魔力が流れなくなったエリクシルは、元の水の性質に戻りつつあった。
錬金術師「……っう!!もう……だめ」
ガシッ
錬金術師「にゃんっ!!」
ツインテが錬金術師を後ろから抱き締める。
--城下町--
ツインテ「ご、ごめんなさい、嫌だろうけど少しだけ我慢して下さい!!」
ポニテ「キマシタワー」
錬金術師「な、な……にゃっ!?」
錬金術師は自身の体に流れ込む魔力を感じた。
ツインテ「これから魔力譲渡、疲労回復、思考力上昇を同時に行います。錬金術師さん……ここが正念場です。頑張って下さい!!」
錬金術師「す、すごい……ぽかぽかする……」
錬金術師は未だ味わったことの無い魔力の量に驚いている。
錬金術師(……あったかい)
閉じかけていた瞼は完全に開き、錬金術師の目に力が宿る。
ギュイイイン
錬金術師は目にも止まらぬ早さで指を動かして錬成を再開する。
錬金術師「……ありがとう」
ツインテ「え?」
錬金術師「クッキーのお礼も……まだだった」
ツインテ「あ、いえ」
錬金術師「名前も……まだ聞いてない」
ツインテ「あれ……そうでしたっけ?」
錬金術師「全部終わったら必ずお礼する……」
ポニテ「お礼!?楽しみー!!」
錬金術師「だから、お願い、力を貸して」
134
--城下町--
牧師「矢の無い弓兵なんて、どうとでも料理できます。……詰みましたね」
狩人「どうかなー」
狩人は飛んでくる家の破片を紙一重で交わしていく。が、さすがに量が多すぎる。狩人は回避から防御に切り替えた。
ガガガ
牧師(おかしいですね……常時発動スキル、『見切り』の効果が薄い?……なるほど、あの子達を庇った時にすでに)
狩人(あたた……腹部の内出血が思った以上に致命打だ……戦闘維持のために苦痛緩和の魔法使わなきゃなんないし、見切りに回してられん
……もって2分か)
--城下町--
ギュイイイン
ポニテ「形はあっという間にできたね。槍?」
錬金術師「ふっ!!……これから効果とそれを発動するための魔力を注ぎ込む」
ギュイイイン
錬金術師は赤い槍に魔力を注入していく。
錬金術師(……それにしても信じられない。これほど魔力を使ってるのに……全然供給の量が変わらないなんて)
ツインテ「もうちょっと勢い強くしていいですか??」
--城下町--
牧師「……うん?」
牧師が巨大な魔力の存在を認知する。
それは錬金術師達が作る槍から発せられていた。
牧師「このゴーレムを作るだけでも膨大な魔力と精神力を必要としただろうに……」
牧師はアークゴーレムの向きを変更する。
牧師(確実に止めをさしておかないと、この狩人、何をするかわかりませんが……仕方ありません。今はあっちのほうが気になります)
アークゴーレム「ぐおおおおおおおおおおおおおお!!」
ズシンズシン
狩人「あっ。あーあ……行っちゃった。ちくしょう追いたくねぇー」
狩人はアークゴーレムを追いつつ武器になりそうなものを探す。
狩人(魔力媒体として有効なもんがなかなかねぇなあ……ん)
狩人が見つけた物はガラスの破片。
狩人(……んー、仕方ないかぁ)
--城下町--
ポニテ「!!こっちにくる!!」
ツインテ「そんな!!狩人さんは負けたんですか!?」
錬金術師「……」
錬金術師の作る槍はまだ完成していない。
ポニテ「……もうちょいでできるんだよね?」
ポニテは剣を構えて一歩前へと進んだ。
ツインテ「!!ポニテさん、何を!!」
ポニテ「私も時間稼ぎにしにいってくるよ!!後よろしく!!」
ツインテ「だ、駄目です!!待って下さい!!」
ポニテ「ツインテちゃん、でも私が時間稼ぎしないとどの道やられちゃうよ?」
ツインテ「で、でも駄目なんですよ!!多分この槍……投擲するにもかなりの魔力を必要とする気がするんです……」
ポニテ「え?」
錬金術師「……うん。これ投げるにも魔力いる。いっぱい。強い物にはリスクや素養が必要なのはは当たり前」
ポニテ「じゃあ、どうしたらいいのかなっ?私」
ズシンズシン
--城下町--
牧師「本当のことを言うとですね。優秀な貴女だけは生かしておこうと思ったんです。錬金術師」
錬金術師「……っ!!」
牧師「でも全てを知っているようですし……ここで終わりにしましょう」
アークゴーレム「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
兵士「今だ!!」
牧師「!!」
家屋の残骸に隠れ、無数の兵士達がアークゴーレムの足元へと集まって来ていた。
兵士「地形変化、水!!」
ズボッ
アークゴーレムの右足が地面の中に埋まっていく。
牧師「範囲もせまく片足だけ?……そんなもので」(時間稼ぎか)
--城下町--
兵士「北の兵士を、なめるなあああああああああああああああああああ!!」
プチ
ポニテ「あぁ!!」
プチプチプチプチプチ
ツインテ「いやあああああああ人間が気泡緩衝材の如く踏みつぶされていく!!!!」
プチプチプチブチュプチ
ポニテ「なんかワインの作り方思い出すね♪」
ツインテ「言ってる場合ですか!!」
--城下町--
牧師「たく。弱いくせに……」(結構楽しかったです)
アークゴーレムは再びツインテ達の方へと体を向ける。
錬金術師「!!」
ツインテ「錬金術師さん!!って、見るからにまだ終わってないですよね……」
ポニテ「やっぱり私が時間稼ぎに行くしかないよ!!」
アークゴーレム「ぐおおおおおおおおおおおおお!!」
錬金術師「もうちょおおおいいいいいいい!!」
ツインテ「っっ、それしか、ないですね」
牧師「あなたたちもさっさと潰れて下さい」
アークゴーレムは右足を持ち上げた。
--城下町--
ドガアアアアアン
牧師「!?」
アークゴーレムの右足に何かが着弾、そのまま体勢を崩してアークゴーレムは町に倒れ込んだ。
ドドオオオン!!
牧師「これは……効果付与、転倒!?」
牧師が睨んだ先には、
狩人「ふぃ~……」
左足の無い狩人が血まみれの状態で座っていた。
牧師「!?」(まさか今の攻撃は……自分の足の骨を)
狩人「もう魔力も体力も限界。そろそろなんとかしてもらわんと困るぜよ、若人」
--城下町--
牧師「最後まで……邪魔をしますか貴方は……」
ズズズズン
アークゴーレムは両手をついて立ち上がった。
狩人「あー、あったまくらくらしてきたあああ」
牧師「やはり貴方はさっさと殺すべきでしたね」
ギュウウイイインン!!
牧師「!!」
牧師はとてつもない魔力の発生を感じた。
牧師(この……アークゴーレムと同等クラスの魔力量!?)
ツインテ「で、でき……た?」
--城下町--
錬金術師「でき……た!」
錬金術師が最後に手を加えると、赤い錆色だった外装が崩れ、中から銀色に光り輝く槍が出現した。
錬金術師「何十年も前に作られた禁術魔法、『呪いの槍』!!」
ツインテ「いっ!?」
魔力の鎖から解き放たれた呪いの槍をポニテが掴み取る。
ずしっ
ポニテ「……なるほどね。こっちも魔力で防御してないと吸い上げられちゃいそうだね!」
ツインテ「の、ののの呪いの槍!?超超超危険魔法じゃないですか!!」
ポニテ「え?禁術って言ってるくらいだし危険なのは当たり前なんじゃないの?」
ツインテ「それは確かにそうですけど!!」
牧師「の、呪いの槍!!馬鹿な!!」
--城下町--
牧師「あの奥儀を……錬成で再現しただと……?」
牧師はあからさまに動揺している。
ポニテ「これ、どうやって使うの??」
ポニテは手の呪いの槍を振りまわす。
ツインテ「ぎゃああーーーー!!やめてやめてやめてーーー!!」
ツインテは慌ててポニテの腕に飛びつく。
ツインテ「駄目です駄目っ!!そんな粗末に扱わないでください!!」
ポニテ「あはははっ、ツインテちゃん慌ててる。おもしろーい!!」
ツインテはポニテの顔に自分の顔を近づける。
ツインテ「いいですか?呪いの槍はですね!投げた相手の寿命を削る槍なんです!!」
--城下町--
ポニテ「えっーと。どういうこと??」
ポニテはぽかんとした顔でツインテに尋ねる。
ツインテ「呪いの槍は投擲武器です。標的に向かって投げた瞬間効果は発動。その時から、呪いの槍と対象との距離がそのまま相手の寿命に
なります!!」
ポニテ「ほえ??」
ツインテ「だっだだだからですねっ、呪いの槍が進んだ距離だけ対象の寿命が無くなるってことです!!当たっても当たらなくても寿命をご
っそり削れる、もちろん直撃すれば……即死ですね……」
ポニテ「……まだ若くても?」
ツインテ「若くても」
ポニテ「生物じゃなくても?」
ツインテ「物には物の寿命が存在しますらしいです」
ポニテは自分が掴んでいる槍がどんなものなのかをやっと理解した。
--城下町--
牧師「い、いや、そんなわけがない!!奥儀を錬成で再現できるはずなどあるわけが!!アークゴーレム!!」
アークゴーレム「ごおおおえええええええええ!!」
アークゴーレムはその巨体を揺らし、ツインテ達目がけて走りだした。
ツインテ「!!」
ポニテ「あっぶないねこれ……でもそれならあれ……ぶっ壊せるね!!」
錬金術師(お父さん……)
錬金術師はアークゴーレムを見つめている。
錬金術師(ごめんなさいお父さん……こんな中途半端な形で……こんな)
アークゴーレム(ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!)
ポニテ「さらば泥人形、この国の人達をいじめた報いっ!!受けてみろ!!」
錬金術師「うああああああん」
ドシュっ
--城下町--
銀色の槍が流れ星のように光り輝き、そして
アークゴーレム「お、おごおおおおおおおおおおおお!!」
呪いの槍が接近するに比例してボロボロと体が崩れて行くアークゴーレム。
牧師「まさか……まさか本当に再現したのか!!く、くそおおおおおおおおお!!」
ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!
爆音と同時に土塊が町中に飛び散った。
--城下町--
ツインテ「……た、倒したんですか?」
ポニテ「う、うーん……多分」
錬金術師「うっく、ひっく」
巨大なアークゴーレムが一瞬で弾け飛んだので、実感がわかなかったのだ。
狩人「きったねぇ花火だぜ」
狩人は真っ青な顔で空を見上げていた。日の出間近の空を。
狩人「ち、血が足りねぇ……」
そして気を失う狩人。
ガラガラ
牧師「ぐぅぅ!!」
アークゴーレムの残骸の中から牧師が立ちあがった。
牧師「よくも……よくもアークゴーレムを……」
ツインテ「!?」
--城下町--
ポニテ「あれー?生きてるよ牧師ー」
ツインテ「いや……そうですね。アークゴーレムを対象に投げたから牧師さんには効果が及ばなかったんでしょう。けれど、あの高さから
落下して……」
牧師「ぐ、ぐうぅ!!」
牧師の体を黒い魔力が蝕んでいく。
牧師「ぐああああああああ!!」
錬金術師「!!」
ツインテ「何か……まずい気がします。ポニテさん、私達でなんとかしましょう!!」
ポニテ「え?私だけでいーよーw」
ポニテは剣を担いで走り出した。
ツインテ「え、え!?ぽ、ポニテさんだって呪いの槍を投げる時に魔力を使ったのに!!一人じゃ危険です!!」
ツインテは杖を手にとって駆けだす。が、
ツインテ「あ、あれ」
ドサリ
ツインテは躓いて倒れてしまう。
ツインテ「なんで……なんか、足が思うように動かない」
錬金術師「急性魔力欠乏症……じっとしておいたほうがいい」
ツインテ「え、えええー」
錬金術師(あんなに使ったのに……まだピンピンしてる……でもこんなに使ったことなくて、体がびっくりしちゃったのかな)
--城下町--
牧師「ぐ、ぐううう!!」
牧師は頭を抱え揺らめいている。
そこへポニテが突っ込んできた。
ポニテ「おりゃああああああああ!!」
牧師「!!」
ドゴオオオン!!
ポニテ「!!うそっ!?素手で!?」
ポニテの斬撃は牧師の左腕で防がれた。
牧師「貴様らの……貴様らのせいで!!」
牧師の右手に黒い魔力が結集し、
バフォオオオオオオオオオオオ!!!!
ポニテ「あぐう!!?」
ポニテに注がれた。
--城下町--
ポニテ「あがっ、ぎっ」
ポニテは何度も地面に叩きつけならながら吹き飛ばされる。
ポニテ「な、なんだこれ、こんな魔力属性、知らない!!」
ポニテは剣を拾い上げ、再び牧師へと向かう。
ポニテ「対単体炎属性、レベル3!!」
ゴオオオオオオオオオオオ!!!
ポニテの放つ轟炎が牧師を捕える。
牧師「うおおおおおおおおおおおお!!」
しかしさほど効いたようでも無く、牧師は炎の中から飛び出してきた。
ポニテ「う、うっそー……人形師相手に肉弾戦で押されるなんて!!」
--城下町--
ガインっ、ギャインッ
ポニテ(全然斬ってる感じがしない……なんなんだこの黒い靄みたいな魔力っ!!)
牧師「ふっ!!」
ボッ
ポニテ「がふっ!!」
牧師の左拳がポニテの腹部を打つ。
ツインテ「!!ポニテさん!!やっぱり一人じゃ無理だ……」
錬金術師「でも……もう他に動ける人がいない」
--城下町--
ドボッ
ポニテ「んんっ!!」
牧師「うおおおおおおおおおお!!」
錬金術師「……えと……ツイン……テ?」
ツインテ「え?あ、はい、なんですか?」
錬金術師「まだ、魔力……出る?」
ツインテ「多分、出ますけど」
錬金術師「じゃあまたぎゅってして!!」
ツインテ「!?」
--城下町--
ポニテ「こいつ、どんどん強くなってるよ!!」
ガギィン
牧師「あ、あ、akぎr8473j」
牧師は次第に意識が刈り取られていく。
ツインテ「ポニテさん!!」
ポニテ「!?」
錬金術師「新しい剣よ!!」
錬金術師が大剣を投げるかと思いきや、錬金術師の力では持ち上がらずポニテに手招きをする。
ポニテ「取りにいくの!?」
ポニテは剣で牧師を突き飛ばし、大剣のもとへと走る。
ポニテ「うおおおおおお!!」
牧師「あおいせ8hg92t23t!!」
ポニテ「お、追ってくるよォォ!!」
--城下町--
ツインテ「ポニテさん!!早く早く!!」
ポニテ「そ、そんなこと言ってもおおお!!」
牧師「ふしゅる09あwrg0うぃrg!!」
間一髪ポニテが大剣に手を伸ばす。そして振り返ると同時に、
ザブシュッっ
牧師「ぎゅるるあああああああ!!!!」
ポニテ「あれ?随分あっさり斬れた……なにこれ」
ツインテ「なんでも一定時間だけ魔力のガードを突き破る剣らしいです」
ポニテ「す、すごっ!!」
牧師「あおれがいrhんg9い4hg……」
--城下町--
牧師の傷は見た目以上に深く、そのまま動くことが出来ない。
牧師「が、あおい8rhg384がd」
錬金術師「……あの……」
ポニテ「え?」
錬金術師がポニテの服を掴む。
錬金術師「……お願い、殺さないで。あの、あの腕輪を狙えばおとなしくなると……思うから」
ツインテ「錬金術師さん……」
ポニテ「……おっけー!!じゃああの腕輪だけ斬るよ」
錬金術師「う、うん!!」
ポニテ「せー、のっ!!」
しゅうううう
ポニテ「!!」
ポニテの剣が振り下ろされる前に、牧師の体から黒い魔力の気配が消えた。
カララララン
腕輪が牧師の腕から外れ地面を転がる。
--城下町--
ポニテ「あ、ありゃ?」
ツインテ「勝手に……取れちゃいましたね」
錬金術師「……っ!!」
錬金術師は牧師に駆け寄った。
ザリっ
??「おやぁ、やっと終結でっか?随分と長い間お疲れさんですっww」
ツインテ「?……え!?」
ポニテ「あれ、どっかで見たことある顔」
??「どうも~北の王ですww」
--城下町--
錬金術師「ぼくしのっ、お兄ちゃん……」
牧師「ぐ、ぐふっ……」
牧師は胸を押さえている。
牧師(……ふ。反動に耐えきれませんでした……か。って、貴女は……なんでこんな私を)
??改め北の王「んん?どうやら今回の事件の主犯がここにいるようですなww兵士っ」
兵士「はっ」
ザザザっ
兵士たちは槍を構えて牧師達を取り囲んだ。
兵士「貴様らを拘束する」
ツインテ「!!」
--城下町--
ツインテ「ま、待って下さい!!錬金術師さんはあのゴーレムを倒すのを手伝ってくれたんですよ!?彼女がいなければ」
北の王「えぇえぇ、わかってます。ちなみにゴーレムを作りだしたのも彼女だと言うこともww」
ポニテ「!!」
北の王「でも悪いようにはしませんよ、理由も調べましたからねwwただ我々国家が保護するだけですっ」
錬金術師「……」
牧師「……っふ」
北の王「これからはそのたぐいまれなる才能を国家の繁栄のために、安定のために使っていただく予定なんですねん」
ポニテ「彼女の自由は!?」
北の王「我が国がこんなにも被害を受けたのは創立して以来初めてなんどすwwまさかその元凶を野放しにはしておけないでっしゃろ??」
ツインテ「……っ!!」
牧師「……っおめでたいですね」
錬金術師「!?」
牧師が錬金術師の首に腕を回し盾にした。
--城下町--
牧師「はっ、やっとおめにかかれましたね北の王」
北の王「ふぇ?なんのまねでっか?ww今更そんなことをしても無駄無駄ぁ」
牧師「こいつは貴方達にはあげません。この腕輪で、またこいつを洗脳すれば、いくつでも強力な戦力が手に入るのですから」
北の王「……ふむ」
錬金術師「お、にいちゃ、何それ」
牧師「どうやら今回は失敗のようですね……北の王、貴方の節穴な目と一緒にその頭を握りつぶしてやりたかった!!……だが次の機会に回そうと思います……」
兵士「に、逃がすわけが!!」
牧師「そこを……どきなさい!この娘を殺しますよ!?」
北の王「……その猫ちゃんは我が国の優秀な人材。死なれては困りますわぁ」
兵士「くっ……」
狩人「あーあ。そんな幕引きかよ」
牧師「!?」
瓦礫に座る狩人がそこにいた。
--城下町--
しっかりと両の足で立ち、牧師を見下ろした。
兵士「狩人隊長、まだ完全には治し切れていませんので無理はなさらずに」
狩人「ん」
牧師「……狩人ぉ!!」
狩人「お前の復讐とやらもここで終わり。別になんら大したことはせず、な」
狩人は牧師に向かって歩き出す。
牧師「ふ、ふふ……いいのですか?こいつは私の人形操りによって操作されていた、ただの被害者ですよ?一般市民を犠牲にしてもいいのですか?」
牧師はピアノ線を錬金術師の喉元にあてる。
しかし狩人の歩みは止まらない。
狩人「やってみろよ、俺は速さには自身があんだよ」
北の王「……」
ザっザっ
牧師「!!」
ドシュっっ
--城下町--
狩人が隠し持っていた短剣が牧師の心臓を貫く。
狩人「……効果付与、通し」
ギリッ
牧師「がはっ!!」
牧師の腕から錬金術師が解き放たれる。
地面に倒れ込んだ錬金術師は、上半身だけ起き上り振り返る。
そこには折り重なるように立っている二人の兄がいた。
狩人「……まぁ、最後はまぁまぁ立派だったかな」ボソッ
牧師「……ふん、やっぱりお前は……いけすかない……やつですね」
ドサリ
--城下町--
錬金術師「お兄ちゃんっ!!」
ガシッ
狩人「犯罪者に寄るな」
狩人は駆けよる錬金術師の胴体をもって担ぎあげる。
錬金術師「っ!!だ、だって!!」
狩人「うるせぇ、ちょっとは黙ってろ」
北の王「ふぅぬ」(……調べはついているというのによくもまぁ)
狩人「北の王、今回の事件の首謀者の討伐完了です」
北の王「……ふふふww」
ツインテ「……ど、どうなっちゃうんでしょうか」
ポニテ「わからない」
--城下町--
北の王「子供のお遊戯ってかww」
狩人(……この人だけはだませないか?)
北の王「兵士さんがた、牧師の死体の回収、それと猫ちゃんを牢に入れといてな」
ツインテ「!!」
狩人「……」
錬金術師「お兄ちゃん……」
ポニテ「まって!!」
北の王「おや、どちらさまでっか?」
ポニテ「私は勇者だよっ!!」
兵士「!?」
ポニテ「勇者であるこの私が命じる、その子を私達に頂戴!!」
--城下町--
北の王「おほほほほww勇者?勇者ですって?あいや~ちっさい勇者様もおるんやなぁww」
アッシュ「そう。ちなみにそこのツインテとこの俺も勇者だ」
ツインテ「!?アッシュ君!!大丈夫だったんですね!?」
アッシュ「当たり前だ……」(ちょっと気を失ってたけど)
北の王「おっほほほほwwこんなちびっこ三人組が勇者とはww冗談もたいがいにしたってくださいなww」
ツインテ「ほ、本当です!!ボク達勇者なんです!!」
狩人「……」
ツインテ「げ、げんにゴーレム達もボク達が倒したんですから!!」
錬金術師「……ツインテ」
ツインテ「そして錬金術師さんの力はボク達の旅に必要なんです!!魔王を倒すための!!」
北の王「……貴方達が本物の勇者だという証拠はどこにあるんでっか??どっかの王国から発行された勇者証明書はもってます??」
ツインテ「うっ」(そんなのいるんだ!?)
ポニテ「なにそれ??」
狩人「……駄目だなこいつら」
アッシュ「俺らが必ず魔王を倒す。それが勇者である証拠だ」
ツインテ「アッシュ君!?」
--城下町--
北の王「……未来に期待しろと??」
アッシュ「あぁ、確定した未来を、だ」
二人はしばらくの間見つめ合う。
北の王(……確かにまだ発現はしていないが、血筋的にどれも可能性はある……か)
錬金術師「……」
北の王「そういやぁ……さっきも首謀者である牧師が言ってましたっけ。この子猫ちゃんは操られていたとかなんとか。それが本当だとし
たらこの子はただの被害者かぁ~……まぁそれでも参考人としてしょっぴきたいところではありますが……まぁええでしょ。世界を救う勇
者様の言うことには逆らえまへんwww」
ツインテ「!!」
北の王「でも壊したらあきまへんよ?北の王国のとびっきり優秀な人材なんでっからw」
アッシュ「……あぁ!もちろんだ」
ポニテ「きゃっほーーーー!!」
北の王「あ、それと夜が明けたら……あー、昼になったら一度城に来ておくんなまし。勇者証明書を発行したげますからww」
ツインテ「あ、ありがとうございます!!」
狩人(なるほど……未来の利益になるとふんだか……最初に勇者認定の証明書を出すということは、勇者排出国家という位置づけになるか
らなぁ)
錬金術師「……」
夜空は既に過ぎ去り、世界は朝日で満たされていた。
--北の城--
十時間後。
北の受付「はい、この証明書が貴方達三人を勇者と認めるという証明になります。絶対になくさないでくださいね?」
ツインテ「はいっ」
北の王様「では三人とも、魔王討伐の旅、がんばってくださいなww」
ポニテ「うんっ!!おじちゃんありがとー!!」
錬金術師「……」
北の王様「それと錬金術師ちゃん」
錬金術師「は、はい!!」
北の王様「勇者様達のサポート、しっかりお願いしますよ!貴女には期待してまんねんww」
錬金術師「……はい!!」
アッシュ「よし、行こう」
--北の城--
召喚士「いいのでやんすか?見送りに行かなくて」
人形師「まぁさか、恥ずかしがってるわけじゃああありませんよねぇえ?」
狩人「ちゃいますよ先輩方」
城門をくぐる勇者達を、北の三隊長は城のテラスから眺めている。
狩人(目の前で兄貴を殺した兄貴。そんなのとすぐ話せるわけねぇだろ)
錬金術師「ぴくっ」
錬金術師の猫耳が反応し、錬金術師は振り向いた。
狩人「あ」
狩人と錬金術師は目が合ってしまう。
狩人「しまった……あいつ耳いいんだった」
錬金術師「……」
狩人「……」
アッシュ「どうした錬金術師?いくぞ」
ポニテ「おいてっちゃうぞー!?」
ツインテ「どうかしたんですか?」
狩人(ほら早くいけよ。新しく出来た居場所が行っちまうぞ?)
錬金術師「今行く」
そう錬金術師は仲間に言って、再び狩人に目線を向ける。
錬金術師「行ってくるにゃ、お兄ちゃん」
--雪山--
ポニテ「ま、またこの寒い所通るのかあああああああああああああああああああ」
アッシュ「うるさい、どなるな。これしかないんだよ道が」
ポニテ「っくしゅっ!!……あー。あ、そういやさ、アッシュ君、結局すぐ戦いに戻ってこなかったけど、きつかったの?のびてたの?負
けたの?」
アッシュ「!!!!!う、うるさい!!そんなことはないぞ!?」
ポニテ「本当にっ!?」
アッシュ「ほ、本当に決まってるだろ!!」
二人は足早に雪道を歩いて行く。それを追うようについて行く二人。
ツインテ「うぅ、ポニテさんにアッシュ君、早いよ……」
錬金術師「……」
ツインテ「あ、錬金術師さん、大丈夫?結構寒いし道も悪いけど」
錬金術師「……ありがとう」
ツインテ「いやいや気にするのは当たり前のことだよ」
錬金術師「違う、色々ありがとう」
ツインテ「……」
錬金術師「私を欲しいって言ってくれて嬉しかった。恩を……返せるから」
ツインテ「あ、そんな気にしなくていいよ、恩を売るためにやったことじゃないから」
錬金術師「返す。絶対返す」
--雪山--
ツインテ「……ふふっ、やっぱり」
錬金術師「?」
ツインテ「やっぱり錬金術師さんて、結構いじっぱりだね」
錬金術師「……錬金術師さんていう呼び方、やめて」
ツインテ「え、え、え?」
錬金術師「……これからは……レンって呼んで」
ツインテ「え、わ、わかりました……レンさん?」
錬金術師改めレン「……うん」
ポニテ「ほらほら二人ともおーそーいー!!もう私お腹すいたから早く町に行きたいのおおおお!!」
酒場で戦士募集したら勇者が仲間になった
第一部
勇者×勇者×勇者
完
--北の王国--
研究部長「調べた結果、これは魔王の骨の一つであると判明しました」
研究部長は腕輪についての報告を発表する。
北の王「うぅん……やっかいなものを持ち込まれてしまったなぁ。牧師が持ち込んだんかいな?」
工作部長「いえ、ここ数年牧師がこの国を出た形跡はありません。恐らく何者かが牧師に渡してそそのかしたのかと」
北の王「はぁ。北の王国はとるに足らない、制圧しても仕方がないというイメージを植え付けてきたつもりなんやけどなぁ……」
治療部長「口を割らそうにも蘇生が成功しませんからね。寿命の尽きた人間の蘇生は不可能。どうやら魔王の骨は寿命を喰って力を発動しているようです」
北の王「あかんわぁ~。そんな危険なものポイしたいわぁ。そんなもん持ってたら攻め込まれる原因にもなるし……めんどくさいめんどくさい」
建設部長「ゴーレムにぐちゃぐちゃにされた国を直すだけでも大変だと言うのに、悩みが尽きませんね」
北の王「ひぃえー目の回る忙しさやな!!仕方ない。久々に王クラススキル……王の言でも使っちゃおかしら」
--王国--
新王「なんて……ことだ」
妃「その情報は確かですか~?」
諜報部「……はっ。残念ながら」
新王「それが本当なら、これは最悪の事態だ。恐らく人類の歴史上、最大の危機……」
妃「……あなた~?」
新王「ん?」
妃「もしもの時は、お願いしますね~」
新王「……」
--宿屋--
ツインテ「ん、んー!!はぁ~久しぶりに一人で寝れた」
カーテンから朝日が洩れる。
ツインテは気持ち良さそうに伸びをした。
もぞもぞ
ツインテ「ん?」
もぞもぞもぞもぞ
ツインテ「……んん!?」
シーツの中に蠢く何かが……。
ガバッ
ツインテ「ひっ!?な、なにやってるんですか!!」
レン「ツインテのベッド……あったかい」
--宿屋--
ポニテ「おっはよーう!!」
すでにポニテは食卓に付いていた。
ツインテ「おはようございますポニテさん」
レン「……おはよ」
ポニテ「あー!やっぱりツインテちゃんのとこ行ってたんだー!朝起きたらいなくなってて心配したんだぞー!」
レン「……ポニテと寝るの……辛い」
ポニテ「ぐさっ!?」
ツインテ「わかります……あれはとてもじゃないけど寝てられません」
ポニテ「ぐさぐさっ!!」
アッシュ「みんな早いな」
アッシュが食堂に姿を現す。
--宿屋--
ツインテ「あ、アッシュ君、おはようございます」
アッシュ「ん」
アッシュが席につく。
アッシュ「……なぁ、飯を食う前に一ついいか?」
ポニテ「ん?どしたのー!?」
アッシュ「いやな、このパーティー……女多すぎないか?」
ツインテ(男女比2:2なんですけどもー!!)
ポニテ「そだね。でもなんか困ることあんの?」
アッシュ「……なんとなく心の問題もあるし」
--宿屋--
ポニテ「めんどくさー!でもそしたらどうするの?誰かリストラするってこと?」
レン「……レン、また捨てられるの?」
俯き耳を垂らすレン。
ツインテ「だ、誰がレンさんを捨てるもんですか!!」(かわEー)
ポニテ「非常食は必要だもんね!!」
レン「ふ、フーー!!」
アッシュ「お前……」
ポニテ「うそうそ!本気で食べるわけないじゃない~!!」
ツインテ「レンさんいいですか?ポニテさんと二人きりになってはいけませんよ?」
アッシュ「……考えないように考えないようにしていたが、下手すると俺らも危ういんじゃないか?同種族だからといって安全とは限らんぞ」
ポニテ「だからぁ!!食べないって言ってるでしょ!?……味を覚えちゃったらわからないけど」
ツインテ「鯱と一緒に海を泳ぐとこんな感じなんでしょうか……」
--宿屋--
ツインテ「で具体的にはどうするつもりなんですか?」
ポニテ「まさか私をリストラ!?」
ツインテ「あー……確かにポニテさんの食欲のせいで家計の圧迫が大きいですからね」
アッシュ「確かに……そのせいで宿には泊まれないわ、満足に武器も買い替えられないわ……」
ポニテ「ね、燃費が悪いんだよ!その分戦闘では役立ってるでしょ!?」
ツインテ「不必要に魔法連打して虐殺してますよね……非効率と言うか」
ポニテ「なんかツインテちゃんが毒舌!!」
--宿屋--
アッシュ「そういうんじゃなくてな……」
ツインテ「はう!!もしかして戦闘で役に立たないボクをリストラ……」
ポニテ「あー、あーあー!有り得るね!!回復役と言っても、アイテムでどうとでも代用出来るポジションだし!」
ツインテ「そんなっ!!」(あれ?いやまてよ?もしここでリストラされればボク、もう戦わなくて済む?)
ツインテはすっくと立ち上がった。
ツインテ「皆さん、短い間でしたがお世話になりました。力不足というのであれば致し方ありません、実家に帰らせて頂きます」
レン「!!や、やー!!」
レンはツインテにしがみ付く。
レン「ツインテ……行くなら……レンも行くっ」
アッシュ「こらこらこらこら勝手に話進めんなっ!!てかお前だけは絶対にやめさせん!!」
アッシュは顔を赤らめて言う。
ツインテ「ひぃっ!?」(そ、そんなにボクのこと……危険に晒したいのか)
--宿屋--
ポニテ「いや待てよ?……今のパーティーに不満があるのはアッシュ君だけ……ということは、アッシュ君が辞めればいいだけの話!?」
アッシュ「なぬ!?」
ポニテ「そーだよー!!私達今のままで全然楽しいもん!!文句あるならでてけー!!」
アッシュ「ぬ、ぬぬぬ!」
ツインテ(アッシュ君が抜けたら……スパルタが無くなる!?い、いや待て待て落ち着けボク。そしたらポニテさんが仕切ってもっと恐ろしいことに……)
レン「にゃーにゃー」
アッシュ「なぜ鳴いたし」
ツインテ(しかもそしたら男女比がやばくなる!?同姓皆無!?はわ、はわわわわ)
シュビ
ツインテは挙手とともに勢いよく立ち上がる。
ツインテ「あ、アッシュ君をリストラするのは反対です!!アッシュ君がいなくなるのは嫌ですボク!!」
アッシュ「……お前」
--宿屋--
ポニテ「まぁ冗談だけどね!!」
アッシュ「冗談かよ!!」
ポニテ「でもさー?じゃあさー?結局なにがしたいの?アッシュ君は」
アッシュ「単純に男をパーティに入れたい。そしてこのパーティに足りないのは壁役。正直俺では心もとないし、女では不可能な職業だろう?」
ツインテ「確かに……」(ボクも男だけど)
レン「にゃ」
ポニテ「あ、じゃあ私が壁役やるよー!!」
ポニテは元気よく手を上げる。
アッシュ「いやだから……」(ん?)
ツインテ「そう言えば……ボクポニテさんにだけは回復魔法かけたことない?」
ポニテ「うん!だって怪我したことないしっ!!」
レン「……カッチカチ」
--宿屋--
宿長「あ、あのぉ~お客様?」
アッシュ「ん?」
ポニテ「やっとご飯きた!?」
宿長「いえ、昨夜おっしゃられていた西の王国行きの船の件なんですがね、あと五分で出航するらしいのですが……よろしいので?」
ツインテ「……五分?」
宿長「はい」
ポニテ「……ご飯?」
宿長「いいえ」
レン「……にゃあ」
アッシュ「……走るぞ」
--街道--
ポニテ「あーん!!お腹空いたお腹空いた!!我慢できないーーー!!」
アッシュ「ええい、やかましい!!握り飯を作って持たせてくれただけありがたいと思え!!移動速度上昇レベル3更新!!」
勇者一行は風のような速さで駆けて行く。
ツインテ「ボ、ボクこんな早く走ったの初めてです!!」
レン「にゃあー」
ドドドドドドドドドドドド!!
--港--
ツインテ「あ!!船が見えましたよ!!」
アッシュ「くっ!!もう出発してやがる!!」
レン「二アー」
ポニテ「もっきゅもっきゅ、ふぁたひが、ふぉめようふぁ?<私が、止めようか?>)」
ポニテはおむすびを頬張りながら話しかけてきた。
そしてポニテの右手を中心に炎が燃え盛る。
アッシュ「お前破壊して止める気だろ……却下だ。俺達はこのまま乗り込む!!」
ツインテ「ええ!?で、でももうちょっと陸から離れちゃってます!!」
--港--
アッシュ「……TOBUNDA」
ツインテ「え、えええええええええ!!!!」
勇者達は前方のブリヂストンで跳躍すべく、速度を上げた。
ポニテ「むっちゃむっちゃ。楽しそうww」
レン「ギアー」
ツインテ「ええええええ!!って止まることもできないいいいいいいいい」
ダンっ!!
超速度でジャンプした勇者一行は海を飛び越え、
船員「……ん?なんか大砲みたいな音が」
ヒュウウウウウドオオオオンン!!!
船へと着地した。
船員「な、なななな!!」
ツインテ「はっ、はっ、はっ……」
アッシュ「なんとか……なったか」
予期せぬ来訪者達をクルーズがお出迎え。
酒場で戦士募集したら勇者が仲間になった
第二部
武術大会 in 西の王国コロシアム
--東の遺跡地下十階--
学者「ほぉ~。こらおったまげたなぁ……大災害前のもんだぞこれは」
小柄な付き人「これは一体なんなのでしょうか。ん?学者様、ここに文字が書かれています。現在使われている言語と違うようですが」
二人は古びた石板の前に立っている。
学者「なになに……『ナビ子ちゃんはぁ、現在お眠り中でーーーすっ!御用の方は、ここに手を当てて魔力を流しこんじゃってくださーい
っ!そしたらナビ子ぉ……いやんっここからは恥ずかしくて言えなーーい!!』と書いてあるな」
小柄な付き人「気持ちを込めて読む必要は無かったですよね……おえっ」
学者「調査隊の中に魔法使いのやつおったよな?」
小柄な付き人「えぇ。彼女は上のフロアで待機しています。呼びますか?」
風の魔法使い「お呼びですか?」
学者「あぁ、ここに手をおいて魔力を流し込んで欲しいんだ。やれるか?」
風の魔法使い「えぇ、大丈夫だと思います。ん」
風の魔法使いが石板に手を乗せると、部屋全体が淡い緑色に発光する。
学者「おぉ」
風の魔法使い「うっ」(ど、どんどん吸い取られる。これ、なんなの?)
--東の遺跡地下十階--
??『んっ……んんんんーーーー!!』
風の魔法使い「きゃっ!?」
??『ナビ子ちゃんふっかああああああああああああああああつ!!』
学者「お、おおおお!!人の形をした靄が喋っておる!!」
??改めナビ子『あーーっよっく寝たーー!!あ、そこのお姉さん、もう魔力はいいよ?おいしく頂きましたー!!やっぱり朝一の魔力は
処○のに限るよね!!』
風の魔法使い「!!!!」
小柄な付き人「なん……だと?」
学者「ナビ子と呼べばいいのかの?お前さんはここを管理しとる精霊か?」
ナビ子『うん私管理者なのよー?精霊っていうのとはちょっと違うかなー。おじさん達、ナビ子を起こしてどういうつもりなのかな??』
小柄な付き人「普通に意思疎通している……」
--東の遺跡地下十階--
学者「ここはどういった場所なのか知っているか?わしらは何年もここを調査しているが何もつかめん。ここだって、偶然フロアが崩れたおかげで知ったんじゃ」
ナビ子『なるほどー。私が眠ってから随分時間が立ってるみたいねー??ぴぴぴ、ナビ子ちゃん検索中ー検索中ー。ワオ!!400年くらいたっちゃってるのねー!!』
風の魔法使い「400年前のものなの?これ」
ナビ子『あ、ここがどんな場所かだったはね。じゃあそうね、右の壁に埋め込まれた棺があるでしょ?あれの石板部分に魔力流しこんじゃってよ!!そうすればわかるかも~』
学者「ふむ……そっちも頼めるかの?」
風の魔法使い「はい、後一度くらいならなんとか」
風の魔法使いは棺の石板に手を触れた。
ナビ子『ふふふー』
ズリュリュ
風の魔法使い「っ」(さっきのよりも強力だ)
--東の遺跡地下十階--
ナビ子『もうそろそろかな?かな?必要最低限くらいの分は出せるよねっ!!』
学者「?」
ブシュウーーー
棺から煙が漏れ出す。
ナビ子『あんっ!!おっけおっけー!!機動完了よんっ!!』
風の魔法使い「はっ!はっ!」(ほとんど吸われてしまった……)
ギィぃ
棺から現れたのは、
??「……」
白いメイド服を纏った紫髪の少女。
--東の遺跡地下十階--
??改めメイド「……私が目覚めた?……ナビ子、今はいつ?でございます」
ナビ子『メイドちゃんおはよーーっ!!えーっとね、今はね、眠りに着いた時から400年くらい立ってるのよー!!』
メイド「400年……」
学者「生身の人間が!!ど、どういう構造をしているんじゃこの棺は!!400年もの間腐りもしないとは……」
メイド「?ナビ子、この者達はなんでございますか?」
ナビ子『えー?ナビ子わかんなーい』
メイド「そうでございますか。では……処理するでございます」
風の魔法使い「え」
--東の遺跡地下十階--
??「これで来ていた人間は全部だバウ」
黒い犬が人間を引きずってやってくる。
メイドは人間達を縛り上げていた。
メイド「ご苦労様です番犬。でございます」
??改め番犬「……難儀なしゃべり方だなバウ」
メイド「貴方に言われとうないでございます」
ナビ子『いやんっ!番犬ちゃんお帰り!!全部で24名かー。中々の大所帯ね!!』
メイド「ではさっそく始めるでございます」
メイドは、縄で縛られてぐったりしている風の魔法使いのもとへ歩いていく。そして頭髪を掴み、引きずりながら奥へ向かった。
風の魔法使い「あぐっ」
一際大きな石板の前で立ち止まる。
--東の遺跡地下十階--
学者「わ、わしらを捕まえてどうするつもりじゃ」
番犬「黙っていろバウ」
番犬の尾で叩かれた学者は弾き飛ばされる。
メイド「さぁ頑張ってでございます」
メイドは風の魔法使いの顔面を石板に押しつけた。
ぎゅるぎゅる
風の魔法使い「あ、あがっ!!」(い、一瞬で吸われっ)
メイド「もう空ですか?底が浅いでございます」
メイドは調査隊から取り上げた回復薬の蓋を取る。
メイド「さぁたんと飲むでございます」
ゴブッ
風の魔法使い「ぐ、ぐぶっ!!」
メイド「……こぼさないで欲しいでございます」
風の魔法使い「ぶはっ!!はっ!はっ!」
メイド「さぁもう一度」
ガッ
風の魔法使い「うああああああああああああ!!」
--東の遺跡地下十階--
小柄な付き人「むごい……」
メイド「充足する喜びと奪われる苦しみ……素晴らしいでございます」
ナビ子『メイドちゃんたら、どっエスー!!』
メイド「何を言うでございますか。メイドのMはドマゾのMでございます」
風の魔法使い「あ、あぁ……」
番犬「そろそろかバウ」
メイド「ほら、もう一踏張りしやがれでございます」
風の魔法使い「ひ、ひぃ!!」
ぎゅるぎゅる
ナビ子『ぴぴーん!ステージ1に到達よん!!』
学者「な、何が始まるんだ……」
シュゴォォ
中央の棺が開いていく。
それを見て、メイド、番犬、ナビ子は跪いた。
???「……う」
中から現われたのは金髪の青年。
メイド「おはようございます我らが主様」
番犬「闇の主、アンシュ様バウ」
???改めアンシュ「む……それが俺の名か?」
学者「普通の……人間?」
--東の遺跡地下十階--
メイド「記憶は……ございますか?」
アンシュ「……いや、なにも思い出せない。名前も。お前たちがなんなのかも……」
メイド「そうでございますか」
メイドは立ち上がり風の魔法使いを連れてアンシュの側へ。
メイド「どうぞアンシュ様。処○の生体エネルギーをお吸いくださいでございます」
風の魔法使い(生体エネルギー?)「……っひ!?」
アンシュ「よくわからないが、なにやら喉が鳴る」
アンシュの指が風の魔法使いの頬に優しく触れる。
風の魔法使い「あ、ああっ、あああ!!」
何もされてはいない。だが、風の魔法使いは確かに感じた。
絶対なる捕食者の威圧を。
--東の遺跡地下十階--
学者「なんてことだ……まるでミイラのように……」
風の魔法使いは全てを絞りだされ、ミイラのように干からびている。
番犬「アンシュ様、よろしければこちらもどうぞバウ。こちらの12人は全て童貞処○ですバウ」
ナビ子『やっぱ童貞処○は質が違いますからねん!!』
小柄な付き人「え!?あんたその年で!?……あんたいつも若い子としてるとか自慢してたのに」
学者「う、うるさいわい!!お前こそ!!」
じゅるる
学者「あばばば!!」
ドサリ
アンシュ「……先ほどに比べれば微妙だな」
番犬「まぁ歳が歳ですからバウ」
アンシュ「お前たちはいらんのか?」
メイド「私達は非童貞処○を頂きますのでご遠慮なさらないでございます」
番犬「アンシュ様は少しでも回復してくだされバウ」
アンシュ「ほうか」
--東の遺跡地下十階--
じゅる、じゅる、じゅるる!!
アンシュ「一つだけ……思い出したぞ」
メイド「!!本当でございますか!?」
アンシュ「あぁ、俺の目的……使命」
番犬「なんとバウ……」
アンシュ「俺の使命は……」
ナビ子『わくわくどきどきっ』
アンシュ「魔王となって世界を支配すること」
メイド「その通りでございます……アンシュ様」
番犬「いざ我らが悲願のため、世界へ踊り出ましょうバウ」
ナビ子『残念~私はここから動けません~。だからぁ、困った時は電話してねっ!!』
アンシュ「まだ力は不十分……近くになにかないのか?」
ナビ子『ぴぴぴ、ナビ子チェックー!!あ、近くに東の王国っていうのがあるわ!人間の数も多いっすー!』
アンシュ「よし。そこに行こう」
メイド、番犬「ははっ!!」
--東の王国--
アンシュ「ここが東の王国か?」
メイド「そのようでございます」
番犬「ふむ。しばらく見ない間になかなか立派なものが立っておるなバウ」
ガシャッ
アンシュ達の前で槍が交差される。
アンシュ「む?」
東の城門槍兵「通行許可証を提示しないと中には入れられん。通行許可証を」
メイド「……」
番犬「面倒バウな」
東の城門槍兵「!!い、犬が喋った!?まさかそいつモンスターか!!」
--東の王国--
アンシュ「うるさいやつらよ」
アンシュが手を伸ばそうとした瞬間、
ザブシュ
アンシュ「?」
メイド「あ、すいません、出過ぎた真似でございましたか?アンシュ様の攻撃思考を受信したもので」
メイドの手刀により両断される二人の城門槍兵。
アンシュ「いや、構わない。俺も黙らせようとしただけだ」
東の城門弓兵「ひ、ひっ!!応援をがきやっ!!」
番犬「面倒なのはやめてもらおうバウ」
一瞬で門の上に飛び乗り、城門弓兵の首を噛みちぎる。
番犬「ふむ。犬の姿は少々不便か。スキル、形態模倣」
番犬は殺した城門弓兵の姿へと変貌した。
メイド「さぁ行きましょう……って、そんなもの食べちゃいけないでございます!!」
アンシュは城門兵の切り身に手を伸ばしていた。
アンシュ「小腹が減った」
--東の王国--
じゅる
アンシュ「む、魔法を一つ思い出したぞ」
メイド「左様でございますか」
アンシュ「誰かで試してみたいな。一匹連れて来てくれないか?」
メイド「了解しましたでございます。スキル雷動」
バシュッ
メイドは一瞬でアンシュの目の前から消える。
アンシュ「む、なんでもかんでもやらんでいいのだがな……」
シュッ
メイド「お待たせいたしました。どうぞでございます」
メイドは抱えてきた男を放りだす。そして男の髪を掴んで顔を持ち上げ、アンシュへと向けた。
眼鏡男「な、ななななんだ一体!!俺は家でピンク髪ツンデレ女の子のアニメを見ていたはずなのに!!何が起きてるんだ!?」
アンシュ「……よし、魔法、洗脳魔眼」
びかっ
アンシュ「俺のことをピンク髪ツンデレ女の子と認識しろ」
眼鏡男「ルイズ!ルイズ!ルイズ!ルイズぅぅうううわぁああああああああああああああああああああああん!!!あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!ルイズルイズルイズぅううぁわぁああああ!!!あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくんんはぁっ!ルイズ・フランソワーズたんの桃色ブロンドの髪をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!間違えた!モフモフしたいお!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!!小説12 巻のルイズたんかわいかったよぅ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!」
グシャっ
メイド「……アンシュ様、考えてお使いくださいでございます」
アンシュ「……恐ろしい生物だな。この俺が全く反応出来ずになすがままだったぞ」
--東の王国--
東の兵「おい、何か不穏な空気を感じるぞ!何かあったのか!?」
ドカドカと兵達が集まり始める。
番犬(質がいいな。気配だけで我々を)「いや、何もない。下で変な人間が喚き始めただけだ。それもすでに処分した」
東の兵「処分?」
東の兵は下を覗き込もうとした。
トストストス
その瞬間、番犬は全ての東の兵の首を落とす。
番犬「アンシュ様、そろそろ中に入りましょうバウ。こいつらが無限に湧きでてくるバウ」
アンシュ「そうだな」
アンシュは門を潜り、東の王国の領土に足を踏み入れた。
--剣の町--
ガヤガヤ
メイド「どうしますか?さすがにこの数を同時に相手にするのも食するのも面倒でございます」
アンシュ「ふむ」
番犬「しばらくどっかの家を占領して、ゆっくり療養したらどうだろうバウ」
アンシュ「そうだな、そうするか」
メイド「わかりました。それでは住み心地のよさそうな場所を探すでございます。スキル雷動」
バシュッ
アンシュ「あいつそればっかだな」
--丘の洋館--
痩せた家政婦「お、お帰りなさいませ」
長髪の家政婦「お、お帰りなさいませご主人様。お、お帰りなさいませご主人様」
アンシュ「ふむ、全部に洗脳終了か」
メイド「ご苦労様でございました。本来は私達がやらねばいけないことでございますのに」
アンシュ「気にするな。出来るやつがやればいい」
館の主人「そ、それでは仕事に行ってまいります」
番犬「複数に洗脳をかけたせいか効き目が怪しいバウ」
メイド「この屋敷、変なアイテムでもあるのか、それともいわくつきの場所なのか……私の索敵能力もうまく機能していないでございます。洗脳の効き目が悪いのもおそらくその影響だとおもわれでございます」
番犬「ジャミングか?こちらにとってプラスになるのかマイナスになるのか……バウ」
三人の立っている位置から見えない場所、柱時計の後ろに一人の少年がいた。
太い眉の少年「はっ!はっ!はっ!」(みんなも!父さんも!何かされた!!なんなんだあの人達っ!!)
--丘の洋館、秘密部屋--
太い眉の少年「ここならあいつらもこないはず……ここで何か対策をとらないと……」
日ごろから溜めこんでいたお菓子で食糧はどうにかなる。そして武器になるものは一つ。壁に立てかけている昔拾った錆びた剣。
ガチャリ
少年は剣を手に取る。
太い眉の少年「これを使って僕が……僕があいつらを!!」
--丘の洋館--
三日後。
番犬「どうぞアンシュ様。今日は四人だけにしておきました。ここ最近警備がきつくなっているものでバウ」
メイド「なら警備ごとやっちゃえばよかったのでございます。ゆとったでございますね」
番犬「あまりやりすぎると上の奴らが出て来そうバウ。それはこちらとしても良く無い展開バウ。まぁもうやりすぎた感はあるけどバウ」
アンシュ「うむ。じゃあいただくか」
茶髪幼女「あわ、あわわわ」
じゅるるじゅるる
メイド「とりあえず誰か一人でも本調子になれば安心なんでございますが……番犬、今どんな感じでございますか?」
番犬「わしか?わしは今13%くらいだな」
メイド「私7%なのに……いつのまにそんな吸ったでございます?」
いがぐり「やだよおおお!!」
じゅるじゅるうる
--丘の洋館--
メイド「……」
じゅるじゅるる
メイド「番犬、アンシュ様はどの程度溜まったと思うでございますか?」
メイドは番犬に近づき小声で話す。
番犬「うむ?……どうだろう。まだ一割程度かバウ」
メイド「やはりそうですか。質のいい処○童貞のエネルギー、その量も我らの10倍以上吸ってまだ一割……今回のアンシュ様は底が知れぬでございます」
番犬「うむ……時にメイド、この屋敷になにかが潜んでいるような気がしたことはないかバウ?」
メイド「ばっちしするでございます。ただうまく索敵が出来ないせいで、確信とは言い切れないでございます」
番犬「いくら妨害されていようと、我らの索敵は優秀バウ。ということはよほど小さい生物なんだバウ。ただの一般人か小動物か……」
アンシュ「じゅるるるるるる」
太い眉の少年「……ごくっ」
少年は部屋の外から中を除いていた。
--丘の洋館--
太い眉の少年(あいつら……夜になるとああやって、街から子供をつれてきて……殺してる!!)
アンシュは四人目の少女に手を伸ばす。
青眼の少女「ひっ!」
太い眉の少年「!!」(あれは!!いつも遊んでるお姉ちゃん!!)
メイド「ほぉ美しい青色でございます。すばらしい青色。ブルーアイズというやつでございますね」
番犬「今の子達はカードダスの方知らないのかな??」
メイド「何の話でございます?語尾語尾」
太い眉の少年「っっ!!」(お、お姉ちゃんが!!助けないと……いや、でもあんな何人も殺してるようなやつら相手に僕なんかじゃ出てっても)
じゅるる
青眼の少女「ああああああああ!!」
アンシュ「む?美味だ。白き龍のような……いや何を言ってるんだ俺は」
--丘の洋館--
アンシュ「ふむ、まぁ少しは腹が膨れたか。では寝るぞ」
メイド「はっ、お休みくださいでございます」
番犬「良い夢をバウ」
アッシュは洋館の暗闇の中へと姿を消した。
メイド「……さて、お残しでも食べるとするでございますか」
番犬「だな。回復は愚か、維持エネルギーすらままならんからな
メイドは床に投げ捨てられた吸い殻に手を伸ばす。
メイド「いただきますでございます」
バギ
太い眉の少年「う、うっ!!」
--東の王国、離宮--
東の王と剣豪は、和室に似た部屋で将棋を指している。
東の王「剣豪知っているか?」
パチ
剣豪「何をだ?」
パチ
東の王「剣の町で最近失踪事件が多発しているらしい。それも女子供ばかりだとか」
パチ
剣豪「あぁその話か。どっかで小耳にはさんだな。で、それがどうした」
パチ
東の王「……あぁ。それが妙でな。兵士達が必死に探っても、何もわからないのだと」
パチ
剣豪「わけぇのはだらしないな……はぁ俺の息子もなぁ」
パチ
東の王「その話はもうよい。問題なのは俺の国の兵達でさえ、素性がつかめない相手がこの国にいるということだ」
剣豪「……」
東の王「剣豪行け。お前の探知能力なら見つけられる。これ以上犠牲を出したくない」
剣豪「……はぁ、俺は隠居した身なんだぜ?大戦で片腕も無くした老兵をまだ動かそうってか」
剣豪は静かに立ち上がる。
剣豪「仕方ねぇな」
--丘の洋館、秘密部屋--
少年は一人膝を抱え項垂れている。
太い眉の少年「……もう僕に出来ることなんて何もない。逃げよう。それで大人にやっつけてもらおう」
少年は窓から顔を出す。秘密部屋は二階にあるため、窓から降りるには飛び降りるか梯子を使うしかない。
太い眉の少年「もうあいつらの行動パターンはわかってるんだ。男は昼は寝てて、犬は一階のエントランス、メイドはそろそろ」
ガチャッ
メイド「では行ってくるでございます」
少年は慌てて窓を閉める。
バタン
メイド「?」
メイドは音をした方に目をやる。しかしそこには何もない。
メイド「……家政婦達でございますか?」
メイドは視線を戻すと町へと向かった。
太い眉の少年「あ、危なかった!!」
--丘の洋館、秘密部屋--
太い眉の少年「……よし」
少年は悩んだ挙句、窓からカーテンを放り投げた。
ブワッ
少年はカーテンが地面に落ちたことを確認すると、次に剣を落とした。
ガイン
太い眉の少年「カーテンが下にひいてあるから飛び降りても大丈夫なはず!!」
少年は無謀にも窓から飛び降りる。
ドサ
太い眉の少年「いって!!か、かてえええ!!カーテン全然役に立ってないじゃん!!」
少年は大きな声を出してしまったことに気付き、慌てて口を塞いでその場を去った。
太い眉の少年(ど、どこも折れて無いよな?)
少年は自分の体を確認すると剣を担ぎ、カーテンをマントのようにはおり、駆けだした。
太い眉の少年(あそこの塀の下!!)
少年は大きな石をずらすと、塀の下にぽっかりと開いている穴を見つける。
太い眉の少年(ここを通れば!!)
少年は
番犬「曲者かバウ?」
太い眉の少年「!?」
--丘の洋館--
後ろを振り向くと、さっきの音を聞きつけてか番犬が歩いて来ていた。
その距離約50メートル。
太い眉の少年「う、うわ!!」(早く潜らないと!!)
少年は焦りながら穴へと潜っていく。
番犬「待て、ここで逃げられたらわしの名が伊達になる」
番犬は走り出す。
太い眉の少年「わあああ!!」
少年は焦って進むが、剣が引っ掛かって前へと進めない。
太い眉の少年「くそっくそっ!!」
少年は力づくで剣を引っ張る。
ズリズリ
番犬「氷属性魔法レベル2」
番犬の口から氷の礫が発射される。
ドオオン!!
--丘の洋館--
パキパキ
凍った土の上を歩く番犬。
番犬「消し飛んだか?……いや逃げられたバウ」
太い眉の少年「はー!はっー!!」
なんとか塀の向こう側へ来ることが出来た。
太い眉の少年「はっ!」(安心してちゃだめだ!あんな化物すぐ追ってくるに決まってる!!)
少年は剣を抱えて走り出す。
番犬「追うか……いや、アンシュ様の傍を離れるわけにはいかんバウ。それにどうせ大したやつじゃあるまいバウ」
--剣の町--
メイド「このパイナポォーを一つくれでございます」
果物屋「あいよお譲ちゃん、可愛いからリンゴもつけちゃうよww」
メイド「あらいやだでございます」
果物屋「いつもあの屋敷からわざわざ大変だねぇ。あそこに住んでる領主は厳しいだろう?」
メイド「仕事でございますので。それでは」
メイドが振り向いた先には、
太い眉の少年「はっはっはっ!!」
カーテンに身を包んだ少年がいた。
メイド「?何か用でございますか?」(……この感覚)
少年は錆びた剣をメイドに向けた。
太い眉の少年「みんな騙されちゃ駄目だ!!こいつは、悪魔なんだ!!」
--剣の町--
メイド「……悪魔?」(この少年、やはりあの屋敷の者でございますか?)
果物屋「おいがきんちょ、馬鹿なこといっちゃあいけねぇよ!!それに錆びてるからってそんなもん振りまわすんじゃねぇ」
果物屋の男は少年を窘める。
果物屋「まぁ確かにぃ?その二つのメロンは悪魔みたいなもんだがよがはははは!!」
果物屋は自分の胸に手をやり大きさを露わす。
メイド「セクハラでございます」
太い眉の少年「し、信じてよ!!僕見たんだ!!こいつらが」
メイド「ぎっ」
太い眉の少年「!!!!」
メイドの目を見た瞬間、少年は動けなくなる。
太い眉の少年(な、なんだこれ……こ、怖い、怖すぎて、声も、息もできな)
果物屋「お、おいおい、お譲ちゃん、子供のたわごとなんだから許してやんなよ」
--剣の町--
メイド「いえ怒っているわけではないでございますよ」
メイドの視線が少年とずれる。
太い眉の少年「かはっ、はっ!!はっ!!」
少年は全力疾走をした後のように息が切れていた。
太い眉の少年(だ、だめだ!こいつは倒せない!!大人も……大人でも!!)
少年はメイドに背を向け走り去った。
果物屋「あ、ありゃりゃ、逃げちまった。まぁ気を悪くしないでやってくれ。お譲ちゃんが美人だから構って欲しいんだろうよ」
メイド「……」
--路地裏--
太い眉の少年「はっ!はっ!はっ!!」
少年は路地裏に駆けこみ、樽の後ろに隠れた。
太い眉の少年「駄目だ駄目だ!!あいつらやばい……この国がこの国が滅ぼされちゃう!!」
カツン
太い眉の少年「はっ!?」
カツン、カツン
太い眉の少年(追いついてきた!?)
カツン、カツン、カツン
メイドは路地裏の前にまで来ると立ち止った。
太い眉の少年「ふっ、ふっ!!」
--路地裏--
メイド「……」
太い眉の少年(ううううう!!)
メイド「……こっちではないでありますか」
カツン
メイドは路地裏を一瞥するとそのまま立ち去った。
太い眉の少年「……助かった?」
少年はこっそりと顔を出した。
太い眉の少年「……いない。逃げなきゃ」
ドスン
太い眉の少年「あぶっ!!」
来た道を引き返そうとした少年は警備兵にぶつかってしまう。
太い眉の少年「!!警備兵!!よかった、話を聞いて!!」
--剣の町--
太い眉の少年「な…何を言ってるのか、わからねーと思うが(ry」
少年は警備兵に説明を始めた。
警備兵「……」
太い眉の少年「それで……き、聞いてるの?ねぇ」
警備兵「ごふ」
ドシャっ
太い眉の少年「!!ど、どうしたの?警備兵のおじ、!!」
倒れた警備兵の背中は何かでごっそりと抉られていた。
太い眉の少年「な、ななな!!」
メイド「ふふ、ふふふ」
メイドは、
太い眉の少年「!?」
少年の真上の看板に座っていた。
--剣の町--
メイド「お前がどこに隠れようがお見通しでございます。私達には索敵能力があるでございますから」
メイドは地面に降り立つ。
メイド「でもさっき、お前が私の前に現れた瞬間上手く機能しなくなったでございます。つまり……お前かお前が背負っているその剣か、そのどちらかが我らの索敵を妨害していたということ……」
メイドは右手を警備員に突き刺す。
ドシュっ
じゅるるるる
太い眉の少年「……だからお前を索敵能力では探せないでございます。でもそれは逆に、私の索敵能力に異変が生じる場所にお前がいるということになるでございます」
警備員はみるみるうちにミイラのようにしぼんでいく。
メイド「ふぅ、やはり大した補填にはならんでございますね。やっぱり喰うのは……」
メイドは太い眉の少年を眺めて、唇を舐める。
メイド「お前のような童貞に限るであります」
--剣の町--
太い眉の少年「ひ、ひぃ!!来るな!!」
メイド「自分から私の下に来たのではございませんか」
メイドは一歩、また一歩と近づいて行く。
メイド「私達はお前ら人間が安心して過ごせるように密かに動いてやっているというのにそれをバラそうなどと……この慈悲の心がわからないのでございますか?」
太い眉の少年「な、何言ってるんだよぉ!!」
メイド「面倒くさいだけで国ごと喰ってやってもいいんだぞ?と言っているのでございます」
太い眉の少年「!!」
メイド「人間なんて……人間なんて!」
一瞬メイドの顔が曇る。しかし、それも数秒。
ガっ
メイドは少年の首を掴み持ち上げる。
メイド「本来ならアンシュ様に献上すべきなんでございますが、そんなにおいしそうに逃げ回られたらこちらとしても喰わずにはいられねぇでございます」
--剣の町--
太い眉の少年「が、がああ!!」
メイド「暴れてくれるなでございます」
太い眉の少年(やだやだ!!喰われるなんてやだ!!)
少年は剣を引き抜き、そしてメイドに向けて力いっぱい振った。
ブオン
メイド「ん」
ヒュッ
しかしメイドは人差し指と中指で挟んで止めた。
メイド「切れ味はてんで駄目でございますね。でもこの剣の魅力は違うところにある……ジャミングブレードってやつでございましょうか」
--剣の町--
メイド「もしかしたらアンシュ様が気にいるかもでございますね」
メイドはひとしきり剣を愛でると、少年の首を掴む手に力を込める。
ぎぎぎ
太い眉の少年「あ、っげへっ!!」
メイド「じゃあ……お楽しみでございます」
ピシュッ
メイド「!!」
メイドに向けて投擲された短剣。それをメイド左手の手刀で払う。
メイド「……しまったでございます」
兵隊長「少年を離せ、悪鬼」
数十人の兵士達がメイド達を取り囲んでいた。
--剣の町--
メイド(ジャミングのせいでこいつらの接近を許してしまった……なるほど。屋敷の時とは違い、今は接近状態。効果は強力ということでございますか)
兵隊長「お前がここ最近の事件の犯人か?」
メイド「最近の事件がなんなのか知らないでございます」
兵隊長(……こいつ)
兵隊長は剣を抜く。
兵隊長「もう一度言う、少年を離せ。お前は包囲されているんだぞ?」
ジリジリと兵士達がメイドとの距離を掴む。
メイド「……ふふ、私がしまったと言ったのは、騒ぎを大きくしたせいで番犬に叱られるな、と思ったからでございます」
兵隊長(番犬?)
メイド「お前らに囲まれたくらいで困るわけがないでございます」
--剣の町--
兵隊長「……やるしかないようだ。補助兵!!」
補助兵「はっ!!任意対象16、速度上昇レベル2!!」
ドッ
メイドを囲んだ兵士達の速度が上昇する。
メイド「ちんけな魔法でございます」
兵隊長「ふん、お前は少年の首を絞め落とすよりも先に死ぬことになる。東の王国第十三部隊のお家芸、高速の戦法を見よ!!」
メイド「雷動」
ギャッッッ
--剣の町--
兵隊長(なんだこれは)
バシュッ、バチ、ドッ
兵隊長(高速で動いているはずの俺らが)
ギャッ、ズガ、グシャっ
兵隊長(スローモーションで吹き飛ばされているようにしか見えん!!)
メイド「にいい」
兵隊長「!!」
ギャギイイイイン!!
メイド「……ほぉ、私の一撃を防ぐとは……中々やるではないかでございます」
兵隊長「っく!!」
--剣の町--
兵隊長(!!さすがに少年を連れて移動はできないか!!)「守備兵!!少年を連れて逃げろ!!」
守備兵「!!……はっ!!」
守備兵はぐったりしている少年を抱えて走る。
メイド「逃がすわけが」
兵隊長「地形変化、氷河!!」
メイド「!?」
バキィイイイイン!!
兵隊長を中心に地面が凍っていく。
メイド「これは……」
兵隊長「足が地面とくっついてても早く動けるかよ?」
メイド「めんどくさいやつでございます……雷斧生成」
--剣の町--
メイド「お互い足を地面に固定された状態での殴り合いを望んでいるのなら、ぐちゃにしてやるでございます」
メイドは斧を振る。
--小屋--
太い眉の少年「う……?ここは……」
少年が目を覚ますと見たこともない家の中だった。
守備兵「起きたか少年……」
太い眉の少年「おじさんは……あっ!!あ、は、話を聞いて!あの!!」
守備兵「待て落ち着け」
太い眉の少年「う、うちが変なやつらに!!それと、あれ?路地裏で!!」
守備兵「落ち着け!!」
守備兵は少年の肩を掴む。
守備兵「……あれは……あいつは何なんだ?」
--小屋--
太い眉の少年「はっ!はっ!……わ、わかんない。僕も何もわからない」
守備兵「……そうか」
太い眉の少年「あいつはどうなったの!?倒せたの?まだなら王都から軍隊を呼ばないと!!」
守備兵「申請はしていない……が、次期に軍が動くだろう」
太い眉の少年「!?遅いよ!!早くしないとあいつらが町のみんなを!!」
少年は守備兵の手を払いのけ小屋から外に出た。
バタン
太い眉の少年「……え」
少年が見た物。
それは焼け野原になっているかつての剣の町。
守備兵「あいつ……たった、たった一人で町を」
--丘の洋館--
メイド「すまんでございます」
番犬「すまんで済むかばかものバウー!!」
メイド「ついむしゃくしゃしてやった。後悔はしていない、むしろ満足でございます」
メイドは満面の笑みを浮かべる。
番犬「何やりきったみたいな顔してんの!?あんだけしんちょうにいこうぜ!って言ったバウ!!」
メイド「その時だけがんがんいこうぜになってしまったバウ」
番犬「語尾マネすんなバウ!!」
アンシュ「何事だ騒がしい……」
アンシュが降りてきたことにより二人は口論を止める。
メイド「申しわけございません。つい……町を消してしまいました」
アンシュ「それは俺の飯が無くなったということか?」
メイド「い、いえ、その、多少見繕って持ってきましたでございます。40体ほどですが……」
アンシュ「ふむ、ならいい」
番犬「い、いいのですかバウ!?」
アンシュ「別にいい」
--丘の洋館--
メイド「アンシュ様、アジ寛大」
番犬「……ったく。あれだけ暴れたら力もかなり消費しただろうにバウ」
メイド「4%にまで減ってしまったバウ」
番犬「だからっっ!!」
アンシュ「……ん?よく見れば所々怪我をしているな」
メイド「あ、これは」
番犬「ほぉ、それなりの使い手だったのかバウ?」
メイド「思った以上でした。中々この国は質が高いでございます」
アンシュ「修復させないのか?」
メイド「いえ、修復で魔力を使うわけには……3%を切ったら可動できなくなりますのでございます」
アンシュ「そうか……メイド、ちこぉよれ」
メイド「は?」
メイドはアンシュの下へと向かう。
メイド「何用でございますか?」
アンシュ「あぐ」
番犬「!?」
アンシュはメイドの顔にかじりついた。
--丘の洋館--
アンシュ「あむ」
がりっごりっ
メイド「っっっっ!!」
番犬「あ、アンシュ様!!まだメイドには利用価値がございます!!おやめくださ」
ゴクン
アンシュ「番犬、黙ってみていろ」
アンシュは頭部の無くなったメイドの体を持って言った。
がぶしゅ、ばくっ、がりっ
番犬「っっ……!!」
アンシュ「げぷっ……あまりうまくないな。自分とベースが同じだからか?」
アンシュはメイドの全てを平らげた。
--丘の洋館--
番犬「……アンシュ……様」
アンシュ「ふむ、こんなもんか」
アンシュは口を拭うと、自分の腹部に手を突き刺した。
番犬「!!!!アンシュ様!!」
アンシュ「んぐっ……」
ず、ずるずるずる!!
アンシュの腹部から引きずり出されてきたものは、メイドの頭部。
番犬「!!」
アンシュ「どっせーーーい!!」
アンシュはカツオの一本釣りのように、腹部からメイドを引き抜いた。
メイドは血まみれ全裸だが、その体は完全そのものである。
メイド「……う、うん?」
--丘の洋館--
メイド「わ、私は一体……いや一度アンシュ様と合体したようなでございます」
番犬「これはまさか……アンシュ様の新たなスキルバウ?」
アンシュ「あーつら、これは辛いは。子供産むってすごいことだよこれ。お母さんに感謝しなきゃいけないねこれ」
番犬「アンシュ様のキャラがちょっと狂うほどの苦痛バウ!!」
アンシュ「でもなんだこの充足感。やり遂げたというか……うむ!」
メイド「私の怪我が全部治ってるでございま……!?エネルギーが40%にまで!?」
アンシュ「あぁ、ちょっと充填しておいた」
番犬「な、なんと!!」
メイド「あ、ありがとうございますアンシュ様!!私のことをそこまで考えてくださっていたとは……でございます!!」
アンシュ「うむ」
メイド「これは今晩辺り……もう一つの合体をすべき!!」
アンシュ「ん?まだなんかいけそうだな」
ずぼっ
アンシュはまた自分の腹をまさぐる。
番犬「これ絵面やべぇバウ」
--丘の洋館--
メイド「もしやアンシュ様の中に何かを置き忘れてきてしまいましたか?でございます」
メイドは自分の体を見てみるが無い部分は無い。お○ぱいはいっぱいある。
アンシュ「いやな、ちょっと試してみようかとな、お、よしよし」
すっぽーん!!
??「ぷあっ!!」
中から出てきたのは……
アンシュ「ん?ちょっとしくじったか」
番犬「これは……」
メイド「ちびっこい……私でございます?」
??「ございますー!」
ちっちゃなメイドは両手を挙げた。
--丘の洋館--
番犬「おじさんちょっともう理解の範疇越えたバウ」
アンシュ「まぁいいか、名前はなんだ、差別化のためにちびメイドとでも呼ぶか?」
??改めちびメイド「了解でございますー!」
ちびメイドはビシッと敬礼のポーズを向ける。
アンシュ「ふむ。俺の魔力量次第ではあるが、お前らの回復、充填、量産が可能になったようだな」
メイド「すごいでございます」
ちびメイド「ございますー!」
番犬「なんと……しかし、魔力量がかなり減ってしまいましたなバウ」
アンシュ「む?まぁ許容の範囲だな。メイド、飯を用意しろ」
メイド「はい!!喜んででございます!!」
--丘の洋館--
数日後。
じゅるるるるるるる。
太めな女性「ああ、あああああ!!」
アンシュ「うむ、吸い応えがあってよい。次」
メイド「はい」
ちびメイド「はいー!」
ガラガラと少女を運んでくる二人のメイド。
褐色肌の少女「……」
アンシュ「む?見たことの無い肌色だな」
アンシュは褐色肌の少女の体を眺めて言う。
番犬「恐らくは南の王国の出身者でございます。あの王国に住む人間は肌が褐色、もしくは黒色になると聞きますでございます」
アンシュ「なるほど」
褐色肌の少女「あなたが、噂の吸血鬼様ですか?」
--丘の洋館--
アンシュ「吸血鬼?」
メイド「血を吸うモンスターのことでございます」
ちびメイド「ますー!」
番犬「いや魔族じゃなかったか?それよりもなぜ吸血鬼なんぞと勘違いしたバウ」
褐色肌の少女「最近町で少女が消えていっているのは吸血鬼が現れたからって……そうサーカス団のみんなでいっていたもので」
アンシュ「サーカス?」
メイド「この場合は見世物小屋ですね。この娘はサーカス団からぱくってきましたでございます」
ちびメイド「ますますー!」
番犬「褐色、黒肌は南の王国出身の証。それはつまりあの亜人と住んでいたことになる。ゆえに彼らは差別され、奴隷として扱われることが多いのですバウ」
アンシュ「愚の骨頂だな。肌の色だけで同種を虐げているのか」
--丘の洋館--
メイド「中にも敵、外にも敵がいないと人間は安心できないと聞きますでございます」
ちびメイド「ですますー!」
アンシュ「なんと。難儀な生物なんだな」
褐色肌の少女「よかった……でもこれでやっと私は救われる」
アンシュ「?」
褐色肌の少女「さぁ、私を食ろうてくださいまし」
アンシュ「!?」
褐色肌の少女は自分から手を広げ、アンシュを待った。
アンシュ「……何を考えている?死ぬのだぞ?」
褐色肌の少女「はいっ!!」
褐色肌の少女は満面の笑みを浮かべる。
--丘の洋館--
アンシュ「理解出来ん……どういう魂胆だ?」
メイド「いえ……私にも理解できませんでございます」
ちびメイド「わけふめー!」
番犬「……大方未来に絶望したという所か?バウ」
褐色肌の少女「……はい、生きていてもしようがありませんし」
少女は苦笑って見せる。
アンシュ「……生物は生きてなんぼだろう」
褐色肌の少女「生きていても仕方がありません。ならばいっそ誰かの糧となって、誰かのために命を散らすほうが素敵です」
アンシュ「……メイド」
メイド「はっ」
アンシュ「代わりを持ってこい。今すぐだ」
メイド「了解いたしましたでございます」
アンシュ「お前の目の前で死を教えてやる」
--丘の洋館--
ちょんまげ「や、やめてちょんまげ!」
アンシュ「見ていろ」
じゅるるるるるる!
ちょんまげ「あばあああああああああああああ!!」
褐色肌の少女「……」
番犬(いつもより荒々しく……)
アンシュはミイラ化した男の死体を放り投げる。
アンシュ「どうだ?」
褐色肌の少女「では次は私の番ですね」
アンシュ「!!!!」
ちびメイド「これたべてもいいのです??」
--丘の洋館--
アンシュ「……解せぬ……お前もあれのように無様に喰い散らかされるのだぞ?」
ちびメイド「あむあむ」
アンシュが指差した先でちびメイドがお食事中。
褐色肌の少女「それが望みですから」
番犬「……多様性を極めた種か……クレイジーバウ」
アンシュ「……」
アンシュは少女の首に手をかける。
メイド「……」
アンシュ「……ふ、なるほど、病か」
褐色肌の少女「!!」
アンシュ「更にお前の腹には」
褐色肌の少女「……早く食べて下さいませ」
--丘の洋館--
アンシュ「ふ」
じゅるるるる
褐色肌の少女「んっ」
アッシュは少しだけ口をつけて、そして離す。
アンシュ「お前の病は喰った」
褐色肌の少女「!?」
アンシュ「こいつは喰ってないがな」
ボン
アンシュは少女の腹を軽くたたく。
褐色肌の少女「っっ!そんなことは些細なことです……もうこんな世界で生きていたくありません。生きていても辛い思いをするだけ。も
う奴隷はいやです!!なら母のいるあの世へ!!」
アンシュ「そうか。ならお前を喰うのは延期だ」
褐色肌の少女「!!?」
アンシュ「お前が人生を謳歌し、楽しくて嬉しくて気持ちよくて最高の幸福を感じている最中に食ってやる」
褐色肌の少女「!!!!」
アンシュ「お前をこれ以上無いほどに幸せにしてやるよ」
--丘の洋館--
翌日。
メイド「おはようございますアンシュ様」
アンシュ「ん」
アンシュが一階に降りてくるのを確認し、メイドは頭をさげる。
アンシュ「あいつはどうした」
メイド「ここでございます」
褐色肌の少女「……」
メイドの後ろから出てきた褐色肌の少女は、綺麗な服を着せられていた。
アンシュ「ほう、これは……美しいという表現があっているんだったか?」
番犬「そうでございましょうバウ」
褐色肌の少女「そんな……でも」
アンシュ「お前の名はそうだな、その綺麗な褐色肌にちなんで……ブラ」
褐色肌の少女改めブラ「……」(……綺麗って)
ちびメイド「そっちのぶらじゃないでございますよぉー!!」
--丘の洋館--
ブラ「今まで……そんなこと言われたことが無い……いつも……」
メイド「不届き者め!!アンシュ様にお褒めのお言葉をいただいたのですよ!?しっかりとお礼を言いなさいでございます!!」
ブラ「あ、え?あ、ああありがとうござい……ます」
アンシュ「うむ」
ブラ(……確かにこの人は……嘘なんて言う人じゃない……)
番犬「ブラよ、一応人間用の食事も買ってある。好きにくうバウよ」
ブラ「食材も、あるのですか?」
メイド「もちろんでございます。保管している人間が腐ってしまっては意味がないでございますし」
ブラ「……あの……料理しても……いいですか?」
メイド「料理は私の仕事でございます!!」
ブラ「あ、す、すいません」
番犬「お前の料理は人間を綺麗に洗うだけだろバウ」
--丘の洋館--
トントントン
ブラが包丁を握っている。
ブラ「……私を幸せにしてくれる……私のことを綺麗だって……」
ぐつぐつとシチューを煮込む。
ブラ「……本当に期待しても……いいの……かな」
--剣の町跡--
剣豪「……ちぃ。こりゃひどいな。何が探知だ。探るまでもねぇ」
選抜兵「剣豪様。丘の洋館だけが無事です。恐らくは」
剣豪「あぁそこにいるだろうな。俺の故郷をめちゃくちゃにしたやつが!!」
--丘の洋館--
ブラ「できました。どうぞ召し上がってくださいまし皆さん」
ブラは料理をテーブルに並べていく。
シチューやサラダ、ホンオフェ等、質素ながらも暖かな料理の数々。
番犬「なんで数ある料理の中からわざわざそれをチョイスした……バウ」
番犬はテーブルの上のホンオフェを見て、切ない表情を浮かばせる。
アンシュ「ほぉ、これが料理か。どれ」
ブス
アンシュはパンに指を刺す。
しゅる
アンシュ「……薄い。こんなものが料理なのか」
ブラ「あ、違いますよ!料理は食べるものですよ?」
アンシュ「?口からでか?めんどくさいんだけどな……」
番犬「き、菌が見える……バウ」
--丘の洋館--
アンシュ「あむ」
メイド「もぐ」
番犬「くっさ!これくっさ!!」
皆それぞれ料理を口に運ぶ。
ブラ「あの、お口に合いませんでしょうか?」
アンシュ「……ほぉ、なるほどな。エネルギー吸収としては不十分なんだが……」
ブラ「……」
アンシュ「悪くない、かも」
ブラ「本当ですか!!よかった!!」
メイド「この感覚懐かしいでございます……普通の食事を取ったのは……」(そっか、あれってスリープ前なんだ……)
アンシュ「これはなんだ?」
ブラ「それはいものにっころがしです。祖母が昔」
メイド「そう言えば番犬は……」
番犬はホンオフェを口に咥えたまま失神していた。
番犬「ごふっ!!ゴ、ゴス口リ黒髪ストレートの幼なじみ……うらやまバウ」
メイド「目を覚ませ!!あの子は男の子でございます!!」
番犬「いいんだバウ……十分射程範囲に入っているバウ……」
--丘の洋館--
選抜兵『こちら選抜兵、丘の洋館に潜入した』
通信兵『了解、スキルテレパシー、感度良好。選抜兵、今どこにいますか?』
選抜兵『東館の二階だ、窓際のな。この階には敵はいないようだが……部屋を片っ端から入ってみようと思う』
ガチャ
窓から一番近い部屋のドアノブを握る。
選抜兵(鍵か……スキル使用、施錠解除)
ガチャリ
選抜兵「おはようございます」ボソ
通信兵『今何か?』
選抜兵『なんでもない。ん?こ、この部屋は!?』
通信兵『!?どうしました!?』
選抜兵『この部屋の匂い……メイド臭がする』
通信兵『……今なんと?』
選抜兵『敵が潜伏していた部屋だと思われる。調査を続行する』
通信兵『は、はぁ』
選抜兵『こ、こここれは!!ぱぱぱぱぱ、パパンパンパンぱパパン!!!!』
通信兵『選抜兵!?どうしたしたか!!』
選抜兵『……性欲をもてあます』
--丘の洋館--
通信兵「選抜兵と連絡が取れなくなりました。どうしますか?」
剣豪「あいつを選抜したやつは誰だ。責任者を呼べ」
選抜兵『ザッザザ、こちら、ザザ、こちら選抜兵』
通信兵「!!」『選抜兵!何かあったんですか!?』
選抜兵『いや、もう大丈夫だ。全部終わった』
通信兵『何が終わったというんですか!?』
選抜兵『えぇー?それ聞いちゃう?そりゃちょっとおじさん困っちゃうよww』
通信兵『……』
選抜兵『お、おほん、任務を続行する』
ギィ
選抜兵は部屋を出て次の部屋の前へ。
選抜兵『こ… これは…! ジュテーム……!! どすこい喫茶… ジュテーム!!! …と 書いてある!』
ブツっ
通信兵「選抜兵とのテレパシーを解除しました」
剣豪「妥当だな」
--丘の洋館--
アンシュ「ふむ、なかなかよかったな。だがエネルギーがなぁ……」
ブラ「そう、ですか……」
メイド「えぇ、やはり人間から直接吸う方がよろしいでございますよ」
番犬「な、なんでキビヤックまであるのくさっっ!!く、くさっくさくさ……くちゃい////////」
メイド「番犬、アウトー」
ブラ「……」(やはり人間は食料……)
--丘の洋館--
選抜兵(2階はあとこの部屋で終わりか。ん?……すごい臭いだ……死と糞尿の臭い……)
ガチャリ
うっ、うぅ、ぐーぐー、ひ、ひっく、ぐすん!
部屋の中は呻き声と泣き声で支配されている。
垂れ目の少女「ひっ!?」
ドアを開けると、中にいた少年少女達が一斉に選抜兵に視線を向けた。
片腕の少年「う、ううぅ」
選抜兵(20人くらいか?……中には死んでるのもいる。私のいたスラムを思い出すな……)
垂れ目の少女「や、やだ!!わ、私まだ死にたくないよ!!」
選抜兵「しー、しずかに。私は助けに来たんだ。ここから逃げるぞ」
片腕の少年「!?た、助けに来てくれたの!?……で、でも駄目だよ……」
選抜兵「?何が駄目なんだ?大丈夫、あの剣豪様も来ている。さぁ、逃げよう」
垂れ目の少女「だ、だって、あ、あの人達すごく強いんだよ……そ、それに」
ギィ
ちびメイド「あれれー?おねーさんどこから入ってきたのでございますー?」
垂れ目の少女「見張りの女の子が、おき、ちゃった……から」
--丘の洋館--
ちびメイド「おねーさんふくきてるししょじょじゃないー。しのびこんだんですかでございますー?いけないひとですねーwww」
ちびメイドはけらけらと笑いながら選抜兵に近づいてくる。
ちびメイド「おねーさん、ばっらばらにしちゃうよ?」
選抜兵「!!」(こいつ!!)
選抜兵はちびメイドの迫力に押され、防御を固める。
選抜兵(……確かにこいつ程の魔力があれば町を……見張り?)
ちびメイド「アンシュ様にどうていしょじょいがいはたべてもいいっていわれてるからぁ、いただきますでございます♪」
選抜兵「!!戦札、魔力解放!!」
選抜兵は札を二枚取りだして破りすてる。
ちびメイド「あれー?おねーさんのまりょくりょーがふえたでございます?」
選抜兵「単体のスペックが全てじゃない、次期東の三強候補、選抜兵。その力を見せてやる」
ちびメイド「ほよよー!!」
--丘の洋館--
ちびメイド「ふっふふーん♪」
メイド「こら!二階が騒がしいと思ったら……一体何をやっていたでございます?」
メイドは階段を降りてきたちびメイドに声をかける。
ちびメイド「へんなおねーさんがしんにゅうしてたから、じょきょったでございますです」
メイド「侵入者……?」
メイドは腕を組んで考える。
メイド(私や番犬の索敵にひっかからない相手?……それともまだ、ジャミングされているでございます?)
ちびメイド「どーですかねーさま!!このやしきの、はなぶそくをかいしょうするいっぴんでございますです!!」
ちびメイドは持っていた植木鉢をメイドに突き出す。
メイド「……何年か前に、某国のギャルゲの画像でそんなのを見たでございます」
植木鉢には選抜兵の頭部が乗せられている。
--丘の洋館--
番犬「まったく。えらいめにあったバウ」
ブラ「すいません番犬様。どれもおいしいものだから味わって頂きたくて……」
番犬「……いや、あんなのを買い込んでいたメイドのせいバウ。あいつめ、どうせわしへの嫌がらせで購入したんだバウ」
アンシュ「番犬」
アンシュがエントランスに顔を見せる。
番犬「はっ。いかがいたしましたかアンシュ様」
アンシュ「外に何かいるようだが」
番犬「!?か、確認してまいりますバウ!!」(ラリってる場合では無かった!!)
アンシュ「いやまて番犬、たまには俺にも遊ばせろよ」
番犬「し、しかし……いやそうですね。馴らし運転はいつかしなくてはなりますまい……ならアンシュ様、少々お時間を下さい。やつらが馴らしに足る存在か見極めて参りますバウ」(そして危険で無いかを)
アンシュ「そんなのはいらない。俺を否定する気か番犬……」
番犬「っ!……申し訳ありませんアンシュ様。ならメイド達も呼んでまいります。皆で行きましょうバウ」
番犬は言うが早いか、その場から姿を消した。
アンシュ「……心配性だなやつらは。孫に対するじいさんばあさんみたいだ」
ブラ「あの、アンシュ様……戦うのですか?」
アンシュ「?あぁそうだ。自分が今どれだけの力を持っているのか知りたいしな」
ブラ「……」(そんな理由で……)
--丘の洋館--
アンシュ「……どうした?浮かない顔をしている。笑え。幸せな人間は笑うものだ」
ブラ「……人間はアンシュ様のなんなのですか?」
アンシュ「支配対象、捕食対象、そして玩具と言ったところか」
ブラ「……」
アンシュ「……笑わんな。無理強いさせて笑わせても意味が無いしな」
ブラ(老若男女関係無く食すこの人は、人の天敵。この世界を恨んだ私だけれど、でも)
アンシュ「……」
しばしの静寂。そして番犬がメイド達を連れて現われる。
番犬「遅くなりました。では行きましょうバウ」
アンシュ「……ん」
ブラ(……やっぱり私駄目だ。何も悪くない人達まで殺すのはおかしいと思っちゃってる……でもこの人達からしたら、人間は食べ物でありおもちゃ。それは人間が他の動物に対して行ってることと変わらない)
ブラは磔にされている自分の姿を思い出す。
そしてそれをかき消そうと頭を振った。
ブラ(やっぱり……)
--東の黒森--
木漏れ日が射す森の中を、黒いフードを被った二人組が歩いている。
?「あー、懐かしいなっ。故郷の森、ちっとも変わってないわ」
??「あ、おい走るなよ。お前、最近体調が良くないんだから」
?「平気よ。むしろ良くなったわ。やっぱり故郷の空気は体に馴染むのね……ふははは馴染むっ、馴染むぞ!!」
??「そういうのは女がやるもんじゃない」
?「ふふっ」
女はよほど嬉しいのか、スキップをしながらくるくると回る。
?「ここのね、ここの大きな木を曲がるとね、町が見えるの。城門へは迂回しないといけないのだけど、こっから見える景色は特別なのよ?」
??「はいはい。楽しみだなぁ」
?「もう!いっつもそうなんだから」
女が大木を追い越すと、
?「見えた!!我が愛しの故郷、剣の……え?」
そこには荒れ果てた故郷があった。
--剣の町跡--
通信兵「選抜兵から連絡がありません。ということはやられたと見て間違いないですね」
いともあっさりと言い放つ通信兵。
剣豪「……連絡無いのはお前が通信切ったからと違うか?」
通信兵「選抜兵はあれでも相当な手だれ。それがこんな短時間でやられてしまうなんて相手は化け物ですね」
通信兵はどうしてもその方向にもっていきたいらしい。
剣豪「話を聞こうぜ。まぁこの町の惨状を見る限り、何体か化け物じみた奴はいるだろうな」
剣豪は剣の町を見渡す。その時、剣豪は何かの気配を感じた。
剣豪「……!?来るぞ!!」
剣豪は右手一本で刀を引き抜き、臨戦態勢をとる。
通信兵「え?」
ヒュルルルルドガァァァン!!
空中から猛スピードで落下してきたのはメイド。
それを剣豪と通信兵は、攻撃範囲から間一髪逃れた。
メイド「……やるでございますね。人間の探知範囲外だと思いましたのに、まさか雷動を避けるとは……」
メイドは自ら作成したクレーターの中からはい上がってくる。
剣豪「……第六感とでも言うのかな、俺には神掛かった何かがあるのだ」
剣豪はメイドに近づいていく。
剣豪(ほう……これは死ぬかもしれんな)
剣豪はそう思わずにはいられない。
--剣の町跡--
メイド「……」(相当出来ますね。いくら私と言えど遊んでられないでございます)
ちびメイド「……ぇぇー……さまぁー」
ヒュルルルルドガァァァン!
何かがまた飛んできた。
通信兵「……頭から激突してましたね。死にましたかね」
新たに出来たクレーターの中央がもぞもぞと動く。
ちびメイド「ぷあっ!!あーおもしろかったでございますです!!」
メイド「遊びじゃないでございます。しゃきっとせい!でございます」
ちびメイド「えー?ねーさまもあそびにきたくせにでございますですー」
メイド「うっ。ち、ちち違うでございます。アンシュ様に危険が無いように……」
通信兵「……私達も舐められましたね」
--丘--
戦場から離れた丘にアンシュ達はいた。アンシュは番犬にまたがり、剣豪達のいる町跡を目指している。
番犬「あの馬鹿者共め!!先走りすぎバウ!!」
どかっどかっどかっどかっ
アンシュ「……」
番犬「どうなされましたアンシュ様。何か思うところでも?」
アンシュ「……いや」
番犬「……アンシュ様」
アンシュ「なんでもない。急げ、メイドに全て持ってかれるぞ」
番犬「了解バウ!!」
--剣の町跡--
メイド「とりあえず、邪魔者には消えていただきたいでございます」
ブウウウン
メイドは両手に雷の魔力を纏わせる。
ちびメイド「ございますですー!!」
ちびメイドの場合は両手に止まらず、全身から雷を漲らせた。
ちびメイド「すきる、らいどうにんげんたいほう」
ボッ
剣豪「っ」
ギャチィィン!!
高速の特攻。剣豪は刀で撫でることにより、紙一重でかわす。
剣豪(硬い?……ありえねぇ)
メイド「あれをかわした!?」
ちびメイド「ほよよー!?」
ちびメイドは着地に失敗し、地面を転げ回る。
通信兵(剣豪様の魔剣で斬れないですって?……見たところ硬そうな外見はしていないし、雷属性に防御力上昇は無いハズ……)
剣豪(なるほど。接触時の判定が、防御力ではなく攻撃力になってやがんのか……全身凶器がそのまま鉄壁の防御に……やるじゃねぇか)
剣豪はメイド、ちびメイド両方に注意を向けつつ名乗る。
剣豪「俺は東の三強が一人、剣豪。王の命によりお前等を討つぜ!!」
通信兵「来たっ!メインかませ来た!!これで勝つる!!」
--剣の町跡--
メイド「東の三強……?大方この国の最高戦力ってところですかでございます」
剣豪「名乗られたら名乗りかえすのが礼儀ってもんだろ?」
剣豪はメイドに刀を向ける。
メイド「家畜に名前なんて名乗る奴はいないでございます」
そう言うとメイドは剣豪から通信兵に視線を移す。
メイド(……こいつはあまり強そうじゃないでございますね)
剣豪「け、そうかい。大した文化は無いみたいだな」
ヒュッ
剣豪が手首を返す。たったそれだけで、
ズバッ!
メイド「!?」
メイドの右肩が切り裂かれる。
メイド(中距離攻撃?……見えない刃とはうっぜぇでございますね……)
--剣の町跡--
ちびメイド「ねーさまー!いまおたすけするでございますです!!」
ちびメイドは後ろから剣豪に飛びかかる。完全な死角からの攻撃だったのだが、苦もなくかわされてしまう。
ちびメイド「ほよよー!!」
剣豪「スキル、斬魔」
ズバズバズバ!!
ちびメイド「ぎっ!?」
交錯した瞬間、剣豪は太刀を浴びせる。
剣豪(魔力を斬るスキルは有効か。お)
ダメージを食らったせいかはわからないが、ちびメイドの雷の鎧が解除されていた。
剣豪「好機」
シュ
ズバッ!
追撃にと放った風の斬撃は、割って入ったメイドによって防がれてしまう。
--剣の町跡--
ちびメイド「あいたたた~でございますです~」
メイド「ちびメイド、同時に畳み込みかけるでございます」
剣豪「はん」
メイドとちびメイドは二人がかりで剣豪に飛び掛かる。
シャシャシャシャシャシャ!!
メイド「!!全てかわして」
朝ズバッ!
メイド「あっ!」
ちびメイド「ねねねねーさま~」
ちびメイドの注意がメイドに向かった瞬間、
ズンッ!!
剣豪の刀がちびメイドの胸部を貫いた。
--剣の町跡--
ちびメイド「ごぼぼ~!!」
メイド(ありえない……技術や体術でどうにか出来るスピードじゃないでございますのに……む?)
メイドは離れた場所からこちらを見ている通信兵に気付く。
メイド(……く、なぜ今まで気付かなかったのか、微弱な電波を感じる……電波を剣豪に送りつつジャミングもしているでございます……)
通信兵(こっちみて睨んでるということは……ありゃりゃ、ばれちゃいましたか)
剣豪「ほら立てよ、お前はまだいけるだろ?」
剣豪はちびメイドを刀から抜くと放り捨てる。
ちびメイド「がふ~」
メイド「っ!!」
メイドは再び剣豪に向かっていく。
メイド「ああああああ!!」
シャシャ!!
しかし剣豪には擦りもしない。
--剣の町跡--
通信兵(雷属性の人形師だから出来る芸当、電波操り。私だって雷属性、見るだけならどんな速さにもついていける)
剣豪「しっ」
ズバッ!
通信兵(電波によるテレパシーで剣豪様に情報送信、同時に電力供給による機動力補助、そして無駄電波垂れ流しによって彼女らは処理落ち状態……)
メイド「くっ!!」
メイドは剣豪から距離を置き、通信兵に接近する。
メイド「お前から死ねでございます!!」
ドシュ
通信兵「ふふふ」
メイド「!!デコイ!?」
メイドが貫いたものは映像だった。
通信兵「申し遅れました。私、東の王国次期三強候補、通信兵と申します」
--剣の町跡--
ちびメイド「あうあうあう~。ねーさまー」
ちびメイドは立ち上がりメイドのもとに駆け寄る。這いよる。
這いよれ!
ぐしゃ
ちびメイド「あ、あれ?」
ちびメイドの体に赤い蔦が絡まっている。
ちびメイド「なにこれでございますです?」
???「こ~ろ~し~た~な~」
ちびメイド「背中から何か声が」
ちびメイドが振り向くとそこには、
???改め選抜兵の首「よ~く~も~こ~ろ~し~た~な~」
植木鉢に植えてやったハズの選抜兵の首が、ちびメイドの背中にまとわりついていた。首の切断面からは赤い蔦が無数に伸びている。
ちびメイド「ほ、ホララー!!!?」
--剣の町跡--
選抜兵「案外楽な任務だったな」
何食わぬ顔で、通信兵の横に立つ選抜兵。
通信兵「あら、生きてたんですか?てっきり死んだものかと」
選抜兵「の割りには全く驚いてないじゃないか」
通信兵「いえ、凄く驚いてますよ?場所が場所なら卒倒してますね」
選抜兵「よく言うぜ」
通信兵「あのちびっこいのに幻覚使い使ったんですか?一枚しか無かったのではないんですか?」
選抜兵「あぁ。だからこの戦いがすんだらまた捕獲しに行かなきゃならない。しかも亜種だからなぁ、あれ」
通信兵「面倒くさい職業ですね」
--剣の町跡--
選抜兵「さて、剣豪様にばかり戦わせてはな。私も行ってくる」
メイド「デコイばかりでどれがどれだかでございます!!」
悪戦苦闘のメイドの後ろから、剣豪の近づいてくる足音が聞こえる。
剣豪「もう詰みだ。素直に捕まりな」
メイド「断る……誰が人間などに!!」
選抜兵「そうか、それならお仕置きだ。ドロー!!」
メイド「!!」
選抜兵「俺はモンスターを一枚伏せ、ターンエンド!!」
メイド「……どいつもこいつもわけがわからんでございます!」
選抜兵「爆弾なめくじの効果発動!爆弾なめくじが敵と接触した時、爆弾なめくじは自爆する!」
メイド「これは!」
メイドの下半身には無数のなめくじが張りついていた。
メイド(モンスター、爆弾なめくじ……。人類の敵さえ利用するとは……400年の間に随分と戦闘方法が変わったでございますね)
ボンッ!!
--剣の町跡--
選抜兵「剣豪様、お疲れ様です」
剣豪「ん」
剣豪は刀についた血を払い、鞘に戻す。
カキン
剣豪「他にも仲間がいるんだろ?」
選抜兵「えぇ、後『二体』」
通信兵「こちらに向かってますね、あと三分程度です」
ズリズリ
三人が集まって話していると、砂煙の中からメイドが這い出て来る。
メイド「に、人間ごときにこのような!!」
メイドの両足は吹き飛んでしまっていた。
剣豪「やめろ、もうお前は戦えないだろが。そこでおとなしくしてれば、後で足付けて牢屋に入れてやる」
メイド「ふざけ……やがってでございます!!」
ちびメイド「ひぃぃ~!!むしってもむしっても終わらないでございますです~!!」
剣豪はのたうつちびメイドを眺めている。
剣豪「……にしてもやっぱりお前らの戦い方はしっくりこない……まるで北みたいだぜ」
通信兵「東の王国は直球タイプを好みますからね。私達のような変化球タイプは嫌われてばっかりです」
剣豪(まるで北の王の目論見通りのような気がするしな……)
メイド(……まずい。機動力を失った私ではどうにも出来ない……)
--剣の町跡--
アンシュ「……む」
番犬「まさか……人間などに遅れをとっていようとはバウ」
アンシュ達が戦場で見たものは、メイド達の無様な姿。
剣豪「……なんだ。親玉でも出てくるのかと期待してたんだが、こっちの侍女の方がましか」
剣豪は親指でメイドを指差す。
番犬「!!貴様!我が主をそんなゴミクソみたいな奴より弱いなどと、馬鹿にするのもたいがいにするバウ!!」
メイド「……お前が普段私をどんな風に思っていたのかわかったでございます」
ちびメイド「眼が~眼が~」
アンシュ「……なかなかあれだな。別にどうってことは無いとおもっていたが」
剣豪「?」
アンシュの体から黒い霧のようなものが立ちこめる。
アンシュ「……所有物を好きなようにされているのは不快だな」
ぎ
剣豪「!?」
選抜兵「!!」
通信兵「!?」
メイド「!!」
番犬「!?」
ちびメイド「はっ!!」
戦場にいた全ての生物は固まった。
胃袋の中に捕えられたかのような絶対的な圧迫感と
剣豪、選抜兵、通信兵(終わった……)
生の諦めを強制的に味わわされる。
--剣の町跡--
びりびりびりびりびりびりっ!!!
メイド(こ、これはスキル、威圧!!しかもこれほど強力な!!)
番犬(何十倍もの重力を感じる!!息すらも、出来ぬほどに!!)
ちびメイド「ほ、ほほほ、ほっ、ほよよーーーー!!」
アンシュ「……」
アンシュが一歩近づくたびに、
びりびりびりびりびりびりっ!!!!!
剣豪「っっっ!!」
大地震が起きたかのような衝撃が全身を貫く。
剣豪(こ、この俺が、この俺が動くことすら!!)
アンシュ「……やはり戦場というのはいいな、ぽこぽこと忘れていたものを思い出す……六属性複合生成魔法、闇色鎌」
アンシュの右手に漆黒の鎌が出現する。
メイド「!!」(……黒い……)
--剣の町跡--
スチャ
アンシュ「俺の従者を可愛がってくれた礼だ。命を狩り取ってやる」
剣豪(ぐっ!!こ、これまでか)
ビシャアアアアアアン
鎌を振り上げたアンシュに、横から雷が直撃する。
アンシュ「ぬっ!?」
アンシュが攻撃された方向に目を向ける。
??「……あれを食らってもなんともないのか」
?「大丈夫ですか!?皆さん!!」
駆け寄ってくる黒いフードを被った二人組。
剣豪「はっ!?いつのまにか動ける。ん?お前……」
?「……お久しぶりです剣豪様。恥ずかしながら帰ってまいりました」
剣豪(……大戦のどさくさで逃げだした人形か……)
??「キバ、やるんだな?」
?改めキバ「うん、お願い。私の故郷でこれ以上犠牲を出したくないのよ。力を貸して……魔法使い!」
??改め魔法使い「わかった。それがお前の望みなら」
--剣の町跡--
キバ「じゃあ魔法使いはあのわんちゃんお願いね」
魔法使い「……力を貸せと言っておきながら、俺の受け持ちは犬の駆除なのかよ」
番犬「バウ!?」
剣豪「って、まてまてお前ら、何勝手に決めてるんだ。お前らなんぞじゃ話にならんぞ」
剣豪はキバを睨んで言い放つ。
メイド(……まずい……増援か。なんとか、なんとかしなくてはアンシュ様がまた!!)
ちびメイド「おねーさま~。まりょくがきどうさいていちギリギリでございますです~」
とてて
ちびメイドがメイドの傍らに走りよる。
メイド(……ええい、他に手段は無いようでございます!!)「ちびメイド!!私を食べるでございます!!」
ちびメイド「え?いいの……でございますです?」
じゅるり
--剣の町跡--
メイド「アンシュ様を御守りするにはそれしかないでございます!!さあ食らえ!!」
ちびメイド「おねーさま……わかりました。そのおもい、わたしがうけつぐでございいただきます!!」
がぶしゅ
ちびメイドは問答無用で頭にかぶりつく。
ちびメイド「!!」
がぶしゅ
がぶしゅ
ちびメイド「……」
ちびメイドは味わうように咀嚼し、そしてゆっくりと目を閉じた。
ちびメイド「……うめぇ」
メイド「トリコの真似はいいからさっさと食い尽くせでございます!!破のゼルエルにやられた弐号機状態はきついでございます!!」
片目の無い状態でメイドは叫ぶ。
ちびメイド「あ!おねーさまのせなかから、くいのようなものが!!」
メイド「出てない出てない!!」
番犬「人を捨てたメイドの力を見せるのかバウ?」
メイド「捨てないからっ!!……もう!!」
メイドはちびメイドの口の中に自ら入っていく。
ちびメイド「あ、あごご!」
通信兵「すごい光景ですね。てかこれ黙って見てていいんですかね」
--剣の町跡--
キバ「剣豪様、あれは本来人がどうこうできるものでは無いです。どうか私に任せて下さい」
アンシュ「……」
キバが剣豪を説得している間、アンシュはじっとキバを見ていた。
キバ「幸い不完全のようですから、不完成な私でもなんとかなると思うんです」
剣豪「……わけわからんこと言いやがって」
ひゅひゅっ
剣豪が刀を振ると、地面に大きな傷が出来る。
×
剣豪「却下だ、駄目に決まってる。これはこの国の問題であり、この国の被害だ。国を捨てて逃げた人間の意見なんかをパッと採用すると思うのか?」
--剣の町跡--
キバ「うっ……」
剣豪「ここで奴らをし損じれば更に被害が増える。黙って退いとけ」
魔法使い「……ごもっともです。でも!……では周りの従者は任せて下さい!」
剣豪「くどい。数は十分足りている」
通信兵「各個撃破は正直きつい感じがします剣豪様」
キバと剣豪の会話に通信兵が割り込んでくる。
選抜兵「同意」
剣豪「っ!軟弱者が!!」
通信兵(剣豪様は前時代の象徴ですからね……誇りとか玉砕覚悟に魅力を感じていそうですね)
選抜兵(私ら冷ややか世代じゃ理解できないな)
魔法使い「……キバ。しばらく見てよう」
キバ「!!……それしか、ないの……かな」
アンシュ(……あの女……何か変だ)
アンシュは自分の胸の中で、何かが蠢くのを感じる。
--剣の町跡--
剣豪「俺は男、選抜兵は犬、通信兵は女をやれ!」
選抜兵、通信兵「はっ!!」
番犬「人間ごときがサシだと?なめやがってバウ!!スキル、遠吠え!アオオーン!!」
番犬は遠吠えをあげた。
選抜兵「!?これは」
ジ、ジジ
すると全てのホログラムが消え、通信兵が姿を現す。
通信兵「魔力使用を……封じられた?」
番犬「軟弱な生き物め!!魔力が使えなきゃモンスターにすら勝てぬくせにバウ!!」
シュッ
番犬が駆け出すと、それに合わせるように剣豪が動いた。
番犬「ガウルルル!!」
剣豪「スキル、縮地」
だっ
番犬「!?」
ズバシャッ!!
一瞬で距離を詰めた剣豪は刀を振り抜き、番犬の右前脚を切り落とした。
番犬「ぎゅあああああ!!」
剣豪「あいにく俺の家系は魔力の才能がからっきしなんだよ」
--剣の町跡--
剣豪の背中を眺める選抜兵達。
選抜兵「剣豪様……やっぱり強いな」
通信兵「私は魔力使えないとなんにもできないですよ。選抜兵、貴女はまだ格闘出来るでしょ?犬は貴女の受け持ちなんですから」
選抜兵「あぁ、そうだな」
選抜兵は腰からナイフを抜き番犬のもとへ。
通信兵「私はどうしましょうか。んっ、やはり、魔力は使えない……え?」
通信兵は驚きの声をあげた。なぜならアンシュの手には、先ほど生成した鎌が消えずに残っているからである。
通信兵(……魔力は使えないはずだし、私が魔力で作り出した映像分身はかき消された……。だがあの鎌は依然、存在を保っている……)
通信兵は腕を組んで考え始める。
通信兵(生成魔法と言っておきながら転送魔法を行う、いわゆる偽装詠唱を使ったのか?いや、自分の力に自信を持つ彼らが小細工など使うはずもないですね)
キバ「あのー」
通信兵(あの犬の遠吠えが今の状況を生み出しているわけだが、果たして魔力使用禁止と魔力解除を同時に行えるのか?という疑問もありますね。禁止の時間はどれくらい?解除の対象は何レベルまで?まさか敵にだけ作用するなんてことは……)
キバ「あのー」
通信兵(ある属性だけを封じている……いやそれも無いですね、とするとやはり)
キバ「効果切れてるみたいですよ?」
すっごい色々考えていたら遠吠えの効果は切れていた。
--剣の町跡--
通信兵「あら……じゃあちょっとメイドっぽい人やっちゃいに行きますかね。映像魔法、イリュージョン」
通信兵がスキルを使うと、その場に10体の分身が出現した。
通信兵「私は火力無いんですけど、死にかけならなんとかなるでしょ」
通信兵がメイド達に視線を向けると、そこには口から足が飛び出している捕食光景。
通信兵「……もうほとんど食べちゃってますね」
選抜兵「さて犬、終わりにするぜ」
番犬「ふ、ふざけるな!!いくらフルパワーでないからといってお前らなんぞに!!」
番犬は三足で立ちあがる。
選抜兵「戦場なんだ、全力が出せないなんて当たり前だろ?それを含めて実力って言うんじゃないか?」
番犬「ッッ!!」
選抜兵「通信兵が魔法を使ったってことは効果切れか?」(一瞬だけ封じておいて、接近戦で終わらせる目論見か。戦闘スタイルが見えた
な)
アンシュ「……」
剣豪「さっきからどこずっと見てやがる」
剣豪はアンシュにゆっくりと近づいて行く。
アンシュ「……」
剣豪「あんなにやる気だったのに、どうしたんだよお前。投降する気になったのか?」
アンシュ「あいつが……欲しい」
--剣の町跡--
剣豪「あ?……はっ、わけえな」
ドシュッ
剣豪は踏み込んで一太刀を入れる。
アンシュ「っ」
ブシッ
浅くはあるが、アンシュの腕から血が噴出する。
剣豪「あまり眼中に無いようなそぶりはしないでくれよ……さびしいだろ?」
アンシュ「……お前らはもうどうでもいい。どこへなりと行け」
剣豪「っっ!!……」
アンシュのムシケラでも見るかのような視線に、剣豪は屈辱と激しい怒りを覚えた。
剣豪は二度、三度と刀を回すと、大地に思いっきり突き立てた。
ズン!!
剣豪「スキル、地烈!!」
バゴオオ!!!
アンシュ「!?」
アンシュ達の立つ地面が刀によって粉砕される。
それによってバランスを崩したのを見計らい、剣豪は一瞬で納刀し、そして
剣豪「スキル、居合!!」
ドブシュッっ!!
--剣の町跡--
番犬「アンシュ様!!」
剣豪(……まだ浅い)
さっきの斬撃よりも、格段に深く切り裂いた。
そこでアンシュは、ようやく剣豪を視界に入れる。
アンシュ「目的には……障害がつきもの……か。わかった」
アンシュは黒い鎌を構えて言った。
アンシュ「崩してやる」
びりびりびりびりびりびりっ!!!
剣豪(これはっ!!)
先ほどと同等、アンシュは威圧を使用。
だが剣豪達はスキルに完全に飲み込まれる前に、
剣豪、選抜兵、通信兵『はっっっ!!!!』
闘志によるきつけで乗り切った。
アンシュ「!?」
剣豪「何度も同じ手を食うかよ!!スキル、乱刃!!」
ドシュドシュドシュドシュ!!
連撃がアンシュに襲いかかる。
--剣の町跡--
通信兵「ちょおーっと大人しくしてて下さいね」
通信兵は両手を広げてちびメイドに近づいて行く。
ちびメイド「ふ、ふがふが!」
ちびメイドは口から足を出した状態でファイティングポーズを取る。
通信兵「っと、そういえば貴女も雷属性でしたね。麻痺は難しそうですね……じゃあ」
ちびメイドの後ろからもう一人の通信兵がいきなり出現する。
通信兵「頭ん中いじっちゃいましょう」
バリバリバリっ!!
ちびメイド「!!??」
ゴックン
その電撃のショックで、ちびメイドは口の中にあるものを飲み込んでしまう。
ぞわ……ぞわわっ
通信兵「!?」
何かを感じた通信兵の本体がその場から跳ね退いた。
通信兵(な、い、いきなり魔力量が、ば、)
バチバチバチバチ!!!
電撃とともにちびメイドの体が再構築されていく。手足が伸び、髪が増え、体つきが一回り成長した。
ちびメイド「す、すごい!生まれてこの方満たされたことの無い力が……力が体中に漲ってるでありますです!!……なるほど、この大き
さくらいのボディならフル充填も可能なんでございますですね~」
通信兵(化物……だ)
ちびメイド改め小メイド「勝機は我にアリ!!」
--剣の町跡--
小メイド「まずはお前だ!!」
小メイドは振り向きざまに手刀を繰り出す。
通信兵「う!!」
ヴォン
小メイドの手刀が通信兵を捉えた。
しかし通信兵の体は陽炎のように揺れて消えた。
小メイド「映像か……本体を捜し当てるのに大して時間はかからないけど……こんなのにかまけているのはもったいないでございますですね」
バシュ!!
小メイドは通信兵に構うのをやめることにした。その強化された足で大地を蹴り、一瞬でアンシュの横へと移動する。
剣豪「な!?」
ズバッ
そしてそのついでに、斜線上にいた剣豪の肩を引き裂いていた。
小メイド「アンシュ様、お守りいたしますです!!」
--剣の町跡--
アンシュ「いらん。お前等は過保護過ぎる。いざという時に自分で出来なくなったらどうするんだ」
小メイド「でもお母さんは心配で心配で」
アンシュ「母親面すんじゃねーっていつも言ってんだろ!!」
番犬「反抗期バウ……」
剣豪「ぐう……」
剣豪の右肩は大きく裂かれ、そこから大量の血が流れだしている。
剣豪(まだ……振れるか?)
剣豪はゆっくりと腕をあげてみる。激痛は伴うものの、振れないわけではなさそうだ。
剣豪(……この腕で奥義をたたき込めるか?腕は契れ飛ぶだろうが……)
--剣の町跡--
選抜兵(剣豪様が手傷を!)「おいわんころ、決着つけるぞ」
番犬「……慢心だったバウ」
選抜兵「ん?……」
番犬「いくら人間相手とはいえ、今のわしではお前らに遅れを取るバウ……」
選抜兵「……」(まずい、冷静になってきたか)
選抜兵は急いで番犬に切り掛かる。
ガギィン!!
番犬は振り下ろされた刄を氷の盾で防ぐ。
そして失った足を氷で代用し立ち上がった。
番犬「出し惜しみはせぬ、下位種とも今は思わぬ。全力で、命をとして貴様を殺す!!」
選抜兵「!!」
--剣の町跡--
ガリっ
剣豪は赤い果実を食している。それは体力を回復させる携帯食である。
剣豪「男同士の決闘を邪魔すんじゃねえよ家政婦」
小メイド「決闘?……ふふ、あくまで対等だと思い込んでいるのでございますですか」
べっ
剣豪は種を吐き捨てる。
剣豪(まだ完全に上だと思ってるのか……なら勝機が無いわけじゃねぇ)
剣豪は再び刀を沙耶に収める。
剣豪(スキル、融合、風)
リンっ
小メイド「……」
--剣の町跡--
小メイド「……変な闘気を発したと思ったら……いないようで……いる……?ジャミング型のスキル?」
小メイドは剣豪を眼で捕えている。だが、そこにいる気がしない。海面に映る月を見ているかのようで……。
小メイド「……面倒くさいでございますです。やってやるです!!」
アンシュ「まて」
小メイドが飛び立とうとした瞬間、アンシュが肩を掴む。
アンシュ「どうもとっておきを撃ってくるらしい。俺がやる」
小メイド「でもでも、万が一があったら……」
アンシュ「どいてろ」
ドン
小メイド「きゃう!!」
小メイドはアンシュに弾き飛ばされ、地面へ伏す。
小メイド「う、ううぅなんでこんな子に……」
番犬「母さんに当たるな!!」
アンシュ「芝居はいい!!」
--剣の町跡--
剣豪「いいのか?余裕ぶりやがって。死んでもしらねぇぞ?」
アンシュ「お前程度には殺されん。人間の限界というものも知っておかなくちゃな」
剣豪「……」
ヒュオオオ
荒れ地に風が吹く。
剣豪「……」
すると剣豪は姿を消した。
アンシュ「ぬ」
小メイド「!?アンシュ様?突進してきてますよ!?」
小メイドからは剣豪の姿が確認できるのだが、
アンシュ「?……見えん」
剣豪(……もらった)
剣豪はアンシュに向かって超スピードで跳躍し、刀を抜いた。
剣豪「奥義、天翔龍閃牙突回転剣舞六連!!」
ズバアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!
--剣の町跡--
凄まじい剣撃の嵐の後、剣豪は自分の刀を手放した。
剣豪「ぐっ!!」
ブシャアアアア
自らの奥義の負荷に耐えきれず、剣豪の右腕は弾け飛ぶ。
剣豪「……どうだよ」
剣豪が砂煙の中に立っているアンシュを見つめる。
アンシュ「……中々だ」
血まみれのアンシュはそうつぶやく。
アンシュ「だが」
アンシュは人差し指で剣豪を指さす。
剣豪の腹部からは夥しい量の血液が流れ出している。
アンシュ「……適当に振ったらあたったようだ」
剣豪は口からごぼりと血を吐き、少しだけ口角を上げる。
剣豪「……あー、くそ」
ドサリ
--剣の町跡--
小メイド「くぅ~アンシュ様もこんなのに構うことないでございますですよ!!ボロボロでございますです!!」
アンシュ「いや、見た目ほどひどくはない。だがすごいな。自分を犠牲にしてでも放つ技とは……」
小メイド「そんなの私達だって、アンシュ様のためだったらいくらでも犠牲にできますでございますです!!」
アンシュ(役割とは違う……)「さて、食うか。メインディッシュの前の前菜みたいでやなんだが……まぁいいか」
アンシュが剣豪に近づき触れようとした瞬間、
キバ「剣豪様に触るな」
アンシュ「!?」
ドッ
アンシュの探知を振り切る速度でキバは接近、そして回し蹴りアンシュを蹴り飛ばす。
小メイド「!!あー!!不意打ちなんていけないんだ!!!」
アンシュ「……あぁ、やっぱりお前は……お前は違うんだな」
キバ「剣豪様が気絶した今、私が戦いを引き受ける!!」
--剣の町跡--
小メイド「さ、させませんでございますです!!アンシュ様は疲れてるし怪我してるんでございますですよ!!」
アンシュ「うるせぇどっかいってろ」
小メイド「きゃうん!!」
キバ「魔法使い、あっちはお願い」
魔法使い「引きうけた」
魔法使いは小メイドに向けて掌を向ける。
魔法使い「対単体雷属性魔法、レベル4」
ビッシャアアアアアン!!!
小メイド「ぎいいいいいいいん!!い、痛いですーー!!同属性でもここまで高威力だとととととと!!!」
小メイドのことなぞ全く気にせずアンシュは口を開く。
アンシュ「お前は……何者なんだ?」
キバ「……君と同じだよ」
--剣の町跡--
アンシュ「俺と?」
キバ「多分……どこで作られたのか知らないけど、きっと君も私達と同じ……」
キバは顔を伏せる。
アンシュ「……ふん、感覚でものを言ったのか。まぁ確かではないが、お前も感じるということはそういうことなんだろう。お前は……」
アンシュの話の途中でキバは両手を天にかざす。
キバ「六属性複合攻撃魔法、六色剣」
バシュッ
六色の光の輝きとともに剣が出現した。
アンシュ「……」
キバ「手加減はしない、出来ない。だから早々にけりをつける!!」
アンシュ「……やはり」
--剣の町跡--
番犬「なっ!!あの力は……」
選抜兵「余所見とは余裕じゃないかっ!!」
番犬「ぬ!」
ガギイイン
番犬(あの力……あの力がなぜ!!くっ、今回は例外が多すぎる……よし、やつに頼むバウ!!)
番犬は一旦選抜兵との距離を置く。
番犬「とぅおるるるるるん、るるるるん」
選抜兵「……へ?」
番犬は口で呼び出し音を鳴らす。
番犬「とぅおるるるるるんん。どこだっけ受話器。あ、あったあった、股間についてた。よし、もしもしバウ。出るがいいナビ子」
ガチャ
ナビ子『はーい、ナビ子ちゃんでーす!現在サイバトロンと交戦中ー!御用がある方はー、伝言を残しておいてね!!』
番犬「ガッデム!!」
--剣の町跡--
小メイド「舐めないでくださいでございますですよおおおお!!行きます!お姉さま!!」
どこからか、(よくってよ)、という言葉が聞こえる。
ギュン
魔法使い「!!早い!!」
ギャリイイイイイン
魔法使いはいつのまにか生成していた雷の鎌で手刀を弾く。
小メイド「ぐぅ!?私のスピードを防いだ!?」
魔法使い「腐っても元王国軍団長だ。いや、腐っていたのはあの頃か」
--剣の町跡--
キバ「あああああああああああああ!!」
ギンギンガギイイン!!
アンシュ「ふはっ、ふはっははははははあ!!!それだそれだそれだああああああああ!!」
キバとアンシュの武器による剣戟。飛び散るのは火花では無く、圧縮された魔力の光。
キバ(この子……)
アンシュ「ふははははは!!」
ズバッ
アンシュ「ぐふっ?!!」
キバ「……あんまり強くない?」
--剣の町跡--
キバ(覚醒も何も、全然エネルギーが足りて無いんだ!!ならば!!)
キバは六色剣を構え直す。
キバ「奥義、キバスラッシュ!!!」
アンシュ「!!」
ズドシャアアアアアアアアアアアアアア!!!!
天まで届く赤い閃光がアンシュの体を引き裂いた。
小メイド「!!??」
番犬「!!!!あ、アンシュ様ああああああああ!!」
アンシュ「ぐ、ぐああああああああああああああああああああああ!!!!」
--剣の町跡--
番犬「アンシュ様あああああああ!!」
選抜兵「おっと!!」
ガギイイン!!
選抜兵「俺の今の仕事は、お前をあいつの傍にまで寄らせないことだな」
番犬「おのれ!!邪魔をするな!!移動速度上昇、レベル2!!」
シュン
番犬は風のように選抜兵の横をすり抜けて行く。
選抜兵「そうは行くかよ!!移動速度下降、レベル3」
ぎゅうぅぅううん
番犬「!?」
番犬はいきなり失速する。そして
ズバッ!!
番犬「ぎゃああうんん!!」
--剣の町跡--
小メイド「どけええええええええええ!!」
魔法使い「雷属性魔法、雷獄」
魔法使いから放たれた雷は、鎖のように形状を変えて小メイドの四肢を縛り上げた。
小メイド「ぐっ!!!!ぎゃぎゃああああああ!!!!」
そして雷による電撃が流れ始める。
魔法使い「同属性であろうと、軽減しきれまい」
小メイド「きさ、きさまあああああああああああ!!」
バリバリバリバリバリいいいい!!!
--剣の町跡--
アンシュ「がはっ、はっ、はっ、はっ」
キバ「!?……全力で放ったのに……倒しきれなかった?」
アンシュ「はっ、はっ、はっ……はははははは!!」
アンシュは血まみれの顔を振り乱し喜びの声を上げる。
アンシュ「似ている!!お前は俺に良く似ている!!君は僕に似ている」
アンシュはキバに向かって飛びついた。
キバ(しまっ!!)
がぶしゅっ
キバ「っ!!!!」
アンシュの歯がキバの腹部に噛みついた。服の防御力など意に介さず、その柔肌を問答無用で引きちぎる。
ぶしゃああああ!!
キバ「あああああああああああ!!」
--剣の町跡--
魔法使い「!?キバ!!大丈夫か!?」
キバ「はあっはあっはあっ!!っく、だ、大丈夫……」
キバは横腹を押さえて片膝をつく。
キバ(この子……私を食べた?……私のことを、頭部が菓子パンのマゾいヒーローと勘違いしたわけではなさそうだけど)
ドクドクドクドク
キバ(出血がまずい……これは十二分に致命傷だ……迂闊だったよ)
アンシュ「ぐっちゃぐっちゃぐっちゃ……ごくん」
アンシュはキバの肉の全てを咀嚼し飲み干す。
アンシュ「……これだ……見つけた」
キバ「……?」
アンシュ「俺が不完全な理由がわかった。俺は、俺はお前みたいなやつを食って完全体になるんだ」
--剣の町跡--
キバ「……っ!!」
アンシュ「お前、さっき言っていたな?『私達と同じ』と。ということはお前と同じようなものは他にも何人かいるのだろう?」
キバ(まずい……この子、今私からごっそり魔力を奪っていった……。しかもパワーアップの仕方がまずい!!私みたいな人造勇者を片っ端からこの子が食べたら……本当の魔王が生まれる!!)
アンシュ「なるほど。お前らは俺のパーツだったのだ。さぁ、もっと寄こせ、足りぬ足りぬ足りぬ!!」
キバ「……駄目みたい」
魔法使い「キバ!?」
魔法使いが完全にキバとアンシュの戦いに注意が向いている中、小メイドはなんとかしようともがいていた。
しょuめイド「ぐぎ、ぐぎぎぎぎ」
キバ「このままの状態じゃ勝てない……みたいだ」
魔法使い「!!駄目だキバ!!それを使っては!!」
キバ「……ごめん。でも使うしかないよ。この子を止めるには。東の王国を守るには。魔法使いを……」
そう言うとキバは腹を押さえるを止め目を瞑る。
キバ「……全制限解除、魔王化発動!!」
--剣の町跡--
??「オオオオオオオオオオオオオ!!!!」
キバだった者は黒い魔力に包まれる。傷は一瞬で修復され、黒い鎧を身にまとう。
アンシュ「お、お、おおおお!!」
??(疑似魔王状態……あまり長くはいられない……一気にケリをつける!!)
アンシュ「早く俺もそんな姿になりたああああああああああああああい!!!」
??改め疑似魔王キバ「ああああああああああああああああ!!」
キバとアンシュは互いに急加速し、激突。
ズドオオオオオオオオオオオン!!!!
アンシュ「ぐべえええええ!!!」
アンシュの一撃をかわしたキバの右ストレートがアンシュの顎を打ち砕く。
--剣の町跡--
番犬「アンシュ様あああああああああ!!」
疑似魔王キバ「ああああああああああああ!!!!」
ゴッ!!
岩をも砕く拳。それを受ける度にアンシュは吹き飛んでいく。
アンシュ「ぐふっ!!」
アンシュが地面を転がる。勢いが止まってアンシュが顔を上げると、
ドゴ!!
アンシュ「ごぶっ!!」
一瞬で距離を縮めたキバの蹴りが炸裂する。
アンシュを宙に蹴りあげたキバは、魔力を両手に溜める。
疑似魔王キバ「黒雷属性魔法、レベル4」
稲光を発する黒い球体が二発アンシュに直撃する。
どごおおおおおおおおん!!!!
--剣の町跡--
ドサっ
アンシュは焼け焦げた匂いを発しながら地面に墜落した。
アンシュ(ぐ、ぐ……想像以上だ……まずい、こちらも余裕が無くなってきた……)
疑似魔王キバ「!?耐えた?」(やっぱりこの子不気味……なんでかな?今のだって耐えられるとは思えないのに……それにまた魔力量が変動した気がする?)
キバは左を足に力を込める。
疑似魔王キバ「確実に仕留める!!」
アンシュ「スキル、威圧!!」
ズズズウズン!!
疑似魔王キバ「くっ!?」
スキルが発動した瞬間、キバは地面に叩きつけられる。
--剣の町跡--
疑似魔王キバ「い、威圧?なんで、こんな強力な!!」(それに魔王化してる私にこんなスキルが効くわけないのに)
アンシュ「魔力も、体力も残り少ない……そろそろお前を!!」
疑似魔王キバ「!?う、うおおおおおおおおおおお!!」
バチィン
アンシュ「!?俺のスキルを破っただと!?」
キバはスキルを破るとすぐに次の準備に映った。
キバの左足に強大な魔力が纏わりついていく。
疑似魔王キバ(行動時間が……あまりない)「これで、これで終わらせる!!」
キバが更に膨大な魔力を注ぎ込むと、左足は黒い光を放ち始める。
魔法使い「!!キバああ!!駄目だ!!!」
疑似魔王キバ「う、ぐうう!!!」
アンシュ(す、吸いこまれるような闇!!俺が、一歩たりとも動けぬ!!)
--剣の町跡--
?「よくもわたしをしばりつけやがったでございますですね!!」
魔法使い「!?」
後ろからの声に反応し、振り向こうとすると、
ドブシュッ!!
魔法使い「がふっ!?な、なにっ!!」
一回り小さくなった小メイド、いやちびメイドの腕が魔法使いの腹を突き破った。
?改めちびメイド「おかげでずいぶんよわっちくなってしまったでございますですよ!!」
魔法使い「そんな、あの鎖が?」
魔法使いが確認すると、そこには小メイドの四肢が繋がれたままだった。
ちびメイド「じせつ、ってやつでございますですよ!」
ズボッ!!
魔法使い(で、でたらめだ……体のパーツを失っても、残った部分で小型化したのか?)
腕を引き抜かれた魔法使いは倒れこむ。
ドサリ
--剣の町跡--
選抜兵「!!やばい感じがするな。通信兵!!」
通信兵「なんでしょう」
選抜兵「ってずっといたのかよ!?」
通信兵「ずっと見てましたよ。最も本体はもうずいぶん遠くまで行っていますが」
選抜兵「逃げてるのかよ!!帰ってこいよ!!」
通信兵「おや?」
選抜兵「……どうした?」
通信兵「あ、いえ、本体の方の話なんですけど、褐色人がそちらに走っていくのを見かけたもので」
選抜兵「??そんなのどうでもいいだろ」
通信兵「まぁ、そうなんですけど」
番犬「ぐ、ぐぐううう……」
--剣の町跡--
チュン
選抜兵「!!!!!」
弾丸のように高速で飛んできたちびメイドの手刀が選抜兵を斬る。
ドブシャアアアアアアアアアアア!!!
選抜兵「がああああああああああ!!」
着弾と同時に両手を刎ねられ、選抜兵が倒れきる前に、
バゴベギ
選抜兵「!!!」
ちびメイドの拳が顔面を破砕した。
ちびメイド「ばんけんさん!!あんしゅさまをつれてにげて!!」
--剣の町跡--
番犬「ひゅー、ひゅー、ご、ごふ、こんなボロボロのわしにそんなことを頼むのか?お前が連れて逃げればいいバウ。時間稼ぎはわしがやる」
血まみれの番犬はちびメイドを見上げて言う。
ちびメイド「わたしはこれからじばくするばう!!あ、まちがえた!!ございますです」
番犬「……自爆?」
見るとちびメイドの体は発光している。
番犬「……オーバーロードか。馬鹿め……」
ちびメイド「さぁ!はやく!!じかんはないでございますですよ!!」
番犬「っっ」
--剣の町跡--
疑似魔王キバ「力は……溜まった。これで君を殺す」
アンシュ「ぐ、ぐっ!!」
キバの左足は圧倒的存在感を放っている。周囲の空間を歪め、全ての物体を引きずり込もうとしている。
ちびメイド「あんしゅさまああああああ!!」
疑似魔王キバ「!?」
急接近してきたちびメイドを、キバは左手で地面に叩きつける。
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!
ちびメイド「ぐはっ!!!」
地面にひびを入れるほどの一撃を受け、ちびメイドの頭部から大量の血が噴出する。
疑似魔王キバ「邪魔をっ……しないでっ!!」
ちびメイド「し、しないわけが……ないでございますです!!」
ちびメイドは起き上がると疑似魔王キバに飛びついた。
疑似魔王キバ「!!」
ドゴッ!!!
ちびメイド「!?」
飛びついて来た所をキバは右足の膝蹴りで応戦する。
--剣の町跡--
アンシュ「おい、ちびメイド!何してんだ!」
ちびメイド(つよい……このおねえさんばけものでございますです。たったにはつでわたしのたいりょくをここまで……でも!!)
ちびメイドはキバの左足に纏わりつく。
ちびメイド「あんしゅさまだけはころさせないでございますです!!もう、こんどこそは!!」
魔力が溜まりきった左足に直接触れることでちびメイドの体は悲鳴をあげている。
ビチッブシッ
疑似魔王キバ「っく!!」
ギュイイイン
キバの左の掌に寒気が走るほどの魔力が集まっていく。
疑似魔王キバ「足を離しなさい……魔王は、自分の魔力ではダメージを受けません。だから貴女を消し飛ばすほどの威力の魔法を放っても私はノーダメージです。だから」
ちびメイド「いやだ!!」
アンシュ「……ちび……メイド」
--剣の町跡--
疑似魔王キバ「そう……ですか。なら!!!」
キバの魔力が集束していく。
ちびメイド「うっ……」
ちびメイドは自分の上で発射されようとしている砲台を見上げる。思わず体が竦み、震えあがる。
疑似魔王キバ「六属性複合攻撃魔法、六色砲!!」
ドギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!
ちびメイド「あ、ぐ、があああああああ!!!!!!」
ドオオオオオン!!
アンシュ「お、おい!!」
照射され続ける魔力。キバの言った通り放つ本人は無傷、しかしちびメイドは外皮を破壊され、地面は抉られていく。
ドオオオオオン!!
--剣の町跡--
疑似魔王キバ「うっ!!」
嫌な匂いが戦場を満たす。その発信源はちびメイド。
ちびメイド「え、えへへ……た、たえられました。や、ややややっぱ、あんしゅさま、が、じょうぶにうんで、くれたから、でございます、です」
外皮は消し飛び筋肉もまだら。活動ギリギリの状態になっても、ちびメイドはキバの左足にしがみついていた。
ちびメイド「あんしゅさまは、ころさせませんでございますです!!」
疑似魔王キバ「あ、あが、あああああああっ!!」
キバは突如頭を抱えて苦しみだした。
ちびメイド「!?い、いまれす!!ばんけんしゃん!!」
番犬「!!」
番犬はアンシュの服を咥えるとその場を走り出した。
アンシュ「!?お、お前!?なにをしている!!」
--剣の町跡--
アンシュ「聞いているのか番犬!!まだあいつが、俺の従者が戦っているのだ!!」
番犬「……」
アンシュ「戻れ!!番犬!!」
番犬「……もしそれがあの得体のしれない女を食うためであるのならば、引き返すもよしとしましょうバウ」
アンシュ「……なに?」
番犬「従者を助けるために主の身を危険に晒す?なんですかそれはバウ」
アンシュ「なにを……」
番犬「貴方は魔王になるのではないのかバウ!?それともあなたはまた!!」
番犬は何かを言おうとしてやめた。
番犬「……ん?あれは、ブラが迎えにきたようですバウ」
ブラ「はっ、はっ!!」
ブラはこちらに向かって走って来ている。
番犬「丁度良い、あいつも連れてさっさと逃げますバウ」
--剣の町跡--
疑似魔王キバ「あ、アンタノせいで、やつを、ニガシてしまった……」
ちびメイド「っ!?」
髪の毛の間から見えるキバの瞳を見て、ちびメイドは凍りつく。
だがちびメイドは恐怖を振り払った。
ちびメイド「え、えへへ。ぶいっでございますです。このしょうぶ、わたしのかちでござ」
ガシッ
キバはちびメイドの頭部を鷲掴みにする。
疑似魔王キバ「あんた、自爆する気ダネ?魔力ガ暴走を始めてイル」
キバはちびメイドを空中に放り投げた。
ちびメイド「ふあっ!!」
疑似魔王キバ「ふふふ、コノママ生かしておけばみんなにも被害がオヨブし……どの道アンタにはニガシタ責任を取ってもらうツモリだったけどさっ!!」
キバは跳躍し、ちびメイドに接近する。
ちびメイド(あんしゅさま、どうか、どうかおげんきで)
疑似魔王キバ「魔王技、キバキック!!」
--盾の町--
翌日。
剣豪「う、うむ?」
衛生兵「気がつかれましたか!?剣豪様!!」
剣豪が目を覚ますとそこは剣の町の隣に位置する盾の町だった。
衛生兵「通信兵が首都から応援を呼んだのです。もう少し遅かったら危なかったかもしれません」
剣豪「……お、おおそうか。そういやあのふざけた敵はどうなったんだ?」
衛生兵「それは選抜兵が一人で倒したとのことです!いや、我が国の若い連中も捨てたものではないですね!!」
剣豪「んう?」
--盾の町--
剣豪「おい選抜兵」
選抜兵「なんでしょう剣豪様。この英雄に向かって」
ドゴッ
選抜兵「ごほっ!?お、俺女っす!女っす!!」
剣豪「うるせぇ。あいつらを倒したのは……キバ達か?」
選抜兵「……」
選抜兵はきょろきょろと辺りを見回す。
剣豪「心配すんな、俺しかいねぇよ」
選抜兵「そうですか……。えぇそうです。彼女達があの吸血鬼達を倒したようです」
剣豪「……っち、手出しすんなって釘さしておいたのに。で、やつらは?」
選抜兵「……私なりの感謝の気持ちです」
--盾の町--
剣豪「……なるほど、手を貸してくれた代わりに、やつらは今回のことに関与していない、いやこの国に帰って来てすらいない、ってことにしたのか」
選抜兵「はい。彼女たちは追われる身ですから」
剣豪(……甘いな。情なんて関係ねぇっつーのに)
剣豪は頭をかきむしる。
剣豪「で、お前はお前で手柄を一人占めっと」
選抜兵「うっ」
剣豪「そりゃぁ天下に名高い剣豪すら負ける相手を、一人で倒したとくりゃぁ、さぞいい手柄にならぁな」
選抜兵「な、ななななんのことですかな」
剣豪「はぁ、まぁいいや、んで、キバ達はどこにいるんだ?今」
選抜兵「……それは」
剣豪「疑ってんじゃねぇ。何もしねぇ。てか隠そうとすんじゃねぇぞ?パワハラ使うぞ?」
選抜兵「しょ、処○を奪っただけでは飽き足らないと!?」
剣豪「してません」
--盾の町--
剣豪「吸血鬼達が住み着いていた洋館……ねぇ。なんでんなところに」
選抜兵「さぁ、あまり人のいないところで療養したいんじゃないですか?一応彼らは賞金首ですし」
剣豪「……まぁいいや、吸血鬼もいなくなったことだし、王都へけぇるぞ」
選抜兵「?あ、あぁそうか、言って無かったですね」
剣豪「?」
選抜兵「吸血鬼は逃げたそうです」
剣豪「……は?」
--丘の洋館--
ベッドに横になっているキバの下へ、魔法使いが水の入ったコップをもってやってくる。
魔法使い「大丈夫か?」
キバ「う、うん。ちょっとぼーっとする」
キバは虚ろになった目でコップの中の水を眺める。そしてゆっくりと口をつけた。
魔法使い(反動が……でかいか)
キバ「あ、そうそう、もう無理しないでいいよ?いつもの魔法使いに戻って」
魔法使い「いや、そういうわけには……」
キバ「魔法使いまで無理して倒れたら元も子もないでしょ?」
魔法使い「……」
魔法使いは一旦天井に目線をやり、再びキバへと戻した。
魔法使い「……デュクシデュクシwwwwwwwwwwww」
--海原--
くあーくあー
船の甲板にカモメが止まり鳴いている。
ざざーん
潮風が心地よく響いている。
アッシュ「……」
アッシュはナイフを研いでいる。
レン「にゃーにゃー」
ツインテ「わわ、どうしたんですかレンさん?」
レンはツインテに纏わりついている。
ポニテ「ん、んんー!!」
ポニテは水着姿で船首に仁王立ち。
ポニテ「まだ船にのって二日間のはずなのに、一か月以上船に乗ってる気がする!!なんでかなっ!!なんでかなっ!!」
--海原じゃないよね、船のほうがあってるよね--
ポニテ「ふああぁ。あり?眠くなっちった……」
アッシュ「またかよ。お前昨日一日中寝てたじゃないか」
ポニテ「寝る子は育つんだよ?そしていつかむっちんプリンになるのだ!!」
アッシュ「はいはい」
レン「すー、すー」
レンはツインテの膝に抱きつくようにして眠っている。
ツインテ「平和ですねぇ。……これがたんなる旅行とかだったらよかったんですけど……」
ツインテはレンの頭をやさしくなでる。
ポニテ「あっ!!レンちゃんばっか膝枕ずるい!!私もする!!」
ツインテ「え!?か、勘弁してくださいっ!!」
アッシュ「……ごくり」
--船--
ツインテ「こ、ここはもう一杯なんです!!そ、それならアッシュ君に膝枕してもらったらいいじゃないですかっっ」
アッシュ「なん……だと?」
ポニテ「あー……うん、それでいいやっ!!」
アッシュ「ふざけんな!!スキル、インビジボォ!!」
ブゥン
アッシュは姿を消した。
ポニテ「あっ!!アッシュ君、かくれんぼしたかったんだね!!よぉおし!!」
ツインテ「アッシュ君……そこまで嫌だったんですか」
--船--
ポニテ「どこだどんどこどーん!!」
ポニテは船の中を駆けまわっている。
??「お譲ちゃんや、元気がありあまってるようじゃな」
漆黒のローブに身を包んだ老婆がポニテに話しかける。
ポニテ「ん?えへへ、だって船の中退屈なんだもんー」
??「そうかい。じゃぁおばあちゃんが何かお話をしてあげようかねぇ」
老婆はそう言って本を二冊取りだした。
??「赤い本と黄色い本、どっちがいいかえ?」
①じゃぁ赤ー!!(番外編ss・魔法使いに大切なもの)
②むむ?黄色にしようかなー?(番外編ss・isの踊子)
③知るかばばぁ、ただでさえ変なやつが出てきたせいで私達の活躍が130もふっとばされたんだ。主人公だってのにこれ以上影が薄くなってたまるか。海の藻屑と消えろ。(そのまま進行)
魔法使いとキバの放浪の旅を書きまふ
・isの踊子
勇者と踊子の出会いを書きまふ
※どちらも少量です。
考える時間も欲しいので10時までに多かったものを書かせていただきたいと思います。それではっ!
1が6票
2が4票
3が3票
4が1票に5が2票っと
では①を開始します。ちょっとお待ちください。m(__)m
本って、あの、自費出版、ってやつですよね??同人誌もそうか。でもお金が無いのでww
--船--
ポニテ「知るかばばぁ、ただでさえ変なやつが出てきたせいで私達の活躍が130もふっとばされたんだ。主人公だってのにこれ以上影が薄くなってたまるか。海の藻屑と消えろww」
??「えっ!?」
ポニテ「あ、違います違います!!じゃぁ……赤の本がいいなぁ」
??「い、今のセリフはなんじゃったのか……ま、まぁよしとしよう。それでは始めるぞい」
『魔法使いに大切なもの』
ポニテ「どうでもいいけど、おもっくそタイトルぱくってるね。ちゃんとタイトル通りの話になるのかなっww」
Qw0『……』
--草原--
ガギィン!!ギィン!!
名も無き兵士「うおおおおおおおおおおお!!」
名も無き亜人「いやああああああああああ!!」
人と人が争っている。
互いに武器を振るい、互いを傷つけ、互いに命を落として行く。
牛亜人「今だ!!いけるぶもー!!」
蝙蝠亜人「きぃきぃ!!やっちまうきぃ!!」
女兵士「あ、あわ!!」
兵士たちが亜人の群れに囲まれている。兵士たちは各々の武器でけん制しているが、それも最早意味の無いことで。
牛亜人「お前らさえこなければぶもおおおおおおお!!」
牛亜人が一番最初に飛び込んだ。
老兵「うああああああああああああああ!!!!!」
ヒュッ
太陽を横切るようにして現れた影、それは輪の中心に降り立ち、
?「あああああああああ!!風属性魔法、レベル4!!!」
ビュオオオオオオオオオオオ!!
蝙蝠亜人「きいいいいいい!!!!」
--草原--
女兵士「あ!!特別兵、特別兵の方ですね!?助けにきてくれた!!」
?(……そうか、一般兵にはそういう肩書で通っているんだっけ?)
特別兵と呼ばれた少女はくるりと兵士達の方へと振り返る。
?「危険だと思ったら下がりなさい。無駄に死んじゃだめです。いくら、」
老兵「とはいえなぁ、魔族が生き延びているとあっちゃぁ、わしらは満足に寝ることもできんし……」
?(今なんのために戦っているのかも……当然だけど知らされて無いんだよね……)
牛亜人「なんだきさまぶもおおおおおおおお!!!!」
?「!?」
ドシイイイイイインン!!!!
?「ぐっ!!」
2Mはゆうに超える巨体で突進してきた牛亜人。
牛亜人「ぶっ!?」
しかし少女はそれを受け止めた。
--草原--
牛亜人「そ、そんな……おいらの、おいらの突進がこうも簡単に!!」
?「簡単じゃないよ、すごく痛い。でも私が止めなきゃ……」
少女の両手に魔力が集結する。
?「後ろの人達に当っちゃうでしょ!!」
ドオオオオオオオオオン!!!!
少女の両手から発射される魔力砲。それは六色の輝きを放ち、牛亜人達を吹き飛ばした。
女兵士「す、すごい一撃……。さすが特別兵……さん」
?(ふぅ……ちょっとマジックドレインしたけど、やっぱり足らないか)
--草原--
狐男「へぇ、ちょっとはやりそうな奴がいるコン」
?「!!」
間髪いれずに新しい敵がその場に登場する。
?「貴方達は下がって治療を受けてきてください!!今の状態じゃすぐやられるのがオチです!!」
老兵「う、うむわかった!!お前さんも無理はするんじゃないぞ!?」
兵士たちは自陣に向かって走り出す。
狐男「ありゃ。人間は群れで狩りをするもんだコン。一人でいいのかコン?」
?「残念だけど……私普通の人間じゃないから」
狐男「?わけわからんコン。でもじゃぁ、やっちゃうコン!!犬娘!!」
犬娘「はいワン!!」
?「!?」
--草原--
少女の後ろの水たまりから犬娘が出現する。
?(な!水渡り!?)
犬娘「今ダーカーザンブラックを連想した人は後でニカと同じ目にあってもらうワン!」
?「多分いないよ!!」
ドスっ!!
犬娘の後ろ蹴りが少女の脇腹に入る。
?「うぐっ!!」
狐男「戦場で卑怯もくそもないコン。悪く思わないでコンね!」
吹き飛ばされた少女の落下地点で待ちかまえる狐男。
?(まずい!!)
--草原--
??「うぉっほん。少女相手に二体一とは、それでもジェントルかね?」
狐男「コン?」
バカラッバカラッバカラッ
騎士がスピアを構え、こちらに突進してくる。
狐男「なんだこのWみたいな形の髭のおっさんはコン!!」
??「じぇええええええええい!!!!」
狐男「あぶなっ!!」
突進突きを紙一重でかわす狐男。
騎士は少女のもとへと近づく。
??「危なかったですな。人造勇者殿」
?「貴方は……北の三隊長の一人……でしたよね?確か」
??「えぇ、北の三隊長の中で唯一正攻法を好む男、その名も紳士です。うぉっほん」
--草原--
??改め紳士「立てますかな?どれ、お手を」
?「あ、ありがとうございます……」(……戦い方は正攻法かもしれないけれど、やっぱり北の隊長なんだなぁ……変なのばっかりって聞くし)
紳士「どれ、では人造勇者殿は可愛らしいお犬さんのお相手をお願いしますよ」
?「え?あ、はいわかりました」
狐男「どうやったらそんな髭になるコン……そういや最近のジャンプでお前みたいなやつを見たコンね。確かこう、パカッと……」
紳士「シャラップ!!!!」
紳士は馬を蹴る。すると馬が猛スピードで走り始めた。
紳士「おおおおおおおおお!!」
狐男「ふん、馬に乗ってるようなやつに負けるかコンっ!!」
--草原--
犬娘「しぇい!!」
ボボボボボボボ!!!
?「鋭い!!」
ロンダートで接近してきたかと思うと、曲芸のような蹴りや掌底を繰り出してきた。
ダダダダダダ!!!
犬娘「!?」
それを一撃以外全て受け流す少女。口からは血が流れている。
?「いったいなぁ……もう!!」
少女は右手に魔力を込め、ありったけの力で犬娘を殴り飛ばした。
ドゴッ!!
犬娘「ぎゃふぅん!!!!」
--草原--
殴られた犬娘は宙を舞う。
?(嫌な感触……慣れることなんて、多分無い)
犬娘目がけて追撃の構えを取る。
?「対単体、雷属性魔法レベル4!!」
バチバチバチ、ドギャアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!
目も眩む閃光を放ち、雷は犬娘に直撃した。
バシュッ
?「え」
犬娘「替わり身の術とかいう奴ですワン。覚えておくと便利ですワン」
犬娘は背後から少女の肩に手を乗せた。
犬娘「盗む、水分!!」
ジュル
--草原--
?「あ、ああぁ!!」
ジュルジュルジュルジュルジュル
犬娘「ごめんワン。でも私水属性だからこうやって誰かから水分徴収しないといけないワン」
少女の体から水分が失われていく。どんどん肌にしわが増え、ミイラになるのも時間の問題だった。
犬娘「あらあら、結構べっぴんさんだったのに、今じゃしわくちゃのおばあちゃんワンね」
?「!!」
ゴッ
裏拳が犬娘の頬に直撃。
犬娘「キャイン!!」
?「……」
少女は何も言わず犬娘に近づくと、
犬娘「ま、待つにゃん!!あ、まちがえた。今動き回って汗でもかこうものなら命にかかわるワンよ!?そっと安静にしておくことをお勧めするぴょん!あ、まちがえた」
?「拘束魔法」
ギャインギャイン!!
巨大なホッチキスの針が出現し、犬娘を地面に縫い付ける。
--草原--
犬娘「ま、待て待て待てちょ、待てよぉ!!返せないんだぴょん!!どうやっても私は返せないんだぴょん!!奪うオンリーで申し訳ねぇっすワン!!もう語尾めちゃくちゃになっちゃったワン!!」
?「……心配しなくても大丈夫」
少女は犬娘の顔に自分の顔を近づけると静かに口を開いた。
犬娘「!?た、食べたからって失われた水分の全てが戻るわけじゃないワンよ!?そんなことなんかしないでちょっとまっねぇ!!」
?「大丈夫。ドレイン系は元々私達の物なんだから」
犬娘「……へ?」
がぶっ
少女は犬娘の首筋に噛みついた。
犬娘「あいった!!あ、ちゅーちゅーされてるワン!!あ、あっあ、あん、あっああああああああー!!!」
じゅるじゅるじゅるじゅるじゅる!!
犬娘「やばいやばいやばいやばい!!干からびる干からびるワン!!」
じゅるじゅるじゅるじゅるじゅるじゅるじゅる!!
--草原--
?「ふぅ」
以前以上の肌の艶を取り戻した少女は、満足そうに唇を拭った。
犬娘「お、おまえは、い、いったい」
?「どうしたワンチャン。調子はどうだ?満身創痍だな体が干からびて砕けるぞ。どうするんだ?おまえは犬か?それとも人間か?」
犬娘「い、いきなりキャラ変わって……」
?「あぁ、いつもなんだ。いつもそう、血を吸うとな、声が中田○治になるんだ」
犬娘「んなバカな!!」
?「お前は恐れ多くもこの吸血鬼の末裔である私に、吸血行為のなれの果てをしてみせたのだ。随分とまぁ、いい気分だろう?」
犬娘「ひ、ひいいいいいいいいい!!!!」
--草原--
ギィン、ドッ、ドゴゴッ!!
紳士「む!?」
狐男(こいつ、馬に乗ったままだってのに強いコン!!どうなってるコン!?旋回性も低いし回避能力もほとんどないだろうに!!)
紳士「やりますね狐君。しかし騎士との戦いに不慣れさを感じる。いいでしょう、この際教えてさしあげましょう」
狐男「いや、遠慮するコン」
紳士「騎士というものは、馬や騎乗物との真の意味での融合を図るわけですが、」
狐男「勘弁してくれコン」
紳士「騎乗するものの魔力や属性、能力などを倍加、共有できるのですよ」
狐男「黙れコン。奥義、水炎」
紳士「!?」
紳士と狐男の周囲を水色の炎が取り囲んだ。
--草原--
紳士「これは驚いた……犬畜生の身でありながら、人類の英知の結晶である奥義習得にまで至るとは……」
狐男「ふっ、ふっ、ふっ、驚いたコンか?おいらは優秀なんだコンよ!!」
紳士「ふむ、これは私も全力でお相手せねばなりますまい」
狐男「どうでもいいからさっさと消えてくれコン!!」
バサバサ
その時一匹の蝙蝠が二人の間に割って入る。
紳士「む?」
狐男「!!ま、まさか蝙蝠亜人か!?蝙蝠亜人なんだな!?くそ……誰がこんなひどい目にコン!!」
バサバサバサバサバサバサ
蝙蝠の羽音がある場所を中心として聞こえてくる。
戦場に一つの渦が出来ていた。
?「血とは魂の通貨、命の貨幣、命の取り引き!!」
紳士「まずい。この状況で紳士である私はまずい」
--草原--
狐男「……あれは、さすがに相手にはできないコンね。引き上げコン!」
狐男は早々と逃げて行く。
紳士「む?逃がしましたか。しかし……」
紳士は少女を見つめる。
紳士(あれが人造勇者の力……勇者としての力だけでなく、何か能力まで持っているのか?)
?「ふぅ……付かれた。これだけ召喚するのは久しぶりだし」
紳士「もし、話しかけても大丈夫かね?」
少女は紳士が近づいてきていたことに全く気付いていなかった。
?「あ、大丈夫です。どうぞ」
紳士「……」
紳士は宙を舞っている蝙蝠の群れを見上げる。
紳士「召喚、と言ったね。人造勇者殿の職業は勇者ではないのかね?」
?「……本物の勇者のことはわかりません。ですが私達は……この力を得る前は普通の職業に付いていたわけです。だから前の職業のスキルや魔法も使うことが出来ます」
--草原--
紳士(二つの職業の能力を使えるとは……これが二重就職というやつですか。半端になるから一つに絞れ、というのが普通ですが)
?(ってやばっ!何私情報を漏らしちゃってんの……)
紳士(勇者ほど汎用能力が高い職業ならば、それも可能というわけですな)
豚亜人「ぶ、ぶひーーーーー!!」
G「こっくろーーーちっ!!」
紳士「!!次が来たようですね!!」
?「……」
紳士「どうしました?あ、なるほど。確かにあれは女性の方ではきついでしょう、Gの方は私が引き受けますので」
?「そうじゃないんです!!」
紳士「!!……貴方まさか」
?「……こんだけしておいてなんですけど、やっぱり戦いは好きに……なれません」
紳士「いまさらすぎるーーーー」
--草原--
紳士「……人造勇者は全て志願兵と聞きましたが」
?「そうやってなんでも聞きだそうとしないでください。紳士の名が泣きますよ?私そんな軽い女じゃないです!」
紳士「おっと、これは失敬」(もう結構知っちゃいましたけど……)
豚亜人「ぶひ、ぶひー!!」
紳士「……戦いが好きな人なんてあまりいないですよ」
?「え?」
ドゴオン!!
豚の突進とGの突進を紳士が一人で受け止める。
紳士「それでも闘わなきゃいけない時はあるのです。貴方が戦場に立つことによって、誰かが戦場に立たなくてすむことになり、また、戦いの犠牲になる人も減るかもしれません」
ギィン
紳士のスピアがGの腹を突き破る。
G「ぎしゃああああああああああああああああああああ!!!!」
すると卵がoieuhga08うぇrhgじゃ0rぽいgかぽぎ。
--草原--
魔法煙の中から現れた魔王勇者は全くの無傷。
魔王勇者「……どいつもこいつも……なんで私を虐めるの……赤竜」
赤竜「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
魔王勇者の直上に体長100メートルを超す竜が出現する。
魔王勇者「炎弾……咆哮」
赤竜の口が開き、膨大な魔力が炎へと変換され圧縮され続ける。
そのあまりの熱量に、周囲に存在する人間は次々に蒸発していく。
人造勇者龍騎「……これが……魔王!!」
魔王勇者「放て」
ギュィン
--草原--
ゴオオ
?「そんな……そんな考えもあるんですね」
紳士「んふっ、紳士ですからっ。あ、惚れてはいけませんよ?」
少女に満面の笑顔を向ける紳士。
ジュッ
少女の目の前を炎の弾丸が通過した。
もし少女が常日頃から魔力を纏っていなければその余波で燃え尽きていただろう。
そう余波ですら。
少女の目前から紳士と二人の亜人が完全に消え去った。
--草原--
勇者討伐戦争、一日目終了時。
?「……撤退命令?……やっと、終わった……」
少女は今日、初めて自身の身体を見てみた。
?(血まみれの泥だらけ……命を奪った感触はまだ手に残っている……)
少女はその手で頭を抱える。そして浮かぶのは紳士の笑顔。
?(あの光景が脳に焼き付いている……あれだって私が殺したようなもんなんだ。私は……私はこんなことをするために……)
女は友軍兵が撤退していく中、一人ぽつんと戦場に立っていた。
?(……帰ろう。帰るしかない)
??「う、うぐ」
その時声が聞こえた。
?(まさかまだ回収されてない兵がいる!?しかも生きて)
紳士の笑顔が脳内を横切る。
?(助けなきゃ、助けなきゃ!!)「だ、大丈夫ですか!?どこですか!?」
少女は死体と泥の下から声の主を見つけた。
??「うぅ……」
?「あれ、この人って……王国の、魔法使い」
??改め魔法使い「でゅく……し」
--誰かの夢--
???「……えな……私……ど……」
誰かの声がする。
???「……んな……罪者……がわらしい」
とても……とても、好きだった人の声。
???改め母親「うちからでていけ!!」
ガバッ
魔法使い「はっ!はっ!はっ!……はっ……」
魔法使いは飛び起きた。荒い呼吸を整えつつ辺りを見回す。
魔法使い(夢……またあの夢か……ん?ここは、どこだ?)
見知らぬ天井。
--小屋--
魔法使い(俺は……戦場で戦っていたはずだが……づっ!!)
魔法使いは腹を押さえる。
魔法使い(そうか。俺はあの女にやられて……。というとここは野戦病院か?……にしては薬品の匂いがしないしな)
ギッ
魔法使いはゆっくりとベッドから立ち上がる。
ベッドの脇のテーブルには血濡れた包帯や器具がおいてあり、誰かが自分の手当てをしてくれていたことがわかる。
魔法使い(……礼を言わねば)
それにしても日が高い。すでに戦闘は行われているかもしれない。
急いでドアを開けると。
牛「んめーーー」
牛がのんきに目の前を通り過ぎて行く。
魔法使い「羊か!!!!」
--小屋--
魔法使い(いやいやいやまてまてまて落ち着け。『素数』を数えて落ち着くんだ……)
魔法使いは一度ドアを閉める。
魔法使い(なぜいきなり田園風景になってやがる……牛が野放し状態とは一体どういうことだ??……!!)
そこで魔法使いはあることに気付く。
魔法使い「しまった!!幻術魔法か!!」
魔法使いは痛む腹の傷を押さえながら精神を集中させた。
魔法使い(やったことは無いが無理じゃないだろう。解除魔法発動。種別幻術、対象俺!!)
パフっ
魔法使い「……き、効かない……だと?」
--小屋--
魔法使い(確かに俺は解除を専門としていないし、属性だって合ってない。だが)
バタン
その時、小屋のドアが勢いよく開かれた。
?「はー、重かったー!!ってあれ?起きてる……」
麦わら帽子を被った少女がそこから現れた。
その手には大きなかごを持っていて、トウモロコシが溢れるほど詰められていた。
?「まだ安静にしていた方がいいと思います……けど」
魔法使い「っ!!」
魔法使いは少女を押し倒した。
ガタン!!
?「ひ、ひぃ!?」
--小屋--
魔法使い「貴様か!!貴様がこの幻覚を!!」
?「え、えぇ!?な、何?タミフル?や、ちょっ」
魔法使い「貴様か貴様かきさ……お前、確か」
?「う、うぅ……せ、せめて優しく」
魔法使い「人造……勇者?」
バタン
包帯少女「お手伝いに来ましたミナさん!!」
突如開け放たれるドア。
?「あ……」
ドアを開けた包帯少女が真っ先に目にしたのは折り重なった男女。
包帯少女「ききききぃやああぁぁ!!」
--小屋--
魔法使い「全く……さっきのは一体なんなんだ」
?「貴方にも問題があったように思うけど……」
魔法使い「さっきのはお前の召使いかなにかか?」
?「違う違う。彼女は、彼女らは戦災孤児。自分たちの国を滅ぼされて、頼るあても無いままこの村に流れてきた子達なの……。村の人達はいい、って言ってるんだけど、恩返しするって聞かないらしいの。でも彼女らの歳で出来ることなんて限られているでしょ?だからたまにお手伝いに来てもらっているんだ」
魔法使い「デュクシまでは読んだ」
?「読まずに聞いて!?」
魔法使い(国が滅ぼされて……か)
魔法使いは何かを思い出すように窓の外に目を向ける。
魔法使い「……悪かったな取り乱して」
?「ううん、そりゃあそうだな、って思った。貴方が気を失ったのは、血と土にまみれた戦場だったんだし」
魔法使い「……状況の説明を願いたい」
--小屋--
数十分後
?「お、落ち着いた……?」
少女は柱の影から覗くようにして魔法使いを見ている。
魔法使い「……あぁ。さっきのことは誤っただろう?こっちにこいよ」
?「……怒らない?」
魔法使い「怒らない」
?「……えへっ」
少女は嬉しそうに笑うと、魔法使いに駆け足で近づいた。
むに
?「ふぇ?」
少女の頬がつねられる。
?「ふ、ふぇ!?いふぁいいふぁい!!」
魔法使い「痛くしている!!話を聞けばなんだ!!お前は怪我をしていた俺を埒して戦場から逃走!?しかも戦争は一週間前に終わってる!?ふざけんな!!」
--小屋--
?「おふぉららいってゆっふぁろにー!」
ビエーン
魔法使い「お前、敵前逃亡は重罪だぞ……?特にお前は元々立場が危ういんだ……」
魔法使いは指を離す。
?「だって……助けたかったんだ」
魔法使い「?」
?「だって私は人を助けるために受諾したんだ!じゃなきゃ人造勇者なんて……どうせ選択肢なんて無かったんだけど……」
少女は大粒の涙を零す。
?「なのに訓練は人殺しの術……やらされたことは戦争……こんなのなんて無いよ!!」
魔法使い「甘ったれるな」
?「!?」
魔法使い「魔王が死んだ今、お前達が勇者として振る舞うことは今後一切無い」
?「う……」
--小屋--
魔法使い「むしろ、魔王がいなくなってから実戦配備出来るように組まれたこの計画、お前達は最初から人を殺すために造られたとしか思えない」
?「嘘……」
魔法使い「魔王が死んだことにより敵が変わる。統率をかいたモンスターなんかより、人間のほうがよほどやっかいだ」
魔法使いは苛立ちながら衣服を着始める。
?「えっ……どこか行くの?」
魔法使い「帰る。分かり切ったことを聞くな!!」
?「でも貴方も脱走兵だと思われてるかもしれない……」
魔法使い「構わん。どのみちここに俺の居場所を見いだせない」
?「駄目だよそんな。そんなのやっぱり、責任感じる……し」
うなだれる少女。
魔法使い「……さっきから聞いてれば自分が自分が、だなお前」
少女の体は魔法使いの言葉に反応する。
?「そう……だね。そうだよね。ごめんなさい。最初に謝るべきだった……」
--小屋--
顔を塞ぐ少女を魔法使いはしばし見つめる。
魔法使い「……俺は行く」
?「うん……」
魔法使い「……命を助けて貰ったことには感謝している。礼として出せるものはない。その代わりにお前は戦場で死んだことにしておいてやる」
?「え?」
魔法使い「生れ故郷なんだろ?ここ……余生は静かに過ごせ」
魔法使いはドアを開ける。
?「ま、まって!!」
少女は魔法使いに抱きついた。
魔法使い「ごぶふっ!!」
その衝撃で魔法使いの傷口が少し開いてしまう。
魔法使い「き、きさま」
少女「お、お腹空いてるでしょ?1週間何も食べてなかったんだから!だからご飯だけでも食べてって!!ね!?」
魔法使い「わ、わかった、わかったから手をはなデュクシWWWWW」
バタン
?「あ」
魔法使いはいきたえた。
--路地裏--
片足少年「おい!本当かよ!!」
包帯少女「うん、間違いない……あいつだった……私達の国をめちゃくちゃにしたやつらを率いていた、あのフードの男!!」
片足少年「でもなんでここに?まさかこの村でも同じことをするつもりなのか!?」
包帯少女「多分違うと思う。村の人達に聞いたら、あいつかなり深い傷を負っていたらしいんだ」
片足少年「療養か……くそっ!!ふざけやがって!!」
包帯少女「……憎いね、憎いよ!!」
片足少年「なぁ……あれ、使ってみようぜ」
包帯少女「あれって、一緒に持ってきた鉄の人形のことだよね?」
片足少年「あぁ。この村の人たちには見せてないよな?」
包帯少女「もちろん。村の外の林に隠してあるよ。でもあれ、すごい危ないってパパが……」
片足少年「賢者師範代のおっちゃんか……。でも、例え危なくったって俺らが仇を取るんだ!!もう俺らしかいないんだ!!」
--林--
片足少年「確かここに……あれ?こっちじゃなかったけ?」
包帯少女「もうちょっと先だよ。黒い大きな石を目印にしたでしょ?」
片足少年「あ、そうだっけ。わりぃわりぃ」
少年の額には汗。やはり片足での移動は幼い体にはこたえる。
包帯少女「……ほら」
包帯少女は手を伸ばす。
片足少年「え?い、いいよ!女になんて頼れねェよ!!」
包帯少女「もう、素直じゃないんだから」
包帯少女は有無を言わさず片足少年の肩に手を回す。
片足少年「……でも、痛いだろ?肌……」
包帯少女「……兵器」
--林--
包帯少女「あった、大きな石。この後ろの木の後ろ」
包帯少女は少年を下ろすと木の後ろに回り込む。
そこにはローラーのついた人並の大きさの箱があった。
包帯少女「……開けるよ?」
片足少年「こくっ」
片足少年は無言で頷く。
ガパッ
そこには
????「……」
一人の女性が眠っていた。
片足少年「何度みてもすごいなこれ……人間そっくりだよ」
--林--
包帯少女「……どうやって動かすんだっけこれ?」
片足少年「確か、うなじをお日さまにあてつつ、こーくすくりゅーぶろーをケツにブチ込む。らしい」
包帯少女「……そんなんで動くの?」
片足少年「親父がそういってた」
包帯少女「闘士師範代さん、大雑把だからなぁ……」
二人がかりで箱の中の女性を陽のあたる場所に移動させる。
丁度木漏れ日が差し込む場所を見つけたのでそこに女性を下ろす。
片足少年「うし、うなじ確保!!」
包帯少女「よーし」
包帯少女は準備体操を始める。
片足少年「……やっぱお前がやらないほうがよくない?」
包帯少女「何言ってるの。片足少年じゃ満足に拳もふれないでしょ?」
片足少年「だ、だけどよ……」
--林--
包帯少女「ほっ」
包帯少女は軽々とロンダートからのバク宙を決める。
片足少年「お前……なんでそれをやる必要があるのだ」
包帯少女「最近体動かして無かったから体なまっちゃってさぁ。うし」
片足少年「うちの親父、お前が男だったらなぁぐへへへへ。っていつも言ってたもんなあ」
包帯少女はスタスタと歩き女性を倒す。
そしてお尻突き出しポーズにさせた後、
包帯少女「闘士師範代直伝!!こーくすくるーぶろー!!」
どめぎょっ!!
????「!!!!」
かっ
女性の目が見開かれた。
--林--
????「ダメージを感知、当機体に攻撃するものアリ!!」
女性は恐ろしい速度で振り向くと子供達を視認した。
????「ターゲット確認、排除開始」
ジャガッ
女性の両手からは見たことも無いような突起物が出現する。
片足少年「う、うわぁ!!なんだこいつ!!や、やっぱ危ないのか!?」
包帯少女「な、ちょ!一人で逃げようとしないでよ!!」
????「人間?」
子供達の動向を観察していた女性の目が青白く光る。
????「スキャン終了、外見は人間に酷似しているが遺伝子情報から人間ではないと判断。アクセスキー、プロテクトキー共に存在せず。データベースに存在する生物ではないと断定」
片足少年「日本語でおk」
--林--
????「……」
片足少年「……」
包帯少女「……」
しばし三者は停止する。
最初に動いたのは女性。
ガシャガシャン
????「敵性の意志無しと判断、バトルモードを解除、通常モードに移行します」
片足少年「き、危機は去ったのか?」
包帯少女「私に聞かないでよ、わからないもん」
????「えー、えー、なんて呼んだらよいのか不明。まぁいいやおい坊主」
片足少年「え?」
????「ちょっと脳みそをいじくらせて欲しいと申請」
包帯少女「……え?」
--林--
片足少年「だっ、駄目駄目駄目駄目っ!!何言ってるんだよもう!!」
????「えー、ちょっとくらいいいじゃないかけちー不満」
女性は指からうねうねした何かを伸ばしている。
包帯少女「ねぇあなた、古代のすごい兵器なんでしょう?」
????「?」
女性はじっと包帯少女の顔を見つめる。
????(星の位置から現在位置と時代を推定……判明。……まさかここは……なるほど)
片足少年「な、なんか言えよ、なぁ」
????「その通りである。私の名前はX-10。対ケイ素生物B型機兵の一体である」
--林--
包帯少女「なにそれ?どっかの所属ってこと?」
????改めX-10「わからなくていい。わかっていたら即射殺していた。おかげでどの程度のものか自分なりに理解できた」
片足少年「ゆ、弓持ってるのか?そんななりで」
X-10(私達が使えていた主は当の昔に滅亡してしまったのか……。その残りカスが今は……)
X-10は子供達をじっと見つめている。かつての名残を探すように。
包帯少女「あの……X-10とかって呼びにくいし打ちにくいらしいの。だからテンテンに改名してもらえる?」
X-10改めテンテン「今結構シリアスな流れだったのになー残念」
片足少年「なんだ打ちにくいって。どこのどいつの事情だ?」
--林--
包帯少女「ねぇ、力を貸してくれない?どうしても倒したいやつがいるの……」
テンテン「却下する。私の主は彼らだけである。二君につかえず」
片足少年「いーじゃねーかよ、もうどうせお前のご主人様ってのは死んじゃってるんだろう?」
テンテン「あぁ。残り香だけを残して……消えてしまったようだ」
ツー、とテンテンの頬に一筋の光が流れる。
包帯少女「泣いて……るの?」
テンテン「マネをしてみただけだ。もちろん水はでていない。肌の色彩を一部分だけいじって涙が流れているように見せただけだ」
片足少年「わ、わからねぇよこいつ。何言ってるのかさっぱりだよ。ひのもとことば喋れよなぁ!」
テンテン「たすけてけてー」
--林--
テンテン「倒すというのは誰を倒すのか」
包帯少女「!?やる気になってくれたの!?」
テンテン「話を聞くだけだ。私とお前達の間に主従関係は成立しないからな」
片足少年「うー……かってぇなこいつ」
包帯少女「……それでもいい、とりあえず聞いて」
包帯少女はテンテンに事の事情を説明し始めた。
片足少年「ぐがー、ごー」
テンテン「なるほど。把握。親の仇打ち」
包帯少女「パパ達のことだけじゃないわ……私達が助かったのは偶然だったの……」
片足少年「ぶひゅーひゅるるるるる」
包帯少女「私達はあの日、外で遊んでいたから氷漬けにはならずに済んだの。でも日が暮れて帰って来たら国は……。それから来る日も来る日も救助隊が来るのを待ったわ。近くの森で果物を取って食べていたから空腹は凌げたんだけど……」
--林--
???「なんっじゃありゃ」
帽子を深く被った男が木の枝からテンテン達を観察している。
???「人間……じゃぁないわなぁどうみたっても。かと言ってモンスターではないし、何より生物反応が感じられんわ」
男はテンテンの50Mほど後ろから木に隠れるようにして立っていた。
???「……て、生物でもなけりゃ一体なんやっちゅうねん?精霊とかってことはないやろうしなぁ」
ギュルン!!
???「?」
テンテンの首が180度回転し男を捕えた。
???「まずっ!!」
ドキューン!!
テンテンの右手の銃口が火を噴いた。
--林--
片足少年「な、いきなりなにやってんだ!?」
テンテン「……なんでもない。私の索敵範囲内に何かがいたので射撃したまでのこと」
包帯少女「何かって、もしかして動物?」
テンテン「多分お前等と同種」
片足少年「!!な、なに危ないことしてんだよ!!」
テンテン「残念ながら仕留め損ねた」
包帯少女「……村の人かな」
???「いっつ~……あんな距離から一瞬で攻撃してきよった。雷属性を使った新手か?」
ぬちょ
男は抉られた左腕から鉄の塊を取り出した。
???「しかも、人造勇者の中でも最硬と言われるわいの防御を容易く……世界は広いなぁ」
男は弾を捨てると回復魔法を唱えた。
???「おっとと、道草食い過ぎや。さっさとキーちゃんに会いにいかな」
--小屋--
カチャカチャ
鉄の食器同士が擦れる音がする。
?「あの、どう?味……」
辺りがすっかり闇に包まれた頃、二人はランプの光を便りに夕食のシチューを食べている。
魔法使い「……悪くない」
?「あ……もしかして、さっきのこと気にしてたり?」
ダンッ!!
魔法使いはテーブルを叩いた。
魔法使い「っ!この俺が……いくら傷を負っているとはいえ、女子供にやられるだなんて!!」
?「ご、ごめん!後、男女差別禁止……」
魔法使い「む……むう」
魔法使いはシチューを口に運ぶ。
?「わ、私ね」
魔法使い「?」
?「私卑怯だったんだ。貴方を助けようと思ったのは本当のことだよ?それは真っ先に思った。……でも、それでも私は戻りたく無かった」
--小屋--
魔法使い「さっき聞いた」
?「貴方は一刻も早く治療しなければいけない状態だった。それでも私は逃げることを選択した……」
魔法使いはもくもくとシチューを食べ続けている。
?「それに……一人が嫌だったんだ……。一人で追われる身になるのが怖かった……だから私は共犯者を……」
がちゃ
魔法使いはスプーンをテーブルに置いた。
魔法使い「さっきから聞いてればお前、何が言いたいんだ?自責の言葉を俺に吐いて、一体何を求めている?」
?「っ!!」
--小屋--
魔法使い「もうなっちまったもんは仕方がない。お前がいくら自分を責めたって悔やんだって何も代わりはしない」
?「……考え直したんだ。私も国に戻る。戻って罰を受ける」
魔法使い「……何を言うかと思えば。今回の罪は死に直結するぞ?」
?「いい。貴方が、魔法……使いが罰を受けるよりいい」
魔法使い「……お前何を」
?「全部私のせいだって言う。今は優秀な人材が一人でも欲しい時なんだし、それで貴方はきっと助かる……と思う」
魔法使い「……拒否だ」
?「それに王様は私を殺さないよ。生きてるとは言えない状態になるかもしれないけど、私はきっと……え?」
魔法使い「却下だ。同じ人間に二度も救われるのはごめんだ。それに言っただろう?……助けてもらったことには感謝している」
?「……魔法使い……」
魔法使い「名前で呼ぶな」
?「あ、ごめ」
???「なんやのこのラブラブ」
魔法使い「!!」
?「!?え、な、なんでここに!?」
いたのがさも当たり前であるように、テーブルの脇に男が立っていた。
???「ひ~さしぶりやなぁ、お二人さんっ♪キーちゃんは元からそんな気しとったけど、まさか軍団長君まで脱走するとは思わんかったで」
--小屋--
?「ち、違うんです!!この人は私が」
魔法使い「無駄だ……」
魔法使いはスプーンを握りながら冷静な顔で呟く。
?「え?」
魔法使い「こいつは……完全に俺達を始末しに来ている」
?「!!」
???「ぴんぽんぴんぽんだいせいか~い」
魔法使いは即座に立ち上がると魔法を唱えた。
魔法使い「雷属せ」
ドゴッ!!
魔法使い「っづ!?」
魔法使いは男に蹴り飛ばされる。
???「あほか。こんだけ近いんや。魔法より通常攻撃のほうが早いに決まってるやろ」
--小屋--
ガシャァン!
魔法使いは食器棚に激突し、中からフォークやナイフ、大量の皿が降り注ぐ。
魔法使い「ぐっ……」
?「やめて、やめてください影月さん!!」
???改め影月「いくらキーちゃんの頼みでも聞けんなぁ。てか、自分の心配せんでええの?」
バチッ
?「ぶっ!!」
少女の顔を影月が叩く。
影月「……タイミングが悪いんやなぁ。今は結束の時なんや。みんなが手をつないでこ~……なんちゅうんや?そう、一致団結せなあかんねや」
魔法使い「……」
魔法使いは地面に落ちた食器をかき分け、影月の隙を伺っている。
影月「どんな乱れも許されへん。どんな裏切りも許されへん。この土台になる時にしっかりしとかなあかんのよ」
?「で、でも!」
影月「人造勇者キバ。特にお前みたいなんに不用意に出歩かれたら全部パーなんよ」
?改めキバ「っ!」
--小屋--
影月「両者ともここで死ねや」
影月の意識がキバに向いた瞬間を狙って、
魔法使い「ああああ!!」
魔法使いはスプーンを投げ飛ばす。
ヒュン
しかしあっさりと影月にかわされてしまう。
影月「なんのつもりや」
魔法使い「雷属性魔法レベル」
影月「せやから遅いねんてっ」
ドゴッ!!
影月は一瞬で間を詰め、魔法使いの頭部を蹴りあげる。
魔法使い「がはっ!」
--小屋--
キバ「魔法使いっ!!み、水属性」
影月「ん」
キバの行動に気付いた影月が、彼女に左手を向けると、
バキバキバキバキ
キバ「!?」
土の手が床を突き破って現れ、キバを拘束した。
キバ「無詠唱!?あ、あぐっ!!」
魔法使い(手をかざしただけで魔法?……こいつ既に陣を引いていたのか!?それに今まで気付かなかったなんて……)
影月は再び魔法使いに視線を戻す。
影月「気付いた?やっぱ優秀やなぁ、軍団長君はww」
魔法使い「きさま……」
--小屋--
影月「こと魔法だけに関してなら、長い人類の歴史で見ても、君以上はそうはいないやろなぁ」
影月は目を細めて魔法使いを見ている。
影月「でもいくら君がわいより早い言うたかて、スタート地点が違うなら勝てるはずないわな」
魔法使い「……キバ!!こいつ陣はいくつ使えるんだ!?」
キバ「な、七つ!!攻撃、防御、速度、魔法、呪い、妨害、吸収のカテゴリーから一つずつ持ってる!!」
影月「あっちゃー……普通言ってまう?そゆこと」
魔法使い「……ほぼ全部か」
影月「ちなみに全部発動させてあるで♪」
影月は指をピンと立てて笑う。
魔法使い「!?」
そして影月はゆっくりと魔法使いに近づいていく。
魔法使い(全部同時発動?……まさか……でも本当なら)
キバ「そんなわけない!!いくら影月さんでも全部はむぐっ!?」
影月「だから~そういうこと言うたらあかんて~。おくちはチャック。お鼻もチャックや……」
キバの口と鼻が土で覆われる。
--小屋--
魔法使いは一歩下がり窓の傍による。
影月「あー、逃げる気?諦めれってー。範囲はこの村全体やから。逃げ切ることはでけへんよ」
魔法使い「……七つも陣を発動させておいて超広域設定だと?出来るわけが無い」
キバ「むむむー!!むー!むー!」
魔法使い「……」
魔法使いはキバを一目確認した後、窓ガラス叩き割った。
ガシャァアン!!
影月「……ほ~仲間を見捨てて逃げるんか。大した根性してるやん」
影月が足に力を込めると床は破壊され、爆発的なスピードで魔法使いへと向かった。
魔法使い「!!」
魔法使いは左手の手のひらを影月に向けるが、
影月「遅いってなんど言わせるんや!!」
--小屋--
ヒュン!
影月「!?」
影月は死角から攻撃されたそれを、身を捻ることによってかろうじてかわした。
影月「……スプーン、やて?」
影月の頬から一筋の血が流れる。
魔法使い「……どうした?俺より早く攻撃できるんだろ?」
影月の周囲を鉄でできた食器が漂う。
影月「……あー、そやったな。雷属性は磁力もどうこうできるんやった。今の間に準備しとったんかい」
魔法使い「……キバの拘束を解け。今なら見逃してやる」
影月「そらぁ、出来ん相談や。てか、キーちゃんを束縛しとる分、わいの方が有利な立場にいるんちゃう?」
ミシギシッ
キバ「!!!!!」
--小屋--
キバを拘束している土が、絞りあげるような音を上げる。
キバの見開かれた眼を見る限り、それにどれほどの力があるのか容易に想像がつく。
影月「みんな土属性弱いみたいに思うとるけど、大地の力舐めたらあかんでぇ。やわこいキーちゃんなんてあっという間に100%生搾り
に」
魔法使い「雷属性魔法、磁力操作!!」
周囲を漂う食器が、影月目がけて一斉に飛来する。
影月「ふ。容赦ないなぁ、普通はそこで武装解除やろ」
ガガガガキキィン!!!!
土が盛り上がって影月を包む。そして食器は全て弾かれてしまう。
魔法使い「ぐっ!!」
土がボロボロとこぼれおち、土の中から影月の眼だけが姿を現す。
影月「相性も悪いんや。諦めて死んでしまえや」
--小屋--
魔法使い(……どこか変だ。最初に俺らを殺すと、完全に明言しているにもかかわらずこの行動……交渉材料にすらならないのだから捉えたキバもさっさと殺せばいいのに……)
影月「あー……そろそろキバちゃんも限界やろ?息」
影月が土の防御を解いてキバを見る。
キバ「……」
影月「虚ろな目をしとる……ふ、ふふwwたまらんなぁ、こういうもんがあるから戦いはやめられんわw」
魔法使い「!?……やはりそうか、お前」
影月「なぁ、軍団長君?戦いは人の本能やで?それにあがなってなんになるのん?この世は闘ってなんぼやよねぇww闘って潰して踏み砕いてすりつぶして……なんでそんな当たり前なことを好き勝手やれないんやろか……」
魔法使い「……お前が人造勇者に志願した理由はそれか。……快楽殺人者!!」
影月「……不当な理由だったら人殺しは駄目で、戦争とか正当な理由だったら人殺しはおkだなんて、おかしな世の中だと思わん?どの道闘って殺すのにww」
魔法使い「……」
影月「……ほんまに死んでまうなぁ。ほれ、息継ぎや」
影月はキバの顔に覆いかぶさっていた土を解除する。
--小屋--
キバ「!?がはっ!!はっ、はっ、はっ、はっ!げほっ!!」
影月「可哀そうになぁ、軍団長君が助けに来てくれないせいでなぁ」
魔法使い「……」
影月「にしてもほんまアホやで……。妹のようにかわいがっとったのに脱走なんてなぁ……しかも、もう戦いがしたくない、なんてばかげた理由で」
キバ「はっ、はっ……聞いてたん……ですか?」
影月「夕食での会話はほとんど聞かせてもらったで♪」
魔法使い「戦いをするかしないかなんて個人の勝手だろう?お前が決めることじゃない!」
影月「……人造勇者にそれは許されへん。殺して殺して殺しまくらな、人造勇者やない。平穏に生きるなんてことはできないんや」
キバ「……」
影月「生き残りたいなら……闘うしかないんや」
--小屋--
魔法使い(こいつ……)
ズラッ
魔法使いは腰に刺してある短剣を抜く。
影月「君もやで?」
影月は振り向いて魔法使いを見た。
魔法使い「知るか。俺は元々脱走する予定なんか無かったんだ」
影月「そ……へぇ」
キバ「はっ、はっ……」
魔法使いはキバの顔を見つめる。
魔法使い「だがもう気が変わった。正式に俺も脱走してやる。そんな国、願い下げだ」
影月「……ふ」
影月はにやりと微笑んだ。
--小屋--
影月「ほう、ならどうすんの?わいとやり合うしかないんやで?例えわいを倒したとしても、これからずっと、何年も何年も戦い続ける人生の幕開けやぞ?」
魔法使い「しらん」
影月「ほうか……」
影月は戦闘の構えを取る。
影月「やる気の無い奴と、弱っちい奴。あんな奴らを倒したからって天狗になったらあかんよ?わいは人造勇者の中でも強い部類なんやから」
魔法使い「……雷属性魔法、速度上昇レベル4」
影月「あ!きたなっ!!」
--小屋--
キバ(だ、だめ。影月さんは、本当に強い……いくら魔法使いでも、勝てない……せめて、せめて影月さんの元の職業だけでも……伝えなきゃ)
朦朧とするキバの意識。
キバ(やめて……いや、とめなきゃ……わたしが、わたしのせいなんだから)
そんな中、それは現れた。
?????「へぇ……随分とまぁ人間もおもしろいことをするね」
キバ(……?あれ?……誰?)
?????「さぁ、誰だろうか」
キバの目には少年が映っていた。羊のような角の生えた少年が。
--小屋--
影月「ほんじゃまぁ……やるか。人造勇者とただの人間、そこんとこの違いを見せてやるわwwwwww」
魔法使い「はっ……」
魔法使いの顔が不気味な笑みに歪んでいく。
影月「?何がおかしいんや?」
魔法使い「おかしいさ……おかしいに決まってる」
影月「……アフォになったか?」
魔法使い「お前なんかが草を生やすんじゃねええええええwwwwwwwww」
?????「さて、あちらでは戦いが始まったようだ。両者ともに、君の大事な人……か」
キバ(君は……二人からは見えないの?)
?????「今はそうしてる。さて、戦いを拒否するがゆえに戦いを呼びこむ不幸な少女よ。ぼくが力を貸してあげようか?」
--小屋--
影月「おおおおおおおおおお!!」
魔法使い「いくぜぇえええwwwww」
ドガっ!!バチィ!!バリバリバリっ!!
キバ「ち、力を貸すって……どういうこと?」
魔法使い「ぐはっwwww」
数撃の攻防の後、魔法使いは吹き飛ばされる。
影月「こんなんで終わりかいな?わらっとる場合やあらへんで!?」
魔法使い「微サンダーwwwww」
魔法使いの右手から微弱な電撃が放出される。
バチィ
影月「あいたっ!!……無詠唱かい。でもそんなんじゃたいしたダメージは与えられへんで!?」
--小屋--
?????「不利な状況ながらも彼は工夫して闘ってる。でもほら、そんなものはただの先延ばしに過ぎないんだ」
キバ「あ……」
ドガッガッ
魔法使い「デュクシwwwアイテテwww」
魔法使いが口を拭う。
ゴッ
鉄の棒が飛んできて影月の頭部に直撃する。
影月「っ!?また磁力操作か?」
影月はめんどくさそうに頭をかく。
魔法使い「ちょww血もでねぇのかwww」
影月「……」
ヒュッ
ドゴオオオオオオオオオオオオオオン!!!!
魔法使い「!!!!」
影月の打撃が魔法使いを壁に打ち付けた。
--小屋--
?????「おや、思ったよりも早く決着が着きそうだね」
キバ「!!ね、ねぇ君は幻覚とかじゃないんだよね!?」
?????「幻覚だなんてひどいな。ぼくは確かに存在するさ。そこに……」
魔法使い「ぐへwwwいたすwwww」
魔法使いは血のついた舌で自分の右腕を舐める。
影月「……まだ笑ってるんか……ほんま頭おかしんちゃうか?今の一撃で君のお腹、ぐちゃぐちゃやで?」
魔法使い「だからどうしたwwww思い出したんだよ俺wwなんで、なんで俺はずっと笑ってたのかwww」
影月「?なんでや?」
魔法使い「正義のヒーローwww」
影月「?」
魔法使い「そうさ、正義のヒーローはずっと笑ってるもんだぜwwwwwwwwwうぇwwwwwwwwwww」
--小屋--
影月「誰が正義のヒーローや。君は脱走兵。真逆の犯罪者やんか」
魔法使い「俺が正義かどうかは俺がw決wめwるwwwwww」
魔法使いは影月の両手を掴む。
魔法使い「電ww流ww操ww作wwwwwww」
バヂッ
影月「な……に、あ、あががががが!!」
魔法使い「体の電気信号、狂わしてやんよwwwww」
影月の体がぐにゃぐにゃと不規則な動きをし始めた。
--小屋--
キバ「力を貸してくれるって、どういうことなの?」
?????「そのまんまさ。いや、正確に言うと、君が持ってる力を強くしてあげる」
キバ「私の……力……。それはゆうs、あ、そのどんな力なの?」
バヂッ
影月「な……に、あ、あががががが!!」
魔法使い「体の電気信号、狂わしてやんよwwwww」
影月の体がぐにゃぐにゃと不規則な動きをし始めた。
キバ「!?あ、魔法使いが勝った!?」
?????「ふーん?……ぼくにはあれが勝ちには見えないけれどね」
キバ「え?どうして……」
?????「あの男、相当な実力者だね」
--小屋--
魔法使い「?」
魔法使いは妙なさわり心地に気付く。
ざり
影月の腕が石のようになっていた。
ゴッ!!
逆の腕で顔叩かれる。その衝撃で魔法使いは窓を突き破って外に出る。
魔法使い「がはwwwwww」
魔法使いは血を吐きながら倒れこむ。
影月「あぶなあぶな。予防張っとかな一発でつんどったわww」
魔法使い「陣……かww」
影月「そや対雷魔法、土鎧。陣の中で雷魔法を食らう度に発動するようなっとる。土属性やから効果が出るまで時間かかるんやけども」
--小屋--
キバ「どうしよう!!魔法使いが!!こんな土っ、つ!!」
キバは土の拘束を解こうとするがびくともしない。
?????「今の君じゃ無理だ。恐ろしいほど計算づくだね。君の力じゃギリギリ壊せないようにしてある」
キバ「!!ね、ねぇ君!!本当に力を貸してくれるの!?」
少年はにやりと微笑んだ。
?????「もちろん。ぼくは君の味方……だよ」
キバは一度、壊れた窓の外を見る。
魔法使い「デュクシwwwwwwげぼっ!」
魔法使いは腹部を踏まれていた。
キバ「お願い!!私に力を貸して!!」
--村--
魔法使い「ちょwwまじいたすwwww」
影月「はぁ……。ちょっと失望したで。わい、実は信用してたんや」
魔法使い「?wwww」
影月「君、女の子の一人も守れないんやな」
魔法使い「っ」
魔法使いは右腕を影月に向ける。
影月「至近距離は魔法より」
バヂイイイイイイイイイイ!!!!
強烈な閃光が影月を襲う。
影月「!?無詠唱でこんな威力出せるわけがあらへんぞ!?」
しかし影月は見た。
魔法使い「うぇwwwww俺天才だもんwwwwww」
右腕に描かれた、血の紋章を。
--村--
影月(紋章魔法?……詠唱魔法とは根本から発動システムが違う魔法。詠唱の代わりに紋章を描くことで発動すると聞いたけど……それ古代魔法やろ?どんだけ勉強してんねん!!)
魔法使い「おらいくぜええええええwwwwwww」
バチバチバヂイイイイ!!!!
影月「っつ!」
腕をかざすだけで雷が発射され、影月を襲う。
バチっバチバチ
しかし
影月「すまんな。新技見せてもろうたけど対雷魔法は既に発動してるんや。きかへんわそんなん」
魔法使い「詰んだwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
--村--
ボコ、ボコボコ
影月は土でハルバートを作り上げ手に取る。
影月「土属性の武器は硬いでぇ……余計なもんが無い、神父ルイズベストや」
影月はハルバートを魔法使いの顔へと向ける。
影月「……終わりにしよか……甘い夢やったな」
ドクン
影月「!?」
影月は振り被ったところで何かの気配を感じ取った。
影月「これは……これは戦場で感じたあれと一緒……んなまさか……!」
気配は、キバのいる家から……。
--村--
ドオオオオオオオオオオオオオン!!!!
突如家が爆発し、その中から飛び出してくるものが一人。
???「ああああああああああああああああああああ!!!!」
影月「!?これは一体!?」
ガキイイイインンン!!!!
影月「ぐぅ!!」
影月はハルバートで防御するものの、一撃で粉砕されてしまう。
???「はァ!!」
影月「!?うそやろ?」
魔法使い「テラ魔王wwwwwキバ……」
--村--
???改め疑似魔王キバ「まも……ルンダっ!!私が、なにをしても、守る!!」
影月「わいの拘束を破ったんか……しかもその姿……」
キバは黒い鎧を身にまとっていた。
影月「きーちゃん、それ」
バゴッ!!
影月はキバの蹴りに反応することさえ出来ず、民家に突っ込む。
影月「ごほっ!?」
疑似魔王キバ「守るゥぅゥゥゥあアアアアアあ!!!!!!」
キバの両手に六色の光が収束し炸裂した。
--林--
片足少年「あっちゃー。もう随分遅くなっちまった。夕飯の準備してねぇよー」
包帯少女「もう!!ぶつくさ言って無いで急ぐよ!!ここら辺、モンスターが出るって有名なんだし……」
テンテン「なんで私も着いて行かねばならない」
包帯少女「当たり前でしょ?あなたはなんかやばい存在みたいなんだし」
がさっ
包帯少女「きゃっ!?ももも、モンスター?や、やっつけなきゃ」
片足少年「……逃げるよりファイトを即座に選ぶお前のほうが怖いわ……」
テンテン(索敵モード終了。半径7km以内に敵性生物の存在無し)
片足少年「あ!これシマリスだよ。二人とも攻撃すんなよ!?」
--林--
シマリス「きゅーきゅー」
片足少年「あはは!こいつ可愛いなぁww」
包帯少女(可愛い?ピンク色だし……。モンスターなのか動物なのか際どいラインの造形だわ……)
テンテン(データベース検索中……該当無し。この星の生物のデータがほとんど……存在しない?)
シマリス「……いぢめる?」
片足少年「うわ!こいつ喋った!?すげー!!」
包帯少女「!?やっぱりモンスター!?」
包帯少女が戦闘のポーズを取る。その横でテンテンは大きく腕を振り被り、
テンテン「そのセリフはお前じゃないだろ!!!!」
ビシッ!!!!
シマリスにツッコミをいれた。
--林--
ドゴオオオオオオオオオオオオオオン!!!!
シマリス「ひっ!?」
突然の轟音。シマリスは驚いて森の中へと走っていく。
片足少年「な、なんだ今の……村の方から聞こえたけど……」
包帯少女「!!……嘘っ……」
包帯少女は絶句する。
テンテン「火災を感知」
片足少年「え?そういや空が明るい……!!」
少年は不自由ながらも急いで村が見渡せる場所へと向かう。
片足少年「はっ!はっ!はっ!はっ!!」
少年が村を見下ろすと……
片足少年「嘘だ、嘘だ……村が、村が萌えてる!!!!」
--林--
包帯少女「やだっ、やだああああ!!またいなくなるのは嫌あああっ!!!」
少女は座り込み泣きじゃくった。
包帯少女「おじさんが!!おばさんが!!!」
少女は自分の顔を掻き毟っている。
テンテン「出血を感知。その肌でその行為はやめておいたほうがいいと忠告」
片足少年「くそっ!!またアイツなのか!?そうなのか!?ちくしょお!もう俺達の場所は奪わせねぇええ!!」
少年は急ごうとして転んでしまう。そして杖の代わりの木の棒を手放してしまった。
ガランゴロン
テンテン「どじっ子感知。やれやれ、手を貸してやる」
テンテンが少年に手を伸ばす。
片足少年「……嫌だ」
テンテン「?」
--林--
片足少年「もういやだあああああああ!!なんでだよ!!なんで俺達ばっかりこんな目に合うんだよ!!」
包帯少女「ひっ、ひぐっ!!」
テンテン「……別にお前達だけじゃない。どこの世界でも不幸だけをおっかぶった人間は存在する。むしろお前達は全然ましな方だと、」
ダンっ
少年は地面を叩いた。
ダンっダンっ!!
テンテン「……不幸が嫌なら強くなるしかない。もしくは大統領になるか」
片足少年「強くなりてぇよぉ……!!でも、俺は自力じゃ闘うことも出来ない……」
包帯少女「うああああ!!あああああん!!」
テンテン「……」
片足少年「……頼むよ……」
包帯少女「ひっ!うっ……お、おねがひっ」
テンテン「……」
片足少年&包帯少女「力を貸して!!」
--林--
テンテン「……私に頼ったことを悔いるがいい。私はただの鋼鉄の機械だ。人の心など理解できない」
片足少年「……」
テンテン「私に頼んだことを恥じるがいい。お前達は自分の無力さをひけらかしただけに過ぎない」
包帯少女「……」
テンテン「……だが……」
テンテンは少年達の顔を交互に観察する。
テンテン(……命令でなく、お願い、か……)
テンテンはかつての主達のことを思い出している。
そして自分自身の使用目的を。
片足少年「お、おい」
テンテン「よかろう、これは貸しだ。お前達が強くなった時に返してもらう」
--村--
影月「かはっ!!……まさか、こんなことになるとはなぁ」
影月は血だらけの状態で瓦礫にもたれかかっている。
疑似魔王キバ「はぁ、はぁ!!」
魔法使い「てら虐殺www眼を覚ませこら!!!ウルトラスーパーサンダーwww」
ビッシャアアアアアアアアアアアアアア!!!!
強大な魔力で構成された雷だったが、キバはなんなくそれを受ける。
疑似魔王キバ「ナンデ、わた4のジャまするノ?ワタシは、魔法使いヲ、マモルために!!」
キバが手を振りかざすと魔法使いに魔法が放たれる。
キュドキュドキュドオオオオオン!!!!
魔法使い「ぎゃばふっwwwwwwwwテラwwwwやんで……れ」
ドサリ
--村--
農夫「おい大丈夫か?しっかしろお前!!」
農婦「あ、アンタ。私はいいよ、先に逃げて。それよりあの子達は!?」
農夫「わからんっ!!諦めるんじゃない!!足を怪我したくらいで情けないぞ!?」
疑似魔王キバ「ワワワワわた、しは、守りたかったダケなのにっ!!!」
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!
キバの魔力が暴発し、熱風が吹き荒れる。
農夫「!?」
農婦「きゃあああああ!!!!」
バシュン
農婦「……?あれ?炎は……」
シュイーー
農夫は自分の真上から音がしていることに気付き、見上げた。
テンテン「ほう、単体航空時に使用するエネルギーにそのような使い道があるとは……面白い変化をしたものだ」
発光する飛行物体がそこにはいた。
農夫「て、天使……」
--村--
疑似魔王キバ「な、んだ、?」
テンテン「黒い服の男を倒せと言われたが……どこにも居やしないじゃないか。ならそうだな。お前が火災の原因のようだし、黒い鎧を着
ているからお前でいいか」
ガシャコ
テンテンの両腕が銃口に変化する。
テンテン「バトルモード移行完了。掃射」
バララララララ!!!!
疑似魔王キバ「!?」
バチュンチュンチュンチュン!!!
高速で打ちだされる数百もの鉄の塊。キバは一瞬で穴だらけのボロ雑巾と化した。
影月「!!!!キーちゃん!!!!」
--村--
?????「……これは驚いた。随分と懐かしいものがいるじゃないか」
テンテン「キピーン!?人間の反応を感知。……しかしどこにもいない?」
少年はぐちゃぐちゃになったキバの傍へ行き、体育座りをする。
?????「思ったよりパワー無いね。所詮はまがいもの、ってことなのかな」
疑似魔王キバ「ぶくぶく……ぶく」
?????「まぁあれとは相性も良くないだろうしね。でもほらがんばってよ」
少年がキバの頭部に手をふれる。
疑似魔王キバ「ごぼっ!?」
--村--
テンテン「索敵終了。なんだ?ホログラム?霊体のようなものが干渉してきているのか?実体は……」
疑似魔王キバ「があああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
影月「!?きーちゃん……」
キバは黒い魔力を噴出し立ちあがる。
テンテン「?そんなバカな。掃射」
バララララララ!!!!
弾丸はキバに命中せず、全てすり抜けていく。
テンテン「!?」
疑似魔王キバ「スキル……蝙蝠化」
バサッ!!!!
キバの体は無数の蝙蝠に変化し、夜空を埋め尽くす。
--村--
テンテン「そんな!!まさか!!」
影月「吸血鬼と人のハーフ……元より存在自体が魔王のようなもの。それゆえのこの変貌なんか?それとも……」
赤蝙蝠「キィキィ」
テンテン「っ……全部打ち落とす。マルチロック、掃射」
バララララララ!!!!
バチュンチュンチュンチュン!!!
テンテンの発射した弾丸は蝙蝠を撃ち抜いていく。だが、
赤蝙蝠「キィキィ」
テンテン「再生……ならば」
テンテンが右腕の形状を変化させたその時、
蝙蝠達『範囲殲滅、六色爆撃』
蝙蝠達がパンパンに膨れ上がり、爆発した。
ドドドドドドドドドドオドドドドドドドドドドオン!!!!
--村--
影月「がほっ!ごほっ!!ど、どうなった?」
テンテンの周囲5メートルはクレーターのようになっていた。
影月「……恐ろしい威力や……あっ!!」
影月はクレーターの中心にヤムチャのようになった倒れているテンテンを発見する。
疑似魔王キバ「はっ、ハッ!!……硬い……イッタイなんなんだ?」
蝙蝠の破片が集まりキバの体を構成していく最中、テンテンはむくりと体を起こす。
テンテン「あー!死ぬかと思った」
--村--
影月「……あっちも化物かいな」
テンテン「実弾での討伐は不可能。ならば攻撃リミッター1解除」
ガッシャン!!
テンテンの右腕が奇怪な銃口に変形する。
疑似魔王キバ「!?」
テンテン「重力子放射しぇんしゃしゅちゅしょうち、発射」
BLAME!!
光速の光の剣がキバの胸部を貫いた。
--村--
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンン!!!!
影月「な、なにいいいいい!?」
キバを貫いた光は更に直進し、山を消し飛ばす。
影月「とんでもない威力や!!これはあの時の魔王の攻撃と同等か、それ以上!!」
山の向こうから爆風がうねりをあげて村へと向かってくる。
影月「!?あかん!!村人が!!」
影月は傷ついた体で立ちあがり地面に手をつく。
影月「陣起動、防御結界!!」
村の周囲の土をせり上げ、自然の壁を作り上げた。
影月「あ、あかん!!魔力が足りんか!?」
--村--
ビュオオオオオオオオオオ!!!!
農夫「う、うあわああああああああ!!」
農婦「きゃあああああああああああ!!」
炎風が村の上空で吹き荒れる。
影月「駄目や!!もう!!」
ガシッ
影月「……へ?」
魔法使い「おら、魔力くれてやんよwwww」
血まみれの魔法使いが影月の肩を掴んでいる。
--村--
影月「……すまんな!」
先ほどまで争っていたのにもかかわらず、影月はニカっと笑う。
魔法使い「おっwおっwおっwおっwおっwおっwおーwww」
土の壁はより強固に、より高く積み上がっていく。
影月「よし!!いけそうや!!」
ユラリ
影月達の後ろキバが立ちあがった。貫通だけで済んだためか、その傷はすでに修復され始めていた。
疑似魔王キバ「ごほっ……き、危険、だ。お前は、危険ダ!!」
キバはテンテンに向かって突進していく。
--村--
テンテン「体組織の6%の焼却に成功。しかし分裂と修復によりたいしたダメージには至らず。か。なら、燃え尽きるまで連射」
ガチン
テンテン「?……動作不良?いやこれは」
?????「そんなに危なっかしいもの、ほいほい使わせるわけにはいかないなぁ」
テンテン「!?」
テンテンのカメラに角の生えた少年が映し出された。
?????「旧世界の遺物。今はそんなのいらないのさ」
疑似魔王キバ「ああああアアアアアああああAAあAAああAAAAああA!!!」
血で生成した刀がテンテンの胸部を切り裂いた。
テンテン「がっ8いk3p!?」
--村--
テンテン「くっ」
バチィっ
テンテンの傷口から電気が迸る。
テンテン(私の装甲を切り裂くとは……)
疑似魔王キバ「がぁあ!!」
キバは大きく口を開け、
バギン!!
テンテン「!?」
テンテンの首筋に噛みついた。
--村--
じゅぞぞぞっ
テンテン「こい、つ、私の、潤滑油を?」
疑似魔王キバ「じゅるっ、ぐっ、ぐぐ、じゅるる……ぐっ!!」
ビキッ!
テンテンに対して吸血を行っていたキバの歯は折れてしまう。
疑似まOうキバ「あ、あううううあああああああ!!!!」
キバは頭を抱えて転げまわる。
テンテン「あgいp……じ、自動修復かいs。」
影月「……なんやようわからんが、壮絶やな……」
魔法使い「……」
--村--
ぎ字ma王キバ「あああああああああ!!!!」
テンテン「……?存在が安定していない?無理な力を使っていたのか」
テンテンは左手の銃口をキバへ向ける。
テンテン「見ているのも気が引ける」
gj魔王キバ「あ、あが……」
テンテン「任務遂行」
バヂイイイイ!!!!
テンテン「電撃?」
魔法使い「ちょwwww待てよwww」
影月「キムタクさんがログインしました」
--村--
テンテン「邪魔をする気か?」
魔法使い「ああwwwwwwwww」
テンテン「……仲間というやつか。私には理解できない」
テンテンはキバに視線を戻す。
魔法使い「!!サンダースピードwwww」
ドッ!!
魔法使いは速度上昇を自分にかけテンテンに特攻する。
テンテン「っ。そうか。ならお前も死ぬといい」
テンテンの肩からナイフが飛び出す。
魔法使い「うは?ww」
ドシュっ!!
--村--
魔法使いはそれを避けようとのけぞるが、大きく額を切り裂かれる。
テンテン「ふん」
テンテンは右腕を通常モードに戻し、魔法使いの顔面を殴打する。
ゴッ!!
魔法使い「あべしっwwwwww」
ドサっゴロっ
テンテン「そんな消耗した体で、やるだけ無駄だというのに。人間は昔から理解出来ないな」
魔法使い「うwるwせwぇwww恩人には恩を返すもんなんだよwwwwww」
影月「……」
--村--
魔法使い「サンダーブレードwww」
魔法使いは雷で作った剣を作り上げる。
テンテン「ロックオン、掃射」
バキューン!
テンテンは射撃で魔法使いを狙う。
魔法使い「あたらぐふっwwwwww」
魔法使いは弾丸に当たって吹き飛ぶ。
影月「はん、だらしないやっちゃな!!」
魔法使い「あ、あれ?痛くねぇwww俺、テラカッコヨスwwww」
魔法使いの体には土の鎧が作られ始めていた。
影月「恩人には恩を返したらぁ!!」
--村--
キバ「はっ、はっ……」(頭が痛い、頭が、意識も……私、ここで終わりなのかな)
キバは指一本動かせないまま地面に横たわっていた。
キバ(吸血鬼の力の源の……牙が折れちゃったもん……ね。もう、助からない)
魔法使い「おらあああああwwwwww」
バキッ!チューンッ!ギャリギャリ!!
キバ(だからもう、そんなこと、しなくても、いいのに、まも)
魔法使い「ひでぶっwwwwww」
ドジャアアアアアアア!!
倒れているキバのもとに魔法使いが転がってきた。
キバ「あ、魔法使い……」
--村--
魔法使い「アイツマジチートwwチートすぐるwwうぇwwwチート使って勝って嬉しいのかよwww」
魔法使いは口についた血を拭う。
キバ「あ……」
魔法使い「……あ。……あひゃひゃひゃwwwww」
魔法使いはなぜか笑いながら立ちあがった。
魔法使い「そう何度も俺を助けようとすんじゃねぇww」
キバ「……え?」
魔法使い「女に助けてもらってばっかじゃ男として情けねぇってんだよwwwwww」
バチィ!
魔法使いの体中から電気が流れ出す。
魔法使い「……終わるまでそこで倒れとけ。あとで恩返しするんだからよ」
--村--
影月「せやあああああああ!!」
魔法使い「ああああwwwwwwwww」
ガキン!!キィン!!ドッ!!ビシャアアアアアアン!!
テンテン「くっ」(こいつら二人相手は、今の私ではきつい……それに)
テンテンは先ほどの少年のことを思い出す。
テンテン(わからないことばかりだ)
魔法使い「!?おらそこだべええええwwwwwwwwwwwww」
魔法使いの雷でできた剣が、テンテンの微かに残った傷口に突き刺さる。
バリバリバリバリ!!!!
テンテン「!!!!」
--林--
翌朝。
パチパチパチ。
影月は林の中で魚を焼いている。
影月「お、これもうええな。ほれ」
魔法使い「うぇwwwさんくすwwww」
キバ「あ、ありがとうございます」
三人は仲良く魚を食べていた。
--林--
キバ「あ、あれ?でも昨日影月さん私達のこと襲ってきて、あれ?」
魔法使いと影月はきょとんとした顔でキバを見ている。
影月「あれ?まだ話しとらんかったけ?きーちゃんには」
魔法使い「さっさと説明しろよwっうえぇwwww骨いてぇwwwwあっ」
影月「……すまんかった昨日は。あれはわい的に調べただけやったんや。かんにんな!」
キバ「……へ?」
魔法使い「こいつww脱走したお前のことが心配であてっwwwしょうがないから捜索するって言ってでてきたんあっww出てきたんだってよほっww」
キバ「え……」
影月「……いくら嫌でも闘わないけん時があるんや。そんな時ちゃんと闘えるか試したかったんや。それと、きーちゃんの王子様はちゃんと守ってくれるのかな」
キバ「え、ええ!?」
魔法使い「骨いてええええwwwwwうぇwwwwww」
--林--
影月「さて、飯くったしもういこかな。君らも大丈夫そうやし……」(一個不安があるけどな)
魔法使い「おうどっかいけwwwww」
キバ「……あの」
影月「……きーちゃん、人生は戦いやで?……必死にがんばって必死にもがいて最後まで生きろや……」
キバ「……あの時すごい苦しかったです」
影月「……へ?」
キバ「あの時のビンタも痛かったです」
魔法使い「……www」
影月「あれ?これ感動的な場面とちゃうの?」
キバ「とても苦しくて痛かったです。だから」
キバは影月に抱きつく。
キバ「いつか倍にして返します。だから、その時まで、影月さんもご無事で」
影月「……ははっwwあいよww」
--村--
農婦「これ……どうするの?もう、動かないんでしょうね?」
農夫「それもそうだが、あの子達昨日から帰ってきていないんだ!探しに行くぞ!!」
ガシュン
テンテン「システム、再起動」
農夫「!?こ、こいつまた!!」
テンテン「あー……死んだふりシステムはどうやら成功したようだな」
テンテンはきょろきょろとあたりを見回して呟く。
テンテン「さて、村が完全に崩壊する前に退けたわけだし、任務達成。というわけで皆の衆、あでゅー」
テンテンは発光しながら林の方へと飛んでいく。
農夫「……」
ガラン
農夫はくわを落とす。
--林--
シュイー
テンテン「確かここらへんに。お」
テンテンは林の中で眠る二人を見つけ、近くに降り立った。
テンテン(泣きつかれて眠っていたのか)
包帯少女「む……あ!!どうだった?」
包帯少女は飛び起きる。
テンテン「なんとか退いたようだ。だが村の被害も結構いってしまったな」
包帯少女「……そっか……」
テンテン(実は結構私が破壊してたんだけどな。不可抗力)
片足少年「ぐがー」
--林--
包帯少女「私達もあの後テンテンを追って村に行こうと思ったんだけど、突然すごい風が吹いて私達気を失っちゃったみたい」
テンテン「それはそれは……」(それも私のせいだな)
包帯少女「……あんだけ壊されちゃったら、忙しいんよね」
テンテン「そりゃぁ、家の修復作業から畑の整備やら、色々とやることはあるだろうな」
包帯少女「……っ!よし、私旅に出る」
テンテン「?なぜ突然」
包帯少女「ただでさえ大変なのに、私達がいたら迷惑がかかるもの。……私達大したことで役に立てないし……」
片足少年「んごー」
包帯少女「だから旅をして強くなって、なんでも出来るようになって、また帰ってくる!!お世話になって人達に恩返しができるように!
」
テンテン「……」
テンテンは少女の頬を伝う涙を見ている。
--街道--
キバ「……ねぇ魔法使い?」
魔法使い「あ?wwww」
キバ「本当に王国に帰らなくていいの?」
魔法使い「あんな国wwww帰りたくもねぇwwww」
キバ「……でも」
魔法使い「うwるwせwぇwwwwいいって言ったらいいんだよwww」
魔法使いはキバに向かい合って言い放つ。
魔法使い「まw暇だから一緒に旅してやんよwwww天才の俺様と一緒とかwww幸せもんだなwww」
キバ「……本当?……嬉しい」
魔法使い「うっ」
キバの上目遣い攻撃。
--街道--
キバ「じゃあそうだな……今すぐには行けないと思うけど、いつか、いつか私の生まれた町に行きたいな」
魔法使い「故郷かww」
キバ「うん。ほとぼりが冷めるまで流浪の旅だけど。……何年先になるかわからないけど、私の町の名産品を飲ませてあげる」
魔法使い「なんだそれ?wwペプシ?www」
キバ「違うよwりんごジュース。私の故郷は果物とかいっぱいなるんだよ。中でもおいしいのがりんご。そのりんごから作ったジュースが本当においしんだぁ」
魔法使い「ジュースとかマジガキwwwwwまぁ、仕方ねぇから飲んでやんよwww」
キバ「ふふ、どっちが子供なんだかww
数歩進んで魔法使いは立ち止まる。
魔法使い「おい、お前」
キバ「?え?」
魔法使い「お前……」
魔法使いは何かを言おうとしてやめた。
キバ「え?どうしたの?」
--街道--
魔法使い「……」
かつて魔法使いの最愛の人は、魔法使いの存在を否定した。
キバ「え?こらっ!どうしたの!?」
好かれようした努力は空回りで。
魔法使い「……」
魔法使いはずっと自分を必要としてくれる誰かが欲しかったのだ。
キバ「……こ、こわいんだけど……おーい?」
欲しかったものは守りたいと思えるもの。
魔法使い「……ふ」
魔法使いがずっと欲しかったのは
魔法使い「んでもねえーよwwwww」
自分のことを必要だと言ってくれるその笑顔。
キバ「あ、そうだ。私の前ではいいけど、他の人の前ではその笑い禁止ね」
魔法使い「……え」
かくして魔法使いとキバは旅をすることになる。
酒場で戦士募集したら勇者が仲間になった
番外編ss・魔法使いに大切なもの
完
酒場で戦士募集したら勇者が仲間になった2【前半】
元スレ
酒場で戦士募集したら勇者が仲間になった
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1269828571/
酒場で戦士募集したら勇者が仲間になった
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