結衣「おかえり、ヒッキー」八幡「……いつまでヒッキーって呼ぶんだ」
- 2015年12月05日 19:40
- SS、やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。
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八幡「……別に、嫌じゃねぇけどよ」
結衣「けど……なに?」
八幡「あ、いや……。ずっとそうだと、そのうち困るんじゃねぇかな」
結衣「困る?なんで?」
八幡「…………区別できなくなんだろ」
結衣「んー?ヒッキーはヒッキーだけだけど……。ごめん、よくわかんない」
八幡「……じゃあもういいよ。好きにしろ」
結衣「えー!?なんで怒ってんの?」
八幡「怒ってねぇよ」
八幡「拗ね…………」
結衣「てるよね?」
八幡「…………うるせぇ」
結衣「ほらやっぱ拗ねてる!気にさわったなら謝るよー。けどほんとにわかんないから、教えてよ」
八幡「絶対、やだ。俺だけ馬鹿みてぇじゃねぇか。もういいよ、俺も忘れるから忘れてくれ」
結衣「……わかった、超気になるけど。コーヒーでも飲む?」
八幡「おお、頼む。今日はブラックでいいぞ」
八幡「あー、疲れたー………………」
結衣「ほい。バイトお疲れさま、ヒッキー。ね、話変わるけど聞いていい?」
八幡「おう。なんだ?」
結衣「ヒッキーじゃなかったらなんて呼べばいいの?」
八幡「……話変わってねぇんだけど」
結衣「そう?まぁいいじゃん。あたしヒッキー以外の呼び方って全然しっくりこないんだよねー。慣れちゃったからもあるのかもだけど」
八幡「……確かに俺もなんて呼ばれたいのかよくわからんな。でもまぁ、あれだよ。下の名前で呼ぶのが一般的じゃねぇの?」
八幡「た、たまには言ってるだろ……。たまにだけど」
結衣「……酔ってるときか、えっちのときだけじゃん」
八幡「……そうですね」
結衣「お酒の力とか勢いがないとできないってことだよね」
八幡「……ですかね」
結衣「敬語止めろし!もー……意気地無し」
八幡「面目ない……って、いつの間になんで俺が怒られてんだ」
八幡「……ちょ、ちょっとやってみて」
結衣「な、なんでそんな緊張してんの……。こっちまで緊張するじゃん」
八幡「小町以外の女子に名前で呼ばれたことねぇんだよ……。お前にはわかんねぇだろうけどよぉ!憧れてるんだよぉ!」
結衣「わ、わかったよ……そんな血の涙を流さなくても……。あ、ってことはさ、あたしが初めてになるの?」
八幡「おお。そうなるな」
結衣「えへへ……。じゃあ、いくよ。はち……まん?」
結衣「八幡」
八幡「ワンモア」
結衣「……はーちまん?」
八幡「……アゲイン」
結衣「はち……っていつまでやるの。恥ずかしくなってきたんだけど……」
八幡「俺もなんかすげぇむず痒いわ……」
結衣「あたし的にはやっぱり、なんかしっくりこない……かなぁ」
八幡「俺も違和感あるな……。や、嬉しいんだけどな、なんか普段からそう言われるのは違うかな」
結衣「んー。やっぱヒッキーでよくない?」
結衣「あははっ、照れてる照れてる。可愛いなぁもう。呼んでほしかったら言ってよ。呼んだげるから」
八幡「……さんきゅ」
結衣「いいんだよ。でもー、あたしのことも結衣って呼んで欲しいなぁ。だってさ、このままいったらあたし由比ヶ浜じゃなくなるかもなんだし……」
八幡「……え?なんで?」
結衣「なんでって、それ言わせるの?そりゃまだ学生だからさ、ヒッキーはそんなこと考えてないのかもだけど……」
八幡「あ、いや。そうじゃなくて、それはわかる。でもお前さっき、俺の言ってることわかってなかったじゃん」
八幡「ずっとヒッキーじゃそのうち困る、区別できなくなるだろって」
結衣「え、あれそういうことだったの?」
八幡「それ以外に何があんだよ……」
結衣「あーいや、ヒッキーって呼ばれてるのヒッキーだけだし、区別できてるじゃんって思って。あたしがヒッキーって呼ばれるようになるわけじゃないし」
八幡「……そうかー、ちょっと結衣には難しかったかー」
結衣「また馬鹿にす……え?今……」
八幡「今のはあれだ。由比ヶ浜の省略形だから別に……んむっ!?」
結衣「…………はー。コーヒーの味がするー」
結衣「いいじゃん。まだドキドキしてくれてるってことだし、あたしは嬉しいよ。ねぇ……あたしにもコーヒー飲ませて?」
八幡「………………」
結衣「…………んくっ…………んぐっ…………にがぁ」
八幡「っはぁ。甘いのにしときゃよかったな」
結衣「……いいよ?これから苦いのまた飲むし……」
八幡「……このビッチめ」
結衣「別に言われても平気だよー、あたしはヒッキー専用だから」
八幡「……お前、エ口ゲーとかやってる?」
八幡「……バレてんのかよ。いやそうじゃなくて、んじゃ素であんな台詞出てくんのか……」
結衣「もー、またよくわかんないこと言ってる」
八幡「すまん、なんでもない」
結衣「ヒッキーも期待してるみたいだし……いい、よね?」
八幡「……嫌とか言えるわけねぇだろ」
結衣「ね、さっき憧れてることがあるって言ってたけどさ、憧れてること、ヒッキーのやりたいこと、全部あたしにやっていいんだよ。なんでも叶えてあげる。あたしはそのためにここのいるの」
八幡「……いいのか?俺、自分で言うのもなんだけど結構変態だぞ……」
八幡「ああ、そういう趣味はないかな……」
結衣「じゃあ平気かな……。あ、んー……あたしに、あたしと、したいってことだよね?誰でもいいんじゃないよね?」
八幡「……当たり前だろ。俺の憧れてるしたいことは……想像でも全部お前だったよ、昔から」
結衣「ど、どうしよ。超嬉しい恥ずかしい。ヒッキーにそんな想像されてたなんて。でも、一緒だね、あたしと」
八幡「お前もそんな想像してたの?どんな?」
結衣「……言えるわけないし!ヒッキーこそどんなの?」
結衣「だ、だね。どんなに変態的でも頑張る」
八幡「そんな変な気合いの入れ方されてもな……。まぁ今日は普通にしとくか……普通ってのもよくわからんが」
結衣「あはっ、そうだね。普通に……愛しあお?」
八幡「そうだな……。結衣」
結衣「えへへ、ヒッキー…………」
一一一
またそのうち
結衣「…………はぁっ、はぁっ……ヒッキー……」
八幡「……はぁっ……膝が……力入らん……」
結衣「あははっ。何それ、生まれたての小鹿?」
八幡「いや、もうな、ほんと疲れるんだよ……」
結衣「んー……ヒッキー……」
八幡「おお…………」
結衣「…………えへー。いつもありがとね」
八幡「いや、これでお礼言われるのはおかしいだろ」
八幡「あー、それな……俺にはわかんねぇから不安なんだけど、演技じゃないよな……。いや聞くのもよくねぇんだけど」
結衣「うん……それが演技じゃないんだよねー……。最初は痛かったんだけどさ、だんだん……で、最近は特に……」
八幡「そうか……」
結衣「え、なに。なんでそんな嬉しそうなの?」
八幡「嬉しいに決まってんだろ。好きな子に喜んでもらえて嬉しくないわけがねぇよ」
結衣「…………ヒッキー、もっかい……」
八幡「ん…………」
八幡「いや、もう無理なんで……体力的にもアレ的にも。だからあんまり盛られてもな」
結衣「盛るとか言うなし!……あたしをこんなにしたのはヒッキーじゃん、もう……」
八幡「……嬉しいような、そうでもないような……。お前にも才能があったんだろ」
結衣「えぇー、そんな才能……。いや、ヒッキーが喜んでくれてるなら、いっか……」
八幡「なんなのお前、俺を悶え殺したいの?」
結衣「ヒッキー……顔、見えないー」
八幡「見せたくねぇんだよ」
八幡「おお……」
結衣「もう、離れないからね」
八幡「……ああ。柔らかいな、由比ヶ浜は」
結衣「あれ、また名字に戻っちゃった」
八幡「た、たまに言う方が有り難みがあるだろ。あるよ、あるある」
結衣「なに一人で完結してんの……。でも、また言ってくれるなら、許したげる」
八幡「……助かります」
八幡「…………ウザッ」
結衣「ウザくないっ!キスマークつけちゃうぞー」
八幡「ばっ、首はマジやめてっ」
結衣「えー。いいじゃんいいじゃん。虫刺されって言っとけばわかんないよ」
八幡「いや、今日バイト先で客のおっさんに言われたっつの……」
結衣「え、マジ?なんて?」
八幡「兄ちゃん、首筋にキスマークついてんぞって言われたから、いやただの虫刺されっすって言ったら、嘘つけこのスケベって言われた」
八幡「大学でも何人かに虫刺されっつったんだぞ、俺……」
結衣「……みんな、わかってるのかな?」
八幡「やめろ、考えたくない……」
結衣「や、あたしも恥ずかしくなってきたんだけど……」
八幡「だからな、首は勘弁してくれ」
結衣「んー、じゃあ見えないとこにしよー」
八幡「……えぇー」
結衣「ここかっ?ここならいいのかっ?」
八幡「や、やめっ、こしょばいっ」
八幡「やられっぱなしは性に合わんからな……」
結衣「やだぁーっ、そこ、やめてぇ……汚いから……」
八幡「お前に汚い場所なんかねぇよ」
結衣「む、無理ー!恥ずかしい!無理!…………まだ」
八幡「…………割と前向きなんだな……」
結衣「だ、だって、ヒッキーの望みなら……頑張んなきゃと……」
八幡「……ま、とりあえず風呂行くか」
結衣「だねー、一緒に入ろー」
結衣「あ、今度さ、ラブホ行こーよ。すっごいキレイなとこネットで見つけたの」
八幡「……抗える気がしないな」
結衣「抗う必要あるの?」
八幡「いや、別にねぇかな……」
結衣「んじゃいこー。お風呂も行こー」
八幡「……なぁ、由比ヶ浜」
結衣「んー?」
八幡「俺、幸せだわ。今。たぶん」
結衣「そっか。あたしはたぶん、その100倍幸せだよ、ヒッキー」
結衣「そうなのだ」
八幡「よし、んじゃ風呂入って実験台になるかー」
結衣「実験台って、失礼すぎ!」
八幡「確かにな、最近は割と食えるもんな。お前が変なアレンジしてないやつは。目を離すとすぐわけわからんことするから、今日は見てるからな」
結衣「……はい。監視と指導お願いします。あ、タオル忘れちゃった」
八幡「あ、持ってくわ。つーかいらんことしようとしなきゃ済む話だろ」
結衣「それがね?なんかね?愛の力なのかな?勝手にね?」
結衣「……そだね、一歩一歩、だよね。すぐには、難しいよね」
八幡「そうそう。俺とお前はそういう風になってんだよ。そんな器用にはいかねーの」
結衣「……うん。わかった。お湯まだ溜まってないしー、溜まるまでくっついとこーか」
八幡「…………なんだかなぁ。晩飯何つくんの?」
結衣「今日は和風ハンバーグにデミソース」
八幡「…………ぜんっぜんわかってねぇ。それどこが和風になんの?」
八幡「いや……んん?由比ヶ浜……和風ハンバーグ……。うっ、頭がっ」
結衣「むー……。じゃあ出たらちゃんとレシピ見るよ……」
八幡「最初から見るようにしてね?」
結衣「み、見ても忘れるし……」
八幡「見ながらやれよ……」
結衣「ですよねー」
八幡「ですよねー、じゃねぇよ。目を逸らすな」
結衣「……うん。ヒッキーにおいしいもの食べてもらいたいから、頑張る。ちゃんと、見ててね」
結衣「ひゃー。いいお湯ー。ヒッキーってさ、高校のときもこっちチラチラいつも見てたよね」
八幡「い、いつもではないぞ。たぶん……」
結衣「えー。胸ばっかり見てなかった?」
八幡「た、たまにしか見てない……はず」
結衣「……い、今はこうしてその……今も揉んでるけど……。どう、なの?」
八幡「見てたときの俺に、今の俺を見られたら刺されるな」
結衣「そ、そんなになの……」
結衣「なぁ?って言われても困るよ……」
八幡「今もわさわさしといて聞くのもあれなんたけど……由比ヶ浜はどんな感じなんだ?」
結衣「んー……胸が気持ちいいってゆーか……ヒッキーの手が気持ちいい」
八幡「……ふーん」
結衣「やぁっ、そこ、やめてよ……。あんまり気持ちよくても、困るし……」
八幡「……じゃ、これで」
結衣「……うん、それ好き、かも。安心する」
八幡「…………もうちょいゆっくりするか」
結衣「うん…………」
一一一
結衣「ヒッキー、ドライヤー使っていいー?」
八幡「おお、今はそんな電気使ってないから大丈夫ー」
結衣「んー、髪結構伸びたなぁ」
八幡「だな、顔が近いとたまに髪が顔に当たってくすぐったい」
結衣「むー。切るかなー。ヒッキーどっちが好き?」
八幡「怒られそうだけど……どっちも好きだぞ、俺は」
結衣「えへへぇ……いやー、怒れないよそんなこと言われると……」
八幡「そうなの?どっちでも、ってのが一番怒られるって聞くけどな」
八幡「そ、そうか。それならよかった」
結衣「うん、ありがと。ヒッキーも格好いい、よ?」
八幡「お世辞でもそう言ってくれんのはお前だけだよ……」
結衣「お世辞じゃないし!ほんとに……その顔も、髪も、雰囲気も、声も……全部、好きだよ」
八幡「お、おう。…………ありがとな」
結衣「ど、どういたしまして……。あー、ついでにまた染めよっかなー。ヒッキーはこれはどう思ってるの?」
結衣「んんー……悩む。染めると髪がちょっときしきしになるんだけどー、黒だとちょっと重いし地味なんだよねー」
八幡「いやいや、十分目立つから。……知ってるんだぞ俺、お前がどんだけモテてるのか」
結衣「えー。そんな、言うほどでもないと思うけど。片っ端から、彼氏いるんで!って言ってたから最近は全然ないよ」
八幡「あらそう……。いやでも、やっぱモテててんじゃねぇか」
結衣「そ、そうかなー。告白されたりとか、ヒッキーのあとは全然ないけど……」
結衣「ちょっ!?何も言ってないし!」
八幡「言わなくてもわかる、器ちっちゃーい、ついでにアレもちっちゃーいとか思ってんだろ。あ、今の凄い傷ついた」
結衣「何言ってんの、もー……。全然わかってない。ち、ちっちゃくないとおも、思うし……あ、いやそんなのよくて。あたし、嫉妬してくれて嬉しいんだよ?」
八幡「そうなのか……」
結衣「でも嫉妬するのは辛いって知ってるからさ、させたいわけじゃないけど……。独占しようとしてくれてるみたいで嬉しい、かな」
結衣「そんなわけない……というか、面倒なのは知ってるし。それにあたしも結構面倒じゃん。だって、ヒッキーよりもっと嫉妬してるもん」
八幡「俺のどこに嫉妬される要素があんだよ」
結衣「えー、まずいろはちゃんがヒッキー追いかけてあたしらの大学来たでしょー」
八幡「えぇ?違うだろあれは……」
結衣「違わないよ。で、バイト先には沙希が来てるし」
八幡「あれもたまたまじゃねぇの……」
結衣「もー、ほんと全然わかってない。あたしはもう心がもやもやして大変なんだよ」
結衣「ヒッキーはそれでも、向こうはあんまりそうじゃなさそうだからもやっとすんの。わかった?」
八幡「わ、わかった。…………なんか、あれだな。すげぇ申し訳ないんだけど、その……ちゃんと好かれてるんだなって気がして、ちょっと嬉しいな」
結衣「えへへ、だよね?あたしも同じだよ。だから適度にならいいのかなぁ」
八幡「そんなんしたくないんだけど……まぁ、俺は醜いからまたするんだろうな」
結衣「あたしも……ずっとしてるかも。こんな我儘な彼女だけど、許してくれる?」
結衣「……うん。これからもよろしくお願いします」
八幡「……こちらこそ。由比ヶ浜…………」
結衣「………………はぁ。珍しいね、ヒッキーからって」
八幡「そうか?……そろそろ服着ろよ。バスタオルのままじゃ風邪引くぞ」
結衣「あ、そだね。忘れてた」
八幡「服着るの忘れるってなんだよ……。家だと裸なの?お前」
結衣「なわけないじゃん。楽な格好だけどちゃんと着てるよ」
八幡「家着かー。どんなん?」
八幡「え、いいの?」
結衣「いいよー。…………ちょっと、セクシーなのも、送ったげよう、か?」
八幡「う、うん。見たい、です」
結衣「なんか口調変わってるし……。恥ずかしいけど、わかったよ。送るから、感想教えてね?」
八幡「おお……」
結衣「よっし、じゃあ着替えて化粧したら買い物いこー」
八幡「そうだな。俺もレシピ見とくわ」
結衣「うん、ちょっと待っててねー」
八幡「ゆっくりでいいからな」
結衣「……うん。好き」
八幡「なんだいきなり……。俺もだよ」
結衣「……よし、着替えよっと」
一一一
八幡「……おい、ハンバーグに桃もメロンもいらんぞ」
結衣「そ、そんなのわかってるよ!おいしそうだなーって」
八幡「うっわ、メロンたっか。季節じゃねぇからかな……。桃ぐらいならまぁ、買うか?」
結衣「いや、いいかなー……」
八幡「何遠慮してんだよ。バイトしてんだしそのぐらい平気だぞ」
結衣「遠慮とかじゃなくて、その……。最近太ってきた、かなーって」
八幡「はぁ?全く問題ねぇだろ。お前が太ってんなら世の中の女痩せてるやつなんかほとんどいねぇよ」
八幡「……ほんとにそう思うんだけどな。スタイルいいじゃん、お前。どこが気になんだよ」
結衣「お、お腹……」
八幡「よし、一ついいことを教えてやる。女子が憧れるあのモデル的なスタイル、あれな、男から見たらそこまで魅力的じゃない。むしろちょっと萎える」
結衣「そ、そうなの?」
八幡「そうだ。男は……というか、俺はだな、適度な肉がある方が断然好みだ。てかな、痩せてそのメロンがメロンじゃなくなったら俺は……悲しい」
結衣「そんな真剣に語られても……結局ヒッキーが、む、胸好きなだけじゃないの?」
結衣「……やっぱり。でもね、あの、その……」
八幡「あん?聞こえねぇ」
結衣「こ、こんなとこじゃ大きい声で言えないよ……。あの、えっちしてるときにさ、自分のお腹が見えてたまにうえーってなるから……嫌なの」
八幡「…………そ、そうか。俺は気にならんけど、そういうもんか」
結衣「うん……。だからもうちょっとお腹ひっこめる」
八幡「……お腹だけにしてくれな」
結衣「…………揉んだら大きくなるらしいから、ちっちゃくなったらヒッキーお願い、ね?」
結衣「ん?どしたの?」
八幡「いや……なんでも……」
結衣「…………あ。…………えっち」
八幡「ちょっとここでお経唱えてるわ……」
結衣「完璧変質者だからそれはやめて……」
一一一
結衣「ど、どう……かな?」
八幡「うん。美味い」
結衣「や、やったぁ!……けどなんかヒッキーの反応薄くない?」
結衣「むぅぅ……やっぱり自分一人で完璧にしないとダメかぁ……」
八幡「まだまだいくらでも時間あるんだし、いくらでも付き合うから。少しずつ上手くなればいいよ」
結衣「……それって、ずっと一緒だよってこと?」
八幡「ま、まぁ……そうなる、かな……」
結衣「………………」
八幡「な、なに。近いんだけど……」
結衣「近くがいいの」
八幡「食いにくいだろ……」
結衣「食べさせたげよっか?」
結衣「まぁまぁ。はい、あーん」
八幡「………………」
結衣「えへー。なんかもう、あたし顔がにやけて止まんないんだけど。変な顔になってないかな……」
八幡「…………お前の嬉しそうな顔見ると、すげぇ安心する」
結衣「なんか、最近……なんでそんな嬉しいこと言ってくれるの?前までなかなか言ってくれなかったじゃん」
八幡「うーん……付き合って1年になるし、もう俺も、どどどど童貞ちゃうし」
結衣「なんで関西弁……。でもそれ、あんま理由になってなくない?」
結衣「うん」
八幡「だから、ちゃんと言いたいことも言えないですれ違ったりとか、このままじゃまたやりそうだなとか思ってだな。んー、つまり」
結衣「つまり?」
八幡「……由比ヶ浜と別れたくない。たぶん1年前よりも好きだ。だから少し、素直になろうかと……。馬鹿みてぇだけど、俺なりに努力……ってぇ!」
結衣「んんー…………」
八幡「………………っはぁ」
結衣「……あたしにはもう、ヒッキーしかいないの。あたしから離れることは絶対にないから」
結衣「あ、うん……。あたしにはヒッキーしかいないけど、でもね……一番大事なのはヒッキーが幸せになることなの。だからね、他に好きな人ができたら……」
八幡「…………えぇっ!?な、泣くなよっ」
結衣「だって……ごめん。想像しただけで辛くなっちゃって……」
八幡「そんな想像すんなよ。有り得ねぇんだから。あの、ほんとに、絶対ないけどな、もし俺と別れたら……」
結衣「死ぬ」
八幡「えっ」
結衣「……ほど辛いだろうけど、たぶん死んだりとかはしないなー。あたし、臆病だからそんなことはできない、かなぁ。なんでそんなこと、聞くの?」
結衣「ないから。そんなこと言わないでよ」
八幡「じゃあお前も言うなよ」
結衣「……わかった。ゴメン」
八幡「…………馬鹿だな、俺ら」
結衣「だね。超バカップルだよ。あははっ」
八幡「あんま笑えねぇなぁ……。あんだけ内心馬鹿にしてたのに」
結衣「わかってると思うけど、というか自分でも思うけど。あたし、超重いよ。ヒッキーはいいの?」
結衣「……嬉しすぎて死にそう」
八幡「……恥ずかしすぎて死にそう。…………飯、食うか」
結衣「ごめん、冷めちゃったね……」
八幡「俺猫舌だから。問題なし」
結衣「……そっか。あ、もうこんな時間かー。食べて片付けたら帰るね。……帰りたくないけど」
八幡「でも、帰んないとな。まだ学生なんだし、ママさんに心配かけないようにしねぇと」
結衣「……ここ、住んじゃダメ、かな?」
結衣「い、いいの?あたしに渡しても」
八幡「おお。いつでも好きなときに来ていいから。あ、俺いない時は戸締まりは絶対しろよ」
結衣「うん……。えへへ、あたしのものどんどん持ち込んじゃおうかなぁ」
八幡「いやもう、結構増えてるけども……。エプロンとかさ」
結衣「そういえばそだね。……あ、バスなくなっちゃう。食べて後片付けしないと」
八幡「ん、一緒に片付けるか」
結衣「うんっ」
一一一
結衣「離れたく、ないよー……」
八幡「明日も大学で会えるから、すぐだよ。それに家着の写メ送ってくれるつったじゃん」
結衣「あ、そうだね。リクエストあったら教えてね」
八幡「……結構アレなの要求するかも。引かれるの怖いけど」
結衣「か、覚悟しとく……。でもね、あたしはヒッキーにそういう我儘というか、こうして欲しいって言われるの嬉しいんだ」
八幡「……俺にはもったいないな、お前は。健気すぎんだろマジで……」
結衣「そうなのかな……。あ、バス来ちゃった」
結衣「…………ん」
八幡「いや、ここじゃさすがに……」
結衣「誰もいないじゃん」
八幡「運転手がいるだろ」
結衣「………………」
八幡「ああもう………………」
結衣「………………えへへー。ありがと」
八幡「…………おお」
結衣「じゃあまたね、ヒッキー」
八幡「おう。気を付けて帰れよ」
結衣「ヒッキーもね……」
八幡「………………帰ろ」
一一一
結衣「………………」
八幡「………………」
結衣「…………ひま」
八幡「………………」
結衣「……ひーまー」
八幡「………………」
結衣「ヒッキー本読んでばっかでつまーんないー。ひーまー」
八幡「……今いいとこなんだよ」
結衣「むぅ。じゃあおとなしくしとく……」
八幡「ごめんな。もうちょい待っててくれ」
八幡「おお。…………誰と?」
結衣「うん?わかんない。相手してくれる人」
八幡「……そうか」
結衣「ふんふふーん…………」
八幡「………………」
結衣「…………え、ちょっと酷くない?」
八幡「………………?」
結衣「…………うわ、返事はやっ。しかもみじかっ!」
八幡「………………」
八幡「………………あの」
結衣「…………なんだかんだ……んん?」
八幡「それ、メールだよね?電話じゃないよね?」
結衣「うん。そだよ?」
八幡「よかった。俺だけ相手の声が聞こえない電話なのかと思った。…………それ独り言かよ。超気になるんだけど」
結衣「気にしないでよー。家だとあたしこんなもんだから」
八幡「いや……まぁ、うん。わかった……」
結衣「………………」
八幡「………………」
八幡「…………駄目だ、集中できんくなった……」
結衣「…………ごめんヒッキー。ちょっと跨ぐね」
八幡「おお。………………!」
結衣「っしょと」
八幡「ちょっと待って」
結衣「ん?」
八幡「お前、今俺の顔跨いだよな?」
結衣「うん」
八幡「今日お前スカートじゃん」
結衣「うん……」
結衣「うん……?それがどうかしたの?」
八幡「怒られないの?」
結衣「え、なんで?」
八幡「いや、だってよ、普通外では隠すし、見られたら怒ったりしてたじゃん、お前」
結衣「……何ゆってんの?当たり前じゃんそんなの」
八幡「いやな、当たり前のように見れて感動してるんだけど……許されるのか?俺」
結衣「よくわかんないけど、別にいいよ?ヒッキーは彼氏なんだし」
八幡「彼氏なら平気なのか……。すげぇな彼氏って。特別なんだな……」
八幡「例えば、高校の時にお前のパンツが見えたとするだろ?そしたら俺、それだけでたぶん1日幸せだぞ?」
結衣「そ、そんなになの?なんか恥ずかしくなってきたんだけど……」
八幡「……もしかしてだけど、高校の時にお前が彼女になってたら、制服パンツ見れた……のか?」
結衣「うーん……じゃないのかなぁ」
八幡「…………くそっ!何をやってたんだ俺は……」
結衣「いやー、まあいろいろあったよね……」
八幡「俺は今、高校で彼女のいた連中が許せん」
八幡「あれはなぁ、特別なんだよ……」
結衣「ふ、ふーん。制服ならまだ持ってるけど……見たい?」
八幡「え、いいの?見たい、是非、頼む」
結衣「う、うわっ!その食い付き方なんなの……」
八幡「すまん、取り乱した」
結衣「じゃあ今度持ってくるよ。……ママにバレないようにしなきゃ」
八幡「……うわ、超楽しみなんだけど」
結衣「うーん、そんなに期待されても……。ね、もういい?」
結衣「と、おトイレだよ……」
八幡「あ、あー……すまん」
結衣「もう……。なんでいきなりそんな……」
八幡「……ちょ、待って」
結衣「えぇー?行きたいんだけど……なに?」
八幡「いや、えー……どっち?」
結衣「ど、どっちって、何が?行ってからじゃダメ?」
八幡「駄目だ。その、トイレだよ。小さいほうか?」
結衣「も、もう!なんなの!そうだよ、もう」
結衣「だ、だから、トイレ行ってからじゃダメなの?」
八幡「駄目だ。…………我慢してくれ」
結衣「え、えー!?トイレを!?」
八幡「ああ。頼む」
結衣「い、意味がわかんない……。そんなことしてヒッキーになんかいいことあるの?」
八幡「ある…………かもしれない。我慢してるところを、見たい」
結衣「うえぇ……それ、本気のお願い、なんだよね……?」
八幡「ああ、真剣だ。いや、俺言っただろ、割と変態だって」
八幡「……うん。嬉しい」
結衣「わ、わかった。ヒッキーのためなら……。よく理解できないけど……」
八幡「……ありがと、結衣」
結衣「あ、また結衣って言ってくれた……えへへ」
八幡「さっき予想の斜め上って言ってたけど、どんなの予想してたんだ?」
結衣「え、それ聞くの……?いや、えーと、その……む、胸でしたりとかね、お口にむ、無理矢理とか、そゆの……。やだ、超恥ずかしい……」
八幡「そうか……。そういうのは、また今度で……」
八幡「言っといてなんだけど、ほんとに嫌なら言ってくれよ。お前に嫌われてまではしたくないから」
結衣「うん。……ありがと、まだ大丈夫。あ、いや、あんまり大丈夫じゃない。もう我慢……できないかも……」
八幡「…………出そう?」
結衣「も、もうちょっと、いけるかなぁ……。ね、ほんとに何が楽しいの、これ?」
八幡「いや別に、楽しくはないけどよ。その、我慢してる顔が…………」
結衣「むぅ…………っ…………」
八幡「すげぇ、いいよ。………………ほら……」
八幡「…………え、ちょっ」
結衣「…………んむっ…………れぇー…………」
八幡「…………くっ…………はぁっ……」
結衣「なんか……いつもより、スゴいかも……んっ、んっ……」
八幡「た、確かに。すげぇ、いいよ……」
結衣「……あむ…………はっ、もう、ダメ……。ヒッキー、おトイレ、行かせて……?」
八幡「……ああ。いいぞ」
結衣「よかった……。って、えー!?なんでついてくるの!?」
結衣「何その、普通ですけど?みたいな言い方!?聞いてないよ!」
八幡「あ、そう?まぁ、早く行こうか」
結衣「ちょっ、えー!?いつもより大分強引!?あ、いやっ、だめぇ……」
八幡「ほら、早く……」
結衣「え、えぇぇ…………。ほ、ほんとに、するの……?」
八幡「どうしても嫌なら、いいけど……」
結衣「…………み、たい、んだよね……?」
八幡「……うん、見たい」
八幡「…………お前がしてるところを見たい。結衣、好きだ」
結衣「も、もう……。好きとか普段なかなか言わない癖に、こんなときは素直なんだから……んっ…………」
八幡「……申し訳ない」
結衣「じゃあ…………する、よ?」
八幡「ああ、見てる」
結衣「う、ううぅー…………あぁー…………泣きそう……」
八幡「………………」
結衣「……うぅっ、ぐすっ…………終わったよ……」
結衣「……あ、ちょっ、やっ!むっ、りっ!きたなっ、いっ!からぁっ!」
八幡「…………はぁっ、はぁっ」
結衣「………………あっ、やめっ、…………んんっ……」
八幡「はぁー、はぁー……いいか……?」
結衣「え、えー……こ、ここで?」
八幡「もう、無理……」
結衣「あたしも、別の意味で大分無理……んっ」
八幡「すまん、限界だ」
結衣「ちょっ、まっ!やだぁー…………あんっ……」
一一一
八幡「なぁ……。悪かったよ、機嫌治してくれって……」
結衣「べ、別に怒ってないっ!けど、恥ずかしくて、もう、死ぬ……」
八幡「なぁ……布団から出てくれよー……」
結衣「顔、見れないもん……。ほんと恥ずかしい……この、けだものー!」
八幡「……面目ない。理性が飛ぶって、あるんだなぁ」
結衣「ばかばかっ!もう、お嫁にいけないよぅ……」
結衣「…………え?それ……」
八幡「あ、久しぶり」
結衣「ば、ばかっ!もう知らないっ!」
八幡「あ、また隠れた。……こんなこと、お前にしか言えねぇんだからな……」
結衣「誰にでも言ってたらビックリだよ……」
八幡「まぁ……あれだ。スゴくよかったです。また、良ければ……」
結衣「…………考えとく。あ、あたしも気持ち良くないってことはなかったし……」
八幡「……癖になる?」
八幡「…………それも、いいな」
結衣「…………バカ。ほんと、バカ。でも、好き、だよ」
八幡「……ああ。さんきゅ」
結衣「…………はぁ……。どうしよ……あたし……」
八幡「ん?」
結衣「んーん。なんでもないー……」
八幡「そっか」
一一一
八幡「あー、緊張した……」
結衣「うん……。他の人とすれ違うと、なんか想像しちゃうよね……」
八幡「……さっきの、絶対不倫カップルだよな。見た目的に」
結衣「た、たぶん……。あの人たちも、そういうことしに来てるんだよね」
八幡「まぁ、そうだな。ってか、俺らもそう思われてるってことだぞ……」
結衣「あうぅ、なんか恥ずかしい……」
八幡「俺もだ……。慣れないことはするもんじゃねぇな」
結衣「いや、でもさー、一度は行ってみたいじゃん」
結衣「うん……」
八幡「…………おお」
結衣「ほぇー……超キレイだねー」
八幡「ここが……はー、実際に見てみると想像より凄いな……」
結衣「だねー。あ、お風呂見てこよ」
八幡「にしても、そこらの普通のホテルよりよっぽど綺麗なんじゃねぇか、これ……」
結衣「おおおー!ヒッキー!きてー!」
八幡「あん?……おお、すげぇ広いなー。そしてさりげなく置かれる中央が凹んだ椅子。……何にそんな騒いでんの?」
八幡「おおぉ……プラネタリウムか。すげぇなー」
結衣「ね!超ステキだよね!後で一緒に入ろ?」
八幡「そ、そりゃもちろん」
結衣「じゃあお湯溜めとくねー」
八幡「頼むー。テレビもまた超でけぇなー、もって帰りたくなるわ」
結衣「ねね、ヒッキーヒッキー。あのお風呂場の変な椅子なんなの?」
八幡「あれか……。正直俺も詳しい使い方は知らんのだが……座ったところを想像してみるといいんじゃねぇかな……」
八幡「……ああ、だから、その隙間があれなんだよ、たぶん。こう、手とか入れやすくする配慮だ」
結衣「手?…………ヒッキー、やらしい……」
八幡「いや、俺が考案したわけじゃないからね?」
結衣「そ、そうなんだけど……うーん。ほんとに、そういうことするための場所、なんだねー……」
八幡「あ、あんまそういうこと言うなよ……。なんか意識すると変な感じになるだろ」
結衣「あ、うん……ごめん」
八幡「いや、いいけど……」
八幡「………………」
結衣「て、テレビでもつけよっか」
八幡「お、おう」
結衣「…………よかった、普通の番組だ」
八幡「……ああ、あれだろ。つけたらいきなりAV、みたいな」
結衣「うん、ちょっとドキドキしたよ……」
八幡「貸して。…………見ることもできるんじゃねぇのかな。VODとかで」
結衣「あ、いやっ、いいからっ」
八幡「……いいのか?」
結衣「……うん。膝の上、座っても……いい?かな?」
結衣「…………ヤバい……。今の、超キュンとした。いつの間にそんな言葉を……」
八幡「が、頑張りました……」
結衣「えへー。可愛すぎだよー、もー」
八幡「え、こっち向きなの……?」
結衣「……嫌?だってこうじゃないと顔見えないし、キスできないし……」
八幡「……嫌なわけ、ねぇだろ」
結衣「えへへ、んー………………」
八幡「………………」
結衣「……ちょっとビクッとしたけど、どしたの?」
結衣「んっふっふ、色っぽかった?セクシー?」
八幡「いやー、お前童顔だからなぁ。髪黒くしてからさらに幼くなった感が……つっても体はそれだからな……。口リ巨乳か……」
結衣「ろ、口リではないと思うんだけど。幼いかぁ、むーん……。また染めよかな……」
八幡「……どっちも見たい、困る。あ、でも来年は就活始まるから、そんときどうせ黒くするだろ」
結衣「あー、そうか。就活か……。じゃあこのままにしとこ……」
八幡「……だな。どっちでも俺は……好きだから、まぁ……」
八幡「………………。そういやお前さ、ちゃんと見たことあるのか?AV的なやつ」
結衣「…………たぶん、男性向けのはない、かな」
八幡「え、女性向けとかあんの?」
結衣「うん、あるよー。何が違うのかはよくわかんないけど」
八幡「はー……そんなんあんのか。ってかお前、見てんのかよ……」
結衣「な、なんで溜め息ついてんの……。あたしだって、その……したくなるときだって、あるよ……」
八幡「ってことはだな……」
結衣「わわっ、ダメ!言わないでよ、恥ずかしいから……」
結衣「…………やっぱりー……。そうなると思ったよ……」
八幡「駄目か?」
結衣「そう言われると、逆らえないんだよぅ……。またあたしを虐めるんだ……。ヒッキーってさ、Sなの?」
八幡「い、いや。どっちかってとMだと思うが……。俺がそう見えるのはだな、人のせいにするのはアレだけど、お前が超ドMっぽいせいだ」
結衣「えぇー……。あたしそんなにM……かなぁ?」
八幡「Mってか、なんだろうな。恥ずかしがったり悶えたりしてるときの顔とか、仕草とか、声とか……。なんなの?お前」
結衣「いや、あたしが聞いてるんだけど……」
結衣「あ、あれだね、最近。なんか、解放してきたね、ヒッキー」
八幡「ああ、嫌われたくねぇんだけどな。お前が、我儘聞いてくれるから……」
結衣「ううん……。あたしさ、もっとヒッキー好みの子になりたいから……。もっと言ってくれても、いいよ?あたしはヒッキーの我儘を聞きたいの……」
八幡「……そうか。なんだろうな、もう言葉にならんぐらい嬉しいよ。けど由比ヶ浜はやっぱり、由比ヶ浜らしくいてほしい」
結衣「ヒッキーのためにあたしがしたいんだから、これがあたしなんだよ。それにヒッキーだって変わってきてるよ?優しいし、いや昔から優しいけどさ、男らしくなってるもん……」
結衣「……来るだけじゃないよ。今は、あたしのこと……好きにしてもいいんだよ?」
八幡「……お前、馬鹿か。どこまで喜ばせるんだ……。じゃあ、もう遠慮しねぇからな」
結衣「わ、わかった……。でもさ、何でもしてあげたいって思うけどさ、は、恥ずかしいのは変わらないんだからね……」
八幡「そのほうがそそるから……そのほうがいい。そろそろ風呂行くか」
結衣「うん……。ヒッキー、向こう行ったら脱がせてね……」
八幡「……お、おお。風呂で、その……してるとこ、見せてくれよ」
八幡「は、はぁ?俺も?嫌だよそんなの……」
結衣「えー。あたしだけは恥ずかしいよ……。それに、あたしも見てみたいし……」
八幡「……どうしても?」
結衣「……う、うん。ドキドキ、するかも……」
八幡「お前も結構大概じゃねぇか……。お似合いってことなのか?これは……」
結衣「あたしはヒッキーのせいだと思うんだけどなー……」
八幡「ど、どうなんだろうな……」
八幡「………………。テンション上がるわー」
結衣「め、珍しすぎる……。んじゃ、行こっか?」
八幡「…………よっと」
結衣「わっ、きゃああ!なにしてんの!?」
八幡「何って…………抱っこ?」
結衣「え、えー、これ、お姫様抱っこって言うんだよ……?」
八幡「……知ってるよ。しっかり掴まっとけよ」
八幡「…………これからもいろいろ、できるといいな。二人で」
結衣「そうだね。いーっぱい、いろんなとこ行って、いろんなことしよう?」
八幡「楽しみだな」
結衣「うん。あたし、超幸せ。今日もいっぱい、がんばる……ね」
八幡「お手柔らかに……。俺も、頑張るかな……」
一一一
八幡「………………」
八幡「…………ふぁぁ……寝よ……」
八幡「………………」
八幡「………………?」
八幡「誰だ……?もう1時だぞ……」
いろは「せんぱぁーい。あけてくださーい」
八幡「………………はぁ」
八幡「………………お前、何時だと……」
いろは「あー、よかったー。いやそれがですねー……とりあえずあがっていいですか?おじゃましまーす」
八幡「おい、返事してねぇんだけど……って、お前酔ってる?」
八幡「そうか、お前も二十歳になったんだっけか」
いろは「ですよー。呂律はなんとか、回る感じなんれすけどね……。頭はぐわんぐわんするし、気分は悪いしもう最悪ですよぅ」
八幡「……で、なんでお前が俺のベッドに普通に座ってんの?」
いろは「え?しんどいし眠いし、気持ち悪いし……。休ませてください」
八幡「……じゃあちょっと休んだら帰れよ」
いろは「こんな時間にどうやって帰れって言うんれすか……。タクシー代もバカにならないですよ」
八幡「…………だったらどうすんだよ」
八幡「だぁっ!絶対そこに吐くなよ!?ちょっ、来いっ」
いろは「うぅ……せんぱい、わたしをトイレに連れ込んでどうするつもり、れすかぁ……」
八幡「どうもしねぇよ……。吐くならそこにしろ。水用意してやるから」
いろは「うぅー…………せんぱい、背中……」
八幡「なんだ、痒いのか?」
いろは「さすって……」
八幡「………………」
いろは「にへぇ……手、おおきーい…………うぷっ」
八幡「………………」
八幡「…………ほれ、水。口ゆすげ」
いろは「はぁい……」
八幡「飲みすぎだな。調子に乗りすぎたんだろ」
いろは「…………ですけどー、せんぱいが悪いんですよぅ」
八幡「は?俺全く関係ねぇだろが」
いろは「ありますよー、もぅ……。今日はですねー、友達の失恋を慰める会だったんです……んにゅにゅ……」
八幡「変な声出すな……。ほら、これで顔拭け」
いろは「はぁい。…………はー、ちょっとスッキリしました……」
八幡「そりゃよかった。そんで?」
八幡「はぁ。意味がわからんな。ほれ酔っぱらい、立て。トイレに籠られても邪魔だ」
いろは「………………」
八幡「……なに、その手は」
いろは「引っ張ってください」
八幡「…………仕方なくだからな。酔っぱらいをどかすために、仕方なくなんだこれは」
いろは「………………」
八幡「そこにすわ…………おい」
いろは「地べたよりこっちが楽なのでー」
いろは「始発までいちゃダメですか……?わたし明日は講義三限からなんで、一旦帰ってから大学行こうかなと……」
八幡「…………常識的には、駄目なんだろうな……。ちなみに出てけっつったらどうする?」
いろは「出ていきますけど……」
八幡「いや、出てってからだよ。行くとこあんのか?」
いろは「ありません……。実はタクシー代も足りるか微妙な感じで……」
八幡「飲んでた友達は?」
いろは「みんな結構遠いんですよ。一緒じゃなかった別の子に車で迎えに来てもらってみんな帰っちゃいました」
いろは「て、定員オーバーで……。わたしは近くに泊まれるとこあるからって言っちゃって……」
八幡「はぁ……わかったよ。始発で帰れよ」
いろは「い、いいんですか?」
八幡「いいも何も……行くとこないんだろ?それなのに出てけって言えるほど鬼畜じゃねぇよ俺は」
いろは「あ、ありがとうございます、助かりますー。いやー、さすがにまずいかなーとは思ったんですよ?わたしも……」
八幡「……俺も後ろめたいからもうやめようぜ。そういや久々だな、お前がここに来るの。入学した頃はちょくちょく来てたのに」
いろは「そりゃこられなくなりますよ……」
いろは「……そうですよ。わたし、なんのためにこの大学に入ったと思ってるんですか……」
八幡「え、あー?あれ?マジでそうなの?」
いろは「合格したーって思って入学してちょっとしたら、結衣先輩と付き合いだすとか……踏んだり蹴ったりです。責任、とってくださいー」
八幡「…………なんて言うか……。すまん」
いろは「な、なに謝ってるんですか。冗談に決まってるじゃないですかー」
八幡「……そ、そうか。冗談か」
いろは「そうですよ、冗談に決まってます。こんな笑えない話……」
八幡「そうか……」
八幡「……もう寝るか。俺下で寝るから、お前ベッド使っていいよ。電気消すぞ」
いろは「はいー、では遠慮なく。わふー、先輩の匂いー…………」
八幡「おやす……おい、降りなくていいよ。使っていいぞ」
いろは「……いえ、わたしも下で寝ます」
八幡「はぁ?ここまできて遠慮なんかいらねぇよ」
いろは「いや遠慮とかじゃなくて……。別の人の匂いがするので、ちょっと……」
八幡「あー、俺臭かったか……そりゃ悪かったな」
いろは「じゃなくてー、別の女の人の……」
いろは「仲良く、してるんですね」
八幡「あー……まぁな」
いろは「……バカ。先輩のばーか」
八幡「…………」
いろは「ろくでなし。女たらし。甲斐性なし」
八幡「…………なんとでも言え」
いろは「……偏屈。頑固者ー。捻くれ者ー」
八幡「………………」
いろは「天の邪鬼ー。……でも、変なとこ真面目。一途だし」
八幡「………………?」
いろは「……たまに、優しいし。…………たまに熱いし」
いろは「……優しくしてほしいときに、傍に居てくれる」
八幡「途中から褒めてるよね?それ」
いろは「………………好き、先輩」
八幡「っ……!」
いろは「………………」
八幡「………………一色?」
いろは「…………すー…………すー…………」
八幡「ここで寝んのかよ……。マジかこいつ……」
いろは「…………すー…………んんー…………」
八幡「風邪、引くぞ。…………俺の服でいいか……」
八幡「……おやすみ」
いろは「………………」
八幡「………………くかー…………」
いろは「…………んん…………あつい…………」
一一一
八幡「んお……?いい匂いがする……」
いろは「あ、先輩。おはようございまーす」
八幡「んん?お前、なんで……今何時?」
いろは「八時ぐらいですかねー?」
八幡「ちょ、おま、始発で帰るって……」
八幡「作って帰るってお前、二人分あんじゃねぇか。食べる気まんまんじゃねぇかぁあああ!」
いろは「うわビックリした。何騒いでるんですか」
八幡「今日俺一限から講義なんだよ!いやそんなのはどうでもいいんだけど、そういう日は由比ヶ浜が……」
結衣「ヒッキーやっはろー。起きてるー?」
八幡「迎えにくるんだよ……。か、隠れてくれ!風呂!」
いろは「んー、このまま居留守使ってやり過ごせばいいんじゃないですか?」
八幡「や、あいつ合鍵持ってんだよ!早く!」
八幡「持ってく!時間作るからじっとしてろ!」
いろは「わ、わかりました!」
結衣「んー、まだ寝てるのかな……。入るねー?」
八幡「お、おはよ。由比ヶ浜」
結衣「およ、ヒッキーが一人で料理してる、珍しい。わわ、しかも二人分あるし!」
八幡「た、たまには作ってみようかと思ってな」
結衣「でもー、ごめん、あたし食べてきちゃったから食べらんないよー……」
八幡「あー、そっか。言ってなかったし、気にしないでくれ。俺がたべるから」
結衣「ほんとごめんね……」
結衣「なに?」
八幡「ここに来る途中の自販機にマッ缶があっただろ?あれちょっと買ってきてくれ」
結衣「うん、いいけど……」
八幡「け、けど?」
結衣「白ご飯なのにあんな甘いコーヒー飲むの?パンならまだしも……」
八幡「し、食後の分だ。な、頼む」
結衣「……わかった。じゃあちょっと行ってくるねー」
八幡「………………いいぞ」
いろは「…………はー、緊張しました……」
いろは「いやー、なんかもう、すいません……。帰りますね」
八幡「出たら裏通って帰れよ、鉢合わせするかもしんねぇし」
いろは「はい。じゃあお世話になりました、ありがとうございましたー」
八幡「おお。また大学でな」
いろは「……はい。先輩、またでーす。…………あ」
八幡「あ?」
いろは「昨日の夜、わたしが言ってたことですけど……」
八幡「………………」
いろは「酔っぱらいの戯言ですから、忘れてくださいね?」
いろは「……そうですか。わたしも何言ったか忘れました」
八幡「…………そか、じゃあな」
いろは「…………はい」
一一一
八幡「はぁ……。超焦った……」
八幡「飯食っとくか」
八幡「…………うめぇじゃねぇか……」
八幡「………………」
八幡「………………!!!」
八幡「あああいつ、馬鹿か!?わざとか!?」
一一一
いろは「はー、間男の気分ってあんな感じなんですかね……。といっても何もなかったわけなんですけども……」
いろは「なにも、なかったかー」
いろは「仕方ないかなぁ……」
いろは「…………?なんか、スースーするな……」
いろは「………………!!!」
いろは「あ、あれぇー!?なんでないの!?」
いろは「…………あ、昨日の夜、暑くて……」
いろは「…………わざとじゃないんです、ごめんなさい先輩……。なんとか誤魔化してください……」
いろは「……まぁ、いっか」
一一一
結衣「ヒッキー、ただいまー」
八幡「おお、おかおかおかえり」
結衣「なんで超キョドってんの……。ん、今なにか隠さなかった?」
八幡「かか、隠してない」
結衣「…………怪しすぎる。隠したよね?」
八幡「の、ノーだ。隠してない」
結衣「…………嘘つき」
八幡「………………」
一一一
いろは「ん?メールだ」
いろは [それは……わたしの心です!]
八幡 [ちげぇよ!お前、これで別れたら一生恨むからな]
いろは [もしそうなったら、責任、取るしかないですかねー?]
八幡 [知るかっ!また取りに来い、こんなもん持っていけるか]
いろは [わかりましたー(*´∀`)]
いろは「はぁ、見つかっちゃいましたか……。結衣先輩にも謝っとこ……」
一一一
八幡「…………すまん」
結衣「もういいよ……。いろはちゃんからも事情聞いたし、ヒッキーのこと信じてるし……」
八幡「そ、そうか。それならよかっ」
結衣「よく、なーい!それでもよくないっ!」
八幡「うおっ!ビックリした……」
結衣「あたし今、超嫉妬してる。何もなかったって信じてるんだけど、怒ってる」
八幡「いや、それは当然だと思うぞ……」
結衣「じゃあやらないでよ!もー!うがー!」
結衣「ご、誤魔化さないで!そんな、そんな可愛いって言われるぐらいで、ぐらいで……」
八幡「あ、すまん。普通にそう思って、つい……」
結衣「えへへぇ…………はっ」
八幡「…………な、なに」
結衣「今あたしのこと、チョロい女だなって思ったでしょ」
八幡「お、思ってない」
結衣「いーや絶対思った!こいつ俺にベタ惚れだから何やっても平気じゃね?って思った!」
八幡「俺が思うわけねぇだろそんなこと……」
八幡「……少し」
結衣「やっぱり!…………でも、あたしその通りなんだよねー」
八幡「…………」
結衣「あたしさ、たぶん浮気されても、ヒッキーには怒らないと思う。怒るよりも……寂しくて、悲しくなる、かな」
八幡「……さっき怒ってたのは?」
結衣「あれは、浮気したなんて思ってないのに嫉妬してる自分が嫌で、イライラしちゃって……」
八幡「そうか……。つーか俺には浮気なんかできねぇよ……」
八幡「ち、違う。しない。やらない」
結衣「…………あたし、浮気されても、二番でもいいのかも。ヒッキーと別れなきゃいけないぐらいなら、それでもって思っちゃう」
八幡「…………あーもう、本当にごめん。お前にそんなこと言わせるなんて最悪だな、俺。でも信じてくれ、俺は由比ヶ浜のことが一番大事だ」
結衣「……嬉しい」
八幡「でもなぁ……。俺、馬鹿だからまたなんかやるかも……」
結衣「わかってるよ。ヒッキーは優しいから……頼られたり、困ってる人がいたら見過ごせないもんね」
八幡「そういうんじゃねぇけど……まぁ、あんま変わんねぇか」
八幡「……もういい。こっち来て」
結衣「なに?」
八幡「…………結衣」
結衣「…………ヒッキー」
八幡「俺が悪いときは怒ってくれよ。自分をそんな風に言わないでくれ」
結衣「…………う、うん」
八幡「駄目な……か、彼氏ですまん。なんかこの言葉すげぇ恥ずいわ……」
結衣「もっとぎゅっとして」
八幡「ん…………」
八幡「……ありがと」
結衣「やっぱ、もっと……」
八幡「………………」
結衣「……全部忘れちゃうぐらい、愛してほしいな」
八幡「……お、おう」
一一一
結衣「……はふー。もう、ぐにゃぐにゃ……」
八幡「ま、満足してもらえたかな?」
結衣「誰の真似、それ……。まぁ、うん。満足……ていうか、最高っていうか……」
結衣「んーん、もっと、このままで……」
八幡「なんかあれだなぁ。昼からこんなことしてていいのかって気になるな……」
結衣「よくわかんないけどさ、大学生ってこんなもんじゃないの?」
八幡「そんなもんかね……」
結衣「ずーっとこうしてたいなぁ、あたし」
八幡「ずっとは少し困るな……」
結衣「そりゃそうだよー。でも、ずっとがいいの」
八幡「よくわからんけどまぁ……もうしばらくこうしてるか」
いろは「せんぱーい、いますかー?」
結衣「……あふ…………んん?ヒッキー、起きて!」
八幡「……んあー、寝ちまってたか……。おはよ」
結衣「おはよじゃなくて!いろはちゃん来てるよ!」
八幡「え、マジで。何しに……って、忘れ物か。まあ今はちょっと出れねぇから居留守使わせてもらおう」
結衣「そ、そっか。じゃあ慌てなくていいか……。折角きてくれたのに悪いなぁ」
八幡「……お人好しだな、お前」
結衣「ヒッキーに言われたくないんだけどー?」
八幡「おいお前、鍵かけてねぇのかよ!?」
結衣「え、え、忘れちゃってた、かも……」
八幡「い、いるけど一色、ちょっと待っててくれ!開けるなよ!絶対開けるなよ!?」
いろは「それは開けろってことですよね……」
八幡「ちょっ、あー!?由比ヶ浜、布団潜ってろ!」
結衣「う、うんっ」
八幡「だぁっ!」
いろは「ちょっ、なんで無理矢理閉めるんですかー?」
いろは「はぁ……わかりました」
八幡「…………こんなもん忘れてくなよ、ったく……ほれ」
いろは「あ、袋入れてくれたんですね……」
八幡「お前もそのまま渡されても困るだろうが……」
いろは「そ、それもそうですね。で、なんで手だけ出してるんですか?」
八幡「だから見せられねぇ格好なんだよ……」
いろは「なにやってるんですか、一体……。…………ちらっ?」
八幡「あっ、ばっ」
八幡「か、勝手だろうがそんなの!見るなっつってんのにお前が見たんだろ!」
いろは「も、もう!バカなんですか先輩!帰ります!」
八幡「あ、おいっ、なんで俺が怒られるんだよ……」
結衣「いろはちゃん、帰った?」
八幡「おお、もういいぞ」
結衣「はー……ビックリしたぁー」
八幡「ビビったのはこっちだっつの。頼むから鍵掛けてくれ……」
結衣「う、うん。ヒッキー出掛けてるときとかは掛けてるんだけどね?」
八幡「一緒に居ても掛けろっ。お前はどこの田舎で暮らしてんだよ……警戒感無さすぎだろ」
八幡「なんとかなったからいいけどよ……いや、なんとかなったのかこれ?」
結衣「さぁ……。いろはちゃん、勘いいからわかってるかも。あー、今度から普通に話せるかなー」
八幡「まぁ、あれだ。とりあえず」
結衣「ず?」
八幡「風呂行って服着るか……」
結衣「そうしよっかー。一緒に寝られて、満足」
八幡「そだな」
いろは「はぁ……凄いものを見てしまった……」
いろは「………………はぁ……。やっぱり、ダメですよね……」
いろは「……よし、三浦先輩のとこに遊びにいこっと」
一一一
またそのうち
八幡「なぁ、唐突だけどコスプレって興味ある?」
結衣「コスプレ?ってゆーと、メイドとかナースとか、OLとか?」
八幡「や、そっちじゃなくてもっと、こう……アニメっぽい方」
結衣「あ、あー。そっちかー……。姫菜に何回かそういうの見せてもらったことあるけど、あんまり、かなぁ。よくわかんないし」
八幡「そうか……。んでまたいきなりなんだけど、金剛デース!って言ってみて」
結衣「は?え?なに、なんて?」
八幡「金剛デース!だ」
結衣「こ、こんごうです」
結衣「……こんごうでーす」
八幡「元気よく。金剛デェース!」
結衣「こんごうディース」
八幡「金剛デェース!」
結衣「こ、金剛デェース!」
八幡「……やっぱ似てるな」
結衣「全然意味わかんないんだけど……」
八幡「いや、とあるゲームのキャラなんだけどな。由比ヶ浜と声が似てる……つーか同じなんだよ。本人?声優やってる?」
結衣「やってるわけないし。でもそんなに似てるんだ。どんなキャラ?」
結衣「……うわぁ。ヒッキーって結構……でも可愛いね。これ巫女服?」
八幡「あー、まぁそんな感じだ。ちなみに提督LOVE勢だな」
結衣「ごめん、またわかんない言葉が……」
八幡「ああ、提督とはこの場合俺のことで、金剛は提督が大好きという意味だ」
結衣「あたしが金剛なんだよね?」
八幡「おお」
結衣「つまり、あたしはヒッキーが大好き?」
八幡「……んん?」
結衣「……普通だね」
結衣「よくわかんないけど……いろいろ設定あるんだね。ね、どんな感じの子なの?」
八幡「うーん……性格はお前みたいな感じだな。いつも元気でやかましい」
結衣「え、あたしやかましいの……?」
八幡「あ、えー……。でもスペック的には雪ノ下みたいな感じだな。帰国子女で紅茶が好きで料理上手だから。……あれ?由比ヶ浜と雪ノ下のいいとこ取りって、金剛最強じゃねぇか」
結衣「ちょっと。いろいろ失礼な感じだと思うんだけど。あたしのいいとこどこがあったの!?」
八幡「んー、元気で明るくて……、可愛いだろ。癒されるし……」
八幡「え、着てくれるの?」
結衣「ヒッキーが見たいんなら、いい……よ?あ、でもみんなの前で写真取られたりとか、そんなの無理だかんね!」
八幡「わかってるよ。つーか俺も絶対やだよ、そんな格好したお前を他人に見せるなんて」
結衣「……嬉しいな。誰にも見せたくない?独占したい?」
八幡「そういうこと言うのやめてくれよ……恥ずかしくなるだろ」
結衣「仕方ないなぁー。ヒッキーだけに見せたげる。それで、着て……どうするの?」
結衣「……ほんと?」
八幡「……まぁ、いろいろしたりしなかったりするんじゃないですかね……」
結衣「ほ、ほほー。いろいろ楽しみ方があるもんだねぇ。いやあたしも結構、楽しみなんだけどさ……」
八幡「お、お前はなんかないのかよ。女性向けのこういうゲームだってあんだろ。……ほら、これとか」
結衣「うっわ、あたしこういうの生理的に無理。うっわぁ……」
八幡「えぇ……美形ってこういうもんじゃねぇの……。お前小さい頃白馬の王子様に憧れたりしなかった?」
結衣「そりゃしてたけどさー。今はもう、なんだろね、好みが変わったのかなぁ?」
結衣「そんなこと思わないよー。こんなんが好きだったらさ、たぶんヒッキーのこと好きになってないし」
八幡「酷いこと言われてるような気がするんだが……」
結衣「あは、あはは。気のせい気のせい」
八幡「……じゃあ今度いろいろ見に行ってみるか。それまでに片言の日本語練習しとけよ」
結衣「片言の日本語?なんで?」
八幡「言っただろ。金剛は帰国子女だから日本語が怪しいんだよ。ま、お前日本語元々苦手だし得意だろ」
結衣「むぁー!またバカにしてー!いじわるー!」
結衣「あ、うん。もうそんな時間かー。ヒッキーもだよね?」
八幡「おお。途中まで一緒に行くよ」
結衣「じゃあ、今日最後の……」
八幡「………………」
結衣「ん………………。行こっか。手、繋いでいい?」
八幡「し、仕方ねぇなぁ……」
結衣「そ、外だとやっぱり、ちょっと恥ずかしいねー」
八幡「ちょっとじゃねぇよ。俺すげぇ見られてる気がするんだけど……」
八幡「なわけねぇだろ……むしろ自慢だ」
結衣「えへへー。あ、あたしこっちだから、じゃあねヒッキー。また明日ね、バイトがんばって」
八幡「おお、お前も頑張れ。また明日な」
結衣「うん、バイバーイ」
八幡「…………っし、働くかぁー」
一一一
もう一つのほうも更新せねば……
またそのうち
沙希「ねぇ」
八幡「おお、川崎。お疲れ」
沙希「あ、うん。お疲れ様」
八幡「じゃあまたな」
沙希「うん、また……じゃなくて!ちょっと、話あんだけど」
八幡「うん?どした?」
沙希「あ、あー……途中まででいいからさ、一緒に帰らない?あたしももう出るから」
八幡「お、おお。別にいいけど」
沙希「……よかった、ちょっと待ってて」
沙希「うん」
沙希「ごめん、お待たせ」
八幡「いいよ、行くか。話ってなんだ?」
沙希「あ、歩きながら話す……」
八幡「そか」
沙希「………………」
八幡「………………」
沙希「………………」
八幡「………………なぁ」
沙希「ひっ!?」
沙希「え、あ、じゃあ話す……」
八幡「……おお」
沙希「…………ゆ、今週末の店長の送別会、行くの?」
八幡「あぁ、あれか。行きたくはねぇけど店長には割と世話になったからなぁ。どうすっか……お前はどうすんの?」
沙希「あ、あたしは、えーと……。まだ、わかんない。けど、比企谷が行くなら行ってみようかな……」
八幡「そうか……どうするかなー。って話ってそれだけ?」
沙希「えと……まだある、かな。あ、いや、よくわかんない」
沙希「ど、何処に?」
八幡「駅、送る。夜も遅いしな」
沙希「……いいの?」
八幡「……お前が嫌ならいいけどよ。まだなんか話あるみたいだし」
沙希「嫌なわけないよ……。ありがと、助かる……」
八幡「そか、気にすんな」
沙希「うん……」
八幡「………………」
沙希「………………」
八幡「………………」
沙希「……あのさ」
沙希「比企谷ってさ、由比ヶ浜と付き合ってるんだってね」
八幡「え?うん。つってもそれ結構前からだぞ」
沙希「そうなんだよね。あたし、知らなかったな……。比企谷、言ってくれなかったし……」
八幡「いや、わざわざお前に言うことでもねぇだろ……」
沙希「そう、だね。あたしには関係ないもんね……」
八幡「……そんな言い方やめてくれよ」
沙希「……ごめん。送別会さ、やっぱり比企谷も来てよ。あたしも行くから」
八幡「そうだな……。折角だし行っとくか。人数もそこまで多くねぇしな」
八幡「ああ、行くよ。ここでいいか?」
沙希「あ、うん。もう着いちゃったね……。じゃあまたね、比企谷」
八幡「おお、じゃあな。気を付けて帰れよ」
沙希「……うん。ありがとね」
八幡「………………」
一一一
八幡「あ、そうそう。俺明日バイト終わったらそのまま飲みに行くから」
結衣「え、珍しいねヒッキー。誰と行くの?」
結衣「おおー、いいねいいねー。ようやくヒッキーも人並みにコミュニケーション取れるようになってきたのかな?」
八幡「それ彼氏に向かっていう言葉か?でもそんな行きたいわけでもねぇんだよなぁ。ああいう場が苦手なのは変わんねぇし」
結衣「たまにはヒッキーもそういうの慣れといたほうがいいよー。社会人になってからも避けらんないしさ」
八幡「……だよなぁ。はぁ、社会って辛そうだ」
結衣「大丈夫だよ、ヒッキーなら。賢いし、か、かっこいいし。あたしにとってはかもしれないけど……」
結衣「にへへぇ」
八幡「……幸せそうだな。バカっぽくてすげぇ、可愛い」
結衣「なんて複雑な褒められ方なんだろう……」
八幡「すまん、犬っぽいに言い直す」
結衣「あたし、そんなに犬っぽいかな……。サブレ飼ってるからなの?」
八幡「さぁー。飼い犬は飼い主に似るってよく言うけど、逆なのかもな。飼い主が飼い犬に似てくるのかも」
結衣「じゃあヒッキーは猫に似てる?あ、あんまり群れないとことか猫っぽい?」
結衣「いや、なんか違うなー。ヒッキーはやっぱりヒッキーかな。カマクラは元気?」
八幡「おお、元気元気。こないだ帰ったときはふんぞり返って寝てたわ。俺帰ってもまったく反応しねぇでやんの。冷たい猫だわ」
結衣「あはは、そっかー。ね、今度あたしもカマクラに会いに行っていい?」
八幡「ん?うち来るってことか?」
結衣「うん。ダメかな?」
八幡「いや、別にいいけど。お前猫苦手なんじゃないの?」
結衣「苦手……は苦手だけど、嫌いじゃないし……。克服しようかなと。かか、家族に、なるかも、しんないし……」
結衣「だ、だよね。それにあわよくばご両親と会えたりしちゃったら、ご挨拶とか……うわ、何着てこう……」
八幡「だ、だから気が早いって……」
結衣「むーん……不安なんだよー。ヒッキーがあたしを捨てちゃうのが……」
八幡「そんなことしねぇって……」
結衣「じゃーあー、不安、とってよ……」
八幡「ま、またぁ?最近毎日じゃねぇか……」
結衣「嫌?したくない?」
八幡「そんなことはねぇけど……。いやな、ゴム代も結構バカにならんなと……」
八幡「え、あぁん?いいの?マジで?」
結衣「あ、いや、ナマはダメだよ……。使わなくて済むようなこと、しよ?」
八幡「あ、そゆこと……」
結衣「なに、そんなに……したいの?」
八幡「……そりゃ、したくはあるけど。責任まだ取れねぇから駄目だよな。わかってる、すまん」
結衣「……あたしも、したいよ。でも、デキちゃったら大変だから……ごめんね」
八幡「いや、謝んなよ。俺が馬鹿なんだから」
八幡「……俺も」
結衣「明日はできないし、浮気しないよう二日分やっちゃお」
八幡「……ちょっと怖いんだけど」
結衣「んっふっふ、ヒッキー覚悟ー!」
八幡「えっ、ちょ、いきなり!?いやぁぁ!」
一一一
沙希「比企谷ぁ……。飲んでないじゃん」
八幡「の、飲んでるだろ……。俺あんま強くねぇんだよ」
沙希「つまーんないー、比企谷、なんか面白いこと話して」
八幡「えぇ……なんという無茶振り、俺を殺す気か。つーかお前大丈夫なのか?なんか目座ってる気がすんだけど」
沙希「……なに、あたしの目付きが悪いって、そんなこと思ってんの?」
八幡「言ってねぇだろんなこと……。えらい絡むなお前」
沙希「しょーがないじゃん。あたし比企谷しか話せる人いないしー」
八幡「いや、他にも人いんだろうが」
八幡「……ああ?これ店長の送別会だぞ」
沙希「だからー、そんなのはただの口実なのー。比企谷とお酒飲めたらなんでもよかったのー」
八幡「えー……それ、言ってもいいのか?見た目じゃよくわかんねぇけどお前すげぇ酔ってんだろ……。なんか異様に間延びした喋り方だしよ」
沙希「んー、ちょっとだけ酔っちゃったかなぁ?にへへぇ」
八幡「いやいやいやいや、びっくりするぐらい酔ってるって。普段とキャラ違いすぎだろ」
沙希「なによ。普段は可愛いげがないとか思ってるんでしょどうせ」
八幡「だってお前さ、愛想振り撒くキャラじゃないじゃん……」
八幡「え、ちょっ、離せっ。あた、みえ……」
沙希「いいから」
八幡「よくねぇっ。み、みんなに見られてるだろが……」
沙希「…………あ」
八幡「はぁ…………」
店長「やぁやぁ、相変わらず仲がいいねぇ君達は」
八幡「あ、店長。お疲れす。今までほんとお世話になりました」
沙希「……あ、店長ー。比企谷クビで」
八幡「はぁ!?なんでだよ……」
店長「はっは。もう僕にはそんな権限はないよ」
店長「それは困るなぁ。……前から聞きたかったんだけど、川崎さんと比企谷くんは付き合ってるの?」
沙希「あ、あたしと、こいつが?付き合って?えー?」
八幡「……いえ、付き合ってませんよ。俺、一応彼女いるんで」
沙希「………………」
店長「あ、そうなの?人は見かけによらないもんだね」
八幡「なんすかそれ、失礼じゃないですかね……」
店長「はっは、いや失敬。そりゃ大学生にもなったらそれぐらいは普通だね。じゃあまた後で」
八幡「あ、はい」
八幡「…………なんだよ」
沙希「……比企谷、おかわり」
八幡「まだ飲むのかよ……もうやめとけって」
沙希「うるさい。比企谷のも頼んどくから。すいませーん」
八幡「……参ったな」
一一一
店長「それじゃあみんな、今までありがとう、また何処かで」
八幡「お疲れ様でした」
沙希「おつかれさまでしたぁー」
店長「じゃあね、比企谷くん、川崎さん」
沙希「お世話にー、なりましたぁ」
店長「……川崎さん、大丈夫?」
八幡「いえ、あんまり……。見たことないぐらいぐでんぐでんです」
沙希「…………ダルい」
八幡「おい、そんなとこで座んなよ」
沙希「つかれたー」
八幡「…………こりゃ駄目だな」
店長「比企谷くん、悪いけど川崎さん連れて帰ってもらえる?」
八幡「え、なんで俺が」
店長「川崎さんと仲がいいの君ぐらいだもん。じゃ、よろしくね。しっかり頼むよー」
沙希「比企谷、おんぶしてー」
八幡「うるせっ。とりあえず立て、座るならそこに公園あるからベンチにしとけ。ほら、掴まれ」
沙希「んんー……」
八幡「肩、貸すから……。大丈夫か?歩くぞ?」
沙希「うん……」
八幡「はーっ、はーっ、力ぜんっぜん入ってねぇよお前……」
沙希「うぅ……頭ガンガンする……」
八幡「ちょっと座って休んどけよ。だから今は、体に力入れろぉおお歩けぇぇ」
八幡「仕方ねぇだろが……どうしろってんだ俺に」
沙希「比企谷ぁ……。あたしじゃ、ダメなの……?」
八幡「な、何がだよ」
沙希「由比ヶ浜じゃなきゃ、ダメなの……?」
八幡「…………ああ」
沙希「…………そう」
八幡「………………離すぞ」
沙希「疲れた……ダルい……」
八幡「……ちょっと待ってろよ、水買ってくるから」
沙希「行かないで……」
沙希「わかった……」
八幡「…………な、なんなんだあいつ。酔うと幼児化すんのか……?」
八幡「ほら、かわさ……って、寝んのかよこんなとこで。いい加減にしろよこいつ……」
沙希「………………」
八幡「はぁ…………」
一一一
八幡「うあ……寝汗ひでぇな。川崎は……まだおやすみか。この野郎、ぐっすり寝やがって……」
八幡「死ぬほど疲れたんだからな……。気持ちわりぃ、シャワー浴びるか……」
沙希「…………ん。……ベッドだ。どこ?ここ……」
沙希「うぅ……いたた……。昨日送別会行って、えーと……緊張してたから飲み過ぎて……」
沙希「ダメだ。さっぱり思い出せない……。こんなの初めてだ……」
沙希「てか、誰の家……?昨日のメンバーだと、やっぱり比企谷……?」
沙希「なんで誰もいないんだろ。んー……」
沙希「トイレ借りて、いいかな……」
沙希「………………」
沙希「…………きゃあああ!」
八幡「おまっ、叫ぶなっ!」
沙希「なんで比企谷、はだっ……むぐっ」
八幡「こ、ここは俺んちだ、静かにしてくれ頼む……。まだ5時なんだぞ……」
沙希「ぷはっ!いいから、服、着ろおお!」
八幡「………………。すまん」
一一一
八幡「……落ち着いたか?」
沙希「…………うん。なんか、ごめん……」
八幡「どこまで覚えてんの?」
八幡「一応、俺の名誉のためにざっと説明しとくな」
沙希「…………ちょっと、思い出してきた」
八幡「そうか、よかった」
沙希「なんか公園?みたいなとこ、二人で行ったよね?」
八幡「おお、行ったな。ベンチで寝始めたんだよ、お前」
沙希「……そこ行くとき、あたしさ……。その、変なこと、言ったよね。記憶がおかしくなければだけど……」
八幡「……別に、変なことは言ってないんじゃないか」
八幡「そりゃ、まぁな」
沙希「…………この際だから、もう一度聞かせて。曖昧な記憶にしときたくないんだ。あたしの、あたしじゃ、ダメなのかな……」
八幡「…………別にお前が駄目なわけじゃないだろ」
沙希「ごめん。そんなのじゃあたしが納得、っていうか……踏ん切りがつかない。ちゃんと、終わらせたい」
八幡「…………それでも、お前に不満なんて、駄目なところなんてない。俺はお前より先に由比ヶ浜と知り合って、先に好きになっただけだ」
沙希「……どこが、好きなの?」
八幡「…………いろいろあるけど、あいつは誰よりも優しくて、俺のことを想ってくれてて……。俺はあいつのことをもっとわかりたいと思った。だから、傍にいたい」
八幡「一途ってか、なんだろうな。俺そんな器用じゃねぇから、一度には一人しか見られないんだと思う。だから……」
沙希「…………そっか」
八幡「……ああ」
沙希「そっか…………」
八幡「…………泣くなよ」
沙希「…………泣いてない」
八幡「そうか」
沙希「こういうの初めてだからさ、よくわかんないんだけど。別にあんたと何も始まってなかったんだけど………たぶん、初恋、だったんだ」
八幡「………………」
沙希「本屋でバイトしてるあんた見つけてさ、チャンスだとか思ってやり始めたのに結局また何もできなくて。時間ばっかり経っていって……」
沙希「で、今終わったの。比企谷がちゃんと終わらせてくれた」
八幡「………………」
沙希「思ってたより、ずっと、辛いね。しんどいね……」
八幡「……そうだな」
沙希「…………えぐっ…………落ち着いたら、帰るから……」
八幡「しんどいなら、もう少しいても……」
沙希「ううん。あいつに悪いから、いい。由比ヶ浜がいい子だってのはあたしも知ってるから……」
沙希「……でも、もう少しだけ…………ひっく…………」
一一一
結衣「たっだいまー」
八幡「ただいまーっと」
結衣「そうそう、昨日の送別会どうだった?」
八幡「あー、まぁ……なんかいろいろあった。疲れた」
結衣「なに、いろいろって。行かなきゃよかったとか思ってるの?」
八幡「……いや、そんなことはないぞ。行って、よかったかな」
結衣「ふーん。なんか珍しいね」
結衣「…………沙希」
八幡「…………あん?」
結衣「沙希、来たでしょ」
八幡「……なんでわかんの?」
結衣「こんな青がかかった長い髪、沙希以外にいるわけないじゃん。しかもなんでベッドに……。ヒッキー」
八幡「は、はい」
結衣「そこに座る」
八幡「はい……」
結衣「……どういうことなの?」
八幡「お、怒ってる?」
結衣「怒ってないと思ってる?」
結衣「あたしが別れるって言い出すとは思ってないんだ」
八幡「おも…………え?わか…………えっ!?」
結衣「………………」
八幡「まま待て、落ち着け由比ヶ浜。ちゃんと説明する、頼む待て」
結衣「ヒッキーが落ち着きなよ」
八幡「わ、わかった。いや、それはほんと困る。嫌だ絶対に」
結衣「なんで?」
八幡「なんでって、俺が好きなのは由比ヶ浜……お前だけだから」
結衣「そっか。うん、もういいよ」
八幡「よくない。…………え?いいの?」
八幡「だったら、なんであんなこと……」
結衣「あたしの性格が悪いだけだよ。ヒッキーのこと信じてるけど、いつだって確認しないと不安なんだ……」
八幡「……すまん」
結衣「隠すなら隠すでいいけど、ちゃんとバレないようにしてよ……。もう、バカ」
八幡「あー、いや、隠すってのも……。やましいことはしてないんだけどな」
結衣「そうだと思ってるよ、あたしも。でもね、ヒッキーのことばっかり頭の中いっぱいにしても、何があったかなんてわかんないんだよ……」
八幡「……だよな。わかった。話す」
八幡「…………だから、ちゃんと終わらせた。バイトはやめないつってたけどな」
結衣「そっか……」
八幡「しんどいんだな。終わらせる方も」
結衣「……それはヒッキーも、沙希も真剣だからだよ。あたしはこれまでそんな辛くはならなかったから」
八幡「そうか……なんか申し訳ねぇな。俺なんかが」
結衣「だからモテてるって言ったじゃん。あとそんなこと言うのはあたしにも、沙希にも失礼だよ」
八幡「……悪い」
結衣「……後悔、してる?」
結衣「……ありがと。でもさ、沙希はいい子だと思うよー。あんな子なかなかいないよ?」
八幡「だろうなぁ。不器用なのと無愛想なの以外完璧だよな、あいつ」
結衣「料理もあたしなんかよりずっとできるし、足長くてスタイルもいいし」
八幡「……もうやめとけ。俺はそんなとこ見て好きになったり嫌いになったりしねぇから。結衣、好きだ」
結衣「…………なんでわかったの?」
八幡「今のはわかりやすかったぞ」
結衣「うー……先手を取られるなんて初めてかも……。ヒッキー、あたしも大好きだよ」
八幡「……おお。今度のお前の誕生日、どっか晩飯食いにいくか」
八幡「……なんかその、いい感じのとこ」
結衣「未定?」
八幡「おお。でもちゃんと考えとく……。あ、高級フレンチだとか、ドレスコードがいるようなとこは想像するなよ。無理だあんなの」
結衣「そんなとこはあたしも落ち着かないかなぁ……」
八幡「そうか、助かるわ……。カジュアルでいける、微妙に小洒落たようなとこ探しとく……」
結衣「む、無理しないでいいよ?」
八幡「いいんだ、無理させろよ。お前の誕生日ぐらい格好つけさせてくれ……」
結衣「ヒッキー、カワイイ……」
八幡「ど、どうも……」
八幡「俺もお前のそんな顔が見たくてやってんだから、おあいこだな」
結衣「えへへぇ……幸せすぎてとろけちゃうなぁ」
八幡「あ、誕生日プレゼント何が欲しい?当日一緒に買いに行こうぜ。もうお前が欲しくて俺に買えるものが思い付かねぇんだよ」
結衣「んー、何がいいかなー……。候補考えとくからさ、いろいろ見て回ろうよ」
八幡「……そだな。んじゃ今日は何しますかね?」
結衣「えーとね、今日はー………………」
一一一
結衣「ねね、ヒッキー。来年の夏休みは就活でそれどころじゃないかもしんないよね?」
八幡「かもなぁ。状況次第だけど、卒論もあるし今年ほど暇じゃないだろうな」
結衣「社会人なったら夏休みすらないかもよ?」
八幡「やめろ、働きたくなくなるからやめろ。お前は無職の俺を養えるのか?」
結衣「わわ、わかんないけど、頑張るよ!なんでもする!ちゃんと家事も!」
八幡「……お前にだけ働かせるわけねぇだろ。家事ぐらいなら俺に任せろ」
結衣「うぅ、なんでこんな人好きになっちゃったんだろ……」
結衣「ヒッキー……なんか、いつの間にかまともな人みたいになってる……」
八幡「感動してもらうポイントが違うんだが」
結衣「あ、いや……あの、そういうこと言ってもらえて、超嬉しいです……」
八幡「お、おお……」
結衣「ヒッキー……すき…………」
八幡「………………で、夏休みがどうかしたのか?」
結衣「あ、そうそう本題忘れるとこだった。だからさ、今年がのんびりできる最後の夏休みになるかもじゃん?」
八幡「おお、まぁそうだな」
八幡「……いいか由比ヶ浜。海に行って死ぬ奴は毎年たくさんいるが、行かなくて死んだ奴は一人もいねぇんだよ」
結衣「あんまり家にずっといたら腐って死んじゃうよ」
八幡「一応生命維持活動はしてるから腐敗はしねぇと思うんだが……」
結衣「いいじゃん行こーよー、うーみー。夏の思い出つくろーよー」
八幡「……暑いじゃん」
結衣「海冷たいよ」
八幡「……人多いじゃん」
結衣「祭りは行ってくれるのに?」
八幡「えーと…………」
八幡「そ、そうだな。考えとく……」
結衣「えっ!?そんなんでいいの!?」
八幡「なんで驚くんだよ。そんなんでとはなんだ」
結衣「いやだって……それ以上のたくさん見せてるし……」
八幡「ま、まぁそうなんだけどな。水着はそれはそれで別腹と言うか」
結衣「まぁいいや……行けるならなんでも。嬉しいなー。水着買いに行くから今度付き合ってね?」
八幡「海よりそっちのがキツいわ、マジで。変質者みたいな目で見られるの確実だし」
結衣「じゃあ腕組んどこうよ。それなら大丈夫でしょ?」
結衣「仕方ないなぁ。でもまた憧れを叶えてもらえるから、すっごい楽しみ。約束だよ?」
八幡「おお。約束は守るよ、絶対に」
結衣「よし、じゃあ夏休みにこなしたいことリストを作ろう。ヒッキーもどんどん言ってよ」
八幡「……へいへい」
一一一
八幡「………………ん?」
八幡「うおっ。なんかどんどん写真が際どくなってくんな……」
八幡「送ってくれって言わなくても送るようになってるし、あいつ実は楽しんでんじゃねぇのか……」
八幡「まぁ、ありがたく頂きますが。保存……と。一応隠しフォルダ……と」
八幡「…………結構増えたな」
八幡「………………」
八幡「………………」
八幡「………………ふぅ」
八幡「…………っ!だ、誰だこんな時間に……」
陽乃「ひゃっはろー。比企谷くーん、暑いーあけてー」
雪乃「ちょっと、姉さん酔いすぎよ。遅いんだから騒がないで、迷惑でしょ」
八幡「………………」
雪乃「ここは防音のしっかりしたマンションとは違うのよ。場をわきまえなさい」
八幡「……人ん家の真ん前で住んでる場所を見下さないでもらえますかね」
陽乃「あ、比企谷くんおひさー。朝まで寝かせてー」
雪乃「あ、比企谷君……。ごめんなさい、いきなり押し掛けてしまって」
八幡「…………俺の家は酔っぱらいの簡易宿じゃないんだが」
雪乃「わ、わかってるわよそんなの。姉さんが暑いもう歩けないどうしてもって暴れだして……」
陽乃「えー、雪乃ちゃんだって行くって言ったら嬉しそうにしてたじゃない。嘘はダメよー」
八幡「えー、どっちでもいいんで、ここで騒がないでもらえますか……」
陽乃「そーう?じゃあ上がるねー、お邪魔しまーす。ひゃー涼しーい」
八幡「あっこらっ、まだ許可した覚えは……」
陽乃「うわー、せまーい男くさーい。でもきちんと片付いてるじゃない、感心感心」
雪乃「ごめんなさい……」
八幡「……お前じゃないだろ、悪いのは。けどちょっと恨むからな」
雪乃「……ひっぱたいてでも連れて帰りましょうか。そのぐらいしないと姉さんは動かなそうだし」
雪乃「……申し訳ないわ、本当に。今度何かお詫びを考えておくから」
陽乃「雪乃ちゃん何してるのー?早くおいでよー。ほら、比企谷くんのジャージ落ちてるよ。拾い放題だよー」
八幡「あぁもう、本当になんなんだこの人は……。もういい、入れよ。あの人おとなしくさせてくれ。お前だけ帰られるとそっちのが大問題だ」
雪乃「……わかったわ。お、お邪魔します……」
八幡「やっぱこうなるのか。俺が悪いのか?これ……。すまん由比ヶ浜……」
雪乃「?」
八幡「なんでもねぇよ」
八幡「で、当然のように人のベッドを占拠すると……」
雪乃「……姉さん。いい加減にしないと本気で怒るわよ。どこまで彼に迷惑をかけるつもりなの。これ以上何かやったら無理矢理にでも連れて帰るからね」
陽乃「うわー、雪乃ちゃんが怒ったー。でもここまでだから大丈夫だよ。大人しく寝るからさ。本当に眠いんだよー……」
雪乃「100歩譲って寝るのはいいとしても、ベッドから降りなさい。そこは比企谷君の寝る場所よ」
八幡「あー、いいよ雪ノ下。俺朝まで起きとくから。大人しくしてくれるんならそっちのがありがたい」
雪乃「でも、それは……」
八幡「…………嵐だな、まるで」
雪乃「こんなに厚かましい人、姉さん以外に見たことがないわ」
八幡「陽乃さんはべろべろみたいだけどお前はそうでもねぇんだな。迎えに来ただけか?」
雪乃「いいえ、二人で食事をしてたのよ。姉さんが途中でワインを飲み初めて、私も多少は付き合っていたのだけれど……それがよくなかったわ」
陽乃「…………んん…………すー…………」
八幡「……なんかあったの?陽乃さん。こんななるほど羽目外す人じゃねぇだろ」
雪乃「いろいろと、あるみたいよ。家のこととかね」
八幡「……そうか。陽乃さんも人間らしいとこ、あるんだな」
八幡「そうは思えんが……。それになんで俺なんだよ」
雪乃「うまく言えないけど、あなたが偏屈で変人だからじゃないかしら」
八幡「うまく言えなさすぎだろ。罵倒されてんのかと思ったわ」
雪乃「まさか。褒めているのよ」
八幡「相変わらず歪んでんな。変人はお前もだろ」
雪乃「酷いこと言うわね、怒らせたいの?」
八幡「なんなのこの理不尽な仕打ち……」
雪乃「…………ふふっ、久しぶりね。こういうやり取りも」
雪乃「……その前に、すごく今更だしあなたの家だから少し恐縮なんだけども……」
八幡「んだよ、遠慮とか珍しいな。なんだ?」
雪乃「……下を、ちゃんと履いてもらえるかしら……。立たれると目のやり場に困るのよ」
八幡「……おぉ!?」
雪乃「一人暮らしの男子なのだし、いろいろと、その……わからないわけではないけど……」
八幡「な、何を心配してるんだ、お前は……」
雪乃「いいのよ、そういうのも必要なことなんだから。…………由比ヶ浜さんとうまくいってないの?」
雪乃「そう……。なら私は身の危険を感じなくてもよいのかしら」
八幡「感じてたのかよ!失礼極まりないな、勝手に来といて」
雪乃「し、仕方ないじゃない。一人暮らしの男子の部屋に入るなんて初めてだし、下はパンツだし……」
八幡「ほら、もう履いたぞ。興味ねぇからいらん心配すんな」
雪乃「その言い方は少し……それはそれで複雑な気分ね」
八幡「あーもう超めんどくせぇ。さっきうまくいってんのかって聞いたけどな、うまくいかなくなるとしたらこんなことがバレた時なんだからな」
雪乃「隠すからよくないんじゃない?そういう、その……アレは別にないのだし」
雪乃「…………言いにくいわね。アレなことはないとはいえ」
八幡「だろ?何もなくても後ろめたいし、実際怒られてんだよ」
雪乃「と言うと、まさかあなた、他にも女子を連れ込んでアレなことを……」
八幡「してねぇよ。ていうかアレアレ連呼すんな。なんか変に意識しちゃうだろが……」
雪乃「ご、ごめんなさい。やっぱりアレの有無は重要かと思って……」
八幡「だから……」
雪乃「あ……」
八幡「………………」
雪乃「………………」
八幡「っ!」
雪乃「!!」
八幡「寝言かよ……」
雪乃「まったく、寝ていても迷惑ね……」
八幡「……なんつーか、お前も結構変わったよな」
雪乃「どこを見てそう言っているの?」
八幡「陽乃さんとのやり取りとか、態度とか」
雪乃「……そうね。私も変わったと思うわ。いつまでもあの頃のままではいられないのはわかっていたことだし」
八幡「そうか……」
八幡「お前がそう思えるようになったんなら、よかったな」
雪乃「ええ。歪んでいる愛情表現だとは思うけど、こんなのでもたった一人の姉で、家族だから……」
八幡「あの頃からお前がそんな顔できてたらなぁ……」
雪乃「なによ、口説いてるの?」
八幡「ばば馬鹿か、そんなわけねぇだろ」
雪乃「ふふっ。……そんなに、狼狽えないでよ。必死なんだから……」
八幡「………………」
雪乃「………………」
雪乃「いいのよ。ここで……こんなところで、寝られそうにないから」
陽乃「…………すー…………むにゃ…………」
八幡「……そうか」
雪乃「……朝までまだ時間があるわね。積もる話でも、語らいましょうか。由比ヶ浜さんからある程度は聞いているけどね」
八幡「どこまで言ってんだ、あいつ……」
雪乃「さぁね?朝までに探ってみるといいわ」
八幡「怖いななんか。コーヒーでも飲むか?」
雪乃「ええ。頂くわ」
一一一
八幡「なぁ、あんま時間ないけどそろそろ寝たら?派手にうつらうつらしてんじゃん」
雪乃「………………はい?寝てな……。……いから」
八幡「意識が大分途切れてるみたいですが……」
雪乃「……うぅ、眠い…………」
八幡「我慢する意味がわかんねぇよ」
雪乃「寝たら何されるか…………」
八幡「お前もしつこいな。なんもしねぇって」
雪乃「…………嘘よ。久しぶりに会えたのに、もったいないじゃない……」
八幡「…………もう、寝とけ」
雪乃「…………うん。ごめんけど、そうする……。おやすみ、比企谷くん……」
雪乃「………………」
八幡「はー……。寝顔はそっくりだな、この二人」
八幡「………………」
八幡「………………」
雪乃「…………すぅ………………」
陽乃「……雪乃ちゃん、寝ちゃった?」
八幡「ぬ、起きましたか……」
陽乃「うん、気持ちよかったー。今何時?」
八幡「四時すね」
陽乃「わたしは始発で帰るつもりだったけどー、雪乃ちゃんは今寝たんだよね。どうしよう?」
陽乃「……どうして?」
八幡「俺には大切な彼女がいるんで。今でも問題なのに、さらに誤解されそうなことしたくないですから」
陽乃「別に雪乃ちゃんと今さらどうこうってのはないでしょ?」
八幡「……絶対ないとは言い切れないですよ、俺がどんな理性の化物でも。所詮は人間ですから」
陽乃「ふーん、昔みたいに自分のこと過小評価してないんだ」
八幡「過大評価の間違いじゃないですか?昔の俺なら絶対ないって答えてますよ」
八幡「……陽乃さんと話すのはやっぱ苦手ですね。見透かされてる気がして」
陽乃「そーう?わたしは楽しいよ、比企谷くんと話すの。……でも、昔よりはつまんなくなっちゃったかな」
八幡「陽乃さんにそう言われるってことは、俺も多少は現実が見れるようになってきたってことですかね?」
陽乃「何その顔。生意気ー。言っとくけどわたしは雪乃ちゃんを泣かせたこと、許してないからね」
八幡「勘弁してくださいよ……。でも、謝りませんからね。こいつに失礼なんで」
雪乃「…………すぅ…………んん…………」
八幡「……そうですか。ていうかなんでうち来たんですか。タクシーでも送迎車でもなんでも、いくらでも帰れたでしょうに」
陽乃「んー、久しぶりに比企谷くんの屁理屈が聞きたくなって。押し掛けてごめんね」
八幡「そんな風に謝られるとは思ってませんでした」
陽乃「わたしもちょっと飲み過ぎちゃったから。反省してるのよ、これでも」
八幡「いやまぁ、すんなり上げる俺も俺なんで。そこまで責めるつもりは……」
陽乃「そう?ならよかった。ね、ガハマちゃんとのこと聞かせてよ。どんなプレイしてんの?」
陽乃「言えないようなことばっかりしてるんでしょー。比企谷くんどう考えてもムッツリだもんねー」
八幡「質問がストレートすぎて引きますよ……」
陽乃「じゃあさ、ガハマちゃんのいいとことか好きなとこ教えてよ」
八幡「……それなら、いくらでも」
陽乃「……ほんと、生意気。あーあーやめやめ。また寝る。五時半ぐらいに起こしてよ、雪乃ちゃん起こして帰るから」
八幡「わかりました」
陽乃「おやすみ」
八幡「おやすみなさい、陽乃さん」
八幡「なんですか?」
陽乃「………………いいや。なんでもない。おやすみ」
八幡「……はい」
一一一
陽乃「ほら、しっかり歩く。雪乃ちゃん」
雪乃「……うん…………」
八幡「どしたんですか、こいつ」
陽乃「雪乃ちゃん低血圧だから朝は激弱なんだよー。知らなかった?」
八幡「はい……。知りませんでした。体力ないのは知ってましたけど……」
八幡「……かもな。じゃあまたな。気を付けて帰れよ」
陽乃「うん、ありがとね比企谷くん。またねー」
雪乃「……ええ、またね比企谷君。やっぱり、今日のことは私から由比ヶ浜さんに謝っておくから……」
八幡「……いいよ、俺から言うよ」
雪乃「……そう。……でも私も謝っておくわ。彼女に嫌われたくはないけど、親友として対等でいたいから」
八幡「そうか、わかった」
雪乃「由比ヶ浜さんのこと、よろしくね」
八幡「おお。任せろ」
八幡「ふぁぁ……。俺も、あいつ来るまで寝とくかぁ……」
一一一
八幡「………………」
結衣「………………」
八幡「…………なんか、柔らかい……」
八幡「…………おぉ?」
結衣「あ、おはよ。ヒッキー」
八幡「…………あれ?俺どこで寝てた?」
結衣「床で寝っ転がってたよ。ダメだよー、ちゃんとベッドで寝ないと」
八幡「なんで膝枕……」
八幡「な、なわけねぇだろ。……で、お前は何してたの?」
結衣「枕もなくてしんどそうだったから膝枕してー、ヒッキーの寝顔見てた」
八幡「…………結衣」
結衣「……なに、どしたの。苦しいよ……」
八幡「またお前に謝らないといけないことがあるんだ」
結衣「ゆきのんのこと?」
八幡「……なんだよあいつ、俺から言うって言ったのに」
結衣「ゆきのんと、陽乃さんからも連絡あった。その二人なら、まぁ……あたしも仕方ないって思えるかなぁ」
結衣「あたしはゆきのんのことも信じてるから……大丈夫だよ。ちょっと釘はさしといたけどね、えへへ」
八幡「なんて言ったんだ?」
結衣「え、んー、いろいろだけど……まとめると、ヒッキーはあたしの!って感じのこと」
八幡「そっか……」
結衣「それにヒッキーはさっき、自分から話そうとしてくれたし。…………甘いかな、あたし」
八幡「たぶん。大甘だな」
結衣「でもなー。ゆきのんだとどうしようもないなぁ、あたし。だってゆきのんのことも絶対に嫌いになりたくないもん……」
結衣「そっかぁ……。嬉しいな。ね、だから離してもいいよ。怒ってないから」
八幡「……やだ。怒ってなくても離さない」
結衣「ヒッキー、んー……」
八幡「………………。なぁ」
結衣「ん?」
八幡「二人とも就職決まったら、一緒に暮らすか」
結衣「え、いいの?」
八幡「いいってか、俺はずっとそうしたかったし……。あの、よく知らないから教えてほしいんだけど。同棲するときってちゃんと親に挨拶するべきなのか?」
八幡「そうしてくれ。駄目だとか連れてこいとか言われたら、そのときにはちゃんとお前のうちに挨拶行くよ」
結衣「……あのさ、同棲するって言ったらさ、結婚する気あるのかって言われると思うんだけど……。考えてる、って言っても、いいのかな」
八幡「んー……するつもり、でいいんじゃねぇの……」
結衣「ヒッキー……。婚約ってさ、口約束でも成立するんだよ?」
八幡「……そうなの?難しいこと知ってんな」
結衣「茶化さないで。真面目に話してるの」
結衣「あたしはもうずっとそのつもりだったけど、ヒッキーも引き返すの大変になっちゃうよ。まだあたしたち学生なんだよ?それでも、いいの?」
八幡「引き返すつもりなんか最初からない。俺にとってお前以上の子なんかいない。だからそれでいい。お前こそいいのか?俺より優しくて誠実でいい男なんかゴロゴロいんぞマジで」
結衣「…………いないよ。断言してもいい。あたしがこれほど好きになる相手は、ヒッキーだけだから」
八幡「そか……。じゃあ、まぁ……。そういうことで……」
結衣「あ、はい……。えと、不束者ですが?よろしくお願いします?」
八幡「このタイミングでその挨拶は合ってんのか……?」
八幡「一番は?」
結衣「ヒッキーがあたしに告白してくれたとき」
八幡「じゃあ……三番は?」
結衣「……今から、思いっきりあたしを愛してくれるとき、かな?」
八幡「…………自信はないけど、了解」
結衣「えへへ……ヒッキー、愛してる」
八幡「俺も……愛してるぞ、結衣」
結衣「……初めて、愛してるって言ってくれたね」
結衣「ヒッキー、ドキドキしてる?」
八幡「しまくりだ。顔がすげぇ熱い……」
結衣「あたしも。心臓がバクハツしそう……」
八幡「……お前と出会えて、良かった」
結衣「あたしも、ヒッキーと会えてよかった」
八幡「………………」
結衣「…………んっ…………んんっ……」
一一一
結衣「ねねヒッキー、これどうかな?」
八幡「……いんじゃねぇの」
結衣「そんじゃあこれは?」
八幡「なかなかじゃないですかね」
結衣「じゃあ、これ……」
八幡「いいと思いま……」
結衣「もー!さっきから似たようなことばっかりー!それじゃあ全然参考にならないよー!」
八幡「……いやな、周りの目がな……」
結衣「誰も見てないよ、あたしたちなんて。ほら向こうにもカップルいるじゃん」
八幡「なんでああ堂々とできるのかね……」
八幡「いや、お前目立ってるから。店の外を通る男の視線見てみ?みんなお前をちらちら見てるぞ」
結衣「えー、そんなことないと思うけどなー」
八幡「自覚なしか。お前可愛いんだよ、俺以外の奴から見てもさ」
結衣「あ、あたしはヒッキーからそう見られてたらそれでいいけど……」
八幡「と言ってもだな…」
結衣「まぁまぁ、もっかい最初からね。これとこれならどっちがいいかな?」
八幡「……どっちも似合うよ、間違いなく」
八幡「すまん。あえて、一つ言わせてもらうとだな……」
結衣「なに?」
八幡「お前が選ぶの、どれも面積が小さすぎるんじゃないでしょうか……」
結衣「え、えー?そうかな……。水着ってこんなもんじゃない?」
八幡「同じビキニでももうちょっと、こう……あるだろ。恥ずかしくねぇの?」
結衣「そう言われるとあたしが痴女みたいでなんかヤダなぁ……」
八幡「あーいや、言い方が悪かった。いやそれもちがくて……あんまり他の男に見せたくねぇとか、そんなこと思ってたり、してたりとか……いろいろ」
八幡「は、は?何その謎の単語……」
結衣「かわいすぎるんだけど。ね、試着するから見てみてよ」
八幡「え?水着って試着できんの?」
結衣「できるよー。もちろん下着の上に着るけどね」
八幡「はー、なるほど……。知らない世界もあるもんだな。で、俺は一人で待つの?無理だからそれ」
結衣「そ、それじゃ意味ないじゃん、見てもらわないとさー」
八幡「つっても、マジ無理。気にする女性客もいるかもだし勘弁してくれよ……」
結衣「うーん、じゃあ試着なしで決める。ヒッキーどれがいいのか教えてよー」
結衣「これ?パレオあったほうがいいんだ」
八幡「お、おお。なんか……いい感じ。すまんうまく言えなくて……」
結衣「えへへ、いいよ別にー。ありがと、じゃあこれ買ってくるね!」
八幡「そ、外で待ってるなー」
結衣「うんー」
八幡「………………」
八幡「…………はぁ、ものすげぇ疲れる……」
結衣「お待たせー。じゃあ次行こー」
八幡「あん?まだなんか買うの?」
結衣「次は、あのー……ヒッキーの好きそうな、下着とか……」
結衣「うーん、やっぱりそうかー……」
八幡「あ、当たり前だろ。水着が限界だ……」
結衣「じゃあいいや、帰ろっか」
八幡「いやに素直だな」
結衣「うん?まぁ別にお店で選ばなきゃいけない理由はないしね。あたしもちょっと恥ずかしいし……」
八幡「じゃあ提案すんなよ」
結衣「うん、やっぱあたしたちには合わないかもね。でも一回やってみたかったんだ」
八幡「……やってみて、感想は?」
結衣「嬉し……恥ずかし?でもなんか、楽しかった」
結衣「ん?なんか言った?」
八幡「いーや、なんでも」
結衣「ふーん。ねー、下着なんだけどさ、家でカタログ見て選んでもらうならいいよね?」
八幡「……ま、それなら」
結衣「あと水着も家で着てみるから、ちゃんと見てよ?」
八幡「……おお。あ、ならついでにコスプレ衣装見に行ってみるか。あそこなら俺あんま恥ずかしくねぇかもしれん」
結衣「おー、いいねいいね。あたしもどんなのがあるのかよく知らないから行ってみたい」
八幡「うし、んじゃこっちだな」
一一一
八幡「暑くね……」
結衣「夏だからねー」
八幡「人、多くね……」
結衣「海だからねー」
八幡「それ、でかくね……?」
結衣「イルカさんだからねー。ヒッキー助けて疲れたー。うまく膨らまないー」
八幡「えー、俺がやんの?」
結衣「いいじゃん手伝ってよー。ヒッキーも乗っていいからさー」
八幡「いや別に乗らなくていいけど……。まぁやるか、貸せ」
結衣「さすがヒッキー、頼りになるー」
結衣「ダメに決まってるし。ほら、海があたしたちを呼んでるよ!」
八幡「幻聴だそれは。もしくは溺れた死者の黄泉からの呼び声だ」
結衣「怖いこと言わないでよ!ほら、あたしイルカさんに乗るんだから引っ張ってくれないと」
八幡「俺労働者じゃねぇか。…………まぁいいか」
結衣「うおー砂浜あつーい」
八幡「なー、今日は聞かねぇの?」
結衣「え?何を?」
八幡「ほら、出掛けるといつも聞くじゃん。どう?似合う?って」
八幡「…………」
結衣「ど、どう?似合う、かな?」
八幡「……おお、似合ってる。か、可愛い」
結衣「えっへっへ。ヒッキーも似合ってるよ」
八幡「どうも……」
結衣「あのさー、聞かなくても言ってくれていいんだよ?」
八幡「…………そのうちで」
結衣「うん、わかった。……二人きりのときは結構、無茶するのにねぇ」
八幡「二人のときは別……お、おいっ」
結衣「ほらほら、行くよー」
結衣「あははっ、それーっ」
八幡「冷た!……くもねぇか。気持ちいいな」
結衣「気持ちいーねっ、ほらヒッキー、ゴー!」
八幡「……へいへい。わかりましたよ、お姫様」
結衣「きゃーっ、あはははっ」
八幡「…………引っ張るより押すほうが楽だな。後ろ行くわー」
結衣「ほーい」
八幡「……おお。なんだこの絶景は……。尻が目の前に……」
結衣「あれ?押すの難しい?」
八幡「あ、すまん。行くぞー」
八幡「はー、結構遠くまできたな」
結衣「うん!あんま人いないねー、この辺だと。そいやヒッキー、意外と泳ぐのうまいんだね」
八幡「なんで意外なのかは知らんが、まぁまぁ得意だぞ。お前は?」
結衣「あたしも得意だよー、昔習ってたし。千葉の人魚姫とはあたしのことだから」
八幡「千葉の魚人?」
結衣「魚人じゃないし!人魚!」
八幡「まぁお前泳ぐのは得意そうだよな。浮き輪二つついてるみたいなもんだし」
結衣「あっ!ヒッキーのえっち」
結衣「むぅ……。あ、ヒッキーも乗る?二人乗りしよーよ」
八幡「お、いいの?実はちょっと乗ってみたかった」
結衣「もう、言ってくれればいいのに。じゃあ帰りはあたしが押して戻るよ」
八幡「いや、それはなんか、嫌だからいい。つか、これどうやって乗ればいいんだこっから……」
結衣「引っ張り上げようか?」
八幡「……おし、いいぞ」
結衣「いよっ!ほっ……うわ、わああっ!」
八幡「あー、やっぱり」
結衣「……ぷあっ!もー!何するのー!」
結衣「むー。じゃあヒッキー乗りなよ、一人ならだいじょぶじゃない?」
八幡「じゃあ、よっ……と。おお」
結衣「どう?」
八幡「目線結構高くなるなー。いや、これはなかなか……」
結衣「どーん!!」
八幡「うおあっ!」
結衣「あっはっはっ」
八幡「…………ぷえっ。っはー、やりやがったな」
結衣「怒った?」
八幡「……怒んねぇよ、こんなことで。ほら乗れよ」
八幡「ちっ、さすがにわかるか」
結衣「…………あはっ、あはははっ」
八幡「……ぷっ、あっはははっ」
結衣「あはっ、ヒッキーのそんな爆笑初めて見たかも」
八幡「俺だっておかしけりゃ笑うよ、ちゃんと」
結衣「じゃあもっと嬉しい顔とか、気持ちいい顔とか、これから先見れるかな?」
八幡「……かもな」
結衣「あたし次第だよね、よし、がんばろーっと」
八幡「俺も、もっとお前を幸せにしたいから頑張るよ」
八幡「……イルカさんで隠すか」
結衣「………………」
八幡「………………」
結衣「……しょっぱいね」
八幡「……だな。戻るか、乗れよ。落とさないから」
結衣「ほ、ほんとにー?」
八幡「ほんとほんと。……たぶん」
結衣「今ちっちゃい声でたぶんって言った!?」
八幡「言ってない言ってない。ほれ行くぞー」
結衣「あ、待ってよー、乗るからー」
一一一
結衣「何食べようか?」
八幡「焼きそばだろ。それ以外になんかあんの?」
結衣「いろいろあるみたいだけど……焼きそばでいっか。海で食べる焼きそばって、なんか超おいしーよね」
八幡「ん、買ってくるから待ってていいぞ」
結衣「ううん。あたしも行くー」
八幡「そか。……いや、手繋がんでも……こんなに人いんだしさ」
結衣「ヒッキーが迷子になるかもだし」
八幡「俺かよ」
相模「あれ?もしかしてゆいちゃん?」
相模「わぁ、ほんとにゆいちゃんだー、久しぶりー。髪の色変わってたから一瞬わかんなかったよー」
結衣「あはは。あたし元々はそうだったし、髪痛んじゃうかなーとか思って」
相模「そっかー。あのさー、さっき手繋いでなかった?」
結衣「み、見られてたかー。うん、繋いでた、よ」
相模「ゆいちゃんの彼氏?どんな人?」
結衣「んん?あー…………。ヒッキー、こっち向きなよ」
八幡「…………おす」
相模「なんだ、比企谷か……。え?ってことは、やっぱ……」
結衣「……そうだよ。あたしの、彼氏。付き合ってるの」
八幡「おい」
相模「へ、へー。そうなんだ。うちらなんか女だけで来てるからさー、羨ましいなー」
結衣「でしょー?あたしにはもったいないぐらいの、自慢の彼氏なんだー」
相模「そ、そう……。なら邪魔しちゃしけないよね。じゃあゆいちゃん……と、比企谷。またねー」
結衣「バイバーイ」
八幡「じゃ、じゃあなー」
結衣「…………はぁ、ドキドキしたー」
結衣「怒るよ?」
八幡「…………すまん」
結衣「あの時も、ほんとはこんな風に言いたかったんだからね?」
八幡「そうか……。腹、くくるか。俺も」
結衣「もー、遅くない?一緒に暮らすんでしょ?自信持ってよ」
八幡「おお。つ、次はもうちょっと堂々としとく。ま、次があればな」
結衣「あるよ、きっと。千葉にいればさ。さがみんだけじゃなくて、いろいろ」
八幡「かもなぁ。お前知り合い多いしな」
八幡「んなことねぇだろ、感じ悪いの向こうだし。でも、あいつも昔ほど俺を下に見てはないのかもな。値踏みはしてるみてぇだけど」
結衣「あ、あはは。さがみんって昔からあんな感じだなー。ミーハーっていうか、彼氏がステータスみたいな」
八幡「だろうな。俺じゃステータスにはなんねぇってよ」
結衣「んー、あたしは世界中の人たちに自慢したいけどなぁ」
八幡「いや、お前な……。そりゃあれだ、好き好き補正掛かりまくりだから。一般的に俺はそんないい男じゃねぇよ」
八幡「よくそんなこと真顔で言えるな……」
結衣「い、いや。超無理してるから。でも、今日は言いたかったこと、いろいろ言えたかも」
八幡「……ならせめて、就職先ぐらいは自信持って言えるようにしねぇとな。頑張るかねー」
結衣「おー、ヒッキーがんばれー。あたしはとりあえず内定もらえるように……はぁ、考えたくないなー、憂鬱だぁ」
八幡「ま、今年の夏は、てか今はいいよそんなの。折角ここまで来たんだから楽しもうぜ」
八幡「だから、引っ張らなくても行くって……」
一一一
八幡「たでーま」
結衣「やっはろー!小町ちゃーん、カーくーんメリークリスマース!」
小町「結衣さんやっはろークリスマース!ほらカー君、結衣さん来たよ……って、おぉ……」
カマクラ「なーお。なーぉ」
結衣「あははっ、カー君、足くすぐったいよー」
小町「うーん……。わかんないけど、ちょっとショックなぐらい懐いてるよね……。小町とかお兄ちゃんに対する反応と全然違うもん」
八幡「最初はおっかなびっくりだったのになぁ。今じゃもうあれだな、お前んとこのサブレより仲良いんじゃねぇの?」
結衣「し、しっけーなっ。あたしはサブレともラブラブだもん!」
小町「でーもー?一番ラブラブなのは~?」
結衣「ひ、ヒッキーかなぁ……えへへ。って、何言わせんの小町ちゃん!」
八幡「まんまと乗せられて何を言ってんだお前は……」
八幡「…………はぁ。ほっとこ。由比ヶ浜、お前もしかして本当は犬より猫派なんじゃねぇの?」
結衣「えー?そんなことない……と思うんだけどなぁ」
カマクラ「なーぉ……」
結衣「あーごめんごめん。カー君も可愛いよー大好きでちゅよー」
八幡「そんな赤ちゃん言葉使われるほどカマクラは若くねぇぞ」
小町「そだねー。カー君も結構なお年になっちゃったねぇ」
結衣「そっかー。うちのサブレももう成犬なっちゃったからなぁ…………」
カマクラ「うなー」
小町「うちの猫って気がしない……」
八幡「だな……。お前はどうか知らんけど、少なくとも犬よりは猫に好かれてるな」
結衣「んー、よくわかんないけどそういうもんなんじゃない?お客さんには愛想良く、みたいな。だってサブレもヒッキー超好きだし」
八幡「ああ……。そういやそうだな、あいつ俺の言うことならちゃんと聞くしな」
小町「それって単純に、飼い主の趣味嗜好がペットにも移ってるってことなんじゃ?」
八幡「あん?どういう意味だ?」
結衣「え、えへへ。そうなの、かな?」
八幡「……いや、んなわけねぇだろ。小町適当なこと言うな。てか恥ずかしいからやめろ、やめてください……」
小町「あ、うん。小町も言ってて恥ずかしくなってきた……」
八幡「なら最初から言うなよ。…………小町、チキン食おうぜチキン。共食いだ」
結衣「エグいこと言わないでよ、食べる気なくなるから……。あ、小町ちゃん、ケーキも買ってきたから一緒に食べよー」
小町「わぁい結衣さんさっすがー。……でも、いいんですか?折角のクリスマスイブなのにうちで過ごして。二人がいいのでは……」
小町「いやもうお兄ちゃんと二人のイブとか飽きましたから!小町はこれで超オッケー☆です」
結衣「ありがと、小町ちゃん。なら今日は楽しもー」
小町「ん?今日はってことは、明日は?」
結衣「え、えー……そりゃあ、ちょっとお兄ちゃん借りてく……かな?」
小町「…………た、楽しんでくださいね」
結衣「え?あ、うん……。たの、楽しむよ!」
八幡「……なんの会話してんだ、お前ら……。ほらカマクラ、メリークリスマス。つってもいつものカリカリだけど」
カマクラ「なー……」
八幡「……切ない声出すんじゃねぇよ」
一一一
結衣「ヒッキー、ネクタイ曲がってるよ」
八幡「おぉ、慣れねぇからどうしてもな……」
結衣「はい、これでオッケー」
八幡「……さんきゅ、んじゃ行くかぁ」
結衣「なんか、周りもおんなじような人ばっかだね。みんな合同説明会行くのかな?」
八幡「じゃねぇの、みんなスーツピッカピカだし。全員同じ髪型で同じスーツ着てるように見えるな、気持ちわりぃ。個性重視の風潮はどこ行ったよ」
結衣「そうだねぇ……。けどさ、ヒッキーはスーツ似合ってるよ、かっこいい。それ、好きかも」
結衣「なにそのビミョーな誉め方……。でもあたしは似合ってる気がしないし、落ち着かないなー」
八幡「ま、お前は着るの就活の間だけだろ、たぶん」
結衣「ん?それどゆこと?もしかしてあたし、すぐ専業主婦になるから、とか、だったり……?」
八幡「いやちげぇよ、照れんな。女子はこんなスーツ着て働く職種って少ねぇだろ。会社の制服があっても私服で通勤できるとこ多いぽいし」
結衣「あぁー、なるほど。でもねー、私服は私服で悩むもんなんだよー。節度ある、とか言われるととにかく地味な感じになっちゃうし」
八幡「はー、まぁそういうもんかね。男のスーツはある意味何も考えなくていいから楽だな」
八幡「おお、そうするか」
結衣「よし、がんばろ」
八幡「いや、ただの説明会だから頑張るも何も。俺はどういうもんかわかったらもう行かねぇと思うわ。あんま意味なさげだし」
結衣「え、そうなの?」
八幡「説明ばっか聞いててもしゃーないだろ、なんとなくわかったらあとはエントリーしまくるわ」
結衣「そ、そっか……。あたしも、ちゃんと考えなきゃね……」
八幡「んー……お前はたぶん、無理な高望みしなきゃなんとでもなるよ。世の中そういう風になってる」
八幡「…………顔査定があるからだ。人柄が滲み出てるし、お前と仕事したいって思うとこは絶対ある。最低限の教養があればな」
結衣「えー、でも……最低限の教養、あるの?」
八幡「そこはあるって言っとけ……」
結衣「……うん。あ、始まるよ」
一一一
八幡「…………また落ちた」
結衣「……よしよし。競争率高いとこ狙ってるから仕方ないよ」
八幡「落ちてる奴のほうが多いとはいえ、あなたは要りませんって言われるのは堪えるな」
八幡「…………つってもお前もう内定出てんだよな。情けねぇな、俺」
結衣「あたしはゼミの教授が薦めてくれたところ受けたら、なんかあっさり……」
八幡「はぁ……だいたいのとこ最終面接までは行くんだけどな。受け答えもそれなりにまともにしてるつもりなんだが……何が悪いんだ」
結衣「志望動機とかなんて答えてる?あたしは教授に薦められてとか普通に言っちゃったけど……」
八幡「……あれか、取り繕った回答してるからか?別にここじゃなくても給料がよかったらどこでもいいって言えばいいのか?」
結衣「そ、それは正直すぎてどうだろう……」
結衣「よしよし、ヒッキーなら絶対大丈夫だから、自信持って。元気が出ること、する?しよっか?」
八幡「……今お前に甘えたらただのクズになるから、いい。決まるまでそういうのはやめだ」
結衣「えっ……」
八幡「悪い。でも、俺はお前と暮らしたいから、今だけは一人で頑張らせてくれ」
結衣「…………うん。半分はわかった」
八幡「半分?」
結衣「うん。決まるまでそういうのはしないっていうのはわかった。あたしも我慢する。でも、一人で頑張ることなんてない。あたしに何ができるわけでもないけど、あたしもヒッキーを支えたい」
結衣「ヒッキーはたぶん、自分の苦しさとか痛みとかは全部自分のものにしたいんだよね。でももう、無理だよ。ヒッキーだけのものにはしないから」
八幡「幸せ者だな、俺は……」
結衣「え、んっ………………」
八幡「………………。頑張るから、傍にいてくれ」
結衣「……うん。言われなくてもそうする。で、でもさ、そういうことしないって言ったのに、これは、いいの?」
八幡「べ、別にキスぐらいならいいだろ……」
結衣「そうなんだ。じゃあ、これは?」
結衣「こ、これは?」
八幡「いや、直接じゃなくてもあんまやると我慢できなくなるから、勘弁して……」
結衣「あはっ、わかった。それなら手繋いでおこー」
八幡「……ああ。来週も面接あるから、考えとくかぁ」
結衣「おー!ヒッキー頑張れー!」
八幡「お前の誕生日までには決めたいな。夏までは行きたくねぇ」
結衣「……大丈夫だよ。根拠なんか全然ないけど、大丈夫」
八幡「……おお。助かる、ありがとな」
一一一
八幡「ん…………結果のメール来てんな」
結衣「う、後ろ向いとく……」
八幡「うし、開くぞ……って、開くまでもねぇじゃん」
結衣「…………ど、どう?」
八幡「見ていいよ。件名」
結衣「……採用内定の通知……ここ、これっ!」
八幡「……受かったみたい」
結衣「や、やったぁぁ!ヒッキー、おめでとう!」
八幡「いやー……。とりあえず、ホッとしたわ……」
結衣「ほんっとよかった!ヒッキー頑張った!……で、これどこの会社なの?」
結衣「こんさる?」
八幡「前も言っただろうが……。コンサルタント。企業が経営とか業務で抱えた問題の相談を受けて、指導とか提案する仕事だよ」
結衣「あー、奉仕部のことね」
八幡「ああ、そういやそんな覚え方してたなお前」
結衣「だって奉仕部まんまじゃん。魚をあげるんじゃなくて、魚の獲り方とかどうやったらうまく獲れるかを一緒に考えるんでしょ?」
八幡「んー、まぁそんなもんかね……。はぁー、ほんとよかった。結構いいとこだしなー。奇跡ってあるんだな」
結衣「違うよ、奇跡じゃないよ。ヒッキーが大学でも、頑張ってたからだよ。……ほんとに、ほんとにおめでとう」
結衣「違うよ……。そうじゃなくて、ヒッキーの頑張りをちゃんと見てくれた人がいるんだって思ったら、嬉しくて……」
八幡「そうだな。安堵の気持ちのほうが大きいけど、嬉しいもんだな。…………由比ヶ浜、こっち来て」
結衣「ん…………んむ…………はぁっ」
八幡「…………。なんか、随分激しくないすか……」
結衣「だ、だって、結構我慢してたし……。あ、ヒッキー編集者とかはどうするの?受けてたよね?」
八幡「あ、もういいよそれは。当然駄目だったし。大手は最初から無理だと思ってたからな。うん千人受けて合格者十数名とかだぞ、受かるわけねぇだろそんなの」
八幡「かといって中小の編集なんか激務なだけで給料激安って聞くし。だからもう未練はねぇ」
結衣「そっかー。ヒッキー、コンサルタント会社かー。彼氏の仕事は?って聞かれたらコンサルです!って言えばいいのかな?」
八幡「い、いいんじゃねぇかな。まだ取り消されないとも限らんけど……」
結衣「えへへ、なんかカッコいいなぁ。そいえば会社はどこにあるの?」
八幡「東京だな」
結衣「そっかー。あたしは千葉だから、ちょっと離れちゃうね」
八幡「東京なんだけど……客先で仕事することも多いみたいだから、結構いろんなとこ行くかも」
八幡「それはたぶんあんまない、と思う。けど実際のとこはよくわからんなぁ。海外も有り得るとかって言ってたし」
結衣「まあ、あたしはどこだってついてくつもりだけど」
八幡「お前も会社あるんだし、その辺はそんとき考えようぜ。本当にまだわかんねぇからさ」
結衣「……わかった。そうする」
八幡「お前もしっかりした医療機器メーカーだし、二人ともなんとかなってよかったな。……違うか、待たせてすまん。不安だったろ?」
結衣「んーん。不安じゃなかったよ。もし、もしダメでもさ、ヒッキーと離れる理由にはなんないもん。あたしが頑張ればなんとかなるかもーとか、思ってたし」
結衣「あ、あのさ。こういうこと聞くと、あたしがそれ目当てって思われそうで嫌なんだけど……。給料って、どんなもんなのかな。いやヒッキー割とこだわってたから……」
八幡「んなこと思わねぇから聞いていいよ。んー、成果報酬の部分もあるけど、平均的にはかなりいい方だと思う。ここは年俸制だし」
結衣「あ、いい方なんだ。でも……年俸?」
八幡「年初に一年の給料の総額を提示されて、毎月それを12分割して貰うんだよ。だからボーナスはなし、というか含まれてるみたいな」
結衣「へー。なんか変わってるね」
結衣「ふーん。あ、そうだ。内定のこと報告してきなよ」
八幡「……そだな。教授とかにも報告してくるわ。また夜にでもうち来てくれるか?」
結衣「うん!お祝いしよう!」
八幡「……さんきゅ」
結衣「お楽しみも、用意しとく、ね。…………やだ、凄い久しぶりな気がするからなんかドキドキしてきちゃった……」
八幡「た、楽しみにしとく……」
一一一
結衣「緊張してる?」
八幡「超してる。当たり前だろ」
結衣「あはは、だよね。でも今日パパはいないから。ママもまだ別にいいんじゃないって言ってたし」
八幡「つってもね、こんなん始めてだからな」
結衣「ママなら何度も会ってるじゃん」
八幡「そうなんだけど……。お前の、えー……母さんは、やたら若いし綺麗だから未だに慣れねぇんだよ」
結衣「…………そっかー、義母さんかぁ……。えへへ」
八幡「む、やっぱその呼び方はそう取られるか……。なんて呼ぶのがいいんだ?母親だとおかしいし……母上?お母様?いやなんかちげぇな……」
八幡「お前の言ってるのはたぶんあっちの字なんだろうな……」
結衣「まー呼び方はなんでも。ママは反対してないから、大丈夫だと思うよ」
八幡「反対されてたら八幡もうおうち帰る!て言ってるわ」
結衣「諦め早くない!?」
八幡「ちょっと心の準備が必要ってだけだ。簡単には諦めねぇよ」
結衣「……うん。よし、行こっかー」
八幡「……ああ」
結衣「ただいまー」
八幡「お、お邪魔します」
八幡「突然お邪魔して申し訳ありません」
結衣ママ「いいのよ~、結衣から聞いてるから気にしないでも。そんなにかしこまらなくても大丈夫なんだから。すぐにお茶淹れるわね」
結衣「ちょっとママ。恥ずかしいからあんまりはしゃがないでよ、もう……」
八幡「す、すみません。ありがとうございます」
結衣ママ「ちょっと二人で待っててね、ごゆっくり~」
結衣「……はぁ。ほらヒッキー、あんな感じなんだからさ、緊張しなくてもいいって」
八幡「駄目だ、無理だ。面接より緊張する」
八幡「そりゃそうだろ……。これからもお前と付き合ってくつもりなんだから絶対印象悪くしたくねぇし」
結衣「そ、そっかぁ。でもそーだよね、あたしもヒッキーのご両親に挨拶とかなったらガッチガチになりそうだもん」
八幡「だろ?」
結衣「といっても今日はさ、結婚の許可もらいにきたわけじゃないんだし。一緒に住む前に一度会わせてって言われただけだよ」
八幡「……それは俺が御眼鏡にかなわなかったら駄目って言われるってことなんじゃ」
結衣ママ「ううん、そんなことないわよぉ。ヒッキーくんはとっくに御眼鏡にかなってるもの」
結衣「盗み聞き趣味わるーい」
結衣ママ「聞こえちゃっただけよ。はいヒッキーくん」
八幡「ありがとうございます」
結衣ママ「だから気を楽にしていいのよ。だって、もうすぐヒッキーくんのお義母さんになるんだからぁ」
結衣「ママ!き、き、気が早いよ!」
八幡「………………」
結衣ママ「え~、そうなの?結衣だってそのつもりだって言ってたじゃない」
結衣「そ、そりゃ言ったけどさ……。同棲始めたら嫌になって別れるカップルだって世の中いっぱいいるじゃん……」
結衣「あたしは大丈夫だよ、でもヒッキーはまだわかんない……」
結衣ママ「ヒッキーくん、そうなの?」
八幡「……いえ。俺が由比……結衣さんに愛想を尽かされることはあったとしても、俺から離れることはないです、絶対」
結衣「ひ、ヒッキー……」
結衣ママ「ヒッキーくん……」
結衣「ちょっと?なんでママが見とれてんの!?」
結衣ママ「……ああ、パパのプロポーズを思い出しちゃって。二人がそう思ってるなら大丈夫よね?」
八幡「……あの。あんまり二人でじろじろ見られると、その……恥ずかしいんですが……」
結衣ママ「ヒッキーくん、かわいいわねー。結衣、こんな一途な人は絶対に離しちゃダメよ~」
結衣「……うん、わかってる」
八幡「………………」
結衣ママ「ヒッキーくん、結衣をよろしくね」
八幡「は、はい。といってもまだ結婚するわけでは……」
結衣ママ「時間の問題よそんなのぉ。ね、孫は何人になる予定?私はいつおばあちゃんになるのかな?」
結衣「ちょっ、だから気が早いって、もう!じゃあ来週からヒッキーのとこに住むから!ヒッキーあたしの部屋行こ!」
結衣「そんな気遣いいらないっ!うあー!」
結衣ママ「あ、結衣。ちょっとヒッキーくんと二人でお話させてもらえる?」
結衣「え?別に、いいけど……。変なこと吹き込まないでよ!?」
結衣ママ「そんなことしないわよ~。結衣は先に部屋に行っててちょうだい」
結衣「わかった……。ヒッキー、困ること言われたらすぐ逃げていいからね」
八幡「……なんて答えりゃいいんだ」
結衣ママ「ほらほら、早く戻って」
結衣「ぶー。わかったよ戻るよ……」
結衣ママ「ヒッキーくん」
八幡「……はい」
結衣ママ「ありがとうね。結衣を好きになってくれて」
八幡「は、はぁ」
結衣ママ「あの子ね、高校の……二年生頃からだったかしら。帰ってから話すのはいつもヒッキーくんとゆきのんちゃんのことでね。あんなことがあった、こんな感じなんだよって毎日楽しそうに話してくれたの」
八幡「そう……ですか」
結衣ママ「でも寂しそうにして沈み込んでることもあったのよ。ご飯いらないって部屋に閉じ籠ることもあったわぁ」
八幡「………………」
結衣ママ「親バカって笑われるかもしれないけどね、あの子、すごく優しくていい子だと思うの」
結衣ママ「ふふ、ありがとう。でもね、昔は結構引っ込み思案でね、自分の気持ちを出さないで我慢してることも多かったの。ほんとは劇の主役やりたいのに、他にやりたい子がいたらあたしはいいよって、すぐに引っ込めちゃう。で、あとから一人でメソメソしてるの」
八幡「………………」
結衣ママ「最近はね、ヒッキーくんとゆきのんちゃんのお陰なのかしら、そういうことはなくなってきたのよ。大学でも、ヒッキーくんと付き合っててすごく楽しそうなの。幸せそうって言ったほうがいいかしら」
八幡「………………」
結衣ママ「私はね、あの子があんな性格で、欲しいものを全部諦めて、譲って、我慢したままになるんじゃないかって心配してたの」
結衣ママ「…………娘の幸せを願わない親なんていないわ。あの子はあなたといると一番幸せになれるんだと思う。だから、結衣を選んでくれてありがとうね」
八幡「そんな……感謝するのは俺のほうです。俺なんかほんと、卑屈で捻くれたろくでもない奴で……。あいつの優しさに、結衣さんに救われてるのは俺のほうで……」
結衣ママ「……ふふふっ。うん、やっぱりヒッキーくんなら大丈夫ね。結衣をよろしくお願いします」
八幡「え、と……。はい。…………なんか、結婚のお願いみたいになってませんかねこれ……」
結衣ママ「私はそのつもりよぉ。パパにもちゃんと根回ししておくから、二人で決めたらいつでもいらっしゃい」
結衣ママ「やーん、カッコいいわぁ。おばさんもっと若かったら惚れちゃいそう。やっぱり娘と趣味は似ちゃうのかしら……」
八幡「やっ、えぇ!?ちょっ、離しっ…………」
結衣「…………もー、遅いよ。いつまで話して…………何やってんの!?」
結衣ママ「あ、結衣」
結衣「なんで娘の彼氏の手を握ってんのよ!?離して!」
結衣ママ「いいじゃない、このぐらい。ねぇ、ヒッキーくん?」
八幡「あ、いえ、その、困ります……」
結衣ママ「あら、振られちゃった」
八幡「お、おお……」
結衣ママ「ごゆっくりね~」
一一一
八幡「恥ずかしい…………」
結衣「変なママでごめんね、ヒッキー。でもなんでそんなに顔赤いの……」
八幡「なんかお前の母親ってか、姉って気がしてくるんだよな……。若すぎじゃね……」
結衣「えー、凄いフクザツな気分……」
八幡「なぁ、ママさんは同棲してもいいって言ってくれてるけどよ、お父さんはどうなの?」
八幡「大丈夫か……?やっぱ顔合わせとくほうがいいんじゃねぇのかな」
結衣「いいよ別に、ママも今話しても面倒になるだけだからって言ってたし。ただ結婚するってなったらそうはいかないだろうけど……」
八幡「そりゃあな……。はー、じゃとりあえずは一緒に住めるようになったわけか」
結衣「うん。まぁ反対されたとしてもあたしは出ていくつもりだったけどね」
八幡「んー……。嬉しいんだけどな、やっぱお前にはそういう、なんて言うんだ。世間様に顔向けできないようなあれは、嫌なんだよ俺は。だから内定出てからってことにしたんだし」
八幡「いや、お前はそれでいいんだ。俺はそんなお前が好きなんだから」
結衣「でもさ、どうしてもどっちかしか選べないってなったらヒッキーについてくから。他の全部をなくしてでも、そうするからね」
八幡「……そんなことになんねぇようにしねぇとな。お前には何も失ってほしくないから」
結衣「うん……。ヒッキー、愛してる……」
八幡「ん………………」
結衣「…………んむ…………んっ…………」
八幡「………………おい。お母さんいんだろが……」
八幡「いや、マズイだろさすがに…… 」
結衣ママ「ヒッキーくーん。今日晩ご飯食べていくでしょ?」
八幡「っ!?」
結衣「んなぁぁっ!?」
結衣ママ「あら、お邪魔しちゃったかしら?」
結衣「い、いきなり声かけないでよっ!」
結衣ママ「もしかしてと思ったから部屋には入らずにおいたんだけど……。ママ、孫は男の子がいいなぁ~」
結衣「ああああ!!ここに近寄るなー!」
結衣ママ「はいはい。じゃあ晩御飯用意しておくわね~」
八幡「え、返事してねぇんだけど……」
結衣「ごめん、なんか決まっちゃったみたい」
八幡「ま、別にいいけど。由比ヶ浜家の味にちょっと興味あるしな」
結衣「…………言っとくけどママはあたしと違って料理うまいからね」
八幡「わかってるよ。だからさ、お前も続けてたらそこまではいけるってことだろ。将来のお前の料理だと思って食べる」
結衣「うぅ、いつになったらあんな風になれるのかなぁ……」
八幡「これから一緒に住むんだから毎日俺かお前が作るんだぞ。そしたらすぐに上達するよ。…………たぶん」
八幡「そだな、教わっとくといいよ」
結衣「あ、そだ。さっきの続きは…………週明けて、ヒッキーのおうちでね。あの、あれ。初夜?みたいな…………」
八幡「……そうですね」
結衣「ヒッキー、これから大変になる、かもね?」
八幡「の、望むところだ」
結衣「あたしにも、何でも言ってね。頑張るから」
八幡「……いろいろ、考えとく」
一一一
結衣「や、やっぐなーい」
八幡「何その挨拶……」
結衣「えと、じゃあ、こんばんは……」
八幡「えー、なんだろうなこれ、なんて言うべき?おこしやす?」
結衣「ぷっ、何それ」
八幡「いやだって、住みに来る人に向ける挨拶なんか知らねぇよ俺」
結衣「んー……。ようこそ、とかでいいんじゃないかな?」
八幡「……じゃあ、ようこそ、我が家へ」
結衣「うん。不束ものですが、宜しくお願いします?」
八幡「それ結婚の時に言うやつだから」
八幡「あー、まぁゆっくりくつろいでくれ。これからお前の家でもあんだから」
結衣「そう、なんだよね……。何回も何回もここには来てるんだけどさ、なんでだろ。ちょっと緊張してる、あたし」
八幡「お前も?」
結衣「てことは、ヒッキーも?」
八幡「……おお」
結衣「えへへ、なんだろうね。凄いドキドキしてる」
八幡「えー、落ち着かんからとりあえず……俺、普段通りに生活してみるな」
八幡「だな。家事は俺もやるからな」
結衣「ヒッキー、優しい……。好き……」
八幡「え、えぇー……。んな当たり前のことで優しいとか言われても」
結衣「いやー、世の中の男の人なんてね、家事なんかしてくんないんだから!うちのパパもほとんどしないし!」
八幡「そりゃパパさんは働いてるからだろ。今は俺もお前も学生だし、卒業しても暫くは共働きなんだから俺もやるのが当たり前だ」
結衣「……暫く?」
八幡「いやそこ聞かんでくれ。まだ先の話だから……」
八幡「ん、助かるけど……。なんでよ」
結衣「いやそれ聞かないでよ……」
八幡「あー……。確かに俺もお前の、パンツ、とか洗うのは恥ずいな……」
結衣「あたしもやだよ……。だってさ、血とかで汚れちゃうこと、割とあるし……」
八幡「……あれな。知ってる知ってる」
結衣「あたし割とずれちゃうからさー、ベッドとか汚しちゃうこともあるかも。そうなっちゃったらごめんね」
八幡「別にいいけど、なんか……。一緒に暮らすってなるとそういうことも話さないといけないんだなぁと、よくわかったわ」
八幡「んー、特には思いつかねぇな」
結衣「ベッドの下は掃除すんな、とか、大丈夫……?」
八幡「アホか、ねぇよ。男は別に生理なんかねぇし…………あ」
結衣「ん?」
八幡「わざわざ言うことじゃねぇ気がするけど……。あのな、男の生理現象的な奴でな、寝て朝になるとほぼ毎日、その、あれですよ」
結衣「んー?」
八幡「あの、毎朝ほぼ確実に勃○してるんですよ……。けど、あれだから。別に欲求不満とか、お前に満足してないとか、そんなことじゃねぇからな」
八幡「そう、それ。……恥ずかしすぎて死にたい」
結衣「え、ほぼ毎日!?」
八幡「……おう。驚くとこそこなの?」
結衣「いや、うん。……ヒッキー、凄いね……」
八幡「……全然凄くねぇよ」
結衣「い、いやー。驚いたよあたし。知ってはいたけど毎日だなんて思わなかった……」
八幡「…………もう止めようぜ。なんか死にたい」
結衣「わ、わかった。やめとこう、そうしよう」
結衣「ん?ご飯まだなの?」
八幡「食ったんだけど小腹がな。お前もう食ってきてるよな?」
結衣「うん、ママの手料理食べてきたよー。なんか簡単なもの作ろうか?」
八幡「いや、作ろうにも材料がなんもねぇ。なんか買いにでるかなー、でもめんどくせぇなー」
結衣「あ、じゃああたしもちょっと買いたいものあるからさ、一緒に出ようよ」
八幡「おお、そんならそうするか」
結衣「……の前に、ちょっと荷物整理しとく」
八幡「おお、結構あるなー」
八幡「俺の収納ボックスがあるだけだからなぁ……。今日はとりあえず鞄のまま置いとくしかねぇな。明日いろいろ入用なもの買いに行こうぜ」
結衣「うん、そうしよっか。じゃあ行こー」
八幡「おー。コンビニでいいか?」
結衣「オッケー」
八幡「何買うもんがあんの?忘れ物?」
結衣「ん、と…………生理用品を……。今日始まっちゃって……」
八幡「…………すまん」
八幡「そんなことで謝んなよ……。馬鹿だなお前は」
結衣「うん……ありがと」
八幡「…………なんなら風呂でやれんこともないし」
結衣「え、そういうことなの!?汚いし気持ち悪いからやだよー、あたし」
八幡「ま、冗談だ」
結衣「むぅ……。あ、ケーキ買おうよケーキ、お祝いにさ」
八幡「そうだな、今日も一応、記念日にしとくか」
結衣「……ね、手、繋いでもいい?」
八幡「……おお」
八幡「………………」
結衣「今日のことも忘れないから、あたし」
八幡「……そうか」
結衣「明日からさ、ヒッキーが帰ってきたらおかえりって迎えられるんだよね。今までもたまにバイト終わり待ちとかあったけど、これからは、ずっと」
八幡「そうだな。俺も、お前が帰ってきたらおかえりって迎えるよ」
結衣「……それってさ、スゴい幸せ、だね」
八幡「……だな」
一一一
八幡「……んごー…………」
結衣「…………う、ん……。…………?」
八幡「………………」
結衣「……あ、ヒッキーのおうちだった……」
八幡「…………んごー……」
結衣「…………?…………う、うわっ」
八幡「………………」
結衣「ほ、ほんとにこんななるんだ……」
八幡「…………んぁー……」
結衣「寝てるし……。かわいー。でも、これはー……」
八幡「………………」
八幡「…………くかー…………」
結衣「…………んしょ、んしょ」
八幡「っ…………」
結衣「…………ちゅっ………んっ………」
八幡「……くかー…………」
結衣「…………れろっ……んんー……」
八幡「きもち、いい……。あ、ん…………?」
結衣「…………はぁっ、んむっ…………」
八幡「…………おはよ」
結衣「……あ、ろはよー…………んっ……」
八幡「……何、してんの?」
八幡「咥えたまま喋るな……」
結衣「……はぁっ、えとね、朝から苦しそうだったから、静めたほうがいいのかなーって」
八幡「……お前、馬鹿だろ。それ毎日すんのかよ」
結衣「いーよ?時間さえあれば。あ、もちろんヒッキーがしてほしかったらだけど」
八幡「…………お前さ……フェラ好きなの?」
結衣「……ん、んー……。ヒッキーが喜んでくれるから、好き、かな」
八幡「…………あ、そう……」
結衣「なに?」
結衣「うー、ん。わかったー。とりあえず今日は、続けるね?」
八幡「は、はい、お願いします……」
一一一
結衣「…………ねー、まだ固いんだけど……」
八幡「朝なもので……」
結衣「…………す、スゴいね、やっぱり」
八幡「……なんなのお前。あーもう、こっち来てくれ」
結衣「わぁ……」
八幡「お前みたいな子、世界のどこ探してもいねぇと思うわ」
結衣「そ、そんなことないと思うなー」
結衣「……なんで?」
八幡「だって、お前とこうしたい奴なんていくらでもいる。俺よりいい奴なんて腐るほどいる。だからだ」
結衣「もし仮にそれが本当でもさー、あたしが、えと、フェラしたいなって思うの、ヒッキーだけだし……」
八幡「…………あー、もういいや」
結衣「……もっと強くして」
八幡「……おう」
結衣「んー………………」
八幡「………………」
結衣「もうちょっとしたら朝御飯作るから。それまで、こうしてて……」
八幡「そんなの……お安い御用だ」
一一一
八幡「ふー。ただいまー」
結衣「あ、おかえり、ヒッキー」
八幡「お、おぉ……?なにその格好……」
結衣「えと、裸じゃないけど……裸エプロン、的な……」
八幡「……なんで?」
結衣「え、喜んでくれるかと思って……。前こういうの好き?って聞いたら嫌いなやつはいないって言ってたし」
八幡「確かに言ったけど……いきなりすぎだろ」
結衣「イヤだった?なら恥ずかしいし服着るけど……」
八幡「いや違う待て。…………そのままでいて」
八幡「いや、後でいい。待ってるわ」
結衣「うん、わかったー」
八幡「………………」
結衣「ふんふんふふーん」
八幡「なんかいいことあった?」
結衣「んー、豚ロースが安かった?」
八幡「……由比ヶ浜って案外生活能力あるよな。俺そんな細かい値段気にしたことがねぇよ」
結衣「ダメだよー。そういう細かい積み重ねがやりくりには重要なんだから」
八幡「あんま考えてなかったけど、仕事始まったらお前に給料預けてもよさそうだな」
八幡「俺よりは安心できるから別にいいよ。結婚したら二人の金だ」
結衣「……うん。ありがと。お金貯めようね!マイホームマイホーム」
八幡「気が早いわそれ……。あー、そだ。貯めてたバイト代で三月ぐらいにここ引っ越すか。もうちょい広いとこに」
結衣「そだねー。あたしももうちょっと物置くとこあると嬉しいかも」
八幡「ここ完全なワンルームだからな」
結衣「あ、場所は?ヒッキーの会社江東区だよね?」
八幡「あー、向こうよりにするかってことか。まぁ家賃とか間取りもあるけど……探す範囲は少し広げてみるか」
八幡「そだな。……なぁ、自分の部屋って欲しい?」
結衣「ううん、別にいらない。ただ寝るとこは絶対一緒じゃなきゃヤダかんね」
八幡「……おお。でももうちょいでかいベッドも買うか。さすがに狭いわ」
結衣「えー、狭いのがいいんじゃん」
八幡「いや……それ以前に安物だからギシギシうるせぇんだよこれ」
結衣「あ、あー……。確かに、そうだねー」
八幡「……だろ?…………」
結衣「…………え、えと、お鍋は、えーと」
八幡「上の棚」
八幡「………………」
結衣「ひゃんっ!?ひ、ヒッキー」
八幡「……そのままな」
結衣「はぁっ……んっ、そんなとこ、嗅がないでよぉ……」
八幡「……なんだよこれ。結衣ってやらしいよな」
結衣「やらしく、ないよぅ……」
八幡「嘘つけ。…………こんな格好までして、期待してたんだろ?」
結衣「ぅ…………」
八幡「……お前のせいだからな、これ」
結衣「……はぃ……。なんとか、します。……はっ、んちゅ……」
結衣「んむぅ…………はぁっ、うん。もっと強気でも、いいよ……」
八幡「…………ちょっと苦しいかも」
結衣「んぇ?…………んぶっ…………んぐぅっ……」
八幡「……はっ……うぁっ」
結衣「んぐっ…………はぁっ、はぁっ、ひっきぃ……」
八幡「……悪い」
結衣「ううん……。あたし、もう、だめ……。早く、はやく……」
八幡「…………立って、足、上げて」
結衣「はぃ……」
一一一
八幡「……変態」
結衣「……ヒッキーに言われたくないー」
八幡「ドM」
結衣「……なの、かなぁ……。でも、スゴかった……」
八幡「まぁ、確かに……」
結衣「あのさ、ヒッキーはさ、ナマでしたい、とか。思ったことない?」
八幡「本音を言うなら常時思ってるが」
結衣「え、そうなの……?」
八幡「そりゃそうだろ。それがどうかしたか?」
結衣「……んとね、あたしもしたいなって思って……」
結衣「あ、うん、だからね、その……ピル飲もうかなって」
八幡「……俺そういうのよくわかんねぇんだけど、副作用とか、やめた後とか大丈夫なのか?」
結衣「いろいろ調べたけど大丈夫みたい、そりゃ100%絶対なんて言えないけどさ。もともと生理がずれたり重かったりだから、ありかなって思ってたの」
八幡「あ、ん?それ飲んだらよくなんの?」
結衣「そだよ。女の子的には利点は他にもいっぱいあるよ」
結衣「そうでもないかなー。あたしもよく知らないときはそんな感じだったけどね」
八幡「ほーん。ちょっと俺も調べてみるか……。けどまぁ、お前が楽になるんなら俺は気にしないけど。浮気の心配なんかしてねぇし」
結衣「浮気?なんで?」
八幡「いやだって、その……。誰としても妊娠の心配はないわけじゃん?だから……」
結衣「むー。心外だなー。ヒッキー以外となんて考えられないのに」
八幡「いや俺は心配してねぇって。一般論」
八幡「……お前、超エ口い顔してるぞ。やっぱやらしい子だな」
結衣「もー、いいよもうそれで。中で出してほしいの!」
八幡「…………引くわー」
結衣「引くなぁ!」
八幡「……嘘だよ。結衣…………」
結衣「あん……。ご飯、作れないよぅ……」
八幡「……お前が悪い」
一一一
八幡「ようやく一段落ってとこか」
結衣「そうだね、あとは段ボール開けてけば終わりかな」
八幡「それは追い追いにするか。出すことがなかったらそれは不要なものって扱いにしよう」
結衣「あー、それいいかも。あたし物を捨てるのが苦手でさー、いつか使うかもってなかなか踏ん切りつかないんだよー」
八幡「俺はもういいやって適当に捨てまくるから逆だな。んで捨てちまったのか……ってたまに後悔する」
結衣「なんか二人とも極端だね。合わせたらちょうどよくなりそう」
八幡「そうだな。にしても、はぁ……。ベッドの引き出し作るの超大変だったわ、疲れた……」
八幡「いや、大丈夫。お前も疲れてるだろ」
結衣「いやいやー。重いものは全部ヒッキーたちに任せちゃったからそれほどでも」
八幡「あー、材木座と戸塚にもちゃんとお礼しねぇとな。ほんと助かった」
結衣「だねー、さいちゃんは……式に呼んでくれたらいいよって言ってくれてたね。優しいなぁ」
八幡「ああ。さすがは俺の戸塚だ」
結衣「いやヒッキーのじゃないから」
結衣「ぶー。ヒッキーはそうやって、さいちゃんのことになるとすぐ素直に褒めるんだから。いやあたしも可愛いなって思うけどさ……」
八幡「そりゃ戸塚が男だってわかってるから言えんだよ」
結衣「そんなのわかってるよ。けどー」
八幡「そう言い聞かせとかないと間違いが起こりかねんからな」
結衣「起こすなし!けどさー、あたしも褒めてほーしーいー」
八幡「いや、俺結構言ってると思うが……。恥ずかしいの我慢して何回も何回も言ってるよ」
八幡「……なんて言って欲しいんだ」
結衣「え、えー。んと、んと……普通だけど……今日も可愛いね、とか、好きだよ、とか」
八幡「今日もカワイイナー」
結衣「ぜんっぜんダメ。嬉しくもなんともない」
八幡「うわ超理不尽」
結衣「だって棒読みなんだもん!言わされてるだけじゃん!」
八幡「ん、んんっ。今日も可愛いね」
結衣「声だけイケメンぽくしてもダメー。ヒッキー基本演技下手だし」
結衣「え?あ、声だけはなかなかよかった、かな。ずっとそんな感じでもいいよ」
八幡「無茶言うな」
結衣「んー、やっぱさー……。あ、ちょっとこれかけて言ってみてよ」
八幡「あん?」
結衣「ピコピコピシャー!ぽっぺけぺ~、たら~ん♪ブルーなんちゃらグラス~」
八幡「……ひみつ道具の名前が曖昧とか怖すぎんだけど」
結衣「はい、かけてかけて」
結衣「え、と……。ヒッキーはさ、あたしのどこが好きなの?」
八幡「え、今聞くのそれ?」
結衣「うん。こうしたら素直に言えるかなーって。ねぇ、どこ?」
八幡「な、何度も言ってるだろ……」
結衣「もっと、聞かせて」
八幡「いや、恥ず……」
結衣「お願い……」
八幡「う…………。可愛くて、優しくて、俺に尽くしてくれて、髪も肌も声も綺麗で、スタイルよくて、お○ぱいでかくて、エ口くて、甘える声とか、怒った顔とか……」
結衣「はふ……」
結衣「あたし、魅力的?」
八幡「おお」
結衣「……好き?」
八幡「当たり前だろ」
結衣「…………犯したい?」
八幡「……おぉ」
結衣「言って……」
八幡「……ぉ、お前を犯したい」
結衣「ナマで、しちゃうの?」
八幡「……いいのか?」
結衣「うん、もう大丈夫だよ。それで…………どうするの?」
結衣「最後」
八幡「えー……、中で……出してもいいのか」
結衣「いいけど、そうじゃなくって」
八幡「…………?」
結衣「……中で出すぞ、って言ってね?」
八幡「……はい」
一一一
八幡「もうじき社会人なのに、これでいいんだろうか……」
結衣「いいんじゃ、ない、かなぁ……。はふん……」
結衣「ダイジョブじゃないー……溶けるー……」
八幡「…………あの、嫌だったら答えなくていいけど」
結衣「なに?」
八幡「その、中で出される感覚って、どうなん?」
結衣「ん、んー……。正直、イマイチよくわかんない……」
八幡「あれ、そうなの……」
結衣「あ、でもイったのかなっていうのはわかるよ。ビクビクって動くから」
八幡「ふーん。でもそんなもんなんだな。エ口ゲはエ口ゲってことか……」
八幡「……恥ずかし過ぎるから言いたくない。今度見せる」
結衣「い、いや別にそこまで知りたいことでもないけど……」
八幡「あ、そう……」
結衣「感覚的に近いのは、んとねー……。プール行って耳に水入ったらトントンして出すじゃんか、あの出てくる時みたいな、そんな感じ」
八幡「あー、それならなんとなくわかるな」
結衣「でも一番感じるのはね、幸せだよ」
八幡「……そっか」
結衣「一番好きな人のを感じられて、胸がきゅーってなるの」
結衣「かもね」
八幡「……結衣、大好きだ」
結衣「えへへ……。知ってる?さっきいろいろ褒めてもらってたけどさ、好きって言ってくれたのは今が初めてなんだよ?」
八幡「そうだっけ……。言ってる気がしてたけど」
結衣「で、わかったけどさ。あたし、ヒッキーに好きって言ってもらえるのが一番好きだな」
八幡「……そか。これからも、言うよ。何度でも」
結衣「……幸せ。会社でちゃんとやれるか不安だけど、ヒッキーが居たらあたし頑張れると思う」
八幡「俺も、お前が居るから……。いろいろあると思うけど、頑張ろうな。二人で」
結衣「うん……」
一一一
八幡「ただいま」
結衣「あ、おかえりヒッキー。どんな感じだったー?」
八幡「他のとこ知らんからなんともだけど……あんなもんなんじゃねぇかなぁ。お前は?」
結衣「んー、普通?社会人としてのマナーとか練習とか、しばらくはそんな感じっぽい」
八幡「俺のとこもそんなもん。うち研修一ヶ月でそれから配属だと」
結衣「あれ、そうなんだ。あたしんとこは三ヶ月研修だって。来月からは現場研修みたい」
八幡「ほーん……。いろいろ違うもんだな」
結衣「あ、忘れないうちに言っとくね。今週末同期のみんなで飲みにいくから、遅くなるー」
結衣「ヒッキーも同期の人と飲みに行くの?」
八幡「おお。なんかいきなり誘われてな。さすがに最初から断るのもあれだし……」
結衣「ふ、ふーん。なんか、珍しいね。……ヒッキー誘ったのって、女の子?」
八幡「……いや、男。女子も来るだろうけどな」
結衣「そ、そか……」
八幡「……俺のほうが心配してんだからな」
結衣「へ?」
八幡「だってお前、可愛いし……」
八幡「んなこと言うのお前だけだから」
結衣「でも、でもー……。ごめん。同期の飲み会ぐらい、そりゃ行くよね。あたしもなのに、変なこと言ってごめん」
八幡「いいよ。けど、んー……折角行くんなら気にさせたくはねぇよな、お互い」
結衣「うん……。ヒッキーにはあたしのこと気にせず楽しんでほしい」
八幡「俺もだから。なんかねぇかな」
結衣「…………それがあったら、絶対ってわけでもないけどさ」
八幡「ん?」
結衣「指輪、つけよっか?ペアリング」
結衣「うん、薬指」
八幡「んー……。そのうちちゃんと買おうと思ってたんだけどな」
結衣「そ、そうなんだ……。じゃあ、まずは練習ってことで」
八幡「……そうだな、別にいいか。いつ買いに行く?」
結衣「明日!」
八幡「……言うと思った。よし、んじゃ明日待ち合わせするか」
結衣「うん。安いので十分だからね?一万円ぐらいの。ヒッキーのはあたしが買うから」
八幡「んじゃ俺はお前の買えばいいんだな」
結衣「そそ。といってもペアリングだからさ、セット価格なのかもしんないけど。そうだったら半分ずつね」
結衣「最初は落ち着かないかもね。そういえばさー、あたしは身に付けてるものヒッキーからもらったのでいっぱいだけど、ヒッキーはそういうのなかったよね」
八幡「そうだな、眼鏡ぐらいだな。お前からもらったもので身に付けるのは」
結衣「だってヒッキーそういうの欲しがらないんだもん」
八幡「まぁな。アクセサリーなんか似合わんし。ブレスレットとかしてたら、んだこれ邪魔くせぇって思いそうだし……」
結衣「……指輪も、邪魔になる、かな」
八幡「あああ、そんな顔すんな、悪い。邪魔なわけねぇだろ。俺、今気がついたことがあるんだ」
八幡「俺がお前に身に付けるものプレゼントすんのはな、俺が安心したかったからなんだよ、たぶん」
結衣「……そうなんだ」
八幡「もちろんお前が欲しがってるってのもあるけど……。俺はお前を縛ろうとしてるだけなんだろうな。…………カッコ悪いな、俺」
結衣「……ううん。あたしをもっと縛っていいよ。あたしはヒッキーだけのものだから」
八幡「……俺も、お前が不安ならそうするから。俺にはなんでも話してくれ」
結衣「わかった。キス、して?」
八幡「………………」
結衣「………………はぁっ。抱き締めて」
八幡「………………」
八幡「いや、その前にちょっと……写メ撮らせてくんない?」
結衣「え、何、珍しい」
八幡「同期の奴等と飲み会行ったらさ、どうせ彼女いんのかって話になんの見えてるし。写メ見せて自慢してやる」
結衣「…………超嬉しいんだけど。でも写メ今までにたくさん送ったよね、あたし」
八幡「アホか。お前が送ってくれたの全部保存してるけど、もろエ口写メかそんな感じのばっかじゃねぇか。こんなもん見せれるわけねぇだろ」
結衣「あ、そ、そうか、そうだった。部屋着とかでもアングルとかポーズがアレだった……」
八幡「だから、普通に撮らせてくれよ」
八幡「自慢になんねぇだろ……」
結衣「なる。する。ほら、はい」
八幡「はい、ってなに。どうしろと?」
結衣「ほっぺにキスして。撮るから」
八幡「え、えぇー」
結衣「目は開けててね」
八幡「……マジ?」
結衣「マジ。あたしからする?」
八幡「…………ああもうわかったよ、やるよ」
結衣「うん、キスしたままで待機ね」
八幡「お、おう。………………」
八幡「はぁ……」
結衣「撮れたー、えへへー。壁紙にしよっと。今度はあたしがキスするから、撮っていいよ」
八幡「……いや、俺にはそんなん見せれんから……。普通に撮るんじゃダメ?つか、お前それ見せんの?」
結衣「……あたしも見せるのは恥ずかしいな。んー、とりあえずヒッキーも撮ろうよ、キスしてるとこ。ちゅー」
八幡「…………撮ったぞ」
結衣「それはヒッキーが大事にしてて。んじゃ今から自慢用の撮ろ」
八幡「……いや、ここまで近くなくても」
結衣「このぐらいなら……見せても大丈夫だよ。顔くっつけてるだけだし。…………よし、撮れたー」
結衣「あれだけいろんなことあたしにしといて、なんでこのぐらいで赤くなるかなぁ……」
八幡「そんときは別なんだよ。俺、これでも恥ずいわ……ていうかお前も赤いじゃねぇか」
結衣「え?あ、まぁ、うん。あたしはもうこれでいいや」
八幡「ま、どんな子って聞かれることなかったらわざわざ見せねぇしな」
結衣「さすがに自分から見せたりはしないよねー」
八幡「…………暑い。汗かいた」
結衣「あ、ごめん、スーツ脱がないとだね」
八幡「はー、ネクタイもまだ慣れねぇなー」
八幡「ん?って、なんで結び直してんの」
結衣「ネクタイほどくとこ見れなかったから、はい。ほどいていいよ」
八幡「…………?」
結衣「にへぇ…………」
八幡「意味わからん。なんで嬉しそうなんだ……?」
結衣「わっかんないかなー。ネクタイをほどくとこ、超、超いいんだよ!ヒッキースーツ似合うし!」
八幡「……わかんねぇ」
結衣「これから毎日見れるんだよねー。幸せー」
八幡「これから毎日これ着けるのかー。つれー」
八幡「出来ることなら働きたくなんかねぇからな。でもな、お前を幸せにしたいし、…………働くよ」
結衣「働くのは普通なんだけど、うん……。嬉しい」
八幡「よし、飯にすっかー」
結衣「よーし、ちょっと待っててね、ヒッキー」
八幡「おー。今日なに?」
結衣「んとねー、白菜が安かったからねー…………」
一一一
結衣「ヒッキー、最近遅いなぁー……」
結衣「ご飯作ろうかな……。いや、冷めちゃうから待ってなきゃダメだよね。待ってよっと」
結衣「はぁ…………」
結衣「最近、してないなぁ……」
結衣「ヒッキー…………ん……」
結衣「ヒッキーの匂い…………」
結衣「……んぅっ……だめ、なのに……ひっきぃ……」
結衣「…………はっ……はっ……」
結衣「………………」
結衣「…………」
結衣「……」
八幡「おぉ、おはよ。ただいま」
結衣「あれ……?あたしもしかして寝ちゃってた?ごめん!すぐご飯作るね!」
八幡「あ、もう出来るからゆっくりしてていいぞ」
結衣「え、えぇー。作っちゃったの?…………むぅ、ごめん……」
八幡「いやいや、下ごしらえできてたから合わせて炒めてるだけだし。謝る必要なんかねぇよ。お前だって仕事疲れてるだろ?」
結衣「……あたしは定時だし、近いし……。ヒッキーは残業で遅くなってるんだからあたしが、がんばんなきゃ、いけないのに……」
八幡「……そんな気張らなくていいよ、俺はお前が家で待っててくれてたらそれだけでいいんだ」
八幡「いでっ、…………泣くなよ」
結衣「うぇぇん……ヒッキーの、ばか」
八幡「え、俺怒られんの?」
結衣「違うよ……。あたしをこれ以上好きにさせてどうするつもりなの?あたし、ヒッキーなしじゃ生きられなくなっちゃうよ……」
八幡「……あれ、俺はとっくにお前なしじゃ生きられる気しないんだけど……」
結衣「……嘘だよそんなの」
八幡「嘘じゃねぇって。信用ないのな、俺。少なくとも今の俺はお前なしの生活は考えられねぇよ。残業しんどくても帰ったらいつも結衣が居てくれるから……すっげぇ嬉しくて、頑張れるんだよ」
八幡「ん?あー、まぁ。ぼちぼち……。なんだ?」
結衣「またヒッキーに我儘言っていい?迷惑かけていい?」
八幡「お前の我儘は全部可愛いからな……駄目だなんて言ったことないだろ今まで。言ってみ」
結衣「……えっちしたい。超したい。我慢できなくて一人でしちゃうぐらい、したいの」
八幡「…………したの?」
結衣「……ぅ、し、した。ヒッキーの匂い嗅いでたら、我慢できなくなっちゃって……」
八幡「だから、可愛過ぎだろそういうの……」
八幡「んなこと思うか、馬鹿」
結衣「じ、じゃあ、ご飯食べたら……待ってるね。あたしはお風呂もう入ったから……」
八幡「お、おお……。なんかちょっと久々だな」
結衣「だ、だね。あのね、今日はヒッキー動かなくていいから、寝てるだけでいい、よ。あたし、頑張るから……」
八幡「…………わ、わかった。とりあえず飯にするか」
結衣「うん……。いっぱい気持ちよくなってもらうから、ね。座っててー、あとはあたしがやるから」
八幡「そんなつもりはねぇんだろうけどよ。お前にそんな風にされたらな、どんな奴でも働こうって思うわこんなの」
八幡「……明日からも頑張るか……」
一一一
結衣「あの……」
八幡「ん?どした?」
結衣「明日ってさ、休みだよね?」
八幡「おお、そうだけど。どっか行きたい?」
結衣「んーん、そうじゃなくて。ゆっくりお話できないかなー、なんて……」
八幡「話?話ならいつもしてるだろ」
結衣「うん、お話ならしてるんだけど、明日したいのはね、もっと、こう……真面目な話」
結衣「ダメってわけでもないけど……。今は食後でお酒も入ってるから、落ち着いて、時間もあるほうが助かるかな」
八幡「…………深刻な話?」
結衣「深刻、といえば深刻、かも」
八幡「…………いい話?」
結衣「…………どだろ、わかんない。ヒッキーにとって喜ばしいのかどうなのか、あたしには……」
八幡「…………まさか、別れ話じゃねぇよな……」
結衣「え?」
八幡「いや、なんでも……。明日話してくれるんだな?」
結衣「……うん。一緒に暮らしてから結構経つし、そろそろ……」
結衣「……あ、ヒッキー。電話鳴ってるよ」
八幡「ん?あ、おお。誰だこんな時間に…………小町?」
結衣「………………」
八幡「……はいもしもし、あー、俺。どした?………………え?そうか…………。わかった。明日だな、行くよ。おお、また明日な」
結衣「…………ヒッキー?」
八幡「……あー、すまん。明日実家戻るわ。お前も行くか」
結衣「どうしたの?」
八幡「…………落ち着いて聞いてくれ」
一一一
結衣「……うぇっ…………ひっく……」
八幡「……なぁ。もうお別れ、済んだだろ。いつまで泣いてんだよ」
結衣「だって……うぇぇ……。ヒッキー、傍に居て……」
八幡「……ああ。いるよ、ここに」
結衣「…………ありがと」
八幡「どういたしまして」
結衣「せっかく、仲良くなったのに……なんで、なの……?」
八幡「……仕方ない、寿命だ。苦しんだ末にってわけでもねぇんだから……。顔、見ただろ?寝てるみたいだった……」
結衣「……うん。カーくんって話しかけたら、すぐ、起きる、みたい、なのに…………ぇぐっ……」
結衣「ヒッキーはもう、悲しく、ないの?」
八幡「そんなわけねぇだろ、泣いてないだけだ。…………ほんとはもっと泣くぐらいには悲しいんだけど、俺は後悔しかしてねぇから……泣きたくない」
結衣「……後悔?」
八幡「ああ……。たぶん、どれだけやったって後悔しないなんてことはねぇんだろうけどな。……もっと可愛がってやれたらよかったとか、遊んでやれば、とか、看取って、やれれば、とか…………」
結衣「悲しいときは、もっと泣いていいんだよ、ヒッキーも」
八幡「……二人して泣いてたら歯止め効かなくなるだろ」
結衣「ヒッキーが泣いてたら、あたしはちゃんと支えるよ。してみせる。だから……」
結衣「うん。ちょっと待って」
八幡「ん?」
結衣「……よし、もうあたしは大丈夫」
八幡「……涙、止まってねぇんだけど」
結衣「うぅ……。でも、ヒッキーを支える覚悟はできたから。…………おいで、ヒッキー」
八幡「………………」
結衣「……よしよし」
八幡「……俺、あいつに、ちゃんと感謝できてんのかな。感謝、してくれてんのかな」
結衣「されてるし、してるよ。だからさ、カーくんはあんなに安らかな顔、してたんだよぅ……っ……」
結衣「きっと、そうだから。ヒッキーがすっごい大事にしてたの、カーくんにも、ちゃんと伝わってるよ」
八幡「…………うぁっ……だと、いいんだけど、なぁ……」
結衣「…………だから、今は、カーくんのために、泣いてあげても、いいんだよ」
八幡「…………結衣……」
結衣「うん……?」
八幡「…………お別れって、寂しいな」
結衣「……ふっ…………うぁっ……寂しい、ねぇ……」
一一一
八幡「…………で、今度はお前がまた泣くの……」
結衣「ごめん……」
八幡「いやいいよ、お互い様だしな。…………カマクラも幸せ者だと思うわ。お前にもそんなに泣いてもらえてさ」
結衣「…………ううん。違うよ。ごめん、カーくん、ヒッキー」
八幡「何が、違うんだ」
結衣「今のあたしはさ、たぶん……。カーくんとお別れして寂しいんじゃなくて、残されるあたしが悲しくて泣いてるんだと、思う……」
八幡「……俺だって、後悔から泣いてるみたいなもんだ。変わんねぇよ」
八幡「…………それでも、お前は優しいよ」
結衣「そんなわけないじゃん……」
八幡「そんなわけある。由比ヶ浜……いや、結衣」
結衣「う、ん……?」
八幡「…………由比ヶ浜、結衣さん」
結衣「は、はい……」
八幡「俺は、お前より……あなたより一日でも長く生きる。あなたを一人残したりしない。そう、約束するから。だから、俺と…………結婚、してもらえますか」
結衣「はい……」
結衣「はい……」
八幡「お前をそんな風に悲しませたり、絶対しないから」
結衣「は、はいぃ…………うわぁぁん」
八幡「……こんなタイミングで、すまん」
結衣「ほ、ほんとそうだよ……。悲しくて、嬉しくて、寂しくて、幸せで……わけわかんないよぅ……」
八幡「……悪い。でも、こんなとこでやっと決意できたんだ。同棲初めて結構経ってるのに、なかなか出来なくて……。待たせたか?」
結衣「……う、うん。実は、急かそうとしてるわけじゃないんだけどさ、まだなのかな、あたし何か足らないのかなってちょっと悩んでた……かな」
結衣「そう、それ。何かあたしに不満があるなら、ちゃんと言ってもらおうかなって、思ってたの。あと、他に気になる人がいるのかな、とか……」
八幡「いるわけねぇだろ。お前しか見えねぇよ俺には。…………ま、俺も実はな、別れ話じゃねぇだろうなとか思ってたわ」
結衣「え、えー。あたしがそんなこと言うわけないじゃん」
八幡「だって、深刻な話とか言うしよ……」
結衣「し、深刻は深刻じゃん。ヒッキーにとって結婚するって凄い重大なことだし、簡単には決められないのかなぁって思うし……」
八幡「……馬鹿だなお前。ははっ」
結衣「……ヒッキーこそ。あははっ」
結衣「そだね。……家族、だしね。心配、もういらないよね」
八幡「…………ま、たまにするだろうけど」
結衣「……あたしも、しちゃうかな」
八幡「カマクラにも報告しねぇとな」
結衣「だね。きっと、喜んでくれるよね?」
八幡「そうだな……。迷惑そうな顔して、変な声で鳴いてくれそうな気がする」
結衣「…………生きてるうちに、したかったね」
八幡「……そうだな。まだ先になると思うけどさ、猫、飼うか。犬も」
八幡「……それも、もう少し先だな。お前のご両親に挨拶いかねぇと」
結衣「あたしも行かないとね」
八幡「やらなきゃなんねぇこと、たくさんあるんだろうなー」
結衣「二人で、順番にやってこうね。一歩ずつ、あたしたちのペースで」
八幡「……おお。結衣……」
結衣「……ヒッキー……」
八幡「………………」
結衣「………………」
結衣「……んー、赤ちゃんできるまで、かな?もしかしたら、ずっとかも」
八幡「……まぁ別にいいか」
結衣「…………はちまん」
八幡「おお……」
結衣「たまに、名前も呼ぶよ」
八幡「……わ、わかった」
一一一
結衣「どうする?」
八幡「どうするったって……ここまで来て帰れるか」
結衣「……わかった。なら、行こ。ただいまー」
八幡「し、失礼します」
結衣パパ「駄目だ。許さん」
結衣「もう!なんでそんなこと言うのパパ!」
結衣ママ「そうよ~、ヒッキーくんなら大丈夫よぉ」
結衣「言っとくけどね、パパがどんなに反対してもあたしはヒッキーと結婚するから。もう決めたの」
結衣パパ「結衣……」
結衣パパ「君に父と呼ばれる謂れはない」
結衣「パパ……いい加減に……」
結衣ママ「……しー」
結衣パパ「俺はこれまで、結衣のことを何よりも大事にしてきたんだ。俺は結衣を愛している」
八幡「…………わかる、気がします」
結衣パパ「君に……わかるものか」
八幡「俺も、僕も結衣さんを誰よりも愛しています。そう、言います」
結衣パパ「……そうか。だがな……」
結衣ママ「……ねぇ、ヒッキーくん。ヒッキーくんは結衣のどこを好きになってくれたの?」
結衣ママ「もうちょっと具体的に挙げてみて?」
八幡「……えーと、ちょっと抜けてるとこも守りたくなりまさし、誰よりも優しくて包み込むような温かさもありますし……」
結衣ママ「あら、それは買いかぶりすぎよぉ。結衣はちょっとどころじゃなくて抜けてる子だし、優しいんじゃなくて優柔不断で甘いだけ」
八幡「え、そんなことは……」
結衣ママ「そんなことあるの。料理だってまだまだ下手だろうし、お嫁さんにしたってそんなにいいことなんてないかもよ?」
八幡「いえ、ちが……」
八幡「……は、い。まだ先、だとは思いますけど……。結衣なら、務まると思ってます」
結衣ママ「この子は子供を甘やかして躾もろくにできなくて、逃げ出すかもしれないわよ?全部ヒッキーくんに放り投げちゃうかも」
結衣パパ「……おい、いい加減にしろ。お前は結衣をなんだと思ってるんだ。もっと信用してやれ、俺たちの大事な娘だろう」
結衣ママ「あら、パパは結衣にちゃんとお嫁さんが務まると思うの?」
結衣ママ「じゃあ、結衣の選んだ男の子がそんなに不安?結衣は馬鹿な子だから騙されてるだけなの?」
結衣パパ「そんなわけないだろう。結衣が選んだ男なら立派に決まってる。結衣が信じるなら俺もそれだけで信じられる」
結衣ママ「……そうよね、わたしもそう思うわ。だから、話はこれで終わりね」
結衣パパ「…………はっ!?」
結衣ママ「成人した二人の結婚は止められないのよ、パパ。それとも、ここを結衣の帰れなくなる家にしたいの?」
八幡「……は、はい」
結衣パパ「……結衣を、結衣を…………」
八幡「………………」
結衣パパ「幸せにすると約束しろ」
八幡「約束、します」
結衣パパ「……もし悲しませたら、殺すからな」
八幡「…………はい」
結衣「ヒッキー、ごめんね。パパ、普段はあんなんじゃないんだけど……」
八幡「いや、別に。怖かったけど……いいご両親だって思うよ」
結衣「……うん。あたしも、そう思う」
結衣「あ、あー、あれかー。あたしもちょっとビックリしちゃった」
八幡「……お前もあんな風になんのかね」
結衣「さ、さぁー、どだろね……。でも、あたしもママみたいになりたいな。優しくて、あったかくて、いつでも見守ってくれてる、みたいな……」
八幡「お前ならなれるよ、絶対」
結衣「…………じゃあさ、あたしをママにしてくれる?」
八幡「……は?」
結衣「赤ちゃん、つくろ?」
八幡「いや待て馬鹿お前、とりあえず帰ってから……」
八幡「いやだから、せめて帰るまで……」
結衣ママ「ヒッキーくーん、ご飯の前にお風呂先入る~?」
結衣「……ちぇっ。あ、ヒッキー、一緒に入る?」
八幡「アホか、駄目に決まってんだろ……」
結衣パパ「駄目だーっ!結衣!そんなこと許さんぞ!パパと入るんだ!」
結衣「ちょっ、なんでパパまでいんの!?パパと入るわけないじゃん!」
結衣ママ「ヒッキーくん、どうする~?」
サブレ「ひゃん!ひゃうん!」
結衣「あーもううるさーい!お風呂はご飯のあと!二人ともここから離れてー!」
結衣ママ「はいはい~、わかったわ~」
結衣パパ「うっ、うぅっ、結衣……」
結衣ママ「よしよし、パパはまた今度、わたしと一緒に入りましょうか」
結衣パパ「…………おお」
結衣「…………恥ずかしい」
八幡「…………ま、なんだ。お前は愛されてるんだなってよくわかるよ」
結衣「……だね。結婚式、超泣いちゃいそう」
八幡「はぁ……結婚式か……。俺呼ぶやつそんないねぇよ……」
八幡「おお、そうだな。そういうのもアリなんだよな」
結衣「そそ、友達には二次会以降で騒いでもらうとかね」
八幡「……じゃあ晩飯までサブレと遊んでるか」
結衣「うん……。ほら、サブレ、おいでー」
サブレ「ひゃん!」
結衣「サブレももう、お爺ちゃんなんだよねぇ……」
八幡「の割には元気だよな。人間みたく老けるわけでもねぇし」
結衣「…………サブレ、今日は一緒に寝よっか!ヒッキー、いいよね?」
八幡「おお、俺は別にいいぞ」
結衣「たくさん、遊ぼうね……。サブレ……」
八幡「…………よしよし」
一一一
雪乃「こんばんは」
結衣「あーやっときた、ゆきのん遅いよー」
雪乃「ごめんなさい、帰り際に問い合わせがきちゃって」
結衣「そっかー。まぁあがってあがって」
雪乃「そうね、お邪魔します」
八幡「…………おす。久しぶり」
雪乃「久しぶり。…………変わらないわね、あなたは」
八幡「なわけねぇだろ、変わりまくりだ。有り得ねぇほど仕事してるわ」
雪乃「そ。……でもその反応とかは変わってないと思うわ」
雪乃「わかったわ、お構い無く。…………比企谷君」
八幡「なんだ?」
雪乃「由比ヶ浜さんの料理は、その……大丈夫?」
八幡「あー、心配すんな、お前みたいに上手くはねぇけど異物はもう出てこねぇよ。……まだたまにわけわからんことするけど」
雪乃「そう、安心したわ。胃薬持ってないからどうしようかと……」
八幡「そう考えると変わったな、結衣も」
雪乃「そうね、呼び方が変わっているものね。そんな風に呼んでいる姿は比企谷君とは思えないわ」
八幡「……これ割と最近なんだぞ、何年も暮らしてるのによ」
八幡「ま、俺がチキンなだけってことだ。それにもうすぐ名字同じになっちまうからな、変えて慣れとかねぇと」
雪乃「…………そう、なのよね。彼女、比企谷結衣になるのよね。私もいつまでも由比ヶ浜さんとは呼んでいられないわね」
八幡「だな。今日から変えてみたら?」
雪乃「結衣さん、ね。そうしてみようかしら」
結衣「はーい、お待たせー」
雪乃「あ、……結衣さん、私ワインを買ってきたのだけれど」
結衣「……ほえ?結衣さん?」
雪乃「ええ。いつまでも由比ヶ浜さんとは呼べないでしょう。今日はそのお祝いにきたつもりよ」
八幡「え、お前言ってなかったの?」
結衣「うん。驚かせようかなって、報告があるとしか」
雪乃「きっとそうだと思っていたから、ご心配無く」
結衣「なんだー、バレてたのかー。……ゆきのん、あたしたち、結婚するんだ」
八幡「うわ、今更」
結衣「いいよそれでも。ゆきのんにはちゃんと伝えたかったの」
雪乃「……おめでとう、二人とも。私も嬉しいわ」
結衣「ゆきのーん!」
雪乃「暑苦しいから……。料理も冷めてしまうでしょう、結衣さん」
雪乃「ワイン、開けましょうか」
結衣「うんー。でもうちじゃあんまり飲まないからワイングラスがないなぁ」
雪乃「なんでもいいわよ。比企谷君は湯呑みでいいでしょうし」
八幡「…………懐かしいな」
結衣「だねぇ……」
雪乃「この家に紅茶はあるのかしら?」
結衣「あ、うん。紅茶ならあるよ」
雪乃「……食後に淹れてあげるわ、二人への餞よ」
結衣「ゆきのん……嬉しい」
八幡「餞て。別に旅立ちはしねぇんだけどな」
八幡「……そか、なら頂いておくか。お前はその辺どうなんだよ」
雪乃「それは、追々……。酔いが回ってきたら話してあげるわ」
結衣「わー、なんかちょっと怖い。よし、食べよー!」
八幡「うし、グラスと湯呑み取ってくるわ」
雪乃「…………結衣さん」
結衣「ん?」
雪乃「本当に、おめでとう。幸せになってね」
結衣「……うん。あたしはあの頃も、今も、この先もずっと。ゆきのんがいて、ヒッキーがいるから……。世界で一番、幸せだよ」
結衣「うーん……。考えてはいるんだけどねぇ。八幡ってなんか言いにくい……」
八幡「結衣ー、湯呑みってどこ置いたー?」
結衣「あ、乾燥機の中かもー」
雪乃「……お互い、並んで歩いていけばなるようになるのね」
結衣「……うん。ゆきのん……」
雪乃「気に病むことはないわ。あなたが、あなた自身が掴んだ幸せよ。一度は離れていった彼を引き戻したのは、結衣さんの力なの」
結衣「……違うよ、ゆきのんの、おかげだよ」
雪乃「違わないわ。…………今は素直に、私に二人を祝わせてもらえるかしら」
八幡「おし、飲もうぜ」
結衣「………………」
雪乃「……ええ、飲みましょうか。結衣さん、わかっているから……大丈夫よ」
結衣「…………よっし!ゆきのん、あたしの料理の腕前見てよ!」
雪乃「いや、もう見た目からしてまだまだね、としか」
結衣「あうっ!?」
八幡「ま、雪ノ下みたいにはいかねぇよな」
雪乃「……でも、上達しているのはよくわかるわ。味はどうなのかしら?」
結衣「……安心の味?」
八幡「安心はあんましたことねぇな……。新作出る度にドキドキもんだよ」
一一一
八幡「ただいま……」
結衣「おかえり、今日も遅かったねぇ」
八幡「……起きてなくていいんだぞ、別に」
結衣「やだよー。起きてないと話す時間ほとんどなくなっちゃうもん。朝も早いし昼は誰もいないし……」
八幡「悪いな……もう少ししたら落ち着くと思うから」
結衣「ううん、お仕事なんだし仕方ないよ」
八幡「……そう言ってもらえると助かる。飯食ったらマッサージしてやるよ」
八幡「いいんだ、気にしなくて。お前のほうが今大変だろうからさ。体調悪いこともあんだろ?」
結衣「あー、まぁ、うん。でもあたしが望んだんだし……」
八幡「お前だけじゃねぇよ。俺も、欲しかったから」
結衣「ありがと。じゃあ……お言葉に甘えちゃおっかな」
八幡「おう、それでいい」
結衣「あ、ご飯の準備しなきゃ」
八幡「いいからいいから、できてんだから後は俺がやる。そこで転がっとけ、それが今の結衣の仕事だ」
結衣「……あたし、幸せー。友達とかからいろいろ聞くけどさー、こんな出来た旦那さん、他にいないよ?」
結衣「んー、どうなんだろ」
八幡「ま、さっさと飯食うわ」
結衣「ゆ、ゆっくり食べてね?」
八幡「……どうですかお客さん。この辺こってるんじゃないですか」
結衣「あー、そこそこ。あぁー……キモチいー」
八幡「だいぶ大きくなったなぁ……」
結衣「だねー。もう一人いるんだと思うと超不思議」
八幡「まさに人体の神秘だな。ほれ、うつ伏せ」
結衣「あいあーい」
結衣「やん、なんでお尻触るの……。そこ別に、こってないー」
八幡「いや、手が滑って」
結衣「なんか、手つきやらしい……」
八幡「き、気のせいだ」
結衣「…………たまってるの?」
八幡「そ、そんなことねぇよ。馬鹿なこと言うな」
結衣「いたーい、なんでさー、そうやってお尻ペチペチすんの?」
八幡「……なんか叩きたくなるというか、なんというか」
結衣「DVってやつだよねそれ」
八幡「意味も知らんくせに人聞きの悪いこと言うな、殴るぞ」
八幡「DVってなんの略なのか言ってみ」
結衣「D、ど、どめすてぃっく……」
八幡「お、合ってるぞ」
結衣「V、ぶい……。う"、う"ぉうりょく」
八幡「…………」
結衣「いたい!ヴぉうりょくだ!」
八幡「笑わすな。力抜けるだろ」
結衣「あ、あれ。そんなに面白かった?」
八幡「……ああ、超ウケた。けど、母親になる人間がそれでいいのかよって気になった」
結衣「あぅ……。ね、あたしちゃんとママになれるのかな。不安だよ……」
結衣「…………あ、あなた」
八幡「……んだよ、いきなり」
結衣「愛して、ます。この子が産まれても、きっと、ずっと」
八幡「結衣。俺も愛してる。…………」
結衣「………………。名前、考えてくれた?」
八幡「んー……自信はないけど。奈央、とか。奈良の奈に、中央の央」
結衣「奈央……。比企谷奈央かぁ。うん、可愛いと思う」
八幡「一応な、字画判断みたいなのは調べてみたんだけど、別に悪くはねぇかな。なんか人徳があるとか人気があるとか」
八幡「中でも一番気にいったのは純粋な心と直感力を持つ、ってとこだな。お前の娘だから相応しいかなと」
結衣「…………嬉しい、素敵な名前だね。なんか英語バリバリできるようになりそう」
八幡「何そのイメージ。お前の娘が英語バリバリって、あんのか?そんなこと」
結衣「勝手なイメージだけど……わ、わかんないじゃん!そんなの」
八幡「まぁ可能性はいくらでもあるな。……なぁ、ヒッキー呼びはこの子が産まれたらやめるのか?」
結衣「んー、かな。パパになると思う、よ」
八幡「パパねぇ……。緊張するわ……」
結衣「大丈夫だよヒッキー、あたしもいるから」
結衣「……うん。じゃ、そろそろマッサージ交代ね」
八幡「いやいいよそんなの。休んでてくれよ」
結衣「…………普通のじゃなくてー。……こっち」
八幡「あ、え?……なんで?」
結衣「ヒッキー、たまってるし……。浮気は妻の妊娠中に始まることが多いってなんかで見たし!」
八幡「また変な知識を……」
結衣「……いや?してほしくない?」
八幡「そう言われると困るんだが」
結衣「じゃあする。あたしがしたいから。浮気したくてもできなくなるぐらい……しちゃうんだから」
結衣「それでいいの。ヒッキー、…………たくさん出してね?」
八幡「…………はい。なんかこのままだと二人目すぐにできそうだな……」
結衣「……かも。次は男の子がいいなぁー」
八幡「それは俺に言われてもどうにもならんな……」
一一一
八幡「ただいまー」
娘「!?はやい!?」
結衣「ほら奈央!パパ帰ったよ!」
娘「おかえりパパー!」
息子「だぁ!だぁ!」
八幡「ぬぁー、お前らしがみつくなー、重いー」
娘「だってー、パパはやいよ!なにしてたの!」
結衣「なにしてたの!」
息子「だぁ!だぁ!」
八幡「あーもううるせぇ……拓也も暴れるな。何してたって、仕事だよ。たまには早く帰れることだってあるよ」
娘「やったぁ!きょうはパパとごはんたべれるね!」
結衣「奈央、食べれるよ!」
息子「だぁ!」
八幡「うるさい……。先風呂にしていいか?」
結衣「あたしもはいるー!」
八幡「いや、無理だから。お前は飯作っててくれよ……」
結衣「むぅ……。奈央、ずるーい」
娘「ママはたーくんいるからいいでしょ!えへへぇ。パパとはいるのひさしぶりだねー」
八幡「だなー、一人で頭洗えるようになったか?」
娘「まだー。ちょっとそれはきびしいですな」
八幡「そうかー、厳しいかー。……なんだその言葉遣いは」
結衣「パパー、ママも寂しいんですけどー……」
八幡「……ママ、こっちおいで」
八幡「………………。結衣はこいつらが寝てからな」
結衣「はぃ……」
娘「あたしもちゅーするー」
八幡「お、奈央もしてくれるかー。ほれ」
娘「ちゅー。えへへー、パパだいすき!」
結衣「あ、ママもパパ大好き!」
息子「だぁ!」
八幡「張り合うなよ……。俺はどっちも大好きだからさ」
娘「むぅ……。ひきわけか」
結衣「ちぇっ。ママの勝ちだと思ったのに」
結衣「いってらっしゃーい。ほらたーくん」
息子「だぁ!」
八幡「いいお湯でしたっと」
娘「っと」
八幡「奈央、真似すんな」
娘「えへへぇ」
八幡「喜び方、ママとそっくりだなお前」
娘「えー、そうかなー」
八幡「そうだよ、超可愛い。絶対嫁には出さんからな」
娘「いいよー。あたしパパのこといちばんすきだから!」
結衣「って言いながらさ、中学生ぐらいになったらファブリーズかけられるようになるんだよ。あたしがそうだったし」
八幡「夢を壊すなぁ!奈央ー、お前はそんな風にはならないもんなー」
娘「うん!ならないよ!」
八幡「ほら」
結衣「……わかりましたよーだ。パパはママより奈央のほうがいいんだよねー」
八幡「えー。…………まぁ、夜は、その、頑張るわ……」
結衣「……そ、そう?なら、あれ着ちゃおうかな……」
娘「ママー、あれってなにー?」
結衣「う、うん」
八幡「…………寝たか?」
結衣「うん。パパが久しぶりに早かったからってはしゃぎすぎたみたい」
八幡「はー、年々相手すんのに力がいるようになってくんな」
結衣「お疲れ様、ヒッキー」
八幡「……おお、そう呼ばれんのも久々だな」
結衣「あ、そうだね。あの子産まれてからはずっとパパだったもんね。ヒッキーはどっちがいいの?」
八幡「結衣に呼ばれるならなんだっていい。呼ばれるってのはお前が居てくれてるってことだから」
八幡「おう」
結衣「パパ」
八幡「おお」
結衣「八幡」
八幡「……おぅ」
結衣「ヒッキー」
八幡「…………二人なら、やっぱそれかな。お前も比企谷なんだけど」
結衣「比企谷、結衣です」
八幡「知ってる」
結衣「明日も早く帰ってこれる?」
八幡「たぶんな」
八幡「……そか。たまにはそれもいいかもな。あの頃を思い出せるし」
結衣「これからも、頑張ってね」
八幡「おお。結衣、幸せな家族になろうな」
結衣「もうなってるけど……。うん」
八幡「……じゃ、俺らの時間、始めるか」
結衣「……ヒッキー、大好きだよ」
八幡「……俺も、大好きだ。あの時も、これからも、ずっと」
結衣「うん……。ずっと、一緒だからね。ヒッキー」
完
過去の点は書こうとしてたんだけど不必要に重くなりそうだから思い返させるのやめたんですよー
匂わせて書かないのはよくないと思いつつも、申し訳ないです
元スレ
結衣「おかえり、ヒッキー」八幡「……いつまでヒッキーって呼ぶんだ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1441067212/
結衣「おかえり、ヒッキー」八幡「……いつまでヒッキーって呼ぶんだ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1441067212/
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コメント一覧 (80)
-
- 2015年12月05日 19:55
- ながーいっ
-
- 2015年12月05日 19:57
- 俺が壁作っとくからお前ら好きに殴っていいぞ
-
- 2015年12月05日 20:02
- 何こいつ「やはた」ですらなくて「はちまん」だったの
-
- 2015年12月05日 20:20
- 俺の中のアスラが月をぶち壊さんばかりに暴れそうになった。
幸せそうだなぁ、とニヤニヤ見て、後で汚い独り身の自分の部屋を見て咽び泣く。
-
- 2015年12月05日 20:36
- 24て
-
- 2015年12月05日 20:41
- ガハマさんて何でもしてくれそう
八幡うらやましいもげろ
-
- 2015年12月05日 20:43
- 面白いんだけど24ページも読みたくなるような感じじゃないなぁ
-
- 2015年12月05日 21:19
- ※7
奇遇だな、俺もだ
なんか八幡も由比ヶ浜も口調違う気がして
違和感ぱないの
-
- 2015年12月05日 21:26
- ……おおすぎだろ
内容が入って来ないテンポ悪いのに更に悪く感じる原因はこれか
-
- 2015年12月05日 21:27
- 駄目だ…
にやにやしちまう
-
- 2015年12月05日 21:33
- ここさ、まともなものに限って最初のほうに
難癖つけるようなコメントつくの恒例になってるよね
-
- 2015年12月05日 21:35
- 24Pの文字を見て、俺は読破するのを諦めた
-
- 2015年12月05日 21:36
- ※11
このサイトに民度を求めても無意味だと
-
- 2015年12月05日 21:36
- ※2
じゃあその壁に魔法のステッキという名のルガーランス使うわ(悟り)
-
- 2015年12月05日 21:38
- 長かったけどよかったよ
-
- 2015年12月05日 21:42
- 由比ヶ浜の長編はハズレが少ないな
-
- 2015年12月05日 21:45
- すげぇ良かった。
24に萎縮せず時間あるときにゆっくり読んで欲しい。
-
- 2015年12月05日 21:56
- え?2ページ目辺りでビチヶ浜編終了するんじゃないの?
-
- 2015年12月05日 22:02
- ※18
読まなくていいよお前
人を嫌な気持ちにすることしか出来ないんだから
-
- 2015年12月05日 22:12
- なぜ最近の俺ガイルSSは長編が多いのか
いやその分良作があるからいいんだけどね
-
- 2015年12月05日 22:26
- 24Pってなんだろう…?
●/71と71Pあるように表示されてるんだけど…
-
- 2015年12月05日 22:35
- 全部読み切ったぞ
そして後悔したぞ
死にたくなったわ
-
- 2015年12月05日 22:45
- ※21
よおガラケー民
-
- 2015年12月05日 22:55
- アカン・・・最高
-
- 2015年12月05日 23:10
- アホの子はニコニコ幸せそうにしてるのが一番可愛い
しかし最初の方、一年付き合ってこのラブラブ具合か……
自分を思い起こすと後悔ばっかうかんでくるわ
-
- 2015年12月05日 23:14
- ヒッキーの変態w
-
- 2015年12月05日 23:16
- ※26
それが良いw
ガ浜さんのおかげでヒッキーも素が出せるようになるんだね
-
- 2015年12月06日 00:13
- コメ欄見ると批判もあるけど、面白かったよ、とても
ヒッキーもガハマさんも幸せそうでなにより
-
- 2015年12月06日 00:14
- ※14
ザインやフィアーが使わなければ殴る壁がのこってそうだな。
-
- 2015年12月06日 00:15
- 批判って長い長いか荒らしだけやん
これのどこが長いんだ、ページ数が多いだけじゃねーか
ま、だからめんどいんだがこれは仕様だからどうしようもないなぁ
-
- 2015年12月06日 00:29
- いつの間にかページ数増えたよな
2.3ヶ月前まではこれぐらいの長さでも10ページぐらいだったのに仕様が変わったのか1ページ内での文字数が少なくなった
-
- 2015年12月06日 02:18
- 長いスイーツは多量のマッ缶を延々飲むくらい非健康的だ
-
- 2015年12月06日 02:44
- いろはす出てくる辺りからは普通に良かった。
前半読み飛ばして、どうぞ
-
- 2015年12月06日 03:10
- 結衣好きには前半から最高すぎる
-
- 2015年12月06日 09:14
- ガハマさんは滅茶苦茶尽くしそうだもんな
うらやま
-
- 2015年12月06日 10:24
- 金剛デェース
-
- 2015年12月06日 10:38
- 時間は掛かったがなんだかんだで全部読んでしまった。
普通に面白かった。
-
- 2015年12月06日 11:41
- 子供の名前が中の人ネタなのは笑った
-
- 2015年12月06日 12:52
- これは女が書いたSSだな良かった良かった
-
- 2015年12月06日 12:56
- 俺ガイルss書くやつに女なんかおらんやろ
結衣かわいすぎ最高でした
-
- 2015年12月06日 13:49
- 普通の生活だったけどイチャイチャしててよかった
-
- 2015年12月06日 13:49
- 読み終わったが…なんかこういうのいいよね。
-
- 2015年12月06日 14:18
- 結×八最高すぎww
-
- 2015年12月06日 15:56
- ガハマさん大勝利SSって割と少ねぇ気がするからこれは良かった
-
- 2015年12月06日 17:21
- ユイこそ至高!こんな良い娘は他に居ない!
-
- 2015年12月06日 19:32
- ※35
八幡に「本物」を見せる感じ
有りそうだなw
-
- 2015年12月06日 20:34
- 由比ヶ浜SSでは貴重な良作でにやにやする
そしてエロヶ浜化の進行も速かった
-
- 2015年12月06日 23:17
- 東山奈央と江口拓也で草
-
- 2015年12月06日 23:45
- ニヤニヤしすぎた人生やめたくなった
-
- 2015年12月07日 02:02
- イイネ!
-
- 2015年12月07日 05:38
- カ・・カマクラ(;つД`)
-
- 2015年12月07日 11:58
- こういう甘いだけのSS好きだわ
シリアスは原作だけでお腹一杯
-
- 2015年12月07日 14:30
- おぅ、激甘だ!読むマックスコーヒーだな。
-
- 2015年12月07日 14:44
- 八幡もガ浜さんも幸せそうでなによりです
-
- 2015年12月07日 15:28
- とりあえず今週中に死ぬわ
-
- 2015年12月07日 16:34
- 前にいろはすの砂糖まみれのSS書いてた人かな?
じつにえがったです
-
- 2015年12月07日 18:45
- ※56
そうみたいね
この前あったこの四倍か五倍ぐらいの長さのやつも同じ人だったりする
これもゲロ甘ですげぇよかった
このシリーズで次ゆきのんの来ないかなー
-
- 2015年12月07日 18:50
- ニヤニヤしながら見させてもらいましたわ。確かに由比ヶ浜は尽くしてくれそうだもんな。いいSSだった
-
- 2015年12月08日 08:05
- なんか妙にリアルで生々しいというか現実感のある描写がいくつかあったけども
経験談混ざってるんじゃって気になるな
-
- 2015年12月08日 10:09
- リアル俺やんけwww
著作権
引っかかるでー
まぁ、今回は見逃したるwww
-
- 2015年12月08日 12:32
- 誰か助けてくれ、糖死してしまう……
-
- 2015年12月08日 16:19
- 米57
それはいらないわ
-
- 2015年12月08日 19:23
- いろは結衣ときたらゆきのんもほしいな
デレッデレのゆきのん見たい
-
- 2015年12月08日 20:32
- 比企谷提督…
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- 2015年12月08日 22:23
- やっぱり結衣×八幡が一番
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- 2015年12月08日 22:23
- 奥歯が異常にかゆくなったわw
-
- 2015年12月08日 22:30
- 由比ヶ浜ルートが一番好きだなあ
-
- 2015年12月09日 08:33
- おい、初めては戸塚だろ!おい!
-
- 2015年12月09日 12:55
- 甘すぎて糖尿病になっちゃうぜ
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- 2015年12月09日 15:11
- 原作でも八幡の結衣ちゃんに対する評価が段違いに変わってるのが
この作品の説得力を増してるな
-
- 2015年12月10日 01:31
- ちょうおもろかった
若干セリフ描写に違和感を感じたが恐らく好みの問題だろうし普通に読み返したくなったわ
-
- 2015年12月10日 09:34
- 24はうぜー!
もっと短くしろやSSらしく
-
- 2015年12月10日 11:48
- いや、無理に読んでくれなんて誰も言ってないぞ
スカスカで中身全然ないやつ多いから俺こっちのほうがいいし
-
- 2015年12月11日 08:42
- お前ら本当早漏だよな、こんな長さも読めんのか。
激甘で壁を叩きなるぐらいクソ良かったです(半ギレ)
あと55死ぬなwww生きろwww
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- 2015年12月11日 08:44
- 74の付け加え
我儘言うならもっと濡れ場のシーンの描写を良くすれば
いいと思う、するともっともっと壁を叩きたくなる。
-
- 2015年12月16日 03:03
- ええやん...
兄ちゃんの結婚式に出たばっかだからかもしれんが結婚してえなあって思った
-
- 2015年12月17日 00:08
- 誰か、俺のマッ缶知らないか?
手元にあったハズなんだが・・・
いつの間にか、黄色い缶のブラックコーヒーを飲んでたみたいなんだ。
-
- 2016年02月08日 03:42
- 長いけど、読めちゃうわ。ガハマさんよかったよかった
-
- 2019年01月28日 14:20
- 今更と言われるかも知れんがかなり評価する。
-
- 2020年02月05日 16:36
- 思わず溜息出るくらい素晴らしいわ・・・(´・ω・`)