レッサー「『新たなる光』の名の下に集えよ、戦士」 ~闇、海より還り来たる~【その3】

関連記事:レッサー「『新たなる光』の名の下に集えよ、戦士」 ~闇、海より還り来たる~【その2】





レッサー「『新たなる光』の名の下に集えよ、戦士」 ~闇、海より還り来たる~【その3】






369:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/06(火) 12:13:05.03 ID:Hjce1d0Y0

『ここまでのあらすじ』


――イングランド某所 某学校のクラブハウス

???「……まずは小麦粉・卵・デンコを用意しますぅ!ココ大事!よう聞きぃ!」

???「あ、デンコって知っとぉ?デンコちゃん言うても電弧ちゃんちゃうよ?勘違いしたらあかんで?」

???「デンコ言うんはデンプンの粉の事やん。そないな事も知らんと自分アレやで?ガッコとかでハブられんで?」

???「それをなー、こう、ボールの中へ入れて――かき混ぜますぅ、こぉ、菜箸でね」

???「菜箸無ぅかったら別に割り箸とかでもかまへんよ?要は下町の味やし、あんま鯱張んのもアレやゆーこっちゃね」

???「軽く塩振った後、泡立てて――メレンゲの出来上がり!完成!ガラガラ!」

???「――ってちゃうやん!?これ生クリーム違うからな?つーかレッサーも見てないで止めぇよー、もーホンマかなわんなぁ……」

???「でもだいじょーぶ!こんな事もあろうかと前もって混ぜ合わせたものがありますぅ!」

???「ホラここに空のボールが――って無いやん!?空やんっ!?ワイが作っといた生地はっ!?」

???「てかランシスぅ?アンタが持っとぉお好み焼き的なブツは何なん?てーかそれ先生の練った生地で作ったんちゃうんかな?ん?」

???「ワイが作る前に鉄板で焼き始めるってどういう事?学級崩壊?」

???「え、何?『お約束だと思った……?』……あー、そりゃしゃーないわー、ワイもそこまでボケが用意されてたら乗るわー」

???「それじゃ新しく生地を作って――て、無いやん?おっかしーなぁ?確かに五人分はあったんやけど」

???「……」

???「『"There is a usurpation. Though it isn't unusual. "』」
(下克上ってあるやんか?珍しくもないねんけど)

???「『"The hunter is hunted by the hare, and the rabbit is eaten by the grass. "』」
(狩人は野兎に狩られるしぃ、兎は草に食まれんねんな)

???「『"Could TIME FATHER capriciously cause it a little?Unpleasantly and seriously in seriousness. "』」
(偉いオッサンよ、ちぃと気まぐれ起こしてくれませんかー?いやマジでマジで)

???「『"Change, Coagulate, and time doesn't advance ahead――. "』」
(流転しぃや、凝固しぃよ、時は必ずしも前に進むとは限らないよって――)

シュゥゥゥッ……

???「……」

???「――はいっ!ってなん訳でアレなんですけども!アレがアレしてどないやっちゅーねん!ヤったんねんや、あぁっ!?」

???「頑張ってワイが造り直した生地!これを使いますぅ!」

???「『そのぐらいで魔術師使うな』?いやいや使ぉてへんよ、いや全然全然?」

???「見とったやん、アンタら見とったやんか?なぁ?」

???「『ランシスがあんあん言ぅとぉ』?知らんて、ワイ別に時間戻したりとかしてへんって!」



370:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/06(火) 12:17:45.39 ID:Hjce1d0Y0

???「仮に!仮にもし使ぉたとしても!それはきっとアレや、アレに決まっとぉ!」

???「こう、女の子が好きな男の子のお弁当作る時とか、そう『おいしくなぁれ!』みたいな!そのぐらいよ?ホンマに」

???「まぁ使ぉたっちゅーかな、うんまぁ、アレやね。使ぉたか使ぉてへんかの二択やったら使ぉてると言えるかもしれへんよ?」

???「や、でも別にそれは魔術じゃないし?ワイは別に魔術だなんて思ってないし?」

???「だからまぁ、ノーカン?まぁまぁノーカンでいいんとちゃうかな?」

???「てーかそろそろたこ焼きプレート温もぉてきてるから、次の行程行ってもいい?つーか行かんと」

???「次に大切なんは鉄板かなー。こう、あんま熱くし過ぎても焦げるし、温ぅても生焼けやしね」

???「ホットプレートにごま油垂らしぃの、あ、少しキッチンペーパーで拭くのがコツよ?あまりギドギドでもあかんで?」

???「湯気が出るぐらいになったら、生地をドーーーーンっ!さ、後は時間との戦いや!」 ジュゥゥゥゥゥッ

???「かかってこんかいガリア兵にマルキスト共!ワイらの大英帝国は負けへんでぇ!」

???「見ぃや!ぶつ切りにしたタコちゃんを放ぉり込んで、素早く!菜箸使ってひっくり返すっちゅーねん!」

???「あ、ケンミンショ×だかなんだか知らへんけど、『関西人は粉モノを焼かない』なんて嘘や、嘘嘘」

???「ケツもんだだかチチもんだたか言う、正露○ジジイの寝言なんか真に受けへんといてぇな?これワイとの約束やで?」

???「んで、キレーにひっくり返しよったら、後はもうほぼ完成やね」

???「あんま時間かけとぉと、中のフワッフワがカリッカリになってまうんで、ガワが出来たらもう上げた方がエエよ」

???「ま、硬いのが好き言うのもおんねんけど、ワイは認めんよ!何がフワッフワしてないのはたこ焼きちゃうわ!別の食べもんやわ!」

???「あ、取り上げる時にはたこ焼きを崩さないようにするんがポイントやで?でないとたこ焼きとは言えへんし」

???「――で、後は船の上にでも、皿の上にでも取って出来上がりー、っと」

???「後は熱いウチに出汁につけて食べれば最高や!冷めないうちに、ホラ、みんなで仲良く食べぇよ!」

???「……何?どうしたん?何か、変な顔して――『これ、たこ焼き違ぉう』?」

???「な、な、な、何を馬鹿な事を言うてますのん!?ワイに間違いなんて言葉はあらしませんて、いやマジで!」

???「ちゅーかアンタら、ワイの事舐めすぎちゃうん?こう見えてもワイ『魔術師の中の魔術師』的な事も言われてんてねんよ?」

???「なんか知らんけど、Adob○さんから妙にリスペクトされてるし……何やろね、あれ?中二病?」

???「それにホラ、たこ焼き作らしたらブリテン一っちゅーか、まぁ――」

???「『だからたこ焼き違う』?……またまたぁ、そんなにワイをからかうのも大概にしぃ。趣味悪――」

???「『出汁で食べるのは、明石焼き。そもそもデンコ入れない』……?」

???「『しかも地元では明石焼きじゃなくて、卵焼きって言う』……?」

???「……」



371:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/06(火) 12:18:35.95 ID:Hjce1d0Y0

???「……い、いや知ってたで?うん、大体8、9割は知っとったよ?」

???「つーか明石焼きもたこ焼きも大体同じやん?粉モノのタコ入れんねんで、カブっとるわ」

???「だからまぁ、正解って言うか、こう、間違いじゃないやん?ニアピン賞ですやん?」

???「こうあえて、みたいな?」

???「……」

???「――って知るかボケぇ!またワイになんの相談も無しにケンカしさくりおって!」

???「『レッサー達なんで昨日もおとついも来なかったんやろー?インフルかなんかかー?』」

???「『ま、ええわ。そないな事よりテレビ見よ、テレビ――ってレッサー何フランスにケンカ売っとぉ!?』」

???「ビックリしたわ!なんでアンタらARISAとテレビ出てへんねんな!レッサーはよう言ぅたけども!」

???「ちゅーかワイは?『新たなる光』のアドバイザー的なワイは要らない子ですのん?」

???「アレですやん!『生き物の世話は最後まで看る』って教わなかったんかアンタら!?」

???「ある日突然ここぉ来なくなるし!しかも連絡は取れへんわ、どないやっちゅーねんな!」

???「冷蔵庫の中にはドクペしか入ってへんし!お菓子もフロリスの食い散らかしたのしかないわで!」

???「センセー拾われた子犬やったらガリッガリに飢えて死んでますぅ!冷たくなって今頃アンタら号泣してんよ!いやマジで!」

???「ワイが飲み食い必要無いから良かったもののぉ!謝って!きちんとワイに謝って!」

???「大体そんな無計画やから、アレやん?ベイロープの男運みたいに焼きが回ってくるっちゅー話やね」

???「ええか?誰も見てないと思っても、お天道様が見ぃ……何やベイロープ?どしたん?」

???「……あぁ、いや別に今のは例えよ、例え?別にアンタの男運が悪いなんて言ってへんよ?」

???「ベイロープの場合、男運以前にまず男を見る目が――あ、いやなんもないですぅ!独り言ですし!」

???「――ってベイロープ、どしたん?センセーは健康器具ちゃうよ?そんなぎゅっとしても握力トレーニングにはイタタタっ!?」

???「って千切ったらアカン!?幾らセンセーもふもふしとるからって千切ったらダメやん!?」

???「増えるから!センセー増えちゃうから!前にもゆうたと思うケドも!」

???「ゴメンて!センセー悪かったて!?だか――」



372:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/06(火) 12:19:53.70 ID:Hjce1d0Y0

~10分後~



373:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/06(火) 12:21:52.36 ID:Hjce1d0Y0

???「……いや、あんな?確かに今のはワイも悪かったかもしれんけどやな」

???「こう、アンタらももう少しレディとしての慎み持った方がええんとちゃうん?いやマジでマジで」

???「ベイロープの凶行を指さして笑ぉてたレッサーとフロリス、我関せずでお好み焼き作って鰹節が踊るのを観察しとぉたランシス……」

???「ワイはもうアンタらの女子力の無さが心配で心配で。もうちょいワイを見習わなアカンよ?」

???「ベイロープは……アレやんな。周囲から『出来る女!』みたいに思われてて、婚期を逃しそうやし」

???「ランシスも協調性無くてぼっちまっしぐら」

???「フロリスはなー……気がついたら一人だけ彼氏が出来てそう」

???「レッサーもちゃっかりしよるから、結婚一番早そうやね。ま、子供ぎょうさんこさえてブリテンのためにしぃや」

???「ま、その前に立派な旦那はんみっけんのが先やけどねっ!アンタらにはまだまだ早いかもしれんけど!」

???「……どしたん?なんで全員視線外して微妙な空気になっとんのん?」

???「なんやろう……触れてはいけない所に触った的な、バツの悪さを感じんねんけど……?」

???「ま、まぁええわ。そんな事よりも旅の話を聞かしてぇな。ワイも興味もあるし」

???「ユーロトンネルでは……『アレ』?いや、アレ言うても分からんて。なんか渾名とかないのん?」

???「”ショゴス”……あー、納得やね。それ以外にはないわー」

???「しかし『進化』する敵なぁ……アンタらの意見は科学サイドっちゅー話やけども」

???「そもそもで言えば、『進化』って何やの?っちゅー話やね」

???「あー、あれやん。こっち側とあっち側で見解が分かれるんよ」

???「現時点でのあっち側の見解だと『進化とは自然選択と遺伝子浮動』だって言われとるけどな。分かる?」

???「ダーウィニズム、もしくはネオダーウィニズム言うねんへんて」

???「もっと簡単に言え?無茶プリ止めてぇな、ワイただの魔術師やで?」

???「え、何?『Ado○e一押し』?いややわぁ、そんなんちゃうし!もっと言ぅて!」

???「まぁ簡単に言えば『自然選択』らしいんよ。例えばフィンチっちゅー鳥がおるんやけど、個体によってクチバシの大きさが違ぉんやて」

???「雑食性のフィンチと昆虫食のフィンチを比べると、後者がキツツキみたいに細いクチバシを持っておぉたり」

???「捕食率が高いフィンチは硬いクチバシやったり、環境に合ぅた進化をしてい”た”ってのがスタート地点やね」

???「今では『環境に合わせて優れたものが進化した』って考えから、『環境に適応したものが生き残った』って変わっとるけとな」

???「……ま、優生学とアーリアン学説ごっちゃにしたらあかんよ?そんな子ぉは要らん子やからな?」

???「で、これが正しいか正しくないか、ワイには判断つかへんのよ。つーかあっち側でも論争がされてるぐらいやし」

???「ただ”こちら側”の理屈から言えば、進化論は間違いやねん。分かるか?」

???「そぉや。大抵の神話っちゅーんは、『神代に神々が創ったのが最高にして最上』ってなっとぉやろ?」

???「十字教なんかでも『楽園』から追放されるまでは、少なくとも平和に暮らしていた、っちゅー話やし。他も大差ないで」

???「確かに魔術自体の技術は上がっとぉ。それは確かにワイが保証したるで」

???「けどなぁ……上がっとぉのは魔術師としての”平均”レベルであって、トップは下がってる気がしてなぁ」



374:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/06(火) 12:23:57.81 ID:Hjce1d0Y0

???「例えば古代にはモーセやら十二使徒、他にもごっつい魔術師は仰山おったわー」

???「中世にもパラケルススやサンジェルマン――もとい、サンジェルミっちゅうオカマがな」

???「ほんで、近代になるとクロウリーの『黄金夜明』が有名や、有名やねんけど……それ以降はパッとしないねんな」

???「……ま、あっち側の技術が進んで、ワイらがアングラへ潜るしか無かった、言うのも大きいけども」

???「そんな訳で――何、フロリス?『長い』?長いて!どういう意味!?」

???「聞いたのはそっちやんか?ワイ丁寧に説明しとるし……そんな事も言われてもなぁ……」

???「ま、まぁええわ。ザックリ言うたると、『グレムリン』おるやんか?」

???「他にも魔術師一杯おるけど、大抵は『神話を模した術式・霊装』やんね?むしろ強ければ強い程、古くて旧い方が使われる」

???「結局アレなんよ。ウチらの業界じゃ神話を再現してなんぼ、みたいな所があるからなぁ」

???「だから必ずしも魔術師的には新しいものが正しいとは限らへん。新しい概念を探すのは大切よ?大切やけど……」

???「その概念が正しい、もしくは有効であるかは別の話やで?知られてないんは有利やけど、落とし穴もあるかも知れんのよ」

???「新薬と同じやね。劇的に改善が見込まれる可能性がない訳ではない……ものの、どんな危険な副作用が現れるか分からへん」

???「まぁ、そう言った意味じゃワイらが長年蓄積してきよった魔術知識も、全体のレベルを押し上げるのに一役買ってるっちゅー形なんかな」

???「なので、『アレ』やったか?『進化』っちゅー特性は珍しいんやけど、多分ワイらの流儀とは違うわ」

???「ただ……少しだけ懸念があるねんけど、まぁええわ。恐らく今更言ぉてもどうしょうもないと思うし」

???「次に出て来たんが『安曇阿阪』かぁ……知っとるよ?顔見知りっちゅー訳や無いけども」

???「こいつもある意味同業他社との戦いやったなぁ、ほんま。あ、知らん?」

???「『進化論』の通りだとすれば、最終的に邪魔になるんは人類やねん。いやマジで」

???「なんつーかなぁ、種族ってのは分化、そして環境に適応出来なかったら淘汰やからねぇ」

???「こんだけ人類が繁栄すれば、そりゃ規格外の奴らも『多様性』って形で出るわな。それがいい事かどうか分からんけど」

???「……たまーに現れるシリアルキラーとかサイコパスっておるやん?ワイらの国でも”Jack the Ripper”みたいなのん」

???「あれも戦時下で敵国兵士を殺せば英雄やし、さっき言ぅたアーリアン学説も時と立場を間違えなければ、チャーチルやルーズベルトになれるんよ」

???「あちらさんでは『生物学的に優れた』を定義しよう――ぶっちゃけ科学も姿を変えた錬金術と変わらへんねん」

???「こっち側が神を讃える『賛美歌』のに対し、あっち側が人を讃える『人類賛歌』のような気がしてしゃーないわ」

???「人を神格化――ありとあらゆる方面へメスを入れて分析しぃの、最近じゃ魂まで定義づけしたれ、みたいな動きもあるし」

???「それって一種の科学信仰なんかなぁ、とかワイも思ぉとるけどなー……て」

???「三番目がイタリア国境近くの『団長』かぁ……古代エジプトの魔術師やったっけ?」

???「流石にカノープス壺使ぉたキワモノなんてワイも知らんて!そないに無理ブリされても困るし!」

???「そもそもワイはコノハト出身やし、暑い国はあんま好かんねん――って、言ぅてへんかったっけ?」

???「……や、でもな?術式自体は割とメジャーなんよ?何言ってるか分からんと思うんやけとも、あー、アレや」

???「エジプトでの『復活』関係の術式でまず頭に浮かぶんは、ミイラやろ?」

???「……」

???「(……Mummy is Mammy……)」 ボソッ
(……お前のかーちゃんミーイーラー……)



375:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/06(火) 12:25:57.70 ID:Hjce1d0Y0

???「いや別に何も言うてへんよ?気のせいちゃうかな?」

???「あぁっとな、アレやで、ミイラっちゅうのは死後の世界での復活を願うために作られた――のは、知らん奴はおらんと思うけど」

???「その基になったのが『オシリスとイシスの伝説』やね。まぁかいつまんで言うと……」

???「オシリスは体を14に分割されて殺されましたー、嫁のイシスは頑張って甦らせますー、でもパーツが一つ足りませんー」

???「なのでオシリスは冥界の神として復活しましたー、マル」

???「ちゅー訳でミイラを復活させる術式はオシリス、もしくはイシスのものが殆どや――ん、ねんけども」

???「活躍したんはイシスやし、そもそもで言えばイシスへ知恵を授けたんは、書物と智恵そして時と夜を司るトート神やねん」

???「またトートはギリシャ神話のヘルメス神とも同一化され、ヘルメス・トリスメギストっちゅー神格を形成する」

???「有力な近代魔術師の一人であるアレイスター=クロウリーも『トート神のタロット』を作らしとるしやな」

???「またゼウスを先導する道の神として、鳥は用いられて……あー、なんやったかな?」

???「ヘルメスの遺産管理人で、鳥頭だか鳥回しだか言う一族がおったような気ぃがするけど……ま、ええわ。アンタらと関わる事はないやろ」

???「『夢の中で探偵もの』……んーやっぱり『夜』のトートの霊装ちゃうんかなー、とワイは思うわ」

???「しっかしわざわざ夢の中で殺す意味が分からんわ。誰かに化けられるんやったら、関係者攫ぉて――」

???「……」

???「……殺す?連中最初っからやる気ぃあったんかな?」

???「どぉにもそこいら辺、あっちの人らと一回話し合わないといかんもかもなぁ」

???「……ええわ。それも緊急っちゅー事は無いやろ。そっちは壊滅したんやし――と、そうそう」

???「『ダンウィッチの双子』……つか、兄弟か」

???「クトゥルー神話の方じゃ、まぁ蕃神の子ぉらやんな。どっちもが」

???「門がどぉたら言うのんもヨグ=ソトースの神性に合ぅてるし、『クトゥルーの魔術師』かぁ、と個人的には楽しみにしとったんやけど」

???「いざ蓋を開ければ『世界樹を特定多数へ植え付けた並列化・魔力のストレージ化』……どやろなぁ?」

???「魔術師的には興味深いテーマなんやけど……んー……?不完全燃焼っちゅーかな、なんやこう、納得行かへんわー、うん」

???「や、アレやで?昔から魔術の並列化とか、他の人から魔力頂いてまおうって発想はあったんやで?」

???「龍脈や『Feng-Su(風水)』へ手ぇ力入れたり、一番分かりやすいのんは合唱やね、賛美歌とかの」

???「一つの祈りが世界を変える――なんて、どっかのセカイ系のフレーズにありそうやけども、だったら千の祈りはセカイを滅ぼせるんとちゃうん?」

???「ローマ正教には『歌』を媒介してテレズマを集め、攻撃する術式があるっちゅう話やね。ま、それもまた当たり前なんやけども」

???「『歌』自体、そもそもが神や精霊、この世界へ感謝する儀式魔術だった過去があって、ずっと信仰の一部として使われてきた訳やんか」

???「ルネッサンスとオペラで切り離し、娯楽へと堕落させた――昇華させたんが、元の姿へ戻るだけ。何とも皮肉な話やね」

???「……しかし直接生身の人間へ霊装を接続させる……意識の並列化……どっかで聞いたような話やなぁ?」

???「ん?まぁ思い出さへんのやったら、大した事あらへんのやろ。大丈夫、ワイの記憶力を信じぃ」

???「ともあれ文化も技術もそうなんやけども、決して前へ進むだけとは限らんのよ」

???「あ、一定の蓄積はしとるで?してるんやけども、こう、定期的にプッ壊してんの。そやなぁ……」

???「ローマ帝国なんてそうやん?あんだけ広い国土と政治システムや文化を持ったにも関わらず、滅ぶ時は滅びよぉ」

???「エジプトもそうやし、ギリシャもそう。現代ですらあのレベルまで文化水準を満たしてる国は、そうそうないとちゃうんかな?」

???「奴隷制度やし君主政治やけど、民主主義でも失敗する時は盛大にコケるしなぁ」

???「なので時たま発掘されるオーパーツも、パチモンを除いてはアンティキティラの歯車のようにホンモンも混じっとぉよ」



376:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/06(火) 12:28:37.52 ID:Hjce1d0Y0

???「あー……そのな、あんま言いにくいねんけど、ワイらは『ロマンチシズム(ロマン主義)』ってのがあったんよ」

???「例えばフランス。18世紀のフランス革命から、19世紀の7月革命までガンガン内戦やっとったんやけど」

???「そん時に『あーもうなんか王政派もブルジョア派も胡散臭いわぁ。ウチらそんなんコリゴリやでぇ』って思想が背景にあったんよ」

???「ロマンチを代表する芸術家としてはドラクロワの『民主の自由を導く自由の女神』やな」

???「フリジア帽被っておっぱい丸出しにしたねーちゃんが、民衆の死体の上で旗振ってるヤツなー。見た事あるやろ?」

???「ワイ的にはあの絵画、『同朋の屍体を足蹴にして勝利を喝采する』ってぇ姿で、どぉにも気に入らんのやけど……さておき」

???「あの絵にはドラクロワ自身とされる人物が描かれ、また」

???「『レ・ミゼラブル』の登場人物であるガヴローシュのモデルになった”ピストルを持った少年”の姿が描かれとる」

???「知っとぉ?レジスタンスで6月暴動で戦死した不労児やね」

???「ドラクロワは自身の姿を描いて勝ち馬に乗り腐ったの対し、ユーゴーは政治家としてナポレオンに接し、一時は支持する」

???「やけども独裁政治が強まって見限り、ベルギーへ亡命してミゼラブルを完結さしたんやから、フランスも捨てたもんやないで」

???「……ま、王政廃した10年後にたかだか司令官だったナポレオン皇帝にする辺り、フランスはフランスやなぁ、っちゅー感じやけど」

???「で、ドラクロワの絵の中で、最も特筆されるんべきなんはおっぱいねーちゃん、フリジア帽の女や」

???「この女、『マリアンヌ』の象徴とされてるんやけど……まぁ、ぶっちゃけ『自由の女神』やねんな」

???「はいレッサー中指立てんといてぇな。気持ちは分かるけども!19世紀にアイタタタタ言うのもあかんよ!」

???「……や、まぁ、なんちゅーの?ぶっちゃけワイも困んねんけど、フランス革命の象徴が、この『フリジア帽被った女』なんよ」

???「『なんで女神?なんでこいつら同朋ぶっ殺しておいて自由とか言うのん?』ってツッコミは禁句やで?フランス人へしたらメッチャ怒られるわ」

???「まぁこの場合、女の被ぅとる『フリジア帽』っちゅーのが大事や。ここテストへ出るで?」

???「いや、ネタやのぅてマジで。フランスの文化人類学のテキストに載っとったもん」

???「……この帽子な。外見は……まぁググっみるのんがいっちゃん早いんやけど、例えるんやったら、とんがりコー○?」

???「サンタさんのくしゃってなっとぉ帽子あるやん?あれの先っちょのポンポンとって、垂直に立たした感じやよ」

???「ちなみにフリジア帽のルーツは古代ローマ言われとぉてやね。自由身分の解放奴隷が被っとったもんよ」

???「これはその当時から『自由と解放』のシンボルとして取り入れられよって、ローマ皇帝カリグラが硬貨のデザインに使ぉたり」

???「キューバやコロンビア、ニカラグアの国章としても使われとぉで」

???「あ、ちなみに単純化させる都合で、帽子じゃなく三角形にする場合もあってや。その三角形を指して『フリーメーソンのシンボルだっ!!!』ってぇ宣ぉと」

???「まともな義務教育受けとぉ人間からは狂人扱いされるから、レッサーとランシスは注意しぃや?ギャグでも言うたらいかんよ?」



377:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/06(火) 12:31:31.75 ID:Hjce1d0Y0

???「で、この帽子はなんかフランスじゃエライ大切にされとる。何でもフランス国家へ対する忠誠の証、みたいな所があるらしくてやな」

???「ルイ16世って――そうそう、最初のフランス革命で処刑された王や」

???「彼が処刑される前、フランス市民がよってたかって被せた帽子、それもまた『赤いフリジア帽』やったんよ」

???「要はアレやね。『お前は今まで奴隷やったけど、俺らが革命興して解放してやったん!』みたいなノリやね」

???「他にもなー、ストラスプール大聖堂がフランス革命の余波を受けて壊されそうになったん」

???「そん時にもフリジア帽、そう、デッカイの」

???「それを大聖堂の尖塔へ被せる事で破壊を免れたんやって!凄いなぁフリジア帽!」

???「……うん?ベイロープ、ワイは正気やで?だから額に手ぇ当てて心配しなくってもいいんやで?」

???「あとピコピコでペット霊園の検索し始めたフロリスさんには後でお話があります。帰らんといてぇな!今日という今日はお説教したるさかい!」

???「うん、何を言ってるのか本気で分からないと思うんやけど、まぁそこは『フランス野郎だから』で納得しときぃ」

???「『平等主義に反してるやん!ぶっ壊さなあかんでコレしかしぃ!』で尖塔壊そうとした革命軍もそうやし」

???「『このままじゃマズいねんな……そや!建物にフリジア帽被せたら壊されへんかも!』と思った司祭達もや」

???「あと他には……そうそう、ワイらの方面からすれば『神の子』が生まれた時に祝福をしに来た東方三賢者」

???「初期キリスト教の絵画やイコンだと、彼らもまたフリジア帽を被った姿で現れとぉ」

???「ただ、これもまた十字教が浸透するに従って、三賢者自体が『王』であるとの解釈が進み、被らされへんようになるんやけどな」

???「これは当たり前の話やねんけど、美術にしろ文化にしろ、当時の思想や知識を背景にしとる事が殆どや」

???「十字教が『庶民から輩出された民』であったローマの帝政時代。そこでは『解放奴隷の徴を持った東方三賢者』に祝福され」

???「『権威を得て教会や王権の礎となった』以降は『異国の王である東方三賢者が頭を垂れる』っちゅー風にや」

???「もっとぶっちゃけるとなぁ、東方賢者の祝福を授ける術式ってあるやん?そうそう、赤ん坊が病気しないとか健康になるぅいうん」

???「あれをするにしたっても、賢者達の立ち位置をどこへ置くかで、効果や内容が変質しよるからな?くれぐれも注意したってや」

???「神話や逸話、伝承や英雄譚を再現して術式や霊装へ換えるにしたって、どの時代や誰主観で大いに変わるし」

???「……ま、ワイの霊装貸した時から何度も言うてる事やからなぁ。今更やけど」

???「――で、や。フランス革命をきっかけにロマンチシズムが勃興するんよ」

???「どっかの極東の島国じゃ、『浪漫』ってぇ単語になって伝わっとぉらしいけど、そのロマンやね」

???「あー……これな、要は古典主義にエゴと個人感情を持ち込んだものなんやけど……まぁある意味歴史の分水嶺だっちゅー学者もおるねん」

???「古典主義もそうやねんけど、基本『ギリシャとローマ時代などの過去や異郷に楽園を見い出そか』っちゅー話やよ」

???「……ブルジョアの俗物主義、教会主体の教条主義から脱却するためには、過去の栄光よもう一度!みたいな事なんかなぁ」

???「ま、まぁそれ自体は悪い事じゃないんよ?ワイの王様の名前へ誓ってもええけど、昔を大事にするのは大切やで」

???「19世紀、産業革命の直前にも関わらず、よりにもよってざっと1800年前の帝政時代&多神教時代っちゅーのもな?」

???「十字教の影響から逃れるために、どっか適当な逃げ場を過去の栄光の中へ求めたんかなぁ、のもな」

???「……ただなー、違うねんよ」

???「『たこ焼きじゃないですよね』?……ってウッサいわ!その話は終ったっちゅーの!センセーの傷エグるんは止めてあげてよ!?」

???「違ぉて!そうじゃ無ぉて!人種が違ぉとるのよ、マジで!」



378:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/06(火) 12:33:33.45 ID:Hjce1d0Y0

???「ギリシャの歴史を見てみぃや。東ローマ帝国滅亡以降400年近くオスマントルコ帝国やったんよ」

???「一応、改宗せぇへんでもギリシャ正教徒のままでおられたんはおられた。けど、さっさと亡命しようる正教徒も大勢おったようやし」

???「そもそも純血かそれに近いギリシャ人はおらず。現在ギリシャ人を名乗ってるんのはスラブ人やっちゅー話」

???「はっきり言って人種的にはトルコと変わらん……割に、トルコ系キプロス人とギリシャ系キプロス人で仲違いしとぉしやな」

???「……なんちゅーかなぁ、こう、『勘違い』しよったんよ。誰も彼も」

???「ただの主義主張に留めておけば良かったのに、『自分らはあの偉大なローマ・ギリシャの後継者やで!』って思い込んだんよ」

???「皮肉な話やね。十字教の影響から逃れるために、異郷の文化に縋ってみたら、今度は囚われとる」

???「あ、言っとくけど、それはワイらも例外やないよ?ちゅーか一部はもっと酷いんよ」

???「ロンドンにある大英博物館に行った事ある――って、修学旅行で行くわなぁ、普通は」

???「ほいじゃアテネから借りたパルテノン神殿の一部が飾られとるのは――あぁ、そうそう、あの病的までに真っ白のな」

???「材質が大理石やから、そうなるんやけども――」

???「――あれ、オリジナルは『極彩色』だったんよ。あ、飾られとぉのはオリジナルやで?レプリカでなくて」

???「んーとなぁ、19世紀のエルギン=マーブルっちゅー外交官がな、派遣先のギリシャ――当時はオスマン帝国から借り受けたんよ」

???「その当時はアホのナポレオンがギリシャに侵攻しぃ、それを追い払ったんがイギリスっちゅー事でエラい感謝されとった」

???「その後色々あって、パルテノン神殿の彫刻群――俗に”マーブルズ”言ぅ大英博物館へ寄贈されたやけども」

???「それを勝手にな『Cleaning』したんよ。こう、極彩色だった表面をガリガリ削って、大理石の字が出るまで徹底的に」

???「……その暴挙の引き金になったんが『ロマンチシズム』や」

???「『ギリシャは偉大な文化を築いていた』」

???「『よって同じく偉大な自分らはギリシャは自分達のルーツに相応しい』」

???「『だからギリシャの彫刻も”ホワイト”でなければいけない』」

???「……実際の所、地図を見ても分かるように、ギリシャ自体は東方・南方文化の影響を思いっきり受けとる」

???「クノッソスの迷宮壁画を見れば分かるねんし、ナイルを描いたフレスコ画も見つかっとぉ」

???「……」

???「なんちゅうかな……ワイの考えやけど、19世紀から20世紀にかけての『狂奔』は神を殺した所にあると思うんよ」

???「ロマンチシズムが、先に言ぉたアーリアン学説や優生学と結びついたんやな」

???「『偉大な祖先を持つ自分らは、この世界を支払いするに相応しいんや!そうに決まっとぉ!』的な考え」

???「初めは方便だったかの知れんよ。十字教やローマ正教からの脱却を計るため、新しい価値観を探すために過去の文化へ行っただけなのかも知れへん」

???「……けどな。現実の話、『信じ込んだ』んよ。心の底からな」

???「その後、何が起きて誰を殺したんかは、誰でも知っとぉ筈やけどな……」

???「……あぁ、ごめんな?ワイの話が長くなってしもうて、ホントはこんな話しとぉ無かったんやけども」



379:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/06(火) 12:37:48.75 ID:Hjce1d0Y0

???「……ただ、アンタ達がもしかして遠い未来……や、少し前まで相手して来た連中の事ぐらいは知っとかあかんな思っ――」

???「――分かっとぉよ!ちゃんと言うから聞いてな!?特にレッサーとフロリスとランシス!ちぃとベイロープを見習ぃ!」

???「……なんですのん。金払っても聞きたい言うような話してんのにこの仕打ち……!アンタらいい加減にしときぃよ!」

???「あー……さっき言ぅたフィンチ、ダーウィン・フィンチっちゅー鳥の話あったやろ?あれ実は今も変化してんねんて」

???「そやフロリス。『進化』やのうて『変化』やね。生態学的には違ぉ思うけど、ワイとしてはそう言うしかないわ」

???「クチバシの長いフィンチは短く、クチバシの細いフィンチは太く」

???「クチバシの硬いフィンチは柔らかく……っちゅー風にやね」

???「まぁ……んなぁ?ぶっちゃけて言うけど、フィンチを変化させとぉんは『観光客』や」

???「毎年ぎょうさん来よぉ観光客が、なんも考えとんとフィンチへ餌を与えぇ」

???「フィンチは楽に食事出来るから、個々の特性が少しずつ失われとってん」

???「……これなぁ、ロマンチシズムと、この直後に起きたアーリアン学説と同じやねん」

???「『前後の脈絡抜きにして、整合性もへったくれもなく”都合の良い結論”へと飛びつく』ねんよ」

???「ローマの直系?ギリシャの正当後継者?……アホかっちゅーねん。もしオマエらがそうやったとしたら、どっちも滅びてへんよ」

???「自分達の願望のために過去ねじ曲げた挙げ句、理想や願望の中にしかない楽園を追い求める……つける薬もあれへん」

???「……そいでな、タチ悪ぅ事に今の状況とよぉ似てんねん。このロマンチシズムが」

???「ネオ・ペイガニズムっちゅー『異教の滅びた信仰”の名前を借りた新興宗教”』へ救いを求めたり」

???「『Eco-Army(環境テロリスト)』みたいな、神さんの居ない宗教へハマったりなぁ?」

???「『ここではないどこか』や『これではないなにか』を探しぃ、現実社会をスポイルしくさる人間が」

???「ダーウィン・フィンチみたいに、楽やからーちゅーて餌付けされた連中が」

???「なんも考えんと、耳障りのいい用意された結論へ飛びつくと碌な事あらへん」

???「アレやで?ISISみたいなダボハゼに入る連中もそうやで?」

???「行き場がない、ちゅーか社会からハブられたり、なんか上手く行かん人間はおるやんか?一定数は」

???「まぁそれ自体はしゃーないと思うんよ。こんだけ人がぎょーさんおれば、そりゃついてけん人もおって当然や」

???「そういう人間にええ加減な事吹き込んで騙してんのが連中や。あ、テロリストだけや無いよ?」

???「アンタらが戦ぉた魔術結社の人間達もそうやで?そこは理解してやってや?」

???「ただ、な?だから言ぅて手加減する必要はないよ。いやマジで」

???「人並みの判断力が持っとって、人並みに善悪が分かるんだったらやったら行かん事は分かるやろ。ちゅーか」

???「ええ歳こいてその判断も出来ひんねんやったら、色んな意味で終っとる。そんなアホはぶん殴ったり」

???「……うん?どしたんみんな?微妙なお顔やで?」

???「『その話は終った……』?終ったてどういう事よ!?ワイ知らんもん!」

???「知らんがな!ちゅーか誰よ!?ワイの大事なお話と被らせたんは!?」

???「あー……日本の?『幻想殺し』……アンタらが散々迷惑かけたお人かー……」

???「ワイどないして頭下げたらええか分からんよ!いやマジで!」

???「え、でも……別に会う必要はないんよね?機会もないし」

???「いやー残念やわー、実に残念やわー、でも会えへんかったら謝る機会もないしー……って何?」



380:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/06(火) 12:41:11.40 ID:Hjce1d0Y0

???「チケット?日本語やね、何々……『ARISAの学園都市凱旋LIVE優待券』……?」

???「あー、ShootingMoonツアーの締めくくり?最後は自分んとこで……ふーん?」

???「アンタら招待されとるん?へー……?」

???「……」

???「や、ワイも――『連れてかない』!?まだ何も言うてへんやないのんっ!?確かにそれ的な事やけど!」

???「なんでぇな、連れてってぇよ!ワイ別にもふもふやし、チケット要らへんやん!」

???「なんやったらぬいぐるみに成り済ますから!ワイそういうミッション得意や!」

???「『立場的にマズいんジャン』?フロリスぅ、アンタよういちびぃ事言ぇんなぁ?」

???「これはアレやで?純粋な気持ちやで?科学の街で観光とかしたいとか思うてへんよ?いやマジでマジで」

???「ほらどうせ、連中倒したっても、まだ残ぉとる”シィ”倒さなあかんやん!?」

???「やったらワイも着いてって、こうサポートするわ!頑張るから!」

???「……ん、何?『”シィ”倒すってどういう事』?」

???「や、アレですやん。アンタらまだ話は終ってへんやろ、ちゅーかボス倒してないやんか」

???「このまま放置しとぉてもええねんけど、『幻想殺し』だけじゃまず勝てへんね」

???「地脈だけやのぉて黄道宮からもマナ集めよぉさかい、タチ悪ぅ――」

???「――え、何なん?なんや、『初耳やで!?』みたいな顔しよってるし、なんかワイ余計な事言ぅた?」

???「またまたぁワイ担ごうたってそうは問屋は降ろさへんのよ。センセー最初に言うとるやんか」

???「アイソン彗星喰ぉたんは『蝕』の権能やん。魔王ラーフと同格かそれ以上の力を持つ魔神の術式」

???「並の魔術師には感じ取れへんかもしれんけど、獣帯でマナが枯渇し始めて、白道へ流れ込んどぉわ」

???「あと『濁音協会』が『Society Low Noise』名乗ぉてんのも、あの魔神を崇めてますよってにっちゅー事やん?」

???「かなわんなぁ。ワイ、前からずっと言ぅて――え?何?」

???「『聞いてない』?いやいやっ!ダチョ○ちゃうねんからそれはないで!」

???「なんぼワイでもアンタらの命がかかっとる以上、相手の情報出し惜しみする程薄情な子とちゃうわ!」

???「見ぃや!ほら、きちんとレポートに書き直してワイのNokiaからメール送ったわ!履歴をよ!」

???「ほぉら見ぃ!きちんと下書きの所にあるやん!なっ!?」

???「……」

???「……いや、違うんよ?そういう事じゃないねんな、多分アンタらの想像とは違ぉとるよ?」

???「や、確かに一見すると、ワイが魔神に関するレポート書いたまま、送信するん忘れてたように――って何?ベイロープ?最後まで言わせてぇな」 グイッ

???「ちゅーかレッサーもフロリスもランシスも、なんでワイを掴もぅとするん?……はっ!?」 グググッ

???「……そかそか、恐かったんやね?なんぼエゲつない霊装持っとる言ぅても、アンタらはまだ子供やもんね……!」

???「やったら甘えてもええねんやで?このワイが全部受け止めたるさか――あ、あれ?なんか引っ張る力強ぉなってへん?気のせいやろか?」

???「あ、甘えんのは受け止めたるねんけど、もう少しだけ優しゅう――ってイタタタっ!?痛いですやんかっ!?」 ギュゥゥゥゥッ

???「そんなに全力で引っ張ったら千切れんねんて!?しかも個体個体が自我持つからっ!」

???「火の○の生命編みたいに誰が誰でワッケ分からん事になるからダメやって!」



381:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/06(火) 12:43:50.40 ID:Hjce1d0Y0

???「てか悪気は無かったんよ!見てみぃこのレポート!きちんと書いてあるやろ!?」

???「それにアンタらも悪いやんか!?なんや旅が始まっとぉ思ぉたら連絡も碌に寄越さひんし!」

???「ワイが!ワイがどれだけ心配しくさった事か!」

???「ある意味アンタらはワイの娘にも等しぃんのんに!ワイがどれだけ心痛めとったかっちゅー話――」

???「――ってランシスさん?ランシスさんはこっそりワイのケータイの履歴探すの止めてぇな?それプライバシーと違うん?」

???「ワイ、確かにもふもふやし人権もないねんけど、気ぃ遣ってくれてもいいとちゃうかな?空気読め的なアレやで?」

???「てかアンタ前から言ぉ思ぉとったけど、そういうトコあんねんな?計算高いっちゅーか、結構腹黒い割に大胆っちゅーか」

???「あとレッサーな、今小声で『ダイター○カムヒアー』言うても誰も拾えへんよ?」

???「”大胆”と”ダイター○3”かけたと思うんやけど、ワイみいなツッコミにCP振ってる人ぐらいしかキャッチ出来ひんからね?」

???「なに?『勇者指令ダグオ○を拾った奴が居る』?……世界は意外と広いんやねぇ……」

???「……」

???「……えーっとなぁ、ほれ。誰が悪いとか犯人捜しは止めよか?なぁ?」

???「別に誰も悪くないんちゃう?ワイはそう思うよ?」

???「……ま、でも敢えて!敢えて犯人捜しをするんやったらば!」

???「バンナ○が悪い――って待ちぃな!?またセンセー言い終わってへんよ!?処刑執行するんやったら最後まで言わせてぇな!?」

???「いや、あんな?出たやん、Gジェ○?」

???「携帯ゲーム機で新作出しよらんと、なんかモバゲーばっかりやんか?」

???「しかも最新作言う割にはアレもコレもシステム廃止しよるし、何が新作やねんっちゅー話や」

???「なんかもうアレよね。格ゲーが複雑化しすぎて初心者離れて行きよったのとは対象的に、SLGは単純化しすぎるとダメやね」

???「ベーシック機体の導入とOVER WORL○のコアインパクトは良かったんよ。最初から強すぎんのも引くし、任意で難易度上げられんのも」

???「ただなー、多段ヒットと変形機構無くして、アシュタロ○の存在意義を奪ぉたのは納得いかんし」

???「あとスキルが個人で選べるようになったやろ?あっれーはダメダメよ?汎用性が高過ぎると、弱キャラ育てる意味が無くなんねんなー」

???「他にもワイ的にはザンスパイ○のスペシャルアタックの演出、元へ戻して欲しかったやんなー」

???「てかザンスパは誰に乗せるかんでセンス分かれるやんか?あ、ワイはエリス=クロー○に乗せとぉねんけど」

???「パイロット服も機体の色とオソロやし、個人的にはザンスカのテストパイロット的な感じっちゅー解釈をやね」

???「おとうちゃんがザンスパの開発者で、エリ○がテストパイロット的な」

???「マリ○主義がこれ以上広まんのを恐れたおとうちゃんが、娘に機体託して逃がすねんな」

???「追っ手と戦ってるウチに、マー○らのキャリベに保護され、傭兵として戦い始めぇ」

???「つっても最初からザンスパは使えへんよ?逃げ込んだ直後はブラックボックスの塊みたいなもんやし、整備班もよう直されへんやろ」

???「なんで鹵獲したMSを開発しとる間に――ってのがいいと思うわ」

???「……てか、レイチェル……どないしよるんかなぁ……?デバイスレイ○の頃からのファンにはキッツイねんな……」

???「うん、まぁそんな感じでもうすぐデンドロ作れんねんね。ちょっと夢中になってた言ぅか、あるやん?そうゆうの?」



382:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/06(火) 12:45:15.12 ID:Hjce1d0Y0

???「むしろワイ頑張ったんちゃうんかな?序盤のステージでコツコツと――ってギィヤアアァァァァァァァァァァァっ!!!?」

???「削除だけはっ!?削除だけは堪忍しぃや?!てかアンタらそれでも人の子ぉかい!?」

???「ジ○からデンドロまで作んのにどんだけ時間遣ぉた事か!人の努力を足蹴にしよってからに!」

???「アンタを育てたヤツ出て来ぉ!ワイが直々にお説教したるわ――」

???「――って育てたんワイないかーーーーーーい!ルネッサーーーーーー○!」

ピッ

???「ってレッサオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォアアァァァァァァァァァァァァっ!?」

???「アンタ――アンタホントに何してくれよったんかっ!?ワイがどんだけの思いでフルバーニア○育てたかっちゅーねん!」

???「宇宙適正以外アホみたいに低いのんに、紙装甲だから使い辛いの我慢してやなぁ!」

???「後々ネオジオン○設計用に取っとこう思ぉたワイの開発計画を――何?」

???「『消してない』?そ、そうやんな?アンタらそないな酷い子ぉちゃうもんね?」

???「信じとぉたよ!ワイはアンタらがそないな外道やな………………うん?」

???「……あるぇ……?ユニット一覧にフルバニおらへんね……?」

???「その代わりに見慣れない赤いユニットが……どらどら?」

???「あー、ガーベ○やんね、これ」

???「……」

???「開発しとるやんっ!?てかこれワイの欲しかったMSちゃうよ!」

???「しかもこれ発展性が改ぐらいしか無ぉて、どん詰まりですやんか!?」

???「これでガチャ回すしか手に入ら――って何よ?何でみんなでセイセーもふもふしとぉん?」

???「なんか、こう、手で適当に大きさ見繕ぉてるようで、ごっつ不安になんねんけど……?」

???「や、まさかワイを適当な大きさに千切って持ってこうとか、そういう事やあらへんよね?アンタらそこまで外道とちゃうもんね?」

???「成り行きとはいえ、魔術師の師匠であるワイを100均でよぉ売れるドイツ製の消しゴムスポンジみたいにカッティングせぇよね!」

???「――てか携帯ストラップ取り出して目算立てる止めてぇな!今まさにワイの危惧が現実になろうとしてるやん!?」

???「だから千切るのはアカ――」

プチッ



――『ここまでのあらすじ』 -終-



390:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/13(火) 12:43:14.29 ID:tiewVY9N0

――『闇、海より還り来たる』



391:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/13(火) 12:44:32.10 ID:tiewVY9N0

――2014年10月8日8時過ぎ ロンドン『必要悪の教会』 ステイルの私室

Chirp, chirp, chi-chi-chi-rp……

ステイル「………………」

ステイル「……寝てないよ?}

ステイル「今のは少しウトウトしてただけで、僕はずっと起きてた」

ステイル「嘘だというのであれば、まず異論を挟んだ方が証明すべきじゃないかな?」

ステイル「……」

ステイル「……あぁクソ、眠ってた……」

ステイル「……」

ステイル「……ちなみに、極東の島国じゃスズメの鳴き声を『Chun-chun』と言うらしいね」

ステイル「……」

ステイル「……顔、洗って来よう……」

~10分後~

ステイル トントン、ポシュウウッ、ジジジジジジ……

ステイル「……ふうー……」

ステイル(朝食も採らずに――いや、採”れ”ず、徹夜明け……)

ステイル(……あの女狐め!何も、こんな時に溜まってる仕事を押しつけなくたっていいだろうに)



392:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/13(火) 12:46:08.09 ID:tiewVY9N0

――『必要悪の教会』・廊下 回想

ステイル「……げっ」

スチュアート「人を見たりに『げ』とは、最近の若者言葉も変わりたるものなのよなぁ、ステイル?」

ステイル「いいえ、そんな事は全くありませんとも。色あせぬ名画のようにお美しい最大教主」

スチュアート「それは遠回しにババアだと申したる候?」

ステイル「急いでいますので、失礼しますね」 スッ

スチュアート「否定はされし方が良かれなのよ!?――って、あらあらまぁまぁ、これはこれは」

ステイル「言葉を何回も重ねるとバカがバカに見えますよ?」

スチュアート「んふふー、両手一杯にお菓子を抱えてどこへ参るの言うかしらー?レディへ持って行くには野暮だと申したるけどー?」

スチュアート「もし私なら花束の方が好み足りけるのだが?」

ステイル「あの子が帰って来ているでしょう?なんでも『日本のお菓子が食べたい』ってダダ捏ねたらしくて」

ステイル「なので仕方が無く、と」

スチュアート「ステイル!あぁステイルよ!」

ステイル「あ、すいません。そういうのいいんで」

スチュアート「何か忘れたりし事は無きか?」

ステイル「忘れている事、ですか?急を要する案件などは特に無かったようですし」

ステイル「『S.L.N.』の掃討は終了、事後処理で行政との折衝が幾つか残っているだけ――ですが、それは僕の管轄ではありませんし」

スチュアート「んむ、概ね合うているのよ。この私もようやく昨日、金冠ババアと別れられて気分爽快だわ」

ステイル「……一応、国のトップを”金冠ババア”呼ばわりは……」

スチュアート「だけれども!私の所へ連中の報告が上がって来ないというのは怒り心頭なりしの!」

ステイル「報告……あぁ、今作っている最中です。確かに作業が遅れているのは事実ですが」

ステイル「というよりも、最大教主?あなたが『この情報は集団が共有するのはマズい』と仰ったため、僕一人でまとめる必要になっ――」

スチュアート「すーてーいーるー、すーいーてーーーーるーーーーーーーー!」

ステイル「ですから、なんです?」



393:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/13(火) 12:47:47.67 ID:tiewVY9N0

スチュアート「あらあらまぁまぁどうしたことなりし事なりけるのかしらー?」

スチュアート「まさか禁書目録が里帰りしただけなのに、まさか業務に差し障りがあるとはなぁ?」

ステイル「それとこれとは別の話だと思いますが?」

スチュアート「これは私の有能なる部下のために、禁書目録を早ぉ返さねばならないたるかしら?かしらー?」

ステイル「(……このクソババア、調子に乗りやがって……!)」

スチュアート「んー?何か申したかー?んんー?」

ステイル「……分かりました。ではこれを届けたら直ぐにでも取りかかります」

スチュアート「あー、いやいや。それには及びたりける事無かれ、なのよ」

スチュアート「ここはほれ、親切で友愛深い上司が代わりに運びたりけるゆえに」

ステイル「……極東の島国じゃ、”友愛”って言葉は」

ステイル「『故人献金を受けた現役総理大臣の担当秘書が、次々と事故で亡くなるが全く報道されない』とか」

ステイル「『現役総理大臣がテロ支援国家に亡命中のテロリスト、その息子の政治団体へ政党ぐるみで億単位の献金をしていても報道されない』とか」

ステイル「『総理大臣になる議員が政権交代直後、外国人の互助会へ顔を出して”選挙協力ありがとう”と言っても報道されない』って」

ステイル「『自称ジャーナリスト様に取って都合の悪い真実を国民へ報道しない権利』、を指して”友愛”というらしいですが」

スチュアート「うむ、それは知らなかったことあるけりよの!」

ステイル「面の皮が厚い――年輪か」

スチュアート「なので早くレポートを書く作業へ移りたれ!」

ステイル「……ちっ」

スチュアート「素直で良きかな良きかな――あ、もう一つ」

ステイル「まだなにか?」

スチュアート「提出を終えるまで禁書目録へ会いに行くのは禁止なりけるので、注意する事ぞ」

ステイル「なっ!?」

スチュアート「ではそういう事で失礼致すのでー」



394:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/13(火) 12:49:12.89 ID:tiewVY9N0

――2014年10月8日8時20分過ぎ 現在

ステイル「……ふぅ」

ステイル(徹夜も三日目となると堪える……っていうか、児童虐待じゃないのかい?とも思う訳だが)

ステイル(別に手早く済ませたい訳じゃないが、まぁ――まぁ、色々あるんだよ)

ステイル(って言うか鳴護アリサ――ARISAの凱旋コンサートの日だっけ、開演は確か夕方からか……)

ステイル(あの子も行きたがってたろうに、結局どうしたのかな……)

ステイル(妖怪年増ババアinロンドンめ!……報告書なんて今まで碌に目を通した事なんて無かったろうに!)

ステイル(第一調べるんだったら僕達なんか通さず、訳の分からない諜報員を使っているんだし!)

ステイル(サフォークでもそうだ!……『取り敢えず傍観なりたけるので、手出し禁止の事――ただし!逃げ出す信者が居れば保護するように!』)

ステイル(後は丸投げ。いつもの通りと言えばそうなんだけどね)

ステイル(オルソラを保護した一件のように、事態が解決した上、気が向けば説明はしてくれる……が)

ステイル(今回は何が気に食わないのか。計画の全貌すら僕は知らない……だと、言うのに)

ステイル(現場での指揮その他諸々の責任者は一任されてる。これを『信頼』と呼べはしないだろうね)

ステイル(結局、僕達がした事は民間人の保護、そしてバカ二人の確保と簡単な手当) ピラッ

ステイル(どこに書いたか……な、と。これこれ)

ステイル(『ヤドリギの家』教団施設、その施設の殆どは既存のそれと変わりが無かった)

ステイル(10年前に作られた建物が殆どで、最初から設計へ入っていた――の、とは少し違う)

ステイル(フォーマットの関係というか、ホテルはホテルだし、病院は病院としてしっかり建てられている)

ステイル(隠し部屋やら、各種怪しげな監視用の機器も無く。ホント、いい加減だよね)

ステイル(関係する魔術資料は病院の診療記録アーカイバの棚の中にあったし。や、まぁ素人が見ても身は分からないだろうが)

ステイル(残った連中を確保した後に、施設内の……えーっと、第一聖堂、だっけ?昔からある教会の方)

ステイル(そこの地下墳墓の中には、まぁブラッグロッジらしい”もの”が一杯あったけれど」

ステイル(まずは居なくなった人間達、そしてウィリアム=ウェイトリィ院長兼主教の屍体)

ステイル(一番奥、増設された部屋に原形を留めていない程、言ってみれば土に還るぐらいにボロボロになっていた)

ステイル(当然肉体の生命反応は無し。しかしクリストフ=ウェイトリィの術式、『世界樹の根』で生き長らえていた可能性はある)

ステイル(術式を埋め込まれて、無理矢理魔力を吸い出れられるのが、『生きて』居るのだとすれば、だけれど)

ステイル「……『世界樹の根(Root Yggdrasil)』」

ステイル(元々は前身であった、というか本来の『濁音協会』で研究がされていた術式か)

ステイル(言わば魔力の共有化――ある意味社会主義っぽい気もするけど、まぁ発想自体は悪くはなかった)

ステイル(個人で精製出来る魔力量はたかが知れている。ならば引き上げてしまえば強くなる、という概念)

ステイル(ポーカーで手札が5枚じゃ少ないからって、10枚へ増やせば強い役が出来るだろう、かな?)

ステイル(気持ちは分からないでもないし、多分に共感……というよりは同情する所もあるんだけれどね)

ステイル「……えぇと、昔の資料――どこ行っ――あった」

ステイル(新しい『濁音協会』の魔術師は途中でこの術式の開発を放棄した。いや、せざるを得なかった)

ステイル(あのバカなルーン使いが魔術師と資料破棄をしただけで、共同研究者であったウィリアム医師を放置したからだ)

ステイル(人道的?違うね、あの男にすれば『合理的じゃない』だけだったんだろう……今はもう知りようもないんだが)



395:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/13(火) 12:59:50.41 ID:tiewVY9N0

ステイル(どうにも制御なんて出来ない状態になった――筈、だった)

ステイル(その”神”の、方向性を決める相手――そう、アルフレド=ウェイトリィが居なければ)

ステイル(アルフレドの遺体……も、また殆どが炭化しており、原型は全く留めていなかった)

ステイル(『幻想殺し』が殺した……のなら。僕の敵はもっと弱っちくて楽だったんだろうけどね)

ステイル(これもまた副作用なんだろう。術式が切れたら院長を筆頭に、肉体の限界が来ていた人間達はそのまま屍体へ戻ったように)

ステイル(最初から生きていたのかも怪しい所だが――まぁそれは些細な事だ)

ステイル「……」

ステイル(この話、『濁音協会』の中心に居るのは紛れもなくアルフレドだ)

ステイル(パワーダウンしたとはいえ、弟と同じ時空間魔術を使いこなす)

ステイル(厄介な再生能力も、使い方さえ間違えなければ教皇級の魔術師と渡り合えるだろう)

ステイル(対外交渉能力も長けているらしく、『野獣庭園』や『殺し屋人形団』を巻き込む事さえやってのけた)

ステイル(ただでさえ個人主義が強い魔術師の中、限りなくフリーダムにやっている連中を?どうやって?)

ステイル(今時の自称魔術結社じゃあるまいし、自前のHPを持ってメールアドレスを公開してるじゃあるまいし)

ステイル(フツーの組織でも利害関係の擦り合やせ、お互いをどう出し抜くか、はたまた裏切るかと忙しいのに)

ステイル(どうやって渡りをつけたのか。残念ながらそこら辺の資料は残されていなかった)

ステイル「……」

ステイル(……そう、『なかった』んだよ)

ステイル(教団本部に残されていた魔術的な資料、その殆どはクリストフと『世界樹の根』に集約されていた)

ステイル(クリストフがどう産まれて、どのように改造されたのか……施術を施したのはウィリアム院長であったらしい)

ステイル(まるで――という言い方は正しくないんだろうが――モルモットのように事細かに記録が残されていた)

ステイル(……よくもまぁ付け焼き刃の魔術知識でどうにかしたもんだ、と褒めてやりたいぐらいだけれどね。ただ)

ステイル(普通、魔術師は他人に知識を盗まれるのを酷く嫌う。ま、僕らだけではないし、当たり前だけどね)

ステイル(なので研究資料を作ったり、残したとすればそれは他人には解読不能な所を入れたりする)

ステイル(異国の文字で書いたり、人によってはオリジナルの文字を作ったりするそうだ)

ステイル(アレだね。どっかのバカが不用意に表へ出してしまったヴォイニッチ手稿なんかが最たる例だ)

ステイル(中には最も大切な部分へ意図的に嘘を混ぜたりもする……ん、だけど)

ステイル(この先生はどうやら医者としての癖が抜けない上、僕達の流儀を知らないようで、実に正確且つ丁寧に記録を残してくれていた)

ステイル(……まぁ、自分が不治の病になったからって、誰かに研究を引き継いで貰うつもりだったのかも知れないが)

ステイル(なんだかんだで院長先生は多くの命を救ってきた。無償に近く、献身的で、人望をそれなりに集め、同業者から疎まれて)

ステイル(だがその結果、魔術に手を染め、全てをスポイルしてしまったんだが……)

ステイル(……この一件が表へ出る事はないのだから、彼は人格者として名を残すだろう)

ステイル「……」

ステイル(ただその魔術資料の中から、また病院の医療記録と出産記録の中にも)

ステイル(教団の残した裏帳簿のようなものですら、その名前は残っていなかった――)

ステイル(――『アルフレド』という名前が)



396:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/13(火) 13:01:28.99 ID:tiewVY9N0

ステイル(信者――真っ当な判断を残しながら運営していた、テリなんとかって女――へ聞いても、『お兄さんが居たんですか?』とビックリされるし)

ステイル(他の人間へ聞いても大抵同じ反応が返ってくるだけ。いい加減飽きた――とシスター・アンジェレネの報告書には書いたあったよ)

ステイル(二人とも外見はそっくりだった)

ステイル(これはまぁ双子だったとすれば説明がつ……かない事もないし、あの双子が魔術的に同調しているのであれば、まぁまぁ分からないでもない)

ステイル(『他人の意志を受けて振舞う』特性がある以上、どっちかの外見をコピーした可能性もある)

ステイル(けれどクリストフですら載ってる出生記録や戸籍、その他研究データの中に、アルフレドが一切登場してこないのは何故だ?)

ステイル(几帳面を通り越して、神経質なまでに記録を残していた老医師)

ステイル(自らの息子を差し出す事すら厭わなかったのに、どうしてもう一人の息子には無頓着なのか?)

ステイル(セオリーであるなら、情も排した僕達の流儀に則るのであれば、素体を二つも手に入れられた以上、どちらかを『予備』とするか)

ステイル(もしくは医師が高翌齢である以上、助手兼後継者と目論むのが自然だと言える)

ステイル「……」

ステイル(ウェイトリィ老医師が研究データをそのまま残していたように、素人ならではの発想がある、か……?)

ステイル(……考えても仕方がない。次へ移ろう) ピラッ

ステイル(次は……あぁなんだっけ?子供達の数が合わない?)

ステイル(名簿と生き残った連中、そしてそうではなくなった人間)

ステイル(彼らのすり合わせをしていたら、一人だけ行方不明になっていた。そうアニェーゼ達からの報告があったと)

ステイル(なんだろうね、こうワープロソフトで数字を入れて見積もり出したら、何かズレてるとか。一人だけってのも気に入らない的な)

ステイル「……」

ステイル(……多分、あのバカどもは勘違いしているだろうけど、今回の件、僕達は遊んでいただけじゃないからな?)

ステイル(戦いってのは戦いそのものも大切だけれど、それ以上に前後も大切でさ)

ステイル(サフォーク騒動もそう。事件の前には他からの間諜も入ってて、そっちとの調整もしなきゃいけない)

ステイル(また当然騒ぎが大きくなって、施設内から警察へ通報してきたら、それも何とか誤魔化す必要がある)

ステイル(中から逃げてくる信者達の保護、怪我人の手当、また彼らを受け入れられる施設の確保)

ステイル(終ってからは彼らの身の振り方や事情説明をしなければいけない)

ステイル(――以上全てを『魔術なんて存在しない』前提で進める必要がある。それも、速やかに)

ステイル(……昔の記録を読んでいると、だ。関わった人間皆殺しだなんて、物騒な話はいくらでもあるし、今でも必要があれば躊躇いはない)

ステイル(けれども実行へ移した話が殆ど聞かないのは……良い事なのかな?)

ステイル(この世の中、人一人消すのがどれだけ難しいか。親兄弟に親戚知人に友人、メル友だかSNS繋がりにツイッターやフェイスブック……)

ステイル(他人と”繋がる”ツールが発達しすぎて、どこから足がつくか分かったもんじゃない)

ステイル(また科学サイドほどの徹底的な情報操作――という割には甘い気もするが――も出来ない。パソコンに魔術はかからないからだ)

ステイル(いったん広まった情報は回収不可――何代か前のイギリス王子が未成年と淫行したスキャンダルも、手が着けられなかったしね)

ステイル(国家権力と繋がってるとは言え、それらの『隠滅』する対象が広がれば広がるほど面倒臭くなっていく訳だからね、これが)

ステイル(……まぁ、魔術と魔術師の存在をある程度知らせた上で共謀するのであれば、まだ楽なんだが……生憎、味方にすら僕らを知られる訳には行かない)

ステイル(なので僕達がどうしているかと言えば、『放置する』んだよ。ある程度知っただけの人間であれば)

ステイル(どこかの熱血バカの東洋人の場合、僕らがあの子を連れ帰ったとしよう)

ステイル(そうすればあの幼女ホイホイは何らかのアクションを起こす筈――っていうか、絶対に、起こすね。賭けてたっていい)

ステイル(周囲へ話して助けを求めるのか、ネットで暴露して支持を得るのか)

ステイル(もしかすると直接乗り込んでくる――って可能性が一番高い気がするけどね)

ステイル(――ただ、現実は非情なんだ)



397:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/13(火) 13:05:23.22 ID:tiewVY9N0

ステイル(いきなり『悪い魔術師が友達を攫っていったんだ!』とぶち上げて、一体どれだけの人間が信じると思う?)

ステイル(動画があっても合成だと判断されるだろうし、ネットにしろ相手にされない。”良くて”売名行為と思われるだけで、最悪――)

ステイル(――ただの”気狂い”と判断され、あのBBAキラーを信じる者は居なくなる)

ステイル「……」

ステイル(……ん?ふと思ったんだが、というか……これはきっと三徹した僕の妄想なんだろうけど)

ステイル(あの子とラッキースケベ量産機が出会ったのは『偶然』なんだろうか?)

ステイル(その後の世界状況にしろ、魔術サイドでは僕達イギリス清教が一人勝ちしている状態――CPを女運に全振りした男によって、だ)

ステイル(最大教主はもしかして、最初からそれを狙って……?)

ステイル「……」

ステイル(……えぇとね、そのだ。世界には『方向性』とか、『規則性』なんてものはないんだよ)

ステイル(何も無い所で転んだとしても、それは悪の組織の陰謀ではなく、ただ単に転んだって結果があっただけで、それ以上の意味は無い)

ステイル(世界も同じく。日々目まぐるしく様々な者や物が変わってるけれど、そこに特定の意図された動きはない)

ステイル(そしてそれを説明”出来る”と信じ込んでしまえば、『何でも出来る悪の組織が仕組んでいる!』って結論へ行かざるを得なくなる)

ステイル(信じるのはまぁ勝手だけれど……そこまで行くと宗教の範疇だね)

ステイル(……たまーにさ、オカルトや政治関係の匿名掲示板を覗く事があるよ。趣味じゃないけどね)

ステイル(どこでどう危険な知識が広まっていやしないか、確かめるのが目的――なん、だけども)

ステイル(中には『一国の宰相レベルでしか知り得ない情法』やら、『マフィアと政治家が癒着している』的な話もチラホラとある)

ステイル(訳知り顔で教えて”やる”という人間はどこにでも居るけれど、あれを見ていつも思う――)

ステイル(――そんな重大情報握ってんだったら、マスコミか第三国で発表すればいいじゃないか)

ステイル(日がな一日、朝から晩までハロウィンもニューイヤーも関係なく書き込む彼ら、そのバックボーンの方が興味あるけれど)

ステイル(ほぼ全てが例外なく出所も分からない風聞の類、良くてゴシップ紙の『消息筋』からの伝聞)

ステイル(よくまぁ信じる気になれるというか……そのメンタルを褒めるべきかもしれないね。僕はゴメンだが)

ステイル(魔術も存在が隠され続けているのも、そういう益体もない人間のお陰なのかも)

ステイル(情報の氾濫。それが返って信憑性全てを失わせてしまうのに気付けない)



398:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/13(火) 13:06:32.24 ID:tiewVY9N0

ステイル(もしもあの歩くフラグ製造器目当てに最大教主が画策した、なんてのは妄想もいい所だろうな)

ステイル(……とはいえ疑念は残る、しかし確かめる方法が。方法、ねぇ?何か……)

ステイル(いっそのこと、何か適当な用件を作ってしまってだ)

ステイル(あのフラグ未回収で個別ルートに派生出来てない男を、最大教主に引き合わせてしまえば……?)

ステイル(あのBBAずっと昔からあの姿らしいし、適齢期を通り越しているのは間違いない)

ステイル(二人を結びつけてしまえば、あの子の貞操も……!)

ステイル「………………ふむ?悪く、ないね、むしろ良いな」

ステイル「これはジョークじゃなく、本気で実行へ移し――」

上条(想像)『初めまして!今日から”必要悪の教会”の一員になった上条です!』

ステイル(……)

トントン、ポシュッ、ジジジジジジ……

ステイル「……ふー……っ……」

ステイル(今、『必要悪の教会』ロンドン女子寮を爛れたハーレムにするビジョンが一瞬浮かんだ……疲れてるんだな、僕は)

ステイル(……えっと……なんだっけな。何で頭が痛かったんだっけ……)

ステイル(……あぁ、そうそう。足りないんだよね。、女の子一人)

ステイル(特徴を書き出して……警察か。僕らじゃ『双頭鮫』の方の活動まで手に負えない)

ステイル(あっちの方はマフィアだって話だが、生憎そう言ったアウトローな人間に知り合いは居な――)

ステイル「……」

ステイル(……『明け色の陽射し』、か。居たな)

ステイル(あそこのマニア向けボスの妹を助けたんだったか。ある意味貸し一つ……いや、ドナーティのホロスコープも含めて差し引きゼロ)

ステイル(上手く手懐けた男を、不幸にも僕は一人知っている。知っているけれど……頼りたくはない)

ステイル(……ま、最悪の最悪、アニェーゼ辺りから情報を流して貰えば良いさ。借りを返すのは僕じゃないし)

ステイル(さて、ではその子の特徴をレポートに……って何?USBメモリ?書類じゃなくて?)

ステイル(wavデータ……あぁ関係者からの聞き取りはしてあると……だったら最後までしてほしいけれどね)

ステイル(ま、仕事なんだから聞きますか。さて――)



399:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/13(火) 13:08:06.18 ID:tiewVY9N0

――MC201410XX-XXXX

女S「あーテステスー、聞こえてるかー?」

女S「突然こんなモン渡されてもな、私は専門じゃねぇんだけどよ」

女O「大丈夫なので御座いますよ、ほらここがマイクになっておりますので」

女O「ギザギザが振り切ったままになっていなければ、適量で録音されているとのお話で」

女S「ギザ?あぁ、これね。名前は分かんないけど、ミキサー的なアプリについてるヤツか」

女O「それで『エレーナとイワンはもう家に帰ってんだ』とは、一体どういうお話なのでしょうか?」

女S「どこまで巻き戻ってんだ!?てかいつの話よ!?」

女O「あ、ボリュームが振り切ってます」

女S「いや、だから!大声上げさせてんのは誰だ!」

女O「シェリーさんではないでしょうか?」

女S「確かになっ!実際に声張ってんのはあたしだけれども!そういうこっちゃなくてよ!」

女S「つーかこれ、私の名前言ってるし……あぁ面倒クセェ、つか良いか別に。どうせあの若オヤジが聞くんだよな」

女S「だったら勝手に編集でもしてろっつーの。で、来てるのかしら?」

女O「はい。先程からずっとこちらに」

女S「見られてんじゃねぇかダメダメなとこ……まぁ、それも別にいいや」

女S「それで?あなたの名前は?」

女O「オルソラ=アクィナスと申――」

女S「あなたじゃないわね!?っていうか今、明らかに私はそっちの人を見てたでしょうっ!?」

女O「で、こちらの方がシェリー=クロムウェルさんといって、美術大学で教鞭を――」

女S「おい誰かコイツを連れて行ってくれ!」

女O「相手に信じて頂くにはまず自分から、で御座いますよ?」

女S「時と場合よね?今、話をちょっと聞くのに必要はないわよね、主に私達の個人情報は?」



400:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/13(火) 13:10:12.85 ID:tiewVY9N0

テリーザ「え、っと、その、いいでしょうか?」

女S「あんっ?」

テリーザ「ごめんなさいごめんなさい!わたしは何も見てませんっ!だから命だけは!」

女S「……何?このリアクション?睨んだのは悪かったけどよ」

テリーザ「上条さんから『取り敢えず謝っとけば何とかなる!』って」

女S「なる……か?」

女O「多分その名前が出た時点で、恐い方は手出し出来ないと思いますよ」

女S「まぁ別にだ。取って喰おうって訳じゃないのよ、少し聞きたい事があるってだけで」

テリーザ「は、はぁ」

女O「あなたが子供達のお世話をされていたと聞きましたが、それで合っておりますでしょうか?」

テリーザ「あ、はい。基本的にわたしが、していました」

女S「子供達は三人だけ?名前を言って貰ってもいい?」

テリーザ「ケインとカレン、クリスタです」

女S「……んー……それじゃ、少し前には女の子が居たんだよな?」

テリーザ「いいえ、居ませんでしたよ」

女S「何?」

テリーザ「わたしが請け負った、っていうか勉強を教えていたのはあの三人だけですし。他に子供が居たなんて知りません、けど」

テリーザ「それが、何か?」

女S「あー……ちょっと待って貰って構わないかしら?少し、他の子の話とも合わせないといけないから」

テリーザ「後であの子達と会わせてくれるんですよねっ?」

女O「勿論で御座いますよ。それでは少し世間話等を――」



401:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/13(火) 13:10:59.18 ID:tiewVY9N0

――私室

ステイル(……知らない?どういう事だ?)

ステイル(もう一人の子供、名簿には載っていた筈だけど……) ピラッ

ステイル(……いや、こっちの帳簿には記載されていない。それじゃこの先生が言っていた事が正しい、筈だが)



402:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/13(火) 13:11:44.79 ID:tiewVY9N0

――MC201410XX-XXXY

女A「はいどーも。それでは自己紹介しちまってくださいよ。まずは名前を」

ケイン「……ケイン、ケイン=パワスカァだ」

女A「ケイン?ケインですかい?」

ケイン「……なんだよ」

女A「いえね、名簿にはパワスカァってぇ名前はあるんですが、ケインではねぇんじゃねぇですか?」

ケイン「……カイエンヌ。長いしイギリス風じゃないから、ケインって言ってるんだよ

女A「へー?女の子みたいな名前ですね」

ケイン「……だよ」

女A「はい?今なんて?」

ケイン「女だよって言ったんだ!」

女A「あー……まぁ、二次性徴前ですし、美少年に見えるっちゃ見えますがね」

ケイン「俺はどうだっていいだろ!それより何の用で呼んだんだよ!?」

女A「あーもう、興奮しないで下さいな。お友達とは用事が済んだらお引き会わせますし

ケイン「……」

女A「あなたの『立場』ってぇヤツには同情しますがねぇ、そう誰彼構わず突っかかってたら、最後には誰も相手にされなくなっちまいますよ?」

ケイン「アンタに何が分かるんだよ!歳だって俺とそんなに変わりないじゃないか!」

女A「分かるってもんですよ。だって私も孤児ですから」

ケイン「え」

女A「両親を殺されてストリートチルドレンまっしぐら。いやー、毎日が大変でしたねぇ」

女A「色々あって、仲間と一緒に助けられましてね、流れ流れてロンドンまで来ちまいましたよ、えぇ」

ケイン「……」

女A「確かにあなたは『不幸』なんでしょうけど、それはそれ、これはこれ」

女A「同情を引きたいのと、世界を相手にして生き残っていくのは別の話ってぇ話です」

女A「人間、どうやっても一人で何か生きられっこねぇんですから、どっかで折り合いをつける必要がある。違いますか?」

女A「差し出される手が善意か悪意か?……経験上、多分そんな事で悩んでるんだと思いますけど」

女A「どっちだって良いんですよ。善意であれば成長してから恩に報いれば良いし、悪意ならばさっさと逃げ出せば」

女A「このくそったれな現実であっても、手を差し出してくれる物好きは意外と少なくねぇようでしてね」

女A「折角拾ってくれるって人が居るんですから、少しは前向きに考えてはどうでしょうかね――と、柄にもなく説教しちまいましたね。すいません」

ケイン「……こっちもゴメン」

女A「いえいえ。では改めて質問なんですが――」

女A「――あっこの教団、子供は何人居ましたか?」

ケイン「四人だったよ。最後は三人になっちまったけど」

女A「……ですよねぇ。あなた方からの聞き取り調査じゃ、そうなってますよねぇ」

ケイン「セレナはまだ見つからないの?」

女A「……えぇまぁ。そうなんですけど、えっと……それじゃ、あなたがご存じの特徴とか教えて貰えませんか?」

ケイン「前にも言ったよな」

女A「念のためにですよ」

ケイン「アジア――たぶん、東洋人だった。日本語も話せたから、日本人なんだと思う」

ケイン「二週間ぐらい前に来て、また居なくなっちゃったけどさ」



403:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/13(火) 13:13:02.70 ID:tiewVY9N0

――MC201410XX-XXXZ

女AN「え、えーとですね。それでは今からあなたの尋問――じゃなかった、取り調べ――でもない、えぇと……」

カレン「質問?」

女AN「そ、それです!質問!質問をしたいと思います!」

カレン「緊張してるの?誰か大人を呼んできた方が良いんじゃない?」

女AN「し、失敬ですねこのお子様は!わ、わたしはきちんとしたシスターですよ!」

女AN「そりゃちょっとは若く見られますし、『全く、シスター・アンジェレネは!』とよくシスター・ルチアに言われますけど……」

カレン「あ、シスターさんアンジェレネちゃんって言うんだ?」

女AN「はっ!?巧みな誘導尋問!?」

カレン「わたしカレン。カレン=スウェドバーグって言うのよ。ヨロシクね」

女AN「は、はぁよろしくお願いします……?……じゃ、なくてですね!」

カレン「セレナちゃんの事を話せば良いのよね?えっとねぇー」

女AN「……な、なぜか会話の主導権があっちに……?」

カレン「肌がねー、すーーーっごくキレイなんだよ!Ceramics(陶磁器)みたいに白くてさーぁ?」

カレン「髪と眼も黒――っていうよりは、夜の色?見つめられたら、なんかヘンな気分になるしー」

女AN「へ、へー?写真とかないんですかねぇ?」

カレン「クリスが描いた似顔絵ぐらいはあるけど、わたしたち携帯電話も持ってなかったからねぇ」

カレン「クリスはママに懐いてたからなぁ」

女AN「……ま、ママ?」

カレン「うん。セレナちゃんってね、すっごい大人っぽいんだけど、意外とワガママなのよ」

カレン「わたしたちに『ママ』って呼ばせたりとかね」



404:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/13(火) 13:14:00.96 ID:tiewVY9N0

――MC201410XX-XXXZ

女L「……」

クリス「……」

女L「……その、ですね」

クリス「……!?」 ビクビクビクビクッ

女L「しょ、初対面の女の子にここまで怯えられるとは……」

女L「(事情が事情なので分かってはいても、堪えますね)」

女L「(しかし……やはり年が近いシスター・アニェーゼやシスター・ルチアの方が適任だったのではないでしょうか?)」

女L「(特に精神年齢の近――いけませんいけません!シスター・アンジェレネをガキだなどと思っては!)」

女L「(さて、この状態をどうしたら良いのでしょうか……?こんな時、あの子にするんだったらどうするか――)」

女L「(――って、考えるまでもないですが)」

女L ギュッ

クリス「っ?」

女L「大丈夫、あなたは一人ではありませんよ」

女L「苦しい時も、病める時も、不安で押し潰されそうになっている時ですら、あなたは決して孤独ではありません」

女L「天におわす、いと高きあの御方が、私達をご覧になっているのですから」

クリス「……」

女L「……私達は、とても弱きものです。体もそうですし、心はもっと」

女L「けれど、常にあの方は私達がどのような行いをしているのかを見て下さっています。ですから、ね?」

クリス「……ママ?」

女L「そう、ですね。慈悲深き聖母マリアも、あなたのお母様と同じようにあなたを見守り続けてくださるでしょう」

女L「ですから、あなたは真っ直ぐに生きなければいけません。誰に恥じる事無く、誰に後ろ指を指される事無く」

女L「誰かを陥れ、偽りの幸せを手に入れたとしても、それはきっとあなたの手には余る事でしょう」

女L「正しく生き、正しく死ぬ。そうする事によって初めて安寧と幸福を得られます」

クリス「……よく、わからない、けど」

女L「……今はそれでも構いませんよ。ただ、あなたが決して――そう、決して一人ではないと――」

クリス「それ、ママも言ってた……」

女L「そうですね。あなたのお母様はとても敬虔な方だったようです」

クリス「……違う、そうじゃなくって。その」

クリス「”おかあさん”ではなくって、”ママ”が」

女L「えぇと……なんて?」

クリス「つらいことや、くるしいこと、いっぱいあるだろうけど……」

クリス「……ほんとうにイヤになったら、ママのお名前を呼んでって」

女L「ママ、名前……?」

クリス「――そうすれば、いつだって『むかえにいくよ』って」



405:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/13(火) 13:14:38.04 ID:tiewVY9N0

――ステイル

ステイル ピッ

ステイル「……なんだ、これは……?」

ステイル(この子の言ってる”ママ”ってのは、子供達にしか見えない”ママ”――セレナって子、だよな?)

ステイル(やや年長の子供が、お姉さん風を吹かせて年下の子供に”ママ”と呼ばせる……まぁ、それはある、かも知れない)

ステイル(それは確かに、特殊な環境下へ置かれた子供達にとっては救いだ。それは、いい)

ステイル(だがなんだろう、これは?気味が悪い。まるでオバケの話をされているみたいで)



406:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/13(火) 13:15:24.10 ID:tiewVY9N0

――MC201410XX-XXAA

女S「それじゃあなたはそのセレナってぇ子を見た事はないのよね?」

テリーザ「えぇ、はい。子供達から話は聞くんですけど、居ないものは居ませんし」

女S「放置してたのかよ?」

テリーザ「あ、いえ具体的に続くようでしたら、何かしようと思っていたんですが、そのっ!」

テリーザ「あれぐらいの子供が、『大人達には見えない友達』を持つのって、割とあるらしいんですよ」

女O「イマジナリーフレンド、では御座いませんか?」

テリーザ「それです、それっ!」

女S「なんだそりゃ?幽霊みたいなものなの?」

女O「お友達が居ない一人っ子が、悪戯に作りだした疑似人格のようなもの、でしょうか?」

テリーザ「ですね。子供に取ってみれば現実と空想の境が曖昧ですし、また想像力も豊かですから」

女S「ふーん?ごっこ遊び、みたいな感じ?」

テリーザ「お人形さん遊び、しませんでしたか?あ、小さい頃ですけど」

女S「あー……」

女O「シェリーさんは今も現え――」

女S「やったわね!小さい頃には!」

テリーザ「あれの延長線上みたいな感じじゃないかなー、と……というかですね」

テリーザ「わたしも気にはなったんで、何回か『ご飯を一緒に食べられない?』とか、『先生とお話しさせてくれないかな?』とか」

テリーザ「本当に誰かもう一人居るんだったら、保護しなくちゃいけませんから」

女S「って言い切るって事はだ」

テリーザ「はい、そんな小さな子なんて居ませんでしたよ」

テリーザ「わたしがあの子達のお世話をするようになって二ヶ月ぐらいですけど、その間は全然」

女S「……ふぅん。それじゃ、まぁ……問題ない、よな?」

女O「で、御座いますのですよ」

女S「それじゃ以上で質問を終え――」

女O「ではこちらへどうぞ。子供達がお待ちなのですよ」

女S「だから!勝手に話を――」

プツッ



407:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/13(火) 13:17:23.78 ID:tiewVY9N0

――MC201410XX-XXAB

女A「そうですかい、他には何か?」

ケイン「ARISAの歌をよく弾いて歌ってくれたよ。すっげー上手でさ!」

女A「弾いた、のは何で?」

ケイン「んーと、キーボード?って言うのか?あの、電子ピアノ?」

女A「……あー、ありましたね。古そうなのが」

ケイン「後は何かあったっけ……?あ、お姉さんぶるっつーか、”ママ”って呼ばせようとしてたな」

女A「それはどうして?」

ケイン「俺に聞くなよ。クリスは懐いてたけど、俺とカレンはそういう歳でもないからな」

女A「……はい、まぁこんなもんでしょうかね」

ケイン「長いよー」

女A「それでは、こっちへどうぞ?お友達は……まだ終ってねぇみたいですが」

ケイン「あ、やった!お菓子食べてていいのか!?」

女A「どーぞどーぞ。今、紅茶でも――」

プツッ



408:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/13(火) 13:18:47.21 ID:tiewVY9N0

――MC201410XX-XXAC

女AN「ま、ママですかぁ?なんか、子供ですよねぇー?」

カレン「そうよね?わたしも笑っちゃったもん……あ、でもクリスはよくママって言ってたから、良かったんだと思う」

女AN「そ、それでは他に何かセレナさんについて、ありますかぁ?」

カレン「んー、そうねぇー……?日本語が上手かった、かな?やっぱり」

カレン「わたし達に、先生も教えてくれたけど、セレナちゃんの方がずっと上手かったし?」

女AN「そ、そうなんですか?どんな風に?」

カレン「気がついたらおぼえちゃってる、みたいな感じかな?こう、頭の中へスッと入ってくるみたいな」

女AN「そ、それは羨ましいかも……」

カレン「『お兄ちゃんに失礼のないように』って、頑張っておぼえたんだよー?ね、ねっ?エラいエラい?」

女AN「ふ、ふーんだっ!わたしだってすこしぐらいなら話せますよーだ!」

カレン「あ、そういう事言うかな?あなたって意外――でもないけど、子供っぽいよね?」

女AN「こ、こ、子供ぉ!?このわたしのどこが子ど――」

プツッ



409:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/13(火) 13:19:51.04 ID:tiewVY9N0

――MC201410XX-XXAD

クリス「……ママはね、おまじないが、とくいなの」

女L「お呪い、ですか?あまり……まぁ、良いでしょう。で、どのような?」

クリス「……わたしたちに、ぱぁっとすると、ぺらぺらになれるんだって……!」

女L「そ、そうですか……?それは良かった、ですね、えぇ」

クリス「むかしむかしにも、おなじことがあったんだけど、こんどはもうおきないんだって」

クリス「だから、おっきなお城をつみあげても、言葉をうしなわずにいいんだよーって」

女L「昔、とはいつの――」

カチャッ

女A「――っとすいやせん!シスター・ルチア緊急事態です!」

女L「はい!敵の魔術師の攻撃ですか!?」

女A「いえその……シスターアンジェレネが、尋問中の子供に泣かされた、って……」

女L「はいっ、ただちに戦闘準――はい?」

女A「……」

女L「あの……シスター・アニェーゼ?今とてもとても残念な言葉が聞こえたような気がしたんですが……?」

女A「……今、シスター・オルソラとシェリーさんで慰めてますが、その……」

女L「……」

クリス「……?」

女A「……も、もう終わりで良いじゃないですかね?他は全部終っちまってるようですし!」

女L「そう、ですね……」

プツッ



410:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/13(火) 13:20:59.97 ID:tiewVY9N0

――私室

ステイル「…………………………」

ステイル(音声データは以上だし、シスター・アンジェレネのこれからも不安でいっぱいだけれど……)

ステイル(……なんだろうな、これ?今の会話の中に、とても気持ち悪い何か、見落としているようなものがある気がする……けど)

ステイル(あまりにも残念過ぎるオチで、思考回路が働かない……まぁ、良いだろう)

インデックス「――っ!――――――ってば!」

ステイル(子供達にしか見えないのだから、それはきっと子供達にしか影響を――)

インデックス「――ねーえ!聞いてるのーーーー!?」

ステイル「あぁもうウルサいな。今ちょっと手が離せな――」

ステイル「……い」

インデックス「……?」

ステイル「――って君!?どうしてここに居るんだい!?」

インデックス「さっきからずっと呼んでるのにその反応っ!?おかしくないかな!?」

ステイル「ん、いや、ごめん……か?少し考え事――と、仕事をしていてね」

インデックス「めっ!だよ!聞いたんだからね!」

ステイル「……いや、そこまで怒られるのは理不尽だと思うんだがね」

インデックス「そうじゃなくて!あなたはご飯を食べてないって聞いたんだよ!」

ステイル「………………はぁ?」

インデックス「あーくびしょっぷ、って人が『仕事が好きしゅうて好きしゅうてしようがない』」

インデックス「『あぁ誰かあのロンゲ神父へご飯を運んでくれる剛の者はおらんのか……!?』って!」

ステイル「……なんかおとぎ話の鬼退治になってるけど……」

インデックス「だから私が、わーたーしーがっ!持ってきた上げたんだもん!」

ステイル「……あのクソ女……!まさかこのためだけに仕掛けやがったのか……!」

インデックス「ありがとうは?」

ステイル「……ありがとう、ございます」

インデックス「よし!それじゃ食べ終わるまで私が監視してるからね」

ステイル「……いや、そこまでして貰わなくたって――」

インデックス「……あれ、これ”シィ”なのかも」

ステイル「――構わないんだが、まぁ別に邪魔をしないんだったらば吝かではな……」



411:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/13(火) 13:22:12.13 ID:tiewVY9N0

ステイル「……何?」

インデックス「この魔術シンボルの解釈間違ってるよ?だってこれ”シィ”だもん」

411_1

ステイル(しまった!?『濁音協会』のシンボルマークを見られた!)

インデックス「ねー?ねーってば!聞いているのー?これ間違っ――」

ステイル「マズい!目を閉じるんだインデックス!精神汚染される可能性がある!」

インデックス「眼?……瞑れって言うんだったら、瞑るけど……それ、意味無いかも」

ステイル「だってこれは『クトゥルー』の”シィ”だ!君の中に眠る魔導書、ネクロノミコンに悪影響を与えるかも知れないんだよ!」

インデックス「あ、そういう心配?だいじょぶだいじょうぶ、それだったら問題ないと思うよ。だってこれ――」

インデックス「――『クトゥルーの”C”じゃない』んだもん」

ステイル「………………何?今君、なんて……?」

インデックス「これは『くとぅるー』の”シー”じゃなくて!別の”シィ”なんだよ!」

ステイル「いや待ってくれ!これは”シー”――何かの頭文字、Cだろう!?どう見たって!」

インデックス「あー……それ、勘違いかなのかも。ってか描いた人がイジワルなんだと思うけど」

インデックス「これはアルファベットの”シー”じゃないの!もっと古くて厄介な”シィ”なんだよ!」

ステイル「……分かった、オーケー、落ち着こう?」 ボシュッ

インデックス「あーもう、たばこは体に良くないんだよ!」

ステイル「良いから話を続けてくれ。場合によっては今から日本へ飛ばなくちゃいけなくなるんだ!」

インデックス「……また?またとうまなの?」

ステイル「中心に居る訳じゃないが、その周辺をうろちょろしてやがるね、相変わらず」

インデックス「……わかった。それじゃ結論から言うけど、この文字は――」



412:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/13(火) 13:23:04.24 ID:tiewVY9N0

インデックス「――『シグマ』なんだよ」

ステイル「僕の知ってるΣ(シグマ)とは、大分違うようだけれど……ってか、似ても似つかな――」

インデックス「だから!『”小文字”のシグマ』!」

ステイル「……似てる、かな?だって”σ”だろう?」

インデックス「違うんだよ!それは『現代ギリシャ語』のシグマであって、昔のじゃないんだってば!」

インデックス「分かるかなぁ?ここ!ここに”点”がついてるの!」

ステイル「……えっと、アルファベットの”C”の、丁度真ん中辺りに”点”がついている?」

ステイル(『濁音協会』のシンボルは、水に映った波紋のようなものが背景にある。その中央部……言われてみれば”点”っぽく見えない事もない)

インデックス「昔のシグマは、『三日月形のシグマ』であって、単語自体が特別な魔術記号の役割を持ってるんだって!」

インデックス「それはクトゥルーなんかよりもずっと優しく残酷で!とてもとても旧い神なんだよ!」

ステイル「クトゥルーよりも、旧い?」

インデックス「……」

ステイル「どうしたんだい?」

インデックス「……そっか。もしかしたらそれが目的なのかも!」

インデックス「だって『あれ』もクトゥルーと同じ。死して夢見みながら、永劫の果てに再臨が約定され――」

ステイル「……?」

インデックス パタン

ステイル「――!?インデックス、インデックスっ!?」

ステイル(まさか本当にネクロノミコンと干渉したってのか!?……クソ、僕のミス――)

インデックス「……ぐぅ……」

ステイル「……………………うん?」

インデックス「……ぐー……むにゃむにゃ……」

ステイル「……なんだこれ?てか、寝てる……?」



413:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/13(火) 13:23:55.84 ID:tiewVY9N0

インデックス「……それはわたしのなんだよ!……うーん……」

ステイル(特にこれと言った異常は見当たらない、っていうかこんなベッタベタな寝言を言うが、敵の攻撃である訳がない、か?)

ステイル(魔力の流れを調べてみても……吐きそうなぐらい濃密で、這い寄るように不快なものが充満している……)

ステイル(良かった、”いつもと同じ”じゃないか……)

ステイル「そう……いつもと同じ、く……?」

ステイル(何か、間違っている、かな?何かおかしいような気がする……)

ステイル(ここは僕の部屋だ。とは言っても仕事部屋でしかないが)

ステイル(窓の外へ目を向けても、そこには夜空にポッカリと満月が浮かんでいる)

ステイル(あぁそうだ、今日は月蝕だったな。だからきっとおかしく感じたんだろう)

ステイル「時計は……AM9時16分……なんだ、もうこんな時間か」

ステイル(こんな真夜中まで起きていたのであれば、この子が眠ってしまうのも仕方がない) トサッ

ステイル(彼女をソファへ寝かせて……僕はどうしようか?)

ママ「――ぼうや、妾の可愛いぼうや」

ステイル「なんだい母さん――何?かあ、さん……?」



414:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/13(火) 13:24:31.20 ID:tiewVY9N0

ママ「闇の帳はとうに降り、良い子はもう眠る頃」

ママ「夜更かしする悪い子は、狂ったザントマンがやってくる」

ママ「『Danced and Turn(まわれまわれ)』と声をかければ、哀れな父は塔から落ちた」

ママ「お勉強は明日にしましょう?あなたの役目はもう終わり」



415:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/13(火) 13:25:22.93 ID:tiewVY9N0

ステイル「これは勉強じゃないんだけど……ま、あ、母さんが言うんだったら、うん」

ママ「煙草は消しておくれ。プロメテウスの道標はぼうや達には必要無いものだから」

ステイル「これを、消す?消した方が良いのかな?」

ママ「今まで辛かったろう?だから、しっかり消してお休み――妾の可愛い、ぼうや」

ステイル「そう、だね――」 ジュッ

ママ「はつかねずみがやってきた――」

ステイル「……でも、どうせ――眠るんだったら」

ステイル「この子の、となり――」

ママ「――はなしは、おしまい」

ステイル「………………」

ステイル ……スゥ

ママ「…………………………………………………………………………きひっ」



423:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/20(火) 12:31:53.78 ID:W4ZXiSrW0

――2014年10月4日(土) 路上

佐天「ちゃんらーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!」

佐天「初春っ!愛してるよ!薄い本的な意味でねっ!」

佐天「やぁって来ました『学・園・探・訪』!くぅーーっ!ついに昼間の時間帯にまで侵略しちゃうぜ!」

佐天「いやー色々ありましたねぇ。思い起こせば下積み時代からコツコツと――は、してなかった気も?」

佐天「グッダグダの深夜番組から初めて、ぶっちゃけロケと称してあちこち遊び回ってただけ、みたいな……?」

佐天「――はいっ!そんな訳で始めようと思うんですがねっ!」

佐天「今日は何とスペッシャルンなゲストが来てます!やったねっ!」

佐天「てゆーかタイアップ企画じゃないと昼間になんか来れないよっ!何かそんな感じはしてたけどさ!」

佐天「では張り切ってどうぞっ!『奇跡の歌姫』ことぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

佐天「アァァァァァァァァァァリィィィィィィィィサァァァァァァァァァァァさんの登場ですっ!」

鳴護「あ、はい、どうも。ARISAです……」

佐天「なんですかー?テンション低いですよー?折角なんですからもっと上げていかないと!」

鳴護「そうじゃなくて、さっきからアンチスキルの皆さんが『あそこで声張ってる子、なんなんだろう?』ってマークしてるみたいだし?」

佐天「カメラの前のJC大好きと着痩せマニアとファンに一言どうぞっ!」

鳴護「はい、頑張りますっ。よろしくお願いしますっ」

佐天「てか、お久しぶりですよー。ヨーロッパツアーは大丈夫?食べ物に困ったりとか?」

鳴護「えぇ、はい。レッ――スタッフの皆さんが良くして下さったので、不自由とかは全然。はい」

鳴護「イギリスでもタンドリーチキン、とっても美味しかったです!」

鳴護「向こうでも色々な方にお会いしましたし、楽しかったですよー」

佐天「ほっほぅ?例えばどんな方ですか?」

鳴護「ファンの方は勿論ですけど、旅先で仲良くなったお友達とか。レッサーちゃん見てるー?」

佐天「おっと!そこら辺は後で突っ込んで聞きたいものですが、まずはタイトルコールを読み上げて貰いましょうか!」

佐天「主にノルマ的なあれがあるんで」

鳴護「えっと、カンペカンペ――『がくえんとしななだいふしきたんはっじまっるよーー』」

佐天「続きはCMの後でっ!ちゃかちゃんっ」

鳴護「『ご覧の番組は、”未来に生きる?いいや今のは残像だ!”で、お馴染みのTATARAグループの提供でお送りします』」

上条「――ちょっといいかな?」



424:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/20(火) 12:33:05.20 ID:W4ZXiSrW0

佐天「なんですかカメラマンさん?」

上条「さっきからボケがタダ流れになってて、誰も拾おうとしないんだけど、これ問題ないかな?てか軽く放送事故だよね?」

上条「一つ一つ拾っていくと、まずアリサの紹介がJC・着痩せに続いてファンが三番目に来るのおかしくないかな?」

上条「あとツアーの感想はいいと思うんだけども、食事から聞くのってどうなの?」

上条「アリサもアリサで『タンドリーキチン、イギリス料理じゃなくね?』とか考えよう?」

上条「レッ――は、まぁフリーダムだし、一応向こうの立場も配慮しよう?」

鳴護「それだとマタイさんぐらいしか居ないんだけど……」

上条「そこは、ほら!ファンだって誤魔化しゃいいじゃん!あっちは去年のクリスマスコンサート褒めてくれてたしさ!」

上条「ついでに言わせて貰うとTATARAさんのキャッチフレーズがおかし過ぎんだろーが!?」

上条「”Innovation that excite○”とか!”面白カッコいいぜ!”みたいなのだったら分かるけども!」

上条「何をどうやったら中二病拗らせるんだよ!?あと、出来れば俺に読ませて欲しかった!」

佐天「『人生に於いて言ってみたい台詞』、の上位へランクインしそうな台詞ですもんねー」

上条「つーかボケ二人ツッコミゼロって、武闘家四人で魔王倒しに行くようなもんだよね?」

上条「最初のダンジョンで『あれ?回復誰も使えなくね?』とか、新しい街で『武器屋で誰も新調出来なくね?』って不安に思わないかな?」

上条「もしくはモンスター四体で塔を登るような感じかな?つーか正攻法から行くとカミ結構強いし、詰んでるよな?」

佐天「理論上はクリティカル連発すれば何とかなるかも知れません!」

上条「それ『アイドルと結婚する可能性はゼロじゃない』って毒男が言ってんのと同じだよね?否定はしないけどさ」

上条「でも浜面の中(予定)の人がアレして、関係掲示板が怨嗟の声に包まれてるのを見ると……」

佐天「玉蟲(オーム)ばりの怒りが世界を覆っちゃってる気がしますよねっ!」

上条「ある意味君達も地雷原に立っている訳だが……俺はいいと思うんだけどなぁ、大人なんだからさ」

上条「てか、番組このままじゃツッコミ無しのグダグダしたもんになるけど、いいの?こんな番組だったっけ?」

佐天「いつもは初春とか御坂さんや白井さんも巻き込むんで、誰かは拾ってくれるんですけどねぇ」

鳴護「二人で商店街レポートした時も、こんな空気だったよね?」

佐天「あれはあれでニコ○のように、視聴者さんがツッコミ入れるんで好評だったようですが!」

上条「……いいのかなー?俺が昔見てた頃のテレビって、もっと手の込んだ作りしてたような……?」

佐天「あ、それじゃ上条さん適当にツッコんできて貰えますか?水曜どうでしょ○みたいに、カメラマンさんが入ってくるのってありますし?」

上条「……絶対に視聴者から抗議殺到すると思うが……まぁ、今更だけどねっ!」

上条「アリサも少しはツッコもう?アイドルとしても拾う勇気を忘れないであげて!」

鳴護「それ、アイドルに必要なスキルとは思えないんだけど……」

上条「そう!そんな感じでもっと元気に力強く断言して!」

鳴護「だからそれやっちゃうとあたしの中のアイドル像とはかけ離れるんだってば!」

佐天「あ、Aパート入りまーす」



425:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/20(火) 12:34:14.50 ID:W4ZXiSrW0

――ファミレス

佐天「――はい、そんな訳で移動してきましたファミレス。和食レストランで、デザートのスイーツが充実している所ですよー」

鳴護「今日のオオスメはブルーベリーパフェとダブルモンブランかぁ、迷うなぁ」

佐天「あ、取材費と称して食事代はせしめてあるんで、どうせだったらドカーンと注文されてもいいですよ?」

佐天「『TATARA』さんがねっ!スポンサーの『TATARA』グループさんが張り切っちゃいましてねっ!」

鳴護「スポンサーさん連呼するのはどうかと思うけど……」

佐天「いえ、視聴率はイマイチ奮いませんが、カルトなファンを味方につけたようでDVDの売り上げは中々なんですよね」

佐天「ただ何故か1万枚刷っても必ず30枚余るという謎の現象が!」

鳴護「ファンの人が結託してるー、みたいな?」

佐天「それにしたって意味がないと思うんですよねー、って注文決まりました?」

鳴護「大丈夫ですよ」

佐天「では、すいませーん!注文良いですかー?」

鳴護「佐天さん、呼び出しのボタン付いてる……」

店員「――はい、ご注文お伺いします」

佐天「ドリンクバー三つとケーキセット一つ。アリサさんは?」

鳴護「パスタランチと本日のお勧めランチ」

佐天「おぅ?お昼ご飯まだだったんですか?しかもカメラマンさんの分も注文するなんて、中々気が利――」

鳴護「――と、天ぷら盛り合わせとと揚げ出し豆腐、鶏の唐揚げ」

佐天「――す、よ、ねぇ?」

鳴護「カレイに煮付けに鯛のあら炊き、ぶり大根と豚の角煮と、あと、そうだなー」

鳴護「牛肉ときのこのクリーム煮、牛肉とトマトのオイルソース炒め、牛肉の香味揚げ、牛肉のベーコン巻き」

鳴護「ビーフステーキにビーフシチューと牛タンのワイン煮、かな?」

佐天「……あの、すいません?」

上条「こっち見んな。つーかアリサは普通に食うから」

佐天「そっちの心配じゃなく、予算的なものがですね」

上条「あ、すいません。柴崎さーん!どうせどっかで隠れて尾行(ツケ)てんでしょー?」

柴崎「――ご無沙汰しております。あ、マネージャーの柴崎と申します」

上条「えっと……うん、その、な?」

柴崎「委細承知しておりますので、ご心配は必要無いかと存じます」

佐天「……あっのー?たった今まで隣の席でノーパソ打ってたサラリーマンさんが、何がどうしたらマネージャーさんなんでしょう?」

佐天「てかあからさまに堅気っぽくねぇぜ!って感じなんですが」

上条「前職――前々職がSP?だかって話で、うんまぁそんな感じで」

柴崎「あ、すいません。カメラNGなのでアリサさんへ向けてて貰えますか?」

上条「嬉々としてスイーツ注文する姿はファンにも知られたくねぇだろ!」

佐天「いやぁでもギャップ萌え!みたいなのは期待出来るかもですよ?」

上条「ギャップっつーか、そのまんまな気がするが……」

佐天「あー、テレビではよく拝見してましたし、こないだ食べ歩き番組ご一緒させて頂いた時にも見たんですけど」

佐天「あれはまだ力の片鱗に過ぎなかった、と?」

上条「真の魔力を隠している魔王風に解説しないの。つか見てみてぇな、その放送事故番組」



426:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/20(火) 12:35:45.70 ID:W4ZXiSrW0

アリサ「――以上でお願いしますっ!」

店員「え、えぇっと?これホントにいいんですか?」

上条「POS端末の容量超えた、だと!?」

柴崎「自分から詳しくご説明致しますので、どうかお話を続けて下さい」

上条「すいません。つーか心底お疲れ様です」

柴崎「ぶっちゃけEUの方がまだ楽だったとか、決して口には出しませんが」

上条「言ってる言ってる。てかどんだけブラックなんですか」

佐天「――はいっ!という訳でARISAさんが大食いキャラだって再確認した所で――」

鳴護「いやだから、普通だって言ってるんですけど……あたしのお友達にも同じくらい食べる女の子も居ますし?」

佐天「食べた栄養がどこへ行っているかはお察しですけども!気になる人は写真集買うと分かるかもよーっ?」

鳴護「せ、せくはら反対でーすっ。だめ、ゼッタイ!」

佐天「セクハラも何も。ほぼ毎日初春のスカートめくってるあたしに死角はなかった!」

鳴護「死角っていうか、資格の間違いじゃ……?」

佐天「LIVEのブイ見ましたけど、ボディライン出まくり&超谷間見せつけるChuCh○系ドレス着て、何を今更だぜって感じでは?」

鳴護「あたしだってあんなの着るとは思わなかったよ!しかも最後の割には気を遣ってくれてるらしくて、転んでもいいようにショーパン仕様だったし!」

佐天「それでヨーロッパのライブツアーはどうでしたか?」 チラッ

鳴護「あ、カンペ見た」

佐天「ノルマの中に『8日に開催する凱旋ライブの宣伝もしてあげてね?』って、ディレクターさんから言われてまして、その前フリに」

佐天「『さり気なくね?あくまでもさり気なくだからね?絶対にさり気なくだからねっ!?』――と!」

鳴護「うん、だからそれフリじゃないもんね?」

佐天「いやーあたし、実はちょっと怒ってまして。お友達になったじゃないですか?」

鳴護「うん、あたしはそのつもりだけど……?」

佐天「忙しかったのは分かりますが、メールの一本もくれなくて寂しかったかなー、なんてですね」

鳴護「あー……はい、いやほんと、それはゴメンなさい」

佐天「一体上条さんとどんな爛れたツアーをしていたのかと小一時間!」

鳴護「してないよっ!?……し、してない、よね?」

上条「アリサも否定する時ゃはっきり否定する!あと残念な子はその場のノリで爆弾放り込むんじゃねぇ!」

佐天「まぁまぁ生放送じゃなかったら後で編集出来ますし――で、進展も含めておねーさんに言ってみ?んん?」

上条「考えろ、なぁ?場合によっちゃ俺がARISAファンから闇討ちされるんだからな?」



427:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/20(火) 12:37:46.22 ID:W4ZXiSrW0

上条「ただでさえ今はビリビリの追っ掛け達から『そろそろ社会的に消す?』みたいな――」

上条「……あ、それじゃ今と変わらないですよねー。そっかー、AHAHAHAっ!」

鳴護「当麻君、眼が死んだお魚さんみたいになってる……!」

佐天「ま、まぁ流石に今のは冗談ですって!冗談!」

佐天「あとファンの皆さんはくれぐれも自重して下さいねっ!誰も得をしませんから!早まった真似をすると回り回って」

佐天「『くっくっくっ、お前のファンがしでかしたんだから、誰が責任を取るかわかってんだろうなぁビリビリビリっ!』的な展開に!」

上条「ビリ一個多くないか?あとそれ多分佐天さんの脳内俺なんだよね?」

佐天「あ、ビリは服を破る擬音です!」

上条「佐天さん、俺会う度に言ってると思うけど、君あんま頭良くないよね?」

上条「『佐天さん巨乳説』には個人的に色々思わない所がない訳でもないと認めざるを得ないかも知れないけど、もっと成長しよう?精神的にね」

上条「初春さんのスカートめくり、通称公然露出プレイ(軽)にしたって、あれ下にショーパンツ履いときゃいいだけじゃねぇかな?」

佐天「あ、それ一回あったんですが、あたしが脱がしにかかったら諦めたらしくて」

上条「……初春さん、大人だよなぁ……」

鳴護「た、多分小学生時代の延長でやってるから、大きくなれば分かる、よ?」

上条「このまま育ったらいつかどこで地雷を踏み抜きそうで怖いが……ま、まぁ初春さんがフォローしてくれるだろうな!」

鳴護「全力で投げたよね、今?手に負えないからって人任せにしたよね?」

佐天「んでー?どうなんですかー、そこら辺はー?」

柴崎(カンペ) サッ

鳴護「『当――上条さんはスタッフとして、よくして下さってますし、年も近いので良いお友達だと思っています』……です!」

上条「今更”上条さん”つっても、編集出来るんだからいいと思うんだけどさ……」

佐天「あ、いえそっちじゃなくて。ツアーの方どうでした、ツアー?」

佐天「予定で行く筈だったロシアもキャンセルして、イタリアで二回やったんでしたっけ?」

鳴護「ですね。あたしも急なお話でビックリしましたー」

佐天「ユーロトンネルでも事故とかありましたし、心配したんですよ?もー!」

鳴護「えっと、はい、ありがとうございます……?」

柴崎(カンペ) サッ

鳴護「『ユーロトンネルでは混乱した中でも、多くの方が冷静に対応しようとしていたお陰で、被害は最小限で済みましたし』」

鳴護「『またロシアとウクライナの事は、一刻も早く両国の努力によって解決するように願っています』」

佐天「あの、マネージャーさんはアリサさんにカンペ読ませてないで、ご自分で言ったらいいんじゃないですかね?」

上条「台無しだなっ!?カンペ見てんだからバラすの止めてあげて!?」



428:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/20(火) 12:38:44.61 ID:W4ZXiSrW0

鳴護「て、いうか、佐天さんの方はどうだったの?」

佐天「そう、ですねぇ……別にフツーっちゃフツーでしたけど……あ、そういえば!」

佐天「去年の『エンデュミオンの奇跡』の前ぐらい、あたしや初春達でステージ上がったじゃないですか?」

佐天「前のマネージャーさんに誘われて、あたし達にもステージ衣装着せて貰ったの!」

鳴護「……ステージ、壊れちゃった時のお話だよね?」

佐天「ですねー。もうすぐ一周年って事でその映像を流してたんですが――」

佐天「――実家の母がその動画を見たらしくてですね、はい」

鳴護「あー……見られちゃったかー」

佐天「当然、激おこ」

鳴護「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!嫁入り前の娘さんにあんなハレンチな衣装着させてすいませんでしったっ!」

上条「そう、か?俺も見たけど、可愛かったよ?」

佐天「あざーす!……ではなく、母は言いました!」

佐天「『なんて事でしょう!恥をお知りないな、涙子!』」

鳴護「……あたし、佐天さんのお母さん知らないけど、多分キャラ違うような気がする……」

上条「てかその口調の母親からこの子が産まれる筈がねぇよ」

上条「や、でも内容的には合ってるか?露出は少ないようで絶対領域超えてたしなぁ」

鳴護「……当麻君?」

上条「一般論です!一般論!」

佐天「『――ノリで初春さんに負けるなんて、もっと前に出るべきでしょうが!』」

鳴護・上条「「言いそう」」

佐天「――と、厳しい訓戒を受けたような、受けてないような?」

上条「……どこまで盛ってると思う?」

鳴護「言われた、のはホントだろうし……『もっと前へ出ろ!』も、佐天さんのお母さんならやってくれる筈……!」

佐天「いやもうホント心配性でしてねー――で、アリサさんのお母さんはどうです?」

鳴護「あたし?」

上条「(それ地雷!)」

鳴護「あたしは――そう、ですねぇ。事情があってお母さんの事はよく分からないんですけど、その」

鳴護「佐天さんとお母さんの距離感って羨ましいですよねー。お友達!みたいな感じで!」

上条(……アリサ)



429:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/20(火) 12:40:06.51 ID:W4ZXiSrW0

佐天「ですかねぇ?こないだもですよ、『アイドルデビューはしないの?』みたいな感じで、えぇ」

鳴護「あ、だったらウチの事務所から出ちゃう?ってもあたしの個人事務所だから、あんまり大きな事は出来ないけど、安心だよ?」

佐天「マジっすか!?ネタじゃなく!?本気と書いてホンキって読む方の!?」

上条「それ、普通じゃね?」

鳴護「うん、マジマジ。なんだったら初春さんや御坂さん、白井さんと一緒にどうかな?」

佐天「いいですねー、それじゃユニットを組んだりしたり?例えば――」

佐天「――『スフィ○』とか?」

上条「縁起悪っ!?」

佐天「てかスフィ○ポーズ、寝かせてないで真っ直ぐ立てると『カネ』って見えなくも――」

柴崎(カンペ) サッ

鳴護「『ただ今一部の演者により不適切な発言がありましたが、それは実在・非実在する個人や団体に関するものではありません』」

鳴護「『仮に同じ名前であったとしても、それは偶然でありフィクションであるため、何ら関係性は御座いません』……と」

上条「スゲーな!こんな長文事前に用意してあったとしか思えない!」

鳴護「……あたし、どんなポカをやらかすと思われてるのかな?」

佐天「てかマジ話ですか?本当に?ネタではなくって?」

鳴護「大丈夫!絶対に安心だからねっ!」

上条「……何があったんだ、アリサ」

鳴護「聞いてよ当麻君っ!?だってあたしシンガーソングライター枠で応募した筈なのに、気がついたらフリフリの衣装着て踊ってたんだから!」

上条「やだ、そこだけ聞くと芸能界って超こえぇ」

佐天「素敵な感じで魂の叫びを感じますし、あっちのジャーマネさんも目を逸らしていますよ」

鳴護「もう一人でネットラジオのMCやるとかライブのMCやるのは寂しくて寂しくて……」

上条「誰か雇えばいいじゃん?他の事務所とか」

柴崎(カンペ) サッ

佐天「『最初はリーダーがやる気になったので、全力で止めた結果、誰も出来ない有様に』……って、変なカンペですね?」

上条「佐天さん佐天さん、君気付かなくて良い所には100%の確率で気付くよね?狙ったように踏み抜くもんね?」

鳴護「歌歌えとか踊れとか言わないから、MC関係だけでも前向きに考えてくれないかなっ?具体的には今度のライブから!」

佐天「お友達が困ってるんなら、お手伝いしたいんですけど……んーむ?」

鳴護「あ、じゃ収録終ったら事務所へ来て貰えるかな?大丈夫、細かい内容を詰めるだけだから!軽い気持ちで!」

佐天「どうしましょう?何か『否が応でも逃がさねぇぜ!』って強い意志が見え隠れするんですけど」

上条「……んー……無責任だけど、一回やってみてダメだったらそん時に考えればいいんじゃね?」

佐天「また無責任な」

上条「てかアイドルの相方のMCなんて、生涯にどんだけ出来るんだっつー話でさ」

上条「胡散臭い事務所は腐る程あるけど、アリサんとこは身内だけで回してるからまず大丈夫だよ?」

上条「なんつってもアリサが出来るぐらいだから」

佐天「ですよねぇ、アリサさんが出来るぐらいですもんね」

鳴護「あれ?何か引っかかるな?」



430:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/20(火) 12:41:49.66 ID:W4ZXiSrW0

上条「芸能界って、何だかんだ言っても同業他社の壮絶な足の引っ張り合いじゃんか?だから居れば居る程擦れてくるし」

上条「でもアリサはそんな中に居てもデビュー前から変わらないだろ?だから安心出来るよね、って意味で!……多分!」

鳴護「……当麻君」

佐天「チョロっ!?」

上条「黙っていような?拗れるからさ」

柴崎(カンペ) サッ

上条「『元・暗――じゃなく、専門のスタッフが居るので、相手が能力者でも安心・安全を保証させて頂いております』」

鳴護「お給料も、えっと……お給料制+歩合制で……基本が一ヶ月これだけ、かな?」

佐天「え?これ年間じゃないんですかっ?」

鳴護「あとこの他にも、ボイトレとか演技の授業とかの経費は全部事務所持ちだし」

鳴護「準社員扱いになるから、初春さん達とユニット組めば同じ寮に住めるよ?あ、勿論費用はこっち持ちで」

上条「おいバカ止めろ!現役アイドルが生々しいカネの話を電波に乗せるな!」

柴崎(カンペ) スッ

上条「『そろそろ次の展開を考えていたので、丁度良いと思います』――って、アンタも乗り気かっ!?」

上条「中途半端にアイドル路線は良くないって!ファーストアルバム出してから、その後CDの仕事が来なくなった声優さんだって居るんだからな!?」

佐天「え?CDって出せば売れるんじゃないんですか?」

上条「鬼っ!悪魔っ!高千穂っ!出来る子の理論で世界は回ってなんかないんだからな!」

柴崎(カンペ) サッ

上条「ホレ見ろ!マネージャーさんだってこう言ってるぞ!」

上条「『TariTar○関係で結構売れています』――よし、戦争だ!全員でボケ倒すつもりなら俺にだって考えがあるぞ!」

上条「さっきから気になってたんだけど、どうツッコんでいいか分からなかったツッコミをするからな?覚悟しとけよ!」

佐天「その心は?」

上条「『学探』はどーした?」

佐天「――ぁっ」

上条「素で忘れてやがっただろうが!今までのほぼ雑談じゃねぇかよ!いつも事っちゃいつもの事だけど!」



431:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/20(火) 12:43:09.51 ID:W4ZXiSrW0

佐天「――はいっ、って言う訳で始まりましたけどね-、『学園探訪』」

佐天「あ、お久しぶりですー、アリサさん?お元気でしたかー?」

上条「無理だろう。アリサ相手に腹芸とか通じないと思うよ?」

鳴護「へ、編集さんが頑張ってくれれば、何とか!」

芝崎(カンペ) サッ

佐天「『ではCMへ行きまーす』……はい、Aパート終了ですね。今の内に休んどきましょう」

店員「あの、お料理出来ましたので運んでも宜しいでしょうか?」

佐天「あ、お願いしまーす」

鳴護「佐天さん、さっきの話冗談じゃないからね?本気で考えてね?」

佐天「事務所へ伺えば良いんでしたっけ?正直、キョーミ津々ではあるんですがねー」

柴崎「あ、送迎でしたら、遅くなってもご自宅まで車を出しますのでご心配なく」

佐天「……なんか、外堀から着々と埋められてる気がするんですけど」

上条「怪しげな所だったら殴ってでも止めるけど、アリサんトコならスタッフの人も知ってるし大丈夫」

上条「流石に今日話聞くのはアレだと思うから、日を改めて初春さんと一緒に行けばいいんじゃね?」

鳴護「むー……仕方がないかなぁ」

柴崎「上条さんの仰る通りです。事を急いでも碌な事にはならないかと」

上条「言って上げて下さい」

柴崎「近日中にご実家の方へ菓子折を持って伺いますので、暫しお待ちを」

上条「お前も大概過保護だよな?何?シャットアウラから伝染ったの?」

佐天「あ、そろそろBパート始まりまーす」



432:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/20(火) 12:45:37.98 ID:W4ZXiSrW0

――ファミレス

佐天「ってな訳でご飯も運ばれてきましたし、食べながらお話ししましょうか。では――」

佐天・鳴護「「いただきまーすっ!」」

佐天「んー……っ!美味しいっ!よくあるファミレスかと思いきや、中々やりますよねっ!」

鳴護 モグモグ

佐天「計算された味って言うんでしょうか、こう、品質を落とさずに一定以上の味を提供する――そんな凄みさえ伝わって来るような一品です!」

鳴護 モグモグ

佐天「しかもお値段リーズナブル!あたしのような学生にも優しいっ!よっと、店長良い仕事してんなっコノヤロウッ!」

鳴護 モグモグ

佐天「……」 チラッ

上条「……」

鳴護 モグモグ

上条「――ってしろやリポーターを!?何一心不乱に食ってんの!?」

鳴護「――もぐ?」

上条「口の中の物飲み込んでから!アイドルが失態見せないで!」

鳴護「……って、何?あたし何かやっちゃったのかな?」

佐天「いえあの、あたしらがフツーに黙々と食べていたら、放送事故になるんじゃ?」

鳴護「……あぁっ!そうだよねっ!」

上条「慣れろよ。一年以上もアイドル兼食べドルやってんだから」

鳴護「……食べドル?それきっと良い意味じゃないよね?」

佐天「お、あたし知ってますよ。元フードファイターでいい歳なのにケバい格好した女の人瞬殺したから、誰が呼んだか『ガチで食べるアイドル』」

佐天「略して、『食べドル』!」

鳴護「あれは……あの人が食事の後毎にお手洗いで吐いてたから、『苦しいんだったら無理して食べない方が良いですよ?』って言っただけだもん!」

佐天「それを生放送でカマして、視聴者がほぼ全員アリサさんの味方になったという……!」

上条「あー……あの人らは命削ってるから、どっかで止めた方が良いんだよな、きっと」

上条「誰がどう見てもどっかで『処分』してないとオカシイのに、同じ局で『子供の貧困率がー』とか言うんだからどうしようもない」

佐天「てか更に本題へ戻しますけど、アリサさんってオカルト的な話はお好きですか?」

鳴護「えっと……」 チラッ

柴崎(カンペ) サッ

鳴護「『怖いのはあまり好きじゃないですけど、都市伝説ぐらいだったら、はい』」

上条「……しかし手慣れてるよな。一体どんな修羅場をくぐったのか想像もつかないが!」



433:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/20(火) 12:46:53.38 ID:W4ZXiSrW0

柴崎「(修羅場と言うよりは適当にあしらうのを憶えただけですが)」

柴崎「(今の音楽業界でメジャーデビューする意味はほぼありませんし、いつ芸能界から干されても構わない、というスタンスで)」

上条「終ってんなぁ、音楽業界も」

柴崎「(レコード社との専属契約で囲い込まれるより、CDリリース限定契約で充分やっていますから)」

上条「超絶不況の時だって、アニメ・ゲーム業界だけは売り上げが変わらなかったのに、『ネットか悪い!』って言った時点で終わりだろ」

佐天「あー、それじゃこの間やってた番組見ました?『世界の超常現象スペシャル!』的なの」

鳴護「あー、見ました。大の大人がUFOや幽霊について熱く語るんだよねっ。マネージャーさんに『リアクションの勉強になるから』って言われて、はい」

佐天「目の付け所が違うと思いますけども……ど、どうでした?」

鳴護「ピタゴラスだか、ソクラテスだか、有名な大昔の学者さんのお話ありましたよね?」

佐天「ありましたありました!その時代に書かれている地図が、今と殆ど変わりがないってオカルト!」

佐天「やっぱりですねー、あたしはあると思うんですよー、オーパーツ的なものがねっ!」

佐天「あ、知ってます?オーパーツ?言ってみればロスト・テクノロジィ(※巻き舌)の産物って言うんでしょうかねぇ」

佐天「他にもアンティキテラの歯車とか――」

鳴護「その学者さん、UFO的なものに乗せて貰ったら、もっと正確な地図が描けるじゃないでしょうか、ねぇ?」

佐天「……えっと?」

鳴護「確か芸術家や数学者としても有名な人で、天才だったらば、こうもっと寸分違わぬような地図!が、出来るんじゃ?」

鳴護「ていうかそもそも、あたしが宇宙人さんでその人を乗せたんだったら、『あ、ここ少し違うよ?』みたいな監修すると思うんですよね」

鳴護「なんだったら余ってる地図とか、置いてくって発想は無かったんでしょうか?」

佐天「えーっと…………そう!心霊動画!あれは怖かったですよね!」

鳴護「あー、ありましたよねぇ。こう、事故があった場所へ酔っ払った男の人が行くって」

佐天「そうですそうです!その人達が不謹慎にもバカにするような言動をした結果、その事故で亡くなった女性の生首が――」

鳴護「でもあれ、普通動画撮らないよね?」

佐天「……」

鳴護「酩酊してる割にはアングルもしっかりしてるし、女性の声を認識してますし」

鳴護「都会の雑踏の中、あんな小さな声を酔っ払った状態で聞き分けるなんて凄――」

佐天「他にも!滝壺から這い出る女性の霊――」

鳴護「這い出てる、って事は重力的なものは感じてるんですよね?」

佐天「そうですよっ!」

鳴護「髪は何故か斜め下固定になってませんでした?おかしいですよね?」

鳴護「あと他にもムービー撮ってる筈なのに、三脚が撮影しづらい自由雲台になっているのはなんかこう、はい」

鳴護「あ、自由雲台ってのはパン棒がついてないのモデルで、スチルカメラでよく平行移動――」

上条「いい加減にしておこう、なぁ?アリサさん天然発揮するのも大概にしないと」

上条「今、俺が口を挟む暇も無い程、鮮やかな流れでオカルト瞬殺してったけど、お願いだから番組のタイトル思い出して上げて?」

上条「つーかカメラ詳しいな。趣味かなんか?」

鳴護「写真集撮影の時に、カメラマンさんが空いてる時間に教えてくれたの」

柴崎(カンペ) サッ

佐天「『ちなみに女性です』、ですか。ガード堅いですよねー」

上条「てかあの番組、俺も『しょぼっ!?』って見てて思ったけども!もうちょっと他に振るのないのっ!?」

佐天「えー、無茶ブリはそっちだと思いますが、あぁっと……あ、はい、ありましたありました。都市伝説の方」

佐天「『スレンダーマン』ってご存じですかー?」



434:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/20(火) 12:48:36.64 ID:W4ZXiSrW0

鳴護「あー……やってたよねぇ、てかアレも『ゲームソフト撮るかな?』って――」

佐天「ありましたよねっ、ねっ!?」

鳴護「……あ、うん、ごめんなさい……」

上条「え、なに?俺知らないや。途中から見たし、どんなの?」

佐天「ググればいいんじゃないですか?」

上条「番組は!?確かにボケを天然に轟沈されて悔しかったのは悪かったよ!ツッコミ忘れてメシ食ってた俺の責任だけどもさ!」

上条「今度メシでも作るから!機嫌直して、な?」

佐天「やたっ!ゴチになりまーすっ」

鳴護「当麻君、そーゆーのが……まぁいいけど」

上条「おぉっと!何を言っているのは分からないな!」

柴崎(カンペ) サッ

上条「『修羅場ですね(死ねばいいのに)』――おい、カッコ必要かな?これあんたの本音って意味なんだよな?」

佐天「まぁまぁまぁまぁっ!過ぎた事は水に流して!都市伝説、『スレンダーマン』の解説をしちゃいましょうねっ!」

上条「いいけど……スレンダー?」

佐天「特殊な性癖を隠すために、あえて『スレンダー』と言っている人達の話じゃないですからね?」

上条「うんまぁ、リアルにそういう人達も居るけどさ。そんな話してなかったよな中学生?立場を弁えて、な?」

佐天「実はロ×ペ×なのにカモフラージュするため、『お姉さん好き!』と公言してる人の話でもないですから!」

上条「それは君、遠回しな宣戦布告なのかな?公共の電波に乗せる意味ってあるか?」

佐天「あ、すいません。紙と何か書く物ありませんか?あった方がイメージしやすいんで」

柴崎 ササッ

上条「ありがとうございます。って書くの俺かよ」

鳴護「先入観ない方が書きやすいと思うよ。複雑でも無いし」

佐天「ですねー、それでは『スレンダーマン』の特徴!”スレンダーである”!」

上条「まんまだな……や、でもそうじゃなきゃ噂にならないか」

上条(スレンダー、スレンダーなぁ?) カリカリ

434_1



435:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/20(火) 12:49:39.96 ID:W4ZXiSrW0

上条「……こんな感じ?」

佐天「絵心の欠片もありませんが、もっとです。もっと」

鳴護「だね。あ、顔はのっぺらぼうだから、このままでオケ」

上条「足長くすればいいのか……っと」 カリカリ

上条(何か少女漫画の登場人物みたいな。リアルなデッサンするんだったら、このぐらいの頭身は”スレンダー”だろう)

435_1

佐天「足りませんなー、もう二声ぐらいずいーとっ!」

上条「そんなになのかっ?……や、まぁ都市伝説なんてそんなもんだとは思うけど」

上条(これ以上、足伸ばせないから裏に改めて書こうっと。あ、少し透けてるが……いいか)

上条(きゅっきゅっとー……あ、ヤベ。やり過ぎた)

上条(針金細工みたいになっちまってるけど、クツ描いてーと)

435_2

上条「どうだ!」

佐天「少し短いですが、まぁこんな感じですねー」

鳴護「だねっ」

上条「やだ超目立つじゃない――てか、これパースおかしいだろ!どう見ても3mぐらいはあるし!」

佐天「ですから”スレンダー”マンなんじゃ?」

上条「あー……ツッコんだら負けなんだよな、きっと」

鳴護「他にも特徴なかったっけ?スーツを着てるとか」

上条「いやだから、この時点で超目立つし……」

佐天「ちなみに全身白いという設定だそうです」

上条「俺の知り合いにも二人白いの居るけどさ、あいつら遠くから見ても分かるもの」

上条(服っぽいの着せてー……)

佐天「あ、下半身は裸だそうです」

上条「なんでだよっ!?それ怪人じゃ無く変質者じゃねぇーか!」

鳴護「無いんじゃないなか、サイズ的に?」

上条「……だったらなんか巻いて置こうよ、方向性間違ってんだろ……」 カリカリ



436:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/20(火) 12:50:57.95 ID:W4ZXiSrW0

436_1

上条(……いやもう子供の落書きだけど……良しとしよう、うん)

上条「……完成だよな?もうスーツ着てる辺りで設定的にはお腹いっぱいなんだけど、これ以上乗っけないよね?」

鳴護「や、それが、ねぇ?」

佐天「お気の毒ですが、スレンダーマン最大の特徴がまだ一つ残っておりましてね、えぇはいっ!」

上条「な、なんだってーーーーーっ!?」

佐天「ナイスリアクションっ!それは何かと言えばっ!」

上条「よっし!かかってこいや!」

佐天「何とぉ――背中からたくさんの触手が生えているっ!!!」

上条「盛り過ぎじゃねぇか!?つーかスレンダーマンの設定考えたヤツ出て来いや!俺が説教すっからな!」

上条「背が高いのは100歩譲ってありとしよう、なぁ?のっぺらぼうももしかしたらあるかも知れないよ?そりゃ?」

上条「妖怪の神様ものっぺらいぼうとぬっへっほふの類似性とか、ベトベトさんとベトサントの共通性について語ってるしな!」

上条「妖怪っつーか昔の都市伝説っぽい話に、ムジナってのもあるぐらいだから、まぁあるかも知れないけど!」

上条「スーツ着てるのも『あ、こりゃ全裸で歩かせると目立つよな?』的な判断したんだと思うから!それはそれで良いさ!」

上条「でもな!触手どっから持って来やがった!?アレか?ジャパニメーションの弊害か?なぁ?」

上条「『なんかインパクト弱い……そうだ!触手生やしとけ!』みたいな感じか?あ?」

436_2

上条「……もうこれ、属性混ぜすぎじゃねぇの?つーかこれでいいのか?」

上条「てーかどっか見た事あるよ!アメコミのヴィランでこーゆーの居なかったっけ?」

柴崎 コトッ

上条「ノーパソ?これは……どっかの公園で子供達が遊んでる写真だよな?」

佐天「あーこれスレンダーマンの有名な画像ですね。左側、遊具の後ろ辺り見て貰えません?」

上条「陰になって……あ、女の子と背ぇ高くて腕が、ぐにょんってなった奴が映ってる……」

佐天「そう!これがまさにスレンダーマンなのですよ……!」

鳴護「これ、望遠レンズの圧縮効――」

佐天「怖いですねぇ、恐ろしいですよねぇっ!スレンダーマンはあなたの身近に潜んでいるのかも知れませんよっ!」

鳴護「だからその、佐天さん?さっきから言っ――」

柴崎(カンペ) サッ

鳴護「『こ、こわーいなー!どうしよう佐天さん、あたしスレンダーマンに遭っちゃったらー?』」

上条「茶番じゃねぇか。徹頭徹尾そうだけどもさ」

佐天「ご心配なく!苦しい時!そんな時!頼りになるのは『噂』もリサーチ済みでありますんでっ!」

上条「あー、あれか?口裂け女には『べっこう飴』や『ポマード』って言うのと同じで」

鳴護「聞いた事ある。『ベトベトさんベトベトさん、先へお行き』みたいな」

佐天「しかもこれ、学園都市だけに広がっている噂らしいんですよ。あ、ネタでは無くマジです。初春情報ですから!」



437:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/20(火) 12:51:56.03 ID:W4ZXiSrW0

上条「へー?学園都市も人多いからなぁ、ローカルな都市伝説も生まれるんだー?」

佐天「なんかですね、怖い都市伝説に追い詰められたとしましょう。バネ足ジャックでもスレンダーマンでも良いですが!」

佐天「そんな時、こう叫ぶと助けてくれるんだそうです――では、ご一緒に!」

佐天「『助けてー、カブトムシさーーん!!!』」

上条・鳴護「「……」」

佐天「って言ってくれなかった!?」

上条「事前に知らされない、っていうか正直、いつもの『初春愛してるぞー!』が来るもんだと身構えたんだが」

佐天「………………チッ」

上条「あ、こら女の子が舌打ちするんじゃありません!」

鳴護「それじゃ今の冗談じゃ無くって、本当に?――って噂を聞くのもどう思うけど」

佐天「はい、そうです。なんでも路地裏で危険な目に遭いそうになったら、そう呼べば白いカブトムシが助けてくれるそうです」

上条「……白い、カブトムシ?」

佐天「おっと上条さん!それは何かを知ってる顔ですなっ!」

上条「いや知らないよ?やだー佐天さん、幾ら俺でもカペド虫の知り合いなんて居ないって!」

佐天「カペドむし?」

上条「噛みました。他意はありません!」

鳴護「当麻君が必死になるって事は……あっ」

上条「天然さんも空気読もうね?あ、ほらステーキ美味しそうだぞー?」

鳴護「……当麻君はあたしを子供だと思ってもぐ?もぐもぐっ!」

佐天「やべぇ両頬に肉詰め込むアリサさん超可愛えぇぜっ!」

上条「佐天さんも自重しなさい――てかカオスすぎるわ!なんでオカルト系深夜番組でこんな展開になってんだよ!?」

上条「……使える場面あるか?さっきからどう超編集した所でまともな部分はないと思うんだが……」

上条「てかもう完全にフリートークという名の雑談だけで、俺らがファミレスでしてるレベルの話しかしてねぇしな!」

佐天「ちっちっち!ナメて貰っちゃあ、困りますよ上条さん!こう見えて『学探』は結構長く――は、やってないですけど!」

上条「だから、そーゆートコがね?」

佐天「さっきから編集編集言いますけどねっ!そこはそれあたしの培った手腕で!立派に番組を作ってますし!」

上条「その一点の陰りもない澄み切った笑顔、俺は信じてやりたいんだが……!」

鳴護「うん、やっぱりあたし佐天さんもアイドルに向いてると思うよ。主にそーゆートコが」

佐天「つーかこれ、生放送なんで編集出来ませんしねー」

上条「…………………………うん?」



438:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/20(火) 12:53:10.67 ID:W4ZXiSrW0

佐天「や、ですから記念すべき第一回目と同じく、生ですっ!LIVEですわ、えぇはい」

上条「……待て待て?さっき『生放送じゃなかったら後で編集出来る』って」

佐天「えぇ言いましたねー。でも『生放送じゃない』んで、ざーんねーん!ナマなんで編集出来ませんっ!つーかこれも流れています!」

上条「――ってバカじゃねぇのかっ!?編集出来ると思ってアレコレ言いまくったよ、俺!」

上条「放送事故ギリギリいっぱいの食レポートとかも流れてんのかっ!?アリサも聞いて――る訳はねぇよな!」

鳴護「あたしはまぁ、別に?この間の商店街巡りもそんな感じだったし?」

上条「お前ら未来に生きすぎるだろ!もうちょっと色々キチンとしようぜ、なあぁ!?」

佐天「『未来に生きる?いいや今のは残像だ!』――で、お馴染みのTATARAグループの提供でお送りしていますっ!」

鳴護「あ、繋がったよ!凄いね当麻君!繋がった繋がった!」

上条「だからアイドルが繋がった繋がった連呼するんじゃありません!コラ素材にされるから注意しなさいっ!」

佐天「――と、言う訳でお送りしてきました『学園探訪』!今日もきっちり何にもしませんでしたがご愛敬!」

佐天「あ、ここでアリサさんから告知があるそうですよー?」

上条「あれ?俺をスルーする流れなの?」

鳴護「今度の8日?にライブやりますっ。チケット……は、もうないけど、ネットで見られますんで、応援よろしくお願いします」

柴崎(カンペ) サッ

鳴護「『新曲、”夜と月のパヴァーヌ”のお披露目にもなります。どうぞお時間が許すようでしたら、是非ともご覧下さいねっ(はぁと)』」

上条「……こんなんでシメるの?こんなんでいいの?」

佐天「では最後!リスナーの方からメールが届いてまーす!」

上条「最後の最後にメールて――あれ?募集してなかったよな?」

佐天「ハンドルネーム、『目覚めるとゲコ太になっていたい』さん!」

上条「やだ俺その人知ってる。てかそれフツーに友達からメール貰っただけだよね?」

佐天「いつもメールありがとー!あ、今度素敵なアクセのお店見つけたんで、行きましょーねー?」

上条「公共の電波使って言う事じゃねぇよ!TATARAさんもう少し厳しくして上げて!?」

佐天「えぇっと――『佐天さんARISAさん、マネージャーさんとその他の人こんにちは!』」

鳴護「あ、お久しぶりです御坂さーん」

上条「だーかーらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

佐天「あー、ウッサいですよ!お静かに!メール読めないじゃないですか、良い所なのに!」

上条「……あのさ?もしかしたらなんだけど、もう嫌な予感しか――」

佐天「『ARISAさんShootingMOONツアー成功おめでとう御座います!一ファンとしてとても嬉しいです!』」

鳴護「ありがとー」

佐天「『これでアイドルからも見事に脱却され、本格派シンガーとして確立されていくんだと思います』」

上条「……お、意外とまとも、か?」



439:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/20(火) 12:54:17.86 ID:W4ZXiSrW0

佐天「『今後、学園都市だけではなく、海外でも積極的に活動されるのを寂しく思いますが』」

佐天「『以前からの応援している私としては、胸が一杯になります』」

鳴護「……ありがとう、うん、本当に……!」

上条「御坂……いい話――」

佐天「『――で、そんな世界的アーティストになったARISAさんなのに』」

佐天「『横で親しげに名前で呼んでいるツンツン頭とは、一体どういうご関係なんですか?』」

上条「待て!違うんだ!これはきっと――」

上条「――敵の魔術の攻撃なんだ……ッ!」

鳴護「あ、決め台詞出た」

佐天「――と、言う訳で今回の『学園探訪』はこの辺で!謎は次回だ!解明したいと思います!」

上条「待て、待てって!?お前これこのまま終ったら、俺見てる人になんて思われ――」

佐天「本日のゲストは歌手兼食いドルのARISAさんでしたー!では、ご一緒に別れのご挨拶をどうぞ!せーのっ」

佐天・鳴護「「うーーーいーーーはるーーーーっ!愛しーーーてーーーるーーーぞーーーーーーーーっ!!!」」

上条「違うんだ!俺は罠に填められただけで――」

プツッ



440:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/20(火) 12:55:28.70 ID:W4ZXiSrW0

――2014年10月4日(土) 路上・夜

 学園都市の夜は早い――と言うと語弊があるかも知れないが、交通機関は早々に仕事を止めてしまう。
 学生の本分は勉強である、を建前に大体夜7時前後にはバスも電車も終電になる。親元を離れた学生達が主役の街である以上、一定の歯止めは必要だろうから。
 なので多少友人との遊ぶ時間を作ろうとするのであれば、土日や祝日。普段よりも授業が少ない日に宛てるのは当然。それは学園都市でなくともそうだろうが。

 そんな浮かれた学生の一人、佐天涙子はコンビニ帰りに考えていた。
 『学探』の収録を無事に終え、残った時間を鳴護アリサとのお喋りに費やし――若干一名、脱兎の如く逃げ出した先輩はさておき――気がついたら終電を逃しそうなので、お開きにした。

 流石に今日はファミレスでお腹いっぱい食べたし、自炊もするよう気分じゃなかったので、コンビニで朝食のパスタとサンドイッチを買い、さっさと帰る事にする。

(ママに見つかったら叱られちゃいそうだけど……ま、たまにはいいよね?……てか)

(アイドル、ねぇ?あたしが?マジっスか!やったね初春!)

 話が唐突すぎてついていけない部分は多々あれど、友達を助けるのには吝かでは無い――以上に。

(……むぅ。憧れだよねぇ、アイドルって)

 煌びやかなステージへ立ち、ファンの前で華やかな衣装を身に纏い、歌う。

(憧れない女子などいるもんか!いや、居ないっ!)

 能力の大小、少なくとも今では大切な友人の一人だと思っている御坂美琴へ対する劣等感。それが表に出て来る事はもうないであろうが。
 ただ、それはそれ、これはこれ。
 同世代の女の子、しかもアイドルとして活躍している人間へ多少思う所がない、と言う程に無欲でもなかった。
 それを”欲”と呼ぶにはあまりにも細やかであったとしても。

(アイドルになれるかは分からないけど……うーん?MC、ぐらいならやってみたいよーな?)

 ……と、単純に自身が今まで歩んできた道、それと異なるものを提示された喜びで満たされていた、というのがザックリと彼女の心情を表している。
 誰しもが、大抵は、子供の頃に夢見たものが、思いがけなく手が届きそうになるとすれば、浮かれるのも無理はない話である。

 ――だが、しかし。



441:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/20(火) 12:56:39.57 ID:W4ZXiSrW0

 開いている道は決して一つではなく。またそれはアカルイミライが約束されているとは限らない。
 悪意で人を騙す者は勿論、善意で人を騙す者も少なくない世界で。

 この少女は――”そういう”道へ踏み込む事も躊躇いはしないのだから。
 そして何気ない日常の落とし穴はそこかしこに、空いている。

 人里離れた大森林の中に。
 寄る辺のない廃村の奥に。
 誰も知らぬ深海の果てに。

(あれ――?)

 そして当然、学園都市の路地裏もまた一つ。ぽっかりと、這い寄るように。

 ”闇”が。

(今……路地裏へ入っていった人、なんか、なんかこう……おかしかった、よね?)

(くたびれたスーツを来たおじさん、なんだろうけど……)

(”頭”が真っ白だった、っぽい?)

 つい先程まで語っていた『スレンダーマン』のように。

 禿頭――僧侶のような剃髪ならば地肌の色が見えるだろう。夕暮れを過ぎ、夜になった頃に見たいものでは決してないけれども、まぁ居るかも知れない。
 ”カリキュラム”関係や一部の体育教師――『警備員』を兼ねている――がしている。そう彼女の記憶にはあった。
 おぼろげだが、航空自衛隊出身のパイロットとして予備役にあるとか何とか。日直で名簿を届けに行った際に聞いた事がある。
 ……まぁ、「何でツルッパゲなんですかねっ!」とストレートに聞いて、隣の少女が卒倒しそうになったのは余談ではあるが。

 しかし、つい今しがた目にしたものは、街灯の乏しい光量にすら映える”白”。
 そうそう見間違えるようなものでは、ない。

(……ってもどうしましょうかねー?包帯を巻いていましたー、なんてオチだったらそれはそれで笑えるけど)

(つなぎ目みたいなのも無かったし……うーん?)

(……ま、勘違いだったら、『ごめんなさい!』すればいっか!いいよねっ!)

 こうして佐天涙子はおっかなびっくりながらも、深淵を覗き見る暴挙へと及んだ。

 ……だが忘れる事なかれ、然れど教訓が生かされる事もなく。

 長く深淵を覗く者を、深淵もまた等しく見返すのだから。



442:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/20(火) 12:57:26.17 ID:W4ZXiSrW0

――路地裏・夜

 コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ……。

 決められたリズムを保ちながら、目の前の『それ』は路地裏を歩いていた。
 遠目の上に暗がり、よく分からないビールケースや段ボールが積まれてる中を、ペースを落とさずに一定間隔で。規則正しく、と言えば語弊があるか。

(『アレ』……おかしい、よね?)

 恐怖心よりも好奇心を優先させた結果、佐天涙子は謎の人物を尾行していた。というよりも、してしまっていた。
 最初は慣れぬ――事も無く、割とある話だが――尾行と緊張で、何度か不用意に音を立ててしまっていたが、気付かれる心配も無かったようだ。
 ビール瓶を倒そうが、立てかけられた自転車に引っかかろうが、尾行されている『それ』は振り向きもせずに歩いていたからだ。

(てか、なんだろー、あれ?UMA?それとも妖怪さん?)

 外見はずんぐりむっくりとしたスーツ姿の男性。体型からすればやや小さめで小太りであるぐらい。”スレンダー”とはお世辞にも評しがたい。
 けれど後ろから見る分には、その頭部が真っ白な何かになっているように見える。
 フードのようなゆったりしたものでもないし、タイツのような光沢があるのでもない。

(だったらあれは何……?ロボット?)

 怖いよりもコミカルで、何かのマスコットキャラクターかゆるキャラに……頑張れば見える、かも知れない。
 ゆるくないゆるキャラが大量増殖しているのであれば、もしかしたら自身の知らないだけ――。

 コツ――。

(あ、角曲がっちゃった――急がないと!)

 慌てて追いかける。しかし彼女はここで気付かなければならなかった。
 願わくばもっと先、尾行を始めたその瞬間に悟るべきであった。

 そうすればきっと小さな冒険は中止されていただろうから。



443:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/20(火) 12:58:46.44 ID:W4ZXiSrW0

 時に――佐天涙子は中学生である。
 一部の知り合いになんだかんだと言われていながらも、その本質は未だ学生の身分に過ぎない。

 従って、今日のような『学探』収録の日ですら制服を着て撮影に臨んでいる……まぁ、特定の誰かが『実は中学生好きだ!』という噂があるから、とかでは決して無い。
 多分、恐らくは……きっと。
 なので彼女の今の服装は棚側中学の制服であり、履いている靴も学校指定の革靴であった。

 ……そう、”音を出しやすい靴”を履いている。だというのに。

 『相手の足音が響く一方、自身の靴音が響かない』という異常な状況を察すれば……この結果にはならなかっただろうか?

(…………あんれー…………?誰も、居ませんなー…………?)

 結果から言えば、正体不明『それ』を彼女が見失う事になった。
 ぽかんと広がる夜の帳、路地裏でや拓けた広場のような一角。
 この先に道はもう無く、唐突に消えてしまった。それが全てである。

(うっわーっ!マジですかっ!?これ心霊体験じゃないですかっ!)

(やっべぇマジテンション上がってきた!取り敢えず誰かに連絡を――)

 けれど、『彼女をが”それ”を見失った』としても。
 だからと言って『”それ”が彼女を見失った』とはイコールではない。

 コツ、コツ、コツ、コツ……。

「――え?」

 たった今見失ったと思っていた”それ”が――。

「――っ!?」

 真上から聞こえてきたのだから。

 コツ、コツ、コツ、コツ……。

 『それ』は雑居ビルの壁面に張り付いて身じろぎもせず。
 だというのに、コツコツという耳障りな音は鳴り止まない。



444:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/20(火) 12:59:57.63 ID:W4ZXiSrW0

「え、ぇっと、その――ですね?あ、あたし、ケーブルテレビの――」

 するっ、と。壁面から『それ』は音も無く飛び降り、彼女の前へ立った。

 正面から見た『それ』は目も鼻もない。まさにのっぺらぼう、としか言いようがない顔立ちをしていた。
 その真っ白な顔面に唯一あったのは、真一文字に閉ざされた口。
 何かガムでも噛んでいるかのように、定期的に上下している。

「ご――ごめんなさいっ!あたし、そういうつもりじゃなくって!」

 数歩タタラを踏んで後ずさる。しかし『それ』は足を向けず、ただ。

「――ひっ!?」

 ぬるっと、伸びた。
 たった3m程、足を伸ばして距離を詰める。『それ』の上半身が近づいてくる!

 コツ、コツ、コツ、コツ……。

 耳障りな音は鳴り止まない――それは、足音ではないから。
 至近距離にまで迫り、ようやく彼女はそう悟る。

 何故ならばそのコツコツという音は、『それ』の口元から聞こえる――。

『コッ、コッ、コッ、コッ、コッ、コッ』

 ――歯ぎしりだったから。

「や、やだっ!こっちに来ちゃ――」

 突然、ミチリという音と共に『それ』の背中が弾け飛ぶ。
 中から出て来たのは触手の塊、ウネウネとフィクションでしか有り得ない動きで、彼女の手足を絡め取る。

「……そ、そんなの、聞いて――てか、本当に!?」

 噂であった筈だ。昼間面白可笑しく語っただけ、ネタにして笑い飛ばしただけの『それ』が。
 今まさにスレンダーマンが彼女の目の前へと顕現していた。

『コッコッコッコッコッコッコッコッコッ』

 カチカチと歯を鳴らしおぞましい吐息が顔にかかる。恐ろしくて目を瞑りながら――それでも、諦めてはいない。

 ふと――こんな状況下でも、思い出した事があったから。

(そうだ――都市伝説があったんなら、あの”噂”も有効かも知れない……!)

「た、助け、助けて――」

 恐怖で混乱しながらも彼女が呼んだ相手とは。

「助けて!――――――上条、さ――」

「――それは、ルール違反ではないのかな」



445:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/20(火) 13:00:46.56 ID:W4ZXiSrW0

『がぁぁげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』

 怪物の嘶きと共に、至近距離で感じていたプレッシャーがかき消えた。

「とは言え、今際の際に好いた相手の名を呼ぶのもまた、佳きかな」

(……だ、誰?)

「力は言葉になり、言葉は力とならん。原初の言葉がそうであったように」

 恐る恐る目を開けると――そこには闇に溶け込むようなローブを着た『誰か』が居た。
 暗くて顔は見えない。けれど声からすれば相当年上の男性。

 どうやったのかは分からないが、『それ』を壁際にまで弾き飛ばしたようだ。

「あ、あのー?」

「すまないが、もう少しの間だけ目を瞑っていては貰えないだろうか?」

「えっと……?」

「あまりレディにお目にかけるものでも無いのでね――『ジョン・ポールの断頭鎌(Sacred Death)』……!」

 ザン、とローブの男は右手に持っていた巨大な鎌を一振りする。その姿はまさに『死神』としか呼べないものであった。
 『それ』とは優に数メートル以上も離れているにも関わらず、広げようとしていた触手をまとめて断ち切る。

 だが男はそれでも満足しなかったらしく、ヒュゥンっと片手だけで鎌を投擲する。

『ゲガガガガガガガガガ……っ!?』

 鎌は空中で綺麗に回転し、『それ』の体の中央に突き刺さり、壁へと縫い止める。
 男は躊躇いもせずに近づき――壁に刺さった鎌を軽々と引き抜いた。

『……カギュッ!?』

「死を欺く奇跡は私の師だけが手にした力だが、力を合わせれば我々とてその秘密を明かせるだろう――が、だ」

「されど神ならぬ人の身でするには傲慢の罪と知るが佳い――」

「――弁えよ、俗物が」

 パンと両手を合わせて謳う――そう、何回、何百、いやそれ以上に手慣れた言葉を。
 あるがままに振舞うその言葉を。

 神の代理人たる彼は、厳かに奉る。



446:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/20(火) 13:02:07.17 ID:W4ZXiSrW0

「『”Holy, holy, holy ! Lord God Almighty Early in the morning our song shall rise to thee”』」
(聖なる聖なる聖なるかな。三つに居まして一つなる神の御名を、朝跨ぎ起きてこぞ褒め奉らん)

「『”Holy, holy, holy merciful and mighty! God in Three Persons, blessed Trinity!”』」
(聖なる聖なる聖なるかな。神の御前に聖らも冠を捨てて伏拝み、御遣い達も御名を褒めん)

「『”Holy, holy, holy ! tho' the darkness hide thee, Though the eye of sinful man thy glory may not see,”』」
(聖なる聖なる聖なるかな。罪ある眼には見えねども、慈しみ満ちたる神の栄えは類無き)

「『”Holy, holy, holy merciful and mighty! God in Three Persons, blessed Trinity !”』」
(聖なる聖なる聖なるかな。御手の業にて三つに居まして一つなる、神の御名を褒め奉らん)

「『”――AMEN(かくあれかし)”』」



447:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/01/20(火) 13:03:01.45 ID:W4ZXiSrW0

 ジュウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……。

『デゲリ、リィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィイッッッっっ!!!』

 『それ』は青い炎に包まれ、悲鳴を上げながら徐々に小さくなっていく。
 最後の一片まで燃え尽きたのを確認すると、ローブの男は改めて――。

「――では少し眠りたまえ。なぁに、悪夢など直ぐに忘れるさ」

「待っ、待って下さ――」

「あとあぁいう場面でこそ、いと高き御方の名を呼ぶべきだが……まぁ、それもまた佳いだろう」

「あたしまだっあなたにお礼を――」

「『”Requiem ? ternam dona eis Domine et lux perpetua luceat eis. ”』」
(主よ、永遠の安息を彼らに与え、絶えざる光でお照らしください)



456:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/02(月) 13:02:42.32 ID:r988Yk1T0

――2014年10月4日(土) 路上・夜

老人「――残念であるが『スレンダーマン』は既に著作権登録が為されているのだよ」

老人「元々はアメリカの電子掲示板コミュニティから発祥し、それを面白可笑しく肉付けしていった、というのが始まり」

老人「こちらにもあるだろう?タチの悪い匿名掲示板を元に発展していく都市伝説、のような何かが」

老人「人々が好きな残酷でやくたいもない話――『友達の友達から聞いた話』と語られるような、そんな噂話」

老人「……まぁ普通の精神であれば、著者が”著作権”として登録はしまい。した以上某かの目的があると判断すべきであろうな」

老人「……そして、その噂を鵜呑みにした。下らない悪ふざけと金儲けの作り話が一人歩きし、現実に事件は起きる」

老人「アメリカ北部のウィスコンシン州で、12歳の少女二人が同級生を滅多刺しにした事件だ」

老人「捕まえられた少女達曰く、『スレンダーマンの手下になるため、人を殺す必要があった』のだとか」

老人「幸いにも被害者は命を取り留めたが、勿論今後の人生が穏やかなるものとは言えないであろう。そう、願ってはいるがね」

老人「そして何よりも、この少女二人が『自分自身の人生を閉ざしてしまった事』がだ」

老人「……この二人は最長で65年の懲役刑が科される可能性があり、この先ずっと過ちを悔いて生きねばならない」

老人「『人は生まれながらにして原罪を負う』――胸に突き刺さる佳き言葉であるが、何も坂道でより重き荷を背負い込む必要もあるまい」

老人「彼女達が求めれば信仰が助けとなり、杖となり、また友となろうが……それもまた酷く険しい道が約束されている」

老人「そして当のスレンダーマンの父親は、この件に関して『ノーコメント』だそうだ」

老人「顔と心が無いのは息子と同じく」

佐天「……」

老人「フィクションをフィクションと割り切るのは当たり前の話であるが、それとは別に引かなくてはならない一線がある」

老人「君もそうだ。花や月を追いかけろとは言わないが、もう少し分相応なものをだね――」

佐天「……あ、あのー、すいませーん?」

老人「何かな」

佐天「どうしてあたしは見知らぬナイスミドル――を、ちょっとだけ通り越したオジサンと並んで歩いているんでしょーか、と?」

老人「お世辞は有り難いが私は通りすがりの老人だよ、お若い方。物忘れに関しては……判断を保留するが」

老人「なぁに幾ら照れるからといって、道に迷っていた私を駅の近くまで案内する程度の善行、忘れてしまわなくとも佳かろうに」

佐天「でしたっ、け?……まぁいっか。人助けですよね、人助けっ!」

老人「……これはこれで心配になる反応である、な」

佐天「はい?」

老人「あぁ気にし――ては欲しいが、まぁ今は佳いだろう」

佐天「てかスレンダーマンのお話でしたね?既に人様の著作物だったってマジですか?」



457:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/02(月) 13:05:10.41 ID:r988Yk1T0

老人「この話題を振ってきたのは君からだった筈だが……そうだ、間違った話ではないよ。残念だがね」

老人「アメリカの匿名掲示板で面白可笑しく奉り上げ、偶像を作りだし、実際に『一人歩き』してしまった事例だ」

老人「……知っているかい?この下らない顛末が露になるまで、Cultural anthropology――」

老人「――文化を扱う学問の中では、『神話が形成されゆくモデルケースの一つ』として名前が挙がっていたんだが」

佐天「……その、起きちゃったんですよね、事件?」

老人「『起きるべくして起きた』事例でもあるな。狂人を真似、狂人を演じ、狂人を辿ればそれ即ち狂人なのだから」

老人「……反対に、首足処を異にするのが得意なだけ若造であっても、三重冠を戴き金と銀の鍵を預かれば尊敬を集めるように」

老人「意味も無く人を殺める”神”を造り上げれば、それが人を弑するのは必定」

老人「だから私達は『ここ』へ神を降ろす事なんてしなかった。いや、出来なかったが正解か」

老人「人の身で『塔』を積み上げれば、必ず報いが待っている。それだけの話だな」

佐天「あのー?」

老人「すまない、脱線したようだが……とにかく”スレンダーマンはいない”」

老人「あくまでもフィクションであり物語に過ぎない。”そんな存在が私達へ影響を与える事など出来やしない”んだ」

老人「だから”君が路地裏へ入ってしまっても、怪物には襲われない”と」

――パキイィィィッン……

佐天「ありゃ?今なんか音が――それも、どっかで聞いたような……?」

老人「お若い方、これで分かっただろうか。そうそうGhostの類は存在しないという事を」

佐天「でっすねぇ。特に『スレンダーマン』が実在しないのはガッカリです、えぇガッカリ」

老人「で、あれば不用意な冒険は慎む事だ。暗がりにいるのは人ならぬ者だけではなく、人のならず者も多いのだから」

佐天「まっかせて下さいっ!なるべく前向きに検討するであろう事をお約束しますよっ!」

老人「……君には約束という概念がないのかな?」

佐天「いえそんなっ!『安請け合いをさせたら棚中一!』って二つ名がですねっ!」

老人「どこかで聞いたような話だが……それもまた佳かろう。受難を経て人は強くなれる――と」

老人「Station……あぁ着いたようだね。わざわざ案内してくれてありがとう」

佐天「いえいえっ!あたしの家も直ぐ近くなんで。ついでです、ついで」

老人「善行が美徳と分かってはいても、中々実行へ移せないのが世の常だよ」

佐天「いやぁそれほどでもありませんなっ!それほどでもねっ!」

老人「……君の将来が酷く不安になってしまうんだが、それはきっと気のせいではないのだろうな」

老人「ともあれ、助かったよ。ありがとう、お若い方よ」

佐天「あ、いえいえどういたしましてっ――て、ですね、ここのだけ話で良いですから、ちょっとお伺いしい事が」

老人「ふむ?」

佐天「イアン=マクダーミ○さんがお忍びでどうしたんですが?てかぶっちゃけサイン下さいなっ!」

老人「全く以て他人だね。彼はスコットランド人で私はドイツ人だから」

老人「俳優のような人生を歩んではいるが、未だに気取った台詞の一つも言えやしない。だから」

佐天「だから?」

老人「子供はもう、家へ帰る時間だ」

佐天「ぶーぶーっ!」



458:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/02(月) 13:08:15.55 ID:r988Yk1T0

――2014年10月5日(日) オービット・ポータル本社 応接間

上条(オフィスビルの建ち並ぶXX学区の一等地。その端っこの方にオービットの本社はある)

上条(レディリー――直接会った事ないんだが――って人が会長やってた頃には、もっと中心部にあったらしいんだが)

上条(ARISAの芸能プロ事務所、『黒鴉部隊』だけを残して整理したんで、もっと小さい所へ移ったんだそうで)

上条(芸能事務所兼警備会社って何?とか思わなくも……まぁいいか)

上条(ともあれ、俺は先日の報酬を受け取りにやって来た訳だが……)

テレビ『――!――!!』

上条(つけっぱなしのテレビは海外局のデモを流している)

上条(日本語のキャプションじゃ、『報道の自由を守れ!』と入っているけれど、彼らが口にしているのはもっと別の言葉)

上条(中には『見せられないよ!』的なあからさまなスラングなのに、ゴールデンタイムで堂々と流してるし)

上条(……全く、外国語分かんねぇだろって適当な事しやがって……ま、俺も耳が慣れなければ分かんなかったんだろうが)

上条(……ネット漁りゃ幾らでも原文出て来るだろうに、こんな事やってっから――)

柴崎「お待たせ致しました」 ガチャッ

上条「あ、お疲れ様です」

柴崎「上条さんにご尽力頂いたEUツアーの報酬が揃ったのですが……本当に宜しいので?」

柴崎「何もキャンピングカーに設置されていた調理器具でなくとも、それ以上の物をこちらでご用意出来るのですか……」

上条「あれだって外のと比べれば数世代先だろ?ウチにあるよりもずっと新しいし、使えるんだったら勿体ないなー、って」

柴崎「まぁ……技術流出の懸念からして、あの車は外部企業からすれば宝の山みたいものですからねぇ」

柴崎「このお話が出る前から回収は予定しておりましたので、当社としても構わないのですが」

柴崎「それで設置の日時は如何致しましょう?大体半日もあればシステムキッチンへの換装は可能です」

上条「それはいつでも構わないよ。寮の管理人さんには言っておくから、鍵も開けて貰えると思うし」

柴崎「分かりました。では今週中には終らせる方向で」

上条「ありがとうございます」

柴崎「――と、上条さんに於かれましてはARISAの護衛、大変ご迷惑をおかけしました」

柴崎「オービット・ポータル社、並びに『黒鴉部隊』を代表して、再度深くお礼申し上げます」

上条「や、そんなっ頭を上げて下さいよっ!俺は別にそんな大した事はっ!」

柴崎「本来であれば社長、シャットアウラが頭を下げるのが筋なのでしょうが……その」

上条「あ、いいですよ。忙しいんでしょう?」

柴崎「『あの男に頭を下げるぐらいなら、アイツを殺して私は生きる!』と」

上条「殺人予告っ!?てか感謝の欠片も持ってねぇよな!」

柴崎「いやいや、ただの照れ隠しでしょうからお気になさらず」

上条「そ、そうですかね?」

柴崎「リーダーが誰かを殺す殺すというのは……そう、ですね。仕事で敵対した相手と上条さんぐらいでしょうし」

上条「それってつまり俺も敵であって、殺るのに躊躇しないって事じゃないですかね?」



459:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/02(月) 13:12:11.23 ID:r988Yk1T0

上条「てか『黒鴉部隊』大丈夫?あれがリーダーってやってんのって不安を憶えるんだが……」

柴崎「……えっと、まぁ戦闘面に関してだけ言えば、リーダーの”能力”と”クルマ”さえあれば学園都市上位陣へ食い込むのではないかな、と」

柴崎「『エンデュミオン』も生身でなければ負ける事はなかったでしょうしね」

上条「そっかな?瞬間的な攻撃力だけで言えば、ビリビリのファイブオー――」

柴崎「――はい!と言う訳で上条さん!最近どうですかっ!?学業に恋愛っ青春してますかねっ!」

上条「何?急に?」

柴崎「プラン名を知ってるだけで行方不明者を絶賛量産中のお話はそこまでに!自分はどんな意味があるのは存じませんが!」

上条「結構詳しいじゃねぇか。『暗部』繋がり――って言うかさ、前から気になってたんだけど」

上条「『黒鴉部隊』の扱いってどうなの?やっていけてんの、経済的な意味で?」

柴崎「元々は企業の私設治安維持部隊で、今は外付け保安部の扱いです」

上条「違いが分からん。てーか違うの?」

柴崎「以前はレディリー会長などスポンサーが一つでした。契約期間中はそれ以外とはお付き合いしないと」

柴崎「今は複数の企業が資金を出し合って雇われている、でしょうか」

上条「ふー、ん?」

柴崎「深いお付き合いをするよりも、浅く手広くやりましょう、と言うだけの話ですかね」

上条「てかあの多脚戦車を民間の警備会社が持ってるだけでおかしいわっ!」

柴崎「あれはKONGOHインダストリィの試作機でして。本来工業ラインには乗らなかったものです」

柴崎「なので、あんな最新技術を惜しげも無く使い続けるのは無理でしょうけれど」

柴崎「派手に動きすぎてARISAさんへ迷惑かけるかも知れませんしね」

上条「『エンデュミオン』も世間的には事故扱いだからな……ゴシップ紙を除いては」

柴崎「あぁあれは確かに驚きましたね。日刊ゲンダ×でしたか」

柴崎「彼らは社会に一定数いる層、『何かよく分からないが、世界には陰の組織がいる!』と思い込んでいるのが購買層ですから」

柴崎「たかだか週刊誌如きに暴露されるような『陰の組織』が居て、しかも絶大な力を持つ筈なのに放置されるのか、という疑問に行き当たらない……」

柴崎「幸せなんでしょうね、きっと」

上条「未来に生きてんだから、許してあげて!」

柴崎「ま、そちらはきちんと名誉毀損で係争中ですのでご心配なく。学園都市的にも突かれると拙いので、ご支援を――おっと何でもありませんよ」

上条「汚い!大人って汚い!」

柴崎「汚いのは大人の専売特許みたいなものですからね。正攻法で潰しに行ったって構いはしないのですが――と、あれが良い例でしょうね」

上条「あれ?」

柴崎「テレビでやっている、あれ」

上条「フランスでテロかました件か」

柴崎「当該する新聞社に関しては自業自得、宗教差別を煽っていれば過激派は嬉々としてテロを起こしただけの話かと」

上条「言論の自由って話――では、あるけどさ」

上条「普通の人達も一緒くたにしてバカにするようなのは、ちょっと違和感がある……」



460:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/02(月) 13:14:52.70 ID:r988Yk1T0

柴崎「過去にも日本の五輪誘致が決まった際に”手が三本のガリガリに痩せこけた力士”を風刺として載せていましたし」

柴崎「反対に同紙を揶揄したコメディアンや、『新聞じゃ銃弾は防げなかったね!』と風刺画を書いた少年を逮捕してみたり」

柴崎「自分達が他人を蔑み、莫迦にするのは自由――しかしその逆は受け入れない」

柴崎「よく言われるユダヤ陰謀説、ありますでしょ?アレも同じく」

柴崎「自分が憶えている限り、日本で出版社を廃刊へ追いやった事はありますけど、それはあくまでも”合法的”な範疇での事」

柴崎「少なくとも今回のようなテロはしなかったですからね」

上条「……一緒にしていいのか、それ……?」

柴崎「テロを起こしたのはあくまでもテロリストであり、ムスリムではないので何とも言えませんがね」

上条「つーかアンタの人質云々の話がほぼ的中してて怖えぇよ!どんなんだ!?」

柴崎「そりゃ情報を意図的に取り込んでいるからに決まってるでしょう?BBCやCNN、場合によってはアルジャジーラも普通に見ますし」

柴崎「……ま、傭兵なんてのは人様の不幸で食ってるから、情報に聡くなって当たり前だな」

上条「柴崎さん、口調口調」

柴崎「おっと失礼――と、報酬の受け渡しは以上となります。が、上条さん」

上条「あい?」

柴崎「イギリス人のお嬢さん方の連絡先などはご存じではありませんか?もしお持ちでしたら、当社の方からお礼がしたいのですが」

上条「知ってる、は知ってるけどなー……レッサー達、好きでやってんだから要らないと思うけど」

上条「つーか今、何やってんだろ――」

柴崎「上条さん上条さん、テレビ見て下さい」

上条「はい?……あ、デモの最前列にプラカード持ってる子が」

『Ukraine. → It doesn't know. 』
『Tibet. → It doesn't know.
『France. → Going mad 』

『The French defends the freedom of the expression of France. 』
『It doesn't know even though the people how many die in other countries. 』

上条(えっと直訳すると『フランスが攻撃された時ばっか自由自由言ってんじゃねーよ!』的なニュアンスだけど)

上条「これが何だって?フランス人でも中々思い切った事言うなー、とは思うけどさ」

柴崎「……見覚え、ありませんか?」

上条「見覚え?AHAHAHAHA、やだなー柴崎さん、幾ら俺だってテレビに知り合いが映り込むなんて、そんな偶然中々――」

レッサー(※テレビ中継)『Free Tibet! Free Ukraine!』

レッサー『Will the socialist following invent Piketist? Fellow France only with mouth! 』

レッサー『Is the freedom of expression only in France? Frog Eaters!』

上条「何やってやがんだレッサーさあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!?」

柴崎「直訳しますと『フランス人はフランスの表現の自由にしか興味ありませんが何か?』」

柴崎「『てーか社会主義の次はピケティニストか、いい加減にしろ口だけフランス野郎!』……ですかね」

上条「てかレッサースゲーな!?わざわざアウェイに乗り込んでフランスへ喧嘩売るって!嫌がらせにも芸が細かいし!」



461:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/02(月) 13:16:54.33 ID:r988Yk1T0

柴崎「や、でもこれ、拙いですよ」

上条「え、なんで?明らかに頭オカシイけど、こんぐらいは別に許容範囲じゃね?」

柴崎「えぇまぁ日本ではその通りなんですけど、フランスでは『テロに荷担するのは違法』って法律がありまして」

レッサー『ちょっ!?何で私が取り押さえられるんですかっ!?聞いてませんよ、どーゆー事ですかっ!?』

上条「……あぁ、うん。こうなるのな」

レッサー『てーかランシスはっ!あの子はどこへ逃げやがったのかと濃い乳時間!……いやそうじゃなくて!最初に計画持ってきたのはあっち――』

レッサー『――おのれ!もしやこれはあのガキの罠かっ!オカシイと思っていましたよっ!チケット奢ってくれるなんて上手い話はねっ!』

レッサー『私を裏切るとは良い度胸をしてやがりますなっ!バストサイドに反してですが!』

レッサー『……と、まぁ私は騙された方ですんで、被害者的なアレでして……』

レッサー『よしこうしましょう!ここは一つお互いに引き分けって事で手を打ちましょうか!我が宿敵の裏切りに免じてねっ!』

レッサー『――って具合に、イイ感じでまとまったんでレッサーちゃんはこれにてドロンっと――』

レッサー『――と、お待ち下さいな!乙女の柔肌にそう簡単に触れないで貰いましょうか!……え、あなた女?マジで?』

レッサー『何か見た目がゴリラ・ゴリラ・ゴリラっぽいんで、てっきりプロのゴリラーの方とばかり』

レッサー『てかもう市井のゴリラ・ゴリラ・ゴリラって事で、つまりは服を着たゴリラ・ゴリラ・ゴリラである空○先生ではないですよねっ分かります!』

レッサー『と、言う訳で私は野生のゴリラを探しに旅へ出ようかと思――オイ待てやめて止めくぁwせdrftgyふじこふじこ』

上条「……警官に、連行されてったよな……?」

レッサー『って言うか私、世代的に増山さん以外のを聞くと違和感がどーにも拭えないんですが』

上条「黙ってろ!日本人だと思われるからねっ!」

柴崎「」 ピッ

柴崎「――はい、と言う訳で宜しくお願いしますね」

上条「ぶん投げたよね?もう何か色々と面倒臭くなって投げたよな?」

柴崎「彼女達の組織としての特性上、多少イリーガルな要求をされても、まぁまぁTPOで融通しろとの命令です」

上条「国際問題だけは起こしてくれるなよー、頼むからな!」

柴崎「リーダーも、あぁ見えて上条さん達には本当に感謝していますからね。なので少しでも恩を返したいではないかな、と」

上条「だったらその感謝の分だけでいいから、俺への敵意を割り引いて欲しいんですけど……」

柴崎「いいじゃないですか。それだけインパクトがあるって事ですから」

柴崎「自分なんて、もう何年も名前で呼んで貰った憶えが……」

上条「コードネーム使ってるからじゃね?仕様って言うかさ」

柴崎「必要最低限のサプライズは用意してありますけど、出来ればそれまでに伺いたい所ですよねぇ」

上条「おい待て?あんた今なんつった?また俺の知らない所でなんかしようとしてんじゃねぇか!?」

柴崎「お気になさらず。誰も損はしないと思いますから、えぇ――と、そんな事よりもこれからのご予定は?」

柴崎「お暇でしたら、少しお付き合い頂けませんか?学生のお立場からご意見を頂きたく」

上条「あー、ごめん。アリサから『お買い物に付き合って!』って言われて――何?意見?」

柴崎「デートですか……あぁ、それで先程からリーダーと話し込んでいるのですね」

上条「……具体的に何言われてるかは聞きたくないけどな!つーかシャットアウラ過保護過ぎんだろ」

柴崎「否定は出来ませんがねぇ」

上条「友達と遊びに行くぐらいで心配て、なぁ?」

柴崎「あ、すいません。やっぱり否定出来ます。リーダーの心配はご尤もです」



462:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/02(月) 13:19:13.66 ID:r988Yk1T0

上条「お前らいい加減にしとけ、な?主従揃って人を魔王並に危険指定してないでくれる?」

柴崎「何を言ってるんですか上条さん!。冗談でも言って良い事と悪い事があるでしょうに!」

上条「お、おぅ?ごめん、なさい?」

柴崎「――魔王はね、殺せるんですよ……?」

柴崎「合法的に、この世から、消す事が、出来るんですね?分かりますか、自分が言っている事が?」

上条「それ、どういう意味かな?まるでどこかに殺したくて殺したくてしょーがない奴が居るみたいな流れになっちゃってるよ?」

柴崎「ともあれそんな訳でARISA専属スタッフの上条さんへ、学生さんのお立場からお伺いしたい事が御座いまして」

上条「俺の肩書きがちょっと見ないうちにレベリングしてあんだけど、どいつの仕業?」

柴崎「割とマジ話なので、えぇ」

上条「や、まぁまだ来る気配もないし……聞くけどさ。何?」

柴崎「取り敢えず、こちらを。先週のARISAの予定表となっております」

上条「見て良いの?実は興味あったり」

柴崎「どうぞどうぞ。大したものではありません……えぇもう本当に」

上条「んじゃちっと失礼して……何々、火曜日・全部出るまで帰れま――って、あのあれか?食べ物屋さんでベスト10出るまで注文するのか?」

柴崎「コンサートとNewシングルの告知ですね」

上条「ゴールデン出られるんだから凄いよなぁ……で、次、水サスの収録?」

上条「『東京近郊の隠れたグルメ点レポート!ゲストはあのアイドルが!』……ふーん?」

柴崎「コンサートとNewシングルの告知ですね、はい」

上条「なんか、こう……いや、気のせいだよな?俺の勘違いなんだよね、きっと?」

柴崎「……ま、続きをどうぞ」

上条「スケジュール、てーかテレビの仕事はもう一本か……あーっと」

上条「『金スペ!芸能人一芸選手権!』」

上条「『新星フードファイターARISAに対する挑戦者現る!?君は今、皇帝の怒りを目にする……ッ!!!』」

柴崎「コンサートとNewシングルの告知……ですね、えぇ」

上条「……」

柴崎「……これ。アイドルの仕事じゃないですよね?」

上条「ようやく危機感を共有出来た事に嬉しく思うわ、うん」

上条「つーか言ってんじゃん!?俺ずっと前から指摘してたじゃんかよおぉっ!?」

上条「食べドルからフードファイターにジョブチェンジしかかってますよって!結構前っからさあっ!」



463:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/02(月) 13:22:27.15 ID:r988Yk1T0

柴崎「……いえ、それがですよ?シングルも初動セールスでミリオンには届かないものの、60万枚まで売り上げていますし」

柴崎「アルバムに関してはお陰様でミリオン達成、写真集とイメージビデオも着痩せで中々の評判を誇っていますし」

上条「……なんだろうな。シンガーとしちゃいいんだろうが、友達としては若干イラッとするって言うか」

柴崎「ARISAが彼女さんであれば、その思いは当然なんでしょうが、そうでない以上ただのモヤモヤに過ぎませんよ」

上条「分かってるよ」

柴崎「……だから、そこで聞き分ける時点で分かってなんかないんですよ」

上条「はて?」

柴崎「で、当社と致しましては長く皆さんに愛されるARISA――との認知を固めるべく、謎のシンガーソングライターでなく、素のARISAの魅力をお届けしようと!」

上条「ダメじゃない。だってもうこれアイドル路線じゃないもの。明らかに”フード”とか”グルメ”みたいな定冠詞つきそうになっちゃってるもの」

上条「そうそう日常会話で使わないよね?トリ○でも言う程グルメグルメ使ってないからな?言っとくけど」

上条「や、まぁ……確かにARISA――じゃない、アリサのメシ食ってる姿は見てて、勇気が出そう?」

柴崎「伸び伸びやらしてみた結果、お芝居でもなく堕落でもなく、どこをどうミラクルを起こして食べドルへ行ったのか……」

上条「ある意味当然の帰結だと思う。つーか事務所側のミスじゃねーのか?」

柴崎「でもですね、意外とこれはこれで好評でして。実は本を出さないか、という企画が上がっています」

上条「あぁ写真集以外で?良い……良い話だ!食べドルから脱却出来る!」

柴崎「タイトルが――『あたしの愛した二○』」

上条「ラーメン○郎のタイアップじゃねーか!?出てない!食べドルから一歩も脱却出来てないよっ!?」

上条「てかナメてんだろ事務所?あ?正直に言ってみ?」

柴崎「……アリサさんが乗り気でしてねー……『おやつ代わりにピッタリだねっ!』と、はい」

上条「あるんだ、二○?学園都市にも?……今度探してみよう……」

柴崎「――と、こんな感じなんですけど、どうしましょう?」

上条「お前これ、俺が『いいんじゃないですかね!』って言うと思ったの?」

柴崎「認知度は確かに間違いなく上がっているのですが、こう、一発屋的なルートへ入ってしまってるのではないでしょうか」

上条「いやまぁ……アリサの性格上、こうなるのは分かってたようなもんだし?」

上条「フードファイターとしての人生を歩き始めるのも、まぁそれはそれでいいんじゃないかな?」

柴崎「ぶっちゃけますね?もう面倒ですし、そろそろ妹に甘い”と、いうポーズ”のリーダーが折れる頃でしょうから」

上条「何だよ急に」

柴崎「――今のARISA、不自然だと思いません?」

上条「不自然、って言われてもな。何が?」

柴崎「その、正直下世話な質問だとは思うんですけども、ですがね」

上条「ん?あぁ良いって別に。男同士だし、気にするようなもんじゃ」

柴崎「では遠慮無く伺いますが――」

柴崎「――上条さんは今回のツアーで一体何人の少女を毒牙にかけたのでしょうか?」

上条「下世話すぎるよねっ!?しかもその言い方だと俺がどんだけ悪い奴だって話しだし!」

柴崎「偶然を装いながらも一体幾度か弱い少女を、その凶暴な右手の下へ組み敷き、羞恥の顔を赤らめる様を下卑た顔で舐るように見入ったんですか!」

上条「あれおかしいな?『ラッキースケベで押し倒した』を客観的に言うと、そこまでヒドく聞こえるんだー?へー?」



464:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/02(月) 13:25:56.98 ID:r988Yk1T0

柴崎「上条さんは今まで食べたパンは数えていない派で?」

上条「残念ながら新品未使用だコノヤロー!文句があるんだったらかかってこい!」

上条「あとついでに言わせて貰えるんだったら、男女の差無く憶えてる方が健全だと思うがな!」

柴崎「……てっきり既成事実の一つや二つあると思いましたが、それも無かったのですか?」

上条「無かっ――ぁっ……無かった、よ?いやマジで?うん、全然全然?何一つとして、疚しい事は無かったよ?」

柴崎「それもおかしな話なんですよねぇ。あの年頃であれば恋の一つや二つ、興味はおありでしょうに」

柴崎「こちらの用意したスケジュールを文句一つ言わずにこなす……出来た子だと褒めるべきなのでしょうが、どうにも」

上条「……待て待て、いや待って下さいよ?」

柴崎「はい?」

上条「前にも言いましたけど、アイドルが恋愛とか事務所的にはNGなんですよね?」

上条「だったらアリサ――ARISAも我慢してやってる、ってだけの話じゃないのか?」

柴崎「我慢しているように見えます?」

上条「……無い、ですよねー。分かりますっ」

柴崎「慣れない環境下でのストレスはおありでしょうが、その他は至って自然体。しかもワガママらしいワガママは一度だけ」

柴崎「年頃の娘さんなのですから、もう少し色々あっても構わないと思うんですよねぇ」

上条「前にも言ってたよな、確かそれ」

柴崎「えぇ、護衛は上条さんに着いてきて欲しいとの一回だけです」

上条「……あれ?そうなの?」

柴崎「言い、ませんでしたっけ?……まぁどうせお気づきでしょう、流石に」

上条「何となくはそうなんじゃないかな、とは思ってた」

柴崎「学園都市側は”たまたま教育実習中になる常盤台の生徒”を提示したのですが、無理がありすぎるだろうとこちらで却下」

柴崎「次に大人げないアリサさんのお姉さんが出張ろうとして、同じく重武装過ぎてあちらから却下」

上条「年齢的には高校ぐらいなんだろうが、シャットアウラは何か無理があるよな」

柴崎「さてどうしようか、と迷っていたら――『当麻君が良いと思いますっ!』」

上条「俺の自由意志は?」

柴崎「嫌だったら見捨てて帰れば良かったのでは?」

上条「友達以前に、人としてそんなフザけた真似が出来るかっ!」

柴崎「……まぁ『水着の露出が激しい!』だの『日高さんが好きすぎて脇が痙る』と言った残念エピソードは結構ありますが、それはまた別でしょうかね」

上条「……ふーん?水着、着たんだ?」

柴崎「ホルターネックなので、其程露出高いって訳じゃ決して。ただ」

上条「た、ただ?」

柴崎「やっぱりその、強調されてしまうのがイヤラシくて――もとい、嫌らしくてお蔵入りとなりましたが」

上条「日本語って難しいよねっ!」

柴崎「で、そのデータがここに」 ピッ

上条「言い値で買おう!幾らだっ!?」

柴崎「――と、言った具合に誰しもがエロ根性の一つや二つ持っているんですよ、えぇ」

柴崎「朴念仁を気取っておきながら、こうして同性同士での会話となればエロ話も結構出ますしね」

上条「騙したなァァァァ!騙してくれたなァァァァァっ!?」

柴崎「あ、すいません。そういうの結構なんで……画像は後でコッソリ転送しておきますから」

上条「友情!プライスレス!」



465:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/02(月) 13:28:21.00 ID:r988Yk1T0

柴崎「――話戻しますけど、アリサさん、何かおかしくありませんか?」

上条「天然だよ!つーか言ってやるなよ!」

柴崎「冗談ではなく真面目な話ですよ」

上条「……おかしい、ってのは」

柴崎「無理をしている……いえ、演技をしている、でしょうか?何か不自然なんですよね」

上条「マネージャーの仕事もやるようになったから、タレントの演技にも口を出すようになったって?」

柴崎「皮肉はよして下さいよ。仰りたくなるのも分かりますが、これは自分がボディガードをやっていた頃の経験から判断しています」

上条「護衛する人を観察するのも仕事のウチなんだっけ」

柴崎「はい。ストレスが元で体調を崩されたり、仕事に支障を来してしまっては誰も幸せになれませんからね」

上条「……じゃ何が変だ、って思うんだよ?」

柴崎「性格上有り得ないのは分かっているんですが、こう……とても上手い演技を見せられる感じがします、ね」

上条「演技?てか天然じゃなくって?」

柴崎「それも含めて、と言いますか。その……余りにも”それっぽく”振舞い過ぎる」

上条「うん?意味が――」

柴崎「……キャラ、っていうんでしょうか?えぇと――」

柴崎「――これは割と有名なお話なんですが、アイドルの語源はご存じで?」

上条「英語じゃ”偶像”って意味だったか」

柴崎「まぁ『最初から偶像っつってんだから、彼女らがキャラ作ってて当たり前だろ』、的な結論へと持っていくために多用されます」

上条「キャラ作るのは誰だってそうじゃね?」

柴崎「ですね。個人的には商売でやってる以上、最後まで演じ続けて欲しいとは思いますが」

柴崎「今のアリサさんも似たような感じではないか……というのが、自分の個人的な感想です」

柴崎「周囲の期待に沿うように、のも少し違いますかね。アイドルとしてなりきれない女の子であれば”こう”振舞うような」

柴崎「ファンの方の受けが良いのも、業界の流儀に染まらないピュアなアイドル――という願望を写し出しているように」

上条「考えすぎだろ。アリサがそこまで器用に生きてる訳じゃない」

柴崎「ただのアイドル、もしくは普通の能力者であれば自分もそう思ったんですがねぇ。ですが」

上条「……『奇跡』」

柴崎「こう言ってはなんですが……えっと、というか正確には教えられていないのですが」

柴崎「アリサさんの『異能』は『誰かの願いや願望を汲み取り、現実を改変する』ものですよね?」

上条「あれ?教えられてないのか?」

柴崎「大まかにだけは。その話もレディリー前会長から少しだけ聞いただけで、後は別に。仕事に関わるようなものでもありませんし」

上条「っと待て待て。だったら柴崎さんはアリサの『体』の事は知らないのか?」

柴崎「異能を制御出来ず、ある程度叶えてしまうって話ですし。それも不幸なものでない以上、気にする必要もないかと」

上条「シャットアウラとの関係は?」

柴崎「何を今更……あぁ、『柴崎が褒めていた』件の仕返しですか?上条さんもお人が悪い」

上条「や、そう言うんじゃないんだが……まぁ、頼む」

柴崎「『88の奇跡』の際、あの船に乗り合わせた記憶喪失の少女、彼女の『異能』のお陰で乗客乗員は全員助かった――リーダーのお父様を除き」

柴崎「なので『どうして助けられなかった!?』との確執――とも、呼べない八つ当たりをしていたのが『エンデュミオンの奇跡』であって」

柴崎「が、今ではお父様の意を酌み、身寄りの無いその少女を妹として引き取ろうとしている……で、合ってますよね?」

上条「あぁうん、そう――だよな」

柴崎「前にお話ししましたでしょうに。アリサさんの個人情報を集めたのは自分だと」

上条(……この人は、アリサがどこから来たのかを知らない)



466:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/02(月) 13:31:15.90 ID:r988Yk1T0

上条(アリサがどこで生まれたのか、どんな存在なのかとか、心を許しているにも関わらず、だ)

上条(何も馬鹿正直に言う必要なんてどこにもない……ん、だが、なんかこう、寂しい)

上条(家族同然――てか、笑って命を賭けてくれるような、家族以上の繋がりを持っている人なのに……)

柴崎「聞いてますかー?もしもーし?」

上条「ん、あぁごめんごめん。続けてくれ」

柴崎「で、あちら側の事は存じませんが――サンタさん、幾つぐらいまで信じてらっしゃいました?」

上条「憶えてないけど……多分早い段階だと思うな」

柴崎「自分もその口です。嫌な子供だったので、一つの疑問が頭について離れませんでした」

上条「あー、あれか。『どうやっ一晩で回るんだ?』みたいなの?」

柴崎「惜しい!……『どうやって子供達の願いを聞き分けるのか?』ですね」

上条「世界中に子供が何人居るんだっつー話だわな」

柴崎「実際にはデンマークの公式サンタさんへ、毎年数多くの子供達からお手紙が寄せられていますから、恐らくそちらを参考に――と、言葉を濁しておくとして」

柴崎「ですがアリサさんの『奇跡』は、一体何を基にして人々の要望を汲み取っているのでしょうか、と話は繋がります」

上条「……成程。普通、”誰かの思いのを叶える”んであれば、当然『それが何かを知る』のか大前提か……!」

柴崎「一応は能力者の端に居る者が言うのもアレなんですが、不思議パワーでパパッと処理しているのは間違いないですよね」

柴崎「その謎パワーの部分が『共感』なのではないかと思いまして」

上条「共感、ってーとあれか?誰それにシンパシー感じるー、みたいな?」

柴崎「そこまで大げさなものでも無く、何となく場の空気読んだりする人とか」

上条「……ある意味、アリサとは対極にあるんじゃないのか……?」

柴崎「……あのですねぇ、上条さん。っていうか上条さん?」

上条「二回言うなよ。そんなに大事でもないのに」

柴崎「戦わなきゃ、現実と!」

上条「なんで俺が現実見てない前提で話が進められてんだよ!?」

柴崎「いやいや、アリサさん空気読みますよね?それも過剰なぐらいに」

上条「そう、かな?俺はあんまり」

柴崎「ご自分が誘拐されそうになっていたのに、あれだけ怖い素振りも見せず振舞うのって、そう出来る事じゃありませんよ」

上条「あ、それは――」



467:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/02(月) 13:32:19.57 ID:r988Yk1T0

柴崎「大の大人だって、その筋の人間であっても自身が敵意を以て狙われている、と分かれば萎縮して当然」

柴崎「まだ10代半ばなのに、ご立派なものです」

上条「でも、話を聞くに”それ”がアリサの能力じゃないのか、って言いたいんだろ?」

柴崎「あくまでも仮定ですがね。『狙われているにも関わらず、健気に頑張るアイドル!』的な、”周囲からの思いに共感している”んじゃないかと」

柴崎「……いや、自分で言ってて何か違う気がしますね。お耳汚しでした、今のは忘れて下さい」

上条「別に良いけど……違う、ってのは何が違うって思ったんだ?」

柴崎「大した事ではありませんが……まぁ、その、人間誰しもが他人と共感する能力は持っていますよね?」

上条「だな。空気読んだり、映画や小説に泣いたりするしな」

柴崎「他にも意見に納得したり、反発する事もありますが――でも大概、どれだけ共感したとしても、人格が左右される事は無いでしょう?」

柴崎「……まぁ、基本的には、とごく一部の例外を除いておくとしても」

上条「その例外が聞きたいとは思わないが……ま、そうだよな」

柴崎「従ってアリサさんが『能力』の一環として、共感力に優れているとしてもですよ?」

柴崎「まさかキャラ全体がまるっきりの別人へ切り替わってしまう――なんて事は、無いでしょうからね」

上条「……いや、それは」

上条(有り得る……話ではある。だってアリサは――)

柴崎「上条さん?どうしました?」

上条「……や、なんでもない。それよりアリサ、遅いよな」

柴崎「今頃リーダーから何吹き込まれるかと思うと、少し頭が痛い気もしますけど」

上条「シャットアウラに関しちゃ自業自得な部分は一切無い!……筈だ!」

柴崎「言い切れない所が素敵ですし、また実際にそうであるのも減点ですな。自分には関係ありませんが」

上条「てかむしろ恩人なのにどうして扱いが悪いんだろうか……?」

柴崎「あ、そうそうデートの帰りが遅くなるようでしたら、自分へ連絡して下さい。車で拾いに行きますから」

上条「過保護――と、までは言い切れないか。アイドルだもんな」

柴崎「……いや、そっちはあまり心配してないんですが、その上条さんを地の果てまでも追いかけかねない方に心当たりがありまして」

上条「肉親の情が深いのは結構だけどなっ!思い知らされる立場以外であれば!」

柴崎「なので『終電終っちゃったね……どうしよっか?』的にアリサさんが遠回しに誘って来た時以外は、ケースバイケースでお願いします」

上条「お前アリサ信用してなくね?なんだと思ってる?」

柴崎「――と、いらしたようです」

上条「……あぁうん、そうだね。ツッコんじゃいけないんだろうな……」

柴崎「自分がリーダーを食い止めてる間に、ささ、お早く!」

上条「たかだか遊びに行くだけでどんな苦労が!?」



471:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/10(火) 10:24:09.18 ID:6p2b0Y+N0

――電車内

鳴護「……いやもう、ホントゴメンなさい……ウチの身内が余計な事を」

上条「う、うん。大丈夫!当たらなかったから何とかないから!」

上条「もう少しで眼が一つ増えてニャルラトホテプ状態になるところだったけども!元ボディガードさんの機転で事なきを得たから!」

鳴護「……柴崎さんによーーーーーーーくっ言って貰ってますから!どうか今回の事故は内密に!」

上条「まさか銃まで持ち出すとは……いやうん、まぁ慣れてるからさ?割と良くある話だしねっ!」

鳴護「銃を突きつけられるのが”よくある”で済ませる方もどうかと思うんだけど……」

上条「ま、ショットガンじゃなかった分だけ余裕かな!当たり判定的な意味で!」

鳴護「FPSじゃないよね?現実の話だから戻ってきて当麻君っ!?」

上条「ま、まぁよくある話だから気にしなくても良いよ?シャットアウラも当てるつもりがあったんだったら、うんっ」

鳴護「そ、そうだよねっ!お姉ちゃんが本気になったら証拠一切残さずに闇討ちするもんねっ!」

上条「その納得のされ方もどうかと思うんだが……まぁいいや」

鳴護「と、とにかくっ!本日はお日柄も良くありがとうございましたっ!」

上条「終ってる終ってる。テンパってるのは分かっけど、もう少し余裕をだな」

上条「てかアリサ、いつもみたいな服着てないな」

鳴護「いつも、って……あぁ、テレビの?」

上条「そっちもだけど、ファッション誌とかでも着てんじゃんか?が、がーりー?」

上条「いかにも『女の子女の子してますっ!』みたいなのじゃなくて」

鳴護「あー……当麻君的にはあーゆーのが好み、なのかな?」

上条「別にそういうつもりはないけど、ってか今のアリサの服も可愛いと思うし」

鳴護「あ、ありがとう?」

上条(ちなみに今のアリサの格好は、出会った時とほぼ同じでピンクのワンピースとデニム。あとペガサスのワンポイントが入った帽子)

上条(歌の中にも出てたっけかな、確か)

上条「や、そうじゃなくって『本で着てるんだったら』みたいな話でさ」

鳴護「……えっと、どこから話したものか迷うんだけど……うーん、スタイリストさんのお仕事って知ってる?」

上条「名前は知ってる。名前だけは」

鳴護「タレントさんや、テレビに出る人の衣装やアクセサリーを用意してくれる人、かな?分かりやすく言えば」

上条「ま、私服で出る訳にもいかねーからなぁ」

鳴護「だからリアクションする芸人さんが、着てる服を汚して『買い取りになるじゃねぇか!』みたいなのも、衣装はレンタルだから」

上条「って事は雑誌とかのモデルやってる人らも?」

鳴護「当然、そのスタイリストさんが選んだお洋服を着てます、はい」



472:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/10(火) 10:25:41.37 ID:6p2b0Y+N0

上条「……たまーにさ民法や地方局でバブルっぽい、肩パッド入ったスーツ着て原稿読んでるおねーさん見るのは――」

鳴護「予算とか……うんっ!提携してるアパレルさんの問題とかじゃないと思うなっ!」

上条「芸能界の闇がまた一つ露に……!」

鳴護「大げさだよー。出版社とテレビ局が組んでブームを起こしたのに比べれば、全然だし?」

上条「ステマじゃねぇかよ」

鳴護「という訳で、あたしはプライベートガーリー系を着るのはあんまない、かな?」

鳴護「っていうか考えてみようよ当麻君。まず落ち着いて」

上条「な、何を?」

鳴護「ファッション誌を参考にしたり、そのまま真似するって人は多いけど――」

鳴護「――モデルさん自身が雑誌まんまの格好で歩いていたら、それはもう笑いを通り越して怖いだけだよね?」

上条「……あぁ確かに。テレビ衣装で通り歩いてたら、違和感しかねーもんな」

上条「や、でも奇抜すぎてネタか罰ゲームとしか思えないような人も……?」

鳴護「それはどっちみち目を合わせちゃいけない人なんだと思うよ。あたし、セーラー服着たおじいさん見た事あるし」

上条「有名人らしいけどな……ってか、モデルやってる人の意見なんてそんなもんか」

鳴護「読者モデルさんとか居るよね?雑誌とかと契約している人」

鳴護「仲良くなった女の子から聞いたんだけど、海外はもっと大変だって」

上条「あー……契約社会だしキッカリしてそう」

鳴護「モデルさんなんか179cmで49kgあると”太りすぎ”って言われるみたいだし」

上条「正直、想像もつかねー世界だ……てかフィクションの設定でしか出て来ないレベルだろ」

鳴護「オフィシャルだけじゃなく、プライベートもスポンサーの商品を使ったり着たりしなくちゃいけないー、みたいな?」

上条「ARISAもそんな感じ?」

鳴護「『使っちゃダメ』は、ないよ?あ、サンプル品って新商品を貰ったりするけど」

上条「それはちょっと羨ましい」

鳴護「……化粧品とお茶だし、ねぇ?」

上条「お前は今、全国の飲料メーカーと化粧をしなければいけない妙齢のお嬢さん方に喧嘩を売ったからな?」

鳴護「○郎か吉野○のお仕事待ってますっ!」

上条「もうアリサさんは、フードファイターとして第二の人生を歩めば良いんじゃないですかね?俺は応援しているから」

鳴護「せめてアイドルはっ!シンガー的な要素は残してて欲しいかなっ!」



473:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/10(火) 10:29:04.85 ID:6p2b0Y+N0

――XX学区 大型商業施設

上条(てな感じで電車とモノレールを乗り継いでやって来た、某学区の大型商業施設。つーかショッピングモール)

上条(地上12階建て地下2階の超巨大なデパート。この規模の店があるかどうかで『都会』かどうかの区別になる……筈、なんだが)

上条(学園都市の中では『まぁ、大きめだよね?』の一言で流される程度の施設だ)

上条(商業施設もそうだけど、研究施設を含めても飛行場や軌道エレベータなんて非常識なシロモンがある訳だし)

上条(今更ツッコんだり驚いたりはしないんだ、あぁ)

鳴護「あ、当麻君当麻君っ!見て見てっ!あっちのスロープの先が透明になってるよっ!」

鳴護「てかお空飛んでるみたい!どうやってるのかなー?スッゴいよねっ!」

上条「あぁそうですよねっ!だから取り敢えず俺の名前連呼するのは止めてくれないかな?」

上条(EU観光と同じテンションで盛り上がってる鳴護さん。その純真さを忘れないで欲しいが)

上条「……」

上条(てか芸能人だっつーのに、囲まれる事もなく。むしろ誰に気付かれる事無く移動出来た)

上条(芸能人オーラ皆無だし、連れの俺が地味ぃだってのもあるだろうけど、それで良いのか?アイドルやってんのに?)

上条(……ま、ツアー始める前までは俺も少し緊張したけど、今は大分慣れちまったしなぁ)

上条(”女の子”なのは間違いないんだが、どっちかっつーと妹?カテゴリ的にはレッサー以上フロリス未満……どういう意味だ?俺も分からんが)

上条「……」

上条(まぁ……アレだよ。多分俺の想像なんだけどさ、って自分で言ってて悲しいが!まぁそれはスルーしてだ!)

上条(彼氏彼女とかカップルとか同棲したりするじゃん?なんつーか将来の予行演習みたいなー、感じでさ)

上条(俺はまぁ……好きな人が出来たら一緒に暮らしたいし、その延長が――うん、まぁ、アレだよな?パパパーン、的なね)

上条(でもまぁ、外で会って少し遊んで帰るだけの関係じゃ、相手の裏って言うか、素顔みたいなのは分からない訳で)

上条(外面を良く見せようと演技するんだったら、大抵は誤魔化せるだろうし――けれども)

上条(いざ一緒に暮らしてみれば、それこそおはようからおやすみまで一緒に居る訳で。当然相手の粗も見えるし、その逆もある)

上条(だから良くも悪くも素の相手が分かる……の、を先に体現済みの相手ってどうなんだろうな?)

上条(ぶっちゃけすっぴん――いや、今もそうだけど――から、アリサのパンツ洗ったりしてるし)

上条(リビングで寝落ちして楽譜にヨダレ垂らす姿なんかも見てるんだが……)

上条「……」

上条「……まぁ、良いか。今更だし、今更」



474:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/10(火) 10:30:59.10 ID:6p2b0Y+N0

鳴護「何?どうしたの?」

上条「や、別に。あんま緊張はしねぇよなって」

鳴護「え!?しないのっ!?」

上条「……してんの?」

鳴護「し、してないよっ?うんっ」

上条「……」

鳴護「……ふぁいっ!」

上条「レッサーとは別のベクトルで大丈夫?妙にキョドってませんか、アリサさん?」

鳴護「少し、眠れなかった……かも?」

上条「気分悪いんだったら無理すんなよ。どっかで休むか?」

鳴護「来ばっかで流石にそれはないと思うけど……うん、大丈夫!ヘーキヘーキ!」

上条「なら良いけど――てか、今日は買い物?」

鳴護「あ、ゴメンね当麻君?忙しいのに付き合って貰っちゃって」

上条「いやいや、それは全然。EUから帰って来てからアリサと遊べなかったし、嬉しいよ」

鳴護「昨日の公録の打ち上げに出れば良かったのに。佐天さんも残念がってたよ?」

上条「死ぬ程イジられるからねっ!これ以上ツッコミで喉枯らしたくねぇさ!」

上条「……てかアイドル?あの可愛いけど残念なフラグ構築の神様が、芸能界入りすんの?」

鳴護「と、取り敢えず次の凱旋LIVEのMCはやってくれるって!」

上条「やだ即断即決男らしい――てか、思い切りが良すぎる!もう少し悩めや!」

鳴護「事務所としてはDJとかの相方から始めて貰う、って」

上条「まぁ……素人をいきなりデビューさせるのは特殊な業界ぐらいしかないしなぁ」

鳴護「あたしのただ流れになってるボケを捌くのに期待するんだって!」

上条「人選間違ってるよ?巨大隕石破壊しにいくのに、工兵卒の軍人じゃなくてオッサン送り出すのと同じぐらい間違ってるな?」

鳴護「ね?おかしいよねぇ?あたし天然じゃないのに」

上条「よっし待とうかっ!まだ時間10時ちょいなんだけど、俺の喉がツッコミで枯れるからそれぐらいになっ!」



475:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/10(火) 10:34:27.62 ID:6p2b0Y+N0

鳴護「――とはい、これお願いしますっ!」

上条「何?突然……封筒、とメモ?」

鳴護「えっと、今日はその、お買い物を手伝って欲しいなーと思って、うんっ」

上条「それは構わないけど……」

鳴護「ちょっと分量が多いんで、当麻君にはそっちのをお願いしたいと思いますっ!」

上条「それも構わないんだが……メモの内容、ジ○ニャンのぬいぐるみとか、R-GAG○とかなんだけど……?」

鳴護「詳しくは後で説明するからっ!今はとにかく急いで、ねっ?」

上条「まぁ……分かった。それじゃ手分けして――」

鳴護「じゃ、よろしく――ゴメンねっ?」 パタパタパタパタッ

上条「おーい、走ると転ぶぞー……ってもう行ったか」

上条(婦人服売り場へ突撃をかけるアリサを見送り、さて俺はどっから買い物をしようかと)

上条(てか妖怪ウォッ○とガンダ○ってアリサの趣味とは思えないな。誰かへのプレゼントか?うーん?)

上条「……」

上条(……ま、考えても仕方がない。さっさと買い物をして合流しよう)

上条(つーか買い物ねぇ?何か買いにくいものなんかな……?)


※メモ
ジバニャ○
オプティマス・コンボ○
Rフィギュアシリーズ・R-9DP3 KENROKUE○
ワールドタンクミュージア○ エレファント重駆逐戦車
ご当地ふなっし○・詰め合わせ


上条(あー……ガキの頃好きだった、男の子のオモチャってヤツね。了解了解。そりゃアリサ買いづらい筈だわ)

上条(てかこのRフィギュア欲しいな!パイルバンカー超強ぇじゃん!)

上条(在庫があったら買おう――て、何だ?メモの裏にもまだ何か書いて――)


※メモ・裏
超機動少女カナミン インテグラル・変身セット(小)
プリキュ○・変身セット(小)
アナと雪の女○・衣装セット(小)


上条「アリサあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

上条「戻って来いっ!つーか戻って来て下さいっ!俺には、俺には荷が重すぎるじゃねぇかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

上条「……え!?マジで?本当にこれ俺が買うのか……?」



476:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/10(火) 10:38:47.85 ID:6p2b0Y+N0

――XX階 女児用玩具売り場

子供A「わ、すっげーこれSRのア○じゃね、ってミサカはミサカは言ってみる?効果は『場にあるカードの全凍結』だって!」

子供B「だったら大体こっちの方がカッコイんだ!『常在戦場ムシブギョ○・白カブトムシver』だし!」

上条「……」

上条(デパートの中は、うんまぁ、真ん中が吹き抜けになってるタイプの感じでさ)

上条(ただただ機能だけ、効率性だけを重視した造りじゃなくて、もっとこう感覚的に来場者へ癒やしを与えるコンセプト――らしい)

上条(……ま、裏事情、っつーか前一緒に来たビリビリが解説した所に拠ると)

上条(『昼間は吹き抜けから日光を取り入れて照明節約出来るし、防災面でもレスキューを入りやすくなってる』んだそうで)

上条(初めて来るショッピングモールだって言うのに、まるで下調べで資料一式暗記しているかのような正確さで知識を語ってくれた……)

上条(ゲコ太好きにも程があるよなー。や、別にいいんだけどさ)

上条「……」

上条(……今、『もげろ』って大量のツッコミがあった気が……?まぁいいや!今の俺には関係ない事だしっ!)

上条(それより今はもっと大事な事がある!……てか、マジでどうしよう……?)

上条(や、アレですよね?買ったんだよ、大体はね。プラモとか超合金的な奴は)

上条(売り場が違ってたから、少しだけ迷った事を除けば順調に。あぁそりゃもう恐ろしいぐらいになっ!)

上条(つーかむしろ普通?俺より年上の大きなお友達が群がっていたり……うんまぁ、有り難いですよねっ!何の事か分からないけども!)

上条(……ただその、残りっつーかさ。魔法少女変身セット的なのは……どうしよう?)

上条「……」

上条(つーかさ、つーかさこれマジ話――ってビリビリが言ってたんだけども)

上条(最近の大手のデパートにあるオモチャ売り場って、男児用と女児用が離してあんだってさ。いやマジで観察してみ?一ブロックぐらい、微妙に距離開けってから)

上条(……まぁ、なんつーかな?こう、少子高齢化に於ける新規購買層開拓って言うのかな?)

上条(所謂トマ=ピケティってマルキスト崩れのポピュリストが提唱する”富の再分配”)

上条(彼の故郷で彼の支持する社会党が実施した富裕税、その概念がそのまんま果したもんなんだけど、結果は散々)

上条(だって一つ二つ国を変えれば税金は違う訳で、そっちへ逃げれば税が回避されるのは当たり前)

上条(富裕層のフランス離れが進み、結局政府の財政が悪化しましたよーチャンチャン的な……)

上条「……」



477:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/10(火) 10:41:15.52 ID:6p2b0Y+N0

上条(何が言いたかったと言えばだ、売り場に行くよな?お前らっつーか俺らが!大きなお友達が新商品を漁る訳さ!)

上条(だからお母さん達から『大丈夫?』的なクレームが定期的に入ってるらしく、ネタ抜きで女児用オモチャ売り場とは距離が……うん)

上条(……や、まぁ?アレだよね?好きなのは良いと思うし、ガキに混じって吶喊すんのも、良いとは思うんだよ。個人の自由だし)

上条(だけどデータカードダ○の前で陣取るのだけは止めてあげて!?覇王色の覇○出してんのかってぐらい引いてるんだから!)

上条「……」

上条(……さて、そんな厳しい昨今の風当たりを鑑みて、だ)

子供A「てか最近のライダーは車に乗ってるからライダーって言うのはオカシイんじゃ?ミサカはミサカは業界通っぽく振舞ってみたり!」

子供B「にゃあにゃあ。大体ロボットに乗り込むのはライダーとしての義務を果たしてないんだぞ」

子供A「はっはっはー!お子様を騙してオモチャを買わせるような策略にこのミサカが釣られるかとミサカはミサカは言ってみる!」

子供B「って言う割には、大体箱から手を離してないし。説得力に欠けるのだ、にゃあ」

上条(どっかで見たようなお子様二人(※幼女)が、女児用オモチャ売り場で熱くライダー談義をしている……)

上条(つっても手に持ってるのは所謂”変身セット”的なアレであり、男児用オモチャじゃない。つーか売り場は少し離れてるし)

上条(この二人を掻き分けて、しかも変身セット×多数をレジまで持っていく……)

上条(重いよ!高校生が背負うミッションにしては難易度が重すぎるよ!)

上条(これだったらまだフロリスとパリ市内飛び回ってた方が楽だった……背中に、ふにょんっ、てのが当たってたし!)

上条「……」

上条(……覚悟を決めよう。簡単だって、ほら、ただレジへ持っていくだけ――)



478:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/10(火) 10:43:33.96 ID:6p2b0Y+N0

――脳内シミュレーション

上条『すいません、これとこれ――あと、これ下さい』 キリッ

店員『いらっしゃいま、せ……』

上条『何か問題でも?』 キリッ

店員『い、いえ別に!』

上条『あ、贈答用なので包んで貰いますか?』 キリッ

店員『畏まりましたっ!暫くお待ち下さい』

上条『えぇ、お願いします』 キリッ

上条(……あれ?これで良いんじゃね?)

上条(妥当っていうか、この路線で行けば『低年齢層女児玩具を買い漁る不審者』でダメージも最小限に抑えられる!完璧だ!)

上条『……』

上条(……そうかな?最小限っつってっけども、充分社会的にAUTOな損傷受けてないかな?)

上条(てか知り合いにでも見られたら一発でヤバいし――)

子供A『おにーさん、女の子のオモチャをたくさん買ってるんだね、ってミサカはミサカは驚愕を露にしてみるっ!』

上条『ま、待ってくれ!これは違うんだ!敵の魔術師の攻撃なんだ!』

子供B『個人の趣味は大体人それぞれだしー、どうこう言うのはよくないのだ』

子供B『中には「いい歳なのに女の子の服を買うお友達が居る」って浜面も言ってたし!』

上条『HAMADURAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!?ガキになに吹き込んでやがるだよおぉぉぉぉぉぉっ!!!』

子供A『そっかそっかって、ミサカミサカは納得したフリをしてネットワークへ情報を――』

上条『やめて俺の社会的立場が死んじゃうっ!?』



479:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/10(火) 10:46:57.76 ID:6p2b0Y+N0

――XX階 女児用玩具売り場

上条「……」

上条(普通に買うのもダメ、っぽいな。少なくともこのどっか見たようなお子様二人が居る間は)

上条(他の売り場にはないし、アリサに『無かったよ?』って言うのも信頼裏切るようで困る)

上条(あ、それじゃ逆転の発想って奴でさ。いっその事、事情を説明してみたらどうだろうか?)

上条(見た感じ悪い子じゃないだろうし、話せばきっと分かってくれる――)



480:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/10(火) 10:48:04.01 ID:6p2b0Y+N0

――脳内シミュレーション

上条『――てな訳でさ、実は俺友達から頼まれてるんだよ』

子供A・B『『……』』

上条『な、何?どうして沈黙?』

子供A『えっと、あのね?世の中には多様性に満ち溢れているよねっ、てミサカはミサカは遠回しにお話を始めてみるんだけど』

上条『なんか長い長い説教の前フリみたいだよね?主に俺がボスから喰らう感じの』

子供A『だからこう、自分のせーへきが他人と違っててもね、決して恥じる必要は――』

上条『違うわボケ!完全に勘違いしてんじゃねぇかよ!?しかもガキの割に聡いし!』

子供B『心配はいらないのだ、にゃあ!私の知り合いにもバニースーツ着せるのに必死になってる浜面が一人』

上条『察してあげて!?珍しく彼女持ちの浜面さんなんだから周囲は生暖かく見守ってあげて!』

子供B『でも最近、大体バニーさんなら誰でもいい的なアバウトさを感じるしー』

上条『出て来い保護者っ!どういうシツケをしたらこんなガキが出来やがるんだっ!?』

白い人『――なンかァうちの子がァしましたかァ?あン?』

上条『ゴメンなさい。人違いで――って止めろ!?デパートの中で能力使うんじゃぎゃーーーーーーッ!?』



481:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/10(火) 10:50:31.83 ID:6p2b0Y+N0

――XX階 女児用玩具売り場

上条「……」

上条(えっと……何だろうな?なんで詰んでんの?リバーシで四隅取られてる状態からスタートしてね?)

上条(や、落ち着け。取り敢えず考えろ!何か方法はある筈だ!)

上条「……」

上条(このお子様共が絡んできて駄目になるんだったら、最初から追い払えばいいんじゃね?ちっと可哀想だけどさ)

上条(なんかこう、アレだよ!勢いで誤魔化してみればいいんじゃね?)



482:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/10(火) 10:53:08.01 ID:6p2b0Y+N0

――脳内シミュレーション

上条『モモンガーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!』

子供A・B『『』』

上条『お前らどっか行け!行かないと――』

白いカブトムシ『――垣根パーーーンチっ!!!』 ベシッ

上条『そげぶっ!?』

白いカブトムシ『さっきから黙って視――見ていれば!まず私が相手になりますよっ!このロリコ×の風上にも置けない外道が!』

上条『垣根ー、×リの時点で道踏み外してんぞー?その道に迷い込んだら転生出来なくなるって噂だぞー?』

白いカブトムシ『”Yesロリコン!Noタッチ!”あの日私達が立てた誓いを忘れたとは言いませんよ!?』

上条『してねぇな?何かお祭り騒ぎっぽい大乱闘には巻き込まれたけど、そんな話は特にしてなかったな?』

白いカブトムシ『例え天が許そうともこの私が許しません――そう!』

白いカブトムシ『キングカイザーゼギオ○と呼ばれた私がねっ!』

上条『それ違う人だ。戻って来ーい』



483:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/10(火) 10:57:50.36 ID:6p2b0Y+N0

――XX階 女児用玩具売り場

上条「……」

上条(てか金髪の女の子が鞄につけてるアクセサリって、垣根だよね?)

上条(さっきまで眼が緑の安全色だったのに、ちょい前から赤の警戒色へと切り替わってんだが)

上条(しかも鞄が揺れてるにも関わらず、こっちを向いて微動だにしない……どんだけ警戒されてんの、俺?)

上条(ちなみにカブトムシには瞼がないらしい。てか他の昆虫にもあるのか?ないっぽいけど)

上条(……なんだろうな。脳内シミュレーション悉く失敗するって尋常じゃねぇよな……)

上条(まるで呪われてるかのように、俺の人生がギャグに組み込まれていく未来が幻視える……!)

上条「……」

上条(これはもうアリサに『ゴメンナサイ』して、せめて一緒に買って貰うしかないか)

上条(うんまぁ、それが妥当だよね?そもそもミッション自体が難易度高すぎみたいな――)

子供A「――ジーーーーッと擬音をつけて、さっきからミサカ達の後ろで苦悩している人をミサカはミサカは見てみたり!」

子供B「あ、浜面の友達の人だ。にゃあ」

上条「……見つかった!?」

白いカブトムシ『……いや、そりゃ見つかるでしょう。何やってんですか?』

上条(こうなったらもう、手段はアレしか残されていない……!)

上条(逃走でも排除でもなく!だからといっておもねる事もない第三の選択肢!)

上条(俺はそれを――選ぶ!)

上条「えっと……これとこれと、これか」

子供A「あ、ア○のドレスだねー、ってミサカはミサカはちょっと欲しいなって思ってみた!」

子供B「にゃあ。まだまだお子様なのだよ、大体あれは――」 パシッ

子供B「――って、なんで私の手を取っ」

上条「――俺の」

子供B「にゃあ?」

上条「――俺のためのこのドレスを着てくれないか……ッ!?」

子供B「んにゃーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」

子供A「プロポーズ来たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?ってミサカはミサカはネットワークに中継してみたり!」

白いカブトムシ「」

上条「大丈夫だ!資金はある!君に苦労をさせるつもりは――」

金髪「――って人の妹に何やってる訳ーーーーーーーーーよっ!」

ゲシッ

上条「そげぶっ!?」



484:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/10(火) 11:00:20.32 ID:6p2b0Y+N0

金髪「いいからこっち来る!あと、アンタ達はあっち行きなさい、つーか速やかに逃げるって訳!」

子供B「あ、あれ?」

金髪「いいから早く!このボケは結局私がシメるから!」

上条「――ってぇーなコラ!テメなに全力で蹴り込んでんだよ!?」

金髪「……ちっ、生きてた訳か!」

上条「生きてたか、じゃねーよ!?こっちはマジで頸の骨折れるかと思ったぞコノヤロー!?」

上条「大体アレだ!いきなり人様に攻撃加える理由なんて――」

上条「……」

上条「ま、まぁそれは置いておくとして!」

金髪「おい、そこの不審者。自覚があるんだったら反省しなさいよ!どう見たって変質者だって訳だし!」

上条「……待ってくれ、これは誤解なんだよ!ほら、荷物見ろ!」

金髪「……子供のオモチャ……よね?……やっぱり!?」

上条「じゃねーよ!頼まれてんだっつーのに!こっちのメモ!ほらっ!」

金髪「あー……女の子の字で書いてあるけど……何コレ?罰ゲームって訳?」

上条「多分違う。メモ書いた子も他のフロアで買い物してっから、分担だ。分担」

金髪「低年齢層向けのオモチャを買わせるのって、相当ドSか麦野か天然じゃないと無理じゃない?」

上条「天然だな。その中で言えば……ってイタタ」

金髪「どうしたの?そんな怪我しちゃって」

上条「オ・マ・エ・だ・よっ!突然お前が飛び膝くれやがったせいでしょーが!謝って!俺に謝って!」

金髪「……結局、事故みたいな訳だし?」

上条「……まぁ、確かに不審者っぽくはあったけどな」

金髪「てかさっきの何な訳?人の妹にドレスがどうとか、ナニ姉を差し置いてプロポーズしくさってんの?」

上条「した憶えはねぇよ!……や、子供にはちょっと分かりづらかったかもしんないけどさ」

上条「こう……『俺の代わりにこのドレス買ってきてくれない?良かったら一着あげるし?』的な」

金髪「……それ結局、変質者の手口とどう違うの?」

上条「人を変態っぽく言うな!断じて俺はノーマルだ!」

金髪「ふーん?ま、それじゃ悪かったって訳よね」

上条「反省してるんだったら、まぁいいけどさ」

金髪「綺麗に入ってすっきりしたー。やっぱいいわー」

上条「してないですよね?金髪さん全然反省してないですもんね?」

金髪「あ、そいじゃこうする訳よ。私が手伝うってのは?」

上条「……え?マジで?いいの?」

金髪「出血――じゃなくて、お詫びねっ!お詫びでっ!」

上条「何?さっきからクラクラするのは出血してるせいかー、そっかー」

金髪「待っててね!今ダッシュで買って――」

上条「……」



485:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/10(火) 11:02:41.28 ID:6p2b0Y+N0

――XX階 女児用玩具売り場

店員「――客様!お客様!」

上条「………………っと、はい……?」

店員「お気分が悪いのでしたら、医務室までお運び致しましょうか?それとも救急車を――」

上条「あぁ、いえ平気です。頭が少し痛いですけど」

店員「そう、ですか?お連れ様がいらっしゃるなら、お呼び出しを致しますが」

上条「それも大丈夫――てか、俺なんで倒れてたんですか?」

店員「え!?それは存じませんが……頭の所、少し赤くなってますけど」

上条「……あぁあの金髪に殴られたんだっけか。クソ、少し痛むな――って、あぁ」 ガサゴソ

上条(変身セット(女児用)は買っといてくれたのか。なら、俺が文句言う筋合いじゃねぇな)

上条(出来りゃ起こしていって欲しかったが……まぁ、いいや)

上条「すいません。ちょっと立ちくらみがしたみたいですけど、もう大丈夫です。ご迷惑をかけました」

店員「ならいいのですが……あ、もしご気分が優れなければ、近くの店員か警備員にでも申し付けて頂ければ」

上条「あ、はい。ありがとうございます」

上条(――さて、頭にダメージを負ったが無事に買い物も済んだと)

上条(てかあの金髪の子、妹だって言ってたよな?つー事はあのちびっ子二人のねーちゃんだと)

上条(ビリビリをちっこくしたのが”打ち止め”で、一方通行が世話してるんだっけ……あぁロシアにまで行った思い出が)

上条(あん時も理不尽によく分からない理由で攻撃されたが……まぁ一方通行らしいっちゃらしいか)

上条(でもそっちとは無関係だろうし、もう一人の金髪の子)

上条(浜面と垣根が面倒看てる、フレメアって女の子の身内だよな。なんつっても似てたしさ)

上条(『暗部』繋がりで色々あって、元のメンバーの妹さんを代わりに保護って中々出来るこっちゃねぇよな。俺も見習わないと――)

上条「……あれ?」

上条(確か――”保護”したんだよな?ねーちゃんの代わりに。つまり今の子がしないからって)

上条(でも今フツーに居たよなぁ?つーか蹴りかますぐらいには超元気だった訳で)

上条(だったら何で浜面達、今の子に代わって妹さん守らなきゃいけないんだろ?)

上条(何か……おかしい、よな……?)

上条「……」

上条(……ま、いいや。妹さんの方もそんなに驚いてはなかったようだし、何か事情があんだろ)

上条(下手に首突っ込むのも何だから、向こうから相談して来た時にでも訊いてみよう――)



486:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/10(火) 11:07:07.44 ID:6p2b0Y+N0

――ショッピングモール 吹き抜け

上条「『――あー、もしもしー?……うん』」

上条「『こっちは終った……いや別に?ちょっと時間かかったけど、それ以外は』」

上条「『そっちは……あぁ、婦人服売り場には行けないしなぁ――うん?終った?ならいいか』」

上条「『けど、なに?……はい?メモ、無くしちゃった?』」

上条「『……』」

上条「『もしかしてなんだが……変身セット……?』」

上条「『……俺が持ってるメモの裏に、書いてあっ――』」

上条「『……』」

上条「『いや大丈夫だったよ!いやマジでマジで!全っ然問題なんて起きなかったし!』」

上条「『だってここは学園都市だもの!昭和テイストな勘違いコントシーンなんて無かった!皆無だったよ!』」

上条「『お金も間に合ったから――うん、だから、そのアレだよ』」

上条「『ジュースの一本でも奢ってくれれば――バカヤロウっ!貧乏学生をナメんなっ!』」

上条「『野菜ジュースだって一食になるんですからねっ!……や、そういう事じゃなくて』」

上条「『だからまぁ……うん、気にする必要は』」

上条「『てか――やっぱさ、俺、思うんだよ』」

上条「『――アリサは笑ってた方が可愛いって』」

通行人A「……ちっ」

通行人B「ちっ」

通行人C「リア充なんて死ねばいい」

上条「おい通行人ども失せろ失せろ!つーか雑踏で話してると結構聞き耳立ててる奴居るけども!」

上条「『――ん?あぁいやいやこっちの話――えっと?今?』」

上条「『8階の……吹き抜け?……そうそう、真ん中辺りの。うん、ベンチで』」

上条「『あぁいいって、こっちから――婦人服売り場は、うん、なんかこうTo LOV○るの予感しかしないからパスでお願いします!』」

上条「『……いや、トラウマがね?別に俺は悪くな――な、無いよ?きっと!』」

上条「『――ん、りょーかい。待ってる――はい?』」

上条「『ナンパ?しないしない……なんてだよっ!?俺をどういう眼で――』」

上条「『……』」

上条「『……ゴメンナサイ、その節は多大なご迷惑を……』」

上条「『……はい、はい、待ってますから。はい、それじゃ……』」 ピッ

上条「……」

上条(何だろうな……凄まじいプレッシャーが電話の向こう側からして。思わず敬語になってしまった)

上条(や、でもさ?俺アリサに対してセクハラ的なのはしてないよね?)



487:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/10(火) 11:09:04.61 ID:6p2b0Y+N0

上条(精々出会った時に転ぼうしたアリサに押し倒されたり、インデックスと一緒にフロ入ってるのを見たり)

上条(旅行中にも似たような感じだったし、うんまぁそんなには……)

上条「……」

上条(……死にたくなるぐらいに罪悪感がヒシヒシと。俺、どんだけ嫁入り前の娘さんの裸見てんだっつーの)

上条(そのくせ彼女イナイ歴=年齢……どっか間違えてません、神様?)

上条(神様がくれたものは不幸にしてもNo buts(※異議無し)っていうか。俺の人生ネタにして、一杯引っかけてんじゃねぇかってぐらいですね)

上条(つーか今になって思い出してみれば、あん時のアリサ不必要に”たゆんっ”てしてたから、多分ノーブ――)

上条(――ま、いいや。例の変身セットはアリサの天然が発揮されただけみたいだし、良かった……嫌な事を俺に押しつけるような子じゃなくて!)

上条「……」

上条(『最初から確認の電話一本入れればいいじゃねぇか』的なツッコミが聞こえそうだが……男なら振り返らない!買っちゃったし!)

上条(……ま、あの金髪の子にイイ感じで貰ったハイキックの痛みが、ずきずき痛む訳だが……気にしない事にしよう)

上条(ぶっちゃけアリサ――ARISAとしてナンパされたりすんじゃねぇの?ってのが不安っちゃ不安だけど)

上条(幸いここのショッピングモールは私設警備員がしっかりしてて、柄の悪い客はお引き取りを願うように――)

青ピ「――あ、ちょっとすいません?少しだけお時間構いません?――そうっ!」

青ピ「ボクとあなたの将来について話し合いませんかっ!?」

OL「あ、結構です。失礼します」

カッカッカッカッ……

青ピ「……」

青ピ「あ、すんまへんそっちの二人連れのお嬢さん――あ、彼氏待ち?」

青ピ「彼氏らしい人らはあっちでナンパしとったで?いやいやマジマジ、ホントやって!信じて――」

青ピ「――あー……彼氏さん?や、違うんや?そういうんやなくって、えっと――」

青ピ「――あ、プリキュ○がノーブラ学園の制服着て歩いとるで……ッ!!!」

青ピ「……よし!今の内に逃げよか!」

上条「おいさっきからそこのバカ何やってんだ!?つーか分かるだろ!彼氏ヅレ手ぇ出してる時点でオチがな!」

上条「人が折角一息ついてんのになにやらかしてんだ、あぁっ!?」

上条「あ、後そっちの女の子二人、『ノーブラ』に超反応した彼氏さん達は悪くないからね?誤解しないであげてな?」

上条「何だろうな……こう、男に取っては『タマネギを刻んだら涙が出る』ぐらいの生理的な反応だから?当たり前だから!」

青ピ「あれ良く聞いたらノーブル学園だっちゅー話やね」

上条「うん、だからこのバカは俺が引き取るからノーカンでお願いしますっ!一応フォローもしたし!」



488:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/10(火) 11:12:40.89 ID:6p2b0Y+N0

――ショッピングモール 吹き抜け

青ピ「やー、助かったでカミやん。もう少しであの男共に俺の108の必殺技が炸裂する所やったわー」

上条「あぁうん、いいんじゃね?なんだったら今から呼んで来――」

青ピ「残念っ!ほんとーーーーーっに残念やわー!ボクの秘められた能力をお見せできへんで!」

上条「……いや、まぁいいんじゃないかな?平和でさ、つーか面倒臭ぇから」

上条「てかお前何やってんの?」

青ピ「ナンパに決まってますやんか?」

上条「明らかにお断りされてたのに?」

青ピ「きょ、今日はちょっと日が悪いんちゃうかな?きっとアレやね、昨日換装した右手のサイコガ○の具合がな」

上条「コブ○さん巻き込んでんじゃねーよ!あの人は何やったってカッコイイんだからな!」

青ピ「あ、てか誘いましたやん!金曜に!学校で!」

上条「用事あるって断ったじゃんか」

青ピ「その用事って何ですのん?見た感じ買い出しっぽい感じですけど」

上条「そりゃお前――」

上条(今ユーロチャートで人気上昇中!オリコンでも上位ランキングへ食い込み、写真集の売り上げもベスト5に入る期待のアイドル!)

上条(最近じゃフードファイター顔負けの大食いを披露してくれるA・RI・SA!)

上条(彼女に頼まれて買い物に付き合ってるだけだろ――)

上条「……って言えるかあぁっ!?」

青ピ「あい?どうしましたん、急に?」

上条「いやいやっ!何でもない!何でもないよ?つーか君はどうしてココに?」

青ピ「ボクは新しい出会いを求め――」

上条(……よし!青ピが自分語りに入っている間に考えろ!アリサがこっちへ来る前に!)

上条(どうせアリサの性格上、天然を発揮してフロア間違うとか、そういうボケをして時間を稼いでくれる筈!その間に何とかし――)

鳴護 キョロキョロ



489:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/10(火) 11:14:12.14 ID:6p2b0Y+N0

上条「ストレートに来ちゃったっ!?」

青ピ「で、ボクが『フルコースはあと三つかな。お前は?』ってドヤ顔で言ってやったんよ!」

上条(……良かった……ボケがただ流れになってて気付いてる感じはしない……今の内になんとかしないと!)

上条(メール打つのも不自然だし、俺のハンドサイン8級を生かすチャンスだ!)

上条(えっと、『今ちょっと立て込んでるから、あ・と・で』) カクカク

鳴護「あ、当麻君だっ!とーまくーーーーーーーーーーーーーんっ!!!」

上条(絶望的なまでに空気読まねぇな!?流石はアリサだ!何ともないぜ!)

青ピ「『ぽんきっつぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!』、そうボクがぽんきっつぁんを止めなんだら、今頃大変な事になっとったな……!」

上条(そしてこのバカはグルメの話から霊媒する先生の話へ移ってる……よし!まだ誤魔化せる!)

上条(『いやだから、今ちょっと忙しいから』) カクカク

鳴護「……?」

上条(マジかっ!?アリサが止まった……!俺の願いが珍しく天に通じ――)

鳴護「あれ?聞こえないのかな?それじゃ――」

鳴護「――とーまくーーーんっ、やっほーーーーーっ、こっちこっちーーーーーーっ!!!」 ブンブンッ

上条「分かってた!こうなる事は分かってたさ!」

上条「日々重ねたボイトレの成果が充分に出た、素晴らしい発声ですよねっ!」

通行人A「……あれ、あの子どっかで――?」

通行人B「声も聞いた、よなぁ……?」

上条(マズい!周囲の人間が気付き始めてる……こうなったら逃げるしか!)

上条「あ、ごめんちょっと幼児を思い出したからそれじゃっまた学校でなっ!」 スッ

青ピ「あ、カミやんどしたん?なんやの急に」

上条「詳しい事は後から話す!今急がないと危険がピンチなんだ……!」

青ピ「……カミやん……!?」

上条(――良っし!青ピは騙せた!)



490:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/10(火) 11:22:51.43 ID:6p2b0Y+N0

鳴護「あ、当麻君。お待たせー。クレープとジュース買ってきたけど、どっちがいいかな?」

鳴護「ジュースはタピオカ・ナタデココ増し増しと、アロエ炭酸で。あ、オマケしてくれんだって!」

鳴護「それでねー、クレープはケバブとトルコアイスのトッピングと焼き鳥を載せたのが新商品だって言ってたよっ!凄いねっ!」

鳴護「あ、あと出来れば一口欲しいな、なんて?ダメかな?」

鳴護「あたしのもあげるし――ほらっ!トレードだから!女の子同士でよくやるのと一緒だから!」

上条「ごめん。もう無理だわ」

鳴護「え、なに?」

上条「てかアリサさんは自覚を持てよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?アイドルなんだから!ア・イ・ド・ルっ!なんだからな」

上条「明らかにそれっぽい雰囲気出す所じゃねぇ――」

青ピ「――えっと。カミ、やん……?」

上条「HAHAHAHA!ワタシ、ニッホンゴ、ワッカリマセーン!」

鳴護「いや、流石にそれは無理がありすぎると思うよ……?」

青ピ「てか、そっちの子もしかしてARI――」

上条「――そんなお前に『幻想殺し』っ!」 バスッ

青ピ「そげぶっ!?」

上条「――良し!誤魔化せた!……今の内に逃げよう!」

鳴護「多分、何一つとして誤魔化せてないと思うんだけど……?」

上条「――大丈夫!ギャグシーンだから場面転換すれば無かった事になるよっ!」

鳴護「当麻君、現実と戦わないと!?」

上条「いいから!――ほら、手っ!」

鳴護「あ……うんっ!逃げよっ……!」 ギュッ

タッタッタッタッタッ……

青ピ「……ボクの、出番は……?」 ガクッ



491:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/10(火) 11:26:04.96 ID:6p2b0Y+N0

――XX学区 鳴護院 昼過ぎ

上条「ここは……?」

鳴護「うん、と……あたしの実家、かな?」

上条「実家って……」

上条(アリサと一緒に逃げ出した後、軽く――いや、俺の三食分の量を超えてたが――食事を取って、また電車で移動)

上条(下町風のXX学区で降りて、徒歩20分ぐらいの住宅街の一角にその建物はあった)

上条(一見すると教会風、けれど十字架が見当たらない聖堂。それと付属している小さな学校のような施設)

上条(校庭のようにも見える大きな庭からは、子供達が遊ぶ声がする……あぁこれは)

女性「……おや……?そこに居るのは――アリサ?アリサではないですか?」

上条(開けっ放しになっていたドアの向こうから女性――おばさんよりも、少しだけ年かさの女性の姿が見えた)

上条(母さんよりも上、多分憶えていないけどばあちゃんよりは下、って所か)

鳴護「い、院長先生、こんにちはっ!」

女性「……アリサ、あぁアリサ!相変わらずあなたはそそっかしい子ですよ!まだ治りませんか!」

鳴護「えと、その……ごめんなさい?」

上条(珍しく緊張してるらしいアリサと、そんなアリサに少しキツ言い方をするこの人。正直俺はムッとしたんだが)

女性「家へ帰ったら『ただいま帰りましたよ』ですからね?全くもうあなたと来たら……」 ギュッ

鳴護「……はい、院長先生……ただいま」

上条(言葉の上だけ叱責する形を取りながらも、目元の皺を深くしてアリサの両手を握る)

上条(……なんだろうな。たったこれだけでなんか泣きそうになる。てか、ここが――)

上条(――紛れもないアリサの”実家”なのか)



492:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/10(火) 11:28:59.88 ID:6p2b0Y+N0

――鳴護院 応接間

女性「今、お茶を入れますからね。お客様も座ってお待ちになって」

鳴護「あたし手伝いますっ」

女性「あなたはお手伝いする方に決まってるでしょう、アリサ」

女性「あ、頂き物で佳いお紅茶があるのですよ――でもあなたは量の方が良かったんですよね?」

鳴護「院長先生っ!当麻君の前でそういうのはっ!」

女性「あらあらまぁまぁ。アリサも人の眼を気にするお年頃ですか。私が老ける訳ですよ」

鳴護「院長先生ったら!またそういう!」

上条(なんか……仲、いいな。ほぼ俺が置いてきぼりになってるけども)

上条(少しだけホッとするような……とは言え知らないアリサの姿を見て、モヤッとするような?)

鳴護「当麻君、真に受けちゃ駄目だからね?先生はからかって楽しんでるだけで!」

女性「からかってなんかいやしませんよ。なんでしたらアリサが大食い大会で獲ったトロフィーを持ってきましょうか?」

鳴護「んなっ!?アレ捨ててって言ったのに!」

上条「ま、まぁまぁ。俺もアリサ――さん、が大メシ喰ら――健啖家だって知ってますから」

女性「それは重畳ですよ。この子ったら細いくせによく食べますでしょう?なので殿方に吃驚されるばかりで」

女性「でも安心だわ。少し不幸だけど真面目そうなお相手で」

鳴護「……あの、先生?今日はそういう用事で来たんじゃないんですけど……」

女性「分かってますよ。けれどお友達を連れてきたのは初めてでしょう?なら、少しは言わせて貰いま――」

鳴護「あ、それじゃあたしっ――プレゼント渡してくるからっ!」

上条「プレゼント?あ、それじゃ俺も一緒に――」

鳴護「当麻君は疲れただろうし、先生と一緒に待ってて!?ねっ!?」

上条「お、おぅ……」

鳴護「それじゃ行ってくるから、うんっ」 パタン

女性「まぁまぁ忙しなくてごめんなさいね?あの子、普段はもう少し大人しいのだけど」

上条「いえ、多分純粋に嬉しいんだと思いますよ?院長先生にお会いして」

女性「そう?……うふふ、ありがとうね、えっと――」

上条「上条です。上条当麻です」

女性「あら、ご丁寧にありがとう。私は鳴護由里です。鳴護院の院長をしているのよ」

上条(言葉言葉はたまにキツくなるが、基本上品なばーちゃん――つったら怒られそうだが、そんな感じだな)

上条(俺が会った事が人で一番似てるのは……エリザードさんか?あそこまで豪快じゃないけど)

上条「鳴護”院”の、鳴護さんって事は」

由里「えぇ。この孤児院で母親――と言うよりは、おばあちゃん役をしているわ」



493:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/10(火) 11:34:28.92 ID:6p2b0Y+N0

――鳴護院 応接間

鳴護『――こーらっ!大人しく並ぶ!ってかあぁもうふざけないっでって!』

鳴護『お姉ちゃんいい加減にしないと怒――ひゃぁっ!?ちょっと、どこ触って――』

鳴護『お、おっきくなった、けど――そうじゃないよ!関係ないし!』

鳴護『大きくして貰っているって誰に?ねぇ、そこら辺はっきりさせ――』

上条「すいません。あっちの部屋がメッチャ気になるんで見て来ていいですか?」

由里「殿方が婦女子の間に入ってはいけませんよ」

由里「それにあの子達も、アリサが帰るのをずっと待っていましたから。余りに無粋な事は止して上げて下さい」

上条「はぁ」

由里「上条さんの様子だと、アリサからは何も?」

上条「えぇまぁ。『買い物に付き合って欲しい!』って流れで、着いてきただけです」

由里「それは……珍しいですね」

上条「珍しい、んですか?」

由里「はい、あの子は大体一人でする事を好むので……それだけ上条さんへ気を許しているんでしょうが」

上条「大げさですって。ただ知り合いで、荷物持ちが欲しかっただけじゃないですか」

由里「そう、でしょうか。上条さんが仰るのであれば、きっとそうなのでしょうね――あ、お紅茶が冷めますよ?」

上条「あ、はい。頂きます……あ、美味しい」

由里「それはよう御座いました……にしても驚きましたよ。あの子が誰かを連れてくるなんて」

上条「そう、ですか?アリサ――さんは」

由里「アリサでよう御座いますよ?」

上条「……アリサは、別に自分の出自をオープンしてますし。そもそも他人への気遣いが細やかで、良い子だと思います」

上条「だから別に隠しておきたいんじゃないんですから、知り合いの一人や二人、連れてくるでしょうに」

由里「ですから、余計に、ですよ」

上条「はい?」

由里「言い方は良くないのですけど、やはり当院のような身寄りのない子供達のための施設は、あまり他の方がいらして気持ちの良いものではありませんよね?」

由里「なんて言うのでしょうか……引け目、みたいなものを何となく感じてしまう方が多いようでして」

上条「……あぁ分かる気がします」

上条「俺も両親からの仕送りとかして貰ってますけども、だからっつって真面目にやってるかって言えば、うーん?って感じですから」

上条「俺みたいな人間からすれば、その、やっぱり思う所はありますよね。情けないっていうか」

由里「えぇ、そうですね。上条さんのように真っ正面からご自分の内面と見つめる方も居ますし――」

由里「――中には”それが出来ない余り”に私達を莫迦にする方もおりますよ」

上条「……はい、居ますね。そういうのも」

由里「でも、アリサは他人への思い遣りがあり、とても優しい子です」

由里「ですから、そんな子が連れてきた――『迷惑をかけても大丈夫と思った』上条さんは、特別ですよ」

上条「……だと、嬉しいんですけどね」

由里「そうですよ。私はおばあちゃんだから分かります」



494:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/10(火) 11:36:26.17 ID:6p2b0Y+N0

上条「アリサは――もっと、誰かに頼ってもいいと思います」

上条「アリサの人生は……やっぱりアリサ自身でどうにかなきゃいけないですし、それが当たり前だと思います」

上条「どんな業――ってのは言い過ぎですけど、誰だって同じように生きていれば壁に当たるし、挫折もします」

上条「最終的に解決するのは自分ですし、出来るのも自分しかいません。それは、絶対に」

由里「……えぇ」

上条「……でも、だからって何でも、自分一人で背負い込む必要はないと思うんですよ」

上条「友達に愚痴れば楽になりますし、なんだったら暫く同じ道で肩を貸したっていい」

上条「何も一人で解決しようとしなくたって――」

由里「――鳴護、って変わった苗字だと思いませんか?」

上条「は、はい?」

由里「この施設も十字教の教会だったのですが、学園都市の建設でどこかへ行ってしまいましてね」

由里「再開発計画で移住してきた私の父が買い取ったんですよ」

上条「……」

由里「父はね、あまり多くは語りませんでしたが、どこか北の方で宮司をやっていたらしいんです」

由里「何でも神職の儀式の一つに、弓を使ったものがありまして――と、お若い方は存じないでしょうが」

上条「……もしかして梓弓ですか?」

由里「よくご存じですこと。もしかして上条さんも?」

上条「あ、いや。知り合いが少し」

上条(闇咲逢魔が使ってたな)

由里「何か悪い事があると、弓を射るフリをして弦を鳴らして厄を払う――父はそう申しておりましたよ。確か鳴弦の儀でしたか」

由里「その儀式を取り扱う一族で、ですから『鳴護』と名乗るのを許されました」

上条「……なるほ、ど?」

由里「昔は家名を賜る事自体はとても名誉ある事で、それはそれは誇らしい事だったんです――と、父がよく零していましたが」

由里「でも、ご一新の後では皆様が名乗られたでしょう?だから有り難みも減ったんだ、ともよく愚痴っておりましたわ」

上条「……なんつーか、アレな親父さんだったんですね。気持ちは分かりますけど」

由里「でもね、上条さん。中には名前のない子だっておりますのよ?特にここは、”そういう事”も多いですから」

上条「……」

由里「そんな子達を集めて、同じ苗字に――家族になるのは私達の誇りですよ」

由里「細やかなプレゼントですし、大したものでもないでしょうが……それでも」

由里「『あなたは決して一人ではない』と。忘れさせないためにも」

上条「……ご立派です。ですけど」

由里「それはきっと、あの子が気付けなければいけませんよ。そうでなければ価値がありませんもの」



495:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/10(火) 11:37:53.92 ID:6p2b0Y+N0

――2014年10月5日(日) オービット・ポータル本社近く 夜

上条「――えっと、ここまででいいのか?別にビルまで送ってもいいけど」

鳴護「……ん、大丈夫。何かあったらワンコール鳴らさなくてもお姉ちゃん駆けつけてくれるだろうし」

上条「するなよ?絶対にするなよ!?巻き添え食らうのは俺なんだからな?」

鳴護「そこまで振られると乗った方がいいのか迷うんだけど……」

上条(あれから――鳴護院で少し早めの夕食をご馳走になり、さっさと帰って来た)

上条(ちなみに俺は一部のガキにはやったら警戒されてたんだが……やっぱアリサは人気あるらしい)

上条(……ま、得体の知れない人間だから、仕方がないんだろうが)

鳴護「今日は本当にありがとうございましたっ!鳴護アリサでしたっ!」

上条「おい、番組シメるみたいになってんぞ。これはこれでレアなのかも知んねーけどさ」

鳴護「いや、うーん、ほら?……アレじゃない?いざ、っていう緊張しててさ」

上条「緊張?別れの挨拶に何言って――」

上条「……」

上条(え、何?緊張ってどういう事だ?なんでさよなら言うだけなのに、緊張する必要が――まさか!)

上条(レッサーに続いて二人目か……!?)

上条(……なんて展開、ラブコメじゃあるまいしある訳ねー。少なくとも俺の所にはやってこないよっ!残念ながらなっ!)

上条(……けど、そうすると一体何を――?)

鳴護「コホン……では、当麻君っ!しっかり聞いてねっ!」

上条「お、おう……」

鳴護「本日、現時刻を持ちまして!あたしこと鳴護アリサは――」

鳴護「――上条当麻君を卒業したいと思いますっ!」

上条「……………………はい?」



496:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/10(火) 11:41:53.13 ID:6p2b0Y+N0

鳴護「あれ?納得してない、って顔だよね?」

上条「むしろ今のどこに納得出来る要素があったかと。つか何?卒業ってどういう事?」

鳴護「や、EUツアーの時から思ってたんだけど……その」

鳴護「……あたしね、当麻君に迷惑ばっかりかけてるじゃない?」

鳴護「だから、どこかできちんとした区切りみたいなのをつけなきゃって、前から思ってんだよ」

鳴護「……最後だし、ちょっとワガママ言いすぎたかも知れないけど。ゴメンね?」

上条「いや――そんな事は……」

上条「俺はアリサに迷惑なんてかけられた憶えなんて、ない!」
鳴護「俺はアリサに迷惑なんてかけられた憶えなんて、ない!」

上条「!?」

鳴護「――ってさ、やっぱり『当麻君だったらこう言ってくれるだろうな』って考えてた台詞そのままだよ?」

上条「……」

鳴護「当麻君は優しいから……うん、そう言うのも分かってた、つもり」

上条「アリサっ!」

鳴護「だから、そのお友達をやめるとか、もう知り合いじゃありませんよー、ってのじゃなくって、その」

鳴護「これからは、当麻君に甘えちゃダメだと思うんだよ。そうしたら、多分、どこまでも寄りかかっちゃうから」

上条「いいだろ別に!友達に頼って何が悪――」

鳴護「――レッサーちゃん、当麻君に告白した、んだよね?」

上条「――っ!」

鳴護「お返事はどうするのかなー?とか、気にはなるけど……うん、その、ね?」

鳴護「今日みたいなのは、やっぱり『デート』だと思うんだよ。うんっ」

鳴護「好き同士な女の子と好きな男の子が一緒に遊んだり」

鳴護「大事な場所へ連れて行ってみたりするのって――あ、違うからねっ!?今は一般論であってあたしが当麻君好きだとかじゃなくってだよ!?」

鳴護「だから、その、こういうのは」

鳴護「……もう、やめに、しないと……ね?当麻君?」

上条「……」

鳴護「じゃないと、ほらっ!レッサーちゃんに悪いから!」

鳴護「あたしは……もう、大丈夫だから!一人でも、なんとか生きていけるから!」

鳴護「だから、だから……ッ!」



497:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/10(火) 11:43:05.05 ID:6p2b0Y+N0

上条「……アリサ」

鳴護「だからもう、あたしは、鳴護アリサは――」

鳴護「――今日で上条当麻君を。卒業、します」

上条「アリサっ!」

鳴護「いいかな、当麻君。これはきっと当たり前の事なんだよ」

鳴護「あたしがもし逆の立場で、さ?もし当麻君と付き合ってた未来があったとしたら」

鳴護「あたしじゃない誰かと、楽しく笑ってる当麻君を見るのは、とても……辛い、って思うよ……?」

上条「だからって!こんなやり方する必要があるのかっ!?」

鳴護「それとも――当麻君はさ、あたしを彼女さんにしてくれるのかな?」

上条「っ!」

鳴護「もしそうだったら、スッゴく嬉しい事だけど……」

鳴護「……でも、そうじゃなかったら、いつかどこかで”こう”しなくちゃいけないんだよ。分かるよね?」

上条「……」

鳴護「……やっぱり、ここでキスしてはくれないんだね、当麻君。少し期待してたんだけど、さ」

鳴護「うん、だから、こうなってしまったから――」

鳴護「――あたしのお話はここで、終わりだよ――」

鳴護「――さよなら、当麻君」



507:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/17(火) 10:17:11.58 ID:wCnfKPH/0

――オービット・ポータル本社近くの近く 夜

柴崎「……」 ピッ

柴崎「『――あ、はい。柴崎で御座います。いつもお世話になっております』」

柴崎「『それでですね、アリサさんが――はい?今なんと?』」

柴崎「『止めて下さい。ARISAさんのアイドル生命絶たれますから』」

柴崎「『”泣いてた”って……や、そう言うんじゃなくてですね、事情がありまして。はい』」

柴崎「『……いやですから、現役アイドルの保護者が猟奇殺人はマズいですよ!』」

柴崎「『たださえ新興事務所潰したいマスコミが、ARISAのスキャンダルも狙ってるって言うのに』」

柴崎「『……報道各社がトップニュースで連携するに決まってるじゃないですか。どこだって紐付きなんですから』」

柴崎「『落ち着いて下さい!ですから、その……』」

柴崎「『上条さんが何かされたのではなく、アリサさんが――』」

柴崎「『それ結論変わってませんよね?何があっても抹殺したいっていう強固な意志が感じ取られるのですが……』」

柴崎「『まぁ……同性としては共感しなくもないですが、隣の芝生へミントを植えたからといって、自分の庭に桜が咲く訳じゃないですからね』」

柴崎「『短期的にはそれで良くても長期的にはボロが出ますし、どう考えても意味がない――と、そうじゃなく』」

柴崎「『何と言いましょうか……事実上はフッてしまったので、どうかそっとしておいてあげ――』」

柴崎「『――やめてください。抹殺の話へループしてますよ』」

柴崎「『じゃ、ないです。”フられた”のではなく、逆の”フッた”です』」

柴崎「『……』」

柴崎「『……はい。アリサさんが上条を、ですね』」

柴崎「『……飲んでませんよ?血液濾過フィルタがあるからアルコールは分解されますし』」

柴崎「『いやマジです……はい?』」

柴崎「『敵の魔術師の攻撃じゃあ無いと思いますよ?つーかお前ら根本的なとこで似てんな!』」

柴崎「『――と、いうのは冗談として……あぁいえ、その、本当は本当です』」

柴崎「『詳しくはプライベートな事なので、直接聞いてくだ――知りませんよ。そこまでは』」

柴崎「『……はぁ?会いに、って……こんな時間に?』」

柴崎「『ダメです、ダメダメ。ここでリーダーが下手打って参戦したら、確実に修羅場になります。自重して下さいね』」

柴崎「『いや、あー……アレですよ、見解の違いって言うか、まぁ至極ご尤もな意見なんですけども』」

柴崎「『誰かがいつかは言う必要があったと思います。トドメを刺したのがアリサさんだけって話で、えぇ』」

柴崎「『……ま、刺したのか刺されたのかは微妙な所ではありますけどね……』」

柴崎「『……はい?何ですか?』」



508:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/17(火) 10:20:57.45 ID:wCnfKPH/0

柴崎「『バカじゃないですかね』」

柴崎「『いや別ですって。話を聞いて下さい、リーダー』」

柴崎「『確かに彼氏彼女は大切ですし、そりゃティーンエイジにとっての恋愛は大切だと思いますよ?』」

柴崎「『中には強烈なトラウマを抱えて、二次元へ走る人間が居るとか居ないとかって話も聞きますし』」

柴崎「『けれど、別に、最初に付き合った者同士が墓場まで付き合う、なんて決まりは無いですよね?少なくともこの日本では』」

柴崎「『むしろご夫婦になるのはそうでない場合が多いでしょうに』」

柴崎「『幼い頃のあれこれ、若く未熟な精神故に色々やらかしてしまって、黒歴史に認定するのもよくある話です』」

柴崎「『なんでしたら奪えばいいじゃないですか?それのどこが悪いので?』」

柴崎「『むしろ相性の合わない相手と一緒に居る事の方が不幸……と、私見ですが』」

柴崎「『……はぁ?子供ですか……って、あぁ。リーダーも子供でしたっけ』」

柴崎「『そりゃまぁ、その、あーっと……女性は男性とは違うので特殊かも知れませんがね』」

柴崎「『”恋愛経験の有無で人を好き嫌いする”って話、たまに聞きますけど。結局――』」

柴崎「『――”その程度で揺らぐようであれば、その程度の想い”だって事なんですよ。分かりますか?』」

柴崎「『……本当に相手を慕っていれば、その相手の過去は気にならない――ま、人として最低限のルールを守っていれば、という前提がつきますけど』」

柴崎「『少なくとも、その、リーダーは――』」

柴崎「『……』」

柴崎「『……いえ、何でもないです。こっちの話で』」

柴崎「『ともかく今は、ですよ?お二人が距離を置いて考える事が必要かと』」

柴崎「『普通に考えて”友達以上恋人未満”なんて関係、そう長くは続く訳が無い』」

柴崎「『それがお一人であれば、まだ自然と恋人になったり、また離れたりはしたんでしょうが……まぁ』」

柴崎「『一応形の上では上条さんがフラれているので――はい、そうですよ』」

柴崎「『何も一回ダメだったからって、諦める必要なんてないんですってば』」

柴崎「『……リーダー?』」

柴崎「『……いやいやっ!そこは諦めて下さいよっ!?何”クルマ”出そうとしてんですか!?』」

柴崎「『てか絶対に失敗しますって!きっと謎の力で”クルマ”が壊れて、アンダースーツのまま投げ出されるラッキースケベが起きますから!』」

柴崎「『なので妙なフラグを立てないためにもここは自重――』」

柴崎「『……』」

柴崎「『……いや、すいません。あの、実はですね、自分は前々から思っていたんですが』」

柴崎「『気分を悪くしないで下さいよ?推測ですからね――あぁやっぱり言っちゃっていいのかな、これ』」

柴崎「『怒りませ――あぁはい、もう怒ってる?分かりました。言いますけどね』」

柴崎「『その――リーダーって、上条さんと接触する機会を増やす”ため”に目の敵にしてませんか?』」



509:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/17(火) 10:23:25.95 ID:wCnfKPH/0

柴崎「『や、なんつーかフランスでも思ったんですが、アリサさんに攻撃されてブチ切れてた、って言うよりもですね』」

柴崎「『スタジアムに鬼気迫る形相で”クルマ”を走らせたのは、どう考えても上条さんが心配で心配でしょうがないって感じで……』」

柴崎「『他にもバチカンでアラミド繊維の対刃対弾対BCNスーツ……あ、はい。あの黒いボディスーツ』」

柴崎「『あれ、別にリーダーが空気読まないんじゃなくって、もし万が一お二人に何かあった場合、直ぐになんとか出来るように、とか?』」

柴崎「『今にして思えば……アリサさんと上条さん、”どっち”に嫉妬していたのかも怪し――』」 プツッ

柴崎「『もしも?聞いてま――切られた……』」 ピッ

柴崎「…………………………はぁ」

柴崎(手帳手帳……あった) ゴソゴソ

柴崎(あの様子じゃARISAとして活動するのは……いや、やれと言えばやるでしょうが、出来るかは別問題)

柴崎(とはいえLIVEまであと三日。明後日はリハで丸一日潰れるし、キャンセルさせるのは無理)

柴崎(ARISAのコンディション、というかモチベーションは最悪でしょうから、LIVE自体をキャンセル――)

柴崎(――する、のもアリでしょうが、今は別の事に打ち込んで気を紛らわせた方がいいでしょうかね)

柴崎(それで失敗するのであればそれだけの話。そして歌姫としての人生が終ってしまったとするならば、その程度だったと)

柴崎(今のように惰性や周囲からの期待へ唯々諾々と応えている――ただそれだけで仕事を続けるのであれば、さっさと引退した方がアリサさんのためでしょうし)

柴崎(……そもそも子供をあそこまで追い詰めたのは、まず間違いなくツアー強行のツケ)

柴崎(勿論自分達大人が不甲斐ないせいですし……一度普通の女の子に戻って考え直すのもアリでしょうか)

柴崎「……」

柴崎(しかし上条さんは変に気を遣っていたような?あちら側関係で何かある、とか?)

柴崎(……ま、想像は想像に過ぎませんからね。LIVEが終ればレディリー前会長も帰還しますし、『エンデュミオン』関係が明らかになるのかも)

柴崎(取り敢えずは明日の番宣マラソンはキャンセルさせて、流石に一日はブランクを入れた方がいいでしょうしね)

柴崎(……しかしまぁ、なんだってこのタイミングなんだか。ShootingMoonツアーの大トリ、一番大事な所でなくたって、ねぇ?)

柴崎(裏を返せばそれだけ、って事でもありますが……さて)

柴崎「全く、二人でフラれるとは……今日はなんて夜だ」

男「――でも、ないですかねー。今夜はいい夜ですよー?」

柴崎「はい?」

男「綺麗な空じゃないですか、まるで生き返ったかのように。ほら、もうすぐ地獄の門が開こうしていますねー」



510:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/17(火) 10:26:23.36 ID:wCnfKPH/0

柴崎(なんでしょう……頭イタイ人なのは分かりますが……)

柴崎(神父さん?なんかカリアゲのカラアゲ議員のように幅の広い襟を立ててる、変わった青いローブ)

柴崎(全面に大きく十字教のシンボルであるクロスが描かれている……ですが)

柴崎(何故かその服は大きく上下に引き裂かれていて、テープのようなもので辛うじて留められている、と)

柴崎(都会の突き抜けたモード系ファッション?何かのコスプレでしょうか?)

柴崎(自分と同じか少し上ぐらいの歳なのに……いや、好きは好きで良いんでしょうが)

柴崎(そんな事よりも地獄の門が開く?触ってはいけない類の人か)

柴崎「えぇと……」

男「全く、本当に全く!何が悲しくて審判を待つ身である私が!どうしてこんな所にまで来なければいけないんですねー?」

男「これもまたお導きとあらば吝かでは無いのですが、どうやらそういう訳でもないようですし」

男「何が悲しくて売女の猟犬にまで身を窶さなければいけないのか……はぁー、溜息が出ますねー」

柴崎(何か言い出しましたね、それもスッゴい事を)

柴崎(学園都市以外にも異能者がいるのは分かりますけど、まさかこんな所でウロついている筈も無いでしょうし。だとすれば彼は――)

柴崎「では、自分はこの辺で失礼します。良い夜を」

男「あ、失礼。待って下さいよ、まだ話は終っていませんのでねー」

柴崎「すいません。先約がありまして先を急いでおりますから」

男「あなたはこんな言葉をご存じですか」

男「――『良い異教徒とは死んだ異教徒だけである』、と!」

柴崎「殺気――!?」

男「これはこれで幸運なのかも知れませんねー……ッ!」

柴崎「っ!」

男「……」

柴崎(銃を抜く暇もなく、また能力で”糸”を飛ばす時間もなく――)

柴崎(――相手がイギリスのお嬢さん達ならば、クリティカルで首を刎ねられている!)

柴崎「……?」

柴崎(……ぐらいの隙はあったのに、何の衝撃も襲っては来ない。どういう事で?)

柴崎(目の前の不審者の視線は、何故かこちらの手帳に留まっていた)

男「フランシスコ……?」

柴崎「え、えぇ、そう書いてありますが――てか、よくこの暗闇で見えますね」

柴崎(暗視ゴーグルでもしていないと、月明かりがあっても流石に見えるような明るさではないですが)



511:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/17(火) 10:29:01.26 ID:wCnfKPH/0

男「フランシスコさん?あなたのお名前ですか?」

柴崎(その名前は以前ボディガードをした時に使った偽名――にも、関わらず)

柴崎(護衛対象の子供からその名前を入れた手帳をプレゼントしてくれたので、何となく使ってるだけ、ですが)

柴崎(……何か返答次第で戦闘になりそうな雰囲気ですし、馬鹿正直に言うのも危険)

柴崎(と、なれば芸能事務所で培った詐術のスキルで切り抜けるしかないですかね!)

男「日本人に見えますけど、もしかして?」

柴崎「えぇはい、十字教の洗礼名ですね。フランシスコという名を頂きました」

柴崎(……正しくはメキシコシティの駅前で買ったスポーツ紙に載っていたプロレスラーの名前です)

男「宗派は?」

柴崎「えっと……」

柴崎(フランシスコ……確か歴史の教科書に載っているのは、イエズス会でしたっけ?)

柴崎「イエズス会、だと思います」

男「イエズス会……あぁ南米で多いですし、もしかしてそちらで執り行われたのですか?」

柴崎「はい。以前仕事で行った際に」

男「なんだそうだったんですかー。それなら最初に言って下さいよ、危ない所だったじゃないですか」

柴崎「それは、どうも?」

男「と、すればこの地獄にも我が神を尊ぶ同胞はいるという事ですか……なら、手は出しにくいです」

男「しかし南米ですか。あそこはイエズス会の裏庭になっていますし、『解放の神学』やらなんだで、神の栄光が届きにくい所ですからねー」

男「信徒20億の内、5億が固まっているためそろそろ教皇も出さなければいけないでしょうねー」

柴崎「あの、すいません。出てますよ?」

男「はい?」

柴崎「ですから先代教皇マタイ=リース猊下が引退され、確か今の教皇の出身は南米のイタリア系移民の方だったかと」

男「なんと!退位されたのですか!あの番犬がよくまぁ……」

男「と、言う事は失敗したんですか……ふむふむ、個人的にはザマーミロですが、後進が愚物過ぎて混乱するでしょうねー」

男「……それも恐らく計算済みなんでしょうが――」

柴崎「では夜も遅いですし、自分はここで失礼します」

男「はい、お引き留めしてすいませんでした。あなたに神の加護があらん事を」

柴崎「ありがとうございます。では、良い夜を」

柴崎「……」

柴崎(……何だったんだ、今のは……?)



512:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/17(火) 10:32:56.34 ID:wCnfKPH/0

――2014年10月5日(日) 上条のアパート 深夜

上条「……」

上条(いつもの部屋、灯りをつけずベッドに寝そべりながら、白い天井を眺めている……)

上条(アリサと別れた――物理的な意味で――後、”偶然”現れた柴崎さんに見つかり、車で自宅まで送って貰った)

上条(何故か車内は気まずい雰囲気で包まれていたが、何も訊いては来なかった)

上条(……きっと俺が言うまで黙っててくれたんだろうが……そういう気分でもない。てか言えたもんじゃねぇしな)

上条(自宅前まで送って貰った所までは何となく憶えているが……なんだろう?その後が曖昧だ)

上条(灯りをつける気力もなく、ましてやメシを食う気も失せていたので、さっさと寝る事にした)

上条(インデックスが居ない部屋で、ベッドを使うのは実に久しぶりな気もしたが……特にこれと言った感慨はない)

上条(少しだけイギリス清教でやれてんのか心配になったが……)

上条(……今、顔を合わせたら泣いてしまうかも知れない。だから)

上条「……」

上条(例えばの話、世界を滅ぼそうっていう魔王が居たとしよう)

上条(特に意味がある訳でもないのに、何となくお姫様を攫って洞窟の横穴へ押し込めたり)

上条(呪われた鎧を人間へ送って、空気を読んで仲間を増やしてみたりするような感じに)

上条(まぁ、頑張って勇者か暇人が魔王が倒しお姫様も助け出した。それでメデタシメデタシだと)

上条(もしかしたら頑張って倒した裏ダンジョン最深部の悪魔に、『暇……なのか?』と連呼されるかも知れないが)

上条(……でもさ、お姫様が勇者と結婚するかって言ったら、それはまた別の話だろう?)

上条(こないだ読んだラノベだったら『貴族的なアレコレ』で、政略結婚させられるかも知れないけど)

上条(実はお姫様には昔から懇意にしている幼馴染みが居て――って方が、よっぽどありそうな話だ)

上条(……ま、悪い奴から助けてくれたんだら、少なからず厚意は抱くと思うんだが……決して好意とイコールになる訳でもない)

上条(危険な状況下で起きた吊り橋効果だって話かも知れないし……)

上条(……ちなみにレッサーが嬉々として話してたんだが、海外の似たような童話として騎士が龍を討伐する話があって)

上条(その見返りに王様が王女様をくれるんだが――)

上条(――騎士は断って、何と王様へ『王子様をくれるよう』に頼み、二人は末永く暮らしましたとさ、ってのがマジであるらしい)

上条(ネタじゃないぞ?ネタの方が少ないぐらいだし!)

上条(どっかで何か、盛大な勘違いしているような……つーかどう考えても自爆じゃねーかと思わないでもないんだが、きっと分からないんだろうな。それは)

上条(相手の尊厳を認めるのと、自分達の価値観を一方的に押しつけるのとでは全く意味が別なんだが……)

上条「……はぁ」

上条(特殊な性癖且つ非常識な人間はともかく――つーか、そんな事で現実逃避して場合じゃなくてだ。一体何が起きた――)

上条(――俺がだらしないせい?……否定は……うん、まぁ、し辛いっていうか、出来ないけども!)

上条(何か様子がおかしかったのは、はしゃいでるんじゃなくって、最初から”こういう”事だったんだろう)

上条(昨日の夜、寝付けなかったのも、メモを書き分けるのを忘れたのもきっとそのせい――か、どうかは怪しいな?素でやってる可能性もあるけどさ)

上条(……てか、うん。アリサの言ってる事は分かるし、尤もではある、よな)

上条(そんな訳で姫神以来のキッツイ説教を喰らった訳だが……あれ?)

上条(姫神に説教なんて貰ったっけ……?いつ?どこで?)

上条(あんま憶えてないが……まぁ、いいだろう。今はこっちの話だ)



513:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/17(火) 10:36:15.96 ID:wCnfKPH/0

上条(確かにレッサーから告白され、今んとこ保留で逃げている――いや逃げてないよ?返事を待って貰ってるだけって話だからね?)

上条(あのキ――もとい、えっと……ドラスティックでフリークス的な性格だが……まぁ、ぶっちゃけ俺の知り合いじゃ珍しくもない)

上条(誰かのために、何かのために笑って死ねるような、そんな普通じゃない女の子だ)

上条(一部金髪メッシュにした黒髪とイギリスっぽい容姿――イギリスっぽいってなんだ?よく分からんが、なんかこう、シュッとしてるって言うかな)

上条(後はやっぱりおっぱ――発育が非常に宜しい。てか将来が楽しみ――という説もあるな!一部にねっ!)

上条「……」

上条(嬉しくない――訳が、ない。つーか混乱もしてるし、まだ二割ぐらいはネタじゃねぇかって疑っては居るが)

上条(それでも……打算だとは思ってはいない。皆で旅して気付いたんだが、レッサーはそんな事出来るような器用なタイプじゃなかったからだ)

上条(良くも悪くも一直線、変な方向へ突っ切る事もしばしばあるが、そこは仲間のフォローで何とかする)

上条(胃壁をガリガリ削られるベイロープは苦労人――と、最初は思ってたんだが)

上条(実際にベイロープがトラブルを持ち込むのもあるようで。去年の『ハロウィン』がそうだったそうだ)

上条(あぁ見えてイギリス以外には割と冷たい……まぁ、確認する機会はなかったけど、そうなのかも知れない)

上条(ただ俺の感想から言わせて貰えれば、そこは『器』の問題な気がする)

上条(ベイロープぐらい物わかりがいいと、危険且つ仲間のリスクが高まれば、さっさとそれ以外を”切る”事もあるだろう)

上条(それを情が無いと言うか、仲間思いだと言うのか、それは個々人が決めれば良い事だ)

上条「……」

上条(……いやいやレッサーだよ、レッサー)

上条(勇者指令ダクオ○ネタを再開一発目で振ってきた謎の外人……)

上条(謎って言うか、レッサー達のネタ知識は”先生”って奴が教えてるらしいし、一体何者なのかそっちも興味があるが)

上条(悪い子じゃない。イタイ子ではあるが)

上条(好きか嫌いかの二択で言えば、迷い無く好きだって言える。それは間違いない……ん、だけどさ)

上条(その”好き”がどんな種類の好きかってのは、こう、なんか、分からないって言うかな)

上条(兄妹みたいに、ぎゃーぎゃー言いながらアホみたいにはしゃぐレッサーと、喉を枯らしながらフォローする俺の姿は想像出来る)

上条(むしろヨーロッパで買い出しに行くと、大抵そんな感じだったし、俺も楽しかった)

上条(……ただ、なぁ?それ以上となると……うーん……?)

上条(度々ラッキースケベ+ハニトラっぽいものは発生してるんだが……)

上条(俺だって男だし?やっぱり少なからず興味はある訳で……少しだけな?基本ジェントルだけどさ)

上条(エロい眼で見た事もない事はない。たまーにね?いつもじゃないよ?うん、全然全然?)

上条(いや、うん、だから、こう……恋人とは違うんじゃねぇかな、っては思わないでもなかったりしないでもない。どっちだよ)

上条「……」

上条(……ただ、それはアリサにも言える事だ)



514:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/17(火) 10:38:20.79 ID:wCnfKPH/0

上条(妹――と、までは言わないし、好きかと言えばこっちも同じく好きだと即答するだろう)

上条(女の子だってのも理解はしてるし、そのご立派な――ゲフンゲフン!も、まぁ分かるのは分かるよ!事故だけどなっ!)

上条(でも、さぁ……?)

上条(ダンウィッチでレッサーに告白された時にも言ったんだが、実感が、なぁ?)

上条(少なくとも、だけど。俺に懐いてくれている女の子は結構居る。例えば……そうだな)

上条(インデックス、ビリビリ、神裂、小萌先生、姫神、御坂妹、風斬、オルソラ、アニェーゼ、ルチア、アンジェレネ、五和、吹寄にキャーリサ)

上条(他にもバードウェイ、黒夜、サンドリヨン、クロイトゥーネ、雲川姉妹にソーズティや常盤台の金髪おっぱいの人。他にも居た気がするが)

上条(そいつら全員に俺は友達だとか恩人だと思ってるから、胸を張って『好きだ』って言える。それは絶対に……ま、気恥ずかしいから本当に言うかは別にしても)

上条(そして多分……一部にボスとかボスとか、あとボスとか怪しいのは居るけども、彼女達だってちょっとぐらい厚意は持ってくれてると思う)

上条(でもだからってさ?全員が俺に恋愛感情を持ってるなんて有り得ないだろ?それどんなラノベだって話だ)

上条(だから、レッサーに告白されても実感が沸かないって言うか――)

上条「……」

上条(……今、ものっそい数の『死ね』って罵声が聞こえたような気がするんだけど……気のせい、だよね?何か覚醒したとかじゃねぇよな?)

上条(脳裏に兎の前足の形をした電流棒のシルエットが……頭が痛い)

上条「……」

上条(……ま、誠実じゃないってアリサの言い分も分かる。逆の立場だったら、多分モニョるだろうし)

上条(でも『レッサーよりもアリサが大事だ!』なんて、俺が即答するのも……なんか、違う)

上条(俺にとってみれば二人とも大事な仲間で、友達だ。それに優劣つけるのって、なぁ)

上条「……」

上条(けどなー、なんかこう、アリサもアリサでおかしかったって言うかさ?)

上条(何を考えてるのは分からないが、悩んでるのも分かる。つーか分かっちまうよ、あんだけ追い詰められた顔してんだから)

上条(デート云々の話は抜きにしても、出来る事があれば力になってやりたい――と、俺は思う訳だ、と)

上条(幸い――不謹慎かも知れないが、レッサーに暫く会う予定はない。連絡先は知ってるけど)

上条(……その前にアリサだよな、やっぱ。ツアーのオーラスが控えてるってのに、あんな調子でやれる訳がねぇよ)

上条(つってもなー。俺一人が頭抱えても、都合良くいいアイディアなんか出て来ないし)

上条(アリサと仲の良い誰か……佐て――初春さんに、相談してみようっ!うんっ!)

上条(……なんだろう、うん?別に今、『あ、この子に任せたらイージス艦もタイタニックなるよね?』とか思ってないからな?)

上条(悪い子じゃない、むしろいい子なのは間違いないんだが……残念なんだよ、色々と)

上条「……」

上条(……よっし!悩んでたって仕方がない!トールにも言われたけど、バカなんだから考えたって仕方がない!行動しないと!)

上条(レッサーに告られたのはさておくとして!今はアリサ――ARISAの悩み解決を手伝うしか!)

上条「……」

上条(……問題を先送りしただけじゃね?)



515:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/17(火) 10:40:36.93 ID:wCnfKPH/0

上条(いや、そうじゃなくてだ、その――)

コン、コン

上条(問題があったら、まず一つずつ解決しようってアレでね?べ、別に流されてる訳じゃないんだからねっ!)

上条「……」

コン、コンッ

上条(……いかん。一人でやってても白々しいだけだ)

上条(や、別にレッサーを蔑ろにしてるって訳じゃなくてですね?こう、俺にだって色々と気持ちの整理的なものが――)

コンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンッ

上条「――てかさっきからコンコンウルセェなっ!?インデックスさんやっ小腹が空いたからって窓ガラス叩いてアピールするのやめなさいっ!」

上条「幾らひもじそうにしたっておウチにあるご飯は全部食べたでしょっ!後は明日の朝ご飯なんだからねっ!」

上条「もう俺は土御門さんちへ『あ、あのー、ご飯余ってませんか?』って聞きに行くのは嫌なんですよっ!?兄貴が帰ってきたら遠回しなカツアゲって怒られるだろうし!」

上条「だからインデックスさんもいい加減大人になっ――」

上条「……」

上条「……インデックスは」

上条(今、イギリス清教の実家へ帰っている最中で……)

上条「……居る、筈が――」

コンコン、コンコンコンッ

上条(ベランダへ続くガラスの扉、その手前、室内には誰の姿も見えない。勿論インデックスもだ)

上条(その代わりに白のカーテンが引かれ、外へ光が漏れないようになっている。そう)

上条(けれど今は灯りも消した暗い部屋。いつの間にか月が昇ったのか、青冷めた月の光が逆に差し込んでいる)

上条(影が。ベランダには誰かの影が映り込み――)

上条(――こんこん、と今もガラスを叩いている……)

上条「……誰、だ……?」

少女「あ、ごめんね当麻君?急に来てビックリしちゃったかな?」

少女「ちょっと近くまで来たもんだから、ご挨拶しとこっかなー、みたいな?」

上条「――アリ、サ?」

少女「うん、そうだよね。アリサ、鳴護アリサ――」

アリサ(少女)「――アリサは”わたし”なんだよねっ」



516:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/17(火) 10:42:32.44 ID:wCnfKPH/0

――上条のアパート 深夜

上条「――じゃ、ねぇよ!?急にどうしたんだ!?女の子が一人で出歩いていい時間じゃ――」 ガラガラッ

上条(カーテンとベランダへ続くガラスを開ける。するとそこに居たのは予想通りの人物だった)

上条(……いや、そう、かな?アリサはアリサなんだが、その、格好が……?)

アリサ「どうしたの当麻君?」

上条「ん、いや、その、服……?」

上条(夜色――深い紺色のワンピース、他に荷物らしい荷物もなく、不自然な所もない――か?)

上条(限りなく満月に近い月明かりの下、青冷めた光に照らされたアリサは――)

上条(――鳥肌が立つぐらいに、神々しいまでの美しさを誇っている……!)

上条(見ているだけで泣きたくなるような、何か、ずっと前に交わした約束を忘れているかのような)

上条(――切ない感情が暴走しそうになる……)

アリサ「――大丈夫だよ、当麻君」

上条「……アリサ!」

アリサ「わたしはずっと、当麻君の事だけを考えているから」

アリサ「喜びよりも、悲しみよりも、ただあなたの事だけを想っているから」

アリサ「だから、大丈夫」

上条「お――」

アリサ「やだ、当麻君ったら泣いちゃって!どうしたの?何が悲しいのかな?」

上条「ちが、違うんだよ!これはきっと――」

アリサ「あ、だったら少しお散歩しようっか?ここじゃ月もよく見えないだろうし」

アリサ「行こ、当麻君」 スッ

上条「あ、あぁ……」

上条(アリサと繋いだ手はただただ冷たく、人の温もりなど欠けていて)

上条(それでも俺は何故か安堵してしまう。記憶が無い筈なのに!憶えてなんか無い筈なのに!)

上条(それでも思い出すんだ!昔々母さんに手を引かれた事を!泣き虫だった俺を優しく包んでくれた母さんの手を!)

上条(ちょっと待て!?これはどう考えてもおかし――)

アリサ「――ね、当麻君、知ってた?」

上条「アリ――」

アリサ「――出会った時からね、ずっとずっと好きだったんだよ、当麻君の事が」

上条(そう言って俺とアリサはベランダから飛び降りる。仲良く手を繋いだままで)

上条(……あれ?何か忘れてるような……?)



517:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/17(火) 10:44:20.60 ID:wCnfKPH/0

――青冷めた月の下

上条「えっと……アリサ?」

アリサ「うん?何かな?」

上条「俺の部屋って、確か10階ぐらいじゃなかったかな……?」

アリサ「やっだなもうっ当麻君ったら!”10階から飛び降りたら死んじゃう”よっ」

上条「そう、だな。それはそうならないとおかしい」

アリサ「うんうんっ、だったらわたし達が平気だって事は、”10階じゃなかった”んだよ。簡単な話だよね?」

上条(反射的に振り向いた俺の目にはいつものアパートが見える……な)

上条(俺の部屋がある階以下を無理矢理切り飛ばしたような)

上条(デコレーションケーキを不格好に切断したみたいなアパートがあるだけだ)

上条「あれ?一階、だっけ?」

アリサ「違うの?」

上条「ん、あぁいやゴメン?勘違いしてたみたいだ」

アリサ「だよねー、当麻君が急に変な事言い出すから驚いちゃったよー」

上条「や、でもさ――」

アリサ「あ、ほらほらっ!見てみてわたしのお友達がっ!」

上条「へぇ、アリサの友達?ビリビリとか佐天さんとか?」

アリサ「新しいお友達かな?それとも旧いのかも?」

上条「どっちだよ」

アルフレド「こんばんは、カミやん」

上条「あぁ、こんばんは」

クリストフ「こんばんは、上条さん」

上条「あぁ、こんばんは」

団長「……」

上条「あぁ、こんばんは」

安曇「こんばんは、ニンゲン」

上条「あぁ、こんばんは」

アレ「テケリ・リ」

上条「あぁ、こんばんは」

アリサ「えーっとね、この人達はわたしに逢いたかったんだって」

上条「ふーん?やっぱアイドルだと人気あるんだ?」

アリサ「違うよ当麻君、そうじゃないってば!それは”あたし”じゃない?」



518:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/17(火) 10:48:15.91 ID:wCnfKPH/0

アリサ「そうじゃなくって”わたし”の方!」

上条「どっちでも同じじゃねぇか」

アルフレド「待てコラ。テメー俺達の苦労知ってんのか!?この面子集めんのにどんだけ俺が大変だったか!」

上条「知らねーよ。つーかカミやん言うな!」

クリストフ「ま、まぁまぁ。兄さんもホラ、こういう性格だから友達も居ないんで」

クリストフ「なんで上条さんには、こう空気的なものを読んで欲しいなー、みたいな?」

アルフレド「ダグオ○のOVA、男のシャワーシーンがあるのってどう思う?」

クリストフ「兄さんそれ事故だよね?仲良くなる第一歩で勇者指令ダグオ○の、しかも一部の掛け算する人に大人気なOVA版の話題から入るのってどうかな?」

クリストフ「それもう最初から打席に入るバッター殺しに来てると思われてても仕方がないよね?」

団長(※アニメ声)「嫌いじゃないです!むしろバッチ来い!」

クリストフ「『団長』さんも素を出すの止めませんか?ここへ来てアニメ声の鉄仮面巨体ってどういう特殊なジャンルの企画ものにも引っかかりませんからね?」

安曇「交尾だな、うん」

アルフレド「ビンゴっ!」

クリストフ「止めろっ!濁音協会が実はホモネタ大好きだとかっ根も葉もない噂が広がるから余計な事は言うなっ!?」

安曇「ホモとかけて腐女子と説く、その心は?」

アレ「テケリ・リ」

安曇「上手いな、と安曇は畏敬の念を隠さない」

クリストフ「上条さん!さぁ早くこっち側へいらして下さい!ツッコミが、ツッコミの絶対数が足りていませんから!」

団長(※アニメ声)「クリストフさんはツッコミがお好き……メモメモ」

クリストフ「ぶっ飛ばすぞ?あぁ?僕はまだもう一回変身残してんだからな?」

上条「……なんか楽しそうだな、お前ら」

アリサ「だよねー、時々ついていけなくて困っちゃうけど」

上条「いいって。アリサが穢れるから知らない事は知らなくて良い」

アリサ「そうだねー、気枯れちゃったら滅びるだけだもんねぇ――っと、着いたっ!」

上条「ここは……?」



519:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/17(火) 10:54:51.31 ID:wCnfKPH/0

――XX学区 『88の奇跡 記念の碑』

アリサ「あ、もうついちゃった。早いねー、やっぱり」

上条「あっちには折れた『エンデュミオン』が……」

アリサ「ん、跡地だね。ここは『88の奇跡』――」

アリサ「――つまり、スペースプレーンが不時着した所だよ」

上条「……あぁ、シャットアウラの親父さんの……」

上条(墓石のように立ち並ぶレリーフが88の影を作っている……いや、俺達を入れれば丁度90か)

アリサ「三日後――あ、いやもう日付変わったから二日後に、”あたし”のShootingMoonツアー、ラストステージをする場所でもあるし」

上条「あ、骨組みはもう組まれてんのな」

アリサ「……に、したって『アルテミスに矢を放て』かぁ……バカにするのも程があるって言うか」

アリサ「ま、いっか。どっちみち全部終るし」

上条「アリサ……?」

アリサ「……えっと、昼間ゴメンね?当麻君、いきなりで驚いちゃったよね?」

上条「あぁうん、確かに少しだけ」

アリサ「……怒ってる?傷ついちゃった?」

上条「怒ってはないって!俺が気づかなかったのを指摘してくれたんだから!でも!」

アリサ「でも?なーに?」

上条「……でも、本当に少しだけ、ほんのちょっとだけど――」

上条「――アリサに否定されて、距離を取りたいって言われたのは、痛かったな」

アリサ「そっか――」 ギュッ

上条「アリサ……」

上条(避ける間もなく引き離す力もなく、極々自然にアリサは俺を抱き締める)



520:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/17(火) 10:58:11.27 ID:wCnfKPH/0

上条(温もりは全くなく、どこか作り物めいた冷たさが俺の体を、心を、魂を醒ましていく)

上条(カップへ注いだ珈琲が冷めるように……これは、もう――)

アリサ「もう泣かなくなんていいんだよ?これからはずっとわたしが守っていてあげるよ」

アリサ「世界が当麻君を受け入れなくっても、わたしは当麻君を受け入れるから」

アリサ「どんなに辛い現実が貴方を傷つけようとしても、わたしが、あなたを守るよ――」

アリサ「――ずっとずっと。10の32乗の果て、この世界から元素が消えて――」

アリサ「――この宇宙から全ての熱量が奪われたとしても――」

アリサ「――ただ、当麻君だけを」

上条「……」

アリサ「だから――眠ろう?」

アリサ「だってもう、『ここが終着点』だから」

アリサ「当麻君はよくやったよ。充分に頑張ったから」

アリサ「『暗い暗い海が見える……その淵には最果てが無く、ただただ赤黒い白い緑の鱗が敷き詰められ――』」

アリサ「『――遠き大海原より帰り来たる。慟哭と怨嗟と赤子の泣き声、それは――』」

アリサ「『――夜の女王の凱旋』」



521:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/17(火) 10:59:55.46 ID:wCnfKPH/0

――2014年10月8日(水) 上条のアパート 夕方

上条「……」

上条(……あれ……?)

上条(今、アリサが来てたような……?)

上条「……」

上条(いや――夢、だよな。流石に今のは)

上条(カオスな夢だったが……まぁ、いいや)

上条(あ、でも一応確認……うん、ここは上の階になってるよな。いつも通りに俺のアパートだ)

上条(やー、なんか疲れてんのかなー?なんだかんだで長旅だったし、疲れが完全には抜けてないのかも)

上条(悪夢を見させられんのは『団長』でコリゴリだ。ったく)

上条「……」

上条(――じゃ、ねぇよ!?今日ってARISAのコンサートの日じゃねぇか!)

上条(てかもうこの時間だと始まって――ん、な) ピッ

上条「……やっちまった……」

上条(ただでさえアリサから叱られたばっかなのに、約束すっぽかしちまうなんて最悪だ!タクシー拾ってでも行かないと!)

上条(つーか柴崎さんがサプライズゲストがあるとか何とか言っていたし、多分俺の知り合い――)

佐天『――はーーいっ!お疲れ様で御座いますっ!ARISAの”盗んだハートはここですよ?”でしたー!』

上条(……ケータイで見れるLIVE映像では、立派にMC補佐をやってる佐天さんの姿が……!恐ろしい子っ……!)

上条(何だろうな?長年ラジオのMCやってる声優さんばりに板についてる……相変わらず謎の才能を発揮する子だな!)

上条(ネタ抜きでARISAと妹分としてデビューしそうな……まぁいいや)

佐天『そしてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!本日はなんとスペッシャルなゲストがいらしてますっ!』

佐天『その名もォォォォォォォォォォォォ!――ハマダァァァァァァァァァァァ!!!』

ハマダ?『あ、どーもー。ハマダでーすっ!』

ハマダ?『って違いますよ!?ドラマ主演はキツかったかも知れませんけど、いつまでもそのネタで引っ張らないで!』

佐天『いやいや、あれはこう堀○さん絶頂期の作品と、同じ配役でやらせた制作側に問題があると思いますよ?』

佐天『てかあれ誰がやっても比較されるでしょうし、ネタにされまくるんで関係ないかと!』

ハマダ?『ですよねっ!』

佐天『あー、でも個人的にはNH×時代劇でスンゴイ視聴率叩き出した時に、”ファンの人見捨てるの早っ!?”て』

佐天『あれ以来、あまり地上波ではお見かけしないんですが、お元気で――』

鳴護『――はいっ!と言う訳でハマダさんがゲストに来て貰っていますよーっ!次は一緒に謳いますっ!』

ハマダ?『いやあの、ハマダ呼ばわりはいいんですけど、地味に古傷抉るの止め――』

上条(自重しよう?佐天さん少しは自重しような?)

上条(当人は純粋な気持ちなんだろうけど、真っ正面から毒を吐くのってどうかな?良くないよね?)

上条(アレは明らかに『時代劇の主な視聴層である中高年』に対して、『ハマダさんが数字を持ってる層が学生層』ってマーティングに失敗した典型例であってさ)

上条(例えば仮面ライダーに暴れん坊将○出すような……いや、それは需要があるのか?嫌いじゃないけど)

上条(個人的には暴れん坊少納○が好きだが……まぁいいや)

上条(さっさとタクシー拾っていかないとアリサに泣かれる!ついでにシャットアウラに殺されちゃうよねっ!)



522:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/17(火) 11:05:32.37 ID:wCnfKPH/0

――2014年10月10日(金) 通学路 朝

上条「……ふぅ」

上条(遅れて駆けつけたARISAのラストライブだったが、俺のDOZEZAのお陰で事なきを得たよ!頑張ってな!)

上条(……というよりも、どうやらみんな俺がまたどっかでトラブルに巻き込まれてる、って思ってたらしく、逆に心配して貰ってた)

上条(勿論そんな事無いから、正直に寝過ごしたって申告したんだけど……)

上条(アリサを筆頭に『分かってる!うん、分かってるから!』とヒジョーに温かい態度で許して貰った)

上条(いや、違うんだが。つーか皆の善意が重いんだ!……まぁいいや。何かで埋め合わせしよう)

上条(……てか、三日ぶりに会ったアリサは特に変わった様子もなく、平然としていた)

上条(拍子抜けした感じだったが……ま、それもそれでいいだろう。うん)

上条(ただ少し、頼って貰えなかった寂しさはあるが――)

青ピ「おっはよーーーさんっ!カミやんっ!」

土御門「そこは『まいど!』じゃないのかにゃー?おはよー、カミやん」

上条「二人ともおはよー――土御門?土御門かっ!?」

土御門「はいにゃー?土御門さんがどうかしたかにゃー?」

上条「お前っ!お前――」

土御門「な、なに?」

青ピ「どうしましたん?朝っぱらかに痴情的な縺れかいな?」

上条「違うっつーの!何で俺が土御門と争う必要があるんだ!」

青ピ「ほいじゃ、どうしましたん?」

上条「え?いや――」

上条「――なん、だっけ?何か心配したのは憶えてるんだけど」

土御門「どうしたんぜぃカミやん。朝からボケてないで教室行くにゃー」

上条「ん、あぁ、そうだな」



534:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/24(火) 10:06:25.13 ID:dInGq47L0

――放課後 校外

上条「さってと」

土御門「――あ、カミやん。俺ら遊びに行くんだけど、カミやんはどうするんだぜぃ?」

上条「俺?俺は……行きたいけど、今日は麺類と冷凍食品が5割引の日なんだよなぁ」

青ピ「その言葉を聞いて、『あぁカミやんならそう言うよね!』と納得してまう所が悲しいわー……」

上条「死活問題ですからねっ!特にウチにはっ!」

土御門「そっかぁ?そんな風には思えないんだが……大丈夫だぜぃ!カミやんの魂胆は分かってる!」 ポンッ

上条「……なんで俺の肩を叩くんだ?」

青ピ「うん?どういう事ですのん?」

土御門「俺達は俺達で楽しむから、ガンバって!こいつには俺がしっかり教えとくから!」

上条「いやあの、あんま遅くなんないんだったら行きた――」

青ピ「ちょっ!?土御門引っ張らんとい――」

上条「おーい?俺の話を聞けー……?」

土御門「ファィッ!」 グッ!

上条「お、おう……?」



535:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/24(火) 10:09:16.49 ID:dInGq47L0

――帰り道 アパート近くの公園

上条(……うーっし。買い忘れは……無し、と)

上条(パスタに米に冷凍食品、これで二日は持つだろう)

上条「……」

上条(……てか何で俺こんなに買い込んでんだろ?非常時でもあるまいし?)

上条(腐るようなもんじゃねぇから、別に良いんだけど――)

御坂「……」

上条「……?」

上条(おっ、ビリビリだ。ジュースの自販機の前で何やっ――あぁ、またかよ)

上条(自販機ちょいさーしてジュースゲットなぁ?ナチュラルに犯罪なんだがなー)

上条(つーか仮にもお嬢様学園の生徒が窃盗はマズいよな。よし!ここは一つ!)

上条(小銭小銭……あった。今日は奢ってや――)

御坂「……」 チャリンチャリン

御坂「……」 ピッ

御坂「……」 ピーッ、ガチャンッ

上条「フツーに買いやがったっ!?」

御坂「急に何なのよっ!?久々にあったと思ったら第一声がそれかっ!?」

御坂「もっと、こう!色々あるのにツッコむ所そこなのか!そこ大事かあぁぁぁああんっ!?」

上条「いやだって、ビリビリさんアレじゃないですか?ジュースを買ってるなんて珍しいじゃないですか?」

御坂「いきなり失礼な事言われてる――ってか、ケンカなら買うわよ?今ならもれなく電撃が付いて来るし!」

上条「待った!?今はそんな話をしてなかった!そうじゃなくて!」

御坂「ケンカ売ってるんじゃなかったら何なのよ?言ってみなさいよ!!」

上条「そりゃお前、ビリビリが自販機で金払ってジュース買うなんて――」

上条「……」

上条「――普通だよね?」

御坂「何で疑問系なの?」



536:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/24(火) 10:12:46.23 ID:dInGq47L0

上条「あるぇ……?」

御坂「てか今時のヤクザだってそんな因縁つけないわよ、幾ら何でも――はっ!?」

御坂「こ、これはもしかして合法的に私へケンカを売って、仲良くなるフラグが……!?」

上条「あ、すいませんー。それじゃ失礼しますー、さよならー」

御坂「あ、はい。さよな――待って待って?どうしてアンタはいつも脱兎の如く逃げようとするの?」

上条「ご自分の胸に聞いてみたらいいんじゃないですかねぇ?」

御坂「ちょ、ちょっと待ちなさいよねっ!」

上条「……はい?」

御坂「胸だなんて――あたし達、まだ早いと思うのよ!」

上条「おい中学生。今スッゲー事言ってるから気付いてあげて?なっ?」

御坂「で、でも痛くしないんだったら――少しだけねっ?少しだけっ!」

上条「取り敢えず御坂さんも、ハウスっ!戻って来ーい!」

上条「夕方とはいえ住宅街の公園で高校生がJCの胸触ってたらそれだけで通報されるわっ!?」

御坂「アンタ……」

上条「それにビリビリは触りたくなる程のボリューム感はないですよね?」

御坂「シ・ネ(はぁと)」



537:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/24(火) 10:15:17.56 ID:dInGq47L0

――アパート近くの公園

上条「……」

上条「……はっ!?」

上条(おかしいな?俺は御坂と話していた筈なのに……すっかり夜になってる?)

上条(落ち着いて考えよう……一体何があったのか、を!)

上条(まずは黒焦げになってる俺の服と鞄、スーパーで買った卵は袋の中でスクランブルエッグになっている……)

上条(そして俺の頭は昔懐かしドリ○のアフロ状態に……!)

上条「……」

上条(……うん、電撃喰らっただけなんですけどね。はい)

上条(てーか漫画的なアレじゃなかったら俺の命がピンチだったよ!全く!)

上条「……」

上条(……これは余談なんだけど。いや、決して御坂にイラッとした訳じゃなくてだ)

上条(あくまでもこれは一般的な科学の知識の話だから誤解しないで聞いてほしい)

上条(雷、まぁ自然界の落雷の話なんだが、『落雷』って言うよな?文字通り『雷が落ちる』って意味で使う)

上条(昔は父さんや年輩の男の人から怒られる時にも、『雷が落ちる』って言ってたらしく、有名ではある)

上条(哲学科のソクラテスは奥さんがアレな人だったらしく、ある時怒られた後に水をぶっかけられた。その時に言った台詞が)

上条(『雷の後に雨が降るのは当然の事』と宣ったそうな……うん、紀元前5世紀ぐらいにはその概念があったって事で)

上条(また昨今のゲーム事情、超有名な勇者マンガでも使われてるから、みんな『落雷』は知ってるよね?)

上条(そうそう。あの、雷雲からドーン!って奴。あれ格好いいよなー?)

上条(だから大抵の人は雨雲の中に雷の元――まぁぶっちゃけ帯電してて、それが地上に降りてくるのは何となく分かる)

上条(実際に、雨雲の中にある電気が地上へ放出されんのが雷なんだから、間違いではない……そう、間違い”では”ないんだ)

上条(でもそれ”だけ”でもない。実は”地表側からも放電している”んだな、これが)

上条(地表はなんだかんだ言って地電流が流れてる。俺達に影響ある程じゃないけど)

上条(で、上の雲から来る雷をステップリーダー、下から来る雷をストリーマって言うんだが)

上条(その二つが結びついた後に、本格的に電流が流れる仕組みになってる)

上条(つまり『雨雲側・地表側、両方から雷が流れている』ため、”落”雷と呼ぶのは正確ではない……!)

上条「……」

上条(……なので御坂さんが落雷のメカニズムを利用しているのであれば、俺の体からもストリーマが出なければまず当たらない訳で)

上条(当然俺の体からそんなもんが出る訳がない)

上条(てか放電系の兵器が全く開発されておらず、精々テーザーガンぐらいだってのは、電撃の指方向性に問題があったと)

上条「……」

上条(べ、別に詳しくなんかないよ?どっかで負けたのが悔しいとかそういう事じゃないからな?)

上条(どうせ何か不思議パワーでホニャララしてんだろうし、きっと落雷とは違うんだろう!きっとな!)

上条(何だろうなー……『右手』はたまーによく分からない動きをするし……)

上条(『龍脈を操る力』だっけ?全部が全部、打ち消すよりはそっちの方が好ましくはあるんだが……)

上条「……」

上条(……帰ろう)



538:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/24(火) 10:18:24.59 ID:dInGq47L0

――アパート前

上条「……あ、管理人さん」

管理人「お帰りなさい、”釣った魚にエサをやらないクソヤロー”ちゃん」

上条「管理人さん?出会い頭にコークスクリューぶち込むのは止めませんか?」

上条「心当たりはないですけど、その渾名を聞く度に古傷負ったボクサーのように胸が痛むんですよね。心当たりはないですが!」

管理人「先生が人間関係を円滑にするのには、まず渾名をつけるのが良いと」

上条「渾名って言うか、それ悪口ですよね?俺には全く心当たりありませんけども!」

管理人「それじゃ……”女が絡むと勝率100%になるクソヤロー”ちゃんでは如何でしょうか?」

上条「要ります?そのクソヤロー一押し何とかなりませんかね?」

上条「最近キツくなって自制し始めた金剛力ナントカさん最盛期ばりにプッシュしてませんか?」

上条「てか何だろう……?俺の期待していた『管理人さん!』とは何かイメージ違う……!」

管理人「何でしたら姉を呼びますか?」

上条「ノーサンキューで!管理人さんのお姉さんはキャラが濃すぎますから!」

管理人「そうですか。それは残念です」

上条「はぁ……」

上条(恋査さんって俺の寮の管理人さんはいつもこんな感じだ。寮生一人一人に変な渾名をつけ、そっちで呼ぼうとする)

上条(あまり表情を変えないもんだから、本気だか冗談なのかの境が分からん……全部本気だったりしてな?)

上条(ちなみに土御門は『夜は真っ暗グラサン金髪ちゃん』、インデックスは『ボア・シンのシスターちゃん』と割と無難なものなのに)

上条(何故か俺は戒名代を奮発した位牌のように、やったら長くヒドい渾名をつけられてしまう……)

上条(土御門は曰く、『愛情表現じゃないかにゃー?』……まさかね)



539:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/24(火) 10:21:32.19 ID:dInGq47L0

管理人「今日はどうしたんですかクソヤロー?随分と遅いようですが」

上条「管理人さん略しすぎじゃないですかね?もう完全に親の敵相手にしてるレベルの暴言ですもんね?」

上条「えっと……今日はスーパーへ行ってたもんで、はい」

管理人「スーパー、ですか?確か昨日も行ってらした、ような?」

上条「ウチの子は食べるもんですから、色々とやりくりが大変でして」

管理人「ボア・シンのシスターちゃんが?……そう、なんですか……」

上条(何か一人で考え込む管理人さん。なんか変な事言ったか?)

上条「じゃ、俺はこの辺で」

管理人「はい、それじゃ――あ、そうだ」

上条「はい?」

管理人「お帰りなさい――上条さん」

上条「……ただいま帰りました」

上条(管理人さんヒャッホゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!)

上条(いいねっ!流石は管理人さんだぜ!抑えるべき所はしっかり抑えてる!)

上条(浜面が『バニーさん、あーバニーさんいねーかなー、空から落ちて来ねーかなー、』なんてふざけた事言ってたが!それは甘えだ!)

上条(バニーさんはそっちのお店行けば結構居るし、何だったら彼女にDOGEZAして着て貰えばいいっ!)

上条(だが、しかぁし!管理人さんは!寮の管理人さんはそれが出来ない至高の存在……ッ!)

上条(分かるか!?管理人さんはなぁ、ただのコスプレで再現するのは不可能だ!何故ならば――)

上条(――管理人さんとは”生き様”だからだ……ッ!!!)

上条(素人が決して真似出来ない天使!エロメイドやエセバニーやエセ幼馴染みが席巻する荒んだ世の中で光を放つ本物……!)

上条(それが、それこそが管理人さんという存在だ……!)

上条(良かった……親元離れてこのアパートへ引っ越してきて本当に良かった……!)

上条(何故かここには寮の管理人さんが居たんだから!そりゃもうご機嫌さイャッフー――)

上条「……」

上条(……あれ?おかしくないか、これ?)

上条(俺が住んでるのは『アパート』。最近では賃貸マンションって言うらしいが、まぁ部屋を借りて住んでる)

上条(だってのに何で、『寮の管理人さん』が――)

管理人「”釣った魚に餌をやらずに酷使した挙げ句、記憶ネタでなかった事にしている腐れ外道”ちゃん?」

上条「すいません、俺心当たりないです!ないったらないですからっ!」

管理人「どうしたんですか、エレベータ前でぶつぶつと」

上条「ん、あぁいや別に大した事じゃないんです」

上条(まぁわざわざ聞くような事でもないか。学園都市、どこだって学生が住んでんだから、寮みたいなもんだしな)



540:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/24(火) 10:23:27.43 ID:dInGq47L0

――上条の部屋

上条「たっだいまーーー」

インデックス「おかえり、なんだよ」

上条「ゴメンな、遅くなっちまって?今日はちょっと公園で傷害事件が起きてだな」

インデックス「ふーん、通り魔は怖いんだよ」

上条「メシは作っちまうから、お前は洗濯物取り込んでくれないか?」

インデックス「え、ごはん?とうま、ご飯作るの?」

上条「ん?ハラ減ってるよな?」

インデックス「うん、そりゃもうペコペコなんだけど……」

上条「だったら早く作っちまうよ。今日は何にしようかなーっと」

インデックス「うん、だからその作ってあるんだけど」

上条「作って……あぁ、スープカレーとひじきの煮物があるか――」

上条「――あ、隣からのお裾分けか?」

インデックス「何言ってるのか分からないよ。それ、わたしが作ったんだよ」

上条「へーインデックスが――インデックスがっ!?」

インデックス「ちょっと!どうしてそこでお驚くのかな!」

上条「待ってくれよ!?お前まさか――!」

インデックス「だって今日はわたしの当番なんだもん!作るに決まってるでしょ!」

上条「当番……?」

インデックス「冷蔵庫、ほらっ」

上条「何々……?」

上条(扉に貼られているチラシ。その裏に書かれたカレンダー、そこを見ると今日の料理当番はインデックスになってる……)

インデックス「それにお洗濯はとっくに取り込んだし!子供扱いは酷いんじゃないの!?」

上条「いや、でもお前って現代機器触ると壊すんじゃなかったっけ?」

インデックス「もー!とうまはイジワルなんだよ!それは最初の頃だけなんだよ!」

インデックス「いくらわたしだって一年も経てば料理ぐらい出来るようになるし!」

上条「そ、そうだっけ……?」

インデックス「……どうしたの、とうま?また悪い魔術師と戦ったのかな?」

上条「ごめんごめん。何か調子が狂っててさ、まぁ気にしないでくれ」

インデックス「だったらまずうがいと手洗い!ご飯はわたしがちんしとくから!」

上条「……はーい」



541:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/24(火) 10:25:32.01 ID:dInGq47L0

――上条の部屋

インデックス「――それじゃ、いただきます」

上条「いただきま――あれ?」

インデックス「どうしたの、とうま?」

上条「インデックス、ご飯の量どうしたんだ?」

インデックス「量って……普通だけど?」

上条「普通ってお前……なんか俺より少なくないか?しかも質素、っていうか肉が一つもないし」

インデックス「……あのねぇ、とうま。とうまには何回も言ってんだけど、わたしはシスターさんなんだよ?」

インデックス「神様に仕えるニンゲンが、贅沢するのは良くないんだよ」

上条「……そう、だっけか……?」

インデックス「心配してくれるのはうれしいけど、わたし達にとっては粗食も修行みたいなものなんだからね?」

上条「そっかー……なんか、悪いな。俺ばっかり」

インデックス「うん、それはいいんだけどね――それより今日のお買い物、ちょっと多すぎないかな?」

インデックス「二人で食べるにしても一ヶ月分ぐらいは――って、あ、別に責めてる訳じゃないんだよ?」

インデックス「ただとうまにしては珍しいかなーって」

上条「多い……そうか、多いよな。やっぱり」

インデックス「とうま?」

上条「……ごめん。なんか考え事しながら買い物してたから、つい買い過ぎちまったみたいだわ」

インデックス「保存出来るものばっかりだったら、それは別にいいんだけど」

上条「だよな」

インデックス「……反省が足りないのかも……」

上条「すいませんでしたっ!だからリアルスネークバイ○だけばご勘弁を!」

インデックス「誰も噛みついたりなんかしないんだよ……てか、とうまはわたしをどういう眼で見てるのかなっ!?」

上条「いやっ、ほんっとーーーーにゴメンな!なんか悪い夢でも見てたみたいで!」

インデックス「夢かぁ。どんな夢なの?わたしは出てるんだよ?」

上条「んー……大したもんじゃないかな?ここよりももっと、皆がぶっ飛んだ性格だった気がする」

上条「インデックスなんかな、こう有り得ないぐらいの量のメシを食う食いしんぼさんになってた」

インデックス「……女の子として、それはちょっと勘弁して欲しいのかも……」

上条「ほかにもビリビリがビリビリって攻撃してきたり、ドM仕様の世界――」

インデックス「びりびり?あぁあの短髪の子?」

上条「……何で俺は、ビリビリをビリビリだって呼んでるんだ……?」

インデックス「とうま?」

上条「ん、あぁいや何でもないよ。それよりお前、メシこんなに美味かったっけか?」

インデックス「そ、そうかな?そんなに褒めてもおかわりぐらいしか出て来ないんだよっ!」

上条「それで充分だよ」



542:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/24(火) 10:28:18.06 ID:dInGq47L0

――ある日 公園

浜面「――大将!何も言わずにこれを預かってくれっ!」

上条「……お前、俺を呼び出しておいて第一声がそれってどうなの?」

上条「つーかこれデイバック――って予想以上に重っ!?何入ったんだ?本?」

上条「預かるのは構わないんだけど、これ中身何よ?ヤバいブツだったら絶対に嫌だからな」

浜面「……や、あのな?俺、恋人居るじゃんか?」

上条「滝壺さんな。あ、体調まだ悪いのか?クリスマスの前辺りに入院したって聞いたんだけど」

浜面「滝壺が?誰から聞いたんだよ。ここ暫くは問題ないし」

上条「ごめん。だったら俺の勘違いだけど――それで?」

浜面「だからその、体調も良くなってきたしぃ?俺達恋人じゃん?ラブラブじゃねぇかなって」

浜面「あぁ見えてジャージの下は結構ワガママなボディがだな」

上条「止めろ!知り合い同士のそういう話は聞きたくない!」

浜面「で、やっぱ俺としては将来、てか死ぬまでずっと一緒に居たいし!予行演習みたいな感じでしようなってね!話し合ってたんだよ!」

上条「近い近い。近所のガキが『BL?あれってBLなのっ!?』って期待した目で見るから、もう少し離れろ」

上条「てか予行演習って何?婚約でもすんのか?」

浜面「BINGO!惜しい!」

上条「浜面、”ビンゴ”は当たってる時に使うからな?余所で使うなよ?」

上条「お前が笑われる分には良いんだが、ちっこい金髪の子が影響受けたら不憫すぎる……」

浜面「あ、それは大丈夫だぜ。こないだフレメア、『チキン南蛮弁当』を『キチン何番』って間違えてたから!」

上条「ホォラ見なさい!やっぱりダメな子の影響が出てるじゃねぇか!」

浜面「いやいや。麦野と絹旗に任せた方が危険だから!超ドSの英才教育されっちまうし!」

上条「麦野さんなんて超綺麗じゃん?絹旗さんも可愛いし」

浜面「お前、元暗部の女ナメんなよ?……あ、prprしたいのは否定出来ないが!」

上条「そこは彼女居んだから否定しとけ」

浜面「で、だ。その、予行演習ってのは同棲しよっかなーって」

上条「あー、はいはい。そっかー、同棲かー」

浜面「……何?何で俺を『死ねリア充め!』みたいな目で見てんの?」

上条「そう思ってるからだけど?」

浜面「大将も同棲してなかったっけ?なんか、小っさいシスターコスの子と」

上条「あぁインデックスは預かってるだけだし。恋人とかそんなんじゃないよ」

上条「てか向こうが信頼してくれてんのに、裏切る訳にはいかねぇだろうが」

浜面「それは別の意味ダチョウ的な意味で『止めろよ!?絶対に手を出すなよ!?絶対だからな!』ってるだけど思うけど……」

上条「やだなー浜面さん。そんなラノベの主人公みたいに、『俺は周囲の女の子全員から惚れられてる!』みたいなイタイ幻想ある訳ないじゃないですかー」

浜面「……大将がそれでいいっつーんなら、俺は別に何も言わないが」



543:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/24(火) 10:29:42.60 ID:dInGq47L0

上条「てか同棲なー。いいんじゃね?個人的にはモゲろって思うけどさ」

浜面「だろ!?これで滝壺もバニーコスを着てくれる筈さっ!やったねっ!」

上条「いや、その理屈はおかしい」

浜面「でさー、やっぱさー?同棲っつったってお互いに好みが100%合う訳じゃないじゃんか?」

上条「それは分かる。てか当たり前だわな」

浜面「だからな、こう滝壺に合わないであろうモノを預かってて欲しいんだよ!頼む!」

上条「それは構わないし、理屈も正しいと思うんだよ。ここまではな。ただ……」

浜面「ただ?」

上条「重さと手触り、あと動かした時にプラスチックがカチャカチャ言ってる時点で、中身が想像つくっていうかさ」

上条「俺の想像が正しければ、これの中身って本とDVDじゃね?」

上条「てーかこれ、ただのエログッズだよな?」

浜面「BINGO!」

上条「用法は当たってるけど予想は裏切って欲しかったよ!」

浜面「頼むっ!俺の魂を預けられる相手っつったら大将しかいねぇんだよ!」

浜面「世界が敵に回ってもね!大将だったらきっと俺を裏切らないでくれるだろっ!?なっ!?」

上条「これがエロ本とエロDVDじゃなかったらいい話なんだけどな……」

上条「つーか滝壺さんに全部話せ――」

浜面「ッケンなよ!全部粉砕されるに決まってんじゃねぇか!」

上条「そんな嫉妬深かったっけ?たかがエログッズだぜ?」

浜面「……考えても見ろ。もしも自分の彼女がジャニーズグッズを集めていたとしよう……!」

浜面「どう考えてもムラムラしながら見てるに決まってる!」

上条「だから、その理屈もおかしい」

浜面「だって俺だったらARISAの写真集見てムラっとしてるもん!女の子だってそうに決まってるさ!」

浜面「アイドルのファンはみんなそうだよ!男女関係なくエロい事したい筈だ!」

浜面「そうじゃなかったらアイドルのイメージビデオでアイスバーとフラフープとバランスボールがよく出て来る訳ゃねぇさ!」

上条「……多いよねー。その内のどれか一つは必ず入ってるもの」

浜面「無邪気に笑顔を振りまいてるARISAがおっぱいがたゆんたゆん揺れるのでまず一杯!」

浜面「そしてプールで水着を直す姿を見ておかわり!」

浜面「最後にワンピースでベッドの上をゴロゴロしておっぱいが潰される様子を見てかっこ――」

上条「――ふんっ!」 バスッ

浜面「そげぶっ!?」

上条「あ、ごめんごめん。つい手が出ちゃって、なんかイラッたしたからつい」



544:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/24(火) 10:32:15.14 ID:dInGq47L0

浜面「――な!?俺の言った通りだろ!?」

上条「……まぁ、分かったよ。俺が預かろう」

上条「ただ責任は持てないからな?俺の部屋は結構攻撃されてるし、なんつっても同居人が居るんだから」

上条「最悪、全部破棄されっちまう可能性だってあるから。文句は言うなよ?」

浜面「問題ねぇよ!俺んトコに置いておくよりは安全だから!」

上条「どんな彼女だ」

浜面「ハダカのおねーさんが個室で体を洗ってくれるお店へ行くと100%バレる」

上条「彼女持ちで風×行くんじゃねぇよ!?そっから間違ってるわ!」

浜面「疚しい事は何にもしてないよ!あくまでも双方の合意に基づいているだけで!」

上条「お前もう別れちまえよ。勿体ない以前にアレがアレ過ぎるわ」

浜面「反省するからっ!エッチなお店にはもう行かないから、なっ!頼むよっ!」

上条「一回だけだぞ?シモの不祥事起こしたら証拠として麦野さんに引き渡すからな?」

浜面「俺を殺す気かっ!?」

上条「またまたー。あんな優しそうな人が酷い事する訳ねぇって」

浜面「大将は分かってないだ・け・だ・ぞっ!あいつはターミネータ○とかち合っても余裕でシメられる女だからな!」

上条「可愛く言うなや……あーっと、俺も知らないんだけど――」

上条「浜面追いかけてロシア行ったり、浜面のために格上の垣根とやり合ったりして。しか対価を求めない尽くす女だって」

浜面「字面ではな?もっと壮絶なアレコレがあったんだが、つーかそれ誰から聞いた?」

上条「超超言ってる子」

浜面「KI-NU-HA-TAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!?テメェ俺になんか恨みでもありやがるのかよおぉっ!?」

上条「てか前から思ってたんだけど麦野さんて浜面に惚れてるっぽくね?」

浜面「お、俺には滝壺という立派な恋人かだな!浮気なんかしないさ!」

上条「じゃこのエロ本捨てても良いよな?」

浜面「待とうか?まずは浮気の定義から話し合おうや?」

上条「街中で薄手の服を着ているお姉さんが居て、ついつい目で追ってしまいました」

浜面「ノットギルティ!」

上条「彼女以外の人と二人っきりで遊びに行きました」

浜面「……ノ、ノットギルティ……」

上条「言葉に詰まるのはえーな!?」



545:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/24(火) 10:34:57.66 ID:dInGq47L0

浜面「仕方がないんだよ!ウチで預かってる小学生守らなきゃいけないんだから!」

上条「あぁそれなら無罪だわ」

浜面「……パンツ見ても無罪だよね?」

上条「……無罪、かな?多分、きっと、うん、俺はそう思うよ」

浜面「大将って火の粉がかかりそうになると判定甘くなるよね?」

上条「――分かった浜面!お前のソゥル!俺が確かに預かった!」

浜面「ありがとう!一生恩に着るぜ!」

上条「こんなんで一緒に恩に着られても嫌だよ!」

浜面「中身は見ていいけど汚すなよっ!それじゃ頼んだっ」 シュタッ

上条「おー……それじゃーなー……」

上条「……」

上条(中身……どうせアレだろ?バニーさんでしょ?詰め合わせでしょ?)

上条(『バニーさん8時間!』とか、『ギリギリモザイ×!バニーさん!』とか)

上条(『彼女のバニーさん当ててみろ!』等々、色物ラインナップで攻めてるんだろうな……)

上条「……」 ガサゴソ

上条(……違うんだよ?そういう事じゃないんだ、うん)

上条(これはだね、その、アレだよ!念のための確認だらかな!勘違いするなよ?)

上条(どんな危険なブツを託されたのか分かったもんじゃないし……うん)

上条(今日のインデックスさんのバイトは遅番だったし、ダッシュで帰れば充分……)

上条「……」

上条(インデックスがバイト?どこの?色んな勢力の魔術師から狙われてんのに?)

上条(いつからだ?てか何のバイト――) ガサゴソ



546:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/24(火) 10:36:03.49 ID:dInGq47L0

『スケベで優しいノーブ×管理人さん』
『欲求不×の管理人さんのいる独身寮』
『癒され荘5号館 ~管理人さんはFカッ○~』
『妄想女子寮 管理人さん×××らせて』
『水谷ケ○の平成未亡人下宿 狙われた管理人さん』
『パーフェクトボディ 独身童○寮 ~管理人さんのハンパない×振り~』
『癒され荘 ~管理人さんはHカッ○~』
『管理人さんは未亡○』
『いつでも真剣な優しい世話焼き巨乳管理人さんに×される』
『KISS×60× 管理人さんのポニーテール』



547:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/24(火) 10:38:29.47 ID:dInGq47L0

上条「……」 スッ

上条「えっと……」 キョロキョロ

上条「か、体鈍ってたわー、うん。最近運動してなかったわー」

上条「なんか走りたい気分だわー、あーすっげー走りたいなー」

上条「……」

上条「――良し!走ろう!ダッシュで帰ろう!べ、別に疚しい事は無いんだからねっ!」

上条「つーか浜面さんっナイスだ!良い趣味してるじゃねぇかコノヤローっ!」

上条「俺の戦いは――」

上条「――――――――――――これからだ……ッ!!!」



548:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/24(火) 10:39:59.54 ID:dInGq47L0

――自宅

インデックス「――とうまっとうま!大変なんだよっ!」 ガチャッ

インデックス「てれび見て、てれびっ!すっごいことになってるかも!!!」

上条「……ッ!?」

インデックス「てれび見――」

上条「……」

青年(※テレビ)『管理人さん!管理人さぁんっ僕は、僕はもう我慢出来ません……!』

管理人さん(※テレビ)『や、やめてっ!主人が、主人が見てますから……ッ!』

インデックス「……て、ほしいんだけど……」

上条「……」

青年『前の旦那がなんだって言うんですか!美神さんの事は僕が幸せにしますからっ!』

管理人『あぁ……横島君、せめて電気だけは――』

上条「これはきっと敵の魔――」

インデックス「……」 パタンッ



549:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/24(火) 10:42:40.40 ID:dInGq47L0

――10分後

インデックス「――とうまっとうま!大変なんだよっ!」 ガチャッ

インデックス「てれび見て、てれびっ!すっごいことになってるかも!!!」

上条「お、どうしたんだーインデックス?そんなに息切らせて」 シュッシュッ

インデックス「……ファブリー○?」

上条「あぁ、幽霊除けにも効くって言うから」

インデックス「……」

上条「……」

インデックス「――で、大変な事が起きてるんだよ!とうま!」

上条「あぁ!一体何が起きたって言うんだ!?」

インデックス「(……ちょっとわざとらしいかも)」

上条「(素に戻るな!テンションで流せ流せ!)」

インデックス「(っていうかぶっちゃけ、わたしはとうまがお風呂場でごそごそしてるのをいつも聞い――)」

上条「(あ゛ーーーーーーーーーーーーっ!!!聞こえないなーーーーーーーっ!!!あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!)」

インデックス「――とにかく!てれびつけててれび!」

上条「お、おぅっ!」 ポチッ

男(※テレビ)『――何?バカじゃねぇのかお前?何言ってやがんだ?』

男『専攻言ってみろ……あ?ジャーナリスト?なんだそれ。喧嘩売ってんのか』

男『テメェらどうせ何にも分からねえんだから、ただ俺が言ったそのままを書けばいいんだよ!』

男『どうせ学園都市以外の自称”専門家”とやらも理解出来ない――当たり前だろ。バカじゃねぇのか?』

男『少なくとも”能力者”開発にどれだけの国や機関が成功してるんだ?アメリカか?ロシア?イギリス?』

男『無いだろ?だからお前らが俺達をおかしいと思っても、クソみてーな妄想ソースにした薬にも毒にもならねぇ記事しか書けねぇんだよ』

男『テメェの頭が足りなさすぎて理解出来ないものを、人様に簡単に教えられる訳ね――何?ってテメェも来――』

テロップ『暫くお待ち下さい』

上条「……色々な意味ですげーけど……これ、何?」 シュッシュッ

インデックス「うんファブリ○ズはもういいから。そうじゃなくてね、その――」

女(※テレビ)『――はい、ってな感じで数多君から私、木原病理が替わってお答えしまょうすからねー』

病理『あ、質問がある方は挙手でお願いします――はい、さっきの朝ナントカ新聞の方』

病理『えぇはい、そうでーす。先程も言いましたが”学園都市は魔術師の存在を肯定”するんですよー』

上条「んなっ!?」

病理『私達が気違い――あ、ダメ?この言葉は使ってはいけない?』

病理『いいじゃないですか。別に気違いに気違い言ってる訳じゃないですから』

病理『てーか差別差別言うんだったら、まずあなた方の”イスラム国”を何とかすべきだと思いますよ?』

病理『相手はテロリスト、しかも国家ではないのに国家を僭称した上』

病理『在日トルコ大使館や在日ムスリム団体が”一般的なムスリムと混同するから使わないでくれ!”つってんのに使い続けるよーな人達に言われたくは』

病理『なので諦めて下さいな、えぇ。平和な場所で半減期しない相手に、表現の自由という名目で暴言を投げかける事しか出来ない卑怯者さん達』

病理『ネットメディアの勃興と共にあなた方の存在価値は無きに等し――』

テロップ『暫くお待ち下さい』

上条「……コント?新手のコントなの?」

インデックス「いやぁ……違うと思うんだよ、多分」



550:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/24(火) 10:44:54.95 ID:dInGq47L0

数多『――はい、つー訳でキチガイお姉さんは帰った訳だが――何?まだ続けんの?』

数多『面倒臭ぇ、つかー配付資料に全部書いてあんだろうがよ。字も満足に読めねぇのか三下ども、あぁ?』

数多『あぁ……だから、魔術はあるっつってんだろ。現実に。この世界によぉ』

数多『俺達はそういう連中と手ぇ結ぶ事にしたんだよ』

上条「まさか……っ!?」

数多『信じたくないんだったら信じなきゃいい。好きにしろよ、テメェの人生だ。俺には関係ねぇよ』

数多『けどな。テメェらがそんなクソの掃きだめの中で足掻いて、”魔術なんか無い!”つってる間にも俺達はさっさと置いてくんでー』

数多『聞いてるかい?学園都市の敵にもなれねぇクソの集団共!』

数多『俺達が仕切る世界にテメェらの居場所はねぇんだよ!古臭ぇ科学信仰に縋り付いたまま――死ね!』

インデックス「……これって」

上条「まさか――『グレムリン』か!?学園都市と一緒になるっていのうかよ!」

インデックス「……どうだろ――あ!」

上条「どうした?」

インデックス「もし、もしそうなったら!『グレムリン』と学園都市が協力したら――」

インデックス「――わたしは、もうここには居られないんだよ……ッ!」

上条「インデックス!?」

神裂「――いえ、大丈夫ですね」 ヒョコッ

上条・インデックス「「おおぉぉぉぉぅっ!?」」

神裂「あ、すいません。驚かせてしまいましたか」

上条「誰だって天井裏から降りてくればビックリするに決まってるわボケっ!」

インデックス「これがNINJA……!」

上条「インデックスさーん?この人は一応お前さんのトコの聖人さんだぞー?」

神裂「いえあの、天草式十字凄教にも透波乱波(すっぱらっぱ)の類はおりますので、あながち間違いでも無いかと……」

上条「すっぱらっぱ?」

インデックス「どっちもNINJAの意味なんだよっ」

神裂「なので、その、あまり怒らないで頂けると助かります」

上条「つー天井裏で何やって――」

神裂「私だって!私だって好きで居たかった訳じゃないんですよ!?」 ガックンガックン

上条「ま、のまままままままま待てっ!?俺が首がむち打ちがっ!?」

神裂「土御門のクソヤローに『あ、ドッキリさせてやったらカミやん喜ぶぜぃ?』と言われたから!仕方が無くっ……!」

上条「……なんかすいませんね」

神裂「……いいえ別に」

上条「てか天井裏?土御門も何考え――はっ!?」

インデックス「どうしたの、とうま?」

上条「か、神裂さん?ちょっとお伺いしたい事があるんですけど……その」

上条「もしかして結構前から天井裏に潜ってた、的な……?」

神裂 コクコク

上条「って事は俺のあんな姿やこんな姿も――」

神裂「お嫁に行けませんっ!お、お、男の人があんな事やこんな事するなんてっ!」



551:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/24(火) 10:47:13.67 ID:dInGq47L0

インデックス「……とうま?」

上条「……」 スッ

神裂・インデックス「?」

上条「……」 パタン

神裂「……出て行きましたね」

インデックス「何なのかな……?」

タッタッタッタッ……

神裂「あ、戻って来ました」

インデックス「嫌な予感がするんだよ。”てんどん”は三回までってお約束で……」

バタンッ

上条「大変だインデックス!テレビを見てみろ!」

インデックス「何が何でも責任を取りたくないって強い意志を感じるんだよっ!」

神裂「出来れば私もあれは流石にノーカンがいいですよ……」

上条「――で、何の用なんだよ?」

神裂「あ、いえ、その前にこれをお納め下さい」 スッ

上条「箱?」

インデックス「くんくん……あ、お蕎麦の匂いがするかも」

上条「ビニールでラッピングされてんのにスゲーなそれ……って蕎麦?」

神裂「引っ越してきましたので、隣に。引っ越し蕎麦という物ですね」

上条・インデックス「「……はい?」」

神裂「先程、テレビで記者会見をしていたチンピラと病み女の言った通り、今日から学園都市は魔術サイドと提携するんですよ」

神裂「流石に一朝一夕では為し得ないため、あなた達の護衛も兼ねて私達が派遣されました」

上条「そうなのか?あのヤクザっぽい人が言う分だと、まるで『グレムリン』辺りと手を結んだっぽい感じだったぞ?」

神裂「あー……いえ、それ”も”事実ですけど……」

上条「どれ?」

神裂「ですから、はい。実物を見た方が早いかと」

アナウンサー(※テレビ)『――では続きまして、魔術師の方をご紹介しましょう。えっと――』

隻眼の女(※テレビ)『――いや紹介は不要だ。そのぐらいは自分で出来るさ』

上条「ってコイツは!?」

オティヌス(隻眼の女)『久しぶりだな、愚民よ』

インデックス「ってことはアレなのかな?学園都市はイギリス清教と『グレムリン』と手を結ぶって事なの!?」

インデックス「そんな事したらパワーバランスが一気に崩れちゃうかも……!」

神裂「あ、いえ、違います。正しくはイギリス清教と『グレムリン』だけではなく」

神裂「そうじゃなくって『全部』と提携する事が決まりました」

上条「全部?全部ってまさか――?」

オティヌス『――その通りだよ。学園都市はイギリス清教、ローマ正教、ロシア成教』

オティヌス『それに様々な魔術結社も含まれる――』

オティヌス『――この”グレムリン”もな』

上条「……はい?本気で意味が分からない……」



552:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/24(火) 10:49:08.89 ID:dInGq47L0

オティヌス『だから、戦争はもう終ったんだよ。こちらとそちら、もう魔術だの科学だのを理由に戦う事は無くなったのさ』

オティヌス『後、残されているのは加盟を拒んだ雑多な連中だが……それもまぁ、勝手に滅ぶだろう』

上条「勝手に?」

オティヌス『そう。勝手にだ。我々がこの道を選んだ以上、魔術と科学の結合は早まり、それぞれの分野での研鑽は比類無き発展を遂げるだろう』

オティヌス『そうだな……例えるのならば、私達がライフル銃で武装しているに対し、参加を拒んだ連中はフリントロック式の銃で時代が止まる事になる』

オティヌス『おめでとう、HERO。この世界にはもう闘争の必要性は無くなったのさ』

上条「そっか……あれ?」

上条(俺、どうしてテレビの中のオティヌスと喋ってんだ?)

オティヌス『――だが、つまらない。予想の範囲内過ぎで意外性の欠片もないな』

オティヌス『そっちへ行く。少し離れろ――そう、ポニーテールの女はもっとだ』

神裂「?何を、言って――」

ジジッ

上条(また――ノイズが!?)

オティヌス「――と、みすぼらしい部屋だな。発情した雄の臭いもする」

上条「オティヌス!?どうやってここへ!?」

オティヌス「それは別にどうだっていい。説明してやっても今のお前には分からんさ。そんな話よりも――貴様!」 ガッ

上条「くっ!?」

神裂「手を離しなさい魔神オティヌス!これは明らかな協定違反ですよ!」

オティヌス「黙っていろ。お前が天井裏で何をしていたかバラされたいのか、うん?」

神裂「な――」

インデックス「一体なんなん――」

オティヌス「そっちの無理してキャラ作って幼い言動をしてる女も同じだ。風呂場で籠ってる間にお手隙じゃない理由を話されたくなかったら、分かるな?」

インデックス「……」

上条「な、なんなんだよ?これは!?」

オティヌス「……なぁ、こんなものか?こんなものだったのか?」

上条「何が……だっ!?」

オティヌス「私の『敵』はこの程度の存在だったのか、と訊いている……!」 ギリギリッ

上条「か、は……!」

オティヌス「随分といい趣味をしているので、挨拶でもしようと顔を出してみれば……このザマか!なぁ?」

オティヌス「……これでは、駄目だ。この程度では私を殺すなど夢のまた夢に過ぎん」

オティヌス「私の宿敵がたったこれっぽっちの存在だとは……」



553:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/24(火) 10:51:07.34 ID:dInGq47L0

上条「……」

オティヌス「……ま、それ―――だろう。貴様がどう――――すれば――」

???『久遠に臥したるもの――』

オティヌス「私以外の魔神――――に、終わりの来ない永遠――」

???『――死することなく――』

オティヌス「――――――夢――――喰われて――――」

???『――怪異なる永劫の内には――』

オティヌス「――」

???『――死すら終焉を迎えん』

上条「――」

???『―――――――――――――――――――きひっ』



554:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/24(火) 10:52:15.47 ID:dInGq47L0

――ある日 自宅

刀夜「あのな当麻、今日は大切な話があるんだよ」

上条「……何、父さん?その前フリは色んな意味でフラグだと思うんだけど」

上条「まさか家族が増えるとか、母さんが知らない弟妹が出来るとか、そういう事じゃないんだよね?」

刀夜「お前は父さんの事をどんな目で見ているんだ……?」

上条「フラグ特級建築士兼・人たらしマスタークラス」

刀夜「はっはっはー、こりゃ一本取られたねー!」

上条「笑ってんじゃねぇよ。ある意味常時不幸のバステよりも厳しいんだからな!」

刀夜「ラッキースケベの採算は取れてないかな?」

上条「……まともな相手であれば、押し倒したりおっぱい触った時点で人間関係が破綻するんだけど……」

刀夜「だがしかぁし!苦しい時!そんな時!頼りになる野郎!略して――」

上条「クソ野郎だよね?銀×で見たなそのネタ?」

刀夜「諦めないと。ウチの家系はじーちゃんの頃からそうだから」

上条「業が深いぜ上条家……!」

刀夜「……いや、当麻はそう言うけどさ。はっきり言って損ばっかりしてる訳じゃないだろう?」

刀夜「例えばそれを切っ掛けにお友達になったり、所帯を持つ事だってあるし」

上条「まぁ、そうだけど」

刀夜「でも流石にね、詩菜さんと一緒になってからは困る時もあるよね?当麻だって望まぬTo LOV○る!に巻き込まれたくはないだろうし」

上条「父さん、字間違ってないか?トラブルってそんなウキウキな発音だったっけ?」

刀夜「でも大丈夫!ご先祖様から代々伝わる一子相伝のこの技を使えば!どんなラッキースケベだって防げるって話さ!」

上条「マジでっ!?……てかそんなスゲー方法があるんだったら早く教えてくれよっ!」

刀夜「ダメダメ。この技は心身共に成熟した人間でないと使いこなせない。下手に使うと逆に怒りを買うからね」

刀夜「……それにホラ?やっぱり口では嫌がっていても、思春期のラッキースケベってなんだかんだで嬉しいだろ?」

上条「否定はしないなっ!肯定も出来ないけど!」

刀夜「じゃ今から父さんがやってみるから。当麻も練習してみなさい」

刀夜「これをマスターすればラッキースケベもし放題!何をやっても許されるよ!」

上条「母さんにチクるぞ?」

刀夜「だから父さんはあんまり使ってないよ!甘んじて詩菜さんを含む制裁を受けているんだからね!」

上条「あー……まぁ言われてみれば確かに。そんな便利な技があれば使ってるもんな」

刀夜「では――こおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……ッ!!!」

上条「気を練っている!?……あ、父さん」

刀夜「なんだい?今、集中しているから手短に頼むよ!」

上条「技に名前とかって無いのかな?それっぽい必殺技みたいな?」

刀夜「DOGEZAだ」

上条「ごめん、その技もうマスターしてる」



555:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/24(火) 10:54:20.23 ID:dInGq47L0

――ある日 学校 昼休み

青ピ「しかしまぁアレやね。『科学と魔術の合同研究』なんて、人生どないなるか分からへんね」

上条「だよなー。俺も話聞いた時はビックリしたぜ」

上条「しかも何が驚いたかって、意外にすんなり受け入れられるっつーところがな」

土御門「個人的には思う所がないわけじゃないんだが……ま、前から囁かれていた事ではあるんだ」

土御門「錬金術で使う媒体や試薬、それを科学サイドの最新技術で加工すれば、出来上がるものが桁違いの霊装になるんじゃないか、って」

土御門「まぁアレだな。魔術師が魔術に使う素体だが、それを科学サイドの力で造るって思想だ」

土御門「純度の高い金や銀などの鉱物、不純物を極限にまで取り除いた純水」

土御門「他にも死霊系ではクローニングされた動物での研究が進められていると」

土御門「また反対に、人体の組織や精神の働きも各種魔術師のイニシエーションで解き明かされつつある……何とも、だなぁ」

上条「大丈夫なのか?」

土御門「今の所は順調、ただしこれからに問題を孕んでなくもないぜぃ」

土御門「記者会見で木原数多が世界へ対してケンカ売ったように、この流れに乗り遅れた魔術結社は技術面で数段落ちるだろう」

土御門「もし仮に、そんな奴らか反旗を翻したとしても魔術と科学の両方から瞬殺されっちまうにゃー」

上条「……仲良くしてくれるのは、正直嬉しいんだが……」

土御門「あー、分かってる分かってる。カミやんが言いたいのはアレだろ?今までそれで食ってた奴らがハブられるって事だろ?」

土御門「ま、何とかなると思うぜぃ。電卓が発明された時、『人はもう必要無いんじゃないか!?』と言われてたが、そうはならなかった」

土御門「ショベルカーやトラック、土木用の重機が普及しても同じく」

土御門「むしろそれらを利用して、よりグレードの高い世界になっていく……」

青ピ「――か、どうかはまだ分からないんちゃいます?確かに世界的に豊かになったんは確かですけど」

上条「どういう意味で?」

青ピ「ネットコンテンツもそうやけど、今、ボカロとDTPソフトの普及で誰でも音楽を作れますやん?」

青ピ「ただそれらが『神作!』なのか、それとも駄作を量産しとるのかはまだ分からん、っちゅー話ですわ」

上条「駄作言うな。俺FREELY TOMORROWとか、オケで歌ったりしてるんだからな」

土御門「『大衆が認める文化』と『大勢が認める文化』の、違いだぜぃ」

土御門「ある国でトップになったって、世界レベルで見れば微々たるもんだし、的なお話だにゅー」

上条「語尾語尾……ま、分からないでもないが」

土御門「ま、今の所、錬金術や冶金関係での協力も進んでいるし、後半世紀ぐらいは仲良く出来ると思うぜ」

土御門「幸い、『魔術がある=神の奇跡も存在していた!』的に、嘗ての信仰へ目を向けようって運動も盛んになってる……」

土御門「……」

上条「どした?」

土御門「いや……気のせい、だろう。きっと」

土御門「俺がここで何をしたとして、機械仕掛けの神は停まらない……」

青ピ「はい?」

土御門「いやそんな事よりもカミやん、”トコロテン食うかい?”なんつったりして!」

上条「唐突にどんな話振りやがるっ!?校内にトコロテン持ち込んだのか!?」

土御門「別に何でもないにゃー。そんな事よりお昼の放送が始まるぜぃ」

上条「お昼の放送?そんなんあったっけか?」



556:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/24(火) 10:58:38.05 ID:dInGq47L0

青ピ「もしかして……噂のアレかい!」

上条「知っているのか雷電!?」

青ピ「うむ、とある中学で伝説を作った幻のお昼の校内放送……!」

青ピ「そのDJをやった生徒が今年ウチの学校へ入ってきたという噂を聞いた事がある……!」

上条「そ、そいつはまさか――!?」

校内放送『チャッチャッチャララ、チャッチャッチャララ……』

上条「世にも奇妙な物○のテーマっ!?縁起ワルっ!?」

上条「てーかこの時点で誰が分かったよ!?残念な子でしょ?違うのかっ!?」

佐天(※校内放送)『はーいっ!と言う訳で今日もやって来ましたよー、お昼の放送!』

佐天『皆さん午前中の授業どうでしたかー?頑張りましたー?』

佐天『あたし?あたしは全っ然駄目でしたよ!あっはっはっはー!』

佐天『だってホラ、いるじゃないですかハゲ?そうそう、学年主任の!』

佐天『あの人がエロい眼で見てるかと思――』プツッ

……

上条「……終わったな、あっさりと」

青ピ「まさかあのアホ番組を生で聴けるとは……感動やねっ!」

上条「感動っつーか、佐天さん内申点大丈夫か?つーかよくこんなフリーダムな番組流しやがるなこの学校!」

佐天『――はいっ、という訳でものっそい怒られましたっ!佐天涙子がお送りする校内放送ですっ!』

佐天『皆には見えないかも知れませんが、ハ――あ、いや学年主任が見てますからねっ!穏便に行きましょう穏便に!』

佐天『では、今日も皆様からのメール届いてますんで、ちゃっちゃと読み上げちゃいましょうか!でーでんっ!』

佐天『ラジオネーム”ソウケン”さん、お手紙ありがとうっ!愛してるぜっ!』

上条「お前だろ?」

青ピ「な、何を言っているのか分からへんなぁ」

佐天『”佐天さん、こんにちは”、はーいこんにちは!』

佐天『”ボクぁ前々からずっと気になっていた事があります。それを考えると夜も眠れません――”』

佐天『”――ぶっちゃけ今どんな下着履いてんのか、おっちゃんに教えてご覧はぁはぁ”』

上条「メシ終わったら黄泉川先生んトコな?絞って貰え?」

青ピ「だだ、だからボクちゃいますやんっ!つーかただの他愛ない悪戯ですやんっ!」

上条「やっぱお前じゃねぇか。つーかさ、こういうセクハラは良くな――」

佐天『ローライズですね』

上条「答えんなよっ!?元・柵川中の核弾頭おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

佐天『あ、色はブルーで上とお揃いですけど?それが何――』 プツッ

上条「『何か?』じゃねぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?つーか空気読め!空気をなっ!!!」

上条「君が放り込んだ爆弾で野郎はおもっくそ想像しているし!女子は女子でドン引きしているからっ!」

青ピ「……てか迷いもなく言い切りよった……」

ピーンポーンパーンポーン

学年主任(※校内放送)『ただいま内容に著しく風紀を乱すものがありました事を謝罪致します』

上条「そりゃな?」

学年主任『尚、今読み上げられたメールを送った持ち主は食事が終わった後、職員室まで来るように』

学年先生『黄泉川先生ではなく、男の体育先生達がやる気になっておられます』

青ピ「嘘ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」



557:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/24(火) 11:01:54.46 ID:dInGq47L0

学年主任『では、引き続いて連絡事項――何?』

学年主任『ちょっと待っ――違――』

桂『ずっとスタンバってました』

上条「違う人来ちゃった!?」

桂『黒髪ロンゲは涙子殿とキャラが被ってるのがいけませんかっ!?』

学年主任『待ってくれないかな桂君?君アレだよね?関係ないよね?何一つ?』

学年主任『あと君、佐天さんとキャラ被りをしてるって言うけど、君らの共通項は”人類”以外にないからね?』

桂『だがしかし課長殿も被っ――あっ』

学年主任『オイテメー今人の頭見て何か言おうとしなかったか?あぁ?』

学年主任『やったんぞ!?いつでもやったんぞコラ?これはただちょっと大きめの額であって、メット的なものを被ってないからな?』

学年主任『こないだ夕方五時のNHKにキダタロ○先生が出て、若い頃を写真とエピソードで振り返ろうって企画だったんだが』

学年主任『視聴者はエピソードそっちのけで、いつキ○先生がテイル・オ○!したのかにしか興味ねぇんだよ!』

桂『そもそも冒頭のタモさんとの絡みを無った事にしたのはどういうこ――主任殿!せめて!せめて一太刀ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!』

学年主任『うん、だからね桂君?君一太刀って言ってっけど、さっきから斬られてるのは主に俺だよね?被害担当で弄られてるのは俺だけだよね?』

学年主任『佐天さんとの合わせ技で、言葉の暴力でズタズタに斬られまくってるのに、これ以上追い打ちかけるの止めてあげて?なっ?』

学年主任『あとエリザベス先生、この番組は基本音だけなんで桂君の後ろでプラカード持ってても伝わらないと思うな、うん』

学年主任『多分ザベス先生もそこら辺確信犯――つーか故意犯だと思うんだけど、プラに書いてある内容エゲつないもんね?』

佐天『何々……”ビッ×先生が本物のビッチってどういう事?”うん、それはだねー』

学年主任『佐天さん、君教室帰れって言ったよね?黄泉川先生に説教して貰う前に、ご飯食べてきなさいって言ったもんね?』

桂『グレートマザー、超ドン引いたんですけど』

学年主任『うん、だからもう帰ってくれないかな?ネタ的にヤバ――』 プツッ

上条・土御門・青ピ「「「……」」」



558:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/24(火) 11:03:39.41 ID:dInGq47L0

青ピ「あぁっと、やね」

上条「誰が収集つけるんだ、この大惨事……」

土御門「きょ、今日!」

青ピ「今日?」

土御門「今日の放課後、二人はなんか用事あるかにゃー?」

青ピ「ボクぁないですけど。カミやんは?」

上条「俺はインデックスのバイト終わりを待ってて、帰るつもりだけど」

土御門「だったら丁度良かったぜぃ。実はな、ウチの家の――つーか、あー……まぁ遠い親戚が入学する事になったんだにゃー」

青ピ「あぁ土御門んとこは由緒正しい魔術師の家系やったっけ?」

土御門「それそれ、そっち関係の。で、入学したのはいいんだけど……ほら?五月病、みたいな?」

上条「中々馴染めない、か?」

土御門「そうそれ!なんか前の学校からいきなり切り離されたんで、友達も居なくてだにゃー」

青ピ「――分かっとる!皆まで言うな土御門!」

土御門「だから二人には友達になって欲しいんだわ」

青ピ「言ってた!?ボクが格好つけたの無視しおった!?」

上条「おけおけ。そういう事だったら喜んで協力させて貰うよ」

土御門「なんかこう理屈っぽい子だから、禁書目録も一緒だと助かるんだが……」

上条「それも込みで俺はいいぜ」

青ピ「ちなみに女の子?男の娘?」

土御門「……それは合ってのお楽しみって事でも、一つ」

青ピ「なんや嫌な予感がするんやけど……まぁいいわ!その話乗ったる!」

土御門「……悪いな、二人とも」



559:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/24(火) 11:06:14.10 ID:dInGq47L0

――放課後 コンビニ前

上条(後一時間ぐらいか……さて、どうしたもんか)

上条(立ち読みするとインデックスに怒られるし、コンピニコーヒ○でも買って、ちびちび飲むか……)

少女「――解答一。あなたは私に甘味を与えればいい」

上条「また突然現れやがったな!……甘いものがどうこう言ってるって事は、ミーシャの方か?」

ミーシャ(少女)「解答二。その通りだと肯定する」

上条「てかお前も来てたとは意外だが……ガムは持ってないしなー、うーん……?」

ミーシャ「勧告一。早くしないと『御使堕し』が暴走する可能性が無きにしも非ず」

上条「天使が堂々と脅迫しやがった!?……ま、まぁネタなんだからスルーするけど!」

上条「あ、それじゃアイスでも食うか?食べた経験は?」

ミーシャ「解答三。無い」

上条「手持ちの金だと……ホームランバ○でギリギリ二本か。よし、それじゃ待ってろ」

ミーシャ「勧告二。購入する所を観察したい」

上条「それじゃ一緒に行こうか」



560:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/24(火) 11:08:10.75 ID:dInGq47L0

――コンピニ

インデックス「いらっしゃいませー……ってとうま」

上条「お疲れー。迎えに来たわ」

ミーシャ キョロキョロ

インデックス「……また女の子!?しかもちっちゃいし!」

上条「誤解だからね?」

ミーシャ「解答四。『アイスを買ってやるからついてこい』と」

上条「ショートカットしすぎじゃないですかね?なんかモニョる展開になっちゃってるなー、こやつめーHAHAHA!!!」

インデックス「……とうまがヘンな事する人間じゃないのは分かってるけど……」

上条「精神衛生上悪いから、さっさと買って出て行くよ――おーし、これだ」

ミーシャ「質問一。このケースの中にあるのが『アイス』?」

上条「そうだ。つっても俺が帰るのは銀色の、四角形の奴だけな」

ミーシャ「質問二。何か違いはあるのか?」

上条「小さいから値段が安い!けど侮ってはいけない!」

上条「なんと、このアイスには『当たり』が入っていて、当たるともう一本が無料で貰えるんだよ!」

ミーシャ「お、おぉ……!」

上条「なので自分の分は慎重に選ぶように!」

ミーシャ「……」 スッ

上条「良し、それじゃ俺はこっちを買おう」



561:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/02/24(火) 11:10:47.84 ID:dInGq47L0

――コンビニの外

ミーシャ「……これは!」

上条(表情が変わらない――つーか見えないまま、モグモグとホームランバ○を食べるミーシャ)

上条(実家とロシアで二回程殺されそうになったように思えないが……まぁ、いいだろ)

上条(こうやって一緒に車止めへ座ってアイス食ってる仲になれれば、そうそう戦う必要も出て来ないだろうし)

上条「どうだった?」

ミーシャ「解答五。何も描かれていなかった」

上条「それじゃ残念」

ミーシャ「質問三。そっちは?」

上条「俺は……当たった!ラッキー!」

ミーシャ ジーッ……

上条「あー、分かった分かった。これやるから交換してこい、な?」

ミーシャ「……えぇと」

上条「店員さんに『アイスの当たりが出ました』って言えば通用すっから」

ミーシャ コクコク

ジーッ、パタン

上条(拷問服を除けばまぁ普通の子なんだよな。喋りがちっと硬いけど)

上条(慣れれば気にならないし、何言ってるのかも分かりやすいっちゃ分かりやす――)

上条「……」

上条(……ちょっと待て。何かおかしいな……?)

上条(何がおかしい……?学校か?友達か?それともインデックスが?)

上条「……」

上条(……違う!それは違う!)

上条(おかしいのは『何か』じゃない――『全部』だ!)

上条(俺を取り巻く環境自体が!どう考えてもこんなに風にすんなり科学と魔術が融合出来る訳がない……!)

上条(そして何よりも!他の事全てよりも不自然極まりないのは――)

上条「――俺が”当たり”を引く筈がない……ッ!!!」

――パキイイイィィィィィィィィィィィィィィィィィィンッ……!!!――


レッサー「『新たなる光』の名の下に集えよ、戦士」 ~闇、海より還り来たる~【その4】



元スレ
レッサー「『新たなる光』の名の下に集えよ、戦士」 ~闇、海より還り来たる~
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1413944245/
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