男「ナルシ酔拳……!?」ナルシスト「ぜひ習ってみないか!」
<学校>
不良「……」クンクン
不良「なんかクサくね? すっげー悪臭が漂ってんだけど」
茶髪「おう、におうな」
ビッチ「におう、におう~! 超スメリングって感じ~!」
男「……」
不良「なんでにおうのかと思ったら、あんなとこにゴミがあんじゃん!」
茶髪「ホントだ! きったねえゴミだな!」
ビッチ「ねえねえ、あれ燃えるゴミ? 燃えないゴミ? どっち?」
男「……」
不良「燃やすと有毒ガスが出そうだし……」
茶髪「ハハハッ!」ウケルー
ビッチ「超ダイオキシングって感じ~!」
不良「かといって燃やさずに埋めたら地面が腐っちまうよ」
ビッチ「環境汚染になっちゃうよねえ。超ハカイングって感じ~!」
不良「おう、環境にはやさしくしなきゃな」
男「……」
不良「だから殴ろうぜ! 殴るゴミだ!」
茶髪「ヒャハハッ! そりゃいいな!」
バキッ! ドカッ! ガッ! ガスッ! ドッ!
男「うえっ! げほっ! ――うぐっ!」
ビッチ「キャハハハハッ! 超ナグリング~!」
幼馴染「ちょっと、やめなさいよ! 先生にいうわよ!」
不良「ちっ! またかよ!」
茶髪「チクられてもかまやしねえが、めんどくせーや。行こうぜ」
ビッチ「ウザイ女……」
男「……」ゲホゲホッ
幼馴染「ちょっと、大丈夫!? 立てる!?」
男「う、うん……ありがとう……」ヨロッ…
幼馴染「あ、どこ行くの!?」
男「ついてこなくていいよ……大丈夫だから……」
男(ハァ……ぼくはなんて情けないんだ……)
放課後――
<雑木林>
男「毎日毎日いじめられて、幼馴染ちゃんに助けられて……」
男「ぼくなんかあいつらのいうとおり、ゴミなんだ……」
男「生きる価値なんかないんだ……」
男「せめて、こんなゴミは、自分で処理しなくちゃな……」
男「首吊って死のう……」グッ…
すると――
ナルシスト「ハァイ、なにをしてるんだい?」キラキラ…
男「うわぁっ!?」
男(なんだなんだ、このやたら派手な人は……!)
男「え、と……自殺するんですよ……これから」
ナルシスト「ワァオ! 自殺! スーサイド! 初めて見た!」
ナルシスト「修行しようと林に入ったら、いきなり自殺現場に出くわすなんて」
ナルシスト「ボクはなんて不幸なんだ……」ウルッ…
ナルシスト「不幸すぎるボク……ステキすぎるッ!」クルクルッ
男(なんなんだ、この人は……)
男「あの……どこか行ってもらえませんか? 自殺のジャマなんで」
ナルシスト「ボクがジャマ……!? この美しいボクが!?」
ナルシスト「美しすぎて、太陽のように輝いてて、チカチカして目の毒だからジャマ!?」
ナルシスト「ああ……美しすぎるって罪だ……」ブッ…
男(鼻血出しちゃったよ、おい……)
ナルシスト「残念だけど、そうはいかない」
ナルシスト「キミを説得及ばず自殺させてしまうというシチュエーションも」
ナルシスト「なかなか悲劇的で耽美そうだけど、後味が悪いのは好みじゃなくてね」
ナルシスト「やはり、アフタヌーン・ティーは後味がよいものに限る!」
ナルシスト「よってキミの自殺を止めさせてもらうよ! 悪く思わないでくれたまえ!」
男「はぁ!?」
ナルシスト「さぁ、やめるんだ!」グイッ
男「わっ!」
ナルシスト「やめたまえ!」グイグイッ
男「うわっ! 変に引っぱるから、頭がロープに引っかかって……!」
ナルシスト「ああ……自殺を止めるボクってなんて立派なんだろう……」グイグイッ
男「うげえええっ! むしろ幇助してるぅぅぅ!」ゲホォォォ
男「げほっ、げほっ、げほっ!」
ナルシスト「大丈夫かい? 公園の蛇口でくんだミネラルウォーターを受け取りたまえ」
男「……」グビグビ
男「――ったく、あなたのせいで死ぬとこだったでしょうが!」
ナルシスト「ごめんよ……」ホロッ…
ナルシスト「だけど、素直に謝れるボクってカッコイイだろ?」
男「そうですね……たしかにあなたはカッコイイです」
男(黙ってればね)
ナルシスト「ところで、キミはなんで自殺なんかしようと?」
男「ぼく、学校でいつもいじめられてて……いつも女の子に助けられて……」
男「つくづくこんな自分がイヤになったんです」
ナルシスト「自分がイヤに、か。ボクにはさっぱり分からない感情だねえ」
男「でしょうね。あなたみたいな能天気な人には分からないでしょうよ」
ナルシスト「ああ……能天気なボク……なんていい天気……!」
ナルシスト「今のボクは降水確率0パーセントさ!」
男「はぁ……」
男「ま、もういいです。水道水、ありがとうございました」
男「それじゃ、さようなら」ペコッ
ナルシスト「ちょっと待った」
男「?」
ナルシスト「このままキミを放っておいたら、ボクにも心残りができてしまう」
ナルシスト「どうだろう? 拳法を習ってみないか?」
男「拳法? えらく唐突ですね」
ナルシスト「そう、物事というのはいつでも唐突! 唐突なボクってステキ!」
男「――で、なんですか、拳法って?」
ナルシスト「その名も、ナルシ酔拳!」
男「ナルシ酔拳……!?」
ナルシスト「ぜひ習ってみないか!」
男「なんなんです? ナルシ酔拳って」
ナルシスト「キミは“酔拳”って知ってるかい?」
男「あまり詳しくはないですけど……酒を飲んで酔っ払う拳法でしたっけ?」
男「酔えば酔うほど強くなる……っていう」
ナルシスト「そのとおり!」
ナルシスト「ま、実在の酔拳は酒を飲まないといわれてるがね!」
ナルシスト「しかし、ボクの拳法は酒を飲む必要も、酔っ払ったふりも必要ない!」
ナルシスト「なぜなら、自分に酔えばいいのだから!」
男「自分に酔う……!?」
ナルシスト「ナルシストの語源はギリシア神話に登場する美少年ナルキッソスとされる」
ナルシスト「まさにボクみたいな人だね! というかボクそのものだね!」
ナルシスト「自分の美しさに酔いまくった彼の如く、自分に酔って酔って酔いまくって」
ナルシスト「強くなるのがボクの拳法なのさ!」
男「はぁ……」
ナルシスト「どうだい? これはもう習うしかないよね?」
ナルシスト「もちろん、レッスン料なんて取らないよ! ボクってなんて優しいんだ!」
ナルシスト「ああ……またボクはボクを好きになってしまう……」
男「結構です」
ナルシスト「え!?」
男「ぼく、帰ります。失礼します」クルッ
ナルシスト「ま、待ちたまえよ! ちょっとぉ!」
雑木林を出た二人。
ナルシスト「いいじゃないか。ちょっとぐらい習ったって。騙されたと思ってさ」
男「いえ、別に強くなりたくないんで」
ナルシスト「だけど、いじめられてるんだろう?」
男「そりゃそうですけど」
男「だけど、それだったらきちんとした武術を習いますよ。空手とか柔道とか」
ナルシスト「むむむ……」
ナルシスト「空手や柔道といったメジャー武道に勝てないボクもまた……良し!」ニコッ
男(めげないな、この人……)
男「あっ!?」ビクッ
ナルシスト「?」
不良「おい、とっとと金出せや」
茶髪「万札の一枚や二枚持ってんだろ?」
ビッチ「早く出しちゃいなよ~! あんたのユキチングをさ!」
眼鏡生徒「ううっ……」
ナルシスト「どうしたんだい? マイフレンド」
男「あいつら、いつもぼくをいじめてる奴なんです」
男「ここで見つかったら、ぼくまでカツアゲされちゃう。回り道しましょう」コソコソ
ナルシスト「なにをいう! 最高に自分に酔えるチャンスじゃないか!」スタタッ
男「あっ!」
ナルシスト「やめたまえ! 悪しき者たちよ!」
不良「あ? なんだてめえ!」
ナルシスト「今のうちに逃げたまえ! メガネボーイ!」
眼鏡生徒「す、すみませんっ!」タタタッ
男(うわぁ……あんなことしたら、ボコボコにされちゃうぞ……)
ナルシスト「ああ……身を呈してカツアゲされる生徒を救うボク……美しすぎる……」
不良「てめえ……オレたちにケンカ売ってんのか?」
ナルシスト「売っているともさ!」サッ
不良「なんだこのキモイ構えは!? やっちまうぞ!」
茶髪「おう!」
不良「オラァッ!」シュッ
ナルシスト「美しい……」ヒョイッ
茶髪「このっ!」ブオンッ
ナルシスト「ああ、美しい……」ヒョイッ
男(すごい! 二人がかりなのに、攻撃をひらりひらりとかわしてる!)
ナルシスト「さぁ、美しい回避はここまでだ!」キラーン
ナルシスト「今度は美しい技で、キミたちを罰してあげよう」
ナルシスト「はいっ!」ヒュッ
バキィッ!
不良「ぐわっ!」
ナルシスト「ほああっ!」シュバッ
ドゴォッ!
茶髪「ぎゃふっ!」
ビッチ「ウッソォ~!?」
不良「ちくしょう、覚えてやがれ!」スタタッ
茶髪「ひいいっ!」スタタッ
ビッチ「超ニゲリングって感じ~!」スタタッ
ナルシスト「フッ……きちんと手加減してあげたボク……なんて優しいんだ!」
ナルシスト「どうだった? ボクの美しすぎる戦いは?」キラーン
男「……」
男「す、すごかったです! あいつらをあっさり倒しちゃうなんて!」
男「お願いです……ぼくにも習わせて下さい! ナルシ酔拳を!」
ナルシスト「おおっ、やっとその気になってくれたかい! マイフレンド!」
<道場>
ナルシスト「ここがボクの道場さ! 荘厳で、優雅で、エクスタシーだろう?」
男「道場というか、神殿ですね……これ」
ナルシスト「この美しさに圧倒され、入門希望者は未だゼロだけどね!」
男「それじゃ、どうやって生活してるんです? あなたは」
ナルシスト「副業で、工事現場で働いたり、警備員をしたり、内職したり、色々とね!」
男「苦労されてるんですね……」
ナルシスト「さて、それじゃ今日は体作りから始めよう!」
男「あれ? 自分に酔うんじゃないんですか?」
ナルシスト「ナルシ酔拳はれっきとした拳法だよ? 体も鍛えなきゃ話にならないさ」
男「あ……それもそうですよね」
ナルシスト「ストレッチの後、基礎的な筋トレと型を教えるよ!」
ナルシスト「ボクの美しい動きについてこれるかな!? マイフレンド!」キラーン
男「頑張ります!」
……
……
……
男「ハァ、ハァ、ハァ……」
ナルシスト「グッド! 初めてにしてはよくついてきたよ!」
ナルシスト「さて、今日からキミに宿題を与えよう」
男「宿題……?」
ナルシスト「キミはまだまだ、自分を好きになれていない」
ナルシスト「だから、自分を好きになる必要があるのさ」
男「自分を……好きになる……」
ナルシスト「まず、毎日鏡に向かって“ボクは美しい”と100回繰り返す」
ナルシスト「そう、白雪姫に出てきた悪い王妃のようにね!」
ナルシスト「それと毎晩、日記を書きたまえ。“今日もボクは最高でした”とね」
ナルシスト「そして、あらゆることをプラスに解釈するクセをつけるんだ」
男「分かりました……やってみます!」
こうして修行の日々が始まった。
<自宅>
男「鏡よ、鏡。世界で一番美しいのはだぁ~れ?」
男「ぼくでーす!」
男「ふぅ、100回達成……さて、日記つけるか」
男(えぇと、今日もぼくはイケメンで最高で美しくて最強でした、以上!)カリカリ…
男(本当にこんなんで、自分を好きになれるのかな?)
<道場>
男「だっ! でっ! とりゃ!」
ナルシスト「甘いよ!」シュビッ
ビシッ!
男「うぐっ!」
ナルシスト「今の“甘いよ”どうだった? イケてただろう?」
男(うむむ、ぼくも負けてられないな!)
男「いやいや、ぼくの“うぐっ”こそ、セクシーでしたよ」
ナルシスト「ハハハ、いうねえ! だいぶよくなってきたよ!」
そして――
<学校>
不良「おい」
男「!」
不良「なんでオメー学校来てんの? 人間じゃねーくせによ」
茶髪「ゴミはゴミ処理場行けや。なんなら、オレらが連れてってやろうか?」
男(うう……怖い……)
男(いや、プラスに考えるんだ! ポジティブに、ポジティブに……)
男(いじめられても、めげずに学校通って、拳法まで習ってるぼくって、かっこいい!)
男(こんなぼくがゴミ……? そんなわけないじゃないか!)
男「ぼくは……ゴミなんかじゃない!」サッ
不良「!?」
不良「う……この妙な構え……!? まさか……!?」
茶髪「もしかして、あの変な奴になんか習ったのかも……やめとこうぜ!」
不良「お、おう」
男(た、助かった……)ホッ
幼馴染「やるじゃん! 見たよ、さっきの!」
男「幼馴染ちゃん……!」
幼馴染「かっこよかったよ! いつの間にかたくましくなっちゃって!」
男「あ、ありがとう……」
男「ぼく、いつも君に助けられてばかりだったから……」
男「たまにはカッコイイとこ見せることができて、よかったよ」
幼馴染「アハハッ、なにいってんの! あんたはいつもかっこいいって!」
男「ハハ……」
<自宅>
男(今日、ぼくは不良たちを驚かすことができた!)
男(幼馴染ちゃんにも感心された……と!)カリカリ…
男(うん、今日のぼくは本当に満点だった!)
男(なんだか、本当に自分のことを好きになれてきたような気がするぞ……!)
<道場>
男「ナルシストさん、おかげでいじめられなくなりましたよ!」
ナルシスト「それはなによりだ」
男「本当にありがとうございます!」
ナルシスト「いやいや、お礼などいらないよ」
ナルシスト「なにしろ、ボクは自分で自分を常に褒めているからね」
ナルシスト「キミのようないじめられっ子を強くしてしまうなんて……」
ナルシスト「ボクはなんて優しくて、有能で、美しくて、エレガントなんだ!」
男(相変わらずだなぁ、この人は)
ナルシスト「それじゃ、今日も修行を始めよう」
男「はいっ!」
そして、それからしばらく経ったある日――
<街>
幼馴染「映画、面白かったね~!」
男「うん、特にラストシーンは最高だったよ」
幼馴染「――あ」
男「あいつら!」
不良「金出せや、オヤジ!」
茶髪「金がねえとまずいんだよ! 出さないと、ブン殴るぞ!」
ビッチ「ケガで会社欠席したくないっしょ~?」
会社員「あうう……」
幼馴染「学校外でもこんなことしてるなんて! おまわりさん呼んで――」
男「いや、ぼくで十分だよ」ザッ
幼馴染「えっ、でも……!」
男「やめろ!」
不良「!」
不良「なんだてめえか……おどかしやがって」
茶髪「学校で相手しなくなったからって図に乗るなよ?」
ビッチ「調子乗ってんじゃないわよ! この調子ライダー!」
不良「今日は容赦しねえぞ!」ブオンッ
茶髪「オラァッ!」ブンッ
男(カツアゲを止めるなんて……ああ……ぼくってなんてかっこいいんだ!)ヒョイッヒョイッ
不良「あれ!?」
男「ぼく、かっこよすぎィ~!」シュバババッ
バキッ! ドカッ! ガッ!
不良「ぐへぇ!」
茶髪「げぼっ!?」
不良「く、くそっ……あんな奴に……!」スタタッ
茶髪「いでえ……」スタタッ
ビッチ「ただのマグレよ! 超マグリングって感じ~!」スタタッ
男(勝てた……!)
男(このぼくが、あいつらに……真っ向勝負で……!)
幼馴染「やったじゃん! 惚れ直しちゃったよ、もう!」
男「ハハハ、勝ててよかったよ」
男(不良を倒して、幼馴染ちゃんに惚れられる……ぼくってなんてかっこいいんだ!)
数時間後――
<ナイトクラブ>
バキィッ! ドカッ!
不良「ぐはぁっ!」ドサッ
茶髪「ぎゃふっ!」ドサッ
ビッチ「ひぃぃぃ……!」ガタガタ…
スキンヘッド「どうなってんだ? あ? この上納金の少なさはよ」
スキンヘッド「しょせんテメーらなんざオレに貢ぐしかねえ下っ端のクズなんだ」
スキンヘッド「立場分かってんのか?」
不良「す、すんません!」
不良「いいオヤジ見つけて、がっぽり稼ごうとしたら、ジャマされて……」
スキンヘッド「だれにだよ?」
茶髪「オレらの通う学校にいる、ヘタレなんですが……」
茶髪「なんか変な格闘技覚えたっぽくて……それで……」
スキンヘッド「ふうん、おもしれえ。退屈しのぎぐらいにはなりそうだな」
スキンヘッド「よぉし、お前ら。そいつ呼び出せ」
スキンヘッド「なるべく、そいつが本気出せるようなシチュエーションでな」ニヤァ
不良「は、はいっ!」
茶髪「はいぃっ!」
ビッチ「ハイング!」
翌日――
<学校>
不良「おい……ちょっとついてきな」
幼馴染「な、なによ!」
茶髪「心配すんな。とりあえずは餌になってもらうだけだ」
茶髪「ただし……その後どうされるかは、お察しだがな」
ビッチ「アンタも不運よねえ、あんなのと付き合うからこうなんのよ!」
幼馴染「は、はなしてっ!」
不良「いいから来いっ!」グイッ
……
……
……
男(下駄箱に手紙……? まさかラブレター?)
男(いや違う! これは果たし状!)
「お前の女は預かった。
返して欲しければ、町外れにある倉庫まで来い!」
男「……」ワナワナ…
男(きっとあいつらだ!)クシャッ
男(ぼくにやられたことを逆恨みして……!)
男「うおおおおおっ!」タタタタタッ
ナルシスト「おや? 今日はわざわざ学校まで迎えに来てあげたのに……」
ナルシスト「稽古をサボってどこ行く気だろう?」
ナルシスト「弟子にサボられる師匠……う~ん、トレビアン」ウットリ…
<倉庫>
幼馴染「あんた……あたしをどうする気よ!」
スキンヘッド「どうもしねえさ。テメーもオレにとっちゃただのクズだ。興味はねえ」
スキンヘッド「ただし、テメーの男がオレに負けたら――」
スキンヘッド「クズなりにオレのオモチャになってもらうがな」ニヤッ
幼馴染「!」ゾクッ…
不良「ボス、来ました!」
男(なんだあの大きい男は……! あいつが不良たちの黒幕か!)
男「幼馴染ちゃんを返せ!」
スキンヘッド「おおっと、いきなりオレが相手してやるわけにゃいかねえな」
スキンヘッド「お前ら、相手してやれ!」
スキンヘッド「勝ったら、今月の上納金はオマケしてやるよ!」
不良「マジっすか!? よぉし、ブッ殺してやる!」
茶髪「こないだのはマグレだってのを、思い知らせてやるぜ!」
男「来いっ!」サッ
不良「どりゃあ!」シュッ
ドカッ!
男「ぐあっ!」
茶髪「くたばれっ!」ブンッ
ガッ!
男「うわぁっ!」ガクッ
スキンヘッド「へ……? なんだ全然弱えじゃねえか」
幼馴染「ああっ……」
不良「おいおい、これ勝てるぜ!」
茶髪「おう! こないだのはやっぱりマグレだったんだ!」
男(くそっ、ぼくのせいで幼馴染ちゃんは捕まったんだ……!)
男(せめて、ぼくが絶対にこいつらを倒さなきゃ……!)
「キミはいったい、何をやっているんだい!?」
男「!」ハッ
「自分を嫌いになっちゃダメだ! 自分のせいにしちゃダメだ! ――酔いたまえッ!」
男「そっ、そうかっ!」
男(幼馴染ちゃんを助けるために、一人敵地に乗り込んだぼくって……)
男(なんて勇気があって、男気もあって、かっこいいんだろう……!)ウットリ…
男「ウイ~……ヒック……」サッ
不良「なんだこいつ!? 急に顔がうっとりと……」
茶髪「カンケーねえよ! こっちが押してんだ!」
不良「そうだな!」
しかし――
バキィッ! ドカァッ!
不良「ぐはっ!」ドサッ
茶髪「うげえっ!」ドサッ
男「あぁ……ぼくって強い……かっこいい……」
ビッチ「ひぃぃ~、たった一発ずつで!?」
男「おっと、君にもお仕置きしなきゃね」ヒック…
ベシッ!
ビッチ「きゃんっ! 超ヤラレリングって感じ……」ドサッ
男「ああ……女の子にもちゃんと攻撃するぼく……容赦なくってかっこいい……」
スキンヘッド「……」
スキンヘッド「なるほど、クズにしてはやるじゃねーか」
スキンヘッド「いいだろう、相手になってやる!」ニヤッ
幼馴染(不良たちはやっつけたけど……あのボスもかなり強そう……!)
幼馴染(大丈夫かな……)
ナルシスト「やぁ、一緒に観戦させてもらうよ」
幼馴染「!」ビクッ
幼馴染「あなた誰!?」
ナルシスト「彼のフレンドさ。おっと、ボクに惚れちゃいけないよ」
幼馴染「大丈夫よ。たしかにあなた見た目はカッコイイけど、好みじゃないから」
ナルシスト「ああ……好みじゃないといわれる可哀想なボク……」ウットリ…
戦いが始まった。
スキンヘッド「オレ以外の人間はクズだ! カスだ! ダニだ!」
男「ぼくって強い、美しい、かっこいい……」ウットリ…
ガッ! ドカッ! バキッ!
男「ぼく、イケメン!」シュッ
ドカッ!
スキンヘッド「ほう、オレに一撃くれやがるとは……だが、テメーもゴミだ!」ブオッ
ドゴォッ!
男「ぐはぁっ!」
スキンヘッド「オラオラァッ!」
バキィッ!
男「ぐっ……!」
スキンヘッド「ハッハーッ! どうしたどうした!? この程度かよ、ゴミ野郎!」
幼馴染「押されてる……!」
ナルシスト「なるほど、スキンヘッドの彼もある意味、ナルシストのようだね」
幼馴染「あのボスが……?」
ナルシスト「ただし、彼は自分以外の人間を徹底的に見下し、罵倒することで」
ナルシスト「相対的に自分がナンバーワンだと思ってるんだけどね」
ナルシスト「あの見下しオーラに飲まれなければいいんだが……」
スキンヘッド「オレ以外の人間はな! 全員ゴミクズなんだよォ!!!」
ドゴォッ!
男「あぐぁっ……!」
男「ううう……やっぱり、ボクはゴミクズなのか……?」ヨロッ…
ナルシスト「まずいな……」
ナルシスト「相手の強烈な見下しで、自分に酔えなくなってしまっている!」
幼馴染「そんな……! じゃあどうすればいいの……!?」
ナルシスト「大丈夫。こんな時は、キミが応援してやればいい」
幼馴染「あたしが……!?」
ナルシスト「自分を好きになれる人間は、他人を好きになれる人間だ」
ナルシスト「つまり、他人に好きになられたら、自分を好きになることができる!」
幼馴染「な、なるほど……!」
ナルシスト「さぁ、応援だ!」
幼馴染「頑張れーっ!!!」
男「!!!」シャキーン
男「女の子に応援されるぼく……なんてかっこいいんだろう!」ウットリ…
男「ほあたぁっ!」シュバッ
ドガガガッ! ガガッ!
スキンヘッド「ぐおっ! まだ、こんな力が……!」ヨロッ…
幼馴染「やった! 盛り返してきた!」
ナルシスト「うん、これは完全にスイッチが入ったね」
ところが――
男「でやぁっ!」シュッ
バキッ!
スキンヘッド「うおおおおっ! オレが負けるかぁっ! テメーみたいなクズに!」ブンッ
ドゴォッ!
男「あうっ!」フラフラッ…
幼馴染「ああっ、だけど……それでも相手の方が上だわ!」
ナルシスト「……」
バキッ! ドゴッ! ガゴォッ!
スキンヘッド「ハハハッ! やっぱりオレ以外の人間はクズだ! 無価値だ!」
男「……」ヨロッヨロッ…
幼馴染「フラフラになってる! お願い、助けてあげて!」
ナルシスト「フッ……心配はいらないよ」
ナルシスト「なぜなら、あの千鳥足は……ダメージによるものじゃない!」
幼馴染「え? どういうこと?」
男「大ピンチだ……」
男「大ピンチにも関わらず、決して諦めず立ち向かうぼく……かっこいい!」ウットリ…
スキンヘッド「なんだとォ!?」
ナルシスト「なぜなら、自分に最高に酔えるのは……“ピンチの時”だからね!」
ナルシスト「ナルシ酔拳は、酔えば酔うほど強くなる」
ナルシスト「つまり、ピンチになればなるほど強くなる!」
ナルシスト「無敵の拳法なのさ!」
幼馴染「もしピンチになる前に、一発でやられちゃうような一撃がきたらどうするの?」
ナルシスト「……」
ナルシスト(図星を突かれ、黙り込むしかないボク……かっこいい!)ウットリ…
男「はっ! ほっ! ――ほああっ!」クネクネッ
バキッ! ドゴッ! ドガッ!
スキンヘッド「ぐええっ……! なんなの、この動き……!」
男「ウイ~……ヒック。トドメは華麗なる足技でっ!」バッ
ドゴォンッ!!!
スキンヘッド「げほぉっ……!」
ドサァッ……
スキンヘッド「うぐぐ……こんなバカな……」
スキンヘッド「オレ以上の存在が……この世に、いるなんて……」
スキンヘッド「へへ……井の中の蛙、だった、ぜ……」ガクッ
男「ウイ~、ヒック。ウイ~……えへへ、アハハ……」ヨロヨロ…
幼馴染「やったぁ! 勝った!」
幼馴染「……ってあれ?」
男「ウイ~、ぼく、最高! ぼく、イケメン! ぼく、超カッコイイ!」ウットリ…
幼馴染「元に戻らないわよ……?」
ナルシスト「これはまずいことになった……」
ナルシスト「ナルシ酔拳は酔えば酔うほど強くなるが」
ナルシスト「あまりにも酔いすぎると……元に戻れなくなることがあるのさ!」
ナルシスト「そう、自己陶酔で身を滅ぼした美少年ナルキッソスのようにね!」
幼馴染「ええっ! 元に戻す方法はないの!?」
ナルシスト「元に戻す方法はたった一つしかない。それは――」
ナルシスト「愛する人のキス、さ。 ……できるかい?」
幼馴染「……」
幼馴染「もちろん!」
幼馴染「お願い! 元に戻って!」チュッ
男「!」ハッ
男「――幼馴染ちゃん!」
幼馴染「よかった……元に戻ったんだ! 助けてくれてありがとう!」
男「いや……当然のことだよ! だってぼく、君のことが大好きなんだもの!」
幼馴染「ステキ!」ギュッ…
ナルシスト「フッ、見事な戦いだったよ」パチパチ…
ナルシスト「今のキミは、ボクよりほんのちょっと劣るぐらいにかっこいいよ」
男「ナルシストさん!」
男「すみません、今日は稽古の日だったのに……連絡もせず……」
ナルシスト「なぁに、気にしないでくれ。ガールフレンドがさらわれたなら仕方ないさ」
ナルシスト「今日は稽古は休みにしよう。ゆっくり二人で過ごしたまえ」スッ…
男「は、はいっ! ありがとうございます!」
ナルシスト(フフフ、ナルシ酔拳に元に戻れなくなるなんて副作用は存在しない)
ナルシスト(キスをしなくても、5分もすれば元に戻っただろう)
ナルシスト(ステキな嘘をついて、恋のキューピッドの役目も果たすなんて……)
ナルシスト(ボクって、なんて気がきいて、かっこいいんだろう……)ウットリ…
おわり
元スレ
男「ナルシ酔拳……!?」ナルシスト「ぜひ習ってみないか!」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1442729167/
男「ナルシ酔拳……!?」ナルシスト「ぜひ習ってみないか!」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1442729167/
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- 千早・紅莉栖「私たちの愛が重いという風潮」
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コメント一覧 (10)
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- 2015年09月20日 20:22
- ナルシ酔拳のお陰で彼女ができました
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- 2015年09月20日 20:39
- ナルシ酔拳のおかげで両親が仲良くなりました!
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- 2015年09月20日 20:43
- 私はこれで(`・ω・')d
会社を辞めました(`・ω・´)d
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- 2015年09月20日 20:45
- ナルシ酔拳のおかげでカードゲームの大会で優勝できました!
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- 2015年09月20日 20:49
- 酔ってんな(自分に)
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- 2015年09月20日 22:46
- ナルシ酔拳のおかげで彼氏ができました
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- 2015年09月20日 23:13
- ナルシ酔拳のおかげで私は彼女とすんなり別れることが出来ました!後々ストーカーされるかもしれないと思って怖かったのですが一切近寄ってこなくなりました。
ナルシ酔拳の力は本物です!
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- 2015年09月21日 00:42
- ここで酔拳は古い!みたいなSS見て俺もナルシ酔拳考えた事あるけどやっぱり似たようなこと考える人っているんだなぁ
まぁ凡人の俺の考えたものなんて割と誰でも思いつくんだろうなと実感したわ
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- 2015年09月21日 02:39
- かっこよすぎだろ‼
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- 2015年09月21日 07:38
- ※8 でも物語にすると人によって違うものになるから不思議だわ