男「裏ノーベル賞……!?」
- 2015年09月03日 00:10
- SS、神話・民話・不思議な話
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友「今年は日本人が一人受賞するみたいだ」
男「へぇ~、ノーベル賞ねぇ」
男「俺にはまったく縁のない話だな」
友「えぇと、物理学、化学、生理学・医学、文学、平和、あと経済学だな」
男「とりあえず、理系の部門は俺にはさっぱりだし」
男「あと文学……本なんかマンガぐらいしか読まないし」
男「平和も、ボランティアとかしたことねえし」
男「経済学もダメだな。東証株価指数を説明しろ、っていわれたらできねえもん」
男「みごとにどれもダメだ」
男「お前ってたしか、劇団入ってるっていってたよな」
友「ああ」
男「なら、ノーベル演技賞でもあれば狙えたのにな」
友「ハハハ、そうだな」
男「バイトの時はいつも店長に『お前、仕事が適当すぎんだよ』って怒られて」
男「本気出す時といや、エロ画像収集の時ぐらい」
男「能力はどうひいき目に見ても、凡人レベル」
男「だけど、ネット上じゃ自分は一流大生だの、彼女持ちだのとウソばかり」
男「あ~あ、こんな俺でも取れるノーベル賞ってないのかなぁ」
男「へ?」
友「この新聞に書いてあるんだけど」
友「なんでも今日、“裏ノーベル賞”の授賞式もやるらしい」
男「裏ノーベル賞……!? なんだそりゃ!?」
男「ほら、バカな研究した奴がもらえるってやつ」
男「あれはあれで、ユーモアセンスがいるから、とても俺じゃ取れねえよ」
友「いや、それとはまた違うやつだ」
友「記事によると、れっきとしたノーベルが創設した賞なんだそうだ」
友「だけど、あくまで“裏”ノーベル賞だし」
友「表のノーベル賞の価値を損ねることにもなりかねないから」
友「大々的に授賞式が行われることはないそうだ」
友「えぇと、妄想、怠惰、適当、変態、凡人、虚言癖、の六つだ」
男「なんだそりゃ!?」
男「俺なら六部門制覇できそうな賞じゃねーか!」
男「くそっ、そんなもんがあると知ってりゃ、もっとアピールしてたのにな……」
男「ちなみに、授賞式はどこでやるんだ?」
友「……この近所の市民ホールらしい」
男「へ!?」
友「なにしろ、あまり表に出さない方がいい賞だから」
友「毎年、こそこそと場所を変えて授賞式を行ってるんだそうだ」
友「それで、今年は日本の市民ホールでやることになったんだと」
男「はぁ~、なるほど」
友「――で、どうする?」
男「そりゃもちろん、授賞式を見に行くに決まってんだろ!」
男「未来の“裏ノーベル賞候補”としては、今のうちに研究しとかなきゃな!」
ザワザワ……
男「ホントにやってる! ……でも、客席にあまり人は入ってないな」
友「しょせん、“裏ノーベル賞”だからな」
司会『ただいまより、裏ノーベル賞の授賞式を行います!』
司会『ではさっそく、“ノーベル妄想賞”の受賞から参ります!』
男「お、まずは妄想賞か!」
友「ちなみにお前はいつも、どんな妄想をしてるんだ?」
男「そりゃま、可愛い女の子に囲まれてハーレムとか」
男「メチャクチャ強くなって、悪人を倒しまくるとか、そういうのだよ」
男「受賞者がどんな妄想してるかは知らねえが、俺も妄想力ならかなり自信あるぜ!」
受賞者A「ありがとうございます」
司会『しかし、すごいですね』
司会『自分の中で、“もう一つの人類史”を妄想してしまうとは』
受賞者A「大したことではありませんよ」
男「もう一つの人類史? なんだそりゃ?」
友「どういう意味だろうな?」
司会『人類誕生から現代に至るまでの“もう一つの歴史”を妄想しているのです!』
司会『ちなみに、あなたの中のもう一つの歴史では、1600年はなにがありましたか?』
司会『こちらの歴史では、関ヶ原の合戦や東インド会社設立、などがありましたが』
受賞者A「1600年というと、私の中の歴史ではK.L885年にあたりますね」
受賞者A「大きな事件としては、ドーク戦争、ペレポ政変、ゲジャ地震が起こっています」
男「なんだなんだ……? なによ、ドーク戦争って……? 聞いたことねえぞ」
友「ようするに、アイツの頭ん中にゃ、俺たちが知る世界史とはまたちがう」
友「“もう一つの世界史”が出来上がってるってことだろ? ……妄想で」
男「マジかよ……!」
受賞者A「ドーク戦争の発端は、チャゲネ王国でのブレナードゥ王暗殺に始まります」
受賞者A「チャゲネ王国というのは、この世界でいうとフランスあたりに位置します」
受賞者A「また、ドーク戦争はチャゲネ語では“$&%#”と表記――」
司会『はい! はい! もう結構です! ありがとうございましたー!』
男「言語まで作ってんのかよ……とんでもねえな。どんな密度の妄想だよ……」
友「頭の中がどうなってるのか、想像するだけで頭がおかしくなりそうだな」
男「妄想でさえ、こんだけやらねえと、ノーベル賞は取れねえのかよ……」
司会『受賞者の方、どうぞー!』
友「ノーベル怠惰賞だってさ、どんな奴が出てくると思う?」
男「うぅ~ん……」
男「きっとニート歴ン十年なんてのが出てくるんじゃねえか?」
受賞者B「…………」
男「なんだ、寝てるだけじゃねえか。たしかに怠惰といえば怠惰だけど」
友「思ったより大したことないな」
司会『脳も全く活動していませんし、血流も停止しています!』
司会『怠け癖を極めてしまった結果、体の全機能を自ら止めてしまったのです!』
受賞者B「…………」
男「え、え、え!? ちょっと待て、それ死んでるってことじゃねえの!?」
友「だ、だよなぁ!」
司会『世界中の医師がこの方を診断しましたが――』
司会『死んでいる、と認定した医者は一人もいなかったのです!』
司会『生きているという診断しかできなかったのです!』
司会『今どういうお気持ちでいるのか、お言葉を聞けないのが本当に残念です!』
受賞者B「…………」
男「心臓も呼吸もなにもかも止まってるのに、生きてるのか……?」
男「もうなにがなんだか分からなくなってきた……」
友「深く考えるのはよそう……」
司会『受賞にさいして、一言コメントをお願いします!』
受賞者C「はい」
男「適当賞か……。きっと『あざぁーっす』とかいうにちがいないぜ」
友「あ、それありそう」
受賞者C「誠にありがとうございます」
受賞者C「これを励みに、今後も頑張っていきたいと思います」
男「…………!」
男「なんて適当なコメントだ……!」
男「一見、模範的なコメントに見えるけど」
男「内からにじみ出る『こう言っときゃいいんだろ?』みたいな投げやり感がすげえ!」
男「下手に態度が悪かったりするより、よっぽど適当って感じがする!」
友「さすがノーベル賞受賞者……ってところだな」
司会『受賞者の方、こちらへどうぞ!』
男「よっ、待ってましたァ!」
友「うおっ、いきなりテンション上げてきたな」
男「なんたって“変態賞”だもん」
男「男の変態なら笑えるし、女の変態なら大歓迎だ! どっちにしろ楽しめるだろ?」
友「なるほどな」
受賞者D「ありがとうございます」
司会『今のお気持ちはいかがですか?』
受賞者D「ノーベル賞を頂くのはもちろん嬉しいのですが、複雑な気持ちですね」
受賞者D「なにしろ、“変態賞”ですから。ハハハ……」
男「あれ? ずいぶん普通だな」
友「普通どころか、すごく紳士的だ。エロさなんか微塵も感じないぞ」
司会『今の人生はずっと無性欲状態、俗にいう“賢者タイム”なのです!』
受賞者D「お恥ずかしい限りで……」
男&友「前世ときたかァァァ~~~~~~~~~~~ッッッ!!!」
司会『今年最も凡人だと評価された方が、この賞を得られるのです!』
男「今、ふと思ったんだけどさ……」
男「こんな賞もらってる時点で、そいつってもはや“凡人”ではないよなぁ?」
男「そいつがいかに平凡でも、賞を与えることで、そいつの平凡性を消しちゃってるよ」
友「いえてる! たしかに矛盾めいたものを感じるな」
受賞者E「ありがとうございます」
男「なんだこいつ……。なんのオーラも感じない……」
男「“ザ・凡人”って感じだ! 道ばたの石ころって感じだ!」
男「いくら賞を与えても、この平凡っぷりは消せるもんじゃねえ!」
男「こんなヤツがこの世にいたなんてな……」
男「いったい、どんな受賞者が出てくるんだろうな」
友「ぷっ……」
友「ハーッハッハッハッハッハッハ!」
友「あぁー、おっかしい!」
男「な、なんだよ……突然!?」
男「“裏ノーベル賞”とはいえ、式典なんだから、あまりでかい声で笑うなよ」
男「へ……?」
友「もう一つの歴史を妄想してる人間? 体を機能を停止した怠惰人間?」
友「冷静に考えてみろよ。そんな奴らがいるわけないだろ?」
友「仮にいたとしても、そんな連中がノーベル賞なんて偉大な賞をもらえるわけないだろ?」
男「…………!?」
男「なにいってんだ、“裏ノーベル賞”の記事を見つけたのはお前じゃないか!」
友「お前、その新聞記事見たか? オレの話を聞いてただけだろ?」
男(あっ、そういえば見てない……)
男「ちょ、ちょっと待てよ! じゃあ、この会場や客や司会者、受賞者はなんなんだ!」
友「もちろん……あれは全員、オレの仲間さ」
男「あ……! まさか、お前が所属してる劇団の……!」
友「そのとおり。みんな、結構ノリがよくてね」
友「友だちを派手に騙したいんだけど、って頼んだら快く協力してくれたよ」
友「この市民ホールも、比較的安く借りれるとこだしさ」
友「あ~、面白かった! いいもん見れたわ! ナイス解説だったぜ!」
友「どうだった、オレたちの演技は? それこそノーベル賞もんだったろ?」
男「…………!」ムカッ…
男「く、くそっ! くそっ! よくも騙しやがったな!」
ボカッ!
友「あだだ……!」
男「なにが“裏ノーベル賞”だ! こんな手の込んだドッキリしやがって……!」
男「もう帰る! お前とは当分会わねえ!」スタスタ…
バタンッ!
友「いてて……」
友「ちょっとやりすぎたかな……」
司会「これから“ノーベル虚言癖賞”の授与を行いますので、こちらへどうぞ」
友「あ、どうも」
司会「ケガをされてますが、もしかしてまた誰かを騙してたのでは?」
友「いやいや、そんなわけないでしょう。オレは人を騙すのが大嫌いなんですから」
司会「なにしろ、あなたときたらすぐ人を騙そうとしますからね」
司会「つい最近も自分のことを劇団員だとか、経歴を偽っていたそうですし……」
司会「もっともそれぐらいでなければ、ノーベル賞には届かなかったでしょうけどね」
おわり
元スレ
男「裏ノーベル賞……!?」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1441200986/
男「裏ノーベル賞……!?」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1441200986/
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コメント一覧 (20)
-
- 2015年09月03日 00:19
- なるほど
-
- 2015年09月03日 00:29
- 下手に掘り下げてないのがいいね。
-
- 2015年09月03日 00:32
- 最近なんかこういう感じのよく見る
同じ人なのかな?
面白い
-
- 2015年09月03日 00:35
- ショートショートですかね
たまに読むと面白い
-
- 2015年09月03日 00:47
- 何が書きたかったのか
-
- 2015年09月03日 00:49
- 和ロタ
-
- 2015年09月03日 01:02
- >ネット上じゃ自分は一流大生だの、彼女持ちだのとウソばかり
黒髪ロングの広島弁ゴスロリ美少女自称してるネカマと同類だな・・・
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- 2015年09月03日 01:02
- オチが見事
妄想賞は世界観設定が詳細なファンタジー作家でもとれそうだな
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- 2015年09月03日 01:23
- 妄想賞の人は何かスゲークリエイターになりそうな予感
-
- 2015年09月03日 01:36
- すばらしい
妄想賞すごいな
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- 2015年09月03日 02:11
- 適当賞は確かに適当感が凄いな……
よくわかんねーけど、とりあえず差し当たりのないコメントにしとけばいいか、みたいな感じ……
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- 2015年09月03日 02:38
- トールキンは間違いなく妄想賞
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- 2015年09月03日 03:27
- 「ぼかっ」っていう擬音語が星新一のショートショートっぽくてすごく好き。
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- 2015年09月03日 09:27
- こういうのもっと増えてほしいな
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- 2015年09月03日 10:02
- 面白かった
填補も良くて読みやすかった
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- 2015年09月03日 10:34
- こういう読みやすい短編的なSS好き、星新一的な面白さ
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- 2015年09月03日 13:58
- 起承転結の見本みたいな良ssでした
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- 2015年09月03日 15:30
- こういうのほんとすき
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- 2015年09月03日 21:37
- これは評価せざるを得ない
長すぎず前知識を要求せず過度の不快感を掻き立てもせず理解するために深い考察も必要なくそしてそれで充分面白い
SSのお手本として見事の一言
-
- 2015年09月04日 01:01
- こういうの好きだわぁ