心「総選挙50位以内に入れないアイドルはクビ…ですかぁ☆ってオイ…マジ?」
関連記事:卯月「総選挙50位以内に入れないアイドルはクビ…ですか?」いっくぞー、はい、みんなで、せーの!
スウィーティー♪
……。
うん、うん、よくできました♪
はぁ~いみんなお待たせぇ☆
スウィーティーなシュガシュガアイドル、しゅがーはぁとの登場だよ♪
みんなに幸せのハートをプレゼントしちゃう☆
誰?とか、お前がメインかよとか思ったやつ、裏で覚えとけ☆
えっとぉ、はぁとを知らない困ったチャンのために、特別に自己紹介しちゃうぞ♪
本名は佐藤心でぇ、長野生まれの蟹座でぇ。
身長166㎝で年齢は26歳だよ♪
えっなに、なんか言いたいことあるぅ?
ないよね、ないってことにしとけ☆
はぁとがぁ、みんなのハートをあまあまにしちゃうぞぉ♪
いぇーい、今回はしっかりこのノリについてこいよ☆
それじゃもういっかい魔法のコトバいっくぞー☆
せーのっ……。
……。
……なぁーんて口上を、隙間だらけの客席の前で披露してみせて、
ぱらぱらと、まばらな拍手を申し訳程度にいただいたのは、どれくらい前のことだっただろ。
200人の346プロ所属アイドルのひとり、佐藤心。
たとえば、“城ヶ崎美嘉”の名前は、お年頃の女の子は言わずもがな、流行にビンカンな男子だったら誰もが知ってる。
たとえば、“輿水幸子”の名前は、ゴールデンタイムにテレビを点けて、バラエティを観る人だったら誰もが知ってる。
たとえば、“佐久間まゆ”の名前は、「346プロのアイドル」という言葉を知っている人だったら誰もが知ってる。
さて、ここで問題です。
はぁとの名前を知っているのは、全国で何人くらいいるでしょーか。
……。
はぁーぁ、虚しい。
まぁ、何ではぁとが、突拍子もなく、こんなこと考えたかというと。
「第1回シンデレラガールズ総選挙──」
ここにきて。
「中間発表、佐藤心──」
思い知らされたから。
「160位」
キビシー現実ってやつを。
……。
いやまぁ、薄々こんな結果になることは勘付いてたんだけどさぁ。
思えば、アイドルの、いの一番の晴れ舞台ともいえるデビューイベント。
ショッピングモールの吹き抜けに設置されたステージ、346プロ新人アイドルお披露目会。
──あ、浅利七海れす~、せ、世界初のお魚、アイドル目指してます~。
同時期にスカウトされたはぁとより若い子たち。
緊張で、油が切れたロボットみたいにギクシャクした自己紹介を終えて舞台袖に帰ってくる。
はぁとの番が回ってきた。
この日のために、試行錯誤したすえに編み出した必殺☆悩殺のキャラを披露するときがやってきた。
ステージの中央に立って、大きく息を吸い込んで、言った。
──はぁ~い♪ アナタのはぁとをシュガシュガスウィート☆ さとうしんことしゅがーはぁとだよぉ☆
思いっきりスベった。
舞台袖に戻ったときの、スタッフたちの引き攣った表情が、すべてを物語っていた。
このとき、新人を担当するプロデューサーはやわらかに笑って、「これでいいんです、心さんはこれからです」なんて慰めてくれたっけ。
──そ、そーだよねー♪ はぁと失敗しても気にしなーい☆
──はぁと、この厳しいアイドル界を生き残っていくぅ☆ そのためならはぁと何でもしちゃう☆ 裏工作とか☆
プロデューサーは苦笑いを浮かべて、
「大丈夫です、そんなことしなくても、心さんは必ずブレイクしますよ」って言った。
──本当にぃ? それじゃはぁと頑張っちゃう~♪
それから、閑古鳥が鳴く商店街のイベントとか、地方のパチンコの店舗営業とか、僻地の町おこしのお祭りとか、地道に足を運んだ。
増えてるか、減ってるかわからない、入れ替わっていくファン。
練習量だけ積み重なって、一向に披露する場がないレッスン。
次のステップに進むことなく、どれも似たり寄ったりな仕事内容。
そりゃ、焦るって。歳が歳なんで。
でも、このまま地道に続けていけば、必ずブレイクするきっかけを掴める。
そう信じてた。
そう信じて……たら……。
『──天下の346プロ神話崩壊』
「うおおおおおおおおおおおぃぃぃ!!!!」
はぁとより先に、会社がブレイクした。
……。
まあるいテーブルの上に、格子状にホイップがかかったキャラメルラテが置かれた。
はぁとがストローでかたちを崩すより先に、ガムシロップがとろりと垂らされる。
もうひとつ、とろり。
とろり。
ガムシロップはみっつ。いつのまにかお決まりになった。
「サンキュー、あ゛ぁ゛~、はぁとはやっぱここがイチバン落ち着くぅ……」
「またドリンク一杯で何時間も居座るつもりですか……」
「ここ346プロの関係者しか来れないっしょ? 外は記者、中は忙しい社員で、てんやわんやだしさぁ」
「……満員になったら、ご退席くださいね」
「そんなこといって、なんだかんだいっつも最後まで相手してくれるじゃーん、やっさしー☆」
「……もう!」
頬を膨らませて、ガムシロップをちょこちょこと片付ける様子は、小動物みたい。
ひらひらのメイド服に、きゅっと収まるコンパクトなボディ。でも、出るとこは出てんなー、ちくしょう。
キャラメルラテと同じ色のキュートなポニーテール。結んだリボンは大きな耳みたい。
うん。たとえるなら……。
ウサギ?
「ナナは、心ちゃん専属のメイドじゃないんですよ!」
346プロのカフェテリアにたまに出没する名物店員、安部菜々ちゃん。
その正体は……。
キュピーン、ウサミンパワーでメルヘンチェーンジ!
ウサミン星からやってきた、歌って踊れる声優アイドル!
ウサミンこと、安部菜々でっす♪ キャハッ♪
……っていうのが本人談、というか素性をツッコまれると毎回コレをやる。
ナナちゃんは、まだ他にお客さんがいないのを確認してから、はぁとの向かい側に座った。
「なんだか、ここのカフェも、最近、雰囲気変わっちゃって」
「……ふーん」
「表面上は変わらないんですけど、みんなちょっぴり暗いお顔、してます」
「まぁ、ねぇ、大変な時期だよね」
「だからこそ、そんなときこそ、ナナが元気いっぱい接客してウサミンパワーを分け与えなきゃ、って思うんですけどね」
そう言って、ナナちゃんはにっこりと笑う。
うん、たしかにこの笑顔を見れば、暗い気分が吹き飛ぶのもわかる気がする。
ナナちゃんに会うためだけに、カフェにやってくる社員が大勢いるらしい。はぁともそのひとりなんだけどね。
「ちなみにさぁ……」
ストローをくわえて、はぁとは言った。
「ナナちゃんは総選挙、何位だったの?」
「えっ、えっと……ナナは……」
おずおずと差し出したパーのうえに、チョキをちょこんと付け加えるナナちゃん。
突き出た指は7本。
つまり……。
「その、7位、です」
「……」
「ナナもビックリです、ホントに」
「……さっすがぁ」
たしか、この前すれ違った妖しげな社長がこう呟いてたっけ。
10位から上は別世界。ほんのひとにぎりの、才能と実力と意志と運を持った子の領域。
はぁとは大袈裟に驚いたフリをしたけど、内心はそれほどでもなかった。
ナナちゃんの活躍は、ずっと見てきたから。
……。
ナナちゃんがじわじわと売れ始めていたころに、まだ新人だったはぁとと短期ユニットを組んだ。
上の立場のアイドルは、新人アイドルだったころの初心を忘れないように。
新人アイドルは上の立場のアイドルを見習うように、っていう346プロの措置。
──いち、にい、ナナー! はじめまして、安部菜々でーす、17歳でぇす、よろしくお願いします、キャハッ♪
──はぁ~い♪ シュガーハートだよぉ♪ よろしくぅって……ナナちゃんだっけ、年齢詐称キャラでいくわけ?
──へっ、一瞬で見破られ……って違います、ナナは永遠の17歳ですよぉ~!
──あー、何ではぁとと組ませたのか、分かった気がした……。
お互いにシンパシーを感じたんだろうね。すぐに気が合った。
キャラ作りの、まぁナナちゃんは否定するけど、苦労を共有できて素で話すことができる数少ない相手だった。
はぁとの地味~なお仕事にもイヤな顔ひとつせずついてきてさ。
いい子だなって思ったよ。
連絡は頻繁にとりあった。
ウサミン星(東京から電車で1時間)に招待されてビールを飲んで、くだらない愚痴を言い合って、二日酔いの朝を迎えたのを、心の底から笑いあった。
それからユニットを解消して間もなく。
ナナちゃんのもとにトントン拍子にテレビ番組や楽曲提供のオファーが舞い込んだ。
ブレないキャラクター、謎が謎を呼ぶ設定、アイドルを心から楽しむその姿勢がファンや業界人の心をつかんだ。
ナナちゃんが売れたのは、トーゼンだと思う。
一時期、ずっとそばにいたはぁとは、よぉくわかってる。
はぁとは、アイドル、安部菜々がシンデレラの階段をのぼっていくのを、近くで見ていたんだよ。
……。
「よっこいしょ」
ナナちゃんが椅子から立ち上がる。
「その、心ちゃんは、何位だったんですか?」
腰をとんとんと叩きながら言う。その眼が泳いでいるのをはぁとは見逃さなかった。
「あー……」
たしか、一般的な情報では51位以下は発表されないんだっけ。
346内部の人間なら、問いただせば、わかることだけど。
「……」
少し迷ってから、笑顔をむりやり作って言った。
「だーいじょーぶ、だーいじょーぶ、もうちょっとで圏内に入れる位置にいるから心配すんなよ☆」
「そう、ですか……」
ナナちゃんは、ほっと息を吐く。
心の底から信じてるって、あどけない表情。そりゃ信じるよね。
だってナナちゃんに初めてついたウソだから。
ゴメン。
でも余計な心配かけさせたくないし、かけられたくないからさ、マジで。
「心ちゃんって」
「んー?」
「ボディラインもお肌のキメもずっと維持してますよね」
「なに、急に?」
「いえ、そういうとこ、すごいなって思います、憧れてます、はい」
「……ありがと」
……。
カギをさしこんで、きしむドアを肘で押す。
灯りを点けると、いつもどおりの散らかった部屋をみて小さな溜息が出た。
両手で抱えた大きな紙袋を床に落っことす。
ただいま、と心のなかで呟く。
おかえりって言ってくれる人はいないけど。
はぁ~、女の独り暮らしはむなしさが募るわ……。
紙袋のなかから小さな箱を取り出して開封する。
コラーゲンの美容ドリンク。
一息に飲み干してゴミ箱へ。
プラセンタの錠剤。
最後の三粒を、飲み干してゴミ箱へ。
ビタミンCも美肌には欠かせない。
サプリメントを噛み砕く。これも品切れかぁ、ゴミ箱へ。
ヒアルロン酸がたっぷり含まれた顔パックを貼りつけて、空き箱をゴミ箱へ。
ごろりと寝転がる。
そうそう、顔パックが終わったら亜鉛を……。
……って。
アンチ・エイジング
「はぁとは『時の反逆者』かっつーの!」
手足をバタつかせて、そんな独りツッコミをしてみた。
相変わらず、しぃんと静まっている部屋。あ゛ー、むなしい。
「はぁ……」
毎日毎日、美容と健康には気を使ってる。
自主トレやお風呂あがりのストレッチも欠かさない。
ブログやツイッターも頻繁に更新してるし、JKのトレンドもしっかりチェックする。
「だからさぁ、はぁとに起死回生のチャンスめぐってこ~い……よ☆」
わかってるくせに、何か仕事の予定はないかなんて、手帳をひろげる。
真っ白なスケジュールを眺めて、改めて自分の立場を思い知らせてしまう。
売れないアイドル。
ヒットする機会に恵まれなかったアイドル。
“十代のうちに芽がでなければ終わり”といわれるアイドル業界のなかで、346は異例中の異例だった。
川島瑞樹や安部菜々、高垣楓が一線級に活躍する346プロダクション。
年齢にハンデはないってのはさぁ、わかってるよ。
わかってるけど……。
何気なくテレビのリモコンを押す。
346プロと協賛しているローカル番組が映し出される。
『闇に飲まれよ!』
『スパシーバ……アー、ありがとう、ございました……』
ふたつの銀色が目に飛び込んだ。
独特な言葉使いをする、一目で記憶に焼き付くようなふたり組。
パフォーマンスがおわったのか、お互いの手を握りながら、ふかぶかとお辞儀をしている。
拍手喝采。
いくつもの色がかさなり、虹色になったライトがふたりを照らす。
繋いでいない方の手で観客に、ツインテールの子は満面の笑顔で手を振ってる。
北欧か欧米かどっかのハーフらしき子は、表情を変えないまま、もう一度小さくお辞儀をした。
司会の女の子がマイクを持ってやってくる。
『ただいま、人気急上昇中! アナスタシアさんと神崎蘭子さんの『Memories』でした!』
司会の子は興奮しながらマイクを握り直す。
『おふたりとも新曲の発表を控えており、これからが期待される注目のフレッシュアイドルです!』
ぼんやりと、テレビ画面に展開される光景を眺めていた。
そこには、まっさらで、穢れなんてこれっぽちもないような、キラキラしたものだけが映ってる。
「……」
はぁとより、ずっとずっと若い子たちが、強力な個性でのしあがっていく。
どうしようもなく、日に日に積もっていく実年齢に歯噛みしながら、後輩のうしろ姿を追う。
「はぁとだって……」
アイドルなんだからさ。
アイドルなんだから一度くらいは。
CD出したいっつーの……。
テレビにだって出たいし、お茶の間の話題にだって、なってみたい。
きらめく舞台に、はぁとも立ちたい。
アイドルなんだから。
「ちっくしょー! 負、け、てたまるかぁー!!!」
……。
満員電車に揺らされて、2時間。
途中、となりのおじさんの肘が、ずっとはぁとの脇腹にあたってて、痕が残らないか気が気じゃなかった。
ロケバスも運転手も限りがある、送迎なんて気の利いたものはない。
早朝に、346プロに舞い込んだ仕事の依頼。
他のプロダクションのアイドルが、体調不良だから代わりにひとりバーターを用意してくれって。
はぁとは真っ先に飛びついた。交通費もお給料もいらないから、やらせてくれって頼み込んだ。
会場に到着すると、そこは小さなデパートだった。
関係者通用口の警備員に事情を説明して、女性社員のロッカールームを借りて着替える。
トイレでメイクをたっぷりと1時間。ファンデーションを使い切った。
朝食は大好きな糖分を控えて、野菜のスティックのみ。もちろん油っこいものも摂ってない。
楽屋代わりの、ドキュメンタリーで万引き犯が押し込まれるような部屋で、パイプ椅子に座り、出番をじっと待つ。
空調が壊れてて、暑かった。汗でメイクが落ちそうになる。慌ててハンカチで額を抑えた。
ヤバいヤバい、すっぴんで公の場に出るわけにはいかないって。というかすっぴんでいられるのは、はぁとの家かウサミン星くらい。
あ、そうだ、ツイッターに自撮りの写メを投稿する。
──はぁと、今からデパートの屋上で物販販促でぇ~す☆ 見に来てね♪
バッグから、ハートのかたちのクッションを取り出して、マジックテープでスカートに貼りつける。
見てろよ~、今日は、夜なべして作った物理的シュガーハットアタックでお客さんのはぁとをメロメロにしちゃうんだから。
しばらくすると、はぁとの名を呼ぶ声がかかった。
「よっし、いっちょ頑張るか!」
気つけに、頬をつよく打つ……のは寸でのところでやめた。
メイク落ちちゃうから、らめぇ。
……。
「で、結局何もせず帰ってきた、と」
夜のバー。
テキーラを一気に飲み干して、遠慮なく礼子さんはそう言った。
「だぁって~、体調が急に良くなったからやっぱ出演するなんて、反則でしょ……」
カルーアミルクの甘さが、じんわりと体と心に染みる。
「し・か・も! 実際は朝起きるのが辛かっただけってオチとか! はぁとは何時間も前から準備してたのにぃ!」
飲み干したグラスをテーブルに叩き付けると、ガチャンと大きな音がして、他のお客さんが振り返った。
礼子さんは、動じる様子もなく、頬杖をつきながらはぁとを観察してる。
「そりゃ、売れっ子にしたらどうでもいい仕事のひとつだったんだろうけどさぁ……」
「……」
「はぁとにとってはぁ、数少ないチャンスらったの……」
はぁ、お酒で呂律が回らなくなってきた。頭がくらくらする。
「あのね、心ちゃん」
そこで、今まで聞き役に回っていた礼子さんが話す側に回った。
「あなたと同時期にデビューした一ノ瀬志希ちゃんって子、いるでしょ」
しき……あぁあの、つかみどこない気まぐれな猫みたいな……。
「あの子ね、もう上位層にランクインしてるの知ってた?」
「へっ……?」
「残酷かもしれないけどね、同じ条件と期間で、売れる子は売れてるのよ」
「……」
「心ちゃん、あなたが頑張ってるのはわかるわ、でも結局は私たちは結果には叶わないし、結果でしか見返すことができないのよ」
「そんなの……」
「私に言われなくてもわかってるわよね、もうお互い、いい歳なんだから」
「……」
「加えてね、若いならいいかもしれない、やり直しや再挑戦もきくかもしれない、346プロが昔のままなら、いつかあなたにもチャンスが回ってきたのかもしれない」
「……」
「でもね、女が華咲いてる時間というのはとーっても短いわ」
「はな……」
「枯れたあとも、一人の人間として生きていかなくちゃいけないのよ?」
テキーラをもう一杯オーダーして、頬が赤らむ様子を欠片もみせない礼子さんは微笑む。
微笑みながら、喋りつづける。お酒は入ってるけれど、間違いなく、本音だった。
「あなたが何位かは聞かないけどね」
「残るにしろ、残らないにしろ、その先のことを考えておいてもいいと思わない?」
「清良ちゃんは看護師、真奈美はボーカルトレーナー、夏美ちゃんはキャビンアテンダント、早苗ちゃんは警察官、留美ちゃんは秘書、レナちゃんはディーラー……」
「みんな通ってきた道はさまざまだけど、心ちゃんはどうなの?」
「転ばぬ先の杖は、持ってるのかしら」
そんなの。
「そんらの」
舌が思い通りに動いてくれない。でも、はぁとは主張したかった。
「そんらの、かんがえらくらい」
そんなの考えたくない。だって、その先を認めてしまったらその時点で負けた気がする。
アイドルじゃない未来をすこしでも考えたら、今と過去を全部、否定することになる。
積み上げてきたキューティーアイドル、シュガーハートという存在を佐藤心で塗りつぶすことになる。
それだけは、まだしたくない。
「アイドルだけが、人生のすべてじゃない……手遅れになる前に、素直にここで諦めるのも、ひとつの道よ」
あぁ、今のは礼子さんの本音じゃない。礼子さんも圏外だった。
はぁとよりは高いけど、それでもかなり厳しい数字。
礼子さんはため息交じりに、こう言った。
世の中にはね、頑張っても報われないことが、溢れにあふれてる。
この歳になるとね、物分りのいい大人にならざるを得ないの。
そうじゃないと、世間が許さないの。疲れるわよね、本当に。
まぁ、そんなしがらみから解放してくれるアイドルは、楽しかったわ、本当に。
過去形で言う礼子さんは、とっても大人だった。31歳にしては大人すぎるくらい、大人だった。
「それじゃ、私はここで失礼、まぁお互い、頑張りましょ」
勘定を終えて、礼子さんははぁとの肩を優しく叩いて、出ていった。
「れいほはぁん……」
言いたかった。大声で叫びたかった。
はぁとは、地元のみんなの反対も押し切って、するべき結婚も恋愛も捨てて、するべき将来への貯えも無視して、アイドルの道を選んだ。
それ以外の道なんて、考えたくない。この道はやっぱり間違いだったなぁ、なんて、思いたくない。
なんで?
そんなのきまってんだろーが。
だって。
だって!
「ほほろはら、アイロルが、ふきらからぁ……」
はぁとの言葉は、アルコールに飲み込まれて、誰の耳に届くこともなかった。
……。
あ゛ー……二日酔いしんどっ。
歳のせいじゃないけど、さすがに来るわぁー。
事務所の自販機の前で、うずくまって体を休める。
ひんやり冷えた練乳入りコーヒーの缶を額にぴたりと当てると気持ちいい。
昨日はぁと、礼子さんと何を話してたんだっけ……。
なーんか比較的シリアスだった気がしたけど。
はぁと、なんかすーぱーカッコイイこと言った気がしたけど。
「……」
うん、すっかり、わーすれたーぞー☆
てへぺろっ☆
ま、いっか♪
「あ゛ー……いづづ……」
はぁ、それにしても頭痛いわぁ……。
頭痛の原因は、お酒だけじゃない。
まずひとつ。
今まで経費でバカスカに落ちてた、はぁとのビューティーケアの費用がでなくなった。
いつもどおり領収書を握りしめていったら、ちひろさんに菩薩のような顔で強制ストップ。
まぁいままでの346プロが太っ腹すぎたともいえるんだけどさぁ、おかげで貯金通帳の“0”がいっこ減りそうになってるって。
もうひとつ。
昨日のツイート、結局ナナちゃんしか反応してくれなかったし。
はぁとのファンのみんなどこいった? ちゃんといるんだろ、オイ?
ナナちゃんにお礼を言おうと、朝にカフェに立ち寄ったけれど、今日はあのメイド服の姿はなかった。
まぁ7位の超人気アイドルだもん、しゃーないか。
さいごにひとつ。
本日のはぁとの予定はこれで終わりっ。お昼からはノープランっ!
「はぁ……正直しんどいわ……」
そりゃ、溜息や弱音のひとつやふたつも出るっつーの。
ネガティブな思考になると、よけいに頭痛がズキズキと増してくる気がする。
「あの……」
不意に、声をかけられた。ききおぼえがない声。
首だけで振り返ると、見知らぬ高校生くらいの女の子がいた。
「大丈夫、ですか、なんだかとっても苦しそうですけど……」
「え゛っ、いや、平気だけど……」
あっいっけね、うっかり素で話しちゃった。
はぁとの言葉を聞いて、女の子は笑った。
ぱぁ、っと。
さくらの蕾がやわらかに、ふわりと開花したような笑顔。
瞬間、はぁとの気だるい気分がどこかへ吹き飛んだ。
ウソじゃない。表情ひとつで、ここまで人の感情を動かせるなんて、知らなかった。
同性のはぁとでもキュンキュンきちゃうんだから、男だったらイッパツでノックアウトだわ……。
あぶないあぶない……って何がだよ☆ はぁとにそんな趣味ないっっての☆
「よかったぁ、すいません、私よく、おせっかいって言われちゃうんです、えへへ」
気を取り直して、女の子に向き合う。
「え、えっとぉ、あなたはだぁれ?」
「あの、アイドルです、なんて、ここ事務所なんだしわかりますよね、まだホントのホントに新人なんですけど……」
ぺこりと、女の子は礼儀ただしく頭を下げる。
それからにっこりと、口元に笑みを残したまま、名前を名乗った。
うづき。
「島村卯月ですっ」
胸焼けするくらい甘ったるいコーヒーを飲み干して、空き缶を放り投げる。
カコン、と小気味いい音を鳴らしてクズカゴにはいった。
卯月ちゃん、ねぇ……。
いなくなった後も、ずっとその笑顔の面影が胸に残っていた。
あの、落ち込んじゃうこともあるかもですけど、お互いがんばりましょうね!
こうやって笑っていれば、きっと大丈夫ですから! 島村卯月も、がんばります!
うん、ホンモノだわ、あれは。
順位をきいたら、45位。生き残り圏内。
ぼんやりと昨晩の記憶が頭のすみっこで引っかかった。
いち、いち、一ノ関市みたいな名前の、だれだっけ、その子ほどじゃないけど新人にしては驚異的なスピード。
きっと、いいプロデューサーもついてんだろーな。
ああいう子と、はぁとは競ってる。
若々しくて、汚れてなくて、これから色んな光り輝くものを見ていくんだって瞳。
ちょっと、うらやましいな、って思った。
はぁとも、あと10年若かったら……。
「って、そんなこと考えても、しょうがないか」
“いかにも”なセリフが浮かぶと、自分が枠にあてはまるようでイヤだった。
はぁとがやっていることは、型破りで掟破りだってことは自覚してる。そんなのはわかってる。
ちょっと残念なオンナノコだってことも……ってダレが残念だよ☆
「はぁとだってまだまだいけるって」
はぁとの一番はじめのプロデューサーは、はぁとから“新人”の肩書が消えた時に外れた。
それ以降も“売れないアイドル”をなんとかしようと、入れ替わり立ち代わりでプロデューサーがついた。
必死で売り込みをかけてくれる人もいれば、半ば諦めかけてる人もいた。
今は、プロデュースとは名ばかり、見込みナシとして一括管理されてる。
それでも、はぁとはアイドルを辞めなかった。
サイリウムで埋め尽くされたキラキラのステージに、この足で立つまでは、負けてたまるか。
「……よーし、いっちょやったるか☆」
お昼の予定ができた。
携帯電話を握りしめる。
「裏工作っ♪」
生き残るためなら、手段を選ばなーい☆
はぁとの本気見せてあげる☆
……。
女性週刊誌やら、洗濯し忘れた洋服やら、肌に合わなくて結局使わなかった化粧水やら……。
部屋の荷物を、まるごとひっくり返して、ようやく見つけた。
整理整頓って大事ね☆ 反省反省。
長野からわざわざ持ってきておいた卒業アルバム。
そこに挟んでおいた、電話番号が書かれたメモ。
スマートホンに番号を打ち込む。すこしだけ緊張して、こくりと生唾をのみこんだ。
しばらくコール音が鳴りつづけてから恐る恐る、もしもし、という声が聞こえた。
「あー久しぶりっ、マイスウィーティーフレンド☆ 覚えてる~えっと、佐藤だけどぉ……」
電話越しでも、相手の警戒が解かれたのがわかった。
「えー、うんうん、まだアイドルやってるって、マジで、いや、ほんとマジで☆ なんでそんな疑うんだよ☆」
ひとしきり思い出話を話してから、用件を切り出した。
「あのねぇ、一生のお願いなんだけどぉ、はぁと……え、いい加減私にしろ? 余計なお世話だよ☆」
はしゃぐような笑い声が耳にひびく。
「……うん、1票でいいからはぁとに投票して欲しいんだよねー」
快くいいよ、という声。
安心して、通話終了ボタンを押した。
さて、次は……。
……。
……。
すべての電話番号にチェックをいれる頃には夕方になってた。
どんより鈍くなった頭を抱えて、散らかったままの部屋に寝転がる。
はぁー、疲れたわ。はぁとの人脈フル出動させちゃった。
みっともない? 上等だよ☆
「はぁとが今やれることとしたら、これくらいしかないっつーの」
相手の反応は様々だったけれど、最後には、なんだかんだみんな承諾してくれた。
ま、はぁとの善行の賜だな☆
ぷしゅ。
プルトップを傾けると、炭酸がさわやかに弾ける音。
さて、疲労はこのビールでぜーんぶ洗い流すことにするぞっ♪
上機嫌で缶を口元にもっていく。
すると……。
ぴんぽーん。
不意にインターホンが鳴った。
はぁとのエンジョイタイムを邪魔しやがってぇ~。
ぷんぷーん!
まだ口をつけてない缶をガラステーブルに置いて、ドアをゆっくりと開いた。
そこには。
「こんばんはぁ……撮影で近くに来たから寄って……って、うわっまた散らかしてるじゃないですか」
深々と帽子とメガネをかぶって、変装している女……の子、がいた。
手にぶらさげたコンビニ袋のなかには、チョコレートや、あたりめがたっぷりと詰まってる。
「もー、いつも言ってるじゃないですか、モノは片付けないとダメなんですよ、ゴミは溜め込んだらダメなんですよ!」
「あー……はいはい……」
「えっと、お邪魔していいですか」
あはっ、うれしいお客様。
女のひとり酒よりは、ふたり酒のほうがまだいいわよねっ、てへっ。
や~ん、むなしさ2倍とかいうな~☆
そのぶん、たのしさも2倍だからいーんだよっ☆
「うん、長居してきなよ、ナナちゃん」
……。
「「かんぱーいっ!」」
きんきんに冷えたビールの滴が、飛び散った。
……。
「今日の撮影はさ、どーだったの、ナナちゃん」
「もー大変でしたよ、時間おしちゃって……」
とりとめのない会話をしながら、2本目を開ける。
……。
「ナナちゃんってさー、ぶっちゃけバージンっしょ? そこんとこ焦ったりしないの?」
「あーあーウサミン星からの電波受信中っ、なにもっきこえませーん!」
あやうい会話をしながら、3本目。
……。
「ナナちゃん……しってる……“ハート”ってね、おとにだせば、同じだけど“こころ”って意味と“きずつく”って意味があるんだょ……」
「そうなんですかぁ~?」
「あのね、わかる、このふかさ……」
「ちょっと何言ってるかわからないですね」
「おい☆」
会話の方向性がなくなってきた時には、5本目。
……。
「うーさーみーんびーむっ!」
「しゅがーはーとあたーくっ!」
本数がわからなくなる頃には、近所から苦情がきた。
……。
「んん……」
瞼をゆっくりと持ち上げる。
テーブルには、剥いた落花生のカラやら、空き缶やらが山積みになっていた。
いつのまにか寝ちゃってたかー……。
「すぅ……すぅ……」
ナナちゃんは、ちっちゃな体を丸めて、やすらかな寝息をたてていた。
そうっと毛布をかぶせてやる。
こうして、はぁとの部屋で無防備に寝ている姿を見ると、ファンを大量に抱えていて、レギュラー番組を何本も持ってるアイドルには思えないわ。
そんで、そんなアイドルと、はぁとは親友なんだよね。
どっちも実感がなかった。
部屋を出て、深夜のコンビニでチューハイとウーロン茶を買った。
年齢認証も特にされず、さっとお札をさしだす。
ふと、ナナちゃんのコンビニ袋の内容を思い出した。
ナナちゃんは、普段、絶対にお店でお酒を買わない。
年齢認証をされたら身分を明かすことになるし、されないとしても、その顔を広く知られている。
ナナちゃんは、永遠の17歳。
そのスタンスは徹底しているし、ファンはそれを信じてる。
まぁ、たまにボロがでるんだけど……。
とにかく、ナナちゃんは強引にも、見事にウソをマコトにしている。立派にやり続けている。
ウサミン星からやってきた宇宙人、なんておまけつきで。
それが、どれだけエネルギーがいることかは、ナナちゃん本人にしかわからない。
アイドルのためには、私生活がどんなに制限されても、かまわない。
プロ意識のかたまりだった。
そんなナナちゃんがさ、はぁとの部屋では無防備でいてくれることが、ちょっぴりうれしかった。
「……おかえりなさい」
部屋に戻ると、ナナちゃんが起き上がって、はぁとの卒業アルバムをめくっていた。
「わぁ、心ちゃんこの頃と全然変わってないですねぇ」
「でっしょーお世辞でも嬉しい☆」
「お、お世辞じゃないですよ、昔から心ちゃんは心ちゃんなんだなぁ、って」
おだやかな表情で、ゆっくりゆっくりとページをめくっていく。
「ナナは、ですね」
ぽつりと、ナナちゃんは呟いた。
「ずっと、ずっとアイドルになりたかったんです、この頃から」
ページをめくりながら、昔を懐かしむように、ナナちゃんはつづける。
「家でアニメを見ていて、キラキラした存在に憧れて、夢の世界に入りたくて」
「メイド喫茶でバイトしながら、何度も何度も挑戦して、無理だって言われても、どうしても諦めきれなくて」
「何年も、何年もかかって、やっと自分が追い続けた理想像に、手が届いたんです」
このときの、ナナちゃんの瞳は。
卯月ちゃんの瞳と、透明度が同じだった。
すきとおるような、汚れのない色をしていた。
ナナちゃんは瞼と卒業アルバムを、いっしょに閉じる。
ほほえみながら、そっとアルバムのうえに両手を重ねる。
それから、たっぷりと時間を溶かしてから、呟いた。
「応援してますから」
「えっ」
「ナナが、応援してますよ」
「……」
「だってナナは、心ちゃんのファン一号ですから」
あ……。
思えば、ナナちゃんだけだった。
プロデューサーも、ファンも、はぁとの目の前に、浮かんでは、消えていくなかで。
ずっと、消えないでいてくれたのは、ナナちゃんだけだったんだ。
……。
「アイドル楽しい……ヤバい……ヘヘ……」
ナナちゃんの寝言を耳にしながら、もう一度毛布をかけなおした。
「おやすみ、はぁと、まだまだ足掻いてみるわ☆」
……。
とはいっても……。
事務所の廊下で、無機質な通知表をくしゃくしゃに握りしめる。
149位。
あがりはした。2桁や1桁の順位とは違って、下は団子だからほんの少しの投票でひっくり返る。
まぁでも、身内に1枚ずつ投票してもらったところで、状況が劇的に好転するわけないわよね。
狙ってるのは50位以内。
遠いなぁ……。
もう投票期間は半分をきった。
仕事の予定もほとんどない。営業にいっても、鼻で笑われて相手にされない。
今まで、何の実績もないはぁとに、チャンスなんて訪れない。
どうすりゃいいんだっつの……。
「おしまい」が、だんだんと、リアリティを纏って、のしかかってくる。
かみさま、ほとけさま、スウィーティーなめがみさま。
なんでもするから、はぁとに一発逆転のお恵みを……!
──どういうことですかっ!!!
突然、大声が曲がり角の先から聞こえた。
な、なんだよ……。
こっそりと、顔を傾けて覗きみる。
そこには、人気アイドルの輿水幸子と、卯月ちゃんがいた。会話が自然と耳に届いてくる。
「なんですか、その目は……」
「えっ?」
「ボクを、哀れんでるんですか」
「えっえっ、そ、そんなつもりじゃ……」
なになに、何か揉め事……。
はぁとは、あんま関わらないようにしておこ……。
「あらあら、声がするから来てみれば」
「……ッうおぉぃっ!」
いつのまにか、となりに人が立っていた。
折れそうなほど、すらりと線のほそい体。その体を包む真っ黒なスーツ。
ポニーテール。エメラルドのイヤリング。
……って社長かよっ!
「あっ社長~☆ おつかれさまでっす☆ 今日もスウィーティー日和ですね♪」
とっさにスイッチを切り替えて、笑顔を急ごしらえで、作りあげた。カワイイはつくれる☆
「あら、149位」
……全員の順位覚えてるのかよ、このシュガーレスそうなおばさん。
いやこんなこと、間違っても口には出さないけどさ。
「……ボクは絶対に、諦めませんから」
輿水幸子の声が聞こえた。
それを聞いて、社長は機嫌がよさそうに、くすくすと、笑い始めた。
「そうよね、そうこなくっちゃ」
はぁとに語り掛けてるのか、ひとりごとか。
わからないけど、冷たい声に、かすかに熱がこもった。
「人からの同情なんてね、いざという時には何の役にも立たない」
「へ、へぇ~そうなんですかぁ☆」と、ひとまず適当に合わせておく。
「土壇場で、人を動かすのはね、矜持よ」
「キョージ……?」
はぁとのオウム返しに、頷いて、つづける。
「絶対に負けたくないでもいい、大切な何かを守りたいでもいい、ときには、ある人が憎いでもいい」
「それのためなら、全てを投げ出してもいいと思える意志の強さ」
「私の見立てではね、10位以上の子たちは意識してるにせよ、してないにせよ全員それを持ってる」
「まぁ、なかには一ノ瀬のようにそういったものをいっさい持ち合わせていない、例外中の例外もいるのだけれど」
「一方で佐久間まゆは、矜持の依り代をうしなって芯が折れてしまった、彼女はまぁ、まずもう無理ね」
「ふふ、生きているとね、一度は自分を試される場面がくる、少なくとも」
「シンデレラガールになるには必ず、ね」
そこまで言い切って、社長は卯月ちゃんの方へ歩いていった。
……そんなわけわかんないこと言われても知らないっつーの!
はぁとを手助けしてくれるわけじゃないんかいっ!
……ないか。
その時、スマートホンが振動した。
取り出すと、ツイッターに非公開メッセージが送られていた。
──あなたの熱烈なファンです。突然ですが今度、心さんのお仕事のときに、少しだけお話しできませんか。
「お、んおぉぉお~! やっぱ、はぁとにも、ちゃーんとラブリィ~なファンいるじゃーん☆ や~ん、てゆ~か心さんって呼ぶな~☆」
物事ってのは、当然だけど、日常になんの足音もなく飛び込んでくる。
なんのこころの準備もなしに、突然。
その、何ともないメッセージが。
はぁとに与えられた、起死回生のチャンスだった。
ぼーんぼーん。
壁掛け時計が、けたたましく鳴った。
……。
メッセージの送り主に会ったのは、3日後のことだった。
都内の電気街でのチラシ配りの仕事のとき。
346プロのトップ層のアイドルが、看板に大々的に映し出されているビルの真下で、
はぁとは後輩のイベントのPRチラシを配っていた。
「みんな~☆ 346プロをこれからもよろしくおねがいしまぁ~す♪」
チラシを受け取った通行人は、掲載されているアイドルを指さして、
おれ、この子に投票したんだ、なんてはしゃいでいた。
「……」
チラシを受け取る通行人。
いくつか、会話もした。
でも、だれも、佐藤心を知らなかった。
……。
「あの、佐藤心さんですね?」
チラシ配りが終わるころに、声をかけられた。
「あっ、は~い☆ ぷぷっぴどぅ~♪ しゅがーはぁとでぇす♪」
「先日、メッセージを送った者です、すいませんね、急に」
礼儀正しくて、悪い印象じゃなかった。
だけど、不自然すぎるくらいの満面の笑顔を、かおに張りつけた男の人だった。
「いや~ん、本当に来てくれたのねん、はぁと、と~っても嬉しい☆」
「ははは」
ファンにしては、あまりに感情がこもってないその笑い方に、ほんの少しだけ違和感を感じた。
そして、はぁとのつま先から頭のてっぺんまで、じろりと見渡した。
「どうですか、このあと、少しお食事でもしませんか」
「えっ、えー、でもはぁとアイドルだしぃ、パパラッチとかー……」
「大丈夫、スキャンダルになって騒ぎになるのは、佐久間まゆのようなクラスでしょう、あなたなら何ら問題はないですよ」
その言い方に、かっちーん☆
けれど、一応ファンを名乗る人に対して、怒るわけにはいかなかった。
はぁとの気持ち知ってか知らずか、メッセージの送り主は、声色にたっぷりと余裕を含めて、言った。
「それにね、今回お話ししたいのは、ファンとアイドルの関係で、じゃない」
「えっ……?」
「ごく個人的な“ビジネス”の話し合いですよ」
「びじねす……?」
……。
さすがに見ず知らずの相手といきなり、食事をする気にはなれなかった。
話し合った末に、超高級ホテルのラウンジになった。
ウェイターが完璧な手つきで、ブラックコーヒーと芸術品のようなデザートを大理石のテーブルに置いた。
値段をふと見ると、飛び上がるような金額だった。
ここに座れること自体が、ステータスとでもいうかのような金額。
はぁと、こんなとこ初めて来たよオイオイオイていうかこのラフな恰好でいいのかよ何者だよこのファン……。
そんなことを思ってた気がする。
緊張で、シュガースティックみっつを頼み忘れた。
飲まないわけにもいかず、真っ黒で底が見えないコーヒーを口に含むと、苦味で舌がぴりぴり痺れた。
「どう思います?」
「へっ?」
何の前触れもなしに、そう話しかけられた。
「有名人と、アイドルとSNSを通じていくらでも秘密裏に連絡を取り合えるこの時代ですよ」
「え、えーっと……?」
「実際ね、他のプロダクションでは問題になっている事柄でしてね」
「へ、へぇ~☆」
「無名アイドルが海外旅行で豪遊したり、ブランド物を持っていたり、おかしいな、と思ったことはありませんか」
「うーんと、はぁと、あんまり他のプロダクションの子と絡みないからわかんない……☆」
「まぁ天下の346プロダクションには、まったく無縁の話でしたでしょうね、必要もなかったでしょうし」
「は、はぁ……」
「あの魔女はね、おそらく346プロを建て直すでしょう、多少の痛みは伴ってもね」
「まじょお……?」
「あぁ、あなたのところの新社長ですよ」
「あー……まじょ……なるほどぉ……そう言わればピッタリ……☆」
「でもね、この崩壊から再生への変革期と、彼女はアイドル部門をわざわざ残した、ここが隙なんですよ」
相変わらず、にこにこと、満面の笑みを貼りつかせながら喋る。
ここまで言われても、はぁとには、まったく話が見えなかった。
ただ、コーヒーがやたらと苦いなぁ、と思っていた。
はぁとは、そわそわと、落ち着きなく、周りを見渡していた。
高級なスーツに身を包んで、会社の商談をしているおじさま。
窓の外には外国車が行き来して、専属の運転手がアタッシュケースを運んでいた。
一方、はぁとは、自作のワンピース。
気になるお値段は……ぷらいすれす☆
……。この場所に、不釣合いな気がして、早く出たくなった。
「あのぉ、ところでビジネスのお話って……?」
「ははは、まぁそう焦らないでください」
そういって、また、にこにこと笑った。
はぁととは違って、ブラックコーヒーを飲んでも表情を一切変えなかった。
「心さん、この世で一番高いものって、何だと思います?」
また、いきなりわけがわからない質問。
からかってんのかよコイツ☆って思った。
「え、えーっと……」
はぁとは少し迷ってから、答えた。
「ダイヤモンドとか……?」
「いいえ、形がないものですよ、形あるものはしょせん有限ですから」
「え~、なぞなぞですか、それとも心理テストぉ? はぁと、むずかしいことわかんなぁ~い☆」
「答えはですね、私が思うには」
テーブルのうえで指を組んでから、言った。
「情報ですよ、心さん」
「じょうほう?」
「会社の株価が高騰・下落するだとか、大統領の不倫関係だとか、はては今までの歴史をひっくり返すようなファクトだとか」
「……」
「そういった、本来は価値も形もないものが、不思議なことに、最高に金になるんですよ」
金、という単語を発した瞬間に、にこにこした顔がかすかに歪んだ、気がした。
「心さん、あなたのことは少し調べさせてもらいました、そしてあなたが最も適任だと思いました、探っていくうちに、思いがけぬ収穫もあった」
「えっ……?」
「最後の質問です、世の中の、蓋をしてある情報は、どこから漏れると思いますか?」
ここまで聞いて、なんだかイヤな予感がした。
答えを渋っていると、隙をいれずに答えられた。
落ち着かなくて、コーヒーを口にいれた。
「346プロと同じですよ、そのほとんどは内部リークからなんです、そして告発犯は大抵見つからず仕舞で終わる」
ぴりり。
「あぁ、そうだ、いやいや申し遅れました、私、記者をしておりましてね」
舌の根が、ぴりぴりと痺れた。
「心さん、あなたは、情報を持っている、私は、情報を高く売る方法を知っている」
たぶん。
「どうですか、私と組みませんか」
痺れは、ブラックコーヒーの苦さからじゃなかった。
「あなたを50位以上にランクインさせる──」
はぁとに突然送られてきた、何ともないメッセージ。
「その後もできる限りあなたのサポートをする──」
それを展開していった先にあったのは。
「そのかわり、まずは──」
まちがいなく、最初で最後の。
「7位、安部菜々のスキャンダルを売ってほしい」
はぁとに与えられた、起死回生のチャンスだった。
……。
「ふわあぁー……ぁ゛ーちくしょい……」
朝起きて、真っ先にする習慣はブログのチェック。
今日もコメントがきていないことを確認して、スマートホンを枕元に放り投げた。
洗顔をして、歯をみがいて、イソフラボンの化粧水をつけて、乳液と保湿クリームをたっぷりと塗る。
「う゛ーねみぃわ……」
冷蔵庫をひらくと、ヨーグルトが賞味期限切れだった。
しかたなくバナナを1本もいで口に咥える。
そのままヨーグルトを捨てようかと思ったら、ゴミ袋がいっぱいになっていることに気づく。
「……」
あの時のアドバイスが実践できてないなぁ、なんて心の底で笑いながら、シンクに固まりかけたヨーグルトを流した。
「んー、さってと」
鏡でシミや小ジワのチェックをして、15分間のフェイスリフティング。
朝の日課が一通りおわると、事務所からの連絡事項がとくにないことを確認して、
あとは適当にニュースやネットを観たりして、
なんとなくで暇を潰して、
夜になったら日課のサプリメントとストレッチを欠かさず施して、
寝た。
そんな日々を、3日過ごした。
4日目になったらこの状況はさすがにまずいと思って、朝の日課が終わると
2時間のメイクをして、事務所へ向かった。
せかされるように、せめて何か行動を起こさなくちゃいけないと思って、仕事を貰いにいった。
すぐにできる仕事のリストを提示してもらう。
ステージに立てる仕事なんてあるはずがなく、二の足を踏んだ。
それでも、アイドルとして何かしなくちゃいけない、と思った。
けっして前向きな気持ちじゃなく、ただ単純に、後ろめたさからだった。
いやぁん、なんだかとってもネガティブはぁと♪……なんて軽口すら言える気分でもない。
「う゛ぅぅ~……」
散々迷ったすえに、今までやりたくなくて、避けていた仕事を斡旋してもらった。
とにかく、アイドルとして何かしなくちゃいけない、と思った。
進むことも、後ずさりもしない日々に、ただ焦燥感だけがつのったから。
自分が常に“アイドル”であるということを意識してないと、負けちゃいそうだったから。
見えない何かに無理やりに背中をおされるように、事務所に来て、そのまま帰ることもできなかったから。
だから、避けていた、こんな仕事もやっちゃったんだと思う。
細長いビルの階段を降りると、窮屈でヤニくさい廊下が続いていた。
廊下には、均等に個室が並んでいた。
個室からはかすかに、男の人のみょーちくりんな奇声のような声が聞こえる。
その中の空いてる部屋に入った。
そこには、六畳半ほどの部屋に、ソファだけが置かれていた。
フリルのついたスカートを履いて、前傾姿勢でソファにもたれる。
「はぁ~い、今日は、はぁとのラブリーでスウィーティーなハートで夢中にさせちゃうんだぞ☆ あ、でも接写はやめて☆」
その瞬間、至近距離でフラッシュが炊かれた。
「佐藤さんだっけ、いいね~、もっと足開いてよ」
え~……。
注文通りに、しかたなく足を八の字にひらいた。
途端にぐっと、カメラが近づく。はぁはぁと、興奮した吐息まで聞こえてくる距離。
「ちょ、らめぇ、寄りすぎだって、お肌が……ちょ、マジでやめろ☆」
「もうちょっとサービスしてよ、気にいったら投票するからさー」
「……えー、はぁと困っちゃ、おい、今スカートのなか撮ろうとしただろ?……次やったらぶっ飛ばす☆」
「なんだよ、他の子たちはもっといいことしてくれるのに」
それからも、ためしに準備運動してみて、だとかブリッジしてだとか、無理難題をふっかけられた。
「はぁ~……」
終わるころには、ストレスで頭がどうにかなりそうだった。
いったい何度、しゅがーはぁとあたっく(物理)をかまそうと思ったことか☆
それは、売れないアイドルが最後に流れ着く仕事だった。
地下での1対1での撮影会。
一応、危険はない範囲でってプロダクションが保障してくれたけどさ……。
たいして効き目なかった気がしたぞ……。
ずっしりと、重い体を抱えて、給料を受け取る。
茶色の封筒をさかさまにすると、硬貨がいちまい落っこちてきた。
500円。
撮影参加料が4000円、そのうちチケットバックとしてアイドルに入るのは、たった500円。
「あんだけしんどい思いしてこれっぽっち……」
ふと周りを見渡すと、背中を丸めて他のプロダクションの子が煙草をふかしていた。
ぎょっとして、視線を外せず、見つめてしまう。
すると、その子にスタッフらしきが近づいて、露出した背中をなでて、何かイヤらしい顔で、耳打ちをした。
女の子は、乾いた笑みを浮かべた。
その笑顔はなんだか、すべてを諦めた表情に見えた。
「……」
アイドルのふきだまりで、思った。
テレビや舞台で光をひたすらに浴びるアイドルがいる一方で、いっしょう、日の目を見ないで燃え尽きていくアイドルもいる。
それでもやめることができなくて。
行き着く先は、あの子なのかな、なんて。
「……」
あ゛ー……。
やっぱ。
やるんじゃなかったなぁ……。
ひどく後悔して、帰ったら、家につくなりベッドに即ダイブして眠った。
その夜、はじめて、サプリメントを抜いた。
……。
次の日も、ただ家にいるわけにもいかず346プロへ足を運んだ。
提示されたリストを眺める。すぐにできるのは、地下での撮影会だけだった。
「いやー、アレはもうちょっと……」
けっきょく何も引き受けずに、プロダクション内を当てもなく、ぶらぶらした。
こうしてる間にも、投票の〆きりは迫ってくる。
そんなのはわかってるんだけどさ……。
目的もなく、ひたすらうろうろしていると、自然とカフェに行き着いた。
あ……。
遠目に、メイド服がみえた。
「は~い、今日もウサミンパワーを注入です、お仕事がんばってくださいね♪」
ナナちゃんは、カフェに座っている女性社員の肩を、やさしく、真心を込めて揉んでいた。
「ナナが、いっぱいいっぱ~いがんばって、はやくみなさんが残業しないで帰れるようにしますからね」
ありがとう、ナナちゃんといると本当に元気が出るわねぇ。
女性社員は、そう言って、おだやかな表情で、ナナちゃんに身を預けていた。
喧騒に包まれた346プロのなかで、そこだけ陽だまりに包まれているように、おだやかな空気が流れていた。
「……」
ナナちゃんをぼんやりと眺めながら、考える。
考えてしまった。
簡単だった。
今、手に持っているスマートホンで、手渡された電話番号にかける。
またホテルのラウンジで会って、時間と場所を打ち合わせする。
あとは、はぁとの家か、ウサミン星でいつも通り、お酒を呑む。
他愛のない話をする。
ナナちゃんが酔いつぶれたら、そっと窓を開ける。
それだけ。
あとはすべて自動で、コトは進んでいく。
しかるべきルートを巡って、雪だるま式に写真に値がついていく。
しばらくすると、週刊誌で飲酒疑惑が騒がれて、ワイドショーを連日賑わす。
ナナちゃんは、実年齢を公表するしかなくなる。
安部菜々は、ファンや評論家、世間の人たちの批判や好奇の的になる。
この一連の騒動は、一部の人にとっては、多大な利益をうむ。
はぁとが、電話を1本かけるだけで。
はぁとの家なら50位以上。ウサミン星なら30位以上。
期限は、総選挙の投票〆きりまで。
はぁとの運命を決めるには、あまりに簡単で、楽で、あっけない行為に思えた。
「……」
ナナちゃんは総選挙には生き残るし、ひとつのよくあるスキャンダルとして収束していくのかもしれない。
でも、代償として。
──何年も、何年もかかって、やっと自分が追い続けた理想像に、手が届いたんです。
ナナちゃんは永遠の17歳でも、ウサミン星人でもなくなる。
それと、もうひとつ。
ちっちゃな体が、ぴょこりと跳ねるのがみえた。
「夢と希望を両耳に引っさげ、ナナがんばっちゃいまーす♪」
はぁとはもう二度と、あのカフェの椅子には座ることができないんだろうな、って思った。
どうする。
どうするよ……。
今まで深くふかく沈めていた思考が、ゆっくりと浮かび上がってきて……。
水平だった、こころの天秤が、かすかに、ゆらゆらと揺れはじめた。
はぁとは、アイドルであることに、すべてを捧げてきた。
ダンスだって、磨きつづけた。ボイストレーニングだって、ちゃんとした。ビジュアルだって気を使ってきた、つもり。
それを披露しないまま、ただ漫然と終わる。流れ作業のように、一般人の佐藤心さんに戻る。
おい。
しゅがーはぁと、それで、いいのかよ。
まるっとぜんぶ納得してキレイな顔で、去れるのかよ。
CDも出したいし、テレビにだって出たいし、お茶の間の話題にだって、なってみたい。
報われたいって、つよく思う。
たくさんのファンに囲まれたいって、どうしようもなく思う。
そんなチャンスが、宝くじに当たったように突然、降ってきた。
はぁとにとっては、まさに天から垂らされたひとすじの糸。
強烈な引力だった。
これから、投票〆きりまで努力しても1%すら可能性がないことを追い求めて。
日々、減っていくお金に溜息ばかりがつのって、というかヤバい、貯金なくなる。
消耗していく体と心を支えながら、不安定な将来に頭を悩ませなくちゃならない。
そんな苦悩から、スマートホンのボタンをひとつ押すだけで、解放される。
いつでも今の道からドロップアウトできる。
いや、でも……。
はぁとの心のなかでだれかが、必死に通せんぼしてる。
だめだ、って言ってる。間違ってる、って言ってる。
夜、音もない静けさのなかで、耳をすませば、かすかだけどそんな声が聞こえる、気がした。
天秤が、その度にかたむく。
かたむく度に、息が苦しくなる。呼吸が止まりそうになる。
苦しみで、判断力がだんだんと麻痺していく感覚がする。
もやもやと霧に包まれていく。
カチ、カチ。
時間だけが、平等に針を打っていった。
タイムリミットへ向けて。
……。
……ってマジメか☆
いや、マジメだよ。
今回ばっかりは、ふざけてはいられない。
マジメもマジメ、大マジメ。
……。
本屋。
カラフルな表紙たちを、歩きながら眺める。
ひとまず選んだ答えは、保留。
こういうとき、どうしても問題を先延ばしにするのは、う~ん、仕方ないことよね☆
まいっちんぐっ♪
……はぁ、はぁと節も振るわない。
「……」
逆にいえば、はぁとは、なにかきっかけを、ぼんやりと待ってた。
なんにでも、すがりたかった。
だって、そうしなくちゃ、ただ、ずるずると引力に引きずられていく。
なしくずしで物事を決めるのは、一番やっちゃいけないこと。
だけど、五分五分じゃない二択だってことは、うっすらと気づいていた。
このまま何もしないでいると、タイムリミットまでに、誘惑に負ける確率は高い。
24時間、いつでも誘惑が迫ってくる。振り切るのに、神経がすり減っていくのがわかった。
かろうじて引き留めているのは、はぁとの心のなかの声だった。
いつもはまっさきに美容雑誌コーナーに立ち寄るんだけど、今回はぐるりと迂回して店内を回る。
小説コーナー、コミックコーナー、ビジネスコーナー……。
適当によさげなタイトルの本をとっては、数ページだけ読んで戻す。
うーん、興味ないわ……。
ふと。
普段はまるで気にも留めないような、ある一角で立ち止まった。
理由はわからなかった。
でも、なんだか、こめかみがむずむずする……。
瞬間、あたまのなかで、映像が駆け抜けた。
っ。
そのイメージに、無意識に手を伸ばす。掴もうとする。
でも、遅かった。映像は、ノイズがかかって次第に、あたまの奥へ奥へと、引っ込んでいく。
……?
なん、だったんだろ。
しばらく、立ち尽くしていた。まぁいいやって、思うことができなかった。
「あの……もしかして佐藤心さん……でしょうか」
急に声をかけられた。
声がした方向へ、無意識に振り向く。
ぼそぼそと、本を口元に当てて、はぁとを上目遣いで見つめてくる女の子がいた。
「……へっ、そうだけど~はぁとと、どこかで会った?」
「いえ、こちらが、一方的に、以前、事務所でお見受けしただけですので……」
うつむきながらも、しっかり45度の角度で腰を折り曲げてお辞儀する女の子。
ストールがひらりと舞って、前髪のスキマからオーシャンブルーの瞳がのぞいた。
女の子ははぁとの隣におずおずと少し恥ずかしそうに立って、目の前に陳列された本を眺める。
「えっと、あー、じゃあ、あなたも346プロのアイドル?」
「はい……記憶というのは、本当に不思議なものですね……」
口元に置いた本を持ちなおして、とても白くて細い指先でぺらりとページをめくって、女の子はつづけた。
「今まで、欠片すら留めていなかったはずなのに……貴方の顔をみた途端に、お名前とお見かけした場所を思い出しました……」
「その日は、とてもとても暑い日で、プロレタリア文学についての論文をまとめていたことも……」
「ある物事を、引き金に……忘却していた記憶が、まるでパズルが組み合わさるように想起される……」
「とても、興味深いことだと思いませんか……はい……」
そこまで言い切ってから女の子は視線を、本とはぁとの顔で行き来させた。
え、あー、うん、そうだよねって曖昧な返事をすると、女の子の頬がほんのすこしだけ紅く染まった。
「あ、すみません……私、人と話をするのが苦手で……距離感もうまく掴めなくて……」
それと笑顔も苦手で、と女の子は小さな声量で付け加えた。
じゃあなんでアイドルになったんだよ☆ってツッコもうとしたけど、やめた。
はぁとも大概か。
このとき胸のすみっこで、かすかな違和感が芽生えた。
けど、そのままほったらかしにしておく。
最近はなーんか細かいコトにこだわるのが、おっくうになってきた。
多分あれこれ考えるのに参ってきてるんだと思った。
でも、ここの本のコーナーと、かすめたイメージだけはやたら気になった。
……。
まぁ、いっか……。今は隣の女の子とどうするか、だし……。
絶対、はぁととタイプ合わないカンジだし……。
女の子は、前髪をかき分けて、ゆっくりとマイペースに口を開いた。
「その、順調ですか……」
「えっ、なにが?」
「総選挙です……」
おい、おもいっきり地雷踏んでんぞ☆
「えっ、あー、まぁ、ぼち、ぼちかなぁ……☆」と適当にはぐらかした。
「そう、ですか……」
「うん」
「……」
それきり、話題がとぎれる。女の子は一定のペースでページをめくる。
無言。むむむ、すこぶる居心地がわるい……。でも、このまま帰るのも、なんとなくバツがわるい。
そう思っていると、女の子が、不意に口をひらいた。
「先日、1位の方にお会いしました……」
「えっ?」
「とてもとても、純粋で、したたかで、まっすぐな心を内に秘めた方だな、と思いました……」
女の子は本を置いてそっと目を閉じた。
そのまま胸に掌をあてて、つづける。
「感銘を、うけました、アイドルの頂点はあのような方なのだと、私も見習いたいものです……」
「たった一冊の本が、ひとの人生観を、がらりと変えることがある、すぐれたアイドルというものは、それと同じ力があるのだと思いました……」
「私からは、物語など生まれないと思っていました、だけど、もし私にそれができるならば……」
ぽつり、ぽつりとつづける。
おーい、自分の世界入っちゃってる?
「……ですが、少し怖くもあるんです」
女の子は、よりいっそうキュッと目をつよく、つむる。
「ある物語の主人公は、臆病な自尊心と、尊大な羞恥心から人食いの虎となりました……」
「また、ある主人公は、日常への不満を募らせていたある日、目覚めたら一匹の虫に成り果てた……」
「私は、この総選挙を抜けた先にどうなってしまうのか……少し怖いんです……」
女の子の胸にあてた掌が、拳になって、ぎゅうっと縮こまった。
「14位という……この身に似つかわしくない重荷を抱えて……私は……」
えっ?
は……? 14位……? この子が?
「もし、もし望めるのならば、人は人のままで……」
まじ……?
「鷺沢文香は、鷺沢文香のままで……」
……。
──だめだよ……。
くぐもった声が聞こえる。
磨りガラスをとおしたような、ぼやけた人影が見える。
──だめだって。 絶対に間違ってる。
間違ってる? 何が?
──えーい、今ならまだ引き返せるって! おい、はぁと、よ~~~く考えろよ!
引き返すって、どこに? 考えるって、何を? 考える……それもう疲れてきたって……。
──あーもう、これ以上いったら、自分の手では取り戻せなくなるっつーの!
取り戻す、何を……?
──何をって……そんなの……!
……。
瞼をもちあげると、見慣れた天井のシミが見えた。
いつのまにか寝ちゃってたかー……。
上半身だけ起こして、適当に床に放ってあったダイエットクッキーの袋を開けて、一口齧って、ゴミ箱に捨てた。
「ぜっんぜんスウィーティーな味じゃないわ……」
この前、本屋で会った文香ちゃんのことをぼんやり考える。
14位かー……。
笑顔も人付き合いも、会話も苦手なのに14位……。
CDデビューもしていて、ステージにも引っ張りだこ。
あと、おまけになんか“勝手な猥雑な本”もたくさん出されて困ってる、らしい。
はぁとも1回でいいからエロ本出されて……うん……やっぱそれはいっかな……。
「あの子でも14位かー……」
なんか、やってらんなくなるなー……。
ふと、枕にうもれているスマートホンが視界にはいった。
登録された電話番号が、思考に無理やり、すべりこんでくる。
「……」
どんなことでも、言いわけにしたい。
はぁとはここまで悩んだんだからもう十分だとか。ナナちゃんはきっと許してくれるとか。
ママとパパを安心させてやりたいとか。けっきょくは人間は利害関係なんだとか。金銭的にやばかったんだとか。
アイドル業界は厳しいんだとか。他のプロダクションでは当たり前のことなんだとか。つい魔がさして本心じゃなかったんだとか。
なんでもいいいから、言いわけにして、仕方なかったっていって、スイッチを押したい。
「っ……!」
あたまを必死に振って、誘惑を消し飛ばす。
ナナちゃんの笑顔を必死に手繰り寄せて、思い浮かべる。
──だってナナは、心ちゃんのファン一号ですから。
ナナちゃんは親友。ナナちゃんは、はぁとを応援してくれてる。
まだ大丈夫。まだ押さない。
また先延ばしにする。
明日は事務所へ行こう。家にじっとしてちゃダメ。
でもさ、最近なんだか。
ナナちゃんの顔を想いだそうとするとさ、輪郭がぼやけるんだよ。
はぁとの内側から聴こえる声も、だんだん遠くなってくるんだよ……。
……。
事務室に行って、ちひろさんにリストの一覧を見せてもらう。
また、地下の撮影会しかなかった。
断ると、ちひろさんは、うーんそうですか、と一言いってパソコンに向き直る。
「あ、あのさっ、何か、何でもいいから仕事ちょうだい、てゆーか、よこせよ☆」
「は、はぁ、そう言われても……」
「家にいても仕方ないし、お金、かなりピンチだし……」
「お金? お金は大事ですよね、ううーん、それでしたら……」
頬に人差し指をあてながら、ちひろさんはマウスをクリックする。
「やっぱあるんじゃん☆ さっすがー、よっ運営の女神っ☆」
「急きょ、臨時スタッフが欲しいと要請があって……」
……。
「はーい、列をつくってくださーい、おい、割り込みすん……しないでくださーい☆」
346プロのロゴが入ったキャップとジャンパーを羽織って、人の洪水を誘導する。
仕事って、ライブの交通整備のアルバイトかよ☆ アイドルの仕事じゃねーじゃねーか☆
でもかなしいことに、背に腹は変えられない。アイドルで培った営業スマイルを浮かべて、人の流れをひたすら整理する。
……もう総選挙の日数も残りすくないのに、なにやってんだろ。
そのとき。
──いーち、にー!
遠くの野外ステージの方角から、耳をつんざくような爆音。ライブが始まった合図。
あ、これって……。聴きなれた掛け声に合わせて、次の瞬間、無数の声の重なり。
──ナナー!!!
ナナちゃんのライブだったんだ……。
佐藤さん、ボケッとしてないで。
スタッフの急かす声も耳に入らずに、ナナちゃんの声をうすぼんやり聴いていた。
あらためて思った。
テレビや舞台で光をひたすらに浴びるアイドルがいる一方で……。
……。
おつかれさまでしたー、日がすっかり暗くなる頃に、ねぎらいの言葉といっしょに、茶色の封筒を受け取る。
ぴりりと封をあけると、お札が1枚入ってた。千円じゃない。
10000円。1万円。
「……」
個室で常にストレスに晒されながら、めいっぱい神経張り巡らせて500円。
こっちはそりゃ忙しい時は忙しいけど、基本は立っているだけで10000円。
こっちのほうが、楽だなぁ……。
楽なほうがいい、のかな……。
朦朧とした思考で、スマートホンの電源を入れる。
液晶がぴかぴかと光った。
1件、着信履歴を知らせるメッセージ。
「よっちゃん……?」
実家のマイシスターからだった。
……。
意を決して、通話ボタンをぽちりと押す。
はぁと、最近まったく実家と連絡とってなかったからなー……。
数回コール音が鳴ったあとに、よっちゃんの声が聴こえた。
姉想いのスウィートマイシスター。
「あーひさしぶり……よっちゃん元気?」
うん、元気だよ、という声。落ち着いた声だった。
たぶん、いいコトじゃないなって直観。
「あー、うん、こっちは元気……うん……」
本当に? そう、スマートホンを挟んできこえた。
一呼吸おいて、耳を疑うようなセリフがノイズ混じりでとびこんできた。
お姉ちゃん……AV出るって本当……?
「はっ……? なんで?! はぁとが?!」
地元でウワサになってるよ、佐藤はいよいよAV出るって……。
落ち目のアイドルは、AVにいくしかないって……。
「いやいやいや、そんなのウソだって! 出ない出ない!」
そっか、本当に、良かった……。
大きなため息がきこえる。
「くっそー……あのときの電話のせいか……」
パパとママも心配してるよ。
心底、心配している声色でそういわれると、胸がきゅんと痛んだ。
ねぇ、お姉ちゃんは何でそんなに頑張ってるの?
「えっ……?」
そのコトバがきっかけだった。
なんで、ボロボロになってまで、ママとパパに心配かけて、地元の友達にも影で笑われてまで、アイドルそんなにやりたいの?
よっちゃんの声。
「なんで、って……」
アイドルってそんなに、いいものなの? なんでアイドルになりたかったの?
ぐらり、と天秤がかたむいた。
これまでにないほど、大きく。
大きく。
ゆらゆらと、天秤の縁までギリギリで溜まった液体が、溢れそうになる。
「なんでって、そりゃ……」
理由を、はぁとの内側から掬おうとした。
なにか、この乾いた喉から吐き出す、次の言葉を探した。
でも、汲み取ろうと心の奥へ伸ばした手は、空をきった。
あれ?
「なんで……?」
そういえば、なんでだっけ。
なんで、はぁとはアイドルこんなにやりたいんだっけ。
アイドルって、なんだっけ……?
……。
カーテンを閉めきった部屋で、かさかさと小さな虫が這う音がきこえた。
冷蔵庫から、かすかにすえた匂いが鼻をつく。
たぶん、ヨーグルトが腐ってるんだと思った。
ベッドは、はぁとの形をすっかりと覚えてしまった。
もう、今が朝か夜かも定かじゃなかった。
カチ、カチと時計が針をひたすらに打っていく音だけがする。
最後の中間発表をみる気力すら、湧き上がってこなかった。
「……」
どこで落っことしちゃったんだろ。
「……」
こころを、もういちど探ってみる。
いままで通ってきた道を、なにか落ちていないか手をついて探してみる。
何度もなんども繰り返した行為に、そろそろ限界を感じてきた。
見つからない。
うしろを振り返ってみても、真っ暗だった。あきらめて前をみても、灰色の霧の視界不良。
なんかさ、もう、疲れたな……。
何も考えたくない……。
ふと、ベッドと壁のすきまに何かが挟まっているのに気付いた。
だらりと垂らした手で、持ち上げる。
くしゃくしゃで、埃まみれになった絵本が顔を出した。
「『マザーグース』……?」
なんだ、これ……。
こんなのいつ買ったんだっけ……。
別に、はぁとのシュミじゃないな……。
──だめだよ!
ひさびさに、内側から声がきこえた。今にも消え入りそうな小さな声で。
はぁとは、少し迷ってから。
その絵本を。
──やめ……。
ゴミ袋へ捨てた。
ロウソクの揺らいだ火が消えるように、それきり、声がまったく聞こえなくなった。
……。
ぴんぽーん。
インターホンが鳴った。
コン、コンとノックをする音がきこえる。
「あれ、心ちゃんいないんですか~? お話があるんですけれど……」
ナナちゃんの声がドア越しにきこえた。
「心ちゃーん、ナナが美味しいおつまみ買ってきましたよ~? 甘いものたっぷりですよ~?」
「いないんですか~?」
……。
しばらくするとカン、カンと靴が鉄階段を打ち鳴らす乾いた音が響いた。
だんだんと、遠くなっていって。
……。
また、はぁとの部屋は静かになった。
それから1日……。
アイドルってなにか、なんて、どうでもいいんだよね、きっと。
はぁとは、アイドルのイヤなもんいっぱい見てきたし。
きっと、あれが現実なんだよ、現実。
26歳でアイドルなんて、はじめから無茶だったんだよ。
必死にがんばってたのが、バカらしくなった。
2日目……。
もう、しんどいのはいいかな。
記者のいうことに従っていれば何も考えずに、これからもとりあえず仕事できるし。
お金もらえるし。お金稼げば、文句ないっしょ……。
3日目……。
楽になりたいな……。
そうやって、変化のない部屋で、ねばついた液体がしたたって、どろりとした塊をつくるように、
ゆっくりと、漫然に、
だけど確実に、
親友を売る意志が固まっていくのを、はぁとはもう止めることができなかった。
ナナちゃんみたいになりたかったな。
もし、もし、もういちど道を選びなおしてもいいのなら、ナナちゃんみたいに。
………。
……。
…。
………。
……。
…。
……。
変化のない部屋に、とつぜん、朝のあたたかな陽射しが差し込んだのは5日目のことだった。
「んん……」
瞼のうらで感じた光で、寝惚け眼をむりやりこじあける。
目がくらんで、脳がぐらぐらと揺れた。
まとまりのない思考で、考える。
カーテンは閉め切ったはずなのに。
カギはちゃんとかけてたはずなのに。
もしかして泥棒?
ふと、視界のすみっこで、おっきなふたつの耳がみえた。
どうぶつ……?
よくみると、おっきな耳はリボンだった。
背中をくるりとまるめて、散らばったガラクタや食べ物の残りカスをゴミ袋へ放り込んでる。
キュッと袋のふちを縛って、ふぅと二の腕でおでこの汗をぬぐった。
ぱんぱんになったゴミ袋がいくつも重なりあって、床がまるまる見えるようになった頃。
その子は、ゆっくりと、はぁとの方を振り向いた。
「あ、おはようございます、やっと起きたんですね」
汗の雫をきらきらとさせながら、爽やかな笑顔でナナちゃんが、そこにいた。
最初は幻覚かなって思った。はぁとの罪の意識がなんちゃらかんちゃらってやつ。
「もう、ケータイも全然繋がらないから、ウサミン星を探し回ってやっと合鍵見つけたんですから!」
ぷくりと、ほっぺたをまんまるに膨らませてナナちゃんは言った。
「うぅ、腰が……はぁ、こんなにも溜め込んで、今日ちゃんとぜーんぶゴミ捨て場に出しますからね」
「ナナちゃ……?」
うまく声がでない。
ナナちゃんは、やわらかな光を背にして、やさしく微笑む。
「心ちゃん、さぁ起きてください」
すきとおるような瞳で。
「7位、安部菜々から心ちゃんに──」
すこし子供っぽい悪戯な笑みを混ぜてから、言った。
「命令、があります」
……。
プリズムがいくつも反射して、極彩色のイルミネーションがステージを包む。
虹色の床のパネルが目まぐるしく移り変わって、天井には満点の夜空のプラネタリウムが投射されていた。
その夢にでてくるような舞台、目の前の階段を昇れば、すぐに満員の観客にご対面できる控え場。
そこに、はぁととナナちゃんはいた。
ナナちゃんは、ふわふわの布地がいくつも折り重なったピンク色のドレスを着て、すぅはぁと深呼吸を繰り返している。
はぁとの出で立ちは、いつかステージで着るようにと自作した勝負服のドレス。
背中には羽がついていて、フリルのスカートにはハートがプリントされてる。
「それじゃ、合図がきたらご登場ですよ! よろしくおねがいしますね!」
はち切れそうなほどの“ナナ”コールが巻き起こってる。
ナナちゃんはそんな歓声を浴びながら、1歩階段を昇った。
2歩、3歩と階段を踏みしめてから、ひといきにナナちゃんは階段を駆け上がった。
スポットライトがナナちゃんに集中する。
瞬間、熱狂がステージを包んだ。
ナナちゃんはおもいきり空気を肺にいれて叫んだ。
「いーち、にー!」
──ナナー!!!
「みなさーん、今日はナナのメルヘンワールドにようこそー!」
数千人の歓声を、たった一人で受け止めるナナちゃん。
まったく物怖じしない、まっすぐな笑顔でステージを左右へ駆け巡る。
トップアイドルのナナちゃんが、広いひろいステージを自由に舞う。
ウサミン星で酔いつぶれているナナちゃんは仮の姿かと思うくらい、エネルギーに満ち溢れていた。
「……」
ナナちゃんの命令は、こうだった。
ナナちゃんのライブで恒例のトークタイム。
そのトークには、他アイドルをゲストに呼ぶこともある。
いつもは、もっと人気のアイドルが事務所の判断で選ばれるんだけど、ナナちゃんはそこで提案した。
佐藤心を呼んでほしい、って。
事務所はさいしょ反対したけれど、ナナちゃんの熱意に根負けして、
5分間だけという時間制限つき、それなら仮に失敗しても、さして支障はないだろうとのことで渋々承諾した。
それで、はぁとは半ば強引にここに連れてこられた。
いままでストップ状態だった思考が、ぎぎぎ、と軋むように動きだして、
どこか夢ごこちのように進んでいって、無理だっていってももう遅くて、
気づいたら、ここに立ってた。
開演前、ナナちゃんは心配するスタッフに囲まれながらも、顔をあげてはっきりと言った。
……心ちゃんなら、絶対に大丈夫です、と。
テレビに、夢に何回もなんかいもみた舞台が目の前にあった。
サイリウムで埋め尽くされたキラキラのステージ。
まっさらで、穢れなんてこれっぽちもないような、キラキラしたものだけがある世界。
「それでは、トークコーナーの時間ですよー、さぁ今日のゲストは~……ナナと、とーっても仲良しなお友達でーす♪」
おぉ、と期待の歓声が沸く。
「……」
えっ、これ現実……?
このステージにはぁとが立つのかよ。
いまさらになって、そんな悠長なこと思った。
ダンスも、歌も、披露しようとすればできる。
メモが山のように積みかさなった、しゅがーはぁと、とっておきの口上もいえる。
仮に、とちってもナナちゃんが全部フォローしてくれるって言ってくれた。
いっそ、全部黙っててもいいとも言ってくれた。
だから、思いきりやっていい。
ナナちゃんが、手を振り上げた。
「さぁ、どうぞー!」
呼んでる。
だれを?
はぁとを。
「ぁ……」
呼んでる。
呼んでるなら、行かなくちゃいけない。
だってこれは、はぁと念願のアイドルらしい仕事。
きっとナナちゃんがくれた、別のチャンスのカタチ。
足を、前に出す。
出なかった。
目の前の階段が、果てしなく遠い。
こんなの、しゅがーはぁとじゃないって。
しゅがーはぁとなら、観客がスベろうが、痛々しかろうが気にせずやってのける。
いまは、後悔するのはあとでいいから、ひとまず足うごいて。
うごかない。
はぁとの足を止めてるのは、なんだ?
なにが、はぁとの足にまとわりついてるんだ?
ほんのすこし、ざわざわ、とステージに動揺の色があらわれた。
動揺を一瞬で察して、ナナちゃんはフォローした。
「あれあれー、迷子になってるんですかねー、ナナがお迎えにいきますね」
階段をおりる音。
暗闇に、ぼんやりと光が灯った。ナナちゃんだった。
光がだんだんと近くなってくる。目の前に、ナナちゃんのあどけない顔がみえた。
「さぁ、行きましょう♪」
そっと、掌をさしのべられた。
「さぁ、心ちゃん」
そのまるっこくて、シミひとつないキレイな掌をみつめた。
ユニットを組んでたときと、まるで変わらないキレイな子供のような掌。
にぎれなかった。
はぁとの口から、言葉がこぼれでた。
「無理だって……」
「えっ?」
「肌も、もうボロボロだしさ……」
ナナちゃんが褒めてくれた肌。
「ボディラインも、乱れちゃったしさ……」
ナナちゃんが褒めてくれた体型。
もう、崩れちゃったんだよ、それにさ。
「はぁとには、無理だって……」
ナナちゃんを、売ろうと思っちゃったんだよ……。
「ナナちゃんみたいなアイドルとは、ちがうんだよ、はぁとは……」
どこで道を曲がれば、このステージに立てたんだろ。
どの道を進めば、ナナちゃんの隣に立てたんだろ。
どこで間違ったんだろ。
ざわ、ざわ。
観客のどよめきが次第に波紋のように、広がっていく。
一方は、超人気アイドル、一方は売れないアイドル。
「もう、あの時とはお互い違うんだって……」
ナナちゃんは、しばらく、はぁとの顔と体をみつめたあと、
目をゆっくりつむってから、唇を一の字にまっすぐに結んで。
「……」
ピンマイクを、しずかに外した。
この広いひろい舞台で、ふたりきりになった。
「心ちゃんは、心ちゃんです」
「えっ……?」
「心ちゃんは、何も変わってませんよ」
ナナちゃんは、目をひらいた。
吸い込まれそうなほど、あざやかなブラウンの瞳に、はぁとがくっきり写っていた。
不意に、こめかみがむずむずした。
「ナナはナナです、何も変わってません」
観客のざわめきは、増していく。
ナナちゃんは、それでも舞台に戻ろうとしなかった。
しっかりと地に足をつけて、はぁとから視線を絶対にはずさなかった。
ナナちゃんは息を吸い込んで、ステージに届きそうなほどの声量で、おもいきり叫んだ。
「ナナはっ、心ちゃんなんですっ!」
鼻先が、つんと熱くなった。
「心ちゃんはっ、ナナなんですっ!」
ナナちゃんは、声が枯れそうなほど叫んだ。
146cmの、ちいさなちいさな体のどこに、そんな熱量が込められてるんだろう、って思った。
あぁ、きっといま、はぁとはナナちゃんの根っこの部分に触れてるんだ、って思った。
イメージの断片が、脳をかすめた。
何度もなんども、よぎった。
「ナナがあの時、いいえ、今でも、憧れてるアイドルは、まだ、ここにいますっ! だから自分を信じてください!」
はぁとの奥底で、仄かに熱がこもった。
熱はからだの芯から広がっていって、じわりと指先まで伝わった。
「ナナは心ちゃんのおかげでここまで来れたんです!」
次のセリフが、きっかけだった。
「だから、またあの日みたいに、ナナとステージに立ちましょう! 魔法のコトバを唱えて!」
かちり、となにかのピースがはまった音がした。
イメージのモザイクがゆっくり、ゆっくりと剥がれていく。
今なら、手を伸ばせば届きそうな気がした。
ちがう、きっと、今しかない。
スタッフが、走ってきてトークタイムは中止です、すぐに舞台に戻ってください、って叫んだ。
ナナちゃんは焦った表情で、はぁととスタッフの顔を交互に見渡す。
「ごめん……ナナちゃん……」
「っ……謝らないでください……大丈夫です、元々無理なお願いでしたから……」
ナナちゃんは急いでピンマイクをつける。
「ちがうって、ごめんっほんっとーにごめん、ナナちゃん!」
こんな大声を出したのは、何日ぶりだろ。気持ちよかった。
あたまのなかの霧が晴れていく。
「はぁとさ、ちょっと行ってきていい!?」
「えっ……?」
「必ずさ、またナナちゃんのとこ、帰ってくるから! 約束……☆」
今しかない、取り戻すなら。
ナナちゃんは、放心した表情を浮かべて。
それから、やさしく、にっこりと微笑んで、言った。
「……はい、行ってらっしゃい」
ふたりの行先は、逆方向。
ナナちゃんはきらきらのステージへ。
はぁとは、ある場所へ。
走った。
……。
外へ出ると、
めずらしくこの日は、土砂降りの雨だった。
煌めきのステージから一転、暗闇、雨が降りしきるなかで、はぁとは一心不乱に探していた。
ひとつめをひらく。泥がほっぺたに跳ねて、肌を汚した。
手を奥につっこむと、腐ったヨーグルトが勝負服のスカートに、べったりとはりついた。
クギが飛び出したものまであって、びりりと脇腹の布地が破れる。
でも、関係なかった。
はぁとは、なんとしてもいま、見つけなくちゃいけない。
「くっそー、どこだよ……☆」
はぁとはゴミ捨て場で、ゴミ袋を漁った。
みっつめの袋を破ると、大量の美容用品の抜け殻がつまっていた。
躊躇せず肘の部分まで、腕をつっこむ。
ない。
「えーい、大丈夫、絶対にあるはず……!」
懐かしい衝動が、はぁとを突き動かしていた。
雨でメイクが落ちても、どれだけ服が汚れても、みっともなく見られても、関係なかった。
きっとさ、色んなものが積み重なって、散らかって、いつのまにか見えなくなってたんだんだよね。
すぐそばに、あったのにさ。
よっつめのゴミ袋をひらいた。
バナナの皮、ダイエットクッキーの食べかけ、女性週刊誌……。
それと。
「あっ……」
雨ざらしになって、すり切れた、くしゃくしゃの一冊の本が奥深くへ埋もれていた。
「あった……」
そっとこれ以上汚れないよう、やさしく本を持ち上げた。
たっぷりと水分を含んで湿った本を、慎重な指先で、めくっていく。
本に描かれた絵と文字は、滲んでいて、かすれていた。
ゆっくりと、1ページ1ページめくっていく。
あるページにさしかかった。
その瞬間、パズルが、また、ひとかけら組み合わさった。
はぁとは、ふるえる声で、唱えた。
「マザーグース……」
文字はすりきれていたけれど、まだ、かすかに読めた。
絵も滲んでいた。
だけど、ピンクのペンでハートマークとウサギの落書きがうっすらと残っていた。
「……女の子って、なにでできてるの……?」
いつのまにか忘れていて、つかわなくなった魔法のコトバ。
「砂糖とスパイス……それとステキななにかでできているよ……」
パズルがその瞬間に、完全に組み合わさった。
視界がぱぁ、とひらける。
想いだした。
ママとパパに手をひかれて、お唄を歌った日を。心は歌がうまいねって褒められて、あたまに乗せられた温もりを。
子供のころから友達の前で踊って、イヤだと言われてもやめなかったとき。楽しかったなぁ。
スカウトされて地元をでる時に、どんなワクワクが待ってるんだろうって胸躍らせたっけ。
はじめてステージにあがって、拍手をもらったときの感動。スベったけどさ、嬉しかった。
ナナちゃんとユニット組んで、毎日毎日アイドルについて語り合って、励まし合ったよね。
ある日、どこかで耳に残っていたこの唄を、ふと口ずさんだら、ナナちゃんが教えてくれてさ、一緒に本屋に買いに行ったんだっけ。
ナナちゃんメルヘンなもの好きだしねぇ、そんで、これ心ちゃんにピッタリな唄ですねって言ってくれて。
よーし、じゃあ、はぁとはこんなスウィーティーな女の子になっちゃるって、ハートの落書きしたらさ、ナナちゃんが隣にウサギを書いた。
全部、想いだしたよ。
「女の子って、なにで、できてるの……?」
はぁとは、何度も何度も、呟いた。記憶をなぞるように。
「砂糖とスパイス……」
それがさ、ナナちゃんがいなくなって、はぁとは伸び悩んで、
はぁとは、いつしかこの唄を口ずさまなくなった。
ナナちゃんは、ずっと憶えていてくれたのに。
「それとステキななにかで……」
売れることに必死になって、結果が見合わないことに、苛立って
ファンへの感謝より、自分が人気ないってことがのしかかって、
余裕なくなって。
あぁ、そういえば、はぁと、最近、楽しいなんて一言もいってなかった。
「女、の子って……」
雨以外の水滴が、頬をつたった。
きっとさ。
「砂糖と、」
脆くて壊れやすいなにかを、たいせつにたいせつに両手で包んで、あっためていかなくちゃいけないのが、アイドルなんだ。
はぁとにとっては、とろけるほど甘くて、ときにはちょっぴりスリリングな、とってもステキななにか。
言葉には表せないけれど、言葉には表せないからこそ、ステキで。
言葉には表せないからこそ、ちょっとしたはずみで、落っことしたり、割ったり、忘れたりしちゃうんだよね。
そんな、困りモノの“ステキ”をさ、そうっと誰かに分け与えてあげるのがアイドルなんだ。
それが、ホンモノのアイドルなんだ、きっと。
「ステ、キな……」
「・・…」
「う、おー、歳とると、涙もろく……☆」
「……っ……!」
はぁとは泣いた。
雨に打たれながら、子供のように、ひたすらに泣きじゃくった。
……。
泣き止むころには、雨は降りやんでいて、日の光が差し込んでいた。
「……うん」
このまっさらな気持ちに、なにひとつ付け足すものなんてない。
はぁとは、知ってる。
この気持ちを、たいせつに育てている子を。
いいよ、もしこの気持ちを、
もう忘れられないでいられるなら、
全てを投げ出してもいい──。
……。
ウェイターが完璧な手つきで、ブラックコーヒーと芸術品のようなデザートを大理石のテーブルに置いた。
はぁとは、手をあげる。
「それでは、時間と場所を打ち合わせしましょうか」
記者が、にっこりと笑った。
はぁとは、ブラックコーヒーにシュガースティックを3本放り込んで、ミルクもたっぷりと垂らしてかき混ぜる。
あー、ついでに練乳も注文するかなー。
「もう、残りわずかですからね、ギリギリセーフといったところで連絡がかかってきて良かったです、さぁ急ぎましょう」
はぁとは、コーヒーを含む。
とろりと甘い味が、口のなかに広がった。
「それとも、写真でも直接持ってきてくださったのですか?」
お、このケーキ滅茶苦茶うまい、この前はぜんっぜん味わかんなかったし。
「あー、そうねぇ……☆」
バッグを漁る。記者の表情がぐんにゃりと曲がった。
だけど、次の瞬間、その顔が更に歪むことになる。
そりゃそーだ、はぁとが取り出したのは。
とーってもキューティーなお・サ・イ・フだし。
お札を数枚つまんで、大理石のテーブルに叩き付けた。
「前回と今回、ご馳走になった分はきっちりお返ししまーす☆ てへぺろっ☆」
はぁ、これでコラーゲンも美容パックも、サプリメントもしばらく買えないわ。
まぁ……いっか☆
椅子から立ち上がる、いたた、はぁともどこぞの誰かみたく湿布でも貼るかな。
記者は状況をようやく理解したみたいで、取り繕った笑顔が青ざめる。
「なっ、あなたにとっては悪くない、千載一遇のチャンスでしょう?」
「うーん、はぁとのキョージってやつ……?☆」
「……っ……たかが、アイドルにそんなもの……」
記者の本性がむき出しになる。
裏表がある人間だってことは、会ったときからわかってた。
うーん、これも、職業病ってやつ?
「たかが……?」
はぁとの雰囲気が変わったのをみて、記者は怯んだ。
「おい! アイドルナメんじゃねぇぞ☆」
商談をしていたおじさまや、ウェイターが振り返った。
でも、そんなの関係なかった。
「しゅがーはぁとを、ナメんなよ☆」
くるりと背を向けて、出口へ向かう。
「あ、それと346プロには二度と近づいちゃやーよ☆ そこらへんよろしく♪」
「な、なぜ……」
記者の歯ぎしりと、絞り出すような声がきこえる。
はぁとは、その言葉に応えた。
「なんで?」
「なんでって、そんなの……」
振り向いて、とびきりの笑顔で。
「そんなのきまってんだろーが☆」
誰の耳にもきこえるように、いってやった。
届け、どこまでも。どこまでも。
「だって、はぁとは──」
「心から、アイドルが、好きだから」
……。
……。
最後の仕事は、小さな小さなお祭りの舞台だった。
「ふー、よーし、思いっきり楽しんじゃうわよ☆」
自作の勝負服は、一晩で直した。
徹夜だったけどさ、手は抜けないって☆
「いやー本当に手伝ってくれてせんきゅー☆」
隣には小さなステージでも、イヤな顔ひとつせずついてきてくれた子が立っていた。
「本当にどこであんなに汚してきたんですか……」
「んー……ヒ・ミ・ツ☆」
小さく溜息をこぼすナナちゃん、でもその表情はまんざらでもない。
スタンバイおねがいしまーす、とスタッフさんの声がかかる。
急ごしらえの階段を昇った先には、はぁとを待ち望んでる人がいる。
みんな名前知らないだろうけど、最高のパフォーマンスしてやるから、見てなさい☆ 見ろよ☆
「あの、心ちゃん……?」
ナナちゃんが、はぁとを見上げていった。
「んー?」
「総選挙……なんですけど……」
「……」
ナナちゃんの質問に、はぁとは笑顔で応えた。
「ねぇ、ナナちゃん、はぁとから一生の一度のお願いがあるのよね☆」
「えっ?」
「ナナちゃんさ……」
拳をかるく握ってナナちゃんの胸をとん、と叩いた。
「シンデレラガールになりなよ、なれるよ、ナナちゃんなら」
目をつむって、ナナちゃんのハートをたしかめるようにグーをおいた。
ゆるやかな鼓動と、心地よいぬくもりが拳を伝わる。
ナナちゃんは、呆気にとられて、胸にあてがられた拳を見つめていた。
……よっし。
拳をゆっくりとはなして、はぁとは言った。
「さー、この仕事終わったらさ、カフェでお喋りしよ☆」
「へっ?」
「そんでさ、ウサミン星で呑もっか、おもいっきり☆」
「……」
ナナちゃんはしばらくしてから、ふふ、と笑いをこぼして、
こくりと頷いた。
「……はい」
「よっしゃ、いこーぜ、ナナちゃん☆」
はぁとは、掌をナナちゃんにさしだした。
……。
ふたり一緒に、ステージに駆け上がる。
光と歓声が、はぁとを包んだ。
「はぁ~いみんなお待たせぇ☆」
「スウィーティーなシュガシュガアイドル、しゅがーはぁとの登場だよ♪」
「みんなに幸せのハートをプレゼントしちゃう☆」
しゅがーはぁとは、おしまいに
けっして枯れない花をそのまま
お伽噺のウサギのなかに
そっと埋めたとさ。
…………。
……。
…。
What are little girls made of?
Sugar and spice,
And everything nice,
That's what little girls are made of.
case.佐藤心 end.
転載元
心「総選挙50位以内に入れないアイドルはクビ…ですかぁ☆ってオイ…マジ?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1432629853/
心「総選挙50位以内に入れないアイドルはクビ…ですかぁ☆ってオイ…マジ?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1432629853/
「シンデレラガールズ」カテゴリのおすすめ
「ランダム」カテゴリのおすすめ
コメント一覧 (325)
-
- 2015年06月16日 18:41
- うん暗いけど良いね。俺は好きだよ
-
- 2015年06月16日 18:54
- この作者と佐藤心さんに出会えた事に感謝。
モバマスに興味出てきました。
-
- 2015年06月16日 19:20
- 221
なんだっていいけど読んでもないのにしたり顔でコメントする神経がすごい
-
- 2015年06月16日 19:49
- 社長の実態やらまゆや幸子のその後やらは他のキャラ回で徐々にわかってくる感じなのかな
こういう構成大好きだから続きも楽しみだ
-
- 2015年06月16日 22:13
- やはり卯月の人だったか
読みやすいし、読ませる文と内容だった
デレマス愛に溢れてるわ
いいもの読んだありがとう
-
- 2015年06月16日 22:57
- 読まなくて正解だったとかコメしてる奴が哀れに思えて仕方ない。
とても良かった。とても。
-
- 2015年06月16日 23:02
- キャラdisっていうけど実際このくらいの理解度で濃厚にキャラの魅力を描いてくれるアイドルは幸せだと思う
-
- 2015年06月16日 23:07
- そして、総選挙一位の俺氏
高みの見物
-
- 2015年06月16日 23:11
- ※233
五条さんかな?(すっとぼけ)
-
- 2015年06月17日 02:58
- 前回が卯月で今回がまさかシュガハとは思わなかった、定番キャラかアニメ登場キャラで来ると思ってたし
賛否両論あって当然の内容だとは思いますが、アニメ組の自分には非常に面白かったです
-
- 2015年06月17日 04:15
- こんなもん嫁が出てなければ面白く読めるってだけだろ
絶賛してるアホ共の嫁が出たら発狂して荒らしまくるのが目に見える
書いた奴もまとめた管理人も少しは足りない脳みそ使って考えろよ
-
- 2015年06月17日 07:51
- ワイしゅがはPだけどここまで魅力的に書いてくれて嬉しい
-
- 2015年06月17日 10:06
- ※236
いや例え嫁キャラが胸糞な目に遭っても面白ければ文句無いだろ
そりゃ公式が胸糞展開するなら当然叩くけど所詮SSだし分かってても面白い作品を見逃す方がよっぽど損
-
- 2015年06月17日 17:57
- これは賛否両論やむなし
俺は大好きだが、こういうの蛇蝎のように嫌う人沢山なのも納得
-
- 2015年06月17日 18:12
- ※238
そんな鋼メンタルな楽しみ方他人に求めるなよ…
普通の人は自分の好きなキャラが世間的に考えて嫌な目にあってたら嫌な思いするよ
それは公式だろうがSSだろうが同じ事だし心構えは人それぞれ違うよ
-
- 2015年06月17日 20:33
- 作者プライド高そうだから※欄の何割かも作者臭い
-
- 2015年06月17日 21:18
- 恋敵がいてこそヤンデレが輝くように、逆境の中でこそ輝く魅力ってのもあるからねぇ
シリアスでもそのキャラの魅力を感じれるようなものならどんとこいだな
-
- 2015年06月17日 23:23
- まあ原作からして1年間で結果出なくて公演失敗したら結構悲惨なED迎えるしそこまでダメージ負わなかった
失敗ENDとかランク低いEDも結構好きなEDあったりしたしこういう話なら悪くない
前作は面白かったけど後味とか最悪だったけど今回は普通に前向きに終われて良かったわ
つーかシュガハさんこういうの似合うなあ
-
- 2015年06月18日 00:18
- 白無垢しゅがはさんにコロッとやられた新米Pだけど
前作読んでたからタイトル見てファッ!?ってなったわ
残った卯月と去ったしゅがはさんは完全に対極なんだな…
あと新田さんに何が起きたか気になって眠れねぇ
-
- 2015年06月18日 00:38
- 星1ニキならぬ星4.5ニキが不自然に沸いてますねえ・・・
どうしたんでしょうねえ、突然こんなに・・・まあ、「そういうこと」なんでしようけどねぇ・・・ププッ
-
- 2015年06月18日 03:03
- たしかに、こんなに星5のコメント長文ニキが沢山はおかしくない?
感想は面白くなかったです
-
- 2015年06月18日 03:41
- いつまで粘着してんのここのコメントwww
ここまで来ると流石に頭が下がるよ、本物のビョーキじゃない
作者認定待ってま〜す(笑)
-
- 2015年06月18日 04:00
- ※240
そんな豆腐メンタルな考えで普通の人の総意みたいに語るなよ…
それにみんな平等に評価されて、嫌な目にもあわずに持て囃されて、幸せばっかりなそんな毒にも薬にもならない話が面白いと思うの?
この物語は苦いけど、決してつまらないものではないと思うよ。
まぁ苦手ならしょうがないけど。
-
- 2015年06月18日 12:05
- 次はCoらしい
嫁のロシアンルーレット
-
- 2015年06月18日 18:27
- 次はCoなんですか?
枕営業とかありそうですね!(火種)
-
- 2015年06月18日 19:37
- ※248
まさに俺が想像してた通りのオウム返しが帰ってきたけど
いやいや冷静になって考えてみなよ。普通の人は普通に嫌な事を普通に嫌がるでしょ?
君みたいなのがちょっとでもくじけた人間の事を豆腐メンタルとかしたり顔で言っちゃうんだろうけど
エンターテイメントの種類と好みについてはまた話が別だから言及しないよ
-
- 2015年06月18日 21:07
- ままゆが貶められてるとか他のアイドルが身売りするとかがなければ良かったわ。あとふみふみが可愛い
-
- 2015年06月18日 21:18
- ※244
むしろ新田さんに置き去りにされたアーニャの方がやばいことになってるに1フランシスコ
-
- 2015年06月18日 21:25
- 大御所「実は私、美優さんのFANでしてね、ずっと前からお会いしたかったんですよ」モミモミ
美優「は、話が違いますっ!こんなのおかしいです・・・あ・・・ん」
大御所「一度体を重ねるだけで確かな地位が手に入りますよ、悪い話ではないでしょう。ホッホッホッ」クチュクチュ
大御所「ほら、もうグショグショになっているではありませんか?キモチいいですか?」グッチョグッチョ
美優「あんっ、ら、らめぇ・・イクっイクっ・・・イっちゃいます・・・、あうっ」ビクンッ
って展開はよ(∪^ω^)
-
- 2015年06月18日 23:02
- ※251
横から悪いが、そもそもな話、この話構成で担当アイドルが「嫌なこと」されてるって考えが理解できない。
まあここらは個人的見解によるんだろうが、少なくとも俺は某艦これのアニメで轟沈した娘みたいに、「無意味な死」を描かれるような役割を与えられるよりは、ドラゴンボールの悟空覚醒の時のクリリンや、RAVEのジークの様な「意味のある死」を与えられることを望むわ。そのほうがより、キャラを愛でることができると思う
あ、公式が担当アイドル切り捨てにかかったりするのとは話は別な
-
- 2015年06月18日 23:05
- ※254 俺は完全に心も身体も許すんじゃなくて、拒絶しつつ立場上さからえずにずるずるな関係になってるほうが好き( ´∀`)
-
- 2015年06月19日 19:24
- この※数・・・総選挙に代表されるモバマスのソレに一言物申したい人が多いんだな
ぶっちゃけあまり上手く舵が取れてるようには見えない
やってる当人は凄い自画自賛してそうだから
ファンとの齟齬がいずれ修正不可能になるんじゃないかと見てるがさて
ただただ死に場所(止め時)を求めてるPも結構居るしなー、生暖かく見守って行きたい
-
- 2015年06月20日 12:48
- 辛くなって途中で読むのあきらめたけど文章は上手いと思うよ。
キャラ愛も感じられる、けどやっぱりどうしても内容が辛すぎる。
-
- 2015年06月20日 16:27
- ※255
読み返しておくれ このSSの話は一切してないんだ俺たち
-
- 2015年06月20日 21:40
- このSSが胸糞悪い第一の理由はアイドル達に何の責任もないことだ
上の奴らが犯した罪の火の粉をおっかぶって苦しめられて歪められてるからだ
そして歪められたそれを詭弁と欺瞞で塗り固めて賞賛してる奴が話の裏側にいるからだ
このSSのために用意された舞台がそもそもの原因
-
- 2015年06月21日 02:46
- 作者の発想が嫌い
アニメ見た後だと、歪んでる思うしモバマスで、話題を集めて賞賛を得たい人だと思う
アニメpからしたら衰退させたい人と思う
-
- 2015年06月21日 07:18
- 米261
この作者の過去作見りゃわかると思うど元々そういう作風だ
-
- 2015年06月21日 19:34
- なんでこの内容でdisなんだ?
しゅがは愛に満ち溢れたいい作品だと思うんだが
次も期待してる
-
- 2015年06月22日 08:01
- リアルっぽさとフィクションっぽさを絶妙に行き来してるね
凋落や嫉妬、すくむ足・・どれも良い表現
良い作品だった
-
- 2015年06月22日 18:42
- 読むのが辛かったり嫌だったり合わないなって思ったら、読むのやめればええんやで(ニッコリ)
合わないSSに張り付いてないで、自分に合うSS探してコメント書いてあげて、どうぞ
あと管理人は荒らしの自演を何とかしてくれ
-
- 2015年06月27日 13:41
- ※240
レス飛んできてるとは思ってなかった
もう見てないとは思うけど個人的な見解でしか無かったのをさも当然のように言ったのは間違いだったな、すまん
-
- 2015年07月05日 12:26
- 高評価のコメは自演や作者認定してる奴なんなの?
俺は面白かったよ。続きはまだ上がってない?
-
- 2015年07月25日 15:27
- 無理やわ
-
- 2015年07月25日 15:46
- これはキモい
と思ったら※欄の方がキモかった
多様性どうこう言うなら拒絶されるのも当たり前だし批判されんのも当たり前だろうに
わざわざ批判書くなというならわざわざ妄想書くなよ
-
- 2015年07月27日 19:47
- なんだこれは
しゅがはの葛藤とか成長とかあって昔読んだウサミンのss並に面白い
-
- 2015年11月16日 19:55
- 続編早く読みたいんだが
-
- 2015年12月03日 23:21
- 素晴らしいとしか言えない
アイドルの悩み、葛藤を自然に表現出来てとても引き込まれました
次回作を楽しみにしてます
-
- 2016年01月03日 09:01
- アイドルマスターとしてはいらないシリアス設定だし
現実の厳しさを持ち出すならこんな甘いもんじゃない
どっちにしろ中途半端だよ
あと文香の下りは完全なる蛇足
リアル系書きたいならこんなのよりさらにエグい現実の世界をきっちり書ききれよな
-
- 2016年01月07日 11:16
- 面白いとかよりも辛い
-
- 2016年01月26日 17:06
- 自分が欲しいものじゃないなら、手を伸ばさなければいいのに、どうしてあなた方は欲しくもないものに手を伸ばしてしまうのですか?
-
- 2016年01月26日 17:29
- 星1連投ニキと
それに気づけず星1つけちゃってる読んでない奴がちらほら
って感じかな
-
- 2016年01月26日 22:28
- 往々にして、ここで評価してる人は自分では書かないし、書いても伸びない人ばっかりってことですね
嫌ならSS見なきゃいいし、批判コメあるだろうなって予測できるんだからコメ見なければいいのに
-
- 2016年01月27日 04:02
- 私は好きだよ、甘々なssが多い中でこういったのがあってもいいと思う。
ssよりコメントが胸くそ悪い。
あと、出てくるアイドル一人もdisってないと思うんですが…ちゃんとフォローもいれてあるし…
-
- 2016年01月27日 22:16
- うあぁぁぁ~~~~~(TAT)
-
- 2016年01月31日 11:45
- 作品の質が稚拙なら叩かれるのは当たり前だし、質の低い※が叩かれるのも当たり前だろ
-
- 2016年03月20日 03:39
- 凄く引き込まれた
しゅがはの魅力が詰まった作品だと思う
コメ欄で評価が低い人がいることに驚いたけどモバからの人はあんまりシリアス展開は好きじゃない人多いのかもね
アニメもモバからやってる人から凄い叩かれてたし
-
- 2016年03月22日 05:45
- フレちゃんが鬱になる人の前作と聞いて読みに来たけど…
なんだこれ最高かよ!やっぱりしゅがはさんは最高に男前だな!
あ、でも途中めちゃくちゃ胃が痛みました
-
- 2016年03月22日 23:07
- フレうつからやってきました
こっちも面白かった
-
- 2016年03月23日 09:53
- というかこれの続きでてくれんかな
結局、一位は誰なんだよ!?
-
- 2016年03月23日 11:55
- 一位が気になって仕方ない
楓さんかな?
-
- 2016年04月18日 23:31
- 第五回総選挙の中間発表が終わったところですが、今のはぁとさん凄いですよ
-
- 2016年04月19日 12:29
- しゅがはさん総選挙50位入りおめでとうございます
少なからずこのSSの影響もあったのでは?
-
- 2016年04月19日 14:22
- 中間発表を見て真っ先にこのssを思い出した
なんか泣けてきた
-
- 2016年04月23日 11:42
- しゅがはさんPa5位とかじゃないですかー
心配なかったんや
-
- 2016年04月29日 03:44
- 作者的にモバマス版、某事務所が倒産したSSみたいな存在になりそう、この総選挙SSは…賛否両論ありまくるだろうな
フレ志希の奴はいおたかのSSを少し思い出した
-
- 2016年05月03日 02:04
- だって星1連投ニキって知的障害にコンプレックスもって必死すぎるし叩かれて当然だろう
-
- 2016年05月06日 15:34
-
このSSはシュガーとスパイスとシュガハさんのステキさでできてたってのに
コメ欄のスパイス率高過ぎてワロタ
-
- 2016年05月09日 21:22
- 765倒産のやつもフレちゃんが鬱になるやつも今回のシリーズも全部見たけれど、やっぱりすごく好きだなあ。こんなにキャラをイキイキ描けるのって本当にすごい愛情だと思う。この人の文章は惹き込まれるなあ。
-
- 2016年05月11日 22:50
- まぁそもそもスタートラインに立てない人だってたくさん居るわけですしおすし
-
- 2016年05月13日 19:11
- 9位とCDデビューおめでとう
-
- 2016年05月13日 20:04
- このSS読んだ当時はリアルでまさかこんな結果になるとは思ってなかった
しゅがはさん心からおめでとう
-
- 2016年05月13日 20:19
- やっぱみんなこれ思い出して来たのか
李衣菜編も最近完結したから見ような!
-
- 2016年05月13日 22:16
- しゅがはさん9位マジおめ!!
このSSにコメ付けるのも変だけどもw
-
- 2016年05月14日 00:59
- >「大丈夫です、そんなことしなくても、心さんは必ずブレイクしますよ」
一年越しのこの結果
感慨深いねぇ
-
- 2016年05月14日 10:37
- 全体9位!Pa属性2位!CDデビュー確定!
憧れのウサミン先輩とわずか2位しか差がないんだぜ!
今年は佐藤心の年だからな!期待してろよ☆
-
- 2016年05月15日 10:13
- ドロドロ展開に身構え期待していたが、前向きな終わり方に救いが見えた
面白かった
内容が内容なだけに批判されやすいだろうが、気に病まず完結して欲しい
-
- 2016年05月15日 14:48
- これはおめでとう
-
- 2016年05月16日 18:55
- ブレイクした、証明したんだ
-
- 2016年05月25日 00:12
- ウサミンと同じステージに立たずに逃げたのは「いつか実力で同じ舞台に立ちたい」という決意でリアルの方で1年越しでオチをつけた
そう思っとく
-
- 2016年06月13日 17:35
- どんな過酷な環境でも自分らしくあろうとする
真の逞しさをアミマミた
-
- 2016年07月17日 23:50
- 前作はアイマスの世界線で理不尽に振り回した方以外が総じて不幸になる悪夢だから、良く出来てるけど嫌い。
でも、今回はメイン二人に救いがあるからねぇ。いい塩梅のも掛けるやん。心さんが裏切るかと思ってひやひやしたぞ。まぁ今年の総選挙で爆上げする何かを持っているだけのことはあるな。うん
でもあまあまの方が好きなので。5星じゃないです。
-
- 2016年09月14日 22:01
- 面白かった
ほどよくフィクションだね
-
- 2016年09月15日 00:26
- 前作は結構前に見てうろ覚えだけど、これは今初めて読んだ
今読むと色々な思いが込み上げるな…
-
- 2016年10月13日 21:33
- リアルでちょっとだけ似たような立場(アイドルではない)だったから、このSS読んで頑張ろうと思えた
作者ありがとう
-
- 2016年12月11日 16:50
- あれ、おかしいな。
なんで画面がにじんで見えにくいんだろ
-
- 2017年04月26日 10:51
- 愛がない、とか、底辺、とか。
言いたければ言えばいい。
俺は好きだよ、こういうの。
-
- 2017年06月12日 11:12
- このハートさんは346から去ったあともアイドル続けてるんだろうなぁ
そしたらウサミンが下手な変装してトークショーのゲストに毎回来てそうw
にしても
作者はやっぱキャラを膨らませてそのままドラマにするの上手いよな お手本にしたい
-
- 2017年08月11日 21:01
- 削除依頼するくらいなら上げなきゃいいのにな。。
-
- 2017年11月13日 01:48
- これをキャラdisとしか受け止められない奴捻くれすぎて人生終わってんな
-
- 2018年07月12日 23:08
- 菜々さんシンデレラガールズおめでとうございます。しゅがはの最後の願いが叶いましたね
-
- 2018年08月05日 10:55
- このシリーズはぁとと卯月とりーな以外にないの?
-
- 2018年09月12日 18:39
- 久しぶりに読み直したけどやっぱいいなぁ
このssから心さん好きになったんだ
オチの言葉回しとマザーグースの詩が綺麗すぎる
-
- 2019年02月03日 19:39
- 17歳アイドル飲酒(合法)で炎上
-
- 2019年02月18日 22:35
- はぁと△!!
現実の順位は高いけど、まぁ第1回だと考えるとまだ存在してない=芽が出てないと受け取ったけど。
これがキャラdisだなんてとんでもない。
担当は肇だけど、こんなんしゅがは好きになるわ...泣きかけた☆
ナナもシンデレラガールになれたし良かったね。
-
- 2019年03月10日 00:17
- いい文書くなぁ
-
- 2019年05月31日 03:44
- この3年後に見事シンデレラガールに菜々さんはなったが、このはぁとさんはそのときやっぱ嬉しかったんだろうな
SSは面白かったし個人的には良作
でも、この頃はあまり2人のからみがなかったのか呼称が気になった
-
- 2020年01月03日 19:41
- ウサミンさすがっす。
-
- 2020年07月05日 21:42
- 面白かった。
反面、お花畑展開を望む方々が嫌悪するのは分からんでもない。
もっとも、自身がお花畑以外NGだからって※欄荒らしていいわけじゃないよ。
恥を知るべき
-
- 2020年07月05日 21:54
- しゅがは大躍進の契機と言われた例の白無垢の実装の直前期での投稿というのが、偶然なんだろうけど面白かった。
言い方悪いかもしれんけど、ある程度人気の下地があったからこうやって作品内で弄り倒せるんだろうなとも思った。
-
- 2021年01月26日 17:35
- 面白い。引き込まれた。