忠犬あさしお

1: ◆zPnN5fOydI:2015/06/05(金) 13:15:58.02 ID:wX34OwfC0

少々の独自設定あり



2: ◆zPnN5fOydI:2015/06/05(金) 13:16:35.27 ID:wX34OwfC0

冬が終わり、春の心地よい空気が漂い始める頃。軍の本部の前に、海軍の司令官と、そんな男とは不均衡な、清純な少女が共に立っている。

「ここで待っていてくれ、すぐに戻ってくる。そして、私が戻ってきたら、一緒に行きたいところがある」

「はい。司令官が待てというなら、私はいつまでも、待っています」

司令官は建物の中へと消えていき、少女はその場に突っ立つ。少女の名前は朝潮といい、先の司令官とは、上司と部下の関係に当たる。そして彼女は、最近まで続いていた戦争の兵隊の一人でもあるのだ。



3: ◆zPnN5fOydI:2015/06/05(金) 13:17:01.15 ID:wX34OwfC0

日が暮れ、気温が下がり始める時になっても、司令官は戻ってこない。すぐに戻ってくる、という彼の言葉を、朝潮は何度反芻しただろうか。そして最近まで軍隊で生活をしていた朝潮の手元に、現金はほとんどない。

「何をやっているの?」

声のした方を向くと、朝潮の先輩にあたる北上がそこにはいた。

「司令官を、待っているんです」

「寒くないの? 鎮守府の皆が、心配していたよ」

「ごめんなさい。でも、司令官との約束ですから」

「……体を壊さないように気を付けてね」

北上は朝潮にビニール袋を無言で渡し、暗闇に消えていった。袋の中には、コンビニのホット飲料とパン。北上が朝潮のことを心配し、なけなしの小遣いで買ってくれたものだった。

「……ありがとうございます」

朝潮は、もう姿の見えなくなった北上に対して、心の中で、そう、呟いた。



5: ◆zPnN5fOydI:2015/06/05(金) 13:17:44.53 ID:wX34OwfC0

朝日の眩しさと共に、朝潮は目を覚ます。そこには、花壇に腰を掛け、横を向いて倒れている自身の姿。軽い頭痛を感じながら体を起こす。午前6時。司令官はまだ、戻ってこない。

深海棲艦との戦争は、最終的に和解に終わった。深海側の提督と今後のことを決め、いくつか条約を結ぶことで、戦争は完結するはずだった。

しかし、深海側の無理な要求により、決定がどんどん先延ばしになっていった。司令官は、朝潮に申し訳ない思いを抱きながら、深海側との話し合いを進めた。

朝潮は疲労した体で呆然と虚空を見つめていた。北上からもらったパンと飲み物には、まだ口を付けていない。

司令官はどうしたのか、なぜ、帰ってこないのか。司令官の身に何かがあったのか。

自分を忘れてしまったという考えもなかったわけではない。しかし、朝潮は即座にそれを否定する。それは、司令官への信頼と共に、司令官への愛情でもあった。

あっという間に日は暮れ、気温は下がる。司令官は、まだ来ない。
2日間入浴することなく、愛する人を待つというのは多感な少女には辛いものであり、そんな自分に、朝潮は涙を流した。

一度感情的になると、腹は減り、喉も乾くものだ。朝潮は北上からもらったパンと飲み物を口にした。量の物足りなさはあったが、高まった気分は落ち着いた。そして再び、司令官に対して思いを寄せる。

そんな朝潮を、北上は陰から見ていた。花壇に腰を掛けて、うつらうつらとした後、横になってしまう。北上はそっと、朝潮に毛布を掛けた。



6: ◆zPnN5fOydI:2015/06/05(金) 13:18:20.96 ID:wX34OwfC0

翌日の正午、深海側との話し合いが終わった。司令官はその後の雑務を全て部下に任せて、鎮守府に戻ることにした。仕方のなかったこととはいえ、朝潮との約束を守れなかったこと。そして、2日も鎮守府を開けたことに対する不安が司令官をそうさせた。

本部を出ると、予想外の光景が目に映る。帰りが遅くなり、すでに鎮守府に戻っていると思っていた朝潮が、花壇に腰かけているのだ。

司令官は朝潮の元へと歩み寄り、肩をたたく。朝潮は一瞬、驚いた表情を浮かべ、堰を切ったように、激しく泣き出した。司令官も、彼女のことを強く抱きしめ、彼女の忠誠心に涙を流した。

二人で銭湯に寄って溜まった汗を流した後、朝潮は司令官に手を引かれ、高級な宝石店へと足を運ぶ。



7: ◆zPnN5fOydI:2015/06/05(金) 13:18:48.88 ID:wX34OwfC0

「どれか、気に入ったものはあるか?」

「司令官の買ってくれるものなら、どれでも嬉しいです」

「一生に一度のものだ。我儘くらい、言ってくれ」

朝潮はしばらく視線を泳がせた後に、黄色のかかった銀色に、小さなダイヤモンドの埋め込まれた、シンプルな指輪を選んだ。ペアで10万円を切る、安価なものだ。

「これで、お願いします」

「良いのか? もっと贅沢を言ってもいいんだぞ」

「いえ、これで、お願いします」

指輪の購入を済ませ、二人は鎮守府に戻る。司令官の会議が長引き、朝潮を2日間も外で待たせていたことは二人だけの秘密とした。二人の交際の出来事を鎮守府の多くの人に尋ねられたが、適当に受け流した。



8: ◆zPnN5fOydI:2015/06/05(金) 13:19:16.88 ID:wX34OwfC0

鎮守府に戻り、朝潮が一番に向かうのは北上の部屋。ノックをすると、返事と共に北上が部屋から出てくる。

「北上さん、毛布、ありがとうございました」

北上は驚いた顔で朝潮を見る。

「あれ、私があげたって、言ったっけ?」

「いえ。でも、こういう親切をしてくれるのは、北上さんだけですから」

北上は照れ臭そうに、丁寧に畳まれた毛布を受け取る。

「北上さん、お世話になりました」

「はいよ」

そう言い残し、北上はドアを閉めた。北上の心には、妙な心地よさが残った。



9: ◆zPnN5fOydI:2015/06/05(金) 13:19:49.48 ID:wX34OwfC0

後日、平和になった海を眺めながら、結婚指輪をはめた新婚が、幸せそうに海辺を歩いていた。一人の若い女はそんな二人を見て、優しい微笑みを浮かべていた。
-FIN



転載元
忠犬あさしお
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1433477747/
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         コメント一覧 (24)

          • 1. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2015年06月05日 16:12
          • じゃあ北上さま貰って俺は帰るから
          • 2. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2015年06月05日 16:18
          • 米1
            大井、口調だけ変えても無駄クマ。それよりとっとと入渠してくるクマ。
          • 3. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2015年06月05日 16:18
          • 北上さぁぁん!駆逐艦だけじゃなくて私にも優しくしてー!
          • 4. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2015年06月05日 16:18
          • ※1
            そっちに大井が走っていったぞ
          • 5. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2015年06月05日 16:32
          • あっさりしおあじss

            あさしおだけに
          • 6. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2015年06月05日 17:02
          • そんなことよりも深海側の無茶な要求の内容が気になる

            戦時中に強奪された菱餅の返還もしくは同量の零戦とか?
          • 7. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2015年06月05日 17:08
          • 深海側提督「……クルナ!カエレ!」「クルナッテ……イッテルノニ!」(涙目)
            人間側代表「フヒ…そ、それは無理難題でござる…」
          • 8. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2015年06月05日 17:19
          • あらあら~(無言の壁ドン)
          • 9. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2015年06月05日 17:19
          • あらあら~(壁ドン)
          • 10. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2015年06月05日 17:20
          • 投稿ミスしちってぃ
          • 11. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2015年06月05日 17:26
          • ※8-9
            荒潮さん落ち着いて
          • 12. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2015年06月05日 17:58
          • 昔あった相撲取りのあさしおの漫画おもいだしたわ
          • 13. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2015年06月05日 18:17
          • 良かった…忙殺された提督を待ち続けて冷たくなった朝潮はいなかったんだね…
          • 14. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2015年06月05日 19:46
          • 良かった、いつしか待ち合わせのスポットになるなんてなかったんやな・・・
          • 15. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2015年06月05日 20:12
          • あの見た目の子と結婚とかロリコンカッコガチじゃないですか
          • 16. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2015年06月05日 20:48
          • 良かった、しななくて本当に良かった。
          • 17. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2015年06月05日 21:19
          • やっぱみんな同じ展開考えるのな
          • 18. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2015年06月05日 23:47
          • 良かった、深海側の提督(女性)と深海棲艦に誘惑されて洗脳された提督はいなかったんやな…
          • 19. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2015年06月06日 00:07
          • 会談がすぐ終わるとか
            本部入口に連日居座る少女とか
            半日で心配して鎮守府から来てるとか

            色々あるけど朝潮prpr
          • 20. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2015年06月06日 08:19
          • 寒くて寂しい思いをさせてすまなかったね。
            さあこのハイエースに乗りたまえ。
          • 21. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2015年06月06日 19:36
          • 朝潮も北上さんもいいね、良かった
          • 22. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2015年06月07日 02:21
          • 朝潮=忠犬=ハチ公=秋田犬=秋田美人=日本三大美人

            つまり朝潮は三大美人の一人だったんだよー!
            あと二人は?ねえあと二人は誰なの?
          • 23. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2015年06月09日 15:27
          • 可愛過ぎワロッタ
          • 24. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2015年06月09日 18:21
          • や朝天

        はじめに

        コメント、はてブなどなど
        ありがとうございます(`・ω・´)

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