猫が居ました。

1:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/06/01(月) 02:31:23.51 ID:36HEwyO90

猫は心臓に病気を持っていました。

綺麗な白い毛並みと、群青色の深い瞳を持った美しい猫でした。


猫は生まれるとすぐに高値で取引されて金持ちの家にもらわれましたが、最初は可愛がっていた家族もすぐに猫に飽きてしまいます。

その上心臓に病気まで見つかってしまいましたから、もう癒えに置いておく理由はありません。


ただでさえ使用人任せだった世話も完全に放棄して、近所で噂にならないように、誰も知らない野原へ捨てたのです。

猫はみすぼらしい箱に入れられ、見た事もない景色に置き去りにされました。



2:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/06/01(月) 02:36:30.05 ID:36HEwyO90

猫は初めて雨に打たれ、初めて風に吹かれ、箱がしなびていくのよりも早くボロボロになっていきました。

もう誰も、お金を払って猫を買う者などいないでしょう。


水たまりに映る姿は雑巾のようで、群青の滴が一滴落ちると、水面に波紋をつくりました。


限界までお腹が空いてようやく、猫は箱から出ることを覚えました。

初めて歩く土は居心地が悪く、足の裏をいじめてきます。


鼻にかかる草はくすぐったくて、足元には蟻が道を作っていました。

何匹か舌ですくって食べると、幾分空腹が紛れたように思えました。



3:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/06/01(月) 02:39:36.77 ID:36HEwyO90

しばらく歩くと町に出ました。

ああやっと見た事のある景色です。


少しだけの安心は得ましたが、それでもやっぱりお腹が空いて死にそうでした。

どこを歩いたのか分からないくらい歩いて、気が付くと裏路地でした。


機械油にまみれた髭だらけの老人が、足元にパンを置いてくれました。

自分と同じくらいボロでしたが、猫は一声お礼して、それからがつがつとかぶりだしました。


老人はずっと笑っていました。



4:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/06/01(月) 02:42:38.56 ID:36HEwyO90

数日ぶりの食事はあまりに美味しくて、ポロリと涙をこぼすとそれは真珠になりました。

また、猫の左目はラピスラズリの宝石になっていました。


老人は驚き、猫の目をじっと見ると、真珠だけをひょいと拾い上げて、それからはずっと何も言いませんでした。

猫は老人にぺこりと頭を下げて先を急ぎます。



5:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/06/01(月) 02:46:50.59 ID:36HEwyO90

それからも死にそうになるたびに誰かが助けてくれ、その度に猫の身体は宝石や希少な金属などに変わりました。

右目はエメラルドに、爪はダイアモンドに、皮は絹、毛は極めて細いガラス細工に。


そうしてようやくお金持ちの家にたどり着いた時、猫の全身は輝くほど美しいものに変わっていました。

もう、もとの白猫の比ではありません。


輝く猫を使用人が見つけ、旦那に伝えました。



6:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/06/01(月) 02:51:24.69 ID:36HEwyO90

旦那は喜び勇んで駆けつけました。

その後すぐに太った奥様と、同じく太った息子もどたどたと走ってやってきました。


あの時捨てた猫が、こんなに綺麗になって帰ってきたよ。

やあ、世の中何が起こるか分からないものだなあ。

こっちへおいで。何か食べさせてあげよう。

近所中に自慢して回らなきゃ。


彼らがそう言って抱き上げようとしたその時。


猫は一声にゃあと鳴いて、それからごぼりと血の塊を吐いて倒れました。

呼んでも揺すっても動かず、触れたそばから身体は土くれに変わっていって、最後には何一つ残りませんでした。


ちくしょう、何だって急に死んだんだ。

さっきまであんなに綺麗だったのに。

どうして。

どうして。



7:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/06/01(月) 02:52:54.22 ID:36HEwyO90

猫は心臓に病気を持っていました。

綺麗な白い毛並みと、群青色の深い瞳を持った美しい猫でした。


お金持ちの家では、誰もその事を覚えていませんでした。



8:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします:2015/06/01(月) 02:54:21.37 ID:36HEwyO90

おしまいです。
見てくれた人いたらありがとう。

石英がどうたらいうのを書いてた者です。眠れなくて書きました。
これからもノンジャンルで投下していくので見かけたらよろしくお願いします。


「彼女の全身が石英で出来ていた事」



転載元
猫が居ました。
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1433093473/
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         コメント一覧 (12)

          • 1. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2015年06月01日 09:50
          • 猫ひろしです
          • 2. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2015年06月01日 10:26
          • なんとまあ・・・
            こんな話ではないけど実際仔猫の頃だけ可愛がって大きくなったら・・・て飼い主もいるからなぁ

            猫飼ってる人は大切にしてあげてね
          • 3. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2015年06月01日 11:40
          • 石英の人か!相変わらず透き通るような作品を書くね。
            白猫といえば昨日いつもは触らせてくれない白猫が触らせてくれたよ。
          • 4. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2015年06月01日 12:49
          • 3 世界の昔話でもあったね~
          • 5. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2015年06月01日 12:51
          • 悲しいなぁ
          • 6. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2015年06月01日 13:36
          • 微妙かな…
          • 7. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2015年06月01日 14:25
          • つばめと宝石の王子様の像の話思い出した
          • 8. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2015年06月01日 15:44
          • 悲しい情景だな
          • 9. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2015年06月01日 17:46
          • 4 悲しい…猫は物じゃないのに……
          • 10. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2015年06月01日 18:05
          • 白猫で青眼って聴覚障害持ってる確率高いんだが、金持ちはそれも調べてなかったんだろなと思うと…

            うちの猫は子供嫌いだったのに死ぬ間際にデレてくれたなぁ…
          • 11. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2015年06月01日 20:11
          • ※7
            「正直者は馬鹿を見る」って話と比べちゃ流石に可哀想
          • 12. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2015年06月01日 23:33
          • ※11
            あの話は神様に尊いものだと誉められ天にあがるっていう
            キリスト教的に幸せな救いがあるだろ

            この猫はどうして金持ちのとこに戻ったんだろな…

        はじめに

        コメント、はてブなどなど
        ありがとうございます(`・ω・´)

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