とある右方と超電磁砲
- 2015年05月01日 20:10
- SS、とある魔術の禁書目録
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神の右席、右方のフィアンマがとある少女の「世界」を救うお話
タイトル通りフィアンマさんと御坂美琴さんのSSです
何を血迷ったか、フィアンマさんにパートナを与えます
オッレルスさんとシルビアさんにはごめんなさいです
注意点
・とある魔術の禁書目録原作22巻までのネタバレがあります
・ほぼ初のSSなのでつたない部分が多いです
・美琴のパートナは上条さんだけだろう!など、受け付けない方はブラウザの戻るをクリック
・説明が省かれているところがちらほらあります
・独自解釈、俺設定があります
以上のことを踏まえたうえでご覧ください
ではプロローグ(のようなもの)を投下します
10月30日。
ロシアの広大な大地。それを一面埋め尽くす白い雪の“中”にその男はいた。
今にも埋もれてしまいそうだが、その男の特徴ははっきりとわかる。
赤。それ以外の言葉が当てはらないと思えるとほど、肌や目以外、服も、髪も、靴も、赤で染められていた。
顔は中性的で、髪型はセミロング、服装は極寒のロシアにはあまりにも似合わない薄い格好だった。
そして、雪に隠れてわからないが、彼の右腕は肩から失われている。
「……」
体はボロボロで、一見すると息がないように見える。
意識はあるものの、それも、もうそろそろ断ちかけていた。
(……ふん、アレイスターめ。口封じなどといいながら、俺様を殺し損ねたな)
彼の名は、『フィアンマ』。20億の信徒を抱えるローマ正教、
その最暗部にあたる禁断の組織『神の右席』の一員、『右方』を司る魔術師である。
彼はある目的のために、必要なものを戦争を起こしてまで手に入れようとした。
いや、手には入った。だが失敗した。フィアンマが求める“一番重要なもの”を持つ男の手により。
フィアンマは実力者だ。それも他の者を寄せ付けないほどの。だが敗れた。
そして、その男に敗れた後、フィアンマは男の“持ち物”の奥にあるものを見てしまった為、
科学サイドの総本山、学園都市の統括理事長であり、史上最強最悪の魔術師と呼ばれている
アレイスター=クロウリーに口封じのため襲撃された。
フィアンマが生きているのは、単純に彼の実力だろう。
(……“殺し損ねた”と強がったが、これは厳しいな)
フィアンマに今、特別な加護はない。実力で生き残ったが、このままでは凍死してしまうだろう。
ふと、フィアンマの頭に自分が狙った男の言葉が蘇る。
(「これから世界を確かめてみろ」、か……。どうやら無理のようだな)
フィアンマは心の中で微笑する。何もかも諦めたかのように。
(俺様もお前のように人一人分の「世界」とやらを救ってみたかったよ)
だんだん、意識が薄れていく。
もうじき、意識が完全に途絶えて、そのまま死に行くだろう。
そう、フィアンマが考えていたときだった。
「ちょ……ンタ!? ……丈夫っ!?」
人の声がフィアンマの耳に届いた。
おそらく自分を呼んでいる。そう感じたフィアンマは目を開こうとしたが、
(だ、れ……だ…………………)
目を開くことはおろか、声も発せないまま、意識が闇に飲まれて行った――――――――
フィアンマが目を覚ましたとき、目に入ってきたのは見知らぬ天井だった。
「……?」
少なくとも吹雪が吹き荒れる空ではなく、どこかの建物の天井。
(生きて……いる? そして誰かにここまで連れられたのか?)
フィアンマは生きていることを実感する。だが、驚きはない。
(意識を失う直前、何者かが叫んでるのを薄っすらだが覚えている。多分、そいつがここまで連れてきたのだろう)
ただ、フィアンマは感謝すべきか迷った。自分のような大罪人が生きていいのか、と。
そんなことを考えていると、部屋のドアが唐突に開き、人が入ってきた。
「あら、起きた?」
入ってきたのは一人の少女。少なくとも、フィアンマより遥かに若いだろう。
彼が人のことを言えるわけがないがロシアに来るにしては薄いように見える格好だった。
「よかった。このまま目を覚まさないんじゃないかと思ってたわ」
少女は心底安心したかのように胸を撫で下ろす。
「……日本人か……」
「日本語通じたのね。自己紹介しとくわね。私は御坂美琴、アンタは?」
何故、ため口なのか、などはフィアンマは気にせず彼も名乗る。
「……俺様は、フィアンマだ」
「フィアンマね、よろしく」
美琴と呼ばれる少女は、一切警戒せず、フィアンマに友好的な態度をとった。
フィアンマもそれに対し「よろしく」、と小さく返す。
「ところで、ここはどこだ?俺様はどうして助かった?」
さっそく、フィアンマは話題を切り出す。
「ここはロシアの病院よ。どうして助かったって、ここの医者が治療したに決まってるじゃない」
あたりまえでしょ、と美琴は言う。
「お礼を言うなら、医者に言ってね。私は連れてきただけだから」
連れてきたことも偉大である。だが、それを美琴は誇ったりしない。
自分を上げるような人間じゃない、所謂善人だろう、とフィアンマは美琴のことを結論付ける。
「大変だったわよ。今にも凍死しそうだった上に、見つけたときは右腕がなかったし、近くに落ちてた腕も冷凍保存できそうな状態だったしで。
綺麗に切れてたのと医者の腕が相まってなんとかくっ付いたけど……アンタの体ってファンタジー?」
美琴は笑ってそのときの事を語るが、フィアンマは驚いた。
(……何?)
フィアンマは右肩から先を見る。そこにはアレイスターに切り落とされたはずの腕がしっかりと付いていた。
気づかなかった、というより気にかけなかったのだろう。
ただ、フィアンマが驚いたのはくっ付いたことではない。このロシアに腕が存在していたことだった。
(くそ、アレイスターの奴、俺様の右腕は不要ということか)
フィアンマは、少し憤りを感じた。今まで自分の右腕に宿る力は絶対なものだと思っていた。
それを、たった一人の男に直接ではないが否定されたのだ。
(そこまで“あれ”に執着するか……)
その“あれ”を求めていたフィアンマが言えた口ではないが。
「どうかした?体調でも悪いの?」
「いや、大丈夫だ。心配するな」
黙り続けていたため、美琴がフィアンマに声をかけるが、それにフィアンマは適当に返す。
「そう。それならいいんだけど……。ところで実はアンタに聞いてほしいことがあるの」
「何だ」
特に困ることはないのでフィアンマは聞くことにした。
――――――――――――――――――――
フィアンマは美琴の話を聞いていた。
薄々わかってはいたが、彼女は学園都市の能力者らしい。しかも、レベル5とやらの第3位に君臨するという。
彼女はある少年、フィアンマの求めた『幻想殺し』を持つ男、上条当麻を探しにここに来たらしい。
(惚れているのかなどと、野暮なことは聞かないフィアンマである)
彼女は上条当麻の捕獲部隊(恐らく、アレイスターが仕向けようとしたのだろう)を潰し、
空に浮かぶ空中要塞に接近する方法を探し、そして、たどり着いた。
……が、上条当麻は助けを拒絶。そのまま空中要塞とともに北極海に落下して行ったそうだ。
しかし、彼女はあきらめず、地上でどうにか上条当麻を探す方法を模索していたら、
倒れていたフィアンマを見つけた、とのことだった。
「ふむ。じゃあ、俺様の話も聞いてもらうとしようか」
「いいわ」
フィアンマは語った。自分のしたこと、見たこと、すべて。
自分はローマ正教の最暗部『神の右席』所属の魔術師であることも、
その力を使って、戦争の引き金を引き、自分の必要とするものを集めていたことも。
そして、集めることによって世界を救おうとしたことも。
……アレイスターにやられたことも。
今となっては馬鹿馬鹿しいことばかりだった、とフィアンマは笑って語る。
上条当麻が空中要塞ベツレヘムの星とともに北極海に落下したことに関わっていることも話した。
「ふぅん、魔術ねぇ。本当に能力開発じゃないものだったとはね。統括理事長も……」
美琴はぶつぶつと何か呟いていた。
フィアンマは不思議なものを見るかのような顔で、
「何故だ……?」
と美琴に問いかけた。
「何がよ?」
「何故、俺様を拒絶しない? 俺様はお前の追っていた上条当麻を消したような男だぞ?」
フィアンマがすべてを話したのには理由がある。
自分を拒絶してもらいたかったから。どうしてそうしてもらいたいのかはわからない。
ただ、怒りを向けられるべきだと感じたからかもしれない。
もしかしたら、美琴に自分と一緒にいてもらいたくなかったからかもしれない。
どうして、そのような考えが出るかはわからなかったが、目の前の少女にはとにかく拒絶されて去ってもらいたかった。
「アンタの話を聞く限りじゃ、アンタ、アイツに影響されたんでしょ? だから、理事長と戦った。
確かにアンタは取り返しの付かないようなことをしたかもしれない。でも、それをきかっけに
変わろうとしている。そんな人を拒絶するなんて権利、私には持ち合わせていない」
「……」
フィアンマは美琴の言葉に黙っていた。
たった一人の少女と話し合っただけだが、少しだけ『世界』というものがわかった気がする、
とフィアンマは感じていた。だが、まだ何かが足りない。
「俺様を……許すのか?」
「許す、なんて言ってないわよ。だから私に付き合ってもらう。これでいいでしょ?」
この少女に付き合う。そうすることで、足りないものがわかるのなら。
許されなくていい、『世界』を、この少女の『世界』だけでも知ることが、
救うことができるなら、とフィアンマは考え、答えを出す。
「いいだろう。お前に付き合ってやる。俺様に遅れをとるなよ?」
結局、拒絶してほしかった理由は出てこなかったが、この少女と一緒にいることで
答えが出るだろう、とフィアンマは結論付ける。
「そっちこそ。これからよろしくね、フィアンマ」
美琴は笑いながらフィアンマに手を差し出す。
「よろしく、美琴」
フィアンマも笑って手を差し出し、握手をした。
おまけ
「ところで……」
「なんだ?」
「一人称が『俺様』ってどうなのよ」
「俺様が気に入ったから『俺様』だ。悪いか?」
「いや、でも……俺様主義って……くふっ」
「おい……今、笑っただろ」
「笑って……もう無理、耐えられない、あっははははは!」
「……そこまで、笑うことないだろう……」
その日、大笑いしている日本人の少女と、しょげている赤髪の男という、面白い光景がロシアのとある病院で見られた。
所変わって、ロシアのとある宿舎、フィアンマの部屋。
フィアンマの退院後、フィアンマと美琴は宿を探し、これからの行動を決めるつもりであった。
(破れた服を繕ってもらっているとはな。感謝してもしきれんな、あいつには)
フィアンマは3日間寝ていたらしい。その間に美琴は腕と同時に破れたフィアンマの服を縫って、
洗濯もしていた上、フィアンマの格好を見て、上着まで買っていたそうだ。
借りが増えるな、とフィアンマは心の中で笑っていた。
「とりあえず、何か話し合うか」
フィアンマは美琴と話し合うため、隣の美琴の部屋へ向かう。
そして躊躇なく開け放つ。
「美琴? いるか……?」
いるから開いてるのだろう、というツッコミは置いておく。
フィアンマが開けたドアの先、そこにいたものは……
下着を穿いている途中の美琴だった。(ブラは着けていない)
「……」
「……」
しばしの沈黙。
この沈黙を破ったのはフィアンマだった。
「これは、あれか。不幸なのか、幸運なのか……」
「ぶつぶつ言ってないで、さっさと出てけ!!」
美琴は近くにあった鞄を即座につかみ、フィアンマに投げた。
結果、フィアンマの顔面にクリーンヒット。
バンッ!!という音を立ててドアが勢いよく閉められる。
「不幸……だな」
仰向けの状態で呟くフィアンマ。
黙って出て行けば幸運だったかもしれない。
――――――――――――――――――――
「それで? なんか用だったわけ?」
フィアンマの部屋に来た美琴は、少し怒気を混ぜた口調で訪ねる。
先ほどのことを根に持っているのだろう。
「これからどうするのか、話し合いをしようと思った次第だ」
「話し合いねぇ……そりゃあ、あいつの捜索をするつもりだけど……」
あいつ。つまり上条当麻のことである。
フィアンマは美琴の目的が何であれ、美琴に付き合うと決めたため、捜索に協力することになるだろう。
「学園都市に帰りたいところだけど、アンタもいるし、“あんなこと”した後じゃねえ」
「あんなこと?」
「捕獲部隊を潰したことよ」
「ああ、なるほど」
美琴は上条当麻捕獲部隊を学園都市の23学区で殲滅している。
このことにより、学園都市へ戻ることは困難とされるだろう。
戻れたとして自由が与えられるとは思えないだろう。
「学園都市以外の技術……そうだ、アンタらの言う魔術ってやつはどう?」
「魔術か?残念だが、俺様はその手の探査術式系は持ち合わせてはいない」
「そっか……」
もっとも、十字教3大派閥である、イギリス清教、ロシア成教、ローマ正教により、
上条当麻の捜索は終了しており、結果上条当麻は見つけられなかったが。
「そういえば、アンタってどんな魔術を使うの?」
「俺様のか? そうだな……見てもらったほうが早いかもしれん」
ここで使うのか、という顔で美琴はフィアンマを見ていた。
フィアンマはそれを気にせず、魔術を行使する。
直後、ボンッ!!という共に、フィアンマの肩の辺りが弾け、赤い“手”が飛び出した。
(ふむ、右手を付けただけではやはり元の力は戻らんか。自分で操ることができ、空中分解しないのが幸いだな)
フィアンマの行使する力。『聖なる右』。
十字教では大抵の儀式は右手で行われる。『神の子』は右手をかざすだけでどんな病人でも治したという。
フィアンマの肩から飛び出た赤々とした第3の腕はそれらの十字教的超自然現象をすべてを行使できる。
今は、アレイスターに右腕を切られたため、腕を付けていても『プリテン・ザ・ハロウィン』の時の出力にすら劣るだろう。
(まぁ、自業自得のようなものだな。元の力まで戻す方法もないだろう)
フィアンマはそこまで考えて違和感に気づく。
目の前の少女に、だ。
「おい、どうした? 大丈夫か?」
美琴は俯いていた。それだけなら心配することもないのだが、彼女は胸を自分の手で押さえて苦しんでいる。
そして、違和感は美琴にだけではない。
(俺様の『腕』? 何かに干渉されている? 美琴?)
思い、フィアンマは美琴のほうを見る。
先ほどより顔色はよくなり、大分落ち着いたようだ。
そうわかった途端、『腕』の違和感は消えていった。
「ご、ごめん。大丈夫だから」
美琴は申し訳なさそうに謝る。心配させまいと思っていたのだろう。
(……なんだったのだ?)
一件落着、となったが、フィアンマの疑問は消えることはなかった。
それは美琴も同じであっただろう。
「それがアンタの使う魔術って奴ね」
「正確には、この『腕』を振るうことで、魔術を行使できるわけだ」
いくら考えても、先ほどの“問題”は解けそうにないので、魔術の話題にもどることとなった。
「どういう力を使うの? 腕を振るうだけって、想像できないんだけど」
「そうだな……まず『神の子』、と言ってわかるか?」
フィアンマは美琴の質問に答えていった。
その答えているときのフィアンマの顔は、どこか楽しそうだった。
自分の力に純粋に興味を持ってくれる人間がいる。それが彼を楽しませているのかもしれない。
そして、数々の質問に答え終わった。
「ふぅん、いいわね、便利で。水平方向ならどこまでも移動できるとか、学園都市の
空間移動能力者(テレポーター)が泣いちゃうんじゃないかしら?」
美琴は誰かを思い浮かべたような顔をした後、苦笑いをした。
「まぁ、今はそれも適わないがな。まともな出力も出せないし、その力が戻ってくることもない」
「へぇ。それは右腕が切り落とされたから?」
「まぁ、そんなところだ。ところでお前の方はどうなんだ?」
フィアンマの質問に疑問を浮かべる美琴。
すこし、言葉が足りなかったようだ。
「お前は能力者なんだろ? どんな能力を使うか俺様も興味がある」
自分の力に興味を示してくれた代わりといわんばかりの興味を示すフィアンマ。
「ああ、そいうこと」
納得した美琴はひとり頷く。
「大して珍しくもない、電気を操る能力者よ」
「電気? 電気というのは雷とかの電気のことか」
あたりまえでしょ、と笑う美琴。
彼女も自分の能力に興味を示してくれたことが、すこしばかりうれしいようだ。
「ほら」
そういうと美琴の手の上で、バチッ、と鳴り、青白い光が流れた。
「まぁ、こんなもんよ」
「電気を操る系統のトップとなると色々と応用が利いて便利そうだな」
「まぁね。でも、他の超能力者(レベル5)に比べたら、ちぽっけなもんよ」
自分の能力にどこか思うところがある。そんな表情を美琴は見せているようだった。
「他のレベル5の第4位なんかは原子崩し(メルトダウナー)とかいう、変なビーム飛ばしたりするし、
第2位の垣根帝督ってやつは未元物質(ダークマター)なんていうわけの解らない能力を持ってたりする。
それらに比べたら、私の能力なんて……」
「どうかしたのか?」
悲痛な感じでしゃべる美琴をフィアンマは気にかける。
できるなら自分が相談役になってやりたい、と彼は思っていた。
「私の能力じゃあ、北極海に落ちていく一人の人間さえ守れないのよ。
そのぐらい私の能力はちっぽけで弱弱しいものなのよ」
そいうことか。フィアンマは美琴の悩みをすぐに理解した。
手をとることを上条当麻に拒まれ、最後に使った能力さえも彼の右腕によって打ち消されてしまった。
そのことが御坂美琴という少女を苦しめていた。
それを知ったフィアンマは、
「……」
なにも言い出せなかった。
「ごめんね。こんな話アンタにすべきじゃなかったわね」
今にも泣いてしまいそうな声を出す美琴。
フィアンマはそれを見ていた。
「ちょっと、外の風を浴びてくるわ」
そう言い、ただでさえ凍えるような寒さのロシア、その冬の大地に美琴は向かっていった。
(なにが、『相談役になってやりたい』だ。結局、俺様は世界を救うなどと言っておきながら無力じゃないか……!)
出て行く一人の少女に一言も声をかけられない無力な自分を、フィアンマは嘆くばかりだった。
――――――――――――――――――――
時間は少し遡り、舞台はロシアより遠く離れた学園都市。
今更説明することでもないと思うが、この街は人口230万人のうち8割が学生である。
学生達は能力開発というものを受けており、能力の強度により6段階に分けられる。
その最高位に位置するのが超能力者(レベル5)であり、7人で構成されていて、序列というものをつけられる。
そして、そのレベル5の少年、長身金髪ホスト予備軍のような風貌をビルの屋上でなびかせていた。
「体を返してやる代わりに第3位御坂美琴の回収、一緒にいる『赤い男』の生死は問わない、か……」
序列は第二位。御坂美琴よりも序列は上だ。
(なめてやがるな……アレイスター)
能力は『未元物質(ダークマター)』。
この世にない物質、素粒子を引き出し操作する能力。
(いいぜ、アレイスター……。どんな立ち位置にようとテメェに噛み付いてやる……!)
名前は垣根帝督。
彼は自身の能力を使い、6枚の翼を展開させ、学園都市を発つ。
御坂美琴。彼女の『世界』を壊すために。
――――――――――――――――――――
美琴は宿舎から離れた雪原にいた。
まわりにはぽつぽつと針葉樹林が立っており、遠くには針葉樹林の森と北極海が見える。
そして、美琴の視線は北極海に向けられていた。
そう、上条当麻の落下した北極海だ。
「……、」
しばし、無心で北極海のほうを見つめ続ける。
やがて、ポツリと呟く。
「やっぱり、私は弱いなぁ……」
それは自分を責めるようなニュアンスが含まれていた。
「……」
美琴の言葉に続きはなく、視線も北極海から離され、空を仰ぐ。
フィアンマと長いこと話をしていたせいか、日はほとんど沈み、月が少しばかり出てきていた。
そして美琴が視線を北極海に戻そうとした直後だった。
「ぐっ……!?」
美琴の胸に突如、重圧がかかった。
最初、何が起きたか美琴はわからなかった。
(フィアンマ……じゃない……)
美琴は奥底で理解していた。
フィアンマが『腕』を出したとき、胸にかかった重圧はフィアンマの『腕』のみによるものだと。
だから、今自分の胸に来る重圧がフィアンマのものではないと。
(だとしたら……、)
フィアンマ以外の力で胸に重圧をかけているものも理解した。
自分がいつも放っているもの、それは電磁波として機能している。
自分がロシアへ来る前にはありふれていて、ほとんどいつも浴びていたもの。
そして、このロシアには存在しえないもの。
そう、
(AIM拡散力場……!)
キッ、と美琴は振り返る。
そこにはホスト予備軍のような風貌の長身金髪の男がいた。
「ん? 気配も消して、電磁波ソナーとやらにも引っかからないようにしたんだが、
演算をミスったか? まぁ、どうでもいいか」
心底つまらなそうに吐き捨てる金髪の男。
「テメェが第3位だな? ノーとは言わせねぇぞ?」
美琴は男の問いに答えない。
「アンタは……」
美琴はこの男を見たことがある。
先ほどまでのフィアンマとの会話では名前まで出していた。
「第2位……!」
「自己紹介は必要なしか。じゃあ、大人しく捕まってくれよ、第3位」
――――――――――――――――――――
向かい合う二人の間には、重い空気が漂う。
「嫌だ、と言ったら?」
「そうだな……手足の一本ぐらいもいででも捕獲してやるよ」
直後、第2位の背中で空気が爆ぜた。
そこには6枚の翼が見える。
「それがアンタの、垣根帝督の『未元物質』ってわけね。
正直にあってないわよ、メルヘン君」
「心配するな、自覚はあるさ」
垣根帝督と御坂美琴。第2位と第3位。『未元物質』と『超電磁砲』。
その間にある壁は絶対的だ。
御坂美琴では越えることはできない。
だが美琴は抗う。こんなところであきらめてはいられない。
彼女は間髪入れずに雷撃の槍を叩き込む。
対して垣根は、人間には反応できないようなそれを翼1枚で簡単にいなす。
「ふざけてるわね……。結構本気で放ったんだけど」
「そうか? 顔色も悪いようだし、そんなに強くないように感じたが。
まぁ、これがお前の限界なら失笑モンだな。もっと色々できんだろ。第3位?」
「言われなくても!」
言うと、美琴は磁力で自分の半径200メートルから砂鉄をかき集めた。
「おお、やりゃあできんじゃねぇか、第3位」
自分を通り過ぎていく砂鉄の群れを見て、素直に歓心する垣根。
美琴は大量に集めた砂鉄で長く大きい剣を形成し、それを縦に振るい、垣根に叩きつける。
案の定、垣根はそれを自身が操る翼で防御する。
砂鉄の剣は垣根の上で霧散し、彼の周りを漂う。
「つってもこの程度か。面倒くせえから次で終わらせてやるよ」
垣根は自身の翼を操り美琴に振り下ろそうとする。
その手前で美琴は口元を歪め、電撃を放った。
直後、美琴の手から放たれた電撃は垣根の近くで空気を爆発させた。
爆発により、垣根の周りに浮かぶ砂鉄が膨張し、爆発を誘発する。
つまり、粉塵爆発だ。
「が……あ……ッ!!」
垣根は元より、美琴も無事ではなかった。
爆風に巻き込まれ、熱風が襲った。
(やっ……た?)
美琴はもともと殺すことをあまりよく思わないが、敵が敵だったため、
躊躇しなかった。躊躇できなかった、のほうが正しいか。
だが、
「粉塵爆発、か。なかなか考えるじゃねえか。俺から酸素を奪うだけでも大したもんだよ」
「!?」
まだ晴れていない煙の中から、垣根帝督の声がする。
美琴は驚きを隠せなかった。
「だが、それでも常識の範疇だ。俺の『未元物質』には通用しねえ」
煙が垣根の翼により振り払われる。
見えた垣根の顔は涼しいものだった。
「それじゃあ、宣言どおり手足の一本でももいでやるよ」
美琴は抵抗しようと紫電を散らす。
しかし、美琴が放つより早く、斬撃の用途を持った翼が無慈悲に、
美琴の右肩に振り下ろされた。
――――――――――――――――――――
フィアンマは美琴に買ってもらったコートを羽織り、外に出ていた。
もちろん、美琴を探すためだ。
探していると宿舎から少し離れたところで爆発が起こる。
街のほうには幸い、音が届いていなかったのか、遠目で見た限りでは騒ぎは起きていないようだった。
爆発のほうに美琴がいるかもしれないと思い、心配になってフィアンマはそちらに向かった。
そこでフィアンマは目撃する。
御坂美琴が右腕を切断される瞬間を。
「み、こと……?」
悲鳴を上げることもせず、そのまま倒れる美琴。
切れ口からの大量の出血がフィアンマの目に映る。
「美琴!!」
フィアンマは即座に美琴に駆け寄り、自身のコートを破って傷口に巻いた。
そして、美琴を腕を切り落とした男、垣根帝督を睨む。
「テメェが一緒にいる赤い男か。生死は問わねぇと言われてるが、脅威は潰しとくべきだよなぁ」
ニヤニヤと楽しそうに笑う垣根。
それがフィアンマの怒りを増幅させた。
「お前、美琴をどうするつもりだ」
「どうするって、回収だよか・い・しゅ・う。糞みてぇな学園都市の上からの命令だ。
まぁ、お前が知ったところで意味ねぇけどな」
ここで死ぬんだから、と付け加え垣根はくつくつと笑う。
(学園都市の上……。アレイスター……!)
アレイスターとわかった途端だった。
フィアンマの右肩あたりが爆ぜ、不恰好な巨人の腕のような歪で禍々しい光の塊が出現した。
出現した瞬間、美琴の胸が大きく跳ね上がり、フィアンマの『腕』にも違和感が走ったが、
すぐに消えてなくなった。
「……おもしれぇモンだすんだな、おまえ。能力者かなんかか?」
フィアンマの『聖なる右』を見た垣根は興味深そうな声を漏らす。
フィアンマも相手の力はわからない。相手である垣根は翼を出しているが、それだけではないかもしれないし、
自分の力を超えた力かもしれない。
だが、美琴を回収する。それだけでフィアンマが攻撃する理由には十分だった。
直後、フィアンマの『腕』から閃光が放たれた。
垣根にむかって進んだ光は、容易く彼の翼によってかき消された。
「おいおい、この程度かよ。あまり俺をがっかりさせないでくれ」
(やはり、全力がこの程度か。そして相手もかなりのやり手のようだ。
だが、ここであきらめるわけにわいかない!!)
二つの力がぶつかり合う。
フィアンマは美琴を巻き込まないように、戦場移していく。
そして、垣根はフィアンマの攻撃を受け流しつつ、フィアンマの力の源である『聖なる右』にダメージを与えていく。
「やばいんじゃねぇの? 俺の攻撃でその『腕』、空中分解してるぜ」
垣根の言うとおり、第3の腕はほとんど空中分解していた。
そして、次の垣根の一撃はフィアンマの体にまともに入った。
「がァ……!?」
フィアンマの体はくの字に折れ曲がり、ノーバウンドで数km先の針葉樹林の森まで吹っ飛ばされた。
「次で終わりにしてやるよ」
そう吐き捨てて、垣根は翼を今まで以上に大きく展開する。
その時だった。
垣根の視界の端で動きがあった。
美琴だ。
(まだ意識があったのか……。何しようとしてるか知らねぇが、先に意識を刈り取っとくか)
標的をフィアンマから美琴に変える垣根。
そのとき垣根は気づかなかった。美琴の表情に。
彼女は笑っていた。
直後、数km先の針葉樹林の森から莫大な閃光がほとばしった。
垣根は即座に翼で身を守る。
だが、
「が、ァァァあああああああああああああああああああ!?」
先ほどまで防げていた攻撃が防げなかった。
そして、第2派が垣根を襲う。
出し惜しみしていたわけではなく、出せなかったのであろうはずの、巨大な剣だった。
それは軽く30kmを超え、大気を切り裂き雲を作る。
ギリギリのところで垣根は回避をし、針葉樹林の森を睨む。
『お前は俺様に似ている。昔の俺様にな』
何kmも離れているはずなのに、間近に垣根の耳にフィアンマの声が響く。
フィアンマの力が“戻っている”。フィアンマはどう思っているだろうか。
(なにがあいつに? さっきまでとはまるで違う。……! まさか……第3位……)
垣根は美琴のほうを見る。
先ほどまであった意識は、なくなっている。
視線を戻しフィアンマに向ける
(学園都市にないテクノロジー……。そうか、そういうことかアレイスター! 俺をだしに使いやがったな!!)
垣根はアレイスターの意図に気づき、何かが切れたように笑みを浮かべる。
『お前は俺様と同じで「世界」と言う奴を知らない』
フィアンマの言葉は垣根に向けられている。
それを聞いている垣根はどう思っているかわからない。ただ、構えるだけだ。
次の瞬間だった。
自身の攻撃で開けた射線をフィアンマは一瞬で移動した。
「なっ……!?」
垣根とフィアンマの距離はほとんどゼロになる。
そして、フィアンマは右腕を振り上げる。
自身の自慢の『聖なる右』ではなく、ただの右腕を。
「ここでは見逃してやる。だからその目で『世界』ってやつを見てきやがれ!!」
一人の少女の『世界』を守るフィアンマの華奢な右腕は、
言葉と共に振り下ろされ、垣根の顔面に突き刺さり、彼の体を数mほど吹っ飛した。
ごろごろと雪の上を転がり、仰向けの状態で完全に意識を失った。
――――――――――――――――――――
フィアンマはすぐに美琴に駆け寄った。
体は衰弱し、とても苦しそうだった。
(俺様の力で……!)
『神の子』は右手をかざしただけで、どんな病人も癒し、死者を蘇らせた。
けが人も例外ではない。
力が戻っている今のフィアンマならそれが可能だ。
しかし、
(力が……衰えてきている!?)
それは美琴の命に呼応するようだった。
だが、フィアンマは諦めない。
巻いていたコートを美琴からはずす。
(――――間に合えッ!!)
こんなところでこの少女の『世界』を終わらせるわけにはいかない。
フィアンマと美琴を神聖な光が包む。
そして――――。
――――――――――――――――――――
学園都市、窓のないビル。
そこの生命維持装置のなかで一人の『人間』が逆さに浮かんでいた。
(御坂美琴。彼女の『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』に魔力とAIM拡散力場の
数値入力は完了。垣根帝督を送ることでAIM拡散力場と魔力の混じった空間を作り、
彼女に“きっかけ”を与えることも成功した)
アレイスター=クロウリー。学園都市の統括理事長として君臨する史上最強の魔術師。
(彼女なら与えた力をうまく使ってくれるだろう。そして、私のプランを短縮できる。
うまく行けば彼女とフィアンマ、幻想殺しで三位一体も夢じゃないかもしれん。
後は彼女と一方通行(アクセラレータ)以外のレベル5だ)
突如、アレイスターの前に5人の顔写真が映し出される。
それはレベル5のものだった。写真の隣にはそれぞれパラメーターのようなものが表示されている。
(垣根帝督はすぐ開花するだろう。大変なのは削板軍覇かな?
まぁ、順調すぎても困りものだ。幻想殺しも時間がかかるだろうし、
時間がかかるぐらいが調度いいだろう)
そして、また虚空に戻る。
(研究者達は滝壺理后に目がくらんでいるようだが、彼女じゃあだめなのだよ。
既存のレベル57人でなければな。8人目になるのは勝手だが)
アレイスターは弱アルカリ性の液体の入ったビーカーのなかで笑みを作る。
(バードウェイとか言ったか。幻想殺しの回収ご苦労だった。
しかも特典として魔術サイドの敵となってくれるとは。
いやはや、うれしいな。私の都合のいいほうに転がっていく。
エイワス。あなたにもこのとても面白い光景を見てもらいたかったよ)
黒幕は世界のどこよりも安全な場所で笑い続けていた。
――――――――――――――――――――
ロシア上空を飛ぶ学園都市製大型輸送ヘリの中。
垣根帝督はゆっくり目を開けた。
(……学園都市に回収されたのか)
視界はぼやけているが、自分がガチガチに固定されていることと、
周りに作業服のようなものを着た連中がいることを垣根は確認する。
そして、垣根の寝ている寝台の隣には、大きな機械が置かれていた。
それは能力者のAIM拡散力場に干渉し、暴走を起こさせるAIMジャマーというものだ。
(俺をまた“あの状態”に戻すつもりか)
垣根の言う“あの状態”。それは以前、彼が第1位に敗北してしまった際とられた延命措置のこと。
脳を3分割され、ドロドロの容器の中に入れられ、体はつぶれた内臓を補うため冷蔵庫よりも大きい機械を腰の横に装着された。
現在は体が大きな損傷を負っているわけではないので、無理矢理に意識を刈り取り、
培養液の中に入れ、能力を吐き出す塊にされるだけかもしれないが。
(「世界を見て来い」……とか言っていたな、あの赤いの)
垣根は自身より常識の通用しない力を持って垣根を倒した赤い男の言葉を思い出す。
(『世界』、か……。あいつは見えてたのか?)
心の中で『世界』という言葉、その意味を考え出す。
(俺にも見れるなら、見てみてぇ)
直後だった。
輸送ヘリは空中で跡形もなく爆発した。作業服の連中の姿はひとつも確認できない。
黒煙の中には6枚の翼を展開した垣根帝督の姿しかなかった。
「AIMジャマーで能力者を無効化できる」などという学園都市の常識は彼には通用しなかった。
「『世界を見て来い』……いい課題だ。きっちりレポートして提出してやるよ」
垣根帝督はロシアの空を飛んでいく。
一人の男に突き動かされ、また一人、世界を見るため、救うため、物語が始まる。
――――――――――――――――――――
美琴が目を覚ますとフィアンマはすぐ反応した。
「起きたか。大丈夫か?」
「あー、うん、大丈夫かな? あれ? 私、右腕吹っ飛んだはずだけど……」
美琴は起きるとすぐ自分の切り落とされたはずの腕を見て、動かす。
「それは俺様の『腕』の力を使って生やした」
「え」
「ちなみに前の腕もあるぞ。いるか?」
「い、いるわけないでしょ! はやく焼却処分でもしちゃって!」
気味が悪い!、と美琴は自分を腕で体を包み込むようにし震える。
自分の腕が二本もあるなんて不気味にもほどがある。
「ところであいつは?」
「あいつ? ああ、あのチャラチャラした奴か」
あいつというのが垣根とわかるとチャラチャラした奴とフィアンマは形容する。
「お前を病院に運んだ後見に行ったがいなかったぞ」
「そう。学園都市に回収されたか、意識を取り戻してどこかに行ったのかもね。
回収された、のほうが濃厚だけど」
それを聞いたフィアンマは美琴に聞こえないぐらい小さな声で、また学園都市か、と呟いた。
「ところで、何故俺様の力が戻ったのだ? 俺様はお前がなにかやったと踏んでいるが」
いままで疑問にしていたことを美琴に訪ねる。
「私もそうだと思うわ。何をしたかはわからないけど、私の能力が不可思議な力に干渉したっていうのはわかるわよ」
「俺様の魔力というところか……」
「どうやら私とアンタの力の相性がよかったんでしょう。
そして、こんな力を私に与えたのは、多分、統括理事長アレイスター=クロウリー」
「アレイスター……」
アレイスターの名前が出ると、フィアンマの表情が曇った。
(美琴もお前の大仰なプランとやらに組まれているのか……。
もし美琴に手を出してみろ、その時は容赦しない)
口に出さず、心の中でひそかに誓いを立てる。
それは自己満足かもしれないとも思う。
だがフィアンマはそんなことは気にしない。
自己満足だろうがなんだろうが美琴を守る、と。
「他にはそうねえ……。なんか頭の中でいろんな知識が反復的に入ってくるって事かな」
「知識?」
突然、思い出したかのように放つ美琴の言葉に疑問がでる。
だがその疑問も次の美琴の言葉により消えてなくなる。
「うん。なんか『神の力(ガブリエル)』だとか、『一掃』とか、『天体制御(アストロインハンド)』、
『ベツレヘムの星』、『カバラ』とか他にも色々。これってアンタの言う魔術よね?」
「たしかに魔術および天使の知識だ。それがお前の得た力なのか?」
美琴の口から出てくる単語はフィアンマにほとんど関係し、美琴がロシアで見たものばかりだった。
カバラという単語が出たということは、ロシアより以前に魔術に触れていた、というのがわかったのは驚きだが。
「わからない。けど、これらの使用方法とかも頭に入ってくるから、そうなんじゃないかしら」
(能力者がなんの障害もなしに魔術を行使できるということなのか……?)
正直、疑問は尽きない。
ただわかるのは、これがアレイスターの企みだということ。
「アンタの第3の腕の知識だけ入ってこないから、やっぱり相性なのかしら?
まぁ、この力で――――ピピピッ――――ん?」
美琴が途中まで言ったところでベットの横にある棚の上の携帯が鳴り出した。
もちろん美琴のものだ。フィアンマはそんな物、興味すらなかった。
フィアンマはその携帯を取って美琴に手渡す。
「はい。……。どうしたの? ……! そう、わかったわ。
あいつには黙ってて頂戴。ありがとうね、じゃあ」
美琴は相手先の用件にひどく驚いているようだ。
「なんだったんだ? 随分驚いていたようだが」
「妹からね。別れ際に連絡先を教えといてよかったわ。それで内容は――――」
フィアンマは息を呑む。
もしかしたら、と思う。
「――――あいつが、上条当麻が帰ってきた、って」
「本当か!?」
そのもしかしたらが当たった。
フィアンマは思わず驚きの声を挙げてしまう。
「ええ。どうやら、心配かけただろう人達に頭を下げて回っているらしいわよ。
携帯失くして『不幸だー』とも言ってたみたいよ」
そう話す美琴の顔は嬉しそうだ。
その嬉しそうな少女にフィアンマは提案をだす。
「あいつのところに、学園都市に行くか?」
だが、その提案を聞いた美琴の顔は急に険しくなる。
「私の電話の会話を聞いてたでしょ? あいつには黙っていて頂戴、って。
私は学園都市には戻らないわ」
「どうして?」
フィアンマはすぐに聞き返す。
「あいつを救えなかった私に会う資格はない。例え、相手を心配させようともね。
だから私は今より強くなる。学園都市トップから与えられたってのは癪だけど、
この力であいつを守れるぐらい強くなる」
美琴らしい。それがフィアンマの感じたことだった。
驚きはない。美琴が決断したことだ、俺様が口出しすることではない、と。
「後輩が大丈夫かなあ、って心配になるけど、もう決めたことだし、
あの子ならロシアまで来そうだからね。あの子には悪いけど黙っておくつもり」
「その後輩とやらは随分とお前に似てるな」
「そう?」
二人で笑いあう。
フィアンマはもちろんだが、美琴もこの決断が正しいとは思っていない。
ただ、これからの美琴の『世界』は危険になる。
それに他人の『世界』を巻き込んではいけない、と思う。
だからそのために美琴は強くなることを選んだ。
「そういえばまだお礼を言ってなかったわね。ありがとう、フィアンマ。
瀕死の状態の私を助けてくれて」
「礼には及ばんさ。ただ、お前は俺様に遅れを取ったな?」
にやりと意地の悪そうに笑うフィアンマ。
「うるさいわね。これからよ、見てなさい!」
美琴は立ち上がり右手を差し出す。
フィアンマはその同じように右手を出して握手する。
「そうか。なら期待してお前の『世界』に付いて行ってやるさ」
物語がひとつの終わりを告げた瞬間だった。
――――――――――――――――――――
そして、物語がまたひとつ始まる。
フィアンマ「おいこのスーツなんかどうだ!? 結構似合っていると思うぞ!」
美琴「赤い……。てかなんでそんなにテンション高いのよ!?」
フィアンマ「……アックア」
アックア「……フィアンマ」
美琴「え? もしかしてアンタ、そんな趣味が……」
アックア・フィアンマ「違う!!」
ヴェント「みつけたわよ。赤ヤロウ」
美琴「知り合い?」
フィアンマ「知らん、あんな黄色いの。美琴、俺様の力を底上げしろ。
すぐにここから逃げるぞ」
ヴェント「なっ!? フィアンマぁぁぁあああああああああ!!」
垣根「おら、レポートまとめてきてやったぜ」
フィアンマ「お前……見てきたのか」
美琴「なんの話かわからない……」
美琴「一方通行、私はアンタを絶対許さない。でも……」
一方通行「わかってる。あいつらは俺が命を賭けてでも守ってみせる」
フィアンマ「第1位のしゃべり方となると、こンなもンなのかァ?」
一方通行(ちょっと話しただけで俺の口調を真似ただとォ?)
麦野「赤」
絹旗「超赤ですね」
滝壺「赤だね」
浜面「すげぇ赤だな」
美琴「よかったわね。アンタのチャームポイントみんな正解したわよ」
フィアンマ「……」
そして、上条当麻と交差するとき、
フィアンマ「俺様を倒した男がこの程度で根を挙げるなよ」
上条「お前!?」
美琴「――――待たせたわね」
物語は加速する――――!!
fin.
転載元
とある右方と超電磁砲
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1298714836/
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コメント一覧 (5)
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- 2015年05月02日 00:15
- 続きはよ
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- 2015年05月02日 00:49
- なかなか面白かった
作者さん誰?
フィアンマのSS書きまくってる人?
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- 2015年05月02日 01:34
- パートナで読む気なくした
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- 2015年05月03日 14:34
- ひたすら自分の恩人を痛めつけた相手に随分と優しい世界ですね
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- 2015年05月09日 09:42
- 正義側の女が無条件に不自然に悪や敵に甘くて優しいだけの話ほんときらい