【シュタインズゲート】幻影のチェシャ猫【後半】
- 2015年04月25日 23:10
- SS、シュタインズ・ゲート
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【シュタインズゲート】幻影のチェシャ猫【後半】
――
岡部「はあ、はあ、はあ、はあ....」
ラボについたときには、完全に息を切らしていた。萌郁を見た途端、再び走って逃げてきたのだ。
岡部「くっ....なぜだ!?なんであいつが現れた!?」
Dメールはエシュロンに捉えられていない。ラボメンたちにはタイムマシンについて秘密にするよう言ってある。SERNに、ラウンダーに目をつけられる要素は何一つないはずだ!。
岡部「もう....いないよな....!?」
視線はもう感じない。どうやら振り切ったようだが....
フェイリス「凶真?」
岡部「おわ!?フェ、フェイリス!いたのか!?」
フェイリス「も~、失礼しちゃうニャー。さっきからずっと話しかけてたニャン!」
岡部「フェイリス!ラボメンを大至急召集するのだ!早く!」ガシッ
フェイリス「はニャ!?ど、ど~したのニャ....?」
――
夕方になって、クリスティーナ以外のラボメンが集まってきた。もっとも、クリスティーナはまだ正式なラボメンではないが。
ダル「どしたん?急に」
フェイリス「今日も顔色が悪いけど、何かあったのニャ?」
岡部「....お前たち、ラボ以外の場所でタイムマシンのことを話したか?」
ダル「いや、あんなん見せられて外で話すとかありえなくね?僕は怖くて話せないお」
まゆり「オカリンが話すなって言ってたから、話してないよ。まゆしぃ、よくわかんないし」
るか「凶真さんが絶対話すなとおっしゃっていたので、ボクは話してません!」
鈴羽「あたしは当然話してないよ」
フェイリス「フェイリスも、絶対言ってないのニャ」
岡部「そうか....」
そもそも、多少の情報が漏れたところで、こんな学生だけの素人サークルに本当にタイムマシンがあると信じる奴なんていないだろうが....
いや、むしろ問題はこれからだ。
岡部「いいか、ラボの外で誰かに話しかけられた時、絶対にこのラボのことは話すな!怪しいやつにメールアドレスを教えてもいけない!特に桐生萌郁という、メガネをかけた女には注意しろ!」
まゆり「きりゅー、もえかー?」
るか「わ、わかりました!メガネのひと、めがねのひと....」
ダル「色仕掛けされんことを祈るお!いや、むしろウェルカム?」
岡部「わかったな?では、今日は解散だ。....フェイリス、鈴羽、ちょっと話がある」
フェイリス「ニャニャ?」
鈴羽「........」
――
鈴羽「何かあったの?急にあんなこと....」
岡部「ラウンダーが現れた。前の世界線で、まゆりを何回も殺した奴だ」
フェイリス「!....ら、ラウンダーって....?」
鈴羽「ラウンダーは、SERNの汚れ役担当の実行部隊だよ。主な任務は、IBN5100の捜索と回収」
岡部「それと、世界中のタイムトラベル研究の監視もだ。目的のためなら、殺人も窃盗も誘拐も厭わない危険な連中だ」
鈴羽「あたしたちは、2036年でラウンダーと戦っていたんだ。岡部倫太郎も、父さんも、ラウンダーに殺された」
フェイリス「そ、そんな....でも、なんで?見つかるようなことは、してないニャ」
岡部「わからん。まだ偶然、という可能性もある。あいつはかなり変わった奴だったからな。....とりあえず、お前たちには本当のことを言っておく。警戒は怠るな。いいか、常に携帯をいじっている女だ。それらしいやつを見つけたら、俺に教えてくれ」
鈴羽「わかった。偶然、か....だったらいいんだけどね」
フェイリス「う~....こ、怖いニャ....」
――11月21日(日)
あれから何日かたった。が、萌郁が現れる気配はなかった。視線を感じることもなかった。
偶然だった....のか?
岡部「........」
なんとなく街をうろついてみるが、桐生萌郁は見当たらず、視線も一向に感じない。どうやら、杞憂だったようだ。
と、前方で見覚えのある後姿を発見した。何かを覗き込んでいる。
岡部「....クリスティーナよ。何をそんなに一生懸命見ている」
紅莉栖「うわあっ!?」
紅莉栖「って、えーと、岡部?」
岡部「岡部ではない!狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真だ!」
紅莉栖「はあ....?厨二病乙!」
岡部「もはやねらーであることを隠そうともしないな!クリスティーナ、いや@ちゃんねらークリス!」
紅莉栖「う、うるさい!」
岡部「なにを見ていたのだ?....これは、うーぱのぬいぐるみか」
紅莉栖「い、いや、これは、そのー....」
岡部「そうかそうか!まだ臀部に蒙古斑があるクリスティーナお嬢ちゃんは、かわいいものが大好きか!フゥーハハハ!」
紅莉栖「あー、もう!かわいいもの好きで悪いか!」
岡部「臀部に蒙古斑は否定しないのだな」
紅莉栖「蒙古斑なんてないわ!セクハラよ、セクハラ!」
岡部「フゥーハハハ!これはすまなかったな。かわいいものが好きなら、お詫びにいいところに連れていてやろう!」
紅莉栖「い、いいところ!?....まさか、今度こそいかがわしいところに連れ込むつもりじゃ――」
岡部「何を妄想しているんだ、この天才HENTAI少女は」
紅莉栖「HENTAIはあんたでしょ!」
「「おかえりニャさいませ、ご主人様♪」」
紅莉栖「....女の子をいきなりメイド喫茶に連れて行く男の人って....しかもネコ耳とか、ハードル高すぎ」
フェイリス「いらっしゃいませ、お嬢様♪牧瀬紅莉栖さんだから、クーニャンでいいかニャ?」
紅莉栖「は、はあ!?何言っちゃってるの、この子は!?ク、クーニャン!?」
フェイリス「お気に召さないのかニャ?」
紅莉栖「それ以前に、なんで名前を知ってるの?」
岡部「もちろん、会ったことがあるからだろう。自己紹介もしていたぞ」
紅莉栖「いやいや、ネコ耳メイドさんに知り合いなんていないって....」
フェイリス「フニャ!?....クーニャンは、フェイリスのこと忘れちゃったのかニャ....」グスッ
紅莉栖「ええ!?だ、だって忘れるも何も....ん?」
フェイリス「んニャ?」
紅莉栖「あれ....もしかして、秋葉さんの娘さん!?」
フェイリス「もー、クーニャンは鈍いニャ~。それとも、フェイリスにわざとイジワルしてたのかニャ~?」
紅莉栖「わざとじゃないから!だって、全然違うじゃない!!」
岡部「顔は一緒だ」
紅莉栖「で、でもあの時はおしとやかそうなお嬢様だったのに....」
フェイリス「あれは世を忍ぶ仮の姿ニャ!フェイリスは、この趣都秋葉原の萌えを守り抜くためにネコ耳から萌え萌えパワーを吸収し、ネコ耳メイド“フェイリス・ニャンニャン”として覚醒したのニャン♪」
紅莉栖「ええ~....うそでしょ....ちゅ、厨二病、乙....」
――
まゆり「トゥットゥルー♪コーヒーお待たせいたしましたニャン♪オカリン、この人が新しいラボメンなの~?」
岡部「そう、クリスティーナだ」
紅莉栖「いや、適当すぎでしょ!クリスティーナじゃないし!」
紅莉栖「ええと、あなたもラボメンなのね。牧瀬紅莉栖です。まだラボメンになるって決めたわけじゃないけど、よろしく。あなたのお名前は?」
まゆり「クリスちゃんだね!よろしくニャンニャン♪マユシィ・ニャンニャンです♪」
紅莉栖「....いや、本名は?」
岡部「椎名まゆりだ」
紅莉栖「この店めんどくさい....」
岡部「ところでクリスティーナよ、まだラボに入ってくれないのか?」
紅莉栖「だって、あんな話いきなり全部受け入れるのは無理よ。それにタイムマシンなんて興味ないし」
フェイリス「それはウソニャ!」
紅莉栖「うわっ!?留未穂さん、いきなり現れないで!ビ、ビックリした....」
フェイリス「む~。フェイリスは、フェイリスニャ!」
紅莉栖「はいはい、ここではフェイリスさんね」
岡部「いや、フェイリスは普段からフェイリスだ」
紅莉栖「いやいや、そんなわけ....」
岡部「本当だぞ。あの時留未穂だったのは、偶然なんだ」
紅莉栖「普段からフェイリスって....アキバおそるべし....」
フェイリス「そんなことより、クーニャンは素直になったほうがいいのニャ♪」
紅莉栖「す、素直って何が!?」
フェイリス「ホントは、タイムマシンを研究したくてしょうがないはずニャン!」
紅莉栖「そ、そんなはずないでしょ!何言ってるの、この子は!?」
岡部「だが、興味がないはずがないだろう?夏にATFでタイムトラベル理論に関しての講義をしたよな?」
紅莉栖「え?あんたもあの講義聞いてたの?あれは頼まれただけで....それに、あの講義はタイムトラベルを否定する内容だったでしょ!タイムマシンは実現不可能でFA!」
フェイリス「....むむむ、本当に素直じゃないのニャ。....クーニャンのパパはずっとタイムマシンを研究してる人なんだから、クーニャンがタイムマシンに興味があっても全然おかしくニャいのに」
岡部「なに!?そうなのか?」
紅莉栖「い、今は父とは仲悪いし....そもそも、あんな人もう父親じゃない!大嫌いよ、あんな人!」
フェイリス「....ほんっとに素直じゃないのニャー。....ニャフフ、クーニャンはかわいーニャン♪」
紅莉栖「いや、ほんとに嫌いだから!」
岡部「その父親っていうのは何者なんだ?」
フェイリス「Dr.中鉢ニャ。本名は、え~っと、牧瀬章一。フェイリスのパパもタイムマシンに興味があって、一時期は資金援助みたいなこともしてたらしいニャ」
岡部「ド、Dr.中鉢!?ま、まさか!」
紅莉栖「....はあ。今日はもう帰るわ。なんだか疲れた」
フェイリス「あ、ご、ごめんなさい....フェイリスがうっとうしかったかニャ....」
紅莉栖「ふえっ!?ち、違うから!そういうわけじゃなくて!ええと、シーユー!」タタタ...
岡部「まったく、クリスティーナは相変わらずのツンデレっぷりだな」
フェイリス「素直じゃないニャ~....」
――
仕事上がりのフェイリス、まゆりとともにラボに戻ると、ダルと鈴羽が二人で何かしていた。
鈴羽「あ、みんな、うぃーっす。休みもらっても、結局ラボでボーっとするくらいしかやることなくてさ....それより、見てみて!橋田至がすごいの作ってるよ」
岡部「ん?なんだこれは....また光線銃か?」
ダルは、ビット粒子砲のようなおもちゃの光線銃をいじっていた。
ダル「オカリン、引き金引いてみ」
岡部「引き金?」カチッ
―ズドオォォン!!!
轟音が鳴り響き、光線銃の中から黒くてでかいものが飛び出していった。
岡部「うおお!?」
まゆり「わわー!あぶないよ、もー」
フェイリス「フミャあ!!び、びっくりした....」
鈴羽「ほら、これ!スタンガンだよ。小さく改造してあるけど」
岡部「もしかして、スタンガンを遠距離用に改造しているのか?」
ダル「まだ発射と同時にスタンガンの電源を入れて、そのままの状態で飛ばす機能はできてないけどね。とりあえず飛ばすだけはできたお」
フェイリス「警察に見つかったりしたら、面倒なことになるんじゃないかニャ~?」
ダル「その辺突破して持ち歩けるように、見た目はおもちゃそのものなのだぜ?」
まゆり「ほんとだー。すごいよ、ダル君」
岡部「しかし、なんでまたこんなに実用的なものを....」
ダル「いや、最近リアルに不審者がうろついてるってオカリン言ってたっしょ?うちのラボは女の子も多いし、身を守れるものとか、あるといいと思ってさ」
岡部「そういうことなら、なぜこの俺に言わん!少しは手伝うぞ」
ダル「いや、なんかオカリン最近切羽詰ってそうだったし。何してるか知らんけど、邪魔しちゃ悪いと思って」
岡部「ダル....さすが、マイフェイバリットライトアームだ!」
鈴羽「それにしても、皆のためか~。橋田至って、いいやつだね!ちょっと見直した」
まゆり「ダル君は、実はとっても優しいんだよね~♪」
フェイリス「こんなにデッカイのを飛ばすなんて、ダルニャンはすごいニャ!」
ダル「....フェイリスたんフェイリスたん。こんなにデッカイのってとこ、おびえてる感じでもう一回――」
岡部「言わせるなHENTAI!」
鈴羽「....はあ。せっかく見直したのに....」
――11月24日(水)
岡部「....ん?」
大学での講義中、何気なく窓の外を見ると、見覚えのある姿がうろついているのが見えた。
岡部「あいつ、何をやってるんだ?」
岡部「....おい、バイト戦士」
鈴羽「へ!?うわあっ!!」バキッ
講義が終わった後、うろついていた鈴羽を見つけて話しかけたら、いきなり殴られた。なんでだよ!
岡部「ぐおお!」
鈴羽「岡部倫太郎!?もー、ビックリさせるなー!敵襲かと思ったよ」
岡部「て、敵だったら話しかける前に攻撃するだろ!?」
鈴羽「まあ、そうかも....ごめん、岡部倫太郎」
岡部「もういい。バイト戦士、もしかしてダルの様子を見に来てたのか?」
鈴羽「んー、まあね。バイトも休みだし、ちゃんとやってるかなーって。橋田至、今日はいないの?」
岡部「奴は今日はもういない」
鈴羽「ええー!?なんで?先週はいたはずなのに!」
岡部「何かアキバでイベントがあるらしい。俺に代返を任せてな。サンボの牛丼で手を打った」
鈴羽「ふーん....不忠勤なんだ」
ふちゅうきん....?わからん。
岡部「もしかしてお前、休みのたびにダルの様子を見に来てるのか!?」
鈴羽「あ、あはは~....なんか、気になっちゃって。あたしのほうが娘なのにね」
鈴羽「それより、牧瀬紅莉栖から返事は?もうすぐ12月になっちゃうよ」
岡部「そうだな....あまりあいつをふらふらさせておきたくない」
鈴羽「牧瀬紅莉栖の研究所の場所は調べたよ。やっぱり、今からでも拘束したほうが――」
岡部「そんなこと、今の日本でやったら犯罪になるわ!」
鈴羽「君が反対するなら、あたし一人でも....」
岡部「ええい、じゃあ今からその研究所に行くぞ!今度こそやつを納得させる。だから拘束はやめてくれ!」
――
紅莉栖「あっ、あんたたち、何してるの!?」
研究所につくと、ちょうどいいタイミングで紅莉栖が外に出てきた。
岡部「今日はもう終わりか?」
紅莉栖「....なに?またメイド喫茶でも連れて行く気?」
岡部「お望みならそれでもいいが。クリスティーナよ、まだわがラボに入ってくれないのか?」
紅莉栖「うーん....どうしても気になるというか、気に入らないというか....そういうことが一つあって」
岡部「何が気に入らんのだ?ラボが汚いところか?狭いところか?このセレセブめ!」
紅莉栖「セレセブ!?なんぞそれ?」
岡部「セレブ・セブンティーン、略してセレセブだ」
紅莉栖「セレブでもないし、セブンティーンでもないわ!....その、阿万音さんよ」
鈴羽「....あたし?」
紅莉栖「そ、そうよ!その人、私をやたらと敵視してるし、しかも未来人とか言っちゃってるし....そもそも、未来人っていう根拠はあるの?あるなら出しなさい!」
鈴羽「な、なにー!あたしが嘘ついてるっていうの!?」
紅莉栖「それか、ただの厨二病ね」
鈴羽「なら、証拠を見せてあげるよ!」
岡部「お、おい!何を見せる気だ?」
鈴羽「二人とも、ついてきて!」
紅莉栖「ふえっ!?ほ、本当にあるの!?」
――
鈴羽に連れられてたどり着いたのは、アキバのはずれにある貸し車庫だった。
岡部「ま、まさか....」
鈴羽「そう、タイムマシンを見せる。誰が聞いてるかわかんないし、大きい声出さないでよ」ヒソヒソ
キョロキョロと周りを見回しながら、貸し車庫の中に入り、扉を閉める。そこまでして、やっと鈴羽はふうっ、と息を吐いた。
鈴羽「....これが、このシボルエがタイムマシン。過去にしか行けない未完成品だけどね」
鈴羽「君たちなら、本物だってわかるはずだよ」
紅莉栖「この外車が?....中を見せてもらっても?」
鈴羽「あんまりいじくらないでよ。繊細だし....父さんの形見でもあるんだから」
俺と紅莉栖はシボルエの中を調べ始めた。確かに、見る人が見れば、すぐにわかる――
紅莉栖「う、うそ....こんな技術、あり得るの?」
鈴羽「この時代には存在しない技術も使われているらしいからね」
岡部「やはり、電話レンジ(仮)に少し似ているな」
しばらくすると、紅莉栖が観念したようにつぶやいた。
紅莉栖「もう納得するしかないみたいね、タイムマシンのこと....」
岡部「おお!やっとわかってくれたか、クリスティーナよ!」
紅莉栖「クリスティーナじゃないと言っとろーが!....平日は忙しいし、土曜日にお邪魔させてもらうわ。そこで返事をする」
岡部「って、今じゃないのか」
紅莉栖「う、うるさい!心の準備ってもんがあるでしょ!」
鈴羽「仕方ないか。....まあいいよ。牧瀬紅莉栖、これで君を近くで見張れるよ」
紅莉栖「あなたの敵意は変わらないってことね。まあいいわ」
岡部「....やれやれ」
――11月27日(土)
紅莉栖「....えーと、は、はろー。牧瀬紅莉栖です」
土曜日、やっと紅莉栖はラボに現れた。まったく、ツンデレには困ったものだ。
まゆり「あ~!クリスちゃんだ!トゥットゥルー♪」
フェイリス「クーニャン!やっと素直になったのニャ~」
ダル「黒スト女子キターーー!橋田至です。初めましてよろしくお願いしますキリッ!」
るか「ええと、漆原るかです。は、はじめまして」
紅莉栖「よろしくね、みなさん。橋田さんと、漆原さんでいいかしら?」
鈴羽「....ふーん。最初はそういう雰囲気で行くんだ」
紅莉栖「....何か文句あるの?」
鈴羽「べっつにー」
紅莉栖と鈴羽は、さっそく睨み合っている。大人気のないやつらめ....
フェイリス「あの二人、仲悪いのかニャ....」
岡部「そうだ。前世からの運命的なアレでな」
フェイリス「でも、皆との顔合わせくらい和気あいあいと言ってほしいニャ」
まゆり「そうだよ。喧嘩はよくないよ~」
岡部「和気あいあいか....よしフェイリス、任せた」
フェイリス「フニャ!?なんでフェイリスが!?」
ダル「オカリンが連れてきたんだから、オカリンが責任取るべきじゃね?」
岡部「う....だ、だがこういうのはフェイリスの得意分野だろう!?」
フェイリス「ニャニャ!?....確かに。むむ~....」
るか「だ、大丈夫ですか?フェイリスさん」
フェイリス「....よ、よーし!クーニャン!今から、フェイリスとネコ耳をつけるニャ!一緒にニャンニャンするニャン♪」
....どうしてそうなった。
紅莉栖「....ええ!?」
ダル「い、一緒にニャンニャンだとお!?キマシタワー!」
るか「い、一緒にニャンニャンって....///」
まゆり「ダル君もルカ君もえっちだね~」
るか「そ、そんなあ....ひどいよ、まゆりちゃん....」
紅莉栖「ええと、一緒にニャンニャンってことは、あのくんずほぐれつしてムギューッてするアレの隠語っていうこと!?」
岡部「おまえは何を言っているんだ」
鈴羽「....フェイリス、椎名まゆり。そろそろバイトの時間じゃない?」
フェイリス「ニャ!?仕方ないニャ....」
まゆり「二人とも、喧嘩はだめだよ?じゃあ、またねー」
るか「あ、ボクも神社に戻らないといけないので....それでは、えーと、エル・プサイ・コンガリィ」
岡部「コングルゥだ!」
ダル「じゃ、僕も出かけてくるお」
岡部「な....!?ダルよ、俺を見捨てるのか!?」
ダル「いや、しらんがな。オカリンが連れてきたんしょ。なんとかしといて」
あいつら、皆行きやがった!なんでよりによって鈴羽だけバイト休みなんだよ!最近こればっかだぞ!?
紅莉栖「........」
鈴羽「........」
岡部「うぐぐぐ....い、胃がああ....」
岡部「くそっ!クリスティーナよ!今日からおまえはラボメンナンバー007、そしてこの鳳凰院凶真の助手だ!ラボメン同士の反目はこの俺が許さん!」
紅莉栖「は、はあ!?いつ私があんたの助手になったのよ」
岡部「黙れえぃ!ラボメンの一員になったからには、存分にあの電話レンジ(仮)を調査するがいい!バイト戦士には邪魔はさせん!フゥーハハハ!」
紅莉栖「ホント、やかましい男ね。まあ、調査はさせてもらうけど」
鈴羽「む~....」
岡部「わからないことがあれば何でも聞くがよい!お前には、早く電話レンジ(仮)の仕組みを理解してもらわねばならんからな」
鈴羽「岡部倫太郎!破壊されないように注視しておかないと!」
紅莉栖「そんな事せんわ!失礼な!」
鈴羽「う~....」
なんだかんだ言いながら、電話レンジ(仮)の前に立つと紅莉栖は一瞬で研究者の顔になった。
紅莉栖「本当にミニブラックホールがこの中に....あ、SERNのデータも見せて。ふむん....電子をミニブラックホールに注入しているのは、下の42型ブラウン管テレビだっけ?ああ、リモコンはここにあるのね。ということは、いつでも実験可能ってわけだ....」
岡部「やはり、助手は実験大好きっ娘のようだな。クックック....」
エシュロンのことと特定ワードに気を付けることを紅莉栖に伝えると、さっそくDメール実験が始まった。
....が、紅莉栖がすさまじい勢いで実験を繰り返したため、Mr.ブラウンがラボに怒鳴り込んでくるという緊急事態が発生した。
天王寺「岡部え!!てめえ、何してやがる!」バアン!
岡部「み、Mr.ブラウン!?不法侵入だ!」
天王寺「ああ!?家主は俺だろうが!ガタガタガタガタと、さっきから何揺らしてやがんだ!」
岡部「ちょ、勝手に入ってくるんじゃない!」
天王寺「んん~?....本当に、何してたんだ?」
思いっきり入り込まれてしまった....まあ、見ただけでは電話レンジ(仮)がなんであるかは分かるまいが....
鈴羽「い、いや~、岡部倫太郎と戦争ごっこしてたら、つい盛り上がっちゃって!ごめんなさーい!」
よし、ナイスフォローだ、バイト戦士!
岡部「すまない、Mr.ブラウン。お詫びに、下働きとして今日一日そのバイト戦士を好きにこき使うがいい!フゥーハハハ!」
天王寺「ああ!?....それ、本当か?」
鈴羽「ええ!えーと....うん、任せて!あたし、こう見えても力はあるよ!」
すまん、バイト戦士よ。
天王寺「んじゃ、今日の店番任せていいか?実はいかなきゃならね―ところがあってよ」
鈴羽「それぐらい楽勝だよ!何が来ても守り切ってみせるよ!」
天王寺「いや、むしろなんもこねえと思うけどな」
な、なんという幸運!これで紅莉栖の満足いくまで好き放題実験できる!
――
紅莉栖の実験と調査は夕方まで続いた。
紅莉栖「....なるほど。これはとんでもないバケモノみたいね。ていうか、奇跡みたいなものよ、これ」
岡部「奇跡とは、どういうことだ?」
紅莉栖「たぶん、あらゆる条件がここで奇跡的にかみ合っているの。このビルの電力量とか、ブラウン管の配置とか、電子レンジの性能とか、ほかにもいろいろ。それによって、SERNがずっと悩まされている電子量という問題を自然に突破しちゃってる」
岡部「なるほど。つまり、このラボでなければこの電話レンジ(仮)は生まれなかったということか」
紅莉栖「そうよ。....ねえ、阿万音さんが未来からやってきたのは、過去を変えるためよね?じゃあ、あんたがこれを作ったのは何のためなの?偶然?それとも、阿万音さんに出会ったから?」
岡部「そうだな....」
前の世界線では、紅莉栖は俺の話をすべて信じてくれた。だが、今はどうだろう?あの時ほど、まだ親しくなれていない....
岡部「これは、最初は偶然でできてしまったものだ。そしてSERNをハッキングしてその計画を知り、そこに同じ目的を持った阿万音鈴羽が現れた、ということだ」
岡部「鈴羽のタイムマシンは、この電話レンジ(仮)をもとにして未来でダルが作ることとなる。鈴羽がこのラボに現れたのは、ある意味では必然だ」
かなりかいつまんだ説明になってしまったが、仕方ない。
紅莉栖「....つまり、阿万音さんのタイムマシンをもとにしたんじゃなくて、この電話レンジが阿万音さんのタイムマシンのもとになっているのね」
紅莉栖「ん?ダルって、橋田さんのこと?あれ、阿万音さんの父の形見って....そうなんだ、へえー....」
岡部「これは推測だが、お前が2011年の時点でSERNに移籍していなければ、未来が変わると思う」
紅莉栖「....そうしたら、阿万音さんはどうなるの?未来が変わってしまったら、もう過去を変える必要がなくなって....ええと??」
岡部「その時は世界線が変わり、今が再構成される」
紅莉栖「世界線?」
おそらく、リーディングシュタイナーは今の時点では信じてくれないだろう。とりあえず、アトラクタフィールド理論については説明しておこう。
――
その説明が終わるころ、鈴羽がつかれたようにラボに戻ってきた。さらに、同じタイミングでダルも戻ってくる。
鈴羽「もー、退屈すぎて死ぬかと思ったよ。誰も来ないしさ。あの店、大丈夫なの?」
ダル「あ、オカリン。例のモノ、持ってきたお」
岡部「例のモノ?俺は何も頼んでないぞ」
ダル「阿万音氏と牧瀬氏を仲良くするためのアイテムだよ。オカリン、これをもとめてたっしょ?」
岡部「なに!本当か!?でかしたぞ、ダルよ!」
鈴羽「本当!?でも、なんで橋田至が?」
ダル「いや、二人ともあんまここに長くいられないってことを聞いてさ。せっかくだからみんなと仲良くなって、いい思い出を作ってもらいたくて」
紅莉栖「は、橋田さん....ごめんなさい。あなたのこと、正直見た目で勘違いしてたわ」
鈴羽「えへへ....橋田至、君ってやっぱりいいやつなんだね!」
岡部「ダルよ、俺は今モーレツに感動している!さあ、そのアイテムとやらを出すんだ!」
ダル「括目せよ!おにゃのこ同士が仲良くなると言ったら、これしかないっしょ常考!」バンッ!
岡部「百合ゲー、だと....!?」
紅莉栖「....これは何の冗談?」
ダル「ゲームの中でおにゃのこ同士がちゅっちゅしてたら、ああ、私達も疼いてきちゃった♡♡♡ってなるじゃん?そしたら――」
紅莉栖「そんなわけあるか、そんなわけあるか!バカなの?死ぬの!?」
ダル「ルイズちゃんの名言キター!」
岡部「ダルに期待した俺が馬鹿だった....」
紅莉栖「このHENTAI!もうさん付けなんてしないからな!」
ダル「フヒヒ、サーセン」
鈴羽「....はああ」
――
フェイリス「たっだいまニャ~ン♪クーニャン、何叫んでたニャ?」
紅莉栖「フェイリスさん!聞いてよ、このHENTAIが――」
岡部「ダルよ、お前もうちょっと自重したほうがいいぞ。実はものすごく恥ずかしいことをしている」
ダル「黒歴史製造機のオカリンにだけは言われたくないお!」
フェイリス「――ニャるほど、百合ゲーとはダルニャンらしいニャ!フェイリスも二人が仲良くなる方法を考えてきたのニャ♪」
鈴羽「ええ~?どうせネコ耳つけて二人でニャンニャンとかいうんでしょー?」
ダル「ネコ耳プレイだとお!?阿万音氏、それすごくイイ!」
紅莉栖「ぜ・っ・た・い・イ・ヤ」
フェイリス「フェイリスはまだなにも言ってないのに~....」
岡部「今度こそまともなことを言うんだろうな?」
フェイリス「もっちろんニャー♪明日、ラボで歓迎パーティを開くのニャ!」
紅莉栖「ホントにまともね....むしろビックリよ」
岡部「ふむ。血の盟約によりヴァルハラに集いし不死の戦士たちによる宴、というわけか」
紅莉栖「....なんで北欧神話?」
ダル「オカリンがカコイイと思ってるからじゃね」
フェイリス「クーニャンがお望みならギリシャ神話風にもできるニャ♪」
鈴羽「パーティ、宴、パーティ....えへへ、楽しみだな~♪」
――11月28日(日)
パーティは夜からである。それ迄の時間、紅莉栖にタイムリープマシン制作を依頼する。
紅莉栖「タ、タイムリープ!?そんなことできるわけ――」
岡部「いや、お前が言い出したんだが」
紅莉栖「言ってません」
タイムリープについても一から教えるのか....前の世界線では、こいつが言い出したのに。
岡部「まったく、助手は仕方のないやつだな。いいか、Dメールを送る要領で、圧縮した記憶のデータを携帯電話を通じて過去の自分の脳に送り込む、ということだ。」
紅莉栖「な、何よそのトンデモ発想は....!」
岡部「助手よ、お前は記憶のデータ化に関する論文でサイエンス誌に載ったんだろう?」
紅莉栖「えっ....そうか、確かにできるかも....で、でも、記憶のデータの圧縮はどうするの?」
岡部「ダルのクラッキングで、SERNのLHCを使わせてもらう」
紅莉栖「それ、SERNにばれないの?」
岡部「奴はこの鳳凰院凶真のフェイバリットライトアームにしてスーパーハカーなのだぞ!そんなヘマは踏まん....はず、だ」
紅莉栖「ならいいけどね」
紅莉栖「....よし、じゃあさっそく作るから、必要なパーツ買ってきて」
岡部「やはりやる気満々じゃあないか!実験大好きっ娘はさすがだな!よかろう!この鳳凰院凶真が責任を持ってパーツを集めてきてやろう!!フゥーハハハ!」
紅莉栖「いや、はよ行けよ」
岡部「なっ!?助手の分際で~....」
まさか萌郁が現れたのは、ダルのハッキングがばれたからか....?だが、ばれた痕跡はないとダルは言っていた。
なんにせよ、電話レンジ(仮)の存在さえ隠しきれば、ラボはただの素人サークルにしか見えないはずだ。これまで通り、情報が漏れないよう気を付けていれば、何も問題ない。
――
岡部「助手よ、ドクペでいいな?」
紅莉栖「助手じゃないと言っとろーが!まあ、ドクペはもらうけど。ありがと」
ダル「ツンデレ乙!」
紅莉栖「デレとらんわ!」
るか「す、すごい量のピザですけど....大丈夫なんでしょうか」
まゆり「ダル君がいれば大丈夫だよ~」
鈴羽「こ、これがパーティ....」
まゆり「ジューシィからあげナンバー1に、からあげあげクンに、ジュースに、おかしに、ピザに、あとなんかたくさん!」
紅莉栖「見事に太りそうなものばっかりね」
鈴羽「すごいよ!これが酒池肉林ってやつだね!」
フェイリス「では、聖なる神々の魂への召集に引き寄せられし精霊たちの最後の晩餐を始めるニャ!」
紅莉栖「いくらなんでも名称変わりすぎでしょ!詰め込みすぎだし!」
ダル「だがそれがいい!」
「「「かんぱーい!」」」
――
鈴羽「た、食べ過ぎた....」
ダル「阿万音氏、まさか僕やまゆ氏より食べるとは....」
紅莉栖「橋田と並んでまゆりさんなの?」
まゆり「ルカ君ルカ君、そろそろはじめよっか~」
るか「えっ?なにを?」
まゆり「じゃじゃ~ん!ルカ君用のメイド服と、ネコ耳でーす!メイクイーンじゃ無理でも、ここなら大丈夫でしょ?」
るか「えええ!?そ、そんな....ここでも無理だよぉ....」
紅莉栖「あら、いいじゃない。漆原さん、とってもキュートなんだし」
るか「そ、そんなあ....キュートって....」
フェイリス「ニャ?....ニャフフ、クーニャンもとってもとってもキュートニャ。つまり、クーニャンも来てくれるってことかニャ~?」
紅莉栖「いや、そんなこと一言も言ってないから!漆原さんなら、とってもかわいらしいし、似合うと思って!私は似合わないし、着たくない!」
フェイリス「うにゃ~....」ジーッ
フェイリス「....それはウソニャ!ホントはちょっと興味あるのニャ!」
まゆり「えっ、クリスちゃんも着たいの!?」
紅莉栖「いや、だから違うって!」
フェイリス「素直になるニャン♪というわけで、フミャ~!」ガバッ
紅莉栖「きゃあ!?ちょ、やめて、フェイリスさん!どこ触ってるの!?もう許して!いつか!いつか着るから!」
ダル「すごく....百合です....」
岡部「ダル、ティッシュだ」
紅莉栖「私よりまず漆原さんからでしょ!私は、まだ昨日来たばっかりだし!」
まゆり「うんうん、クリスちゃんはまだこれからだよね。ルカ君が先じゃないと♪」
るか「え、またボクに!?か、勘弁してよ....恥ずかしいよ」
鈴羽「え~?いいじゃん、それくらい。フェイリスなんて、いっつもネコ耳でメイド服だよ!」
岡部「フェイリスは別だ。奴は恥ずかしいという感情を失っているからな」
フェイリス「す、すごい言われようニャ....でも、仕方ないことニャ!フェイリスは、ギアナ高原での厳しい修行により、多くの感情を失ってしまったのニャン....」
紅莉栖「うわあ....厨二病乙」
鈴羽「でもさ、漆原るかは女性なんだし、そこまで恥ずかしがることもないでしょ?」
るか「えっ!?ボクは男、ですけど....」
鈴羽「....は?」
紅莉栖「....へ?」
ダル「あれ?牧瀬氏はともかく、阿万音氏も知らんかったん?ルカ氏は男の娘だお。だがそれがいい!」
まゆり「ルカ君は男の子だよー。でもでも、かわいいは正義なのです♪」
紅莉栖「う、うそだ!こんなにかわいい子が男の子のはずがない!」
岡部「間違っているぞクリスティーナよ!それを言うならこんなにかわいい子が女の子のはずがない、だろう?」
鈴羽「あたしをだまそうったって、そうはいかないよ!」
紅莉栖「そうよ!そんなのありえない!」
鈴羽「というわけで....ちゃんと確かめてやるー!」ガバッ
るか「ひゃああ!!?や、やめてぇ....///」
鈴羽「........ある」
紅莉栖「はあ!?どれどれ........ある」
まゆり「わわーー!!スズさんもクリスちゃんも、大胆~///」
るか「うう....ひどい」グスッ
ダル「いただきました....ふう」
フェイリス「ほかにも確かめる方法はいくらでもあったのに....あの二人はHENTAIコンビニャ!」
紅莉栖「私より女の子っぽいのに....死にたい」
鈴羽「あたしも....」
――
岡部「む、ドクペがなくなったか....助手が飲みすぎだな。まるで優勝力士のような飲みっぷりだ」
紅莉栖「力士とかいうな!あんたのほうが飲んでるから!」
フェイリス「お菓子もなくなっちゃったニャ~。凶真、買い出しに付き合うニャ!」
ダル「ちょ、フェイリスたんと二人で買い出しとか、オカリン許すまじ!」
フェイリス「ダルニャン、何かほしいものがあるのかニャ?フェイリスが買ってきてあげるニャ!」
ダル「フェイリスたんパシリにするとか背徳感ヤバすぎっしょ!ダイエットコーラおながいします!」
紅莉栖「結局頼むんかい!でもフェイリスさん、夜の街をその野獣と二人っきりとか、危険よ!」
まゆり「オカリンはそんな人じゃないし、大丈夫だよ~」
鈴羽「あ、じゃああたしも行く!お菓子選びたい!」
岡部「俺はまだいくとは言ってないが....」
フェイリス「いーからいーから♪さあ、出発ニャンニャン!」
ダル「よく考えたらオカリンいなくなってハーレムキタコレ!」
るか「あの、ボクも男ですって....」
――
鈴羽「今日は楽しいな~....こんなに楽しいのは、初めてだよ」
アキバの街を歩いていると、鈴羽がしみじみとつぶやいた。
鈴羽「君たちのラボって、楽しいよね。みんな変なのばっかだけど、優しいし。怒ったり、泣いたり、笑ったり....この時代って、ほんとに素敵だよ」
フェイリス「未来は、そんなにいやな世界なのかニャ....」
鈴羽「未来では、何の自由もないからさ。こんなふうにみんなでワイワイやるって、すごく新鮮。牧瀬紅莉栖も、まあそんなに悪いやつじゃなかったし」
岡部「さっきは息ったりだったしな」
鈴羽「もー、さっきのはもういいでしょ!?....でも、あたしは今がとっても幸せ。ありがとう、岡部倫太郎。ラボに入れてくれて」
岡部「お前がこの時代で幸せを感じているなら、俺も満足だ。ラボメンの幸福はすなわちこの鳳凰院凶真の幸福なのだからな!フゥーハハハ!」
鈴羽「君って飛び切り変だけど、いい人だね」
岡部「何!?いい人だと!?この狂気の――」
フェイリス「凶真は言動が変わってるだけで、ほんとは仲間思いの優しい人なのニャン♪」
岡部「なっ....!?俺だ!」スチャ
岡部「どうやら、機関の精神攻撃によってわがラボの小娘どもが洗脳を受けたようだ....なに!?手遅れだと!くっ....ああ、何とか持ちこたえてみせる....ラボメンを守ることが、この鳳凰院凶真の使命なのだから....おのれ、これがシュタインズゲートの選択というのか!....エル・プサイ・コングルゥ」
フェイリス「あいかわらず、素直じゃないのニャ」
鈴羽「照れるな照れるな、このー!」
岡部「まったく....バイト戦士よ、一か月たったが、父親の印象はどうだ?」
鈴羽「え、橋田至の?....うーん、変態だね」
岡部「た、確かにHENTAIだが、いいところも――」
鈴羽「知ってるよ。変態だけどなんだかんだ優しいし、やっぱり父さんなんだなって思う。たまにちょっと残念だけどね」
フェイリス「スズニャン、ちゃんとダルニャンのいいところも見てたんだ!なんだかうれしいニャ~♪」
鈴羽「未来の男らしい父さんも好きだけど、今の変態な父さんのほうが幸せなんだよね、きっと。....そういえば、このまま未来を変えたら未来のあたしの父さんまで変態になるってこと!?うわあ~....」
岡部「ダルは変態だが、いい変態だ。きっといい父親にもなれるだろう」
フェイリス「きっとスズニャンも変態として育成されるニャ!そして、変態魔法少女マジカル☆スズハとして、アキバに降臨することになるのニャー!」
鈴羽「そんなの、あたしじゃない....」
岡部「にゃんこ戦士スズニャンも相当なものだぞ....」
――そんな馬鹿な会話をしていた時、人ごみの中に見覚えのある姿が見えた。
岡部「!!!桐生、萌郁!」
鈴羽「えっ!?それって、ラウンダーの!?」
岡部「そうだ....どこに向かっている?」
萌郁は俺たちに気づかない。どこかへ向かっているようだ。
フェイリス「ニャニャニャ....凶真、尾行しよう!」
岡部「そうだな....だが三人は目立つ。鈴羽、頼めるか」
鈴羽「オーキードーキー」
鈴羽はすぐに萌郁の後を追った。少し離れて、俺とフェイリスも後を追う。
――
やがて、曲がり角の向こうを深刻そうに凝視する鈴羽に追いついた。
岡部「鈴羽、どうした?」ヒソヒソ
フェイリス「何かあったのかニャ?」ヒソヒソ
鈴羽「あいつ――」
鈴羽「あたしのタイムマシンがある貸し車庫を、見てる」
岡部「か、貸し車庫だと!?」
フェイリス「ちょ、凶真!声が大きいニャ!」
萌郁「....!!」
鈴羽「やばい、こっちに気付いた!近づいてくる!」ヒソヒソ
岡部「しまった、逃げるか!?」ヒソヒソ
フェイリス「それは不自然すぎるニャ。ここは、フェイリスに任せてニャ」ヒソヒソ
萌郁が近づいてくると、フェイリスが一歩進み出た。どうするつもりだ....?
萌郁「あの....貴方は、フェイリスさん?」
フェイリス「ニャニャ?どうしてフェイリスの名前を知ってるのかニャ?」
萌郁「....雷ネット、みてて....ファン、なんです」
フェリス「....にゃはは、うれしいニャ―♪もしかして、凶真のことも知ってるかニャ?」
萌郁「知ってる....鳳凰院さんも、ファンだから....」
フェイリス「フ~ン....あ、せっかくだから、あなたのお名前とかも教えてほしいニャン♪」
萌郁「....桐生、萌郁....編プロの、バイト....」
フェイリス「じゃあ、モエニャンでいいかニャ?モエニャンは、こんなアキバのはずれで何してたのニャ?」
萌郁「....ただ、ボーっとしてただけ....」
フェイリス「....フニャ?そうなのニャ?まあ、そういうときもあるかニャ~」
ちらり、とフェイリスがこっちに視線を送ってきた気がした。
岡部「フェイリス、そろそろ行くぞ!散歩は終わりだ。早くラボに戻って新必殺技“ミーミルの泉”を完成させ、雷ネットABグラチャン冬の陣において確実に勝利しなければならん!この鳳凰院凶真に敗北は許されんのだ!」
フェイリス「凶真はせっかちニャ。じゃ、フェイリスたちは帰るニャ!バイバイ、モエニャン♪」
萌郁「....!まって。せっかくだから、取材、させてほしい....そのラボ、行っていい?」
フェイリス「ム....ヒミツの必殺技を開発中だから、少なくとも冬の雷ネットABグラチャンが終わるまでは取材NGニャ!ごめんニャさい、またの機会にニャ」
萌郁「....それなら、せめてメアドを....」
フェイリス「ごめんニャ~、それは事務所NGなのニャン。じゃ、バイバイニャ~ン♪」
萌郁「事務所....?」
....曲がり角を曲がり、萌郁から見えなくなったところで、俺たちは走りだした。
――
岡部「はあ、はあ....も、もう大丈夫か?」
鈴羽「ふう....だいぶ離れたから、もう大丈夫だと思う。つけられてはいないよ」
フェイリス「け、結構走ったニャ....はあ、ふう....」
岡部「く、なんであそこにいたんだ!?どういうことだ!?」
フェイリス「少なくとも、ボーっとしてた、はウソニャ。それに、明らかにフェイリスたちをさぐってた」
岡部「じゃあ、何らかの目的をもってあの貸し車庫を見ていたのは間違いないんだな!?」
フェイリス「うん....で、でも、これはフェイリスの勘だけど、あそこにタイムマシンがあるとまでは思ってないと思うニャ」
フェイリス「それにしても、モエニャンは名前以外ウソばっかだったニャ。多分、フェイリスたちを知ってるのも、何か別の理由....」
岡部「やはり、俺たちを調べているのか....!だが、なぜあそこが分かった!?」
鈴羽「この前、君と牧瀬紅莉栖をここに連れてきた。その時も、ずっと見られてたのかも」
岡部「くそ!あのシボルエ、わかるやつが見たらタイムマシンだとわかってしまう!」
フェイリス「か、隠し場所を変えないと....」
鈴羽「........」
岡部「それも見られるかもしれん....それに、あんなものを隠しきれる場所など、そうは――」
鈴羽「あたし、行くよ」
岡部「何!?行くって、どこへ?」
鈴羽「1975年。今なら、まだタイムマシンだってばれてない。もしばれたら、全部おしまいでしょ?」
フェイリス「ええっ!?そ、そんな!」
岡部「ま、まて!まだ貸し車庫の中まで調べられたわけじゃないだろ!」
鈴羽「でも、これから見られるかもしれない。のんびりしてる暇はないよ」
岡部「だ、だがお前が1975年に行けることは確定している!焦ることは――」
鈴羽「そんなの、タイムマシンの存在がばれてからじゃ遅いでしょ!?」
岡部「ぐっ....」
鈴羽「あたしが1975年に行って君たちにIBN5100を届けても、タイムマシンのことが奴らにばれてたらだいなしだよ。あたしは、もう行かなきゃ」
フェイリス「で、でもぉ....そうしたら、スズニャンはもう戻ってこられないニャ....」
鈴羽「わかってたことだし、初めから覚悟はできてる。一か月も十分に楽しめたから、もう満足だよ」
フェイリス「そんなあ....」グスッ
岡部「鈴羽....」
鈴羽「ごめんね、岡部倫太郎。最後まで見届けられなくて。あとは、君に任せるよ」
岡部「....分かった」
フェイリス「そんな、凶真あ....」
岡部「すまない、鈴羽....何もしてやれなくて」
鈴羽「えっ!?....何言ってんの?あたしをラボに入れてくれて、こんなにいい思い出と仲間をくれたでしょ。十分すぎるよ」
岡部「すまない....」
鈴羽「もう、謝るなー!むしろ謝らなくちゃいけないのはこっち!全部君に押し付けて、あたしは成功するってわかってる任務に向かうんだから」
岡部「それでも、お前は孤独になってしまう....」
鈴羽「大丈夫!あっちでも、君たちみたいな仲間を作るから!....」
鈴羽「....岡部倫太郎。最後に、父さんと皆にお別れを言いに行ってもいいかな?」
岡部「....ああ」
――
まゆり「ええ~~~!!スズさん、いっちゃうの!?」
るか「そ、そんな!どうして急に!?」
ダル「ちょ、バッドエンドにしても急すぎるっしょ!どゆこと?」
紅莉栖「....なにかあったの?」
ラボに戻り、鈴羽がみんなに別れを告げると、みんな一斉に驚き、悲しんだ。
鈴羽「あはは、お迎えが来ちゃった、ってところかな」
まゆり「え~っ、いやだよ。スズさん、ずっといてほしいよ....」
るか「そうですよ....今年のうちはいるって、言ってたじゃないですかあ....」
鈴羽「ごめん。でも、行かなきゃいけないんだ」
まゆり「うう....」
鈴羽「....大丈夫!絶対、また会えるよ!そうしたら、このお別れもなかったことになる!だから、これは悲しむことじゃないよ」
岡部「........」
フェイリス「でも、もしかしたら、もう会えないかも....う、うええ....グスッ....」
鈴羽「もー!絶対会えるって!....フェイリスって、意外と泣き虫だよね。映画を見ててもすぐ泣いちゃうし」
フェイリス「泣き虫じゃないよ....」グスッ
鈴羽「フェイリス、一か月間ありがと。フェイリスと一緒に暮らせて、とっても楽しかった」
鈴羽「あと、牧瀬紅莉栖。悪い態度とっちゃってごめん。君のこと、悪い人って決めつけてた。ホントは、結構いい人だったよ」
紅莉栖「もう怒ってないわ。....でも、次会ったときは、ちゃんとなつきなさいよ」
鈴羽「あはは、わかったわかった!....じゃあ、そろそろ行くね。橋田至、ちょっといい?」
ダル「なんぞ?もしかして、お別れのキッスとか!?」
鈴羽「キッスはないよ!でも....ちょっとだけ」ギュッ
鈴羽は、ダルに抱き着いた。少しだけ泣いているようにも見えた。
ダル「え!?い、いつの間にフラグが!??」
鈴羽「あたし、頑張るから....応援してくれる?....父さん」
ダル「んん!?....う、うん。わかったお....父さんじゃないけど、応援する」
鈴羽「ありがと....橋田至も、頑張ってね」
ダルから離れた時には、鈴羽はもう笑顔に戻っていた。
まゆり「スズさん、まゆしぃたちのこと、忘れちゃいやだよ?」
るか「ボクたちも、また会える日まで絶対忘れませんから!」
鈴羽「....うん、任せて!....フェイリス、いつまでも泣くなー!ちゃんと、岡部倫太郎を助けてあげてね」
フェイリス「うにゃあ....わかった....」グスッ
鈴羽「岡部倫太郎、頼んだよ。....未来を、変えてね」
岡部「....ああ」
鈴羽「あの、もしまた会えたらさ、その時はまたラボメンに入れてくれる?」
岡部「当然だ!お前は、未来永劫ラボメンなのだからな!!」
鈴羽「....ありがとう、岡部倫太郎」
岡部「....必ず、未来を変えてみせる。お前も、やるべきことをやるんだ」
鈴羽「オーキードーキー!じゃあみんな、絶対また会おうね!」
ダル「ぼ、僕も頑張るから、阿万音氏も頑張れ!何をかは分からんけど、とにかく頑張れ!」
フェイリス「絶対、絶対また会えるよね....」グスッ
――鈴羽は、振り返らずに出て行った。だが、これは悲しいことじゃない。
必ず会えるからだ。7年後、鈴羽が望んだ未来で。
Chapter7
神域のカタストロフィ
――12月4日(土)
鈴羽が1975年に行ってから、ラボの空気は何となく重かった。俺もまた桐生萌郁の動向が気になって落ち着かなかったが....
しかし、ようやく朗報が届いた。
紅莉栖「....よし、完成!」
平日の夕方にも作業を進めていた紅莉栖が、とうとう土曜日にタイムリープマシンを完成させたのだ。
紅莉栖「まあ、二日前までしか記憶を送れないから、完璧とは言えないけどね」
岡部「おお、完成したか!よくやった、助手よ。だが、とりあえず実験はしない」
紅莉栖「ええ!?じゃあ、なんでこれを作らせたわけ?」
岡部「....保険だな。もしこの先、例えばクリスティーナがSERNにさらわれるようなことがあった場合、その記憶を持ってやり直せる、というわけだ」
前の世界線では、タイムリープで世界線を変えることはできなかった。未来は結局収束する。
....とはいえ、時間稼ぎにはなる。これは大きなアドバンテージだ。
紅莉栖「でも、本当にタイムリープが成功するとは限らない。もしかしたら、脳に深刻な影響が出るかも....」
岡部「心配する必要はない。俺はお前の能力を信じている。そんな失敗はあり得ない、とな」
紅莉栖「お。岡部....って、あんた、もしかして何かあったら使うつもり!?」
岡部「当然だ。そのために作ってもらったんだからな」
紅莉栖「でも、本当に問題が起きるかもしれないのよ!?もしかしたら、脳に深刻な障害が発生するかも――」
岡部「心配してくれているのか?」
紅莉栖「ちがう!別にあんたのことを心配してるわけじゃないんだから!」
ダル「ツンデレ乙!」
紅莉栖「ツンデレちゃうわ!って、いつの間に!?」
フェイリス「途中から、こっちまで筒抜けだったニャ。クーニャン声大きいニャ!」
ダル「今の発言はテンプレすぐる!」
フェイリス「も~、クーニャンはかわいいニャ~♪」
紅莉栖「ああ、もう!疲れたから、今日はもう帰るわ!シーユー!」
ダル「最後までツンデレだった件について」
岡部「やれやれ、助手も変わらんな....」
フェイリス「クーニャンはホント素直じゃないのニャ。あ、凶真!クーニャンは明日から暇かニャ?」
岡部「ああ。奴は任務を成し遂げた」
フェイリス「ニャフフ~、明日はクーニャンの秘められしパワーを呼び覚ます日となるのニャ!」
ダル「おお!フェイリスたんが萌えている!明日が楽しみすぐる!」
岡部「フェイリス、やっと元気が出てきたか」
フェイリス「元気じゃないと、フェイリスじゃないのニャ!」
――12月5日(日)
紅莉栖「ちょ、ストップストップ!無理!無理だってば!」
フェイリス「それはウソニャ!クーニャン、素直になるのニャ!」
まゆり「クリスちゃん、早く行くよー」
ダル「まゆ氏、いまのイクっていうの、もうちょっと色っぽく――」
「「黙れHENTAI!」」
フェイリス「フェイリスは絶対あきらめないニャ!スズニャンの穴を埋められるのは、ツンデレネコ耳メイド“クリスティーニャンニャン”しかいないニャ!ムダな抵抗はやめるニャ~」
まゆり「クリスちゃんは、絶対に会うと思うのです♪」
紅莉栖「いや、似合わないって!ネコ耳とか絶対無理!」
フェイリス「まったく、同じウソをつき続けるとは困ったものニャ~♪」
紅莉栖「だから、嘘じゃないと言っとろうが!ネコ耳メイドとか、ぜ~~~ったい無理!」
フェイリス「ぜ、絶対って....うう、クーニャンはフェイリスのこと生理的に無理とか思ってたんだ....」グス
紅莉栖「えええ!?いや、思ってないから!生理的にとか言ってないし!」
まゆり「ああ~、フェリスちゃん泣いちゃった....」
フェイリス「う、うええん....」グス
紅莉栖「も、もう泣かないで、フェイリスさん....分かったから....」
フェイリス「あ、今わかったって言ったニャ?さっさとそう言っちゃえばいいのニャン♪」
紅莉栖「あ!嘘泣き!卑怯よ!!」
岡部「童貞並みのちょろさだな」
ダル「牧瀬氏、わかるってばよ....」
紅莉栖「あんたたち、傍観してないで助けなさいよ!」
岡部「フェイリス、本当にクリスティーナは嫌がってないのか?」
フェイリス「ニャ?ルカニャンは本気で嫌がってるのが分かるから、フェイリスは無理強いはしないニャ。でもでも、クーニャンは心のどこかで望んでるのが見えるのニャ♪」
岡部「じゃあ俺は何も言わん。ツンデレメイド、いいじゃないか」
紅莉栖「お、岡部!裏切る気!?」
岡部「あきらめろ助手よ。『べ、別にあんたの出迎えに来たんじゃないんだからねっ!』『さっさと飲みなさいよ!....あ、熱いならフーフーしてあげてもいいけど?』....アリだな」
ダル「いや、オカリンボイスでそれはないわ。でもツンデレメイドに関しては禿同」
紅莉栖「橋田まで!?も、もうだめぽ」
ダル「....は?」
岡部「....ん?」
まゆり「....え~?」
紅莉栖「あ、いやその....」
フェイリス「ウニャ~....クーニャンクーニャンクーニャン~!ガバッ
紅莉栖「ちょ、ちょっとー!?」ズルズル....
まゆり「じゃあ、バイト行ってくるね~♪」
ダル「....んじゃ、僕もメイクイーン行ってくるお。オカリンは?」
岡部「俺は用事がある」
ダル「わかったお。んじゃまた~」
正直クリスティーニャンニャンは滅茶苦茶気になる。が、電話レンジ(仮)から離れるのは怖かった。
奴らはどこまで俺たちを疑っている?どこまで知っている?....くそ、わからん。
ダルが出かけてしばらくすると、階段を上る足音が聞こえた。ルカ子か?
天王寺「おう、岡部。ちょっといいか?」ガチャ
岡部「ミ、Mr.ブラウン!?何か用か!?」
天王寺「何か用か、とはご挨拶だな!最近また部屋をガタガタ揺らしてるじゃねえか!部屋に傷とかついてねえか見に来たんだよ!」
そういえば、タイムリープマシンの作動テストを何回かしていたな....
天王寺「....まあ、傷はねえみたいだな」
岡部「ちょっと戦争ごっこが流行っているだけですよ、ハハハ....」
天王寺「あんま暴れんじゃねえよ!古い建物なんだぞ!」
岡部「もう大丈夫ですよ。全面禁止にしました」
天王寺「戦争ごっこといやあ、最近あの三つ編みの嬢ちゃん見ねえな」
岡部「....彼女は、実家に帰りました」
天王寺「そうか。そいつは残念だったな。....なんにせよ、もう変なことはすんじゃねえぞ!次やったら家賃一万値上げだ!」
岡部「な、横暴だ!」
そんなことをされたら、雷ネットの大会で優勝するかフェイリスのヒモになるしかないじゃないか!....意外と余裕だった。
――
紅莉栖「あーもう、疲れた....」
しばらくすると、今度は紅莉栖が入ってきた。
岡部「早かったな、助手よ。クリスティーニャンニャンはどうだった?」
紅莉栖「やってない!逃げてきたのよ。あと助手ゆーな!」
岡部「なんだ、やってないのか。つまらん」
紅莉栖「フェイリスさんって、何か弱点はないの?このままじゃ押し切られそう」
岡部「フェイリスの弱点....?そうだな、末期の厨二病患者なことだな」
紅莉栖「本日のお前が言うなスレはここですか?」
岡部「だが、やつの魔眼“チェシャー・ブレイク;チェシャ猫の微笑み”の力は本物だ。奴に嘘は通用しない」
紅莉栖「はいはいワロスワロス。大体、私は嘘なんてついてないのに!」
岡部「いや、やつが嘘と言ったら嘘だ。お前の深層心理はツンデレネコ耳メイドになることを望んでいる!素直になれ、クリスティーナ」
紅莉栖「ティーナも禁止!....あんたって、フェイリスさんの魔眼を本当に信じているの?他の人の厨二病は『くだらん!非ィ科学的だ!!』とか言って否定しそうなもんなのに」
岡部「....お前、もしかしてフェイリスのことが苦手か?」
紅莉栖「ふえっ!?そ、そんなことない!」
岡部「実は、初めは俺も苦手だった。だが、あいつはいいやつだぞ。....鈴羽がいなくなって寂しいんだ、仲良くしてやってくれないか?」
紅莉栖「それは大丈夫よ。フェイリスさんがいい人だってこともわかってる。私ってこんな性格だから、今まで友達って言える存在がいなかったのよね」
岡部「........」
紅莉栖「でも、このラボのみんなはこんな私に対してもすごく親しく接してくれる。フェイリスさんも、まゆりも、漆原さんも、橋田も、....それに、あんたも」
紅莉栖「だから、このラボはすごく居心地がいい。岡部、ラボに入れてくれてありがとう」
岡部「ククク、礼には及ばん!お前には、この鳳凰院凶真の助手として働いてもらわねばならないからな!フゥーハハハ!」
紅莉栖「真面目に言ってるのに....あんたもフェイリスさんも、厨二病ひどすぎよね」
岡部「フェイリスの妄想と一緒にするな!俺は現実を生きる狂気のマッドサイエンティストだぞ!」
紅莉栖「いや、どう考えても一緒なわけだが。二人だけで分かり合ってるみたいな空気も出しちゃったりするし....」
岡部「そんなものは出ていない!」
紅莉栖「初めはここ、岡部とフェイリスさんの二人だったんでしょ?....もしかして、付き合ってるとか?」
岡部「....助手よ、お前もまたスイーツ(笑)脳のようだな」
俺とフェイリスの関係か....うやむやにしたまま放置しているが、フェイリスはどう思っているんだろうか....?
――12月6日(月)
岡部「よかった....何も起きていない」
大学から急いで戻ると、すぐラボに異変が起きてないか調べる。幸い、ラボには何も起きていなかった。
本当は大学に行ってラボを開けるのも怖いが....もしかしたら、普段と違う行動は怪しまれるかもしれない。
次の日も、また次の日も....不安を感じながらの生活は続いた。
――12月11日(土)
土曜日は一日中ラボに立てこもった。今日も、何も起きない....
フェイリス「凶真?」
もしかしたら、このまま今年は終わるのだろうか?何も起こらずに?そうであってくれればいいが、そんなことがあり得るのか?
フェイリス「ねえ、凶真」
鈴羽が1975年に向かってから、萌郁は現れていない。もしかしたら、もうラウンダーは俺たちへのマークを外したのか?本当に、もう大丈夫なのか....?
フェイリス「凶真?むー、凶真、凶真きょうまきょうまぁ!」
岡部「うお!?フェイリス、いつの間に!?」
フェイリス「フェイリスはさっきからずーっと凶真に呼びかけてたニャ!」
岡部「そ、そうか....」
フェイリス「凶真は何を考え込んでたのかニャ?悩みがあるならフェイリスが聞いてあげるニャン♪」
岡部「何も悩んではいない!」
フェイリス「それはウソニャ!....もしかして、桐生萌郁さんのことかニャ?」
岡部「....!違う」
フェイリス「それもウソニャ。....なんでそんなウソをつくの?フェイリスまで心配になっちゃうからかニャ?フェイリス的には、そんな凶真のほうが心配ニャン♪」
岡部「フェイリス....」
フェイリス「ねえ凶真、明日一日かけて、ラボの周辺を調べてみない?ホントに監視されてるなら、どこかに桐生萌郁さんとか、ほかのラウンダーさんがいるはずニャ」
岡部「それは、危険すぎないか?」
フェイリス「にゃはは、二人でラボの周りを散歩するだけニャ♪別に怪しい行動をするわけじゃないのニャ~」
岡部「....そうだな。考え込んでいても仕方ない。そうしよう」
――12月12日(日)
天王寺「....お前ら、さっきから何周してんだ?」
呆れたようにMr.ブラウンが話しかけてきた。俺とフェイリスは、もう十周以上はラボ周辺を回っている。
萌郁も、ラウンダーらしき人間も、一人も確認していない。どうやら、本当にいなくなっているようだ!
綯「二人でずーっとお散歩してて、楽しいの?」
フェイリス「ニャフフ~♪ナエニャン、フェイリスは凶真と一緒にいると、それだけで楽しいニャ♪」
綯「そうなんだ?へんなのー」
天王寺「綯、こいつらは元から変だろ?こんなふうにはなるなよ。特に岡部はだめだ!」
岡部「Mr.ブラウン、貴方に付き合っている暇はない!これは機関との戦い、“オペレーション・スクリューミル;虚影の巨人殲滅作戦”の一環なのだ!」
綯「あっ、ほーおーいんきょーまだ!アニメ見たよ!先週は、火を噴いてた!」
岡部「目からビームの次は火だと!?あのテレビ局、また変な改変をしおって!」
フェイリス「フェイリスはかわいくアニメ化されてるのに、凶真はネタ方向の改変がひどいニャ....」
綯「くらえ、むすぺるへいむのごうかを!ぼおおー!」
岡部「北欧神話にだけ無駄なこだわりを見せおって....」
天王寺「ああ、綯!そんな奴のまねはしちゃダメだ!」
綯「えー、学校でみんなまねしてるよ?」
天王寺「くそっ、また学校に電話しねえと!禁止だ禁止!」
岡部「これがモンスターペアレントか」
綯「それより、冬の雷ネットABグラチャンでも優勝してね!きょうま、フェイリスお姉ちゃん!」
岡部「ちょ、ちょっと待て!なんでフェイリスはお姉ちゃんで、俺は呼び捨てなんだ!」
フェイリス「リスペクトの差が出ただけニャ♪」
綯「ふーははは!白衣ばさぁ!」
岡部「こんの小動物めがあぁぁ....」
天王寺「ああ!?おい岡部!ウチの綯を小動物呼ばわりだと!?」
岡部「あ、いえ、とってもかわいらしいという意味で....」
フェイリス「それはウソニャ♪」
綯「ウソにゃー♪」
天王寺「よし、殺す!」
岡部「フェ、フェイリス!そろそろいいだろう!ラボに戻るぞ!」
フェイリス「うにゃ?もう凶真は安心したってことかニャ?」
岡部「ああ。奴らは間違いなく、もういなくなっている」
フェイリス「それはよかったニャ♪じゃ、ラボに戻るニャン!」
天王寺「岡部!てめえちょっと待て!」
岡部「急げ!逃げるぞ!」ダッ
フェイリス「あ、待ってニャ~!」ダッ
――
岡部「....俺だ」スチャ
岡部「機関は怪人“魔造筋肉入道”を送り込んできた....ああ、問題ない。奴には知能が足りないからな....フ、これ以上邪魔をされたときには、な....今は見逃しておいてやるさ....全てはシュタインズゲートの選択のままに....エル・プサイ・コングルゥ」
フェイリス「“魔造筋肉入道”はいくらなんでもかわいくないニャ。せめて、“ブラウンバーバリアン”とか“スキンヘッドキュクロプス”とか――」
紅莉栖「どっちもどっちよ。ラボに戻ってくるなり厨二病全開って....」
ダル「オカリィィィン!」
開発室から突然ダルが現れ、おもちゃの光線銃を突き付けてきた。
ダル「フェイリスたんと二人でお散歩デートとか許せん!万死に値するお!」
岡部「ダルもいたのか。これはデートではなく機関との戦いの一環だ。そのおもちゃをしまえ」
紅莉栖「それ、おもちゃじゃないわよ。中から小型のスタンガンが放電しながら飛んでくるから」
岡部「なに!?あの未来ガジェットが完成したのか!?」
ダル「うん。だからオカリンで試し撃ちするお」
岡部「お前はジャイアンか!?ま、まて!話せばわかる!」
ダル「リア充は死ね!悲しいけどこれ、戦争なのよね」
フェイリス「まあまあダルニャン、その未来ガジェットの名前を決めるのが先ニャン♪こんなすごいの作っちゃうなんて、ダルニャンは天才ニャ!」
ダル「うへへ、フェイリスたんを守るために作りました。護身用にどうぞ」
ダルは、あっさりとフェイリスに銃を明け渡した。
紅莉栖「....これはひどい」
岡部「でかしたフェイリス!よーし、この未来ガジェットの名は....」
岡部「....ラグナロクにおいて永劫に再生せし世界蛇ヨルムンガルドを打ち滅ぼす神の雷霆、“トール・サンダーボルト”!」
ダル・紅莉栖「「厨二病乙!!」」
フェイリス「あ、凶真!それかっこいいニャ!」
ダル「じゃあ賛成」
紅莉栖「はあっ!?」
岡部「決まりだな。これの名称は未来ガジェット9号機、トール・サンダーボルト!」
紅莉栖「....頭痛くなってきた」
今日は久しぶりに楽しい気分だ!どうやら、俺たちはラウンダーのマークを外れたらしい。
まだ油断は禁物だが、希望が見えてきた!
――12月13日(月)
久しぶりに悩みから解放された俺は、いつになくハイになっていた。
岡部「ダルよ、未来ガジェット10号機は火炎放射器にするぞ!」
ダル「いや、これからは冬コミの準備で忙しいから」
岡部「冬コミだとぉ!?お前それでもラボメンか!」
まゆり「オカリンが元気になって、まゆしぃはうれしいです♪」
紅莉栖「元気になったらなったで鬱陶しいわね」
フェイリス「ニャフフ、これなら....」
――12月14日(火)
フェイリス「凶真!おかえりニャさい♪」
大学からラボに戻ると、フェイリスが一人で待っていた。
岡部「ああ。フェイリス一人か」
フェイリス「....ニャフフ。凶真、もう悩みはなくなったみたいニャ♪」
岡部「完全に、ではないがな。ただ、そこまで張り詰めることもないだろう、フゥーハハハ!」
フェイリス「それでは、さっそく出発ニャ―!」ギュッ
フェイリスは突然、俺の手を引いて歩き出した。
岡部「しゅ、出発ってどこへ!?」
フェイリス「いーからいーから、フェイリスについて来てニャ♪」
――
黒木「では、ごゆっくり」
連れてこられたのは、アキバの高級マンションの最上階....つまりフェイリスの家だった。
机の上には何やらごちそうが並び、真ん中にはケーキがある。
岡部「こ、これは....どういうことだ?」
フェイリス「凶真、ほんとにわかんないのかニャ?」
岡部「き、記念日的な何かか?ス、スイーツ(笑)」
フェイリス「な~に言ってるのかニャ、凶真は....今日は、凶真の聖誕祭ニャン♪」
岡部「な、何!?....そうか、今日は12月14日か!」
今日は俺の誕生日じゃないか!....完全に忘れていた。
フェイリス「というわけで、凶真!お誕生日、おめでとニャンニャン♪」
岡部「あ、ありがとう....だから、俺の悩みを何とかしようとしていたのか....」
フェイリス「えーっと、凶真!お誕生日プレゼントは、フェイリス自身ニャ♪」
岡部「........」
岡部「は、はああああああ!??」
フェイリス「だからー、そのー、今日はフェイリスに何をしても、許されるってことニャ....」
岡部「お、お前なあ!!」
フェイリス「さあ凶真、好きにするがいいニャー....」
岡部「........よし、じゃあフェイリス、目をつむれ」
フェイリス「フニャ!?い、いきなり!?う~~~....お、OKニャ....うん....」
フェイリスはギュッと目を閉じて身構えている。俺はそのフェイリスに――
フェイリス「....えっ!?えええ!?な、なんで!?」
俺は、フェイリスのネコ耳を奪った。
岡部「今日は一日留未穂でいてもらうぞ!俺は嘘で塗り固められた女に興味はない!フゥーハハハハハ!」
フェイリス「な、なーんだ、そんなこと....いや、期待とかしてたわけじゃないけど....」ボソボソ
岡部「何か言ったか?」
フェイリス「な、なんでもない!」
フェイリス「あ、倫太郎さん!実は、もう一つプレゼントがあるんだ♪」
岡部「なに!?今度は、留未穂がプレゼントとか言い始めるんじゃ....」
フェイリス「そ、それでもいいけど....」
岡部「な....!?」
フェイリス「あ、いや、えっと....目を閉じてくれる?」
岡部「今度は俺が目をつむるのか....ま、まさかこのパターンは....!」
フェイリス「早く早く♪目を閉じたら、手を出して」
岡部「し、仕方ないな....」
俺は、言われたとおり目をつむって右手を差し出した。
フェイリス「....そっちなんだ....」
岡部「ん?」
フェイリス「えへへ、なんでもないよ!」
フェイリス「....はいっ!倫太郎さん、目を開けていいよ!」
岡部「....これは、指輪か」
右手の薬指に、精巧な紋様があしらわれた白銀に輝く指輪がはまっていた。
フェイリス「あ、あのね....実は、ペアリングなんだ」
留未穂の薬指にも、同じ指輪が輝いていた。
フェイリス「倫太郎さん、このペアリングは、魔法の指輪なんだよ」
岡部「お前までそんなことを....」
フェイリス「このペアリングをはめた二人は、たとえどれだけ離れていても、どんなことがあっても、心はずっと一緒....そんな魔法が込められているの」
岡部「ずっと一緒、か....」
フェイリス「そう!この魔法は、一度はめたらずーっと解けることはない....だって、私が込めた魔法だから」
岡部「そうか。それは、強力だな」
フェイリス「えへへ....」
岡部「お前にはいつももらってばかりだな。何かほしいものはないか?」
フェイリス「えっ?だって、今日は倫太郎さんのお誕生日だよ?」
岡部「礼がしたいんだ。何でも言ってくれ。できる限り、何とかする」
フェイリス「急に言われても....う、う~ん....えーっと、そのー....」
フェイリス「り、倫太郎さん自身、とか....?」
岡部「お前、またそんなことを....」
フェイリス「あ、あっ!白衣!倫太郎さんの白衣がほしい!」
岡部「ん?構わんが、何に使うんだ?雑巾か?」
フェイリス「そんなわけないでしょ!じゃあ、もらうね?」
白衣を脱いで渡すと、留未穂は早速そのボロボロの白衣を羽織った。
フェイリス「狂気のマッドサイエンティスト、秋葉留未穂だ!ふーははは!」
岡部「........」
フェイリス「や、やっぱり今のなし!」
岡部「....裾が地面についているし、袖も長すぎるし....子供が遊んでいるようにしか見えん」
フェイリス「もう、ひどいよ!そろそろ座ろっか....きゃあ!?」
岡部「うわ、危ない!」
留未穂は早速、裾を踏んで転びかけた。あわてて支えると、抱きしめるような格好に――
フェイリス「え、えへへ、ありがとう、倫太郎さん....あ、わ、わざととかじゃないよ!これは....そう、機関の攻撃!」
岡部「き、機関なら仕方ないな....」
フェイリス「うん、仕方ない、仕方ない....」
岡部「........」
フェイリス「........」
岡部「いつまでこのままなんだ....」
フェイリス「も、もうちょっと....」
――
岡部「やはり留未穂は料理がうまいな」
ケーキまで平らげ、もう満腹だ。
フェイリス「今日は学校もあったから、黒木やシェフにも結構手伝ってもらっちゃったけどね」
岡部「黒木さんは万能だな....そういえば、冬の雷ネットABグラチャンはいつからだ?何も聞いていないが」
フェイリス「私たちはチャンピオンだから、12月25日、クリスマスの決勝戦だけだよ」
岡部「そうなのか....もうあれから4か月たったのか」
フェイリス「ねえ、倫太郎さん。まだ寂しさを感じることはある?みんなとは仲良くなれても、思い出は消えてしまったままだから....」
岡部「そうだな。寂しいと感じないと言えば、うそになる」
フェイリス「やっぱり、そうなんだ....」
岡部「だが、今はこの世界線に来てよかったとも思っている」
フェイリス「え?」
岡部「この4か月間、お前が多くの思い出をくれたからな。消えてしまった思い出は、確かに俺にとってかけがえのないものだった。でも、お前との思い出もまた、俺にとってはかけがえのない大切なものだ」
フェイリス「それって、本当に?」
岡部「ああ。お前がいなかったら、俺はずっと孤独だった。全部、留未穂のおかげだ」
岡部「ありがとう、俺と一緒にいてくれて」
フェイリス「い、いいよ、お礼なんて....それに、これからもずーっと一緒なんだからね」
岡部「そうだな....」
フェイリス「........」
フェイリス「さ、さーて!倫太郎さん、そろそろお開きにするね!」
岡部「あ、ああ」
フェイリス「黒木ー!黒木―!」
留未穂が黒木さんを呼ぶと、すぐに黒木さんは現れた。....もしかして、全部聞いてたのか!?
黒木「はい、お嬢様」
フェイリス「倫太郎さんを、お家まで送ってくれる?」
黒木「かしこまりました」
岡部「へ?お家って、八王子の?」
フェイリス「お誕生日くらい、お父様とお母様に顔を見せてあげて。きっと、いつも心配してると思うから」
岡部「....留未穂に言われたら、仕方ないな。わかったよ」
――
岡部「今日は楽しかったぞ。ありがとう、留未穂。おやすみ」
フェイリス「おやすみなさい、倫太郎さん。....あ、あのね....」
岡部「なんだ?」
フェイリス「もし、もしもまた同じことがあったらね、その時は左手を....」
岡部「左?何の話を....って、それは――!」
フェイリス「わわ、お、おやすみなさいっ!」
岡部「お、おやすみ....」
――12月18日(土)
ダル「もうだめぽ。全然勝てね」
まゆり「フェリスちゃんとオカリン、強すぎるよー」
フェイリス「にゃはは。これがダブル魔眼の力ニャ♪」
あれから数日、やはり何も起こらなかった。
この日は冬の雷ネットABグラチャンに備えてラボでダル・まゆりコンビを相手に練習をしていたが、どうやら全く問題なさそうだ。
岡部「フゥーハハハ!脆い脆い脆い!」
紅莉栖「ああ、ダメ....ああー!また負けた....漆原さん強すぎ....」
るか「えっ、あの、すいません....」
なぜか紅莉栖とルカ子も対戦しているが、こっちも一方的である。
岡部「助手よ、お前は顔に出すぎだ。ちなみにルカ子はこの5人の中で最弱だ」
紅莉栖「ぐぬぬ....」
まゆり「クリスちゃんクリスちゃん、悔しかったら練習あるのみだよ♪」
紅莉栖「く、悔しくなんてないから!」
ダル「負け惜しみ乙!」
紅莉栖「負け惜しみじゃない!」
岡部「フゥーハハハ!負けず嫌いのクリスティーナお嬢ちゃんはしょうがないなあ!」
紅莉栖「....はあ、もういいわ。あんたたち、そんなに強いなら練習なんていらないんじゃない?」
岡部「わかってないなクリスティーナよ....我々は王者らしく、芸術的に勝たねばならん!」
フェイリス「そうニャ!観客は、フェイリスたちの“エンターテインメント”に期待しているのニャ!」
紅莉栖「どういうこと?」
ダル「牧瀬氏知らんの?フェイリスたんと鳳凰院凶真は、雷ネットの原作漫画やアニメにも登場している雷ネット界で知らぬ者はいない超有名プレイヤーなのだぜ?」
るか「先週のアニメの凶真さん、とってもかっこよかったです!」
まゆり「手のひらから、だーくおまた(?)出してたもんねー♪」
岡部「“ダークマター”だ!」
紅莉栖「どんなキャラだよ!改変ってレベルじゃねーぞ!」
ダル「ところでまゆ氏、今のおまた、ってとこ――」
フェイリス「ダルニャン、キモイニャ」
ダル「ありがとうございます!」
フェイリス「ところでみんな、クリスマスは暇かニャ?ぜひぜひ応援に来てほしいニャ!」
まゆり「まゆしぃは、メイクイーンのクリスマスイベントだからいけないのです....」
フェイリス「そ、そういえばそうだったニャ....他のみんなは?」
ダル「応援します、全力で!」
るか「あ、ボクも行きます!」
紅莉栖「私も行くわ。面白そうだし。岡部が」
ダル「牧瀬氏は、オカリンの人気っぷりにドン引きすると思われ」
紅莉栖「下の綯ちゃんが真似してるのを見てもうドン引きしたから、大丈夫よ....多分」
――12月19日(日)
まゆり「♪~♪♪~」
岡部「まゆりよ、何をつくているんだ?冬コミ用のコスプレか?」
まゆり「これは違うよ~。メイクイーンの、クリスマスイベント用の衣装だよ!オカリン、そことそこを持って、びろーんって広げてくれる?」
ダル「まゆ氏まゆ氏、今の、びろーんをもう一回――」
紅莉栖「言わせるなHENTAI!」
岡部「....ってこれ、サンタコスか!?」
紅莉栖「し、しかもミニスカ....」
フェイリス「あ、マユシィ!できたかニャ?」
るか「ええっ!?ま、まゆりちゃん!丈が短すぎるよ!」
まゆり「るか君はエッチだね~♪」
るか「そ、そんなあ....」
ダル「オウフ、ミニスカネコ耳サンタコスメイドとか属性多過ぎっしょ!うへ、うへへ」
フェイリス「うーん、丈が短すぎて風営法に引っかかりそうニャ....もうちょっと長くしてニャ」
紅莉栖「い、一応その辺は気にするんだ....あはは....」
岡部「?フェイリス、お前は何を作っているんだ?」
フェイリス「んニャ~、クリスマスイベントはイヴとクリスマス当日の二日間ニャンだけど、フェイリスはイヴにしかメイクイーンに来られないのニャ。だから、イヴはフェイリスだけのイベントなのニャン♪」
フェイリス「フェイリスとじゃんけん大会をして、勝った人から、このくじを引いていくのニャ!」
フェイリスはいろいろな猫の絵が描かれたくじを作っていた。紅莉栖が一つとって中身を見てみると――
紅莉栖「えええ!!?『フェイリスと恋人つなぎでお店を一周』....何ぞこれ!」
ダル「なん....だと!?」
フェイリス「ニャフフフフ、一等賞は『フェイリスがほっぺにチュー』ニャ!」
るか「ええ!?フェイリスさん、大胆すぎるよ!」
ダル「あなたが神か?」
フェイリス「フェイリスのことなんて、別に好きじゃないんだからね!っていうクーニャンみたいなツンデレさんのために、ネコ以外のくじも用意してあるニャ♪」
紅莉栖「ほ、ほんとだ....なにこれ、ドラゴン?こっちはフェニックスね」
紅莉栖「....っていうか、私はそんなこと言わんわ!誰がツンデレだ、誰が!」
まゆり「メイクイーンのお客さんに、そんなこと言う人いないけどねー」
フェイリス「ラボメンは、イヴのイベントには全員参加ニャ!皆でニャンニャンするニャン♪」
岡部「俺はいかんぞ!そんなこっぱずかしいイベント....」
フェイリス「えー、凶真は凶真らしくするだけでいいから、来てほしいニャ~」
まゆり「オカリーン....フェリスちゃんがかわいそうだよ、行ってあげようよ~」
るか「き、凶真さん、ボクも勇気出しますから、行きましょうよ」
岡部「か、考えておく」
――12月21日(火)
大学から帰る途中、アクセサリーなどを売っている怪しげな露店が目に入った。
岡部「....ふむ」
もうすぐクリスマスだな....いつもフェイリスにもらっている分、たまには俺からも何かくれてやるか。
露天商「ヘーイ、オニーサン!イロイロアルデ、バッチ見テクヨロシ!」
岡部「日本語で頼む」
露天商「オー!バリバリ日本語ヨー!」
岡部「....ん?これは....」
それは、角度によってさまざまに光るネコの飾りがついたチョーカーだった。美しく妖しげに輝くそれは、まるで魔法のアイテムだ。
これなら間違いない。フェイリスの好みにも合うだろう!
岡部「店主、いいセンスだ。これをもらおう」
露天商「オー!オメガタカーイ!OK、ソレ7マンエンネー!」
岡部「な、7万円!?7万っていったか?もうちょっと安くは――」
露天商「ソレデモ、サービス価格ヨ~」
岡部「くそ、ちょっと待ってろ!」
あわててATMに走る。....どうやら奴は俺の口座の残高を知っていたようだ。
岡部「く....これは痛い....」
自分の薬指にはまった指輪を見る。これは、たぶん7万円どころじゃないんだろうな....ええい、しかたない!
露天商「ムフフ、オンナノコデスカー?グーッド!」
岡部「........」
まあ、たまにはいいだろう....たまには。いつでも渡せるよう、ポケットにチョーカーを入れてラボへ向かった。
――
紅莉栖「あ、岡部!ちょっと話がある」
ラボでは、紅莉栖が俺を待っていた。
岡部「どうした?クリスティーナよ」
紅莉栖「今日、SERNから返事をもらえるか、って電話があった」
岡部「なにっ!?それで、どう答えたんだ?」
紅莉栖「もちろん、断ったわ。でも、向こうもそんなに本気じゃないように思えたけどね」
岡部「なぜ?」
紅莉栖「だって、私は専門外でしょ?それに、本気なら電話じゃなくて直接勧誘するものじゃない?」
岡部「ふむ....」
リーディンフシュタイナーは、まだ発動していない。まだ油断は禁物だ。
岡部「また誘いがあるかもしれん。引き続き断ってくれ」
紅莉栖「OK。まあ、あの調子じゃもう来ないと思うけど」
――12月22日(火)
岡部「........」
今日も何も起きなかった。あと少しで2010年が終わる。
2010年中に牧瀬紅莉栖がSERNに移籍しなければ、世界線が変わるはず。俺は、未来を変えられたのか?
ダイバージェンスメーターは、相変わらず .275347 のままだ。
フェイリス「たっだいまニャンニャーン♪」
フェイリスがバイトから帰ってきた。フェイリスは、どんなに遅くなっても必ず一日に一回はラボに顔を出す。
フェイリス「凶真、クリスマスイヴの夜はあいているかニャ?」
岡部「あいている....クリスマスパーティーでもするのか?」
フェイリス「にゃはは、それは優勝祝いも兼ねて、クリスマス当日にするのニャ♪....えっと、イヴは凶真と二人だけニャ―....」
岡部「そうか....わかった。俺も最初からそのつもりだった」
フェイリス「やったぁー!そうと決まれば、さっそく....ムムムム~」
岡部「何をしてるんだ?」
フェイリス「イヴの夜をロマンチックに染めるために、雪を降らせる魔法をかけてるのニャ♪」
岡部「あいかわらずのメルヘンっぷりだな」
フェイリス「ニャフフ~、楽しみニャ~♪」
コツ、コツ、コツ........
その時、ラボの扉が勢いよく破られた。
???「動くな!手を上げろ!」
一瞬、何が起きたかわからなかった。
そして、数秒後に理解する。
ラウンダーだ。
フェイリス「えっ!?だ、誰!?」
岡部「ラウンダー、だ....」
フェイリス「ええっ!?な、なんで....?」
そして、誰かがまたラボへの階段を上ってくる。
俺は、それが誰かを知っている。
岡部「桐生、萌郁....」
萌郁「........」
萌郁は、無表情のまま俺たちに銃を突きつける。....まさか、力ずくで紅莉栖をさらいに....?
ラウンダーA「M4、ターゲットA、Cは確保した」
岡部「A、C....?それは、誰のことだ?」
萌郁「牧瀬紅莉栖と、橋田至....。岡部倫太郎、あなたも、連れて行く」
岡部「な、なんで俺とダルまでターゲットなんだ!?」
萌郁「この3人で、タイムマシン、作った....」
――なぜ知っているんだ!?だが、この流れは、まさか!?
....まゆりは?無事なのか!?
萌郁「抵抗は、無駄。....タイムマシンと、IBN5100は、回収する」
萌郁「岡部倫太郎も。秋葉留未穂は――」
――まさか!
その瞬間、フェイリスは素早く俺と反対方向に駆け出し、未来ガジェット9号“トール・サンダーボルト”を手に取った。
フェイリス「凶真!逃げて、早く!」
ラウンダーB「こいつ、抵抗する気か!」
萌郁と、ラウンダーの銃口は一斉にフェイリスのほうに向けられた。
岡部「フェイリス!やめ――」
ズダダダダダッ!!
銃声が、響き渡る。
岡部「フェイリス!くっ....!」
目を閉じ、開発室へ走りこんだ。後ろから、誰かの倒れる音がした。
ラウンダーC「こっちは片付いた。岡部倫太郎は?」
萌郁「....!あっち!」
ラウンダーA「何もさせるな!撃っても構わん!」
岡部「くそっ!どうしてこんなことに....!」
いそいでタイムリープマシンの設定を済ませ、ヘッドギアを被る。
ズダダダダッ!!
岡部「ぐわあっ!」
さらに銃声が響き、胸に激痛が走った。
その時、放電現象が始まり――
岡部「とべよおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
12月22日20:03
↓
12月22日16:03
Chapter8
冥走のオルフェウス
―――
――
―
岡部「ぐううっ....!」
4時間のタイムリープをした結果、大学で講義を受けている時間に帰ってきた。隣にいたダルが驚いたように声をかけてくる。
ダル「ちょ、いきなり呻きだすとか、講義中はマジ勘弁」
岡部「!ダル!東京を離れろ、今すぐにだ!」
ダル「は?いきなりなんなん?東京を離れろって....」
岡部「いいから、できるだけ東京から離れるんだ!」
ダルにそう伝えながら、すぐに教室の外へと走り出す。
ダル「いつもの厨二病ですね、わかります――ってオカリン!どこ行くん!?」
岡部「頼む、今すぐにだ!」ダッ
――
教室から出て、走りながら紅莉栖に電話をかける。
紅莉栖『....ハロー?』
岡部『紅莉栖!急いで東京を離れろ、今すぐにだ!』
紅莉栖『はあ?いきなり電話してきて、何を言い出すかと思えば....』
岡部『俺はタイムリープしてきたんだ!夜の8時、ラボが襲撃される!』
紅莉栖『えええ!?あんた、それ本気で言ってる?』
岡部『わかったな?すぐにだ!』
紅莉栖『ちょ、ちょっと――』ブツッ
まゆりとルカ子は今日はラボに来なかったし、そもそもラウンダーのターゲットになっていないから大丈夫だろう。
それより、フェイリス....前の世界線では、どうあがいても必ずまゆりの死に収束した。
まさか、この世界線ではフェイリスの死に収束するのか?
岡部「....いや、そんなはずはない!」
まだ、俺はフェイリスの死を直接見たわけじゃない!もしかしたら、可能性があるかもしれない!
今度はフェイリスに電話を掛ける。
フェイリス『もしもし?凶真から電話なんて、ちょっと珍し――』
岡部『フェイリス!今どこにいる!』
フェイリス『うニャ?今は学校で、これからメイクイーンに行くところニャ』
岡部『わかった!今からそこに行くから、ちょっと待っていてくれ!』
フェイリス『へ?な、なんで――』ブツッ
くそ、早くしなければ....!
――
フェイリス「凶真?どうかしたのニャ?」
フェイリスは、校門の前で黒木さんとともに待っていた。よし、まだ3時間もある!
岡部「今日の夜8時ごろに、ラウンダーが襲撃してくる!東京からできるだけ離れるんだ!」
フェイリス「ええ!?....わ、わかったニャ!黒木!」
黒木「??....とにかく、東京から離れればよろしいので?では、軽井沢の別荘にでも向かいましょうか」
――
――19:38
黒木「こんなところで検問とは、ついてませんねえ....」
車は、いまだに東京から出られていなかった。検問につかまり、前後左右に身動きが取れなくなってしまったのだ。
フェイリス「う~....こんなの、普通ありえないニャ」
....これも、前の世界線で体験した通り....だとしたら――
その時、窓の外を見ると見覚えのある連中が近づいてくる。
ラウンダーだ。
岡部「くそ、フェイリス!行くぞ!」
フェイリス「フニャ!?凶真、行くってどこに!?」
フェイリスの手を引いて車の外に出る。こうなったら、走って逃げるしかない!
フェイリス「ど、どこに行くの?ねえ、凶真!?」
岡部「どこでもいい!どこかに隠れて――」
ズドォン!
銃声が、検問でできた大渋滞の中に響き渡る。
岡部「バカな、こんなところで撃ってきただと!?おい、フェイリ――」
フェイリス「ううっ....」ヨロッ
岡部「なっ!?フェイリス!フェイリス!!」
倒れこむフェイリスの体を受け止め、必死に呼びかけた――
が、フェイリスは俺の腕の中で血まみれになり、もう動かなくなっていた。
運転手A「?なんだ今の?銃声?」
同乗者「そんなわけ――って、あいつの持ってるの、本物か!?」
運転手B「うわ、あっちの子、撃たれて死んでるぞ!」
運転手C「ひいいいい!た、助けてー!!」
渋滞が、混乱に包まれる。
逃げるなら、今しかない。
岡部「くっ!すまない、フェイリス....」
俺はフェイリスをそのままにして、ラボに向かって走り出した。
――
岡部「はあ、はあ....」
ラボはまだ襲われていなかった。ほんの少しだけ、安堵する。
....やはり、この世界線はフェイリスの死に収束するのか!?
岡部「....いや、まだだ!まだ何か可能性があるかもしれない!」
タイムリープマシンの設定をして、再びヘッドギアを被った。
今度こそ!今度こそ――
12月22日20:56
↓
12月22日15:56
――
その後も、さまざまな方法でフェイリスを助けようと試みた。
電車を使おうとしたら、前の世界線のように電車は止まっていた。
建物の中に隠れても、何らかの原因でラウンダーに見つかった。
それ以外にも、あらゆる方法で逃げようとし、かくれようとしたが、必ずフェイリスは殺された。
時にはラウンダーの手で。
時には全く違う原因で。
ラウンダーの本来のターゲットではないフェイリスだけを逃がそうとしても、無駄だった。
あえてずっと自宅で待機させても、無駄だった。
21日以前の時点ではるかに離れた場所に逃がしても、無駄だった。
もはやラウンダーとは全く関係のないことが原因で、フェイリスは死んだ。
死んだ。
死んだ。
死んだ。
死んだ。
やはり、この世界線は必ずフェイリスの死へ収束する。
フェイリスの死が、世界に承認されている。
この世界線にいる限り、避けることはできない。
――12月20日20:02
岡部「........」
考える時間がほしい。何十度目かもわからなくなったタイムリープで、二日前まで戻ってきた。
この因果が、ラウンダーの襲撃から始まっているのは間違いない。そもそも、なぜ俺たちはラウンダーに目をつけられた?なぜタイムマシンやIBN5100の存在が漏れているんだ?
....わからない。やはり電話レンジ(仮)を作ったことが間違いだったのか?
俺は、また間違えたのか?
フェイリス「凶真?」
岡部「!!....いたのか、フェイリス」
この日、この時間にフェイリスはいたか....?毎日顔を出しているから、いてもおかしくはないか。
フェイリス「....また何か悩んでるのかニャ?フェイリスに話してみるニャ!」
岡部「....悩んでなどいない」
フェイリス「........」
フェイリス「それはウソニャ」
岡部「なっ....嘘ではない!」
フェイリス「ウソニャ。....ねえ凶真、ほんとにどうしたのニャ?なんだか、まるであの時みたい」
岡部「あの時って、いつのことだ?」
フェイリス「4か月前の、凶真が世界線を越えてきた時」
岡部「な、何を言っている!」
フェイリス「もしかして....凶真、また世界線を変えたの?それとも、タイムリープをしたの?」
岡部「ち、違う!別に何もない!
フェイリス「それもウソ」
岡部「だから、嘘じゃないって言っているだろう!」
フェイリス「....どうしてそんなウソをつくの?今の凶真、とっても苦しそうだよ」
岡部「........」
フェイリス「凶真、苦しいなら、私を頼ってよ。そんな悲しいウソはつかないで」
岡部「う........」
フェイリス「一緒に戦おうって、約束したでしょ?お願い、教えて。お願い....」
岡部「フェイリス....」
岡部「....2日後、12月22日の夜8時ごろ、ラウンダーがラボに襲撃してくる」
岡部「そして、お前が....フェイリスが、殺される。どう逃れようとしても、その未来に収束するんだ....」
フェイリス「!!....」
フェイリス「もしかして、凶真はそれを何とかしようとして....」
岡部「ああ。もう何度もタイムリープしている。だが、これはこの世界線ではもう確定してしまっている....Dメールで過去の改変を行うしかないが、いつ、どうしてこの結末が確定したのかが、どれだけ考えてもわからないんだ!くそっ....!」
フェイリス「........」
フェイリス「ねえ、凶真」
岡部「....なんだ?もしかして、何か思いついて――」
フェイリス「一回、眠ったらどうかニャ?」
岡部「....はあっ!?」
フェイリス「そんなに心が疲れてたら、いい考えなんて浮かばないニャン♪凶真が寝てるうちに、このネコ耳メイド探偵、フェイリスがいいアイディアを考えておいてあげるニャ!だから、今は安心して眠るのニャ♪」
岡部「お前、もうすぐ死ぬんだぞ!?なんでそんなに平然としてるんだよ!」
フェイリス「凶真があきらめない限り、フェイリスは死なない。で、凶真は絶対にあきらめない。フェイリスは、何も心配することなんてないニャ~♪」
フェイリス「それより、凶真の顔色が悪いことのほうが心配ニャ!さあさあ、今ならフェイリスが膝枕してあげるニャン♪」
岡部「こんなことになったのは、俺のせいなんだぞ!?俺のことなんて――」
フェイリス「もー、そんなこといいから、早くこっちに来るニャ!」
フェイリスは強引に俺をソファーに寝かせた。頭が、柔らかい感触に包まれる。
フェイリス「ねんね~こ、ねんね~こ、ねんねこニャ~♪」
岡部「なんだそれは....」
フェイリス「子守唄に決まってるニャ~♪....凶真、ちょっとは落ち着いたかニャ?」
岡部「ああ....ありがとう」
フェイリス「ニャフフ~♪ねんね~こ、ねんね~こ――」
まったく休んでいなかったため、本当に眠くなってきた。おとなしく目をつむることにしよう。
....フェイリスを助けるはずが、また助けられてしまったな――
――12月21日09:28
次の日の朝、目を覚ますとフェイリスの顔が目の前にあった。
フェイリス「あ、凶真!おはようニャン♪」
岡部「お前、もしかしてずっと起きてたのか?学校は?」
フェイリス「今更学校なんて関係ないニャ!それより、やっぱりフェイリスにも、どうしてラウンダーに目をつけられたのかはわからなかったのニャ~....」
岡部「ああ....実際に確かめたいんだが、タイムリープは2日前までしかできん。つまり、12月以前には戻れない」
岡部「萌郁が現れたのは11月....タイムリープでは届かない」
フェイリス「それでも、実際にその人に会って確かめるしかないニャ」
岡部「だが、どうやって?」
フェイリス「探すしかないニャ。とりあえず土日まで戻って、フェイリスと一緒に探し出すのニャ!」
岡部「そ、そんなことができるか?」
フェイリス「こっちは記憶をもって何度でもやり直せるニャン!探し続ければ、絶対見つかるニャ!」
岡部「し、しかしあいつが口を割るようには....」
フェイリス「ニャフフ、そこはフェイリスの出番ニャ♪」
岡部「....!そうか、嘘を見抜く力があれば....」
フェイリス「凶真、フェイリスは力になれそうかニャ?」
岡部「ああ。....俺は情けないな。いつもお前に助けられてばかりだ」
フェイリス「にゃははは....そんなふうに言われると照れくさいニャ~....」
岡部「今度こそ....俺が、お前を助ける!」
12月21日10:15
↓
12月18日10:15
――
岡部「フェイリス、ちょっと話がある!」
フェイリス「はニャ?」
岡部「俺はタイムリープしてきた。12月22日、ラボがラウンダーに襲撃される!」
フェイリス「ええっ!?そ、そんな....どうして?」
岡部「それを今から調べるんだ!桐生萌郁を探し出し、ラボに目を付けた理由を聞きだす!協力してくれ!」
フェイリス「え、えーっと....」
岡部「お前ならわかるだろ?俺は嘘は言っていない」
フェイリス「う....わ、わかったニャ。何か手がかりはあるかニャ?」
岡部「手がかりか....」
確か、編プロでバイトをしていると言っていたな....本当かどうかはわからんが。
アークリライト、とか言っていたか?まずはそこからあたるしかない。
そこが空振りなら....アキバ中を隅々まで探してやる!
――
今度は、何度もこの土日の2日間を繰り返すこととなった。
桐生萌郁は確かにアークリライトという編プロでバイトをしていた。
だが、それは夏のほんの短い期間だけ。履歴書はとっくに捨てられていた。
手がかりのなくなった俺たちは、アキバ中を当てもなく探し回ることとなったのだ。
――12月19日14:13
岡部「くそ、アキバにはいないのか!?」
フェイリス「昨日も今日も、まるで雲をつかむような感じニャー....」
フェイリス「あれ?ルカニャン!」
るか「え?....あ、フェイリスさん。それにおか、凶真さんも。こんにちは」
フェイリス「こんにちニャンニャン♪」
岡部「ルカ子か。偶然だな」
るか「こんなところでお二人にお会いするなんて、珍しいですね」
フェイリス「ニャフフ~、ちょっとデートしてたのニャン♪」
るか「ええっ!?デ、デート!?」
岡部「違う!....そうだルカ子、怪しい女を見かけたことはないか?」
るか「えっ、怪しい女、ですか?うーん....そういえば、少し前なんですけど、柳林神社で不思議な女性に声をかけられました」
岡部「なに!?詳しく教えてくれ!なんと声をかけられたんだ?」ガシッ
るか「ふえっ!?え、ええと、古い神社に興味があるから、話を聞かせてほしいって....」
岡部「なぜその女が不思議なんだ?」
るか「えっと....あの、初対面なのに、まるでボクが男だって最初からわかってるみたいだったんです....」
岡部「もしかして、その女はメガネをかけていたか?」
るか「は、はい!」
間違いない、萌郁だ!奴はルカ子も調べようとしていたんだ!
岡部「ラボのことは聞かれたか?」
るか「い、いえ....」
岡部「そうか....じゃあ、関係ないのか....?」
るか「あの、でも、神社以外のこともいろいろ聞いてみたいからって、メールアドレスを聞かれました」
岡部「なんだと!?」
るか「で、でも、凶真さんが、メールアドレスは怪しい人に教えるなっておっしゃっていたので、教えていません!」
岡部「それはいつのことだ?」
るか「11月の終わりだったと思います」
岡部「11月か....」
11月では、結局意味がない....
るか「すいません、細かくは覚えていなくて....あ、でも、さっきコンビニで似たような人を見かけたんです」
岡部「本当か!?」
るか「はい。本人かどうかは、確信がないんですけど....」
岡部「そのコンビニ、案内してくれ!」
るか「え?は、はいっ!」
――
るか「今日のお昼ごろ、このコンビニの前を通りかかった時に、中から出てきたんです。ボクは、その....話しかけられたくなくて、かくれちゃいましたけど」
岡部「本人かどうかはわからなかったのか?」
るか「多分本人だとは思うんですけど....すみません、すぐかくれてしまったので....」
岡部「いや、直接確認すれば済むこと。助かったぞ、ルカ子!」
フェイリス「ルカニャン、ありがとニャン♪」
るか「??どういたしまして....?」
岡部「よし、俺はタイムリープする。ルカ子、正確には時間はいつごろだ?」
るか「ええと、12時ちょっと前でした」
12月19日15:32
↓
12月19日10:32
――
フェイリス「....あっ、凶真、きたニャ!」
コンビニの前で待ちぶせをし、とうとうその姿を捉えた。
岡部「よし、間違いない!桐生萌郁だ!」
フェイリス「それで、どうするのニャ?」
岡部「とりあえず、奴の住居を特定する。尾行するぞ」
――
岡部「あそこが、萌郁のアパートなのか」
桐生萌郁は、安アパートの2階の一室に入っていった。
フェイリス「凶真、さっそく話を聞き出しに行くニャ!」
岡部「いや、ほかのラウンダーを呼ばれたらまずい。“シャイニング・フィンガー;閃光の指圧師”なら、一瞬で助けを呼べてしまう」
フェイリス「それ、何のことニャ?」
岡部「....よし、今度はこのアパートで待ち伏せをするぞ!」
12月19日14:17
↓
12月19日11:17
――
今度は、萌郁のアパートで待ち伏せをする。戦闘準備はすでにできている。あとは萌郁の帰りを待つだけだ。
フェイリス「うにゃあ、物騒ニャ....」
岡部「奴は銃を持っている可能性がある。おまけに携帯に触れられたら終わりだ。万全を期す」
やがて、コンビニの袋を持った萌郁が帰ってきた。
岡部「奴がカギを開けたタイミングで突撃するぞ....」ヒソヒソ
萌郁がアパートの2階に上がっていく後ろから、気づかれないよう慎重についていく。そして――
萌郁「....!!!」
ズドオオオオン!!
萌郁が振り向いた時には決着はついていた。未来ガジェット9号機“トール・サンダーボルト”は、その名の通りすさまじい光とともにスタンガンを発射し、至近距離だった萌郁に見事命中した。
萌郁は、気を失ってその場に倒れる。
岡部「よし、うまくいったぞ!」
フェイリス「あ、荒っぽいニャ....」
手段は選んでいられない。急いで萌郁を部屋の中に運び、カギをかける。そして、携帯を奪って手足を縄で縛りあげた。
フェイリス「フニャあ!きつく縛りすぎニャ!それじゃあ、かわいそうニャ~!」
岡部「かわいそうだと!?フェイリス、こいつは――」
お前を殺したんだぞ、と言いかける。いや、フェイリスが殺されることは、このフェイリスには知らせていない。知るべきでもない。
落ち着け、俺。冷静になれ。
岡部「俺はまずこの携帯を調べる。フェイリス、この部屋に何か手がかりがないか調べてくれ」
フェイリス「う~、わかったニャ....」
岡部「....な、なんだこれは!?FB、FB、FB....送信履歴も、着信履歴も、FBだらけだ!FBってなんだ!?」
萌郁の携帯は、FBで埋め尽くされていた。1日に100通以上はメールのやり取りをしている。内容は他愛のない日常のことばかり....とはいえ、いくらなんでもこれは異常だ。
フェイリス「ニャニャ!?ぶ、武器がいっぱい隠してあるニャ!....ホントに危ない人だったんだ....」
しかし、これ以上は携帯と部屋から手がかりを見つけることはできなかった。
岡部「携帯にラウンダーとのやり取りがないのは、消去済みだからだろうか?」
フェイリス「そのFBって人が、日常会話の中に暗号を仕込んでいるのかも」
岡部「暗号か....どちらにせよ、本人に聞くしかないようだな」
――やがて、萌郁がゆっくりと目を開けた。
萌郁「........!!」
萌郁は、目を覚ますと驚いた表情を浮かべた。
萌郁「これは....どういうこと!?」
岡部「いいか、桐生萌郁。お前がラウンダーであること、俺たちのラボを22日に襲撃する予定であることは知っている」
萌郁「!!!」
岡部「抵抗は無駄だ。俺の質問に答えてもらおう」
萌郁「そんなこと、知らない」
岡部「嘘も無駄だ。では、始めるぞ――」
萌郁「....携帯」
岡部「なに?」
萌郁「携帯は、どこ?」
岡部「携帯はここだ」
萌郁に俺の手にあった携帯を見せる。すると、萌郁は突然表情を変えた。
萌郁「!!返して!返してよ!」
岡部「な――!?」
フェイリス「ニャニャ!?」
萌郁「返して....返せ、返せえっ!!!」
岡部「そ、そんなに携帯が大事か?質問に素直に答えれば返してやる。だから、騒ぐな!」
萌郁「この....卑怯者!」
岡部「卑怯者....だと!?お前らが、何をしたと思ているんだ!卑怯なのはお前らだろ!!」
フェイリス「きょ、凶真!凶真も声が大きいニャ!お隣に聞こえちゃうニャ~」
岡部「す、すまん....いいか、桐生萌郁。おとなしく質問に答えたら、携帯は返す」
萌郁「........」
岡部「よし。まずは、なぜ俺たちのラボを襲撃した?」
萌郁「してない....」
岡部「これからするだろう?なぜ襲撃するんだ?」
萌郁「........」
岡部「答えない気か?まあいい、俺たちのラボにタイムマシンとIBN5100があることは知っているな?」
萌郁「!....知らない」
フェイリス「それはウソニャ。あなたは知っている」
岡部「誰からそれを聞いたんだ?このFBとかいうやつか?」
萌郁「....違う」
フェイリス「それもウソニャ!」
萌郁「な、なにを、言っているの?」
岡部「いいか、この猫娘は人の心が読める。嘘をついても無駄だ。次に嘘をついたら、この携帯を叩き割るぞ!」
萌郁「え!?....そ、そんな、ことが....!?」
岡部「FBとは誰だ?ラウンダーか?」
萌郁「....。FBは、私の、お母さんみたいな人」
フェイリス「はニャ?お母さん?」
萌郁「FBは、ラウンダーの上司で....私に居場所をくれた人」
岡部「....FBの本名は?そいつはどこにいる?」
萌郁「知らない....会ったこと、ない」
岡部「嘘をつくなといっただろう!」
フェイリス「うにゃ~....凶真、モエニャンはウソはついてないのニャ」
岡部「なに....!?本当に会ったことがないのか?お母さんみたいな人なんだろう!?会おうと思わないのか?」
萌郁「思わない....会ったら、きっと幻滅される....」
岡部「....まあいい。俺たちを調べていたのは、FBからの指示だろう?」
萌郁「そう....」
岡部「FBはなぜ俺たちに目を付けたんだ?理由くらいは知っているだろう!」
萌郁「........」
岡部「おい、答えろ!携帯を壊されてもいいのか!?」
萌郁「っ!!........」
岡部「ふざけるな、答えろ!!」ガシッ
フェイリス「凶真、落ち着くニャ!」
萌郁「........」
フェイリス「....もしかして、クーニャン?」
岡部「何!?紅莉栖がどうした?」
フェイリス「モエニャンが現れたのは、クーニャンがはじめてラボに来た直後ニャ。もしかしたら、クーニャンはSERNに誘われていただけじゃなくて、監視されていたのかも」
岡部「そ、そういえば!萌郁、お前らが最初に調べていたのは、牧瀬紅莉栖なのか?」
萌郁「!ち、ちがう....」
フェイリス「ウソニャ!やっぱり、ラボが目をつけられた原因は、クーニャンがラボに来たことニャ!」
萌郁「な、なんで....?」
岡部「そうだったのか....だが、なぜだ?確かにあいつは優秀な科学者だが、脳科学の専門家だぞ?タイムマシンとは分野が違うじゃないか!」
萌郁「....ATF」
岡部「なに?....ATF?」
萌郁「牧瀬紅莉栖が、ATFで夏に行った、講義」
岡部「あの講義がどうしたというんだ?確かにあれはタイムマシンに関してのものだったが....タイムマシンを否定する講義だったぞ!?」
萌郁「その講義の理論が、独創的で....SERNの関係者が、気に入った。牧瀬紅莉栖は、タイムマシンを開発しうる、と....」
岡部「あの講義、そこまで独創的だったか....?そもそも、あの講義はディスカッション形式で――」
~~~
紅莉栖「え?あんたも、あの講義聞いてたの?」
~~~
岡部「!!!」
そうか、あの講義がディスカッション形式になったのは、俺が紅莉栖に反論をしたからだ!だが、あれは前の世界線での出来事....。
この世界線での当時の俺は、牧瀬紅莉栖に会ったことはない。それに、ダルが隣にいて気が大きくなる、ということもない。牧瀬紅莉栖に何の興味もない、友達のいない孤独な大学生だ。
この世界線の俺は、牧瀬紅莉栖に偉そうに反論なんてしなかった。あの講義はディスカッション形式にならず、牧瀬紅莉栖は邪魔者なしでタイムマシンへの自論を展開し、たまたま聞いていたSERNの関係者に目をつけられた、というわけか!
岡部「ならば、紅莉栖に講義の内容を変えるようDメールを送ればいい!そうすれば紅莉栖はラウンダーに目をつけられず、ラボもまた目をつけられることはない!」
岡部「....萌郁、携帯は返す。だが、その前に....」
萌郁の口を、ガムテープでふさいだ。
萌郁「....!?....っ!」
岡部「Dメールを送る前に他のラウンダーに知らされたら面倒だからな。携帯は....あの棚の上に置いておこう」
携帯は、立ち上がらなければとれない高さにおいておく。
フェイリス「うう、なんかかわいそうニャ~....」
岡部「大丈夫だ、すぐになかったことになる。よし、行くぞ!」
――
岡部「紅莉栖、話がある!」
ラボに戻ってくると、紅莉栖は洋書を読んでいた。
紅莉栖「ふえっ!?今、紅莉栖って言った!?」
岡部「いいから来い!」
紅莉栖「ちょ、ちょっとー!!?」
ダル「うわ、オカリン大胆すぐる!」
まゆり「オ、オカリン?」
――
岡部「俺たちがSERN、そしてラウンダーに目をつけられた理由が分かった。夏にお前がATFで行った講義の内容が原因だったんだ。だから、今からDメールでその内容を変える」
紅莉栖「!どういうこと?」
岡部「お前のタイムマシンを否定する理論....SERNはそこに、むしろタイムマシン開発の可能性を見出したようだ。それでお前をSERNに誘い、監視までつけていたんだ」
紅莉栖「....ふむん。そういうことだったのね。だから私を急に勧誘してきたのか」
もしかしたら、初めから紅莉栖はタイムマシンを信じていたのかもしれないな。父が研究を続けるタイムマシンを....だからこそ、それは独創的な理論になりえたのかもしれない。
紅莉栖「わかった。じゃあ、あの講義よりも前の日の私にDメールを送ればいいのね?」
岡部「ああ。内容は....紅莉栖、考えてくれるか?」
紅莉栖「ええ....」
紅莉栖「できた! 『ATFの講義 タイムマシン 絶対にやめろ』 こんな感じでどう?」
岡部「....助手よ、こんなメールを受け取ったら、お前は逆に反発するんじゃないか?」
紅莉栖「せんわ!大体あの内容は教授たちに頼まれたからで、直前まで専攻の脳科学の講義にしようかどうかで迷ってたから!」
岡部「まあいいか....準備しよう」
すぐにDメール送信の準備に取り掛かる。このDメールで、フェイリスを救い、未来を変えられるはず....!
そして、放電現象が始まった。今度こそ――
岡部「よし、送れ!」
紅莉栖「OK、送信!」
-0.275349
↓
-0.519237
――
岡部「ううっ........」
久しぶりの感覚....リーディングシュタイナーが発動したのだ。世界戦は、変わった。
岡部「クリスティーナ!」
いそいで紅莉栖を探すと、すぐそばで洋書を読んでいた。
紅莉栖「ちょ、いきなり大きい声出さないでよ!びっくりした....」
ダル「ミニスカサンタコスを見て我を失ったと思われ」
まゆり「まだ着ていのに~?」
岡部「クリスティーナ、夏にATFで行った講義の内容は?」
紅莉栖「へ?夏の?脳科学の話に決まってるでしょ。専攻なんだし」
岡部「では、SERNから勧誘されたことはあるか?」
紅莉栖「あるわけないでしょ。専門外よ」
岡部「そうか!それならいい」
紅莉栖「???」
これで勝った....のか?ダイバージェンスメーターを見ると、.519237。これは、-1を越えてはいないのか?わからない....
いや、超えていないとしてもかなり大きな変化だ。もしかしたら、大丈夫かもしれない。
フェイリス「凶真、さっきからどうしたのニャ?顔が怖いニャ~」
岡部「いや、大丈夫だ....問題ない」
フェイリス「もしかして、またモエニャンのことでも考えてたのニャ?」
岡部「........は!?い、今なんといった!?」
フェイリス「へっ!?モ、モエニャンのこと、って言ったニャ」
岡部「バカな!桐生萌郁のことを知っているのか!?」
フェイリス「え、えっと....ラウンダーの人でしょ?」
岡部「なぜだ!桐生萌郁と会ったのか!?」
フェイリス「フニャあ!?えっと、凶真とスズニャンと一緒にいるときに会ったニャ~」
岡部「そ、そんなバカな....それは、いつだった?」
フェイリス「な、何をいまさら言ってるのニャ....11月の終わりの、スズニャンが行っちゃった日だったニャン....」
目の前が真っ暗になった。なぜ....?俺たちに目をつける理由は、もうないはずだ....
フェイリス「でもでも、その時の一回しか現れていないから、もしかしたら偶然かもって凶真は言ってたニャ」
岡部「一回だけ?いや、その前にも俺は出会っているはずだぞ?」
フェイリス「はニャ?凶真は、一回だけ、って言ってたニャン」
岡部「だとしたら、本当に偶然なのか....?」
わからない。だが、目をつけられる理由がない以上、偶然の可能性は高いはずだ!
もう一度ダイバージェンスメーターを見る。
大丈夫だ....大丈夫だ!
――12月22日
フェイリス「たっだいまニャンニャ~ン♪」
夕方、バイトを終えたフェイリスがラボにやってきた。
岡部「フェイリス、今日は帰るな」
フェイリス「........」
フェイリス「フニャア!!?」
フェイリス「えっ、えっ?凶真、急にどうしたニャ?....他のみんなは?」
岡部「今日はラボに来ないよう言ってある」
フェイリス「な、な....せめて、あと二日待つっていうのは....」
岡部「?何の話をしているんだ....いいから、今夜はここにいろ」
フェイリス「こ、心の準備が....えーっと....」
12月22日、夜8時。この時間を、無事に超えられるだろうか....頼む、来ないでくれ....!
――23:00
岡部「........」
フェイリス「........」
11時。おそらく、今日はもう来ないだろう。
やった....のか?前の世界線では、事件が起きる日が一日ずれたりもした。となると、明日....まだ、油断はできない。
岡部「フェイリス、今日はもう帰っていいぞ」
フェイリス「!!?は、はああ~~~~~!?ここまで放置しておいて、今度は帰れって、どういうことニャ~!!」
岡部「........」
フェイリス「きょ、凶真?どうかしたのかニャ?え、えっと、怒ってるわけじゃなくて....」
岡部「別に、どうもしていない」
フェイリス「....それはウソニャ。何か心配事でもあるのかニャ?フェイリスに相談してみるニャ!」
岡部「いずれ話す。だから、今日はもう帰るんだ。黒木さんを呼ぶぞ」
フェイリス「ム~....」
――12月23日
ダル「え~、オカリン本当にいかんの?今日から冬休みで、しかもサンタコスなのだぜ?」
岡部「いかん。そもそも明日も明後日もサンタコスだろ?」
ダル「オカリンノリ悪いお....」
ダルもフェイリスもまゆりもメイクイーンに誘ってきたが、少なくとも今日一日はラボを離れる気はない。
前の世界線と同じく、この世界線でも一日ずれているだけなのかもしれない....
――
フェイリス「ただいまニャーン。凶真、なんで来てくれないのニャ~....せっかくサンタコス初日なのに」
フェイリスは今日もバイト終わりにラボにやってきた。
フェイリス「凶真、明日は大切なイヴのイベントの日ニャ!だから、明日こそは絶対に――」
岡部「フェイリス、今夜も帰るな。ここにいてくれ」
フェイリス「フニャ!?また?本当に、どうしたの....?」
時計をにらみ続ける。もうすぐ8時....来るな、こないでくれ....
――
しかし、無情にもドアは蹴破られた。
ラウンダー「動くな!手をあげろ!」
フェイリス「えっ、ええっ!?だ、だれ!?」
岡部「ラウンダーだ....」
そして、足音が階段を上ってくる。
萌郁「........」
ラウンダーA「M4、ターゲットA、Cは確保した」
岡部「くそっ....どうしてだ!?なんで俺たちに目を付けた!?」
萌郁「....それは....」
萌郁「あなたたちが、IBN5100を持っていて....タイムマシンまで、作ったから」
岡部「な!?なぜそれを知っているんだ!」
ラウンダーB「おい、うるせえぞ!おとなしくしろ!」
ラウンダーの銃口が、一斉に俺に向けられた。その瞬間――
フェイリス「凶真、逃げて!早く!」
フェイリスが、俺が机の上に用意していた“トール・サンダーボルト”を手に取り、“モアッド・スネーク”を起動した。
一瞬でラボが霧に包まれる。その中で、フェイリスのいたあたりから、轟音と共に閃光が放たれた。
ラウンダーC「うわっ、攻撃してきやがった!」
ラウンダーA「ちっ、撃て!あっちは殺していい!」
ズダダダダダッ!!
岡部「フェイリス!くっ....」
銃声が響き渡る中、必死に開発室に駆け込み、用意してあったタイムリープマシンを起動する。
萌郁「....!岡部倫太郎は?」
ラウンダーB「あっちだ!」
岡部「くそっ....」
岡部「くそおおおおおおおおおおおおおおお!」―-
12月23日20:03
↓
12月21日20:03
Chapter9
倒錯欺罔のアポスタタ
――
岡部「うっ........」
二日前の夜8時に戻ってきた。やはり、まだ何かがあったのか。
なぜラウンダーは襲撃してきたんだ?なぜIBN5100とタイムマシンがラボにあることを知っていた?
....もう一度、調べるしかない。ならば――
フェイリス「??凶真?急に黙って、どうしたのニャ?」
岡部「うおっ、フェイリス!いたのか!?」
フェイリス「ず~っといたニャ!まったく、失礼ニャ~」
岡部「....よし、フェイリス。明日は学校を休め。ちょっと手伝ってほしいことがある」
フェイリス「ええ!?そ、そんな急に....まあ、凶真がそういうなら、手伝ってあげるけど....」
もう一度、萌郁を尋問するしかない!今度こそ終わらせてやる!
――12月22日
次の日、朝からフェイリスとともに再び萌郁のアパートの前で待ち伏せをする。
フェイリス「ふにゃ~~~、寒いニャ~~~」ギューッ
岡部「フェ、フェイリス!くっついてくるな!見つかったらどうするんだ!」
フェイリス「だって、全然戻ってこないニャ~....」
萌郁は朝に出かけたきり、夕方になっても戻ってくる気配がなかった。
岡部「いきなり現れるかもしれないだろ!」
フェイリス「そんな、人をお化けか何かみたいに~」
岡部「奴らにつかまったら、殺されるんだぞ!」
フェイリス「ニャ!?こ、殺される!?」
岡部「い、いや....かもしれない、ということだ」プイ
フェイリスには、自分が殺されるということは当然伝えていない。毎回、フェイリスの危機感が足りないように見えるのはそのせいか....?
フェイリス「ニャう~~~、そんなこと聞いたら、よけい寒くなってきたニャ~~~」ギューッ
岡部「まったく....」
岡部「!!来たぞ!」
やっと、萌郁がアパートのほうに歩いて戻ってくるのが見えた。
前回と同じく、萌郁が自分の部屋の鍵を開けた瞬間を狙い――
萌郁「....!」
ズドオォン!!
未来ガジェット9号機“トール・サンダーボルト”で気絶させる。
フェイリス「あ、荒っぽいニャ....」
急いで萌郁を部屋の中へ運び、鍵をかけて携帯を奪う。そして、手足を縛りあげた。
フェイリス「フニャあ!き、きつく縛りすぎニャ!これじゃかわいそうニャ~....」
後ろでおろおろしているフェイリスを無視し、まずは萌郁の携帯を調べる。
岡部「....くそ、やはり情報はなにもなしか!」
あいかわらずFBとの日常のやり取りだけで、萌郁の携帯は埋め尽くされていた。前回と何も変わっていない....
フェイリス「FB?FBって何かニャ?」
岡部「コードネームだ。FBはラウンダーの上司で、萌郁にとってはお母さんのような存在と言っていた....」
フェイリス「お母さんみたいな人?....」
フェイリスはFBから送られてきたメールの文面を見て、首をかしげた。
フェイリス「凶真、このFBって人、多分男ニャ」
岡部「な、なに!?メールの文章は明らかに女性の言葉遣いだぞ?」
フェイリス「なんか、考え方が男性的というか....そもそも、メールの文章が女性の言葉遣いだからって、その人が女とは限らないニャ。むしろ、本当に女なら、ここまであからさまな文章は書かないんじゃないかニャ?」
岡部「....??つまり、オカマってことか?」
フェイリス「ニャア!?そういうことじゃないニャ!メールでの人格と現実の人格がまったく違うっていうことは、よくあることニャン!」
岡部「つまり、FBはメールでは女を装っているだけで、本当は男、ということか?」
フェイリス「そういうことニャ!」
岡部「なるほど....そういえば、萌郁もメールでの人格と現実の人格がまったく違ったな」
フェイリス「まあ、誰だって多少はそういう所があるものニャ」
岡部「お前はメールでもニャンニャン言ってるけどな」
フェイリス「フェイリスは、メールでもフェイリスニャ!」
――
萌郁「....!....これは、どういうこと?」
岡部「やっと目を覚ましたか。....いいか、お前らが明日我がラボを襲撃してくることは知っている!お前がラウンダーであることもだ!」
萌郁「な、なにを....!?」
岡部「なぜ俺たちに目を付けた?どうやってIBN5100やタイムマシンのことを知った?」
萌郁「....何の話?」
岡部「とぼけるのはやめろ。時間の無駄だ。正直に言えば、この携帯は返してやる。これだけが、おまえの居場所なんだろう?」
萌郁「!!返して!返せ、返せ!」
岡部「正直に答えたら、返す」
萌郁「この、卑怯者....!」
岡部「いいか、正直に答えろ。この猫娘は相手の心を読むことができる。嘘をついても無駄だ」
萌郁「な、何を言って――」
岡部「なぜ俺たちに目を付けた?牧瀬紅莉栖が原因か?」
萌郁「....?違う....」
岡部「それは本当か?」
フェイリス「凶真、今のはウソじゃなかったニャ」
岡部「紅莉栖じゃないのか....?では、なぜIBN5100やタイムマシンのことを知っている?」
萌郁「し、知らない....」
フェイリス「あ、今のはウソニャ」
萌郁「!!」
岡部「言っただろう。この猫娘に嘘は通じない。次に嘘をついたときは、この携帯を破壊するぞ!」
萌郁「ま、まって!わかったから....」
岡部「ならば、早く言え!」
フェイリス「凶真、怖がってるからもう少し優しく....」
萌郁「FBから、メールで....」
岡部「FBから....つまり、すべてFBの指示ということか?」
萌郁「そう....私は、FBの指示通りに動いただけ」
岡部「FBか....なら、そのFBというやつはどこにいるんだ!?」
萌郁「知らない....」
くそ、前に訊問した時と同じか!お母さんみたいな人で、ラウンダーの上司で....FBとは、何者なんだ?
岡部「FB以外のラウンダーについては何か知らないか?」
萌郁「知らない....だれも」
フェイリス「凶真、モエニャンはウソはついてないニャ」
岡部「....萌郁、そもそもお前はどうやってラウンダーになったんだ?」
萌郁「........。....私、ずっと孤独だった。家族もいなくて、友達もいなくて....何もかもがいやになって、自殺しようとしてた」
萌郁「そんなときに、FBからの一斉送信のメールを受信したの。ラウンダーへの勧誘....それに、返信して....」
岡部「なるほど、それで唯一の居場所、というわけか」
萌郁「........」
岡部「もしお前が会いたいと伝えたら、FBは現れると思うか?」
萌郁「....それは....」
フェイリス「うにゃ~....凶真、なんだか悲しいけど、きっと現れないと思うニャ。自分は表に出ずにメールで集めた孤独な人達をうまく利用しているような人間が、そんなにあっさり呼び出せるとは思えないニャ」
岡部「それでは、手詰まりじゃないか!」
フェイリス「う~~~....」
萌郁「........」
フェイリス「あ、凶真。ちょっと考え方を変えてみるのはどうかニャ?」
岡部「どういうことだ?」
フェイリス「FBはラボの中にIBN5100とタイムマシンがあることを知っている....どうすれば、それを知ることができるのかニャ?」
岡部「どうすれば....ラボに実際に入るか、ラボメンから聞き出すか、だな」
フェイリス「ラボメンには固く口止めしてあるニャ」
岡部「だとしたら、誰かがラボに忍び込んだのか....?」
フェイリス「あの電話レンジ(仮)を見ただけじゃ、タイムマシンかどうかなんてわかるはずないニャ」
岡部「だが、FBはあれがタイムマシンだと知っている....」
岡部「....まさか、ラボメンの中にFBが!?いや、そんなはずはない」
フェイリス「う~~~ん、何か閃きそうな気が....」
電話レンジ(仮)がタイムマシンということを知る方法....エシュロンにDメールが捕らえられていない以上、ラボメンしかそれを知ることができる者はいない....だが、ラボメンがFBのはずがないし、ラボメンがこのことをラボの外で話すはずが――
岡部「!!!そうか、ラボの中の会話!」
岡部「ラボに、盗聴器が仕掛けられているんだ!」
フェイリス「ええ!?と、盗聴!?」
岡部「それしか考えられん!」
フェイリス「だとしたら、いつラボに忍び込んだのかニャ....ラボメン以外は鍵を持ってないのに」
岡部「それをこれから調べるのだ。....しかし、そもそもなぜラボに忍び込んだんだ?萌郁、何か知らないのか?」
萌郁「知らない....」
岡部「そうか....まあいい、そいつ自身に聞けばいい」
フェイリス「ラボに戻ったら、さっそく盗聴器を探すのニャ?」
岡部「いや、いったんタイムリープしてなかったことにする。萌郁にすべて聞かれてしまったしな」
萌郁「タイム....リープ....」
今までは、萌郁は俺にとって敵であり、憎むべき対象でしかなかった。だが、利用されているだけの萌郁が急にかわいそうになった。こいつも、ある意味では被害者だったのかもな....
岡部「萌郁、もし....いや、今言ってもなかったことになるのか。だが、できればラウンダーはやめるんだ。お前には、もっといい居場所がきっとある。じゃあな」
萌郁「........」
タイムリープを済ませたら、まずはラボの盗聴器を探そう。そこから、なんとかFBの尻尾をつかんでやる!――
12月22日20:24
↓
12月21日20:24
――
タイムリープに成功後、すぐにラボを見渡す。どこだ?本当にあるだろうか?
紅莉栖「ひゃっ!?どこ覗き込んでるんだ、このHENTAI!」
岡部「おお!?いたのか、助手!」
ダル「いきなりおにゃのこの股下覗き込むとか、オカリンマジパネェっす!」
フェイリス「凶真~?」
....明日にするか。
――12月22日
盗聴のことなど全く知識にない俺にとって、盗聴器を探し出すことは想像以上に難しかった。一日かけてラボを探し回ったが、見つかる気配はなかった。
岡部「くそ、どうすれば....いや、ダルならば、あるいは....?」
こんなことも思いつかなかったとは....とにかく、ダルに電話をしてみよう。
ダル『もしもし、オカリン?なんで今日サボってるん?』
岡部『ダル、まだ大学か?すぐそっちに行くから、待っていてくれ!』
ダル『へ?今更?もう夕方――』ブツッ
ラボの中で話すわけにもいかない。急いで大学へ向かった。
――
岡部「――つまり、我がラボには盗聴器が仕掛けられている可能性が高い!」
ダル「厨二病乙!」
岡部「言うと思ったが、今回はマジだ。頼むダル!騙されたと思って協力してくれ!」
ダル「ん~、まあ調べるだけならいいお。べ、別にオカリンのためにやるんじゃないんだからね!」
岡部「そうか、助かったぞ、ダル!」
ダル「ツッコミが欲しかったお....」
岡部「で、どうやって調べるんだ?」
ダル「アキバなら、いくらでも盗聴器の探知機が売ってるお。それ使えばよくね?」
岡部「な....!」
その手があったか....
ダル「ちょ、それぐらい思いつくっしょ常考!」
岡部「う、うるさい!行くぞ!」
――
買ってきた探知機をラボで使ってみると、それはあっさりと見つかった。
ダル「オ、オカリン!これ、マジで――」
岡部「シッ!」
あわててダルの口をふさぐ。盗聴器は、うーぱ人形の下に張り付けられていた。こんなところにあったとは....!
ダル「本当にあるとか、信じられんお....それ、どうするん?」ヒソヒソ
岡部「破壊や取り外しをしたら、向こうに気付かれるかもしれん。....ダル、今日は帰れ」ヒソヒソ
ダル「そうさせてもらうお....」
――12月23日
昨日は、あの後ラボにやってきたフェイリスに事情を話して、いつ、だれが、どうやってラボに盗聴器を仕掛けたのかをラボの外で話し合った。
フェイリス「―-つまり、そのFBって人か、他のラウンダーの誰かがラボに侵入したのは間違いないってことかニャ?」
岡部「ああ。FB....FBは、このアキバ一帯、あるいは東京中のラウンダーを統括しているのかもしれんな」
フェイリス「う~~~ん、でも、実際ラボに侵入なんてできるのかニャ~?誰もいないときは鍵がかかっているし」
岡部「もしかしたら、侵入のプロがいるのかもしれん」
フェイリス「わざわざそんな人を送り込むなんて、理由を教えてほしいニャ....」
岡部「その理由が分かれば苦労してないがな。....フェイリス、何かいい考えはないか?」
フェイリス「そんな無茶な....でも、もしかしたらラボに何か痕跡が残っているかも」
岡部「そうだな....侵入した痕跡があれば、何かつかめるかもしれん。探すぞ!」
フェイリス「がってんしょーちニャ!」
――
その後、朝になってフェイリスがバイトに行った後も一人で侵入の痕跡を探し続けたが、何も見つからないまま時間だけが過ぎて行った。
――
岡部「くそ、もうこんな時間か....そろそろタイムリープをしなければ....」
気付けば、もう夕方になっていた。タイムリープして、次は....くっ、また手詰まりなのか!?
と、その時携帯に電話がかかってきた。
フェイリス『凶真!あのことなんだけど、バイト中に、一つ思い付いたことがあるニャ』
岡部『何!!本当か!?』
フェイリス『うん....とりあえず、メイクイーンに迎えに来てもらえるかニャ?』
岡部『わかった、すぐに行く!』ブツッ
――
急いでラボを飛び出し、メイクイーンへ走った。あまり時間がない....!
フェイリス「あ、凶真!」
岡部「フェイリス、思いついたこととはなんだ!早く教えてくれ!」ガシッ
フェイリス「フミャ!?ちょ、凶真、落ち着くニャ!お店の前で大胆すぎるニャン....」
岡部「う....」
オタク達がこっちをにらみつけていた。とりあえず、ラボに向かって歩き始める。
ある程度歩いた時、フェイリスが話し始めた。
フェイリス「凶真、何か侵入の痕跡は見つかったかニャ?」
岡部「いや、何もなかった」
フェイリス「やっぱり....」
岡部「やっぱり?やっぱりとはどういうことだ?」
フェイリス「....凶真が信じてくれるかは分かんないし、正直フェイリスもまだ信じられないんだけど....」
フェイリス「一人だけ、侵入なんてしなくてもラボに入ることのできた人がいるのニャ」
岡部「なに!?それは誰だ!」
フェイリス「ちょっと待って....今から、正解かどうかを確かめるのニャ」
岡部「それは、どういうことだ?」
――
フェイリスはそれきり黙ったまま、ラボの前まで来てしまった。
岡部「おい、ラボに来てどうするつもり――」
フェイリス「あ、店長さん!」
ちょうど、Mr.ブラウンが店じまいをしているところだった。
天王寺「....ん?おお、今帰りか」
岡部「ええ、まあ」
フェイリス「凶真、凶真♪早くラボに戻るニャ~ン♪」
岡部「おい、何をする!?」
フェイリスは、ぐいぐいと俺の背中を押してラボへの階段に向かわせてくる。
岡部「結局、またラボに戻るということか?」
フェイリス「いいからいいから♪」
そして、俺が階段に足をかけようという時、突然フェイリスがMr.ブラウンに向き直った。
フェイリス「店長さん、何をそんなにイライラしてるのニャ?」
天王寺「....はあ?イライラなんてしてねえよ」
フェイリス「それはウソニャ♪」
天王寺「ああ!?急にどうしたってんだ?」
岡部「??フェイリス、急に何を――」
フェイリス「盗聴器を仕掛けたのは、あなた?」
天王寺「盗聴器!?なんでそんなことしなきゃいけねえんだよ!お前らのお遊びサークルを盗聴してどうすんだ!」
岡部「........!」
待て、なぜラボのことだと分かった....?
フェイリス「あなたは、ラウンダーなの?」
天王寺「....何言ってんだ?そんなもん知らねえよ」
フェイリス「もしかして、あなたは、FB?」
天王寺「....!!」
天王寺「....まったく、何言ってやがんだ。FBってなんだよ?」
フェイリス「ウソばっかりニャン、店長さん....」
天王寺「はあ?さっきから嬢ちゃん、何言ってやがんだ?」
岡部「おい、フェイリス....本当に、Mr.ブラウンが....?」
フェイリスは、黙ってうなずいた。
信じられない。この人が、Mr.ブラウンがFBだと!?俺たちは、敵の真上にずっといたというのか!?
怒りっぽいが、子煩悩で、根はいい人だと思っていたのに....
岡部「なぜだ!?なぜあなたがFBなんだ!?」
天王寺「........」
天王寺「やれやれ、まさかそんなことまで知ってやがるとはな....FBっつーのは、フェルディナンド・ブラウン....ブラウン管の発明者の頭文字なんだよ。これは知らなかっただろ?」
岡部「....どうして、ラウンダーなんかになったんだ!?」
天王寺「俺だって、本当はこんなことしたくねえんだよ。でもよ、あの時は俺も生きるためにしかたなかったんだ」
Mr.ブラウンは銃を取り出し、俺のほうに向けてきた。
天王寺「おとなしくしてな。もうすぐほかの連中が来る。IBN5100とタイムマシンを回収して、それで全部おしまいだ」
フェイリス「いつ、どうしてラボに盗聴器を仕掛けたの?」
天王寺「....お前らが上をガタガタ揺らして、俺が怒鳴り込んだ時、IBN5100があるのが見えてな。すぐに回収してもよかったんだが、それを使って何をやっているのか調べろ、って上からの指示でな。そうしたら、まさしくタイムマシンだったってわけだ」
岡部「そんなことのために、またお前らは殺すのか!?鈴羽は....橋田鈴は、そんなことをさせるために貴方を世話してやったんじゃない!」
天王寺「....そうだろうな。俺も、綯が生まれた11年前、ラウンダーを抜けたいって上に言ったんだよ。綯のためにも、こんなことはやめにしたかった」
天王寺「そうしたら、IBN5100を手に入れることができたら抜けさせてやるってよ。だから、なんとしても手に入れたかった....それが、よりにもよってお前等とはな!」
天王寺「....どうして、こんなことになっちまったんだろうな」
やっと、すべてが分かった。早くDメールを送らねば....だが、どうやってここを抜け出す?
その時、通りの向こうから白いバンがこちらに向かって走ってくるのが見えた。
天王寺「ほかの連中もきたみてえだな。おしゃべりはここまでだ」
銃口はなおも俺に向けられている。一歩も動けない――
天王寺「うわっ!?な、何を!?」
フェイリス「凶真、行って!タイムリープ!」
フェイリスが、銃を持つMr.ブラウンの腕に飛びついた。....が、すぐにふり払われ、銃口がフェイリスのほうにむけられる。
フェイリス「早く!」
岡部「くっ....!」
階段は目の前だ。目を閉じ、急いで階段を駆け上がる。背後から、何発もの銃声が聞こえた。
天王寺「ちっ、岡部!待ちやがれ!」
ラボに入って一直線に電話レンジ(仮)のもとに走る。階段のほうからは、何人もの人間の足音が響いてきた。
岡部「Mr.ブラウン....なぜだ....」
放電現象が始まる。と同時に、ラボの扉が蹴破られた。
天王寺「岡部!!」――
12月23日20:04
↓
12月23日17:04
――
岡部「くっ....」
まだ、今見てきたものが信じられなかった。あのMr.ブラウンが、FB....あの人が、フェイリスが死ぬ原因だったとは....
だが、確かにラボメン以外でラボに入ったのはMr.ブラウンだけだ。Mr.ブラウンがはじめてラボに入った翌日に萌郁が現れた....あの日から、Mr.ブラウンは俺たちを調べ始めたんだ。
『ブラウン店長 を絶対にラボ に入れるな!』
Mr.ブラウンがFBだと伝えても、過去の俺が信じるかはわからない。だが、このメールならば実行するはずだ。
岡部「今度こそ....終わりだ!送信!」――
-0.519237
↓
-0.554821
――
岡部「うっ....」
リーディングシュタイナーは発動した。ダイバージェンスメーターは.... .554821 。-1を超えていないのか....?
次に、盗聴器が仕掛けてあったうーぱ人形の下を調べてみる。すると、盗聴器はなくなっている!
岡部「これは....大丈夫なのか?」
ふとラボの扉を見ると、俺があのDメールを受け取ってどう行動したのかが分かった。新しい鍵がついている。
フェイリス「たっだいまニャンニャ~ン♪」
その時、フェイリスが勢いよくラボに帰ってきた。
岡部「フェイリス、このラボにMr.ブラウンが入ったことはあるか?」ガシッ
フェイリス「はニャ!?....店長さんは、凶真が、ラボメン以外は絶対に入れん!って言って、新しい鍵までつけて入れないようにしたのニャ。だから、ラボメン以外はだーれもラボには入ってないニャ」」
岡部「じゃあ、桐生萌郁は知っているか!?」
フェイリス「ニャニャ?そんな人、聞いたことないニャ~」
岡部「本当か!?」
フェイリス「当たり前ニャ!急にどうしたのニャ?」
つまり、萌郁は本当に現れていない!俺たちは、ラウンダーに目をつけられていないんだ!
フェイリス「???」
フェイリスは、目を丸くして俺を見ている。
....毎回、フェイリスは自分を犠牲にして俺を助けてくれる。今度こそ、お前を助けられただろうか....
フェイリス「う~ん、まあいいニャ。凶真、明日こそメイクイーンに来てニャ♪明日は、クリスマスイヴのイベントが――」
岡部「悪い、フェイリス。明日はいけない」
フェイリス「ええー!!そンニャ~~~!」
岡部「明日は一日ラボから離れられんのだ。イベントは俺以外の皆と楽しんでくれ」
フェイリス「うう~....分かったニャ。でも、夜は付き合ってもらうニャ!」
岡部「ああ、ラボでなら、いくらでも付き合おう」
フェイリス「やったぁー!ニャフフ~、じゃあ、ちゃんと待っててニャ♪」
岡部「....ああ」
明日も、とりあえずは一日様子を見なければ....だが、今度こそ大丈夫だろう。そうあってくれ....
――12月24日
ダル「....へ?オカリンいかんの?」
紅莉栖「あんた、自分だけ逃げるつもり?」
まゆり「ええー、フェリスちゃん、いいの?」
フェイリス「残念だけど、大切な用事があるみたいだし、しょうがないニャ」
るか「凶真さんがいかないなら、ボクも....」
フェイリス「ルカニャンは、ダメニャ~♪」
まゆり「るか君、覚悟決めようよ」
フェイリス「まあまあ、命まではとらないから、安心してニャ♪皆の前で、ちょっとニャンニャンするだけニャン♪」
るか「そ、それが恥ずかしいんだってばぁ....」
紅莉栖「漆原さん、私だって恥ずかしいんだから....がんばりましょ」
ダル「うへ、うへへ....とうとうこの日が来たお!」
――
皆はメイクイーンへ向かった。この平穏が続いてくれれば....頼む、もう何も起きないでくれ!
――
岡部「遅いな....」
もう夜の7時を過ぎ、8時に近づきつつあった。いつもなら、とっくにフェイリスが帰ってきている時間だ。
....まさか!?
その時、ラボの扉が勢いよく開かれた。
フェイリス「メリークリスマース!!」バァン!
扉が開くと同時に、クラッカーを鳴らしながらフェイリスがラボに入ってきた。
岡部「よ、よかった....生きてたのか....」
フェイリス「フニャア!?生きてるにきまってるニャー!確かに、今日のフェイリスをめぐる死闘、“ギガントマキア;巨神戦争”は壮絶だったけど」
岡部「....ダルみたいなピザオタが集結していただけだろ」
フェイリス「そんなことより、このサンタコスの感想はないのかニャ?」
言われて初めて気が付いた。フェイリスは、まゆりが作ったサンタコスのままラボに戻ってきていた。
岡部「フェイリスに赤というのも新鮮だな」
フェイリス「ニャ!?それだけ?....む~~~」
悪いが、今の俺にはそんな余裕はない。....もうすぐ8時になる。
フェイリス「まあいいニャ。凶真、チキンもケーキも用意してきたから、さっそく二人でパーティを――」
その時、またもや扉が蹴破られた。そして――
ラウンダー「動くな!手を上げろ!」
....またもやラウンダーたちが、俺たちに銃を向けてきた。
フェイリス「ええっ!?だ、だれ?」
岡部「な....なぜだ....なぜだ!?」
そして、いつもと同じように足音が階段を上がってくる。しかし、そこに現れたのは――
岡部「!!!ミ、Mr.ブラウン!?」
現れたのは、萌郁ではなかった。覆面で顔を隠してはいるが、この大男を見間違えるはずがない....Mr.ブラウンだ。
フェイリス「ええ!?そんな!」
天王寺「........」
天王寺「ちっ、せっかくわざわざ覆面なんてしてきたってのに、やっぱ意味ねえか」
岡部「どうして、あなたが....!?そもそも、どうしてラウンダーが俺たちを襲撃するんだ!?」
天王寺「!....ラウンダーのことを知ってやがるのか。ということは、当然SERNやタイムマシンのことも知ってんだよな?」
岡部「え....それは、どういうことだ?」
天王寺「俺がここに力ずくで入ったのは、IBN5100を使って何をしてんのか確かめるためだ」
天王寺「....といっても、IBN5100でできることと言えば、SERNにケンカ売ることしかねえ。つまりタイムマシンだ。ほとんど決めつけだけどよ。....だが、正解だったみてえだな。残念だよ」
岡部「いや、それはおかしいだろう!?なぜ貴方がIBN5100の存在を知っているんだ!?貴方はラボに入ったことがないはずだ!」
天王寺「何度も入ろうとしたけど、お前が絶対に入れてくれなかったからな。....ちょっと前に思い出したんだよ。そこの嬢ちゃんのこと」
フェイリス「....え?フェイリスのこと!?」
天王寺「そうだ。どっかで見たことあるような気がしてたんだよ....あんた、秋葉幸高の娘の、秋葉留未穂だろ」
フェイリス「えっ?フェイリスは、店長さんとはこれまであったことないはずニャ!」
岡部「そもそも、それが何の関係があるんだ!」
天王寺「10年前、秋葉原の大地主の秋葉幸高が、レトロPC収集家でIBN5100を持ってるって情報があってな。SERNは、秋葉幸高にIBN5100を高額で買い取る、という話を持ちかけた」
天王寺「で、それと並行して、断られた時のための強硬策も用意されてたんだ。秋葉幸高の娘を誘拐して、IBN5100と交換する、っていうな」
天王寺「その誘拐計画の責任者が、俺だった」
フェイリス「そ、そんな!」
岡部「な....!?」
天王寺「IBN5100を手に入れたら、ラウンダーを抜けさせてくれるって約束でな。....俺は、綯のためにも、こんな仕事はやめにしたかったんだ。たとえ、何をしてでもな」
天王寺「運が良かったな、嬢ちゃん。ラウンダーに誘拐されてたら、間違いなく口封じで殺されてたぜ」
フェイリス「ううっ....」
その時、俺はエシュロンをハッキングした時のことを思い出した。
~~
フェイリス「んー...フミャあ!?ここ、フェイリスのパパの名前がある!!」
ダル「えっ、フェイリスたんってパパがいるの?てっきり天から降ってきたのかと」
岡部「バカなことを言うな。....妙だな。秋葉原の大地主というだけで、エシュロンに登録されるものなのか?」
フェイリス「そ、そういえば、パパはタイムマシン研究をしているDr.中鉢っていう人と古い友達で、資金援助をしていたこともあるニャ」
岡部「Dr.中鉢!?あの胡散臭いおっさんと!?そうだったのか!?」
フェイリス「でもでも、そんなことで目をつけられたら、たまったもんじゃないのニャ~....」
確かに、少しおかしい気がするな。
~~
10年前にそんな計画があったからこそ、フェイリスの父親の名前がエシュロンの特定ワードに入っていたのか!
天王寺「....だが、どっちも失敗した。秋葉幸高は、IBN5100は持ってないって言ってきた。誘拐計画のほうも、秋葉留未穂の警備が厳重だったせいで俺たちは手が出せなかったんだ」
天王寺「その後、俺たちは何年もかけて秋葉幸高の身辺を探った。だが結局、秋葉幸高はIBN5100を所有していない、という結論に至ったのさ」
....その時は、IBN5100は柳林神社に隠されていた。それで、ラウンダーの目を逃れたのか。
天王寺「で、今年だ。お前らがやってきた。レトロPCをもってな。その嬢ちゃんが秋葉留未穂ってことを思い出した時、あの時のレトロPCはIBN5100に違いねえ、と俺は考えたってわけだ」
岡部「そ、そんな根拠のない決めつけで、銃で武装して襲撃するのか!?そんなのおかしいだろ!?」
天王寺「俺だって、こんなことしたくねえんだよ!でもお前、俺を絶対中に入れようとしなかったじゃねえか!」
岡部「....!!」
天王寺「秋葉留未穂とレトロPC、絶対に見せられない研究、ここまでそろったらIBN5100とタイムマシンしか考えられねえんだよ!なにせ、10年以上もずっとそのことばっか考えてたんだからな」
岡部「くそっ....!どうして、こんなことに....」
こんなの....理不尽すぎるだろ....どうしようもないじゃないか!!
天王寺「悪いな。よりによって、お前らにこんなことをしちまうとは....お前らのこと、結構気に入ってたんだぜ?」
フェイリス「うう....店長さん....」
天王寺「最後だからって、ちょっとおしゃべりしすぎたな。....この研究所で、タイムマシン研究に関われそうなのは3人」
岡部「....なに?」
天王寺「その3人以外は、必要ない....」
その言葉を合図にしたかのように、ラウンダーたちが一斉に銃を――
岡部「やめろおおおおおお!!」
懐に用意していた“モアッド・スネーク”を起動すると、ラボは一瞬で霧に包まれた。
ラウンダーA「うわっ!?な、なんだこれは!?」
岡部「フェイリス、走れ!」ガシッ
フェイリス「わっ、きょ、凶真!?」
フェイリスの手をつかんで開発室に走りこむ。もうフェイリスの死ぬところは、見たくない....!
フェイリス「凶真!どうするの!?」
タイムリープマシンの設定は済んでいる。ヘッドギアを被った時、Mr.ブラウンの大声が響いた。
天王寺「くそっ!撃て、撃て!」
フェイリス「!!危ない!」
岡部「フェ、フェイリス!」
開発室へ向けて闇雲に銃が乱射される瞬間、フェイリスが俺の前に飛び出した。
ズダダダダダダダッ!!!
岡部「ぐああっ....!」
何発かが俺の腕や肩に直撃した。だが、致命傷にはならない。
岡部「くそ、フェイリス....」
フェイリスが俺の壁になっておかげで、俺は死なずに済んだ。また、助けられなかった....
ラウンダーB「あいつ、何かするぞ!」
天王寺「ちっ、もういい!殺せ!」
2回目の銃声が響くと同時に、放電現象が始まり――
12月24日20:02
↓
12月22日20:02
――
体から痛みが消えた。タイムリープは成功した。
....どうすればいい?今度は、どこを変えたらいいんだ?本当に、この地獄のようなループから抜け出せるのか?
フェイリス「凶真!?いきなり頭を抱えて、どうしたニャ?」
岡部「....そうか!IBN5100をラボに持ち込まなければいい!」
フェイリス「フニャ?何の話ニャ~?」
フェイリスを無視し、さっそくDメールを作成する。
『レトロPCを 絶対にラボに 持ち込むな!』
IBN5100は特定ワードで、エシュロンに捉えられる。だが、レトロPCと言われたら過去の俺もわかるだろう。
....よし、送信!
岡部「....リーディングシュタイナーが発動しない!?なぜだ!?」
フェイリス「な~にを一人で騒いでるのニャ?フェイリスにも説明するニャ!」
....一人で考えていても仕方なさそうだ。フェイリスに、フェイリスが殺されるということ以外の全てを説明した。
岡部「――つまり、IBN5100をラボに持ち込まなければいいはずなのに、リーディングシュタイナーが発動しないのだ!」
フェイリス「んん?そもそも、IBN5100ならそこにあるニャ」
岡部「なに!?なぜ持ち込まれているんだ!?」
フェイリス「う~ん....そのDメールを受け取った人次第で、どう行動するかはわからないからじゃないかニャ?」
岡部「そ、それはどういうことだ?」
フェイリス「そのDメールを受け取った4か月前の凶真は、前の世界線でマユシィを救うために必死にIBN5100を探し回っていた凶真ニャ。だから、きっとDメールで何と言われようとも、IBN5100を持ち込んでしまうんじゃないかニャ?」
岡部「そんなバカな!俺なら、絶対にDメールを信じるはず....」
いや、わからない。あの時の俺なら....なにせ、前の世界線であれだけ苦しんだんだ。Dメールを罠だと考えて、IBN5100を持ち込んでしまったのだろう。
岡部「それなら、いっそラボも電話レンジ(仮)もなくしてしまえばいい!そうだ、そもそもラボを作らなければいい!」
フェイリス「えええ!?でも、そんなことしたらクーニャンに送ったDメールまでなかったことになっちゃうニャ!」
岡部「そんなことはもういい!」
フェイリス「で、でも、そうしたら未来が....」
岡部「ディストピアなどもう構わん!ラボさえなければ....」
....フェイリスは助けられる。
再び、Dメールを作成する。
『ラボも電話レ ンジも絶対に 作るな!』
しかし、このDメールでも、リーディングシュタイナーは発動しなかった。
岡部「なぜだ!?どうしてこのDメールでも変わらんのだ!?」
フェイリス「う~ん....もしかしたら、Dメールで過去を変えたら、Dメールの存在が確定してしまうからじゃないのかニャ?」
岡部「....つまり、DメールによってDメールの存在を消すことはできない、ということか?」
フェイリス「そうニャ!だって、送信したDメールは過去に残ってしまうんでしょ?その時点でDメールの存在が因果律によって確定するのニャ!」
岡部「確かに、因果律で考えればそうなるが....だが、俺がこの世界線に来た時、ラボと電話レンジ(仮)は消えていたぞ!」
フェイリス「でも、その時点で未来にラボと電話レンジ(仮)が作られることは確定していた。だって、実際にそうなったでしょ?きっと、これは変えられないニャ」
岡部「ということは、どう世界線を改変してもラボの存在は確定、ということか....電話レンジ(仮)、つまりDメールはこのラボでしか生まれない」
フェイリス「ムムム~~~....じゃあじゃあ、フェイリスをラボメンにしない、ラボにも近寄らせない、っていうのは?」
岡部「そ、そうか。フェイリスさえ見られなければ、IBN5100を疑われることもない。次はそれで行くか....」
だが、今度は失敗するという確信があった。フェイリスは、絶対に俺に手を差し伸べてくる。そして、この世界線で孤独だった俺は、絶対にその手を取ってしまうだろう....
『フェイリスを 絶対にラボに 関わらせるな』
岡部「....送信」
....やはり、リーディングシュタイナーは発動しなかった。
フェイリス「また失敗?なんでニャ!?」
岡部「4か月前、あの時のお前は絶対に俺を助けようとする。そして、俺は絶対にお前を頼ってしまうんだ....」
フェイリス「そ、そうかも....フニャあ~、もうあきらめるしかないのかニャ....おとなしく全部明け渡せば、命は助かるんじゃ――」
岡部「ダメだ!!」
フェイリス「はニャ!?」
岡部「フェイリス....そんなことをしたら....お前が、死ぬ」
フェイリス「....えっ!?」
岡部「この世界線のままだと、24日にお前が死ぬ。どうしても、そう収束するんだ....」
フェイリス「........」
フェイリス「そっか、それで凶真はそんなに悩んでくれてたんだ....えへへ、ちょっと嬉しいな」
岡部「な、何をのんきなことを....」
フェイリス「ニャフフ~♪凶真!きっとまだ何か方法があるはずニャ!もっと、思いっきり世界を変えちゃうような!」
岡部「思いっきり、か....そういえば、この世界線に来た時はかなり大きく世界線が変わったな」
フェイリス「それニャ!10年前からIBN5100を消しちゃうとか!」
岡部「いや、いかん!そうしたら、前の世界線に戻ってしまう!前の世界線の12月....まゆりが死に、SERNのディストピアが確定した世界だ」
フェイリス「それは、消し方次第じゃないかニャ?なるべくこの世界線の状況を変えないような....」
岡部「....フェイリスの父親が池袋の土地を売ったことが、この世界線の決め手となっている。だが、それを変えずにIBN5100を消すことなどできるのか....?」
フェイリス「う~ん....あ、あったニャ!一つだけ、パパが池袋の土地を売って、IBN5100も手放す方法!」
岡部「なんだと!?本当か!?」
フェイリス「フェイリスが、本当にFB、つまり店長さんに誘拐されればいいのニャ♪」
岡部「....え?」
フェイリス「フェイリスが家出をした4月3日、パパはDメールを受け取ってその日のうちに池袋の土地を売ったニャ」
フェイリス「で、フェイリスはその日、実は閉館したラジ館に隠れて夜を越したのニャ。その時なら、フェイリスは護衛も何もいない一人ぼっち....店長さんにDメールで居場所を伝えたら、誘拐計画が本当になるニャ!」
フェイリス「きっとパパは、フェイリスとIBN5100を交換するはず....これで、池袋の土地は売られて、IBN5100は10年前からなくなり、おまけに店長さんがラウンダーじゃなくなるニャ!一石三鳥ニャン!」
岡部「ちょっと待て!どうやって10年前のMr.ブラウンにDメールを送るんだ?アドレスだって変わっているだろうし、そもそも携帯を持っているかどうか――」
フェイリス「そんなこと、どーでもいいニャン♪」
岡部「どうでもいいだと!?」
フェイリス「エシュロンの特定ワードに、パパの名前があったニャ。Dメールの文章に『秋葉幸高の娘』って書き込んで10年前の4月3日に送れば、あとは勝手に向こうが捕まえてくれるニャ」
岡部「うっ....し、しかし....」
フェイリス「??何か問題あったかニャ?」
岡部「そ、そうだ!そんなことをしなくても、IBN5100が柳林神社にある時にそれをFBに教えてやればいいんじゃないか?」
フェイリス「それは無理ニャ。パパはあれを柳林神社に奉納した時、セキュリティを完璧にしたらしいのニャ。橋田さんの遺言だから、って....。秋葉家の人間と漆原さん以外は、あれを絶対取り出せないらしいニャ」
岡部「くそ....」
フェイリス「そんな得体のしれない情報で、そんなセキュリティに突っ込んでくるとは思えないのニャ~」
岡部「得体のしれない、ならフェイリスの居場所に関してのDメールだってそうだろう!?そんなメールを信じるとは思えん!」
フェイリス「誘拐計画があったんだから、少なくとも確認には来るんじゃないかニャ?」
岡部「うっ....」
フェイリス「ねえ、どうしたニャ?何がそんなに気になってるの?」
岡部「........」
~~
天王寺「運が良かったな、嬢ちゃん」
天王寺「ラウンダーに誘拐されてたら、間違いなく口封じで殺されてたぜ」
~~
10年前にそのDメールを送ってしまったら....10年前に、フェイリスは死ぬ。
SERNのディストピアは回避できる。未来は変えられる。
だが、フェイリスを....助けられない。
Chapter10
静寂のホワイトチャペル
~~~
今日も一人、秋葉原の街をうろつく。
....結局、大学でもいまだに友達はできないままだ。
いつからか、一人でいることにも慣れてしまった。だが、もうこれでいい。俺は孤高の人生を生きていくのだ。
岡部「....ん?」
ふと、小さなゲームショップが目に入った。何やら騒々しいな....
「なんだよ!チクショウ、バカにしやがって!」
「はニャ?急に何を言い出すのニャ!?」
「ふざけやがって、てめえ一人だけ強すぎんだよ!大会が滅茶苦茶じゃねえか!」
「そうだそうだ!こんなんじゃ、勝負になんねえよ!」
「しかも、人を馬鹿にしたようなことばっかり言いやがって!」
「可愛けりゃ何でも許されると思ってんのか!?」
「そ、そんなわけじゃ....」
どうやら、雷ネットの大会をやっているようだ。が、何やらもめている。
「こんなやつ、もう参加させんなよ!」
「そうだそうだ!出てけ、このコスプレ女!」
「そ、そんな理不尽な....」
「でーてーけ!でーてーけ!」
「こんな優勝も無効だ!でーてーけ!でーてーけ!」
「う、うう....」グス
ネコ耳にメイド服という格好をした女の子を、皆で囲んで罵ってる。女の子は、今にも泣きそうだ....
なぜか、あの子に泣いてほしくなかった。あの子を助けたい、と思った。
岡部「そこまでだ!」バアン!
気が付いたら、そのゲームショップの扉を開いて叫んでいた。
「ああ!?なんだてめえ!」
「誰だお前!?」
し、しまった、勢いで行ってしまった。....こうなったらやけくそだ!
岡部「フゥーハハハ!俺は....そう、我が名は狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院....凶真だッ!」
頭の中に浮かんだ、中学生のころからの脳内設定が勝手に口から飛び出した。このまま勢いで押し切る!
「ほうおういん....きょうま?」
ネコ耳の女の子が、首をかしげた。
岡部「なんだ?貴様ら無様に敗北したうえ、女の子を集団で脅していたのか?実に惨めなやつらだ!」
「な、なんだとコノヤロー!」
「ケンカ売ってやがんのか!」
岡部「フン、誰もこの猫娘に歯がたたんというなら、この鳳凰院凶真が挑もう!貴様らはおとなしく見学していろ!」
「....えっ?あなたが、フェイリスと戦うってこと!?」
岡部「そうだ。本当の戦いというものを見せてやる」
「おいおい....誰だか知らねえが、あの女は滅茶苦茶つええぞ」
「そんな大口叩いて、恥かいても知らねえぞ?」
岡部「ククク....いまだかつて、雷ネットでこの鳳凰院凶真に勝った者はいない」
....当然だ。今までは脳内プレイしかしたことがないのだから。対人プレイは今日が初めてだ。
フェイリス「!!........ニャフフ、きょうまから強者のオーラをビリビリと感じるニャ!」
さっきフェイリスと名乗った女の子の前に進む。ほかの連中は空気に飲まれ、固唾をのんで見守っている。
すると、フェイリスは俺の耳元に近づいて、小さな声でささやいた。
フェイリス「....きょうま。助けてくれて、ありがとニャン♪」
その時、初めてこの女の子の端正な顔立ちが目に入った。ふわり、といい香りも漂う。
思わず、女の子の顔に見とれてしまう。
フェイリス「えっと、きょうま?」
岡部「!....フン、偽りで塗り固められた女に興味などない!ただ、戦いの気配を感じ取ったまでだ!」
フェイリス「ニャニャあ!?え、えっ!?」
照れ隠しで、思わず怒鳴ってしまった。女の子は目を丸くして呆然としている。
岡部「おい、早く始めるぞ!」
フェイリス「....!!わ、わかったニャ!」
岡部「フゥーハハハ!貴様は我が秘奥義“シンク・ポリューション;思考汚染波”によって敗れ去ることになるだろう!」
フェイリス「それじゃ、フェイリスも本気を見せてあげるニャ!........えへへ....」
岡部「?何を笑っている?」
フェイリス「ニャフフ~♪なんでもないニャ~ン♪」
~~~
――12月23日
岡部「....今の夢は、まさかこの世界線の俺の記憶....?....だとしたら....」
ずっと疑問だった。この世界線の鳳凰院凶真は、どうして生まれたのか。
まさか、フェイリスを助けようとして生まれたのか....
岡部「........」
ラボを見渡すが、誰もいない。昨日は考えているうちに疲れ果てて眠ってしまったようだ。
――
ダル「えー、オカリンいかんの?今日から冬休みで、しかもサンタコスなのだぜ?」
岡部「........」
ダル「オカリン、ノリ悪いお....」
俺はそれどころじゃないんだ。何か、何かほかの方法を探さなければならない。
IBN5100を消す方法....またはラボ自体を消す方法....あるいはフェイリスをラボに関わらせない方法....
最初に思い付いたのは、鈴羽を過去に行かせないという方法。そうすれば、IBN5100は俺の手から消える。
だが、この方法はリスクが大きすぎた。鈴羽が過去に行かなくなることによって世界線がどう変わるのか想像できない上、タイムマシンがラウンダーに見つかってしまうという最悪の事態が起きたら取り返しがつかない。
ラボ自体を消すこと....やはり、これが一番可能性があることのように思える。
――だが、その後何度もタイムリープを繰り返しながら何通ものDメールを送ったが、世界線は変えられなかった。
やはり、因果律によってラボの存在は確定しているようだ....Dメールを送った時点でラボへの因果が繋ってしまうのだ。
なら、最後の方法....フェイリスをラボに関わらせないようにするという方法で行くしか、可能性はない....
――だが、どんなDメールを送っても、やはり世界線は変わらない。
ダイバージェンスメーターは、ずっと .554821 のままだ。
一人ぼっちの俺は弱い。孤高など、結局俺には耐えられないのだ。
フェイリスがいたから、俺はこの世界線でも生きてこられた。どんなDメールを受け取っても、俺はフェイリスに頼ってしまう。助けられてしまう。
ラボが作られることは因果律で確定している。そして、俺はフェイリスなしではラボを作れない....
いつだって、フェイリスは俺を助けてくれた。俺の心を読み取って、手を差し伸べてくれた。ラウンダーに襲撃された時も、フェイリスは常に俺を逃がそうとして犠牲になる。俺は何度も助けられているのに....
それなのに、俺は助けられない。
――どれだけ考えても、何かにぶつかる。まるで出口のない迷宮のようだ....
――
フェイリス「凶真?」
岡部「....!!フェイリス!?なぜいるんだ!?」
フェイリス「なぜって....バイトが終わったからに決まってるニャ!」
岡部「そ、そうか」
フェイリス「なにをボ~っとしてたのかニャ?」
岡部「いや....なんでもない」プイッ
しまった....いつもはフェイリスが帰ってくる前に朝へタイムリープして戻っていたのに、今回は遅れてしまった。
フェイリス「ん~~~???もしかして、まだ昨日のことを考えてたのかニャ?」
岡部「........」
フェイリス「なんで昨日の話でそんなに迷うのか、フェイリスにはわからないニャ~。もう解決方法が見つかったっていうのに。なんなら、フェイリスが代わりにそのDメールを――」
岡部「だめだ!!」
フェイリス「フミャあ!!?で、でもでも、そうしないとフェイリスが死んじゃうんでしょ?」
岡部「心配するな。お前は、必ず俺が助ける。だが、そのDメールは....ダメなんだ」
フェイリス「はニャ?....う~ん....まあ、凶真に任せるニャ」
岡部「........」
フェイリスは意外にあっさりと引き下がってくれた。それにしても、フェイリスに会ってしまわないように12月23日を繰り返していたのに....どうも、俺は疲れて――
フェイリス「凶真、なんだか疲れてるみたいニャ」
岡部「な!?」
フェイリス「ニャフフ♪凶真、こっち来てニャン♪」
岡部「な、何をする気だ?」
フェイリス「いーから、こっちに来るニャ!」
フェイリスは、俺を強引にソファーまで引きずって言った。
フェイリス「疲れてる時は眠るのが一番ニャ!だから、今日は特別にフェイリスが膝枕してあげるニャン♪」
岡部「膝枕....」
だいぶ前に、こんな展開があった気がする。....そうだ、あの時のフェイリスは、俺のタイムリープに気付いて――
フェイリス「ねんね~こ、ねんね~こ、ねんね~こニャ~♪」
――12月24日
結局、あのまま眠ってしまったようだ....まあいい、今からタイムリープすればいい。
ラボを見渡すと、ラボメンたちが集まっていた。
るか「うう....正直、怖いです」
フェイリス「大丈夫ニャ♪ちょっとみんなの前で、フェイリスとニャンニャンするだけニャ!」
ダル「にゃんにゃん....にゃんにゃん....うへ、うへへ」
紅莉栖「ニャンニャンって、そこまで過激なことじゃないでしょ!....そうよね、フェイリスさん?」
フェイリス「それはどうかニャ~?ニャフフ~♪」
ダル「うおーーー!クリスマスサイコー!でもリア充は爆発しろ!」
まゆり「フェリスちゃんが楽しそうで何よりです♪」
るか「あわわ....やっぱり、ボクは帰ろうかな....」
まゆり「えーっ、ダメだよー。フェリスちゃん泣いちゃうよー?」
フェイリス「ル、ルカニャ~ン....」グスッ
るか「ええっ!?いや、あの....うう、行きます....」
紅莉栖「あれは卑怯よね....」
まゆり「じゃあ、そろそろ行こっか。....オカリン?どうかしたの、元気ないよ?」
岡部「....悪いが、俺は今日は....」
フェイリス「だーめーニャ♪一日くらい、フェイリスのイベントに付き合うニャ!」
岡部「フェイリス、俺には大事な用事が――」
フェイリス「それはウソニャ!いーからいーから♪」
おかしいな。いつもはこのあたりで引き下がるはずなのに....
ダル「もしかしてオカリン、明日雷ネットABグラチャンの決勝だから緊張してるん?んじゃ、なおさらメイクイーンで緊張をほぐすべきだと思われ」
紅莉栖「そうよ。そもそもあんただけ逃げるのはフェアじゃない」
フェイリス「凶真、せめてイベント中だけでもいてほしいニャ....ダメ?」
岡部「........」
俺はそんなことをしている余裕はない....だが、どうせ今タイムリープしてもいい考えが浮かぶわけじゃない。
岡部「わかった。いるだけだぞ」
フェイリス「!!やったぁーーー!ありがとニャーン♪」
紅莉栖「まったく、面倒くさいマッドサイエンティストだこと」
まゆり「フェリスちゃんよかったね~♪えっへへ~」
ダル「ん~....なんか納得いかんお....」
なぜか、俺に頼み込んできた時のフェイリスの目は真剣だった。そのため、断りきれなかったのだ。
....イベントが終わったら、すぐにタイムリープしよう。それで、問題はない。
――
メイクイーンは混雑していた。いつもの制服ではなくサンタコスというのもあるだろう。出てくる料理もチキンやケーキといったクリスマス仕様だ。
だが、今日の目玉はクリスマスイヴのフェイリスイベントだ。
ダル「フシュー....コホー....フシュー」
紅莉栖「何してんの?」
ダル「精神統一だお」
るか「で、でも、じゃんけん大会をして、勝った人からくじを引いていくだけのイベントだったような....」
ダル「だからこそ、精神統一が必要っしょ常考!僕、この戦いが終わったら結婚するんだ....」
紅莉栖「はいはい死亡フラグ乙。....はあ、クリスマスイヴだっていうのに、こんなむさくるしいオタクの巣窟にいるなんて」
るか「あはは....岡部さん、元気ないみたいですけど、大丈夫ですか?」
岡部「ああ、大丈夫だ。心配するな」
るか「....あれ?え、えーっと――」
ダル「オカリン!今日こそ、僕が勝つお!そして、フェイリスたんの、ちゅ、ちゅーを....」
紅莉栖「通報しますた。....岡部、本当に大丈夫?体調悪いなら、今日は――」
その時、サンタコスを着たフェイリスがマイクを持って現れた。
フェイリス「みんな―!!今日は、フェイリスのために集まってくれて、ありがとニャー!!!」
オタク達「「「うおおおおおおおおおおおおお!!!フェイリスたーーーん!!!」」」
オタA「フェイリスたーん!ああ、サンタコスかわいいよおおおおおお!」
オタB「くんかくんか!スーハースーハー!」
ダル「フェイリスたん、俺だー!結婚してくれー!」
紅莉栖「うわあ....地獄絵図ね」
るか「ま、牧瀬さん....いくらなんでも、それは言いすぎじゃ....」
フェイリス「ニャフフ、皆が元気いっぱいで、フェイリスはうれしいニャ!」
フェイリス「それでは、今日の“フェイリス杯inクリスマスイヴ”の説明を始めるニャン♪」
フェイリスは、いつもと変わらず元気なようだ。今日の夜、自分が死ぬことを知っているのに。なぜこんなに明るく振舞えるんだ?本当に、俺が助けてくれると信じているんだろうか....
フェイリス「今日はいつものフェイリス杯と違って、フェイリスと皆でじゃんけんをするだけニャ♪それで、勝ち残った一人がこのくじを引く!それを繰り返していくだけニャ」
ダル「フェイリスたん、質問です!それは、引けない人も出ちゃったりしますか?」
フェイリス「これは、フェイリスからのクリスマスプレゼントニャン♪だから、絶対に全員にひいてもらうニャ!ただし、一人一度まで!」
ダル「....夏のコミマ以来のシビアな戦いになりそうだお....」
フェイリス「このくじの中身が気になるかニャ?....マユシィ!試しにひいてみてニャ♪」
まゆり「はいはーい!じゃあ、ひいちゃうね~♪」
まゆりが選んだのは、ピンクのネコが書いてあるくじだった。その中身は――
まゆり「『フェイリスと愛のあるハグ』だってー!」
ダル「なん....だと....」
オタク達がどよめく。
紅莉栖「ちょ、やっぱこれは完全にOUTだろ!橋田とかが引いてたらどうすんのよ!」
るか「あわわ....」
フェイリス「ニャニャ、なかなか過激なものを引くのニャ....じゃ、さっそく!」ギューッ
まゆり「わわー!フェ、フェリスちゃん!」
ダル「すごく....百合です」
フェイリス「ま、こんな感じニャ♪一等賞は、『フェイリスがほっぺにチュー』ニャ!」
オタク達「「「キタアアアアアアアアアアアアア!!!!!」」」
紅莉栖「フェイリスさん、よくこんなことできるわね....」
まゆり「フェリスちゃんは、皆のフェリスちゃんだからね♪」
るか「答えになってないよ....」
フェイリス「というわけで、フェイリス杯inクリスマスイヴ、開幕ニャン!」
フェイリス「さあ皆、立つのニャ!フェイリスに負けた人とあいこの人は、座ってニャ♪じゃーん、けーん――」
紅莉栖「岡部?あんた、やらない気?やっぱり体調悪いんじゃない?」
岡部「気にするな。イベントには参加しないというだけだ。いるだけ、という約束だからな」
紅莉栖「な!?卑怯よ!」
岡部「クリスティーナ、じゃんけんに集中しろ」
紅莉栖「ああ、もう....うわ、また勝っちゃった」
――
紅莉栖「まさか、一番最初に勝ち残るとは....」
フェイリス「ニャフフ、クーニャン♪クーニャンが一番で、フェイリスはうれしいニャ~♪」
紅莉栖「うう、恥ずかしすぎるのは勘弁して....」
フェイリス「ニャフフ、クーニャンみたいな人のために、ネコの絵以外のくじも入っているのニャ♪そっちなら、フェイリスとは関係のないくじも入っているかも....」
紅莉栖「え、それ本当なの?じゃ、じゃあこの....ケルベロス?キングギドラ?これにするわ」
まゆり「えー、クリスちゃーん....」
紅莉栖「どれどれ、『今日一日ミニスカサンタコスネコ耳メイド』....な、なんぞこれええええ!?」
まゆり「あ、やったー!クリスちゃん、大当たりだよー!」
フェイリス「ニャニャ!萌えの神が舞い降りたニャ!」
ダル「オウフ、牧瀬氏のミニスカサンタ....薄い本が厚くなるお!」
オタA「デュフフ、すばらしい」
オタB「まさかのサービスタイムキタコレ!」
紅莉栖「黙れHENTAIども!」
フェイリス「さっそくお着替えタイムニャーン♪今日こそは逃げられないニャ!」ガシッ
紅莉栖「ちょ、ちょっと本当にやるの!?わ、わかったから!自分で着替えるからー!」ズルズル....
ダル「....にしても、ルカ氏以外の男が引いてたらと思うと....オエッ」
るか「ボクだっていやですよぉ....」
やがて、サンタコスに着替えた紅莉栖が現れた。
オタク達「「「オオオォォ....」」」
ダル「ひんぬーもありだお!」
紅莉栖「誰が貧乳だ!そこまでちゃうわ!」
フェイリス「あ、クーニャンは今はネコ耳メイドでもあるんだから、ご主人様にはそれ相応の言葉遣いをしてもらうニャ」
紅莉栖「え、ええー....」
フェイリス「はら、一緒に♪ニャンニャン♪」
紅莉栖「い、いやよ!」
フェイリス「ちょっとだけニャ♪ほら、ニャンニャン♪」
紅莉栖「うう....ニャ、ニャンニャン....」
ダル「キターーー!その恥じらう感じが素晴らしすぐる!」
フェイリス「ニャフフ~、とうとうクリスティーニャンニャンが現実に....♪」
紅莉栖「....死にたい」
――
るか「恋人つなぎ、デュエット、なでなで....うう、恥ずかしいのばっかりです」
ダル「結構当たりはずれも大きいお。そして、20人以上が終わって、まだチューは出ていない!天は僕に味方している!」
紅莉栖「確かに確率的には上がってるけど....まだ誤差の範囲よ」
ダル「チュー、チュー....うへへ....」
紅莉栖「だめだこいつ、早く何とかしないと....」
フェイリス「あー!クーニャン、またそんなしゃべり方してるニャー!」
紅莉栖「しまった....もう勘弁して、ニャン....」
――
るか「ああっ!?か、勝っちゃった....」
まゆり「わー、るか君だー!」
フェイリス「ニャニャ!さあ、くじを引いてニャ♪」
ダル「ルカ氏....わかってるよな?」
るか「そ、そんなこと言われても....」
フェイリス「猫の絵以外のくじなんてどうかニャ?」
るか「ひいっ!そ、そっちのほうがこわいですよぉ....じゃ、じゃあ、これ....」
るか「えっと、『フェイリスをお姫様抱っこして店内一周』!?ム、ムリだよ....」
紅莉栖「これはまた、男らしいのが来たわね....ニャン」
ダル「それもうらやまけしからん!フェイリスたんのあんなとこやこんなとこに触れられるとかヤバすぎっしょ!」
まゆり「ダル君はエッチだね~」
るか「だ、抱っこして一周なんて、ボクにはとても....」
フェイリス「ルカニャン、ルカニャン♪フェイリスは、ルカニャンの男らしいところ、見てみたいニャ~」
るか「うっ....お、男らしい....」
紅莉栖「漆原さん、頑張って!ニャン」
まゆり「るか君、なんとかかんとか流を修業してるから、大丈夫だよ!」
フェイリス「清心斬魔流の修行の成果を見せるのニャ!」
るか「そ、そっか、修行....わかりました。頑張ります!」
るか「えっと、こんな感じでいいですか?」
フェイリス「そうそう!そこから、一気に持ち上げてニャン♪」
るか「は、はい!....えいっ!う、おも....!」
フェイリス「....何か言ったかニャ?」
まゆり「えー、るか君ひどいよー」
るか「な、なんでも....ないですっ」
るか「よいしょ....う~ん、はあ....はあ....」ヨロヨロ....
フェイリス「ルカニャン、ファイトニャー!」
紅莉栖「こ、これは....かわいい....!」
ダル「ハアハアしてるルカ氏ハアハア」
――
るか「終わり....ましたっ!はあ、はあ....」
まゆり「るか君、カッコいーよー!」
フェイリス「ルカニャン、ありがとニャーン♪」ギューッ
るか「うわあっ!?フェ、フェイリスさん!?」
ダル「またもや百合キマシタワー!」
紅莉栖「いや、百合じゃないから」
――
ダル「キタアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
フェイリス「おお、とうとうダルニャンの番ニャ!」
紅莉栖「橋田、もう110番の準備はできて――」
ダル「神様仏様フェイリス様、チューチューチューチューチュー....」
紅莉栖「通報しますた」
まゆり「はやいよー」
ダル「絶対に負けられない戦いが、ここにある」ジーッ
るか「な、長いですね」
紅莉栖「橋田ー、早くしないと警察が到着するわよー」
ダル「俺のこの手が真っ赤に燃える!勝利をつかめと轟き叫ぶ!ばぁぁぁくねぇつぅ....」クワッ
ダル「う~ん、やっぱこれじゃないっぽい」
紅莉栖「あ~、もう!長いっつーの!これでいいでしょ!?これで決定!」バッ
ダル「ちょ、牧瀬氏!」
フェイリス「んじゃ、開けちゃうニャーン♪」
ダル「な!?....牧瀬氏、はずれっぽいのだったら、一生恨むお....」ガクッ
フェイリス「ニャニャあ!?『フェイリスがクリスマスケーキあ~ん+お弁当ついてるぞ☆』....なんか、とんでもないのがきたニャ....」
紅莉栖「えええっ!?いやいやいや、いくらなんでもそれは絶対だめよ!」
まゆり「お弁当ついてるぞ☆って、ほっぺについた食べ残しをペロってするあれのこと~!?」
るか「あ、あわわわ....」
ダル「あれは....メシア!?」ムクッ
ダル「救世主が舞い降りたお....デュフ、デュフフ....」
紅莉栖「....あ、もしもし警視庁ですか?ここに凶悪な性犯罪者が一人....」
フェイリス「いやいや、フェイリスからやるんだから、犯罪にはならないんじゃないかニャ....」
紅莉栖「ちょっと、本当にやる気!?あのHEMTAIに!?」
フェイリス「もっちろんニャ♪ダルニャン、こっちきてニャ!はい、あ~ん♪」
ダル「父上、母上、僕は天国に旅立ちます....先立つ不孝をお許しください」パクッ
オタク達「「「うわあああああああああのやろおおおおおおおおお」」」
ダル「僕、とうとうあ~んしてもらえたお....幸せ....」モグモグ
フェイリス「フニャ?ダルニャン、こんなとこにお弁当ついてるぞ☆」ペロッ
オタク達「「「ああああああああああああああああああああああああ」」」
紅莉栖「ちょ、おまわりさんこっちです!」
るか「ほ、本当に....!?」
まゆり「わわー....あれ?ダル君?」
ダル「」
るか「あの、橋田さん?」
ダル「」
フェイリス「こ、これは....!死んでるニャ」
紅莉栖「そんなわけあるか!おい、橋田!」ガクガク
ダル「――はっ!?なんだただの天国か」
フェイリス「にゃはは、照れるニャ~♪」
紅莉栖「........?」
――
紅莉栖「....結局、あんたは本当にいただけね」
イベントも大詰めになった時、紅莉栖が俺の席に戻ってきた。
岡部「........」
紅莉栖「まあ、そんなことより....今日のフェイリスさん、ちょと変じゃない?」
岡部「....どの辺がだ?」
紅莉栖「う~ん、そういわれると難しいけど....なんか、振り切れすぎというか....まあ、なんとなくよ」
岡部「曖昧だな」
紅莉栖「あんたなら、付き合いも長いし、わかるかと思って」
岡部「........」
言われてみると、確かになんとなくいつもの明るさとは違うような――
フェイリス「あー!クーニャン、また普通にしゃべってるニャ!」
紅莉栖「うっ、また見つかった!」
フェイリス「それより、凶真!こっちに来てニャン♪」
岡部「なんだ?俺はイベントには参加しないと――」
フェイリス「じゃんけんのイベントはもう終わったニャ。でもでも、くじは全員引いてもらうって、最初に言ったでしょ?」
岡部「な、なんだその屁理屈は....」
ダル「フェイリスたん!ずるいお、ひいきだお!オカリン、さてはこれを狙っていたな?汚い、さすがオカリンきたない!」
紅莉栖「....なにが?」
岡部「フェイリス、俺は参加しないと――」
フェイリス「え~っ、凶真、お願いニャー....皆のイベントにしたいのニャ....」
まゆり「オカリン、やってあげようよー」
るか「ま、まあ、ボクも参加したんですし、岡部さんも引いてあげてもいいんじゃないかと....」
紅莉栖「体調が悪いわけじゃないんでしょ?だったら引いてあげなさいよ」
フェイリス「鳳凰院凶真らしく、サッと決めるだけでいいのニャ~」
岡部「鳳凰院凶真らしく、か....」
残ったくじを見下ろす。そして、すぐに答えは見つかった。
迷わず、フェニックスの絵が描かれたくじを手に取る。鳳凰院凶真らしく....ならば、俺は絶対にお前を助ける!鳳凰院凶真は、そういう存在なのだから。
まゆり「え~、ネコの絵じゃないよ~?」
フェイリス「........」
岡部「俺には、この中身がわかる」
ダル「魔眼ですね、わかります」
紅莉栖「はいはいワロスワロス」
まゆり「まあまあ、中身を見てみようよー。どれどれ~、『フェイリスがほっぺにチュー』....」
ダル「........」
紅莉栖「........」
るか「........」
オタク達「「「........はああああああ!?」」」
まゆり「おー!!大当たり――!!さっすがオカリン♪」
フェイリス「ニャフフ、さすが凶真ニャ♪さあ、こっちに来てニャ♪」
紅莉栖「チューって....まさか本当に引くとは....でも、私も勧めちゃったわけだし、う~ん、どうしよう....橋田、あんたは――」
ダル「」
紅莉栖「し、死んでる....」
フェイリスの正面に立つと、フェイリスは俺の目をいつものように見つめてきた。フェイリスは、いつもこうして俺の心を見抜き、手を差し伸べてくる。
俺には、フェイリスの心は見えない。なぜ今日こんなにも明るいのか、死ぬのは怖くないのか、本当に俺を信じているのか....
だが、お前が鳳凰院凶真らしくいてくれ、というなら、俺は鳳凰院凶真として、必ずお前を救ってみせる。永遠にタイムリープをし続けることになったとしても――
フェイリス「....ふふっ、じゃあ凶真、目を閉じてニャ♪」
そうだ、俺は、絶対にお前を助ける。
目を閉じながら、強く誓った。
なぜなら、俺は―――
――
メイクイーンでみんながまだ盛り上がっている中、俺は一人で店を出た。
今まで気が付かなかったが、外は雪が降っていた。夜には積もって、明日はホワイトクリスマスになるだろう。
....はたして、俺が明日を迎えることはあるだろうか。
岡部「....そろそろタイムリープするか」
気付くと、もう夕方になっていた。
その時、唐突にラボの扉が開かれた。
フェイリス「凶真!メリークリスマース!」バァン!
岡部「フェイリス?早いな....」
フェイリス「にゃはは、早めに帰ってきちゃったのニャン♪」
フェイリスは、持っていた袋の中からいろいろと取り出し始めた。
フェイリス「これは七面鳥で、これはケーキで、これは....ドクペ!飾りがなくてちょっと地味だけど、凶真!クリスマスパーティニャン!」
岡部「........」
フェイリス「ム~、凶真!まだちょっとは時間あるでしょ?少しでもフェイリスに付き合ってニャ♪」
フェイリスはドクペをグラスに注いで、俺に差し出してきた。
岡部「....はあ。わかった、少しだけだぞ」
気付くと、のどがカラカラだった。差し出されたドクペを一気に飲み干す。
フェイリス「ニャフフ、言い飲みっぷりニャ!そんな凶真には、フェイリスサンタからクリスマスプレゼントニャ~ン♪」
岡部「おいおい、そんなものを受け取っても....俺は今からタイムリープするんだぞ!?」
フェイリス「いーからいーから♪さあ、目をつむってニャ」
岡部「....またチュー、なんて言うんじゃないだろうな」
フェイリス「ニャニャ!さっきはほっぺだったし、今度は....なーんて、残念ながら違うものニャ!早く早く♪」
岡部「....仕方ないな」
言われたとおり目を閉じる。
....そういえば、俺もクリスマスプレゼントを買った気がする。あれはいつの世界線だったか――
フェイリス「....はいっ!もう目を開けていいニャ!」
岡部「ん?........お前、これは何の冗談だ」
フェイリスは、俺の頭にネコ耳をつけていた。
フェイリス「それはニャンと!フェイリスとおそろいのネコ耳ニャ♪これでフェイリスと凶真は一心同体ニャ~ン♪」
岡部「こんなもの、いらん」ポイッ
フェイリス「あーー!」
岡部「....こんなものがなくても、俺たちはずっと一緒なんだろ?」
フェイリス「!!....えへへ、そうだよね」
フェイリス「....ねえ、凶真。これからはフェイリスと一緒に戦うって約束したの、覚えてる?」
岡部「ああ、もちろんだ」
フェイリス「じゃあ、なんで10年前へのDメールを送らないのか、教えてくれてもいいんじゃないかニャ?」
岡部「....それとこれとは話が別だ。悪いなフェイリス、そろそろ俺は――」
フェイリス「だ~め~ニャ~!....教えてくれないなら、フェイリスが当てちゃおうかニャ?」
岡部「あ、当てちゃうだと?」
フェイリスが身を乗り出して俺の目を覗き込んできた。
フェイリス「昨日の夜から、ず~っと考えてたニャ。10年前にフェイリスが誘拐されれば、全部まーるく解決なのに、なんで凶真はそうしないのか」
岡部「う....」
フェイリス「それは、きっと――」
フェイリス「フェイリスが誘拐されたら、未来は変わるけどフェイリスが殺されちゃうから」
岡部「....!」
あわててフェイリスから目をそらす。
フェイリス「今更目をそらしても遅いニャ~。昨日の時点でなんとなくわかってたし」
岡部「ち、違う!そういうわけでは――」
フェイリス「フェイリスはそのラウンダーっていう人たちがどんなのか知らないけど、凶真は知ってるんでしょ?きっと、誘拐した女の子をそのまま帰してくれるような人たちじゃない」
岡部「........」
フェイリス「きっと、フェイリスは殺されちゃうって、凶真にはわかった。だから、凶真はフェイリスを助ける方法を探してるのニャ。そうでしょ?」
岡部「....お前は、本当に何でもわかってしまうんだな」
フェイリス「ニャフフ~、凶真に関しては、特別ニャ!」
岡部「いいかフェイリス、心配するな。何度タイムリープしてでも、お前を救ってみせる!だから――」
フェイリス「それは無理ニャ」
岡部「な、なに!?」
フェイリス「きっと、そんな方法はないニャ。凶真自身が一番わかってることでしょ?この世界では、絶対にフェイリスは死ななきゃならない。全部助けられるような都合のいい世界なんて、あり得ないのニャ」
岡部「そんなはずはない!必ず、何かあるはずだ!」
フェイリス「どっちにしても、フェイリスは死ぬことが決まってるんでしょ?今日か、10年前かが違うだけ」
岡部「お前は何を言っているんだ!?だからこそ、俺はそうじゃない世界線を探して――」
フェイリス「何回もタイムリープして、あらゆる手段を試したんでしょ?それでも無理なんだから、もう無理ニャ」
岡部「もういい!俺はもう行く....ぞ........?」グラッ
立ち上がろうとした瞬間、視界がぼやけて全身の力が抜けた。立ち上がることができない....これは....?
フェイリス「凶真、ごめんなさい....」
岡部「フェイリス....?お前、まさか....!?」
フェイリスは立ち上がると、俺に背を向けて話し始めた。
フェイリス「ドクペにちょっと睡眠薬を混ぜたのニャ。凶真がタイムリープできないように」
岡部「な、なぜ....?」
フェイリス「凶真。フェイリスのために何度も何度も苦しんでくれて、ありがとう。そこまでしてもらえて、もうフェイリスは満足ニャ!だから――」
フェイリス「凶真の代わりに、フェイリスが10年前にそのDメールを送るニャ!」
岡部「な....!?バカな、やめろ!」
フェイリス「フェイリスと凶真は、一緒に戦うって約束でしょ?だから、凶真ができないならフェイリスが決着をつけるしかないのニャ!」
岡部「ふ、ふざけるな!そんなこと、俺は許さんぞ!」
フェイリス「....10年前の4月3日、フェイリスの誕生日の夜に、フェイリスがラジ館に隠れてるってDメールを送る。これで、フェイリスと凶真の完全勝利ニャン♪」
岡部「そ、そんなのは....勝ちじゃない!お前がいなければ、俺は....」
フェイリス「凶真は、フェイリスがいなくても大丈夫。一人でも、ちゃんとラボを作って、ラボメンを集めて、電話レンジ(仮)を作るニャ。これは、因果律で決まっていること」
フェイリス「....つまり、最初からフェイリスは必要なかったのニャ」
岡部「な....なにを....!?」
フェイリス「フェイリスがいたら凶真も頼っちゃうけど、最初からいなければ凶真は一人でも戦えちゃうのニャ」
岡部「そんな、バカな....お前がいなければ、俺は....」
フェイリス「........」
フェイリス「....ホントはね、凶真がこの世界線に来た時からわかってた。凶真にとって、フェイリスはただの仲間。特別な....好きな人なんかじゃないって」
岡部「え....!?」
フェイリス「それなのに、フェイリスを助けるためにこんなに必死になってくれるなんて....えへへ、やっぱり凶真は優しいね」
岡部「ふ、ふざけるな!俺は....!」
岡部「確かに、最初はそうだったかもしれない....だが、この世界で俺は何度もお前に助けられて、いくつも思い出をもらって....だから、今は――」
岡部「俺は、お前が好きだ!」
フェイリス「........」
岡部「聞いているのか!?俺は、お前が好きだ!だから、絶対に助けるんだ!」
フェイリス「....それは、ウソニャ」
岡部「な。なんだと!?嘘なわけがあるか!フェイリス、こっちを見ろ!」
フェイリス「........」
岡部「こっちを....俺の目を見ろ!」
フェイリス「....聞こえないニャ~ン♪」
岡部「ふざけるな!おい、フェイリス!」
フェイリス「....ニャニャ!そろそろ時間かニャ?」
フェイリスは、俺と目を合わせないまま開発室へ入っていった。
岡部「く....ま、まて!」
俺は睡魔に襲われて力が入らない体に無理やり力を込め、壁にもたれかかるようにして開発室を目指した。
1秒が、永遠のように長く感じる。早く、早くしなければ....!
岡部「うぐっ!」ドサッ
何かに躓いて床に倒れた。それでも、床を這うようにして進む。
岡部「フェイ....リス....!」
とうとう、開発室にたどり着いた。しかし、すでにフェイリスはDメールの設定を終えていた。
そして、携帯を机の上に置くと、両手を高らかに掲げ、再びおれに背を向けて叫んだ。
フェイリス「――勝利の時はきたニャン!」
フェイリス「フェイリスと凶真は、あらゆる陰謀に屈せず、信念を貫き、このラグナロクを戦い抜いたニャ!」
フェイリス「この勝利のため、ラボメンとして共に戦ってくれたみんなにも、感謝ニャ!」
フェイリス「これから訪れるのは、フェイリスと――凶真が望む世界ニャ!」
――ちがう。俺は、そんな世界は望んでいない!フェイリスがいない世界なんて――
フェイリス「すべては、シュタインズゲートの選択ニャ!」
――やめてくれ。そんなのは....シュタインズゲートなんて、ただの設定なんだ!やめろ!――
フェイリス「エル――」
岡部「フェ、フェイリス....」
フェイリス「プサイ――」
岡部「まってくれ....」
フェイリス「コングルゥ――」
岡部「やめろ....」
フェイリス「世界は――」
岡部「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
フェイリス「再構成される――」
カチッ
その瞬間、世界が歪んだ。
リーディングシュタイナーが、発動する――
「....倫太郎さん」
フェイリスは、もう背を向けていなかった。ネコ耳を外し、床に這いつくばったままの俺に近づいてきて、そして俺を抱きしめた。
唇を、柔らかい感触が包む。
「んっ........ごめんね。勝手なことをして。あなたが苦しんでいる姿、もう見たくなくて」
「留未穂....俺は....」
「大丈夫。倫太郎さんは何があっても立ち上がれる、強い人。私は知ってるよ。私がいなくても、倫太郎さんは大丈夫」
「それに、私は完全に消えちゃうわけじゃない」
「ペアリングに魔法をかけたの、覚えてる?どれだけ離れていても、どんなことがあっても、心はずっと一緒、って」
「だから、見えなくても、聞こえなくても、触れられなくても」
「ずっと一緒にいるよ。だって、留未穂は倫太郎さんのこと――」
「好きだから。大好きだから」
「どんな世界でも、ぜーったいに、ね♪」
「....さようなら。私の大好きな、王子様」―――
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↓
-1.130426
―――
――
―
岡部「........はっ!?」
目を覚ますと、ソファーの上だった。どうやら、眠っていたようだ。
じゃあ、今のは....夢?
時計を見ると、もう日付が変わりそうな時間だ。ラボは、襲撃されていない。
窓の外を見ると、アキバは一面銀世界だった。ということは、今は間違いなく12月24日の夜。
そうだ、全部夢だったんだ!ラウンダーはもう襲撃してこない!もう何も起きない――
立ち上がった時、毛布のように俺の上にかかっていた白衣が、床に滑り落ちた。それは、あの誕生日にフェイリスにあげたはずの、ぼろぼろに使い古された白衣だった。
岡部「そんな....バカな....これは、フェイリスにやったはず....」
ということは....ということは――
岡部「いや、そんなはずはない!そんなことが、あるわけがない!」
狂ったようにラボを見渡す。
岡部「大丈夫だ....いつものラボだ。あの、懐かしいラボ――」
懐かしい?
岡部「な....ない!ないないない!」
ラボは、前の世界線のラボに戻っていた。4か月前までいた、あのラボに。
フェイリスが選んできたピンクのカーテンも、
フェイリスが取り付けたメルヘンな装飾も、
フェイリスが持ち込んだ賞品のうーぱグッズも、
フェイリスがいつの間にやら増やしたネコの置物も、
フェイリスがラボにいたすべての痕跡が消え去っていた。
....まるで、最初からフェイリスがいなかったかのように。
気付くと、IBN5100もなくなっている。やはり、これは....
岡部「ちがう!ちがう!くそ、フェイリス....!」
今度は携帯を取り出し、連絡を試みた。しかし――
こっちの世界線に来た時は、フェイリス以外のすべての連絡先が消えていた。
だが、今はフェイリスの連絡先だけが消えていた。
ふらふらと、開発室の中に入る。
そこには、それが当たり前のことであるかのように電話レンジ(仮)が鎮座していた。
――つまり、フェイリスの言っていた因果律の話は、正解だったということか。
俺はフェイリスが最初からいなくても、一人でラボを作り、電話レンジ(仮)を作るのだ。因果律に導かれて。
フェイリスに助けられなくても、俺は一人で....
こんな、こんな結末は、あんまりだろ....
体から力が抜け、床に手をついて崩れ落ちた。
そして、指からあのペアリングが消えていることに気が付いた。
もう、魔法は解けてしまったのだ。
この世界に、フェイリスはいない。
その存在も、思い出も、すべて消え去ってしまった――
岡部「あ....ああ........」
岡部「あああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
その叫び声は、誰にも届くことなく白い雪の中へ消えて行った。
【シュタインズゲート】幻影のチェシャ猫
~~完~~
プルルルルル........
プルルルルル........
プルルルルル........
プルルルルル........
プルルルルル........
プルルル――
ピッ
岡部『........』
???『ん?....ねえ、これ聞こえてる?』
岡部『....誰だ?』
???『あっ、オカリンおじさん!』
岡部『なに?....お前、誰だ!?』
???『今、どうして叫んでたの?外まで聞こえてきたよ』
岡部『その声....まさか、鈴羽か!?』
鈴羽『え?なんで知ってるの?』
岡部『鈴羽、なぜここにいる!?』
鈴羽『おじさん、それより外に出てきてくれるかな。君に頼みたいことがあるんだ』
岡部『頼みたいことだと!?』
鈴羽『あたしは、2036年からタイムスリップしてきたんだ。過去を変えるために』
鈴羽『それには、オカリンおじさんの力が絶対に必要なんだよ。だから、お願い――』
鈴羽『あたしに協力して、未来を変えて!』
Chapter11
逆理創世のラグナロク
転載元
【シュタインズゲート】幻影のチェシャ猫
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1425131416/
【シュタインズゲート】幻影のチェシャ猫
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コメント一覧 (25)
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- 2015年04月25日 23:41
- シュタゲとは嬉しい。お前らの感想待ちだからはよ読めよ
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- 2015年04月25日 23:55
- 素晴らしい、よくこんな難しい表現が上手くできるものだ
ところでオカリン背高過ぎワロス、アメリカ人とそんなに変わらないって・・・
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- 2015年04月25日 23:59
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SGの新作ってだけで星五つの価値がある
長いから読んでないけど
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- 2015年04月26日 00:09
- おい今真のエンディング書いてるぞ、まとめるの早すぎたな
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- 2015年04月26日 00:26
- 長!!
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- 2015年04月26日 01:01
- 続きはよ
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- 2015年04月26日 01:14
- 原作思い出しながら展開予想しつつ読んでたが面白かった。続きはよ
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- 2015年04月26日 01:33
- このままとか鬱でしねるから全部出してから纏めようぜ
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- 2015年04月26日 01:42
- 早漏すぎィ
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- 2015年04月26日 02:19
- この後電話がかかってくるんですねわかります
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- 2015年04月26日 04:57
- 救いをくれぇぇぇ!!!
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- 2015年04月26日 05:07
- まだ最初しか読んでないけど、Ω世界線の話みたいね。
一桁目がなくなってたのはかなり衝撃的だったわ。
あとで知ったけど、表示消えてたのはマイナスを意味してるらしいな……まぁそれだけ1から離れてる世界線ってことなんだろうけど、ラボもなく人間関係も様変わり世界線だし。
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- 2015年04月26日 07:00
- 楽しめたよ、楽しめたけどさぁ
救いはないんですかぁー
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- 2015年04月26日 07:36
- 素晴らしい。本当にありがとう
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- 2015年04月26日 09:01
- はやく続きをくれー!!
このまま終わるとかありえんだろ!!
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- 2015年04月26日 09:06
- うおおおお!
ひさしぶりにシュタゲのSS見たわw
面白かったぞ1よ
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- 2015年04月26日 10:00
- 続きは月曜に投下される模様。
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- 2015年04月26日 12:50
- なんだフェイリスが真ヒロインだったか
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- 2015年04月26日 18:28
- このボリュームとでこのクオリティは素晴らしいわ
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- 2015年04月26日 19:02
- フェイリス派の俺には近年まれに見る素晴らしい作品
トゥルーエンドがくると信じてる
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- 2015年04月27日 01:24
- やばい目から汗が
このまま終わりなんて嘘だよな?
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- 2015年04月28日 12:38
- 続きはよ(´-`).。oO
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- 2015年04月30日 21:46
- え?こんなバットエンドで終わらせるなら最初からやるなよ
と思ったが管理人が途中で載せちゃっただけなのね
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- 2015年05月06日 00:27
- 完結したぞ
ちゃんとまとめてや~
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- 2015年10月30日 22:59
- 面白いんだけど因果律云々の設定がちょっと残念
過去改変はその因果律を覆すって事なんだからさぁ