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上条「二人で一緒に逃げよう」 美琴「………うん」【2】

1:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/02(木) 03:13:26.40 ID:0pmTwzg0

前スレは以下のURLです。
上条「二人で一緒に逃げよう」 美琴「………うん」



85:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 22:08:15.99 ID:1idlpOM0

雪がしんしんと降り、風が吹き荒れる中、1人の少年と1人の少女は目を閉じて互いの身を寄せ合っていた。いずれ来るその瞬間をひたすら待って――。

美琴「……ねぇ……向こうに行ったら……ずっと……一緒に……いようね……」

上条「……ああ……そうしよう……」

美琴「……でも……もしかしたら………私たちの妹に……会うかもね……10031人の妹たち……に」

上条「それもいいじゃん……優しくしてやったら……いい」

美琴「……そうだね……」

1人の少年――上条当麻と1人の少女――御坂美琴は笑みを作り静かに語り合う。

美琴「………当麻」

上条「………ん?」

美琴「……私……何だか……もう……眠い……」

上条「…………………そうか」

美琴「……………後で…必ず……来てよね……お願いだから……私を一人ぼっちにしないでね」

上条「…………ああ」

上条は悟る。自分の側にいる彼女はもう限界だと言うことを。そして、自分自身も長くないことを。
そう考え、上条は最後にこの世の景色を見納めておこうと1度だけ目を見開いた。

上条「…………………」

その時だった。





上条「!!!!!!!!!!」



86:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 22:13:17.21 ID:1idlpOM0

ガバッ、と上条は何か信じられないものを見たかのように体勢を前へ大きく傾けた。

上条「(……………何だ………あれは?)」

美琴「……ど、どうしたの?」

突然起き上がった上条を不審に思い、美琴が訊ねてくる。




上条「……………光?」




美琴「……………え?」

確かに、上条の視線の先、数百mほど向こうに、小さいが1つの光が暗闇の中浮かんでいる。

上条「(……まさか、天国が近付いてきたとでも言うのか?)」

目を細める上条。
だが、それは見た感じ超自然的な光ではない。どちらかと言うと、人工的な、そんな感じがした。

上条「(家の灯り……?)」

一瞬、光の周りに小さな小屋らしきシルエットが見えた気がする。

美琴「……どうしたの? ……何かあるの?」

更に目を細める上条。
そして彼はその光の正体に気付いた。

上条「(間違いない……っ! あそこに小屋があるっ……!)」

美琴「………何なの?」

ザッと上条が立ち上がる。

美琴「え!?」

振り向き、上条は美琴を見る。

上条「小屋だ」

美琴「え?」

上条「あそこに光が見えるだろ? あれは小屋の灯りだ」



87:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 22:17:22.01 ID:1idlpOM0

そう言って上条は光の方を指差す。それにつられ美琴はそっちに顔を向けた。

美琴「………小屋、って」

上条「影が見えた。間違いない。あそこまで行くぞ!」

真剣な顔で上条は美琴の顔を見据える。
だが、美琴は呆然と上条を見返すと、やがて小さく首を横に振って答えていた。




美琴「………やだ」




上条「………………何?」

美琴「…………やだ………やだ」

上条「!」

美琴「………やだやだやだ………………やだやだやだやだやだやだ!!!!!!」

徐々に、彼女の声が大きくなる。

上条「…………………」

美琴「もうやだ!!! これ以上無駄な希望なんて持ちたくない!!! もう終わりにしたいの!!! 生きてたって辛い思いするぐらいなら、もう終わりたいの!!!」

駄々っ子のように美琴は上条の提案を拒否する。

上条「駄目だ」

美琴「…………っ」
美琴「やだ!!! どうして!? やっぱり私と一緒にじゃ死ねないの!?」

上条「……まだ、諦めるのは早い」



89:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 22:21:29.38 ID:1idlpOM0

美琴「………私はもう諦めたいの!!! もう……楽になりた……」

と、その瞬間。

上条「御坂!?」

フッ、と美琴がその場に身体を横たえた。

上条「おい、どうした!?」

美琴「……ハァ……ハァ……ハァ……」

再び、美琴が顔を赤くして苦しそうに息をしていた。

上条「叫んだことでまた症状が悪化したのか……」

1度は死を迎え入れる準備のためか、落ち着いていた美琴の体調。
だが今また彼女は、苦しみ始めた。

上条「ならお前もまだ……諦めきれてないってことだ」

上条は美琴を背負う。

上条「俺らしくなかったよ。あんな簡単に死のうとしてたなんて」

言って上条は、暗闇の中に見える光を見つめる。

上条「だがな御坂、俺は少しでも希望があれば絶対に最後まで諦めないんだよ」

上条はしっかりと地に足をつけ歩き始める。

上条「だから……絶対にお前を死なせたりはしない」

力強い声を響かせ、彼は美琴に話しかける。

上条「天国に行くのは最低でも後80年は待ちやがれ」



91:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 22:28:49.45 ID:1idlpOM0

イギリス――。

ガチャッと窓を開ける神裂。彼女はそこから階下を覗いた。

神裂「どうかしましたか?」

『弧絶術式』の被害に遭った美琴を助けるため、死んだ魔術師のアパートに残っていた神裂。彼女は1階から声を掛けられると、何があったのか聞き返した。

アニェーゼ「いやー……こっちには特に目ぼしい物は見つかりませんでした。やはりその部屋が唯一の手掛かりのようですよ」

そう言ってアパートの外から、黒い修道服に身を包んだ元ローマ正教の修道女アニェーゼが見上げてきた。隣には、彼女の同僚のルチアやアンジェレネがいる。今、彼女たちは10人ほどの部下を引き連れてこの田舎のアパートまで来ていた。全員、他に回っていた案件が解決したので、手助けに来てくれたのだった。

神裂「そうですか。ありがとうございます。では適当に休憩を入れて下さい」

アニェーゼ「はいはーい」

手を振り、アニェーゼたちは部下の所に戻っていく。それを確認し、神裂は窓を閉めると、部屋の中央の椅子に腰掛けている人物に顔を向けた。

神裂「今聞いた通りです。どうやら、手掛かりはこの部屋にしかないようですね」

インデックス「…………………」

が、インデックスは顔を俯けながら何も答えようとしない。

神裂「今、ステイルと土御門が、何とか我々が学園都市に赴けないか上と交渉に行ってる最中です。状況が良い方向に転がればいいですね……」

インデックス「……………………」

神裂「インデックス、我々も頑張りましょう。必ず手掛かりが掴めるはず」

インデックス「…………うん」

静かに答えインデックスが立ち上がる。

インデックス「ぷぎっ!」

バタン!

神裂「インデックス!?」

と、インデックスはいきなり盛大にその場で転倒した。

神裂「大丈夫ですか?」

インデックス「うー…大丈夫だけど……この本のせいなんだよ」

1冊の本を持ち上げるインデックス。どうやら床にあったその本が躓いた原因のようだった。



93:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 22:33:21.05 ID:1idlpOM0

インデックス「こっちが大変な時に、舐めた真似するんじゃないんだよ!」

神裂「インデックス!?」

言ってインデックスはその本を放り投げようとする。
が、

インデックス「ん?」

神裂「?」

インデックス「……あれ?」

神裂「どうかしましたか?」

怪訝そうな顔をしたインデックス。彼女は手に持っていた本を顔に近付け、その表紙を眺めた。

インデックス「………日誌」

神裂「え?」

そう、インデックスは呟く。神裂が彼女の視線を辿り、本の表紙を見てみると確かにそこには『DIARY(日誌)』と書かれていた。

神裂「多分、死んだ魔術師のもののようですね。何か書いてあるかもしれませんよ」

インデックス「………………」パラパラパラ

無言で本をめくるインデックス。
と、その時だった。

インデックス「!!!!!!!!」

急に、インデックスが神妙な顔をしたかと思うと、彼女は慌てたようにページを逆に捲り始めた。

神裂「? どうかしましたか?」

インデックス「今確かに『弧絶術式』の単語を見かけたんだよ」

神裂「ええっ!?」

インデックス「85ページ。そこに書かれてたんだよ……あった!」

叫んで、インデックスは目的のページを開く。



95:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 22:37:30.94 ID:1idlpOM0

インデックス「ほら! ここに!」

神裂「あ、確かに……」

インデックスが指差したページの一部分。そこには確かに『弧絶術式』の単語が書かれていた。
神裂はインデックスから本を受け取る。

神裂「これは……あの少女のことが書かれていますね」

インデックス「本当に!?」

インデックスが本を覗き込む。

神裂「やりましたねインデックス。手掛かりが見つかりましたよ」

インデックス「うん、良かったんだよ。でも、何て書いてあるの?」

神裂「ちょっと待って下さい。どうやら魔術師が何故あの少女を狙ったのか。その理由が書かれてあるようです」

インデックス「………」ゴクリ

神裂は無言で本を読み込む。
しばらくして………

神裂「あ!」

インデックス「? 見つかった? あの魔術師が短髪を狙った理由!」 

神裂「これは………」

インデックス「?」

急に蒼ざめる神裂。

インデックス「どうしたの?」

神裂「ええ……。見つかりました。確かに魔術師があの少女を狙った理由が書かれてます。しかし……」

インデックス「しかし?」

神裂「こんな……こんな理由で………」

インデックス「え?」

不思議そうな顔をするインデックス。彼女の目の前で本を読んでいる神裂の手はワナワナと震えている。そして神裂は、怒りを露にするように叫んでいた。

神裂「こんな下らない理由で……あの魔術師は彼女を狙ったのですか!?」

インデックスは呆然と、怒る彼女の顔を眺めていた。



96:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 22:44:59.80 ID:1idlpOM0

学園都市――。

ドバン!!!

古い造りのドアが勢い良く開けられた。

上条「着いたぞ……御坂」

上条だった。上条が美琴を背中におぶり、小屋に入ってきた。

上条「しっかりしろ!」

某学区にある山中。2人して死を迎える寸前だった時、彼らは暗闇の中に一筋の光を見つけた。
それは、強盗対策の為にとある小屋の入口に備えられた、一定時間ごとに点く自動点灯式の灯りだった。

上条「死ぬんじゃないぞ!!」

その光を頼りに、上条は高熱状態にあった美琴を小屋まで連れてきたのだ。

美琴「……ハァ…ハァ……ハァ……」

部屋の隅にあった寝台に美琴を寝かす上条。彼は室内を見回す。

上条「何か……布団か何かを」

その避難小屋は、普通の家の一部屋ぐらいの大きさがあった。
具体的には、正面左手に机が、正面左奥に横向きの寝台が、そのすぐ後ろにはスライド式の扉が、正面右手には壁に沿って設置された長い椅子が置かれていた。

上条「それより火だ……火を起こさないと」

言って上条は部屋の中央にあった薪ストーブの側に近付く。彼は、背後の机の引き出しを適当に探ると、1つのマッチを見つけ、それを擦った。

上条「点くよな? ここは避難小屋だ。定期的に整備されて全て使える備品が揃ってるはず」

何度もマッチを擦る上条。


ボッ!!


上条「点いた!!」

5回目にしてようやく火が点き、彼はそれをストーブの下に穿たれた空間の薪に向かって放り込んだ。


ボオオオオッ!!!!


と勢い良く炎が燃え上がった。



97:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 22:48:53.78 ID:1idlpOM0

火が点いたのを確認するやいなや、上条は寝台の後ろにあった扉を開け中を見回した。
色々と、遭難者のために用意されたものがそこに収容されてあった。

上条「これだ!!」

奥にあった毛布を数枚引っ張り出す上条。彼はそれを十分に暖まるようストーブの側に置き、次にベッドの上に寝かせた美琴に近付いた。

上条「ごめん御坂……」

美琴「ハァ……ハァ……」

一度、美琴の身体を起こし、上条は彼女が倒れないよう支えたまま背中を向けさせる。

上条「………その……この服のままお前を寝かすわけにはいかないんだ。だから………脱がすぞ?」

そう言って上条は美琴の帽子、マフラー、上着などを脱がす。

上条「し、下着までは脱がさないから! そ、それになるべくお前の素肌見ないよう気を付けるから!」

美琴「ハァ……ハァ……」

彼女に聞こえているのかは分からなかったが、一応念のため上条はそう言っておいた。

上条「じゃあ、いくぞ?」
上条「……………………」ゴクリ

顔を背け、上条はゆっくりと美琴の服を脱がしていく。

上条「見てないからな? 見てないからな?」

やがて美琴の上半身は地肌に下着1枚の格好となったが、上条はそれでも彼女に気を遣ってか視線を逸らしていた。

上条「つ、次、下脱がすぞ?」

ここからが正念場だった。上条は美琴を寝かすと、今度は下半身に手を伸ばした。

上条「い、いくぞ?」

美琴「ハァ…ハァ……」

もちろん美琴は聞いていない。

上条「見てないからな? 見てないからな?」

言って上条はフリルのスカート、短パンを順に脱がしていく。そして……

上条「………後はこのレギンスを脱がすだけ…」ゴクリ
上条「あ、いや、下心なんて無いからな! 絶対無いからな!」



98:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 22:53:42.51 ID:1idlpOM0

美琴「ハァ……ハァ……」

上条「よ、よし……そのまま…そのまま……」

ゆっくりと、上条はレギンスを脱がしていった。
顔を背けていた上条だったが、途中、ふと視界の端にフリフリした布キレと白い肌が見え、彼は思わずそちらに視線が………

上条「だから見てない! 見てない!! 見てない!!!」

……向く寸前で目を閉じた。

上条「っと、毛布毛布毛布」

そして、しどろもどろしながらも、上条はストーブの前で暖めていた毛布を手に取った。
顔を背けながらそれで美琴の身体を包んでやると、今度は棚の奥から大きな布団を取り出し彼女に被せてやった。

上条「棚にあった毛布と布団合わせて3枚。これで冷えた身体を少しは温めるはず」

ベッドの上で息をする美琴を見て小さく頷くと、上条はまた棚の中を探し始めた。

上条「次は……えーっと……」

応急セットだ。最低でも美琴の熱を冷ますための何かが欲しい。

上条「これか? 違う……。 これか? いや違う……」

棚の中にあった箱らしきものを次々と取り、上条は中を確認していく。

上条「! あった! 応急箱! これだ!」

何度目かに手にした箱の中。そこに、目的のものはあった。

上条「これだ! 今はこれに頼るしかない」

見つけたのは、人の額に貼って熱を冷ます冷却シート。完全に美琴の熱を冷ますには不十分だったが文句を言える状況ではなかった。



99:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/03(金) 22:57:56.17 ID:1idlpOM0

上条は急いで袋から冷却シートを取り出し、それを美琴の額に乗せてやる。

美琴「……ハァ……ハァ……ハァ……」

上条「しっかりしろ御坂。頼むからこんな山中に俺を1人で置いていくなよ」

そう語りかけながら、上条は美琴の顔をよく見れる位置に椅子を置き腰掛けた。

上条「お前はレベル5の超能力者……学園都市第3位の『超電磁砲(レールガン)』なんだろ? だったら、こんな所でくたばってんじゃねぇ」

美琴「……ハァ……ハァ…」

上条「………………」

苦しそうに息をする美琴を、上条は心配そうに覗き込む。
やがて彼は彼女の髪にそっと手を伸ばすと、優しく触れ撫でてやった。

上条「御坂………」

シャンパンゴールドの滑らかな髪が、上条の指の隙間をサラサラと流れていく。

上条「絶対に……死ぬなよ……」

雪と寒風に晒される1つの小さな小屋。その中で、少年は少女が再び元気な顔を見せるようになるのをひたすら願う。
今、長い長い夜が終わりを迎えようとしていた――。



169:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/05(日) 22:19:06.87 ID:j3tXGr60

朝日が窓から射し込み、外には小鳥たちの元気な囀り声。
山中にあったその小屋は、ようやく訪れた平穏な空気に包まれるように、森の中に佇んでいた。

美琴「…………ん」

目を開く美琴。
まず初めに見慣れぬ天井が視界に入った。

美琴「……ここは?」

ゆっくりと顔を巡らす。壁に沿って設置された長椅子。薪ストーブ。そして……寝台の側で椅子に座り顔を俯けながら眠る1人の少年の顔。

美琴「………当麻」

その名を呟く。彼の寝顔を見ると思わず笑みが零れた。

上条「………ん?」

と、その時、上条が急に目を覚まし、美琴と視線が合った。

上条「………御坂?」

美琴「………うん」

穏やかな表情で答える美琴。

上条「お前、起きたのか!?」

慌てたように上条が寝台に近付く。

美琴「今ね」

上条「熱は?」

美琴「まだ頭がクラクラするし……身体もダルいわ……。完全復活にはまだ…程遠いようね……」

上条「そっか。でも大分熱が冷めたようで良かった……」

本当に安心するように上条は言った。

美琴「うん……って、あれ?」

と、そこで美琴は自分の状況に気が付いた。

上条「どうした?」

美琴「…………何これ?」



172:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/05(日) 22:23:43.76 ID:j3tXGr60

被っていた布団と毛布を少し上げ中を見る美琴。……下着以外、何も身につけていなかった。

美琴「……………え?」

そして、ベッドの側に顔を向けると、薄いシーツ1枚を身に纏っているものの何故か裸の状態の上条がそこに座っている。2人が着ていたと思われる服はストーブの側に置かれていて………

美琴「ちょちょちょちょちょちょ//////////」

上条「?」

美琴「どどどどどどどどういうことよこれ!?//////////」

急に慌てたように美琴が上体を起こした。一応、布団と毛布で身体を隠すよう気を付けながら。

美琴「ななななななななな何で私とあんたが揃って裸になってんの!?////////」

上条「え!? あ、これか。これはその……」

上条は身に纏っていたシーツをめくろうとする。

美琴「め、めくるなぁ!!//////」

上条「? おいどうした急に?」

美琴「どうしたもこうしたもないわよ!!!////// 私が知らない間に何があったの!!??////// あ、あんた私に何をしたの!!??////////」

何故か顔を赤くしながら慌てる美琴。どうも彼女は何か勘違いしているようだった。

上条「何言ってるのか分からんけど落ち着け」

美琴「おおおおお落ち着いていられるわけ……」フラッ

上条「あ!」

美琴「あ……頭が……」

上体を起こしていた美琴が急にベッドに倒れ込んだ。

上条「バカか! 起きて早々喚くからだ!!」

騒ぎすぎたため頭が一瞬フラついたらしかった。



173:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/05(日) 22:28:26.69 ID:j3tXGr60

美琴「だ……だって……」

元気を無くしベッドの上で美琴は恥ずかしそうな顔をする。

上条「何勘違いしてんのか知らねぇけど、さっきお前が熱で倒れてる間に服を脱がして毛布と布団被せて暖まるようにしてただけだ」

美琴「あ…そ、そうだったんだ……。ビックリしちゃった……」

美琴はホッと溜息を吐く。

美琴「でも服を脱がしたって?」ジロッ

上条「う……しゃ、しゃーねーだろ? 服が濡れてたんだから。つか脱がしてる間ずっと目を逸らしてたから何も見てねーよ」

美琴「嘘。絶対見た」

上条「………………(確かに視界の端に見てはいけないものがチラチラ映って何度か誘惑に負けそうになったけど)」

美琴「何で黙ってるの?」ジローリ

上条「い、いや、絶対誓って見てないから!(視界の端に映っただけならカウント外だよな?)」

美琴「顔ニヤついてる」

上条「は、はぁ? んんんなわけねーだろ? みみみ見てねーよお前の貧相な身体なんて」

美琴「貧相で悪かったわね!つか何で貧相って分かるのやっぱり見たんでしょこら白状しなさい」

上条「見てない!」

美琴「本当はじっくり観察した上に触ったんじゃない?」ギロリ

上条「してねーよ!」

美琴「変態」

上条「何で信じてもらえないんだあああ!!!」

美琴「…………」

上条「不幸だああああああああああああ!!!」

美琴「………………」クス

上条「これが上条さんの運命なのかあああああああ?」

美琴「なーんてね」

上条「え?」



174:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/05(日) 22:32:43.09 ID:j3tXGr60

1人、苦悩に陥っていた上条だったが、美琴の声がして我に返った。

美琴「冗談よ冗談」

上条「冗談?」

美琴「少しからかっただけ。どうせあんたにそんなことする度胸も無いだろーし」

上条「グサッ! それはそれで何か男として悲しい言われような気が……」

美琴「何? それともやっぱり見たの? 何かしたの?」

上条「ち、違う! それだけはない!」

美琴「フフ。分かってる分かってる」

上条「お前…年上からかって楽しいか?」グギギ

美琴「あんたをからかうのが楽しいだけ」

上条「………」ズーン…

美琴「ウソウソ。フフ……まあ何が言いたいかというと」

上条「?」



175:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/05(日) 22:35:13.60 ID:j3tXGr60

上条の顔を見つめ、優しい笑みを浮かべる美琴。

美琴「ありがとね」

上条「………………」

その言葉にしばし呆然としていた上条。が、すぐに彼も笑みを返した。

上条「どういたしまして」

美琴「……」クスッ

上条「……」フッ

上条美琴「「……………………」」

2人はしばらく幸せそうに見つめ合っていた。

上条「とにかく、まだお前は安静にしてろ」

そう声を掛け上条は美琴の頭をクシャッと触る。

美琴「ん」

上条「俺が付いててやるから」

美琴「…………うん」

嬉しそうに美琴は答えた。



176:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/05(日) 22:40:32.33 ID:j3tXGr60

その頃――。

黄泉川「奴らが迷い込んだ山は標高は低いとは言え、山中は険しいことで知られてるじゃん」

黒子「………………」

黄泉川「恐らく、まだ山からは逃げ切れてないだろう」

アンチスキル・黄泉川部隊本部。トレーラー型の装甲車の中に設けられた臨時の本部にて、黄泉川は黒子や部下の警備員たちと共に作戦会議を開いていた。

黄泉川「この山の尾根は2つ。1つは北に、もう1つは南側にあるじゃん」

差し棒を使いながら、標高線が描かれた地図を説明する黄泉川。

黄泉川「これまでの逃走経路を考えると、奴らは南に逃げている可能性が高い。何故わざわざ南に向かっているのかはまだ分からないが……待ち伏せするとしたら、こっちの南の尾根じゃん」

警備員「既に山から逃げてる可能性は?」

黄泉川の説明を聞き、1人の警備員が質問をする。

黄泉川「奴らは我々に追われた末、川に飛び込んだじゃん。おまけにあの時は雨脚も強く風も吹いていた。そんな状況で山を歩くのが困難なのは必至。まだ数時間しか経ってないし、恐らく今も山中にいると思われるじゃん」

警備員「衛星は使えないのですか?」

黄泉川「本部の許可を取るのに時間が要る。ただ、使用したところで険しい木々に包まれた山の中から奴らを探し出すのは難しいじゃん」

最後に黄泉川は1つ付け加えた。

黄泉川「ま、既に死んでるという可能性も高いがな?」

黒子「………………」

黒子と黄泉川の視線が合う。

黄泉川「本部から捜査の主力部隊に命じられたんじゃん。悪いが私の指示に従ってもらうぞ?」

黒子「………………」

黄泉川「また勝手に動かれたら困るからな」

黄泉川を睨む黒子。

黄泉川「ふん。まあ、お前が本部から与えられてるチャンスは後1回だ。奴らが生きてるのか死んでるのか知らんが……どっち道今度失敗したら二度とこの捜査に加われないからな? 覚悟しとくじゃん」

黒子「………………」

黒子はそれでも何も発せず黄泉川をずっと睨んでいた。



177:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/05(日) 22:46:59.81 ID:j3tXGr60

山中。昼も目前に迫った頃。

上条「ほら、保存食品だけど食え。元気出るぞ」

小屋の中にあった保存食を見つけた上条と美琴。彼らは今、一緒に昼ご飯を摂ろうとしていた。因みに今は、もう服も全て乾いていたため、2人は裸の状態ではなかった。

美琴「ありがとう……」

上条「ほら、食わしてやるよ」

缶詰の中の中身を、スプーンに乗せる上条。

美琴「なっ!? ちょ、ままままま待ってよ!!」

上条「え?」

空中で上条の手が止まる。不思議そうに彼が見ると、美琴は何故か頬を染めながら尋ねてきた。

美琴「ま、まさかあんた私にアーンさせる気?」

上条「アーン言うな。つか体力ないならそれしか方法ないだろ? 今は病人なんだから素直に甘えとけ」

美琴「あ、甘えとけって……////」

上条「何だお前また顔が赤くなって」ピト

美琴「ふにょあぁ!?」

上条「わっ!? 何だよ急に?」

美琴「私の許可無しに…さ、触らないでよ!//////」

上条「はあ? 今更?」

美琴「今は私がちょっと回復したからいいの!」

上条「何だその理屈。って言うか元気そうならお前1人で食えそうだな」

美琴「え?」

上条「ほら、自分で食べれるんだろ?」

言って上条は缶詰とスプーンを差し出す。何故か、それを見て一瞬だけ残念そうな顔をする美琴。



178:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/05(日) 22:50:27.15 ID:j3tXGr60

美琴「な…何言ってるの!? あ、あんた弱ってる女の子に1人で食べさせる気? それが男のやること!?」

上条「は…はあ!? お前さっきと言ってることバラバラだぞ!」

美琴「うううううるさい//////// と、とにかく私は弱ってるから早くアーンしなさい、アーン!!//////////」

上条「とても弱ってるようには見えないのは気のせいですか?」

美琴「つ、つべこべ言ってないでしなさいってば!」

上条「はぁ……ったく」

溜息を零す上条。が、今更上条はそんなことで怒る気は無かった。

上条「ほらよ」

美琴「!」

腕組をし、片目を開ける美琴。すぐ目の前に、上条が差し出してきたスプーンがあった。

上条「口開けろよ。食べれないだろ?」

美琴「………っ」

顔を赤くしながらも、美琴は無言で口を開ける。



179:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/05(日) 22:55:24.00 ID:j3tXGr60

上条「はい、アーン」

美琴「あ…アーン……//////」

パクッ!

美琴「………!?」
美琴「……………え?」チラッ

上条「おーうめぇwwwww」モグモグ

美琴「……っ ばかぁ!!!」ポカポカ

上条「おまっ…マジで病人かよ!?」

美琴「うっさいうっさいうっさい!! まじめに私にアーンしろー!!」

上条「わーったわーった! ったく、ホントにわがままなお嬢さまだ。ほら、アーン……」

美琴「………………」プクー

上条「食わないなら俺が食うぞ」

美琴「むー……」

上条「ほら」

美琴「……あ、アーン……////////」

パクッ!

上条「どうだ? お味は?」

美琴「美味しい……」モグモク゛

上条「……」フッ

美琴「じゃ、じゃあ次……////」

上条「へいへい。ほら、アーン」

美琴「あ、アーン……//////」

2人は今、一時の憩いを味わっていた。



220:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/06(月) 23:48:00.61 ID:EKdj3YQ0

怒声が飛び、ダカダカと複数のブーツが行き交う音が響く。

黄泉川「よーし、そろそろいいじゃん」

某学区にある山の麓。そこに、黄泉川たちアンチスキルの部隊が完全武装で待機していた。

警備員「隊長!」

黄泉川「ん?」

警備員「北側にある道も、無事第5班と第6班による展開が終わりました!」

黄泉川「了解じゃん」

報告してきた部下にそう告げ、黄泉川は後部扉が開いたトレーラー型の装甲車の方へ振り向く。

黄泉川「この山にある尾根は北と南に2つ。そこに通じる山道を全て我々で包囲してしまえば奴らの脱出口は無くなるじゃん」

黒子「そう上手くいけばいいですわね」

装甲車の側に立っていた黒子が答えた。

黄泉川「この山は麓からしばらく登った地点に、山の周りを1周するように舗装された道がついてるんだ。例え山中で迷っていても、下っていればいずれその道に辿り着く。後はその道に沿って歩けば、やがて北か、もしくは南のここに通じている道に合流できるってわけじゃん」

黒子「つまり、どこで迷っていても奇跡的に生き残っていれば、いずれはこの南か北の出入り口に彼奴らが現れると?」

黄泉川「まあ、生きていればの話だがな」

黄泉川はまるでゲームに興じる子供のように笑う。

黒子「ま、どの道生きていても御坂美琴を仕留めるのは私ですの」

言って山の方に顔を向ける黒子。

黒子「さて、山中での垂れ死んでいるか、それとも再び黒子の前に姿を現すのか。今から楽しみですの。 お  姉  さ  ま  」ニヤァ



221:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/06(月) 23:52:16.36 ID:EKdj3YQ0

夕日が出始める頃、上条と美琴はまだ山中の避難小屋にいた。

上条「もう4時半か……」

小屋に掛かった時計を見て上条は嘆く。次いで彼はベッドの上で寝ている美琴を見た。

上条「御坂………」

美琴「………ごめんね」

顔から汗を流しながら美琴は呟く。朝ほどではなかったが、彼女はまた苦しそうな表情をしていた。
と言うのも昼頃を過ぎた頃、彼女はまた熱をぶり返していたのだ。そのため、2人はまだ山を抜けるどころか小屋からも出られない状態だった。

上条「大丈夫だ。すぐ治る。取り敢えずまだ、薬のストックはあるようだから」

美琴「………うん」

笑みを見せる美琴。

上条「少し便所行ってくるな。絶対すぐに戻ってくるから。大人しくここで待ってろ」

美琴「……分かった」

頷き、上条は小屋を出て行くと、避難小屋から数m離れた場所にあったトイレに入っていった。

上条「フー……1日ロスしちまったか……」

トイレの中は綺麗とは言えなかったが、文句を言える状況ではなかった。
用を足しつつ上条は正面に取り付けられた窓から外の景色を眺める。と言ってももっぱら木々しか見えなかったが。

上条「確か……学園都市の南にはキャパシティダウンを搭載した車がまだ配備されてないって話だったな……。間に合うんだろか実際」

身体を震わせ、便器から離れると上条は入口前の蛇口で手を洗う。



222:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/06(月) 23:56:38.01 ID:EKdj3YQ0

上条「だけど……あいつは何とかして守ってやらないと」

少しヒビが入った鏡を見ながら上条は呟く。

上条「そうだ、決めたんだ。何があってもあいつを守る、あいつを助けるって……」

手を洗い終え、彼はトイレから出た。

上条「例えどんな奴が襲ってこようとも……うろたえず、全力で退ける覚悟で」

握った右拳を見つめ、上条はそう誓う。

上条「よし……」

気合を入れ、彼は小屋へ向かっていく。

ガチャッ

上条「悪いな御坂。遅く…なっ……た………」

扉が開かれるのと同時、上条の表情がみるみると変わっていった。まるで、信じられないものでも見たように。





御坂妹「いえ、寧ろもっとゆっくりしてもらっていても良かったのですが、とミサカは邪魔者が入ったことに対して口中に舌打ちします」





上条「御坂……妹っ……!」

そこにいたのは、美琴と同じ顔を持つ1人の少女だった――。



251:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/07(火) 22:53:26.63 ID:t9yWznM0

上条「……………………」

口を開けたまま目の前の人物を眺める上条。
彼がそんな反応も見せたのも当然だった。何故なら、背中を向け僅かにこちらを振り向き、ベッドの側に立っていたその少女の顔はあまりにも美琴のそれと酷似していたのだから。

上条「お前は……」

御坂妹「…………………」

美琴「…………当麻」

上条は呆然とその光景に見入る。
ベッドの上には、こちらを向き不安と一部悲しみが混ざったような表情を向ける美琴が、そしてそのベッドの側には彼女と同じ顔を持つ少女が1人。

上条「御坂妹………」

その名を口にする。
御坂妹――かつて、とある実験のために生み出された美琴の軍用量産クローン『妹達(シスターズ)』のうちの1体。

上条「何でお前がここに……?」

御坂妹「………………」

検体番号10032号――上条から『御坂妹』と呼ばれるその少女は名前を呼ばれ目を細めた。

上条「………………」チラッ

ふと、御坂妹の手元に視線を向ける上条。こちらからは彼女の背中しか見えなかったが、その手元に握られていた黒光りする筒のようなものの形はしっかりと確認できた。

上条「…………」ゴクリ

間違いない。御坂妹が握っているもの。それは、俗にアサルトライフルと呼ばれる強力な銃火器の1つだ。
綺麗に整備がされているのか、彼女のそれは、その存在感だけで目にする者を威圧する。そして『銃口』と呼ばれる先端部分――真っ暗な穴からは今にも何かが飛び出してきそうで、しかもそれが上条に向けられていて…………。




上条「!!!!!!!!!!」




ダカカカカカカカカカカカン!!!!!!!!!




突如鳴り響く連続した金切り音。
御坂妹が構えていたアサルトライフルから発射されたライフル弾が、小屋の入口付近に容赦なく突き刺さった。



252:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/07(火) 22:57:55.00 ID:t9yWznM0

御坂妹「!」

だが、そこに血を流し倒れている上条の姿はない。咄嗟に逃れたのだろう。

美琴「当麻!!!!」

御坂妹「………」ジロリ

美琴「!!!」

御坂妹「動けぬ的より動く的。手負いの獲物は後で仕留めるとしましょう。お姉さまはここで待っていて下さい、とミサカは狩りに出かける気分で伝えます」

美琴「あんた! 当麻に何するつもりなの!?」

御坂妹「………………」

美琴の言葉を無視して御坂妹は小屋を出て行く。

御坂妹「お姉さまがいるのでそう遠くへは行ってませんね。恐らくは近くから反撃の機会を窺っているはず、とミサカは推測します」

ライフルを構えながら、御坂妹は小屋の周りを沿うように歩き始めた。

御坂妹「どこにいますか? ミサカの前に出てきて下さい、とミサカは交渉をしてみます」

言いながら、すぐに彼女は小屋の裏まで来た。

御坂妹「ミサカは貴方まで殺す気はありません、とミサカはそれだけ念押ししておきます」

ライフルを四方に向けながら、御坂妹は小屋に沿って歩き続ける。

御坂妹「ミサカはとても残念です。貴方がお姉さまと行動を共にしていることが、とミサカは本当に残念がります」

再び小屋の表まで戻ってきた御坂妹。彼女はチラッと小屋の中を窺う。

美琴「あんた……」

壁に手をつき、こちらを睨み立っている美琴の姿が目に入った。

御坂妹「攻撃したければ攻撃してきても構いませんよ? ただし、今のお姉さまに出来るのなら、ですが、とミサカは弱りに弱ったお姉さまをバカにしてみます」

美琴「………っ」

正面に向き直る御坂妹。

御坂妹「近くの木々の陰か茂みの中にでも隠れているのでしょうか、とミサカは付近を探してみることにします」

そう言いながら御坂妹は小屋から離れていく。

美琴「……………………」



253:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/07(火) 23:02:05.51 ID:t9yWznM0

上条「行ったか?」



美琴「ええ!」

部屋の中から聞こえる上条の声。

上条「よし、今だ。逃げるぞ!」

彼は美琴が寝ていたベッドの後ろからその姿を現した。御坂妹が小屋の後ろに回っている間に、戻ってきて隠れていたのだ。

美琴「でもどこに?」

上条「とにかく逃げれる場所までだ!」




御坂妹「ミサカから逃げれる場所なんてどこにもありませんよ、とミサカは釘を刺しておきます」




上条美琴「!!!???」

驚き、正面を見る2人。小屋の前に、御坂妹が立っていた。

御坂妹「どうせこんなことだろうと思っていました。それでミサカの目を欺いたつもりですか? とミサカは思わず失笑を零します」

美琴「あんた……っ」

御坂妹「………」チャキッ

美琴にライフルを向ける御坂妹。

上条「!!」バッ

が、すぐに美琴を守るように上条が前に躍り出た。



254:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/07(火) 23:06:19.93 ID:t9yWznM0

御坂妹「…………どいて下さい」

上条「どかない」

御坂妹「……ミサカは貴方を殺したくありません」

上条「……俺は御坂を殺したくない」

御坂妹「………………」

上条「………………」

睨み合う2人。

御坂妹「お姉さま」

美琴「!」

と、そこで御坂妹が上条の背後にいる美琴に声を掛けてきた。

御坂妹「言っておきますが学園都市から逃げることなど不可能ですよ?」

美琴「………っ」

御坂妹「お姉さまはこの人を頼りにされているようですが、たった2人だけで何が出来ると言うのですか?」

上条「………………」

御坂妹「ジャッジメントにアンチスキル、様々な人間がお姉さまたちを追っています。そんな状況下で学園都市から逃げるなど不可能に等しいと言っても良いでしょう。例えここでミサカを退けられたとしても、ミサカよりも高位の優れた能力者たちがお姉さま討伐のため準備を整えている、という話も耳に入れてます」

上条美琴「………………」

御坂妹「ならばいっそのことここで、同じ遺伝子を持つ妹であるミサカに引導を渡してもらうのも1つの賢明な判断ではないでしょうか……」

美琴「………………あんた」

御坂妹「……と、ミサカはいい加減お姉さまをぶち殺したい衝動を我慢出来なくなってきていることに苛立ちを覚えます」

上条「ふざけるなよ」

美琴「!」

御坂妹「?」

不意に、話を黙って聞いていた上条が口を開いた。



255:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/07(火) 23:10:17.75 ID:t9yWznM0

御坂妹「何でしょうか?」

上条「何でそこまでして御坂を殺そうとするんだ?」

御坂妹「世間がそれを求めています」

上条「確かに……そうなったのは『弧絶術式』が原因だけどよ……」

と、そこだけ小さな声で喋る上条。

御坂妹「?」

上条「だけど…お前と、妹達の命をあんなにまでして救ってくれたのは御坂じゃねぇか!」

美琴「………当麻」

上条は御坂妹に向かって叫ぶ。

御坂妹「実際に助けてくれたのは貴方ですが?」

上条「違う!! 俺は最後の1割手を貸しただけだ!! 残りの9割は全てこいつのお陰だ!!」

美琴「………………」

御坂妹「………………」

上条「だってのに! 今じゃその恩を仇で返すってのかよ!?」

御坂妹「言っている意味が分かりません。それとこれとは話は別です」

上条の必死の説得も空しく、御坂妹は無表情のまま言ってのける。

上条「何ぃ?」

御坂妹「確かに、今回、ミサカがお姉さまの殺害を決定したことについて、学園都市の『外』にいる妹達は猛烈に反対をしましたが……お姉さまは生きているだけで罪のような人間です」

美琴「………………」

御坂妹「よって、彼女たち学園都市の『外』にいる妹達に、この件についてはこれ以上余計な口出しをさせないよう上位個体が特別措置を施しています」

上条美琴「!!!???」

美琴「う、ウソ……あの子が?」

信じられない、と言うように美琴が目を丸くする。



256:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/07(火) 23:15:26.51 ID:t9yWznM0

御坂妹「この件について反対を唱えようものなら、即刻その個体は一時的に行動を停止させると予め警告しているのです」

美琴「そ……そんな……」

御坂妹「そもそも、学園都市に残ったミサカたちの手でお姉さまを殺害しようと決定したのは上位個体ですから」

美琴「………な………何で………何であの子が……」

絶望がかった表情になる美琴。彼女の脳裏に『上位個体』と呼ばれた少女――『打ち止め(ラストオーダー)』の笑顔が蘇る。

上条「お前……」

御坂妹「何で? 何で、と申されましたかお姉さま?」

美琴「!」

御坂妹「ならミサカも質問です。何故お姉さまは、ミサカたちが周りの人からどのように思われているのかも知らずに平然とそんなことが言えるのですか?」

美琴「?」

少し御坂妹の口調に苛立ちが混ざったような気がした。相変わらず顔の表情は変わっていなかったが。

上条「どういうことだ?」

御坂妹「どうもこうもありません。ミサカたちは普段、人と接する度に、あの御坂美琴の妹ということで『大変だね』『辛いでしょう』『可愛い顔してるのに何であの御坂美琴に似てるんだ』『悩み事があったら相談して』などと哀れみや同情の声を掛けられるのです」

美琴「!!!」

上条「………………」

御坂妹「幸い、間違って罵られたり殴られたりと言ったことはありませんが……代わりに毎日! 毎日!! 毎日!!! このような言葉を多くの人から掛けられる始末……。その気持ちがお姉さまには分かりますか?」

表情はあまり変わっていないのに、御坂妹の放つ言葉にはかなりの怒りが篭っていた。

御坂妹「ミサカは、妹達が最近になって徐々に個体ごとに個性も芽生え、感情も豊かになっていると自覚していますが……そのせいでミサカたちは、他人から掛けられる『哀れみ』や『同情』に敏感になってしまっているのです。……皮肉なものです。普通なら個性が芽生え感情が豊かになることは良いことのはずなのに、そのせいで深い劣等感に苛まれることになる。その気持ちが……お姉さまには分かりますか?」

美琴「………………」

妹から姉へぶちまけられる率直な思い。それは、妹達の幸せを願う美琴にとってとても辛いものだった。

御坂妹「もっとも、その個性や感情のお陰で、今お姉さまにこのように恨みや憎しみを思いきりぶつけることが出来るのですが……」

上条「御坂妹………」

御坂妹「………と、ミサカは言いたかったこと全てを言い終え、多少溜飲が下がった気分になります」



257:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/07(火) 23:20:17.88 ID:t9yWznM0

美琴「………………」

上条「………」チラ

上条は美琴を横目で見る。思った通り彼女は元気を無くし、半ば俯いている。だが、それも無理も無いことだった。幸せになってほしいと思っていた妹が、芽生えたばかりの個性・感情によって劣等感に苛まれ苦しんでいるのだから。
しかもその間接的な原因が、妹達の姉である美琴自身であると聞かされれば、尚更それは辛いものであることは容易に予想がついた。

美琴「………………」

それだけではない。確かに美琴は今まで、妹達10031人が虐殺されたことで、彼女たちから恨み憎まれても仕方が無いと思っていた。だが、現在学園都市にいる御坂妹や打ち止めを始めとする10人の妹達は、虐殺のことで姉である美琴を憎んでいるわけではなかった。元は、どこか遠い海の向こうの、今まで全く知らなかった『魔術』などという得体の知れないものによって起こされた状況が作り出したものだった。

御坂妹「だから」

上条「!」

御坂妹「だからお姉さまにはここで死んでいただきたいのです、とミサカは催促します」

上条「お前、仮にも自分の姉だぞ……。なのに……」

御坂妹「逆にミサカには分かりません。どうして貴方はお姉さまを助けようとするのですか?」

上条「そ、それは……」

美琴「……………」

言い淀む上条。彼は一瞬、『弧絶術式』のことを打ち明けようと思ったが、言ったところで御坂妹が完全に事情を理解をしてくれる保障も無かった。それ以前に彼女の美琴への殺意を完全に消せるとも思えなかった。




御坂妹「当麻」




美琴「!!??」

思わず顔を上げる美琴。


御坂妹「当麻」


美琴「………っ」

美琴は目を丸くする。
そこには、今まで見せたことのない笑顔を浮かべて、上条に右手を差し出している御坂妹の姿があった。



258:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/07(火) 23:24:15.25 ID:t9yWznM0

上条「………………」

御坂妹「今すぐにこんなバカなことは止めてミサカと一緒になりましょう。……ミサカなら、お姉さまとは違って素直になれないからと言って電撃を浴びせたりなどしません。ただ、貴方の望む女性として、共に歩むことが出来ます、とミサカは生まれて初めて本気で想いを告げてみます」

美琴「…………っ」

上条「………………」

そう言って御坂妹は上条に手を差し出している。彼女の目は、無感情で生気の無いものではなく、一途に恋をする少女のそれだった。

御坂妹「このままお姉さまといても貴方は幸せにはなれません。ですが、ミサカなら……ミサカなら共に一生を幸せに過ごすことが出来ます」

上条「………………」

美琴「…………っ」

不安げに御坂妹と上条の顔を交互に見る美琴。

御坂妹「さあ」

促す御坂妹。

上条「……………………」

美琴「……………………」

御坂妹「……………………」

しばらくの間、沈黙が漂っていた。
そして………

上条「御坂妹」

美琴「!」ビクッ

御坂妹「はい」




上条「ごめん」



259:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/07(火) 23:28:26.62 ID:t9yWznM0

美琴「!!」



上条「ごめん」



静かに、上条はそう答えた。

御坂妹「………………」

御坂妹の差し出された手が、空中で空しく静止する。

上条「俺にはこいつがいる。だから、嬉しいけどお前の申し出には受けられない」

御坂妹「………………」

再び御坂妹の顔が表情の無いものになった。

上条「俺は御坂を……美琴を助けたいから」

美琴「当麻!」パァァ



御坂妹「………っ」ギロリ



上条美琴「!!!!!!!!!!」

一瞬、御坂妹が今までに見たこと無いぐらいの怒りに満ち溢れた顔を美琴に向けた。

御坂妹「……分かりました。ならもうこれ以上の説得は必要ありません。全てを終わりにする時です、とミサカは再びライフルを構えます」

チャキッ

と言う音を立て御坂妹がアサルトライフルの銃口を上条たちに向ける。

御坂妹「さよなら」


ドォォォン!!!!


容赦なく御坂妹は引き金を引いた。



298:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/08(水) 23:13:36.09 ID:urn39V20

御坂妹「さよなら」





上条に美琴より自分を選ぶよう迫り、断られた御坂妹。
彼女は全てを終わりにするため、アサルトライフルの銃口を上条たちに向ける。
が………

上条「!!!!????」

ライフルの銃口は何故か上条たちをスルーし、そのまま御坂妹自身の顎に添えられ………

美琴「はっ!!??」
美琴「やめてえええええええええええ!!!!!!」





パァァン!!!





銃声が轟いた。

美琴「…………っ」

それは一瞬の出来事だった。



299:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/08(水) 23:18:01.03 ID:urn39V20

御坂妹「!!!???」




上条「…………………」

美琴「…………え?」

顔を両手で覆っていた美琴が恐る恐る目を開いた。

御坂妹「…………何故」

が、そこには、美琴が予測していたような惨劇は繰り広げられていなかった。
驚き、固まる御坂妹と、前へ踏み出しだ上条、そして床には銃口から硝煙を登らせ黒光りするライフルが一丁。




上条「勝手に死のうとしてんじゃねぇよ」




美琴「………………」

御坂妹「…………っ」

呆然としていた御坂妹。彼女の表情が代わり、上条を睨みつける。

御坂妹「どうして!? どうして止めたのですか!?」

上条「お前には死んでほしくないからだ」

御坂妹の顔を見つめ、上条は静かに答える。



300:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/08(水) 23:21:31.54 ID:urn39V20

御坂妹「ふざけないで下さい!! ミサカがどれだけの覚悟をしてここまで来たのか、それも知らないくせに……。ミサカにはもう、貴方しかいないんです……」

上条「………………」

御坂妹「だから……史上最悪な人間に落ちぶれたお姉さまに取られるぐらいなら……」ギロッ

美琴「!」

御坂妹「お姉さまを殺してでも貴方を奪い返したかったんです!!」

普段の御坂妹とは思えないほど、彼女は感情的になっている。

御坂妹「それが失敗した以上、ミサカにはもう残されたものはありません。ですから……ですから……ミサカは……」

涙こそ流していないものの、御坂妹は悲しそうだった。

上条「俺はお前に死んでほしくなんかないんだ」

御坂妹「……なら、今すぐにでもお姉さまを捨ててミサカと一緒に帰って下さい」

キッと御坂妹は上条を見つめる。

美琴「………………」

上条「それは出来ない。俺は御坂を助けなきゃいけないから」

だが、上条の答えは変わらなかった。

御坂妹「………っ」

一瞬、何か言いかけようとした御坂妹。が、直前に思い留まったのか彼女の口は終ぞ開かなかった。

上条「ごめんな御坂妹」

御坂妹「………………」

拳を握り、俯く御坂妹。

上条「だけど、頼むからその命、無駄に捨てようとしないでくれ。それが、俺の願いだ」

御坂妹「……………………」

上条「………………」

何も喋らなくなった御坂妹を見、上条は振り返る。



301:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/08(水) 23:25:32.38 ID:urn39V20

上条「これ以上はここに留まれない。行こう。時間も惜しい」

美琴「………分かった」

歩き出した上条についていく美琴。

美琴「…………、」

美琴は、御坂妹の横を通り過ぎる一瞬、彼女の顔をチラッと見た。自分と同じ顔をした、大切な妹。幸せになってほしいと思っていた妹。もし『弧絶術式』という魔術が発動されなければ、これから先も一緒に笑っていられたかもしれない妹。そんな彼女の悲しそうな顔を目に焼きつけ、美琴は無言のまま小屋を出て行った。


御坂妹「…………います」


上条美琴「「え?」」

と、2人が外に出た瞬間、小屋の中にいた御坂妹が何かを呟いた。
2人は咄嗟に振り返る。御坂妹の小さな背中が見えた。



御坂妹「この山はアンチスキルに囲まれてます」



上条美琴「!!??」

そう、御坂妹は言った。

美琴「それって……」

御坂妹「このまま山道を降りて行っても、待ち伏せされたアンチスキルに捕まるだけです、とミサカは情報を伝えます」

こちらを向く御坂妹。その顔は、元の無表情のものに戻っていた。

上条「い、いや……確かに考えてみれば当然のことだ。俺たちは山に逃げたのを白井や黄泉川先生たちに目撃されてるんだから」

美琴「そ、そっか……」

上条「だけど何で……」

御坂妹に疑問の視線を投げかける上条。

上条「……それを俺たちに教える?」

美琴「………………」

美琴も御坂妹を見る。



302:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/08(水) 23:29:52.28 ID:urn39V20

御坂妹「ミサカは別にアンチスキルの仲間というわけではありません。ここには自分の意志で来たまでです。最初は、貴方がたが山でアンチスキルに追われたというニュースを見て、もしかしたらと予想をつけこの山に訪れたのです。そして、電磁波のレーダーを飛ばして山中を歩きお姉さまを発見したのですが……結果はこの通り。貴方にお姉さまの殺害を阻止された上、幸か不幸かミサカの覚悟も一蹴されてしまいました、とミサカは説明してみます」

上条「………………」

御坂妹「なら、合理的に考えても、これ以上意地を張っても意味はありません。ミサカは今もお姉さまは決して許せませんが……」チラッ

美琴「…………、」

御坂妹「貴方には今まで返しても返し尽くせない恩があります。よって、ミサカが持っている情報だけは与えても構わないだろうと判断したのです、とミサカは本心を打ち明けます」

上条「そうか……。それは本当にありがとう御坂妹」

御坂妹の言葉を受け、上条は感謝の言葉を述べる。

御坂妹「これを」

上条「?」

と、そこで御坂妹はポケットからある物を取り出し、上条に渡してきた。

上条「これは?」

見ると、今上条たちがいると思われる山の地図だった。地図には、いくつかの印や単語が書き込まれている。

御坂妹「ミサカが事前に入手した情報を元に書き記したアンチスキルの配置と、その警備の抜け穴です」

上条美琴「!!!」

驚き、上条と美琴は地図に向けていた顔を御坂妹に向ける。

御坂妹「その地図を頼りに山を下れば、アンチスキルの目から逃れられるはずです」

上条「お前………」

御坂妹「………あともう1つ」

いちいち上条の反応など気にもせず、御坂妹は今度はペンと小さな紙を取り出すと、何かを書き始めた。

上条「?」

御坂妹「隣の学区に着いたらここに行ってみるといいでしょう」

文字や地図が書き込まれた紙を御坂妹から貰う上条。

上条「何だこれ? 『デーモンズ・ネスト』?」

御坂妹「ミサカネットワークに保存されてある、とあるスキルアウトが経営しているクラブです」



303:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/08(水) 23:33:34.39 ID:urn39V20

上条「クラブ?」

眉をひそめ上条は怪訝な顔で訊ねる。

御坂妹「表向きは。裏では学園都市に隠れ住む犯罪者たちのサポート業務などを行っています」

上条「サポート……」

御坂妹「ボスの名前は『仁科 要』。スキンヘッドが特徴のいやらしい顔をした男です、とミサカは陰口を言ってみます」

上条「この男がどうかしたのか?」

御坂妹「『デーモンズ・ネスト』へ訪れたら彼に頼ってみて下さい。逃亡に必要なものを用意してくれるはずです。ただ、その男は頭も切れて根っからのスキルアウトなので交渉の際は相手に飲み込まれないよう注意して下さい」

上条「それはとてもありがたい情報だけど……」

上条は何かを言いたそうにする。

御坂妹「別に嘘と思っていただければそれでも構いません。この情報をどう扱うかは貴方次第ですから、とミサカは言っておきます」

上条「いや、そうじゃなくて………」

御坂妹「ああ……。別にミサカはお姉さまを思ってこんなことをやっているわけではありませんよ?」

美琴「!」

御坂妹「ミサカはただ、貴方に恩返しをしているだけ。そして貴方が求めていた情報がたまたまお姉さまが求めていたものと被った。それだけの話です、とミサカはつまらなさそうに言ってみます」

上条「………………」

ジッと上条は御坂妹を見つめる。

御坂妹「何でしょうか?」



上条「ありがとな!!」



笑顔で上条は言った。

御坂妹「!!」



304:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/08(水) 23:37:22.74 ID:urn39V20

そして、上条は御坂妹の頭をポンと叩く。

御坂妹「あ………」

不意打ちを食らったような反応を見せる御坂妹。

上条「これは俺との約束だ。絶対に死ぬんじゃないぞ」

御坂妹「…………」

一瞬、呆然とした御坂妹だったが、彼女はすぐに答えていた。

御坂妹「……………分かりました、とミサカは観念します」

上条「じゃあ、もし会えたらまたどこかで会おう」

御坂妹「………叶うのならば……」

御坂妹から離れる上条。

御坂妹「………………」

彼は振り返ると美琴に近付く。

御坂妹「……………………」

上条「行くぞ」

美琴「うん」

2人は、頷き合う。

御坂妹「……………………」

美琴「あ……」

と、その時だった。

御坂妹「!」

視線が合ったかと思うと、美琴は御坂妹に近付いてきた。



306:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/08(水) 23:40:38.89 ID:urn39V20

美琴「あの……ごめんね。姉としてあんたを悲しませちゃって……」

御坂妹「…………」

そう、美琴は言ってきた。どこか寂しげな表情で。

美琴「幸せになってね」

苦しげな笑みを見せる美琴。

御坂妹「……………………」

美琴「………………」

御坂妹「………彼に感謝することですね、とミサカは嫌々ながらも最後に特別にアドバイスしてみます」

美琴「うん……。そうだよね……。ありがとう妹。今まで楽しかったよ」

手を振り、踵を返す美琴。そんな彼女の目に何か光るものが浮かんでいたのを、御坂妹は見逃さなかった。

御坂妹「………………」

上条「ありがとなー!」

美琴「ありがとうー!」

最後にもう1度だけ手を振ると、やがて上条と美琴は御坂妹の視界から消えていった。

御坂妹「………………」

それを確認し、御坂妹は1度だけ深く両目を閉じた。

御坂妹「………しかし、“今の状態の”お姉さまだと学園都市から脱出するのは難しそうですね。本人はそれに気付いているのでしょうか、とミサカは推測してみます」

独り言を吐きつつ、御坂妹は踵を返す。

御坂妹「………ま、ミサカの知ったことではありませんが」

その言葉を最後に、御坂妹は上条たちが去っていったのとは反対の道を歩き始めた。



307:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/08(水) 23:44:15.74 ID:urn39V20

それから2時間後。

黄泉川「…………遅いな」

山の麓。山中に通じる道の手前で、黄泉川は呟いた。

黄泉川「やはり既に死んでいるのか……?」

上条と美琴を捕まえるため、わざわざ部隊を北と南に分けて配備してまで待機していた黄泉川。
だが、彼女の期待とは裏腹に、空が群青色に染まり始めた今になっても、上条たちが姿を現す気配は無かった。

黒子「………………」

完全武装して待ち伏せする警備員たちを、黒子は車両の側に立ち腕組をしながら見つめている。

警備員「報告します!」

黄泉川黒子「!!!???」

その時だった。慌てたように1人の警備員が黄泉川の元まで走ってきた。

黄泉川「どうした?」

警備員「た、たった今、近くのアンチスキル支部に通報があったそうです!」

黄泉川「通報?」

眉をひそめる黄泉川。

警備員「はい! 何でも街中で15分ほど前に、ニュースで流れていた御坂美琴の風貌そっくりな少女が1人の少年と歩いているのを見たとか」

黄泉川「!!!!!!!!」



308:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/08(水) 23:47:22.43 ID:urn39V20

瞬間、黄泉川はやられたという顔をする。

黄泉川「………逃がした? 馬鹿な……北のルートも南のルートも我々が包囲してたじゃん……。山の周囲にも絶えず警備員たちを巡回させてたのに……」

黒子「その目撃場所は!?」

警備員「え?」

黒子「その目撃があった場所です!! 一体どこですか!!??」

警備員に詰め寄る黒子。

警備員「と、隣の学区の27番通りだったような……」

黄泉川「……白井!!」

黒子「………」アッカンベ

舌を出し、黄泉川を馬鹿にしたような顔を見せたかと思うと、黒子は次の瞬間にはその場から消えていた。

黄泉川「また独断行動を……」

警備員「どうしますか?」

黄泉川「一先ずそちらに先遣部隊を向ける。我々も後始末を終えたら見張りの部隊だけここに残してすぐに行くじゃん」

警備員「了解しました!」

慌てて去っていく警備員の背中を確認し、黄泉川は部下たちに向かって叫んだ。

黄泉川「第3班と第4班以外は出発準備を整えるじゃん!! 取り逃がしたネズミ2匹を捕まえに行くぞ!!!」



309:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/08(水) 23:51:19.62 ID:urn39V20

その頃。

美琴「お腹空いた……」

上条「もうかよ?」

上条と美琴は次の学区に移り、暗い路地裏を歩いていた。
彼らは今、山中で御坂妹から貰った地図を頼りに、アンチスキルの目を逃れ無事ここまで来ていたのだ。

美琴「だってお腹空いちゃったのは空いちゃったんだもん……仕方ないじゃん」

上条「わがまま言うなよ。子供じゃないんだから」

上条の後を、美琴が拗ねた顔をして歩く。

美琴「私はまだ子供だもん」

上条「普段子供扱いすると怒るくせに……こんな時だけ子供ぶりやがって」

美琴「うっさい黙れバカウニ頭」

上条「やっぱお前は子供だわ」

美琴「何ですってー?」

上条「やれやれ……」

溜息を吐き、上条は1度振り返る。

上条「後もうちょっと歩いたら御坂妹が教えてくれた『デーモンズ・ネスト』に着くはずだ。そこ行ってボスに事情話したら飯ぐらい恵んでくれるだろ」

美琴「でもそのボスっての、頭が切れて根っからのスキルアウトって話だよ? 大丈夫なの?」

上条「うーん……確かに危ない感じもするけど、もしかしたら助けてくれるかもしれないしな」

正面に向き直す上条。

美琴「ま、熱もほとんど下がったし、何かあったとしてもこの美琴センセーがいる限りは大丈夫でしよ? こんなになっても一応学園都市第3位の実力はあるんだから」

どや顔で美琴は語る。



310:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/08(水) 23:55:16.97 ID:urn39V20

上条「あーはいはい頼もしい限りですでもお願いですからスキルアウトに挑発されたからって電撃ぶっ放さないで下さいね」

美琴「それはどういう意味かしら? そんなに私って単純で煽られやすい人間だと思ってる?」

上条「うん思ってる」

美琴「…」ピキッ

上条「もっと大人になろうぜ中学生」

美琴「私を……」

上条「?」クルッ

美琴「子供扱いすんなって……」ギロッ

上条「ひっ!」

美琴「言ってんでしょうがああああああああ!!!!!!」

上条「ちょっとタンマーーーーーーーー!!!!!!」

今までの経験から美琴の電撃を予測し、上条は咄嗟に右手を突き出す。

上条「……………………」
上条「………………ん?」

しかし、電撃は来ない。上条は瞑っていた目を恐る恐る開ける。

美琴「え?」

上条「え?」

美琴は何故かキョトンとしていた。

美琴「あ……と、とにかく私を子供扱いすんなって言ってんでしょうがああああああ!!!!!!」

上条「わああああああああ」

もう1度、右手を前に突き出す上条。



311:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/08(水) 23:58:17.49 ID:urn39V20

上条「……………………」
上条「………………ん?」チラッ

美琴「あれ?」

上条「うん?」

また、美琴はキョトンとしていた。

上条「ど、どうした?」

美琴「いや……その……」

何故か焦っている美琴。彼女はさっきから何度も力んでいる。

上条「おい」

さすがにこれには上条も違和感に気付いたようだった。

美琴「ど、どうしよう……」

上条「え?」

困ったような目で美琴は上条を見てきた。
そして次の瞬間、彼女はとんでもないことを言いだした。





美琴「能力……使えなくなっちゃった……」





上条「!!!!!?????」

上条は思わず言葉を失くした。



340:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/10(金) 03:09:17.57 ID:JwHQeYM0

午後9時前。

上条「あれが『デーモンズ・ネスト』か」

某学区にある路地裏。そこから上条は向かいにある店を見て呟いた。
最終下校時刻は過ぎているものの、この辺りは大学生や大人が多いためか、表通りはどの店もまだ開店していて賑やかだった。

上条「………………さて、どう行くか」

通りの向こうに見える『DAMON'S NEST』という看板。その禍々しい光が上条の顔を照らす。

美琴「ねぇ…やっぱりやめようよ」

振り返る上条。後ろにいた美琴が心配そうに声を掛けてきた。

上条「………………」

上条は2時間前のことを思い出す。



341:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/10(金) 03:13:24.85 ID:JwHQeYM0

2時間前――。

上条「どういうことだ能力が使えないって!?」

上条は思わず大声で叫んでいた。

美琴「ちょ、ちょっと!」

上条「あ、ごめん」

山から逃れ、次の学区の路地裏を歩いていた上条と美琴の2人。ふとしたことで、彼らは衝撃的な事実を知ることになる。

美琴「うるさくしたら気付かれちゃうよ……」

上条「そんなことより! どういうことなんだよ能力が使えないって? 電撃が出ないのか?」

美琴「うん……」

元気をなくした顔で美琴は頷く。実は、急に彼女は自慢の能力である電撃を出せなくなったのだ。

上条「おいおい冗談だろ? 砂鉄剣は? 雷撃の槍は? 超電磁砲は?」

堪らず上条は訊ねていた。

美琴「無理だよ。どうやっても出ない……。試しにやってみても、指の先1mmたりとも電気がまとえないんだもん……」

上条「そんな……嘘だろ? ちゃんと演算してるんだろ?」

美琴「演算は間違ってない……。だけど、演算は合ってるのに能力は使えないの……」

上条「………………」

これにはさすがに上条も言葉を失くした。
美琴は、学園都市でも第3位を誇るレベル5の超能力者なのだ。『超電磁砲(レールガン)』という異名が示す通り、彼女は学園都市最高の『電撃使い(エレクトロマスター)』でもある。だからこそ上条は彼女との逃亡において、彼女の電撃能力を頼りにしていた面もあった。何故なら、もしアンチスキルの大部隊と遭遇したとしても最終的に彼女が、1個の軍隊とも渡り合えるというレベル5の実力を垣間見せれば何とかなると思っていたからだ。実際、一緒に逃亡する相手が彼女だったこそ、上条はどこか心の中で安心してもいたのだ。
だが………

上条「じゃあ本当の本当に、電撃が出せないんだな?」

美琴「そうだって言ってるでしょ! 何度も言わせないでよ!」

何の因果か、彼女は自慢の電撃能力を行使出来なくなったのだ。

美琴「どうしよう私……能力が使えなくなるなんて……」

美琴は相当の落ち込みようだった。だが、それも当然の話だった。彼女は幼少時の頃よりひたすら努力してレベルを上げ学園都市の3番目の地位に上り詰めたのだ。彼女のアイデンティティーでもある『電撃能力』。それが無くなったとなれば、詰まる所彼女は、1人のか弱い女の子でしかない。



342:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/10(金) 03:17:49.74 ID:JwHQeYM0

上条「何か原因とか分からないのか?」

美琴「そんなこと言われたって……」

2人してオロオロする上条と美琴。

美琴「あ、でも待って……」

上条「ん?」

と、何か思いついたように美琴が顔を上げてきた。

上条「どうした? 何か思い当たるのか?」

美琴「うん……これが原因かは分からないけど……」

上条「何だ?」

美琴「演算は出来てるけど、能力が使えないっていう一種の病気みたいなのがあって……前に『能力開発』の授業で習ったことがあるの」

上条「本当か!?」

頷き、美琴は詳しく話し始める。

美琴「何でも、過去に数件か事例があるらしくて……。よっぽど珍しい症状だから知らない人も多いんだけど、能力開発の教科書には大抵載ってるはず……」

上条「そうなのか」

そう言えば、そんな症状の説明文をどっかの教科書で読んだ覚えがある。上条は数秒ほど何かを考えた後、美琴に顔を向け続きを促した。

上条「それで?」

美琴「確か精神病の一種で『不安定な自分だけの現実(アンステイブル・パーソナル・リアリティ)』……略して『UPR』って名前だったと思う」

上条「『不安定な自分だけの現実』……」

確かめるように上条はその名前を口中に呟く。

美琴「うん、何でも……精神的に辛いことがあったり、衝撃的な事実を知ってショックを受けたり、重い悩みに長期間悩まされ続けたりした時に重病に患うと、極稀に能力が使えなくなっちゃうんだって……」

上条「………………」

説明を聞いた限り、美琴が電撃を出せなくなった理由はある程度分かった。恐らく、突然、友達や知人、学園都市の全学生から憎まれ殺されそうになり、挙句には史上最悪の人間扱いをされ、その状況下で高熱にかかったのが原因だろう。

上条「………………治るのか?」

上条は一番大事なことを訊ねる。

美琴「………………………多分」



343:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/10(金) 03:21:31.13 ID:JwHQeYM0

自信無さげに美琴は答えた。

上条「どれくらいの期間で治る?」

美琴「分からない。それは、人によるから……。過去の事例では、1日で治った人もいるし、数ヶ月、あるいは数年かかった人もいるって話だから……」

上条「数年って……」

美琴「治る切っ掛けは色々。とても嬉しいことがあったり、自信がつくようなことがあったり、または能力を使えなくて落ち込んでたけど、思い切って気分をポジティブに切り替えた時に治ったって人もいる。だから、私がいつ治るかは……そもそも治るかどうかも……」

美琴の声が暗くなる。

上条「………………」

これはさすがに想定外だった。学園都市から逃げる逃げないという話じゃない。ともすれば、彼女は一生能力を取り戻せない場合もあるのだ。
別にそれで実生活で困ることはないだろうが、上条としては彼女に元気に一生を送ってほしかったのだ。自分の存在の証明とも言える彼女のアイデンティティー『電撃能力』。それを急に無くして元気に生活できるほど彼女が強いとも思えなかった。

美琴「バカだよね……」

上条「え?」

俯いていた美琴が急に呟いた。

美琴「昔あんたをレベル0だ無能力者だってさんざん侮辱した私が……いざ同じような状況になっちゃうと……こんな弱気になってんだもん……。因果応報、って言うのかな? 仕方ないよね、はは……」

上条「………………」

完全に沈んでいる美琴。彼女は今にも泣きそうな顔をしていた。



344:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/10(金) 03:24:56.77 ID:JwHQeYM0

上条「………」フッ
上条「大丈夫」ポン

美琴「………え?」

と、そんな美琴の頭を、上条は優しく叩いてやった。涙目になった彼女が顔を上げる。

上条「演算はまだ出来てんだ。ならまだ完全に能力が使えなくなったとは言えない」

美琴「…………当麻?」

上条「お前ならすぐに能力取り戻せるさ。努力してレベル1からレベル5の第3位まで上り詰めたんだ。お前なら出来る」

美琴の頭に乗せた手で、軽く彼女の髪をクシャクシャと撫でる上条。

上条「ネガティブのままだと治りにくいんだろ? だったら、元気出せ。お前の泣き顔見てるとこっちまで悲しくなっちまうんだからよ」

そう言って上条は美琴に笑顔を見せる。

美琴「………………」

しばし、呆然とする美琴。しかし、すぐに彼女は目に涙を溜めながらも笑みを零してくれた。

美琴「クス……もう、こっちの気も知らないで……」

口元を緩めつつ、美琴は涙を拭った。

そんなことがあったのが2時間前だったか。取り敢えず今は先を急ぐべきと結論を出して、2人は御坂妹から教えられた『デーモンズ・ネスト』までやって来たのだ。



345:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/10(金) 03:29:54.04 ID:JwHQeYM0

美琴「ねぇ、やっぱり行くのやめようよ」

上条「ダメだ。相手がスキルアウトでも今は少しでも助けが欲しい」

美琴「でも……」

美琴は相変わらず不安そうにしていた。

上条「…………じゃあ分かった。俺1人で行ってくる」

美琴「ええっ!!??」

上条「確かに……よく考えれば今みたいに能力を失ってるお前を連れていくのは危険かもしれない。だからお前はここに残ってろ」

美琴の顔を見つめ、上条は言う。対して美琴の方は少し不満気だった。

美琴「今の私は役に立たないから?」

上条「違う。そういう問題じゃない。もし店内で何かあっても、お前は電撃を使えないから抵抗が出来ない。それならお前はここに残っていた方が安全だ」

一応理由を話す上条。しかしそれでも美琴は不満気だった。

美琴「あんただって、能力使えないんだから危険じゃない」

上条「…………」

言われてみればそうである。上条は反論の言葉を失くし気まずそうに黙った。

美琴「だから、やめようよ……」

上条の腕をグイグイ引っ張る美琴。

上条「………………」

今の美琴は上条と一緒に店内について行くことも出来ず、上条を無理矢理止める術も持たない。出来るのはこうやって引き止めるだけ。まさに一介の女子中学生でしかなかった。そんな彼女の姿は上条にとって新鮮だったが、彼としても彼女のためにここで引き下がるわけにはいかなかった。

上条「1時間もあれば戻ってくる。ここで待ってろ」

美琴「あ! ちょっと!」

言うやいなや上条は表通りに飛び出し、道を横切ると『デーモンズ・ネスト』に入っていった。

美琴「うううう……もぉう!」

美琴は1人唸ると、向かいに見える『デーモンズ・ネスト』の入り口を凝視した。



346:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/10(金) 03:35:11.79 ID:JwHQeYM0

上条「………………」

足を踏み入れた『デーモンズ・ネスト』の中は、クラブのような感じだった。
店内中にやたらうるさい音楽がズカズカと鳴り響き、DJの叫び声がハウリングする。様々な色のライトが忙しく地上を動き回り、多くの若者が狂ったように踊っている。

上条「(………臭うな)」

店に入ってすぐ、上条はそう思った。
上条自身、こういった場所には行った経験がなかったが、それを差し引いてもどうもこの店の雰囲気は彼に合わなかった。まるで、学園都市中の欲が凝縮されたような、そんな感じがした。

上条「(まずは仁科要を探さないと……)」

踊り狂う人々の間を通り抜ける上条。

「はーい坊や~一緒に踊らなーい?」

「あら可愛い。私と踊ろうよ」

「お姉さんと遊ぶ? それとも“遊戯部屋(プレイルーム)”行く? 安くしとくよ」

上条の顔を見ては、若い女性がからかうように声を掛けてくる。

上条「いや、いいです……はは、通して下さい」

上条はあまり周囲の音に意識を向けないようにしたが、そんな彼の行為を嘲笑うように若い男女たちの会話が無理矢理耳に入ってきた。

「おい俺と一緒に踊ろうぜ」

「今なら『遊戯部屋』30分で1万だよ」

「あいつったら、ヤリ逃げしたんだよー信じられなーい」

「優子の奴許せない! 今度スキルアウト雇ってボコボコにしてやるんだー」

「で、俺の部屋で飼ってる女の子ちゃんがさームカつくから殴ってやったんだよ」

「おいおいそれ外国産の“薬”じゃねぇか! 俺にも寄越せよ!」

「金払わないとお前を売り飛ばすぞ!!」

「イエエエエイ!!!! 乗ってるかーい次の曲はこれだ!! 『レイパーズ』による『ハメハメガイズ』だよ!!!」

上条「…………っ」

一瞬、眩暈のようなものを上条は感じた。

上条「御坂を連れてこなくて正解だった……」

右手で頭を抱え、上条は店の奥に向かって歩いていく。と、そこで店内を観察するように見ているボーイ姿の若い男を発見した。



347:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/10(金) 03:41:03.86 ID:JwHQeYM0

上条「………………」

若い男の両隣には、屈強そうなスーツを着た強面のボディガードらしき男が2人。たびたび、店の関係者っぽい不良たちに話しかけられているのを見ると、若い男は結構地位の高い人間であることが予想出来た。

上条「…………行ってみるか」

上条は顔を引き締め、若い男に近付いていく。それに気付いた両隣のボディガードがジロリと上条に警戒の視線を送った。

上条「あの……すみません」

若い男「何でしょうかお客様」

上条が話しかけると、若い男は不気味なほどの営業スマイルを浮かべて訊ねてきた。

上条「聞きたいことがあるんですけど……」

若い男「はい何について知りたいですか? 見たところお客様は初めての来店とお見受けしますが、会員カードは既にお作りになられていますか? もしまだなら、まずはカウンターの所に行って手続きを行って下さい」

上条「いや……」

若い男「これは失礼。既に会員様でいらっしゃいましたか。ではもしかして、プレミアム会員についてのご質問でしょうか。プレミアム会員になられると、様々な特典がついてきます。1年間当店のクラブを自由に利用することが出来、『遊戯部屋』や『S and M サークル』、『All JOY』などの参加も認められます」

上条「そうじゃなくて……」

若い男「その他にも『1日デートクラブ』、『ぺっとレンタル』、『報復屋』といった通常の店では味わえないサービスを……」




上条「仁科要に会いたいんですけど」




若い男「………………」

その瞬間、明らかに若い男とボディガードの雰囲気が変わった。

上条「………………!?」



348:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/10(金) 03:45:50.15 ID:JwHQeYM0

上条は、若い男の顔が一瞬だけ感情の無い冷酷な表情に豹変するのを見逃さなかった。
まるで凍てつくような、人を殺すことさえ躊躇わないそんな目をしていた。

上条「あの………」

若い男「と、これは失礼」

若い男はすぐに元の営業スマイルを見せてきた。ただし、声調はどこか他者を威嚇するような重いものになっていたが。

若い男「その名前を知っている、ということは“特別な事情”で当店にいらっしゃったと推察されます。その通りですか?」

上条「あ、はい……」

若い男「承知しました。しばしのお待ちを」

言って、若い男は近くにいた部下らしきを男を呼びつけヒソヒソと何かを伝えた。すると、部下の男は何度か頷き1度だけ上条の顔を一瞥するとその場を離れどこかに行ってしまった。

上条「(ボスの所に行ったのか?)」

若い男「ではお客様」

上条「は、はい」ビクッ

若い男「しばらくお待ちを」

上条「わ、分かりました……」

上条は取り敢えずそう答えた。

上条「………………」

若い男「………………」ニコニコ

気まずい雰囲気が流れ、上条は目を伏せる。



349:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/10(金) 03:50:14.35 ID:JwHQeYM0

何故だか今すぐにでも引き返したい衝動に駆られたが、目の前に若い男が立っているのを考えると、それも出来なかった。



「お待たせしました」



上条「!!!!!!」ビクウッ

突如、頭の上から声を掛けられ上条は肩を震わせてしまった。
咄嗟に顔を上げる上条。

「自分についてきて下さい」

見ると、そこにはオールバックで黒いスーツ姿の男が1人立っていた。

黒服「さ、こちらへ」

如何にも、裏で何かやってますよ的な風貌をした男は、表情を作ることもせず自分について来るように言う。

上条「は、はい……」

若い男「…………」フッ

上条は喉をゴクリと鳴らし、重い足取りで黒服の男の後に続き歩き始めた。

上条「………………」

今から向かうはスキルアウトのアジトの心臓部。待っているは幾人もの屈強なスキルアウトを束ねる男。
数々の修羅場を潜り抜けてきた上条でも、この時だけは極度の緊張から逃れることは出来なかった。



365:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 22:19:07.71 ID:rqyA0vY0

ガチャッ、と音を立て扉が開く。

「おう、来たか」

上条「………………」

黒服の後に続き、店の深部にあった『MANAGER ROOM』と扉に書かれた部屋まで来た上条。
入るやいなや、部屋の奥に座っていたスキンヘッドの男が声を掛けてきた。



仁科「俺を頼りに来たんだって? 待ってろ。今、先客相手してるから」



上条「………………」

黒い革の豪華そうな椅子に座るその男。見た限り歳はまだ若い。大学生のような服装は、明らかに周囲にいる黒服の男たちの中では浮いているが、スキンヘッドの頭とその厳つい顔は見る者に僅かながら恐怖感を与えた。
間違いない。仁科要――この男がスキルアウトのボスにして、犯罪者たちのサポート業務を行うこの組織の長だった。

上条「!」

と、そこで上条は気付く。目の前の来客用の椅子に座る男が不安げに自分を見つめているのを。

上条「(一般人? スキルアウトには見えないな)」

どこか小汚い、髭を生やした大人の男性だった。

仁科「で、話の続きなんだが……」

髭男「!!!」ビクゥッ

仁科の声に、慌てたように髭男が振り返る。

仁科「こっちがお前に提供するのは、偽造ナンバープレートをつけた中古車1台。あとは偽造身分証明書、特別オプションとして拳銃一丁……でいいな?」

髭男「あ、ああ……それで宜しく頼む!」

見ると、仁科と髭男の間に置かれた机には何枚かの紙が置かれてある。

仁科「これが契約書だ。ここにサインしろ」

トントンと仁科はその紙を指で叩く。

髭男「わ、分かった」

ペンを取り自分の名前を書いていく髭男。

上条「(俺を待たせてるのは流れを把握させるためかな?)」



366:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 22:26:38.38 ID:HSzI16s0

仁科「金は受け取った。契約も成立した。身分証明書も既に出来上がってる頃だろう。後は車に乗ってどこへでも好きな所に逃げればいい」

髭男「………………」

上条「(意外ときっちりしてるんだな)」

ここで上条は部屋に視線を向けてみた。
間取りとしては縦4m、横3mぐらいの小さな部屋だ。窓はついていないが、部屋の奥右側と上条が今立っている場所の右手に1つずつ簡素なドアが設置されている。そして仁科の背後には、質素で飾りもない棚が1つ見える。視線を戻すと、仁科が座る椅子と来客用の椅子との間には正方形の机が置かれており、その机の左手にはテレビが1台申し訳なさそうに設置されていた。全体的にいたって特徴も無い部屋だった。

上条「………………」

現在、この部屋にいるのは合わせて9名。上条と仁科、先客。そして黒服の男が、部屋の奥左隅に1人、同じく右隅の扉の前に1人、先客の両隣に1人ずつ、上条の右手、扉の前に1人が立っていた。後は……先程からこちらに艶かしい視線を送ってくる、肌の露出が嫌というほど目立つ女が仁科の左隣に1人、色っぽく座っていた。

上条「(狭いな……)」

仁科「悪いな窮屈でよ」

上条「!!」ビクッ

仁科「なーに、そんな顔してたからよ」

ニヤニヤと仁科は上条を見て言ってきた。
一瞬、上条は仁科に読心能力でもあるのかと思い、冷や汗をかいた。

上条「………………」

仁科「もう少し待て。すぐ終わる」

上条を驚かせるだけ驚かせると、再び仁科は契約書に顔を戻した。

上条「(早く出たい……)」

髭男「書き終えたぞ」

仁科「OKOK。完璧だ。しかしアンチスキルのお客さんなんて久しぶりだぜホント」

髭男「う、うるさい! 俺は何も悪くないんだ」

上条「(アンチスキル?)」

ニヤニヤと仁科が面白がるように契約書を眺めながら喋る。

仁科「ま、捕まって仲間たちに笑われるよりかはマシか」

髭男「あ、あれはあいつが悪いんだ!」

仁科「賄賂を受け取ってる現場を偶然同僚の警備員に目撃され思わず撲殺。その死体を川に投げ捨て怖くなって逃亡か」

髭男「あ、あんまり口に出して言うんじゃない!」



367:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 22:30:32.73 ID:HSzI16s0

仁科「どうせここには訳ありの人間しかいねぇんだ。誰もバラしゃしねぇよ。にしても元警備員さんが、本来なら真っ先に捕まえるべきスキルアウトのボスに助けを求めるなんて……人間、落ちぶれる時はどこまでも落ちぶれるもんだ。くひひ」

髭男「お、俺は悪くない……。俺は自分のやりたいようにやってるだけだ……」

仁科「くひひ……」

上条「………………」

上条は黙って2人の会話を聞いている。彼は改めて今自分がどんな世界に立っているのかを理解した。

「失礼します」

上条「!」

と、その時だった。上条の右手側にある扉からノックの音がしたかと思うと、新たな黒服が1人慌てるように部屋に入ってきた。

仁科「どうした? こいつの準備整ったか?」

言って仁科は髭男に顎をしゃくる。

「いえ、それが……」

黒服は仁科に近付き、ヒソヒソと何かを話し始めた。

髭男「?」

上条「(何だろ?)」

心なしか、仁科と黒服はチラチラと髭男を見ている。

「以上です」

話が終わったのか、黒服が立ち上がった。

仁科「ほう……。そうかそうかそうか」

髭男「おい、何だ!? 準備が整ったんなら早くしてくれ!!」

仁科「俺たちはよ……表の店と裏の犯罪者サポート業務で生計立ててんだわ」

髭男「はあ!? それがどうした!? もう俺は行ってもいいのか!?」

仁科「どっちかと言うと後者の方が主な資金源なんだがな。それも貴重な……」

どこか、仁科の雰囲気が変わったような気がした。相変わらず顔はニヤついているが。

上条「?」



368:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 22:35:22.23 ID:HSzI16s0

仁科「『表の店』って言ったところでやってるのは犯罪にギリ近いわけよ。いやもうほとんど犯罪のようなもんだが。が、世の中ってのは面白くてなあ。こんな店にも一部の学園都市のお偉いさんが密かに利用しに来てたりするんだよ。そんなお偉いさんがスポンサーやってくれてるから俺たちも裏の稼業は真面目にやんなきゃなんねぇ。何故なら裏の稼業で設けた金を表の店の運営に回してるからな。……だけどお前さ、こっちに不利なことやられると困るんだよ」

髭男「い、一体何を言って……?」

仁科「ついさっき、この店の付近をうろついていた男をうちの部下が見つけて詰問した」

髭男「だからそれが俺と何の関係が……」

仁科「その男、俺たちの抗争相手のスキルアウト『暗帝(ダークエンペラー)』の一員だったって」

髭男「!!!!!!!!!!」

『暗帝(ダークエンペラー)』という名前が出た瞬間、髭男の様子が変わった。

仁科「何でもその男、店の外で誰かを待ってたらしいな……」

髭男「…………っ」

仁科「昨日『暗帝』に1人の男がやって来たらしい。何でも仲間を殺してしまって逃げたいから資金を欲しい、ってな。まあ『暗帝』も俺たちと同じように犯罪者のサポート業務をやってんだ。別にそれは不思議じゃねぇ」

髭男「待ってくれ、ちょっと話し合おう」

仁科「だが『暗帝』ははした金で犯罪者を助けてくれるほどお人好しじゃねぇ。色んな条件を出してそれを成功させた者にのみ力を貸す。そう、例えば……敵対グループの『デーモンズ・ネスト』の内情を探ってこい、っていう条件とかな」

その瞬間、室内にいた5人の黒服たちの雰囲気が変わった。

上条「!!!!!!」

同じ場所で立ち続けてるものの、黒服たちは全員背中で組んでいた両手を解き、髭男を凝視している。

髭男「ちょちょちょっと待ってくれ! これには深い訳があるんだ!!」

髭男もこれはまずいと思ったのか、何やら言い訳をし始めた。

上条「………!?」

明らかに室内に不穏な空気が漂っている。



369:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 22:39:44.53 ID:HSzI16s0

仁科「深い訳? どんな?」

髭男「だ、だから、俺困ってるだろ? 困ってたら冷静に判断なんか出来ないだろ!?」

上条「………………」

上条は何が起こっているのか訳も分からないまま、髭男と仁科の顔を交互に見ている。

仁科「………………」

髭男「だから仕方なかったんだよ。なあ頼むって。契約交わしただろ? もう『暗帝』の所には戻らないからさ!」




パァン!!!!




上条「!!!!!!!!!!」

ガタン、と音を立て、こめかみから血を流した髭男の頭が上条の足元に倒れてきた。

上条「ひっ………」

顔を上げると、髭男の右隣にいた黒服が、銃口から硝煙の上がる拳銃を手にしているのが目に入った。

黒服「………………」

黒服は拳銃を懐にしまい、何事も無かったかのように1歩下がる。

上条「あ……あ……」

信じられないものでも見たように、上条は仁科を見る。
それに応えるかのように、仁科は笑顔を浮かべ言った。




仁科「次の方、どうぞー」



370:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 22:45:14.44 ID:HSzI16s0

その頃――。

黄泉川「気は済んだじゃん?」

黒子「………………」

アンチスキル・黄泉川部隊本部。トレーラー型の装甲車の中で、黄泉川は横に立つ黒子に訊ねた。

黄泉川「また勝手にいなくなりやがって。私たちがお前を見つけていなかったら、上から与えられた最後のチャンスもふいにするとこだったじゃん」

黒子「…………もう少し探し続けてたら御坂美琴を発見してたかもしれませんの」

機嫌悪そうに黒子は言う。

黄泉川「はいはい、そうだな。で、実際見つかったじゃん?」

黒子「目撃のあった場所付近ではいませんでしたの」

黄泉川「だろ?」

黒子「但し、もっと違う場所も探してたら結果は違っていたかもしれませんの」

黄泉川「はいはい、屁理屈乙じゃん」

呆れるように黄泉川は言いコーヒーを仰ぐ。

黒子「そっちだって山の麓で待ち伏せしてたのに、彼奴らを取り逃がしたではありませんか」

黄泉川「あれは取り逃がしたと言うより、我々の動きに気付いていた可能性が高い」

黒子「?」

黄泉川「事前に情報を得ていた何者かの助けがあったのかもしれないじゃん。ま、ただの勘に過ぎないが……」

コーヒーを眺めながら黄泉川は推測を述べてみる。

黒子「それこそ屁理屈乙ですわ」

黒子は不服そうに言い返した。

黄泉川「とにかく、お前も勝手な行動は慎むじゃん。アンチスキルの上層部もようやく本気になったんだ。お前の出る幕も減るかもな」

黒子「何を仰っているのやら」

黄泉川「上もようやく事態の重要性に気付いたんだろ。何でもアンチスキル最強の男を用意してるとかそんなこと言ってたじゃん。だから、お前もあまり派手に動く必要は無くなるじゃん」

黒子「1つ勘違いをしていらっしゃるのでは? 私は『警備員(アンチスキル)』ではなく『風紀委員(ジャッジメント)』の所属ですの。貴女がたの指示をいちいち全て素直に聞く必要はありません。それに、御坂美琴は元々学生。その理に従うならば、同じ学生である私が事の始末をつけるのが常道ですの」



371:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 22:49:19.76 ID:HSzI16s0

黄泉川「確かに、な。本来ならアンチスキルとジャッジメントの命令系統は違う。お前が我々に従う道理も無い。だが、同じジャッジメントならどうだ?」

黒子「はぁ?」

ニヤッと笑った黄泉川に、黒子は怪訝な顔をする。

黄泉川「ジャッジメントが全面的に協力を申し出てきたじゃん」

黒子「そんなこと聞いてませんわよ?」

黄泉川「なら後で自分で問い合わせろ。それにもうすぐここにやって来るじゃん」

黒子「はぁ!? 知りませんけどそんなこと!!」

大声を上げる黒子。

黒子「何名ですの!?」

黄泉川「1名だ」

黒子「い、1名!? たったの1名!? それなら黒子だけで十分ですの!! 今からでもいいから来ないよう伝えて下さいまし!!」

黄泉川「まあ不満なのは分かるが、お前の勝手な行動を諌める監視役も必要なんでな。これからは2人で頑張れ」

黒子「ふざけないで下さいですの!! 黒子の許可も得ず何を仰っているんですの!!」

よっぽど不満なのか、黒子は机をドンドンと叩いている。

黄泉川「たった1人と言っても、その実力は100人分に相当すると聞いたが?」

黒子「……………え?」

黄泉川の言葉に、黒子が急に抗議を止めてキョトンとした顔になった。



372:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 22:53:22.23 ID:HSzI16s0

黄泉川「何でもその男は『風紀委員(ジャッジメント)の最終兵器』と呼ばれてるらしいじゃん」

黒子「『ジャッジメントの最終兵器』? 何ですのその胡散臭い呼び名は!!」

黄泉川「あくまでアンチスキル内での評価じゃん。ジャッジメントではどう呼ばれてるのかは知らん」

黒子「そこらの頼りない男を1人2人派遣されても足手まといになるだけですの!!」

黄泉川「なら、資料見るか?」

溜息を吐き、コーヒーカップを机の上に置くと、黄泉川は1枚の紙を取り出してきた。

黄泉川「先程FAXで送られてきたじゃん。お前も絶対知ってるはずなんだがなあ?」

黒子「はあ? そんな胡散臭いあだ名の男のジャッジメントなんて私の知り合いに……」
黒子「!!!!!!」

と、そこで黒子の表情が一変した。

黄泉川「………」フッ

黒子「こ、これは本当……ですの!?」

黒子は握った紙を見つめながら黄泉川に訊ねる。

黄泉川「嘘ついてどうする?」

黒子「フ……フフ……。まさかこの方が前線へ出てくるなんて……いえよく考えれば当然ですわね」

急に黒子は不適な笑みを浮かべ始めた。

黒子「なるほど……彼ならまさに百人力……。これなら異論はありませんわ……」

黄泉川「それは良かったじゃん」

黒子「ええ。彼なら彼奴らを必ず捕まえてくれるでしょう……。そう…『風紀委員(ジャッジメント)』の名にかけてでも……っ!」

黒子の手は興奮を抑えられないと言うようにブルブルと震えていた。



394:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 22:32:23.79 ID:tqyIA0M0

仁科「で、お前は何が欲しい?」




上条「………………」

正面に座る仁科がニヤついた顔を見せ訊ねてくる。
あまり気味の良いものでもなかったが、上条は今死んだばかりの髭男が直前までに座っていた来客用の椅子に腰掛けた。

黒服「こっちだ。しっかり持て」

黒服「おう」

視界の端には、開かれた扉から髭男の死体を運んでいく2人の黒服の姿が見えた。

仁科「ああ、あれ? つまりはそういうこと。俺たちは金も払って契約書にサインした奴にはちゃんと必要なものを提供するが……ルールを破った奴には容赦しない」

得意げに仁科は語る。

仁科「これが俺たちの世界だ」

上条「………あの人は……ただ逃げたかっただけなのに……」

扉の向こうに消えていく髭男の死体を見て上条は同情するように呟く。

仁科「ガキが知ったかぶってんじゃねぇ。それ相応の覚悟をしてもらわないと、こっちだって助けてやれねぇんだよ」

上条「………………」

上条は横目で窺っていた仁科に顔を戻す。

仁科「死んだ奴のことは忘れろ。次はお前の番だ。お前はどういう事情でここに来て、一体全体何が欲しい?」

髭男のことなど既に意識の外だったのか、仁科はもう仕事モードになっていた。
そんな彼の顔を見て、一瞬躊躇を見せた上条だったが、今更こんなところで引き返すことも出来なかった。

上条「とある1人の女の子と一緒に訳あって逃亡してる。出来るのなら俺とその子の替えの服をそれぞれ一着ずつ、後は学園都市から『外』に確実に逃げられるルートを教えてほしい」

仁科「ほほう! 憎いねこの色男! 駆け落ちでもしてんのか!?」

上条「………………」

上条の話を聞き、仁科がちゃかしてきた。



395:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 22:36:59.09 ID:tqyIA0M0

仁科「実はよぉ、俺もこの女とそんな経緯があってここにいんだよ」

上条は仁科の隣に座っていた若い女性を一瞥する。先程髭男が目の前で死んでも顔色1つ替えなかった露出の多い女だった。

仁科「なー? 綾子?」

綾子「…………クス」

綾子と呼ばれた女が笑みを零す。

上条「………………」

綾子「ねぇ、要くん」

仁科「何だ?」

と、今まで黙っていた綾子が急に仁科に話しかけた。

綾子「あたし気分転換にちょっと出てていい?」

仁科「おう、そうか。構わないぜ!」

綾子「ありがとー」

それだけ会話を交わすと綾子は立ち上がり、部屋を出て行った。
一瞬、彼女が上条の側を通り過ぎる時に、目が合った気がしたが上条は深く考えないことにした。

上条「で、話の続きなんだけど……」

仁科「で、その連れの女はどこだ?」

上条「!!!???」

仁科は上条を見据えそう聞いてきた。

上条「………え?」

仁科「え? じゃねぇよ。お前が一緒に逃げてるって女。どこにいるんだよ? そいつの姿が見えねぇとお前の話を信用できねぇだろうが」

上条「………いや……あいつは外で待たせてるんだけど……」

しどろもどろしながら上条は応える。この展開は想定外だったのだ。



396:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 22:40:14.63 ID:tqyIA0M0

仁科「……………まあいい。話を続けるか」

上条「は? え……あ……わ、分かった」

やけにアッサリと諦めた仁科。上条は少し違和感を覚えたが、話を切り替えてくれたのは好都合だった。

上条「と、とにかく……俺もそいつも1度アンチスキルに姿を見られてんだ。だから、奴らの目をなるべくごまかすために服を着替えたい。後は……無事に学園都市から逃げ出すためのルートを教えてほしいんだけど……」

仁科「ふむ。なるほどな。まあ服なら色んなサイズの色んな年代向けのは揃ってる」

上条「良かった……」

仁科「だが問題は逃走ルートだ。逃走ルートの情報は高くつくぞ。お前、金持ってんだろうな?」

上条「…………え」

一瞬、頭の中が真っ白になる。

仁科「金だよ金。まさか無一文で手に入るとでも思ったか?」

上条「あ、ああ……金ならある。今財布の中に入ってる!」

仁科「いくら?」

上条「えーっと……ちょっと待ってくれ……」

慌てるように上条は財布を取り出し中身を確かめる。その様子をジロリと見つめる仁科。

上条「えーっと……1……2……」

仁科の視線を浴び、上条は焦りながら紙幣や硬貨の数を確かめる。

上条「2万5760円かな? うん……」

顔を上げ、上条は苦笑いを浮かべながら答えた。

仁科「2万……5760円……?」

金額を聞いた仁科がポカーンと口を開ける。

上条「あ、ああ……」



397:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 22:44:16.95 ID:tqyIA0M0

次の瞬間。



仁科「ぎゃーーーーーーはっはっはははははははははははははは!!!!!!!!!!」



部屋が笑いの渦に包まれた。

上条「え? え?」

仁科と部屋にいた5人の黒服が爆笑している。そんな彼らの顔を何がおかしいのか分からないといった様子で窺う上条。

仁科「2万……2万5760円!! 2万5760円だと!? これは傑作だ!!!」

上条「えと……あの……」

仁科「そんなはした金で逃亡する気だったのかお前!!?? くひひひ……」

上条「いや、最初はこれでも3万ちょっとあったんだけど……」

仁科「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーっはっはっはっはっはっはっはっは!!!!!!」

更に部屋が爆笑の渦に包まれた。仁科にいたっては腹を抱え、両足でドタドタと床を叩きながら、あまつさえ目に涙を浮かべている。

上条「な、何かおかしいかよ!!」

その様子に上条は少し苛立ちを見せた。

仁科「ああ、おかしいね……くひひ……たったの5桁の額でこの学園都市から逃げれるだなんて考えてるお前のくるくるぱぁな脳みそがおかしくてたまらねぇよ」

上条「…………っ」
上条「これでも俺は真剣なんだ!!」

仁科「やめろ、もう怒るな。腹がおかしくなる……くひひ……」

上条「………」

仁科「分かった。お前らに服と逃走ルート、与えてやるよ」

ようやく気が済んだのか、笑い終えた仁科はそう言ってきた。

上条「!!! ほ、本当か!?」

仁科の言葉を聞き、上条が希望の色を顔に浮かべる。



398:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 22:49:27.02 ID:tqyIA0M0

仁科「ああ、但し……」

上条「?」

仁科「お代は全額だ」

上条「え……………」

仁科は上条の財布を指差す。

仁科「全額いただく」

上条「なっ!?」
上条「そ、それは困る!」

咄嗟に上条は抗議の声を上げていた。

仁科「はあ?」

上条「うっ……いや、だ、だって…全額取られたら……飯とかどうすりゃいいんだよ……」
上条「いや待てよ……1回ATMで金を下ろせば……」

仁科「バカか。お前の素性がアンチスキルに割れてる以上、口座は使えないとみたほうがいい」

上条「!!」

仁科「運が悪けりゃ罠を張られているかもしれねぇ。利用した口座から位置情報を掴まれたりな」

上条「……………」

口を開け呆然となる上条。そんな彼を見て一瞬小さく笑うと、仁科は続きを話し始めた。

仁科「まあ聞け。とにかく、だ。オプションでついてくる拳銃はいいとして、2人分の服の着替えで3万以上はする」

上条「そ、そんなに……!?」

仁科「逃走ルートの情報もいくつか持ってるが、1番価値の低いルートにしたって2万はするんだ。……だが俺は優しいからな。さっき、おじゃんになったばかりの契約の分、金額をサービスしてやる」

上条「!?」

明らかに仁科が言っているのは殺された髭男のことだった。確かに髭男が死んだことで、1つ契約が台無しになっているのだろうが、そもそもそうさせたのは仁科自身だ。わざわざ自分で髭男を殺しておいて、その分を補うために情けを掛けられるのは上条にとってはいまひとつ納得出来なかった。それに、これではまるで髭男が死んだお陰で上条たちが助かるようなものである。

上条「冗談じゃない……。俺は帰る」

仁科「あ?」

上条「こんなバカらしいことに大金を使うぐらいなら、自力で逃げたほうがマシだ。ATMが使えなくっても2万ちょっとあれば、十分に『外』に逃げれるまではもつ」

そう言って上条は立ち上がろうとする。



399:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 22:54:23.76 ID:tqyIA0M0

仁科「いや、無理だね」

ニヤニヤと仁科が引き止めるように言った。

上条「何?」

仁科「さっきも言ったが、たった5桁だけの金額で学園都市から逃げることなんて不可能だ。必ずどこかでその無謀さに気付いて一旦、『外』への脱出は諦めることになる。そっからはどうなると思う? 恐らくは、学園都市でアンチスキルなどの影に怯えて暮らす生活の始まりだ。また『外』に逃げるつもりでも、飯を手に入れるだけですぐに金は底を尽くぞ。……まあ、俺たちみたいな組織に入って生活費を稼ぐ、って手もあるがなあ」

上条「………………」

仁科「だったら、今ここで所持金全て使っても俺に頼っといた方がいい。1番価値の低い逃走ルートの情報にしたって、十分役に立つはずだ」

上条「………………」

仁科「てめぇの都合で考えるな。別にお前だけなら好き勝手にやりゃいいが……一緒に逃げてる女がいるんだろ? なら、その女のことを1番に考えるこったな。ま、お前が女のことを考慮せず、その場の判断だけで俺の協力を断って、その果てに女を死なせてしまうような馬鹿みたいな男なら話は別だがな?」

上条「……………………」

仁科「………………」

ニヤニヤと笑みを浮かべる仁科。無言で仁科の話を聞く上条。2人はしばらくの間互いの顔を凝視していた。
そして………

上条「………………」

スッ、と上条は再び椅子に腰を降ろした。

仁科「そうこなくっちゃ」ニヤリ

上条「……言っておくがお前を完全に信用したわけじゃない。あいつのことを考えたら、ここでお前の助けを借りるのも得策だと判断したまでだ」

仁科「そりゃあ偉い。なら早速契約といこうか」

仁科が1枚の紙を机の上に置く。

上条「………………」

仁科「………………」ニヤニヤ

無言で仁科の顔を見つつ、上条は差し出されたペンを受け取った。



400:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 22:58:49.02 ID:tqyIA0M0

15分後――。

ガチャッ

仁科「悪いな。席外しててよ。で、出来たか?」

上条の右手側にある扉が開き、仁科が入ってきた。

上条「ああ……」

椅子に座る仁科。

仁科「ちょっと用事が入ったもんでな」

彼は5分ほど前、部下に呼ばれ部屋を出ていたのだ。どこに行っていたのかまでは上条は知る由もなかったが。

上条「これでいいのか?」

仁科「おお、いいぜいいぜ!! これで契約成立だ!!」

上条から渡された契約書を上から下まで舐めるように見つめ、仁科は喜びの声を上げる。

上条「………………」

黒服「失礼します」

と、そこへ部屋の奥の扉から1人の黒服が入ってきた。その手の中には小さなケースが抱えられている。

黒服「どうぞ」

仁科「おう」

そのケースを黒服から受け取り、蓋を開けると仁科はまたニヤつき始めた。

仁科「お前のもんだ」

そう言い、仁科は蓋が開いたままのケースを机の上に置き、そのまま一回転させ中身を上条に見せてきた。

上条「!!!!」

仁科「オプションの拳銃だ」

そこには、黒光りする一丁の拳銃がしまわれていた。

上条「これ………」

拳銃を見て呆然とする上条をよそに、仁科は後ろの棚をゴソゴソ探っている。そして今度は、何重かに折り畳まれた厚みのある紙をケースの横に置いてきた。



402:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 23:04:20.53 ID:tqyIA0M0

仁科「こっちは逃走ルートを書いた地図だ」

上条「ちょっと待て」

仁科「あん?」

上条「この拳銃は?」

堪らず上条は仁科に訊ねていた。

仁科「グロック17……映画で見たことないか? プラスチック製の持ち運びやすくて小さな銃だ。弾も入ってる」

上条「俺は拳銃なんていらねぇ……この拳だけありゃ十分だ」

仁科「バカ言うな。そんなんで逃げ切れるわけねぇだろ。お前が使うかどうかなんて知ったこっちゃねぇが、これも契約のうちなんだ。だからオラ、腰にでも挟んどけ」

言って仁科は右手でケースをこずき、上条に近付けさせる。

上条「………………」

上条はまだ納得がいかないという顔をしていたが、最後に1度仁科を見ると、しぶしぶと地図を受け取り拳銃をズボンの背中部分に挟んだ。

仁科「金も受け取った。契約書も出来た。あとは、服だけだな」

相変わらずニヤニヤした顔の仁科。

「ボ、ボ、ボ、ボ~ス~!」

上条「!」

と、その時、上条の右手側にある扉が開き、1人の男が入ってきた。

仁科「おうどうした“ゴリラブタ”」

「エヘエヘエヘ……準備できやしたぜ……ハァハァ」

仁科に『ゴリラブタ』と呼ばれたその男は、その名の通りやたら巨体だった。ただし『ゴリラ』に該当する部分は彼の身体のどこを見ても、全く連想出来なかったが。

上条「………」

ゴリラブタ「こ、これでまた……ハンバーガー貰えるんすよね? ハァハァ」

見たところ、ゴリラブタは黒服より立場が低いのか、格好も私服でだらしなく、脂肪だけの腹がやけに目立っている。絶えず息を切らしているのは別に走ってきたわけということでもなく、いつものことなのだろう。まさに『豚』という呼び名に相応しい彼は、一仕事を終えたところなのか、仁科に褒美の飯を頼りにここまで来ていたのだ。

仁科「分かった。後でやる。お前は戻ってろ」

ゴリラブタ「は~~~い!!」

ドスドスと音を響かせゴリラブタが去っていく。



404:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 23:08:34.06 ID:tqyIA0M0

仁科「さて、悪かったな手間取らせて」

上条「ん? あ、いや別に……」

仁科が話を戻す。

仁科「礼に面白いもん見せてやるよ」

そう言って仁科はリモコンらしきものを手に取ると、上条の左手前に設置されたテレビの電源を入れた。

仁科「ほら、面白いだろ?」

上条「………………」
上条「!!!!!!!!」

その瞬間、上条の顔が固まった。

仁科「くひひ」

上条「…………っ」

テレビの画面は何故かカラーではなくモノクロだった。そこに映っているのは通常の番組でもない。どこかの部屋を天井と思われる位置から映した監視カメラの映像だった。そして、その部屋にいるのはよく見知った格好をした1人の少女で………




上条「御坂っ!!??」




叫び、上条は画面に見入っていた。



406:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 23:14:08.69 ID:tqyIA0M0

帽子で顔を隠しているが、間違いなく監視カメラに映ったその部屋にいるのは美琴だった。もう1人、同じ部屋に誰かいるようだがその顔には見覚えがあった。

上条「あの女は……」

仁科「くひひ……」

ついさっきまで、仁科の隣に座っていた『綾子』と呼ばれた若い女だった。

上条「!!!」

不意に、映像の中の美琴が顔を上げたかと思うと、画面越しに上条と目が合った。無論、向こうはこっちのことなど見えていないが、上条はそれで確信した。間違いない――確かに彼女は美琴だ。

上条「お前っ!!」

ギロリ、と上条が仁科を睨む。警戒した黒服が懐に手を伸ばす。

仁科「まあ落ち着けって」

上条「ふざけるな!!! どうしてあいつが映っているんだ!!??」

上条は激昂するが、仁科は相変わらずニヤニヤと笑っているだけだった。

仁科「なんだ、あれがお前の女だったのか。いやな、店の前でウロウロしてたガキがいるってもんだから、部下が見にいったのよ。そしたらあのガキ、いきなり部下を蹴り飛ばして怪我負わせやがったらしくてよ。だからまあ、責任とってもらうためにちょっと連れてきたんだよ」

上条「違う!! どうせお前らの部下が無理矢理御坂を連れていこうとしたんだろ!!?? そうに決まってる!! お前……俺がここにいる間に、自分の部下を使って御坂を探させてたな!? あらかたさっき部屋の外に出てたのも御坂の姿を確認するためだろ!!!」

仁科「俺は部下からの報告をそのまま伝えただけだが?」

上条「教えろ!! 御坂はどこにいる!?」

血気迫った顔で訊ねる上条。対して仁科はこの状況を楽しむように答えた。




仁科「さあ?」



425:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 00:07:21.49 ID:DM5O1EM0

『デーモンズ・ネスト』・とある部屋にて――。

美琴「で、あいつはいつ来るの?」

綾子「その前にこっち向いたらどうだの? いい加減顔見せてよー」

上条が仁科に美琴の居場所を聞き出している最中、当の美琴は店内にある休憩所にいた。扉がついた壁はガラス張りになっており、そこからはクラブで踊る若者たちの姿が見えた。

美琴「私はあんたに見せる顔はないわ」

10分ほど前まで上条の言いつけ通り店の外で待っていた美琴。が、そんな彼女の前に突然、黒服を着た男が2人どこからともなく姿を現した。

綾子「えーケチー」

美琴「ふん」

黒服は、連れの上条が呼んでいると美琴に説明。1度は不審を覚えた美琴だったが、腕時計を見ると上条が言っていた1時間がとうに過ぎていたので、迷った末警戒しながらも黒服について行くことにしたのだった。

綾子「貴女、うちで働かない? スタイル良いしきっと人気出るわよ?」

美琴「お断り。私はそんなことしてる暇ないの」

綾子「そんなにあの男の子が好きなんだー」

美琴「………………」

綾子「あら? 何で黙っちゃうの? 図星だった?」

美琴「う、うっさいわよ!」

このように、綾子と言う名の若い女性は先程から絶えず話しかけてきていた。何らかの意図があって美琴を揺さぶろうとしているのかどうかは分からなかったが、鬱陶しいことには変わりなかった。

綾子「でもああいう男の子はモテるわよ?」

美琴「………………」

綾子「素直になれないのね」

美琴「あんたに……私の何が分かるのよ?」

綾子「分かるわよ。顔を隠してる、ってことは彼ではなく貴女の方が何らかの理由で追われてる、ってこと。でないと、わざわざ貴女を店の外に待たせてまで彼が要くんの所に堂々とやって来ないわ。……どういう関係かは知らないけど、貴女のために一緒に逃亡してくれるなんて相当大事に思われてる証拠よ?」

女の言葉が後ろから美琴を揺さぶる。美琴は相手にしてはいけないと心の中で思っていても、ついつい反応してしまうのだった。

綾子「私には分かる。あの男の子、きっと貴女のことが好きなんだわ」

美琴「えっ?」

思わず、美琴は振り向こうとした。



426:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 00:11:29.44 ID:DM5O1EM0

美琴「……っ」

しかし、寸でのところで美琴は顔を戻し帽子を被り直した。

綾子「あ、残念……」

美琴「もう私に話しかけないでよ。気が散るから……」

綾子「動揺してるわね? 何なら告白しちゃえばいいのに」

美琴「バ、バカなこと言わないでよ」

綾子「きっとあの男の子は心の中で貴女を好きでいる。でもその気持ちには気付いていないのよ。だからきっと、貴女が想いを告げちゃえば、彼も気付いてくれるはず……」

美琴「な、何であんたに分かるのよ。あ、あいつに限ってそ、そんなこと……」

そこまで言って美琴は急に黙る。

美琴「(そ、そうよ……あいつが私のこと好きだなんて有り得ない……あんな鈍感なのに……。あいつは善意で私を助けてくれるだけ……そう……それだけ………)」

思いつめたような顔になる美琴。

綾子「………」クスッ

そんな美琴を見て綾子は笑みを零す。


ガチャッ


美琴「!」

と、その時だった。背後から扉が開かれる音がした。

美琴「当麻!?」

一応、顔を帽子とマフラーで隠しつつ美琴は笑顔で振り返った。

美琴「!!!???」

ゴリラブタ「でへへへ。お嬢ちゃん、ちょっとこっち来てくれるかな~? ハァハァ」

そこには、やたら太った男と不良の風貌をした若い男が3人立っていた。

美琴「な、何よ!?」

ゴリラブタ「一緒に遊ぼう? ハァハァ」

額から大量の油汗を流し、太った男は不気味な笑みを浮かべた。



427:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 00:16:09.05 ID:DM5O1EM0

上条「御坂はどこにいる!?」




仁科「さあ?」

仁科の胸倉を掴み、上条は血走った目で問い詰める。黒服の男たちが拳銃を向けてきたが上条は気にしていなかった。

上条「言え!!」

上条が知りたいのはただ1つ。美琴の居場所だ。

仁科「そこまで大事なら自分で探してみればいいんじゃないか?」

上条「………っ」バッ

仁科「おっと……」

仁科から手を離す上条。

扉に近付いた上条は目の前に立っていた黒服に叫ぶ。

上条「どけ!!」

言われ、黒服は道を開ける。

上条「御坂!!!!」

そして上条は目にも止まらぬ速さで部屋を出て行った。

黒服「宜しかったのですか?」

黒服が上条の背中を見送り訊ねてきた。

仁科「いいんだよ。こうした方が面白い」

仁科はニヤニヤと笑ってそう答えた。



428:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 00:19:13.61 ID:DM5O1EM0

上条「御坂!! どこにいるんだ!?」

美琴を見つけるため、店内を走る上条。

上条「頼む!! 返事してくれ!!!」

不安の表情を浮かべつつ、上条は人ごみを掻き分ける。

上条「お前を置いてきた俺がバカだった……っ!」

強引に人と人の間を通り抜けようとする上条に、客や店員たちが迷惑そうな視線を送ってくる。

上条「お前がいなくなったら俺は……」
上条「!?」

と、そこで急に上条は立ち止まった。

上条「何だろあれ?」

店の一角。ガラス張りの小さな部屋の側に、人だかりが出来ていた。それも結構な数だった。今も、野次馬たちが人だかりに加わわるため、立ち止まった上条の横を通り過ぎて走っていっている。

上条「行ってみよう」

そう呟き上条は人だかりの元に駆け寄っていった。



429:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 00:22:46.58 ID:DM5O1EM0

美琴「きゃっ!!」ドサッ



床に転倒する美琴。
奇しくも彼女は、上条がたった今発見したばかりの人だかりの中心にいた。

美琴「ううっ……あっ!」

「もう1回立とうよ」グイッ

床でよろめく美琴を、1人の不良が無理矢理立ち上がらせ背後から彼女の両腕を掴む。

美琴「や、やめて……」

「ほら、パース!!」

美琴「きゃっ!」

「ナイパス!!」

不良が美琴を勢い良く離すと、向かいで待機していたまた別の不良が彼女を受け止めた。

「顔見せてみんなの前で自己紹介したらどう?」

美琴「は、離し……あっ!」

「そっち行ったぞ!」

再び勢いをつけて美琴を手放す不良。そして、その先で彼女を受け止めるまた別の不良。

「へいへいへい!」

美琴「やめっ……」

「ナイパス! おら、今度はこっちだ!」

美琴「痛いっ」

「キャァッチ! おらよ!」

美琴「もう止めてよ……」

不良たちは、まるでボールを投げ合うように美琴の華奢な身体を弄ぶ。そして彼女が不良たちに受け止められる度に、野次馬から歓声が上がるのだった。



430:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 00:26:24.99 ID:DM5O1EM0

ゴリラブタ「ねぇ…僕たちみんな君が顔見せてくれるの楽しみにしてるんだ。ハァハァ……自分で脱いでくれないと面白味がないじゃない? ハァハァ……」

美琴の身体を掴みながら、ゴリラブタが彼女の耳元で下品な息を吐く。

美琴「離せ……変態……」

普段の美琴なら電撃で不良たちを倒しているところだったが、今の彼女は能力を行使出来なかったため、それも叶わなかった。

ゴリラブタ「そういうこと言っちゃっていいのかな~?」

美琴「あっ!!」

瞬時、ゴリラブタは美琴が被っていた帽子を無理矢理脱がした。

美琴「か、返して!」

同時、野次馬たちがどよめいた。

ゴリラブタ「あ? 何だみんなして?」

野次馬たちの反応を訝しげに思ったゴリラブタが美琴の顔を見る。

ゴリラブタ「うお! こいつあの御坂美琴じゃん!!!」

美琴「くっ……」

遂に美琴は大勢の前でその素顔を晒されてしまった。

「あれ本物ー?」

「まさか俺たちよりも凶悪な犯罪者がここにいるなんてなー」

「こわーい」

「殺しちまったほうがいいんじゃねぇの?」

美琴の顔を見て好き勝手言う野次馬たち。

美琴「…………っ」

この店に集まっているのは、どちらかというと世間から外れた不法者が多かったためか、同類項だと思っている美琴を見ても一般人のような過激な反応は見せなかった。が、それでも大半が汚物を見るような目を彼女に向けてきた。

美琴「………見ないでよ!!」

犯罪者たちにも侮蔑される存在。それが今の美琴の立場だった。



431:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 00:30:18.97 ID:DM5O1EM0

ゴリラブタ「まさか君があの御坂美琴とは思わなかったよ~ん ハァハァ」

美琴「黙れ!」

ゴリラブタ「あ~怖い怖い。ハァハァ」

ゴリラブタの美琴の腕を掴む力が強まる。

ゴリラブタ「駄目だよ、おイタなんてしちゃ。取り敢えずこれからも悪さをしないように今ここでお仕置きしちゃおっか~ ハァハァ」

ワキワキとゴリラブタが美琴の身体の前で不気味に指を動かす。

美琴「くっ……」

ゴリラブタ「な~? みんなもこの子にお仕置きしたほうがいいと思うよな~? ハァハァ」

「そうだそうだ!!」

「やれやれ!!」

「俺たちよりクズな人間がどうなろうが知ったこっちゃないぜ!!」

口々に叫ぶ野次馬たち。それを聞き、頷くゴリラブタ。

ゴリラブタ「全会一致。じゃ、いただきま~す!!」

ゴリラブタの太い手が美琴の身体に近付く。

美琴「…………っ」




上条「御坂!!!!」




美琴「!!??」

と、その時だった。


上条「御坂!!!」


彼女の名を呼ぶ声がどこからともなく聞こえた。



432:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 00:34:13.12 ID:DM5O1EM0

美琴「と、当麻!?」

見ると、かなり後ろの方だが、人だかりの中から無理矢理顔を覗かせる上条の姿があった。

美琴「当麻!!!!」

パァァと美琴の顔が明るくなる。

ゴリラブタ「ああ? 何だあいつ……もう来ちゃったのか」

上条「今そっちに行くぞ!!!」

美琴「当麻!! 助けて!!」

美琴を視認した上条が人だかりを分けて進もうとする。

ゴリラブタ「おい、そいつをこっちに来させるな!! ハァハァ」

上条「!!??」

ゴリラブタがそう発したと同時、群がっていた野次馬たちが上条の前に立ちはだかってきた。

上条「何だお前ら!? どけぇっ!!」

叫び、上条は人だかりを掻き分けようとする。

美琴「当麻!!!」

ゴリラブタ「あぁっ!」

と、一瞬の隙をついて美琴がゴリラブタの手から離れた。

美琴「当麻!!!」

上条「御坂!!!」

野次馬たちに道を阻まれる上条に、美琴は近付こうとする。
しかし………


ガシッ!!


美琴「えっ!?」

振り返る美琴。野次馬の1人が、行かせまいと美琴の腕を掴んでいた。

美琴「なっ……」



437:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 00:39:11.24 ID:DM5O1EM0

それを合図に野次馬たちは暴走を始めた。

上条「みさっ…ぐおっ」

前へ進もうとする上条の頭を肩を身体を手を足を、野次馬たちが一斉になって掴み引っ張る。

美琴「とうま……あっ…!」

同じく美琴の頭を肩を身体を手を足を、反対側にいた野次馬たちが一斉になって掴み引っ張る。

ゴリラブタ「うおおおおん!!!! やれやれ!!! 絶対そいつらを近付けさせるなあ~!! ハァハァ」

綾子「……」フッ

上条「離せお前ら……ぶおっ…」

野次馬たちの腕が上条の顔を強引に掴み取る。

美琴「やだぁ!! 当麻!! 当麻!!!」

上条「美琴………」

上条と美琴は、互いの姿を捉え、手を伸ばそうとする。
だが、彼らにとってその距離は余りにも遠かった。



美琴「当麻あああああああああ!!!!!!」


上条「美琴おおおおおおおおお!!!!!!」



2人は暴徒と化した野次馬の波に呑み込まれて、無情にも引き離されていった。



439:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 00:42:11.33 ID:DM5O1EM0

仁科「くひひ」

それを楽しそうに近くで見つめる仁科。

上条「が…あああ……」

振りほどきたくても振りほどけない野次馬たちの腕が上条を絡めとる。まるで彼は、地獄の中で餓鬼に纏われつかれているような感覚を覚えた。

美琴「ゃ……やぁ……」

男も女も、みんな一斉になって2人の身体を絡め取り引き離そうとする。

上条「が……」

美琴「ぁ………」

熱中した野次馬たちを止められる者は誰もいなかった。

ゴリラブタ「やれやれぇ!! ハァハァ」

綾子「………」

仁科「くひひ」

遂に上条と美琴の身体は野次馬の中に埋もれてしまった。
だが、狂気に包まれた野次馬の人波は止まることなく更に2人を呑み込んでいく。





パン!! パァン!!! パァン!!!





仁科「!!!!????」

突然、甲高い金切り音が聞こえたかと思うと、辺りがザワッと大きくどよめいた。
同時、人だかりの一部に穴が開いたように、野次馬たちが円状になって後ずさりを始めた。

綾子「!?」

ゴリラブタ「あいつ……っ!!」

円状に空間が出来た人だかりの中心――そこに、黒い物体を天井に向けて立つ上条の姿があった。



444:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 00:46:22.41 ID:DM5O1EM0

仁科「あれは……」

上条「離れろ!!!!」

髪もボサボサになり、服もヨレヨレとなった姿で上条は野次馬たちにその物体を向ける。
その手に握られているもの。それは………

上条「近付くと撃つぞ!!!」

先程上条が仁科から貰い受けた拳銃だった。

仁科「………………」

野次馬たちが後ずさり、どよめきが起こる。

上条「!?」

と、上条は野次馬を掻き分け拳銃を手にした黒服たちが近付いてくる姿を視界に捉えた。

上条「こっちに来るんじゃない!!!」

綾子「ひっ!」

咄嗟に上条は、野次馬の中に綾子を見つけ、彼女の身体を引き寄せるとそのこめかみに拳銃をつきつけた。

仁科「あの野郎……」

それを見た仁科の顔に怒りの表情が浮かぶ。



447:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 00:48:20.37 ID:DM5O1EM0

上条「来るな!!」

綾子を楯にして黒服たちに拳銃を向ける上条。

綾子「あ……あ……」

仁科「やってくれるな……」

怯え、事態を見守る野次馬たちの中から仁科が1歩前に歩み出てきた。

上条「部下たちに武器を捨てるよう言え!」

上条は仁科に気付くと、彼を睨み指示を出した。

仁科「まあまずは落ち着け……」

上条「言ええええええええええ!!!!!!」


パァン!!!!


上条が天井に向けて発砲する。野次馬たちが再びどよめく。



449:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 00:50:18.61 ID:DM5O1EM0

仁科「………………」

上条「ハァ……ハァ……」

仁科「分かった。お前ら銃を捨てろ」

上条の血走った目を見て承諾する仁科。
彼に指示され、黒服たちは顔を見合わせると名残惜しげに銃を床に捨てた。

仁科「何が望みだ?」

上条「御坂を解放しろ。出来なければ、この女の命はない……」

綾子のこめかみに更に強く拳銃をつきつけ上条は言う。

綾子「あ……あ……」

助けを求めるような目で綾子は仁科を見る。

仁科「交換条件かよ」

上条「俺は、本気だ……」

仁科「お前みたいな拳一筋で生きてきたような人間が、他人を撃ち殺せるのか? お前だって似合わないことやってるなって自分でも思ってんじゃねぇのか?」

特に焦りも見せず、仁科はそう訊ねてくる。

上条「今回は例外だ。御坂を助けるためなら、俺は今、出来ることは何だってする」

ギンと、鋭くなった視線で仁科を見据える上条。

仁科「………………」

上条「………………」

数秒ほど、2人は互いの顔を見つめ合っていた。

仁科「だが俺が本当にその女を大事にしてるとでも思ってるのか?」

綾子「!」

しばらくし、仁科が口を開いた。その言葉を聞き、綾子は一瞬、絶望がかった表情を浮かべる。
だが………

上条「俺の目はごまかせないぞ。この女が大事じゃなかったら、既にお前は俺と一緒にこの女を撃ち殺してるはずだ」

仁科「………………」

上条「もう替えの服はいらない。金も全部渡したはずだ。俺はただ、御坂と一緒に無事にこの店を出たいだけだ」



452:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 00:54:10.16 ID:DM5O1EM0

仁科「………………」

上条「………………」

上条と仁科は無言で睨み合う。

上条「御坂!!!!」

美琴「当麻!!!!」

上条が叫ぶと、人だかりの中から美琴が姿を現した。ただし、背後からゴリラブタに手を掴まれていたが。

ゴリラブタ「こんの! おとなしくしろぉ! ハァハァ」

上条「御坂を返してくれたらこの女も返す」

仁科「………その後は?」

上条「“逃げる”」

はっきりと、仁科を見て上条は断言する。

仁科「……………なるほどな」

上条「………………」

仁科「…………いいだろう」

上条「!」

僅かの沈黙の後、仁科はそう答えていた。

仁科「ゴリラブタ!!」

ゴリラブタ「!?」

仁科「離してやれ」

上条の顔を一瞥し、仁科はゴリラブタにそう叫ぶ。

ゴリラブタ「あ、はい……」

渋々と返事をするゴリラブタ。

美琴「当麻!!!!」

ゴリラブタの手が緩み、解放される美琴。彼女は嬉しそうに上条に駆け寄ってきた。



453:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 00:58:11.31 ID:DM5O1EM0

上条「行け!」

綾子「ひっ」

と同時、綾子の背中を押す上条。

仁科「………………」

綾子は怯えるように仁科の下まで走っていった。

美琴「当麻!」

美琴は嬉しそうにして、横から上条に抱きついてきた。

上条「無事か?」

視線と手に持った拳銃だけは仁科に向けながら上条は彼女に訊ねる。

美琴「うん」

上条「なら、ここを出るぞ」

美琴「うん……」

仁科「………」

そろりと上条は動く。

上条「妙な真似はするなよ」

仁科「………………」

自分の背中で美琴を守りつつ、上条はゆっくりと店内を移動する。

上条「俺たちはただ、逃げたいだけなんだから……」

美琴「…………、」

仁科「……………………」

上条の動きを横目で辿る仁科。彼は全く微動だにしない。

美琴「つ、着いたよ……」

やがて2人は店の入口まで辿り着いた。こちらを注意深く見つめる仁科や野次馬たちの姿が遠くに見える。



454:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 01:01:24.57 ID:DM5O1EM0

上条「ドアを開けてくれ」

美琴「分かった」

ガチャッ…

言われ、美琴はドアを開ける。

美琴「開けたよ」

上条「店を出たら一気に走るぞ」

美琴「うん……」

上条「よし」

と、そこで上条は仁科に向かって叫んでいた。

上条「俺たちを助けてくれたことだけは感謝してる!!」

仁科「………………」

上条「それだけはありがとう!!」

仁科「………………」

仁科から返事は返ってこなかったが、これ以上この場に留まっていても何の得もなかったので、上条はこれで店を出ることにした。

上条「………………」

上条と美琴はゆっくりと外に出る。

上条「走れ!!」

美琴「うん!」

店を出たと同時、全速力で走り始める上条と美琴。
2人は暗くなった夜道を突っ切る。

上条「………………」

そんな中、上条は1度後ろを振り返った。『DAMON'S NEST』の看板が禍々しく光を放つのが遠くに見えた。



473:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 22:21:14.80 ID:knIQn4.0

パシン!


綾子「きゃぁっ!!」

頬を平手打ちされ、綾子は冷たい床に転がった。

仁科「ったく……間抜けにもあんなクソガキに人質に取られてんじゃねぇよ!!」

綾子「だ、だって……」

仁科「うっせぇ!!」

綾子「ひっ」

上条と美琴が店を去ってから約15分後。一通り騒ぎも静まり、店内は何事もなかったように再び活動を始めていた。つい先程、上条が拳銃をぶっ放したと言うのに、客たちはそんなことも既に忘れているのか、ホールで踊っている。

仁科「恥かかせやがって……」

そんな中、仁科は綾子を叱責していた。理由は、不覚にも上条に人質として取られたことだった。

綾子「あ、あた……あたし……」

頬を抑えながら綾子はびくびくと仁科を見上げる。

仁科「次はねぇからな?」

綾子「………………」

もう罰は終わり、と言いたげに仁科は顔を背けた。

仁科「分かったら上の部屋で休んで来い」

綾子「…………あ、うん………」

ヨロヨロと立ち上がり、仁科の顔を一瞥すると綾子はその場から離れていった。

若い男「宜しかったのですか?」

仁科「あん?」

と、そこへタイミングを見計らったように1人の男が近付いてきた。上条が店へ来た時に話しかけたボーイ姿の店員だった。

仁科「あれでも俺の女なんだ。そうきついことは言えねぇ」

若い男「いえ、そうではなく……」



475:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 22:26:40.72 ID:knIQn4.0

ニコニコと、若い男は不気味な営業スマイルを仁科に向ける。

仁科「ああ。別にあいつらのことなら問題ねぇ。服は渡せなかったが、契約は成立してんだ。別に殺す必要はねぇよ。まあ……金を貰ってなかったり契約書にサインしてなかったら話は別だったがな?」

若い男「面倒になるのが分かっているのなら、あんなことしなくても良かったのでは?」

仁科「ふん。あのガキが一緒に逃げてる女を連れてこないで楽に交渉を済ませようとするから、現実を見せてやっただけだ。それに、あのガキがあの女のためにどこまで命張れるのか……個人的に興味があったからな」

若い男「しかし……とんだ大物でしたね。あの少年の連れの少女……」

仁科「御坂美琴か。そこまではさすがに予想が出来なかった」

若い男「道理で店の外で待たせてたわけです。表の世界であれだけ憎まれ話題になっている人間ですから、不法者が集うここでも連れて来るのに抵抗があったのでしょう。少女と共に逃げると決意したあの少年の覚悟は相当のものであるはず……」

仁科「ふん」

鼻で笑ってみせる仁科。

仁科「昔を思い出して嫌になるな」

言って仁科は店内の奥にあった階段を見つめる。先程仁科に休むよう言われた綾子が急いで階段を登っていくのが見えた。

若い男「ですが……本気で彼らは学園都市から逃げ出すつもりでしょうか?」

本当に疑問に感じるように若い男は仁科に訊ねる。

仁科「それは奴らの運次第だ」

ただ一言、仁科は答えた。

若い男「彼らに渡した逃走ルートの地図は、1番価値の低いものと聞きましたが……」

仁科「それだけの金しかなかったんだ。仕方ねぇだろ。それに価値が低かろうが、学園都市からの逃走ルートが描かれてるのは本当なんだ。あいつら南の方に逃げたがってたら一応おあつらえ向きのを渡してやったが……どうなるかな。まあ、確かにまともな道じゃねぇし、道中にはいくつかの危険要素も考えられるが……それは大した金も持ってなかったあいつらの運が悪かっただけ。2人して生きて学園都市を脱出出来るかどうかは俺の知ったことじゃねぇ……」

若い男「………………」

仁科「結局、俺は綾子を学園都市から逃がすことが出来ず2人して今ここでスキルアウトの幹部なんかやってるわけだが……あいつらも脱出に失敗すれば同じような道しか残されていない」

若い男「彼ら、成功すると思いますか?」

仁科「さぁな。そっから先は俺が気にするようなことじゃねぇし。上手くいけば2人して学園都市から脱出出来る。ミスをすればどちらか片方が死ぬだろうし、諦めればそこで終了。もしくは俺たちのような道を辿るだけ………」

と、そこで仁科は踵を返しつまらなさそうに吐いた。

仁科「ま、十中八九失敗するだろうがな……神様の奇跡でも無い限り……」

若い男「………………」

それだけ残すと、仁科はマネージャールームに戻っていった。



476:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 22:31:25.37 ID:knIQn4.0

その頃。『デーモンズ・ネスト』から逃げることに成功した上条と美琴は、どこかの幼稚園に隣接された小さな公園のベンチに向かい合うようにして座っていた。

上条「もうここまで来れば大丈夫だろう」

美琴「はぁ…怖かった……」

上条「………………」

胸を撫で下ろす美琴を見て上条は思う。彼女のその言葉は嘘でもなんでもないと。
今の美琴は能力を使うことも出来ないただの女子中学生でしかない。そんな彼女があんな目に遭えば真剣に恐怖を覚えるのもおかしくない話だった。

上条「(だからこそ……)」ジーッ

美琴「何? 私の顔に何かついてる?」

上条「いや……(だからこそこいつに早く気楽になってもらいたい)」

美琴「変なの」

上条「……」フッ

美琴「あ、そう言えばさ」

と、そこで美琴が何かを思い出したのか顔を向けてきた。

上条「何だ?」

美琴「あんたさっき拳銃持ってなかった?」

上条「ああ、これ?」

言って上条はズボンに挟んだ拳銃を取り出す。

美琴「わっ! 本物!?」

上条「当たり前だろ。グロック17とかいうやつだ」

美琴「さっき使ったのってそれだったんだ」

まじまじと美琴は上条の手の中にある拳銃を見てくる。

上条「ああ」

美琴「すごーい」

上条「仁科要から貰ったやつだ。これがなきゃ2人して『デーモンズ・ネスト』から無事に逃げれなかったかもしれない」

言って上条は手元の拳銃を見つめる。



477:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 22:34:48.05 ID:knIQn4.0

美琴「ねぇ、見せて見せて」

上条「ダーメ。これは子供の玩具じゃないの。それに重いぞ?」

美琴に注意し、上条は拳銃を再びズボンに挟む。

美琴「ケチー」

上条「お前な……冗談言ってる場合じゃないんだぞ? よくそんなポジティブでいられるな」

美琴「だって……ポジティブでいたら電撃能力取り戻せるかもしれないじゃん」

上条「!」

素の表情で美琴は言う。

美琴「私が電撃さえ使えたら、さっきあんたにあんな危険なことさせなかったのに……」

彼女は少し思いつめたような顔になった。

上条「御坂……」

美琴「ホントごめんね? 一刻でも早くまた能力使えるようになったらいいんだけど」

自分の右手をどこか悲しげに見つめる美琴。

上条「…………、」




美琴「それにさ!」ガシッ




上条「!!!!!!」

と、そこで急に美琴は上条の両手を包み込むように優しく握ってきた。



478:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 22:38:32.14 ID:knIQn4.0

上条「え……あ……」

美琴「私……嬉しかったよ? 当麻が私のために危険冒してまであそこまでしてくれて……」

美琴は笑みを浮かべ、上条に感謝を述べてくる。
その天使のような笑顔は、上条にとっては見たことのないほど美しかったためか、少しどぎまぎしてしまった。

上条「………そ、そうか……」ドキドキドキ

美琴「うん!」

逆に言えば、それほど美琴は上条に感謝しているということだった。

上条「………………」ドキドキ

視線を泳がす上条。

上条「あ、そ、そうだ……ち、地図確認しねぇと……」

と、恥ずかしさに耐えられなかったのか、上条は美琴の手を解き、焦るようにポケットをまさぐり出した。

上条「ち、地図地図……」

美琴「………………」

そんな上条を、真顔で見つめる美琴。もちろん上条はその視線には気付いていなかった。

上条「えーっと……どんなルートなのかな?」

美琴「…………」

上条から僅かに視線を外す美琴。

上条「ん? これは?」

美琴「?」

上条「何だこりゃ」

と、地図を眺めていた上条が頓狂な声を上げた。

美琴「どうしたの?」

不審がり、美琴は地図で顔を隠している上条に訊ねる。



480:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 22:42:26.85 ID:knIQn4.0

上条「これを見てみろ」

美琴「え?」

そう言って上条は地図を広げ見せてきた。

上条「地下鉄だよ」

美琴「地下鉄?」

眉をひそめる美琴。

上条「ここから数km歩いたぐらいに入口があるようだけど……つまりこの地図は今はもう使われていない地下鉄の線路を利用した逃走ルートってことだよ」

美琴「!」

確かに、地図に顔を近付けじっくり見てみるとその大半が地下鉄の路線を基にして描かれたと思われる逃走経路だった。

美琴「そうみたいだね。でも何か問題でもあるの?」

上条「仁科はこの地図は1番価値の低い逃走経路の情報だって言ってた」

美琴「でも今は使われてない地下鉄なら、姿も見られないし大丈夫じゃないの?」

上条「まあそれはそうなんだが……そういう地下鉄ってのは大抵……」

美琴「?」

そこで言葉を切る上条。

美琴「何よ?」

上条「いや、何でもない。とにかく、だ」

ズアッ、と上条が立ち上がる。

上条「時間も惜しい。まずはこの地下鉄の入口を目指すぞ」

美琴「………分かった」

上条が今さっき何を言おうとしたのかは予想がつかなかったが、取り敢えず美琴は上条に同意して立ち上がっていた。



481:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 22:47:34.14 ID:knIQn4.0

その頃――。

夜も11時を過ぎ、新たなる客層たちが足を運び始めるここ『デーモンズ・ネスト』。上条が起こした騒動も既に忘却の彼方なのか、客たちは再び、店が提供する歓楽に酔いしれていた。
そんな中、クラブのダンスホールの端に開かれた小さなファーストフード店の座席に、溜息を吐く豚……もとい人間が1人いた。

ゴリラブタ「あ~~……仁科さんに怒られちゃったよ~ん……ハァハァ。お陰でハンバーガーは自腹……嫌になるなぁもうあのツンツン頭の男と御坂美琴には……ハァハァ」

仁科に『ゴリラブタ』と呼ばれている全身脂ぎったメタボの代名詞みたいなこの男。彼の目の前には、Sサイズのハンバーガーが1つ侘しげに置かれていた。

ゴリラブタ「あいつら……次来たら許さないぞもう……ハァハァ」

ドサッ…

ゴリラブタ「!」

と、愚痴を呟いているゴリラブタの眼前に唐突にLLサイズのハンバーガーが姿を現した。

ゴリラブタ「!! えっ!? 何これ!? もしかして僕を可哀想に思ったハンバーガーの神様からの贈り物!? ハァハァ」

驚愕と感動を混ぜたような表情でハンバーガーを見つめるゴリラブタ。
と、そこへ………





「それは私からのプレゼントですの」





ゴリラブタ「!!!!」

突然、背後から女の子の声が聞こえ、ゴリラブタは振り返った。


「どうぞお召し上がりになって」


そこに立っていたのは、小柄な身体に童顔の顔、髪の毛をツインテールに纏めた1人の少女だった。
彼女を見て咄嗟にゴリラブタは胸中に思う。

ゴリラブタ「(可愛い……////)」ポッ



483:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 22:51:13.76 ID:knIQn4.0

「横、宜しいですか?」

ゴリラブタ「えっ!? あっ…そ…その…ああう……どどど、どうじょ」

キョドリながらゴリラブタは隣の椅子を引く。

「では遠慮なく」

少女は礼儀正しく腰掛ける。

ゴリラブタ「(か…可愛い……しかもこの子、見たところあの常盤台の制服着てるじゃん……どうしてそんな子がこんな店……しかも僕の所に?)」

もちろんゴリラブタは知る由もなかったが、このツインテールの少女、言うまでもなく常盤台中学の生徒にしてジャッジメントの白井黒子だった。

黒子「私からのプレゼントですの。さあ、是非お食べになって」ニコッ

ゴリラブタ「あ、ありがとー(ハァハァ…可愛い…ハァハァ)……ハァハァ」

ゴリラブタは早速LLサイズのハンバーガーを口に頬張る。

黒子「………………」

ゴリラブタ「で、でも……ハァハァ……君みたいな小さな女の子がどうしてこんな場所に……? ハァハァ」

グイッ

ゴリラブタ「!!!!!!」

と、急に黒子がゴリラブタの身体を引っ張ったかと思うと、その耳元に顔を近付けてきた。

黒子「私……貴方に用があったんですの……」ヒソヒソ

ゴリラブタ「ぼ、ぼぼぼぼぼぼぼくによよよ用?(お…女の子の…い…息が……息が耳に……ハァハァ)」

黒子「そう……貴方と2人だけでナイショの話をしたくて……」ヒソヒソ



485:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 22:55:08.96 ID:knIQn4.0

ゴリラブタ「ふっふふふふ2人だけで?」ドキドキドキ

黒子「ええ……何なら……今から2人だけになれる場所……行きません?」ヒソヒソ

艶かしく光る黒子の小さな唇が色っぽく動く。ゴリラブタの耳に、彼女の吐息が微妙に掛かるか掛からないかぐらいかの勢いで触れる。

ゴリラブタ「ほ、ほほほんとうにふふふふ2人だけ……? ハァハァ」ドキドキ





黒子「そ……ふ・た・り・だ・け」





ゴリラブタ「!!!!!!!!!!」ポーッ

黒子「……………」クスッ

それだけ言って黒子はゴリラブタの耳元から顔を離し、最後に中学生とは思えないような色香を纏った笑みを見せてきた。

ゴリラブタ「(こ……これは来た? 来たんじゃないのん? ハァハァ……今までの人生で1度も彼女が出来なかった僕にも……遂に……遂に……ああお母さん……今夜僕は大人になります……ハァハァ)」

黒子「向かいのビジネスホテルに一部屋とってありますの」

ゴリラブタ「え?」

黒子「早速向かいましょう」ギュッ

と言って黒子はゴリラブタの手を握る。

ゴリラブタ「あ……」ドキッ

黒子「行きますわよ」

次の瞬間、2人はその場から消えていた。



518:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/16(木) 23:29:20.92 ID:zAicBW20

『デーモンズ・ネスト』の向かいにあるビジネスホテル――。

ブンッ

と音を立て、ホテルの一室に1人の少女と1人の男が現れた。

ゴリラブタ「わっ! どこだここ!?」

黒子「ホテルですわ」

黒子とゴリラブタだった。能力を行使する都合上、黒子はゴリラブタと手を繋いでいたが、その光景はまさに美女と野獣だった。

ゴリラブタ「一体全体何が起こったの!? ハァハァ」

黒子「私はレベル4の『空間移動(テレポート)』能力者。向かいのお店からここまで一瞬でテレポートしましたの」

ゴリラブタ「へーすごいね君……えっと……」

黒子「ああ。私は黒子ですわ」

ゴリラブタ「黒子ちゃん! 黒子ちゃんはすごいね~……中学生でレベル4だなんて……さすが常盤台のお嬢さまは違うんだなあ。僕なんてレベル0の無能力者なのに。ハァハァ」

黒子「そうですの」

至って興味が無いというように答える黒子。

ゴリラブタ「あ、でも店を抜け出してきたのがバレたらまた仁科さんに怒られるかも……ハァハァ」

黒子「………………」

不安げに語るゴリラブタ。そんな彼を見て黒子は行動に出る。

黒子「ね~ぇ」ピト

ゴリラブタ「はうっ!」

突然、黒子に横から寄り添われ、ゴリラブタは驚きの声を上げる。

黒子「私のお願い、聞いてくださるぅ~?」

甘ったるい声を出し、ゴリラブタを上目遣いで見上げる黒子。



519:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/16(木) 23:33:10.77 ID:zAicBW20

ゴリラブタ「ななななななな何かな?(あー遂にこの瞬間が来たのか~ハァハァ)」

黒子「貴方のお店って~……裏で犯罪者さんたちのお手伝いやっているんでしょ~?」

ゴリラブタ「よよよよよく知ってるね(顔が近いよ~ハァハァ)」

黒子「で~……そこでお願いなんですけれどぉ~今日1日で貴方たちの組織を頼って来た犯罪者の方々の名前を教えてほしいんですの~」

ゴリラブタ「えっ!?」

と、そこでゴリラブタが驚いたような顔を見せてきた。若干、その表情には警戒が混じっている。
しかしそんな彼の反応も想定内だったのか、黒子は気にせず話を続ける。

黒子「もし……教えて頂ければ……黒子、何でもしますの……」

恥ずかしそうに目を逸らし、黒子は襟元を右手で僅かに広げる。彼女の白い肌がそこから窺えた。

ゴリラブタ「………」ゴクリ




黒子「ダ・メ・?」




目に涙を溜め、黒子は改めて懇願する。

ゴリラブタ「(あ~~~とても良い匂いが……とても良い匂いがするよ~ん……ハァハァ)」



520:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/16(木) 23:36:14.84 ID:zAicBW20

しかし忠誠心は無駄に高いのか、ゴリラブタはこれでは折れなかった。

ゴリラブタ「でもバレたら仁科さんに殺されるし………」

黒子「………………」

ブンッ!

ゴリラブタ「おわ!?」

黒子がゴリラブタの身体に触れたかと思うと、次の瞬間にはゴリラブタは部屋の中にあったベッドの端に座っていた。

ゴリラブタ「な、何々!?」

ヒタッ……

ゴリラブタ「きょぇっ!?」

気付くと、ゴリラブタの横に黒子が同じようにベッドに腰掛け、その白くて細い手で彼の左頬を撫でていた。

黒子「……教えて……頂けませんの?」

ジッと黒子はゴリラブタを至近距離で見つめる。

ゴリラブタ「あ……あ……ハァハァ」

黒子「…………」ジーッ

ゴリラブタ「分かったよ~ん……ハァハァ」

簡単に折れるゴリラブタ。

黒子「ありがとうですの!」

ゴリラブタ「いや、黒子ちゃんの為だもん……ハァハァ……で、何が知りたいんだっけ?」

黒子「貴方がたを頼って今日お店に来た犯罪者の方々の名前ですの」

ゴリラブタ「そう言われてもな~……ハァハァ……実は僕下っ端であまり深く関われないし……それにさすがに1日にどれだけの犯罪者が来たかなんて覚えてないよ……ハァハァ」

黒子「1人ぐらい犯罪者の方を見てませんの?」

ゴリラブタ「いや、何人かは見たけどね……ハァハァ」

黒子「ならっ!」

ゴリラブタ「でも仁科さんが……」

顔を俯かせ、ゴリラブタは躊躇を見せる。



521:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/16(木) 23:39:40.68 ID:zAicBW20

黒子「………………」

ゴリラブタ「ん?」

黒子「実は……もしかしたら……今日貴方がたを頼ってお店を訪れた犯罪者の中に……私のお友達がいるかもしれませんの」

ゴリラブタ「えっ!? そうなの!?」

黒子「ええ……急にこの間失踪してしまって……それで自分なりに集めた僅かな情報から……今日、貴方がたのお店に訪れた可能性が高いことが分かって……」

悲しそうに黒子は語る。

黒子「ですから……教えてほしいんですの……彼女は……私の無二の親友で……グスングスン」

両手で目を拭う黒子。

ゴリラブタ「あ~……」

同情するような声を上げるゴリラブタ。

黒子「お教え頂けたら、本当に黒子は何でも……しますから……」

ゴリラブタ「!!!」

言って黒子は頬を紅潮させ顔を背けながら、スカートを少しめくる。彼女の白くて弾力性のありそうな細い太ももが露になる。

ゴリラブタ「ハァハァハァハァハァ……」

息を荒くし、ゴリラブタは黒子の足に目を奪われる。

黒子「お願い……しますの」

ゴリラブタ「あ……う……うん…ハァハァハァ」

黒子「………………」

またしても簡単に折れるゴリラブタ。



522:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/16(木) 23:42:14.80 ID:zAicBW20

ゴリラブタ「ぼ、僕が今日……直接……仁科さんと……契約してた人間を見たのは……3人かな? ハァハァ」

黒子「3人?」

ゴリラブタ「ただ……みんな男だったけどね……ハァハァ」

黒子「その殿方の中に、ツンツン頭の高校生ぐらいの方はいらっしゃいませんでしたか?」

僅かに黒子の目が鋭くなる。

ゴリラブタ「あ! うん、いたよいた! ハァハァ……でも何でそんなこと知ってるの?」

黒子「いえ、もしかしたらですが……私のお友達はその殿方と逃げてるかもしれませんの……」

ゴリラブタ「そうなんだ! いやねその男が今日ちょっと騒動起こして……」

黒子「?」

と、そこで突然ゴリラブタは言葉を切った。

ゴリラブタ「………でも店であったことあんまり他人にペラペラ喋るのもなあ……」

ゴリラブタはまたも躊躇を見せる。

黒子「…………」チッ

ゴリラブタ「え?」

黒子の方から聞こえた舌打ちらしき音に気付き、ゴリラブタは思わず黒子に振り返る。
すると………

黒子「………ハァ……リボンが少しきついですわね」

何故か黒子が自分の髪を縛っていたリボンを取っていた。

黒子「フゥ……」

ファサッ…

と黒子は頭を1回だけ振る。降ろした髪が優雅になびいた。
彼女の髪から漏れた女特有の甘い香りがゴリラブタの鼻腔をくすぐる。

ゴリラブタ「(あ~~~~~何て良い匂い……ハァハァ…僕もうそろそろ限界だよ~)」

黒子「で、続きは?」

色っぽく髪を乱した状態で、黒子は煽るような目でゴリラブタを見る。



524:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/16(木) 23:46:35.51 ID:zAicBW20

ゴリラブタ「うん!! その騒動を起こした男の連れが、何とあの御坂美琴だったんだよ!!! ハァハァ……」

黒子「……」

その瞬間、黒子の表情が僅かに変化した。

ゴリラブタ「あ、もしかして君のお友達って……」

黒子「ええ。その御坂美琴ですの」

ゴリラブタ「だけどあんな最悪の犯罪者が友達だなんて……君も大変だね」

黒子「犯罪者でもありお友達ですの。私自身としてはとても複雑な気持ちなのですが、彼女を連れ出して更正させたいと思っていますの」

ゴリラブタ「そうなんだ……」

黒子の話を真に受け、ゴリラブタは再び同情するような言葉を寄越してくる。
対して黒子は胸中に思う――あと1歩だと。

ゴリラブタ「あ……」

黒子「?」

ゴリラブタ「そう言えばあの御坂美琴ってレベル5の超能力者なんだよね?」

唐突にゴリラブタが訊ねてきた。

黒子「そうですが……それが何か?」

訝しげな表情になる黒子。

ゴリラブタ「いや、何か違和感あると思ってたんだけど……あいつ、ツンツン頭の男が騒動を起こした時に僕たち店側に人質に取られてたんだけどね。その間1回も能力を使わなかったんだよ」

黒子「………………?」

ゴリラブタ「だっておかしいと思わない? 人質に取られてても、レベル5の超能力者なんだからちょっと能力使えば僕たち全員倒せたのに……。男が拳銃で仁科さんを脅したから結局解放されたけど、何か回りくどいと思わない?」

黒子「!!!!!!!!!!」

ゴリラブタ「……あ、いや、人質ってのは別にその……君のお友達に恨みがあったわけじゃなくて……それに怪我もさせてないし……。……? どうしたの?」

ゴリラブタが見ると、黒子は顎に手を添えて考え事をしているようだった。

ゴリラブタ「黒子ちゃん?」



525:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/16(木) 23:50:12.12 ID:zAicBW20

黒子「…………なるほど」クスッ

ゴリラブタ「え?」

黒子「………これは面白い状況になってきましたわね」

黒子の口元が不気味に歪む。

ゴリラブタ「ど、どうしたって言うの? ハァハァ」

黒子の様子がおかしいと思い、彼女の顔を覗き込もうとするゴリラブタ。

黒子「それで!!」

ゴリラブタ「ん?」

と、その前に黒子は再び元の色っぽい顔をゴリラブタに見せてきた。

黒子「2人がどこへ行ったか分かりませんの?」

新たな情報を掴もうとする黒子。

ゴリラブタ「いや、さすがにそれは……」

が、ゴリラブタは教えられないようだった。当然といえば当然である。寧ろここまで上手くいったのが奇跡なぐらいだった。

黒子「お願いしますの! この通りですの! 誰にも口外はしないので!」

祈るように両手を握り、黒子はゴリラブタに懇願する。

ゴリラブタ「う、うーん……」

ゴリラブタもこれには躊躇っていた。何しろ黒子が知ろうとしているのは仁科が契約を交わした犯罪者たちの逃亡先だ。もしここでその情報を一般人に教えてしまえば、お店の沽券…果ては組織の存続に関わる問題にもなりかねなかった。
しかし、そんな彼の葛藤を嘲笑うかのように黒子の猛攻はクライマックスを見せる。

黒子「にしても……ここ……暑いですわね?」

ゴリラブタ「!」

言って手で顔を仰ぎ、黒子は右手で自分の服に触れる。
次の瞬間には、消えた彼女のブレザーが床に落ちていた。

ゴリラブタ「ハァハァハァハァハァ」

ゴリラブタは鼻息を荒くし目を充血させる。

黒子「はぁ……ん。暑い。暑いですわ……」

ワイシャツ姿になった黒子は襟元のボタンを1つ開け、肌を大きく露出させる。



526:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/16(木) 23:55:04.55 ID:zAicBW20

黒子「何でも…しますから……」

その状態で彼女は更にゴリラブタに身体を近付け、彼の頬に左手を添えた。

ゴリラブタ「…」ゴクリ

だが、これだけでは終わらなかった。
黒子は、自分の足をゴリラブタの左足に乗せる。スカートがはだけているため、彼女の白い足がそこから窺えた。

ゴリラブタ「ハァハァハァハァ」

降ろした髪からは止め処なく甘い香りが漂う。襟元からは見せそうで見えない胸の谷間が覗き、おまけに上気させた顔を至近距離まで接近させ、上目遣いで覗いてくる。

黒子「おねがぁい……」

トドメは甘えるような猫撫で声だった。

ゴリラブタ「こっから南の方に!! 30分ほど前2人して走っていったよ!!! 今なら隣町にいるんじゃないかな!!?? ハァハァハァ」

我慢しきれなかったのか、ゴリラブタは全ての情報を吐いていた。

黒子「ありがとうございますの……。じゃ~あ……」

ゴリラブタ「黒子ちゃああああああああああああああああん!!!!!!!!!」

限界に達したゴリラブタが両手を大きく広げ、黒子に襲い掛かってきた。




ドゴオッ!!!!!!




ゴリラブタ「!!!!!!??????」

だが、ゴリラブタが待ち望んでいた展開とは違い、彼の股間を襲ったのは信じられないほどの痛みだった。



528:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/16(木) 23:58:14.43 ID:zAicBW20

ゴリラブタ「亜qwせdrftgyふじこlp」

ゴリラブタの頭の中が真っ白になった。

ゴリラブタ「ど……どうして?」





黒子「このゲス豚があああああああああああ!!!!!!!!!」





ドゴオッ!!!!

ゴリラブタ「ぐえあがああああああ」

今度は鋭い痛みがゴリラブタの腹を貫いた。
黒子が思いっきり蹴り飛ばしたのだ。

ゴリラブタ「な…何で……」

黒子「この!!! 汚い手で私に触れやがってええええええええ!!!!!!」


ガスッ!!!


もう1度、黒子がゴリラブタを蹴り飛ばす。

ゴリラブタ「うあああ……」

ゴリラブタは腹を抑えながら床に転がった。
だが、黒子はそれでも容赦なく蹴り続ける。



529:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/17(金) 00:01:15.25 ID:dXhClJY0

黒子「どうして!!!!」

ゴスッ!!

黒子「この!!!!」

ズガッ!!

黒子「私が!!!!」

バキッ!!

黒子「あんな女のために!!!!」

ズカッ!!!

黒子「こんな!!!!」

ドゴッ!!!

黒子「脂ぎった!!!!」

バキャッ!!!

黒子「息の臭い!!!!」

ドコッ!!!!

黒子「豚と!!!!」

ガッ!!!!

黒子「このような!!!!」

ドガッ!!!!

黒子「気持ちの悪いことを!!!!」

ゴッ!!!!

黒子「しなければ!!!!」

ドスッ!!!!

黒子「なりませんのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!」

ドカ!ゴス!ズカ!バキ!ドカ!!ドスドスドスドスドスドスドスドスドスドス!!!!!!!!!!



531:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/17(金) 00:04:16.03 ID:dXhClJY0

怒りに溢れ、黒子はゴリラブタの背中をひたすら蹴り続ける。その様子は、先程まで甘ったるい声を出してゴリラブタを誘惑していた彼女とはまるで正反対だった。

黒子「ハァ…ハァ……」

肩で息をし、黒子はうずくまったゴリラブタを侮蔑の視線で見下ろす。

ゴリラブタ「うああ……」

黒子「………っ」

ゴリラブタにまだ意識があると分かると、黒子は最後にもう1発蹴りを彼の腹に入れようと足を大きく振り上げた。

ガシッ!!!

黒子「!!??」

しかし、それは叶わなかった。誰かが、寸前で黒子の肩を後ろから掴み止めさせたのだ。
振り返る黒子。

黒子「あ………」

そこに立っていたのは、1人の男だった。

「………………」

黒子を止めた男は静かに首を横に振る。
それを見て黒子は落ち着きを取り戻したのか、顔を俯かせて言った。

黒子「も、申し訳ありませんの………」

「………………」

黒子「で、でもいくつか有力な情報は手に入れましたわ! そ、それだけは確かですの!」

次に黒子は喜びの表情を見せ報告する。

黒子「この方はアンチスキルに引き渡します。『デーモンズ・ネスト』は学園都市の上層部とも繋がりがあると噂されているので、すぐに釈放されるかもしれませんが……」

言って黒子は床にうずくまったゴリラブタを一瞥すると、男に顔を戻した。

黒子「では、そろそろ参りましょうか?」 

「………………」ニコッ

男は満足するように大きく頷いた。



532:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/17(金) 00:08:09.89 ID:dXhClJY0

その頃。

美琴「静かだね……」

上条「ここらは過疎化が進んで住民もほとんど別の学区に移っちまってるらしいからな……」

『デーモンズ・ネスト』から無事逃げることに成功した上条と美琴は、仁科から貰った地図を頼りに、寂れた街の一角を歩いていた。

上条「住み心地が悪く、近年はここよりももっと発展した学区に人を取られてるとか。スキルアウトですら住み着くのを嫌がるほど環境が劣悪らしいけど……」

地図に書き込まれた情報を読み上げる上条。

美琴「ふーん」

暗い夜道を歩く2人。朝まで降っていた雨の影響か、地面の所々が濡れていた。
美琴は水溜りを避けながら、前を行く上条に訊ねる。

美琴「でも本当に大丈夫なの?」

上条「この辺りは監視カメラの数も少ないし、今の時間帯は電気節約のために稼動してないらしいから大丈夫だろ。それにこんな寂れた場所、誰も好き好んで来ねーよ」

美琴「そう。ならいいんだけど」

美琴は辺りを見回す。確かに猫の子1匹いないような空気がそこにあった。

上条「それに……」

美琴「?」

上条「ほら!」

左手に地図を持ちながら上条が道の先を指差す。

上条「あの道が交差する場所。噴水みたいなのがあるだろ?」

美琴「ああ、うん」

確かに、見てみると20mほど先に小さな噴水があった。



533:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/17(金) 00:11:14.28 ID:dXhClJY0

上条「あの噴水を越えてしばらく行った所に地下鉄の入口がある」

美琴「そうなんだ」

と、その時だった。

美琴「待って」グイッ

上条「え?」

美琴が後ろから上条の服を掴んだ。

美琴「誰かいる……」

上条「何?」

美琴の視線を辿り前方を見る上条。
確かに、人影のようなシルエットが暗闇の中1つだけ浮かんでいる。

上条「誰だあれは……?」

警戒を見せる上条。その人影はまるで上条と美琴を待ち伏せてるかのようにそこに立っている。

美琴「ど、どうしよう? 何か変だよ。引き返そうよ」

美琴がそう言った瞬間だった。





「引き返す必要は無いよ」





上条美琴「!!!!!!!!!!」



534:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/17(金) 00:14:16.60 ID:dXhClJY0

突如、その人影が声を上げた。

上条「…………っ」

咄嗟に上条は美琴を庇うように前へ出る。美琴も不安な表情を浮かべながら上条の肩越しにその人影を窺った。



「無論、ここから先に行く必要もないけどね」



再び声を上げる人影。

上条「………俺たちに何の用だ?」

訊ねる上条。
それに応えるかのように、やがて人影は1歩前へ出た。点滅して今にも消えかかりそうな街灯の光によってその顔が浮かび上がる。




「御坂美琴と上条当麻。君らの旅もここまでだ。僕と一緒にアンチスキルの支部まで来てもらおう」




男の全容が明らかになる。
見たところ、若い。歳も上条と大して変わらないように思われる。背は上条より少し高いぐらいで、中肉中背の体つきをしている。
その顔からは優男のような穏やかな風貌を感じさせたが、表情は鋭く1つの隙もなかった。雰囲気としてはエツァリが化けた海原に近い。



535:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/17(金) 00:16:42.88 ID:dXhClJY0

上条「(こいつ……強い)」

今までの経験から上条は一瞬で相手が強敵であると悟る。

上条「断ると言ったら?」

顔に1つ汗を流しながら上条は人影に話しかける。

「それは無理な話だね。もし抵抗すると言うのなら、僕は正義に誓ってでも全力で君たちを捕縛させてもらう」

上条「………………」

その言葉に嘘は無い。男の真剣な声を聞けば明らかだった。

「それに………」




「それに私たち相手を2人にして逃げ出すなど、普通なら不可能ですから」




上条美琴「!!!!!!!!!!」

後ろから声がした。上条と美琴は同時に振り返る。



黒子「御機嫌ようお姉さま。決着を着けに参りました。今日で貴女の逃亡生活もお終いです」



常盤台の制服を着、腕にジャッジメントの腕章を巻いたツインテールの少女がそこに1人。

美琴「あんたっ!!??」

白井黒子がそこにいた。



536:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/17(金) 00:20:37.65 ID:dXhClJY0

黒子「はい何でしょうかお姉さま」

ニヤリ、と黒子は笑みを浮かべる。

美琴「どうしてここに……っ!」

黒子「はて……どうしても言われましても……」

首を傾げる黒子。

「とにかく、だ」

上条美琴「!!!」

と、今度は前方から男が声を発し、上条と美琴は慌てたように振り向き直った。

「僕らと一緒に大人しく来るか、それとも抵抗して捕縛されて連行されるか、どっちか選ぶことだね」

上条「…………冗談じゃねぇよ。どっちもお断りだ」

男の言葉を上条は真っ正面から突っぱねる。

黒子「何を息巻いているのか存じていませんが、不思議な右手を持つ貴方でも彼に勝てるとは思えませんわよ?」

上条「何だと?」

目だけ横に動かし、黒子の声を背中越しに聞く上条。




黒子「何故なら彼は、私を負かした経験があるのですから」




上条美琴「!!!???」

そう、黒子は断言した。まるで、もうお前たちはここで終わり、と言いたげに。

上条美琴「………っ」

2人は男の顔を信じられない、というように見る。

「………………」

黒子「彼は、あの『座標移動(ムーブポイント)』の使い手、結標淡希に引けを取らないとも言われていますわ」

美琴「何ですって!!??」



538:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/17(金) 00:24:26.85 ID:dXhClJY0

その名前の人間の実力を知る美琴が驚きの声を上げる。

黒子「並のレベル4なら2人がかりでも彼を倒すことは難しいでしょうね」

「………………」

黒子は自慢げに語るが、当の男は表情を動かさない。ふと、上条はその男の腕に巻かれてあるものを見た。

上条「ジャッジメントの……腕章……」

「………………」

上条「てめぇ一体何者だ?」

上条は睨みながら訊ねる。その言葉に先に反応したのは黒子だった。

黒子「ああ……彼はあれでも全てのジャッジメントを束ねる立場のお方で……」

「いいよ白井さん。僕から直接言おう」

が、男は黒子が説明し終える前にその言葉を遮った。

黒子「あら、これは失礼致しましたの」

「僕が誰かって? なら教えてあげるよ」

男は更に1歩前へ出、上条と美琴を見据える。

上条美琴「………………」





「『風紀委員(ジャッジメント)』本部長にして最強のレベル4(大能力者)。人呼んで『瞬間氷結(フリージング・ポイント)』」





上条美琴「!!!!!!!!!!」



瞬間氷結「それが僕だ……」



凍てつくような目を見せ『瞬間氷結(フリージング・ポイント)』は静かにそう言った。



566:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/18(土) 23:51:46.05 ID:6XaFL/20

上条「『瞬間氷結(フリージングポイント)』……だと?」




上条は確かめるように口中にその名を反芻する。

瞬間氷結「そうだ。この学園都市の全てのジャッジメントを統括する立場にある」

目の前に現れた男は静かに答えた。

黒子「本部長はそれだけではありませんわよ? 長点上機学園3年生にして生徒会長。成績もトップ5にランクインするほどですの。しかも本部長は『今レベル4の大能力者の中でレベル5に最も近い位置にいる』と言われていますわ」

瞬間氷結に代わって、黒子が自慢するように説明する。

美琴「長点上機!?」

と、言えば美琴が所属する常盤台中学よりも上位の、学園都市最高峰の学校だ。噂ではレベル5の超能力者が数人在籍しているとも言われる程である。
学園都市の中でも優秀な者しか入学することが出来ない正真正銘の超エリート校。しかもそこで生徒会長を務めているとなれば、その頭脳・人格ともにどんな人間であるかは予想がついた。

美琴「それで……レベル5に最も近い位置にいるって……」

その上彼はレベル4の大能力者の中でも最強の実力を持ち、更にはレベル5に最も近い位置にいると言う。

黒子「ええ。いずれはレベル5の8人目に……」

瞬間氷結「肩書きなんてどうでもいいよ」

黒子「!」

と、そこで瞬間氷結は話の腰を折ってきた。



567:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/18(土) 23:54:24.82 ID:6XaFL/20

瞬間氷結「今一番大事なのは、彼女たちを連行することだ」

言って彼は上条と美琴を見据える。

瞬間氷結「この学園都市の治安組織の長として警告する。御坂美琴、上条当麻。大人しく僕と一緒に来い。抵抗するなら、容赦はしない」

上条美琴「………………」

上条「何も理由を訊かず連行するってのかよ?」

瞬間氷結「理由? そんなこと訊かなくても分かるよ。彼女は法の下によって裁かなければならない人間。御坂美琴……君が存在するだけでこの街の平和は脅かされる」

淡々と、瞬間氷結は罪状を述べるように言う。

美琴「…………っ」

瞬間氷結「もう問答も飽きたよ。さあ『幻想殺し(イマジンブレイカー)』……」

そこで動きがあった。

上条「!」



瞬間氷結「そんなに彼女が大事なら……守ってみろ!!!」



叫んだと同時、瞬間氷結の足元の水溜りが一瞬で凍結した。

美琴「来る!!」

上条「え!?」



568:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/18(土) 23:57:56.06 ID:6XaFL/20

上条がその言葉に振り返ろうとした途端、彼は美琴に身体を掴まれ地面に転倒していた。
直後、今まで2人が立っていた、いまだ乾いていない濡れた地面がビキビキと凍結し始めた。

瞬間氷結「そんなもので僕の攻撃から逃れたつもりか?」

上条美琴「!!!!!!」

正面に顔を戻す2人。見ると、氷で作られた1mぐらいの細長い槍のようなものが高速でこっちに向かってくるのが見えた。

上条「くっ!!」

咄嗟に体勢を立て直し、上条は右手を突き出す。

バギィィン!!!!!

上条の右手に触れた氷は一瞬で粉々になった。

瞬間氷結「それが幻想殺しか。だが、攻撃はまだ終わらないぞ」

瞬間氷結が背後の噴水に手を突っ込む。1秒後、彼は自分の手を水の中から引き抜くと、左から右へ薙ぐように掴んでいた水をばら撒いた。
大小様々な形になった氷の鋭角の大群が正面から上条たちに迫り来る。

上条美琴「……………っ」

2人はそれぞれ回避運動を取ると、次の1手に備えるための姿勢を取った。が、そのせいで彼らは引き離されてしまうことになる。

美琴「!!??」

何かの気配に気付き振り返る美琴。

黒子「………」ニィッ

そこに立っていた黒子が、回し蹴りを繰り出し美琴の顔を狙ってきた。

ブンッ!!!

寸前、美琴は僅かに身体を後ろに引いた。黒子のつま先が彼女の髪に触れる。

美琴「黒子!!!」

黒子「気付いてますわよ!!! お姉さま、能力が使えなくなっているでしょう!!!!」

美琴「!!!!!!」



569:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/19(日) 00:00:19.97 ID:qwV4SlE0

黒子「隙あり」



ドッ!!!



美琴「ぐっ……ぁ……!!」

黒子の強烈な蹴りが美琴の横っ腹に決まった。

美琴「くっ……」

地面に倒れ込む美琴。

黒子「チェックメイト」

太腿に巻いた革ベルトの金属矢に触れる黒子。

ドドドドドド!!!

同時、美琴の服の裾が地面と繋ぎ止められていた。

美琴「あっ……うっ……」

黒子「レベル5と言えど能力が使えないとこんなものですの」

美琴を見下すように黒子は言う。



571:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/19(日) 00:03:14.55 ID:qwV4SlE0

上条「御坂!!!」

美琴の危機に気付いた上条が振り返る。

瞬間氷結「余所見してていいのかい?」

上条「!!!!!!」

正面に顔を戻す上条。すぐ眼前まで、氷で作られた剣を手にした瞬間氷結が迫っていた。

瞬間氷結「死ぬぞ?」

上条「やろう!!!」

右手を突き出す上条。

バギィィン!!!!

氷の剣が砕かれる。

上条「もらった!!」

そのまま瞬間氷結の顔を殴ろうと上条は拳を握る。

上条「!!!???」

が、そこで彼は足元の違和感に気付いた。

上条「何っ!?」

左足が氷で固まっていた。

瞬間氷結「どうした? 手を止めたりして。僕の手は君の顔を一瞬で凍らせるぐらい出来るぞ?」

上条の視界に、手の平の表面一杯が氷に覆われた瞬間氷結の右手が迫りくるのが映った。

上条「………っ」ゾクッ

バシッ!!!

背中に悪寒が走るのを感じ、上条は右手で瞬間氷結の掌を打つ。
しかし………

ドゴオッ!!!

上条「………ぐっ!?」

攻撃を回避したと思った瞬間、上条の腹に重い衝撃が響いた。



575:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/19(日) 00:06:08.42 ID:qwV4SlE0

氷結「………………」

瞬間氷結の左拳が上条の鳩尾に入っていた。

上条「が……あ…」

ドサッ…

耐え切れず上条はその場に転倒する。

上条「クソッ……!」

逃げようと思うものの、右足が氷漬けされているためそれも叶わない。
そこへ、瞬間氷結が上条の側にまで歩み寄り見下ろしてきた。

瞬間氷結「白井さんほど機敏に動けないけど……徒手格闘で彼女に負けるとは思ってないよ。じゃないと、本気の訓練で彼女に勝つことなんて出来なかったはずだからね」

上条「御坂を……どうするつもりだ!?」

地面から睨むように上条は瞬間氷結を見上げる。

瞬間氷結「決まってるさ。法の下で裁きを受けてもらう。どんな犯罪者でもそれに例外は無い」

上条「させると……思うか?」

瞬間氷結「君が何の信念を持って彼女……御坂美琴を助けようとしているのかは知らないけど、こっちだって遊びでやってるわけじゃないんだ。だからこそ僕はいつも本気でやってきたし、数多くのスキルアウトの組織だって容赦なく潰してきた……」

上条「自慢のつもりか?」

瞬間氷結「自慢じゃないよ。僕はこの学園都市のためにやれることをやってるだけだ」

本当に瞬間氷結は自慢する素振りも謙遜する素振りも見せず、事実のみを述べる。

上条「そこまでして、この学園都市が守る価値があるとでも?」

瞬間氷結「……確かにこの学園都市には一般人には縁の無いような『暗部』も存在する。君はその実態を知らないだろうけど、生半可な気持ちで介入出来るような世界じゃない」

上条「………………」

瞬間氷結「僕は『暗部』の世界で暮らしてる高位能力者の中にも何人か顔見知りがいるけど……彼らの普段の様子を見ていて『暗部』というものがどれほど洒落にならないのか、それは十分分かってるつもりだ。同時に、その『暗部』が、知らず知らずのうちにみんなが暮らす表の世界をジワジワと蝕んでいるのもまたこの街の現状……」

隙を一つも見せず、瞬間氷結は凍てついたような目で上条を見ながら話を続ける。

瞬間氷結「だからそんな『暗部』に好き勝手させないために、今も僕は、表の世界から日々『暗部』と戦っているんだ」

上条「………………」

瞬間氷結「分かるだろ上条当麻? 君も君なりの信念があって今まで数々の修羅場を潜り抜けてきたんだろうが、僕だって同じぐらい修羅場を潜り抜けているんだ。……そう、この学園都市を本当の意味で平和にするという信念と共にね」



578:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/19(日) 00:09:57.25 ID:qwV4SlE0

ガッ!!

と、そこで瞬間氷結は上条の右腕を踏みつけてきた。

上条「ぐあっ!?」

瞬間氷結「気付いてるよ。僕の隙を見て右足の氷を右手で溶かして攻撃の機会を窺ってたんだろうけど……それを僕が見逃すと思うかい?」

足に力を込めつつ、瞬間氷結は上条に顔を近付ける。

瞬間氷結「ただ君のほうは気付いてたかな? 今自分がどんな場所に寝てるのかを?」

上条「!!!」

上条の表情に焦りの色が浮かぶ。同時、今まで意識していなかった感触が背中越しに伝わってきた。

上条「(しまった……!)」

上条が焦るのも無理はなかった。何故なら彼は今、濡れた地面の上に背中を預けるようにして倒れていたのだから。

上条「クソッ!!」

瞬間氷結「遅い」


ビキビキビキビキッ!!!!!!


上条「!!!!!!」

それは一瞬の出来事だった。上条は声を上げる間も無く、その身体を背中から氷で固められていった。

美琴「当麻!!!!!!」

それを見ていた美琴が叫ぶ。

瞬間氷結「ここまでだ」

瞬間氷結が背筋を伸ばす。彼の足元には右手以外を残して氷漬けにされていた上条の姿があった。

瞬間氷結「ここは雨が乾いてなかったり噴水があったりと、まさに僕にとっておあつらえ向きの場所だった。いくら百戦錬磨の君でも、この状況で僕には勝てないよ」

上条「――――――」

しかし、氷漬けにされた上条は何も答えない。



580:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/19(日) 00:13:34.87 ID:qwV4SlE0

瞬間氷結「おっと、卑怯だのと言わないでくれよ? 戦いを有利に進めるために予め都合の良い条件を揃えておくのは兵法と言って戦略の1つだ。まあ拳1つの我流で生きてきた君にとったら理不尽に聞こえるかもしれないけどさ?」

黒子「本部長!!」

戦い終えた瞬間氷結の姿を見て黒子が歓喜の声を上げる。

黒子「さすが本部長ですわ!! 御坂美琴と上条当麻をこんな簡単に戦闘不能に出来るだなんて!!」

瞬間氷結「幻想殺しはともかく、御坂美琴は君の手柄だ。今は能力を使えないとは言え、レベル5の超能力者を捕まえられただけでも勲章ものだよ」

黒子「いえいえそんな! 黒子は恐縮ですわ!」

美琴「………………」

喜ぶ黒子の顔を、美琴は地面から見上げる。今、黒子は瞬間氷結との会話に気を取られている。

美琴「………」ググッ

その隙をつき、美琴はほんの少し両腕に力を込めてみた。

美琴「(右腕!)」

黒子の金属矢で服の裾を地面と繋ぎ止められていた美琴の身体。だが、右腕だけはその力が少しだけ緩んでいると感じた。

瞬間氷結「それよりも白井さん、黄泉川先生に電話してくれ」

黒子「え?」

瞬間氷結「御坂美琴と上条当麻を捕まえた、ってね」

黒子「あ、はい! 分かりましたの!」

指示され、嬉しそうに黒子は携帯電話を取り出す。

黒子『もしもし、黄泉川先生でしょうか? こちら黒子ですの!』

美琴「………………」

美琴の側に立って電話をし始める黒子。美琴は瞬間氷結の方をチラッと見る。
まだ警戒しているのか、彼は地面で氷漬けにされた上条の姿をジッと眺めていた。

黒子『ええ! 本部長と一緒に彼奴らを! 捕まえましたの!』

美琴「………………」

黒子は美琴に背中を向けながら、興奮して受話器に向かって話している。
美琴は胸中に思う。

美琴「(今だ)」



582:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/19(日) 00:17:26.12 ID:qwV4SlE0

グググッと美琴は右腕に力を込める。

美琴「(もっと……)」

ほんの少し宙に浮いた右腕を、計6本の金属矢がそうはさせまいと裾を地面に繋ぎ止め続けている。

黒子『御坂美琴は私が責任をもって倒しましたの! え? 上条当麻? ああ、奴なら本部長が……』

美琴「(まだ……)」ググッ

思ったより金属矢の力が強いのか、右腕はろくに上がらない。
だが、なんとなく手応えがあるのを美琴は感じ始めていた。

美琴「(もっと……)」グググッ

瞬間氷結「幻想殺し……残念だよ。以前から君の話を聞いていて、君とならいつか友人になれるかもと思ったのに……」

瞬間氷結は何やら氷漬けにされた上条に話しかけている。

瞬間氷結「だが、君の持つ正義と僕の持つ正義は質が違ってたようだね……」

黒子『それがすごいんですのよ! 本部長ったら! ……え? 今どこにいるかって!?』

美琴「(もっと………)ググググッ

数cmほど右腕が上がり、地面に繋ぎ止められていた裾が限界まで延びる。
そして………



ビリッ……



美琴「!!!」


ビリビリッ……!!


美琴「(外れた!!!!)」

破れた裾の部分だけを地面に残し美琴の右腕が自由になった。

黒子『えっと、今私たちがいる場所は……』

美琴「………」ググググッ



584:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/19(日) 00:20:12.89 ID:qwV4SlE0

美琴は止まるところを知らず、右腕が解放された勢いで上半身に力を込める。



ビリビリビリッ……!



そしてついに、彼女の上半身も地面から解放された。ただし、左腕だけはまだ地面に繋ぎ止められていたが。

美琴「………」ギロリ

間髪入れず美琴は地面に刺さっていた金属矢の1本を引き抜き黒子の背中を睨む。

瞬間氷結「ん?」

と、そこで何かの気配でも感じたのか瞬間氷結が振り返った。

瞬間氷結「!!!!!!」

彼が見たもの……それは、上半身と右腕が自由になった状態の美琴が、手にした金属矢で黒子を後ろから狙ってる姿で………。
だが、気付いた時には遅かった。




ドスゥゥゥッ!!!!!!!!




黒子「!!!!!!!!!!」

美琴は右手に握った金属矢を黒子の右太ももに突き刺した。



黒子「あああああああああああっ!!!!!!」



586:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/19(日) 00:23:33.23 ID:qwV4SlE0

美琴「………………」

叫び声を上げ、電話を地面に落とす黒子。

黒子「くっ……」

ドサッ…

何とか彼女は反撃を試みようとしたが、それも叶わず地面に倒れてしまった。

瞬間氷結「白井さん!!!!」

一部始終を見ていた瞬間氷結が黒子の元へ駆け寄ろうとする。
だが………



ビキビキビキッ……



と、背後で何かヒビが割れるような音がした。

瞬間氷結「!!!???」

振り返る瞬間氷結。

瞬間氷結「なっ………」

見ると、氷漬けにされたはずの上条の右腕部分。その肘から手首に向かってヒビが何本か入っていた。



バリィィィン!!!!



やがて、氷が割れ上条の右腕の肘から手首までの部分が姿を現した。



587:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/19(日) 00:26:43.46 ID:qwV4SlE0

瞬間氷結「バ、バカな……っ!!」

そして上条の右腕が起き上がるように動いたかと思うと、そのまま彼の右手は自分の身体を覆っている氷に思いっきり拳を叩き込んだ。



バギィィィン!!!!!!



と、音がして上条の全身を覆っていた氷が崩れていく。

瞬間氷結「………そ……そんな……」

上条「フー………」

驚愕の表情を浮かべる瞬間氷結の前で、上条は起き上がり、肩をコキコキと鳴らす。

上条「やってくれたな」ギロリ

瞬間氷結を睨む上条。

瞬間氷結「………っ」

顔や服に僅かに氷の跡を付着させながら、上条はズアッと立ち上がる。

上条「俺を甘くみるなよ。今度こそ、てめぇをぶっ飛ばす」

瞬間氷結「…………往生際の悪い男だ……っ!」

苦虫を噛み潰したような顔を浮かべ、瞬間氷結は上条を睨み返す。



589:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/19(日) 00:29:57.90 ID:qwV4SlE0

黒子「くっ……ハァハァ」

一方、美琴によって足を負傷させられてしまった黒子。

美琴「………………」

黒子「よくも……よくも……くあっ」

彼女は何とか起き上がろうと地面の上でモゾモゾと動いていた。だが、金属矢が刺さった右太ももの痛みがあまりにも強烈なのか、それも叶わなずにいた。

黒子「うっ……うあっ」ドサッ

さっきから黒子は、生まれたばかりの小鹿のように、立ち上がろうとしては倒れるという動作を何回も繰り返していた。

美琴「黒子……もう、終わりよ」

美琴が側で黒子に話しかけてくる。

黒子「……」ギロリッ

美琴を睨む黒子。今の彼女はろくに瞬間移動も出来ない状態にあった。

黒子「……まだ……終わってないですの……」

美琴「お願いだからやめてよ……」

黒子「自分で傷つけておいて何をそんな悲しそうな顔を浮かべてますの? これだから犯罪者は……」

美琴「……………、」

言って黒子は自分の右足に刺さった金属矢を見る。

黒子「こんなもの……!」

美琴「何をするつもりなの!?」

グッと金属矢を掴む黒子。

美琴「あ……やめなさい!!!!」

が、美琴の制止も空しく、黒子は金属矢を引き抜いていた。当然、物凄い勢いで血が噴き出した。

黒子「うあああああああああっ!!!!!!」

想像以上の痛みだったのか、黒子は金属矢を手放し叫び始めた。

黒子「い…痛い……痛いですの……あああああああああああああああ」

美琴「黒子!!!!!!」



590:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/19(日) 00:33:27.12 ID:qwV4SlE0

瞬間氷結「いいだろう幻想殺し……いや、上条当麻」

復活した上条を前にして、瞬間氷結の表情が再び鋭くなる。

瞬間氷結「君を正真正銘、1人の敵として認めてやる!!!」


ビキビキビキッ!!!


そう叫ぶと、瞬間氷結の足元の濡れた地面が凍り始めた。

上条「!!!!」

咄嗟に、乾いた部分の地面の上に飛び移る上条。

瞬間氷結「………………」



ビキビキビキビキビキッ!!!!!!



瞬間氷結の足元から始まった凍結は、そこから濡れた地面を介して道路一面を凍らせていく。

上条「これは……」



591:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/19(日) 00:35:38.72 ID:qwV4SlE0

気付くと、元々乾いていた部分の地面以外のほぼ全てが氷漬けにされていた。ただし、例外として黒子と美琴がいた場所は何の変化もなかったが。

瞬間氷結「少しでも氷の部分に足を踏み入れてみろ。1秒で足元から凍っていくぞ」

上条「!!!!!!」

瞬間氷結「これが僕の奥の手『全面氷結(ホワイトアウト)』だ。……こんな水で濡れた部分が多い場所でしか出せない奥儀だけど、レベル5になったら常時どこでも発動可能になれる代物だ」

言って瞬間氷結は腰にぶら下げた細長い物体を取り出す。

上条「それは………」

瞬間氷結「水筒だよ。だが、僕を前にしてただの水筒だと思わないことだな」

説明しながら瞬間氷結は手にした水筒の蓋を全て外す。

上条「?」

そしてその注ぎ口を左手で覆い、水筒を逆さまにしたかと思うと、次の瞬間、注ぎ口から離した左手についてくるように、水筒の中身の水が細長い氷となって伸び始めた。

瞬間氷結「御坂美琴は砂鉄を集めて砂鉄剣なるものを作るみたいだけど……これもそれと似たようなもんだ。水筒の中の水を外に出したと同時、剣状に生成する。氷結剣でも凍結剣でも好きな名前で呼ぶといい」

完成された氷の剣は、刀身部分は円柱状だったが切っ先は鋭く尖っていた。それを右手にして瞬間氷結は上条を見据える。

瞬間氷結「死にそうな怪我を負っても後で医者に頼んで無理矢理復活させてやる。……だから、気を抜くなよ。下手したら……本気で死ぬぞ?」


グアッ!!!


上条「!!!!!!」

瞬間氷結の最後の猛攻が始まる。



592:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/19(日) 00:39:06.40 ID:qwV4SlE0

黒子「な……何をするんですの!!?? 触らないで下さいまし!!!!」

美琴「黙ってなさい!!!!」

止め処なく黒子の右太ももから流れる血。それを止めるために美琴は行動に出た。
先程起き上がる時に地面に突き刺さった金属矢で破れた服の一部。その中で1番大きい物を手に取ると彼女はそれを黒子の足に巻いてきたのだ。

黒子「触らないで!!! 敵の慈悲など受けたくありません!!!!」

美琴「こうしないと血が止まらないでしょうが!!!!」

黒子「嫌だ!!! 離して!!!!」

美琴「………………」

黒子「離せえええええええ!!!!!!」

美琴「…………っ」

ジタバタと黒子が動くため、美琴はなかなか上手く縛り付けることが出来ない。 

黒子「敵に看護を受けるぐらいなら死んだほうがマシですの!!!」

美琴「敵じゃない!!!」

黒子「!!!!」ビクッ

美琴が黒子の顔を見据え怒鳴る。

美琴「あんたは……敵じゃない」

黒子「?」

美琴「私の……大事な……後輩なの」

言って、美琴は再び黒子の足に顔を向ける。そんな彼女の顔は、まるでもう元には戻らない何かの現実を恨み、悲しんでいるようなそんな複雑な表情をしていた。

黒子「………………」

呆然と、黒子は美琴を見つめる。

ギュッ!

黒子「あっ……くっ」

美琴「はい、後は病院で。取り敢えず応急処置はお終い」

と、美琴が安心したような顔で言う。
黒子が足に顔を向けると、確かに右ふとももに布がきつく縛られてあった。



593:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/19(日) 00:42:41.99 ID:qwV4SlE0

美琴「早く怪我を治して元気になってね、黒子」

美琴は笑顔を浮かべる。

黒子「…………………」

瞬間、黒子の脳裏に美琴と過ごした日々が蘇ってきた。過去にも美琴は、黒子が車椅子に乗って生活していた時に今と同じように笑顔を浮かべて励ましてくれたことがあったのだ。

美琴「ま、まあ怪我させちゃったのは私だけど? あはは」

黒子「………………」

そこで黒子はふと思った。今、目の前にいる美琴に対してどうして自分は敵意を持っているのか、と。そう考えると更に疑問のようなものが浮かび、この敵意は何というか、まるで誰かに作られたようなものの気がしてならなかった。

黒子「………」

だが、それはあくまで黒子がふと思ったことであって、実際に美琴への敵意を掻き消すほどの効果はもたらさなかった。

黒子「ふん」

美琴「?」

しかし………

黒子「まあ手当てしてくれたことだけは感謝しておきますわ」

顔を背けながら黒子はそう言っていた。

美琴「………………そっか」

黒子「?」

美琴「どういたしまして!」

一瞬、呆然とした美琴だったが、彼女はすぐに笑顔で答えていた。

黒子「………………」



594:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/19(日) 00:45:23.23 ID:qwV4SlE0

一方、上条と瞬間氷結の戦闘は激化していた。

瞬間氷結「さあ、決着を着けよう!!」

ゴアッ!!!!!

瞬間氷結の手が僅かに動いたと思った瞬間、氷の剣が上条の視界の端にチラッと映った。

上条「くっ!!」

咄嗟に頭を屈み、避ける上条。そのままの姿勢で彼は右手を突き出す。
が………


ドゴオオオッ!!!!


上条「ぐおっ!!」

その前に瞬間氷結が繰り出した蹴りが上条の横っ腹に突き刺さった。

瞬間氷結「僕は徒手格闘も使えると言ったはずだ」

強い勢いで蹴られ、上条は横に吹っ飛ぶ。

上条「!!!!」

着地しようとした瞬間、彼の目に映ったのは氷漬けにされた地面だった。



   ――「少しでも氷の部分に足を踏み入れてみろ。一秒で足元から凍っていくぞ」――



瞬間氷結の言葉が頭に蘇る。

上条「くっ!!」

瞬時に上条は空中で身を翻す。直後、彼は幸運にも凍結されていない地面の上で受身を取ることが出来た。

瞬間氷結「甘い!!」

そんな上条に、瞬間氷結の容赦ない剣が迫る。

上条「………っ」

右手は間に合わない。そう判断し、身体を捻らせ剣を避けると上条はその隙をついて素早く立ち上がろうとする。



595:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/19(日) 00:49:19.78 ID:qwV4SlE0

瞬間氷結「………………」

が、その背中を瞬間氷結が狙う。

瞬間氷結「もらった!!」

上条「…………」

瞬間氷結「何っ!?」

氷の剣が上条の背中に突き刺さる瞬間。それよりも素早く身を翻し身体を一回転させながら立ち上がった上条が、瞬間氷結に向かって右手を伸ばしてきた。



バギィィン!!!!



瞬間氷結「なっ………」

上条の右手に触れられた氷の剣が粉々になる。

上条「これで終わりだ!!」

瞬間氷結「クソッ!!」

一度引き、再び迫る上条の右手。瞬間氷結は水筒を捨て、何とか構えを取るが………

ズッ……

その行為も空しく上条の右拳が瞬間氷結の左頬に突き刺さった。

瞬間氷結「ぶ……おっ!!」



ドカァァン!!!



殴られた衝撃で吹っ飛ばされた瞬間氷結は、やがて噴水のコンクリート部分に背中を打ち付けて止まった。



596:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/19(日) 00:53:17.54 ID:qwV4SlE0

上条「ハァ……ハァ……ハァ……」

息を継ぎ、上条は警戒しながらゆっくりと、うなだれた瞬間氷結に近付く。

瞬間氷結「………クソッ…不覚をとってしまった……」

上条「………………」

瞬間氷結「………何故だ……何故……そこまでして……御坂美琴を守る?」

睨むように上条を見上げながら、途切れ途切れに瞬間氷結は訊ねる。

上条「そうすると決めた。それが俺の信念だからだ。それだけは決して曲げない」

瞬間氷結「……ハッ! 信念か……僕だって君に負けないぐらいの信念を持ってるってのに……」

上条「………………」

瞬間氷結「……この街を守りたい……って信念のために……ジャッジメントに入隊して……能力値のレベルも徒手格闘の実力も努力して……上げて……ようやくここまで登りつめたってのに……。君はその信念を軽々と……砕いてくれたな……」

上条「信念は砕かねぇよ」

瞬間氷結「何?」

その言葉を聞き、瞬間氷結は訝しげな目を上条に向ける。

上条「俺はお前を倒しただけで、信念までは砕いてねぇ。死なない限り、信念は壊れないもんなんだよ」

上条はそう告げる。

瞬間氷結「言ってくれるね……僕は君とは背負ってるものの重みが違うんだよ……。……日々……どれだけの無能力者や低能力者の学生たちが……悪漢の能力者やスキルアウトたちの影に怯えて暮らしてると思う?」

上条「………………」

瞬間氷結「彼らにとって……僕らジャッジメントは頼りになる存在……いや、頼りにされる存在でなければならないんだ……っ! 分かるか、上条当麻? そのジャッジメントのトップに立つ僕が……そう簡単に負けるわけにはいかないんだよ……」

瞬間氷結の左目は髪で隠れて影になっていたが、逆に右目はギラギラといまだ鋭く光っていた。

瞬間氷結「彼らが……安心してこの学園都市で……暮らせるために……彼らの……笑顔を守るために……」

上条「………………」

瞬間氷結「……僕は……ジャッジメントと言う……治安組織の長として……この街の平和を……守らなければならないんだ!!!!!!」

上条「!!!!!!」

叫んだと同時、瞬間氷結は背後にあった噴水の池に手を入れた。



597:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/19(日) 00:57:07.12 ID:qwV4SlE0

ゴッ!!!!!!



噴水の水が数m高く舞い上がり、徐々に凍結して竜の姿へと変貌する。それはまるで伝説の海の化け物『リヴァイアサン』のような姿をしていた。

瞬間氷結「君は何としてでも僕がここで止める!!!!」

上条「………………」

氷のリヴァイアサンが口を開けて上条に襲いくる。
だが………



バギィィィン!!!!!!



瞬間氷結「!!!!!!」

上条はそれさえも右手で打ち砕いてしまった。

上条「………………」

瞬間氷結「……………はっ…!」

目の前で粉々になり地面に落ちていく氷塊を見て、瞬間氷結は僅かに笑みを浮かべる。

瞬間氷結「僕が………」

静かに言葉を紡ぐ瞬間氷結。

瞬間氷結「君のような右手を持ってたら……な……」

やがて、力尽きたのか瞬間氷結は頭を垂れ動かなくなった。

上条「…………………」

ずっと黙っていた上条は、彼の姿を見て口を開く。

上条「お前は立派な信念を持ってんだ……。俺の代わりに、この学園都市を頼む……」

瞬間氷結「―――――――」



598:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/19(日) 01:00:32.50 ID:qwV4SlE0

美琴「当麻!!!」

と、その時だった。

上条「御坂!?」

振り返る上条。すると美琴が凍結した部分を避けるように飛んで、こっちへ向かってくるのが見えた。

美琴「大丈夫!?」

上条「俺は大丈夫だ。お前は無事か?」

美琴「私は……大丈夫」チラッ

言って美琴は意識を失った瞬間氷結を見る。

美琴「………強かったね」

上条「ああ、強敵だった……」

上条美琴「………………」

2人して上条と美琴は瞬間氷結の姿を眺めていた。

上条「白井は?」

と言って上条は後ろを振り返る。



599:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/19(日) 01:02:45.01 ID:qwV4SlE0

美琴「あの子は大丈夫……応急手当してあげたから……」

同じく美琴も振り返った。少し先でうなだれて地面に座っている黒子の姿が見えた。

上条「もう……いいのか?」

美琴「……うん……。残念だけど……」

上条「そうか」

美琴「…………………」

上条「……じゃあ、行くか」

美琴「……うん」

歩き始める上条。頷き、美琴も後に続く。

美琴「……………」チラッ

そこでもう1度立ち止まり、美琴は振り返った。視線の先に黒子の姿を捉え、彼女は最後に1つだけ呟いた。





美琴「バイバイ、黒子………」





どこか悲しげな笑顔を浮かべると、美琴は顔を正面に戻し再び歩き始めた。
御坂美琴と白井黒子。これが、彼女たちが互いの姿を肉眼で視認した最後の瞬間となった――。



636:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 17:14:28.31 ID:4zZy0gc0

黒子「………………」

上条と美琴が去ってからまだ間もない頃。
黒子は、人気の無い道の真ん中で呆然として座っていた。

黒子「………」チラッ

自分の足を見る黒子。その右ふとともには出血を止めるための布が巻かれている。美琴が応急処置のために巻いてくれたものだった。

黒子「…………」

本当は今すぐにでも布を取っ払ってしまいたかった。憎き敵による慈悲を受けたのだ。本来なら、人前に出るのも嫌になるほど恥ずべきことだ。
だが、応急処置を終えた時の美琴の笑顔を思い出すと、何故かそれも出来なかったのだ。

黒子「………………」

憎み、今すぐにでも美琴を追って殺したいと思っている自分と、敵とは言えその厚意を無駄には出来ないという自分。その2人の自分が心の中で衝突していた。
それが、黒子にとって辛かった。本来なら前者としてもう1度、御坂美琴討伐作戦を考えているはずなのに、それも出来ず優柔不断に迷っている。そんな今の自分を思うと、これまでの苦労は何だったのか、と言いようの無い空しさに囚われるのだった。

黒子「(……もう……どうでも良くなりましたわ……)」

黒子はボーッと、氷が解けていく地面を見つめる。

不良1「よーお嬢ちゃん」

不良2「さっきの見てたぜー! かっこよかったなー!」

と、そんな黒子の頭の上から2つ分の若い男の声が聞こえた。

黒子「…………」

生気の無い目で見上げると、そこには2人の不良らしき男が立っていた。どうやら先の戦闘をどこからか盗み見ていたらしい。

黒子「………………」

興味の無いように黒子は顔を下げる。



637:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 17:19:11.73 ID:4zZy0gc0

不良1「なー、お兄さんたちここら辺を住処にしてるんだけどさー、娯楽が少ないんだよねーマジで」

不良2「そうそう。だからさ、君お兄さんたちと一緒に遊ばない? 気分変えるにはいいと思うよ」

言って1人の不良が無理矢理黒子を立たせようとその左腕を掴む。

黒子「………………」

傷にひびくはずなのに、抵抗する気も残ってなかったのか黒子はされるがままだった。

不良1「俺たちと一緒に楽しいことしたら、負けたことで悲しくなってる気分も一気にぶっ飛ぶぜ!!! ぎゃはははは!!!!」
不良1「なあ?」

そう言って不良1は左にいた仲間に顔を向けた。

不良1「…………あれ?」

だが、仲間は何も答えなかった。無理も無かった。

不良1「………何だこれ」

全身を氷漬けにされ、オブジェのように笑顔のまま固まっていたのだから。




「白井さんに……手を出すな……悪漢ども……っ!」




不良1「ひっ!!??」

後ろから響く凍てつくような声。不良1が背中に悪寒を感じた時には既に遅かった。



638:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 17:22:40.39 ID:4zZy0gc0

瞬間氷結「しばらく眠ってろ」

次の瞬間には不良は氷漬けにされていた。2体の間抜けな顔をした雪像がそこに出来上がっていた。

瞬間氷結「白井さん!」

地面でうなだれていた黒子に近付く瞬間氷結。

瞬間氷結「どうしたんだ。君らしくもない」

黒子「………………」

瞬間氷結は声を掛けてみるが、黒子は何も答えない。

瞬間氷結「………行こう。黄泉川先生たちが待ってる」

言って、瞬間氷結は黒子の肩を支えながら立ち上がり、ゆっくりと歩き始めた。

黒子「…………離して……下さいですの……本部長……」

瞬間氷結「!」

ボソッと、突然黒子が声を発した。

黒子「…………黄泉川先生たちに合わす顔がありません………」

顔を俯かせながら黒子は今にも掻き消えそうな声で言う。

黒子「…………敵に負けて……あまつさえ……慈悲を受けた私に……戻る資格はありません……」

瞬間氷結「……バカ言っちゃいけない。何を気落ちしているのか知らないが、こんなことジャッジメントを長年やってたらよくあることだ」

黒子「………………」

瞬間氷結「君の今回の働きは表彰ものだよ。僕が保障してやる。だから……いつもの君に戻ってくれ」

正面を向いて歩きながら瞬間氷結は黒子を励ます。

黒子「……………………」

黒子はただ、黙って俯いていた。



639:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 17:26:47.74 ID:4zZy0gc0

一方その頃。

上条「暗いから足元に気を付けろ」

美琴「うん」

黒子と瞬間氷結の手から逃れた上条と美琴は、予定通り仁科から貰った地図を頼りに地下鉄の線路上を歩いていた。

上条「………………」

美琴「………………」

古くなった線路の上を、2人は慎重に歩く。

上条「………良かったのか?」

美琴「え?」

と、そこで前を行く上条が美琴に話しかけてきた。

美琴「何のこと?」

上条「白井のことだよ……」

美琴「ああ……」

美琴の声が僅かに小さくなる。

美琴「仕方がないよ、こればっかりは……」



641:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 17:30:54.90 ID:4zZy0gc0

上条「………もう会えないかもしれないんだぞ?」

美琴「………………」

上条「あ、ごめん……」

美琴「……ううん。前から覚悟してたことだから………」

上条「俺がもっとしっかりしていれば……」

美琴「何言ってるの? あんたのせいじゃないよ」

上条「………そうかもしれないけどさ……」

美琴「………………」

美琴は後ろから上条の横顔を見る。どこか、辛そうな顔をしていた。
美琴は胸中に思う。何故、いつもこの少年は他人の悲劇を自分のように感じることが出来、自らの身も省みず誰かを助けようするのだろうか、と。

上条「だが安心しろ御坂。お前だけは絶対守り抜いてみせるからな」

このように普通の人間なら簡単に言えないことを臆面もなく言ってのける。しかもそれは嘘偽り無い本心なのだから、言われた方は恥ずかしいなんてものじゃない。
だが………

美琴「(……嬉しい)」

口元を綻ばせる美琴。
実際、上条は過去にも美琴が困ってた時に颯爽と現れその危機を救ってくれたのだ。



642:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 17:34:49.88 ID:4zZy0gc0

上条「だから遠慮なくお前も俺を頼ってくれ」

最初はこの腐った学園都市で彼のような少年に出会うとは思っていなかったほどだ。だが、何の因果か美琴は上条当麻に出会った。そして戦友のようにお互いの仲を、絆を深め合い、今も再び訪れた美琴の危機に駆けつけ、行動を共にしてくれている。
本当は彼にとっても学園都市での生活を捨てるのはかなりの覚悟が必要だったろうに。

美琴「……………………」

嬉しかった。本当に嬉しかった。そして、もうこの先も彼のような人間と会えるとも思っていなかった。
だからこそ………

上条「って言ってもさ? 実際お前の力になってるかどうかは分からないけど。お前だって一緒にいるのが俺みたいな不幸で頼りない男は嫌だったりしないか?」

歩きながら上条は訊ねる。

上条「なんてな。そんなこと聞く状況でもねぇな。今のは聞き逃してくれ」

美琴「好きだよ」

上条「!」







美琴「私は……当麻のことが好きだよ………」







上条「…………っ!?」



643:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 17:40:15.74 ID:4zZy0gc0

振り返る上条。
笑顔で立つ美琴の姿がそこにあった。



美琴「今までずっと助けてくれたんだもん……。好きにならないほうが……おかしいよ……」



上条「………………」

呆然と、上条は美琴を見据える。

美琴「……………………」

上条「……………………」

見つめ合う2人。




美琴「――――――――――――――」


上条「――――――――――――――」




時が止まったような気がした――。



644:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 17:43:14.41 ID:4zZy0gc0

ガーーーーーーン!!!!!!!!




上条美琴「!!!!!!!!!!」

と、その時だった。



ガーーーーーーン!!!!!!



上条「何だ……?」

遠くの方から大きな音が聞こえてきた。


ガーーーーン!!!!


上条「まただ」

音は進行方向から聞こえてくる。

ガーーーーン!!!

上条「行ってみよう!」

美琴に叫ぶ上条。

美琴「…………うん」

2人は音の正体を探るため走り出した。

上条「見ろ! プラットホームがあるぞ! 音はあそこからだ!」

美琴「……………………」

ガーーーーーーン!!!!!!

プラットホームに着き、上条は慎重に物陰からホームの方を覗いてみた。



645:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 17:47:25.22 ID:4zZy0gc0

ガーーーーン!!!!

上条「あれは……」

美琴「どうしたの?」

上条「何だ。これが音の正体だったのか」

と言ってスタスタと上条は階段を使ってホームに上がっていく。

美琴「ちょっと!」

上条「大丈夫だ。ほら見てみなよ」

美琴「え?」

促され、恐る恐る美琴もホームに上がる。

上条「これだよ」

美琴が近付いてみると、上条がホームの端に設置されたゴミ箱を顎でしゃくった。

ガーーーーン!!!!

見てみると、ゴミ箱の下部の取り出し口の扉が風によって開いたり閉まったりしていた。

上条「キチンと閉まってないから音が出てたんだ」

言って上条は扉を閉める。さっきまでのうるささが嘘のようにホームが静まり返った。

美琴「………………」

上条「こっちは改札か」

後ろを向き、階段を見上げる上条。

上条「上へ行こう」

美琴「え?」

上条「改札窓口があるはずだ。そこで数時間ほど眠ろう」

美琴「……別にいいけど」

上条の提案に美琴は小さな声で答える。2人はそのまま階段を登っていった。



646:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 17:51:13.18 ID:4zZy0gc0

ホームから1階分上がった場所――地下1階に改札口はあった。
そのすぐ側にある、駅員が利用する窓口の中。

上条「お、毛布あったぞ。取り敢えずこれ2人でくるまって寝よう」

美琴「は? な、何考えてんのよあんた!?」

上条と美琴は数時間ほど休眠を取るためにそこにいた。

上条「別に何も考えてねーよ! ただ寒いし1枚だけしかないから一緒にくるまって寝ようって言ってるだけで……」

毛布を手にし、上条は説明する。

美琴「な、何であんたと一緒に毛布にくるまらなきゃならないのよ……」

上条「今更かよ!? 山の中でも一緒にくっついてたじゃねぇか!」

美琴「う、うるさい!! …わ、分かったわよ! 一緒にくるまればいいんでしょ!!」

上条「………………」ハァ

2人は一緒に毛布の中でくるまり身を寄せ合う。

美琴「ちょ、ちょっとくっつき過ぎじゃない?」

上条「………………」

美琴「な、何黙ってるのよ!? や、やっぱり変なこと考えてるんでしょ」

上条「お前さー……」

美琴「何よ?」

上条「さっき言ってたことなんだけど……」

美琴「え? さっきって一体…………!!!!」

さっき、のことと言えばもちろんあれしかない。美琴は思わぬ形で上条からその話を再開されてうろたえてしまう。



647:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/20(月) 17:54:19.12 ID:4zZy0gc0

美琴「さ、さっき言ってたこと? さ、さあサッパリ分からないわね!!」
美琴「(何よ……。別にこんな私でさえ忘れてた時に思い出したりしなくても……)」

上条「何言ってんだ。お前さっき俺に……」

と、そこまで言いかけた時だった。

美琴「あーーーーっと!! 確か今日はバラエティ番組の『行って戻ってクイズでゴー!』があった日だわ! 毎週見てるのに今日は見れないのよねー残念だわー」

上条「………」

美琴がそれ以上はダメ、と言いたげに話を切り替えてきた。

美琴「ってうちの寮の部屋テレビなかったわ。あれー私何言ってるんだろーあははー」

1人コントをする美琴。

上条「………………」

美琴「私もついにボケが始まった? って私はまだピチピチの中学生だっつーの!!」

上条「………………」フッ

そんな彼女を見て上条は笑みを零す。

美琴「まったくもうこの歳で若年s……」

上条「いつまでもバカやってないで早く寝ろよ」

美琴「!」

それだけ言うと上条は毛布の先を口元まで引き寄せ目を瞑った。

美琴「あ……う……」

点目になる美琴。

美琴「………………」

何やら恥ずかしそうな顔をする美琴。やがて彼女も毛布を引き寄せると、上条の肩に頭を預けて目を瞑った。



666:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 01:21:18.95 ID:6OAlKLQ0

数時間後――。

上条「おい、御坂」ユサユサ

美琴「う……うーん……」

隣で眠る美琴を揺らす上条。

上条「いい加減起きろ」

美琴「……後5分……」

上条「ダメだ。急がないと」

美琴「……むー……」

促され、美琴は不服そうに目を開ける。

上条「この地下鉄のルートもあと半分も無いんだ。ここさえ抜ければ、学園都市の『外』と『中』の境界もすぐそこだ」

美琴「分かってる分かってるわよ」

気だるそうに答えてガバッと毛布をめくる美琴。

上条「学園都市から逃げるんだろ?」

美琴「それも分かってる」

言って美琴は立ち上がる。

美琴「その代わり……」

上条「?」

美琴「ちゃんと最後まで守ってよね」

上条「…………もちろんだ」

立ち上がり、上条は笑顔を見せる。



667:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 01:23:31.27 ID:6OAlKLQ0

美琴「よろしい」

美琴も笑顔を返した。

上条「…………」フッ

美琴「…………」クスッ

2人は改札窓口から出、階段を下ると再び地下鉄の線路に降り立つ。

上条「じゃ、残り半分。頑張ろうぜ」

美琴「おー!」

子供のように腕を上げる美琴。

上条「ったく。自分が置かれてる状況分かってるんですかねー」

美琴「ポジティブじゃないと能力は取り戻せないでしょ?」

いつもの調子で会話をし、2人は線路の上を再び歩き始める。

「「「………………」」」

が、この時彼らは気付いていなかった。彼らを密かに尾行する3人の邪悪な影があることに。



668:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 01:27:12.98 ID:6OAlKLQ0

上条と美琴が再び地下鉄の線路上を歩き始めてから1時間後。
2人は想像だにしなかった悲劇に見舞われることになる。

美琴「でね、その時黒子がね、転んじゃって! それがおかしくてさ……フフフ」

上条「へえ。あいつらしいな」

少しでも気分を盛り上げるためにと会話をしていた上条と美琴。そんな純粋な1人の少年と1人の少女の楽しげな一時を潰さんと、3匹の悪魔たちが近付いていた。

上条「と、待て……」

美琴「え?」

上条は美琴の腕を掴み、彼女を止める。

美琴「どうしたの?」

訝しげな表情で上条を見る美琴。

上条「誰かいる……」

美琴「え?」

上条の視線を辿り、美琴が前方に顔を向ける。




「ありゃー気付かれちゃったよ!」

「でへへへ。なかなか鋭いガキじゃねぇか」




上条「………………」

美琴「………」ギュッ

暗闇から発する2つの下品な声。それに怯えるように、美琴が上条の服をギュッと掴む。



669:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 01:31:09.14 ID:6OAlKLQ0

「やーこんばんはー僕ちゃんにお嬢ちゃーん」

「こんな所で迷子になっちゃったのかなー?」

現れたのは2人の男だった。と言っても、どっちも明らかにまともな格好をしていない。
服はボロボロで白髪混じりの髪はクシャクシャ。おまけに数m離れていても異臭が漂ってくるほどだった。
恐らく彼らは、この地下鉄を根城に暮らすホームレスの浮浪者たちだった。

浮浪者1「ここが俺たちの家だって知ってて来たのー?」

浮浪者2「もしかして金持ってたりするかぁ?」

上条は彼らを見て思う。

上条「(目がイってやがる……)」

美琴「と、当麻」

隣で美琴が怯えたような声を出す。そんな彼女を見て面白がるように浮浪者たちは言う。

浮浪者1「何恐がってるのお嬢ちゃん?」

浮浪者2「大丈夫だよ。おじさんたち何も恐くないよー?」

上条「………そこを通してくれないか?」

舐められないよう真剣な表情を浮かべ、上条は浮浪者たちに訊ねる。

浮浪者1「通行料1万円」

上条「なっ!?」

浮浪者2「またはそれに準ずるもの」

浮浪者たちはニヤニヤと、何本か歯が抜けた口を大きく見せて無理難題を言要求してくる。

上条「ふ、ふざけないでくれ!」

浮浪者2「ああ?」

上条「うっ……な、なあ…た、頼むよ。俺たちはあんたらに何か危害を加えようとかそんなつもりはない。ただ、この先に行きたいだけなんだ」

浮浪者1「だーめ。通行料払いな!」

上条「………っ」

あくまで浮浪者たちは引き下がる気はないようだった。



670:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 01:35:42.04 ID:6OAlKLQ0

浮浪者2「僕ちゃんたち、大人を舐めちゃいけないよ? これでも俺、人を殺したことがあるんだから!」

上条「なっ……」

浮浪者2「こう見えても5年ぐらい前までは研究員してたんだよ。で、とある研究所で色々と表には出せないような実験の担当しててさー……毎日のように実験体になった子供や女の子たちを良いように扱ってたんだなこれが! だけど安心して。殺したって言っても実験の一環だったから。法的には何も悪く無いよ」

浮浪者1「俺も似たような状況で殺しまくったっけなあ」

まるで過去の栄光を自慢するように浮浪者たちはどや顔で語る。

上条「こいつら……」

美琴「酷い。そんな昔から学園都市は裏で酷いことを……」

浮浪者1「さあ。ここを通りたかったら通行料よこしな」

浮浪者2「出来ないならどんな目に遭っても知らないぜ?」

言って浮浪者たちは美琴の身体をジロジロと見てきた。

美琴「……!」ゾクッ

上条「何度も言うがお前らに渡すものなんて何も持ってない。頼むからそこを通してくれ」

美琴を守るように上条が1歩前へ歩み出る。

美琴「当麻!」

浮浪者1「あちゃー。結局ガキはガキだったってわけかぁ」

上条「何?」

浮浪者2「じゃあもう大人の現実を思い知らせてやるしかねぇなぁ」

上条「何を言ってる?」

浮浪者たちは上条の言など知ったことではないと言うように、何やら勝手に喋っている。

上条「下らない。御坂、強引にここを通っていこう」

美琴「え? でも……」

上条「大丈夫だ。何かしてきたら俺があいつらボコボコにしてやるから」

上条は美琴を安心させるように言う。が、そんな彼の思いを嘲笑うように浮浪者たちはニヤニヤと不気味な笑顔を向けてきた。

浮浪者1「もしかしてお前ら、俺たちが2人だけだと思ってるのかぁ?」

上条「え?」



671:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 01:39:18.82 ID:6OAlKLQ0

ドゴォォォッ!!!!!!



上条「!!!!!!!!!!」

瞬間、上条の頭に深い衝撃が走った。

美琴「きゃあああああああああ!!!!!!」

上条「ぐっ……」

ドサッ…と上条がその場に崩れ落ちる。



浮浪者3「ふへへへへへ。真打登場ってな!」



美琴「!!!!!!」

その声に振り返る美琴。そこに、保線員が使うような誘導棒を手にした新たな浮浪者が1人立っていた。

ガシッ!!

美琴「え?」

腕を掴まれた感覚を覚え、美琴は正面に向き直る。

浮浪者1「へへへへへ」

浮浪者2「でへへへへ」

美琴「!!!!!!」

浮浪者たちが、美琴の両腕をそれぞれ掴んでいた。

美琴「や……」

浮浪者1「大人しくしろやああああああ!!!!!!」

美琴「いやあああああああああああ!!!!!!!!」

物凄い力で美琴の腕を掴む2人の浮浪者。彼らは上条から数m離れた場所まで美琴を引っ張っていき、ゴミを捨てるように彼女を地面の上に仰向けに叩きつけた。



672:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 01:42:16.71 ID:6OAlKLQ0

浮浪者2「久しぶりの獲物だぜぇぇぇぇ!!!」

浮浪者1「大人しくしろよ!!」

逃げ出そうとする美琴を、浮浪者1が後ろから両腕を掴んで動けなくする。

美琴「いやああああああああ!!!!!! 離してえええええええ!!!!!!」

叫ぶ美琴に、正面から近付く浮浪者2。

浮浪者2「大丈夫だよ? おじさん、優しくしてあげるから!!」

美琴「来ないで!!! 触らないで!!!!」

浮浪者1「動くなよ!!!」

暴れる美琴を浮浪者1が無理矢理押さえつける。

浮浪者2「じゃあ……でへへへ。まずは俺からいかせてもらいますか」

狂った目を浮かべて、両手をワキワキとさせながら浮浪者2が美琴に近付く。

美琴「いやああああああああああ!!!!!! 当麻ああああああああああ!!!!!!」

上条「うっ……御坂……」

朦朧とした意識の中、上条が目を開く。

浮浪者3「おっと! 手出しは無用だぜ?」

そんな上条の背中を浮浪者3が後ろから膝で押さえつけ動けなくする。

上条「は、放せ……。あいつに何をするつもりだ……!?」

浮浪者3「いいからお前は目の前で自分の女がヤられるところを見とけよ」

言って浮浪者3は上条の頭を、前が見えるように固定させる。

上条「み、御坂ああああああああ!!!!!!」

美琴「当麻ああああああああ!!!!!!」

浮浪者2「じゃ、用意はいいでちゅかお嬢ちゃん?」

美琴「来るなあああああ!!!!」

ドゴッ!!!

浮浪者2「ぐぇあっ!!」



673:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 01:46:00.40 ID:6OAlKLQ0

美琴の蹴りが浮浪者2の股間に入る。

浮浪者1「あっ!」

浮浪者2「こいつぅ……人が下手に出てたら調子に乗りやがってええええ!!!!」

バキッ!!!

美琴「きゃぁっ!!」

美琴の頬を殴る浮浪者2。

上条「御坂!!!!」

美琴「い、痛い……うううう」

殴られたためか、大人しくなる美琴。それを好機と見た浮浪者2が彼女の服に手を掛ける。

美琴「いやっ……! やああああああ!!!!」

上条「御坂ああああああああああ!!!!!!」

涙を浮かべて首を振りながら抵抗する美琴。そんな彼女を嘲笑うように服をめくろうとする浮浪者2。そしてそれを見ていることしか出来ない上条。

浮浪者2「暴れてんじゃねぇよ!!!」

浮浪者1「思いっきりやっちまえ!!」

浮浪者2「こうしてやる!!!」ズルッ

怒った浮浪者2が美琴のスカートをずらす。

美琴「やああああああああ!!!!!!!」

浮浪者2「あれ? 何だこれ?」

浮浪者1「ああ? どうした?」

不思議そうな顔を浮かべる浮浪者たち。

浮浪者2「何だこいつガード固ぇな!! 短パンなんか履いてやがるぜ!!!」

浮浪者1「どうでもいいけどそっちは後にとってけよ。まずは上から行こうぜ」

浮浪者2「おうそうだな!!!」

言って浮浪者2は美琴の服をめくる。彼女の肌と下着が露になった。

美琴「!!!!!!!!!!」



674:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 01:50:11.74 ID:6OAlKLQ0

美琴「いやああああああ!!!! 助けてええええええええええ!!!!!!」

上条「御坂あああああああああああ!!!!!」

美琴「当麻あああああああああああ!!!!!」

泣きながら上条に顔を向ける美琴。浮浪者たちはその手を止めることをせず、今度は彼女の短パンに意識を戻す。

浮浪者2「おら!!!!」

美琴「い、いやぁ!!!!」

短パンを脱がされ、下半身も下着が露になった。

美琴「当麻あああああああああああああ!!!!!!!」

上条「御坂……御坂っ!! ああああっ……御坂!!!!」

浮浪者3「だから俺たち大人を舐めなきゃよかったのによ」

上条「頼む!!! やめてくれ!!! あいつを今すぐ解放してくれ!!! その代わり俺には何をしてもいいから!!! お願いだ!!!!!!」

上条は必死の形相で、美琴を弄ぼうとする浮浪者たちに主張する。

上条「頼む!!!! 本当にやめてくれ!!!! お願いだ……そいつは……俺の大事な人なんだ……やめてくれよ………」

浮浪者3「うっせぇ!! これは罰だ!!! お前は目の前で自分の女が良いようにやられていく様を見てろ!!!!」

上条「………………美琴……」

呆然と、前を見る上条。彼は自分が置かれている状況と、今から目の前で見ることになる地獄の光景を思い浮かべ意識を止める。

上条「………………」



676:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 01:53:59.43 ID:6OAlKLQ0

美琴「当麻あああああああああああああ!!!!!!」

浮浪者2「いただきまーす!!!」

美琴「いや……やめて……! あっ……ううあっ!!!」

浮浪者2「おおおお!!!!」

美琴「がっ……ああああああっ……いや……いやあああああ………」

浮浪者1「おいどんな感じだ!?」

浮浪者2「こりゃいいぜ~!」

美琴「痛い……痛いよう……当麻ぁぁぁ……」

浮浪者2「でへへへへへ!!!! 最高だな!!!!」

美琴「うっ……あっ……あっ……うっ……はっ……あっ……はぁぅ……と、とうまぁ……」

浮浪者2「俺たちをバカにするからこうなんだよ!!!」

浮浪者1「ぎゃははははははははははは!!!」

美琴「とう……と……とうま………とうま………」



上条「…………………」

上条は意識を戻し、前を見据える。

浮浪者2「よし、じゃそろそろ始めようか」

埃がついた自分のズボンに手をかける浮浪者2。

上条「………………」

上条は今頭に思い浮かべた最悪の光景を意識の中から放り出す。

美琴「いやああああああああああああ!!!!! 当麻ああああああああああ!!!!!!」

浮浪者2「覚悟しろよ?」

美琴の下着に手をつける浮浪者2。



678:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 01:56:25.15 ID:6OAlKLQ0

上条「(………何故だ)」

上条は胸中に思う。

美琴「助けてええええええええええええ!!!!!!」

上条「(………何で……)」

浮浪者2「静かにしろや!!!」バキッ!!

美琴「きゃっ!!」

上条「(どうして……)」



   ――「…………私を……1人にしないで……」――



上条「(あいつが一体……)」



   ――「似合ってる……かな?//////」――



上条「(あいつが一体………)」



   ――「私の裸なんて見ても、やっぱり何とも思わないの?」――



上条「(何をしたって言うんだ……)」



679:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 01:59:12.16 ID:6OAlKLQ0

   ――「………助けにきてくれた時……嬉しかったよ……」――



上条「(あいつはただ……)」



   ――「私……嬉しかったよ? 当麻が私のために危険冒してまであそこまでしてくれて……」――



上条「(友達と楽しく暮らしたかっただけなのに……)」



   ――「私は……当麻のことが好きだよ……」――



上条「(………………………)」

地面に顔をつける上条。

浮浪者3「あん? 何してやがる。これからが良いところだってのに」

美琴「当麻ああああああああああああ!!!!!!!!」

浮浪者2「いただきまーす!!!」





当麻「あああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」



680:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 02:03:19.48 ID:6OAlKLQ0

美琴「!!!???」

浮浪者3「!!!!!!」

浮浪者1・2「!!!!!!」




当麻「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」




美琴「とう……ま?」

浮浪者3「何だこいついきなり大声上げて!! ってうおっ!?」

ドサッ!!

当麻「あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

唐突に叫び出した上条。彼は背中に乗っていた浮浪者3を払いのけるように立ち上がる。

浮浪者3「こ、こいつぅ!!」

浮浪者1「何やってんだよ!!! しっかり押さえとけ!!!」

当麻「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
当麻「……………………」ピタ

浮浪者3「死ね!!!!!」

浮浪者3が後ろから誘導棒を持って上条に襲い掛かろうとする。
が、しかし………



パァン!!! パンパンパンパンパァァァン!!!!!!



浮浪者3「ひ、ひいいいいいいいいいい!!!!!!」



681:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 02:06:20.53 ID:6OAlKLQ0

浮浪者3「ひ、ひいいいいいいいいいい!!!!!!!」

美琴「当麻!!!!!!」

浮浪者1「なっ!!??」

浮浪者2「あ、あれは……!!」


パンパンパァン!!! パンパァン!!!!!!!!


驚き、上条を見る浮浪者たち。彼は拳銃を手にし天井に向かって何発も発砲していた。

上条「………………」

そのまま無言で上条は歩き出すと、美琴を押さえている浮浪者たちに近付いてきた。

浮浪者1「あ、ひ、ひ……お、お助け……」

浮浪者2「あああ……」

ドカッ!!!

浮浪者2「ぎゃっ!!!」

浮浪者2を蹴り、美琴から離す上条。

上条「………………」

浮浪者2「あ、な、何をす、する……」

上条は黙って拳銃を浮浪者2に向ける。


パァン!!


浮浪者2「!!!!!!!!!!」
浮浪者2「ぎゃああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

美琴「!!!!!!!!」

撃たれた浮浪者2の足から血が噴き出した。



686:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 02:10:50.37 ID:6OAlKLQ0

浮浪者2「い、いてええええええええ!!!!! てめぇチキショーよくもやりやがったなあああああ!!!!! いてええええええええ!!!!!」

足を押さえながら浮浪者2が泣き叫ぶ。

上条「………………」

美琴「と、当麻……?」

呆然と美琴は上条の顔を見上げる。

浮浪者3「あひいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」

浮浪者1「あ、てめぇ!!!!」

仲間が撃たれた姿を見、怖気づいた浮浪者3が逃げていく。

上条「…………殺す」ボソッ

美琴「!!!」

上条「……どいつもこいつもムカつく………だから殺す」ギロッ

浮浪者1「なっ!?」

上条に睨まれた浮浪者1が腰を抜かしたように後ずさる。

浮浪者2「いてええええええ……いてええええよ………」



687:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 02:13:21.27 ID:6OAlKLQ0

上条「………何が『実験』だよ。何が『レベル6』だよ。何が『世界大戦』だよ。何が『弧絶術式』だよ」

ブツブツと独り言を呟く上条。

上条「……何が魔術だよ。何が超能力だよ。どいつもこいつも……人を勝手に巻き込んどいてよおおおおおおおお!!!!!!!!」

美琴「当麻……? ど、どうしたの?」

明らかにいつもと様子が違う上条を見て美琴が驚いた目で彼を見る。

上条「みんな自分勝手な都合で人を不幸にする奴ばかり……ムカつくなぁ……ムカつくぜ……だからムカつく奴は全員殺す。容赦なく殺す」

美琴「何を言ってるの当麻? 変だよ?」

上条「何が拳一つで生きてきただ」

浮浪者1「あひゃあああああああああああ!!!!!!!」

怯えた浮浪者1が堪らず逃げ出していた。

上条「拳銃一丁ありゃ簡単に敵を殺せるんじゃねぇか」

トンネルの奥に消えていく浮浪者1の背中に拳銃を向ける上条。

上条「死ねクズ」

言って上条は引き金に指を掛ける。

美琴「やめて!!!!」



689:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 02:15:44.44 ID:6OAlKLQ0

パァン!!!!!!


直前、美琴が横から上条に飛び掛かった。そのせいで銃口の向きが逸れたためか、弾丸は浮浪者1ではなく、トンネルの天井に当たり兆弾しただけだった。

上条「チッ……逃がしたか」

美琴「何やってるの!!!??? いつもの当麻じゃないよ!!!!」

上条「どけ。寧ろ今まで殺意を向けてくる敵を殺そうとしなかった俺がバカだったんだよ」

言って上条は優しく美琴をどかす。

美琴「やっぱり変だよ!! いつものあんたはそんなこと言わないのに!!!!」

上条「で、仲間は逃げて残るはお前だけだよな?」

上条は美琴の言を無視し、足を押さえて痛がる浮浪者2に近付く。

美琴「当麻!!!!」

浮浪者2「……お、俺を……殺すのかよ?」

上条「………」

チャキッ

浮浪者2「ひっ!!」

浮浪者2の額に銃口をつける上条。

浮浪者2「や、やめろよ……人を殺して良いと思ってんのか?」

必死に浮浪者2は命乞いをする。

上条「はぁ? 実験でたくさんの子供や女を殺したお前が何言ってんの?」

浮浪者2「あ、あれは実験だから……べ、別に法に反してるわけじゃ……」

上条「学園都市のクズってどいつもこいつもそうだよなあ? 自分で人殺しといて飄々としてやがんの。マジで下らないわ、お前らみたいな『暗部』に住む人の命を何とも思ってない研究者とか」

浮浪者2「た、頼む……お、俺が悪かった。見逃してくれ……!」

上条「知るか。死ね」

引き金に掛けた指に力を込める上条。



692:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 02:18:29.79 ID:6OAlKLQ0

美琴「当麻!!! ダメだよ!!!!」

上条「………………」

しかし、そんな上条を美琴が制止する。

上条「ハァ……じゃ、仕切り直しだ。今度こそ死ねよ」チャキッ

浮浪者2「や、やめ……!」

美琴「当麻!!!!!!」

上条「…………御坂。こいつはお前に酷いことをしようとしたんだぞ? 死んで当たり前の人間だ」

美琴「違う!! もしここでそいつを殺しちゃったら、当麻もそいつと同じになっちゃうよ!!!」

上条「………………」

浮浪者2「あっ……ひっ……ううう……」

美琴「だからやめて!! 私、当麻が人を殺すとこなんて見たくない!!!」

上条「……今までの俺が間違ってたんだ。この世界じゃ不条理なことがたくさん起こる。そんな状況で悪意を持った人間から身を守るには、手っ取り早く殺す方法が1番だったんだよ」

言ってグググッと上条は銃口を浮浪者2の頭に押さえつける。

浮浪者2「や、やめっ……!」

美琴「方法とかの問題じゃない!!」

上条「………」ピタ

美琴「当麻はそういう人間じゃないって言ってるの!!!」

上条「………お前も今まで学園都市に住んでてたくさん酷い目に遭わされたろ? 不条理だと思ったろ? 今回の『弧絶術式』についても同じだ。結局は殺しちまった方が1番早い。だから死ね」チャキッ

浮浪者2「ううああああ」

美琴「お願いやめて!!!」

上条「………御坂……俺はお前を助けると誓ったんだ……。頼むから、止めないでくれ」



693:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 02:21:31.23 ID:6OAlKLQ0

僅かに、辛そうな表情を浮かべて上条は言う。

美琴「もしここでその人を殺しちゃったら、当麻はもう後戻り出来ないよ!?」

上条「…………っ」

美琴「これからも襲ってくる敵をみんな手当たり次第殺しちゃう人間になっちゃうよ!?」

上条「………それでもいいんだ。お前を守るためなら、人を殺すことになろうが俺は変わったほうがいい。寧ろ今まで拳一つで魔術師や超能力者たちをぶっ飛ばしてきたのが間違いだったんだ」

美琴「違う。間違いなんかじゃない。私は人を簡単に殺す当麻より、今までみたいに言葉と拳だけで生き抜いてきた当麻の方が好きだよ。妹達の時だってそうやって助けてくれたじゃない? 言葉と拳だけで学園都市最強の超能力者を倒したじゃない!!??」

上条「………………」

美琴「今ここで撃ったら絶対に戻れなくなる。ただ何も感じずに敵を殺すだけのつまらない人間になっちゃう。……当麻は、そんな人じゃない。……そんな人になっちゃダメ。そんな人になっちゃ嫌………」

上条「……構わない。どうせいつかは今みたいに決断を迫られる日が来るんだ……」チャキッ

浮浪者2「ああああ助けて……」

美琴「当麻!!!!」

上条「俺はここで変わる必要がある。いや、変わってみせる」

浮浪者2「うわああああああああああ!!!」

美琴「やめて!!!!!!」

上条「…………」

叫ぶ美琴。が、彼女の声も空しく上条は引き金を引いた。



696:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 02:25:46.74 ID:6OAlKLQ0

カチッ……




上条「!!!???」

浮浪者2「…………?」

上条「あ、あれ……?」

美琴「???」

顔を覆っていた美琴だが、発砲音がしないことに不審を覚え目を開けてみた。

上条「クソ!」

カチッ……

浮浪者2「ひっ!!」

上条はもう1度試してみるが、やはり拳銃は火を噴かなかった。

上条「な、何で……」

カチッカチッ!

更に何度も引き金を引く上条。だが、それも徒労に終わった。

美琴「た、弾切れ……?」

上条「そ、そんなバカな……」

先程浮浪者たちを脅すための分と『デーモンズ・ネスト』で美琴を助けるために撃った時の分で、既に弾丸は全て尽きていたのだ。

上条「じゃあ……さっきのが最後の……」

逃げた浮浪者1を撃ち殺すため発砲したものの、美琴の制止によって外れた1発。あれが最後の弾だったのだ。



698:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 02:30:06.28 ID:6OAlKLQ0

浮浪者2「……た、助かった……?」

上条「そ、そんな……」

美琴「当麻!!!!」

上条「!!」

振り返る上条。




パシィィィィン!!!!




上条「あ………」

彼は思いっきり美琴に平手を食らわされた。

上条「御坂……」

呆然と上条は美琴の顔を見返す。

美琴「目ぇ覚めたか、バカ!」

上条を平手打ちした右手を空中に浮かせて、目に涙を溜めている美琴がそこにいた。



699:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/21(火) 02:33:15.67 ID:6OAlKLQ0

上条「お、俺は……」ズッ…

そのままゆっくりと上条は地面に膝をつく。

上条「ただ……お前を守りたかっただけなのに……」

美琴「そんな進んで人を殺しちゃうただの殺人狂みたいな当麻に守られたって嬉しくない!!!」

浮浪者2「あ……う……」

怯えたまま2人のやり取りを見る浮浪者2のことなど気にすることなく、美琴は上条を叱咤する。

上条「御坂……」

美琴「当麻……」スッ…

そして美琴は、上条に近付くと、優しく彼を抱き締めてあげた。

美琴「当麻にはもう、こんなもの必要ないから……」

言って上条の手から拳銃をゆっくりと取り上げる美琴。

美琴「私を助けてくれたことは嬉しかったよ……。でも、私は……いつもみたいに長ったらしい説教で他人を説得させて、右手だけで敵を倒す当麻の方が良いから……」

抱き締めながら美琴は上条の耳元でそう呟いた。

上条「御坂……っ!」

表情を崩し、上条もまたその優しさに甘えるように美琴を抱き締め返した。



767:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 23:19:59.32 ID:KbN0G8E0

アンチスキル・黄泉川部隊本部――。

黄泉川「………………」

トレーラー型の装甲車に設けられた司令部。その中に黄泉川の姿があった。

黄泉川「……どこだ」

彼女は今、ホワイトボードに貼られた学園都市全域の地図を前にして立っている。

黄泉川「………奴らはどこにいるじゃん」

腕を組み、地図を睨みながら黄泉川は呟く。

黄泉川「(今までの御坂美琴と上条当麻の逃走経路を振り返ってみたが、分かったのはやはり奴らは南に逃げているということ)」

背後で部下の警備員たちが忙しく動いているが、彼女はそれすらも意識の外にして考え事に集中している。

黄泉川「(白井たちを回収した時に、その場所の付近も捜索させた……)」

現在時刻午後4時過ぎ――。
今から約16時間前。黄泉川たちアンチスキルの部隊は黒子から連絡を受け現場に急行し、黒子と瞬間氷結を回収した。その時、黄泉川は隷下の部隊に付近の家や建物を徹底的に捜索させたが、終ぞ上条と美琴は見つけられなかった。

黄泉川「(『デーモンズ・ネスト』にも探りを入れてみた……)」

次いで『デーモンズ・ネスト』にも足を運んだ黄泉川だったが、店の責任者である仁科要に会うことは叶わず、黒服に「逮捕状を持ってきてから」と言われた上、半ば脅されるような形で店と繋がりのある上層部の存在を出されたため、渋々その場を後にするしかなかった。

黄泉川「(瞬間氷結は気絶していたと言う話だが、白井は奴らが逃げた時には意識があったはずじゃん。なら、白井が奴らの大体の行き先ぐらい知ってそうなものだが……)」

……黒子は今、右足に怪我を負っているため、瞬間氷結に見守られながら病院で治療を受けている。なので今病院に行って彼女に話を聞くのは無理だ。
しかし………

黄泉川「(まさかあいつ……御坂美琴たちがどの方面に行ったのか知ってて黙ってるんじゃ………)」

顎に手を添えながら黄泉川は1つの推論を組み立ててみる。

黄泉川「(……いや、白井に限ってそれはないか……)」

今思い浮かんだ疑念をすぐに払う黄泉川。

黄泉川「(しかし、半日以上奴らの足取りを見失ってるのはまずいじゃん……)」

黄泉川の表情に焦りの色が浮かぶ。



768:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 23:23:19.86 ID:KbN0G8E0

黄泉川「(何か手掛かりは……)」

と、その時だった。

警備員A「そういや、あれどうなったんだっけ?」

警備員B「あれって?」

背後から部下の警備員たちの会話が聞こえてきた。

警備員A「何でも学園都市の全域を囲む壁の数箇所に、対能力者用のキャパシティダウンを設置するとかなんとか……」

黄泉川「………………」

警備員B「ああ、能力者の脱走を塞ぐために東西南北8ヶ所に分けて配備されるってやつだろ? 確かこの間、キャパシティダウンを搭載した7台目のトラックが配備し終えたところって話だ」

警備員A「ん? じゃあ8台目は?」

黄泉川「………………」

背中越しに警備員たちの会話を耳に入れる黄泉川。

警備員B「もうそろそろなんじゃないかな?」

警備員A「どこに配備されるんだ?」

警備員B「南ゲート、って聞いたけど」




黄泉川「!!!!!!!!!!」




その瞬間、黄泉川の表情が変わった。



769:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 23:27:14.73 ID:KbN0G8E0

警備員A「でもそのキャパシティダウン、最新式らしいからレベル0から果てはレベル5まで効くらしいぜ?」

黄泉川「…………っ」

警備員B「何か学生たちが可哀想な気もするけど、上層部が決めたもんはしょうがねぇよなぁ…………え?」

警備員A「どうした?」

警備員Bの視線を辿る警備員A。その先に黄泉川の後ろ姿があった。何故か、肩を小刻みに震わせていたが。

黄泉川「くくくく……」

警備員AB「???」

黄泉川「なるほど、そういうことか……。だから奴らはわざわざ南に逃げていたのか……っ!」

1人、笑いを零す黄泉川。

警備員A「……隊長?」

心配した警備員Aが後ろから声を掛ける。

黄泉川「命令を達す!!!」

警備員AB「!!!!!!」

突如、黄泉川が大声を出して振り返った。

黄泉川「全部隊を召集!! 直ちに作戦行動に移る!!! 同時に、件の研究所に協力を申請!!! 今すぐキャパシティダウンを搭載したトラックを配備させるよう伝えるじゃん!!!!」

警備員AとBがポカーンと口を開ける。

黄泉川「何してる!? さっさと動くじゃん!!!」

警備員AB「りょ、了解!!!」

不適な笑みを浮かべて黄泉川は叫ぶ。

黄泉川「我々も南に向かうぞ!!!!」



770:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 23:31:39.65 ID:KbN0G8E0

その頃。某学区・某病院では。

黒子「…………」ボーッ

とある病室。そのベッドの上に、窓から外の景色を眺める黒子の姿があった。
彼女は昨晩、美琴との戦闘後、黄泉川たちに回収されると右足の治療を受けるためこの病院に搬送されたのだった。

瞬間氷結「今頃黄泉川先生たちが頑張ってるところだよ」

黒子「…………そうですの」

瞬間氷結「………………」

側に座っていた瞬間氷結が話しかけるが、黒子は窓の外を見たまま心ここにあらずと言った口調で答える。

瞬間氷結「明日、君の友達が見舞いに来てくれるそうだよ」

黒子「…………そうですの」

彼女は病院に着いてからずっとこの調子だった。

瞬間氷結「…………」ハァ
瞬間氷結「…………飲み物を買ってくるよ。君はここで待っててくれ」

黒子「…………そうですの」

まるで壊れたロボットのように答える黒子。そんな彼女を見て瞬間氷結は一瞬やり切れない顔をすると、静かに病室を出て行った。

黒子「……………………」

再び病室が静かになる。
その瞬間だった。




「だからああああああ!!!! 金なんて持ってねぇええええんだって!!!!!!」




黒子「……………?」

病室の外から、静寂をぶち壊すような1つの下品でやかましい声が聞こえてきた。



771:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 23:34:37.22 ID:KbN0G8E0

「いえ、我々としても治療費を頂かないことには……」

「知るかよ!!! ここまで来た俺を勝手に治療したのはそっちだろうが!!!!」

何やら病院の医師と、態度が悪い患者が口論しているらしい。若干、後者の方が勢いで勝ってるようだが。

「では、その応急処置を施してくれた人の名前を……」

「施してくれただぁ? あっちが勝手に傷つけて勝手に応急手当しただけだよ!!! あのクソガキども……!!」

「ですから、その子供たちの名前は覚えてないんですか?」

「あああ? 確か『とうま』だの『みさか』だの言ってたなあ」


黒子「!!!!!!!!!!」


患者の言葉に目を丸くする黒子。病室の外もざわめついたようだった。

「そ、それは本当に『みさか』と名乗っていたのですか!!??」

医師が慌てるように訊ねている。

「もしかして下の名前は『みこと』ではありませんでしたか!?」

「ああ、そういやそんな名前も聞いた気が……」



772:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 23:36:52.96 ID:KbN0G8E0

「そ、その『みさかみこと』は今アンチスキルが全力で追ってる犯罪者ですよ!!!!」

「ああああ? 誰だよそりゃぁ。こっちは数年世俗とは離れてるんだっつーの」

「た、大変だ……まさか『みさかみこと』に会っていただなんて……!」

黒子「……………………」

ベッドから降り、黒子は僅かにドアを開けるとそこから外を窺った。
松葉杖をついた浮浪者らしき男と、慌てた様子の医師や看護士の姿が見えた。

浮浪者2「金はもういいのかよ?」

医師「そんなことよりアンチスキルに連絡せねば……!!」

黒子「(……御坂美琴。また怪我した他人を治療でもしたんですの……)」

外の様子を眺めながら黒子は胸中に思う。

黒子「(……ま、もう私には関係の無いことですわ……)」

ドアを閉め、ベッドに戻ると、黒子は再び窓の景色を眺め始めた。

黒子「(……それに……どうせ……私はもう………)」

彼女の生気のない目が、夕焼けに染まり始めた空を見つめていた。



794:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 06:16:11.15 ID:W6iBUog0

学園都市・南ゲート――。

キキッと音を立て、大所帯でやって来た黒塗りの自動車や装甲車が慌てたように一斉にストップする。

バンッ!!!

その中のうち、数台の装甲車の後部扉が同時に開き、中からザザザと規則正しい動きで黒ずくめ姿の武装兵たちが次々と飛び出してきた。胸にアサルトライフルを構え機敏な動きで部隊を展開する彼らの正体はアンチスキルだ。

黄泉川「行け行け行け行け行け行け行け!!!」

装甲車の側に立ち、車内から飛び出してくる警備員たちを促すのは指揮官の黄泉川だ。

黄泉川「事態は一刻を争うじゃん!!!」

彼女の指示により南ゲート付近はあっという間にアンチスキルの部隊によって埋められた。

黄泉川「……よし」

その様子を見て小さく頷くと黄泉川はスピーカーを取り出して叫び始めた。

黄泉川『アンチスキルじゃん!! 今からこの南ゲートは我々が封鎖することになった!! ここに並ぶ全ての自動車は今から我々の検分を受けてもらうじゃん!! その後異常が無ければUターンして、別ゲートから『外』に出て行ってもらって構わない!!』

それを聞いた途端、自動車を運転していたドライバーたちから不満の声が沸き上がった。何台かはクラクションを鳴らしている。

黄泉川『黙れ!!!!』

キーンとスピーカーがハウリングする。一斉にドライバーたちは静かになった。

黄泉川『御坂美琴を逃すわけにはいかない。協力してもらうじゃん』

言って黄泉川は側にいた部下にスピーカーを預けると、隷下部隊指揮官の下へ歩いていった。

黄泉川「5班と6班は自動車の検分、7班と8班はその護衛及び周囲の警戒。1班と2班はいつでも車をスムーズに動かせるよう配備しとくじゃん」

班長「はっ!!!!」

横に並んだ班長たちが一斉に返事をする。



796:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 06:20:17.18 ID:W6iBUog0

警備員「隊長!!」

黄泉川「ん?」

と、そこへ1人の警備員が叫びながら走ってきた。

警備員「来ました!! 例のトラックが!!!」

言って警備員は指を指す。

黄泉川「来たか」

黄泉川が視線を向けた先……そこに、ごつい形をしたトラックが警備員の誘導によって近付いて来るのが見えた。

班長「おおお」

班長たちが感嘆の声を上げる。

警備員「あれが……」

黄泉川「最新型のキャパシティダウンを搭載した車両――『キャパシティダウンキャリアー』だ。無理を言った甲斐があったじゃん」

トラックを見て満足そうな笑みを浮かべる黄泉川。
そんな彼女に警備員は訊ねる。

警備員「しかし、話に聞くと御坂美琴は能力を失ってるようですが……わざわざ配備を早める必要があったんでしょうか」

黄泉川「『不安定な自分だけの現実(UPR)』は別に演算能力を失うわけではないじゃん。能力を実現化出来ないだけ。だからどの道効果はある。レベル0の無能力者なら話は別だが、奴は何だかんだ言ってレベル5の超能力者。能力を一時的に使えなくなってても特に問題は無いじゃん」

警備員「なるほど。これなら鉄壁ですね。今、アンチスキル最強の男もこちらに向かっていると聞きますし」

黄泉川「ふん。これで御坂美琴も終わり……忌々しい雷も、雨雲さえ消えてしまえば恐れる必要は無いってわけじゃん」

言って黄泉川は不適な笑みを浮かべた。



797:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 06:23:21.45 ID:W6iBUog0

その頃・某学区にて――。

通りの端に設置された1台の公衆電話ボックスの中。

上条「ああ、そうか……分かった」

そこに、上条の姿があった。

上条「よし、じゃあそうしよう。こっちもそのつもりで動く」

受話器を耳に当て話しながら、上条は外を見る。

上条「ああ、頼む」

目を鋭くさせ、上条は答えた。



799:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 06:28:06.84 ID:W6iBUog0

学園都市・南ゲート前――。

黄泉川「来ないな……」

組んだ腕の上で指を規則的に叩きながら黄泉川は呟いた。

黄泉川「一応この付近にも捜索部隊を出してるんだが……」

美琴と上条を待ち伏せるため、黄泉川の部隊が南ゲート手前で部隊を展開してから既に1時間と30分が経過していた。

警備員「例の医師から通報があった地下鉄ですが……結局ホームレス2人以外に何も見つからなかったようですね……。あ、拳銃は一丁見つかったようですが」

黄泉川「うむ……」

部隊を展開してから30分後のことだった。最寄りの支部経由で、美琴の目撃情報が入った。何でもその情報提供者によると、病院に足の治療を受けにきた浮浪者が、美琴と一緒にいた少年に拳銃で撃たれたとの話だった。

黄泉川「奴らめ……どこにいるじゃん」

それを聞いた最寄りの支部は直ちに隷下部隊を件の地下鉄に派遣、美琴と上条を捜索させたが、結局発見出来たのは怯えたホームレス2人と拳銃一丁のみ。美琴と上条の姿は既にどこにもなかったとのことだ。

黄泉川「今までの逃走経路に合わせて地下鉄のルート。それらの要素を合わせて考えれば、奴らは今すぐにでもこの南ゲートに現れる可能性が高いと思ったが……どこかで読み違えたか……」

夕焼けに染まっていた空には、群青色が混ざり始めている。なるべく早く美琴を捕まえたいと思っていた黄泉川は、これまでのことも相まって苛立ちが募りに募っていた。

黄泉川「早く来るじゃん」イライライラ

が、目の前の道路には検問のことも知らずやって来た自動車が数台並んでいるだけで、それ以外には猫の子1匹すら見当たらなかった。

警備員「隊長、少し休憩を入れてみては?」

見かねた部下の警備員が提案する。

黄泉川「休憩してる間に、もし奴らが現れたらどうするじゃん」

警備員「………………」

何も言い返せなくなる警備員。



800:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 06:32:20.50 ID:W6iBUog0

黄泉川「……………………」
黄泉川「………ま、休息あってこそ有事に動けるもんだな」

警備員「え、ええ」

表情を緩め、警備員にそう答えると黄泉川は踵を返した。

黄泉川「分かった。10分ほど休むじゃん。異常があったらすぐに呼べ」

警備員「了解」

言って黄泉川がトレーラー型の装甲車に向かおうとした時だった。

ィィィィィィィィィィ………

黄泉川「ん?」ピタ

ィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン……

黄泉川「待て」

警備員「は?」

ィィィィィィィィン………

黄泉川「バイク?」

警備員「え?」

どこからともなく、バイクの走行音が聞こえてきた。



801:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 06:34:50.30 ID:W6iBUog0

ィィィィィィィィィン………

黄泉川「近付いてくるな……」

音は徐々に大きくなっている。


ィィィィィィィィィィィィン……


と、次の瞬間だった。




イイイイイイイイイイイイイイイン!!!!!!!!!!




黄泉川「!!!!!!!!」

背後から聞こえたバイクの音に驚き、振り返る黄泉川。

黄泉川「………………」

その一瞬、検問に並んだ自動車の横を通り抜けて、警備員の制止も無視してそのままU字路を駆け抜けていくオートバイが………そして、どこか見覚えのある姿格好でそれを運転する少年と後部座席に座る少女の姿が………





黄泉川「…………っ!!」





――目に入った。



802:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 06:37:40.75 ID:W6iBUog0

黄泉川「いたぞおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」




警備員「えっ?」

黄泉川「御坂美琴と上条当麻じゃん!!!!!」

警備員「ええっ!!!???」

咄嗟に走り出す黄泉川。

黄泉川「1班2班、出動準備!!! 今逃げたバイクを追うじゃん!!!!」

走りながら黄泉川は無線に指示を入れる。

黄泉川「7班と8班も準備が整い次第、直ちに我々の後に続け!!! 5班6班は引き続きこの場に残って検問作業!!! 以上だ!!!!」

『了解!!!!』

ノイズに混じって、8人の班長たちが一斉に返答する。

黄泉川「来い!!! 奴らを追うじゃん!!!!」

そこら辺に立っていた警備員たちを走りながら叩き、促す黄泉川。

黄泉川「せっかく巡ってきたチャンス!! 逃すわけにはいかないじゃん!!!」

言って黄泉川は1台のアンチスキルの自動車の助手席に乗り込む。

黄泉川「他の連中は!?」

運転手「既に出発してますよ!!!」

黄泉川「さすが優秀な連中だ。我々も負けてられない。逃げたネズミを捕まえるじゃん!!!!」

運転手「了解!!!」

黄泉川を乗せた自動車が出発する。



803:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 06:41:24.14 ID:W6iBUog0

『止まりなさい!!! 止まりなさい!!!!』

『そこのバイク!!! 今すぐ道の端に寄せて止まりなさい!!!!』

『止まりなさい!!! これは警告である!!!!』

けたたましいサイレンとスピーカーの声が鳴り響き、3台のアンチスキルの車が道路を驀進する。

上条美琴「………………」

イイイイイイイイイイン!!!

彼らが追うは、美琴と上条が乗る1台のオートバイ。

『止まれ!!! 止まれ!!! これは警告だ!!!!』

もちろんバイクは止まることなく寧ろスピードを上げつつあった。

警備員「こちら1班。現在、御坂美琴と上条当麻が乗車するオートバイを追跡中。発砲許可求む」

無線に吹き込む警備員。

黄泉川『周囲の安全を確認し、警告をした上でのみ認めるじゃん』

すぐに黄泉川から返事が返ってきた。

警備員「了解」

無線を切り、警備員は隣の運転手に話しかける。

警備員「なるべく市街から離れるよう奴らを追い詰めるぞ」

逃げる美琴と上条を確実に捕まえるため、3台の車は更にスピードを上げる。

イイイイイイイイイイイイン!!!!!!

美琴と上条が乗ったオートバイは十字路に差し掛かる。
と、そこでオートバイはまっすぐ進むかと思われたが、その直前………


キキィィィィーーーッ!!!!


と甲高い音を発生させ、左に急カーブした。



804:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 06:45:22.59 ID:W6iBUog0

警備員「何っ!?」
警備員「クソッ! 左だ!! 左に行けっ!!!!」

キキィィィッーーーー!!!!

タイヤが悲鳴を上げるようにスリップし、車が無理矢理な姿勢で方向転換する。

ドォォォォン!!!!

と、その1台目の車の後部左側部分に、続いて追ってきた2台目の車のバンパーが軽く衝突した。

警備員「チッ!!! 構わん行け!!!」

衝突したことを気にもせず、1台目の車はオートバイを追うため再び発進する。やがて2台目の車も同じく方向転換して後に続こうとしたが、それも叶わなかった

ドォォォン!!!

道の真ん中で止まっていた2台目の車を避けようと、右ハンドルを切った3台目の車の横っ腹が、その後部に衝突したのだ。
そこからは芋ずる式だった。

ドォォォォォン!!!

対向車線に、垂直に車体を乗り上げるように停車していた3台目の車のバンパーの左側部分に、反対側からやって来た一般車両が衝突した。

キキィィッ!!!!! 

そして急停車したその一般車両を避けようと後からやって来たまた別の一般車両が右にカーブを切り………

ドォォォン!!!!!

動けずに止まっていた2台目のアンチスキルの車のバンパーに衝突した。

プププッーーー!!!!

プアッ!!! プアッ!!!! プププーーーーーッ!!!!

四方面からやってきた何台もの自動車が、道を遮られたことでクラクションを鳴らし始めた。瞬く間にその場に渋滞が巻き起こり、取り残された2台のアンチスキルの車は身動きが取れなくなってしまった。



805:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 06:49:35.15 ID:W6iBUog0

一方、無事渋滞に巻き込まれる前に一足早く十字路を脱出していた1台目のアンチスキルの車は、黄泉川を乗せた車と合流していた。

イイイイイイイイイイン!!!!!!!!

2台が追うのは、これだけの迷惑を起こしておきながらいまだ飄々と逃げ続ける上条と美琴が乗ったオートバイ。

黄泉川『これは警告である。これは警告である。そこのバイク、今すぐ止まるじゃん!!! 止まらなければ撃つ!!!!』

上条美琴「「………………」」

もちろん美琴と上条は聞いていない。寧ろわざと無視しているようにも見える。

黄泉川「チッ…舐めやがって……っ!」
黄泉川『これは警告だ!!!! そこのバイク止まれ!!!! 止まらないと撃つ!!!!』

上条美琴「「……………………」」

黄泉川「やれ」

警備員『了解』

無線を通して黄泉川から命令を受けた、1台目の車の助手席に座っていた警備員が、窓から身を乗り出しその両手に拳銃を構えた。

パァン!!! パァァン!!! パァァン!!!!

容赦なく警備員は、オートバイのタイヤを狙って発砲した。

イイイイイイン……

と、ほんの少しバイクの速度が緩んだ。

黄泉川「やったか!?」

イイイイイイイイイイイイン!!!!!!!

が、追跡車両を嘲笑うかのようにバイクはまたもスピードを上げた。

黄泉川「クソッ!!!」

警備員「……しぶとい奴め」

パァン!!! パァァン!!! パァァン!!!!

再び警備員はタイヤを狙って撃つ。

イイイイイイイイイイン!!!!!!

だが、バイクは僅かに蛇行するだけでスピードを落とす気配は無い。



806:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 06:53:20.54 ID:W6iBUog0

イイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!!!!!

黄泉川「あっ!!」

と、そこでオートバイは歩道に乗り上げた。

黄泉川「クソッ……歩道は人が通るから撃てないじゃん!!」

黄泉川は苦虫を噛み潰したような顔になる。

イイイイイイイイイイイイイイイイン!!!!!!

一方、オートバイは歩道を驀進する。最終下校時刻を過ぎていたため、人が少ないのは幸いだったが、歩道を歩く人々にしてみれば只事ではなかった。

「うわ!」

「ちょっ」

「きゃあ」

「ひょえっ」

「わああ!」

避ける通行人たちの間をバイクは華麗にすり抜けていく。
そのバイクに拳銃を向ける黄泉川だったが………

黄泉川「チッ…ダメじゃん。これでは撃てん」

イイイイイイイン………

と、そこで歩道も途切れのか再びオートバイが道路に戻ってきた。

黄泉川「よし!!」

警備員「バカめ。わざわざ撃たれに戻ったか!!!!」

窓から身を乗り出し、警備員が発砲しようとする。

イイイイイン……

と、その時バイクのスピードが急激に落ち、追跡車両との距離が縮まった。

警備員「?」

黄泉川「何だ?」

その様子を後ろの車から訝しげな目で窺う黄泉川。



807:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 06:57:16.43 ID:W6iBUog0

上条美琴「「………………」」

警備員「?」

やがてバイクは1台目の車と並走するぐらいに、スピードを落としてきた。

警備員「!」

そこで警備員はバイクの後部座席に乗っていた少女と目が合った。

美琴「………」ニコッ

笑っていた。ヘルメットのバイザー越しだが、確かに彼女は笑っていた。

警備員「………っ」
警備員「……バカにしやがってえええええええええ!!!!!!!!!!」

パァン!!! パァァァン!!!! パァァァン!!!!!

窓から腕を出し、警備員は苛立ち紛れに発砲する。
が、バイクはスススとスピードを上げ、また車の前に躍り出てきた。

警備員「あのやろおおおおおおお!!!!!! 絶対捕まえてやる!!!! スピード上げろ!!!!」

怒り心頭した警備員は隣の運転手に怒鳴る。

黄泉川『1号車!!! 挑発に乗るな!!!! 今すぐ速度を落とせ!!!!』

黄泉川の声が無線からこだまする。

警備員「あいつを捕まえろ!!!! 追え!!!! 追え!!!! 追ええええええええ!!!!!! スピード上げろ!!!!!」

が、警備員は聞いていなかった。



808:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 07:00:29.13 ID:W6iBUog0

と、その時だった。

黄泉川「!!!!!!!!」
黄泉川「危ない!!!!!」

警備員「!!!???」

プアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!

再び十字路に差し掛かった時、バイクを追う1台目の車の右手から、トラックが飛び出してきた。

警備員「よけろおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!」

運転手「…………っ」

慌てて右ハンドルを切る運転手。車が右に曲がり車体の右半分が僅かに浮かび上がる。
運転手は一か八か、トラックの右手に滑り込もうとハンドルを限界まで回す。

ガァン!!!

バンパーの右側部分がトラックの右ヘッドライト付近と衝突し、そのまま砕け散る。

キキキイイイイイイイッ!!!!!!

と嫌な音が鳴り響き、その衝撃で横転状態となった車は道路を滑っていった。

ドォォォン!!!!!!

やがてスピードを減らしていった車は電灯のポールにぶつかるとそこで停止した。

シュウウウウウウ………

運転手「………ハァ…ハァ…ハァ…」

警備員「………クソッ!!!」ガンッ!!

警備員は悔しそうに、助手席のグローブボックスを叩いた。



809:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 07:03:18.47 ID:W6iBUog0

ィィィィイイイイイイイイイン!!!!!!!!

一方、オートバイを追う黄泉川は。

黄泉川「4号車と5号車、現在位置を報告せよ」

『こちら4号車、現在123番通りを西に向かって走行中』

『こちら5号車、同じく123番通りを西に向かって走行中』

黄泉川「了解。なるべく早くこちらと合流せよ」カチッ

そこまで言って無線を切る黄泉川。

黄泉川「さあ、ここまでやった分、落とし前つけてもらうじゃん!!! 御坂美琴!!! 上条当麻!!!」

彼女は前方を行くバイクを見据える。

イイイイイイイイン……バンッ!!!!

………ィィィイイイイイン!!!!!!

坂道を駆け上ったところでジャンプし、一瞬空中で停止すると再びバイクは地面にタイヤをつけ走り始める。

ブオオオオオオオン……バンッ!!!!

………ブォオオオオオオン!!!!!!

同様に黄泉川を乗せた車も坂道を駆け上ったところでジャンプし、一瞬空中で停止すると再び地面にタイヤをつけ走り始める。

パァァン!!!! パァァァン!!! パァァン!!!!

箱乗りし、バイクに向かって発砲する黄泉川。

イイイイイイイイイイイイン!!!!!!

だが、バイクは一向に止まる気配は無い。

黄泉川「何故……当たらないんじゃん!!!!」

言って黄泉川は後部座席からアサルトライフルを取り出すと、今度はそれをバイクに向けて発砲し始めた。

ダカカカカカカカカカカカカ!!!!!! ダカカカカカカカカカカカカカン!!!!!!

容赦なく、黄泉川はライフルを掃射する。



810:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 07:07:16.48 ID:W6iBUog0

黄泉川「チッ……もっとスピード上げろ!!!!」

車は更にバイクに近付く。

ダカカカカカカカカカ!!!!! ダカカカカカカカカカン!!!!!!

黄泉川「何であいつらには弾が当たらないんだ!!!!」

苛立ちを露にしながら身体を引っ込める黄泉川。

黄泉川「にしてもあいつら……南ゲートからどんどん離れていってるじゃん。いよいよ自棄になったか? ……ふん、まあどの道私の手から逃れられはしないけどな!!!!」

ィィィイイイイイイイイイイイイイン!!!!!!

逃走するオートバイ。

ブオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!

それを追跡するアンチスキルの車両。

黄泉川「地獄の底まで追いかけてってやるじゃん!!!」

上条美琴「「……………………」」

両者は決して譲らない。



811:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 07:10:16.92 ID:W6iBUog0

と、その時だった。



カンカンカンカンカンカン………



黄泉川「ん?」



カンカンカンカンカンカンカンカンカンカン………



黄泉川「何だ?」

遠くから聞こえてくる機械的な音に気付き、怪訝な表情を浮かべる黄泉川。

黄泉川「あれは………」

逃げるオートバイの先――目をこらしてみると、そこに点滅する赤い光が見て取れた。

黄泉川「!!!!!!!!!!」




カンカンカンカンカンカンカンカンカンカン!!!!!!!!




黄泉川「踏み切り……っ!!」



812:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 07:14:57.41 ID:W6iBUog0

彼女が叫んだ通り、進行方向に1つ、大きな踏切がその姿を現した。そして前を走るバイクは一直線にそこを目指していて………

黄泉川「我々を振り切るつもりか……っ」

現状、電車はまだ遠くを走っているし、警報音が鳴ってるだけで遮断機は降りていない。タイミングが合えば黄泉川の車両を振り切ることが出来るが、失敗すれば恐らくは逆の結果が待っている。
どちらにしろ、黄泉川はここで諦めるつもりはなかった。

黄泉川「スピード上げろっ!!」

ブオオオオオオオオオオオオン!!!!!!

イイイイイイイイイイイン!!!!!!!!

車とオートバイが同時に速度を上げた。前者は、オートバイを捕らえるため。後者は、踏切を利用して追っ手を振り切るために。



カンカンカンカンカンカンカンカン!!!!!!!!



遮断機がゆっくりと下りてくる。

イイイイイイイイイン!!!!!!

バイクの速度が更に上がる。
そして………

ガタンゴトンガタン……

遂に、電車が踏み切りに近付いてきた。

ゴトンガタンゴトン……ゴトンガタンゴトン……

電車がレール上を走る音が徐々に大きくなっていく。



813:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 07:17:59.96 ID:W6iBUog0

上条「…………っ」

イイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!!!!!!!!!

それと共にバイクも更にまだ速度を上げていく。

黄泉川「止まるな!!! 行けえええええええええ!!!!!!!!」

ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!

それと共に黄泉川を乗せた車も更にまだ速度を上げていく。

ガタンゴトンガタン!! ガタンゴトンガタン!!! ガタンゴトンガタン!!!! ガタンゴトンガタンゴトン!!!!!!

けたたましい音を鳴り響かせながら、電車がその姿を露にした。踏み切りの赤いライトがそのボディに映える。

ゴンッ!!

黄泉川「!!!???」

と、その時、バイクに追いついた車のバンパーがその後部に衝突した。

イイイイイイイイイイイイイイン!!!!!!!!


バキッ!!!!


まるでそれを発射台にするかのようにバイクは遮断機を真っ二つに割り、踏切に突っ込んでいった。





黄泉川「―――――――――」





上条美琴「「―――――――――」」





電車の前を、飛ぶように横切る1台のオートバイ。そのシルエットが電車のライトによって暗闇に浮かび上がる――。



814:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 07:21:39.29 ID:W6iBUog0

プアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!!!!!




耳をつんざくような警告音が鳴ったかと思うと、オートバイは既に踏み切りの向こうへ着地していた。

黄泉川「止まれえええええええええええええ!!!!!!!!」

運転手「…………くっ!」

キキキキキキキイイイイイイッ!!!!!!!!

摩擦音を響かせながら、黄泉川を乗せた車が横滑りする。このまま突っ込めば、猛スピードで走る電車にまともに衝突するのは必至。

キキキキィィィィィィッ!!!!!!

黄泉川「……………っ」

キキキキィィィィィィ………

車内が揺れに揺れ、窓の外の景色が遊園地のコーヒーカップに乗っているかのように巡る。



815:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 07:23:20.75 ID:W6iBUog0

ィィィィィッ………

黄泉川「…………っ!?」



ピタッ………



ガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトンガタン………




黄泉川「………っ……ゼェ……ハァ……ゼェ……ハァ……ゼェ……」




顔から大量の冷や汗を流しながら、黄泉川は大きく肩で息をする。

運転手「ハァ……ゼェ……」

隣に座る運転手も同様だった。
黄泉川が乗る車は、線路に対して平行に並ぶように、踏み切りに立ち入るか否かの僅かな位置で停車していた。

カタンコトンカタンコトン………

電車が走る音が小さくなっていく。

黄泉川「ハァ………ゼェ……」

生きている感触を確かめるように、黄泉川はただ、息を吐き続けた。
電車が過ぎ去った踏み切りは、今までの喧騒が嘘かのように静まり返っていた。



816:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 07:28:01.69 ID:W6iBUog0

一方、追っ手を撒きに撒き、逃走を続けていた上条と美琴を乗せたバイク。

『止まりなさい!!! 今すぐ止まりなさい!!』

『これは警告である。 今すぐ止まりなさい!!』

遂に彼らも潮時を迎えたのか、新たに現れた2台のアンチスキルの車両に追い詰められていた。

イイイイイイイイイン!!!!!

横道を入っていくオートバイ。

ブオオオオオオオオオオオン!!!!!

それを追いかける2台の車両。

イイイイイイン………

と、急にバイクが速度を緩めていった。

イイイイイン………

キキッ……

軽く横滑りして唐突に停車するバイク。

上条「……………………」

美琴「……………………」

彼らが止まったのも無理も無かった。その先は行き止まりだったのだから。



817:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 07:30:48.14 ID:W6iBUog0

キキッ……!

警備員「手を挙げろ!!!!!!」

と、追いついた2台の車から、完全武装したアンチスキルがざっと10人ほど降り立ってきた。

警備員1「手を挙げろ!!!! 挙げろ!!!!」

警備員2「挙げろ!!!! 手を挙げろ!!!!!」

警備員3「妙な真似をすると撃つ!!!」

停車したオートバイに一斉にライフルを向け、警備員たちは叫びまくる。

上条「…………………」

美琴「…………………」

バイクに乗っていた上条と美琴は互いの顔をチラッと見る。

上条「……………」コクッ

美琴「……………」コクッ

頷き合う2人。彼らはゆっくりと両手を挙げる。どうやら観念したようだった。

警備員「いいぞ! そのまま!! 手を挙げて…………おい! 何をしている!?」

カチャカチャカチャ……チャキッ!!!

班長らしき警備員の声に反応するように、10人の警備員たちがライフルを構え直す。



818:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 07:33:37.66 ID:W6iBUog0

上条「……………………」

美琴「……………………」

と言うのも、一瞬、両手を挙げ観念するかと思われた上条と美琴はヘルメットに手を添えていたのだ。

警備員「みょ、妙な真似をすると撃つぞ!!!」

焦って怒鳴る警備員。
と、そんな警備員を嘲笑うように、ヘルメットを取りながら上条が久しぶりに口を開いた。





上条「いやー……まさかここまで上手くいくとはにゃー」





警備員「!!!???」



上条「わざわざアンチスキルの前に姿を見せた甲斐があったってもんぜよ」



警備員「…………は?」

警備員は咄嗟に思う。何かがおかしい。何か違和感があると。
と、後部座席に座っていた美琴が、上条の言葉に答えるようにヘルメットを取りながら言った。





美琴「ふふふ、私も褒めてほしいかも。これでもバイクに乗ってる時はドキドキしてたんだよ!」





警備員「……………え」



819:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 07:39:00.49 ID:W6iBUog0

違う。明らかに違う。何が違うかと言われればすぐに説明は出来ないが、確かに何かが違った。

警備員「…………お前ら……何者だ……」

呆然と、警備員は率直に思ったことを訊ねる。

上条「………………」フッ

美琴「………………」クスッ

やがて、上条と“思われた”少年と美琴と“思われた”少女はヘルメットを取りその素顔を露にした。



上条「どう見たって上条当麻ぜよ。それともちっとばかり変装が下手だったかにゃー?」


美琴「髪を切って染色までして変装した私の方が、上手だったってことなんだよ!」



警備員「…………な………」

確かに、そこには上条当麻と御坂美琴がいた。
服は捜査本部で渡された資料の写真と同じもので、髪にしても、上条当麻と思われる少年の方はツンツン頭の黒髪。御坂美琴と思われる少女の方はシャンパンゴールドの肩までかかるショートヘアと、両方とも本人のものだった。
しかし………




警備員「顔が違う………」




上条「つまりはそういうことぜよ。ここまで追跡ご苦労さん」

警備員「じゃあ、本物は一体どこに………?」

美琴「さあ? でも2人ともここにいないのは確かなんだよ」

言って、上条と“思われる”少年と美琴と“思われる”少女はニヤリと笑みを浮かべた。



820:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/23(木) 07:43:28.27 ID:W6iBUog0

その頃・南ゲート付近――。

「……大分警備員の数も減ったわね」

「……ああ、インデックスと土御門が囮になってくれたお陰だ」

物陰から、ゲート近辺に展開するアンチスキルの部隊を窺いながら、1人の少年と1人の少女は顔を見合わせる。





上条「さあ、いよいよ脱出だ」


美琴「ええ」





本物の上条当麻と本物の御坂美琴――彼らは互いの顔を見て頷き合う。遂に訪れたその瞬間を目前にして――。



881:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 00:55:14.41 ID:YvXLnLQ0

警備員「本物は……ここにはいない……だと……?」


上条「だから何度もそう言ってるぜよー」

正面に布陣する10人の警備員たちにライフルを向けられていても、上条と“思われる”少年――もとい上条の変装をしていた土御門は平然と答えた。

土御門「あんたらはまんまと変装した俺たちに騙されてここまでついてきたってわけ」

美琴「レースやってるみたいで楽しかったんだよ!」

土御門の隣に立つ、美琴と“思われる”少女――もとい美琴の変装をしていたインデックスが純粋な笑顔を浮かべて言った。

インデックス「後でレースに勝ったご褒美にステーキ屋さんの食べ放題券欲しいかも!」

警備員「なっ……」

余裕綽々の表情を浮かべ目の前に立つ2人を見て、班長らしき警備員のこめかみに青筋が浮かぶ。

警備員「ふざけるな!! 変装はともかく、お前らみたいな子供が我々アンチスキルの追跡車両をことごとく振り切ったと言うのか!?」

土御門「そういうことになるな」

警備員「バカな……! ……いや、待てそうか。お前らさては能力者だな? だから被弾することもせずここまで逃げ切れたのか……っ!」

その言葉を聞いたインデックスが必死に否定する。

インデックス「それは違うんだよ! 今来日してた知り合いの魔術師に頼んで『弾除け術式』をバイクに掛けてもらったんだよ! あと、もしバイクが事故を起こした時のためにって、身体の傷の度合いを極力減らす『抑傷術式』も私たちの身体に掛けてもらったんだよ! 本当は絶対に事故らない魔術が良かったんだけど、さすがにそこまで都合が良いものはなかったから……」

警備員「は?」

警備員たちが何を言ってるんだ、と言いたげな表情を作る。

インデックス「だから学園都市の能力とは一緒にしないでほしいかも!」

少々機嫌が悪そうな顔でインデックスは抗議する。

土御門「無理無理。こいつらにそんなのが理解出来るわけがないぜよ」

言って土御門はインデックスの頭を軽く叩く。

インデックス「それは心外かも」ムー

そこで土御門は、警備員たちに顔を向け、どや顔で語る。

土御門「とにかく、お前らが探してるお2人さんはここにはいないぜ? 今頃既に学園都市の『外』に逃げてるはずぜよ」



882:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 00:59:12.83 ID:YvXLnLQ0

警備員「!!!!!!」

土御門「……まあ、その場合は仲間の魔術師から連絡があるはずなんだが……にしても遅いな」ボソボソ

ほんの数秒ほど、土御門は小声で独り言を唱えながら険しい顔を浮かべた。

警備員「そうか……ならもういい……」

土御門インデックス「?」

プルプルと、班長が身体を震わせながら呟く。

警備員「こいつらは御坂美琴の仲間だ……。……発砲を許可する!!!」

遂に班長は怒りが頂点に達したようだった。

土御門「ありゃりゃー」

警備員「見たところこいつらは丸腰………俺が許可する……」
警備員「撃てええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!」

遂に、発砲命令が下された。

土御門「おたくら本当に俺たちが追い詰められたと思ってた? 全くもって逆ぜよ」

ダカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカ!!!!!!!!!!!

が、土御門の言葉を掻き消すように警備員たちのアサルトライフルが一斉に火を吹いた。

土御門インデックス「……………………」

幾数もの弾丸が生身の土御門とインデックスに向かい飛んでいく。





「イノケンティウス!!!!!!!!」





ゴオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!

警備員「!!!???」

突如、警備員たちの視界を覆うように、正面に炎の壁が現れた。



883:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 01:02:36.69 ID:YvXLnLQ0

警備員「何だあれは!!??」

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!

そして炎の中に出現する人型のようなシルエットをした怪物。

警備員「クソッ! 撃て! 撃て!! 撃てえええええええええええ!!!!!!!!」

一瞬、怯んだ警備員たちだったが、班長の命令を受けて再び引き金を引いた。

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!

しかし、炎の怪物は音速で飛ぶライフル弾も全て一瞬で溶かしていく。



「残念だが君たちの攻撃は『魔女狩りの王(イノケンティウス)』には効かない。諦めることだね」



やがて、炎の勢いが静まると、その向こうに1人の長身の男が姿を現した。

警備員「誰だ貴様は!!??」


「うん? 僕かい?」


赤い髪に、耳元にピアスをいくつもつけ、右目の下にバーコードのような刺青を入れたその男は、口元に煙草を咥えながら余裕の笑みを作る。





ステイル「ただのしがない魔術師だよ?」





突如その場に現れた魔術師ステイル=マグヌスは、その顔にユラユラと炎の灯りを映えながら答えた。



884:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 01:06:59.29 ID:YvXLnLQ0

その頃、学園都市・南ゲート付近では――。

美琴「ねぇ……」

上条「何だよ?」

ゲート近くにある建物の陰で、美琴は側にいる上条に訊ねた。

美琴「あんたの知り合いの魔術師ってまだなの?」

上条「うーん、おかしいな……そろそろ来てもいいんだけど」

焦りの色を見せながら、上条は建物の物陰からそっとゲート付近を窺う。

美琴「アンチスキルたちの動きが何か慌しくなってるよ」

上条「多分、インデックスと土御門の囮が上手くいった証拠だろう。今頃はステイルと合流してるはず……」

上条たちは今、インデックスや土御門との共同作戦の真っ最中で、その一環としてこの場に留まっていた。
インデックスと土御門が、囮になるためにそれまで上条たちが着ていた服に着替えたため、上条と美琴は土御門たちが『外』で買ってきた新しい服を身に纏うことになった。そのお陰からか、彼らの以前の姿格好を知っていた警備員たちの目はある程度誤魔化すことが出来、ここまで来れたのだった。

美琴「でも早くしないとアンチスキルに対策取られちゃうよ! 知り合いの魔術師がゲートに展開してる警備員たちを倒してくれるんじゃなかったの!?」

上条「………………」

上条は美琴の顔を見る。

美琴「………」ジッ

不安で一杯の表情をしていた。
実は、当初の予定では上条と美琴に変装したインデックスと土御門が、アンチスキルの主力部隊を引き付けている内に、上条たちが知り合いの魔術師と合流、そしてその魔術師の力を借りて南ゲートを突破する予定だったのだが………

美琴「まさか道に迷ってるんじゃ……」

一向にその魔術師は姿を現さなかった。

上条「いや、あいつならすぐにでも俺たちの姿を発見出来てるはず。……信用出来る相手だし、もしかしたら何か異常事態が起こって来れなくなってるのかも……」

美琴「そんなっ…!」

上条「取り合えずもう少し待とうぜ」

焦る美琴に上条は冷静に言う。

美琴「だ、だって! 失敗したらもう……」

上条「大丈夫だから。あいつは必ず来るから」

安心させるように上条は美琴の肩を優しく叩くが、彼女の不安そうな表情は消えなかった。ただ、脱出を前にして作戦に陰りが出てこれば無理も無かった。何しろ彼女はこの数日間、ここ学園都市に存在しているだけで酷い目に遭ってきたのだから。



885:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 01:11:12.09 ID:YvXLnLQ0

上条「………………」

上条は南ゲート付近を再び窺う。確かに、先程より警備員たちの行動に慌しさが目立つ。もしかしたら、囮になって上条と美琴に化けていたインデックスと土御門が本人ではないことに気が付いた追跡部隊の警備員が、報告を入れたのかもしれない。

上条「………………」

そう考えると上条も少し不安になったが、合流予定の魔術師は今ぐらいの彼我の戦力なら簡単に覆せる実力を持つ。故に、上条は美琴ほど不安ではなかったのだが、彼女の浮かべる暗い顔は見てられなかった。

上条「とにかくあいつはすごい奴だからさ。心配すんなって」

ゲート付近を見つめながら、上条は背後にいる美琴に語りかける。

上条「お前だってレベル5の超能力者なんだから分かるだろ? その実力の程が。つまりはあいつもそれと同等、もしくはそれ以上の実力を持ってんだ」

しかし、美琴は何も答えない。

上条「だからここは安心することだ」

しかし、美琴は何も答えない。

上条「お前、聞いてるのか?」

ゲートから視線を外し、上条が顔を戻した時だった。

上条「みさ…………」

その瞬間、彼の表情が固まった。まるで、突然出没した怪物を見るように。

上条「……………か」



886:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 01:14:26.47 ID:YvXLnLQ0

上条のその反応も当然だった。ケロイド状と化した右目に白く光る眼球を浮かべ、左腕から光線のようなアームを伸ばした若い女が、人質をとるように右手で美琴の身体を掴んでいたら。

美琴「とう……ま……」ガクガクブルブル





「久しぶりだなぁ超電磁砲!!! 会いたかったぜぇ!!!!!!」





上条「……………………」

呆然と口を開ける上条。





麦野「ああ、あんたが超電磁砲の男ってわけ? ふーん? で、どうする? あんたの目の前で彼女焼いちゃっていい?」





上条「…………っ!?」

突如その場に現れた闖入者――学園都市第4位の実力を持つレベル5の超能力者・麦野沈利は、片目が潰れた顔に不気味な笑みを浮かべた。



891:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 01:19:36.65 ID:YvXLnLQ0

バンッ!!!


と、音を立て扉が開けられた。

運転手「隊長!!!」

黄泉川「お前はここにいるじゃん。アンチスキルのレッカー車が来た時に応対するんだ」

上条と美琴に変装し、囮になっていたインデックスと土御門が乗ったバイクを追っていた黄泉川。彼女が乗車していた自動車は踏み切りで横滑りをし、線路までには侵入しなかったものの、踏み切りの構造物に挟まれるような形で停車していたため自力で脱出出来ない状態にあった。

運転手「どこへ行くんですか!?」

黄泉川「決まってるじゃん。御坂美琴を捕まえに行く」

言って黄泉川は後部座席のアサルトライフルを手に取る。

黄泉川「囮だと? ふざけたことしやがって。絶対に私がこの手で捕まえてやるじゃん」

運転手「で、ですが奴らはどこに?」

黄泉川「灯台下暗し。恐らくは南ゲート付近にいるはずじゃん」

運転手「間に合わないかもしれませんよ?」

黄泉川「途中で仲間の車両か、無理ならタクシーにでも拾ってもらうじゃん。それに、間に合うか間に合わないかは関係ない。やるかやらないかだ。じゃ、頼んだぞ」

運転手「隊長!」

バンッ!!

言うだけ言って扉を閉める黄泉川。

黄泉川「勝負はまだ終わってないじゃん」

ライフルを抱え、黄泉川は1人、暗闇にその姿を没していった。



893:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 01:24:12.56 ID:YvXLnLQ0

警備員「撃てええええええええええええ!!!!!!!!!!」


ダカカカカカカカカカカカカカカカ!!!!!!

ステイル「イノケンティウス!!!!!!」

ゴオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!

その頃。インデックスと土御門を守るステイルと警備員たちの戦闘も激化しつつあった。

ダカカカカカカカカカカカカカ!!!!!!

ステイル「チッ…無駄だというのが分からないのか!?」

掃射されるライフル弾の雨を、ステイルが操るイノケンティウスが燃やし尽くしていく。

ステイル「まどろっこしいな!!」

インデックス「絶対に殺しちゃダメなんだよ!!!」

後ろからインデックスがステイルに声を掛ける。

ステイル「……分かってるよ! だが、そろそろ僕もこの応酬に飽きてきたところなんだがね」

土御門「一応、アンチスキルの戦力を分断して引きつけておくという目的もあったが、そろそろ潮時か」

ステイルの背中を見ながら、土御門が呟く。

土御門「だが、カミやんと超電磁砲が脱出に成功したという報せがまだ無い」

インデックス「で、でも! このままじゃ埒があかないかも!」

土御門「……そうだな。更に逃げて奴らをカミやんたちから引き離した方が得策か」

と、その時だった。

ステイル「?」

急に、警備員たちの発砲が止んだ。

ステイル「何だ?」

インデックス「あれ? 銃撃が止まったかも」

土御門「ん? 諦めたのか?」



896:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 01:27:30.17 ID:YvXLnLQ0

インデックスと土御門が訝しげな目を浮かべて正面に顔を戻す。
と、よく目を凝らしてみると、警備員たちが乗ってきた自動車の後方、そこに新たな自動車が近付いてくるのが見えた。

土御門「新手か」

ステイル「しかし、人数が増えたところで僕のイノケンティウスには敵わないよ」

自動車が止まり、その後部扉が開く。同時、警備員たちの間に小さな歓声が上がった。

警備員たち「おおおおおっ!!!!!」

ステイル「…………何だ?」



ザッ!!!



と、足を地面につけ、1人の男が車が下りてきた。

「………………」ギンッ

ステイル「…………?」

男とステイルの目が会う。

ステイル「(何だこいつは……?)」

ステイルがそう思ったのも当然だった。男は歴戦の戦士のような、相手を睨んだだけで威圧してしまうような目と精悍な顔を持ちながら、何故かダイバーが着るようなスーツを身に纏っていたのだから。しかし、男が着るスーツは筋肉によってその形がはっきり見えるほど盛り上がっていた。

インデックス「なんかすごい筋肉の人が出てきたんだよ! しかも変な格好してるし」

インデックスが見たままの感想を述べる。

土御門「(あの男……何者だ)」

「………………」

男はズカズカと警備員たちの間を通り抜け、やがてステイルの正面で立ち止まった。

ステイル「…………ふむ。そんな格好で何の用かな?」

「………………」

男は睨むだけで何も答えない。

ステイル「無愛想な奴だ。何か言ったらどうなんだ」



899:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 01:32:10.81 ID:YvXLnLQ0

「…………レベル4相当の発火能力(パイロキネシス)と見た」



ステイル「………は?」

ボソッと男は呟いた。

「…………貴様の運命もここまだ」

そう言ったと同時、男が腕を引き拳を握った。ただでさえスーツの下から盛り上がっていた筋肉が更に盛り上がる。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」

野太い声を発しながら、男はステイルに向かってきた。

ステイル「面倒くさい……イノケンティウス!!!!」

ゴオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!

一瞬で、男は炎に呑み込まれた。

インデックス「ステイル!」

ステイル「ああ? 仕方がないだろ? バカにも奴は丸腰で突っ込んできたんだから」

インデックスの方に振り向きながら、つまらなさそうにステイルは吐く。

インデックス「ステイル!!!」

ステイル「いや、だから…………え?」

何かの気配に気付き、ステイルが振り向き直る。

ステイル「!!!!!!!!!!」

彼がそこで見たもの。それは、顔を両腕で覆いながら炎の中から飛び出してくる男の姿だった。

ステイル「なっ………!!??」

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」

特に火傷を負っているようにも見えず、何故かステイルのイノケンティウスを突破してきた男はもう1度拳を握る。



902:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 01:36:33.77 ID:YvXLnLQ0

ドゴオオッ!!!!!!



ステイル「ぶはっ!!??」

男の拳がステイルの頬にヒットし、その巨体が宙に舞った。

インデックス土御門「「ステイル!!!!」」

ドサッ……

インデックスと土御門が叫んだと同じくして、ステイルは仰向けに地面に倒れ込んだ。

「……………………」

そこへ、男が近付いてくる。やはり男は火傷どころか傷一つ負っていない。

ステイル「バ、バカなっ……! ぼ、僕のイノケンティウスが効かないだと!? 貴様、学園都市の能力者か!!??」

「知る必要のないことだ」

男は表情も変えず、ステイルを見下す。

警備員「さっすが武藤さんだ!!」

警備員「いいぞ! やっちまえ!!」

警備員「やっぱり元自衛隊の特殊部隊で史上最強と男と呼ばれた男は違う!!」

警備員「ああ、強靭な肉体と精神力。それに学園都市の技術が合わさればレベル4の能力者だって敵わない!!」

男の後ろで状況を見守っていた警備員たちが口々に何やら叫び始めた。どうも、彼のことを言っているらしい。



905:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 01:39:16.71 ID:YvXLnLQ0

武藤「ふん」

武藤と呼ばれた男はつまらなさそうに鼻で息をする。

ステイル「…………なるほど。大体分かったよ。君は学生ではなく教師の身分。しかも、アンチスキルと呼ばれる治安組織の中でも奥の手扱いされてる人間なのかな?」

ヨロヨロと、身体を起こしながらステイルは話しかける。

武藤「確かに『アンチスキル最強の男』などと呼ばれているが、今はどうでもいいことだ」

ステイル「どうでも……いいことね。謙遜するじゃないか」

武藤「目下、重要なのは貴様を倒すこと。だろ?」

僅かに武藤が笑った。

ステイル「右に同じだ!!! イノケンティウス!!!!!!」

再び、ステイルの前にイノケンティウスが出現する。

武藤「………………」

それを前にしても、やはり武藤は怯んだ様子は見せなかった。

ステイル「行け!!!!!!!!」

ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!

武藤は再び拳を握る。



906:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 01:41:32.63 ID:YvXLnLQ0

美琴「とう……ま……」



麦野「おうおうおうおう超電磁砲よ!! 『とう……ま……』なんて可愛らしい声出しちゃって!!! てめぇも男の前じゃ所詮は恋する女の子ってかぁ!!?? ぎゃははははははははははは!!!!!!」

上条「てめぇ……っ!!」

上条は美琴を人質にとる女――麦野沈利を睨む。
脱出のため、仲間の魔術師との合流を待っていた上条と美琴。しかし、彼らの希望を打ち砕くように現れたのは、かつて美琴が戦った相手、レベル5の第4位『原子崩し(メルトダウナー)』こと麦野沈利だった。

上条「御坂を離せっ!!」

上条は麦野を睨む。

麦野「キャーこわーい。お姉さんこわくておしっこ漏れちゃうううううう。だからやっぱりこの子返してあげるー……なーんて言うとでも思ったかウニ頭さんよぉ!!??」

美琴「な、何であんたがここに……」

横目で麦野を睨むながら美琴が訊ねる。

麦野「あああ? てめぇにゃ関係ねーだろうが。ただこの私がお前のピンチを見逃すとでも思ったぁ!?」

美琴「………っ」

麦野「能力が使えなくなった超電磁砲なんてなーんにも恐くねーんだよボケカス!!」

まるで以前の仕返しだ、とでも言いたげに麦野は口汚く罵る。

麦野「で……上条くんだっけぇ?」

上条「!!!」

そこで麦野は上条に目を向けてきた。

麦野「この子殺しちゃっていい? 消し炭にしちゃっていい?」

上条「や、やめろっ!!」

上条が一歩前に躍り出ようとする。

麦野「おっとぉ……」

ジジッ

と音を立て、麦野は左手のアームを美琴の顔に近づける。



907:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 01:45:33.92 ID:YvXLnLQ0

上条「くっ……!」

反射的に立ち止まる上条。

麦野「そんなに超電磁砲が大事なんだぁ? それともこの子との夜が忘れられないのかにゃー?」

上条「ふざけるなっ!」

麦野「で、超電磁砲はどんな風に啼くの? 『貴方の右手で私の超電磁砲を犯してー』ってか? きゃははははははは」

まるでバカにするように麦野は笑う。

麦野「でもそんなに大事ならやっぱり死んどいた方がいいわよね。ってわけで死ね」

言って麦野は容赦なくアームを美琴の顔に振り下ろす。

美琴「………っ」



バギィィィン!!!



麦野「……………あ?」

しかし、その直前………

麦野「…………私のアームが……消えた?」

美琴の顔を貫いたと思った瞬間、彼女のアームは掻き消されていた。上条が右手を突き出してきたことによって。



908:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 01:48:02.74 ID:YvXLnLQ0

ズッ……



麦野「ぶぎっ……」

唐突に、麦野の顔が歪む。その状態で彼女が咄嗟に視線を正面に戻すと、そこに丸く握った右手を彼女の頬に添える上条の姿があった。



ドゴオオオオッ!!!!!!!



麦野「!!!!!!」

上条の右ストレートを食らい、盛大に倒れる麦野。

美琴「当麻!!!!」

解放された美琴が上条に駆け寄る。

上条「こっちだ!!!」

上条は美琴の手を取りその場から逃げ出す。

麦野「……………………」

大の字で倒れたまま、麦野はその場に残される。

麦野「…………………ふふ」

口元を歪め、不気味な笑みを見せながら麦野は叫んだ。

麦野「死刑けってええええええええええ!!!!!!」



909:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 01:51:23.21 ID:YvXLnLQ0

上条「ハァ…ハァ……」

美琴「ハァ…ゼェ……」

人気の無い通りを疾走する上条と美琴。

美琴「ねぇ! どこ行くのよ!!」

上条「あの化け物女から逃げてんだよ!!」

美琴「………」チラッ

美琴は一瞬だけ振り返る。南ゲートが遠くなっていくのが見えた。

美琴「ちょっと! ゲートから離れてるじゃない!! 魔術師との合流はどうするの!?」

手を引かれながら、美琴は前を走る上条に叫ぶ。

上条「あそこに留まっててもあの女に焼かれるだけだぞ!!」

美琴「でも! これじゃ外に逃げられないよ!!」

上条「だから今別の策を……」チラッ

と、そこで上条が振り返った瞬間だった。

上条「!!!!!!」

美琴「?」

ドンッ!!!

美琴「きゃっ!!」

不意に、美琴を左手で押しのける上条。いきなりのことで反応出来なかった美琴はその場に倒れてしまう。
直後、彼女が今まで立っていた場所に白い光線が空を切った。


バギィィィン!!!!


上条「………………」

それを右手で打ち消す上条。

美琴「原子崩しっ……!」

美琴は光線が飛んできた方を見る。やがて、暗闇の中から、青白い光を左腕から発光させながら麦野がその姿を現した。



910:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 01:55:20.16 ID:YvXLnLQ0

麦野「それが例の『幻想殺し』ってやつぅ? なーんかうざってー右手だなー」

上条「それは残念だったな」サッ

美琴「!」

咄嗟に上条は、地面に座っていた美琴の前に立った。まるで彼女を守るように。

麦野「……」イラッ
麦野「あーーーーーーーームカつくわね。あんたら見てるとどっかのバカップル思い出して嫌になるわぁ」

苛立ちを露にしながら、麦野はゆっくりと近付いてくる。

麦野「特に幻想殺し! あんた、私がこの世で一番大っ嫌いな男とそっくり!! うざったいたらありゃしねぇ」

上条「………………」

麦野「だからそろそろ死んでくれない?」

上条「御坂、お前あいつのこと知ってるのか?」

麦野を正面に見据えながら、上条は背後にいる美琴に訊ねる。

麦野「っておいナチュラルに無視かよ」

美琴「う……うん。妹達の時にちょっと……」

上条「……そうだったのか。能力値は?」

麦野「聞いてんのかそこのバカップル。何で私の周りにはこんなムカつくバカップルしかいねぇんだよ」

美琴「学園都市第4位のレベル5」

上条「レベル5……か」

麦野の言葉を無視して、2人は上条の背中越しに会話する。

美琴「私でさえ苦戦したんだから……倒すのは難しいかも……」

不安な表情になる美琴。が、上条は彼女の言葉に疑問を呈した。

上条「それはどうかな?」

麦野「おめぇ超電磁砲よぉ……男の前じゃしおらしくなりやがって……以前私と戦った時の面影は完璧ねぇなぁ」

上条「まさかこんな大事な時にレベル5の超能力者の手厚い歓迎受けるとはな……。ったく、戦ってる暇なんて無いってのに……っ!」

麦野「決めた。まずは幻想殺しの右腕をちょん切る。で、その後瀕死の状態になった幻想殺しの前で超電磁砲の×××が真っ黒に焦げてくとこ見せ付ける」



912:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 01:59:29.28 ID:YvXLnLQ0

平然とした様子で麦野は何やら独り言を呟いている。

上条「どうにかしてこいつから逃げ切らないと……」

逃げ道は辺りにないか、上条が僅かに視線を右に向けた時だった。

美琴「当麻!!!!」

上条「!!!!!」

視界の端に映る白い光。

上条「チッ!」ガシッ

上条は美琴の服を掴み咄嗟に後方へ飛んだ。

ドゴッ!!!!

直後、白い光線が地面に突き刺さった。

上条「くっ!!!」

その衝撃で、地面が抉れコンクリート片が舞い上がる。

麦野「オラオラオラオラオラオラオラ!!!!!!!」

ゴッ!! ズガッ!! ドッ!!!

麦野は、手当たり次第に周囲にあったものを破壊していく。そのせいで道路は耕されたように粘土が剥き出しになってしまった。

麦野「これで……終わり!!!」



913:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 02:02:25.55 ID:YvXLnLQ0

上条「!!!!!!」

飛んでくる破片を防ぐだけで精一杯だった上条の目に、薙ぎ払われた麦野の左腕のアームが接近するのが見えた。

上条「っ!!!」


バギィィィン!!!!!!


アームを打ち消す上条。



ガシッ!!!



上条「!!!???」

麦野「つーかまーえたー」ニィィ

が、上条の予想を裏切るように、麦野は突き出された彼の右腕を右手で掴んできた。

上条「なっ……!? 離せ!!」

焦りながら、上条は麦野の手を振り払おうとする。

麦野「右手にサヨナラは言ったぁ!!??」

だが、その抵抗も空しく再び出現した麦野のアームが上条の右手に向かって振り下ろされた。



914:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 02:05:12.93 ID:YvXLnLQ0

ドッ!!!



麦野「!!!???」

と、直前、麦野が目をカッと見開き身体を止めた。

上条「?」

何が起こったのか分からなかったが、上条は警戒の視線を絶やさなかった。

ズズッ……

やがて上条の右腕を掴んでいた麦野の右手がスルリと抜け落ち、彼女はその場に崩れ落ちていった。
そして代わりにそこに現れたのは、小さな木の板を持った美琴の姿だった。

美琴「ムカつくから……殴ってやったわ」

機嫌悪そうに美琴は言う。

上条「御坂。助かったぜ」ホッ

麦野「……」ピク

上条美琴「!!!」

麦野の指が僅かに動く。

上条「こっちだ!!!」

瞬時に美琴の手を取り、上条は麦野から逃げるべく再び走り出した。

麦野「……………………」

2人が逃げ去ると、麦野は頭から血をダラダラと流しながら不気味な笑顔を浮かべて言った。

麦野「逃がしはしねぇよ」ニヤァ



960:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 22:29:16.78 ID:SoO.RSw0

その頃………



ドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!



ステイル「ぐぶっ!? げぶっ!? ぶおっ!?」

インデックス「ステイル!!」

激化するステイルと武藤の戦闘は、魔術師でも能力者でもない武藤の優勢にあった。

警備員「やれやれー!」

警備員「悪漢をやっつけろー!」

武藤「……………………」

警備員たちの声援を後ろに聞きながら、武藤はステイルの顔や身体に重い拳を容赦なく叩き込んでいく。

ステイル「イ、イノケ……」

武藤「無駄だ」

ドゴッ!!!!

ステイル「ぐへぁっ!?」

ドサッ……

盛大にぶっ倒れるステイル。

武藤「見たところ貴様は能力以外の肉弾戦は、からっきしのど素人。自衛隊の特殊部隊とアンチスキルで長年独自の鍛錬に身を捧げてきた私に勝ち目はない。そして………」

武藤が足音を響かせてステイルの下へ歩み寄る。



961:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 22:32:39.13 ID:SoO.RSw0

武藤「この学園都市で開発された最新の耐火ジェルと耐火スーツを前にしては、何千度の炎などマッチの火と同義……いやそれ以下だ」

ステイル「なるほど、それが君の戦い方ってわけか……ペッ」

口から血を吐き、ステイルは武藤を見上げる。

武藤「先遣部隊の情報から敵の能力者の特徴を把握。その上で、専用のスーツを着用し戦場へ馳せる。それが“アンチスキル最強”の男と呼ばれる者の戦い方だ」

ステイル「ふん、言うね……。結局君は学園都市の技術に頼ってるだけじゃないか」

武藤「何を勘違いしている?」

バキッ!!!

ステイル「ぐぶっ!?」

武藤の蹴りがステイルの頬を打つ。

武藤「言ったはずだ。自衛隊とアンチスキルで独自の鍛錬に身を捧げてきた、と。……私は徒手格闘の分野において、この日本に自分に勝てる人間はいないと自負している」

ステイル「ふん……」

武藤「最新の技術と最強の肉体。この2つさえあれば、レベル4クラスの能力者など私の前では子猫同然だ」

武藤は表情も変えず淡々と告げる。まるでお前の負けは既に決まっている、と言いたげに。

武藤「分かるか? 故に貴様に勝ち目はないのだ」

ステイル「……………………」

武藤「お喋りも飽きたな。……そろそろトドメといこう」

言って武藤は拳を握った。同時、スーツの下から筋肉が山のように盛り上がる。

ステイル「………………ふ」

武藤「…………?」

と、その時、ステイルが口元に僅かな笑みを浮かべた。



962:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 22:36:57.48 ID:SoO.RSw0

武藤「……何かおかしかったか?」

ステイル「おかしいね……。君たちの能力のレベル分けなんて知ったこっちゃないが、この状況で勝利を確信した君がおかしいって言ってるんだよ」

顔中にいくつも痣が出来上がっているが、ステイルは気にすることなく笑みを浮かべる。

武藤「下らん。敗者の負け惜しみか」

ステイル「なら見せてやるよ……。真の魔術師の“奥の手”ってやつをさ……っ!」

武藤「“奥の手”?」

ステイル「ビビるなよ。そして今更泣こうとするなよ。僕に“奥の手”を出させたのは君なんだからな!」

武藤「………なら出し惜しみしていないで早く見せてみろ。“奥の手”と言うからには絶対の自信があるんだろう?」

ステイル「当たり前さ………」

ステイルの目に炎のような光が宿る。

ステイル「とくと見ろ。これが僕の“奥の手”だ……っ!」





ステイル「トリプルイノケンティウス!!!!!!」





ゴオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!



武藤「!!!???」

ステイルが叫んだと同時、辺り一面が今までとは比較出来ないほどの量の炎に包まれた。



963:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 22:40:31.04 ID:SoO.RSw0

ズババババババッ!!!!!!


上条美琴「!!!!????」

一方、麦野の追っ手から逃げていた上条と美琴。彼らは後ろで響いた大音量に気付き、咄嗟に振り返った。

麦野「オラオラオラオラオラオラ!!!!!!!! せいぜい逃げ回れぇ!!!! 後でてめぇらじっくりいたぶってやっからよぉ!!!!」

見ると、麦野が左手のアームを振り回し地面や周囲にあるものをことごとく破壊しながら全速力で追っかけてきていた。しかも、頭から血をダラダラと流しながら。

上条「何てしつこいんだあのケバイ女!!!」

麦野「んだとぉぉ!!?? もう一遍言ってみやがれ!!!! こんのクソガキャァァァ!!!!」

ドゴオオオン!!!!!!

気にしていたことを指摘されたのか、麦野の攻撃がより一層激しくなった。

美琴「ちょっと! 何挑発してんのよ!!」

上条「事実言ったまでじゃねぇか!!」

麦野「殺す!! 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!!!!!!!!!」

顔面を血だらけにし鬼の形相で追ってくる麦野は、もはや化け物と言っても過言ではなかった。

美琴「あっ!!!」

上条「!!??」

ドサッ……

上条「御坂!!!!」

振り返る上条。

美琴「当麻!!!!」

躓き転倒したのか、美琴が地面の上でうつ伏せになっていた。

上条「御坂!!!!」

美琴の元に駆け寄る上条。だが、それよりも早く、麦野は想像以上の速さで美琴に接近してきていた。

麦野「ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!!!!!」



964:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 22:44:16.46 ID:SoO.RSw0

上条「(この距離じゃ……間に合わないっ……!)」

美琴「当麻……!」

右手を伸ばす上条の目に、絶望を浮かべた美琴の顔が映る。

麦野「死に晒せ売女ああああああああああ!!!!!!!!」

地面に倒れた美琴の無防備な背中を狙って、麦野がアームを振り下ろす。

上条「………っ!!」

美琴「――――――!!!」




ドッ!!!!!!!!




麦野「!!!!????」

麦野のアームが美琴の背中を切り裂く刹那だった。

上条美琴「!!!!!!!」



ゴッ!!!!



突如、上から降ってきた何かによって、アスファルトが蜘蛛の巣状に割れ、衝撃波が巻き起こった。



965:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 22:47:29.19 ID:SoO.RSw0

麦野「ぐぅぅっ!!??」

それを何者かの奇襲と即座に判断した麦野は飛ぶように1歩後退した。



コオオオ………



数秒後、辺りが静かになると、再び態勢を整えた麦野は親の仇を見るような目で正面に視線を据えた。

麦野「………何者だよてめぇ……?」

彼女は興を削がれたといった感じに、上条と美琴を守るようにして立つその女にドスの利いた声で訊ねる。

美琴「だ、誰………?」

上条「や、やっと来てくれたか……」

突如現れた救世主――その女の背中を見、上条と美琴はそれぞれ思ったことを述べる。

「……………………」

地面に突き刺すように立つ日本刀。その柄の頂上部分に両手を置いていた彼女は、やがてうなだれていた頭をゆっくりと上げると、目をカッと見開いた。





神裂「遅くなりました上条当麻。ここからは私に任せて下さい」



968:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 22:51:20.38 ID:SoO.RSw0

上条「神裂!!!!」

上条の顔に笑顔が浮かぶ。

美琴「だ、誰………?」

上条「例の合流する予定だった魔術師だよ!!」

説明しながら、上条は倒れていた美琴を起こす。

美琴「じゃ、じゃあこの人が……」

神裂「今は自己紹介をしている場合ではありません」

美琴「!」

美琴の言葉を遮るように、魔術師であり聖人の1人でもある神裂火織は静かにそう答えた。

上条「神裂、お前……」

神裂「申し訳ありません。ちょっとした用事があって遅くなってしまいました」

背中を見せつつ神裂は上条に謝罪する。

上条「いや、こっちは危機一髪助かったところだ。本当にありが……」

神裂「逃げなさい」

上条「え?」

神裂「学園都市の『外』と『中』の境界地点……壁がある場所まで逃げるのです」

今はお喋りをしている暇はない。彼女はそう言いたげだった。



969:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 22:54:31.35 ID:SoO.RSw0

神裂「大丈夫です。対策はとってあります。とにかく境界地点まで行けば何とかなります。……さあ、行って! 彼女は私が相手しておきますから!」

言って神裂は数m先にいる麦野を見据える。

上条「で、でも……!」

神裂「行くのです!!」

躊躇いを見せる上条だったが、神裂は有無を言わさず叫んでいた。

上条「………っ」
上条「仕方がない、行くぞ御坂!!!」

美琴「だけど、大丈夫なの!? 相手はレベル5の超能力者よ!?」

神裂のことをよく知らない美琴は、不安げに訊ねる。

神裂「私のことは心配無用。寧ろ貴方がたを守りながら戦うのは少し厄介なのです」

美琴「……………、」

上条「さあ、今は急ぐんだ!!!」ガシッ

美琴「あっ!」

美琴の手を取り、上条は再び走り出す。

美琴「……………」

手を引かれながら走りつつも、美琴は後ろを振り返った。小さくなっていく神裂の背中と、こちらを睨む麦野の姿がそこに見えた。



970:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 22:57:26.51 ID:SoO.RSw0

神裂「……………………」

麦野「で、何の真似だよオバさん? 突然空から降ってきたかと思ったら超電磁砲どもを逃がしてよぉ……」

遠くなりつつある上条と美琴の姿を神裂の背後に捉えつつ、麦野は不機嫌そうな口調で言う。

麦野「見たところあいつらの予定は狂いに狂ってるようだけど、そんな状態で逃げれると思ってんの? あ?」

神裂「………………」

しかし、神裂は何も答えない。

麦野「なんか言えやババァ!!!」ドッ!!!

苛立ち紛れに麦野がアームで地面を抉る。

神裂「…………その点については対策を施してあります。今回のように私が足止めを食らった時のためにと保険策を用意していたのですが、どうやらその判断は間違っていなかったようですね。ただ、お陰で学園都市に来るのが遅れてしまいましたが……」

麦野「何言ってんだババァ!!??」

神裂「あと私はババァではありません。恐らく貴方とそう歳は変わらないはずですよ」

麦野「……」ピキッ

麦野の額に青筋が浮かぶ。

麦野「いいよいいよあんた最高よ…………」
麦野「最高にムカつくんだよ!!!!!!」

鬼のような形相を浮かべて麦野は怒鳴り声を上げた。

麦野「覚悟しなクソババア!!! 私の機嫌損なった分、痛ぇ目に遭ってもらうからなぁ!!!!」

神裂「……………………」



チャキ……



激昂する麦野を前にして、神裂は静かに愛刀『七天七刀』の柄を握った。



973:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 23:01:24.09 ID:SoO.RSw0

武藤「ハァ……ハァ……ハァ……」

深く息をし、辺りを見回す武藤。

武藤「全滅か………」

彼は黒く燃え尽きたアンチスキルの車体に背中を預け、その状況を皮肉るように口元を緩めた。
周囲には呻き声を上げ倒れている警備員たち。その中心には炎によって燃え尽きたアンチスキルの車が2台あった。

武藤「私もまだまだか……」

結局、武藤は敗れた。ステイルが出してきた奥の手『トリプルイノケンティウス』の莫大な炎とその熱量は学園都市の最新技術で作られた耐火スーツでさえも歯が立たず、その表面を焼き切った。スーツの防火能力が高かったためか、幸い武藤は軽い火傷で済んだが、スーツを破られてしまった以上、彼に為す術はなく、隙を見せてしまったところでステイルと共にいた土御門に殴られ昏倒したのだった。

武藤「…………奴らは逃げたか」

武藤が敗れた姿を見た警備員たちは恐れをなし、逃げ惑った。そこへ無人となった車にトリプルイノケンティウスが襲い掛かり爆発。その衝撃で警備員たちは吹き飛ばされ今に至るというわけである。その後、件の魔術師ステイルはトリプルイノケンティウスで残り2台の車を燃やし尽くすと、インデックスと土御門と共に逃げ去っていった。

武藤「死人や重傷者はいなさそうだな……。ふん、そこだけは紳士然としていやがる……」

それだけ言うと、武藤は空を見上げるように溜息を吐いた。

武藤「もし機会があれば……再戦を願うぞ。赤髪の能力者………」

それだけ最後に呟くと、武藤の意識は落ちた。



975:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 23:04:43.90 ID:SoO.RSw0

一方、そのステイルたちは……。

ステイル「さあ急ぐんだ土御門!!」

土御門「分かってる!!」

……武藤や警備員たちの包囲網から逃れ、夜の街を駆け抜けていた。

土御門「ねーちん……何で連絡を寄越さない!?」

ステイル「まさか脱出に失敗したんじゃないだろうね!?」

ステイルと土御門は全速力で走る。

インデックス「とうまも短髪もかおりもみんな心配なんだよ!」

そう叫ぶのは、ステイルにおぶられているインデックスだ。全速力で走ると彼女を置いてけぼりにしそうだったので、苦肉の策としてこうやってステイルがおぶっていたのだった。

ステイル「バスや電車が使えないのがもどかしいな!!」

土御門「最終下校時刻を過ぎてるからな。後はタクシーを見つけるぐらいしかない」

彼らは今、南ゲートに向かっていた。と言うのも、当初の予定では、もう少し早くに上条と美琴が脱出に成功し、そ報せを神裂から受けるはずだったのだ。だが、いつまで経っても神裂から連絡は来そうになかったので、仕方なく3人は自らの足でゲートまで戻ることにしたのだった。

ステイル「何故バイクを捨ててきたんだ!?」

走りながらステイルが隣を並走する土御門に訊ねる。

土御門「どうせあのバイクはもうアンチスキルにその特徴もナンバープレートも抑えられてるからなー。乗って帰ってる途中にアンチスキルの車両に見つかったらまた面倒くさいことになるだろ」

ステイル「ええい、じれったい!!」

インデックス「早くしないと、とうまと短髪が危ないんだよ!」

ステイルの背中でインデックスが不安げな声で叫ぶ。

ステイル「分かってるさ! ここまで来た以上、奴が死んでも目覚めが悪いからな!!!」

3人は上条と美琴の下へ向かうため、夜の街を疾走する。



977:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 23:08:36.54 ID:SoO.RSw0

上条「クソッ……! ここからどうすればいいんだ!!」

美琴「この壁を越えない限り『外』には出られないよ!!」

上条と美琴は、眼前に聳え立つ全高約5mの壁を前にして、立ち止まる。

上条「壁の所まで来れば何とかなるって神裂言ってたのに……。あれは一体どういう意味なんだ!?」

美琴「ど、どうしよう。いつまでもこんな所で突っ立ってるわけにはいかないよ……」

彼らは、今麦野の相手をしている神裂に言われた通り学園都市の『外』と『中』の境界部分までやって来ていた。神裂によれば、ここに来れば大丈夫と言う話だったが………

美琴「どっかに抜け穴でも作ったんじゃないの!?」

上条「そんなバカな。目立つだろそれは」

美琴「だけどこのままじゃいずれ見つか………」

と、美琴がそこまで言いかけた時だった。



美琴「うあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」



上条「御坂!!!!!?????」

突然、美琴が頭を抱えて苦しみ始めた。

美琴「ああああああああああああああああ!!!!!!」

上条「御坂!!?? 一体どうした!!?? おい!!!!」

頭を抱え地面に膝をつく美琴を見て、上条は叫ぶように訊ねる。




「いたぞ!!!! 御坂美琴と上条当麻じゃん!!!!」




上条「!!!!????」

不意に、どこからか聞き覚えのある声が聞こえてきた。



980:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 23:12:07.24 ID:SoO.RSw0

黄泉川「ようやく見つけたぞ!!! 今度こそ本物じゃん……っ!!!」



即座に声がした方に顔を向けると、50mほど先に、アサルトライフルを抱えた黄泉川と数人の警備員がこちらに近付いてくるのが分かった。

上条「アンチスキル……!!」

美琴「うあああああああああああああああああ!!!!!!!!」

上条「御坂!!!!」

叫ぶ美琴。彼女は苦しそうに主張する。

美琴「頭が……痛いっ!!」

上条「……頭? ……まさかっ!!??」

顔を上げ、上条は再び黄泉川たちに視線を向ける。と、そこで警備員たちの背後に1台のトラックらしきものがあるのが見て取れた。しかもその姿形には見覚えがあった。

上条「『キャパシティダウン』かっ!!」

そのトラックは、かつて北ゲートで目にした、対能力者用の最新式キャパシティダウンを搭載した車両――『キャパシティダウンキャリアー』だった。

上条「あいつら、最後の1台をここまで運んできたのか!?」

美琴「うああああああああああああああああああああ」

上条「御坂!!!!!!」

トラックが近付くにつれ、美琴の悲痛な叫び声が大きくなる。

黄泉川「手を挙げろ2人とも!!! 大人しく拘束されるじゃん!!!」

トラックと共に、黄泉川たち警備員がライフルを向けながらこちらに近付いてくる。

黄泉川「ここで終わりじゃん!!!」

上条「………っ!!」

美琴「ああああああああああああああああああああああ」

苦しむ美琴を、次いで近付いてくる黄泉川を順に見、上条は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

上条「クソッ!! 最後の最後で……っ!!」



981:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 23:16:26.25 ID:SoO.RSw0

麦野「ハァ……ハァ……」ズルズル

そんな上条と黄泉川たちのやり取りを見ている者が1人、近くにいた。

麦野「みぃーつぅけたぁー」ズルズル

満身創痍の状態にあった麦野だった。

麦野「わ……ハァ……私から……ハァ……逃れられるとでも……思ってんのか……」ズルズル

彼女の右手には、細長く太い筒のようなものが握られている。若干大きすぎるため筒の先を地面にこすり、引き摺るような形になっていたが。

麦野「あ……あんのクソババア……ハァ……あれで……真の実力を見せて……ハァ……ないだと?」

筒を引き摺る麦野のその姿はボロボロだった。服は所々破れており、生傷もあちこちに出来ていた。

麦野「あんな……化け物が……世の中に……ハァ……存在してるって……のかよ……ハァ」

一目で見て分かるように、彼女は神裂に完敗していた。しかも、トドメを刺されないという彼女にとって最大限とも言える屈辱を受けてまで。

麦野「だが……ハァ……隙をついて……まんまと……ハァ……逃げ出してやった……ぜ」

しかし、彼女は神裂の目を盗んで逃走。途中、出くわした1人の警備員から筒を強奪し、ここまでやって来ていたのだ。
身近にあった茂みに隠れ、麦野は上条の位置を把握する。

麦野「………」チラッ

顔を少し横に向けると、黄泉川たち警備員の背後に1台のトラックが見えた。

麦野「『キャパシティダウンキャリアー』……対能力者用の超音波装置……。……知ってるわよ……」

ニヤリと、麦野は血で染まった顔に不気味な笑みを浮かべる。

麦野「最新式の……レベル5でさえ効果をもたらす装置らしいけど……所詮は試作版。その効果がもたらす範囲は半径50mにも満たない……つまりは……ハァ……その範囲内にいなければ……何の心配もない……」

麦野が自分で指摘したように、実際彼女はその影響から逃れるためキャパシティダウンキャリアーの半径50mの範囲外にいた。

麦野「………いっつ……」

それでも麦野の頭を僅かな痛みが走った。

麦野「……ふん。だが、どうせやることをやれば……すぐに退散すればいい……」

気を取り直し、彼女は手にした筒を右手だけで自分の肩に持ち上げる。左手を使えないため多少筒が揺れたがそれは気にするほどではなかった。

麦野「お前らは死ぬんだ……超電磁砲!!!」

そう叫び、麦野は肩に掲げた筒――無反動砲の照準を、うずくまる美琴とその側に立つ上条に合わせた。



982:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 23:20:25.83 ID:SoO.RSw0

黄泉川「手を挙げろ!!!! そこから動くんじゃないぞ!!!!」

アサルトライフルを向け、ゆっくりと近付いてくる黄泉川と警備員たち。

美琴「あああああああああああああああ!!!!!!!!」

キャパシティダウンの影響を直に受けて苦しむ美琴。
その両者に挟まれ、上条は呆然と呟く。

上条「終わり……なのか?」

もはや、上条と美琴に為す術はない。

黄泉川「いよいよ終わりの時じゃん。……さあ観念しろ。言いたいことがあるなら、アンチスキルの支部で聞いてやる……っ!」

勝利を確信したような嬉しそうな声を上げる黄泉川。

美琴「あ……ぐ……ああああああああああああ」

キャパシティダウンの影響を受けて苦しみまくる美琴。

上条「………………」

もはや状況は詰んでいた。

上条「(こんなのって……ねぇよ……)」

上条の顔に絶望の色が浮かぶ。



983:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 23:22:39.10 ID:SoO.RSw0

ビュン!!!!


と、音を立て、夜のビルの間を1つの影が飛び回る。

神裂「私としたことが……不覚!!」

先程まで、上条と美琴を逃がすために麦野の相手をしていた神裂だった。

神裂「もう戦意はないと思ったのが間違いでした。あの能力者を取り逃がしてしまった……っ!」

ビルの屋上から屋上を飛び、眼下を見回しながら、神裂は悔しそうに口中に吐く。

神裂「既に彼らが『外』に逃げてればいいのですが………ん?」

とそこで神裂は地上の一点を見つめた。

神裂「あれは……まさか!!??」

何かを見つけ、驚きの声を上げる神裂。

ザッ!!

そのまま彼女は地上に降り立った。

神裂「やはり……っ!」

彼女が見つめる先――100m以上向こうに、上条と美琴の姿が見えた。しかも、彼らの元にゆっくりとだが武装した兵士たちが近付いている。

神裂「か……」

急いで上条たちに声を掛けようとしたその時だった。

神裂「?」

ふと、神裂の視界の端に何かが映った。

神裂「あれは………」

目を凝らす神裂。彼女が見つめる数十ほどm先に、筒のようなものを肩に担いでいる麦野の姿が………

神裂「!!!!!!」

………見えた。



984:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 23:25:38.78 ID:SoO.RSw0

上条「御坂………」

美琴「あああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

呆然と立ち尽くしながら、上条は足元で苦しむ美琴に呟く。

上条「ごめん………」

美琴「あああああああああああああああああ!!!!」

だが、今の彼女は上条の謝罪を聞くことさえ出来なかった。

黄泉川「さぁ、大人しく手を挙げるじゃん……!!」

ライフルを向けながら、黄泉川たち警備員が上条たちに迫る。その距離は既に30mを切っている。

上条「だけど………」

ザッ!!!

黄泉川「!!!」

上条「絶対に俺は最後まで諦めない!!!!」

美琴を守るように上条が前に躍り出て両手を広げた。

上条「絶対に俺は!!! 最後までお前を守り抜いてやるぞ!!! だから安心しろ、御坂!!!!」

美琴「と……とうま……くっ……うう」

上条の言葉が届いたのか、美琴は目に涙を溜めながら、彼の背中を見上げた。

黄泉川「………………はっ」

その姿を見て黄泉川は口元を緩める。

黄泉川「言うじゃん上条当麻。……だがな……世の中、何でも思い通りに行くと思ったら大間違いじゃん」

上条「…………っ」

黄泉川「さあ、降参しろおおおおおおおおお!!!!!!」

上条「させるかあああああああああああああ!!!!!!」

腹の底から上条は魂を込めて叫ぶ。これだけは、引き下がれないと。こいつだけは守る、と。それは、上条にとって絶対に譲ることの出来ない信念だった。

上条「………………」

と、その刹那だった。



985:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 23:29:32.25 ID:SoO.RSw0

神裂「危ない!!!!!!」



上条「!!!???」

不意に、神裂の叫び声が聞こえた。

上条「…………?」

咄嗟に上条は声がした方向に視線を向ける。

上条「………………」

と、その途中で何か見覚えのある女の姿が視界の端に映った。

上条「!!!!!!!!!!」

麦野「………」ニィィ

筒らしき物体の先端をこちらに向けて、悪魔のように口元を歪める麦野の顔だった。


麦野「死ねえええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!」



ボッ……



麦野が叫んだと同時、彼女が肩に担いでいた無反動砲が火を吹いた。

上条「…………っ」



シュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!!!!!!!



無反動砲から発射された榴弾は、この世の終わりを知らせるような音を轟かせながら、上条と美琴の元へ向かった。

上条「くっ!!!」

反射的に上条は、美琴を守るように対面する形で彼女に覆い被さった。



986:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 23:33:53.16 ID:SoO.RSw0

そして、その瞬間を合図に、まるで学園都市は時が止まったかのような空気に包まれた――。


麦野「――――――――」


邪悪な笑みを浮かべる麦野。


インデックス「――――――!!!!」

ステイル「――――――!!!!」

土御門「―――――――!!!!」

上条と美琴の安否を確かめるため、街を疾走するインデックス、ステイル、土御門。


黄泉川「――――――!!!!」


上条と美琴を捕らえんと、ライフルを向けながら彼らに近付く黄泉川と警備員たち。


神裂「――――――――!!!!」


上条の名を叫ぶ神裂。



――――――――――!!!!!!



上条と美琴の元へ向かう音速の榴弾。
そして………





上条美琴「「――――――――――」」





死を目前に感じ、互いの身体を強く抱き締める上条と美琴――。



987:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 23:38:19.09 ID:SoO.RSw0

上条「(神様……っ!!)」



シュウウウウウウウウウウウウ!!!!!!



ズッ………



やがて榴弾は上条と美琴に着弾するように直撃する………はずだった。






「掴まるのである」






上条「!!!!!!!!」

爆発の炎に包まれる直前、上条が耳にしたのはその一言だった。





ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!!!



995:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 23:42:28.14 ID:SoO.RSw0

着弾し、爆発する榴弾。

黄泉川「!!!!????」

突然の衝撃に、黄泉川たち警備員は思わず地面に伏せる。

神裂「!!!!!!!!」

顔を真っ青にし、今すぐ着弾箇所へ向かおうとする神裂。

インデックスステイル土御門「!!!!!!!!!!」

たった今辿り着いたインデックスとステイルと土御門も、突然目の前で起こった爆発に、驚愕の表情を浮かべた。

麦野「………………」ニィィ

そして目の前で巻き起こったオレンジ色の炎を顔に映えさせ不気味に笑みを作る麦野。
誰もが、上条と美琴は死んだと思われた。
しかし………



ドン!!!!



と、突然、衝撃波が巻き起こり、爆発の炎の中から何かが飛び出してきた。

麦野「何っ!!??」

神裂「あ、あれは………」

そのシルエットはまるで人間のような形をしていて、そしてその両肩部分にはそれぞれ1人の少年と1人の少女が担がれていた。



997:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 23:45:22.05 ID:SoO.RSw0

インデックス「あ! とうまと短髪だ!!!」



ロケットのように垂直に飛んでいくその人間の両肩を見て、インデックスが指差しながら叫ぶ。

ステイル「あ、あいつは……」

土御門「まさか……」

神裂「間に合いましたか………“後方のアックア”」





アックア「………………」フッ





両肩に上条と美琴をそれぞれ抱えた、元『神の右』の1人――“後方のアックア”ことウィリアム・オルウェルは小さな笑みを浮かべて学園都市の壁を軽々と越えていった。

黄泉川「な……何が起こった……?」

麦野「あ……あ……バカな……」

その様子を呆然と見つめる麦野や黄泉川たち。



インデックス「ありがとう!!! アックア~~~!!!!」



インデックスの感謝の言葉を背に、やがてアックアは学園都市から高速の速さで去っていった。



999:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 23:48:16.49 ID:SoO.RSw0

ネオンの光が映える街の空を、アックアは飛ぶように駆け抜けていく。

上条「う………」

美琴「ん………」

その両肩にそれぞれ抱えられていた上条と美琴は同時に目を見開いた。

アックア「ふん。起きたようであるな」

上条「………え?」

耳元に聞こえる声に驚き、上条はそちらに顔を向ける。

上条「なっ……お前、アックア!!??」

そこに見えたのは、あの、かつて上条が対峙した元ローマ正教『神の右席』の1人、後方のアックアの精悍な横顔だった。

美琴「だ、誰……? この人?」

美琴は不思議そうにアックアの顔を見つめる。

上条「何でお前ここに!?」

アックア「貴様の知り合いの魔術師に頼まれた」

上条「頼まれたって……あ!」

と、そこで何かを思い出す上条。

上条「まさか神裂が言ってた『対策』って、お前のこと……?」

アックア「ふん」

上条「な、何でお前が俺たちを……?」

本当に事情が飲み込めない、と言うように上条は訊ねる。

アックア「私は元傭兵である。貴様の知り合いの魔術師に頼まれたから仕事をこなしただけのこと。それだけである」

つまらなさそうにアックアは答えた。

上条「………………」

美琴「な、何だか分からないけど、ありがとうございます」

肩に担がれた状態で美琴はペコと頭を下げる。

アックア「そんなことより、お別れは済んだのであるか?」



1000:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/25(土) 23:49:09.87 ID:SoO.RSw0

上条美琴「え?」

アックア「あの退屈な街ともこれで今生の別れであるはずだが?」

上条美琴「!!!」

アックアに指摘され、はっとした上条と美琴は後ろを振り返えった。

美琴「学園都市が………」

そこに、街の光を受けて、妖艶に暗闇に浮かび上がる学園都市の姿があった。

美琴「そっか……。脱出出来たんだ私たち……」

上条「そうみたいだな……」

流れる風に髪を揺らしながら、2人は遠くなっていく学園都市を見つめる。

上条「………………」

しばらくの間眺めていると、やがて上条は顔を戻した。

美琴「………………」

学園都市をその瞳に焼き付けて、美琴は静かに呟く。





美琴「さよなら、黒子、佐天さん、初春さん、みんな……。そして、学園都市………」





その言葉を最後に、正面に顔を戻した彼女の目元から溢れ出た涙が風になって後ろへ流れていた。
上条と美琴を担ぎながら、夜の街に消えていくアックアの背中。
こうして、美琴と上条は遂に学園都市と別れを告げた――。


上条「二人で一緒に逃げよう」 美琴「………うん」【3】



転載元
上条「二人で一緒に逃げよう」 美琴「………うん」【2】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1283364806/
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