徳川家康「りくじょうじえいたい?」【前半】

1:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/11/10(月) 22:24:24.79 ID:DbgFvEgy0

戦国自衛隊の新しい漫画を書店で目撃したので描きたくなりました
その名の通り自衛隊が戦国時代にタイムスリップします



3:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/10(月) 22:31:39.83 ID:DbgFvEgy0

陸上自衛隊・とある駐屯地内

伊庭義明(1等陸尉)「今日は空気が澄んでいて夜空が綺麗に見えるな」

県(3等陸尉)「…………!」

伊庭「どうした?」

県「金星の位置が…………昨日と全く違います!」

伊庭「金星?人工衛星か何かと間違えているんじゃないのか?」

県「いえ……。そんなはずは」


ビーッ  ビーッ ビーッ!


伊庭 県「!?」


『勢力不明の武装集団が美浜原発を襲撃した模様。これより各部隊の隊員は指揮官の指示に従い迅速に召集されたし。これは演習では無い。繰り返す』


伊庭「なんだと…………」



5:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/10(月) 22:42:30.58 ID:DbgFvEgy0

深夜の国道8号線を自衛隊の車両が走る


<96式装輪装甲車内>


伊庭「福井県の美浜原発が武装集団に囲まれてから数時間。民間人に被害が出たとの事で陸上自衛隊に防衛出動が命じられたわけだが…………」

県「国会がごたごたしたこともあって我々の出動はかなり遅れています。もう原発は敵の手におちたと考えても……」

伊庭「そうだな。敵の犯行声明はまだ発表されていない。だが小銃や対戦車ロケットまで所持していることが確認されていることからテロとみて間違いは無さそうだ」

県「対戦車用の兵器まで持っている………んですか。初の実戦……になってしまいそうですね」

伊庭「自衛隊は実戦経験が無いというのが誇りだったんだがな。その誇りをついに失うときが来てしまったようだ」

県「敵勢力はどのくらいなんです?」

伊庭「衛星からの映像によれば1個小隊程度のようだ」

県「1個小隊規模で対戦車用兵器まで装備……。しかも原発を………。この作戦に10式戦車をはじめとする戦闘車両が投入されるのも納得ですね」



7:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/10(月) 22:58:55.59 ID:DbgFvEgy0

出動したのは習志野の空挺部隊と機甲科部隊、それに普通科と航空科の混成部隊だ

伊庭1尉率いる1個小隊は作戦に投入される戦車の護衛任務についており、現在はテロリストに占拠された美浜原発へと向かう最中であった



矢野(2等陸尉)「上空で飛んでいるヘリは空挺部隊を輸送してるみたいだな。もうだいぶ時間が経過しているのに対応が遅すぎんだよ。何やってるんだか」

伊庭「こんなケースは初めてなんだ。政府も混乱しているのだろう」

矢野「はぁ……。米軍も動かねえし、自衛隊だけで対処できんのかね」

県「対処するしか無いんですよ。万が一、原子炉を爆破でもされたら大変なことになります。何とかして我々で敵を倒さなくては」

矢野「そうは言ってもなぁ。俺たちが輸送している10式だって投入されるのはたったの3両。正直なところ頼りないな」

伊庭「仕方あるまい。様々な制約があったのだから。戦車が投入されただけでもありがたいというものだぞ」


戦車は一般道を走行出来ないためトレーラーで運ばれる

そのトレーラーの前後に普通科隊員たちが乗る装甲車や輸送車両が続く

今回はひとつの戦車につき1つの小隊が護衛につくような形で部隊は移動していた

つまり戦車1両を含む1個小隊が3つ、それぞれ一定の間隔を空けて移動しているのである



矢野「しっかし、後続の小隊たちはどうなっているんだ?」



9:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/10(月) 23:16:29.07 ID:DbgFvEgy0

県「霧が濃くなってきましたからね。後続の小隊は我々の小隊を見失ってしまったのでしょうか?」

伊庭「この国道は一本道だからはぐれるなんてことは無いだろう。まあしかし念のために後続の小隊の位置を確認しておくか。木村曹長、無線連絡」

木村(陸曹長)「了解。こちら01、02送れ」


県「…………あれ?」

伊庭「どうした?」

県「いえ……。先程までは霧は濃くても国道沿いに日本海が見えていたんですが………」

伊庭「こんなに霧が濃くなったのか!?」

県「濃くなっただけなら良いのですが、濃すぎませんか?なんだか雲の中に入ったみたいですよこれ」

伊庭「確かに……。おい!車長!視界は大丈夫なのか?」


装甲車の車長である三田村が顔を出す


三田村(1曹)「一応、前を走っている車両のランプは見えていますから大丈夫です。ですが先頭車両はおそらく何も見えていないでしょうね」

伊庭「危険だな。道路のすぐ脇は崖で、その下は日本海だ。落ちたら洒落にならんぞ」


ザザザ ザザザ

木村「こちら01、こちら01、03送れ…………」

木村「なんでだ?第2小隊も第3小隊も応答が無い」

矢野「あ?そんなに離れているわけでも無いだろ。無線機が壊れてるんじゃねーのか?」

木村「そんなはずは………」

矢野「通信障害……。まさか敵から? いやそんなわけ………」


ガッコン ガコン ガコン

ガタガタガタガタ



10:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/10(月) 23:24:14.45 ID:DbgFvEgy0

伊庭「どうした!」

三田村「操縦手! 加納!どうなってるんだ?」

加納(2曹・96式装輪装甲車操縦手)「速力低下。何かに足をとられているような」

三田村「脱輪したのか?」

加納「これは……スタックしたみたいです」

三田村「スタック?ここはアスファルトの道路だぞ」

加納「がけ崩れでもして土砂が道路に溜まっていたのでしょうか?前方の車両も停止してしまったみたいです」

矢野「木村。前方の車両とは連絡出来るか?」

木村「可能です。どうも我々の小隊の内部のみでの通信は可能なようで…………」

伊庭「とにかく一端外に出よう。周囲の状況を確かめる必要がある。それと、テロリストの協力者か何かが攻撃を仕掛けてきた可能性も無いとは言えない、警戒を怠るな」



12:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/10(月) 23:46:18.29 ID:DbgFvEgy0

伊庭たちの乗る装甲車よりも後方の73式小型トラック内

この小型トラックには現在トレーラーで輸送中の戦車の乗員が乗っていた

ちなみに伊庭の率いる小隊の隊列の最後尾である


島田(陸曹長・10式戦車の車長)「菊池。お前、今日なんか駆け落ちするとか言ってなかったか?」

菊池(3曹 戦車の砲手)「な……なんで知ってるんですか!?」

島田「風の噂で聞いた。でもまあ……なんというか、残念なことになったな」

菊池「今は駆け落ちよりも市民の命のほうが大切ですから」

丸岡(2曹 戦車の運転手)「けっ。女が居るやつはいいねぇ。こっちは家に帰っても犬しか出迎えてくれないってのに」

島田「にしても。俺らの戦車が使う様な状況にはなって欲しくねーんだけどなぁ。そういえばさっきから霧が濃くなってきたけど大丈夫なのか?運転手?」

関(3曹 73式小型トラック運転手)「視界が悪くなって……。前の車両以外は何も見えない状況です」

島田「まじかよ!って本当だ。雲の中みてーじゃねえか!」


ガッタン


島田「うおっと。おいおい脱輪か?」

関「どうもぬかるみにタイヤがはまったみたいで…………。前の車も止まっています」

島田「ぬかるみって……。ここ国道だぞ」

関「とにかく、無線で伊庭小隊長に指示を請います」

島田「そんなことしなくたってほら見ろよ。向こうから誰か来てくれたみたいだぜ?」


小型トラックの左前方から深い霧に紛れて黒い人影が複数出てくる


ザッザッザッザッ


関「よく見えませんが小隊長達ですかね?ちょっと行って来ます」

バタン


島田「………なあ、あの人影さ」

丸岡「はい?」

島田「何か変じゃないか?」

丸岡「変?といいますと?」

島田「なんつーか。身長が低すぎるし、ずんぐりむっくりしてるし」

丸岡「霧で歪んでそう見えてるんじゃないですか?」

島田「でもさぁ。雰囲気が俺たちとは違うというか………」


  

ギャアアアぁああああああぁあああああああああああああああああああああああああああああ



島田「!?」



14:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/10(月) 23:55:46.75 ID:DbgFvEgy0

島田「何だ!この悲鳴……。関の悲鳴だぞ」

丸岡「車長!あれ、関3曹が…………」

島田「!血を噴きだして………倒れた………だと?」

菊池「え?何ですか?あれ。え?え?」


人影の方に歩いて行った関3曹が血を噴き出して倒れていた

そして、その関3曹が接触しようとしていた人影達は刀のようなものを持っている


島田「おい。まさか、あいつらがやったのか?関を……」

丸岡「………車長」

島田「何だ?」

丸岡「あの人影…………。我々の部隊の人間じゃないです……」

島田「何!?」


霧が少し晴れて今までシルエットだった人影の姿がくっきりと現れる

その姿はまるで…………





島田「鎧武者……じゃねえか」



15:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/11(火) 00:14:08.62 ID:YAJDxJ+60

菊池「何ですかあいつら!鎧着てますよ?コスプレですか?!」

丸岡「バカ!あれ見ろ。あいつらが持ってる刀。関の血がついてる。本物だぞ」

菊池「ど……どうするんですか?はやく関3曹助けないと………」

丸岡「分かってる。とりあえず警察に連絡だ。あと救急車も」

菊池「ちょ!我々は自衛官ですよ!警察よりも装備は…………」

丸岡「俺らに逮捕権なんて無いだろうが!それに発砲許可すら出てないんだぞ」

菊池「でも……。ってあいつらこっち見てる!」



霧の中から現れた鎧武者の集団は5名ほど

だがよく見ると彼らの後ろの霧の中にはもっと大勢いるようにも見える

倒れている関3曹の横に立つ鎧武者の持つ刀は血で赤く染められていた

そして彼らは島田たちの乗る小型トラックを睨んでいた



島田「丸岡。この車に小銃は乗せてあるか?」

丸岡「えっと……。関3曹の89式小銃がそこに」

島田「これか。弾薬は……ここか」

丸岡「車長……。なにやるんすか」

島田「関の救出だ」


ガチャリと島田は小銃にマガジンを差込み、給弾する

安全装置を解除してセレクトレバーを3点制限射撃モードにセットし彼は車から出た


丸岡「ちょちょちょっと車長!命令も無しに!発砲許可も無しに!問題になりますよ?ってかひとりじゃ危険すぎますって。…………んんんん。俺も行きますから待ってください!」

菊池「え?き…危険ですよ。ぁ……丸岡さんも行くんですか!?俺も行きます。確か後ろに他にも銃が」



17:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/11(火) 13:12:04.42 ID:YAJDxJ+60

続き

島田たちが謎の鎧武者と接触する少し前



96式装輪装甲車 車外

伊庭「何だ?この地面は」

県「土砂崩れというよりも元々コンクリートで固められた地面ではなく、湿地だったようですね。この草なんて地面に直接生えてます」

伊庭「舗装された道路から沼地に外れてしまったのか?」

県「つい先程までは舗装された道路を走っていたはずなのに旧に沼地なんかに突っ込みますかね?見てください車両の走ってきた方の地面を」

伊庭「…………奇妙だ」

県「我々の装甲車がぬかるみに突入してから停止するまでは5メートル程度しか装甲していません。ですが装甲車の後方は5メートル以上も湿地になっています。まるで今まで我々が走ってきた国道が突然消えてしまったみたいです………」

伊庭「本当だ。霧でよく見えないが後続の車両も湿地に足をとられている…………。我々の隊列がいきなりこの湿地に移動させられたみたいな…………」

矢野「瞬間移動でもしたのか?」

伊庭「とにかく周囲の様子をもっと見てみよう」

県「そうですね。霧のせいで見えないだけで少し離れたところには我々の走っていた国道があるかもしれません」

伊庭「そうだな。それに他の車両の隊員に状況を知らせなくてはならない」

矢野「その必要はありません。後ろの車両の連中も出て来たみたいですから」


装甲車の後ろに続いていた車両群から続々と隊員達が出てくる

霧のせいで視認可能なのは装甲車の後ろ2両程度の車両のみだが、その後方の霧の中からも何名かの隊員が出てくるのが見えた

後続の車両もやはり湿地に足をとられたのだろう


伊庭「我々の小隊の車両はいくつあった?」

県「我々の装甲車を含めて16両です」

伊庭「そうか。なら全車両の安否を確認しに行くぞ。それと周囲の状況確認だ。県は今出てきた他の車両の隊員達に状況を説明しに行ってくれ」

県「了解」



18:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/11(火) 13:35:00.34 ID:YAJDxJ+60

96式装輪装甲車の10メートル後方 軽装甲機動車前


伊庭「根元3曹。無事か?」

根元(3曹 軽装甲機動車操縦手)「は!無事であります。しかし、地面に車が………」

伊庭「他の車両も同じだ」

根元「小隊長。このままでは作戦が…………。本部には何と言えば………」

伊庭「残念ながら現在、本部はおろか他の小隊とも連絡が取れていないんだ」

根元「そんな………」

伊庭「とりあえず俺は今から最後尾と車両まで1台ずつ隊員の安否と車両の状況を確認していく。お前は一端、LAV(軽装甲機動車)の中で待機していてくれ。他の隊員も全員車両の中で待機させる」

根元「了解。自分の車の仲の隊員も待機させておきます」

伊庭「よし。矢野。次の車両だ」

矢野「了解」


ギャアアアア


矢野「?」

伊庭「どうした?」

矢野「今後ろの方で悲鳴が聞こえたような?」

伊庭「後ろか………。と言っても最後尾のほうなんて全く見えん」

矢野「自分が見てきましょうか?」

伊庭「そうだな……そうして……………」


タタタン タタタン タタタン


伊庭「!?」

矢野「発砲音じゃねーか! しかもこの音は89式の3点制限射撃だ。誰だ撃ってるのは!」

伊庭「まさかテロリストの協力者か何かからの敵襲か!?」


霧の中から聞こえてきた銃声で他の車両に乗っていた隊員達もざわつく

根元3曹が乗っていたLAVのさらに後方の高機動車からは小銃を抱えた隊員が何人か不安そうに出てくるのも確認できる


伊庭「出てくるな! 車両で待機していろ。何が起こったのか不明なうちは無闇に外に出るな!」




ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン




伊庭「?」

矢野「何だ?この空を裂くような音は?」



21:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/11(火) 23:34:32.12 ID:YAJDxJ+60

ヒュンヒュンヒュンヒュン


伊庭「! 総員伏せろおおおおおおお!」

他隊員「「  !?   」」


カンカンカンカンカンカンカンカンカン


矢野「なんだこれは…………。弓矢…………!?」



霧の彼方から飛来した無数の矢が車両に当たり金属音を響かせる


伊庭「車両に退避!総員車両に退避しろ!」

伊庭をはじめとする隊員のほとんどは装甲車等の車両の陰に隠れて矢から身を守ったが


グアッ ギャア  痛ええええええ!


逃げ遅れたのであろう隊員達の悲鳴が聞こえてくる


矢野「くそっ!映画の撮影じゃねーよなこれ!」

伊庭「負傷した者はいるか!?」


隊員「し……小隊長。堀3曹と……戸賀士長が…………矢で」


伊庭「何!?」

矢野「くそ!あそこで倒れている隊員か!」


見れば2名の隊員が背中に無数の矢が刺さったまま伊庭たちのいる場所から少し離れたところで倒れている


伊庭「そんな………!」

矢野「小隊長!霧が晴れて………あれは!」

伊庭「!?」


先程まで視界を奪っていた霧が何故か驚くほどのスピードで晴れていく

そして、その霧の晴れた向こう、無数の矢の飛んできた方向には広大な湿地が広がっており



おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!




数え切れないほどの鎧武者が大地を埋め尽くしていた



22:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/11(火) 23:35:31.27 ID:YAJDxJ+60

伊庭「なんだあいつらは」


周囲の車両の陰に隠れた隊員達もその光景に騒然としている


矢野「小隊長!交戦許可を。頭のおかしいコスプレ集団だか、テロリストの仲間かは知らねえが、この程度の武器しか持っていないならこっちの装備で一蹴出来る」

伊庭(実弾の使用許可も、相手勢力の確認も出来ていないのに交戦するわけにはいかない。我々は命令が無くては攻撃することすら出来ない組織なのだから…………。しかし)


倒れている2名の隊員の周囲の地面は赤く染められている


伊庭(このままではもっと多くの隊員が彼らのようになってしまう………)

伊庭(俺の役目は……俺の部下の生命を守ることだ!)

伊庭「実弾の使用を許可する。ただし、敵の殺傷は最小限に留めろ。最優先とするのは隊員にこれ以上の犠牲者を出さずに、この場から離脱することだ!」

矢野「了解!」



23:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/11(火) 23:48:03.84 ID:YAJDxJ+60

大地を埋め尽くしていた鎧武者や雑兵たちは歓声を上げて自衛隊車両群に突撃してくる

その数は千を軽く越える


伊庭「APC(装甲車)とLAV(軽装甲機動車)の車載機関銃で威嚇射撃を行ってあの連中の足を止める!その間に他の隊員は各車両を何とかして走行可能な状態にしろ!」

「「   はい!   」」


隊員達は各車両に向かって走っていく


伊庭「木村曹長!APCの機関銃の射撃を許可する!ただし威嚇に留めろ!敵の殺傷はなるべく避けろ!」

木村「了解!」


APCの上部のハッチから顔を出していた木村曹長は装甲車に取り付けてあった12.7ミリ重機関銃に給弾をする


伊庭「根元3曹!LAVの機関銃の発砲も許可する!」

根元「了解!」


LAVの上部ハッチから根元は上半身を乗り出し、車両に取り付けてある5.56ミリ機関銃MINIMIをガチャリとリロードした


伊庭「撃ち方はじめええええええ!」


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド

タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ



24:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/12(水) 00:01:12.40 ID:QYc11S2F0

2丁の機関銃から放たれた銃弾はだいぶ薄くなった霧を裂いて迫ってくる武者たちの足元へ着弾する

いきなりの銃撃に驚いたのか敵の集団は足を止めた

ざわついている様子から相当驚いたようだ


伊庭「LAVの後続の車両も車載されている火器の使用を許可する!敵の足を止めるんだ!」


タタタタタタタタタ

タタタタタタタタタタタタ

タタタタタタタタタタタタタタタタン


白い霧の中で幾つかのマズルフラッシュが確認される


伊庭「この隙に車両を動かすぞ!矢野!倒れている隊員を救出………回収してこい」

矢野「了解!」




県「小隊長おおおおおおおおおおお!」

他の隊員に現状を知らせに行っていた県が伊庭の方へ走ってくる

どうやら彼も無事だったようだ

伊庭「県か!車載の機関銃で威嚇している間に車両を動かすぞ。その旨を最後尾の方の車両の隊員にも伝えて…………」

県「それどころでは………ありません!」

伊庭「? どうした?」

県「あっちの……弓矢を放ってきた連中とは別の武装勢力が反対側から我々に向かってきています!武装は……長槍が主かと」

伊庭「なんだと!」


おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!


伊庭「!」



25:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/12(水) 00:14:29.49 ID:QYc11S2F0

見れば弓矢を放ってきた勢力とは自衛隊車両群を挟んで逆の方向からこれまた無数の鎧に身を包んだ人間が突撃してくる

まるで伊庭達自衛隊の車両を挟んでそれぞれが戦をしているかのようだ


伊庭「なんだこれは……。挟み撃ちで逃げ場が無くなる…………」


根元「小隊長!どちらを撃てばよろしいですか!?」

木村「くっそ!連中、こっちが殺す気が無いと分かったのかまた突撃してきやがった!」

矢野「ちっ。装甲車やLAVは何とか湿地から抜け出せそうだが、弾薬満載のトラックはなかなか動かないぞ。もっと時間稼ぎをしてくれ!」

県「そうこうしてる間にどっちの勢力もどんどん近づいてくるぞ!」


新たに出現した勢力も矢を放ってきた勢力もどんどん迫ってきている

その距離は両者とも自衛隊と500メートル程まで近くなってきていた


伊庭「威嚇射撃を続行!装甲車より前の車両は車両の進行方向からして右の勢力を後ろの車両は左の勢力を!」

木村「しかし……。あいつらもう、ひるみもしません!」

車両を湿地から出して動かす作業をしていた隊員達も、威嚇射撃を行っていた隊員達も迫ってくる鎧武者たちに恐怖した表情を浮かべている

武者達がもつ槍や刀がぎらぎらと光るのをみて悲鳴を上げている者もいた


伊庭「作業急げ! 作業を行っていない者は全員小火器を携行。射撃を許可する!」

県「あああ!左の勢力が後方の車両に到達…………」

伊庭「なに!」



26:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/12(水) 00:25:58.67 ID:QYc11S2F0

霧が晴れてきたとはいえ伊庭達の居る先頭からはまだ最後尾の方は見えない

が、視認できる中で最も後ろの車両である大型トラックや中型トラック群に槍を持った者たちが突撃しているのが見えた

トラックの乗員や周囲の隊員たちは威嚇射撃は行うものの、敵はそれに驚きはしても恐れることはせず、槍を隊員へと突き立てる

元々は輸送任務に就いていた隊員達はボディアーマーを装備していない

そのため槍は容赦なく隊員達の身体を貫いた



ギャアアアアアアアア!

ゥアアアアあああああああああああああああ!


伊庭「くそ! 敵の殺傷を許可する!それと湿地から抜け出せない車両は放棄!動ける車両に乗って退避するぞ!」

県「り……了解」

矢野「そいはいってもみんな急に射殺なんて出来っこねえぞ」


敵勢力は伊庭達のいる場所にも到達しそうだった


後方のトラックの周辺に居た隊員達は小銃で敵の身体を蜂の巣にして反撃を開始していたが、それでもやはり生身の身体に銃弾を浴びせるのには躊躇いがあるようだ


木村「こっちも殺傷しても構いませんね?」

伊庭「ああ。重機関銃での敵の殺傷も許可する!」

木村「了解!」


ドドドドドドドドドドドドドドドドドド



27:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/12(水) 00:32:23.31 ID:QYc11S2F0

伊庭「こうなるなら最初から許可をしていれば…………」

県「悩まんでください。そんなことよりも今は……………」


ドオオオオオオオオオオオオオオン


伊庭「!? 爆発音?」

県「あれは!」

伊庭「!」

県「トラックが爆発した…………のか」


鎧武者の集団が中型トラックに群がって、そしてそのトラックを押し倒したのだろう

横転したトラックはその弾みでどこかから燃料が漏れ、そして引火したようだ

満載していた弾薬や燃料と周囲に居た隊員をも巻き込んでその車は大爆発を起こしていた








今日はここまでです!



29:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/12(水) 14:08:51.27 ID:QYc11S2F0

トラック爆発より少し前・最後尾の島田たち


島田「関いいいいいいい!お前ら何やってるんだ!」

鎧武者たち「!?」

丸岡「関3曹!…………だめだ。首筋を切られて…………」

菊池「そんな…………」

島田「何者かは知らねえが、これは殺人だぞ!お前ら分かってんのか!コスプレ野郎!」

鎧武者「なんじゃ?こやつら。奇妙な格好に喋り方も変じゃ」

島田「ああ?」

鎧武者「中村か有馬の軍勢かと思ったが刀も槍も持っていないとは…………」

別の鎧武者「見ろ。あれは火縄の類じゃなかろうか?」

鎧武者「?」


鎧武者たちは自衛官の持つ89式小銃をまじまじと見てくる


丸岡「何だこいつら……。ラリってんじゃないのか?」




「おーい。何があった!?」

「小隊長たちが先頭の方で状況の説明を開始したから来るようにと…………」

「関!関3曹!どうしたんだ!」


島田たちの乗っていた小型トラックの前の車両に乗っていた隊員達も異変に気付いて駆け寄ってくる


鎧武者「なんじゃ新手か?」

鎧武者「あの鉄で出来た馬は東の隠し玉か?」

鎧武者「ええい!何者かは知らないが味方でもなさそうじゃ!斬りおとせ!」


鎧武者たちは一斉に刀を抜いてくる



30:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/12(水) 14:18:16.26 ID:QYc11S2F0

丸岡「おい!どうなってんだよ?東って何だよ!こいつら車も知らないのか?」

菊池「ふ……ふざけてるようには思えませんよ……。あの刀本物ですし」

他隊員「は?なんだこいつらは」


見れば敵の鎧武者の数は先程よりも増えている

おそらく霧で隠れて見えていなかったのだろう

その武者たちが一斉に刀を抜いて襲い掛かってくる

鎧武者「かかれええええええええ!」

「「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」




タタタン タタタン  タタタン




鎧武者「なんじゃ!この音は!」

鎧武者「あれ。火縄が連続で…………!?」


島田「訳はよく分からんが、それ以上近づいたら容赦なく貴様らを撃ちぬくぞ!」


島田は89式小銃を構えて鎧武者たちの足元に3点制限射撃で発砲していた

鎧武者たちは突如として火を吹き、連続で弾丸を発射した小銃に動揺しているようだ


鎧武者「火縄が………連発!?」

鎧武者「東の軍はこんなものを…………!」

鎧武者「何が起こってるんじゃ!?」

鎧武者「鬼じゃ!あやつら鬼に違いない!」



31:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/12(水) 14:26:31.48 ID:QYc11S2F0

島田「今のうちだ!丸岡と菊池、関3曹を車両に運べ!他の隊員は伊庭1尉に報告をしてきてくれ!」

他隊員「り……了解しました」


島田「痛い思いをしたくなかったらその刀を捨てろ!」

鎧武者「くっ………おのれええ」

鎧武者「殿の命によって中村一栄隊の前で苅田をしろと言われて来てみれば…………。鬼の衆に遭うとは……」

島田「何をごちゃごちゃ言ってるんだ!はやく武装解除を…………」



ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン



島田「何だこの音は…………」

鎧武者「!戦が始まってしもうたか!」

島田「い………くさ?」



32:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/12(水) 14:41:05.42 ID:QYc11S2F0

丸岡「! あれは!」

菊池「車長!逃げてください!」

丸岡「菊池!お前も車の陰に早く隠れろ!」



ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン


カンカンカンカンカン


ぐあああ!

ぎゃああああ!


飛来した矢が先程の鎧武者たちと、先頭のほうに居るであろう伊庭に状況を報告にしに行こうとしていた隊員達を貫く


島田「うおっ!なんだこれ!」


島田は幸運なことに矢に当たらず生存していた


丸岡「車長!はやくこっちに!他のみんなも車の陰に隠れろおおお!」


菊池「あっ!見てください!矢の飛んできた方向とは逆の方向!」

丸岡「? 何!」



おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!


菊池「新手です!」

丸岡「霧が少し晴れて辺りの光景が見えるようになったのは良いが……」



霧が晴れて辺りの様子が徐々にわかるようになる

隊員達がそこで目にしたものは


島田「左も右も敵ばっかじゃねえか!」



33:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/12(水) 19:15:53.82 ID:QYc11S2F0

おおおおおおおおおおおおおおおお!


丸岡「車長!どっちの敵も我々のほうに突撃してきます!」

菊池「俺たちを挟んでこいつら戦ってるのか?」


矢を放ってきた敵と新手の敵では格好が若干違うように見える

どうやら両者は自衛隊の車両群を挟んで対峙していたようであった


丸岡「おいおいどうすんだよこれ!このままじゃ俺たち巻き込まれるぞ」

菊池「け……警察に連絡して何とかしてもらえば」

丸岡「連絡してる間にあいつらに押しつぶされるぞ俺たち!それに見ろ、俺の携帯」

菊池「圏外…………」

丸岡「小型トラックに無線がついてただろ。あれでこの小隊の小隊長に指示を請うぞ。それと車を何とか動ける状態にする」

菊池「はい」

丸岡「車長!車をぬかるみから出して動けるようにしましょう!」

島田「わかった手伝う!」


菊池は既に息をしていない関3曹を彼らの乗ってきた73式小型トラック(パジェロ)後部座席に乗せた後、車載されていた通信機で小隊長である伊庭の乗っているであろう装甲車へと応答を呼びかけ始めた

丸岡と島田はぬかるみにはまっているパジェロを何とかしてぬかるみから出す作業に入った


島田「おーい!前の車両の隊員!聞こえてるか?」


作業をしながら島田は前の車両の周辺で矢に倒れた隊員を回収している最中の隊員に声をかける



34:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/12(水) 19:23:28.70 ID:QYc11S2F0

隊員「はい!」

島田「見ての通り敵が攻めてきやがった!何人かで機関銃か小銃を使って奴らをけん制してくれ!その間に車を何とかして動かせるようにする。動かせるようになったら退避するぞ」

隊員「り……了解」


前の隊員たちも何人かは車両をぬかるみから出す作業に、何人かは車載の機関銃か小銃で敵勢力への威嚇を開始し始めた

そして良く聞けば彼らだけでなく、もっと前のほう(まだ残る霧に隠れて良くは見えないが)の隊員達も威嚇射撃を開始したようだ


タタタタタタタタタタタタタ


タタタ タタタ タタタ


隊員「くそっ!止まれ!止まりやがれ!本当に殺さなくてはならなくなるぞ!」

隊員「やつら、目が本気で俺たちを殺そうとしてる目だ!射撃に驚いても止まらないぞ!」

隊員「敵の距離……残り500メートルもありません!」



35:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/12(水) 19:48:17.95 ID:QYc11S2F0

隊員「あ……新手のほうの敵が前方のトラックに到達します!」

長槍を持った新手の敵数十人が威嚇射撃を恐れずに突撃し、ついに自衛隊の車両群の一角に到達したのが見えた

トラックの乗員や周囲の隊員はそれぞれが持つ小銃で敵の足や腕を撃ち、何とか追い払おうとするが、次から次へと押し寄せる雑兵たちになすすべも無く倒れていった

ある隊員はついに弾切れをおこし、絶望した表情のまま槍で突かれて絶命した

ある隊員は車両の中に逃げようとしている途中を刀で斬られた



島田「くそ!丸岡!いそぐぞ!」

丸岡「はい!…………うわっ!」


遂に島田たちの車両のまわりにも敵が到達した

しかも、左と右の勢力両方が到達したようで、自衛隊に攻撃をするだけでなく、鎧武者同士での戦いも始まっている

その武者の何人かが島田たちの車両に長槍を突き立ててきた


菊池「ぎゃああ!」

武者「なんじゃこの鉄の馬は!成敗してくれるわ!」

菊池「ちょっ。やめてください!」


パジェロの側面に突いた長槍はカンッという音と共に弾き返されたが、幌に突きたてられた槍は幌を破って車内へと進入した


島田「菊池!小銃持って車から出ろ!車両は放棄だ!」

丸岡「放棄って………これからどうするんですか?……おわっ!くっそ」


タタタタタタタン


丸岡に長槍を突き立てようとした兵に島田が小銃の弾丸を撃ち込む

周囲は既に乱戦状態であった

そして乱戦の中で隊員達は次々と巻き込まれて犠牲になっていく


島田「トレーラーに積んである10式まで退避するぞ!あそこの中なら槍でも弓矢でも回避できる」

丸岡「ほ……他の隊員は?」

島田「10式を動かしてここにいる敵を蹴散らして全員助ける」

菊池「でもトレーラーの戦車にはまだ燃料を積んでませんよ」

島田「トレーラーの前後で走行してた車両は燃料を積んだ大型トラックだったろ。戦車の重機関銃で敵をひるませ、その隙に燃料を補給する」

丸岡・菊池「了解」

島田「よし。ついて来い。うらあああああああ!どけどけどけ!」

タタタタタタ タタタタタ

島田はこちらへ攻撃してこようとする長槍や刀を持った兵を銃撃でなぎ倒し(ただし足を狙っていた)、道を作りながら前進する

菊池と丸岡もそれに習った



この間、島田たちの乗っていたパジェロをはじめとする中型トラックなどの幾つかの車両は押し寄せる敵に倒され、燃料が漏れ、引火し、爆発していた

そして、その周囲に居た隊員や車両内に居た隊員はそれに巻き込まれてしまった

かろうじで爆発から逃げ切った隊員も無数に現れる敵の槍や刀に襲われて倒れた



37:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/13(木) 10:35:00.11 ID:RHWGRmGX0

同時刻・先頭車両群 伊庭たち

伊庭「負傷者を救出し装甲車に運べ!それと炎上した車両から離れろ!」

木村「くそ!きりがねえ!」


ドドドドドドドド  ドドドドドドドド ドドドドドドドドドドドン 

ぎゃああ! ぐあっ


木村曹長は車載の重機関銃で押し寄せてくる雑兵を片っ端から倒している

無論足を狙っているのだが12.7ミリの銃弾は片足を丸ごと吹き飛ばす威力を持っていた



ドドドドドド ドドドドドドドドド ドドドドド カチッ カチッ


木村「弾が切れた!12.7ミリの弾持ってきてくれっ」

県「みんな今は手がふさがってる!装甲車内に予備の弾倉があるから自分でとってくれ!くっ」

タタタン タタタン


車両の周りに展開している隊員達は自分たちに向かってくる敵の相手をするので精一杯だ

1人倒したらまた次がやってくる

手を休めた瞬間に槍で突かれるか刀で斬られるか、どちらかになってしまう


矢野「装甲車は走行可能になったぞ!負傷者を優先して入れろ!あと誰かモルヒネ持って来い!」

根元「LAVもぬかるみから脱出!後ろの高機動車や輸送車両もおそらく走行可能です」

伊庭「分かった。無線で全車両にAPC(装甲車)に続くように命じろ」


ドルルッ ドルルルルルル



負傷者や既に息の無い隊員を収容し終わった車両が動き始める


県「負傷者と……犠牲者は収容し終わりました。炎上した車両や散らばった空薬莢の回収は?」

伊庭「全て放棄しろ。早いところこの場を離脱して負傷者の手当てをしなくてはならない」

県「行き先は?現在地が不明な以上どこに向かえば良いかが分かりません」

伊庭「GPSで現在地を確認しろ」

県「先程、木村曹長が確認しましたがGPSが機能していません。無線もいまだに本隊や他小隊とは繋がらず………」



38:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/13(木) 10:49:32.21 ID:RHWGRmGX0

伊庭「……………。仕方が無い。この場を離脱することだけを優先に闇雲に走るしかなさそうだ」

県「はい」

伊庭「おいっ。車長!三田村!APCを先頭にしてこの場を離脱する」

三田村「了解。加納。発進準備だ」

加納「了解」


装甲車の車長が装甲車の上部ハッチから身を乗り出して返答する


矢野「こっちも弾が切れそうだ。早いところ車両にのって戦線離脱するぞ」

伊庭「ああ。急いでAPCに乗れ。っと、くそ」


タタタン タタタン カチッカチッ

弾倉が空になったところで伊庭たちも装甲車に乗る


木村「小隊長を収容。発進しろ!」

加納「了解!」

伊庭「前進ではなく後方に進んでくれ。収容できていない負傷者が居るかも知れん。特に最後尾の車両群の状況はあまり掴めていない」

加納「わかりました」

木村「全車両に告ぐ。APCに続いて走行開始。離脱する」



39:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/14(金) 20:28:23.53 ID:7x1uhc2H0

「ううっ………」

「いてぇ…………」

「ぐあああ!」

矢野「早くモルヒネを投与しろ!それと床の血を拭け」



県「まるで地獄絵図ですね」

伊庭「ああ。はやいところ野戦病院の類に運ばないと助からん」

県「木村曹長。後続の車両の様子は?」

木村「走行可能な車両は全てついてきています。この装甲車と2両のLAVの機関銃で武装を持たない車両に近づく敵を排除しながらですが……」


ドドドドドドド ドドドドドド

車載の重機関銃を撃ちながら木村は言う


伊庭「取り残された者が居ないか直接確かめる。上部の扉を一つ開くぞ」

木村「了解」


ガタッ


96式装輪装甲車の上部は車長と銃手用のハッチとは別に兵員が顔を出す扉も備えられている


伊庭「これが夢だと信じたいな」

木村「はい」


走行中の装甲車の周りの光景は見渡す限り武者たちで多い尽くされていた


伊庭「まるで戦国時代の合戦じゃないか」

木村「小隊長。弓矢が飛んでくる可能性もあります気をつけてください」

伊庭「ああ。そういえば先程から車両に対しての攻撃が少なくなったような気がする」

木村「機関銃の掃射と“我々の乗る自動車の存在”を警戒しているのでしょう。近寄ったら銃撃されるということをやつらは学習したみたいです。まあ例外はありますけどっ!」


ドドドドドド ドドドン


伊庭(それではまるで、奴らが自動車の存在を知らないみたいではないか)



40:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/14(金) 20:37:19.59 ID:7x1uhc2H0

木村「見てください」

伊庭「……………」


木村が指差すところには爆発・炎上し、無惨な姿となった自衛隊車両があった


木村「無線では炎上した車両から死傷者の回収は終了しているとのことです。ただ一連の出来事で車載無線機が損傷した車両もあり、隊員の点呼と正確な人数把握が出来ていないのですが」

伊庭「そうか。もしかしたら逃げ遅れた者が居るかもしれない。よく見るんだ」

木村「はい。それにしてもこの臭い…………。人肉の焼けるような臭いです」

伊庭「……………」


県「小隊長!」


伊庭「どうした?」

県「少し分かったことg………」

三田村「10式だ!」

伊庭「何?」

三田村「10式がトレーラーに乗せられたままです」

伊庭「!」

三田村「我々の任務は10式戦車を運ぶことです。どうしますか?このままだと任務放棄に……」

伊庭「……………」


ザザッ ザザッ  ザザッ コチラ ヒトマルシキ キコエテイルカ ザザッ


加納「車載無線に入電」

三田村「回線を開け」

加納「はっ」



43:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/14(金) 20:57:25.70 ID:7x1uhc2H0

無線『こちら10式戦車車内。自分は通信士の西沢です。この通信は自分の持っていた携帯通信機から送っています」

伊庭「西沢1士!?どうして戦車内に!」

西沢『はっ。自分の乗っていた車両が倒され、敵に囲まれているところを戦車の乗員に助けられまして……』

伊庭「ということは戦車の乗員もそこに!?」

西沢『はい。今代わります」

島田『こちら10式戦車車長の島田です。そこにおられるのは戦車護衛小隊の小隊長殿でよろしいですか?』

伊庭「そうだ。小隊長の伊庭だ」

島田『とりあえず現状を説明すると、今戦車の中には西沢1士と我々戦車の搭乗員の計4名が居ます。全員無傷』

伊庭「そうか。それなら今すぐ戦車をトレーラーから出して退避を…………」

島田『残念ながら今現在、戦車には燃料が入っておりません。本当は燃料を入れようと思ったのですが、燃料を積んでいたトラックが爆発しまして』

伊庭「戦車は走行不能か。なら今すぐ戦車を降りて我々の車両に…………」

島田『それも出来ません』

伊庭「なぜだ!」

島田『我々はこの戦車を作戦終了後、駐屯地へ必ず走行可能な状態で戻すという使命があります。ですからここで戦車を放棄は出来ません。それに」

伊庭「それに?」

島田『戦車の周りは敵でいっぱいです。我々が退避する為に他の隊員が危険に晒される可能性も」


確かに走行中の自衛隊車両に近寄ってくる人間は少なくなったが、停止したままの戦車と戦車を載せたトレーラーには雑兵が蟻のように群がっている


伊庭「我々が何とかする。それに燃料を積んだトラックもまだ幾つか残っている。少し時間をくれれば戦車に補給を……」

島田『そんなことをしている時間がありますか?」

伊庭「何?」

島田『先程の戦闘で何人もの死傷者が出ている。今すぐにでも治療しないといけない状態の隊員がたくさんいますよね?』


装甲車内

「ううっ」

「いてぇ……・」

「はぁ……はぁ………」


伊庭「…………」

島田『APCやLAVはともかく、ソフトスキン(非装甲)の車両は槍や矢を通してしまう。ここで停止したらこれ以上犠牲が出てしまいます!とにかくここは一端自分たちを置いて退避してください』



44:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/14(金) 21:01:00.97 ID:7x1uhc2H0

伊庭「………………分かった。絶対に救出しに来る。それまで待っていろ!」

島田『了解!」

伊庭「全車両、前進」



50:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/15(土) 08:44:10.31 ID:MWURleYr0

10式戦車から離れて数十分後


三田村「さっきまで近寄ってこなかった敵がまた攻撃を仕掛けてきました!」

木村「くそっ。こっちの銃撃に慣れてきたのか?それとも頭のネジが吹っ飛んだか?」

加納「ああっ。進行方向を敵が塞いで………。これでは進めませんっ。周囲も完全に囲まれています」

伊庭「構わん。礫殺しろ」

加納「しかし…………」



ドーンッ ドーンッ



伊庭「何だこの音は!?味方の火砲か?」

県「いえ。我々の火砲の音ではありません」

木村「!敵の砲撃です!おそらく単純構造の砲でしょう。後続の車両の何台かに着弾を確認!」

伊庭「弓矢と刀だけでなく大砲まで持っているのか敵は」

県「大………筒……?」


空から飛来する球状の砲弾は中に火薬を含んでいないため、車両に着弾してもその車両を走行不能にするには至らなかった

しかし、次々に降ってくる砲弾は隊員に更なる恐怖をもたらす


伊庭「敵はどこから攻撃してきている?」

木村「だれか双眼鏡を持ってきてくれ」

三田村「ここにあります」

木村「おう。……………………!2次の方向!発砲煙の様なものを確認!砲の形状はかなり古いものです」

伊庭「機関銃で黙らせろ」

木村「……………敵の大砲の射程は300メートルってところか。十分に射程範囲内だ……………!?」

伊庭「!?」




バババババババババババババババババババババ



県「ヘリのローター音!」

木村「敵の大砲陣地後方よりヘリの機影確認。あれは我々の仲間です。UH-60JAです!」

伊庭「UH-60JAだと!」



UH-60JAは米軍のUH-60ブラックホークを日本用に改良したヘリである
特徴は両脇につく巨大な増槽で最大速度は265km/h。航続距離は1295km。乗員はパイロット含め15名だ


県「空挺隊員を乗せていたヘリか!」

木村「ヘリの出現に驚いたのか、敵は大砲の射撃を中断。車両に近づく敵も停止しています」

三田村「ヘリのパイロットと思われる隊員から通信が入っています」



52:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/15(土) 09:03:54.97 ID:MWURleYr0

ヘリのパイロット『こちら上空ヘリの清水2等陸尉。副操縦士と空挺隊員5名を乗せて飛行中』

伊庭「こちら第12旅団、戦車護衛任務に就いていた普通科小隊の伊庭だ。状況は把握出来ているか?」

清水『は。夢であって欲しいのですが、眼下は刀や槍で武装した兵士に覆われています。また、そちらの小隊は砲撃を受けていますが上空から見る限り損害は軽微。攻撃していた敵の兵も現在は動きを止めていますね』

伊庭「現在、我々のGPSは正常に機能しない。隊外への通信も不能だ。我々の退避のための道案内と、我々に攻撃をしてくる敵、並びに、敵の砲陣地へのけん制攻撃をお願いしたい」

清水『けん制………。了解。車両の誘導と敵陣地への攻撃を行います』


敵の砲陣地の上空でホバリングしているヘリのサイドドアが開き、空挺団所属と思われる隊員がヘリに搭載されている重機関銃構える

ヘリのローターによる風圧で周囲の敵兵はヘリに攻撃しようとしても出来ない状況だ


清水『無線とGPSに関しては我々も使用不能です。他の機器は正常に動いているので電子戦の恐れは無さそうですが…………。現在、副操縦士がジャイロコンパスで現在地を確認中です』

伊庭「そうか。頼んだ」

三田村「加納。ヘリの誘導に従って進め」

加納「了解」

伊庭「全車両に告ぐ。ヘリの後に続け」


ドドドドドドドド ドドドドドドドドド


ヘリに搭載された12.7ミリ機関銃が火を吹き、敵と敵の砲を木っ端微塵に粉砕する

その光景に驚愕した周辺の兵たちもたちまち逃げてしまう


こうして伊庭達の小隊は戦場から離脱することに成功した



57:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/15(土) 14:39:41.31 ID:MWURleYr0

慶長5年9月14日
西暦にすると1600年10月20日

日本は東と西の二つの勢力によって2分されていた


東は徳川家康 
西は毛利輝元(もっとも、実質のところは石田光成であったが)


両陣営共に数万から10万の軍勢を抱えて今まさに日本史上稀に見る壮大な戦いが幕を開けようとしていた



58:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/15(土) 14:52:49.11 ID:MWURleYr0

東軍の総大将である徳川家康が美濃の赤坂に到着したことにより西軍には動揺が走った

中には逃げ出す西軍の兵士もおり、西軍・石田光成の家老である島左近勝猛は戦勝によって自軍の士気を高めようと東軍に奇襲を仕掛けることにした

この戦いこそ後の世に知れる関が原の戦い前の局地戦、杭瀬川の戦いである


史実によればこの戦いは島左近勝猛の策によって西軍が大勝利を収めることとなっていた


が、しかし

現在のところ西軍が勝利することもなく、また、東軍の軍勢である中村・有馬隊が勝利するにも至っていない



なぜなら突如としてこの杭瀬川の地に謎の集団が現れたからである

その集団は地を走る鉄の馬に乗り、空を飛ぶ鉄の鳥を操り、南蛮人のような格好をし、背が高く、一瞬で何十もの兵をなぎ倒す火縄銃を持っていたという

彼らを間近で目撃した足軽たちはこう口々に叫んだそうだ


「鬼じゃ!鬼が襲ってきおった」と



59:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/15(土) 14:59:41.98 ID:MWURleYr0

突如出現した異形の集団は島左近が用意しておいた伏兵と接触、殺害してしまった

これによって東軍への奇襲が失敗し、普通に戦が起こってしまったのである

つまり歴史が変わったのだ




異形の集団は既に杭瀬川を去ってどこかへ行ってしまったが、彼らが居たであろう場所には鉄の馬がいくつか残されていた

400年後の世に生きる人間はその鉄の馬を戦車(せんしゃ)と呼んだが、1600年に生きる人間はそれを戦車(いくさぐるま)と呼ぶに至った

そして、その戦車は今のところ東軍の軍勢が支配している



60:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/15(土) 15:12:47.68 ID:MWURleYr0

本多佐渡守正信「一栄。これがおぬしらの言っておった“いくさぐるま”か」

中村一栄「そうじゃ。ここにある戦車(いくさぐるま)は未だに動く気配すら無いのじゃが、わしはこれと似たような鉄の馬が馬よりも速く地を駆けるのをこの目で見た。わしだけではないぞ。ここにおる兵士全員じゃ」


戦車と戦車を載せたトレーラー、炎上しボロボロになったトラックなどの周りには戦を生き残った兵士が多く居る

皆、戦車を恐れるようにして見ていた


一栄「これは鬼かそれとも南蛮人の仕業に違いない。わしらが見た連中は南蛮人のような格好をしておった」

正信「豊氏。おぬしもか?」

有馬豊氏「見たとも。鉄の車の上から奴らは火縄を連発で放ってきおった。しかも、その威力は火縄のそれとは比べものにならん。西の隠し玉であった大筒とやらを易々と壊しておったわ」

正信「西に攻撃をしたということは東の味方か!?」

一栄「それはなかろう。我が方も多くの犠牲を出している。何と言うか、奴らはどちらの味方でもなく、ただ戦に巻き込まれたように思えるのう」

正信「…………。どちらの味方でも無いのならば、我が方へ導くべし」

一栄「それは家康殿の御言葉か?」

正信「いや。殿なら必ずそうするであろう。西を確実に叩くのであれば鉄の車も鉄の鳥も必要じゃて」



61:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/15(土) 15:26:12.30 ID:MWURleYr0

豊氏「この禍々しい形。あの先に付いているのは鉄砲の類か?」


トレーラーの上で固定されている10式戦車の砲身を指差しながら有馬豊氏は言う


正信「それにしては大きい。こんなものが馬より速く走れるのか?」

一栄「…………ふむ。生きてはおらんと思うが」

コンッ コンッ


豊氏「あまり叩く出ない。もしこれが生き物で寝ているだけだったらどうするのだ!」

一栄「ふむ。おっ。ここは硝子で出来ておるのか。っと中々厚いのお。鉄もよく変形している。どこの鍛冶職人でも鉄をこのようには出来ん」

正信「何か描いてあるの。これは桜じゃろうか」


本多正信は戦車に記されている自衛隊の旗である桜の印を見て言う


正信「文字も書いてある。おっ。ここからなら入れそうだが………。うむ、入れん」

一栄「下の車輪のようなもので動くのか。しかし、これを引く馬はおらんかったし、やはり生き物か?飯でも持ってくれば動くかの?」

正信「…………。中に人が入ってそうじゃの」

豊氏「家康殿には報告したのか?」

正信「使いを走らせた。もうじき来るじゃろう。それにその異形の輩を見つけ出さねばならん」

豊氏「そうか。彼らを御味方にしたいのは西とて同じことじゃろう。おそらく島の左近はまたこの戦車を奪いに来るぞ」

正信「そうじゃのう。関が原での決戦の前にここで決着がついてしまうかも…………」



63:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/15(土) 19:25:15.31 ID:MWURleYr0

10式戦車内


丸岡「戦車は完全に敵に囲まれたみたいですね」

操縦席から外の様子を伺う丸岡

島田「攻撃してくる様子は?」

丸岡「ありませんね。恐れて近寄ってきません」

島田「そうか。しかし、こうして車内でずっと待機してるのも暇だな。西沢。どうだ?戦車の中は」

西沢「狭いですね。いつもこの中に居る戦車隊員は素直に尊敬します」

丸岡「おいおい。俺にとっちゃここは天国なんだぜ?狭いのは否定しないが、こいつ(戦車)を転がすときほど幸せな時間は無いってもんよ。なあ菊池」

菊池「………………」

丸岡「どうした?」

島田「駆け落ちを約束した彼女のことでも考えてたんだろ。そっとしておいてやれ」

丸岡「そっか…………。ああー。にしても携帯にはいまだに電波が入らない。今ソシャゲのイベント中なんですよ?くっそー」

島田「気を抜くな。この戦車が刀や槍、矢、それに火とかにやられることは無いだろうが、万が一の時は車外に出て戦車を守るために戦わなくてはならない」

丸岡「そうっすね。一応、主砲同軸の機関銃で内部からいつでも攻撃できるようにはしてますが」

島田「はやいところ救援に来てもらわないと色々困るな。食料とか」

西沢「伊庭小隊長は必ず救援に来ます。小隊長は言ったことは必ず実現する人です」

島田「だと………いいな」

西沢「小隊長が救援に来る時はおそらく無線で連絡があります。それまで待ちましょう」

菊池「…………………」

丸岡「…………菊池。お前本当に大丈夫か?」

菊池「丸岡さん…………」

丸岡「ん?」

菊池「腹……壊してしまって。そろそろ限界で…………」

丸岡「おい!ここですんなよ!ただでさえ対生物兵器用で密閉された空間なんだからな!臭いで車内が大変なことに!」

島田「俺の戦車の中で糞漏らしたら腕立て1000回やってもらうぞ!どうしてもしたいなら外に出てあの連中にぶっかけてこい!」

菊池「まだ漏らすなんて言ってませんよね!っ!うああああああ!」



64:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/15(土) 19:46:02.39 ID:MWURleYr0

同時刻

杭瀬川から十数キロ離れた森の中に伊庭たちは居た

森の中のちょうど木々が生えていない広場になっているような場所

無秩序に停められた車両群とヘリは草をかぶせてカモフラージュさせ、それらの装備から少し離れた場所で焚き火を囲みながら生存した隊員達が集合している


伊庭「夜空が綺麗だな。こんな夜空は“現代の日本”では見ることが出来ん」

県「小隊長。各種装備のカモフラージュと点検。残存している戦力の確認と“殉職者”の埋葬、センサーの設置を完了しました」

伊庭「そうか。歩哨を一応つけておけ。殉職者の正式な葬儀は戦車の隊員を救出してからにしよう。で?残存戦力は?」

県「はい。残存隊員は10式戦車に取り残されている4名を除いて26名。これにヘリの操縦士、副操縦士、空挺隊員の計7名が加わりました。殉職者は14名。全員の死亡をこの目で確認してきました。負傷者は7名ですが命の危険はないそうです」

伊庭「14名……か」


伊庭の頭に殉職した隊員達の顔が思い浮かぶ


伊庭「………………」

県「装備は96式装輪装甲車が1両、軽装甲機動車が2両、高機動車が2両、73式小型トラックが3両、大型トラックが2両、中型トラックが1両、それとUH-60JAです。先程の戦闘で我々は5両の車両を失ったこととなります」

伊庭「戦闘………か。県。あれが戦闘に思えるか?」

県「は?」

伊庭「我々は一方的に攻撃され、そして殺された。そして、その後我々は一方的な虐殺を行った。先程の戦いはどちらかが一方的な攻撃をしているだけだった」

県「……………。小隊長は……もう状況が分かっているのではないですか?」

伊庭「…………」



65:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/15(土) 20:00:41.37 ID:MWURleYr0

県「自分は………その歴史とか好きで。本当は防衛大に進むんじゃなくて普通の大学で歴史を学ぼうと思っていたんですけど。それで…………気になったことが」

伊庭「あの鎧武者たちのことか」

県「はい。あの鎧武者たちの持っていた旗が気になりまして。正確に言うと旗印なのですが」

伊庭「続けろ」

県「自分が見た旗印は3つほどあったのですが、その内のひとつは確実に知っていました。丸に三つ柏。島左近勝猛です」

伊庭「島……左近。俺は理系だったから良く知らないんだが」

県「三成に過ぎたるものふたつあり、島の左近に佐和山の城。石田三成の家臣のひとりです」

伊庭「石田……三成だと。あの関が原の?」

県「はい」

伊庭「この期に及んであの光景が何かの祭りだとは考えられんし………。だとすれば我々に起こった出来事の仮定は2つか」

県「………………」

伊庭「連中。あの鎧武者たちは我々よりも骨格が小さいようにも見えた…………。はぁ。本当に夢であって欲しい」

県「何はともあれ、まずは戦車の奪還です。その作戦の為に全員召集させたんですよね」

伊庭「ああ。全員揃ったみたいだな」


焚き火の前に集まった隊員の点呼が矢野によって終了したらしく、全員伊庭のほうを不安そうに見ている


伊庭「県、我々に起こったであろう事はまた後で隊員に知らせる。今それを知らせてさらに彼らを不安にさせてはならん」

県「了解」



68:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/15(土) 23:08:58.75 ID:MWURleYr0

伊庭「全員集まったようだな」


一同「「……………」」


伊庭「皆も分かっている通り現在我々は常軌を逸した状況にある。そして、先程の出来事で14名の隊員が死亡した」

隊員「し……小隊長!あいつらは一体!テロリストですか!?」

矢野「おい高嶋。お前テロリストが槍や刀で武装してると思うのか?」

隊員「では!過激派組織とか」

矢野「連中は数千人を越えてた。日本にそんな過激派組織があるとは思えん」

伊庭「連中については俺も分からん。現在、我々が置かれている状況もな。無線は隊外とは繋がらず、GPSは使用不能だ。清水2尉。ジャイロコンパスで現在位置は特定できたか?」

清水「ヘリのジャイロによれば現在位置は岐阜県大垣市付近です」

矢野「………。俺たちが走っていたのは新潟と富山の県境、糸魚川河口付近だったはずだ。瞬間移動したとしか考えられんぞ。ジャイロは正しいのか?」

清水「はい。ただ上空から見た限り、周囲に建物や高圧電線は見当たらず………」


オイオイマジカヨ

ドウナッテルンダ ソレヨリオレタチハコレカラドウスレバ

アイツラマタコウゲキシテクルカモ 

 
ワイワイガヤガヤ

伊庭「落ち着け。まず我々は状況確認の為の偵察が必要だ。本隊と何とか連絡もとらなくてはならない。そして、何よりも戦車に取り残された隊員の救出だ」



69:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/15(土) 23:28:42.76 ID:MWURleYr0

矢野「そうだ救出だ。それに戦車の奪還だ!我々の任務は戦車を原発まで無事届けることだった。戦車は必ず奪還する!」

隊員「そ……そうだ。我々は任務を全うするべきだ。殉職した彼らの為にも」

隊員「でも……また殺さなきゃいけないのか?」

隊員「我々が殺される危険性も」

隊員「くっそ!何がなんだか!」

伊庭「最優先は隊員の救出と戦車の奪還。第二に本隊との連絡。我々の持っている無線だけが壊れているのかもしれない。近くの駐屯地……、民間人でも良い。我々以外の“まともな人間”を発見して、何としても本隊と連絡をとる。でないと原発がテロリストに…………」

県「……………」

伊庭「そして付近の偵察だ。作戦内容と作戦参加隊員の発表は後に知らせる。それまではこの場を無闇に離れるな。この決定に異議のある者は?」

隊員「あ……あのぅ」

伊庭「須賀?言ってみろ」

須賀(士長)「あの……。またあいつらが攻撃してきたら………。我々は殺さなくては……?」

伊庭「敵の殺傷は最小限に抑える。ただし、自分の命を最優先にしろ。自分が殺されそうになったら構わず引き金を引くことを許可する」

県「小隊長…………」

矢野「…………」



70:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/15(土) 23:33:17.80 ID:MWURleYr0

伊庭「我々は自衛官だ。専守防衛は絶対とする。それに…………」

矢野「それに?」

伊庭「敵も一応“日本人”だ。なるべく戦闘は避けたい」

県「………………」

伊庭「では後ほど作戦内容を伝える。解散」


隊員「「 はっ 」」



73:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/16(日) 11:13:31.12 ID:g7TUf62T0

20:00 杭瀬川上空

UH-60JA内


島和武(2等陸尉・空挺隊員の指揮官)「こちら島。フタマルマルマル時、予定通り目的地上空到達。降下準備完了。送れ」

伊庭『こちら地上部隊の伊庭。フタマルヒトマルに作戦決行』

島「了解」

島はヘッドセット越しに無線で地上部隊の伊庭と連絡を取る



昼間の戦闘で敵がヘリに対して異常なほどに恐れを抱いていたのを目撃していた為、今回の戦車奪還及び隊員救出作戦にはヘリをフルで活用することが決定された

まず、ヘリによって戦車を取り囲む敵兵を混乱させ、指揮系統(が敵に存在するかは不明であるが)を乱した後、空から弓矢や大砲などの飛び道具をなるべく殺傷を避けて黙らせる

飛び道具を黙らせた後にヘリに乗った空挺隊員が戦車を載せたトレーラーの周囲を確保

それと同時に装甲車両が突入する


これが今回の作戦の大まかな流れである


事前にリコン(偵察)班を出動させ、敵がどのような布陣となっているかは確認済みで、戦車を中心に取り囲むようにして槍や刀で武装した兵士が整列していた


島「望月、穴山、三好、降下準備。大賀はキャリバー50の射撃用意」

「「 了解 」」

大賀(空挺隊員・1等陸曹・狙撃手)「機関銃射撃は趣味じゃないんですがねぇ」


ヘリ搭載のドアガンである12.7ミリ機関銃を構えながら大賀は言う


島「今回の作戦は敵を殺すことが目的では無い。お前の腕が発揮されるような状況になってはならないんだ」

大賀「そうっすねぇ」

島「清水2尉。下の様子は?」

清水「敵の兵は1000を越えてる。全員ヘリにビビッてるな。暗視スコープ越しにも良く分かる。へっ。俺の操縦テクニックに濡れてるんじゃないか?」

山田(3等陸尉・ヘリ副操縦士)「清水さん。ふざけてる場合ではありませんよ?」

清水「こういうときこそ笑いが必要なんだ。黙ってたら余計なこと考えちまうしな」


見ればパイロットの清水の手は震えている


島「作戦開始まで残り5分か」」



74:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/16(日) 11:26:24.23 ID:g7TUf62T0

ヘリの空挺隊員が降下準備に入っているのと同じ時刻

96式装輪装甲車内


伊庭「よし。ヘリは目的地上空に到達したようだ。我々も突入準備にかかる」


ヘリの空挺隊員が戦車周辺を確保すると同時に敵陣へと突入する装甲車は現在、敵陣からほど遠くない林の中に潜んでいた

装甲車の他には軽装甲機動車2両が潜んでいる


相手が飛び道具を持っている以上、パジェロやトラックなどの非装甲車両での突入は危険との判断により。今回は装甲車両のみが作戦に投入された

作戦に参加する隊員は指揮官の伊庭と副官の矢野を含めてわずかに10名

作戦に参加できない負傷者と彼らの治療にあたる衛生科の隊員、参加しない車両や燃料弾薬を護衛する隊員と、伊庭の不在の間に残った隊員を指揮する県3尉を除いたため作戦に参加できる人数は10名が限界だったのだ


昼間と違い、車両に乗っている隊員は全員ボディアーマーを着用し、暗視スコープを頭につけている
予備弾倉も十分に持ち、分隊支援機関銃を持つ者も居る

完全武装、すなわち彼らの本気の姿というわけだ



75:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/16(日) 11:34:40.16 ID:g7TUf62T0

伊庭「全員装備の最終確認を行え。三田村。戦車内と通信を」

三田村「了解」

そういうと装甲車車長の三田村は戦車内の隊員に呼びかけはじめる

三田村「こちらWAPC三田村。送れ」

無線『こちら10式内の西沢です。どうぞ』

三田村「先程連絡した通り、作戦はフタマルヒトマル時に予定通り決行。そちらも準備にかかれ」

西沢『了解。戦車の乗員、特に菊池さんは待ってましたと言わんばかりに喜んでいます』

三田村「?」

矢野「我々が突入した後は戦車に燃料を速やかに補給する。トレーラーは放棄する。戦車の乗員にはいつでも戦車を動かせるようにしとけと言っておけ」

西沢『了解』


伊庭「作戦開始まで残り5分。全車両発進準備だ」



78:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/17(月) 20:29:26.34 ID:cmjHrb7O0

正信「わしは生まれてこの方こんなに奇怪なものに出会ったことは無い」


バババババババババババババババババ

ホバリングしているヘリを見ながら本多正信は言う


一栄「物の怪なのか…………?わしらを食いに?」

正信「……………」



雑兵「終わりじゃ。この世の終わりじゃ!こやつは鬼の使いに違いない!」

雑兵「くわばら、くわばら」

雑兵「なんまいだ~なんまいだ~」


正信「皆のもの!矢を放つ出ないぞ!」

豊氏「…………!あ…あれは!森の方、やつらがまたやってきたぞ」

正信「森の方?何じゃあれは………。巨大な獣の目?」


豊氏の指差す闇に包まれていた森の中に幾つかの眩い光が見える

車のライト等知る由も無い彼らにとってそれらの光は闇に潜む巨大な獣の目に見えた

そして、その“獣”は低くうなりながら物凄い勢いで近づいてくる


雑兵「うわああああああああ!物の怪じゃあ!」

雑兵「食われるぞ!逃げるんじゃアアアア!」

雑兵「この戦車(いくさぐるま)はやはり生き物で仲間を呼んだんじゃ!」

雑兵「南無三。もはやこれまで…………」


グオオオオオ グオオ


ババババババババババババ

正信「もはや人知を超えた現象じゃ」



79:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/17(月) 20:36:14.46 ID:cmjHrb7O0

上空ヘリ


島「敵の隊列が崩れた。戦車の周辺が手薄になるぞ。総員降下始め!大賀、援護頼んだ」

大賀「おまかせあれ!」

島「降下!」


UH-60JAヘリから4名の空挺隊員が地上へと降下を開始する

それを見つけたのか地上に居た弓兵や鉄砲隊が各々の武器を構える


大賀「武器を向けるなああああああ!」


ドドドドドドドドドドドドドド


弓兵「うわああ!鉄の鳥が火を噴いたぞ!」

弓兵「放つな!逃げろおおお!」


ドドドドドドドドドド

大賀「くそっ。敵に当てるよりも外す方が難しいんだっての!」



80:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/17(月) 20:50:08.10 ID:cmjHrb7O0

地上・戦車を積んだトレーラー周辺


島「全員無事か!?」

空挺隊員「望月、穴山、三好。全員無事に展開完了」

島「よし。戦車を確保するぞ。伊庭1尉たちが到着するまで戦車と戦車内の隊員を死守せよ!」

空挺隊員「了解!」


全員の無事を確認すると島はトレーラーに固定されている戦車によじ登り上部のハッチを叩く

他の空挺隊員たちは戦車の周りに戦車を守るように展開し、襲い掛かってくる敵兵の迎撃体制に入る

ただ、敵兵のほとんどはヘリと機関銃の掃射に怖気づいて近づいてこなかった


島「戦車の救援に来た!ハッチを開けてくれ」


カパッ


島田「おっ。ようやく到着ですな」

島「燃料は伊庭1尉が装甲車に積んで持ってくる。すぐに戦車に燃料が補給出来るように準備してくれ。それと車載機関銃にも一応、給弾を」

島田「了解。おい丸岡、菊池。戦車をトレーラーに固定している固定具を外すぞ。西沢1士。キャリバーに給弾を頼んで良いか?弾は後ろに積んである」

西沢「分かりました!」

菊池「便所に生きたいっす車長…………」

島田「ここを脱出したらいくらでも出して良いから今は戦車を出す準備だ!」



81:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/17(月) 21:00:43.71 ID:cmjHrb7O0

丸岡「固定してるロープは銃剣か銃で切っちまおう。燃料入れたらバックでトレーラーから戦車を下ろします」

島田「戦車をひっくり返さないように気をつけろよ丸岡」

丸岡「俺の腕を舐めないでください。やれって言われれば戦車(こいつ)でつり橋だって渡ってやります」

島田「…………。ふっ。お前の操縦も中々の物だが、俺の方が上手く操縦出来るぜ」

丸岡「自衛隊のミハエル・ヴィットマンって呼ばれてる車長には敵いませんや」

島田「作業急ぐぞ」

丸岡「はい!」



82:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/17(月) 21:13:09.43 ID:cmjHrb7O0

96式装輪装甲車内・伊庭たち


加納「どけどけどけどけ!轢かれても保険は下りねえぞ!」


装甲車は混乱して逃げ惑っている雑兵の中を凄まじいスピードで進んでいた

そして、操縦する加納は人格が変わっていた


三田村「どっかで聞いたことがある台詞だな。敵はなるべく轢くなよ。殺傷を避けるという意味もあるが、血糊で車輪がスリップする可能性もある」

伊庭「戦車は見えるか?」

加納「真正面に見えています!ヘリの空挺隊員は降下している模様!ヘリにビビッて近寄れないでやんの!」

伊庭「戦車を積んだトレーラーの横で停止しろ。停止と共に木村と矢野、大西と小野は燃料を下ろせ。他の隊員は空挺隊員と共に現場を確保せよ。後続のLAVの隊員も聞こえているな?」

無線『こちらLAV。聞こえております!』

伊庭「よし。加納!いっきに突っ込め!」

加納「了解!振り落とされんなよおおおおおおおお!」


グオオオオオオオオオオ



83:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/17(月) 21:25:16.05 ID:cmjHrb7O0

三田村「あと数十秒で到着します。到着と共に後部扉を開放しますので準備をお願いします」

伊庭「わかった」

加納「うおおおおおお!」


グオオオオオオオオ 



オオン

キキーッ


加納「到着!」

三田村「扉開放します!」

伊庭「行くぞっ!遅れるな!」


伊庭を含む小銃を構えた隊員が装甲車から出た後、矢野たち4名の隊員がドラム缶を転がしながら出てくる

装甲車の外は敵が行っていた焚き火と持っていた松明で割と明るかった

嫌な臭いが一瞬したが、それは昼間の戦闘で燃えた車両と、それに巻き込まれた敵兵の死体の臭いだろう


矢野「もたもたするな。燃料入れてすぐに離脱だ」

木村「はい!」


島田「おお!餌が来たか!」

戦車の固定を外す作業をしていた島田が燃料を運んできた矢野たちに近寄ってくる

矢野「遅れてすまない。燃料を入れてすぐにここを離脱したい。なるべく急いで補給をお願いしたい」

島田「任せてください!我々が燃料を補給する間、戦車の護衛を頼みます」

矢野「補給を我々も手伝うが?」

島田「戦車(こいつ)の餌やりは俺たちの仕事です。ここからは我々に任せちゃってください。あ、それと救援感謝します」

矢野「わかった。木村!我々も小隊長と共に護衛に回るぞ」

木村「了解」



87:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/18(火) 23:32:12.62 ID:FY3IfF5+0

戦車への燃料補給は迅速に行われた


島田「満タンとまでは行かないがこれくらい食わせりゃ、そこそこの距離走れるだろ。丸岡、発進準備」

丸岡「待ってました!菊池、発進するから車内に入れ。西沢はどうする?」

西沢「自分は小隊長たちと共に撤退します。短い間ですが世話になりました」

丸岡「俺の華麗な操縦を体験させてやろうと思ったんだが。まあいいや。今なら敵の攻撃も無い。早く装甲車に逃げろ」

西沢「はい」

島田「菊池!戦車の護衛をしてくれている隊員に戦車の発進準備が出来たと車内の無線で他の車両に知らせろ」

菊池「分かりました!ようやく便所に行けますね」

島田「おう。護衛中の隊員の方に知らせます!戦車は燃料補給が完了!発進準備に入ります」


戦車によじ登りながら島田は戦車を積んだトレーラーの周りで戦車の護衛中だった隊員に報告する


伊庭「おうっ。燃料補給が完了したか。よし!護衛中の隊員は全員車両に乗れ!空挺隊員の方はLAVに余裕があるからそっちに乗ってくれるか?」

島「了解。望月、穴山、三好。LAVに乗車しろ」

空挺隊員達「「 了解 」」



88:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/18(火) 23:48:36.65 ID:FY3IfF5+0

隊員達は次々に戦車から離れて装甲車や軽装甲機動車に乗る


矢野「乗車急げ!また敵が弓矢で攻撃してくるかも知れんぞ!」

伊庭「遅れた隊員は居ないか?」

木村「各車両から戦車の乗員以外全員収容したとの報告がありました」

伊庭「わかった」

矢野「よし。発進させろ!」


伊庭と矢野が装甲車に入ると同時に後部の扉が閉まる

さらにそれと同時に装甲車が動き始めた


伊庭「この車両を先頭にして、先程のように敵中を突破する。一番敵兵が少ないところへ突っ込め」

三田村「了解。2時方向が最も手薄そうなのでそこへ突っ込みます」

伊庭「よし。木村、戦車に2時方向へ突っ込むと連絡しろ」

木村「わかりました」


伊庭「ここまで敵味方共に犠牲なし。このまま死者0で全て終わってくれよ…………」



89:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/19(水) 00:01:34.68 ID:Dqgx2TIa0

10式戦車内・島田たち


島田「丸岡、発進だ」

丸岡「了解。発進します」


グオオオオオオオオ


戦車のエンジンが動き出し車内が小刻みに揺れ始める


島田「周囲に敵兵無し。よし一気にバックしてトレーラーから戦車を出せ」

丸岡「はいっ」


グオオ キュラキュラキュラ


動き出した戦車はトレーラーの上をバックで走り始める


島田「菊池。伊庭1尉は何と言ってる?」

菊池「2時方向にAPCを先頭にして突撃するそうです」

島田「そうか。おい丸岡!トレーラーから降りたらAPCに続いて2時方向に突撃だ」

丸岡「わかりましたっと」


丸岡の見事な操縦テクニックで戦車は無事にトレーラーから地面に降りることが出来た

その後、戦車は回転し、その進行方向を装甲車の走る方向へと向ける


丸岡「よっしゃ!10式の本気を見せてやる!」

島田「おう!見せ付けてやれ!」



90:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/19(水) 00:17:17.68 ID:Dqgx2TIa0

丸岡「行きます!」


ウオオオオオオオン キュラキュラキュラアア


2009年に制式化された10式戦車は日本の最新鋭の戦車である

主砲の120ミリ滑腔砲と主砲同軸の7.62ミリ機関銃、車体上部の12.7ミリ機関銃を主な兵装とし、自動装填装置によって装填手を不要とする

車体を小型軽量化したことで重量は90式戦車よりも軽い約44トンとなった


詳しくは10式戦車


44トンで最高時速70キロの戦車が突撃してくるのを見て、ただでさえ混乱して逃げ惑っていた鎧武者たちはさらに逃げ惑う


雑兵「うわあああああ!あの戦車(いくさぐるま)も動き始めたぞ!」

雑兵「潰されるぞ!逃げるんじゃあああ!」



島田「救急車に乗ってる気分だな。相手のほうから道を空けてくれる」

カンッ

島田「うおっ」


上部のハッチから顔を出していた島田の横に槍が飛んでくる



動き始めた戦車に恐れを抱きながらもしてくる兵士も少なくなかった

自衛官は知る由も無かったが、この場に居る武者たちは寄せ集めではなく殿に忠誠を誓っている正統な武家の家系の武士が多かった

寄せ集めで集められた兵士は多くが昼間の戦闘で犠牲となっている



91:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/19(水) 00:37:17.63 ID:Dqgx2TIa0

正統な武士の家系の武士たちは忠誠心もあるが、個人の精神力と信念も中々のもので、戦車を相手にしても立ち向かっていく

最初こそ恐れていたものの、戦車や装甲車があまり攻撃してこないことを悟ってからは槍を投げつけ、刀を振りかざし攻撃してきた


島田「くそっ。攻撃を再開してきやがった!」

菊池「伊庭1尉に指示を請います」

島田「ああ頼んだ」

菊池「こちら戦車。指示を請います」

無線『こちら伊庭。こちらは速度で相手を上回っている。敵の中には馬に乗っている奴も数多く存在するが、我々の車両ばら振り切れるだろう。やつらの武器は車両の装甲を貫くことも出来んみたいだ。余程のことが無い限り攻撃は避けよ。ただし、自分たちの命に関わると思った時は迷わず交戦して良い』

菊池「了解しました」

島田「命に関わる場合か…………」


おおおおおおおおおお!


丸岡「……………!?車長!」

島田「どうした丸岡」

丸岡「11時の方向!新手です!」

島田「11時の方向だと!?」


自衛隊車両の進行方向からして11時の方向から新手と思われる騎馬隊が向かってくるのが見えた


島田「くそ!また敵が増えるのかよ!距離的にこのままだと鉢合わせしちまうぞ」

丸岡「車長…………」

島田「今度はどうした?」

丸岡「あの騎馬隊の掲げている旗………。見覚えありませんか?」

島田「旗?どれ………・」


突っ込んでくる騎馬隊の人数はおよそ500といったところだろう

その騎馬隊の兵士が背中に掲げている旗には三つ葉葵が描かれていた


島田「何だっけあれ?歴史なんて知らないがどっかで見たような……?」

丸岡「あれって………。徳川家の印じゃないっすか?」

島田「と…く…が…わ?」



93:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/19(水) 01:04:33.84 ID:Dqgx2TIa0

96式装輪装甲車(APC)

640px-JGSDF_APC_Type_96_20120108-03



軽装甲機動車(LAV)

640px-JGSDF_Light_Armored_vehicle_20120429-01



トレーラー 

特大型運搬車_(8465229766)



UH-60JA

640px-JGSDF_UH-60JA_20090822-02




参考までにウィキペディアの画像



98:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/19(水) 20:30:08.31 ID:Dqgx2TIa0

96式装輪装甲車内・伊庭たち


伊庭「新手の騎馬隊が突撃してきているだと!?」

三田村「このままだと数十秒後に騎馬隊と接触してしまいます!」

伊庭「回避しろ」

三田村「しかし、騎馬隊を回避するには元々居た敵兵の隊列に突っ込まなくてはなりません。その場合、相手方に相当数の死者が出る可能性もあります。こちらも無傷では済まされません」

伊庭「……………」

加納「騎馬のスピードは40キロ程あります。いくら装甲されている我々の車両でも…………」

伊庭「…………緊急停止だ。後続の車両にも停止すると伝えろ」

三田村「了解。全車両停止せよ!」



騎馬との距離が200メートル程になったところで自衛隊車両は急ブレーキで停止する


キキッー

ガタンッ


矢野「うおっと」

伊庭「今の停止で負傷したものは居ないか?」

木村「全員無事です」

伊庭「車長。騎馬隊と敵兵の様子はどうなってる?」

三田村「騎馬隊はこっちと同じく停止。敵兵は攻撃を仕掛けてこなくなりました」

伊庭「攻撃を止めただと?」



99:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/19(水) 20:42:09.08 ID:Dqgx2TIa0

三田村「はい。騎馬隊が停止すると共に攻撃を止めました。何ででしょうね?」

伊庭「騎馬隊………。馬に乗っている連中もやはり鎧武者か?」

三田村「はい。ですが、我々の周りに居る兵士よりも鎧や兜が立派です。特に先頭に居る奴」

伊庭「相手のボスかもしれん」

三田村「う~ん。あの旗って………」

伊庭「旗?」

三田村「騎馬隊が持ってる旗です。どっかで見覚えが」

加納「車長。あれですよ。水戸黄門のOPでデデーンって出で来る印。あれじゃないっすか?」

三田村「そうそう。それそれ」


操縦席の窓から騎馬隊の持つ三つ葉葵の旗印を見て加納は言う


伊庭「徳川家の旗印か。そうか………。やはりそういうことだったか」

三田村「そういうこととは?」

伊庭「後で説明する」

矢野「………………」

加納「!? 騎馬隊の先頭の何人かが近寄ってきます」

伊庭「攻撃の再開か!」

加納「いえ。何というか攻撃してくる気配はありません」

伊庭「この目でその騎馬を確認したい」

三田村「ちょっ!小隊長!?」


伊庭は近づいてくる騎馬隊を確認する為に装甲車の上部ハッチを開いて外に顔を出す



100:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/19(水) 20:49:40.65 ID:Dqgx2TIa0

ガタッ

伊庭「あれか」


外では先程まで車両群に攻撃をしていた槍や刀を持った兵士が何故か直立不動の姿で攻撃をやめていた

騎馬隊のほとんどは300メートル程先で佇んでいたが、10ほどの騎馬だけが自衛隊車両に近づいてきている


木村「どうします?機関銃で威嚇射撃をしますか?」

伊庭「いや。やめておけ」

木村「しかし…………」


騎馬はさらに近づき、装甲車の目と鼻の先まで迫っていた

辺りはかなりの数の兵士が居るにもかかわらず、不気味なほど静まり返っている

松明や焚き火の炎がパチパチと音を立てているのがかすかに聞こえるだけだ


伊庭「初めての相手からのアプローチか」



101:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/19(水) 21:02:39.61 ID:Dqgx2TIa0

騎馬隊の一人「それがしは徳川家康である!」

伊庭「!?」


自衛隊に近づいてきた騎馬隊のひとりである男が言う

男は50から60くらいの年齢に見え、その姿からは異様な雰囲気に包まれていた


家康「正信から話は聞いた。鉄の馬に鉄の鳥。連発銃。どれもこれも本当だったようじゃな」

伊庭「…………………」

家康「そこの鉄の馬の上にいるのが、おぬしらの大将か?見たところ、奇妙な格好ではあるが人に違いない。名を名乗れ」


自分のことを徳川家康と名乗った男は装甲車の上にいる伊庭を見ながら言う


木村「家康…………。ただのコスプレには見えない。あの雰囲気………。数々の死線を潜り抜けてきたのが分かる雰囲気だ。小隊長、どうするんです?」

伊庭「名乗れといってきたんだ。俺も名乗るのが道理というものだろう」


そう言うと伊庭は装甲車の上から降りて家康に近づく

その後に小銃を持った木村も続いた



伊庭「陸上自衛隊、第12旅団の伊庭義明1等陸尉です!」



家康「りくじょうじえいたい?」



103:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/19(水) 21:17:58.46 ID:Dqgx2TIa0

木村「自衛隊を知らない……のか」


家康「伊庭……義明。おぬしは何の目的でこの地に参って、戦に干渉した?」

伊庭「事故だったのです」

家康「事故?」

伊庭「我々は戦闘に参加するつもりはありませんでした。ただ、道に迷っていただけなのです。しかし、攻撃を受けたために反撃をしました。そのことで我々とあなた方に犠牲が出てしまったのは大変残念に思います」

家康「道に迷った………とな。とすれば、おぬしらは西の軍勢では無いと?」

伊庭「西の軍勢というのは良く知りませんが。あなた方の敵ではありません」

家康「ふむ………。道に迷っていたと言っておったが、どこから来たのじゃ?言葉もほとんど通じるから南蛮の者では無いと見たが………。このような鎧や武器をわしは見たことが無い」

伊庭「……………。我々の出身は………お答えできません」

家康「何と?」

伊庭「しかし、我々にあなた方を攻撃する意思は無い。我々はただ、通りがかっただけなのです!」

家康「攻撃の意思が無いと言う割には、武器は揃っておるようじゃが?」


見れば装甲車や軽装甲機動車から伊庭を守ろうと続々と隊員が出てくる

戦車もその砲身を家康に向けていた


伊庭「全員、攻撃するんじゃないぞ!」

家康「持っているのは鉄砲のようじゃが。火縄は必要としないのか?」

伊庭「我々の武器についても詳しくはお答えできません」

家康「…………………」

木村「小隊長。周りの敵が殺気立ってます。まずいです」

伊庭(完全武装の格好に、昼間の戦闘。敵では無いと信じてもらう方が難しいか………)


家康「…………。のう、伊庭よ」

伊庭「!」




家康「この家康にその凄まじき力を貸す気は無いか?」

伊庭「何っ!?」



108:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/20(木) 20:56:24.63 ID:OlpYPzAM0

家康「今一度問う。その凄まじき力をこの家康に貸す気は無いか?」


伊庭「なっ…………」


ザワザワ

雑兵「確かにあの者たちの力があれば東軍は無敵………。三成など恐るるに足らん存在となるぞ」

雑兵「しかし、あの鉄の馬に鉄の鳥…………。本当に人間の言うことを聞くのか?」

雑兵「あの奇妙な格好の連中は飼いならしておるぞ」


伊庭「………………」

伊庭(俺はもう我々がどのような状況に陥ったかを理解している。SF映画のような信じられない事が起こったのだと既に確信している。そう、タイムスリップだ)

家康「………………」

木村「小隊長……………」

矢野「………………」ガチャ


家康も他の兵士も、自衛官たちも伊庭の返事を待っている


伊庭(もし仮に我々が徳川家康の存在した時代にタイムスリップしたとするのなら…………。家康の問いに対する答えはNOだ。この時代の人間では無い我々が、この時代の人間に干渉して良いはずが無い。何よりも昼間のような戦闘にこれ以上関われば我々はもっと多くの人間を殺さなくてはならない。それに、我々にも犠牲が………)

伊庭「家康殿。残念ですが、そのお誘いは断らせていただきます」

家康「何と!この家康が頭を下げているというのに断るのか!?」

矢野「下げてねーじゃん。馬の上だし」

伊庭「馬鹿!矢野黙ってろ!」

矢野「いけね。口が滑っちまった」

家康の傍らの武士「無礼者が!」

家康「……………もう一度問うが………」

伊庭「何度言われても我々はあなたに力を貸すつもりは無い。無論、あなたの敵にもだ!」



109:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/20(木) 21:14:49.55 ID:OlpYPzAM0

伊庭(くそ………。返答次第ではやはり皆殺しだったか?だとすれば俺はここの部下を全員守らなければ………)

家康「何故、我々の軍のみならず三成の軍にも力を貸せないのじゃ?そんなに凄い武器を持っておりながら戦に参加しないというのはどういったことか?」

伊庭「我々の武器は確かに弓矢や刀よりも強力でしょう。しかし、これらの武器は全て自衛の為のものに過ぎません」

家康「じえい?」

伊庭「己を守るためのみに使用するという意味です」

家康「つまり、おぬしらは相手から攻撃を受けなければ戦わぬと?」

伊庭「そうです」

家康「………………。ハッ!腰抜けどもが!」

伊庭「……………」

矢野「……………チッ」

家康「攻撃されぬと戦もまともに出来ない者たちとは………。おぬしらの武器は宝の持ち腐れじゃ」

伊庭「確かに。我々は攻撃されないと戦をすることが出来ません。ですが、家康殿。あなた方の軍勢は既に我々に攻撃を仕掛けている。このことが何を意味するか理解できますか?」

家康「!?」

伊庭「我々は人数こそ少ないが強力な武器を持っている。あなた方が持つ武器よりも遥かに優れた武器を」

家康「…………ふん。その武器で徳川10万の兵を全滅させることが出来るのか?」

伊庭「不可能でしょう。しかし、戦とは敵の大将を倒せばよいという簡単なものです。そして、我々の持つヘリ……鉄の鳥や鉄の馬を使えば敵の大将など糸も容易く倒すことが出来るのですよ?」

家康「……………。やはり、おぬしは敵か!」

伊庭「いえ。先程申し上げた通り、あなた方が我々に攻撃してこない限り、我々はあなた方とは戦いません。それが自衛隊です」

家康「………………」

伊庭「ただし、家康殿。あなた方が自分の部下に傷一つでも付けてみろ。そのときは全力であなたを殺す!」

木村「…………小隊長」

矢野「……………頼もしいじゃねえか」

家康「……………なるほど」

伊庭「理解していただけたか?」



110:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/20(木) 21:31:30.26 ID:OlpYPzAM0

家康「おぬしが部下を大切にしておるということは良く伝わった。わしも大勢の部下を持つ者として理解できる」

伊庭「家康殿………」

家康「しかし、ふたつ気になることがある」

伊庭「何です?」

家康「わしらが武器を持つ理由は戦で勝つためでもあるが、何よりも国の民を守るためじゃ。じえいたいは己の命を守るためのみに武器を持っておるのか?」

伊庭「我々も守るべき民がいるのです」

家康「そうか。ではもうひとつ問おう」

伊庭「何でしょう?」

家康「今よりもずっと後の世。誰もが平和に暮らせる太平の世は来ると思うか?」

伊庭「!?」

伊庭(まさか、家康は………。我々が何処から来たのか気付いて!?)

伊庭「来ます。必ず来ます。いえ、あなたが是非とも太平の世を作って下さい」

家康「ふっ。成る程。それを聞けてよかった。任せよ。必ず太平の世を作ろう」


家康の言葉に自衛官たちはもう戦闘が起こることは無いと安堵する

それは伊庭も同じであった

もう家康の目から敵意は消えている


家康「正信!正信はおるか?」

正信「ここにおります」


集まっていた兵士の中から馬に乗った本多正信が出てくる


家康「これより予定通り関が原へ向かう。そこで三成と決着をつけるぞ」

正信「はっ。して、あの者たちは?」

家康「放っておくが良い。わしらが関わるべき存在では無い。それより、各武将へ家康が関が原へ向かうと伝えよ」

正信「かしこまって候」

家康「それと小早川の件じゃ。わかっておるか?」

正信「勿論です」



111:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/20(木) 21:59:35.02 ID:OlpYPzAM0

家康「よし。では向かうぞ。伊庭義明!さらばじゃ」

伊庭「はい。家康殿もどうかご無事で」

家康「ご無事で………か。まるでわしの味方みたいじゃな。ははははははは!」

伊庭「はは………」


そう言って家康は自衛隊車両から離れていく

本多正信も、騎馬隊も、元々居た兵士たちもそれに続く


木村「徳川……家康ですか。とにかく俺たちは助かったってことだよな?」

矢野「いや。一難去ったようだが、課題は多く残ってるぞ。夢だと思い込みたいが、どうもこれは夢では無いみたいだしな」

伊庭「ああ。どうやって元の時代に………………」

ザザッ ザザザッ

伊庭「?」


木村の担いでいた携帯無線に突如、通信が入る


無線『伊庭1尉!こちらヘリの清水です!緊急事態です!』

伊庭「どうした?」

清水『また新手が現れました!旗や格好から察するに、今居る軍勢とは敵対関係にある軍勢かと思われます!』

伊庭「何!?」

清水『どうも森の向こう側に潜んでいたようで…………。今居る軍勢に奇襲を仕掛けるつもりのようです』

伊庭「距離は?」

清水『あと数分でここに達する距離です。木々のせいで地上に居る1尉たちからは死角になっていますが』


おおおおおおおおおお!

森の向こう側から歓声のような音が聞こえてくる


伊庭「木村!家康は!?」

木村「既に馬で向こうへ行ってしまいました。えっと………。あそこです2時の方向」


2時の方向、数百メートル先に家康の姿が見える


伊庭「木村。装甲車を出せ!家康の命を救うぞ!」

木村「え?あっ。はい」

伊庭「くそっ!清水!敵は今何処に?」

清水『もうじき伊庭1尉の位置からでも目視できる位置に到達します!』

伊庭「はやい!このままでは…………」

矢野「小隊長!装甲車に拡声器がありました!これで敵襲を家康たちに伝えましょう」

伊庭「頼んだ!」



112:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/20(木) 22:07:33.09 ID:OlpYPzAM0

矢野は装甲車の上に仁王立ちになり拡声器で、もうかなり遠くへ行ってしまった家康に呼びかける


矢野「いえやすうううううううううう!敵だあああああああああ!敵襲だああああ!森の向こうだ!」


矢野の声に家康とその周りに居た兵士たちがこちらを向く



清水『…………!?。新手の軍勢が止まった?これは!』

伊庭「どうした!?」

清水『新手の軍勢が弓矢による攻撃を行おうとしています!』

伊庭「!?」

清水『放ちました!矢が飛んできます!』



ヒュンヒュンヒュンヒュン

聞きなれてしまった空を裂く音が伊庭達の耳にも届く

月と松明の光に照らされて、飛来してくる無数の矢が目に入る



伊庭「総員!車両に退避!矢野も中に入れっ。それと同時に装甲車を発進させて家康を救出だ!」



伊庭達自衛官が車両に入ると共に矢が地上に到達する


カンカンカンカンッ



車両に矢が当たり、金属音が響き渡る

無論、小銃弾くらいなら弾くことのできる装甲車や戦車は無傷だった


しかし、


雑兵「ぎゃあああ」

雑兵「いてえええええ!」

雑兵「奇襲とは卑怯なああああ!」


外の武者たちは平気なわけも無かった



そして、それは家康とて例外では無い



113:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/20(木) 22:11:51.96 ID:OlpYPzAM0

矢野「小隊長…………。あれって」

伊庭「どうした!?」

矢野「家康が………」

伊庭「!?」


装甲車の側面に付いた窓(無論、防弾ガラス)から伊庭は外の様子を見る



飛来した矢によって多くの兵が倒れる中、伊庭は家康の姿を発見した



伊庭「なんてことだ…………」







家康「ぐっ……がはっ」

正信「殿!?」



家康の首を一本の矢が貫いていた



117:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/21(金) 23:28:36.53 ID:q9nB6H1o0

伊庭「家康が………」

矢野「くそっ………。どうします?」

伊庭「家康を助けるぞ。今ならまだ助かるかもしれん…………」

木村「無理です。見てください」

伊庭「……………」

木村「喉を矢が貫通しています。ここからでも見て分かりますが、既に息をしていないかと………」

伊庭「まだ………可能性は」


おおおおおおおおおおおおおおお!


伊庭「!?」

三田村「新たに出現した軍勢が家康の軍勢と衝突。戦闘が開始されました」


見れば新たに出現した軍勢(旗印から、県の言うとおりなら島左近の軍勢と思われる)が家康の騎馬隊や元々居た正信たちの軍勢と戦いを始めている

槍で突かれ、刀で切られ、次々に兵士が倒れていった


伊庭「家康は!?」

木村「一気に兵がなだれ込んできて目視が不可能になりました!」

伊庭「突入せよ」

矢野「正気ですか!?小隊長!今ここで突入したら我々はまた人を殺すことになる。それどころか我々にも犠牲が出る!昼間の戦闘みたいに。俺たちはこれ以上関わってはいけないんだ!この戦に」

伊庭「だが、家康は………」

矢野「目を覚ませ!伊庭1尉!」

伊庭「!?」



118:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/21(金) 23:44:54.10 ID:q9nB6H1o0

矢野「家康はもう死んだんだ!仮にまだ息があったとしても、喉を矢が貫通してるんだぞ。最新の医療を持ってしても、助けることは困難だ。まして我々の小隊が持っている医療器具や医薬なんて注射器とモルヒネが精一杯だ。あの乱戦の中に突入して、虫の息の家康を救い出してどうするつもりなんだあなたは!」

伊庭「……………」


カツンッ カツンッ

コノバケモノメー


新手の兵は自衛隊車両にも群がってきて、槍や刀で車両を攻撃する


矢野「外を見てみろ。どこから矢が飛んでくるかも分からない状況だぞ。そんな中に突入したらどうなるかなんて分かってる。俺はこれ以上、部下の死ぬのを見たくはねえんだ!頼む小隊長。これ以上、戦に関わろうとしないでくれ!」

伊庭「矢野………」

矢野「…………頼みます。小隊長」


他の隊員も不安そうな顔をしながら伊庭を見ている

みんな仲間が目の前で血を噴き出して死んでいったのを目撃しているのだ


伊庭「分かった。これより戦線を離脱する。加納、全速力でこの場を離れろ。ベースに敵兵を導くわけにはいかない。騎馬だろうが何だろうが絶対に振り切れ。いいな?」

加納「了解!」

伊庭「木村。戦車に無線連絡」

木村「はっ」


慣れた手つきで木村は無線を弄り、戦車と通信を開始する


木村「つなげました」

伊庭「こちら伊庭だ。聞こえているか?」

無線『こちら戦車の島田。何でしょう?』

伊庭「これより戦線を離脱する。が、敵兵に周りを囲まれていて思うように動けん。戦車の主砲で威嚇射撃を1回行い、敵兵を怯ませる。怯んだところで全速力で離脱したい。やってくれるか?」

島田『は。命令とあれば………』


無線越しの島田の声は少々困惑していたように思える


伊庭「では主砲、射撃用意」



119:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/22(土) 00:07:58.17 ID:GvN73NQ90

10式戦車の主砲は120mm滑腔砲という

滑腔砲とはライフリングの無い砲のことだ

その主砲の威力は発射薬などを最適化した10式120mm装弾筒付翼安定徹甲弾を用いた場合に548mm貫通可能とされている

戦車砲は発射の衝撃や音なども小銃をは桁違いの大きさであり、火縄銃程度の火器しか知らない“戦国時代の兵士”にとって、戦車砲の射撃はかなりの恐怖をもたらすものとなるだろう


伊庭「人にはあてるな。人気の無い森を狙え」

島田『了解』


10式戦車の砲塔が回転し、その主砲の先を少し離れた森へと向ける

10式戦車によじ登って槍で戦車を攻撃していた兵はこれによって振り落とされてしまった

また、周りの雑兵も突如回転した戦車に驚きを隠せないでいる


島田『主砲、給弾完了。発射準備よし』

伊庭「主砲、撃ち方始めっ!てえええええええ!」




ドオオオオオオオオオオオオオオン




伊庭の合図と共に主砲から火が噴き出し、轟音が辺りに響き渡る

衝撃はで主砲周囲に居た人間が何人か吹き飛んでしまった

なるべく殺傷を避けたかった伊庭だが、この衝撃波と発砲煙で何人かは犠牲となってしまっただろう


雑兵「ぎゃああああああ!」

雑兵「雷か!?地震か!?」

雑兵「ちがう!あの鉄の馬が火を噴いたんじゃ!」


家康側の軍勢も、新手の軍勢もあまりの音に耳を塞ぎ、恐怖から多くの者がしゃがみこんでしまっていた


雑兵「ひいいいいい」


戦車から発射された弾は見事に森に命中し、何本かの木を吹き飛ばし、少しばかり草を燃やした


伊庭「兵たちが怯んで道が開けた。今だ!全車両発進!」

加納「了解!」


兵たちが怯んで指揮系統も乱れ、混乱している中、自衛隊車両は全速力で離脱を開始した


グオオオオオ グオオ キュラキュラ


雑兵「鉄の馬がどこかへ去るぞ!」


ババババババババババ


ヘリも車両に続いて離脱を開始する


雑兵「鉄の鳥もじゃ。何だったんだ一体………。あやつらは何者でどこへいくのじゃ?」



こうして自衛隊は本日2度目の戦線離脱をした



120:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/22(土) 00:26:26.48 ID:GvN73NQ90

自衛隊が戦線離脱をする少し前、東軍の軍勢のひとりである中村一栄の家老である野一色助義が西軍の軍勢によって討ち取られていた

西軍は自衛隊が戦車奪還を開始するよりも前に、戦車と東軍の中村・有馬隊が居る場所を見つけ出し、奇襲を企てていたのだ

自衛隊が現れたことで杭瀬川の戦いの昼間の部は引き分けという史実と異なる結果となってしまっていたのである


しかし、歴史には修復力があった


西軍は島左近に加え、宇喜多家の明石全登が西軍部隊に合流し、増強された部隊での奇襲を決行

そして奇襲は成功し、史実とは少々異なった形ではあるが、杭瀬川の戦いを西軍は勝利した

杭瀬川の戦いで西軍が勝利するのも、野一色助義が討ち取られるのも史実通りである

つまり、歴史による修復力が正常に作動したのだ


ただ、ここで再びイレギュラーが発生する

自衛隊の2度目の介入だ


自衛隊の介入によって昼間同様に再び、歴史が狂ってしまったのである

その結果が………



正信「殿おおおおおおおおおお!」

家康「」


家康の死亡であった


家康の死亡は本田正信の尽力によって西軍に知られることは無かったが、味方の武将には噂としてではあるが知られることとなった

あくまで噂として広がったのではあるが、家康の軍が何やら慌しく、ただならぬ気配を察した武将たちはその噂が本当なのでは無いかと疑った


そして、西軍と東軍どちらにも属さない小早川秀秋をはじめとする何名かの武将にもこれが伝わり(家康の策略でこれらの武将と東軍は少なからず繋がっていたため)、彼らは西軍側に付く決心を固めつつある



121:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/22(土) 00:32:09.30 ID:GvN73NQ90

これらのゴタゴタで関が原の戦いは9月15日に開戦のはずが、延期する可能性もあった


バタフライ効果というものがある

初期のわずかな変化が思いがけない方向へ発展してゆくことで、アメリカで蝶が羽ばたきによって起こした微弱な風が、太平洋で台風になる可能性もあるといったものだ

歴史においても同様のことが起きる


自衛隊の一個小隊という小さな存在によって、歴史は徐々に徐々に史実と変わり始めていたのだ

少しずつ少しずつ

しかし確実に………



124:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/23(日) 11:41:25.52 ID:7C5JN4vf0

自衛隊・宿営地


戦線を離脱した伊庭達は木々に覆われたベースへと戻ってきていた

現在は幹部による会議が天幕の一つで行われている

小隊長である伊庭と副官の矢野を中心に県3尉、空挺隊員の島2尉と同じく空挺隊員の望月3尉、ヘリの操縦士である清水2尉と副操縦士の山田3尉といった幹部の面々に加えて、戦車の車長である島田と先任曹長の木村が会議に参加していた

航空部隊と空挺隊員、それに戦車の乗員は伊庭の直接の部下では無いが、現状では伊庭が最も階級が上の人間である為に全隊員の指揮官と一時的にではあるが、なっている

この会議に参加していない隊員には現在、装備の点検・整備および残弾確認などをさせていた



伊庭「もうここに居る隊員は分かっていると思うが、我々は平成では無い別の時代へとタイムスリップした」

一同「………………」

伊庭「昼間の戦闘で俺は我々が別の時代へタイムスリップしたか、あるいは、あの鎧武者たちが我々の時代にタイムスリップしたかのどちらかの現象が起こったと考えていた。しかし、本隊への通信不能やGPSの使用不能、周囲に近代的な建物が全く無い事等から、前者が正しいと判断した」

清水「ヘリから見た限りでも周りには高圧電線の1本すらない」

木村「先程、何名か偵察を派遣しましたが、あるのは原始的な集落のみです。自分も我々がタイムスリップしたとしか思えません…………」

伊庭「14名の犠牲者が出て、そして我々も殺傷をした。夢であって欲しいが、これも全て現実だ」

矢野「部下たちもタイムスリップしたことに気付いてるだろ。今は与えられた仕事をして気を紛らわしているが、その内、発狂しだす奴も出てくるかもしれない。どうにかして部下を安心させないといけない」

伊庭「ああ。その通りだ。その為にも、“例の件”は部下には秘密にしておくべきだと俺は思う」

県「家康が………殺された件ですか?」

伊庭「そうだ。家康が殺されたことを部下に話したところで余計に彼らを混乱させるだけだ。今は話すべきでは無い」

県「そうですね」



125:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/23(日) 11:55:38.88 ID:7C5JN4vf0

島「もし仮に家康が死んだとしたら歴史はどうなるんだ?というか家康が居たってことは今は戦国時代なのか?」

県「はい。正確に言えば今は1600年9月14日ということになります」

島「日付まで分かるのか?」

県「昼間の戦闘は杭瀬川の戦いという戦で、1600年9月14日に行われた戦なんです。もっとも、9月14日という日付は旧暦なのですが。ヘリのジャイロで判明した現在位置と鎧武者の持っていた旗印から杭瀬川の戦いで間違いないと思われます」

矢野「その戦いは西軍の勝利だよな?」

県「そうです。杭瀬川の戦いは関が原の戦いの前哨戦で、島左近率いる西軍部隊が東軍に勝利する戦でした」

矢野「だけど、その戦で家康が死ぬことは無かった。つまり歴史が変わったということか。俺たちのせいで」

県「そもそも杭瀬川には家康も本多正信も参加していません我々があの場所に現れたことで全ての歯車が狂い始めてしまったのでしょう」

伊庭「県。関が原の戦いは何月の何日に始まるんだ?」

県「史実通りなら9月15日。あと数時間で始まると思われますが、こうなってしまうと史実通りに始まるかは分かりません」

伊庭「東軍は家康不在のまま戦うことになるのか」

県「あるいは家康の影武者をたてるか…………」

島田「あー少しいいか?俺は歴史にあんま詳しくないんでね。関が原の戦いは知っているが、東軍とか西軍とかはわからないんだ。少し詳しく教えてもらってもいいですか?」

伊庭「そうだな。俺も関が原に詳しくは無い。県、詳しく説明してくれないか?」



126:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/23(日) 12:21:45.93 ID:7C5JN4vf0

県「関が原の戦いというのは~以下略~というものです」

島田「つまり、秀吉が死んだあと家康と石田三成が天下を取り合って戦ったって訳か。んで東軍が家康、西軍が三成。合戦は最初は西軍優勢だったが、小早川秀秋をはじめとする何人かの裏切りによって東軍が勝ったと………」


県の説明で島田をはじめとする何人かの隊員が納得したようにうなずく

どうも歴史に詳しくない隊員が多かったらしい


伊庭「我々が置かれている現状が分かったところで、我々のこれからの行動を決めたい」

一同「………………」

伊庭「まず、我々が最優先とすべきことは現代へと帰ること、そして、その帰る日まで隊員に犠牲者を出さないことだ」

島「帰るといっても帰れる日がいつ来るのかは不明で、しかも帰れる日が来るとも限りませんが………」

伊庭「確かにそうだ。もし、タイムスリップが地震のようなもので、揺り戻しが起こって帰れる日が仮に来たとしても、それが今なのか1年後なのかは分からない。ただ、その帰れる日が来るのを待つくらいしか今の我々に出来ることは無いんだ」

木村「一応、我々がタイムスリップした“あの場所”は定期的に監視出来るようにカメラをセットしておきました。再びあの濃い霧が発生したのならすぐにでも現場に向かえます」

県「再びタイムスリップが起きる、つまり揺り戻しが起きるようにするには我々が少し狂ってしまった歴史を修復する等、歴史に干渉してみてはどうでしょう?」

矢野「却下だ」

県「しかし…………」

矢野「歴史に干渉等すべきでは無い。タイムパラドックスの原因になる」

島田「たいむぱらどっくす?」

矢野「例えばこの時代で俺の先祖となる人間を殺したら、俺は未来で生まれなくなるだろ?そうすると、在るべきだった未来が変わってしまうんだ」

島田「へえ」

矢野「俺たちは昼間の戦闘で多くの人間を殺した。おそらく彼らの中には平成で生きている人間の先祖も含まれて居ただろう。ということは俺たちが居た未来の世界も大きく変わってしまった可能性がある」

島「変わるとどうなる?」

矢野「未来が変わるということは、平成で生きていたはずの人間が居なくなるということだ。最悪、未来が変わって、俺や俺の家族が生まれなくなる……ということだってある。この時代の人間を殺すということは俺たちの居た時代の人間を殺すことにもなってしまうかもしれないんだ」

島「…………なるほど」

矢野「だからこの時代の人間は無闇に殺すことは出来ないし、干渉することも出来ない。我々がこの時代に干渉すれば未来が変わってしまうかもしれないんだ」

伊庭「矢野の言うように我々はこの時代の人間とは一切関わらない」

県「しかし、関わらないとは言っても……無理があります」



127:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/23(日) 12:35:25.04 ID:7C5JN4vf0

矢野「なに?」

県「我々の物資の中でも食料は特に少なく、生き残るためにはこの時代の食料を確保するしかありません。その場合、この時代の人間と関わらなくてはならなくなります」

伊庭「それももっともな意見だ。食料に関しては近くの集落から調達することも考えているが、その場合はこの時代の人間に扮した格好でないといけないな」

木村「ハンバーグもカレーも当分食えないのか…………」

望月「やめろ……絶望的な気分になってくる」

伊庭「それと我々の装備もなるべく使用は避けたい」

島「昼間みたいに攻撃された時もですか?」

伊庭「いや。隊員の命は最優先だ。襲撃があった場合は銃器の使用を許可する。しかし、火砲や車両の類はなるべく使用を避けたい。燃料弾薬の補給が無く、節約することが必要なのもそうだが、この時代の武将が我々の武器を見たら絶対に欲しがるはずだ。そうなるとまた事態がややこしくなってしまう」

矢野「我々の武器欲しさに近寄ってきて、最悪、奪おうとして攻撃してくるかもしれないからな」

伊庭「そういうことだ。良いか?我々の部隊の任務は今でも国民の生命を守ることだ。つまり、この時代の人間を殺傷して、未来の我々の守るべきだった国民の存在を消すようなことがあってはならないのだ」


その言葉にその場にいた全員が頷いた



128:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/23(日) 12:49:04.40 ID:7C5JN4vf0

その後、会議で話された内容は家康の死亡以外は全て全隊員に伝えられた

ベースの周りにはセンサーとカメラを設置し、さらに歩哨をつけることで襲撃への備えも万全とした


伊庭たちが会議をしている間に確認が終わった残弾と燃料の数は以下の通りである


燃料… ヘリ、車両が1週間行動できる程度

弾薬… 小銃用5.56ミリが1万5000発、12.7ミリが1200発、迫撃砲弾が80発、携帯型対戦車弾が23、対戦車誘導弾が12、その他9ミリ弾や7.62ミリ弾、指向性散弾や手榴弾が若干


食料は3日程度しか無く、医薬もほとんどを昼間の戦闘で使い切ってしまっていた



132:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/23(日) 23:35:47.95 ID:7C5JN4vf0

1600年9月15日 早朝


伊庭の命令によって根元3曹をはじめとする3名が軽装甲機動車に乗って関が原へと偵察へ来ていた

目的は関が原の戦いが史実通り9月15日に行われるか調べる為である

ヘリを使用すれば偵察も速やかに終わったのだろうが、燃料の節約と、昼間からヘリを飛ばすのはあまりにも目立ちすぎるということから車両による偵察が行われた

現在、偵察隊員は関が原の戦いでは家康が布陣する桃配山付近に居る


根元「こちら偵察の根元。現在位置は地図上で見る限りだと岐阜県不破郡関ケ原町と思われます」

無線『こちらベースの伊庭だ。付近に軍勢が居る様子はあるか?』


軽装甲機動車車載の無線で偵察隊はベースに居る伊庭と連絡を取っている


根元「いえ。これといって人の気配はありません。自分たちは結構な高さで見晴らしも良い岡の上に居るんですが、全く戦の気配が感じられませんね。閑散としています」

伊庭『桃配山には家康の陣も無いか?』

根元「今から桃配山に登りますが、今のところ陣が置いてある気配はありません」

伊庭『了解。万が一、敵襲の恐れもあるから気を付けてくれ。危なくなったらすぐに逃げろ。良いな?』

根元「了解」


そう言ってから根元は無線を一端置いた



133:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/23(日) 23:56:43.47 ID:7C5JN4vf0

根元「平井、今から桃配山に登るぞ。須賀は車に残って車の警備をしろ。何かあったらすぐに無線で………」

須賀「ちょちょっと、ままま待って下さい。こんなどこから敵が出てくるかも分からないところに自分ひとり置いて行くんですか!?」


須賀士長が慌てて車から飛び出してくる

彼は元々気の弱い性格でもあり、先日の戦闘でも車両の中でずっと脅えていた

伊庭は彼を偵察に出すことを少々悩んだのだが、人手不足から仕方なく偵察隊員に彼を選ばざるを得なかった


根元「おいおい。LAVは一応カモフラージュしてあるし、装甲車両だ。万が一見つかってもこの時代の武器じゃ傷一つ付けられやしないって」


現在、軽装甲機動車は草や枝でカモフラージュをしており、遠目から見たらソレが車両であることすら分からないだろう

ちなみに根元も須賀も昨晩、ここが戦国時代であるということを伊庭から伝えられている

その際、家康が死んだことは伏せられたが、自衛隊の戦への介入によって多少歴史が変わってしまったとだけは伝えられていた


須賀「ですが!こんな……森の中に一人で居たらどうにかなってしまいそうで………。ただでさえ、こんな状況になって気が狂いそうなのに…………余計に」

根元「分かった分かった。平井、頼めるか?」

平井(3曹)「おうよ。気をつけて行って来いよ?」

根元「おう。須賀、偵察に行くならちゃんと小銃は持って来い」

須賀「はいっ!」


こうして根元と平井が桃配山に登ることとなった

無論、二人ともボディアーマーを付け、全身擬装してである



134:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/24(月) 00:11:39.42 ID:YyCxIyrX0

~十数分後~


根元「この辺りが山頂か。あそこなんかは空き地になっていて陣地が築けそうだな」

須賀「は……はい」


桃配山の山頂

根元と須賀は敵に遭遇することも無く、無事に目的地までたどり着いていた


根元「周りは至って普通の森。空き地には足袋?の跡があるな。やっぱここに家康の陣があったってことか」

須賀「根元さん………。なんかヤバイ雰囲気ですよ。場所も確認できたことですし帰りましょうよ…………」

根元「っつってもなあ。陣地を離れた場所に移したって可能性もあるからちょっと離れたところまで調べておくぞ」

須賀「そんなぁ」


今日は昨日とは打って変わって晴天である

秋晴れの空の下、山の中の探索をするのは気持ちが良いものだ

登山を趣味としていた根元は少し機嫌が良かった

彼は元々の性格から戦国時代に来ても不安や恐怖も感じることは無く、むしろ楽しんでいるようにも見える

タイムスリップしたこの一件も、元の時代に帰ってから酒のネタにしようと考えている最中だった


そんな彼を彼の上官はこう評価する

“緊急事態の時も一切テンパることが無く、訓練通りに事をこなす凄い奴だ。だが、その能天気な性格が命取りとなることもある”

そう

彼は今、任務の真っ最中であるということを少しばかり忘れていたのだ



135:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/24(月) 00:20:50.44 ID:YyCxIyrX0

ガサッ


須賀「!?」

根元「ふんふんふ~ん」

須賀「根元さん。今、草むらから音が………」

根元「お前はいちいち気にし過ぎだって。山の中じゃ蛇もタヌキもリスも珍しくはないぜ?一々気にしてたらキリがない」

須賀「しかし…………」

根元「そんなことより見ろ!青い空!白い雲!そして木漏れ日!う~ん。気持ちが良い」


ガサッ


須賀「!!!」

根元「♪」


ヒュンッ


カーンッ


根元「うおっ!」

須賀「うわあああ!」


のんきに山登りを楽しんでいた根元の背中に森の中から手裏剣が飛んでくる

根元はボディアーマーをつけていたために手裏剣は弾き返された


根元「敵襲か!それにこれは手裏剣じゃねーか!」

須賀「ど…どこから!?」


のんきだった根元が一瞬にして真剣な顔になる

須賀も持っていた89式小銃を森に向ける



136:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/24(月) 00:28:11.01 ID:YyCxIyrX0

根元「出て来い!そこに居るのは分かってるんだ!」

須賀「…………ゴクリ」


ガサッ ガサッ ガサッ


根元「!?」




???「手裏剣を弾き返す鎧に、その手に持っておるのは噂に聞く連発銃か?」




森の中からひとりの男が出てくる

その格好は足軽や鎧武者とは異なっていた


根元「俺たちのことを知っているのか?」

???「存じておるとも。今、内府はおぬしらの話でいっぱいよう」

根元「その格好……。忍者か?」

???「ほう。よくぞ分かったの」

須賀「戦国時代の忍者って………。服部半蔵とか?」

???「おお!わしのことを知っておるのか!」

根元「何?」




服部半蔵「わしこそ伊賀の服部半蔵よ!」



140:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/24(月) 15:24:05.63 ID:YyCxIyrX0

根元「ハットリ君かよ!でもアニメと違って何かただのおっさんってかんじだな」

須賀「どうします?忍者ってレンジャー部隊くらい強そうなんですけど」


半蔵「関が原に鉄の車が走っているのをわしの仲間の忍びが見つけてな。もしやと思い、布陣予定だったここへ来てみればおぬしらが居たんじゃ」

根元(何だこいつ。全く隙が無い。それに明らかに強そうなオーラが出てる)


半蔵は森の中から根元たちの居る空き地に出てきたのだが、動きひとつひとつに全く無駄が無い

根元と半蔵の距離は10メートルも無い

この距離なら確実に銃弾を命中させることも出来る

しかし、何故か今の根元は近づいてくる半蔵に銃弾を命中させることが出来ないように思えていた


半蔵「殿が布陣する予定だったこの場所を何故おぬしらは知っておる?おぬしら東の味方でも西の味方でも無いと申したようじゃが、それなら関が原で戦が行われることすら知らなかったのではないか?」

根元「いやぁ………。道に迷っただけっすよ。ははは。偶然だなぁ」

半蔵「わしは随分前からおぬしらの後をつけておったが、おぬしらの会話の中に殿の名前が何度も出てきていたぞ?」

根元「マジかよ!って。ストーカーじゃん」

須賀「ストーカーなんてこの時代の人が分かるわけ無いですよ………」

半蔵「もしも、おぬしらが西軍の者なのであれば、わしはここでおぬしらを始末せねばならん」


そう言いながら服部半蔵は刀を抜く


根元「俺たちは西軍の手先じゃねえ。その刀で俺たちに攻撃して来ようものなら、俺の持ってるこの銃でお前を撃ちぬく」


根元は銃口を半蔵の心臓の辺りにしっかり向ける


根元「須賀。こいつがひとりで来たとは考え難い。他にも敵が潜んでいるかもしれない。周囲を警戒しろ」

須賀「は…はい」

半蔵「ふむ…………。おかしなものよ」

根元「何が?」

半蔵「おぬし。本当に武人か?」

根元「ぶじん?」



141:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/24(月) 15:37:41.39 ID:YyCxIyrX0

半蔵「何と言うかのぅ。おぬしは人を殺すことに慣れていないと思うのじゃ。目が人を殺める事を恐れている」

根元「……………」


半蔵の言っていることは正解だった

根元は人を殺すことはおろか、銃口を向けることにも恐れを抱いている

それは根元だけではなく全自衛官に同じことが言えるだろう

根元にとっての実戦は昨日の戦闘だけだ

その戦闘で彼は多くの人間に銃弾を浴びせたのだが、その時の光景が一瞬にしてフラッシュバックする


機関銃の弾を受けて倒れる兵士………

爆発に巻き込まれて炎に巻かれる人間………

絶叫と血と人肉の焼ける臭い………


タイムスリップという非現実的な現象を楽しんでいた根元だが、その楽しむという考えは昨日の生々しい戦闘を一時的に忘れるためのものであったと知る


根元「…………!」

根元の銃を握る手は震えていた


半蔵「心配せんでも、わしは今一人で来ている」

根元「そう簡単には信じられないんだが?」

半蔵「そもそもわしはおぬしらを殺しに来たのでは無いんじゃ」

根元「じゃあ一体何故、俺たちに接触してきた?」

半蔵「佐渡殿(本多正信)の命でな。おぬしら“りくじょうじえいたい”とやらの居場所を見つけよ、とのことだった」

根元「俺たちを探していたってことか。一体何のため?」

半蔵「殿が昨日、命を落としたことは知っておるだろう。殿の死は家老と一部の武将のみに伝えられて極秘にされたのじゃが、どこからともなく殿が死んだという噂が流れ始めてな。それで東軍は今、大混乱というわけよ」

根元「それに俺たち自衛隊が関係するのか?」



142:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/24(月) 15:53:05.29 ID:YyCxIyrX0

半蔵「この戦いでは小早川をはじめとして脇坂や赤座など、どちらの軍に就くか決断しておらん勢力が多々存在する。それらの軍がどちらに就くかによって勝敗が変わると言っても決して間違いでは無いのじゃ。そこで殿はそれらの軍勢に働きかけをしておったのじゃが…………」

根元「家康が死んだという噂によって、彼らは西軍に就く決断をしてしまったと…………」

半蔵「そうじゃ。彼らでけでは無い。以前から殿に忠義を尽くしておった武将も心変わりしておる。義……とは何だったのかのぅ………。義、というものに関しては東よりも西のほうが強いのかもしれん」

根元「……………」

半蔵「このままでは東軍は内部から崩壊してしまう。敗戦は目に見えているのじゃ。しかし、そこでおぬしらの存在を思い出したのよ。おぬしらの凄まじい力は東だけでなく西でも噂になっておる。現に目撃した武将もおることじゃし」

根元「我々の力を貸して欲しいのか?」

半蔵「おぬしらが戦に関わりたくない事は佐渡殿からも聞いておる。おぬしの様子を見れば分かるが、臆病というよりも、戦そのものが嫌いみたいじゃしな」

根元「ああ。我々は戦争を好まない。戦争が起きない為に我々が抑止力として存在しているのだからな」

半蔵「抑止力。そう。それよ。別におぬしらに戦に参加せよとは言わん。ただ、東軍の見方をした……という事実のみが欲しいのじゃ。“じえいたい”が味方につけば東軍は心強い。西軍に鞍替えしようとしていた者達も、“じえいたい”が御味方になるのならば足を踏み留めるであろう」

根元「………。俺たちの存在そのもので士気を高めるのか………」



146:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/24(月) 22:16:00.25 ID:YyCxIyrX0

半蔵「そうじゃ。一瞬にして多くの兵を倒す鉄砲、大地を吹き飛ばす大きな鉄砲、空飛ぶ鉄の鳥に地を駆ける鉄の馬。それらが味方についているという事実だけでも兵の士気は上がるのじゃ」

根元「なるほど。言いたいことは良く分かった。だけど、俺は部隊の指揮官……えっと、あんたたちの言うところの殿では無いから、俺の判断だけで東軍の味方をするという決断は出来ないんだ」

半蔵「ではおぬしらの大将のところにわしを連れて行って欲しい」

根元「……………」


隊の方針としてはベースキャンプに現地人(戦国時代の人間のことを自衛隊はそう呼ぶことにしていた)を連れ込むことは禁止となっていた

歴史に必要以上に関わらないためである

近隣の村に食料を調達しに行く場合も現地人に跡をつけられたりしない様に細心の注意を払えとのことだった


根元「無理だ。あんたを仲間のところには連れて行けない。それが大将からの命令でね」

半蔵「まあ良い。こっちが勝手におぬしらの跡をついていけば良いだけであるしな」

根元「なっ!」

半蔵「何か問題でもあるのか?」


服部半蔵はニヤっとして言った

元々、根元たちの跡をつけるつもりだったのだろう


根元「…………しょうがねぇな。須賀、スタングレネード持って来てるだろ。あれ使ってこいつを撒くぞ」

須賀「で…ですが、閃光発音筒は数が少なく貴重な為に使用は緊急時のみだと小隊長が………」

根元「今が緊急時だ。自衛隊を甘く見てるこいつに現代流の忍法ってのを見せてやれ」

須賀「了解」



147:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/24(月) 22:29:09.83 ID:YyCxIyrX0

須賀の言った閃光発音筒というのはハイジャック等の事件の際に警察の特殊部隊が使用しているスタングレネードのことである

殺傷を目的とした手榴弾と違ってこの武器は爆発時の爆音と閃光により、付近の人間の視覚と聴覚を一時的に奪うことを目的としている

要は大きい音と凄まじい光を出す爆弾と言うところだ


半蔵「?」


須賀は持ってきていた閃光発音筒を取り出す

半蔵は須賀が手に持ったその特殊な手榴弾をもの珍しそうに見ていた


須賀「いきますよ。根元さん用意は良いですか?」

根元「おう」


閃光発音筒(スタングレネード)はそれを使用する者にも効果が及ぶ為に耳栓をしたり目を光から守らなくてはならない


須賀「くっ………」


須賀は安全装置のピンを引っ張って抜き閃光発音筒を半蔵へと投げる

それと同時に須賀も根元も目を閉じて耳栓をしながら半蔵とは反対の登ってきた道へと走り出した




カッ



半蔵「ぐああああああああ!」


爆音と閃光が半蔵の目と耳を襲い、彼はのた打ち回る

殺傷兵器では無いものの、その爆音と閃光は心臓病患者をショック死させる程度の威力がある

蛍光灯やLEDの光すらも知らないこの時代の人間にとって、その威力は計り知れないものがあった



148:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/24(月) 22:46:20.31 ID:YyCxIyrX0

根元「走れ走れ!LAVまで全力疾走だ!」

須賀「耳がキーンってなってます。やっぱあんなの使いたくなかったです!」


根元と須賀は全力で軽装甲機動車が隠してある桃配山の麓まで走る

もともと桃配山は標高が104メートルしかない

全力で走ればあっというまに麓まで到達できる


根元「見えた。あそこだ。カモフラージュしたLAVが見える。おーい!平井いいいいい!」

須賀「助かったぁ………」


ゼィハァと息を切らしながら駆け寄ってくる根元たちに軽装甲機動車内で待機していた平井は驚いて話しかけてくる


平井「どうした?敵襲か!?」

根元「近いけど違う。とりあえず話はこの場を離れてからする。早いところこの場を離れるぞ」

平井「お……おう」


根元は車の中に入るとエンジンをかけ始める

この軽装甲機動車の操縦手は根元であった


クイッ クイッ クイッイイイイ


根元「エンジンがかからない。おい!こんなときに!?」

須賀「あっ!根元さんあれ!」

根元「ん?………おい。あいつやっぱり仲間連れてきてたんじゃねーか!次からは赤外線探知機持って来ないとなっ!」

平井「なんだよあいつら。忍者みたいな格好してるじゃん。ハットリ君みたいな」

根元「正解だよ、こんちくしょう。本人はむっさいおっさんだったけどさ!」

平井「??」


根元たちが降りてきた桃配山の山頂に続く獣道から忍者の格好をした人間が次々と駆け下りてくる

中には木から木へと飛び移りながら向かってくる者もいた

まさに忍者である



ゴンッ

須賀「ひいっ」


車両の上から鈍い音が聞こえる

どうやら忍者の何人かが軽装甲機動車の上に木の上から飛び降りてきたようだ


平井「おいおいマジかよ。忍者は20人くらい居るぞ。うわっ。囲まれてるじゃん」

須賀「は…はは服部半蔵は……いいい居ませんね………。せせ閃光発音筒で倒れてるんで……ししししょうか?」

根元「平井!窓から小銃で威嚇してくれないか!エンジンがかかったとしても、こう囲まれていたら突破出来ない」

平井「わかった。須賀、そこの小銃よこせ」

須賀「はいっ」



149:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/24(月) 22:55:17.77 ID:YyCxIyrX0

平井は須賀から受け取った小銃を構え、軽装甲機動車のドアについている小窓から威嚇射撃を行う


タタタタタタタタタタタン


単発か3点制限射撃で威嚇を行おうと思ったが、火縄銃しか知らない相手ならば連射での威嚇が最も相手を恐れさせることが出来ると平井は考えた

その考えは見事に当たったようだ

忍者たちは突然の連続射撃音に驚き、恐れ、車から距離を置いた


クイッ ブロッロロロロロン


それとほぼ同時にエンジンもかかる

車のエンジン音にも忍者たちは驚いたようで、さらに距離を置いた


忍者「鉄の馬が鳴いておるぞ」

忍者「あれは火縄では無いのか!?」


根元「発進する。一気に関が原を突破するぞ!」

平井「おう。にしても本物の忍者が見れるとは…………」

須賀「しかも服部半蔵ですよ」



150:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/24(月) 23:02:59.41 ID:YyCxIyrX0

3人の自衛官を乗せた軽装甲機動車は物凄い速さ(軽装甲機動車の最大速度は100キロ)で閑散とした関が原を突破していった

そして、残された忍者たちの下へとフラフラとした足取りの服部半蔵が山から下りて来る



忍者「ご無事ですか!?」

半蔵「おうよ。しっかし、たまげた。あれほどの忍術が使えるとは。わしは“じえいたい”を甘く見ておったわい」

忍者「じえいたい……というのはあの者たちの名前ですか?」

半蔵「どうもそうらしいのう」

忍者「あの速さ………。馬でも追いつけません。どうします?」

半蔵「心配せんでも良い。見よ。地面を」

忍者「これは………」


地面には軽装甲機動車のタイヤの跡が残っていた


半蔵「この鉄の馬の足跡を追うのじゃ。やつらの陣のおおよその位置はわかるじゃろう」

忍者「はっ!」

半蔵「じえいたい………。不思議な者達じゃ……………」



151:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/24(月) 23:27:28.22 ID:YyCxIyrX0

~場所は変わって関が原より少々離れた場所~




家康の遺体は回収され、人目につかない場所に安置されていた

家康の死を知る者は戦の場に居た者と家康の家老、前田利家や伊達政宗をはじめとする一部の武将のみである

しかし、家康の死の噂は東軍全体に流れてしまい、いまや東軍は内部から崩壊しかけている状態だった

特に下の兵士への影響は大きく、寄せ集めの兵士たちの逃亡は跡を絶たない

総大将の家康が不在の為に軍議も行われず、東軍の西軍への勝ち目は無いといっても良かった

今のところ、家康の不在は家康が病に倒れたからだと各武将には伝えられている



前田利家「内応しておった吉川広家は完全に東軍を見限った。小早川秀秋や脇坂安治は完全に西軍に就いて戦うようだ。赤座、小川らもだ。中立を宣言していた木下家定らも危ういぞ」

伊達政宗「内府に忠誠を誓っていた武将の何人かも寝返ろうとしておる。どうする佐渡。家康殿の無き今、東軍をまとめるのは誰じゃ?」

福島正則「待て。家康殿の居なくなった今、わしらが西軍と戦う必要はあるのか?」

本多正信「……………」

福島正則「わしらは家康殿に天下を取って欲しかったからこそ東軍に参加した。だが、その家康殿が居ないとなれば………」

ドンッ


伊達政宗「おぬし!よもや西軍に寝返ろうと思ってはおらんだろうな?」

福島正則「おらぬ!しかしだ!家康殿以外に誰が天下を取るにふさわしい?三成にはふさわしくないのは当たり前として、正宗、おぬしでも駄目じゃ。無論、わしにも佐渡にも利家にもな」

前田利家「だが、わしらはそう思っていても、家康殿に代わって天下を狙っている武将もおるぞ。このままでは内部で争いが起きる」



152:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/24(月) 23:44:07.93 ID:YyCxIyrX0

福島正則「家康殿が居ない今。わしらは何の為に戦うのかをはっきりとせねばならんのじゃ。でないと兵の士気も上がらん」

本多正信「そのことじゃ。わしに意見がある」

伊達政宗「何じゃ?佐渡。言うてみい」

本多正信「わしは長きに渡って殿の側におった。そして、わしは日ごろから殿の理想を聞かされていたのよ」

前田利家「理想………とな?」

本多正信「そうじゃ。殿の理想とは“太平の世”を築き上げることじゃった」

伊達政宗「太平の………世?」

本多正信「そうじゃ。戦も無く、そして庶民が明るく平和に暮らしていける世のことじゃ」

福島正則「確かに理想の世ではあるが、少々理想過ぎではなかろうか?具体的にどう世を動かすかが分からん」

本多正信「それも殿から聞いておる。この関が原が終わった後、どう各地の武将を束ねるのかも全て聞いておる」


正信以外の武将「……………………」


本多正信「わしは殿の理想の世の中を実現させたい。誰もが望んだ“太平の世”を誕生させるのじゃ。その為に、わしは……わしは、西軍を…………うっ」


感情が高ぶったのか正信は涙していた


伊達政宗「佐渡………。そうか。太平の世か」

前田利家「誰もが望む世」

福島正則「なるほど。家康殿は死んでもなお………ここに生き続けておるのだな」

本多正信「………………」


伊達政宗「わしは家康殿の理想としていた世が見たい。佐渡。我が力、おぬしに授けよう」

本多正信「!正宗殿!」

福島正則「この福島正則。尽力致す」

本多正信「正則殿!」

前田利家「わしもじゃ。必ず、その理想を実現させようぞ」

本多正信「利家殿!」



155:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/25(火) 00:00:03.22 ID:YyCxIyrX0

伊達政宗「家康の命は消えようとも、その理想は消えず。理想が消えないのならば家康殿はまだ生きておるのと同じ」

前田利家「東軍総大将はいまだ健在ということじゃ」

福島正則「戦う理由は十分であろう」



ガチャガチャガチャ



一同「!?」

加藤清正「おう!皆揃っておったか。わしの他にも何人か武将が訪ねてきておるぞ。家康殿への忠義を誓った者ばかりじゃ」

伊達政宗「おお!そうか。今、わしらも忠義を再確認したところじゃった」

加藤清正「そうか。して、件の“りくじょうじえいたい”はどうなっておる?味方になるのか?」

本多正信「まだ分からぬ。が、彼らを我が軍の後ろ盾とすれば兵の士気が上がるどころか、三成の奴は腰を抜かすじゃろう。無論、彼らが味方しなくとも、わしら忠義を誓った者達は負けが目に見えていようとも戦うがの」

加藤清正「そうか。あの連中が居れば東軍は勝ったも同然か!」

伊達政宗「何としてでも彼らを味方に付けるのじゃ。家康殿の理想を実現させる為にも!」



東軍のトップたちは他の武将や兵とは逆に士気を高めていた

正信はそんな正宗や利家たちの姿を見て、静かに涙を流していた


正信「殿………。何としてでも殿の望んだ世を作りますゆえ…………」


正信は空を見上げて一人呟く

家康の望んだ太平の世

それを実現させる為に正信は踏み出し始めた


家康は今もこの場に居て、静かに笑っている

正信にはそう思えて仕方が無かった



161:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/25(火) 18:13:34.78 ID:0Yl1QbO+0

根元たちはベースに帰還した後、全てを伊庭に報告した


伊庭「なるほど。東軍は我々自衛隊を後ろ盾にしたいわけだ」

根元「それよりも小隊長。家康が死んだとはどういったことですか?」


家康の死亡は一部の隊員しか知らされていなかったため、根元は服部半蔵との会話ではじめて家康の死を知ったこととなる


伊庭「昨日の戦車奪還の際にな。家康が西軍の矢によって命を落としたんだ。あの場は兵でごった返していて、その瞬間を見たのは俺と矢野をはじめとした何人かだけだった。部下たちに余計な心配をさせないように秘密にしていたんだが………」

県「深刻ですね。家康の死によって歴史が変わるのも。我々自衛隊が戦に巻き込まれそうになるのも」

伊庭「東軍は何としてでも自衛隊を味方に着けようとしてくるはずだ。予定していた付近の集落での食料調達はひとまず延期しよう。それとベース周辺の警戒を強化する」

根元「忍者が総動員で俺たちを探しているとなると………。見つかるのも時間の限界では」

伊庭「俺が仮にこの時代の武将なら同じ事を考える。自衛隊を味方に着けよう………とな。我々が近代兵器を持っている間は、完全に戦と縁を切るのは難しいのかもしれないな……………」

県「……………」



木村「小隊長!大変です!」


伊庭達の居る天幕の向こう側から木村曹長が走ってくる


伊庭「どうした?」

木村「報告します。先程、定時の点呼を行ったところ1名が行方不明となっているのが分かりました」

伊庭「何!?誰だ?」

木村「高嶋士長です」

伊庭「高嶋が!?」



162:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/25(火) 18:32:02.96 ID:0Yl1QbO+0

高嶋陸士長は部隊内でも幼さで有名だった

最年少というわけでは無いが、顔や行動に幼さが残っていたのだ

木村はそんな高嶋を可愛がっていた節がある


木村「高嶋を最後に見たという隊員はあいつがどうも思いつめたような表情をしていた………と。くそ。俺がちゃんと見ていれば」

伊庭「誰だってこんな状況になったら不安になる。木村。お前に責任は無い。それよりも、早く高嶋を見つけないといけない。我々を探している東軍に見つかったら大変だ。それに野武士が森の中に居る可能性だってある」

木村「はい。捜索隊を出しましょう。ヘリは……目立つので出せませんね。パジェロと高機動車をフルで出します」

伊庭「ああ。捜索隊の編成はお前に一任する。俺も残ってる仕事が終わったら…………」


シャチョウハナシテクダサイ! オレハカノジョノトコロニ

バカヤロウ ナニネボケタコトイッテンダ ココハセンゴクジダイダゾ


県「何だ?喧嘩か?」

伊庭「あれは戦車の…………」


見れば戦車等の車両停留所で戦車の砲手である菊池が車長の島田と操縦手の丸岡に羽交い絞めにされている


菊池「タイムスリップしたのは関が原周辺だけなのかもしれない!もしかしたら……そこらの山を超えたら俺たちの時代の風景画見えたりするかも」

島田「ああ?あー。お前は一部の地域だけが過去の時代と入れ替わったって言いたいんだな。アホか!なら無線に本隊から連絡が来るはずだろうが!GPSも使えるはずだろうが!」

丸岡「菊池落ち着け。絶対に元の時代に戻れるから。彼女はお前のことを待っててくれてるだろうさ」

菊池「でも!俺はもう耐え切れない!」


こんな調子で戦車の乗員たちは揉めていた

彼らだけでは無い

タイムスリップしてからまだ1日しか経っていないのに隊員同士のいざこざは二桁に達する勢いで増えていた

それらは矢野や木村によって静められていたが、この調子だともっと増えるだろう

元々は皆、真面目で仲も良く、雰囲気の良い小隊だったのだが、突然の出来事によって隊員達はストレスや不安を抱え、それを他人にぶつけてしまっていた


伊庭「このままでは隊が崩壊する」

県「まるで今の東軍のようですね。でも、そんな隊をまとめるのが小隊長、あなたです」



163:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/25(火) 18:37:31.53 ID:0Yl1QbO+0

伊庭「ああ。そうだな。俺がしっかりしなくてはならない」

県「せめて………。何か目的があれば隊員達も……………」



太陽が沈み始め、タイムスリップシテから2回目の夜が訪れようとしていた

高嶋士長の捜索は動ける隊員を総動員して行われたが、月明かりくらいしか頼るものが無い闇の中の捜索は困難を極め、ついに高嶋を見つけることは出来なかった

伊庭は一旦のところ捜索を切り上げ、翌日の朝、明るくなったら再び捜索を開始することを決断する



168:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/25(火) 22:18:28.68 ID:0Yl1QbO+0

~自衛隊ベースから少々離れた森の中~


1600年9月16日早朝


隊を抜け出した高嶋は森の中をさまよい続けていた

何か目的があって隊を抜け出したのではない

ただただ不安で、逃げ出したくなっただけなのだ


高嶋「腹減ったなぁ」


何の考えも無しに逃げ出した為に食料はおろかコンパスすら持ち出していなかった高嶋は足に力が入らなくなり、ついに倒れこんでしまった

持ち出してきたのは自分の小銃と予備マガジンのみだ


高嶋「俺……ここで死ぬのかなぁ」


そう呟きながら仰向けと成り、森の木々を見上げる


高嶋「隊の人達は今頃俺の捜索をしてんのかな………。ああ。迷惑かけちまったな」




ガサッ

ガサガサッ


高嶋「んん?」


ふと草が揺れる音がして高嶋は上半身を起こす

そして音のしていた茂みの方を見る



バッ


高嶋「!?」


音のしていた茂みから昨日見た鎧武者と比べれば遥かにみすぼらしい姿をした武者が10人ほど迫ってきていた



169:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/25(火) 22:28:35.59 ID:0Yl1QbO+0

高嶋は知る由もなかったが、自衛隊が宿営地とした場所から少しはなれたこの森は落ち武者たちの縄張りとなっていた

また、落ち武者たちはここで戦に破れて逃げてきた武士たちを狩り、迷い込んだ村人を狩っていたりもする



ターン ターン ターン


高嶋は迫ってくる落ち武者から逃げながら威嚇射撃を単発で行っていた


高嶋「聞いてねえよ!何だこいつら」

落ち武者「きええええええ!」

落ち武者「逃がすなああああああ!」

高嶋「くそっ!」


タタタタン

小銃のセレクトレバーを単発から連射に切り替えて、近くの割と太い木の枝に銃弾を撃ち込む


ビシビシビシ

バキッバキッ


小銃から発射された銃弾は木の枝を見事に折った


高嶋「お前ら!この木の枝みたいにされたくなければ近寄るんじゃねえ!」

落ち武者「何じゃこいつ。奇妙な格好に奇妙な火縄銃」

落ち武者「こっちは10人。多勢に無勢じゃ」

落ち武者「あの火縄銃。売れば高く売れるかも知れんぞ。何せ連発銃じゃ!」

高嶋「おいおい。全然びびってねえぞ!昨日の連中は機関銃の射撃にびびってたのに………。ラリってんのか!?」

落ち武者「鉄砲以外にも何か持っているかもしれんぞ!こいつは“当たり”じゃ!」

落ち武者「きえええええええええええ!」

高嶋「うああああああああ!」



170:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/25(火) 22:36:52.85 ID:0Yl1QbO+0

タタタタタタン タタタタタ


落ち武者「うぎゃああああ!」


高嶋は思わず落ち武者たちに向けて発砲してしまう

ただ、手元が震えていた為か狙いが正確ではなく、命中したのは3名だけだった


落ち武者「おのれえええ!斬れ!」

落ち武者「きえええええ!」

高嶋「嘘だろ!?普通びびって突撃なんてしてこないだろうが!」


再び逃げながら高嶋は叫ぶ


ガッ

高嶋「うおっ!うわ」


ドサッ


高嶋「いてて………」


逃げている途中、高嶋は何かに足をとられて転んでしまう


高嶋「くそっ。こんな時に!木の幹に躓いたか…………。ぎゃあああ!」


高嶋は自分が足を引っ掛けた物体を見て絶叫する

それは木の幹などではなかった

おそらく落ち武者に殺された人間の半分白骨化した遺体である

見れば同じような遺体がいくつも転がっていた


落ち武者「生きては返さんぞおおおおおお!」

落ち武者「きええええええええええええええええ!」

高嶋「うわああああ!」



171:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/25(火) 22:47:16.03 ID:0Yl1QbO+0

タタタタン タタタ カチッ カチッ


高嶋「うあああ!弾が」


小銃が弾切れを起こす

高嶋は急いでマガジンポーチからマガジンを取り出した


高嶋「やべえ………。予備マガジンはひとつしか持ってきてなかった………」

落ち武者「今じゃかかれええええ!」

高嶋「うおわっ」


カキーンッ


マガジンを交換しないうちに落ち武者が高嶋を斬りつける

とっさに小銃でそれを防いだ高嶋は、斬りかかってきた落ち武者を蹴り飛ばす

蹴り飛ばされた落ち武者は後ろに居た他の落ち武者とともに倒れこむ

おそらく最近まともに飯を食べていなかったのだろう

落ち武者は異様に軽く感じた


高嶋「今のうちだ。マガジンを交換…………」


震える手でマガジンを交換する


落ち武者「おのれええ!5人も殺しおてええ」

高嶋「てめえらから攻撃してきたんだろうが!残弾は30発。30発あれば残り5人なんて楽勝…………」



アソコダ イタゾ

キエエエエエエエエ


高嶋「な………うそだろ。ふざけんなよ」


さらに10人以上の落ち武者が出現した



175:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/26(水) 22:37:42.01 ID:/gsTo5rZ0

タンッ

落ち武者「ぐおあっ」

ドサッ



タンッ

落ち武者「ぐあっ」

ドサッ



タンッ

落ち武者「ぐへっ」

ドサッ



ハア……ハア……ハア


高嶋「く………そ。きりが……無い」


落ち武者「あそこじゃあああああ!あの木の陰じゃあああ!」

高嶋「来るな!」


タンッ


落ち武者「ぎゃっ」



落ち武者の集団から木と木の間を縫うようにして逃げている高嶋の体力は限界に近かった

しかし、足を止めた瞬間に落ち武者に追いつかれて白兵戦となってしまう

高嶋は敵との距離をとりつつ、一人一人確実に倒していた



176:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/26(水) 23:01:50.40 ID:/gsTo5rZ0

高嶋「残弾にも限りがある。はやいところこいつら撒かないと…………」


ザザザザザザザザ


きえええええええええ!


高嶋「うっ………。何なんだよ!何なんだよお前らあああああああああああ!」


タイムスリップという突然の現象

理不尽な仲間の死

そして、今置かれている自分の状況

全てに憤りを感じて高嶋は発狂する


落ち武者1「こやつ立ち止まったぞ!はっ。戦う気を失ったか」

落ち武者2「好都合じゃ一気に叩き潰せ」


タンッ


落ち武者2「ぐっ………は」


高嶋「クソが…………。何が戦国時代だ……。何がタイムスリップだ………」

落ち武者1「狂ったのか?こやつ」


高嶋「殺してやる。お前ら全員…………。殺してやるよおおおおおおおおお!」


ガシャ


高嶋は銃に銃剣をつけて白兵戦の準備をする

彼の頭は己に起こった理不尽に対する怒りでいっぱいになっていた

そして、その怒りの矛先を目の前の敵に全てぶつけようとしていた



177:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/26(水) 23:10:38.49 ID:/gsTo5rZ0

高嶋「うおああああああ!」

ブンッ

ガッ

落ち武者1「ごはっ」


高嶋の振った銃が襲い掛かってきた落ち武者の一人の顔面を強打する

89式小銃の重さは本体だけで3.5キロもある

それが顔面を直撃すれば無事では済まされない


高嶋「おらあああああ!かかってこいよ!小汚い侍どもがあああ!」

落ち武者3「こやつ!切り刻んでくれる!」


タンッ


落ち武者3「ぐおはっ」


タンッ


落ち武者4「ぎゃっ」


高嶋「残り………10人ってところか。残弾は………7発」

落ち武者5「複数で囲めばこやつの鉄砲も怖くは無いぞ!」

落ち武者6「同時に攻撃じゃああああ!」

落ち武者7「覚悟おおおお!」


タンッ

タンッ


カキーン


襲い掛かってきた落ち武者2名を銃弾で撃ち抜き、残りの1名の振りかざしてきた刀を銃本体で受け止める

高嶋「ぐおおおおお!」

落ち武者7「きええええ!」


落ち武者8「今じゃ!かかれええええええ!」


うおおおおお!



178:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/26(水) 23:17:35.46 ID:/gsTo5rZ0

銃で刀を受け止めている以上、高嶋は現在、無防備な姿勢となっている

横から攻撃されれば防ぐ手立ては無かった

そして、彼はボディアーマーをつけていない


落ち武者8「りゃああああ!」


ブシュッ


高嶋「が…………」


刀が高嶋の身体を切裂き、周囲の草木を赤く染める

斬られたことで高嶋は銃を握る手に力が入らなくなる


落ち武者7「りゃりゃりゃああ!」


落ち武者はどんどんと駆けつけて来て、高嶋を攻撃する

無数の刃が彼の身体を切り刻む


高嶋「ぐ………。何で………俺が」



「高嶋あああああああああああああああああ!」


高嶋「し……小隊…長?」


薄れ行く意識の中で高嶋は伊庭の声を聞いたような気がした



179:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/26(水) 23:25:17.14 ID:/gsTo5rZ0

脱走した高嶋の捜索は早朝から再開されていた

ベースに衛生科の隊員や負傷者をはじめとした若干名を残し、生存したほとんどの隊員が捜索に駆り出された

車両が通れそうな場所は十分にカモフラージュをした車両を走らせ、通れそうに無い場所は完全武装の隊員を歩かせている


小隊長の伊庭も指揮車代わりとしている73式小型トラックに乗って、各車両、各隊員と連絡をしながら高嶋隊員を探していた

そんな捜索の中、伊庭は森から小銃の射撃音響いているのを聞き、音の鳴る方へと向かったのだ

そして、たどり着いた先で見た光景は………


伊庭「高嶋あああああああああ!」


既に息をしていない部下に次々と刀が振り下ろされている光景だった



180:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/26(水) 23:36:44.13 ID:/gsTo5rZ0

木村「おい………嘘だろ。てめえら!うちの隊員に何してくれてんだっ!」


伊庭といっしょに73式小型トラック(パジェロ)に乗り込んでいた木村曹長が叫ぶ

今、この車両は幌が外されており、後部座席には5.56ミリ機関銃が新たに取り付けられている


県「そんな…………」

木村「小隊長…………。交戦許可を」

県「待て、木村曹長。現地人との戦闘はなるべく避けるべきだ」

木村「部下が殺されたんですよ!こちらが攻撃をされたんだ!正当防衛として我々が攻撃しても何ら問題は無いです」

県「でも…………」

伊庭「高嶋…………」



落ち武者「なんじゃあいつら。変な荷車に乗っておる。お?こやつと同じ格好じゃぞ」

落ち武者「なら、あやつらも鉄砲を持っているに違いない。殺して奪うぞ」


落ち武者たちは突如現れた73式小型トラックと伊庭達を見て口々に言う


伊庭「………………」

落ち武者「残った者全員でかかれえええ!あっちはたかが3人じゃ。こっちでわしらが倒した奴と同様、大勢でかかれば糸も容易く倒せるはずじゃ!」


うおおおおおおお!

生き残った落ち武者たちが一斉に伊庭達へと襲い掛かってくる



181:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/26(水) 23:45:54.71 ID:/gsTo5rZ0

木村「小隊長!」

伊庭「木村………。MINIMI(5.56ミリ機関銃)の射撃を許可する。敵を殲滅しろ」

県「小隊長!歴史への介入は駄目です!」

伊庭「……………相手はどうせ落ち武者だ。殺したところで歴史が大幅に変わるとは考え難い」

県「しかし…………!?」


県が見た伊庭の顔は今まで伊庭が見せたことの無いような顔だった

県の知る限り、伊庭は自衛官の手本となるような誠実で真面目で部下思いの隊員で、他の人間に怒りを露とするようなことは無かった

そんな伊庭の今の表情は憎悪で歪んでいる

そして県はその表情が“この時代の武人に似てしまっている”と一瞬思ってしまった


県(部下思いだからこそ、部下を殺した人間にこんな表情を…………。でも、それならこの先もっと…………)



落ち武者「かかれえええええええ!」

木村「指示を!」

伊庭「…………撃ち方はじめ」




タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ
タタタタタタタタタタタタタタタタタ



落ち武者はあっけなく消えた



185:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/27(木) 20:29:33.40 ID:ubZ3MYCS0

落ち武者の死体が散乱する中、伊庭達は地面に落ちている空薬莢を拾い集めていた

空薬莢は伊庭達の時代のものであり、この時代の人間に発見されることを恐れたのと、空薬莢から伊庭達の居場所がばれるのを避けるためだ

ただ、伊庭はこの空薬莢を拾って歴史に干渉しまいという行動が、先程の落ち武者を殺したことに矛盾していることに気付いている


木村「高嶋………。くそ」


高嶋隊員の遺体も回収され、小型トラックの後部座席に乗せられている


県「他の隊員たちには先にベースに戻っているように連絡をしておきました。我々も早いところ戻りましょう。こういった落ち武者連中がまだ他にもいる可能性があります」

伊庭「そうだな。木村。車を出せ」

木村「…………はい」


クイッ ブロロロン

木村が車のエンジンをかける


県「この時代で……我々は生き残れますかね?」

伊庭「少なくとも俺が生きている間にはこれ以上の犠牲者は出させやしない。絶対にだ」

県「……………」


発進した73式小型トラックは木と木の間を器用に走る

オオン オオオオン


木村「!」

ザザッ ザザッ

そんな中、車載の無線が鳴る



186:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/27(木) 20:39:37.69 ID:ubZ3MYCS0

無線『こちらベース。矢野です』

伊庭「こちら伊庭。どうした?」

矢野『敵襲です。ベース周辺に設置しておいたセンサーが敵を感知。カメラでもその姿を確認しました』

伊庭「何!?敵勢力はどのくらいの規模だ?」

矢野『騎馬を先頭に槍や弓で武装した兵士が………300ほど』

伊庭「ベースと敵の距離は?」

矢野『森を挟んで500メートル。一応、林の中に狙撃手を配置させ、指向性散弾のセットもしてありますが、どうします?』

伊庭「相手が攻撃を仕掛けてくる素振りをしてきたら構わず実弾を使用して良い。ただし、なるべく殺傷は控えろ。それと、交戦することよりも退避することを優先するんだ」

矢野『了解』

伊庭「俺たちもあと少しでベースに到着する。それまで頼んだぞ。矢野」

木村「ベースが敵襲………」

県「何故、我々の居場所が分かったんだ?」

伊庭「木村。なるべく急いで向かってくれ」

木村「了解!」


ブオオオオオン



187:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/27(木) 21:02:22.16 ID:ubZ3MYCS0

~同時刻・ベース~




根元「矢野2尉。狙撃手の三村と空挺隊員の大賀1曹は配置につきました。敵の大将らしき人物をいつでも狙撃可能とのことです」

矢野「大賀ってのは空挺の狙撃手のことか。その二人に命令があるまで射撃は控えるように伝えろ」

根元「了解。指向性散弾の方は?」

矢野「そっちもだ」


センサーとカメラで確認した敵兵(敵と呼ぶのはまだ早いかもしれないが)の現在位置はベースを囲う森の入り口付近であった

その兵士たちを待ち受けるような形で2人の狙撃手と指向性散弾をセッティングした隊員が森の中で待機していた

指向性散弾というのは指向性の対車両地雷である

設置後はワイヤーを介し発火具で手動で起爆させ、複数の金属球を前方へ飛散させる兵器だ


矢野「根元。燃料弾薬、天幕、通信機を車両に積み込んで退避の準備もしろ。最悪の場合、ここから逃げる」

根元「了解!」

矢野「小隊長が帰ってくるまで………俺がここの隊員の命を守らなくてはならない」



192:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/28(金) 18:46:33.76 ID:4rrlbsE50

無線『ザザッ 矢野1尉。こちら狙撃手の三村です。敵の先頭集団が間もなく指向性散弾の射線に入ります』

矢野「……………」


今、敵の大将を倒せば敵部隊は総崩れし、自衛隊のベースの襲撃どころではなくなるだろう

部下の命を最優先として考えるのならば、今のうちに大将を殺すべきである

しかし

大将という歴史上での重要人物を亡き者としてしまった場合、歴史は相当では済まされない程に狂ってしまうだろう

ならば…………


矢野「狙撃手2名と指向性散弾を設置した隊員は速やかにベースへ帰還しろ。戦闘をせずに穏便に事を済ませる」

三村『は……はい。了解しました。狙撃手両2名、帰還します』

矢野「敵に発見されないよう気をつけろ」

三村『はっ!』



根元「矢野1尉!報告します」


矢野が無線連絡を終えたところに根元がやって来る


根元「物資の車両への搬入を完了しました。車両並びにヘリ、発進準備完了です。いつでも退避できます。センサーやカメラの回収はまだですが」

矢野「良くやってくれた」

根元「相手の兵はどうするんですか?」

矢野「俺が何とかする」

根元「矢野1尉がですか?」

矢野「ああ。戦闘を行わずに敵を退ける」

根元「!?戦闘を行わずに?どうやって?」

矢野「言葉という武器を使うのさ」



193:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/28(金) 18:54:41.87 ID:4rrlbsE50

根元「言葉………」

矢野「根元。迫撃砲の発射準備を行ってくれ。それと拡声器を持って来い。弾は通常弾ではなく発煙弾を装填」

根元「発煙弾?実弾ではなく?」

矢野「言っただろ。戦闘は避ける。それに我々の弾薬は決して多くはねぇんだ。これからは弾薬の節約の為にも通常の攻撃より、精神的な攻撃が必要となってくる」

根元「精神的攻撃………ですか」

矢野「おう」



194:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/28(金) 19:15:14.39 ID:4rrlbsE50

~同時刻・自衛官の隠れる森の中に入り始めた騎馬隊と足軽たち~


正信「ここか?半蔵」

半蔵「はっ。鉄の車の足跡を辿ってきたところ。どうもこの中に“じえいたい”は居るようです」

政宗「そうか。わしは鉄の馬とやらを見たことが無いから少々楽しみじゃ」


森に入ろうとしている部隊は本多正信と伊達政宗の混成部隊であった

目的はもちろん、自衛隊を東軍の味方につけることである

本来は本多正信のみで行くつもりであったのだが、伊達政宗が自衛隊を一目見たいといって参加してきたのだった


正信「どこから“じえいたい”の鉄砲の弾が飛んでくるかわからん。気をつけよ」

政宗「“じえいたい”とやらの格好は緑の斑の服だったのだろう?こんな森の中に隠れれば分からんじゃろう」

正信「あの緑の斑の模様………。森の中に隠れるにはうってつけじゃった。あの者達は森の中で戦うことを得意としておるのかの?」


ザッ ザッ ザッ ザッ


本多正信たちはどんどん森を進む


半蔵「!?」

正信「?どうした?」

半蔵「声が聞こえた…………」


忍びである服部半蔵の聴覚は大変優れている

森の奥からかすかに聞こえてきた声を彼は正確に聞き取った

“ハツエンダンハンシャ テー”

何を意味する言葉なのかは分からなかったが、その声が聞こえた直後に森の中からかなり大きな音がした



ドシュッ



195:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/28(金) 19:22:09.24 ID:4rrlbsE50

ドシュッという音は迫撃砲を発射した時の音なのだが、戦国時代に生きる人間がそれを知るはずも無い

平成に生きる人間でも迫撃砲発射音を聞いたことがある人間は少ないのではあるが

だが、正信らはその音が自衛隊の行った攻撃であることを察した


雑兵「なんじゃ!攻撃してきたぞ!」

雑兵「この間のようなドーンという音じゃ!鉄の馬がまた火を噴いたに違いない」


兵士たちの中には10式戦車の発砲を見た者も居る

そして、彼らは戦車砲の威力も知っていた


正信「うろたえるでない!相手からわしらは見えておらん。狙いを定めることなど…………」


ボンッ


正信の言葉が終わらないうちに迫撃砲から発射された発煙弾が正信ら騎馬隊の居る場所の目の前に着弾した



198:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/28(金) 21:29:32.10 ID:4rrlbsE50

政宗「なんじゃこの煙は!ごほっごほっ」


自衛隊が撃った弾は発煙弾である

その名の通り弾着と共に発煙する弾だ

発煙弾の煙で本多正信らの居る場所の周辺は真白な煙に包まれる


半蔵「煙玉のようなものかと思ったが………。こんなにも広範囲に煙が及ぶとは!恐るべき弾じゃ」

正信「何も見えぬ。今攻撃されたらひとたまりも無い!」



『あー。森に侵入した武士たちに告ぐ。我々は日本国陸上自衛隊だ』



政宗「なんじゃ!この大声は!」


矢野が拡声器で森の奥から喋っているのだが、拡声器など知らない伊達政宗は驚きを隠せないで居た


正信「近くにおるのか?」

半蔵「いえ。近くに“じえいたい”は居ません」

正信「ではこれは一体?」


『驚いたか?だが、驚いている暇など無いぞ?』


正信「?」


『我々が今発射したのは“NBC兵器”というものだ。辺りに白煙が漂っているだろう。その煙自体が武器なんだ』


正信「この煙が………武器だと?」


『毒ガス兵器って言ってもわからねぇよな。その煙には毒がある。一定時間その煙を吸ったり触れていたりすると、吸ったり触れた人間は死ぬ』


無論、嘘であった

発射されたのはただの発煙弾である

しかし、発煙弾を始めて目にする正信ら戦国時代の人間はそれを信じてしまう


正信「なっ!?」

政宗「吸っただけで死ぬじゃと!?」


『今逃げればまだ助かる。だが、これ以上その場に居続ければ確実にお前たちは全滅するぞ?部下が大切なら今すぐここから立ち去れ』


雑兵「大変じゃ!逃げろ!」

雑兵「うわああああああ」


矢野のはったりに兵たちはパニックに陥る

急いで森から逃げ出すものも多かった


『我々はお前たちの敵では無いが、味方でも無い。我々は戦には関わらない。これが基本姿勢だ。いいか?我々に関わるな』



199:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/28(金) 21:51:41.25 ID:4rrlbsE50

正信「一旦、退くぞ!」

政宗「………………」


『繰り返す!我々に関わろうとするな。もし関わろうとするなら次はもっと強力な兵器を使用する』


正信「政宗殿!退くぞ!」

政宗「……………ふっ。そうか」

正信「どうした!はやく退かなくては!」

政宗「この先に“じえいたい”が居るのは間違いない!“じえいたい”も馬鹿ではなかろう。自分たちの陣に毒を撒いたりはせぬ。ならば、“じえいたい”の陣まで駆け抜ければ良い。毒からも逃れることが出来、さらに奴らとも会える!」

正信「正気か!?」

政宗「皆、我に続けえええええええ!」


おおおおおおおおおおお!


伊達政宗は煙の中を馬で進んでいく

それに他の逃げていなかった兵が続く

伊達政宗は後ろに逃げるのではなく前に逃げることで、煙から逃げることが出来ると共に自衛隊のベースにもたどり着けると考えたのだ

普通に考えれば簡単に思いつくことだが、パニックに陥っていると後ろに逃げることしか思いつかない

その点、政宗は冷静だった



200:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/28(金) 22:01:09.67 ID:4rrlbsE50

~自衛隊ベース~


根元「発煙弾を恐れず、奴ら突っ込んできます!」

矢野「さすがは戦国武将、といったところか」

根元「どうしますか!?あいつらもうじきベースに到達しますよ!」


隊員「おいおいやばくねーか?」

隊員「はやく逃げよう」

隊員「でも小隊長がまだ」


矢野「おちつけっ! 総員、車両に乗って待機。いつでもここから離脱できるようにしてろ!」

隊員達「「はいっ!」」


矢野の一喝で隊員達は車両に乗り込む

狙撃手と指向性散弾を設置していた隊員達も戻ってきていて、彼らもまた車両に乗り込む


ブロロロロ


各車両にエンジンがかかり低い音が森に響く

ヘリコプターも始動しキュイイイインという音が聞こえる


そして


パカラッパカラッ


馬の走ってくる音も聞こえ始めていた



201:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/28(金) 22:17:42.40 ID:4rrlbsE50

矢野「そろそろ敵の大将のお出ましか」

根元「逃げましょう。矢野2尉!はやく車へ」

矢野「今、逃げてもあいつらは再び俺たちを追ってくる。ならここで1回釘を刺しとかないとな」

根元「矢野2尉!」

矢野「お前は他の隊員と一緒に車にもどれ」

根元「ですが!」

矢野「これは命令だ。上官の命令に逆らったら許さんぞ?あ?」

根元「………分かりました。ただ、もしもの場合は車両から援護をします」

矢野「ああ。頼んだ」


そう言って矢野は騎馬隊が到着するであろう方向へ歩き始めた

彼が部下を全員車両に乗せたのは隊員達がすぐ逃げることが出来るようにする為であった

と同時に“ある作戦”を思いついていたからでもある


パカラッ パカラッ


矢野が歩き始めてすぐに騎馬隊と足軽たちがベースに到着した



206:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/30(日) 22:39:00.61 ID:SFxGz0NP0

正信「おぬしらは“じえいたい”で間違いないか?」


自衛隊のベースに到着した本多正信はひとりで騎馬隊へ近づいてくる矢野に問いかける


矢野「去れ」

正信「何と?」

矢野「ここから立ち去れ!俺たちに関わろうとするんじゃない!」

政宗「はははっ。威勢だけは良いようじゃな」

矢野「警告はこれで2度目だ。次は容赦しないと言ったはずだが」

正信「“じえいたい”よ。わしらは戦をしに来たのでは無い。おぬしらが戦を嫌うのは半蔵から聞いておる」

半蔵「……………」

矢野「そうだ。お前たちと関われば戦に巻き込まれるのは分かりきったことだ。だからもう俺たちに接触しようとするな」

政宗「強情じゃのう」

正信「戦に関わる必要はないのじゃ。せめて…………」

矢野「信じられるかっ!」

正信「!」

矢野「我々はお前たちの武器よりも遥かに強力な武器を持っている。“この時代のどの軍勢”も必ずと言っていいほど我々の力を手に入れたいはずだ。力ずくでな。そうなった場合、傷つくのは俺の部下たちだ。裏切りばかりの戦国の世で他人を信じることがどれだけ愚かしいことかは俺だって知ってるんだよ!」

正信「私欲で近づいてくる者は信じることが出来ない………と申すのか」

矢野「そうだ。戦に勝つことばかり考えて、毎日殺戮を繰り返してるような連中を信用は出来ないし、そんな奴らに力を貸すつもりは毛頭無い」



207:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/30(日) 22:52:04.67 ID:SFxGz0NP0

正信「戦ばかり………か」

政宗「…………くくく」

矢野「何がおかしい?」


突然笑い出した伊達政宗に矢野が怪訝そうな顔をする


政宗「おぬしら。それ程の武器を持っておるのに自分たちの命を守ることしか考えていないんじゃな」

矢野「だったらどうした?」

政宗「武士とは主君の為に命をかける者。その主君は城下の民を守るために戦う者じゃ。無論、全員とは限らんが。わしらには“守るべきもの”が少なからずあるのじゃ。しかし、おぬしらは命惜しさで戦から逃げ、近づいてきた者に卑怯な武器で脅しをかけるだけ。腰抜けじゃ」

正信「政宗殿!」

政宗「おぬしらは武人では無い。この戦国の世でおぬしらは生き残れ…………」

矢野「黙れ!」


政宗が話している最中にも関わらず矢野は大声を出す

彼の顔は憎悪に満ちていた


矢野「お前たちに何が分かる! 突然、守るべき家族も……国民も居なくなってしまった俺たちの気持ちが分かるわけ無いだろうな! この戦国の世に俺たちの守るべきものは無い! 帰る場所も無い! 腰抜け?ああ。そうだ俺は腰抜けかもしれない」

正信「……………」

政宗「……………」

矢野「だけどな!俺は腰抜け呼ばわりされても構わない。お前たちのような糞ったれな武人になどなりたくもない!」

政宗「こやつっ!」

矢野「お前らは部下の人間の命のことを考えたことがあるか? 部下を家で待っている家族のことを考えたことがあるか? 戦ばかりして、部下を大量に殺して、自分も殺して…………」



208:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/30(日) 23:14:22.23 ID:SFxGz0NP0

政宗「部下が大事……と。おぬし、まるで配下の兵のためなら命を捨てることも出来るとでも言いたいようじゃの。まあ、そんなことは出来ないであろうが」

矢野「出来る」

政宗「戯言を!」

矢野「何故、俺の部下が俺から離れた位置に居るか分かるか?」

政宗「?」


矢野以外の隊員は既に車両に乗り込み、退避の準備を終えている

矢野と車両群の距離は100メートルはあった


矢野「俺が俺の周囲をお前たちごと吹き飛ばしても大丈夫なように部下たちは俺と距離を取っているんだ」

政宗「吹き飛ばす?わしらごと?そんなことが出来るはずが無い。おぬしの手元には火も油もないでは無いか」

矢野「これだ」


そういって矢野は持ってきていた鞄をひっくり返して中身を出す

鞄から出てきたのは粘土状の物体と起爆装置であった


正信「土……?」

政宗「はははっ!粘土ごときで何が出来るのじゃ?」

矢野「C-4。プラスチック爆弾。3.5kgあれば200mmの鉄製H鋼を切断できる爆薬だ。っつってもあんたらには理解できないか」


矢野が取り出したのはC-4であった

粘土状の爆薬であり、起爆装置を差し込んで爆発させる

無論、根元をはじめとする自衛隊員は矢野が自爆覚悟でC-4を持って騎馬隊に向かったことを知らなかった


正信「政宗殿。わしも“じえいたい”の武器の恐ろしさは見ておる。この者の言うことも嘘では無いかも知れぬ」

政宗「…………。目を見れば分かる。こやつ、本気じゃ」

矢野「お前たちが諦めずに俺たちに関わろうとするなら、俺はこれを起爆させる。逃げるなら今のうちだぞ?」



209:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/11/30(日) 23:22:44.68 ID:SFxGz0NP0

ブブーッ! ブブーッ!


矢野がC-4で本多正信らに撤退を促している最中、車のクラクションが鳴り響いた


伊庭「矢野おおおお!やめろおおお!」


見れば伊庭を乗せた73式小型トラックがクラクションを鳴らしながら迫ってきていた

高嶋の遺体を回収した伊庭たちの帰還である

73式小型トラックは矢野と正信らの横に停止した


矢野「小隊長」

伊庭「矢野! 俺は俺の部下が勝手に死のうとすることを許しはしない。それはお前も例外では無いぞ矢野」

矢野「………………。俺は……任務を果たそうと」

伊庭「いいか?俺はもう自分の部下が死ぬところを見たくないんだ」

矢野「………………」

正信「もしや、伊庭義明殿か?」

伊庭「はい。自分がこの小隊の隊長である伊庭義明1等陸尉です」



215:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/01(月) 21:51:11.35 ID:J14gPN5q0

正信「伊庭殿…………。その者は」


本多正信は伊庭達が乗っていた73式小型トラックの後部座席で横たわっている高嶋を指差す


伊庭「………。自分の部下です。先程、落ち武者と交戦した際に命を落としました」

政宗「優しさは時に命取りになるぞ。おぬしたちの弱点は仲間の命を大切にし過ぎるところにある」

伊庭「あなたにとっては弱点に見えるかもしれませんが、我々にとって仲間の命を大切にする精神は誇りであります」

政宗「…………。おぬしらは戦国の世で生きるべきでは無いのかもしれんのう」

伊庭「それで、我々に何の用ですか?」

正信「わしらがおぬしら“じえいたい”を訪ねたのは、おぬしらに東軍の御味方をするよう説得するためじゃ」

矢野「やはり………そうだったか」

伊庭「先日申し上げた通り、我々は戦には参加しません。故に東軍にも西軍にも加勢しないのです」

正信「おぬしらが戦に参加したくないというのは承知しておる。だから無理に戦えとは言わぬ」

伊庭「戦わなくても良い………?それは一体どういう意味でしょう?」

正信「おぬしらが東軍の御味方をしたという“事実”があればそれでよいのじゃ。もちろん、タダでとは言わん。それ相応の褒美は与えるし、欲しいものも用意しよう」

伊庭「我々が戦に参加せず、味方するだけという事にあなた方は何のメリット………利益があるのでしょう?」

正信「殿の死は隠されているが噂でそれが各地の武将に伝わってしもうての。東軍の武将は次々と西軍に寝返っておる。中立の武将も西軍につき、末端の兵たちの士気は落ちておる。このままでは東軍は負けてしまう。だが、おぬしら“じえいたい”が味方になったと知れば彼らの考えも変わるであろう」


伊庭は少し迷った

現在、歴史は家康の死をはじめとして狂い始めている

正信の話によれば本来は東軍に参加するはずだった武将が西軍に寝返っている状況らしい

つまり、このままだと伊庭たちの知っている日本史とは異なる西軍が関が原で勝利してしまうという日本史が誕生してしまうのだ

そうなれば未来は大きく変わってしまう

そもそも、歴史が変わってしまった原因のひとつは自衛隊の存在である

伊庭はそのことに少々、責任を感じていた



216:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/01(月) 22:10:10.20 ID:J14gPN5q0

伊庭「つまり、我々自衛隊が東軍の味方になったという事実を見せ付けることで、兵の士気を上げ、西軍に寝返ろうとしている武将を思いとどまらせようというのですね?」

正信「そうじゃ。おぬしらは西の味方にも東の味方にもならぬと言っておるが、どうか東軍の御味方となってはくれぬか? 城も米も地位も与える用意がこちらにはある。戦にも参加し無くて良い。まさに得しかないと思うのじゃが」


伊庭達が最優先とするのは自分たちが生き残ることだ

そのためには食料が必要である

東軍の(形だけではあるが)味方をすれば食料は安定して手に入る

それに、いつまでも野外で宿営を続けるのも無理があった

戦国時代の野外は決して安全では無い

高嶋を襲ったような野武士が数え切れないほど居るだろう

ならば、いっそのこと正信の保護下に行き、安全を確保するのも部下の命を守る手のひとつであろう


伊庭「……………」

県「我々の生存を優先とするなら良い選択肢かもしれません」

矢野「だが、関が原以降はどうするんだ?無理やり、戦に参加させられるかもしれん」


73式小型トラックから降りてきた県と矢野が言い合う


今回の関が原では戦に参加しなくても良いかもしれないが、関が原が終わった後もその約束が保証されるとは限らない

それに自衛隊が交渉の際に優位に立てるのは装備品があるからだ

燃料弾薬が底を突けば、自衛隊は正信をはじめとする東軍の武将たちから切り捨てられる可能性もある

やはり東軍に味方をするのはリスクのあることかもしれない

それに、自衛隊が有名になることで、さらに歴史が変わってしまうかもしれない


伊庭「…………。今ここでは決断できません。自分だけでなく、部下の意見も聞いて結論を出します。それでも構いませんか?」


伊庭が出した答えは保留だった


正信「承知した。また後日、答えを聞きに来る。それまでに結論を出しておいて欲しい」



217:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/01(月) 22:16:09.52 ID:J14gPN5q0

伊庭「了解しました」

政宗「返答を楽しみにしておるぞ」


正信は回れ右をしてベースから去る

政宗もそれに続こうとしていた


県「あっ!ちょっと待って下さい」

政宗「何じゃ?」

県「その眼帯………。ひょっとして伊達政宗さんでしょうか?」

政宗「おお。わしを知っておるのか。そうじゃ。わしは伊達政宗じゃ」

県「………………」

矢野「県、どうかしたのか?」

県「いえ………」

政宗「ではさらばじゃ」


そう言って伊達政宗も去っていく

雑兵たちもそのあとに続き、やがて誰も居なくなった



221:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/02(火) 18:52:58.60 ID:EuL09+tI0

1600年9月16日 午後8時 自衛隊ベース


伊庭は全隊員を1箇所に集めた

15名の隊員が殉職し、現在自衛隊員は35名である

その35名の隊員がベースの中央に集まった

彼らの表情は暗く、その顔を焚き火の炎が照らしている


伊庭「全員集まったようだな」


伊庭は隊員達の前に立ち、話しはじめる


伊庭「まず、最初に俺は皆に謝っておかないといけない。何故なら俺は大切なことを皆に伝えていなかったからだ」

隊員達「「 …………… 」」

伊庭「2日前の9月14日。戦車奪還作戦の際、徳川家康が死んだ」

隊員「えっ………」

隊員「どういうことだ?」

伊庭「皆には既に伝えているが、現在、我々が居る時代は1600年。つまり戦国時代だ。そして、関が原の戦いが起きた時期である」

隊員「……………」

伊庭「関が原の戦いは9月15日に史実通りなら始まるはずだった。だが、16日になった今でも関が原は始まっていない。なぜなら東軍総大将である徳川家康が死んだからだ」


伊庭は話を続ける


伊庭「家康が死んだことで歴史が変わってしまい、本来ならとっくに始まるはずだった関が原が行われないのだ」

隊員「歴史が変わってしまったら何が起きるのでしょう?」

伊庭「俺にも何が起きるかは分からん。だが、例えば、この時代に居る俺の先祖を殺したとしよう。そうしたら未来で生まれるはずだった俺は当然生まれなくなる」

隊員「…………つまり?」

伊庭「歴史が変われば未来が変わる。平成で生まれるはずだった人間は生まれない。俺やお前たちやお前たちの家族も、おそらく消滅してしまうだろう。俺たちが知る平成の世は存在しなくなってしまう」

隊員「そんな………馬鹿な」

隊員「でも!東軍が勝てば歴史は元通りなんじゃ!?」

伊庭「史実通りなら関が原では東軍が勝つ。だが、今の状況ではそれが難しいんだ」

隊員「なぜです?」

伊庭「家康の死を受けて東軍の武将が西軍に次々に寝返っているからだ。このままでは東軍は確実に負け、そして歴史は完全に変わる」



222:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/02(火) 19:07:29.61 ID:EuL09+tI0

島「伊庭1尉」

伊庭「何だ?島2尉」

島「もし仮に歴史が完全に狂ってしまったのならば、未来で我々は生まれない。存在しなくなるんですよね?」

伊庭「ああ。そう考えている」

島「ですが、我々はまだこの世に存在しています。消えていません。とういことは歴史はまだ完全に狂ってしまったという訳では無いのでしょうか?」

矢野「なるほど………。確かに一理あるようにも思える」

伊庭「歴史には我々が想像もできない“修復力”というものが存在しているのかもしれない。歴史の歯車が少しずれても自動で修正するような…………。だが、その修復力も限界があるだろう」

島「というと?」

伊庭「15名の犠牲者の存在だ」

島「どういうことですか?」

県「あの15名の隊員達は歴史が変わってしまった為に、未来で生まれなくなってしまった人間だ………ということですか?だからこの世から消えた…………?」

矢野「馬鹿馬鹿しい。あいつらは歴史の狂いによって殺されたんじゃない。この時代の人間の手によって殺されたんだ」

伊庭「これはあくまでも推論に過ぎない。だが、東軍が仮に負けてしまったら修正できないほどに歴史が変わってしまうだろう。そうなった時、我々が………我々の未来がどうなってしまうのかは分からない」

矢野「未来に生きる人間が消滅する可能性も………あるってわけか」

伊庭「そこで本題だ。我々はこの状況下で何をするべきか!」


隊員「「  !?  」」


矢野「歴史に関わるつもりですか!?」

伊庭「……………。そうだな。結論から言おう。俺は歴史に関わるべきだと思う」


隊員「どういうことだよ!」

隊員「俺たちは歴史に関わっちゃいけないんじゃなかったのか?」

隊員「また戦わないといけないのかよ!」


木村「静まれ!とにかく小隊長の話を最後まで聞け!」


隊員「「  ……………  」」



223:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/02(火) 19:26:02.73 ID:EuL09+tI0

伊庭「何故、歴史が狂ってしまったか。その原因は間違いなく俺たち自衛隊の存在だ。我々がこの時代に現れたことによって歴史は変わってしまった。無論、我々も被害者だ。タイムスリップは我々の意図したことでは無い。だが、それでも原因は我々にある」

隊員「…………」

伊庭「いや。全責任は指揮官の俺にあるな。歴史が狂ってしまったことに対する責任は俺にある」

県「小隊長の責任ではありません。これは事故なんですから」

矢野「俺は少なからずこの時代の人間を殺傷した。責任なら俺にも多くあるはずです」

伊庭「ありがとう。だが、責任は指揮官がとるべきだ。そこで、俺は責任を持って歴史の修復をしようと思う」

隊員「「 !? 」」

伊庭「正しい歴史を知っているのは未来から来た人間だけだ。歴史の修復が出来るのはその正しい歴史を知っている人間だけ、とも言える。それに、俺は自衛官だ。自衛官の任務は国民の生活と安全を守ること。このまま歴史が完全に狂ってしまえば俺が守るはずだった未来に生きる国民が脅かされる。それを避けるためにも俺は歴史の修復をしなくてはならない」

県「小隊長…………」

矢野「未来に生きる国民を守る……か」

伊庭「これは俺が決めたことだからお前たちを巻き込もうとはしない。修復は俺だけの手で行……………」


島田「俺は手伝うぜ!」


伊庭が喋っている途中で島田が大声で言う


伊庭「島田…………」

島田「歴史がどうのこうのってインテリっぽいことは何ひとつ分からないが、あんた一人に責任押し付けるのは俺の何かが許さねえ。それに、この戦国時代じゃ戦車があったほうが心強いんじゃないですか?」

伊庭「いや………。だが、お前たちを危険にさらすことは出来んし………。それに戦車隊員は俺の直轄の部下では………」

島田「島田をはじめとする戦車隊員3名。伊庭1尉の指揮下に入ります!」

丸岡「異議なしかな」

菊池「え?ちょっと自分はまだ何も」

島田「ああ?」ギロッ

菊池「異議なしです」



224:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/02(火) 19:49:49.76 ID:EuL09+tI0

伊庭「しかし………」

県「小隊長。歴史について何も知らないくせに修復とは笑わせます」

伊庭「県………」

県「自分も協力しますよ。歴史オタクとしては歴史に関われるなんて夢見たいですからね」

矢野「県。お前やっぱり歴史に関わりたかったのかよ」

県「はい」

矢野「歴史に関わるのは反対だったが…………。でも、未来の家族のためなら仕方ないな」


そう言って矢野は伊庭に敬礼する

県もそれに倣った


木村「自分も小隊長についていきます」

島「自分も伊庭1尉の指揮下に入ります。えっと、俺の部下は………」


島も島田と同じく伊庭の直轄の部下ではなかった


望月「島2尉がそうするなら自分も伊庭1尉の指揮下に入ります」

大賀「面白そうだから俺もそうするわ」

三好「じゃあ、俺もだ」

穴山「自分も」


島以外の空挺隊員も伊庭の指揮下に入ることを表明した

空挺隊員が敬礼をする中、伊庭の小隊の面々も次々と伊庭のもとへ駆け寄ってくる


根元「自分も小隊長の力になります!」

平井「同じく」

須賀「えっと………。不安ですけど………自分も何か力になれればと」

三田村「自分も!」

加納「装甲車の操縦が出来れば何でもいいですよ」

西沢「自分も行きます!」

清水「清水、山田の両名。ヘリと共についていきます!」

山田「はい!」



見れば全隊員が伊庭の周りに集まっていた

伊庭は目に熱いものが込み上げてくるのを感じる


伊庭「歴史に関わるんだ。今まで以上に危険な状況になるかもしれないぞ? 狂った歴史の修復をするんだ。困難な道となるかもしれないんだぞ?」

矢野「しつこいっすよ小隊長。我々はあなたについていくことにしたんだ」

県「そうです。皆、守りたいものがあるんです」


他の隊員が県の言葉に頷く


伊庭「お前ら………」



225:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/02(火) 19:51:11.82 ID:EuL09+tI0

島田「そうそう!それに戦国武将に協力すれば可愛い姫様とお近づきになれるかもしれないじゃねーか」

丸岡「車長………。結局それですか。車長には無理ですって。そんな怖い顔してるんだから女どころか男すら寄ってきませんよ。この間の合コンで懲りたでしょ?」

島田「うるせえ!お前は俺を怒らせた罰として後で戦車の洗車を全部ひとりでやってもらうからな!」

隊員たち「「  ははははは 」」


島田と丸岡の会話に自衛隊員達は笑う

タイムスリップシテから初めて、隊全体に明るい雰囲気が流れた



227:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/02(火) 22:49:32.85 ID:EuL09+tI0

~大垣城~


現在、大垣城には石田三成をはじめとした西軍の武将が集まっていた

家康死亡の噂によって混乱しているのは東軍だけでは無い

西軍も寝返ってくる武将への対応等で慌しくなっていた


石田三成「家康の死が本当だとすれば豊臣の天下は確実なものとなる。東軍の今の様子を見る限りわしらの勝利は目に見えているぞ」

大谷吉継「三成! 戦を甘く見るでない。噂は噂に過ぎぬ。わしの得た情報によれば家康は病に倒れただけとの事じゃ」

石田三成「分かっておる。しかし、東軍が乱れておる今、この機会を逃す手はない」

宇喜多秀家「小早川秀秋も東軍を完全に見限ったと聞く。我が方の兵力が相手を上回った今こそ総攻撃を仕掛ける時ではなかろうか」

石田三成「おお。そうじゃ!今こそ亡き太閤殿下への忠義を示す時!関が原にて東軍と総力戦じゃ」

島津義弘「三成。我が方の戦力が東軍を上回っているとは言え、寄せ集めの兵が多いのは事実。真っ向から戦うのは危ういところがある」

石田三成「ふむ」

島津義弘「家康の兵はいまだに全て揃ってはいないと聞いた。ならば夜襲を仕掛け、一気に叩いた方が得策ではなかろうか」

宇喜多秀家「なるほど。今が夜襲の好機であるのは間違いない。確実に勝利をするのならその案も良いと思う」

石田三成「ならん!」

島津義弘「何故じゃ!」

石田三成「この戦は“義”の戦い。夜襲などという卑怯な戦い方は義に背いた戦い方じゃ」

島津義弘「おぬし!わしが卑怯だとでも言いたいのか!?」

石田三成「そうじゃ。敵の背後からいきなり襲うような戦いは義の戦いとは呼べぬ」

大谷吉継「三成!」

島津義弘「石頭めが」


そういい残して島津義弘は退室してしまう

石田三成「わしは卑怯なやり方での勝利はいらん」



228:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/02(火) 22:59:51.43 ID:EuL09+tI0

大谷吉継「じゃが、あやつ。もしかしたら戦に参加せんかもしれぬぞ」

石田三成「その時はその時じゃ」

小西行長「義弘が腹を立てていたのは自分の案が却下されたからだけではあるまい」

石田三成「と言うと?」

小西行長「おぬしの異形の輩に対する策に関することよ」

石田三成「そうか。確かに、わしもあやつらには疑念を持っておる。しかし、仮に左近の言う鉄の馬や鉄の鳥が東軍についたとしたら、人数では上回っておる西軍も敵わん」

島左近「あの鉄の鳥や鉄の馬、連発銃は矢も刀も弾き返し、一度に幾多もの兵をなぎ倒します故。鉄の馬等が東軍に味方をした場合は、義弘殿が反対しておりました策を使わねばなりません」

石田三成「そうじゃの。わしも義弘が反対するのは良く分かる。じゃが、左近の言う鉄の馬や鉄の鳥を何とかしなくては、我が方に勝利は無い」



232:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/04(木) 22:54:00.00 ID:sgjZ1gNc0

ババババババババババババババババババババババババ


キュイイイイイイン



グオオオオオオオオオ

キュラキュラキュラ




だだっ広い草原を自衛隊車両が走る

10式戦車を先頭にしてその後ろを装甲車や軽装甲機動車、パジェロやトラックなどが爆走する

車両が走っている上空ではUH-60JAヘリがホバリング飛行を行っていた



伊達政宗「おおおお!これは凄い!馬よりも速く走る鉄の馬!鉄の鳥!」

正信「この間はあまり鉄の馬が走るところを見ることが出来なかったが、これほどまでの速さとは…………」


ナンジャコレハ

ドウモ“ジエイタイ”トヤラガウゴカシテイルラシイゾ

コレデトウグンノショウリハカクテイジャ


正信の周りに居る武将たちはあまりの驚きに目を見開きヘリや戦車を凝視する

そして誰しも、東軍の勝利を確信した



正信「皆の者!この鉄の馬と鉄の鳥を動かすことの出来る“じえいたい”が我ら東軍の味方となった!“殿は病で倒れているが”この“じえいたい”が居る限り、東軍は負けん!」


おおおおおおおおお!


正信「西軍に寝返ろうと思っておった奴はこれで目が覚めただろう!それに、配下の兵の士気も上がるじゃろう!」


おおおおおおおおお!



233:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/04(木) 23:10:13.36 ID:sgjZ1gNc0

草原に集まっていた東軍の各武将と配下の兵は歓声を上げる


その様子を伊庭は装甲車の上から見ていた




伊庭「すごい数の兵だ。徳川10万の兵ってのは本当だったんだな」

県「東軍の武将がほとんど集まっていますね。でも、伊達に前田は………確か」

伊庭「どうかしたのか?」

県「いえ。何でも…………」

矢野「しっかし、こりゃ大変なことになりましたよ?数万人のこの時代の人に戦車やヘリを見られたんですからね。歴史の教科書に“東軍には鉄の鳥が味方をしていた”とか書かれる様になっちまうかも」

伊庭「本多正信には我々自衛隊の事は記録に残すなと伝えておいたが…………。果たしてちゃんと残さずにしてくれるか」

県「まあ日本昔話みたいな伝説にはなってしまうかもしれませんね」

伊庭「ははは。まあ、我々の仕事は今行ってる“観閲行進”で終わりだからな。伝説で終わってしまう可能性の方が高い」

矢野「ですね」



自衛隊が現在行っているのは東軍の武将たちと配下の兵に向けた観閲行進である

自衛隊の装備の凄まじさを彼らに見せ付け、さらに、その凄まじい力が東軍の味方についたということを知らせて、士気を高める

西軍に寝返ろうとしていた武将は“自衛隊が味方についている東軍のほうが勝算がある”と思い、思いとどまる

配下の兵たちもやる気を出すだろう


伊庭「これで東軍が崩壊するのは防げただろう。西軍に寝返ろうとしていた武将も東軍につくことを表明してきてるみたいだ」

県「少し歴史が修復出来ましたね」

伊庭「ああ。これで史実通りに東軍が西軍に勝ってくれれば良い」


自衛隊の役目は崩壊寸前だった東軍を立て直すこと

それ以上でも以下でもない


“自衛隊は東軍の味方をするだけ。戦には参加しない”


これが自衛隊の提示した条件であった



234:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/04(木) 23:21:29.87 ID:sgjZ1gNc0

伊庭「形だけではあるが味方になる。戦には参加しない。正信には自衛隊の食料を補給させる。これが歴史にあまり干渉せずに我々が生き残る最善の策だ」

矢野「何とかして元の時代に帰るまで、あの本多正信って奴の味方をしてればいいってことか。割と簡単なことだな」

伊庭「だが、この時代の武将を完全に信頼するのは危険だ。いつ我々も裏切られるか分からないからな。常に周囲を警戒しておくのを忘れないようにしておかないと」

矢野「はい」

木村「そろそろ火砲の演習に入ります」


装甲車の車内から木村が言う

戦車の走行やヘリの飛行のみならず火砲の射撃も武将に見せる予定であった

これはこの時代の人間に自衛隊の恐ろしさを示すのを目的としている

“もし自衛隊に攻撃をしようものなら返り討ちにあわせるぞ”というメッセージを伝える為の射撃演習と言うと分かりやすいだろうか



235:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/04(木) 23:34:05.23 ID:sgjZ1gNc0

伊庭「10式戦車、聞こえているか?」

島田『こちら戦車。聞こえています』

伊庭「主砲射撃用意だ」

島田『了解。菊池、主砲射撃用意。目標2時方向の丘。弾種徹甲』

伊庭「射撃用意。てええええええええ!」

島田『てええええ』




ズドオオオオオオオオオオオン




装甲車の前を走行中だった10式戦車の主砲が火を吹き、大地を震わせる



武将「うおっ!なんじゃこれは!」

武将「耳が裂ける」

武将「大地が火を吹いたぞ!」


発射された弾は少々離れた場所にある丘に命中する

弾の命中した丘は跡形も無く吹き飛ぶ



伊庭「次だ。迫撃砲射撃用意!」

隊員『迫撃砲発射準備よし。半装填よし!』

伊庭「目標マルフタマルマル。てええええ!」

隊員『てえええええ!』


装甲車のかなり後ろで隊員数名が予め81ミリ迫撃砲L16をセットしていた

セットしていた迫撃砲が発射される



ボシュッ



ヒュッルルルル



ズドオオオオン



236:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/04(木) 23:38:42.72 ID:sgjZ1gNc0

この時代のどんな火砲よりも射程の長い兵器にこれまた武将たちはたまげる



矢野「戦車砲も迫撃砲もこの時代の兵士からすれば化け物みたいな兵器だなよな」

県「そうですね。皆、驚愕しています」


県は双眼鏡で武将たちの表情を見ている


伊庭「これで西軍に寝返ろうと思う武将は居なくなっただろう。この行進は成功だな!」




数分間行なわれた自衛隊の行進は武将たちに衝撃を与えることに成功した

燃料弾薬の節約から短時間のみの行進であったが、それでも400年後の武器は戦国時代の兵士を大いに恐怖させたのである



242:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/05(金) 23:21:46.49 ID:qHh+io1h0

島田「うめえええ!久々にまともな飯食ってる気がするぜ」

丸岡「この時代に来てから糧食ばっかでしたもんね」


行進を終えた自衛官たちは正信が用意した飯を食べていた

東軍の武将たちは自衛隊の行進を見た後に皆、一旦、自分の陣へと戻っている

自衛官たちが居るのは本多正信の陣であった


木村「酒まで用意してくれるとは気が利くじゃないか」

根元「でも俺はやっぱり牛肉が食いたいっすよ。この時代って肉料理とか無いんですか?」

県「あったとしても猪とかの肉だろうな」

根元「うへえ」

県「というかお前ら。何の躊躇も無く飯にがっついてるけど、少しは警戒しろよ?」

島田「何で警戒するんです?」

県「毒が盛られてたらどうするんだ?」

島田「伊庭1尉は毒見役が居るから大丈夫と言ってましたけど」

県「お前らなぁ………」


ため息をつきながら県も飯を食べ始める

正信の陣の横に設営された自衛隊の宿営地は柵で覆ってあった

なるべくこの時代の人間と関わらないようにするためである


平井「でも俺たちの任務は昼間の行進で全て終了ですよね。戦には関わらなくても良いんですから」

県「そういうことになっている。一応、万が一の為に我々も関が原に布陣はするが…………」

平井「じゃあもうすることありませんね。これで安心して寝れる」


隊員達はタイムスリップシテから安心して睡眠を取れたことが無かった



ガチャガチャ


県「?三田村か?なんだそれ」


焚き火を囲うようにして飯を食べている隊員達のもとに武士たちが使っているような刀や兜を持った装甲車の車長である三田村がやってくる


三田村「いやぁ。この時代の刀とか兜って元の時代に戻ったときに売ったら、結構高値で売れそうで」

根元「まじか!俺ももらってこよっと」

県「三田村。お前どっから刀を盗んできたんだよ」

三田村「盗んでません。物々交換ですよ」



243:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/05(金) 23:27:26.10 ID:qHh+io1h0

県「何と交換したんだ?」

三田村「腕時計です」

県「ハァ………。この時代の人間とは関わるなって言ったのに…………」

島田「俺はちょっくら姫様ナンパしてくるわ」

丸岡「ここ一応戦場ですよ?それに車長の顔じゃ無理ですって!」


ボカッ


丸岡「いてっ」

島田「うるせえ」

丸岡「殴らなくてもいいじゃないですか」

島田「ったく。そういえば伊庭1尉たちは何処行ったんですか?」

県「小隊長たちは東軍首脳と会議してる。そろそろ終わる時間だと思うが」



244:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/05(金) 23:44:03.38 ID:qHh+io1h0

~本多正信の陣~


東軍首脳による会議は無事終了していた

会議の内容は西軍の動向の報告や関が原での布陣、小早川等の武将に対する対応、そして自衛隊の立場についてであった

約束通り自衛隊は戦には参加しなくても良いということが決定されたが、万が一、東軍が負けそうになった場合は自衛隊が戦闘に加わることにもなっていた

戦闘とは、小早川秀秋などの武将の陣にヘリや火砲で威嚇射撃をしたり、石田三成の陣をヘリボーン攻撃したりする等である

ただ、現在のところ西軍に寝返ろうとしていた武将も東軍に留まり、史実通りに戦が進行することが予想されていたので伊庭は自衛隊が戦闘に参加することはほとんど無いと思っていた



正信「おぬしら“じえいたい”のおかげで東軍は何とか崩壊を免れた。改めて礼を言いたい」

伊庭「良いんです。我々も食料等を供給してもらっている立場ですから」


会議が終わった後、伊庭と正信は2人で話していた


正信「しかし、鉄の馬や鉄の鳥。あれらは一体何処で手に入れたのじゃ?」

伊庭「お答えすることは出来ません」

正信「そう言うと思っておった。まあ、何となくは想像できるがの」

伊庭「想像できると言いますと?」

正信「最初は南蛮の者かと思いもしたが、おぬしらはわしらと同じ言葉を使っておるのでの。南蛮人では無い。しかし、この国におぬしらのような格好をしたものは居ない」

伊庭「……………」

正信「それに雰囲気がわしらとは違うのじゃ。これはもしや、別の時代の人間なのではないか…………」

伊庭「……………」

正信「はははは!馬鹿なことを考えてしもうたな」

伊庭「正信殿。我々は………」

正信「無理に話さんでもよい。おぬしらはここに存在している。それだけで十分じゃ」

伊庭「はあ」

正信「それと、おぬしらが“ここ”に現れたのは意味のあることじゃとわしは思うぞ」



245:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/05(金) 23:56:58.06 ID:qHh+io1h0

伊庭「意味のあること…………」

正信「そうじゃ。わしの直感じゃがな」

伊庭「……………」

正信「わしがこの戦いでおぬしらを味方につけてでも勝ちたい理由は話しておらんかったな?」

伊庭「はい」

正信「殿………。亡き家康殿のことじゃ。殿はこの戦いに勝って天下を取った後、太平の世を造るおつもりであった」

伊庭「太平の世……ですか」

正信「そう。武士も農民も商人も平和に暮らせる、戦の無い世のことじゃ。わしは殿からその話を聞いたとき、正直そのような世はあり得ないと思うた。じゃが、殿から太平の世の仕組み等を聞いて確信が持てた。殿なら太平の世が築けるとな」

伊庭「しかし、その家康は………」

正信「そうじゃ。もう殿はここには居ない。じゃが、殿の意思はわしが受け継いでおる。わしが殿の夢をかなえるのじゃ」

伊庭「太平の世か。そうですね。そのうち必ずその世は来ると思いますよ」

正信「……………。そうか」




矢野「小隊長!万が一の為のヘリボーン作戦の案を空挺隊員達と考えました。目を通してみたください」


自衛隊の宿営地のほうから矢野が駆け寄ってくる


伊庭「分かった。では正信殿。これで失礼します」

正信「おう」





伊庭が去り一人残された正信はぽつりと呟く


正信「伊庭殿は………。全て知っておるのだろう?」



251:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/10(水) 20:20:38.51 ID:L9UO1RgM0

1600年9月20日
史実とは少し遅れる形ではあるが、東西両軍の各武将は関が原に布陣した

桃配山には亡き徳川家康の代わりに県3尉をはじめとした自衛官複数人が“家康役”として家康の配下の兵だった者たちと共に布陣した

本来の歴史では本多正信は中納言秀忠に従い上田城で真田昌幸の善戦によって遅参するはずであったのだが、現在は関が原の十九女池の後方に布陣している

桃配山の県3尉ら数名の隊員以外の自衛官と装備は全てこの正信の陣に居て戦況を見守る形となった

関が原における各武将の布陣はおおむね史実通りであったが、前田利家が正信の代わりに上田城を攻めているのと、伊達政宗が関が原に居ること等、史実と異なる事態も起きている



252:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/10(水) 20:40:13.96 ID:L9UO1RgM0

~正信の陣~


伊庭「霧が濃いな。俺たちがこの時代に来た日を思い出す」


関が原は霧に包まれていた

これも史実通りである


矢野「全装備の点検が終了しました。県の言うとおりなら我々の居る陣は史実にはありません。もしかしたら攻撃される可能性もあるために塹壕を掘り、襲撃に備えています」


スコップを片手に矢野が報告する

本多正信の陣は史実には存在しない

よって攻撃される可能性もあったのだ


伊庭「よし。全軍が布陣してから2時間が経過した。そろそろ宇喜多隊と福島隊が戦い始めるはずだ」

矢野「その両軍の戦いが関が原で一番の激戦って県の奴が言ってました。大河ドラマでも見る気分ですよ」

伊庭「ドラマよりももっと酷い戦いだろう。先日の杭瀬川以上の戦いだ。一体何人の人間が死ぬことになるのか………」

矢野「ヘリで三成の陣地を一気に叩いてしまえば戦いを直に終わらせることも出来るのでしょうけど………。それだと史実通りでは無い。何というか、やるせないですよ」

伊庭「だな」


一応、ヘリによって三成の陣を攻撃する作戦も伊庭は考えていた

だが、それは最終手段である


伊庭「杭瀬川での負傷者はどうなっている?」

矢野「衛生の海野2曹が言うには感染症の心配も無く、命には別状は無いようですが、戦闘への参加は無理ですね。陣の一番奥の天幕で通信係をしてもらってます」


初日の戦闘で負傷した隊員は回復してはいたが、足を骨折していたり等、戦闘に参加できる状況では無かったために後方支援に回していた



253:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/10(水) 21:04:12.63 ID:L9UO1RgM0

伊庭「そうか。負傷した隊員に負担はかけたくなかったが、人員不足は深刻だからな………」



おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!



伊庭「!?」

矢野「!?」


パパパパパパン パパパパパン


伊庭「この射撃音は火縄銃の射撃音か!」

矢野「開戦したか!」


霧に包まれた関が原に銃声と歓声が響く


木村「県3尉から通信が入りました。福島隊の鉄砲隊800名が宇喜多隊に突撃。戦闘が開始されました」


陣の奥の天幕から木村が走ってくる


伊庭「わかった。福島と宇喜多が戦闘を開始したのなら、小西や織田、黒田や細川も戦闘を開始し始めるはずだ。各軍勢の様子を引き続き監視してくれ」

木村「了解」

矢野「史実通りですね。この調子で戦が進んでくれれば………」



254:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/10(水) 21:14:38.45 ID:L9UO1RgM0

~開戦から約1時間後~


正信「石田隊と黒田隊、細川隊が激戦を繰り広げているが黒田と細川が押されているか」

伊庭「石田の陣の防御が強く、攻めるのが困難なようですね」


関が原各地で戦が繰り広げられている

福島と宇喜多の戦いや石田と黒田・細川の戦いなどは特に激戦であり、一進一退の攻防が行われていた


矢野「……………」

木村「酷いものですね」


隊員達はそれらの戦いを見て言葉を失っている

多くの人間が矢や槍や鉄砲によって血を噴き出しながら倒れる

その倒れた人間を踏みつけながら戦は平然と行われているのだ


島田「こんな戦いとっとと終わらせちまえばいいんだ。戦車で石田三成の陣に突っ込んでよ」

伊庭「それは出来ない」

島田「分かってますよ。分かってますけど…………」


おおおおおおおおお!

パパパパパン

カキーン カキーン


ぐあああああ!


土煙の中で今も多くの兵が倒れている



255:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/10(水) 21:43:48.72 ID:L9UO1RgM0

伊庭「県が言うには黒田の狙撃兵が島左近を負傷させて両軍は互角の戦いになるみたいだが」

木村「そのような様子はありませんね。どっちかって言うと黒田が負けそうな気が…………」


石田三成の陣にある大筒や鉄砲などで黒田・細川は苦しめられ、徐々に後退している


正信「大谷吉継も藤堂隊、京極隊を圧倒しておる。さすがと言ったところじゃが…………」

伊庭「西軍の部隊は自軍を守っているだけだったが、徐々に戦線を拡大して東軍を圧倒してきている。中立の軍勢や小早川などの軍勢も西軍につくような動きをしているという報告がある」

矢野「県が言うにはこれは史実通りでは無いみたいです。本来なら西軍の各武将は自陣の防衛に専念しているはずなのですが、“各武将が連携した動きを見せています”」

伊庭「連携…………」

矢野「東軍を包囲するような陣形を取ろうとしているみたいです」

正信「東軍のほうが数の上では優勢じゃったから、各武将で連携して西軍を包囲する予定であったのじゃが、どうも連携が取れなくての」

伊庭「それはやはり家康の死によって東軍が未だにまとまっていないことが原因ですか?」

正信「それもある。じゃが、“じえいたい”の味方した事実によって主力の武将たちは士気を上げておった。伊達、福島などの軍勢は一応のところ連携が取れている。しかし、いくつかの軍勢の動きが鈍いのじゃ」

伊庭「我々の行進によって東軍の武将は全て士気を高めたと思っていたが、現実はそう甘くなかったということか………」

矢野「どうします?県の報告では先程、石田光成が戦に参加していない武将に戦に参加するように呼びかけて、かなりの軍勢が参戦したとのことです。もし仮に西軍が東軍の包囲を完了して攻めてきたら我々の装備で戦況を覆すことも困難になりますが」

伊庭「……………」


石田と黒田・細川の戦い、そして大谷と藤堂の戦い

これらの戦いが史実とは異なって、西軍が圧倒している戦いであった

また、宇喜多・石田・小西・大谷は前進して東軍を包囲しようとしている

この状況下で中立の武将や小早川秀秋が西軍に加勢したとすれば東軍は総崩れになる


伊庭「……………。よし。ヘリの発進準備だ」

矢野「了解!」

伊庭「ヘリを使用して小早川秀秋をはじめとする叛乱するであろう武将に威嚇攻撃を実行。彼らを東軍に寝返らせる。また、西軍の優勢の武将にも攻撃をして東軍の劣勢を優勢に変える。今、戦況を変えなければ東軍は敗れる可能性があると考慮した上での参戦だ」



こうして関が原の戦いに自衛隊が参戦することが決定した



256:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/10(水) 22:03:00.13 ID:L9UO1RgM0

キュイイイイイン

バババババババババババババ



本多正信の陣とは少し離れた場所に駐機してあったヘリが始動する


伊庭「頼んだぞ。島2尉」

島「了解。小早川秀秋、脇坂安治の陣への威嚇射撃。島左近、大谷吉継の狙撃。必ず遂行します」


小早川らの武将が叛乱すれば赤座、小川、朽木も叛乱に加り、中立の立場の軍勢も西軍に加勢することは無いとの県の話から、威嚇射撃を行うのは小早川、脇坂の両軍に限定された

また、史実では合戦中に討ち死にした島左近と大谷が東軍を圧倒している現状を変えるために、その両名の狙撃も決定された


伊庭「すまない。荷が思い任務だと言うのは承知している」

島「この乱戦の中、地上部隊を出動させるのは危険ですからね。ヘリによる作戦の実行が一番現実的でしょう」

清水「ヘリはいつでも発進できます。一番近いのは脇坂の陣ですから、脇坂の陣に真っ先に向かいます。その次に松尾山の小早川」


ヘリのパイロットである清水が言う

清水は正信から小早川らの旗印と陣地を教えられていた

さらに関が原の地形図と教えられた陣地を照らし合わせ、正確な陣の位置を確認している


島「では、空挺隊員5名。状況を開始します」

伊庭「頼んだ」


島と伊庭は敬礼をする

そして、その後、島と清水は既に始動し始めていたヘリに乗り込んだ



バババババババババババババババ



UH-60JAヘリは発進する

伊庭はヘリが見えなくなるまでずっと敬礼をしていた



257:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/10(水) 22:22:46.09 ID:L9UO1RgM0

~UH-60JA内~


清水「脇坂軍の陣の上空に到達するのは5分後になります」

島「了解した。大賀、望月、ドアガンの用意」

大賀「了解」


大賀と望月の空挺隊員がヘリに搭載された12.7ミリ機関銃M2に給弾を開始する


三好「おっ。ヘリの登場でみんな驚いてるぜ」


開放されたヘリのサイドドアから下の様子を見ている三好が興奮したように言う

突如現れたヘリに地上の兵士たちは驚愕している

中には一旦、戦いを止めて空を見上げている者までいた


島「こりゃ歴史の教科書に“関が原には巨大な鉄の鳥が現れた”とか書かれるかもしれないな」

大賀「そんな教科書があったら俺も歴史が好きになってたでしょうね」

島「かもな」

望月「ドアガンの発射準備完了」

島「おう。威嚇射撃だからな。なるべく兵士は殺すな。ただ、威嚇射撃時には低空飛行をするから鉄砲隊や弓兵は場合によっては制圧するぞ」

大賀・望月「了解」

清水「まもなく脇坂軍の陣地の上空だぞ。…………!。あれか!」


ヘリは脇坂軍の陣地の上空に到達した

史実では脇坂は小早川が大谷軍を攻撃した後に寝返る(史実では最初から寝返る事を決定していたのだが、家康の死の噂によって西軍につくことを決めていたと本多正信は伊庭に言っていた)のだが、自衛隊は先に脇坂を攻撃することにしていた

脇坂の陣地はヘリの登場に混乱する


ナンジャアレハ

モシヤ、トウグンニミカタヲシタトイウジエイタイカ

ヤヲハナテ テッポウデウチオトセ


パパパパパパン

ヒュンヒュンヒュン


島「鉄砲隊と弓兵の攻撃を確認。2時の方向だ。機関銃で一掃する。清水2尉。ヘリの側面を鉄砲隊の方向に向けてくれ」

清水「了解した」



258:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/10(水) 22:33:26.20 ID:L9UO1RgM0

バオオオオオオオオ


UH-60JAはドアガンの設置されている側面を鉄砲隊の方向に向ける


島「大賀。鉄砲隊と弓兵を叩け」

大賀「了解」



ドドドドドド ドドドドドドドン ドドドドドドドド

ドドドドド


ぎゃあああ!ぐあっ!



発射された12・7ミリの弾が鉄砲隊と弓隊の身体を木っ端微塵に吹き飛ばす


望月「……………くっ」

大賀「慣れませんね………。やっぱ」


吹き飛ばされた兵士を見て大賀は言う

鉄砲隊と弓兵は機関銃の掃射によって壊滅していた

その様子を見て脇坂の陣地は混乱していた


島「脇坂安治はあそこか。陣地の中央に降下する。清水2尉、武将と思われる奴がいる場所の上空でホバリングしてくれ」

清水「了解」

島「大賀はヘリ上から援護を頼んだ」

大賀「了解しました」

島「総員降下!」



259:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/10(水) 22:47:52.45 ID:L9UO1RgM0

脇坂軍の陣地の中央でホバリングしたヘリから島をはじめとした空挺隊員4名が降下する

地上に降下した隊員達は陣の中央に居る武将・脇坂安治に近づく


雑兵「なんじゃ!おぬしら!」

雑兵「殿の命はわしらが守る!ここは通さんぞ!」

島「我々は脇坂安治の命を奪いに来たのではない」

雑兵「なんじゃと?」

島「脇坂殿はあなたでよろしいか?」


島は雑兵に守られる形で立っている一人の武士に話しかける


脇坂安治「そうじゃ。わしが脇坂じゃ。おぬしらは東軍に味方したという奇妙な輩じゃな?」

島「さすがに我々のことは知っていたか」

脇坂「わしも半信半疑であった。鉄の鳥に連発銃。して、おぬしらはわしに何の用じゃ?………まあ、分かってはおるが」

島「西軍への加勢を止め、東軍に味方をしてほしい。そうすれば我々はあなたに攻撃をしない。ヘリ………鉄の鳥が東軍にある以上、西軍は必ず負ける。それなら東軍に味方をしたほうが有益では無いか?」

脇坂「…………そうじゃな。わしも配下の兵をここで皆殺しにされるわけにはいかぬ」

島「では!」

脇坂「今より!わしらは西軍へ攻撃を開始する!皆の者、わしに続け!」


おおおおおおおおおおおおおおおおおお!


脇坂「これで良いのか?」

島「はい。ありがとうございます」

脇坂「おぬしの名は?」

島「陸上自衛隊、第一空挺団所属、島和武2等陸尉です」

脇坂「ふむ。島とやら、おぬしらは自分たちの力に相当な自信があるようじゃな」

島「は?」

脇坂「じゃがな。油断するでは無いぞ」

島「………………?」

望月「島2尉。時間は限られています。東軍が完全に包囲される前に任務を遂行しないと」

島「ああ。総員、ヘリに乗れ!小早川の陣へ行くぞ」



263:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/11(木) 22:46:38.06 ID:FQmoV2L50

バババババババババババババババ


脇坂の陣を飛び立ったUH-60JAは小早川秀秋の陣の上空へとやってきた


清水「旗印からして小早川の陣に間違いない」

島「よし脇坂の時と同様の作戦で行く。鉄砲隊と弓兵の存在は確認できるか?」

清水「さっきよりも多い。陣の中央………。小早川秀秋の居ると思われる場所の横に鉄砲隊。それに10時方向に弓兵が居る」

島「攻撃は?」

清水「まだ無い。だが、鉄砲隊は火縄に火が付けられている。いつ攻撃されるかは分からないぞ」

島「分かった。大賀、機関銃で鉄砲隊と弓兵を蹴散らせ」

大賀「了解」



先程と同じように大賀はヘリのドアガンである12.7ミリ機関銃を鉄砲隊に向ける



清水「鉄砲隊の方向に側面を向ける。振り落とされるなよ」


バオオオオオオオオ


大賀「射撃準備完了」

島「撃ち方はじめ!」


ドドドドドド ドドドドドドドドド

ドドドドドドドドドドドドド


ドドドドドドドドド


ぎゃあああ!うがあ!


山田「弓兵、矢を放ってきました。低空飛行ですので矢がヘリに接触します」


カンカンカンカンカン


清水「機体に損傷は無いか?」

山田「メインローター、テールローター共に異常なし。損害はありません」


副操縦士の山田が報告する



264:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/11(木) 22:53:37.69 ID:FQmoV2L50

清水「レフトターン。機関銃を弓兵の方向に向ける」


バオオオオオオオ


ヘリは旋回して弓兵を機関銃の射程に捕らえる



大賀「あそこかっ!」


ドドドドドドドドン ドドドドドドドド

ドドドドドドドドドドドドド


弓兵は吹き飛ばされ、ヘリに対する攻撃は皆無となった



清水「ホバリングに入るぞ」

島「分かった。総員、降下準備」



島の号令と共に4名の隊員がヘリから降下準備を始める


清水「この調子で作戦が上手く遂行されれば良いんだけどな」

山田「はい。今のところは順調ですからね……………」

清水「ああ。……………?」

山田「どうかしましたか?」

清水「いや。あれって小早川秀秋って奴でいいんだよな?」

山田「何か大将っぽい奴ですよね。意外と若そうです」

清水「ああ。そいつの横に居るやつが見えるか?」

山田「え?はい…………。!?」

清水「あれって」



265:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/11(木) 23:00:20.73 ID:FQmoV2L50

小早川秀秋と思われる武将は陣の中央で座っていた

ヘリに驚いてはいるものの、何故かその姿には“余裕”があった


清水「え?どういうことだ?何であれが?」

山田「し……清水さん。何がどうなって?」

清水「どうするって………!」



バシュッ

シュウウウウウウウ



清水「緊急回避行動。島2尉!振り落とされないように捕まってろ!」

島「え?」


バオオオオオオオオオ


ヘリは急旋回を始める



シュウウウウウウ

ズドオオオオオン



島「何だ?のろしか何かか?」


小早川秀秋の陣から発射された“それ”はヘリの真横を通り過ぎて爆発する


清水「のろしじゃない!あれは対戦車ロケットだ。作戦は一時中止してこの場を離脱する!それと伊庭1尉に無線で報告!」

島「対戦車ロケット?」

大賀「どういうことだ…………」

山田「清水さん!真下です!」

清水「何!?」



266:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/11(木) 23:08:18.31 ID:FQmoV2L50

ヘリの真下に対戦車榴弾の発射機を抱えた人間が見える

その人数は4名ほど


清水「上昇して回避!」

山田「間に合いません!」


バシュッ

バシュッ

バシュッ

バシュッ


発射された対戦車ロケットはRPG-7

RPG-7の命中精度はあまり良いものではなく、回避行動をとるヘリを撃墜するのはかなり難しかった

しかし、低空飛行でホバリングしていたUH-60JAは格好の的でしかなく、外す方が難しいといえた


シュウウウウウウ

ドンッ


カーンッ


清水「3発は回避!………残りの1発は」

山田「テールローターに着弾。機体のバランスが取れません!」

清水「くそっ!エンジンカット。燃料の流入を防げ」

山田「エンジンカット。オートローテーションに入ります」


機体のバランスを失ったUH-60JAはくるくる回転しながら落下する



267:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/11(木) 23:14:57.16 ID:FQmoV2L50

清水「島2尉!何とかしてヘリは着陸させる。着陸した後はすぐにヘリから離れてくれ!」

島「分かった!」


ヘリから振り落とされないように空挺隊員達はヘリにしがみついている

パイロットの清水は凄まじい技量で対戦車ロケット4発中、3発をかわしただけでなく、バランスを失ったヘリを着陸させようとしていた


清水「伊庭1尉に無線を!」

山田「はい!」

清水「伊庭1尉!こちらヘリ。現在、小早川陣地にて対戦車ロケットによる砲撃を受けた。ヘリは飛行不能。不時着します。よって任務の続行は…………」

伊庭『何!?』

山田「地面と接触します!」

清水「くそっ!島2尉。着陸するのは小早川の陣のど真ん中だ!周囲は敵だらけ。おまけに対戦車ロケットまで飛んでくる。着陸後はすぐにヘリから降りて戦線離脱をおおおおおお!」


バババババババババババババババ

キュイイイイイイイン



ガガガガガガガガガガ


ズドドドドドドドドド



268:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/11(木) 23:18:27.11 ID:FQmoV2L50

UH-60JAヘリは地面に回転しながら不時着する

ローターは折れて、ドロップタンクは弾け飛んだ

折れたローターは周囲に居た小早川の配下の兵士を切り刻み、ヘリ本体も兵士を押しつぶす


雑兵「ぎゃあああ!」

雑兵「とのおおおお!」

雑兵「ぐああああああ!」



270:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/11(木) 23:37:08.95 ID:FQmoV2L50

あと一度やっとかなきゃと思っていた人物紹介です



現在生存者・36名


・伊庭義明(1尉) 小隊長

・矢野(2尉) 副隊長

・県(3尉) 歴史オタ

・木村(曹長) みんな頼れる先任曹長

・三田村(1曹)装甲車車長

・加納(2曹) 装甲車操縦手

・三村(士長) 狙撃手

・根元(3曹) 軽装甲機動車操縦手

・平井(3曹) 最初の偵察に行ったメンバー

・須賀(士長) 最初の偵察に行ったメンバー

・西沢(1士) 通信手

・小野(1曹) 戦車奪還に参加

・海野(2曹) 衛生科 まだ出してないけどWAC

・清水(2尉) ヘリのパイロット

・山田(3尉) ヘリのコパイロット

・島和武(2尉) 空挺隊員の隊長

・望月(3尉) 空挺隊員

・大賀(1曹) 空挺隊員の狙撃手

・三好(2曹) 空挺隊員

・穴山(3曹) 空挺隊員

・島田(曹長) 10式戦車車長

・丸岡(2曹) 戦車操縦手

・菊池(3曹) 戦車砲手


残存戦力

10式戦車 
96式装輪装甲車
軽装甲機動車(2両)
高機動車(2両)
73式小型トラック(3両)
73式大型トラック(2両)
73式中型トラック

その他、小火器・重火器などなど



274:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/13(土) 00:08:56.78 ID:cyUlZw/Y0

~本多正信の陣地~


伊庭「対戦車ロケットでヘリが墜ちた…………だと」

矢野「どういうことだ!?」

伊庭「木村!双眼鏡で確認できるか?」

木村「小早川の陣に黒煙が視認出来ます。おそらくヘリが墜落したものと思われます」

伊庭「何てことだ………」

矢野「西軍に俺たち以外の自衛隊員が味方していたってことか?」

伊庭「わからん。とにかく、今は島2尉たちの安否の確認と救援だ」

矢野「……………。自衛隊が東軍に味方した事実を知っても尚、小早川たちが西軍に肩入れしていたのはこのためだったってことかよ」

正信「伊庭殿!これは一体どういうことじゃ!?」

伊庭「本多殿」

正信「鉄の鳥が墜ちたとの知らせを聞いたのじゃが…………」

伊庭「はい。ヘリ………鉄の鳥が墜落しました」

正信「なんと!なぜじゃ?」

伊庭「西軍にも我々と同様の力を持った組織が味方していたんです」

正信「“じえいたい”が…………西軍にも?」



ザザッ ザザザッ

木村「県3尉から無線です」

伊庭「代われ」

木村「はい」

無線『ザザッ こちら県。小隊長、応答願います』

伊庭「こちら伊庭。どうした県?」

県『ヘリがロケットにやられたのをこちらでも確認しました。東軍各武将は動揺しているみたいです』

伊庭「それはそうだろうな。俺たちも動揺している」

県『ほとんどの武将は東軍の為に戦っているのですが、何人かの武将は西軍に寝返ろうとしているようです。兵の士気も下がっています。逆に西軍の士気は高まったみたいですが…………』



275:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/13(土) 00:27:29.66 ID:cyUlZw/Y0

伊庭「戦況は?」

県『小早川秀秋が完全に西軍に味方して戦い始めています。小早川に続いて、他の中立の立場だった武将も西軍に………。島、大谷の各軍勢は東軍を圧倒しています。宇喜多軍も同様。黒田・細川の軍はほぼ壊滅状態。他の東軍武将たちもかなり苦戦しています。このままでは東軍は西軍に囲まれて一気に負けてしまうでしょう』

伊庭「……………」

県『この勢いだと西軍が桃配山を制圧するのも時間の問題です。小隊長たちの陣も危ないかと…………』

伊庭「戦況を覆す方法は…………。三成を我々が仕留める他に方法は無いか」

県『はい。我々の装備だけで、現在、東軍を圧倒している島、大谷、宇喜多などの軍勢を倒すことは不可能でしょう。敵の大将を叩くしかありません。しかし…………』

伊庭「しかし?」

県『ヘリを失った以上、地上から石田三成の陣地へ行くのは困難です。この乱戦の中を車両で突破するのですから。仮に、車両で石田三成の陣へたどり着いたとしても、それまでに桃配山が陥落してしまう可能性があります。さらに敵には対戦車ロケットで武装した近代兵士も居るので…………』

伊庭「だが、やるしかあるまい。県、お前はそこで“徳川家康の代わり”として東軍の指揮を執れ。ただし危険になったらすぐにでも車両で逃げろ」

県『いえ、それは出来ません。自分は桃配山を死守します。自分は偽者であれど、今現在は東軍の総大将です。大将は戦線離脱出来ませんから』

伊庭「馬鹿なことを言うな。我々が最優先とするのは我々自衛官の命だぞ!」

県『小隊長。自分は信じています。桃配山に西軍は到達しません』

伊庭「何を………言ってるんだ?」

県『小隊長ならこの戦況を覆せるはずです。西軍が桃配山に到達する前に小隊長が三成を倒してくれることを自分は信じています。では、自分は各武将に指示を与えなくてはならないので…………』


ザザッ ピー


伊庭「県!応答しろ!県!」

木村「回線が切れました。むこうから強制的に切断したようです…………」



276:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/13(土) 00:50:31.95 ID:cyUlZw/Y0

伊庭「県…………」


ザザザッ ザザザッ


伊庭「!?」

無線『ザザッ こちら………ザザッ 島………』

伊庭「島2尉か!?」

島『現在、墜落したヘリから脱出して…………。タタタタタタタ ザザッ 周囲を小早川の兵に囲まれている状況に………。タタタン タタタン ギャアア 』

伊庭「何!?」

島『空挺隊員は全員無事ですが……………。清水と山田の2名は墜落時に死亡しました………』

伊庭「清水と山田が………。島2尉、貴官たちの場所を教えろ。今すぐに救援に行く」

島『救援は不要です。伊庭1尉。我々の居る場所は乱戦の真っ只中で、救援に来た隊員達も危険な目に遭ってしまう。それに、伊庭1尉には他にやることがあるでしょう?』

伊庭「島……2尉」

島『それともうひとつ報告。ヘリを落とした奴らが分かりました』

伊庭「誰だ!?」

島『我々が元の時代で倒そうとしていたテロリストたちですよ。人数は1個小隊規模。武装はRPGとAK-47です。奴らは西軍というよりも小早川に味方していたみたいです。つまり、我々空挺隊員5名は小早川秀秋の軍とテロリストたちを同時に相手にしているわけです。ハハハハ』

伊庭「笑い事じゃないだろ!たった5名で相手に出来る敵じゃない!やはり救援に行く」

島『元々、あのテロリストは我々空挺隊員が制圧すべき敵でした。だから我々が倒します。伊庭小隊長は石田三成を倒して戦況を覆しt…………ガガガガガガガ ガガガガガガ ドドーン』


射撃音と爆発音を最後に島2尉との連絡が途絶える


矢野「最後に聞こえてきた射撃音は我々の使っている小銃の発砲音じゃないぞ」

木村「テロリストって…………。いくら空挺隊員でも、1個小隊規模で対戦車ロケットも持っている武装集団に小早川秀秋の軍勢全てと戦って勝てるわけないですよ!」

矢野「たかが5名で…………。小隊長!やはり救援に」

伊庭「……………。もう迷っている時間は無い」

矢野「小隊長?」

伊庭「ここに居る隊員全員を集めろ。今から我々は石田三成の首を取りに行く!」



281:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/13(土) 22:03:13.66 ID:cyUlZw/Y0

~本多正信の陣~


伊庭「全員揃ったか?」


伊庭の前に正信の陣に居た隊員が全員集合する

空挺隊員5名と桃配山に居る県3尉たち3名を除いた26名が集まっていた

集まった隊員の顔は皆、緊張した顔つきだ


伊庭「先程言ったように、UH-60JAが対戦車ロケットによって落とされた」


ザワッ


伊庭「対戦車ロケットを発射したのは我々が元の時代で制圧しようとしていたテロリストたちだ。テロリストは小早川の陣に居て、現在、島2尉たち空挺隊員と交戦中である」

隊員「島2尉たちが!?」

隊員「じゃあ、すぐにでも救援に!」

隊員「テロリストって!………くそっ」

伊庭「落ち着けみんな。島2尉たちの救援もしたいところだが、それ以外にもやることがたくさんある」

隊員「たくさん……とは?」

伊庭「本来は討ち死にしたはずの武将たちが東軍を圧倒してしまっている。このままでは東軍は完全に包囲されてしまう。家康………、いや、県たちの居る桃配山が制圧されるのも時間の問題だ。桃配山だけじゃなく、この本多正信の陣も制圧されるだろう。そうなったら歴史は完全に変わってしまい、俺たちの居た平成の世は完全に消滅してしまうんだ!」

隊員達「「 ……………… 」」

伊庭「我々は未来の………、平成の世の日本国民を救うために戦わなくてはならない。だが、戦いに参加すれば命の危険もある…………。俺はお前たちを戦いには…………」

矢野「はあ………。しつこいぜ。小隊長」

伊庭「矢野………」

矢野「俺たちは小隊長についていく。この間確認したばっかじゃねーか。なあ、お前ら!」


隊員一同 「「  はいっ! 」」


そう言って隊員達は伊庭に敬礼をする


伊庭「お前ら………。戦いたくない奴は無理に戦わなくても良いんだぞ!?」


しかし、誰一人として動こうとしない

隊員達は全員、伊庭に敬礼したままだ



282:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/13(土) 22:31:44.37 ID:cyUlZw/Y0

伊庭「よし!分かった!お前たちの命は俺が預かった!」

矢野「そうこなくっちゃな!」

島田「うっし。戦車の出番だな!腕が鳴るぜ」

伊庭「東軍を包囲して、桃配山を制圧する勢いがある武将は石田三成配下の島左近、宇喜多、小西、大谷だ。これらの武将が現在、桃配山を包囲する陣形を取ろうとしている。我々はこの状況を打破する為に、各武将を倒しに行く」

木村「島2尉たちの救援は………?」

伊庭「それに関してだが、史実通りなら大谷軍は小早川隊に倒されるはずだ。そこで島田!」

島田「はい?」

伊庭「島田は戦車を使用して小早川の陣に突入、島2尉たちの救援とテロリストの制圧、さらに小早川を説得して大谷吉継を攻撃するように仕向けてくれ」

島田「うっひょ~。やることたくさんだな~」

伊庭「すまない………」

島田「いえいえ。10式戦車の力を小早川に見せ付けてやりますぜ!まかしてください!」

矢野「そうすると残りは島、宇喜多、小西か」

伊庭「我々自衛隊の人数にも限界がある。負傷者と正信の陣の護衛を除いた場合、動ける隊員は戦車の乗員を含めて20人程度しか居ない。よって、比較的侵攻スピードの遅い小西の軍は放置する」

木村「となると宇喜多と島を倒しに行く………ということですね?」

伊庭「そうだ。隊を2つに分ける。片方は俺が指揮を執る、もう片方は矢野が指揮を執れ」

矢野「了解」

伊庭「俺の隊は島左近を倒しに行く。島左近は石田三成の先陣でもあるから、島左近を倒すと同時に、石田三成も倒す。矢野の隊は宇喜多秀家を倒しに行ってくれ。負傷者と衛生科の隊員はこの正信の陣にて、戦況の確認と連絡係、並びに陣の護衛を任せる。もし、西軍の隊が攻めてきたら本多正信の命を守るんだ」

海野(2曹 衛生科 女性自衛官)「了解しました」

伊庭「いいか?必ず、全員生きて戻って来い。これは命令だ!」


隊員達「「  了解!  」」



283:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/13(土) 22:45:57.75 ID:cyUlZw/Y0

※自衛隊の作戦時の編成



・島左近勝猛、及び石田三成討伐隊(10名)

 ・指揮官 伊庭1尉(小隊長)
 
 ・副官 木村曹長

 ・その他隊員

    三村(士長)狙撃手

    根元(3曹)

    平井(3曹)

    須賀(士長)

  車両

   軽装甲機動車・高機動車・73式小型トラック(2両)


・宇喜多秀家討伐隊(10名)

 ・指揮官 矢野2尉

 ・その他隊員

   三田村1曹(装甲車車長)

   加納(装甲車操縦手)

   小野(1曹)

 車両

   軽装甲機動車 96式装輪装甲車 高機動車


・本多正信の陣の防衛隊(負傷者含め6名)

 海野(2曹 衛生科)

 西沢(1士 通信科)

  車両(補給車両)

   73式大型トラック(2両) 73式中型トラック


・小早川討伐隊・及び空挺隊員救援


 10式戦車乗員と10式戦車


・桃配山

 県3尉ら3名の隊員

 脱出用に73式小型トラック2台が置いてある



※交戦中

 島2尉たち5名の空挺隊員



285:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/13(土) 23:02:56.13 ID:cyUlZw/Y0

~小早川の陣・島2尉たち~


墜落したヘリは墜ちる前にエンジンを停止させておいたことによって爆発を免れた

しかし、バランスを失ったヘリは地面に衝突してコックピットはグシャグシャに潰れてしまった

無論、清水2尉と山田3尉は殉職した

かろうじで生き残った島2尉たち5名の空挺隊員は破損を免れたヘリ搭載の無線で伊庭との連絡をとっていたのだが、連絡が全て終わる前に再びRPG-7の攻撃を受けてしまう


島「くそっ!」


シュゴオオオオオオ

ズドンッ


大賀「2時方向だ!対戦車ロケットで攻撃を受けた!」

望月「小早川の兵も押し寄せてきます!くっ」


ヒュンヒュンヒュン

カンカンカンカン


テロリストの対戦車ロケットだけでなく、小早川秀秋の兵が放った矢も襲い掛かってくる

矢だけではなく槍や刀を振りかざした雑兵も島たちがいる墜落したヘリに押し寄せてきた

その数は数百に及ぶ



おおおおおおおおおお!


島「くそっ!今の揺れで無線がぶっ壊れた」

大賀「これ以上ヘリの中に留まるのは危険過ぎる!敵のロケットからすればただの的だぜ!?」

穴山「でも外は矢の雨が降るような状態ですよ?それにテロリストだけじゃなく小早川の雑兵も押し寄せてきて………」



ズガガガガガガガガガ

カカカカカカカカカン


三好「うおっと!こりゃテロリストの自動小銃か!?」

島「テロリストたちはどこに!?」

大賀「あそこだ!マズルフラッシュを確認!」

島「よし!まずはテロリストたちを倒すぞ」



286:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/13(土) 23:08:49.83 ID:cyUlZw/Y0

大賀「どうやって!?雑兵はどうするんです!」

島「スタングレネードとLAMで怯ませる。いいか?あのテロリストたちは元々、我々が倒すはずだった敵だ。必ず俺たちの手で倒すぞ」

大賀「了解っ!」

望月「ヘリに積んであったLAM(対戦車榴弾)は5発です。これで押し寄せてくる兵を全員倒せるとは思えませんが………」

島「5発あれば十分だ」

穴山「外は四方八方を敵に囲まれていますけど………」

島「俺たちは自衛隊の精鋭部隊だぞ。刀や槍しか持っていない兵士の数百人くらい軽くあしらってみせろ!」


空挺隊員達 「「 了解! 」」



290:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/14(日) 21:45:44.18 ID:vBqqmXy50

~宇喜多秀家討伐隊・矢野2尉たち~


本多正信の陣を出発した矢野たち10名の隊員は宇喜多秀家を討ち取るために関が原の乱戦の中を車両で疾走していた

非装甲車両の高機動車を装甲車両である96式装輪装甲車と軽装甲機動車が囲って守るような車列である

指揮官となった矢野は周囲の状況が見やすい高機動車に乗っていた

幌を外してしまっている高機動車の後部座席は無防備で、矢の攻撃があれば乗っている隊員は危険であったが、時速60キロを上回るスピードで爆走する高機動車に矢を当てられる弓兵はなかなか居なかった

それに、高機動車を守るようにして走行している装甲車と軽装甲機動車の機銃攻撃で鉄砲隊や弓隊、襲い掛かってくる西軍兵士はほとんど倒されていた



オオオオオオン オオオオオン



矢野「小野!現在位置を確認しろ!」

小野「はい!現在位置は関の藤川沿い、宇喜多隊の主力部隊と福島正則の主力部隊の戦場の真っ只中です!」


矢野の任された隊で矢野の次に階級の高い小野1曹が答える


矢野「どこもかしこも兵士だらけ。敵も味方も区別がつかないくらいの乱戦だな」

小野「はい。我々の車両に襲い掛かってくる兵士たちは宇喜多隊の人間でしょうけど………」


カンカンカン


小野「うわっ」


飛来した矢が走行中の高機動車に当たる


矢野「11時の方向、宇喜多の弓隊だ。機関銃で黙らせろ」

小野「はい!」


小野は車載の5.56ミリ機関銃で弓隊を掃射する


タタタタタタタタ タタタタタタタタタン

ぎゃああああ!

ぐあっ


矢野「無線で装甲車と軽装甲機動車に敵の飛び道具を掃射するように伝えろ。残弾は気にせずに容赦なく攻撃を加えろ」

小野「はい!」


雑兵「うおりゃああ!化け物めえええ!」

雑兵「覚悟おおおお!」


ガンッ 

カキーン

ガンガン


矢野「くそったれが!近寄ってくるんじゃねえええ!」


ドンッ ドンッ ドンッ



291:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/14(日) 21:54:44.63 ID:vBqqmXy50

雑兵「ぎゃあ」

雑兵「ぐあっ」

雑兵「にぎゃあああ」


高機動車に槍を突き立ててきた雑兵を単射で確実に矢野は倒していった

大抵の雑兵は車両に近づく前に機銃掃射で一掃される

しかし、当然のことだが、宇喜多秀家の陣に近づくにつれて宇喜多軍の兵士は多くなる

宇喜多秀家の陣に乗り込もうとしている自衛隊の周囲は次第に宇喜多軍の兵ばかりとなっていた

そして、そのため、機関銃の掃射だけでは車両に押し寄せてくる敵兵を対処しきれなくなってきていたのである


矢野「くそ!敵兵の車両への襲撃が多くなってきてる」

小野「矢の攻撃も激しくなってきています。宇喜多隊の本陣付近では今よりもっと激しい攻撃にさらされる危険もあります!」

矢野「装甲車とLAV(軽装甲機動車)の攻撃だけじゃ、もうそろそろ限界が来るか…………」


雑兵「うおおおおお!」

矢野「ちっ」


タタタン


雑兵「ぎゃ」


小野「敵兵は……今にも車両に飛び乗りそうな勢いで迫ってきています………。このままでは」

矢野「小野。銃剣を装着しておけ」

小野「はい」



292:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/14(日) 22:12:38.67 ID:vBqqmXy50

想像以上に敵兵の迫ってくる勢いが激しく、ついに車両に飛び乗ろうとしてくる雑兵も現れた

時速60キロ近くで走ってくる車両に飛び乗る運動神経と度胸はさすが戦国時代の武士といったところだろうか

宇喜多の兵から自衛隊の車両を守ろうとする福島正則の兵も居たが、いかんせん敵兵の数が多すぎた

気付けば自衛隊の車両の周りは敵兵ばかりになっている


矢野「きりが無いぞ!これ!」


タタタン タタタン


小野「うわっ!」

カキーン

雑兵「きええええ!」


車両に飛び乗ってきた兵の振り下ろした刀を小野は銃剣で防ぐ


矢野「小野!」


ドンッ


雑兵「ぎゃあ」

小野「ハアハア………。矢野2尉、感謝します」


小野に襲い掛かった雑兵を矢野は銃で倒す


矢野「気を抜くな。周りはもうほとんど敵しかいないぞ」

小野「はいっ!」

隊員「矢野2尉!敵兵が多くてこれ以上スピードが出せません!」

矢野「無理にでも突っ切れ!」

隊員「敵兵を礫殺すると血糊等でタイヤがスリップしてしまう可能性がありますが!?」

矢野「これ以上スピードを落としたら、この車は敵に乗っ取られるぞ!スピードを上げて一気に突っ切れ!」

隊員「了解」


ブオオオオン


グオオオオオオ



293:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/14(日) 22:19:19.91 ID:vBqqmXy50

ドンッ

ドンッ


グッシャア


雑兵「ぎゃあjどあhづづうぇ」

雑兵「うぎゃあkjjdぴあs」


ブチブチブチ


小野「うっ」

矢野「……………ちっ」


雑兵を轢きならがら自衛隊の車両は宇喜多秀家の陣に進んでいく


ドンドンドン

タタタタタン タタタタタタン


ズドドドドドン

ドドドドドドド


タタタ タタタ

カンッ カンッ カンッ


キーン


ぎゃああ

ぐあっ



296:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/15(月) 21:14:36.45 ID:D8lxMjcU0

ドドドドドドドドドドドドン

タタタタン

タタタタタタタン


カチッ カチッ


矢野「ちっ。MINIMIに給弾する。小野、援護射撃!」

小野「はいっ!」


タタタン タタタン タタタン


雑兵「ぎゃあ!」

雑兵「グアッ」


矢野が撃っていた車載の機関銃が弾切れを起こした

すかさず矢野は機関銃に給弾を開始する

その間、小野は矢野を援護する形で89式小銃を撃ちまくっていた


小野「くそっ」


タタタン タタタン タタタン


雑兵「ぐあっ」

雑兵「ぐっ」


タタタン カチッ


小野「あっ!」

矢野「リロードする暇は無いぞ!俺の小銃を使え!」

小野「はい」


小野は弾の切れた自分の小銃に代わって、床に置かれていた矢野の小銃を構える


矢野「やっぱ2人じゃ限界があるな」


矢野の乗る高機動車には現在3名の隊員しか乗っていない

運転手と矢野と小野の3人だ

であるから戦闘に参加しているのは実質2人ということになる


小野「もう周囲に味方の武将の兵士は居ません!敵だらけでっ………わっ」


タタタン タタタン 



297:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/15(月) 21:22:56.51 ID:D8lxMjcU0

矢野「おい!宇喜多の陣にはあとどれくらいで到着するんだ?」

隊員「分かりません!こんなにも敵兵でもみくちゃにされたら…………」

矢野「他の車両は!?」

隊員「我々の乗っている車両を守る形で走行していますけど………。敵が多すぎて」

矢野「装甲車とLAVじゃ押し寄せてくる敵兵をカバーしきれないのか。……………。小野!」

小野「はい?」

矢野「この車に残っている弾はあとどれくらいある?」

小野「5.56ミリの弾は当初積んであった量の半分ほどまで減っています。榴弾や火砲の類はほぼ無傷ですが」

矢野「分かった。これ以上の小銃弾の消耗は避けたい…………。スタングレネードを全て投擲する」

小野「し……しかし。スタングレネードの残数は僅かです。ここで全て使ってしまったら」

矢野「いいから用意しろ」

小野「了解」

隊員「無線で他の車両にスタングレネードを投擲する旨を伝えます」

矢野「助かる」



タタタタタタタタタタン タタタタタタタタタン

タタタタタ タタタタタタタタタ



給弾を終了した機関銃で矢野は押し寄せる雑兵を倒していく



298:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/15(月) 21:42:20.66 ID:D8lxMjcU0

~宇喜多秀家討伐隊・別車両 96式装輪装甲車内~


矢野たちが戦っている場所から数メートル離れた場所を96式装輪装甲車は疾走していた



ドドドドドドドドドドドドドドドドドドド

ドドドドドドドドドドドドドドドドドド



隊員「敵兵が多すぎます!高機動車の矢野2尉たちを守りきれません」

三田村「残弾を気にするな!どんどん撃てっ!」

隊員「しかし、このままでは…………」


ボボンッ


隊員「ああああああ!」

三田村「あっ!」


隊員の使っていた車載機関銃が暴発する

96式装輪装甲車に搭載されている12.7ミリ機関銃は連続射撃を続けていると暴発する危険性があった

特に自衛隊でライセンス生産されている12.7ミリ機関銃は連続射撃後になかなか銃身が冷え切らないことがあった

押し寄せてくる無数の敵兵に対して連続射撃を続けていた機関銃は銃身の熱を冷ますことが出来ず、暴発してしまったらしい


隊員「そんな」

三田村「大丈夫か!おい、大西。機関銃の代わりになる銃持ってこい」


装甲車の車長である三田村は機関銃座より後方のハッチから身を乗り出して小銃射撃をしていた大西という隊員に命令する

見れば機関銃は銃身がポッキリ折れていた


大西「MINIMIがあります!」

三田村「よし、M2の代わりはこれで何とかするしかない」

隊員「はい」


使用不能になった12.7ミリ機関銃に代わって5.56ミリ機関銃を隊員は構える


雑兵「うりゃああああ!」

三田村「なっ!」

 
タタタタタン


雑兵「ぎゃあ」



299:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/15(月) 21:51:41.39 ID:D8lxMjcU0

三田村「こいつ………。馬からこの装甲車に飛び乗ってきやがった」


カツーン カツーン


大西「槍で突いてくる兵も多くなってきています。もう対処には限界が」

三田村「いいから撃て。宇喜多の陣まで突破して、敵の大将を倒せば全部終わるんだ!」

大西「はいっ!」

三田村「とは言え、この人数じゃ………。その内、車両ごと敵兵に飲み込まれるぞ」


タタタタタタタン

タタタタタタタン


タタタタタタタタタタタタ


ぎゃあ!

ぐあっ

この化け物めええええええ!


カキーン


加納「車長!矢野2尉の乗る高機動車から連絡です!スタングレネードを投擲するので注意せよ、と」


装甲車の操縦席から操縦手の加納が報告する


三田村「スタングレネード?目くらましをして一気に突破するつもりか!」

加納「スタングレネードを全て投擲して、敵が怯んでいるうちに全車両、全速力で敵中突破だそうです」

三田村「分かった。総員、車内へ退避」

隊員・大西「「  了解  」」


車上で戦闘を行っていた3人の隊員は全員車内へ退避する



300:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/15(月) 22:00:14.36 ID:D8lxMjcU0

三田村「高機動車の様子は?」

加納「小野1曹が機関銃の掃射をしています。矢野2尉がスタングレネードを投擲する模様」


車内に入った三田村は操縦席に来て、矢野たちの乗る高機動車の様子を見る


三田村「ギリギリだな。押し寄せてくる敵に今でも埋まってしまいそうな勢いだぞ」

加納「あっ。矢野2尉が投擲を開始します」

三田村「一瞬だけだ!目をつぶれ!」

加納「はい」




カッ




スタングレネードこと閃光発音筒は、以前、根元3曹が服部半蔵から逃げるときに使用した特殊な榴弾である

凄まじい音と光を発して、相手の視覚と聴覚を一時的に奪う

そんなスタングレネードを矢野は疾走する高機動車の上から敵兵の中へ投げ込んだのだ



カッ



カッ



間髪をいれずに360度全ての敵の視覚と聴覚を奪うようにして投擲する



雑兵「ぎゃああああああ!」

雑兵「目が!目がああああああああ!」

雑兵「何も聞こえない!何が起きたんじゃアアアア」


車両群の周りに居た兵士は突然の光と音に目と耳を奪われ、うずくまってしまう

こうして一時的ではあったが自衛隊に対する攻撃は止んだ



301:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/15(月) 22:05:29.25 ID:D8lxMjcU0

三田村「今だ!敵の攻撃が止んでいるうちに突撃しろ!」

加納「はいっ!振り落とされないでくださいよっと!」


ウオオオオオン オオオオオオオオオ


96式装輪装甲車は速度を上げて、うずくまる兵士たちの中を走り抜ける


三田村「時速を80キロに上げろ!」

加納「こんな場所でそんなに速度を上げられませんよ?」

三田村「じゃねえと、高機動車に追いつけねえぞ」

加納「へ?」


見れば矢野を乗せた高機動車が時速80キロ近く出ているのではないかという速さで突撃していた


加納「あんなにスピードだしたらスリップしちまうぞ」

三田村「俺たちの役目は矢野2尉の援護だ!ほら、早く追いつけ」

加納「了解しました」


オオオオオオオオオオ


三田村「他の隊員は車外で引き続き射撃だ!急げ」

隊員「はい!」



305:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/17(水) 23:53:01.99 ID:bsBTyrGp0

~島左近・石田三成討伐隊 伊庭たち~


矢野たちが宇喜多秀家の陣に突撃している頃、伊庭たちもまた島左近の部隊へと突撃をしていた

現在は軽装甲機動車と高機動車、それに73式小型トラック2両に隊員10名が乗り込み戦闘を行っている

軽装甲機動車以外の車両はどれも非装甲の上にオープンカーのように車上はむき出しであった為、隊員達は矢や鉄砲の弾といった飛び道具の脅威に晒されることになっていた



パパパパパパパパン


カカカカカカカカン


伊庭「総員伏せろ!」

木村「うおっ」


伊庭達の車両群が突撃してくるのを見て、島左近は矢野たちの車両群に攻撃をしている宇喜多秀家のように闇雲に攻撃するのではなく、咄嗟に防御陣形を取った

車両群に向かって槍や刀で突撃して自衛隊を倒すのではなく、自衛隊車両が島左近の部隊を突破して石田三成の本陣に到達するのを確実に防ごうという考えだ


伊庭「速度を上げろ!ここで止まったら鉄砲や弓矢の格好の的になるぞ!」

木村「くそっ!反撃したいが、敵の飛び道具による攻撃が予想以上に激しい。闇雲に戦うのではなく、確実に我々から本陣を守るために防御を固めてるのか!?」

伊庭「車両に刀や槍で突撃してくる雑兵はほとんど居ない。おそらく兵士のほとんどを本陣の防衛にあててるんだろう」

木村「島左近の軍勢は先程まで東軍を包囲しようとして突撃していた部隊ですよ?今まで突撃をしていた部隊にすぐに防御陣形を取らせるようにすることが出来るんですか?」

伊庭「本多正信によれば島左近は優秀な武将らしい。我々自衛隊の突撃というイレギュラーにも瞬時に対応が出来る優れた武将なんだろう」


ヒュンヒュンヒュンヒュン

カカカカカン


パパパパパパパパパパン

カカカカカカカカカカン



306:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/18(木) 00:08:16.91 ID:UaLiF5ni0

伊庭「くそ!」


ドンッ


ひゅるるるる


ズドオオオオン



木村「何だ!?」

伊庭「大筒っていう大砲だ。石田三成の隠し兵器だ!我々の火砲よりは威力が低いとはいえ、ソフトスキン(非装甲車両)に直撃すればマズイことになる」

木村「おいおい!」


ズドオオオン


爆走している車両に大筒の弾を命中させるのは不可能に近かったが、自衛官を恐怖させるには十分だった



グオオオオオ

オオオ


オオ


伊庭「どうした!?速度が下がってるぞ!」


伊庭と木村の乗る73式小型トラックの速度が著しく低下する

伊庭達の乗る車両だけではなく他の車両も速度が落ちていた


隊員「小隊長!前を見てください!」


島左近の作り出した防御陣形は突撃してくる自衛隊車両の真正面に位置する

その陣の最前列にあるのは丸太によってつくられた防壁であった

重車両なら強引に突破することも出来るかもしれないが、小型トラックなどの軽車両では突破することは困難な防壁である

その防壁が自衛隊車両が石田三成の本陣へ続く道へ前進するのを妨害するように並んでいた


伊庭「車両の進行を妨げるつもりか!」

木村「丸太の防壁で車両を停止させた後に大砲や鉄砲で我々を確実に倒すつもりです」


防壁の向こう側には鉄砲隊や弓隊、大筒が配置されている

停止した自衛隊車両を一斉砲火で叩く魂胆だろう



307:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/18(木) 00:18:24.59 ID:UaLiF5ni0

隊員「このままでは防壁に突っ込んでしまいます!そうしたら車両は走行不能になって、敵兵に取り囲まれてしまいます!」

伊庭「…………くっ。全車両、車両の側面を敵の防御陣地に向けるようにして停車!停車後、迫撃砲とLAM、てき弾などによって大筒と鉄砲隊を叩く」

木村「了解!高機動車に乗ってる隊員に連絡します」



島左近の防御陣地から数百メートルの地点で自衛隊車両は車両の側面を陣地に向けて停止する

車両が停止したと共に鉄砲隊と弓隊は一斉攻撃してきた



パパパパパパパパパン


カカカカカカカカカカン


鉄砲の弾や矢が車両に襲い掛かる


隊員「うわっ!」

木村「くっ」

伊庭「車両から降りろ!矢が上から降ってくるぞ!」


ヒュンヒュンヒュンヒュン


カツーン


隊員「うわっ!」


矢の一本が運転席から車外へ出ようとしている隊員のボディーアーマーとヘルメットに直撃する


伊庭「無事か!?」

隊員「はいっ!自衛隊に入ってから初めて鉄パチに感謝しました」

伊庭「いいから急いで車両の影に隠れろ!」

隊員「はい!」


ヒュンヒュン


グサッ


隊員「がっ」



308:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/18(木) 00:29:30.02 ID:UaLiF5ni0

伊庭「なっ!」


車外に出て、車の陰に隠れようとしていた隊員の首を矢が貫く


バサッ


伊庭「くそったれが!」


ドンッ ドンッ ドンッ



伊庭は鉄砲隊の方角に向かって、車体に身を隠しながら9ミリ拳銃を発砲する

無論、車両から敵陣までの距離的に拳銃弾が鉄砲隊に命中するはずもなかった


隊員「」

伊庭「…………すまない。お前たちの命を預かる、とか偉そうなことを言っておきながら俺は………」


既に息の無い隊員を車の陰に移動させながら伊庭は言う


木村「…………。小隊長。指示を」

伊庭「………ああ。LAMで丸太の防壁と飛び道具の部隊を潰せ。飛び道具による危険が無くなった後に迫撃砲で敵を完全に無力化する」

木村「了解」


そう言うと木村は背負っていた携帯無線で他の車両と通信を始めた



309:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/18(木) 00:42:32.62 ID:UaLiF5ni0

伊庭の指揮する三成討伐隊の車両のうち戦闘を行う車両は4両中3両だった

軽装甲機動車と2両の73式小型トラックである

残った高機動車は補給用の車両として使われていた

その高機動車に迫撃砲やLAM(携帯型対戦車弾パンツァーファウストⅢ)などの重火器が積んである



隊員1「車両に隠れろ。敵の鉄砲の射線に入るな!」


カツーン

カツーン


ズドオオオン


隊員2「くそっ!こっちが停車してるから大砲の着弾が近くなった!なめやがって」


タタタタタタタタタタタタン

タタタン タタタン


高機動車から下車した隊員たちは車体に身を隠しながら対戦車弾パンツァーファウストⅢの発射準備をする

その隊員を守るようにして軽装甲機動車と73式小型トラックに乗っていた隊員達が島左近の陣に援護射撃を開始した


タタタタタン タタタ タタタ

タタタタタタタ


パパパパパパン


隊員1「弾切れだ。装填する」

隊員2「分かった。下がれ」

隊員3「LAMの発射準備よし!LAMの射線に入らないように退避してくれ」

隊員1 2 「分かった!」

隊員3「後方の安全確認よし!発射!」



バシュッ



シュウウウウウウウウウ



ドオオオオオオン



310:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/18(木) 00:53:16.25 ID:UaLiF5ni0

発射された対戦車弾は丸太で出来た防壁の一角に命中して周囲の雑兵諸々共に吹き飛ばす

110mm個人携帯対戦車弾と自衛隊では扱っているこのパンツァーファウストⅢはロケット推進で弾頭を飛ばす使い捨ての対戦車兵器のひとつだ

この兵器は発射機の後方からカウンターマスという重しを飛ばすことによって爆風を最小限に抑えることが出来る


隊員3「次弾発射!」


バシュッ

ドーン


バシュッ

ドオオオオン


雑兵「ぎゃああ!」

雑兵「ぐああああ!」


次々と発射される対戦車弾に防壁や鉄砲隊はことごとく粉砕される


隊員1「どんどん撃ち込め!敵の飛び道具を黙らせろ!」

隊員3「はいっ!」



311:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/18(木) 00:59:06.31 ID:UaLiF5ni0

ドンッ


ひゅるるるるるるるる



隊員3「え?」

隊員1「まずい!退避しろ!大筒の弾が来るぞ!」

隊員3「うわあああああ!」



ズッドオオオオオオン


パンツァーファウストⅢの攻撃に反撃するかのように発射された大筒の弾が高機動車へ飛来する



ガッツーン


大筒の弾は高機動車のボンネットに直撃する

自衛隊の使用する弾と違って爆裂段でも無い大筒の弾は高機動車を爆破、破壊するには至らなかったが、直撃したボンネットからはシューシューと煙が出ている


ひゅるるっ

ひゅるるるるる



ガッツーン

ガンッ

ガンッ

ドオオオン


次々と大筒の弾は飛来する

それらの弾は高機動車の後部に積んである補給物資にも直撃した



312:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/12/18(木) 01:06:27.04 ID:UaLiF5ni0

ズドオオオオオオオオオン



大筒の弾のひとつが高機動車に積んである補給物資の中の弾薬と燃料に直撃した為に爆発が起きる


隊員1「退避いいいいいいいいい!」

隊員2「わあああ!」

隊員3「迫撃砲が!弾薬が!」


高機動車の周囲に居た隊員達は間一髪のところで退避が出来た

しかし、高機動車に積んであった対戦車弾や迫撃砲、弾薬や燃料は全て吹っ飛んでしまった


徳川家康「りくじょうじえいたい?」【後半】



転載元
徳川家康「りくじょうじえいたい?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1415625854/
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