キョン「犬?」

1:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/04/29(火) 22:25:05.20 ID:jXBfmrTP0.net

 最近、何故かは知らんがハルヒの様子が少しおかしい。元々おかしいのは百も承知だが、
それに輪を掛けておかしいのだ。具体的な例を挙げると、とにかく処構わず俺にくっついてくる。
少々誤解を招きそうな言い方なのだが、事実だったりするわけで致し方ない。

 休み時間などはあまり動き回るということはないので、何時もと同じと言えばそれまでだが、
一度移動教室ともなると確実に俺と行動を伴にしようとする。その意図はまったくもって不明なのだが、
谷口が冷やかしてきたり、クラスメイトの生暖かい視線を感じるのは俺の精神衛生上よろしくない。
止めさそうとはするのだが、ハルヒは聞く耳を持たないから困ったもんだ。

 ハルヒの目を盗んで古泉にいろいろ原因を訊ねてみるのだが、上手くはぐらかされて結局はわからず仕舞い。
一つだけ言えるのは、古泉もクラスメイトと同じ生暖かい視線を投げ掛けてくるってことぐらいだ。



4:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/04/29(火) 22:27:53.78 ID:jXBfmrTP0.net

 さて、そんなハルヒなのだが、この二、三日でさらにその行動が不可解になってきた。
昼休みだろうが、授業中だろうが、時と場所を考えずに構って欲しいオーラを発散している。
特に具体的な要望などがあるわけじゃないが、少し隙を見せると構って欲しそうな視線が突き刺さる。
それを無視すると実力行使と言わんばかりに、俺に触れようとしてくる。
授業中にそれをやられるとたまったもんじゃない。授業に集中している時はもちろんのこと、
夜更かしをした日が特にひどい。

 体は睡眠を欲しているのに、意識はハルヒのせいでめくるめく夢の世界へ羽ばたくことは不可能だ。
頼むから寝かしてくれと言ったところでハルヒが俺の意見に耳を傾けることはない。
そして、夢と現実の狭間を漂いながらハルヒの相手をすることになる。

 なら、そんなものは無視し続ければ良いと思う奴がいるかもしれない。俺もそう思って、一度実践してみたことがある。
ハルヒの構って欲しいオーラを無視し続け、さらにその後の構って欲しいとつついてくるのを無視し続けた。



5:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/04/29(火) 22:30:38.76 ID:jXBfmrTP0.net

 てっきり「ちょっと!団長のあたしが呼んでるんだからこっち見なさいよ!」と、
怒鳴られることを予想していた俺は、ハルヒの次の手がまったくの予想外だった。
怒鳴られた時のために、言い訳やら非難やらをあれこれ考えていたのがどれもこれも役に立たない。
なんせ、あのハルヒがショボーンという擬音語がぴったりな落ち込みを見せたからだ。

 怒鳴るわけでもなく、文句を言うわけでもなく、ただ落ち込んでいる。
その哀愁すら漂っている様子を見て、俺の良心がズキズキと痛んだ。そして、
とうとうハルヒを構ってやることにしたのだ。

vさて、少々前置きが長くなってしまったが、これで近況はわかっていただけただろうか。
とにもかくにもハルヒの様子がおかしい。それ以外は比較的穏やかな日々が続いていたある日のことだ、
今日も元気だご飯が上手い!なんてわけのわからないフレーズが頭の中をぐるぐると回っている俺は、
何時も通り文芸部の部室へと向かっていた。もちろん、ハルヒを引きつれてな。



7:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/04/29(火) 22:34:08.68 ID:jXBfmrTP0.net

「ほい、王手っと」

「む…。待ったとかはなしですかね?」

 残念ながら無しだ。

 俺と古泉は将棋で、長門は読書。朝比奈さんは部室内の掃除をしていらっしゃる。
代わり映えのしない団活風景なのだが、その中で異彩を放っているやつがいる。
言わずもがな、我らが団長のハルヒである。座ってぼんやりとしている分には何の問題も無さそうだが、
座っている場所に問題がある。それはどこだ?俺の膝の上だ。

 右手で駒を動かしつつ、空いた左手でハルヒをそっと撫でている。
何も訊くな。何も言うな。言いたいことはわかっている。
しかし、古泉に「世界平和のためです」なんてことを言われると、
俺はそれに逆らうことなんて不可能だ。朝比奈さんの泣き顔や長門に迷惑を掛けることなんてできやしないからな。



8:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/04/29(火) 22:40:29.86 ID:jXBfmrTP0.net

「ハルヒ、ポッキー食べるか?」

 古泉が長考している間、ハルヒにそう訊いた。

「別に欲しくないけど貰っといてあげるわ!」

 なんてことを目を輝かせて言われて、誰がそれを信じるというのだろうか。
苦笑しつつ、カバンの中を漁って今朝コンビニに買ってきたポッキーを取り出す。
それは直ぐ様ハルヒに奪い取られ、俺の許可もなくバリバリと封を開け始めた。文句を言うわけじゃないが、
そんなに焦る必要もないだろう。誰も取ったりなんてしないさ。

 ポリポリとポッキーを齧るハルヒを撫で続けながら、まるで子犬みたいだななんて思う。
性格にもよるが、たいていは甘えたがりで、人懐っこい。少し遊んでやると、
こちらの都合など考えずに構って欲しそうにする。まさに、今のハルヒそのものだ。
そう思うと、ハルヒがどうしようもないくらいに可愛く感じられた。



9:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/04/29(火) 22:42:58.45 ID:jXBfmrTP0.net

「何よ?」

 そんな俺の視線に気が付いたハルヒが、ポッキーをくわえたままで顔をこちらに向けた。

「何でもない」

「あっそ。構って欲しいとか思ってないから。ポッキー食べるのが忙しいんだから邪魔しないでね」

「はいはい」

 適当な相づちを打ち、俺はさらにハルヒを撫でてやる。気持ちよさそうに目を細めるハルヒに、
俺は何とも言えない満足感と幸福感を抱くのだった。



10:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/04/29(火) 22:44:44.56 ID:jXBfmrTP0.net

終わり



14:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/04/29(火) 22:51:19.38 ID:jXBfmrTP0.net

キョン「ブログ?」

 俺が部室に行っても、まだ長門だけしか来ていないということも少なからずある。
その場合、長門はせっせと読書に勤しんでいるわけで、俺は手持ちぶさたにだらだらと時間を過ごすことになる。
そういう時は、俺でも理解できる簡単な本を長門に勧めてもらったり、
ハルヒの机に置いてあるパソコンでネットサーフィンをして時間を潰している。

 そして今日も、そんな風に時間を潰していたのだが、ふと開いたお気に入りリストの中に妖しげな存在感を感じさせるものがあった。

『ハルヒのLOVE日記』

 いったい全体これはどういった代物なんだろう。日記とあるぐらいだから、ブログかその類のものであるとうことはわかる。
しかしながら、日記という言葉にくっついている単語が異様な雰囲気を醸し出しているのを否めない。
その単語の意味は小学生でも知っているものであり、至るところで目にするのだが、
こういったモノにすら使うものなのかという疑問が湧いてくる。こう言っちゃなんだが、頭の悪そうなサイト名である。
ハルヒのネーミングセンスを疑わざるを得ない。しかし、ハルヒが考える名前なんてものがまともであった試しもなく、
これだって所謂釣りという可能性だってまだまだ否定できない。中身を確認したいところだが、もしもハルヒの個人的なものだとすると、
プライベートを覗き見するようで気が引けてしまう。



17:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/04/29(火) 22:54:46.96 ID:jXBfmrTP0.net

 しかし、好奇心は猫をも殺すって言うぐらいであるわけで、結局俺は好奇心に負けてそれを開いてしまった。
プライベートな内容だとしても、ブログとして公開しているんだったら問題無いだろうと誰にともなく言い訳をしていると、
サイトが表示された。トップにでかでかとサイト名が表示され、ちかちかと光っている。
中々に手の込んだ作りとなっており、SOS団のホームページよりも気合いを入れて作られていることが伺える。

 少し感心しながらスクロールしていくと、『BLOG』という項目に行き着いた。僅かに緊張しながらそれをクリック。
ページが飛んで、日付と日記のタイトルの羅列した画面が表示された。そのタイトルを幾つか挙げてみよう。



19:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/04/29(火) 22:56:44.31 ID:jXBfmrTP0.net

『キョンの生態考察』

『キョンの好み研究』

『キョンの1日観察』

俺は自分の目を疑い、一旦戻って再びBLOGをクリック。世界というものは非情にできているらしい。
先程見たタイトルは見間違えたわけではなかったようだ。余りのことに数秒画面を見つめたまま固まってしまった。
恐る恐る、その中の一つを選んで開いてみる。以下はそれからの一部引用である。



21:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/04/29(火) 22:58:26.78 ID:jXBfmrTP0.net

『今日はあたしのキョンの生態系について少し考察してみようと思う。あたしのキョンは、一般的には格好いいと言われるような顔ではない。
さらに、それは間が抜けていると言えそうである。

 授業中は大抵の場合寝ており、そのせいで成績は低い。しかしながら、その寝顔はかなり愛くるしいものがあり見ていて癒される。
幸いながらそのことに気が付いているのはあたしだけ。これからもこのことを知っているのはあたしだけでいい。


(中略)


 以上のようなことから、あたしはやっぱりキョンのことが好きなのである』

 いや、もう恥ずかしいやら凄まじいやらで何とコメントしてよいものかわからない。とにかく、俺の日常生活がとにかく赤裸々に綴られていた。
それにしても、こんなBLOGが存在するということは、ハルヒは俺のことを……。

 一旦落ち着こうと、画面から顔を上げたところでハルヒと目が合った。どうやら俺は集中し過ぎて、ハルヒが来たことに気が付かなかったようだ。



24:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/04/29(火) 23:00:49.10 ID:jXBfmrTP0.net

「……」

「……」

 見つめ合うこと数秒。ハルヒが表情を凍らせたまま画面が見える位置まで近づいてくる。そして、静止。

「な、何観てんのよ…?」

「いや、何って…」

 答えられるわけがなかった。ハルヒのブログを観ていたなんて。しかし、ここでも俺は世界の無情さを思い知らされることとなる。
突然のハルヒの登場によって、俺の意識は完全にそちらに向いてしまった。それがどういった結果を生むことになるか想像してもらいたい。
簡単だ。画面には、ハルヒの書いたと思われるブログがありありと映し出されている。誰が見ても何をしているか判るぐらいなのだから、
ハルヒが見ればそれは尚更だろう。

 そして、画面に気が付いた瞬間ハルヒの顔面が引きつった。もちろん、俺の顔面もだ。ひくひくと口の端を痙攣させながら、
ハルヒが油の切れたロボットのような動きで俺を見る。

 再び、ばっちりと目が合った。



26:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/04/29(火) 23:03:07.56 ID:jXBfmrTP0.net

「な、何よ?」

「いや…」

「言いたいことがあるなら、聞いてあげないことも無いわよ」

 顔面を引きつらせたまま、ハルヒはあくまで強気な態度に出る。どうせ俺に負けたくないだとか、
そんな意地から来るものだろう。だからといって、こちらも強気な態度に出れる程精神状態は回復していない。
ここは穏便に事を進めた方が安全だ。

「俺は何も観てない」

 この状況でそんな言葉を言うのは明らかに失敗だった。それは観たと自白しているようなものだ。
途端に、ハルヒの引きつった顔面が蒼白になる。いや、ショックなのは判る。俺もかなりショックだったからな。



31:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/04/29(火) 23:06:26.70 ID:jXBfmrTP0.net

「そ、それはアレよ、アレ。幻の超生物のキョンについて書いたレポートよ。たまたまキョンと同じ名前だったわけで、
キョンには一切関係ないから」

 その割には身に覚えがあるような内容だったぞ。

「それはデジャブよ。よくあるじゃない、初めて行った所でここに来たことあるって感じることが。それと同じなのよ」

 もうこれは相当苦しい言い訳である。ハルヒが覚悟を決めて白状してくれるのならば、
俺もそれなりに誠意を持った態度で接することができる。しかし、本人が必死に否定している内は何を言っても無駄だろう。

「な、なら、俺にはまったく関係ないんだな?」

「……当たり前じゃない」

「そうか…」

 若干寂しいような気もするが、きっとこれで良かったんだろう。揚げ足を取ってハルヒに嫌な思いをさせるのも忍びないしな。
今日はただネットサーフィンをして、その間に俺は何も観なかった。これで万事解決ってことだ。



32:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/04/29(火) 23:09:20.25 ID:jXBfmrTP0.net

「おっと、座りっぱなしで悪かったな」

 後はさっさと席を空けて退散するに限る。

「ちょっと待ちなさいよ」

「何だ?」

 そうな顔をするハルヒに呼び止められ、指定の場所へと向かう足を止める。

「どうしてもって言うなら、たまにはキョンを日記の内容にしてあげないこともないわよ」

「超生物の方のか?」

「違うわよ、バカキョン!」

 そう怒鳴るハルヒに、そうかと答え曖昧に笑う。こんな時、どんな顔をすれば良いのか古泉ならば判ったかもしれない。
だが、生憎俺は古泉なんかではない。なので、曖昧に笑うので精一杯だった。
しかし、ハルヒがそれで満足したようだったからきっとそれは正解だったのだろう。

 なぜなら、しばらく経ってから、ハルヒのブログに俺のことが書かれていた。
そこには、まともな文章で俺に対する想いが綴られていたのだった。



34:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/04/29(火) 23:11:23.95 ID:jXBfmrTP0.net

終わり



38:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/04/29(火) 23:19:55.08 ID:jXBfmrTP0.net

キョン「タイミング?」

 この世にはタイミングというものが存在する。例えば野球であるならばボールを放すタイミングであったり、
経済関係で言うなれば株を売るタイミングであったりと、姿形を変えて俺たちの日常生活の中に潜んでいる。
そして、俺たちに限りない程の影響を与えているとは考えられないだろうか?

 そう、勉強をしようと思った時にタイミング悪く電話が掛かってくることは無いだろうか?
そういうことがあると俺は言いたいのである。しかし、いつもタイミングが悪いことばかりではない。
タイミング良かったおかげで物事が成功することだってある。
つまり、タイミングというモノは運とよく似た類のモノであるということだ。運が悪い時はとことんついていないように、
タイミングが合わない時もとことん合わないということである。

 いきなりこんなことを力説されても意味がわからないとは思う。俺も事情を知らなければきっとそう思うことだろう。
だが、今回のことは本当にタイミングが悪いとしか言い様が無いのである。
長門なら宇宙的パワーでそのタイミングでさえずらすことができるかもしれないが、
一般人の――ましてや平凡な――俺にはそのような芸当は不可能であり、運命には逆らえないということだ。



41:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/04/29(火) 23:22:40.33 ID:jXBfmrTP0.net

 今日、俺はハルヒに手紙を書いてきた。一般的にラブレターと呼ばれるものである。少々古くさい感じが否めないが、
直接言うにはあまりにも恥ずかし過ぎたために、そのような手段に出たわけだ。誰に何と言われようとも、
とにかく俺はラブレターを書いた。どんなことを書いたかなんてことは割愛させて頂くが、恥ずかしいことには変わり無い。
そんなわけで、ハルヒがそれに気が付く前にさっさと退散するべくいつもの活動が終わったら直ぐに帰ろうとした。

 しかし、そこで有り得ない予想外の事象が生じた。普段は居残りなんてさせないハルヒが俺だけに居残りを命じたのだ。
あまりにもタイミングが悪すぎるだろう。よりによってどうして今日なんだ。思わず神を呪ったね。
つまり、一部で神扱いされているハルヒをだ。

 しかも、大した用事でも無く何時でも出来そうなことを俺に命じたハルヒは、珍しく俺を手伝ってくれた。
それもあまりにもタイミングが悪くないか?どうして普段なら有り得ないことがこうして二度も続くのだろう。
ハルヒに用事を命じられた時点でなら、まだ救いはあった。ハルヒが俺の手紙に気が付く頃俺は、
その用事をせっせとこなしているわけであって、その場面に立ち合うことは無い。



43:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/04/29(火) 23:25:00.89 ID:jXBfmrTP0.net

 しかし、だ。ハルヒに手伝ってもらったということは、必然的に下校も同じになるわけである。
さらには、俺はハルヒと同じクラスなので同じ場所で靴を履き変える。ここから先は言わなくても判るだろう。
地獄しか待っていないということが。

 で、今俺はハルヒと共に廊下を歩いている。数メートル先に見える角を曲がればもう昇降口。
今からでもまだ遅くはない。必死で走ればハルヒがラブレターに気が付く前に立ち去ることも可能だろう。
でも考えてみてくれ。ここまでタイミングが噛み合わなかった俺がどうあがいたところで、
それがいきなり噛み合うという希望的観測はあるはずが無かった。ましてやハルヒ相手なら尚更である。
そんな思考をしている内に地獄の三丁目に到着してしまった。

「先に帰っちゃダメだからね」

 ハルヒにしっかりと釘を刺され、退路を断たれた俺は恥ずかしさと気まずさで軽く逝けそうだ。



46:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/04/29(火) 23:27:20.64 ID:jXBfmrTP0.net

「何コレ?」

 どうやらハルヒが手紙に気が付いたようだ。まだ春先であるにも関わらず、俺のシャツは汗で湿っている。
不審そうに手紙を睨んでいるハルヒ。口から心臓が飛び出しそうになるのを必死で堪え、
ハルヒの次を待つ。

「もしかしてラブレター……?」

 ハルヒがこちらを振り返り、確認の意を俺に求める。

「たぶん……そうだろう」

「ふーん。今どきまだこんなことをするアホがいるのね」

 言葉のトゲが胸に突き刺さる。何というか、朝倉に刺された時よりもショックだ。

「な、中身を見ないのか?」

 今のように生殺しにされるより、もういっそのこと思い切り恥ずかしい目に合ったほうがマシだと思い、
ハルヒに中身の確認を勧めてみる。



49:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/04/29(火) 23:29:32.35 ID:jXBfmrTP0.net

「……見ないわよ、こんなの。直接言いにくるならまだしも、こんな安っぽい手紙に書けるぐらいの気持ちしか無いのはダメだし、普通過ぎるじゃない。それに――」

 ハルヒが言葉を切ってそっぽを向いただとか、その顔が夕日に照らされ赤くなっているだとか、
そんな客観的な事実しか頭に入ってこない程俺は打ちのめされていた。
どこかのボクシングの選手とは違った意味で真っ白に燃え尽きた。

「だから、こんなものはいらないわ」

 くしゃっと丸められ、ポイッとゴミ箱に放り込まれたソレ。止めをさすには十分過ぎたその行為。

「………先に帰るな」

 ハルヒの顔をまともに見ることなんて出来るはずがなく、背中を向けたままそう伝えて俺は一目散に走りだした。
ハルヒが何かを叫んでいたが、そんなものを聞いている余裕なんてものはどこにもなかった。



53:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/04/29(火) 23:33:25.78 ID:jXBfmrTP0.net

 羞恥心とショックと後悔を抱えて俺は部屋で黄昏ていた。流石にこうもタイミングが悪かったら笑うしかないだろう。
その笑いも込み上げてくることなく、ただただ俺は落ち込んでいた。昨日に戻れるなら止めておけと昨日の俺を殴ってでも止めさせるのに。
朝比奈さんに本気で電話しようかなとか思ったりしてしまう。長門に頼んで今回の事に関する記憶を消してもらうのありだな。
長門に本気で電話をしようかなんて思ったりもしてしまう。とにかく、自分で言うのもなんだが心の傷はかなり深いようだ。
死のうかな…なんて割と本気で考える。

「何そんなに落ち込んでんのよ」

 とうとうハルヒの幻影なんかも見え始めた。いよいよ俺は危ないかもしれない。

「ワケわかんないわよ、ソレ」



57:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/04/29(火) 23:39:56.28 ID:jXBfmrTP0.net

 受け答えもしてくれるのか。今時の幻影は凄いんだな。

「熱でもあるの?」

 ハルヒが近づいてきて俺の額に手を当てる。実感まであるのか……いや、いやいやいや、流石にそれはおかしいだろう。

「熱は……無いようね」

 つまり、ここにいるのは本物のハルヒってことなのか?もう俺は訳が分からなかった。

「ワケ分かんないのはこっちよ。ノックしても返事がないし。それよりも、ほらコレ。忘れて帰ったでしょ」

 ハルヒの手に握られているのは俺のカバン。何故?

「いきなり走りだしたから驚いたじゃない。それに、カバンだって置いて帰っちゃうし」

「わざわざ届けてくれたのか?」

 感謝しなさいよと不機嫌そうなハルヒからカバンを受け取る。用事が済んだのなら、早く帰ってもらいたかったのだが、
持ってきてくれた手前そうも言えずに困ってしまう。すると、ハルヒがおもむろに俺の机の上に置いてあったラブレターの下書きを手に取った。

 おい、ちょっと待て。

 誰が、何を、どうしたって?



59:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/04/29(火) 23:43:55.16 ID:jXBfmrTP0.net

「………」

「………」

 無言で見つめ合う俺たち。穴があったら入りたいが、ここは現実であってそうそう都合良く穴があるわけではない。
ましてや拳銃などどこにも無い。

「もしかして、学校のやつってキョンが……?」

 恐る恐る訊ねるハルヒに、俺は観念して頷いた。ハルヒは「うあ」だとか「あう」だとか言葉にならない言葉を洩らしている。



60:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/04/29(火) 23:45:36.85 ID:jXBfmrTP0.net

「で、どうなんだ?」

「な、何がよ?」

「ほ、ほら、アレだ……、俺はその……どうなんだ?」

 ハルヒが真っ赤に染まる。俺はきっと赤なんかを通り越して青くなってるだろうよ。

「……いいわよ」

「え?」

「だから……キョンの彼女になってあげてもいいわよって言ってるの」

「…………」

 言葉が出なかった。ただ呆然とハルヒの顔を眺めてしまう。ハルヒは恥ずかしそうに、視線を合わせようとはしないがな。

「……バカ」

 ハルヒの小さな呟きが黄昏に包まれ、そっと響き渡るのだった。



62:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/04/29(火) 23:47:22.41 ID:jXBfmrTP0.net

終わり



63:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/04/29(火) 23:53:45.17 ID:jXBfmrTP0.net

キョン「吸血鬼?」

 鬱陶しい梅雨が明け、うだるような暑さとともに夏がやってきた。夏になると暑さのせいか奇行に走る輩が出てくることもしばしばあるのだが、
よくよく考えればそれは夏だけでなく春先にも変質者は現われたりしている。

 つまりだ、季節の変わり目に体調を壊しやすいのと同じように、少々普段と違った行動に出やすいということではなかろうか。
無論、年がら年中迷惑を振りまき、数えきれない程の奇行をやらかすといった強者も存在するわけだが、
それはマイノリティであるので特に問題無い。いや、問題は有りまくるのだが、
季節の変わり目によって突然おかしくなるといったことはないので少しは心構えができているということだろう。

 さてさて、そんな年中真夏日、毎日最高気温計測中なハルヒなわけなのだが、ここのところは何故か静かに本なんぞを読んでいる。
まるで嵐の前の静けさ、または熱帯夜の暑苦しさと同じようにじわりじわりと俺の心配が加速していっている。

 何事もなくこのまま静かさを保ち続けていただきたいものだが、
そんな小学生のような能天気かつ馬鹿げた希望的観測は完膚無き迄に叩き潰されるのがオチである。
そうなったら誰にもハルヒは止められない。



64:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/04/29(火) 23:56:30.49 ID:jXBfmrTP0.net

 台風が通過するかの如くの被害は避けられない上に、
台風一過やフェーン現象によって過ぎ去った後にも爪痕を残していくことになるだろう。

 で、その後片付けをやらされるのは主に俺であったり、古泉の所属する機関であったり、
長門であったりと、迷惑なことこの上ない。そうならないためにも古泉なんぞがいろいろと画策するのだが、
あまり効果を為さない。結局、ハルヒの手綱は俺が握るように古泉に頼まれて肩を竦める羽目になるのだが……。
まったく、どうしたもんだろうな。

 そんな俺の心配を余所に、長門が読んでいた本をぱたんと閉じて本日の活動は終了。
夏至を過ぎてから徐々に日は短くなっているはずなのだが、窓から射し込む西日をまるでそれを感じさせない。
日中に比べていくらかは気温も下がり涼しくはなっているのだが、まだまだ暑い。

「みんな、お疲れ。あ、キョンはちょっと残ってなさい」



66:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/04/30(水) 00:01:59.64 ID:tyqCiVeA0.net

 などとうだうだ考えていると突然ハルヒからそのような命令を賜った。ハルヒの顔を思わずマジマジと見つめてしまう。
真夏の太陽もかくやといった向日葵のような笑みを浮かべていた。いやな予感しかしないのはどうしてだろうね。

 では、頑張って下さいと古泉がやけに爽やかかつニヤニヤした笑みを残して長門と朝比奈さんと連れ立って部室から退散。
両手に花とはまさにあのことか。後ろから刺されてしまえと呪咀を見送りの言葉に古泉たちは帰ってしまった。
これからの拷問を思うと羨ましいこと果てが無い。

「で、何の用なんだ?」

 どうせくだらんことだろうと続けてハルヒの様子を伺う。相も変わらず素晴らしい笑顔である。



68:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/04/30(水) 00:05:57.56 ID:tyqCiVeA0.net

「夏といえば肝試しよね」

「は?」

「だから、肝試しよ肝試し。日本人なら夏には100%の確率でやる行事よ!」

 引きこもりは絶対しないだろうなんてツッコミにはローキック辺りで返されそうなので口は慎んでおく。

「でさ、あたし考えたの。日本のお化けだけが肝試しに出てくるとは限らないわけじゃない」

 言われてみれば確かにそうかもしれない。
最近のお化け屋敷で登場するのはゾンビといった海外からの輸入お化けである。
そう考えると、肝試しに日本らしい要素が少なくなってきているのではないだろうか。

「それに、今は国際的な付き合いが必要なわけでしょ」

「で、結局何が言いたいんだ」

 聞きたくないが聞いておいてやろう。



69:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/04/30(水) 00:07:43.38 ID:tyqCiVeA0.net

「つまり、あたしたちもグローバルに活動するってことよ!」

 SOS団の名を世界に知らしめるいいチャンスよ、とハルヒは拳を握りしめて熱弁する。

「だから、ちょっと吸血鬼の真似をするわ」

「まてまて、話が前後で繋がってるようでまったく繋がってないだろう」

「そんなことないわよ。ただ探すだけじゃ出てきてくれないかもしれないけど、
こっちが仲間の振りをすれば向こうだって勘違いしてノコノコと出てくるわよ。それで出てきたところを捕まえればいいのよ」

 何とも無茶苦茶な理論を振りかざしてくれる。どこにそんな間抜けな吸血鬼がいるだろうか。
そもそも、俺たちに吸血鬼かどうかなんて判断がつくかどうかあやしいところだ。

 いや、それ以前に吸血鬼なんていないだろう……いないよな?



71:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/04/30(水) 00:10:16.38 ID:tyqCiVeA0.net

「で、具体的にどうするんだ?」

「あたしがキョンの血を吸うわ」

 誰が、誰に何をするって?

「だから、あたしがキョンの血を吸うの」

 勘弁してくれよと椅子から立ち上がり足早に立ち去ろうとしたところで、
ハルヒに首根っこを捕まれて強制的に椅子に引き戻される。その細腕のどこにそんな力があるのか甚だ疑問である。

「逃げるな、馬鹿キョン!」

 そして正面に回り込んだハルヒが俺の太ももの上に座って――まてまてまて、お前はいったい何をするつもりだ。

「だから、血を吸うのよ。何回言わせるのよ、まったく」

 さも当たり前にとんでもないことを言ってくれる。どうやって血を吸うとかではなく、
そもそもそんな発想を思い付くハルヒの頭の中はいったいぜんたいどうなっているんだろうね。
機会があれば覗いてみたい気がする。きっとカオスな宇宙空間が広がっているんだろうな。



72:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/04/30(水) 00:12:25.14 ID:tyqCiVeA0.net

「そんなに心配しなくても大丈夫よ。血を吸う真似だから」

「そうなのか?」

「当たり前じゃない。あたし、血なんて飲めないわよ」

 ハルヒならばやりかねないと思っていたぶん、体の力がどっと抜ける。とりあえずは痛い思いをしなくて良さそうだ。

「ほら、こうやって正面から抱き締めて首筋に顔をうずめていたらキョンの匂いがする――じゃなくて、血を吸ってるみたいに見えるでしょ!」

「そうか?」

「そうよ!ほら、キョンは黙ってじっとしてる!」

 背中に回されたハルヒの腕に力が込められる。きっとハルヒが満足するまでこのままなんだろうね。
そもそも、学校の片隅にある部室で吸血鬼の真似事をしていたところで、誰が気付くというのだろうか。
吸血鬼はおろか、生徒や教師にだって気付かれないだろう。

 それともう一つ。もし吸血鬼が今の俺たちを見つけたとしたら、どこからどう見ても吸血という行為ではなく、
抱き締め合っているといった風にしか見えないんだろうね。

 まったく、やれやれだ。



73:以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/04/30(水) 00:13:16.18 ID:tyqCiVeA0.net

終わり



転載元
キョン「犬?」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1398777905/
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         コメント一覧 (13)

          • 1. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年12月19日 18:41
          • やっぱハルキョンは最高なんじゃ〜


            ……でも前も同じようなssあったよな?
          • 2. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年12月19日 19:48
          • 大丈夫、正妻は私…
          • 3. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年12月19日 20:05
          • ハルキョンはいいものだ
          • 4. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年12月19日 20:10
          • ほぇ〜、私はどうなるんですかぁ?
          • 5. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年12月19日 21:14
          • これはこれは…困った事になりそうですね。
          • 6. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年12月19日 21:46
          • くつくつ、どうやら現実から目を背けている哀れな人たちがいるようだね
          • 7. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年12月20日 01:36
          • 終わり
            毎回起しかない作者だなあ…
          • 8. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年12月20日 02:43
          • 起しかないってなぁ同感だがそれで面白いと感じる人がいる文を書けるのは地味にすげぇな
          • 9. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年12月20日 03:38
          • 無口美少女の長門さんでやるべき。
          • 10. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年12月20日 11:30
          • あら、ここはやっぱり世話焼き美少女の私じゃないかしら?
          • 11. MCC
          • 2014年12月22日 02:21
          • 5 悪くない。
          • 12. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2016年05月21日 18:26
          • いやっ!本妻は元気で笑顔いっぱいのアタシっさ!
          • 13. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2016年05月24日 06:19
          • なんでこんなに負け犬が集まってるんですかねえ...

        はじめに

        コメント、はてブなどなど
        ありがとうございます(`・ω・´)

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