井之頭五郎「東京都 品川区の湯豆腐」
「…」
もう千葉県では雪が降ったんだっけ?
…暖冬って、言ってたのに。
もう世間ではクリスマスの準備だ。
「…お」
『クリスマスケーキ、予約受付中!』
『クリスマスパーティーセット、今すぐ予約!』
…俺には、関係無いか。
時間や社会に囚われず、幸福に空腹を満たすとき、つかの間、彼は自分勝手になり、自由になる。
誰にも邪魔されず、気を遣わずものを食べるという孤高の行為。
この行為こそが、現代人に平等に与えられた最高の癒し、と言えるのである。
『東京都 品川区の湯豆腐』
「待ってよ~!」
「…」
……長袖に、長ズボン。
…俺の子供時代は、冬でも半袖、半ズボンだったっけ?
あんな風に、手袋して帽子も被ってってのは無かった気がする。
…子供は風の子。
「…フッ」
…ちょっと上着を脱いでみようか。
子供時代を、少し思い出したりして…。
「………!!さぶっ!」
………いかんいかん。
大人は火の子。
風に吹かれちゃ、火が消えてしまう。
…何やってんだ、俺。
『すいません井之頭さん…実は約束してた日なんですけど、仕事だったの忘れてまして…』
『ああ大丈夫ですよ。でしたらまた日を改めるという事で…』
『ん~…いえ!大丈夫です!多分職場にいると思うので!』
『…え?は、はぁ…』
……。
職場、とは言っていたけど。
「……ここ?」
これ、交番だよなあ。
「はい?何でしょうか?」
「あ、私そういうんじゃないんですよ…」
「え?」
「い、いえ、あの…加賀美さん、加賀美さんとお約束をしておりまして…」
「加賀美ですか?え~っと…結構前に出てったのでもうすぐ帰ってくると思いますが…貴方は?」
「ええと、…私、こういう者で…」
「…個人貿易商、井之頭、五郎さん…あ!はいはい!加賀美から話聞いてますよ!…よろしかったら、私が代わりにお渡ししましょうか?」
「ああいえ、仕事ですので…私が」
「そうですか?でしたら…こちらでお待ちいただけますか?加賀美に連絡するので」
「は、はい…」
…そういうのって、俺の事?
…しかし怒られてるなあ。
しかし若いうちの苦労は買ってでもしろと言われているし、頑張れ、加賀美君。
「…」
……しかし。
「ママー!あの人捕まってるのー?」
「シッ!!何て事言ってるの!ほら指ささないの!!」
……場所が場所だからか、視線が痛い。
「馬鹿!俺よりもお客さんに謝れ!」
「は、はい!すいません!!」
「あ、い、いえ、大丈夫ですから、気にしないで下さい…私が早く来てしまっただけですから…」
「いえ、俺の方から呼んでおいて、こんな事は許されません!」
…何だか、熱い。
熱血漢とは、こういうものか。
「ええと…あ、改めて自己紹介します!加賀美 新です!!」
…。
アラタが、アラタめて自己紹介…。
「……井之頭さん?」
「!?…あ、はい…井之頭 五郎です」
「はい!よろしくお願いします!」
「…はい、はい!ちゃんと動いてます!ありがとうございます!!」
「はは…良かったです。お父様から頂いたとか」
「はい………死んだ父親から」
「…………」
「…………」
うわあ~…。
やってしまった…。
…どうしよう…。
「……でも、きっと親父も喜んでます!本当にありがとうございました!」
「あ、は、はい」
…何だか、問題無さそう。
「はい!また必ずお電話します!」
…必ずって。
「…」ペコ
……。
何だか、輝いている。
ああいう若者は、今少ないんじゃないだろうか。
この世の中で、彼のような存在は貴重なのだろう。
「……!!」
……まだ見てる。
…とりあえず足早に退散しよう。
…おいおい、何だかすごい所に来ちゃったぞ。
…まさか、道に迷った?
品川はそれなりに道を知ってるはずだが。
まだまだここは攻略出来てないということか。
もしかしたら新しい発見があるかもしれない。
…そう思ったら。
急に。
腹が。
減った…。
道に迷ったのではなく、新規開拓だ。
この辺りで、店を探そう。
ううむ…。
どの店も魅力的。
だけどいまいちピンと来ない。
今の俺は何腹なのか。
…焦るんじゃない。今俺は腹が減ってるだけなんだ。
「…ん」
『Bistro la Salle』
……洋食屋。
「…え?」
『本日、湯豆腐あります』
…ええ?
洋食なのに、和食。
変わってる。
…ちょっと見てみたい。
「…」
よし、ここにしよう。
本日、という事は明日には無いかもしれない。
…きっとこれは、神様が俺にこの店に入れと告げているんだ。
…店は、普通。
客層も、普通。
「お一人様ですか?」
「あ、はい…」
「こちらにどうぞー」
女子高生くらいの、子。
アルバイト、頑張ってるんだなあ。
…何だか変な想像をしてしまうな。
家の為に、頑張ってるとか…。
…いや、いかん。
変な詮索はよそう。
「メニューが決まりましたら…」
「あ、あの湯豆腐を…」
「…」
「…」
「…えっと…湯豆腐、ですね?」
「は、はい」
「分かりました、少々お待ちください」
「はい…」
「湯豆腐来たぞ、早く作れよ」
「!?」
やはり、女ってのは分からん。
「…ん?」
「……」
おいおい、何か若い男が出てきたぞ…。
何だろう、一体。
「…俺をご指名とは、お目が高いな」
「…えっ?」
「は…はぁ」
…ええ~?
何だか訳が分からない人が出てきたぞ…。
「…えっと…貴方が作るんですか?」
「ああ。天の道を行き、総てを司ど…」ガンッ
「さっさと作れよ!」
「ひ、ひより…」
……どうやら、あの女の子の方が、強いみたいだ。
…しかしちょいと焦りすぎたか。
何かもう一品頼もうかな。
湯豆腐だけでは、何だかバランスが悪い。
…しかし和食を頼んでしまった。
洋食を頼んでごちゃまぜになるのは、俺の主義じゃない。
「…ん?」
『ひよりスペシャル』
…ひより、というのはさっきのあの子か。
…これはどうやらデザートのようだが。
…よし、デザートは別腹だ。
これも後で頼むとしよう。
…しかしさっきの男。
何を言いかけたんだろうか。
…ちょいと気になる。
…。
何だか、随分シンプル。
…もっとこう、奇抜なのが来るのかと思ったが。
「…いただきます」
……。
「…ん」
…美味い。
豆腐が、濃厚。
ふんわりと、やんわりと、口の中でとろける。
…このつゆも良い。
…。
柑橘系だけど、しつこくない。
豆腐の旨味を邪魔しない程度にアシストしてる。
…かなり美味い。
あの男、やりおる。
シンプルイズベスト。
…こういうのが、良い。
家でも、割と簡単に作れるのに。
店だと、高級感がある。
作り手によって、無限の可能性を持っている。
それが、湯豆腐だ。
……たまらん。
美味かった。
…俺の選択は、間違ってなかったようだ。
「ごちそうs…!」
「?」
……いかんいかん。
まだ頼む物があるじゃないか。
えっと…。
「…すいません。このひよりスペシャルと言うのを下さい」
「!…は、はい!」
…あ。
そういえば、あの子、ひよりって名前だったんだよな。
笑顔で厨房に入って行ったという事は、あの子が作ってくれるんだろう。
…何だか、微笑ましい。
おお…。
さっきとは打って変わって、華やか。
この子も、やりおる。
…これも、美味し。
まるでクリームの雲に包まれてるかのような錯覚を覚える。
どれも一口サイズになってるから、色々楽しめる。
これなら迷わずに済む。
……。
甘い物は、やはり良い。
疲れが身体中から抜けて出ていくようだ。
…思わず、脱力しそう。
「……ご馳走様でした」
…またお越します。
何だか幸せな気分だ。
穴に落ちたと思ったら、抜け道があって、宝を発見出来た。
「…ん?」
「ん?」
……この男は、湯豆腐の…。
「…ひよりの料理、どうだった?」
「……とても、美味しかったです。貴方の湯豆腐も」
「……そうか」
「…あ、あの」
「ん…?」
「さっき、貴方は何を言いかけたんですか?」
「……名前さ」
「名前?」
「…天の道を行き、総てを司る男、天道 総司だ」
「……………井之頭、五郎です」
…………ダメだ。全く思い浮かばなかった。
俺も、何か考えておこうかな。
ようやく広い道に戻ってきたぞ…。
後は駅に戻るだけ、か。
「…お」
「はいはいおばあちゃん!無理しないで、ほらおんぶしますよ!」
「すいませんねぇ…ありがとうございます…」
「いきますよー!」
………。
きっと、日本の未来は明るい。
さて、明日は浅草だ。
ゴロ~
ゴロ~
ゴロ~
イッノッガシッラ
ゴロ~
ゴロ~
ゴロ~
イッノッガシッラ
今回久住さんが向かった店は…。
「ってかめちゃくちゃ入り組んでるよね…。迷うよこれ(笑)…だけど、…おっ!?こんな所に!!」
「(笑)」
「いや…偶然かな?(笑)」
「また何処かに行ったみたいで…」
「……まあいても頼めないんですけどね(笑)僕は他のやつじゃないといけないから(笑)」
「洋食という事で、ハンバーグを…それと、…グレープジュースを(笑)」
「……あ、もう肉汁がすんごい!これはたまりませんよ皆さん!」
「付け合わせのグレープジュースがね、また合うんだこれが!(笑)」
「あ、じゃあ加賀美君も元々ここで働いてたんだ!」
「そうなんですよ~その時の写真、ほら!これこれ!」
「あ、この時はまだひよりちゃんも総司君も可愛らしいんですね!…女将さんも美人(笑)」
「いや~ん今も!(笑)」
「総司君は滅多に来ないんですか?」
「う~ん…気が向いたらとかじゃなくて、良い食材が入ったら来るからねぇ…」
「何それ(笑)」
「(笑)」
今回久住さんが来たこのBistro la Salleは品川駅から二本目の信号を左に曲がって入り組んだ道に行くとあります
運が良ければ天の道を行く男の料理が食べられるかも…?
転載元
井之頭五郎「東京都 品川区の湯豆腐」
http://hayabusa.open2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1415968773/
井之頭五郎「東京都 品川区の湯豆腐」
http://hayabusa.open2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1415968773/
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コメント一覧 (24)
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- 2014年11月15日 00:56
- 加賀美のオヤジっていつ死んだんだっけ?
確か最終話ちゃんと生きてたはずじゃ?
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- 2014年11月15日 01:50
- 吾郎から五郎に治ったね
細かいのはわかっているんだが
-
- 2014年11月15日 02:46
- まさかのカブト
懐かしすぎ
-
- 2014年11月15日 02:50
- あれ?シシーラワーム死ななかったっけ?
-
- 2014年11月15日 03:18
- やだやだやだ!ひよりスペシャル食べたい食べたい食べたいー!
-
- 2014年11月15日 04:59
- イマイチ
-
- 2014年11月15日 07:48
- ※2
最終回時から年数経ってる設定なんじゃなかろか
仮にゴローが訪れたのが現在(2014年)なら、8年の間に何かあった可能性も否定しきれない
地獄兄が金色になって妹が出来たりしたように
-
- 2014年11月15日 08:03
- 是非、六軒島で書いてもらいたい限り。
-
- 2014年11月15日 08:51
- まさかの仮面ライダーかよww
-
- 2014年11月15日 08:52
- カブトか……懐かしい……オーズとかで書いても良いのよ?
-
- 2014年11月15日 09:01
- ※11
その組み合わせ…嫌いじゃないわ!!
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- 2014年11月15日 09:17
- レストランアギトで神にアームロック
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- 2014年11月15日 10:04
- え?ゴローちゃんがザビーゼクターをキャッチして変身?
-
- 2014年11月15日 10:40
- カ・ガーミン!
-
- 2014年11月15日 13:06
- 鯖味噌じゃないのか
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- 2014年11月15日 14:35
- ほとんどの仮面ライダーに飯食う所出てくるからいろいろ行けるよなあこれ
-
- 2014年11月15日 14:48
- ヘルヘイムの実を喰らうゴローちゃんとかアリやな!
-
- 2014年11月15日 15:30
- ええのう
-
- 2014年11月15日 16:32
- ミルクディッパーの愛理さんの独特な料理ってお客さんに出してないよな…?
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- 2014年11月15日 17:25
- 頭の三点リーダーとか、ちょいちょいギャグ挟むとかが
ドラマ版ゴローちゃんなんだよな
-
- 2014年11月15日 17:27
- 確か響は和菓子屋でウィザードはドーナツ屋、ブレイドはレストランだっけ?
Wの風都も食事処多いし旅人のクウガと学生のフォーゼと通りすがりのディケイドもいけそうではあるな
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- 2014年11月15日 18:22
- 前回カブトと勘違いしてたら今回カブトか、豆腐なら麻婆と思ったが湯豆腐でくるとは
面白かった、次回作も楽しみだ
米22
風都なら名物の風麺があるな
-
- 2014年11月16日 07:57
- 鯖味噌ちゃうんかいwww
だが良かった。
個人的に大歓喜だわ