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御坂「もう、いいや」

1:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/08(土) 22:25:21.43 ID:0NNV7K9wo


◆CAUTION◆



この物語には残酷な描写、グロテスクな描写、性的な描写が含まれています。

『とある魔術の禁書目録』15巻まで、ならびに19巻、SS1・2巻、
『とある科学の超電磁砲』5巻までを読んだ上での閲覧をお勧めします。
さらにスレッド進行時に発表されているシリーズ全ての既刊内容に触れられている恐れがあります。

その上で、独自解釈、独自設定、原作と明確な矛盾がある事をご了承ください。
なお、原作22巻以降の内容に関しては考慮されません。

また閲覧する際は、アスキーアート系の表記を含むため、専用ブラウザ「Jane Style」の使用を強くお勧めします。




2:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/08(土) 22:27:17.58 ID:0NNV7K9wo

――山のあなたの空遠く、

       「幸」住むと人のいふ。

       ああ、われひとと尋めゆきて、

       涙さしぐみ、かへりきぬ。

       山のあなたになほ遠く、

       「幸」住むと人のいふ。



『山のあなた』

カール・ブッセ



3:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/08(土) 22:28:37.17 ID:0NNV7K9wo



                 グランギニョール
――と あ る 世 界 の 残 酷 歌 劇――

         ~ 第 四 夜 ~









5:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/08(土) 22:39:16.43 ID:0NNV7K9wo

ビーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



6:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/08(土) 22:40:44.93 ID:0NNV7K9wo

――――――――――――――――――――

              終幕

(悲劇或いは喜劇、たった一つの冴えないやり方)



           『みさかみこと』

――――――――――――――――――――




7:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/08(土) 22:45:49.41 ID:0NNV7K9wo

大変長らくお待たせ致しました。
それでは最終日、第四夜の開演で御座います。

何方様もゆるりと御歓談の上御寛ぎ下さい。


なお、この物語の第一夜(序幕・第一幕・第二幕)、第二夜(幕間)、第三夜(幕前)は以下に収録されております。
合わせてお楽しみ下さい。

第一夜
御坂「――行くわよ、幻想殺し」

第二夜
御坂「名前を呼んで

第三夜
御坂「幸福も不幸も、いらない」



10:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/08(土) 23:25:18.66 ID:0NNV7K9wo

「――よぉ」

ビルを出て少し歩いたところで少年に出会った。

声を掛けられそちらを向くと、どこかで見たような顔がそこに立っていた。

「えっと、アンタどこかで私と会った事あったっけ?」

「いんや、多分初対面だぜ」

彼は苦笑し、そして名乗る。

「垣根帝督だよ、超電磁砲」

「……ああ」

なるほど、と御坂は思う。見覚えがあるはずだ。

「そっか。昼間あの子を殺したの、アンタだったわね」

「おいおい。あっちが勝手に死んだんだぜ。妙な言い掛かりはよしてくれよ」

嘆息し肩を竦めようとして――失敗して、垣根はばつの悪そうな顔を一瞬浮かべる。
それから溜め息を一つ吐くと彼は御坂に尋ねた。

「なあ。お前あっちで俺のツレに会わなかったか?」

「ツレ?」

今歩いてきた方を顎で示され、御坂は小首を傾げた。

「派手なドレス着た馬鹿女だよ」

「ああ――」

垣根はどこかおどけるような笑みを口の端に浮かべながらも、まったく外連味の欠片も見せず吐き捨てるように言い放つ。
その言葉に御坂は納得し、柔らかな笑みを浮かべ頷いた。

「あっちで割れてるわ」



12:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/08(土) 23:54:50.61 ID:0NNV7K9wo

御坂の答えに垣根は少しの間彼女を見詰め、それからふっと目を閉じ小さく「そうか」と呟いた。

「携帯が通じなかった時点である程度予想はしてたが。
 アイツじゃ相性が悪すぎる。『心理掌握』にアイツが勝てる道理なんて――」

そこまで言葉にして、垣根は御坂を見て眉を顰めた。

「おい……『心理掌握』の奴はどうした」

「…………さあ?」

先程と同じように御坂はまた首を傾げる。
その仕草はどこか稚気めいていて、垣根が何を言っているのかまるで分からないといった態だ。

いや、そもそも最初から――何か根本的なところがずれているようで――。

「ちょっと前まで一緒にいたんだけどね。その、アンタのツレと会う前あたりまで。
 でもアイツってばなんか訳分からないこと言って勝手にどっか行っちゃったわよ」

非難、というよりも愚痴のような口調で御坂は溜め息を吐く。

正直なところ一緒にいるとばかり思っていた『心理掌握』の同行など垣根にはどうでもいい。
だが彼女の言った事が本当なら――。

(こいつ……単独で『心理定規』を抜いたのか……?)

既にこの世にはいないだろう少女の顔が頭を過ぎり垣根は静かに奥歯を噛む。

彼女の『心理定規』は超能力者である『心理掌握』に比べれば見劣りこそすれど、だからといって脆弱だというはずもない。
想念のベクトルを操作するあの能力は最強であった『一方通行』に由来するものだ。
それが仮初のものだとしても間違いなく学園都市でも屈指の能力者であったはずだ。

ある種の絶対的な強制力、自身が持っている想いは絶対に破壊することなどできない。
その想いが強ければ強いほど個我の根幹、アイデンティティと深く結び付いているからに他ならない。
他者へ向けられた想いはそのまま自身の存在証明だ。
絶対的なルールであり枠組み、枷だからこそ絶対に覆す事などできないのだが――。



13:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/09(日) 00:37:55.91 ID:IY+XuREbo

「電気操作……脳内の神経パルスでも操って防御したか? また随分と化けたもんだな。
 俺の知ってる超電磁砲はそんな事できるような強度じゃなかったと思ったんだが。
 ……っつかそもそも、そういう事をするようなタマじゃなかったと思うんだが」

「買い被りすぎよ、アンタ。それにアンタが私の何を知ってるっていうの」

くすくすと笑う御坂に垣根の顔は徐々に苦々しいものとなっていく。

そう、この相手には取り繕う必要がないのだ。
彼女には斜に構えようと皮肉を交えようと一切の意味がない。

なまじ頭の回転が早いだけに、こちらがどれだけ曲折的な言葉を弄したとしても彼女はその奥底にある生のままの意味を正しく理解する。

そしてきっと、それでもなおあの笑みは崩れないだろう。

「多少は分かるさ。お前は『御坂美琴』とは随分と変わっちまったって事くらいはな」

何故なら。



先程からずっと腕に抱いている片足がおかしな方向に折れ曲がった少女を前にしても顔色一つ変えないのだから。



垣根の知る彼女は死んだように微動だにしない白井黒子を前にして平然としているような少女ではない。
ましてそんな状況を前にして笑っているなど、直接彼女と会うのが始めてだとしてもありえない事だと分かる。

そう。つまり、きっと。
彼女は自分たちと同じ類のモノに成り果ててしまったのだろう。

自らの連れ合いだと言った少女の名を心の片隅に思い浮かべ、僅かばかりの謝罪をして垣根は奥歯を噛み締める。

まったく――最悪にクソッタレな世界だよ、ここは。
お前もきっとそう思うだろう――?



14:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/09(日) 01:51:20.89 ID:IY+XuREbo

そう思っていたのに。

「――よりによってアンタがそれを言う?」

ぴしり、と。
何かに亀裂が入る。

御坂の声色にも、表情にも変化はない。
だが一瞬だけ――彼女の気配とでも呼ぶべきものが変質したのを垣根は間違いなく感じ取った。

「ああ、そうだ」

刹那の変化が錯覚だとでもいうように御坂は変わらぬ調子で微笑を垣根に向ける。
けれど暗がりの向こう、可憐な花のような笑みの中、薄く細められた目だけがまるで無明の穴のようで。

「アンタにもさ、一応。訊いておかないと」

僅かに上げられた口の形はまるで罅割れのよう。

「先週、独立記念日にさ。一方通行と戦ってビルぶっ壊したのってアンタで間違いないわよね」

「……どういう意味だ」

「そのままの意味よ?」

寒気がするほど儚げな笑みのまま、御坂は矢張り何が分からないのかと首を傾げる。

「アンタよね? それ以外に思いつかないし」

「――そうだよ」

頷いた。

「俺が一方通行を叩き潰した」



15:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/09(日) 02:09:16.87 ID:IY+XuREbo

「――――そっか、やっぱりアンタだった訳ね」

垣根の言葉に満足したのか、御坂もまた頷き。

そして満面の笑みを垣根に向け。










「アンタが、当麻を、殺したんだ」










囁くような声と同時に――その気配が爆ぜた。



17:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/09(日) 02:31:07.61 ID:IY+XuREbo

「ッ――――!?」

突如、莫大な質量をもって噴出した気配が確かな感触を伴って垣根に吹き付ける。
今の今まで彼女の笑顔の仮面の下に押し込められ続けていた想念がついに決壊する。
周囲の夜闇すら霞んでしまうほどの暗黒は濁流となって彼女の内から溢れ出した。

傲慢も嫉妬も憤怒も怠惰も強欲も暴食も淫蕩もない、純粋な殺意。

殺意。
殺意。
殺意。

他の何も入る余地がないほどまでに純度の高い殺意の嵐。
ただ純粋に『殺意』としか称しようがない。他のどんな言葉であってもそれを言い表す事などできはしない。
それは本来あるべき感情すらも否定して、機械を思わせるほどの単純さで垣根に向かって放射された。

「分かった。分かったわ垣根帝督。第二位、『未元物質』。
 ああ、でも今はアイツがいないんじゃあ序列も繰り上がるのかしら。暫定第一位」

くすくすと。
可憐な笑顔を浮かべながらも、口調、声色、表情、仕草、その全てが溢れ返る志向とは乖離している。
表面ばかり美しく着飾った、まるで宝石箱のよう。
中にどんなものが詰まっていようと素晴らしい意匠はそれに一切頓着せずただその形を静かに誇るだけだ。

「そもそもさ、序列なんてただのラベルでしょ?
 私もアンタもアイツも、最初からまったく違うんだからそれを比べる事自体が間違ってるのよ。
 兎と鳥と魚と蛇を比べ合っても意味なんてないに決まってるのに。そんな事も分からないの?
 馬鹿みたい。下らないものに一喜一憂しちゃって、他人を蹴落として手に入れたオモチャの勲章を自慢げに見せたってさ」

彼女は美しく笑い、優しい声色で言う。

「所詮アンタはアンタでしかないんだから、何も変わりっこないわよ。
 俺は凄いんだー、強いんだー、学園都市最強の能力者なんだー。はいはいカッコイイわね。勝手にやってればいいじゃない。
 でもさ、アンタ少しでも自分の下らない遊びに付き合わされる周りの事考えた事ある?
 アンタがどれだけ素晴らしい人格者でも、それこそ聖人みたいな奴でもさ。自己満足のためだけに周りを巻き込んでんじゃないわよ。
 そんな事も分からないの? 学校で習わなかった? それくらい中学生の私でも分かるわよ? 小学校からやりなおしたらどうなの?」



18:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/09(日) 02:51:43.47 ID:IY+XuREbo

柔らかな唇から零れる言葉は全て殺意の塊だ。
その一音一音全てが『殺す』という意図を内包した呪いの響きを帯びている。

「一方通行はアンタのお遊戯に乗ってくれたのかもしれない。それはいいわよ。当人たちで楽しめばいいじゃない。
 でもたったそれだけのために付き合わされる方は堪ったもんじゃないわ。あんまりじゃない?」

「テメ――本当に――」

写真で見た、あの眩しい笑顔の少女と同じモノなのか。

見た目だけは同じなのに、中身がまるで違う。
器だけそっくり同じコピーを作って中身だけ丸ごと入れ替えたよう。
その事実に本能的な嫌悪感を抱き脊髄の中を凍り付いた血液が駆け巡る。

そう。もしかしたら彼女こそが。

学園都市の闇に蠢く悪夢のひとつ。
                 クローン
いたいけな少女の皮を被った悪魔なのだと信じてしまいたくなる。

世界の裏側、悪意の深奥たる学園都市の暗部。
そんな地獄に身を窶した垣根でさえも彼女には遠く及ばない。

絶望の深度が違う。闇黒の明度が違う。
彼女の世界には救いなどあるはずもなく、光など欠片も存在しない。
もはや存在理由さえも失った生物の黒点。絶対零度の漆黒の炎がそこにあった。

「アイツの願いはきっと何よりも儚くて、どうしようもなく子供じみた、それこそ幻想みたいなものだったろうけれど」

闇に溶けるような黒の外套に収められた左腕が微動する。

「少なくともアンタみたいな奴が踏み躙っていいものなんかじゃなかった」

そしてこの時ようやく垣根は理解する。
彼女を穿った穴、その魂までも溶かし尽くし焼き尽くした少年の存在を。

「だから私はアンタを殺す。アイツの幻想を殺したツケを払ってもらうわ。
 アンタ、アイツを殺したんだし、まさか文句なんてないわよね?」

そう言って彼女は怖気が走るほど殺意に濡れた笑顔を浮かべ優しく微笑むのだ。



19:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/09(日) 03:16:14.04 ID:IY+XuREbo

「当麻がいない世界なんてどうでもいいし」

だから、と彼女は破滅的に笑う。

森羅万象あらゆるものは彼女の前では無価値に等しい。
今の彼女にとって総ては零か一かの二つであり、一は唯でしかない。

その唯一が零となったのなら。

零も同じく引いてやらなければならない。

「遊びましょう、垣根帝督、暫定第一位。
 アンタが一方通行を倒して成り上がったっていうなら私にもアンタを殺す権利はあるわよね。
 そっちのルールに付き合ってあげるわ『未元物質』。だからアンタも――」

暗闇が罅割れるように白い光が彼女の周囲を舞う。

「私に付き合ってくれても、ねぇ、いいでしょう?」

既に彼女に理屈など通用しない。
つい先程彼女が語った呪いの言葉に彼女自身が真っ向から矛盾している。
彼女に大義などありはしない。あるのは虚飾の名分であり客観的には自己満足でしかない。

だが、彼女の世界では。
彼女があらゆる総ての中心として観測する世界では矛盾すらも零に等しいのだ。

「アンタがそんなどうしようもなく下らない理由で私の幻想を殺すなら、私は――」

彼女の内から溢れる殺意の奔流が集束してゆく。

閉じるのではない。まして消えるはずなどない。
絞られる。単一の目的を設定したが為に総てがそこに集約される。
ただ一点、垣根帝督の殺害を目的として漆黒の殺意は薄氷よりもなお鋭利な刃を形成してゆく。



「まずはアンタの――そのふざけた幻想を殺すわ」



彼女が知らないはずの言葉が自然と口から紡がれ。

今や呪いの言葉となった幻想を証明するかのように夜闇を白光が切り裂いた。



39:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/17(月) 00:04:27.86 ID:UVpNHGeEo

空間を稲妻が疾駆する。

水平方向への落雷というありえない現象。
音をも遥か後方に置き去りにして白雷は暗闇を割り、刹那で垣根へと飛来した。

空間そのものが炸裂するような大衝撃を受け大気が鳴動する。

莫大な音波と膨張した空気の衝撃によって周囲のビルの窓ガラスが残らず砕け屋内へと降り注いだ。
幸いにして――というべきだろうか。辺りに立ち並ぶビルに人の気配はない。

だが音そのものが暴力となるほどの一撃が、余波を全く顧みられずに打たれれば騒ぎとなる事は間違いない。

ただでさえ夕方には往来のど真ん中で超能力者が戦闘を行い、マンション一つが崩壊し、最新鋭機のヘリが電波ジャックによって強奪されている。
その上すぐ傍、廃墟となった研究所ではつい先ほど白井と砂皿による死闘が繰り広げられていたばかりだ。

警備員らはまだ現場に残っているだろう。だというのに周囲に轟く大音声を躊躇なく振り撒く。
御坂美琴は既に秘密裏に事を進めようなどとは微塵も思っていない。

しかし狂気に罹りながらも御坂は間違いなく正気だった。

我を忘れてなどいない。冷静な思考のまま、その思いを烈火の如く燃やしている。
凍り付いた炎という矛盾。それこそが彼女ら超能力者だけが至る事のできる境地。
その世界は自己の激情などで瓦解するほど柔なものではない。

理路整然と、完璧に計算されつくされた超常。
もはや一個世界を内包しているともいえるそれらは自身の感情すらも統制下に置き機械的なまでの完全さで世界を汚染する。

御坂は警備員など眼中にない訳ではない。
正しくリスクリターンを計算した上で――道に転がる小石ほどの障害にもならないと断じただけだ。



40:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/17(月) 00:29:03.23 ID:UVpNHGeEo

人の反射速度の限界値すら振り切って放たれた一撃を、垣根は雷光よりもなお早く展開した翼で迎え撃つ。
この世ならざる物質に打ち払われた雷電は四散しながらもその熱量を無差別に放射し路面や周囲の壁面を穿つ。

彼もまた超能力者の一角だ。
御坂と合い見えた瞬間から、この場で戦闘に入るリスクを計算していた。

不確定要素はあったものの御坂の様子と、そして『心理定規』の少女が殺害されたという事実。
それらを機械的に判断して警備員など歯牙にも掛けないだろう可能性も考慮していた。

だが垣根は驚愕せずにはいられない。

(コイツ――白井を迷わず撃ちやがった――!)

腕に抱えた少女は保険だった。
人質、とも言えるだろう。もちろん彼女が白井の死さえも厭わない事すら考えた。

だが彼女は、何の躊躇も、それこそ眼中にすら入れず、一顧だにしない。
友人、後輩、仲間、そういう気楽な連中が好む連帯意識は欠片もない。便利な手駒とすら思っていない。

御坂の目的は垣根だ。それが果たされた今、白井は必要ない。

『未元物質』垣根帝督を、白井がいなくとも打倒できると判断しただけだ。

(だが、この思考回路は――)

自分たちのような暗部に属する者独特のものだ。
これに情の絡む余地などない。全ては打算で行われる。
そんな冷え凝った理を安穏と微温湯に浸ってきた彼女が解せるはずがないのだ。
つい先日まで表舞台にいた御坂にとって一朝一夕で理解できるようなものではない。

つまり、そうしなければならなかったのだろう。
何が何でも慣れなければ、そういう思考に至らなければならないような状態になってしまい――結果、こうなった。



41:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/17(月) 00:55:47.75 ID:UVpNHGeEo

「ちっ……!」
       、 、
舌打ちして荷物を放り捨てる。

いくら能力の行使そのものに手足が必要ないとはいえ触れているだけで思考の枷となる。
幼い、それも大怪我を負い気絶した少女を投げ捨てるという行為に罪悪感を感じない訳でない。
だが同時に一切躊躇せずに行動にする。ある程度地点や速度、体勢などを考慮してやるくらいの余裕はあった。

身を軽くしたのは動きを行うためだ。
背から展開した六枚の翼を翻し、けれど風を打つ訳でもなく垣根は後方へと飛び上がる。

文字通りの雷速である御坂の能力に対し距離を取る事など意味はない。

反応速度は言うに及ばず、射程はそれこそ天上へと達するだろう。

だが能力を行使するのはあくまで御坂自身。
彼女は垣根や、そして一方通行のように空を翔る事など出来はせず――。

夜天へと舞い上がった垣根を、しかし御坂は追う。

まずは電灯、そしてビルの鉄骨へと磁力の腕を手繰り寄せ、コンクリートの壁面を蹴り夜空へと駆け上がる。



42:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/17(月) 01:08:44.83 ID:UVpNHGeEo

そして開けた視界にあるのは月光と電光に照らされた石の地平だ。

学園都市を形作る無数の建造物が檜舞台を作り上げている。
建物ごとに凹凸のある石原は所々に道や川の亀裂を走らせながらもどこまでも続いている。

見渡す限りに広がる月下の舞台。
そこに、今やこの二人こそが学園都市の頂点なのだという両の超能力者の影が躍った。



「来いよ超電磁砲、テメェはもうどうなってもお終いだろうが。俺が地獄に叩き落してやるよ――!」

片や、月光に六枚の白翼を煌かせビルの森を見下ろす『未元物質』垣根帝督。



「そうよ、お仕舞いにするの。アンタの下らない戯言も妄言も全部、私が終わらせてやるわ――!」

片や、自ら雷光を身に纏い黒衣を翻し月天を見上げる『超電磁砲』御坂美琴。



二度目の頂上決戦はこうして幕を開いた。



43:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/17(月) 01:58:49.19 ID:UVpNHGeEo

開幕の合図となったのは垣根の一撃だ。

音叉のように翼を振動させ大気を衝撃波として放つ。
撃たれた一撃は莫大な破壊力を伴いつつも確かな指向性を持ち一直線に御坂に飛来する。
カマイタチなどという生易しいものではない。それは全てを破壊する不可視の威力の塊だ。

人体など容易く破裂させる一撃を、しかし御坂は迎撃する。
垣根の攻撃の正体は空気振動だ。音の速さを持つそれは避けるなどという行為が通用するものではない。
だが御坂の能力は雷電。認識は光速であり、雷撃はそれに劣るとも音速など軽く凌駕する。

放たれた雷撃は音波を穿ち、有していた破壊力ごと炸裂する。
両者の間に爆風が生まれるが、指向は失われ無秩序な威力は拡散されている。

「この程度じゃ挨拶にもならねぇかよ!」

超電磁砲、第三位である彼女と自分の間にあった溝が埋められている事に垣根は驚愕しながらも好戦的な笑みを浮かべた。

圧倒的であったはずの彼我はどういう訳か失われ、御坂は垣根に伍している。

能力の出力が上がったとか、そういう簡単な話ではない。
彼女は不可視である音の波を知覚し、それを正しく迎撃したのだ。

明らかに一つ上の位階に昇っている。
単なる電撃使いとしての域を超越しているのだ。



44:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/17(月) 02:30:44.04 ID:UVpNHGeEo

「アンタ、人の事舐めすぎ」

返礼とばかりに光の一撃が空間を切り裂く。

先程の雷撃の道を導体としてローレンツ力により放たれたコインが暴力の塊と化し穿たれる。
初動の大気摩擦はない。稲妻の道により割られた刹那の真空を弾丸は元の形状を維持したまま疾走する。

そして炸裂点から広がる大気の壁を突き破り、同時に燃え上がった合金は液状を瞬時に通り越す。
一瞬の閃光を放ちその様を気体へと変貌させたコインは激熱を振り撒きながら垣根へと喰らい付いた。

「ハッ――!」

呵々と共に払われた翼が気炎を砕く。
局地的な暴風と化した周囲の大気に巻かれた気体金属はその身を四散させながらも更なる熱膨張を生み夜空に爆炎の華を咲かせた。

「これが本家の超電磁砲かよ! 言うだけの事はあるじゃねぇか!」

宙を舞う垣根は荒れ狂う空を邪魔だとばかりに背後へ打ち、夜空を駆けた。

後に残されたのは無数の白い欠片だ。
その一つ一つが絵に描いたような羽毛の形を取ってはいるものの、大気の波に翻弄される様子もなく確かな速度と共に御坂へと降り注ぐ。

その様は正に絨毯爆撃と言うに相応しかった。
ビルの屋上一面に突き刺さった白は破壊の雨となり建物を三階分、周囲を含めて微塵にする。

だがそれら全てが御坂を捉えていない。
ビルの森の頂を波間に踊る魚のように身を躍らせる。

爆音を背後に御坂は翔ける垣根を追い、隣のビルへと意識を伸ばす。
電磁波による解析は即座に完了し、目標となる鉄骨を見えない腕で掴み強引に引き寄せる。

引かれたのは御坂自身の身体だ。少女一人とビル一つ。質量差は言うまでもない。

抵抗せず引力に任せ、黒衣を翻し超高速で跳躍する。
そして即座に解除し次のビルへと。連続で引き寄せ多段式に加速してゆく。
吹き付ける風は身に纏った雷光が払い除ける。僅かに掛かる風が髪を靡かせた。

風雷を伴い黒天を切り裂く白の翼を追い疾走する。



57:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/26(水) 22:14:29.90 ID:q/3qikfIo

ざあああああ――――と大気が戦慄く。

御坂の後を追う影があった。
黒い波だ。闇夜に更なる影を落とし、雲霞の如く押し寄せる津波が彼女に縋る波濤がある。

それは砂鉄だ。

空き缶だ。折れ釘だ。螺子だ。硬貨だ。
鋏だ。時計だ。ナイフだ。ゴミ箱だ。パイプだ。
車止めだ。マンホールの蓋だ。ガードレールだ。鉄柵だ。
鉄板だ。自販機だ。自動車だ。鉄骨だ。

所有者が誰とも分からぬ道具が、公共の設備から引き抜かれた建材が。
およそ金属と名の付く物が、擦れぶつかり砕け合う轟音を立てながら空へと舞い上がる。

電磁の女王に従い大気を押し割り進撃する鉄機兵団。
そこに意思などなく、その身が微塵となろうともなお突撃する無敵の軍団が竜巻となる。

「は――冗談だろ、おい」

その技は昼間見た妹達の用いたものと同じだ。
だが規模が違う。圧倒的なまでに質量が違う。偽体の技はその千分の一にも満たない。

単純明快――物量攻撃。
戦場で最も有効とされる蹂躙制圧の具現がそこにあった。

「冗談? いいえ、これが現実よ。アンタの安っぽい幻想なんて私の現実には通用しない」

つい、と挙げられた手指が宙を舞う垣根を指した。

「――本家ってのはこういうのを言うの」

声と同時、全ての黒が光を纏い射出された。



59:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/26(水) 22:41:06.01 ID:q/3qikfIo

光の逆瀑布が空に生まれる。

垣根の白雨を遥かに上回る量の光の投射。
光は電磁誘導により無制限に加速し、全方位から垣根を狙い喰らいつく。

端から見れば空を覆った影が突如白に膨れ上がり、そして一瞬で点に収縮したように見えただろう。

爆発ではない。爆縮だった。
全ての光が垣根に向かって集束する。

炸裂した。

収束の後にあるのは同等の発散だ。
何重もの光輪が闇夜に咲き広がり極小の太陽を描く。

人の域を明らかに超えた暴力がそこにあった。

大規模破壊兵器とは比較にならないにしても、個人武力としては世界中のどんな兵器でも追いつかない。
一個軍隊の総火力を用いたに等しい一撃が一点に直撃するのだ。
これを防げる個人など――それこそ最強と最弱の二人しかこの世の何処にも存在しない。

だが――、

「ハッ」

垣根帝督、『未元物質』。

その力はこの世のものではない。



60:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/26(水) 23:08:42.98 ID:q/3qikfIo

「確かに本家は違うな。規模がダンチだ。悪りぃ、確かにあの程度じゃ比較対象には劣悪すぎる。
 ……で、それだけで終わりなのか、超電磁砲ってのは。結局、お前の常識ってのは俺に通じない程度の軟なものか」

無傷――としか言い様がない。
白い翼を広げる垣根は掠り傷一つ負ってなどいないのだ。

質量、速度、熱量、エネルギー法則。
この世の根幹を成す熱力学法則。
                    E=mc^2
単純明快ゆえに絶対であるはずの常識が通用しない。

「いいえ。でも最初の挨拶にしては上出来でしょ? 派手だもん」

御坂とてこの程度のものが通用するとは思っていない。

物理法則を超越する二大超能力者の双璧、その片方が相手なのだ。

この世の法則全てを捻じ伏せる『一方通行』。
この世の法則全てを払い除ける『未元物質』。

電磁能力というごくありふれた物理法則を操る『超電磁砲』には、端的に言って勝ち目がない。



61:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/26(水) 23:35:40.48 ID:q/3qikfIo

――だというのに御坂の笑顔は崩れない。

「ほら、覚えてる? 大覇星祭の日。ついこの前よ。
 ああいう時って朝イチに花火上げるじゃない。そういうやつよ。分かりやすくていいでしょ」

「なるほどな」

垣根は頷く。

「つまりこれは――」

垣根の声に応えるように、新たな影が宙に踊る。
持ち上げられたのは巨大なコンテナだ。列車輸送用の、車輪を持つ貨物列車を兼任する鉄箱だった。
濃い青に塗られたそれらは闇の中に溶けるような不確かさで音もなく現れた。

その数二十八。
互いが機械的な連結を持っていないにも拘らず大蛇が泳ぐような動きで持ち上がり宙にとぐろを巻いた。

そしてその最前。それが蛇であれば頭に当たる部分。
ただ一点だけ違う色があった。

「テメェへの合図って訳だ」

その言葉に鈴を転がしたような声が返す。

「待たせた? ごめんね。でも待ち合わせに遅れて怒るような小さい男はモテないわよ」

「んだよ、二人掛かりか、容赦ねぇなオイ!
 いいぜ、何人でもオーケーだ。テメェらまとめて相手してやるよ!」

最前部に腰掛け、吹き付ける夜風に身を竦めた矮躯の少女。
その片手で押さえられた帽子をから零れる金色だ。


                        メンタルアウト
「さあ皆お待ちかね、超能力者第五位、『心理掌握』ちゃんの登場よ。拍手っ!」



64:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/27(木) 00:51:31.46 ID:jz2QPnjNo

「はいはい」

とっ、と手近なビルの屋上に降り立った御坂は数度、お座成りに手を打ち合わせる。

「そもそも時間通りだし」

「まあねー。でも結局、何にでも演出って大事だと思う訳よ」

寒さに身を縮めながらも嬉々と嘯く心理掌握に御坂は肩を竦める。

「んで、一人で勝手に盛り上がってるところ悪いんだけどさぁ」

「べっつにさぁ、私はアンタとやり合おうなんて思ってないから。
 勘違いしないでよね。結局、別に皆が皆アンタにご執心って訳じゃないんだから。ジイシキカジョー」

ぐるりと円弧を描きながら御坂の元へとやってきたコンテナから飛び降り、金髪の少女はそう嘯いた。

「おいおい。これだけ盛り上げといてそれはねぇだろ」

微笑みを絶やさぬ『超電磁砲』と、ころころと表情を変えながらせせら笑う『心理掌握』。
ごくありふれた能力系統の頂点である二人の超能力者の少女を前に『未元物質』もまた笑みを崩さない。

「何しに出たよ、フレンダ=セイヴェルン。まさかただの賑やかしって訳じゃねえよな」



65:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/27(木) 01:14:46.96 ID:jz2QPnjNo

「ううん。結局、私はただ観戦するだけよ」

即座に垣根の言葉を否定する。
自らの能力を肯定するように中学制服を纏う彼女は両手をブレザーのポケットに突っ込んだまま宙の垣根を見上げる。

「やるのはこっち。結局私は傍観。
 まさかこんな無力な乙女を、自称最強の能力者さんは潰そうっての?」

「ぬかせよクソババァ。鏡見てから物言ったらどうだ」

「よーし。アイツぶっ殺しちゃえ」

視線は垣根に向けたまま、心理掌握は御坂の肩を抱く。
両肩に掛かる小さな重みに、は、と短く溜め息を吐いて御坂は左の手を黒衣に入れたまま頭を掻いた。

「まあ、元からそのつもりだけどさ」

「それじゃ結局、後はお願いね。『お姉ちゃん』」

「……あ?」

言葉の中に含まれた僅かな違和感に垣根が眉を顰めるよりも早く。

「――『最終調整終了』」

声に合わせ、御坂の体が小さく震えた。

「『暫定上位個体より新規上位個体へ権限委譲。発行。全個体より承認を受諾』」



――――ID発行確認



「つまり結局、私はアシスト専門って訳よ」



73:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/03(木) 15:36:22.89 ID:AcMDfw0Ro

「テ――メェ、心理掌握ォォおおおおおおおお!!」

垣根の絶叫よりも早く、御坂美琴は世界最高の巨大演算装置を掌握した。

都合九九六八人分の脳を多重接続した補助演算装置が御坂美琴の強度に更なる後押しを加える。

御坂に足りなかった生々しいく泥臭い殺人知識。
一〇〇三一人分の生と死の結果。
あらゆる力のベクトルを操るあの『一方通行』の補助演算経験。

知識。記憶。経験。思考。推察。演算。予測。判断。
脳の持つあらゆる機能が、その領域を拡大し九九六八倍の後援を得る。

さらに、まだ加えるべき要素がある。

「っ――――――!!」

地球上の陸地ほぼ全域を覆う形で展開された電脳の網は垣根の行動を余さず捉えていた。

「――逆算、とっくに終わってるわよ」

豪雨となって降り注ぐ未元物質の攻撃は人が反応できるものではない。

だが御坂は音速をも超えて飛来する殺意の雨を柔和な笑顔で正面から見据えていた。

彼女には可視光線などに頼らずとも全て『見』えている。
電子の動き。電界と磁界のゆらぎ。電磁力の働き。
そうしたもの全てが全方位に対する完璧なソナーとして存在する。

あとはその中で『おかしな挙動』をするものを汲み上げればいい。

視覚を解して情報が脳に送られた瞬間に対抗手を打つ。

音すらも掻き消える破壊と共に宙を舞うコンテナが一斉に内側から爆ぜ、飛来する白の一つ一つを正確に、残らず薙ぎ払った。



74:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/03(木) 15:40:38.59 ID:AcMDfw0Ro

彼女の能力は雷電だけではない。磁力だけではない。

ここは学園都市。
世界最高の科学の街。

電気が街を覆い、機械のほぼ全てが電力によって動いている。

この街そのものが彼女のためにあるようなものだった。

だからこそ最先端の、彼女のために誂えられたような武器がある。

瓦解するコンテナは自由落下と同時にその中身を空中へとぶちまけた。
一つにつき一ダース、合計三三六機。
三三六の駆動音が夜の街にノイズを撒き散らす。

「これ元々私のだし。別にいいわよね。多分」

それら全てが彼女、御坂美琴、超電磁砲の武器だ。





FIVE_Over.

Modelcase_"RAILGUN".





第三位の名を関す機械の能力が、宙を埋め尽くしその羽を震わせた。



75:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/03(木) 16:09:45.23 ID:AcMDfw0Ro

「ファイブオーバーシリーズ……!」

一つ一つが蟷螂のようなフォルムをした機械たちが蚊柱を作るように飛び回る。
羽が震え風を生み大気を乱す。無数というには程遠い機虫らはしかし竜巻のように垣根を取り囲む。

本来操縦者が中にいなければ動かない駆動鎧も電磁を支配する御坂の前ではチェスの駒も同然だ。
垣根は理解する。昼間の『六枚羽』の遠隔操作は、単にこれの試運転に過ぎなかったのだ。

「く……!」

喉を鳴らすような声、垣根が身構えると同時にそれは起こった。
  コマンド
「命令名――『一掃』」

小さな呟きと共に発せられた命令に従い、機械の羽虫は忠実にそれを実行した。

轟音と轟音と轟音が炸裂し音そのものすらも掻き消して、六七二の腕、二〇一六の砲門が火を吹いた。

吐き出されるのは超音速の弾丸だ。
合計秒間四四八〇〇発。
それらが全て垣根帝督というただ一人を狙い正確に放たれる。

「づ――おおおおぉぉ――ッ!!」

弾丸の一つ一つを迎撃することなど不可能だった。

単純な話、垣根には手数が足りない。
未元物質は強力な能力ではあるが、迫る弾丸全てを拾うことなどできはしない。
御坂のような並列思考、機械的多重操作などできるはずがないのだ。

圧倒的物量を投入する御坂の前に、垣根は未元物質の殻に籠もるように防御に徹する他なかった。



77:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/03(木) 16:35:10.47 ID:AcMDfw0Ro

超電磁砲。心理掌握。そして妹達。
超能力者同士が能力を連携させるなどという発想は、不思議な事に全く存在しなかった。

能力は一人につき一つまで。
行使の幅を広げたとして大前提は覆らない。

だから能力者は元より、研究者も、そして教師も、個人の力を重要視する。
例外は体育祭、大覇星祭くらいだろう。しかしそれも祭りの狂乱に浮かされての行動に近い。

しかし例外中の例外は確かに存在したのだ。

能力者であり、研究者であり、教師であった女がいた。
複数の能力者の脳を仲介連結させ、複数の能力を我が物として振るった擬似多重能力者。

『多才能力』――木山春生。

夏休みの始め頃に起きたあの事件を引き起こした張本人。
彼女の生み出した『幻想御手』もまた、本来は御坂の能力から派生したものだ。

だからこれらは全て御坂美琴の持つ力の一端と称してもいい。
『超電磁砲』の副産物である妹達が持つミサカネットワークは最初からそういうものだ。

しかしこれは『妹達』のみに許されている能力の使用法だ。
『幻想御手』を用いてさえ、脳に莫大な不可を掛け多くの能力者を昏睡状態に陥らせた。
複数人の脳を連結させるなど、同じ脳波パターンを持ち電磁能力を有する彼女たちだからこそできる業なのだ。

だが、その前提条件を覆すことのできる唯一の存在がいる。

『心理掌握』――脳と思考と精神を司る超能力者。
彼女が『幻想御手』の代理を果たす事で傷害は取り払われる。

連結された能力は単一種、『電撃使い』のみ。

しかし最高精度で連結された一人分の『超電磁砲』と九九六八人分の『欠陥電気』は、副次的に期待されていた効果を十全に発揮する。

能力強度上昇――レベルアッパーというその名のままに純粋に御坂の能力を引き上げる。



78:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/03(木) 17:15:45.11 ID:AcMDfw0Ro

「結局あれ、コンボよコンボ。ゲームなんかでよくあるじゃない。
 味方の攻撃力引き上げて、敵に弱点属性つけたりとかして。少しくらいやったことあるでしょ?
 一匹狼気取るのもいいけどさ、手取り足取り仲良くすればこんな事もできちゃう訳よ。
 アンタみたいな奴には結局、一生分かりっこないでしょうけどさ」

ビルの屋上の端、給水タンクの上に腰掛け足をぶらぶらと揺らしながらフレンダは誰にともなく言う。

「ま、当然といえば当然よね。自分だけの現実なんて、つまり結局、他の誰にも理解されないんだもの。
 だからこそ自分だけの現実なんて言うんだろうけど。世界にとってそれが常識なら能力者なんてただの凡人じゃない。

 能力者は異常者なのよ。世界にとって異常でなくちゃならない。だから平均化なんてできないし誰とも共存できやしない。
 たとえ同系列の能力であっても別個の世界を有しているんだもの。パラレルワールドっていうの? よく似た世界でもまったくの別物。
 まったく同じ自分だけの現実を持つ能力者ってつまり、それは同一人物ってことよ。
 そんな気持ち悪いヤツがいるとすれば、結局それって最初からそういう自分だけの現実を持ってたってこと」

聞こえるはずもない相手に向かって独り言のように金髪の少女は嘯く。

「え? どうしてこんな事を思いついたのかって? そんなの決まってるじゃない」

そして愉快そうに目を細め。

「――結局、私がそうだからに決まってるじゃない」

どこか自虐めいた笑みを浮かべるのだった。



79:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/03(木) 17:42:39.11 ID:AcMDfw0Ro

「これが『幻想御手』を元にしたものだとして、『幻想御手』がミサカネットワークを基にしたものだとして。
 だったら結局、一番始めにそんな事を考えたのは誰かって話よね。
 簡単よ。『心理掌握』、大本はこの私って訳。全部全部、私が最初。

 同じ脳波の能力者を大量生産して連結させようって『欠陥電気計画』も。
 超能力者の演算パターンを植え付けて同化させようって『暗闇の五月計画』も。
 木原の馬鹿どもが作った『能力体結晶』も私の能力を素にして作られた。
 結局、『幻想猛獣』も私の劣化コピーみたいなものよ。

 つまり私は、『心理掌握』っていうのはそういう能力者なの。
 これは他人の精神と思考を操る能力じゃない。結局、他人を自分と同じにするのよ。

 食蜂操祈も、フレンダ=セイヴェルンも、他の色んな『心理掌握』もみーんな私。
 精神操作でも精神支配でもない。脳の中身を単一フォーマットに仕立て上げる能力。
 みんなみんな同じにして、結局、自分の脳なんだから好きにできるに決まってるじゃない。

 だから私はみんなの『ともだち』。みんなみんな私と仲良し。いつでも仲間に入れてあげるわ。
 私はフレンダ=セイヴェルンであり食蜂操祈であり、どちらでもあってどちらでもない。
 名前なんていくつあったか数えるのも面倒だし、ついたあだ名はもっと多かった。最初の名前なんてとっくの昔に忘れちゃった。

 ――もし『私』に単一の名前があるとすれば『心理掌握』ただ一つ。
        ファーストプラン
 アレイスターの初期候補。初代虚数学区。
 学園都市最初の超能力者――最初の第一位『心理掌握』。それが『私』」



80:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/03(木) 18:20:11.55 ID:AcMDfw0Ro

「長い」

フレンダに振り返りもせず、御坂は一言で切って捨てた。

「ひっどー!?」

「うるさい。面倒。どうでもいい」

「結局、少しくらいいいじゃない。私ずーっと接続補佐してるだけなんだしぃ」

言って頬を膨らませるが、見る者は誰もいない。

「アンタがどこの誰で何考えてようと私には関係ないわ。
 そんな細かい裏設定みたいなのは本当にいらないから、アンタは仲介に集中しなさい」

「結局、言われなくても大丈夫よ。
 まさかこの『心理掌握』が、脳波パターン操作なんてままごと同然のことをミスるはずがないじゃない。
 寝ながらだってやってやるわよ。だから代わりに言ってやるわ。結局アンタこそそっちに集中したらどうなの?」

「言われなくたって――」

続く言葉は爆音によって掻き消された。

刹那の煌きの後、ガトリングレールガンの包囲の一角に穴が穿たれる。
垣根の放った白光の一撃が駆動鎧を十数機纏めて破壊し吹き飛ばした。

包囲網が崩れたのは一瞬。
けれどその間に垣根は翼を翻し機械と銃弾の嵐から脱する。

方向は直上。
漆黒の夜空に向かって白の軌跡を描き舞い上がる。



93:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/06(日) 16:24:02.63 ID:t6baLDmFo

「は――何だよコイツは」

小さく呟かれた言葉は夜風に紛れて消えてしまう。
超高速で駆動鎧の包囲から離脱した垣根はさらに上昇し翼を翻す。

本当にこれが第三位の力なのか――と垣根は心中で呻く。

仮に第五位、心理掌握の補助を受けたとしてもこの力はありえない。
彼女らの力は一方通行は元より、自分の足元にも及ばないほどだったはずだ。

ピンセットから得た情報は確かで、そこには客観的な圧倒的彼我があったのだ。

仮にもあの統括理事長が使っていた情報網だ。そこに誤りは無い。
だからこれは、情報が更新されなくなったあの瞬間から後の話。

(この一週間で爆発的に伸びやがったとしか考えられねぇ――!)

一〇月九日、学園都市独立記念日。
自分が一方通行を下し、そして彼女の言う『アイツ』が死んだ日。

あの日、あの時、全ての歯車が噛み合ってしまった。
御坂美琴が第三位などという枠に収まりきらずに飛躍的進化を遂げる可能性の、最後のピースがかちりとはまった瞬間だった。

上条当麻の死亡。
一方通行の敗北。
心理掌握の助力。

いくつもの条件がまるで計ったかのようにあの瞬間に交差し形を成した。

(つまりこれも織り込み済みってことかよ、アレイスター……!)



95:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/06(日) 17:10:12.11 ID:t6baLDmFo

学園都市の序列などというものが単に科学的発展への価値によってのみ付与されるはずがない。
なぜ一方通行が第一位なのか。なぜ自分が第二位なのか。
強度、実力、希少性、利用価値。
それらは全て後付けの対外的な謳い文句に過ぎない。

御坂美琴――第三位。

彼女もまたアレイスター=クロウリーの計画の一端を担っている。

一方通行が、そして垣根帝督がそうであったように。

(念には念を入れて、第三候補――サードプラン、ってかぁ?
 一方通行も、俺も、誰も彼も信用できねぇって感じだな。どこまで臆病なんだよオマエはよぉ!)

順当に行けば第四の候補として麦野沈利の名が挙がるのだろう。
超能力者とは全てアレイスターの計画の中核に据えられた能力者の総称に過ぎない。

そういう区分で言えば上条当麻もまた超能力者と呼んでも差し支えないのだろうが――。

飛翔する垣根の後を特殊合金の弾丸が追いかけてくる。
銃弾の速度は音速など軽く凌駕する垣根をもなお上回る。
                            、 、 、 、 、
その一つ一つの狙いは一部を除いて正確に狙いを外し、弾丸は面となって垣根の退路を断つ。
回避を許さず迎撃を強要させる広範囲弾幕。

――逡巡は一瞬。

「チッ!」

舌打ちし、進行を反転。翼を盾に飛来する弾丸を迎撃する。
前面を覆うように六枚の翼を広げ弾丸の雨の中を力技で押し通る。



96:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/06(日) 17:29:27.02 ID:t6baLDmFo

一発一発が防災用隔壁すらも薄紙のように破るほどの破壊力を伴った弾丸を前にしても垣根の翼は揺るぎもしなかった。

破壊を振り撒くだけの雨に垣根は真正面から対抗する。
この世ならぬ物質にはこの世の条理は通用しない。
まるで空間そのものが歪んだような奇妙な軌道を描いて弾丸は翼に沿って垣根の後方へと流されてしまう。

「たまんねぇなオイ、超電磁砲! 俺に勝負を挑まれたときのアイツもこんな気分だったのかぁ!?」

哄笑と共に翼を打ち広げ、生まれた衝撃波が弾丸の雨を押し退け道を作る。

「出し惜しみはなしだ。アイツに使ったとっておき――食らってみろよ!」

大きくその身を伸ばした三対の翼。
雲間から差し込む月の光を浴び純白の輝きを返す。

天から降り注ぐ光は、この世ならざる翼の間を抜け静かな殺意を得る。
そして本来ありえない『攻撃力』を伴って光の速さで地へと駆け抜ける。

反応など不可能。
回避など論外。
相手はただ、なす術もなく平伏するしかない最高速度の攻撃。

しかしそれが放たれる刹那、

「――――――」

御坂が自分を見る眼が――まるで哀れむように見えた気がして――。

「……くたばれ、超電磁砲!」

声よりも早く、何よりも速く、光速の一撃が地上へと降り注ぐ。



97:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/06(日) 18:31:13.55 ID:t6baLDmFo

「アイツ、本当に私より序列上なの?」

ぽつりと、御坂は小さく呟いた。

光撃は放たれた。
即死する一撃だったはずだ。

元は一方通行戦用に準備しておいた切り札だ。
ベクトル操作という前提条件を覆す能力さえなければ問答無用で切り捨てるような、そんな攻撃だったはずだ。

しかし御坂は何事もなかったかのように夜風に黒衣をはためかせ、垣根を見ている。

「おいおい――冗談じゃねぇぞ」

呟きに反応したように駆動鎧たちがその陣形を変える。
壁を作るような面から、真っ直ぐに伸びるように。

地上の御坂と天上の垣根を結ぶ架け橋のように、両者の間を線で繋ぐ。

「っ――!!」

悪寒が背筋を走り、翼を払う。
放たれた羽毛を模した光の欠片が駆動鎧を狙い宙を疾走した。

だが――描かれた線は蛇のようにぐねりと波うつ。

(避け――!?)

「いつまでも見下してんじゃないわよ」

声を置き去りに、雷光を纏った御坂が夜空を駆けた。



99:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/06(日) 18:52:39.40 ID:t6baLDmFo

駆動鎧が作った天への階段を踏み御坂が疾走する。

それらは垣根へ至るレールだ。
超電磁砲の名のままに御坂自身が弾丸となって機械が描く弧に沿って垣根へと駆け抜ける。
速度はまさしく疾風迅雷。届くはずのない距離を埋めるには一瞬も必要ない。

背後へと流された腕が身体を追い抜き、振り切られる。
その動きに従い黒の嵐が垣根へと打ち払われた。

砂鉄の剣。あるいは鞭。
一粒一粒が帯電し超振動を纏う濁流が垣根へと顎を向けた。

「ち、ぃ――!」

ギィィィン――! と耳障りな音を立て黒剣と白翼が交差する。

砕かれたのは御坂の剣だった。
不定形ゆえに破壊されるはずのない砂鉄の剣が垣根の翼に払われ霧散する。

「く――らぁああ――ッ!」

返す刀で払われた翼を、しかし御坂は不自然な軌道を描き回避した。
真横、いつの間にか再度包囲した駆動鎧に向かって跳ねるように急転回し翼の一撃を避ける。

「その動き、テメェの方が追いつかねぇだろぉが!」

速度に相当し御坂の身体には強力な負荷が掛かる。
高速機動の戦闘機乗りに付き纏う慣性の檻。それが御坂にも同じくあるはずだ。
内臓、そして脳は鍛えられない。血液の流れが阻害され一瞬の意識の混濁が生まれる。

だが――。

ばぎん、と鈍い音が生まれる。

御坂の向かった先にあった駆動鎧の一機が音を立てて砕けた。
破片を宙に撒き散らし花が開くように機械の中身を晒したそこに御坂の矮躯が滑り込み。

「――――代理演算完了、投射します」

生まれた破片の悉くが御坂の身体を避け、その身と入れ替わるように垣根に向かって撃ち放たれた。



100:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/06(日) 19:57:34.25 ID:t6baLDmFo

電磁誘導に導かれた金属片群は散弾となって垣根へと降り注いだ。
一つ一つの大きさはまちまち、しかも先の超電磁砲の一撃はおろか、ガトリングレールガンの砲にも劣る速度だ。
だがそれぞれが確かな必殺の威力を持って大気を切り裂く。

至近距離、それもないと踏んでからの高速攻撃。
しかし垣根は反応した。

「っ――づ、らぁぁああああっ!!」

翼を振るい打ち払い、羽を散らし炸裂させ、残らず相殺し迎撃した。

瞬間の攻防はそれだけで十分な時間だった。

「オーケー、ナイスアシストよ」

復帰した意識は垣根を正しく捉えている。
払われた翼の軌跡。羽の軌道パターン。効果範囲。反応速度。
それらのデータは完全に処理され、垣根の防御を崩す攻撃ルーチンを構築する。

「さっきのが私の本気? こんなオモチャの銃が超電磁砲?
 冗談言わないでよね。私の超電磁砲がその程度なはずないじゃない」

彼女の手には長い帯が握られている。

それは駆動鎧の内部にあった弾丸のベルトだ。
帯電・帯磁性能、伝導率、空気抵抗、強度、硬度、靱性。
あらゆる条件において最適と計算されつくされた電磁投射砲専用の弾丸。

御坂美琴にとってそれはコインなど比べようもない至高の弾丸となる。

「――これが本家本元の『超電磁砲』よ」

放たれたのは一発。
描かれたのは直線軌道。

何一つ小細工のない、超電磁砲の最高にして全力の一撃が大気の悲鳴すら貫いて放たれた。



105:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/06(日) 20:41:06.23 ID:t6baLDmFo

爆音を通り越し、轟音を砕き割り、ただ耳鳴りのような余韻を残して奔った弾丸は翼に阻害されることなく垣根へと突き刺さる。

だが額に直撃する寸前――何の前触れもなく弾丸が停止する。
そこだけ時間を切り取り写真に収めたように、ビデオの一時停止ボタンを押したような不自然さで弾丸が動きを失った。

「――――それ、卑怯」

「うるせぇ卑怯もクソもあるかテメェに言われたくねぇよ――!」

重力に引かれ弾丸が落下すると同時に打ち返しが放たれる。
六枚の翼が打たれるたびに羽毛の形をした光が舞い、不自然な軌道を描いて御坂へと放たれる。

だが二人を取り巻く駆動鎧の砲がそれらを残らず撃ち散らす。
正確無比の迎撃が一片すらも残さず羽を貫き、だが垣根の攻撃は止まらない。

(現状千日手だが……攻めを休めたら今度はこっちが防戦一方になる)

だがそれもあと十数秒で終わる。
弾丸も無限ではない。駆動鎧の形状と、御坂の手にした弾帯から見てあと二十秒ももたないだろう。
それを撃ち尽くさせたら垣根は弾幕を警戒せずに済む。

だが、御坂の弾は尽きないだろう。
この街のあらゆる金属、電磁を帯びるものが彼女の弾丸だ。
それこそゲームセンターでも崩せばコインやパチンコ球はいくらでも出てくる。

「く――――」

知らずに漏れた自らの呻きに垣根は更に焦燥する。
『電撃使い』という酷く常識的で分かりやすい能力なのに、強度の桁が違うだけで垣根に伍している。

(違う……それだけじゃねぇ……)

何か、更におかしな力を持っている。
そうでなければ――あの光速の一撃を受けて無傷でいられるはずがないのだ。



106:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/06(日) 20:53:13.02 ID:t6baLDmFo

乱射と連射の応酬の間に再度放った光撃は、矢張り御坂には届かない。

そもそも反応できるような速度ではない。
前提として反応することそのものが間違っている。

この世界の最高速度を持つ一撃よりも早く反応するなどありえないのだ。

「そんなに不思議?」

激音の攻防の間に御坂が笑う。

「回折――だっけ?」

破壊の音に巻き込まれ消えそうになった声。
しかし垣根は掠れそうなその音を確かに聞いた。

――垣根は御坂に、これが何かと一言も言っていない。

「まさか――」

「一方通行には少しは通じたかもしれないけど、それ」

は、と笑い御坂は目を細める。

「私には通用しない。前提条件で間違ってるのよ。
 電撃使いにスタンガンとか効かないのは分かってるでしょ?」

ふざけるな、と垣根は思う。これはそんな単純なものではない。
相手が一方通行だろうが御坂だろうが、通じないこと自体がおかしい。

「アンタね、一方通行をどうやって倒そうとしたのか、まさか忘れたの?」



109:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/06(日) 21:12:47.38 ID:t6baLDmFo

「――まさ、か」

一方通行に対して何をしたのか。
言われるまでもなく自分が一番よく分かっている。

「『未元物質』のスリットを通して光の波長を変えて、殺人光線にするんだっけ?
 そんなのできる訳ない――とも言えないらしいけど。
 それでも光は光。どうやったってそこは変わりっこないでしょ? だったら――私の領分だわ」
           、 、 、 、 、 、 、 、 、
光――それは電磁場の起こす波だ。

どれだけ変質しようともそれが光なら御坂の支配下にある。
彼女に操られるべきものが電磁の女王を傷付けるはずがないのだ。

だが垣根の攻撃はそれだけではない。

そんな事は分っている。
普通の電磁能力者なら届かない域の支配だろうと、御坂は難なくやってのけると最初から想定していた。
彼女の力を測る以前だ。それがどれだけ無謀であったとしても、垣根に刃を向けるからにはそれに相応する力があると考えなければならない。

慢心はない。垣根は御坂を正しく敵と認識していたのだから。
だから最奥の技を惜しげもなく使った。

「これ、素粒子である『未元物質』そのものの粒子ビーム――よね?」

「…………ッ!」

一言で言い当てられ垣根は言葉に窮する。
どうして見破られたのか。だとしても、からくりが見破られたところで防げる理由には――。

垣根の脳裏を過ぎる疑問は、続く御坂の一言で正確に打ち抜かれた。

「アンタの攻撃パターンなんて、全部アイツが割り出してくれたわよ」



110:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/06(日) 21:32:07.53 ID:t6baLDmFo

御坂と対峙した垣根の最大の誤算は、彼自身の行動にあった。

彼は既に一方通行と対峙し、全力を賭して戦っている。

その戦闘履歴は代理演算という形でミサカネットワークに蓄積されている。
未元物質の性質は一方通行によって完全に解析されている。

「この世に存在しない物質――常識は通用しない、だっけ?」

ついに途切れた弾丸に、無数の羽毛が御坂に向かって飛来する。

だというのに、これ以上阻まれる事のないはずの白の雨がなおも撃ち抜かれる。

「――!」

一度放たれた弾丸が、御坂自身の電磁誘導によって再び弾幕を形成する。
その一発一発が駆動鎧から放たれるのと同等以上の正確さで、垣根の攻撃を残らず撃ち落とす。

「確かに既存の物理法則の範疇を超えたおかしな物質みたいだけど。
 でも、だからといってアンタの言ってることを全部鵜呑みにする馬鹿はいないわよ」

荒れ狂う弾丸は目にも留まらぬ速度だが、圧倒的な物量によって垣根の視界に砂嵐を通したようなノイズを引く。

その隙間を御坂の一撃が貫いた。

「ぐ――――!!」

弾丸は再び止められたものの、先ほどよりもはっきりと垣根との距離が詰まっている。

「あんまり攻撃に回しすぎると防御が疎かになるわよ」

二撃。三撃。途切れのない攻撃とは言い難いが、御坂の放つ超電磁砲は羽毛の雨を正確に避け垣根を狙ってくる。



111:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/06(日) 21:44:11.27 ID:t6baLDmFo

「何の話だっけ。ええと……ああ、そうそう。アンタの言う常識って何かって話だったっけ」

御坂は笑顔のまま、手にした弾丸を順に放ちながら、垣根にそんな言葉を投げる。

「この世の常識って何? って哲学の問題じゃないわよ。要するに物理法則ってことでしょ。
 光をどれだけ回折したって殺人光線にならないのと一緒でさ。そりゃあガンマ線とかにまでしたら殺せるでしょうけど」

「テメェ――何言って――」

「アンタの言ってることについての揚げ足取りよ」

そもそも、と御坂は言う。

「その『未元物質』が一切の物理法則を無視するなら、何もできない。
 この世は物理法則に囚われている。物理法則で出来ている。
 だったら、それに干渉できるのは同じ法則だけよ。まったく別世界の言語じゃ話が通じないの。そうでしょう?
 アンタのそれが無視できるのはある程度までの物理法則だけ。つまりアンタもやっぱり常識に囚われたまま。
 一定ラインを越えられない。そうじゃなきゃ目にも見えない。触れない。幽霊みたいなものになっちゃうんだから」

「でも――だとしても、それがどうして――!!」

「だからさ、『未元物質』が私に干渉できるんだから――」

常識でしょ、と御坂が笑い。
唐突に弾丸の嵐が凪ぐ。

「――!?」

今度こそ阻まれることのなくなった白片の豪雨が御坂に向かって殺到する。
迫る白の壁を前に、御坂は矢張り笑顔を崩す事なく――。



「――私が『未元物質』に干渉できないはずが、ないわよね?」



羽毛の全てが御坂の眼前で動きを停止していた。



130:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/12(土) 20:53:00.13 ID:6qPU+q+1o

無数の羽毛が舞い散る、まるで映画のワンシーンのような光景。
フィルムをそこだけ切り取ったように白の欠片が宙で静止していた。

それは異界の存在が本来あるべき姿だろうか。
普遍的な流れから取り残され、未元物質は世界に浮かぶ染みのように白のノイズを放つだけの存在となっていた。

まるで時間が停止したよう。

「確かに『未元物質』はこの世のどんな素粒子でもない、全く別世界のものかもしれない。
 でもこれは、普通の物質に『未元物質』を混ぜて性質を変化させただけの99%が既存の物質。
 たった1%ごときでこの世の常識っていう、いわば世界そのものなんかを破れるはずがないじゃない」

「だったら――!」

放たれた三度目の光撃は、矢張り御坂には届かなかった。

「またそれ? どうして私に効かないのか不思議?
 自分のそれがどういうものなのかも分かってないの?
 じゃあ教えてあげる。……単純な話、それが凄く常識的な素粒子だからよ」

御坂が『未元物質』に直接干渉できる理由は、たった一つ。

『未元物質』が素粒子としての体裁を保っていて。
そして、彼女に対しては致命的な欠点を持っているからに他ならない。

御坂はどうして垣根がそれに思い当たらないのかと不思議そうに首を傾げ。

「アンタのそれ――電荷があるじゃない」

一言、そう言った。

「電荷があるなら私の能力が効く。クーロン力が働く。
 だから私は、アンタの『未元物質』に対抗できる。たったそれだけの話よ?」



131:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/12(土) 21:04:05.29 ID:6qPU+q+1o

それは素粒子の持つ性質の一つ。
酷く常識的な、単純な物理の問題だった。

素粒子が電荷を持っているなら帯電もするし、クーロンの法則に従い荷電粒子に干渉が生まれる。
何の変哲もない酷く簡単な物理。この世界の根本を構成する一要素の話。

そして御坂は電磁を統べる超能力者だ。
ただその身に雷電の属性を纏っているというだけで彼女の支配下にある。

世界を構成する最も小さい存在要素――素粒子。

万物の最小極点にすら御坂の力は干渉する。
即ち――彼女はこの世の条理そのものに干渉し得る、と。彼女はそう笑う。

物理法則を超越することが適わぬ未元物質は、彼女の属性を帯びざるを得なかった。
故にそれは致命的な弱点となる。

だが――と垣根は瞠目した。

「ふざけんなよテメェ!」

そんなことがあっていいはずがない、と。
けれど同時にそれ以外にないだろう、と。

矛盾した感情が衝動のままに吐かれる。

「それは――『超電磁砲』なんかじゃねぇだろう!」

予知めいた、ある種の確信。
彼女の紡いだ言葉は彼女の持ち得ないものだと垣根は覚る。



132:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/12(土) 21:12:57.07 ID:6qPU+q+1o

「それは――御坂美琴なんかじゃねぇ――!」

垣根は感情をそのままに、吐き出すように彼女に吼える。



「ええ、これは――私なんかじゃない――」

御坂は感情など綯い交ぜに、たおやかに彼に微笑する。



「その力は――」

「この力は――」



そして唱和するのは、皮肉にも二人にとって最も忌まわしい言葉。

抗えぬほど深い因果によって糾われた、単極しか存在しない禍福の鎖。










「「一方通行――――!」」










超能力者、第一位。
学園都市の頂点に君臨した最強最悪の能力者の冠する名だ。



133:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/12(土) 21:21:34.20 ID:6qPU+q+1o

――――――――――――――――――――



「なーに不思議がってんのかなー」

給水塔に腰掛けたフレンダは投げ出した足をぶらぶらと揺らしながら目を細める。

「結局、滝壺がどうしてあんな妙な能力を持つ破目になったのか。
 『暗闇の五月計画』がどうして発足したのか、まさかアンタが分かってないはずないでしょうに」

能力者に別の能力者の演算パターンを埋め込み、能力そのものを改造する。
その計画には何も『一方通行』だけが用いられたわけではない。

「そもそもが、よ。結局あれは私の能力のせいで生まれた計画だもの。
 他人の頭の中をフォーマットする私の能力があったからこそあの計画が立ち上げられた。
 私の能力の本質は頭の中の統一化。ただ、もしそこで元の能力を残したままフォーマットだけ変換したらどうなると思う?……もちろんタダじゃ終わらないわ。

 新しいフォーマットに合わせ演算パターンの最適化が行われ、能力は斜め上にぶっ飛んだものになる。
 結局、どうして私が『アイテム』にいたのか。麦野だけじゃ単純に他の連中に対抗できなかったってのもあるけど、そういう経緯もある訳よ。

 絹旗は『一方通行』のフォーマットが埋め込まれたけど、滝壺の『能力追跡』の元には私の『心理掌握』の形式が使われた。
 だからあんなトンデモ能力になったのよ。『心理掌握』形式に耐えられるヤツなんてほとんどいなかったけど、あの子は見事に適応してみせた。
 体晶の相性がいいのも当たり前じゃない。素体は別だけど、結局あれの精製方法も私から来てる訳なんだし」

つまり――今の御坂は――。

「『心理掌握』でミサカネットワークのログから解析した『一方通行』の演算パターンをカスタマイズして組み込んだ『超電磁砲』。
 超能力者の奇数番台三人を複合した能力者……足りない地力の演算力はネットワーク経由で妹達に代理演算させて補う。
 そのお陰で今や『超電磁砲』は『一方通行』とも互角の強度になっているって寸法か」



134:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/12(土) 21:25:27.00 ID:6qPU+q+1o

第七位はまぁ別格だけど、とフレンダは、眼下、給水塔に背を預けるように立つ金髪に肩を竦めた。

「何? 結局、アンタも見物?」

「そんなところだにゃー」

「物好きね」

返された言葉に適当に相槌を打つ。
二人の視線は交わされず、その先は宙を舞う双の超能力者へ向けられている。

「今日は青髪ピアスくんじゃないんだな」

笑いを堪えるような土御門の言葉にフレンダは向ける事なく苦笑を返す。

「結局、あんまりリソース裂きたくないんだけど……それともそっちの方が好み?」

「いーや」

ごん、と後頭部で給水塔を叩き、土御門は言う。

「最後くらいはなしでいいんじゃねーの」

「……せやね」

「その嘘くさい関西弁も」

「うっさい」

はは、と土御門は見たこともない級友の表情を想像して笑った。



135:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/12(土) 21:30:46.94 ID:6qPU+q+1o

失われたあの眩しい日々が戻ってくることはない。

三人は元より、残された二人もこれが最後となるだろう。
土御門にはそういう漠然とした予感があった。

きっと今日で全てが終わる。

二人の視線は決してお互いの方に向くことはない。
今、土御門に彼女の姿は生のままに認識できるだろう。

だからこそ、きっと見られたくないだろうと土御門は意図して彼女を視界から外した。

「そういえばな」

土御門は変わらず、いつもの平凡で退屈な教室での会話のような口調で言った。

「あの子らはちゃんと保護されたぜぃ」

「そ」

「おいおい。礼の一つくらいあってもいいんじゃねーのかにゃー」

素っ気ない少女の答えに土御門は冗談めかして言った。
こういうやりとりも最後になるだろうと心の片隅で思いながら。



136:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/12(土) 21:33:50.00 ID:6qPU+q+1o

「嘘。ありがと」

「おう。お安いご用だ」

だから、と土御門は笑う。



――自分たちは酷く間違っている。



最初からそんなことは分かっている。だがどうしようもないのだ。
踏み出さずにはいられず、逸る足を止まることなどできはしない。

そして何より――過ちを自覚しながらもどこか望んでいる自分がいる。

だから諦観しながら関与する。
だから後悔しながら切望する。
だから墜落しながら疾走する。

「だから――杞憂することはない。好きにやれ」

「……うん」

掠れた声は震えているようで、けれど確かなものだった。










「ところでさ」

「んー?」

「……結局、そこで見物するのはいいけど、パンツ覗かないでよね。スカートなんだから」

「オマエがメイド服だったら考えるかにゃー」



――――――――――――――――――――



137:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/12(土) 21:46:12.81 ID:6qPU+q+1o

「な――――」

マンションの一室、窓に張り付くように手を押し当て、遠くに見える光景に黄泉川愛穂は絶句していた。

「何の冗談じゃんよ、これは――」

窓の外、彼女の視線の先にあるのは爆発と白雷、そして眩いの閃光の軌跡だ。

夜空の暗幕を切り裂くように光が描かれる。
きっととてつもない轟音が響いているのだろうが距離があるために僅かにしか届かない。
それが逆に妙なシュルレアリスムを生み出してしまっていて、白昼夢のような不確かさの中で黄泉川は遠くの光を見ていた。

「超能力者よ。あなた、ついこの間見たでしょう」

一方、ソファに座ったままの芳川桔梗はようやく冷めたコーヒーの入ったマグカップをゆっくりと傾ける。
ガラスに反射する彼女は、つまらない映画でも見るような視線を夜景へと送っていた。

「雷光……第三位、『超電磁砲』ね。
 もう一方は、順当に行ってれば『未元物質』かしら。第二位」

「そんな事を言ってるんじゃないっ!」

黄泉川の怒声がリビングに響く。

「単なる能力者の喧嘩とかいう次元を超してるじゃんよ!
 この距離でも分かるようなレベルなら、今、あの下では間違いなく……!」

「ええ。巻き込まれた運の悪い連中が死んでるでしょうね」



138:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/12(土) 21:49:15.04 ID:6qPU+q+1o

鬼気迫る剣幕で自分を睨みつける友人の吐露を、芳川はそよ風程度に聞き流した。

達観しているような、そもそも興味もないような彼女の様子に黄泉川は奥歯を噛み締める。
そして同時に、足早に芳川へと歩み寄り、そのまま力任せに胸倉を掴み上げた。

強引に身体を揺さぶられるが予想していた動きだ。
直前にマグカップはテーブルに置いた。被害はない。

「アンタは……! あの惨状を見て何も思わないじゃんかよ……!」

「心外ね。私だって教師を志してた時期もあったんだし、心を痛めてるわよ」

のうのうと平時と変わらぬ様子でそんな言葉を吐く。
どうして自分の口からはこんな冷めた言葉しか出ないのだろうと芳川は思い、気付く。

何という事もない。既に自分は諦めてしまっているのだ。

睨み付ける黄泉川に目を合わせようともせず、ぼんやりと遠くの稲光を眺める。

「でも私たちに何ができるの? まさか警備員が鎮圧する? 冗談じゃないわ。
 あれは戦争よ。超能力者なんて、それは一つの国同士が戦ってるようなものよ。
 そんなのを、精々が対テロ程度にしか対応できない連中がどれだけ集まっても何もできないわよ」

「――っ」

芳川の言葉は客観的な事実だ。
学園都市の警備員には戦争級の対抗手段もあるが――それは外国、外敵用のものだ。
内部、能力者を想定した鎮圧兵器ではあの二人は止められない。

もしもこの街にそれを止められる手段があるとすれば、ただ一つ。

「そうね……あの子なら止められるでしょうけれど」

虚空に向けられた呟きは届かない。

もう、全てが手遅れでしかない。



139:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/12(土) 21:51:01.69 ID:6qPU+q+1o

――――――――――――――――――――





「――なるほど。そういう事か、アレイスター。これで軌道修正って訳だ」



虚空に向けられた呟きは届かない。



「つまりこれは、何もかもが手遅れで、もォどうしようもないンだな」





――――――――――――――――――――



147:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/13(日) 21:54:07.71 ID:5Pc/XnNoo

「ふ――ざけんじゃないわよぉ――っ!!」

遠くに散る雷光に、麦野は叫ばずにはいられなかった。

彼女は走っていた。

必死の形相で夜の街を駆ける彼女は、まるで世界に取り残され泣いている子供のようだった。

暗部組織に属しているとはいえ年頃の少女だ。
外見には気を使うし自分のプロポーションの維持も並ならぬ努力が必要となる。

ファッションも、メイクも、疎かにはしていない。
ただ金を注ぎ込むだけでなくそれを存分に活用する術も身に付けている。

けれどそれが、今この時、どれだけ活きるというのだろうか。

邪魔なヒールをかなぐり捨て、裸足のまま夜の学園都市をひた走る。
普段の彼女からは考えられないほど無様に、まるで地べたを這いずるような様だった。

麦野自身は車の運転などできない。
無理に徴発しようにもタクシーどころか道を動く車は一つとしてない。

なら他の手段はといえば、交通網が整備された学園都市では自転車など絶滅危惧種だ。
最終下校時刻は過ぎている。電車も止まっている。

だから麦野は、己の力で走る他なかった。



148:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/13(日) 22:09:05.86 ID:5Pc/XnNoo

運動は苦手ではない。
むしろ得意な部類だと言えるだろう。

体力や筋力は元より、瞬発力、持久力、反射能力、咄嗟の判断力。
どれを取っても同性同年代のアスリート選手と比べても引けを取らない。

暗部組織のリーダーとして培ってきた経験は彼女に充分なものをもたらしている。
格闘戦も得意だ。能力者を相手に大立ち回りも充分に演じられる身体能力を持っている。

だが麦野は顔を苦悶に歪めていた。

息をするたびに呼吸器系が熱を放ち、口の中には血の味が感じられる。
一歩を進めるごとに足に掛かる負担は鈍い痛みとなって身体を崩そうとする。

視界の色が失われているように見えるのは錯覚だろうか。
それとも単に闇に紛れた世界が単調にしか見えないせいだろうか。

横を過ぎる風景は幾ら走っても変わり映えしない。
無限の廻廊に閉じ込められていると言われても信じてしまうだろう。

けれど麦野は走る。

足を止めることなどできはしなかった。

「ばか、やろぉ――っ!」

だから代わりに、というように自然に口から叫びが漏れてしまう。

「アンタ、守るって言ったじゃない、絶対に賭けに勝つって言ったじゃない、垣根――!」



149:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/13(日) 22:19:40.95 ID:5Pc/XnNoo

背後、彼女が駆けてきた方向には病院がある。
麦野がそこに辿り着いたのは惨劇に幕が下りてからだ。

滝壺と浜面は死に、絹旗は昏睡状態となっている。
もはや彼女が身を賭してまで必死に守ってきた『アイテム』は欠片も残っていない。

「っ――ぁあ――!」

街に人の気配はなく、世界に自分だけしかいないような錯覚を得ながら麦野は慟哭する。

足裏の痛みはとうに失せている。
感覚のない両脚に蓄積された疲労は鉄棒のように重く、一歩毎に自分の邪魔をする。

けれど足の動きを止める訳にはいかない。
一度止まってしまえばそのまま、動けなくなる気がした。

疲労はピークをとうに過ぎ、肉体的にも精神的にも限度を越えていた。

それでも足は止まらない。

何か、憑き物に急かされるかのように麦野は強引に手足を動かし走り続ける。

目的地は未だ遠く、遥か彼方の彼岸にすら見える。
空に光が閃く度に彼女の焦燥感は高まり、往かなければならないという強迫観念を呼び起こす。

辿り着けたからといって何ができるとも分からない。
けれど行かなければならない。



150:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/13(日) 22:25:33.73 ID:5Pc/XnNoo

何故なら確信が麦野にはあった。

「最初から死ぬだなんて思っちゃいないわよ!」

どうしてもそんな事は起こらないと、そう確信していた。

だから今までずっと平気な顔をしていた。
心配はするだけ無駄だ。そう思っていた。

都合の悪い事からは耳を塞ぎ。認めたくない事実からは目を背け。
何も気付かない振りをして、不幸は全部自分で抱え込んでしまえばいいと思っていた。

それが何の根拠もない自信に繋がったのはどうしてだろうか。

「アンタが死ぬはずない! どんな事をしたって、アンタは死なないんだから!」

記憶の中にある顔に向かって、麦野は独り叫ぶ。
それを見てからどれだけも経っていないはずなのに、日に焼けた写真のような色褪せを感じてしまう。

きっと眩しいと、そう思えた笑顔が。

その笑顔がどうしてだろうか、酷く不吉なものに思えて――。

「そこにいるんでしょ、フレンダ――!!」



――――――――――――――――――――



154:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/15(火) 20:26:19.14 ID:jW02uDs0o

垣根と御坂の戦いは、互いの決め手を失い拮抗状態となっていた。

垣根の『未元物質』は御坂の電磁に捕らわれ届かない。
御坂の『超電磁砲』もまた垣根の未元物質の前に阻まれる。

しかし両者とも攻め手を失った訳ではない。
学園都市の夜空を翔ける超能力者の交錯は白兵戦へと縺れ込んだ。

「おおぉおおおぉぉおおおお――!!」

垣根の気勢と共に振るわれるのは手に持つ白剣だ。

病的なまでの白。
それは世界から色を削り取った後に残る空白の欠落だった。

この世のどんな物質でさえも到達不可能な机上の産物でしかない真白。
それをそのまま具現化したような剣を手に垣根は宙を踊る。

色の正体は明白。この世の条理を無視する『未元物質』の真の形だ。
能力の本質、この世のありとあらゆる常識に囚われない異界の法則を抽出した異分子である。

故にあらゆる干渉は阻まれ、光すらも全反射されるがための白。
この世のあらゆる事象ごと世界を断ち切るその力は振るわれる度に白の軌跡を残し、残滓が羽毛の形となって桜吹雪のように散り消える。
剣に切っ先はなく、完璧な直線でのみ構成され見ようによってはただの細長い板でしかない形状は英国の慈悲の剣を思わせる。

翼を背に、夜天を飛翔するその姿はまるで聖戦の天使。
世の罪を断罪する絵画に描かれる神兵のままだった。



155:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/15(火) 20:31:39.34 ID:jW02uDs0o

「なるほど、真打ち登場ってとこかしら。あらゆる物理干渉を拒絶する純粋な未元物質か」

「さすがに理解が早いな、優等生。その調子でもう少し年上への気の使い方も察してほしいんだが」

「お生憎様。私が気を使う相手は一人だけよ――!」

対する御坂の手には黒の剣。

無数の砂鉄が電磁力で編まれた、いわば物理法則の塊。
能力によって強引に結合された漆黒は彼女の意のままに形を変え、同時に比類なき強度を持っている。

電磁によって導かれた不定形の塊を振るう動きは本来意味のないものだ。
ただ『そうした方が力をイメージしやすい』というだけであり、その証拠に剣は常に形状を最適なものとして変化させ続けている。

彼女の足場となるのは周囲を旋廻する機械群だ。
砲弾を失ったとはいえその存在は御坂の武器となる。
時に地となり、時に道となり、そして時に盾となるそれらはどれだけ撃墜されようとも一向に数が減る気配すらない。

金属塊の包囲網を足場に、装甲を靴裏で踏み蹴り、電磁の腕で身体を引き寄せ、戦場を縦横無尽に飛び回る。

「でもそれが限界射程って訳ね。アンタの身体からいいとこ一メートルくらい。
 雷や弾丸は止められるけど、私自身には届かない。だからアンタは私を殺せない――!」



156:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/15(火) 20:44:40.57 ID:jW02uDs0o

「それはテメェもだろぉが。物理法則遮断を前に何ができるって言うんだよ――!」

叫び、垣根は翼で空を打ち白剣を振るう。
その度に鈴を幾重にも重ねたような音が響き空間が罅割れ羽毛が舞い散る。

彼の動きは常人の反応を凌駕している。
身体能力は明らかに人としての速度を超越している。しかし当然だろう。彼には人の常識は通用しない。

速さと飛翔の正体は他ならぬ『未元物質』だ。
相克し合う運動ベクトルの片方を遮断することで反発を生み無負担での高速戦闘を可能にしている。

至近距離からの神速の斬撃は必殺のものとなる。常軌を逸した異界の業はこの世の全てを切り取る魔剣だ。

「超次元干渉遮断。多分『空間移動』でも干渉不可能かな」

「正解だよ。あらゆる時空の全てを断ち切るこの未元物質は時間干渉すら切り捨てる。
 一方通行相手には領域が足りなくて無意味になるから使わなかったがテメェになら、なぁ、充分だろぉがよ!」

白刃が世界を断ち切り、次元界面ごと両断された駆動鎧が両端の翼によってそれぞれがあらぬ方向へ暴飛し、爆発四散する。
しかし生まれた金属片は御坂の電磁界に取り込まれ再び飛翔を得る。

「アンタが私に対抗できるように、私もアンタに対抗できる。
 常識が通用しない? 馬鹿言うんじゃないわよ。そんなのアンタだけの思い込みに過ぎないんだから!」

多重発生した電磁誘導のレールにより金属片が垣根に向かって撃ち出される。
爆発で飛び散ったそれぞれが彼を中心とした放射状の軌跡を描き中心部へと投射された。

「だから効かねぇっつってんだろぉが!」

白剣を切り払うと同時に切断された空間から無数の羽毛が溢れ出る。
それらは垣根の前に瞬間で広がると打ち出された砲弾を残らず受け止め込められた力を全て消失させた。



157:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/15(火) 21:07:14.22 ID:jW02uDs0o

そして弾丸となった金属片は緩やかに落下する。

御坂は地球の重力に引かれる金属群へと意識を伸ばし、再度の投射を用意する。

「――」

が、速度は変わらず落下が継続される。
待ち受ける電磁の網をすり抜け御坂の意思を無視して地上へと落ちていった。

「……未元物質の混ぜ込みで干渉方式を書き換えた、かな?」

「さっすがぁ。ご明察だよ」

落下する金属片たちは電磁干渉を受け付けなくなっていた。
未元物質との衝突の際に異界の素粒子と融合され法則性を書き換えられた弾丸はもはや御坂に従いはしない。

「リサイクルもいいけどな、意固地にやると貧乏臭い――ぜっ!」

魔速による迫撃を、またしても御坂は避けた。

電磁場のゆらぎを捕らえる彼女の眼は最速の反応を持つ。
条理を無視する『未元物質』の挙動は空間に隠しようもない破壊を生み、それらは全て光速で知覚される。

人の反応速度の限界は彼女の能力によって補われている。神経系を伝達される電気信号は全て彼女の制御下だ。
脳の演算処理は刹那で行われ反射と等速の行動を可能にしていた。

「物持ちはいい方なのよ」

唐竹割りに迫る未元物質の剣を真横への高速スライドで躱し、同時に右手を基点に展開していた電磁鉄剣が伸びる。
その一粒一粒が『超電磁砲』の威力と速度を纏った刺突もまた知覚を彼方に置き去りにする狂速だ。

一瞬、電磁波に誘発された砂鉄の高速振動により耳鳴りのような甲高い音が生まれ、直後の雷鳴に掻き消された。
鉄鎖の伝導を利用し僅かに先行して放たれる雷撃が空気を割り裂き真空を生み大気摩擦を失わせる。
電気抵抗により灼熱を纏った黒の剣は錐の如く垣根の喉を狙い貫かんとする。



158:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/15(火) 21:23:41.91 ID:jW02uDs0o

超高速の磁鉄の進撃にしかし垣根は対抗する。

彼もまた素粒子を操る能力者だ。
戦場全体を包むように舞う未元物質は御坂のものと同等の反応速度を彼に与える。

干渉できず干渉されない、無そのものという第三の未元物質。
その様を知覚できるのはこの世でただ一人、垣根だけだ。

伝達速度は物理法則にすら縛られない。
この世の最速である絶対光速すらも凌駕して、完全なゼロ秒で垣根は黒剣の突撃に抗する。

迎撃は矢張り未元物質、手にした白剣だ。

刺突を合わせる動きで伸びる黒を中心から破断する。
左右に割られ霧散した砂鉄は風に巻かれる。

「コイツは単なる絶縁体じゃねぇ。
 今、電磁誘導の法則そのものをぶった切った」

「…………」

風に乗り飛散した砂鉄は、今度は再度の干渉が効く。
無数の砂鉄と直接干渉によって御坂と連結接続された不定形の剣に対し防壁は通用しない。
直接迎撃を行わなければ最初の数粒を無力化したところで回りこまれる。
精密な挙動により羽毛の隙間を縫うことも可能だっただろう。

だから直接的に、砂鉄剣を連結していた電磁干渉そのものを異界の法則で上書き無力化した。

「この剣に触れた瞬間にテメェの能力そのものが絶ち切られるぜ」



160:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/15(火) 21:38:51.33 ID:jW02uDs0o

とん、と軽い音を立て、御坂は宙を舞う駆動鎧の一つに着地する。
唐突な停止に垣根は眉を顰めた。

彼女は上空の強い風に纏う黒衣をはためかせながら僅かに俯く。
小さな震えは寒さからだろうか。右手で左の腕を身に寄せるように抱く。

左の手はずっと、上着のポケットに入れたままだ。

そして。

「あぁ――」

と息を吐いた。

それは歓喜と悲嘆と憤怒と嫉妬の混ざったような、混沌とした感情の吐露だった。

そしてこの時始めて、笑み以外の顔が垣根に向けられる。










「そういう、こと、やっちゃうんだ」










直後、彼女の言葉を掻き消すように。

周囲の全てが光に包まれた。



165:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/15(火) 23:33:18.27 ID:jW02uDs0o

閃光の正体は雷だ。
周囲を取り巻く駆動鎧と、風に吹かれ広範囲にばら撒かれた砂鉄。
それらの間に無数の雷電が発生し縦横無尽の落雷を連続させる。

その様はあたかも世界が光に包まれたよう。
空間を歪め炸裂させるように雷撃の嵐が突如として発生した。

「ちぃいいいっ――!!」

即座に反応し全方位に防御の白を展開しようとする垣根に、雷速よりもなお早く、一条の光が差し込む。

赤外線の照射だ。
電磁場干渉により励起状態となった電磁波は調律収束されたレーザーを生み光速で垣根へと飛来する。

光そのものという世界最速の攻撃だ。

「――――――!!」

通常の防御では間に合わない。
回避も不可能の一撃を凌ぐには光線を事象遮断の未元物質で直接防御するしかない。

(まに――あえ――!!)

多層展開した羽毛の壁で僅かばかりの時間を稼ぐ。
生まれた間隙に白剣で高次元時空間を切断。強引にその刃を光の前に捻じ込んだ。

「ぐ――――!」

白剣に切り払われレーザーは消失する。
だが防御に要した一瞬の間に全方位からの落雷が垣根へと降り注いだ。



166:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/15(火) 23:48:25.90 ID:jW02uDs0o

雷鳴が轟き、空が割れるような悲鳴と共に垣根へと降り注ぐ。

閃光、爆音。激震が学園都市の夜空に咲く。
あたかも絢爛な花火を思わせるそれは一人の少年の身体を貫こうとするものだった。

しかしその爆心点。
垣根帝督の防御は間一髪で成功した。

背の六枚の翼の内、二枚を炸裂させ周囲に散布、迎撃弾幕とし、二枚を使ってその身に掛かる地球の遠心力を遮断した。
それにより弾かれるように落下した彼の身体を残る二枚が抱擁するように包み込み、雷撃から彼を守った。

翼に切断された千の雷槍は悉くが砕けその色と力を喪失する。

『未元物質』の防御の前にはあらゆる事象は突破できない。
それを可能とするのは異界の法則すらも我が物とした白髪の超能力者だけだろう。

そう、思っていた。



だが――ここに究極の例外が存在する。



あらゆる事象を遮断するはずの未元物質の匣。

その中にあるはずのない声があった。





「――つかまえた」





『幻想殺し』という名の究極の例外が存在することを垣根は知らない。



167:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/15(火) 23:58:34.56 ID:jW02uDs0o

「――――――」

一瞬、何が起こったのか分からなかった。
未元物質の防御は完璧で、崩しようのない異界の絶対法則だ。

「だから言ったじゃない。そんなの、アンタだけの常識だって」

右手に持っていたはずの白剣はいつの間にか失われ無手となっている。
その手首を、御坂の手が掴んでいた。

彼女の声は右耳の側から聞こえてくる。
なのに、掴まれた腕の肘は――彼女の胸を指していない。

掴んでいるのは御坂の左腕だ。
だというのに、肌に感じる指の並びは右手のものだ。

「――――――」

緩やかに視線を落とせば、矢張り掴んだのは右手だった。
しかしそれは、彼女の左手に着いている。

非現実的な光景に喉が不自然に蠢く。

「は――――なんだよ、それ」

乾いた笑いに御坂の濡れるような声が答えた。



「幻想殺し――私の、彼氏」



直後、黒天から降り注いだ雷柱が垣根の体を貫いた。



168:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/16(水) 00:32:10.52 ID:0GsP3asbo

――――――――――――――――――――



天地を裂く雷撃の閃光が網膜に焼き付いた。
まるで旭日のような輝きに眼が眩みそうになる。

そして一瞬遅れて轟音が響き、びりびりと腰掛の震えを感じる。

「んんー、ん」

雷光に照らされた金の髪を風に流し、咳払いする。

まぶたの裏に残影を感じながら両目を瞑り、僅かに空を向く。

そしてゆっくりと口を開き、声を発した。

「Oh――o――」

直前までとは打って変わって、しんと静まり返った夜の街に涼やかな少女の声が澄み渡る。

「O――o――oh――――」

僅かに上下し調律するような声の音色は、やがて一つの高さで安定する。
そこで一度声を切り、数秒の無音が生まれた。

静寂を破ったのは小さな音だった。
こん、こん、と二回。靴の踵で小さく給水塔を蹴り、そして再び唇が開かれる。



169:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/16(水) 00:34:39.41 ID:0GsP3asbo





   おぉ友よ、このような調べではない
「――O Freunde, nicht diese Tone!」








170:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/16(水) 00:49:14.07 ID:0GsP3asbo

紡がれるのは歓喜の旋律だ。

本来バリトンが担当するべき歌を、しかしソプラノの少女の声が奏でる。

彼女の声に応えるように音が聞こえる。
何か、重く硬いものが立て続けに落下する耳障りな低音。

それにまた応えるように、少女は続く音色を紡ぐ。



「――Sondern laßt uns angenehmere」



長く伸びる声の残響。
そしてしばらくした後、また音が返ってきた。

小さな、かすかな音。
人が聞き取れる大きさではなく、彼女の耳に届く前に消えてしまうようなものだった。

だがその音を確かに聞いた少女は、続く詩を唇に乗せた。



「――anstimmen, und freudenvollere.」



そしてゆっくりと息を吐き、少女は展開していた能力を停止させた。



171:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/16(水) 01:01:56.99 ID:0GsP3asbo

しん――と夜の静寂が染み渡る。
激闘の嵐による騒乱はもはやなく、不自然なまでの無音が街全体を包み込んでいた。

無為な自問自答はない。
ただ、胸の内を街と同じような静寂が満たしていた。

そして長い空白の後。
再び唇が開かれる。

「――Freude」

主題から接続する二度の感嘆。
その一度目を漏らしたときだった。

「――Freude!」

コーラスが担当するべき句だった。
それを返した者が誰であるか、考えるまでもなかった。

「――Freude」

歓喜という言葉をそのままに、先程よりも強く、感嘆を漏らす。

「――Freude!」

そして矢張り応える少年の声。
馬鹿みたいにノリがよくて、こちらの妙な遊びに付き合ってくれるような輩は一人しかいないのだ。



172:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/16(水) 02:08:33.71 ID:0GsP3asbo

   Freude, schöner Götterfunken,

   Tochter aus Elysium

   Wir betreten feuertrunken.

   Himmlische, dein Heiligtum!


   Deine Zauber binden wieder,

   Was die Mode streng geteilt;

   Alle Menschen werden Brüder,

   Wo dein sanfter Flügel weilt.



173:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/16(水) 02:11:56.68 ID:0GsP3asbo

     ざ

 ざ

      ぐ

     ぢ

 ざ

  ち

           ゃ

   ぬ

        げ



     ぁ

            ず

  ぜ

       ち

   ょ




174:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/16(水) 02:14:07.28 ID:0GsP3asbo

   Wem der große Wurf gelungen,

   Eines Freundes Freund zu sein,

   Wer ein holdes Weib errungen,

   Mische seinen Jubel ein!


   Ja, wer auch nur eine Seele

   Sein nennt auf dem Erdenrund!

   Und wer's nie gekonnt, der stehle

   Weinend sich aus diesem Bund!



175:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/16(水) 02:16:39.52 ID:0GsP3asbo

      あ

   は

          は

    は

             は

       は



   は

               は

 は

       は

         は

   は

            は

     は




176:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/16(水) 02:17:58.80 ID:0GsP3asbo

   Freude trinken alle Wesen

   An den Brüsten der Natur;

   Alle Guten, alle Bösen

   Folgen ihrer Rosenspur.


   Küsse gab sie uns und Reben,

   Einen Freund, geprüft im Tod;

   Wollust ward dem Wurm gegeben,

   und der Cherub steht vor Gott.



177:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/16(水) 02:20:21.52 ID:0GsP3asbo




ここ?

こっち?

このへん?

これかな?






178:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/16(水) 02:23:53.23 ID:0GsP3asbo

   Freude trinken alle Wesen

   An den Brüsten der Natur;

   Alle Guten, alle Bösen

   Folgen ihrer Rosenspur.


   Küsse gab sie uns und Reben,

   Einen Freund, geprüft im Tod;

   Wollust ward dem Wurm gegeben,

   und der Cherub steht vor Gott.



179:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/16(水) 02:26:27.01 ID:0GsP3asbo




あれ?

ええと?

うーん?






180:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/16(水) 02:27:33.25 ID:0GsP3asbo

   Froh, wie seine Sonnen fliegen

   Durch des Himmels prächt'gen Plan,

   Laufet, Brüder, eure Bahn,

   Freudig, wie ein Held zum Siegen.



181:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/16(水) 02:28:09.95 ID:0GsP3asbo




ちがう






182:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/16(水) 02:30:12.41 ID:0GsP3asbo

   Freude, schöner Götterfunken,

   Tochter aus Elysium

   Wir betreten feuertrunken.

   Himmlische, dein Heiligtum!


   Deine Zauber binden wieder,

   Was die Mode streng geteilt;

   Alle Menschen werden Brüder,

   Wo dein sanfter Flügel weilt.



183:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/16(水) 02:33:12.15 ID:0GsP3asbo




これじゃない

これもちがう

こっちも

これもだ






184:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/16(水) 02:34:39.51 ID:0GsP3asbo

   Seid umschlungen, Millionen!

   Diesen Kuß der ganzen Welt!

   Brüder, über'm Sternenzelt

   Muß ein lieber Vater wohnen.



185:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/16(水) 02:35:32.87 ID:0GsP3asbo




なんで?






186:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/16(水) 02:37:16.12 ID:0GsP3asbo

   Ihr stürzt nieder, Millionen?

   Ahnest du den Schöpfer, Welt?

   Such' ihn über'm Sternenzelt!

   Über Sternen muß er wohnen.



187:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/16(水) 02:37:58.17 ID:0GsP3asbo




おかしいなぁ






188:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/16(水) 02:43:52.32 ID:0GsP3asbo

Seid umschlungen, Millionen!

               Freude, schöner Götterfunken, Tochter aus Elysium

Diesen Kuß der ganzen Welt!

               Wir betreten feuertrunken. Himmlische, dein Heiligtum!



189:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/16(水) 02:49:19.21 ID:0GsP3asbo




もっとおくかな

     ざざざざざざざざざざざざ

よいしょ

     がざざざががごぎざざざざ






190:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/16(水) 02:52:03.77 ID:0GsP3asbo

   Ihr stürzt nieder, Millionen?

   Ahnest du den Schöpfer, Welt?

   Such' ihn über'm Sternenzelt!

   Über Sternen muß er wohnen.



191:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/16(水) 02:54:38.79 ID:0GsP3asbo






やっちゃった

まぁいっか






192:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/16(水) 02:58:09.69 ID:0GsP3asbo

   Freude, Tochter aus Elysium


   Deine Zauber binden wieder,

   Was die Mode streng geteilt;



193:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/16(水) 03:05:27.01 ID:0GsP3asbo




まだかな?






194:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/16(水) 03:06:46.77 ID:0GsP3asbo

   Deine Zauber binden wieder,

   Was die Mode streng geteilt;

   Alle Menschen werden Brüder,

   Wo dein sanfter Flügel weilt.



195:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/16(水) 03:10:32.73 ID:0GsP3asbo




もうちょっと?






196:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/16(水) 03:12:39.09 ID:0GsP3asbo

   Seid umschlungen, Millionen!

   Diesen Kuß der ganzen Welt!

   Brüder, über'm Sternenzelt

   Muß ein lieber Vater wohnen.



197:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/16(水) 03:13:53.83 ID:0GsP3asbo




 






198:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/16(水) 03:28:45.86 ID:0GsP3asbo

「――Seid umschlungen!
     Seid umschlungen!

     Diesen Kuß der ganzen Welt!
     der ganzen Welt! der ganzen Welt!

     Diesen Kuß der ganzen Welt!
     der ganzen Welt! der ganzen Welt!

     ganzen Welt!


     Freude!

     Freude, schöner Götterfunken!


     Tochter aus Elysium!


     Freude, schöner Götterfunken!」



199:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/16(水) 03:35:08.18 ID:0GsP3asbo




「もう、いいや」



諦めて、立ち上がる。



「なんだ。やっぱり。未元物質なんてどこにもないじゃない」



真っ赤になった手を止めて、少し首を傾げて、微笑んだ。



「だってほら、血と肉と骨しかないもの」






200:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/16(水) 03:37:03.72 ID:0GsP3asbo











「――Götterfunken!」










――――――――――――――――――――




229:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/25(金) 21:17:50.28 ID:Xb9whaMpo

街は、死んだように静かだった。

先程までの喧騒は嘘のようで、まるで絵画の世界に迷い込んでしまったかのような錯覚に陥る。
耳を擦る音は自分のものだけだ。風の音も、木々のざわめきも、動きは何もかも失われてしまっているように思える。

「晴れたる青空ただよう雲よ――だっけ」

口にした句は邦訳のものだ。
元となった詩とは大きく掛け離れたものだが本来の意味は失われていない。

よろこびの歌――と呼ばれるそれは、この場には随分と相応しくないものだ。
そう自嘲の笑みが漏れた。

胸に歓喜はない。
まして悲嘆や慙愧もなく、あるのはただ渺茫とした虚ろだ。
そういう感情を胸に得て、彼女は少しだけ目を細めた。

「ま、結局、分かってた事だけどね」

自分の行いに意味などなく、何をしてもただ無為でしかない。
世界はそういう風に出来ているのだと悟ったのはいつのことだっただろうか。

幸福と不幸は常に等価で、どれだけ行っても差し引きゼロにしかならない。

まるで熱力学のような絶対的な法則の檻。
もしこの世に絶対の法則がただ一つだけあるとすれば、これを措いて他にないだろう。

そう、世界は平均化を望んでいる。

人の生はきっと幸福に分類されるのだろう。
生まれてきたことそのものが幸福の印なのだ。

だからこそ人はその生に於いて己の誕生のツケを払わされる。
時折舞い込む幸福は借金のようなもので、当然のごとく利子をつけて返済を求められる。

けれど、そうでもしないと人は生きていけない。
幸いがなければ人は簡単に絶望してしまう。

幸不幸の自転車操業。鼠車のようにくるくると。
一歩も進めていないのも分からずに、ずっとその場で走り続けるだけ。



230:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/25(金) 21:29:47.75 ID:Xb9whaMpo

「……アイツはどうだったのかな」

口癖のように不幸だ不幸だと言っていた少年。

何処かの宗教家が言うには、彼のその奇妙な能力こそが不幸の元凶なのだという。
一度そんな話を彼の口から聞いた。

人にとって幸福と不幸の絶対量が同じだとしたら。
きっと、彼の身に降り掛かる不幸の根源であるその右手こそが幸いの形で。

彼の持つそれは、誰かの不幸を肩代わりする救済の手だったのかもしれない。

眉唾ものの寓話に出てくる救い主。
もしそんなものが実在するのなら。



あの少年は、もしかするとそういう存在だったのかもしれない。



化石となった神話に出てくる英雄のような。
あるいは陳腐な漫画に出てくるヒーローのような。

本当はこの世界にある理不尽でふざけた部分を倒すためにいたのかもしれない。

人の世に降りかかる厄災を祓う奇跡の右手。
結果、自分が不幸になったとしても。それが原因で不幸になろうとも。

不幸な誰かを幸せにすることが彼にとっての幸せなのだと、きっとそう笑える少年だった。

――そう思うのだ。



231:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/25(金) 21:49:26.23 ID:Xb9whaMpo

けれど彼はたった一人を守るためにその身を犠牲にしてしまった。
もしかすると世界を救うはずだった少年は、たった一人の少女の命を守るだけでいなくなってしまった。

結果、世界は相変わらずふざけた理不尽を強要してくる。

――結局、何一つ変わっていない。

ご都合主義なヒーローは存在せず、都合の悪いことばかりが起きる。

それもそのはず。幸福は人の生の数だけ存在するのだ。
世界には七十億人分の不幸が渦巻いている。

この世界は不幸で出来ている。

彼が祓うはずだった不幸は世に蔓延り、泥沼のように人々を引きずり込もうとする。
逃れることなどできはしない。世界そのものが不幸で形作られているのだから。

「そう。つまり、結局は」

「誰も彼もが不幸に呑まれるしかない、って?」

肯定の代わりに肩を竦めて答えた。

「馬鹿言うんじゃないわよ。
 幸福とか不幸とか、そんな幻想みたいなものなんかに理屈があって堪るもんですか」

「幻想、ね――アンタはそれが全部、錯覚みたいなものだって言うの?」

「そうかもね」

頷いて、彼女は幸せそうな笑顔を浮かべるのだ。

「だって私は、幸せだから。私はアイツに救われたから。
 これが単なる思い込みに過ぎないとしても、私がそう感じるんだからそうなのよ。
 だから私は不幸なんかじゃない。それはアイツを否定する言葉だもの。
 誰にもそんなこと言わせない。たとえカミサマにだって――そんなこと、言わせたりしない」

怒っているような、あるいは泣いているような。
喜怒哀楽が綯い交ぜになった笑顔を浮かべて、彼女は微笑んだ。



232:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/25(金) 23:33:51.87 ID:Xb9whaMpo

「…………」

彼女の言うように、幸不幸などというものは主観によって幾らでも姿を変えてしまうものかもしれない。
彼にとってそうであったように、彼女にとってもそうなのかもしれない。

けれど客観的な、この世界を外から眺める視点から言ってしまえば。

「……そっか、うん」

彼女の言葉の本質を理解して。
頭に乗ったベレー帽の位置を整えて。

「結局、アンタはそれでいいんだ」

言って、笑った。

彼女にとっての不幸は、もう存在しない。
自身の死すらも彼女にとってはどうでもいい無価値なものでしかない。

ただ一つだけ彼女にとって価値あるものは、彼の行いであり、彼の歴史そのものだ。
死は覆らない。人は生き返らない。過去は変わらない。

彼女の幸福は、彼の死によって完結している。

――でも、と言外に思う。

彼女にとっての幸福が確立していて。
それは絶対に否定されず。
他の全てが無価値なのだとしたら。

彼女はこれ以上の幸福も不幸も得ることがないとしたら。

そしてもしも、幸福の絶対値の法則が本当にあるとしたら。

――それは結局、死んでるようなものじゃない。



233:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/25(金) 23:52:09.49 ID:Xb9whaMpo

惰性で生きているに過ぎない自分が言うのも馬鹿馬鹿しくて、言葉にはしなかった。

(結局、それを言うなら私も似たようなものだもんね)

だから代わりに、と。
本当に馬鹿馬鹿しい、それこそ幻想のようなと思うことを言おうとして。

「ねぇ」

と、先に言われ、言葉を飲み込んだ。

「……何?」

問い返すと彼女は、矢張り笑っているような泣いているような、奇妙にちぐはぐな顔で言うのだ。



「もしかしたら、常盤台でアンタと普通に出会えてたら――友達になれたかな」



「――」

最初に彼女と出会ったときには既に敵同士だった。
そもそも自分はこういう成りだし、こういう性質だ。

前提条件からして間違えている。
終始一貫、彼女のような存在とは相容れない。
この世界に於いて、彼女の言うような可能性は絶無なのだ。

だから、最初から答えなんて決まっている。

「――さあね。結局、ifの話なんてしても仕方ない訳よ」

笑って肩を竦めた。



234:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/26(土) 00:22:47.87 ID:lPjnIMIpo

暫くの沈黙の後、ふ、と溜め息を吐く。

もう充分だろう、と思う。
これで自分の役目は終わった。最初から、自分の出番はここまでだ。

これ以上舞台に上がっていても仕方がない。
下手に残っていたところで自分にはもう役もない。

だから大人しく退場しよう。
それが一番賢い選択だと、そう思う。

踵を返し、彼女に背中を向ける。

「それじゃ結局、私の出番はここまで。
 アンタは精々、この理不尽で不幸な世界に塗れるといいわ」

そう捨て台詞を遺し、立ち去ろうとした。なのに。

「――――――ねえ!」

けれど彼女の声に呼び止められ、足を止めた。

「……何よ」

振り向かず、背を向けたまま言う。

少しだけ不機嫌そうに。
折角演出した最後の場面を台無しにされたのだ。
それなりの理由がないのなら怒ってもいいだろう。

けれど肩越しに聞こえた声は、完全に予想外のものだった。

「名前、教えて」



235:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/26(土) 00:35:16.85 ID:lPjnIMIpo

「……結局、私はただの、どこにでもいるモブキャラよ?
 第一、私の名前なんてとうの昔に消えちゃったわよ」

「それでも、たとえ形だけだとしても、あるでしょう?」

「どうしてそこまで知りたがるのよ」

「だって」

言う彼女の表情は分からない。

「友達なら名前で呼びたいじゃない」

――――――。

「……そうね。まあいっか」

被った帽子の位置を直し、肩越しに言う。

「どうせこんな些細な事、暴露したところで結局なんてことないもの」

そして最後まで振り返らず、顔を見せぬまま告げた。





「私の名前は――――――[禁則事項です]」





「え――?」



236:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/26(土) 00:45:08.21 ID:lPjnIMIpo

――世界は不幸で出来ている。そう思う。

「じゃ、私は一足先に舞台を降りさせてもらうわ。グランギニョールはもう見飽きたもの」

だからこそきっと、誰もが幸福を望んでいるのだ。
それが儚い幻想だとしても人は幸福を羨望し、憧憬を覚えてしまう。

「結局さ、私だって他の連中と大して変わらないのよ」

人が幸せであることに罪などない。
間違っているのはきっとこの世界の在り方なのだ。

誰もが幸福であれるような世界は幻想に過ぎないとしても。
実際がどうかとか、そういう下らないことは別にして。
そう願うことくらいは赦されてもいいだろう。

だから、と。

言うつもりのなかったもう一つの捨て台詞を言ってやるのだ。

「私だってね、俗っぽくてご都合主義で情け容赦なく皆が皆残らず幸せになるような。
 ――舌が蕩け落ちるような、とびきり甘い幻想物語の方が、好みな訳よ」

だから『もしも』があるとしたらその時は。



「じゃあ――またね、御坂」



そう、普通に彼女の名を呼べるようにと。

愚にもつかない願掛けのようなことを思いながら、その場を後にした。



――――――――――――――――――――



245:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/26(土) 22:31:02.78 ID:lPjnIMIpo

「はいどーも。お疲れさん」

早々に仕事を片付け、大した疲れも見せぬまま麦野が最後に合流する。

「んで、例のブツはどこかにゃーん」

「超問題なく回収しましたよ」

指に挟んだデータメモリを顔の横で揺らしながら絹旗は憂鬱そうな顔で答えた。

「小細工はどうにも超面倒です。正面から突破した方が楽ですよ。
 そもそも私たちって力押しの方が得意な面子じゃないですか。
 なのに最近の仕事ってこんなのばっかり。私たちが出張る意味があるんでしょうか。
 どうせならもっとそういうのが超得意そうな連中に任せればいいのに」

「文句言わないの。結局、下働きに選択権なんてないんだから」

不満そうに愚痴をぼやく彼女に、フレンダが意地悪そうな顔を浮かべて茶化した。

「それはまぁ、そうなんですけど。
 もっとこう、どかーんばきーっぐしゃーっ! って感じにやれる方が楽です。あと超ストレス解消にもなります」

「それができるのは結局アンタだけだって……」

「えー。麦野なんか、素の体術なら私より上じゃないですかー」

「アンタ私にスニーカー履けっての」

「「…………」」

少しだけ想像してみて、即座にありえないなと結論付ける。
そもそも彼女の能力からして前線に出るのは如何なものかと思うし、反論すると面倒なので素直に納得しておくことにした。



246:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/26(土) 23:32:21.89 ID:lPjnIMIpo

そんな四人の中、一人だけ言葉のない少女がいた。

「どうしたの滝壺。具合でも悪い?」

先程からどこか呆けた様子で棒立ちになっている彼女の顔を覗き込む。
滝壺は少しの間視線を宙に彷徨わせていた後、やや焦点のずれた眼でフレンダの顔を見返し。

「ちょっと疲れた……っていうか気持ち悪い」

「体晶使ったからねえ」

「吐き気は?」

「あ、うん。それは大丈夫」

そう言って滝壺は弱く笑って見せた。
その顔がいつもよりも白く見えるのは路地の薄暗く青褪めた街灯の所為ではないだろう。

「うーん。それじゃあさっさと帰った方がいいかな」

「帰った方が、って。何か超あったんですか?」

絹旗の問いに麦野は「別に大したことじゃないけど」と肩を竦めた。

「お腹空いたからご飯でも行こうかなーって」

「ご飯……!」

その言葉を聴いた途端、滝壺の顔に生気が戻る。

「大丈夫だよ、むぎの。問題ない。ご飯食べに行こう」

「……現金な子だねぇ、アンタ」

顔を見合わせ苦笑した。



247:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/27(日) 00:09:30.08 ID:gGh7esBMo

「それにしても超遅いですね」

「何が?」

「車を手配してるんですけど。何やってんでしょうか……」

「溜め息吐くと幸せが逃げるっていうぞー」

茶化す麦野に苦笑して絹旗は携帯を取り出し、手早く発信する。

「………………、どこで何やってんですかっ! 超早く来いっ!」

「おおぅ……」

電話に向かって怒鳴る彼女の剣幕に思わず顔が引き攣った。
少なくとも表面上だけは丁寧な絹旗が(と言っても端から見れば随分と妙なものだが)こうまで粗野な口調になるのも珍しい。

「……これは」

「もしかすると……」

「ごはんー……」

麦野とフレンダは互いに顔を見合わせる。

「は? 迷っ……ナビも付いてないんですか!?
 そっちに位置送りますからさっさと来てくださいっ!」

苛立ちを隠そうともせず、返事を待たず通話を切った。
親の敵のように高速で指がボタンを叩き手早くGPS情報をメールで送る。



248:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/27(日) 00:49:36.86 ID:gGh7esBMo

「まったく。超使えねー」

そう吐き捨てる絹旗に。

「……絹旗ちゃぁーん?」

「ひぃっ!?」

甘ったるい猫撫で声で呼ぶ麦野に何故だか悲鳴を上げて絹旗は思わず後退りした。

そこには溶けたヌガーのようなべっとりとした甘さを醸し出す笑顔の麦野とフレンダがいて。
二人はゆっくりと、得物を前に舌なめずりをする肉食獣のような気配で絹旗ににじり寄ってくる。

「ど、どうしたんですか二人とも…………はっ!?」

二人の位置はこちらを包囲するようで、そして絹旗はいつの間にかビルの壁面を背負っていた。

端的に言えば逃げ場がなかった。

「さっきの電話の相手、誰なのかにゃーん?」

「結局、なんかすっごく仲良さそうだったんだけどー?」

「は、はは、何をそんな超馬鹿なことが」

どうにかこの窮地を脱しようと逃げ道を探すが、さすがというか何というか、二人にはまったく隙がない。
……もちろん能力を使えば強引に逃げられるのだろうが、そうすると後が怖いので当然ながらその手は使えない。



249:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/11/27(日) 01:12:28.24 ID:gGh7esBMo

最終手段として残る一人に助けを求める。

「た、滝壺さん……!」

「今日はなんか、クリームっぽいものが食べたいなぁ。グラタンとか」

「駄目だこの人、超トリップしてる……!」

一縷の望みも絶たれ絹旗は愕然とする。

既に二人の頭の中では結論付けられていてしまっているのだろう。目を見れば分かる。
あとは冤罪を捏造するための魔女裁判だ。恐らく火刑台に送られるところまでシナリオは出来ている。

「絹旗ぁ……もしかしてアンタ」

「何を超勘違いしてるんですか。別にカレシとかそういうのじゃ……」

「「ほう……?」」

二人してにやりと猫のように笑ったところで自分の失策に気付いた。

「やっぱり男なんだ」

「結局、男だった訳」

(超しまったああああ――!)

顔が引き攣るのを自覚しながらも何とか体裁ばかりの笑顔を浮かべるが、眼前の二人の笑みの方が恐ろしい。
感情の極致には笑顔しか浮かばなくなるというのはどうやら本当だったらしい。

「さて、アシが来るまでもう少しあるみたいだし」

「ゆっくりお話を聞かせてもらおうじゃない。ねえ?」

二人に同時に左右の肩を掴まれ、絹旗はどうしてだか猛禽の爪に捕らえられた兎の気分が分かった気がした。



――――――――――――――――――――



258:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/12/04(日) 19:48:30.95 ID:CeVPrzkso

「あのー……これは一体どういうことなんでしょうか」

数分後、慌ててミニバンを飛ばしてきた浜面は状況を飲み込めず困惑していた。

道に迷うという言い逃れできないレベルの不手際をしでかしてしまったのだからきつい言葉の一つや二つは覚悟していた。
不機嫌な少女たちを乗せた密室という針のむしろに巻かれる覚悟もあった。
正直なところ、もしかしたら万が一にも、これが原因で粛清――殺されるのではないかとすら思っていた。

だというのに。
一体どういう訳だか妙ににこやかな少女二人に質問攻めに遭っている。

「ふーん、スキルアウトかー。私らそういうのとは縁がないけど、普段何してんの?」

「いやまぁ……仲間内で遊び歩いたりとか……」

「それくらい結局誰だってやってるじゃん。もっとこう、派手なのない訳?」

「あんまり大きな声で言えるようなことじゃあ……」

「アンタ誰に言ってんのよ。こちとら学園都市の暗部組織だっちゅーの。
 それとも何? もしかして私らよりも凄い事やらかしちゃったりしてる訳!? 聞きたーい」

と、この調子だ。



259:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/12/04(日) 19:50:03.18 ID:CeVPrzkso

あちらからしてみれば珍獣か何かを相手にしているようなものなのだろう。

表面上は年頃の可憐な少女に言い寄られているようにも見えなくもない。
しかし氷山の一角でしかないにしても彼女らの実体を知っている浜面には虎や獅子に擦り寄られているようで、生きた心地がしなかった。

端的に言えば、恐ろしい――というよりも気持ちが悪い。
檻に放り込まれた兎が自分を値踏みするような目で見ながら撫でる獅子に懐く気持ちと表現すると比喩としては的確だろうか。

鼠を愛でる猫など気持ち悪い。
蛇に恋慕する蛙など気持ち悪い。

浜面が彼女らに対して無力でしかないのは自明の理だ。
喧嘩慣れしているとはいえど、それは路地裏の飯事同然のものだ。
それが本業である彼女らには到底及ばない。

加えて能力という絶対的な壁がある。
浜面は何の変哲もない無能力者で、彼女らは学園都市でも有数の実力者だ。
自分のようなごろつきが何人束になっても敵わないような、そんな圧倒的な力量の差がある。

(そんな事は分かってる)

ここはこの街の底辺だ。

傍目には分からないようなものだが当事者である浜面には無視できないほどの悪臭が感じ取れる。
あの路地裏の退廃的な臭いなど及びもつかないほどに、汚れなどという言葉では言い表せないほどに濁々とした世界。

その汚泥そのものである彼女らを目にしてどうしようもないほどの拒否感が生まれる。

(俺もその一人になっちまったっていうのにな)

ここに墜ちた原因は自分にある。
それについては自業自得だと納得できるが、まだどうにも――馴染めない――でいた。



260:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/12/04(日) 19:52:42.81 ID:CeVPrzkso

要するに自分は往生際が悪いのだろう、と浜面は思う。

過失は自分にある。
あれが唐突に降りかかった災厄のようなもので、単に運が悪かったとしか言い様がなくても。
あれは間違いなく自分の責任だった。

他人に押し付けられるようなものではない。けじめは自分がつけなければならない。

それは分かっているのだが――。

「よーし。それじゃあ今日は浜面クンのお勧めのお店へレッツゴー!」

覚悟をして来てみればこんな具合だから、どうにも調子が狂う。

「……お勧めの店つっても、大抵どっかその辺のファミレスとか牛丼屋とかハンバーガーショップとか、そういうのばっかりだぞ」

少しだけ言葉を選んで答える。
何気ない会話にも綱渡りのような奇妙な焦燥を覚える。

一言で全てが台無しになる、という事はままあった。
ただ以前のものとは勝手が違い過ぎる。無能力者が相手であれば刃傷沙汰になってもそれなりに上手く立ち回れる自信はあった。

しかし彼女らは高位能力者で、それはつまり学園都市の中でも飛び抜けて頭がどうかしている連中だ。

その笑顔の下に隠された本性を浜面は理解できていない。
下手に逆鱗に触れればそれこそ一瞬で、理解する暇もなく頭が吹き飛ぶだろう。



261:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/12/04(日) 20:07:42.30 ID:CeVPrzkso

浜面は薄氷の上を歩くような慎重さで、そろそろと曲芸じみた演技を続ける。
恐らく彼女らにもそれは分かっているだろう。どれだけ取り繕っても見透かされている気がした。

まだ幼い頃、学校帰りにやっていた遊びを思い出す。

アスファルトの上に描かれた白線をはみ出さないように歩くという、道化じみた真似事だ。

黒の部分は奈落まで続く無明の穴だ。落ちると死ぬ。
そういう子供にありがちな無邪気で短絡的な設定を自分に科して遊んでいた事があった。

現状はそれによく似ている。

死と定義した黒い部分は踏んではいけない。
そこに足場はあるのかもしれないが、踏んでみなければ分かるはずなどない。
わざわざ命を賭してまで確かめようなどとは思わない。

そして白の部分。そこは昔と違った。
白線は浜面の思い込みだ。『ここまでは大丈夫』だと、『踏み込んでいい』と思い込んでいるだけの領域。
しかしその基準はあくまで浜面自信に因るものであり、実際他人の気持ちなど分かるはずがないのだから酷く脆弱で曖昧な定義でしかない。

灰色。グレーゾーン。

明確な白などありはしない。
どこからどこまでが大丈夫で、どこからはいけないのか。遊びと呼ぶには余りにも理不尽な賭けだ。
しかしそこから抜け出そうにも後には退けず、結局自分の目に見える白い部分を歩いていくしかない。



262:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/12/04(日) 20:12:04.36 ID:CeVPrzkso

死にたいとは思わない。

生きたい――と、そう思っている。

どんなに最悪な世界だろうとそこの部分だけはどうしようもなくて、無駄かもしれない醜い足掻きを本能は強制する。
それがどれだけ無力なものなのかは自分でもよく分かっている。

理性の部分ではとっくに諦念してしまっている。
そういう意味では浜面は既に死に体だった。

けれど本能の部分が――人の持つ衝動的で暴力的な部分が叫ぶのだ。

生きたいと。

死にたくないと。

既に諦めてしまっている自分だからこそ、そんな己の内から湧き起こる声に応えられるのかもしれない。
何もかもどうしようもならないことは分かりきっていて、だからこそ無駄な足掻きに興じるのもいいかもしれないと思ってしまっている。

だからだろうか。

「たまにはそういうのもいいんじゃない?」

彼女らの言葉がどうにも気持ち悪くて、浜面は妙な居心地の悪さを感じてしまう。

そして座席のシート越しにぽつりと、呟くような滝壺の声が聞こえる。

「そういえばファミレス、行ったことないね」

「……」

調子が狂うのだ。



263:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/12/04(日) 20:15:38.44 ID:CeVPrzkso

「ファミレス行ったことないって、お前ら普段どこで飯食ってんだよ」

自炊しているようにも見えない。
おおよそこの四人でつるんでいるのだろうが、それぞれの住まいは別だろう。揃って外食することも多いはずだ。

「どこって……普通のレストラン?」

「金銭感覚が根本からずれてることを考慮すべきだったよ……」

溜め息を吐き、浜面は頭の中に地図を思い浮かべる。
近場のめぼしい店をいくつか候補に挙げ、時間と立地を考慮し、空いていそうなところを探す。

女三人寄れば姦しいというのだ。それが四人もいるとなれば。
他の客の迷惑にならぬように――というより無駄なトラブルを誘発させないために吟味する。

「別になんだっていいよな。どこも同じようなもんだし」

「え? 色々あるじゃん」

「大して変わりゃしないんだよ」

そういう事にしておく。実際そうだろう。
いざ店に入ってみてああだこうだと言われては身が持たない。

言葉を交わしながら条件に最も近いであろう場所にあたりを付けて交差点を左折する。

「んじゃ初ファミレス行ってみよー!」

「おー!」

「ごはんー」

妙に機嫌のいい麦野の声にフレンダと滝壺が応える。
けれどもう一人は先程からずっと黙りこくったままだった。

ルームミラー越しに後部座席を窺ってみれば、絹旗はいかにも不機嫌そうな仏頂面をガラス越しに流れる街の風景に向けていた。



264:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/12/04(日) 20:59:55.26 ID:CeVPrzkso

浜面が彼女らと合流した時からずっとこの調子だ。
電話越しの癇癪は以前会った際のまま――といえるほど彼女の事を知っている訳でもないが、大して変わらぬ様子だった。

だが通話を終えて慌てて駆けつけてみればこの有様だ。
果たしてその間に何があったのか。

「…………」

下手に詮索して蛇を突き出したくもない。
沈黙は花だ。事なかれ主義である事を自覚して自分が日本人である事を再確認する。

けれど自分がいくらか配慮したところで他はそうはいかないのが世の常だ。

「絹旗ー。アンタさっきから静かだけど具合でも悪い訳?」

助手席の金髪が藪を突く。
下手に文句を言うと更なる被害拡大が予想されるので我関せずを貫くしかなかった。

「いいえ。別に。超なんでもないですよ」

素っ気ないというには棘のありすぎる言葉を返しながらも視線は窓の外へ向けられたままだ。

秋色に染まる街は既に仄暗い。
少し前まではまだ明るい時間帯だったのに、と回想しながら浜面は努めて少女たちを意識から外す。

深く関わらなければいい。
コンビニの店員のような、路傍の石のような、そういう存在として身を隠すように彼女たちと接する。
無難で平均的な、極々ありふれているが故に気に留められないような存在になればいい。

そうしていれば、よほど運が悪くない限りはきっと大丈夫だろう。



266:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/12/07(水) 19:47:22.83 ID:QAg2qkQOo

しかし禍災は黙っていてもむこうからやってくるもので。

「……はっはーん」

麦野はにやりと笑って(いるのだろう。ルームミラーからは死角になっていて見えないが)絹旗に言う。

「アンタ、もしかしてさっきので臍曲げてる訳?」

「違いますよ。下手な勘繰りはよしてください」

さっき、というのは彼女からの電話を受けた後、自分が到着するまでの間だろうか。

その間に何があったのか、どうして彼女がこんな具合になってしまったのか。
多少気にはなるが詮索はしないのが一番だろうと浜面は無言を続ける。

しかしまだ藪は突かれる。

「さっきの?」

滝壺が不思議そうにそう尋ねる。

彼女にしても別段他意は無いのだろう。
ただただ純粋な、何でもないような疑問としてそう訊いた。

沈黙を決め込むのであれば話題を断ち切ることもできない。
諌めるような真似もできるはずもなく、会話は続く。

「いやだってさ、絹旗ってばちょっとからかったらすぐムキになっちゃうんだもん。
 こっちだって何もないと思う方が無理だってーの。目の前に餌ぶら下げるような事する方が悪いじゃん」



267:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/12/07(水) 21:24:48.07 ID:QAg2qkQOo

「あれは――!」

僅かに慌てるように絹旗は口調を荒げ、しかし口篭もる。
そして少しだけ言葉を選ぶような躊躇いを感じさせた後、小さく声を発した。

「……皆超分かってるでしょう。
 私たちみたいなのには『そういうもの』と縁はないって事くらい」

「……」

ハンドルを握ったまま彼女の言葉を聴く。

彼女の言うそれが一体どういうものなのか、浜面には分からない。
だが――手に入れたくても無理なものである事には違いないだろう。

暗部組織『アイテム』。

学園都市の陰に暗躍する非合法の軍団。
粛清部隊。暗殺集団。超法規的組織。

彼女らがそういう存在だからこそ不可能なものだろう。

謂わば日常のような、平凡で平穏な『普通』。
何の変哲もない光景こそが最も縁遠いものなのだろう。

その言葉は否応なく浜面に事実を突き付ける。

ほんの少し前まで自分がいたあの日々さえもここには存在しない。

灰色に染まっていたものの、きっとどこか輝いていたあの日常の光すら届かない闇の底。
ここはきっとそういう世界なのだ。



268:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/12/07(水) 22:17:33.97 ID:QAg2qkQOo

けれど滝壺は言う。

「そうかな」

彼女は誰に向けてでもなく、独白するように疑問を投げる。

「別にそんな難しく考えることもないと思うんだけど」

「……」

「きぬはたが何かをしたいなら、私はその助けになれたらいいなぁって思うよ。
 きぬはただけじゃない。むぎのだって、フレンダだって、それは同じ」

一度切り、滝壺は小さな声だが狭い車内に響く確かな声で言った。

「私はみんなの味方でいようって思ってるから」

「……滝壺さん」

溜め息を吐き、絹旗はぽつりと呟くような声で返す。

「別に心配してくれなくても大丈夫ですよ。ただ単に、超不貞腐れてただけですから」

そう言って彼女は居住まいを正すと、ばつの悪そうに言った。

「ところでまだなんですか。私もお腹空いてるんですけど」

それが自分に向けられた言葉だと気付くのに数瞬を要した。

「あ、ああ。もうすぐ」

言ってハンドルを切る。目的地はすぐそこだ。
急ごうと思って急げる訳ではないがさっさと行ってこの妙な雰囲気の車内から出たい。

そう思っていたのだが。

「……それできぬはたは何に不貞腐れてたの?」

「話を超蒸し返さないで下さいよ!」

勘弁してくれ、と内心思う。
けれど先程までよりは幾分かましだろうと、何故だか薄く笑ってしまった。



269:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/12/07(水) 22:34:46.20 ID:QAg2qkQOo

「そうそう、それなんだけどさ」

「麦野!」

「いいじゃん減るもんじゃなし」

絹旗には聞く耳持たず麦野はシート越しに浜面の背を突くと身を乗り出すように顔を近付け。

「浜面ってさ、カノジョとかいるの?」

まさかここで自分に振られるとは思ってもいなかった。

「……それは定型分ってことでいいのか」

「そのままの意味よ?」

「……別にいねえけどさ」

「ふうん?」

どこにそう頷くようなところがあるのかと疑問に思うよりも早く麦野はとんでもないことを言った。

「じゃあさ、どんな子が好み? この中で言うなら」

「…………」

「うわ、結局凄い嫌そうな顔してる」

正直なところ血も涙もない鉄面皮の殺し屋集団の方がやりやすかったかもしれないなどと浜面は頭を抱えたくなった。



270:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/12/07(水) 22:55:03.50 ID:QAg2qkQOo

「ねえねえ、実はロリぃのとか趣味だったりしないの?」

「麦野ー。それ結局約一名をピンポイントで指してるよねー」

「だ、誰がロリですかーっ!?」

「アンタのこととは誰も言ってないけど?」

「じゃあ誰のこと?」

「絹旗に決まってんじゃん」

「結局、それ以外に誰がいるのよ」

「フレンダも人のことを超言えるような体格じゃないでしょう!」

「……忍者」

「は?」

「何よ突然」

「訊かれたことに答えただけだよ。好みのタイプ」

「うわぁ……」

「結局、頭大丈夫?」

「超キモいんですけど」

「大丈夫だよはまづら。私はそんなはまづらを応援してる」

「……そうかい。ありがとう」



271:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/12/08(木) 00:44:45.20 ID:KLAqlOAEo

少し冗句が過ぎたか、と思いつつも大して変わりはしないだろう。
彼女らの中で誰が、と訊かれても答えられるはずがない。

「着いたぞ」

ようやく辿り着いた大通りから少し外れたファミレスの、がらんとした駐車場に車を入れ奥の方に停めた。

自分の役割は精々が彼女らの暇潰しの相手だと理解している。

「ごっはんー」

「何か狭かったからか体が硬くなっちゃったんだけど」

「ねえねえ絹旗。結局、何でコイツと面識あったのよ」

「超まだ言いますか……」

四人が思い思いの事を口走りながら車を降りていくのを横目に浜面は気付かれぬように深く息を吐いた。
緊張が徐々に解けていくのを感じながら背をシートに預け目を閉じ気付かれない程度に脱力する。

「……何やってんの」

「あ?」

少女の声に目を開き首だけでそちらを向く。
見ればフレンダが車を降りようとする直前で止まり、浜面を怪訝そうな顔で見ていた。

何を、と問われても困る。

「まさかとは思うが俺も頭数に入ってんじゃねえだろうな」

「結局そのまさかだからさっさと来なさいよ」



278:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/12/22(木) 22:49:38.14 ID:V3uLILT7o

何故、と浜面は一瞬戸惑う。
自分の役目は彼女らをここまで送り届けることだ。
だからそれ以上、食事というプライベートな時間に自分は必要ないだろう。

しかし浜面は思い直す。
つまり食事の間も彼女らの玩具になれと、そういうことなのだろう。

まさか断るという選択肢があるはずもない。
きっとこの先、四六時中道化に徹する諦観を覚え浜面は喉元まで出掛かった溜め息を飲み込んだ。

「おい?」

車から降りようとして、浜面は眉を顰める。

ばたん、とドアの閉まる音。
助手席にはフレンダが乗り込み身を縮めていた。

「……何やってんだ」

ただでさえ小さい身体をなお小さくして、蹲るように――隠れるように。

「オマエ飯は」

「ちょっと、いいから。後回し」



279:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/12/23(金) 00:26:08.51 ID:W9juV5uHo

胡乱な視線を隠す気にもなれず、浜面は今度こそ嘆息する。

「一体何なんだ……」

呟いて頭を掻き、視線を正面に戻して、目に留まったものがあった。

「もしかして、あれか?」

「うっさい」

どうやら図星のようで、フレンダは窓から見えないように身を屈めている。

学生、高校生くらいの集団だ。
遠目には暗くてよく分からないが、ちょうどファミレスから出てきたところのようだった。

制服の形で男子生徒の集団と分かる。
どこにでもあるような、ありふれた学ランだ。

「知り合いか」

「……」

彼女は顔を伏せたまま、少しだけ身動ぎするように首を振り、そして小さく言った。

「友達」



280:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/12/23(金) 01:59:33.24 ID:W9juV5uHo

「……」

暫くの間、浜面は無言で、車のハンドルに凭れ掛かるようにして遠くに見える集団を目で追っていた。
隣で身を小さくする少女には極力意識を向けぬように。
やがて彼らが視界から完全に消えるまで、そうやってじっとしていた。

そして思い出したかのようにぽつりと。

「そっか」

言って、浜面は車のドアを開けた。

「……ん」

頷きを見て、浜面は扉を閉め、鍵穴に差し込んだキーを回す。
がしゃり、と鈍い音がしてロックが掛かる。

外の空気はやや冷たく、遠くない冬を想起させる。
肩を竦めるように一度身を震わせ、車体を挟んだ向こう側にいる少女を見遣った。

「――少し寒いな」

「これからもっと寒くなるわよ」

空を見上げると、分厚い灰色の雲が掛かっていた。
雪の季節はまだ遠いと思いながらも空から降る白を幻視してしまうような、そんな気配さえある。



281:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/12/23(金) 02:47:54.36 ID:W9juV5uHo

「ほら行くわよ、浜面」

声に視線を落とすとさっさと歩いて行ってしまっていたフレンダがこちらを振り返り見ていた。

何故だろうか、数分前とは違ってもう胸に諦観はない。

劇的な心境の変化があった訳ではない。
ただこれから先、ずっとこういう灰色の空の下を歩くのだろうと僅かながらに理解していた。

ある種の覚悟を得たのかもしれない。

それは同類相憐れむような、傷の舐め合いにも劣るものかもしれない。
単に自分だけが同族意識を持っているだけで、馬鹿馬鹿しい思い込みをしているだけなのかもしれない。

けれど、それでもいいと浜面は思う。

自分の見る現実は自分だけのもので、それだけが真実だろう。
例えただの勘違いだとしても、視野が狭窄していたとしても、それでいいと浜面は思う。

「――おう」

ポケットに両手を押し込み、浜面は歩き出す。

道化は道化らしく、たった一言を勘違いしていればいいだろう。

「あ、結局言い忘れてたけど、もちろんアンタのオゴリだから」

「……そんなオチだろうと思ったよ」

引き攣った笑みを浮かべながらも、それも悪くないかもしれないと思ってしまっている自分に顔を顰めた。



――――――――――――――――――――



290:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/12/25(日) 22:33:49.82 ID:6bKnEgepo

「はっ――はっ――」

酷使された心臓と肺が熱を持っているのが分かる。
それに先程からずっと、ごうごうと耳鳴りが止まない。

「はっ――」

息をするのも苦しい。
喉は干乾び、舌が貼り付きそうになる。
唾液も口内を潤すには足りるはずもなく、粘つくような不快感しか生まない。

「っ――は――」

思考は酩酊し、視界も靄が掛かったように朧だ。
四肢の感覚は既に失われ、痛みすら生まない。

筋肉から僅かに感じるのは重さだけだ。

切り捨ててしまえば楽だろうか、と益体もない考えが霞掛かった脳を過ぎった。

無我夢中というのはこういうことを指すのだろう。

我を忘れ、まるで深い霧の中を行くように目的地すら定まらない。
何処へ辿り着けば両足が止まってくれるのか、自分でも分かってはいない。

そんな漠然とした道に射すように、音が聞こえた。

「は――、――」

歌だ。



291:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/12/25(日) 23:00:07.93 ID:6bKnEgepo

「――――」

歌声に導かれるように爪先が向く。

その音色を間違えるはずもない。

手足の痛みも、胸の熱も、脳裏の霧も忘れてしまうほど。
絶対的な確信がそこにあった。

だからというように。

何故だか全く人通りのない街路に独り、彼女はベンチに腰掛け夜空を見上げていた。
唇から漏れる歌声は確かに耳に残っていて。

暗闇の中から浮かび上がったその髪色を目にした時、自然と言葉が生まれた。

「――――フレンダ!!」

叫びに歌声が止まる。

そして彼女はゆっくりとこちらを振り返り。

「――や。結局、遅かったわね。麦野」

いつものように微笑んだ。



292:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/12/26(月) 02:35:35.64 ID:PFVe03s6o

「――――」

言葉を紡げない。

喉は酸素を求めて喘ぐことしかできず、声を発する余裕は先の一言で全て消費されてしまっていた。
立ち止まってしまった以上、もはや手も足も動いてはくれない。

麦野は崩れそうになる身体を強引に起こし、ただ彼女を見ている他なかった。

瞳は感情に揺れている。
その大半は疑問の色を持っていた。

何故。

どうして。

言いたいことも、問い詰めたいことも、幾らでもある。
けれど口からは熱い吐息しか漏れず、声にすることができない。

そんな麦野にフレンダは緩くウェーブの掛かった髪を僅かに吹く風に流しながら柔らかく微笑むだけだった。

そして幾許かの時が流れ、ようやく何とか言葉を紡げそうになったところで。

「――――ねえ」

と、フレンダが先を回るように言った。

「どうして――こんな事になっちゃったのかな」



293:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/12/26(月) 03:30:27.19 ID:PFVe03s6o

「っ――――!!」

その一言に放とうとしていた全ての言葉が潰された。

替わりに生まれたのは疑問ではなく激昂だった。

「アンタが――っ!!」

感情が溢れ返り、塞栓を起こす。
それに続く言葉が余りにも多すぎて、逆に何も言えなくなった。

詰まる言葉はどれもが彼女の先の言葉に対する憤りだ。
彼女の喉元まで出掛かっているそれらは行き場を失い麦野の体の内で暴れる。

「そう。結局のところ、結果的に私が仕組んだ訳」

しかしその全てをフレンダは一言で代弁した。

「そうね……私がアイツを繋ぎ止めたから、悪いのよ」

頷き、でも、と首を振る。

「私は結局、それ以外にできなかった。だって――」

微笑みのまま言う。

「他ならぬアイツが、命を賭してまで守ったんだもの」



299:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/12/26(月) 21:08:23.66 ID:PFVe03s6o

「――――――どう、いう」

「麦野には分からないわよね、結局」

ふ、と小さく息を吐き、フレンダは肩を竦めた。

「もしかしたら他に幾らでもやり様があったのかもしれないわ。
 それ以外にも道があるのかもしれなかった。
 きっとあそこが全部の基点で、そこから色んなことに影響していた。
 誰が生きて、誰が死んで、何がどうなるのか。一連の因果はあの時に集約されるのよ。
 いわゆる分岐点。選択肢がある場所。ゲームなら間違いなくセーブしておくべきポイント。
 でも現実にはそんなものはないし、過去は取り返せない。
 時の流れは不可逆で、起こった事は何があっても覆せない。
 過去は変わらず、未来だけが刻々と変化していく。結局、世界っていうのはそういう風にできてるのよ」

「アンタ――何を、言って――」

上擦るような麦野の声に彼女が答えることはない。
フレンダはただ、麦野を見る目を細めるだけだった。

「私はこうするしかできなかった。
 そして結局、それが全部を台無しにした。だからきっと、私が悪いのよ」

微笑み、しかし。

「だけどさ――」

嘆くように彼女は言う。

「私だって、ねえ、大切なものがあったのよ」



300:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/12/26(月) 22:25:57.11 ID:PFVe03s6o

その言葉に、麦野の視界はまるで酩酊のような色を得る。

「じゃあ――!」

その時、咄嗟に口にしてしまった言葉は、後戻りできなくなるものだった。

「アンタにとっての『アイテム』ってのは、そうじゃなかったってことなの!?」

「……」

血を吐くような叫びに、フレンダは矢張り微笑みを返した。

「馬鹿ね。そんなはずないじゃん」

「だったら――、――!」

その先に何と言おうと、当の麦野にしても分からない。

続く言葉を失い歯噛みする麦野に、しかしフレンダは問い掛ける。

「麦野はさ、なんで『アイテム』なんてやってるの?」

「――――え?」



301:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/12/26(月) 23:07:14.66 ID:PFVe03s6o

予想外の問いに、麦野の思考は固まる。

何を今さら、とも思う。

『アイテム』は彼女たちの存在意義だ。
ある種の大前提であり、覆すことはできない。

なのに、フレンダは何故と問う。

それは一体どういう意味かと、考えるよりも、問い返すよりも早く、フレンダは続けた。

「どうしてって、聞かれても困るわよね。だって理由なんてないんだもん。
 選択の余地すらない。『アイテム』として生きるか、そうでないかの二択。
 不条理よね。理不尽よね。でもそんなの大抵どこでも同じようなものじゃない。
 結局ただ単に、少しばかり皆が不幸だったってだけの話」

でもね、とフレンダは言う。

「私は、違うもの」

そう微笑む。

「麦野も、滝壺も、絹旗も、結局のところはみんな似たような境遇な訳じゃない。
 でも私は違う。私だけは違う。一人だけ、前提条件が間違ってる。
 確かにフレンダ=セイヴェルンは『アイテム』の構成員よ。だけどさ――」

「っ――!」

麦野は気付く。

先の問いが、残っていたかもしれない最後の道を断ってしまったことに。

この先を言わせてはいけない。
既に事態は断崖へ向かって疾走している。
残された距離は僅かしかなく、後戻りできるような状況ではない。

「フレンダ、アンタ――!」

だからせめて、少しだけでも食い止めようと叫ぶ。

けれど悲痛な叫びに、フレンダは矢張り変わらず、どこか泣き顔にも見える微笑を浮かべたまま――。

「だけど『私』は、『心理掌握』違うわ。
 私が『アイテム』である事を強要されることなんてなかったんだもの」



302:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/12/27(火) 00:12:11.36 ID:VIdE8LOSo

そう、『アイテム』の中で彼女だけが唯一立場が異なる。

滝壺も、絹旗も――そして麦野も、他に居場所などなかった。
自ら進んでそうなったはずもない。けれど彼女らには他に選択肢などなかった。
『置き去り』と呼ばれる彼女らにはそうでもしなければ生きる術がなかったから。

しかしただ一人、フレンダだけが立場を違えていた。

学園都市最古の超能力者、初代虚数学区、『心理掌握』。
他者の精神を乗っ取り、自分の形に書き直すという能力を有する超能力者。

その実体は、肉体を持たず、人の脳に寄生する精神生命体に近い。
幾つもの名と顔を持ちながらそのどれでもないという埒外の存在。
この学園都市においてAIM拡散力場という土壌がある限り、彼女は誰にも縛られず、誰にも止められない。

最も神座に近く、しかし神座には至れないとされたが故の序列第五位。

他の三人とは違う。
彼女は『アイテム』などなくとも関係ない。

「でも――!」

しかし否定の言葉を麦野は叫ぶ。

「アンタだって、皆で一緒にいようって、言ってたじゃない――!」

「……」
            私 た ち
「アンタにとっての『アイテム』っていうのは何だったのよ!
 アンタがどこの誰だろうと知らないわ!
 でも――『アンタ』は私たちの仲間だったでしょう!?
 それともそう思ってたのはこっちだけで、全部嘘だったって言う訳!?
 答えてよ、答えなさい、フレンダ=セイヴェルン――!!」



307:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/12/27(火) 23:10:54.18 ID:VIdE8LOSo

血を吐くような彼女の叫びに、フレンダは静かに微笑みを返す。

「結局――そんなはずがないじゃない」

目を細め、ともすれば泣き出しそうな微笑を浮かべそう言った。

「だったらどうして――こんな事になってんのよ!
 滝壺も、浜面も死んだ! 絹旗もあの様よ!
 アンタが言う『アイテム』っていうのはもう跡形もない!
 それでもアンタはこの残骸を見て大切だったって言う訳!?」

「そうよ」

フレンダは迷う事なく頷き、言った。

「じゃあなんで……!」

「結局、その事については私の失策だったって訳よ」

麦野の言葉に僅かに顔を歪める。

「どうしようもない凡ミス。私が甘かったってだけ。
 結局、あっちが一枚上手だったってだけの話。弁解の余地も無いわ」

ふ、と短く息を吐き。

「でもね、例えこうなったとしても、私はそうせざるを得なかった。
 言ったでしょ? 私は麦野や、滝壺や、絹旗とは違うって」



308:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/12/27(火) 23:15:47.37 ID:VIdE8LOSo

そう、彼女だけが例外だった。
彼女だけが『アイテム』に依存していなかった。

「ねえ麦野。どうして私が『アイテム』にいたのか、言ったことなかったわよね」

ならば――どうして彼女は暗部に身を窶していたのか。

「私はね、普通が欲しかった。
 超能力とか、『心理掌握』とか関係ないただの『普通』。
 私が『アイテム』であった理由は、たったそれだけなのよ」

身の丈に合わぬ高望みをしたから悪いのだろう。

「私には皆とは違って、他にも欲しいものがあった。守りたいものがあった。
 私が一人だけ卑怯だったから、罰が当たったのかな。
 ――ああ、うん。違うわね。結局、こういうのをきっと――」

不幸だった、と言うべきなのだろうと彼女は嘯き。

「――――!!」

その先にある断崖を麦野は、見た。

転がり落ちる先の末路を、麦野はこの時始めて直視した。
誰も彼もが不幸になって、諸共に墜ちる奈落がそこにある。

最悪の結末という深淵の魔物が大きく口を開いて待ち構えている。



309:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/12/27(火) 23:31:50.49 ID:VIdE8LOSo

「駄目――」

ずっと目を逸らしていた。
きっとどうにかなるだろうと淡い期待を懐いていた。

口から漏れる言葉の隅で、どうしてそんな甘い考えをしてしまっていたのだろうとふと思った。

答えはすぐに見つかる。
そんなものは一つしかない。

あの時、彼に懐いてしまった期待が全てを破滅へと導いた。
要するにこれは賭けの負債なのだ。

彼は賭けに負けた。

たったそれだけ。
単純明白、簡潔な答えだ。

「だから――」

敗因については、ただ運が悪かったとしか言えない。
しかし結果として、賭けのつけを払わされる事になる。

そこで待ち構えている恐ろしい魔物をようやく理解し、麦野は。

「言うな、フレンダ――!!」

ただ叫ぶことしかできず。


     、 、 、 、 、 、 、 、 、  、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、、 、 、 、 、 、 、 、 、
「結局、それを台無しにした垣根帝督をそのままにしておくなんてできなかった」



彼女と彼女にとっての最後の一歩がその一言で踏み出された。



310:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/12/28(水) 00:14:45.86 ID:KDTF9hBzo

「――アンタ、それ、分かってて言ってんの」

麦野の押し殺すような声。
その言葉にフレンダはただ無言で微笑みを返すだけだった。

「その理屈だと、私は」

彼女がそう言うのであれば。


            『 ア イ テ ム 』
――麦野もまた、守りたかったものを台無しにした彼女を。



「ごめんね、麦野」

じゃり、と靴が砂を噛む音。
フレンダはゆっくりと麦野に歩み寄る。

「アンタはいっつも、そうやって人に全部押し付けて――!」

麦野の言葉にフレンダは苦笑する他なかった。

そして僅かな距離をおいて対峙し、フレンダは足を止める。
身長差がある。俯く麦野をやや見上げるようにフレンダは笑った。

「そっか」

彼女の顔を見、フレンダは言う。

「結局、麦野はそう思っててくれるんだね」



311:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/12/28(水) 03:44:16.33 ID:KDTF9hBzo

柔らかく笑い、そしてフレンダは目を瞑り、回想する。

それは在りし日の光景だ。

上辺だけの言葉で取り繕い、嘘に塗れた関係を繋ぎ止めていた。
本当の感情を仮面で塗り潰し隠して送っていた。

全てが全て虚構に彩られていたような、そんな場景だった。

けれど、失われてなお目蓋の裏に焼き付いた、きっと眩しいと思える日々。

彼女の記憶は余りに確かで、その時々の感触までもがありありと思い出せる。

(――ああ、嫌だなあ)

胸にある諦観と共に目を開く。
するとそこには麦野の顔があった。

「あのさ、麦野」

苦笑して、フレンダは言った。

「もし全部をやり直せるなら、今度はもっと上手くやってさ。
 ――結局、また皆で仲良くやれたらいいなあ」



312:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/12/28(水) 03:47:25.59 ID:KDTF9hBzo

あるはずのないその言葉に麦野は。



「――アンタのそういうご都合主義なところ、大嫌い」



言葉と共に、光がフレンダの胸を貫いた。

心臓に突き立てられた超高熱の『原子崩し』の光剣は、瞬間的に血液を沸騰させた。
膨張したそれは体積を増して圧迫し、脆い毛細血管が破裂する。

つ、と目と鼻から赤黒い血の筋が垂れ。

「――くふ」

と、えずくような音。
肺の空気と共に口の端から血が滴り落ちた。

己の能力の持つ自動的な精神防御は心臓と脊髄を焼き貫かれても即死させてくれはしない。
それを幸と取るか、不幸と取るかはさて置き、一瞬の猶予がそこにあった。

「――――――」

死の間際、唇が僅かに動き言葉を紡ごうとして、しかし声にならず。

そしてようやく少女の身体から力が失われた。



――――――――――――――――――――



323:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/12/29(木) 22:27:53.46 ID:KXSq5I+5o

「話は終わった?」

暗がりからかけられた声に、麦野はゆらりとそちらに顔を向ける。

茫洋とした気配はまるで幽鬼のよう。

乱れた髪。汚れた服。
ストッキングの先は破け、裸足だ。
割れた足爪からは血が滴り、まるで赤い靴を履いているようだった。

「御坂――美琴」

「久し振りね、麦野沈利――だっけ。第四位『原子崩し』」

視線の先、暗闇に溶けるように立っているのは黒衣を纏った御坂だ。
あどけない笑顔はもはや裏に渦巻く狂気を隠すこともない。

瘴気すら感じさせる歪んだ笑みを、麦野は素直に気持ち悪いと思う。
麦野の目に映るのは人の形を保っていることですら不思議なほどの醜悪な怪物でしかない。

だが侮蔑と同時に浮かぶのは憐憫だ。

これはもしかしたら自分の姿だったかもしれない。
『あったかもしれない自分』を重ね、麦野は拳を握る。

「アンタが……全部……!」

「それは嘘」

血を吐くような麦野の言葉に、御坂は無邪気な笑顔のまま即座に否定する。

「全部、は嘘。確かに私は色々やったけど、全ての元凶が誰なのか、分かってるでしょう?」



324:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/12/29(木) 23:28:30.29 ID:KXSq5I+5o

ぱちん、と空気の弾ける音。

「アイツが当麻を殺したんだもの」

だから、と御坂は笑う。

「私がアイツを殺しても、何も問題ないでしょ?」

「――――ハ」

その言葉に麦野は戦慄を覚える。

それは御坂に対してのものではない。
この先に更なる最悪があったことを理解して、麦野の口からは自然と笑いが零れた。

笑う以外にどうしようもない。
醜悪を通り越した荒唐無稽には笑うしかない。

「つまり、なんだ」

連鎖する最悪は留まることをしらない。

「その理屈で言うとさ」

彼女の言わんとしていた事を漸く理解し、麦野は笑った。

「――アンタ、私に殺されても文句はないわよね?」

まるで泣いているような笑顔を浮かべる。

対峙する御坂は、何処を見ているのかすらも分からないような視線をこちらに向け、
そして一瞬呆けたような顔を浮かべると。

「…………あ」

何も不思議はないだろう。
麦野は思う。

「仮初だとしても、形骸だとしても、アイツは私の男だったんだから――!!」



326:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/12/30(金) 00:02:59.85 ID:LTUncHaVo

軽く肩が触れる程度だった。

感じたのは僅かな衝撃だけ。
とん、とほんの少し身動ぎするくらいの力だった。



「え――――?」



そして瞬きほどの間すらも置かず、麦野の姿が消えた。
夜にまるで爆発のような音が木霊し、重なるようにガラスの砕けるような音が響く。

「……」

無言のまま御坂が視線を巡らせると、やや離れたところに麦野の姿があった。
昼間はそれなりの人通りに溢れているのだろう。

洒落たデザインの店が軒を連ねる中に埋もれるように麦野がいた。
だからだろうか、最初は分からなかった。

店と店の間、無機質なコンクリートの壁。
                   、、 、 、 、
そこにまるで花が咲いたようにべったりと赤い飛沫を広げ、麦野沈利は貼り付いていた。



329:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/12/30(金) 00:26:47.56 ID:LTUncHaVo

「……」

どこかシュールな絵画のような光景を暫く見ていた御坂は、ふと視線を戻す。
そして今起きた事が何でもなかったかのように、今までと同じように笑みを作る。

「意外と」

そう微笑む少女に、少年は冷めた視線を向けるだけだった。

白く細い髪。
赤い双眸。

白いダウンジャケットを着込み、そして簡素な杖に半身を預けた少年が立っていた。

「遅かったわね――一方通行」

学園都市第一位、『一方通行』。
そう呼ばれていた少年だった。

「……邪魔したか」

平坦で抑揚のない、まるで機械アナウンスのような声。
御坂は小さく首を横に振る。

「ううん、別に。あんなヤツどうだっていいし、手間が省けて助かったくらいよ」

「そりゃよかったな」

「うん、ありがとね」

目を細めて言う彼女は、表情を変えぬまま続ける。

「それで、わざわざ何の用かしら」



331:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/12/30(金) 00:59:42.52 ID:LTUncHaVo

一方通行は改めて事態を理解する。

目の前に立っているのはあの時の少女ではない。
顔面に笑顔を貼り付かせたその様は、まるですぐそこに広がっている血のよう。

あの時の少女は見る影もない。
そこにいるのは絶望の具現だ。

全ての望みを絶ち、全てを終わらせるためだけに存在する魔性。
物語に幕を引く存在。

神の見えざる手。

「最後のツケを支払いに来た、ってとこかなァ」

ふ、と吐いた息は白く、そして闇夜に溶けていく。

既に首に付けられた電極のスイッチは入れられている。
杖から手を離し、両足で直立する。

そして空いた右手を寄せ、胸に掛かる重みを抱き寄せる。

熱は失われ、冷たく、重い。

顔に掛かってしまった髪を細い指先で優しく払い、一方通行は目を細める。

そして視線を前へ。
吐き出された言葉は冷たく凍えていた。

「死んだ」

胸にかつて打ち止めと呼ばれていた少女の抜け殻を抱き締め、少年はそう告げた。



332:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/12/30(金) 01:12:46.95 ID:LTUncHaVo

原因は考えるまでもない。

『心理掌握』によるミサカネットワークに強引な接続を敢行し、酷使したからに違いない。
そんな規格外の挙動を無理に行わせればどうなるか、考えずとも分かる。

一方通行はゆっくりと、道の端にあったベンチに歩み寄りしゃがみ込むと、少女の亡骸を優しく横たえる。
そして自身の着ていたジャケットを脱ぎその上に掛け、数拍の間の後、ゆらりと立ち上がる。

「だから、もォいいだろ」

「そうね。もう、いいや」

振り返り、視線を向けた先に立つ少女は変わらぬ笑顔を浮かべている。

全ては終わりに向かって一直線に墜落している。
止めることはできないし、巻き戻すこともできない。

時流は常に一方通行で、停滞は赦されず流れ続けるしかない。

「だから」

少年は告げる。

「俺がオマエを終わらせる」



333:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/12/30(金) 01:40:15.85 ID:LTUncHaVo

――そう、これは物語が終わる話。



「そうね。きっと、それがいい」

少女は頷き、そして笑う。

「最後はやっぱりアンタしかいない。
 私にとっての不幸っていうのはアンタ以外にあり得ない」



もう探し物は見付からない。

甘い夢はとうの昔に失せてしまった。

世界はどうしようもない最悪に満ちている。

きっと友達なんていうものは言い訳に過ぎない。

そこにあったはずの縁は砕け散った。

御坂美琴は墜落する。



「終わらせる。何もかも」

少年は頷き、笑うしかなかった。

「それが俺に残された役目だ。
 あァ――どォせ、何もかも全部――」



墜落する。

物語を台無しに、ご都合主義な終わりに向かって。




      SYSTEM
「――あの野郎の手の上なンだろォけどな」





どこかで誰かが笑った気がした。



334:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/12/30(金) 02:07:38.55 ID:LTUncHaVo

そして夜闇よりもなお暗い漆黒が爆ぜた。
全てを飲み込み塗り潰そうとする暗黒が羽を広げる。

「巫山戯てンじゃねェぞ」

背に黒翼を纏い、少年は言う。

「何寝言をぬかしてやがる。何が元凶だ。
 日和ってンじゃねェよ、ほざいてンじゃねェよ、目ェ覚めてンのかオイ。
 そンなのは、――どう考えたって俺だろォが」

対し、白の光が宙を舞う。
闇を切り裂く眩い閃光が踊るように跳ね音を響かせる。

「やっぱり最後はこうなるわよね」

身に白雷を纏い、少女は言う。

「私にとっての始まりはアンタだった。アンタがいたから、全部が始まった。
 アンタがいなかったら誰も死んだりしなかったんだから。
 だったら――アンタじゃないと終わらない。終わらせられない」

だから、と二つの声が唱和する。

「アンタは私が――!」

「オマエは俺が――!」





「「――――終わらせる!!」」



364:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/01/14(土) 23:37:48.48 ID:8X9sl0KKo

初動はほぼ同時だった。

網膜を焼く白の閃光が迸り、御坂の額に掛かる髪を払い雷撃が跳ねた。
速度はまさしく迅雷。光芒は二人を繋ぐ空間を断ち切る一撃となって直線の軌跡を描く。
認知など遠く及ばず、意識する暇もなく白の超能力者を貫かんとする槍となる。

対し一方通行は、軽く地面を踵で蹴るだけだ。
彼の能力、ベクトル操作の初動。あらゆる力を意のままに操るという超能力の頂点。
それだけで地球の公転運動を基礎としたエネルギーは向きを変え、脳裏に描いた通りに反転する。

始動からの時間は刹那にも及ばない。
そうと決めた瞬間から逡巡すらも必要ない。
最初の一撃で互いに必殺の力を放っていた。

先に得物に喰らい付いたのは御坂の放った雷撃だった。
もし仮に相手がただの一般人ならば瞬時に消し炭になる――どころかミサイルの直撃を受けたが如く肉体が四散してもおかしくないほどの高エネルギー。

しかしそれも相手が極普通の者だったらという仮定の話だ。

白雷の矛先を向けられたのは他でもない超能力者第一位。
彼の最強の能力『一方通行』の前には他の能力など塵芥も同然。
強度など関係なく、どれも等しく有象無象でしかない。

――反射。



367:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/01/15(日) 00:06:07.63 ID:i7GHXjZ3o

超高速で飛来する雷槍は彼の身体に突き刺さらんとし、その直前に逆転する。
まるで鏡に映したように、そこだけ動画を逆再生するように、一瞬の間に今貫いた空中を再度疾走する。

この世の法則下にある限りどのような力であれ彼を傷付けることはできない。

『ありとあらゆる力』を操作するという理不尽な能力。
もし正面からこの絶対の盾を貫かんとするなら『彼の能力が通じない力』という更なる理不尽を以ってしなければ成しえない。

いくら超能力とはいえど本を糺せば単なる放電。自然現象に他ならない。
そんな極ありきたりの力が一方通行に太刀打ちできるはずがないのだ。

「――――!!」

御坂の放った必殺の雷撃はそのまま自身へと跳ね返る。
殺意のままに放たれた白光は意思すらなく己の指向のままにその身を躍らせた。

空気が爆ぜ、落雷の伴うあの轟音が炸裂する。

その中で御坂は己の放った雷光に額を撃ち抜かれた。



368:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/01/15(日) 01:17:00.63 ID:i7GHXjZ3o

御坂の身体が跳ねる。
間近で炸裂した音の衝撃波が少女の矮躯を叩き撥ね飛ばす。

そして、僅かに宙に浮いた御坂目掛けて足元から無数の錐が突き上げた。

一方通行の力。あらゆるエネルギーの指向性を思いのままに操る能力。
公転エネルギーを九〇度近く転換。彼の足元から直下へ。地中深くで鋭角に向きを変え、御坂の足元へと疾走した。

鋭く研ぎ澄まされた力の流れは路面を抉り上げ、構造材ごと宙へ浮く御坂に牙を剥いた。

無数の錐が少女の肉を抉らんと屹立する。
その様はあたかも掲げられた槍衾か、さもなければ地獄の針山だろう。

「――は」

と笑ったのはどちらだろうか。

突然、御坂の肌を貫く寸前、石の錐がぼろりと崩れ落ちた。
硬く、鋭く、少女の柔肌など苦もなく穿つような死の牙が無残にも塵と化す。
砂と呼ぶこともできないほどの微小粒子となったそれは反響する雷鳴に吹き飛ばされあっというまに消え去った。

言うまでもなく御坂の仕業だ。
『電撃使い』の頂点に君臨する御坂美琴。まさか彼女を彼女自身の力が傷付けるはずもない。
巨大な熱量を孕んだ白雷は彼女の身体に触れたと同時にその力を姿を変え、電磁波となり直後に現れた無数の錐に放たれる。
超振動を受けた錐は一瞬で微塵に粉砕された。



370:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/01/15(日) 02:59:52.66 ID:i7GHXjZ3o

しかし御坂は納得できないでいる。

「ちょっとこれどういう事よ――」

背面に雷撃を展開。反動で前方へと急加速する。
手には砂鉄剣。自身の纏う超振動で即座に燃え上がり白熱を曝け出す。

白の残影を描き、雷速の踏み込みで彼我の距離を詰め一方通行へと斬りかかる。

擦れ違い様の一閃。
同時に爆花が咲き散る。

光熱は一方通行の身体に触れる直前、そのベクトルを反転。
己自身へと全てのエネルギーを向け炸裂した。

無秩序な破壊は御坂へも向けられる。
しかし電磁の属性を帯びたそれらが彼女を傷付けることがあるはずもない。

「ちっ――」

舌打ちし御坂は反転し地を滑るように着地する。
目を細め、眉を顰め、一方通行へ睥睨を向ける。

肩越しに振り向いた真紅の瞳と視線が交差した。



374:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/01/16(月) 00:36:06.92 ID:gQOoAJwpo

「っ――!!」

閃光。轟音。
白雷の雨を降らせ、御坂は着地の勢いを殺さず、更なる磁力の助けを得て背後へと加速跳躍する。

雷雨は攻撃ではない。元よりそんなものが機能する相手ではないのだから。
雷爆の光と音、そして舞い上がった粉塵で視覚と聴覚を奪うため。スタングレネードと同じだ。

結果として御坂の判断は功を奏した。

ごがんっ! という鈍く重い音。
もしも御坂が加速し跳躍しなかった場合、そこにいたであろう地点に一方通行の拳が突き刺さっていた。
路面は陥没し放射状に長い皹が走っている。その中心、一方通行の右腕が深く突き刺さっていた。

手首は完全に埋没し、肘近くまでが地中に消えていた。
もしそれが御坂の身体に振り下ろされていたら――。

髪の毛一本でも触れるだけで即死。
そんな理不尽の塊こそが最強の証だ。

しかし御坂にそんな今更の事実はどうでもよかった。

そんなことと言い切れるほどの深刻な問題に彼女は直面していた。

「これは一体どういうことよ……」

今目の前に広がっている光景そのものが御坂の想定外だった。

「どうしてコイツが能力使えてるのよ、妹達!!」



376:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/01/16(月) 01:01:26.40 ID:gQOoAJwpo

『どうしてと申されましても、とミサカ一〇〇三三号は代表して応答します』

己と同じ声色が頭の中で生まれる。

普段聞いている『自分の声』とは違う響き。
頭蓋を通して鼓膜を振動させるものとは別の音色だ。

『ミサカがあの人の代理演算を行っていることはお姉様もご承知のはずです、とミサカ一〇〇三三号が引き続きお送りします』

「そういうことを言ってるんじゃないわよ!」

空中で身を捻りビルの壁面に着地する。
鉄筋を能力で引き寄せ磁力を足場に、胸の前には路面がある。
視線は頭上、水平方向へ。

赤い瞳がこちらを見ていた。
視線は御坂に向けられたまま、一方通行は緩やかな動作で腕を引き抜く。
手には路面を舗装していた煉瓦が一欠。それをゆっくりと持ち上げ――。

ぞくり――と背筋に走ったものは予感だ。
コンクリートの壁を蹴り身を翻す。

方向は御坂にとっての背面上方、月を背に跳ねるように身を躍らせた。

「く――!」

喉から漏れた声を掻き消すように轟音が響く。
彼の手から放たれた煉瓦は超高速の砲弾となり直前まで御坂のいたビル壁を撃ち貫いていた。



377:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/01/16(月) 01:38:48.12 ID:gQOoAJwpo

「今、上位個体は私よ! アンタ達の全権は私が握ってる!」

乱雑な動きで右手を上着のポケットに突っ込む。
じゃらりと鳴る音は金属質のものだ。

ありふれたゲームセンターのコイン。
掴み引っ張り出した金属片が幾枚か指先から零れ月光を返す。

「なのにどうして――!!」

ぱちん、と音を立て宙に舞うコインが小さく跳ねた。
彼女の能力によって電磁誘導の見えないレーンが形成される。

握った手の内を叩き付けるように、御坂は超電磁砲を射出した。

バギンッ――!! と耳が砕けるような音が夜の街を走った。

散弾のように、けれどそのどれもが必殺の威力を持つ一方通行目掛けて穿たれた超電磁砲は、一発残らず反射され御坂へと跳ね返ってくる。

だがそのどれもが御坂を傷付けはしない。
強力な斥力場の壁に阻まれ彼女を避けるように軌道を曲げる。
あるものは地面へ、あるものは夜空高くへ。白光を描く。

「どうしてコイツの演算なんかをするのよ!」

『それがミサカの意思だからです、とミサカは率直に答えます』

ぴくり、と一方通行の眉が動いたのを御坂は見逃さなかった。

この声は彼にも聞こえているのだろう。
しかし一方通行は無言のまま、何気ない動きで一歩を踏み出す。

背の黒い翼がざわめく。

『ですから、分かりやすく言いますと――』

次瞬、吹き荒れる颪のような黒の奔流が御坂を襲った。



『ミサカはお姉様と敵対します、とミサカはここに宣戦布告します』



378:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/01/16(月) 02:20:01.65 ID:gQOoAJwpo

「ぎっ――――!!」

左の脹脛を削られながらも御坂は空中で強引に軌道を変え怒涛を回避する。
ほんの毛先ほどが触れただけなのに鑢を掛けられたように抉られた。

(やっぱり電磁操作が効かない! ううん、そんな事より……)

御坂の意思に反して妹達は独自に判断し行動している。
  わ た し
「上位個体の権限が通じない……!?」

そんな事はあり得ない。上位個体の命令は絶対だ。
過去に打ち止め――最終信号を介して命令を送ろうとした者がいた事実が証明している。

御坂はそれを知らない。
ミサカネットワーク内に残された断片的な情報から得た知識だけだ。

しかし最終信号と同格の権限を有するはずなのに、御坂の命令は通じない。
いや、命令自体は通じている。そうでなければ垣根との戦闘で十全の力を発揮できていなかった。

つまり考えられるのは――。

「アイツか……っ」

脳裏に浮かんだのはベレー帽の少女。
本人はその辺りに転がっているはずだが、意識を割く余裕はない。

「元からこうなるのを見越して権限委譲の時に仕込んでたって訳……!」



390:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/01/25(水) 00:39:43.79 ID:JcPgrz/Ao

直後、飛び込んできた一方通行を御坂は街灯を電磁誘導で手繰り寄せることで軌道修正する。
円弧を描くような動きで回避した御坂は遠心力をそのままに背後に吹き飛ぶように飛翔した。

「くっ――!」

「ちっ……!」

歯噛みする御坂を一方通行は舌打ちし宙を追い駆ける。

暗闇の中、ぞわっ――と背の黒翼が粟立った。

「――――!」

高速回避のまま御坂はビルの壁面に着地。
電磁操作で周囲の砂鉄を掻き集め再度右手に白く輝く剣を形成する。

「っ――ああああああ!!」

思いつく限りの手段と持てる全力で白剣を強化、固定化し、御坂は黒翼を迎え撃つ。

これが単なる強化というだけでは太刀打ちできるはずもない。
御坂の能力の一切通用しない黒翼の性質を御坂は直感的に覚っていた。



391:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/01/25(水) 00:45:01.39 ID:JcPgrz/Ao

だが御坂にもこの漆黒の力に対抗する術がある。
今や御坂にしか、そして御坂だからこそ可能な禁じ手。


                、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、
白剣を構成する電子を、粒子と波動の中間の曖昧なまま固定する



同系統の能力者故に可能な能力模倣。

それは超能力者第四位固有の能力。
だが電磁操作系能力者の頂点に座す御坂だからこそ出来る荒業だ。

一度見たきりではあるがミサカネットワークと接続した今なら可能だと踏む。
能力のデータは本来の能力者から妹達は得ている。
一方通行の代理演算履歴の参照が可能であり、かつ同質の能力者である妹達だからこそ解析が可能だった。

導き出した特殊演算式を展開。
眩い純白を放っていた光剣が一瞬揺らめき、その姿を変質させる。

放つ色は病的なまでの、蒼白。


      Emu.メルトダウナー
「――――『偽・原子崩し』」



呟く言葉と共に、迫る黒濁を蒼白の刺突が迎撃する。



392:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/01/25(水) 00:46:34.72 ID:JcPgrz/Ao

「ぎっ……!」

「づっ――!」

チェーンソー同士をぶつけ合ったような激しい不快音を立て黒と白が激突する。
だが御坂の手にある光剣は砕けず暴力の波濤を押し止めていた。

電子を――限定的ながら素粒子の性質を固定化する能力。
それ自体が第二位の『未元物質』に由来するものだ。

固定という本来『防御に特化した能力』だからこそ一方通行の翼を受け止められていた。

だが――。

「ぐ、う……っ!」

苦悶に顔を歪めて御坂は奥歯を噛み締める。

「脳が……焼き切れ……!」

その力は別の能力者のものだ。
本来の使用者でない御坂が用いようとすれば負担は当然大きくなる。
相手が他でもない超能力者第四位、麦野沈利ともなればなおさらだ。
完全に発揮すれば御坂ですら太刀打ちできないとされた力を使いこなせるはずなどない。

モノクロに明滅する視界がどうしてだか赤く染まっていくような気がする。
そんな中、御坂の思考の片隅に疑問が生まれた。

(あれ……?)

思索も束の間、直後疑問は結実し。

「これって……!」

「っざけ……!!」

一際甲高い音を立て、両者は同時に弾けるように離れた。



393:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/01/25(水) 01:09:53.58 ID:JcPgrz/Ao

滑るように着地したのは道を挟んだ建物の屋上同士。
ポケットに入れたままの左腕を抱くように光剣を消した右手を沿え御坂は対岸の一方通行を睨む。

そして一方通行も同じように片手で頭を押さえながら視線をこちらに返している。

対峙はほんの二呼吸ほど。
吸った冷たい夜気を、は、と吐き捨て御坂は虚空に向かって叫んだ。

「――アンタたち、私に敵対するんじゃなかったの!!」

声はミサカネットワークを介した先、妹達に向けられていた。

「命令を無視できるなら私の演算補助なんてしなくていいでしょ!」

『ミサカはお姉様の味方です、とミサカ一〇五〇一号は答えます』

「じゃあ……さっき言ってたのは……!」

やっぱり、と予感が確信へと変わる。
腕を抱く右手にも無意識に力が入ってしまう。

視線を交差させた二人は荒い息に肩を上下させながらも独白のように毒吐いた。

「ほんっと、悪趣味にもほどがあるわよアイツ……」

「同感だなァ、コイツは、性質が悪いったらありゃしねェ」



394:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/01/25(水) 01:44:20.26 ID:JcPgrz/Ao

二人は理解している。
彼女たち、妹達が何を考えているのか。

ぱちん、と何かが弾けるような音が聞こえた気がした。

『確かにミサカはお姉様に共感し、お姉様の補助を行っています、とミサカ一五一一三号は答えます』

脳裏に響く声が重なる。
輪唱するように、共鳴するように。

同じ音が波紋を広げる。

『ミサカはミサカとしてお姉様のためにありたいと思っています、とミサカ一〇八五四号は独白します』

『最終信号は失われ、ミサカにはもう寄る辺がありません、とミサカ一四三三三号は呟きます』

『ミサカに生きる意味を下さったあの人も失われてしまいました、とミサカ一九〇〇九号は嘆息します』

『ミサカはもうミサカの存在証明ができません、とミサカ一二四八一号は』

ぱちん、とまた音。

『ミサカがミサカである理由はもうありません』

『ですがミサカはミサカであるために一つの目的を遂行します』

『たった一つ、どうにも冴えないやり方で』

『けれどそれでいいのだろうとミサカは思います』

『ですから最初の目的のためにミサカは行動します』



395:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/01/25(水) 01:54:20.11 ID:JcPgrz/Ao

『ミサカの目的は最初から定められていました』

『それが予め決められていたものだとしてもミサカはそれをよしとします』

『ミサカはお姉様のために生き』

『お姉様のために死にます』

『そう製造されました』

『そして』

『ミサカはその指針を肯定します』

『疑う余地などありません』

『ミサカにとっても意義の有るものだと』

『ですがミサカは自問します』

『本当にこれでいいのかと』

『ミサカは中途半端な欠陥品です』

『欠陥電気』

『ミサカはお姉様』

『のクローンです』

『ミサカはお姉様と同』

『一ではあり』

『ません』

『ミサカは』

『疑問します』



『本当はミサカはお姉様を止めるべきではないのか、と』



396:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/01/25(水) 02:15:15.97 ID:JcPgrz/Ao

つまり御坂に追従すべきか、それとも制止すべきか。
二律背反の矛盾を抱えたまま葛藤している。

そして答えが出せぬまま――彼、一方通行が現れた。
         、 、、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、
だから妹達は葛藤したまま答えを出さなかった。

彼女たち、妹達にはそれが出来る。
その特殊性故にこそ取捨選択の両取りという掟破りが可能だった。

「私の演算補助もやって」

「俺の代理演算もやるってか」

『その通りです、とミサカは肯定します』

「……それがどォいう事になるか分かってて。
 ――それでオマエはいいって言ってンだな」

『はい、とミサカは簡潔に意思表示をします』

投げられた一方通行の言葉に一切の迷いなく彼女は答えた。

『ミサカの代理演算機能は破綻しています、とミサカ一一八九九号は現状を報告し』

そしてまた、ぱちんと何かが弾けるような音が聞こえた気がした。

『お姉様のコントロールがあっても『心理掌握』を仲介していない現在、莫大な負荷が生じています、とミサカ一五三二七号は続けます』



397:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/01/25(水) 02:24:23.87 ID:JcPgrz/Ao

「――あァ」

どうにもこの世界には救いがない、と一方通行は改めて思う。

惨劇を回避する手段などとうに失われた。
悲劇をぶち壊すようなヒーローはもう存在しない。

逃げ道などない。いかな最強と謳われる彼であっても時を操ることなどできない。
まして運命を変えることなど何人であれ赦されはしないのだ。

とどのつまり不可避の最悪がこの世界だ。
どこをどうしようと行き着く先はたった一つ。

そしてどうせ同じなら、と一方通行は改めて思う。

あの時見た一条の光の鮮烈さには遠く及ばないのは分かっている。
自分は彼のようにはなれない。なろうとも思わないしなりたいとも思わない。
けれどそんな自分なりにやるべきことがあるだろう、と。一方通行は暗澹とした瞳を御坂に向ける。

「つまり俺が能力を使うたびに」

「私が能力を使っても同じように」

は、と二人の嘆息と失笑が重なった。

『ミサカは消費されます、とミサカ一八八二〇号は他人事のようにぼやきます』

ぱちん、とまた何かが弾けた。



――――――――――――――――――――



419:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/09(木) 21:01:55.73 ID:e1vDwVNHo

どうして自分はこんなところにいるのだろう。
そんなことをふと考える。

白と黒の二色に切り分けられた世界で少女は独り思う。

この位置は単にくじ引きの結果のようなものだ。
あたりはずれに一喜一憂することはあってもそれに不満を持つようなことはない。

ただ――もし『あたり』を引いていれば。
そんな愚にもつかない妄想くらいはしてもいいだろう。

はっ、はっ、はっ……。

風はなく、自分の息切れが嫌に煩い。
一歩足を踏み出す度に降り積もった白がぎちぎちと音を立てる。
白銀の平野に一対の足跡を刻みながら少女は体を引き摺るように歩いていた。

途中まで乗ってきた半ば置物と化していた年代物のスノーモービルは燃料を使い果たしたために放棄した。
もっとも燃料がまだあったとしても大差はない。
目的地などないに等しいのだから。

少女はただひたすらに東を目指す。

彼我の距離は徒歩だろうと乗り物があろうとほとんど変わらない。
そこは余りに遠く、辿り着けるはずもないのだと分かっている。
それでもどうしてだろうか。強迫観念のようなものに急かされて足を動かす。

ミサカ一〇七七七号はロシアの雪原を歩み続ける。

東の果て――日本、学園都市を目指して。
少しでも近付こうと、一歩、一歩と足跡を刻み付ける。



420:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/09(木) 21:10:09.56 ID:e1vDwVNHo

はっ、はっ、はっ……。

頬に突き刺さる風の音はイヤーウォーマーのお陰で聞こえない。
だからずっと頭の中に籠もるように自分の吐息だけが響いていた。

けれどそれとは別に、聞こえるはずのない音が脳裏に木霊す。

悲嘆のような、哄笑のような、怨嗟のような、歓喜のような。
あらゆる感情を掻き集めてどろどろに煮詰めたスープのような、そんな声。

耳を塞いでも聞こえてくるその声は音ではない。
二人の超能力者の代理演算が薄く広がった意識に細波を立てる。

そんな声ならぬ声をミサカ一〇七七七号はどこか他人事のように聞いていた。

同じ世界、同じ時間に起きていることだとは、どうしてだろうか、思えなかった。

いわば対岸の火事。
遥か遠い国の出来事をテレビの画面越しに眺めているような、そんな気配。
比喩でもなく今彼女がいる場所は事が起きている学園都市とは遠く離れた国ではあるのだが、彼岸までの物理的な距離はここでは関係ない。
他ならぬ彼女自身が事の当事者であるのだから。

けれど何故だろう。ミサカ一〇七七七号は思う。

自分は紛れもなく当事者だし、実際に今もこうして二人の代理演算の一端を担っている。
間違いなく渦中の人物といえるだろう。

なのに――どうにも現実味が持てないでいます、とミサカは独白します。

どこか朦朧とした思考で。
少女はそんなことを心中呟いた。



421:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/09(木) 22:01:49.10 ID:e1vDwVNHo

今この瞬間、学園都市で文字通りの殺し合いを演じている二人の超能力者のことはよく知っている。

二人が何を思い、何を経て、何のためにそうしなければならなかったのか。
もしかしたら本人たちよりも余程理解しているかもしれない。

はっ、はっ、はっ……。

ふっ――と、走馬灯のように記憶が脳裏を過ぎる。
出会った人たち。過ぎ去った時間。思い出の場所。
そんなものが浮かんでは消え、消えては浮かぶ。

そうして己の短い人生の記憶を掘り返してようやくミサカ一〇七七七号は気付くのだった。

「ああ……なるほど、とミサカは納得します」

画面の向こうのように感じるのも無理もない話だった。

この一週間で起こった出来事。
死んでしまった人たち。
生きている人たち。
殺し合っている者ら。

聞こえてくる声。
悲痛な叫びも。
絶望の嘆きも。
何もかも全て。

――全てただの『知識』でしかないのですから。

ミサカネットワークというフィルタを介してしまえば何もかもが薄らいでしまう。
精彩を欠き鮮烈さは失われ曖昧模糊としたものになってしまう。

それを一言で表すなら――。

「遠い……と言うべきなのでしょうね、とミサカは、」

転んだ。



428:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/15(水) 22:46:30.87 ID:vCtpukveo

延々と雪原を歩いてきた少女の体は疲労に苛まれ、ろくに受身も取れぬまま雪の中に倒れ込んだ。

降り積もった雪が地形を覆い隠していた。

路面に凹凸でもあったのか、それとも何かが埋まっていたのか。
それを確かめようとは思わず、ただ刺すような冷たさだけを顔面に感じミサカ一〇七七七号は暫くの間うつ伏せに倒れていた。

「……は、あ」

それから緩慢な動作でごろりと体を返し、仰向けに空を見上げる。

星が見えた。夜天には万の宝石を散りばめたような見事な星空が広がっている。

それら微かな光を遮るような無粋な町明かりは存在しない。
スノーモービルを燃料が尽きるまで飛ばしたのだ。
平原のど真ん中、最も近くの町からも五十キロは離れている。

学園都市からもこの星空が見えるのだろうかとふと思い、すぐに否定した。
あの街の明かりは深夜でも煌びやかで、星空など見えはしない。
その夜景はきっと素敵なものなのだろうけれどこの満天には敵わないだろうと薄く笑った。

視界全てに広がる星の海を映像処理してミサカネットワークにアップロード。
限界を超えた処理能力を更にほんの少しだけ圧迫し、脳にじりじりとした幻痛が走る。

「見えていますでしょうか、とミサカは誰にともなく呼びかけます」



429:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/15(水) 23:05:48.83 ID:vCtpukveo

答えはない。
しかしミサカ一〇七七七号は続ける。

「ミサカはこの星空を……美しいと感じます、とミサカは思わず溜め息を漏らします」

そういう感情――感傷はきっと生きる上で最低限必要なものではないだろう。

けれどきっと――人として生きるのであれば必要なものだ。

……それをあなたがミサカに教えてくれました。

自分たちが唯一姉と呼ぶ少女と、自分たちを唯一対等に扱ってくれた少年。
あの二人がいなければこんな感情は持ち得なかっただろうし、そもそも第一位の少年にとっくに消費されていただろう。
しかしあの白髪赤眼の超能力者がいなければ自分たちは生まれてすらいない。

つまりこの美しい景色を見られるのはきっと彼らのお陰で。

感謝――すべきなのだろう。

背に雪の冷たさを感じる。
痛みに近いそれは同時に熱にも似ていた。

その熱は生命の証だ。
心臓が鼓動を打ち、全身を血潮が奔り、脳の中では眼球が捉えた世界に震え火花が散っている。

これこそが生命。
ミサカ一〇七七七号という少女の命の火。

だから、というようにミサカ一〇七七七号は、思考を加速させる。



430:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/15(水) 23:17:51.60 ID:vCtpukveo

走馬灯のように駆け巡る少ない記憶を振り返りながら少女は自身の死に向かって疾走する。

体温は失われつつある。
最早体を起こすこともままならないだろう。

転んだ時に何もしなかったのではない。
何も出来ず、ただ無抵抗に転ぶしかなかったのだ。
四肢に力は入らず、呼吸するのですら酷く疲れる。

はっ、はっ、はっ……。

一息一息が血を吐くように苦しい。
生きるというのはこんなにも苦しい事なのだろうかと自問して、すぐに否定する。

もっと辛く、苦しい。
こんなものは苦でも何でもない。

そして――それと同等以上に幸せがあったはずだと少女は思う。

知識の中で二万通りもの生を経験し、一万以上の死をも経験した。
その全ての人生を肯定してくれた少年がいた。

生まれてきてよかったのだと。
生きていてよかったのだと。

ただ道具のように浪費されるだけだった存在の生を認めてくれた。

これを幸いと言わずに何と言えばいいのだろう。



432:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/15(水) 23:36:14.91 ID:vCtpukveo

彼がいてくれたから自分は救われたのだと少女は思う。
彼に救われ、短いながらもそれなりの生を謳歌し、今見上げているような美しい景色を知ることもできた。

そして、恋をした。

知識だけでは知りようもない鮮烈な感情。
苦痛と幸福が等しく混ざり合っている酷く矛盾した想い。

その感情を教えてくれたのも彼だった。

そう。自分の人生は間違いなく幸せだった。
ミサカ一〇七七七号は己の生を振り返り思う。

懐いていた感情は行き場を失い心の奥底に埋もれている。
けれど未だ消えないその小さな炎を抱いたまま少女は雪に沈むように星空を見上げる。

「見えて……いますでしょうか」

この美しい空を共有したいと少女は思う。

知識ではなく実感として。
彼と、そして彼女とも、同じ空を見たいと思う。

決して叶わぬと分かっていながらも――そう思わずにはいられなかった。



433:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/15(水) 23:46:01.57 ID:vCtpukveo

はっ、はっ……は――。

静寂の世界にたった一つだけ存在していた音が不意に止んだ。
ミサカ一〇七七七号の呼吸が止まった。

そして暫くして――。

「ああ……」

と漸く思い出したように声を漏らした。

息をするのも忘れて少女は呆然と天を仰いでいた。

視界の隅で生まれた小さな光があった。
それはゆっくりと翼を伸ばすように空に広がっていく。
漆黒の中に浮かぶ満天の星の海と、それを覆う虹色が視界を埋め尽くしていた。

本来こんな場所に現れるはずもない。
もっと北でしか見ることのできないはずのそれがどうしてだか目の前に広がっていた。

曙の女神の名を持つ光の天幕。
それが静かに降りてくるようだった。

まるで白夜のよう。
天から降り注ぐ光が地に倒れた少女の体を照らしている。

自然の条理を逸した場景にミサカ一〇七七七号は暫く思考すらも忘れて、ただただ見入っていた。



434:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/16(木) 03:10:23.68 ID:RIAi321Zo

どれだけそうしていただろうか。

少女はゆっくりと――重たい手を伸ばす。

たったそれだけの動作。
なのに体はろくに言うことを聞かない。

手袋が邪魔だな、と何気なく思う。
どうしてそんなことを考えたのか自分でもよく分からない。

はっ、はっ、はっ……。

ただ、見上げた光る空に届けと何故か願わずにはいられず。

「――――」

ごぼり、と湿った音が思考を遮る。

咳き込む。嫌な響きだ。
石臼を回すような重く濁った音色が少女の喉からせり上がり口から溢れる。

「ごほ、がはっ、ぐ、げぼ……」

小さな体を痙攣させながらも彼女は手を伸ばすのを止めない。

「っ、は――」

漸く何とか喉が暴れるのを抑え、ミサカ一〇七七七号は吐息を漏らす。
空がぼやけて見えるのは、浮かんだ涙の所為か、それとも。

ぽつりと白い雪の上に僅かな赤を落とし、微かに笑った。

「――遠距離はきついぜ」

とさ、と彼女の手が小さな音を立て、それきり何の音もしなくなった。

夜天に翻るオーロラの光はただ静かに少女の体に降り注いでいた。



――――――――――――――――――――



449:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/23(木) 21:52:46.24 ID:PNCrac+jo

街からは光が消えていた。

学園都市という、この時代の科学最高峰に有るまじき光景が街全体に広がっていた。

大規模停電。
学園都市に限ってそれはあってはならないものだったろう。

超効率の風力発電を主とする学園都市は、それぞれの学区、更には細分化された小さなブロックごとに独立発電を行う術がある。
当然の事ながら要所要所で足りない電力は他の区画から間借りしたり、深夜帯などに余った電力をプールする蓄電施設もある。
他にも地下数千メートルに持つ地熱発電施設や、ゴミ焼却を利用した火力発電など、電力には困らない。

いや、科学の最高峰だからこそ電力に頼らざるを得ない状況がある。
それを補うために過剰なまでの電力供給に心血を注いでいるという背景があった。

停電などもっての外。
学園都市にとっては心臓が停止するに等しい。

だが現在――それが実際のものとして学園都市に闇を落としている。

この現象が示す事実を思い浮かべながら木山春生はただの箱と化したパソコンから眼を逸らした。



450:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/23(木) 22:07:40.59 ID:PNCrac+jo

今彼女がいる病院は、学園都市の中でもほぼ唯一といっていい電気の光がある地点だった。
万が一の、学園都市においては過剰に過剰を重ねた対策として、独自に緊急発電施設を持っている。

とはいえそれは最低限のもので、通常の電気回線に回す余裕はない。
点灯しているのも僅かな非常灯ばかりで、残りは生命維持装置などの『止まってはならない』機械に全て回されている。

さすがだ、と木山は思う。

この病院で実質的な指導者にあったあの老医師は万全の対策を講じていた。
今やどこの病院でも電子データとなっているというのに、予備として時代錯誤な紙媒体のカルテを用意している。
学園都市という機関に真っ向から反発するアナログ方式。それが最良の対策だと分かっていたのだろう。

予備電源が全てを賄うことなどできはしない。
最効率で最良と最善を尽くすためには限られた電力を無駄に浪費できるはずもなかった。

聞いた話によれば彼の医師は学園都市の創設期からの古株らしい。
最初期の学園都市を木山は知らない。
それは木山に限らず学園都市の住人のほとんどが同じだろう。
だがその設立に関わった人物だからこそ、今や一国と呼んでも差し支えない学園都市の弱点を正確に見抜いていたのだろう。

この学園都市が機能停止状態に陥る事象など在り得ないはずだった。
しかし現に街からは科学の灯が失われている。

そして木山は矢張りと思うのだ。



――この街では在り得ない事が起こる。



科学万能の時代に、その最先端にして最高峰の街で。
そういうオカルトめいたものが犇めき合っているというのは何とも皮肉な話だ。



451:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/23(木) 23:34:09.08 ID:PNCrac+jo

サーバーにあるコーヒーが冷めないうちにとマグカップに注ぎ、一口飲むと木山は椅子の背に体重を預ける。

パソコンの中に残されていた彼の遺品――『遺産』と言った方がいいだろうか――には大方目を通し終わっていた。
内容を考えるとハードディスクを物理的に破壊した方がいいだろうかと思うが今頃は残らずデータが破損しているだろう。

五感には知覚できないが街全体を高密度の磁気嵐が覆い隠し荒れ狂っているはずだ。
対策を取っていない電子機器は残らず壊滅状態だろう。

僅かな非常灯の下、真っ黒なディスプレイに自分の顔が映っている。

「……」

僅かに目を伏せ、それから視線を逸らした。

窓の外、学園都市の夜景に向けて。

病院だ。高層ビルではない。
比較的高い階にあるとはいえ更に高いビルが虫食いのように四角い額に乱立している。
そのどれもが光を失っている。

だがその姿ははっきりと見ることができた。

降り注ぐ光がビルの森を照らしている。

椅子から立ち上がる。
マグカップは持ったままに、窓へと歩み寄る。

そこから見える景色はまるで学園都市ではなかった。



453:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/24(金) 02:15:30.21 ID:07kNViJXo

街に光はない。

だというのに窓から見える景色ははっきりと見て取れる。
天から降り注ぐ光が灰色の森を煌々と照らし出していた。

月明かりなどでは断じてない。
あの柔らかで冷たい光ではない。

降り注ぐのは毒々しい硬質な輝き。

木山が視線を上げると、そこに広がっていたのは夜空ではなかった。

見上げた先にあったのは夜天の黒ではない。

虹色。

鮮烈なまでの色彩が埋め尽くしていた。
全天を覆う旭光がゆるゆると翻る様はどこか海月を髣髴させる。

空の海に漂う七色の天幕。
その下を、そのどれでもない二条の色が走った。

一方は純白。
そしてもう一方は漆黒。

二つの色は互いに絡み合い食らい合うように天を駆ける。

色は、人の形をしているようだった。

「……だから」

木山はその光景を冷めた目で眺めながら小さく呟く。

「だから私は、言ったじゃないか」



455:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/25(土) 03:05:18.91 ID:dmKXlJHzo

極天に舞う二つの影が何者か。
そんなものは分かりきっている。考えるまでもなかった。

遠くに見える彼らに木山は僅かに目を細める。

「私はね、どうしてだろう。そんな予感がしていたよ。御坂美琴」

遠く、聞こえるはずもない相手に向かって木山は語り掛ける。

「君はとても優しく、強く、気高く、そして正しかった。
 まるで漫画の主人公。強気を挫き弱きを助く、正義の味方だ。
 あの時君の前に『悪』として立った私が言うのだ。あながち的外れでもないだろう。
 だが――だからこそ落とし穴があるんだよ」

言葉を切り、コーヒーを一口啜る。

「正義の味方。聞こえはいいが、その実やっている事は皆と大して変わらない。
 誰しもが己の胸に信念、正義を懐いて生きている。
 元来正義なんてものは主観的なもので、世間で言われているのはただの多数決の一般論だ。
 たまたまそこに合致したとりわけ目立つ者がそう呼ばれもてはやされる。果たして君はそれを理解していただろうか」

遠くから地響きのような低く重い音が聞こえてくる。
しかし木山はそれに全く頓着せずぶつぶつと呟きを続ける。

「君は余りにも正し過ぎた。君の行いは崇高で、実直で、それ故に愚かだった。
 もう少し賢ければ――老獪なら、賢しらに生きていればそんな真似はしないだろう。
 理性的と言ってもいいかもしれない。正義は感情論だ。だからこそ、理性はそれと相反する。
 私は君のおおよそ倍程度長く生きている。だから年長者として君を評するなら――」

一息。

「君は子供で、世界というものをろくに分かっていない――多少羨ましくはあるがね」



456:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/25(土) 03:10:27.01 ID:dmKXlJHzo

窓の外に目を焼くような光が閃く。
白雷が大気を切り裂き轟音を生み、建物自体を揺るがした。

「そう、かつての私がそうだったように。
 ――君が果てしない絶望を知ったとき、君を助けてくれる人がいるだろうか」

木山はそれすらもまるで画面の中の出来事かのように無視し言葉を続ける。

「いたのかもしれない。いなかったのかもしれない。
 私にはもうそれを知ることなどできはしないだろうが、結果としてそんな人物は現れなかったのだろう。
 だから君はあっけなく絶望の深淵に呑まれた……空想の域を出ないがね。
 しかし今となってはそこから救い出してくれる者を期待するというのも馬鹿らしい話だろう」

ふ、と木山は嘆息し遠く宙を舞う少女の顔を思い浮かべる。

脳裏に浮かぶのは木山の知る少女の、眩しいばかりの笑顔だ。
けれどきっと今彼女の浮かべているのはそれとは違う表情だろう。

どんな顔をしているのか――木山には想像すらできない。

しかし、例えどんな表情をしていたとしてもあの時の少女の面影はないだろう。

木山には何故だか妙な確信があった。
今は亡きこの部屋の主はきっとこれを予測していたのだろう。
彼の遺した膨大なデータにはその痕跡が見受けられた。

もしかしたら――自分の死すらも予感していたのかもしれない。

下世話な妄想だ、と小さく頭を振り木山はマグカップに口を付ける。



457:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/25(土) 03:13:45.69 ID:dmKXlJHzo

そうして暫く無言で窓の外で荒れ狂う光景を眺めていた後、木山はふと浮かんだ言葉を口にした。

「神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの――絶対能力者、か。
 ああ確かに、その姿を現すには正鵠を得ているのかもしれないな」

背に白と黒の尾を引き天を縦横無尽に駆ける様はさながら流星。
しかしこの場景に最も相応しい言葉で称するなら。

「――天使、か」

白雷の翼と黒風の翼を纏う一対の御使い。
天上の意思を代弁すべく剣を振るう幻想の体現者。
降り注ぐ光の天幕の下で舞うその姿は聖戦か、それとも。

「……いや」

目を伏せ、木山は呟く。

「そうだな。さながら……世界の終わり、といったところか」

そう言って、窓の外の景色に背を向け壁に寄りかかると、最早興味を失ったようにコーヒーを一口飲んだ。



――――――――――――――――――――



467:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/27(月) 22:27:56.26 ID:2w3Ky50Jo

学園都市の空を舞う両者の戦いは熾烈を極めていた。

背から黒翼を広げる超能力者、一方通行。
杖を突いていた時分の枯れ木のような脆弱さは消え失せ、白髪の少年は風を踏むように宙を軽やかに駆ける。
烈風を纏う彼はその荒々しさとは裏腹に、妙に冷めたような面持ちで相手を睥睨する。

対するは雷光を纏う超能力者、御坂美琴。
手の先が裾に隠れた左腕を庇うようにしながら、少女の背丈には少々大きすぎる黒衣が翻る度に雷鳴が響く。
右手には『原子崩し』の光剣が握られ、笑顔とも泣き顔とも取れぬ表情を向けている。

空中を走る御坂の足元にはただ風が舞っている。
目に見えるような足場はない。だが彼女は宙を縦横無尽に駆けていた。

その正体は他でもない、彼女自身の力だ。

彼女が踏むのは帯電した大気が作る電場と、そして地磁気、惑星そのものが構成する磁場だ。
電磁の力を自在に操る超能力者にとってそれは魚が水中を泳ぐに等しい。

過去の彼女であればそんな真似は到底不可能だった。
しかし全世界に張り巡らされたミサカネットワークを手中に収める御坂であれば可能だ。
圧倒的な演算力に加え、観測機として各地の妹達を利用することができ、そして純粋に莫大な出力を得たがために成し得た業だ。

既に――御坂は『超能力者』という範疇すら逸脱しつつある。



468:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/27(月) 23:11:57.68 ID:2w3Ky50Jo

その事実を一方通行は正しく認識していた。

まさか、これが真の『絶対能力進化計画』だったのか――と思ってしまうほどに。
                      レ ベ ル 6
超能力者をも超える能力者――『絶対能力者』。
第一位、一方通行以外に到達不可能と言われたその座に御坂は手を掛けている。

今や御坂が第一位――『一方通行』と成りつつあるのだ。

彼の持つ演算能力、解析性、そして絶対的な力の支配。
その全てを獲得しつつある。

「例えそうだったとして……オマエが絶対能力者になったとして、どうなるっていうンだよ」

小さな呟きは彼女に届かないだろう。
或いは、もしかすると自身に投げた自問なのかもしれない。

「死ンだ連中はもォ戻ってこねェだろォがよォォ――!」

叫びを体現するように背から噴出する翼が爆発した。
雷鳴を掻き消すような轟音を響かせ一方通行は御坂に突進する。

腕を振るう動きに呼応し黒翼がうねる。
暴力の具現が少女の矮躯に向かって打ち下ろされた。



469:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/27(月) 23:34:30.52 ID:2w3Ky50Jo

二つの音に更なる撃音が唱和する。

御坂の手に握られた眩く輝く白の光剣が黒の翼を受けた。
純粋な『力』という概念を溶かしたようなあり得ない現象に対し彼女の剣は真っ向から激突し、それを止めた。

「それをアンタが言うの?」

皮肉と侮蔑を込められた嘲笑と共に御坂は黒翼の連撃をいなす。

僅かの躊躇いも戸惑いもない洗練された返し。
熟練の剣技にすら匹敵する動きに一方通行は僅かに眉を顰める。

「アンタの動きは、もうとっくに逆算済みよ」

数合目の炸裂が響く。
御坂は翼を肩の後ろに流し、体を回転させながら微かな間隙を縫ってその懐に体を滑り込ませる。

そして、剃刀のような鋭い一閃が一方通行の首元を狙う。

回転の動きをそのままに、彼の左側、やや上方から浅い角度で剣が繰り出される。
それは避けるなどという選択肢が取れるような生易しいものではない。
防御も回避も到底適わぬ――確実に相手の首を落とす必殺の刃だ。



470:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/28(火) 00:15:59.30 ID:Yi1zEVfWo

「ちィ――!」
                   、 、 、 、 、
しかし一方通行はその一撃を受け止める。
彼の持つ能力は未だ健在。回避不可能な一撃を左腕で遮った。
『原子崩し』の特性上その力を操ることは出来ないがベクトル操作で相殺拮抗させることなら可能だ。

振り払うように光剣を跳ね除け一方通行は僅かに距離を取る。

現在の彼は過去の彼のように無敵ではない。
かつての彼に無く、今の彼にあるもの。
首元――ミサカネットワークを介し代理演算を働かせる電極がアキレス腱となる。

体と入れ替えるように振るわれる黒翼の殴打を御坂は僅かな動きで躱す。

「どうして動きが読まれるか不思議?」

逃がさない。

退く一方通行を御坂は追う。
連打される翼を避け、いなし、あるいは受け止め、距離を開けさせない。

「当然でしょ。今、私はミサカネットワーク……妹達と同期してるのよ。
 妹達の知識、経験、技術。私はそういうのを全部纏めて使いこなせる」

嘲笑し。
  、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、
「『私』は一〇〇三一回もアンタに殺されてるのよ」

「……!」

彼女の言葉に一方通行の瞳が僅かに揺らいだ。
その隙を御坂は見逃さない。

黒翼を掻い潜り肉薄する。



471:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/28(火) 00:42:00.05 ID:Yi1zEVfWo

「――っざけろォォおおおおおお!!」

御坂を迎え撃ったのは一方通行の叫び。
そして黒の瀑布だった。

彼の背から吹き出る一対の翼。
右と、左。二枚を打ち流し内へと入り込んだはずだった。

だが御坂の前に三枚目の翼が現れる。

「く……っ!!」

刈る動きは割り込んできた新たな翼に阻まれた。
その御坂を左右の翼が抱きすくめるように迫る。

「この……!」

宙を踏みとんぼ返りに弧を描き、陸上競技の高飛びよろしくすんでのところで回避する。

視線は天上へ。
降り注ぐオーロラの光が目に突き刺さり、そして――光が遮られた。

「――――!」

天幕と御坂の間に黒い影が屹立する。

四枚目の黒翼――だけではない。

「六枚……!?」

さらにもう一対、都合三枚の黒が虹色に代わって御坂の元へと降り注ぐ。



472:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/28(火) 01:52:48.94 ID:Yi1zEVfWo

驚愕するも対応は迅速だった。
叩き付けるように打ち降ろされた翼に、御坂は腕を突き出し剣先で受ける。

「がっ……あ……!」

猛速の激突に右腕がみしみしと軋み悲鳴を上げる。
殴打され地上に向かって打ち払われるも、しかし御坂は不意の一撃を凌いでみせた。

二人の距離が開く。

御坂の剣の射程外へ。

「おい……超電磁砲、御坂美琴」

一方通行はそれを追うでもなく、何か攻撃を放つでもなかった。
動きはない。ただ、暗く、沼底から浮かび上がったような鬱々と重く湿った声で名を呼んだ。

空中で停止した御坂の見上げた先には彼女を見る一方通行の白い姿があった。
背から三対六枚の翼を大きく広げ、極光の空に黒い影を落としている。
静かに宙に佇んだまま、白貌に映える赤い双眸が、御坂を侮蔑の視線で見下していた。

「オマエが今踏ンでるものは一体なンだ」



473:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/02/28(火) 02:34:00.96 ID:Yi1zEVfWo

「……あ?」

投げ掛けられた言葉に御坂は眉を顰める。

単純に言っている意味が分からない。

彼女の足元にあるはただのがらんどうだ。
あえて言うなら電磁場を踏んでいると表現してもいい。だがその程度だ。

だから問いを返す――よりも早く、一方通行は続ける。

「オマエは一体何を踏みつけてやがる」

侮蔑、悲嘆、そして憤慨――赤い瞳の中で波紋を生む感情はそういう質のものだった。

「確かに俺は殺した。
 あァ殺したよ。殺戮した。蹂躙した。虐殺した。
 一〇〇三一人! 間違いなく俺はアイツらを殺した!」

だがな、と彼は一度言葉を切り、そして歯噛みする。

「……俺はそれを一度たりと忘れたことはねェ。あれは俺の罪だ。俺だけの罪だ。
 オマエは俺じゃねェだろォ。オマエはアイツらじゃねェだろォが。
 『私を殺した』だァ? 俺は一度だって御坂美琴を殺した覚えはねェぞ。
 あの晩偉そうに説教垂れてくれたどっかの馬鹿と、何よりオマエの言葉を一番蔑ろにしてンのはオマエ自身じゃねェか。
 今、アイツらの死を、生を、湯水みてェに浪費してンのは他でもねェオマエだろォが。それとも――そンな単純な事にすら気付いてねェのか」

そして彼は目元を手で覆い天を仰ぎ――ああ――と嘆息する。

「――まったく、哀れだなァオマエ。哀しくなっちまうほど哀れだ」

指の隙間から漏れた視線に込められた感情は――ただ憐憫。

「さっきからべらべらべらべらと薬キメたみてェに悦ってヨガって知ったよォな口ほざいてンじゃねェぞ三下がァァああああああ!!」



492:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/02(金) 23:16:05.58 ID:PFVfvzx8o

月下極光の天蓋を背に六枚の翼を広げた超能力者は咆哮する。
彼から吹き付けるのは暴力的なまでの感情の嵐だった。

今まで抑圧されていた想念が怒涛となって押し寄せる。

「まさかオマエの口からそンな言葉が聞けるとは思ってもなかったぜ超電磁砲!
 ああ駄目だ。確かにこりゃァどうしよォもねェ! 最悪も最悪だ、反吐が出るぜまったくよォ!
 愛とか友情とか心とか魂とか! そンな幻想みてェなものを大事そうに語ってたオマエがそのザマだもンなァ!」

ざあ――と風が哭く。

「今はっきりと悟った。オマエは最悪だ。俺みてェな悪党なンか足元にも及ばねェよ。クソも同然だ。
 止めるとか終わらせるとか、そォいうのはもォどうだっていい。
 理由なンているか。目的なンて知るか。ただ一つはっきりしてりゃァいい」

悲風は瞬時に颶風へと変わり突如として学園都市の空に竜巻が発生した。

大気が彼の元へと吸い寄せられる。
六方へ広げられた黒翼に空気が飲み込まれてゆく。
撓み、軋み、ぎちぎちと音を立てながら――超高密度に圧縮される。

翼の中からきらり、きらりと木漏れ日のように光が瞬いた。
あまりの圧力に空気が高熱を発しながらプラズマ体へと変化し光を生んでいるのだ。

か、と白髪赤眼の最強は喉を鳴らす。

来る。

「単に――俺がオマエをブチ殺してェ」

それは死刑宣告に等しい呟きだった。



493:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/02(金) 23:26:09.73 ID:PFVfvzx8o

「……!」

放った言葉を追い越すように一方通行は疾駆した。

もし第三者視点でこの場を俯瞰していた者がいたとしたら彼の姿が掻き消えたとしか思えなかっただろう。

軽やかに、しかし重く。
雷鳴と同質の、けれど異質な爆音。

急激な加速に引き裂かれた大気が断末魔の炸裂を上げ夜のしじまに轟く。

翼に飲み込んだ空気をジェットエンジンさながらに背後に吹かし加速。
更にはその身に掛かる全ての負担と反動のベクトルを操作、背後へと逃がし更なる加速の助けとする。

疾風。そう称するに何の躊躇いも必要ない。

一条の弾丸となった白の超能力者は翼を背後へと打ち一息に間隙を埋める。

黒の翼が対する少女の体に向かって手を伸ばす。



494:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/03(土) 00:16:42.09 ID:MjhYscTOo

圧倒的なまでの暴力の塊。
それは如何なる法則で、そしてどれほどの熱量を孕んだ代物なのか。

唯一つ確かな事は、それは少女の柔肌を微かでも撫でようものならたちまち四散してしまうほどの埒外な力の結晶だった。

しかし翼が彼女の肌に届くことはない。

「ッ――!」

「――あは」

柔和な微笑を浮かべ対峙する超能力者の少女は疾風と対を成す迅雷。
彼が黒の暴風を背に持つのであれば、彼女もまた白の閃光を背から広げている。
                              、 、 、 、 、
伸ばされた翼を御坂の手にした原子崩しの剣がかち上げる。

少女の右肩から振り下ろされた黒を、左脇から伸びた白光が迎撃する。
そして、そのまま火花と表現するにはあまりに大きい閃光を放ちながら。

弾き返した。



495:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/03(土) 00:26:12.17 ID:MjhYscTOo

「なン……!?」

――あり得ない現象だった。

一方通行のあの翼はそもそも防御という概念が通じない。
あらゆる力のベクトルを支配する彼の奥底から湧き出したような翼はそれ自体が『力という概念』そのものだ。

『黒翼』の性質は『未元物質』に近い。
両者が同形態であるのは何も偶然ではない。
元々が近しい存在だからこそ同じ指向性を帯びていただけの話だ。

『未元物質』がこの世ならざる力なのであれば『黒翼』はこの世の力そのものの太極。
根源の力――と称すると何やらオカルトめいてくるがそうではない。

――力というものは特性を帯びる。

どんな力にも必ず何か特徴があるのだ。
例えば発熱。例えば運動。例えば高度。例えば圧力。
エネルギーが発揮されるとき必ず何かしらの形態を取る。

そうした中で『無形』という、到底形式とは呼べぬ型を持つ力を振るえばどうなるか。

無形の力は何者にも侵されず、ただ他者を犯すだけだ。
それに対抗できるのは――例外、『原子崩し』の固定という特性のみ。

しかし『原子崩し』の力はあくまで固定だ。
上位階にある無形の力に対抗することはできても、ましてそれを弾き返すなどという芸当ができるはずがなかった。

だというのに――白剣は黒翼を叩き返した。



496:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/03(土) 01:24:20.36 ID:MjhYscTOo

「なン……!?」

――あり得ない現象だった。

一方通行のあの翼はそもそも防御という概念が通じない。
あらゆる力のベクトルを支配する彼の奥底から湧き出したような翼はそれ自体が『力という概念』そのものだ。

『黒翼』の性質は『未元物質』に近い。
両者が同形態であるのは何も偶然ではない。
元々が近しい存在だからこそ同じ指向性を帯びていただけの話だ。

『未元物質』がこの世ならざる力なのであれば『黒翼』はこの世の力そのものの太極。
根源の力――と称すると何やらオカルトめいてくるがそうではない。

彼の操る『黒翼』という、既存のありとあらゆる超能力全てを逸脱する究極にして始原の異能。

一言で表すなら――『大統一力場干渉能力』。

ありとあらゆる『力』を操るそれは世界そのものに対する干渉能力であると称しても過言ではない。

超能力者序列第一位『一方通行』。
その名に違わぬ最強無比の絶対的な力だった。

……もし仮にその力に対抗できる者があるとすれば。
この世の物理法則に該当しない、彼の力の及ばない力という馬鹿げた存在だっただろう。
何故なら前提条件からして破綻している。この世界にある限りこの世界の法則からは逃れられない。

ただ一人、この世ならざる力を操る者、垣根帝督という存在を於いて他になかった。

そうでなければそれこそオカルトの世界を論じることになる。



497:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/03(土) 01:43:23.61 ID:MjhYscTOo

一方通行自身もそれは正しく認識していた。
彼の持つ力を検出するという特性は非覚醒状態であるならばいざ知らず、この場においては正しく機能していた。
  アクセラレータ
『量子加速検測器』の名の示すように。
自身の力の実体を完璧に把握していた。

だがここにもう一人の例外が存在した。

第三位『超電磁砲』――御坂美琴。

電気を操るという極めてシンプルな、この街にはごまんといる平凡な能力。
しかしその頂点を極め、更なる高みへと至った少女はこの馬鹿げた力に対抗する術を手に入れていた。

極めてシンプルなその力は、単純比にして彼の四分の一。
黒翼が放つ未分化純力場に対抗する、四分の一の欠片。

『重力』。

『強い力』。

『弱い力』。

そして――『電磁気力』。

この世界を構成する四つの力――四つの基本相互作用の内の一つを統べる電磁の女王の剣は確かに彼の黒翼を弾き返した。



499:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/03(土) 02:07:50.08 ID:MjhYscTOo

翼を弾かれたのはいかに一方通行であろうとも予想外の出来事だった。

対抗できるはずがない。できるはずがないのだ。
それほどまでにその力は圧倒的だった。

しかし御坂はそれに対抗する。

伍する。
後塵を拝すとも追い縋る。

届かぬはずの高みへ。
追いつけるはずのない相手へ。

手を、伸ばす。

「ちィ――おォォおおおおおお――ッ!!」

「あああああああ――ッ!!」

刹那もなく続く黒翼の連撃、三対六枚の暴風の全てを御坂は細剣一振りでまたもや返す。
弾き、受け、流し、両者が交錯する度に虹色の閃光が花弁のように、あるいは血飛沫のように舞い散る。

「浪費してる? いいえ――活用してるわよ!」

御坂は相変わらずの面持ちで、激剣の中で微笑む。

「これはあの子達がアンタのために積み上げた力。
 ただアンタを殺すためだけに築き上げた一〇〇三一回の技術と経験よ。
 アンタにとっては飯事だったかもしれないけどあの子達は必死に生きようとしていた」



500:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/03(土) 02:15:39.98 ID:MjhYscTOo

「どの口がほざきやがる……ッ!
 オマエはアイツらを、それこそ道具みてェにしか思ってねェだろォが……!」

「そうでしょうね。でもそれでいいじゃない。
 アンタを殺せるなら……!」

数十合目の剣撃が響き。

「これはあの時の続きよ。
 第一〇〇三二次実験を私が代わりにやってあげる。
 もう終わりにしよう。ね? 今度こそ、アンタを、私が、殺してあげるから」

彼女は微笑む。
                               ラストオーダー
「一方通行。ここがアンタの終着点――私がアンタの『打ち止め』になってあげる」

その童女のような笑みを彼はどこかで見たことがある。
ついさっきまで胸の中に擁いていた、太陽のような天真爛漫な微笑みに――。

「オマエが――その名前を騙るンじゃねェェええええええええええええええええ!!」

渾身の力を込めて振り下ろされた黒翼が、ついに御坂の剣を砕いた。



518:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/08(木) 23:00:15.47 ID:cYGu58jwo

「しまっ……!」

御坂が失策に気付いたときには既に手遅れだ。

心理掌握の補助のない状態でのミサカネットワークの酷使は構成要素そのものを焼き切りながら行われている。
妹達の命を燃料に、ネットワークそのものを自壊させながら。

両者の勝負はリソースの奪い合いだ。
終始どれだけ演算領域を確保できるかということに帰結する。

……実際のところ一方通行はその能力をほとんど使っていない。
彼の背から噴出している『翼』は演算とは無関係の位置にあった。

能力を使う度に代償として妹達の命が支払われるという状況下で、彼にとっては間違いなく僥倖だった。
たとえそれが焼け石に水程度だったとしても、だからといって問題は覆らないとしても。

けれどその事が功を奏した……といってもいいのだろう。

互角とは言い難いものの、少なくとも状況だけを見れば御坂の強度は一方通行に迫っている。

まともに戦えていると表現してもいい。
一万の距離がほんの数十ほど詰まった程度だが、その差を御坂は戦技でもって埋めている。

しかし、だからこそその代償は御坂自身にも返ってくる。
ミサカネットワークとの接続が御坂の脳を焼き切るようなことはない。
能力的な上位互換であり、更には上位個体権限を持つ御坂には直接的なダメージはない。

だが彼女の度を超えた能力行使によって力の源であるミサカネットワークは共に目減りしている。

演算は御坂自身の力であり、ましてそれが許容値を超えることはない。
しかし演算機能をミサカネットワークに頼っている以上、機能が損なわれればその分御坂の出力も減衰する。



519:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/08(木) 23:05:53.03 ID:cYGu58jwo

単純に言ってしまえば使えば使うほど力は弱まる。
道徳的な論を抜きにして考えれば妹達の存在は彼女にとっての電池のようなものだ。
充分な演算ができないのでは出力は減る一方でしかない。

その結果が光剣の瓦解。
不動のはずの力場が砕かれた。

ガラスのような音を立て虹色の光を振り撒きながら飛散した光は御坂の手から零れ、薄氷のように消える。

御坂自身の力のみを行使していればこのような事態にはならなかったはずだが、それでは一方通行に抗し得ない。本末転倒だ。
だが彼の黒翼と切り結ぶのであれば『原子崩し』を使う他に術はなく――。

(再演算じゃあ出力が足りない……もっと効率のいい演算式を構築、再構成……!)

思考と実行は刹那もない。

加速した思考と並列した頭脳が瞬時に演算式を叩き出す。
一ミリ秒の誤差もなく再度御坂の右手に光剣が顕現する。

しかし致命的な一瞬だった。

雷速の斬撃はその一瞬を埋めるのには充分なものであったが――。

砕けんばかりの激音と虹色の閃光を放ち、再び白と黒が交錯する。



520:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/08(木) 23:14:42.87 ID:cYGu58jwo

「っ……!?」

両者が克ち合った瞬間御坂は気付く。

漆黒と白光がぶつかり合いお互いを弾いたのは変わらない。

しかし弾かれたのはこちら、御坂の振るった『原子崩し』の光剣だ。
今まで翼を打ち払ってきた白刃と、剣に払われてきた黒翼の立場が先の一瞬で逆転した。
電子剣の一撃を阻害され、そして。

「コイツが駄目なら――こっちはどォだよ」

凍えるように吐き出された言葉。
ずるり――と七つ目の必殺が放たれる。

それは一方通行の右手だ。

何の変哲もない、あえて特徴を挙げるとすれば線の細い、白い掌。
だがその恐ろしさを他の誰よりもよく知っていた。

脳裏にフラッシュバックするのは一〇〇三一回の死。

「オマエに直接能力をぶちかましちまえばよォ、幾らなンでも防げねェだろォ?」

ミサカネットワークの崩壊により一方通行の能力出力は落ちている。

だがそれがどうしたというのだ。そんな事実も些事でしかない。
どれだけ力を削がれようとも必殺には変わらず。


  、 、 、 、 、 、 、 、 、 、
触れただけで即死する。



「――――あ――」

思わず声が漏れた。

それは『死』という名の絶対の鎌だ。



521:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/08(木) 23:23:48.27 ID:cYGu58jwo

「や――――」

対抗手段である光剣は弾かれた。

どれだけ御坂の剣が速かろうとも逆転した立場は埋められない。
防ごうとする刃の前に翼が割り込み防がれ虹色の撃光が砕け舞う。
無残に弾かれた右腕に次はなかった。

「やだ――いや――」

触れれば、死。

それを知っているからこそ御坂は真っ白な指先から目が逸らせずにいる。

加速した視界の中、手は奇妙なほどにゆっくりと伸ばされ。

「たす、け――て――」





ぱん、と呆気ないほど小さな音が爆ぜた。





それは伸ばされた手が払われた音。
防ぐ手段などないはずのそれを鎧袖一触に、いっそ無造作ともいえる動きで打ち伏せる。

必殺だったはずの死神の腕が振り払われる。





「な、ン――」





驚愕の色に染まった一方通行の瞳を真っ直ぐに射抜き。

丈の合わない長い袖から伸ばされた左腕が。

その先に付いたどうやっても右手にしか見えないものが。

まるで『あの時』と同じように一方通行の手を払い除け。

そして御坂は童女のような無邪気な、満面の笑みを向ける。










「――助けて、当麻」










「み――さ、かァァァァああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」



叫びを遮るように左の右手が振るわれ、一方通行を殴り飛ばした。



539:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/11(日) 20:10:45.66 ID:5PYpsXSPo

顎に突き刺さる拳。ごりっ、という骨を削るような鈍い音。
それに抗う術を一方通行は持たなかった。

「ぐゥ……っ!」

頭蓋を抜けた衝撃が脳を掻き回す。
同時に欠けていた最後のピースがかちりと嵌まる。
明滅する視界の中で一方通行は全てを漸く理解した。

触れるもの総てのベクトルを反射する最強の盾をこともなげにあしらうその存在を忘れるはずもなかった。

彼女の左腕にあるそれは『あの右手』だ。

あの日、あの時、あの瞬間。
自分の前に立ち塞がり、最強の能力者と謳われた自分を殴り飛ばしたあの右手。

「アレイ……スター……!」

絞り出すようにその忌み名を呼ぶ。
きっと彼は今もどこかで笑いながらこの様子を眺めているに違いない。



540:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/11(日) 20:27:40.72 ID:5PYpsXSPo

視界を揺さぶられ、刹那の間だけ一方通行の認識が遅れた。

踏み付けるように御坂の蹴りが胸に穿たれる。

それは一方通行に対し何ら威力を発揮しない。
恐らくは一息に胸板を踏み抜く一撃だったのだろう。
しかしどだい前提条件は覆らない。
その『右手』ならまだしも、その質がどうであれ単純に示せばただの蹴りでしかない。

そんなことは御坂自身百も承知だ。
通常の手段ではダメージを通すことはおろか、逆に放った側が潰される。
己の力をそのまま返されて文字通りに自爆するだけだ。

だがそれは攻撃として放った場合のみについてだ。
他もおおよそ似たような結果になっていただろうが、この場合のみを論ずるならば御坂の蹴りは正しく効果を発揮した。

踏み抜く、という表現はあながち的外れではない。
横方向への震脚とも言うべきそれは通常状態の機能に従い彼の体に刺さる直前方向を転換する。

その力に乗り、御坂は跳躍した。

足首、膝、腰関節。そして大幹を操り威力を削ぎつつもベクトルだけを受け止める。
反射された『踏み抜き』を靴裏で受け止め、その力を足場に、更には跳ね返った力を受け流しながらも決して逃がさず。
単純換算して二倍。そこに自身の力である磁力牽引も加え大跳躍を果たす。



542:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/13(火) 23:04:12.51 ID:fzSneYpdo

御坂の体は月天極光の下を舞う。
背を反らし、あたかも魚が波間に躍るように。

「おおおおォォおォっ!」

烈風となって黒翼が波となって奔る。
鞭のように撓りながら離れる御坂に食らいつかんとする。

「しつこい――なぁっ!」

追い縋る六枚羽を、しかし御坂は手に現した光剣で残らず迎撃する。
激音と共に虹色の光が四散し爆彩を生んだ。

その動きは明らかに剣技の域を超えている。
妹達が戦闘知識として持つのは単なる教科書通りの型だ。
ただ果てしなく実践的で、かつ状況に応じたそれを正確に再現できるという点では並の兵士など取るに足らない戦技であるのだが。

宙返りする相手を狙って襲い掛かる複数の攻撃を残らず弾くなどという暴挙は言うまでもなくそこにはない。
この状況で御坂が構築し直し発展させた――剣術だろう。

対し一方通行は、露骨な言い方をしてみれば――戦い方をまるで知らない。

相手の攻撃を反射させれば自滅する。
適当なものをぶつけて強引に破壊する。
能力任せに相手を蹂躙する。

蟻を潰すのにわざわざ工夫を凝らす必要もない。
そういう戦い方しかしたことがなかったし、それ以上する必要もなかった。

現時点でも力の差は歴然。
どれだけ力を持とうとも彼にとっては蟻には違いない。
その蟻が空を飛ぶ羽と、毒を持つ牙を備えていたとしても変わらない。

だが、もしもその蟻が歴戦の兵にも勝る頭脳と戦技の持ち主だったら……?



543:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/14(水) 01:28:38.86 ID:D3+afZjBo

御坂とてそれは理解している。
己は彼にとって羽虫程度の存在でしかない。どれだけ強度を上げようともその絶対条件は変わらない。
世界の四分の一を手に入れたとしても、敵わない。

弱点はある。首元の、チョーカーにも似た電極。
それを破壊してしまえば一方通行は能力が演算できずに、それこそ地を這う虫にも劣る存在となるだろう。
彼にとってのアキレス腱。唯一無二の弱点がそれだ。
ミサカネットワークの崩壊を原因として演算が消失するのも結果的には同じことだ。

直接か、間接か。
どちらにしても『無敵』であるその能力を封じなければ勝ち目はない。

ない……はずなのだ。

「その『右手』……」

御坂の左腕にはそれを破る手段がある。

「……」

距離を離したまま両者は対峙する。

本来在り得ないはずの、彼の『無敵』を妥当し得るという不条理の塊。
だがその存在を一方通行に覚られた。



544:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/14(水) 01:47:52.97 ID:D3+afZjBo

一方通行の思考は混沌としていた。

彼の死。御坂の左腕。
己の犯した事の結果。

笑顔のままそれを振るう少女。

しかしそれとは別に冷徹な思考が存在していた。
彼の特性ともいうべき分析能力。
それは何も能力を行使しなければ発揮しない代物ではない。
結論だけ言ってしまえば先の一撃で必要最低限の特性を見切っていた。

至近距離でなければ効果を発揮しない――。

実際との差はあるが大して変わらない。
結果として一方通行の選択は御坂を近付かせなければいいというだけのことだ。

かといって一方通行とて遠距離から御坂をどうにかする手段を持たない。
翼の射程は精々が数メートル。その間合いであれば少しでも調子を見誤れば斬り込まれる。
他のまともな攻撃手段は――残らず御坂の能力に阻まれるか、さもなくば矢張り『原子崩し』の剣で迎撃されるだろう。

であれば。

(まともじゃねェ手段を使えばいいだけの話だが)

御坂の能力は確かに強力だ。
電磁気力操作という、世界の四分の一を掌握したに等しい能力。
一方通行のそれはあらゆる力を操作できるが――最大の弱点がある。

――『一方通行』は自力を持たない。

その能力はあくまで受動的でしかないのだ。



546:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/14(水) 02:46:21.01 ID:D3+afZjBo

彼の能力は確かに最強かもしれない。
しかしその代償として、あまりに無力だった。

あらゆるベクトルを操れるといっても所詮は己の触れられる範囲でしか操ることができない。
他者を拒絶し、他者を支配し、他者を蹂躙しながらも、他者に依存するという矛盾を抱えた力。

その一点において御坂の能力とは根本的に異なる。

故に能力がどれだけ強大であろうとも、それに相当する力がなければ真価は発揮されない。

今ここで『まともでない手段』は三つある。
彼女が電磁気力を操る能力者であるならばそれ以外の力は防げない。

強い力、弱い力、そして重力。

圧倒的といえるだろう。
単純にそこだけ見ても御坂の三倍の力を有している。
一方通行という能力者にはどうやっても御坂は敵わない。
あえて分かりやすい弱点を狙わなければならないほどに。

しかし彼が触れられる力ともなれば話は変わる。
酷く単純な理由でそのどれもが役に立たない。

強い力も、弱い力も、射程があまりに短いのだ。
素粒子に直接作用するこの二つの力はその力が発揮される距離が非常に短い。
一方通行が触れている――彼自身を構成している力も含めた――力をどう操っても御坂には届かない。
直接御坂に触れて能力を行使した方が早い。

そして重力。これについても致命的な欠点を抱えている。
地球上にいるかぎり1Gを超える重力は存在しない。
次に大きい重力発生源である月の分も入れたところでさほど変わらないだろう。

単純に言って彼の体重分+αの力しか操れない。
重力線を投げて直接押したり引いたりしたところで、その程度であれば余裕で相殺される。

とどのつまり、矢張り黒翼か、さもなければ能力の直接行使しか手段がない。



548:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/14(水) 03:17:10.57 ID:D3+afZjBo

刻一刻と疲弊しているのは間違いなく一方通行の側だった。
明確なリミットが設定されているのは彼だけで、相手はただそれを待っているだけで勝負がつく。

けれど御坂の能力出力もまた弱体化している。
互いの能力が同じ媒体を共有している以上、本人たちを除けばどちらかが一方的にメリットやデメリットを生むことはない。

ミサカネットワークが一方通行の演算を維持できなくなれば、墜ちる。
黒翼はミサカネットワークの如何に囚われず、御坂はそれに『原子崩し』でしか対抗できない。

数瞬前まで互角だった天秤はどちらに傾くか分からない。

――時間の流れは果たして誰に味方するのか。

それはどちらにとっても分からない。
両者は互いを睨み合ったまま動きを止めていた。

「……どォして」

ぽつりと口を開く。

「よりによって……オマエがそンな風になっちまったンだよ。オマエは普通に泣いたり笑ったりできる奴だった。
 下らねェ幻想を馬鹿みたいに大事にできる奴だった。俺みてェなのとは違う――オマエは『こっち側』じゃなかった」

問いに、御坂が見せた笑顔に彼ははっとなる。
表情が違う。目を細め、静かに微笑んだのだった。

「そんなの決まってるじゃない……もう、いいや、って。全部諦めたから」

くつ、と喉が煮えるような音を立てる。

「だってそうじゃない。当麻のいない世界なんてどうでもいいんだもの。
 何よりも大切だった。誰よりも好きだった。掛け替えのない存在だった。
 あのときアイツが私の全てだった。私そのものだったのよ。
 それがね、死んじゃった。私にはどうしようもなかった。
 どれだけ強く想っていても何も出来なかった。想いなんてものは粉々に砕かれた」

御坂は笑う。

狂愛に歪んだ道化のような貌で、まるで泣くように笑った。

「だから私は全部全部放り捨てて、一番大事なものを守るために――狂うしかなかったのよ――っ!」



557:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/18(日) 10:59:17.44 ID:ytvb+audo

ごぉん――――……と空気が戦慄いた。

目を焼きつくすほどの閃光は純白としか感じられない。
鼓膜を突き破ろうとする爆音は感覚の許容値を超え地鳴りにしか聞こえない。

燃え上がるような感情の発露は到底理解されることなどなく、ただ世界を震撼させるだけだった。
                    、 、 、
「……確かに私は超能力なんて妙な力を持ってるけどさ……。
 常盤台とか、超能力者とか、第三位とか、そういうごてごてした装飾がついてるけど。
 ……でも、私まだ中学生よ? 中二なのよ? 一体私に何を期待してるのよアンタ達は。
 馬鹿な事して怒られて、笑って、泣いて、怒って、恋して、そうやって生きてたっていいじゃない」

「……御坂」

「なのに目の前で好きな人が死んじゃって、私を庇って」

くつ、とまた喉を鳴らし御坂は目を細める。

「私が何をしたの? 当麻が何をしたの?
 一体どうしてこんな理不尽な目に遭わなきゃならないの。
 何が悪いの。何がいけなかったの。何が原因だったの――!」



558:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/18(日) 11:13:54.55 ID:ytvb+audo

叫びと共に再び閃光が炸裂する。

爆ぜる雷火は彼女の感情そのものだ。
世界を震わせ、焼き尽くし、純白に染めようとするその暴力こそが彼女の真正。

「…………」

「答えられる訳ないわよね。私だってそういうものだって分かってる。
 これが単なる不幸の積み重ねで出来た偶然の産物だって理解してる。……でもね」

御坂は口の端を上げ柔らかく笑み――笑うしかなく――、

「ッ……!」

一方通行はその笑顔の意味をようやく理解する。

最初はどこにでもある惨劇だと高を括っていた。
そんなものは世の中どこにでもある。明るく暖かな日常のすぐ傍で幾らでも起こっている。

次に、これは復讐劇だと思っていた。
それもよくある日常の裏側だ。人と人の情念が交錯するのが世界なら、それもまた起こるべくして起こる必然だ。

けれど違う。
これはそんな難しい話ではない。

御坂の言うように、これは不幸に不幸が連鎖して起こっただけの。

よくある悲劇の物語。

ただ一言『不幸だった』と言ってしまえばそれで済んでしまう。
それだけで済んでしまう程度の――よくある話。

だからこれは、徹頭徹尾、不幸な偶然の積み重ねの果てに生まれた悲劇でしかない。





「だからって、はいそうですかって納得できるほど私は大人じゃない!!」



559:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/18(日) 11:59:59.10 ID:ytvb+audo

八つ当たりに等しい行為だと自覚している。
ただの子供の癇癪だ。嫌だ嫌だと駄々を捏ねているだけに過ぎない。

「目の前にこんな分かりやすい『元凶』がいるんだもの。
 誰も悪くないなんてそんな甘い事を言って終わらせられなんかしない」

けれど――そうせずにはいられない。

「アイツを、最後の最後まで不幸なんて一言で、片付けさせなんかしない――!!」

ゴンッ!! と空気がハンマーで殴りつけられたように鳴動する。
天から降り注いだ光の柱が御坂に突き刺さる。
                            、 、 、 、 、 、
極大の雷火柱――それが掲げた右腕の先に留まっている。

さながら天に振り翳した光の剣。

『原子崩し』の光剣など比べようもないほどの強大な力の塊。
彼女、御坂美琴――『超電磁砲』の力そのものを具現化したかのような『雷撃』。

「だから私は――どんなことをしてでも――」

呟きは雷鳴に塗り潰され、そして。

「――展開――『九月三十日』」

ミサカネットワークを一つのデータが埋め尽くした。



560:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/18(日) 16:27:44.90 ID:ytvb+audo

それはとある記録だった。
無数ともいえるデータの海の中に埋没していた、たった一つの特異点。

その日、学園都市には二つの『闇』が存在していた。



一人はテロリスト――と表向きは称されているはずの人物。

ただの一人。
銃もナイフも持たないたった一人の女。
彼女が前方のヴェントと呼ばれていた、というのはここでは大した意味を持たない。

彼女は警備員を初めとする学園都市の武力を司る者を、敵対しようとする存在を、根こそぎ昏倒させるという不可解な力を揮い無力化した。

それは一体如何なる手段によるものか。
未だ解明できずにいるものの、結果としてそのたった一人によって学園都市は壊滅寸前まで追い込まれた。



そして裏では、その騒乱に隠れるように動いていたもう一つの影が存在した。

名を木原数多。
学園都市の抱える極大の闇の一つである『木原』を冠する一人の科学者である。

一方通行にとっては名も知らないテロリストよりもよほど因縁深いものだ。
何せ彼は木原数多によって一方通行は二度目の敗北を喫することになった。
打ちのめされ、蹂躙され、何の異能も持たない相手に敗北した。



……だがミサカネットワークを侵蝕したこのデータには、
木原数多についても、そしてもう一人のテロリストについてもあまり多くは記録されていない。

だからこれら二人についての情報は単なる蛇足的なものでしかない。



――同時に巻き起こった二つの騒乱の只中に妹達の一人がいた。



これはその日彼女が体験しただけの乱雑なデータ群に過ぎない。



561:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/18(日) 16:29:47.86 ID:ytvb+audo

一方通行は身構える。
どう転ぶにせよ、これが最後の一撃だと。

御坂の手にあるそれは単なる稲妻、放電現象だ。
そんなありふれた力では一方通行には通じない。

当然のように。

「……っ」

背の翼が震える。
これから現れるのはきっと、彼の『無敵』を崩す不条理だ。

『未元物質』や『幻想殺し』ではない。
ましてありふれた超能力などでは断じてない。




  、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、
在り得ないはずの事が起こるという現象そのもの。





――――それを魔術と人は言う。



562:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/18(日) 16:31:11.67 ID:ytvb+audo

『何か』が一方通行の頭の中を掻き毟った。

「……ッ!?」

何百本もの細長い足を持った虫に這い回られたような生理的な嫌悪感を催す幻覚に不意に襲われる。
ぞりぞりぞりぞりと、抉られるように彼の領域が侵される。

正確にはそれは彼の脳内ではない。
外付けの、ミサカネットワークによって補助されている演算機能だ。

「御坂……!」

それが一体どういうものなのか分からない。分からない。分からない。
だが何を意味するのかは分かった。

得体の知れない何かが思考と共に加速される――。

「俺の――演算能力に乗せやがったのか――!」

その有様、性質、理論、解法、条理、妄念。
そういうものを一つ一つ細かく裁断し解析する。

超能力『一方通行』の持つ真の意味は力の解析。
それがどういう代物なのか、どういう理屈なのかを結果から逆算し正体を明らかにするという天眼。

『魔術』という力の本質を解析する。



563:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/18(日) 16:34:22.97 ID:ytvb+audo

妹達の『消費』が加速度的に増す。         、 、 、 、 、 、
ネットワークを埋め尽くすそれは破滅的な勢いで食い散らかし、それでも演算を止めようとはしない。



「――――――――――――――――――――!!」



風の中に涼やかに響いたのは歌声だった。

御坂の唇から零れるのは悲痛な慟哭のようで、そしてまるで歓喜の歌だった。

鎮魂歌のように。
賛美歌のように。

あるいはただの恋歌のように。

その声に込められていた感情は一体どんなものだったのか。
一方通行をしてもそれを推し量ることはできない。

ただ、一つの結果が現象として現れる。

これは一方通行を打倒し得る最後の鍵。
恐らく一方通行は『分からない力』でさえも捻じ伏せてしまうだろう。

だが。しかし。

それは世界でただ一つの、『一方通行』をもってしても総てを理解することのできない力の質。

この一手で勝負は決する。



564:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/18(日) 16:58:01.87 ID:ytvb+audo

全身の毛細血管がびちびちと爆ぜる。
視界は真っ赤に染まり、骨は軋み、吐息からは硫黄のような味がした。

天を突き刺さんとする巨大な光の塊が鳴動する。
振り上げた右手から伸びる落雷の柱は一度、身震いするように周囲に無数の稲妻を放射した。

その中の一片が――ほんの小さな一雫が一方通行の元へと降り注ぐ。

「――ちィっ!」

何かが拙い。何かがおかしい。
そんな気配を理由もなく直感しながらも――彼は右手を振るう。

設定は『反射』。
全てを拒絶するように飛来した白雷を打ち払う。

雷速の一撃に一方通行の腕は偶然か、正確に命中した。
白い指先に触れた雷光は虹色の光となって四散する。

同時に右手の指が五指纏めて吹き飛んだ。

「ッ――――がァァああああああ!!」

あらゆる力を反射するはずの能力を前にしても、雷撃は確かに一方通行に突き刺さった。



565:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/18(日) 17:18:45.86 ID:ytvb+audo

(く……そォが……ッ!)

思考を掻き回す乱雑な情報の嵐が演算を阻害する。
それはこの解析不能な力の源泉なのだろうが、だとしても何かがおかしい。

この情報のままの力なのであれば、そのままを設定すれば理解などせずとも跳ね返せるだろう。

どうしてそれをすり抜ける。



――それがこの世界にある普通の物理ならな。



「っ……!」

不意に浮かんだ言葉。
それはもう一つの、一方通行の鉄壁を正面から崩した存在。

(よく分からねェ代物に、もう一段階フィルタを噛ませて……!)

これは本来、一人の少女を救うためだけに行使されたものだ。
それをそのまま出力したところで、どうして破壊を撒き散らすものか。

(無理だ――)

フィルタは他ならぬ『御坂美琴』自身。
魔術の構築式を強引に自分の演算公式を組み込んだだけの継ぎ接ぎだらけの代物だ。

ならばこれは『超電磁砲』という魔術の発露に他ならない。

(俺は雷撃や超音速徹甲弾のベクトルは知ってるが『超電磁砲』なンて能力そのもののベクトルは知らねェ。
 そンなものは、アイツの、御坂美琴の観測した世界の中にしか存在しねェンだから――!)



566:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/18(日) 17:47:08.32 ID:ytvb+audo

一方通行は歯を食い縛る。

思考を侵す情報の氾濫は頭の中をミキサーでぐしゃぐしゃと掻き回されている錯覚を引き起こす。
右手の先の欠落からくる激痛はまるで御坂の雷撃がべっとりと貼り付いてでもしまったかのよう。

気を失った方が楽に違いない。
だが彼は意識を手放そうとはしなかった。

……自分は『彼』のようにはなれないだろう。

頭の端に引っ掛かった存在が一方通行を引き止める。

『彼』は英雄のような存在だった。
理不尽に降り掛かる災厄を吹き飛ばしてしまうような、そんな存在だった。

けれど自分は対極に位置する。

自分は災厄だ。理不尽だ。
英雄に吹き飛ばされる存在でこそあれ、英雄などでは断じてない。

ならば何か。

「――――――」

その時彼は見た。

烈光を天に掲げた少女の体が震え。

「――ごぼ――ッ」

口からどす黒い血を吐き出し、目からは血涙を流し。
それでもなお何かに憑かれたような笑顔でこちらを見る少女を。

(――そォだ。俺はアイツになンかなれやしねェ。俺に出来るのはただ――)

ぎ、と噛み締めた奥歯が嫌な音を立てて擦れ、一方通行は唇を吊り上げた。

諦念など必要ない。慈悲など必要ない。
英雄の対極に位置する彼に必要なのはたった一つだけ。

破壊の衝動。殺意。

「――殺す。俺はただそれだけの悪党だ」



567:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/18(日) 18:15:16.36 ID:ytvb+audo

ただ殺意に任せ、他を残らず無視して衝動的に一方通行は喉を震わせる。

「――――――――――!!」
                       う た
彼女と同じく、思考を埋め尽くしていた魔術に『一方通行』を乗せる。

理屈は分からない。結果も見えない。
しかしこの御坂に対抗できるのは自分だけで、これ以外にないと直感した。

もしかしたら無駄に終わるかもしれない。
何も起こらず、ただの足掻きにもならないかもしれない。

けれど一方通行は衝動のままに喉を震わせ、歌を紡ぐ。

「な――」

予想外の返歌に御坂は唇を噛む。

自分と同じ事をしているのだというのは理解できる。
ただその結果がどうなるのかは予想できない。

当然だ。魔術を知らぬ御坂には今自身が掲げるこの雷剣ですらもよく分かっていない。
まして他人のそれがどんなものなのか、考え及ぶはずもない。



568:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/18(日) 18:25:42.49 ID:ytvb+audo

視界はぼやけているし全身の感覚がまるでない。
けれど掲げた右手には極大の稲妻が握られている。
力に奮えるように鳴動する雷光は何者にも抗えない力の象徴だ。

その性質を、その意味を、御坂は知らない。

そんなものはどうでもいい。

彼を殺すというたった一つの目的のために掲げた腕を――、

「――――っ」

視線の先、殺意を向けた相手は、同等の殺意をこちらに跳ね返している。
歌と共に、血のような殺意に濡れたどろりとした瞳で自分を見据えて笑っている。

狂したように歌声を響かせ、そして。

「ガ、はァ――っ!」

血を吐き、笑い。



――掲げた右手を振り被り、一息に、



……こぽん、と小さな音がした。

御坂と同じように、一方通行の喉から零れた血の塊が、まるで風船のように膨らみながらも薄れてゆく。

いや違う。あれは体積を増しているだけだ。
同時に何故だか血の色は失われ、透明になっていく。

意味が分からない。理屈がまるで理解できない。
それが血なのか、もっと別の何かなのか、それすらも判断できない。

だが一目で――駄目だ、と天啓のように覚る。
何故だか分からない。けれど間違いなく直感した。


              、 、 、
あれはとんでもなく不吉な予感がする――。





「――――ぅああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」





絶叫と共に振り下ろした。



569:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/18(日) 19:29:43.09 ID:ytvb+audo

「――――」

理解できないのは一方通行も同じだった。
如何な一方通行であれ、その力を行使したとしても、理屈の一片たりとも分からなかった。

口から吐いた自分の血液が、膨れ上がって、透明になっている。

ただそれだけの現象だ。
吐血については御坂も同じで、恐らくは何らかの代償なのだろう。
超能力者が魔術を行使したという行為そのものに無理が生じたのか。

それらを理解できないし、しようとも思わない。

(なンだ……これは……)

ただ、目の前で水に漂うクラゲのように浮かぶ水球はその結果だ。
どこか呆然とした頭で発生した事象について思考を巡らせる。

(塩酸? 硫酸? それとももっと別の劇物か?
 馬鹿な。そンな物をアイツにぶつけたところで――)

思わず――伸ばした左手の先が球に触れる。

「――――」

冷たい、と感じる。
たったそれだけの液体だ。

(――違う!)

  、 、 、 、
理解した。

どうしてそんなものが生まれたのか分からない。分からないし、どうでもいい。
ただ、それが何なのか、目の前にある事実だけを理解すれば充分だった。

それは最も身近で、ありふれた存在。
      、 、 、 、 、
(これはただの水だ)

水。H2O。
たった三文字の化合式で表される存在。



――知ってるか。この世界は全て素粒子によって作られている。



理解すると同時に、脳裏にあの言葉が過ぎる。
          、 、 、 、 、 、
一方通行を、無敵の能力者の鉄壁を崩した少年の言葉が。



――俺の『未元物質』に、その常識は通用しねぇ。



570:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/18(日) 19:46:19.60 ID:ytvb+audo

落雷が振り下ろされるという物理法則を超えた現象。

当然であり必然だろう。
それは魔術という物理法則に縛られない不条理の塊だ。

その前に一方通行の背から噴出する黒い翼が立ち塞がる
六枚全て、抱き止めるようにその進路を遮る。

バギバギバギバギバギバギィィ! と耳を劈く破壊音が響く。

「ああぁぁああああああああああああ――!!」

「おォォォおおおおおおおおおおおお――ッ!!」

両者の激突は一瞬。

砕かれたのは――黒翼の側だった。

虹色の光を羽毛のように撒き散らしながら翼が割れる。
断ち切られ、寸断され、粉砕され、四散し、粉微塵に、打ち砕かれる。

「一方――通行ぁぁああああああ――!」

あらゆる物を蹂躙し破壊する雷光が白の超能力者に突き刺さる。

閃光の花が夜空に咲いた。



571:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/18(日) 20:06:27.60 ID:ytvb+audo

「――――――」

その力の全てを発散したのか、御坂の手からは光は失われていた。
ごぼ、と咳と共に肺に溜まった血を御坂は吐き出し、荒い息を繰り返す。

彼女の前には――未だ一方通行の姿があった。

「……先に一発貰ってて正解だった。
 どォにか感覚は掴めたからなァ。何とかベクトルを操れた」

そう言って白髪の超能力者は顔を顰める。
背から弱々しく黒色を吐き出しながら、一方通行は、もしかしたら笑ったのかもしれない。

「そのザマでよくそんな事言えるわね、アンタ」

「……」

眇めた先の少年は、右半身が吹き飛んでいた。

六枚の翼を突き破った先、最後に掲げた指を失った右手が雷光を遮った。
持てる演算力を総動員してその力を統率しようとした彼は――結果、御すること出来ず、けれど力の大半を虹色の光に砕くことに成功した。

ただ、全体の内の一パーセントにも満たない力が彼の体を砕くに至り、腕はおろか、右肩から腰あたりまでを消し飛ばした。

白い顔も半ばまで焼け焦げ、醜い傷痕を刻んでいる。
抉られた腹から中身が零れないでいるのはただ傷口が高熱に焼き付けられたからだろう。

どう見ても致命傷だ。
即死しなかっただけでも奇跡のようなものだった。



572:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/18(日) 20:23:33.45 ID:ytvb+audo

「――――は」

御坂の喉からも哄笑が漏れる。

「はは、あはは、あははははは――」

何故だか口が勝手に笑い声を吐き出していた。

「あははははははははははははははははははははははははははははははは――――!!」

愉快だった。痛快だった。
最強だった超能力者は今、自分の前に惨めな姿を晒している。

「は――――」

ごぽり、とまた血を吐く。
大丈夫だ。歌と同時にどういう訳か全身に裂傷が走り内臓にまでダメージを負ったが、ぎりぎりで致命傷には届いていない。
少なくとも数日程度、苦痛にもがき苦しむかもしれないが、一方通行よりは生き延びる。

勝った。
だから御坂は笑わずにはいられない。
                、 、
自分の悪夢の発端であるあの一方通行に勝ったのだ――!

「……勝利宣言には早すぎるぜ、超電磁砲」

「え……?」

今更何を言っているのだ、と御坂は疑問する。
どうしてそんな言葉が出てくるのか分からなかった。

触れられてもいない。
そもそも電磁場の壁は何かの接触を認識していない。

何もされてはいない。
そのはずなのに。

彼は御坂に蔑むような笑みを向けていて。

「ごっ――ぶあ――っ!?」

どういう意味なのか問うよりも先に。
言葉の代わりに喉をせり上がってきた血を、口から滝のように吐き出した。



573:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/18(日) 20:41:32.91 ID:ytvb+audo

何が起こったのか、何をされたのか、全く分からない。

ただ一つだけはっきりしていることは、どうにもこれは致命的なものだということくらいで。

「アンタ……何を……!」

「冥土の土産だ。一つ理科の授業をしてやるよ」

睨む御坂にひゅうひゅうと掠れる声で一方通行は嘯いた。

ようやく御坂は気付く。
彼の前に浮かんでいたはずの水球がなくなっている。

「どォにかほンの少しだけ『掴めた』からな、利用させてもらった」

「何をした……っ!」

「理科だっつってンだろ。中学生にも分かるよォな簡単な奴だ」

そう言って彼は、一度咳を吐き。
  、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、
「水を電気分解しただけだ」

「な……」

御坂は絶句する。

「ただの……水……?」

そんな単純な化学反応であるはずがない。
それだけでは帳尻が合わない。

何よりあの不吉な予感がしたものが単なる水であるはずがない……!



574:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/18(日) 21:09:31.56 ID:ytvb+audo

「いいや。あれは水には違いねェが……『ただの』と言うのはちィと語弊があるな」

「…………っ!!」

その言葉で御坂は理解した。

あの得体の知れない不吉な予感は間違っていなかった。
確かにそれを水と言ってもいいだろう。

一見してただの水。

だが、正確に言うのであれば。

「重水。水素の同位体、デューテリウムやトリチウムで作られた、文字通りに重い水」

その言葉が意味するところを御坂は理解した。
雷が炸裂したときの爆光はそれだけのものではなかった。

重水を構成する二重水素や三重水素。
この場合用途は一つしか思いつかない。

御坂を穿ったのは熱線でも衝撃波でもない。
それらは電磁気力制御の壁の前に弾かれる。
                        、 、 、 、 、 、 、 、 、 、
その正体は核融合によって生まれる電荷を持たない素粒子――中性子線だ。

「水……爆……っ!」

「正解。賞品は地獄行きの片道切符だ」

ぐらりと、ようやく――両者の体が崩れる。

「ハッ……第一位の意地だ。格下に一人勝ちなンかさせてやるかよ」

「…………!」

能力による浮力を失い、二人の超能力者はほぼ同時に地上に向かって墜落した。



――――――――――――――――――――



585:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/18(日) 23:12:36.67 ID:ytvb+audo

「っぎ――――」

硬い地面に叩きつけられ、一方通行は肺の中身を血と一緒に吐き出した。

ベクトル操作の能力が失われている訳ではない。
そうでなければ遥か上空から墜落して生きていることもないだろう。

ただ満足に能力を働かせることができず、衝撃は一方通行の身を襲った。

けれどまだ死んでいない。
恐らくそう遠くない時分、精々が数分も経たぬうちに命が尽きるだろう。

ただそれだけ。

だからこれは、死の直前のほんの一瞬に過ぎない。

「…………」

一方通行の落下したのは、御坂との戦いの最初の場だった。
タイルには落下の衝撃でクレーターを刻んでいるし、周囲は戦いの余波で酷い有様だった。

「っ……が……」

立ち上がろうとして、直後に身を崩し、右手がないことに気付く。
既に痛みはない。そういう次元を超えてしまっているのだろう。
五感全てがどうにも虚ろだった。



586:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/18(日) 23:22:01.49 ID:ytvb+audo

「……っ……」

それでもどうにかして立ち上がる。
左手一本で体を支え、身を引き摺るようにして強引に起き上がらせ、這うようにして進んだ。

ずっ……ずっ……ずっ……。

時間の感覚すらも曖昧なまま一方通行は無心に体を進める。

そしてようやく、左手を伸ばし、渾身の力を込めて身を引き上げた。

「っ……はァ」

最後の大仕事を終え、一方通行は疲れた溜め息を一つ吐く。

「……よォ」

どさり、と倒れ込むようにベンチに座った彼は、隣の少女に向かって言葉を投げる。

「悪りィな、打ち止め。オマエのお姉様、殺したぞ」

返事はない。

彼とてそれを理解している。
隣で眠る少女はもう二度と目覚めることもなければ無邪気な笑顔を向けることもない。

「結局俺は……最初から最後まで、オマエらを殺すだけだったなァ」

目を瞑り自嘲的な笑みを浮かべ一方通行は独白する。

きっとそれが己に架せられた業だったのだろう。
彼は終始御坂美琴という存在を殺すためだけにあったのだとつい思ってしまうほどに両者の関係は因縁めいていた。



587:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/18(日) 23:36:58.23 ID:ytvb+audo

誰かを救えるのではという考え自体が、もしかしたら前提条件から間違っていたのかもしれない。
自分は首尾一貫して、殺戮でしか事を成せないような、そういう存在だったように思える。

だったら、これは必然だ。

御坂美琴を殺すことで一方通行という存在は終了する。

「どォせこれもオマエの掌の上なンだろォがなァ、アレイスター」

は、と聞いているのかも分からない相手に向かって嘆息した。

「まァ……第一位から第五位までがこれで総崩れだ。
 オマエのプランとやらも流石にそろそろ限界じゃねェのか」

無論そんなことはないのだろうが――返事がないのをいい事に好き放題に言うくらいはいいだろう。

「つっ……かれたァ……」

もう一度大きく息を吐き全身の力を抜く。
体が泥に沈んだように重い。こんな感覚はいつ以来だろうか。

このまま眠ってしまいたくなる。

それも悪くない……と頭の隅で思うが、その一方でこんな終わり方が許されるのかと自問する。

自分のような存在は、苦しみに苦しみ抜いて死ぬべきではないのか。
そうでなければ帳尻が合わない。そうでなければ『彼女達』に申し訳がない。

だから、その言葉が掛けられた時にこれは既に死後の夢ではないのかと思ってしまった。



588:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/18(日) 23:47:26.63 ID:ytvb+audo

「お疲れ様でした、とミサカは聞こえているのか分からないあなたに労いの言葉を掛けます」

「……なンだよ。化けて出るならもォ少しマシな言葉を吐いたらどォだ」

薄目を開けて見遣ると、そこには嫌になるほど見飽きた顔が立っていた。

御坂美琴――と同じ顔をした少女。
軍用ゴーグルを乗せた顔が、すぐ傍でこちらを見下ろしていた。

首から伸びる細い鎖の先にはハート型のペンダントトップが提げられている。

「オマエ、生きてたのか」

「はい、とミサカは肯定します。ミサカだけはネットワーク接続を切りスタンダローン化していましたので。
 ぶっちゃけた言い方をするとまったく無傷です、とミサカは元気さをアピールするために腕を軽く振り上げます」

「そォかい。どォせなら他の奴らも同じ事やってくれてりゃ楽に済んだのによォ」

「この個体が特別なだけです、とミサカは甘い幻想を打ち砕きます」

「どォして」

「最後まで見届けるため」

……とミサカはシンプルな解を提示します、と続け、少女は薄く笑う。



589:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/19(月) 00:10:50.31 ID:NOXXRoXgo

「……なァ」

「はい」

「本当にそれだけか?」

「と言いますと、とミサカはしらばっくれて口笛を吹く真似をします」

「……こっちは今にも死にそォなンだが」

無表情のまま唇を尖らせ音の出ない息を吐く少女を半眼で眇める。
何故だか一言毎に余計に疲れる気がする。すぐにでも意識を失ってしまいそうだ。

「もォ一度聞く。生きてたのかよ」

「これはもしかしてバレてますか、とミサカはあなたの感の鋭さに戦慄を覚えずにはいられません」

「アホか。気付かねェ訳がねェだろォが」

そう言って一方通行はまた大きく嘆息した。


               ラストオーダー
「オマエ、何やってンだよ、打ち止め」



「……」

「……」

「……あは」
     、 、 、 、
少女はにっこりと無邪気な笑みを浮かべ一方通行に向けた。



594:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/19(月) 00:27:55.60 ID:NOXXRoXgo

「ちぇー、やっぱりあなたは騙せないなあ、ってミサカはミサカは口を尖らせてみたり」

「単にオマエが間抜けなだけだろ」

隣に腰掛けた少女に一瞥もくれずにべもなく一方通行は一蹴した。

「詰めが甘いンだよ。オマエ前に似たよォな事やってンじゃねェか。
 ミサカネットワークにバックアップ取るのが趣味なンだろ?」

「趣味って、なんか今酷い言われ様をしてるかも……
 ってミサカはミサカは相変わらずのツンツンっぷりにいつになったらデレてくれるのかなーって少しばかりの期待を込めて流し目を送ってみたり」

「うるせェよ。何語だそりゃ」

「つれないなあ、もう」

少女は柔らかく微笑み、一拍。

「ミサカがここにいるのはね、さっき言ったように最後まで見届けるため、ってミサカはミサカはあなたに嘘なんかつくはずないってことをアピールしてみる」

「それこそ悪趣味だろ。なンでよりによってオマエなンだよ。大人しく死ンどけっつーの」

「ひどっ。折角ならあなたのために最後まで居残り決め込んだミサカの一途っぷりに
 少しくらい感動してほしいなー、ってミサカはミサカはどうせ無駄だと分かってるけど言わずにはいられなかったり」

「うぜェ。鬱陶しい。結局最後までオマエの相手かよ面倒くせェ」

……とはいえ、実際のところそう悪い気分ではない自分がいるのだが。
そんな愚考が浮かぶ辺りどうにも頭に血が足りていないのかもしれない。

勿論そのことを口に出したりなどはしない。



597:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/19(月) 00:48:36.22 ID:NOXXRoXgo

「一〇〇三二号はどォした」

「いるよ?」

即答する。

「それだけじゃない。他のみんなだってここにいる。
 ミサカは全ミサカを代表して人格を形成してるだけで、そうだなあ……、
 ミサカっていう多重人格者って表現するのが分かりやすいかも、ってミサカはミサカは例えてみる」

「オマエら元からそンなもンだろ」

「うん。ただ、今までは体が人格の数だけあったから、ねえ?」

苦笑する。

「今の主人格はミサカで、まあミサカ自体がエミュレートされてる亡霊みたいなものなんだけど。
 だから化けて出たって表現もあながち間違ってないかも。だってミサカの元の肉体は生命活動を停止してそこにある訳だし。
 うわあ自分の死体を見るって凄く貴重な体験、ってミサカはミサカは実は他のミサカは大体やってることをようやく体験してみる」

「笑顔で言うなよそンな事」

ごほ、と血の混じった咳を吐き思わず崩れ落ちそうになる。

「……それにしたって、それはオマエが出てくる意味にならねェ。
 さっさとゲロっちまえよ。オマエはどォして大人しく死ンでねェで俺の前に現れたンだよ。嫌がらせかオイ」

「容赦ないなあ……そんな意地悪な子に見えますか、ってミサカはミサカは頬を膨らませてみる」

「趣味が悪いのは見ての通りだなァ」

ぜひ、と掠れた音で笑い、一方通行は薄く目を開く。
視界はぼやけてしまっていて、夜闇の中では余計に碌なものが見えない。

それでもどうにかして首を動かし、隣の少女――生きて動いている方――に視線を向ける。

「俺を、殺しに来たか」



599:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/19(月) 01:02:06.68 ID:NOXXRoXgo

「……」

「……」

二人が視線を交錯させ、しばらく無言の後、彼女はようやく唇を開き。

「はぁ? ってミサカはミサカは何言ってんだコイツみたいな馬鹿にした顔であなたを見てみる」

「おいオマエら実は別人格とかじゃなくて普通に混ざってるだろ」

「うーん、やっぱり少し肉体のフォーマットに引っ張られるのかなあ、ってミサカはミサカは予想してみたり」

不思議そうに小首を傾げて自分の胸元を見下ろす少女に一方通行は無言で疲れた半眼を向けるしかなかった。

「おおっ、さすが肉体年齢中学二年生。
 ミサカになかったものが慎ましやかながら備わっている、ってミサカはミサカは感動に打ち震えてみたり……!」

「できれば後にしてくれねェかなァお嬢さン。こっちはそろそろ死ぬってンだから」

「ごめんごめん。それで何の話だっけ、ってミサカはミサカは脱線しかけた話題を軌道修正してみる」

「オマエが化けて出た理由」

「率直な意見。それを聞いてどうするの、ってミサカはミサカは純真な素直さをアピールしてみたり」

「特に理由はねェよ。今際の暇潰しか冥土の土産くらいにしとけ。つかそれ自分で言ってたら世話ねェだろ」

「しまった……!」

まったく忙しい奴だ、と一方通行は目を伏せる。



600:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/19(月) 01:22:26.19 ID:NOXXRoXgo

「ミサカが化けて出た理由は二つ、ってミサカはミサカはビシィって指を突きつけながらうわあ自分で化けて出たって言っちゃったよって公開に打ちひしがれてみたり」

彼女は言った通りに指を二本立てているのだろう。
見えてはいないが丁寧にも実況してくれる。

「一つはあなたに自慢するため」

自慢……?

「ミサカが作られた目的はあなたに殺されるためだったかもしれない。
 でもね、ミサカ自身に架せられた目的はそれとは別にあった、ってミサカはミサカは説明してみる」

息を吸い、少女は告げる。

「ミサカはあなたを倒すように作られた。
 そして、今日、ようやくあなたに勝ったよ、ってミサカはミサカは勝利を宣言してみたり」

……ああ、なるほど。

確かに彼女らは終始そのために生きていたのだろう。
結果的に自分に殺され、結果的に実験の糧として使い潰されていただけで。

彼女たちの命題はそこにあったはずだ。

実験が立ち消えた後でもそれは失われていなかった。

「まあ実際にやったのはお姉様なんだけど、そこは共同戦線とかそういう感じで、ってミサカはミサカは都合のいい解釈をしてみる」

しかしそれではまだ理由にならない。
それが彼女でなければならない必要はない。

だから、早く。

どうにも眠くて仕方がないのだ。



601:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/19(月) 01:31:19.50 ID:NOXXRoXgo

「もう一つの理由はね」

あァ。

「あなたにお礼を言うため」

……はァ?

なンだそりゃァ。
どォして礼なンか言うンだよ。

「ミサカがね、あなたのお陰で生まれてきたから。
 だからお礼、ってミサカはミサカはようやく面と向かって口にしてみる」

だとしても、だ。
殺されるために生まれてきて、殺す相手に礼を言うなンて可笑しな話だ。

「ううん、そうじゃないよ、ってミサカはミサカは首を振ってみる」

……おい。

どォして口にしてないのに会話が成立するンだよ。

「だって、他のミサカはもうみんな死んじゃったし。
 だから普段は分散してるけど今あなたの代理演算をしているのはこのミサカだけで。
 つまりあなたの思考はぶっちゃけミサカに筒抜けなのでした、ってミサカはミサカは意地悪な視線をあなたに送ってみる」

……面倒臭せェ。



602:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/19(月) 01:46:46.43 ID:NOXXRoXgo

「ミサカはね、ミサカだけは、ミサカ二〇〇〇〇号だけは違うよ、ってミサカはミサカはあなたの手を取ってみたり」

そう彼女は言うのだけれど、どうにも手の感覚がない。

触れられている気はする。
でもどうしてだか蜃気楼のように曖昧で、実感が持てない。

「ミサカだけは製造目的が違ったからね。
 唯一の例外。あなたに殺されるために生まれてきた訳じゃない」

……。

「ミサカは、あなたのために生まれてきた訳じゃない。
 でも、父親も母親もいないミサカにとってあなたはもしかすると、
 ミサカの親みたいなものなんじゃないかなあって、ミサカはミサカは自分で言っててよく分かんないけど」

……多分そういうことなんだ、と。
きっと彼女は少し照れたようにはにかんでいるのだろう。

「だから、お礼。ミサカを生んでくれてありがとう」

……なンだよ。

「ミサカは多分、あなたを愛するために生まれてきたんじゃないのかな」

なンだよ、それは……。

「たとえ世界中があなたの事を憎んでも。
 たとえあなた自身が自分を嫌悪しても。
 ミサカだけはあなたを好きでい続けるから。
 ミサカを守ろうとしてくれたあなたを、ずっとずっと、大好きでいるから、ってミサカはミサカは――」

最後の方はよく聞き取れなかった。

けれど、どうにかして言い返してやろうと、重い唇をゆっくりと動かし。

「…………好きに、しろよ、クソガキ」

最後までどうにか体裁ばかりの悪態をついてやることにした。



603:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/19(月) 01:51:40.19 ID:NOXXRoXgo

「…………」

ずるり、とベンチの背に凭れていた体が傾ぎ、崩れ落ちる。

枯れ木のように軽い少年を両腕で抱き止め、ゆっくりと膝の上に寝かせると少女は優しくその髪を撫でた。

「お疲れ様……お休みなさい」





目を閉じたままの彼の顔は、母の腕で安らかに眠るあどけない子供のような。

――天使のようなと称される寝顔に似ていた。





――――――――――――――――――――



605:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/19(月) 02:02:53.13 ID:NOXXRoXgo

なんだか酷く長い夢を見ていた気がする。



「…………」

目を開くと、そこはいつもの寮の部屋ではなかった。

けれど知らない場所だという訳でもない。
それどころか、実に思い出深い場所だった。

公園だ。

忘れもしない、あのとき彼と過ごした、あの場所。

そう。今腰掛けているベンチ。
ここで初めてキスをした。

それがつい昨日のように思い出せる。

実際にはさほど日は経っていないのだが、その間に随分色々な事があった気がする。

「っ――はぁ――」

鉄錆の味がする重い息を吐き出し頭上を見上げた。

そこにはごく当たり前の空があって、僅かに白んだ闇色の中に星が瞬いていた。



608:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/19(月) 02:12:13.72 ID:NOXXRoXgo

「は――」

吐く息が白い。道理で寒いはずだ。
体からは熱が丸ごと抜き取られて、全身が冷たい鉄か何かに変わってしまったように冷たく、重かった。

「さむ……」

震える手で左腕を抱くようにして身を竦ませる。
そうするとほんの少しだけ暖かな気がした。

首を縮こまらせていた方がきっと寒くはないのだろうが、どうしてだか見上げた空から目が離せなかった。

酷い頭痛が絶え間なく繰り返していた。
重い息を吐き出し、軽くこめかみを押さえる。
そんなことをしても頭の中でがんがんと鳴り響く鐘の音はちっとも止んではくれない。

「…………」

重力に任せ滑り落ちた指に絡まった何かがずるりと抜け落ちる。
何やら大変な事態になっている気がしたが。

「……もう、いいや」

疲れた。

ただそれだけだ。



609:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/19(月) 02:21:00.34 ID:NOXXRoXgo

ふと何か気配を感じてゆっくりと視線を巡らせる。

「……アンタ」

彼はベンチに一人座った自分から少し離れた位置に静かに立っていた。

柔らかく、静かに微笑んで。

「なんだ……」

目を細め、少女は少しばかりの笑みを作った。

「アンタ、そっちの顔も中々かっこいいじゃない」

なんだか見覚えのある笑顔をした褐色の肌の見知らぬ少年は彼女の言葉にただ無言で微笑むだけだった。

「……ねえ」

たったそれだけの短い言葉に彼は頷き、羽織ったスーツのポケットに手を入れる。

「……ん」

ゆっくりと取り出した手には黒い石で出来た民族工芸のようなナイフが握られていた。
それを彼は、つい、と目の前に掲げる。

「――――」

天の端に浮かぶ明けの明星の光に黒曜石の刃が煌いた。



610:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/19(月) 02:35:37.02 ID:NOXXRoXgo

ばきん、と破滅的な音が鳴る。

捲り上げた左袖から覗く義腕がばらばらと砕け落ちた。

一緒に何やらびちゃびちゃとぬめったものが零れたようにも見えたが、気にしないでおく。

「ありがと」

一緒に落ちないように優しく握っていたその手を胸に抱き、目を伏せる。

数呼吸の間そうしてから目を開くと、そこに彼の姿は無かった。
気を利かせてくれたのかな、と少しばつの悪い笑顔を浮かべ。

「あ……」

と小さく呟く。

「結局……名前、聞いてなかったなあ……」

まあいいか、とすぐに思考から消して、胸に抱き寄せる腕にほんの少しだけ力を込める。

なんだか酷く長い夢を見ていた気がする。
それがよく思い出せずにいる。

寒い。それに頭痛が酷い。

意識は靄が掛かったみたいに朦朧としていて、音もよく聞こえないのは辺りが静かなだけだろうか。

浅い呼吸を繰り返しながら、碌に見えぬ目を伏せた。



611:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/19(月) 02:45:19.14 ID:NOXXRoXgo

一体自分は何がしたかったのだろう、と今更ながらに考える。

こんな事を言ってしまえば怒られるのだろうが、どうせ辺りには誰もいない。
それに声にしなければ誰かがいたとしても分かるはずもない。

とはいえ答えなどとうに出てしまっている。

「幸福も不幸も、いらない」

欲しかったのは最初から一つだ。
たった一つ、それが満たされれば他の事などどうでもよかった。

「私はただ」

簡潔にして単純明解。
きっと自分のような年頃の少女なら同じようなことを思うだろう。

「もう一度だけでいいから……」

それが叶うことなどないと分かっていた。
なのに、せめてもう一度だけと願わずにはいられなかった。

「名前を……呼んで……」

その声に答える相手などいもしないのに。

「当、麻ぁ……」

その名を口にせずにはいられず。
やっぱり少しだけ泣いてしまった。



612:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/19(月) 02:47:38.82 ID:NOXXRoXgo






          み










                         こ










               と








613:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/19(月) 02:57:42.80 ID:NOXXRoXgo

「――――――」

声が、聞こえた気がした。

目も見えない。音も聞こえない。
頭の中では鐘ががんがんと鳴り止まない。
息をするだけでも妙に疲れる。

なのにその声だけははっきりと聞こえたような気がして。

「なぁんだ――」

そんな些細なことは全部どうでもよくなって。

ただ自然と笑ってしまった。

「遅い――じゃない――」

もしかしたらこれは夢の続きなのかもしれない。
それでもきっとよかった。

「また――遅刻して――」

それがたとえ夢であっても。

たとえ現実であったとしても。

彼がいるのなら。

「ほら――デート、なん――」

手を、伸ばす。



614:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/19(月) 02:58:38.86 ID:NOXXRoXgo

「――行くわよ、当麻」



615:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/19(月) 03:01:43.57 ID:NOXXRoXgo

とさり、と腕が落ち、それきり二度と動かなかった。










物語は、終わる。

けれど世界はそれとは関係なく続いてゆく。



悲劇の夜が明け、朝日が昇る。

柔らかな光が少女の横顔を照らしていた。



――――――――――――――――――――



616:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/19(月) 03:04:05.62 ID:NOXXRoXgo

――――――――――――――――――――









                 グランギニョール
――と あ る 世 界 の 残 酷 歌 劇――














617:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/19(月) 03:05:23.99 ID:NOXXRoXgo

■CASTS





・御坂美琴
一〇月一八日、急性放射線症候群により死亡。





・垣根帝督
一〇月一七日、失血性ショックにより死亡。死体は細かく切り刻まれる。





・麦野沈利
一〇月一七日、繁華街の壁面に激突し死亡。





・浜面仕上
一〇月一七日、五体を分解され死亡。

・滝壺理后
一〇月一七日、急性薬物中毒により死亡。

・絹旗最愛
一〇月一七日、右手を圧潰され欠損。



618:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/19(月) 03:06:06.30 ID:NOXXRoXgo

・砂皿緻密
一〇月一七日、体を腹部で両断され死亡。

・ドレスの少女
一〇月一七日、ビルの屋上から墜落し死亡。

・ゴーグルの少年
一〇月九日、脳損傷により死亡。

・博士
一〇月九日、全身の肉を摘み取られ死亡。

・馬場芳郎
一〇月九日、高エネルギー投射体の砲撃を受け死亡。

・査楽
一〇月九日、高エネルギー投射体の砲撃を受け死亡。





・黒夜海鳥
一〇月九日、高電圧を受け死亡。



619:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/19(月) 03:07:00.28 ID:NOXXRoXgo

・海原光貴
一〇月一七日、全身を殴打され死亡。

・カエル顔の医者
一〇月一〇日、急性心不全により死亡。





・ミサカ二〇〇〇一号
一〇月一七日、急性心不全により死亡。

・ミサカ一〇〇三二号
消息不明。

・ミサカ一〇〇三九号
一〇月十七日、高エネルギー投射体の砲撃を受け死亡。

・ミサカ一三五七七号
一〇月一七日、大口径ライフル弾の銃撃を受け死亡。

・ミサカ一九〇九〇号
一〇月十七日、高エネルギー投射体の砲撃を受け死亡。

・ミサカ一〇七七七号 ほか『妹達』九九六三名
一〇月一七日から十八日にかけ、脳機能障害により死亡。

・ミサカ一八四一三号
一〇月一七日、頚部裂断により死亡。



620:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/19(月) 03:07:43.71 ID:NOXXRoXgo

・土御門舞香
消息不明。

・インデックス
消息不明。

・フレメア=セイヴェルン
消息不明。

・結標淡希
消息不明。

・ショチトル
消息不明。





・上条当麻
一〇月九日、瓦礫の下敷きになり死亡。事故当時体の一部が発見されず。





・白井黒子
消息不明。

・エツァリ
消息不明。

・土御門元春
消息不明。



621:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/19(月) 03:09:33.78 ID:NOXXRoXgo

・初春飾利
事件前後より、記憶・認識障害等の精神疾患が見られるようになる。要観察処分。

・佐天涙子
事件の数週間後、寮から飛び降り自殺。遺書の類はなし。

・固法美偉
事件の数ヶ月後、風紀委員を辞職。

・婚后光子
特記事項なし。

・湾内絹穂
特記事項なし。

・泡浮万彬
特記事項なし。

・食蜂操祈
事件の数ヵ月後、学校の屋上から飛び降り自殺。遺書の類はなし。

・月詠小萌
特記事項なし。

・姫神秋沙
特記事項なし。

・黄泉川愛穂
事件の数ヵ月後、包丁で腹部を刺され死亡。

・芳川桔梗
事件の数ヵ月後、自宅にて首吊り自殺。遺書の類はなし。

・木山春生
特記事項なし。





・フレンダ=セイヴェルン
一〇月一七日、心臓損傷により死亡。





・一方通行
一〇月一〇日、脳挫傷・内臓破裂により死亡。





・アレイスター=クロウリー
特記事項なし。





・鈴科百合子
消息不明。



622:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/19(月) 03:11:04.92 ID:NOXXRoXgo

■原作
        インデックス
『とある魔術の禁書目録』 (アスキーメディアワークス)

   著:鎌池和馬 イラスト:はいむらきよたか


         レールガン
『とある科学の超電磁砲』 (アスキーメディアワークス)

   作画:冬川基 原作:鎌池和馬
   キャラクターデザイン:はいむらきよたか





■挿入曲

マザー・グースより

「女の子は何で出来ている」   「三匹の子猫」
「誰がこまどりを殺したか」    「ハンプティ・ダンプティ」



ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン

「交響曲第九番 第四楽章 -歓喜-」



テレビアニメ『とある科学の超電磁砲』より

「SMILE -You&Me-」

   作詞:西田恵美 作曲:渡辺拓也
   編曲:増田武史 歌  :ELISA



623:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/19(月) 03:12:17.01 ID:NOXXRoXgo

■脚本・演出

とある>>1◆24GyCItkQg





■使用スレッド

御坂「――行くわよ、幻想殺し」

御坂「名前を呼んで

御坂「幸福も不幸も、いらない」

御坂「もう、いいや」





■製作

VIPService

製作速報VIP
SS速報VIP










■監督

とある>>1◆24GyCItkQg










――――――――――――――――――――



624:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/19(月) 03:13:04.62 ID:NOXXRoXgo

――――――――――――――――――――



   "Grand-Guignol/end of the world"

               ――Fine.



――――――――――――――――――――



629:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/19(月) 03:30:51.42 ID:NOXXRoXgo

一つの物語がそこで終わった。

けれど物語が終わろうとも世界はそんな事とは関係なく続く。





世界は、終わらない。



631:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/19(月) 03:32:39.71 ID:NOXXRoXgo

「さて……と」



少女は眼前、視界の端から端までを埋め尽くす高い壁を眺め、目を細めた。



「久し振り、って言うべきかな」



もう丁度いいくらいになってしまった黒い学ランを纏い。

首元に壊れたチョーカーのようにも見える電極を巻き。

髪には花弁を模したヘアピンを付け。





少女は笑い。

次の舞台の幕が上がる。















「やっほう。殺しにきたよ、学園都市」



632:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/03/19(月) 03:33:24.27 ID:NOXXRoXgo

世界は、終わらない。



でもそれは、また次のお話で。



転載元
御坂「もう、いいや」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1318080321/
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         コメント一覧 (53)

          • 1. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年10月18日 12:16
          • 1 漂う地雷臭
            ひどい
          • 2. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年10月18日 12:32
          • 全て読破してここに書き込む者は勇者だな
          • 3. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年10月18日 12:35
          • 俺「もう(読まなくて)、いいや」
          • 4. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年10月18日 12:40
          • こらまた懐かしいのを3連続で
          • 5. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年10月18日 12:57
          • 1 逆に面白くなるぐらいつまらない。
            原作読んだことないんじゃないかってくらいキャラの特徴を掴んでいないせいで誰が喋っているのか分からないことが多々ある。そういう基本的なことができないのにシリアスに挑むのは…

            まあ、全部読んでないのだが
          • 6. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年10月18日 13:38
          • 読んでないけど酷いのこれ?
          • 7. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年10月18日 13:45
          • これ残酷歌劇だっけ?
            やたらグロくて読めなかったやつだわ
          • 8. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年10月18日 13:51
          • >>6
            ここの住民如きにまともな答えを期待してはいけない
          • 9. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年10月18日 14:15
          • あぁ、面白かった面白かった
            第2夜ラストの

            青ピ「アイム・ユア・マザー!」
            上条「ノオォォォォ!!」

            のシーンは衝撃的だったし3夜で幻想殺しが義手になってたのもよかったわ
          • 10. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年10月18日 14:19
          • 1 ゴミ
          • 11. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年10月18日 14:21
          • ここの住民の民度の低さが良く判るコメント欄になりそうだなw
          • 12. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年10月18日 14:27
          • 説明が少なすぎるし、説明が少ない文章に必要な、読む人を引き込む力が足りない。

            民度を口に出す人は自分が住民だということを理解してのコメントなのかね
          • 13. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年10月18日 15:18
          • なんだこの禁書祭りは
          • 14. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年10月18日 15:32
          • 残酷歌劇とはまた懐かしいものを

            当時やたら盛り上がってたわ
          • 15. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年10月18日 16:20
          • 最初の前口上(?)で死んだ
          • 16. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年10月18日 16:38
          • 途中まで読んだ感想としてはキャラの特徴を掴めてなさすぎ、かなり痛いな
          • 17. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年10月18日 17:17
          • ※15
            お前は俺か
          • 18. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年10月18日 17:27
          • ※11
            まさかなにも考えずに褒め称えるのが民度高いとでもいうの?
            それともまさかこれを本気で傑作だなんて考えてるリア中なの?
          • 19. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年10月18日 18:15
          • 当時リアルタイムでみてたなぁ。気合い入れてもう一回読んでみるか…
          • 20. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年10月18日 19:28
          • >>18
            そういう物言いが民度低いって言ってるんだがw
          • 21. 以下、VIPにかわりまして低民度さんがお送りします
          • 2014年10月18日 20:04
          • 作者にとって黒歴史になってんじゃないかなって思いました
          • 22. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年10月18日 20:52
          • 最初のアレはなんなの
            恥ずかしくなってそっ閉じしました
          • 23. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年10月18日 22:38
          • ◆CAUTION◆
          • 24. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年10月19日 00:57
          • ※20
            自己紹介乙w
          • 25. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年10月19日 01:04
          • これの他のやつコメントついてないなw
            誰も読んでないようだw
          • 26. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年10月19日 02:27
          • ※20 ちょっとなに言ってるかわからないんで日本語でお願いします
          • 27. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年10月19日 05:34
          • 当時2書館で読んだのを思い出した
            なついなぁ
          • 28. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年10月19日 08:16
          • 最後のスタッフロール(笑)がきもすぎてクソワロタ
            完全に自分に酔ってなきゃ無理だろこれ
          • 29. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年10月19日 09:45
          • この人別作品エタったままなんだよなぁ…

          • 30. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年10月19日 11:56
          • 名前を呼んでの前半だけでいいわ
          • 31. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年10月19日 13:02
          • (厨二臭い禁書SSは)もう、いいや
            (頭の悪いコメントも)もう、いいや
          • 32. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年10月20日 00:00
          • 流し読みしたけど、時間の無駄だった
            回収しきれてない伏線というか、謎が多いんだが、これ続きあるの
          • 33. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年10月20日 00:41
          • よくわかんね
          • 34. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年10月20日 04:08
          • 4 物書きにしろなんにせよ自分に酔ってなきゃ「作品」なんて作れないでしょ。感想は、長かった。とだけ。
          • 35. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年10月20日 11:44
          • 5 真面目に読んでみりゃあ面白いんだってコレが!!
          • 36. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年10月20日 18:09
          • 1 ※35
            作者乙
            真面目に読んだけどとにかく寒い
            そのうえ長い
          • 37. MCC
          • 2014年10月21日 00:18
          • 5
            嫌いじゃあないぜ。
          • 38. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年10月22日 00:41
          • ぴぃの人じゃん
            ぴぃのシリーズは読んでたけど、これはまだ読んでなかったなぁ
            厨二感満載なのはこの人の持ち味だし、好き嫌いははっきり分かれるよね
            俺は大好きだけど
          • 39. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年10月22日 00:43
          • この作者、禁書SS黎明期を作った作者の一人なんだよな
            禁書SS総合スレを作る話し合いを何人かの作者とスレで話し合ってた頃を思い出すよ
            空気の人とか寮監の人とか
          • 40. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年10月22日 18:44
          • 1 生理的に受け付けないわ
          • 41. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年10月26日 02:12
          • 1 ビーーーーーーーーーーーーー


            そっ閉じ余裕だったよ
            最初で関心を引き込められない
            ssは総じてゴミ、はっきりわかんだね
          • 42. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年10月26日 16:13
          • わあ、懐かしい
            どれだけ学園都市が爆弾抱えて危ういか
            ヒーロー不在が恐ろしいかよくわかる話しだったよ
          • 43. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年10月26日 17:15
          • あ〇め菅池
          • 44. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年11月05日 01:39
          • 他人の褌で相撲とってる癖に作家ぶってて寒い
            冒頭でそっとじですわ
          • 45. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年11月21日 02:17
          • 1 作家気取りの馬鹿の寒さったらないな
          • 46. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年12月04日 16:09
          • こんな駄作書いたアホは誰かに殺されたほうがヨのため人のため親のためやなw
          • 47. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2015年01月05日 12:56
          • やっと読み終わった。
            特別面白くもないけど
            長編とか久々によんだから疲れた
          • 48. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2015年01月10日 18:38
          • 劇として見る分には普通に面白い。寒いとか鳥肌とか言ってる奴らはいかに小説読んでないか知らしめてるようなもん。
          • 49. 六花
          • 2015年01月12日 01:03
          •  長かったけど面白かった。
             最後にできたのって番外個体だよね?
          • 50. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2015年03月01日 13:26
          • 禁書厨や上条信者にとっては、自分の好きなキャラが無残に死んでいくのが耐えられなかったんじゃないのww
          • 51. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2015年08月13日 02:42
          • 正直、自分の好きなキャラが無残に死んでいくのを見るのは辛くないとは言わんが、これ書いてる人はキャラの個性うんぬんは置いといて、禁書の世界観に対する造形は物凄く深い
            キャラが馬鹿みたいに無駄死にするのを差し引いてもまだ面白い
            この世界において能力の発現が現実をねじ曲げた結果起きているのをきちんと読み取ってる
            その点においてこの作品まあssではあるがすごく好感を持った
            この人の天使と超能力の関係への捉え方をおこした作品が読みたい
          • 52. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2016年08月18日 23:25
          • あの厨二感満載の前口上が最高なんだろうが
          • 53. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2016年08月22日 03:18
          • 懐かしいな。
            思わず読み返してしまった。

            このようなSSをまた書いてくれたら良いなぁと思う。

        はじめに

        コメント、はてブなどなど
        ありがとうございます(`・ω・´)

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