八幡「やはり俺の世にも奇妙な物語はまちがっている」いろは「特別編ですよ、先輩!」

関連記事:八幡「やはり俺の世にも奇妙な物語は間違っている」
659: ◆.6GznXWe75C2:2014/08/31(日) 22:07:41.79 ID:YnYfYZQGo

テッテッテレレーテレレーテレレー

テッテッテレレーテーンテレーン

タモリ「ドッペルゲンガーという単語をご存知でしょうか?」

タモリ「自分と全く同じ姿の人物が現れる現象の事ですが」

タモリ「その姿を本人が見てしまうと、その本人は死んでしまうと言われています」

タモリ「同じ人物が同じ世界に存在するなどあり得ないと思われがちですが」

タモリ「私たちはこの広大な世界の全てを知っているわけではありません」

タモリ「もしかしたら、実はどこかにいたりするのかもしれませんよ」

テレレッテッテレレーテッテッ

テレテッテッテッテッテレレレレーレー

テッテッテレレーテレレーテレレ

テーンテレレレレレン



661: ◆.6GznXWe75C2:2014/08/31(日) 22:13:15.11 ID:YnYfYZQGo

材木座「八幡!」

八幡「何だよ、休み時間に騒がしい」

材木座「何だよではない! 今日新作を持ってくると言ったであろう!」

八幡「それ俺は承諾してねーし」

材木座「まあ読むがいい! 今回のは傑作であるぞ!」ドサッ

それはちょっとやそっとで読める量ではない。また俺の夜を犠牲にすんのかよ。

八幡「うぇ……」



663: ◆.6GznXWe75C2:2014/08/31(日) 22:28:12.96 ID:YnYfYZQGo

八幡「……材木座」

材木座「む?」

八幡「とりあえず一ページにあらすじみたいのまとめてくんねーか? さすがにこの量はキツい」

しかもめっちゃ読みづらいしな。ルビ多すぎなんだよ、こいつの小説。何で『輝超魂』で『ウルトラソウル』なんだ。『ハイッ!』ってかけ声出せばいいのか?

材木座「ぎょ……御意……」

八幡「あとわざわざ教室に来んな。放課後にでも奉仕部の部室にでも来ればいいだろ」

材木座「何を言っているのだ? 我の教室はここであるぞ?」

八幡「はっ?」



665: ◆.6GznXWe75C2:2014/08/31(日) 22:49:15.85 ID:YnYfYZQGo

何言ってんだ、こいつ。

確かにクラスに話せるやつがいないと、知り合いのいるクラスに来たくなるよな。気持ちはわかるぞ。俺にそんな相手がいた事はないが。

だからと言って、現実から目をそらしちゃいけないんだぜ?

八幡「お前のクラスはCだろ。さっさと巣に帰れ」

材木座「八幡……。お主こそ何を言っておるのだ?」

八幡「だから――」

戸塚「はちまーん」

八幡「おっマイエンジェル」

戸塚「えっ?」

八幡「いや、何でもない。ちょっと本音が出てしまった」



667: ◆.6GznXWe75C2:2014/08/31(日) 23:07:01.06 ID:YnYfYZQGo

八幡「戸塚に会うために生きてる気がする」

戸塚「僕も八幡に会えて嬉しいよ!」

八幡「……っ!?」

何だよこれ、マジ天使。戸塚マジ天使。俺もう死んでもいい。屋上から突き落とされたくはないが。

材木座「はちま……」

無視だ無視。こいつとの会話で戸塚とのお楽しみの時間を減らしたくない。お楽しみの時間とか何考えてんの、俺。

戸塚「材木座くんも、やっはろー」

八幡「おお、いたのか材木座」

材木座「さっきまで会話してたよね?」

素が出てんぞ、素が。

八幡「とりあえずお前は自分の教室に帰れ」

材木座「だから、我の教室はここであると……」

八幡「はいはい、わかったから。とっととC組に帰れ」

戸塚「ダメだよ、八幡。材木座くんにそんな意地悪したら」

八幡「えっ?」

戸塚「材木座くんもここのクラスでしょ?」

八幡「!?」



669: ◆.6GznXWe75C2:2014/08/31(日) 23:14:29.01 ID:YnYfYZQGo

八幡「ちょ、ちょっと待ってくれ。今、何て言った?」

戸塚「材木座くんも、ここのクラスだって……」

八幡「何を言って……」

急いで教卓に走る。そこにはここのクラスの名簿があるはず――あった、これだ。

『材木座義輝』

八幡「バカ……な……?」

目の前の現実を飲み込めずに教室を飛び出した。向かう先は、C組だ。

前の扉から教室を覗く。

そこに材木座義輝の姿がある事を信じて。

そして、幸か不幸か、それは叶ってしまった。

そこにも、材木座義輝の姿があった。



676: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/01(月) 23:13:52.29 ID:5B1SPHVjo

八幡「材木座!」

材木座「な、なんだ、八幡? 突然我がクラスルームに走り込んできて」

八幡「お前は、C組だよな?」

材木座「そ……そうだが……?」

八幡「だよな、俺の記憶は間違って――」

――待てよ。

じゃああれは誰だ?



678: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/01(月) 23:16:56.81 ID:5B1SPHVjo

八幡「すまん」

そう一言だけ言って、教室を後にする。

戻る先は自分の教室。

そこにも、材木座義輝はいた。

八幡「どうなってんだよこれは……!」

それからC組とF組を三往復したが、何度確かめても材木座はどちらにもいた。

八幡「これどう考えても、材木座が二人いる……よな……?」

わけがわからない。だがしかし、他の誰かが変装しているとは考えられない。

材木座「幻紅刃閃(ブラッディナイトメアスラッシャー)ーーーー!!!」グワアアアアアアアアアア

……こんなめんどくさいやつがこの学校に二人もいてたまるか。



680: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/01(月) 23:23:48.45 ID:5B1SPHVjo

材木座「何なのだ、八幡。さっきからここをチラチラ見おって。まさか貴様、機関の差し金か!?」シュパッ

八幡「くだらん話は後だ。お前は材木座義輝。二年C組で、自らを剣豪将軍と名乗る痛い中二病。間違いないな?」

材木座「ゴラムゴラム。我は中二病などではなく、真の――」

八幡「ふざけんのも後にしてくれ。こっちは真剣なんだ」

少し語気を強めると、材木座はシュンと肩を落とした。

まあいい、こんな話し方をするやつは材木座しかいない。

八幡「……うちのクラスにもう一人お前がいるんだよ」

材木座「む、それがどうかしたのか?」

八幡「……は?」



682: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/01(月) 23:29:08.91 ID:5B1SPHVjo

材木座「確かにもう一人の我は八幡と同じクラスであるが、それはいつもの事であろう?」

八幡「だから、ふざけんのも大概にしろと――」

戸塚「あー、八幡、こんなとこにいたー」

八幡「と……戸塚?」

戸塚「もうそろそろ昼休み終わるから戻って来ないとダメだよー? あ、材木座くん、やっはろー」

材木座「うむ、やっはろー!!」

いや、だからちょっと待て。

八幡「……戸塚、こいつ、F組にいたよな」

戸塚「うん、そうだね」

八幡「何でここにいるんだ?」

戸塚「だって材木座くんは二人いるじゃない」

八幡「はぁっ!?」

戸塚「!!」ビクッ

八幡「どういう事だよ!? こいつに双子の兄弟がいるなんて聞いたことねーぞ!?」

戸塚「べ……別に、双子なんかじゃなくて……」

戸塚「材木座くんは、最初から……二人いるでしょ……?」



684: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/01(月) 23:36:38.77 ID:5B1SPHVjo

戸塚は嘘をついたりするような人間じゃない。それに、その目は明らかにドン引きしていた。まるで、1+1が1だと言い張る高校生を見ているかのように。

八幡「何が……どうなって……」

材木座「はちまーん。もう休み時間終わるぞ?」

八幡「なっ!?」

ここはC組である。そして、そのC組に、もう一人材木座が入ってきた。

材木座・材木座「「早く教室に戻らねば、授業に遅れるぞ?」」

二人の材木座が並んで、全く同じポーズで、全く同じセリフを、全く同じタイミングで言い放った。

八幡「う、うわあああああああああああああああっっ!!!」

恐怖、恐怖、恐怖、恐怖。

ただそれだけが脳内を支配して、俺は逃げ出した。



687: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/01(月) 23:42:19.49 ID:5B1SPHVjo

そこからどうやって家に帰ったのかは覚えていない。

気づいたら自分の部屋のベットで横になっていた。

八幡「……何だよ、あれ」

確かに、確かに材木座があの場に二人いた。

忘れようと思ってもあの光景は忘れられない。

八幡「……明日になったら、元に戻ってねーかな」

もしくはこれが夢であって欲しい。

しかし何度ほおをつねっても、痛いし目が覚める気配はない。

ただ、明日にはまた平凡な日々が戻ってくることを願うばかりだ。



689: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/01(月) 23:50:02.36 ID:5B1SPHVjo

あまりにも不快なものを見せられて、疲れが溜まっていたせいか、目が覚めたのは遅刻するかどうかのギリギリの時間だった。

八幡「……気のせいだよな。あれは」

八幡「うん、きっと見間違いだ」

あんなの、あり得るわけがない。そう、現実的に考えて突飛すぎるのだ。ならば、昨日のあれはここ最近寝不足が続いていた俺が見た幻なのだ。どうせなら戸塚が増えてるのが見たかったよ。天使が二人なら回復力も二倍になったりしねーのかな、しねーか。

ガララ

時間はギリギリ。とりあえず遅刻ではない。

扉を開くと、そこにはいつもと同じ光景が広がっているはず。

そこに材木座がいるなんて――



材木座・材木座「「八幡、遅刻の臨界点を彷徨うとは、まだまだだな」」



――うちの教室に、材木座が二人いた。



692: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/01(月) 23:54:26.74 ID:5B1SPHVjo

八幡「……戸塚」

戸塚「どうしたの、八幡? また顔色悪いよ? 昨日のまだ治ってないの?」

八幡「ああ、そうみたいだ。ちょっと保健室行ってくる。その前に一つだけいいか?」

戸塚「なに?」

八幡「何で、うちの教室に材木座が二人いるんだ?」

戸塚「……? 材木座くんは、最初からF組に二人いたよ?」

八幡「……そうか。ちょっと休んでくる」

もう驚かねーわ。頭が現状に追いついてないだけなのかもしれないが。

保健室へ向かう途中に、C組を覗く。そこにもやはり、材木座の姿があった。

八幡「……材木座が、こっちは一人か」

何だ、何なんだ、これは。

クールだ、クールになれ、比企谷八幡。

まず、昨日はC組に一人、F組に一人、材木座がいた。

そして今日は、C組に一人、F組に二人、材木座がいた。

つまり、結論を言ってしまうと――

八幡「一日毎に材木座が増えていくのか……?」

何それウザい。



694: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/01(月) 23:59:14.47 ID:5B1SPHVjo

次の日には、予想通り材木座が三人に増えていた。

その次の日には四人。

正直言って最早恐怖とかは感じなかった。それ以上に、ウザい。

材木座・材木座・材木座・材木座「「「「八幡っっ!!! 我の新作のプロットを!!!」」」」

一人だけでも十分うるさいのに、それが四人にもなればウザさ百倍だ。何それ、アンパンマン?

八幡「そういや、人が増えてんのに、教室狭く感じねーな」

八幡「…………」キョロキョロ

よく見ると、机の数も変わっていない。

変わっていない?



696: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/02(火) 00:05:59.73 ID:8nM/wtWso

八幡「……あれ?」

ここ数日、童貞風見鶏の大岡の姿を見ていない気がする。葉山グループの中にその姿がない。

八幡「……気のせいであってくれ」

また、教卓に置いてあるクラスの名簿を見ると、そこに大岡の文字はなかった。

そしてさらに驚くことに、材木座の名前は四つも並んでいた。

八幡「…………」

八幡「戸塚」

戸塚「なに?」

八幡「大岡って、このクラスにいたか?」

戸塚「おお……おか……?」

八幡「知らないか」

戸塚「うん……いないと、思うよ。その名簿にも載ってないみたいだし」

八幡「……そうか」



698: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/02(火) 00:13:33.67 ID:8nM/wtWso

材木座が一人増える度に、クラスの誰かが、消える。

そして、誰もそれに気づかない。

誰も、消えた人のことを覚えていない。

誰も、材木座が増えた事を不思議に思わない。

八幡「……俺以外は」

雪乃「何を腐った目でブツブツ言っているのかしら?」

八幡「…………」ボー

雪乃「なっ何よ?」

八幡「今、うちの教室に材木座が四人いるんだよ」

雪乃「それがどうかしたのかしら?」

やっぱり、こいつもそうか。由比ヶ浜にも二日目に聞いたが、答えは同じだった。


次の日も、その次の日も、材木座は増え続けた。

クラスの半分が材木座で埋まってしまった。

この教室だけを見ると、コートが校則違反なのかわからない。

本当に、気持ち悪い。

材木座・材木座・材木座・・・・「「「「「「八幡!!!!!」」」」」」

八幡「あーーーーーー!!! うるせぇーーーーーー!!!!!」



700: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/02(火) 00:17:50.54 ID:8nM/wtWso

さらに日が過ぎ、三分の二が材木座になった。

大岡だけでなく葉山や三浦、相模まで材木座になってしまった。

そして誰も、それに言及しない。

八幡「……由比ヶ浜」

結衣「なに、ヒッキー?」

八幡「何でこの教室に材木座が何十人もいるんだろうな」

結衣「別に普通じゃん?」

八幡「……三浦って覚えてるか?」

結衣「……? 誰それ?」

由比ヶ浜はもうかつての友人の事を忘れていた。

いつまで続くのだろうか。

このまま二年F組が材木座で埋まるまでなのだろうか。

それは勘弁願いたい。

八幡「戸塚が材木座になったら生きてける気がしねーよ……」

戸塚だけでも守りたい、しかしそれは無理な話だ。

この状況下でどうすればいいのか、皆目見当がつかない。

八幡「誰に何を聞いても、材木座が増えてる事に気づかないし、それにおかしいと思わないんだよな」

俺だけが、おかしいと思っている。俺以外は皆、これが普通だと言う。

ならば、本当に狂っているのは、どっちなのだろうか。



702: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/02(火) 00:22:27.12 ID:8nM/wtWso

ついに恐れていた事が起きた。

八幡「……戸塚?」

いつものように俺を呼ぶ声が、今日は聞こえない。

八幡「戸塚ぁ……どこだよ……」

結衣「ヒッキー、どうしたの?」

八幡「なぁ……戸塚は……戸塚は……どこだよ……?」

結衣「とつ……か……?」

八幡「戸塚だよ、戸塚! テニス部で女の子よりも可愛くて、俺の事を「八幡」と呼んでくれる俺の天使だよ!!」

結衣「ごめん……ヒッキー……。何を言ってるのか……ちょっとよくわかんない……」

由比ヶ浜は目を逸らす。それが申し訳なさからなのか、俺への拒絶反応なのかは、わからない。

八幡「戸塚ぁ……! 戸塚ぁ……っ!!」

いくら泣いても、あの声が、俺の名を呼ぶ事はなかった。

材木座×26「「「「「「「どうしたのだ、八幡」」」」」」」

戸塚がいた時の俺ならきっとこいつに殴りかかっていただろう。しかし今の俺にはもう、何も考えられなかった。



704: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/02(火) 00:26:48.72 ID:8nM/wtWso

それから、戸部や海老名さん、そして今日の朝には由比ヶ浜までもが消えて、残るは俺一人になった。

八幡「最後は……俺か」

材木座×35「「「「「「「「「「八幡、元気がないではないか」」」」」」」」」」

この人数になると、もう一人増えようが減ろうが、関係ない。ただ生理的悪寒だけが、全身に鳥肌を立たせる。

八幡「……誰のせいで、こうなってるんだよ」

八幡「なんでお前は、何十人もいるんだよ……」

材木座×35「「「「「「「「「「はて、何を言っているのかわからんな」」」」」」」」」」

八幡「俺も何を言ってんのかわからなくなってきた」

どうか、夢であってくれ。

こんな狂った世界から、俺を解放してくれ。



706: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/02(火) 00:28:46.16 ID:8nM/wtWso

朝、目が覚めた。

俺は、この世に存在している。鏡を見てもいつものままだ。

自分が消えてしまわなかった事に安堵するが、それ以上に今の教室の中が気になる。みんな元に戻ったのだろうか。

しかし教室に着き、その希望は打ち砕かれる。

状況は昨日と何も変わっていなかった。

相変わらず材木座は35人いて、いつも通りに授業は進む。

ただ一つおかしいのは、材木座が今日は増えなかった事だ。

材木座×35「「「「「「「「「「八幡!! 今日こそは我がプロットをだな……!」」」」」」」」」」

八幡「…………」スタスタ

教室中の材木座が俺を呼び止めるが無視して奉仕部に向かう。材木座は雪ノ下が苦手だから奉仕部の部室内には入って来ない。だから部室にさえ行けば、材木座に会わなくて済む。家以外で唯一安らげる場所だった。

八幡「うーす」ガララ

材木座「うむ、遅いぞ、八幡!」

八幡「」



708: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/02(火) 00:32:16.50 ID:8nM/wtWso

八幡「……なんで、お前がここに?」

材木座「なんでも何も、奉仕部は我と我と八幡の三人であろう!」

八幡「」

ガララ

材木座B「八幡! 話も聞かずに帰るとは酷いではないか!!」

この部室に二人目の材木座が現れた。

ああ、なるほど。雪ノ下も由比ヶ浜も材木座になっちまったのか。だからここに二人いるのか。

八幡「…………」フラフラ

材木座・材木座B「「八幡、足元がアースクエイクしているが、大丈夫なのか?」」

八幡「…………」ガララ

気味悪くハモる声を無視して、俺は部室を後にした。



710: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/02(火) 00:34:09.87 ID:8nM/wtWso

八幡「何だよ、これ……。もう知り合いのほとんどが材木座になっちまったじゃねぇか……」

八幡「もう、俺に残されてんの小町だけじゃねぇの……?」

八幡「……ただいまー」

材木座「おかえりだ!! 八幡!!!」

八幡「」

何か……もう、何なんだ、これは。

八幡「……なぜ、お前がここに」

材木座「血を分けた兄弟を忘れるとはこれ如何に! 八幡はそこまで堕ちたか!?」

小町も、消えた。



八幡「ああ……ああ……あああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」



712: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/02(火) 00:38:15.62 ID:8nM/wtWso

材木座A「うむ、新作の小説の設定が出来たな。これは傑作の予感であるぞ」

材木座B「幻紅刃閃(ブラッディナイトメアスラッシャー)ーーーー!!!」グワアアアアアアアアアア

材木座C「くっ……我が右腕が……疼く……!」

材木座「我は剣豪将軍!!! 材木座義輝也!!!!!」

あれから一月が過ぎた。現在、日本は、いや、世界は材木座で埋め尽くされていた。世界中の誰もが、材木座になっている。

材木座×72億「「「「「「「「「「「「「八幡っっっ!!!!!!!」」」」」」」」」」」」」



――俺以外は。



『世界は、材木座で出来ている』



世にも
奇妙
な物語



715: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/02(火) 00:39:46.64 ID:8nM/wtWso

テッテッテレレーテレレーテレレー

テッテッテレレーテーンテレーン

タモリ「常識とは時代や場所によって大きく異なるものです」

タモリ「例えどれだけ自らが普通だと思っていても、その社会の多数派でなければ異端となってしまいます」

タモリ「世間で言われる常識や正義など」

タモリ「そんな脆く、崩れやすいものなのです」

タモリ「例えば明日、世界が一変していたら」

タモリ「あなたは、どうしますか?」

テレレッテッテレレーテッテッ

テレテッテッテッテッテレレレレーレー

テッテッテレレーテレレーテレレ

テーンテレレレレレン



734: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/04(木) 23:01:11.00 ID:u+3aKJzIo

テッテッテレレーテレレーテレレー

テッテッテレレーテーンテレーン

タモリ「人はいつも何かに恐怖します」

タモリ「それは現実的な物に対してかもしれませんし、非現実的な物に対してかもしれませんが」

タモリ「いずれにせよ、人は恐怖を抱かずに生きる事はできません」

タモリ「それは人間が人間として生まれた宿命なのでしょうか」

タモリ「しかし、中にはわざわざ求める人も、いるんですよねぇ」

タモリ「それが奇妙な世界への入り口とも知らずに」ニヤァ

テレレッテッテレレーテッテッ

テレテッテッテッテッテレレレレーレー

テッテッテレレーテレレーテレレ

テーンテレレレレレン



736: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/04(木) 23:06:12.68 ID:u+3aKJzIo

人はいつだって何かに怯えている。

お化けや幽霊なんてものを信じていなくても、恐怖の対象は存在している。

例えば、人の視線。

いや本当に何なの、あれ。ぼっち極めすぎて、見えなくてもわかっちゃうから困る。

葉山あたりなら、それが憧れの対象としての視線だったりとプラスの視線が多いのだろうが、俺にそんな視線が送られるわけがない。むしろマイナスになりすぎて、地球にある電子数超えるレベル。それどんだけマイナスなんだよ。

何が言いたいかと言うと、とりあえず生きている限り恐怖からは逃げられないという事だ。



738: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/04(木) 23:19:00.46 ID:u+3aKJzIo

そしてさっきも言ったが、幽霊などよりも生きている人間の方がよっぽど怖い。

幽霊は攻撃できるのか知らんが、少なくとも生きている人間は攻撃をしてくる。肉体的にも、精神的にもだ。

例えば何人かのグループに入っていたとしよう。

何か少しでも隙や汚点が見つかれば、すぐに叩かれる。

逆もまた然り。突出して何かに長けていたら、それも叩かれる理由になり得る。出る杭は打たれるとはうまい事を言ったものだ。

人と関われば関わるほどに、攻撃の対象となる可能性は高くなる。つまり多くの人間と関わるリア充どもは、日々それに怯え、避けながら生きているのだ。

結論を言おう。

人との関わりゼロのぼっちこそが最高なのであり、そしてそのぼっちを極めた俺こそが最強なのだ。



740: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/04(木) 23:30:22.53 ID:u+3aKJzIo

結衣「それでねー」ワイワイ

教室における俺の位置づけはいつもと変わらない。端っこで本を読むか、寝るかのどちらかだ。しかし本当によくもまあリア充はあんなにどうでもいい事で盛り上がれるものだ。

結衣「そう言えばさー、うちの学校の七不思議知ってるー?」

三浦「二つくらいは聞いた事あるかな」

で、出たー。学生あるある第三位!(当社調べ)自分の学校の七不思議ネタ!

なぜ、怖い話を好き好んでするのか、リア充の考えはわからん。

結衣「そうなんだ、私は六つ知ってるんだけど――」

すげぇな、コンプリート目前じゃん。で、最後の七つ目を知ったと思ったら幻の八つ目が現れるんですね。何それ、初代ポケモンみたい。ミュウって何だよ、ミュウって。バグ技使わないとゲットできないとか、それゲームとしてどうなんだよ。



742: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/04(木) 23:39:47.80 ID:u+3aKJzIo

総武高七不思議(by由比ヶ浜)

一、夜中の校内に白い服を着た女性が歩き回っている。

二、夜、教室の前を歩くと、窓や扉から何かが飛び出してくる。

三、誰もいないはずの体育館から何故か物音がする。

四、夜、渡り廊下が長くなる。

五、夜の二階のトイレの鏡に見知らぬ誰かが映る事がある。

……なんかよく聞くようなやつのオンパレードじゃね、これ?

しかも夜限定ばっかだし、確かめられないやつしかねぇ。まあそこがいいのかもしれないが。



744: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/04(木) 23:46:21.73 ID:u+3aKJzIo

結衣「それで六つ目がね……」

結衣「七つ目を知ると、よくない事が起きるらしいの!」

そのテンションで台無しだぞ、もう少し怖そうにしゃべれよ。稲川さんレベルは求めないからよ。

三浦「えー怖いー!」

三浦は棒読みでそのまま葉山の腕に抱きついた。絶対怖がってないですよね、それ。

葉山「あはは……」

そして抱きつかれた本人は苦笑いである。

結衣「だから、私ちょっと危ないんだよね……」

聞かされた人も今この瞬間に全く同じ状況になったんですが、気づいていますか?



746: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/04(木) 23:51:25.56 ID:u+3aKJzIo

時間は少し飛んで午後十一時半。

八幡「SSでも見て寝るかな」

八幡「おっ、らき☆すたとクロスしてるやつ更新されてるじゃん。ラッキー」

らき☆すただけに? つまらんな。

八幡「やっぱかがみんは可愛いなー」

ゴーインゴーインアロンウェーイ

八幡「むっ」

ピッ

八幡「もしもし」

??「……ちょっと付き合って欲しいんだけど」



749: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/04(木) 23:57:27.11 ID:u+3aKJzIo

何がどうなってこうなった。

混乱しているな、言い直そう。

どうしてこうなった。

時刻は午前零時。

そんな真夜中に俺は、総武高の校門にいた。なんで?

??「悪いね、私のために」

校門の中には、制服姿の川崎沙希の姿があった。



754: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/05(金) 00:14:00.87 ID:bYeYIhCIo

八幡「ああ、本当にな。こんな真夜中に人を呼ぶなんてまともなやつがする事じゃない」

川崎「それでも取りに行かないといけないから、あのプリント」

八幡「なんの話だ?」

川崎「わかんないの? あの数学のプリントだよ」

八幡「あーそんなのあったな」

何か絶対出さないと進級に関わるとか言ってたな。一枚のプリントにそこまでかけるか、普通?

川崎「今さっき気づいてね、誰か一緒に行く相手を探してたんだ」

八幡「それで、俺が選ばれたと」

川崎「あんたどうせ暇でしょ?」

八幡「……否定はできないな」



756: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/05(金) 00:17:40.86 ID:bYeYIhCIo

川崎「それに、あんたなら呼んでも申し訳ないとか思わないし」

八幡「酷いな、借りがなかったら帰ってるところだ」

文化祭の時と、生徒会選挙の時。川崎には二度も世話になっている。だから、こんな非常識な頼みも断れなかった。

八幡「てか、お前の弟に頼めばよかったんじゃないか?」

何だっけ、名前。川崎大臣? 絶対投票しねぇ。

川崎「大志は受験生だから。今の時期に迷惑かけらんないし」

八幡「このブラコンめ」

川崎「うるさい、シスコン」

八幡「……不毛だな、とりあえずさっさと取るもん取って帰ろうぜ」

川崎「う、うん」



759: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/05(金) 00:22:59.52 ID:bYeYIhCIo

八幡「何で一人で来なかったんだ?」

川崎「えっ? えーっと、それは……」

八幡「……怖い、とか?」

川崎「何でそうなるの? 違うし。あんたがいればいざという時に囮にできるでしょ?」

八幡「俺を何だと思ってるの?」

川崎「……えさ?」

八幡「お前はジャングルに行くつもりなのか? 多分夜の学校にライオンはいないぞ?」

川崎「そんなのわかってるよ」

あんたバカなの? と言いたげな目で俺を見る。いやいや、お前の発言がアレだからつっこんだのに。



761: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/05(金) 00:30:04.16 ID:bYeYIhCIo

八幡「で、どうやって入るの、入れないの? じゃあ帰るよ?」

川崎「帰ろうとしないで。入る方法はあるから」

ほう、お手並み拝見といこうじゃないか。

ガララ

八幡「!?」

何で窓開いたの!? まさか川崎はメンタリスト!? それ関係ないな。心読んでどうすんだよ。



763: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/05(金) 00:32:53.56 ID:bYeYIhCIo

川崎「よかった……開いてた……」

ふぅ、と川崎は胸を撫で下ろした。彼女にも確証はなかったらしい。

八幡「何で開いてんだよ、ここ。防犯的に問題ありじゃないか?」

川崎「ここの部活、よく鍵閉め忘れるから……」

何でそんな情報知ってんだ。お前ぼっちじゃなかったのかよ。



765: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/05(金) 00:41:06.36 ID:bYeYIhCIo

八幡「……暗いな」

廊下はやはり暗い。月明かりと非常口の緑色の光だけしかなく、それでようやく道が見えるくらいだ。

川崎「…………」プルプル

川崎は足を震わせながらゆっくり歩く。俺が先行するが、いつも通りに歩くと置いて行ってしまうので、歩調は落とす。

八幡「……大丈夫か?」

川崎「べっ別に……怖いわけじゃなくて、寒いだけだから……」

まあ確かに寒いですよね。じゃあ何で俺の上着の裾をつまんでるんですかね?

てか今、俺の怖いかどうかなんて聞いてなかったような……。

八幡「そうか。じゃあさっさと行くぞ」



767: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/05(金) 00:48:05.50 ID:bYeYIhCIo

川崎「っ!?」

突然、川崎が俺の上着を引っ張った。何だよ、破けちゃうだろ!

八幡「……どうし――」

川崎を見た瞬間、言葉が詰まった。川崎の表情は嘘をついている人間のものではない。だから、本当に恐ろしい何かに気づいてしまったのだと、俺はわかってしまった。

川崎「……足音が」

八幡「えっ?」



769: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/05(金) 00:55:23.66 ID:bYeYIhCIo

コツーンコツーン。

どこからだろうか。確かに、俺たち以外の誰かの足音が聞こえる。

コツーンコツーン。

その音は段々大きくなる。

川崎「比企谷……」

川崎はつまんでいた上着を離して、そのまま俺の腕にしがみつく。……あの、当たってるんですが……。



771: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/05(金) 00:58:44.94 ID:bYeYIhCIo

コツーンコツーン。

こんな時間に、校内に誰かがいるわけ、ないのに。

コツーンコツーン。

それなのに、その音は鳴り続ける。



一、夜中の校内に白い服を着た女性が歩き回っている。



八幡「嘘だろ……?」



コツーンコツーン




777: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/05(金) 23:43:29.44 ID:XdbnF4cyo

川崎「ど……どうする……?」

八幡「……隠れよう。もしもこんな時間に俺たちの他に誰かがいたとしたら、不審者の可能性が高い」

冷静に考えれば、そうだ。少し恐怖で頭がどうかしていた。

川崎「でも……七不思議が……」

あ、お前も知ってたのね、あれ。

八幡「あんなもん信じてんの?」

川崎「べ、別に信じてなんかいないけど……!」

八幡「だろ? 俺も信じてないし、幽霊とかよりも本物の人間の方がよっぽど怖い」

もしも変質者の類いだったら川崎が危ない。今は身を隠して、音の正体を突き止めるべきだろう。



779: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/05(金) 23:47:22.26 ID:XdbnF4cyo

コツーンコツーン。

八幡「もうそこまで来てる。とりあえずそこに入るぞ」ヒソヒソ

川崎「えっちょ、比企谷ムグゥ」

声を出させないために口を塞ぎ、そのまま近くの教室に入った。

八幡「……ふぅ」

川崎「……ぷはぁっ。いきなり何を……」

八幡「シッ」

口に人差し指を当て静かにしろと合図する。いや、俺の口にだよ? こいつの口にじゃないよ?

コツーンコツーン。



781: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/05(金) 23:51:30.08 ID:XdbnF4cyo

コツーンコツーン。

足音はどんどん大きくなる。心臓の鼓動の早さがそれに比例するように上がる。さっきのところにいたら、きっと音の主に見つかっていただろう。

コツーンコツーン。

足音は教室の前まで来た。壁の向こうには、この音の主がいる。怖い。

??「……い」

八幡・川崎「?」

??「なんで……こんな夜中に校内の見回りなどしなければいけないんだ……。本当に若手は辛いな……若手だからな……」

八幡・川崎「…………」

??「まあどうせ家にいても一人だし、変わらないかな……」

??「はぁ……結婚したい……」

コツーンコツーン。

足音は遠のいていった。



783: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/05(金) 23:55:35.83 ID:XdbnF4cyo

川崎「比企谷、今のって……」

八幡「よせ、みなまで言うな。いいか、俺たちは何も聞かなかった。行き遅れのアラサーの愚痴なんて聞かなかったんだ。いいな?」

川崎「あんたが全部言っちゃったじゃん……」

八幡「いや、俺は何も言っていない。何も言っていないんだ。……くぅっ!」

何だろう、胸が痛む。

本当にもう、早く誰か貰ってやれよ……! 可哀想すぎるだろ……!



786: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/06(土) 00:00:40.33 ID:/FDyoM8Qo

八幡「……行ったな」

もう足音は聞こえない。方向的にももう出て問題ないはずだ。

ガララ

八幡「さてと、あの人がいて直接行く道は使えないから、遠回りするぞ」

川崎「そうだね。今あの人に見つかりたくないし……」

俺は直で見たら泣いちゃう自信がある。

テクテク

八幡「…………」

川崎「…………」

ガララ

八幡「!?」



788: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/06(土) 00:08:30.92 ID:/FDyoM8Qo

俺と川崎のすぐ横の教室の扉が突然開いた。

川崎「……比企谷、あたしを驚かして楽しい?」

八幡「いや、今の俺じゃねーし」

川崎「なら、何で……」

次の瞬間、教室の中から何かが飛び出した。

カランカララン

川崎「ひぃ!」

廊下に響く金属音。しかしその音はどこか鈍い。

そしてまた俺の腕に川崎がしがみつく。だから当たってるんだってばよ。

八幡「……何だこれ?」



790: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/06(土) 00:13:32.07 ID:/FDyoM8Qo

二、夜、教室の前を歩くと、窓や扉から何かが飛び出してくる。



八幡「これは……!」

この暗闇でもわかる細長い黒と茶色の芸術的フォルム!

八幡「マッ缶じゃねぇか!!」

しかもこの寒い季節にホット! 八幡的にポイント高い!!

八幡「でもなんでマッ缶なんか飛び出してきたんだ?」

川崎「ひ……ひきが……っ!」

八幡「どうした、川崎……」

そこには想像を絶する光景が広がっていた。

ありとあらゆるところから何十本もの手が生えてきて、川崎の身体を教室内に押し込もうとしていた。



792: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/06(土) 00:15:32.95 ID:/FDyoM8Qo

川崎の表情は恐怖と不快感で歪んでいる。

川崎「……っ! たすけ……」

八幡「川崎!!」

俺は川崎の腕を掴んでいる腕を引き離そうと、その手首を握った。その腕はあまりにも冷たく、人の手の形はしているが、生気が感じられない。

ガシッ!

それに動揺していると、今度はどこから現れたのか、別の手が俺の右足を掴んだ。



795: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/06(土) 00:21:02.55 ID:/FDyoM8Qo

八幡「くっ……!」

布越しに伝わる冷たい感触が気持ち悪く、背筋がぞわぞわする。このままだと二人とも教室に押し込まれる。

八幡「誰の腕だか知らんが……」

掴まれていない方の足で思いっきり足元の手を踏む。その瞬間、掴んでいる力が弱まり足から手は離れた。

同時に川崎を襲っていた手の力も弱まる。今だ。

八幡「川崎!!!」

俺はそう叫んで川崎の手を握り走り出した。



797: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/06(土) 00:24:43.25 ID:/FDyoM8Qo

八幡「はぁ……はぁ……」

川崎「ふぅ……」

逃げている最中は他の教室からも手が飛び出してきた。それから避けるために、俺たちは教室のない渡り廊下まで逃げた。

八幡「なんだよ……あれ……!」

川崎「七不思議の二つ目……?」

八幡「嘘だろ……ただの見間違いの類いじゃなかったのか……?」

俺は非科学的な物は信じない。幽霊なんているわけがないし、妖怪が助けてなんてくれない。

しかし俺は確かに見た。確かに触れた。

人間ではあり得ない程冷たくなった腕を。



799: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/06(土) 00:29:57.32 ID:/FDyoM8Qo

川崎「……ところでさ」

八幡「あ?」

川崎「その……」

川崎はモジモジしながら俺に目を合わせようとしない。どうかしたのだろうか。

川崎「……手」

八幡「えっ?」

逃げた時から俺と川崎の手はつなぎっぱなしだった。



801: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/06(土) 00:33:26.00 ID:/FDyoM8Qo

八幡「あっ!」

思わずその手を離す。何やっちゃってんだよ、俺。

川崎「あ……」

川崎は少し残念そうな表情を浮かべる。えっ、どういう事ですか? これはそういう事ですか? 違いますか、違いますね。

八幡「すま――」

川崎「……ありがと」

八幡「ふぇ?」

むしろ今は俺が謝らなきゃいけないところだよな。非常事態だったとは言え、勝手に女子の手を握っちゃったんだし。

川崎「助けて……くれて……」

そこまで言い切ると、川崎はすぐにそっぽを向いた。

しかし一瞬月明かりのせいで見えてしまった。

真っ赤に染まった、川崎の顔を。



803: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/06(土) 00:43:15.81 ID:/FDyoM8Qo

思わずこっちまで気恥ずかしくなってしまい、俺も横を向いた。何だよこれ、川崎可愛すぎんだろ。中学の俺だったら告白して振られてたわ。

八幡「……もう、帰ろうぜ」

川崎「そうだ……ね。こんなんじゃ取りに行けないし」

八幡「ああ」

プリントなんてあとからどうだってできる。朝一で来てやったっていいし、最悪他の誰かのをコピペすればいい。オボカタ? 何の事かさっぱりだ。

昇降口へ降りるために、階段のある方へ向かう。もう早く帰って今日あった事忘れたい。あんな気持ち悪い光景には二度と出くわしたくない。



805: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/06(土) 00:48:36.45 ID:/FDyoM8Qo

川崎「……ごめん」

八幡「何でお前が謝るんだよ」

川崎「だって、あたしのせいであんな……それに結局プリント取れなかったし……」

八幡「いーんだよ、俺にはいくら迷惑かけたっていいんだ。時間の浪費には慣れているからな」

川崎「それは……どうなの……?」

八幡「それに俺は二度もお前に世話になってるしな。その借りは返さねぇと」

川崎「別に、あんなのは……」



807: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/06(土) 00:52:29.54 ID:/FDyoM8Qo

……おかしい。

ここで違和感に気づく。

いつまで俺たちはここを、『渡り廊下』を歩いているんだ?

いくら歩いても、周りの風景は変わらない。歩いている感覚は、あるのに。

八幡「……あっ」



四、夜、渡り廊下が長くなる。



……長くなりすぎだろ。



811: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/07(日) 19:01:08.97 ID:u75oHh88o


いくら歩いても、渡り廊下の端までの距離は変わらない。まるで動く歩道を逆走している気分だ。しかし横を見ると確かに進んではいるのだ。確かに進んでいるのに、進まない。

八幡「……なんだこりゃ」

川崎「…………」ギュ

気づけばまた川崎は俺の上着を握っていた。確かに脅かしてくるようなお化けなどはいない。しかし異様な状況というのは、下手すればそれ以上に人の精神を蝕む。

俺だってまだ平気なふりをしているが、内心は相当焦っているしな。いや、本当に。このままずっと渡り廊下で一生を終える事になったらどうしよう。



813: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/07(日) 19:15:10.75 ID:u75oHh88o

川崎「比企谷ぁ……」

彼女は涙目になりながら俺の名を呼ぶ。他の誰かにすがらないと、やってられないのだ。

八幡「もう少し、歩けばいけんだろ」

そしてそれは俺もだ。常日頃ぼっち至上主義をとっているが、流石にこんな状況に一人で耐えられるほど、俺のメンタルは強くない。

だから今のは川崎を安心させるためではない。今は一人ではないと自分に言い聞かせるために言葉を発したにすぎない。

そういう意味では、川崎がいてくれて、助かったと思う。

まぁ、川崎がいなかったら、こんな時間に学校に来る事もなかったのだが。



815: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/07(日) 19:27:24.46 ID:u75oHh88o

結局十分ほど同じ方向に歩き続けたが、向こう側までの目測での距離は変わらなかった。

川崎「このまま……出られなかったら……」

ぼそりと呟く。その声は半分泣き声になっていた。上着を掴む手は相当な力なようで、その部分がクシャクシャになっている。これはアイロンかけねぇと着れねぇな。ねぇねぇうるさいな、パヒュームなの?

八幡「……まぁ、七不思議では夜って条件付きだったから、朝になればどうにかなるんじゃねぇの?」

川崎「……なら、いいんだけど」

確証はない。ただ、俺自身が現実から逃避したいだけだ。だからこれも、川崎のためではない。



817: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/07(日) 19:54:52.13 ID:0zgdVifDo

八幡「よし、戻るか」

川崎「えっ?」

八幡「押してダメなら引いてみろって言うだろ?」

川崎「でも……それじゃあ今まで歩いたのを……」

否定する事になる。それはわかっている。

ただ、今俺たちに必要なのは継続ではない。自らが間違っているという判断をする勇気だ。

このまま歩いていても向こう側に辿り着けるとは、到底思えない。

ならば、方法を変えるのがベストだ。

八幡「ずっと同じ考えに固執していても、埒が明かないしな」



819: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/07(日) 20:01:09.35 ID:0zgdVifDo

そうして反対側に歩いていったわけだが……。

八幡「……逆は普通に戻れたな」

こちらの距離は変わっていなかった。この道は通れない、という事なのだろうか。

その時、ふと、何かに似ていると感じた。

八幡「あ、ゲームだ。ゲームとかでよくある」

大体まだレベルが足りなかったりとか、その先のデータがなかったりとかで強制的に進めなくなるやつ。あれに似ている。ドラクエで何回か戻されたのを思い出す。

八幡「……つまり、こっちは通ってはいけないと」

川崎「何一人でブツブツ言ってんの?」

八幡「ああ、いや、何でもない」



821: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/07(日) 20:58:05.27 ID:wcRbYo7Po

この渡り廊下は使えない、つまり反対側へと向かわなければならないという事だ。また教室の前通らなきゃならんのかよ……

ドンッドンッ

その時、遠くの方から音がした。微かに聞こえる音は、少し耳をすまさなければ聞こえない程だ。

川崎「……何の音?」

八幡「あれだな、多分体育館だ」

川崎「体育館? なんでそん……」



三、誰もいないはずの体育館から何故か物音がする。



川崎「……あ」



823: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/07(日) 21:00:37.46 ID:wcRbYo7Po

八幡「まあこれは実害なさそうだし、放っておこうぜ。……不気味ではあるが」

川崎「……そうだね。気になりはするけど、見に行きたくはない」

八幡「おう。じゃあ、またここを走って通り過ぎるか」

川崎「……うん」ブルブル

そう言いながらも川崎の足は震えている。確かに走れば捕まらないとわかっていても、あの光景を見たくないというのは、人間として普通だ。俺だって壁や扉から何十本もの手が飛び出してくる様なんて見たくない。

ただ、俺は、これでも男で、川崎は、女だ。

なら、彼女を助けるのは、男としての義務だろう。



825: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/07(日) 21:08:42.10 ID:wcRbYo7Po

八幡「おい」スッ

川崎「えっ?」

八幡「お前は目をつぶってただ走れ。手、つないどけば、それでも走れるだろ?」

うわああああああああ恥ずかし恥ずかし恥ずかしいいいああああ!!! 何でこうも俺は黒歴史を増やしてしまうんだあああああああああ!!!

川崎「…………」ソー

川崎はゆっくりと手を伸ばす。確かに俺みたいなのと手を繋ぐなんて、あまり気が進まないに違いない。あ、なんかキャンプファイヤー思い出しちまった。どうしよう、泣きたい。

川崎「……ありがと」プイッ

彼女は俺の手を掴むと同時に顔を逸らした。そんなに俺の事が嫌ですか、そうですか。

……顔が真っ赤になってたのは、気のせいだよな。



827: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/07(日) 21:21:24.88 ID:wcRbYo7Po

その頃、体育館にて。

シュッ

パスッ

??「もうオレには、リングしか見えねえ……」

シュッ

パスッ

??「静かにしろい。この音が……オレを甦らせる……」

??「何度でもよ……!」

シュッ

パスッ

??「……まあ一人だから静かなんだけどな」

??「しずかだけに? フフフ……」

??「はぁ……結婚したい……」



830: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/07(日) 21:35:11.04 ID:wcRbYo7Po

<八幡「行くぞ、川崎」

川崎「う、うん」

八幡「せーの!」ダッ

タタタタタタタタタタタタ

八幡「……あれ?」

川崎「……? どうしたの?」

八幡「目、開けていいぞ。何だか知らんが出てこない」

川崎「本当に……?」

八幡「ああ。何か拍子抜けって感じだな」

川崎「そ、そう……」

八幡「走る必要もないし歩いて行こうぜ」

川崎「う、うん……」

川崎(あんた、気づいてないのかな……)

川崎(手……繋ぎっぱなしって事に……)

川崎(……まぁ、今度は言わないけど)



832: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/07(日) 21:41:35.49 ID:wcRbYo7Po

八幡「あっそうだ」

もしかしたら、今なら教室に入れるかもしれない。もしそうなら、川崎のプリントを取りに行ける。

ガララ

八幡「……何も出てこないな」

中に入っても何も起こらない。真っ暗なのは不気味だが、何かいるような気配はない。

八幡「中に入っても大丈夫そうだぞ」

川崎「本当に……? 何も出てこない……?」

川崎は教室の外から顔だけこちらに出して俺に問う。やめろ、ちょっと可愛いだろ。ときめいちゃうだろ。



834: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/07(日) 21:45:05.59 ID:wcRbYo7Po

八幡「入るの嫌なら、俺が取ってくるけど」

川崎「……でも」

八幡「別に迷惑とかじゃねーしな。お前の席はわかるし」

川崎「えっ」

戸塚の後ろだからな。最早目をつぶっててもわかるレベル。

八幡「えーと、確か」テクテク

川崎「待って!」タタタ

ギュッ

八幡「!?」



836: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/07(日) 21:51:56.16 ID:wcRbYo7Po

突然川崎が俺の腰に抱きついてきた。あまりにも唐突すぎて状況の把握ができない。

八幡「あの……川崎さん……?」

川崎「……えっ? あっ!」パッ

川崎「いや、これは……!」ワタワタ

川崎「は……離れられると……困るから……」カァッ

八幡「」

何これ、深夜テンションってやつ? 今日の川崎さん可愛すぎだろ。戸塚が世界一可愛いと思ってたけど、これはいい勝負行くんじゃね? 川崎ルート直行するんじゃねぇの?

川崎「……ダメ、かな」

八幡「別にダメじゃねぇよ……。ほら、さっさとプリント取って来い」プイッ

ダメだ、まともに顔見れん。



838: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/07(日) 21:57:37.76 ID:wcRbYo7Po

ガララ

八幡「……とりあえず、目的を果たせてよかったな。もう一回二年やる事にはならなそうだ」

川崎「あんたのおかげだよ。今日だけで何回も言ってるけど、ありがとね」

八幡「別に大した事はしてねーよ。ほら、帰るぞ」

川崎「あ……その……」

八幡「ん?」

川崎「その……ね……」モジモジ

八幡「何だよ?」

川崎「…………」スッ

無言で俺の後ろを指差す。そこはトイレだった。ああ、なるほど。トイレに行きたかったのか。確かにそれは言えんわな。



841: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/07(日) 22:27:52.74 ID:sUUEoJUwo

八幡「わかった。ここで待ってる」

川崎「……勝手に帰らないでよね?」

八幡「安心しろ。そんな事しねーから」

まぁやられた事はあるんですけどね。修学旅行の班別行動の時、みんなでトイレ休憩って事で用を足して、外に出たら誰もいなかったっけな。一瞬俺だけ異次元に飛ばされたのかと思ったわ。

川崎「絶対だよ?」

八幡「わかったから」

川崎「…………」タッタッタッ



843: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/07(日) 22:37:10.08 ID:sUUEoJUwo

あれ?

俺何か大事な事忘れてない?

忘れちゃいけない何か……。プリキュアの予約はしたよな……。玄関の鍵もちゃんとかけたし……。

いや、そんなんじゃない。

八幡「……あっそういや、ここ二階じゃん」

川崎「きゃあっ!?」



五、夜の二階のトイレの鏡に見知らぬ誰かが映る事がある。



845: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/07(日) 22:43:09.40 ID:sUUEoJUwo

川崎「……っ!」

女子トイレから一人の女子が無言でダッシュしてくる。誰なのか知らなかったら怖いだろうな。いや、正直誰か知ってても怖いっす。川崎大臣っす。落選しろ。

川崎「……っっ!! ……!」

涙目で何かを訴えかけてくるが、それは最早声になっておらず、ただ手をブンブン振り回している川崎沙希の姿が、そこにはあった。

八幡「とりあえず落ち着け」

川崎「…………」

あっすぐに静かになった。



847: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/07(日) 22:48:52.54 ID:sUUEoJUwo

八幡「すまん、七不思議のやつ忘れてたわ」

川崎「突然、見覚えのない女の人が鏡に出てきた……」ガクガク

八幡「まぁ、男じゃなくてよかったんじゃねぇの?」

川崎「そういう問題なの?」

八幡「幽霊だってトイレにくらい行きたくなるんだろうよ。むしろ変態じゃなくてよかったじゃないか」

川崎「ゆう……れい……」ガクガクガクガク

しまった、逆効果だったか。

八幡「それか見間違いだろ。怖いって思ってると、本来見えない物も見えるらしいし」

川崎「でも……七不思議で……」

八幡「そいつも見間違えたんだろ」

とりあえずそれで納得させるしかない。



849: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/07(日) 23:00:25.40 ID:sUUEoJUwo

ビクッ

八幡「!」パッ

悪寒がして振り返る。そこには誰も見えないが、俺のぼっちセンサー(対視線用)は反応した。

今、後ろに、誰かがいた。

そしてその誰かが、こっちを見ていた。

川崎「どうした?」

……気のせい、だろうか。

八幡「……いや、何でもない」



851: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/07(日) 23:04:48.59 ID:sUUEoJUwo

反対側の渡り廊下は普通に通る事ができた。後は階段を降りて外に出るだけだ。

八幡「……結局、七不思議のうち五個も体験しちまったな」テクテク

川崎「そうだね」テクテク

これはなかなか貴重な経験なのではないだろうか。こんな超常現象なんて滅多にお目にかかれない。

八幡「怖かったけどさ、何だかんだ楽しかったよ」

川崎「……あたしも……かな」

嘘つけ。泣くほど怖がってたじゃないか。

八幡「早く帰って寝たいわ」

そこを曲がれば下駄箱が見える。ようやく帰れると思うと、ほっとする。



853: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/07(日) 23:11:19.86 ID:sUUEoJUwo

八幡「……!?」

それを見て思わず俺は言葉を失った。

最後の最後で、何だ、これは。

下駄箱へ向かう道が、机で出来たバリケードのような物で塞がれていた。しかも軽く五十個はあって、強く固定してある。ちょっとやそっとじゃ、動かない。

八幡「これじゃ……、帰れねぇじゃねぇか……!」

八幡「川崎……どうす――」

川崎「比企谷」

八幡「!?」

その声は、確かに川崎沙希のものだ。

しかし、なぜだろうか。それは違う誰かの声に聞こえた。



855: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/07(日) 23:15:32.52 ID:sUUEoJUwo

川崎「あたしね、あんたの事が好きなんだ」

八幡「……はぁっ!?」

川崎「だからね、あんたと、ずっと一緒にいたいんだ」

八幡「いきなり何を言ってんだ? あれか、罰ゲームか? 三浦あたりにでも命令されたのか?」

川崎「罰ゲームでも何でもないよ。今のは、あたしの本心」

八幡「だからって、いきなりなんだよ!?」

川崎「……うちの学校の、七不思議。七つ目を知ってる?」

八幡「……知らねぇよ」

まさか……。



857: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/07(日) 23:20:19.65 ID:sUUEoJUwo

ぼっちの優れている点は、危機察知能力にある。味方がいないからこそ、自分でそれを判断しなければならないからだ。

俺は、今までこれほどまでに危険だと感じた事はない。

ぼっちセンサー(対危険用)の針は振り切った。

それを感じるやいなや、俺は走り出した。

川崎「ふふふ、逃がさないよ」ニヤッ

しかしそれが通用するのは、あくまでも現実的な状況においてのみである。

超常現象の前で、ぼっちは、無力だ。

次の瞬間、あらゆる壁という壁から、白い手が飛び出した。



859: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/07(日) 23:25:26.86 ID:sUUEoJUwo

白、白、白、白、白、白。

視界が全て『白』で覆われた。全身の圧迫感のせいで、呼吸がしづらい。

八幡「なん……だ……これ……」

視界の『白』が消えてようやく周りを見渡すと、何十本もの手が俺の体を机のバリケードに押し付けていた。

川崎「比企谷、あたしがね、七つ目なんだ」

八幡「なに……言って……」

川崎「七不思議の最後はね」





川崎「いないはずの人間が、校内にいる」





川崎「それもずっと、ね」



861: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/07(日) 23:30:29.77 ID:sUUEoJUwo

八幡「だから……ふざけてんじゃねぇって……」グッ

川崎「あたしね、ここに何十年もいたけど、告白なんて初めてだった」

川崎「だからね、あんたの事が好きになっちゃったんだ」

八幡「……!」



八幡『愛してるぜ川崎!』



だから川崎は今日、こんな時間に俺を――。

八幡「ぐ……っ、あ……っ!」

全身を締め付ける力が次第に強くなり、もう呼吸も、できない。

川崎「だから、あたしと――」







ズットイッショニイヨウ?







六、七つ全てを知ってはいけない。



863: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/07(日) 23:35:56.95 ID:sUUEoJUwo

『……次のニュースです。先日未明から行方がわからなくなっている……』

平塚「…………」ガクガク

平塚「比企谷が……比企谷が……っ」

私は、あの時見てしまった。あの子が、川崎沙希が、比企谷を……。

ブーブー

平塚「!!」

突然携帯が鳴る。メールのようだ。

その送り主は――



『From:比企谷八幡』



865: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/07(日) 23:40:31.38 ID:sUUEoJUwo

ガチャッ

そこは学校の屋上。比企谷はここに来るようにメールをしてきた。どうにも戻れない理由があるらしい。

しかし、そこには誰もいない。

――刹那、全身に悪寒が走る。

「先生も――」





ナナツスベテ





声が聞こえた瞬間、世界は、『白』になった。



『白』



世にも
奇妙
な物語



867: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/07(日) 23:49:11.95 ID:sUUEoJUwo

テッテッテレレーテレレーテレレー

テッテッテレレーテーンテレーン

タモリ「『白』という色には、多くの意味があります」

タモリ「『純粋』、『善』、『純潔』、『無実』」

タモリ「このように、プラスの意味ばかりだと思われがちですが」

タモリ「逆に『無』、『消滅』」

タモリ「『白々しい』など、マイナスの意味も持っています」

タモリ「どんなものにも、表と裏があるものですねぇ」

テレレッテッテレレーテッテッ

テレテッテッテッテッテレレレレーレー

テッテッテレレーテレレーテレレ

テーンテレレレレレン



八幡「やはり俺の世にも奇妙な物語はまちがっている」いろは「特別編ですよ、先輩!」

5: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/09(火) 22:26:30.49 ID:gYsjAAxMo

テッテッテレレーテレレーテレレー

テッテッテレレーテーンテレーン

タモリ「人の恨みとは恐ろしいものです」

タモリ「知らず知らずのうちに積み重なり」

タモリ「気づいた頃には時既に遅しです」

タモリ「果たして彼女にとってその恨みには」

タモリ「どのような意味があるのでしょうか?」

テレレッテッテレレーテッテッ

テレテッテッテッテッテレレレレーレー

テッテッテレレーテレレーテレレ

テーンテレレレレレン



7: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/09(火) 22:33:47.09 ID:gYsjAAxMo

冬休みが終わり、またこれまで通りの授業の日々が再開され、それに慣れ始めた新学期七日目の昼休み。俺は自販を求めて校内を歩き回っていた。

八幡「だりぃ……」

何で冬休みって夏と違ってあんなに短いの? 冬も二ヶ月くらい休ませろ。無論夏もな。

八幡「マッ缶マッ缶~♪」

午前の授業を耐え切った達成感からか、自然と鼻歌が出てしまう。周りには誰もいないし、問題ないだろ。

八幡「マッ……なん……だと……!?」

マッ缶が……ない……!



10: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/09(火) 23:18:00.21 ID:L4KnXSs8o

学校では初めて見たマッ缶の下の売り切れの文字。

八幡「そん……な……」ガクッ

マッ缶がないとか、これからの午後俺どうやって乗り切ればいいんだよ……。

八幡「いや、まぁなんとかなるんだけどな」

ピッ

ガタンッ

選ばれたのは、スポルトップでした。



12: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/09(火) 23:21:31.58 ID:L4KnXSs8o

八幡「……っ」ゴクッゴクッ

八幡「……ぷはぁ」ゴクリ

八幡「たまには悪くないな。この反骨精神がたまらなく好きだ」

八幡「あとはベストプレイスで飲むとしよう」



――て。



八幡「……ん? 何か聞こえたような……」



――誰か、助けて。



14: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/09(火) 23:38:41.57 ID:L4KnXSs8o

八幡「…………」テクテク

八幡「こっちの方から音がしたよな……?」

??「あっ! 先輩!!」

八幡「……? 今聞き覚えのある声がしたような……」

??「だから! そっちじゃなくて、こっちですよ!」

声は聞こえるが、そこには誰もいない。

八幡「……なるほど、誰もいないという事は幻聴だな。最近戸塚の事を考えすぎてて眠れない日が多いし」

何それ、気持ち悪い。

??「うわー、正直それはないです」



16: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/09(火) 23:48:37.56 ID:L4KnXSs8o

幻聴にしてもあれだな、随分と嫌なやつだ。まぁ俺の脳が勝手に作り出した声なら、これくらい普通か。むしろ本当にそうならもっと酷いまである。

八幡「しかし一色の声の幻聴とは……俺あいつの事好きなの?」

??「えっそれ告白のつもりですか、ごめんなさい、それはないです」

八幡「だよな、ないよな。よくわかってる。流石俺の心の声だ」

あいつの事を好きになるわけがない。

八幡「俺が全然可愛くないし可愛げもない小町な一色いろはを好きになるわけがない」

ラノベのタイトルにありそうだな、ないか、ないな。



18: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/09(火) 23:59:03.73 ID:L4KnXSs8o

??「先輩ー、そんなのどうでもいいから助けてくださいよー」

八幡「そんなの? 俺は俺のくせに小町の事をどうでもいいと言うのか?」

??「うわ……もうめんどくさいです……」

自分の心の声に呆れられた。じゃあ今思考して自分を肯定し続けている俺の精神は一体何なの? やだ、哲学的。我思う、故に我あり。材木座あたりに今度言わせてみよう。いや、ウザいな。やめるか。

さて、茶番はここまでにして――。

八幡「……で、どこに隠れているんだ、一色」



20: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/10(水) 00:04:23.27 ID:BRj6+i5mo

いろは「あっ、さっきのは冗談だったんですね」

八幡「決まってんだろ、もう一人の自分なんてそんな中二設定抱えて生きてねーし」

いろは「まぁ、よくわからないのは放っておいて、助けてください」

八幡「なら、俺の前に現れろ。隠れてるなんて男らしくない」

あっこいつ女だった。

いろは「……正直ボケとかツッコミとか、そんなのやってられる状況じゃないんですよね」

八幡「……?」

いろは「私ですね、今、先輩の足元にいます」

八幡「はっ?」



22: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/10(水) 00:07:30.59 ID:BRj6+i5mo

言われて足元を見る。そこには一つ、ペンダントが落ちていた。

いろは「それです、それが、私なんです」

一色の声は本気だ。ふざけているようではない。

そして何よりも驚くべき事は――



――その一色の声が、ペンダントから聞こえてきた、という事だ。



24: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/10(水) 00:11:12.79 ID:BRj6+i5mo

八幡「…………」スッ

いろは「やっと誰かに拾ってもらえました……。このままここで置きっ放しにされたらどうしようかと……」

八幡「…………」カチャ

ペンダントはボタンを押すと、開く仕掛けになっている。ぱっと見は何の変哲もない、ただのペンダントだ。

開くとその中は写真が一枚入るようになっていて、そこに入っていた写真は、一色いろはのだった。

八幡「……お前の熱狂的なファンのか、これは?」

いろは「違いますよっ!!」

八幡「!?」ポロッ



26: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/10(水) 00:14:43.90 ID:BRj6+i5mo

今、何が起こったか説明するとだ。

止まっていた写真の中の一色が、動いた。

ガッ!

いろは「いたっ!?」

ペンダントが地面に落ちると同時に一色の声が聞こえる。

八幡「……すげぇな、今の科学技術は。あんな小さいもので映像を映し出せんのか……」

いろは「映像じゃなくて、本人ですから! あと落とさないでください! 乱暴に扱われると、痛いんですからね!?」

八幡「しかも自動応答までできるのか。しかもこのリアル感。Siriなんて目じゃないな」

いろは「だから! ロボットとかじゃなくて、私、本人なんです!!」



いろは「何だかわからないですけど、私、ペンダントにされちゃったみたいなんですっ!!!」




37: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/12(金) 21:43:02.75 ID:dPZc2bmRo

八幡「……はっ」

いろは「?」

八幡「ふざけるのも大概にしろよ。そんなので俺を騙せると思ったか?」

いろは「いや、だから本当に――」

八幡「どっかからマイクかなんかで喋ってんだろ? その声をこのペンダントから出す。少し機械に強ければこのくらい簡単にやってのける」

映像はちょっと無理な気がするが。

いろは「少しは信じてくださいよ!」



39: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/12(金) 21:47:42.75 ID:dPZc2bmRo

ソレカラドシタ



八幡「……しかしやっぱり信じられん」

いろは「それは私もですよ……」

八幡「そろそろドッキリでしたーって出てこないの? リア充のぼっちに対する仕打ちの一つじゃないの?」

本当、あいつら何なんだよ。何で俺がチラッと見た時に大爆笑してんの。俺の顔はそんなに面白いか?

いろは「……どうしよう」

無視ですか、そうですか。

八幡「葉山あたりに相談してみたらどうだ?」

いろは「それだけは嫌です」



41: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/12(金) 21:51:45.17 ID:dPZc2bmRo

八幡「何でだ? あいつなら絶対に助けてくれるだろ。そのための力や人脈も申し分ないし」

いろは「嫌ですよ。好きな人にこんなの、知られたくないですし……」

八幡「あーなるほどな」

まあ確かに今の一色の状況はあまり格好の良いものではない。そんなのを好きな人に見られたくないと思うのは人として当然の感情だろう。

八幡「……で、俺は別にいいと」

いろは「先輩は、どうでもいいので」

八幡「」

ショ……ショックなんか……受けてない……! 絶対にだ……!



44: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/12(金) 22:16:07.42 ID:Y+yTcKsJo

いろは「しかし参りましたねー、これ」

八幡「おう……そうだな……」ショボーン

いろは「先輩元気ないですねー。そんなにショックだったんですか?」

八幡「何を言ってる。俺はいつもこんな感じだろ」

いろは「そうですか。まぁどうでもいいですけど」

八幡「」

いつも雪ノ下からの罵倒でこういうのには慣れていると思いきや、こういう無関心という精神攻撃もなかなか心にくる。一つ勉強になった。



46: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/12(金) 23:14:40.32 ID:QoZOXQlko

八幡「原因に心当たりとかないのか?」

いろは「あー、そう言えば……」

八幡「どんなのだ?」

いろは「私の事を嫌いなグループの子に変な事を言われました」

一色を嫌いなやつだけで一つグループが出来るのかよ……。お前はどんだけ嫌われてんの?

八幡「変な事?」

いろは「はい……。誓いとか契約とか言ってましたね」

瞬間、脳裏に一人の男の姿がチラついた。コートを着た大男の姿だ。何だっけ、あいつの名前。



48: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/12(金) 23:21:57.82 ID:QoZOXQlko

以下、回想

いろは「話って何?」

女子『素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。 祖には我が大師シュバインオーグ。 降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ』

いろは「!?」

女子『閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する』

女子『―――――Anfang』

女子『――――――告げる』

女子『――――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ』

女子『誓いを此処に。 我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者』

女子『されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者――』

女子『汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!』

以上、回想、終ワリ



50: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/12(金) 23:27:38.37 ID:QoZOXQlko

八幡「何を召喚するつもりだったんだよ、そいつは」

英霊でも召喚するつもりだっの? てか何でわざわざ一色の目の前でやったのか。しかもよりによってバーサーカーだし。行動が意味不明すぎて、もうわけがわからないよ。

いろは「召喚……?」

八幡「いや、こっちの話だ」

それともあれかな、令呪で自害させるつもりだったのかな。自害せよ、いろはす。何も持ってないけど、どうやって自害するんだろ。やっぱいろはすでか? 手で握り潰せてしまう程に耐久度の低いいろはすのペットボトルでか? それ聖杯手に入れるよりむずいんじゃね?

いろは「あの……先輩……?」

いや、逆に考えるんだ。いろはすのペットボトルで自害する方法はある。小さく握り潰して口から飲み込んでしまえばいけるんじゃね? そうか、いろはすのペットボトルは凶器だったのか。

いろは「先輩!」

八幡「うおっ!?」



52: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/12(金) 23:36:05.83 ID:QoZOXQlko

いろは「何ボーッとしてるんですか。気持ち悪いです」

八幡「いろはすってすごいよな」

いろは「はい?」

最後まで水たっぷりだし、その気になれば自害にも使える。万能ツールなんじゃねぇか、これ?

いろは「ちょっと何言ってるのか、わからないですよ?」

八幡「いろはすの偉大さに気づいたんだ。別にお前は関係ないからな」

いろは「意味わからないですし、ちょっとイラっとくるんですけど」

さっきのお返しだ。さっきの無関心のせいでトラウマが再発したしな。



54: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/12(金) 23:41:19.00 ID:QoZOXQlko

八幡「他には?」

いろは「うーん、特にないですね……。あれしか考えられないですし」

八幡「何で英霊召喚の呪文で、一色がペンダントになるんだか……」

いろは「本人に聞いてみるのはどうですか?」

八幡「そうだな、もしも本当にそれが原因なら、聞いてみればわかるかもしれない」

いろは「じゃあ先輩、お願いします」

八幡「えっ、俺が聞くの?」

いろは「他に誰がいるんですか?」



56: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/12(金) 23:59:24.84 ID:QoZOXQlko

なん……だと……?

俺が後輩の教室に行く……?

八幡「無理だな、他の奴をあたってくれ。戸部とか」

いろは「えー、戸部先輩は当てにならなそうですし……」

可哀想。マジ可哀想、戸部。

いろは「先輩だけが頼りなんです! お願いします!!」

ペンダントの中で両手を合わせて一色は頼む。しかし正直言ってその姿は――。

八幡「……あざとい」

いろは「それは酷いですよ!?」



58: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/13(土) 00:07:10.85 ID:nnHrxQkTo

いろは「あー、今ので傷つきました。もう行ってくれないと、許してあげません」

八幡「何でお前の許しなんか得なきゃならんのだ」

最悪葉山に投げれば万事解決だしな。本当、便利すぎる。一色の気持ちなど知らん。

八幡「めんどいし、葉山に話して俺は帰るぞ」

いろは「だから~葉山先輩に知られちゃうのは嫌なんですってば~」

八幡「それに俺じゃ何もできねーし。助けを求めるなら葉山か戸部、どちらか一択だ」

いろは「むー……」

ペンダントの中の一色はプクーと頬をふくらめて、俺を睨む。だからあざといんだよ、お前は。



60: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/13(土) 00:12:40.69 ID:nnHrxQkTo

いろは「確かにそう言うなら止められませんね。何をするかなんて先輩の自由で、私は今何もできないですし」

八幡「だろ? じゃあ戻らせて――」

いろは「但し、このまま葉山先輩に話したら、私が元に戻ったあと、どうなっても知らないですからね?」ギラッ

八幡「はっ?」

いろは「一応先輩のせいとは言え、私、生徒会長なんですよ? その気になれば、何でもできるんですよ……?」

八幡「なっ……!」



62: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/13(土) 00:19:52.86 ID:nnHrxQkTo

いろは「そうですね……例えば、全校集会の時に先輩についてある事ない事言っちゃったりとか、校内放送を使って――」

八幡「職権乱用じゃねぇか。公私混同もいいとこだぞ」

いろは「いえ、この場合は有効利用ってやつです♪」

いい笑顔で一色は断言する。言っている内容は最悪だが。

八幡「うぜぇ……殴りてぇ……」

いろは「私は使えるものは何でも使いますから♪」

八幡「俺はお前の所持品じゃない」

いろは「でも、こう言ったら、先輩は無視できないですよね?」

八幡「くっ……」



65: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/13(土) 00:27:12.86 ID:nnHrxQkTo

ぼっちは目立つ事を望まないし、もっと言うなら、周りからの目の敵になるのは、最も避けなければならない事態だ。

俺には全校生徒を相手にして戦争を起こせるような力も、人脈も、コミュ力もない。かと言って学校中の人間が敵になってもどうにかやっていけるとは思えない。

つまり、今、一色いろはは、この俺を社会的に殺す事ができるという事だ。

まさかこいつを生徒会長にしたせいで、こんな状況になるとは。やはり行動とは、もっと考えてから実行すべきである。今後の教訓としよう。



68: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/13(土) 00:34:35.72 ID:nnHrxQkTo

八幡「……わかったよ」

いろは「えっ、本当ですか!?」

八幡「この状況で断れるわけねーだろ。ぼっちの最大の弱点を突きやがって」

いろは「えへへー」

八幡「褒めてない」

いろは「まぁ、先輩にどう思われようと、関係ないので。さぁ、じゃあ私の教室に行きましょうか?」

八幡「無理だな」

いろは「さっきと言っている事が違いますよ!?」



70: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/13(土) 00:38:28.48 ID:nnHrxQkTo

キーンコーンカーンコーン

昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。結局昼食は食べられず仕舞いだ。

八幡「ま、そういう事だ」

いろは「まさか……これ狙ってました……?」

八幡「いや、偶然だ」

もちろん狙ってた。どう断ろうとも結局断りきれなくなるのは、わかっていたし、ならせめての時間稼ぎに賭けた。ベットは俺の昼食。腹減ったなー。

いろは「……いいですよ、まあ。じゃあ、放課後お願いしますね?」

八幡「おう、わかった」

さて、どうやって次は切り抜けるか……。



72: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/13(土) 00:44:58.95 ID:nnHrxQkTo

八幡「何も思いつかなかった……!」

いろは「逃げようと思っても無駄ですからね?」

八幡「おい、まだ教室内なんだから喋んな。変な声が聞こえたら怪しまれるだろうが」ヒソヒソ

いろは「そこは問題なしです。誰も先輩の事なんか見てませんし」

八幡「……否定は、できないな」ヒソヒソ

そうだ、戸塚がいるじゃないか! ……あっ、もう部活に行ってる。この世には神も仏もない。

いろは「なので、早く行きましょう!」

八幡「それでも大声はやめてくださいお願いします」ヒソヒソ

オンナノコノコエシナカッター? エーナンノコトー? イロハスー

いろは「じゃあ、お願いしますね♪」ヒソヒソ

八幡「…………」

もうやだ、お家に帰りたい。



74: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/13(土) 00:51:45.52 ID:nnHrxQkTo

八幡「……ここか」

いろは「そうですね」

八幡「てかお前いなくなったって事になってるんだよな。よく騒ぎにならないものだ」

いろは「サボったと思われたんですかね」

八幡「一応生徒会長だろ、お前は」

いろは「不真面目な生徒会長なんていっぱいいますよ」

八幡「あんなの漫画の中にしかいないからな?」

いろは「……また時間稼ぎしてますね? もう騙されませんよ?」

やはり同じ手段は通用しないか。もう手詰まりだし、覚悟を決めるしかない。



76: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/13(土) 00:58:52.90 ID:nnHrxQkTo

八幡「えーっと、何て名前?」

いろは「鈴木です」

うわー、てきとーな名前。

八幡「了解」ゴホンッ

八幡「すぅーはぁー」

ガララ

八幡「すんません。鈴木さんっていますか?」

ニネンノセンパイ? ナンデコンナトコロニ? イロハスー

鈴木「はっはい……私……ですけど……」

八幡「少し聞きたい事があるんだが……いいか?」

鈴木「はい……」



78: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/13(土) 01:02:32.31 ID:nnHrxQkTo

八幡「……一色についてだ」

鈴木「!!」ビクッ

動揺の仕方が尋常じゃない。これは……クロだな……。

八幡「昼あたりからいなくなっているらしい。何か知らないか?」

鈴木「いえ……私は何も……」オドオド

八幡「はぁ……」

この聞き方じゃ何も言うわけないよな。仕方ない。奥の手だ。

八幡「じゃあ、あの呪文は何だ?」

鈴木「!!」ビクゥッ

比企谷家奥義! カマイタチ!!(ただのかまかけ)



80: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/13(土) 01:09:31.66 ID:nnHrxQkTo

八幡「告げる……とかなんとか言ってたよな」

鈴木「あ……」サー

彼女の顔が青ざめていく。それで仮定は確信に変わった。こいつは、一色のペンダント化に関わっている。

もしも無関係であるなら、呪文詠唱などという痛々しい姿を見られた恥ずかしさで顔が赤くなるはずだ。

八幡「お前が……やったのか?」

鈴木「私は……何も……知りません……!」ダッ

八幡「あっ……」

タタタタタタタタタ……



82: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/13(土) 01:11:49.99 ID:nnHrxQkTo

八幡「……とりあえず犯人はわかったな。ほぼ確定だ」

いろは「そうですね……。ただ、それ以外の情報は得られませんでしたけど」

鈴木が何をしたのか、それがわかっていない限り、手の打ちようがない。

八幡「どうする? 帰る?」

いろは「どうしてこのタイミングでその選択肢なんですか!」

八幡「むしろベストなタイミングだろ」

大体奇妙系の話の一日目は何も得られずに終わるものなのだ。

八幡「もう何もできないしな」

いろは「じゃあ私はどうすればいいんですか!? こんな状態で家に帰れないですよ!!」

八幡「あーそうだなー」

いろは「うわーすごいどーでもよさそー」



84: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/13(土) 01:24:52.06 ID:MhV3tWTxo

八幡「もう正直に親に言ったらどうだ?」

いろは「それも嫌ですよ! なるべく多くの人に知られずに私は元に戻りたいんです!」

八幡「わがままだな……」

いろは「だって正直、親って面倒臭いじゃないですかー」

確かにめんどい時あるよな。同意はするが、生徒会長のセリフじゃねぇよ。少しは立場考えろ。職権は振りかざすくせに。

八幡「だからと言って今日中に解決しろなんて無理だぞ。あまりにも時間と情報が足りなすぎる」

いろは「……じゃあ、しょうがないですね」ケイタイピッ

八幡「!?」



86: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/13(土) 01:33:13.79 ID:MhV3tWTxo

いろは「ん、どうしたんですか?」

八幡「何で携帯持ってるんだ……?」

ペンダントの中の一色は携帯電話を手にしている。

いろは「あー、ペンダントになる時に一緒になっちゃったみたいですねー」ピピピ

八幡「一緒になっちゃったって……」

いろは「さて、親にメールは送りました!」

八幡「はっ?」

いろは「これから数日、友達の家に泊まると!」

八幡「なるほど、その友達にお前を渡せばいいんだな?」

いろは「えっ、違いますよ。先輩の家に泊まるんです」

八幡「はい?」



96: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/13(土) 22:53:48.81 ID:wy2JgTuAo

八幡「どうしてそうなるんだ?」

いろは「だって今の状態知ってるの先輩だけですし~。こういうの頼めるのも先輩だけなんですよ~」

八幡「だからあざといんだよ。で、誰に渡せばいいの?」

いろは「誰にも渡さずにこのまま持って帰ってください♪」

状況が状況ならかなりすごいセリフなのではないか? はぅ~お持ち帰りぃ~! 何で戸塚じゃないんだ。

やはり俺の世にも奇妙な物語はまちがっている!



98: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/13(土) 23:02:19.91 ID:wy2JgTuAo

いろは「何だかんだ文句言いつつ先輩は助けてくれるんですね」

八幡「俺の平穏な学校生活が懸かっているからな」

いろは「なるほど、捻デレってやつですね」

八幡「……お前小町に会った事あるの?」

いろは「こま……ち……?」

八幡「あーないならいいや」

いろは「先輩の彼女ですか?」



100: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/13(土) 23:12:37.72 ID:wy2JgTuAo

八幡「彼女なんかいねーよ。妹だ。世界一可愛い俺の妹だ」

いろは「あー、あの時の……」

ポンっと手を打つ。そう言えばクリスマスイベントの時に小町いたな。

いろは「うわ……てかシスコンですか……」ヒキッ

八幡「なぜ人は兄妹愛を否定するのか……」

いろは「先輩だからじゃないですか?」

八幡「元凶俺かよ」



102: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/13(土) 23:22:07.08 ID:wy2JgTuAo

八幡「……頼むから声は出すなよ。うちは大体静かだから、少しでも喋ると小町あたりに聞こえる」

いろは「私はその小町ちゃんには会ってみたいなー。先輩の妹って興味がわきますし」

八幡「絶対に会わせん」

多分この二人意気投合しそうだし。小町がこんなやつに汚されていくなんて、八幡耐えられない!

いろは「何ですか、その思春期の娘を持つ父親みたいな言い方は」

八幡「まぁ、兄だからな」

いろは「普通兄って妹の事を嫌悪しません?」

八幡「あーそれよく聞くな。リアルの妹はクソだとか何とか」

いろは「じゃあ何で先輩は?」

八幡「俺の妹が小町だからだ」キリッ

いろは「……やっぱり気持ち悪いです」



104: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/13(土) 23:25:56.50 ID:wy2JgTuAo

ガチャッ

八幡「ただいまー」

小町「あっお兄ちゃんおかえりー」

いろは「お邪魔しまーす」

小町「えっ?」

いろは「あっ」

八幡「」



106: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/13(土) 23:28:37.24 ID:wy2JgTuAo

小町「お兄ちゃん、今変な声しなかった?」

八幡「そうか? 何も聞こえなかったが」

小町「そうかなぁ……今確かに何か聞こえたような……」

八幡「勉強のしすぎなんだろ。ほら、コーヒー入れてやるから、リビング行け」シッシッ

小町「あーうん。じゃあお言葉に甘えて」テテテ

ふぅ、危なかった……。ホッと胸を撫で下ろしながら、胸ポケットに入っているペンダントを手の甲で圧迫する。

ギギギ……

いろは「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい痛いですやめてくださいごめんなさい」ヒソヒソ



109: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/13(土) 23:35:02.48 ID:wy2JgTuAo

in 八幡's room



いろは「うわー、ここが先輩の部屋ですかー。つまんないですねー。必要最低限なものしかないじゃないですか」

八幡「悪かったな。特に趣味もねーし」

いろは「しかしさっきのは痛いですよ……」サスサス

八幡「お前はニワトリか。三歩あるいたら何でも忘れちゃうのか」

いろは「いやー、癖って怖いですね~。よその家に入るとつい反射的に言っちゃうんですよね~」

八幡「礼儀正しいアピールはやめろ。あざとい」

いろは「先輩、最近何でもあざといと言えばいいと思ってません?」

八幡「ナンノコトダカサッパリ」

いろは「図星なんですね……」



111: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/13(土) 23:56:49.00 ID:wy2JgTuAo

八幡「しかし……どうなってんだこれ」ジャラッ

どう見てもただのペンダントだ。喋るのと、写真が動くの以外は至って普通。――いや、それ普通じゃねぇな。

いろは「そんなジロジロ見ないでくださいよ……恥ずかしいですし……」

八幡「別にお前を見てるわけじゃねぇ」

いろは「それでもですよ。今の私このペンダントから見えるもの全部見えるんですから」

八幡「?」

いろは「あー、何て言えばいいんですかねー。何か球状に360度全部見えちゃうんですよ。例えるなら、プラネタリウムが下にもあって全部一気に見えちゃうみたいな」

八幡「へーそうなのかー便利だなー」

いろは「すごい棒読みですねー」



113: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/13(土) 23:59:25.77 ID:wy2JgTuAo

いろは「とりあえず、だから先輩からは私が見えない時も、私からは先輩の顔が見えちゃうんですよ。しかも360度見えるせいで、こっち見ると確実に目が合っちゃうんですよ!」

八幡「そうかー大変だなー」

いろは「先輩ちゃんと聞いてませんよね!?」

八幡「そんなのより元に戻る手がかりを探す方が先決だろ。悪いが我慢してくれ。俺の腐っている眼に免じて」

いろは「それむしろマイナスですよ?」

八幡「うっせ、窓から投げんぞ」

いろは「それだけはやめてください。ちょっとの高さから落ちただけで結構痛いので」



115: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/14(日) 00:07:07.78 ID:SfGWB4dwo

八幡「そういや、それについて気になってたんだけどさ」

いろは「何ですか?」

八幡「落としたりすると痛いんだよな?」

いろは「そうですよ。だから丁寧に扱ってくださいね?」

八幡「……じゃあ、触覚もあるのか?」

いろは「?」

八幡「だから、このペンダントに俺が触ったりすると、お前にその感覚が伝わるのかって事だ」

いろは「……そういうのは、ありますね」

八幡「マジかよ……」

いろは「ちなみに先輩は今、ペンダントの裏の方を擦ってますけど、そこ触られると私のある部分が触られたように感じるんですよね」

八幡「な……」

いろは「……お尻です」

八幡「うおっ!?」ポイッ

いろは「きゃっ!?」

ガンッ!

いろは「痛っ!」

八幡「す、すまん……。大丈夫か?」



117: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/14(日) 00:11:52.96 ID:SfGWB4dwo

いろは「丁寧に扱ってって言ったばかりなのに……」

八幡「わ、悪い……。まさかそんな事になってるなんて知らなかったものだから」

いろは「えっ、何の事ですか?」

八幡「はっ?」

いろは「えっ?」

八幡「…………」

いろは「…………」



120: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/14(日) 00:15:53.57 ID:SfGWB4dwo

八幡「一色」ギロリ

いろは「はっはいっ!?」

八幡「正直に答えてもらおうか」

いろは「なんれしょうか……?」

いろは(先輩が怖くて噛んじゃった)

八幡「本当に今のお前に触覚があるのか?」

いろは「もちろんあるに決まって――」

八幡「……!」ギロッ

いろは「ごめんなさい嘘です先輩をからかいたかっただけです」

八幡「そうか……」スッ

いろは(……許してもらえたのかな?)



122: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/14(日) 00:18:23.65 ID:SfGWB4dwo

ウワーヤメテクダサイセンパイー

ウルセェホンキデニカイカラオトスゾ

キャータスケテー

バカオオゴエダスナ

小町「……お兄ちゃん。そういうゲームは妹に聞こえないようにしてやってくれると、小町的にポイント高いんだけどな……」




125: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/14(日) 19:27:25.06 ID:GwiU2iZmo

八幡「小町」

小町「なに?」

八幡「お前の周りで呪いみたいな噂って聞いた事あるか?」

小町「どうしたの、いきなり」

八幡「教室でその類の話を聞いて、少し気になったんだ」

小町「うーん……あっ」

八幡「あるのか?」

小町「呪いじゃなくて、おまじないならね」



128: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/14(日) 19:33:54.84 ID:GwiU2iZmo

八幡「おまじない?」

小町「うん、おまじない。好きな人と両思いになれるとか、いい事が起こるとか、そんな感じのおまじない」

八幡「そういうのってよくあるだろ。特に女子の間じゃ」

小町「そうなんだけどね。ただ、ちょっと普通じゃないんだ」

八幡「普通じゃないって?」

あれか、どこぞの部族みたいに変な音楽に合わせて変な踊りをしたりするのか?

小町「おまじないの存在自体の噂はあるんだけどね、その具体的な内容は絶対に出回らないの」



130: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/14(日) 19:39:20.57 ID:GwiU2iZmo

八幡「……つまり、そういうおまじないがあるって噂はある。でも何をすればいいかは誰も知らないと」

小町「そういう事。それにおまじないと言っても良いものばかりじゃないし。誰かに悪い事が起こりますように、みたいなのもたくさんあるって聞いた」

八幡「なるほど、それが呪いみたいだと」

小町「うん。まぁ小町にはあんまり関係ないんだけどね」

八幡「そうなのか? むしろ被害に遭いそうだろ」

女子とかには嫌われそうな気がする。もしもいじめられたりしたら俺がそいつらを殺しに行くがな。



132: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/14(日) 19:43:24.91 ID:GwiU2iZmo

小町「お兄ちゃん、小町を甘く見てもらっては困るよ? お兄ちゃんと違って小町はいろんな人と仲良くできるし、嫌われたりしないから」

八幡「自分で言うな」

そういう意味では俺も問題ないか。スクールカースト最底辺に属する俺をわざわざ呪おうなんて思うやつはいない。誰かへの嫌悪の感情は、自分以上の人間に対して発生する。自分より下の人間は呪わなくても、自分のプライドを満たすための道具という役割を果たしているのだから、そんな事しなくて良い。

小町「雪乃さんとかに呪いがかかったりしたの?」

八幡「そんなんじゃねーから、安心しろ」

かかったのはお前の知らない人間だからな。嘘はついていない。



134: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/14(日) 19:57:11.91 ID:GwiU2iZmo

八幡「そうか……」

小町「小町はあんまり知らないけど、友達なら知ってるかもしれないし、聞いてあげようか?」

八幡「……頼む」

小町「…………」

小町はジッと俺の目を見つめる。

八幡「何だよ?」

小町「……今は聞かないけどね」

八幡「はっ?」

小町「お兄ちゃんが小町に何を隠してるか、今は聞かないでおいてあげるよ。ただ、もしも話せる時が来たら、話してくれると嬉しいな」



136: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/14(日) 19:58:25.09 ID:GwiU2iZmo

流石は俺の妹だ。何もかもお見通しってわけだ。まぁ、むしろバレて当然だわな。

いろは「何話してたんですか~?」

部屋に戻るとペンダントから声がした。

八幡「別に、ただの世間話だ」

いろは「妹相手に?」

八幡「今日学校どうだったとかそういう話だ。どうでもいいだろそんなの」



138: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/14(日) 20:03:15.54 ID:GwiU2iZmo

いろは「家での先輩ってちょっと気になるじゃないですか」

八幡「学校と変わらねぇよ。本読むか、ゲームするか、寝るか」

いろは「それ退屈じゃないですか? もっと外に遊びに行ったりした方が楽しいですよ?」

八幡「その楽しみよりも、家にいる方を選ぶね。外出るのダルいし」

いろは「将来は引きこもりかニートですね」

八幡「わかってないな。俺の第一志望は専業主夫なんだよ」

いろは「それでも、意地でも外に出たくないんですか……。やっぱり先輩はクズですね」

八幡「何とでも言え。俺はそんな自分を愛しているからな」



140: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/14(日) 20:06:35.32 ID:GwiU2iZmo

次の日の朝。

八幡・小町「「いただきます」」

そう言って朝食を食べ始める。少し経って小町は話しかけてきた。

小町「お兄ちゃん、あのおまじないについて友達にメールで聞いてきたんだけどね」

八幡「おお」

小町「結構あれ、酷い」

八幡「酷い?」

小町「うん、すごくね。あと、どうしておまじないの内容が明るみに出ないのかもわかった」

八幡「ほう」




144: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/14(日) 21:56:38.34 ID:L8CyrfRuo

小町「おまじないの専門家みたいな人が、千葉にいるみたいでその人が広めてるらしいよ」

八幡「つまり、そいつが犯人なのか」

小町「元を辿れば、だけどね。ただ、あくまでもその人は方法を教えるだけで、直接手を下すわけじゃないみたいだから、微妙なところなんだよね」

八幡「なるほど、で、酷いというのと、具体的な内容がわからないのは?」

小町「どっちも理由は同じで、その人はおまじないを教えるのにお金を取るみたい。中学生には高すぎる料金で」

八幡「いくらくらいだ?」

小町「五万くらいって言ってた」

そりゃ中学生には酷すぎんだろ。



148: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/14(日) 22:06:34.50 ID:L8CyrfRuo

小町「それでもおまじないの効果は絶大だって知っている人は知っているから、そのためになけなしのお小遣いを使っちゃったりするみたい。中には親の物を勝手に売ったりしている子もいるとか」

八幡「だから内容は絶対に出回らないのか。大金を出して得た情報を、わざわざ誰かに教えたくないからな」

小町「うん。それにおまじないを使ったなんて事も、誰にも知られたくないし。もしもこれがタダだったり、安かったりしたら、他の人から聞いたって誰かに言って、そのまま噂になるんだろうけど」

結果的におまじないの価値は上がり、多くの人間が金を持ってくるのか。

八幡「策士だな、そいつ。金稼ぎの才能がある」

小町「……真っ先にその考えに至るお兄ちゃん、小町的にポイント低いよ」



150: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/14(日) 22:09:07.29 ID:L8CyrfRuo

八幡「さて、と」

いろは「何をするんですか?」

八幡「今日は学校サボる」

いろは「ええっ! どうしたんですか!?」

八幡「ちょっと出かけるからな。お前にもついて来てもらうぞ」

いろは「それは、別にいいですけど……。ずっとここにいても動けないから暇ですし」

八幡「あと、一つ頼まれて欲しい」



152: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/14(日) 22:11:19.48 ID:L8CyrfRuo

ガタンゴトン

エーツギハーフナバシーフナバシー

いろは「……先輩」

八幡「…………」

いろは「すごく……目立ってるんですけど……」

ナニアノカッコー シッミチャイケマセン アンナフクドコニウッテルンダロー イロハスー

八幡「お前が選んだんだろ」

いろは「一番ボロボロに見えるのって条件付けたの先輩じゃないですか」



154: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/14(日) 22:15:48.61 ID:L8CyrfRuo

八幡「俺にも考えがあるんだよ」

いろは「どんなのかはわかりませんが、その継ぎ接ぎだらけの学ランは、ないですよ。と言うかよくそんな物を持っていましたね」

中二病時代の名残だ。あの頃の俺はこれがカッコ良いと思ってたんだよ。今思うと本当にわけがわからない。

八幡「もう静かにしていてくれ。これ以上目立ちたくない」

いろは「これ以上ないくらいに、目立ってますよ」

八幡「黙ってろ。今度は窓から電車の外に投げんぞ」

いろは「ごめんなさい」



156: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/14(日) 22:20:04.57 ID:L8CyrfRuo

八幡「……着いたな」

いろは「何ですか、このボロビル?」

八幡「少し会う人がいてな。一色、お前はこれから何があっても声を出さないでくれ」

いろは「……わかりました」

コツコツ

薄暗い階段をゆっくり上る。この先にいるのは、一色をこんな目に合わせた張本人だ。

コンコン

扉を二回ノックして取手を回す。

??「……客か?」

男は扉とは反対方向を向いていたが、俺が入って来た事に気づくと、こちらを向いた。俺は後ろ手で扉を閉めながら、中にいる男の顔を睨む。

??「阿良々木……じゃないな。誰だ、お前は?」

小町から聞いて調べたおかげで、こいつの名前は知っている。

貝木泥舟。

この男は、詐欺師だ。



158: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/14(日) 22:26:15.85 ID:L8CyrfRuo

貝木泥舟とは、西尾維新作の〈物語〉シリーズの登場人物である。
作中では、偽物語「かれんビー」から登場。喪服のような漆黒のスーツと、ネクタイ姿の中年の男。
職業は「詐欺師」であり、人を騙すことで生計を立てている。相手が、たとえ女子供であろうとも騙すことを厭わない。

ニコニコ大百科より抜粋



160: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/14(日) 22:30:35.34 ID:L8CyrfRuo

貝木「俺のところに男が来るとは珍しいな」

八幡「…………」

貝木「何だ、お前もおまじない目当てで来たのか? だとしたら、ずいぶんメルヘンな奴だ」

八幡「そんなんじゃねぇ。あんたに聞きたい事があって来たんだ」

貝木「聞きたい事か、そうか。俺はお前に教えたい事はないんだがな」

八幡「そりゃそうだろうよ。あんたは俺の事なんか知らないし。ただ、質問をするくらいはいいだろう?」

貝木「で、何だ、お前は俺に何を話して欲しいんだ?」



162: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/14(日) 22:37:51.50 ID:L8CyrfRuo

八幡「これについて」

俺は胸ポケットに入れていたペンダントを見せる。一色に再三忠告した理由はこれだ。下手に声を出されても話をややこしくするだけだ。

貝木「それがなんだ? 俺に関係あるのか?」

八幡「俺の知り合いがある日突然、このペンダントに変えられた。あんたならその原因を知っているんじゃないのか?」

貝木「そのペンダントの秘密を知りたいか? 教えてやる。金を払え」

八幡「いくらだ?」

貝木「諦めろ。マトモな制服も買えないようなお前には払えん」

八幡「いいから言ってみろよ。盗んででも払ってやる」



164: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/14(日) 22:47:28.62 ID:L8CyrfRuo

貝木「じゃあ三万だ。お前には無理だろう?」

八幡「…………」ヒラッ ユキチフタリトノグチジュウニン

貝木「ほぅ。よくそんな金を出せたな」

八幡「あんたが金次第で動く人間だってのは知ってたからな。かき集めてきた」

貝木「なるほど。……いいだろう。その努力に免じて話してやるとしよう」

八幡「ふぅ……」

いろは(先輩もなかなか外道だな~)



168: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/14(日) 23:34:41.06 ID:CqeUjOd+o

貝木「それに関して言ってしまえば、普段俺の関わっているような、現象とは無関係だ。本当にただのおまじないや魔法みたいなものでな」

八幡「…………」

貝木「そうだ、その前に名前を聞いておこう。俺の事をそこまで知っているという事は名前まで知っているのだろう? なら、そっちの名前を聞かなければフェアじゃない」

八幡「……知らない人に個人情報は漏らすなってかーちゃんに言われてるんで」

貝木「ならこの契約は破棄だな。金は返すがそのペンダントについては何も話さん」

八幡「……比企谷八幡」



170: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/14(日) 23:38:36.22 ID:CqeUjOd+o

貝木「じゃあ比企谷。説明するとだな、そのペンダントはどこかの誰かが作り出した呪術の結晶だ」

八幡「呪術……呪い……?」

貝木「まぁそんな解釈でいい。その呪いにかかった人間は、どんな仕組みか知らんが、ペンダントに閉じ込められる。滅多に成功しないんだがな」

八幡「ペンダントから出すには?」

貝木「……それを作った誰かは相当夢見がちな奴だったらしい。そして恐らく女だ」

彼は急に言葉を濁し始めた。

八幡「?」

貝木「あくまでも俺は誰かが作ったりした物を横流ししているに過ぎん。だからこれは俺の趣味ではない」

八幡「はっ?」



172: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/14(日) 23:42:34.80 ID:CqeUjOd+o

八幡「結論を早く言え」



貝木「そのペンダントに接吻する事だ」



八幡「えっ?」



174: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/14(日) 23:45:42.72 ID:CqeUjOd+o

貝木「その呪いを解くには、呪いのかかった人間の心を満たす必要がある」

貝木「そもそも心が満たされた人間に呪いは効かないからな」

貝木「だからそれに最も効率的らしい接吻が呪いを解く唯一の方法だそうだ」

八幡「いや……それは……」

貝木「きっとこれを作った人間は某夢の国のファンだったんだろうな」

千葉にもテーマパークありますね、それ。何で千葉なのに『東京』ってついてるんだろ。あとららぽも。



176: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/14(日) 23:52:37.70 ID:PJXak/84o

貝木「話す事は全部話した。じゃあな、比企谷八幡。もう二度と会う事もないだろう」

八幡「ま、待て! 本当にそれ以外に方法はないのか」

貝木「ないな。あぁ、二つ言い忘れた。接吻の場所はどこでもいいわけではなく、その人物の口にちゃんとしなきゃいけないのと、その接吻の相手は、呪いの対象が好意を抱いている相手じゃないと意味がないとか。本当に、どこまでもファンタジーだな」ガチャッ

八幡「それかなり重要なところだろ……」

貝木「じゃあな」ガチャン

貝木はそう言いながら部屋を出て行った。慌てて追いかけたが、もうそこに彼の姿はなかった。

八幡「……まぁ俺には関係ないな」

だって、後は葉山に任せればいいんだし。



178: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/14(日) 23:55:54.57 ID:PJXak/84o

八幡「……というわけだ。わかったか?」

いろは「先輩の性格の悪さは」

八幡「最近石とか投げてないなー」ブンブン

いろは「すいませんやめてください」

いろは「しかし……だからそんな服だったんですね」

八幡「あいつが相手によって金額を変えるようなやつだとわかっていたからな。俺からじゃ三万でも巻き上げられないと高を括ってたんだろ。普通の服装で行ってたら、二十万くらい請求されてたんじゃねぇの?」

いろは「先輩がめついですね」

八幡「あとであの三万払えよ?」

いろは「さすが先輩! 知能犯!」

八幡「それ褒めてねぇから」



181: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/14(日) 23:59:27.29 ID:PJXak/84o

八幡「じゃあ、葉山によろしく言っといてくれ」

いろは「えっ? 何を言っているんですか?」

八幡「逆にお前が何言ってるんだ? もう俺にできる事はないだろ」

いろは「まぁ……それは、そうですね」

八幡「お前は葉山が好きなんだろ? なら、あとの仕事は葉山のだ。前も言ったが、あいつなら絶対に助けてくれる」

いろは「でも、そんな、葉山先輩に、その……」



183: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/15(月) 00:03:05.19 ID:5Ai83mvIo

八幡「……あっ」

そう言えば……。

八幡「……すまん」

いろは「ようやく気づいたんですね」

八幡「ああ……」

そう言えば、冬休み前にディスティニーランドに行った時にこいつ、葉山に振られてたっけ。そんな状況でキスしろなんて頼めねぇよな。

八幡「……まいったな」

いろは「まいりましたね……」

八幡・いろは「「はぁ……」」



185: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/15(月) 00:13:20.33 ID:5Ai83mvIo

いろは(先輩)

いろは(私は、この数週間、いろいろ考えてきたんです)

いろは(あの時、葉山先輩に振られちゃいましたけど)

いろは(正直、めちゃくちゃショックってわけでもなかったんです)

いろは(もちろん直後は泣きそうでしたし、胸なんか張り裂けそうなくらい痛かったですよ)

いろは(それでも……時間が経つにつれて、そこまで傷ついてなかったと思うようになったんです)

いろは(ああなるのがわかっていたからなのかもしれませんけれど)

いろは(もしかしたら、恋に恋していただけだったのかもしれません)



187: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/15(月) 00:22:08.57 ID:5Ai83mvIo

いろは(先輩は本当に良い人です)

いろは(どんな人だって助けてしまう)

いろは(きっと傷つく、という事が何なのかを知っているから)

いろは(その痛みがどんなものか知っているから)

いろは(だから先輩は、みんなを助けたいと思ってしまうんでしょうね)

いろは(先輩は本当に優しい人です)

いろは(……もしいつか、私が本当に誰かを好きになるなら――)

いろは(――その時は、その相手が先輩みたいな人だったらいいなぁ、なんて思ったり)

いろは(もちろん言えませんけどね)




200: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/17(水) 22:52:53.71 ID:lQyv7wcyo

八幡「しかしどうすんだ、これ」

いろは「葉山先輩には……頼みづらいですよ……」

八幡「でもあいつ以外じゃ無理なんだよな」

いろは「…………」

ペンダントの中の一色は俯いている。確かに現状は笑えないから、仕方もない。

キスねぇ……。妄想では何回もした事あるけど、リアルでやった事なんかねぇよ。口すら童貞とかワロス。いや、ワロエナイ。

専業主夫を目指す俺には大きすぎる壁だ。



202: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/17(水) 23:01:22.58 ID:lQyv7wcyo

八幡「間接……とかは?」

いろは「先輩黙り込んで何を考えていたかと思ったら、そんな事を妄想していたんですかごめんなさい正直気持ち悪いです」

八幡「お前のために考えたくない事も考えてるんだろうが……」

いろは「で、間接ってどうやって?」

八幡「しかもスルーかよ。そうだな……葉山の使っていたペットボトルをゴミ箱から取るとか」

いろは「うわ、気持ち悪いですね」

八幡「…………」



204: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/17(水) 23:04:34.40 ID:lQyv7wcyo

いろは「それ誰かに見られたらどうするんですか?」

八幡「心配ない。俺も同じタイミングでジュースとかを飲み、葉山の直後に行けば怪しまれない」

いろは「どうしてそういう事に関してだけ、異様に頭が回るんですか?」

八幡「はっ。キングオブぼっちなめんな。お前らが所謂『お友達』とペチャクチャ喋っている間、無限の可能性について考えてんだよ。無限って言うくらいだから、終わりはないしな。それだけで一生を終えられるレベル」

いろは「つまり、こういう事態が来たら、みたいなのを考えていたと」

八幡「…………」

いろは「うわ……」ヒキッ



206: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/17(水) 23:09:43.17 ID:lQyv7wcyo

八幡「何か問題あるかよ」

いろは「もう吹っ切れちゃいましたね」

八幡「妄想くらいしたっていいだろ。どこぞの誰かさんみたいに形には残してないんだからな」

いろは「……それ誰ですか?」

八幡「夏でもコートを着ているようなバカだ」

いろは「あー」

わかっちゃうのか。あいつ後輩にまで知られてんのかよ。よかったな、ちょっとした有名人になってるぞお前。意味合い的には野々村っぽいけど。ダレガヤッテモオンナジヤオンナジヤオモテー。

……やべぇ、どっちが野々村でどっちが材木座かわからなくなってきた。



209:</b> ◆.6GznXWe75C2<b>:2014/09/17(水) 23:36:54.71 ID:lQyv7wcyo

いろは「その方法を取るにしても、今日は無理ですよね……」

八幡「む……」

時刻は昼を過ぎたところ。今から行ってもいいが、平塚先生にドヤされるのは勘弁だ。今日は腹痛で行けなかった事にしよう。それがいい。それだけでいい。なんか混ざってんな、平塚先生繋がりか? ……本当に何言ってんだ、俺。

八幡「そうだな……。やれる事もないし、もう帰るか」

いろは「なら、どうせ外に出たんですし、遊んで行きましょうよ!」

八幡「断る」

いろは「却下です♪」

八幡「なん……だと……?」

俺の秘技、即答拒否を即答拒否で返すだと……?



211: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/17(水) 23:44:21.71 ID:lQyv7wcyo

いろは「先輩がそう言うのわかってましたし」

八幡「くっ……!」

そこまでこいつは俺の言動を理解してんのかよ……。わかってるなら、帰らせてくれ。

いろは「私もこんな状態ですし、カラオケ行きましょう!」

八幡「断る」

いろは「却下です♪」

八幡「それでもダメだ」

いろは「大声出しますよ?」

八幡「」

いろは(先輩、案外押しに弱いんですよね~)



213: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/18(木) 00:21:03.17 ID:pq+Huf8bo

八幡「……そして、本当にカラオケか」

いろは「最近は一人カラオケも立派な趣味として認められているからいいじゃないですか」

八幡「むしろそれが嫌なんだよ」

いろは「?」

八幡「一人で何かをするのは多くの人間が嫌がる。逆に言えば俺はそれができる自分を誇りに思っていたわけだ」

いろは「は、はぁ……」

八幡「だが今やヒトカラブーム? ヒトカラ専門店? ふざけるな。みんながやったらそれはもう一人じゃねぇんだ」

いろは「一見カッコ良い事言っているようで、よく考えるとカッコ悪いですね」

八幡「最近じゃ、ヒトカラに行くのに友達を誘う輩もいるらしいな。大人数で無駄に個室を埋めるんじゃねぇ。本物のぼっちは一人でしかカラオケなんか行けねぇんだよ! リア充どもは十人くらいで大部屋使ってウェイウェイやって、爆発しろ!」

いろは「最後のはただの先輩の願望ですよね」



218: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/18(木) 00:38:15.52 ID:GfXndqRIo

八幡「80000番……80000番……」

いろは「ここってそんなに部屋の数あるんですか……?」

八幡「ない。だから他は三桁とかなのに、ここのカラオケはなぜか一つだけ80000番がある。この番号はマイノリティーなぼっちの鏡だな」

いろは「呪われてたりするんですかね」

八幡「むしろ、八幡大菩薩の恩恵があるんじゃねぇの? ……おっここだ」

いろは「うわ……本当にここだけ五桁もある……」

ニモツヲヨッコイショウイチ

八幡「よしと……ドリンクバー取りに行くか」

いろは「先輩、私はいろはすのみかんので」

八幡「どうやって飲むんだよ。あと、そんなの置いてねぇよ」



220: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/18(木) 00:43:51.00 ID:GfXndqRIo

八幡「…………」ピッピッ

いろは「…………」ジー

八幡「…………」ピッピッ

いろは「…………」ジー

八幡「……ジロジロ見ないでくれない?」

いろは「他に見る物もないんですよ! あと、早く曲入れてください!」

八幡「えっ、お前が来たいって言ったから、お前からじゃねぇの?」

いろは「どうやって曲入れるんですか!」



222: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/18(木) 00:46:17.84 ID:GfXndqRIo

八幡「代わりに俺が入れればいいだろ。てか、それよりもどうやって歌うの?」

いろは「ああ、そうですね……。じゃあマイクをテーブルに置いて、その前に私を置いてください」

八幡「……それ、ハウらないか?」

いろは「その辺の角度の計算はお任せします♪」

八幡「俺の数学の成績なめんな」

いろは「つまらないです早くしてください」

八幡「……はい」



224: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/18(木) 00:48:15.60 ID:GfXndqRIo

八幡「……で、何入れりゃいいの?」

いろは「先に歌わせてくれるんですか?」

八幡「そもそも俺は乗り気じゃねぇしな。歌いたいやつが歌え」

いろは「それじゃ――」

~♪

八幡「…………」ポカーン

いろは「せ……先輩……。どうだったでしょうか?」

八幡「ちょっと、いやかなりビックリした。お前、めちゃくちゃ歌、上手いのな」

いろは「えっそれ口説いてます? ごめんなさい無理です」

八幡「だからなぜそうなる……」



226: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/18(木) 00:49:54.05 ID:GfXndqRIo

八幡「ちげぇよ。純粋に上手いと思っただけだ」

いろは「そうですか! 上手かったですか!」

八幡「あぁ、少なくとも材木座よりはよっぽど上手い」

あいつ、声は良いんだけどな。

いろは「それあんまり嬉しくないですよ……」

八幡「いや、すごい褒めてる。こんなに褒めてる自分を褒めたいくらい褒めてるぞ」

いろは「それ途中から褒める相手変わってるじゃないですか!」



229: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/18(木) 00:51:34.26 ID:GfXndqRIo

いろは「まぁ友達とかとよく来ますしね~。回数が多ければ自然と上達するものです!」

八幡「なるほど。俺が下手な理由はそこにあったのか」

ぼっちは基本カラオケとか行かないしな。家での鼻歌で十分。小町に聞かれる可能性があるのが、唯一のデメリットだ。

いろは「じゃあ先輩も一曲どうぞ♪」

八幡「人前で歌うの嫌なんだよな……トラウマあるし」

いろは「どんなのですか?」メガキラキラ

八幡「何でそんなに興味津津なんだよ……」

いろは「先輩の目がそんなに腐るまでのプロセスって気になるじゃないですか」

八幡「お前本当に性格悪いぞ」



233: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/18(木) 00:56:14.22 ID:GfXndqRIo

以下、回想

あれは中学二年の時の事だ。

五月のあたまらへんにある遠足の後、クラス全員での打ち上げがあった。選ばれたのは察しの通り、カラオケ。

誘われて行ったのはいいが、俺は一曲も歌わず、二時間という時間を誰とも話さずに浪費した。

ふと、クラスの中心人物が言った。

リア充「比企谷くん、だっけ? まだ一曲も歌ってないけど、まだ歌わないの?」

これが悪魔の囁きだと、この時の俺は純粋だから気づいていなかった。



235: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/18(木) 00:58:50.37 ID:GfXndqRIo

俺は最初は遠慮したが、そのリア充の言葉に負け、選曲の機械を手に取り、この場で歌っても浮かないようなリア充が好みそうな、J-POPの曲を選んだ。

リア充「おっ、次は比企谷の番か」

八幡「そ……そうだな……っ」

人前で歌う緊張に飲まれ、俺は周りの違和感に気づいていなかった。今にしてみれば、俺以外のクラスの誰もがニヤニヤしていたのは、不自然以外の何物でもなかったのに。



237: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/18(木) 01:02:27.10 ID:GfXndqRIo

ジャジャッ ジャジャッ ジャジャッジャッジャー

伴奏が始まる。その瞬間に――

女子A「あっ、私トイレに行ってくる」スッ

女子B「私も私も~」スッ

ハナレテルキガシナイネ キミトボクトノキョリ

男子A「おいB行こうぜー」スッ

男子B「おう」スッ

ボクラハイツモイシンデンシンー フタリノキョリツナグテレパシー

気づいた時には、広いカラオケルームでただ一人、ポツンと以心電信を熱唱する俺の姿があった。



239: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/18(木) 01:15:30.30 ID:GfXndqRIo

いろは「せ……先輩……っ。プップププ……」

八幡「笑うなら笑え。遠慮はいらんぞ」

いろは「アッハハハハハハハハハ!! 先輩! 最高ですよ、それ!!」

八幡「本当に他の奴らは以心伝心だったんだろうな。一糸乱れずに出て行ったし」

いろは「もう……やめてください……っ。お腹……痛い……っ!」プルプル

八幡「しかも終わった途端に全員戻って来るのな。『あれ? 比企谷くんの歌終わっちゃったの? 聞きたかったわー』だってよ。思わずいづらくて帰ったわ」

いろは「か……っ!」プルプル

一色はペンダントの中で震えていた。こっちからしたら、その姿の方がよっぽど滑稽なんだけどな。



241: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/18(木) 01:19:26.28 ID:GfXndqRIo

いろは「久しぶりにこんなに笑いましたよ……」

八幡「人のトラウマを大爆笑するとか、心ないにも程があるだろ」

いろは「それでも……っ、あっまた思い出しちゃって……プッ!」

八幡「こんなのはまだ序の口だぞ? 他にもまだまだいくらだってある。十七年間生きていて、未だに日々増え続けるからな。何なら今笑われたのだってランクインしてもいいくらいだ」

いろは「まだあるんですかぁ? 正直今のだけでも自殺ものですよ?」

八幡「ふっ、甘い。このレベルならまだ少なくとも五十はあるし、これより上のレベルが二段階に渡って残っている。これがどういう事かわかるな?」

いろは「うわぁ……聞きたいですけどまた今度ですね。今は歌いましょうよ!」

八幡「じゃあ以心電信を……」

いろは「自分でトラウマ抉るんですか!?」



243: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/18(木) 01:25:33.83 ID:GfXndqRIo

基本俺のトラウマネタは相手をゲンナリさせる事が多い。というかほとんどそうだ。なのにこいつは、それを聞いて引くどころが笑いやがった。

……それが、少し嬉しかったりする。

失敗談はその場の笑いを誘う役目を担う事もある。俺はそうなる事を心のどこかで望んでいたのだろうか。

別に雪ノ下や由比ヶ浜たちの反応が嫌だっていうわけじゃない。もちろんあれだって楽しい。

ただ、他の誰とも違って――いや、こんな笑い方をする人間をもう一人、俺は知っているが――俺のトラウマ話をただ無邪気に笑って聞いてくれるこいつが――

――少し、可愛いと思う。



246: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/18(木) 01:28:27.93 ID:GfXndqRIo

いろは「先輩、どうせ二人で来てるならデュエットしましょうよ!」

八幡「はっ? 何で?」

いろは「えっ、そこ聞くんですか?」

八幡「質問を質問で返すな。てか、そりゃ意味がわからんだろ」

いろは「別にいいじゃないですか~、一曲くらい~」

八幡「嫌なもんは嫌だと――」

いろは「うーん、そうですねぇ……何を歌いましょうか……」

八幡「――言っても意味なさそうだな」



248: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/18(木) 01:40:05.79 ID:GfXndqRIo

フタリダーカーラー トビラアーケーテー (ヘーエーエーエー)

トビダセールーヨーイマー (イーマー)

モウー (モオー!)

フタリダーカーラー

いろは「先輩……よく声出ましたね……」ゼーゼー

八幡「くっ……。高すぎんだろ、ハンス王子……! ヘーエーエーエーの所なんか死ぬかと思ったわ……」ゼーゼー

いろは「てか先輩も……なかなか上手いじゃないですか……!」ゼーゼー

八幡「そうか……? 大した事は……ないだろ……」ゼーゼー



250: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/18(木) 01:45:06.03 ID:GfXndqRIo

いろは「何だかんだ、二人ともすごい歌いましたね~」

八幡「男一人のはずの部屋から女の声がするって店員が怪しんでたぞ」

いろは「まぁいいじゃないですか~。一人分の料金で二人歌えたんですよ?」

八幡「そこは得したような気分になるな、確かに」

いろは「だからもういいんですよ♪」

八幡「何がだ。てか根本的な問題が解決してねぇだろ」

いろは「現実逃避くらいさせてくださいよ……」

八幡「自覚ありだったのか……」

そうだ、物事は何一つ解決していない。

何一つ、進んでいない。





261: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/23(火) 23:19:41.52 ID:f7IEtPx5o

いろは「そう言えば先輩」

八幡「ん?」

いろは「今日で奉仕部二日休んでますけど、大丈夫なんですか?」

八幡「ああ、あいつらにはちゃんと言ってあるしな。当分行けないってだけだけど」

いろは「あ、そうなんですか」

八幡「だからまだ数日は大丈夫だ。むしろ心配すべきはお前だろ」

いろは「え?」

八幡「今日帰れなかったら二日間お前は家に帰っていない事になる。それは親としても心配するだろ」

いろは「そうですね……。一応連絡は取ってるんですけど、もっても明日までです」



263: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/23(火) 23:26:38.14 ID:f7IEtPx5o

八幡「過ぎたら?」

いろは「私が泊まってるって事になってる友達の家に迎えに来ると思います」

八幡「……つまり、それを避けるには明日の夜までに、お前を元に戻さなきゃいけないのか……」

いろは「時間、ないですね。でも葉山先輩に……その…………スしてなんて言えないです……」カァッ

八幡「状況が状況だ。もうなりふり構っていられないし、今から学校に行くぞ。ちょうどもう少しで放課後になる」

いろは「その服でですか?」

そう言えば俺が今着てるの、あのボロボロの学ランじゃねぇか。

八幡「……流石に一回帰るわ。チャリで行った方が楽だし」



266: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/23(火) 23:37:35.84 ID:f7IEtPx5o

at 校門

ちょうど終わったのか、大勢の生徒が校門から出て来る。中に紛れて入ればいいので楽なはずだが……。

八幡「サボったからか、入りづれぇ……」

いろは「誰も先輩の事見てませんから、大丈夫ですよ!」

八幡「……事実だが、お前に言われるとムカつくな」

いろは「自虐ネタを使う時は、相手からバカにされるのを覚悟して使うものですよ」

八幡「くっ……何も言い返せねぇ……!」



268: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/23(火) 23:39:26.56 ID:f7IEtPx5o

八幡「で、俺はどこに行けばいいの? 家?」

いろは「サラッと帰ろうとしないでください。そうですね、今ならまだ部活始まってないでしょうし、グラウンドて待ち伏せというのはどうでしょうか?」

八幡「お前にしちゃまともな意見だな……」

いろは「私の事を何だと思ってるんですか?」

八幡「……まぁいーや。行くぞ」

いろは「無視ですか!?」



270: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/23(火) 23:45:05.71 ID:f7IEtPx5o

八幡「……行くぞ。本当にいいんだな?」

いろは「もう他に手段ないですしね……。背に腹を決めます」

八幡「よし。……おーい、葉山ー」

葉山「おや、ヒキタニくんじゃないか。俺に何か用かい?」

八幡「あぁ、そうだ。まぁ俺がって言うのはちょっと違うんだけどな」

葉山「?」

ジャラッ

葉山に例のペンダントを見せる。それを見て葉山は首を傾げる。

葉山「それがどうかしたのかい?」

……どうやって説明すればいいんだ、これ?



272: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/23(火) 23:48:13.20 ID:f7IEtPx5o

八幡「……えーっと、一言で言うとだな……」

八幡「……一色が、この中に閉じ込められた」

葉山「…………」

葉山「えっ?」

ですよねー、やっぱりそういう反応ですよねー。俺も最初そんなんだったし。

葉山「それってどういうことだ? 君なりの冗談なのかな? なら、笑ってあげられなくてごめん。そういうギャグはわからなくてね」

八幡「こらやめろ。昔のトラウマ思い出しちまうだろ」

懐かしいなー。みんながふざけた事を言い合ってて、俺も勇気振り絞って、渾身のボケをかましたら、普通に白けたっけ。あの時の『何やってんの、こいつ?』って視線は忘れられない。今でも思い出すと、うわあああああああああってなる。



274: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/23(火) 23:53:49.22 ID:f7IEtPx5o

葉山「で、本題は? その冗談のために来たわけじゃないんだろう?」

八幡「いや、本当にこれが本題なんだ。一色がこのペンダントになっちまって、元に戻せないんだ」カチャッ

ペンダントを開く。中身を葉山に見せるためだ。実際に中の一色が動いているのを見たら、嫌でも信じるだろう。

いろは「…………」

葉山「?」

いろは「……いま、先輩が言ったのは全部本当です。私がここ数日学校に来れてないのも、これが原因なんです」

葉山「!?」

葉山「ヒキタニくん!? これは一体!?」

八幡「さっき言った通り、一色がペンダントになっちまったんだよ」

うわー、この反応すごいデシャヴ。



277: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/23(火) 23:57:50.20 ID:f7IEtPx5o

葉山「信じられない……」

八幡「正直俺もだ」

いろは「先輩もですか!?」

八幡「こんなのより、ドッキリの看板持ってくる方がよっぽど現実的だろ」

いろは「まぁ……そうですね。私も自分がこうなってなかったら、信じられないでしょうし」

葉山「ここ数日部活に来ないと思ったら、そういう事だったのか」

いろは「はい、ご心配をおかけしました……」

葉山「いや、いろはが謝る事じゃない」



279: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/24(水) 00:00:34.37 ID:q80rrKGIo

八幡「で、お前に頼みがある」

いろは「先輩、ここからは私に言わせてください」

八幡「お、おう」

俺が言う事じゃないな、よく考えたら。

八幡「じゃ、葉山。後は任せた」

葉山「えっ、ちょ、ヒキタニくん?」

いろは「…………」

一色は俺を止めない。つまり俺はここでお役御免という事だろう。明日になったら元に戻っている事を祈って、家に帰るとしよう。



281: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/24(水) 00:03:53.01 ID:q80rrKGIo

葉山「比企谷」

八幡「あ?」

葉山「校門で待っててくれないか?」

八幡「いや、早く帰りたいんだけど」

葉山「いいから」

八幡「……わかった」

葉山の声が真剣味を帯びているせいで、俺は断りきれなかった。マジな顔になると恐いんだよ、こいつ。



284: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/24(水) 00:09:44.84 ID:q80rrKGIo

言われた通りに校門で葉山を待つ。どうしてあんな事を言ったのか、想像できないわけではないが、それは俺の知っている葉山隼人なら決してしない事だ。

葉山は誰かを助けられるなら助けたいと思う人間だ。

それに固執するのに、葉山自身の過去が関係しているのかもしれないが、今の俺にそれを知る術はない。

少なくとも俺の今まで見てきた葉山隼人なら、一色いろはを助けるはずだ。

ただどうしてか、葉山は一色を助けない気がした。



そしてそれは、見事に的中してしまった。



287: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/24(水) 00:15:44.52 ID:q80rrKGIo

十五分程待って、葉山は校門に現れた。

葉山「やぁ、ヒキタニくん」

その近くに一色の姿はない。嫌な予感が現実味を増す。

八幡「……一色は?」

葉山「……悪いが」ジャラッ

葉山はゆっくりと俺にペンダントを渡す。その中にはさっきと同じように一色がいた。

八幡「……何でだよ」

葉山「俺には、できないんだ」

八幡「だからと言ってお前がやらなかったら、一色はずっとこのままなんだぞ」

葉山「そういう意味じゃない。俺に、いろはを救う事はできないんだ」

八幡「何を言って……」

いろは「…………」



289: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/24(水) 00:18:16.05 ID:q80rrKGIo

葉山「……じゃあ、俺は部活に行くとするよ。部長がこれ以上遅れたら示しがつかないからな」タッタッタッ

八幡「待てよ、なるべく早めに解決しないと――」

いろは「いいんです、先輩」

八幡「?」

いろは「……いいんです」

八幡「……ダメだったのか?」

いろは「女の子にそういう事を聞くのはデリカシーないですよ、先輩」

八幡「悪かったな……」



291: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/24(水) 00:24:06.62 ID:q80rrKGIo

八幡「……で、どうすんの?」

いろは「……今日も先輩の家に厄介になると思います」

八幡「いや、そっちじゃなくてだな。明日までにどうすんだよって話だ」

いろは「ああ……そうですね……。どうしましょう……」

八幡「…………」

ついさっきまであんなに元気だったのに、今の一色にはそのカケラもない。

葉山に何を言われたのかはわからないが、あまりいい返事ではなかったようだ。

いや――

――葉山は本当に一色を助けなかったのだろうか?



294: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/24(水) 00:28:19.14 ID:q80rrKGIo

葉山と一色の言いぶりはどちらにも取れる。

一つは、葉山が何もせずに断ったという可能性。

もう一つは、葉山は一色のためにキスをした。

なのに、一色が元に戻らなかったという可能性。

前者ならまだ戻れる可能性が残っている。まだ慌てるような時間じゃない。

しかし、もしも後者の場合。

一色が元に戻る方法がもう何もないという事になる。



296: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/24(水) 00:42:22.65 ID:q80rrKGIo

八幡「…………」

いろは「どうしましょう……先輩……」

八幡「わかるかよ、んなもん。そもそもお前らが何を話してたかも知らねぇんだからな」

いろは「……ですよね」

八幡「…………」

わからない。葉山と一色がどんな会話をしたのか。葉山は一体何をしたのか。何もしなかったのか。

しかし聞いても彼女は答えないだろう。聞いて答えるくらいなら、もう俺に言っているはずだ。

つまり、俺には言いたくない事が起きたと考えるのが妥当だ。



298: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/24(水) 00:47:25.70 ID:q80rrKGIo

八幡「……どっか行きたいところでもあるか?」

いろは「妙に優しいですね……何かあったんですか?」

八幡「いつもふわふわゆるふわビッチなお前が、そんなにションボリしてたら、そりゃ不安にもなるだろ」

いろは「……そう、ですね」

どうも歯切れが悪い。いつもの一色なら前半部分でツッコミを入れるのに、それもない。これは相当重症だな。

ドンッ

八幡「あっすいません」

DQN1「どこに目ぇつけて歩いてんだぁ?」

ヤバい。関わっちゃいかんやつだ。



301: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/24(水) 00:54:33.52 ID:q80rrKGIo

八幡「……すみません」

DQN1「あぁ、いてぇなぁ~。アザできちまったなぁ~」

うぜぇ、すごい喋り方うぜぇ。戸部と同じくらいうぜぇ。材木座程じゃないが。

DQN1「治療費弁償してもらおうかぁ~、あぁ~ん?」

前言撤回。やっぱ材木座よりもウザい。

こういう馬鹿にはとりあえず金を渡すに限る。ボコボコにされるよりもよっぽどマシだ。

八幡「わかりまし……あっ」

さっきの三万払ったせいで、財布ほぼ空っぽじゃねぇか!

八幡「\(^o^)/」



303: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/24(水) 01:02:48.63 ID:q80rrKGIo

DQN1「さっさと金出せ言ってんのがわかんねぇのかぁ~?」

DQN2「やめなよ~。この子足震えちゃってるし~」

DQN1「こういうやつには世の中の厳しさってのを教えてあげなきゃでだなぁ」

むしろ理不尽の塊だろ。あ、それが社会そのものか。なかなか的を得てるじゃないか、このDQN。

DQN2「まぁどうでもいいけどぉ~? あっそのペンダント綺麗ねぇ」

DQN1「そうかぁ? ただの安物だろ?」ヒョイッ

いきなり、胸ポケットに入ってた一色が入っているペンダントを取られた。あまりにも唐突すぎて反応ができなかった。



305: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/24(水) 01:09:52.47 ID:q80rrKGIo

八幡「!」

DQN2「そお? すごい綺麗だけどなぁ~」

DQN1「じゃあこれお前にやるわ。おい坊主、これに免じて許してやるから俺の前から消えな」

八幡「それだけは……渡せねぇ……」

DQN1「はぁ?」

八幡「返せっつってんだよっ!」ガッ

思いっきり飛びついてペンダントを取り返そうとしたが、そもそもの体格差のせいで、全く届かない。

DQN1「調子にのってんじゃねぇぞ!」バキッ

八幡「ぐっ!!」

思いっきり左頬を殴られる。喧嘩なんかした事がないから、うまれて初めての衝撃に脳が停止する。



307: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/24(水) 01:18:00.56 ID:q80rrKGIo

DQN1「そんなに返して欲しいのかぁ~?」ジャラジャラ

チェーン部分でペンダントを振り子のように揺らす。今飛びつけば取り返せるのに、身体が動かない。ダメだ……このまま一色を助けられないままなのか……?



いろは「ちょっと!! 暴力をふるうなんて最低の人間がする事ですよっ!!!」



DQN1「!?」

八幡「一色……お前……余計な時にしゃべるなって……」

いろは「そんなんだからファッションセンスもダサいんですよ! 何ですかその格好、何十年前の流行りですか?」

DQN1「う……うえぇ……! 何か……変な声がする……!」

一方DQNが反応しているのは、あくまでも声に対して『だけ』のようで、内容は頭に入っていないらしい。

いろは「とっととその汚い手を離しなさい!!!」

DQN1「ひいぃっ!!!」ブンッ



309: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/24(水) 01:22:53.54 ID:q80rrKGIo

恐怖のあまりDQNはペンダントを思いっきり投げた。地面に投げつけなかったのが救いで、山なりを描いてペンダントは飛んでいく。

カンカンカンカン……

ん、何の音だ? すごく聞き覚えがあるのに、それが何の音だか思い出せない。

いろは「きゃっ!!」

ついでに一色の声が一瞬聞こえる。相変わらずあざといな、お前は。

カンカンカンカン……

あぁ、思い出したわ。これが何の音か。

……これは……踏切の音だ。



311: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/24(水) 01:30:49.03 ID:q80rrKGIo

ゴッガチャッカラカラ……。

ペンダントが地面に落ちる。そこは、踏切の中だ。

遠くから音が聞こえる。あと少しもしないうちに電車が来る。

一色の入ったペンダントは線路の上。

このままだと、どうなる?

八幡「くっ……!」ダッ

重い身体を無理矢理に動かし、走り出す。もう一刻の猶予もない。

八幡「はぁ……っはぁ……っ!」

カンカンカンカン……。

耳に入るのはやかましい踏切の音と、

プワーン。

電車が確実に近づいてきている音だけだ。



313: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/24(水) 01:43:54.55 ID:q80rrKGIo

あともう十歩で踏切だ。中にあるペンダントは開いていてそこから一色の顔が見える。今にも泣き出しそうな顔だ。

周り360度見えるんだっけ? なら、電車が近づいてきているのが見えているのかもな。俺には見えないが。

今の俺には、一色しか、見えない。

電車の音がどんどん大きくなる。心臓の鼓動のスピードが一歩進むごとに早くなる。

間に合え、間に合え、間に合え――!!

黄色いバーをくぐり、思いっきり地面を蹴る。



八幡「いろはぁっっ!!!!!」



右手を伸ばし、もう一歩地面を蹴る。一瞬視界の隅に何か鉄の塊が映ったのは気のせいだと思いたい。

ガシッ!

掴んだ。確かに今俺は何かを掴んだ。手の中には光沢による光が見える。よかった……間に合っ……

ドンッッ!!!



315: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/24(水) 01:51:31.70 ID:q80rrKGIo

いろは「……あいたたた……よかった、助かりました。先輩」

いろは「…………」

いろは「……先輩?」

ペンダントのすぐ隣に倒れている少年の頭部は、真っ赤に染まっている。

いろは「先輩、何か言ってくださいよ……ねぇ……」

いろは「先輩! 先輩!!!」

いろは「先輩っ!!!!!」





327: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/24(水) 20:42:19.48 ID:WBBfTTgjo

まず俺に見えたもの、それは闇だった。

何の光も差し込まない、完全な暗闇。

だから俺は闇を見たのではなく、実際は何も見えなかったのかもしれない。

現状を認識し始めると同時に少しずつ記憶が戻り始める。……そうだ、俺は一色を助けようとして……死んでしまった?

ではここは死後の世界なのだろうか。

こんな真っ暗な世界でこれから過ごさなければならないのか?

しかしその予想は外れ、一度瞬きをするとボワっと小さな光が現れた。



329: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/24(水) 20:47:32.74 ID:WBBfTTgjo

ぼんやりとした光、それは少しでも触れてしまったら、すぐに消えてしまいそうで、儚い。

一度だけ、と、そっと触れてみる。光の周辺はわずかに温度が高く、触れるとさらに温かい。

その瞬間、光が強くなり始めた。真っ暗な空間がその光でどんどん明るくなる。周りが見えるようになっても光はとどまることを知らずに強くなり続け、俺はあまりの眩しさに目をつぶった。

そして、俺の身体は、その光に包まれた。



331: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/24(水) 22:08:52.41 ID:qBXA+0C0o

目をつぶって十数秒が過ぎると、鼓膜がわずかな空気の振動を捉える。

これは、音だ。音が聞こえる。耳がきこえる。HIROSHIMA?

その音はすぐに大きくなり、その正体がざわめきであることに気づく。

ザワザワ……。

光で目が潰れないかと思いながらまぶたを開くと、そこにはただっ広い何もない空間と、数えきれない程の人の姿があった。

八幡「……なっ!?」



334: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/24(水) 22:17:30.10 ID:qBXA+0C0o

八幡「何だよ……ここ……!」

真っ白い世界に集められた人々。十や百じゃきかない、何十万、何百万もの人が集められているように見えた。実際はもっと多いのかもしれない。

??「また会ったな。比企谷」

突然、後ろから話しかけられ、思わず全身に電流が流れたかのように震える。

八幡「!?」

その声には聞き覚えがある。――というか、ついさっき聞いたような……?

八幡「貝……木……?」

貝木「お前みたいなやつに呼び捨てされるとは酷く心外だな」

八幡「ここは……一体……?」



336: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/24(水) 22:29:05.36 ID:qBXA+0C0o

貝木「挨拶よりも先にまず質問か。少しくらい礼儀を知ったらどうなんだ?」

八幡「……コンニチハ」

貝木「……まぁいい。ここが何なのか知りたいか?」

八幡「知ってるのか?」

貝木「教えてやる。金を払え」

八幡「言うと思ったよ。……金なんかねぇ」

貝木「だろうな。まぁ俺も金を請求するはない」

八幡「?」

こいつが金を要求しない? 何を考えているんだ?



338: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/24(水) 22:51:18.08 ID:qBXA+0C0o

貝木「ここにおいて金など無意味なんだよ。いくら手に入れようが、手に入らない」

八幡「……?」

貝木「ここでは金よりもよっぽど情報の方が価値が上だ。ここで金があっても使えないからな。情報が金銭の価値の代替になっていると言ってもいい」

八幡「はぁ……」

貝木「だから俺はお前から金を取らない。その代わりに知っている事を話せと言っているんだ。それに見合うだけの情報を俺も与えよう」

八幡「とは言っても俺も何も知らないんだが……」

貝木「俺の聞きたい事は後に回す。その方が効率がいいからな」



340: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/24(水) 22:55:34.66 ID:qBXA+0C0o

貝木「あらら……じゃないな。比企谷、お前はここが何だと思う?」

八幡「……死後の、世界?」

貝木「なるほど、お前にはここが天国に見えるわけか。ならずいぶんとめでたい奴だ」

八幡「じゃあ逆に何だって言うんだよ……」

貝木「あくまでも俺の予想だが、臨死の世界じゃないかと俺は考えている」



342: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/24(水) 23:14:36.79 ID:qBXA+0C0o

貝木「臨死という言葉くらいは知っているだろう?」

八幡「ああ、死にかけ状態で生きてるとも死んでるとも言えない、みたいなやつだろ?」

貝木「そんな感じの解釈でいい。俺がここにいる奴らから聞いた話を統合すると、全員死にかけてここに来ている。車に引かれたり、高いところから落ちたりとかな」

八幡「あんたも、何かあったのか?」

貝木「職業柄危険と隣り合わせでな」

貝木は頭を指差す。何が原因かわからないが、頭をやったらしい。

貝木「お前はどうしたんだ、比企谷?」



344: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/24(水) 23:34:23.03 ID:qBXA+0C0o

八幡「電車にはねられた……みたいだ」

貝木「みたい……か。死ぬ理由なんて唐突でわからないものだ。気にしなくてもいいだろうよ」

八幡「別に気にしてなんかいねぇよ。ただ……」

貝木「ただ?」

……一色は無事なのだろうか。それだけが、気がかりだ。俺と違ってあいつはいろんなやつに好かれている。敵が多いのはきっとそのせいなのだろう。だから、あいつが無事であればいいと思う。あいつが死んで、俺が生き残ってしまうよりも、よっぽどいい。

八幡「……いや、何でもない」



346: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/24(水) 23:37:00.03 ID:qBXA+0C0o

貝木「ここはあくまでも臨死の世界で、誰も死んではいない。だからここから生きて戻るか、そのまま死ぬかは運次第って事だ」

八幡「なら、俺もあんたも死なずに済むかもしれないのか?」

貝木「そういう事だ」

できる事なら生きて元の世界に帰りたいと思う。しかし、それを恐れているのも事実だ。

もしも俺が一色を救えていなかったとしたら……。

俺は生き延びる事ができたとしても一生それを悔やみ続けるだろう。



348: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/24(水) 23:40:41.48 ID:qBXA+0C0o

いつか葉山に言われたっけな。

『もう、やめないか。自分を犠牲にするのは』

違う、違うんだ。

俺は誰かが傷つくのを見たくないだけなんだ。

誰かが傷つき、何かが失われた世界で生きたくない。それだけなんだ。

もしも一色が俺のせいでいなくなってしまったら、そんな自分を責めずにはいられないだろう。

だから俺はあんな無茶な事をした。それは一色のためではない。結局は自分のためなんだ。

誰かが傷つくくらいなら、自分でそれを負う。

自分の姿は、自分では見えないのだから、傷は見えない。



350: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/24(水) 23:42:26.37 ID:qBXA+0C0o

八幡「……俺は、戻れるのか?」

貝木「わからんな。ただもしも戻れたなら、この情報料を俺に払え」

八幡「あんたも死にかけてんだろ」

貝木「ああ、そう言えばそうだったな」

貝木は苦笑をする。まるで何かが噛み合わないような話し方だ。

貝木「お互い戻れたら払えよ? 利子はつけないでおいてやる」

八幡「……わかったよ」

参ったな。これじゃまた三万飛ぶのか? 俺の錬金術じゃ間に合わないぞ。

貝木「俺は他にも調べる事があるからな。ここでお別れだ」

八幡「ああ」

八幡「……運次第、か」



352: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/24(水) 23:49:12.66 ID:qBXA+0C0o

ピッピッピッ……

いろは「先輩……」

あの後すぐに病院に運ばれた先輩は、即手術を受けました。

幸いひかれた訳ではなくて、掠っただけだったみたいですけど、それでも打ち所が悪かったみたいで……。

まだ生きているみたいですが、目覚めるかどうかはわからないようです。

小町ちゃんが一番に駆けつけて、先輩がベッドでたくさんの管に繋がれてるのを見て泣き出しちゃうのを見て、胸が酷く痛みました。

私のせいで……先輩は……。

そもそも私が先輩に無茶な事を言わなかったら、こんな事にならなかったのに……。

いろは「先輩……ごめんなさい……ごめんなさい……!」

自然と涙がこぼれる。これはきっと、後悔の涙だ。



355: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/25(木) 00:08:05.27 ID:u8dzVdvjo

いろは「先輩……どうしてあの時、助けてくれたんですか……?」

いろは「あんなの、無理だって、先輩もわかっていたはずなのに……!」

いろは「……なんて聞いたら、先輩はまた自虐的な事を言うんでしょうね。『お前の方が人から必要とされてる』とか言って」

いろは「でも、違うんですよ。先輩」

いろは「私なんかよりもずっと、先輩の方が人から好かれてるんですよ」

いろは「それに気づかないまま死んじゃったら、私、許しませんからね……!」

いろは「先輩……起きてくださいよ……!」

いろは「いつもみたいにくだらない変な事、言ってくださいよ……」

いろは「先輩と一緒にいるの、嫌いじゃなかったんですよ……?」

涙と、言葉が、止まらない。どうしても伝えずにはいられなかった。いなくなってしまったら、二度と伝えられないから。

いろは「……ずっと思っていて、言えなかった事を言いますね」



357: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/25(木) 00:11:24.81 ID:u8dzVdvjo

葉山『なるほど……そんな事が……』

いろは『……無理強いはできないですけど、よかったら一回だけ……なんて』

葉山『好きな相手って、言ったよな?』

いろは『えっ? あっ、はい。そうですけど』

葉山『なら、きっと俺じゃいろはを助けられない』

いろは『な、何でですか!?』

葉山『本当はいろはだって気づいているんじゃないのか? 君が本当に助けを求めるべき相手が誰なのか』

いろは『それってどういう……』

葉山『わかっていようがいまいが、どちらにしろ俺は何もしない。そもそも何もできないんだからね』

会話はそれで打ち切られた。あの時の私でも、葉山先輩の言いたい事はわかった。それを認める事はできなかったが。

それでも、今は――。



359: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/25(木) 00:25:03.30 ID:u8dzVdvjo

いろは「先輩は本当に良い人です」

いろは「どんな人だって助けてしまう」

いろは「きっと傷つく、という事が何なのかを知っているから」

いろは「その痛みがどんなものか知っているから」

いろは「だから先輩は、みんなを助けたいと思ってしまうんでしょうね」

いろは「……私も含めて」

いろは「先輩は本当に優しい人です」

いろは「だからなんですかね、私が――」



いろは「――先輩の事が、好きになっちゃったのは」



いろは「あーあ、言っちゃったなー。どうせ聞かれてないからいいですけど」

八幡「…………」カァァッ

いろは「」



361: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/25(木) 00:33:57.95 ID:u8dzVdvjo

いろは「あの……どこから……?」

八幡「俺は、何も、聞いて、ない……」

いろは「いや、嘘だってバレバレですから。それで、どこから、聞いてたんですか……?」

八幡「……謝ってたところ辺りから」

いろは「それほとんど全部じゃないですか!?」

八幡「…………」プイッ

いろは「あーーー!! すごい恥ずかしいんですけど!?」

八幡「知るか! 俺もめちゃくちゃ恥ずかしいんだよ!!」



365: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/25(木) 00:48:59.24 ID:u8dzVdvjo

いろは「知りませんよ!! 起きるなら起きるって言ってから起きてくださいよ!!」

八幡「無茶な事を言うなよ……」

いろは「本当にもう、先輩は、先輩は……っ!」

いろは「……っ、よがっ……だ……でず……っ」グズ…

いろは「先輩が……このまま死んじゃったら……どうじようって……ずっと思ってて……っ」

八幡「…………」

いろは「だから……本当に……っ、戻ってきてぐれて……っ!」

八幡「……悪かった。心配かけちまったな」

いろは「いえ……私の方こそ……。今まで無茶苦茶な事ばかり……」



368: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/25(木) 00:53:12.41 ID:u8dzVdvjo

八幡「いいんだよ、んな事は。結果オーライだ」

いろは「でも、先輩の足、折れちゃったんですよ?」

八幡「誰も死ななかったんだ、それだけで十分だろ。それに骨折には慣れてる」

高校入学初っ端からやらかした俺からしたら、こんなのチョロいしな。

八幡「だから、気にすんな」

いろは「でも、せんぱ――」

??「あーっ!! ヒッキー起きてるー!!」





377: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/25(木) 23:09:17.93 ID:KAaumE42o

八幡「お……由比ヶ浜か」

結衣「お……じゃないよ!! 電車にひかれたって聞いてすごい心配したんだよ!?」

八幡「……すまん」

雪乃「それでも、無事でよかったわ」

八幡「足一本折れてるけどな」

雪乃「あら、あなたなら片足でも生活できるんじゃないの、一本足谷くん?」

八幡「俺をどこぞの野球のスターみたいな言い方するな」

雪乃「正確には打法よ?」

八幡「知っとるわ」



379: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/25(木) 23:19:38.14 ID:KAaumE42o

小町「あーーーーー!!!!」

八幡「よう」

小町「お兄ちゃんいつ意識戻ったの!?」

八幡「今さっきな」

小町「ついさっきなの!? ……よかった……大丈夫だったんだ……」グスッ

八幡「……何か、いろんなやつに迷惑かけちまったみたいだな」

結衣「そうだよ! だからもっと自分の事大事にしなきゃダメなんだよ!?」

八幡「あぁ……、本当にすまないと思ってる」

いろは(……先輩にもしもの事がなくて、本当によかった……。)



ピッピッピッ……



いろは「……zzz」スヤスヤ



382: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/25(木) 23:26:08.98 ID:KAaumE42o

ピッピッピッ……

いろは「……うーん」スヤスヤ

いろは「よかった……本当に……」ムニャムニャ

ビクッ

いろは「はっ……。何だ、夢か……」バッ

いろは「まだ……意識戻ってないんですね……」

ピッピッ……

ピーーーー

いろは「!?」



385: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/25(木) 23:31:06.06 ID:KAaumE42o

一時間後

結衣「……嘘だよね? ただ眠ってるだけなんだよね……?」

雪乃「由比ヶ浜さん……」

結衣「ねぇ、嘘って言ってよヒッキー! 冗談だとしても笑えないよ!!」

雪乃「……!」ガッ

結衣「離して、ゆきのん! ヒッキーは……ヒッキーは……!」

雪乃「気持ちはわかるわ、それでも、今は、落ち着いて……!」

結衣「いやだよ!!」

雪乃「由比ヶ浜さん!」

結衣「!!」



387: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/25(木) 23:33:58.35 ID:KAaumE42o

小町「お兄ちゃんは……本当に何で……」

結衣「…………」

小町「馬鹿だよ……大馬鹿野郎だよ……」

小町「こんな良い人たちを泣かすなんて……本当にゴミいちゃんだよ……!」ポロポロ

結衣「……っ、ひっく……ひっきぃ……っ!」

雪乃「比企谷くん……あなたって人は……!」ギリッ

小町「帰ってきてよ……帰って来てよぉ……っ! おにいぢゃん……!!」



389: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/25(木) 23:43:57.76 ID:J6fuTN5Ho

いろは(…………)

いろは(……私の)

いろは(私のせいだ……)

いろは(私のせいで、先輩は……! 私のせいでみんなが……!)

いろは(私のせいで、私のせいで、私のせいで私のせいで私のせいで私のせいで私のせいで私のせいで……!)

いろは「……もしも神様がいるのなら、言わせてもらいます……」

いろは「こんなの……ないですよ……!」

いろは「こんなの! こんなのっ!!」

結衣「この声……いろはちゃん……?」

いろは「お願いします……一生このままでもいいです……先輩と結ばれなくてもいいです……二度とわがままも言いません……!」

いろは「何でもしますから……先輩を助けてくださいよっ!!」



391: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/25(木) 23:49:57.50 ID:J6fuTN5Ho

八幡「……運次第、か」

貝木「あ、聞き忘れてた事があったな。比企谷、俺が最初に出した条件を覚えているか? その質問がまだだった」

八幡「えっ、あー、そんな話あったっけな」

貝木「なるべく正確に答えてくれ。比企谷、お前が死にかけたのは『いつ』で、『どこ』だ?」

八幡「は? 何でそんな事を」

貝木「俺の情報に対する対価だ。理由なんかどうでもいいだろ」

八幡「……あんたと出会って数時間後、学校の近くの踏切でだ」

貝木「そうか……ここで一年か……。場所は、あまり関係ないようだな……」

八幡「?」



394: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/25(木) 23:58:30.51 ID:J6fuTN5Ho

貝木「これで俺も目的を果たせた。じゃあな、またどこかで会おう」

八幡「何が聞きたかったのかよくわからんが、じゃあ」スッ

八幡「!?」

別れの間際に手を上げる事はよくある事だろう。しかし、その手が透けるなんて事は滅多に起こる事じゃない。

八幡「手が……!」

貝木「……そうか……残念だったな。お前は、死ぬようだ」

八幡「そんな……! 嘘だろ……?」

貝木「嘘じゃない。俺は何人もここでそうやって消えていく人間も見てきた」



396: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/26(金) 00:07:36.59 ID:J/fg/pwIo

八幡「元に戻れる可能性は……」

貝木「……さぁな。八割くらいがお前みたいにゆっくり消えていき、残りの二割は一瞬で消える。どっちが死ぬ方かは、明白だろう」

話している間にも、どんどん身体が薄くなっていき、それと一緒に力も抜けていく。

八幡「くそ……っ、納得できるかよ……こんなの……!!」ガクッ

もう、立っている事すらできない。

貝木「じゃあな、比企谷八幡」

八幡「まだ死にたくねぇよ……!」

貝木「…………」

八幡「まだ……俺は……」

八幡「……ろ……は……」

八幡「…………」

そうして、俺は、消えた。



399: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/26(金) 00:14:33.94 ID:J/fg/pwIo

比企谷のおかげで、俺の仮説の信憑性が増した。

この世界はきっと、臨死の世界だ。生きてもいない、死んでもいない、そんな中途半端な奴らが集められた一時的な場所に過ぎない。

コンピューターで言うなら、種類関係なくとりあえず集められるゴミ箱のようなものだ。

元に戻る事も、消される事も、どちらも可能な場所。

そしてこの世界で何よりも異様なのは――

――時間の概念がない、という事だ。



402: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/26(金) 00:31:48.54 ID:J/fg/pwIo

―――
――



あいつがこの世界にいるなんて確証はない。

それでも、今、俺は見つけなければならないのだ。あの男を。

貝木「この『時間』にもいないとなると、諦めるしかないかもな……」

その瞬間、見覚えのある髪型が見えた。あんな髪型をしているやつを、俺は『二人』しか知らない。

貝木「よぉ、やっぱりいたか」

??「ん? 誰だ、お前?」



404: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/26(金) 00:39:42.52 ID:J/fg/pwIo

カンカンカンカン……

踏切の音が鳴り始め、遮断機がゆっくりと下がり始める。

ゴッガチャッカラカラ……。

半分まで下がったところでペンダントが地面に落ちる。そこは、踏切の中だ。

遠くから音が聞こえる。あと少しもしないうちに電車が来る。

一色の入ったペンダントは線路の上。

このままだと、どうなる?

八幡「くっ……!」ダッ

重い身体を無理矢理に動かし、走り出す。もう一刻の猶予もない。

八幡「はぁ……っはぁ……っ!」

カンカンカンカン……。

耳に入るのはやかましい踏切の音と、

プワーン。

電車が確実に近づいてきている音だけだ。

あともう十歩で踏切だ。中にあるペンダントは開いていてそこから一色の顔が見える。今にも泣き出しそうな顔だ。

周り360度見えるんだっけ? なら、電車が近づいてきているのが見えているのかもな。俺には見えないが。

今の俺には、一色しか、見えない。

電車の音がどんどん大きくなる。心臓の鼓動のスピードが一歩進むごとに早くなる。

間に合え、間に合え、間に合え――!!

黄色いバーをくぐり、思いっきり地面を蹴る。



八幡「いろはぁっっ!!!!!」



右手を伸ばし、もう一歩地面を蹴る。一瞬視界の隅に何か鉄の塊が映ったのは気のせいだと思いたい。

ガシッ!

掴んだ。確かに今俺は何かを掴んだ。手の中には光沢による光が見える。よかった……間に合っ……

??「危ないっっ!!!」



407: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/26(金) 00:53:25.70 ID:J/fg/pwIo

彼、おそらく男であろうその人の声が聞こえた瞬間、俺の身体に強い衝撃がかかる。それは、電車が向かってくる方向からではなく、後ろからだった。

その衝撃のせいで身体が宙に浮き、一瞬遅れてまた身体に衝撃が走る。これは、地面……?

八幡「いつつ……」

??「危ないだろ、あんないきなり踏切の中に入ったら」

八幡「……すいません。助かりました……」

右手を見ると、そこにはちゃんとペンダントが握られている。開いてみると、中にはちゃんと一色もいて無事のようだ。

??「まぁ助かったからいいようなものを。あんな無茶をすると、親が悲しむからな。二度とするんじゃない」

八幡「本当に、ありがとうございました」

深く頭を下げる。この人がいなかったら今頃どうなっていたか……。

八幡「……?」

頭を下げながら、命の恩人の服装を見てみる。着ているのが制服であるから、この人も俺と同じ学生のようだ。しかし彼が着ている制服はあまりこの辺では見かけない。

八幡「あの……あなたは?」

??「僕かい? 僕の名前は阿良々木暦っていうんだ」



412: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/26(金) 01:05:15.85 ID:J/fg/pwIo

時間の概念がないとはどういう事か。

俺が死にかけたのは、比企谷と会って『一年後』の冬の事だ。何があったかなんてのは、この際言わないでおこう。

しかしあいつは、自分が死にかけた――いや、もう死んだのか、死んだのは『俺と会った直後』だと言った。

他の人間にも聞いたが、少しずつ、その時間はズレていた。俺の主観の時間軸で言ったら、一ヶ月前、三ヶ月前、のように。

最初にいる場所から離れれば離れる程、その時間のズレは大きくなる、という法則も見つけた。

比企谷の前に聞いたやつも、俺主観で一年前に死んでいた。

よって、導かれる結論は。

この世界において、『時間』とは、『場所』なのだ。場所を移動すればする程に、時間も移動する。

この世界に、時間の概念はない、と言うのはそういう意味では間違っていると言えよう。



414: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/26(金) 01:08:05.24 ID:J/fg/pwIo

これから俺のする行動は、あくまでも俺自身のためだ。

俺が俺である事に矛盾を生んではいけない。

あのペンダントの件の後に、俺は一度だけ比企谷に会った事がある。

つまり、俺と出会った直後に死んでいてもらっては、死んで既に現実にいないはずの人間に俺は会ってしまった事になる。

その矛盾で、何が起こるのかはわからない。ただ、それで俺の存在が消えるなんて安っぽいSF的なオチはゴメンだ。

……ついでに俺も助けてもらえないだろうか。無理だろうな。



416: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/26(金) 01:14:28.83 ID:J/fg/pwIo

貝木「……久しぶりだな、阿良々木」

阿良々木「僕はお前に会った事ないぞ?」

貝木「そうか。そうだろうな。こんな『時間』にいるくらいだ。納得できる」

阿良々木「何を言っているんだ? どうして僕の名を知っている?」

貝木「タイムマシンに乗って来たって言ったら信じるか?」

阿良々木「信じないな」

貝木「だろうな。俺も信じない」



418: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/26(金) 01:16:38.24 ID:J/fg/pwIo

貝木「俺はお前に一つ頼みごとをしに来たんだが、その前に一ついいか?」

阿良々木「何だよ。僕は今わけのわからない場所に連れて来られたせいで混乱しているんだ」

貝木「……ここに来る前に何かしなかったか?」

阿良々木「あぁ、そう言えば、トラックにひかれそうな女の子を助けようとして……」

貝木「…………」

こいつは、本当にいつでも変わらないようだ。





436: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/26(金) 23:17:21.49 ID:k3hDMlqco

この男も死にかけてここにいるのだろう。しかし、そう簡単に死んでしまうような奴だと俺は思えないし、もしこのままそうなるのなら、俺にできる事はもうなくなってしまう。

貝木「一つ頼まれてくれないか」

だから、こいつに託そう。

阿良々木「何だよ、今の僕にできる事なんか少ないぞ?」

貝木「いや、今でなくていい。……この『時間』だから、お前は中学三年か?」

阿良々木「そうだけど、だから何でお前は僕の事を知ってるんだよ?」

貝木「タイムマシンに乗って来たんだって言ってるだろう」

阿良々木「そんなの信じられるか!」



439: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/26(金) 23:26:57.90 ID:k3hDMlqco

貝木「いいから聞け。じゃなきゃお前の妹を、今度は殺すぞ」

今度は、と言っても、こいつにはわからないだろう。

阿良々木「……!?」

貝木「黙ったな、それでいい」

阿良々木の思考が飛んでいる間に、比企谷が死にかけるであろう場所と時間を告げた。

貝木「そこに来るお前と同じ髪型の比企谷って奴を助けてやってくれ」

阿良々木「何で僕がそんな事を――」

貝木「お前以外に助けられる人間がいないんだ。もしもそいつが死んだらお前の責任だぜ?」

阿良々木「…………」

こいつはこう言われれば断る事ができない。我ながら卑怯なものだ。



441: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/26(金) 23:34:38.81 ID:k3hDMlqco

阿良々木「でも、二年後なんだろ? 忘れてしまうかもしれない」

貝木「忘れないさ、お前なら。じゃあ二年間忘れないようにな」

忘れるな、よりもこういうセリフの方が強い事もあるんだぜ? 相手にもよるがな。このセリフのせいでこれから毎日こいつは俺との約束を思い出すだろう。まぁ、なんだ。たったの二年間だ、大した事はない。

阿良々木「わかった。最善を尽くすよ」

貝木「頼んだぜ。……ついでにお――」

阿良々木「なん――」フッ

……俺の分も頼もうとした瞬間、阿良々木は消えた。消え方から察するに、やはりあいつは生き残るようだな。他人の分は頼んで、自分の事を疎かにするとは……。

貝木「……馬鹿な奴だな、俺も」

そう俺は一人苦笑した。



443: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/26(金) 23:51:06.45 ID:k3hDMlqco

八幡「阿良々木……」

阿良々木「そう。君は比企谷って言うんだろう?」

八幡「どうして……俺の……」

阿良々木「何年か前にね。君を助けてくれって頼まれたんだ」

何年か前? 意味がわからない。

八幡「……何年か前?」

阿良々木「タイムマシンに乗って来たとか言ってたな」

八幡「はぁ?」

タイムマシン? この人ちょっと痛い人なの?

阿良々木「でも本当にそうだとしても不思議じゃないだろう? 君がここで死にかけるのを予知していたんだ」

八幡「…………」

タイムトラベラーか。この人の言っている事が本当なのだとしたら、その可能性は否定できない。



446: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/27(土) 00:02:01.60 ID:e3ZyGotno

八幡「てか、それ誰すか?」

阿良々木「そう言えば名前は聞かなかったな……。どこで会ったかも忘れたし、もう顔も覚えてない」

八幡「そうなんですか……」

阿良々木「さて、僕はもう帰るとするかな」

八幡「ま、待ってください。俺、まだお礼も何も……」

阿良々木「いいんだよ、さっきのお礼の言葉で十分だ。それに僕としても、この二年間ずっとこの日を待ち続けていて、ようやく胸のつっかえが取れたような気分なんだ」

八幡「はぁ……」

阿良々木「じゃあ、僕はもう行くよ」ダッ

ビュゥゥゥゥウウウウウン……

八幡「はやっ!」



448: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/27(土) 00:05:52.18 ID:e3ZyGotno

八幡「……嵐のような人だったな」

いろは「まるで漫画かアニメのヒーローみたいな人でしたね……」

八幡「それより、大丈夫か?」

いろは「えっ?」 

八幡「いや、投げられてただろ」

いろは「あ、全然大丈夫です! むしろ先輩の方が……」

八幡「いや、俺もだ。あの人が上手く庇ってくれたおかげでほぼ無傷と言ってもいい」

いろは「そうなんですか……よかったです……」

八幡「流石の俺も死ぬかと思ったわ」

これはマジで思った。走馬灯みたいの見えかけたもん。一瞬戸塚も見えたし。天からのお迎えだったのかもしれないな。やだ、戸塚マジ天使。



450: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/27(土) 00:11:23.57 ID:e3ZyGotno

いろは「先輩」

八幡「ん?」

いろは「ありがとうございました……!」ペコッ

ペンダントの中の一色が深々と頭を下げる。こいつがこんなに素直に礼を言うなんて、何か裏があるんじゃないかと疑ってしまう。

いろは「先輩が助けてくれなかったら……私……っ!」

八幡「……正確には俺というよりもあの人が助けてくれたっていう方が近いけどな」

いろは「でも、先輩があの時走り出してくれなかったら、私は今頃粉々になってたと思います」

だから――と、一色は続ける。

いろは「本当に……ありがとうございました……!」



453: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/27(土) 00:21:11.25 ID:7w6gCOcqo

八幡「……顔、上げろよ」

いろは「…………」スッ

八幡「別に、礼を言われるような事はしてねぇよ。ただ俺は……」

俺は? 俺は今、何と言おうとしたのだろうか。

八幡「……いや、何でもない」

いろは「そこで切っちゃうのは生殺しですよ、先輩」

八幡「悪いな。俺も忘れちまったんだ」

いろは「む~。でも今日はあんまり強く言えないですし、諦めますよ」

八幡「今日だけなのかよ」



455: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/27(土) 00:27:23.74 ID:7w6gCOcqo

八幡「そういや、さっきの奴らは……」

と、その方向を見てみる。予想通りと言うか、そこには誰もいない。

八幡「やっぱ逃げたか」

いろは「先輩が踏切に飛び込むのを見て、逃げていきましたよ」

八幡「くそ……あいつらめ……」

だからバカは嫌いなんだ。話が通用しない奴ら程、うざったい存在もいない。

いろは「まぁ、お互い無事だったんですし、いいじゃないですか♪」

八幡「……そうだな」



457: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/27(土) 00:35:37.81 ID:7w6gCOcqo

八幡「てか忘れてたけど、お前どうすんだ?」

いろは「はい?」

八幡「いや、明日の夜までにどうにかしなきゃいけねぇんだろ」

いろは「あ~、そう言えばそうでしたね~。この短時間にいろいろありすぎて忘れてました」

八幡「おい本人」

いろは「…………」

八幡「?」



459: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/27(土) 00:39:51.17 ID:7w6gCOcqo

どうすればいいのか全然わからないんですよね。

葉山先輩の言っていた事がわからないわけではありませんが、正直認めたくないのが本音です。

いや、私が先輩の事を好きなんて、あり得ません。

どうして私みたいな可愛い女の子が、先輩みたいなクズ人間を好きになっちゃうんですか?

まず目は腐ってますし。……まぁ顔は悪くないですけど。

性格も捻くれててちょっとないですし。……それでも優しかったりするんですよね。

あれ? さっきから何で良いところ探してるんでしょう?

もしかして本当に……



……いや、それはないです。



……ないですよね?



463: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/27(土) 00:48:52.18 ID:7w6gCOcqo

次の日

八幡「結局何も思いつかなかったじゃねぇか! もう時間ねぇぞ!?」

いろは「そうですね……」

八幡「いやもっと危機感持てよ!? お前の問題なんだぞ!?」

いろは「わかってますよ……」

八幡「……ったく。葉山がダメなんじゃ他に手立てがないしな……。他に方法他に方法……」

結衣「ヒッキー!」

八幡「あ? 何だよ?」

結衣「今日は部室に来る?」

八幡「……最悪の場合は」

結衣「部室に来るのは最悪なの!?」

八幡「いや、そういう意味で言ってねーし」

いろは(相変わらずこの二人は仲良いですよね)

ズキンッ

いろは「……えっ?」



465: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/27(土) 01:02:08.07 ID:7w6gCOcqo

いろは(今、一瞬、胸が痛かったような……)

結衣「また私の事バカにしてー!」プクー

八幡「してねーよ。本当だ。ちょっと頭があれだなーって思っただけだ」

結衣「やっぱりバカにしてるんじゃん!」

いろは「……っ!」

いろは(どうしよう、どんどん胸が痛くなる。ただ先輩が由比ヶ浜先輩と話してるだけなのに……!)

いろは(嘘、嘘、嘘、嘘。こんなの嘘。まるで私が先輩の事を好きみたいじゃないですか……!)

結衣「……だから、私とゆきのんのこと、頼ってもいいんだよ?」

八幡「あぁ、その時はよろしく頼む」

いろは(ダメだ、胸が痛くて仕方がない。どうして、先輩が他の女の子と喋ってると、こんなにも胸が痛くなるんだろう?)

いろは(こんなにも切ない気持ちになるんだろう?)

いろは(こんなにも……その相手に嫉妬しちゃうんだろう……?)

いろは(そんなのきっと……いや、認めたくない)

いろは(認めちゃったら……私は……)



467: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/27(土) 01:15:34.09 ID:7w6gCOcqo

八幡「……ふぅ。参ったな……このままじゃあいつらに言うしかなくなるな」

いろは「……先輩」

八幡「何だ?」

いろは「少し、場所を移動しませんか?」

八幡「ここでも小声で話せば問題ないが」

いろは「いえ、行って欲しい場所があるんです」

八幡「……?」

何か思いついたのだろうか。一色がここまで言うのなら、きっとここでできない話なのだろう。



469: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/27(土) 01:24:54.60 ID:7w6gCOcqo

ガララ

八幡「で、どこに行けばいいんだ?」

いろは「えっとですね――」

雪乃「あら、比企谷くん」

八幡「おう、雪ノ下か」

いろは(……このタイミングで二連続はやめてくださいよ)

雪乃「こんなところで何をしているのかしら? あなたには用事があるんじゃないの?」

八幡「教室で少し休んで、今から動き始めんだよ」

雪乃「あら、あなたは年中休暇中じゃなかったのかしら?」ドヤァ

八幡「確かに語呂はいいが、それでドヤ顔はどうかと思うぞ。あと、俺は一応学生だから週休二日制なんだよ。むしろお前の言うような状況を手に入れるために、専業主夫を目指しているまである」



471: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/27(土) 01:44:07.79 ID:7w6gCOcqo

雪乃「どうしてそんなゴミのような発想しかできないのかしら……」

八幡「今、お前は全国の専業主夫志望の男子を敵に回したぞ」



いろは(また胸の痛みが……っ!)ズキンズキン

いろは(……もう、ダメです)

いろは(これ以上……自分に嘘をつき続けられないみたいです)

いろは(私は……私、一色いろはは……)

いろは(比企谷八幡先輩の事を……)

いろは(……好きになっちゃった、みたいです)



473: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/27(土) 01:51:10.41 ID:7w6gCOcqo

初対面での印象はそこまで良くありませんでした。

腐った目、捻くれた思考、自虐的性格。

プラスの部分が目に付くよりも先に、マイナスの部分ばかりが目に映りました。

けれど、私は先輩に興味がわきました。だって、こんな人間が現実に本当にいるなんて、思いもしなかったから。

でも、そんな風に先輩と過ごしていって、先輩の事を少しずつ知っていくうちに、私は心のどこかで先輩に惹かれ始めたんだと思います。

今思えば、先輩は何回も私を助けてくれましたね。

生徒会選挙の時や、クリスマスイベントの時。

――そして、あの踏切の時。

あの時、私は『ヒーローみたい』なんて言いましたけど

あれ、実は先輩の事だったんですよ?



475: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/27(土) 01:57:22.75 ID:7w6gCOcqo

もうダメだって、心の底から絶望し切った時に見えた、走ってくる先輩の姿が、どれだけ私の救いになったのかも――

心のどこかで惹かれている相手が、自分のために命を懸けて助けようとしてくれて、どんなに嬉しかったかも――

そして、その本人が自分の事を大切にしなくて、どんなに悲しい気持ちになったかも――

――きっと、先輩にはわからないでしょう。



477: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/27(土) 02:04:16.88 ID:7w6gCOcqo

あぁ、気づいてしまいました。

何で好きになってしまったのかが、もうわからないです。

もう、今の私は先輩の全てが好きになってしまったんです。

あんなにも貶していた特徴ですら、愛しいと感じてしまう。

腐った目も、捻くれた思考も、自虐的性格も。

全てが、愛しい。

でも、気づいてしまったから、私はきっともう、元には戻れない。



479: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/27(土) 02:12:19.16 ID:7w6gCOcqo

雪ノ下先輩も、由比ヶ浜先輩も、先輩の事が好きで、きっと、先輩も二人のどちらかの事が好きなんです。

少なくとも、その相手は私じゃないんです。

それに、あの二人は先輩の事を信じて、ずっとあの部室で先輩が来るのを待っていました。

それなのに、この数日ずっと先輩一緒にいた私が、『キスして』なんて、頼めるわけないじゃないですか。

そんなの、ズルいにも程があります。

だから、私は、もう、諦めましょう。

だって、口にしたら、先輩は私をまた助けてしまうから。



481: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/27(土) 02:24:33.91 ID:7w6gCOcqo

八幡「で、話って何だよ」

一色が指定したのは、俺がこのペンダントを拾った場所だった。確かにここならあまり人も通らない。

いろは「もう、いいかなって」

八幡「はっ?」

いろは「私に元に戻る方法は、多分もうないんです」

八幡「何だそりゃ?」

いろは「だからもう諦めて、お父さんやお母さんに正直に話して、このまま生きていこうと思ったんです」

八幡「いや、いきなり何を言ってるんだよ。ついさっきまで、どうやって元に戻るかって話してただろ」

いろは「えぇ、でも、やっぱり無理なんですよ。だって――」

いろは「――今の私に、好きな人はいないんですから」



483: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/27(土) 02:32:18.96 ID:7w6gCOcqo

八幡「はぁっ? 葉山はどうしたんだよ。あんなに好き好きアピールしてたじゃないか」

いろは「あれは、葉山先輩を好きになったわけじゃなかったんですよ」

八幡「じゃあ何なんだよ」

いろは「……恋に恋してたんですよ。私は私のステータスの補強のために、恋をしていた。いや、恋をしている振りをしていたんです」

八幡「…………」

いろは「だから……私は、元に戻れないんです」

八幡「んなの……」

いろは「今まで、ご迷惑をおかけしました……」

これで、終わりにしてしまおう。



485: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/27(土) 02:37:34.09 ID:7w6gCOcqo

……おかしい。一見筋が通っているようで、いくつも論理が破綻している。

俺の知る一色いろはなら、元に戻るために何だってする。

もし、葉山の事が好きじゃなくなったとしても、代わりの別の誰かを意地でも好きになって、そこまでしてでも元に戻ろうとするだろう。

なのに、今の一色はそれとは真逆に、諦めようとしている。

そんなの、あり得ない。

俺がこの数ヶ月間見てきた一色は、そんな事をしない。

つまり、結論を言うと、一色いろはは嘘をついている。



487: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/27(土) 02:56:50.38 ID:7w6gCOcqo

一色の態度が急変したのは、ついさっき、俺が由比ヶ浜と話し終えた辺りからだ。そして、その後には雪ノ下とも会って……。

……いや、その可能性を思いつかなかったわけじゃないよ? でもそんなのあり得ないじゃん? あるわけないじゃん? ジャンジャンうるさいな。立体機動上手いのか? てか誰に言い訳してんだ、俺。

あり得ない、あり得ない、あり得ない。

今までの黒歴史を思い出せ、比企谷八幡。俺は何度勘違いして心に傷を負ってきた?

そう、それはただの俺の願望で、ちっとも理論的仮説になり得ないのだ。

……でも、それ以外に今の状況にピタリと当てはまる仮説があるのか?



489: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/27(土) 03:10:02.09 ID:7w6gCOcqo

どうせ今まで数えきれない程の黒歴史を生んできた俺だ。

今更一つ増えたって、何も変わりはしないだろう。

八幡「一色」

いろは「……何ですか?」

八幡「すまない」

いろは「先輩何を……んっ!?」

一色が突然の俺の謝罪に困惑した隙をついて、俺はペンダントにキスをした。



もっと正確に言うと。



俺は、一色の唇を奪った。



491: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/27(土) 03:19:35.08 ID:7w6gCOcqo

冷たい金属の感覚が俺の唇を冷やす。あまりキスをしているような感じがしない。

一秒、二秒、三秒とおいて、ゆっくりと唇を離す。

ペンダントの中を見ると、顔を真っ赤にして俺を睨む一色がいた。

いろは「先輩……! 何やってるんですか……!」

その声は怒りで震えている。

いろは「どうして、私が必死でついた嘘も、先輩は……!」

八幡「……そりゃ――」

言いかけたその時、ペンダントが光り始めた。

いろは「何ですか……これ……!」

八幡「くっ……まぶし……っ!!」

光の強さはどんどん増していく。もう、目を開けてられない。

目をつぶる直前に、何かが割れるような音がした。



493: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/27(土) 03:33:45.03 ID:7w6gCOcqo

いろは「先輩……先輩……!」

声が聞こえる。その声は確かに一色の声なのに、どこか違う気がした。

ゆっくりと目を開く。

いろは「先輩……」

目の前には、一色いろはの姿があった。彼女はもう、ペンダントに閉じ込められておらず、その身体は前までのようにペンダントの外にあった。声が違って聞こえたのはこのせいか。

八幡「一色……、元に、戻れたのか……?」

いろは「みたいです」

ふと、足元を見ると、そこにはさっきまで一色が入っていたペンダントが壊れて転がっている。

八幡「…………」スッ

屈んでそれを拾い上げて、一色の方へ向き直る。

八幡「……悪かったな」

いろは「本当ですよ。いきなりなんて、酷すぎます」

八幡「だから悪かったって」



495: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/27(土) 03:47:38.34 ID:7w6gCOcqo

いろは「本当に悪いと思ってます?」

八幡「ああ、今すぐ土下座でもできるレベル」

いろは「なら……『見て見ぬ振り』、『気づいていて気づかぬ振り』をしないでくださいよ」

八幡「…………」プイッ

俺がペンダントにキスをする事によって、一色は元に戻れた。これが何を意味するか、わからない俺ではない。

あのペンダントの呪いが解けるのは、呪いの対象者が行為を抱いている相手がキスをした時のみ。つまり――

八幡「……っ!」カァァ

いろは「顔を真っ赤にしたいのはむしろ私の方なんですよ!?」



497: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/27(土) 04:04:31.99 ID:7w6gCOcqo

それが何を意味しているかはわかる。ただ、どうすれば良いのかがわからないのだ。

だから、とりあえずさっきのが恥ずかしくて、目を逸らす。

いろは「はぁ……先輩……」

八幡「……おう」

いろは「私、さっきのが初めてだったんですよ」

八幡「へぇ……。……えっ?」

いろは「えっ、そういう反応なんですか?」

八幡「いや、ゆるふわビッチだしそれくらい経験あるのかと」

いろは「私は別にビッチとかじゃないですからね!?」



502: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/27(土) 10:30:01.56 ID:BsEW25KCo

いろは「だから……」

一色は一歩、俺に近づき、両手を俺の胸に当てる。その距離はほぼくっついていると言っていい。

八幡「な……何だよ……」

いろは「責任、とってくださいね?」

そう言うやいなや、今度は一色が俺にキスをした。

一色の唇は、想像以上に柔らかく、そして、温かい。

あまりの衝撃に俺は動けなくなってしまった。

永遠とも思える一瞬が過ぎ、一色の唇が離れる。

それと同時に一色は一歩下がった。その目はまっすぐ俺を見つめている。

手を後ろに組んで、頬を染めながら、彼女はこう言った。

いろは「……お返しです♪」

その表情は太陽よりも輝いた、満面の笑顔だった。



505: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/27(土) 10:58:14.69 ID:gLF/kDq3o

比企谷。俺がお前に話した事には一つ嘘がある。

あのペンダントの呪いを解くには、呪いの対象者が好意を持っている相手でないといけない言った。それが嘘だ。

本当に必要な条件は、二人がお互いに好き合っている事、つまり両想いである事だ。

お前はあの時、俺を騙しきったと思い込んでいたようだが、もちろんそんな訳があるわけないだろう?

今回の件からお前が得るべき教訓は、詐欺師を騙そうとするなど、神への冒涜にも等しいということだ。

まぁ俺は神など信じていないがな。



世にも
奇妙
な物語



507: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/27(土) 11:04:56.18 ID:gLF/kDq3o

テッテッテレレーテレレーテレレー

テッテッテレレーテーンテレーン

タモリ「人を想う感情」

タモリ「その力は私たちが普段思っているよりもずっと強大なものです」

タモリ「よってその力により訪れる結末は様々です」

タモリ「あなたもその強大さの波に溺れてしまわないように」

タモリ「お気をつけて」ニヤリ

テレレッテッテレレーテッテッ

テレテッテッテッテッテレレレレーレー

テッテッテレレーテレレーテレレ

テーンテレレレレレン



516: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/27(土) 14:31:56.22 ID:fEov8AKGo

タモリ「この一月以上に渡ってお送りしてきた『世にも奇妙な物語』」

タモリ「いかがだったでしょうか?」

タモリ「一人の少年が迷い込んだ六つの世界」

タモリ「そのどれもが現実ではあり得ないと思われがちですが」

タモリ「事実は小説よりも奇なり」

タモリ「ふとした小さなつまづきから、そんな奇妙な世界に迷い込んでしまう事もないとは言い切れません」

タモリ「その扉は、あなたのすぐ隣にもあるのかもしれませんから」

タモリ「それでは、また」





517: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/27(土) 14:33:24.98 ID:fEov8AKGo

ストーリーテラー

タモリ



『世界は、材木座で出来ている』



比企谷八幡


材木座義輝


雪ノ下雪乃


由比ヶ浜結衣


戸塚彩加




材木座義輝×72億(友情出演)


脚本 作者




『白』



比企谷八幡


川崎沙希


由比ヶ浜結衣


三浦優美子


葉山隼人




平塚静


脚本 作者



518: ◆.6GznXWe75C2:2014/09/27(土) 14:34:23.25 ID:fEov8AKGo

『彼と彼女がそれに気づくまでの物語』



比企谷八幡


一色いろは


葉山隼人


比企谷小町


雪ノ下雪乃


由比ヶ浜結衣


阿良々木暦(友情出演)




貝木泥舟(特別出演)


脚本 作者




スペシャルサンクス


ここまで読んでくださった皆様


前スレから読んでくださった皆様


連投のできない作者のために支援レスをしてくれた皆様


俺ガイルという素晴らしい作品を世に生み出してくださった、渡航大先生


これまで俺ガイルSSというジャンルを作ってきてくださった、全ての俺ガイルSS作者様


総監督 作者


終わり



転載元
八幡「やはり俺の世にも奇妙な物語は間違っている」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1408285329/
八幡「やはり俺の世にも奇妙な物語はまちがっている」いろは「特別編ですよ、先輩!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1410267660/

  • 今週の人気記事
  • 先週の人気記事
  • 先々週の人気記事

        記事をツイートする

        記事をはてブする

         コメント一覧 (29)

          • 1. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年09月27日 18:45
          • 他作品キャラ出すなら書いといてくんない?
          • 2. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年09月27日 19:22
          • 4 他作品のキャラの注意書きが欲しかった。
            でも面白かった。
          • 3. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年09月27日 19:30
          • 5 最後だけ単体でクロスSSとして出した方がよかった気がするわ。
            それだけでも十分面白いし、見る側も納得するだろ
          • 4. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年09月27日 22:31
          • ああ、でもお前はそれさえも見通していたんだろ、貝木。
          • 5. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年09月27日 23:00
          • なんともいい話だったぜ。
          • 6. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年09月27日 23:07
          • いろはの話超よかった!いろはかわええー!
          • 7. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年09月28日 00:39
          • 早く二期こないかなー
          • 8. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年09月28日 01:13
          • よくこんなん思い付くな
          • 9. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年09月28日 01:36
          • 5 面白かった
            SSとしても巧いと思うが何よりストーリーが素晴らしい
          • 10. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年09月28日 01:36
          • よかった
            読みやすかったし
          • 11. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年09月28日 02:42
          • 5 出来の良さが半端ない。
            気づけば夜中まで読んでた、責任とれww
          • 12. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年09月28日 10:14
          • いろはすかわいい
          • 13. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年09月28日 11:47
          • いろはの話は素晴らしかった
          • 14. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年09月28日 13:11
          • 再現度も高いし原作のように批判することで他者より優位にたってる八幡じゃないのはストレスなく読める
          • 15. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年09月28日 13:16
          • ※14
            思ってないかもしれないがパロディーが連想ゲームじゃなく笑いを取りにいってるのもいいよな
            進撃のパロだろうが「破けちゃうだろ!」は面白かった
          • 16. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年09月28日 22:23
          • いろはのやつは素晴らしかったな
            あれで一本のSSとしてまとめて欲しいレベル

            最初の材木座のやつ・・・
            なぜ材木座をチョイスしたし・・・
            悪夢以外の何物でもない・・・
          • 17. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年09月30日 00:48
          • 最後のいろはすの話はめちゃくちゃ良かった。
          • 18. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年09月30日 04:34
          • いろはす~
          • 19. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年09月30日 08:06
          • 結局いろは可愛いということですね!
          • 20. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年09月30日 10:14
          • 増える材木座








            増殖する材木座
          • 21. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年09月30日 23:28
          • 貝木とありゃりゃぎさんは予想外だったな……

            乙。面白かった!!

            あと材木座×72億はガチで怖いwww
          • 22. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年10月26日 08:32
          • 朝起きて俺の母親が
            材木座だったら...
          • 23. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年11月08日 13:38
          • ※22
            なにそのラノベwww
          • 24. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年11月24日 04:23
          • 5 文才あるな。かなり楽しめたよ、乙。
          • 25. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年11月28日 02:17
          • 俺ガイルssで50コメント超えてるのがいっぱいあるのに、何でこれがこんなに少ないんだ。
            こういうのこそを皆見るべき
          • 26. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2014年12月12日 00:41
          • 皮シャキシャキさん?に引きずり込まれるより材木座x72億の世界のほうがはるかに怖い

            いろはすのSS特に良かった
            貝木さんって格好いいのな
          • 27. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2015年06月04日 15:32
          • 他とクロスするのに注意書きしてないのはいかんでしょ
          • 28. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2015年10月23日 15:30
          • 5 すごいいい
          • 29. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2015年10月27日 01:09
          • この世界の阿良々木君、八九寺でも救って引かれたの?カゲロウデイズみたいに

        はじめに

        コメント、はてブなどなど
        ありがとうございます(`・ω・´)

        カテゴリ別アーカイブ
        月別アーカイブ
        記事検索
        スポンサードリンク
        スポンサードリンク

        • ライブドアブログ
        © 2011 エレファント速報:SSまとめブログ. Customize by yoshihira Powered by ライブドアブログ