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禁書「イギリスに帰ることにしたんだよ」 上条「おー、元気でなー」【その5】

関連記事:禁書「イギリスに帰ることにしたんだよ」 上条「おー、元気でなー」【その4】





禁書「イギリスに帰ることにしたんだよ」 上条「おー、元気でなー」【その5】






733: ◆ES7MYZVXRs:2013/07/16(火) 17:31:12.67 ID:wF64hV+jo

***



どれほど歩いただろうか。

雪は止む気配を見せずに、ゆっくりと、しかし絶え間なく二人に降り注ぐ。
上条とインデックスは、ザクザクと新雪を踏み固めながら、崖沿いに歩いて元の場所へと戻る手段を探っている。

しかし、どれだけ歩いても二人の視界を遮る高い崖。

「……はぁ、こりゃマジでレスキュー隊とか来てもらわねえとダメっぽいなぁ。ケータイもぶっ壊れちまったし」

「私が魔術を使えればこのくらいひとっ飛びなのに」

「それって俺も一緒に抱えて飛べたりするのか?」

「あー、とうまはその右手があるからね。でも、触れないように気をつければなんとかなるんじゃないかな。まぁいくら言っても仕方ないけど」

インデックスもうんざりしたように、上空に向かって白い息を吐く。

「あの子は大丈夫なのかな。ちゃんと待ってるように言っておいたけど」

「信じるしかねえな……ついでに助けを呼んでもらえれば助かるんだけどな」

「うん……でも私達が居ないって知ればみこと達もきっと動いてくれるんだよ」

「あぁ、そうだな。流石に俺らがいなくなってスルーするほど薄情じゃねえはずだ」

美琴や食蜂はもちろん、一方通行や垣根なんかも何だかんだ二人が行方不明だと知れば探してはくれるはずだ。
一緒に来ている者達の中にはレベル5が五人もいる。それだけで大抵のことはどうにでもなってしまいそうだから頼もしいものである。
敵に回ると相当厄介な相手だが、味方になってくれればこれほど頼もしい者たちもいない。

ただ、助けてもらえることを考えると、あまり動かない方がいいのだろうか。
しかし、今更最初の場所に戻れと言われても難しいだろうし、何よりこんな大雪の中でただじっとしているのはキツイ。
コースへ戻る手段がないにしても、せめてどこか雪をしのげるような場所はないだろうか、と上条は首を回す。

「おっ」

「どうしたの、とうま?」

「とりあえずあそこで大人しくしてようぜ。自力で助かるのは無理っぽいし」

上条が指さした先。
そこは崖に入った亀裂のような洞窟で、人が何人かは余裕を持って入れそうなものだった。
こういったものは今まで見たことがなかったが、意外にあるものだと少し感心する。

対してインデックスは少し心配そうな表情で、

「……冬眠中の熊とかいないかな?」

「い、いやな事言うなよ……」

ありえなくないというのが何とも不安だ。
とりあえず上条はインデックスを外で待たせて、洞窟の中へと入ってみる。

まぁここで本当に熊が居て襲い掛かられたらおそらくアウトだ。
今まで何度も超能力者や魔術師との戦いを経験して生き残ってきた上条当麻は、熊に食われるという悲惨な結末を迎えることになる。
異能の力であれば何でも打ち消すこの右手も、野生動物の牙や爪の前では全くの無力だからだ。

ビクビクしながら暗い洞窟の中を探ってみる上条。
そこまで奥深いわけではないらしく、少し歩くとすぐに行き止まりになっていた。

その時。

「だ、大丈夫そうだね」

「うひゃぁぁっ!?」

突然真後ろからかけられた声に、上条は何とも情けない声を上げてビクッと全身を震わせる。
いつの間にかインデックスがピッタリ背後についてきていた。



734: ◆ES7MYZVXRs:2013/07/16(火) 17:31:50.08 ID:wF64hV+jo

「イ、インデックス!? な、ななな何で来てんだよ……」

「びっくりした…………とうまを一人で行かせるのは心配だからこっそりついてきたんだよ。たぶん正直にそう言っても聞かないだろうから」

「……はぁ、相変わらず言うこと聞かねえなお前も」

「それはとうまも同じかも。でも、どうやら熊も居ないみたいだし、ゆっくりできそうだね」

インデックスはにっこりとそう言うと、ゴーグルと一緒に頭の帽子を外す。
その後彼女が小さく頭を振ると、サラサラな銀髪が静かに揺れた。まるでそれは暗い洞窟を照らす明かりのようにさえ見えた。

上条も同じようにゴーグルと帽子を外すと、適当な場所にドカッと座り込んだ。
するとすぐ隣に彼女も腰を下ろす。かなり近い。もはや体が触れ合うくらいだ。

「インデックスさん、少し窮屈な感じがするのですが」

「こっちの方が暖かくていいんだよ。もしかしてとうま、ドキドキして落ち着かない?」

「そ、そんな事ねえよ!」

妙に余裕を持った表情でそんな事を言われれば、上条も強がるしかない。
しかし実際は女の子特有の体の柔らかさに、見事に胸の鼓動を早くしているのだった。

(……あれ?)

ここで上条は首をひねる。
何かがおかしい気がする。いや、スキーに来て遭難してるこの状況が十分異常事態である事は分かっているのだが。
それ以外で何か、自分の中で矛盾のようなものがあるような。

「とうま? どうしたの、珍しく難しい顔をして」

「人をいつも脳天気な奴みたいに言うのはやめなさい。俺だってたまには悩む」

「自分でたまにって言ってるじゃん」

「ぐっ……いや、別に大したことじゃないんだけどさ。何か引っかかるっていうか……」

「引っかかる? あー、そういえばとうま、明後日何かあったようなとか言ってたね。私の事以外で」

「へ? あ、いや、たぶんそれじゃねえと思うけど……まぁそれはそれで確かに引っかかる事ではあるんだけどな……」

「それ以外でって事? なに、とうまって意外と悩み多き男の子なの?」

「意外とってなんだ意外とって」

インデックスと言葉をかわしながら、上条は上条で少し頭をひねってみる。
彼女に言われて思い出したが、明後日に何かがあったような、という事も確かに心に引っかかる事の一つだ。
まぁ言われるまで忘れてたという事はそれほど重要な事ではないのだろうが。

一方で、先程感じた違和感は大事なことのように思える。
具体的にそれが何かとは言えないので根拠は全くないのだが、感覚的なもので、だ。

それから少しの間俯いて無言で考え込んでいると、インデックスがぼんやりと洞窟の天井を見上げながら、

「うーん、明後日何かあるんじゃないかっていう方は色々予想できるんじゃないかな。例えば何かの記念日とか」

「記念日……ねぇ。世間一般的には何もないと思うけどなぁ、学園都市の行事も特にないだろうし」

「それじゃあもっと個人的なものとか。うーんと、例えば……」

それを聞いた瞬間、上条はバッと顔を上げた。

「そうだ。それだ」

「思い出したの?」

「あぁ、明後日って俺の誕生日だ。確か」

「…………たぶんもう二度と自分の誕生日を本気で忘れる人には出会わないような気がするんだよ」

インデックスは呆れた表情をこちらに向けてくる。
しかし、これは仕方ない部分だってある。いくらなんでもこの年で自分の誕生日を全く意識しない程上条は年寄りじみてはいない。



735: ◆ES7MYZVXRs:2013/07/16(火) 17:32:46.23 ID:wF64hV+jo

上条は溜息と共に頭をトントンと指差すと、

「記憶だ記憶。ほら、俺って記憶なくて初めは自分の名前も分からなかったくらいだしさ、当然誕生日も覚えてなかったんだ。
 その後の生活で何だかんだ書く必要がある時とかあったから確認はしたけど、なかなか覚えられなくてな」

「あっ、そっか。ごめん」

「いや、いいって。インデックスだって同じようなもんだろ?」

「うん、それはそうだけど……私っていくつくらいに見える?」

「んー、小萌先生の例もあるしなぁ。とりあえず見た目だけなら俺より少し下って感じじゃねえか?」

「むっ、なんだか気に入らないんだよ。確かに見た目がちょっとだけ子供っぽいっていうのは認めるけど、人間大事なのは中身かも」

「じゃあ小萌先生みたいに実はいい大人だって?」

「……それはそれでちょっと」

「だろ? 女の子は若いほうが何かと得だと思うぜー。あ、今の小萌先生には絶対に言うなよ」

念の為に釘を差しておく。
もしこんな事を本人に言えばそれはそれはショックを与えてしまうだろうし、それがクラスメイトなんかにバレたら確実に処刑されるからだ。
そもそも上条の出席日数がギリギリで、補習までして何とか進級させようとしてくれる先生にそんな仕打ちはできない。

そこら辺の事情を知ってかどうかは分からないが、インデックスも苦笑いを浮かべながら頷く。

「それにしても、とうまの誕生日かぁ。お祝いしないとね!」

「いや別にいいって。それよりその日はインデックスが学園都市に居る最終日だろ? そっちの方が大事だ」

「流石にその日が誕生日の人にワガママばかり言えるほど私も図太くないかも。こういう時は素直に受け取っておくんだよ。
 みこととかみさきも呼んでどこかでパーティでもしようか? 他にも呼べばたくさん集まると思うんだよ!」

「はは、そんな大袈裟な。だいたい、インデックスはそれで満足なのか?」

「そんなの当たり前なんだよ!」

にっこりと満面の笑みを浮かべて即答するインデックス。
その笑顔は暗い洞窟ではとても眩しく、それでいて暖かくて上条の頬を緩ませる。

そうだ、彼女はいつだって上条のことを想ってくれる。
だから、誕生日だという事を話せば、自分のことよりも優先して祝ってくれようとするのは不思議ではないだろう。

少し失敗したなぁ、と思う上条。
上条としては最後の日くらい、自分のことよりもインデックスのために何かしてやりたい。
誕生日なんていうのはこれから何度もくるものだが、彼女が学園都市に居られる日というのは、もしかしたらその日で最後になる可能性だってあるのだ。

しかし、すぐに頭を振る。
そんな事を考えるのは自分らしくない。彼女がもう学園都市に来られなくなるなんて事は万に一つにもありえない。というか、そんな事にはさせない。
少なくとも年に一度の誕生日よりかは多く来られるようにはしてみせる。

「それじゃあ祝ってもらおっかな。プレゼント期待してるぜ公務員さん」

「ふふ、分かった。楽しみにしていてほしいんだよ」

洞窟の外は雪が止む気配はなく、この中の気温も決して暖かいとは言えない。
しかし、上条にとってはこうして彼女と寄り添って笑顔で話しているだけで、そんな寒さなど気にならなかった。



736: ◆ES7MYZVXRs:2013/07/16(火) 17:33:31.66 ID:wF64hV+jo

***



美琴と食蜂は大騒ぎだ。

「だあああああああ!!! アンタなんかの練習に付き合ってたらあのバカ達見失っちゃったじゃない!! ケータイも通じないし!!」

「う、うるさいわねぇ!! 今それを行っても仕方ないでしょぉ!?」

二人がどこかに消えた。
それは彼女達にとって深刻な状況であり、分かりやすく言えばインデックス抜け駆け疑惑が浮上しているわけだ。

食蜂はギリギリと手袋を噛んで、

「ぐぅぅ、油断したわぁ。もしかして昨日の言葉とかも全部ウソってわけぇ? まさかこのまま駆け落ちっていう可能性も……」

「か、駆け落ちっ!?」

「世界の都合力で離れ離れにされそうな二人は、そんな運命に抗ってどこか遠くへ逃亡してしまう。映画なんかではありきたりでベタベタのパターンよぉ」

「うそ……」

美琴はまさに絶望しかない表情を浮かべた。

それはつまり上条がインデックスを選んだという事であり、自分の初恋は見事に砕け散ったという事になる。
まだ恋愛経験豊富とは言えない少女にとって、初めての失恋というものはとてつもなく大きなダメージだ。
これからどう生きていけばいいのか、もはやそのレベルまで追い詰められる。完全に不意打ちの形だったという事も大きい。

しかし、食蜂はウインクしてクスリと笑みを浮かべると、

「冗談よ冗談。インデックスさんはともかく、上条さんに関しては昨日私が心に干渉したけど、駆け落ちを企むなんていう情報は出てこなかったわぁ」

「……は?」

「大体、いくら何でも超展開すぎるでしょぉ。これだから御坂さんはお子様……いだだだだだだだだだだ!!!!!」

言葉の途中で、美琴は食蜂の頭にグリグリと両拳をめり込ませた。無表情で。
食蜂にとっては、スキー練習で散々しごかれた鬱憤を晴らそうとしただけなのだが、想像以上の仕打ちが待っていたわけだ。

美琴はひとしきり食蜂の頭をゴリゴリとして、ようやく解放する。
彼女は相当痛かったのか完全に涙目で睨んでくるが、そんなものは関係ない。むしろまだまだ気が済まないくらいだ。
そのくらい美琴は本気で落ち込んだのだ。

「くだらない事してる暇あったらさっさと探すわよ。どうせまたろくでもないトラブルに巻き込まれてるに決まってる」

「いたた……まぁ、そこは同意だけどぉ」

食蜂はそう言うと、ウェアからリモコンを取り出した。
本当にどこにでも携帯しているものだ。まぁ、これは彼女の能力にとって重要なアイテムではあるので理解はできるが。

むしろ、美琴からすればリモコンを携帯していることよりも、ここで取り出した事の方が突っ込むべき所だった。

「おいアンタまさか」

最後まで言い切る前に、ピッという電子音と共に、美琴の頭の近くでバチンッと火花が散った。
食蜂の洗脳能力を、美琴の電磁バリアが弾いたのだ。

美琴はしかめっ面で頭を押さえて、

「いったぁ……アンタねぇ……!!」

「あ、ごめんなさぁい。御坂さんが近くに居るのすっかり忘れてたわぁ」

「ウソよね!? アンタ絶対わざとでしょうが!! つかその前にむやみやたらに洗脳なんかしてんじゃないわよ!!」

そう言って美琴は周りを見渡す。
もちろん、この場には美琴と食蜂が二人きりで居るわけではない。辺りには同じような旅行客が何人も居て、それぞれスキーやスノボを楽しんでいた。

少し前まで、は。

今は全員動きを止めており、美琴達を見ている。まるで、指示を待っているかのように。端から見れば何とも不気味な光景だ。
もちろんこれは食蜂の能力によるものであり、彼らの目にはキラキラとした輝きが見える。



737: ◆ES7MYZVXRs:2013/07/16(火) 17:34:11.27 ID:wF64hV+jo

食蜂は全く悪びれる様子もなく微笑むと、

「今は非常事態よぉ。雪も結構降ってるし、こんな中でどこかで迷子になっていたら、二人共凍えちゃうわぁ」

「それは……そうかもしれないけど」

「ふふ、大丈夫よぉ、この人達の記憶は後で都合の良いように改ざんしておくから。バレなきゃ良いのよぉ、バレなきゃ」

「アンタ本当に手段を選ばないわね。まぁ、アイツを見つけるためってんだからそこまで強くは言わないけどさ」

「そりゃもう、私って一途だしぃ?」

食蜂は何故か得意気にそう言うと、腕を一度軽く振って合図を出す。
すると、周りに居た者達が一斉に四方八方へと散らばっていく。

美琴はその様子を腕組みしながら眺めて、

「全員で探させるの? あんまり危ない場所まで行かせるんじゃないわよ」

「流石にそこまでさせないわよぉ。それに、何人かは上級者コースの方へ送ったわぁ。たぶんあの人達も言えば手伝ってくれるんじゃないかしらぁ」

「……手伝うかな?」

「……たぶん」

そこは食蜂も自身が持てないらしい。

浜面なんかは案外人が良い方なので引き受けてはくれるだろうが、残りのレベル5は分からない。
そもそもレベル5なんていうのはそんな簡単に扱えるような人種ではなく、一癖も二癖もある……というか社会常識から危ないレベルの者が何人も居る。
ただ、美琴自身もレベル5の一人ではあるので、そのくくりであまり悪くは言いたくない所ではあるが。

まぁ、こんな事をいつまでも考えていても仕方ない。
とりあえず、美琴もそろそろ動くことにする。食蜂が操る者達よりも先に見つけられれば、それはそれで気分がいい。



***



「上条とシスターさんが消えたぁ!?」

食蜂が操る一般人から事情を聞いた浜面は目を丸くする。
近くには一方通行、垣根、麦野のレベル5三人も居るので、話は伝わっている。

その三者の反応は様々だ。

「ったく、相変わらず何かしらのトラブルに巻き込まれねェと気が済まない奴だな」

「よし一方通行、どっちが先に上条を見つけられるか勝負だ。負けた奴は土下座な」

「なンだ、土下座してェのかお前」

「あ? おいテメェ余裕ぶっこいてんのも今のうちだぞ」

「うっさいわね、あんたら。つーか、その二人でいなくなったんなら別にそこまで必死に探さなくてもいいんじゃないの。もしかしたら私達邪魔かもしれないじゃない」

麦野の言葉に、浜面はなるほどと考える。
しかし、それを聞いた操られた一般人がすぐに反応した。

「それでも本当に危ないことになってる可能性だったあるじゃなぁい! 上条さんの不幸体質の事を考えても、真剣に探すべきだわぁ!」

「それ大分私情入ってるわよね?」

「ぐっ……い、いや……そんな事は……」

目の前に居る一般人はどう見ても男……というかおっさんなのだが、食蜂が操っている為にこんな話し方になっている。
本人には心底申し訳ないとは思うが、感想としてはとてつもなく気色悪い。もし本当にこんな話し方をするおっさんが居たら、色々とこの人の人生を心配するところだろう。



738: ◆ES7MYZVXRs:2013/07/16(火) 17:34:44.57 ID:wF64hV+jo

すると麦野は小さく溜息をついて、

「……はぁ、分かった分かった、手伝ってやるわよ。丁度暇してたとこだし、良いゲームにはなりそうだ」

「ゲーム?」

浜面が首を傾げると、麦野はニヤリと嫌な感じの笑みを浮かべて、

「あぁ、ゲームだ。もちろんメインは負けた時の罰ゲームで……そうだな、一番最初に見つけた奴は他の三人に何でも言うことを聞かせることができる」

「くっだらねェ。そンなに言いなりになりてェか、マゾなのか?」

「よっしゃあ!! おい一方通行、俺が勝ったらテメェは全裸で旅館の中ダッシュさせてやるから覚悟しろよ!!」

「ちょっと待てえ!!! これ明らかに俺不利だよね!? 一応言っておくけど俺無能力者なんですけど!?」

「はいヨーイドン」

浜面の必死な言葉には耳も貸さず、無常にもスタートを合図する麦野。
その瞬間、一方通行も垣根も麦野もやる気満々に一斉に散っていく。

取り残される浜面。
そんな少年をあざ笑うかのように、立ち止まっていると頭や肩に雪がどんどん積もっていく。

そして。


「ふざけんなあああああああああああああああああ!!!!!」


ゲレンデには一人の男の悲鳴が響き渡っていた。



***



上条とインデックスが落ちたことを知った少女は、林のすぐ外で震えていた。

大変なことになってしまった。
すぐにでも助けに行きたかったのだが、自分では何の力にもならない。だからせめて人を呼ぼうと思っていた。
ケータイで既に両親には連絡をした。これで助けは来るはずなのだが、それでも時間がかかる可能性だってある。

今の自分には、ただ祈ることしかできない。

そんな時だった。

「おい」

「ひっ!」

「あァ、なンだその顔は。この辺りで黒いツンツン頭と銀髪の女を……って帽子かぶってるから分かンねェか……」

「あ、あの……」

「何でもねェよ」

真っ赤な目をした男はそれだけ言うと、どこかへ滑り去って行く。
その恐ろしい形相は、小学生の女の子を震え上がらせるには十分だった。
それだけに、打ち止めやフレメアがどれだけ肝が座っているのかというのが分かる。少女は知る由もないのだが。

どうやら人探しのようだったが、今の自分にはそれに協力するほどの余裕はない。

すると。

「よっ。この辺りで何かおかしな事とかなかったか?」

「えっ……」

続いて現れたのは爽やかな笑顔を浮かべたイケメンだった。
その顔は「女なんて簡単だ」と言わんばかりの余裕を持っているのが分かる。

少女は一、二歩後ずさった。
両親に言われたことがある。「感じの良さそうなイケメンには近付くな」。
その防衛本能が働いたのだ。



739: ◆ES7MYZVXRs:2013/07/16(火) 17:35:30.04 ID:wF64hV+jo

そんな少女にイケメンは困ったような表情で、

「あー、なんかしたか俺?」

「いえ……別に……」

「……分かった分かった、悪かったな急に話しかけて。くそっ、一方通行の奴、もう見つけてるとかねえだろうな……!!」

イケメンは何か焦っている様子でこの場を去っていく。
少女は一度息をついた。少し緊張した。イケメンは苦手だ。
まずあの余裕ぶった態度が気に入らない。こっちはイケメンというだけでドキドキするのに。

それから少しして、また人が通りかかる。
今度はイケメンではない、ただのチンピラだった。

「あっ、なぁそこの子! この辺で黒いツンツン頭のお人好しと、銀髪碧眼のシスターさん見なかったか?」

「みんな帽子かぶってるからツンツン頭とか言われても分かりませんよ」

「……それもそうだな」

小学生である自分に指摘されるのはどうなのか、と少女は少し呆れる。
だが、油断はできない。こんな茶髪で人相も悪い、明らかに不良だと思われる人には近づいてはいけないと両親にも言われている。

そんな少女の警戒心しかない目を見て、チンピラは気まずそうにする。

「えっと……いや、もしかして誤解してる? 俺ってそんな悪いやつじゃねえよ? むしろ幼女の味方ってやつだ!!」

「…………」

「はいごめんなさい、今すぐ消えますからケータイでどこかに連絡しようとするのはやめてください」

チンピラはそう言うと、慌ててどこかへ行ってしまった。

なんだか、一人になるとやけに絡まれるものだ。こうしてみると側に両親が居ることのありがたみを実感する。
両親と会ったら素直に謝れるだろうか、と少女は考える。いや、しかしこちらの言い分も少しは聞いてもらわなければ困る。
大体、親は過保護すぎるという節もある。一人娘が大切なのだという事は何となくは分かっているのだが、やられすぎても息が詰まる。

少女はそんな事を考えながら、口を尖らせる。
雪は相変わらずゆっくりと、それでいて絶え間なく降り続いている。

……少し心細いというのは気のせいだ。

そんな時。

「うーん……中々見つからないわねぇ。一体どこまで行っちゃったのかしらぁ」

おじさんだ。変なおじさんが居る。なんか妙に目がキラキラしている。

この日最大の危機を感じる。
あれは本物の不審者だ。話しかけることはもちろん、目を合わせてもいけないタイプだ。
少女は顔を引きつらせて、なんとかスキー板を履こうとする。こんな状況でも、走るより滑った方が速いという事くらいは考えられた。

おじさんがこちらを見た。

「あっ、ねぇねぇ、ちょっといいかしらぁ?」

「いやあああああああああああああ!!!!!」

もう涙目だ。
おそらく人生最大のピンチに、少女はたまらず滑り出す。
とにかく距離を取らなければいけない。捕まったらどうなるか、考えるだけでも恐ろしい。

しかし、少女は滑りだすのに夢中で、ろくに前方を見ていなかった。
ゆえに、すぐに何者かに正面からぶつかってしまう。

「きゃっ!!!」

「おっとと。ちょっと、前見てないと危ないわよ」

目の前に居たのは綺麗なお姉さんだった。
普通の人達とは違う空気を持っていて、言うなればどこかのお嬢様のような。



740: ◆ES7MYZVXRs:2013/07/16(火) 17:36:32.37 ID:wF64hV+jo

少女は慌てて頭を下げる。

「ご、ごめんなさい! でも、その、あの人が!!」

「あん?」

お姉さんは怪訝そうな声をあげた。最初のお嬢様みたいだというイメージが少し壊れる。
少女がお姉さんの後ろへと隠れると、先程のおじさんが近寄ってきた。恐怖で思わずお姉さんのウェアをギュッと握る。

「あ、麦野さぁん! そっちは何か手がかりとかあったぁ?」

「……あー、そういう事か」

「へっ…………きゃあ!!!」

なんとお姉さんは片腕でおじさんを掴むと、思い切り投げ飛ばした。
お嬢様みたいだというイメージに更にヒビが入る。

おじさんは雪まみれになりながらよろよろと立ち上がる。ウルウルと涙目なのがとてつもなく気持ち悪い。

「な、何するのよぉ……私の体じゃないけどビックリするじゃなぁい!!」

その言葉に対して、お姉さんは無言で親指を使って少女を指し示す。
そしてその後、人差し指でおじさんの顔を指した。

少女にはよく分からない動作だったが、おじさんには伝わったらしい。
おじさんは何か合点がいった様子で、ポンッと手を叩くと、

「……なるほど、確かにこれじゃただの不審者ねぇ。うっかり失念してたわぁ」

「うっかりで他人の人生壊しかけるっていうのも怖いものね」

何か二人で納得している様子ではあるが、少女からしてみれば全然安心できない。
するとおじさんがニコニコと笑顔を見せながら話しかけてきた。

「あー、ごほん! それじゃあ改めて質問するが、君は何かおかしな者を見たかね? 例えばトラブルに巻き込まれてそうな男女とか」

「…………」

「……あ、あれ?」

「あのさ食蜂、いきなりキャラ変えても気持ち悪いことに変わりないわよ」

そんな当たり前のことを指摘され、おじさんは悔しそうにお姉さんの方を見る。

確かに元の女言葉よりはまだおかしくはない。だからといって、先程まで話していた言葉遣いが無かったことになるわけではない。
もう既に少女の中では、このおじさんは会話をしてはいけない分類に入っており、その心のシャッターをこじ開けることは困難なものになっている。

お姉さんは虫を追い払うように、シッシッとおじさんに手を振ると、

「はいはい、じゃあ不審者はどっか行ってなさい。それで、私には教えてくれるかしら? この辺りで何かおかしなものを見なかった?」

「ま、待ちなさいよぉ! なによ自分だけまともな人みたいに装って! 騙されちゃダメよぉ、この人いつまでも人の恋人付け狙うヤンデ」

「殺す!!!!!」

凄まじい轟音と振動。
そしてその元が、お嬢様オーラを持っていたお姉さんである事を理解するのに少しかかった。

いや、もう既に少女の中でお嬢様というイメージは完全に崩れ去っていた。

恐ろしい形相で、白いビームのようなものを連発する彼女は怪物にしか思えない。
しかもそのビームというものがオモチャのレベルではなく、実際にゲレンデの雪を吹き飛ばす程の威力を持っている。

そんなこの世のものとは思えない光景に、少女は涙目で震えるしかない。

「避けんなクソがァァああああああああああああ!!!!!」

「ちょ、ストップストップ!! こんなの当たったら私じゃなくて、このおじさん死んじゃうってばぁ!!」

この大惨事をどうするか。
いや、少なくとも少女にはどうしようもない。
これは嵐のようなものだ、自然災害だ。収めようとして収まるものなどではなく、ひたすら過ぎ去るまで耐えなければいけない類のものなのだ。



741: ◆ES7MYZVXRs:2013/07/16(火) 17:37:22.68 ID:wF64hV+jo

そうして縮こまっている少女の前に、また一人の少女が現れた。
年はおそらく自分と一番近い、中学生くらいだろうか。よく整った顔立ちであり、どこかカッコ良さも併せ持っている感じだ。

「何やってんのよアンタ達!」

「あ、御坂さん助けてぇ!」

「邪魔すんな!! 今すぐこいつは消し飛ばす!!!」

「やめなさいっての」

イケメン少女は溜息をつくと、なんと片手でお姉さんのビームを逸らしてみせた。
これには少女も目を丸くする。自分の頭の追いつかない人物が更に増えた。

だが、こちらのイケメン少女の方がどこか安心するような感じはする。
尖っている所が少ないというか、自分のような普通の人間とも関わりあう方法を知っている。そんな気がした。

ぼーっと見ていると、イケメン少女の説得で何とかこの場はだんだん収まってきているらしい。
そしてお姉さんの方がもうビームを撃たないことを確認すると、笑顔でこちらに振り返る。

「ごめん、ビックリさせちゃった? あのさ、私達ちょっと人探ししてて、何かマズイことに巻き込まれてそうな男女二人組とか見なかったかな?」

少女は正直に首を縦に振って話し始めた。



***



ザクザクと雪を踏み固める音が辺りに連続する。
コースを外れた林の中。絶え間なく上空から降ってくる雪に視界をごまかされながらも、どんどん奥へ進む美琴、麦野、食蜂のレベル5女子陣。
食蜂は操っているおじさんの方ではなく、本人が直接来ていた。そこら辺は気持ちの問題なのだろう。

やがて、何かを見つけたらしく、三人は立ち止まった。
美琴は思い切りげっそりとした表情を浮かべて、

「……もしかしてここから落ちたんじゃないでしょうね」

目の前には見事な崖があった。
流石に下が見えないというほどではないが、落ちて登ってこられるような高さではない。

麦野は面倒くさそうに頭に手をおいて、上空を恨めしげに見る。

「この雪で、滑り落ちたっていう痕跡もすぐに消されるのがうざったいわね」

「でもぉ、あの子の言い分を聞けばここから落ちたって考えるのが一番自然じゃなぁい? 一向に出てこないのも説明つくし」

「ったく、仕方ないわね」

美琴はそう呟くと、掌を地面に向ける。
すると雪の下から次々と黒い砂鉄が吹き出て、彼女の周りに集まっていく。

「とりあえずこいつで下りてみるわ。麦野も原子崩し(メルトダウナー)使えばいけるわよね?」

「あんたに出来て私ができないわけないでしょうが」

「妙な対抗心持ってるし……じゃ、食蜂はここで待ってなさい」

「ええっ!?」

即座に食蜂は顔全体で拒否の姿勢を示した。
なんだか面倒な事になりそうだ、と美琴はうんざりして尋ねる。

「で、アンタはどうやって下りるつもりなわけ? ここは学園都市の外だし、他に能力者も居ないわよ?」

「……御坂さんなら私一人くらい下ろせるでしょぉ」

「いやよ面倒くさい」

「そんなぁ!! ほら、上条さん達の事考えても、人手は多い方がいいわよぉ!?」

「だあああ、引っ付くな鬱陶しい!!!」

食蜂は懇願して美琴にすがりつく。
てこでも動かないと言わんばかりにガッシリと。



742: ◆ES7MYZVXRs:2013/07/16(火) 17:37:56.14 ID:wF64hV+jo

人一人を崖下まで下ろすのも面倒だが、こうして諦め悪く粘られる方がもっと面倒かもしれない。
そんな事を思い始めた美琴は思い切り大きな溜息をつく。
何か食蜂の思惑通りに事を進められてしまったような気がして、妙に不愉快な気分だ。

「分かった分かった!! 連れてきゃいいんでしょ!!」

「さっすが御坂さぁん!!!」

そんなわけで、三人とも崖下へと下りていく。

麦野は悠々と飛び降りて、原子崩し(メルトダウナー)の噴射で落下スピードを殺して。
美琴は砂鉄をロープ状に変形させて、それを掴んで崖をトントンと蹴って下りていく。
食蜂に関しては同じ事をさせるのは運動能力的に厳しいので、そのまま砂鉄で掴んで無理矢理下ろす。能力の出力的には大きいが、仕方ない。

崖下に着いてみると、やはり落ちたような痕跡は降ってくる雪によって消されてしまっているようだった。
麦野は口元に手を持ってきて少し考え、

「崖沿いに歩いて、どこか登れるところを探した……ってとこかしら」

「そう考えるのが自然ね。けど、崖沿いって言っても二方向ある。手分けしたほうが良さそうね」

正面から崖を見て、右手に行ったのか左手に行ったのか。そういった話だ。
美琴は食蜂の方を見て、

「とりあえずアンタは私達のどっちかと一緒に居たほうがいいわね。二重遭難しそうだし」

「な、なによぉ!!」

食蜂は憤慨するが、本人も同意見なのか、ただ頬を膨らませるだけだ。
すると麦野が、

「それじゃ私が一人で行くわよ。上条達を見つけた時はお互い連絡を取るように」

「あ、うん。分かった」

「……ていうかさ」

麦野はここでじっと二人の様子を見つめる。
その視線はこちらの心の中を探っているかのようで、二人共妙に居心地悪そうに体をよじる。

「な、なによ?」

「昨日で色々動きがあったわけだけど、上条の事はどうするか決めたわけ? まぁ関係ない私に言いたくないなら別にそれでもいいけどさ」

「私はアプローチは続けていくけど、ストレートに気持ちを伝えるのはインデックスさんがイギリスへ行ってからって決めたわぁ。理由まで聞きたいかしらぁ?」

「いや、いい。何となく分かるし。それで、御坂は?」

「……まだ考え中よ」

「そう」

麦野はただ一言そう言うと、さっさと右手の方へと歩き出してしまう。
そして、振り返らずにまた一言。

「例えどんな選択をしようが勝手だけど、“選ばない”っていう選択はやめときなさい」

彼女の言葉はいちいち嫌に重い。美琴はその後ろ姿を見つめながら、そんな事を思った。

だが、いつまでも立ち止まって考え込んでいる暇はない。
今この瞬間にも雪は降り続いており、これ以上視界が悪くなる前に見つけたいところだ。

美琴はさっさと左手の方へと歩き出す。

「行くわよ。さっさと二人を見つけないと」

「分かったわぁ。あと御坂さんは歩きながら色々考えたい事もあるだろうし、話しかけないでいてあげる☆」

それは嫌味ったらしく聞こえても、自分の事を考えてのことだという事くらいは、美琴自身にも何となく分かった。



743: ◆ES7MYZVXRs:2013/07/16(火) 17:38:54.56 ID:wF64hV+jo

***



上条とインデックスは二人で色々な事を話す。

それは上条の学校の話だったり、インデックスの必要悪の教会(ネセサリウス)での仕事の話だったり。
他にも以前あった事の思い出、例えば一緒に海に行ったことや大覇星祭後の打ち上げの話などなど。
二人の間にはいくらでも話すことがあり、思い出話ではその当時の光景が鮮明に思い出された。

二人共、遭難しているとは思えないほどの笑顔を浮かべていた。

「……あはは、なんだか話したいことが次々と出てくるんだよ」

「あぁ、俺もだ。よし、それじゃあ次は青髪ピアスが風紀委員(ジャッジメント)に捕まった話をしてやる」

「もうその時点で面白いかも。じゃあその次はかおりが学園都市の高性能洗濯機に恋してる話ね」

「おい待て、その話気になりすぎて先に聞きたいんですが」

「だーめ。まずはとうまからだよ」

そんなやり取りもあって、二人の話は続く。

こんな事は別にそこまで珍しいことでもなかったはずだ。
まだ二人が同じ部屋で過ごしていた頃、そういった時間がいつまでも続くものだと心のどこかで信じていた頃。
やはり二人は部屋で同じような事を度々話していたはずだった。その時も楽しく話していたとは思うが、ここまでではなかった気がする。

こういった何気ない会話が実はとても大切なものだと知った事が大きいのだろうか。
人間、お互い会えなくなってからもっと話しておけば良かったなどと後悔する。そんなものなのだろうか。

上条は頭を振る。また嫌なことを考えてしまった。
別に彼女がイギリスへ行ってしまったらもう二度と会えなくなるわけではない。
そんな事分かっているはずなのに、何故こんなにも自分に言い聞かせるようにしなければいけないのか。

二人の間に僅かに沈黙が広がる。

話のネタが尽きたわけではない。
その気になれば夜になるまで話し続けられるくらいのストックはある。

おそらくこれは二人が同時に何かを考え込んだ、そういう事なのだろう。
上条と同じようにインデックスも何か思うことはある。
その内容までは分からない。上条は精神系の能力を持っているわけではない。

だが、それが自分の事ならいいな、と漠然と思ってしまう。

「……ねぇとうま」

「ん?」

「あの子は両親と仲直りできたのかな?」

「あの子……ってスキーのストック探してた子か?」

「うん。自分から両親の側を離れてあんな事になっちゃったって言ってたから」

「はは、まぁ俺達も人の心配してられる状況でもないんだけどな」

「そうでもないよ。私はとうまが居てくれれば全然不安じゃないんだよ。でも、あの子は私達が居なくなって一人になっちゃったと思うから……」

インデックスの表情を見る限り、本気で自分よりあの少女の事を心配している様子だ。
それだけ上条を頼りにしてくれているというのは喜ぶべき所なのだろうが、流石に危機感が無さすぎるんじゃないかとも思う。
まぁ、上条自身もインデックスが側にいて安心している節もあるので、そこまで言えたものではないのだが。

上条は洞窟の外をぼんやりと眺める。
雪の勢いは収まっておらず、依然としてかなりの量が降っている。



744: ◆ES7MYZVXRs:2013/07/16(火) 17:40:22.38 ID:wF64hV+jo

「……まぁ、きっと大丈夫なんじゃねえか、あの子も」

「何だか投げやりじゃない?」

「いや、ケンカしても何だかんだお互いの事を想ってる。たぶん家族っていうのはそういうものだと思うからさ。
 きっとあの子の両親も必死に探してるだろうし、あの子自身も両親と会おうとしてる。ずっと一人なんていう事はねえよ」

「そういうもの……なのかな? 私には家族が居ないからよく分からないかも」

「俺達だって家族みてえなもんじゃねえか? 少なくとも、俺はそう思ってるぞ」

「……そうだね。確かに私ととうまの関係が家族って言われると、何だかしっくりくる気がする」

家族というものは、例えどんな事があっても相手の味方でいようとする者で、常に互いのことを想っている。

そんなものはただの幻想で、実際には本当に仲の悪い家族もいるのだろう。
だが、上条はそんな者達はまず本当に家族と呼べるのだろうか、という疑問がある。

血の繋がりだけが重要なわけじゃない。
お互いがお互いを本当の意味で想えなくなった時、初めて家族でないと言えるのではないか。
逆に例え血の繋がりがなくても、そうやってお互い想い合う事ができれば誰とでも家族になれるのではないか。

もちろん、常にすれ違いや争いが無いなんていうのは少ないだろう。
家族だったとしてもケンカはする。気を使わない相手という事もあって、むしろ他の者達よりも頻度は多いかもしれない。
それでも、相手の事を心の底から嫌いにはなれない。見捨てることなんてできない。だから溝ができても、それは必ずいつか埋まる。

そういうのが家族なんだと、上条は思う。

「とうま」

「どうした?」

「手、握っていいかな?」

「……ほほう、心細くなってきましたかインデックスさん。まぁこの上条さんが居れば安心ですよ」

「うん……だから、もっととうまに触れていたいなって」

「…………えーと、あの、今のはムキになって怒って俺の頭に噛み付く場面では?」

「とうまは噛み付かれたいの?」

「いやそうじゃないけど……」

「そっか、てっきりとうまがそういう性癖を持っているのかと思っちゃったんだよ。……それで、手は握ってもいいのかな?」

「お、おう、いいけど」

許可が下りると、彼女は自分の手袋を外して、その後上条のものも外す。そして嬉しそうに上条の右手を握る。
それもただ握るだけではなく、指と指を絡める、いわゆる恋人繋ぎというものだ。
彼女の知識の中にそういったものがあるかどうか分からないが、少なくとも上条の心臓を数段跳ね上げるには十分だった。

「イ、インデックス?」

「うん?」

「あ、いや、ただ握るだけじゃないんだなーってさ……」

「こっちの方がとうまを感じられるんだよ」

「…………」

彼女の純粋な笑顔に、どこかエロい妄想をしてしまった自分を唐突に殴り飛ばしたくなってくる上条。

そして、どうして彼女はこんなに落ち着いていられるのだろうか。
上条の方はというと、インデックスの柔らかい手の感触に心臓は早鳴り、頭はフワフワと考えがまとまらない。
それでも、心のどこかでこの状況を喜んでいる自分が居るというのも不思議なものだと思った。

コトン、と今度はインデックスの頭が上条の肩に乗せられた。

思わずビクッと体を震わせてそちらを見ると、彼女は気持ちよさげに目を閉じていた。

「ふふ、こんな状況なのに、こうしているととっても幸せかも」

「……あぁ」

インデックスの一言一言が胸の奥に染み渡っていくようだった。
こうしていると時間がゆっくりと進んでいくような感じがして、周りの音も聞こえなくなっていく。
ここは紛れもなく二人だけの空間だけであり、まるで上条の部屋のように居心地がいい。



745: ◆ES7MYZVXRs:2013/07/16(火) 17:40:54.99 ID:wF64hV+jo

たぶん、場所なんかは関係ないのだろう。
側に彼女が居る。ただそれだけで、上条にとってはどんな場所でも幸せに感じる事ができる。

それならば、いっそ――――。

「…………」

「……とうま? どうしたの、何だかとても」


「あっ、居た居た!! アンタ達ホントいつもトラブルに巻き込まれて…………って何やってんのよ!?」


なんと、唐突に御坂美琴が洞窟に入ってきた。

上条もインデックスも、急な彼女の登場に目を見開いて驚く。
ゆえに手を握り合って体を寄せ合っているという状態のまま、動こうともしない。
そんな端から見ればラブラブな二人の様子に、美琴はワナワナと震えて口をパクパクとさせる。

そしてすぐにまた一人、洞窟の中へ入ってくる。
急いで走ってきたのか、ゼイゼイと肩で息をしていてやたら苦しそうだ。

「ちょ、ちょっとぉ、いくら何でも洞窟見つけた瞬間置いて行くなんて酷い……って上条さん!? えっ、な、何よそのイチャイチャっぷりはぁ!!」

「非常事態だから仕方ないかも」

インデックスはそう言うと、二人にだけ得意気なウインクを送る。
それに対しては、美琴も食蜂もただぐぬぬと唸ることしかできない。顔全体に羨ましさが滲み出ている。

しかし、一方で上条は心ここにあらずといった様子でぼーっとしていた。

「ちょっとアンタ? 何ぼけっとしてんのよ、落ちた時に頭でも打った?」

「大変! それなら私が撫でて……」

「いいから、アンタはそういうのいいから!!」

と、美琴は食蜂を羽交い絞めにする。
この二人、見ればすぐこんな有様になっているような気がするが、やはり意外と相性は良いのかもしれない。

そしてインデックスもまた心配そうな表情で上条を見て、

「とうま? 大丈夫?」

「……あぁ、悪い。ちょっとぼーっとしてただけだ」

「はぁ、この状況でその気の抜け様はある意味感心するわね」

美琴のそんな言葉に苦笑いを浮かべながら、上条は皆と一緒に洞窟を出る。
上条もインデックスも外の雪に備えて、ちゃんと再び帽子を被って手袋をはめている。

外に出た瞬間、冷たい雪が全身に降り注いでくるのを感じる。
こうしてみると、あの洞窟を見つけた幸運を実感することができた。

……上条の頭の中のモヤモヤは晴れない。
いや、それどころか、そのモヤは頭から体全体に広がっていき、全てを曇らせているかのように思えた。
周りで彼女達が色々と話しているのは分かるが、内容はろくに入ってこないので空返事しかできない。

こうして無事に見つけてもらったのは喜ぶべきことだ。
美琴や食蜂には感謝しなければいけないし、インデックスの事を思っても割と早い内に何とかなって安心する所だ。

しかし、それでも。

あの一瞬、自分は何を考えたのか。
目を逸らすことはできない。思い出そうとすればハッキリと浮かんでくる。

そして、それはあまりにも――――。



746: ◆ES7MYZVXRs:2013/07/16(火) 17:41:24.90 ID:wF64hV+jo

***



あの後、崖から引き上げられた上条とインデックスは、駆けつけた例の少女とその両親に何度も謝られた。
上条達は「謝る必要なんてない」という事と、「仲直りできたようで良かった」と伝えると、少女は眩しい笑顔を見せてくれた。
側に居る両親もバツの悪そうに苦笑いを浮かべており、そんな光景は見ているだけで胸が暖かくなった。

上条とインデックスは、自分達の事を探してくれた者達に礼を言うが、返ってきた言葉は気にしなくていいという事だった。
ただし、一方通行、垣根、浜面の三人は酷く顔色を悪くしており、何でも麦野と誰が一番早く上条を見つけられるか勝負していて見事に負けてしまったらしい。
確かに、上条達を見つけた美琴と食蜂はすぐに麦野と合流したので、その四人の中で一番早く見つけたのは麦野ということになる。

それから一、二時間程滑ったらすぐに夕暮れだ。
結局、インデックスは上条の腕を超すことはできず、食蜂もあまり上達しなかったが、それでも何だかんだ夢中になっていたので良かったのではないかとも思った。


夜になって宿に戻った一行は、温泉に入って夕食も済ませて、後は寝るだけになる。


だが、もちろんこのまま静かに夜が更けていく事などない。
麦野なんかはどんな罰ゲームを考えているのか、凄まじく上機嫌であり、それを見た一方通行達は本気で絶望しているように見えた。
そんな中で、インデックスだけは眠気が襲ってきたのか、目をこすって部屋に戻ってしまう。まぁ、今日も早起きして昼間はトラブルにも見舞われたので無理もない。

しかし、同じく今日は早く目が覚めてしまった上条は、とても眠る気にはなれなかった。
今は一人で二階のロビーにあるソファーに座って、ぼんやりと窓の外を眺めている。雪は若干勢いを減らしたが、それでもまだまだ降り続いている。

モヤが一向に晴れない。
こういうのは時間と共に薄くなっていくものだと思っていたのだが、むしろ酷くなるくらいだ。
あの時の自分の事を思い出すほど、心の中のモヤは質量を持ってまるで蛇のように締め付けてくる。
考えないようにするという事もできない。実際はそう思っている時点でその事について考えているわけで、様々な思考の隙間隙間に入り込んでくる。

逃げることはできない。向き合わなければいけない。
あの時上条が思ったことは、とても無視出来るようなものではなかった。

話を聞いた限りでは、インデックスが眠そうにしていたので、他の女子達は男部屋に来て騒ぐ予定らしい。
麦野の男達に対する罰ゲームもあるので、それはそれは面白いことになりそうだ。受ける本人達からすれば恐怖しかないだろうが。
とはいえ、今の上条はとてもそこに混ざろうとは思えなかった。こんな他のことばかり考えてぼーっとしている人間が行っても、空気を悪くするだけだろう。

上条はすくっと立ち上がる。視線の先には景色を眺めるためのバルコニーがあり、ガラス戸を開いて外に出る。
浴衣の上に茶羽織だけという格好なので、とてつもなく寒く、体の芯から凍えるようだ。それに上空から降ってくる雪が頭や肩に着いていく。

そのままバルコニーの一番外側まで行き手すりに両肘を乗せると、目の前に広がるのはポツポツと見える民家の光と、ぼんやりと輪郭だけ見える山々。
こうして遠くから見る光は、どこか宝石のようにも思えた。一つ一つがぼんやりと光っており、ゆっくりと落ちてくる雪に反射して幻想的な光景にしている。
だが、上条はそんな光景をろくに見ていなかった。目は確かにそちらを向いているのだが、それを頭で処理しようとしていない。

しばらくじっとしていると、頭や肩に雪が積もっていくのが分かる。
それでも、上条はそれを払ったりはしない。僅かにでも動く気にもなれなかった。
今はそんな事よりも、集中して考えなければいけない事があった。

舞い落ちる雪。時折刺すような冷風が吹く、二月の夜の雪空の下。
上条は、動かない。



***



「ごめんね気を使わせちゃって」

「いいっていいって、ゆっくり寝なさいよ。……よし、それじゃあ行こうかしら男部屋」

女部屋ではインデックスが布団に入って眠そうにしている。

そして、それとは対照的にやけにハイテンションなのは麦野だ。
それも無理は無い。これから罰ゲームで男三人に対して彼女の言うことを何でも聞かせることができるのだ。
Sっ気たっぷりの彼女にとっては楽しくないはずがない。

彼女の両手には大量の酒瓶が握られている。
昨日と同じように酒も入れて思い切り騒ぐつもりなのだろう。しかしこのテンションでは何かの拍子で浴衣がはだけないか心配な面もある。

流れで美琴と食蜂も一緒に行くという事になっており、食蜂の方も麦野と同じくノリノリだ。
彼女に関しては初めからゲームを受けていないので罰ゲームを与える資格はないのだが、それでもただ見ているだけでも面白いのだろう。
他人の不幸は蜜の味というやつだ。



747: ◆ES7MYZVXRs:2013/07/16(火) 17:41:53.66 ID:wF64hV+jo

一方で、美琴は口数少なく思考にふけっていた。

(……あの馬鹿)

宿に戻ってから、いやそれよりも前、インデックスと一緒に助け出されてから。
上条のその表情にはどこか影が下りていて、何かに悩んでいるという事くらいはすぐに分かった。
もちろん宿に戻って少し落ち着いてから、何かあったのかとは尋ねた。しかし、上条はハッキリとは答えてくれなかった。

『俺、もう自分が分かんねえよ……。何であんな事思っちまったんだ。そんなのアイツが望んでるわけねえのに、俺は……』

その言葉からは多くのことは分からない。しかし、重要な事は分かる。
それは上条が今インデックスの事について悩んでいる事、そしてそれは上条自身の認識に関係する事。

そこまで考えて、美琴の中では上条を助けるための一つの方法が浮かび上がってくる。
いや、実際それはもっと前から心の中にはあった。だが選び取ることができずに押し込んでいたものだ。
その方法をとれば上条の助けにはなるかもしれない。

しかし、その選択は美琴にとっても大きな意味を持つ事になる。

「まーた上条の事で頭いっぱいだよこいつは」

「……へっ!? な、ちょ、いきなり何言ってんのよ!」

「けど図星でしょ?」

「そ、それは……」

「御坂さんは心読めないけど、こういう所は分かりやすいのよねぇ。女の子はそれじゃ不利だゾ☆」

「少なくともアンタみたいにはなりたくないわ」

どうやら美琴の様子に対して、どこかおかしいと思われていたらしい。
そして、同じように上条の様子にも気付いていたらしく、

「そういや、上条もなんかおかしかったわね。ずっと心ここにあらずって感じで」

「そうそう。私も聞いてみたんだけど、『少し自分で考えさせてくれ』って言われちゃったのよねぇ」

「…………」

「ははーん、それで御坂は『私が何とかしてあげないとっ』とか思ってるわけね」

「なっ、いや、その……」

間違ってはいないので正面から反論はできない。

だが、それはもはや上条の問題と言うよりも自分の問題になっていた。
方法はある。彼が悩んでいるのであれば、ハッキリさせる可能性があるものが一つ。
ただ、それを選択する一歩が、美琴には中々踏み出せない。

すると食蜂はスッと立ち上がって扉の近くまで行く。

「とにかく、もう行きましょぉ? 上条さんの事は心配だけど、何でもかんでも干渉する事もないと思うわぁ」

「……まぁ私は元々上条に何かするつもりはないけどさ。御坂、あんたはいいわけ?」

「考え中。いいわ、とりあえず行くわよ」

三人は女部屋から廊下に出る。
今は学園都市からの生徒受け入れで貸切状態なので、廊下に人通りはない。
そのまま適当な事を話しながら、男部屋へと歩いて行く。

ふと窓から外を見ると、まだ雪が降り続いてるのが分かる。
そんな夜の闇に映る白い結晶を眺めながら、美琴の頭の中では答えがあるのかどうかも分からない問題を考え続けていた。

食蜂はスタンスを崩す事はないようだ。
彼女も上条の事を想っている。だからこそ、何もしない。
そうやって一貫している態度は、むしろ感心するくらいだ。

美琴も選ばなければいけない。
考えて考えて考えて、今自分がどうしたいのか。
それを、見つけなければいけない。



748: ◆ES7MYZVXRs:2013/07/16(火) 17:42:32.45 ID:wF64hV+jo

「……ねぇ、麦野」

「ん?」

「アンタはさ、浜面の事が好きだったのよね。それなのにどうして何もしないの?」

「…………」

「ちょ、ちょっと御坂さぁん?」

麦野は立ち止まり、それを見た食蜂は慌て出す。
それもそうだ、こんな事をハッキリ言えば大惨事にもなりかねない。
それでも、美琴は麦野から目を逸らさない。しっかりとその目を真正面から見つめている。

麦野は小さく笑った。

「あんたもあんたで大変みたいね」

「そうでもないわよ。まぁ、ちょっと考えてることはあるけどさ」

「だから上条関係だろ?」

「ぐっ、そ、そうよ!」

「ははっ、相変わらずからかいがいがある奴ね」

麦野は本当に面白そうに笑う。
そして、静かに、それでいてよく通るハッキリとした声で話し始めた。

「私がそうしたかったからよ。私は浜面が好きだ、アイテムが好きだ。それに、浜面は滝壺が好きだし、アイテムが好きだ。
 その中で、私が一番良いと思う選択をした。それは他の奴等から見れば間違ってるのかもしれない、逃げと言われるのかもしれない。それでも、私はこれで良かったと思ってる」

「……本当に?」

「本当よ。何度だって胸張って言ってやるわ」

麦野の目は決してブレない。意思がしっかりとしていて、気を抜けば押されてしまいそうな瞳。
美琴はその目を見て、話を聞いて、意味を決意を頭の中で読みほどく。
細かく砕いて、自分の中に取り込み、吸収する。

少しでも、前に進むために。

そんな美琴を、麦野はどこか暖かい表情で見ていた。
おそらく本人は否定するだろうが、その様子はまるで先生か何かのようでもあった。

一方で食蜂は何か言いたそうな顔で口を開きかける。
だが、喉に何かつっかえたかのように止まってしまった。

そんな彼女に、美琴は眉をひそめて、

「なによ?」

「あー、えっと……なんでもないわぁ」

食蜂がそう言ってしまったので、美琴はそれ以上追求はしない。
気になることは気になるが、どうせ聞いた所でまともに答えると思えなかったからだ。


そんな事を話している内に、三人は男部屋まで着く。
麦野がノックもなしにいきなり開けると、中では浴衣姿の一方通行、浜面、垣根の三人が一斉にこちらを向いていた。
どうやら、いつ麦野が来るかと戦々恐々としていたらしい。

上条は、居ない。

「よぉ、罰ゲームの時間よ」

「……む、麦野さん。確かに俺達は負けた。けどさ、流石に命に関わるような命令はなし……だよな?」

ビクビクと尋ねるのは浜面だ。
それに対し、麦野はニッコリと笑顔を作ると、

「大丈夫大丈夫、死にはしない…………いや運が悪けりゃ死ぬか」

「おいいぃぃぃぃ!?」

「と、とりあえず何やらせるつもりか言ってみろよ……」

垣根までもが若干腰が引けた様子だ。
この瞬間、第四位が第二位に勝つという下克上が完全に成立したかのようにも思える。



749: ◆ES7MYZVXRs:2013/07/16(火) 17:43:23.31 ID:wF64hV+jo

麦野はそれを聞いて、両手に持っていた酒瓶を畳の上に叩きつけた。

「付き合え」

「はぁ!? いや待て確かにお前は顔は悪くねえが、性格が最悪すぎぶごぁぁああああ!!!!!」

言葉の途中で殴り飛ばされる垣根。
そのままヒューと飛んでいき、一方通行の近くまで転がっていった。
一方通行の方はというと、少しでも麦野と視線を合わせないように目をあらぬ方向へと向けている。

麦野はポキポキと拳を鳴らして、

「なーに愉快な妄想ぶちかましてんだテメェ。私は酒に付き合えって言ってんだよ」

「えっ、酒?」

麦野の言葉に意外そうな反応をしたのは浜面だ。
それもそうだろう。罰ゲームで酒に付き合えというのは、彼女にしては優しすぎるものだ。
おそらく浜面の頭の中ではとても想像すらしたくないような事が色々と巡っていたはずである。

だが、それだけに何か裏がある可能性が考えられる。
ここにきて、一方通行が苦々しげな表情で口を開いた。

「……本当に酒に付き合うだけなンだろうな?」

「えぇ、もちろん。あ、でも言っておくけど能力は禁止よ。それだけ」

やはり、聞くだけでは本当に一緒に酒を飲めばいいだけのように思える。
能力禁止というのもそこまで重い条件というわけではない。
しかし、こんな優しい罰ゲームは彼女の性格上考えにくい。だからこそ、浜面と一方通行はその言葉を聞いても、より一層嫌な表情になっていく。

ところが垣根の方はそれですっかり調子に乗った様子でニヤニヤと、

「なんだなんだ、そういう事ならお安いご用だぜ! けど意外だな、お前がただ酒に付き合えってだけなんて。浜面にフラれでもしたか?」

その瞬間、空気が凍った。

麦野は無表情、そして浜面は顔を蒼白にして口を小さく開けたまま動かない。
美琴と食蜂も何となく気付いた。一方通行ですら、激しく顔をしかめる。

そして流石に垣根も空気が読めてきたらしく、

「……え、もしかしてマジでごぶはぁぁああああああああああ!!!!!」

麦野が垣根の元へすっ飛んで行き、勢い良く蹴り倒した。
それから彼女は持ってきた酒瓶の一つを開けると、彼の口の中に突っ込んでしまった。
非常に危険ですので真似しないでください。

「ごぼっ、ぶごごごごごごごごごごごぼぼぼぅ!!!!!」

「あぁそうだよ文句あっかメルヘンヤロウがァァ!!!!!」

ドボドボと大量に垣根の口へと流れこんでいく酒。飲みきれなかった分は口の端からどんどん溢れていく。
取り繕っていた態度はどこへやら、もう完全にヤケクソ気味な麦野と、白目をむいている垣根。

そんな目を覆いたくなるような凄惨な光景の前で、美琴、食蜂、一方通行の三人は一斉に浜面の方を見る。
三者の表情は明らかに「責任取れよ」的な無言の圧力が込められていた。

当の浜面の方は気まずそうに目をそらす。
しかし、いつまでもそれでは受け流せないと分かったのか、少しして遠慮気味に麦野に話しかけた。

「えっと、そ、そういうのって俺も付き合った方がいいのか……なんて……」

「当たり前だろうがァァ!!!」

ターゲットが変わった。
酒瓶をまるで生花か何かのように垣根の口に差し込んだまま、新たな酒瓶を持ってユラリと今度は浜面の方へと近付く。
浜面はもう蛇に睨まれた蛙の状態だ。



750: ◆ES7MYZVXRs:2013/07/16(火) 17:44:05.24 ID:wF64hV+jo

「テメェが元凶なんだからよぉ……もちろん最後まで付き合ってもらうわよ……?」

「ひぃぃぃぃ!!!」

「おい後そこの白モヤシィィ!!! 何我関せず状態決め込んでんだオラァァ!!! さっさとこっち来い!!!!!」

「……ちっ、上等だ。能力なンざなくてもオマエなンかに飲み負けたりはしねェよ」

「ははっ、言ったな!! よっし、じゃあいきなりこの一番キッツイやついくぞ!!!!!」

「ぐっ……!!!」

何故だろうか、こうして見ていると麦野が飲み負けるイメージが全く浮かんでこない。
そしてそれは隣の食蜂も同じだったようで、ワクワクと楽しげに男達の方を見ている。

「ふふ、何だか愉快力の高そうな事になりそうねぇ? 私もちょっと飲もうかしらぁ」

「学校にバレたら大目玉よそれ」

「御坂さんがそれ言うー? ははーん、やっぱりお子様だからお酒なんて飲めないのねぇ」

「そんなやっすい挑発には乗らないっての」

「ぶー、つまんなぁい」

そう言って口を尖らせる食蜂。しかし、その目は注意深く美琴を観察しているのは分かった。

食蜂が何を思っているのか、そんなものは美琴には分からない。
こうして楽しんでいるように見せて、頭の中では様々な策略を巡らせているのかもしれない。

だが、そんなものは美琴にとっては興味が無い。
何か邪魔してくるようであれば、その時は正面から受けて立つ。ただそれだけだ。

先程からずっと考えていた。
今までの上条との思い出、周りの人間からの言葉、自分の気持ち。
それらを頭の中で一つ一つ丁寧に向き合い、選択の材料にする。
それは思わず頬が緩むほど楽しかったり嬉しかった事であったり、暗い顔で俯いてしまうほど気分が沈むような事だったり。

ただ、こうしてみると、様々な事を確認する事もできた。

例えば自分がどれだけ上条の事を想っているのかという事。
目を閉じれば彼の色々な表情を浮かべることができる。それは楽しげな笑顔だったり、呆れたような顔だったり、真剣な顔だったり。
そんな表情に連なるように、上条との思い出がいくつも浮かんでくる。全てが楽しい思い出というわけではないが、大切なものである事に変わりはない。

周りの人達にも助けられた。

白井はやたらと上条を敵視していたかもしれない。しかし、心の何処かではある程度認めてくれている事も何となく分かっていた。
それに初春や佐天も相談に乗ってくれた。特に佐天なんかは嬉々として聞いていて、どう見ても楽しんでいたが、それでもいつも美琴の事を考えていてくれた。
加えて、食蜂と麦野も。食蜂なんかは美琴に協力する気などはこれっぽっちも無かったはずだが、それでも彼女の事を見ているだけで参考になることは多々あった。

麦野なんかはぶっきらぼうでいて、そのくせ美琴の事はある程度気にかけてくれていたように思えた。おそらく本人は否定するだろうが。
彼女の言葉や姿勢は美琴にとって感心するような事ばかりで、勝手に先生のようなイメージを持っていたのかもしれない。

考えることはたくさんあった。悩むことはそれ以上にあった。

そして、決めた。

美琴の中では一つの答えが、彼女だけの選択が、ハッキリと生まれていた。

「麦野」

「ん?」

麦野は酒を片手に振り返った。
その前では既に一方通行がクラクラきている様子で、浜面もげっそりとしている。



751: ◆ES7MYZVXRs:2013/07/16(火) 17:44:37.62 ID:wF64hV+jo

美琴は、不敵な笑みを浮かべて立ち上がった。

「私、ちょっと行ってくるわ」

「……くくっ、景気付けに一杯飲んでく?」

「はは、お酒の力なんていらないわよ」

「ふん、言うじゃないの。まぁ、もしもの時のために酒は残しておいてあげるわ」

「不吉なこと言ってんじゃないわよ、まったく」

美琴は若干呆れて溜息をついた。だが、これが彼女なりの送り方というのは分かる。

麦野はやたら満足気にダランと片腕を上げて横に振る。
男達はどうしたのかとぼんやりとこちらを見るには見ているのだが、頭のアルコールのせいでそれ以上考えることはできないらしい。

美琴はしっかりとドアノブを握りしめ、外へ踏み出した。
まるで、RPGのボスの元へと向かう主人公のように。



***



視線は真っ直ぐ前へ。足は一定の速度でしっかり踏みしめて。
一歩一歩進む度に、美琴の中の意志はどんどん強くなっていくような気さえした。

頭の中は上条のことで一杯だ。おそらく新学期の頃の自分はここまで誰かに恋する事になるとは夢にも思わなかっただろう。
もちろん、興味がなかったわけではない。美琴も中学生らしく、恋に恋する時もあった。例えば仲の良いカップルを見かけた時や、恋愛物の映画を観た時などだ。
それでも、美琴にとってそれはどこか現実味のないもので、本当に自分はこの先そういったものに出会えるのかという疑問もあった。

いつからだったろうか、その姿を常に探し始めたのは。
いつからだったろうか、会う度に心が安心してどこか舞い上がったりするようになったのは。

それは時には痛みも伴うものだったが、そんなものは気にならないくらい遥かに多くの幸せを実感することができた。
毎日の景色も明るく見え、遊びも、はたまた授業でさえいつもより楽しく感じることができた。

寝る前には自分の理想を頭に思い描き、それだけで自然と頬が緩み胸が満たされて。
朝起きた時には今日は会えるかな、などと希望に胸を膨らませ。
放課後に彼を見つけることができた時には、決して表には出さなくても、それはそれは飛び上がらんばかりに喜んだ。

上条からは大切なものをいくつももらった。
それこそ、どうやって返せばいいのか分からない程のものを、たくさん。

おそらく彼は返す必要なんかないと言うのだろう。
自分の好きにやったのだから、それに対して見返りを求めているわけじゃない、と。

当然、そんな事は受け入れられない。美琴自身の気が済まない。

だから、美琴は上条を助けようと思った。
いつ、どんな時でも。彼が助けを求めてくれた時はもちろん、そうでなくても苦しそうな時はいつでも。

上条は常に誰かのために動き、ただ自分がやりたいようにやっているだけだと言って誰彼構わず救い上げてしまう。
だから、美琴も自分のやりたいようにした。文句は言わせなかった。逆に感謝された時は、頭が真っ白になる程嬉しかった。
どんなに危険な状況であっても、最後に上条が満足気に笑ってくれればそれだけで美琴は満足だった。

美琴は、数え切れないほどの幸せをくれた上条が不幸になるなんて許せなかった。
だが、それで自分の幸せを疎かにしても、上条はいい気がしないというのは分かっていた。
だから、自分も上条も幸せになる。そんな未来を思い描いて進んできた。

今も何も変わっていない。
これから少し後、美琴はその思い描いた未来を試すことになる。
もしかしたらその未来は現実へと近付くかもしれないし、崩れてしまうかもしれない。

でも、例えそれが崩れたとしても。思い描いていたものと違っていても。

美琴は決して後悔などはしない。
それはきっと上条にとって一番の幸せなのだろうし、それならば美琴にとっても幸せだ。

それでも、きっと彼は美琴の事を気にかけるのだろう。そして彼は自問自答する。本当にこれで良かったのかと。
そんな時は胸を張って堂々と、相手が驚くくらいの勢いで言ってやる事にする。


私は幸せだ、と。



752: ◆ES7MYZVXRs:2013/07/16(火) 17:45:12.11 ID:wF64hV+jo

「御坂さん」


静かな声が背中を追ってきた。
不本意ながら、聞いただけで誰のものか分かるその声、しかしそれはあくまで表面的な声の質の話だ。
美琴は、彼女のこんな声を一度も聞いたことがなかった。本人は分かっているのかどうかは知らないが、それはまるで。

友達を気遣うような、柔らかな調子だった。

振り返ると、やはりそこに居たのは食蜂操祈だ。
浴衣が若干ずれていて、頬が上気している所を見ると、慌てて追いかけてきたのかもしれない。
それからとにかく息だけは整えて話しかけたのだろう。

美琴は小さく笑って、

「なによ、見送りに来てくれたわけ?」

「……どこへ行く気?」

「アイツのとこ」

「何をしに?」

「アンタの想像通りで合ってると思うわ」

この会話にはほとんど意味がないのかもしれない。
ただの形式的なやりとり。それこそ手紙の最初に書かれるような季節の挨拶のように。

当然、そんな事をするだけの為に彼女は追いかけてきたわけではないはずだ。

「あなたって、そういう所上条さんに似てるわぁ。そうやって自分のことなんかお構いなしに誰かの為に動く所」

「褒められてんのかしら?」

「褒めてるわけないじゃない。なによ、人には自分を犠牲にするなって態度のくせに、自分はいいの?」

「私は別に犠牲になるつもりなんかないわよ。それにこれはインデックスの為じゃない。私とアイツの為よ」

「……ウソよ。これはあなたが一番望む選択なんかじゃないでしょ」

本人は気付いているのだろうか。
食蜂の表情は美琴を糾弾するようなものではない。むしろ、こちらを心配しているようにも思えるものだ。
おそらく指摘した所で彼女は絶対に認めないだろう。どうして恋敵にそんな気持ちを向けなければいけないのか、と。

美琴はゆっくりと目を閉じた。
言うことは決まっている。それは決してブレることはない。

「これが私が一番望む選択よ」

「ウソよ」

「本当よ」

「何でそんなウソつくのよ!!!」

食蜂の叫び声が廊下に響いた。
彼女は息を荒立て、肩で息をしてこちらを睨む。

しかし、その表情は今にも泣きだしそうなものだった。

美琴は何も言わない。
ただ、彼女の視線を正面から受け止めるだけ。
それだけで、十分だと思った。


そのままどのくらい経っただろうか。
時間の感覚はあやふやになっており、もしかしたら思っているよりもずっと長い時間、こうして視線をぶつけ合っていたのかもしれない。

膠着状態を崩したのは食蜂の方だった。

「……理解できない。そんなの、私には絶対に」

「理解してもらおうとは思ってないわ。ただ、私はアンタのその選択も理解はしてるけどね」

彼女の選択を否定する気などない。
彼女は彼女で、上条と一緒に居たい、その一心で選んだ道だ。
その気持ちは痛いほど理解できる。美琴もまた、彼女と同じで上条の事を想っている少女だ。



753: ◆ES7MYZVXRs:2013/07/16(火) 17:45:43.25 ID:wF64hV+jo

そして、食蜂操祈は浴衣の袖口からリモコンを取り出す。

「悪いけど、あなたのその選択は私にとっても不都合なのよ。だから、ここで止めさせてもらうわ」

「へぇ、いいわよ。私もそっちの方が分かりやすいし」

静寂。

まるで西部劇のように、二人の間には緊張の間が広がる。
少しでも何かに気を取られた瞬間、勝負は決する。そんな空気が旅館の廊下に立ち込める。
美琴も食蜂も、互いのまばたき一つ見逃さないくらいに集中して相手を見る。


瞬間、食蜂はリモコンを真っ直ぐ美琴に突き付けると、ボタンを押し込んだ。
瞬間、美琴は前髪の先から青白く光る電撃を放った。


ピッという電子音と、バチンッというスパーク音が鳴ったのはほぼ同時だった。


「つぅ……」


美琴は頭を押さえて顔をしかめる。

何度か味わった、食蜂の洗脳を電磁バリアで弾いた時に響く痛みだ。
それは鈍く頭の奥まで刺激し、少しの間美琴の動きを鈍らせることができる。

だが、その間に食蜂が追撃を加える事はない。
彼女が持っていたリモコンは、美琴の電撃により彼女の手から弾き飛ばされており、拾った所で使い物にならないだろうからだ。

予備のリモコンも持ってきていないらしい食蜂は、静かに目を閉じて両手を上げる。

「流石御坂さんね。私の負けよ」

「何が負けよ。初めから勝つつもりなんかなかったくせに」

「…………」

美琴の言葉に、食蜂はゆっくりと目を開いて、ただ床を見る。
待っていても彼女は何も言わないだろうと判断した美琴は、そのまま言葉を続けた。

「大体、アンタ言ってたじゃない。シングルスじゃ敵わないって。こんな真正面から勝負挑んでる時点で勝つ気があるとは思えないわ」

「そう……かしらね」

「えぇ。それに本気で私を止めたいなら、それこそ大勢の人間を操って全力で止めるでしょ。私の性格も考えて。
 どれもこれもアンタの戦術じゃない。こう見えてもアンタの力はある程度は認めてやってんのよ。本気を出されたらそう簡単には勝てないってのも分かってる」

「……ふふ、それはどうも。じゃあ、何でそれをしなかったと思う?」

彼女の問いには、美琴はすぐに答えられた。
九九を言っていくように、スラスラと。

「アンタがそこまでして私を止めようと思わなかったから」

「それって答えって言うのかしらね」

「じゃあもっと言ってあげるわよ。アンタは自分で思っているよりも」

「もういいわ。やめて」

食蜂は静かに言う。
俯いて表情は見えない。だが、美琴には彼女がどんな顔をしているのか、何となく分かる気もした。

美琴はクルリと食蜂に背を向ける。
もう、彼女の用は終わった。美琴からも特に何かあるわけでもない。

だから、最後に一言。


「アンタとは一生反りが合わないと思ってたけど、そうでもないかもしれないわね」


当然、返事は何もなかった。



754: ◆ES7MYZVXRs:2013/07/16(火) 17:46:19.80 ID:wF64hV+jo

***



夜の闇に映える舞い落ちる白い雪。
それらは相変わらず旅館からの光や遠くの民家の光に照らされて、幻想的な光景を生み出している。

上条はまだバルコニーの手すりに両腕を置き、その上に顎を置いて考え込んでいた。
考えて考えて、それでも答えは一向に出てこなかった。
何度も何度も、様々な視点から考えようとしても、それは水面に映る月を掴もうとしているかのように、全く手応えを感じられない。

だからといって、考えることをやめることはできない。
これは目を逸らしていいような問題ではなく、答えが出るまで向き合わなければいけないものだ。
それまではここを動かない、そんな意地のようなものまで持ち始めていた。


そんな時。


「何やってんのよ、アンタ」


背後から聞こえてきた声。
それは素っ気ないように聞こえて、どこか優しさも感じられる不思議なものだった。

振り返ると、御坂美琴が居た。

彼女は微笑んでいた。
その表情は強さと優しさが同居した、それこそ物語のヒーローのようだ。
今の上条には眩しくて思わず目を逸らしたくなる程だった。

ここまで来るには、二階ロビー近くのガラス戸を開けなければいけない。
上条はそれに気付かないほど考え込んでいたらしい。

「……少し考え事があったんだ」

「それってここでしなくちゃいけないわけ? ロビーに居ないからどこに行ったのかと思ったわよ。
 ていうか寒い。アンタよくその格好で平気ね。流石に雪が降る二月の夜に浴衣で外出るのはキツイでしょ」

美琴は体を震わせながら、上条の隣まで来て同じように両腕を手すりに乗せる。
上条と違って浴衣の上に羽織るものもないので余計に寒そうだ。

いくらなんでもその様子を見て放っておけるほど薄情でもないので、上条は着ていた茶羽織を彼女にかけてやる。

「ん、ありがと。でもこれだとアンタが寒いでしょ」

「俺はもう冷えまくってるから関係ねえよ」

「そういう問題なの……? まったく、ほら」

と、美琴は腕が触れ合う程近くまで寄ると、茶羽織を上条にもかけてお互いで共有する形にする。
上条は小さく苦笑して、

「これじゃどこかのバカップルみたいだな」

「バカって何よバカって。仲良さそうでいいじゃない」

「へぇ、御坂的にはこういうのに憧れでもあんのか?」

「まぁ、人並みにはね。私だって恋に恋する中学生なのよ」

「果てしなくお前のイメージから遠いなそれ。恋とかそういうものの前に、とにかく強くなりてえって言ってる方がしっくりくる」

「どこの少年漫画の主人公よ。それ結構失礼だって分かってる?」

「わるいわるい」

彼女との会話は気楽でいい。余計なことを考えずに済む。
それは案外会話において重要な事なんだろうし、常に次に何を話そうかと考えなくてはいけない状態は息苦しい事この上ない。
その時その時で言いたいことを言う。何もない時は何も言わない。それが自然にできる間柄というのはいいものだ。



755: ◆ES7MYZVXRs:2013/07/16(火) 17:47:29.19 ID:wF64hV+jo

しかし、一方で彼女はそんなどうでもいいような会話をしに来たわけでもないらしい。
まぁ、考えてみればわざわざこんな所まで来るのだから、それも当たり前だ。

「それで、こんな所でアンタ一人で考え込まないといけない事って何なの?」

「……できればあまり言いたくないっていうのが正直な所なんですが」

「アンタ、人をこんな所まで連れてきて何も言わないってどうなのよ」

「いやいやいや、お前が勝手に来たんじゃん!」

「そうだっけ? まぁいいじゃない、そんな小さなこと。それより早く言いなさいよ、どうせインデックスの事でしょ」

美琴の余りにも直球すぎる追求に、上条は思わず彼女から離れようと、体を少しずらす。
すると彼女はすぐにその後を追って、結局元の距離感に落ち着く。つまりは腕が触れ合って、茶羽織を共有できるほどのゼロ距離というわけだ。
雪は静かに二人の上にも積もっていくのだが、それでも腕が触れている部分は熱く感じ、雪が乗ってもすぐに溶けそうな気がした。

美琴は真っ直ぐこちらの目を見てくる。
こうなったらおそらく言うまで諦めないなと思い、上条は一度溜息をつく。

先程からずっと考えても答えはでなかったのだ。
インデックスがこっちに居る期間などを考えれば、素直に相談に乗ってもらう方がいいのかもしれない。

「今日、俺とインデックスが崖から落ちて色々大変だっただろ?」

「えぇ、そうね。もう毎度のことって言っちゃうとそうなんだけど、やっぱアンタっていつもそうよね」

「その全てがもう手遅れっていう感じに言うのやめてください。……あー、でもありがとな、俺達の事探してくれてさ」

「何度お礼言う気よ、もういいっての。私達だって別にいやいや探してたわけじゃないし、一緒に旅行来てた人が居なくなったらそりゃ探すでしょ」

「それでも、だ。俺は本当に嬉しかったからさ、そうやって俺達の為に動いてくれる人が居るって事が」

「どういたしまして。でもアンタだっていつも誰かのために動いてるじゃない。それこそ『情けは人のためならず』ってやつじゃない?」

「えっ、それって人に情けをかけるのはその人の為にならないって事か? 随分つめてえな……」

「バーカ、人の為にしてあげたことはいつか自分にも返ってくるっていう意味よ。勉強しなさいよ勉強」

中学生相手にこう言われる高校生というのも何とも情けないものだが、もう慣れたものだ。
そもそも、常盤台中学というのは卒業と同時に社会に出ていけるようになるという話だし、この知識差も仕方ないものなのだと思い込む。

ただ、美琴の言葉に嫌味なものは含まれていなかった。
どこまでも優しく、包まれるような言葉は良い意味で中学生らしくない。

上条は苦笑いを浮かべて頬をかくと、顔を上げて視線を上空から舞い落ちてくる雪に向けて、ぽつりぽつりと話し始めた。

「俺さ、ひでえ事思っちまったんだ」

「え?」

「あの洞窟の中で、インデックスと二人で色々話した。そんで、やっぱり落ち着くんだ、アイツとそうしてるとさ。
 話の大半は中身がほとんどないような、どうでもいいような事だった。それでも、俺にとってはいつまでもそんな話をしていたいって思っちまうほどに居心地が良かった」

「そっか……」

「それでさ……俺……」

上条は言葉を切ると、静かに目を閉じた。

暗闇の中で考える。これから言うことは決して気分の良いものではない。
正直美琴には話したくないという理由の大部分は、それを話して失望されるのが怖かったからだ。
彼女は自分のことを心配してくれている。力になりたいと思ってくれている。そのことがとても嬉しかったから。

目を開く。流石に彼女の方を見ることはできない。
視線はただ真っ直ぐ前。ぼんやりと浮かぶ民家の光と雪だけを捉えている。

「……ずっとこのまま居たいって思ったんだ」

「それって」

「あぁ。誰も助けに来なければ、インデックスとずっと一緒に居られる。イギリスに帰ることもなくなる。
 いっそ、そのまま二人で全てから逃げて、学園都市もイギリス清教も見つけられないような場所でずっと二人で暮らしたい、そんな事まで思っちまったんだ」

一度口に出すと止まらなかった。
悪いものは一気に吐き出そうとするように、上条は次々と言葉を紡ぎだす。

しかし、どれだけ吐き出しても中のドロドロは一向に良くなる気配がない。



756: ◆ES7MYZVXRs:2013/07/16(火) 17:48:18.34 ID:wF64hV+jo

「インデックスは全然そんな事思ってねえのにな。アイツは立派な想いを持って、イギリスで自分の力を役立たせたいって思ってる。
 それなのに、俺はそれを無視して、ただ俺の都合が良いってだけで無茶苦茶な事を思っちまった。それで、同時にすっげえ怖くなったんだ」

「怖い……?」

「こんなんでインデックスが居ない生活に俺は耐えられるのかって。一ヶ月であの有様だ。それが半年、一年って続いて、俺は本当にまともな生活を送れるのかってさ。
 それで俺だけが辛いならまだいいけど、何かの拍子に周りまで巻き込んじまうんじゃねえかって、自分で自分が分からなくて怖いんだ」

「…………」

「俺は一度そういう奴を見たことがある。インデックスのために全てを捧げて、それでも報われなかった男。
 インデックスは他の男の隣で幸せそうに笑っていて、もう自分はその場所に立てないと知った時のその男の事が頭から離れねえんだ。
 これからインデックスにとっての居場所はイギリスになる。そして俺は過去の人間になっていく。二度と会えねえってわけじゃなくても、俺はもうアイツの隣に居られねえ」

グッと手すりを握る力が強くなる。
歯を食いしばり、その間から白い息が漏れ出して上空へと昇っていく。

「インデックスはきっと幸せそうに笑ってる。イギリスで誰かのために自分の力を使えて、誰かを笑顔にする事ができて。
 俺はそれを心から祝福してやれるのかって。本当の意味でアイツの事を考えてるなら当然それができると思うんだ。でも、俺はその確信を持つことができねえ」

上条は乾いた笑いを漏らした。
たぶん、今まででここまで何の気持ちもこもっていない笑い声を出したのは初めてかもしれない。

上を見上げると、雪が顔に落ちてくる。
それに対して冷たいと思えるくらいには、今の自分は冷えきっていないらしい。

「ホント、どこまで依存してるんだって話だ。アイツは俺の所有物なんかじゃねえのに。これじゃ娘を持つ親父どころの話じゃねえよな」

「……あのさ」

ここにきて、上条は視線をすぐ隣の美琴に向ける。
だが彼女はこちらに目を向けているわけではなく、先程の上条と同じようにただ前方の景色を見ていた。

彼女の口が動く。
しっかりとした意思のこもった言葉が、紡ぎ出される。

「ごめん、アンタの話を聞いて、正直私は何を言えばいいのか分からない。でもさ、代わりに一つ、私の話を聞いてほしいの」

「御坂の?」

「うん。何となくだけど、それがアンタにとって何かのヒントにもなりそうな気がする。どう?」

「いや、別にいいけどさ。俺も話聞いてもらったし」

「ありがと」

美琴はそう言うと静かに目を閉じた。口元には穏やかな笑みを浮べている。
その様子を見て、上条は思い出話でもするのかなと思った。どこか楽しげな事を思い出そうとしているように見えたからだ。

そしてそれは一応は当たっていた。

「私とアンタが初めて会った時……って覚えてないんだっけ」

「あぁ、その、悪い」

「別に謝らなくていいって。あ、そうだ、じゃあちょっと予想してみてよ、私とアンタの初対面がどうだったか」

「……ビリビリをぶちかました?」

「ご明察。私が不良に絡まれてる所をアンタが通りかかってさ、助けようとしてくれたわけよ。その時は『へぇー、こんな奴居るんだ』ってちょっと感心したのにさ。
 けど、次に出てきた言葉が『こんなガキ相手に何人がかりだ!』よ。その後も反抗期も抜けきってない子供とか好き勝手に言ってくれちゃってさ。それで」

「すみませんでした」

「あはは、いやだから別に謝ってほしくて言ってるわけじゃないっつーの。それに今思えば私もちょっと手が早すぎたってのもあったし、ね。
 とにかく、それからアンタに私の力が通じない事が気に食わなくて、いつも勝負勝負って追いかけるようになったわけ」

美琴は笑みを浮かべたまま続ける。

「今だから言えるけど、正直そうやってアンタの事を追っかけまわしたりするのは楽しかったわ。
 ほら、私って周りからは広告塔みたいな扱いされて、素の状態で話せる相手なんて黒子くらいしか居なかったのよ」

「そっか……」

そういえば白井黒子から聞いたことがあった。
美琴は人の輪の中心に立つことはできても、輪の中に入っていくことはできない。
上条のような平凡な者には分からない、持つものゆえの悩みがあったのだ。



757: ◆ES7MYZVXRs:2013/07/16(火) 17:49:05.01 ID:wF64hV+jo

そんな彼女にとって上条は、

「アンタもアンタで、私のことをただの中学生として扱ってくれた。
 そんな人今まで居なかったから、最初はちょっと戸惑ったけど、やっぱり気が楽で居心地が良かった」

「でも子供扱いするとキレるじゃんお前」

「う、うっさいわね!! それはそれ!!」

美琴は顔を赤くしてピシャリと言う。

ちょっと良い雰囲気になったと思ったら、すぐに崩れ去ってしまう。
それでも上条はそれに対して嫌な感覚は持たない。むしろ自分達らしくて良いとも思う。

美琴は気を取り直すように小さく息をついて、

「変化があったのは、あの夏。アンタがボロボロになって実験を止めてくれた時」

「あれ、か。確かに御坂にとってあの事件は大きな事だったよな」

「えぇ。後にも先にもあそこまで絶望に追い込まれた事はなかったわ。でも、そんな私をアンタは助けてくれた」

「まぁ俺は」

「やりたいようにやっただけ、でしょ? アンタっていつもそうよね。分かってるわよ、私だけが特別なわけじゃない。
 でもさ、アンタにとっては今まで助けてきた人達の一人にすぎないとしても、私にとっては自分を救ってくれた、たった一人の男なのよ」

美琴は相変わらず視線を上条には向けず、前を見ている。
何か、違和感のようなものが生まれた気がした。それは会話の流れから、この場の空気全体に広がっていく。
いつもの彼女との間にある空気とは別のものに変わっていくような。

美琴の話は続く。

「思い返してみれば、たぶんその時からだった。夏休み最後の日とか、罰ゲームの時にはそれに少し戸惑った時もあった。
 ちゃんと自覚したのは、あの第二十二学区でアンタがボロボロになりながらどこかに行こうとするのを見た時。アンタの記憶喪失について話した時」

「……御坂?」

「それを知ってからはもう止められなかった。気付けばどうやってもっとアンタと仲良くなれるか、隣に居られるかって考えてた。
 アンタと話すだけで自分でも呆れるくらい舞い上がって、アンタが他の女と仲良くしてるとどうしようもなく胸が痛くなって。
 こんな気持ちが自分の中で生まれるなんて夢にも思わなかった。でも、嫌じゃなかった。ううん、嬉しかった。気付くことができてよかった」

不意に手すりに乗せた手に暖かく柔らかい感触が伝わってきた。
驚いて目を向けてみると、自分の手の上に美琴の手が乗せられている。

今度は美琴の方を見る。
すると彼女は視線を真っ直ぐこちらに向けており、視線が至近距離で交錯する。

彼女は頬を染めて、ただじっとこちらの目を見つめていた。
こうして近くで見ると、彼女がどれだけ整った顔立ちをしているのかがよく分かる。
そんな彼女の目が、今は自分だけを捉えているのだ。

静かに風が吹き、二人の髪を揺らして白い雪が流れに沿って落ちていく。
寒さなどはどこかへ行ってしまったようだった。
今上条が感じ取ることができるのは彼女の手の温もりと、ドクンドクンと早なる心臓の鼓動だけだ。


そして、彼女は。


「好き」


消え入るような小さな声だった。それこそ雪に溶けてしまいそうな程に。
でも、聞こえた。

その言葉が上条の耳に入って脳まで届くのに、かなりの時間がかかった。
今度はその言葉の意味を抽出する作業にまた時間がかかる。

その間に、彼女はもう一度。


「アンタが……上条当麻が、好きなの」



758: ◆ES7MYZVXRs:2013/07/16(火) 17:49:43.75 ID:wF64hV+jo

先程よりハッキリとした声。

上条の視線は、美琴に向けたまま固定されてしまった。
他のものは何も見えてこない。夜の闇も、ぼんやりとした民家の光も、舞い落ちる白い雪も。
ただ、目の前にある御坂美琴のほんのりと赤くなった顔しか見えない。
それは不安そうだったり、期待しているようだったり、他にも様々な感情が混ざり合っているように見え、今までに見たことのないものだった。

自分は告白されているのだと気付き、それからすぐに返事を考えなくてはいけない事に気付く。
「ありがとう」と感謝の言葉だけを伝えるのは簡単だ。重要なのはその次の言葉という事になる。
流石の上条も、彼女のその表情を前に、告白の返事を求めているという事くらいは理解できた。

考えるまでもなく、御坂美琴は自分にはもったいない程の女の子だ。

容姿は誰が見ても美少女だという程整っているし、それに他の誰かの事を想って怒ったり悲しんだり喜んだりする事ができる人間だ。
いつもやりたいようにやっていた上条を止めることはなかった、それどころか自分も力になると言って戦ってくれた。
もちろん上条は彼女のことを悪く思っているはずがなく、むしろお互いに信頼出来る大切な友人だと思っていた。こんな事は気恥ずかしくて普段は言えないが。

それでは、上条は異性として美琴の事をどう思っているのか。

今まで一度も彼女を女の子として意識した事がないわけではない。
ふとした接近の時は心臓が高なったりもしたし、現に今だってこうして心臓の鼓動は収まる気配がない。
しかし、それは他の女の子でも同じだ。それならば、もっと彼女の事をよく考えて答えを出さなければいけない。
その場の空気だけに流されてはいけない。こうして正面からぶつかってきてくれた彼女の気持ちに応えるためには、中途半端な答えを出すわけにはいかない。

ところが。

(……なんで)

上条の中に、ある一人の少女の姿が現れる。

(何を、考えてんだよ俺……今は御坂の事を……御坂だけの事を……)

その姿を懸命に払おうとする。
だが、何度消そうとしても、彼女の姿は一向に消えてくれない。

美琴の事を考えているはずなのに。
彼女の告白を聞いて、自分自身と向き合って、自分にとっての彼女の存在について知ろうとしているのに。

(なんで……インデックスの事を思い浮かべてるんだよ……!!)

銀髪の少女は優しく微笑んでいた。いつもの、全てを包み込むような暖かみを持って。

なぜ、彼女の姿が浮かんでくるのか。
今告白してきたのは御坂美琴であり、インデックスではない。彼女は何の関係もないはずだ。
確かに彼女の事の問題はある。それでも今は美琴にだけ集中しなければいけない、そんな事は誰にでも分かる。

だが、美琴との事を考えようとすればするほど、インデックスの姿が頭にちらつく。
笑った顔、怒った顔、呆れた顔、まるで頭の中で動画か何かを見ているかのように鮮明に。

それを受けて、上条にある可能性が浮かぶ。
もしかしたら美琴の事を考える上で、インデックスの事は避けて通れないのかもしれない。
美琴の告白の返事を考える事と、インデックスとの問題というのは何かしらの関係があって、切り離せないものなのかもしれない。

そんな事を考えた時だった。


上条の思考に空白が生じた。


(…………そっか)


周りの音が、景色が戻ってきた。
目の前にある美琴の顔の他に、夜の闇、民家の光、白い雪が見えてくる。
二月の雪空の下の寒さが体を伝っていくのを感じる。

ふと、気付いた。
そしてすぐ思う。どうして今まで気付かなかったのか。
違和感ならいくらでもあったのに。

上条は美琴を女の子として意識していた。
そしてそれは、インデックスに対してもそうだった。

上条は一度ならず二度もインデックスを家族で娘のようなものだと思い込んだ。
その時の自分にとってそれは最も納得のいく答えのように思えた。

しかし、それは違った。



759: ◆ES7MYZVXRs:2013/07/16(火) 17:50:40.21 ID:wF64hV+jo

今ならハッキリ言い切ることができる。それは単なる逃げでしかなかったのだ。
そう思い込むことで楽な方へと進もうとする。無理矢理悩みはなくなったという事にする。
いや、家族というのは合っていると言ってもいいのかもしれない。だが、彼女を女の子として意識している事から、娘という事はない。

それならば、相手を異性として意識した上で家族と呼べる存在とは何なのか。
他の女の子から告白され、その子への恋愛感情について考えているのに、彼女の姿ばかりが浮かび上がるのはなぜか。

少し考えてみれば何でもない、簡単な事だったのだ。


「御坂」


もう逃げたりはしない。特にこうして真っ直ぐ自分にぶつかってきてくれた相手にそんな事ができるはずがない。
だから、上条はハッキリと告げる。


「俺、インデックスのことが好きだ」


視線は彼女へ、想いのこもった言葉は重く。

その言葉を口に出した途端、上条の中が透き通っていくような感覚があった。
今まで色々なものが見えなくなっていた。それは今も頭上に広がる雲しかない雪空のように、その向こうが隠されているようだった。
それがこの瞬間に雲が消えてなくなり、綺麗な満天の星空が姿を現すような、そんな感覚だった。

だが、自分だけ満足しているわけにはいかない。
このきっかけを与えてくれたのは美琴の告白だ。そして、今上条は彼女の想いを受け取れないと言ったのだ。

美琴は表情を変えず、ただじっと上条の目をのぞき込んでいる。
今しがた告白を断られたとは思えないほど、その目は少しも揺れずにしっかりとしていた。

小さく、彼女の口が開かれる。

「ぶっ……ふふ……」

「……ん?」

「あはっ、あははははははははっ!!!」

いきなり大笑い。
その楽しげな声は静かな雪空の下にはよく響き、遠くまで聞こえるかのようだった。

これには上条もポカンとするしかない。
混乱する頭で考えても考えても分からない。ここまで大笑いされる要素がどこかにあっただろうか。
まぁ、同時に深刻な空気にならなくて、心のどこかでほっとしている所が情けないものだが。

彼女は目尻に涙を浮かべて苦しそうに話しだす。

「くくっ、なーにが『インデックスの事が好きだ』よ。そんなのとっくに分かってたっつーの」

「えっ……ええええっ!? マジで!?」

「驚きすぎ。たぶん分かってないのアンタとインデックスくらいよ」

「なっ、そ、それなら言ってくれたっていいじゃねえかよ……」

「こういうのは直接誰かに言われて気付くものじゃないでしょ。まぁ、これじゃほとんど教えてあげたようなもんだけどね」

どうやら彼女は上条に気付かせるためにわざとウソの告白をしたらしい。
これでは真剣に美琴の事で悩んでいた自分がとてつもなく滑稽に思えるが、それでも文句を言う気にはなれず、それどころか自分も一緒に笑えるくらいだ。
方法は何にせよ、彼女は上条の事を思ってそうしてくれたのだ。ありがたい事に変わりはない。

美琴はまた小さく笑うと、手すりから腕をどかして上条の隣から離れた。二人で共有していた茶羽織は当然のごとく奪われている。
そのまま彼女はクルリと後ろを向くと、肩に乗った雪を払いつつ、一度両腕を抱いてブルッと震えた。やはりこの二月の雪空の下はキツかったらしい。
それを見ていると、上条自身にも急激に寒気が襲ってきた。ブルブルと震えながら、恨めしげに舞い落ちる白い雪を見る。先程まで綺麗な光景だとか思っていたのはどうかしてた。

美琴はさっさとガラス戸のところまで歩いて行ってしまう。
あれから一度もこちらを振り向いていないが、頭の上に乗った雪は払わなくていいのだろうか。



760: ◆ES7MYZVXRs:2013/07/16(火) 17:51:23.56 ID:wF64hV+jo

「そんじゃ、私は先に戻ってるわよ」

「あっ、俺も行くよ。流石にさみーし」

「ダメ」

「なんで!?」

「アンタは私をこんな所に長時間居させた罰として、インデックスの事が好きだと知った今、これからどうするかここで考えること」

「あ、あぁ……えっ、でもここじゃなきゃダメなの!?」

「うん」

異論反論は認めないといった様子で一言で切り捨ててしまう美琴。
あまりにもハッキリとした物言いに、上条は何も言い返すこともできずに固まってしまう。

だが、とにかく言わなければいけない言葉は他にあるはずだ。

「……ありがとな御坂。俺に気付かせる為に告白するフリまでしてくれてさ」

「なーに言ってんのよ」

彼女は茶化すようにそう言うと、ガラス戸を開ける。
そして、旅館に戻る前に一言。


「あれはフリなんかじゃないわよ」


何か言葉をかける暇もなかった。
ただそれだけ言い残すと、彼女はさっさと旅館の中へ入ってガラス戸を閉めてしまう。

上条は少しの間呆然とする。
あの反応から、美琴は上条に気付かせるためにウソの告白をしたと思い込んでいた。

だが、それは違ったらしい。
彼女は正面からぶつかってきて、その上であんな笑顔を浮かべていたのだ。
その事実に、上条は指一本動かせなくなる。

もし逆の立場だったとして、自分にそんな事ができただろうか。
インデックスに告白して、他に好きな人がいると言われて、それでも彼女のことを想って笑えるだろうか。
どうして彼女はあれほどまでに強いのか。

しかし、だからといって上条の答えは変わらない。
それに、いつまでも呆然としているわけにはいかない。

上条は静かに目を閉じる。
彼女の想いは知った。その上で受け取らなかった。
それならば、上条にはインデックスの事にきっちりとケリをつける義務がある。

今度こそ、自分と正面から向き合って答えを出す。

相変わらず雪は降り続け、時折冷たいを通り越して痛みすらある風が頬を撫でる。
上条の頭にも白い雪が積もっていたが、それを払おうとする気すら起きなかった。

凍える雪空の下、上条は思考の海へと潜り込んでいく。



***



それからしばらく考えた後、上条は旅館の中へと戻った。
体はすっかり冷え込んでしまい、こうして暖房の効いた所に居るだけでまるで湯の中に入っているかのような感覚さえある。
とりあえず上条は、もう一度温泉に浸かろうかと男部屋へと戻ることにした。

答えは出た。
それはもう揺らぐことのない、ハッキリとしたものだった。
彼女の意志は尊重し、上条自身も納得できて後悔しない。しっかり考えて、そんな満足いく答えを出す事ができた。

足取りが軽い。
自分の進むべき道が見えて、ようやく上条は歩き出せたような気がした。
闇雲にもがくのと、明確なものへと突き進むのでは大きな違いがある。



761: ◆ES7MYZVXRs:2013/07/16(火) 17:52:12.93 ID:wF64hV+jo

男部屋の前に着くと、何やら中で盛り上がっているのが聞こえてくる。
上条は小さく笑うと、そのドアを開いて中に入った。


「…………」


真っ先に目に飛び込んできたのは、男達が一人残らず見るも無残な状態で倒れて白目を剥いている光景だった。
浜面は明らかにボコボコにされた様子で大の字になっており、垣根なんかは全裸に剥かれ、一方通行は髪を可愛らしい感じに結ばれたまま気を失っている。

対照的に、女子の方はそれはそれは楽しげに笑顔で酒を飲んでいる。
それも麦野だけではなく、美琴や食蜂といって常盤台のお嬢様も一緒だ。

女の子達の視線が一斉にこちらに向く。
尋常ではない危機感を覚えた上条は、すぐさま向きを変えて部屋から出て行こうとする。

しかし。

「うおあっ!!!」

美琴が超反応で駆け寄ってきて、足を掴んで引きずり倒した。
その瞬間に、麦野、食蜂も加わって無理矢理上条を部屋の中へと引きずり込む。

「ま、待て!! 待ってください!!!」

「何よ私を思いっきりフッたくせに!! 責任とれこのやろう!!!」

「完全に出来上がってらっしゃる!? ちょ、一旦落ちつごぼっ、ぶぼぼぼぼぼぼぼぼぼ!!!!!」

「ぐすっ、私はこんなに好きなのにぃぃぃぃいいいいいい!!!!!」

上条の腹に乗っかって、泣きながら酒瓶をその口に突っ込んでくる美琴。頬は先程と違った意味で上気しており、目もトロンと焦点が合っていない。
その気持ちは分からなくもないが、アルコールが問答無用で流れ込んでくるこの状況は、真面目に生命の危機を感じるので上条は必死に抵抗する。

すると、意外にもこの状況から救ってくれたのは食蜂だった。
彼女は上条の上から美琴をどかすと、口に突っ込まれていた酒瓶をどかしてくれる。

「ちょっとぉ、そんなので口塞がれちゃったら私がキスできないじゃなぁい!!!」

訂正しよう、彼女は上条を救う気などさらさらないらしい。
彼女もまた見事に出来上がっている上になぜかヤケクソ気味になっており、そのまま頭突きしそうな勢いで顔を近づけてきたので、上条は慌ててその頭を手で押さえる。
シャンプーの良い香りがほのかに香ってくるのだが、それにドキドキしているような余裕はない。この勢いでキスなんかされたら口が血だらけになりそうなので必死である。

そこに飛び込んでくるのは美琴だ。

「ふざけんじゃないわよ!!! キスするのは私よ!!!」

「フラれた人は引っ込んでなさいよぉ!!!」

「はぁ!? フラれたらキスしちゃいけないっていう法律でもあるわけ!? あっても無視するけど!!」

「だああああああ!!! 俺の意志は完全無視ですか!?」

上条は渾身の力を込めて何とか二人の中から脱出すると、ズササササと一気に後ずさって距離をとる。
先程のアルコールが頭に回ってクラクラする頭を押さえて彼女達を警戒して見ると、ユラユラとまるでゾンビのようにこちらに迫ってきていた。
こんな状態の彼女達を常盤台の教師なんかが見たらどうなるのだろうかと考えるだけで頭が痛くなってくる。

すると、ここにきてやっと割と大人しく座って飲んでいた麦野が口を開く。

「それで、アンタはどうするか決めたわけ?」

「……あぁ。俺はどわああああああああああ!!!!!」

言葉の途中で二人に押し倒された。
美琴の自己主張の小さい胸と、食蜂の大きすぎる胸が一気に体に触れて、頭の中がパニックに陥る。

「おいいいいいいい!!! 今ちょっとシリアスなところだっただろ!!!」

「知らないわよそんなもん!!! ほら、んー」

「あっ、だからなんで御坂さんがしゃしゃり出てくるのよぉ!!!」

「それで、どうするわけ?」

「えっ、この状態で言うの!? 助けてはくれないんですか麦野さん!!!」

美琴と食蜂が、上条の上で勝手に争いを始めてくれているお陰で何とか唇は無事ではあるのだが、それがいつまで持つかも分からない。
というか、こんなギャグしかない状況で一応は自分の一大決心を口にするというのも何とも虚しい。



762: ◆ES7MYZVXRs:2013/07/16(火) 17:52:43.68 ID:wF64hV+jo

しかし、少しして思った。
こういうのも自分らしいのではないか。不幸な上条にとっては自分の思い通りにならない事なんてしょっちゅうなのだ。
まぁ、この状況を不幸といえばあらゆる者達からフルボッコにされる可能性が高いが。

とにかく、上条は言ってしまうことにした。
酒が入った影響もあるのか、もうヤケクソだ。


「俺はインデックスが好きだ!! だからアイツがイギリスに帰る前に告白する!!!」


その瞬間、静かになる部屋。
上で暴れてた美琴と食蜂は同時にピタリと止まる。まるでビデオの停止ボタンを押したかのようだ。
一方で麦野は満足気にニヤニヤと笑っていた。

美琴と食蜂の表情が見えない。
上条の言葉を聞いた瞬間思い切り俯いており、ピクリとも動かない。

素直に恐ろしいと思った。
酒も入りまくっているこの状況では、次に彼女達の取る行動が予測できない。


そして、美琴が動いた。


「バカァァあああああああああああああああああああ!!!!!」


上条の頬に綺麗な平手打ちがぶち込まれ、パァァン!!! と良い音が響く。
あまりの勢いに視界がブレ、強制的に顔を横向きにされてしまう。

それは今まで彼女から受けたどの攻撃よりも優しく、強く、痛かった



790: ◆ES7MYZVXRs:2013/09/19(木) 04:58:44.26 ID:EJeQ9ZV8o

***



目が覚めたら両脇で女の子二人が、浴衣をはだけさせてぐっすりと寝ていた。

右側には小さめな胸のレベル5の第三位、御坂美琴。左側には大きめな胸のレベル5の第五位、食蜂操祈。
学園都市でも最上位と呼べる能力者の女の子二人を同時に丸め込むなんていうのは、それこそレベル6にしかできない芸当のように思えるかもしれない。

しかし、上条は違う。レベル0の無能力者だ。
したがって、別にこれは決して彼女達を丸め込んだというわけではない。
昨夜は大量のアルコールのせいで途中から記憶が曖昧だが、何も間違いなんて起きていない。起きていないのだ。

「…………」

後で一応麦野辺りに確認しておこう。
そう思いつつ、上条は上半身を起こして周りを眺めてみる。

薄暗い部屋。時刻はまだ六時前のようだ。
なんだか旅行に来てから早起きの習慣が付きそうな勢いである。まぁ別にそれは悪いことではないが。

部屋では麦野がきちんと布団を敷いて寝ている他は、酷い有様だった。
浜面や一方通行なんかは昨夜の状態のままで動いていない様子だ。あれは死んでいるのではないかとも思う。
そして、上条の両隣。いくら酔っ払っていたからといって、年頃の女の子が男と同じ布団で寝るというのはいかがなものか。

といっても、上条自身インデックスのことがあるので、そういった事を言える立場でもないのだが。

「よう、また早起きか。流石学生ってとこか?」

「ん、垣根か」

窓際の肘あて付きの椅子に垣根が座っていた。
記憶の限りでは彼は全裸に剥かれて放置されていたが、今ではきちんと浴衣を着て正統派イケメンに戻っている。

上条は二人を起こさないように布団から出ると、垣根の向かいの椅子に座る。

「お前こそ早起きじゃねえか。まぁ俺が来た時は既に気絶してたけどさ」

「その話はやめろよ……人生の汚点ってレベルじゃねえ……」

思いの外ダメージを受けている様子なので、それ以上は触れない方がいいようだ。
やはり麦野の罰ゲームは生ぬるいものではなく、きっちり一人の男にトラウマを残していた。

それでは何か他のことを話そうか。そう考えた時、自分にとってタイムリーな話を思い出す。
気絶していた垣根はあの話を聞いていないはずだ。

「俺さ、インデックスに告白することにした」

「へぇ、いいじゃんいいじゃん。つか何だかんだ言ってあのシスター狙いだったんだなお前」

「あぁ、つっても昨日の夜まで自分でも気付いてなかったんだけどな。御坂に告白されて分かったんだ」

「え、マジ? ってことはお前御坂の事フッたのか?」

「……おう」

「なんだなんだ、お前も随分と贅沢なもんだな。御坂もガキだがかなりの上物だとは思うぜ?」

「分かってるよ。けど、俺はやっぱりインデックスの事が好きなんだ」

「……御坂の反応は?」

「思いっきり笑われた。そんなの分かってるってさ。そんでその後酔っ払った勢いでビンタされた」

「ははっ、大した女だ」

こうしていると、ただの学生の会話にしか聞こえない。
超能力なんていうものを身に付けているだけに奇異の目で見られることも多いが、元々学生であることに変わりはないのだ。
こういった恋愛事への関心もあるし、都市伝説なんていう学園都市にあるまじきオカルト的なものさえ広まっている。

要するに、例え能力開発によって体の作りの違いはあっても、人間的には外の学生との違いはさほどない。
皆がそれぞれ貴重な学生生活を楽しんでいる。



791: ◆ES7MYZVXRs:2013/09/19(木) 04:59:50.93 ID:EJeQ9ZV8o

垣根は小さく笑って、

「なんつーか、お前ってすげえよな。今まで何度も現実離れした事件なんかに巻き込まれて、それでもそうやって普通に学生っぽい生活も送れてるんだからな」

「あー、でも出席日数とか結構ヤバイぞ」

「それでも学校に戻れば普通の学生に戻れる。それって相当すげえ事だと思うぜ。俺や一方通行には真似できねえ事だ。
 俺たちなんかはどんなに平和な場所に居ても、やっぱどこか暗いもんを抱えちまう。切り離そうとしてもなかなかできねえもんだ」

「……そういや同じような事一方通行にも言われたな」

「うげっ、マジかよ」

垣根は心底嫌そうに顔をしかめた。

一方で上条は少し考えてみる。
上条と一方通行達では何が違うのか。そう考えると違う所などというのはいくらでもある。
その中で決定的に違う所。それはやはりまともな学生生活の長さという所ではないか。

「これは一方通行にも言ったんだけどさ、やっぱ慣れだと思うんだ。最初は誰だって新しい環境には慣れねえ。
 例えば小学校から中学、中学から高校、もっと言えば毎年のクラス替えも。けど何だかんだそこに適応していくんじゃねえかな」

「そういうもんかねぇ」

「そういうもんだろ。つかそう思わねえとやってらんなくね?」

「はは、確かにな」

上条も上条で、学園都市に入る前は迫害を受けた時もあるらしい。記憶が無いので分からないが。
それでも、今ではこうして普通……ではないが、少なくとも学校にいる時はどこにでもいるような学生として居られる。
もしも上条も一方通行や垣根のような暗い所で生きていたら、彼らと同じような悩みを抱えたかもしれない。

確かに人には生まれ持った性質はあるかもしれない。
しかし、結局は本人の意志によって左右する所も多く、周りの環境というものも大きく影響してくるものだと思う。

これは上条自身が、生まれ持った悪などは存在しないと信じたいという所もあるのだろうが。

垣根はぼんやりと窓の外へと目を向けていた。
雪は止んでいるようで、徐々に昇り始めた太陽によって空全体が白く染められている。

「学校生活ってのは楽しいもんなのか? よく言うじゃねえか、外から見てる分には楽しそうに見えても、実際そこに居るとそうでもねえって」

「んー、そりゃ勉強とか面倒な事はあるけどさ、俺は楽しいと思うぞ。まぁそれこそ実際に行ってみねえと分かんねえよ」

「それもそうか。学校生活で何か気をつける事とかはあるか、先輩?」

「分かってると思うけど、とりあえずムカついたからってすぐにぶっ飛ばすのはなしだ。一発で停学にされるからな」

「了解了解。俺だってその気になれば穏便に進められるっての」

「それならいいんだけどな。後は……昼休みの購買は戦争状態だから、スタートダッシュに遅れると負けると思ったほうがいいな」

「おっ、なんかそういうの学校っぽくていいな。まぁ俺は飛べるし関係ねえけど」

「うわっ、ずりー」

毎度毎度学食やら購買というものは昼になると学生でいっぱいになる。
長点上機のような上位校で同じ現象が起きているのかは分からないが、少なくとも上条の高校はそうだ。
そしてそういった上条にとってはそれほど気に留めるような事でなくても、垣根にとっては貴重な体験になるらしい。

垣根は満足気に目を閉じて、

「けど何だかんだこの旅行も結構楽しかったぜ。一方通行の監視ってのがウザいことこの上ない事と麦野の暴走を除けばな」

「はは、そりゃ良かった。普通の学生らしい生活ってのも悪くねえだろ?」

「……そうだな。まっ、何にせよこれだけじゃ判断できねえな、実際に学校行ってから考えてみるさ。今までのクソッタレな生活よりはマシだと願うぜ」

そう言うと、垣根は静かに目を開く。
その先にはやはり白み始めた空があった。



792: ◆ES7MYZVXRs:2013/09/19(木) 05:00:45.72 ID:EJeQ9ZV8o

「俺はお前に勝てねえんだろうな」

「はぁ? 何だよ、随分控えめじゃねえか」

「何となくそんな気がしただけだ。たぶん、クソヤロウじゃお前には勝てねえんだ」

「そうか……? 俺からすればレベル5なんてのはいつだって分が悪い勝負にしかならねえけどな」

「それでも最後にはその右手でぶっ飛ばすんだろ。第一位相手にすらそうだったんだ、他の能力者でも同じ事が言えんだろ。だからよ」

垣根はそこで言葉を切り、口元に小さく笑みを浮かべてこちらを見る。
窓から差し込む淡い光に照らされて、その表情は明るく柔らかく、そして楽しげに見えた。
それは普通の生活を送る学生と何ら変わらないものだった。

おそらくこの前までの垣根ではこの表情をする事はできなかったのだろう。


「俺がお前に勝った時、それは俺がまともな人間になった時なんだろうな」


垣根の言葉に、上条は少しの間言葉を忘れてただ目の前の少年を見つめる。
これはどういった意味なのかまだよく理解できていないのだが、それでも何となく不吉な感じはした。

「おいちょっと待て。なんか俺とケンカする前提で話してねえかお前」

「ん、まぁな。ただ今は勝てねえだろうから、その内って事だ」

「いやいやいやいや、ふざけんな。無能力者相手にケンカ売るレベル5とかどこがまともなんだよ」

「大丈夫だろ、その右手があれば」

「そういう問題じゃねえよ! 何でレベル5ってのはどいつもこいつも戦闘狂なんですか!?」

どういう理屈でそういう話になるのかは分からないが、とにかくレベル5にケンカを売られるなんていうのは勘弁してもらいたい上条。
今まで何人かのレベル5を相手にしたことがあるのは事実だが、進んで戦いたいなんて思うわけがない。
それなのに垣根の方はなぜか「遠慮すんなって」みたいな態度で軽く流そうとしている。

ダメだ、これはちょっとやそっとで普通の学園生活なんて送れるはずがない。
そう判断した上条は、それからしばらく普通の学生とは何なのかというのを熱心に伝えることにした。
もちろん一番の理由は垣根の学校生活よりも、自分自身の身の安全のためだ。



***



旅行最終日、インデックス滞在六日目。
朝食を済ませた一行は、各自男部屋と女部屋の荷物の片付けに入る。
といっても、大きな荷物は全て学園都市に送ってもらっているので、後は細かい荷物が残っていないか確認するだけなのだが。

男部屋には上条一人だ。
他の者達は既に自分の物を持って行ってしまったのだが、上条だけケータイの充電器という微妙なものがどっかにいってしまっているようで探すはめになっていた。
まぁ今持っているケータイに関しては壊れてしまっているのだが、それでも充電器は会社が同じであればまた使えるので無くしたままというのは良くない。

昨日とは打って変わって外は晴れ渡る青空が広がっており、部屋の中には柔らかい日差しが入り込んでいる。

「あーもう、どこいっちまったんだよ……昨日の大暴れでどっかとんでもねえ所にあるんじゃねえだろうな……」

昨日の夜の大騒ぎは酷すぎた。
一応麦野に確認をとったところ、一線を越えるような事はなかったらしいが、それでも耳をふさぎたくなる程の惨状だったことは分かった。
それは、アルコールのせいで記憶が曖昧なことを幸いと思える程であり、やはり酒は恐ろしいものだと上条は再認識する。

その時だった。

「上条さぁん? まだ見つかりませんかぁ?」

そう言って部屋の中に入ってきたのは食蜂操祈だった。
上はフード付きのパーカーに、下は黒のタイツにショートパンツ。いくらタイツを履いてても冬にショートパンツは寒いんじゃないかとも上条は思う。



793: ◆ES7MYZVXRs:2013/09/19(木) 05:01:19.51 ID:EJeQ9ZV8o

「あれ、もしかして待っててくれたのか?」

「えぇ。他の人達はもうそれぞれどっか行っちゃいましたけど、私は上条さんとデートしたかったのでぇ☆ あ、インデックスさんと御坂さんには話つけてますよぉ」

「えーと、デートって初日にしなかったっけか?」

「いいじゃないですかぁ、何度したってぇ。もしかして好きな子がいるのに、他の子とデートなんてできない、っていう硬派力の関係ですかぁ?」

「それは……その……」

「それじゃあデートじゃなくてただのお買い物って事にしましょぉ?
 ほら、イギリスに帰っちゃうインデックスさんに告白と一緒に何か渡すっていうのもロマンチックでいいじゃないですかぁ」

「……確かにそうかもな」

少し考えて上条は頷く。
彼女が帰る前に何か形に残るようなものを渡すというのは良いアイデアだと思った。
それならば自分だけの感覚で決めるよりも、同じ女の子の意見も参考にして決めたほうがいいかもしれない。

上手く言いくるめられたという感はあるが。

それから二人で充電器を探し始めるのだが、なかなか見つからない。
諦めたくない上条は、だんだん文句を言い始めた彼女に少し違う話を振ってみる事にした。

「そういやさ」

「はーい?」

「結局操祈の思わせぶりな態度は俺をからかってたって事でいいんだよな? まったく、別に期待なんかしてなかったけどよー」

「えっ、本気力全開でしたよ?」

「……はい?」

上条は何とも気の抜けた声を出して彼女の方を向く。
一方で、食蜂の方もキョトンとした表情で首を傾げている。何か噛み合っていない。

「え、いや、それにしては俺がインデックスの事好きだってハッキリ言っても態度とか全然変わってねえなって……」

「ふふ、見た目だけじゃ女の子のことなんて分かりませんよぉ。
 正直に言うと泣き喚きたいところなんですけど、それだと上条さんを困らせちゃうんで、この演技力でいつも通りに振舞ってるんですよぉ」

「マジで?」

「どうでしょう?」

「おい」

やはり彼女は掴み所がない。
向こうからはグイグイと押してくるのに、こちらから押してみても手応えがない感覚だ。
のらりくらりと、彼女はいつも余裕を持った微笑みを浮かべて自由に動いている。

まぁ、旅行初日の電車の中ではそんな彼女の貴重な面を見られたわけだが。

食蜂はクスリと可愛らしい笑みを浮かべて、


「この際だからハッキリ言っておきますねぇ。私は上条さんの事が好きです」


その目は真剣で、冗談なんかではない事を突きつけている。
その声はよく通り、ずっしりとした重みを持って上条の耳から脳へと伝わる。

部屋に広がる沈黙。
だが、それは長くは続かない。上条の中ではそれに対する返答はすぐに出てくる。
だから、こちらもハッキリと伝える。


「その気持ちは嬉しい。でも、俺はインデックスが好きだ」



794: ◆ES7MYZVXRs:2013/09/19(木) 05:02:04.29 ID:EJeQ9ZV8o

迷いはない。
ただ自分の中にある揺るぎない答えを真っ直ぐ伝えるだけ。
今まで散々回り道をしてきたように思えるが、やっと手に入れた大切な答えだ。

彼女は静かに微笑んでいる。
旅館の一室に二人きり。窓からは柔らかい日差しが優しく差し込んでいる午前中。
その沈黙は決して苦しいものではなかった。

「……私がいつも通りに振舞っている理由について聞きましたよね?」

「あぁ」

「私は、恋人になれないからって友達としても居られないなんて嫌なんです。
 ほら、よくあるでしょぉ? 仲の良い異性の友達に告白したけど上手くいかなくて、その後ギクシャクしてろくに話せなくなっちゃうっていうの」

「あー、聞いたことあるなそれ」

「例え恋人になれないとしても、上条さんが大切な人であることに変わりはないですからね。それに私、友達少ないですし」

「平然と悲しいこと言うなよ……俺にとっても操祈は大切な人だし、お前ならすぐにたくさん友達できるって」

「ふふ、ありがとうございます。そう言ってくれるだけでも幸福力上がりまくりです」

彼女の笑顔はとても良いものだ。見ているこちらまで自然と笑顔になる。
これはインデックスにも通じるものであり、元々彼女はそうやって誰かを包み込むような人柄だったのだろう。
そんな彼女なら、すぐには切れない固い絆で結ばれた本当の友達だってきっとできるはずだ。

そして上条は彼女に対して強さというものも見出していた。

「でも、すげえよな操祈って」

「すごい?」

「あぁ。もし逆の立場だったとしたら、俺はそんなに割り切れる自信ねえよ。
 もしインデックスが他の男のことを好きで、俺には振り向いてくれないって知ったらどうなっちまうか分からねえ」

すると食蜂は斜め上を見て少し考える素振りを見せて、

「んー、でもでもぉ、私だって完全に諦めたわけではないですよぉ?」

「え?」

「ふっふっふ、もしも二人がめでたく付き合うような事になっても、それでそのまま結婚までいくとは限らないですよぉ。
 まぁあなた達に関しては一度付き合ったら別れそうにもないですけど、絶対ないとは言えないわぁ。それに例え結婚したとしても、離婚という可能性は常にあるんですしぃ」

「な、なるほど」

「ダメですよぉ上条さん、あんまり私を信頼しちゃ。私って諦めの悪い女なんですからぁ。
 上条さんの告白のお手伝いだって本当はしたくないですよぉ? でも目的はどうあれ、上条さんと一緒に居られる口実にはなるんで、その気持ちを優先してるだけなんです」

食蜂はパチッとイタズラっぽくウインクする。
まさに小悪魔という言葉がピッタリといったような仕草だ。

「本当は上条さんがインデックスさんの事を好きだっていう事くらい分かってたんですよぉ。ほら、初日のデートの最後のほうで私何か言いかけたでしょ?
 でも、言わなかった。上条さんにはインデックスさんではなく私を見てほしかった。二日目のスキーの時にインデックスさんがイギリスに帰ってから全部話すって言ったのもそういう事です。
 アピール力は大事ですけど、告白なんていう直接的すぎるものは、そこから上条さんがインデックスさんへの気持ちに気付いてしまう可能性があったんです」

「す、すげえ色々と考えてたんだな……」

「まぁ結局御坂さんのせいでメチャクチャですけどねぇ。でも、どうですかぁ、上条さん。私ってやっぱり嫌な女でしょ?」

「そんな事ねえよ。そこまで俺の事を想ってくれている子を嫌な奴だなんて思うわけねえだろ」

上条は即答する。

確かにもし食蜂が上条の本当の気持ちについて指摘していれば、ここまで遠回りすることもなかったかもしれない。
だが、それは彼女にとって喜ばしいことではなかった。なぜなら彼女も上条のことが好きだからだ。

もし逆の立場だったとして、自分はどうするだろうか。
考えてみても分からない。食蜂と同じように動くかもしれないし、美琴と同じように動くかもしれない。
結局、どちらが正しいのかなんて分からないし、そもそも正解自体がないようにも思える。

だから、上条は彼女の事を責めることなんてできない。
むしろ、そこまで自分のことを想ってくれている事に感謝したいくらいだ。



795: ◆ES7MYZVXRs:2013/09/19(木) 05:02:50.32 ID:EJeQ9ZV8o

彼女は穏やかな笑顔を浮かべて、

「何となく上条さんならそう言ってくれると思っていました。ちょっと甘え過ぎですかね」

「別にいいんじゃねえの。前も言ったけど、俺は懐が深いからな」

「ふふ、それじゃあとことん甘えさせてもらいます」

これでいい、と思う上条。
上条はインデックスを選んだ。だからといって、他の全てを捨てたわけではない。
その事で周りの状況は変わっただろう。こうして食蜂とも笑い合えているが、それは昨日までのものとは違うのだろう。

しかし、変化はしたが壊れてしまったわけではない。
人と人との関係というものは少しずつでも変わっていくものだ。
その瞬間では若干の溝ができたりする事もあるかもしれない。心の底から笑い合う事はできないかもしれない。

それでもずっとそのままである事なんてないと信じている。
今はまだ無理でも、いずれ食蜂とも美琴とも、月日が経ってから「こんな事もあったな」と笑って話せるような日がくる。

これは上条の思い描く都合の良い夢物語なのかもしれない。
どれだけ時間が経っても埋まらない傷というものは存在するのかもしれない。
それでも、上条は信じ続ける。今までもずっと、そうしてきたから。

と、ここまで考えて上条はふとあることに気付く。

「なぁ、操祈は俺とインデックスが、その、恋人同士になるっていうのは反対なんだよな?」

「当たり前じゃないですかぁ。上手くいかない事を全力で願っています☆」

「なんかもうそこまでハッキリ言われると清々しいわ…………つまりさ、俺の告白も邪魔する気満々って感じか?」

彼女が本気で邪魔しにきた場合、相当面倒な事になるというのは予想できる。
理由は分かっていたとしても、正直旅行前のあの一件並の騒動を引き起こされたら、告白どうのこうのといった問題ではなくなる。

そんな事を考えて苦い顔をする上条だったが、食蜂の方は何でもなさそうに、

「邪魔はしませんよぉ。それだと上条さんに嫌われちゃうじゃないですかぁ」

「えっ、あ、あぁ! 嫌うぞ、メッチャ嫌う」

「それじゃあダメなんですよぉ。あくまで私への好感度は保ったままじゃないと。
 だから、邪魔はしませんけど、余程のメリットが無ければ協力もしないって事です。積極的安楽死より消極的安楽死を選ぶって感じですね」

「その例えは何とかならないんですかね……つか死ぬこと前提じゃねえかそれ」

そう言いつつも、とりあえず邪魔はしてこないというので、ほっと胸を撫で下ろす上条。
同時に、目の前でニコニコ微笑んでいる彼女を見て思う。

この少女は強い。信じられないほど強い。
暗い気持ちはおそらくあるのだろう。しかし、それを微塵も表に出さずに、決して下を向かない。
ここまで常に前を向いていられるというのはとても簡単な事ではないだろうし、その様子はどこか美琴に通じるものがある。

そういえばその美琴も、朝食の時は今までと変わらず対応してくれた。
彼女も当然心の中では色々と思う所もあるのだろう。だが、見た目だけでは判断することができなかった。
その事に安心していた自分は、きっと彼女にすがっているという事なのだろう。

そして、インデックス。旅行に来ている者達の中で、彼女だけが上条の気持ちを知らない。
これは誰かが言うようなものではなく、上条自身が正面から伝えるものだからだ。


結局、ずっと探していた充電器は、浜面が間違えて持っていたというオチだった。



***



旅行最終日、街へと繰り出した学園都市一行。
食蜂は上条とデートするという事で、それ以外でそれぞれ回る事になる。
組み分けは美琴と麦野、それ以外というものになった。単に目的の違いだ。

インデックスはガラス工芸体験というものをやりたがり、浜面も後でこっそり滝壺にプレゼントする事にしたらしく、彼女に付き合うことにした。
そして垣根もそれに興味を示し、監視役の一方通行も仕方なしについて来るという展開だ。

美琴と麦野はそういったものに興味が無いらしく、二人で山の方へと行ってしまった。



796: ◆ES7MYZVXRs:2013/09/19(木) 05:03:33.03 ID:EJeQ9ZV8o

とあるガラス工房の中。
インデックスはいつもの修道服に身を包んで、頬を膨らませた可愛らしい表情で手にした竿に口をつけていた。
これは吹き竿といい、この先端に溶けたガラスを巻きつけて、別の先端から息を送ることで膨らませ、ガラス細工を作る。

やってみると中々面白かったりするのだが、隣にいる手先の器用な浜面の出来栄えが凄いので敗北感を覚える。

「……まぁ、人間誰にでも取り柄はあるものだし」

「おい待て、それ褒めてるっていうか貶してる感が強いよな?」

浜面はジト目でインデックスの方を向く。
それでも真っ赤になって変形しやすいガラスが綺麗な形状を保っているのが何とも悔しい。

「つーか、俺よりもアイツらの方が明らかにおかしいだろ」

「あっちはもう何ていうか、根本的に違う感じがするから張り合う気も起きないかも」

そう言う二人の視線の先。
そこではレベル5の第一位と第二位が同じくガラス細工を作っている。

いや、同じではない。
例えば第二位、垣根帝督。彼の手元には複雑な形状の翼を広げた女神様が神々しい光を放っている。
例えば第一位、一方通行。彼の手元には迫力のある翼を広げた悪魔が禍々しい光を放っている。

どう見ても素人レベルのものではない。その証拠は店の人のまん丸と見開かれた目と、あんぐりと開けられた口だ。

垣根は得意気に一方通行の作品を鼻で笑うと、

「へっ、俺の方が数段上だな」

「あ? そのクソメルヘンのどこに勝てる要素があるンだ? さっさと絵本の世界に帰れ」

「んだとコラ。よくその厨二病全開の痛々しいやつを堂々と晒せるな。テメェこそ黒歴史ノートの中に帰れ」

「どの口が言ってやがる未元物質(ダークマター)」

「能力名で呼ぶなァァああああああ!!!」

何というか、今日も仲良さそうで何よりだ。
別段口を出すこともないので、インデックスも浜面も自分のものに集中する。


それから少しして、二人はそれぞれガラス細工を完成させた。
やはりクオリティの面ではインデックスは浜面には及ばない。
しかし、そこは大きな問題でもないと思い込んだ。こういったものはどれだけ心がこもっているかが大事なのだ。

……いや、その面でも恋人に送るという浜面には勝てない気がする。

「やっぱそれって上条にあげるものか?」

「ううん、これはイギリス清教に。とうまのは一昨日買ったパワーストーンを加工して、誕生日プレゼント用にしようかなって」

「へぇ、加工? 手伝ってやろうか?」

「大丈夫大丈夫、私だってそこまで不器用なわけじゃないし」

その言葉に浜面は何とも微妙な表情を浮かべた。
確かにこのガラス工作だけ見ればそこまででもないようにも思えるが、もっと科学が絡んでくるものになってくると違う。
インデックスが最近やっと電子レンジの使い方をマスターしてきたというのは、割と広まっている話でもあった。

だが、こういうのは無理に手伝うようなものでもない。
プレゼントというものはどれだけ質が高いかというよりも、どれだけ想いがこもっているかという事が重要だ。
インデックスはとにかく自分一人で完成させたかった。

とは言え、浜面はそこはかとなく不安である事には変わりないようで、

「じゃあさ、手伝わねえけどやり方だけ教えるってのはどうだ? 後、仕上げの難しい所だけちょこっと手伝うって感じでよ」

「……うん、それはちょっとお願いしたいかも」

「へへ、分かった」

実を言うとインデックスも不安なのは同じだった。この浜面の申し出はありがたい。
すると垣根が、

「そういや明日は上条とデートなんだろ? 結局告白すんの?」

「だからしないって言ってるかも。それに、夜はとうまの誕生パーティーだし」



797: ◆ES7MYZVXRs:2013/09/19(木) 05:04:12.96 ID:EJeQ9ZV8o

インデックスは若干呆れたように受け流す。

というのも、この話題は今日の朝から何度も繰り返されたものだからだ。
そこまで人の恋話が面白いのか、周りの者達は興味津々といった様子で聞いてきた。
その度にインデックスは同じような答えを返すのだが、それはあまり面白くない返答らしい。

まぁ、彼らからすれば映画やドラマのように別れ際に告白なんていう展開が見たいのかもしれない。
別にインデックスとしてもそれが心の底から嫌だというわけではなく、上条と付き合えるなら付き合いたい気持ちはある。
しかし、簡単に流されるわけにはいかないという理由も確かに存在している。

学園都市に来た初日。付き添いのステイルと話した事が頭に浮かんでくる。
もしも告白が失敗したら、それによる精神的ダメージにより遠隔制御霊装に影響が出るかもしれない。
もしも告白が成功したら、離れたくないという気持ちにより遠隔制御霊装に影響が出るかもしれない。

その他もろもろ、旅行初日の夜に話したような理屈やら何やら色々あって、インデックスはこのままの関係で別れる事に決めていた。
これが一生の別れというわけではないのだ。また会えるからこそ、大きなリスクを背負ってまで動こうとは思わない。

今度は別の声が彼女に向けられる。
それはずっとこの話題には触れて来なかった一方通行のものだった。

「もし上条がお前と付き合いたいって言ったらどうする」

「えっ!?」

その言葉に目を大きく開けて動揺するインデックス。
だが、そういった反応は彼女だけではなかった。


同じように浜面と垣根も、どこか慌てた様子で一方通行の事を見ている。
これはインデックスには知る由もないのだが、上条の気持ちを彼女に伝えるのは本人の役目であり、他の者達は知っていても教えない事にしていたからだ。
今回は直接的なものではなく、あくまで仮定の話として出したわけだが、それでもかなりギリギリな所を攻めている事に変わりはない。


インデックスは視線を慌ただしく彷徨わせながら、

「え、えっと……たぶんそういう事はないんじゃないかな。ほら、とうまって私のことを娘のように思ってて、恋愛感情とかはないみたいだし……」

「もしもの話だ。アイツだってそういう恋愛事に慣れてるわけじゃねェだろうし、気持ちが変わるってのは十分考えられる」

それを聞いた垣根が顔をしかめて、

「お前が恋愛とか口にすると凄まじく気持ち悪いな」

「うるせェぞクソ童貞」

「ど、童貞じゃねえし!!」

「落ち着けよ俺だって童貞だしさ」

「何だその彼女持ちの余裕!!!」

「つーかオマエら少し黙れっつの」

どんどん話が脱線していくので、一方通行はイライラした様子で頭をわしわしとかく。
今この瞬間において垣根や浜面が童貞だという話は何の意味もないものだ。

一方通行はその真っ赤な瞳をインデックスに向けると、

「で、どうなンだよ」

「……そ、そんなの困るかも。たぶん応える事はできない……と思う」

「それがオマエの答えなンだな?」

「……うん」

「ならいい」

そう言うと一方通行は満足したのか、彼女から視線を外した。

上条は悲しむだろうか。例えそうだとしても彼はそれを表には出さないだろう。
その後、おそらく美琴や食蜂が上条を慰めるのだろう。そして、不安定だからこそ彼女達の方に心が揺れるのかもしれない。
インデックスの胸がチクリと痛む。上条に対してウソをついて悲しませる事もそうだし、彼の隣に自分以外の誰かが立つようになる事も。
しかし彼女達を恨むような事はしない。立場が逆だったとしたら自分も全く同じ事をしただろうから。

インデックスにとって、離れたくないという気持ちが大きくなるのは良いことではない。
上条からの告白が嬉しくないわけがない。ただ、彼女には彼女の決意がある。



798: ◆ES7MYZVXRs:2013/09/19(木) 05:05:16.12 ID:EJeQ9ZV8o

といっても、これらはあくまで喩え話だ。
本当にその通りになるとはインデックス自身は思っていない。だからそこまで気にかける必要もないだろう。

首を傾げたのは垣根だ。

「なぁ、今のやりとりに何か意味はあったのか?」

「少なくともオマエの存在価値よりはあンだろ」

「よーし、もう我慢の限界だ。表出ろやコラァァ!!!」

「だから何でケンカになんだよお前ら!!」

考え込むインデックスをよそに、男達は勝手に盛り上がっていた。



***



美琴と麦野は山に来ていた。
美琴は厚手のセーターにミディスカート、麦野はジャケットにジーンズ。二人共上にはコートを羽織っている。
今日は青空が綺麗ないい天気だが、雪はまだ残っていた。昨日の大雪以前からのものも多いだろう。

彼女達がここまで来たのは、決して失恋のショックで早まった事をする為ではない。
そもそも、彼女達の性格を考えればむしろ山の方を心配したほうがいいのかもしれない。八つ当たり的な意味で。

とにかく、彼女達は別に木にぶら下がるわけでも、山を吹き飛ばすつもりでもないのは確かだ。

麦野は退屈そうな表情で、

「それで、あんたはこんなとこまで来て何するつもりなのよ。いい加減なんか面白いことしなさいよ」

「アンタ……ついてきた目的はそれか」

「もちろん。男にフラれたばかりの女ってのは結構面白いことするからね」

「それは体験談?」

「バカ言え」

麦野がどういった事を期待しているのかは知らないが、それに添えるかどうかは不明だ。
少なくとも、美琴自身の評価としては対して面白い事ではない。

そんな事であまり付き合わせるのも悪いと思ったので、正直に言うことにする。
美琴はコートのポケットからあるものを取り出した。

「ただこいつを捨てようと思っただけよ」

「そりゃペアリングか? おいおい、付き合ってもない男の為にそんなもん買ってたのか。随分重い女ね、ストーカーになるタイプよ」

「うっさい、今思えばちょっとアレだったかもってのは分かってるわよ」

このペアリングを買ったのはハワイでの事だ。
重いという指摘も既に番外個体から受けているわけで、それから密かに自分は重い女なのかと割と真剣に頭を悩ませたりもした。
まぁその時は初恋なんだしこれくらい突っ走っても問題ないという風に考えていたのだが、こうして冷静になってみると飛ばしすぎたとも思えてくる。

恋は盲目とはよく言ったものだ。

麦野はしげしげと指輪の模様などを眺めた後、

「……ふーん、とりあえず何がしたいのかは分かったわ。でもさ、別に捨てるまでしなくていいんじゃないの。
 ほら、上条がインデックスに告白して玉砕とかしたら、その時はまたアプローチを始めて狙っていくっていうのもありなんじゃない?」

「インデックスはアイツの事が好きって言ってるじゃない」

「だからといって、上条の告白を受け入れるかどうかは分からない。
 元々、色々と面倒くさい事情とか絡みまくってるんでしょ。それを考えて自分からは告白しないって考えているみたいだし」

「それでも、私は一度ケジメをつけたいのよ。もしアイツがフラれた時は、その時また考えるわ」

これからどうするかという事を考える為に、美琴には区切りが必要だった。
だから、ペアリングを捨てる。ケータイのペア契約も解消するべきだろう。ゲコ太ストラップは勘弁してもらいたいが。
時に前へ進むためには何かを捨てなければいけない事もある。



799: ◆ES7MYZVXRs:2013/09/19(木) 05:06:06.63 ID:EJeQ9ZV8o

麦野はそんな美琴を観察するようにじっと見つめていた。
彼女も彼女で思う所も多くあるのだろう。

「はっ、表向きじゃ普段通りを装っていても、やっぱ結構キツイのね」

「当たり前でしょ、初恋が砕け散ったのよ。普通はボロボロ大泣きして今頃は目を真っ赤にしてる頃よ」

「アルコールの力を借りないと泣けもしない奴がよく言うわね。ほら、ここは人通りもないみたいだし、私の胸を貸してやってもいいわよん?」

「結構よ。それに泣けないとかアンタにだけは言われたくないわ」

「……それには何も言えないわね」

麦野は愉快げに小さく笑う。

レベル5の女は恋に破れるというジンクスでもあるのだろうか。
いや、科学の粋の結晶のような超能力と、ジンクスといった非科学的なものを結びつけるのはどうかとは思うが。
例えそうだとしたら、強大な能力を手に入れることができるとしても、かなり大きな代償だ。思春期の学生にとっては特に。

そんな事を考えていた美琴だったが、麦野の言葉にすぐに意識を持っていかれる。

「それにしても、アンタもホント面倒くさい性格してるわよね。上条と付き合いたいなら、食蜂と同じようにインデックスがイギリスに帰るまで待てば良かった。
 と言っても、それができないのがアンタなわけで、結局はどう足掻いてもこうなる運命だったのかもしれないけどさ」

「そうね。別に後悔はしてないわよ、自分で出した結論だったし。アンタだって少しは分かるでしょ」

「まーな。本当は分かりたくもないけど」

美琴も麦野も、自分で決めた道を真っ直ぐ進んだ。
その先には想い人との未来はなかったわけだが、かといって後ろを振り返って立ち止まったりはしない。
彼女達はその道を歩き続ける。ただひたすら、前を向いて。

美琴は手の中にある指輪を見る。
初心な恋心が詰まった大切な物。それでも、結局彼には渡すことができなかった物。

目を閉じれば次々と浮かんでくる。

不良に言い寄られている所に割り込んできたあの時。河原で対決し、結局追いかけっこになったあの時。
鉄橋の上、目の前が真っ暗になった時に都合のいいヒーローのように登場して全てを救っていったあの時。
素直になれなかった恋人ごっこや罰ゲーム。彼の記憶喪失を知り、そしてこの気持ちの正体を知ったあの時。
第三次世界大戦で彼を追って、そして並べなかったあの時。グレムリンとの戦いでようやくその隣に立てたあの時。

全てが手放しで喜べるような楽しい記憶でもなく。
むしろ素直になれなかった後悔やら、失敗した時の喪失感といった負の感情が湧き出る記憶も少なくないのだが。

まぁ、総括してみれば何だかんだ楽しかったとは思う。

美琴はクスリと口元に笑みを浮かべた。
結果的にフラれてしまったが、それでもこの恋自体は大切なものに変わりなかった。

手を真っ直ぐ天へと伸ばす。


「――ありがとね」


鈍い震動、轟音と共に。


明るいオレンジ色の閃光が、真っ直ぐ空へと昇っていった。


音速の三倍で射出された指輪は空気抵抗により空中で燃え尽きる。
再び、この手に戻ってくる事はない。

美琴はしばらく指輪が消えていった青空を眺めていた。
頭の中は空っぽだ。スッキリとした爽快感と、少し痛い喪失感があった。


それでも、小さく息をつくと、


「よっし、終わり」


そう、笑顔で言うことができた。
それは完璧な笑顔ではなかったかもしれない。だが、例えそうだとしても、一番大切なのは笑おうと思える事なんだろう。



800: ◆ES7MYZVXRs:2013/09/19(木) 05:06:44.91 ID:EJeQ9ZV8o

そんな美琴を見て、麦野も小さく笑うと、

「なんか奢ってやるよ。あまりにも哀れだし」

「へぇ、お嬢様相手に奢るって? 安くないわよ」

「はっ、私の財力をなめるなよ。金なんざ有り余ってる」

二人は軽口を叩き合いながら、山を下りていく。

人生山あり谷ありというが、今は谷なのだろうか。
いや、きっとそうではない。もう谷は脱している。既に歩き出している。
次の山は今程高くはないかもしれない。それでも、彼女は止まらずに進み続ける。

まだ見ぬ頂上を目指して。



***



上条と食蜂はとあるお土産屋まで来ていた。
そして二人は知る由もないのだが、ここは初日にインデックスと浜面が訪れた店でもある。

更に偶然は重なって。

「お、こんなのはどうだ。パワーストーン」

「あっ、結構いいんじゃないですかぁ。女の子って基本そういうおまじない系好きですし」

「……あー、でもインデックスはちょっと特殊なんだよな。そういうおまじないに詳しいからこそ、半端なもんは認めねえみたいな……」

「ふふ、大丈夫ですよ。ぶっちゃけ一番大事なのはおまじないの効力というより、相手がどんな想いでそれを渡してくれたのか、ですので」

「そう……か? そんじゃいいのかな」

やっぱり食蜂も一緒に居てくれて良かった、と上条は思った。
自分の感性だけで女の子へのプレゼントを選ぶというのは不安で仕方なかっただろう。

「それにしても、いろんな効果があるんだな。恋愛関係だけじゃなくて学業成就とか健康長寿とか」

「人間って欲張りですからねぇ。自然と色々なものを求めちゃうんですよぉ。でもでも、上条さんが欲しいのはもちろん恋愛成就ですよねぇ?」

と、ジト目で食蜂が尋ねてくる。
その視線に上条は思わずたじろいで、

「あ、あぁ、そうだな」

「……まっ、力尽くで阻止なんてしませんから安心してください。買いたいなら買えばいいじゃないですか」

「なんか凄く買いづらい空気を感じるんですが」

「そこは我慢してください。好きな人が他の女に愛情力こもったプレゼントを選んでいるのを見てニコニコしているのは無理です」

「……そうだ、操祈にも何か買うよ。付き合ってくれたお礼もしたいし」

「えっ、本当ですかぁ!?」

「お、おう。つか、予想以上の食い付きなんだけど……」

「じゃあこのパワーストーン! 『永遠の愛』!!」

「却下」

「ぶーっ!!!」

確かに買うとは言ったが、流石にそのチョイスはない。
これから告白しようと思っている女の子が居るのに、そんなものを他の子に渡す男はぶっ飛ばされても仕方ないと思う。



801: ◆ES7MYZVXRs:2013/09/19(木) 05:07:27.58 ID:EJeQ9ZV8o

上条は同じ棚を少し眺めて、

「おっ、これなんかいいんじゃねえか。ターコイズっていうの」

「……友情の石ですか。確かに友達居ない私にはピッタリですねぇ」

「い、嫌な言い方するなよ……でもさ、操祈はすぐに本当の友達だってたくさんできる。俺が保証するよ」

「ふふ、だといいんですが。でも好きな相手から友情のパワーストーンをプレゼントされるっていうのも中々キツイですねぇ。
 それって暗に『お前とはあくまで友達だから』って言ってるのと変わらなくないですかぁ?」

「えっ……あ、ちがっ、いや、違くないけど……そうじゃなくて、友達作りのお守りみたいなものになればいいって……!」

「……あはははははははは!! 冗談ですって!! それじゃ、これでお願いします」

焦りまくる上条とは対照的に、食蜂は朗らかに笑う。

彼女には相変わらず振り回されてばかりだが、そこまで嫌な気はしない。
上条はターコイズのパワーストーンを持ってレジに並ぶ。鮮やかなスカイブルーの石だ。
そして、もう一つ。そちらはインデックスに渡す用のものだ。

レジで精算した上条は、ターコイズの方を食蜂に渡す。
彼女は満面の笑みで、

「ありがとうございます、一生大切にしますね」

「そこまで大袈裟にしなくても……本物の宝石とかじゃねえんだし……」

「ふふ、そういう問題ではありませんよぉ。上条さんから貰ったプレゼント、ただそれだけで墓まで持っていく理由にはなります」

「お、重い……なんか重いですよ操祈さん」

しかし、まぁ、喜んでもらえたのは何よりだ。
相手は常盤台のお嬢様、本来であればプレゼントというものもかなりの高難易度であるべきはずなのだ。

そして、彼女はニヤニヤと上条が持っている袋に目を向けて、

「インデックスさんへのプレゼントには、あのパワーストーンを選んだんですかぁ。結構積極的にいきましたね」

「あぁ、まぁな…………そういや俺も重いって人の事言えねえな」

「そこら辺は相手の気持ち次第ですねぇ。向こうもこっちに少なからず好意を持っているなら、重さもむしろ可愛く見えたりするものです」

「そういうもんか」

「そういうものです」

上条は袋から勝ったばかりのパワーストーンを取り出してしげしげと眺める。
おそらくインデックスはこの石に込められた意味は知っているだろう。
つまり、これを受け取るか受け取らないかで、ほとんど告白の返事を聞くのと同じようなものだ。

このままでもストラップとして使うことはできるが、何か一工夫をしたいところだ。
一応は愛の告白と一緒に……という事なので、できれば指輪とかに加工したい。

「上条さん」

食蜂に名前を呼ばれて、そちらを向く。
その声色は真剣なもので、向いた先にあった彼女の表情にも同じく真剣なものが浮かんでいた。

「どうした?」

「私、これから本当のお友達っていうのを作っていきたいです。でも」

彼女はそこで一旦言葉を切り、一度目を閉じる。
その後再び目を開けた彼女の顔には、眩しいほどの笑顔が広がっていた。


「あなただけは――――ずっと、特別です」


その言葉に対してどのように返せばいいのか。
何が正解で何が間違いなのか。そんなものが本当にあるのかどうかも分からないし、あったとしても上条にすぐに導き出せるはずもない。

だから、いつも通り。ただ思ったことをそのまま口にする。

「ありがとな。誰かにとって特別な人間になれているっていうのは、俺も嬉しい」

「……えぇ。きっとあなたは私だけじゃなく、もっと沢山の人にとってもまた特別な存在なんでしょうね」



802: ◆ES7MYZVXRs:2013/09/19(木) 05:08:20.98 ID:EJeQ9ZV8o

自分がそんな大層な人間だとは思わない。
今まで様々な経験をしてきたのは事実だが、それだけ自分よりもずっと優れているであろう人間はいくらでも見てきた。

だが、そこは関係ないのかもしれない。
自分自身がどう思っていようとも、誰かが自分の事を特別な存在だと思ってくれている、その事が重要なのではないか。
自分のことであれば何でも知っているなんていう事はない。それはこの旅行でも嫌というほど知ることができた。

だから、上条は素直に彼女の言葉を受け取って、誇ろうと思った。
好き勝手に動いて、一人の少女にとって大切な存在になる事ができた。

胸を張って、堂々と。



***



学園都市の自分の部屋に戻ってきた。
二泊三日の旅行だったのでそこまで長い間留守にしていたというわけではない。もっと長い時間部屋を空けていた時だってある。
それでも、何だか懐かしく感じてしまうのは不思議なものだ。

「ただいまー!」

隣ではインデックスが元気な声と共に部屋に入っていく。
その言葉を聞くだけで、彼女にとってここは帰る場所なんだと知ることができて、口元が緩む。

それから荷物やら何やらを整理して一息つくと。

(さて、と)

上条は少し考える。
これからの予定はある事はある。問題はインデックスだ。
しかし、日が落ちるまでは少しあるが、彼女の様子を見る限りは外に出るような元気も――。

「とうま、とうま。私ちょっと外行ってくるね」

「えっ?」

出鼻をくじかれた。というか、予想外の行動だ。
旅の疲れもあるし、彼女はきっとそのまま部屋で休んでいるものだとばかり思っていた。
むしろ、ちょっと外へ行きたいのは上条の方なのだ。

「ど、どうしたんだ?」

「ふふふ、秘密。ヒントを言うと明日のとうまの誕生日関係」

「あっ」

忘れていた。そういえば、と上条は思い出す形になる。
明日は上条の誕生日。彼女は既に土御門に話をつけていて、明日のデートの後はどこかの会場を借りてパーティーを開く事になっていた。
たかが高校生一人の誕生パーティーに大袈裟だと思ったが、土御門の話に寄るとそれなりの人数は集まる見込みらしく、この部屋では狭すぎるとの事だった。

そうやって沢山の人が自分の誕生日を祝ってくれるのは素直に喜ぶべきことなんだろう。
まぁ、その大部分がただ単にパーティーという騒げる場所を求めてやって来るような気がしないでもないが。

インデックスはもしかしたら上条に渡すプレゼントでも探すのかもしれない。それならば彼に事情を説明できないのも納得できる。
だが、上条からすれば不安な事もあるわけで。

「なんつーか……お前を一人で外に出すと凄まじいトラブルを引き起こしそうで、上条さんからすれば嫌な予感しかしないのですが」

「むっ、何なのかな人をトラブルメーカーみたいに。というか、とうまにだけは言われたくないんだよ」

「そりゃそうだろうけどさー。やっぱ心配だろ、ほら、学園都市だって決して治安がいいとも言えねえしさ」

「んー、あ、そうだ! じゃあ他の人と一緒っていうならいいよね? 舞夏とか!」

「舞夏かぁ……」

確かにインデックス一人にするよりかは随分マシだ。
それでも何かの拍子にスキルアウトなんかに絡まれて「おいなんだテメェこら」みたいな事になったら対処しきれない可能性もある。
……少し心配しすぎか? ただ、まぁ、舞夏にそんな危機が迫ったら土御門が黙っていないだろうし、彼女自身もメイドとしてそういう時の対処法を心得ている可能性もある。

「……分かった、それで頼む」

「了解! それじゃ、行ってくるねー!」

そう言ってインデックスは小走りで部屋を出て行く。
その直後、隣の部屋から舞夏を呼ぶ声が響いてきた。流れるような展開だ。



803: ◆ES7MYZVXRs:2013/09/19(木) 05:09:09.16 ID:EJeQ9ZV8o

(俺も行かねえとな)

上条の目的はズバリ、明日のデートのプラン構築とプレゼントの加工。
その二つの目的を達成するために、上条には既に一人頼るあてがあった。

デートの経験があって、手先も器用な人物。あの男だ。
旅行中に壊れたケータイの修理が終わるまでの、使い慣れない代わりのケータイを出して電話をかける。

『おっす、上条。どうした?』

電話に出たのは元スキルアウトの浜面仕上だ。
彼には滝壺理后という恋人が居て、それに手先も器用だ。

「おう、悪いんだけどさ、ちょっと手伝ってくんね? 明日の、ほら、デート関係で」

『……ほうほう。流石の大将も好きな子とのデートは緊張する、ってか?』

「う、うるせえな……」

ニヤニヤとからかうような彼の表情が透けて見えるようだ。
だが、言っていること自体は何の言葉も挟めないほど正しいことなので、特に何か言い返す事もできない。

『ははは、分かった分かった、俺に任せろ…………って言いたいところなんだけどな』

「え、ダメか? 何か用事でもあるとか?」

『まぁ、そうだな。ちょい先約が居る。つってもそんな長くかかんねえだろうし、時間置いてくれりゃあ大丈夫だぜ』

「そっか……実はさ、プレゼント用の加工を任せてえんだけど、それって今日の明日で済ませられるか?」

『お、何だあんたもその用事か』

「あんたも?」

『あ、いや、何でもねえ何でもねえ。加工の種類にも寄るが……どんなもん作ってほしいんだ?』

「えーと……ほら、指輪……とか」

『指輪……ふむふむ、指輪ねぇ……』

「な、何だよ楽しそうだな文句あんのか! それより、できんのか?」

『ん、そのくらいならすぐできんな。つかそんなに大事なものなら素直に業者に頼んだほうがよくね?』

「急ぎなんだ。こんな慌ただしい仕事受けてくれるか分かんねーだろ。コネがあるわけでもねえし」

『なるほどな。うっし、分かった分かった。そんじゃ作ってやる。こっちの用が済んだら連絡するわ』

「悪いな。礼は必ずする」

『気にすんなって、あんたにゃ借りがあるんだ。このくらいじゃ返せねえ程のな。じゃな』

「あ、おいっ」

そっちこそ借りなんて気にするな。それを言う前に切られてしまった。
おそらく偶然ではないだろう。上条がそう言うと読んで、何かを言う前に意図的に通話を終わらせたのだ。

何というか、意外とそういう所は揺るぎない部分があるものだ。



***



浜面に電話をかけてから一時間とちょっと後。
上条は彼から連絡を受け、アイテムのアジトへとやって来ていた。

「尾行……なし、か?」

一応確認しておくが、上条自身は別にそういう感覚に優れているわけでもないので、確信は持てない。
場所は、とあるデパートの人気のない掃除用具入れ。その奥の壁を三秒置きに一度ずつ三回ノックする。

すると、ガコンという音と共に何かが外れる音が聞こえる。

「お邪魔します…………うおっ」

奥に広がっていたのは、西洋風の豪華な部屋だった。
床には高級そうなカーペットに、ソファーは見るからにフカフカ。更に雰囲気作りの為か暖炉まである。煙突はどこに繋がっているのか。



804: ◆ES7MYZVXRs:2013/09/19(木) 05:09:45.27 ID:EJeQ9ZV8o

照明は明るいものではなく、全体的にぼんやりとしたオレンジ色の光が部屋に満ちていた。

「いらっしゃい。超歓迎とまではいきませんが、まぁごゆっくり」

そこでソファーに座っていた茶髪ボブの少女、絹旗最愛の存在に気が付く。
小さくてすぐに気付かなかったなんて言えば悲惨な事になるのは分かっているので、当然ながらそんな事は言わない。

「急に悪いな。浜面は?」

「ん」

絹旗は首だけ小さく動かして奥の部屋を指し示す。
ざっと見る限り他の部屋に繋がっているらしき扉もいくつかあり、それなりの規模の空間である事が予想できる。

といっても今は探検よりも自分の用事を優先すべきだ。
上条は真っ直ぐ指し示された扉へ近づき、コンコンとノックする。

「おーい上条だ。浜面いるか?」

「別にそのまま入っちゃっていいと思いますよ」

「へっ? いやでも……」

「超大丈夫ですって。それなりに急ぎの用事なんでしょう?」

「ん、まぁそうだけどよ……」

絹旗の言葉に押されるように、上条はドアノブを握って回す。鍵はかかっていないらしく、扉は簡単に開いた。

その奥では浜面仕上が何かの作業に集中しているようだった。
ガキッガキッという金属音が聞こえているが、それだけで何をしているのか理解できるほどの洞察力は持ち合わせていない。
いや、上条も極限状態の中ではたまに優れた洞察力や機転を発揮する事もあるのだが、それを常時発動できる程完成されていないというだけか。

何はともあれ、彼の背中だけを見ていても仕方がないというのは事実だ。

「浜面?」

「…………」

「おーい浜面。聞こえてんのかー?」

「…………お?」

ここに来てようやくこちらに気がついたらしく、浜面が振り返る。
そして。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」


ガタガタッと何かを隠した。


「……何してんだ?」

「あ、いや、何でも…………つかいつの間に来てたんだお前!?」

「ついさっきだ。気付いてなかったのか?」

「あぁ…………って絹旗の奴か…………」

浜面はなおもガサゴソと何かを隠そうとしており、上条としてはかなり気になる。
首を少し伸ばして奥を見てみようとしたが、浜面はそれに気がついて、

「上条、ここにはきっとあんたが興味を持つようなものは何もない」

「いやそんな必死に何かを隠そうとしながら言われてもな」

「……知りたいか?」

「知りたいかと言われれば知りたい」

「じゃあ知らなくていい。あんたはできれば知りたい、俺は絶対知られたくない。それならこのまま何事もなかったかのように部屋を出ても何も問題ないはずだ」

「分かった分かった、そんなに知られたくないってんなら無理に知ろうとは思わねえよ」

元々、ここへ来た理由は浜面の秘密を無理矢理暴くためではない。
本人がこれだけ隠したがっている事を、意地でも明らかにしてみせようなどといった探偵精神旺盛なわけでもない。
世の中には謎のままにしておいた方がいいと、どこかの名探偵も言っていた気がするし。



805: ◆ES7MYZVXRs:2013/09/19(木) 05:10:34.91 ID:EJeQ9ZV8o

そんなわけで、上条と浜面は部屋を出て元のロビー……と言えばいいのだろうか。とにかく初めの空間へと戻る。

「おい絹旗、上条が来たら呼べっつったろ」

「私を顎で使うなんて超百万年早いです。それを身を持って知ってもらおうと思いまして」

「……はぁ、そうだな俺のミスだ。お前に任せたのが間違いだった」

浜面は諦めたようにそう言うと、ドカッと絹旗の向かいのソファーに座り込む。

「隣空けてやれよ」

「まぁ浜面でないのであれば許容しましょう」

絹旗はそう言うと、少し横にずれて場所を空ける。
普通はまだあまり面識のない上条よりも浜面の方が気分的には楽なような気がするが、そこは照れ隠しなのだろうか。
……いや、何だか本気で言っているような気もする。

上条は絹旗の隣に座りながら辺りを見渡して、

「そういや麦野と滝壺は?」

答えたのは浜面ではなく絹旗だった。

「何でも二人きりでお話したい事があるとか。たぶん浜面関係でしょう。
 この後ドロッドロの昼ドラ展開で、最終的に浜面が超刺されるんじゃないかってワクワクしています」

「え、浜面って麦野ともそんな感じなのか!?」

「……ちょっとな。つか絹旗、その話はマジで洒落にならねえからやめてください」

内心浜面も心配な気持ちはあるのか、表情には思いっきり苦いものが浮かんでいる。
確かに、考えてみてば自分の彼女と自分に好意を向けている女が二人きりでお話というのは中々に怖い。
二人共ニコニコとしながらも、周りの空気を歪めるほどのプレッシャーをかけあっている様子が頭に浮かんでくる。

ここは浜面の為にも話題を変えたほうが良さそうだ。

「えーと、それで浜面。こいつを指輪に加工してほしいんだけどさ」

「パワーストーン……ってマジか。すげえな」

「なにが?」

「あ、いや、別に……」

「へぇ、パワーストーンですか。それは凄い偶」

「とうっ!!」

すかさず浜面は手元にあったリモコンを手に取ると、絹旗に向かって投げつけた。
それは綺麗な放物線を描き、彼女の頭にぶつかる。

「いたっ…………超浜面ァァああああああああああああああああ!!!!!」

即座に絹旗は浜面に襲いかかり、マウントポジションをとってボコボコにする。
いや、ボコボコという擬音では生ぬるい。ゴシャメシャといったところか。

少しして、絹旗はふんっと鼻を鳴らして上条の隣に収まる。
そして浜面はというと、すっかり変わり果ててしまった顔面でもごもご話し始めた。

「とりあえず、指輪の方は俺に任せとけ。明日にゃちゃんと渡してやるよ。んで、デートの方は大丈夫なんか?」

「サンキューな。デートの方はまぁ……少しは考えてる」

「例えば?」

「インデックスはとにかく食うことが好きだからな。ブラブラ食べ歩きでもすれば喜んでくれんじゃねえかって。
 ほら、最近は目隠しして食べたものを探すゲームなんてものもやってるみたいだしさ」

「はは、なるほどな。しっかし、食ってばっかってのも流石に飽きんじゃねえか? ただ食うって言っても色々やりようはあるだろ」

「アイツに限ってはただ食うだけで十分満足しそうだけどな……けど、他にも何かした方がいいのか?」



806: ◆ES7MYZVXRs:2013/09/19(木) 05:11:09.49 ID:EJeQ9ZV8o

「食うっつってもシチュエーションが色々あんだろ? そうだな、ほら、定番の自然公園のボートの上で何か食べながらのんびりするとかよ」

「それ滝壺さんとやって、彼女超爆睡したまま寝ぼけて池に落ちそうになったとか言ってませんでした?」

「うっ……!!」

「つーか、なんか浜面が先輩面してますけど、そんな胸張れるほどデートで滝壺さん楽しませているわけでもないでしょう」

「ぐがっ!!!」

痛いところを突かれまくったようで、浜面は身をよじっている。
絹旗はそんな彼の反応に満足気に小さく笑うと、

「デートといえば映画館というのが定番でしょう。ポップコーンなど食べられるものもありますし」

「映画……かぁ。今どんなのやってんだ?」

「おっ、聞いちゃいますか? ふっふっふっ、いいでしょう。映画のことならば全てを知り尽くした絹旗最愛ちゃんが超何でも教えてあげましょう!!」

「B級ってとこ抜けてんぞ、そこ大事な所だろ。つかやめとけ上条、コイツのオススメする映画ほんっとつまんねえから」

「それは浜面の残念すぎる感性では超理解できないだけなのです。はぁ、嘆かわしいですね。B級にはB級なりの楽しみ方があるのに、それが超分からないなんて」

「まずB級でなきゃいけねえっていう必要性がねえ!! 普通の話題物でいいじゃねえか、この前だって滝壺さんグースカ寝てたんだぞ!!」

「誰もが楽しめる映画を人並みに楽しめて何が面白いんですかねぇ。浜面は全然分かっていません、えぇ、超全然分かっていません」

絹旗はやれやれといって様子で首を横に振る。

「B級やC級といったものは、ハリウッド超大作とは比べ物にならない程貧困な制作費の中から四苦八苦して、何とか最高の映画を創り出そうとしている所が最高なんですよ。
 以前にも言いましたよね。例えるならよくあるハリウッド物が『ドヤァァ面白いだろぉぉぉぉ』みたいな感じだとすれば、私が見るB級は『うりゃぁぁ面白いだろぉぉぉぉ』みたいな」

「いや分かんねえ、ぜんっぜん分かんねえ。しかもそういう御大層な思想語った直後に『うわ、つまんねー』って全力で放り投げた事も忘れてねえぞ!!」

「違うんですよ、B級にも色々あるんですって。私は『ウェーイ、いっちょバカな映画作ってやるぜ!!』みたいな初めから勝負していないB級には興味がないんです。
 本人達は本気でハリウッド超大作にも勝つつもりで作ったものが、どういうわけかB級になってしまったような……ってこれも前に言いましたよね。
 まぁ、私もその辺りは実際に観てみないとどういうタイプのB級か判断できないので、そこはもっと精進すべき部分ではあると思いますが」

長々と語り続ける絹旗。そしてそれに対してツッコミを入れていく浜面。
それはともかく、これほどまでに情熱を注げるものがあるのは幸せだと思う。
上条は一度深く頷いて、

「……なるほど。そんな楽しみ方もあんのか」

「いや納得しちゃダメだ上条。何か色々言ってるけど、結局のところは『みんな知らない面白い映画を知ってる自分すげえええええええ』って事だから」

「それもないとは言いません」

「いいやそれが九割九分九厘だね」

「超聞き捨てなりませんね、九厘までいくわけないじゃないですか。よくて八厘です」

「その一厘の差がどれだけ重要なんだよ!」

「重要です。ほら、例えば戦場に咲いた一輪の花という曲があります。もしこれが一輪ではなく二輪だったら超微妙じゃありませんか?」

「漢字がちげえ!! つーか俺的には二輪の花でも一向に構わない!! なぜなら二輪の方が寂しくないから!!」

「お前ら仲良いな……」

上条を置いてけぼりで白熱する二人。
話の内容は本当に些細でくだらないどうでもいいような事なのだが、表情は活き活きとしている。
その様子はどこか上条とインデックスの関係と似たようなものを彷彿とさせる。心を置ける相手というものは大切で貴重だ。

ところが、絹旗は面倒くさそうに片手をヒラヒラと振ると、

「こんなのと仲良いとか言わないでくださいよ超気色悪い。それに、どうせこの腐れ縁ともあと少しでおさらばです」

「えっ?」

「解散すんだよ『アイテム』。当然俺と滝壺は二人で居るけど、麦野も絹旗もそれぞれ別の道へ進む」

「音楽性……もとい人間性の違いですね」

「無理に解散するバンドみたいに言わなくてもいいだろ」

「……なんつーか、それでも案外あっさりしてるもんだな」



807: ◆ES7MYZVXRs:2013/09/19(木) 05:11:38.46 ID:EJeQ9ZV8o

上条が尋ねると、絹旗は不敵な笑みで、

「そりゃどっかのお子様みたいに『びええええええええん』とか泣くわけないでしょう。大人は超クールに超ドライに別れるものなんですよ」

「まぁ今生の別れってわけでもねえしな。会おうと思えばすぐ会えるし、それで繋がりが途切れたりするような関係でもねえよ」

「超残念な事に、ですね」

「そっか……そう、だよな……」

「といっても、上条の場合はまた別の話だ。あんたはインデックスと一緒に居たいんだろ? それならそうすべきだ。俺だって滝壺とは離れたくねえし」

まるでこっちの考えている事が読めるかのように言い当てられてしまう。しかも浜面相手に。
何だか妙な敗北感を覚える上条だったが、言っている事に対しては特に反論する事もない。

その辺りは上条の中でも結論がついている事だ。

「分かってる。今更決めた事を変えるつもりはねえよ」

「おっ、そういえばあなたは例のシスターさんに超告白するんでしたっけ?」

「浜面……お前言いふらして周ってんのかよ……」

「まぁまぁ、別にいいじゃねえか。それこそ今更だろ?」

それはそうかもしれないが、何だか納得出来ない。
絹旗はニヤニヤと楽しげな笑みを浮かべながら、

「それでそれで、具体的に告白するシチューエーションはどんな感じを計画しているんですか?」

「いや、普通に別れ際に空港で……」

「くぁー、超つまんねー」

「は!?」

「何ですかそのコッテコテのテンプレは。ダメですダメです、そんなんじゃ玉砕して終わりです」

「え、マジで!?」

「おい待て上条聞くな」

「今時の女の子は告白にも意外性を求めているんです! そうですねぇ例えば…………キスしないと死んでしまう病気なんだと超懇願するとか!! 何の脈絡も伏線もなく!!」

「お前それどっかのB級映画からパクってきただろ絶対!!!」

浜面が全力でツッコミを入れる。危ない危ない、もう少しで流される所だった。

そんな感じに、それからしばらく三人でギャーギャーと明日のデートの作戦会議をした。
一人でひたすら考えるというのも不安な部分も大きかったので、何だかんだ為にはなったと上条は思った。
絹旗の提案は尽くB級だったが。



***



夜。上条とインデックスは共にコタツの上で焼き肉という豪華な夕食をとっていた。
彼女がここで夕食をとるのも、今日と明日で最期。それに明日の夕食は上条の誕生パーティーで済ませてしまうだろう。
だからせめて今日はできるだけ奮発してあげるべきだ、と思ったのだ。

ちなみに彼女がどこに行っていたのかは聞いていない。
自分の誕生パーティー関係だというのは分かっているので、上条もそこを詳しく聞こうとするほど無粋ではない。

インデックスは満面の笑みを浮かべて肉にかぶりつきながら、

「美味しい!! やっぱりお肉は牛だね!!」

「……お、おう」

「でも大丈夫、とうま? お金苦しいならやっぱり私も少し……」

「いや、そこは大丈夫だ!! というか出させてください!!」

「ふふ、分かった。それならありがたくいただくね」



808: ◆ES7MYZVXRs:2013/09/19(木) 05:12:16.47 ID:EJeQ9ZV8o

食べ物に関してこちらの財布の心配をする。
少し前の彼女であれば驚きを通り越して、偽物なんじゃないかという疑いさえ抱くレベルだ。
それだけ彼女は大きく変わった。

ただ、こうしてよく見ると、外見的なものでも大きく変わったような気がする。決定的に、何かが。

上条は頭を捻って彼女を凝視する。
何だろうか。これは目の錯覚だろうか。触れたら壊れる幻想なのだろうか。

「……うーん」

「ん、どうしたのとうま? そこまで凝視されるとちょっと食べにくいかも」

「あ、いや…………なぁインデックス」

「なに?」

「お前整形した?」


ボキッ!! と。
コタツの中でインデックスの足が上条の急所を捉えた。


「ごっ、がああああああああああああああああ!!!!!」


ジタバタとのたうち回る上条。
これはマズイ、息が止まりそうだ。ゾーンに入れば何とかなるレベルを超えている。

はるか昔ビッグバンが起きて宇宙が誕生し、そこに地球という惑星が誕生し、そこには海があった。
海にはやがて生物が生まれ、数を増やして陸上で生活するものも現れた。
猿が進化してヒトになり、知能を活かして道具を使い、文明を築いて地球を支配しているといってもいい程の生物となった。

……いや、ダメだ。こんな事を考えていても股間の激痛は収まらない。
もう何か現実逃避の妄想も巨大隕石激突によって強制終了させられる勢いだ。

そんな地獄の痛みを知らない、そしてこれからも知ることのない少女がプンスカと頬を膨らませて、

「もうっ、いきなり何言ってんのかなとうまは!!」

「おごぉぉぉぉぉおおおおううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……!!!!!」

「……と、とうま? 大丈夫?」

当然大丈夫じゃない。大丈夫であるはずがない。

流石に心配になったのか、インデックスはコタツを出てこちらに回り込んでくる。
それでも、どうすればいいのかは分からないようで、オロオロとしながら、

「えっと……ご、ごめんなさい。どうすればいいのかな……ソレ……」

「…………」

上条当麻は男子高校生だ。
同時に食蜂操祈やレッサーといった肉食系女子の攻撃にも動じない紳士でもある。

だが、もう一度言おう。上条当麻は男子高校生なのだ。
そして、男子高校生が銀髪碧眼の美少女に自分の股間をチラチラ見られながら「どうすればいいのかな」なんて聞かれたのだ。

(いや仕方ないよね。うん、仕方ないよ。ただハッキリしているのは俺は青髪ピアスみたいな変態じゃなくて、健全な精神を持ったまともな人間だという事で……)

「とうま?」

「その涙目上目遣い首傾げやめてください!!!!!」

「???」

上条の都合などお構いなしに、インデックスはベキバキと心の障壁を崩しにくる。
負けてはいられない。もしこの壁が崩れ去った時、その奥からは青髪ピアス化した上条さんが満を持して登場するかもしれないからだ。



809: ◆ES7MYZVXRs:2013/09/19(木) 05:13:10.05 ID:EJeQ9ZV8o

そんなものの存在を認めるわけにはいかない。
いくら激痛で頭がよく回らなくても、譲れないものはあるのだ。

「ふっ、ふふふふふ……!!!!!」

「え、えっと?」

「あまり上条さんをなめないでもらいたい…………この絶対防御隔壁はどんなものでもぶち壊せたりはしないのだはははははははははははははははははァァ!!!!!」

「……大丈夫? 頭とか」

詰まるところ、上条は紳士だった。



***



常盤台学生寮。
そこの208号室が美琴と白井の部屋となっている。

「うううぅぅ……黒子は……黒子はお姉様成分が不足しまくっていますのぉぉぉおおおおおおおお!!!!!」

「てい」

「へぶっ!!」

チョップで一撃。見事なまでに手馴れている。
結局白井は愛の巣である彼女のベッドに辿り着けず、その間に置かれている小さなテーブルの上に不時着する。落ちた衝撃で腹が痛い。

美琴は一度溜息をつきながら、

「ったく、アンタもブレないわねー。私が居ない間にベッドに何かしなかったでしょうね」

「…………えぇ、もちろんですわ」

「おいコラしたのか、吐け今すぐ」

美琴は目の前の変態のホッペを両手で引っ張る。
しかも「もー、ダメだぞ☆」みたいな力ではなく、ギチギチと皮膚が不吉な音をあげるくらいにマジだ。

「いだだだだだだだだだだ!!!!!」

「ほらほらほっぺがちぎれる前に楽になった方がいいわよー」

「わ、わかっ、分かりましたからあああああああ!!!」

バチン、と美琴は手を離す。心なしか、反動で白井の頬がみょいんみょいんと振動したかのようにも見える。

「で?」

「……あう」

白井が口ごもると、美琴はゴキゴキと手を鳴らす。

「い、言います!! 言いますわ!! でも……」

「でも?」

「わたくしも乙女ですので……そういう事を口にするのは少し恥ずかしいのです……」

「んな恥ずかしい事してたんかアンタはァァああああああああああああああ!!!!!」

「あばばばばばばばばばばばばば!!!!!」

白井の言葉で大体の予想はついたのだろう。
美琴はここで思う存分電撃を爆発させて、いつも通り白井を黒焦げにする。

ところがこの風紀委員(ジャッジメント)の中学生。
この走り渡る電撃も中々良い物だ……などと新たなる扉を開いちゃってたりする。



810: ◆ES7MYZVXRs:2013/09/19(木) 05:13:44.66 ID:EJeQ9ZV8o

美琴も、目の前の変態の表情がどこか恍惚としている事に気づくと、顔を青くして電撃を止めた。
そして、ガックリと肩を落として頭を押さえると、

「……はぁ。アイツにはフラれるわ、帰ってきたらベッドが変態に好き放題にされてるわ。私が何したってのよ……」

「うふふふふ、お姉様はもはや存在そのものが美しすぎて罪…………へ?」

「なによ」

「…………あ、あのぉ、今お姉様、何とおっしゃいました? 『アイツにフラれた』……?」

「あれ、言ってなかったっけ。そうなのよ、旅行中にアイツに告白したら『インデックスが好きだ』ってさ。あーあー、思い出したらまた凹んできた」

白井の思考が完全に停止した。

「…………」

「ったく、まぁあのシスター相手だとやっぱキツイってのは分かっ…………黒子?」

「…………」

「おーい黒子どうした? 電撃で麻痺っちゃった感じ?」

時間の経過と美琴の声により、徐々に白井の脳が活動を始める。

さて、まずは落ち着いて事実確認をしよう。
何が起きているのか、それを正確に理解する。これは風紀委員の仕事においても大切な事だ。

「お姉様の言う『アイツ』というのは上条さんに間違いありませんわね?」

「うん、そうだけど」

「そしてその告白というものは、愛の告白という事でよろしいのでしょうか?」

「そ、そうよ。いちいち確認すんなっつの、こっちだって恥ずかしいんだから」

「…………」

「あー、それと……」

しばらく美琴の説明が続く。
聞けば聞くほど複雑に絡み合った中での告白だという事が分かる。

美琴が説明し終えた時、白井は笑顔だった。

……なるほど、なるほど。
やっと上手く整理できた事に、白井は満足感を覚えながら、

「つまりは、わたくしは類人猿を殺せばいいのですね」

「やめい」

再び美琴のチョップが頭にめり込む。
まさしく作業のような一撃だ。それこそ続々と運ばれてくる刺し身にツマを乗せていく簡単なお仕事のような。
人間の頭を次々と叩いていくというのは精神的にマズイ気もするが。

すると美琴はふと首を傾げて、

「あれ、でもアンタの反応っておかしくない?」

「何がですのおおおおおおおおおおおあんの類人猿がァァあああああああああああああああああ!!!!!!」

「いや、だってアンタって私とアイツが接近している度に暴走してなかった? それなら」

白井の絶叫がピタリと止まる。

「…………わたくしにとって、お姉様と上条さんが付き合わないというのは、むしろ良い知らせなのでは、と?」

「え、あー、うん」

「……確かに言われてみれば、少々おかしいですわね」

白井は少し考える。
自分にとって大切なお姉様を、他の男に取られることが嫌だ。その気持ちに従って今まで上条を攻撃したりもした。
だが、こうして実際に二人が恋仲にならない事が決まって、白井の中では上条への怒りが芽生えた。



811: ◆ES7MYZVXRs:2013/09/19(木) 05:14:22.78 ID:EJeQ9ZV8o

彼女は少し考える。そして。


クスリと、笑みをこぼした。


別に、こんな改まって考えこむ必要もなかった。簡単な事だったのだ。
確かに白井は他の男にお姉様を取られたくなかった。その隣には自分が居たいと思った。
それでも。

「結局、わたくしにとってはお姉様の幸せが一番、という事なんでしょうね」

「えっ?」

「お姉様が上条さんに好意を持っているという事くらい、本当は気付いておりました。それでもきっと、認めたくなかったのですわ。
 認めたくない、その一心で上条さんをお姉様にまとわりつく悪い虫だと決めつけて、あのように追い立てていたのです」

実際にはそんなに昔の事ではないのだが、白井は懐かしい事を思い出すように目を閉じる。

「けれどもこうしてお姉様のお話を聞いて、怒って、そして思い知りましたわ。
 あんな態度だったのに今更何をと思うかもしれませんが、お姉様が上条さんと一緒に居たいのであれば、その望みを叶えていただきたかったのでしょう」

「黒子……」

「ふふ、これでは上条さんの事をバカにできませんわね。わたくし自身も自分の事を良く…………んっ」

白井の言葉が途中で止まる。
その原因は頭。それも痛みや衝撃といったものではない。

美琴の手。柔らかく綺麗な手。
その手で頭を撫でられていた。

「ありがとう、黒子。でもさ、そこまで気にしなくていいわよ。これでも結構スッキリしてる所もあるのよ」

「……でも、ハッピーエンドではありませんわ」

「はは、確かにね。だけど、私もアンタと同じような事を思っているのよ。私はアイツが好き。アイツには幸せになってもらいたい」

「…………」

「負け犬の言い訳とか思ってる?」

「いえ……決して」

普通に考えれば強がりにしか聞こえない。
フラれたけど、それでも相手が幸せになってくれるのであれば、自分も本望だ。
そんな事を誰が真面目に聞くというのだろうか。必死に理由をつけて綺麗な思い出にしようとしているのが見え見えだ。

それでも、美琴の顔を見れば分かる。彼女は本心からそう言っている。
おそらく悩んだのだろう。悩んで悩んで、悩みぬいたのだろう。そこで力になれなかったのは悔やまれる所だ。

そして彼女は決めた。自分で選んで、決めた。
自分が最も納得できる、上条が最も幸せになれる、その道を。
そんな彼女の選択を、白井が否定することなんてできるはずがない。

美琴は既に前を向いて進んでいる。もう、彼女は日常の中に戻ってきている。
それならば、白井もそれに応えるべきだろう。

「……ふふふ」

「黒子?」

「うふっ、うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」

「おーい大丈夫かー。いや頭がヤバイってのは分かってるけど」

「失恋の痛みには…………やっぱり人肌ですのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

「ぎゃっ……おいコラ抱きついてくんな、ちくしょう油断した!!!!!」

「うへへへへへへへ、あばっ、あばばばばばばばばばびびびびびびいいいいいいいいいっっ!!!!!」

途中から奇妙な悲鳴にシフトしたのは、もちろん電撃のせいだ。
ただ美琴は憤慨しながらも、どこか嬉しそうな笑みを浮かべていた。…………決してそっちの道に目覚めたというわけではなく。



812: ◆ES7MYZVXRs:2013/09/19(木) 05:14:56.29 ID:EJeQ9ZV8o

だが、その時。


「さて、お前達に質問だ。人間の首はどこまで曲がると思う?」


ガチャリ、という音と共に部屋の扉が開き、その向こうに何かが立っていた。
そう、何か、だ。もはや“それ”は言葉で形容することが出来ないほどの有様に変貌してしまっていた。

白井は口を開く。諦めたら試合……いや、他にも色々と終わってしまう。

「あの、寮監様。これには海よりも深い理由がありま」



***



「……はい。わざわざありがとうございました」

育ちの良さそうな爽やか系の少年は、その言葉と共にケータイを閉じる。
二月の夜はよく冷える。吐く息は白く、真っ直ぐ夜空の月へと昇っていく。

対照的に、少年の心は焼けつくように燃え上がっていた。
隣を歩く少女は、そんな少年を見て目を細めて、

「何をするつもりだ?」

「…………」

「完全に八つ当たりだぞ」

「分かっていますよ」

「なおさら質が悪いな」

「それも分かっています」

隣の少女の言う事は分かる。分かり過ぎるほど分かる。分かりたくないのに分かる。
このように、自分の頭は思うようにはいかないものだ。それはいつだって。


「でも、まぁ…………彼なら何とかなるでしょう」


そろそろ日付が変わる頃であろう時刻の学園都市。
一人の少年は、そんな無責任な言葉を白い息と一緒に吐き出していた。



916: ◆ES7MYZVXRs:2014/01/22(水) 23:55:13.93 ID:guTjdYBwo

***



朝がやってきた。
上条の十六回目の誕生日。
だが、正直その辺りは記憶の事もあって大した実感も湧かない。
それよりも、上条にとって今日とは、もっと重要な意味合いを持つ。

そう、インデックス滞在最終日だ。

こうしていつも通りの朝を迎えて、お互い穏やかな表情で朝食をとっていても、その事実は何も変わらない。
明日になれば、彼女はイギリスへと旅立ってしまう。いや、帰る、という表現の方が適切なのか。

あまり考えてはいけないと、上条は頭を振る。

残された時間は少ない。だからこそ、今日この日を彼女にとって素晴らしいものにするべきだろう。

「とうま? 難しい顔してどうしたの?」

「あ、いや、何でもねえ」

「それならいいけど……もしかして今日は実は補習でしたとかいうオチはないよね?」

「いかにも上条さんらしいオチで悲しくなってくるけど、それはないから安心しろ」

「ふふ、良かった」

にっこりと安心して微笑むインデックス。

……純粋に、可愛いと思った。
そして、上条は頭をひねる。
自分はこの少女と半年近くも同棲していて、特に何事も無く過ごしていたというのか。

それは何というか、もはやあっち系の疑いすら出てくるレベルじゃないか。
少し前までの自分がここまで信じられない日が来るとは。
それだけ上条が変わったという事なのかもしれないが。

上条はおもむろに手を伸ばして、彼女の頭を撫でてみた。

「ふえっ!?」

彼女のサラサラとした銀色の髪の触感が心地いい。
その反応の可愛さも相まって、このままずっと撫で続けていたくなるような。

「と、ととととうま!? 急にどうしたのかな!?」

「ん、あぁ、何となくこうしたいなって」

「何となく!? とうまは何となくですぐ女の子の頭を撫でるような人だっけ!?」

「……それは違う」

そう言われるのは何となく不名誉な感じがしたので、仕方なしにやめる。
インデックスは頬を染めて、落ち着きなくもじもじとしている。

「もう……びっくりしたんだよ……」

「悪い、嫌だったか?」

「……嫌、ではないけど」

消え入るような小さな声で呟くインデックス。

その様子を見て、上条の心臓の鼓動が跳ね上がった。
何だこれは。インデックスの一挙一動が可愛すぎて、このままでは心が保たない。まだデートも始まっていないのに。
ここまでいくとわざとやっているのではないかとも疑いたくなるが、彼女に限ってそういう事はないだろう。
そういうのは食蜂の得意分野だ。

こういう時は相談するに限る。
上条はインデックスに一言言ってベランダへと向かった。



917: ◆ES7MYZVXRs:2014/01/22(水) 23:55:44.66 ID:guTjdYBwo

外へ出ると、二月の朝の寒気が身を包むが、今の火照った頭にはむしろ心地いい。
それに、少しは冷静になる必要もあったので、好都合だった。

ケータイを取り出してある番号にかける。
朝早い時間なので出るかどうか分からなかったが、案外すぐに繋がってくれた。

『もしもし上条? どうしたんだよ、いきなり何か問題発生か?』

声の主は浜面仕上。
やはりこういった恋愛関係の相談は、今現在恋人がいる者にした方がいいと思ったのだ。

「……あぁ、結構やばい問題だ」

『マジかよ……あんたのその不幸体質を考えれば仕方ねえとはいえ、こんな日にまでか。で、その問題ってのは?』

「インデックスが可愛いんだ」

『…………は?』

「だから、インデックスが可愛いんだ。可愛すぎて心臓が保たねえ」

『切るぞ』

「何でだよ!?」

唐突に通話を切られかけて慌てる上条。
ここで見放されてしまったらたまらない。

すると、浜面は盛大に呆れた様子で溜息をついて、

『何が問題だよ惚気じゃねえかただの』

「いや問題っての、これじゃまともに話せねえ。目も合わせられねえよ」

『中学生か! しっかりしろよ、そういうもんだよ恋ってのは』

「……そういうもんか」

『あぁ、こっ恥ずかしい事言わせんなよな。けど嫌な気分ってわけじゃねえだろ?』

「そう……だな。むしろ、なんか幸せな感じだ。自分でも信じられないくらい」

『これで付き合えればもっと幸せだぜ?』

「想像できねえよ全然」

『じゃあ実感しちまえばいい。告白の手順は考えてるんだろ?
 そんなおどおどしてんのは上条らしくねえぜ。いつも真っ直ぐ突っ走る、それがあんただろ』

その言葉に、上条はしばし沈黙する。
そうだ、浜面の言う通りだ。こんなのはらしくない。
きっとインデックスだって、そんな自分の事は見たくないだろう。

「…………分かった、サンキューな浜面」

『気にすんな。頑張れよ』

通話を切って、一度空を見上げる。
青空は見えてはいるが、雲もそれなりに多い。
確か天気予報では、日が落ちてから雪が降るかもしれないとも言っていた。

雪というのはこの間の旅行でもう存分に見たが、何も悪いというわけではない。
むしろ、雰囲気というか、シチュエーション的にはいいのかもしれない。
まぁ、その辺りも経験乏しい上条には予想するしかないのだが。

それから部屋に戻る頃には、上条の頭もすっかり冷えていた。
頭はクールに、心はホットに。
よくある言い回しだが、かなりいい事言っているなぁ、と上条は思った。



918: ◆ES7MYZVXRs:2014/01/22(水) 23:56:16.22 ID:guTjdYBwo

***



いよいよデートに出発。

流石にデートという事もあって、上条も服装には気を付けた。
まぁ、見た目は普通にジャケットにジーンズなのだが、細かい所にオシャレポイントがあり、例えばボタンなんかは……。
と、ここまで考えて、はたしてそういう所までインデックスは気付いてくれるのかという不安を覚えてしまう。

そして彼女はいつもの修道服だった。上には黒のコートを羽織っているが。
いや、最近は私服姿というのもかなり見て、とても良く似合っていた。
だからこそ、この大切な日はよく馴染みのある服を選んだのだろうか。

……というわけで、第一ステップだ。
第七学区の道路を歩きながら、上条は隣のインデックスに向かって話しかける。

「なぁ、インデックス」

「んー、なぁにとうま?」

「手繋ぐか」

「ええっ!?」

尋常じゃなく驚くインデックス。
まさかそこまでのオーバーリアクションを想像していなかった上条の方が驚かされたくらいだ。

そこまで意外な事だっただろうか。
何だかんだ半年の付き合いだ、その間に手を繋いで歩いたことくらい…………あんまりないかもしれない。

インデックスは顔を真っ赤にして口をぱくぱくとしている。

「と、とうま、朝からおかしいかも!」

「わ、悪かったって、無理にとは言わねえから……」

「あ、ちがっ、嫌とかじゃなくて……その……何でかなって……」

「それは……ほら、お前ってすぐ迷子になるじゃん。だから手を繋いでおけば安心……とか」

「むぅ! 私はそんなそそっかしくないかも!!」

しまった、気分を害してしまったみたいだ。
とはいえ、彼女の言葉に全面的に同意できるわけでもないが。

仕方ない、もう強硬手段だ。
あれこれ考えても、どうもまとまらない。

そう判断した上条は、左手で彼女の右手をしっかりと握った。

「ひゃうっ!」

「へ、変な声出すなって……」

「だってとうまが急に! も、もう……っ」

口ではそう言いながらも、握られた手を振り払ったりはしない。
まぁ、もし振り払われたりしたら上条にとってはショックが大きすぎるわけだが。

左手から伝わってくるインデックスの手の柔らかさ、温もり。
今日もまた一段と冷え込む真冬の午前中だが、何だか体全体が暖かくなってくるような気がした。
病は気からとはいうが、やはり心と体は切っても切れない関係にあるようだ。



919: ◆ES7MYZVXRs:2014/01/22(水) 23:57:01.40 ID:guTjdYBwo

インデックスは頬を染めたまま足元を見ながら、

「何だかとうまが肉食系男子みたいなんだよ」

「お前……そういう今時の知識どこで手に入れたんだか……」

「旅行で主にみさきが」

「あぁ……」

妙に納得してしまう。

「いや、別に肉食系になってっつーわけでもないっていうかさ」

「うん、まぁ、とうまが本気で肉食系になったら、それはもう大変な事になっちゃうからね」

「そうか?」

「そうだよ。具体的に言えば何股もして誰かに刺されたり」

「お前俺を何だと思ってんだよ……つかそんなモテたら苦労しない……」

そこまで言って止まってしまう。
この間の旅行。そこで上条は美琴と食蜂、二人の少女に告白された。
それはモテていると言っていいのではないか。

これがモテ期というものか。
てっきり都市伝説的なものだと認識していたが、本当に存在していたのか。

「……あー、とにかく、俺はそんな軟派な奴じゃねえっての」

「ふーん……まぁ、とうまがそう言うならそういう事にしておいてあげるけど」

インデックスはジト目で、明らかに納得していない様子だ。
この状態のまま放置しておくのはよくない。告白にもきっと支障をきたす。
そう判断した上条は、何とか誤解を解くことにする。

「その完全記憶能力でよく思い出してみろインデックス。俺は自分から女の子に突撃していった事なんてなかっただろ」

「なかったっけ?」

「なかった!」

正確に言えば大覇星祭のオリアナとか例外はあるが。
まぁそこはインデックスも知らぬ所ではあるし、ギャグという事で処理していいノリだったろう。

インデックスは少しは納得した様子で二、三回頷き、

「つまり、とうまは寄ってくる女の子の方が悪いんであって、自分は何も悪くないって言ってるんだね」

「…………」

そういう言い方をされると素直に頷けない。
結局言っている事は、そんな感じにまとめられるのかもしれないが。
だからといって、何と言うか、それはそれでチャラ男的な軽い男の言い訳じみている。

「その辺りも本当にとうまらしいよね。女の子を助ける時だって、自分では自分のやりたいようにやっただけで、感謝される為にやってるんじゃないっていう感じ。
 うんうん、つまりとうまには女の子にモテたいとかそういう気持ちは全くなくて、今のモテモテの状況も望んだ結果ではないって事だね」

「あ、あの、インデックスさん? 言葉とは裏腹に、痛いほどの何かをひしひしと感じているのですが……」

「べっつにー。せいぜいいつもの『不幸だー』とか言いながら、みことのビリビリとか、みさきのキラキラとか受けてればいいかも」

「辛辣だ……せっかくのデートだってのに……」

「っ!!」

インデックスの顔が一気に真っ赤に染まる。
面白いくらいに分かりやすい。
まぁ、そういう上条も、彼女の表情を見て心臓の鼓動を速めており、必死に隠しているのだが。



920: ◆ES7MYZVXRs:2014/01/22(水) 23:57:43.28 ID:guTjdYBwo

「きゅ、急に何恥ずかしい事言ってるのかなとうまは!」

「いや、でもお前だってそういう事言った時なかったっけ」

「私が言うのはいいけど、とうまが言うのはダメなの!」

「何だその言論統制! 俺は断固として抗議するぞ!」

「だいたい、とうまってそんなキャラじゃないでしょ。いつもいつも私の事を女の子扱いしなかったくせに!」

「あー……その、悪かった。今は、ちゃんと見てるからさ」

「えっ?」

「お前の事、女の子として見てるから」

「~~~~っ!!」

もはや言葉にならず、インデックスはポカポカと小さな両拳で上条を叩く。
その姿は微笑ましく愛らしいものであり、抱きとめて頭を撫でてやりたい衝動を抑えるのが大変だ。
ここが上条の部屋であったらそうしていたかもしれないが、こんな人目に付く路上でするような事ではない。

と言っても、二人のやりとりは既に周りから見れば目立っており、「何だこのバカップルは……」といった目で見られていたりするのだが。
おそらくそれにインデックスが気付けば今以上に大変な事になりそうなので、このまま知らないでいた方が幸せというものだろう。

だが、そこは上条当麻。
そうも希望通りに物事が進むはずもない。


「イチャついている所申し訳ありませんが、少しお話よろしいでしょうか」


鈴を鳴らすような澄んだ声が聞こえた。

ともあれ、そんな事を言われれば振り向かずにはいられない。
上条もインデックスも、ばっと音をたてて息ピッタリに、ほぼ同時にその声の方へ振り返る。

茶髪のツインテール、小柄な少女、名門常盤台中学の冬服。
自称御坂美琴の露払い、風紀委員(ジャッジメント)の白井黒子だ。
常盤台もこの時期は試験休みだったはずだが、常盤台の校則で休日の日も制服を着用しなくてはいけない。

彼女は明らかに呆れた表情でこちらを見ている。

「別にイチャつくなとは言いませんが、場所をわきまえてほしいですの」

「ちがっ、私達はイチャついてるわけじゃないんだよ!」

「つか白井だって、よく路上で御坂に変態行為に走ってるじゃねえか……」

「あれはセーフですの。健全なコミュニケーションですわ」

「そりゃ変わった基準だなおい」

「わたくし、風紀委員(ジャッジメント)ですので、大概の事は許されますわ」

「職権乱用だ!!」

警察の汚職事件は少なくはないというが、それは学生で構成される風紀委員にも当てはまるのか。
とはいえ、他の風紀委員とこの変態百合テレポーターを一緒にするというのも失礼な話なのかもしれないが。

「今何か失礼な事考えていませんでしたか?」

「いや何も」

しかも変に勘が鋭い。質が悪い。

「それで、上条さん。デート中申し訳ありませんが、お姉様の事で少々お話があります。お時間よろしいでしょうか?」

「……それは」

「えぇ、あなたが想像している事で大体は合っていますわ」

「お姉様って……みこと? 何かあったの?」

「やはり、インデックスさんは知らないのですね」

「え?」



921: ◆ES7MYZVXRs:2014/01/22(水) 23:58:12.17 ID:guTjdYBwo

白井の言葉に、インデックスは首を傾げる。
上条は慌てて、

「白井、その話は……」

「……分かりましたわ。わたくしもそんなに言いふらしたいような事ではありませんし」

「待ってよ! なに、とうま、私に何か隠してるの?」

「隠してない隠してない、俺はそんなに隠し事は得意じゃねえって」

「記憶の事があったのによく言うかも。まぁ、ベッドの下の参考書の間に挟まってるものとかは隠しきれていないけど」

「ぐううううおおおおおおおおおお!! カモフラージュまで加えたってのに!!!」

「甘いですわね。そういうものは近くに無難な十八禁物を置いて、本当にマズイ性癖が分かるような物からは目を遠ざけるようにするものですわ」

「常盤台のお嬢様とは思えないほどの狡猾さだなおい。割と本気で同部屋の御坂が心配になってきたぞ」

「ていうか話逸らさないでほしいかも!」

「いやインデックス、年頃の男子高校生ってのはそういう本の一冊や二冊持っているもんで……」

「そっちじゃないってば!」

インデックスはバタバタと慌ただしく腕を振って抗議しているが、その要求を飲むわけにはいかない。
美琴や食蜂が告白して、上条がそれを断ったという事実は伏せていた方が懸命だ。
上条は別に女の子に告白された事を自慢して回るような事をするつもりはないし、しかも振ったというのだからそんな事が出来るはずがない。

加えてもちろん、インデックスに余計な心配をかけたくないというのがある。
上条は自分の選択に後悔はしていないが、この出来事を知った彼女は何か変な風に考えこんでしまうかもしれないと思ったのだ。
例えば、上条が二人を振ったのは、インデックスの今の状況に気を使って、だとか。

ここにきて、彼女の精神状態を不安定にする事は絶対に避けたい。
それは本当に、誰も幸せにしないという事はハッキリしている。

そんなわけで、どうやって彼女に納得してもらおうかと考えていた上条だったが、

「あ、そこのシスターさん! ちょっとお話いいですかー?」

「実は学校で異文化交流についての宿題が出ていまして、ご協力してくださると助かるんです!」

黒髪ロングの活発そうな少女と、頭に特徴的な花飾りを付けた少女。
上条も知っている、御坂美琴と白井黒子の友人、佐天涙子と初春飾利だ。

そしてこのタイミング。
あまりにも出来過ぎなので白井の方をチラリと見てみると、案の定彼女はコクリと小さく頷いていた。
つまりは、これは彼女が上条と二人で話すために仕組んだ策なんだろう。

インデックスは少し困った様子で佐天と初春の方を見る。

「え……え……? でも、その」

「お願いします! ぶっちゃけ結構ピンチなんですっ!」

「まぁ、いいじゃねえかインデックス。こっちの話もなるべく早く終わらせるからさ」

「……むぅ、なんだかいいように事が進んでいるような気がするんだよ」

若干ジト目でそう言うインデックス。
中々に鋭い。必要悪の教会(ネセサリウス)での仕事をこなす中で成長したのだろうか。

……と、そこで佐天がキラリと目を光らせる。

「今ならそこのカフェで好きなものをごちそうしちゃいますよ!」

「喜んで引き受けるんだよ!!!」

やっぱりあんまり変わっていないインデックスさんだった。



922: ◆ES7MYZVXRs:2014/01/22(水) 23:58:57.02 ID:guTjdYBwo

***



上条と白井は二人で人気のない路地裏へ入る。
本来であればこんな場所に女子中学生が来るものではないが、彼女に関しては別だ。
そもそも、仕事柄おそらく彼女は上条よりもこういった場所に詳しく、更に良く溜まっている不良への対処法もよく知っているだろう。

少し進んだところで二人は立ち止まる。
白井は無言で上条を眺めて、何かを考え込んでいる様子だった。
この微妙な間が、上条にとっては何とも落ち着かない。

「……えっと、その、御坂の件は本人から聞いたのか?」

「えぇ。旅行から帰ってこられたその日に」

「そっか……」

「では、わたくしがあなたにどのような用があるかは分かりますか?」

その質問に、背筋が寒くなり思わず身震いしてしまう。
正直言って、嫌な予感しかしない。
今までの記憶を辿っても、白井黒子と御坂美琴二人が関わった時というのはろくな目にあっていない。

「もしかして、御坂を振った事に対する報復……とか?」

「そう思いますの?」

少し考えてみる。
彼女は美琴に心酔している。それは普段の様子を見れば誰の目にも明らかだ。
だから、その美琴に付きまとう男として見られていた上条は、強烈な迫害を受けたりしたわけだ。

つまり、彼女にとっては上条と美琴が付き合うことの方が最悪で、この結果は悪くないのではないか。
少なくとも、大好きな美琴を上条に取られる事はなかったのだから。

だが、そんな簡単な話でもない気もする。
白井は美琴が悲しむような事を許さないというのもまた事実だ。
そして、上条に振られた事で美琴はそれなりのダメージを受けただろう。
それを考えると、次の瞬間には鉄矢が体に突き刺さってもおかしくないようにも思える。

上条はゴクリと喉を鳴らす。
選択を間違えてはいけない。
今日は大事なデートだ、この後あのカエル顔の医者にお世話になるような事は絶対に避けたい。

「……いや、報復だったら二人になった瞬間に襲い掛かってくるはずだ」

「えぇ、そうですわね。では他の可能性は?」

「実は白井は俺のことが好きでインデックスとのデートを邪魔したかっただけ……ごめんなさい何でもないです」

ここで一つ軽口を叩いて空気を和ませようと考えた上条だったが、白井の表情を見て思いとどまる。
あと少しでも遅れていたら、今頃全身に鉄矢が突き刺さっていただろう。

上条は肩をすくめる。

「降参だ、分かんねえよ」

「まぁ、そうでしょうね。元々わたくしもあなたにそんな察しの良さを期待していたわけでもありませんし。
 わたくしの話というのはただ単に確認したいことがある、それだけですわ。別に暴力行為が目的ではありませんのでご安心を」

「……本当だろうな」

「正確に言えば、あなたの答えによっては暴力行為に繋がる可能性もありますが」

「一気に不安になったぞオイ」

無意識に右手を構えてしまう上条。
相手がテレポーターという事もあって、この行為にはあまり意味は無いのだが条件反射的なものだ。

白井は上条の言葉には取り合わずに、真っ直ぐ彼を見つめる。
少しも揺らがない瞳。それだけで、彼女の意思の強さが伺えた。

「あなたはインデックスさんの事が好きなんですね。お姉様よりも」

「あぁ、そうだ」



923: ◆ES7MYZVXRs:2014/01/22(水) 23:59:38.24 ID:guTjdYBwo

ハッキリと、そう告げる。
それだけ上条の心は固まっていて、そしてそれを彼女に伝える必要があった。
彼女が何を考えて確認しているのかは分からないが、応えなければいけないという事は分かった。

白井はゆっくりと瞳を閉じると、静かな声調で尋ねる。

「“御坂美琴と彼女の周りの世界を守る”という約束についてはどうするつもりなんですの?
 まぁ、その約束を交わした相手はわたくしではありませんから、あまりどうこう言う資格はないのかもしれませんが」

「それは変わんねえよ。俺は今までどおり、御坂とその周りの世界を守っていく。
 振ったくせにとか言われても構わねえ、俺にとってアイツは大切な友達だってのは変わんねえからな」

「……ですがそれは、何もお姉様に限った話ではないでしょう。
 例えその時初めて出会った人に対しても、あなたはそれこそ命を賭けてでもその方を守る。違いますか?」

「それは……そう、かもしんねえけど……さ……」

「別に責めているわけではありませんわ。あなたのそういう所も含めて、お姉様はあなたの事が好きだった……いえ、好きなのでしょう」

彼女は穏やかに微笑んで言った。
こんな彼女の表情を、上条は初めて見たような気がする。
彼女にとって自分は単なる邪魔者でしか無いと思っていた上条だったが、それだけではないのかもしれない。

それは、とても嬉しい事だ。
相手が誰、という問題ではない。
例え誰からであっても、自分を認め少しでもよく思ってくれる人の存在というのは大切なものだ。

「ありがとうございます、わたくしが聞きたかった事はこのくらいですわ。
 元々そこまで疑っていたわけではありませんでしたが、いつも通りのあなたで安心しました」

「俺からすればお前の方がいつもと違いすぎて不安になるけどな」

「あら、そんなにドロップキックをくらいたいんですの?
 あなたにそんな趣味があったとは……お姉様に報告した方がいいですわね。いつまでも変態の事を気にしていても仕方ない、と」

「お前が言うなお前が! あと俺は何もドロップキックをくらいたいわけじゃねえ!」

「ふふ、分かりますわ。やはりお姉様の電撃にくらべてばそんなものでは満足できないでしょう」

「分かんねえよ、人を勝手に変態の理解者みたいにするな」

魔神の理解者になる事はあったが、変態の理解者なんかには絶対になりたくない上条。
そんな上条の主張が伝わっているのかどうか分からないまま、白井は制服のポケットから何かを取り出して上条に渡した。

「せっかくのデート中にお時間を取らせてしまったせめてものお詫びです」

「おうサンキュ……ってこれ学園都市食べ歩きチケット!?」

上条がこんな事を思うのは極めて稀なのだが、幸運にもそれはこれからのデートに予定していたものだった。
チケットには何種類かあり、インデックスにどれがいいか聞いて買うつもりだったが、今手にあるものは最高級のものだ。

「以前、常盤台でのちょっとした催し事の際に頂いたものですが、あなたの方が必要でしょう」

「い、いいのかこれ……すげえ高いもんだろ……」

「そこまで大袈裟になる程でもないでしょうに。それにお姉様を振ったのです、あなたにはちゃんとデートを成功させインデックスさんに向き合う義務がありますわ」

「……あぁ。ありがとな白井」

上条とインデックスの恋愛は、様々な事情が絡み合って、とても手放しで応援できるようなものではないはずだ。
だが、こうして実際に手を貸してくれる人はいる。
もちろん彼女だけではない。今この状況に至るまで、上条は色々な人に助けられてきた。

それは恋愛に限った話ではなく、いつだって上条には手を貸してくれる誰かが居た。
だから、こうして前を向ける。どんな事に対しても真っ直ぐ挑んでいける。

やっぱり何だかんだ言っても、自分はかなり幸福な人間だと、上条は思う。

「あ、そうですわ」

上条の表情を見た白井は、満足そうな笑みを浮かべていたが、ふと何かを思いついた表情になって口を開く。
最後に何かアドバイスを貰えるかもしれない、と期待する。インデックスと同年代の少女の言葉はとても参考になる。

しかし。

「インデックスさんの件が片付いてからでもいいですから、後でわたくしにお姉様をメロメロにさせて禁断の愛に身を委ねさせるコツを教えてくださいな」

「そんなもん知るか!!!」



924: ◆ES7MYZVXRs:2014/01/23(木) 00:00:17.00 ID:m527eheJo

***



白井との話が終わって、カフェに居るインデックス達の所へ戻ってみると、そこには真っ白に燃え尽きている佐天と初春の姿があった。
テーブルには大量の空いた皿。それを見るだけでおおよその状況は理解できる。
いや、そもそもインデックスに対して「好きなものをごちそうする」なんて言った時点で、この結果は予想できるものだった。

付け加えると、思いっきり注目も浴びていた。
それもそうだ、カフェでここまで大量に食べまくる者はそうそう見られない。
一時期フードファイトというものがテレビで流行っていた時もあったが、今では全く見ない。

流石に上条もいたいけな女子中学生にこれ程の負担を押し付けるのは良心が痛んだ。
だからこの支払いは上条が引き受けようと考えていたが、それを白井が遮った。
元はと言えば彼女の都合によるものということで、自分が払おうという事らしかった。

正直いきなりの多大な出費に頭を抱えたい上条だったので、これはとても助かった。
白井は白井で顔色一つ変えずに支払う辺り、ここでも貧富の差を痛烈に感じたりもしたが。


上条とインデックスは白井達と別れてデートを再開する。
手はうやむやのまま離したままでいる。上条としては何とかしたい所だが、中々きっかけを見出だせない。

第七学区はそれなりに人通りが多い。
元々学園都市で一番学生が集まっている場所ではあるのだが、現在は入試期間中という事で休みになっている事もあって、普段よりも多い印象だ。
そこを口実にすればいいかもしれない。

「結構人多いな。はぐれるなよインデックス」

「ん、じゃあこうするんだよ」

ぎゅっと上条の服の裾を握るインデックス。
微妙に狙いが外れてしまったが、これはこれで可愛いのでいいかと思ってしまう。

「それで、最初はどこから周るか。この食べ歩きチケット、学園都市の学区ほとんど網羅してるみてえだし、流石に全部は行けねえぞ」

「やっぱり近場から攻めていくのが定石じゃないかな?」

「なるほどな。そこからどんどん周りへと被害を拡大させていくって感じか」

「人を爆弾か何かみたいに言わないでほしいかも」

不満そうに頬をふくらませるインデックスだが、この表現はあながち間違ってもいない。
彼女の食欲というのは底がなく、食べ放題なんていうのはその店に壊滅的な打撃を与えること間違いなしなのだ。

「まったくもう、とうまには私の成長した姿を見てもらう必要があるみたいだね」

「と言うと?」

「ふふん、どうせとうまの事だから、私がお店を選ぶ基準としては何よりも食べ物の量を優先するとか思ってるでしょ?」

「そりゃな。お前の舌を満足させるよりも腹を満足させる方が遥かに難易度高いだろうしな」

「でも私は変わったんだよ。ここで私が一番重視するのはズバリ……」

と、ここでインデックスは妙に演技がかった動作で立ち止まり、ビシッと頭上の曇り空を指さす。


「ここならでは! っていうところなんだよ。日本とか学園都市でしか食べられない料理、それを優先するんだよ!」


彼女はやけに得意そうに言う。
まるで普通は誰も思い付かないような事を言ってのけたように。

「……あぁ、そうだな。いいんじゃねえの」

「えっ、な、なんか反応が薄いかも!」

「いや何と言うか、ぶっちゃけそれって割と普通の事だし」

「そうなの!?」

上条が頷いてみせると、インデックスはがっくりと肩を落とす。
どうやら彼女は本当に今までそういった事を真面目に考えた事がないようだ。

それはそれでとてつもなく彼女らしく、上条はクスリと口元を緩めてしまう。



925: ◆ES7MYZVXRs:2014/01/23(木) 00:01:13.96 ID:m527eheJo

「あ、今なんかバカにしたでしょ!」

「してないしてない。それで、具体的にはどんなのがいいんだ? 日本とか学園都市ならではっていう料理もいくつもあるぜ?」

「うーんと……」

チケットと一緒に渡されたパンフレットを覗き込みながら、インデックスは考えこむ。
ふいに触れ合うくらいに接近した事で、彼女のふわっとした良い香りが鼻孔をくすぐる。

その香りに、ドキンと心臓が跳ね上がるのを感じた。
そういったものは彼女を“女の子”として意識させるには十分なものであり、一度落ち着いた心も再び、いとも簡単に乱れてしまった。

だが、それを彼女に悟られるわけにはいかない。
女の子の香りに興奮して顔を赤くしているなんていう場面は、変態の汚名を受ける可能性が高く何としても避けるべきだ。

「うん、決めた! 私、これがいいかも…………って何してるの?」

「な、何でもないです」

満面の笑みでこちらを振り返ったインデックスだったが、上条があからさまに彼女から目を逸らして挙動不審になっている様子を見て首を傾げる。
一方で上条は、彼女からのそんな問いに気の利いた事も言えずに、言葉少なく誤魔化すしかなかった。



***



「……で、ワカサギ釣りかよ」

「うん、前にテレビで見て、一度やってみたかったんだよ!」

上条とインデックスは自然公園にある大きな池の上にいた。
池は厚い氷で覆われているのだが、東京でここまで凍りつく事は中々ない。
そもそも、こんな所にワカサギがいるというのもおかしな話だ。

まぁ、そこはやはりというべきか、人の手、科学の手が加えられている。
この氷も、その下にいるワカサギも特別な処置が行われており、こうして東京でワカサギ釣りを楽しむことができるのだ。
おそらく狙っているメイン層は大学生~大人あたりだろう。

食べ歩きチケットの対象にここが含まれているというのも意外な感じだが、どうやら研究者側からするとワカサギの味にも拘っているらしい。
食用としての価値はやはり重要視されるところらしく、外から多大な利益を得るという目的もあるそうだ。
DNAを弄くるという事は学園都市も十分得意としているという事は、上条も嫌な程知っている。

というわけで、初めてのワカサギ釣りにワクワクの上条とインデックス。
氷に覆われた池の上には防寒性完璧のビニールハウスがあり、その中で釣りをする事になる。
中はかなり暖かく、上着も必要ないくらいだ。これでは下の氷も溶けてしまうのではと思うのだが、そんな事もなくガチガチに凍りついている。

たぶん、これも学園都市ならではの技術が加えられた氷なのだろう。
こんな快適な空間でのんびり釣りができるというのはいいかもしれないが、何か間違っている感が否めない。
まぁ、上条も釣りは初めてなので、「ワカサギ釣りは寒さも含めて楽しむものだ!」などと通っぽい事を言うつもりはないが。

経験はないが、漠然とした知識を元に上条はアイスドリルを手にする。
確かこれで下の氷に穴を空けるのだ。

「とうま、とうま! 私がやりたいかも!!」

「……あの、インデックスさん。間違えて俺の腹に穴空けるとかはやめてくださいね?」

「何がどうなったらそうなるんだよ」

「いやお前の機械音痴っぷりと俺の不幸が合わさるとそんな事も起きそうだと思ってな」

「流石に心配性過ぎるかも。でも、確かに機械っていうのは色々面倒なんだよ。豊穣神の剣が使えれば、このくらいの氷スパッと切れるのに」

「街ごとスパッといきそうだからそれはやめろ」

「相変わらずとうまは魔術に対して偏見持ち過ぎかも」

そう言って呆れて溜息をつくインデックス。
だが、上条の今までの経験を考えれば、魔術に対してそのような印象を持つ事は仕方ないだろう。



926: ◆ES7MYZVXRs:2014/01/23(木) 00:02:09.01 ID:m527eheJo

どうやらアイスドリルも科学の力が相当加えられているようなので、説明書をよく読む。
何でも、先端を氷に少し突き刺してボタンを押せば、後は勝手に最適な穴を空けてくれるというものらしい。

流石にこれならインデックスでも扱うことができ、数秒後には二つの綺麗な円を描いた穴が出来上がっていた。

「……ねぇ、とうま。なんだかこれは違うような気がするんだよ」

「俺もそんな感じがするけど、気にするのはやめようぜ」

あまりにも単純化された作業に、インデックスも首をひねる。
これはこれで立派な釣りだと言われれば納得するしかないのだが、外の釣りマニアが見たらどう思われるかは何となく予想できる。

そんなこんなで、特に苦労することもなく、氷に空けた穴に餌を付けた釣り糸を垂らす。
あとは椅子に座ったまま辺りを待つだけだ。
本来なら竿を僅かに上下に動かして魚の目を惹いたりするものらしいが、それも自動でやってくれるらしい。

「これで釣れてもあまり自分の成果だって思えないかも」

「もうあまり考えないようにしようぜ……」

「むぅ、魔術が使えれば狩猟の神が使っていた道具とか出せるのに」

「とんでもねえものが釣れそうだからやめろ。
 せっかくだしのんびり落ち着いて…………そういや釣りってのは短気の方が向いてるって言うから、インデックスにも合ってるかもな」

「私が短気になるのはお腹が空いた時くらいなんだよ」

「確かに腹が減るとカリカリするのは自然な事だけど、頭に噛み付くまでいくのは短気って言っていいだろ」

「でもほら、とうまの頭ってちょっとウニみたいだし」

「何がほらなのか全く分かんねえし、例え俺の頭がぺったんこでもお前は噛み付くと思うね」

「そうかな?」

「そうだ」

頭に噛み付くなんていう行為をしてくる相手は、今まででもインデックスだけだ。
逆に、インデックスの方もその行為は上条に対してだけにしかしていない。

もしかしたら親密な相手にしかやらないのかもしれない。
そう考えると、不思議と嫌な気持ちはしない。決して上条にそういう性癖があるというわけではなく。

そんな事を話していると。

「あ、釣れた」

「おー……ってもっと喜べよ」

「やっぱりイマイチ達成感ないんだよこれ」

「そう言うなって、ほら、これからそのワカサギを唐揚げにして食べるのとか想像すれば……」

「か、唐揚げ……っ!!!」

途端に目を輝かせるインデックス。
何とも分かりやすく扱いやすい。

そこからは、彼女は明らかにハイテンションになっていた。
やはりというべきか、彼女にとって食べることというのは大きな意味をもっており、それに繋がる行為はなんだって楽しいのだろう。
何にせよ、上条としては彼女に楽しんでもらえればそれで嬉しい。

それから少しして、上条は異変に気付く。
いや、ある意味ではそれは異変でもなんでもなく、彼にとっては日常的なものなのかもしれない。
それでも、普通の人間から考えれば十分おかしな事だ。

近くでどんどんワカサギを釣り上げていくインデックス。
それはたぶん彼女にそういった才能があったとかそういうわけではなく、ただ単によく釣れるように科学的に仕組まれているだけだろう。
まぁ、例え気付いていたとしてもそんな空気を壊すような事を言ったりはしないが。

そして、ここからがおかしな事というか、上条にとっては当然ともいうべき事態。
大漁のワカサギフィーバー中のインデックスの隣にいる上条が、全く釣れない。



927: ◆ES7MYZVXRs:2014/01/23(木) 00:02:57.29 ID:m527eheJo

初めは大漁の自分の方に夢中になっていたインデックスも、ふと我に返って哀れみを込めた視線を送る。

「…………」

「え、えっと、とうま? もしかして私がとうまの分のお魚まで取っちゃってる……って感じなのかな?」

「いや、たぶんそれは関係ないんだ多分。これで場所変わっても、どうせ俺は釣れないままなんだろうな、ふふふふふ」

上条当麻は不幸な人間だ。
それについては、この科学が進んだ学園都市でもまだ解明できていないものでもあり、どうしようもない。
故に科学的に釣りやすくなっている釣り堀でも、その効果は上手く発揮されない。

だが、上条は失念していた。
よく釣れるはずの場所で全く釣れない。この不幸はその程度のものだったか。

答えはすぐに返ってくる。

「……あれ、何か音しない? とうまの足元」

「音? そういえばなんか」

そこまで口にした瞬間。


バキン! という快音と共に、上条の足元の氷が一気に崩れ落ちた。



***



しばらくして、上条達は近くの建物の中で休ませてもらっていた。

とてつもなく寒い。
それも当然だ、雪が降るという予報もある二月の冬空の下、池に落ちたのだ。
ここは暖房もよく効いており、目の前には熱源もあるのだが、一向に上条の体の震えは止まらない。
一応北極の海に落ちた経験はあるが、そんなもの何度経験しても慣れるというようなものでもない。

不幸中の幸いだったのは、インデックスは無事だった事だ。
崩れたのはピンポイントで上条の足元。
係員は何がどうなればこんな事が起きるのかと困惑しながらも、何度も何度も頭を下げて謝罪してきた。

上条としては、そこまで謝られても申し訳ない。
たぶんどんなに安全面に考慮していたとしても、どの道上条は池に落ちていたと想像できるからだ。
何が悪いといえば、運が悪いとしか言い様がない。

「ふ、不幸だ……」

「大丈夫、とうま?」

「何とかな……けど悪いインデックス。もう少しこのまま暖まらせてくれ」

「うん、もちろんいいんだよ。とうまが風邪引いちゃったら私も困るし……」

そう言いながら、インデックスは何かを逡巡していた。
そして上条が首を傾げて彼女の方を見ると、どうやら彼女は何かを決心したようだった。

インデックスはおもむろに上条の近くまでやって来ると、後ろからギュッと抱きしめた。

「っ!?」

「え、えっとね、これはとうまが少しでも暖かければって思って……その、他に意味はなくてね……!」

その声を聞くだけで、おそらく彼女は顔を真っ赤にしているのだろうという事が容易に想像できた。
なにせ、上条の方も耳まで真っ赤にしているからだ。

「そ、そっか……サンキュ」

「う、うん」

ろくに会話も続かず、むず痒い沈黙が広がる。

デート的にはこの雰囲気は決して間違いではないのかもしれないが、だからといって身を任せられる程の余裕は上条にはない。
というわけで、何か空気を変えられるような話題を捻り出そうと頭を回転させるが、中々都合よくすぐに思い付いたりはしない。



928: ◆ES7MYZVXRs:2014/01/23(木) 00:03:53.78 ID:m527eheJo

(大体、インデックスの奴、自分はデートだって言われるだけであんな過剰反応してたくせに、こんな事してきて…………)

そこで上条の思考が止まる。
一つ、彼女に聞きたい事ができた。

だが、それはあまりすんなりと聞けるような事ではないかもしれない。
少なくとも、この空気をどうにかできるようなものではないし、下手をすると悪化する可能性だってある。

それでも、一度頭をよぎってしまった結果、どうしても聞きたくなってしまった。

「……なぁ、インデックス」

「な、なに?」

「もし、ここに居るのが俺じゃなくて別の奴……例えばステイルとかだとしてさ、インデックスは同じように、その、こうしてくれたりすんのかな」

「えっ……あ……そ、それは……」

明らかに彼女を困らせていた。
当たり前だ。こんな事を聞いておいて、何を言っているという感じだろう。

上条はすぐに後悔した。
そんな事を聞いてどうするのだ。
彼女は誰にでも優しい。困っている人がいれば、誰でも何とかしてやりたいと思う。

例え彼女がステイル相手に同じような事をするとしても、上条がどうこう言う権利などない。

「悪い、何でもない。忘れてくれ」

「……私はシスターさんだから、困っている人には手を差し伸べなければいけないんだよ。私自身もそうしたいと思ってる」

「そう……だよな。はは、そういえばお前ってシスターさんだったな。つい忘れそうになっちまうな」

上条はからかって、この空気を流してしまおうと考えた。
答えも聞けたのだし、もう十分だ。この妙に胸がざわつく感覚からも早く逃れたい。

だが、インデックスの話はそこで終わらなかった。
彼女は上条を抱きしめる力を強めると、耳元で囁くように、


「でも私にとって、とうまは特別な人なんだよ。他の誰よりも」


その言葉に、上条は何も言えなくなった。
今自分がどんな顔をしているのかも分からない。
ただ漠然とした幸福感だけが体の中を巡っていき、外に出たいと騒いでいるようだった。

上条は口元をぎゅっと結ぶ。
油断すれば、そこから様々な言葉が漏れてしまうと思ったからだ。

もう少し、冷静にならなくてはいけない。
今の二人を取り巻く状況というのは複雑で、その場その場の勢いで言葉を紡ぐのはやめた方がいい。
彼女に自分の気持ちを打ち明けようと決心した上条だったが、それにはきちんとした順序を踏みたいと思っている。

だから、今はただこう言った。

「……ありがとな、インデックス。俺にとってもお前は特別な人だよ」

「ふふ、そっか」

彼女の満足そうな声が背後から聞こえてくる。
どんな表情をしているのかは見えないが、声の調子からきっといつもの穏やかな微笑みを浮かべているのだろう。
今はそれだけで、良かった。



943: ◆ES7MYZVXRs:2014/03/04(火) 07:34:45.00 ID:4ipaVk6zo

***



それから上条とインデックスは学園都市のグルメ食べ歩きを続けた。
漫画に出てくるような原始的な骨付き肉から、普段の上条家の家計からは到底手の届かない最先端技術と食材をふんだんに使われた高級料理まで。

加えて、このチケットの良いところは、使える範囲がとてつもなく広い点だ。
具体的に言えば、お食事処だけではなく映画館のポップコーンのようなものにも使えたりもする。
本当の意味で学園都市のグルメを堪能し尽くす事ができるというわけだ。

こんな贅沢をし放題なチケットをあんなに簡単に渡してくれた白井黒子には、これからしばらくは頭が上がらないだろう。

とは言え、やたら美味いポップコーンを食べながら観た映画というのは色々と残念過ぎるB級だったため、もはやポップコーンの方に集中してしまう有様だった。
浜面が頑なに絹旗映画を否定し続けていただけに、逆に興味を持ってしまいこうして観てみたのだが、どうやら失敗だったようだ。
そしておそらく、あの絹旗最愛自身も、この映画を観て面白いとは言わないだろうと思ってしまった。

そんなこんなで、映画の感想などは皆無で、ポップコーンの感想ばかりを話しながら、上条とインデックスは次の目的地へと向かう。
時刻を確認すると、もう昼下がりだった。時間の流れを早く感じるのは、何も冬で日照時間が短いからとかいう理由ではないだろう。

楽しい時間というのはいつだって早く流れ去っていく。
かのアインシュタインも相対性を説明する例えに「熱いストーブに手をかざすと、1分間が1時間のように感じられるが、
素敵な女の子と話をしていると、1時間がまるで1分間のように感じられる」という言葉を残している。
人間の感覚というのは何とも都合の悪い作りになっているものだと、何か生き物として根本的な部分に不満を持ってしまう始末だ。

ただ、いつまでも嘆いていても仕方ない。

「よしインデックス、次は第六学区だ」

「第六学区? もしかして初めて行く所かな?」

「あー、そういえばインデックスは行った事ねえかもしれねえな。観光客向けにアミューズメント施設が集まった学区なんだけどさ」

「観光客……って一応私もそうなのかな? あまり実感ないんだよね、ほら、私にとってとうまの家が実家って感覚だから」

「なるほどな……まぁ、別にあそこは俺の家ってわけじゃなくて寮の部屋なんだけども」

確かに彼女にとっては、今の記憶で最も長い時間を過ごした場所というのがここ学園都市であり、むしろここが故郷と言ったほうがしっくりくるのかもしれない。
魔術サイド側の最たるものである魔道書図書館としては何とも奇妙な状況だ。
ただ、上条にとって大切な女の子としては、この街を、上条の部屋を自分の帰る場所だと彼女が思ってくれているという事は嬉しい事なのだが。

インデックスは期待を込めた眼差しを向けていた。

「それでそれで? これからそのアミューズメント施設に連れて行ってくれるの?」

「おう、オーソドックスに遊園地な。つっても学園都市の遊園地だから外のやつとは一味違うぞ、たぶん」

「やった! まぁでも私、外の遊園地も行ったことないから違いとかよく分からないんだけどね」

「そうだった!」

何だか学園都市というアドバンテージを失った感覚だ。
だが、それでも人生初の遊園地体験が学園都市製というのも、それはそれで思い出に残りそうな気もする。

「ふふ、でもとうま。映画に遊園地って、なんだかデートの定番所ばかりだね。別に嫌だっていうわけじゃないけど」

「おっ、やっとデートだって認めたかインデックスさん」

「え、あ、それは……だって、流石にごまかしきれないっていうか……」

「じゃあデートって事で手も繋ごうぜ、ほら」

「聞く前から繋いできてたような気もするかも」

「いやか?」

「そんな事言ってないけど……ねぇ、もしかしてとうまはこれからそういうスタンスでいく事にしたのかな?」

「ん、どういう意味だ?」

何故かインデックスは若干不安そうな表情でこちらを見ていたので、上条は首を傾げる。



944: ◆ES7MYZVXRs:2014/03/04(火) 07:35:13.92 ID:4ipaVk6zo

「ほら、とうまって今まで女の子に全く興味ないような感じだったよね」

「そ、そうだったかな……」

「うん。でも今だと何て言うか……それこそ今時の学生みたいに恋愛を謳歌してるって感じなんだよ」

「お前今時の学生ってのが分かるのか?」

「てれびでよく見たんだよ。とにかく、その、とうまはこれからはやっぱり……恋人とか……作ろうとかって思ってるのかな……?」

「いっ!?」

ドキン! と心臓が一気に数段跳ね上がった。
上条はゴクリと喉を鳴らす。これはバレてしまったのかもしれない。
今の言葉はつまり、「私に恋人になってほしいっていう事?」と尋ねられているようなものではないか。

上条の様子が普段と比べておかしいというのは、自分自身でも何となく分かっていた。
そこから彼女は感付いたのではないだろうか。女の子というのは、そういった事に敏感だという事はよく聞く。
さらに、上条とインデックスは今までずっと一緒に居ただけに、互いの変化にも気づきやすいという事もあるだろう。

これからどうするべきか。

上条の計画では、少なくともデートの最中は自分の気持ちを相手に伝えるという事はしないつもりではあった。
絹旗にはB級だとか非難を受けたが、それでもやっぱり別れの前に言いたいと思っていた。
二人を取り巻く状況などを考えた上で、それが一番良いと判断したからだ。

しかし、何とも情けないことに、この段階でバレてしまった場合。
それをうやむやにしたまま、このままデートを続ける事の方が良くないのではないだろうか。

そうやって懸命に頭を回転させて悩んでいた上条だったが、

「あ、ううん、私はそれがダメだって言ってるわけじゃないんだよ。それは普通の事だと思ってる」

「えっと、インデックス、俺……」

「でもね……私に対してはいつも通りでいいと思うんだよ」

「……え?」

上条の思考が停止する。
話の流れ次第では、告白の返事のような感じにもなりかねないと思っていただけに、とんでもなく意表を突かれた形になる。

インデックスは何を言っているのだろう。
上条はただただ、訳もわからずに彼女の言葉を待つ事しか出来ない。

「だからね、これからはデートとかそういうのに興味を持ったりするのは良いと思うけど、無理に私への態度まで変える必要はないっていう事なんだよ。
 確かに私ととうまも、男と女っていうのは変わりないとは思うけど、でも、とうまにとって私はそんな存在じゃないでしょ?」

「いや、ワカサギ釣りの時も言ったけどさ、俺にとってインデックスは特別な……」

「うん、それはとっても嬉しいんだよ。でもね、その特別っていうのは恋愛的な意味ではないよね?」

「へ?」

「ごめんね、実はこの前の旅行の一日目の夜に、女子部屋の皆で男子部屋の様子を見てたんだよ。カメラで」

「はぁ!?」

「それで、その時にとうまがハッキリ言うのを聞いたんだよ。私の事は娘みたいに思っているって」

「…………」

上条は何も言えなくなっていた。金魚のように口をパクパクさせているだけだ。

完全に計算外の出来事だった。
別に上条も何もかもが予定通りに進むとは思ってはいなかったが、いくら何でもこれは予想外過ぎた。

あの時は相当酔っていた為、途中から記憶はあやふやになっている。
それでも、インデックスが言っているような内容を、自分が言った事に関してはかろうじて記憶に残っていた。

そして、その言葉も、あの時点では本心であった事には変わりない。
心の底にインデックスへの特別な想いがあったとしても、あの時点では気付いていない。
それを気付かせてくれたのは、二日目の夜の美琴の告白だ。

だが、今はそこは大きな問題ではないのかもしれない。
重要なのは、インデックスの中で上条の自分への気持ちというのは、そういった親子愛的なものだと認識してしまっている所だ。
上条が言った「インデックスの事を女の子として見ている」という言葉も、彼女からすれば取り繕っているようにしか聞こえないのかもしれない。



945: ◆ES7MYZVXRs:2014/03/04(火) 07:35:57.00 ID:4ipaVk6zo

「待てインデックス、あれは酔ってても正直に言うのが照れくさかったっつーか……」

「あはは、でもみこととかみさきの所を聞いても、とてもそういう打算ができる状態には見えなかったんだよ?」

「……み、見くびってもらっちゃ困るな。実は俺、結構酒強くて、あれも本当はそこまで酔ってなくてだな」

「はいはい。もうそういう事にしておいてあげるから、早く遊園地行こ?」

「おい絶対信用してないよな!?」

インデックスはニコニコと笑顔を浮かべながら軽くあしらっている様子だ。
たぶんこれからも、どんなに上条がアタックを仕掛けたとしても、本気にはされないのだろう。

それは上条からすればかなりマズイ状況だ。
ゆえに一刻も早く、この誤解を解かなければいけないというのは分かっているのだが、その方法が全く思い付かない。
今の状態では、例え上条が告白した所で本気にされない可能性すらある。

そんなこんなで、ひとまずは頭を抱えたまま遊園地へ向かうしかなかった。



***



遊園地といえばまず浮かんでくるのが絶叫マシンだ。
定番のジェットコースターの他にも、上下移動のみで高所から一気に落下するタイプ、ぐるぐると同じ所を回転するタイプ。
そのバリエーションも豊富で、色々な方法で人々から悲鳴を引き出している。

そういった絶叫マシンというのはカップルにも人気がある。
吊り橋効果と同じような理屈なのだろうが、それをきっかけにいい感じになれたりする事も多いのだとか。
当然、上条もデートにこの場所を選んだ理由として、その事を全く考えなかったと言えば嘘になる。

ただし、大きな誤算があった。

「……ねぇ、とうま。大丈夫?」

「お、おう……なんとか……」

フラフラとした足取りで上条は何とか受け答える。

学園都市の誇る一番の遊園地の一番スリルのあるジェットコースター。
速度もさることながら、そのコースも従来の科学ではありえないような縦横無尽っぷりを発揮していた。
前もって調べていた段階から、流石にこれは乗るべきではないと思っていたものだ。

だが、予定を変更して乗らざるをえなかった。
わざわざこんなモンスターに乗らなければいけなかった理由、それは単純なものだ。

要するに、インデックスが驚異的な絶叫マシン耐性を持っていたのだった。



946: ◆ES7MYZVXRs:2014/03/04(火) 07:36:49.26 ID:4ipaVk6zo

時間を少々遡って、最初のアトラクション。
いきなり彼女はかなりスリルのあるジェットコースターに乗ろうと提案した。
当然ながら上条は止めたのだが、大丈夫だと言って聞かなく、根負けした形で彼女の希望通りのものに乗ることになった。

そのジェットコースターは見た通り聞いた通りのダイナミックっぷりだった。
正直、上条もかなりのダメージを受けて、膝が笑いそうになるのを必死にこらえる有様だ。
しかし、彼女は降りた後に一言。

「うーん、私としてはもっとスピードあっても良かったかも」

上条としては十分過ぎるスピードで、あの時点でも結構ギリギリだった。
それなのにインデックスが平然とそんな事を言ってのけただけに、相当驚いたものだ。

まぁ、理由を聞いてみればなんて事はなかった。

「え、だって私、イギリスでもっと速く動いたりする時もあるもん。仕事で」

「はい!? ……あ、魔術か」

「うん。別に珍しいことでもないよ。ほら、かおりだってよく音速で動いたりしてるじゃん」

「あんな聖人持ちだされてもな……まさかインデックスまでそんな事できるとは思わなかったしさ……」

「ふふん、これでも私は禁書目録だからね。学園都市に来る前にやった仕事では、ビッグベンから一気に飛び降りたりしたんだよ」

「…………」

何と言うか、スケールが違いすぎた。

つまりは、神裂火織がジェットコースターに乗っても、眉一つ動かさないであろうといった事と同じ事だというわけだ。
普段から生身でジェットコースター以上の速さを体験していれば、怖がるはずがない。

しかし、このままでは終われない。
そんなわけで、無謀にも最高スリルのジェットコースターに挑戦したわけだ。


時間は今現在へと戻る。
学園都市の誇る、科学の最先端を文字通り突っ走る最強のジェットコースターに見事に打ちのめされた上条。
一方でインデックスはこれに関してはそれなりに楽しめたようでニコニコとご機嫌だったのだが、隣の少年の顔を見て一気に心配そうな表情に変わっていた。

「とうま、ちょっとそこのベンチで休んでいこ?」

「は、はい……」

最高に格好悪すぎて泣きたくなる上条だったが、そうも言ってられない有様なので大人しく従う。
未だに頭をシェイクされるようなグルグルとした感覚が抜け切れずに、かなりの吐き気もあるのだ。

こういった気分が悪くなった客のためかどうかは知らないが、人が休めるようなベンチはすぐ近くにあった。
上条はすぐに倒れこむように、そこに横になった。

するとインデックスは何故か視線を逸らしながら、ぼそぼそと尋ねてきた。

「……頭痛くない?」

「ん? あー、そりゃまぁ調度良く枕もねえし快適とは言えねえけど、それは仕方ねえよ」

「あの、えっと、それなら、さ」

インデックスは顔を赤らめてもじもじとしている。
一体どうしたのか、と疲労困憊の頭を動かして考えてみる上条。

「……え、もしかしてインデックスさん…………膝枕してくれるとか?」

「っ!!」

まさかと思って言ってみると、彼女は更に一層顔を染めて俯いてしまった。

……どうやら当たりだったようだ。
上条としては冗談のつもりで言ってみただけだったので、反応に困る。

だが、こうしてお互い微妙な空気のまま沈黙を続けるのはもっとキツイ。早い所、何か言わなければいけない。
もちろん彼女の申し出は上条にとって嬉しいものである事は確かだ。
ただし、だからといって欲望丸出しで即座に食い付くなんて事は、恋愛経験皆無な高校生にはいささかハードルが高い。



947: ◆ES7MYZVXRs:2014/03/04(火) 07:37:46.30 ID:4ipaVk6zo

ここは無難に、平静を取り繕いながらお願いするのが一番だろう。

「それじゃあ……その、頼もう……かな」

「う、うん、分かった」

自分でも若干声が震えているのが分かった。もう完全にごまかしきれていない。
その辺りはとにかくインデックスが気付いていないという事を願うしか無い。

一方で、彼女も彼女で、相当動揺しているのが丸分かりだった。
視線はゆらゆらと定まらず、決して上条に合うことはない。
加えて、元々色白の肌が赤く染まってかなり目立つ。

そこまで恥ずかしいのなら、膝枕なんていうのは初めからやめておいた方が良かったんじゃないかとも思ってしまう。
といっても、それを言ってせっかくのチャンスをふいにする程、上条も全くの無欲というわけでもないのだが。

インデックスは上条の隣に座ると、やけに念入りに着ている修道服のふとももの辺りを整える。

「一応言っておくけど……変な所とか触ったりしたらダメなんだよ」

「そ、そんな事しねえって!」

思わず声が上ずってしまった。
いや、別に上条はそんなやましい事を考えていたわけではなく、純粋に動揺しただけだ。
それでも、インデックスの方も余裕があるわけでもないらしく、それで疑惑の目を向けてくる事もない。

上条は一度ゴクリと喉を鳴らし、彼女の膝の上に頭を乗せた。

「……おぉ」

「ど、どうしたの?」

「いや、なんつーか……凄くいいです」

「そう……? それなら、いいんだけど」

嘘偽りのない素直な感想だった。
サラリと優しく肌を撫でる彼女の修道服の感触。
そして何より、彼女自身の膝の柔らかさ。温もり。

二月の曇り空の下であるにも関わらず、上条は全く寒さを感じなくなっていた。
理由としては彼女の温もり以上に緊張しているという事があるはずだ。

あまりにも心地いいので、目を閉じればそのまま眠れそうだった。
流石に彼女にも悪いのでそんな事はしないが。

「……はぁ」

「なんだか随分と重い溜息かも」

「そりゃな……ジェットコースターでダウンして心配かけるとか情けねえなってさ」

「んー、でもとうまの場合は今更かも。私的には夏休みの宿題を年下の女の子に教えてもらう方が情けない気もするし」

「なぜそれを知ってる!?」

「もちろん、みことに聞いたんだよ」

ぐっ、と屈辱に震える上条。
それは紛れもない事実であり、全面的に自業自得なのだが、簡単に割り切れないものだ。

するとインデックスは穏やかな笑顔を浮かべて、

「大丈夫だよとうま。勉強が壊滅的にできなくても、人間何かしらで役に立てると思うし」

「それ慰めてるように見えて更に傷抉ってないか? そういうお前だって二次方程式とか解けんのか!」

「だって私はもう公務員だし」

「ぐっ!!!」

「それに少なくとも語学は自信あるから、それを活かしてもやっていけると思うんだよ。鎖国状態のとうまと違って」

「ぐぅぅぅぅっ!!!!!」

完全敗北。
少し前までは上条家でゴロゴロしているだけだった少女は、いつの間にか自分の遥か先へと進んでいた。
何とも虚しいものである。



948: ◆ES7MYZVXRs:2014/03/04(火) 07:38:13.74 ID:4ipaVk6zo

「あ、せっかくだし、この前のお話の続きでもしよっか?」

「この前?」

「うん。ほら、旅行の温泉でちょっと将来の話をしたよね。とうまって将来何やりたいのかなって」

「……あー。いやでもそんなすぐ出てくるもんじゃないだろそれ」

「だけどちゃんと考えておいた方がいいよ? 難しい事かもしれないけど、自分が進みたい道が見えてるかどうかっていうのはとっても大切な事だと思うし」

「なんかインデックスがすげえまともな事言ってる……!」

「その言い方には激しく引っかかる所があるけど、今はスルーしてあげるかも。それで、本当に何もないの? 漠然とでもいいから」

「そうだな……」

少し考えてはみるが、中々すぐに出てくるものでもない。
そもそも、上条は常にやりたい事はやっているような感じだ。
ほとんどが困っている人を助けたいという分かりやすいもので、そのためにはどんな相手にだって右手を振るってきた。

その辺りを考えると、

「……やっぱ警備員(アンチスキル)とかになるのかねぇ」

「アンチスキルって……つまり先生って事?」

「いやそんなしっくりくるわけじゃねえんだけどさ」

「まぁでも、とうまのイメージ的には結構合ってるかも。いつも説教してる感じだし」

「別に説教好きってわけじゃねえんだけどなぁ。だけどほら、学園都市の治安維持にはこの右手とか役に立ちそうってのもあるしな」

上条の言葉に、インデックスもうんうんと頷く。

「問題は頭の方だけど、そこも体育の先生なら大丈夫なのかな」

「全国の体育の先生の皆さんに謝れ。そんな簡単なもんじゃないだろ」

「うーん……それもそうかも。とうまの場合、まずまともに学校に通えるのかっていう不安もあるしね」

「うっ」

やはりというべきか、一番の問題はそこかもしれない。
というか、まともに仕事場へ行けるのかというのは教師に限らず、あらゆる仕事で大きな問題だろう。

生まれ持ったこの不幸体質。
今日で十六年の付き合いになるわけで、流石に慣れてきたというのもある。諦めといった方が正しいかもしれないが。
それに加えて、やたらと上条の周りにはピンチに陥っている人やらも集まってきたりして、気付けば出席日数もギリギリの所まで追い詰められる有様だ。

今は学生の身で先生も色々と庇ってはくれているが、これが大人になったらどうなるのかというのは考えるだけでも頭が痛くなる。

「……まともな先生の仕事ってのは厳しそうだな。となると治安維持専門の仕事みてえのを探した方がいいか」

「しずり達みたいな?」

「あれはちょっと違う……」

「じゃあ必要悪の教会(ネセサリウス)みたいな?」

「それも暗部みたいなもんじゃねえか。つか俺、割と無給でそっちの仕事してたよな?」

「あはは、でも今から給料要求しても出してくれるかは微妙かも。最大主教(アークビショップ)があんな感じだし」

「期待はしてねえけどさ……けど、まぁ、そっちの仕事ってのもありかもな」

特に意識せずに、自然と口からこぼれた言葉。
もしかしたら、これが一番にある希望なのかもしれない。
インデックスと一緒に居たい、それは当然想うところだ。



949: ◆ES7MYZVXRs:2014/03/04(火) 07:38:55.10 ID:4ipaVk6zo

彼女は少し目を丸くしてこちらを見る。

「えっ、とうま、必要悪の教会(ネセサリウス)で働きたいの?」

「そりゃ今すぐには無理ってのは分かってる。だけど、まぁ、選択肢としてはあってもいいだろ」

「……とうま英語話せないじゃん」

「勉強する勉強する。今だってそれなりにやってんだぜ、英語。今時はケータイのアプリにもそういうのがあってさ」

「それでも、ちょっとオススメはできないかも。やってる事も危ない事ばかりだし」

「そういう事には慣れっこだっつの。それに不本意ながら、お前らとは結構一緒に仕事もしたしな」

あまり考えなかった事だが、いざこうしてみると中々いい考えかもしれない。
インデックスは自分の力を活かせる場所として必要悪の教会(ネセサリウス)を選んだ。その決断を曲げさせる事はできない。
それなら、自分が彼女についていく形でイギリスへ行けばいいのではないか。

もちろん、今の世界の事情からそんな事が許されないという事は分かっている。
元々、一度科学と魔術の線引をハッキリさせるという目的の下、上条とインデックスは離される事になった。
だが、その後の話し合いできっとまた会えるようになると信じている。その時、上条はどんな立場に居たいかという話だ。

魔術を使えないというのが限りなく大きなネックだが、この右手があればそれなりにやれる事もあるのではないか。
一方で、インデックスは中々首を縦には振らない。

「うーん……でも……」

「なんだよ、もしかして俺と一緒にいるのが嫌だとかってんじゃねえだろうな」

「そ、そんな事はないんだよ! とうまには危ない事してほしくないからで、私だってとうまが居てくれるなら……」

最後の方は口ごもってしまい何と言ったのかは聞き取れなかった。
ただ、恥ずかしがりながらも、若干嬉しそうに頬を緩めるその表情はとてつもなく可愛らしいものだった。
あまりの可愛さに、上条も言葉を失い黙ってしまう程だ。

その微妙な沈黙の間。

インデックスが上条に対して抱いている、「自分の事を女の子として見ていない」という誤解を解くタイミングは今かもしれない。
実のところ、その機会をずっと伺っていたのだ。流石にこのままではダメだ。

しかし、そういった空白の瞬間を狙ったかのように、


「良い雰囲気のところ申し訳ありませんが、少々お話よろしいですか?」


耳触りのいい、柔らかい男の声が聞こえてきた。
おそらく、女子はこんな声で囁かれればたちまち鼓動を高鳴らせるのだろう。
上条にはそういう趣味はないので、間違ってもそんな事はないのだが。

そのセリフにはどこか聞き覚えがあったが、すぐに白井黒子にも同じように話しかけられた事を思い出す。
自分達の状態を確認した上条とインデックスは、バッとすぐに離れた。

「う、海原……か?」

「偽物ですけどね。まぁあなたとは初対面からこの姿でしたし、その呼び名で構いませんが」

常盤台中学の理事長の息子。さわやか系のイケメン。
ただし、それは変装である事を上条は知っている。その実はアステカの魔術師だ。

そして彼一人というわけではないらしく、隣には仏頂面を浮かべた少女がいた。
肌は浅黒く、ウェーブのかかった黒髪が肩まである。
インデックスはようやく顔の赤みが引いてきたようで、コホンと咳払いをして尋ねる。

「えっと、そっちの人もアステカの魔術師なのかな?」

「……あぁ、ショチトルという。私としては不本意極まりないが、コイツのワガママに付き合ってやってる感じだ」

「ワガママって……もしかしてデートとかか?」

「まぁそんなところですいったぁぁ!!!!!」

言葉の途中で、海原は隣のショチトルに思い切り足を踏まれる。

「……と言いたいところですが、あいにくそういうものでもないんです。自分はあなたに話があるんですよ、上条さん」

「俺に話……ってのは……」



950: ◆ES7MYZVXRs:2014/03/04(火) 07:39:40.09 ID:4ipaVk6zo

このタイミングで海原が持ち掛けてくる話。
上条にはその内容について大体の予想がついた。
その為、声の調子も自然と確認のものになる。

ショチトルはやたらと大きく溜息をつき、

「おそらく今お前が想像している事で合っている。コイツはバカなんだ、どうしようもなくな」

「あはは、否定はしませんよ。それで、どうでしょう上条さん。少々バカの戯言に付き合ってはもらえないでしょうか」

「……分かった」

「え、どういう事? 私にはさっぱりなんだけど……」

インデックスはきょとんと首を傾げている。
この反応は何もおかしい事ではない。そもそも彼女はほとんど何も知らないのだ。

「大した事じゃねえって。悪いインデックス、ちょっと海原と話してくるわ」

「二人で?」

「えぇ、デートの最中で申し訳ないのですが、少し彼をお借りしますね。
 インデックスさんにはショチトルを付けますので、何かあったら彼女が何とかしてくれるはずです」

「ちなみにこのバカは、暴れる気満々だがな」

「えっ!?」

ショチトルの言葉に目を丸くするインデックス。
そしてすぐに、敵意を込めて海原を睨みつける。
海原はショチトルに向けて苦々しく笑みを浮かべるだけだ。

ここは上条がフォローに入るしかない。

「大丈夫だって、インデックス。そんな心配すんなよ」

「だ、だって、この人、とうまを襲う気なんだよ!」

「安心してください、殺しはしませんよ、たぶん」

「そんなの信じられるはずないかも!」

「インデックス」

上条は静かな声でゆっくりと、一言一言に重みを乗せて話す。

「これはなんつーか、俺のケジメみたいなもんなんだ。海原だって似たようなもんだ。避ける事はできねえんだ」

「意味が分からないんだよ……そんなの、納得できない……」

「……悪い。でもさ、俺もそんな偉そうな事言える立場じゃねけど、理屈じゃねえんだ。
 こんな何も教えないで、一方的に頼まれて納得できないってのは当たり前だ。それでも……頼む、インデックス」

インデックスは何かを言おうとして、口をつぐんだ。
それから懸命に何かを考えている様子で、何度も頭を振る。

上条は辛抱強く待つ。
ワガママを言っている事は百も承知だ。もし逆の立場だったら、インデックスを行かせるわけがない。

それをよく理解した上で、上条は頼む。
ただ、そうするしかない。彼女に甘える事しかできない。

インデックスはじっと、こちらの目を見て口を開く。

「……どんな話をするのかとか、どうしてこんな事になっているのかとかは教えてくれないんだよね」

「……悪い」

ここで、インデックスは目を閉じた。
そして、溜息と共に、


「一つだけ約束して。絶対に無事に戻ってくるって」



951: ◆ES7MYZVXRs:2014/03/04(火) 07:40:20.33 ID:4ipaVk6zo

上条の心にチクリと針が刺さったような痛みが走る。
きっと彼女ならこう言ってくれる、上条はそう確信していた。
その上で、こうやってワガママを通した。

だから、今の上条にはハッキリと宣言する以外の事は、何も言えない。
そうやって、応えるしかない。

「あぁ、約束するよ。必ず戻ってくる」

「“無事に”が抜けてるかも」

「あ、いや、それはほら、どこまでが無事なのかっていうのもありましてね……」

「はぁ……分かったんだよ、一応はそれで納得してあげる」

「サンキュ」

上条はそう短く答えると、海原に目で合図して歩き出す。

インデックスからの視線を背中に感じたが、振り返る事はしない。
今はとにかく、一秒でも早く彼女を安心させたい。だから、自分のやるべき事をやる。
この男との約束の決着を、つける。



***



「お前が最後まで食い下がるという事も予想していたけどな」

「……まぁ、私も本当はそうしたかったけど」

インデックスとショチトルは、近くのフードスペースのテーブルについていた。
白井からもらったグルメチケットはここでも使えるので、今インデックスの目の前にあるパフェは無料だ。
ただ、彼女にしては珍しく、それは通常サイズのものだった。

ショチトルはコーヒーのみ注文して、何とも美味しくなさそうに飲んでいる。

「尽くす女とかいう奴か? まぁシスターならそれが当たり前なのかもしれないが」

「うーん、そういうのとはちょっと違うかも。とうまは何かあるとすぐに飛び出して行っちゃうから、半分諦めてるような感じかな」

「もう半分は?」

「信じているからだよ。何があっても、とうまは必ず帰ってきてくれるから」

インデックスはニコリと微笑む。
この笑顔には嘘はなく、心の底からのものだ。

ショチトルはフン、と鼻を鳴らす。

「信じる者は救われる、か。相当めでたい頭をしているようだな」

「頭に関しては結構自身あるよ、私」

「魔道書だけではカバーしきれない分野もあるだろう」

「科学の事とか?」

「お前の恋路の事とかな」

「ぶっ!!!」

突然のストレート球に、パフェを吹き出すインデックス。
急激に顔に熱が帯びるのを感じる。



952: ◆ES7MYZVXRs:2014/03/04(火) 07:40:50.25 ID:4ipaVk6zo

「み、見くびらないでほしいかも。魔道書にだってそういう恋愛に関するものも……」

「なんだ、あの男に魅了系の魔術でもかけるつもりか?」

「そんな事しないってば! というか、どうしていきなりそんな話してくるのかな」

「本来私達くらいの歳の者のガールズトークというのはこういうものなのだろう? 暇潰しに読んでいた雑誌にはそう書いてあったぞ」

「それはそうかもしれないけど……」

「ちなみにアイツらのいざこざも恋愛関係だしな」

「えっ、とうま達の事!?」

さらっと言ってのけるショチトルに、インデックスは驚いてつい大声を出してしまう。

「ま、まさかとうまが本当にそっちの趣味があっただなんて……!」

「あー、いや、そういう意味じゃない。というかそんな疑いがある奴なのかアイツは」

インデックスは思わぬ大きな障害にわなわなと震えていたが、ショチトルが冷静に訂正する。

「エツァリが御坂美琴に惚れているのは知っているか? そして御坂美琴は上条当麻に惚れている。その辺りのごたごただ」

「……でも、それは夏に決着がついたんじゃなかったの?」

「あぁ。だが最近、大きな状況の変化があった」

「もしかして……私が関係しているのかな」

「間接的に、な。まぁ私がこの事について隠す義理もないから言ってしまうが」


「どうも最近、御坂美琴が上条当麻に告白してフラれたらしい」


冷たい風が通り過ぎ、体を撫でた。
周りの音が全く聞こえなくなり、ここだけ隔離された空間であるかのような錯覚を抱く。

インデックスは何も考えられなくなった。
頭の中は真っ白で、今見た事は完全記憶能力でも覚えられないのではないかと思ってしまう程に。
ただただ、呆然としていた。

何も知らなかった。
いや、知ることができなかった。
彼女の、美琴の様子を見ていれば、何か気付いても良かっただろうに。

その様子を、ショチトルは少し意外そうに見る。

「そこまで驚くことか? 御坂美琴が上条当麻に好意を抱いていた事くらいは知っていただろう?」

「……うん、それは知ってたんだよ。でも断るだなんて思わなかった」

「なぜ?」

「だって、とうまはみことの事を凄く良く想っているんだよ。いつも信頼してるし、感謝してる。断る理由なんて……」

「相手のことを良く想っている上でも、断る理由はあるだろう。他に好きな奴がいる時、とかな」

「…………」

「私から見れば、それはどう考えてもお前だとしか思えないが」

「それはないよ」

ハッキリと、言う。
それだけ、強く伝えたい事だったからだろうか。

それとも。



953: ◆ES7MYZVXRs:2014/03/04(火) 07:41:19.93 ID:4ipaVk6zo

「とうまは私の事をそういう風には見てないよ。それは本人から聞いたから間違いないと思う」

「女に向かってそういう事を宣言する男というのもアレだな」

「あ、いや、真正面から言われたわけじゃなくて、そう言ってるのを聞いたっていうだけなんだけどね」

「なるほどな。だがそれだって嘘をついている可能性は否定できないだろう?」

「その時のとうまは完全に酔っ払っていたし、嘘をつけるような状態ではなかったと思うんだよ。とにかく、私じゃないよ」

「はっ、まるで迷惑がっているようだな。お前はアイツの事が好きなんだろう?」

「……色々とあるんだよ」

他の者達にはもう何度も言ってきたことなので、ショチトルにもまた詳しく説明しようという気にはならない。

もう、これは決めた事だ。
インデックスは自分の想いを伝えずに、イギリスに戻る。
そして次に出会うその時にこそ、上条にハッキリと伝えよう、と。

自分が居ない間、上条が他の女性と付き合うような事があるという可能性については考えていた。
例えそうなったとしても、上条は一番にというわけにはいかなくても、変わらず自分の事を大切に想ってくれるだろう、と納得しようとした。
そもそも、あの鈍感な男がそんな事になる可能性自体低いんじゃないかと思おうともした。

それはそれで、上手くいっている。
食蜂がちょっかいを出してきた一件で、上条が自分の事を大切に想ってくれている事をよく感じられた事が大きいのかもしれない。

だから、美琴の件については驚いたが、深入りする必要はない。
今のこの状態は限りなく不安定なもので、何か小さな要因ですぐに崩れてしまう、そんな予感がしている。

これは決して後ろ向きな選択ではなく、もっと先にある幸せを見据えた選択だ。

インデックスはぼんやりと、遠くイギリスまで続いている空を見上げる。
音もなくゆっくりと、白い雪が降り始めていた。



***



上条と海原は、遊園地のアトラクションの内の一つの中にいた。
といっても、もちろん遊んでいるわけではない。

中央の広場を囲うように高台に作られた観客席。
いわゆる、コロッセオという舞台の中央に、二人は立っていた。
人払いは済んでいるらしく、静かな沈黙が漂っている。おそらくいつもは賑わっているであろう独特な熱気なんかは少しも感じられない。

このシチュエーションに、上条は思わず苦笑してしまう。

「よくこんな決闘におあつらえ向きな場所が学園都市にあったな」

「自分も見つけて驚きましたよ。何でも、普段はロボット同士の決闘なんかを見せ物にしているらしいですよ」

「はは、そこは学園都市らしいな」

そんな軽口を言い合う二人。

しかし、その間にある空気は重い。
いつの間にか降り始めた雪も、心なしか落ちるスピードが速いように見える。

海原は静かに目を閉じ、話し始める。

「……御坂さんの告白を、断ったようですね。土御門さんから聞きました。というか、あなたが伝えるように頼んだようですね」

「悪かったな、本当は自分で伝える事なんだってのは分かってる。ただ、お前の連絡先が分からなくてさ」

「いえ、構いませんよ。自分との約束を覚えていてくれた、それだけで満足です。
 それで、上条さん。あの『御坂美琴とその周りの世界を守る』という約束は、今後どうするつもりなのですか?」

「俺はその約束を取り消すつもりはない。今も御坂は俺にとって大切な人だっていう事には変わりないからな」

「ふふ、そう言うと思いましたよ、あなたは。ですが、すみません。どうやらそれでは自分は納得できないようです」

海原は自嘲気味に小さく笑う。
その表情はとても寂しげで、ひらひらと舞い落ちる雪のせいもあってか、酷く悲しくも見えた。



954: ◆ES7MYZVXRs:2014/03/04(火) 07:41:46.89 ID:4ipaVk6zo

「理屈では分かっているんですけどね。人が人を守る理由に、必ずしも恋愛感情などはいらない。
 そういった感情を抜きにしても、誰かを守りたいという気持ちに嘘偽りなどあるはずもなく、それも一つの真実である、と」

「…………」

「……それでも、自分は納得できないんです。男女間の友情を信じていないわけではありません。
 ただ、例えどんな理由があろうとも、彼女を悲しませた事に関しては許すことができない。そういう事なのかもしれません」

「それは言い訳するつもりはねえよ。確かに俺は御坂を悲しませた。アイツに酒入ってたとはいえ、思い切り泣かせちまったしな」

上条はそう言うと、両手を横に広げた。
鉄橋の上で、美琴を止めたあの時のように。

「何の真似です?」

「別に。ただ、俺はお前に殴られなきゃいけねえと思ってるだけだ」

「……そんなのは望んでいませんよ」

「え?」

「構えてください、上条さん。自分が望んでいるのは一方的な攻撃ではありません。
 それこそ、この場にふさわしい、拳と拳の泥臭い男同士の決闘というやつを望んでいます」

そう言って、海原は自分の顔を剥がした。
バキバキという音と共に、その柔和な顔の下から現れたのは、浅黒い肌に鋭い目。外人特有の骨格。

あの夏休み最終日に見た時以来の、彼の本当の顔だった。

「海原光貴ではなく、アステカの魔術師としてでもなく、一人のエツァリという男としてあなたに決闘を申し込みます」

エツァリは懐にあった黒曜石のナイフ、トラウィスカルパンテクウトリの槍を捨てる。
魔術を捨てる、つまりこの戦いの意味を表している。

その行動にやや呆気にとられていた上条。
だがすぐに自分のやらなくてはいけない事を察し、グッと拳を握りしめた。

「……あぁ、もちろん受けるぜ」

「念の為言っておきますが、わざと負けるような事はしないでくださいよ」

「分かってる。お前に勝つために全力でいく」

上条のその言葉を最後に、お互いに距離を取り、辺りは沈黙に包まれる。

二人の間は五メートル程か。
雪のせいで、視界は決していいとは言えない。
それでも、お互いに目の前の相手から目を逸らさない。

本当に静かだった。
人払いの影響も当然あるのだろうが、それ以上に二人の間の空気が張り詰めている。
そして。

ザッという足音が、やたらと大きく辺りに響き渡った。

ほぼ、同時。
何の合図も無かったにも関わらず、上条もエツァリも同じタイミングで前へ駆け出していた。

「ふっ!!!」

先に打ち出したのはエツァリの方だった。
綺麗なフォームからの右ストレート。
それは寸分違わず、上条の顔面を打ち抜く。

「がっ……!」

ブレる視界、走る激痛。
だが、それは上条にとってはもはや慣れっこだ。

すぐに上条は体勢を直すと、反撃とばかりに同じように右ストレートを打ち出した。
直後、上条の拳に、人体にめり込む馴染みのある感触が伝わる。

「ぐっ!!!」

エツァリは避けなかった。
避けられなかった、ではない。初めから避けるつもりがないのだ。



955: ◆ES7MYZVXRs:2014/03/04(火) 07:42:22.56 ID:4ipaVk6zo

上条は驚いて目を見開いた。
上条も上条で、相手の攻撃を避けるという事は考えていなかったからだ。
意図せず行動が被ってしまった事に、思わず口元に笑みが浮かぶ。

「何が面白いんです……かっ!」

「っ……なんでもねえ……よ!!」

拳が顔面を捉える鈍い音が連続する。

ノーガードの打ち合い。
端から見れば子供のケンカのようにも見えるかもしれない。
それでも、二人は真剣そのもので、ただボロボロになっていく相手の顔を殴り続ける。

顔の痛みはもう麻痺してきていた。
代わりに、次第に拳の痛みがジンジンと広がっていく。
拳は皮が剥け、血が滲んでいる。とにかく力任せに殴りつけているだけなので、当然の経過だ。

「……どうして」

「あ?」

「どうしてあなたなんですか!!!」

エツァリは大声で吠え、更に重い一撃を放つ。
強烈な衝撃に、上条の足がフラつき反撃が遅れた。

その隙を見逃さず、エツァリは一気に畳み掛けてくる。
拳の乱打が、容赦なく上条の顔面へと叩き込まれる。

「自分はこんなにも御坂さんの事を想っている! あなたよりも遥かに!!」

「ぐっ……だ……ろうな……」

「自分の好きな女性を守ってほしいと、あなたに言うしかなかった! それが彼女の為だともっともらしい言い訳を噛み締めて!」

「……がぁ……ぐぅぅ……っ!」

「それなのになぜ……なぜ自分はこんな立場で、あなたが御坂さんの近くにいるんだ!
 自分はただひたすら裏方で……いつだって主人公はあなただ! どうしてですか!? 答えてくださいよ!!!」

「そんなの知るわけねえだろうが!!!!!」

エツァリの乱打の間を縫って、今度は上条が思い切り右腕を振り抜いた。
クリーンヒットしたその一撃は、相手の体を浮かせ後方へ吹き飛ばす。

そうやって物理的な距離が開いて、間が生じる。
いつの間にか降ってくる雪の量が増えていて、積もるペースになってきていた。

上条もエツァリも、肩を激しく上下させながら、上空へ白い息を吐き出している。

「俺が知るわけねえだろ! 俺は俺で好きに動いただけだ。いつだってそうしてきた。
 別に御坂に惚れてもらおうとしたわけじゃねえし、主人公になるつもりなんてなかった!!」

「運命……ですか。こうなる事は最初から決まっていた……と」

「そんな大それた事言うつもりはねえよ。それに俺は運命ってやつが一本道だなんて思ってねえ。
 お前が主人公で、御坂がヒロインの物語だってどこかにあったはずだ。どっかの魔神の手にかかれば、その物語も簡単に作れたかもな」

「…………」

「でもお前は、“今ここにいるお前”は自分の足でこの世界を歩いてきたんだろ! 誰かに歩かされてきたわけじゃねえだろ!
 それなら受け止めろよ! 運命だとか神様のせいにしてんじゃねえ! そんなもんに潰されてんじゃねえぞ!!!」

「勝手な事を言ってくれますね!!!」

エツァリが一気に距離を詰め、上条の顔面を殴る。
すぐに胸ぐらを掴んで引き寄せ、更に殴る。

何度も、何度も。



956: ◆ES7MYZVXRs:2014/03/04(火) 07:43:14.45 ID:4ipaVk6zo

「勝者の立場からなら好き放題言えるでしょう! あなたに敗者の気持ちなんて分かるはずがない!!」

「つっ……がぁぁ……! 勝者だとか……敗者だとか……うるせえな……!!」

「では見て下さいよ! こんな無様な姿、それこそ敗者にお似合いでしょう!!」

「……答えろ……エツァリ……!」


「てめぇはそうやってずっと敗者で居続けるつもりなのかよ!!!!!」


上条の右拳が、再びエツァリの顔面を捉えた。

体重も上手く乗っていない、決してクリーンヒットとは言えない一撃。
それにも関わらず、エツァリの体は力なく飛んで地面を転がった。

ここでようやくまともな視界で相手を見る事ができる。
殴られたダメージに足はふらふらとおぼつかないが、倒れるわけにはいかない。

エツァリは倒れたまま、起き上がらない。
意識を奪うような一撃でも、立てなくなるような一撃でもなかったはずなのに。
彼は、ただぼんやりと雪の舞い落ちる灰色の空を眺めていた。

「立てよエツァリ」

「……厳しい事を言いますね。自分で殴り飛ばしておいて」

「なんで俺がお前をぶっ飛ばしてんだよ、おかしいだろ」

「別におかしくはないですよ。元々これは決闘ですし、敗者は地面に這いつくばる、ただそれだけです。
 敗者で居続けるも何も、自分の意思には関係なく勝敗というものは決まってしまうものでしょう」

「俺はそうは思わねえ」

上条はすぐにそう言う。
この考えが正しいのか間違っているのかなどという事はどうでもいい。
そもそも、こんな漠然とした問題に答えも何もあったものではないだろう。

だから、上条はいつもの様に自分の言葉を相手に投げかける。
それが何かしら相手の心を動かしてくれる事を願って。

「全てに勝ち続ける人間なんているはずがねえんだ。誰だって思い通りにならない事はある、何かに負ける。
 俺だって今まで散々負けてきた。でも俺は自分の事を敗者だとは思わねえ」

「……それはなぜです」

「本当の敗者ってのは、相手に負けた奴の事を言うんじゃねえ。勝つ気も無くなった奴の事を言うんだって思ってるからだ」

「…………」

僅かな間が生まれる。
上条も、エツァリも、何も言わずにただ自分の中で気持ちの整理を付けようとする。
殴り合っている最中には感じなかった痛みが、静かに、それでいて確実に押し寄せてくる。

音もなく舞い落ちる雪だけが、この場で動いているものだった。

「立てよエツァリ」

同じ言葉を、もう一度。

ここまでくれば、多くの言葉は必要ない。
そして、相手は受け取ってくれたようだ。

エツァリは動いた。
ゆっくりと、しかし迷いなく、立ち上がった。

透明な表情だった。
今まで抱えていたものが全て無くなったかのように。
先程の上条の右手の一撃によって、砕かれたように。



957: ◆ES7MYZVXRs:2014/03/04(火) 07:43:49.89 ID:4ipaVk6zo

「あなたを倒して自分が主人公になれ、そう言いたいのですか?」

「まぁ、そんな感じだな」

「はは、そう単純な話でもないでしょう。ここであなたを倒した所で、御坂さんが自分の事を見てくれるとは思えませんし」

「でも、お前は見てるだろ。御坂を悲しませた最低野郎をぶっ飛ばす、正義のヒーローって奴の事を」

「ただの自己満足ですよ、それは」

「人生ってのは大体そんなもんだと思うけどな。たかだか十六年生きただけで何言ってんだと思うかもしんないけどさ」

「……ありえない程濃密な人生を送ってきたあなたが言うと、妙に説得力が出てきますね」

エツァリは小さく笑みを零す。
その様子は、上条が見た彼の表情の中でもっとも楽しそうだと思ったくらいだった。

目の前の、これから主人公になる男は拳を握りしめる。
対して、上条は悪役。この場において倒されるべき存在だ。
とは言え、簡単に負けてやるつもりもない。敵は敵で全力で向かって行くからこそ、散り様も映える。

先に動いたのは上条だった。

体全体に蓄積されたダメージに若干フラつきながら。
それでも、全力で目の前の主人公に突撃する。
ほとんど倒れこむように、結果的に全体重が乗った渾身の右ストレートを放つ。


コンマ数秒後、上条の顎に伝わる強烈な一撃。


ふわっと体が浮き上がるのが分かる。
分かってはいるが、どうしようもない。
感覚的にはスローモーションで、上条は背中から地面に叩きつけられた。

頭を揺さぶられたせいで、吐き気がこみ上げてくる。
視界にはどんよりと重い雲と、そこから落ちてくる白い雪だけ。
それもぼんやりとした視界では正確に捉える事ができない。

綺麗なカウンターをくらったという事くらいは分かっていた。
あれ程直線的な攻撃に合わせる事くらい、世界の暗い場所を生きてきた者なら容易にできただろう。
ヒーローは悪役の拳をわざわざ受けてやる必要もない。

決して、負けようと思ったわけではなかった。
ただ、実際に大きくダメージを蓄積していたのは上条の方で、戦いが長引けば長引く程不利になるのは明らかだった。
だから、捨て身の攻撃をするしかなかったのだ。

ぼんやりとした視界はハッキリするどころか、更におぼろげになっていく。
そんな中で、上条は重い口を開く。
悪役は悪役らしく、やられ際のセリフの一つくらいあってもいいだろう。

「ちくしょう……が……」

上条の意識は暗闇へと引きずり込まれていく。
次々と頬に落ちてくる雪の冷たい感触も、次第に薄れていった。



970: ◆ES7MYZVXRs:2014/05/01(木) 02:41:08.23 ID:wiguRyO8o

***



暖かく、心地いい。

ぼんやりとした感覚の中、上条はただそれだけ思う。
先程までの寒さが嘘のようだ。

(……寒さ?)

次第に頭の霧が晴れていく。
それと同時に、少し前の出来事が次々と脳裏に浮かんできた。

(そうだ……俺は海原にぶっ飛ばされて……それで…………)


「……とうまは…………うん……その時…………お願い…………」


声が聞こえる。インデックスのものだ。
まだ意識は曖昧で、彼女は誰かと話しているようだが、その内容までは途切れ途切れにしか入ってこない。
それでも、その声が彼女のものだという事くらいはすぐに分かった。

少し、いや、しばらく経っただろうか。
こういう意識がハッキリしない時の時間の感覚は当てにならない。
とにかく、上条はゆっくりと体を起こす。

ここはいつもの病室だった。
ぼんやりと目の前の白い壁を眺めながら、少しずつ意識を覚醒させていく。
次第に気を失う前の事を思い出していき、そこから今この場所にいる経緯も何となく予想がつき始めた。

そして。


「とうま」


ダラダラと、嫌な汗が流れ始める。

それは可愛らしい女の子の声ではあるが、裏に潜む感情がひしひしと伝わってくる。
顔を少し横へ向ければ、その音源の少女をこの目で確認する事ができるだろう。
だが、その選択はとてつもなく気が進まない。

だから、上条は正面を見たまま口を開いた。

「……インデックスさん。これには深い訳があるんです」

「うん、私はシスターさんだからお話は聞くよ? だからこっち向こうか、とうま」

「ホラー映画とかってさ、視点変えた瞬間すげえ恐ろしい事になるよな」

「大丈夫、ここには亡霊の類はいないから」

「よしインデックス、そっち向く前に一旦確認しておこうぜ。まず俺は怪我人だよな?」

「うん、お医者さんが言うには、頭に噛み付いても問題ない程度の怪我人だね」

「…………」

「とりあえず話し合おうよ、とうま。ね?」

上条はゴクリと喉を鳴らして覚悟を決める。
そうだ、彼女は一応は話を聞くつもりはあると言ってくれている。
それはつまり、上条の言い訳次第では丸かじりコースを避けられる可能性があるという事だろう。

懸命に頭を働かせて頭にいくつか言葉を浮かべる。
一歩間違えば大変な事になってしまうので必死だ。

(……よし!)

上条は意を決してインデックスの方を向いた。
ここからが勝負――――。


「がぶっ!!!」



971: ◆ES7MYZVXRs:2014/05/01(木) 02:42:03.26 ID:wiguRyO8o

歯が頭にめり込む、あの感触。
あまりにも躊躇なく、覚悟もないままの出来事だっただけに、反応が遅れる。
まるで他人事であるかのように、自分の頭に少女が噛み付いているという状況を理解していく。

そして、時間と共に追いついていくのは理解だけではない。
ズキズキ、ズキズキズキズキズキズキン! と。


「ひぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」


上条は一つ見落としていた。

確かにインデックスは話を聞くとは言っていた。
ただし一度も、噛み付かないとは言っていない。

つまりは、とりあえず噛み付いた後で話を聞いても、彼女が嘘をついた事にはならないというわけだ。



***



「大体とうまはいつもいつもいつもいつも!!!!!」


どのくらい経っただろうか。
インデックスの不満はいくらぶちまけても収まることを知らず、未だに勢い良くまくし立てている。
上条はひたすら縮こまって、シスターさんの説教を受け止めるしかない。

ちらりとカーテンの隙間から外を見てみると、すっかり日の落ちた夜の街に、かなりの量の雪が降っていた。
この前まで滞在していた群馬の山岳地帯ならともかく、西東京でここまでの雪というのも珍しい。

と、そんな事を思っていたが、ここで上条の意識が逸れている事に気付いたインデックスは鋭い視線を投げかけてくる。

「……とうま、聞いてるのかな」

「お、おう、聞いてる聞いてる! いや、ホント、悪かったって。だけどほら、一応無事にこうして戻って……」

「何か言ったかな?」

「ごめんなさい何でもないです」

「はぁ……このやり取りも、もう何度繰り返したか分からないかも。まぁ、でもこの辺でいいや」

ようやく解放されるようで、安堵の溜息が漏れそうになるのを何とか堪える。
そんなのを見られれば、お説教が更に数時間くらい追加されそうだ。

それからやっと上条は落ち着いて部屋を眺めて、ふと疑問を口にする。

「そういえば、お前ここで誰かと話してなかったか? まだ半分寝てた時にうっすら聞こえてきたんだけど」

「……えっと、ほら、お医者さんと話してたんだよ」

すると、まるでこのタイミングを見計らっていたかのように、病室にノックの音が入り込んできた。
上条は反射的に返事をする。

「はい、どうぞー」

「ん、失礼するね?」

入ってきたのは、いつものカエル顔の医者だった。
検診か何かかと思ったが、何やら大量の荷物を乗せた台車を転がしてきている。

「……えっ、俺、そんないくつも機械を使って検査しなきゃいけない程ヤバイんですか?」

「ははは、違う違う。これはプレゼントだよ」

「精密検査数時間プレゼントっていうドクタージョーク?」

「あぁ……君がピンとこないのも仕方ないのか。今日は君の誕生日だろう?」

「あっ!」

今日は上条の誕生日。
こうしてうっかりすると忘れてしまう程、あまり実感の湧かない事だ。
おそらく記憶を失う前はそれなりに特別な日だったはずで、少し寂しさも覚える。



972: ◆ES7MYZVXRs:2014/05/01(木) 02:42:41.82 ID:wiguRyO8o

しかし、これはこれで驚きだ。

「まさか先生が俺の為に、こんな大量のプレゼントを?」

「いや、これは僕からというわけではないんだ。何でも、今日は元々誕生パーティーを行う予定だったって聞いたけど?」

「あ、じゃあそれは……」

「そう、お友達からのプレゼントだよ。僕からのプレゼントは、これを君の病室まで運んできた労力で勘弁してほしいね?」

カエル顔の医者はそう穏やかに微笑んで、病室を後にする。
部屋には大量のプレゼントが取り残された。

「うわ、皆には悪い事しちまったな。ちゃんと謝っておかねえと……」

「私から言っておいたから大丈夫だと思うよ?
 とうまは気を失ってたけど、お見舞いの人も結構来て、もうここでパーティーしようかみたいな流れになりそうなくらいだったんだよ。
 もちろん止められたし、騒いでた人がいたから追い出されてたけど」

「そうなのか……いや、でもメールくらいは送っとかねえと」

「とうまって意外と律儀だね」

「意外とってなんだ意外とって。普通だろ」

上条はケータイを開くと、今日のパーティーメンバーに謝罪メールを一斉送信。
この病室はこうしてケータイも使えるので助かる。

数秒後、驚くべき早さでメールが返ってきた。
あまりの早さに、メールを送った相手の中でアドレス変更を教えてもらってなかった人がいたという、悲しい可能性が頭をよぎるくらいだ。

だが、確認してみるとそういうわけではないようだ。

『それより、私のプレゼントの感想を聞きたいわぁ。星柄の箱よぉ』

食蜂操祈からの返信だった。

まぁ彼女のイメージからすれば、この返信速度も頷ける。
ついでに、いつの間にか敬語が取れてるようだ。何か心境の変化でもあったのだろか。
上条からすれば、こっちの方が接しやすいが。

上条はプレゼントの山をガサゴソと漁り、

「星柄、星柄……これか」

「誰からのプレゼント?」

「操祈。なんかメチャクチャ軽いぞこれ」

「……一応警戒しておいた方がいいかも」

インデックスの意見には上条も概ね同意だ。
食蜂の行動は全く読めない。平気でとんでもない事を仕掛けてくる可能性だって十分考えられる。

まるで爆弾解除でもしているかのように、上条は思い切り身を引きつつ箱を開封する。

「…………ん?」

恐る恐る中を覗いてみると、そこには何やら紙が一枚入っているだけだった。
ライブか何かのチケットだろうか。

それはそれで普通で少し意外だと思いながら、上条はその紙に書かれている文字を見た。

「…………」

「とうま?」

上条はじーっとその文字を見る。
別に外国語で書かれているわけではない。
ただ、その内容を頭に入れて処理するのが激しく躊躇われた。

だが、いつまでもそうしているわけにはいかない。
現実を見なければいけない。


☆食蜂操祈に何でも一つ言う事を聞かせられるチケット(18禁的内容も可、むしろ推奨!)☆



973: ◆ES7MYZVXRs:2014/05/01(木) 02:43:15.57 ID:wiguRyO8o

キラキラのラメたっぷりにデコレーションされたチケット。

おそらく、とてつもなく価値のあるものだろう。
ネットオークションなんかに出品すれば凄まじい額が付くはずだ。法的拘束力とかは置いといて。

何より破壊力が大きいのは、後ろの括弧内の文章だ。
前の文章だけでも、健全な男子高校生なら色々とアレな想像をするものだろう。
そして、彼女の場合はそれを止めるどころか思い切り背中を押しまくっている。

ただ、上条にはその押された先が真っ暗な社会の闇にしか思えない。

(よし、これは封印だ。こんなもん持ってるだけでも不審者扱いされて通報されてもおかしくねえ)

「とうまー? みさきのプレゼントって何だったの?」

「え、あー、ライブのチケットだチケット。意外と普通だったな!」

「らいぶってアリサがやってたみたいなの?」

「そうそう!」

これでいい。
世の中には知らないほうがいい事もある。
とりあえず食蜂には文句を並べたメールを返信し、インデックスへの誤魔化しの意味も含んで他のプレゼントの発掘にとりかかった。

目に付いたのは、本屋の包装紙だった。
誕生日に本を送ってくるような人と言えば、

「これは小萌先生だな、たぶん。参考書か何かか」

「うんうん、とうまはもっと本を読むべきだと思うんだよ。私を見習ってほしいかも」

「たぶん一生かかっても十万冊は読めねえけどな」

インデックスの言葉に答えながら、包装紙を外しにかかる。
小萌先生の専攻的に発火能力(パイロキネシス)系統の専門書だろうか。
いや、あの先生は生徒のレベルに合った本を薦めてくれるだろうし、案外AIM拡散力場関係の入門書か。

自分で買って読もうとまでは思わないが、贈り物という事であれば読まなければダメだろう。
こういうところも計算しているのであれば大したものだ。

包装紙を外すまでの時間なんていうのはそうかからない。
いくつか中身の予想をしている間に、上条の手の中の本はその姿を表していた。


デカデカと書かれた『魅惑のメイドお姉さん』の文字。
本職メイドさんが見たらブチ切れる事間違いなしの、布面積が少なすぎるメイド服。
それを着たお姉さんはスタイル抜群。まさに曲線美と表現できる肢体を惜しみなく晒している。


「…………」

「…………」


上条はそっと、本をプレゼントの山の中に封印した。

だが、それだけではこの空気をどうにかする事はできない。
インデックスの視線が痛い、生暖かい笑顔が痛い。

「よし、じゃあ他のプレゼントも開けてみるかな」

「とうまはやっぱり胸が大きいお姉さんが好きなんだね」

「おっ、これは万能ツールってやつじゃねえか! 浜面辺りかな」

「とうまはやっぱり胸が大きくて包容力があるお姉さんが好きなんだね」

「……こ、この安眠枕は滝壺っぽいな」

「とうまはやっぱり胸が大きくて包容力があってメイドのお姉さんが好きなんだね」

「メイドは俺の趣味じゃねえ!」

インデックスの容赦無い追求に、上条はギブアップする。
というより、勝手に変な汚名を受けているので、流すことができなかった。
上条の好みは寮の管理人のお姉さんで、メイドお姉さんではないのだ。



974: ◆ES7MYZVXRs:2014/05/01(木) 02:43:55.56 ID:wiguRyO8o

……と、そこまで考えて上条は首を傾げる。

(そういやインデックスはタイプ的にかすりもしてねえな)

それでも、上条は彼女の事が好きだ。
つまりは、今まで公言してきた好みというものは、所詮は表面的なものに過ぎないのかもしれない。
それとも憧れと好意を取り違えているのか。

どちらにせよ、インデックスの事が好きだという絶対的事実は変わらない。
一緒に居ると落ち着くから、暖かいその笑顔が心地良いから、そんな感じに理由を探せばすぐに出てくる。
それらの事柄が、上条が求めていたお姉さんの包容力と合致しているという考え方もできるかもしれない。

ただ、理由を考えること自体、あまり意味のない事のようにも思える。
こういう事に関しては、好きだから好き、それでいいんじゃないか。

すると、ジト目だったインデックスは、キョトンとした表情に変わる。

「何をそんなに考え込んでいるの?」

「……いや、俺は本当に寮の管理人のお姉さんが好きなのか、ってな。別に年上が恋人の絶対条件ってわけじゃないしな」

「女の子だったら誰でもいいって事かな」

「その言い方はまた何か違う誤解を受けそうだからやめてくれ……」

「可愛い女の子だったら誰でもいいって事かな」

「変わってねえよ」

世の中の男子高校生の大半はそんなものだろうが、一応は否定しなければいけないだろう。
実態がどんなものであっても、外向きのイメージを整えておく必要はある。

それに上条の場合は、可愛い女の子という条件だけなら周りに当てはまる者は多い。
そこからインデックスを選んだというのだから、ちゃんとした判断基準はあるはずだ。
正確に言葉で表せる自信はないが。

「……つか、そういうインデックスだってどうなんだよ」

「え?」

「いや、お前だって何だかんだイケメンの方が好きなんじゃないかってさ」

「うーん……そう言われてもちょっと困るかも。そもそも私は、男の人をそういう風に見るっていう事があまりないから……」

「あまり、って事はある事はあるんだな」

「……そんなに気になる?」

首を傾げて、ニコリとからかうような表情になるインデックス。
考えてみれば、上条がこういった事を訊いた事は無かったかもしれない。

そして、その答えについても少し考える必要がある。
あまり直接的に言い過ぎても、ほとんど告白のようになってしまう可能性もあるからだ。
異性として見られていないという彼女の誤解を解く事も大事だが、それでも告白のシチュエーションは選びたい。

「あー、いや、まぁ、答えたくないなら答えなくてもいいけどさ。どうしてもってわけじゃねえよ」

「ふふ、じゃあ言わない」

明るい微笑みでバッサリ拒否されてしまった。
ただ、彼女の好みのタイプを知れないのは残念ではあるが、これは仕方ないと割り切るしかない。
例えどんな答えが返ってきたとしても、上条のする事は変わらない。

それからしばらく、インデックスと二人で楽しくプレゼント開封をする。
やはりどんなものだとしても、自分のために送られてきた物というのは嬉しいものだ。
青髪ピアスからのエロ本やら、麦野からのコンドームやら、反応に困るものも確かにあったが。

美琴からのプレゼントは手袋だった。
メモには「これをボロボロにしないような生活を送ってみなさい」といった言葉。
ぶっきらぼうだが、こちらの心配をしてくれているのが伝わって、胸に暖かいものを感じる。

まぁしかし、何となくだが、結局美琴自身の電撃によってボロボロになるような予感はする。



975: ◆ES7MYZVXRs:2014/05/01(木) 02:44:31.03 ID:wiguRyO8o

続いて、またもや目を見張るようなプレゼントを発掘した。

「うおっ!? なんだこれ、銃!?」

「ほ、本物なのかな?」

「試すわけにもいかねえしな……」

拳銃としてはかなり大型のゴツイものだった。
恐る恐る手に取ってみると、ずしりとした重量感に冷や汗が流れる。

何か送り主の情報はないかと、箱の中を探ってみる。
すると、説明書と一緒にメモらしきものが一枚入っているのを見つけた。

『これは護身用で一方通行なりのプレゼントなんだよ! ってミサカはミサカはフォローしてみる』

その文を読み、冷や汗がどっと増す。

「本物じゃねえか!!!」

「あ、あはは……あの人も一応とうまの事を考えてこれを贈ったみたいだけどね」

「それはそうだけどさ……贈り物に銃とか、殺人予告に思われてもおかしくねえぞ……」

誕生日プレゼントに拳銃。
記憶の関係で誕生日というものを経験したことがない上条でも、明らかにおかしい事は分かる。
ただ、一方通行らしいと言えばそうなのだが。

説明書を読む限り、最先端の技術を詰め込んだ銃らしい。
思考補助なんていう機能もあって、脳内にあらゆる情報を送り込んだり、優れた照準補正もあるようだ。
つまり、ド素人の上条でも、ちゃんと狙った場所に撃てるというわけだ。

そういえば、浜面も最新型の駆動鎧(パワードスーツ)を使用した時に似たような体験をした事があるとか言っていた気がする。
見えないものに二人羽織りされているようで、あまり気持ちの良いものではないらしいが。

「……まぁ、こんなもんが必要な程度には修羅場くぐり抜けてきてるって所がまた泣けるな」

「でもとうまがそんなもの持ってると、いつもの不幸でとんでもない事になりそうかも」

「全く否定できねえなそれ……一歩間違えれば『不幸だー』で済まない事になりかねないし、どうすっかな……」

「というか、日本って法律的に銃持ってていいんだっけ?」

「日本じゃダメだけど……どうなんかな。ここは学園都市だし」

もはや学園都市は日本の中にあっても一つの独立した存在として成立している。
そのずば抜けた科学力の前では、日本政府も少し圧力をかけられただけで簡単に言いなりになってしまう。

「けど、せっかく貰ったものだし、一応は受け取っておくよ」

「うん……とうまがそう言うなら私は止めないけど……本当に気を付けてね?」

「分かってる分かってる。あと一方通行には、銃送りつけてくるのは心臓に悪いって言っといた方がいいかもな」

「あはは、何か恨まれるような覚えでもあるの?」

「……あるな」

「あるんだ……」

事情があったとはいえ、上条は今まで一方通行を二度に渡って殴り飛ばしている。
まぁ、何となく彼はそういった事をいつまでも根に持たないとは思うが。

そんな上条に対して、インデックスは困ったような苦笑を浮かべている。

「でも確かに、とうまって自分から首突っ込んで行く事も多いけど、理不尽に狙われる事も結構あるよね」

「あぁ、全くだ。もういい加減慣れたけどさ」

「今日のアステカの魔術師との一件も理不尽に入る?」

「……あー、それは自業自得だな」

海原との事は、上条が美琴を振った事から始まっている。
その理由はどうであれ、あの男には攻撃する権利があった、と上条は思っている。



976: ◆ES7MYZVXRs:2014/05/01(木) 02:44:59.35 ID:wiguRyO8o

インデックスは一度小さく頷いた。

「とうまならそう言うと思った」

「そうか?」

「うん、だって」


「とうまがみことを振って、何も思わないわけないから」


彼女の静かな声が病室に響いた。
物音一つない部屋では、決して大きくないその声も良く聞こえる。
耳から入ったその言葉は、上条の頭の中に直接深く深く突き刺さっていく。

咄嗟に声が出なかった。
何かを言おうと口を開くが、そこから言葉が紡ぎ出される事はなく、ただ金魚のようにパクパクとするしかない。

その過剰とも言える上条の驚きに対して、インデックスはいつもの優しい笑顔を浮かべていた。

「知ってるよ、あのショチトルっていう人に聞いたから」

「……あ、そ、そっか。なるほどな」

上条は懸命に頭の中を回転させる。
これでインデックスは、上条に好きな人がいるという事を知ったという事になる。

ただ、ここでネックになってくるのは、彼女の誤解だ。

彼女は、上条から異性として見られていないと誤解している。
つまり、その事柄と今現在新たに加わった情報を繋ぎ合わせると、自然とこういった結論が出てくるだろう。

上条には、好きな人がいるが、それはインデックスではない。

そこまで考えた上条は、思わず頭を抱えたくなった。
どうしてここまでこじれてしまうのだろう。それも含めて恋愛というものなのだろうか。
今まで様々な経験をしてきた割に、そういった事はからっきしだっただけに判断する事はできない。

「えっと……インデックス。それはな」

「あれ? もしかしてとうまの好きな人を教えてくれるの?」

「は!?」

「ちがうの? まぁ、別に無理に聞き出そうとは思わないけど」

「…………」

上条は考える。
もう、この場で告白してしまうべきなのだろうか。
状況的には二人きりで邪魔も入らない、告白には適しているとも言える。

だが、ここで告白したとして、彼女は本気に受け止めてくれるのだろうか。

この問題についてはずっと考えていた。
そして一つの答えとして漠然と考えていたのは、シチュエーション次第で何とかなるのではないかという事だ。

これからしばらく会えなくなる別れ際の空港。
絹旗にはベタ過ぎると鼻で笑われたが、上条としてはこれしかないと思っていた。
流石にそのシチュエーションなら、インデックスにも上条が本気だという事が伝わってくれるはずだ。

だから、飲み込む。
喉元までせり上がってきていた言葉を、外に出たいと暴れる感情を。

「……まぁ、その内言うよ」

「ふふ、そっか。楽しみにしてるね」

“その内”というのは、すぐにやってくる。
それまでの辛抱だ。



977: ◆ES7MYZVXRs:2014/05/01(木) 02:45:27.45 ID:wiguRyO8o

***



ざくざくと、雪を踏む音だけが辺りに響く。

背中にはすっかり眠り込んでしまっているインデックス。
彼女をおぶって、上条は雪降る夜の第七学区を歩いていた。

元々、上条は入院する程の怪我ではない。
だが、一応大事を取って、あの医者は今日は病院に泊まっていってもいいと言ってくれた。
別にベッドが足りないなどといった問題は抱えていないのだろう。

ただ、上条は断った。
明日になれば、インデックスはイギリスへ行ってしまう。
だから今日くらいは、いつものあの部屋で過ごしたかった。

とは言え、インデックスはインデックスで、あの病室で眠ってしまっていた。
まぁ、今日は色々あったしそれも仕方ない。起こすのも可哀想だったので、おぶって帰る事にしたというわけだ。
病室のプレゼントは後でまた取りにいく事になっている。

上条はチラリと視線を後ろに向ける。

インデックスは上条の肩に頭を乗せて、気持ちよさそうに眠っていた。
黒のコートも羽織らせてあるので、風邪を引いてしまうという事もないはずだ。
あまりにも幸せそうなので、自然とこちらの口もほころんでくる。

本当に静かだった。
もう完全下校時刻を過ぎているというのもあるだろうが、この雪だ。
中学生以上が多いこの学区では、内心テンションが上がっていても、流石にわざわざ外に出ようとは思わないだろう。。

上条に関してはこの間飽きる程見たばかりなわけだが、それでも心動かされるものはあった。

雪は雪でも、場所によって随分と変わって見える。
夜遅いとはいえ、この街の光はまだまだ消える様子はない。
そんな光に反射した雪は、キラキラと幻想的な輝きを見せる。

また、科学の最先端を行く街だけあって、景観も外の街とはまた違ったものになっている。
現代において変化の先頭にある街並みに、いつまでも変わらない自然現象。
その組み合わせに、どこか趣深さも感じる。

「んっ……」

背中から小さな声が届く。
同時に、もぞもぞと動く感触が背中から伝わってくる。

どうやら、インデックスが目を覚ましたようだ。

「悪い、起こしちまったか」

「……えっと、誘拐?」

「ちげえよ。帰宅だ帰宅」

いきなり誘拐犯扱いされた上条は溜息混じりに答える。
するとインデックスは何やら慌てて、再びもぞもぞと動き始めた。

「え、えっと……あったあった。良かった」

「どうかしたのか?」

「私からのとうまへのプレゼント。病室で受け取ってコートのポケットに入れておいたんだよ。落としてたら嫌だなって」

「病室で受け取った? どこかの業者にでも頼んであったのか? つかそれならその場で渡してくれればいいのに」

「それは作戦。『あれ、インデックスからはプレゼントないのかな』って不安にさせておいてから渡す。落として上げる戦法なんだよ!」

「今思いっきりネタばらししちまってるけどな」

「あっ!」

そんな彼女の間が抜けた声に、上条は笑い出してしまう。
そして直後に後頭部にゴツンと一発くらう。
彼女の小さな手ではそれ程の威力はなく、噛み付きよりは全然穏やかな攻撃だ。



978: ◆ES7MYZVXRs:2014/05/01(木) 02:45:56.51 ID:wiguRyO8o

「もう、いくら何でも笑いすぎかも! それで、帰宅って事は……とうまの部屋に、だよね?」

「それ以外どこがあるんだよ」

「……ふふ、うん、そうだね」

「……? なんかやけに嬉しそうだな」

「何でもない、何でもない」

そうは言っているが、やはりインデックスの声は楽しげだ。
別に物珍しい場所だというわけでもないだろうに。

「今日はありがとね。楽しかった」

「そりゃ良かった。上条さんも必死にプラン考えたかいがありましたよ」

「採点すると75点くらいかな」

「意外とシビア!?」

「あはは、冗談だよ。でもこれで、とうまもデートに慣れて良かったんじゃない?」

「それを活かせる機会があればいいけどな」

「きっとあるよ。もう自分が結構モテるっていう事くらい分かったでしょ?」

「……いや、それは……どうだろうな」

何とも答えにくい質問だ。
おそらく彼女は、美琴や食蜂の事について言っているのだろう。
客観的にはそこまで間違ってはいないのかもしれないが、それを本人が認めるというのもはばかられる。

自分に好意を持ってくれる人がいる事はもちろん嬉しい。
だが、それでも。

「自分が好きな相手に好かれる事が、一番だって思っちまうよな。どうしても。
 何贅沢言ってんだとか、自分に好意を持ってくれている人の気持ちも考えろ、とか言われちまうかもしんねえけど」

「……そうだね。でも、大丈夫だよ。とうまの好きな人も、きっととうまの事好きになってくれると思う。もしかしたら、もう好きかもね」

「はは、そこまでモテモテだったら、今まで彼女の一人や二人いただろ」

「いたかもしれないよ?」

「えっ……あー、ないだろそれは」

一瞬その可能性について考えた。
上条は記憶喪失なので、七月二十八日より以前の事は分からない。

それでも、本当に好きな相手だったら何かしらの形で心に残っているものなのではないだろうか。
この前の食蜂が起こした騒動でも、上条は記憶の改竄を受けても本能的にインデックスを守った。
そして、上条の初まりの場所とも言える、あの白い病室でも。

「……あ」

「どうかした?」

「いや……たぶん、分かった。前の俺が好きだった人」

「ほんと? もしかして覚えてるの?」

「覚えてる……っつーか、残ってるって感じだな」

「へぇ~、誰誰? 私の知ってる人?」

「言わねーっての」

「えー!!!」

考えてみれば簡単な事だった。
記憶を失った直後の上条にだって、残っていたものはあっただろう。
友人も家族も、自分が誰なのかさえ分からなくなっていたあの時。

上条は、ただインデックスが悲しむ姿だけは見たくなかった。
確かにそう想う事はできた。

今だからこそ分かる。
きっと、以前の上条当麻も――――。



979: ◆ES7MYZVXRs:2014/05/01(木) 02:46:27.04 ID:wiguRyO8o

「なぁ、インデックス。前の俺と今の俺、割と変わってなかったりしねえか?」

「うん、確かに変わってないかも。それに、私にとってはどっちもとうまだし」

「そっかそっか」

「……? なんだか嬉しそうだけど」

「あぁ、やっぱ人ってのは根っこの方ってのは変わらねえもんなんだなってな」

変わっていくものと変わらないもの。
人々の住む街並みと降りしきる雪のように、それらは常に共にあるものなのだろう。

上条は空を見上げて、白い息を上空へと吐く。
視界の端、背中でインデックスも上条につられたのか、同じようにしているのが分かる。

星はほとんど見えない。
この前の旅行先とこの学園都市では場所が違うが、星自体の位置には大きな差はないはずだ。
これはただ単に、この街が明るすぎて見えなくなっているだけだろう。

イギリスなんかになれば、星の位置が変わって、見える空も違ってくるのだろうが。

「……イギリスは雪とか多いのか?」

「ううん、ロンドンは多くはないよ。スコットランドなんかになると違うけど」

「そっか……なら安心だな。インデックスは落ち着きねえから、雪とか積もってるとすぐ転びそうだし」

「もうっ! そうやって子供扱いする!!」

インデックスはポカポカと背中を叩いてくる。

こういったやり取りも、もう何度やったか分からない。
彼女の反応がいいからこそついつい言ってしまうという所もあり、上条も上条で子供っぽいとも言える。

「だいたい、落ち着きがないのはとうまの方なんだよ。いつもいつもふらふら~ってどっか行って女の子と仲良くなってるし」

「それだとまるで俺がナンパ好きか何かみたいに聞こえるぞ……」

「よく分からないけど、似たようなものじゃないの?」

「全然ちげーよ! ナンパは命かけたりしねえ!」

「なるほど……じゃあ命がけで女の子を口説く事はなんて言うの?」

「待て、命はかけてるかもしんねえけど、口説くことが目的じゃねえ。そもそも何が目的とか意識した事もねえし……」

「じゃあ…………習性?」

「…………もうそれでいいです」

野生動物扱いみたいなものに何か反論の一つもしたいところだが、中々的確に突いているようにも思えて何とも虚しい。
すると背後でインデックスがくすくす笑っているのが聞こえる。

「分かってるよ、とうまはそういう人なんだって事くらい」

「俺だってインデックスの事は良く知ってるぞ。よく食う所とか機械音痴な所とか」

「むっ、こういう時くらい良い所言ってくれてもいいんじゃないかな」

「お前自分の事は棚に上げて……はぁ、でも人に好かれやすいっていう所あるよなインデックスは。
 風斬との事もそうだし、俺のクラスの奴等ともすぐに馴染んだし、御坂なんかは初めは仲悪そうだったけど、今はそうでもなさそうだしな」

「それはとうまも似たようなものなんじゃないかな。とうまがピンチの時なんかは、沢山の人が助けてくれるでしょ?」

「……あぁ、そうだな。それでもインデックスはなんつーか、守りたいって思いたくなるんだろうな。
 一緒にいると落ち着くし、そういうのはやっぱり俺とは違う所なんじゃねえのかな」

「うーん、私としては守られっぱなしっていうのも気が引けるんだよね。旅行でも言ったけどさ」

「助け合い、か」

「うんっ。これでも私、イギリスじゃとっても役に立ってるんだよ? 一度とうまに見せてあげたいんだよ」

「はは、なんか父親に発表会で良い所見せようとしてる娘みたいだぞ」

「むぅぅっ!! またとうまは私を子供扱いしてー!!!」

「いででででででででででで!!!!!」



980: ◆ES7MYZVXRs:2014/05/01(木) 02:46:56.98 ID:wiguRyO8o

今度はいつものように、インデックスの鋭利な歯が上条の頭にめり込む。
こんな光景を“いつものように”と表現する事に違和感を覚えなくなってきた辺り、上条の中の基準も随分と鈍ってきたものだ。

そう、いつもの光景だ。

目を閉じれば、いくらでも思い出せる。
楽しかった事も、嬉しかった事も、悲しかった事も、辛かった事も。
それらは彼女の笑った顔や怒った顔といった、様々な表情と共に次々と浮かんでくる。

その時は何でもないような日常でしかなくても。
後から思えば、かけがえのない大切な時間だった。

でも、上条は何も考えていなかった。
こうしてインデックスと一緒に居る時間も、いつか終わりがくるという事。
そして、それを惜しむ日がくるという事を。

こんな幸せな時間がいつまでも続くものだと、勝手に思い込んでしまっていた。

「……とうま?」

上条が黙り込んだ事を気にして、背後からインデックスが声をかけてくる。

彼女を心配させたくない。
そう思って、上条は軽口の一つでも叩こうとした。

しかし、口を開いたところで、言葉が喉につっかえる。

これはマズイ、という直感。
意識しないようにしていた事だっただけに、それは容易く上条を飲み込む。
そもそも、意識しないようにという意識がある時点で、常にそれは近くで口を開けていたのかもしれない。

落ちていくような感覚があった。
きちんと両足で地面を踏みしめているはずなのに、ふわふわとした浮遊感が体を包み込む。
何とか、しがみつきたい。その強い想いが体を巡っていく。

一定の間隔で刻まれていた、雪を踏みしめる音が途絶えた。
それでも、舞い落ちる雪は決して止まる事はなく、静かに少しずつ二人を白く染めていく。

「明日のこの時間には……もうインデックスはイギリスなんだよな」

「……うん」

会話が途切れる。

インデックスの声は静かで、夜の雪に溶け込んでいくようだった。
背中には彼女の温もりを感じる。
こんなにも、近くにいるのに。


離したくなかった


「あのさ……」


だから、言葉が零れた。


「どこにも……行くなよ」


ダメだと分かっていたはずなのに。
いつだって、我慢していたはずなのに。

言葉を、塞き止める事ができない。

「何で科学やら魔術やらの都合に俺達が振り回されなきゃいけないんだよ。
 そんなの俺達には関係ねえだろ、このままいつもみたいに過ごす事の何が悪いんだ」

次々と、溜め込んでいたものが溢れてくる。
今まで色々な言葉で、意志で押さえ込んでいたものが、溢れてくる。

「インデックスだって、こんな事情がなかったらここに居たいんだろ。
 だから……だからこそ、またここに戻ってきたんだろ。それなら……それならさ!」

声に熱が帯びていく。
周りの雪を溶かさんとばかりに、全てを溶かしてなくしてしまわんばかりに。
二人を取り巻く面倒な事情全てを、熱で消しまおうとするように。



981: ◆ES7MYZVXRs:2014/05/01(木) 02:47:25.41 ID:wiguRyO8o

「俺、強くなったから……どんな奴が相手だろうと、全部残らず、一人残らずぶっ飛ばしてお前を守れるから!
 ここに留まるのが難しいなら、一緒にどこだって、地獄の底にだってついて行くから!!
 そうだ、このまま学園都市を出ちまおうか。夜の方がまだ逃げやすいだろうし、タイミング的にはここしか……」

「…………」

「だから……」

「…………」

「…………」

物音一つしない、完全な沈黙が辺りを包む。

インデックスは、どんな表情をしているのだろうか。
今の自分は、どんな表情をしているのだろうか。

上条は瞑目し、何も言えなくなってしまった。

本当は分かっている。
自分が言っている事は、ただの子供のワガママに過ぎない。
そして、今までと同じようにそのワガママを押し通す事ができない事も、分かっていた。

それは何より、彼女が望まない事だから。

もう少し、時間が経てば大丈夫なのだろうか。
現にこうした沈黙は、徐々に上条を冷静にさせていく。
先程までの熱は、現実という冷気によって失われていく。

これがもっと長い時間になれば。
この辛い想いさえも、だんだんと和らいでいくのだろうか。
あんな事もあったな、と。軽く笑って話せるようになるのだろうか。

ただ、それはなんだか寂しくて。
上条は目を伏せ、やっぱり沈黙を貫くしかない。

すると。


「……来月になれば、暖かくなるのかな」


優しい声が、背後から聞こえる。

なんだか久々に彼女の声を聞いたような気がした。
包み込むようなその声に、こんな時でも落ち着いていくのを感じる。
単純なものだが、それだけで胸に暖かいものが巡っていく。

「……そうだな、とりあえず今月を越えれば暖かくなるって天気予報で言ってた気がする」

「そっか……私ね、桜が楽しみなんだよ。やっぱり日本の春と言えば、桜の下でお花見だよね。あとお団子とか」

「最後に付け足されたやつが一番の目的なんじゃねえの、インデックスさんは」

「むっ、そんな事ないかも。私だって日本の趣深さをしみじみと感じる事くらいするんだよ。
 あ、だからといって、お団子がいらないっていうわけじゃないけどね」

「はは、イマイチ説得力ねえな……けど、花見ってのも結構大変なもんらしいからな。まず、場所取りから凄まじい戦いらしいし。
 まぁ、その辺りは土御門に相談すれば、何か妙なコネ使ってどうにか融通してくれそうな気がするけどさ」

「うん、確かにイベント事にはとっても強いよね、あの人」

「あぁ……ただ、アイツには毎回毎回とんでもねえ事に引っ張り回されたりしてるからな。そのくらいはこき使ってやらねえと。
 だから安心して、夏には海とか花火、秋は紅葉、冬はまたスキーに挑戦してもいいし、とにかく遊びまくろうぜ」

「ふふ、とっても楽しみなんだよ」

頭の中にはその光景が浮かんでくる。
それはとても幸せなもので、とても輝いていた。

理想は美しいものだ。
遠くにあるからこそ、より一層その美しさは際立つ。
近付く事は難しい。それは今の自分の位置を知る事になるから。

でも、上条は近付きたいと思った。
理想との距離を知る事になっても、手を伸ばしたかった。

だから。



982: ◆ES7MYZVXRs:2014/05/01(木) 02:48:05.91 ID:wiguRyO8o

「なぁ、インデックス」

「んー?」

不思議と、心は穏やかだ。
そして、上条はそのまま言葉を紡ぐ。
遠く美しいものまで届く道までの、第一歩を踏み出すために。


「俺さ、お前の事が――――」



***



どさっと、重苦しい音が辺りに響いた。

雪降る夜の第七学区。
人通りもないこの辺りでは、その音は大きく聞こえる。

人影は二つ。
一つは白い修道服の上に黒いコートを纏った銀髪の少女。
もう一つは長い漆黒の修道服を身に付けた赤髪の少年。

イギリス清教第零聖堂区「必要悪の教会(ネセサリウス)」。
魔道書図書館禁書目録(インデックス)と、炎の魔術師ステイル=マグヌスだ。

ステイルは雪の上に倒れたもの……上条当麻を気だるげな様子で無理矢理起こす。

「まったく、この男の右手のせいで魔術が使えないものだから重労働だね」

「えっと、ごめんね。でも、こんな所に寝かせておくわけにはいかないから……」

「別に君に文句を言ったわけじゃないよ」

そう言って迷惑そうな視線を上条に向けるステイルに、インデックスは苦笑いを浮かべる。
上条の意識はない。
それをステイルが引きずっている。

インデックスは手元の霊装に目を向ける。

「ここで魔術反応出しても大丈夫なのかな? しかも私の」

「極一部の魔力を限定的に解除するだけだから許可は下りているよ。それに、これで最後だからね」

「……そっか。それならいいんだけど」

そう、これで最後。

イギリス清教や学園都市が不安視したのは、上条とインデックスの別れ際だった。
どんなにそれまで上手くいっていたとしても、その別れ方でインデックスの精神状態は大きく変わってくるかもしれない。
それによって遠隔制御霊装に悪影響を及ぼせば元も子もない。

その不安はインデックス自身にもあった。
だからこうして、イギリスへ渡る前日からステイルがやって来ていた。
これも全ては、彼女の精神状態の維持のために万全を期するためだ。

インデックスは病院でステイルから受け取っていた霊装を発動させた。
他ならない、上条相手に。

ずっと近くに居たからこそ、彼の右手への対処法も分かっていた。
体全体に及ぶ魔術であれば、右手によって打ち消されてしまう。
しかし、頭にピンポイントに叩き込むようなものはどうしようもない。

インデックスは直感的に察知した。
先程の上条の言葉の先を聞いてはいけない。
それを聞けば、おそらく自分は、この心はただでは済まない。

上条を引きずりながら隣を歩くステイルは、白い息を雪空に吐く。
煙草は吸っていない。



983: ◆ES7MYZVXRs:2014/05/01(木) 02:48:39.47 ID:wiguRyO8o

「これでは前回と変わらない別れ方だけど、本当に大丈夫なんだろうね」

「……前とは違うよ。この一週間で、とうまや、みんなから本当に沢山のものを貰ったから。だから、私は大丈夫」

「それならいい。でも、聞かなくてよかったのかな。上条当麻は何か言おうとしていたけど?」

「聞いたらダメだと思ったからこんな事したんだよ」

「……それで君の気持ちはいいのかい」

「イギリス清教からは特に連絡は来てないでしょ? それなら大丈夫って事でいいんじゃないかな」

インデックスの心に影響があれば、イギリス清教にはすぐに分かり、こちらに警告してくるはずだ。
それがないという事は、何の問題もなく事は進んでいるという結論が出てくる。

それでも、ステイルはどこか納得していない様子だ。

「その気になれば、僕も君達の手伝いくらいはできるんだけどね」

「えっ?」

「この男が言っていただろう。君を連れてここから出るってさ。
 君が望むなら、僕も追手の相手くらいは引き受けてもいいと思っているという事だよ」

「…………」

「そもそも、先程の彼の言葉だって、おそらく続きは――――」

「そんなの、とうまにしか分からないよ」

インデックスはハッキリと言い切った。
そして、続ける。

「私達がどれだけ予想しても、それは予想にしかならない。
 本当のところはとうま自身にしか分からないし、私達はとうまの口から続きを聞くまでは真実を知る事ができない」

「……箱の中の猫は、観測するまで生きてるとも死んでるとも言えない。そんな思考実験があったかな」

「何いきなり物騒な事言ってるのかな」

「いや、いい。君がそう望むなら、僕はこれ以上何も言わないさ」

「うん……でも、ありがとね。気持ちは嬉しいよ」

「お礼を言われるような事ではないよ」

インデックスも、もしかしたら、と思った。
だからこそ、この方法を取った。それも、即座に。

上条の言葉の先。
それが仮に、一瞬想像したものだった場合、自分はどうなるのか分からなかった。
彼の言葉に甘えて、周り全てを巻き込んだ世界規模の逃避行へと走る可能性もないとは言えない。

だから、インデックスは……言葉の先を知らない今のインデックスは、それを避けた。

微かな期待が自分の中に芽生えていたのを感じていた。
上条が「どこにも行くな」と言ってくれたのを聞いて、幸せな可能性を見出してしまった。

でも、その幸せに甘えるのは今じゃない。
それが、インデックスの選択だった。


「雪だ雪だー! ってミサカはミサカは全力疾走ではしゃいでみる!」

「大人しくしやがれ、鬱陶しい」

「雪が降ってテンション上がらないなんて子供失格だよ! ってミサカはミサカは至極当然な事を言ってみたり」

「まずその台詞からガキとしてどうなンだよ。あざとすぎンだろ」


聞いた事のある声だ。

前方からそうやって楽しげに話してやって来たのは、白髪赤目の少年に、活発そうに頭のアホ毛を揺らす少女。
一方通行と打ち止めだった。



984: ◆ES7MYZVXRs:2014/05/01(木) 02:49:26.01 ID:wiguRyO8o

そして、向こうもすぐにこちらに気付く。

「……あァ?」

「え、あれ、あなたは……ってそ、その状況は? ってミサカはミサカは目の前の光景に混乱してみたり……」

一方通行は怪訝そうに目を細め、打ち止めは逆に目を丸くして驚いている。

それも当然の反応だ。
なにせ、インデックスの隣には、気絶した上条を引きずっている赤髪長身で黒の修道服をまとった魔術師がいる。
異能者だらけの学園都市でも、十分に目を引く光景だ。

インデックスは、目だけを動かしてステイル見て、小さく首を振る。
何もしないでいてほしいという合図。

「こんばんは。とうまは大した事ないから大丈夫なんだよ。病院の途中でちょっと転んじゃってね」

「こ、転んだ……?」

「詳しい事は聞くなって事か。説明する気がねェンだろ」

「そうしてくれると助かるかも」

笑顔で、インデックスは歩み寄りを拒絶する。
と言っても、初めから一方通行が歩み寄ってくるとは思っていない。
だから、この行為はもう一人の少女に向けられたものだ。

「で、でも、でも。ミサカにはとてもスルーできるようなものじゃなかったり……」

「行くぞ打ち止め」

「ええっ、いいの!? だって、これってもしかして、このシスターさんが前みたいに……。
 ほら、前だってその人が気絶している内にシスターさんが行っちゃったって! それに、そっちの人って、魔術師って人だよね……?」

「うん、ステイルっていうの。私の同僚だよ」

「じゃあ、やっぱりあなたは」

「一つだけ聞かせろ。答えたくないなら答えなくてもいい」

打ち止めの言葉を遮って、一方通行は言う。
その赤眼で、インデックスを真っ直ぐ捉えながら。

「それがオマエの選択なンだな? 後悔はしねェだろうな」

「しないよ」

「ならいい。邪魔したな」

「えっ、ちょっ、本当に……ってわわわっ!? 待って待って、ミサカはまだ納得してないー!! って暴れてみる!!!!!」

言葉少なく、一方通行は打ち止めを引きずって去っていく。
打ち止めの方がかなりの勢いで抵抗しているが、それを全く意に介さない辺り、あの少年も保護者らしくなってきたというべきか。
おそらくそれを言えば、全力で否定されるのだろうが。

インデックスはそんな彼らの後ろ姿にくすりと微笑みを浮かべると、コートを翻して別の方向へと歩き出す。
その先には慣れ親しんだ上条の寮がある。

「行こう、ステイル」

雪は依然として降り続き、冷気を伝える。
だから、できるだけ早く暖かい所に連れて行ってあげたい。

そう思ってステイルと上条を見る彼女の表情は、まさに聖女のように包み込むような優しさを帯びていた。



***



そろそろか、と一方通行はソファーから上半身を起こす。
時計を見ると、部屋に戻ってきてから三十分程が経過していた。

ここは、とあるマンションの一室。
名義は黄泉川愛穂になっているが、その友人の芳川桔梗だけではなく、一方通行や打ち止め、更には番外個体の拠点ともなっている。



985: ◆ES7MYZVXRs:2014/05/01(木) 02:50:09.84 ID:wiguRyO8o

テレビゲームに夢中になっている番外個体は、画面から目を離さずに口を開く。

「なんか上位個体サマが妙な事やってるみたいだけど?」

「知ってる」

「あぁ、知ってて放置してんだ。まぁ放任主義ってのは、あなたらしいっちゃらしいんだけど」

話を振ってきた割に、さして興味もなさそうに話し続ける番外個体。
対する一方通行も、同じような調子で話す。

「アイツは部屋か?」

「うん。ノックはしなよ、毎度毎度うるさいんだから」

「ちっ、面倒くせェ……」

一方通行は顔をしかめながらゆっくりと立ち上がり、目的の部屋まで歩いて行く。
そして、コンコンと、彼にしては驚くほど優しく扉をノックをした。

それから一秒も待たず、ガチャとドアを開ける。

その向こうでは、ベッドから立ち上がったばかりの少女が、ぽかんとこちらを見ていた。

「おい」

「おいじゃない!!!!! ってミサカはミサカは全力でツッコんでみたり!!!!!」

「なンだよ、うるせェな」

「どうしてあなたはそうやって、年頃の女の子の部屋にズカズカと無遠慮に入ってくるのかな! ってミサカはミサカは抗議してみる!!」

「ノックしただろうが」

「ノックしたら普通返事待たない!?」

「そりゃ悪かった。で、上条の奴は今どうしてる」

「軽い! そんな一言で流せる程ミサカは……ってえっ? ど、どうしてそんな事聞いてくるの? ってミサカはミサカは尋ねてみたり……」

打ち止めは明らかに動揺した様子で、目を左右に泳がせている。
その姿は悪さがバレて言い訳をしているようで、歳相応の普通の少女と変わらない。
出自が特殊なだけに、こういった姿はより微笑ましいものだ。

あまりの分かりやすさに溜息をつきつつ、一方通行は答える。

「オマエがミサカネットワークを使って、アイツらの事にちょっかい出そうとする事くらい分かるっつの」

「ちょ、ちょっかいって……ミサカは、ただ……」

「で、今どうなってンだよ」

「……あの人は自分の寮の部屋に寝かされているみたい。
 でも、シスターさんもよく考えての事だろうからって、どうしようかみんなで相談していた所……ってミサカはミサカは白状してみる」

「そうかよ。ったく、面倒くせェな」

「えっ、ど、どこに行くの?」

さっさと部屋を出ていこうとする一方通行の背中を、打ち止めの声が追う。

一方通行は基本的にこの少女に甘い。
だから、振り返りまではしないでも、その問には一応答えた。

ちゃんとした答えになっているかと言われると、微妙な所だったが。


「……俺が行きてェ場所に行って、やりてェ事をやる。それだけだ」



986: ◆ES7MYZVXRs:2014/05/01(木) 02:50:47.62 ID:wiguRyO8o

***



上条は、遠巻きに子供達の輪を見つめていた。
自分は入っていけない、とても楽しそうなその様子を、ただただ眺めているしかなかった。

少しすると、大人達も歩み寄ってくる。
だが、当然ながら上条の元ではない。子供達の輪の方だ。
加えて、こちらに嫌な視線を送ってくる。ひそひそと、何かを話している。

そんな時、ふいに自分の両手が暖かいものに包まれた。
顔を上げると、そこにはいつもの両親の微笑みがあった。
それを見て、自然と上条の顔もほころぶ。

気付けば、心のもやもやは綺麗になくなっていた。


学園都市。
両親から離れての生活は、初めこそは戸惑ったものだが、次第に馴染んできていた。

この場所に来るまでに、色々な事があった。それこそ、不幸の一言では済ませられないようなものも。
もちろん上条自身も辛かった。どうしてこんな目に合わなければいけないのかと、大して信じてもいない神様を呪ったりもした。
そしてそれ以上に、ふとした時に見てしまう両親の辛そうな表情を見るのが、辛かった。

学園都市は外とは変わった環境が備わっている。
それは設備だけではなく、人々の空気の話でもある。それも単に子供が多いという事ではない。

みんな、上条を受け入れてくれた。
掌から炎やら電撃やらを放つ事も珍しくないこの場所では、運が悪いだけというのは笑いを誘う事はあっても恐怖を誘う事はなかった。
まぁ、同時に右手の妙な力が判明するという事もあったのだが。


高校生になって初めての夏休み初日。暑い、暑い朝だった。
前日に超電磁砲の少女と一悶着あり、クーラーが壊れていた寮の部屋のベランダ。

そこで、彼女と出会った。

その後は本当に大変な事の連続だった。
炎の魔術師に勝って、刀の魔術師に負けて。
彼女を取り巻く、冗談のように絶望しかない状況を知って。

だからこそ、彼女の事を助けたかった。
偽善使い(フォックスワード)ではなく、本当の、本物の。

ヒーローに、なりたいと思った。

ひらひらと、優しく舞い降りてくる白い羽によって上条は死んでしまう。それは何となく分かった。
それでも、不思議と穏やかな気持ちなのは、心の底から守りたいと思った彼女がすぐそこにいるからか。

いや、たぶんそれだけではない。
この心に宿る気持ちを、上条は知ることができた。
それは単純だが、とても大切なものだ。

たとえ、ここで自分が死んでしまったとしても。


きっと、それは消えない。どこかに残ってくれる。


そう――――思えた。



987: ◆ES7MYZVXRs:2014/05/01(木) 02:51:17.48 ID:wiguRyO8o

***



上条の視界には、見慣れた天井が広がっていた。
いつものあの病室ではない。自分の部屋だ。
電気が点いていないのでほとんど真っ暗ではあったが、ただそれだけは把握できた。

寝起きの感覚とはまた違う。
この覚醒の仕方は、おそらく気絶の後によるものだ。

(……気絶?)


「何泣いてやがる」


体を起こすと同時に、声がかけられた。
驚いてそちらを向くと、そこには意外も意外、一方通行が怪訝そうな表情を浮かべていた。
ベッドから少し離れた所で、ただこちらを見て突っ立っている。

「一方通行……なんで…………つか、泣くって……?」

そう言いながら自分の目元に手を当てる。
そして、驚いた。

一方通行の言う通り、そこには確かに涙が伝っていたからだ。
音もなく、ただ一筋だけ。

「あれ? なんだ、これ」

「はっ、怖い夢でもみてたンじゃねェのか」

「……夢」

復唱してみても、何の実感も湧かない。
そんな気もするが、結局はいくら考えても何も覚えていないからだ。

「何となく……そういうんじゃない気がするけど…………あれ、インデックスは?」

次第に記憶が繋がってくる。
そう、上条はインデックスを背負って、病院からこの部屋まで向かっていたはずである。

彼女と話している内に、離れたくない気持ちが溢れてきて。
上条はその気持ちを抑えきれずに、彼女を引き留めてしまって。

そして…………そして?

「……俺、確かアイツに告白しようとして……えーと…………」

「フラれたショックがデカすぎて気絶、記憶も消しちまったってわけか」

「い、いや、違う違う! 俺は返事聞いてない…………よな?」

「俺に聞くな」

どうもまだ記憶が安定しない。
それでいて、この感覚はどこか身に覚えもあった。

(そうだ、これ……アウレオルスに記憶を消された後と似てる……妙に頭がガンガンする辺りとか…………)

思考がまとまっていく。
もしもあの状況で上条が何かしらの魔術攻撃を頭に受けたとして、その出処はどこか。

……次第に導き出されていくその答えを、上条は頭を振って否定した。

「いや、ないない。何考えてんだ俺」

「オマエが何考えてンのかは知らねェが、とりあえずその置き手紙は読ンだ方がいいンじゃねェの」

「置き手紙? あっ」

一方通行が指差すテーブルの上。
そこには確かに、一枚の紙が置かれていた。



988: ◆ES7MYZVXRs:2014/05/01(木) 02:52:00.63 ID:wiguRyO8o

これで一方通行は用も済んだのか、ゆっくりと部屋から出て行く。
何となく、その足取りがふらふらとおぼつかないような気がするが、気のせいだろうか。

上条はその背中に声をかける。

「なぁ、お前は結局ここで何を……」

「アイツは選んだ。だからオマエも選べ」

「は?」

振り向くことはなく、一方通行はそのまま部屋を出て行ってしまった。

彼の言葉はすんなりと頭の中に入ってくる事が少ない。
それでも、何とか頭をひねって考えてはみるのだが、都合よく理解できたりもしない。

ただ、じわじわと胸騒ぎだけが忍び寄ってくる。

気絶、そして置き手紙。
インデックスはここにはいない。
代わりに、一方通行が居たというイレギュラー。

そう、似たような状況はあったはずだ。
意識が途絶えて、目覚めたら彼女がいない。
それは一ヶ月程前に体験した事だ。

「っ!!」

遅すぎる行動。
上条は急いでテーブルの上の手紙を拾って読み始める。
しかし、暗い。小さく舌打ちをして、電気を点ける。この僅かな時間がもどかしい。

部屋が蛍光灯によって明るくなり、手紙の文字が読みやすくなる。
その内容は。

『とうまへ。
 この手紙を読んでいる頃には、私はもうここにはいないでしょう。
 って、こんな書き方だと何か物騒だね。安心して、ただ学園都市にはいないってだけだから。

 まず始めに、ごめんなさい。
 こんな別れ方だと、前と何も変わっていないって言われても仕方ないよね。
 でも、私はこれが一番良いと思ったんだよ。この選択が、私達にとって一番正しい選択だって。

 きっと、とうまは納得しないよね。
 とうまはとっても強いから、私なんかよりもずっと強いから。
 私は弱いから、とうまから逃げることしかできないんだよ。

 分かってるとは思うけど、とうまを気絶させたのは私だよ。頭に直接魔術を打ち込んでね。
 だから、朝まで目が覚めなくても、それは私の計算通りなんだ。決してとうまの責任じゃないよ。

 あと、プレゼントも一緒に置いておきました。
 人生の重要な局面や複雑な問題で助けになるパワーストーン、タンザナイトのブレスレットだよ。
 たぶんとうまの事だから、これからも色々と大変な事にぶつかるんだろうなって思って、お守りにね。
 といっても、魔術的な力は込めてないから、右手で壊れたりはしないから安心してね。

 最後に、ありがとう。
 とうまや、他のみんなからは、大切な物を沢山貰ったよ。
 だから、私はもう大丈夫。向こうでも、しっかりやっていける。
 最後って言ったけど、もちろんこれは手紙の最後って意味だよ。
 次に会う時は、私ももっと立派になってるから、期待していてほしいかも。

 それじゃ、体に気を付けて、あんまり無茶しないでね。
 また会える日を楽しみにしています。


 インデックスより。


 追伸、色んな女の子とイチャイチャするのも程々に』



989: ◆ES7MYZVXRs:2014/05/01(木) 02:52:35.19 ID:wiguRyO8o

テーブルの上、手紙が置いてあった場所のすぐ近くには、明るい色の小さな紙袋が置いてあった。
今まで気が付かなかったのが不思議なくらいで、それだけ慌てていたのかもしれない。

今は、不思議と落ち着いていた。

なぜだかはよく分からない。
手紙を読み始めるまでは、確かに焦っていたはずだ。
しかし、読み進めていく内に、その焦りはどんどん引いていくのを感じた。

紙袋から中身を取り出す。
出てきたのは、綺麗なブルーの石のブレスレット。
さっそく右腕に付けると、妙にしっくりときた。

(人生の重要な局面……か)

それは今までも沢山あったと思う。
いつだって上条は、その局面局面に全力で挑んでいった。

そして、今この瞬間も。

インデックスはこの別れ方が最良だと判断して、決断した。
あのタイミングで上条を気絶させたのは意図的だった。だとすれば、言葉の先は聞きたくないという意思表示でもある。
上条が次に言う事が分かって、それでいて拒否したという事にもなる。

その事実は、ほとんど彼女の返事だと言ってもいいかもしれない。
それでいて、波風はそれ程立たなく、無難な展開だと言えるかもしれない。
今の心地良い関係のまま別れる。彼女の精神状態を考えても、理解できる判断だ。

だけど、納得はできない。

上条は立ち上がった。
その直後に、何とも物騒なものを視界の端、枕元に発見する。
一方通行からのプレゼントである銃だ。

「……なんつーもんを置いてってんだよアイツ」

上条は苦笑いを浮かべ、それをベルトに挟み込んだ。

ここから先は、インデックスの為ではない。
彼女の事を考えるなら、その選択を尊重するべきだ。

しかし、インデックスが選んだように、上条にも選ぶ権利と義務がある。
一方通行はそれが言いたかったのだろう。

朝まで目覚めないように計算された魔術を受けても、こうして上条が意識を取り戻している理由。
そして、体をふらつかせていた一方通行。その二つはすぐに繋がる。
彼が、その解析能力を使って上条を目覚めさせたのだ。その手順の中で、どうしても魔術も使わなければならなかった。

そうやって得る事ができた選択肢を、上条は決して無駄にはしない。
今、自分が何をしたいのか。
彼女の為に、だとかは関係ない。上条はどうしたいのか。

考えるまでもない。
それはもう、既に出した結論だからだ。



990: ◆ES7MYZVXRs:2014/05/01(木) 02:53:02.89 ID:wiguRyO8o

***



上条はとにかく走った。
完全下校時刻はとっくに過ぎている為、交通機関も止まっている。
彼女に追いつくには、自分の足で進む必要がある。

もちろん、彼女の通る道というのは分からない。
でも、ゴールはある程度予想できる。

第二十三学区。
ここに来る時と同じ方法であるなら、そこから飛行機でイギリスまで飛び立つはずだ。
彼女もまさか上条が追いかけられる状態だとは思っていないはずなので、意表をついた出国方法を取る可能性は低い。

寮の階段をほとんど全て飛ばして下りていく。
着地の度に足にかなりの衝撃が伝わってくるが、そんなものを気にしている余裕はない。

外に出ると、雪はまだ変わらず降り続いていた。
一瞬、これで飛行機が出せなくなってくれればとも考えたが、この程度ではあまり望めないだろう。

どっちにしろ上条の取る行動は変わらない。
全力で走って、全力で追いつく。
ただ、それだけだ。

勢い良く外へ飛び出した時、ジャケットのポケットの中で、ケータイが振動した。

できれば後回しにしたかったが、もしかしたらインデックスに関係する事かもしれない。
そう思って、走りながら画面を開いてみると、そこには食蜂操祈という表示。

「もしもし、操祈か?」

『はいはぁい、“あなたの”操祈ですよぉー。ふふ、良い夜ねぇ』

「……悪い、今ちょっと急いでんだ。大事な用じゃないなら」

『インデックスさんの所へ行きたいんでしょぉ?』

「なっ、知ってんのか!?」

『私の情報力を舐めてもらっちゃ困るわぁ。
 こうして電話してのも、あなたに選択肢を与えるためよぉ。一方通行さんじゃないけどぉ』

「選択肢……?」

『えぇ。インデックスさんが第二十三学区へ向かっているって事くらいは予想できているわよねぇ?』

「あぁ、とにかく場所は分かってるから、まずはそこまで行こうと……」

『そう簡単にはいかないのよぉ』

上条の足が止まった。

これは別に、食蜂との会話に集中するために、というわけではない。
止まりたくなくても、止まらざるをえなかった。

警備員(アンチスキル)の交通整理。
車がいくつも停められており、赤いライトが目に眩しい。
いつもであれば、こんな雪の日にご苦労様ですと通り過ぎる所だが、今はそうもいかない。

第二十三学区へ行くためには、この道が一番の近道だからだ。

「なんだ……これ」

『なんでも、雪の影響がどうたらこうたらで、あちこち交通整理が行われてるみたい。
 それも、第七学区から第二十三学区までの最短経路を一つ残らず潰すように。すごい偶然よねぇ』

「……妨害工作ってわけか」

『学園都市上層部には上条さんの情報はすぐ伝わるでしょうしねぇ。さて、どうするのぉ?』

「…………」

ギリッと歯を鳴らす。



991: ◆ES7MYZVXRs:2014/05/01(木) 02:53:45.88 ID:wiguRyO8o

遠回りしている時間はないはずだ。
アンチスキルの目が届かない、道なき道を探せばやり過ごす事はできる。
ただ、食蜂の言葉通りだとすれば、交通整理はここだけではない。その度にいちいちそんな事をしていれば、大きなタイムロスとなってしまう。

上条が黙り込んでしまうと、食蜂は軽い口調で話し出す。

『だから、私はあなたに選択肢を与えたいって言ったのよぉ』

「選択肢って……もしかして助けてくれるのか?」

『えー、いやよぉ。なんでわざわざ自分の好きな相手と他の女の恋愛応援しなきゃいけないのよぉ。でもぉ……』


『“強制力”があるなら、仕方ないわよねぇ』


一瞬彼女の言葉が分からず、上条はただパチクリと目を瞬く。
別に彼女は上条に対して絶対に服従しなくてはいけないなんていう事はないだろうし、むしろ上条の方が振り回されっぱなしだ。

……だが、やがて右腕に巻かれたタンザナイトのブレスレットを見て気付いた。
誕生日プレゼントを見て、気付いた。

そう、今日は上条の誕生日だ。
うっかりするとすぐ忘れてしまうような事だが、嬉しいプレゼントの数々を忘れてはいけない。

そして、彼女の……食蜂操祈のプレゼントはなんだったか?


「操祈、チケットの効果を使う。インデックスの元へ行きたいから手伝ってくれ」


その言葉に、彼女は笑った。
電話越しでも、その笑顔が浮かぶように、クスクスと。

『もう、まさかそんな使い方をするなんて、上条さんも酷い人ねぇ』

「……悪い。でも、俺」

『いいわぁ、どうせえっちな命令とかは期待してなかったしぃ。
 それに、これはこれで好感度上がるし、あながちメリットが全くないっていうわけでもないのよねぇ』

「あぁ……ありがとうな、操祈」

『ふふ、どういたしましてぇ。それじゃ、インデックスさんに追い付きましょうかぁ。もう手は回してあるから、大船に乗った気でいていいわよぉ』

「えっ、もう何かしてくれてんのか!?」

『えぇ、時間ないしぃ。まず、インデックスさんが向かっている先は第二十三学区の最終ゲート。
 出発予定時刻は午後十時、今から約一時間後ねぇ。足が必要だと思うけど、そっちの方はもうすぐ来るはずよぉ。
 それと、上層部による妨害工作も、何とかしてくれそうな人に声かけておいたわぁ』

「お……おう……サンキュ……」

一気にまとめて説明してくる彼女に、上条はただ生返事しかできない。
確かに、彼女の能力を使えば情報収集も連絡伝達も迅速にできたはずだ。

だが、いくら何でも手を打つのが早すぎないだろうか。

(もしかして、俺が頼む前から……最初からそのつもりで……)


そこまで考えた時、ブォン! と大きな音の直後、鋭いブレーキ音と共に一台の車が上条の近くに停車した。
積もり始めている雪が飛び散り、横なぎにふりかかる。

「上条、乗れ!」

「は、浜面!? 滝壺も……」

「話は後。時間がないから速く」

慌てて後部座席に乗り込む。
浜面はそれを確認すると、一気にアクセルを踏み込んだ。
一瞬の躊躇もない。



992: ◆ES7MYZVXRs:2014/05/01(木) 02:54:35.54 ID:wiguRyO8o

「お、おい待てって! 前見ろ前!!」

「前がどうした?」

「どうしたって、アンチスキルが通行止めを……!」

「はっ」

浜面は鼻で笑い飛ばした。
上条の頬を嫌な汗が伝う。
滝壺が耐ショック姿勢をとる。


「あんなもん、通行止めとは言えねえな」


ズガァァァァァ!!! という、凄まじい轟音と衝撃。

ろくに準備もしておらず、シートベルトも締めていなかった上条は後部座席でメチャクチャに転がった。
全身を打つ痛みと、グルグル回り続ける視界に気分を悪くしながらも、何が起きたかくらいは理解できた。
要は、アンチスキルの車と車の間を強引に突破したわけだ。

少しして、ようやく体勢を整えた上条は恨めしげに浜面を見る。

「いってーよ……何か一言くらいあっても良かったじゃねえか……」

「はは、悪い悪い。でもお前なら大丈夫だろ」

「言っておくけどな、俺の耐久度はそこまで高くねえよ」

そう文句を言ったところで、上条は手元のケータイの通話を切っていなかった事に気付く。
どうやら食蜂の方もまだ切っておらず、繋がったままのようだ。

「悪い操祈。ちょうど今、浜面と合流したところだ。お前が呼んでくれたんだろ?」

『そうだけどぉ……なんか凄い音したけど、大丈夫なのぉ?』

「あぁ、何とか。このくらいはいつものことだ」

『壮絶力たっぷりな人生を送っているのねぇ……まぁでも、ここからは他の人達のサポート力もあるんで、何とかなるとは思うわよぉ』

「他の人……って結構いるのか?」

『えぇ、色々手を回して片っ端からコンタクト取ったから、期待してもらってもいいわよぉ。
 あ、でも垣根さんとはまだ接触できていないわぁ。あの人がいればどうにでもなるんだけどぉ』

「いや、十分だ。ありがとな、操祈」

『ふふ、これは上条さんが当たって砕けた後に有利になれそうねぇ』

「おい、聞こえてるからな」

『えー、何も言ってないわよー?
 あ、そうだ、聞いて聞いてぇ。私、一応御坂さんにも連絡したんだけど、あの人何て言ったと思うー?』

「何て?」

『「手伝うわけないでしょバーカ」、よぉ!? もう、失礼しちゃうわぁ。
 こんなの上条さん的にも好感度ガタ落ちよねぇ? ふふふ、これで上条さんがフラれた後は私の一人勝ち!』

「あの、操祈さん? 俺がフラれる前提で話すのやめてもらえますか?」

それと、と上条は言葉を続ける。
美琴に関してだ。

「御坂の言ってる事ももっともだ。
 自分をフッた奴が他の子に告白するのを手伝うなんて、できるはずねえよ。少なくとも、俺がその立場だったらたぶんできねえ」

『それはそうだけどぉ……その点、私はとっても良い子でしょ!』

「あぁ、そうだな。お前には感謝してもしきれねえよ」

『えっ、あー、いや、今のはボケというかツッコミ待ちだったんだけどぉ…………と、とにかく!』

電話の向こうの声が微妙に上ずっている。
もしかしたら照れたのかもしれない。珍しい事もあるものだ。

『インデックスさんとはバッサリフラれて決着つけてって事よぉ!』



993: ◆ES7MYZVXRs:2014/05/01(木) 02:55:19.34 ID:wiguRyO8o

そんな言葉と共に、乱暴に通話は切られてしまった。

上条は小さく口元を緩ませる。
何だかんだ言って、彼女も中学生らしいところもあるものだ。

「うおっ!?」

気を緩めていたら、再び車が大きく揺れ、上条は横のドアに叩きつけられる。
いい加減にシートベルトを締めた方が良さそうだ。

前方からは浜面の声が飛んでくる。

「ったく、俺には派手なカーチェイスやらせておいて、自分は女子中学生と楽しくお喋りかよ!」

「カーチェイスって……うわっ! 追いかけられてんじゃねえか俺達!」

「あんな強行突破したら当たり前。はまづら、そこ右」

「おっけ!」

また大きく車が揺れる。
今度はシートベルトのお陰で、全身を打ち付けるような事にはならない。

座席に手を乗せて後ろを見てみると、数台のアンチスキルの車が追いかけてきているのが分かる。

「これ大丈夫なのか!? なんか後ろの奴等、銃構えてるぞ!?」

「ん? あー、大丈夫大丈夫、慣れてっから。滝壺、あとどのくらい?」

「もうすぐ。そこを曲がった先」

「えっ、まだ第二十三学区には着かないだろ?」

「違う違う、その前に追手を何とかしないといけないだろ?」

浜面の言葉の直後、ズガン!! と車の背後で土煙があがった。



***



舞い上がる土煙と、舞い落ちる白雪。
それは別に綺麗なコントラストを描くわけでもなく、ただ土煙が邪魔なだけだ。

麦野沈利は、後方へ走り去っていく車を見ながら溜息をつく。

「これがアイテムの最後の仕事になるのかしらね」

「超不満そうですね」

「ふん、浜面の奴に使われるってのは確かに気に食わないけど、まぁ、最後だってんなら少しくらい許してやるわよ」

「まさか麦野がここまで丸くなるとは思いませんでしたよ」

「うるさいわね」

隣の絹旗最愛はフードを下ろしながら、心なしか楽しげな口調だ。
そのまた隣には、黒夜海鳥が明らかに不機嫌そうな表情で舌打ちをしている。

「なんで私まで……」

「はまづら団だからじゃないですか。あなたとフレメアとフロイラインと垣根で」

「そんなもんに入った覚えはねえ!」

「ゴチャゴチャうっさいわね、くるわよ」

土煙が晴れていく。
目の前には車が数台に、アンチスキルが数十人。

この者達にとっては、取るに足らないものだ。

「一応言っておきますが、超殺さないように」

「分かってるわよ。その辺の手加減は流石に慣れたし」



994: ◆ES7MYZVXRs:2014/05/01(木) 02:55:47.64 ID:wiguRyO8o

ジュッ、と雪が麦野の能力に触れて音をあげる。

これはアイテムにとっては簡単な仕事だ。
それでも、失敗は許されない。
今まで色々あったが、最後くらいは綺麗に終わらせたいものだ。

浜面にはもう随分と情けない姿を見せてしまった。
だからせめて、ここで麦野沈利の強さというものを示した方がいいだろう。

麦野は小さく微笑む。

「よし、やるか。頼りない浜面の尻拭いをさ」



***



妹達(シスターズ)検体番号10032号、御坂妹はぼんやりと空から降ってくる雪を眺めていた。
知識では知っているし、他の個体を通して見たことはあるのだが、この御坂妹が直に見るのは初めてだった。

やはりこうして実際に見てみるのは違う。
素直に綺麗だ、と思えた。

『10032号、何をサボっているのですか、とミサカ10039号は注意します』

『ミサカ達には、あの少年を全面的にバックアップするという目的があったはずです、とミサカ13577号は思い出させます』

「……すぐに任務に戻ります、とミサカ10032号は応答します」

御坂妹はゆっくりと立ち上がる。
手には鋼鉄破り(メタルイーターM5)、強力なライフル銃が握られている。

ここでいう任務というのは誘導だ。
同時多発的に複数の地点で騒ぎを起こす。
それによって、各地に配置されているアンチスキルを本来の持ち場から動かすのだ。

アンチスキルに与えられている任務は、雪の影響による交通整理。
それは重要度でいえばさほど高いものでもなく、例えば今彼女が手にしている銃をぶっ放せば、こちらを優先するのは当然だ。

『ですが……これは学園都市への反逆行為なのでは? とミサカ19090号は指摘します』

「立場がまずくなった時は、食蜂操祈に洗脳されていたという事にしましょう。
 あの少年からの好感度を上げて、ライバルを陥れる。一石二鳥です、とミサカ10032号は提案します」

他の個体も次々とその提案に賛成する。
何とも妙な部分まで人間らしくなってきたものだ、と例のカエル顔の医者は言っていた。

妹達(シスターズ)にとって、上条は大切な恩人だ。
それぞれの個体が、彼にとっての特別な存在になりたい、そういった感情を持っている事は確かだ。
それでも、基本的に彼の助けになる事であれば、どんな事でも協力したいという意思を持っている。

そう、これは、紛れも無く自分の意思だ。

「任務を開始します、とミサカは宣言します」

引き金にかかった指に力がこもる。
直後、各地で凄まじい銃声が一斉に響き渡った。



995: ◆ES7MYZVXRs:2014/05/01(木) 02:56:13.88 ID:wiguRyO8o

***



エツァリもまた、妹達(シスターズ)と同じ行動をとっていた。
つまり、騒ぎを起こしてアンチスキルの目を引いているのだ。

既に数ヶ所に渡って騒いだ後、今は使われなくなった研究室の中に身を隠している。
暴れる、隠れる、暴れる、といったローテーションだ。

「……相手がアンチスキルだとやり過ごしやすいですね。暗部と比べると随分とぬるい」

「はっ、そもそもそんな平和ボケした奴等を相手にしている時点で恥に思わないのか。
 いや、それ以上に、好きな女を取られた相手に協力する事自体がどうしようもなく情けない事か」

「あの、なぜショチトルまでここに?」

「貴様がしょうもない事で捕まれば、貴様に負けた私の名前にも傷がつく。ただそれだけだ」

これは本当に照れ隠しなのだろうか。
トチトリ曰くそういう事らしいのだが、本気で言っているようにしか思えない。

「なんだ、その目は」

「あ、いえ……それと彼に協力する理由はちゃんとありますよ。
 ほら、彼がインデックスさんと恋人になる事があれば、御坂さんへのアタックも楽になりますし」

「…………」

「……冗談です」

完全に汚物を見る目で見られたので、エツァリは付け加える。
目を細めて、自嘲気味な笑みを浮かべて。

「ただ、自分はいつだって彼女に味方したい、それだけですよ」

「御坂美琴はむしろあの男の告白を止めたいと思っているんじゃないのか?」

「どうでしょうね」

口ではそう言いながらも、エツァリには何となく分かっていた。
自分が惚れた少女が、どんな人だったか。
この展開で、彼女は何を望むか。

それに協力した結果、恋敵とも言える相手を助ける事になっても、彼にとっては一向に構わなかった。



996: ◆ES7MYZVXRs:2014/05/01(木) 02:56:43.82 ID:wiguRyO8o

***



青髪ピアスは走っていた。
雪降る第七学区を、パンツ一丁で走っていた。

変態。
彼を表現する言葉はそれだけでいい。というか、それしかない。
当然というべきか、道路の真ん中で交通整理を行っていたアンチスキルも駆け寄ってくる。

「君、止まりなさい! なんて格好をしているんだ!!」

「うはははははははは!!! 雪ってのは子供のテンションが上がるもんやでー!!!」

「上がりすぎだ!!!!!」

この程度では、上条にとってほとんど助けにはならないかもしれない。
むしろ、上条の現状を伝えに来た、第五位を名乗るあの少女の好感度を上げる目的の方が大きいかもしれない。
基本的に、女の子の頼みは断れないのがこの男である。

(どうせあの子もカミやんに落とされてるんやろうなぁ……)

走りながら後ろを振り返ってみると、まだアンチスキルとは距離がある。捕まるには猶予があるはずだ。

はぁ、と溜息をつく。
何だかんだ言って、自分も上条の為にこんな事をしてしまっている。
これではまるで、自分もあのカミやん病に感染したみたいではないか。

「……うわ」

本気で鳥肌が立った。これは寒さによるものではない。

ブンブンと頭を振る。
いかに様々な属性をカバーしているとはいえ、それはあくまで女の子に対するものだ。

というか、なぜそういった変な方向に行くのだろうか。
もっと単純な答えがあるはずだ。
これはきっと普通に……友情なのだろう。

「……えー」

それはそれで恥ずかしい。

そもそも、本当に友情なんていうものがあるのか。
モテる男は男の敵、それはこの世の真理だ。
つまり、上条当麻は敵だ。

「つまり……?」

行き詰まった。
どうして、自分は男の敵である上条当麻の味方をしているのだろうか。

そこで、答えが出た。
正確には、目の前に飛び込んできた。

「なっ、ちょっ、何やってるんですかああああああああああ!!!!!」

なんという偶然。
担任教師、月詠小萌とばったり遭遇。
とても可愛らしくぷりぷり怒るその姿に、心が満たされていくのを感じる。

あぁ、そうかと納得した。

つまりは、アンチスキルに捕まる→小萌先生に説教される、というコンボを楽しみにしていたわけだ。
何もおかしくない、至って正常な思考回路によるものだった。

直後、青髪ピアスはアンチスキルに捕まった。
小萌先生の怒った声も聞こえる。
そしてなぜか、またもや偶然居合わせた吹寄の怒鳴り声まで合わさる。

青髪ピアスは、最高に幸せだった。



997: ◆ES7MYZVXRs:2014/05/01(木) 02:57:11.33 ID:wiguRyO8o

***



第七学区の中央部、窓のないビル。
その内部では様々なモニターが空中に展開されていた。

それを黙って見つめるのは、円筒状の巨大ビーカーに逆さに浮いている人間。
学園都市統括理事長、アレイスター=クロウリーだ。
彼は表情にこれといった感情を乗せず、ただモニターに目を向けているだけといった方が正しいように思えた。

そんな男に声をかける者……天使が一体。

「随分と杜撰な妨害工作だ。もしや君は例の幻想殺し(イマジンブレイカー)が活躍する舞台を整えているだけなのかな?」

「そうでもない。そもそも、私にはどうでもいい事だ。妨害工作も、あちら側の顔を立てた形式的な対応にすぎない。
 それにしても、あなたはやけに楽しそうだ。そんなにあの男のもがく姿が気に入っているのか?」

「あぁ、そうだね。彼はいつだって私の興味を惹いてくれる貴重な存在だ」

「私からすれば、ありきたりで陳腐なストーリーにしか見えないが」

「陳腐なものを好んではいけない理由はあるまい」

長い金髪の間から見える表情は、言葉とは裏腹にフラットなものだった。
だが、それでも確かにその目はモニターに向けられており、それだけの価値は見出している事に他ならなかった。

「また妨害工作の妨害が入ったようだ。
 今度は正体不明の立体映像(ホログラム)が各地に出現しているらしい」

「……あなたの仕業か?」

「いやいや、ヒューズ=カザキリの独断だろう。しかし、直接禁書目録側を抑える事は難しいらしい。
 まぁ、追手をやり過ごす為に、この街とは違う法則を用いているのだから捉えきれなくても無理はない」

「第一位はその内一つを突破したようだがな。その程度の解析能力は身に付けていて当然なのだが」

「まるで息子の成長を見守る父のようだな」

「本気で言っているのか?」

「さぁ、どうだろうね」

エイワスは軽い口調で流すと、今度は別のモニターに視線を固定した。
つまり、そこにもこの存在が興味を示すものがあるという事だ。


「ふむ、しかしこれはつまらない展開だ。私も出ることにしようか」



998: ◆ES7MYZVXRs:2014/05/01(木) 02:59:59.95 ID:wiguRyO8o

***



上条を乗せた車は第二十三学区に向けて突き進む。
これまで何度かアンチスキルとぶつかる事はあったが、強引に突破している。
その結果、今も後ろにはアンチスキルの車両が何台か追ってきているという状況だ。

浜面はすっかり慣れた様子でハンドルを回しながら、

「これでも少ない方だけどな。まともにいってればこんなもんじゃ済まなかった」

「どういう事だ?」

「むぎの達以外にも、アンチスキルの包囲網を撹乱している人達がいる。人望が厚いんだね、かみじょうは」

「……俺はそんな大した奴じゃない。みんながとんでもなく良い奴なんだ」

「自分ではそう思っていても、周りの奴等にとっては違うって事だろ」

そう言われても、上条は素直に頷く事はできない。
今までやってきた事が全て正しいとは思えないし、もっと上手くやる事もできたはずだ。
それに結局のところ、上条は自分の好きなように動いているだけで、自己満足に過ぎないとも思っている。

だけど、例えそれが自己満足でしかなかったとしても。
その結果、救われた人がいる、こうして助けてくれる人がいる。

それは、きっと――――。

「……どっちにしろ、協力してくれたみんなの為にも、意地でもインデックスの元まで行かねえとな」

「おう、その調子だ。やっぱその方が上条らしいぜ」

「俺らしい?」

「あんま色々考えずに、とりあえず突っ走る……みたいな?」

「なんかすげえバカにされてる感があるぞ」

「大丈夫、はまづらも似たようなところある。私以外の女も助けてイチャイチャしてるし」

「だ、だからフレメアをカウントするのはどうなんでしょうか滝壺さん!?」

「惚気けてんのはいいけど、ちゃんと前見ろって前」

そう言う上条だが、こうやって楽しげな二人を見ていると、心を鼓舞されるようだった。
自分が手に入れたいもの、それは今この二人が見せているような、暖かい関係であるはずだから。

すると、滝壺がこちらをじーっと見る。

「……かみじょうは、インデックスの事が好き?」

「あぁ、好きだ」

「そう。それならやっぱり、私もハッキリ示した方がいいと思う。これは体験談」

「あー、そういや滝壺の方からキスしたんだっけ…………俺はちゃんと自分からいかねえとな」

「お、おい待て! それは俺もいっぱいいっぱいだったからで、もちろん俺だって自分からガツンといくつもりで……」

「はまづらの方からガツンと来られてたら引いてたかも」

「えっ、マジ?」

浜面は本気で驚いたらしく、目を丸くして彼女を見る。
このスピードで余所見しまくりというのは心臓に悪いのだが、それだけ自分の技術に自信があるのだろう。

「……なぁ、俺もインデックスに引かれるっていう事はないだろうな」

「ないとは言えない。笑顔で『ごめんなさい、無理かも』って言われる可能性もある」

「それやられたらしばらく寝込む自信あるぞ、俺」

「普通に情けねえなオイ……」

浜面が呆れた声を出すが、事実なのだから仕方ない。
出来れば想像したくない返答だ。



999: ◆ES7MYZVXRs:2014/05/01(木) 03:01:04.01 ID:wiguRyO8o

「でも、私はかみじょうの気持ちを伝えるべきだと思う。それはきっと、インデックスに必要な言葉だから」

「そう……だといいけどな」

インデックスがどんな言葉を求めているのかは分からない。
そもそも、上条を気絶させた事から、何も求めていないという事も考えられる。

でも、少なくとも。
この胸に秘めた言葉が、上条にとって必要なものだという事は確かだった。
自分にとって大切な事だから、伝える。結局はそういう事だ。

すると、浜面が思い出したように、

「あ、そうだそうだ、これ必要だろ。できてるぜ」

と、運転しながら何かを後ろに投げてきた。
反射的にキャッチすると、どうやら妙に洒落っ気のある小さな箱である事が分かる。

「これってもしかして」

「おう、頼んでただろ。ちなみに今お前が右手に巻いてるブレスレットも俺が加工したもんだ」

「あぁ、それは何となく分かった。サンキューな、インデックスの方も、こっちの方も」

上蓋を開いてみると、やはり中には予想通りのものがあった。まぁ、元々こちらから頼んだのだが。
ただ仕上がりは想像以上で、かなりのクオリティではないだろうか。

滝壺はそれを見て、

「私のも期待してるよ、はまづら」

「おう、任せとけ。ただ、ほら、俺としてはそういうのは一緒になる時までとっておきたいっつーかさ」

「……うん」

「やっぱアウェー感すげえなここ」

考えてみれば、恋人同士の乗る車にお邪魔している形なので当然と言えば当然だ。
せめてその気まずさを誤魔化せないかと、視線を彷徨わせて色々考えていると、


『あー、こちら第七十三支部所属の黄泉川愛穂。お前ら公務執行妨害とか色々で地獄逝きじゃんよ!』


何やら威勢のいい声が聞こえてきた。後ろだ。
というか、この声と名前には聞き覚えがある。

上条は後ろを見ると、そこには大型特殊車輌。
そして、運転席にはやけに楽しげな笑みを浮かべている女性がいた。

「やっぱうちの学校の先生じゃねえか……」

「マジかよ上条、あんなのがいる学校に通ってんのか。つかやべー、よりによって黄泉川かよ」

「……また女の知り合い」

「ごめん滝壺、その辺りは後で」

その直後、浜面はハンドルを切って裏道へと入っていく。
車一台がやっと通れる程度の道幅だ。これなら、あの大型車両では入ってこれない。

「撒いたか?」

「黄泉川はな。また花火とかふざけたもん投げつけてこなきゃいいが」

「花火?」

「いや、こっちの話だ。とにかく、ちょい道外れちまったから、修正して……」

「はまづら、前」

滝壺が指差す先。
そこは大きな道路に出る方向だったが、見事に大型車両によって封鎖されていた。
この道の狭さ故に、これではどうしようもない。

「くそっ!」

流石にあれは強行突破できないのか、浜面はすぐにギアをバックに入れると、車を後退。
別の道へと進み始める。



1000: ◆ES7MYZVXRs:2014/05/01(木) 03:01:30.56 ID:wiguRyO8o

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転載元
禁書「イギリスに帰ることにしたんだよ」 上条「おー、元気でなー」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1322975513/
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